ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~ (レイブラスト)
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Episode ZERO

またもや新作投稿です。執筆の切っ掛けは「ブルー・ティアーズってストライクフリーダムに何となく似てない?」と思ったからです。


「……ん……ふぁ~あ……あれ? どこ此処? おい龍、起きろって」

 

「う~ん……ん? 何だ此処は!? 見渡す限り真っ白だ?」

 

俺達、家に帰ってた筈だけど……いつの間に? 普段通ってる道を歩いてたら子供2人が道路に飛び出して車に撥ねられそうになったんで、隣にいた龍と即決して助けに入って……あ。

 

「彰人……」

 

「その様子だと、お前も思い出したのか……」

 

何てことだ。子供達を助けた時に、俺達は2人揃って死んでしまったということか……父さん母さん、それに親戚の皆さん……きっと悲しんでるだろうなぁ。

 

「正解。いやぁ、自力で自分の死に気づくとは。やっぱり君達は只者じゃあないな」

 

「っ、誰だ?」

 

背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、白い衣装を着込んだ男性が椅子に腰掛けていた。

 

「これは失礼。私は君達の世界を見守る者の1人。言うなれば神だ」

 

「神様? 本当に? いや、疑ってる訳じゃないが……」

 

訝しみながらも真っ直ぐ神様(?)を見つめる龍。俺も疑いたいところだけど、自分が死んだという自覚はあるし、この真っ白な空間が何なのか説明がつかなくなる。

 

「それで、そんな神様が俺達に何の用で?」

 

「ふむ。実は私が来たのは他でもない。桑原彰人君と菅原龍君。君達を勇気ある者として、特別に転生させる為さ」

 

なるほど、転生か………………………え、転生?

 

「マジで言ってるんですか?」

 

「うん、マジ。ついでに転生先は『IS』一択だから先に謝っとく。選択肢なくてごめんね」

 

「ISって……あのIS!? まずいなぁ、俺全く知らないぞ」

 

ポリポリと頭を掻きながら龍は困った様子で言う。コイツはガンダムのノベライズ版を主に読んでたからな……無理もないか。

 

「うろ覚えだけど俺知ってるから、必要ならサポートしようか?」

 

「是非頼む。うろ覚えでも何でもいいから」

 

藁をもすがる思いとは正にこのことを言うんだろう。

 

「ただ、転生すると言っても環境が整ってないと話にならない。何か注文があれば聞くよ?」

 

「本当ですか? じゃあまず、龍を織斑一夏として転生させて下さい」

 

「いいよ」

 

「俺名字と名前変わんの!?」

 

「いや、姿も変わる」

 

「嘘ぉ……何でこうするの?」

 

だって、原作の一夏だと……恋愛関係で厄介事に巻き込まれるのがわかるもん。

 

「他には?」

 

「他には……俺と龍は変わらず幼なじみにしてほしいのと、俺もISが動かせるようにしてほしいです」

 

「お安いご用だ」

 

ISが動かせないと物語に入るどころの話じゃなくなるからな。前世じゃ周りはほぼ男子だったんだし、その逆も楽しまないと。

 

「後、君達の専用ISを決められるんだけど、どうする?」

 

「(専用ISか……)そうですね、俺はTV版のウイングガンダムゼロで。龍は何にする?」

 

「え?(これ、自分が好きなガンダムを言うの? だったら……)ダブルオーライザーで」

 

「よしわかった。手配しておこう」

 

絶対龍は上の空だったな。これは転生したらしっかりサポートする必要があるな……。

 

「それじゃあ、転生させるよ。……スリー、ツー、ワン…………転生、キターーーーーー!!」

 

「「何でフォーゼ!?」」

 

龍とダブルツッコミを入れながら、俺の意識は消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人と龍が転生した後、1人空間に残った神は腕を組んで「う~ん」と唸っていた。

 

「原作そのままだとどうにもつまらないよねぇ。見た目ガンダムのISが2つあっても違和感だらけだし……よし! 思い切ってISは全部ガンダムの見た目に変更だ! それと自然転生させる予定の人間が3人居るから、彼らもぶっ込もう! 他にも色々弄くって……ふふふ、これは面白くなりそうだぞ!」

 

そう言うと、彼は真っ白な空間から姿を消した。



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原作開始前
1st Episode


キーンコーンカーンコーン……

 

「やれやれ。今日の授業ももう終わりか……」

 

教科書をカバンにしまいながら、ため息と共に呟く。

 

「しょーく~ん! 一緒にか~えろ?」

 

「む! おい束、省吾に抱きつくな。困ってるだろう」

 

俺に飛びつきながら言ってくるのは篠ノ之束で彼女を窘めてるのが織斑千冬。2人共俺の幼なじみで、癖の強い性格だ。特に束が。

 

おっと、読者達は俺が誰かわからないか。俺は矢作省吾。13になったばかりの中学生だ。

 

「そんなこと言って、ちーちゃんもしょーくんにくっつきたいんでしょ?」

 

「なっ、そ、そんなことはない! 別に、省吾と手を繋いで帰りたいとか、思ってる訳では……!」

 

「千冬……盛大に自爆してることに気づいてないのか?」

 

「はっ!? ~~っ!」

 

あらら、真っ赤になっちゃった。

 

「もう、千冬をからかうのも大概にしなさいよね。見ててかわいそうよ」

 

落ち着いた雰囲気で会話に入って来るのは、束達と同じく幼なじみの由唯だ。この中では唯一の常識人だと思う。家事もこなせるし。

 

「それより、病院に行かなくていいの? もうすぐなんでしょ。省吾と千冬と束の弟か妹が産まれるの」

 

「もちろん行くさ。ウチのお袋、体の調子が良くなくてさ。栄養のあるもん持ってかないと」

 

「そっちも大変だな。私のところなんて、母さんどころか父さんまでもノイローゼ気味になってしまって困ってるんだ」

 

「織斑家も前途多難だな……」

 

さすがに2人目となると、人によっては鬱な気分になってくるのか? それとも、他に理由でもあるのか?

 

「えぇー! じゃあ、私と陰謀を考えるのは!?」

 

「んなものまた今度だ。第一、お前が考える陰謀なんてしょうも無いものばかりじゃんか。てか、そんな暇があったら見舞いに行けよ」

 

「失礼な。束さんだって、色々考えてるんだよ!」

 

何を言う。千冬の寝込みを襲ったり、落とし穴を作ったり、びっくり箱で脅かしたりとか子供のすることばっかやってるというのに。

 

結局、駄々を捏ねてる束を放置し、俺達は病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと。ここなら、誰も来ないよな」

 

病室でお袋に見舞いの品を渡した後、俺と由唯は病院の裏に来ていた。

 

「うん。さすがに、周りに聞かれちゃまずいもんね」

 

「ま、聞かれたところで痛い奴としか思われないんだろうけど。俺達が、普通の人間じゃないなんてさ」

 

そう……俺と由唯は普通の人間とは違い、前世の記憶がある。その記憶によれば、俺達はMZ23という都市型宇宙船に居て、とある可変型バイクに関わったが為に人生が大きく変わってしまった。しかも、由唯はともかく俺は地球に帰った後何者かに洗脳されて、数百年もの間傀儡として生かされていた。最期はエイジという(多分)由唯の子孫によって解放されてそのまま死んで気づいたらこの世界に産まれてた。

んで、そのこと言ったら由唯が泣いちまってさ。俺のことを想ってくれてるんだって、何故かわかって胸が熱くなった。今でもこうやって、MZ23に居た時の話をこっそりしているという訳さ。

 

「それで省吾。……本当に行くつもりなの?」

 

「ん? 行くって?」

 

「政治の世界よ。省吾、散々今の大人は嫌いだって言ってたじゃない」

 

「ああ、そのことか……」

 

この世界に産まれて(転生って言うのか?)からの目標は、政治の道へ進むことだった。前世じゃバイクに乗って暴れ回ってたから、心機一転真面目に頑張ってみよう! ということで、勉学に励んでいる。

 

「俺は本気だぜ。腐ってばかりの政治を、同じ土俵に立って戦って変える。そういうのも有りなんじゃないかって思ってさ」

 

「でも、省吾1人だと心配だわ……あ、そうだ! だったら、私が秘書になろうか?」

 

「え、秘書? いいよそんな。由唯には由唯の目指す道があるだろ?」

 

「いいじゃない。私だって好きに生きたいんだから。それとも、なったらダメ?」

 

「別にダメって訳じゃ……はぁ、仕方ねぇ。一緒に頑張るか?」

 

「うん!」

 

……俺って、ホント由唯達に甘いよな。そんなんだから、3人の中から誰か1人を選ぶこともできないんだろうな……はぁ、知らぬが仏って言葉があるが、いっそ知らない方が良かったかも。

 

ピリリリリ!

 

「あ、メールだ。……!? し、省吾! 大変よ!!」

 

「どうした!?」

 

「陣痛が始まって、もうすぐ産まれるって!」

 

「何だって! 予定日は2日後だってのに……。だが、病院から離れてなくて良かったぜ!」

 

俺達は急いで病院の中に戻った。分娩室の前には千冬と束達もおり、彼女達の妹も産まれるようだった。

 

 

 

 

そして数十分後。無事、3人の赤ん坊が産まれた……。




ということで、知る人ぞ知る有名アニメのキャラを登場させました。
何故彼らなのかというと深い理由はなく、単に主人公の兄(総理)且つ千冬と束の恋人ポジをオリキャラで賄おうとしていたのをそれじゃ面白くないと思って版権キャラから適当に選んだ次第です。
ですので彼らは今後そこまで目立った活躍はしません。ちょくちょく大事な場面で裏方に徹する程度です。

省吾(それ保険って言うんじゃないのか?)


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2nd Episode

皆さんこんにちは、桑原……いや、今は矢作彰人だったな。ともかく、改めてよろしくっ。

無事ISの世界に転生でき(時期は物心ついた頃かな? はっきり覚えてない)、元気に暮らしている。龍……一夏も転生できたみたいで安心安心。でもいくつか解せないことがある。

 

「兄ちゃん。最近束さんとどこに行ってるの?」

 

「ん? それは……今は秘密だ」

 

まず1つは、今普通に会話してたけど……何でメガゾーン23の矢作省吾が俺の兄ちゃんになってる訳!? 道理で名字がこうなってる筈だ! しかも省吾兄ちゃんは千冬さんと束さんと幼なじみだったらしくて、俺、一夏、箒ちゃんは産まれた時から仲良しになっている……あ、これ2つ目ね。

まあ戸惑った訳だけど、今は別にいいかと考えてる。前世で一人っ子だったから、割と楽しいし。でも最近どうも束さんと2人で何かをしているみたい。ISを作ってるんだと思うけど、千冬さんに話したら恐ろしいまでに無表情になって、震えが止まらなくなったのは記憶に新しい。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい。……俺もそろそろ道場に行くか」

 

時計をちらりと見やり、荷物を持つと俺は玄関へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めーーーーーーーん!!」

 

篠ノ之道場にて、俺と一夏と箒ちゃんは篠ノ之柳韻さん指導の元、剣道を習っている。柳韻さんは厳しいくも優しい人で、俺と一夏に対しても本当の父親のように接してくれている。……何故父親みたいと認識しているかと言うと、俺と一夏には親がいないからだ。俺の方は父親が既に亡くなっていて、母親は俺を産んだ直後に死んでしまったらしい。だからかな、省吾兄ちゃんが俺に優しいのって。でも一夏の両親は……どうなったのかわからない。兄ちゃんや千冬さんに聞いても、「あのバカ野郎共のことなんて知るか」、「答えたくない……」としか言わない。やっぱり、捨てられたのかな……。

 

「よし、一旦休憩にするぞ」

 

柳韻さんの言葉で肩の力を抜き、防具を外していく。

 

「お疲れ、彰人、箒」

 

「ん…一夏も、お疲れ様」

 

「ああ、お疲れ」

 

互いに労いの言葉を掛けながら、飲料水を飲む。箒ちゃんの性格は原作みたいにトゲトゲしくはない。丸くなってると言うのかな? まあ何でもいいけど。

 

「ふぃ~、疲れた……君らよりも俺の方が体力ないのかね?」

 

俺達に話しかけてきたこの人は、桜木博人君。4歳年上の同門の子だ。剣道を始めた理由は、自分にできる限界を見極めたいからだとか。

 

「そんなことないって。博人君の方ががっしりしてるし」

 

「体だけはな。体力はからっきしだ。それに比べて、君達はキレもいいし、体力もある。柳韻先生が絶賛するのも頷けるよ」

 

「先生、そんなこと言ってたんだ」

 

「でも素直に喜べないなぁ。博人さん、俺達より年上なのに……」

 

「一夏、こういう時に下手な感傷は相手を傷つけることになる。素直に喜ぶのも必要だと、父が言っていた」

 

「そうなのか……ありがと、箒」

 

「何、気にすることではない」

 

「はは、相変わらず仲良いな、2人共」

 

一夏と箒ちゃんのやりとりを見て博人君が笑う。俺達3人の中でも、この2人は特に仲が良い。でもまだ恋愛感情は互いに抱いていないようだ。まだ子供だもんな。

 

「あれ? そう言えば千冬さんは? 君らと一緒じゃないの?」

 

「千冬姉さんなら、あっちの壁にもたれかかってる」

 

「どれ……あ、本当だ。相変わらず、綺麗な人だなぁ」

 

「……博人君、今見とれてた?」

 

「うおっ!? 真由里お前、いつの間に……!」

 

突然博人君の隣に現れたのは、新藤真由里ちゃん。博人君と意気投合していて、俺達の中では似合いのカップルだと話題になっている。なっているんだけど……

 

「……今、気配もなく現れたよな?」

 

「うん……話しかけられるまで気づかなかった……」

 

「私も気配を感じるどころか姿を認識できなかった……どうやったらあんなことができるんだ?」

 

そう、この人は気配を消すのがとにかく上手い。単に存在感が薄いだけかもしれないけど……

 

「あの、さっきのは見とれてたんじゃなくて、感想を述べただけで!」

 

「……ふんっ」

 

「おーーーい!?」

 

嫉妬したらしくそっぽを向く真由里ちゃんと、あたふたする博人君。これも日常茶飯事だ。

 

「相変わらずだな……」

 

「放っといていいんだよな?」

 

「どうせ後で仲直りしている。いつものことだ」

 

その後は戻ってきた柳韻さんが「そろそろ練習を再開するぞ」と言ったので、防具を付け直して練習に励んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。夏祭りに行ってきて、その帰りにとある丘の上にみんなで立ち寄った。ちなみに全員浴衣姿だ。

 

「おお、月がすっげぇ輝いてる。こんなに綺麗だったんだな」

 

「私、初めて知ったかも。月がこんなに綺麗なんて……」

 

省吾兄ちゃんと隣にいる由唯さんがどこか感慨深そうに言う。言葉には出さないけど、2人共ずっと宇宙船に居たんだっけ……。

 

「そうか? 私はずっと前から知ってたがな」

 

「束さんだって、月は素敵だって思ってるよ。ホントだよ?」

 

そうは言うが、2人も何かを想いながら月を見ている。はて、何を想ってるのやら。

 

「しっかし、今日のは本当綺麗だな。丘の上から見てるから、やたらでかく感じるし」

 

「確かに。……こ、ここに落ちて来るんじゃないか!?」

 

「「いや、ないない」」

 

何故か突拍子もないことを言う箒ちゃんに一夏と揃って首を振る。そんなこと起きたら一大事どころじゃない。

 

「…………ねぇ。あっくん、いっくん、箒ちゃん」

 

「「?」」

 

「姉さん?」

 

いつもとは違った声の調子で話しかけてくる束さんに、揃って首を傾げる。どうしたんだろう?

 

「あっくん達はさ……月に行ってみたいと思う?」

 

「月に?」

 

考えたこともなかった。月に行くなんて、アポロ計画の時みたいに選ばれた人達が行くものだって思ってたし。けど……

 

「そりゃあ、行けるなら行ってみたいですよ」

 

「俺も彰人と同じ。月に自分の足跡残せたら、最高じゃないですか」

 

「月か……私も、行ってみたいな」

 

各々に月への思いを口にする。誰だって一度は月に行ってみたいとは思う筈。前世じゃ、よく月の裏側にウサギが居るとかどうとかで騒いだこともある。

 

「そっか……うん!」

 

俺達の答えに満足そうに頷くと笑顔になり、省吾兄ちゃんや由唯さんまでも笑顔になる。

 

「ようし。だったら束さん達が、みんなを月に連れて行っちゃおう!」

 

「えぇ!? そ、それ本気何ですか、束さん!?」

 

「もっちろん! まだ当分先だけど、絶対連れてくって約束するよ!」

 

「へへっ。そうと決まれば、俺も応援させてもらうぜ! 月に、いや宇宙に行けるようにな!」

 

「省吾兄ちゃんまで!?」

 

束さんはISを開発するからともかく、兄ちゃんも関わってるなんて……凄いびっくりだ。

 

「省吾が応援するなら、私もしない訳にはいかないわよね~」

 

「お前等……絶対どこかで打ち合わせただろ……」

 

「むしろアドリブでここまでやると思ってたのですか?」

 

「そういうことではないが……」

 

頭を抱える千冬さんに箒ちゃんがツッコミを入れる。実際明らかに打ち合わせしてると思うもんな……ノリが良いのも多分あるんだろうけど。

 

「そうと決まれば、今日から改めて頑張っちゃうぞ~! ブイブイッ!!」

 

相変わらずハイテンションが続いている束さんに苦笑してる俺達を、月は暖かく見守っていた。



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3rd Episode

今回は二本立てで投稿致します。


どうも、矢作彰人だ。あれから何日か過ぎた。俺達3人組は相変わらず仲良しで、いつも一緒に遊んだり、何かしらの勝負をしたりする(主に吹っ掛けてくるのは箒ちゃんだが)。

現在は小学校に入学したてだが、俺達の仲は健在だ。学校生活も問題なく行ってる。

筈だったんだが……

 

「一夏~、帰ったらライダーごっこやろうぜ」

 

「いいぞ。今日はどれにする?」

 

放課後、人が少なくなった教室で帰りの準備をしながら一夏と談笑する。俺と一夏は仮面ライダーが大好きで、早くも周囲に認知されていた。

 

「そうだな、草加カイザがホースオルフェノクにやられるシーンを「やーい、男女~!」ん?」

 

「ん?」

 

会話に割り込む形で聞こえた声に振り向くと、箒ちゃんを4~5人くらいの男子が囲んでいた。うわぁ……入学したばっかなのに、いきなりあるんだ。こういうの。

 

「……彰人。ランドセル持ってて」

 

「え? ちょっ!?」

 

俺が制止しようとするも遅く、一夏は単身彼らに向かって行った。アイツの性格なら、絶対行くとは思ってた。けど……

 

(一応、先生は呼んでおくか)

 

「箒ちゃんが集団いじめを受けていて、一夏が助けに入った」と言っておけば信じるだろう。それに、この場は一夏1人に任せても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

皆さん初めまして。織斑一夏(旧名・菅山龍)です。今日は箒ちゃんがいじめられてて、それを見てたら知らない間に俺の体は動いていた。

理由はわからない。単にいじめられてたのが許せなかったのか、それとも箒ちゃんだったからなのか。でも、体が動いたのは事実で。

 

「そこまでだ」

 

俺は仮面ライダーみたく(?)間に割って入ると、いじめていた奴らを睨み付ける。

 

「何だ? おい織斑。お前男女の味方するのか?」

 

「知ってるぜ。お前等、いつも一緒に居るもんな」

 

「まるで夫婦だな。夫婦夫婦~!」

 

おいおい……一緒に居るのが夫婦って、なら彰人の立場はどうなるんだ? 除外してるの? もしそうなら、彰人は泣くな。

それより、いい加減うるさくなって来た……

 

「どうした? 何か言い返「おい……恥ずかしくないのか?」え?」

 

「男の子が女の子を、しかも4人がかりでいじめるなんて、恥ずかしくないのか?」

 

「そ、それは……」

 

「お前達がどういうつもりか、俺は知らない。けど、箒ちゃんは俺にとって大切な子なんだ。これ以上バカにしたら……許さんぞ!!」

 

ふぅ、スッキリした。思ったことを全部ぶつけるのって意外と気持ちいいな。ってあれ? 箒ちゃんの顔が真っ赤だ。俺何か言…………あぁ!? れ、冷静に考えたら俺、とんでもないこと言っちゃってる! しかも「俺にとって大切な子」なんて……うわぁあ!! とらえ方によっては告白に思われてるかも!!

 

ってそんなこと考えるのは後だ! いじめっ子達がどんな手に出るのか注意しないと―――

 

「う、うるさい! 俺達に逆らうな!!」

 

何か下っ端みたいなのが殴りかかってきた。やっぱりか……この場合は、こうした方がいいか。

 

俺は最初の一撃を敢えて避けずに顔に受ける。う、右側が痛い。だが少しもよろめかずに相手をニヤリと笑いながら見つめ、逆に右手を捻り上げる。「痛い痛い!」と悲鳴を上げるが特に構わず、空いた左手で腹パンをして体がくの字に曲がったところで右手を放し、素早く足払いをする。打ち所が悪かったのか、彼はしばらく悶絶していた。

 

「後4人……」

 

突然のことにいじめっ子達と箒ちゃんは何が起きたのかわかっていない顔をする。最大の隙を逃さず、俺はたっくんみたいに手首をスナップさせると近くにいるいじめっ子2人を纏めて足払いで倒し、鳩尾に拳を同時に叩き込む。これでしばらくは行動できまい。

 

「残り2人。……まだやるのかなぁ?」

 

「ひっ……! ご、ごめんなさいぃー!!」

 

草加雅人ばりの笑顔で台詞を言うと、1人が逃げだした。やっぱ効くんだね、草加スマイル。残りの1人は……足どころか全身が可哀想なぐらいガクガク震えてる。

 

「どうする? 戦う覚悟はできてるのか? 俺はできてるぞ」

 

「う…うわぁぁぁあああああああああああ!!」

 

半ばやけになったのか、残る1人は左のパンチを放つ。それを見極めると、左手を両手で掴みながら背を向け、受け流すように前方に放り投げる―――一本背負いだ。

これで全員を倒した。後は……。

 

「箒ちゃん、ケガはない?」

 

座ったままの箒ちゃんに手を伸ばす。すると、箒ちゃんは赤くなりながらも俺の手を取ってくれた。

 

「あ、ああ……その…ありがとう、一夏」

 

はにかむ箒ちゃんを見て胸がトクンと鳴ると同時に、何故さっき助けに入ったのか気づいた。俺が助けたのは、単に助けたかっただけじゃない。箒ちゃんだからだ……箒ちゃんが―――好きだからだ。

 

この直後、先生を連れた彰人が教室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

俺が先生を連れて来た時にはいじめっ子達は倒れていて、一夏と箒ちゃんが見つめ合って……何か良い雰囲気になってた。最初は先生も目の前の光景に唖然としていたが、一夏達が事情を説明すると、「まるで青春漫画の1ページみたいね……嫌いじゃないわ!」と味方してくれた(先生は女性です。念のため)。

でも、そうは問屋がおろさないのがいじめっ子達の親(主に母)達。みんな揃って学校に来て「うちの息子がそんなこと」云々言っている。典型的過ぎてある意味凄い。箒ちゃんやクラスメイト達が弁護するがまるで聞く耳持たない。ついには保護者として来た千冬さんが謝ろうとしたが、一緒に来た省吾兄ちゃんがそれを止めた。

 

そして―――

 

「おいアンタ等、ちょっとは俺達の話も聞けよ。自分の言い分ばかり好き勝手言いやがってさ。「そんなことする筈がない」だ? それのどこに信憑性があるんだよ。一夏は顔殴られてんだぞ。そんないい加減な話で丸め込もうって気なら、俺ァ一夏の味方するぜ!」

 

有無を言わさない迫力で述べると、相手は何も言えずに子供を連れて帰って行った。やっぱ大の大人が言うと迫力あるな。

 

「兄ちゃん、凄い……けど、どうしてあんなこと言ったの?」

 

思わず問いかけると、省吾兄ちゃんは俺達の頭を撫でながら言った。

 

「決まってるだろ? 一夏は女の子を守ったんだ。それを咎めるなんて、どう考えてもおかしいだろ」

 

なるほど、正論だ。だけどそういうのは当人には教えないようにするといいかな。2人共改めて意識しちゃってるじゃん。

 

「まったく。お前のそういう真っ直ぐなところは、変わらないな」

 

千冬さんはどこか満足そうに呟いていた。



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4th Episode

箒SIDE

 

織斑一夏と矢作彰人。彼らは私の大事な友達で、いつも一緒に居る。共に剣の道を学び、共に遊んで。時には色んな勝負をして。どんな形であれ、2人と一緒に居るのはとても楽しい。どんな辛いことでも乗り越えられそうな気がする。そう思っていた矢先だった。

 

ある日の放課後。教科書等をランドセルに入れていると、5人の男子に囲まれた。彼らには面識があった。最近、生徒の中から誰かを選び、その子に悪口を言ったりする……要するに性質の悪い悪ガキ共だ。近頃は私が狙われている。私がリボンを着けているのが理由だそうだ。私も女子だ。おしゃれの1つくらいしてみたい。でも彼らは……私に心無い言葉をぶつけてくる。

これまでは誰の目も触れないところで私に言うだけだったが、ここまで堂々とするのは初めてだ。体格と数の違いが組み合わさり、私は恐怖を感じていた。怖い、助けて……。けど、残っている僅かなクラスメイト達は見て見ぬふりをしていた。皆も、彼らが怖いんだ。

けど、私だって……怖い。お願い、助けて。誰か……。

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

そう思っていた時、私の前に誰かが現れた。一夏だった。

 

「何だ? おい織斑。お前男女の味方するのか?」

 

「知ってるぜ。お前等、いつも一緒に居るもんな」

 

「まるで夫婦だな。夫婦夫婦~!」

 

彼らは一夏にまでちょっかいを掛け始めた。やめろ……やめてくれ。一夏を巻き込むのは、頼むから……!

 

「どうした? 何か言い返「おい……恥ずかしくないのか?」え?」

 

突然―――一夏が口を開いた。彼は目の前の相手をきっ、と睨んでいた。

 

「男の子が女の子を、しかも4人がかりでいじめるなんて、恥ずかしくないのか?」

 

「そ、それは……」

 

「お前達がどういうつもりか、俺は知らない。けど、箒ちゃんは俺にとって大切な子なんだ。これ以上バカにしたら……許さんぞ!!」

 

私の心は、高鳴った。目の前に立ちはだかる悪に対し、一夏は自分の怒りを真っ直ぐぶつけた。その姿に、その言葉に、心の高鳴りは嬉しさになった。一夏が、私の為に怒ってくれてる。一夏が私を……大切な子って言ってくれてる。嬉しい……! 頬が熱くなる。

 

「う、うるさい! 俺達に逆らうな!!」

 

彼らの1人が一夏を殴った。ああっ!と思った瞬間、既に一夏は動いていた。殴った腕を掴むとそのまま捻り上げる。一夏は、敢えて殴られたんだ。そう考えた時、一夏は左手で相手の腹を殴り、更に足払いをして倒す。流れるような動きに、私と男子達はただ唖然としていた。

 

「後4人……」

 

その隙を一夏が逃す訳はなく、今度は2人の男子を一度に倒すと鳩尾に拳を入れた。あっという間に、相手側の数が2人に減った。強い……こんなに強かったんだな、一夏は。

 

「残り2人。……まだやるのかなぁ?」

 

この言葉を言った瞬間の一夏の顔を私は見た。見てしまった。一夏は……恐ろしいまでの笑みを浮かべていた。それに恐怖したのか、1人が逃げだし、ついに残ったのは1人だけとなった。

 

「どうする? 戦う覚悟はできてるのか? 俺はできてるぞ」

 

「う…うわぁぁぁあああああああああああ!!」

 

最後の1人は一夏に殴りかかったが、勢いを利用されて放り投げられた。あの技は私も知っている。一本背負いだ。

……一夏は、1人で全員を倒してしまった。あれだけの人数差をものともせずに。

 

「箒ちゃん、ケガはない?」

 

一息つくと、私の方に手を差し伸べて来た。……何だか少し恥ずかしくなってしまい、手を取った時の私は顔が赤くなっていただろう。

 

「あ、ああ……その…ありがとう、一夏」

 

お礼の言葉だって、はにかみながら言うことしかできない。でも何故だろう。一夏に抱いている感情が変化していくのがわかる。これは……信頼? 安心? いや、違う。……そうか、私は一夏を―――異性として、意識してるんだ。好き、という感情なんだろうな。これが。

 

そんなことを考えてると、彰人が先生を連れて教室に入って来た。……やってることは正しいんだから、ばつが悪そうな顔をしないでくれ。私まで、恥ずかしくなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彰人、一夏、今から面白いもん見せてやるぜ」

 

「箒ちゃん、ちーちゃん。ちょっと来てくれる?」

 

ある休日。俺達は省吾兄ちゃんと束さんに連れられて、篠ノ之家の書斎に来ていた。

 

「何が始まるんだ? 千冬姉さん、何か知ってる?」

 

「いや、私も知らない。由唯は知っているのか?」

 

「ええ。でも、今は秘密よ」

 

(十中八九、ISだろうな)

 

「それでは……スイッチオン♪」

 

心の中で予測を立てていると、束さんが本棚にある本の1つを押し込む。すると、固定式の筈の本棚が移動し、後ろに地下へと続く階段が現れた。……いつの間に作ったの?

 

「これは、隠し通路!? 姉さん、いつの間に……!」

 

「まだまだ、お楽しみはこれからだよん♪ さ、レッツらゴー!」

 

束さんを先頭に、おっかなびっくり階段を降りて行く。降りた先にある重そうな扉を開けると、更に先へと進む。そこで待ち受けていたのは―――

 

「うわ!? でっかいバイクだ!」

 

「あそこにあるのは…ガンダム!?」

 

「が、ガンダム?(名前なら聞いたことはあるが……今度一夏と一緒に見よう)」

 

作業場と思われる広い部屋に、大きな赤いバイクと全長約4m程の灰色の人型……Oガンダムが佇んでいた。神様……何故ここもガンダムに? 俺と一夏の機体もガンダムだから、統合性を求めたの?

 

「束、省吾。このバイクとあのガンダムは何なんだ?」

 

千冬さんが不思議そうに目を細めながら2人に尋ねる。俺が思うに、バイクの方はガーランドだと思う。

 

「ちーちゃん、よくぞ聞いてくれました! まずガンダムの方から説明するけど、これは束さんがある研究機関の理論を受け継いで作り上げたマルチフォーム・スーツ。その名も、インフィニット・ストラトス!! ちなみに外見とかはサン○イズの許可貰ってるから安心して」

 

「インフィニット・ストラトス……」

 

どこか感慨深そうに一夏が呟く。どういう形であれ、ガンダムと向き合うことができて嬉しいんだろう。……原作のISは一部を除いて、生身の体が露出してたけど。危ないどころの話じゃないって。

 

「長いからISでいいよ。そしてこっちのバイクが―――」

 

「俺と束の共同製作で作ったスーパーバイク、ガーランドだ! …正確には、プロトタイプだけどな。これもISとは少し違うが、パワードスーツに変形するんだ」

 

自慢気に説明する省吾兄ちゃん。やっぱりこれはガーランドだったんだ。実写で見られるとは思ってなかったなぁ。

 

「ISにガーランドか……お前達、私に黙ってこんなものを作っていたとは。由唯も知っていたと言うのに、水臭くないか?」

 

「ごめんね、千冬。束と省吾が「ドッキリさせた方が喜ぶ」って言って、私も乗っかっちゃったから……」

 

「あはは、ごめんごめん。お詫びと言ったらあれだけど、ISの一号機…Oガンダムが完成したら、ちーちゃんをテストパイロットにしてあげるから」

 

苦笑しながら言う束さんに、千冬さんは目を見開くと同時にある疑問を持ったようだ。

 

「完成してないのか? その……Oガンダムは」

 

「ガーランドは完成してるんだけどね。後一息ってとこかな」

 

「今度、二機の元になった機体のデータを取りに行くんだ。よかったらみんなで行くか?」

 

「私は構わんが、一夏達はどうする?」

 

「勿論行くよ」

 

「俺も(ISの元になったのがどんなのか、気になるし)」

 

原作じゃ言及も何もされてなかったから、この世界だけの話かもしれないが、見てみたいのは本当だ。

 

「私も行くぞ」

 

「じゃあ、予定は後から伝えるね」

 

この後は各自解散となった。にしても、まさかガーランドまでできるとは。何が起こるかわかんないな。



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5th Episode

今回の話を読んで「おや?」と思った方は「魔法少女リリカルなのは~転生者は静かに暮らしたい~」のEP20をご覧下さい。

彰人「宣伝してる……」

一夏「これっていいのかな……?」


一週間後。俺達はISの元になったパワードスーツのデータを取りに、それがあるらしい家へと向かっていた。……てか今更だけど、ここ海鳴市じゃん。ちらっとリリなの要素入れなくてもいいのに。

 

「ていうか、まだ着かないの?」

 

かれこれ一時間は歩いてると思うんだけど。

 

「おかしいなぁ。この辺だって聞いたけど」

 

「俺住所聞いてないからわから……お、丁度いい。あそこに居る子に聞いてみようぜ」

 

省吾兄ちゃんに連れられ、家から出てきたばかりの女の子(多分年上)に聞き込みした。

 

「そこの君、少しいいかな?」

 

「? 私で……すか……!?」

 

何故かこっちを見て目を見開く女の子。何でだろ? いきなり大人数で接近したから? ……十分あり得過ぎて困る。

 

「尾崎さんの家に行きたいんだけど、どこにあるか知らない?」

 

「と、智哉君の家なら、今から遊びに行くところですけど……」

 

「本当!? よっしゃラッキー!! 案内してもらおうぜ!!」

 

「あんまり大声出さない方がいいよ。びっくりしてるじゃない」

 

ガッツポーズを取って叫ぶ省吾兄ちゃんは由唯さんに窘められて申し訳なさそうに頭を掻く。

 

何はともあれ、俺達は女の子に案内データがある家まで案内してもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここです」

 

「ありがとな。さて、誰が最初に入って挨拶する?」

 

「私は初対面だから遠慮しておこう」

 

「じゃ、私が行くよ~!」

 

「「え……」」

 

意気揚々と玄関に向かって行った束さんに絶句する省吾兄ちゃんと千冬さん。ちゃんと挨拶できるのか心配なんですね、わかります。

 

女の子に玄関を開けてもらうと、束さんは勢いよく入って行き―――

 

「やっほ~! こんにちは、初めましてー! みんなのアイドル、束さんだよ~!」

 

普段の束さんのまんまな挨拶をかました。

 

「「初っ端からそれかい!!」」

 

そして兄ちゃんと千冬さんのダブルツッコミが炸裂する。

 

「あ、あはは……」

 

由唯さんに至っては苦笑いしている。

 

「いつもの姉さんだな」

 

「何か安心した」

 

「確かに」

 

これで礼儀正しい束さんを見たら、逆に「誰だお前!?」になることは間違いない。

 

(……ん?)

 

女の子と話している、少し奥に居る年上の男の子と目が合った。それだけならいいけど、何か不思議な感じがするな……。

 

「どうか弟達とも仲良くしてやってください」

 

「もちろんだとも」

 

ってあれ? 何か保護者同士で会話弾んでるし。俺達置いてかれた? ははは、そんな……置いてかれたな。

 

「初めまして、尾崎智哉です。よろしく」

 

男の子が近づいて自己紹介をしてきた。ふむ、名乗られた以上、俺も名乗る必要があるな。

 

「は、初めまして。篠ノ之箒です」

 

「矢作彰人です。よろしく!」

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

自己紹介を終えた時、彼―――尾崎君は何やら驚きの様子を見せていたが、それ以降は特に変わったこともなかった。

 

その後無事にプロトタイプパワードスーツ『シュロウガ』のデータを持ち帰ることに成功した(名前がどっかで聞いたことがあったような気がしたが、多分気のせいだ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後。一夏と俺は礼の地下研究所へ遊びに行き、扉を開けた。そしたら、直後に中から飛び出して来た束さんと省吾にぶつかりそうになって危うく転びかけた。

 

「ど、どうしたの2人共? そんなに急いで」

 

「これから論文を見せに行くのさ! ISと、ガーランドのな!」

 

「え、てことは……完成したんだ!?」

 

これには俺も一夏も驚いた。プロトタイプのデータを貰ったとは言えまだ3日。全身は完成していたが、こんなに早く完成するとは思ってなかった。

 

「ISが認められれば、あっくん達との約束もきっと叶えられるから、楽しみに待っててね~!!」

 

そう言うと、2人は慌ただしく階段を駆け上がって行った。この場には、俺達2人だけがポツンと残された。

 

「彰人、約束って……月に行くってことかな?」

 

「多分そうだと思う」

 

ていうかそれ以外に約束らしい約束が見つからない。……だが、もしそうだとすると束さんはやっぱり凄い。IS開発の発端が、あの夏祭りの一幕だなんて普通誰にも思わないし、やろうとも思わないだろう。けど束さんは違った。夢を現実のものにしようとしている。子供の様な純粋さが残っているからこそ、できるんだろう。

 

(でも誰にも認めてもらえないんだよな……)

 

原作で束さんは、ISを発表した時に周囲に認められなかったことで癇癪を起こし、後に『白騎士事件』と呼ばれる事件を起こしてしまった。この世界でも起こしてしまうんだろうか。物語の進展上必要だけど、できれば起こしてほしくはない。

 

(実際どうなるかはその時次第か)

 

考えても仕方ない。時が来るまで待っていよう。今の俺にできることは、何も無いんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

私が今回の論文発表に参加したのは、ただの気紛れだった。軍を辞めてから、議員として休みの少ない日々を送っている。なら少しは暇をしてもいいのではないか。そう思ったからだ。

が、今私は、この発表に参加して良かったと思っている。

 

(IS……それに、プロトガーランドか)

 

篠ノ之博士が最初に掲げた、マルチフォームスーツ『IS(インフィニット・ストラトス)』。こちらには純粋に興味と期待を持ったのだが、次に博士がある男と共同開発したというバイクを見た時、私の目の色は変わった。

 

(矢作省吾…………やはり)

 

同姓同名かと思ったが、顔を見た瞬間にはっきりした。紛れもない、MZ23で戦った矢作だ。

私はおもむろに自分の名が書かれた名刺を取りだした。

 

(ブラント・ダグラスか……)

 

これが今の私の名だ。以前は愛称と言うか、略称で呼ばれていたので気にもとめてなかったが、果たして彼に気づいてもらえるのだろうか? まあいい。それよりも……。

 

(聞いていれば、先ほどから嘲笑ばかりだな)

 

信じられないのはわかるが、頭ごなしに否定するばかりが正しいのか? ……それと今さっき聞こえたが、「小娘ごときが調子に乗るんじゃない」だと? ふざけるな。なら貴様はアレを超えるものを作れると言うのか? 俺は確信しているぞ、あのISというものは世界のパワーバランスを大きく変えるだけの力を秘めていると。なのにそれを潰そうと言うのか? 新たな可能性を、若き芽を摘んでしまうのが『大人』なのか? 見ろ、矢作が飛び出しかけて篠ノ之博士に抑えられている。

 

(彼らに接触する必要がある。何としても)

 

2人が退出とたのと同時に、私は席を立ちこの薄汚い者達の居る空間から立ち去った。




ついに省吾のライバルキャラであるB.Dを出しました。本名はオリジナルです。さすがに略称だけではどうかと思ったので。
彼も省吾達同様、主人公達を裏から支えると同時にあることに関わって来ます。


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6th Episode

省吾SIDE

 

「クソッ! アイツ等、好き放題言いやがって!」

 

「兄ちゃん……」

 

自宅のリビングで、彰人の心配そうな目線を受けながら俺は憤慨していた。理由は論文発表だ。あの場にいた連中はガーランドやISを頭から全否定しやがった。俺は別にいい。否定されるのは慣れている。だが許せないのは束をバカにした奴らだ。「小娘が調子に乗るな」だと!? 何様のつもりだ!! 束に抑えられてなかったら殴ってたぞ!!

 

……結局、全てを否定された俺達はあの場から退出した。その直後だった。束が、泣き出したんだ。自分の夢を、あっくん達との約束をバカにされたって。俺は悔しくて仕方なかった。どうにかして、ISを認めさせてやりたいと思った。

 

(だからなのか? あの時、アイツが現れたのは)

 

俺と束が退出し控え室に居た時、突然ブラント・ダグラスって言うアメリカの国会議員が訪ねて来た。「友人がやっている企業を通して、開発援助をしたい」とのことだ。正直願ったり叶ったりだったが、俺にはどうも胡散臭く感じた。

 

(だってどう考えてもアイツ、B.Dだもんなぁ)

 

前世で戦った宿敵を思い出し、ため息をつく。単にイニシャルが同じというだけじゃない。アイツの纏っている独特の雰囲気が感じられたからだ。向こうも、俺が何者なのか気づいている筈だ。

 

(ま……相手が何であれ、今は猫の手も借りたい状況だ。それに、こっちは予定が大詰めだし)

 

元々論文発表が上手く行こうが行くまいが、俺と束は一ヶ月後にISとガーランドの本格的な稼働テストを行う予定だ。武装を使う為許可を得るのが遅れたが、どうにか行えることになった。

 

(俺はともかく、束のメンタルケアもしてやんなきゃならねぇってのに……)

 

再びため息をつきながら、俺はこの後の予定に頭を痛めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

束さんの論文発表から一ヶ月が過ぎた。束さんは今日Oガンダムとプロトガーランドの稼働テストを行うらしい。既に実験現場となる海岸にはプロトガーランドに跨がった省吾兄ちゃんと、Oガンダムを纏った千冬さんが居て束さんは地下研究所からそれをモニターしている。

 

「2人共、準備いい?」

 

『いつでもいいぜ』

 

『私もOKだ』

 

兄ちゃんと千冬さんが準備万端と言った表情で返事する。

 

俺と一夏と箒ちゃん、そして由唯さんも研究所に来ていた。みんなどのような結果を出すのか知りたいんだ。でも、俺は別のことが気がかりになっていた。

 

「あの、束さん……。束さんは、気にしてないんですか?」

 

「あっくん……?」

 

「省吾兄ちゃんから聞きました。論文を真っ向から否定されたって。普通なら悔しくて仕方ない筈なのに、何故―――落ち着いていられるんですか?」

 

そう、束さんは落ち着いていた。否、落ち着き過ぎていた。原作では(おそらく)感情的になってミサイルをハックした。が、目の前の束さんにはそれが見られない。

 

「………………」

 

束さんは黙っていたが、少しして口を開いた。

 

「……悔しいよ。本当に、はらわたが煮えくり返るどころか噴火するレベルで。でも、しょーくんはあの時、怒ってくれた」

 

「兄ちゃんが?」

 

「うん……私の為にあんなに怒ってくれたの、久しぶりに見た。だから良いの。私の夢を、ISをちゃんと理解してくれる人が居れば、それだけで……」

 

「姉さん……」

 

「……束さん」

 

滅多に見せない穏やかな表情。それを束さんが見せた時、箒ちゃんと一夏は心境を察したようだ。が、俺は今だに驚きっぱなしだった。まさか束さんの性格が、ここまで良くなっているとは。

 

……神様。これもアンタの気紛れの賜物なのか?

 

「それじゃあ、そろそろ始めるよ。ターゲットドローン、起動」

 

キーボードを操作すると、画面に映っている海岸に無造作に置かれた球状の物体が次々と宙に浮き始めた。

 

「これから一定時間、ドローン達に攻撃を命中させて。使い捨てだから壊しちゃっても平気だよ」

 

『わかった。行くぜ、ガーランド!』

 

《各システム異常なし。戦闘モード、起動確認》

 

『織斑千冬、Oガンダム。行くぞ……!』

 

プロトガーランドはマニューバスレイブ形態に変形し、OガンダムはGN粒子(!?)を撒き散らしながら浮かび始めた。粒子まで再現するとは、さすが束さん……。

 

「頑張って、千冬。省吾」

 

胸の前で手を握りながら、由唯さんが呟く。少なからず心配なんだろう。

しかし、そんな心配を余所にプロトガーランドはビームガンを、Oガンダムはビームガンとビームサーベルを使い分けながらドローンを次々に撃墜していく。

 

「千冬姉さんも省吾さんも、凄い!」

 

「これがISと、ガーランドの力……!」

 

一夏と箒ちゃんは、画面の向こうで起きている出来事に感動を覚えているようだ。とは言いつつ、俺も心の中では感動しまくっていた。何せ、画面越しとは言えガンダムとガーランドが並び立ちしかも動いているところを見られるんだ。これを感動せずに何に感動しろと言うのか。

 

そうこう思っている間に、Oガンダムとプロトガーランドは動きを止めた。ドローンを全て撃破したみたいだ。

 

「3分ジャスト。さすがだね。2人共ウルト○マン並の反射速度だったよ」

 

『いや、ガーランド(コイツ)のお蔭さ』

 

『しかし、恐ろしい性能だな。宇宙進出用としてではなく軍事用として開発していたら、どうなっていたことか……』

 

千冬さん、それフラグです! と言っても、ミサイルハックをやらないみたいだから、どうなるかはわかんないけど。

 

「よし、テスト終了っと。2人共帰って来て……あれ?」

 

指示を出そうとした束さんが、ある画面を見てどういう訳か凍り付く。

 

「あの、束さん?」

 

嫌な予感がし、おそるおそる尋ねた俺は全く予想してない、一番聞きたくないことを聞いてしまった。

 

「た、大変! 何でか知らないけど、世界中のミサイルがハッキングされて日本に発射されてる!!」

 

『な、何だとぉぉおおおおお!?』

 

『バカな!? 何時だ! 一体何時どこに来るんだ!?』

 

「後五分……ううん、もう一分もない! 到達地点は……そんな! テスト場の近く!?」

 

こんなに慌てている束さんを見たのは今まで初めてだ。けど……

 

(どういうことだ? 束さんじゃないとしたら、一体誰がミサイルをハッキングした? そんな技術力を持つ人間が、そう何人も居る筈は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラントSIDE

 

数分前

 

アメリカ合衆国 ロサンゼルス

 

「ダグラス議員。全軍事ミサイルのハッキングに成功しました」

 

「そうか、ご苦労。これで後は手元のスイッチ1つでいつでも撃てるという訳だ」

 

部屋に入ってきた私の部下でありこの世界の友人の1人に礼を述べる。私の持つノートパソコンには、人工衛星を通じてISとガーランドの居場所がリアルタイムで送られて来ている。

 

「そろそろ頃合いか……ミサイル、発射」

 

パソコンのエンターキーを押し、ミサイル発射の指示を送る。実感など無い。が、別のモニターに発射される映像が映されている。

 

(これで世界は変わる。しかし…………何をしているのだろうな、私は)

 

篠ノ之博士が作ったISとガーランドの性能を腐りきった上役共に認めさせる。これはその為の強行手段だ。あれだけの性能なら、この数のミサイルならどうにか落とせるだろうし、もしもの時の為に緊急停止装置もある。だが、ISとガーランドは本来の思想としては認められないだろう。

 

それらを用いた軍事化。上の奴らはそんなことしか考えん。ダイナマイトの時もそうだ。本来工事用として作られてのを、軍事兵器として利用した。奴らのやり口はわかっているつもりだが……私は奴らと何ら変わりないかもしれない。

 

(矢作はこのこと(真実)を知らないだろうが、もし恨むことがあるなら、遠慮なく俺を恨み憎め)

 

下手をすれば私は、開発者である篠ノ之博士の人生さえも狂わせてしまったかもしれないのだから。




という訳で、いきなりB.Dがやらかしました。メガゾーンの時と同じく上の人間に失望したが故の行動です。


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7th Episode

「ミサイルって、映画に出てくるミサイルだよな? それが、日本に……!?」

 

「そんな! ど、どうすれば!?」

 

「クッ、こんなことになるなんて!」

 

無数のミサイルが日本に向かっているという事実に一夏と箒ちゃんがパニックになる。2人とは違う理由でだが、俺も内心混乱していた。束さんでないとすれば、一体誰が何の為にハッキングをしたのか。……チッ! 原作の知識が役立つどころか、これじゃあ息してないも同然じゃないか!!

 

「みんな、落ち着いて」

 

その時、俺達3人をしゃがんだ由唯さんがふわっと抱き締めてくれた。

 

「大丈夫。省吾と千冬が、ミサイルなんて落としてくれるから」

 

「ほ…本当……?」

 

「ええ。だから安心して(どうか、2人とも無事で……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

省吾SIDE

 

「おらぁ! どうだこの野郎!!」

 

「油断するな! ミサイルはまだ残っている!!」

 

接近してくる大量のミサイル(その数二千!!)をおよそ半分程にまで撃墜することに成功したが、ミサイルは絶え間なく向かって来ている。

 

(クソッ、マガジンの数も少ないってのによ!)

 

ビームガンの弾は数に限りがある。予備のマガジンがいくつかあるとはいえ、今はそのほとんどを使い切ってしまっていた。

 

(そういやぁ、千冬はどんな戦い方して……うおっ!?)

 

Oガンダムが居る方向を見て俺はびっくり仰天した。何故なら、Oガンダムはビームガンを連射しミサイルを素早く確実に撃墜していったからだ。千冬が射撃苦手だったのを考えると、ISの性能が凄いんだろう。

 

そうこうしている内に、ミサイルは全て撃墜することができた。

 

「ようやく終わったな。やれやれ、私は射撃が下手なのだが……Oガンダム(コイツ)の性能に助けられたよ」

 

「ちぇっ、羨ましいぜ。こっちはほとんど手動だってのに」

 

このガーランドはISよりいくらか劣っている部分がある。オートロックシステムや緊急回避システムのオミット、更にバリアシステムの有無が主なものだ。それでも機体性能は高い方だけどな。

 

「まあそう言うな。……? 何か集まって来ていないか?」

 

千冬が周りを見渡すと、空母やらF-22やら軍隊がわんさかと集まって来ていた。

 

「そりゃあアレだ。ミサイル二千発飛んで来て、全部俺達で撃墜したってんなら、警戒されるだろうさ」

 

問題はこの後どうするかだ。千冬は束と連絡を取り合ってるようだが……。

 

「省吾、新たな指示が出た」

 

「何だ?」

 

「可能な限り死者を出さずに敵戦力を無力化、脱出せよと」

 

「へぇ。アイツにしちゃあ、ちったぁまともなこと言うじゃんか!!」

 

瞬間、俺とプロトガーランド、千冬とOガンダムは軍に向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

Oガンダムとプロトガーランドが全ミサイルを撃墜、更にその後軍を鎮圧し帰還してからそれなりに日が経った。箒ちゃんと俺の家にはマスコミやら何やらが大量に押し寄せ、一時は外出も困難だったが今はどうにかなっている。ただ、束さんと省吾兄ちゃんが「しばらく家を開ける」と言って出て行き、まだ帰って来てない。俺も去ることながら、一夏と千冬さん、由唯さんと箒ちゃんもみんな心配していた。

 

そして今日、2人はやっと帰って来た。重苦しい表情と共に。何か嫌な予感がした俺は、みんなを俺の家に集めた。やがて束さんが絞り出すように言った。

 

「私……もう、みんなと一緒に……居られない……」

 

場の空気が凍った。俺は心の中でそうだろうなと思ってはいたが、かなりショックだった。みんなも我に返ると、束さんに「どうして」と聞いた。それには省吾兄ちゃんがこう答えた。

 

「政府の連中がよ、束を監視下に置くって決めやがったんだ。ISとガーランドは現在の兵器を超越する性能を持っているからってさ」

 

「何で、どうして……っ、省吾はどうなるの?」

 

「お咎めなしだってさ。ガーランドを開発したと言っても実質作ったのは束だし、ミサイルを撃墜した数もOガンダムのが上だから、俺なんか眼中にもないんだろ。ったく、ふざけてやがる」

 

「バカな。何故、何故こんなことに……!」

 

「そんな…嫌だ! 姉さんがどこかに行ってしまうなんて!」

 

箒ちゃんが離れたくないと束さんにしがみつく。

 

「ごめんね、箒ちゃん。迷惑かけてばかりの、ダメなお姉ちゃんで……でも、ここに私が居るともっと迷惑を掛けることになっちゃう」

 

「ど、どうして?」

 

「開発者は命と家族を狙われる可能性が高い、ということか……」

 

極めて冷静に、だけど怒りを隠しきれない様子で千冬さんが言った。

 

「千冬姉さん、何とかできないの!? 束さんが作ったISは日本を救ったのに!」

 

「一夏」

 

「何だよ彰人!?」

 

「もう無理だ……政府の命令なんだ。俺達にどうこうできる話じゃないことは、わかるだろ……」

 

「……!!」

 

正直、悲しいどころの話じゃない。俺は心の片隅に、もしかしたら原作での出来事が回避されて平和に暮らせるんじゃないかと思っていた。けど、それは砕かれた。そして束さんと、姉のように思っていた人と離れ離れになる。それがどんなに絶望的なことか……!

 

俺の心境が伝わったのか、一夏は何も言わなくなった。箒ちゃんも、束さんから離れた。

 

「じゃあねみんな。私、そろそろ行かなきゃ。政府の奴らが待ってる」

 

「束…せめて、送ろうか?」

 

「ううん。あ、でも最後に1つだけ言わせてほしいな」

 

省吾兄ちゃんが「何だ?」と言う前に、束さんは省吾兄ちゃんに近づいて―――

 

「っ、あ……」

 

―――キスをした。

 

「……私、しょーくんのことが、大好き。小さい時から、ずっと」

 

「お前……」

 

「グスッ…それじゃあみんな、お元気で! いつ会えるかわからないけど……さようなら~!!」

 

そう言うと束さんは車に乗り込み、行ってしまった。

 

「束のバカ……先越した直後に居なくなるなんて、やり返せなくなるじゃない……!」

 

「アイツはいつもそうだ。自分勝手でお調子者で、でも…明るくて……!!」

 

「姉さん…うぅ……! 姉さあああああああああああああん!!」

 

由唯さん、千冬さん、箒ちゃんは泣き出してしまった。

 

「……彰人。お前、泣いてるのか?」

 

「そう言う一夏だって、泣いてるじゃんか……」

 

「おいおい、男ならこういう時泣くんじゃねぇよ。こういう時は、明るく……行かねぇと……!」

 

俺や一夏、兄ちゃんも泣き出し、しばらくは涙が止まらなくなった。……原作通りと割り切ることなんて、俺には無理だったよ……神様……。




希望は砕かれ、家族は離別する。破壊されし明日への秒読みを刻みながら。


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8th Episode

どうもこんにちは、矢作彰人だ。あれから時間が流れてもう4年生になった。ISは量産、各国に軍事力として配備され、ガーランドもGR-2型が続々と配備された。ただ、ISはコア部分に束さんにもわからないバグがあって女性にか使えず、これによって原作程じゃあないが女尊男卑の世界になってしまった。

 

ちなみに、ここまで一夏と箒ちゃんは互いを好き合ってる筈なのに、恥ずかしくて好きだと言えてないもどかしい関係のままで見ているこっちがやきもきする。

このまま待っていればどっちかが告白するだろうと思っていたら、どっこいそうもいかなくなった。

 

箒ちゃんが、政府要人保護プログラムというもので箒ちゃんを転校させることに決めたからだ。これまでは政府の監視があっても俺達と一緒に暮らせていたが、ついにこうなってしまった。俺も一夏も驚いた。由唯さんと省吾兄ちゃんは反対したが、政府の命令だからと突っぱねられられたらしい。

 

「で……一夏はどうするんだ?」

 

「どうって……?」

 

一夏の家のリビングで、俺は沈んだままの一夏に質問した。箒ちゃんが転校すると聞いてから、ずっとこの調子なんだ。

 

「箒ちゃんのことだよ。好きなんだろ? だったら告白しないと」

 

「でも、もし断られたら……」

 

「そんなの、言ってみなきゃわかんないだろ。それに言うじゃんか。男は度胸って。失敗を恐れて諦めたら、絶対後悔するぞ」

 

そう言って、背中をバンッ!と叩く。しゃんとしたのか、一夏は何やら決意した顔つきになっていた。

 

「よし! 俺、当たって砕けろで告白してくる!」

 

「いや砕けちゃダメだろ」

 

「はは、冗談だって。で、引っ越しの日っていつだっけ?」

 

「今日だぞ」

 

「………………え?」

 

一夏の顔が見事に引き攣った。

 

「だから今日だって。俺何度か言ったのに聞いてないのか?」

 

「……何時だ?」

 

「今10時だから……後十五分だな」

 

「やばっ!? 行って来る!!」

 

慌ただしく、一夏は外に出て行った。

 

「ま、頑張れよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「はぁ……はぁ……っ、箒ちゃん!」

 

家から全力疾走し、俺はどうにか箒ちゃんの家に着いた。丁度引っ越しのトラックに荷物等を積み込んでおり、ギリギリだったことがわかる。

 

「一夏、どうしたんだ? そんなに急いで」

 

「実は…はぁ……ほ、箒ちゃんに……はぁ……話したいことがあって」

 

「私に?」

 

「えと、ここじゃ恥ずかしいからこっちで」

 

「え!? お、おい!」

 

箒ちゃんの手を引いて、俺は周りから死角になっている裏庭に移動した。

 

「本当にどうした? こんな場所まで連れて来て」

 

「ご、ごめん。どうしても言っておきたいことがあってさ」

 

「そうか。では、遠慮無く言ってくれ」

 

「ああ………………」

 

言いかけて俺は気づいた。プロポーズの言葉を何も考えてないことに。

まずい……これは非常にまずいぞ。……いや、敢えて逆に考えろ。何も無くていい。小細工なしの、直球勝負でいく!!

 

「……実は俺、箒ちゃんのことが…………好きなんだ!!」

 

ようし、言った! 言ったぞ! これでどう転ぶかは知らん!!

 

「え……そ、それは……本当、なのか?」

 

「冗談で言う奴がいるか! 本気の本気、超本気だ!!」

 

「そ、そうか……だとすれば…………嬉しいな。うん。物凄く」

 

「…………へ?」

 

今度は俺が驚く番だった。嬉しい? え、それってまさか、箒ちゃんも!?

 

「箒ちゃん、もしかして」

 

「……ああ。私もす、好きなんだ……い…一夏の、ことが……っ!」

 

顔を極限にまで真っ赤にさせて箒ちゃんは言った。……そんな、両思いだったなんて……何で気づかなかったんだろう!

 

「箒ちゃん……! ごめん、俺、箒ちゃんの気持ちに気づいてなくて……」

 

「一夏が謝ることはない。私だって、一夏の気持ちは知らなかったし、一夏に言う勇気もなかったんだから。剣道をやって精神面を鍛えてきたつもりだったが、全く情けない」

 

そう言うと、箒ちゃんは俺にそっと抱きついてきた。

 

「ほ、箒ちゃん?」

 

「一夏……私は、好きな子に素直に好きと言えなかった情けない女の子だ。けど、こんな私を好きになってくれたのなら、1つだけ頼みがある」

 

「何? 俺ができることなら、何でもするよ」

 

「私はもう引っ越して別の場所に行ってしまう。次に何時会えるかはわからない。だから、最後の思い出に、せめて…………キ、キ……キス、を……」

 

「っ!!!!!! ほ、本当に、いいのか?」

 

「お、同じことを二度言わせるなっ」

 

拗ねたように言うと、箒ちゃんは目を閉じて顔を少しだけ上に向けた。

 

「う、うん。なら……」

 

心臓がドキドキしっ放しだったが、覚悟に覚悟を決めて、目を閉じてゆっくりと近づいていく。近くなって行くに連れて息がかかるのがよくわかるが、俺は余計な雑念に惑わされずに距離を詰め―――唇を重ね合った。

 

「「……………」」

 

時間も忘れて俺達の影は1つになり、やがて離れた。

 

「っはぁ……私、ついに一夏と…キス、したんだな……」

 

「ああ……」

 

「……これでもう、心残りはない。新しい場所への不安も消えたよ」

 

「そうか。なら、よかった……」

 

想いを伝え合った後、俺は箒ちゃんを最後まで見送った。いつか、必ず出会えると信じて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

翌日。

 

「はっ! はっ! はっ!」

 

「お、一夏の奴太刀筋にキレがある。何か良いことでもあったか?」

 

「さあ、どうだろう?」

 

「何だそりゃ」

 

道場にて、博人君の質問を受け流していた。思い人への告白が上手くいったなんて、堂々と言える筈がない。

 

「ふむ、以前にも増して筋が通ってる。何か吹っ切れたことでもあったんだな」

 

こう述べるのは柳韻さん達が引っ越してから新たに道場の先生をしている八神シグナムさんという女性だ。博人君は知り合いだって言うけど、どう考えてもリリなののあの人だよな……髪の毛は明るい茶髪になってるけど。光の加減によってはピンクに見えたり見えなかったりするけど。

 

ともかく、箒ちゃんと束さんとは一旦お別れになった。そして、もうすぐ新たな出会いがやってくることになる(この時は忘れてたが)。



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9th Episode

箒ちゃんが去り、シグナムさんと出会ってから月日が経ち、俺達は5年生に進学していた。

一夏はあれから大分強くなったが、やっぱり箒ちゃんがいないのは寂しいようだ。俺もそうなんだけどね。

 

「静かに。今日から私達のクラスに新しい友達が加わります。みんな、仲良くしてあげてくださいね」

 

お? 転校生か。どんな子が来るのやら。

 

「初めまして、凰鈴音です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

小柄でツインテールの髪型をした女の子が元気よく挨拶をした。

そうか……今日だったのか。凰さんが転校してくるのって。

 

「席は……織斑君と矢作君の間が空いているから、そこにしましょうか」

 

え、マジ……って本当だ。俺と一夏は縦一直線に(俺が前で一夏が後ろ)並んで座ってるけど、まるでサンドイッチみたいに挟む形になるな。

 

「えっと、どっちが織斑でどっちが矢作?」

 

「あ、俺が織斑だけど」

 

最初に会話したのは一夏か。

 

「そう、アンタが。早速だけど、私のことは『鈴』って名前で呼んで頂戴。名字で呼ばれるのは慣れていなくて。その代わり、私もアンタのことは『一夏』って呼ぶわ」

 

意外とこの頃からガンガン行くタイプなんだ。箒ちゃんとは別ベクトルで個性的な子だ。

 

「そっか……よろしく、鈴ちゃん」

 

って一夏の奴、少し上の空になってる。思い出してるんだろうな。

 

「? どうしたのよ? 何か暗くない?」

 

おお、一夏の気分が沈んでいることに気づいた。そんなに変化しないから俺以外誰も気づかなかったのに、凄い。

 

「あー、ちょっといいか?」

 

ここで俺が割って入る。自己紹介もしときたいし。

 

「アンタは確か、矢作?」

 

「矢作彰人だ。彰人って呼んでくれ。それと一夏だが、去年辛いことがあってな。今でも少し引きずってるんだ。……俺も、たまに今の一夏みたいになるが」

 

「そうなの……。そういうことなら、何も聞かないわ。誰にだって辛いことはあるし、ソレを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だと思うから」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

優しいね、鈴ちゃんは。俺や一夏とも早々に打ち解けたし、正直どうやって友達になろうとか考えてたから、安心安心。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺と一夏は鈴ちゃんと仲良くなり、校内や住んでる街の案内をしたり、省吾兄ちゃんや千冬さん、由唯さんを紹介したり、道場で稽古をつけてるところを見学させたりした。それと、何度か鈴ちゃんの家に遊びに行ったりもした。俺達が友達関係になるのはあっという間だった。

 

鈴ちゃんはとても活発な性格で、俺と一夏が逆に振り回されることもしばしばある。仮面ライダーごっこにも最初は「?」を浮かべていたが、途中から積極的に参加するようになった。

 

「行くぞキバ! 『R・E・A・D・Y!』 変身! 『F・I・S・T・O・N!』」

 

「勝負だ、イクサ……! 『ガブッ!』 変身!」

 

「2人とも、私を忘れてない? 変身! 『ヘンシン!』」

 

今日も昼休みにやっている。俺がイクサで一夏がキバで鈴ちゃんがサガだ。ちなみにベルトの音声は全部地声だ。少し恥ずかしいが、慣れると割と楽しい。

 

こうやって毎日を楽しく過ごしているからか、一夏と俺の心にあった僅かな寂しさは埋まっていき、やるせなくなることもなくなった。……少し前だったかな? 一夏が箒ちゃんとの別れ際の話を鈴ちゃんに話したことがあった。彼女は「いい話じゃない。大丈夫、きっと会えわよ」と笑顔で言っていた。

こうして俺達は、新しい友達を交えて楽しい日々を送っていた。しかし、平穏というのは壊れやすいもので、とある事件が起きてしまった。

 

 

ある日、俺と一夏は一緒に帰る為鈴ちゃんを昇降口で待っていた。が、中々来ないのでジャンケン等をして暇を潰していた。

 

「やーい、リンリン。パンダなら笹食えよ~!」

 

ふと、どこからかそんな声が聞こえてきた。何だ? 嫌な予感がする……

 

「一夏!」

 

「ああ!」

 

急いで声のする方向に走る。やがて見えてきたのは、箒ちゃんと同じ状況に立たされている鈴ちゃんだった。囲んでいるのは4人の男子。場所は校舎裏。……ここはいつから不良の溜まり場になった? しかも、全員箒ちゃんをいじめてた子じゃないか!

 

「はぁ。アンタ達ねぇ、どうやったらアタシがパンダに見えるわけ? 視力悪いんじゃないの?」

 

「何?」

 

やばい…やばいぞこれは! 男子達がもう臨戦体勢だ。下手すれば殴られる!

 

「彰人、俺行ってくる! 荷物持っててくれ!」

 

その時、一夏が箒ちゃんの時みたいに行こうとした。俺は一夏の肩を掴んで止めた。

 

「何だよ?」

 

「別に関わるのを止めろって言う訳じゃないが、確認させてくれ。お前は1年の時に箒ちゃんを守って戦った。そのせいで、一部の先生は目を光らせてる。もし同じことをしたら、今度は……」

 

「だから止めろと? 冗談言うな。友達を助けなくて良い子になるなら、俺は悪ガキでいい!」

 

「そう言うと思ったさ。ほら行け。俺は先生呼ぶから」

 

「彰人……わかった!」

 

俺は一夏と一旦別れ、職員室にダッシュで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「女の……中国人の癖に、生意気なんだよ!」

 

「きゃっ!?」

 

鈴ちゃんが突き倒された。

 

「中国人が、俺達と一緒に勉強すんじゃねぇ!」

 

ソイツ等はここぞとばかりに罵声を浴びせる。鈴ちゃんは……泣きそうになっていた。その瞬間、俺の中で何かがキレた。

 

「おい……今、鈴ちゃんを笑ったな?」

 

俺が言った直後、4人のいじめっ子はビクッと震え、振り返って俺を見ると恐怖し出した。

 

「お、織斑!? 何でここに!?」

 

「ま、まずい。コイツはまずいぞ!」

 

今更気づいたのか。だが遅い!

 

「へ、へへ……何怯えてるんだよ。あん時はまぐれだ。二度も負ける訳がない!!」

 

「あっ、バカ!!」

 

1人が殴りかかってくる。前と同じじゃんか。コイツ等は猿以下か? ……以下なんだろう、多分。

 

とりあえずパンチを避けると足を引っかけ、よろけたところで髪を掴んで鼻っ柱を殴る。そして怯んだところに足払いをして倒す。

 

痛みに悶えてるのを見て、彼らは震える。そんなに怖がるなら、最初からやるんじゃないって思うのは俺だけか? いや、彰人もそう思う筈だ。

 

「もう一度聞く。今……鈴ちゃんを、大事な友達を笑ったよなぁ?」

 

某地獄兄貴のように不敵に笑って尋ねる。

 

「「「い、いいえ! 笑ってません! 笑ってません!!」」」

 

途端に3人揃って必死の弁解をしてくる。何か笑えてくるが、ここは我慢だ。笑うのも、見逃すのも。

 

「いいや、笑った。……俺も笑ってもらおうか」

 

そう言うと、まずは前に逃げた奴の腹に右足キックを入れる。相手は地面にうずくまった。しばらくは立てないだろう。次は残りの2人の鼻を同時に殴り、動きが鈍ったところでそれぞれ膝蹴りと鳩尾へのパンチをお見舞いした。随分とあっけなかったな。って、そんなことはどうでもいい。

 

「鈴ちゃん!」

 

今は鈴ちゃんの無事を確認するのが第一だ。



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10th Episode

鈴SIDE

 

前の学校では、私は男子と友達になったことはなかった。だから色んな意味で、一夏と彰人と友達になるのは新鮮だった。

 

一夏と彰人はいつも仲良しで、ここに来たばかりの私に優しく接してくれた。

2人は色んな場所を案内してくれたり、家に誘ってくれたり、通っている道場にも案内してくれた。私も、2人を私の家に何度か誘った。その時かどうかは忘れちゃったけど、一夏が時々暗くなっているのはどんな理由があるのか、つい聞いてしまった。すぐに謝ったけど、一夏は話してくれた。小さい頃から仲良くしていた箒と言う女の子がいたこと。訳あって彼女が引っ越すことになり、その十分前に告白して両思いになってまた会おうと約束したことを。……正直、まるでドラマみたいって感動した。だから私、一夏を励ましてあげた。「また会える」って。そしたら笑顔になって、それから暗くなるのはめっきりなくなった。

それと、よくやっている仮面ライダーごっこって遊び。最初はよくわからなかったけど、録画したDVDを見せてもらったら私もはまって今じゃ私も仮面ライダーごっこをしている。こういうのは男の子の専売特許かと思ってたけど、案外楽しく遊べるのね。

とにかく、もう毎日が楽しくて、幸せだった。あの日が来るまでは……。

 

その日は用事があったせいで帰るのが遅くなり、私は近道になっている学校の裏を走っていた。

 

「お、リンリンじゃないか」

 

その途中で、4人の男子と鉢合わせした。彼らは聞いたことがある。元は5人組で色んな子をランダムにいじめていたって。1人は何があったのか改心したみたいだけど。

 

「やーい、リンリン。パンダなら笹食えよ~!」

 

今度は私がターゲットみたい。しかも、前の学校と同じやり方のいじめまでしてきた。……だから私、わざと上から目線で言ってやった。

 

「はぁ。アンタ達ねぇ、どうやったらアタシがパンダに見えるわけ? 視力悪いんじゃないの?」

 

「何?」

 

「女の……中国人の癖に、生意気なんだよ!」

 

「きゃっ!?」

 

男子の1人に押し飛ばされ、尻餅をついてしまった。男子との力の差に私は、恐怖感を抱いていた。どうして無理に強がってしまったんだろう。

 

「中国人が、俺達と一緒に勉強すんじゃねぇ!」

 

何で……? 何で中国人だといけないの? みんなと仲良くしたい、友達になりたいだけなのに……。私はもう、泣きそうになっていた。

 

「おい……今、鈴ちゃんを笑ったな?」

 

突然聞こえてきた声に男子達が静まりかえった。気になって見てみると、一夏が立っていた。

 

「お、織斑!? 何でここに!?」

 

「ま、まずい。コイツはまずいぞ!」

 

男子達が慌てているが、そんなことはどうでもよかった。一夏は……怒っていた。普段の姿からは想像もつかない程、怒りが湧き出ているのを感じた。

 

「へ、へへ……何怯えてるんだよ。あん時はまぐれだ。二度も負ける訳がない!!」

 

「あっ、バカ!!」

 

1人が仲間の制止を無視して一夏に殴りかかる。危ない、逃げて!そう思った時、一夏は予想外の行動をした。

一夏はパンチを避けるとカウンター気味に相手の鼻を殴り、痛みに怯んでるところを足払いで倒した。

呆然とする私を余所に、一夏は言った。

 

「もう一度聞く。今……鈴ちゃんを、大事な友達を笑ったよなぁ?」

 

その時の一夏の顔は、恐ろしいまでの笑みを浮かべていた。けど、そんなことより私は一夏の言った「大事な友達」が心に響いた。

 

一夏は、私を大事に思っててくれたんだ。中国人だからって差別せずに……。それはきっと彰人も同じなんだと、何故か思えた。凄く、嬉しい……。

 

「「「い、いいえ! 笑ってません! 笑ってません!!」」」

 

「いいや、笑った。……俺も笑ってもらおうか」

 

その後は圧倒的だった。近くにいる男子の腹に右足蹴りを放つ。食らった男子は地面にうずくまって呻いていた。そんな、一撃で……。一夏は呆然としている残り2人の鼻を同時に殴って怯ませると、1人には膝蹴りを、もう1人には鳩尾へ拳を叩き込んだ。

 

「鈴ちゃん!」

 

それから一夏は私に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か? ケガしてない?」

 

「う、うん。平気」

 

口ではそう言ったものの、どうしてか一夏を見ていると胸がドキドキとしてくる。大事な友達って言ってくれたから? でもそれだと彰人も同じ筈なのに、何で一夏にだけ……?

 

不思議に思っていた時、彰人が先生を連れて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

正直、どうなるか不安だ。俺が連れて来た先生は何の因果か1年の時、箒ちゃんの一件で呼んだ先生だった。だから「女の子を守る為に敢えて悪になる……いいわ! C'est très bon.(凄く良い)!!」と言って味方になってくれた(何度も言うが、先生は女性だ)。が、さすがにお咎めなしにはいかず、千冬さんに省吾兄ちゃん、由唯さんが来ることになった。

 

ただでさえ千冬さんは忙しい身だ。それに加えて喧嘩沙汰。一夏は怒られると思ったのか、肩をすくめていた。だが千冬さんは一夏を見てこう言った。

 

「一夏。お前は一度だけではなく、二度も力を振るった。誰かを守る為に。……後悔は、してないのか?」

 

その問いに一夏は一瞬目を見開くが、すぐに表情を引き締めて述べた。

 

「してない。……千冬姉さんが言いたいことはわかる。どんな理由があっても、力は暴力でしかない。でも俺は、俺の大事なものの為なら力を振るう。たとえ俺が悪になっても……」

 

その言葉からは、並々ならぬ覚悟が感じられた。鈴ちゃんは感動している。一夏の奴、前世の頃を含めて大きく成長してやがる。ここからどうなっていくのか楽しみだ。

 

「……そうか」

 

短く静かに言うと、千冬さんは一夏の頬に両手を動かすと―――

 

ムギュ~

 

ほっぺを引っ張った。

 

「ふぇ? は、はにふるの、ひふゆ姉さん!?」

 

「お前の覚悟は受け取った。だから、今日はこれで勘弁しておく」

 

「それはわかふへど、あまりうごかはないへ~!」

 

千冬さんに言い様に遊ばれている一夏。ある意味貴重な絵面だな。鈴ちゃんなんか、可愛いって思ってるよ絶対。

 

「ま、いいか。千冬さん、嬉しそうだし」

 

「だな。見ろよ、今にも満面の笑みを浮かべそうだぜ」

 

「ふふ、確かに」

 

「なっ!? わ、私がそ、そんなことをするわけないだろ!?」

 

「い、いひゃいいひゃい!!」

 

「あ! す、すまない一夏」

 

照れ隠しで怒った際に一夏のほっぺを強く引っ張ってしまったらしく、涙目になる一夏とそれを見て戸惑う千冬さんという珍しいものを見ることができた。



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11th Episode

皆さんこんにちは。矢作彰人だ。時間が流れるのは早いもので、あっという間に一年経ってしまった。今現在、俺と一夏は鈴ちゃんの家である中華料理屋に来ている。ここでご飯を食べながら、テレビである大会を見る為だ。

 

その名も『第一回モンド・グロッソ』。全21カ国の代表達で様々な競技を行う、世界大会だ。使われるのはIS。しかし、別の場所ではガーランドでこの大会が行われている。2つの大会の違いは、女性のみが出られるか男女が混ざってできるかだ。

ISの場合各部門で優勝した者は『ヴァルキリー』の、総合優勝した者には『ブリュンヒルデ』の称号が与えられる。対してガーランドの方は女性の場合はISと同じで、男性だと各部門優勝が『シグルズ』、総合優勝者が『オーディン』の称号を与えられるそうだ。

 

もう原作とはかなり違ってしまっているが、今更だ。

 

そしてこの大会には千冬さんがISの方に、省吾兄ちゃんがガーランドの方に出ている。2人ともかなり強いが、特に突き出ているのは千冬さんだ。何と言っても、各国の様々な技術を持った代表達を近接戦闘に特化したISで次々と打ち破っているからだ。その機体の名は、ガンダムエクシア。Oガンダムの次に作られたIS。原作の暮桜とは明らかに違うが、なんとなく似ていると言えば似ている。武装としてGNビームサーベルにGNビームダガー、GNブレイド(ロング&ショート)、そして右腕にGNソードを装備しており、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)として『トランザム』を実装している。一応射撃武器も2つ装備している。

 

ガーランド側の大会はさっき省吾兄ちゃんの総合優勝で終わったので、千冬さんの決勝試合を見ている訳だが……違った緊張感を見ていて感じる。互いに構えたまま動かない。しかし次の瞬間、千冬さんは何も構えてない状態から瞬間加速(イグニッション・ブースト)で加速しながら、機体色を真っ赤に変え『トランザム』を発動。相手を中央に固定するように旋回しながらGNソード(ライフルモード)を連射。相手が一瞬怯んだ隙にGNダガー2本を投擲しつつ、GNビームサーベルを抜いて真上から斬りかかる。更に相手と交差しながらGNブレイドで滅多切りにし、最後にGNソードで一刀両断。

ただでさえ加速がかかった状態にトランザムの加速が加わって攻撃が重くなり、尚且つあれだけの連続攻撃を受けてどうなるかは、誰が見てもわかっていた。

これで千冬さんは格闘部門での優勝者、同時に総合優勝者にもなった。ブリュンヒルデの称号は、彼女に与えられた。

 

「凄いわねぇ、省吾さんと千冬さん。2人揃って総合優勝しちゃうなんて」

 

試合を見た後、鈴ちゃんが嘆息しながら言った。

 

「俺だって、兄ちゃんが本当に全部勝つとは思ってなかったんだ」

 

「俺は千冬姉さんならやってくれると思ってたけどな。生身でも圧倒的だし」

 

「「それは確かに」」

 

ぶっちゃけ千冬さんなら、生身でISを倒せるんじゃないだろうか? ……あり得そうで怖い。

 

「みんなテレビを見るのはいいけど、ちゃんとご飯も食べてね?」

 

「あ、ごめんなさい、お母さん」

 

おっと、見るのに集中してて箸が止まっていた。これは失敗した。ちなみに今話しかけてきたのは、鈴ちゃんのお母さんの凰花琳(ファリン)さんだ。

 

「もぐもぐ……相変わらず、ここの料理はおいしいなぁ」

 

「ホント。特にこの、酢豚は俺や彰人のとは違った味付けで、格別だ」

 

「えっと、それは……」

 

「ほう、一夏君も中々良いところに目をつけるね。それは鈴が作ったんだよ」

 

花琳さんの隣に立っているのは、鈴ちゃんのお父さんの凰焚蓮(ターレン)さん。

 

「え、これ鈴が? 凄いうまいんだけど」

 

「ああ。俺達が作ったのより上手かもしれないな」

 

「そ、そう? あ、ありがと……」

 

「ははは。そんなに照れなくても、素直に言えばいいだろ? それ、一夏君に振る舞う為に練習して―――」

 

「わぁぁぁぁー! い、言っちゃダメーーーー!!」

 

焚蓮さんに割り込むように真っ赤な顔で声を張り上げる鈴ちゃん。思わず一夏と一緒にビクッ、となってしまった。

 

「もう、あなたったら。恋する女の子を、あまりからかったらダメよ?」

 

「おっと、こりゃ失敬!」

 

「だ、だからそんなんじゃ…………もう! 知らない!!」

 

鈴ちゃんは慌てるようにご飯を完食すると、どこかへ(多分自室)立ち去って行った。

 

「「………………」」

 

一夏は呆然としており、俺も鈴ちゃんの心境はわかっていたとは言え、ポカンとしていた。

 

「……やりすぎたかな?」

 

「大丈夫よ。少ししたら戻って来るわ」

 

花琳さんが言った通り、前にも似たようなことがあったのでここはそっとしてあげた方がいいだろう。

 

「……なあ、彰人」

 

「ん?」

 

突然、神妙な面持ちで話しかけてきた。

 

「最近というか、ちょっと前から鈴の様子が変じゃないか?」

 

「それは俺も思ったけど、思春期だからじゃない?」

 

「だとしても、あんな調子だとさ……もしかしたらって思うじゃんか」

 

「もしかしてって?」

 

「それは……………何でもない」

 

言葉を濁す一夏だが、これは間違いなく鈴ちゃんの好意に気づき始めているな。まあ……どうしたらいいかわからないって感じだが。今回ばかりは、俺からは何も言わないぞ。相談してくるなら、遠慮なく乗ってやるけど。

 

それより、千冬さんと省吾兄ちゃんが優勝したことで、世界や俺達の周辺環境は大きく変わるだろう。変なことに巻き込まれないといいけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

思わずリビングを飛び出して自分の部屋に籠もってしまった。だってお父さん、私が内緒にしてたことをペラペラ話しちゃうんだもの。それにお母さんまで……。けど、部屋に居ても仕方ないから、少ししてからリビングに戻ろうとした。そしたら―――

 

「最近というか、ちょっと前から鈴の様子が変じゃないか?」

 

「それは俺も思ったけど、思春期だからじゃない?」

 

「だとしても、あんな調子だとさ……もしかしたらって思うじゃんか」

 

「もしかしてって?」

 

「それは……………何でもない」

 

入る寸前に一夏と彰人の会話が聞こえてきて…………耳を疑った。

 

もしかしたら、一夏は私の想いに気づいている?

 

そう考えると胸が高鳴って嬉しくなる。そう、私は一夏のことが好きになっていた。あの日助けられてから、少しずつ気持ちが大きくなっていって、いつの間にかそれが行動に出るようになっていた。それに気づいてくれたのなら、恥ずかしいけど嬉しい。でも……

 

(一夏には、箒が……好きな人が、いるのよね……)

 

一夏は小4の時に離れ離れになった女の子、篠ノ之箒と両思いになっていて、今でも彼女のことを想っている。聞いた時はロマンチックだと思ったけど、今になると心が締め付けられる。

私は一夏のことが好き。でも、一夏は箒のことが好き。こんなんじゃ、告白しても間違いなくフラれる。頭ではわかっているのに、気持ちを捨てることができない。だから料理も練習して、振り向いてもらおうとしている。無駄なこと、なのに……。



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12th Episode

第一回モンド・グロッソから一年が経過し、俺こと矢作彰人は中学校に進学していた。

やはりというかなんというか、俺と一夏はそれぞれの兄姉の影響で有名人になってしまい、周囲の一部からは「ブリュンヒルデ(オーディン)の弟ならこれくらい当然よね」とか色んな場面で言われ始めた。

そんな訳ないから。俺達にだってできないことぐらいあるから。もう何度ストレスが溜まったかわからない。

そんな俺達の気苦労を知ってか知らずか、鈴ちゃんと新しくできた友達は優しく接してくれた。もう涙が止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラァァァァァ! これでどうだぁっ!?」

 

「甘いぞ弾! この程度でファイズが倒れるか!!」

 

そして現在、俺は新しくできた友達の1人である五反田弾(明るい茶髪がトレードマークだ)の家で彼とWi○版の超クラ○マックスヒー○ーズをやっていた。ちなみに、これが終わったら一夏と鈴が対戦する予定だ。

 

俺のキャラは仮面ライダーファイズ。アビリティーはスピードアップだ。対する弾は仮面ライダーカブト。アビリティーは同じくスピードアップ。戦況は二回先取で一勝一敗。そして互いのパワーゲージはマックス。……この後どんな行動を取るかは決まっていた。

 

「一気に決めてやるぜ、彰人!」

 

「そう上手く行くかな!?」

 

ほぼ同時にリモコンの十字キーを押し込む。

 

『Start Up!』

 

『Clock Up!』

 

―――画面の中で、背景が歪んだ。これはクロックアップやファイズアクセルを発動した時に起きる現象で、この状態だと普通なら他ライダーを置いてきぼりにするのだが……

 

「「オラァァァァ!!」」

 

互いに発動しているのでは、普通の戦闘と変わりなかった。ていうか、逆に燃える展開なんだが。ディケイドでも対ザビー戦でやってたし。何か感動を覚えたね。

 

そんなこんなで、ファイズとカブトのHPは減りまくっていた。ファイズアクセルもクロックアップも解除している。

 

「この勝負、俺の勝ちだ」

 

「いや……それはわからないぜ?」

 

勝ち誇る弾にパワーゲージを溜めながら言う。ゲージを見た弾は青ざめた。何せ、カブトのゲージはほぼゼロだが、ファイズの方は満タン近くなっていたからだ。

勿論これには理由がある。弾の方はライダーキャンセルとかのゲージを消費するテクニックを使って攻撃を回避していた。対して俺は普通に防御してゲージを使うようなテクニックはしなかった。弾の行動は間違っていないが、今回はソレが仇となりゲージを大きく消費してしまったんだ。

 

「時にはシンプルに行くことも大事なんだぜ、弾君?」

 

『Start Up!』

 

「ちょまっ!?」

 

言うが早いか、再びファイズアクセルを発動してカブトをボコボコにする。クロックアップできぬカブトなど、敵ではない!!

 

『Time Out!』

 

『KO!!』

 

「俺の勝ちだ、弾」

 

「くっそぉ! また負けたぁ!!」

 

悔しそうに表情を歪める弾。いつも思うんだが、詰めが甘いんだよなぁ。

 

「惜しかったわね。今回は勝てるかな?って思ったけど」

 

「俺は彰人が勝つって思ってたぞ。っとそれより、次は俺達だ。彰人、リモコン」

 

「はいよっ」

 

一夏と鈴ちゃんにリモコンを渡し、俺と弾は後ろに下がる。一夏はV3を選び、鈴はリュウガを選んだ。

 

「彰人はどっちが勝つと思う?」

 

「ん? それは……一夏だろう。全キャラ使い込んでるんだぞ、アイツ」

 

俺が言った直後、テレビから『KO!!』の言葉が聞こえた。いや早っ!? 始まってすぐに完封したのか!? さすが、前世でゲーマーだっただけはある……。

 

「お兄、ジュース持ってきたんだけど、開けてくれる?」

 

「今行く」

 

そう言って弾が部屋のドアを開けると、コップを乗せたお盆を手に持った女の子が入ってきた。彼女は五反田蘭。弾の妹だ。

 

「はい、彰人さん。鈴さんと一夏さんも」

 

「「「ありがとう」」」

 

お礼を述べてジュースを口にする。ちなみに、ここの蘭ちゃんは原作とは違って一夏に恋心は抱いてない。……これから抱くという可能性も捨てきれんが。

 

「また仮面ライダーのゲームですか? そんなに面白いんですか、それ?」

 

「まあな。蘭ちゃんも本編を一度見てみるといい。おもしろさとカッコ良さが伝わる筈だから」

 

「実際、私なんてすぐに嵌まっちゃったぐらいだし」

 

「はぁ……」

 

どこかよくわからないといった様子の蘭ちゃん。女の子はそういうのあまり見ないって聞くから、仕方ないよな。

 

「おーい、弾。今度は俺と勝負しないか?」

 

「一夏と? フッ、いいぜ。今までの俺とは違うってところを見せてやる!」

 

さっきまで俺に負けてたお前が言うのか。

兎にも角にも一夏はアマゾンを、弾はオーディンを選んだ。

 

結果どうなったかと言うと……一夏が勝った。ぶっちゃけ、アマゾンでオーディン倒せるなんて思ってませんでした。ごめんよ、アマゾン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。俺達は道場で稽古に励んでいた。……と言っても、今は八神先生と千冬さんの試合を見ているんだけど。

 

「たあっ! せえいっ!!」

 

「やる…! はっ!!」

 

かなり凄い試合内容だ。八神先生は千冬さんとほぼ互角、いや下手をすればそれ以上の動きで立ち回っている。参考にしろって先生は言ったが……正直、凄すぎて参考にならない。

 

「凄いよな、先生。千冬姉さんと互角以上に戦うなんて」

 

「だよな。IS纏ってたとは言え、世界最強の称号を持っているのに。それとも、八神先生の方が最強なのか?」

 

「あながち間違いではなさそうなのが恐ろしいな……。後どうでもいいけど、2人共似てないか? 性格や話し方とか」

 

「……確かに」

 

博人君と頷く真由里ちゃんを見て「確かに」と思う。それと、俺は博人君が言ったこと以外にも似たところを感じた。強いて言うならそれは……大事な家族が居るってことかな?

 

スパァン!!

 

「胴有り、か。私の負けだな……」

 

「はぁ…はぁ…いえ……ただの、まぐれ……はぁ…です」

 

「それでも、はぁ……私の負けには違わないさ。はぁ…はぁ…よくやったな、千冬」

 

いつの間にか千冬さんの勝ちで試合が終わっていた。……え、嘘? まぐれとは言え勝っちゃったの? 凄すぎだろ。

 

「……俺もう、千冬さんに追いつける気がしない」

 

「「「大丈夫、俺(私)もだから」」」

 

みんなの優しさが非常に心に染みた。



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13th Episode

「…………凄かったなぁ、千冬姉さん」

 

「ああ…………生で見ると迫力違うし……」

 

ドイツの首都、ベルリンのレストランにて俺と一夏は半ば呆然としながら話をしていた。何故俺達がドイツに居るのかと言うと、『第二回モンド・グロッソ』を観戦しに来ているからだ。

テレビと生は違うとは言うが…………はっきり言って無茶苦茶強かった。見てる途中で一夏共々、口開けてたくらいだ。

ガーランドの方はどうなったかって? ……生憎と見てない。省吾兄ちゃんが参戦しているなら見てたけど、兄ちゃんはとっくに現役を引退し、選挙運動を始めて見事当選。与党議員になり政治家としての道を歩み始めたからだ。ちなみに由唯さんも省吾兄ちゃんの秘書になっており、兄ちゃん共々滅多に会えなくなった。……そう言えば、今回の大会は兄ちゃんも会場で見学しているって聞いたな。ま、護衛の人とか居るだろうから、会えないだろうけど。

 

「ところで一夏。今だから言うけど……お前最近、心ここにあらずって感じじゃないか?」

 

出てきた料理を食べ終えたところで、一夏に聞いてみる。すると一夏は、ギクッ!?とした顔を向けてきた。

 

「……何でわかった?」

 

「そりゃお前、何年親友やってると思ってるんだ」

 

「そうだったな……」

 

「……やっぱり、鈴ちゃんのことか?」

 

「ああ……」

 

確信を突くと、一夏は観念したように話し始めた。

 

「鈴が俺に好意を抱いてくれてるのは、正直嬉しい。けど、俺はどうしたらいいんだ?」

 

「告白するのを待った方がいいんじゃないか? そこでフっちゃえば、万々歳じゃないの?」

 

「そうなんだろうけどさ。最近俺、おかしいんだ。俺は箒のことが好きなのに、鈴のことを考えると、妙な気持ちになってくる。それが何なのか、自分でもよくわからない……」

 

俺は一夏の言葉に衝撃を受けた。つまりどういうことかと言うと、一夏は箒ちゃんのことが好きだが、鈴ちゃんのことも異性として意識してしまっているようだ。……これはどうアドバイスしたらいいんだ? うーむ……。

 

「やっぱさ、とりあえず待ってみようぜ。告白してくるのを。その時にどう答えるかは、お前が考えればいい」

 

「自分のことは自分で決めろってことか。……結局、そうなるのかぁ」

 

「今回ばかりは、そうするしかない」

 

我ながら無責任だが、複雑な恋愛ごとは極力当人達に任せた方がいいと思う。決めるのは当人の意志なんだし。……俺も恋愛するとき、一夏みたいになったら悩むだろうなぁ。

 

「…………ん?」

 

その時、店の前に黒いシボレー・サバーバンが止まり、中から数人の男女(ただし、女性は2人のみ)が現れ、こっちに歩いてきた。……とうとう来たか、この時が。

 

「失礼。織斑一夏君と矢作彰人君で、いいかしら?」

 

金髪の女性が微笑みながら日本語で語りかけてくる。傍らには屈強そうな男性が2人居る。

 

「そうですけど、誰なんですか?」

 

「私達は、IS委員会の警備の者です。IS及びガーランド操縦者の関係者を狙ったテロ組織がこの付近に潜伏しているという情報を掴んだので、保護して回っているんです」

 

言っていることは最もだが、よく考えると矛盾がある。俺と一夏は日本人である矢作省吾と織斑千冬の……つまり、前回大会における優勝者の血縁者だ。真っ先に動くのは日本の筈。

 

(彰人。何かコイツ等、怪しくないか? 一番先にIS委員会が動くなんて、どこか引っかかるし……)

 

一夏も疑問に思ったようで、俺に小声で尋ねてきた。

 

(いいところに気づいたな、一夏。多分この人達は、そのテロ組織だろう。そこで俺に考えがある―――)

 

これからの一連の流れをひそひそと説明すると、一夏と共に向き直った。

 

「すいません、長々と。何分困惑してたので……」

 

「じゃあ、車に案内させてもらうわ」

 

「よろしくお願いします」

 

まずは敢えて誘いに乗って車に移動していく。金髪の女性を先導に、俺と一夏の隣に俺達を挟み込むように屈強な男性が2人立つ。車では運転席に、運転手らしき男性が居て、ドアを開けて待っているロングヘアの女性が居る。どうやら人数はこれで全てのようだ。

 

確認すると、一夏の体に軽くぶつかって合図をする。そして、俺と一夏は車までもう少しというところで止まる。

男性2人が訝しんでこちらを見る―――今だ!

 

「「せいっ!!」」

 

ほぼ同時にそれぞれの男性の金的を全力で蹴り上げる。

 

「「っーーーー!?」」

 

声にならない悲鳴を上げている男性達を尻目に、俺達は迷わず逃げ出した。

 

「っ!? まさか、気づかれた!? 追うわよ!!」

 

金髪の女性のものらしき声を遠くに聞きながら、俺達は地理もわからぬまま走った。こんなことなら、事前に勉強しとくべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…こ、ここまで来れば……」

 

「さすがに…はぁ……はぁ……追うのに時間はかかる筈……」

 

しばらく走りまくって着いた廃工場に、俺と一夏は隠れた。かいた汗を拭き取ろうとポケットに手を突っ込んだ時、指先に硬い物が当たった。

 

(何だ?)

 

取り出してみると、丸いラムネのようなものだった。これは……。

 

「彰人、それって……」

 

「やられた……これは発信機だ……!」

 

言った直後、工場の扉が開けられ声が聞こえてきた。

 

「2人ともそこまでよ。おとなしくしなさい」

 

金髪の女性の声だ。おそらく発信機を仕込んだのは彼女だろう。それも、俺達が逃げ出す前に。正体は不明だが、只者じゃないことは確かだ。

 

(仕方ない、ここは出よう)

 

(そうするか……)

 

一夏を促し、俺は物陰から出てきた。

 

「随分物分かりがいいわね。でも……どうして驚いていないのかしら?」

 

相手の人数は女性が2人に、男性が…3人? 1人は運転手として、残りの2人は補助員か。金的を蹴った奴らとは違う顔だし。

 

「こんなものが入ってましてね」

 

発信機を見せつけながら喋る。

 

「大方、発信機か何かですよね? ……俺達がどこに逃げようと、これで探っていた訳だ」

 

発信機を放して落とすと、足で踏みつけて破壊する。こんなことをしても無駄だろうが、残しておくよりはマシだ。

 

「ええ、そうよ。それと、後1つだけ聞きたいことがあるわ。……どうして私達の正体に感づいて、逃げたのかしら? あんなこと、確信がないと普通はできないわ」

 

「別に、確信がなくてもできますよ。なあ一夏?」

 

「ああ。俺と彰人が抱いた疑念は、行動させるには十分だったさ」

 

「……どんな疑念を抱いたのかしら?」

 

「簡単なことだ。モンド・グロッソはドイツ軍が全面的に警備をしている。だから確保に動くのはドイツの筈。それと、俺と彰人は日本人だ。さっきの言葉を否定する訳じゃないが、ドイツよりも日本政府が動いてなきゃおかしいんだ。IS委員会が真っ先に動くなんて違和感があるどころの話じゃない」

 

一夏の説明に、女性は驚きながらも感心していた。

 

「大した考察力ね。あの場でそんなことを2人して考えてたなんて……けど、もし本当にIS委員会が動いていたとしたら、どうするつもりだったの?」

 

「こういう言葉がある。もし違ってたら、その時はその時だ。ってな」

 

「そういうこと。間違いを恐れてちゃ、死ぬのは俺達だからな」

 

一夏に続いて笑みを浮かべながら言う。本当にIS委員会だという可能性を持っていたというのは本当だ。が、その可能性の方が低かったこと。下手をしたら死ぬことを考慮して行動に出たんだ。それは正解ということだ。

 

「決断力もいいのね、貴方達は。でも、この状況だとそれも無駄になったわね」

 

「どうかな? 一夏、今の時間は?」

 

「試合開始の……十分前だ」

 

腕時計を見て一夏が言った。俺達がレストランから逃げてから、かなり時間が経過したな。さっきの会話も、丁度良い時間稼ぎになった。

 

「それじゃあ試合見に行くことができるか、わかんないな。けど、ここに居る奴らに一泡吹かせられるなら、別にいいか」

 

「言えてる」

 

そう言うと、一夏と共に笑い始めた。相手は見事に困惑している。いや、おかしくなったと思っているかもしれない。

 

「……何がおかしいの?」

 

「ん? 今言ったでしょ。一泡吹かすって。まあ敢えてヒントを言うなら……秘匿回線、って奴かな?」

 

スマートフォンを取り出して女性に見せる。それだけで女性は何かを理解したのか、顔色を変えた。

 

「まさか……!」

 

ドガァァァン!!

 

直後、別の扉をぶち破ってソレはやってきた。

 

「悪い、彰人! 一夏! ちと遅れちまった!!」

 

「遅すぎだよ―――兄ちゃん」



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14th Episode

時間は彰人達が逃走した直後に遡る。

 

 

 

 

 

省吾SIDE

 

「凄かったなぁ、千冬の試合」

 

「ええ。衰えてないどころか、パワーアップしてたわ」

 

試合会場のロビーで、俺は由唯と準決勝の感想を語り合っていた。俺は第一回大会の後現役を引退し、今は与党議員になっている。そのせいか、今も自分の周りにはSPらしき黒服が何人か居る。ちなみに、プロトガーランドはいつも傍に置いている。今回もドイツに持ち込んでおり、できるなら乗り回したかったけど、止められた。議員になると、色んなことが自由にできなくなるから、不便だ。

 

「それで省吾、この後の予定だけど―――」

 

ピリリリリ!

 

「悪い由唯。電話だ」

 

いつもとは違う着信音に首を捻りながら、携帯を取り出して画面を見る。画面は、彰人から着信がきてると伝えていた。それも……秘匿回線で。

 

「っ、由唯…これ見てくれ」

 

「どうしたの省……!?」

 

携帯の画面を見せると、由唯も驚きのあまり固まっていた。秘匿回線と言うのは、彰人と一夏にだけ教えておいた、万が一の為の電話番号で、これを使う時は何か緊急事態が起きたということだ。それも、ガーランドを使うレベルの。

 

「大変……! 早くどうにかしないと!」

 

「場所はGPSでわかるからいいが、問題はどうやって千冬に伝えるか「その心配はないぞ、矢作」っ!?」

 

俺達の会話に割り込むように誰かが話しかけてきた。顔を向けると、そこには俺と同じようにSPに護衛されたスーツを着た男が居た。

 

「B.Dか……心配ないって、どういうことだ?」

 

「私も独自の情報網で、矢作彰人と織斑一夏を誘拐しようとした組織の動きを追っていてな。既にこのことはドイツ軍を通じて織斑千冬に伝えることになっている」

 

B.Dことブラントの言葉を聞いて驚いた。どんだけやることが早いんだよ、コイツは……。

 

「……お前にやられたのは悔しいが、今日程頼もしいと思ったことはないぜ、B.D!」

 

「フッ、お前にそう言われる日が来るとはな。だがこうしている時間も惜しい。お前はガーランドでGPSを辿って即刻向かうといい」

 

「それは勿論わかってるが、お前はどうすんだ?」

 

「当然向かうさ。ただ、試したいものがあるのでな。少しばかり遅れる」

 

「そうか…早めに来てくれよ。由唯、ガーランドを準備してくれ!」

 

「任せて!」

 

俺はSPの人達に簡単に説明した後、ガーランドを置いてあるところに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、廃工場へ。

 

ドガァァァン!

 

「悪い、彰人! 一夏! ちと遅れちまった!!」

 

「遅すぎだよ―――兄ちゃん」

 

廃工場のドアをぶち破って突入したが、どうやら2人とも無傷みたいだ。しかも余裕綽々でいやがる。大人になったな、コイツ等も。

 

「プロトガーランド!? アイツ等、逃げながらこれを呼びやがったのか!」

 

「しかも操縦者は矢作省吾……となると、これ以上ここに居るのは得策じゃないわ。行くわよ、オータム」

 

「チッ。わかったよ、スコール」

 

言うが早いか、女2人は男達を残して先に逃げて行った。

 

「あ! 待ちやがれ!!」

 

すぐに追おうとしたが、残った男達(多分下っ端)が立ち塞がる。

 

「チッ、仕方ねぇ。彰人! 一夏! 先に逃げてろ!!」

 

「わかった。兄ちゃんも、気をつけて!」

 

そう言うと、彰人と一夏は俺が開けた場所から外に出て行った。

 

「へへっ。久々の戦いだ。腕が鈍ってないか、存分に味わいやがれ!!」

 

ガーランドを動かしながら、俺は男達に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スコールSIDE

 

「見事にやられたわ。まさか、逃げながら秘匿回線で仲間を呼んでいたなんて」

 

工場から離れながら、私はため息をつく。あの歳なら通常なら逃げることだけを考えて、助けを、しかも秘匿回線で呼ぶことに頭が回らない筈。なのに、彼らはそれを普通に行った。かなりの余裕を持って。

 

「今回ばかりは一本取られたって感じだぜ……あのガキ共、いや……彰人と一夏って言ったか。相当肝が座ってやがる」

 

「珍しいわね……貴女が私以外の他人、それも男に興味を抱くなんて」

 

オータムは任務の性質上、これまで情けない男しか見たことがなかった。……いいえ、ずっと前に1人だけ心を開いていた人が居たわね。まあそれはいいとして、とにかくオータムはそれがきっかけで男嫌いになって私と付き合ってる。いつもなら男性を見るだけで毛嫌いする筈なのに……。

 

「アイツ等は今まで会った男とは違う。肌でわかるんだ。あの雰囲気は、アイツとそっくりだってな」

 

「……そうね。確かに、そうかもしれないわ」

 

 

「そいつはどうも……と、言った方がいいか?」

 

「「っ!?」」

 

不意を突くように男の声が聞こえ、銀色の何かが姿を現した。あれは……IS? それともガーランド?

 

「な、何だそのマシンは!?」

 

「これはヴィルデ・ザウ。GR-2ガーランドをベースにアメリカで開発した、強化戦闘マシンだ。まだ試作段階だがな」

 

「……どうして私達を待ち伏せできたのかしら?」

 

「かつては共に戦っていた間柄だ。行動パターンは知り尽くしている」

 

どういうことかと考えていると、目の前のマシン―――ヴィルデ・ザウはコックピットを開き操縦者の姿を見せた。

 

「お前は……! そうか、そういうことか。だから私達を待ち伏せできたんだな」

 

「確かに、貴方なら私とオータムの行動を予測しても不思議じゃないわね。けど、もう少し感動的な再開はできなかったのかしら―――ブラント?」

 

ヴィルデ・ザウを動かしている人物……私とオータムが米軍に所属していた頃の同僚で、私とオータムが今でも恋い焦がれている(ひと)、ブラント・ダグラスに向けて私は言った。

 

「生憎だが、そんな余裕はなかったのでな。何せ、相手はテロ組織だ。情けをかける必要はない」

 

「相変わらず冷たいのね……それで、私達をどうするの? 捕まえて、政府に引き渡すつもり?」

 

「……オータムはともかく、お前はとっくに死亡認定されている。捕まえたところで、意味はない。私が来たのは、聞きたいことがあったからだ」

 

「聞きたいこと? 何だってんだ?」

 

「簡単なことだ。……何故、亡国企業(ファントム・タスク)に行った? 俺に連絡の1つもよこさず」

 

ブラントの声を聞いて私は思った。きっと、彼は彼なりに私達を心配していてくれたのだろう。常にポーカーフェイスだから、言葉で聞くまでわからないけど。

 

「それこそ簡単だわ。任務に失敗して、軍に見捨てられた私達を拾ってくれたのが、この組織だからよ」

 

「私もスコールと同じだ。連絡しなかったのは、本当に悪いと思ってる。だがテロリストの私達と、政治家のお前とはもう敵同士だ。連絡なんて……できる訳ないだろ」

 

オータムは悔しそうに、唇を噛みしめて言った。私も、可能ならブラントに連絡をしたかった。会いたかった。けど、そんなわがままは許されることじゃない。今は敵同士なのよ。私達は……。

 

「そうか……」

 

するとブラントは武装を解いて道を空けた。……どういうこと?

 

「何故道を?」

 

「私がここに来たのはスコールとオータムの明確な生存をこの目で確かめることだ。それさえわかれば、後はどうなろうが構わない」

 

「ブラント…………行きましょう、オータム」

 

「ああ……またな、ブラント。今度会う時は……敵同士だ」

 

名残惜しむように、私達はブラントから―――この地域から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始直前

 

千冬SIDE

 

「一夏と彰人が…攫われた?」

 

それを聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になった。どうして一夏と彰人が……?

 

ガチャッ

 

「失礼します!」

 

そこへ、左目に眼帯を巻き付けた白髪の小柄な少女(格好からしてドイツ軍だろう)が現れた。彼女はこの部屋にいた上官と思われる人物に耳打ちしていた。

 

「何、アメリカが? それは本当なのか、大尉?」

 

「はい。間違いありません」

 

上官らしき人物は顎に手を当てると、私を向いた。

 

「千冬さん。織斑一夏さんと矢作彰人さんの居場所が判明しました。この付近の廃工場に居るとのことです」

 

聞いた瞬間、私は即座にエクシアを展開し歩き始めた。

 

「ど、どこに行くつもりですか!? 今行けば、失格になってしまいます!」

 

「知ったことか。私は、私の家族と友人を助けに行く。邪魔をするなら……!」

 

GNソードを展開し、突きつける。もう家族を失いたくない。今度こそ……!

 

「……わかりました。ではせめて、彼女を同行させてください」

 

軍の上官は、先ほど入ってきた少女を前に出した。少し驚いたが、この状況だ。四の五の言っている暇はない。

 

「構わないが、お前の名は?」

 

「はっ! ラウラ・ボーデヴィッヒ大尉です」

 

「そうか。では、道案内を頼む」

 

言うが早いか、私は少女―――ボーデヴィッヒ大尉を抱えると、大空へと飛んだ。

 

(今行くぞ、一夏。彰人。絶対、死なせるものか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場に着いた時、既に何者かが戦闘を行っていた。大尉を地面に降ろすとGNソードを展開、焦る気持ちを抑えながら何者かが開けた入り口に向かおうとした―――その時だった。

 

「「千冬(姉)さん!!」」

 

物陰から一夏と彰人が飛び出してきた。センサーで調べると、2人共無傷だった。

 

「一夏! 彰人! 無事だったんだな……!」

 

私は嬉しさのあまり、2人を抱き締めていた。

 

「俺達を誰だと思ってるんです? 『オーディン』と『ブリュンヒルデ』の弟ですよ?」

 

「危険を察知して逃げることぐらい、できるさ。……最後は少し危なかったけど」

 

「まったく、お前達は……」

 

少々呆れながらも、優しく抱き寄せる。今の私には、ただ2人が無事で居てくれたことだけで一杯だった。

 

「……? 千冬さん、彼女は?」

 

ふと彰人が、後ろに居る大尉を見て尋ねた。一夏も不思議そうに見ている。

 

「ああ、説明してなかったな。彼女はラウラ・ボーデヴィッヒ大尉。ここまでの道案内を頼んだんだ」

 

「初めまして、になるな。矢作彰人、織斑一夏」

 

「……え? ああ、うん。よろしく」

 

「よろしく……」

 

2人共、大尉に戸惑っているようだった。まあ無理もない。彼女の年齢は若いのに、既に軍の大尉なんだからな。

戸惑う2人を面白く思いながら、私は救助部隊を待った。



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15th Episode

俺達が誘拐未遂→保護されてから色々なことが立て続けに起こった。長々と説明するのも面倒なので、簡潔に纏めよう。

 

まず俺を誘拐しようとした組織はかなり下っ端の奴らしか捕まえられず、逃げた女性2人(確かスコールとオータムと言った)は省吾兄ちゃんが駆けつけたが一足先に逃げたそうだ。ブラントって人から聞いたと言っていたが、いつの間にアメリカの議員と知り合いになったんだ?

 

まあそれは置いといて。千冬さんは翌日、俺達の救助に向かったことで大会を棄権し不戦敗となってしまったので、その責任として引退を宣言した。更にドイツに対して諸々の礼をしたいと、ラウラ・ボーデヴィッヒの所属する『シュヴァルツェ・ハーゼ』、通称『黒兎隊』に期間限定で教官として出向したいと言い、ドイツ軍は2つ返事で承認した。

俺や一夏としては千冬さんがいなくなるのは寂しいが、事情が事情だけに仕方ないと納得させた。後、俺達が日本に帰るのは手続きに時間がかかるので、少し遅れるとのことだ。なので真っ先に鈴ちゃんや弾達に電話してその旨を伝えた(誘拐事件は話さず、事故に巻き込まれかけたと言っておいた)。

 

で、帰るまでの間、俺と一夏はラウラ・ボーデヴィッヒの警護を受けることになった。……こんな形で、彼女との出会いが前倒しされるとは夢にも思わなかったけど。

 

 

 

 

 

そして現在―――

 

「なるほど……日本にはそのような文化が」

 

「無論、これだけじゃないぞ。日本には世界があっと驚くようなものがたくさんあるんだからな」

 

「まあ逆に言えば、世界にも日本が驚くものはたくさんあるけど」

 

俺達とボーデヴィッヒ……ラウラちゃんは意気投合、すっかり友人になっていた。だって、相手は軍人とは言っても同い年だよ? それに彼女も日本に興味があったようで、色々語り合ったらいつの間にか打ち解けていたんだ。しかも原作とは違って和気藹々だし。もう俺も一夏もびっくりした。

 

「しかし、それほどまでに面白いのか? その『かめんらいだー』というのは」

 

「当然! 人によって好みが分かれるけど、俺達は大好きだ!」

 

「何なら変身ポーズ見せてあげようか?」

 

「ふむ、是非見てみたいな」

 

「「よし!」」

 

ラウラちゃんの言葉を受け、俺達は立ち上がる(今さっきまでテーブル越しに座っていた)と距離を少し空ける。

 

「じゃあ、俺が仮面ライダービーストやるから、一夏は仮面ライダーオーズで」

 

「わかった」

 

何をやるのかを決めると、一度目を閉じて変身する場面を思い浮かべる。勿論音声つきでだ。ちょいと恥ずいが…………別にいいか。

 

「変~、身!」

 

「変身!」

 

ほとんど同時に叫ぶと、勢いよく派手な変身ポーズを取る。

 

「『セット、オープン! L・I・O・N! ライオン!!』」

 

「『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ タ・ト・バ!!』」

 

「おお……!」

 

ビーストとオーズの変身ポーズ&音声をやっている俺達を、ラウラちゃんは感心した様子で見ていた。

 

「こんな感じだが、どうだろう?」

 

「実際にどのような姿になるかは想像もつかないが、凄く面白そうだと思ったぞ」

 

「「おっしゃあ!!」」

 

2人揃ってガッツポーズをする。俺達に新たな理解者(しかも女の子)ができたからだ。鈴ちゃんや弾、蘭ちゃんに数馬以外はどん引きされたからな……。

 

「ところでラウラちゃん。さっきからたまーに沈んだ顔してるけど……何で?」

 

「ん? ああ……羨ましいと思ってな。私は、『青春』とは無縁の日々を送っているからな」

 

「そう言えば、ラウラは同い年なのに軍の大尉だもんな。……何で軍に所属したんだ?」

 

「それは……」

 

一夏が何となく聞くと、ラウラは表情をあからさまに曇らせる。どうしよう、地雷踏んじゃった……。

 

「ごめん、言いにくいなら言わなくていいんだ。何か辛そうだし」

 

「……いや、やはり話そう」

 

「無理しなくてもいいぞ?」

 

「無理ではない。彰人と一夏は、私にとって信頼できる友人だ。……だからこそ話しておきたい。友に隠し事をするなど、失礼だからな」

 

そう述べるとラウラちゃんは少しずつ説明していった。自分が最強の兵士を生み出す為の計画で、軍に誕生させられた強化人間であること。ヴォーダン・オージェと言う疑似ハイパーセンサーを移植した結果、適合できず左目が変色しそれ以降の訓練では成績が伸び悩み、失敗作、出来損ないの烙印を押されたということ……等を。

 

正直、前世で原作小説を読んでた時は「そんなことがあったのか……」というぐらいにしか捉えてなかったが、実際聞いてみると……生々しく感じる。

 

「えと……何て言うか……まんま、ガンダムに出てくる強化人間やコーディネイターみたいだな……」

 

一夏が自分の感じたらしいことをそのまま言う。まあそう思うだろうな。俺だって最初はそう思ったし。

 

「それを本当に行うのが、人の恐ろしさだということか……」

 

「……? そんなに驚いてないのか? 私は人造人間で…出来損ない、だというのに……」

 

そう言うラウラちゃんからは、一抹の不安が感じられた。なるほど、全部話したことで友達に嫌われるかもと思っているんだろう。

 

「別にさ、生まれがどうとか俺は特に気にしないぞ。一夏も気にしないだろうし」

 

「そう、なのか?」

 

「ああ。後、出来損ないって言ってたけど……それは間違ってる。この世界に生まれた命に、失敗も成功もない。ある訳がないんだ」

 

「俺も彰人と同意見だ。命に優劣をつけようだなんて、バカげてる」

 

俺は前世から思っていたことをそのままズバッと言った。この言葉自体はスパ○ボWでキラが言った言葉なんだけどね、実際その通りだと思ったんだよ。自分達の手で命を作りだしといて、役に立たないと見たら即出来損ない扱い。どうやっても倫理観が狂ってるとしか言い様がない。

 

ラウラちゃんは何か衝撃を受けたのか、ポカンとしていたがすぐに我に返った。

 

「そ、そうか……。そう言ってくれたのは、2人が初めてだ……だから、その……ありがとう」

 

そして若干赤い顔で礼を述べられた。

 

「…………可愛いなおい」

 

「っ!?」

 

「おい彰人、口に出てる」

 

え、嘘……恥ずっ!? 心の中に留めておくつもりだったのに、ラウラちゃんの貴重(?)なデレ(?)場面を見て気が緩んでしまったのか!

 

俺が不用意なことを言ってしまったせいで、しばらくの間気まずい空気となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。全ての手続きが終わり、俺達は荷物を持って空港に来ていた。千冬さんも一旦帰って荷物を纏めて、再びドイツに行くとのことで俺達と一緒の便に乗るようだ。兄ちゃん達は俺達とは別の便に乗るので、ラウラちゃんと空港までの見送りに来てくれた。

 

「短い間だけど世話になったよ、ラウラちゃん」

 

「またいつか会おうな」

 

「ああ。勿論、友達として…だよな?」

 

俺達と握手をしながら言うラウラちゃんに、俺と一夏は一緒に頷いた。

 

「へー、仲良しになってるじゃん。よかったな、新しいガールフレンドができて」

 

「あんまりからかったらダメよ、省吾」

 

どこか微笑ましそうに見ている省吾兄ちゃんと由唯さんに、ちょっとだけ照れた。

 

「一夏と彰人が世話になったな。ドイツに戻ってきたら、今度は生徒としてお前を強くしてやろう。ただし、私の特訓はかなり厳しいから、しっかり着いて来いよ?」

 

「はっ! 何卒、よろしくお願いします!!」

 

ビシッと敬礼をするラウラちゃん。さすがに軍人だけあって、凄く綺麗な敬礼だ。

 

「さて……それじゃあ、そろそろ行くよ」

 

「気をつけてな」

 

「ケガすんなよ~!」

 

ラウラちゃんの微笑みと省吾兄ちゃん達の声を背中に受け、俺達は飛行機へと搭乗した。



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16th Episode

俺達が日本に帰国し、千冬さんが簡単な荷造りをして再びドイツへ戻るまで2日を要した。

放置していた家の掃除も終わったので、今日は鈴ちゃんの家に遊びに行こうかな。と思っていたら……。

 

ピンポーン

 

「? はーい」

 

一夏の家に居たらインターホンが鳴ったので、一緒に玄関まで行ってドアを開ける。すると、そこには鈴ちゃんがいた。

 

「あ、鈴。久しぶり」

 

「久しぶりね、一夏。それに彰人も。事故に巻き込まれた時はどうなったかと思ったけど、元気そうじゃん」

 

「鍛えてますからっ」

 

シュッ、とヒビキさんのポーズを真似しながら言う。……実際は事故どころじゃなかったと言えないのが辛い。

 

「まあこんなところでも何だし、上がって」

 

一夏が鈴ちゃんを促し、家のリビングに上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもびっくりしたわ。千冬さんは突然引退しちゃうし、省吾さんはプロトガーランドを動かしたみたいだし……本当に普通の事故なの?」

 

確かに鈴ちゃんが疑問に思うのも当然だが、これに関しては堅く口止めするように言われているので、いくら鈴ちゃんの頼みでも言えない。

 

「省吾兄ちゃんがガーランドを使ったのは災害救助の為だよ」

 

「千冬姉さんは元々、第二回大会が終わったら引退するつもりだったんだ」

 

それぞれで最もらしい理由(一夏は真実だが)を言う。これなら怪しまれずに済むだろう。

 

「うーん、どうも釈然としないけど……まあいいか。2人とも何ともなかったのは幸いだったし」

 

どうにか通せたみたいだ。

 

「あ、そうだ。久しぶりに鈴の家に行ってもいいか? あそこの料理、また食べたくなってさ」

 

「おっ、いいな! 最近中華料理食べてないから、恋しかったんだよなぁ」

 

「……え、えっと…………」

 

何故か鈴ちゃんは苦笑いし、言葉を詰まらせた。

 

「どうした? 今行ったらまずい?」

 

「う、うん……今日はちょっと、食材が……」

 

「そっか。なら仕方ないか……」

 

少し残念そうに言う一夏に「ごめんね」と言う鈴ちゃんだったが、俺は気づいていた。

鈴ちゃんは何か悩み事を抱えている。きっと、あのことなんだろうけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は弾の家に遊びに行った。

 

「よお彰人! 一夏! ケガしてないみたいで、何よりだ!」

 

「当ったり前だろ。俺達を誰だと思ってるんだ?」

 

「ちょっとやそっとじゃ、傷つかないぜ」

 

「へへ。そうだったな」

 

「とりあえず、上がってください。お茶も出しますので」

 

蘭ちゃんのお言葉に甘え、俺達は弾の家に上がった。

 

その後は食堂で厳さんが振る舞ってくれた料理を食べたり、ドイツでどんな生活してたかを話したりした。途中で弾がラウラちゃんに関して「その歳で大尉!? あり得ねーだろ!!」と至極真っ当なツッコミを入れていたがはぐらかしておいた。ごめんな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

一夏と彰人が事故に巻き込まれかけたと聞いた時、正直気が気じゃなかった。心配で夜も眠れなかった程だ。だから、2人が無事なのを見て安心した。けど、2人ともどんな事故に遭ったのか、話してはくれない。こればかりは仕方ない。誰にだって嫌なことは思い出したくないし、あんまり根掘り葉掘り聞くのも失礼になる。

 

こうやって引き際がわかるようになったのも、一夏達と一緒に居るお蔭だ。でも一緒に居る内に、私は一夏を好きになった。一夏は箒のことが好きだけど、この想いを捨て去ることはできない。

 

でも……だからこそ、別れるのが……辛い。

 

一夏達がドイツに居る間に、両親の仲が悪くなってきた。きっかけは些細な言い争いだったんだけど、それがエスカレートして私の力じゃ修復できそうにもなかった。そして、両親の会話を偶然聞いて知ってしまった。

 

私は、日本を去らなければならない。一夏と彰人に、また辛い思いをさせてしまう。そう考えると、胸が張り裂けそうなくらい辛い。……彼女も、箒もこんな気持ちだったんだろうか。同じ状況になってわかるなんて、皮肉ね……。

 

これからどうしようと悩んでいた時、ふと私は彰人が言っていたことを思い出した。箒が引っ越す時に、彰人は一夏の告白のサポートをした。それって、私がサポートしてもらってもいいのよね?

 

(考えてる暇はない、か)

 

一緒に居られる時間ももうすぐ終わる。私は―――彰人に相談することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「……なるほど。要するに一夏と離れる前にどうやって踏ん切りをつけるか、ということだな」

 

ある日、鈴ちゃんは俺に「相談がある」と言うと、訥々と話し出した。焚蓮さんと花琳さんの仲が修復不可能なまでに陥っていること、中国に帰らなければならないこと、そして……一夏に恋していることを。

 

全ての話を聞いた俺は、まず何よりも鈴ちゃんと離れ離れになるという事実にショックを受けていた。こうなることはわかっていたけど、辛いものは辛い。だが2人を仲直りさせることは俺には無理だ。下手なことをしても、逆に悪化するだろう。

 

だから鈴ちゃんが俺に相談してきたのも、一夏への想いをどうするかだった。

 

「とりあえず故郷に帰ることはみんなに話すとして、そうだな…………別れる前に、一夏に告白してみたらどうだ?」

 

「なっ!? な、何言ってるのよ! そんな……だって一夏は―――」

 

「確かに一夏は、箒のことが好きだ。でも、抱え込んだままでいるよりは、言ってスッキリした方がいいと俺は思う。一夏がどう答えるかは問題じゃない。一夏のことを好きな女の子がここにも居るってことを、アイツに覚えてもらうんだ」

 

「覚えてもらう……」

 

鈴ちゃんはしばらく黙ったまま考えていたが、やがて何かを決心した顔つきになった。

 

「そうね……。叶わない恋なら、せめて想いだけでも伝えておかないとね」

 

「決まったな」

 

「……ありがと、彰人。アンタのアドバイスのお蔭で、吹っ切れたわ」

 

「俺は何もしてないんだが」

 

ただ単に自分の思ったことを鈴ちゃんに言っただけで、賛成するか反対されるかは不透明だったんだ。

 

「してるわよ。彰人って、自分が思ってるよりかなりアドバイス上手なんだから」

 

「そうか?」

 

そんなに自覚はないんだが。……そういえば、今までにも何人か俺のとこに相談に来たことがあったっけ。アレが何か関係あったのか?

 

「……まあいいや。とにかく、頑張ってな」

 

「……うん!」

 

力強く頷く鈴ちゃんの瞳には、もう迷いはなかった。

 

そして、鈴は自分が日本から離れることを一夏や弾達に伝えた。



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17th Episode

一夏SIDE

 

鈴が中国に帰るという衝撃の事実を聞いてから早数日。俺と彰人、弾と蘭に数馬は空港に見送りに来ていた。

 

「もうすぐ鈴ともお別れか……寂しくなるなぁ」

 

「同年代で唯一の女子の親友だったからな……」

 

弾と数馬が悲しそうな顔をして言う。

 

「鈴さん、中国に帰ってもどうかお元気で……」

 

「当然よ。私はちょっとやそっとじゃ何ともないんだから」

 

「そうだな」

 

心配そうに見つめる蘭に鈴が腰に両手を当てながら言い、彰人が笑みを浮かべながら言った。

……まさか箒に続いて、鈴までとも別れることになろうとは思ってなかった。箒とはあれから会ってないが、元気でいるだろうか? 鈴も、何ともないとは言ったが向こうで無事で居てくれることを願うばかりだ。

そう考えていると、鈴が俺をじっと見てきた。

 

「……鈴?」

 

「一夏…ちょっと言いたいことがあるんだけど、いい?」

 

「別にいいけど……」

 

どこか決意した瞳をこちらに向けた鈴ちゃんは、一度息を吸うと―――

 

「私ね……一夏のことが―――好きなの。1人のい、異性として……!」

 

顔を赤らめながら、そう言ってきた。

 

…………………………………………え? 鈴が俺を? 異性として……?

 

「えと……マジで?」

 

「うん……マジで」

 

………………驚きのあまり一瞬反応が遅れた。弾や数馬、蘭に至ってはフリーズしてるし。あれ? 彰人だけ平常運転だ……気にしたら負けか。

それより、鈴が俺のことを好きだったとは…………薄々感づいてはいたが、本当で、しかも今告白するなんて。気持ちは凄い嬉しいけど……。

 

「鈴……けど俺は「言わないでっ!」え?」

 

「箒のことが好きなんでしょ? 大丈夫よ、断るのに悩まなくても」

 

「でも…だってお前……」

 

「私はただ、アンタのことが好きな人がここにも居るってことを、覚えて欲しかったの。返事はない方がいいわ」

 

鈴の言葉に俺は衝撃を受けた。こんなことを言われるとは……どこまで優しいんだ、鈴は……。

 

「ふぅ。にしても、言いたいこと言ったらスッキリしたわ。これで思い残すこともなくなったし、飛行機の搭乗時間も近いし、そろそろ行くわね」

 

「ああ、元気でな」

 

荷物を持ってゲートに向かう鈴を、彰人が手を振って見送る。……さては、お前が一押ししたな?

 

「はて、何のことやら」

 

人の心を読むな! いや、顔に出ていたのか? ってそんなことはいい。あからさますぎる反応のせいで逆に確信持ったわ。けど……これで鈴の抱えてたものがなくなったんなら、感謝しないとな。

 

「一夏!」

 

「……今度はどうした?」

 

「もし…もしもう一度会うことができたらさ、その時は……私の料理、また食べてくれる?」

 

「ああ……いくらでも」

 

「本当!? 約束だからね! 忘れたら承知しないんだから!!」

 

それを最後に、鈴は飛行機に乗って行った。まったく、忘れる訳がないだろ。大事な友達をさ……。

この後、フリーズが解けた弾達に尋問されたが、そこは割合する。

 

そして、今回の鈴の告白は、俺の心に大きな変化を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

鈴ちゃんが去ってから3日後。俺や弾達も寂しいという気持ちを乗り越え、いつもの日常に戻りつつあった。が、一夏の様子がどことなく変になっていた。そこで家のリビングに呼んで箒ちゃんの時みたいになってるのか聞いたら、どうも違うらしい。

 

「なら何だってんだ? 別に怒ったりしないからさ、隠さず言おうぜ(一夏の奴、まさかな……)」

 

「……わかった。彰人、実は俺―――」

 

「おう」

 

コップに注いだウーロン茶を飲みながら耳を傾け―――

 

「俺……箒だけじゃなくて、鈴のことも……好きになったみたいだ」

 

「ブゥゥゥーッ!?」

 

―――衝撃的な発言に口の中のお茶を全て噴いてしまった。

 

「ゲホッ、ゲホッ……お、おい一夏。お前、凄いこと言ったな……! ちなみに、理由は?」

 

「鈴はさ…箒が居なくなって心に穴が空いてた俺を支えてくれたんだ。当たり前かもしれないけど、俺にとっては凄く嬉しかったんだ」

 

「そうか……自分の心の隙間を埋めてくれた鈴ちゃんに、心惹かれたのか」

 

「最も、それに気づいたのは告白された時だけどな」

 

ため息をつきながら言う一夏。いやいや……気づいただけでも大金星だとは思うがね。原作一夏なんて気づくどころか好意を抱いてすらいないし(意識はしてたと思う)。

 

「最低だな、俺……箒の気持ち、完全に裏切っちまった……」

 

「うーん、まいったな。前にも言ったけど、こればっかりは何とも……」

 

複数の異性に好意を寄せられてどうしよう?という相談ならどうにかなれたが、複数の異性を同時に好きになったというのはお手上げだ。

ドイツの時も思ったが、これは本人に任せた方がいいな。……無責任で本当ごめん。

 

「とりあえず、俺なりに考えてみるか。何か良い考えでも浮かぶかもしれないし」

 

「そうした方がいい。開き直って、2人とも彼女にするとかに至るかもしれないぞ」

 

「……有りなのか? それ」

 

「いや、あくまで例えばの話だ」

 

相手が許可する必要があるし。にしてもまいったな。話は進んでいくというのに、厄介な悩みができてしまった……。



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18th Episode

皆さんこんにちは、現在進行形で電車に揺られている矢作彰人だ。受験会場に向かっている途中、つまり中学を卒業したんだが、ここまでに色々あった。

 

中三の頃に千冬さんはドイツから一旦帰国して、一夏の家でしばしくつろいでいた。IS学園に教師として務めるまでだから、一月は居たことになる。その間、俺と共に一夏の恋愛相談にも乗ったが、最終的に「箒に会ったらまず全力で謝る」ことになった。これが精一杯でした……。

 

今尚ドイツに居るラウラちゃんは一年で特殊部隊の隊長になり、隊員との仲も良好だと言う。特に副隊長のクラリッサ・ハルフォーフさんとは日本文化好きという接点があり、そこから仲良くなって強い信頼関係が生まれたらしい。……クラリッサさんて、確か変な日本文化を持っていたような……やめとこう。考えたら負けだ。

 

更に省吾兄ちゃんが内閣総理大臣指名選挙で指名され、しかも見事当選。何と総理大臣になった。本人も苦笑しながら会見していたけど、由唯さんがそのまま秘書としてついてるから大丈夫だよね? 後、千冬さんが物凄く羨ましそうな目で由唯さんを見ていたことをここに記す。

 

そして現在。俺と一夏は電車を降りて私立藍越(あいえつ)学園の受験会場に入った。IS学園でも通常授業はあるので、ついていけるようにちゃんと勉強しておいた。原作だと、ここで一夏は迷ってしまうのだが、そんなに迷うものだろうか? と思いながら進んでいたのだが……。

 

「……彰人。現在地、どこだ?」

 

「……わからん」

 

ガチで迷ってしまった。何この建物? 複雑すぎて方向感覚無くしたんだけど!? しかも案内板見当たらないし! 原作一夏が迷うのも頷けるよ! 新手の嫌がらせか!!

 

「こんなことなら、ネットで地図でもプリントしとけばよかった……」

 

もう後の祭りだが、愚痴の1つを零すのは許されてもいいと思う。もうね、気分が下がりっぱなしなんだよ。

 

「一夏、こうなったらどっか適当にドアを開けるぞ」

 

「運を天に任せるのか。いいぞやってやれ」

 

一夏の同意を確認し、俺は数ある(と言ってもそんなにたくさんはない)ドアの中から「これだ!」と思ったものを選んで開けて中に入った。

 

「あー、君達、受験生だよね。はい、向こうで着替えて。時間押してるから急いでね。ここ、4時までしか借りれないからやりにくいったらありゃしないわ。まったく、何考えてるんだか……」

 

そこにいた神経質そうな女性教員に言われるがまま、カーテンを開ける。するとそこには、日本が開発した第2世代型IS『M1アストレイ』が2機鎮座していた。

 

「ヒュゥ、ビンゴだ」

 

「だな」

 

確認するようにM1アストレイをまじまじと見つめる。こうして見ると、完全にガンダムだな。サン○イズの許可得てるし、売り上げ上がってるみたいだから版権的な問題はないだろうけど。

 

「これに触れれば、俺達は……」

 

「気をつけろ一夏。ソイツに触れたら、もう後戻りできなくなる。否応無く戦いにも巻き込まれるぞ」

 

「わかってる。覚悟の上さ」

 

「そう言うと思ってたよ」

 

覚悟を完了させた表情の一夏を見て小さく笑うと、俺は一夏と同時にM1アストレイに手を伸ばした。

 

「さあ行くぞ! 真なる人生の始まりだ!!」

 

「刮目させてやる! 俺達の生き様を!!」

 

そして―――M1アストレイは起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の内だった。「日本の男子中学生2人がISを動かした」というニュースが世界中に流れ、世界そのものを大パニックに陥らせたのは。

 



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19th Episode

矢作家のリビングにて、今現在俺達はIS学園から戻ってきた千冬さんと、国会議事堂からすっ飛んできた省吾兄ちゃんと由唯さんと家族会議を開いていた。家の周りにはマスコミやら科学者やら色んな人達が押し寄せていたが、千冬さんと警察の一睨みと、省吾兄ちゃんの鶴の一声によって退散していった。……兄ちゃんはどこか得意気だった。

 

「さて……何とも大変なことになってしまったな」

 

軽くため息をつきながら千冬さんが言う。

 

「ごめんなさい、千冬姉さん。まさか動くなんて思ってなくて……」

 

申し訳なさそうに一夏が謝る。でもごめんなさい、千冬さん。本当は俺達確実に動くって知ってました。

 

「これがガーランドだったら、特に問題とかなかったんだけどなぁ……。よりによってIS動かすとは、こりゃとんでもないことになるぞ、彰人」

 

省吾兄ちゃんの言葉に頷いて返す。

 

「ISは女性にしか動かせないっていう定義が覆されたんだ。世界は大きく変わるんだろうね」

 

千冬さんも神妙な面持ちで頷く。

 

「そうだ。ISが登場し、女尊男卑の世界になってから数年。ガーランドの存在もあって今の世界はどうにかバランスが取れていた」

 

「そこに、一夏君と彰人君という2人のイレギュラーが登場したのね……」

 

「由唯の言う通りだ。今は世界中が混乱しているが、これが収まった時、お前達は一部の人間に狙われることになるかもしれない。……あくまで可能性だが」

 

千冬さんの言葉に俺と一夏は黙り込む。彼女の言うように、俺達は何者から狙われる可能性が非常に高い。中学時代に誘拐した「亡国機業」みたいに、どんな敵がいつ襲って来るのかは原作を知っていても確実とは言えない。現に、この世界にはISと同時にガーランドが配備されている。この時点で原作とは大きく異なる。

 

「……が、1つだけ確かなことがある」

 

「ああ、あるな」

 

「あるわね」

 

「「?」」

 

不適な笑みを浮かべる兄ちゃん達に、どういうことだろうと一夏と顔を見合わせる。

 

「私達は、どんなことがあろうとも、一夏と彰人の味方だ」

 

「2人が危険な目に遭ったら、俺達が助ける。困ったことがあるなら、俺達ができる限り相談に乗ってやる。俺達は、『家族』だからな!」

 

俺達は半ば呆然としながら、兄ちゃん達を見た。胸中には様々な思いが流れる。……やっぱり俺達の兄ちゃん姉ちゃんだ。凄く頼もしい。

 

「うん……。よろしくお願いします」

 

「その時が来たら、頼らせてもらいます」

 

「「ああ、任せろ」」

 

揃って言う千冬さんと省吾兄ちゃんは、優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラSIDE

 

「さて、どうしたものか……」

 

緊急ニュースの内容を見た私は、困惑していた。彰人と一夏がISを動かしたと聞いた直後、M1アストレイが解除され本当に2人が降りてきたのだ。呆然したどころの騒ぎではない。

そんな私に、友人であり副官であるクラリッサが話しかけてきた。

 

「隊長。彼らが隊長の話していた……」

 

「ああ。矢作彰人と織斑一夏だ」

 

「この2人が、隊長の恩人…なんですか」

 

「まあ、な」

 

彰人と一夏は、私の出世を打ち明けても全く気味悪がらなかった。特に彰人は、私を……可愛いと言ってくれたし。

 

「…………っ(またか)」

 

最近、どうもおかしい。彰人のことを考えると、胸が締め付けられるようになることがたまにある。しかも、体温まで上がる。何かの病気なのか?

 

「隊長? 大丈夫ですか?」

 

その様子を見ていたクラリッサが、心配そうに私を覗き込んできた。

 

「ああ、何でもない。気にしないでくれ」

 

あくまで平然と告げるも、胸の締め付けは未だに続いていた。6月にはIS学園に行くというのに、こんな調子で大丈夫なのだろうか? 自分で不安になってくる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

矢作彰人だ。家族会議からしばらく日数が過ぎた。俺と一夏は共に矢作家に住むことになり、周りは省吾兄ちゃんが寄越してくれた凄腕のSPさん達が護衛をしている。

 

そして今、俺と一夏はIS学園に入学する為に電話帳並の厚さの参考書と格闘しつつ、ネット動画で代表候補生達の動きを見ていた(主に式典とかだけど)。

 

「はー、みんな凄い動きをするなぁ」

 

「そりゃそうさ。将来国を背負う為に、血の滲むような努力をしているだろうから」

 

「大変なんだな、代表候補生って」

 

「みんな苦労してるんだよ。……お、一夏見ろ。鈴が居るぞ」

 

「どれどれ? ……本当だ。あ、IS展開した」

 

模擬戦の様子を映したと思われる動画の中で、鈴はISを展開していた。そこから画質が悪くなったのでシルエットは不明だが、実際見た時のお楽しみにしておこう。

 

「彰人、こっちにはイギリスのが映ってるぞ」

 

「(イギリス……セシリア・オルコットか)見せてくれ」

 

できれば機体が映っているといいが………………!

 

「ダメだ彰人。映ってるのは本人だけで機体はぼかされてる。やっぱ機密なのかぁ……」

 

「……………………」

 

「彰人?」

 

「………………ん? あ、ああそうだな。機密じゃあ、仕様がないな」

 

「だな。お前の話だと必ず戦うことになるから早めに対策できた方が良かったけど、入学してからになりそうだ」

 

一夏の話を聞きながら俺は思った。物事は必ずしも原作通りに行くとは限らず、何が起きるかはわからない。そしてそれは、俺自身にも当てはまるんだと。



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IS学園入学~vs無人機編
20th Episode


花を咲かせる桜が美しい4月上旬。俺と一夏はIS学園に入学した。

 

IS学園とはIS操縦者の育成を目的とした特殊国立高等学校で、IS関連の人材はここで育てられる。学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対しての干渉は許されないという国際規約が存在する。訓練さえ積めば誰でも動かせ、(ISに比べると)危険性の少ないガーランドとは違い、ISは女性にしか動かせないこと、コアの数が限られていること、まだ未知の領域が多くあるとのことでこうした教育機関を作ったそうだ。

 

学園は全寮制で、生徒全員は寮で生活することが義務づけられている。支給される制服はカスタムが可能で、学年毎にリボンの色が違い、1年は青、2年は黄、3年は赤と決まっている。それと高校なので、当然一般科目も学ぶ。

 

……大雑把だがこんなところだろうか? 教室内にて俺と一夏に注がれる無数の視線から逃避する為に思考してみたが……全然ダメだ。誰か助けてくれ。

一夏もそう思ったのか、窓際に座っている子(あ、箒ちゃんだ。凄い久しぶり)に助けを求める視線を向ける。俺もつられて向くが、困惑した表情をされた。救いなんてなかった……。

 

そうこうしていると、先生らしき眼鏡を掛けた女性が壇上に立った。髪色は緑に見えるが……単に光の反射か。色は薄めの黒だ。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は、このクラスの副担任の山田真耶と言います。1年間よろしくお願いします。何か分からない事がありましたら、遠慮なく聞いてくださいね」

 

シーン……

 

山田先生が挨拶しても誰も返事どころか反応すらしない。

 

「そ、それでは次に自己紹介をお願いします。えっと、取りあえず出席番号順で」

 

顔を引き攣らせながら山田先生は場の空気を変えようと話を進めた。

 

((不憫だ……))

 

奇しくも、俺と一夏の心は1つになっていた。

 

「では次に……織斑一夏君」

 

「はいっ」

 

お、一夏が呼ばれて立ち上がった。視線が凄い刺さってる。……俺もああなると思うと、胃が痛くなってくる……。

 

(頑張れ、一夏)

 

とりあえずアイコンタクトで励ましを送る。

 

「(ありがとな、彰人)織斑一夏です。趣味は料理とスポーツで、ISに関しては初心者なので、至らないところがあると思いますが、その都度教えて頂けると助かります。よろしくお願いします」

 

最後に頭を下げる。

 

シーン……

 

静寂が教室を包む。……これでダメなのか? ならどうすれば―――

 

『『『きゃあああああああああああああああーーっ!!』』』

 

うおおっ!? 何だ!? み、耳がぁぁぁぁぁ!!

 

「男子よ! このクラスに男子が居るわぁ~!!」

 

「しかも優しそう! 甘えさせて~!」

 

「ヒャッハーーーッ! 最高だっぜぇ!!」

 

す、すげぇ。女子のパワーってこんなにあったのか……てか最後、マ○クになってないか!? しかも鼻血出てる!

 

「……この騒ぎは何なんだ?」

 

この声は……千冬さんだ。ナイスタイミング!! 一夏もこの隙に席に座った。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ。すまなかったな、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてしまって。クラスへの挨拶はもう終わったかな?」

 

「いえ、織斑君までが終わったところです」

 

「そうか。では私の自己紹介もさせてもらおう」

 

そう言うと、千冬さんは教壇からこちらを見て挨拶をし始めた。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で立派なIS操縦者に育て上げるのが私の仕事だ。何かわからないことや不満があったら、私や山田先生に遠慮無く言ってくれ。限度はあるが、君達の力になろう。これからよろしく頼む」

 

……あれ? 原作だとどこぞのハート○ン軍曹みたいだったのに、いくらかマイルドになってる。省吾兄ちゃんとたまに電話してるって聞いたけど、そのせいかな?

 

おっと、今の内に耳を押さえておこう。一夏は……よかった、押さえてるみたいだ。

 

「きゃああああああああ! 本物の千冬様よ! この目で見られるなんて!!」

 

「お目にかかれて光栄です!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて、嬉しすぎるわ!」

 

「私、お姉さまの命令なら何でも聞きます!」

 

こんなことを言ったら皆の顰蹙を買いそうだが、言わせてくれ。うるさい……。

 

「……私のクラスは毎年こういうのばかりなのか? 誰か仕組んでるんじゃあるまいな?」

 

困った表情で頭を抱える千冬さん。苦労してるんですね、わかります。そう思っていると、千冬さんは俺と一夏を見やった。

 

「織斑、矢作、ここは今までには無い特殊な環境だ。が、こうなった以上は慣れていくしかない。私生活も含めてしっかり学ぶようにな」

 

先生として、俺達の身近な人として気遣ってくれた言葉だ。無下にする訳にはいかない。

 

「「はい、織斑先生」」

 

一夏とハモった。相変わらず息ピッタリだな、俺等。

 

「もしかして織斑君って、あの千冬様の弟?」

 

「だとしたら、男なのにISを使えるのに何か関係が……けどそれだと、もう1人の子の説明がつかないか……」

 

「でもいいなぁ。立場代わってほしいなぁ」

 

いくら何でも立場は無理だ。転生しない限りは。

 

「さて、自己紹介を続けて……と言いたいところだが、矢作。先に自己紹介をしろ」

 

「え、何でですか?」

 

突然指名されて、困惑しながら立ち上がる。

 

「最後の最後に騒がれるよりは、先に騒がれた方がマシだからな……」

 

「……なるほど」

 

要するに最初に思う存分騒がせようということか。ま、その方が確かにマシだな。にしても自己紹介か。何を言おうか…………………よし。

 

「矢作彰人です。趣味は料理と音楽鑑賞。一夏と同じく、ISに関しては素人です。なので、色々教えてください。よろしくお願いします」

 

自己紹介を終えると、席に座って耳を塞げるようにする……が、一夏の時みたいな反応は来なかった。

 

「矢作君かぁ。顔は……織斑君と比べると、普通かな?」

 

「でも、しっかりしてそうな雰囲気があるよね」

 

「ああいう人に将来支えて貰いたいなぁ~」

 

やっぱり、俺が省吾兄ちゃん……オーディンの弟ということは知られてないようだ。無理もない。モンド・グロッソのガーランド部門では省吾兄ちゃんは第一回の時点で引退したし、第二回の総合優勝者は女性でブリュンヒルデ(千冬さんの方が知名度が高い)だからな。総理の弟としてなら知ってる人も居そうだけど。

 

「(案外、騒がしくならなかったな)よし、それでは織斑の次から自己紹介を続けてくれ。私も皆の名前と顔を覚えないといけないからな」

 

その後、クラスメイトの自己紹介が着々と進められた。



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21th Episode

「彰人……思ってた以上にキツいんだが……」

 

「奇遇だな。俺もそう思っていた。クソッ、案外楽しめるかと思った自分がバカだったぜ」

 

1時間目が終わって休み時間になり、一夏が俺に話しかけてくる。こうしないと雰囲気に耐えられそうにないからだ。……まあこうしていても、全然休めてないんだが。動物園に居る動物達の気持ちが今なら物凄くわかるよ。

 

「「どうしたもんかな……」」

 

揃ってため息をついた俺達を誰が責められようか。

 

「2人共、随分久しぶりだが……大丈夫か?」

 

そんな時、ポニーテールの女子が心配そうに話しかけてきた。さっきも言ってた箒ちゃんだ。

 

「物凄いきつい……」

 

「正直、1時間目だけで疲れた……」

 

一夏と一緒に苦笑する。

 

「なら、外の空気でも吸いに行くか。気晴らしにはなるだろう」

 

「それもそうだな。よし、行こう。彰人もさ」

 

「あー、俺はパスな」

 

「え、何で?」

 

「だってさ、久しぶりに再会したんだろ? 色々と積もる話があるんじゃないのか?」

 

「「……!」」

 

俺の言ったことに驚いたのか、一夏と箒ちゃんは目を丸くした。……一夏の場合は、別の驚きがあるんだろうけど。

 

「……わかった。少し心配だけど、行こうか。箒」

 

「ああ。済まないな、彰人」

 

「気にすんなって」

 

一夏は箒ちゃんと共に廊下に行った。

 

教室に居る男子は俺だけになってしまったが、どうしようか。

 

「トイレにでも行くか……」

 

呟いて席を立ち、廊下に出ようとする……が、あることに気づいて立ち止まる。IS学園は実質女子校だ。基本女子を優先とした造りになってる筈。てことは……。

 

「……男子トイレって、どこにあるんだ?」

 

俺は、新たな問題に直面することとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上にて

 

一夏SIDE

 

「……久しぶりだな、箒」

 

一息ついた後、俺は箒にそう切り出した。

 

「ああ…本当にな。しばらく会わない内に、随分と男らしくなった。それに、私のことも呼び捨てで呼んでるし。あ、別に嫌という訳ではないが」

 

「そう言う箒こそ……可愛くなった。本当に……」

 

「そ、そうか? ふふ、嬉しいことを言ってくれる」

 

顔を赤らめながら、嬉しそうに微笑む箒。幸せだという気持ちが、伝わってきた。

 

「ところで一夏。あの時交わした言葉だが……覚えているか?」

 

箒は少し不安そうに問いかけてきた。あの時というのは、別れの前の告白だと思う。いや、間違いなくそれだ。

 

「ああ、覚えてるよ。言葉の後に、したこともさ……」

 

「っ!! そうか。となると少し恥ずかしいが……嬉しいな、うん。覚えててくれて、ありがとう」

 

恥ずかしがりながらも更に幸せそうに笑みを浮かべる箒に、俺は物凄い罪悪感を感じていた。あの時俺は、箒と想いを通わせ、キスまでしたと言うのに鈴にも気持ちが向いてしまっている。……そのことを、謝らないと。

 

「箒、ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

「俺さ、お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

「俺さ、お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ」

 

そう前置きして一夏が話し始めた内容は、私に大きな衝撃を与えた。

 

私が引っ越した後、一夏の心はぽっかりと空いてしまい、たまに無気力になってしまうこともあったと言う。そんな時、中国からの転校生である凰鈴音と出会い、彼女に支えてもらったそうだ。自分の心の隙間を埋めてくれた鈴音に一夏は恩義を感じ、そして……彼女が告白してきた時、彼女に好意を抱いていることに自覚したそうだ。

 

「ごめん、箒……本当に、ごめん………!」

 

話し終えた後、一夏は泣きそうな声で私に謝ってきた。普通は怒るところなんだろうが……私は怒る気にはなれなかった。一夏の気持ちが、私にはよくわかったからだ。

 

政府の要人保護プログラムによって私は一夏達と離れ、家族も離散してしまった。こうなった原因であるISを作った姉さんを恨もうとしたこともあったが、できなかった。姉さんと一緒に過ごした時間は、本当に楽しかったから。嘘偽りのない時間を共に過ごせたから、恨むことなんて……できない。

 

姉さんとはあれから電話でしかやりとりしてないが、時々姉さんが近くに居るように思うことがある(あの姉のことだから、おそらく本当に居たんだろう)。姉さんは私を見守ってくれている。そう思えたから、一夏や彰人が居ない日々をどうにか耐えることができた。でも、中学校を卒業する頃には限界だった。あの時、一夏と彰人がISを使え、IS学園に入学すると聞かなければ、とっくに壊れていたかもしれない。

 

私ですらそうなっていたんだ。もし一夏が鈴音と出会っていなければ、彰人の励ましも虚しく壊れていただろう。だから怒るなんて、できる訳がなかった。

 

「一夏、謝らないでくれ。私は別に、一夏やその鈴音という子に対して怒っている訳じゃない」

 

「……え? えっと、何で……?」

 

「彼女は、空いてしまった一夏の心を埋めて支えてくれたんだろ? そのお蔭で一夏がここに居るなら、感謝しなければな。……それに、自分を支えてくれた者に心惹かれるのは、仕方がないさ」

 

現に私だって、子供の頃一夏に助けて支えてもらったから、一夏を好きになったんだ。

 

「ほ、箒……そう言ってくれるのは安心するけど、俺はどうしたら……」

 

「ふむ…とりあえず、鈴音に出会うまでは私と……こ、恋人にならないか?」

 

「うぇっ!?」

 

「だって、子供の頃に想いは伝え合っているんだし。…………さすがに、まずかったか?」

 

申し訳なさそうに尋ねると、一夏は首を横に振った。

 

「……いいや。こんな俺の恋人になってくれるなんて、凄く嬉しいよ。俺が懸念しているのは鈴のことで……」

 

「心配するな。その時になってもいいように、私が良い考えを用意しておこう。何、案ずることはない。喧嘩する訳じゃないからな」

 

「そうか……ありがとう、箒。何から何まで、本当にありがとう」

 

目に涙を浮かべながら言う一夏を、私はそっと抱き寄せた。一夏は不安だったんだ。私に嫌われると思ったから……。だが心配は要らないぞ。お前にどんなことがあっても、お前のことが大好きなのは揺るがないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「このように、ISの基本的な運用に関しては現時点で国家の認証が必要となり、協定内のIS運用から逸脱した場合は、刑法によって罰せられるので注意しなければなりません」

 

スラスラと教科書を読んでいく山田先生。入学前にしっかり予習しておいた甲斐があったぜ。一夏もどこかスッキリした顔で授業を受けていた。……やっぱ、屋上で不安を払拭したんだろう。でなきゃ俺に小声で「俺達恋人になった」発言しないもん。



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22th Episode

「ちょっとよろしくて?」

 

「「ん?」」

 

2時間目の休み時間に一夏と話していると、誰かに声を掛けられた。振り返って姿を見てみると……1人の白人女子、セシリア・オルコットが居た。

 

原作知識(最近うろ覚えになってきた)で知っているが、彼女はイギリスの名門貴族のお嬢様で、代表候補生だ。プライドが高く、高圧的な態度が目につくが、実は努力家で今の地位も様々な努力の積み重ねによるものである。故にIS操縦者としての実力は確かなものだ。決してバカにしてはいけないと俺は思う。

 

「聞いてます? お返事は?」

 

さて、ここからが問題だ。下手なことを言って怒らせないようにしないと。

 

「ああ、聞いてるよ。セシリア・オルコットさん?」

 

「どういったご用件で?」

 

上から順に俺、一夏だ。返事の出来は良かったようで、オルコットさんは笑みを浮かべながら言った。

 

「どうやら自己紹介はちゃんと聞いていらっしゃったようですわね。その通り、私はイギリスの代表候補生にして入試主席のセシリア・オルコットですわ。以後、お見知り置きを」

 

用件は挨拶か。でも口では何とでも言えるけど、敵意と侮蔑の感情を持っているのは目を見ればわかる。一夏も気づいているのか、顔には出さないが不快そうにしている。

 

しかし、そんなことは別にどうでもいい。俺が感じているのは、純粋に『凄い』という気持ちだ。

 

「おい彰人」

 

「ん? 何?」

 

「さっきからオルコットさんを見る目が少しおかしいが、どうしかしたのか?」

 

俺の様子に気づいたようで、一夏が尋ねてきた。

 

「いや、凄いなと思って」

 

「……え?」

 

何かオルコットさんがポカンとした顔をしているが、とりあえずは放っておこう。

 

「ふうん。…ちなみに聞くが、どの辺?」

 

「そりゃお前、代表候補生な上に主席だぞ。普通なれると思うか?」

 

「……無理だな、うん」

 

「だろ? それをオルコットさんは成し得た。きっと、これまでにしてきた努力の数は並大抵のものじゃあない筈だ。だから凄いと思ったんだ」

 

「言われてみれば、そうだな。そうか、彼女も苦労してきたのか……」

 

腕を組みながら感心する様に頷く一夏。……まあ、俺がオルコットさんを見ていたのはそれだけじゃないけど。

 

「え…えと……あの…………っ! ま、また後で来ますわ! 決して逃げないでくださいまし! いいですね!?」

 

予鈴が鳴ると同時に、オルコットさんは顔を真っ赤にして向こうに行ってしまった。一体どうしたんだ? 体の具合でも悪くなったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する。大事なところなので、ノートを取っておくように」

 

教壇に立った千冬さんが説明しようとするが、何かを思い出したような顔をした。

 

「おっと、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけなかったな」

 

だろうとは思っていたけどね。原作序盤でのイベントだもの。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。代表になった者は、対抗戦だけではなく生徒会の開く会議、委員会への出席等をする……簡単に言えばクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間変更は無いからそのつもりで。自薦他薦は問わないので、何か意見があるものは挙手するように」

 

こうは言うものの、この後の流れは大体わかっている。

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います!」

 

「私は…うーん……矢作君かな?」

 

「私も矢作君を推薦します」

 

ほらね? 俺が推薦されるのはちょっと予想外だったけど、重ね重ね順調だ。ただこうも俺や一夏を推してくるのもどうかとは思うが。当の一夏も困り気味だし。

 

「候補者は織斑一夏に矢作彰人と。……他にはいないか?」

 

見事に誰も挙手しない。この調子だと俺と一夏のどちらかに決まるんだろうけど……。

 

 

バンッ!

 

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

その時、オルコットさんが机を叩いて立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんて恥晒しも良いところですわ! 私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

おいおい……代表候補生がそんな発言をしたら、まずいんじゃないの? それもこんな所でさ。

 

「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然ですわ。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! 私はこのような島国まで来ているのはIS技術の修練の為であって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!!」

 

あの、その辺にしてもらえないと、そろそろまずいことに……っ!? 千冬さんが静かに怒りを燃やしている!? 箒ちゃんはとっくに鬼の形相だ!?

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは私ですわ!」

 

その言葉には一理あるが、今は気にしていられん! 限界だ、言うぞ!!

 

「大体、文化としても後進的「「いい加減にしろ」」っ!?」

 

オルコットさんの発言の途中で、奇跡的に一夏とダブりながら割り込んだ。

瞬間、クラス全体が静まりかえった。俺と一夏は席を立ち、オルコットさんをじっと見つめる。

 

「今…何とおっしゃいました?」

 

途中で邪魔されたのに腹を立てたのか、それとも俺達の言葉が気に食わなかったのか、とにかくオルコットさんは怒っているようだった。

 

「いい加減にしろと言ったんだ。…………さっきの言葉が恥ずかしくはないのか?」

 

「…?」

 

訳がわからないという表情をする。本当にわからないのか……ならば―――

 

「君は国の代表候補生なんだろ? それでありながら他国を侮辱し、見下している自分が恥ずかしくないのか?」

 

「代表候補生ってさ、将来自分の国を背負い立つかもしれない名誉かつ責任重大な立場なんだろ? そんな人がさっきみたいなことを言ったら、国際問題に発展する可能性があるぞ」

 

「っ!!」

 

一夏の言葉に、オルコットさんはようやく気づいたのか目を見開いた。今更すぎる気がするが、気づかないよりはマシだ。

 

「彼が言うように、代表候補生は重要な役割だ。君はそれを自覚せずに、先ほど喚き散らしていたことになる。もう一度言うぞ……そんな自分が恥ずかしくないのか?」

 

「……!!」

 

ふむ。どうやらオルコットさんは自分のした過ちについては理解しているようだ。が、納得がいかない表情をしている。無理もないか。俺達は完全な素人だ。突然エリートに説教して、通る筈がない。

 

「け、決闘ですわ!」

 

再び机を叩いて言うオルコットさん。こういう結果になるわな。

 

「決闘か。俺はいいぞ」

 

「俺も構わないけど、織斑先生、どうしましょうか?」

 

俺達だけで決めるのは無理なので、一夏は決定権のある先生に指示を仰いだ。

 

「……こうなってしまっては仕方がない。勝負は一週間後の月曜日、放課後の第3アリーナで行う。両名はそれぞれ出来うる限りの準備をしなさい」

 

「「わかりました」」

 

原作通り一週間後か。やれるだけのことはやっておこう。



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23th Episode

「ふぅ、終わった~!」

 

「やっとか。1日を長く感じたのは久しぶりだ」

 

放課後、背筋を伸ばす一夏に対し俺は椅子に深く腰掛けながらため息をついた。今日の授業で出てきたことは、専門用語の羅列と言っても過言ではない程多かった。事前に予習してなければ、ちんぷんかんぷんだっただろう。事実、原作一夏はそうだったんだし。

 

「初日からこんなんじゃ、これからが心配だな……」

 

「慣れが必要、ってことか……」

 

今度は一夏と揃ってため息をつく。そうしていると……

 

「あ、織斑君、矢作君。まだ教室に居たんですね。よかったです」

 

山田先生と千冬さんが教室に入ってきた。山田先生は、手に書類を持っている。

 

「どうしたんですか、山田先生?」

 

「何かありました?」

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました。これが鍵です」

 

そう言って俺と一夏に部屋の番号が書かれた紙とキーを渡す山田先生。このことは千冬さんを通じて省吾兄ちゃんから連絡が来ていた。

 

「……あの、何で鍵が2つ何ですか? 俺と一夏で相部屋なら、1つで十分なのでは……」

 

俺が質問すると、山田先生と千冬さんが申し訳なさそうな顔になった。もしかして……。

 

「2人とも、ごめんなさい……調整がどうしても間に合わなくて……」

 

「少しの間だが、2人は別々の部屋で過ごすことになったんだ。ルームメイトは…織斑が篠ノ之と、矢作が更識とになっている」

 

更識……はて、誰だっけな? 頭の片隅に引っかかっているんだが……思い出せない。

 

「箒か。ま、知らない子と相部屋になるよりはいいか」

 

「おい。それは俺に喧嘩を売ってると認識していいのか?」

 

「……悪かった、彰人」

 

なんて冗談を言うが、更識さんが誰なのかが本当に気になる。もう少しで思い出せそうなんだが……あーダメだ! 出てこん!!

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時から7時、寮の1年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その……お2人は今のところ使えません」

 

「ですよね……」

 

「俺、大浴場好きなんだけどなぁ……仕方ないか」

 

わかって居たようにため息をつく俺と、残念そうな様子の一夏。早く入れるようにしてほしいものだ。

 

「すまないが、しばらくの辛抱だ。それと、2人にこれを渡しておこう」

 

そう言うと、千冬さんは俺と一夏にそれぞれ書類を渡した。一番上には…『IS貸出申請書』と書いてある。

 

「明日までに提出すれば、2日程ならどうにかなる」

 

……これも千冬さんなりの優しさだな。物凄くありがたい。

 

「ありがとうございます、織斑先生」

 

「お心遣い、感謝します」

 

感謝を込めて、揃って一礼した。

 

「礼を言われる程ではない。では私達は会議があるのでな。山田先生、行こうか」

 

「あ…は、はい!」

 

山田先生と一緒に教室を出る千冬さん。

 

「……一夏」

 

「ん?」

 

「千冬さんにここまでされたんだ。絶対、勝とうぜ」

 

「……ああ!」

 

互いに笑みを浮かべると、俺達は教室の外へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1025室、1025室……ここか」

 

「俺は1030室だから、案外近いな。んじゃ一夏、また明日」

 

「おう」

 

一夏から離れ、1030室の前まで移動する。部屋同士が近いので、何かあったら互いに駆け込めるのが便利だ。

 

俺はドアに鍵を入れようとし……

 

「っと、その前にノックだな」

 

寸前で止めた。危ない危ない、下手すれば着替え中のところに突入してしまうこともあるから、ノックは必ずしないと。

 

 

コンコン

 

 

「……はい。同室の方ですか?」

 

部屋の中から大人しそうな声が聞こえてきた。

 

「ええ、矢作彰人と言います。入ってもよろしいでしょうか?」

 

確認を求めると、何かを片付ける音が聞こえ、少ししてから声がした。

 

「……どうぞ」

 

ガチャッとドアを開けて入ると、そこには眼鏡を掛けた水色の髪の女子が居た。……この水色って、光の反射とかじゃなくて地毛だな。何か感動するな……。

 

「……どうしたんですか? こっちをじっと見て」

 

「え? ああ。髪の毛、綺麗だな…って思いまして」

 

「……ありがとう」

 

照れたように彼女は言うと、手前のベッドに移動した。そこが彼女の場所らしいので、俺は必然的に奥側に移動して地面に置かれている荷物等を一瞥する。

 

「(どれから開けようかな)ところで、名前は何て言うんですか?」

 

「……更識簪」

 

更識簪………………そうか、思い出した! 確か生徒会長の妹で、一夏の専用機にスタッフを持っていかれたせいで自分の専用機がほったらかしにされたという経緯がある子だ。

 

「なるほど、いい名前ですね。では、少しの間ですがよろしくお願いします、更識さん」

 

「……簪」

 

「え?」

 

「……私のことは簪と呼んで。それから、喋り方もタメ口でいいから」

 

どこかムッとした様子で、更識さんは言った。やっぱり名字で呼ばれるのは嫌か。姉にコンプレックスを持っているのは原作通りだな。

 

「わかり……わかったよ、簪さん。これでいいか?」

 

「……ええ」

 

とりあえず言いたい。……俺、この子と仲良くできるかな? そこが心配。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

コンコン

 

1025室のドアをノックする。いきなり入るのは、いくら親しい相手でも失礼だからだ。

 

「む、同室の者か? すまんが、少し待っていてくれ」

 

言われた通り部屋の外で待つ。多分着替えでもしているんだろうな。

 

「待たせたな。さ、入ってくれ」

 

声に従いドアを開ける。部屋の中には、寝間着姿の箒がベッドに座っており、俺と目が合った。

 

「やあ、箒」

 

「い、いいい、一夏ぁ!? な、なな、何で!?」

 

見事な狼狽えっぷりに驚く俺。何故そこまで驚くんだ?

 

「部屋の用意ができるまで相部屋になったんだ。聞いてないのか?」

 

「は、初耳だ」

 

てことは連絡が届いてなかったのか。……多分山田先生だろう。ちゃんと言っといてくださいよぉ。お蔭で何か気まずくなったじゃないですか。

 

「えと、何かごめん……迷惑だったか?」

 

「い、いや……これで良い。それより、部屋は一夏が頼んだのか? 私と一緒がいいと……」

 

「いや。多分千冬姉さんが決めたと思う。親しい人同士なら逆に安心できると思ったんじゃない?」

 

「千冬さんが? そうか……確かにな」

 

そう言えば彰人のルームメイトはどんな人なんだろう? 明日聞いてみよう。

 

「……まあ何はともあれ、こうして同室になったんだ。改めてよろしくな、一夏」

 

「こちらこそよろしく、箒。俺と一緒に居て、何か不便だったら言ってくれ」

 

「大丈夫だ。不便の1つや2つ、こ…恋人と一緒に居られるなら、安いものだっ」

 

箒は顔を真っ赤にしながら、声を絞り出すようにして言った。……何この可愛いの。某フラッグファイターみたく抱き締めたいんだけど。

 

その後、俺はどうにか自分の衝動を抑え込み、箒と様々なルールを決めてそれぞれのベッドで寝た。



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24th Episode

翌朝の8時。俺は大食堂に一夏と箒ちゃんと一緒に来ていた。

今朝のメニューは和食セットだ。名前の通り和食オンリーだが、凄くおいしい。一夏と箒ちゃんも同じメニューを頼んでいた。

 

「ん……結構美味いな、この味噌汁」

 

「ああ。この暖かさが、何とも言えない心地よさをもたらしてくれる」

 

「これぞ正しく、日本の食文化だな」

 

舌鼓を打ちながら食べて居ると、誰かが近づいてくるのを感じた。

 

「お、織斑君。隣、いいかな?」

 

同じクラスの相川さんに谷本さん、のほほん(本名、布仏本音)さんだ。この3人って一緒に居ることが多い気がする……あれ? 4人目が居る。

 

「……隣、座るよ?」

 

簪さんだ。のほほんさんに引っ張られているのを見ると、半ば強引に連れて来られたか。

 

「いいよ、座って」

 

「ああ」

 

一夏は箒ちゃんに確認をした上でOKをし、俺は適当に相槌を打った。

 

「3人とも、朝は結構食べるんだね」

 

谷本さんが俺達の食事を覗き込んで言う。そんなに多いのか、これ?

 

「ま、鍛えてますからっ。逆に聞くけど、それだけで本当にいいのか?」

 

ヒビキさんの決めポーズをしながら言い、更に彼女達の食事を見ながら問う。サラダとフルーツだけて……ご飯かパンも食べようよ。

 

「わ、私達はね……」

 

「へ、平気だよ……」

 

苦笑いかつ震え声で言われても説得力が無いんですが。

 

「それより、織斑君と矢作君ってよく見るテレビとかある?」

 

相川さんがふとそう聞いてきた。テレビか……そう聞かれたら、黙っている訳にはいかないな。

 

「あるぞ。とびっきり面白いのが」

 

「え、何々?」

 

食いついてきたところで、一夏と視線を合わせて頷く。そして―――

 

「「仮面ライダーさ!!」」

 

揃って笑顔になって言った。相川さんと谷本さんは「え?」という顔をしていた。

 

「仮面ライダーって……あの仮面ライダー?」

 

「あれって確か、子供向けじゃ……」

 

困惑する2人に、俺と一夏は「いやいや」と首を横に振りながら説明していく。

 

「確かにそうかも知れないが、高校生の視点から見ても凄い面白いぞ」

 

「カッコイイ主題歌や変身シーンに、圧巻の戦闘シーン。そして涙あり、笑いあり、感動ありの人間ドラマもまたいいんだ」

 

「論より証拠、実際見てみるといい。日曜の朝8時からやっているから」

 

「あ! 7時半からのスーパー戦隊も見ておくといいぞ。あれも面白いから」

 

「わかった……そうしてみる」

 

大体終わったところで、俺達は残りの食事を食べ終える。相川さんと谷本さんは「そんなに面白いなら、一度見てみようかな?」という話をしている。これをきっかけに、仮面ライダーの良さを知ってもらいたいものだ。

 

「相変わらずだな、一夏も彰人も」

 

「まあな。箒ちゃんはどう? あれから見てる?」

 

「ああ、もちろんだ。今のも見てるし、前のも録画もして何度も見返せるようにしてある。名シーンも覚えてるし、主題歌だって歌えるぞ」

 

「そりゃあ楽しみだ。今度語り合おうぜ」

 

久々に箒ちゃんを交えた仮面ライダーの話は、大いに弾んだ。ご飯食べ終えた後でよかったかもしれない。

 

「へ~、おりむー達は仮面ライダーが好きなのか~。良かったね、かんちゃん。趣味が合―――むぐっ!?」

 

「……本音、静かに」

 

隣でのほほんさんと簪さんが何かやっているが、気にしないでおこう。

 

「3人とも熱く語り合ってるけど、仲良いんだ?」

 

ふと、相川さんが何気なく尋ねてきた。

 

「まあね。俺達、幼なじみだし」

 

「よくライダーごっこをして遊んだっけ」

 

「ああ、懐かしいな」

 

何の気もなくそう返して、2人と一緒に思い出に浸る。あの頃の日々が思い出されるよ。

 

「えっ!? そうなんだ! いいなぁ……」

 

「男の子に混ざって遊んだこと無かったもんね、私達」

 

「何だか楽しそうだね~。かんちゃんもそう思―――むきゅっ!?」

 

「……だから静かに」

 

思いを馳せている相川さんと谷川さん。のほほんさんと簪さんは……何してるんだ? そう思った時、あの人の声が聞こえてきた。

 

「ほら、早くしないと遅刻してしまうぞ。慌てなくていいから、なるべく早く食べ終えるように。遅刻したらグラウンド3周だから気をつけるんだぞ」

 

千冬さんの言葉を聞いたみんなは、食べる速さを上げた。本当によかった、食べ終えた後で。食べ終えてるし、俺達は行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達は山田先生の授業を受けていた。

 

「そもそも、ISは宇宙での作業を想定して作られています。なので操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいるんです。また、生体機能も補助する役割がありISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ―――」

 

この人の授業は本当にわかりやすい。(基礎ができているのが前提だが)要点が纏まっており、すぐに大事なところが判断できる。

 

「先生、それって大丈夫なんですか? 何だか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけど……」

 

1人の女子が不安そうな気持ちで聞く。確かに、ISが動いた時の独特な感覚は不安を覚える人も居るだろうな。

 

「大丈夫ですよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますね。あれはサポートこそすれど、それで人体に悪影響が出ると言うことはありません。もちろん、自分のあったサイズのものを選ばないと、形崩れして―――」

 

そこまで話した時、山田先生の目線が俺と一夏と思い切り合ってしまった。

 

「え、えっと、織斑君と矢作君にはわかりませんよね、この例え……あ、あはは……すいません……」

 

顔を赤らめて謝罪する山田先生に恥ずかしがって胸を隠す女子。どうしたらいいか顔を見合わせる俺と一夏。さあ、どうしよう?

 

「んんっ! 山田先生、授業の続きを」

 

「は、はい!」

 

咳払いをして山田先生を促す千冬さん。やはり貴女が神だったか!

 

「それともう1つの大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つまり操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

つまりISに乗れば乗る程、互いをわかり合えるということか。ゲームで言えば経験値のようなもだな。

 

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出させることになるわけです。なのでISを道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

パートナーか。言葉にこだわるなら、俺は相棒と呼びたいな。一緒に戦っている感じがするし。ま…競技はともかく、生きるか死ぬかの戦いなんて、本当は無い方がいいんだろうけど。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

授業が終わり、山田先生が退出する。千冬さんも出て行こうとするが、足を止めてこちらを見た。

 

「ところで、織斑と矢作のISだが、学園で専用機を用意することになったそうだ」

 

お、ついに来たか。到着するのは当日なんだろうけど、いよいよって感じがする。

 

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって、政府からの支援が出ているってこと……?」

 

「いいなぁ。私も専用機、欲しいなぁ」

 

羨ましそうに見つめてくる女子達に、俺と一夏が物凄い罪悪感を覚えたのは言うまでもない。



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25th Episode

食堂にて、俺は一夏と今後の予定について話し合っていた。

 

「申請書は通ったんだよな?」

 

「ああ。今日明日はM1アストレイかGN-XⅣが借りられる」

 

「何だ、2人ともISの練習をするのか?」

 

一夏の隣の席に腰を降ろしながら、箒ちゃんが聞いてきた。

 

「そうだけど、何かまずいことでも?」

 

「いや、久々に2人と剣道をしてみたくてな。何せ6年ぶりだからな、どうなったか見ておきたい」

 

「そうだったのか。ごめんな、箒」

 

「箒ちゃんの分も申請できれば良かったんだけど……」

 

「気にすることはない。剣道に関しては空いた日数のどこかでやればいいし、ISについては、この一週間でせめて知識だけでも身につけておくさ」

 

「そうか……頑張ってな」

 

力強く語る箒ちゃんに、俺は感心しながら応援の言葉を送る。この6年間で成長したんだな、箒ちゃんも……。俺達も負けていられない。

 

俺達は決意を新たに、訓練所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、改めて乗り心地はどうだ、一夏?」

 

「どうって……実際のガンダムみたいにコックピットで動かすんじゃなくて、自分の体の延長線上な感じがするってとこかな?」

 

訓練所でGN-XⅣを纏って質問する俺に、M1アストレイを纏った一夏が答える。

 

「俺もそう思っていたところだ。ISを動かす時は、自分の体を動かすつもりでやった方がいいかもしれないな」

 

「空を飛ぶのは……タジャドルコンボとか思い浮かべてみるか」

 

タジャドルか。一夏がソレなら、俺はブレイドジャックフォームをイメージしてみるとしよう。

どれ……お、浮いた浮いた。イメージできてると案外簡単なのな。

 

「そんじゃ、やりますか」

 

「やろうか!」

 

武装を展開しながら、M1アストレイを真っ直ぐ見つめる。遠慮はなしだぜ、一夏。勝負開始だ―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「い、痛てて……」」

 

訓練後、俺達は体の痛む部分をさすりながら歩いていた。結論から言うと……本気になりすぎた。ビームサーベルで肉迫しながらビームライフルでのゼロ距離射撃とか何回かやったし、両手が塞がってる時はキック攻撃なんかもした。それで気づいたら武装をフルに活用してのガチバトルに発展していて、そのせいで武装が壊れまくったので最後はクロスカウンターで引き分けに終わった。……遠慮なしとは言ったけど、やり過ぎた。メカニックの人に確実に怒られるなこれ……。

 

「今日はもう休むわ……」

 

「おう……」

 

若干ぐったりしながら、俺は自分の部屋へと入った。

 

「……おかえりなさい」

 

部屋では簪さんがノートパソコンに何かを打ち込んでいた。

 

「ただいま……」

 

「……どうしてそんなに疲れているの?」

 

ありゃ。できるだけ自然に言ったつもりだったけど、バレてましたか。

 

「一夏と一緒に訓練機借りて適当に模擬戦してたら、いつの間にかガチンコバトルに発展して、武装が全部壊れてクロスカウンター入ったところで止めたから」

 

「……何それ?」

 

うん、絶対そう言うと思った。理由があまりにもあり得ないんだもの。

 

「深く考えなくてもいい。とにかく、今は疲れてるから少し休むよ」

 

そう言ってベッドに寝そべった時―――

 

「……少しいい?」

 

「ん?」

 

「矢作君って、仮面ライダー……好きなの?」

 

「そりゃあ大好きだけど。どうして?」

 

何だろう? 簪さんに関する大事な何かを思い出せそうな気がする……何だっけ?

 

「……私も、好きだから……仮面ライダー」

 

「…………え?」

 

そうか、思い出したぞ。簪さんは勧善懲悪のヒーローものが大好きだったんだ。てことは…これはより良い関係になれそうだ!

 

「……や、やっぱり変かな? ライダー好きの女子って……」

 

と思っていたら、沈んだ声でそう言われた。え、何故?

 

「別に変じゃないぞ。人それぞれ色んな趣味があるし、箒ちゃんだってライダー好きだ。それに俺としては、趣味が合う友達が増えて嬉しいんだけど」

 

「……本当? よかった」

 

簪さんはホッとした笑みを浮かべて胸を撫で下ろす。相当不安だったのか……。

 

「あ、そうだ。簪さんもライダーが好きなら、これをあげるよ」

 

俺は近くにあるカバンからソレを取り出し、簪さんの前に出した。

 

「……これって、サイガギア!?」

 

「最近DXベルトが溜まってて、誰かにあげようと思ってたんだ。これ以外も持ってて箒ちゃん達に渡そうと思ってるんだよね」

 

簪さんに渡したのは、DXサイガギア(ベルト部分は改造して伸ばしてある)だ。省吾兄ちゃんが買っては家に送るを繰り返した結果、大分溜まってしまって少し困っている。なのでいくつか(布教も兼ねて)IS学園に運んだという訳だ。

 

「さすがにこれは……要らなかったかな?」

 

「ううん、そんなことない! 凄く嬉しい!!」

 

「そ、そうか。喜んでくれるなら、俺も嬉しいぜ」

 

物凄い食いつきようにびっくりしたが、喜んでるみたいなので俺も笑顔になる。

 

「……矢作君って、優しいんだね」

 

しばしサイガギアを大事そうに抱えていた簪さんが、そんなことを言った。

 

「何で?」

 

「私の趣味を笑わなかったし、ベルトもくれたし……それに髪の毛のことも、そんなに言わなかったから……」

 

髪の毛……あ、水色の髪の毛っていうのは、実際にはあり得ない色だから変な目で見られることがあるのか。……こんなところでアニメと現実の差を感じるとは。

 

「やっぱ言われることがあるのか……かわいい色してるのになぁ」

 

「……っ!?」

 

俺の言葉に驚いた様に目を丸くする簪さん。どうしたのさ?

 

「……えと、そういうこと面と向かって言われるの本音達以外になかったから……嬉しくて……」

 

そうだったのか。って、かわいいって言われたことあまりないの? ソイツ等目がどうかしてるんじゃないか? ま…言ってくれる人も居るからいいけど。

 

「……あの、矢作君達ってオルコットさんと試合するんだよね?」

 

「え? そうだけど……」

 

「……なら……」

 

簪さんは俺の耳元に近づくと、ひそひそとソレを話し始めた。

 

「え、マジでいいの!?」

 

「……うん。その代わり、私も織斑君や篠ノ之さんと仲良くなりたいんだけど……」

 

「お安い御用だ! 明日を楽しみにしててくれ!!」

 

気分上々のまま、俺はベッドに沈んだ。



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26th Episode

翌日、食堂にて。

 

「彰人、大事な話って何なんだ?」

 

「隣に居る子と何か関係があるのか?」

 

俺は一夏と箒ちゃんとテーブルを挟んで向かい合って座っている。俺の横には、簪さんが居る。

 

「そうだな……まず彼女だけど、俺のルームメイトの更識簪さん。一夏や箒ちゃんと友達になりたいんだって」

 

「……更識簪です。よろしくお願いします」

 

緊張気味にぺこりと頭を下げる簪さん。

 

「(今思ったけど、水色の髪の毛なんて綺麗で珍しいな)友達に? それくらいならいいけど……何でまた?」

 

「それ何だが……あまり声を上げずに聞いてくれ」

 

ここからは周りに聞こえないように注意する。簪さんは周りには内緒にしているから、知られたら多分まずい。

 

「実は簪さん、仮面ライダーが好きなんだ。それで、趣味を共有できる友達が欲しいんだと」

 

そう言うと、一夏と箒ちゃんは驚いた表情をしていたが、すぐに満面の笑みへと変わった。

 

「なるほど、そういうことならむしろ大歓迎だ! よろしくな、更識さん!」

 

「新しい仲間がまた1人できたな……ふふ、良いことだ」

 

やはり趣味を共有できる友達が多いのは嬉しいのか、さっきよりもテンションが高い。俺も昨日知ってなかったら、絶対テンションがMAXになっていただろう。

 

「……あの、できれば私のことは簪と呼んで欲しいんだけど……」

 

「っと、友達を名字で呼ぶのは失礼だったか。じゃあ改めてよろしく、簪さん。俺のことも一夏でいいよ」

 

「ふむ。では私も、簪と呼ぼう。簪も、私のことは箒と呼んでくれていい」

 

「あ。なら、俺のことも名前で呼んでくれると嬉しいな」

 

「……うん。よろしく……あ、彰人、一夏、箒」

 

少し照れたように簪さんは頬を赤らめ、笑みを浮かべた。……そう言えば簪さんって、専用機のことで一夏に恨みがあった筈だけど、その様子は見られないな……何でだろ? 今度聞いてみようかな。

 

「で、彰人の用件はこれだけか?」

 

「おっとそうだった。実は簪さんがあるデータを見せたいらしいんだ」

 

「……これを」

 

ipadを取り出した簪さんは、画面に映っているものを一夏と箒ちゃんに見せた。直後、2人の顔色はみるみる変わっていった。

 

「これって、オルコットさんのIS情報……!? な、何でまた?」

 

「……今度試合を行うと聞いたから、力になりたいと思って」

 

「……そっか。ありがとう、簪さん」

 

「……友達として、ライダーファン仲間として、当然のこと」

 

……理由が気になってたが、そういうことか。自分と同じ趣味を持っている人が居ることが嬉しくて、何かしてあげたいと思ったのか。俺としては何もなくていいけど、それだと簪さん本人が納得しないんだろうな。

 

「このデータは俺と一夏でじっくり見るけど、箒ちゃんも見とく?」

 

「ああ。私はオルコットと試合をする訳ではないが、どのようなものか気になるのでな」

 

その後、俺達は一旦一夏と箒ちゃんの部屋に集まってからデータを改めて見た。機体情報に関して感想を述べると……予想通りと言うか、似ているからこれだろうなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、お前はロングライフルを持ってる訳だ」

 

放課後の訓練では、GN-XⅣを借りている俺がオプションとしてGNロングライフルを選択し装備していた。もちろんGNショートライフルもある。オルコットさんの得意なのが

狙撃だというのは原作知識で知っているが、連射の可能性も考えたからだ。

 

「そういうこと。んじゃ、行くぜ!」

 

GNロングライフルを構え、一夏が動かすM1アストレイを狙い撃つ。

 

「おっと!」

 

M1アストレイは避けたが、逃がさずに追撃する。……ギリギリのところで避けたか。

 

「うおっ!? 危なかった……」

 

「気をつけろよ。オルコットさんの射撃技術は、俺より遥かに上だからな」

 

「……肝に命じとく」

 

俺達はその後しばらく、訓練を続けていた。しかし何だろう。こうして狙撃をしてみると、狙撃する側の気持ちが段々わかってくる。どうやって相手を追い詰めるのか。どうやって確実に狙い撃つのか。そして……接近された場合の対処法等も。

 

ひょっとしたら、オルコットさんとの戦いで使えるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。俺は一夏と箒ちゃんと共に剣道場に来ていた。今は一夏が箒ちゃんと対峙している。

 

「一夏、手加減は無用だ。互いに全力でいくぞ」

 

「なら、遠慮無く……!」

 

ついに試合が始まった。最初に動いたのは箒ちゃんで、面を狙ったが防がれる。そのまま横に払われると思いきや、一夏は箒ちゃんの竹刀を上に押し返しその一瞬の隙に逆に面を打った。

 

「なっ!?」

 

さすがにカウンターを決められるとは思ってなかったのか、大いに驚く箒ちゃん。

 

「くっ、もう一度だ!」

 

何度か一夏と竹刀を交えるものの、結局一夏が全勝した。全国優勝する程の腕前の箒ちゃんに完封するとは、一夏は凄いな。

 

「まさか私が、完全に封じられるとはな……」

 

「大丈夫か、箒? ケガは?」

 

「心配ない。これでも全国大会を勝ち抜いた身だ。これくらいではびくともしないさ。ま、一方的にやられるとは思ってもなかったが。……ところで、彰人と一夏が戦った時の勝率はどうなんだ?」

 

「俺と一夏が? うーん……五分五分といったところかな?」

 

実際一夏とは中々勝負がつかない。大抵互角のまま戦いが進み、どちらかが勝つのだが次の戦いでは勝つのが必ず逆になる。勝っては負け、負けては勝っての繰り返しという訳だ。……かなりの負けず嫌いだからな、俺達。

 

「ということは、彰人の実力は一夏と同等。なら、戦うまでもないか」

 

箒ちゃんは竹刀を降ろすと、防具を外していった。

 

「あれ、俺とは勝負しないの?」

 

「お前の実力は一夏と等しいんだろう? その一夏に私は手も足も出なかったなら、お前と戦っても結果は同じさ」

 

実力を見極めたということか。うぅむ、原作での箒ちゃんとの違いに最近驚かされっぱなしだ。別に悪いわけじゃないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……あれ、いない?」

 

試合が終わって部屋に戻ると、簪さんはいなかった。出かけてるのかな?

 

「ま、いいか………………おや?」

 

ふと机の上に置かれたノートパソコンを見ると、とあるISについての情報が載っていた。俺はそれをついじっくりと見てしまった。

 

「これは……「っ!? み、見ないで!!」か、簪さん!?」

 

いつの間にか部屋にいた簪さんがノートパソコンを奪う。

 

「それ…簪さんの専用機のデータ、だよな? 完成してないみたいだけど……何で?」

 

「………………」

 

敢えて知らないふりをして問いかけるが……関係に亀裂が生じたか? だとしたらまずいが……

 

「……誰にも言わないって約束して」

 

「え? ああうん、いいけど」

 

俺がそう言うと、簪さんは訥々と話し始めた。自分の専用機として作られる筈だったISのスタッフが俺と一夏のISの方に取られてしまい、未完成のまま放置されていたこと。それを受け取り、自分1人の力で完成させようとしていることを。

 

……まさか、俺の専用機も関わっているとは思ってなかった。けど、そうだとしたら疑問がある。

 

「理由はわかったけど……だったら何で俺達にオルコットさんのデータを? ある意味俺達とは因縁があるんじゃ……」

 

「……私も、会うまでは彰人達を恨んでいた。でも、彰人は私の髪を綺麗って、かわいいって言ってくれた。一夏や箒も、私の趣味を知って喜んでくれた。本当に悪い人なら、こんなことはしない。そう思えたから、データを渡したの」

 

俺達としては普通の感覚だったんだけど、それが簪さんとの関係を円滑にしたのか。結果オーライと言う奴だな、これは。

 

「なるほど。……ところで、何でISを1人で完成させようと? メカニックの人達に手伝って貰えばすぐできるのに」

 

「…………私のお姉ちゃんが、自分のISを自力で作ったから。私も自分の力だけで、作るの」

 

若干暗い表情で言う簪さん。……わかってはいたけど、地雷踏みまくってるな、俺。

 

「もしかして、姉さんに苦手意識持ってて疎遠だったりする?」

 

「……うん」

 

「うーむ……これは俺の勝手な想像だけど、簪さんの姉さんは実は完璧ではないんじゃないか? 完璧な人間はこの世にはいないって言うしさ」

 

「……そう言えば、確か編み物が苦手だったような」

 

「その様子を見た時、どうなってた?」

 

「……虚さんに手伝ってもらってた」

 

「ほらな? 誰だって、1人じゃできないことはあるんだ。もし簪さんが手助けが必要だって言うなら、その時は遠慮なく手伝わせて貰うよ」

 

簪さんは俺の言葉を聞いて、ただ黙っていた。これは失敗したかな? そう思った時、彼女は口を開いた。

 

「……少し、考えさせて」

 

「わかった。いきなり答えを出すのは難しいもんな」

 

考えた末に出した答えなら、何であろうと俺は文句は言わない。少し痼りを残したまま、俺は眠りについた。



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27th Episode

試合当日の第三アリーナのピット。今までにオルコットさんのIS情報を頭に叩き込み、様々な戦闘パターンを想定してイメージトレーニング等を俺達は行ってきた。後は専用機が到着するのを待つだけ何だが……。

 

「……なあ彰人」

 

「……一夏」

 

「「俺等のIS、来るの遅くね?」」

 

そう、俺と一夏の専用機がまだ来てないのだ。いくら原作通りとは言え、試合直前に到着するのは色々とまずいんじゃないか? 訓練機を借りてなかったら、ISを練習で動かすことすらできないし。

 

「心配するな、試合前には到着するさ……多分」

 

「……余計に不安を煽ってどうするの?」

 

傍に立っている箒ちゃんと簪さんも心配そうに到着を待っている。ここに居るのは俺達の試合を近くで見てみたいかららしい。

 

ちなみに試合は俺か一夏のどちらかが先にオルコットさんと対決した後、残ったもう片方がオルコットさんと対決。最後は俺と一夏の直接対決になると千冬さんが言ってた。オルコットさんが連戦するのは、ハンデだとか。

 

そう考えていると、こちらに近づく足音が聞こえた。

 

「お、織斑君矢作君織斑君矢作君っ!」

 

器用に俺と一夏の名字を交互に呼びながら全力疾走してきたのは、山田先生だった。いつも慌てている様子だが、今は更に慌てふためいていた。そのせいか、まともに会話できる状況でもなくなっている。

 

「山田先生、まずは落ち着いて下さい」

 

「深呼吸でもしたらどうですか?」

 

「そ、そうですね。す~~は~~、す~~は~~」

 

一夏の言葉に従い、山田先生は深呼吸をして呼吸を整える。原作では一夏が悪ふざけ(何かは忘れた)をしたみたいだけど、ここでの一夏はそんなことはしない。

 

「落ち着きましたか?」

 

「は、はい。どうにか……」

 

((((本当に大丈夫か? この人))))

 

俺を含めた4人の心が偶然にも1つになった瞬間であった(知る由もなかったが)。

 

「……それで、やっと説明できる訳か?」

 

「はい……って! 織斑先生!? 何でここに!?」

 

背後に居る千冬さんに驚いて山田先生が飛び上がる。そこまで驚きますか?

 

「山田先生だけでは心配と思って後を追ったのだが……案の定だったな」

 

全く持って否定できません。

 

「そ、そ、それよりも2人とも! 来ました! 織斑君と矢作君の専用ISが!」

 

誤魔化すように山田先生が言ったことに、俺達は「やっとか……」とため息をついた。

 

「矢作、まずはお前から準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られてるからな……ぶっつけ本番だが、できるか?」

 

「……できなくても、やります」

 

一夏より先に出撃するという状況に驚きつつ、俺はガゴンッ、と音を立てて開くピット搬入口を見つめた。防護扉はゆっくりと動いていき、やがて向こう側が見えてきた。

 

俺の目の前には、羽根を生やしたトリコロールカラーの機体があった。その後ろには、別のトリコロールカラーの機体が見える。

 

「これが矢作君の専用機、『ウイングガンダム』です」

 

「これが……」

 

操縦者が乗っていないので佇んでいるだけにも見えるが、俺にはコイツが待っているかのように思えた。そして直に触れた時、俺はコイツの計り知れない生命力を感じた。

 

「矢作、すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやってもらうぞ」

 

「わかりました」

 

「背中を預けるように、そうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化をする」

 

言われた通りにウイングガンダムに体を任せると、装甲が閉じていき全身が覆われた。M1アストレイやGN-XⅣとは違う、まるで自分の体であるかのようにコイツを感じた。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。気分はどうだ?」

 

「大丈夫です。行けます」

 

おっとそうだ。出撃前に武装のチェックをしておこう。どれどれ……頭部バルカンに肩部マシンキャノン、ビームサーベルにバスターライフルか。TVで見たウイングガンダムの設定そのままだな。……だからって、最大出力時のバスターライフルの弾数が3発なのはいかがだろうか? 今更気にしても居られないけど。

 

「……一夏、箒ちゃん、簪さん。この試合、必ず勝ってくる!」

 

バスターライフルを右手に持ちながら、力強く宣言する。

 

「ああ、信じてるぜ。お前の勝利を!」

 

「自分の力を信じて、全力でな」

 

「……私達は、ここで見ているから。思いっきり戦ってきて」

 

一夏達の激励を受けた俺は機体をバード形態に変形(俺の体は拡張領域(パススロット)に入っているらしく、体はよじれていない)すると、

 

「矢作彰人、ウイングガンダム。出る!!」

 

スラスターを全開にし、発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、やっと来ましたのね。逃げたかと思いましたわ」

 

自分のIS―――『ストライクフリーダムガンダム』を身に纏ったオルコットさんが待っていた。

 

「逃げるだと? まさか!」

 

「ふんっ……まぁ、いいですわ。矢作彰人、貴方に最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンス?」

 

「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくないのなら、今この場で謝るというのなら、許してあげますわよ」

 

オルコットさんが挑発をするのと同時にウイングガンダムから警告が入る。

 

『警告。敵IS操縦者、射撃モードに移行。セーフティロックの解除を確認』

 

やる気は十分ということか。……それにしても言ってくれるじゃあないか。俺に逃げろだと? 面白い……!

 

「ソレが戦いのゴングと言うのなら、こちらも全力で当たらせて貰う!!」

 

「……そうですか。では残念ですけど、お別れですわ!!」

 

オルコットさんはビームライフル二丁を素早く連結させてロングライフルモードにすると、引き金を引いた。

 

「っ!!」

 

考えるより体が先に動いた……映画みたいな例えだが実際にそのようなことが起き、スラスターを稼働させ弾丸を右に移動して避けた。

弾速はGNロングライフルとほぼ同じか。練習しといてよかったぜ。

 

「なっ…!?」

 

避けられたのに相当驚いたのか、装甲越しでも目を丸くしているのが読み取れた。

 

「くっ……! さあ、踊りなさい! 私、セシリア・オルコットとストライクフリーダムが奏でる円盤曲(ワルツ)で!!」

 

自らを鼓舞するかのように力強く叫ぶオルコットさん。しかし、ウイングガンダム(この機体)相手に円盤曲(ワルツ)とは、中々面白いことを言うじゃないか。

 

「だったら終わらせてやる。君の円盤曲(ワルツ)を!!」

 

俺が叫んだ瞬間、ビームライフルから次々と弾丸が放たれる。どれも狙いは正確だ。代表候補生は伊達ではないということか。

 

だが俺は、スラスターの向きを調整して右に左にと避けていく。避けきれないと判断したものは左腕のシールドで防御し、機体そのもののシールドエネルギーは減らさない。

……さて、観客が何だかヒートアップしているが、オルコットさんは目に見えて焦りが生じているようだった。狙いが明らかに荒くなっている。

 

(これは攻撃のチャンスと見ていいな……!)

 

スラスターを噴かしてオルコットさんの真下に移動し、ビームサーベルを引き抜くと更にスラスターを利用して大きくジャンプ。ストライクフリーダムに接近して一閃し、落下しつつ武器をバスターライフルに持ち替えると最大出力で放った。……さすがにこれは回避されて掠めただけだった。

 

「きゃっ!? この……生意気な!!」

 

オルコットさんは今度は背部に装備されている8つの無線式兵器、『スーパードラグーン』を全機展開し、死角を含んだオールレンジ攻撃を開始した。どうやら本気になったようだ。

俺もスピードを上げ、攻撃を回避したりシールドで防いだりした。

 

「ぐあっ!?」

 

死角から放たれたレーザーが直撃する。しかし動きを止めるわけにはいかない。一斉攻撃を受ける可能性が大だからだ。

しかし、ただ避けているだけでは終わらない。動き続けるドラグーンも攻撃の際には一瞬だが停止する。そこを狙い、マシンキャノンでドラグーンを一機破壊する。直後にレーザーを食らうが、構わずオルコットさんに向けてバスターライフルを通常モードで放つ。

 

「っ!?」

 

オルコットさんは咄嗟に左腕でビームシールドを展開して防いだ。その隙にマシンキャノンでもう一機を破壊する。

 

(やはり他の武器との連携はできないか……)

 

残り6機になったが、まだ向こうに分がある状況だ。このままではいずれジリ貧になるだろう。……さて、まだいけるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、アリーナ制御室にて

 

千冬SIDE

 

ここでは私や山田先生、箒、簪、そして一夏が彰人とオルコットの試合を大画面モニターで見ていた。

 

「や…矢作君、凄いですね……」

 

「うん……!」

 

「あれで本当に初心者なのか……!?」

 

興奮気味に言う3人。その気持ちは私にもよくわかる。

 

「確かに、いくら鍛えたと言っても素人の動きとは思えないな。しかも、初期形態の状態でだ……全く、恐ろしさすら感じる」

 

「……………………」

 

「一夏、どうしたんだ?」

 

聞こえてきた箒の言葉にふと一夏を向くと、一夏は画面を……正確には彰人の動きをじっと見ていた。

 

「どうした織斑? 何か気になることでも?」

 

「あ、いえ。ただ………彰人の奴、どうも機会を伺ってるように見えて……」

 

「何? どういう…………! まさか?」

 

私は再び画面を見た。一夏と私の感じたことが正しければ、彰人は―――敢えて初期形態で戦っていることになる。

 

そしてそれが正しいかのように、ウイングガンダムは観念したようにその姿を光り輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「……ふぅ」

 

『フォーマット及びフィッティングが完了しました。確認ボタンを押してください』……この表示を無視し続けるのは中々にきつかったが、そろそろやめにするか。いい加減拘ってもいられないみたいだし。

 

俺は一旦機体を停止させる。

 

「ふ、ふふ……よ、ようやく諦める気になりましたのね。ですが、もう容赦は「1つ、君に謝らなければいけないことがある」え…?」

 

「俺は試していたんだ。代表候補生である君相手に、この姿でどこまでやれるかを」

 

「? どういうことですの?」

 

まるで意味がわからないと言ったように首を傾げるオルコットさん。やっぱそうなるよな。

 

「けど、そんな拘りはもう捨てる。形振り構ってはいられないからね…………」

 

そう言うと、俺は表示されたボタンを押しながら叫んだ。

 

「変身!」

 

その直後だった。ウイングガンダムが光に包まれたのは。光の中で俺は、ウイングガンダムが形を変えていくのを感じた。背部の翼やシールドの形状にバスターライフルの本数、その他細かい部分の造形が変わっていく。

 

そして光が収まった時、俺の機体は―――ウイングガンダムゼロになっていた。



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28th Episode

一次移行(ファーストシフト)!? まさか……まさか貴方、今まで初期設定の機体で戦っていたと言うのですか!?」

 

「だから言ったんだ。試していたと」

 

武装等を再確認しながらオルコットさんに言う。ん? これは……

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、ゼロシステム使用可能』

 

こんなものまで積まれているとは、俺が決めたこととは言え恐ろしいな。逆に言えば、これがなければウイングゼロではないのだが。まあそんなことは今はいい。

 

「ともかく……ここからは俺のステージだ、セシリア・オルコット!!」

 

『ゼロシステム起動』

 

「ぐっ!」

 

早速ゼロシステムを起動させると、脳に凄まじい量の情報が流れ込んでくる。あまりの量に目眩がして思わず声を上げてしまう。だがそれだけではない。情報量に対応する為に、体が作り替えられているような(・・・・・・・・・・・・)感覚がする。が、少しするとその感覚も目眩も収まっていた。

 

「(今のは一体……だが!)まずは……!」

 

宙に浮いてある程度移動すると、右手に持っているツインバスターライフルを分割して両手で持つと、それぞれを横に向けた。

 

「何を……?」

 

「最大出力、攻撃開始!!」

 

訝しむオルコットさんを余所にトリガーを引き、ビームを放つと同時に機体を回転させる。微妙に斜角を変えながら、俺は目標―――ドラグーンを全機撃墜する。

 

「なっ!?」

 

「きゃああああ!?」

 

「ビ、ビームが……!」

 

必殺のローリングバスターライフルにオルコットさんは驚き、一部観客から悲鳴が上がる。シールドがあるから、大丈夫な筈だが……怖い人には怖いんだろう。

 

「な、何て荒技を……! こうなれば!!」

 

ドラグーンを破壊されたオルコットさんは、今度は腰の電磁レール砲二門を展開し、放ってきた。俺は接近しながらツインバスターライフルの出力を調整して放ち、ビームを相殺すると、ビームサーベルを右手で一本引き抜いて斬りかかった。

 

「せあっ!」

 

「っ! ええい、ビームサーベル!」

 

対するオルコットさんもビームサーベルを引き抜いて対抗するが、やはり格闘戦には慣れてないのかすぐに押し切ることができ、切り裂くと同時にキックを食らわせて再び距離を離した。

 

「きゃあっ! くっ、まだですわ……まだ、私は負けてない……!」

 

ドラグーンを破壊され、ダメージを負ったストライクフリーダムの眼光は未だに鋭いままだった。強い信念すら感じられる。そんな彼女を見て、俺は自然と言っていた。

 

「オルコットさん……君がここに至るまでにどれだけの努力と覚悟を持っているのか、俺には想像もつかない」

 

「あ、貴方…何を?」

 

「だが敢えて言わせてもらうなら、俺にも覚悟がある。絶対に負けられない、男としての覚悟が」

 

ツインバスターライフルを再連結させ、オルコットさんに狙いを定める。背面のブースターも展開している。

 

「君の覚悟が俺より勝っていると言うのなら、その力を、想いを、全て俺にぶつけろ! 俺も全力で君に応えよう。どちらの覚悟が上か……勝負だ!!」

 

銃口を突きつけながら言ったことに、オルコットさんはおろか観客すらしんと黙っている。が……

 

「…………ですわ」

 

「?」

 

「上等ですわ! 私の背負う覚悟を、貴方にぶつけてやりますわ! 甘く見ないでくださいまし!!」

 

力強く言うと、オルコットさんはライフルを分離、両手で構えると展開したレール砲と共にこちらに向けた。……なるほど、かの有名なアレをやる気か。

 

「それでいい。こっちも遠慮なしでいける……! ツインバスターライフル、最大出力!!」

 

「ターゲット・ロック……行っけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルとストライクフリーダムガンダムのハイマット・フルバーストが同時に放たれ、ぶつかり合う。

 

力は互角と言ったところか。だが……!

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

出力を更に引き上げたツインバスターライフルの方が押し始める。黄色のビームは、オルコットさんを飲み込まんとしており―――

 

「あ……」

 

まるで何かを悟ったかのような声をオルコットさんが出した直後、ビームがストライクフリーダムに到達した。

 

「試合終了! 勝者、矢作彰人!」

 

ブザーが鳴ってアナウンスが聞こえる。エネルギー供給を止めて様子を伺うと、ストライクフリーダムの装甲はそんなに損傷しておらず、かろうじて直撃を避けたようだった。しかしエネルギーがなくなって完全に待機状態になってしまい、オルコットさんは地面に向けて落下……!?

 

「まずい!!」

 

ネオバード形態に変形して全速力で真下に回り込むと再変形し、オルコットさんを抱きかかえた。

 

「……あ…貴方…………どうして……私を…………?」

 

どうやら意識は辛うじて残っているみたいだ。

 

「誰かを助けるのに、理由がいるのか?」

 

「ですが……私は「敵だって言うなら間違いだ」……え?」

 

「俺達が敵対していたのは試合中だけだ。ソレが終われば、互いの健闘を讃え合う仲間になる。……少し古くさいが、そういうもんだろ?」

 

「……!」

 

オルコットさんは俺の言葉に目を丸くして驚き、少しして微笑みながら目を閉じた。……気絶してはいないようだけど、何か引っかかる気がする……何だろ。

 

「ま、いいか……」

 

俺はオルコットさんを反対側のピットに運び込むと、すぐに自分側のピットに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと……ただいま」

 

帰還するとウイングゼロを待機状態にし、一夏達に目を向けた。

 

「ああ、おかえり。見事な試合だったぜ」

 

「うむ。それに、オルコットに発破をかけた言葉。アレは中々にカッコよかったぞ」

 

「お、そうか?」

 

今思い出すと凄い恥ずかしいこと言ったなと考えてたから、安心する。

 

「……お疲れ様、彰人」

 

「ん…ありがと、簪さん」

 

タオルと飲料水を持ってきてくれた簪さんに礼を述べる。いつ用意したのかはわからないが、こうした気の利く子ってのも最近見ないからいいな。

 

「よくやったな、矢作。この後は試合を見ながらゆっくり休むといい」

 

「ええ、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

そう言うと俺は一夏に視線を向けた。

 

「一夏」

 

「ん?」

 

「負けるなよ」

 

「……ああ、勿論だ!」

 

笑みを浮かべながら力強く言うと、一夏は格納庫に置かれたもう1つの機体―――ダブルオーガンダムへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「よいしょと」

 

俺は彰人がやったのと同じようにダブルオーガンダムに身を任せる。……まるで自分の体のようだ。彰人もそう感じたんだろうか?

 

武装は……GNビームサーベル2本にGNソードⅡが2本か。トランザムは使用できないと……原作再現してるけど、ほぼ近接武器だけかぁ。ま、やるっきゃないか。

 

「織斑、どうだ?」

 

「問題ありません、行けます。……彰人、箒、簪さん。行ってくる」

 

「おう。俺も信じてるからな。お前が信じてくれたみたいにな」

 

「ああ…私も信じてるぞ」

 

「……健闘を祈ってる」

 

「(重畳の至り、という奴だな)織斑一夏! ダブルオー、発進する!!」

 

俺はみんなの期待を受けながら、ダブルオーを発進させた。



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29th Episode

俺とダブルオーが出た先には、ストライクフリーダムが何事もなかったかのように居た。ISは自分のダメージを回復すると聞いたが、割と早く回復するんだな。ダメージにもよるのかな?

 

「それが貴方のISですのね?」

 

「ああ、ダブルオーって言うんだ」

 

「そう……ところで私の勘なのですが、ひょっとして貴方も初期形態のままですか?」

 

「そうだけど……」

 

何故そんなことを聞いてくるんだ?

 

「……やはり、貴方も彰人さんと同じく私の実力を試そうと……いいですわ。でしたら私も、私の力を貴方に見せつけてあげますわ!!」

 

「何かよくわからんが、試合開始ってことなら行かせてもらう!」

 

GNビームサーベルを引き抜き、両肩のGNドライヴを一旦背面に移動させてブーストを発動。オルコットに接近していく。

 

「速い!? しかし……!」

 

連結させたビームライフルでこちらを狙ってくる。俺は自分でも驚く程落ち着いた状態で放たれたビームを躱していく。

 

「でぇやっ!」

 

ライフルの死角(つまり近距離)に入ると、GNビームサーベルを勢いよく振りかざした。

 

「させません! ビームサーベル!!」

 

オルコットも素早くビームライフルをしまって両手にビームサーベルを持つと受け止めてきた。彰人みたいに押し切ろうとしたが、ふと腹部の砲口が光り始めていることに気づいた。

 

『警告! 敵IS、エネルギー反応増大!』

 

ダブルオーから警告がなる直前に、俺は身を引くとGNビームサーベルを2本ともフェンシングみたいにストライクフリーダムに突き刺し、その反動で後ろへ移動しようとする。

 

しかし少し遅かったようで、腹部からビーム砲が放たれた。

 

「っ!!」

 

咄嗟に腕をクロスさせて防御したが、相応のダメージを受けてしまった。

 

「つぅ……手痛い一撃でしたが、私のも効いたようですわね」

 

GNビームサーベルを引き抜いて破壊しながら、オルコットが言う。俺はGNソードⅡを両腰から引き抜いて構える。するとオルコットも、ドラグーンを全機展開して包囲しようとしてくる。

 

そうなると彼女の術中に嵌ってしまうので、まずはドラグーンの破壊に専念することにした。ビームの雨を何度か避け、GNソードⅡでドラグーンを斬り伏せる。攻撃を受けることもあるが、許容範囲だ。オルコットの方にも、ライフルモードに変形させたGNソードⅡで攻撃する。

 

しかし、難なく避けられてしまった。こちらの射撃が下手なのか向こうの反射神経が良いのかはわからないが、接近しない限りは俺が不利だ。そう考えながら4機目のドラグーンを破壊した時、全てのドラグーンの攻撃が止んだ。

 

「? どういうことだ……?」

 

「織斑一夏、と言いましたわね。早く一次移行(ファーストシフト)を済ませなさい。時間的に言えばそろそろの筈ですわよ?」

 

「何?」

 

言われてモニターを見ると、確かに確認ボタンが出現していた。しかし……

 

「何故そのことを? あのまま行けば、君の勝ちだったろうに」

 

「それでは面白くありませんもの。彰人さんの時のように、全力で来てくれませんと」

 

ここで言う全力とは、機体のことを意味するんだろうが、驚いた。高飛車と思った彼女がそんなことを言うとは。彰人との戦いで考えが変わったんだろうか?

 

「(まあいいか)だったら望み通り、全力を見せてやる。後悔しても知らないからな……変身!」

 

叫びながらボタンを押すと、ダブルオーの周辺に粒子が集まり、一機の戦闘機―――オーライザーになる。オーライザーは周囲をくるりと回ると、分離してダブルオーの両肩と背中に合体し、真なる姿―――ダブルオーライザーになる。更に破壊されたGNビームサーベルが復活して装備され、右腕に新たな武器『GNソードⅢ(ライフルモード)』が出現した。……Ⅲの方が千冬姉さんのGNソードに近い形をしてるな。まるで受け継いだみたいだ。

 

「それが一次移行(ファーストシフト)した姿ですのね」

 

「ガンダムを超えた者……ダブルオーライザーと言う」

 

そう述べた後、俺はモニターの表示に目をやった。

 

『ISコア2機、完全同調。単一仕様能力(ワンオフアビリティー)???、条件未達成につき使用不可。第一段階解除の為、トランザムの使用は可能』

 

使用不可? 意味がわからない。能力はトランザムじゃないのか? これだけでも十分強力だけどさ。……てかそれより不穏な文字があったような。ISコアの上限って467個だったよな? だとしたらこれは……まずいかも?

 

「(後で彰人に相談してみるか)では早速全力で行かせてもらう。トランザム!!」

 

叫んで発動した瞬間、機体が真っ赤に輝き出力が格段にアップした。

 

「はあっ!」

 

GNソードⅡを左手に持ち、GNソードⅢをソードモードにすると俺はオルコットへと全速力で向かった。

 

「な、何ですの!? 動きが先ほどまでとは……!」

 

驚いたオルコットはドラグーンを収納してビームライフルで狙って来るが、今の俺には余裕で回避できる。そして懐に飛び込んでGNソードⅢで斬りつけるとキックを放ち、GNソードⅡを腹部の砲口に突き刺した。

 

「がっ……! この、ドラグーン!!」

 

オルコットは俺を抱えるように押さえつけると、ドラグーンを再展開して俺に四方から攻撃してきた。普通なら食らうだろうが、ダブルオーは違う。俺諸共機体を緑色の粒子に変えると、攻撃を逃れた。

 

「消えた!? 一体どこ「俺はここだ!!」」

 

オルコットの真後ろに再出現すると、振り向く間も与えずにGNソードⅢを振りかざした。

 

「ぬあああああああああ!!」

 

「きゃあああああ!?」

 

真っ赤に輝く切っ先が、ストライクフリーダムを切り裂く。

 

「勝者、織斑一夏!」

 

俺の勝ちが決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「ただいま、みんな」

 

格納庫に戻ってきた一夏は、ダブルオーガン……否、ダブルオーライザーを解除して言った。

 

「お帰り一夏。良い試合だったぞ」

 

「こう言うのも何だが、凄くカッコよかったぞ……ただ、オルコットの雰囲気が少し変わった気がしたが」

 

「……確かに」

 

「皆も気づいてたのか」

 

一夏との試合で見たオルコットさんの雰囲気が異なっているのは、全員が感じたようだ。しかし何故だろう?

 

「おそらく、矢作との試合で何かを学んだんだろうな」

 

そこへ千冬さんが近づいてきて言った。

 

「あ、織斑先生」

 

「見事だったぞ、織斑。私も姉と……教師として鼻が高い」

 

一瞬本心が出かけたな。敢えて言わないけど。

 

「ゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが、生憎時間が押しててな。エネルギーを回復したら、すぐ再出撃してくれないか?」

 

「いいですよ。時間なら仕方ありませんから」

 

「けどそれだと、俺とお前でハンデがつくことになるな」

 

「心配ない。ハンデの1つや2つ、根性で補ってやる。次の試合で勝つのは……俺だ」

 

「ほぅ……言うじゃないか。だが残念だったな。勝者は俺になるぜ」

 

「どうかな……?」

 

自然と、俺と一夏の間には火花が飛び散っていた。箒ちゃんと簪さんは息を飲んで見守っていて、千冬さんはやれやれといった様子で見ている。山田先生は……何故かあたふたしている。そんなんで大丈夫なのか?

 

「……まあいい。どちらが勝つかは試合をすればわかることだ」

 

「白黒はっきりつけようぜ」

 

その言葉と共に、俺と一夏はピットから再出撃して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナに相対する2つの機体―――俺のウイングゼロと一夏のダブルオーだ―――が互いに互いを睨み付ける。観客からの声援はなく、静まり返っている。独特な雰囲気に呑まれたのかと勝手に解釈をしてみる。

 

「さあて一夏、いよいよだ。手加減なんざ一切してやんないから、覚悟しとけよ?」

 

「それはこっちの台詞だ。全身全霊を掛けて、お前に挑んでやる」

 

空気がより張り詰めたものになる。

 

「「勝つのは俺だ、一夏(彰人)!!」」

 

言うが早いか、一夏はライフルモードのGNソードⅢを、俺はマシンキャノンを同時に放った。

 

「「っ!!」」

 

ほぼ同時に回避すると、俺は右手でビームサーベルを、一夏はGNソードⅢ(ソードモード)とGNソードⅡを構えながら接近した。

 

「うおらぁっ!」

 

「なんのぉ!」

 

真っ先に俺が斬りかかるが一夏はGNソードⅡで防ぎ、更にGNソードⅢで斬りかかってきた。俺は左腕のシールドで防御し、膠着状態になる。

 

「ぐぅぅ…彰人ぉ……! 今日は、勝ちを貰うぜ!」

 

「いいや……! 貰うのは……俺だ!」

 

その直後に、一夏の腹に思い切り膝蹴りを食らわせてやった。

 

「ぐっ!?」

 

「でぃぃぃぃやっ!」

 

更にGNソードⅢを左手で掴むと力任せに動かし、バキッ!と真っ二つに折りビームサーベルで右肩のオーライザーユニットを両断した。。

 

「!? お前……!」

 

それが一夏の逆鱗に触れたのか、一夏はGNソードⅡで俺の右肩を貫くと、そのまま右のブースターまで攻撃し、破壊した。

 

「チッ、やるじゃないか。だが!」

 

俺は右回し蹴りを放ってGNソードⅡを一夏から放させると、そのままの勢いで回転しながら右手に持った分割したツインバスターライフルをダブルオーの顔面に押し当て、トリガーを引いた。

 

「ぐおあっ!?」

 

ゼロ距離でビームを食らった一夏は後ろに吹っ飛ぶが、壊れたGNソードⅢをライフルモードにすると俺に向かって何発か放ってきた。

 

「うわっ!?」

 

完全に想定外で咄嗟にシールドで防御はしたが、顔面にモロに入ってしまった。

 

『メインカメラ破損! 頭部アーマーの解除を推奨します』

 

警告文が現れる。やっぱ頭部がメインなのね。でも、解除していいとなると、他にもソレを補えるサブがあるんだろう。

 

俺は頭部アーマーを解除してGNソードⅡを抜き捨てて一夏を見る。一夏もメインカメラをやられたのか同じく頭部アーマーを解除していた。

 

「……!? おい彰人、お前その髪の毛どうしたんだ?」

 

「は?」

 

驚愕したような一夏の声に、俺は思わず間抜けな声を出した。何か観客もざわついてるし……気になるんで大画面モニターに映っている俺を見た。すると―――

 

「な…何じゃこりゃああああああああああああ!?」

 

髪の毛が思い切り金髪に、目の色が翡翠色になっているのが目に入った。いや、何故に!? GN-XⅣとか動かした時はこうならなかったぞ!? ……さては、ゼロシステムを動かしたからか? 試しに切ってみよう。

 

「……戻ったな」

 

元の黒髪黒目に戻ったのを確認すると、再びゼロシステムを起動させる。また金髪になるが、勝利には必要なんだから仕方ない。それに普段はマスクに隠れて見えないんだ。今後見せなければ問題ない筈。

 

「完全にとは言わないが、髪の毛のことは気にするな。試合の方が大事だ」

 

「確かにな……ところで、俺のエネルギーはそろそろ限界だ。お前の方は?」

 

「同じく限界近い。せいぜい後一撃まともに食らったらお釈迦ってところだな」

 

「両方とも満身創痍か。なら、後腐れなく最後はこれで勝負を決めるか」

 

そう言うと、一夏はGNソードⅢを放して代わりにGNビームサーベルを右手で掴んだ。

 

「……面白い。受けて立とうじゃないか!」

 

俺も右手でビームサーベルを持ち、構える。

 

「これで最後だぁぁぁあああああああ! トランザムッ!!」

 

「来い! 一夏ァァァァ!!」

 

トランザムを発動した一夏は一気に接近すると、GNビームサーベルを剣道で言う突きのように放ってきた。俺はビームサーベルを両手で持って横薙ぎするように斬りかかった。

 

―――一夏の剣と俺の剣が、バチバチと火花を上げながら交差する。一夏と俺の切っ先はお互いの土手っ腹に直撃した。

 

「ぐあ!?」

 

「ぐっ……出力全開!!」

 

素早く全エネルギーをビームサーベルに集中させる。ビームサーベルの刀身がその輝きを増していく。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「させるか! でやああああああああああああああああああああああああ!!」

 

俺と一夏はビームサーベルを持つ手に力を込め、俺は途中で左手に持ち替えながら互いに思い切り振り抜いた。

 

「「がはっ……!」」

 

ビームサーベルの刃が消えていくのと同時に、俺と一夏は項垂れるように地面に落下。同時にダブルオーライザーとウイングガンダムゼロが解除された。俺達はどうにか立ち上がると地下より、互いに手を差し伸べた。

 

「……大丈夫…か?」

 

「……何とか、な」

 

一夏が手を掴んだ時、少しフラついた。

 

「悪い、やりすぎたか?」

 

「心配すんな。俺達は全力を出し合って戦ったんだ。引き分けたのは、その結果に過ぎない。……悔しいってのはあるけどな」

 

「よく言うぜ。最後の一撃、アレ運がなかったら俺が負けてたぞ」

 

「じゃあ俺の運がもっとよかったら、お前が1人で悔しがる姿を見られたのか……そいつは残念だ」

 

言いながら、俺と一夏の足は自然とピットに向かっていた。後ろから、歓声と拍手を受けて。



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30th Episode

「「あー、疲れた……」」

 

ピットに戻った俺達は、真っ先にそう言った。

 

「お疲れ、一夏。最後は惜しかったが良い試合だった」

 

「……ハラハラしたけど、カッコよかった」

 

箒ちゃんと簪さんの賛辞の言葉に、俺と一夏は顔を見合わせて笑みを浮かべた。全力で戦ったかいがあるというものだ。

 

「織斑君、矢作君、お疲れ様でした」

 

「2人ともよく戦ったな。この調子でこれからも精進していくんだぞ。それから……今日はもう休むといい」

 

俺達の頭を優しく撫でて微笑む千冬さんに、少しむず痒くしかし満更でもなく感じた。

 

その後、俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首相官邸

 

省吾SIDE

 

「そうか、2人とも勝ったんだな」

 

俺は千冬からかかってきた吉報に思わず安堵した。

 

「ったく、いきなりイギリスの代表候補生に喧嘩吹っ掛けられたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったぞ」

 

『すまなかったな、心配かけて。だが大丈夫だ。オルコットの奴も、これを機に心境に変化があっただろうし』

 

「なら安心だけどさ」

 

椅子に深く腰掛けながら、俺は一息ついた。……最近千冬や束とはこうして電話でしか話していない。まともに会ったのはいつだったろうか?

 

「じゃあそろそろ切るぜ。あ、待った。彰人に伝えてくれ。何か困ったことがあったら、遠慮なく俺に相談してくれって」

 

『わかった。必ず伝えておくよ…………………それにしても、由唯が羨ましいな』

 

直後に電話が切れた。最後の言葉はこっそり言ったつもりなんだろうけど、しっかり聞こえていた。

 

「千冬、何て言ってたの?」

 

お茶を入れながら、由唯が尋ねてきた。

 

「彰人と一夏が試合で活躍したって。後、由唯が羨ましいとも言ってた」

 

「ふふ、確かに……いつも省吾と会えてるのは私だけだもんね」

 

そう言って微笑む由唯は、思わず見とれてしまいそうだった。ていうか見とれていた。

 

 

プルルルルル!

 

 

その時、また電話がかかってきた。

 

「はいもしもし、矢作ですが?」

 

『やっほー、しょーく~ん! みんなのアイドル、束さんだよ~!』

 

「……その前口調は何とかなんないのか?」

 

最近会えてない3人目の幼なじみからの電話に、ため息が出てしまう。

 

『これが束さんが束さんであるが故なのだよ~! まあそれは置いといて、しょーくんに頼まれてたデータの解析なんだけど…………』

 

「ん? どうした?」

 

何故か声が小さくなり以後黙ったままの束に首を傾げる。一体どうしたんだろうか?

 

『…………昔の約束と、関係があったんだ』

 

「約束?」

 

『うん。みんなと一緒に月に行くってやつ。元々女性が動かす為にコアを設計してはいたんだけど、約束の為にしょーくんやいっくんにあっくんのデータだけは設計段階でインプットしてたんだ』

 

束は電話越しに語った。俺は彰人と一夏が入学する前に、2人の身体データと俺の身体データを送っておき、何故ISに適合できるか(俺の場合は念のため適合できるかどうか。結果、適合できることが判明した)を調べるように頼んでおいた。まさかあの時の約束と関係があったとは思ってもみなかったが。

 

「そういうことだったのか……」

 

『ゴメンね……迷惑掛けちゃって』

 

「落ち込むこたぁねーよ。お前の気持ちはすげぇ嬉しいしな。……そうだ! どうせなら俺の専用機も作ってくれないか? 実際動かすかはわかんないけど、あって損はないだろ?」

 

俺は最後に冗談混じりにそんなことを言った。すると……

 

『……わかった。任せといてよ! しょーくんにぴったりな、カッコイイ機体を用意してあげるから!』

 

「その意気だ。やっぱ、元気が溢れてる束の方が俺は好きだな」

 

『っ!? も、もうしょーくんたら、変なこと言わないでよ! 手元が狂っちゃうじゃん』

 

「っておい! まさかもう作り始めてるんじゃあるまいな!? もしもし!? もしもーし!!」

 

声を荒げるが、電話は既に切られていた。……まったく、マイペースな奴だ。

 

「やれやれ……」

 

「ふふっ」

 

「? どうした由唯?」

 

「ううん。ただ、そういう真っ直ぐで前向きなところに私や千冬、それに束も惹かれたんだろうなぁって」

 

「何だそりゃ」

 

確かに俺は昔から一直線に進んできたが、それと俺が好きなこととどう関係があるんだ? 誰のどこが気に入ったなんて、深く考えないからわからん。由唯達を好きになったのも直感だからな……俺、恋愛ごとにはすんごい苦労していると今更ながら思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアSIDE

 

「……………………」

 

シャワーノズルから熱い湯が吹き出し、水滴が肌に当たって弾けて流れていく。そんな心地良い感覚に包まれているというのに、私は心ここにあらずでいた。

 

「矢作、彰人……」

 

その原因である人物の名を口に出し、思い出す。彼は私が代表候補生としての努力や覚悟を背負っていることを考慮した上で、自らの覚悟をぶつけてきた。その時は闘争心が掻き立てられたが、今考えると申し訳なく思えた。

 

私は自分の思い通りにならなかっただけで喚き散らし、慢心して相手を見下していた。負けるのは当然だ。しかし彼は、そんな私を最後に助けてくれた。どうしてと理由を問うと、彼は答えた。

 

『俺達が敵対していたのは試合中だけだ。ソレが終われば、互いの健闘を讃え合う仲間になる。……少し古くさいが、そういうもんだろ?』

 

私は目を丸くした。私に全てをぶつけ勝利した彼は、以前私がニュースで聞いたことのあるスポーツマンシップに似たことを言ったのだ。半信半疑で頭の片隅に置いていた理念を、それも実践までして証明するとは思ってもみなかった。この時悟ったのだ。私は、完全に負けたのだと。

 

そして慢心を捨て去って挑んだ次の試合でも、私は負けた。迷いのない真っ直ぐな剣に、私は両断されたのだ。でも不思議と、こうなることは納得できた。

 

「………………」

 

振り返ってみれば、ここに至るまで色々なことがあった。三年前、列車事故で両親が他界し、私に莫大な財産が引き継がれることとなった。そしてソレを狙って近づく親戚の人達から守る為に、必死で勉強してきた。その過程でISにも挑戦し、Aランクの適正を出し専用機『ストライクフリーダムガンダム』の操縦者候補に選抜された。しかし……そこに辿り着くまでに、私の中にあった想いは歪んでしまっていたのだろう。日本に来て、彼らに打ち負かされてはっきりわかった。

 

「織斑、一夏……矢作、彰人……」

 

彼らの名前を口に出すと、不思議な気持ちになる。特に彼の、矢作彰人ことを考えると胸に熱い気持ちが溢れてくる。強い覚悟と誇りを持った、男性……話がしてみたい。そして、謝りたい。彼や織斑一夏だけではなく、クラスのみんなにも。

 

思い立ったが吉日。そんな言葉があるのを思い出し、私は彼が居るであろう部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪SIDE

 

彼らに対する印象は、最初は悪いものを抱いていた。というのも、私のISの開発に携わっていた人達が2人のIS開発の方にまわされてしまったからだった。だからその内の1人―――矢作彰人と同室になったと知った時は本気で驚いた。一体どんな人物なんだろうか? 無事に過ごすことができるんだろうか? そればかりを考えていた。

 

しかし、ソレは杞憂に終わることとなった。

 

彼は……矢作君は、初対面である私の髪の毛を綺麗と言ってくれた。今まで姉や本音といった仲の良い友達からしか褒められたことがなく、周りからは奇異の目で見られてきた。なのに率直に綺麗だと言ってくれた彼に、私は素っ気なく返してしまった。

 

その翌日。私は本音と一緒に食堂で朝食を取っていた。その時に私は、矢作君と一緒に居た織斑一夏から衝撃的なことを偶然聞いたのだ。彼らは、仮面ライダーが好きだと言う。更に聞いてみれば、篠ノ乃さんも仮面ライダーを見てるらしい。そのことで茶化してきた本音の口を思わず塞いでしまったが、彼女の言う通り私は嬉しかったのだ。自分の趣味と合う人達と出会えたことに。だから思い切って、矢作君に仮面ライダーが好きなことを打ち明けた。

 

正直言って不安の方が多くて、拒絶されたら…なんて考えていた。けど、彼は変じゃないと、嬉しいと言ってくれた。そして、数年前にやった仮面ライダーの映画に出てくる限定ライダーの変身ベルトをプレゼントしてくれた。彼にとっては何のこともないんだろうけど、私にとっては物凄く嬉しかった。そのすぐ後だった。彼に、髪の毛をまた褒められたのは。……もう、私の彼に対する印象は大きく変わっていた。私は彼の友達である織斑君や篠ノ乃さんとも仲良くなろうと思って、彼らが対戦するというストライクフリーダムのデータと交換条件にそれを切り出した。

 

そうしたら、彼は一も二もなく引き受けてくれて、翌日に2人に紹介してくれた。どういう反応をされるのか怖かったけど、2人とも(勿論彰人も)私を友達として歓迎してくれた。私は嬉しくて、2人に対する悪印象はとっくになくなっていた。だけど、それで浮かれすぎてて私はミスをしてしまった。パソコンの電源を入れっぱなしにして部屋を空けてしまい、その結果彰人に見られて(それもよりによって私のISデータだった!)しまうことになった。

 

最初は黙っていようかと思ったけど、気づいたら私は彰人に自分のISのことを話していた。彰人はそれならどうしてデータを渡したのか尋ねてきた。私は自分が抱いている感情を、彰人達に対する印象が変わったことを話した。何故話したのかはその時は自分でもわからなかった。そうしたら彼は案の定、何故1人でIS制作を行っているのかを疑問に思ったようだ。だから私は理由話した。自分の姉のことも交えて。それを聞いた彼は、こう言った。

 

『誰だって、1人じゃできないことはあるんだ。もし簪さんが手助けが必要だって言うなら、その時は遠慮なく手伝わせて貰うよ』

 

体に、電流のようなものが走った。彼の真っ直ぐな言葉に、私は衝撃を受けたのだ。決して不快なものではない。この気持ちが何なのかわからなくて、一旦返事を保留した。

 

しかし、彰人とセシリア・オルコットさんとの試合を見ていた時だった。

 

『だが敢えて言わせてもらうなら、俺にも覚悟がある。絶対に負けられない、男としての覚悟が…………君の覚悟が俺より勝っていると言うのなら、その力を、想いを、全て俺にぶつけろ! 俺も全力で君に応えよう。どちらの覚悟が上か……勝負だ!!』

 

力強く、真っ直ぐな彼の発言を聞いた私は、胸が強く打つのを感じた。そして試合が終わった後、彼がオルコットさんを抱きかかえた時にもやもやした感情が湧くのも感じた。そこで私はこの気持ちの正体に気づいた。

 

私は、彰人のことが『好き』なんだ。彼のどこまでも真っ直ぐな姿勢に、覚悟に、優しさに心惹かれて居たんだ。出会って少ししか経ってない男の子を好きになるなんておかしいかもしれないけど、でも仕方がない。好きなものは好きなのだから。

 

それがわかったところで、私は部屋での返事をする為に彰人の元へ向かおうとした―――が、本音に呼び止められた。

 

「かんちゃん」

 

「……ん?」

 

「えっと~、上手く言えないけど……頑張ってね~」

 

「……うん!」

 

本音のエールを受けて、私は改めて走った。……本音は気づいているんだろうか? あの子は前から勘が良かったから、もしかしたら……まあ、気にしても仕方ないんだけど。



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31th Episode

「今という~、風は~……ん?」

 

鎧武のopを歌いながら部屋に戻っていた時、視界の端に見知った人物が走って来るのが見えた。

 

「簪さん? どうしたの、そんなに慌てて」

 

「……あの、彰人……前に言ってたことの返事なんだけど……」

 

返事? ああ、ISを作る云々のアレか。やべぇ、俺忘れかけてた。自分で言ったことなのに。

 

「……その……手伝ってほしい。ISを作るのを」

 

「……いいの?」

 

「……うん。彰人は優しくて、強くて、カッコよくて……そんな彰人が、手伝ってくれると……嬉しい」

 

おおう……中々に破壊力のある言葉&表情(多分照れてる)ではありませんか。思わず勘違いするところだったよ。何にだって? 全部言わせんな。

 

「わかった。どこまでできるかわからないけど、やれるだけのことはやってみるよ」

 

「……うん……あ、ありがとう……」

 

そこで照れに限界が来たのか、簪さんは踵を返して去ってしまった。……部屋、目の前なんだけど……。

 

「気にしたら負けか……」

 

結論づけ、部屋に入る。ベッドに腰掛けて待機状態のウイングゼロを外して隣に置く。

 

「これから長い付き合いになるけど、よろしく……相棒」

 

ウイングゼロを撫でながら言う。気のせいかもしれないが、まるで俺に応えてくれたかのように輝いて見えた。

 

 

コンコン

 

 

「はーい!」

 

突然聞こえてきたドアをノックする音に返事をして、俺はドアを開ける。簪さんかな?

 

「あ、あの……ごきげんよう……」

 

「あ、どうも……」

 

違った、オルコットさんだった。

 

「ちょっと……よろしいでしょうか?」

 

随分しおらしくなってるけど、どうしたんだ? 俺に言われて深く傷ついたとか? ……あり得るな。

 

「いいよ。まあ立ち話も何だから……中へどうぞ」

 

「お、お邪魔します……」

 

オルコットさんを部屋に招き入れると、少し小さめの椅子へと案内して俺もやや小さめのテーブルを挟んで椅子に座った。

 

「さて……今日はどういったご用件で?」

 

麦茶を入れた湯飲みを差し出しながら、問いかける。オルコットさんは湯飲みを口に運んで飲むと、真剣な眼差しで見つめてきた。

 

「その、今日は彰人さんに謝りに来ました」

 

「……ん?」

 

俺は驚いた。彼女がその場で立ち上がったのもだけど、俺を名前で呼んでいたことにだ。

 

「この度は男性を軽視し、彰人さんや一夏さんを侮辱するような発言をしてしまい、申し訳ありませんでした。後日、クラスの皆様にも改めて謝罪いたします」

 

そう言った彼女からは、心からの気持ちであるということが強く伝わってきた。……まあ、俺はもう怒ってないけど。逆に俺の方が謝らんといけないことがあるし。

 

「……確かに、謝罪を受け取った。今度は、俺が君に謝罪する番だな」

 

オルコットさん同様に立ち上がると、頭を下げた。

 

「教室での失礼な発言、申し訳なかった。どうか、許してください」

 

「そ、そんな……あれは私を戒める為に……」

 

「そうだとしても、だ。君と戦って、俺は君の強さを実感した。対抗策を講じていなければ、あの場で負けていたのは俺達だった………だから、俺は君に勝てたことを誇りに思っている」

 

「……!!」

 

続けてそう言うと、オルコットさんは目を見開き……瞳から涙を零し出した。

 

「っ!? ど、どうした!? 何か、気に障るようなことでも―――」

 

「い、いえ……ただ、嬉しくて……チェルシー以外に、私と向き合ってくれる人は、いなかったから……」

 

「え……」

 

「お父様と、お母様が……急死してから、知らない人達が家に来て……」

 

「…………」

 

「その日から、必死に頑張っても、日本に来ても……ずっと、怖くて……もしばれたらと思うと、それも怖くて……彰人さんにも、一夏さんにも、皆さんにも……あ、あんな酷いことを……!」

 

……これが、オルコットさんが抱え込んでいたことか……彼女は押し潰されそうな重圧の中を、生きてきたんだな…………なら、俺にできることは1つだ。

 

「大丈夫」

 

彼女の手を優しく握りながら、目を合わせる。

 

「その気持ちを、想いを、みんなに伝えよう。俺も一緒に謝るからさ。……だからもう泣かないで。君は―――独りじゃないから」

 

「!! あ……あぁぁぁぁぁ!!」

 

オルコットさんの涙腺は完全に決壊したらしく、俺の胸に飛び込んで泣きじゃくってしまった。俺は彼女の背中を、優しく撫でてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

「ええと……今日はその、ありがとうございました」

 

ドアの前に立ち、ぺこりとお辞儀をするオルコットさん。目元は腫れぼったくなっていて、少し恥ずかしげだが、晴れ晴れとした表情を浮かべていた。

 

「もう、大丈夫なんだな?」

 

「はい」

 

俺が尋ねたことに、少し顔を赤らめながら答えてくれた。……彼女は、運命に屈せず必死で戦っている。紛れもない強者だ、そう感じた。

 

「それと、何ですが……その……私のことは『セシリア』と名前で呼んで下さい。私も、これからは『彰人さん』とお呼びしますわ」

 

これは……俗に言う、デレたという奴か? ともかく、彼女が言うんなら、本当に呼んでいいんだろう。…向こうから先に許可してくれるとは思ってなかったが。というか、凄い可愛いんだが。

 

「ああ、改めてよろしくな。セシリア」

 

「こちらこそ、宜しくお願いしますわ」

 

そう言って、俺達は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝のSHR。

 

「それでは、一年一組のクラス代表は織斑君に決定です。一繋がりでいいですね」

 

山田先生の発言に、クラスの女子達も大いに盛り上がっている。ちなみに当の本人は、別段嫌な顔はしていない。というのも、事前に俺と一夏で話し合い、了承を得た上で俺が辞退したからだ。一夏は最初難色を示したものの、「お前が代表になった方が、クラスのイメージが上がる」、「代表戦で多くの実戦経験を得られる」と言ったら納得してくれた。一夏自身興味を持ってたようだし、後腐れなく決まった。

 

「あの、織斑先生。少しよろしいでしょうか?」

 

その時、セシリアがおずおずと挙手をした。

 

「オルコットか。どうかしたのか?」

 

千冬さんが問うと彼女は立ち上がって教卓まで進み、頭を下げた。

 

「この度はクラスの皆さんだけではなく、日本の方までも侮辱する発言をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。深く謝罪いたしますわ」

 

いきなり謝ったことに周りが騒然となる。俺は一夏とアイコンタクトを取ると、一緒にセシリアの隣に移動する。あの後彼女は一夏にも謝りに行ったようで、今回のことで一夏と俺は打ち合わせをしていたのだ。

 

「戸惑うのは最もだと思う。けど、俺からもお願いする。どうか、セシリアを許してくれ」

 

「頼む、この通りだ」

 

俺と一夏も揃って頭を下げた。これで許してくれるだろうか……?

 

パチパチ……

 

そう思っていた時、拍手が鳴った。思わず顔を上げると、一番ご立腹だった箒ちゃんだった。次にのほほんさん、相川さん、谷本さんが。そして全員が拍手をして、受け入れてくれた。

 

「オルコット」

 

「は、はい」

 

「今回のことで懲りたようだから、私から言うことはない。これからは代表候補生としての肩書きを理解し、精進していくように。わかったな?」

 

「はい……!」

 

千冬さんの言葉にセシリアは力強く答え、それを聞いた千冬さんは満足そうにしていた。

その後、俺達3人はそれぞれの席へ戻っていった。

 

「クラス代表は織斑一夏に決定だ。異存がある者は……いないな。織斑には、今後の頑張りに期待させてもらう。それでは授業を始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと仲直りできて、良かったな」

 

「全くだ」

 

放課後。俺達以外に誰もいない教室で、今日あったことを話していた。

 

「セシリアにも仮面ライダーは合うんだろうか?」

 

「どうなんだろう。人によって差があるから、どうにも言えないな」

 

そう言っていた時、急に一夏が真剣な顔つきでこっちを見てきた。え、何?

 

「彰人ってさ……女子のこと呼ぶ時って、大抵さんかちゃん付けだよな。なのに、何でセシリアだけ呼び捨てな訳?」

 

「っ……!」

 

やっぱ気づかれてたか……さすがは親友だ。

 

「言わないと、ダメ?」

 

「ダチ同士で隠し事はなしって、聞いたことがあるぜ」

 

「しょうがないなぁ……誰にも言うなよ?」

 

渋々ながら、俺は一夏に話すことにした。…………余談だが、後に俺はこの時周りをちゃんと確認しておけばと後悔することになった。

 

 

セシリアSIDE

 

(いけません、私としたことが……教科書を忘れてしまうなんて)

 

寮の部屋に戻っている途中で忘れ物に気づいた私は、教室の前に来ていた。教室からは彰人さんと一夏さんの話し声が聞こえていたが、私は特に気にも止めずにドアを開けた。

 

 

簪SIDE

 

(あ、彰人と一夏の声だ)

 

教室から出て寮に行こうとした時、私は偶然彰人達が一組で何かを話しているのを聞いた。

 

(何を話しているんだろう?)

 

少し気になった私は、それとなく一組の教室の前をゆっくり歩いた。オルコットさんが教室に戻ってきたが、私は忘れ物でもしたんだろうと思って気にしなかった。

 

 

彰人SIDE

 

「俺さ……呼び捨てするなら好きな人って、勝手に決めてるんだ」

 

「ほぅ。てことは……」

 

「そうだ。俺は―――」

 

ガラッ

 

「―――好きなんだよ。セシリアのことが」

 

「え……」

 

「……え……」

 

「「ん?」」

 

突然聞こえてきた声に、一夏と同時に振り向く。そこには……セシリアが居た。



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32th Episode

どうも皆さんこんにちは、矢作彰人だ。ただいま絶賛困惑中だ。というのも、俺が一夏に自分の秘密を打ち明けた時、当の本人(セシリア)が教室の入り口に立ってポカンとしていたからだ。多分忘れ物でも取りに来たんだと思うけど……完全に聞かれたようだ。

 

(どないしよう……)

 

顔を赤らめたまま固まるセシリアを見て真剣に打開策を考える。

 

「彰人……こうなったらさ、セシリアに全部言った方がいいんじゃないか?」

 

「え!?」

 

一夏の提案に、俺は素っ頓狂な声を上げた。そりゃそうだ、前世も含めて誰かに告白したことなんてないんだし。

 

「俺もこんなことになるとは思ってなかったし、俺自身今も少し驚いてるけど……言わないと後悔するって言ったのは、お前だぞ?」

 

「っ…そうだったな……!」

 

「頑張ってな。俺、ここで見守ってるからさ」

 

「それはそれで恥ずかしいんだが……まあいいか」

 

一夏の言葉でしゃんとした俺は、セシリアへ向かってゆっくり歩いていく。適当な距離まで近づいて言おうとした時、先にセシリアが口を開いた。

 

「あ、彰人さん……その……先ほど仰っていたことは、本当なのですか……?」

 

顔を赤らめて戸惑いながら、尋ねてくる様子に俺は胸の鼓動が速くなっていくのを感じた。落ち着け……こういうときこそ慌てるな。

 

「……ああ。IS学園(ここ)に入学する前にネットでISに関する情報を調べててな……その時、偶然式典か何かで写っていた君の写真を見て……恥ずかしながら、一目惚れをしたんだ……」

 

後ろで一夏が「あの時かぁ、道理で」と納得した声を上げているのが聞こえた。

 

「改めて言おう。セシリア、俺は君のことが……好きだ。俺と、つ、付き合ってください!!」

 

顔から火が出そうな思いで、俺は想いを伝えた。彼女はどう応えるだろうか? ……無理かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアSIDE

 

彼…彰人さんからの告白を受けた時、私の中には様々な想いが渦巻いていた。驚き、戸惑い、そして……歓喜。それを感じた時、私は自分が彰人さんの想いに応えてあげたいと思っていることに自覚した。そう、私もいつの間にか好きになっていたんだろう。私に向き合ってくれた、彼のことが……。

 

「その、彰人さん……本当に、私でよろしいんですか?」

 

不安になって、思わずそう聞いてしまう。

 

「ああ。君だから、俺は好きになったんだ。だから…君さえよければ……」

 

そう言う彼も、どこか不安げな様子だった。少し安心した私は、自分の想いを伝えることにした。

 

「はい……。私も、彰人さんのことが好きです。ですから、喜んで……」

 

「っ!! あ、ありがとう……セシリア…俺も、好きだ……!」

 

彰人さんは目を丸くした後、そう言ってきた。私の中には、いとことでは言い表せない嬉しさが次々に溢れてきていた。……初恋がすぐに実るなんて、まるでおとぎ話みたいで、素敵とふと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「そうだ。どうせだから、キスしちゃいなよ」

 

「「えっ!?」」

 

両想いになった喜びを噛み締めている最中、一夏が突然そんなことを言った。

 

「大丈夫だって、俺は見ないようにしてるから」

 

「いや、だけど……」

 

一夏が言うことに嘘はない。わかってはいるが、さすがに恥ずかしさもあるのでどうしようかとセシリアを見やるが……。

 

「………………」

 

(え、何その目?)

 

何故か顔を真っ赤にさせ、何かを期待する目で彼女は俺を見つめていた。……これはアレか? やってもいいという合図か?

 

「えと……いい、のか……?」

 

「は、はい……キス…どうぞ……」

 

緊張のあまり辿辿しい口調になっているのに可愛らしさを感じながら、俺は自然と顔を近づけていった。そして、後数ミリという距離まで近づいた時―――

 

 

「だっ…ダメーーーーーーーーッ!!」

 

 

「「っ!?」」

 

「うおっ!? 何だ!?」

 

突然聞こえてきた悲鳴のような叫び声に俺とセシリアは反射的に声のした方向を向き、一夏は思わず声を上げ、その方向を見た。

 

「……簪、さん…?」

 

何故か、涙目になっている簪さんが入り口のところに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪SIDE

 

「―――好きなんだよ。セシリアのことが」

 

「……え……」

 

彼が言ったことに、私は息を詰まらせた。2人ともこっちを見てきたが、丁度物陰にいたのでオルコットさんだけが気づかれたようだ。けど、そんなことより大事なことがある。

 

彼は、オルコットさんのことが好きと言った。私じゃなかった……私は、フラれたのだ。告白もしてないし、彼だって知る由もないのだが……けど、悲しかった。涙がどんどん溢れてくる。必死に手で拭いながら、私は今度からどうやって顔を合わせればいいんだろう? と考えながらふと彼らを見た。

 

彰人とオルコットさんは―――唇を合わせようとしていた。簡単に言えばキスだ。一夏は反対側を見て、見ないようにしている。私はもう終わったことだと諦め、立ち去ろうとした……けど、同時に諦めたくないという感情が自分の中にあることに気づいた。何故? 彼の想いは私には向いてないのに。だけどせめて、自分の想いだけは……伝えたい……!

 

「だっ…ダメーーーーーーーーッ!!」

 

気がつけば、私は2人を制止するかのように叫んでいた。

 

「「っ!?」」

 

「うおっ!? 何だ!?」

 

3人が驚いたようにこちらを見る。……どうしよう……やっちゃった……。

 

「……簪、さん……?」

 

「えっと……どなたですか?」

 

「彼女は、俺のルームメイトの更識簪さん。三組の子で、日本の代表候補生だけど……どうしてここに……」

 

もう後戻りはできない……こうなったら、言うしかない……!

 

「………って…………から……!」

 

「ん?」

 

「……私だって、好きだから……彰人が、好きなんだから……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「……私だって、好きだから……彰人が、好きなんだから……!!」

 

―――しばし、頭がフリーズした。そのまま十秒程時が流れる。

 

「え……え? えぇぇぇぇぇ!?」

 

俺は驚きのあまり、叫んで一歩下がっていた。

 

「だってそんな、まだ会ったばっ……いや、それを言ったらセシリアとも出会ったばっかか!」

 

「いやそんなこと言ってる場合じゃないぞ!? どうするか早く考えないと!」

 

「そ、そうだな! だがその前にまずは落ち着いて……」

 

若干パニクってる俺と一夏は一度深呼吸をして感情を落ち着かせた。

 

「……よし、俺は大丈夫だ。彰人は?」

 

「落ち着いたよ。それと……お前が長らく抱えてた悩みが、完全に理解できた……」

 

「だろうな……」

 

告白して両想いになった直後に俺を好きだという女の子がもう1人現れたんだ。一夏の状況と正に同じ状況過ぎてある意味驚く。

 

それは一先ず置いといて、恐る恐るセシリアと簪さんを見てみると、互いに睨み合う…………こともなく、何かを話し合っていた。はて、何だろう?

 

「なるほど……つまり貴女は、自分にとってのコンプレックスや趣味を認められたことに加え、彼の真っ直ぐな意志を見たことで好きになったと……」

 

「……うん」

 

「気持ちはわかりますわ。痛い程に……私だって、理由が同じなんですもの。…………でしたら、とても私には無下にすることは………………っ!」

 

そこまで言った時、セシリアは俺を見た。思わずビクッとなる。

 

(彰人。とりあえず、覚悟の1つぐらいは決めといた方がいい)

 

(言われなくてもそうするさ)

 

こんな状況で覚悟しない奴等、果たして居るものか。……原作一夏ならやりかねんか……?

 

「彰人さん。1つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「はい、何でも言ってください」

 

ついそう答えたが、一体何をお願いされるんだろう? ……少し怖い気がする。

 

「更識さんの想いにも、応えてはくれませんか……?」

 

「「え?」」

 

「……マジ?」

 

予想の斜め上を行った発言に俺と簪さんはハモって驚き、一夏はポカンとしていた。だってセシリアが言ったことって、つまり二股してもOKってことだよ!? そりゃ驚くさ!!

 

「いいのか? 君が言ってることは……」

 

「ええ、わかっていますわ。わかった上で、言ってますの。……私のせいで、私と同じように貴方を好きになった人が悲しむなんて……耐えられませんから……」

 

「…………………」

 

「勿論無理にとは言いませんわ。でも更識さんも、可能なら彰人さんと想いを通じ合わせたいでしょう?」

 

「……わ、私は……」

 

言い淀んだ簪さんは、小さく首を縦に動かした。

 

「簪さん……」

 

「……やっぱり私、諦めきれないみたい……オルコットさんが言ったみたいに、望んでいるもの。彰人にとって二番目でもいいから、彰人に想いを受け取って欲しいって……」

 

不安げな表情で告げた簪さんに、俺の心は大きく揺れ動いた。どうする? 2人はいいと言っている。なら…………しかし、日本は重婚制度じゃない。事実婚ならできるかもしれんが……ああ何だろう、考えすぎて混乱してきた。……仕方ない。こういう時は―――

 

「おい彰人、どこに電話するんだ?」

 

「……兄ちゃんとこだ」

 

放課後になった直後、俺は千冬さんから兄ちゃんからの伝言を密かに預かっていた。『何か困ったことがあったら、遠慮なく相談しろ』……まさかこんなにも早く相談するとは思ってもなかったけど、許してくれ。

 

『はいもしもし、矢作省吾だが。早速悩み事か、彰人?』

 

「うん、実は―――」

 

俺はセシリア達を見やると、自分の身に起こっていることを話した。

 

『なるほど……要するに本人達は重婚の許可出してるけど、法律とかを考えてブレーキがかかってるってことか』

 

「そうなんだ。俺としては、2人ともに応えてあげたいんだけど……」

 

『お前にその意志があるなら、ソレを伝えてやれ。法律の方は俺が何とかするから』

 

「え、何とかするって……」

 

『丁度法律を改正しようと思っていてな。女尊男卑の社会で男性の数が減って女性の未婚者が増えてるから、それを理由にすれば大丈夫だ。最大人数は10人程にする予定だが……まっ、さすがにそこまで増やすつもりはないだろう』

 

「当たり前だよ」

 

そこまで増えたら逆に驚くわ。どこのギャルゲーかエロゲーの主人公だよ。

 

『そんじゃ、切るぞ。3人分のドレスの予約をチェックしなきゃいけないし……』

 

「何の話だ?」

 

その答えを聞く前に、電話は切れてしまった。……まさか、兄ちゃんが法律変えようとしている理由って、本当は…………いや、兄ちゃんのことだ。さっきの理由も本心なんだろう。真っ直ぐだからな、省吾兄ちゃんは。

 

「答えは出たのか?」

 

「ああ。もう迷いはない……セシリアと簪さん。2人の想いを、受け止める。2人とも、愛してみせる……!」

 

「……あ、彰人……!」

 

「そう言うと思ってましたわ、彰人さん……!」

 

簪さんは泣きながら飛びつき、セシリアは微笑みながら近づき……同時にキスをしてきた。

 

「(ど、同時!? それは想定してなかった……)……ぷは……そ、その……キスありがとう。けど、ごめんな。俺、優柔不断みたいだからさ……フるなんて選択肢、選べなかったよ」

 

「……そんなことない。半ば押しつけた、私の方が……」

 

「まあまあ。どちらが悪いとかはいいではありませんの。それより、呼び方を変えませんと。簪さんともお付き合いなされるなら、その方がよろしいかと」

 

「確かにな」

 

「ていうか、セシリアってこんな聡明だったっけ? 印象ガラッと変わった気がするんだが……」

 

一夏よ、そこはツッコんではいけないところだと思うぞ。アレだ、恋する乙女は変革するとか覚えておけばいいんだ。きっと……多分。

 

「じゃあ、改めてよろしくな。簪」

 

「……こ、こちらこそよろしく、彰人。それに、セシリア」

 

「ええ、よろしくお願いしますわ。彰人さん、簪さん」

 

―――こうして、俺の(色んな意味で)濃い放課後は無事に終わった。……周りに軟弱者だとか言われるかもしけないけど、俺は甘んじて受け入れるつもりだ。言いたい奴には好きに言わせろ、だが自分の意志は曲げるな。剣道やってる時によく言われたから、すっかり染み付いている。

 

「……俺より後に告白してるのに、俺より先に解決してるし……何だかなぁ」

 

後ろで一夏が嬉しいようで羨ましいような顔をしていることには気づかなかった。



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33th Episode

四月下旬。春の半ばが過ぎた頃、俺達は千冬さん指導のもとISの本格的な授業を受けていた。

ここに至るまで、俺達の周囲はとりあえず平穏だ。箒ちゃんにセシリア達と付き合うことを話したらそれなりに驚かれたけど、「お前が自分で決めたことなら、私は応援するぞ」と言ってくれて、今では仲良しになってる。……まあ、一夏達みたいに付き合ってることは内緒だけど。でも千冬さんにはバレてるだろうなぁ……あの人、勘が鋭いし。

それと、簪さんの機体制作に新たにセシリアが加わることとなった。正直なところ、かなりありがたい。お陰で制作スピードも早くなりそうだ。

 

……まあ、前置きはここまでにしておいて、授業に集中しよう。

 

「今回はISの基本的な飛行操縦と、武装展開のデモンストレーションを諸君らに見てもらう。織斑、オルコット、矢作。ISを展開し、試しに飛行するんだ」

 

「「「はい!!」」」

 

揃って返事をすると、意識を集中させる。待機状態のウイングゼロ(形状はトリコロールカラーの左腕のガントレット。ちなみに一夏は青が多めのトリコロールカラーの右腕のガントレットで、セシリアは青いイヤーカフスだ)が一夏とセシリアとほぼ同時に展開、その姿を表した。やっぱりGガンとダイ○ーン3をヒントにして、機体の全体像を頭に叩き込むのが功を奏したな。

 

「ふむ、3人とも中々の速さだ。よし……では、飛行始め!」

 

合図と同時に急上昇し、上空で待機する。滑り出しは上々といったところか。……そういえば、一夏の機体にはコアが二機積まれてる(つまるところツインドライヴの再現)って一夏から聞いたな。となると、あの高性能さは頷けるな……おっと、この件は千冬さんに相談した時に口外禁止になったんだった。俺達だけの秘密として封印しておこう。

 

「よし。では3人とも、次は急降下と急停止をやってもらうぞ。目標は地表から10cmだ」

 

「了解しました。では彰人さん、一夏さん、お先に」

 

そう言うとセシリアは頭から地上に向かい、地上ギリギリで反転。完全停止をやってみせた。

 

「うまいもんだなぁ」

 

「代表候補生は伊達じゃないな。さて、次は俺だ」

 

「気をつけてな」

 

セシリアと同じように頭から地上に向かい、視認できたところで反転、急停止をする。距離は……12cm程か。ピッタリとはいかなかったか。

 

「矢作も悪くなかったぞ。今後は10cmにより近づけることを目標にしなさい」

 

「はい!」

 

千冬さんの言葉に返事すると、空を見上げた。次は一夏の番だが……俺達と同じように頭から来てるな。スピードは少し速めだが、反転すると無事に急停止した。距離は……11cmか。惜しいっ。

 

「後1cmか。悪くはないが惜しかったな、織斑。お前も矢作と同じく、10cmジャストを目指すように」

 

「はいっ!」

 

一夏が元気よく返事をする中、俺は一安心していた。原作では一夏が猛スピードで突っ込み、グラウンドに大穴を開けていたので少し危惧していたが、さすがにああはならなかったのでホッとした。

 

「それでは、次は武装展開だ。まずは織斑」

 

「はい!」

 

千冬さんに指名された一夏は周囲の安全を確認すると、まずはGNソードⅢをライフルモードからソードモードに変形させた。

 

「最初から装備されているとは言え、良い展開速度だ。が、もう少し速ければ尚良くなるから心がけるように。では、残りの武装も好きな順でいいから展開してみろ」

 

「はい!」

 

次に一夏は右腰側のGNソードⅡを左腕で引き抜き、すぐにしまうと後ろに刺さっているGNビームサーベルを引き抜く。更に、両肩のオーライザーユニットを正面に向け、GNビームマシンガンの発射口を見せた。

まるで流れるような速さだった。

 

「こちらもイメージが纏まっているようだな。よし、次は矢作だ」

 

「はい!」

 

落ち着いて、まずはツインバスターライフルを取り出す。

 

「しっかりイメージができているようだな。今後はより速さを意識するように。さて、残りの武装も展開してみろ」

 

「はい!」

 

次に両肩のマシンキャノンを展開。そして両肩のアーマー内からビームサーベル2本を引き抜いた。

 

「こちらも中々だな。引き続き頑張るように。最後にオルコット」

 

「はい!」

 

セシリアは返事と共に両腰のビームライフルを引き抜いて水平に構える。なんて速さだ……1秒にも満たなかったぞ……。

 

「流石は代表候補生だ。だが、銃身は横ではなく正面を向けて展開しなさい。戦いではそれが命取りになるぞ」

 

「はい」

 

千冬さんが述べた正論に、彼女自身思うところがあったのだろう。反論せずに素直に返事をした。

 

「次は近接武装を含めた残りの武装の展開だ」

 

「えっ…は、はいっ」

 

少し戸惑いながらも、セシリアはレール砲を展開。次にライフルを仕舞ってビームサーベルを引き抜こうとするが、中々上手くいかないようだ。

 

「まだか?」

 

「うぅ……ああもう! ビームサーベル!!」

 

半ばヤケクソになって音声コールで引き抜くセシリア。やはり近接戦闘は取得していないようだ。

 

「……これに関しては、練習が必要だな。織斑と矢作に懐を許していたし、やっておいた方がいいだろう」

 

それが妥当だろなぁと思っていると、セシリアがぷくぅっと膨れた顔でこっちを見て個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)で語りかけてきた。

 

『あ、彰人さん達のせいですわよ!』

 

『おいおい……そりゃあないだろ?』

 

どこか冗談めかしたように、セシリアに問う。

 

『……すみません。私が、未熟なせいですわ』

 

しおらしくなっちゃったけど、素直に謝るのが一番良い。自分の非を認めることは大事だからな。

 

『また練習しような? 一夏も、手伝ってくれるか?』

 

『勿論さ』

 

『あ…ありがとうございます!』

 

そう言って笑顔になるセシリア。やっぱり女の子は笑顔が一番だ。特に可愛い子なら、尚更だ。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

ここで授業終了のチャイムが鳴った。

 

「時間だな。では、今日の授業はここまで。各自解散っ」

 

そう言うと、千冬さんと山田先生は先に去って行った。さてと、俺達も帰るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

「ついに来たわね……IS学園……」

 

私は今、ボストンバッグを片手にIS学園正面に立っている。一夏達と別れてから、私は中国の代表候補生になった。一夏と彰人とはまた会えると信じていたけど、こんな形になるとは予想してなかった。

 

「まさか、ISを動かしちゃうなんてね……規格外すぎるわよ、2人とも」

 

ため息をつきながらも、私の顔は笑顔になっていた。一夏と会えなくなってから一年……たったの一年と捉える人もいるかもしれないが、私にとっては永劫に感じられた。

 

「告白の返事、もらえるかな? ……わかってはいるんだけどね」

 

彼には好きな人がいる。だからどんな返事かは見当がつくんだけど、それでもどこか期待してしまう自分がいる。

 

「って、そんなのは後々。まずは受付しなくちゃ」

 

すぐに気持ちを切り替えて、私は総合事務受付に歩を進めた。……あれ? そういえば、IS学園の案内図、持ってきてなかったような……。

 

我ながら先行きに不安を感じてしまう私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「というわけで! 織斑君、クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでとう~!」

 

 

ぱんぱん、ぱ~ん!

 

 

パーティーが始まると同時にクラッカーが乱射される。壁には『祝☆織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙が掛けられている。

 

食堂には一組のメンバー……いや、他クラスのメンバーも集まっているな。でなきゃ明らかに50人も集まらないもの。俺と一夏は椅子に腰掛けているが、一夏の右隣には箒ちゃんが、俺の右隣にはセシリアが、左隣には簪が座っている。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるよねぇ」

 

「ほんとほんと」

 

「織斑君、カッコよかったもんね。『俺はここだ!!』なんて、私じゃ絶対出ないもん」

 

「ほんとほんと」

 

ソレはあんまり弄くらない方がいいんじゃないか? 一夏も、何とも言えない表情になってるし……。

 

「随分人気者だな……一夏?」

 

隣に居る箒ちゃんが拗ねた感じで一夏に言う。

 

「まあな。でも、こうしているのは箒が応援してくれたからだぜ? ありがとな」

 

「そ、そうか。わ、わかってくれてるならいい……」

 

おうおう、箒ちゃん照れてるな~。内心嬉しいんだろうな。

 

「にしても、一夏が羨ましいぜ。まるでヒーローみたいだし」

 

「ふふ。それを言うなら、私達にとって、彰人さんは最高のヒーローですわよ?」

 

「……台詞も見た目も、凄くカッコよかった」

 

「嬉しいけど、見た目に関してはかなり恥ずかしいんだよねぇ……」

 

思わず苦笑しながら返す。だって、金髪に翡翠の眼なんて……一歩間違えば厨二病をこじらせた奴に見えかねんし……。

 

(けど、喜んでくれるならいいか……)

 

そう思っていた時だった。

 

「はいはーい、IS学園新聞部でーす。本日は話題の新入生、織斑一夏君と矢作彰人君の特別インタビューに来ました~!」

 

二年生らしき女性が俺達の前に現れていた。おぉ~!と一同が盛り上がる。……俺も取材されるんだ。

 

「あ、私は二年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。新聞部副部長をやってま~す。これ、名刺ね」

 

「「どうも……」」

 

一夏と俺が名刺を受け取ると、黛先輩はやや一夏に近寄った。

 

「ではまずは織斑君から。クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

やっぱりこれが来たか。考えると、意外と難しいよな。これって。

 

「うーん、そうですね……まだまだ俺は未熟ですが、勝負には全力で挑みたいと思っています。みんなの挑戦、待ってます!!」

 

「おっ! 中々良いのが頂けたよ~。こういうのをずっと待ってたんだよね!」

 

無難かつ満足のいく答えを言ったみたいだ。前から知ってはいるが、大した奴だ。

 

「では次に、矢作君。これからの意気込みをどうぞっ」

 

「意気込みですか……」

 

やばい、これ下手なこと言えないじゃん…………どうするか……ええい、ままよ!

 

俺は椅子から立ち上がると、右手の人差し指を真っ直ぐ天井に向けた。

 

「―――天を、獲る」

 

「え?」

 

「女尊男卑となったこの世界で、俺達は何の因果か新たなファクターとなりました。それが何を意味するのかも、当然理解しています。ですが、俺は敢えて宣言します。この世界に挑み、必ず頂点に立つと! ……勿論、これに異議を唱える人達もいるでしょう。そういう方達は、遠慮なく勝負を挑んできてください。どんな相手だろうと、俺が受けて立ちます!!」

 

『『『………………………………』』』

 

勢いに任せて全て言い切ると、水を打ったかのように周りがシーンと静まり返った。……あれ? これ、もしかしてやっちゃった?

 

「彰人。水を差すようで悪いが、間違ってるところがあるぞ」

 

一夏が言って立ち上がる。やっぱそうだったの!? うわ、どうしよ……。表情には出さないように後悔していると、一夏は俺と向かい合った。そして―――

 

「『俺が』じゃなくて、『俺達が』……だろ?」

 

不適な笑みを浮かべて、そう告げてきた。

 

「……ああ。そうだったな……!」

 

彼の言葉に俺はハッとし、同じく笑みを浮かべた。そして自然と右手を前に出すと、一夏と「友情のシルシ(弦太朗がやっていたやつ)」を交わした。中二臭い? だから何?

 

「さて……これでいいでしょうか? 黛先輩」

 

「……はっ!? え、ええと、はい。充分……ううん、超満足なコメントだったわ! ふふふ、これはいい記事が書けそうだわ……!!」

 

「そ、そうなんですか」

 

テンション上がりまくりだな、この人。

 

『す、凄い宣言を聞いちゃったわ……』

 

『天を獲るだなんて、大胆だけどカッコイイ!』

 

『それに、織斑君とのやりとりも凄かったよね。『俺が』じゃなくて『俺達が』、か……』

 

『やばい……濡れてきた……』

 

『大丈夫~?』

 

周りの女子達、そのことに関してはもう触れないでくれ……今更だがやっちまった感あるんだから。てか最後から二番目の人本気で大丈夫か!?

 

「す…凄く素敵でしたわ……彰人さん……」

 

「……惚れ直しちゃった……」

 

「ま、まさか一夏まで乗るとは思ってなかったが……中々どうして…か、カッコイイんだ……」

 

近くではセシリア、簪、箒ちゃんが顔を赤らめてやや感動に浸っていた。

 

「……そんな感動したの?」

 

「らしいな……」

 

俺も一夏も困惑するばかりだ。

 

「さてと。それじゃあ最後に、専用機持ち4人の写真を撮らせてくれるかな?」

 

「「「「え?」」」」

 

黛先輩が最後に言った一言に、俺達4人は首を傾げた。

 

「一年の専用機持ちが一堂に会するなんて滅多にないからね。是非とも一枚欲しいのよ」

 

なるほど。確かに、考えてみれば今年の一年に居る専用機所有者は二年と三年と比べてもかなり多い。このチャンスを逃すわけにはいかないんだろう。

 

「いいですよ。少々お待ちを」

 

俺は右隣にセシリアを、左隣に簪を座らせ、箒ちゃんがその隣で更に隣が一夏という順で並んだ。

 

そしていざシャッターを切ってもらったのだが……凄まじい速さで全員が後ろに回ってきたので、結局集合写真になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~、疲れたな~」

 

パーティーが終わった後、俺は1人で部屋に戻っていた。1人なのは、一緒に帰ってる途中でトイレに行ったからだ。

 

「……ん?」

 

俺はふと足を止めて、後ろを振り返った。当然誰もいない。が、僅かに気配を感じる。誰かがどこかに隠れているのだろう。

 

「………………誰かは知りませんが、そろそろ出てきたらどうですか? 隠れて人のことをじっと見ているのは、いささか失礼なのでは?」

 

返事はない。しかし、影になっててよく見えない場所からその人物は現れた。

 

「よく気づいたわね。これでも、気配は消していたんだけど」

 

扇子を持った水色の髪の女子生徒。学年は、リボンの色からして二年だ。どことなく……簪に似ている気がする。

 

「気づかれるように敢えて気配を感じさせたんでしょ? でなきゃ、今の今まで気づかない筈がない」

 

「それもそうね。けど、普通の人ならこれでも気づかないのよ。正直驚いてるわ」

 

彼女が扇子を広げると、そこには『驚愕』という字が書かれていた。あれ、即興なのかな? それとも用意していたのか?

 

「で、貴女は一体何者なんですか? 俺に何か用事でも?」

 

「そうね……まずは1つ目の問いから答えさせてもらうわ」

 

そう言うと、彼女はどこか気品を感じさせるような仕草をし―――

 

「私は更識楯無。この学園の生徒会長をしているわ。よろしくね」

 

名前を名乗った。…………俺、厄介な人に目付けられたかも……。



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34th Episode

「更識楯無……先輩……」

 

正直驚いた。まさか、学園の長である人物と対面するなんて。ここ最近、驚きの連続ばかりだ。けど……俺この人の人物像をはっきり知らないんだよなぁ。人たらしってのは覚えてるが。

 

「貴女が名乗った以上、こちらも名乗らなければ失礼ですね。俺は「矢作彰人君、よね?」……知っていたんですか」

 

俺が名乗るより前に、更識さんが名前を言い当てた。

 

「まあ、俺を尾行していたのなら、名前ぐらいは既に知っていてもおかしくはありませんものね」

 

「そういうこと。気を悪くしたなら、謝るわ」

 

更識さんが再び扇子を開くと、今度は『ごめんなさい』という字が書かれていた。……どういう仕組みになってるんだろ?

 

「別にいいですよ、気にしてませんし。それより、尾行してまで俺に何の用があるのか、そろそろ話してくれませんか?」

 

「ええ。……単刀直入に言わせてもらうわ。君が現れてから、簪ちゃんの様子が大きく変わったの。それについて知ってることがあるなら、教えてほしいんだけど」

 

「っ…!」

 

突然更識さんの雰囲気が大幅に変わった。先ほどと変わらず笑みを浮かべてはいるが、全身から圧倒的な威圧感が発せられている。気を抜いていたらこちらが呑まれそうだ。

 

「なるほど……道理で名字が……やはり貴女は―――」

 

「(っ、驚いたわ……これを受けて怖がらないなんて)そう。君のルームメイトである更識簪は、私の妹なの」

 

「……でしたら、俺に聞かなくても大まかなことはわかるのでは? 身内なんですし」

 

「勿論『大まかなこと』はわかってはいるわよ。君が簪ちゃんのプロポーズをセシリア・オルコットさんと同時に受けたこととか、ね。でもそこに至るまでの細かな経緯がわからないの。だから……教えてくれるかしら?」

 

彼女の威圧感が更に上がった。やはり只者ではないな……てことは、ここは慎重に言葉を選んだ方が良さそうだ。

 

「いいですけど、具体的にどんなことが知りたいんですか?」

 

「……簪ちゃんが君に惚れた要因よ。どんなことをして、簪ちゃんを口説いたの?」

 

「ち、ちょっと待ってください。記憶を辿ってみるので」

 

口説いた自覚すら俺にはないので、簪と出会ってからの日常会話を思いつく限り脳内で列挙していく。

 

「……強いて言うなら、褒めたことですかね?」

 

「褒めた?」

 

「はい。髪の毛の色とか、趣味とか、その辺りです。俺にとっては特に意識したことじゃなかったんですけどね……」

 

「っ!? 君……それ、本気で言ってるの……!?」

 

何故か驚いた表情になる更識さん。え、どうしたの? 俺変なこと言ったか?

 

「本気って?」

 

「髪の毛のことよ。私達の髪は、水色なのよ? 普通は気味悪がる筈じゃ………………現に私も虚ちゃん達以外はそうだったし……」

 

あ……そうか忘れてた。この世界は基準が現実的だったんだ。ラノベでよくあるカラフルな髪色や目の色は周囲から気味悪がられるんだ。……確かに少しはギャップ感じるけど、気味悪くはないよな。

 

「俺は気味悪く思いませんよ。だって、水色って何かかわいいじゃないですか」

 

「!!(上辺だけの台詞じゃない……彼は本心で言っているんだわ)」

 

「あの……もう終わりですか? でしたら、俺からも質問があるんですけど」

 

「え? ええ、いいわよ。何でも聞いて頂戴」

 

「ありがとうございます」

 

一言礼を述べると、俺は更識さんに一度会えたら聞いてみたかったことを告げた。

 

「簪は貴女に苦手意識を抱いているみたいなんですが、貴女自身は彼女と今後どういった関係で居ようと思っているんですか?」

 

「……!」

 

俺の質問に、更識さんは目を一瞬見開き、すぐに元に戻した。

 

「あの、赤の他人である俺が聞くのはやっぱ失礼ですよね……」

 

「ううん。何でもと言ったのは私だから、ちゃんと言うわ。……私は、簪ちゃんと仲良くしたい。何の肩書きもない、普通の姉妹として…………まあ、それができたら苦労はしないんだけどね……」

 

どこか憂いを秘めた表情で、更識さんは語った。それを見た俺は……自然と微笑んだ。

 

「……何がおかしいの?」

 

「あ、失礼。別にバカにした訳じゃないんです。ただ、更識先輩もやっぱり普通の女の子なんだなぁって思いまして」

 

「っ……どういう意味かしら? 私は生徒会長なのよ? それに君は知らないかもしれないけど、私は学園最強なんて肩書きまで持ってるの。勿論、これ以外にも色んな肩書きを持っているわ。これのどこが普通と言えるの?」

 

「…………学園最強ですか……確かに、それを聞けば普通ではないと思うかもしれません。けど、妹のことを気に掛けるのは人として普通のことではないですか?」

 

「それは……」

 

「凄い肩書きを持ってても、根っ子にはちゃんと『普通』の部分がある。さっきそれがわかって、俺、正直安心しました。だって、そうでなきゃ肩書きなしで妹と仲良くなりたいなんて思わないでしょうから」

 

「……………………」

 

更識さんはしばし黙ったまま俯き、やがてゆっくりと顔を上げた。

 

「……じゃあさ…肩書きを気にせずに、簪ちゃんと一対一で普通にぶつかれば……仲良くすることができるのかな……?」

 

「……やってみなきゃ、わかりませんよ」

 

その後、再び静寂な空気に包まれ、互いにただただ見つめ合う時間になる。そして―――

 

「ふぅ……。どんな人か確かめに来たのに、いつの間にか正論語られて丸め込まれちゃうなんてね……」

 

「気に障ったのなら、謝りますが……」

 

「気にしないで。お陰で大事なことに気づいたんだし。……じゃあ、用も済んだことだし、そろそろ失礼させてもらうわ……あ、もしよければ簪ちゃんに一言伝えてくれないかしら?」

 

「何をです?」

 

「……簪ちゃんのISが完成して準備ができたなら、私と一対一で戦いましょうって」

 

「…………わかりました」

 

更識さんは俺の返事を聞くと、去って行った。……何の肩書きもない、姉と妹としての対決をしようってことか。

 

にしても何だか今日は疲れたな。早く帰ってゆっくり休もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「織斑君、矢作君、おはよー。ねぇ、転校生の噂って聞いた?」

 

俺達が席に着いた途端、クラスメイトにそう尋ねられた。って転校生? それって……。

 

「今の時期に?」

 

「うん。なんでも、中国の代表候補生なんだって」

 

「やっぱり……」

 

ようやく再会できるんだな……彼女と。

 

「あら、私の存在を危ぶんでの転入かしら?」

 

「だが、このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

「「転校生か……」」

 

一夏とハモって呟く。考えていることは同じか。

 

「「気になるのか(なりますの)?」」

 

箒ちゃんとセシリアもハモって尋ねてくる。何か、今日は朝からハモりまくりだな。

 

「まあな。何せ、転入するには入試の数倍難しい試験を受けなきゃいけない上に、国からの推薦状が必要になる」

 

「つまり、専用機を持っているのはほぼ確実ということだ」

 

「強敵になり得るということか……」

 

納得した様子で箒ちゃんとセシリアは頷いていた。下手なことを言って嫉妬されたくはないから、一安心だ。

 

「とりあえず、勝つ為の特訓をしないとな。特に一夏は」

 

「ああ。クラス対抗戦も近いしな」

 

「後一ヶ月ですものね。……そうですわ! 今後はより実践的な訓練をするのはどうでしょう? 相手は私と彰人さんが―――」

 

「待った。俺は簪のIS制作も見なきゃいけないから、毎回は無理だ」

 

「あ、そうでしたわ……」

 

はっとしたセシリアは、「ではどうしたら」と悩む表情を見せた。さすがにコーチが1人ではまずいもんな。

 

「ならば、私が相手をしよう」

 

そこへ、箒ちゃんが名乗りを上げた。

 

「箒……いいのか?」

 

「ああ。さすがに毎回というわけにはいかないが、彰人がいない分を埋めることはできるだろう。……まあ、こちらが教えられることも多そうだが」

 

「それでも助かりますわ」

 

「さて一夏。ここまでやって貰ってるんだ。勝てないとか弱気なこと、言うなよ?」

 

「誰が言うか。どんな相手だろうと、勝つのみだ」

 

拳を強く握って一夏は意気込む。

 

「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せになるんだよ!」

 

「織斑君、頑張ってね!」

 

「スイーツフリーパスの為にもね!」

 

クラスのみんなも一夏を応援してくれるが……大抵が欲望丸出しだ。グリード達が居たらセルメダル生成の格好の餌になるな。そう思いながら一夏と苦笑していると―――

 

 

 

「悪いけど、そう簡単にはいかないわよ?」

 

 

 

―――教室の入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。懐かしさを感じながら振り向くと……。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないわよ」

 

腕を組み、片膝を立ててドアにもたれかかっている見覚えのありまくる女子がいた。

 

「鈴……お前、鈴か!? 久しぶり!!」

 

「おお、鈴ちゃんじゃん! 久しぶり!」

 

やっぱり、転校生は鈴ちゃんだった。一年前とどこも変わってない。

俺達が嬉しそうに言うと、鈴ちゃんはどこか狼狽えていた。大方、本当は嬉しくてうずうずしているけど今は隠しておきたいんだろうな。

 

「そ、そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

あらら、吃っちゃった。仕方ないけどね。

 

「なあ、鈴……。互いに色々と積もる話があるんだろうけど……とりあえず、早く教室に戻った方がいいぞ? そろそろSHRが始まるし」

 

「え? もうそんな時間だっけ!? いけない!」

 

鈴ちゃんは時間を確認すると、慌てて戻っていった。相変わらず、元気一杯な子だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

「ふむ……」

 

彼女が、一夏が言っていた鈴か。活発な印象だったな……一夏が元気を貰ったのも頷ける。ただ、一夏が好意を抱いていることは知らない筈だ。昼休みに、そのことを含めて彼女と話してみるとしよう。



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35th Episode

皆さんこんにちは、矢作彰人だ。あれからしばらくして昼休みになり、俺達は食堂に向かいがてら3人に鈴ちゃんに関する説明をしていた。

 

「……つまり、彼女は箒が転校した後すぐに入れ違うように転校してきたってこと?」

 

「平たく言えばそうなる」

 

「それで鈴の家が中華料理屋やってたから、よく食べに行ってたんだ。いやー、あの時はお世話になったなぁ」

 

「だな。また食べられる時が来るといいんだけど……」

 

「あの、鈴さんはどうして中国に帰ってしまったのですか?」

 

ふと聞いてきたセシリアに、俺達は困ったように顔を見合わせた。

 

「それは俺の口からは言えないなぁ」

 

苦笑しながら答える。

 

「何か事情があるのか?」

 

「そんなとこだ」

 

一夏が答えたところで会話を切り上げ、食堂へと入った。

 

「待ってたわよ、一夏! 彰人!」

 

元気よく食堂で待ってたのは、鈴ちゃんだった。

 

「おう、お待たせ」

 

「まずは食券出すから、少し待っててくれ」

 

「うん」

 

トレーを手に持ちながら、俺達3人は久々に会話をする。

 

「本当に久しぶりだな。だけど、帰ってたのなら連絡くらい入れればいいのに」

 

「ふふ、それだと感動の再会にならないじゃない?」

 

「あー、それは確かに」

 

こういうところは鈴ちゃんらしいと言える。心が暖まるよ。

 

「ところで向こうでは元気だったか?」

 

「当然よ。アンタ達こそ、怪我とか病気とかしてないわよね?」

 

「それこそ当然、してないさ」

 

「体は丈夫だからな」

 

その後、俺達は昼食(俺は天そば、一夏は日替わりランチ、鈴ちゃんはラーメン)を持って席に着いた。

 

みんなが近くに座ったのを確かめると、一夏が口を開いた。

 

「さてと、鈴に紹介しよう。左から順に、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、更識簪だ。箒のことは前に話したことがあったよな? 俺と彰人が通っていた剣道場のとこの娘さんだ。セシリアは代表候補生で、俺達にISの操縦を教えてくれてる。簪は……ちょっと訳ありで、彰人と一緒に自分のISを制作しているんだ」

 

「ちなみに大きな声じゃ言えないが、鈴は信用できるから伝えておく。……セシリアと簪は、俺と付き合ってるんだ」

 

「へ~ってマジ!? 2人も!? ………再会していきなりそんなサプライズがあるなんて……アンタこそ、中々やるじゃない」

 

やろうと思ってやったわけじゃないけどな。てか、意識してやれる人がいるなら俺は尊敬する。

 

(それにしても、篠ノ之箒……か……)

 

「ん、どうした? じっと見てきて」

 

「ううん、何でもないわ。よろしくね、箒」

 

「こちらこそよろしくな、鈴」

 

ここは大した問題はないようだ。

 

「セシリア・オルコットですわ。よろしく、鈴さん」

 

「うん、よろしくね。セシリア」

 

よかった……原作みたいに険悪にならなくて……。

 

「さ、更識簪……です。よろしく……」

 

「よろしく、簪」

 

簪はやや緊張気味みたいだ。けどそれも最初だけだった。

 

談笑していると、鈴ちゃんは周りとすぐに打ち解けた。この辺り、彼女の人徳が表れているんだろう。すると、箒ちゃんがタイミングを見計らったかのように鈴ちゃんを真剣な顔で見つめた。

 

「……なあ、鈴」

 

「ん?」

 

「いきなりで悪いが、少し2人で話したいんだ…いいか?」

 

「……別にいいけど…」

 

2人は席を立つと、食堂の隅っこに移動していった。……何をしているんだろう? 気になるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

私は箒に連れられ、食堂の隅に来ていた。

 

「で、用件は何なの?」

 

「ああ。一夏から聞いたんだが、鈴は私がいない間、一夏を支えてくれたんだな?」

 

何だ、そのことか。どんなことを聞かれるかと思って一瞬身構えちゃったじゃないの。

 

「そうよ。ごめんなさいね、出しゃばっちゃって」

 

「いや、今一夏がこうしていられるのは、鈴のお陰だ。だから私は、鈴に感謝しているんだ。……ありがとうな」

 

っ!? ま、まさかこんなストレートにお礼言われるなんて……変に警戒してた私が、バカみたいじゃん。

 

「ひ、人として当然のことをしただけよ。それで、聞きたいことはそれだけかしら?」

 

「後1つだけある。……鈴、お前は一夏のことを、今でも好きなのか?」

 

「えっ!?」

 

な、何でそんなことを!? ……さては一夏の奴、喋ったわね? 別に話そうが話すまいがどっちでもいいけど。はぁ、本当は言いたくなかったけど、聞かれた以上は答えるしかないわね。

 

「……好きよ。情けないことに、割り切ることができなくてね。でもいいの。一夏はアンタのことが好きみたいだし、どうせアンタ達付き合ってるんでしょ? だったら私は「そのことなんだが」……?」

 

「確かに私と一夏は付き合っている。だが、一夏はどうも鈴のことも好きで、そのことで悩んでいるようだ」

 

「え……」

 

私は言葉を失ってしまった。どういうこと? 一夏は箒のことが好きなんじゃ……。

 

「自分を献身的に支えてくれた姿に、心惹かれたと言っていた。最も、明確に気づいたのはお前に告白された時だそうだが」

 

「っ!?」

 

嘘……それって、私のせいじゃない……私が告白したから、一夏が悩む羽目に……そんな……!

 

「わ、私……そんな、つもりじゃ……」

 

「そう悲観的にならないでくれ。実は、私にちょっとした考えがあるんだ」

 

「……考え?」

 

「だがそれを言う前に、まずは一夏を連れてくる必要がある。すまないが、ここで少し待っててくれ」

 

そう言うと、箒は一夏達のところに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「一夏」

 

「ん? どうした箒?」

 

「悪いがちょっと来てくれ。鈴のことで、な」

 

「……わかった」

 

箒に促され、俺は席を立った。鈴に関することなら俺にどうこう言うことはできないし、どんな話になってるか予測できない。しかし、俺まで呼んだということは何か重要なことなんだろう。

 

「待たせたな」

 

「一夏……」

 

鈴が申し訳なさそうな顔でこちらを見てくる。多分、俺が鈴にも好意を抱いていることを知ったんだろう。

 

「……鈴のせいじゃないさ。で、俺まで呼び出したってことは、何か大事な考えがあるんだろ?」

 

「その通りだ」

 

やはりか。でも、俺と鈴を居合わせて……何をする気なんだ?

 

「だがその前に確認をするぞ。一夏、お前は私のことが好きだ。が、同時に鈴のことも好きだ。そうだろう?」

 

「……ああ」

 

「うむ。では次に鈴。お前はもし許されるなら、一夏と両想いになりたいと思っているか?」

 

? 何故その質問を鈴に……?

 

「そ、それは……………そうよ。だって私はまだ、一夏のことが好きだもの!」

 

っ!? マジでか!? てっきり俺のことなんか忘れてくれてると僅かながらに思っていたが……。

 

そして、それを聞いた箒は腕を組んで何回か頷いていた。いよいよ本題に入るのか?

 

「……よし。これなら本題を切り出してもいいだろう。では単刀直入に言わせてもらうが……一夏、私と鈴の両方と付き合う気はないか?」

 

「「えっ!?」」

 

予想だにしてなかった言葉に、俺と鈴は揃って驚いてしまった。

 

「あ、アンタそれ本気で言ってるの!? 別に反対する気はないけど……大丈夫?」

 

「問題ない。既に前例もあるし、ちゃんと平等に愛してくれれば構わない」

 

そう言うと、箒は彰人の方をチラッと見た。……身近なところに前例があると、凄い安心感があるんだって初めて知った。

 

「で、どうなんだ?」

 

「私は……箒が許してくれるなら、それでいい。ねえ…一夏はどうなの?」

 

「……俺も箒の意見に賛成だ。鈴の好意を無下にするなんて俺にはできないし、箒が言ったように前例を見てるからな……悩んでた自分が、アホらしくなっちまってさ」

 

「フッ、決まりだな」

 

「っ……一夏、ありがとう……」

 

余程嬉しかったのか、鈴はポロポロと涙を零し始めた。

 

「2人とも。こんな俺だけど、絶対2人とも幸せにしてみせるから。だから……これからもよろしくな」

 

「「ああ(うん)、こちらこそ。よろしくな(ね)」」

 

……これで、長い間俺が抱えていた悩みも解消されたということか。

余韻に浸りながら、俺達は席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「待たせたな、彰人」

 

「おう、おかえり一夏。やっぱ俺と同じになったか」

 

「っ…何で知ってるんだ?」

 

俺が一夏達が話し合いの末に出したであろう結論を言うと、一夏はあからさまに驚いていた。

 

「だってあの3人で話してる時点でどんな内容かは想像がつくし、お前等が穏やかな顔つきをしてた時点で、そういう結果になったんだろうなって確信できたからな」

 

「そうだったんだ。あーあ、じゃあわざわざあんなとこで話す必要なかったじゃん……」

 

俺の説明を聞いた鈴ちゃんは、少し不貞腐れている。

 

「なあ3人とも。このことは周りには―――」

 

「ええ、わかってますわ箒さん。時が来るまでは私達の秘密、ですわよね?」

 

「……お互い同じ状況だから、言い辛いよね」

 

「「それ以前に、場所が場所だけに言えないんだよな」」

 

簪の言葉に一夏と同時に頷きながら言う。もし付き合っていることがバレたなら、阿鼻叫喚になることは間違いない。それも付き合ってる状況が特殊なら尚更だ。

 

そう考えていると、一夏が鈴ちゃんに真剣な顔つきで向き直っていた。

 

「そういえば、鈴に言っておきたいことがあるんだった」

 

「何一夏?」

 

「クラス対抗戦だが……加減なしの全力で来い」

 

「っ!!」

 

「ほう……」

 

「勿論俺も全力で戦う。本気同士のぶつかり合いといこうじゃないか」

 

一夏の奴、純粋に鈴ちゃんと勝負したがってるな。原作みたいに不用意な発言で怒らせるよりは格段にマシだ。

 

「……いいわよ。私の実力、存分に見せてあげるから!!」

 

「おう。期待してるぜ」

 

「それじゃあ、後でね」

 

そう言って鈴ちゃんは一旦去って行った。……コイツは面白くなってきたじゃないか。



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36th Episode

放課後。俺達は揃って第三アリーナに集合し、これから練習を始めようとしていた。が……。

 

「案外、すんなり借りられるもんなんだな。訓練機って」

 

箒ちゃんが量産型であるM1アストレイを纏って、感触等を確かめている。こんなに早く借りることってできるの?

 

「……そんなこと、普通できない」

 

「ええ。普通なら書類を通さなくてはいけない筈ですが……」

 

「俺等でも二日程かかったんだし、何でだ?」

 

「それなんだが……どうもよくわからなくてな」

 

困ったように腕組みをしながら、箒ちゃんは思い出すように話し出した。

 

「書類に必要事項を書いていざ提出した時に、受付の人の様子が変わったことは覚えている。それから『あの篠ノ之博士の妹!? なら……』とか何とか小声で言っていたが、ややあって突然に『今日から君には、訓練機をいつでもどんな時でも使える権限を与えるわ。だから篠ノ之博士によれしくね!』と言われてよくわからないカードを渡された。……姉さんに何か用でもあったのか、あの人は?」

 

「「「「…………………………」」」」

 

箒ちゃんの話の内容に、俺達は絶句してしまった。つまるところ、箒ちゃんが束さんの妹だということに目をつけた受付の人が、束さんに恩を売るつもりで(おそらく独断で)権限を与えたんだろう。……そんなことしても、束さんは見向きもしないだろうに。

 

「ま、まあとにかく、この話は置いといて。事前に話し合ったように行動しよう!」

 

「そ、そうだな。今は考えてる時間も惜しいもんな」

 

「む…確かに。無駄話をしている暇はないな」

 

「え、ええ。そうとわかれば、早く始めましょう」

 

「…………(コクコク)」

 

強引に話を切り上げ、俺達は訓練をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Out SIDE

 

訓練開始から小時間。それぞれどんな内容をこなしているか、見てみよう。

 

まずは一夏達。

 

「くっ!」

 

セシリアが放ったビームライフルを一夏は辛くも回避する。しかし、そこへ箒がビームサーベルで斬りかかる。一夏は咄嗟にサーベルを左手で掴んで止める。

 

「ならばっ! せぇやっ!!」

 

箒はビームサーベルを手放すと、腰の対艦刀を引き抜き、思い切り振りかざした。

 

「させるか!」

 

しかし一夏も、対艦刀を持ってる右腕を蹴り飛ばし、衝撃で対艦刀を吹っ飛ばす。

 

「しまっ!?」

 

「これで!!」

 

更に追い打ちをかけようと、一夏はGNソードⅢに赤いエネルギーを纏わせて両断しようとするが、

 

「箒さん!」

 

「っ!?」

 

ドラグーンによる一斉射撃が一夏を襲い、何とか回避したものの攻撃は中断されることになった。

 

「すまない、助かった」

 

「これくらい当然ですわ」

 

連携した二機が並び立った直後、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

「ここまでだな……ありがとうな、2人とも」

 

「ああ。しかし最後は危なかったな……連携していなければ、あのまま負けていたかもしれん」

 

「よく言うぜ。箒だって機転を利かせまくったろうに」

 

「一夏さんの近接格闘もさることながら、箒さんの上達具合も凄まじいですわね」

 

「そうか? あまり上手くいってるとは思えないんだが……ISの操縦だって、ほぼ直感で動かしてるだけだし」

 

「箒はその直感が冴えわたってるんだよな。昔っから」

 

腕を組みながら、一夏は懐かしむように言った。まだまだ荒いところはあるが、箒の操縦技術も上がってきている。

 

「それで、鈴には勝てそうか?」

 

箒の質問に、一夏は間を開けて答えた。

 

「……相手の出方にもよるが、トランザムの使い所を間違えなければ勝率は上がるだろう」

 

「トランザム搭載機は、効果が切れた際に一時的に機体性能がダウンしてしまいますからね……」

 

「徐々に充填されるとは言え、シールドエネルギーも減少するからな。……まあ、焦って変なところで使わなければいいとは思うが」

 

「それもそうだ。んじゃ、ピットに戻るか」

 

肩をすくめながら一夏が言うと、箒とセシリアは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、彰人達は。

 

「どうだ、簪?」

 

「……各システムオールグリーン。今のところ問題はない」

 

生身の状態の彰人が、専用IS―――アストレイブルーフレームセカンドLを纏った簪を見る。彼女の機体はほぼ完成状態にある。これはセシリアの協力があったのと、原作にあったミサイルランチャーとマルチロックオンシステムが存在してないからである。

 

「……武装チェックに移る」

 

次に簪は両腰とつま先に装備されたナイフ型武器、アーマーシュナイダーを装備。すぐ仕舞うと今度は背面に装着されたタクティカル・アームズを分離、ガトリングモードに変形して構える。その次は、タクティカル・アームズをブレードモードに再変形させて所持し、軽く振り回す。最後に分割装備されたローエングリンランチャーを装備し、また元に戻す。

 

「……こちらも問題はない」

 

「セシリアの知識がかなり役立ったからな。さすがは代表候補生だ」

 

「……それもあるけど、彰人が手伝ってくれたから。私のモチベーションも、良くなったし……」

 

「そ、そうなのか……」

 

恥ずかしげに言う簪に、彰人もどこか気恥ずかしさを感じた。

 

「じ、じゃあ次は挙動チェックだな。簪、俺も見てるから自由に動き回ってくれ」

 

「……うん」

 

コクリと頷くと、簪はスラスターを噴かして空へと舞った。その後はくるくると回ってみたり、武装を展開して素振りや空撃ち等を行った。

 

しばらくして、彰人もウイングゼロを展開して簪の隣へと向かう。

 

「どんな感じだ?」

 

「……右側のスラスターの出力が、ちょっと弱くてそれ以上上がらない」

 

「なるほど……それなら、左側の出力を敢えて落として、調整するのはどうだ?」

 

「……やってみる」

 

「よし。そうと決まれば、ピットに戻ろう(これなら、すぐに完全な状態に仕上がりそうだな。後で更識さんに、クラス対抗戦後ならいつでもOKって連絡しとこ)」

 

彼らも本日の訓練を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「ふぃ~…」

 

「一夏、お疲れ。はいこれ、タオルとスポーツドリンク」

 

ピットに戻って機体を解除したところで、鈴にタオルとスポドリを渡された。

 

「おっ。わざわざありがとな、鈴」

 

礼を述べた後、まずタオルで顔の汗を拭い、次によく冷えているスポドリを一気に飲む。

 

「っあ~! うまい!」

 

疲れた体に、スポドリが程良く染み渡る。それから少しばかり、俺と鈴は無言になる。

 

「ようやく……2人きりになれたね……」

 

「あ…ああ」

 

やばい。自室でもそうだが、好きな女子と2人きりになるのって凄い緊張する……!

 

「私ってさ。特殊だけど……一夏の恋人に、なったんだよね?」

 

「ああ。勿論だ」

 

「じゃあ……こんなことしても、いいよね」

 

そう言うと、鈴は俺の胸に頭を預けてきた。

 

「鈴……?」

 

「……寂しかったんだから」

 

その言葉で、俺は鈴が抱えている想いを理解し、鈴をしばらくの間そっと抱きしめた。

 

「ありがとう、一夏。もう大丈夫だから」

 

「そうか」

 

明るい笑みを浮かべる鈴。それを見て、やっぱり俺は鈴のことも好きなんだと痛感する。平等に愛するか……難しそうだなぁ。

 

「あ、もうこんな時間。早く戻らないと」

 

「ん? そうだな……この時間帯ならシャワーは空いてるから、鉢合わせる心配はないか」

 

「え? 鉢合わせって……アンタ、彰人と相部屋じゃないの?」

 

「……あっ……」

 

しまった! つい口が滑ってしまった!!

 

「そ、それは、えと……」

 

「い・ち・か? 一体どういうことなのか、説明してくれるかしら?」

 

やばい。下手なことを言おうものなら、逆鱗に触れてしまう……な、何とかせねば!

 

「じ、実は…女子と相部屋なんだ……」

 

「やっぱり!? 一体誰となの!?」

 

「ほ、箒……」

 

「え、箒!? ど、どうしてそうなったの!!」

 

「ひ、1人部屋が間に合わなくて……彰人だって簪と相部屋してるし、仕方がないんだよ……」

 

「それはそうだけど……でもそれって、寝食を共にしてるってことでしょ!?」

 

「そ、そうなるのか?」

 

「そうとしか言えないわよ! ああもう、こうしちゃいられないわ!」

 

そう言うと、鈴は出口に向かって一目散にダッシュした。

 

「お、おい鈴! 部屋割りを変えてほしいのなら、諦めた方がいいぞ!」

 

「はぁ!? どういうことよ!?」

 

俺の言葉に鈴は足を止めて尋ねる。

 

「変更するにはまず一年の寮長に許可貰わないといけないんだが、誰だか知ってるか?」

 

「そういえば……知らなかったわね。でも誰であろうと、私なら大丈夫よ!」

 

な、なんて命知らずな奴……知らぬが仏とはこのことだろうか? 単に無知なだけだろうけど……。

 

「で、誰なの! 今すぐ乗り込んでやるわ!」

 

「……姉さん」

 

「………………………………………………ゑ?」

 

「一年の寮長は、千冬姉さんなんだよ」

 

「……………………………………」

 

思わず唖然としてしまっている鈴の肩に、俺はそっと手を置く。

 

「それを踏まえた上で……逝ってらっしゃい」

 

いくの字が違うのは誤字に非ず。

 

「行けるかぁぁぁぁぁああああああああああ!! 理由告げたところで即アイアンクローかまされるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!! うわーん、神様のバカ野郎ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

思い切り泣きべそかきながら、鈴は立ち去ってしまった。……俺は悪くない筈なのに、物凄い罪悪感に苛まれた。

 

「……疲れたな」

 

そんな俺の呟きは、誰もいないピットに響くのであった。



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37th Episode

試合当日。アリーナ管制室にいる俺達に、映像が届く。第一試合がこれから始まるのだが、その初っ端から一夏と鈴ちゃんの対決が行われるのだ。互いに臨戦状態で、気迫が充分漂っていた。

 

鈴ちゃんが纏っているISは、第3世代型ISの『アルトロンガンダム(TV版の方)』。中距離戦法を得意としており、武装は両柄にビーム刃を形成することができるツイントライデントに、背部の可動式ビームキャノンに両腕にある打突武器のドラゴンハング。そしてドラゴンハングに装備された火炎放射器、ドラゴンファイヤーだ。

 

「俺はアイツの訓練をあんまり見てやれなかったけど、果たして勝てるだろうか?」

 

「勝てますわ。私と箒さんで、互いに教え合いながら訓練したのですから」

 

若干の不安を感じながら言うと、セシリアが自信ありげに断言した。

 

「…それもそうだな」

 

「そう心配せずとも、一夏は必ず勝つさ」

 

「……私も、彼が勝つことを信じる」

 

画面の向こう側を見つめながら箒ちゃんと簪が言う。俺も信じて待っていよう。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

アナウンスが流れ、一夏と鈴ちゃんが互いに5メートル程の距離感で向かい合うことになる。

 

さて、見せて貰おうか。一夏と鈴ちゃんの全力を―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

『それでは両者、試合を開始してください!』

 

「うおおおらぁぁぁああああああ!!」

 

「はぁぁぁぁあああああああああ!!」

 

試合開始の合図と共に、互いの得物が刃を交える。鈴はツインビームトライデントを駆使して連続攻撃を仕掛けてくる。俺はGNソードⅡとGNソードⅢの二刀流と運動性で攻撃を捌きつつ、隙を突こうとする。

と、ここで鈴が鍔迫り合いの状態を解く為に一度距離を取った。

 

……待ってたぜ。この瞬間を!

 

「そこだ!!」

 

「なっ!?」

 

オーバーブーストを使用し、一瞬にして距離を詰めると二本のGNソードを勢いよく上段から振り下ろした。

 

「そうは……くっ!」

 

対する鈴はツインビームトライデントを頭上に上げて持ち手の部分で受け止めてきた。ダメージを与えることはできなかったか……。

再度距離が離れる。俺が再接近した時、鈴は両腕のクローを展開しながら叫んだ。

 

「やるわね一夏。でも、勝負はここからよ!!」

 

その直後、アルトロンの両腕が伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「何だあれは……腕が伸びた?」

 

試合を見守っていた箒ちゃんが疑問を口にし、それに対しセシリアが答える。

 

「あれは『ドラゴンハング』ですわ。クローを展開しつつ腕を伸ばすことで本来届かない距離から相手を攻撃し、打ち出す際の勢いも攻撃の威力に加わる。ドラグーンと同じ第3世代兵器ですわ」

 

さらに簪が付け加える。

 

「……それにロック機能はハイパーセンサーを利用してる上に、ドラゴンハングには火炎放射まで装備されてるから実質的な射程はもっと伸びることになる」

 

「関節の稼働範囲がアレの射程範囲ってことだ。コイツは厄介だな……」

 

モニター画面を見ていると、一夏はGNビームマシンガンやGNソードⅢライフルモードで牽制しつつ様々な角度から接近を試みているが、その都度ドラゴンハングや火炎放射、ビームキャノンによる牽制を入れられ近づくことができない。遠距離攻撃が弱めのダブルオーライザーでは、中々本領が発揮できないのだ。

 

(トランザムを使えばどうにかなるんだろうけど、攻略法も見つけずに闇雲にやるのは危険だしな)

 

「一夏……」

 

思考している俺の隣で、箒ちゃんが心配そうに画面を見つめる。

 

「確かに苦戦しているようだな。だが私は、決して一方的に不利な状況ではないと思うが」

 

試合を見守っていて初めて口を開いた千冬さんは、周囲にとって予想してないことを言った。

 

「え、どういうことですか?」

 

「簡単なことだ。織斑は一見不利だが、少しずつ攻略法を掴んていっている。よく見るんだ」

 

山田先生の疑問に千冬さんはそう答える。俺達は言われた通りモニター画面に注目する。一夏はブーストを短めに多用して前後左右に動き、ロックされることを可能な限り避けながら接近し攻撃していた。

 

「先ほどまで攻め倦ねていたのに……急にどうしたんでしょうか?」

 

「至極単純な考えだ。目視によって自身がロックされるなら、目で追いつけないような機動で立ち回ればいい。……放たれた時にはもう遅い。しかし、放たせなければ勝機はある。それ故の行動だろう」

 

セシリアの疑問に、千冬さんが解説する。要はロックされなきゃいいってことだ。言う程簡単じゃないが。

 

「凄いなぁあの動き……稼働時間は俺と同じだってのに。やっぱ一夏は只者じゃないな」

 

「よく言う。お前こそその気になれば、あれぐらいの動きはできるだろうに。全く……時々、お前達が恐ろしく思えるよ」

 

そこは黙っててくださいよ千冬さん……。ほら、みんな口を噤んじゃったじゃんか。かつての世界最強…ブリュンヒルデの称号を持った人の言葉だから、笑い話にならないんですよ。……冗談めかしてるのはわかってるけど。

 

「ですが、これで一夏の勝ちが見えてきましたね」

 

「ああ。油断さえしなければ、決着は時間の問題だろう。アイツは詰めの甘い奴ではないから心配は無用だと思うが、焦って足下を掬われないか気がかりだな」

 

「あ……やっぱり織斑先生も、弟さんのことは心配なんですね?」

 

山田先生が場を和ませようと茶化したように言ったが……はっきり言おう。逆効果だそれは。

 

「…………………………」

 

千冬さんは無言で山田先生に向かい合うと、ほっぺを両手でぎゅーっと引っ張った。

 

「いひゃひゃ!? い、いひゃいですよ、織斑せんしぇい!」

 

「何て言ってるのかよくわかりませんよ、山田先生。はっきり喋って下さい」

 

「ご、ごめんなしゃい! ごめんなしゃい、織斑せんしぇい! ひゃかすことをひってすみましぇんでひた!!」

 

涙目になりながら山田先生が必死で謝ると、千冬さんはため息をついて手を離した。

 

「……私は身内がネタにされるのは嫌いなんだ。そのことをよく覚えておくように」

 

「ふ、ふぁい……」

 

頬を押さえながら言う山田先生にセシリア、簪、箒ちゃんは苦笑していた。……口は災いの元って、こういうことを言うんだろうな。

 

「……ん?」

 

モニター画面を見てみると、一夏が鈴ちゃんと真正面で向かい合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「鈴、そろそろ決めるぞ」

 

GNソードⅢの切っ先を向けながら、俺は鈴に言った。

 

「っ…上等よ! 来なさい!!」

 

対する鈴も、ツインビームトライデントを右手に持って構える。緊迫した空気の中、ふと聞こえた小さな物音を切っ掛けに俺達は動き出した。

 

「はぁぁぁぁああああああああああああああ!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

互いにブーストを全開にして接近する。だが―――

 

「トランザムッ!!」

 

俺はトランザムを発動し、機体速度をオーバーブースト以上に速めた。

 

「なっ、速い!?」

 

オーバーブースト状態に目を慣らしていた鈴は、見事に動揺している。この為にトランザムを温存していたんだ! 俺は鈴に急接近し、GNソードⅢを振りかぶった―――瞬間。

 

 

ズドォォォオオオオオオン!!

 

 

アリーナの中央に、強力なビーム砲らしきものがどこからか放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

ビーム砲の衝撃に、俺は咄嗟に身構えた。来るのがわかっていても、こういうのは驚くもんだな。

 

「な、何!? 何が起きましたの!?」

 

「爆発か!?」

 

「……違う。何かビームのようなものが……!」

 

簪がそう言った瞬間、大出力のビームが再び放たれた。

 

「そんな……シールドレベルが4になってる!? しかも、扉が全てロックされてるなんて!!」

 

「織斑、凰―――」

 

山田先生の悲鳴に近い声の後に、千冬さんが一夏達に通信しているが、俺はそれよりもモニター画面に注目していた。ビームが放たれた地点をじっと見ていると、やがて煙が晴れて襲撃者の姿が露わになる。それを見た俺は、言葉を失った。

 

―――通常のISの二倍近くある漆黒の巨体。左腕に装着された巨大なシールド。胸部に存在する三門の砲口。不気味に光るツインアイ。

 

 

その機体の名は……サイコガンダム。

 

 

「っ……!!」

 

「あ、彰人さん!? どこに行く気ですの!」

 

次の瞬間、俺は格納扉に向かって走り出した。

 

 

 

 

(急がなければ……!)

 

通路を全力疾走した俺は、どうにか格納扉に辿り着いた。だが案の定、扉はロックされていた。

 

「なら、これで……!」

 

俺は何の迷いもなくISを展開すると、ツインバスターライフルの砲身を向けた―――。



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38th Episode

一夏SIDE

 

ビーム砲による襲撃の後、アリーナの中央には大量の粉塵が舞っていた。

 

「な……何? 何が起きたの?」

 

「俺にもわからんが、『何か』が来たのは間違いない」

 

戸惑いを隠せない鈴に言うと一瞬何のことかわからないといった表情になるが、すぐに一変させた。

 

「一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!」

 

良い判断だ。ピットに入りさえすれば、一時でも安全は確保される。……そう、入りさえすれば。

 

「……残念だが、それは無理らしい。ピットの格納扉が全て閉まっている」

 

「!? そ、そんな……!」

 

逃げることさえも許されない状況に、鈴は動揺する。それを好機と見たのか、未だ見えない敵からビームが放たれた。

 

「っ! 危ない!!」

 

俺は咄嗟に鈴を抱きかかえると、その場を離脱する。瞬間、さっきまでいた場所を強力な熱量が通過した。

 

「危機一髪だったな……鈴、大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫……」

 

「そうか……よかった。悪いが敵機を視認するまでしばらくこのままだ。いいか?」

 

「は、はい!」

 

何故か様子がおかしい鈴をかかえながら、俺は敵がいるであろう方向を見る。やがてその姿が露わになった。

 

通常のISの二倍近くある大きさを持つ漆黒の機体―――サイコガンダムが。

 

(よりにもよってコイツか……彰人が黙っていなさそうだな)

 

そう思いながら鈴を下ろすと、彼女は険しい顔つきでサイコガンダムを睨んでいた。

 

「ちょっとアンタ! 一体どこのどいつなのよ!?」

 

「………………」

 

怒鳴りながら問いかける鈴だが、相手は無言のまま答えようとはしない。

 

『織斑君! 凰さん! 急いでアリーナから脱出してください! すぐに制圧部隊がそっちに向かいます!!』

 

山田先生から通信が入った。俺は静かに、それに答える。

 

「ごめんなさい……それはできません。ピットの格納扉が閉じていて、脱出不可能なんです」

 

『えっ!? で、では今開き……!? そんな……シールドレベルが4になってる!? しかも、扉が全てロックされてるなんて!!』

 

想定外の出来事に慌てる山田先生。それを見かねたのかどうかはわからないが、千冬姉さんが介入してきた。

 

『織斑、凰。今聞いたように、現状は最悪だ。ロックを解除しない限り、そちらへの支援はできそうにない』

 

つまり、2人だけで戦えというわけだ。なら俺に迷いはない!

 

「わかりました。では、こちらで迎撃行動に入ります!」

 

『お、織斑君ダメです! いくら何でも無茶な……』

 

『許可する! ただし、決して無理はするな。これは命令だ、わかったな?』

 

「「了解!!」」

 

『織斑先生!? ですが……』

 

『山田先生、今は彼らを信じるんだ。生徒を信じるのも、教師の役目だ』

 

『っ…………はい!』

 

直後、通信が切れた。さてと……。

 

「行くぞ鈴! 攻撃開始だ!!」

 

「ええ! 遠慮なしでやるわよ!!」

 

俺達は敵ISを挟み撃ちにした状態で、攻撃を開始した。

 

「食らえ!」

 

まずは鈴がビームキャノンを放つ。が、サイコガンダムのIフィールドバリアに阻まれてしまう。

 

「バリアですって!? 小癪な……!」

 

「鈴! そのIフィールドはビームライフル系にしか、効果がないぞ!」

 

「っ、そういうことね! だったら!」

 

今度はドラゴンハングを放ってサイコガンダムに食らい付く。効いているのか、バランスが崩れる。

 

「今よ一夏!」

 

「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

 

そこへGNソードⅢで斬りかかる。手応えは確かにあった……が、サイコガンダムは人間では到底あり得ない動きで体勢を立て直すと、こちらに接近しながら拡散メガ粒子砲を放ってきた。

 

「!? くっ!」

 

粒子化しつつ敵から距離をとった俺は、一旦鈴のもとへ戻った。

 

「一体何なのよ、アイツ!? 何で私や一夏の攻撃を何度も受けて平気なわけ!?」

 

「相当頑丈なんだろう。これは厄介だな……」

 

どうにかできないものかと考えていた―――その時。

 

 

ドガァァァァァァン!!

 

 

サイコガンダム後方にあるピットから爆音が聞こえた。同時に黄色いビームが姿を見せると、サイコガンダムに直撃しIフィールドバリアを貫通。威力は弱まったものの、構えていたシールドにはいくつかヒビが入っていた。

 

「今度は何!?」

 

「今のはツインバスターライフルの……てことは」

 

ピットから一機のISが発進し、俺達に近づいてくる。その正体はハイパーセンサーで見ずともわかる。

 

「あれは……!」

 

「待たせたな、2人とも」

 

「やっぱり来たか、彰人」

 

彰人のウイングガンダムゼロだ。

 

「彰人! アンタ何で!?」

 

「こういう時こそ、助け合い……だろ?」

 

「……! そうだったわね!」

 

納得する鈴だが、俺はプライベートチャンネルでこっそりと会話する。

 

「で、本音は?」

 

「あの機体をぶっ潰しに強行突破して来た」

 

「だと思ったよ……」

 

前からある癖のようなものの1つだ。彰人はサイコガンダムシリーズの他に、デストロイガンダムや仮面ライダーG4といった『パイロットをもパーツとして扱う機体』に物凄い嫌悪感を抱いている。今回も居ても立ってもいられなくなったんだろう。

 

理由はなんであれ、こちらの勝率が上がったのは確かだ。ここで鈴に敵ISの情報を教えるべきだろう。

 

「2人ともちょっと聞いてくれ。実はずっと戦っててわかったことがあるんだ」

 

「? 何がわかったの?」

 

「結論だけ言おう。……あのISに、人は乗っていない」

 

俺の言葉を聞いた鈴は一瞬唖然とした。

 

「ち、ちょっと待ちなさい! アンタはあのISが『無人機』だって、そう言いたいの!?」

 

「……理由を聞こうか」

 

慌てて尋ねる鈴と知ってる上で尋ねてくる彰人。正直どんな理由を言えばいいのか戸惑っていたが……この戦闘で充分すぎる程集まった。

 

「まず1つに、アイツの機動性だ。とてもじゃないが、人間では不可能な動きをしている。鈴、アイツと同じ動きができるか?」

 

「そ、それは……」

 

できる訳がなく、言葉に詰まる鈴。

 

「次に現在の状況だ。俺達がこうして会話している時に限って、アイツは殆ど攻撃をしてこない。まるでこっちを観察しているみたいだと思わないか?」

 

「っ! 言われてみればそうね……こんな時こそ、攻撃するチャンスだってのに……」

 

「理由はどうだっていい。アイツが無人機なら、遠慮はしなくていいってことだ」

 

彰人はビームサーベルを引き抜いてやる気満々なオーラを出している。……こういう時の彰人は相手をとことんこてんぱんにするから、少し危ないんだよな。そう考えていると……。

 

「ん?」

 

モニターに新たな情報が表示されていた。

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)???、第二段階解除。ライザーソード、使用可能』

 

……何故にこのタイミングかはわからないが、どうやら運はこっちに味方してくれるようだ!

 

「ならアレを無人機と仮定するとして、何か作戦はあるの?」

 

「ああ。まず鈴と彰人が左右から攻める。狙いは両手と胸部発射口の破壊だ。破壊したらすぐに離脱してくれ。頭部のビーム砲は俺に任せろ」

 

「任務了解!」

 

「わかった。やってやるわ!!」

 

作戦通りに2人が動く。彰人はビームサーベルを、鈴はツインビームトライデントを構えて突撃する。

 

「おらぁぁぁあああああああああ!!」

 

「せぇぇりゃああああああああ!!」

 

攻撃は発射寸前のサイコガンダムの両手に見事ヒットし、エネルギーを暴発させ破壊した。すぐに拡散メガ粒子砲をチャージするが、発射口にサーベルとトライデントを突き立てられ、エネルギーの逃げ道がなくなり再度暴発。破壊された。

 

「よし、後はこれで!」

 

2人が離れたところで、俺は新たな機能を解放した。

 

「ライザーシステム、作動!」

 

モニターに『RAISER SIS COMPLETE』という文字が出て、機体が真っ赤に染まる。俺はGNソードⅢを真上に掲げ―――

 

「トランザム……ライザァァァァァァァァッ!!」

 

その名前を叫んだ。直後、GNソードⅢから赤く巨大なビームが天高く放たれた。……出力は全開ではないが、それでもシールドギリギリとは、恐れ入る。

 

「な、何よそれぇぇぇ!?」

 

「ヒュウ~、わかってるなぁ」

 

鈴は大いに驚き、彰人は感心する。サイコガンダムも予想外のことに処理能力が追いついてないのか動きが止まっている。チャンスだ!

 

「そこだぁぁぁぁああああああああああああああ!!」

 

俺は右腕を一気に振り下ろす。サイコガンダムは左腕のシールドで防御するが、ライザーソードはそれごと機体を両断した。ダブルオーライザーが通常モードに戻る頃には、サイコガンダムは左半身が消し飛んだ状態で倒れていた。

 

「倒したみたいだな」

 

「ええ……って言ってる場合じゃないわよ! 今のは何よ一夏! あんな隠し球持ってたなんて……私との戦いは本気じゃなかったって訳!?」

 

「ご、誤解だ鈴! アレが使えるようになったのはつい今さっきなんだ。鈴との時は、全力だったよ」

 

怒り心頭の鈴をどうにか宥めていた時、ダブルオーのハイパーセンサーがサイコガンダムがまだ完全に機能停止してないことに気づいた。

 

「鈴、気をつけろ! 敵が狙っている!!」

 

「え!?」

 

驚く鈴を横目に、俺はGNビームサーベルをサイコガンダムに投げつける。が、頭部に突き刺さる前にメガビーム砲が放たれた。直後にサーベルが頭部を貫き、サイコガンダムは今度こそ機能停止した。だがメガビーム砲は鈴に迫っていた。

 

「避けろ鈴!!」

 

「あ、あぁ……!」

 

「くっ、どけぇ!!」

 

突然のことに固まってる鈴を彰人が俺に突き飛ばす。だが―――

 

「しまっ、うぐあっ!?」

 

メガビーム砲がウイングゼロの頭部に直撃。衝撃で彰人は地面に落下し、ISが解除された。俺達は急いで彰人に駆け寄る。

 

「あ、彰人! 大丈夫!?」

 

「どれ……………………軽い脳震盪を起こしてるようだ。命に別状はない」

 

「そ、そう……よかった……」

 

彰人の無事にホッと一息ついていると、千冬姉さんから通信が入った。

 

『織斑、聞こえるか!?』

 

「はい」

 

『不明機のエネルギー反応が消失を確認した。矢作が飛び出したようだが、被害状況は?』

 

「当の彰人が気絶したこと以外は、特にありません」

 

『そうか……全く、人に心配をかけておいて……。ピットに医療班を待機させてある。すぐ戻るんだ』

 

「了解しました」

 

ツインアイから光が消えたサイコガンダムを一度見た後、俺達はピットへ向かった。



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39th Episode

「…………ん……ここは……?」

 

気がつくと俺はベッドの中に居た。多分医務室だろう。

 

「「彰人(さん)!!」」

 

状況を確認したら、目元を赤くさせたセシリアと簪がこちらに身を乗り出してきた。

 

「な、何事?」

 

「この状況でそれを言うか、普通」

 

「あ、織斑先生」

 

やや後ろにいる千冬さんが呆れた様子で言った。

 

「今は他人行儀でなくてもいい。それより…格納扉は壊すわ、無断出撃はするわ、仲間を庇って撃墜されるわ……最後のはともかく、普段のお前なら考えられんことだが?」

 

「……あ~……」

 

原作でゴーレムだった機体がサイコガンダムだったんで、怒りと勢いに任せて出撃したんだっけ……なんて言い訳しよう? アレがパイロットをもパーツと見なす機体だったから……て言っても、今回のは無人機だから通らないよなぁ。どうしたもんか……。

 

「それは、えっと……「まあ待て。皆まで言わなくともいい」え?」

 

「正義感の強いお前のことだ。大方、2人が心配で居ても立ってもいられなくなったんだろう?」

 

「…………は、はい」

 

言えない……違うだなんて言えない……!

 

「友を心配するのは当然のことだからな。本来は反省文を書かせるところだが、今回は特別に見逃してやる。……最も、それ以上に大変なことがあるかもしれんが」

 

「へ?」

 

思わず間抜けな声を出した俺に、千冬さんはセシリア達を見るように目配せをしてきた。言われた通りにすると……2人とも、明らかにムッとした顔つきになっているのがわかった。

 

「あの……もしかしなくても、怒ってる?」

 

恐る恐る聞いてみる。

 

「当たり前ですわ!! 勝手にいなくなったと思えばアリーナに突入して、戦闘に加わって……!」

 

「しかも攻撃を受けて倒れちゃうし……あの時は本気で心配したんだから!!」

 

……そうだった……俺には、俺のことを気遣ってくれる人が2人もいるじゃないか……なのに、俺はサイコガンダムを墜とすことだけを考えてた……。人として、甘すぎるな。

 

「…………ごめんなさい……」

 

自分の犯した罪を痛感しながら、俺は2人に謝った。

 

「……今回は、特別に許しますわ。ですが、条件がありましてよ」

 

「わかった。何でも言ってくれ」

 

どんな無茶なことでも、それで許してくれるなら安いもんだ。でも一応身構えておくか……。

 

「え、えっとですね……」

 

が、何故かセシリアは顔を赤らめて若干もじもじとする。簪の顔も赤くなっている。……何か恥ずかしいことでもされるのか? さすがにそれは―――

 

「わ、私と、その…………き、キス……してくださいまし……!」

 

「……わ、私とも…してほしい……!」

 

―――何て考えてたら、顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい真っ赤になった2人にそう言われた。………………え、キス?

 

「……そういえば、1人ずつではしてなかったっけ……」

 

セシリアとしかけたことはあったけど、簪が割り込んで告白したから有耶無耶になって結果的に同時にした気がする。ふと簪に視線を向けると、ばつが悪そうに俯いていた。自覚してたのね。

 

千冬さんを見ると……空気を読んだのか反対側を向いていた。再び視線を戻すと、2人は訴えかけるように俺を見つめていた。……そんな目をしたら、何も言えなくなるじゃないか。

 

「……いいよ。キス、しようか」

 

「!! は、はい……! ではまず、私から……」

 

セシリアがゆっくりと顔を近づけてくる。吐息が当たってきて、俺も凄くドキドキしている。多分顔は真っ赤になっているだろう。そして………………。

 

「「んぅ……」」

 

俺とセシリアの唇が、重なった―――。

 

一瞬とも永劫ともとれない時間を感じながら、俺達は唇を離した。

 

「「………………」」

 

何とも言えない空気が漂う。な、何か言わなければ……!

 

「つ、次は……簪だったよな……」

 

「え、ええ。そうでしたわね……」

 

「う、うん。じゃあ……」

 

今度は簪がゆっくりと近づいてくる。一回した後だから余裕がでるかと思っていたが、そんなの全然なかった。

 

「「ん……」」

 

俺と簪の唇が重なる。セシリアとはまた違う感触にどぎまぎしながら、再び唇を離した。

 

「「………………」」

 

やはり黙ったままの俺達。……このままでは仕方ないので、俺が言うことにした。

 

「あの、さ。2人とも……こんな俺だけど、これからもよろしくな」

 

そう言うと、セシリアと簪は少し驚いた顔をしながらも、微笑みながら言ってきた。

 

「「はい。こちらこそ、よろしくお願いします(わ)」」

 

そんな彼女達を見てドキッとしながら、我ながら幸せ者だと思った―――その時。

 

「やれやれ、やっと入れそうだな」

 

少し呆れたような顔で、一夏が入ってきた。後ろには箒ちゃんと鈴ちゃんもいる。

 

「よっ、親友。元気そうで何よりだ」

 

「おう。元気は俺の取り柄だからな。…ところでお前、まさかと思うが見てた?」

 

「え? ああ、うん。入ろうとしたら、丁度セシリアが迫ってくとこでな……ごめん……」

 

「仕方ないよ。同じ状況になったら俺だって気まずいもん」

 

軽く話しているが、相手が一夏達でなければこうはいかない。絶対テンパるだろう。

……まあ親しいから軽くできるのは俺と一夏ぐらいだな。セシリアと簪と箒ちゃんと鈴ちゃんは、真っ赤のままどうしたらいいかわからないって顔をしてるもん。

 

「え、えっと……彰人。その、ありがとね。私を助けてくれて」

 

「気にするな。友達を助けるのは当然だからな」

 

辛うじて喋った鈴ちゃんに答える。そういえば千冬さんは……目を逸らされた。俺と一夏に丸投げする気ですか。

 

「そ、そう……ところでさ、一夏」

 

「ん?」

 

「さっき見たキスで思ったんだけど……私って、まだ一夏とき、キスしてなかったわよね?」

 

「……ああ、確かに。でもなんで今?」

 

「それは………………ええい!」

 

「うおっ!?」

 

鈴ちゃんは顔を真っ赤にし、一夏に飛びつきながらキスをした。さては見ていて当てられたな……。

 

勇気を出すのはいいが、余計気まずい空気になった為、落ち着くまでかなりの時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬SIDE

 

生徒達が寝静まった頃。私は山田先生と共にレベル4権限を持つ者しか入れない、学園の地下15メートルにある秘密の場所に訪れていた。

 

「織斑先生、あのISの解析結果が出ました」

 

「そうか。で、どうだった?」

 

私達の目の前には機体の半分が消し炭になり、機能停止したIS(一夏と彰人が言うにサイコガンダムという名前らしい)が運び込まれ、解析を行われていた。

 

「はい。……あれは……無人機です」

 

「そうか……」

 

予想していたことが山田先生の口から語られ、私は目の前の無人機ISを睨むように見た。

 

ただでさえISは謎が多く、世界中が躍起になって解析・開発している最中だ。ISの無人稼働も課題の1つだが、未だ完成には到ってない筈。だが今回襲撃してきたISにはそれがある。独立稼働か遠隔操作か、或いはその両方か……。何にせよ、表沙汰にはし難い事実だ。学園関係者全員に箝口令を敷いたのは正解だった。

 

「どのような方法で動いていたかは不明です。織斑君の攻撃で機能中枢が破壊されていたので、修復は不可能かと」

 

「コアはどうだった?」

 

「それが……登録されていないコアでした」

 

「……やはりか」

 

私は確信と疑念を持ってそう言った。

このISを作ったのは間違いなくアイツだ。世界の技術の数歩先を行くことなど、朝飯前だろうからな。ただ……これをアイツが送り込んできたのかとなると、話は別だ。何故かはわからないが、私は直感でこいつはアイツとは別の何者かが送り込んだのでは? と思った。単に直感に過ぎないのだが、頭にこびりついて離れない。何か私達の知らないところで蠢いてるのでは……と感じてしまう。

 

「何か心当たりでも?」

 

「(考えすぎだな……)いや、ない」

 

憶測であれこれ考えてても仕方ない。今は目の前の問題をどうにかしなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室

 

楯無SIDE

 

「無人機ねぇ……」

 

私は手元にある襲撃してきたISに関するファイルを見通していた。

 

「こんなもの作れるのって、あの人以外にいないわよねぇ?」

 

「はい。篠ノ之博士、ですね」

 

虚ちゃんもそう言って頷いた。これについては間違いはない。けど……。

 

「…………本当に、篠ノ之博士が送り込んだのかしら?」

 

「お嬢様?」

 

「っ、何でもないわ。とにかく、この件について徹底的に調べる必要があるわね。手配してくれるかしら?」

 

「わかりました」

 

虚ちゃんが退室したのを確認し、私はふぅとため息をついた。あのISを送った目的は大方データ取りだ。それはわかっている。けど、そんなことの為にわざわざ無人機に襲撃させるかしら? 試合中の様子をハッキングして見ればいいだろうに。

 

「……やっぱり、裏に何かがいると見て間違いはなさそうね」

 

再びため息をつく。……そういえば、クラス対抗戦が終わった後に簪ちゃんと戦う約束をしていたわね。よし。見えない敵より、まずは可愛い妹と全力で戦ってみますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

束SIDE

 

「う~ん……」

 

私こと篠ノ之束は、先ほどからこうしてうんうん唸っていた。理由は私が廃棄した筈の無人IS『サイコガンダム』が、何者かの手によって起動しいっくん達を襲撃したからだ。そう簡単には起動できない筈なのに、それを可能にする程の技術力を有しているということは……。

 

「相手は組織……それも、かなり古くからあるものが妥当かな。強いて言うなら、亡国機業(ファントム・タスク)かな?」

 

その可能性は高い。となれば……いっくん達の変革を予定より早めなければならない。はぁ、これから忙しくなりそうだ……。



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設定1

登場人物

 

 

矢作(やはぎ)彰人(あきと)

 

性別 男性

 

この小説の主人公。友人と共に子供を庇って事故に遭い、死亡した。しかし神様に出会い『IS』の世界に友人と共に転生した。転生前の名字は桑原(くわはら)。ノリが良く明るい性格。ガンダムシリーズや仮面ライダーが大好き。容姿は黒髪黒眼で前世とほぼ同じ(所謂普通)だが、ある条件下でのみ金髪翠眼になる(後述)。

基本的に優しいが絶対に許せないことがある場合はその限りではなく、相手にいかなる理由があろうと徹底的に追い詰め、確実に殲滅する(この状態を、一夏はフリットモードと呼ぶ)が、これによって周囲が見えなくなることがある。

 

 

専用IS

 

ウイングガンダムゼロ(TV版)

 

見た目と武装、その他能力は新機動戦記ガンダムWのウイングゼロと同等。ゼロシステムも搭載しており、危険性もそのまま。

ちなみにこの姿は一次移行した状態で、初期段階はウイングガンダム(TV版)。両方とも変形が可能で、変形途中は拡張領域に操縦者を収納する為体がよじれたりすることはない。また、ゼロシステム発動時に彰人の髪の毛と瞳の色が変化するが、それにはとある秘密がある。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は前述の『ゼロシステム』。

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏

 

性別 男性

 

もう1人の主人公で、菅山(すがやま)(りゅう)という人物が一夏として転生した姿。転生者でありながらIS原作の知識は皆無で、彰人のサポートをよく受けている(全部という訳ではない)。彰人と同じくガンダムシリーズと仮面ライダーが好き。

原作一夏とは違って鈍感ではなく、正面から『好き』と言われたら戸惑う。

 

 

専用IS

 

ダブルオーライザー

 

見た目等は機動戦士ガンダム00のダブルオーライザーと同じ。トランザムやそれによるトランザムバーストも使用可能。また、原作再現でISコアが2個搭載されている。操縦者を??????へ覚醒させる機能も備わっている。初期形態はダブルオーガンダムで、一次移行するとこの姿になる。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は『???』。

原作ISにおける白式の代替機体でもある。

 

 

 

 

 

 

 

矢作(やはぎ)省吾(しょうご)

 

性別 男性

 

歳の離れた彰人の兄で、その正体はメガゾーン23における矢作省吾その人。PartⅢでエイジに看取られ死亡した後、神に出会わずに転生(容姿はPartⅠ)。束や千冬らと親友になり、前世での知識を使いガーランドを束と協力してISと同時に製作。折角転生したのだからと、この小説では勉学に励んで政界に行くことを臨んでいる。

 

 

専用機体

 

プロトガーランド

 

省吾と束で作り上げた作業用可変ロボ。見た目は原作のプロトガーランドだが、GR-2ガーランドの部品を流用して作られたのとは違い、今作のプロトガーランドは文字通り全てのガーランドの元になったプロトタイプ……つまりPartⅢでのオリジナルガーランドと同じ位置付けになっている。武装はビームガン。

 

専用IS

 

???

 

 

 

 

 

 

 

高中(たかなか)由唯(ゆい)

 

性別 女性

 

メガゾーン23の高中由唯と同一人物で、彼女が転生した存在(容姿は省吾と同じくPartⅠ)。転生後は省吾とは千冬、束と共に幼なじみの関係になっている。自分の知らない省吾の人生を知り、この世界でも省吾を献身的にサポートしていくことを決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作との相違点

 

 

IS関連

 

今作でのISは神様が「ガンダムと同じ見た目のISがあったら違和感だらけ」という理由で全てガンダムの姿と武装になっており、それに応じて各所設定も変化してくる。創作としてのガンダムシリーズはこの世界に存在しているので、ISが出回ってからガンダム関連商品の売り上げが大きく上がった。また、ISを開発する上でのプロトタイプとなった理論とパワードスーツがある。

 

 

容姿関連

 

この小説は『魔法少女リリカルなのは 転生者は静かに暮らしたい』と世界観を共有している為、髪の毛や瞳の色も一部を除いて自然に近い色になっている。



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シャルロット&ラウラ編
40th Episode


ある日の放課後。アリーナにてそれは行われようとしていた。

 

「ついにこの日がきたか……」

 

「姉妹の直接対決か。どんな試合になるんだろうな」

 

そう。簪と更識さんによる対決が行われるのである。更識さんは既にISを纏って空中に待機している。……あ、簪のブルーフレームが出撃した。

 

「2人とも、頑張ってください」

 

「かんちゃ~ん、頑張れ~!」

 

俺達は観客席にて試合を見守るのだが、のほほんさんや彼女の姉である虚さんも来ていた。他にも観客がちらほらといた。

 

(頑張れ、簪)

 

俺は二機のISをじっと見ながら、心の中でエールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪SIDE

 

「……更識簪、ガンダムアストレイブルーフレームセカンド。出撃します」

 

ピットからISを纏って出撃した私を出迎えたのは、ロシアのブリッツガンダムを基に姉が制作し、動かしてるIS『ガンダムアストレイゴールドフレーム天ミナ』だった。

 

「ようやく来たわね、簪ちゃん。少し待ちくたびれちゃったわ」

 

とは言ってるけど、実際は楽しみにしていたに違いない。本人は隠しているつもりだと思うけど、私には何となくわかる。

 

「……ねぇ、簪ちゃん」

 

「?」

 

「今日の勝負だけど、私の地位とか肩書きとか、一切気にしないでほしいの。普通の姉妹として、全部ぶつけてきて」

 

そんなこと……

 

「……言われなくても、わかってる」

 

直後、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 

「そう……なら、私も遠慮せずに全力を出すわ。だから見せて頂戴。簪ちゃんのを全力を……!」

 

その言葉と共に、お姉ちゃんは右腰のトツカノツルギを引き抜き、トリケロス改と一緒にに構えた。

 

「……っ」

 

それを見た私も背面のタクティカルアームズを分離・ソードフォームに変形させて両手で持って構える。

 

「……行くよ…!」

 

ブースターを噴かして接近し、タクティカルアームズを上段から一気に振り下ろす。

 

「先手必勝ってことね。でも!」

 

対するお姉ちゃんはトリケロス改で防ぎ、鍔迫り合いになる。

 

「「ぐぅうう……!」」

 

拮抗した状況の最中、お姉ちゃんはトツカノツルギで私の右肘関節を突いてきた。そのせいで力が抜け、押し返される。

 

「……くっ!? なら……!」

 

素早くタクティカルアームズをガトリングフォームに変形させ、トリガーを引いた。

 

「っ!?」

 

まさか銃にもなるとは思ってなかったようで、咄嗟にトリケロス改で防ぐものの何発かは直撃した。

 

「危ない危ない……まさか遠距離武器にも変形するなんて。お姉ちゃん、びっくりしちゃったわ」

 

あくまで平静を装う姉に、私は少しカチンときた。

 

「……お姉ちゃん。今日の戦いは互いに全てをぶつけ合うんだよね? だったら……普段思っていることも言っていいかな?」

 

「え? 別にいいけど……」

 

少し戸惑いながらも、お姉ちゃんは了承した。……ここで息を整える。そして―――

 

「お姉ちゃんってさ……いつもいつも―――自己中心的過ぎるよ!」

 

「なっ!?」

 

自分の気持ちをさらけ出しながらソードフォームのタクティカルアームズで斬りかかるが、トリケロス改に再度阻まれる。でもまだだ。まだ終わらない。私が言いたいことはまだたくさんある……!

 

「昔からそうだった! 何でもできるからって勝手が許されてて、そのくせ変にシスコンで過保護だから、私のことまで手を出して私に何もさせないし! 挙げ句に『あなたは何もしなくてもいいのよ』!? 冗談じゃない!!」

 

左手でタクティカルアームズを所持したまま、右手でナイフ型のアーマーシュナイダーを取り出すと、何らかのアクションをしようとしていたトツカノツルギを切り裂き破壊した。

 

「私の人生は私のだ! 勝手に決めないでよ!! 確かに私はアンタのように何でもできないけど、努力してるし、結果も少しずつ出てきてる!! 私はベッド脇に飾られてるお人形じゃない! 距離をとろうとしてもチラチラチラチラと、こっちの様子を見に来て! 私は!アンタの娘じゃないっ!!」

 

「か、簪ちゃん……!?」

 

驚愕しつつも左腕のクロー『ツムハノタチ』を展開して私の腕に引っかけ、無理矢理タクティカルアームズから放そうとする。けどその前に私は足を振り上げ、つま先のアーマーシュナイダーでツムハノタチを突き刺し破壊する。

 

「しかも、生徒会長の癖に仕事を放り出して私の様子見に来るから、仕事が滞るって虚さんが零すし! 思いつきでイベントやったりして被害を被ったって先輩達から、入学早々言われるし! 私、関係ないじゃない!! そういうのは本人に言ってよ!! 間接的にも迷惑かけないで!! 余計なことに時間を取らせないで!! 真面目にやってれば誰にも迷惑かけないんだから! お願いだからおとなしくしててよ!! 皺寄せが、私に来てるんだってばっ!!」

 

「くっ!」

 

距離を取ったお姉ちゃんはランサーダートとビームライフルを同時に撃つと、ビームサーベル刃を出現させ接近してきた。

 

「そんな攻撃っ!!」

 

ランサーダートをタクティカルアームズを楯にして防ぎ、左右に小刻みに移動してビームライフルを避ける。……心なしか狙いが雑になってるような?

 

でもそんなことは今はどうだっていい。ビームサーベルを振り翳す姉に対し、私はタクティカルアームズをフライトユニットに戻すとトリケロス改を右手で掴んだ。

 

「っ!!」

 

予想してなかったのか、マスク越しでも驚いた表情をしているのがわかる。けど、私が掴んだトリケロス改は実体刃でもあるのでシールドエネルギーが削られる。それでも決して放そうとせず、左手でトリケロス改の外側を掴むと―――一気に引き剥がした。

 

「まだだ! 逃がすかっ!!」

 

更に左腰に装備されたままのトツカノツルギを無理矢理引き抜くと、心臓部めがけて突きを放った。

 

「がっ!?」

 

装甲の一部が破損し、短い悲鳴を上げながらお姉ちゃんは落下しつつ壁に激突。ISが解除された。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」

 

荒く息継ぎをしながら、私はISを解除しお姉ちゃんに近づく。

 

「………………」

 

何て声を掛ければいいのか、わからなかった。というか冷静に考えてみたら私、とんでもないことしちゃったかも……ど、どうしよう!?

 

「あ痛た……派手にやられたわ……」

 

「……お、お姉ちゃん。私、その―――」

 

「やっぱり、変に肩書き気にしてたからいけなかったのね……そのせいで簪ちゃん、ストレス溜まりまくって爆発しちゃったんだし」

 

「うっ……あ、あれは、我ながらやりすぎたというか……」

 

「いいのよ。勇気を持てなかった私のせいなんだから、甘んじて受けるわ…………」

 

そう言うと、お姉ちゃんは優しい目で私を見つめた。

 

「ごめんね、簪ちゃん……私のせいでたくさん苦労させて……本当に、ごめんね……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「……ねぇ、簪ちゃん。もし簪ちゃんが許してくれるなら、時々でいいから、会いに行ってもいい? 話したいことが、たくさんあるの」

 

「……うん、いいよ。私もお姉ちゃんと、もっともっと色んなことを話したいから」

 

お姉ちゃんの手を握り、応える。今この瞬間、私達は何の隔たりもない普通の『姉妹』でいられた。ううん、今だけじゃない。これからもそういう時間はたくさんあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「……姉妹間の確執が取れた、ということか」

 

ウイングゼロの集音機能を使って会話を聞いていた俺は、そっと呟いた。

 

「だな。その方法が、想いを拳に乗せてぶつけることとは今日に至るまで予測してなかったが」

 

冗談を混ぜながら同意する一夏に、「言ってなくてごめんな」と述べながら笑みを浮かべる。原作ではかなり後の方での和解だったが、早めにできてよかったと思う。

 

「……アンタ達、よくそんな涼しい顔でいられるわね……」

 

「「え?」」

 

何故か鈴ちゃんが顔を青くさせながら言ってきた。お腹でも痛くなったんだろうか?

 

「今の試合見てたでしょ!? あの大人しめの口調からは想像できない捲し立てに容赦ない戦い方! ……正直、恐ろしく感じたわ」

 

「ふ、普段滅多に怒らない人程、怒ると恐ろしいとはこのことでしょうか……」

 

「あの凄まじさからしてそうだろうな」

 

セシリアと箒ちゃんも顔色が優れないようだ。そんなに恐ろしいかな? 俺にしたら、本気で怒った時の千冬さんの方がかなり恐ろしいけど……。

 

「俺だって怒った時はああなるぞ?」

 

「俺もなるな、間違いなく」

 

「本気で怒るって……どんな?」

 

その問いに、「うーん」と腕を組んで考える。俺達が本気で怒る時は……やっぱり、これかな。

 

「例えば大事な人……セシリアと簪が傷つけられた時だな」

 

「やっぱ、好きな人……そう、箒や鈴に手を出された時だな」

 

奇しくも俺と一夏の考えは同じだったようだ。さすがは親友。

 

「そ、そうなの。じゃあそうされた相手にはどんなことを?」

 

「「とりあえず男女関係なく四肢をもいで磔は確定な」」

 

息ピッタリに俺達が言うと、セシリア達……ではなく、のほほんさんや虚さんが青い顔をして震えていた。

 

「あ、あっきーに逆らうのは絶対やめようね、お姉ちゃん……」

 

「そ、そうね。そうした方がいいわ……」

 

そんなに怯えなくても……ちょっとしたジョークなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は簪と廊下で話をしていた。

 

「よかったな。更識さんと仲直りできて」

 

「……うん。でも、少し言い過ぎちゃった……」

 

「大丈夫だって。本人は気にしてなかったんだろ? それに、自分の想いをぶつけたんだ。何も悪いことはないさ」

 

そう言って、頭を優しく撫でると簪は「ふにゃっ」と気持ち良さそうに反応する。

 

(……ん?)

 

その時、どこからか誰かの視線を感じた。……この感覚には覚えがある。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、何でもない。それより早く戻ろう。疲れてるんだろ?」

 

「……彰人はどうするの?」

 

「トイレに行ってから戻るよ。大丈夫、すぐに済ませるから」

 

やや強引だが、簪と別れて1人になる。人通りがないこともなって凄く静かになるが……。

 

「……そろそろ出てきたらどうです? 居るんでしょう、そこに」

 

「あらら、バレてたか」

 

俺が振り向きながら言うと、柱の影から更識さんが現れた。

 

「それで、今日は何の用です?」

 

「決まってるじゃない。……ありがとう。私に大事なことを気づかせてくれて」

 

「礼を言われることじゃありませんよ、更識さん。俺はただ促しただけで、辿り着いたのは貴女自身の力ですし」

 

それを聞いて目を丸くする更識さんに、「もうよろしいですか?」と問いかける。

 

「あ、後もう1つだけ、お願いがあるの」

 

「何ですか?」

 

「私のこと、名前で呼んでほしいの。ダメかしら?」

 

名前か……更識さんとはいつの間にか結構親しい仲になっているから……いいか。

 

「わかりました、楯無さん。これでいいですか?」

 

「ええ。………………………いずれは、本名を教えてあげるけどね(ボソッ」

 

? 最後に何て言ったんだろう。小さすぎてよく聞こえなかったな……。

 

まあ何はともあれ、万事上手くいって安心した。これで少しの間は一息つけそうだな。



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41th Episode

どうもこんにちは、矢作彰人だ。現在俺と一夏は弾の家に来ていて、久々に超ク○ヒをプレイしている。今やってるのはいつかと同じ一夏と弾で、一夏がV3を、弾がアクセルを使っている。

 

「で……どうなんだ、彰人?」

 

「何が? てかゲームやりながら俺に話しかけて大丈夫なのか? 体力ゲージがやばいことになってるんだが……」

 

既に一回負けてるし、このままだとWIN取られるんじゃ……。

 

「フッ、それなら大丈夫だ。問題な「今だ、行けV3!!」ノォォォォォーッ!?」

 

あ、負けた。フラグ立てるからそうなるんだよ……。ていうか凄い落ち込み具合だな。そんなに悔しいのか。

 

「で、結局何が聞きたいんだ?」

 

「おう、そうだ。IS学園のことなんだが、実際のところ充実してるか? してるだろ? ハーレム状態なんだしさ」

 

「「……………………」」

 

からかってくる弾に対し、俺と一夏は何も言えなくなった。だって……ねぇ……?

 

「……い、いや。正直、結構キツいぞ。俺と一夏しか男子いないし」

 

「そ、そうだぞ。まあ箒も居たし、鈴も転校してきたから助かったが。でなきゃ話し相手皆無だし……」

 

とりあえず適当に別の真実を話して誤魔化した。不自然とは思われてない……筈。

 

「ああ、鈴か……。そういえば彰人、進展はどうなったんだ?」

 

「それなら、一夏が箒と鈴を平等に愛することで収まったぞ」

 

「ゑ?」

 

「おいぃ!? 何暴露してんの!?」

 

「あ……」

 

どうしよう。つい無意識で話してしまった……そんなつもりなかったのに……無意識って怖い。冗談抜きでそう思った。

 

「い、今の話はほ、本当なのか一夏ぁ!?」

 

「う、うぅ……本当だよ! 俺は2人と付き合ってる!!」

 

半ばヤケクソになりながら、一夏が叫んだ。ごめん。本当にごめんな、一夏。

 

「ま、マジか……クソォ! 何て羨ましい奴なんだ!!」

 

「な、泣くなよ。というか、何でみんなハーレムに憧れるんだ……案外苦労するのに。なあ彰人?」

 

「ゐ?」

 

「このタイミングで俺ぇ!?」

 

「あ……」

 

ほぼ無意識で言ったであろう一夏の一言に、弾が俺を向く。……さっきの仕返しじゃあるまいな?

 

「ま、まさか……お前も、ハーレムを!? あ、相手は誰なんだ!?」

 

「う、ぐぐ…………せ、セシリア・オルコットというイギリスのお嬢様と、更識簪というメガネかけた大人しめの子だよ…!」

 

俺も少し自棄になりながら言うと、弾は某ボクサーの如く真っ白になっていた。

 

「お、お嬢様にメガネっ娘…は、はは……俺が知らない間に、俺の親友達はこんな遠くに行ってしまったのか……」

 

「おい弾、しっかりしろ! ええと、こういう時は何て言えば―――」

 

「一夏、言うだけ逆効果だ。俺達が何て言おうと、弾からすれば嫌味にしか聞こえないだろうからさ……」

 

無理に慰めないことも、誰かを立ち直らせるいい切っ掛けになることがある。前に八神先生がそう言っていた気がする。

 

そう考えていると、弾が「ん?」と顔に疑問を浮かべた。

 

「ちょっと聞きたいんだが、学園内では2人の恋愛に関してどうなってるんだ?」

 

「え? ああ、それならまだ秘密にしてある。さすがに大っぴらにはできなくてな……」

 

「俺達が来るまでモロ女子校だったんだし、知れたら大パニックは間違いなしだ。それも、多分長期間続くだろう」

 

言い終えたところで、一夏と共にため息をついた。よく漫画とかである卒業まで秘密という展開になるんだろうが、果たしてそこまでにボロを出さずに済むだろうか? 俺としては途中でバレる確率の方が高いと思う。

 

「そうか……周りが女子ばかりだと、こういう時不便なのか……」

 

「わかってくれればいいんだ……」

 

俺も弾と同じように考えた時が少しあったけど、そんな幻想は瞬く間に打ち砕かれたね。もし1人だけならSAN値がガリガリ削れていくだろう。そうならなくて本当によかった。

 

ドカッ!

 

「ちょっとお兄! さっきからお昼できたって言ってんじゃん! 早く食べに……」

 

その時部屋のドアが開け放たれ、蘭ちゃんが入ってきた。格好は機能性重視な割とラフな格好だけど。

 

「って……一夏さんに、彰人さん!? 来てたの!?」

 

「うん。さっきからずっと」

 

「まさか弾……お前言ってなかったのか?」

 

一夏が弾に問いかけると、弾は慌てたように視線を逸らした。やはりか……。

 

「全寮制だって聞いたけど……どうしてまた?」

 

「久々に本土の空気を吸いたくなって、ちょっと外出に。で、彰人と家の様子を見がてら立ち寄ったんだ」

 

「前以て連絡しといたんだけどな」

 

苦笑しながら言うと、蘭ちゃんは弾をジロリと睨んだ。弾は完全に小さくなっている。

 

「……お兄。そういう大事なことは、必ず伝えてって……言ったわよね?」

 

「………………すまん、この通りだ」

 

頭を下げて謝る弾。言い忘れてたが、原作とは違って弾と蘭ちゃんの仲は悪くないし、蘭ちゃんは一夏に片思いしてもいない。故に平和(?)だ。

 

「全く……あ、そうだ。折角だから、一夏さん達も食べていきません? お昼、まだですよね?」

 

「俺はいいけど、彰人は?」

 

「もろちんOKだ」

 

「わかりました、それじゃあ」

 

確認を取った蘭ちゃんは部屋から出て、下に降りて行った。

 

「……って勝手に決めちゃったけど、良かったか?」

 

「勿論だ。こう言っちゃ悪いが出るのは売れ残りだろうし、遠慮なく食べていってくれ」

 

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

俺達3人は部屋から出て一階に降りると一旦裏口から出て、正面の入り口から再び入る。回りくどいけど、礼儀は大事だもんな。

 

「おっ?」

 

「「ん?」」

 

何かを見つけたらしい弾の視線の先を見ると、俺達の昼食が用意してあるテーブルに蘭ちゃんが居た。

 

「何だ、蘭も一緒に食べるのか」

 

「久しぶりの再会だからね。さ、2人ともどうぞ」

 

蘭ちゃんに促され、俺達は席に着いた。順番は左から俺、一夏、弾、蘭ちゃんの順番だ。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

みんなで手を合わせて言うと……。

 

「おう、たくさん食えよ」

 

台所に居る五反田食堂の大将にして弾と蘭ちゃんの祖父である五反田厳さんが、満足げに言った。その後、厳さんは自慢の豪腕で中華鍋を振るい、料理を作っていく。これで80過ぎてるというから驚きだ。

 

料理ができていく音を背後に、俺達は食事の合間に雑談をする。厳さんは人一倍マナーに厳しいので、しっかり守る必要がある。マナー違反をする人には、身内だろうが客だろうが容赦なくお玉が飛んでくるので注意だ。

 

「そういえばお兄、さっきちらっと恋愛ごとについて話してるのが聞こえたけど……何かあったの?」

 

「!? い、いやそれは……!」

 

「……弾、ここは正直に言おう。隠してても仕方がない」

 

狼狽える弾に俺が言うと、弾は「絶対内緒だからな」と前置きして、蘭ちゃんに包み隠さず俺と一夏の恋愛事情を話した。当然だが、蘭ちゃんは呆然としていた。

 

「あ、IS学園に通う時点で彼女ができるとは思ってましたけど……まさか、複数なんて……」

 

「一夏はともかく、俺については完全なる想定外だ。その辺の男と大差ないと思うんだけどな……」

 

「いやいや、それはないだろう。一夏も彰人も、中学の頃かなりモテてたぞ? 2人は知らないと思うが、ファンクラブだってできてたし」

 

「「え、マジで?」」

 

思わず一夏と揃って驚いてしまう。一夏はともかく、何で俺みたいなのが? 別にイケメンでもないのに。

 

「まあこのことは、記憶の片隅に留めておいておけばいい。彼女がいるなら気にすることもないしな」

 

弾の言葉に同意し、再び箸を進める。やがて俺達は、ほぼ同じタイミングで料理を完食した。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

再び手を合わせて言う。すると蘭ちゃんが、何かを思い出した顔になった。

 

「あ、そうだ。実はちょっと相談がありまして……」

 

「え、相談? 俺達に?」

 

「一体何なんだ?」

 

俺や一夏だけではなく、弾も疑問に思って蘭ちゃんを見る。と、彼女は徐にポケットから紙を出して見せてきた。

 

「っ!? お前、これって!」

 

「IS簡易適正試験、判定A……」

 

「まさか蘭ちゃん……」

 

「何となく受けてみたらこの結果が届いて……。それから私、決め兼ねてるんです。このまま順調に大学に行こうか、IS学園に行こうか」

 

「なるほど、それで俺達に相談をか」

 

これから受験校を選ぶ人達にありがちな内容だな。ま、どう応えるかは既に決まっているが。

 

「俺としては、IS学園はやめておいた方がいいな」

 

「俺も同意見だ」

 

「え、どうしてですか?」

 

まさか揃ってやめた方がいいと言われるとは思ってなかったんだろう。驚いた顔をしている。無理もないけど。

 

「俺が説明するけど、理由は簡単。まず、ISが主に使われているカテゴリーをよく考えてみてくれ」

 

「考えろって、それは……スポーツじゃないんですか?」

 

「表向きはな。でも実際には、戦車や戦闘機の代わりとしてガーランドと共に各国に軍事配備されている。……この意味がわかるか?」

 

「っ!!」

 

蘭ちゃんは理解したのか、目を丸くした。

 

「そう。アラスカ条約というものがあるにも関わらず、ISはガーランドと同じく兵器として黙認されている。つまり、いつISを使った戦争が始まってもおかしくはないんだ」

 

「…………………」

 

「勿論、最初に駆り出されるのは軍人だ。だが戦死して人手が足りなくなった場合、IS学園の生徒達がかつての徴兵令みたく招集されることにもなり得る。特に、IS適正が高い生徒はな……」

 

「「!!!!」」

 

最後の一言に蘭ちゃんはおろか、弾までも身震いをした。自分の妹の生死が関わってるんだから、当然だ。

 

「……さて、長々と話してしまったな。でもこれで俺達が反対する理由はわかっただろ? で、他に質問は?」

 

「…………いえ……私、IS学園には通いません。お爺ちゃんやお母さん達を残して、死せないから……」

 

「そうか……ごめんな、ショッキングなこと言って。蘭ちゃんには、関わってほしくなくてな……」

 

「いいんです。彰人さん、そうやっていつも私を心配してくれてますから。慣れっこですよ」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

そう言って蘭ちゃんに微笑む。すると、弾が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

「悪いな、彰人……こういうのは兄である俺から言うべきなんだろうけど……」

 

「いいって。気にすんなよ」

 

「だが珍しいな。彰人が汚れ役するなんて」

 

「そうか? こっちの方も、割と楽しいんだけどな」

 

敢えて汚れ役になるキャラに憧れてた時期もあったから、その影響かもしれん。

 

 

 

 

この後は適当に街をブラブラし、IS学園に戻った。



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42th Episode

一夏SIDE

 

とある日。俺にとって重要なことが起きていた。それが何かは、目の前で荷造りをしている箒を見ればわかる。そう、部屋割りの変更だ。

 

「よし、これで全てだな」

 

「ああ……にしても折角慣れてきたのに、寂しくなるぜ」

 

「気にするな。元々そういう決まりだったんだからな。まあ、お前も彰人が共に居た方が気が楽だろう」

 

「え?」

 

「ん、何だその返事は? 私と彰人が部屋を交換するのではないのか?」

 

「あ、ああ。そうだったな。つい忘れてた」

 

「まったく、そそっかしいな」

 

危ない危ない……事前に彰人から聞いてたんで思わず言ってしまった。確か、今度来る転校生が編入してくるんだったな。

 

「そういえば一夏。今月は学年別個人トーナメントがあるんだそうだが」

 

「ああ。確かもうすぐだったな」

 

学年別個人トーナメントとは、IS学園生徒全員が強制参加となるIS対決トーナメント戦で、一週間かけて行われる。確か一学年が120名だったから、かなり大きい規模になる。正に一大イベントと言ったところだ。更に学年によって評価が分かれており、一年は先天的な才能評価で、二年は成長能力の評価、最後に三年は実戦能力評価だ。特に三年の試合はかなり大掛かりで、IS関連の企業のスカウトマンだけでなく、各国のお偉いさんが見に来る事もあるらしい。

 

「やはり、目指すは優勝か?」

 

「当然! 世界の頂点を目指す為の、大事な一歩だからな。そう言う箒こそ、優勝する気だろ?」

 

「ああ。訓練機というハンデはあるが、専用機持ちにも負けないように頑張るさ。一夏も、充分気をつけておいた方がいいぞ?」

 

「へぇ……言うじゃないか」

 

知らず知らずの間に、俺と箒の間に火花が散る。本気なのは箒も同じようだ。

 

「……ならさ、1つ賭けをしようぜ」

 

「賭けだと?」

 

「俺達のどっちかが優勝した時、俺は箒に、箒は俺に何か願いを聞いてもらうってのでさ」

 

「ほう、中々面白そうだ。いいだろう、その賭けに乗ってやる。……ところで、お前の願いは何かあるのか?」

 

「それを言っちゃうと面白くないんだが……特にないな。優勝した時にでも決めるよ。箒は?」

 

「そうだな……どうせなら、一夏とで、デートをするというのはどうだろうか……」

 

「っ」

 

顔を赤らめながら言う箒に、俺の胸が締め付けられた。……ったく、可愛いこと言いやがって。

 

「わかった。是非楽しみにさせて貰う」

 

「そ、そうか。私も楽しみにさせて貰うぞ、お前の願いを」

 

そう言って、箒は部屋を出た。……勝たなきゃならない理由が、1つ増えたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

彰人SIDE

 

俺と一夏が教室に入ると、クラスの女子達が何やら談笑していた。

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいよね」

 

「え? でもあそこってデザインだけって感じじゃない?」

 

「そのデザインがいいのよ」

 

「私は性能重視でミューレイのがいいかな。特にスムーズモデル」

 

「あれかぁ……モノはいいけど、値が張るんだよね」

 

今日はISスーツの申込日なので、カタログを片手に色々な意見交換をしている。

 

「そういえば織斑君と矢作君のISスーツってどこのなの?」

 

「俺と彰人のは特注品なんだ。元々はイングリッド社のストレートアームモデルだったかな」

 

「見比べると、共通点が結構あるんだ」

 

ちなみにISスーツというのはIS展開時に着込んでいる特殊なフィットスーツのことだ。別になくてもISを動かすことはできるが、反応速度がかなり鈍るらしい。女子が着てると、正直目のやり場に困るが……原作と違ってISがガンダムそのものというのが幸いして戦闘中は全く気にならない。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検地することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達。ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

そこへ説明しながら現れたのは、山田先生だった。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「一応先生ですから……ってや、山ちゃん?」

 

「山ぴー見直した!」

 

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです……ってや、山ぴー?」

 

入学からおよそ二ヶ月。山田先生には様々な渾名がついていた。数えただけでも8つはあった筈。親愛の証なんだろうけど、一応年上なんだからダメだと思う。

 

「おいおい、先生相手にそんな渾名つけちゃダメだろ」

 

「完全に同級生感覚になってないか?」

 

「2人の言う通りですよ。教師を渾名で呼ぶのはちょっと……」

 

「えー、いいじゃん」

 

「まーやんは真面目っ子だなぁ」

 

「矢作君と織斑君も、真面目だねぇ」

 

「ま、まーやんって……」

 

うん、一向に直る気配はないな。一夏が言ったように、誰も山田先生を教師としてではなく同級生感覚で見ている気がする。

 

「あれ、マヤマヤの方が良かった? マヤマヤ」

 

「そ、それもちょっと……」

 

「もぅ…じゃあ前のヤマヤに戻す?」

 

「あ、あれはやめてください!!」

 

何だ? 山田先生が珍しく強い拒絶反応を見せたぞ。ヤマヤに何かトラウマ的なものでもあるんだろうか。

 

「と、とにかくですね。私にはちゃんと先生とつけてください。わかりましたか? わかりましたね?」

 

『『『はーい』』』

 

……絶対返事だけだ、これ。山田先生の渾名はどんどん増えていくだろう。俺の勘に、間違いはない。

 

「諸君、おはよう」

 

『『『おはようございます!』』』

 

ざわめく教室へ千冬さんが入って来ると、水を打ったかのように静まり返った。さすがとしか言いようがない。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう」

 

水着か……余談だが、IS学園の指定水着は今は絶滅危惧種とされている紺色のスクール水着だ。……絶滅危惧種で思い出したが、体操服もブルマーだったな。何故マニア向けの物を選択したし……。ここに弾や数馬が居たなら、確実に狂喜していただろう。

 

更に余談だが、学校指定のISスーツはタンクトップとスパッツを併せ持ったシンプルな物である。何故学校指定の物があるにも拘らず各人で用意する理由は、ISは人それぞれの仕様へと変化する物であるから、早めに自分のスタイルを確立するのが大事だからだそうだ。全員が専用機を貰える訳じゃないから、どこまで個別のスーツが役に立つのかは難しいが、それはそれで各自の感性を優先させているらしい。……戦場に感性も何もあったもんじゃないと俺は思うが。

ちなみに専用機持ちの特権である『パーソナライズ』を行うと、IS展開時にスーツも同時に展開されて着替える手間が省ける。その時着ていた服は一度素粒子にまで分解されてISのデータ領域に格納される。これは便利だが同時に欠点がある。ISスーツを含むダイレクトなスタイルチェンジはエネルギーを消費し、戦闘開始時に万全な状態で挑めない。だから、緊急時以外は普通にISスーツを着てISを展開した方がいい。

 

「では山田先生、ホームルームをお願いします」

 

連絡事項を言い終えた千冬さんが山田先生にバトンタッチする。

 

「はい。では皆さん! 今日はなんと転校生を紹介します! しかも2人です!!」

 

『『『ええええええええええっ!?』』』

 

クラス中の女子達がざわめき立つ。まあ時期が時期なのもあるが、何の情報もなしに2人も転校生が来るんだから驚くのも当然だ。ちなみに俺と一夏は転校生が来ることは知っているので、大して驚いていない。

 

「では、入ってきて下さい」

 

「失礼します」

 

「失礼する」

 

山田先生に促されて2人の生徒が入ってくる。その姿を見て、ざわめきがピタリと止んだ。

 

 

 

 

何故なら―――転校生の1人が、男子だったからである。

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

まずはその男子、デュノアがにこやかに挨拶をする。

 

「…お、男……?」

 

礼儀正しい立ち振る舞いに中性的な顔立ちで、金髪を首の後ろで丁寧に纏めている。スマートな体型で特に誇張した印象もなく、正に『貴公子』と言った感じだ。

 

が……彼は女性だ。実際見てみると男に見えることは見えるが…どこか不自然さを感じる。千冬さんもそうなのか、怪訝そうな顔をしている。

 

(なあ彰人……デュノアって奴、本当に男なのか?)

 

(いや。女だ)

 

(やっぱりか……)

 

疑問に思った一夏が小声で話しかけてくる。一夏にはただ『転校生が来る』としか言ってないんだが、初見の時点で感付くとは……何の疑いもしなかった原作一夏とは偉い違いだ。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々が居ると聞いて、本国より転入を―――」

 

「き……」

 

どこからか女子の声が聞こえた。……ってこれはまさか!? 危機を感じた俺と一夏は耳を塞いだ。

 

『『『きゃあああああああああーーーーっ!!』』』

 

あ、危ないところだった……後少しタイミングが遅ければ、音波攻撃の巻き添えになっていた……。

 

「男子! 3人目の男子!!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!!」

 

「待ってたぜ、この瞬間をっ!!」

 

うちのクラスの女子達は元気が有り余ってるようで何よりです。……有り余り過ぎて、某超進化人類みたくなってる人もいるが。

 

「あー…騒ぐな。静かにしろ」

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介は終わってませんからね~!」

 

もう1人の転校生は……俺達からすると、懐かしい人物だ。俺や一夏と目が合うと、笑顔を見せてくれた。

 

「それでは、自己紹介をお願いします」

 

山田先生が促すと彼女はみんなに視線を向け、ピッと敬礼して自己紹介を始めた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。学校という場所に来るのは初めてなので、至らないところが色々あると思うが、皆と楽しく過ごせたらいいと思っている。好きなものは特撮作品だ。これからよろしく頼む」

 

周囲からパチパチと拍手が上がる。やはり原作と比較すると性格は大分丸くなってるようだ。正直とても嬉しい。

両者の挨拶が終わるとそれぞれ席に着く。

 

「よし、ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

さて…早いとこ第二アリーナ更衣室に向かうか。女子達の迷惑になるだろうし。

 

「織斑、矢作。デュノアの面倒を見てやってくれ」

 

「「わかりました」」

 

っと、その前にこっちがあったな。

 

「君達が織斑君と矢作君? 初めまして。僕は―――」

 

「悪いが自己紹介は後だ。今は移動が先だ」

 

「急がないと、女子が着替え始めるからな」

 

そう言うと俺と一夏は共に歩き出した。

 

「とりあえず男子は、空いてるアリーナの更衣室で着替える。実習の度にこの移動があるから、早めに慣れてくれ」

 

「うん。わかった」

 

そのまま3人で並んで歩く。このまま何事もなければいいが……。

 

「ああっ! 転校生発見!!」

 

「しかも織斑君達と一緒!」

 

さすがにそういう訳には行かなかったか。各学年の各クラスの女子達が情報収集にやって来たのだ。人数はあっという間に増えていく……これはまずいな。

 

(一夏、アレをやるぞ)

 

(オーケー。任せろ)

 

チラッ…チラッ…

 

俺と一夏は見当違いな方向に向かって身を乗り出し、誰か合図を送ってるかのように振る舞う。すると全員の視線がそちらに集中する。

 

「(今だ!)デュノア、失礼する!」

 

「へぇっ!?」

 

俺はデュノアを背負うと、一夏と共に人数が少ない場所を一気に駆け抜けた。

 

「……あっ! 織斑君達が居ない!?」

 

「さっきのはミスリードだったのね!」

 

「矢作君が転校生を背負ってる……矢作君が攻めかしら? それとも敢えて受け?」

 

……俺には聞こえない。何も聞こえない。



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43th Episode

アリーナ更衣室

 

「「はぁ…」」

 

「ふぅ…」

 

更衣室に入ったところで3人揃ってため息をつく。時間は……まだ余裕があるな。

 

「よし……ここなら邪魔は入らないな。では改めて、矢作彰人だ」

 

「織斑一夏だ。よろしく、デュノア」

 

「こちらこそよろしく。僕のことはシャルルでいいよ」

 

「わかった。俺のことも一夏でいい」

 

「俺も彰人でいい。それより、ごめんな。緊急とは言え勝手に背負っちゃって」

 

いきなり背負うのはさすがにまずかったと思い、シャルルに謝る。

 

「別に気にしなくていいよ。お陰で助かったんだし。ありがとう、彰人」

 

優しいな、シャルルって。こういう人は最近中々見かけないから、ある意味貴重だ。

簡単な挨拶を済ませたところで、着替えを始める。俺と一夏はシャルルに背を向けている、と……。

 

「…ん?……っ!?」

 

「? どうし……っ!?」

 

備え付けの鏡を見て揃って絶句してしまった。何故なら、僅かにだが見えてしまったからだ。女性用のコルセットが映り込んでいるのを……。

 

(…………一夏)

 

(……わかっている)

 

((見なかったことにしよう))

 

彼が女性であることは確定してしまったが、今言う訳にはいかない。時期が来るまで待とう。

 

そう考えながら、俺達はグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドに着くと、ジャージ姿の千冬さんが見えた。

 

「遅くなりました!」

 

「時間ギリギリだな。まあいい、すぐに並べ」

 

「「「はい」」」

 

千冬さんに促され、俺達は列に並んだ。

 

「随分ゆっくりでしたわね」

 

直後にセシリアにそう聞かれた。

 

「シャルル目当てで来た他クラスの女子達に、あわや揉みくちゃにされかけてな……」

 

「逃走するのに手間がかかった」

 

「なるほど、そうでしたのね。お疲れ様です」

 

「アンタ達も結構大変ね」

 

労いと憐憫の言葉をセシリアと鈴ちゃんが掛けてくれる。それだけでも俺には充分だ。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

『『『はい!!』』』

 

授業開始の言葉に、全員が大きな声で返事をする。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだな……凰! オルコット!」

 

「えっ?」

 

「私ですか?」

 

突然指名されて面食らいながらも、2人は前に歩み出た。

 

「あの、つかぬ事お伺いしますが……何故私達なのですか?」

 

「専用機持ちはすぐに始められるからな。それに、お前達の機体の相性が良いのも理由の1つだ」

 

なるほど。確かに近~中距離戦法が得意なアルトロンと遠距離攻撃に秀でたストライクフリーダムなら、互いの弱点をカバーし合うことができる。

 

「相性ってことは……私とセシリアでペアを組んで、誰かと戦うんですか? 相手はどこに?」

 

「まあ慌てるな。対戦相手はすぐに―――」

 

 

キィィィィィン……

 

 

……おや? 何やら空気を裂く音が上から聞こえて来るような……。

 

「わぁぁぁああああーっ! ど、どいて下さいぃ~!!」

 

な、何事だ!? 急いで声のする方を見ると、一機のGN-XⅣがこちらに猛スピードで突っ込もうとしていた。……って冷静に考えてたけどまずい!!

 

「一夏!」

 

「彰人!」

 

互いに名前を呼び合うと同時にISを展開し飛び立つ。

 

まずは俺が防御姿勢の状態で全体をクッションとしGN-XⅣを受け止め、衝撃を殺す。そこへ一夏がGN-XⅣに肩を貸す形で体勢を立て直し、ゆっくり地面へと降ろした。

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい。2人とも、ありがとうございます」

 

「当然のことをしただけですよ」

 

一安心するが、周りはすっかり唖然としてしまっている。理由は簡単だ。皆一様に『この人が戦って大丈夫なのか?』と思っているんだろう。

 

「……ハプニングがあったが、無事で何よりだ。さっさと始めるぞ」

 

「え? 二対一で……ですか?」

 

「さすがにそれは……」

 

セシリアと鈴ちゃんもさすがに眉を顰める。が、千冬さんは何やら自信ありげに微笑んだ。

 

「心配するな。山田先生はこう見えて元代表候補生でな、実力は確かなものだ。私が保証する」

 

「む、昔のことですよ~。それに候補生止まりでしたし」

 

いや……間違いなく山田先生は実力者だ。何せ、あの千冬さんが認めているんだ。一夏もそう思ったのか、驚きを隠せないでいる。

 

「では、始め!!」

 

号令と同時にセシリアと鈴ちゃんがISを展開して飛翔する。山田先生はそれを目で追ってからスラスターを噴かした。

 

「織斑先生が言うのであれば、私も手加減はしませんわ……!」

 

「最初からクライマックスで行くわよ!!」

 

「い、行きます!!」

 

緊張気味の言葉とは裏腹に、山田先生の雰囲気は冷静な戦士のソレに変わっていた。鈴ちゃんがツインビームトライデントを持って接近戦を挑むが、GNビームサーベルを使って対応する。

 

「さて、この間に……デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

「あっ、はい!」

 

戦闘状況を見ながら、千冬さんはシャルルに説明を促す。

 

「山田先生が使用しているISはデュノア社製の『GN-XⅣ』です。第2世代型最後期の機体で、その能力は第3世代型に劣りません―――」

 

説明を聞きながら、俺は戦闘をじっと見ている。

 

山田先生は鈴ちゃんのツインビームトライデントを問題なく捌き、セシリアが援護で放つビームライフル(連結状態)も回避する。時折鈴ちゃんが下がりセシリアがドラグーンで攻撃するものの、山田先生は最小限の動きで避けていく。更には不意打ち気味に近距離で射出したドラゴンハングすら掠った程度に納め、GNショートライフルで反撃していく。

 

量産機で専用機持ち2人を相手にああも立ち回ることができるとは、凄まじい技量の持ち主だ。人は見かけによらないとはこのことか。

 

「そろそろか……デュノア、一旦そこまででいい」

 

戦闘を見て何かを悟った千冬さんが説明を終わらせるように言うと、戦闘に変化が起きた。

 

「これで行きます…トランザムッ!!」

 

叫ぶのと同時にGN-XⅣが赤く輝き、通常の三倍のスピードで動き回ってバルカンを含む全武装を駆使し、二機のガンダムに前後左右、そして上下から猛攻してシールドエネルギーを一気に削っていく。最後は両手に持ったGNビームサーベルで、それぞれ正面から二機を同時に串刺しにする。エネルギーが尽きたアルトロンとストライクフリーダムは地面に落下した。

 

「候補生止まりとは言え、あの腕前……そこらの軍人にも見劣りはしないか」

 

どこからかラウラちゃんの感心した声が聞こえた。

 

「く、うぅ……まさか、墜とされるとは……」

 

「量産機であそこまで立ち回ることができるなんて……完敗ね」

 

「ええ……経験の差を知りましたわ」

 

負けた2人は悔しそうな表情をするが、実力の差を感じたのかどこか納得していた。

 

「諸君、これがIS学園教員の実力だ。以後は敬意を持って接するように」

 

パンパンと手を叩きながら千冬さんは言う。そういうことか……山田先生は普段から教師として見られていないから、ここで実力差と威厳を見せておきたかったんだろう。それに、ISの性能が戦力の決定的差ではないということを教えたかったのもある筈だ。

みんな戦闘を見て驚いているし。

 

「専用機持ちは織斑、矢作、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では10人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちが務めること。いいな? では始め!」

 

言い終えた直後、大半の女子が一夏とシャルルに集まった。俺のとこは……2人までとは言わないが大分集まっている。2人はともかく、俺も人気があるんだろうか?

 

「ていうかこんな分かれ方でいいのか……」

 

ぼやきながら千冬さんを見ると、面倒だと言いたげに額を指で押さえた。

 

「全くコイツ等は…………出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通りだ。次に同じことをするなら、今日はISを背負ってグラウンドを百周してもらうからな!!」

 

千冬さんの言葉によって女子達は素早く移動し、あっという間に専用機持ちグループが出来上がった。

 

「最初からそうすればいいものを……」

 

思わずため息をつく千冬さんに同情を禁じ得ない。

 

「皆さんいいですかー? これから訓練機を一班一機ずつ取りに来て下さい。数は『M1アストレイ』が4機、『GN-XⅣ』が2機です。早い者勝ちですから急いで下さいね~!」

 

山田先生が全員に呼びかける。普段と違ってしっかりしているのは、さっきの戦闘で自信を取り戻したからだろう。それはいい。それはいいんだが……その豊満な胸まで堂々と晒すのはな……動く度に、その……揺れるんだよ。だからつい目で見てしまう。ヤミーが誕生するのは確実だな、これは。

 

てか、鈴ちゃんが物凄く落ち込んでるし……あ、同じグループの女子が慰めてる。共感できる部分が大いにあったんだな。

 

(……ん?)

 

ふと視線を感じて見てみると、セシリアがむぅっと頬を膨らませてこっちを見ていた。あらら……バレてましたか。一夏も箒ちゃんと鈴ちゃんに同じようなことされてんな。こればっかりはこっちが悪いので、手を合わせて小さく謝る。

 

よし、改めて始めるとしよう。機体は早い者勝ちって言ってたから……GN-XⅣでいいか。

俺はGN-XⅣを借りると皆が居るところに戻る。

 

「さてと。それじゃあまずは……」

 

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげて下さい。全員にやってもらうので、フィッティングとパーソナライズはカットしてあります。とりあえず午前中は動かすところまでやって下さい』

 

途中で山田先生がISのオープンチャンネルを使って連絡してきた。ふむ、装着の手伝いと起動。それと歩行をやれば良いみたいだ。

 

「んじゃ、俺が装着の手伝いをして起動したら歩行を開始する。これでいいか?」

 

『『『はーい!』』』

 

うん、元気があって何よりだ。

 

「最初は『はいはいはーい! 出席番号一番、相川清香! 所属はハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!!』な、何だ?」

 

突然聞こえてきた声に戸惑うと、一夏の班で相川さんが自己紹介をしていた。当然ながら一夏は面食らっている。

 

『な、何故自己紹介を?』

 

『よろしくお願いします!!』

 

お願いするのはいいが、自己紹介いったか?

 

『あっ、ずるい!』

 

『私も!』

 

『第一印象から決めてました!!』

 

『何を!?』

 

相川さんに触発されたのか、一夏の班の女子達全員(箒ちゃん除く)が全く同じ行動をする。

 

『『『お願いします!!』』』

 

ん? また違う場所から声が……これはシャルルの班か。

 

『え、えっと……』

 

ものの見事にシャルルも戸惑う。俺だって同じ状況になればそうなるな。

 

「……みんな何やってんだか…………って君達も、やろうとしない!」

 

動こうとしていた俺の班の女子達に釘を刺すと、ほぼ全員がギクッ!? とした表情をした。おいおい……。

 

「ほら、早く済ませるよ。まずは……君からだ」

 

そんな女子達を促し、選んだ1人の装着を手伝うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ようし。歩行が終わったら次の人に交代だ」

 

「はーい」

 

1人目の女子が装着、起動、歩行を終えたので装着を解除するが……。

 

「矢作君。コックピットに届かないんだけど……」

 

「え? ……あー……」

 

しゃがむ指示をし忘れた為に、ISが立ったままの状態になってしまった。これでは乗れない。

一夏達も同じ状況になっている。そっちはある程度わかってたんだけどな……。

 

「……仕方ない。かくなる上は…………よいしょっと」

 

「え、ひゃっ!?」

 

俺はウイングゼロを展開して2人目の女子を抱き上げ、GN-XⅣのコックピットに運ぶ。

 

「ふぅ……装着したら起動と歩行をしてくれ。終わった後はしゃがんでから解除するように。それと、急に抱っこしてごめん」

 

「う、ううん。ありがとう……」

 

俺は地面に降りてウイングゼロを解除する。少し緊張したが大丈夫みたいだ。

 

 

 

 

この後練習は順調に進み、しばらくして訓練は終わった。



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44th Episode

「午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

起動テストを終えた一・二組合同班は、格納庫にISを移して再度グラウンドへ戻る。千冬さん達先生は連絡事項を伝えると、先に引き上げて行った。

 

「はぁー……結構重かったな」

 

「確かにな」

 

汗を拭いながら一夏と話す。訓練機はIS専用のカートで運ぶのだが、それには動力が一切ついていない。よって人力で運ばなければならない。

 

「それより、早く更衣室に行って着替えよう」

 

「ああ。シャルルも一緒に行こうぜ。俺達男子はアリーナの更衣室まで行かなきゃならないんだし」

 

「え!? ええと……僕は機体の微調整をしていくから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待たなくてもいいよ」

 

「別に微調整ぐらい今やらなくてもいいんじゃ……まぁ、君がそう言うんなら俺は行くよ。一夏、行こう」

 

「……ああ」

 

俺と一夏は互いに訝しみながら、更衣室へと歩を進めた。そして少しした時……。

 

「あの、彰人さん。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

セシリアに話しかけられた。てか戻ってなかったんだ。けど俺はともかく、一夏を待たせる訳には……そう思っていたら。

 

「俺は先に行ってるから、遠慮なく話をしててくれ」

 

と言い残し、立ち去って行った。何も言わなくても伝わるとは……さすが親友。

 

「……で、何か用か?」

 

「彰人さん、その……今日の昼は空いていますか?」

 

「え? 空いてるけど、何かあるの?」

 

「そ、その、もしよかったらですけど…私と一緒に昼食を取りませんか?」

 

「昼食を?」

 

「はい。屋上で……簪さんにも、声を掛けますので」

 

「……わかった。ご一緒させて貰うよ」

 

「っ! あ、ありがとうごさいます!!」

 

俺が行くことを告げると、ぱぁっと顔を笑顔に輝かせる。やばい、可愛い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み

 

俺はセシリアと簪と共に屋上にやってきていた。一般における高校の屋上というのは立ち入りができないのだが、IS学園(ここ)ではそんな制約はない。今日は女子達がシャルル目当てで全員食堂に行ってるので、3人だけの貸し切り状態……になると思ってたのだが。

 

「「まさか、お前等までここを選ぶとはな……」」

 

一夏と台詞がハモる。そう、一夏、箒ちゃん、鈴ちゃんの3人も来ていたのだ。箒ちゃん達から誘ったらしい。

 

「考えてることは同じ、でしたのね」

 

「そういうことになるな……」

 

女子陣も互いに苦笑いしてしまう。更に―――

 

「あれ? なぁんだ、彰人達もここに居たんだ」

 

「やはりここだったか。道理で見当たらない訳だ」

 

シャルルとラウラちゃんまで来た。まずシャルルの理由は、

 

「だって2人ともどこかに行っちゃうから、僕1人で食堂に行ったら……ねぇ……」

 

とのことだ。これにはさすがに申し訳なく思った。……そういえば、俺が教室を出た直後にシャルルが三年の先輩に何か言ってたな。確か『僕のような者の為に、咲き誇る花の一時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』だった気がする。普通だと気障に感じる筈だが、シャルルが言うと全く違和感がない。これこそ驚きもんだ。

そしてラウラちゃんの理由は、

 

「久しぶりに2人と話をしたくてな。食堂に居ないので、探していたんだ」

 

と言っていた。……ラウラちゃんからすれば、俺達は初めてできた異性の友達だ。再会できた嬉しさは俺達以上なんだろう。なので2人はそのまま同席させることにした。シャルルは本当にいいのか不安げだったが、みんなも賛成してくれたのでそれはなくなった。

 

「ところで彰人さん。そちらのボーデヴィッヒさんとはどのようなご関係で?」

 

「そういえば私も気になってたのよね。もしかして、ドイツに居た時に知り合ったの?」

 

セシリアと鈴ちゃんがそう言って尋ねて来る。簪や箒ちゃん、シャルルも興味津々といった感じだ。

 

「鈴ちゃんの言う通り、ラウラちゃんとは第二回モンド・グロッソを観戦しにドイツに行った時に知り合ったんだ」

 

「改めて、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。私のことはラウラと呼んでくれ。お前達のことは事前に見通した名簿で知っているが、名前で呼んでもいいだろうか?」

 

「いいですわよ」

 

「……いいよ」

 

「いいに決まってるじゃないの」

 

「ああ、構わないぞ」

 

「勿論いいよ」

 

「だとさ。良かったな、ラウラ」

 

「……ああ」

 

一夏が言うと、ラウラちゃんは嬉しそうに微笑んだ。が、直後。何か気になることがあったのか怪訝そうな表情になった。

 

「……ところで、彰人と一夏は彼女達とは特に親密な間柄のようだが、一体どのような関係なんだ?」

 

さすがにラウラちゃんにも俺達の関係は気になったらしい。ここはきちんと話しておいた方がいいだろう。

 

「そうだな。まずは俺から説明するよ」

 

最初に一夏が説明することになった。

 

「内緒にしといて欲しいんだが、箒と鈴は…俺の恋人なんだ」

 

「こ、恋人だと? 2人同時にか?」

 

「嘘っ……」

 

ラウラちゃんとシャルルは目を丸くしていた。普通そうなるよね。けど、この状態で俺についても話さないといけないから、辛いなぁ。

 

「ということはまさか、彰人も……」

 

「ああ。セシリアと簪は、俺の彼女だ」

 

「な、何だとぉおおおおおっ!?」

 

「うおっ!?」

 

戦慄しながら尋ねるシャルルに答えると、ラウラちゃんが突然大声を出しながら身を乗り出してきた。な、何事!?

 

「ど、どうしたのさ?」

 

「あ……す、済まない。よもや彰人までとは思ってなくてな……」

 

申し訳なさそうに謝るラウラちゃん。いや、君は悪くないんだ。悪いのは俺だから。

 

「驚くのも無理はないけど、早くご飯食べないと時間来ちゃうわよ。はいこれ、一夏と彰人の分」

 

そこへ鈴ちゃんが言って俺達にタッパーを渡す。中身は……

 

「お、酢豚だ!」

 

「凄く美味しそうだ」

 

「今朝作ったのよ。アンタ達、前に食べたいって言ってたからね。まあ……どちらかと言うと、一夏が主だけど」

 

苦笑しながら言う鈴ちゃん。一夏は鈴ちゃんの彼氏なんだから、そっちが優先されるのは仕方がない。俺にも作って来てくれたんだから、良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪SIDE

 

(……ねえセシリア。あのラウラって子……)

 

私は彰人達に聞こえないように、こっそりセシリアに話しかけていた。

 

(ええ……私達と同じものを感じますわ。自覚してないだけで、彼女も彰人さんのことが好きなんでしょう)

 

(……やっぱり)

 

彰人の方で過剰な反応を見せていたし、それに無自覚かも知れないけど、彰人をチラチラと見ていたから間違いないと思う。

 

(……どうしよう、セシリア?)

 

(私は彰人さんが平等に愛して下さるなら構いませんが……簪さんは?)

 

(……私も、セシリアと同じ考え。彰人は優しいからまた凄く悩むと思うけど、きっと全てを包み込んでくれるから)

 

どんなことがあっても、彰人は私達を見捨てない。根拠はないけど、私はそう確信している。

 

(……それより早く弁当を出さないと、彰人達に変に思われるよ?)

 

(あ、そうでしたわ)

 

私達は内緒話していたことがバレないように、弁当を前に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「あの、彰人さん。これを」

 

「……どうぞ」

 

今度はセシリアがバスケットに入ったサンドイッチを、簪が炒飯の入った保温弁当を差し出してきた。

 

「ほう、これはまた上手そうだ。頂きますっと」

 

両手を合わせて、まずはセシリアのサンドイッチを手に取る。見た目は上々だが……何故か嫌な予感がする。はて何だったか……思い出せない。

 

「(まあいいか)……あむ」

 

サンドイッチを口に含む。ふむふむ……これはまた刺激のある独特な味が―――

 

「って! ゲホッ…な、何じゃこの……ゲホッゲホッ、味は……!」

 

口の中に広がる刺激による痛みに悶絶し、咳き込んでしまう。そうだ、思い出した。セシリアは料理がとんでもなく下手だったんだ!

 

「あ、彰人さん!? どうしたんですの!?」

 

「お、おい彰人! 何があった!? 大丈夫か!?」

 

心配そうにみんなが駆け寄ってくれる。けど、一夏は箒ちゃんの唐揚げを食べる直前だった筈だ。ごめん……本当にごめん。

俺はお茶を飲んで何とか落ち着かせる。

 

「あ、ああ……大丈夫だ。それよりセシリア、このサンドイッチ…一口でいいから食べてみてくれ」

 

「え? いいですけど……何故ですか?」

 

「俺がこうなった原因が自ずとわかる筈だ……」

 

怪訝に思いながらも、セシリアは自分で作ったサンドイッチを口にした。途端に顔色が悪くなり、ケホケホと咳き込んでしまった。

 

「な、何ですのこれ……! こんな酷い味だったなんて……」

 

「……後で猛特訓する必要があるな、これは」

 

「はい……申し訳ありません…………………グスッ……彰人さんに、おいしい料理を食べてもらいたかったのに…………」

 

若干涙声になってるセシリアを、簪がよしよしと慰める。……何故だが知らないが、無性に庇護欲が湧いてきた。

 

「んぐんぐ……この唐揚げかなり美味いな! 混ぜてあるのはショウガと醤油と……ニンニクかな? 後は……何だろう?」

 

「あらかじめコショウを少量混ぜ込んである。それと、隠し味に大根おろしを適量だ」

 

「なるほど、道理でどっかで食べた味がした訳だ」

 

隣では箒ちゃんの料理を一夏が絶賛していた。

 

「……そういえばラウラって、特撮作品が好きだって情報があるんだけど」

 

「ん? まあな。主に仮面ライダーオーズが好きなんだが、如何せんドイツにはDVDがあまり売ってなくてな……」

 

「……じゃあ、今度貸してあげるよ。オーズ以外にも色々あるけど、それも見る?」

 

「な、何!? 持ってるだけではなく、他にもあると言うのか…で、では、お言葉に甘えさせて貰おう……!」

 

反対ではラウラちゃんと簪がすっかり意気投合していた。がっちり握手まで交わしている。



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45th Episode

シャルルとラウラちゃんが転校してきてから五日が経過した。今日は土曜日で、午前に理論学習をやって午後は自由時間になっている。それを利用して、一夏とシャルルとでIS戦闘の訓練をしようという話になった。

 

「じゃあまずは、一夏のダブルオーライザーと戦ってみたいな」

 

自身の専用IS『アリオスガンダム』を纏ったシャルルが言う。

 

「わかった。ただし、手加減はなしだぜ」

 

「望むところだよ」

 

ダブルオーを展開しながら闘争心を剥き出しにする一夏に、シャルルも雰囲気が変わる。

 

そして戦闘が始まった。結果は……双方引き分けであったが、ややシャルルが押していたように見えた。

 

「なんか、どうにか引き分けに持ち込めた感じがするんだよな。戦闘中もシャルルが優位だった気もするし」

 

「そりゃあダブルオーは近接特化の機体だけど、シャルルのアリオスはどちからと言うとバランスタイプの機体だから、遠近両方において優位に立てる戦いをすることができるんじゃないか?」

 

「彰人の言う通りだよ。ダブルオーライザーには射撃用の武器も積まれてるみたいだけど、得意としているのが近距離だからね。ある程度距離を取れば、勝ちが見えて来るんだ。だから自分が持ってる以外の射撃武器の特性も把握しておくと、対戦で有利に進めることができるよ」

 

俺とシャルルの説明を聞いて、一夏はなるほど……といった表情をした。それにしてもシャルルの説明には俺達初心者にも易しくてわかりやすい。箒ちゃんと鈴ちゃんは説明下手だし、セシリアは玄人向けの説明を主にするからわかりにくいんだよね。本当なら簪にも来て欲しかったけど、用事があって来られなかったのが残念だ。

 

「ところで、一夏のダブルオーと彰人のウイングゼロって、後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「ああ。拡張領域(パススロット)が空いてないらしくて、量子変換(インストール)が無理なんだと」

 

「俺も同じだ」

 

「多分だけど、それって単一仕様能力(ワンオフアビリティー)に容量が使われちゃってるせいだよ」

 

シャルルの予測を聞いて、俺は心の中で「ああ、やっぱりか」と頷いていた。まあ元から持ってる武装や変形機能に満足しているので、オプションとかは特にいらないんだが。

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)か……それってさ、専用機持ちは誰でもすぐ使えるものなのか?」

 

「ううん。普通は第二形態(セカンドフォーム)から発現するものなんだ。と言っても、それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いけど。だからそれ以外の特殊能力を複数の人間に使えるようにしたのが、第3世代型IS。オルコットさんのスーパードラグーンや凰さんのドラゴンハング。それにエクシアの単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を解析して、GN-XⅣや僕のアリオスに搭載したトランザムがそうだよ」

 

「そうか……」

 

俺と一夏が例外ってだけなのか。

 

「俺の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)は『ゼロシステム』で確定だが、一夏のは何なんだ? 『トランザム』か?」

 

「それがよくわかんないんだよな……量子化はするし、ライザーソードだって使えるようになるし」

 

うーんと顎に手を当てながら考える。原作でダブルオーライザーが持っていた特殊能力となるとアレだが……まさかな……。

 

「ウイングゼロもダブルオーも、第一形態なのにアビリティーがあるっていうのだけで物凄い異常事態だよ。前例が全くないからね。しかも一夏の方はまるで織斑先生―――初代『ブリュンヒルデ』の使っていたエクシアの上位互換みたいだし、彰人の方は高度な未来予測ができるって言うし」

 

量子化によるテレポートとライザーソードによる一撃必殺の技が使える機体に、未来予測で相手の攻撃を読んで先手を打つ機体……うん、チートだな。

 

「まあそれを考えるのは後にしよう。とりあえず俺は射撃訓練を続けるよ。彰人は?」

 

「俺は格闘訓練だな。射撃武器は逆に充実しているし」

 

ビームサーベルを引き抜きながら俺は一夏に言う。

 

「そのツインバスターライフル、俺も使ってみたいよ……って、無理だろうけど」

 

「普通はね。でも所有者が使用承諾アンロックすれば、登録してある人全員が使えるんだよ」

 

「ああ、そういえば……」

 

シャルルの言葉を聞いて何となく想像する。ツインバスターライフルを構えたダブルオーライザーに、逆にGNソードⅢを構えたウイングガンダムゼロ。……どこか違和感を感じるな。

 

「時にシャルル。お前が使ってるアリオスガンダムって、GN-XⅣと同じ技術を使ってるんだよな。にしては見た目とかかなり違うんだが?」

 

GNソードⅢ(ライフルモード)を構えて一夏が練習している最中に、シャルルに尋ねるとすぐに答えてくれた。

 

「僕のは専用機だから、技術は同じでもかなり弄ってあるよ。主な特徴としては変形機能があるのと、拡張領域(パススロット)を倍にしてあることかな。今量子変換(インストール)してある装備だけでも軽く20はあるし」

 

「マジか。機動力が高そうだと思ってたのに、火力まで高いとは」

 

仕舞ってある装備の中には同じものも幾つかある筈だから、何らかの要因で武器を損失してもすぐに予備を取り出せるということになる。仮に火力の高い武器を入れまくっていて殲滅戦に出動したなら……場合によれば完全にワンサイドゲームになるな。

 

「20って、かなりあるな……」

 

一夏も練習を中断して呟いた。俺達には今ある武器しかないもんな。そう考えていると。

 

「3人とも、このアリーナに居たのか」

 

ラウラちゃんが生身の状態でこちらに歩いてきた。

 

「どうしたのラウラちゃん?」

 

「練習をしていると聞いたな。私も参加したかったのだが、もう終わるのか?」

 

「んー、そうだね。もう少し練習してから上がる予定だよ」

 

「そうか……残念だ」

 

ラウラちゃんは目に見えてしゅんと落ち込む。……最近何故か妙に落ち込んでるのに、更に落ち込むなんて……。

 

「俺達と練習したかったのか?」

 

「ん、まあな……だが終わるのであれば仕方ない。が、せめて私の機体を披露させて欲しい」

 

「それくらいならいいけど」

 

「感謝する」

 

そう言って、ラウラちゃんは光に包まれた。そしてその姿は、1機のGへと変わった。

 

「っ!? ねえ、ちょっとアレ……」

 

「嘘っ、ドイツの第3世代型ISだ」

 

「まだ本国でのトライアル段階って聞いたけど……」

 

周りのみんなが口々に言う。ラウラちゃんが身に纏ったのは、彼女の専用IS『ハイペリオンガンダム』だ。

 

「ハイペリオンか……」

 

「今度のトーナメントで、私はこの機体で出る。どちらと当たるかはわからんが、その時は…腕を確かめさせてもらうぞ」

 

「ほう、言うじゃんか。いいぜ、望むところだ!」

 

「腕の見せ所って奴だ!」

 

俺も一夏も、ラウラちゃんの宣戦布告に闘争心を見せる。

 

「……シャルル・デュノア」

 

次にラウラちゃんはシャルルを向くと、マスク越しでもわかるように怪訝そうな雰囲気になった。

 

「何かな?」

 

「……いや、何でもない。では、トーナメントを楽しみにしているぞ」

 

そう言って、ラウラちゃんは去って行った。やはりラウラちゃんもシャルルの『不自然さ』に感付いているんだろう。

 

「今日はここまでにしとくか。もう4時過ぎだし」

 

「そうだな」

 

んー、と背伸びをしながら言う。ここまでは特に問題はないんだが……。

 

「じゃあ、2人とも先に着替えてて」

 

上がる時は必ずこれだ。シャルルと着替えたのは転校初日のみで、後は一緒に着替えたことが全くない。理由はわかっているんだが、わかっているだけに言い辛い。セシリア達に何て言われるのやら……。

 

「ああ。先に行ってる」

 

あくまで疑っていないのを装い、俺と一夏は更衣室に移動する。

 

「それにしても毎度思うんだが、俺達だけが使うには贅沢な更衣室だよな」

 

「同感だ。広すぎて持て余している感がするぜ」

 

ロッカーの数は優に50。故に広い造りになっており、2人で居るとかなり寂しく感じる。

 

「まあそんなことより、俺は風呂に入りたいが」

 

「それ俺も思ってた。シャワーだけじゃ何か気持ち悪いんだよな」

 

「山田先生がタイムテーブルを調整してるとは言っていたが、いつになるのやら……」

 

大浴場に関してあれこれ話しながら、着替えを終える。

 

「よしっと。そろそろ行くとするか」

 

「あのぅ、織斑君と矢作君とデュノア君は居ますか?」

 

更衣室から出ようとした時、ドアの向こうから山田先生の声が聞こえた。

 

「はい。織斑と彰人が居ます」

 

「入っても大丈夫ですか? まだ着替え中ですか?」

 

「着替えは既に済んでいますのでご安心を」

 

「そうですか。それでは失礼しますね」

 

一夏が応答に答えると、ドアが開いて山田先生が入ってくる。

 

「デュノア君は一緒じゃないんですか? 今日は織斑君と矢作君と一緒に実習をしていると聞きましたけど」

 

「シャルルはまだアリーナに居ます。もう戻って来る頃ですが……何か重要な用なら、呼んで来ますが」

 

俺が言うと、山田先生は特に気にしないように頭を振った。

 

「ああいえ、そんなに大事な話でもないです。後で織斑君か矢作君のどちらから伝えておいてください。それでですね、実は今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に2回の使用日を設けることにしました」

 

「本当ですか!?」

 

「噂をすれば何とやら……か」

 

一夏は嬉しそうに返事をして笑みを浮かべ、俺も声には表さないが微笑んでいた。何せ久々に風呂に入れるのだ。物凄くテンションが上がる。

 

「2人とも、どうしたの?」

 

そこへ声が聞こえてきた。振り返ると、シャルルが立っていた。

 

「先に戻っててって言ったけど、何かあったの?」

 

「実はなシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいんだ」

 

「そう」

 

「そうって……あんまり嬉しそうじゃないな?」

 

「っ!? そ、そんなことないよ! 凄く嬉しいよ!! ああ、早くお風呂に入りたいなぁ!」

 

一夏に指摘されて慌てて取り繕うが……バレバレだ。千冬さんが居たら確実に見破っていたぞ。

 

「あ、そういえば織斑君と矢作君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか? ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロの正式な登録に関する書類なので、少し枚数が多いんですけど」

 

「わかりました」

 

「わかりました―――あ、シャルル。今日は長くなりそうだから、先にシャワー使ってていいぞ」

 

「うん、わかった」

 

シャルルに確認した上で山田先生について行く一夏。俺も続くが―――

 

「……シャルル。いつも思うけど君ってさ、仕草がまるで女の子みたいだね?」

 

「っ!!!!!!」

 

―――擦れ違いつつそう言い残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後

 

「ふう、もうこんな時間か」

 

廊下を1人で歩きながら腕時計を見て呟く。書類に書くのを済ませた後、俺と一夏は一旦分かれてシャワーを浴びることにした。夕食の時間が近いこともあって俺はシャワーを手早く済ませると、すぐに外へ出たのだ。

 

「それにしても……だ。シャルルの奴、本当にスパイをするつもりがあるのか? ボロ出しまくりなんだが」

 

1人であるのを良いことに、愚痴を零す。理由はシャルルの対応があまりにも杜撰すぎることがあるからだ。先ほどの大浴場の時も然り、それ以外にもトイレやシャワー等、様々なところで不自然な対応をしていた。箒ちゃんも一瞬だが胡散臭そうに見ていたし。

 

「ISの操作技術に関しては一流だが、兵士としては素人以下だ。こんなんでよく任務達成ができると思えたな」

 

「全くね」

 

「つーか初日の着替えの時点で胸見えてたし。そこはもっと警戒しろよ! どの位置に鏡があるとか、どの向きなら相手から見えないとかさ!」

 

「潜入捜査をする上では欠かせない技術…というか常識よね。それすら身につけていなかったなんて、私も呆れちゃうわ」

 

「その通りだ。ったく、こちとらいつどのタイミングで言うべきか悩みまくってるって言うのに……………………………………………ん?」

 

突然割り込んで来た声に今更気づいて振り向くと、見覚えのある人が居た。

 

「久しぶり、彰人君♪」

 

「……心臓に悪いですよ、楯無さん」

 

『私、再び参上!』と書かれた扇子を広げた楯無さんに非難がましい視線を向ける(本当に非難してはいないけど)。

 

「あら? そう言う割にはあまり驚いてないみたいだけど?」

 

「話しかける直前まで気配を消すことができる人なんて、貴女以外の誰が居ると言うんですか」

 

「それもそうね」

 

「で、一体何の用件で……って聞くまでもないですか」

 

「ええ。お察しの通り、シャルル・デュノアについてよ」

 

顔つきを真面目なものに変え、楯無さんは話し始めた。

 

「彼……いえ、彼女の本名は『シャルロット・デュノア』。既に君や一夏君は気づいているとは思うけど、彼女はスパイとしてIS学園(ここ)に送り込まれたの。ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロのデータ収集を目的としてね」

 

「でしょうね。他国からすれば、俺と一夏のIS情報は喉から手が出る程欲しいもの。どんな手を使ってでも手に入れようとする輩は、必ず現れる。現にこうして、IS学園に潜入していますし」

 

「そこまでわかって居るなら話は早いわ。……彰人君。君がこんなことをする筈はないと思うけど、もし彼女の正体が明らかになったとしても、決して同情や怒りで動くのだけはやめて頂戴。まずは貴方の兄さんに連絡した方がいいわ」

 

「警告という訳ですか。言われなくても、そうなった時はそうするつもりで……って、何で兄ちゃんを?」

 

「私の家って色んなところに繋がりを持ってるのよ。無論、彰人君の兄さんともね」

 

……コイツはやられた。俺の知らないところで、楯無さんと省吾兄ちゃんは知り合いになっていたということか。てことは、俺がオーディンの弟だってことも……。

 

「それにしても驚いたわ。オーディンの弟が、IS適正を持っていたなんて」

 

「やっぱり知っていたんですね。ずるいや、楯無さんは。その上で知らないみたいに接してきて」

 

「貴方自身あまり目立ちたくないみたいだし、その方が良いと思ったの」

 

「……悔しいですけど、その通りです」

 

この人には俺の考えてることは筒抜けになってると思った方がいいな。ったく、底が知れない人だ。

 

「さてと。伝えたいことは伝えたし、私はもう行くわ。何かあったら連絡してね♪」

 

「そうします。では、俺もこれで。一夏達を待たせて居るので」

 

最後にそう言って、俺は楯無さんと別れた。



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46th Episode

「……一夏の奴、遅いな」

 

あの後食堂にて俺は一夏を待っていたが、中々来ないので痺れを切らしていた。……まさか、既にシャルルの正体を見ているのか?

 

「(可能性はあるな。心配は無用だと思いたいが……)セシリア、箒ちゃん。俺、一夏を呼んで来るよ」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

「すまない、迷惑を掛けるな」

 

「気にしないでくれ。それじゃっ」

 

俺は席を立つと、足早に一夏の部屋へと向かった。

 

「よし、案外早く到着したな。……一夏、居るかー?」

 

部屋に到着すると、俺はドアを軽くノックする。が、返事はない。もう一度ノックをする。やはり返事はない。

 

「……入るぞー?」

 

そっとドアを開けて中に入ると、誰も居なかった。おかしいな……洗面所に居るのか? 試しに入ってみると、誰かがシャワールームに入っていた。一夏か?

 

「彰人?」

 

そう考えた直後、後ろから声が聞こえた。

 

「一夏? お前、どこに行ってたんだよ?」

 

「食堂に行こうとしたら腹の調子が悪くなって、トイレに行ってた。もしかして、呼びに来てくれたのか?」

 

「ああ。早く行こうぜ、みんな待って―――」

 

シャワーに居るのは一夏じゃないと確信した為に長居は無用だと促した時、隣のシャワールームの扉が開いた。……遅かったか…………。

 

「…………あ、彰……人? それに………い、一夏……………?」

 

シャワールームから出てきたのは長い金髪に、豊かな胸を持った『女子』だった。俺と一夏は彼女に見覚えがあった。つい先ほど、一緒に練習した相手だからだ。

 

「シャルル……」

 

「俺の方から言及するつもりだったのに、こういう形で晒されるとは……」

 

「2人とも……もしかして、気づいてたの?」

 

「最初は単に怪しいとしか思ってなかったが、一緒に着替えた時……女性物のコルセットが一瞬見えて、その時確信したんだ」

 

「そっか……最初から、とんでもないミスをしていたんだね。僕は……」

 

目を逸らしながら言うと、シャルルは呆然としながら自嘲するようにため息をついた。

 

「お前の事情が何であれ、このことは見過ごせない。先生には内緒にしとくから、せめて俺達には正直に話してくれ。それと一夏、ここにみんなを呼んできてくれ」

 

「ああ、すぐに呼んでくる」

 

そう言って一夏は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

(まさかこんなことになるとは……)

 

右手で軽く頭を押さえながら、俺は廊下に出た。タイミングを見計らって言おうと思っていたのに、想定外だ。

 

(ともかく、みんなを探そう)

 

「む、そこに居たか」

 

その時、背後から箒の声がした。もしやと思って振り向くと、箒とセシリアが立っていた。

 

「どうした一夏? 挙動がおかしいぞ?」

 

「何かありましたの?」

 

「俺も少し困惑しててな……とりあえず鈴と簪、それにラウラを呼んで、俺の部屋に来てくれ」

 

2人にそう告げると、頭に疑問符を浮かべながらも鈴達を呼んでくれた。俺はみんなを部屋に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

一夏が退室してから少しして、全員が部屋に集められた。俺はセシリア達を見て話を切り出す。

 

「みんな晩飯もまだだと思うけど……シャルルから大事な話があるんだ。言っておくが、かなり驚くことは確実だ。心して聞いてくれ」

 

「「承知した」」

 

「わかりましたわ」

 

「……わかった」

 

「それで、どんな内容なの?」

 

ことの重大さが伝わったらしく、皆緊張した面持ちで頷いていた。やがて髪を下ろし、コルセットを外して胸の膨らみを露わにし、ジャージを着込んだシャルルが出てきた。当然ながらみんなは驚きを隠せない……が、箒ちゃんとラウラちゃんは幾分か冷静であった。

 

「っ、もしやとは思っていたが……」

 

「やはりそうだったか……」

 

「えっ!? シャルルさん、その胸の膨らみは……!」

 

「まさか、アンタ女だったの!?」

 

「……そんな……!」

 

シャルルは頷くと自分のベッドに座り、力なく言った。

 

「……黙っていてごめんなさい……」

 

「で、正直に話してくれるか? 何かする訳じゃないから、安心してくれ」

 

「……うん。本当のことを話すよ。何の弁解にもならないけど……」

 

シャルルは息を整えると、訥々と真実を話し始めた。

 

「僕はね…妾の子なんだよ。実家のデュノア社は量産機のシェアが世界第三位だけど、結局GN-Xシリーズはどれも第2世代型止まりで、第3世代型の開発が遅れに遅れてて、経営が成り立たなくなろうとしているんだ。欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも外されちゃってるし……そんな時、社長である僕の父……正確には、父さんを傀儡にして会社の実権を握っている正妻、僕の義理の母が彰人と一夏、2人の男性IS操縦者と、愛人の娘である僕に目をつけた。僕に注目を集めさせた上で君達に近づかせ、その専用機のデータを盗ませる為にね……」

 

「だから男装してIS学園に転校してきたのか。……シャルル、お前自身はこのことをどう思っているんだ? 本当にこんなことをしたかったのか?」

 

「したくなかったよ! 僕は勿論、父さんだってこの提案には反対した。たった1人の娘を、大人の都合で危険な目に晒したくないって言ってた……でも、あろうことかあの人は、部下に命令して父さんを監禁したんだ! それだけじゃない、僕や父さんの味方をしてくれた人達も、あの人のせいでみんな会社を解雇された! ……もう僕の周りには、誰も味方になってくれる人はいなくて、だから…………」

 

話していくに連れ、シャルルの声は涙声に変わっていった。同時に、彼女やその周囲へのあまりの仕打ちに、俺の…俺達の中には怒りが湧き上がっていた。セシリアと鈴ちゃんに至っては完全に激怒している。

 

「目的の為に自分の娘を利用するなんて……それでも親ですの!?」

 

「しかも、自分の言うことを聞かない人達まで追い出すなんて、人でなしにも程があるわよ!!」

 

「女の…否、親の風上にも置けない奴だ……!」

 

「『如何なる作戦行動中であろうとも、決して民間人を巻き込むな』、軍で教わった鉄則だ。人の倫理が問われるのだが、どうやらその女には欠落しているようだな……!」

 

「……どうしてそんなことができるの!? 同じ人間なのに!」

 

「「…………………」」

 

正妻である女性に対して怒りが強くなる中、俺は考えていた。そろそろ『彼女』が来る頃だろうか、と。

 

「そうね……確かに、同じ人間がする事とは思えないわ」

 

そこへ一夏が集めた人達以外の声が聞こえてきた。タイミングは正解だったな。

 

「「「「っ!!?」」」」

 

「っ! この私が、気配を読めなかっただと……」

 

俺と一夏以外の面々が彼女……楯無さんが唐突に現れたことに驚く(にしても、軍人であるラウラちゃんですら気配を読めないとは一体……)。

 

「あ、貴女は……?」

 

「私は更識楯無。IS学園の生徒会長で、簪ちゃんの姉よ。そんでもって、更識家の当主でもあるの。改めてみんな、よろしくね」

 

「え、ええ。……まさか、あの更識楯無さんとこうして近くで接することができるなんて……簪さんとの試合でしか目にできないとばかり思ってましたのに……」

 

「……それでお姉ちゃん、どうやってここに来たの?」

 

「彰人君にメール貰ったからよ」

 

そう言ってスマホを見せる楯無さん。簪はびっくりした顔で俺と彼女を交互に見る。

 

「……その生徒会長さんが、僕にどのようなご用件で?」

 

「決まってるじゃない、貴女の処遇についてよ。本来ならしかるべき処置をするんだけど……今回は私も腹に据えかねてるから、色々言わせてもらうわ。…親がいなければ子どもは生まれない。それは変わらないけど、だからと言って親の都合で子どもの人生が歪められるなんてこと、許される筈がないわ。ましてや貴女の場合は、戸籍上での義理の母親とはほとんど他人に近いし。……いい? 生き方を選ぶ権利は誰にだってある。それを邪魔されて選択権を奪われるのは、決してあってはならないこと。だから、貴女だって誰の言いなりにもならずに自由に生き方を選ぶことができるの。貴女は自分の生きたいように生きればいいわ」

 

「気持ちは嬉しいですけど……でも、どうすれば……? デュノア社がバックにあるんじゃ、僕1人じゃ……」

 

楯無さんの言葉にシャルルは揺れるが、まだ決心をつけるには至らない。後一歩というところか。

 

「そうね……シャルル君、貴女はどうするの? 今は私達が話を聞いているからいいけど、世間にバレたら一大事よ。それを含めて、貴女はどうしたいの?」

 

「どうって……時間の問題じゃないですか? フランス政府も真相を知ったら黙っていないだろうし、最悪デュノア社は倒産して僕は代表候補生を降ろされ、良くて牢屋行きとかに……」

 

「そうじゃないわ。ちゃんと思い出して。貴女がどうなるのかじゃなくて、貴女がどうしたいかを私は聞いているの。……IS学園(ここ)の校則を知ってるかしら?」

 

「え?」

 

戸惑うシャルルに、楯無さんは生徒手帳を開いて該当箇所を見せながらスラスラと読み上げていく。

 

「『特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』。つまりこの学園に居れば他国からは介入されないのよ。それならいくらでも方法はあるし、自由に生きていけばいいわ。……さて、彰人君。貴方の兄さんに電話を繋いでくれないかしら? できればテレビ電話モードがいいんだけど」

 

「わかりました。……やれやれ、結局全部持ってくんだからなぁ」

 

完全に話の主導権を握った楯無さんに苦笑しながら、俺は携帯電話を取り出してテレビ電話モードで省吾兄ちゃんに電話を掛けた。

 

「そういえば、彰人さんのお兄さんって、どんな方なんですの?」

 

「……矢作って名字はあまり見かけないけど……」

 

「うーん……」

 

セシリア、簪、シャルルが首を傾げる。

 

「そうか、みんなは彰人の兄さんのことを知らないのか」

 

「単に名字が同じだけって思ってる人も多いし」

 

「知ったらかなり驚きそうだ」

 

「間違いなく驚くだろうな」

 

箒ちゃん、鈴ちゃん、ラウラちゃん、一夏が楽しそうにしている。……俺自身、あまり知られたくはないんだけどな。まあ今回は事情が事情だけに目を瞑ろう。

 

『はいもしもし、首相官邸ですが』

 

「「「っ!?」」」

 

いきなり出てきたトンデモワードに3人がビクッとしている。この声は由唯さんか。

 

「もしもし由唯さん。彰人ですけど」

 

『あら彰人君。ちょっと待ってて、今代わるから』

 

そう言うと電話が保留モードになる。しばし待とう。

 

「あ…あの、電話を掛けた先は……」

 

「そっ。彼の兄で初代オーディンのあの人のところよ」

 

「お、オーディン!?!?」

 

「そ、それって確か、第一回モンド・グロッソのガーランド部門で優勝したあの……!」

 

「しかも現在は総理大臣になっているとか……」

 

驚愕する3人に楯無さんは『ご名答!』と書かれた扇子を広げる。……どういう作りになってるんだろ。

 

そうこうしてると兄ちゃんが画面に表示された。

 

「もしもし、兄ちゃん?」

 

『よう彰人。楯無ちゃんから聞いてるんで予想がつくけど、エリックさんの娘さんのことだろ?』

 

エリックさんとは、シャルルの父親のことだろう。

 

「大当たり。てか酷いよ兄ちゃん。俺にも内緒にして」

 

『はは、悪い悪い。さすがに何でも身内に話してたら、一国の首相はやってられないからな』

 

「そりゃそうだな。……じゃあ兄ちゃんは、シャルルの正妻について思うところとかある?」

 

『ありまくりだ。前に会談しにデュノア社に行ったんだが、まあ態度が酷いのなんの。女尊男卑の縮図と言っても過言じゃないなあれは。何度殴りたいと思ったことか……正直思い出したくないぜ』

 

「そこまで酷いんだ……」

 

女尊男卑の縮図という時点で、どんな人物なのか大凡わかってしまう。多分小物感ありありな人だと思う。

 

『それはともかく、彼女と直接話がしたいんだけど…代わってくれるか?』

 

「わかった、ちょっと待ってて。……シャルル、代わるよ?」

 

「う、うん……」

 

シャルルは緊張気味に携帯の画面を覗き込む。

 

「は、初めまして。シャルル・デュノアです」

 

『初めまして。君がエリック氏の娘さんだな。俺は矢作省吾。ご覧の通り内閣総理大臣をしている』

 

「そ、総理大臣!? やっぱり……!」

 

飛び上がらんばかりにシャルルは驚いた。やっぱそうなるよな。

 

『君が実家の都合で色々とつらく苦しい状況下に置かれて、肩身の狭い思いをしながらIS学園に編入したことは楯無ちゃんやB…ブラントから聞いている。俺としては、是非とも君の助けになりたいと思っている』

 

「え!? ほ、本当ですか!?」

 

『ああ。ただ、救出方法等の詳細はブラントから説明させるから、少し待っててくれ』

 

そう言うと兄ちゃんはパソコンらしきものを操作してどこかに電話をした。……ブラント? はて、誰だろうか。

 

少しして、画面が左右に分割され右側に別の人が映った。あれ? この人どこかで見たような……。

 

『省吾、ちゃんと繋がってるだろうな?』

 

『ばっちりだぜ』

 

『よし。では…………諸君、初めまして。アメリカ合衆国大統領のブラント・ダグラスだ』

 

『『『っ!?』』』

 

新たに現れた人物の言葉に、今度は全員(楯無さん除く)が驚いた。……そうか。この人、兄ちゃんと仲良かったあの議員さんだ。まさか大統領になってるとは。

 

「し、省吾さんは大統領とも親しくなっていたのか……いや、あり得ない話ではないが」

 

「寝耳に水で驚いたぜ……」

 

「しかもダグラス大統領は、確か精鋭隊員で構成されたヴィルデ・ザウ隊の隊長を勤めていると聞きましたが……」

 

何かとんでもない話がセシリアから零れた。ちょっと待て。それ、どこのアーマード大統領なのさ?

 

「だ、大統領まで……!?」

 

『驚くのも無理はなかろう。だが私も省吾と同じく、君の父……エリックを助けたいと思っている。そこでだ、エリックの直接的な救出と保護を我々アメリカ政府が引き受けたいと思う。私はこう見えて対IS戦を想定したヴィルデ・ザウ隊の隊長をしていてな。直接デュノア社に乗り込んで摘発と救出をしようと言うわけだ。何、幸いにも今のデュノア社を摘発する材料は揃っている。抜かりはない』

 

「ほ、本当に、助けてくれるんですか……? でも、フランス政府やIS委員会が……」

 

『心配は無用だ。実はデュノア社が裏で起こしてきた様々な犯罪は、政府の女尊男卑派もグルになっていることが既に明らかにされている。それに各国政府の男女平等派とのパイプがあるから、それを利用すればデュノア社の犯罪に肩入れした政府の者達を摘発することもできよう。IS委員会には政府の諜報班とガーランド部隊を派遣して対処する。問題はない』

 

何から何まで準備してるってことか。この大統領、ホント用意周到って感じだな。

 

「そこまでして……どうして、僕1人の為に……?」

 

『君の父、エリックを助けたいからだ。私は彼の古い友人でね、以前彼に『私に何かあったら娘を頼む』と頼まれたんだ。今こそその約束を果たす時…と言いたいが、君の性別に関する一件が発覚した場合、エリックが責任を被せられてしまう可能性がある。私はそういう理不尽なことは嫌いでね。だからこそフランス政府の裏を暴くと同時に、君には正しい形で今の生活を送ってもらおうと行動している。それと、君が希望するならフランスに支社がある我が国の企業に代表候補生として再登録させようと考えている。君がIS学園に残る際の後ろ盾にもなり得るからな。後、エリックと解雇されてしまった社員の方々は、フランス支社の企業に再就職させたいと思っているのだが、どうだろうか?』

 

「僕は…………」

 

『答えは急がなくとも良い。選択権は君にあるのだから、最終的な決断は君に任せる。では、私はこれで。…………省吾、後は手筈通りにな』

 

そこで画面の半分が消えて省吾兄ちゃんだけとなる。

 

『ブラントが言ったように、全力で君をバックアップする準備は整っている。良い返事を期待してるぜ。…………さてと。コイツの性能、確かめさせてもらうか』

 

そこで電話が切れる。……2人とも最後に何を言ってたんだろうか? まあその辺りは気にしないでおこう。俺はシャルルに向き直る。

 

「ということだそうだ。大統領があらゆることに備えてくれるらしい。どうするかはシャルルに任せるって言ってたけど、望み通りにやればいいさ。お前はこれから自分の好きなように生きていける。苦しむ必要はないんだ」

 

「……彰人…いいの? 僕は、みんなのことを騙そうとしたんだよ?」

 

「だが本意じゃなかった筈だ。それに、俺達はお前に騙されたことなんて一度もない。される前に正体がバレたって話だ。シャルルは潔白、ということだ」

 

「彰人……あり、がとう……僕……僕は……!」

 

「おっと」

 

シャルルは俺の胸を借りて泣いた。今度はきっと嬉し涙だ。兄ちゃんや大統領、楯無さんへの感謝の想いが溢れてるんだろう。

 

「シャルル……よかったな……」

 

その様子を一夏達が感激した様子で見ている。セシリアや簪は貰い泣きしている。

やがてシャルルは泣き止むと、皆を見渡した。

 

「……決めたよ、みんな。僕は…IS学園(ここ)に居たい。そして一からやり直したい。だから、大統領の提案を受けるよ」

 

「よく言った。お前は自分の意志で自分がどうしたいか決めたんだ」

 

「ええ。本当に、良かったわ」

 

「ありがとう……でも、どうして更識先輩まで、僕の為に……?」

 

ふと疑問を感じたのか、感心した楯無さんに問いかける。

 

「ああ、それはね……彰人君に影響されたから、かな?」

 

「え、俺ですか?」

 

まさか自分の名前が出るとは思わなかったので、驚いてしまう。俺、何かしたのかな?

 

「いつもならさっき言ってたみたいに、然るべき処置を下していたんだけど……ふと思ったのよ。彼なら…彰人君なら、こういう時どうするんだろうって。で、気がついたら彼の兄さんに連絡していたって訳。実際彰人君なら、私が関わってなくてもそういう行動をしたでしょう?」

 

「……勿論」

 

少し驚きながら言う俺にシャルルは目を丸くしていたが、俺からすれば当然のことだった。単に原作通りだからじゃあない。純粋に助けたいと思ったからだ。

 

「最も、彼女が本当にスパイだったのなら話は別だろうけど……」

 

「それはない」

 

楯無の言葉に、何故か一夏が即答した。

 

「言い切ったわね。ちなみに聞くけど、根拠は?」

 

「……わからない。けど、そう思った」

 

戸惑いながら一夏は言う。おいおい、言った本人がそんな調子でいいのかよ?

 

「それにしても、彰人さんのお兄様がかの有名なオーディンで総理大臣だったとは…驚きましたわ」

 

「私はそれよりも、大統領が送り込む部隊が気になるわ……部隊名聞くだけで嫌な予感がするんだけど」

 

「ヴィルデ・ザウ隊だな。私も聞いたことがある。機体そのものがエース向けなのでやや少数編成だが、個々の戦闘力は並のIS乗りを遙かに上回っているという」

 

「……ガーランドもISに負けない性能を持ってるって前にテレビで言ってた」

 

「決してISだけが軍事バランスを変えているわけではないのだが……難しいな」

 

みんなは思い思いのことを口にする。うーん、こういう抑止力みたいなものがあるってのも、ありがたいというかなんというか……。

 

「おっと、そうだ。みんなそろそろ夕食にしようぜ!」

 

何も食べてなかったことを思い出して言うと、全員がうんと頷いたので一緒に食堂を目指した……のだが、途中でシャルルが何度かくっついてきた。

 

「……ありがとう彰人。彰人のお陰で、絶望だけだった道に光が見えたよ」

 

「俺1人だけの力じゃないけど、受け取っておこう。そして約束する。どんな時でも俺は…俺達は、シャルルの最後の希望になると」

 

軽く握り拳を作りながら言うと、シャルルは頬を赤く染めてもじもじし始めた。……気障過ぎて引かれたか……。

 

(……もしかして、あの子も……)

 

(ですわね……はぁ、彰人さんは中々罪作りな方ですわ)

 

セシリアと簪が何か言ってたような気がしたけど、多分気のせいだと思い、食堂へと歩を進めた。



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47th Episode

OutSIDE

 

シャルルの正体が明かされた日の夜。デュノア社の敷地内にはブラント率いるヴィルデ・ザウ隊と彼の命で招集されたGR-2ガーランド隊が集結していた。今回彼らの指揮官を勤めるのは、隊長のブラント・ダグラスと視察と銘打って訪れた矢作省吾だ(双方とも政治の方は知人議員に代理を頼んである)。彼らの目的は1つ、デュノア社への突撃だ。ブラントは楯無からシャルルの意志を聞いた後、すぐさま諜報部に連絡。デュノア社とフランス政府の女尊男卑派が行い隠蔽してきた犯罪行為を全世界に暴露させ、データのバックアップを取るのと同時に相手側のコンピューターに極秘で開発していた最新型ウイルスを送信した。

その後デュノア社を包囲し、作戦開始時間である明朝5時を刻一刻と待つ間、ヴィルデ・ザウ隊とGR-2ガーランド隊は作戦会議を念入りに行っていた。この時、近隣の住民達には既に避難誘導が為されていた。

 

「諸君、作戦内容の確認をするぞ。作戦開始時刻になり次第、ヴィルデ・ザウ隊はデュノア社に対し迎撃、A班及びB班はエリックの救出行動に移る。ここまではいいか?」

 

ブラントの言葉に、全隊員が一斉に頷く。

 

「GR-2ガーランド隊はA~C班がヴィルデ・ザウ隊と連携して迎撃しつつ侵攻。残る班は本社への入り口を発見し屋内に侵入、制圧をする。……これでいいか?」

 

『『『了解(ラジャー)!!』』』

 

続いて行われた省吾の確認に、隊員達は力強く返事する。すると、GR-2ガーランド隊の1人がこんなことを言った。

 

「それにしても、伝説のガーランド乗りである矢作省吾さんと共に戦えるとは……夢みたいです」

 

「大げさだって。今じゃ隠居して政治に営む1人の男……と言っても、ただの男じゃないけど」

 

照れながら、省吾は首から掛けられたペンダントを弄る。

 

「……お前がソレを動かせると聞いた時は、部下共々目が飛び出る程驚いたぞ」

 

「だろうな。俺だってかなり驚いたし……しかもコイツ、中々高性能ときてるからな。あ、ちゃんとここだけの秘密にしといてくれよ?」

 

「当然だ。だが、いい仕事をするのだな、お前の幼なじみは。……と、そろそろ時間か。諸君! 直ちにマシンを装着、突撃に備えよ!!」

 

『『『了解(ラジャー)!!』』』

 

時計を見て叫んだブラントに隊員達は後方に鎮座しているヴィルデ・ザウに乗り込んだり、MC形態のGR-2ガーランドに跨がると素早く人型に変形させたりした。ブラントもヴィルデ・ザウをカスタマイズした実質上の専用機、ザーメ・ザウに乗り込む。

 

「俺も行かせて貰うぜ!」

 

省吾は左手でペンダントに軽く触れる。と、それを中心に体が輝いていく。程なくして光が収まると、その姿はやや大きめなV字アンテナが特徴的なIS『アストレイアウトフレームD(エールストライカー装備)』に変貌した。

 

そう、彼もISが使える数少ない男性の1人なのだ。

 

アウトフレームの雄姿に皆が感心している時、ブラントの通信機に連絡が入った。

 

「……ふむ。たった今、保護した住民全員の避難誘導が完了したとの報告が入った。何も遠慮することはない。全力で戦うまでだ」

 

不適な笑みを浮かべながら言うブラントに、全員の士気が高まっていく。作戦開始時刻はもうまもなくであり、そして……。

 

「時間だ。総員、突撃!!」

 

「派手に行こうぜ!!」

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!』』』

 

2人の指揮官の合図と共に、全隊員の進軍が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘開始から一時間。戦局はヴィルデ・ザウ隊とGR-2ガーランド隊に分があった。敵部隊は全ての元凶と言える社長夫人『ソランジュ・デュノア』が率いるデュノア社の警備部隊だけではなく、彼女が持っている経済力等をフルに使って招集されたフランス軍所属のIS部隊まで配備されている。しかし、相手は対IS戦を想定して戦闘訓練を行い選抜された猛者達。それもISと違ってシールドエネルギー切れによる戦闘不能の概念がない為、彼らにとっては分が悪かった。

 

IS部隊はヴィルデ・ザウとGR-2ガーランドを重火器による弾幕で仕留めようとするが、パイロット達は優れた機動力を生かして攻撃を巧みに回避、反撃に出る。

 

「コイツを食らえ!!」

 

「ただのビームガンと思って、バカにするなよ!!」

 

『『『うわぁああああっ!?』』』

 

「レーザーブレードだ!!」

 

「接近戦なら勝てると思ったか!!」

 

『『『ぐあぁぁああああああああ!!』』』

 

ISの攻撃も何のその。彼らは一糸乱れぬ連携攻撃を見せつけ、次々とIS部隊を撃墜。操縦者達の身柄を拘束していく。すると、1機のヴィルデ・ザウがザーメ・ザウに通信を送る。

 

「隊長! 社屋への入り口を確保しました!!」

 

「よくやった! 作戦通りガーランド隊は屋内に侵入して制圧! ヴィルデ・ザウ隊A班B班はエリックの救出を頼む!!」

 

『『『了解(ラジャー)!!』』』

 

局面は、いよいよクライマックスへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなことになるなんて……!」

 

『ざ、残存勢力……20%ですって!?』

 

『ほぼ壊滅だと! そんなバカな……!』

 

『っ! 敵IS、発見!!』

 

『直ちに制圧する!!』

 

『なっ!? し、侵入者発見! 侵入者……うわぁぁああああああああああ!!』

 

「どいつもこいつも役立たずが! たかがガーランドとその派生機に、何を手間取ってるのよ!」

 

侵入してきたGR-2ガーランド隊により、IS部隊が倒される様を管制室のモニターで見て吐き捨てるように言ったのは、全ての元凶である女性、ソランジュ・デュノアである。

 

彼女は焦っていた。デュノア社のメインコンピューターどころか全ての端末が、アメリカ諜報部より送られた新型コンピュータウイルスによって完全に麻痺してしまい、更にこれまで隠してきた脱税等の様々な犯罪行為が世界中に暴露されてしまった。こうなってはデュノア社の倒産は免れず、自身の全財産の差し押さえは勿論、逮捕され裁判になれば有罪が確定。最悪の場合終身刑になる。

 

そうなっては一大事と考えたソランジュは、ふと思い至った。実は彼女は裏でとある組織と繋がっており、ソレを頼りに金を持って逃げようと考えたのだ。

 

「そう、それがいいわ……デュノア社も最早これまで。もう用なんてないわ。部下も新しく作ればいい。どうせ代わりは幾らでも―――」

 

「なるほど。ここまでの非道をしでかして、自分1人だけ助かるというわけか」

 

「っ! 誰!?」

 

「敢えて言わせて貰う……そうは問屋が卸さねぇぞ!」

 

「なっ…………………」

 

突然聞こえてきた声に振り返ったソランジュは絶句した。彼女の目の前に居たのは、ザーメ・ザウから降り怒りの形相で睨み付けるブラントと、同じく激怒し彼女を睨む省吾、そしてブラントの肩を借りて立っているエリックだった。

 

「因果応報って奴だ。テメェが義理の娘であるシャルル……いや、シャルロットちゃんと彼女に味方したエリックさん達にしでかしてきた仕打ちの結果さ!」

 

「何だと!? 男の分際で、偉そうに!!」

 

「それだけじゃない! 金まで持って逃げようとしたことを、俺は聞き逃さなかったぞ! だが残念だったな、そうはいかないぜ!!」

 

「ど、どういうことよ!?」

 

「ここからは私が説明しよう……悪いが君の財産は、全て凍結させてもらった! それに会社としての財産は、エリックの意志によってアメリカ政府に寄付された! 当然、解雇された人達の為にな……最早、貴様の思い通りにはさせん!!」

 

「黙れ……黙れ、黙れぇえええええ!! 下等な男共がっ! よくも、よくもこの私をぉおおおおおおお!!」

 

完全にブチギレたソランジュは、自身のIS『カオスガンダム』を展開。機動兵装ポッドを展開・分離しつつビームサーベルでブラントに斬りかかった。だがアウトフレームD(ソードストライカー装備)を展開した省吾のマイダスメッサーによりポッドは撃ち落とされ、ビームサーベルはシュゲルトゲベールによって受け止められた。

 

「ついに生身の人間にISで襲いかかったか……だったら遠慮はいらねぇな!!」

 

「き、貴様!? 男の癖にISを―――」

 

「そうさ! その男に、テメェは負けるんだ!!」

 

省吾はソードストライカーからランチャーストライカーに換装すると、アグニを構えてゼロ距離から最大出力でソランジュに放った。

 

「ぐぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

シールドエネルギーがあっという間に削られ、カオスガンダムは待機状態になって地面に落ちる。同時にソランジュもその場に崩れ落ちた。

 

「お……お願い……助けて……! もう何もいらない……せめて命だけは…………」

 

「テメェ……!」

 

命乞いをするソランジュに省吾は近づくと襟を掴み上げて立たせ、アウトフレームDのツインアイで睨み付ける。

 

「そうやって助けを求めた人達を、テメェはどれだけ陥れて来たと思ってやがる!? テメェみたいなクズにかける情けなんざ、一欠片もねぇ!! 独房の中でテメェ自身の愚かさを噛み締めやがれ!!」

 

そう言うと、省吾は突き飛ばすようにソランジュを放した。と、そのタイミングで通信が入る。

 

『やっほー、しょーく~ん! どうだった? 『その子』の性能(ちから)は?』

 

「束か…………最高といったところだな。俺にピッタリと合う。だが……俺はプロトガーランドの方がどっちかと言うと好きだな」

 

『あはは、その辺はしょー君の感性だもんね……で、そこに居るクソ女はどうすんの? 殺っちゃう?』

 

「そこまではしねぇよ。……んなことしたら、コイツと同じになっちまうからな」

 

ISを解除しながら省吾は呟く。

 

 

その後、ブラントの通達を受けた警察が到着。捕らえられたIS操縦者の引き渡し及び、ソランジュの逮捕が成された。尚、既に逮捕状は出ていたので通常逮捕という形であった。

 

 

 

このニュースは世界中で緊急報道され、それを見たシャルルが泣いて喜んだのは言うまでもなかった。



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48th Episode

どうもこんにちは、矢作彰人だ。シャルルが義理の母から解放され、彼女が歓喜のあまり号泣した次の日。俺は一夏とシャルル(男装)と共に教室に向かっていた……のだが。

 

「そ、それは本当なんですの!?」

 

「一体どうしてそんな噂が!?」

 

廊下にまで聞こえる声で、セシリアと鈴ちゃんが何事か叫んでいた。

 

「何があったんだ?」

 

「さあ……?」

 

「本人達に聞くのが一番だろう」

 

首を捻っている2人に言いながら教室へ入る。あれこれ考えてるよりは直接聞いた方が早く済む。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ!? 月末の学年別トーナメントで優勝したら、織斑君と矢作君のどちらかと交際でき―――」

 

「俺がどうかしたって?」

 

「後俺も、何かあったか?」

 

『『『きゃあああああああああああっ!?』』』

 

話しかけた途端、クラスの女子達が揃って悲鳴を上げる。……何故そこまで驚くんだ?

 

「で、何の話してたんだ? 優勝したら俺と彰人が、どうなるって?」

 

「え、えと、そんな大した話じゃないわよ…………だって、私達が居るんだし」

 

「き、気にしないで下さいまし…………そうですわ。私達が居るのに、何を恐れる必要があるのでしょうか」

 

露骨に話逸らされてるし。本当にどうしたんだ?

 

「じゃあ私、自分のクラスに戻るから!」

 

「私も自分の席に着きませんと」

 

今度は随分落ち着いた様子で立ち去る2人。結局、どんな話かはわからず終いだった。

 

「のほほんさん、何か知ってる?」

 

「あ。あっきー。実はね~……」

 

のほほんさんの話を聞いて俺は仰天した。何と『学年別トーナメントで優勝したら俺か一夏のどちらかと交際出来る』という噂が流れているようなのだ。俺まで巻き込まれてるとは思ってなかった……けど、俺達恋人いるし…無駄な噂だとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

(どうしてこんなことに……)

 

自分の席で、私は頭を抱えていた。元々は私と一夏が交わしていた、ほんの遊び心である賭け事だったのだが……誰かに聞かれていたのか噂となって一人歩きし、しかも何を間違ったのか優勝したら交際できるという話になっている(そして全く関係のない彰人まで巻き込まれているのは完全に謎だ)。

 

(とにかく、まずいことになった……仕方ない、私か鈴、もしくはセシリアか簪かラウラかシャルルが優勝するか……或いは、一夏か彰人が優勝するのを願うか)

 

幸いにも、一年の専用機持ちは今上げた私以外の人達しかいない。勝率は高い筈だ。……他力本願なのも自分でどうかと思うが……今回ばかりは致し方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「ええいクソッ、いちいち距離が遠い」

 

「いい加減、増設してくれないものか……」

 

その後の休み時間。俺達はトイレから全速力で教室に向かっていた。というのも、学園内にある男子トイレが僅か3カ所しかないので、行きも帰りも全力を尽くさなければ到底授業に間に合わない。廊下を走ってはいけないという先生もいるが、だったら男子トイレを増設して欲しい。

 

((ま、実際キツイのは俺達よりシャルルなんだろうけど))

 

走りながら思ったが、これがまさか一夏と同じタイミングで全く同じことを思っていたとは夢にも思わなかった。

 

とにかく、走って戻っていたのだが……。

 

「どうだラウラ? もう学園には馴染めたか?」

 

「「ん?」」

 

曲がり角の先から聞こえてきた声に思わず立ち止まって見てみると、ラウラちゃんと千冬さんがいた。何かを話してるのか?

 

「はい。……ただ、皆危機感が足りないように思います。中にはISを、まるでファッションか何かと勘違いしている輩も……」

 

「ふむ…確かにな。軍人と一般人の差とは言え、ISは使い方次第で強力な兵器となり得るのだからな。ま、その自覚を持ってもらえるように指導するのが私達の仕事だ」

 

「さすがです教官……いえ、織斑先生」

 

お? 自分から言い直したぞ。てっきり千冬さんが訂正するとばかり思ってた。

 

「尊敬されることでもない。……それよりラウラ、最近元気がないようだがどうした? 折角思い人に出会えたんだろう?」

 

「え!? あ、あの、それは……!」

 

思い人? ラウラちゃんにそんな人なんて居たんだ。意外。

 

「まあ無理もない。だが状況を見ればまだチャンスはあるから、せいぜい頑張れよ?」

 

「う、うぅ………そ、それを言うなら織斑先生はどうなんです!? 知ってますよ! 貴女が省吾さんに恋慕の情を抱いていることを!!」

 

「なっ! そ、それは……!」

 

何かラウラちゃんが反撃に出た。てか結構痛いとこ突くんだね……。

 

「はっきり、好きと言えばいいではないですか!」

 

「わ、わかってはいる! ただ、電話では中々勇気が出なくてな……今度直接会った時に言おうと思っているんだ。それより、そう言うお前こそ、アイツに言ったらどうなんだ!?」

 

「っ!? し、しかし……彼が応えてくれるかどうか不安で……!」

 

この瞬間、俺の中である結論が出た。ラウラちゃんと千冬さんって、ある意味似た者同士だ。間違いない。

 

「……そろそろ行こうぜ彰人。俺、これ以上見てられない」

 

「ああ、行こうか」

 

げんなりした様子で促してくる一夏に頷き、バレないように立ち去った。確かに、見てはいけないものを見てしまった感があるもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

放課後の第三アリーナ。ここでISを展開したセシリアと鈴が対峙していた。理由は簡単、学年別トーナメントに向けて本格的な実践練習をする為だ。

 

「機体状況は良好っと。セシリア、そっちはどう?」

 

「問題ありません。いつでもいけますわ」

 

ツインビームトライデントを構える鈴に、ビームライフルを構えながら言うセシリア。どうやら既に臨戦体勢のようだ。

 

「そう。それじゃあ……」

 

「いざ、尋常に……」

 

「「勝―――」」

 

「む……なんだ、先客が居たのか」

 

勝負と言いかけたところで、突然聞こえた声に動きを止める。2人の視線の先には、ラウラ・ボーデヴィッヒの纏ったハイペリオンガンダムが立っていた。

 

「誰かと思えば、ラウラさんではありませんか。貴女も練習しようと思ってましたの?」

 

「そのつもりだったんだが、邪魔してしまったな」

 

「気にしないで。私達もこれからしようと思ってたところだから。それより、一緒に模擬戦しない?」

 

「いいのか?」

 

鈴の提案に、ラウラは一歩歩み出て尋ねる。

 

「ええ。1人でやるより効果的だもの。で……対戦の順番はどうしよっか?」

 

「そうですわね。ここは公平に、ジャンケンで―――」

 

「その必要はない。私が2人同時に相手をしよう」

 

「「えっ!?」」

 

ラウラから告げられた言葉に、セシリアと鈴は耳を疑う。模擬戦とはいえ、二対一を自ら望んでいるのだ。驚かない訳はない。

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「無論だ。こう見えて腕に自信はあるのでな」

 

ツインアイを光らせながら、ハイペリオンが戦闘体勢に入る。

 

「やる気って訳ね……よし。セシリア! 相手は軍人なんだから、初手から全力で行くわよ!!」

 

「鈴さん…わかりましたわ!!」

 

それを見た2人も、アルトロンとストライクフリーダムを再び戦闘体勢にする。

 

「では、改めまして……」

 

「いざ尋常に……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ハイペリオンガンダム……」

 

「「勝負!!」」

 

「行く!!」

 

それぞれの合図によって、二対一の模擬戦が開始された。

 

 

 

 

 

「(そういえば向こうの武器とかわからないんだった……)けどじっとしてるよりは、先制攻撃する方がマシよ!!」

 

始めに鈴がツインビームトライデントを手前に出しながら接近する。

 

「むっ…!」

 

それを見たラウラはビームサブマシンガンで迎撃するが、鈴はツインビームトライデントを自身の前で高速回転させ、攻撃を弾いていく。

 

「どう!? トライデントには、こういう使い方もあるのよ!」

 

「やるな。だが、これなら……」

 

ラウラは今度はビームサブマシンガンに備え付けられているビームナイフを展開すると、鈴に向けて射出。それは寸分違わずツインビームトライデントの柄に突き刺さり、その箇所が小さく爆発した。

 

「きゃっ!? う、嘘でしょ……アンタ今、どうやって狙ったのよ!?」

 

「どうも何も、普通に狙いをつけただけ……!」

 

説明の途中で別方向から攻撃が放たれ、咄嗟に左腕にビームシールドを展開して防ぐ。

 

「ナイスアシスト、セシリア!」

 

「お褒めに預かり、光栄ですわ」

 

そう言うとセシリアはドラグーンを一斉展開しラウラを取り囲むように配置する。一方鈴も、ドラゴンハングを展開して構える。

 

「行きなさい、ドラグーン!!」

 

「これだけの攻撃、避けられるなら避けてみなさい!!」

 

そしてドラグーンによる全方位攻撃と、ドラゴンハングによる死角からの攻撃が開始された……が。

 

「悪くない戦術だ……だが!」

 

声を強めると共に、ラウラは背中のウイングバインダーを前方に展開。ハイペリオンの全体に光波防御帯を張り巡らせ、全攻撃を防いだ。

 

「防がれた!? 何なのよあれは!」

 

「あれは確か、『アルミューレ・リュミエール』……機体の全体を完全防御するバリアですわ」

 

「その通り。このアルミューレ・リュミエールの前では、柔な攻撃は全て無意味となる!!」

 

マスクの下で若干得意顔になりながら、ラウラは攻撃を防ぎながらビームサブマシンガンで、ドラグーンを一機、また一機と撃墜していく。

 

「くっ、このままでは埒が……! 戻りなさい、ドラグーン!」

 

セシリアは一旦ドラグーンを戻すとビームライフルを分割状態で構え、更にドラグーン以外の全兵装を展開する。

 

「セシリア! アンタまさか、あれをやるつもり!?」

 

「バリアで防がれるなら、それを貫く程の威力で……!」

 

驚く鈴の言葉をセシリアは無視し、ハイペリオンをロックしようとする。だが―――

 

「遅い!」

 

その前にアルミューレ・リュミエールを解除したラウラがそのままビームキャノン・フォルファントリーでセシリアを狙い撃ち、直撃させた。

 

「きゃああああっ!」

 

体勢を崩し、セシリアは地面へ落下する。

 

「次は…!」

 

「っ!? くっ!」

 

左手にビームナイフを持って突撃してくるラウラを、鈴がビームキャノンで迎え撃つ。しかしラウラは最小限の動きで躱したり、右腕に展開したシールドで防ぎついに懐に飛び込んだ。

 

「はぁっ!」

 

「うああっ!?」

 

ビームナイフで突き刺し、突進した勢いで鈴をセシリアのところまで突き飛ばす。2人がぶつかり体勢を立て直そうとしたところに、フォルファントリーとビームサブマシンガンを同時に構える。

 

「まだ、やるか?」

 

「……いいえ。私達の負けです」

 

「そうね……完敗だわ」

 

自分達の負けを悟ったセシリア達は、そう言うとふぅ…とため息をつく。ラウラもそれを見て構えを解く。

 

「流石は軍の特殊部隊隊長ね。不利な状況下でもやり合うなんて」

 

「ええ。逆に私達の方が圧倒されてしまいましたわ」

 

「そうでもないぞ。ドラグーンとドラゴンハングによる同時攻撃は効果的な攻撃だし、セシリアの一斉射撃も判断が遅ければ先に撃たれていたのは私だ」

 

「そう言ってくれると、少しは楽な気分になれるわ。ありがと」

 

「ん……気にするな」

 

どこか照れた様子でラウラはそっぽを向く。そんな彼女を見て、セシリアと鈴は頬を緩ませた。

 

「さてと! 実力差がわかったことだし、今日はこの辺で切り上げてラウラへの対策を考えるわよ!」

 

「はい。それは承知ですけど、彰人さん達への対策も考えませんと」

 

「わかってるって」

 

和気藹々と話しながら、2人はピットへと戻った。ラウラは軽くため息をつくと、しばし自主練を続けていた。



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49th Episode

夕方。俺達はセシリアと鈴が模擬戦で体感したというハイペリオンガンダムの特殊能力について聞きながら、食堂に向かっていた。

 

「アルミューレ・リュミエールによる、完全なる防御か……厄介だな」

 

「てか、そんな大事なこと話して大丈夫なのか?」

 

顎に手を当てて考えてると、一夏が心配そうに言った。

 

「心配無用だ。私はIS学園(ここ)に来る前に、在籍している全専用機所有者の機体のカタログスペックを頭に叩き込んでいる。なのに私だけ秘密にするのは些か不公平だと思ってな」

 

「い、今さらっと凄いこと言ったわね……」

 

「カタログスペックを、全てだと? 一機だけでも覚えるのに苦労するというのに……」

 

「……私は、半分くらいなら覚えてる」

 

「マジかよ」

 

ハイスペックを誇るラウラとそれに次ぐ記憶スペックの簪に若干驚きつつ、食堂のドアを通る。すると……

 

『『『あっ!!!!!!』』』

 

一年女子数十名が一度にこちらを向き、

 

ドドドドドドドッ!

 

と、まるで地鳴りのような足音を轟かせて一斉に駆け寄ってきた。

 

「織斑君!」

 

「矢作君!」

 

「デュノア君!」

 

そして俺達の名前を呼びながら、必死で手を伸ばして来る。……おかしい。ここはいつからゾンビ映画の撮影現場になったんだ?

 

「な、何だ!? どうしたってんだ!?」

 

「そ、そんな鬼気迫る顔して……」

 

「み、みんなとりあえず落ち着いて……ね?」

 

『『『これ!!』』』

 

俺達が取り乱している間に皆が突き出したのは、緊急告知分が書かれた申込書だった。とりあえず読んでみよう。

 

「えーっと、何々……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。尚、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは―――』」

 

「ああ! そこまででいいから、ともかく!」

 

内容を読み上げていると途中で遮られ、再び手が伸びてくる。やはりゾンビ映(ry

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組みましょう、矢作君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

口々に言われる発言に、ようやく納得がいった。要は俺達男子とペアが組みたいから来たということか。道理で一年生しかいない筈だ。

 

「え、えっと…それは……」

 

大いに戸惑うシャルル。彼女は女性なのだから、誰かと組むことになれば凄くまずいことになる。下手すりゃ正体がバレるかも……今からラウラちゃんにスキル教えてもらうってのも、無理そうだし。

 

「悪いみんな。俺、シャルルと組むからさ…諦めてくれ!」

 

その時一夏が大きな声で宣言し、それからシャルルと俺に目配せした。なるほど…そういうことか。

 

と、ここまでならいいのだが、それを聞いた女子達は水を打ったようにシンと静まり返ってしまった。そんなに静かになられてもこっちが困るんだが……。

 

「まあ…そういうことなら仕方ないか」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし」

 

「男同士というのも中々絵に……ゴホンッ」

 

しかし無事に納得してくれたようだ。最後のは聞かなかったとして、これで一安心……と思っていたのだが、女子達の視線が俺に集中してることに気づいた。

 

(やべっ! シャルルのことばかり考えてて、俺がどうするか考えてなかった!!)

 

どうにかこの状況を打破しようと思考を張り巡らせるが、中々良いアイデアが出て来ない。

 

「(ええい、こうなったら……!)みんなごめん! 俺、この子と組むからさ!」

 

咄嗟に隣に居た誰かの肩をポンポンと叩いて言う。

 

「わ、私とか!?」

 

(ん?)

 

驚いた声に隣を見ると、俺がペアを組むと言った相手は……ラウラちゃんだったようだ。

 

「ええっ! ボーデヴィッヒさんと!? 何でまた?」

 

「そういえば、入学前からの知り合いだって聞いたけど……」

 

「あー、だからか。じゃあ仕方ないや」

 

が、女子達は勝手に納得してくれたみたいだ。よかったよかった。

 

「って、ごめんなラウラちゃん。勝手に決めちゃって」

 

「い、いや気にするな。……そうか、私と組んでくれるのか……対決できないのは残念だが、共に戦ってくれるのは、それ以上に嬉しいことだ…ふふっ」

 

何故か怒るどころか微笑んでるラウラちゃん。……俺と組むのってそんなに需要あるの? いやあるか……ゼロシステムチート気味だし。

 

「(あの様子では気づいてないみたいですわね……)鈴さん、もしよければ私と組みませんか?」

 

「(うん。……彰人って意外と女心に疎かったんだ)いいわよ。優勝目指して、頑張りましょう」

 

「(彰人って、鈍感なのかな?)……箒、一緒に組もう?」

 

「(案外そうかもしれん)わかった。専用機が無い故に力不足かもしれんが、全力でサポートしよう」

 

他のみんなも着々とペアを組んでいるようだ。……何やら変なことを言われた気がするけど。

 

(ま、いいか)

 

他人の話に聞き耳を立てるのも失礼だし、お腹もすいたので夕飯を速攻で注文した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時が流れ、6月最後の週。IS学園では週明けから学年別トーナメントで大騒ぎであり、一回戦の直前まで全校生徒が雑務や会場の整理に来賓の誘導まで執り行っている。それらが終わった生徒達からアリーナの更衣室で着替えることになる。俺と一夏とシャルルは相変わらず、物凄く広い更衣室を贅沢に使っている。けど女子が使ってる方は……ぎゅうぎゅう詰めだろうな。

 

「それにしても、随分豪華な来賓だな」

 

「殆どがお偉いさんだもんな。見るだけでただ事じゃないってのが伝わるぜ」

 

更衣室に備え付けられているモニターから観客席の様子を見ると、各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々のお偉いさん達が集っていた。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「てことは、俺も入りそうだな。千冬姉さん、かなり有名だし」

 

「間違いなくチェックしてる筈だ。俺は……してるかしてないか微妙―――って、兄ちゃん見つけた……」

 

「え? あ、本当だ。由唯さんまで居る」

 

偶然にも、カメラが観客席に座っている省吾兄ちゃんと由唯さんを映していた。揃ってコーヒー飲んでるや。

 

「よし、準備完了っと」

 

「こっちも完了だ」

 

「僕もだよ」

 

3人揃ってISスーツに着替え、俺と一夏はISの最終チェックを、シャルルは男装の確認を行った。

 

「時間的には、そろそろ対戦表が決まる筈だね」

 

ふとシャルルが言う。理由は不明だが、急遽ペア戦への変更が決まってから従来のシステムが機能しなくなってしまったようだ。その為本来なら前日に決まっていた筈の対戦表は、今朝生徒達の手作りの抽選クジで急いで決めることになった。

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目は運がいいよな。待ち時間に色々考えなくていいし。こういうのは勢いが肝心だからな」

 

「そうかな? 僕だったら、一番最初に手の内を晒すことになるから深く考えちゃうかも」

 

「どちらの考えも間違っちゃいないけどな」

 

俺とシャルルの意見を聞いた一夏が、腕を組みながら言う。単純に攻めるのも良し、手の内を中々見せずに戦うのも良し、ということだ。戦いというのは実に奥が深い。

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

モニターが切り替わり、それを見たシャルルが言う。俺も一夏もじっと見つめると……。

 

「……え?」

 

「ほう、コイツは……」

 

「最初からクライマックスって奴になりそうだ」

 

出てきた文字にシャルルはポカンとし、俺と一夏は少し驚きながらも不適な笑みを浮かべた。

一回戦における対戦カードは、俺&ラウラちゃんvs一夏&シャルルだからだ。



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50th Episode

省吾SIDE

 

「おうおう、いきなり彰人と一夏の対決か。最初からクライマックスとはよく言ったもんだぜ」

 

表示された対戦表を見ながら、俺は呟いた。

 

「あ…見て省吾。みんなが出てきたわ」

 

由唯の言葉に前を見ると、4機のISがそれぞれ出撃するのが見えた。

 

「どっちのチームが勝つのかしら?」

 

「さあな………………さて、お手並み拝見させてもらうぜ。4人共」

 

俺は持ってるコーヒーを飲み干し、試合を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

俺とラウラちゃんがピットから出撃すると、ほぼ同じタイミングで一夏とシャルルが発進してきた。

 

「まさか1戦目で当たることになるとはな……待つ手間が省けた、と言うべきか」

 

「そんなとこだな。お互い万全の状態で挑めるし、良いこと尽くしだぜ」

 

ラウラちゃんと一夏が言い合い、火花を散らす。気持ちは既に戦闘体勢に切り替えてるようだな。

 

「俺も全力で行くからな、シャルル。手加減は一切無用だぜ」

 

「それはこっちの台詞だよ?」

 

俺とシャルルも互いに睨み合う。普段は仲の良い友人だが、勝負となると話は別だ。ルールに違反しない限り、どんな手を使ってでも勝つ。それだけだ。

 

「彰人、まずはどうする?」

 

「そうだな……」

 

試合開始のカウントを見る。5、4、3、2、1、そして―――0。

 

「各個撃破でいく! 俺はシャルルだ!!」

 

「了解! なら私は一夏を!」

 

開始早々指示を出し、俺はスラスターを全開にしてシャルルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「僕の相手は彰人か……!」

 

そう言うのと同時に、シャルルはGNツインビームライフルで迎撃するが彰人は避けながらビームサーベルを取り出し、シャルルに斬りかかった。

 

「はぁっ!」

 

「くっ!」

 

咄嗟にシャルルはGNビームサーベルで受け止め、空いた左腕のGNビームサブマシンガンを展開、攻撃した。

 

「うおっと!?」

 

彰人はどうにか避け、更にシャルルに肉薄する。

 

「さすがだね彰人。でもこれなら!」

 

そこでシャルルは一旦距離を取ると、MA形態に変形。GNビームシールドを展開しつつ突撃する。

 

「速いな……だが!!」

 

対する彰人もバードモードに変形、機動力を上げて攻撃を回避すると再変形して分割状態のバスターライフルでシャルルを狙い撃った。

 

「っ!?」

 

咄嗟にシャルルも再変形してGNビームシールドで攻撃を防いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし…行くぜラウラ!!」

 

一方一夏は、GNビームサーベルを取り出してラウラに投げつけた。

 

「ふんっ!」

 

だがラウラはビームナイフを展開し銃剣モードにしたビームサブマシンガンで、それを弾いた。

 

「虚を突くとは、やるではないか」

 

「そりゃどう……もっ!」

 

一夏はGNソードⅢをソードモードにし、GNソードⅡを左手で持つと一気に接近。勢いよく斬りかかったが―――

 

「させんぞ!」

 

切っ先が機体に届く前にアルミューレ・リュミエールを全身に展開。攻撃を完全に防いでしまった。

 

「っ!? これがアルミューレ・リュミエール……!」

 

「今度は私から行くぞ!」

 

アルミューレ・リュミエールで攻撃を防ぎながら、ラウラはビームサブマシンガンを放った。

 

「チッ!」

 

距離を取りながら攻撃を避けた一夏は、オーバーブーストを使用してラウラの真後ろに移動。GNソード二本を振り翳すが……。

 

「っ、ダメか!」

 

「言った筈だ。完全なる防御だとな!」

 

やはり攻撃はアルミューレ・リュミエールで防がれ、逆にバリアフィールドの内部から攻撃される。

 

(まずいな。何か手はないか……ライザーソードで一気に行くとか? いや、あれはエネルギー消費が多い。ラウラを倒せても彰人にやられてしまうかもしれない…!)

 

回避行動を取りながら、一夏は今後どう行動すべきか考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

「余所見してる場合か!?」

 

シャルルは一進一退の攻防を続けている最中で一夏の危機を感じた。しかし、彰人はそう簡単に援護に行かせる真似はしない。

 

「(だったら!)一気に決める! トランザムッ!」

 

意を決し、シャルルはトランザムを発動。目にも止まらぬ速さで彰人の死角に移動するとGNツインビームライフルを放った。しかし……。

 

「……ゼロシステム、起動」

 

呟くように彰人が述べた直後、彼は振り向きもせずに最低限の動きで弾丸を回避した。

 

「今の避け方は!? くっ……!」

 

驚愕しつつも武器をGNビームサーベルに切り替え、今度は真上から斬りかかる。

 

「…………」

 

ガキッ!

 

だが彰人は首すら動かさずに右腕のみを素早く動作させ、ビームサーベルを掲げて攻撃を防いだ。

 

「そんな! どうして僕の攻撃が―――まさか、これが『ゼロシステム』……!?」

 

ウイングガンダムゼロに搭載されている単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、ゼロシステム。名称と能力の内容こそは聞いたものの、実際に目の当たりにするのはこれが初なのでシャルルは大いに戸惑う。

 

(それなら、こうだ!)

 

一度機体を遠ざけると、MA形態に先ほどと同じように変形し彰人に突進する。

 

「その程度……!」

 

容易く回避する彰人。だが通り過ぎた直後、アリオスは急減速。人型に戻ると、GNビームサブマシンガンを展開して構えた―――が。

 

「甘い!」

 

「っ!?」

 

即座に彰人がツインバスターライフルを構えて振り返ったことに、一瞬動きが固まってしまう。

 

「ツインバスターライフル、出力最大!!」

 

そこを逃さず、最大出力のビームをお見舞いする。シャルルは反射的に回避するが機体の左側に当たってしまい、シールドエネルギーが大きく削れた。

 

「うわあああああああああ!?」

 

バランスを崩し、シャルルは地面に墜落する。体勢を立て直して飛び立とうとした時、目の前にバスターライフルの銃口が見えた。

 

「チェックメイト……だな」

 

「あ…あはは……」

 

バスターライフルを突き立てて立っているウイングゼロに、シャルルは乾いた笑みを浮かべてへたり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(一か八か、この手でいくか……)トランザムッ!!」

 

彰人がゼロシステムを発動した時、一夏はトランザムを発動させGNソードⅢとⅡでアルミューレ・リュミエールを斬りつけていた。

 

「トランザムだと? エネルギーの無駄遣いになるだけではないのか!?」

 

全方位バリアで守られている状態でのトランザムの使用に疑問を抱きつつ、ラウラはビームサブマシンガンによる攻撃を続ける。その度に一夏は量子化等を駆使して回避し、鋭い一撃を何度も何度も与えていた。

 

「いい加減……しつこいぞ!!」

 

ここでラウラはフォルファントリーの狙いを定め、ビームキャノンを放った。

 

「この一撃で……!」

 

一夏は量子化して避けつつ目の前にテレポート。GNソードⅢを勢いよく振るった―――瞬間。

 

 

ピシッ……パリィン!!

 

 

突如としてアルミューレ・リュミエールによるバリアが割れて粉々になってしまった。

 

「な、何だと!? 何故だ!?」

 

バリアが破壊された衝撃で後退しながら驚愕の表情を浮かべる。

 

「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

この瞬間を待ってたと言わんばかりに、一夏はGNソードⅢを正面に構えて一気に加速した。

 

「っ、まだだ! まだ勝負は決してない!!」

 

対するラウラも闘志は捨てず、マスクの下で眼帯を外しヴォーダン・オージェで変化した金色の瞳を露出。状況判断能力を上昇させ、ウイングバインダーの先端部にあるアルミューレ・リュミエールを機体全部にランス状に展開。スラスターを全開にして突撃する。

 

これこそ、ラウラがハイペリオンが登場する作品を見て研究し、自分のものにした必殺技―――フォルファントリー突撃である。

 

「はぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

二機はスピードをMAXにし、互いを目掛けて突き進んでいた。

 

「ん……?」

 

その様子を彰人がチラリと見た時、ゼロシステムは彼にあるビジョンを見せていた。それを見た途端、彰人は血相を変えて叫んだ。

 

「っ、よせ一夏!! ラウラを撃墜するんじゃない!!」

 

同時にスラスターを噴かし、シャルルを無視して一夏達の元へ向かった。1人残されたシャルルは何故見逃されたのか不可解に思いつつ、ラウラ撃墜の絶好のチャンスを邪魔されまいとすぐに彰人を追いかけた。

 

「「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

「ダメだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「させるかぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

4人の叫びがアリーナに木霊する。そして―――

 

 

ザシュッ!

 

 

―――一夏の剣が、ラウラの機体を切り裂いていた。彼は下に潜ることで彼女の突撃を回避したのだ。

 

「かはっ……!」

 

強烈な一撃を受けたラウラは、真後ろの壁へと吹っ飛び、激突した。

 

「はぁ……はぁ……やったぞ……!」

 

「まずは、一機撃墜ってとこだね……!」

 

勝利の余韻を噛み締める一夏とシャルル。しかし彰人だけは仲間が撃墜されたことの悔しさとは別の、強い危機感を抱いていた。

 

「なんてこった……最悪の事態だ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラSIDE

 

一夏の斬撃を受け壁まで吹き飛ばされた私は、息を切らしながら驚きを隠せないでいた。

 

(一夏の奴、まさかアルミューレ・リュミエールを一点集中で破るとは……!)

 

そう。あの無意味に思えた攻撃は、全て正確に1カ所のみを攻撃し続けていたのだ。どんなに強固なバリアでも、攻撃していけば疲労が蓄積される……それを読んでの行動だったんだろう。

 

だとしても、だ。同じ場所を正確に攻撃するなど、普通の人間にできる筈はない。

 

(おまけに先ほどの突撃も、ギリギリで避けられてしまった……ある種の恐ろしさを感じるな)

 

そしてそれは、一夏だけに言えたことではない。ハイパーセンサーで見ていたのだが、彰人もゼロシステムとやらを使いこなしてシャルルを圧倒していた。あれには、さすがの私も危惧の念を抱いた。

 

(ダメージレベルD……最早これまでか。世の中上には上がいる、ということか)

 

彼らの強さにどこか納得しつつ、自分の敗北を噛み締めていた―――その時だった。

 

『―――願うか? 汝、力を欲するか?』

 

(何……?)

 

どこからか、突然声が聞こえてきた。……力………か。

 

(……欲しくないと言えば嘘になる。負けたのは正直悔しいし……いつか、2人に勝つだけの力を身につけたいとは思う)

 

とは言っても、その道が平坦なものではないことはわかる。かの仮面ライダー響鬼でも、音撃戦士達は自らの体を常日頃から鍛え続けていたし、私が今こうしていられるのも当時教官だった織斑先生に鍛えてもらったからだ。

 

(また鍛えることになるか。ふふ、少々滅入ってしまうが……やり応えは『良かろう。汝に、強力無比の力を与えよう』……? 何なのだ先ほどから? 力とは一体―――うぐぁあああっ!?)

 

再び聞こえた声に違和感を覚えた時、私の体に痛みが走った。まるで何かが侵食しているかのような、そんな感触だった。

 

(な、何だこれは!? 私が、私でなくなっていく……い、嫌だ……! 助けてくれ、彰人っ!!)

 

彰人に助けを求めた瞬間、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「うぐぁあああっ!?」

 

「ラウラちゃん!?」

 

ラウラちゃんから悲鳴が上がり、ハイペリオンガンダムから凄まじい雷撃が放たれる。……こうなってしまったか……。

 

「い、一夏。ラウラに、何が起きてるの……?」

 

「俺が聞きたいくらいだ。けど、彰人はこうなることをゼロシステムで知ってたみたいだな」

 

「まあな……」

 

目の前で変形―――否、装甲が溶けてドロドロになって変化していくハイペリオンガンダムを見ながら俺は呟いた。

 

あの時、ゼロはこの事態……VT(ヴァルキリー・トレース)システムの作動を予測していたのだ。

 

「なのに俺は、ラウラを倒してしまった……すまない」

 

「気にすんな。こうなるなんて、俺以外の誰も予想できる訳な「助けてくれ、彰人っ!!」い?」

 

話してる途中で聞こえた叫びに振り向くと、ドロドロに溶けた装甲が悲痛な顔をしたラウラちゃんを飲み込み、表面を流動させながらゆっくりと地面へと降りて大地に辿り着いた直後、凄まじい速さで全身を変化、成形していく。その姿には見覚えがあった。以前ドイツに居た時にチラッと見せてもらったことがあるものだ。

 

千冬さんの現役時代、搭乗機のガンダムエクシアのパワーアップ案の1つとして考案されたものの本人が拒否し、お蔵入りとなった赤と黒のエクシア。

 

 

 

 

 

その名も―――ガンダムエクシアダークマター。

 

 

 

 

 

俺達の目の前には、ソレが立っていた。




本作でのVTシステムの起動設定は変更してあります。


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51th Episode

省吾SIDE

 

ラウラのIS、ハイペリオンが突然変化したのを見た時、俺は驚いて思わず立ち上がっていた。

 

「何だと!? バカな!」

 

驚いた理由は2つある。1つは先ほど述べたようにハイペリオンが変化した為。もう1つは、ISを変化させることが可能なシステムを既に知っていた(・・・・・・・)為だ。

 

「省吾、アレって……」

 

「ああ……VTシステムだ」

 

VTシステム―――正式名称『ヴァルキリー・トレース・システム』。過去のモンド・グロッソの優勝者の戦闘方法をデータ化し、再現・実行するシステムだ。アラスカ条約によってあらゆる国家・企業・組織での研究・開発・使用が全て禁止されている筈だが……。

 

(上の奴ら、さては勝手に搭載したな?)

 

この手の条約であり得そうなことを考える。メガゾーンでも軍の奴らがガーランドやハーガンを作っていたんだ。条約を破ることをする奴は居るだろう。

 

(何にせよ、状況的に子供達に後始末を押しつける形になっちまったのは、心が痛むな……)

 

プロトガーランドは持ってきておらず、アウトフレームは公衆の面前で晒せるような代物ではないので、俺は何もできない。クソ……悔しいぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

赤いツインアイを不気味に光らせるエクシアダークマターを見て、俺はどういう行動を取るべきか考えていた。エクシアダークマターはプラモを組んだことがあるので武装の把握は済んでいるが、今回は内部にラウラが捕らわれている。下手な攻撃は彼女を傷つけることに繋がるだろう。

 

「(幸いにも、敵はこっちの様子を伺っている。なら……)彰人、シャルル。作戦を立てるぞ」

 

「う、うん」

 

「…………………………………」

 

「……彰人?」

 

戸惑いながらも頷くシャルルに対し、彰人はエクシアダークマターを見つめたまま微動だにしなかった。

 

「聞こえなかったのか? 作戦を立てるって「一夏」?」

 

「さっきさ……ラウラちゃん、俺に助け求めてたよな?」

 

「? そうだけど……」

 

「悲鳴の時点で何となく察してたんだけど、ラウラちゃんVTシステムに苦しめられてるんだよな……」

 

「……ああ。だから一刻も早くラウラを助け―――!!」

 

俺は言葉を詰まらせてしまった。なぜなら、彰人から尋常ではない程の殺気が溢れてきたからだ。

 

「嫌だなぁ……友達が苦しんでる姿を見るなんて……苦しめる奴が居るなんて……いけないよなぁ~……」

 

「あ、彰人……何を……!?」

 

どこか確かめるような、飄々とした……北崎を思い起こす喋り方をする彰人に、シャルルは完全に気圧されていた。言葉を詰まらせただけで済んだ俺は、幸運だったに違いない。

 

「アイツ、どういうつもりなんだろうねぇ。まったく…………………調子に乗るなよ?」

 

言うが早いか、彰人はビームサーベルを右手に持ち、エクシアダークマターに突進しながらマシンキャノンを放つ。

 

エクシアダークマターは彰人を敵と認識したらしく、弾丸を防ぎつつダークマターライフルの2種類の弾丸を駆使して攻撃する。

 

「そんなもの……効くと思ってるの?」

 

弾丸をシールドで防ぎながら彰人は接近してビームサーベルを振るう。エクシアダークマターもダークマターライフルからビームサーベルを展開、彰人のウイングゼロと接近戦を繰り広げる。

 

『…………っ!』

 

「この程度なの? つまんないなぁ。これじゃあ千冬さんの足下にも及ばないよ?」

 

コピーとはいえ、千冬さんの戦闘パターンを持つエクシアダークマターを相手に彰人は優位に立つ。たまらず距離を取るエクシアダークマターはビームサーベルを展開させたまま、ダークマターライフルを槍投げのように投げつけた。

 

「ふんっ」

 

彰人はこれを難なく回避。しかし、ダークマターライフルは尚も直進し……。

 

「シャルルッ!!」

 

「う、うわぁぁあああ!?」

 

自分目掛けて近づいてくるダークマターライフルに慌てたシャルルは、咄嗟にGNツインビームライフルを放って撃墜した。

 

「大丈夫か?」

 

「な、何とか………それにしても、完全に僕達のこと忘れてる気がするんだけど……」

 

「強ち間違いでもないかもしれないな。普段のアイツなら、避けた先に何があるのか把握しているだろうに」

 

それをしなかったということは、今の彰人は怒りによってフリットモード(俺命名)になっているということだ。ちなみにフリットモードとは彰人が絶対に許せないと思った際になる状態のことで、こうなると相手を徹底的に叩き潰すまで止まらなくなる。

 

そうこう考えている間に、エクシアダークマターは両腕にダークマターブレイドを装備。二刀流で勝負に出た。

 

「二刀流とは小癪な……でも、中々面白い!!」

 

対する彰人も左手にもビームサーベルを持ち、同じく二刀流で相手をする。

 

「ほらほらどうした!? 俺を圧倒して見せろ!!」

 

『……っ!!』

 

鬼神の如き勢いに、エクシアダークマターは押されていく。いくら技術や強さを真似たところで、人が持つ感情には勝てない…ということか。

 

『………………』

 

これ以上はまずいと見たのか、エクシアダークマターは背面のダークマターブースターを分離し、二対一で状況を有利にする。

 

「チッ、少しまずくなったかな……?」

 

小声で言うと、彰人は一瞬チラッとこちらを見た。俺は彰人が何を言いたいのかを理解した。

 

「シャルル、加勢するぞ」

 

「え……う、うんっ!」

 

すぐさまシャルルに声を掛けると、共に彰人のところへ向かう。長年一緒だった俺にはわかる。今のは、サポートしてくれという合図だと。

 

「ブースターの方は俺が行く。お前は彰人を頼んだ」

 

「わかった」

 

役割を決めると、俺はGNソードⅢのライフルモードでダークマターブースターを牽制し、注意を俺に向けさせる。案の定、奴は攻撃目標を俺に変更し、攻撃を仕掛けてきた。

 

「彰人、助太刀するよ!」

 

「ありがとう…助かるよ」

 

ハイパーセンサーで様子を見ると、シャルルは彰人の隣に並び立ち、右手にプロミネンスブレイドを、左手にブライニクルブレイドを所持したエクシアダークマターと対峙する。

 

『……!!』

 

エクシアダークマターはシャルルも敵と認識し、ブライニクルブレイドで斬りかかる。

 

「!」

 

しかしシャルルは落ち着いてGNビームサーベルを使って防ぐ。

 

「そんな攻げ……!?」

 

反撃に打って出ようとしたシャルルは言葉を失った。ブライニクルブレイドに蒼い粒子帯が纏われた時、自分のビームサーベルの刃が徐々に凍り付いていったからだ。

 

そしてプロミネンスブレイドには赤い粒子帯が纏われ、エクシアダークマターはソレを振るって凍り付いたGNビームサーベルを焼き切ってしまった。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟にビームサーベルを離した為に連撃を食らうことはなかったが、常識外れな現象にシャルルは驚いているようだった。

 

「まさか、ビームサーベルが凍るなんて……」

 

「それがあの剣の能力だ。シャルル、ここは遠距離攻撃で攻めよう」

 

接近戦が不利になり、遠距離からの攻撃にシフトするようだ。……っと、いい加減集中しないとな。

 

ダークマターブースターは牽制するようにGNキャノンを数発放った後、トランザムを発動。翼の一部となったダークマターブレイドで切り裂こうとしてくる。ということは、こっちにISコアが入ってるという訳か。

 

「舐めるなよ、AI如きが!!」

 

俺もトランザムを発動し、GNソードⅢでダークマターブレイドと斬り合う。距離が離れるとGNキャノンを放ってくるが、当たってはやれないので素早く移動して避ける。……アリーナのバリアにヒビが入っているのを見ると、やはりというか威力は高いようだ。

 

「シールドエネルギーもそろそろ限界が近い……一気に決めるか!」

 

即断即決した俺はGNソードⅡをダークマターブースターに投擲すると同時に、量子テレポートする。ダークマターブースターはGNソードⅡを避けるが、その直後に俺は真後ろに出現、GNソードⅡを再び握ると反時計回りに回転しながらダークマターブースターを切り裂き、その勢いのままGNソードⅢで再び切り裂く。一瞬のタイムラグの後、ダークマターブースターは爆発した。

 

しかし爆発の直前にダークマターブースターはISコアをパージし、エクシア本体に再接続させると同時にトランザムを発動した。……こんなところまで再現しなくても。

 

「トランザム!? こんな時に!!」

 

危機迫った声で叫ぶシャルルを見ると、非常に申し訳なく思ってしまう。すると、突然サイレンが鳴り響いて非常事態発令との放送が流れると同時に、状況の鎮圧とトーナメント中止宣言、そして避難勧告がされた。

 

(これ以上俺達が戦う必要はないということか……だが―――)

 

「ついにトランザムを使ってくるか……でもね!」

 

トランザム状態で急接近したエクシアダークマターはブライニクルブレイドを振り下ろす。それを彰人はシールドで防ぐが、ゆっくりと凍っていく。そこへプロミネンスブレイドが振り下ろされるが、これを彰人は―――素手で受け止めた。

 

「へへ……うおらぁっ!」

 

手が溶けるのも構わずそのままプロミネンスブレイドを奪い取り、それでブライニクルブレイドを弾き飛ばすと後ろへ放り投げた。

 

「これで君の武器は内蔵武器以外なくなった訳だ……まだやるかい?」

 

『……………』

 

挑発的に言う彰人に、エクシアダークマターは両腕のGNバルカンを正面に向ける。あくまで戦いをやめるつもりはないらしい…………しかし、そうなると機体そのものを破壊しなくてはいけなくなる。何とか傷つけずに止める方法はないものか……ん?

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)トランザムバースト、最終段階解除及び完全解放。全システム良好』

 

モニターに突然そんな表示が現れた。……そうか、そういうことだったのか。ダブルオーライザーの単一仕様能力(ワンオフアビリティー)は元々トランザムバーストで、トランザムやライザーソードはその副次的なものに過ぎなかったんだ。けど相変わらず、何故このタイミングで……。

 

「(何にせよ、今の状況には好都合だ)彰人! シャルル! ちょっと聞いてくれ、俺にいい考えがある!!」

 

「ほぅ…」

 

「考え?」

 

彰人とシャルルに声を掛け、相手にバレないように小声でできるだけ速く話していく。

 

「…………………という作戦なんだが」

 

「い、一応役割はわかったけど……本当にそんなことが一夏の機体にはできるって言うの?」

 

「できるできないの理屈は今は置いておこう。作戦内容からして、俺が一番責任重大だし」

 

俺の作戦を聞いたシャルルは少し戸惑い、彰人は真剣な様子でエクシアダークマターを見ていた。フリットモードではなくなったみたいだな……安心だ。

 

「それじゃあ早速、作戦通りに頼むぞ」

 

「ああ。行くぞシャルル!」

 

「うん!」

 

まずは彰人とシャルルが二手にわかれる。正面から突撃したのは彰人で、当然エクシアダークマターはGNビームバルカンで反撃してくる。

 

「甘いな」

 

だが、全ての攻撃を彰人は回避して懐に飛び込み―――

 

「とぉっ! でやぁぁぁぁっ!!」

 

顎を蹴り上げると同時に回し蹴りを決め込んだ。蹴りの勢いでエクシアダークマターは後ろに下がる。

 

「それを……待ってた!!」

 

その先にシャルルが待ち構えており、人型のままGNビームシールドを使って機体の胴体を挟み込み、動けなくした。

 

『……!!……!!』

 

エクシアダークマターは必死で抵抗し、GNビームサーベルも展開するがシャルルは決して放そうとはしない。身動きの取れないエクシアダークマターに、彰人は目前まで接近していく。

 

「ここまでは順調だな……一夏、頼むぜ」

 

「任せとけ」

 

応えるのと同時に、俺は先ほど解法したばかりのソレを起動させた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツインドライヴ、安定確認。各システムオールグリーン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『              RAISER SISTEM

               TRANS-AM BURST               』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

トランザムバーストの発動と同時に俺は力一杯叫ぶ。GN粒子の綺麗な輝きが俺を、彰人を、シャルルを、エクシアダークマターを……全てを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ……こ、ここは?』

 

『ここは…人の意識だ……』

 

『そうか、ここが……何て暖かいんだ……』

 

原作でもこの場面はあったが、本当に入ることができるとは……驚く限りだ。

 

『彰人、後はお前の役割だ。お前が彼女を…ラウラを連れ戻すんだ』

 

『了解っと』

 

『……あれ? なんか彰人の髪が金色になってない? それに一夏も、目が……』

 

『何?』

 

彰人はともかく、俺も目が変化してるだと? それってまさか…………覚醒したってことか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

人の意識の集合体とも言うべき不思議な空間をしばらく泳いで(?)いると、膝を抱えて目を閉じているラウラちゃんを見つけた。

 

『こんなところに居たのか』

 

『ん……その声は、彰人か…………その髪と瞳はどういうことだ?』

 

起き上がり、眼帯の外れた左目で俺を見つめてくる。同時に髪の毛と目について気になったようだ。

 

『これに関しては気にするな。ゼロシステムを動かすといつもこうなるんだ』

 

『よくわからんが…もっとよくわからんものに取り込まれた、私が言えたことではないな』

 

『それこそ気にすんなよ。ほら、一緒に帰ろう』

 

そう言って、俺はラウラちゃんに手を差し伸べる。

 

『ああ……力があっても、お前と一緒じゃないのは………嫌だからな……』

 

『え?』

 

『いや、何でもない。行こう』

 

意味ありげな発言に首を傾げていると、ラウラちゃんの方から先に動いた。

 

『ま、いいか……』

 

あまり深く考えないことにし、俺はラウラちゃんと共に一夏達のところへ向かった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! ラウラちゃん!」

 

気がつくと腕の中に、疲れたのか気を失っているラウラちゃんがおり、パイロットを失ったエクシアダークマターがもがき苦しみ、ラウラちゃんに手を伸ばしていた。

 

「まだラウラちゃんを利用しようってのか…………舐めんじゃねぇぞ」

 

俺は左手でラウラちゃんを抱きかかえると、エクシアダークマターの顔面を右手でぶん殴った。そこでエネルギーが尽きたのかツインアイから光が消えて落下、機体も元のハイペリオンに戻った。

 

その後は非常事態警戒が解かれ、教師陣がすぐにラウラちゃんを医務室に連れて行った。



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52th Episode

省吾SIDE

 

「やっぱり、ラウラちゃんが暴走したのはVTシステムのせいか……」

 

保健室で眠っているラウラちゃんを横目に、俺と由唯は千冬と話していた。

 

「そうだ。どうやらドイツが独断で搭載したらしい。それでシステムを調べた結果、アレは特定の状況下で発動するようになっていたことが明らかになった」

 

「特定の状況下だって?」

 

「具体的には…機体のダメージレベルが甚大になり、搭乗者が相手に負けた悔しさを抱き、尚且つ次こそは負けない為に力が必要か否かという問いに『YES』と答えた場合……だそうだ」

 

「何だよソレ……」

 

俺は言葉を失った。だって負けて悔しいとか、次は絶対勝つ為に力が要るかなんて……誰もが抱く感情じゃないか。

 

「上の奴らは、人の感情を弄んだっていうのかよ……それも軍人とは言え、こんな子供を……」

 

「ね、ねぇ千冬。VTシステムは結局、どうなったの?」

 

俺の怒りによってピリピリした空気を変えようと由唯が話題を変える。……いつも悪いな、由唯。

 

「アレは二度と発動しないよう、ハイペリオンの修理中に消去することになっている」

 

「そう……でも、そんなことをしたらドイツ政府が……」

 

「由唯、心配すんな。元々禁止されてるものを向こうは勝手に使ってきたんだ。ならこっちが勝手に何したって、文句は言えない筈だ」

 

「あ、そっか」

 

ホッとした表情をする由唯。その時、

 

「う…うぅ……………………」

 

ベッドからラウラちゃんの声が聞こえた。気がついたようだ。

 

「じゃあ千冬、俺達はそろそろお暇するぜ」

 

「む、もう行ってしまうのか。もう少しくらい居てもいいのだが……言いたいこともあるし……(ボソッ」

 

「生憎次の仕事があってな。ったく、総理がこんなに忙しいとは思ってなかったぜ……」

 

「それ、毎年言ってる気がするんだけど?」

 

「細けぇことは気にすんな」

 

からかい気味に言う由唯に、俺は素っ気なく返す。……少し恥ずかしかったのは内緒だ。

 

「……ま、仕方ないか。ではまたな、省吾」

 

「おう!」

 

元気よく返事して立ち去―――ろうとして、再び千冬を見た。

 

「あ、そうそう。実はつい先日、重婚制度が通ってな…日本でも可能になったんだ。でだ……今は無理だけど、落ち着いたら……また来るからな」

 

「……!!」

 

「じゃあな!」

 

俺は言うだけ言って今度こそさっさと立ち去った。

 

「……アイツ、何を言い出すかと思えば……せ、折角覚悟を決めかけてたのにそんな言い方されたら、否が応でも期待してしまうではないか…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラSIDE

 

「うぅ……ん…………こ、ここは……?」

 

「目が覚めたようだな」

 

「織斑先生……」

 

気がついた時、私は保健室らしき部屋のベッドで横になっており、すぐ側には織斑先生が立っていた。……何故か顔がほんのり赤くなっていたが。

 

「検査ではVTシステムによる後遺症は見られなかったが、どこか具合が悪いところはあるか?」

 

「いえ。それより、トーナメントはどうなりましたか?」

 

「一通り一回戦を行ってデータ収集をするが、それ以降は中止だ」

 

「そうですか……申し訳ありません。私がシステムに呑まれなければ……」

 

「お前が悪い訳ではない。勝手にシステムを載せた、ドイツの上層部に問題がある」

 

折角のトーナメントをダメにしてしまったことに私が謝ると、織斑先生はそう言って慰めてくれた。

 

「それよりラウラ。後で彰人達にしっかり礼を言うを忘れるなよ? お前を救ってくれたのは、彼らなのだから」

 

「はい」

 

そうだ……彼らが助けてくれなければ、私はここにこうして居られなかった筈だ。直後に気絶してしまったが、今でも覚えている。私をエクシアもどきから引っ張り抱いてくれた、IS越しに感じた彰人の温もりを………っ。

 

ドクン……

 

「っ……!!」

 

「ん? どうした?」

 

「な、何でもありません……」

 

まずい……長年謎だった気持ちが、今頃になってわかってしまった……彰人に抱いている気持ちは、紛れもなく恋心というものだ。その証拠に自覚した途端、胸の締め付けが強くなる。このまま仕舞い込むのは、最早不可能だ。しかし彰人には既に恋人が…………そうだ! こういう複雑な話はクラリッサが詳しかった筈。後で聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「何だ、結局トーナメントは中止か……」

 

「危険だから仕方ないとは言え、これで二回連続中止とは……三度目もあるか?」

 

「さすがに無いんじゃない~?」

 

事情聴取が一通り終わり、学食で夕食をのんびり食べながら、俺達は色々なことを話していた。ちなみに居るのは俺、一夏、のほほんさんで他のメンバーはコンビネーションの確認や機体のチェックをしている。ラウラちゃんは多分まだ保健室で寝てる。けどシャルルが居ないのは……謎だ。

 

「それより~、おりむーの機体からどば~ってGN粒子が出たよね~? あの時みんなと意識が繋がった感じがしたんだけど~…何が起きてたの~?」

 

のほほんさんはダブルオーライザーが発動したトランザムバーストに興味津々らしい。ていうか、観客席にも僅かながら効果が及んでたのか。

 

「うーん……対話、かな?」

 

それ以外に良い言葉が見つからない。

 

「そっか~」

 

しかし納得してくれたようだ。のほほんさんが相手で本当に良かった……。

 

「あ、織斑君に矢作君。ここに居たんですね。2人とも、今日はお疲れ様でした」

 

ホッとしていると、山田先生が近くに来ていた。

 

「いえ、山田先生こそ。後処理任せてしまって、すいません」

 

「大変じゃありませんでした?」

 

「そうなんですよ……ただでさえ事故が起きたというのに、その上一部の方が変な空間を見たと電話でうるさくて……」

 

……すいません山田先生。それ、やったの俺等です。

 

「って、こんなこと言ってもわかりませんよね。それよりも大事なことがありますし」

 

「「大事なこと?」」

 

「実は織斑君達の大浴場使用が今日から解禁されまして。それで今日は、試合の疲れを癒す為に大浴場が男子だけの貸し切りになったんです」

 

「マジですか!? やった!!」

 

「貸し切り!? っしゃあ!!」

 

俺と一夏はガッツポーズをとって喜ぶ。疲れた日にこそ大浴場に入りたいと思ってたけど、本当に入れるとは。今日はツイてるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い湯だなぁ~」

 

しばらくして、俺は大浴場の湯船に肩までつかっていた。さっきまで一夏も居て湯船耐久レースなんてやってたが、のぼせかけたので先に上がっていった。俺? 平気ですけど。

 

ガラガラ

 

ん? 誰か入って来た……ははぁん、さては一夏の奴、俺にリベンジを果たしに来たな? いいだろう、受けて立って―――

 

「あ、あの、彰人……」

 

―――ってこの声は一夏じゃない……まさか!?

 

「シャルル!? 何故にWhy!?」

 

「は、入りたかったから……」

 

「だからって来る奴があるか!? お前は女なんだぞ! 男に裸体見られたらまずいだろうが!!」

 

「いいもん別に! 彰人になら……見られたって……」

 

…………………………ゑ? 今何と仰いましたシャルル=サン? 俺なら見られてもいい? え、どゆこと? それってもしかし―――

 

「う、後ろに座るね……?」

 

「てって、お前はいつの間に俺の真後ろににににに!?」

 

背中に感じた感覚に変な声を出してしまった。これ……シャルルと背中合わせになってるよ……アカン、心臓がバックバクだ。

 

「「……………………………」」

 

そしてしばし無言になる。そりゃそうだろうね。

どれだけ時間が過ぎただろうか。沈黙を破ったのはシャルルだった。

 

「……彰人」

 

「な、何だ?」

 

「僕の父さん達を助けてくれて、ありがとう」

 

「ああ…どういたし……ん? 待てよ、今回実際に助けたのは兄ちゃん達だし、兄ちゃんに連絡したのは楯無さんだから…………俺に礼を言ってもしょうがないんじゃ?」

 

せいぜいシャルルを落ち着かせて、話を聞いたぐらいしかしていない。

 

「ううん、そんなことはないよ。楯無先輩だって言ってたでしょ? 彰人に影響されたって。彰人がいなければ、楯無先輩は僕を助ける為の連絡をしなかった。君が居てくれたから、今の僕がここにいるんだ。だから……ありがとう」

 

「シャルル……」

 

「それと……」

 

 

ギュッ

 

 

今度は向きを変えたらしく、シャルルが俺に後ろから抱きついてくる。そして背中に何やら柔らかい感触ががががが!?

 

「僕の名前……本当の名前は、シャルロット・デュノアって言うんだ。できればそっちの方で呼ばれたいな…なんて」

 

「そ、そうか。けどそうなると、公私で分ける必要があるから少しややこしくなるな。……あ。だったら、『シャル』って呼び方はどうだ? これなら大丈夫だろ」

 

まさか原作一夏が呼ぶ愛称を、俺が言うことになるとは思ってなかったがこの場合だとこうするしかない。てか今更だけど、混浴してることがセシリア達にバレたら……!

 

「シャル……自分で言うのもなんだけど、良い響きだね。ありがとう。……シャルかぁ。ふふっ♪」

 

シャルル…否、シャルの言葉は既に耳に入って来ない。頭に浮かぶのは殺気を出しながら飛影見参!をバックに無表情で詰め寄るセシリアと簪の姿。やべぇよ……やべぇよ……このままだと俺、確実に2人にアバーッ!されるよ!

 

(マジでどうしよう……)

 

幸せそうな表情を浮かべているシャルとは裏腹に、俺の表情はどんどん暗くなっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラリッサSIDE

 

ピリリリリリ!

 

「ん?」

 

突然私の携帯が鳴った。相手は……ラウラ隊長? 何故こんな時間に……戸惑いながらも私は携帯を手に取る。

 

「もしもし」

 

『もしもし、クラリッサか?』

 

「そうですが、何か御用ですか?」

 

『う、うむ。実は大事な相談があってだな……』

 

そう言って隊長は言葉を濁す。これは本当に何かあったみたいだ。私も真剣な面持ちになる。

 

『あ、彰人に抱いている感情が、恋心だと気づいたんだが……彰人には、既に恋人が2人も居るんだ……わ、私はどうしたらいいんだろうか?』

 

「……………………………」

 

隊長の話を聞いた私はしばし黙り込む。そして―――

 

「……恋愛、キターーーーーーーーーーーー!!」

 

『!?』

 

『『『何事ですか!?』』』

 

思わず大声で叫んだ。電話の向こうで隊長が驚き、他の隊員達が部屋に入ってくる。しかしそんなことはどうでもいい。逆に好都合だ。

 

「フフフ、諸君。聞いて驚け! 実は隊長が……矢作彰人への気持ちにお気づきになられたのだ!!」

 

「なんですって、それは本当ですか!? 副隊長!」

 

「ついに、ついに隊長にも春が!」

 

「だが! 当の矢作彰人には、恋人が居ると隊長は仰った。それも2人、だ」

 

騒ぐ隊員達を落ち着かせるように言うと、驚愕の表情のまま固まってしまった。

 

「す、既に恋人が居るですって!? しかも2人!?」

 

「それじゃあ隊長の想いは……」

 

「副隊長、どうすればいいんですか!」

 

「心配無用だ。フッ、今こそ私の知識が役立つ時だ」

 

言いながら、私は日本から通信販売で買った漫画を取り出して皆に見せる。

 

「この本によると、矢作彰人のように複数の女性と付き合うには、全ての女性を平等に愛する覚悟を持つことが前提となると書いてある。簡単に聞こえるかもしれんが、これはかなり難しいことだ。しかしだ。矢作彰人は恋人が2人ということから、この条件を見事に成していることになる。即ち―――隊長が新たに恋人となっても、彼なら平等に愛してくれるということだ!!」

 

堂々と隊員達に力説する。果たして、無事に伝わっただろうか?

 

『『『なるほど。ならばまったく問題ありませんね!!』』』

 

心配は杞憂だったようだ。

 

「その通り! では皆の意見が纏まったところで、早速隊長にアドバイスしようと思う。……お待たせしました。それでですね、隊長―――」

 

『ふむ……ふむ……』

 

私は隊長に恋人になっても問題ないこと、そしてどう告白すればいいか等のアドバイスを送った。後は…吉報を待つだけだな。



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53th Episode

どうも皆さんこんにちは、矢作彰人だ。まさかのシャルと混浴するという展開が起きた次の日。俺は嫌な予感がしてならなかった。理由は簡単。原作でシャルが女子だとカミングアウトし、原作一夏と混浴したことがバレてボコボコにされる日だからだ。さすがにカミングアウト……しないよな?

 

そう願っていると、山田先生がどこか疲れた表情で教室に入ってきた。

 

「えっと……今日は皆さんに転校生を紹介します。と言っても、もう紹介は済んでると言いますか……」

 

言葉を濁して訳のわからないことを言う山田先生。……この流れは、まさか……。

 

「失礼します」

 

俺の不安を余所に教室に入ってきた転校生は、俺達が見知った人物だった。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」

 

そう、シャルルが本来の性別―――女子の制服を着て登場したからだ。

 

(おい彰人。一体全体どういうことだ?)

 

(俺に質問をするな……)

 

カミングアウトをしたシャルを見た一夏が尋ねて来るが、俺はそれを受け流す。そのせいで怪しい目で見られたが、許せ。今回ばかりは俺も困惑してるんだ。

 

「ええと…という訳で、デュノア君はデュノアさんでした。はぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」

 

やはり山田先生が疲れていたのはこれが理由だったのか。いや待て。それよりも、シャルが原作と同じ行動をとったということは……!

 

「え? デュノア君って女の子なの……!?」

 

「美少年じゃなくて、美少女だったの!?」

 

「てことは、矢作君も知ってたの? 同じ部屋なんだし、知らない筈は……」

 

「ちょっと待って! 昨日って、確か男子が大浴場を使ったわよね!?」

 

まずはご覧の有様になる。問題はこの後だ。原作では怒り狂った鈴ちゃんが突入して衝撃砲をぶっ放したけど、似たようなことになるのは間違いない。そうなったら一大事だ!

 

「みんな落ち着いてくれ! 俺は彰人と2人で入ってて、のぼせかけたんで先に上がったんだ。だからシャルルとは一緒に入ってないよ」

 

「ふむ。一夏がそう言うなら、私は信じよう」

 

「じゃああっきーは~?」

 

「…………………」

 

「おい彰人、何故無言―――お前、ひょっとして……」

 

俺は無言で左手にファイズアクセル(おもちゃ)を取り付け、

 

『Start Up!』

 

ボタンを押すと同時に全速力でドアへと向かう。が―――

 

「……」

 

「おわっ!?」

 

ドアを開けるとラウラちゃんが居たので、驚いて立ち止まってしまう。タイミングが重なったのか。そう考えていると……。

 

「彰人……」

 

「どうしたラウラちゃ―――!?」

 

言い終える前に、ラウラちゃんは背伸びをして俺に……キスをした。

 

 

突然のことに目が見開かれる。この場に居る全員も俺と同じになってるようで、シンと静まり返った。

 

「何々? 一体何の騒ぎ? シャルルが女の子とか聞こえたけど―――」

 

「……どんな感じかな―――」

 

「わ、私は……お前が、好きだ! お前が欲しい、彰人!!」

 

丁度鈴ちゃんと簪の姿が見えたところで、ラウラちゃんはGガンを思い起こすような爆弾発言を言ってのけた。更にこのタイミングで、ファイズアクセルが『Three・Two・One・Time Out!』と鳴った。ここまでわずか十秒の出来事だったのか……ってそうじゃない!

 

(このままじゃ、セシリアと簪から全部装一斉射を貰うことに……!)

 

恐る恐る後ろを振り返ると、そこには―――

 

「どうしよう、ラウラに先越されちゃった……」

 

「大丈夫ですわ。昨日の一件と今日のことで、彰人さんも女性として意識している筈ですから」

 

(へ?)

 

どういう訳かセシリアがシャルと仲良く会話していた。更に―――

 

「……凄い。ラウラ、私達が何もしてないのに、自分から……」

 

「か、簪!? いやその、これは……知り合いに相談したところ、思い切った方が良いと言われて……」

 

簪も感嘆しつつラウラちゃんと話していた。……え、何で? ここで嫉妬のあまり攻撃してくるんじゃないの?

 

「……あ~、なるほど。そういうことか」

 

「薄々と事情がわかりかけてきたぞ……」

 

「そうか…そういうことだったのか」

 

「え、何? 3人とも勝手に納得してないで、俺にもわかるように説明してよ」

 

何かに気づいて頷く鈴ちゃん、箒ちゃん、一夏に説明を求める。お願いだから1人だけ置いてきぼりにしないで。

 

「そうだな……簡潔に言うと、まずセシリアと簪がシャルロットを女性として彰人に意識してもらう為に、色々と企てたんだと思う。何があったかは知らんが、昨日の大浴場で起きたこととさっきのカミングアウトまでの流れを」

 

「な、何だって!?」

 

俺は驚いてセシリアと簪を交互に見やる。

 

「申し訳ありません。ですが同じ彰人さんに好意を抱く者同士放ってはおけず、多少強引ながらもシャルロットさんを意識して貰う為にこのような手段を取りました」

 

「は、はぁ……ってそれより、もっと大事なこと言わなかったか!? 同じ好意を抱く者って、それってシャルが俺のことを……その……」

 

「うん……好きだよ……」

 

恥ずかしげにシャルが言い、周囲の女子達から軽く歓声が上がる。

 

「も、勿論私も、彰人のことが好きだ。忘れないでくれっ」

 

「う、うん。それはわかってるけど、ラウラちゃんは何故あんなことを? 簪達の入れ知恵じゃなさそうだけど……」

 

「その件ならさっき簪にも話したが、軍の知り合いに尋ねたら日本の告白とは、世界中に伝わる程に大胆かつストレートにやるものだと言って教えてくれてな。私には他に良いアイデアがなかったから、実行したんだ。さすがに、世界中は無理だったが」

 

よし、その教えた人(十中八九クラリッサさんだけど)を連れて来い。Gガンに染まった頭を改革してやる。てか何でよりによってGガンなんだよ、ガンダムXも告白シーンがあっただろうに。

 

……と、ここまで来て俺は大事なことに気づいた。

 

「……あれ? よく考えたら俺、複数の人と交際してることを教室で暴露してる!?」

 

さすがに慌てて周囲を見渡す。しかし、驚くべき一言が箒ちゃんと簪から放たれた。

 

「ああ、それなら心配ない。どうやら一組の皆には感付かれていたようでな……この前応援を貰ってしまったんだ」

 

「……私と鈴に至っては、四組や二組からも支援されてる。気持ちは嬉しいけど、少し恥ずかしい」

 

「なん……だと……」

 

完全に絶句してしまった。え……みんな既に知ってたの!?

 

「い、一夏。お前もこのことは知ってたのか?」

 

「いや、つい昨日聞かされたばかりだ。ったく、これまで隠そうとしてきた俺達の努力は、一体何だったんだって話だよ」

 

腕を組みながら言う一夏。全くその通りだと思う。気づいてるなら気づいてるで教えてくれればいいのに……なんか損した気分。

 

「2人ともごめんね。言おう言おうと思ってたけど、中々言い出せなくて」

 

「それより~、あっきーはどうするの~? シャルるんとラウラんのこと~」

 

「どうするって、それは……」

 

のほほんさんの言葉に、俺はハッとさせられる。そうだ……俺はシャルとラウラちゃんの2人からも好意を抱かれているんだ。けど、俺は既に2人の女性と交際している。それだけでかなり贅沢なのに、これ以上増えて良いんだろうか? それに何より、セシリアと簪がOKしてく……って、そういえばシャルについてはセシリア達が後押ししてたんだっけ。

 

「彰人さん。私達は、彰人さんがどんな人物か知っているからこそ、2人を応援したい。そう考えたのですわ」

 

「……酷なことを言うかもしれないけど、ここは彰人が決断して。彰人が決めたことなら、文句はないから」

 

俺の考えてることを知ってか知らずか、セシリアと簪が言う。クラスの女子達と山田先生も固唾を飲んで見守っている。……おい山田先生、アンタさりげなく生徒に混じってるけどいいのか?

 

まあそんなことはいい。自分で決めろ、か…………真剣に判断しなければな。省吾兄ちゃんが一夫多妻制の法案を可決直前まで持って行っているとは言え、4人と付き合うことになっていいのだろうか? 俺1人で養えるのか、本当に平等に愛することができるのか……問題はたくさんある。けど色々考えが浮かんだ末、ある結論に至った。

 

(ま、いいか……考えるのはやめた)

 

これからのことを今あれこれ考えていても仕方がない。大事なのは今、自分がどんな気持ちを抱いているかだ。俺はシャルとラウラちゃん……ラウラの想いを無下にしたくない。だったら、言うべきことは決まっている。

 

「…………俺は、シャルとラウラの気持ちも、受け入れる。2人のことが、好きだから。……例え世間にどう思われようとも構わない。俺は、俺の意志で4人と付き合う!」

 

力強く、そして一気に述べた。壁があったら殴って壊す、を体現しようじゃないか。世間体がどうのなんて、それがどうした!って言ってやろうじゃないか。覚悟を決める必要があるなら、いくらでも決めてやるさ。

 

「「彰人……!」」

 

感極まり、涙目になったシャルとラウラが飛びついてくる。特にシャルは勢いがつきすぎたのか、唇が俺と当たってしまった。

 

「あ……えと、今のは、その……」

 

途端に歯切れが悪くなるシャル。そんな顔されてもな……俺だって少しびっくりしてんだから。

 

「すげぇ覚悟だな、彰人……ともかく、一件落着って奴か? 朝のHR丸ごと使った気もするけど」

 

チラッと時計を見ながら一夏が言う。確かにSHRを丸々使ってしまった感じも若干ある。

 

「織斑の言う通りだ。やれやれ……」

 

そこへため息をつきながら現れたのは―――千冬さんだった。

 

「えっ! 千冬さ……織斑先生! いつからそこに?」

 

「更識と凰がここに来た辺りだ。お陰で入るタイミングを見失ってしまったぞ……それとだ」

 

俺をじっと見つめ、千冬さんは真剣な口調で言う。

 

「そこまでお前が覚悟を秘めているなら私は何も言わんが、敢えて一言だけ言わせて貰おう。……4人全員を、全力で愛せ。以上だ」

 

それだけ言うと、千冬さんは再びシンと静まり返った教室に授業開始の挨拶を求めた。……改めて、何だかとんでもないことになったけど、仕方ない。一度決めたことは覆さないのが男ってもんだ。千冬さんの言ったように、4人全員を全力で愛してやろうじゃないか!!……って何か、言ってて恥ずかしくなってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

楯無SIDE

 

「はぁ、ため息が出ちゃうわね」

 

目の前の書類を見ながら私はそう漏らした。今現在私と虚ちゃんが格闘しているのは、ラウラ・ボーデヴィッヒのIS『ハイペリオンガンダム』に組み込まれていたVTシステムとその暴走に関するものだ。

 

「ただでさえ今年は男子生徒の入学に、クラス対抗戦での無人機の乱入まであるって言うのに……誰かが意図してるんじゃないかしら?」

 

「それはさすがにない……とは言い切れませんね。何せ、こうも立て続けにイレギュラーな事が起きてますし」

 

トントンと資料を整理しながら虚ちゃんが言う。今までIS学園で事件が発生したことなんて(生徒同士の喧嘩等を除いて)なかったと言うのに。どうにも嫌な予感がしてならない。……あ、そうだ。

 

「イレギュラーと言えば、今朝の騒ぎは一体何なのよ……。シャルロット・デュノアが女性として改めて通うことは問題ない。けど、ラウラ・ボーデヴィッヒ共々矢作彰人に好意を抱いてたってどういうこと!? それも公衆の面前でキスしたって報告もあるし……というか、彰人君も彰人君よ! 4人全員と交際するなんて…………!!」

 

苛立ちをぶちまけるように言葉を並べる。何故だか知らないけど、今朝の告白事件について考えると無性にイライラする。我ながらなんでこんなにイラついてるのか、理解できない。彼だって答えを出すまでの時間が限られてたとは言え悩んだ末に出したんだ。なのに……。

 

(何でこうも必要以上に怒りたくなるのかしら……)

 

「あの、お嬢様……」

 

「? どうしたの?」

 

気づくと、虚ちゃんが何か言いたげに声を掛けてきた。

 

「単刀直入にお尋ねしますが、お嬢様は彰人さんのことが……好きなんですか?」

 

「ぶっ!? な、何を言い出すかと思えば……そんな訳ないでしょ! ていうか、逆にどうやったらそう思える訳!?」

 

「(この反応、やっぱり……)でしたら一度、考えてみてはどうです? そうですね……例えば、彰人さんがお嬢様に見向きもしなくなった、とか」

 

「見向きも何も、彼は私のことなんか見てないでしょうに……」

 

そうぼやきつつ、私は想像してみる。テレビとかの話題を持って彰人君に話しかける。けど彼は簪ちゃん達に意識を向けていて、私のことは半ば無視している。……将来的にはあり得そうだけど、だからって―――

 

 

 

 

ズキッ……

 

 

 

 

……あれ?

 

(何今の……胸に痛みが?)

 

針を刺すような痛みが胸に走り、やがて少しずつそれは大きくなっていく。同時に彰人君のことが急に頭から離れなくなる。

 

(ち、ちょっとこれ……どういうことなの!? まさか私、本当に彼のことが……!)

 

そう思った途端、更に痛みが強くなる。どうしよう…………私、虚ちゃんの言うとおり、彰人君のことが好きになっちゃったみたい……けど理由は何なんだろう? 髪が綺麗だと褒めてくれたから? 私と簪ちゃんの間にあった蟠りを解消する手助けをしてくれたから? 彼の姿勢に心打たれたから? わからない。どれも当てはまりそうで、当てはまらない気がする。けど好きになった理由はどうだっていい。結果的に好きになっているという事実こそが大事なのだから。

 

(……本当にどうしよう……)

 

この気持ちをどうやって整理するか、次に彰人君と顔を合わせた時にどう接すればいいか、私はずっと考えていた。



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設定2

登場人物

 

 

ブラント・ダグラス

 

性別 男性

 

元軍人のアメリカ合衆国大統領で、正体はかつてのB.D。まだ議員だった頃、束が作ったISの可能性にいち早く気づき、更に矢作省吾が居ることを知ると企業を通じて援助を決定。その後、ISの性能を世界中に知らしめる為に後に『Oガンダム事件』と呼ばれるミサイルハックを敢行。今作における黒幕となった(本人はこれを墓場まで持って行くつもりだが、バレたらバレたで構わないとも考えてる)。GR-2ガーランドが量産された後は技術を応用してヴィルデ・ザウ及びカスタム機のザーメ・ザウを製作する。

この世界では、省吾とは良い関係になっている。また、亡国企業(ファントムタスク)のスコールとオータムとは、軍人時代の同僚だった。

 

 

 

専用機体

 

ザーメ・ザウ

 

GR-2ガーランドをベースにし、より戦闘力を高めたヴィルデ・ザウをブラント専用にカスタマイズした機体。ガーランドよりも大型で、変形機構はオミットされている。プラズマキャノン等の強力な武器を所持している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登場IS

 

ストライクフリーダムガンダム

 

原作におけるブルー・ティアーズ。ドラグーンは展開しながら他武器との連携も本来はできるが、登場時のセシリアはそこまでの技量を持っていなかった(裏を返せば、そこに至るにはかなりの技量が必要になる)。

 

専用パッケージはミーティア。

 

 

 

 

 

 

 

アルトロンガンダム(TV版)

 

原作での甲龍。衝撃砲はないが、ドラゴンハングからの火炎放射による奇襲戦法を得意とする。ツインビームトライデントは双天牙月のように分離はできないが、取り回しが非常に良い。

 

専用パッケージを使うことでEW版になり、武装が減る代わりに機動力が上昇しドラゴンハングが強化される。

 

 

 

 

 

 

 

サイコガンダム

 

原作でのゴーレムに当たる機体。通常ISの二倍程の大きさを誇る機体で、メガ粒子砲による強力な火力と強靱な装甲にIフィールドを併せ持つ。ただし機動力は低い上無人操作なので、良くも悪くも機械的な動きしかできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

アリオスガンダム

 

原作におけるラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの位置づけになっている機体。原作の高速切替(ラピッド・スイッチ)はそのまま搭載されている。

可変機で戦闘機のような形態に変形し、その際は主に長距離移動や緊急回避、他ISの運搬等に使われる。トランザムも使用可能。

 

専用パッケージはGNヘビーウェポン。

 

 

 

 

 

 

 

ハイペリオンガンダム

 

原作におけるシュヴァルツェア・レーゲン。AICの代わりにアルミューレ・リュミエールが搭載されており、バリアで自機全体を完全防御することができる。しかし、相手の戦い方によっては突破されることもある。主力武装はビームキャノン「フォルファントリー」。内部にはVTシステムが秘密裏に搭載されていた。

一度破壊された際、データ収集として開発・払い下げられた3号機のパーツを使って修復される。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアストレイブルーフレームセカンドL・LL

 

原作の打鉄弐式に当たる機体。開発経緯はIS原作と同じで、背面に装備されたタクティカル・アームズによって距離を問わない戦いができる。更に必殺武器としてローエングリンランチャーを装備しており、これにより複数の敵を薙ぎ払うことも可能。また、今作でのローエングリンランチャーはウイングゼロのツインバスターライフルを基に調整がされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムエクシア

 

原作での暮桜。織斑千冬に合わせて近接格闘に特化しており、全身に7つの剣・セブンソードを装備している。単一仕様能力(ワンオフアビリティー)はトランザム。現役を引退後、何者かとの私闘により半壊。コアを外された状態で学園地下に封印されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Oガンダム

 

原作における白騎士に当たる機体。グレーのカラーが特徴で、プロトガーランドと協力してミサイル群を撃ち落とした。その後、コアと各パーツをバラバラにされた状態で各国に提供された。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムエクシアダークマター

 

ハイペリオンガンダムがVTシステムで変貌したもので、かつて構想されていたエクシアのパワーアップ案の1つ。赤と黒のカラーが印象的で、どこか凶悪なフォルムをしている。ダークマターブースターという支援機を装備しており、必要に応じて分離・連携攻撃ができる(ただし分離すると本体の方はISコアでの稼働から内蔵ジェネレーターによる稼働になる)。プロミネンスブレイドやブライニクルブレイド等武装も豊富かつ強力で、あらゆる機体を寄せ付けない強さを持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M1アストレイ

 

原作における打鉄に当たる機体。両腰には対戦艦クラス用の実体ブレードが日本刀のように装備されている。またISとしての本機体はシュライクがなくても飛行できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GN-XⅣ

 

原作におけるラファール・リヴァイブ。凡用性が高く、操縦者や状況によって武装を自由に変更することができる。ただし、指揮艦機の方が一般機より選択の幅が大きい。専用機仕様には若干劣るが、トランザムシステムを搭載している。

見た目からは想像しにくいが、れっきとしたガンダムタイプの機体である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他戦闘機体

 

 

GR-2ガーランド

 

ガーランドの正式量産型。ISよりかは少々劣るがそれでも現時点での軍事力を上回る能力を持つ他、バイク形態で目立つことなく追跡・潜入ができる、男性でも使える等の利点がある。それが原因なのか、原作程女尊男卑は酷くない。またカスタム化がとても簡単で、操縦者に合わせてチューンされているものもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィルデ・ザウ

 

GR-2ガーランドをベースにし、戦闘力を高めた凡用機体。大きさはガーランドの約2倍で、変形機構はオミットされている。運動性能はガーランドより高く、プラズマサーベルやプラズマキャノンといった強力な武器を積んでいるが、その分操作性がピーキーになってしまい、エース向けの機体として生産されることになる。



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臨海学校編
54th Episode


「ふぅ……。こんなところか」

 

どうも皆さんこんにちは、矢作彰人だ。シャルのカミングアウトとラウラの告白&俺の全員受け入れという衝撃的な日から数日が経過した。俺は現在、使用可能になっているアリーナでウイングゼロを展開して立っていた。目の前にはシールドエネルギーが無くなって動けなくなっているGN-XⅣとM1アストレイがいくつか横たわっている。

 

「うぐ……つ、強い……!」

 

「男の癖に、何で……!」

 

俺に対して憎らしげな目線を向けてきたソイツ等は、女尊男卑思想に染まったIS学園の生徒と教師達だ。最近何度か勝負を挑まれることがあり(それも多勢に無勢な状況で)、その度に返り討ちにしている。挑む理由としては、やはり天を獲るという発言と、俺が4人の女性と交際している状況が気にくわないからだろう。……俺としても何も言い返せないので断らずに戦っているが、どいつもこいつも似たようなことしか言わないのでウンザリしている。

 

(その闘争心を、有意義なことに向けられないものか……)

 

ついため息をついてしまう。……今日のは一段と重く感じられた。というのも、実は今朝俺が起きた時、こんなことがあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ふぁ~……あ?」

 

俺が目を開けた時、俺のベッドに誰かが居ることに気づいた。簪か? そう思って布団を捲ったら……。

 

「んぅ……む、彰人か。おはよう」

 

そこに居たのはラウラだった。しかも全裸で。

 

「………………………おい、何で裸なんだ? 目のやり場に困るんだけど」

 

目を逸らしながら、極めて冷静な態度を装ってラウラに問いかける。

 

「恋人同士は裸の付き合いをするものだとクラリッサから聞いたのだが……間違いだったか?」

 

「間違えすぎだ」

 

てかクラリッサさん……中途半端な知識をラウラに教えないでくれ。ただでさえこの子は純粋なんだから、今回みたいに変なこと覚えちゃったらどうするんだよ。

 

「とりあえず服を着てくれ。裸でなくても、恋人同士の付き合いはできるから」

 

「そうか……彰人が言うなら、正しいんだろうな」

 

そう言いながら、ラウラは近くに畳んであった服を着始める。俺はそれを見てホッとする。……簪が眠ったままで正直、かなり助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――と、ここまでが今朝起きたプチ事件だ。お陰で二重の意味でドキドキさせられた。それに最近、楯無さんの俺を見る目が何か変だし……変態とか節操なしとか思われてるのかな? だとすると悲しいが。

 

「…………ん?」

 

ふとそこへ、ウイングゼロのセンサーが別のアリーナで誰かが戦っているのを察知した。戦ってるのは…簪と箒ちゃんか。模擬戦でもしてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

「はぁあああああっ!」

 

ブルーフレームがソードフォームのタクティカルアームズを真上から振るって来る。

 

「はっ!」

 

私は対艦刀二本をクロスさせてそれを防ぐ。鍔迫り合いになるかと思ったが、タクティカルアームズの方が重さがあるので徐々に押され始める。

どうするか考えていると、ブルーフレームの右足にアーマーシュナイダーが展開されるのが一瞬見えた。

 

「(剣に集中させておいて、不意打ちする気か。だが……!)はっ!」

 

「っ!?」

 

私は咄嗟に対艦刀を離して後退した。目論見が外れたこととバランスが崩れたことで、簪は一瞬だが動揺する。

 

その隙を逃さず、私はビームライフルを構えて即座に連射する。

 

「……させない!」

 

簪はソードフォームのタクティカルアームズを楯代わりにして攻撃を防ぐと、ガトリングフォームに変形させて銃口から弾丸を放った。私は左腕のシールドで防ぎつつ、簪の真下辺りの地面目掛けて移動し、対艦刀を拾い上げると素早く方向転換した。

 

「これで終わりだ……!?」

 

真下から一気に接近して右手に持った対艦刀を振るおうとした瞬間―――右腕の動きが、急に鈍った。

 

「……え?」

 

突然のことに簪すら驚いて動きを止めている。しかし私はすぐに切り替えると、左手の対艦刀で一閃した。

 

「でやぁあああああ!!」

 

「しまっ……きゃああああ!」

 

シールドエネルギーを減少させながら、ブルーフレームは墜落する。撃墜には至ってないようだ。……やはり攻撃力に差があるのはカバーし難いか。それも気になったが、私は右腕が動かなくなったことに疑問が沸いていた。

 

(M1アストレイが、私の動きについてこれないのか? いや、まさかな……)

 

あり得ないと思いつつも、その可能性がしばらく頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束SIDE

 

私はIS学園の監視カメラを通して箒ちゃんの模擬戦を観戦していた。そして戦いが終わったところで画面を切ると、ある確信を口にした。

 

「やっぱり、箒ちゃんの動きにM1アストレイが追いついていないね……」

 

これは予想の範囲内のことだと思っていたが、1つ誤算があった。箒ちゃんの成長が思ったよりかなり早かったのだ。本人は気づいてないだろうけど、箒ちゃんのIS特性はCランクからAランク上位まで上昇している。M1アストレイの動きが一瞬鈍ったのは、量産機故に設定されてあった限界値をパイロットの成長が追い越してしまったからだ。

 

(『アレ』を渡した方がいいかもしれない。でも―――)

 

私はラボに鎮座している『機体』に目を向ける。この機体にはパイロットの意志に合わせて自ら進化する機能がついているが、その為には一度危機的状況に陥り、打破することが不可欠となる。

 

「となると可能なのは……この日だね」

 

ディスプレイに表示されたカレンダーの日付を指して言う。その日からはIS学園がある行事を行うので、その期間を利用していっくんとあっくんの機体の覚醒を促す為にある敵と戦って貰うことを予定している。そこに箒ちゃんを加えれば、一度に3つの機体を覚醒させることができる。

 

勿論、その為に戦わせる機体の目星もついているけど……。

 

(いっくん達に危険が伴うし、敵役のISは暴走させないといけないのが辛いなぁ……)

 

この戦いは、文字通り命を掛けた戦いになる。下手をすれば死者が出るかもしれない。そして何より、自分の子供のようなISを自らの手で暴走させなければならないのに強い抵抗感を覚える。

……だけど、やるしかない。世界を、私が本来望んだ希望溢れる未来に変える為に。

 

「ごめんね……お母さんを、許して……」

 

表示されてる敵役の新型ISに手を伸ばし、私は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

場所は変わり、とあるアメリカの軍事施設の1つ。そこの格納庫に、2人の女性が壁にもたれかかって話をしていた。

 

「コイツが例の新型か。乗り心地とかはどうなんだ?」

 

「抜群といった感じかしら。あの子、私の方に合わせてくれるし」

 

先に尋ねたのはイーリス・コーリング。この基地の軍属者かつアメリカの代表操縦者であり、第3世代型IS『ガンダムエピオン』の操縦者でもある。

 

その彼女に答えているのが、ナターシャ・ファイルス。イーリスの友人で、アメリカの新型機のテストパイロットだ。

 

この2人はとても仲良しで、イーリスはナターシャを「ナタル」と、ナターシャはイーリスを「イーリ」と呼んでいる。

 

「合わせてくれる? ISが? 最適化(フィッティング)と違うのか?」

 

「ええ。何ていうか、私の気持ちを酌み取ってくれるというか、気遣ってくれるというか……上手く言い表せないけどとにかく、そんな感じなのよ」

 

「へぇ……不思議なこともあるもんだな。他の連中なんて『ISに合わせなきゃなんない』とか『強迫観念みたいなのを感じる』とか、ぼやいてるのにさ」

 

「そう言うイーリはどうなの?」

 

「私か? 特にそういったものはないな。信頼してるパートナーって感じかな」

 

待機状態のエピオンを見つめながら、イーリスは言う。

 

「それよりさ、ナタル。IS学園の矢作彰人と織斑一夏って奴だけどさ……どっちと戦ってみたいと思う?」

 

「藪から棒にどうしたの?」

 

「学年末トーナメントってのを見ただろ? あの試合での動きが目に焼き付いちまってな。久しぶりに血が騒いじまったんだ。ナタルもそうだろ?」

 

「……否定はしないわ」

 

闘争心を湧き上がらせるイーリスに、少しばかりの照れを見せながらナタルは同意する。

 

どうして2人が学年別トーナメントのことを知っているのか? それは2人の上司が、予め録画しておいた男性操縦者の試合を見ておくようにと言ったからだ。

当初ナターシャは興味有り気だったが、対するイーリスは関心が薄かった。軍人として死線を潜り抜けてきた彼女にしてみれば、男性だろうが女性だろうがまだまだ未熟な学生であることに変わりないと思っていたからだ。しかしいざ試合を見てみると、彼女はすぐに引き込まれていった。ハイペリオンのアルミューレ・リュミエールによるバリアを全く同じ箇所を集中攻撃して突破するという奇策を編み出した一夏と、ゼロシステムを完全に使いこなしアリオスを完全に翻弄した彰人。2人の圧倒的な強さに、イーリスもナターシャも武者震いを覚えたのだ。

 

「で、どうなんだ?」

 

「そうね……私は、織斑一夏君かしら。彼の剣裁きに私とあの子でどこまで通じるか、確かめてみたいの」

 

「新型で挑む気かよ。お前も案外気が早いな。んじゃ私は……やっぱ矢作彰人だな。アイツ、まだ学生なのにエピオンに積まれてるのと同じシステムを完全に使いこなしてる。それに一度暴走してた時があったが、その時に見せた冷酷なまでの強さにやられてな……できることなら、あの状態で私と戦って欲しいぜ」

 

「まあ何にせよ、私達がまずやらなければいけないのは『あの子』の試験稼働よ。そろそろ準備しないと、ハワイ沖に行けないわよ?」

 

「りょーかいっと」

 

そこで会話を切り上げると、2人は格納庫を後にした。



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55th Episode

「「疲れた……」」

 

昼休みの食堂にて、俺と一夏はげんなりとテーブルに突っ伏して同時に呟いた。

 

「また戦いか?」

 

「ああ。それも連日連戦……全然疲れが取れやしない」

 

「昨日ついに千冬姉さんに相談しといたからどうにかなるとは思うが……懲りずに挑んできそうで怖い」

 

「お2人とも、苦労なさっているのですね……」

 

今度は椅子の背もたれに思い切りもたれる俺達に、セシリア達が憐憫の視線を向けてくる。

 

「ていうか、みんなしつこすぎなのよ。束になって敵わない時点で諦めればいいのに」

 

「うーん、女尊男卑思想が染み付いちゃってる人には難しいんじゃないかな? 自分のアイデンティティを否定されてるみたいで」

 

「なるほど。気持ちはわからんでもないが……それでもやり過ぎだとは思うな」

 

口々に意見を言い合う。やはり俺と一夏の身に起きてることに、思うところはあったようだ。……まあ、それが普通なんだけどね。

 

「……あの、みんな一旦そこまでにしといて」

 

と、ここで簪が話し合いの場を収め、俺を見た。

 

「……彰人。今度の週末って、何か用事ある?」

 

「いや。ないけど……どうかしたの?」

 

「……ちょっと私達の買い物に付き合って欲しいんだけど」

 

「買い物? それならお安い御用だけど、何を買うんだ?」

 

「……もうすぐ臨海学校があるから、水着を新調したいと思って……どれが似合うか選んで欲しいの」

 

簪の言葉に俺は納得すると同時にドキリとさせられた。簪達の水着姿……軽くイメージしけど、やばい。何だか興奮してきてしまった。想像なのに。

 

皆も簪の言ったことにハッとしたのか、期待するように俺を見てきた。箒ちゃんと鈴ちゃんは、一夏に簪が俺に言ったのと似たようなことを言っていた。俺と一夏は顔を見合わせると各々の恋人へと視線を戻す。言うべきことは、決まっていた。

 

「わかった。俺でよければ、一緒に行こう」

 

「上手くコーディネイトできるかわからないけど、俺でいいなら」

 

そう言うと、みんなはぱあっと表情を輝かせた。そんなに嬉しいものなのかな? 選んで貰えるのって。それとも単にデートみたいだから…か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末、日曜日

 

「はぁ~。やっぱ広いな、ここ」

 

駅前のショッピングモール『レゾナンス』に入った俺はその光景に感嘆の声を漏らした。中学の頃に一夏や弾達とちょくちょく来ていたからよく知っているとは言え、その広さと人の多さにはいつも驚かされてばかりだ。今日は水着を買うだけと思っていたが、ラウラがあまり私服を持ってなかったことがわかったので、急遽そちらも買うことになった(さすがにそっちはシャルに任せた)。

 

ちなみに今回の買い物だが、俺と一夏は最初店の入り口付近で待機していて、最終的な候補が決まったら順次持ってくるようになっている。さすがに女性物の下着売り場に男である俺と一夏が踏み入れるのは、抵抗があるものな。

 

「では皆、行こう。……しかし、どんな水着にすればいいものか……」

 

「自分で可愛いと思ったものでいいんじゃない?」

 

「私は、あまり派手なものは着たくないが……」

 

「うーん……彰人に褒めて貰えるようなものがあるといいな」

 

「こんなにたくさんあると、探すのにも一苦労ですわね」

 

「……本音はある程度露出があった方がいいって言ってたけど、どうしよう」

 

女子達は口々に言いながら店の奥に入って行った。俺達は普通に待っていようと思ったが、女性の買い物はとても長いことを以前弾の愚痴で聞いたことがあるのを思い出した。

 

「折角だ、俺達も新しく水着を買おう」

 

「おう、いいぜ。暇つぶしにゃ持ってこいだ」

 

俺達は移動して男性の水着売り場へ行くと、店内を物色して気に入った水着を一着ずつ選んで買った。基本的には俺も一夏もトランクスタイプだが、色が異なっている。ちなみに俺のが赤で一夏のが青だ。

 

 

俺達の買い物は終わったが、女子達はまだ候補が決まってないみたいで誰も入り口付近に集まってなかった。なので近くにあったベンチに座って一夏と談笑していると、声を掛けられた。

 

「ちょっとそこの貴方達。そこの水着、片付けておいて」

 

明らかに見ず知らずの女性が、命令するかのように言ってきた。その足下にはいくつか水着が散らかっている。それを片付けろということか。

 

「冗談はよしてくれ。それが初対面の人に言うことか? ていうかそれ以前に、そんなのは自分でやるのが常識だろ」

 

「それに人に命令するのが癖になると、ヤバイことになるぜ? いや…既に癖になっててそれしかできないってことか? だとすると、アンタの頭が心配だな」

 

「へぇ、そう言うこと言うんだ。男が女に口答えできると思ってるの? こっちは訴えることもできるんだけど?」

 

言うが早いか、女性は警備員を呼ぼうとした。やはりガーランドという抑止力があるとは言え、女尊男卑が浸透した結果、こういう人達が世に蔓延ることになるのに変わりはないようだ。

しかし訴えられるのはさすがにまずい。俺はこういう時の為の手段を使うことにした。

 

「おいおい、俺を訴えるのは勝手だけど、その後はどうするつもりなんだ?」

 

「どうするって、有罪になって終わりじゃ―――」

 

「お生憎様。ここの店には監視カメラもあるし、こんなこともあろうかと、俺はこんなものまで持ってるんだよ」

 

懐からボイスレコーダーを取り出して女性に言う。何かあった時に咄嗟に使おうと思って買っておいたのが、功を奏したようだ。

 

「物的証拠じゃ俺達の方が有利。アンタの証言だけじゃ、訴えるのには不十分なんだよねぇ」

 

「それに、だ。仮にもし裁判で有罪にできたとして、世間に何て伝わると思う? 水着を無理矢理片付けさせようとして片付けなかったから訴えた……かな。そうしたら、アンタは余りにしょうも無い理由で裁判を起こしたことで後ろ指を指されることになるんだけど……それでも構わないのかなぁ?」

 

「っ……! お、覚えてなさい!!」

 

俺と一夏ですんごい挑発するように言うと、女性は顔を真っ赤にして走り去って行った。覚える気なんて更々無いんだが。

 

そうこうしていると、セシリア達が集まってきた。

 

「お待たせしました、彰人さん」

 

「ああ、候補が決まったのか。で…どんなのだ?」

 

「うん。こういう感じなんだけど……」

 

そう言うと、みんなはそれぞれ水着を二着ずつ見せてきた。

 

「……最終的に候補を2つに絞り込んで、後は彰人に決めて貰おうと思ったの」

 

「彰人はどちらが似合うと思う?」

 

「そうだな……」

 

俺は顎に手をやりながら、チラッと一夏の方を見る。と、箒ちゃんと鈴ちゃんも水着を二着ずつ持っていた。考えることは皆同じらしい。

 

「俺の意見としては―――」

 

何度か悩みながら、俺はみんなの水着を順次選択していった。どんな水着になったかって? そいつは向こうに行ってからのお楽しみだ。それにしても臨海学校が楽しみだ。早くその日にならないかな?



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56th Episode

皆さんこんにちは、矢作彰人だ。時が流れるのは速いもので、臨海学校当日を迎えた。俺達一組のメンバーはバスに揺られて目的地に向かっている。俺の席はやや真ん中の通路側で、隣にはセシリアが座っている。通路を挟んだ反対側には通路からシャルとラウラが座っており、俺の真後ろには簪が座っている(誰が俺の隣に座るかで揉めに揉めたことは言うまでもない)。んでシャル達の真後ろに、一夏と箒ちゃんが座っているという訳だ。

 

「おっ。箒、外見てみろ。海が広がっているぞ」

 

「ん? あ、ああ……綺麗だな」

 

一夏が声を掛けるが、箒ちゃんは心ここにあらずだった。というのも、水着を買った2日後に束さんから彼女に連絡があったのだ。何でも「箒ちゃんの為の専用機を渡したい」とのことで、日にちが臨海学校と被るそうだ。……懸念してたけど、原作通りのことが起きるか。だとすると福音に当たる機体が暴走するかもしれないな。気をつけておかないと。

 

「やっぱ…気になるのか?」

 

「……すまない。できるだけ考えないようにしているのだが、どうもな」

 

「いきなり専用機渡すって言われたら、そうなるよな……けど、ここは束さんを信じようぜ。なーにあの人のことだ。きっと大事な理由でもあるんだろうさ」

 

「一夏………そうだな」

 

一夏の前向きな発言により、箒ちゃんは悩んでいた表情を笑顔に変えた。下手に考え込むよりは気楽に行った方が良いこともある。今はただ、時が来るのを待とう。全てはそれからだ。

 

「彰人さん、どうしたのですか? 先ほどから難しい顔をされて」

 

「え? ああ、早く海に入りたいなぁって思ってさ」

 

「まあ…ふふっ。気が早いですわよ、彰人さん♪」

 

どこか楽しげに言うセシリアを見て俺の悩みは一旦吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて目的地に着くと、旅館の前で俺達は整列した。女将さんに挨拶をする為だ。いつの時代になっても、挨拶が大事なのには変わりはない。

 

「ここが今日から3日間お世話になる花月壮だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しなさい」

 

『『『よろしくお願いしまーす』』』

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

全員で揃って挨拶すると、着物姿の女将さんが丁寧なお辞儀をして言う。今年"も"ということは、IS学園の臨海学校先は毎年此処になってるということか。

 

考えていると、女将さんや仲居さん達の視線が俺と一夏に集中してきた。大勢の女子の中で男子が2人ぽつんと居るのは何かと目立つし、部屋割りとか入浴時間の調整等でいつもより余計手間がかかったんだろう。となると……こう言った方がいいな。俺は一夏に目配せして一歩前に出る。

 

「初めまして。俺は矢作彰人といいます。隣に居るのは織斑一夏、俺の親友です。この度は大変お手数をおかけしました。3日間ご厄介になりますが、何卒―――」

 

「「よろしくお願いします」」

 

最後に一夏と揃って挨拶する。気配からしてみんな驚いているんだろうけど、これは前日一夏とこっそり決めておいたことだ。「大勢の女子の中で男子が2人だと、部屋割りとか苦労するだろうなぁ」と俺が言ったのが始まりで、じゃあ労いの言葉をかけようということになり、あれこれ提案をして決めたのだ。

 

「まあ……ご丁寧にどうもありがとうございます。清洲景子です」

 

感心したように口に手を当て、女将さん……清洲さんはお辞儀をする。何というか、気品のある方だ。こういう人って今の世の中にあんまり居ないんだよね。傲慢な女性ばっかり。その後俺達は各々の部屋に移動することになった……のだが。

 

「織斑と矢作は私に付いてこい。部屋に案内する」

 

千冬さんに言われ、その後ろを歩いて行くことになった。

 

「相部屋になるのかな?」

 

「多分そうじゃないか? 女子と一緒だと色々問題ありそうだし」

 

何て話しながら付いて行くと、ある部屋の前に辿り着いた。

 

「此処だ」

 

「え、此処って……『教員室』ですか?」

 

「どうしてまた?」

 

「最初は2人部屋という話だったんだが、それだと女子達が絶対に就寝時間を無視してが押しかけるだろうということになってな」

 

なるほど、確かにあり得そうだな。けど俺としては来てほし……いや、何でもない。規則を破るのはいけないことだ。

 

「結果、私と同室になった…という訳だ。さすがに此処なら、おいそれと近づけまい」

 

「「それは確かに」」

 

相当な覚悟がなければ実行に移すことは不可能だろう。

 

「後、一応言っておくが、あくまで私は教員だということを忘れないでくれ」

 

「「はい、わかってます。織斑先生」」

 

「よし」

 

俺達の確認を取ると、千冬さんは部屋の中へと案内してくれた。ふむ……結構良い部屋じゃないか。

 

「おお、凄い綺麗な部屋だな~」

 

「正に和って感じだな。実に良い」

 

感嘆しながら、俺と一夏は部屋を見渡す。こんな部屋で寝泊まりできるとは、我ながら贅沢だ。

 

「一応大浴場も使えるが、男の織斑と矢作は時間交代だ。本来ならば男女別になっているが、何せ一学年全員だからな。お前ら2人のために残りの全員が窮屈な思いをするのも酷だと思ってな。よって一部の時間のみ使用可だ。深夜、及び早朝に入りたければ部屋の方を使ってくれ」

 

「「わかりました」」

 

「……さて、今日は1日自由時間だ。荷物も置いたことだし、後は好きにして構わないぞ」

 

「ではお言葉に甘えて。行こう、一夏」

 

「ああ。えっと、俺の水着はと……」

 

俺と一夏は荷物をまさぐって水着を取り出すと、更衣室のある別館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………のだが、途中である問題と遭遇した。

 

「何だこれは……?」

 

「嫌な予感しかしないんだが……」

 

「……………………」

 

途中で箒ちゃんと合流して別館に向かおうとした時、道端にウサミミが生えてるのが見えたからだ。……何を言ってるのかわからないと思うが、俺自身もよくわからない。わかっているのは色が白で、『引っ張ってください』と明らかに下手な字で書いた張り紙が貼り付けてあることだ。

 

「…………すまない、2人とも。私は先に行かせてもらう」

 

それを見た箒ちゃんはやや沈んだ気持ちになりながら、1人先へと進んだ。このウサミミが誰の仕業で、引っ張ったら何が起きるかわかったんだろう。箒ちゃんの心境から考えると、今会わない判断をしたのは正解だ。

 

「……で、これをどうするかが問題だ」

 

「とにかく引っ張ってみよう。でなきゃ始まらん」

 

一夏は言うと、素早くウサミミを引き抜いた。が、抜けただけで何もない。確か意表を突く形で現れるんだが……どうやって来るんだっけ? 忘れてしまった……よし、ならこう言っておくか。

 

「上から来るぞ! 気をつけろ!」

 

視線が上に集中する。これで下や右から来たら俺は謝る。しばし見つめていると、轟音と共に何かがこちらに向かって落下してきていることに気づいた。

 

「!? 避けろぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおお!?」

 

思わず身を翻した瞬間、物凄い音と共にソレが地面に突き刺さった。舞い上がる粉塵に思わず右腕で顔を覆いながら確認すると、そこには巨大な人参があった。何故人参? と思った次の瞬間、人参は真っ二つに割れ中から『あの人』が現れた。

 

「やっほ~! いっくん、あっくん、箒ちゃん! 皆のアイドル束さんだよ~!」

 

開口一番にハイテンションな挨拶をかましたが、間違いない。ISとガーランドの開発者で箒ちゃんの姉である『篠ノ之束』さんだ。

 

「ってあり? 箒ちゃんは~?」

 

「これ引き抜く前に先に行っちゃいましたよ」

 

「そっかー、残念。…………仕方ないけど、予定繰り下げて明日にするか……」

 

? 後半部分がよく聞き取れなかった。何か神妙な顔してたけど、どうしたんだろう?

 

「じゃあ束さんは、箒ちゃんを探しがてらその辺をぶ~らぶらしてくるね~!」

 

そう言って束さんは嵐の様に去って行った。

 

「……行っちゃった……」

 

「……とりあえず、着替えて海に行こうぜ」

 

呆然としつつ、俺達は今度こそ更衣室へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、見て見て! 織斑君と矢作君よ!」

 

「え、嘘!? 私の水着、変じゃないかしら?」

 

「わぁ……! 2人とも結構良い体つきしてる!」

 

更衣室から出て浜辺へ出ると、当然ながら女子達の注目を集める。皆可愛い水着を着ているが、全員女子なので異様に見えてしまう。けど、弾や数馬なら喜びのあまり叫びまくりそうだな。

 

「よし一夏、準備運動するぞ」

 

「オーケー!」

 

やや波打ち際に近づいたところで俺と一夏は準備運動をする。海で足が攣ったら洒落にならないからな。

大方準備運動を終えると海を見て、まずはどうしようか考える。と……

 

「一夏ぁ―――――――っ!!」

 

「ん? うわっ!?」

 

聞き覚えのある大声と共に、黄緑のフリルの付いた水着を着た鈴ちゃんが一夏に突っ込み、思わず一夏はびっくりした声を出す。

 

「やっぱ鈴ちゃんだったか」

 

「むしろ私以外に誰がこんなことするって言うのよ?」

 

「違いない」

 

俺と話しながら、鈴ちゃんは一夏をよじ登って肩車の体勢になった。

 

「言ってる場合か……てか、何故鈴は俺によじ登る!?」

 

「えへへ、いいじゃん。おぉ~高い高い。遠くまでよく見えていいわ~」

 

「俺は展望台か何かか……」

 

「とか言っちゃって、ホントは一夏も嬉しい癖に♪」

 

「……そりゃそうだけどさ」

 

つんつんと頬をつつく鈴に一夏は頬を赤く染める。そこへ……

 

「……何やってるんだ、鈴」

 

「ん? あ、箒……うおおおおおおおおお!?」

 

声のする方を向いた一夏は絶叫し、俺もそれにつられて見た瞬間、感嘆の声を上げそうになった。

 

振り向いた先には箒ちゃんが、深紅のビキニを着込んで立っていた。その姿に一夏は目を奪われており、特に胸元辺りに視線が集中していた。

 

「き、急に大声を出すなっ。だが……そ、そんなに似合っていると解釈していいのか?」

 

「あ、ああ。凄い似合ってる」

 

「そうか。それは良かった……ただ、その……そんなに見つめないでくれ。は、恥ずかしい」

 

「あ! ご、ごめん」

 

照れてもじもじとする箒ちゃんに指摘された一夏は視線を逸らす。これが男の性というものだな……俺もセシリア達を見たらこうなりそうだ。

 

「む~」

 

「り、鈴? どうした?」

 

「一夏、箒の胸をじっと見てたでしょ?」

 

「う!? そ、それは……」

 

「ふん、別にいいもん。どうせ私の胸はぺったこんだもん……はぁ……」

 

鈴ちゃんは自分の胸を手で押さえてため息をつく。どこか哀愁漂うその姿に、俺はどうしたらいいかわからなかった。

 

「あのな、鈴。俺は胸の大きさで女を選ぶ奴じゃないし、鈴の胸が小さいからって嫌いになったりしないぞ」

 

「……それ、本当?」

 

「本当だとも」

 

「そう……えへへっ」

 

困りながら言った一夏のフォローで元気を取り戻した鈴ちゃんは、ニコニコとしながら一夏から降りた。

 

「あら、彰人さん。そこにいらしたのですね」

 

再び聞こえてきた声に振り向くと、ビーチパラソルの下で腰を降ろしているセシリアと簪が居た。

 

「おう、2人とも来たのか。シャルとラウラは?」

 

「……もう少ししたら来るって言ってた。それで……どう、かな? 私達の水着……」

 

簪に言われて、俺は2人の姿を見る。セシリアは青い水着を、簪は白と青のストライプ水着を着ている。

 

「2人とも凄く似合ってるよ。板に付いてると言っても過言じゃない」

 

「そ、そうですか……ふふっ、ありがとうございます」

 

「……あ、ありがとう……」

 

「……!!」

 

顔を赤くする2人を見た俺は、思わず目を背けた。恥じらい、照れる姿も美しいとはこのことか……。

 

「あの、彰人さん……もし宜しければ、サンオイルを塗っていただけませんか? 私、肌があまり強くないので……」

 

「…………WHAT?」

 

セシリアの予期せぬ発言に俺は英語で返してしまった。え、今なんと仰いました? サンオイル? 俺が、セシリアに?

 

「い、いいけど……背中だけ、だよな?」

 

既に寝そべっているセシリア恐る恐る尋ねる。

 

「はい。ですが……できれば、足と……お尻も、お願いします」

 

「!!!!!!!!!!!!」

 

瞬間、俺の中のボルテージが急速に上がって行った。足とお尻も? それはつまり、セシリアの美しいレッグとヒップに触っても可と!? 俺は頷きかけるが……

 

「……彰人のエッチ……」

 

「!? す、すまん! ええと、さすがに背中と足だけにしておくよ。人目につくのもアレだし……」

 

むすっとして言った簪の声に我に返ると、俺はできるだけ早くサンオイルを塗った。危ない危ない……もう少しで人前で危険なことをするところだった。恋人のあられもない姿を他の人物に見られるのは(たとえ一夏や箒ちゃんであっても)あまり良い気持ちじゃないし。

 

「あ、居た居た! 彰人~!」

 

「この声は……」

 

間違いなくシャルだと思って振り向くと、そこには確かにオレンジの水着を着たシャルが居たが……。

 

「……何よ? そのバスタオルお化けは」

 

鈴が指摘した奇妙な存在が居た。どこぞのミイラみたく全身を数枚のバスタオルで覆っているが、ツインテールの白髪で誰かわかった。

 

「ほら、恥ずかしがらずに出てきてってば。大丈夫だから」

 

「だ、大丈夫かどうかは……私が決める……」

 

声を聞いて確信できた。やっぱりラウラだ。けどどうしてこんなに弱々しいんだろう?

 

「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから見てもらわないと」

 

「ま、待て! 私にも、心の準備というものがあってだな……」

 

「もう、そんなこと言って…………じゃあ、僕と簪とセシリアで先に彰人と遊んじゃおうかな~?」

 

「なっ!? そ、それはダメだ! 私も一緒に……!」

 

「だったらほら、全部さらけ出しちゃえ♪」

 

シャルがバスタオルを掴んで引っぺがすと、中から黒いビキニを着て髪をツインテールにしたラウラが恥ずかしそうに顔を赤らめながら現れた。

 

「……へ、変ではないか……?」

 

「いんや、全然。むしろ凄い似合ってて可愛いぞ」

 

「そうですわ。とても似合っていますわよ」

 

「っ、そ、そうか……彰人が、可愛いって言ってくれた……!」

 

予想以上に喜ぶラウラ。そんなに嬉しかったんだ……けど、喜んでくれて何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はクラスメイトの女子数名を交えてビーチバレーをしたり、俺と一夏と鈴ちゃんで海に入って競争したりもした。……途中で鈴ちゃんが足を攣るというハプニングがあったけど、一夏がすぐに助けたお陰で難を逃れた。それからは鈴ちゃんの介抱をしつつ、時間一杯まで遊びまくった。やっぱ、こういう平穏が一番だな。そう思った日だった。



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57th Episode

夕食の時間になり、俺達は大広間に集まっていた。一年全員がずらりと並んでおり、お膳と座布団が同じく綺麗に並べてある。ちなみに全員浴衣を着ている。此処じゃ食事中は浴衣着用っていう決まりがあるらしく、俺も一夏も着てるけど……何でそんな決まりがあるんだろう?

 

それと俺達の席だが奥側を選んでおり、俺の右側と左側にそれぞれにシャルとラウラが、俺の真正面と斜め左に簪とセシリアが居る。んで俺から見て斜め右が箒ちゃんで、そこから隣へ一夏、鈴ちゃんという並びだ。そして食前の挨拶をし、早速刺身を食べ始める。

 

「うん、美味い! やっぱり刺身に本わさは欠かせないな」

 

「だよな。このつーんとする感覚が何とも言えない心地よさを出してる」

 

「わさびがあるか無いかでは味が大きく違うからな。これ無くして、刺身は食えない気がする」

 

「わさび? 一体何なんだ、わさびとは?」

 

俺と一夏と箒ちゃんが和気藹々と話していると、ラウラちゃんが尋ねてきた。やっぱりわさびは知らなかったか。まあドイツに居たんじゃあ、食べる機会もないからな。この機会に教えてあげよう。

 

「わさびって言うのはな、ここに小さく盛られている緑色の物体のことを言う」

 

「これのことか?」

 

「そう。これを刺身に少量乗せて、醤油をつけて食べる。先に醤油に溶かしておくという手もあるけど、こっちの方がわさびのおいしさをより感じられるんだ。あ、つけ過ぎには―――」

 

「ふぐっ!?」

 

「?」

 

突如聞こえた奇声に思わず隣を向くと、口と鼻を押さえて悶絶するシャルが居た。机に落ちてる箸にはわさびが付いてる。てことは……。

 

「シャル……さてはわさびをそのまま食っただろ? ほら、これ飲んで」

 

俺は湯飲みにお茶を入れるとシャルに渡す。受け取るや否や、シャルはお茶を一気飲みする。

 

「う……ぷはっ……ふ、風味があっておいひいね……?」

 

「無理して言わなくてもいいのに……けど、これからは気をつけてくれよ」

 

俺が言うと、シャルは何度か頷いてまたお茶を飲んでいた。俺はシャルを心配そうに見ているラウラを再び見た。

 

「わさびを食べ過ぎるとこうなる。わかったか?」

 

「あ、ああ。では……」

 

ラウラは刺身の上にわさびを少量乗せると、醤油につけて頬張った。何度か噛んで飲み込むと、ラウラはとても良い笑顔になった。

 

「美味しい! こんなに美味しいものは、初めて食べたぞ!」

 

「喜んでくれて何よりだ」

 

俺もラウラにつられて笑顔になる。誰かの笑顔を見ていると、見てる側まで幸せになる。こうやって幸せが広がればいいのに、と子供の頃はよく思っていたもんだ。

 

「ん……つぅ……」

 

その時、セシリアの声が聞こえた。どこか痛々しそうな声に前を見ると、辛そうな表情をしたセシリアがもじもじとしていた。

 

「どうしたセシリア? 大丈夫か?」

 

「は……はい…彰人さん…………だいじょう、ぶ…ですわ……」

 

どこをどう見ても無理をしているのは明らかだった。

 

「正座で足を痺れさせたのか。無理もないけど」

 

「……セシリア。無理に我慢しなくても、テーブル席に移ったら?」

 

簪が諭すが、セシリアは頑として首を縦に振らない。けど、これじゃあ食事が一向に進まない。……仕方ない、この手を使うか。

 

「わかった。でもこのまま痺れが取れるのを待ってたら、料理が冷めちゃうから……俺が食べさせてあげようか?」

 

「「「「!!??」」」」

 

その瞬間、セシリアだけではなく他の3人も同時に反応した。思わず後ろに下がりかけるが、気を取り直す。

 

「あ、彰人さん、そ、それは本当ですの!? 食べさせて、下さるんですの!?」

 

「ああ。折角のご馳走が傷んだら大変だからな」

 

「そ、そうですわね! 折角のお料理を、残したらシェフに申し訳ありませんもの!」

 

必死で建て前を取り繕うセシリアに苦笑しつつ、俺は刺身を箸で摘んで食べさせてあげる。

 

「……ん?」

 

(((じー……)))

 

ふと見ると、簪、シャル、ラウラが羨ましそうにこちらを見ていた。

 

「……そんなに見つめなくても、順番に食べさせてあげるから」

 

そう言うと、3人はぱあっと表情を輝かせた。……不覚にも、かなりドキッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「おうおう、彰人の奴やってるな~」

 

セシリア達とはい、あーんをしている彰人を見てニヤニヤしながら言う。どうもこういうのは見てると笑みを浮かべてしまう。何でだろう?

 

「……なぁ、一夏」

 

「ん?」

 

「私達には……してくれないの?」

 

箒と鈴がねだるように俺を見てきた。……そんな目で見られたら、断れないじゃないか。

 

「勿論するさ。順番にな」

 

すると、2人はたちまち笑顔になる。はぁ……俺も彰人のこと、笑えなくなったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「ふぅ、さっぱりした~」

 

「やっぱ温泉はいいな。これぞ文化の極みって奴だ」

 

食事の後、俺と一夏は露天風呂に入った。海が一望でき尚且つ広々としていたので、俺も一夏も大満足で今に至る。んで部屋に戻ったのだが。

 

「あれ? 千冬さんがいない」

 

「ミーティングでもしてるのかな? それとも温泉か」

 

言いながら地面に座る。そのまましばし談笑を続けていたが、ふと一夏が急に真面目な顔をして切り出した。

 

「あのさ、話は変わるけど……俺のISの能力、トランザムバーストは何で積まれたと思う?」

 

「へ? 何でってそりゃあ、神様に機体頼んだからだろ? 原作再現ってことで」

 

「それはそうかもしれないけど、束さんはどんな想いでこれを組み込んだのかって最近思ったんだ。いくら神様が決めたことだからって、束さんが何も考えずにトランザムバーストとかゼロシステムとか、積むと思うか?」

 

「……思わないな。むしろ、何か裏があるように思う」

 

言われてみて気づいた。束さんは原作からしてミステリアスで何を考えているのかわからない人物像だった。一歩間違えば操縦者の危険が伴うゼロシステムを搭載したのも、考えがあってのことなのか?

 

「けどさ、俺達にどうしろって言うんだ? トランザムバーストで全人類を和解させろとでも? それかゼロシステムで希望ある未来を導けとか?」

 

「それは……俺にもわからん。今度束さんに会ったら思い切って聞いてみるか。答えてくれるかわからないけど」

 

「そうした方がいい」

 

ごろんと寝転びながら俺は言った。けどもし、束さんの考えてることがトランザムバースト+ゼロシステムによる全人類の和解だとしたら、どうする? 俺達にそんな大役が務まるのか? クソッ、いくら考えてもわからない。……仕方ない。こういう時は無理に考えず、目の前のことを考えていこう。っと、そういえば明日はISを使うんだったな。軽いメンテナンスでもしとくか。



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58th Episode

午前7時、ハワイ沖にて。

 

OutSIDE

 

ナターシャの駆る新型ISがイーリスの動かすガンダムエピオン随伴で、稼働テストを行っていた。

 

「PIC正常稼働。各部問題なし」

 

『武装チェックの方は終わらせたか?』

 

「今やってるわ」

 

目の前に浮かぶモニターを操作していくナターシャだったが、ふと右端に小さく表示された赤いメッセージに気づいた。

 

「何かしら? ……外部からの通信? 一体どこから……」

 

眉を細めて訝しんだ―――次の瞬間。

 

『通信内容を解析。創造主による新たな命令を確認』

 

「え?」

 

『創造主による命令を優先。操縦者はその妨げになると判断。よって電気ショックによる軽度の意識障害を行う』

 

「え、何!? どうし―――うっ!」

 

驚いて反応した瞬間、電気が体に走りナターシャの意識を刈り取った。そして操縦者が意識を失ったまま、新型ISは動き始めた。

 

『ナタル? どうした、何をしてる?』

 

『命令を再確認。現機体コンディションは任務の遂行に支障なし』

 

新型ISのツインアイが怪しく光り、遙か彼方―――IS学園の臨海学校先の旅館をハイパーセンサーで捉えた。

 

『―――1.5(アイズ)ガンダム。現時刻より任務を遂行する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

翌日の午前9時。今日の合宿は丸一日使ってISの各種装備の試験運用とデータ収集が行われる。特に専用機持ちは本国から送られてきた大量の装備をチェックしなければならないので、大変だ。……まあ俺と一夏のは後付けできないから、その辺は楽でいいんだけど。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

全員が集合したところで千冬さんが言うと、『はーい』という返事と共にそれぞれのポジションにつく。さすがは今回の合宿の目玉だけあって、大がかりだ。俺と一夏は専用パーツがないので、他の生徒達のパーツ運びを手伝っている。ちなみにパーツと言っても予備の武器とか補助ブースターのようなものとか、色んなものがある。俺も補助ブースターとかは欲しかったかも……。

 

「ああ、そうだ篠ノ之。お前には今日から専用機を……」

 

千冬さんが言いかけた、その時だった。

 

「ちーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

大声が聞こえたかと思うと砂煙を上げながら何者かが物凄いスピードで走って来ていた。しかもその人物は、昨日会ったばかりの人だった。

 

「……束か」

 

そう、人参型ロケットという凄まじくインパクトのある登場をした篠ノ之束さんだ。

 

「やあやあ! 会いたかったよちーちゃん! さあ、今すぐハグをしよう! そして愛を確かめ―――ぶへっ!?」

 

出会い頭にセクハラを働こうとした束さんにアイアンクローをかます千冬さん。しかもあの力の入れ具合……本気だ。

 

「会って早々うるさいぞ、束」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……相変わらず冗談が通じないねっ!」

 

するりとアイアンクローから抜け出しながら束さんは言う。……何をどうやったら本気の千冬さんから脱出できるんだ? と、ここで束さんは箒ちゃんに視線を向けた。

 

「やあ箒ちゃん! おっ久~!」

 

「久しぶりです、姉さん」

 

相変わらずの態度で接する束さんに対し、箒ちゃんは複雑そうな面持ちで応えた。再び会えた嬉しさ半分、いきなり専用機を貰えるという戸惑い半分なんだろう。

 

「えへへ、それにしてもホントに久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ? 色々おっきくなったね、箒ちゃん」

 

「……どこを見て言ってるんですか!!」

 

束さんの視線が明らかに自分の胸に集まっていることに気づいた箒ちゃんは、咄嗟に両手で胸を隠す。いきなりなにしてんだ、あの人は……。

 

「恥ずかしがらなくてもいいじゃん。姉妹同士の軽~いスキンシップと思えば―――」

 

「そこまでにしておけ、束。スキンシップよりも此処に来た用件の方が大事だろう?」

 

「む、それもそうか。―――コホン。それでは皆さん! 大空をご覧あれ~!!」

 

天に向かってビシッと指差して言うと、金属の塊が落下して展開。中身が露わとなる。そこにはM1アストレイに似た紅白のISが佇んでいた。

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『ガンダムアストレイレッドフレーム』!! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 

得意げに衝撃の事実を言う束さんに、周囲がざわつき始める。

 

「全スペックが現行機を? ということは、まさかアレは……第4世代型なのか!?」

 

「そんな! 各国でようやく第3世代型の試験機ができた段階ですわよ!?」

 

「なのにもう第4世代が完成って……」

 

「どことなくM1アストレイに似ている気がするね……」

 

「……私みたいに、M1アストレイをベースにしたのかな?」

 

簪が最後に言った時、レッドフレームを外に移動させていた束さんがピクッと反応した。

 

「んー、惜しい! この子はM1をベースにしたんじゃなくて、M1の方がこの子をベースにしたんだ~」

 

楽しそうに言うが、それはこの場に居る全員を唖然とさせる更なる衝撃発言だった。原作でレッドフレームは確かにM1アストレイのベースになった機体だが、そこまで再現するとは。だとすると、この機体はエクシアが登場した時既に完成していたことになる。スペックが高すぎて量産の際にダウングレードしたのか……。

 

「ともかく箒ちゃん、今からフォーマットとフィッティングを始めるよ! 私が補佐するから、リラックスしていてね」

 

「……はい」

 

束さんが持っているリモコンを操作するとレッドフレームの装甲が割れ、操縦者を受け入れる状態になり膝を落とした。

 

「さっき確認したけど、箒ちゃんのデータはある程度選考して入れてあるから後は最新データに更新するだけだね。それじゃ……」

 

コンソールを開き、瞬く間に作業を進めていく。その様子は見る者全てを圧倒すると言っても過言ではなかった。改めて束さんがトンデモスペックの持ち主だと確認させられる。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの? 身内ってだけで」

 

「だよね……何かずるいよねぇ」

 

向こうに居る生徒達からそんな会話が聞こえる。ヘッドパーツが閉じる瞬間、箒ちゃんは彼女達に申し訳なさそうな視線を向けていた。

 

「はい、初期化完了っと。それじゃあ試験運転も兼ねて軽く飛んでみて。箒ちゃんの思い通りに動く筈だよ」

 

「ええ。それでは……」

 

箒ちゃんは意を決した様子で空を見た。次の瞬間、レッドフレームは凄まじいスピードで大空へ飛び立って行った。

 

「「速っ……」」

 

思わず一夏と同時に呟いてしまう。どこぞのゲッター線で動くロボや最新型ASもこんな感じだったのかな。

 

「うんうん、やっぱ箒ちゃんは凄いね。束さんの想像以上だよ。じゃあ次は刀使ってみて。『ガーベラストレート』って言うんだ」

 

「わかりました。……はっ!」

 

右腰の刀、ガーベラストレートを抜刀すると構えをし、突きや横薙ぎの一閃等を放った。他にもビームライフルやビームサーベルを取り出しては構える。

 

するとここで、束さんの周囲からターゲットドローンらしきものがいくつか空へ舞った。それらは箒ちゃんに攻撃を仕掛けるが、箒ちゃんは怯むことなくビームライフルで数体を迎撃。更にガーベラストレートで残る全てを叩き切った。その威風堂々たる姿に、全員が魅了されていた。

 

「あの、姉さん。何故このISを私に? この力は、私には過ぎたもののように思えるのですが……」

 

降下してきた箒ちゃんが束さんに尋ねる。突然得た力に戸惑っていて、浮かれてることはないようだ。

 

「あー、それはね……今の箒ちゃんならこの子を正しく使ってくれるって思ったからだよ」

 

「え?」

 

「作った私が言うのもなんだけど、このレッドフレームは危険な力を持っている。けど箒ちゃんなら、大切な人達を守る為に使ってくれる筈。そう頭にビビッと来たから渡そうかなって考えたんだ~。あ、念のために聞くけど、ちゃんと正しく使ってくれるよね?」

 

「姉さん……はい!!(まだよくわからないが、姉さんは私を信じてレッドフレームを与えてくれた。浮かれてはいけない。この力が私のものになった以上、姉さんの言う通り正しく使わなくては。それに……それが、皆に対する罪滅ぼしになるかもしれない)」

 

元気よく返事したその声からは、力を手にした責任感とそれを正しく使う為の希望という強い覚悟が表れていた。慢心や浮かれといった感情は一切ない。原作とは大きく違う展開に、俺は大きな安心感に包まれていた。そして俺と一夏が束さんに尋ねようとした、その時だった。

 

「た、大変です! 織斑先生、これを!!」

 

山田先生が大急ぎで走って来て、千冬さんに携帯を渡した。電話を変わって内容を確認すると、千冬さんの顔色が見る間に変わった。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……か。全員注目! 現時刻よりIS学園は特殊任務行動へと移る。今日のテストは中止! 各般、ISを片付けて旅館に戻れ! 連絡があるまで各自室内待機する事! それと専用機持ちは全員集合! 以上だ!!」

 

チッ、やっぱり来やがったか……原作における『銀の福音』の暴走が。



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59th Episode

旅館の一番奥にある宴会用の大座敷・風花の間に俺達専用機持ちは集められた。照明が落とされて薄暗くなっている室内には大型の空中ディスプレイが浮かんでいた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型軍用ISである、『1.5(アイズ)ガンダム』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

ISの名前を聞いた俺と一夏は顔を見合わせた。1.5ガンダムとは……中々乙な機体だ。って言ってる場合じゃないけど。

 

「衛星による追跡の結果、1.5ガンダムは2キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後だ。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して、空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

通達内容は予想してた通りだった。が、原作を読んでいても解せないところがある。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

 

「はい」

 

真っ先に俺が手を挙げると千冬さんはすぐにこちらを見た。

 

「1つ確認したいことがあるんですが、よろしいですか?」

 

「ああ、言ってくれ」

 

「何故俺達が軍用ISの対処をするんですか? こういうのは普通、事の発端であるアメリカとイスラエルが責任を持って対処して然るべきでしょう。相手は軍用ISなんですから、他国に知られたら不味い重要機密情報がてんこ盛りの筈です。他国者である俺達が対処なんかしたら、向こうにとって色々と不味いのでは?」

 

「ふむ、尤もな意見だ。確かに、これは本来アメリカとイスラエルが対処すべき状況なのだが、向こうも軍用ISの暴走による緊急事態の為に今は手が回せない状態なので、我々学園側に白羽の矢が立って対処する事になったのだ」

 

「……わかりました」

 

要するに、軍の連中の尻拭いをしろって訳か。何て迷惑な……それで何かあったら俺達に責任要求してくるんだろ? 勘弁してほしいぜ。

 

俺が質問を終えると、今度はセシリアが手を挙げた。

 

「あの、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏洩した場合、査問委員会での裁判と最低でも二年の監視がつくことになる」

 

そう釘を刺した上で千冬さんは機体データを開示した。広域殲滅を目的とした特殊射撃型で、特殊武装も積んでいる等……オールレンジ攻撃がない以外は福音のとほぼ同じだった。

 

「この特殊装備とやらが曲者だな。装備のスペックから判断して、連続での防御は並のISだとかなり難しくなる。それにデータによると、格闘性能が未知数だ。……一度偵察ができればいいのですが、できるでしょうか?」

 

顎に手を当てていたラウラが千冬さんに尋ねる。しかし千冬さんは首を横に振った。

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だな」

 

「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかないようですね」

 

山田先生の言葉に千冬さんはより神妙な面持ちになる。

 

「ああ。となると候補になる機体はいくつかあるが……適任と言えるのはダブルオーライザーとウイングガンダムゼロ、だな。量子化による不意打ちとゼロシステムによる未来予測があるのはこちらに有利だからな」

 

その言葉に俺と一夏含め、誰からも反論はなかった。アプローチが一回限りという状況下では、この二機の勝率が高いことを知っているからだ。

 

「でもそれだと、彰人と一夏をどうやって運ぶかが問題になるよね。移動でエネルギーを消費する訳にはいかないし」

 

「……しかも目標に追いつける速度が出せるISじゃないといけない。超高感度ハイパーセンサーも必要になる」

 

「……よし。ではそれらのことを踏まえて作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せるのはどれだ?」

 

「それなら、私のストライクフリーダムが。丁度本国の方から強襲用高機動パッケージ『ミーティア』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーもついてます」

 

千冬さんの質問にセシリアが真っ先に立候補した。なるほど、ミーティアか。単純な移動手段だけではなく、万一の場合の戦力としても心強い。

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「20時間です」

 

「ふむ……それならば適任―――」

 

「待った待ーった! その作戦、ちょっと待ったなんだよ~!」

 

適任だなと言いかけた時、いきなり明るい声が聞こえてきた。声のする方を見ると、束さんが天井のど真ん中から頭を出していた。何やってるんだ、この人は……。

 

「とうっ!」

 

束さんは一回転して着地すると、千冬さんに近づいた。てことは、まさか……。

 

「おい束、ここは関係者以外立ち入り―――」

 

「まあまあ、聞いて聞いて! ここは是非とも、レッドフレームも作戦に加えて欲しいんだっ!」

 

「何?」

 

やっぱりか。この人のことだから言うんじゃないかなぁ、と思ってたけど……当たってしまった。

 

「レッドフレームのスペックデータを見て見て! パッケージなんかなくても超高速機動が出来るんだよ! それにガーベラストレートにはバリア貫通機能が備わってるし、何よりこの束さんお手製なんだよ? 加えておいて損はないんじゃないかな~?」

 

束さんの言葉に千冬さんは腕を組んで考えていた。そして―――

 

「……ここで反対したとしても、お前は引かないんだろう?」

 

「ふふ、ご想像に任せるよん♪」

 

「そうか……わかった。今回の作戦、篠ノ之にも参加してもらう」

 

「お、織斑先生! それは本気ですか!?」

 

さすがの箒ちゃんもこれには大いに取り乱して千冬さんに問い質した。

 

「ああ。と言っても無茶はするな。お前は織斑と矢作のサポートをしてくれればそれでいい。後オルコット、パッケージの量子変換(インストール)までにかかる時間はどれくらいだ?」

 

「10分もあれば」

 

「ダメだ、5分で終わらせろ。いいな?」

 

「は、はい!」

 

ついに作戦の本格的な準備に取りかかるようだ。できれば原作みたいに撃墜されるなんてことにはなって欲しくないが……やれるか? いや、やってみせるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

しばらくして俺、彰人、箒、セシリアの4人は砂浜で各自ISを展開していた。セシリアはミーティアも装着しているが……やはりというか何というか、でかい。その気になればIS二機でも運べるんじゃないか? と思える程だ。

 

それはさておき、隣に居る箒の様子が少しおかしい。どうやら緊張してるようだ。俺は声を掛けた方がいいと思い、箒に通信を繋いだ。

 

「箒、聞こえるか?」

 

『っ! 一夏か……どうした?』

 

「その、大丈夫か? 緊張してるみたいだが……」

 

『ああ…問題ない。何せこういったことは初めてなのでな、気を引き締めていたんだ。それより一夏、先手はお前と彰人にかかっているんだ。しっかり気を引き締めるんだぞ』

 

「わかってるさ」

 

杞憂だったようだ。逆に激励されたし、まずは安心だ。そうしてると、千冬姉さんから通信が入った。

 

『織斑、矢作、オルコット、篠ノ之、聞こえるか?』

 

「「「「はい」」」」

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間で決着をつけるよう心掛けろ。討つべきは1.5ガンダムだ』

 

「「「「了解」」」」

 

『それから篠ノ之。先ほど言ったように、決して無茶はするな。お前はレッドフレームでの実戦経験は皆無な上、何かしらの問題が起きるとも限らない。他の3人も万一のことあったら迷わず撤退しろ。全員の命が最優先だ』

 

「わかりました。肝に銘じておきます」

 

「死ぬのはごめんだもんな」

 

「同感だ。まだ人生の半分も行ってないのに、死んでたまるかってんだ」

 

「はい。私達は、こんなところで倒れる訳には行きませんもの」

 

水平線を見つめながら、俺達は決意を改める。この作戦、絶対に成功させてやる。

 

『では、作戦開始!!』

 

「篠ノ之箒、ガンダムアストレイレッドフレーム! 出撃する!!」

 

「セシリア・オルコット、ストライクフリーダムガンダム! 発進しますわ!!」

 

千冬姉さんの合図と共に俺を抱えた箒と彰人を抱えたセシリアが大空へと舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして目標となる1.5ガンダムが確認できた。海面スレスレをハイスピードモードで飛行しているその姿には、ある種の美しさすら感じるが……見とれててはいけない。

 

『敵が見えた訳だが……さて一夏、どう攻撃する?』

 

「ライザーソードかツインバスターライフルの一撃で決められたら御の字だが、正面から行っても墜とされる。ここは俺が囮になって奴を捕まえよう」

 

『俺じゃなくていいのか? GNソードⅢにはバリア貫通があるだろうに』

 

「量子化できるのは俺だけだからな。囮にゃもってこいだ」

 

『わかった。無理はすんなよ』

 

「承知さ!!」

 

彰人と短い通信を行った後、俺はトランザムを発動し敢えて1.5ガンダムの真正面に躍り出た。当然ながら相手は迎撃しようとスタンバイモードで動きを止めるが、そこで俺は量子化し、奴の背後を取って羽交い締めにして彰人を見上げた。

 

「今だ彰人! 撃てぇぇぇぇ!!」

 

「ターゲット・ロックオン……攻撃開始!!」

 

「「なっ!?」」

 

一切の躊躇もなく放たれた最大出力のツインバスターライフルに箒とセシリアは戸惑うが、俺はそんなことはお構いなしに1.5ガンダムを締め付ける。そしてビームと機体の距離がほぼゼロになった瞬間―――俺は再び量子化して箒達のところへ戻った。

 

「ふぃ~、冷やっとした」

 

「お疲れ一夏」

 

「冷やっとした、ではないぞ! 見てるこっちが心臓が止まりそうだったじゃないか!!」

 

「あー……ごめん箒」

 

「全く、随分と思い切った作戦ですこと。ですが……これ、いつ考えたのですか?」

 

「「即興だけど?」」

 

彰人と揃って普通に答えると、2人とも信じられないようなものを見る目で俺達を見てきた。2人ともアドリブとか弱そうだもんな………………ん?

 

「まあ、1.5ガンダムを倒すことはできたから……結果オーライか? 私の出番は無かったが……」

 

「……残念ながら出番はありそうだよ、箒」

 

言いながら1.5ガンダムが居た方向を見つめ、煙が晴れるのを待つ。するとそこには、いくらかダメージは貰ったもののディフェンスモードで攻撃を防いだ1.5ガンダムが現れ、何事も無かったかのようにフライトモードになると俺達を見据えた。

 

「あの距離と威力で防いだのか? 敵さんもやるな」

 

「感心してる場合ではありませんわ!」

 

「ああ。ここからは各自フォーメーションを組んだ方がいいな。悪いが箒ちゃんも戦闘に加わってもらうぞ」

 

「フォーメーションと言っても、どうするんだ!?」

 

「一夏と箒ちゃんは近距離攻撃を、セシリアは遠距離からの後方支援で頼む。俺は中距離から仕掛ける!」

 

彰人が早口にそれぞれの役割を言い渡す。さすがは彰人だ。こういった状況は慣れてやがる(ほぼゲームでだけど)。

 

「っ! 承知した!」

 

「任せろ!」

 

「わかりましたわ!」

 

すぐさま陣形を組み攻撃に備える。始めに攻撃を仕掛けたのは、セシリアだった。

 

「食らいなさい!!」

 

アーム部分からの強力なビーム砲とマルチロックミサイルを1.5ガンダム目掛けて一斉発射する。1.5ガンダムはビーム砲をギリギリ避けてGNバスターライフルでミサイルを撃ち落とそうとするも、全ては撃ち落としきれず直撃を受けた。

 

「今度は俺だ。行くぞ!!」

 

その隙を逃さず、彰人が分割したバスターライフルで時間差攻撃をする。それはGNシールドで防がれるが、俺達にとっては想定内だった。

 

「行け、一夏! 箒ちゃん!」

 

「「ああ!」」

 

1.5ガンダムの左右をGNソードⅢ(ソードモード)を構えた俺とガーベラストレートを構えた箒で挟み込むように急接近し、それぞれ得物を振り切った。

 

「でぇやああああああああああああああああ!!」

 

「はぁあああああああああああああああああ!!」

 

1.5ガンダムもGNビームサーベルを構えて箒の攻撃を防ぐが俺のは防げず、装甲を切り裂くことができた。そこで意識が俺に向いた時、箒はGNビームサーベルを弾いてボディを切り裂き、同時に俺と一旦離脱する。そこへ彰人とセシリアがビームサーベルとビームソードで切り裂かんと接近を試みる―――が。

 

「っ!? 待て2人とも! 真下に船がある!!」

 

「「「何(ですって)!?」」」

 

思わず反応して下を見ると、封鎖されたはずの海域に一隻の魚船が漂っている。

 

「封鎖した筈では!?」

 

「密漁船ということか……チッ、厄介な!」

 

このまま戦闘が継続すればあの船にも危害が及びかねない。戦況はこちらに傾いており、継続するのがいいんだろうが……迷っている時間はない!!

 

「箒、あの船を安全なところまで誘導してくれ。コイツは俺達が押さえておく。セシリアは万が一に備えて、どちらにも対応できるようサポートしてくれ」

 

「なっ!? 無茶だ! 確かに人命救助は最優先だが、それでは一夏達が!」

 

「その通りですわ! もし彰人さん達に何かあったら……」

 

「無理だ。全員纏めて撃墜される可能性が高い。それに船まで巻き込まないのは不可能だ」

 

「だから頼む。ここは俺達に……!」

 

「……わかった」

 

「箒さん!?」

 

「ただし、必ず無事で居てくれ。いいな!」

 

マスク越しにも伝わる悲壮な想いを受け止め、俺と彰人は背を向けた。同時に箒とが船へと向かう。

 

「負けられない理由ができちまったな、彰人」

 

「何言ってやがる。元から負けられない戦いだっただろ?」

 

「フッ……そうだったな!」

 

1.5ガンダムを睨み付けながら笑みを浮かべて言う。そして俺と彰人はすぐさま1.5ガンダムを攻撃し、俺達に釘付けにする。先ほど俺達の連携を食らった意趣返しなのか、アタックモードでかなり容赦のない猛攻を仕掛けてきたが、俺達はセシリアの後方支援もあって耐え続けた。

 

しばらくすると箒が戻って来るのが見えた。避難誘導は上手くいったようだ。

 

「ようし、ここから反撃開s……!!」

 

言いかけて、彰人が固まった。なぜなら1.5ガンダムの視線は箒達に向けられており、更にアルヴァアロンキャノンモードで狙いをつけていたからだ。

 

「(まずい!)2人とも逃げろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

必死で叫ぶが時既に遅し。1.5ガンダムは必殺の一撃を放ってしまった。このままじゃ箒が……セシリアが……やられる……?

 

「「させるかぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」」

 

気がつけば俺と彰人はほぼ同時にブーストを使い、2人の前に出て俺は両手を前でクロスし、彰人はシールドで防御体勢を取った。その瞬間、凄まじい程の熱量が俺と彰人に襲いかかった。装甲のあちこちから爆発が起こり、保たれていたシールドエネルギーが急激に低下して飛行を維持できなくなる。さらに肉体的にも大ダメージを受け、俺達は海へと落下して行った。

 

「い、一夏……? 一夏!? 一夏ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

「あ、彰人さん!? そんな………い、いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

悲鳴を聞きながら、俺の意識は闇へと落ちた。



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60th Episode

 

千冬SIDE

 

「作戦は失敗の上、織斑と矢作は重傷か……最悪な結果になってしまったな」

 

空中に表示されたモニターを見ながら、私は呟いた。2人が撃墜された場面を見たとき、私は心臓が止まる程のショックを受けた。本来なら傍についていてあげるか様子を見に行きたいが、今は1.5ガンダムが最優先で指揮を疎かにしてはいけないので作戦室に籠もっている。山田先生が居る手前顔には出さないが、想像以上に辛い。すぐにでも向かいたい衝動が湧き上がるが今もぐっと堪えている。

 

「途中までは織斑君達が優位に立っていたのに……どうして……」

 

「戦場ではちょっとしたことが、その後の戦局を大きく変えるターニングポイントとなる。今回はあの密漁船がそうだったんだろう」

 

あって欲しくなかったが。心の中で付け加え、再びモニター画面を見た。

 

「そういえば、さっき他の専用機持ちの皆さんが何か作業していましたが……何をしていたんでしょうか?」

 

思い出したように山田先生が尋ねてくる。この状況で作業することの必要性といえば1つしかない。

 

「おそらく、自分達だけで1.5ガンダムの下へ向かうつもりなのだろう」

 

「えっ!? そ、そんな! 止めに行かないと!」

 

「無駄だ、山田先生。君や私が止めに入ったところで彼女達は止まるまい。まして、篠ノ之とオルコットは尚更だ」

 

思い人が自分を庇って撃墜されたんだ。同じ立場なら、私もすぐさま再出撃しているだろう。

 

「で、ではどうしたらっ」

 

「……祈るんだ。彼女達の無事と、2人が元気な姿を見せてくれることを。今の私達には、それぐらいしかできない」

 

未だ1.5ガンダムの居場所を補足できない状況を歯がゆく思いながら、私は一筋の望みを掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「……っ、出たぞ。ここから30キロ程離れた無人島に目標を確認した。ステルスモードに入ってはいたが光学迷彩までは搭載されていないようだ。衛星による目視で確認出来た」

 

端末を見てラウラが言う。それを聞いた面々は笑みを浮かべた。

 

「流石はドイツ軍特殊部隊の隊長ね。やるじゃない」

 

「まあな。お前こそ、準備はどうなんだ?」

 

「アルトロンのパッケージなら既にインストール済みよ。シャルロットと簪は?」

 

「準備オッケーだよ。いつでも行ける」

 

「……大丈夫」

 

「いよいよ……ですわね」

 

「ああ。先ほどとは違った緊張感だな……」

 

決意を胸に、彼女達は出撃しようとしていた。が、その前にラウラが全員を見て言った。

 

「確認するまでもないが、私達がやろうとしていることは完全に命令違反だ。生き残れる保証はないし、処罰も覚悟しなくてはならない。わかっているな?」

 

その言葉に誰も何も言わず、決意の籠もった目を一様に向けていた。並大抵の覚悟を決めている訳ではないのが窺える。

 

「よし。では出撃するが、その前に敢えて言っておこう……全員、必ず生きて帰るぞ。誰1人として死ぬな」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

そして6つの翼が大空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えましたわ!」

 

目的地に着き、ハイパーセンサー5キロ先で海上約200メートルの地点でスタンバイモードで静止している1.5ガンダムを見つけると、彼女達はすぐに戦闘体勢に入った。

 

「まずはコイツで、あの寝坊助を叩き起こしてやる…………ファイア!!」

 

ハイペリオンガンダムのフォルファントリーで狙いをつけ、発射する。緑色のビームは一直線にターゲットに向かうが、それに気づいたのか1.5ガンダムは俯いていた顔をツインアイを光らせながら急に上げた。

 

直後、ビームが1.5ガンダムの頭部に直撃して爆発した。

 

『ターゲット捕捉。ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロの反応なし。これより攻撃を開始する』

 

「初弾は命中。ならば!」

 

すぐに第二射を行うが、1.5ガンダムは自慢の機動力で避けつつ接近してくる。

 

「チッ、予想よりも速い! そう簡単には当たってくれんと言うことか!」

 

砲撃をやめて下がろうとするが、1.5ガンダムはラウラからおよそ300メートル離れた地点からハイスピードモードで急加速を行い、GNビームサーベルを持った左腕を振り翳した。

 

「やれ、セシリア!」

 

「了解ですわ!」

 

しかしラウラは焦ることなく指示を飛ばす。その瞬間、ストライクフリーダム(ミーティア)が真上からビームソードを展開して垂直に降下、1.5ガンダムを切り裂きつつラウラを助けた。まともに食らった1.5ガンダムは海へと落ちていくが体勢を立て直そうとする。が、そうはさせまいとセシリアはミーティアの全部装を使った攻撃、ミーティア・フルバーストで狙撃する。

 

1.5ガンダムもただ食らってはいられないとディフェンスモードになりつつ、持ち前の機動力で回避行動を取りながらセシリアと距離を取り、迎撃しようとする。

 

「シャルロット!」

 

「了解、行くよ!!」

 

そこへGN粒子によるステルスモードに入っていたシャルロットがGNツインビームライフルで背後から奇襲する。1.5ガンダムは体勢を崩すもアタックモードになり反撃に移る。

 

「悪いけど、そのくらいじゃアリオスは落ちないよ!」

 

GNビームシールドによって展開された防御フィールドで攻撃を防ぎつつ、シャルロットは『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で武器を交換。パッケージのGNキャノンとGNミサイルで攻撃していく。そこへセシリアとラウラが加わり、三方向からの同時攻撃を開始した。さすがの1.5ガンダムもこれには防戦一方になるしかなかった。

 

「(やはり、いくら機動力に優れていても連携や一斉攻撃を避けきるのは不可能か。となると、奴が次に取る行動は……)箒、鈴、簪! 奴が離脱して背中を見せたら、速攻且つ全力で仕掛けろ!」

 

「わかった!」

 

「……了解!」

 

「任せて! ドラゴンハングで取っ捕まえてやるわ!!」

 

ラウラが攻撃しながら3人に指示を入れた瞬間、1.5ガンダムはアルヴァアロンキャノンモードで強力なビームを薙ぎ払うように放った。咄嗟に防御と回避に専念した為大した被害はなかったが、1.5ガンダムはラウラの予測通りハイスピードモードで離脱しようとする。すると―――

 

「そうは!」

 

「させるか!!」

 

簪と箒が真下と真上から接近し、タクティカルアームズソードフォームとガーベラストレートで擦れ違い様に切り裂いた。

 

「今だ鈴! ドラゴンハングで奴の身体を軋ませてやれ!!」

 

「わかってるわよ!!」

 

返事をしながら、鈴はドラゴンハングを放つ。鈴のアルトロンガンダムはパッケージによってカスタム化し、いくつか武装が減ったものの機動性が高まり、ドラゴンハングは射程と柔軟性が強化されている。

 

それによって捕まれた1.5ガンダムは必死で暴れるが、鈴は意地でも離すまいとしていた。更に左のドラゴンハングは右のバインダーを掴んでいた。

 

「これでぇぇぇええええええええええ!!」

 

 

バキバキバキィッ!

 

 

そのまま力任せに右のバインダーを引っ張って引き千切ると、スパークして小さく火花が散った。1.5ガンダムはバランスを崩しながらも鈴に膝蹴りを食らわせようとする。

 

「はぁぁぁああああああああああああ!!」

 

だが簪が背後を取り、タクティカルアームズソードフォームで残るバインダーも切り落とした。

 

「これでトドメッ!!」

 

両方のバインダーを失った1.5ガンダムに簪はローエングリンランチャーを放ち、近くにあった無人島に吹き飛ばした。

 

「今だ! 全員火力を1.5ガンダムに集中させろ! 出し惜しみはなしだ!!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

ラウラの声に全員が返事をし、箒はビームライフルで、鈴はツインビームトライデントの投擲で、ラウラはフォルファントリーで、セシリアはミーティア・フルバーストで、シャルロットはGNキャノンで、簪はタクティカルアームズガトリングフォームで攻撃した。

 

それらは1.5ガンダムに命中し、機体周辺で爆発が起きた。

 

「はぁ……はぁ……ど、どうなったの?」

 

「わからん。これで倒れてくれればいいが……」

 

1.5ガンダムが激突した地点を見ながら言った時、それは起きた。

 

『ダメージレベル深刻。操縦者の生命維持及び任務遂行に支障あり。第二形態移行(セカンドシフト)を強行する』

 

無人島がまるで抉られたかのようになくなり、そこから1.5ガンダムが空中へと飛び出した。その装甲は徐々に修復されていった。それだけではなく機体の青い部分は赤色になり、シールドの形状や背面も大きく変わっていた。背面にあったISコアは左肘部分にあり、右肘部分にも同じものがあった。

 

「な、何だ!? 何が起きた!?」

 

「まずい、『第二形態移行(セカンドシフト)』だ!!」

 

箒とラウラが叫んだ瞬間、1.5ガンダムのツインアイが強く光った。更に機体を見ていたセシリアがあることに気づいた。

 

「そんな! ISコアの反応が、2つですって!?」

 

「えっ! じゃあまさか、アレってツインドライヴ!? でもどうして!」

 

「……多分、第二形態移行(セカンドシフト)するともう1つのコアが作動するようになっていたと思う!」

 

混乱と推測の中、敵は全員を一瞥し武器を持つ手を強く握った。そして―――

 

 

 

『―――リボーンズガンダム。行く!!』

 

 

 

―――1.5ガンダム改め、『リボーンズガンダム』が彼女達に牙を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「ん……ここは?」

 

気がつくと、俺は不思議な空間に居た。一面浅い水辺で、空の青さと雲が水面に映っている。それ以外にあるのは朽ちた木々だけだった。俺は近くにあった流木に腰掛け、海を眺めた。不思議と不安な感情はない。

 

ふとその時、人の気配を感じた。振り向くと青のワンピースを着て白の大きな帽子を被った少女が居た。

 

「君は……」

 

「何故、力を求めるのですか?」

 

「え?」

 

少女は突然そんなことを聞いてきた。

 

「貴方は戦いを求めない優しい人。無理に戦わなくても代わりに戦ってくれる人が居るのに、どうして?」

 

「どうして、か。そうだな……大事な人を守る為、かな」

 

「大事な人を?」

 

「ああ。俺の友達に、恋人。俺に関わった人達をできる限り守りたい。そのせいで他の誰かが傷つくかもしれないけど……それでも力が欲しい」

 

「そう……」

 

「それが、力を求める理由なのですね」

 

「っ」

 

新たな声に逆を向くと、グレーの鎧を着た女性が立っていた。一体どこから現れたんだ?

 

「まあな。けど、他にも理由はあるんだ。それは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

目が覚めると俺は謎の空間に居た。どこかの海岸みたいだが……どこなんだ? 不思議と安心感を感じながらその場に座っていると、後ろに人の気配を感じた。

 

「ん?」

 

そこには青のドレスを着た女の子が居た。この子は誰なんだろうか? そう思っていると、その子が話しかけてきた。

 

「どうして貴方は、力を欲するの?」

 

「?」

 

「いつも危険と隣り合わせなのに、貴方はそれを顧みないで……何故?」

 

「そうさなぁ……強いて言うなら、自分にとって大切な人を守る為…か?」

 

「それが、力を求める理由?」

 

「そうだ。俺の親友や恋人達。それにこれから出会う色んな人。全部は無理だけど、自分のできる範囲内で守りたいんだ。その為なら、誰かを傷つける覚悟だってある」

 

「…………」

 

「あ。それと、もっと大きな理由があるぜ。それはな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――この世界で、天辺を取ることだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「そう……なら、行かなきゃね」」」

 

 

 

 

美しい世界から、2人の姿は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

今度こそ目を覚ますと、旅館に居ることに気づいた。隣には同じく起きた一夏が居る。

 

「お互い、目が覚めたばかりか?」

 

「どうもそうらしいな」

 

「つーことは俺もお前も病み上がりと。……行けるか?」

 

「当然!」

 

言うが早いか外に飛び出すと、俺達はISを展開した。が、その姿は大きく変わっていた。

 

一夏のISはダブルオークアンタになっており、俺のISは海面に映っているのを見る限りエンドレスワルツバージョンになっていた。

 

「これは……第二形態移行(セカンドシフト)か?」

 

「間違いなくそれだな。まあそれはともかく早く行こう。皆は多分戦ってる筈だ」

 

「おう。折角だ、近道使って行くぜ!」

 

一夏はGNソードビットを射出すると、それで空中に円を作った。それが何かわかっている俺達は、迷わず円に飛び込んだ。



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61th Episode

リボーンズガンダムは簪に狙いを定めると、GNビームサーベルを片手に接近した。

 

「……くっ!」

 

辛うじてタクティカルアームズソードフォームで受け止めるが、一撃の重さに思わず顔を顰める。

 

「簪さん! それ以上はさせませんわ!!」

 

追い詰められてる簪を援護すべく、セシリアがビームを放つ。が、リボーンズガンダムは回避すると大小合わせて12基のフィンファングを放った。

 

「なっ、ファングですって―――きゃあああ!?」

 

大型フィンファングから放たれるビームと小型フィンファングによる斬撃によってセシリアは次々と攻撃され、ミーティアの砲身が破壊されてしまった。

 

「それ以上、やらせるかぁ!!」

 

セシリアを援護すべく、シャルロットがGNビームサーベルで斬りかかる。リボーンズガンダムは最初GNバスターライフルで迎撃していたが、シャルロットが回避して接近するのを確認するやGNシールドで防御する。その間に大型フィンファングが背面に再接続される。

 

「その隙、貰ったよ!!」

 

背後から簪がタクティカルアームズソードフォームで斬りかかろうとする。が、リボーンズガンダムは接続された大型フィンファングの向きを変えると、背中を向けたまま簪にビームを放った。

 

「うわああぁぁぁ!?」

 

不意の一撃に簪は声を上げる。更にリボーンズガンダムはシャルロットを弾き飛ばすと、各部を変形させて前後を反転。砲撃戦形態の『リボーンズキャノン』に姿を変えた。

 

「変形しただと!? だが!」

 

ラウラが正面からビームサブマシンガン二丁を撃ちまくるが、リボーンズキャノンはそれをものともせずGNバスターライフルを放った。

 

「くっ、うおっ!?」

 

左腕に展開したビームシールドで防ぐが、威力が大きい為後ろに下がってしまう。そこへGNバスターライフルを撃った隙を狙い、箒と鈴が左右から攻め込む。

 

「食らえぇぇぇ!!」

 

「おぉりゃぁぁああああああああ!!」

 

ガーベラストレートとツインビームトライデントを扱う二機だったが、リボーンズキャノンは両腕のマニピュレーターからエグナーウィップを射出し、箒と鈴を捕らえ電撃による攻撃を浴びせた。

 

「う、うわぁぁぁああああああああああああ!!」

 

「うあぁぁあああああああああああ!!」

 

余りの痛みに声を上げた後、2人は解放された。しかしリボーンズキャノンは不敵な面持ちで各機を見やる。まるで「もうお前達では敵わない」と言っているかのように。

 

大型フィンファングにエネルギーが収束し始め、この場に居る誰もが敗北を想像し始めた―――その時。

 

 

 

 

 

ズガガガガガガッ!!

 

 

 

 

 

突如として青とクリアグリーンで彩られたGNソードビット数機と黄色のビームがリボーンズキャノンを襲い、バランスを崩させた。驚いた面々はビットが戻って行く方向を見た。

 

「待たせたな!」

 

「真打ち登場、ってな!」

 

そこには威風堂堂とした出で立ちで、ダブルオークアンタとウイングガンダムゼロカスタムが並んで居た。

 

「一夏っ……一夏なのだな!? 体は、傷は……!」

 

「この通り、ピンピンしてるぜ」

 

「彰人さん! もう、大丈夫なんですか!?」

 

「ああ。完全復活って奴だ」

 

そう言うと彼らはリボーンズキャノンを睨み付けた。

 

『ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロの反応及び覚醒を確認。任務を継続する』

 

新たに加わったクアンタとウイングゼロカスタムを確認すると、リボーンズガンダムに再変形した。

 

「さて、そんじゃ行きますか」

 

「新しい力を試すのもある。存分に暴れさせてもらおう」

 

彰人と一夏はそれぞれの武器を構えてリボーンズガンダムと対峙するが。

 

「待った、私も行こう」

 

「私も行きますわ」

 

その隣に箒とセシリアが並び立った。

 

「2人が墜とされたのには私も責任を感じているのでな。それに、そろそろ守られているばかりではいられん!!」

 

「私も、箒さんと同意見ですわ。あの機体を停止させなければ、腹の虫が治まりませんの!!」

 

2人が力強く言った瞬間、それぞれに変化が起きた。箒は機体が輝いたかと思うとシールドとビームライフルにビームサーベルが消滅し、バックユニットがブルーフレームセカンドのタクティカルアームズに似たものになる。そして右腰には新たな日本刀型武器が装備されていた。

 

セシリアは機体の変化こそないものの、セシリア自身の頭の中で種のようなものが弾けるイメージが生まれ、同時に集中力が常時極限まで研ぎ澄まされることになった。

 

「箒ちゃん、その機体……レッドフレーム改!? 何で?」

 

「わ、私に聞かれても困る! だが、私の想いに応えてくれた……ということか?」

 

「詮索は後だ。まずは奴を倒すのが先だ!!」

 

「っ、そうだな!」

 

「ですわね(不思議な感覚ですわ。まるで頭の中が透き通ったかのよう……これなら!)」

 

更なる変化を見守っていたリボーンズガンダムは、ツインアイを怪しく光らせた。

 

『ガンダムアストレイレッドフレームの覚醒を確認。第一目的達成。尚も任務を継続させる……トランザム発動!!』

 

機体全体が真っ赤に輝き、トランザムを発動させた状態で4機を見据えるリボーンズガンダム。

 

「完全にやる気のようだな」

 

「改めて、行くとしようか! トランザム!!」

 

言うが早いかまずは一夏がトランザムを発動し、GNソードⅤを振るう。リボーンズガンダムはGNビームサーベルで対応しつつ、GNバスターライフルの砲口を向けるが―――

 

「生憎だが、そう上手くは行かないぞ!!」

 

彰人がビームサーベルでGNバスターライフルを真っ二つに切り裂き、リボーンズガンダムが怯んだ隙に一夏がGNソードⅤにGNソードビットを合体させたバスターソードで攻撃した。リボーンズガンダムは両手でGNビームサーベルを持ち、反撃しようとする。

 

「せいはぁぁぁああああああああああ!!」

 

しかし背中のバックパック―――タクティカルアームズⅡLソードフォームを持ったレッドフレーム改によって斬りかかられた。

 

「なるほど、やはり使い方は簪のと同じ……次は!」

 

続けてガーベラストレートとタイガーピアスに持ち替えてX字型に斬りかかってダメージを与えると、リボーンズガンダムは小型GNフィンファングを射出してきた。

 

「甘いですわ! 行きなさい、ドラグーン!!」

 

同時にセシリアもスーパードラグーンを射出すると、驚くべきことにソレを縦横無尽に動かしながらビームを発射し、トランザム状態のフィンファングを次々に撃ち落としていった。

 

「うおっ! セシリアってあんな風にドラグーン操作できたっけ!?」

 

「いつの間に上手くなったんだ……」

 

近くに居た彰人と一夏も思わず驚いてしまう。一方リボーンズガンダムは拳を強く握るとリボーンズキャノンに変形。大型フィンファングにエネルギーを集めていくが、

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

2つのビームにドラゴンハングが放たれ、大型フィンファング部分を破壊してしまった。

 

「僕達を忘れて貰っちゃぁ困るね!」

 

一斉攻撃を仕掛けたのは鈴、シャルロット、ラウラだった。突然のことにリボーンズキャノンはバランスを崩しながらもリボーンズガンダムに変形してGNビームサーベルを握る。しかしバランスを崩したこの一瞬が、リボーンズガンダムにとって致命的なものとなった。

 

「今だ! みんな行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

「はい!!」

 

「なんと、弓矢にもなるのか……面白い!!」

 

リボーンズガンダムの前にはツインバスターライフルを構えた彰人と、バスターライフルモードのGNソードⅤを構えた一夏と、ドラグーンを自分の周囲に配置し全部装を展開したセシリアと、タクティカルアームズⅡLアローフォームを構えた箒が居た。

 

「最大出力、攻撃開始!!」

 

「これでぇぇぇぇええええええええええええ!!」

 

「いっけぇぇぇええええええええええ!!」

 

「はぁぁっ!!」

 

そしてツインバスターライフル最大出力とトランザムライザーソード(威力は調整してある)とドラグーン・フルバーストとビームアローが同時に発射され、リボーンズガンダムに向かって行った。

 

ドガァァァァン!!

 

「……どうなった?」

 

「さあな……」

 

やがて爆煙が晴れていくと、中からボロボロになりながらもGNシールドで防御姿勢を取っているリボーンズガンダムが姿を表した。

 

「おいおい、まさかまだやるって……ん?」

 

半ば呆れながら一夏が言った時、モニター画面にある表示がされていた。

 

「……彰人、ちょっと来てくれ」

 

「え、どうした?」

 

「いいから」

 

一夏は彰人を連れて動くこともままならないリボーンズガンダムへと近づいた。何も聞かされていない彰人は、これから何をするのか疑問に思っている。

 

「何をするんだ?」

 

「ああ、ちょっとな……進化したアビリティーを試そうと思って」

 

そう言うと、一夏はモニターを操作して何らかの出力を調整し、再びソレを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツインドライヴ完全安定。システムオールグリーン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『              TRANS-AM BURST/.

              QUANTUM SISTEM               』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、ダブルオークアンタが一瞬赤く輝くとすぐ緑色に輝き、高濃度のGN粒子が一夏と彰人、そしてリボーンズガンダムを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

『……またこの空間か』

 

トランザム―――否、クアンタムバーストにより発生した空間に俺達は居た。

 

『何でこれを使うんだ? あの後、適当に攻撃すれば解除できただろうに』

 

『俺にもわからない。ただ、彰人を連れて使うように表示されただけだ』

 

『何だそりゃ……あ、操縦者が見えた』

 

一夏の発言を疑問に思っていると、リボーンズガンダムの操縦者らしき人物が眠るようにして浮かんでいた。が―――

 

『なあ一夏、あの2人って誰?』

 

『俺に聞かれても知らないんだが……』

 

操縦者の周囲に2人の少女が居たのだ。両方とも髪は白で、瞳は向かって右の子が青、向かって左の子が赤だった。一体何なのか見当がつかなかったが、俺の中にある仮説が出てきた。

 

『まさか……リボーンズガンダムのコア、なのか?』

 

『え? まさかそんな筈は……』

 

『『……はい。貴方の言う通りです』』

 

『マジかよ……』

 

まるで双子のように揃って言ったことに一夏は天を仰ぎ、俺は次にどう言えばいいか考えていた。

 

『えっと、君達が本当にISコアとして、何で暴走したんだ?』

 

『『お母様に、言われたからです』』

 

『お母様って言うと、束さんか?』

 

一夏が言うと、2人はこくりと頷いた。やっぱり束さんの仕業だったのか……。

 

『『お母様は言っていました。「これから現れる敵の為に、この世界の未来の為に、いっくんとあっくん、それに箒ちゃんのISと戦って覚醒を促してほしい」と』』

 

『『何っ!?』』

 

コイツは驚いた。まさか今回の出来事が、俺と一夏に第二形態移行(セカンドシフト)を促し、レッドフレームを改にパワーアップさせる為のものだったなんて。

 

『『そして、「仕方がないとは言え、貴女達を暴走させてごめんね……」とも言っていました』』

 

『……そうか…それで、君達はこれからどうするんだ?』

 

『『任務を遂行した以上、私達の活動は後21.025秒で停止します』』

 

その直後、空間そのものが薄くなって来た。

 

『そろそろ限界ということか……結局俺達は、何の為にこれを見せられたんだ?』

 

『さあな。俺はともかくお前も居るということは、ウイングゼロも一緒に使って、世界を平和にしろとでも―――!!』

 

そこまで一夏が言った時、俺と一夏は同時にある確信に辿り着いた。

 

『そうか、そういうことだったのか……。だから束さんは、彰人も一緒に!』

 

『差し詰め今日は、可能性を見せられたという訳か。束さんめ、凄いこと考えるな……!』

 

束さんの意図に感心していると、俺達の意識が空間から離れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ん……」」

 

気がつくと先ほどの海上におり、一夏は操縦者を抱えていた。

 

「終わったか……」

 

「ああ……そうだ彰人。あの空間に居た時の俺の目って、金色になってたか?」

 

「え? ……そう言われてみると、確かになってたな」

 

「マジか……俺、本当にイノベイターになっちまったのか……」

 

こうして、1.5ガンダム及びリボーンズガンダム暴走事件は終わったのだが、一夏がイノベイターに覚醒したという事実が明らかになった。



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62th Episode

「作戦終了……と言いたいところだが、お前達は独断行動により重大な違反を起こした。帰ったら反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを組んでやるから、そのつもりで」

 

『『『はい』』』

 

旅館に帰還してすぐに救急班にリボーンズガンダムの操縦者を頼んだ後、俺達は千冬さんの前に整列してそう告げられた。結果がどうであれ、今回のことは完全な命令違反なので潔く受けよう。むしろみんなの命が無事だったことに感謝せねば。

 

「それとだ………………よくやったな」

 

『『『え?』』』

 

「何でもない。ほら、もうすぐ夕食の時間だ。早く宴会場に行きなさい」

 

千冬さんの最後の一言に山田先生まで聞き返したが、すぐに俺達に促した。かなり貴重だな、千冬さんのこういう一面って。そう思いながら歩き出すと、

 

「ああそうだ。織斑、矢作、ちょっと来てくれ」

 

俺と一夏だけが呼び止められ、旅館の隅まで移動させられた。その顔は真剣そのものだ。

 

「操縦者の保護の際に聞いたことは、本当なのか? 一夏が、イノベイターに覚醒したというのは……」

 

声を顰めて尋ねてくる千冬さん。操縦者を頼んだ時、こっそり千冬さんに打ち明けておいたのだ。

 

「ああ。実際見た方が早いと思うんだけど……一夏、できるか?」

 

「わからんが、一応やってみる」

 

一夏は目を閉じて気を集中すると、少しして再び目を開けた。すると、瞳は澄んだ金色に輝いていた。

 

「……どうやら、本当のようだな」

 

「やっぱり輝いてるのか?」

 

「ああ……しかし解せないな。イノベイターとはガンダム00の、アニメの中の能力ではなかったのか? いや、ガンダムの機能を完全再現しているなら、あり得なくはないが……」

 

「それで、どうしましょう? みんなには黙っておいた方がいいですか?」

 

「そうだな……そうした方がいい。下手に混乱させてしまったら収集がつかんからな」

 

「だとさ一夏」

 

「むしろそうしてくれて助かるよ。これ以上注目集めたら、俺どうしようかと……」

 

ただでさえ男性操縦者で注目されているのに、その上イノベイターに覚醒したとなれば世界中がてんやわんやの大騒ぎになる。そうなれば普通の生活を送るのは難しいだろう。

 

兎にも角にも、一夏がイノベイターになったことは俺達3人だけの秘密として、宴会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴会場

 

相変わらず俺達は端の方で食べていたが、席順は変わっていた。具体的には俺の左右がセシリアと簪になり、俺の正面と斜め左がシャルとラウラになった。後、近くにのほほんさんが座って何やら尋ねてくる。

 

「ねぇねぇ、おりむーもあっきーももう大丈夫なの? あんなに怪我してたのに」

 

「これが不思議なことに、傷1つないんだ」

 

「痣とかもなんにも残っていない。綺麗さっぱりさ」

 

「へぇ~。どうしてなんだろ~?」

 

頭に疑問符を浮かべて首を傾げるのほほんさんだが、すぐに食事を再開した。俺達もどんどん食べていく。

 

「そういえば彰人。先ほどは織斑先生に呼び出されていたが……何かあったのか?」

 

「一夏も呼び出されてわね。何言われてたの?」

 

「ん……あれはだな…怪我はないかとか、そんな内容だったな」

 

「んで俺達、もう大丈夫って言って安心してもらったんだ」

 

ラウラと鈴ちゃんの疑問に予め考えておいたことを話す。嘘をついてるみたいで心が痛んだけど、この場を混乱させるよりはマシだ。

 

「………………………」

 

ふと右を見ると、セシリアが何かを考えているようで箸が止まっていた。

 

「セシリア?」

 

「!? あ、彰人さん。どうしました?」

 

「それはこっちの台詞だよ。考え込んでたみたいだけど、何かあったの?」

 

「い、いえ別に…何でもありませんわ(リボーンズガンダムとの戦闘中に、突然思考がクリアになってドラグーンの完全自由操作が可能になったことを考えてたなんて、言えませんわ)」

 

何かあるのは明らかだったが、これ以上詮索するのも野暮だと思ったのでそこで切り上げることにした。……そういえば、あの時セシリアはドラグーンを完全に使いこなしていたな。訓練ではそんな様子なかったのに、何でだろ?

 

「そういえばさ。箒のISって戦ってる途中で変身したよね。あれってどういう原理なの?」

 

シャルが思い出したように隣に居る箒ちゃんに聞いた。イノベイター云々のことで忘れてたけど、そっちの方も大事なことだったな。

 

「それが私にもよくわからん。私の想いに応えてくれたとしか形容しきれない。それか若しくは、アレがレッドフレームの特殊能力なのかもしれんが」

 

第二形態移行(セカンドシフト)とは違うみたいだし……そうなのかな?」

 

ふむ。要するに操縦者の意志に応えて進化することが、レッドフレームの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)と言ったところか。それなら改になったのも理由がつく。あくまで推測みたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

夕食が終わった後、俺は夜の海岸に箒を呼び出していた。場所は今日の昼間と同じだが、時間が違うと見える景色も変わってくる。ちなみに少し暑く感じたので、俺は軽装をして約束した場所に来ている。そして右手には、今回呼び出した最大の理由であるものが握られている。そわそわしながら待っていると、後ろから箒の声がした。

 

「待たせたな、一夏」

 

「おう。来てくれてありがとう………!!」

 

言いながら振り向いた時、俺は心臓が跳ね上がった。何故なら箒の格好は昨日とはまた別の真っ白なビキニを着ていたからだ。箒がどこか恥ずかしげな表情をしているのは、思い切って着たからだろう。

 

俺と箒は地面に腰を降ろし、俺の方から話を切り出した。

 

「箒……実はさ、大事な用があって、今日ここに呼んだんだ」

 

「だと思った。一夏のことだからな、意味なく私を呼ぶことはないだろう。……で、その用事とは?」

 

「ちょっと待ってくれ。今、見せるから」

 

俺は手に持っている小箱を箒の前に出すと、徐にそれを開けた。

 

「これは……!」

 

「誕生日おめでとう、箒。これからも、俺の傍に居てくれ」

 

中身は赤と白の二色で彩られたリボンだ。箒の誕生日が臨海学校と被ることは承知していたので、山田先生にこっそり相談して決めたのだ。箒は目を丸くしながらリボンを手に取ると、感慨深げにそれを見つめていた。

 

「どうだった……? 気に入ってくれたら嬉しいが……」

 

「……ありがとう、一夏。これほど幸せに満たされた誕生日は、生まれて初めてだ。これ以上に嬉しい贈り物はきっとない。一夏に愛されて、本当に良かった……」

 

目にうっすらと涙を浮かべながら、箒は飛びっ切りの笑顔を見せてくれた。この笑顔を俺だけのものにしているという事実が現時点で最高の幸せだ。そう思っていると、箒は髪を縛っているリボンを取ってロングヘアにすると、先ほどプレゼントしたリボンを俺の手にそっと乗せた。

 

「その……これを一夏の手で結んで欲しい。ダメ、か?」

 

「……ダメなものか!」

 

俺は力強く言うと箒の髪の毛に手を伸ばし、リボンを結んで再びポニーテールにしてあげた。

 

「箒…好きだ。お前を、愛している」

 

「私も……愛してるぞ、一夏」

 

互いに言葉を交わし、俺達は唇をゆっくりと合わせた。語る言葉も、飾る言葉も必要なかった。今ここにあるのは、箒を愛しているという気持ちだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

(こういうことだったのね……)

 

影からこっそりと一夏と箒の様子を伺っていた私は心の中でため息をついた。旅館の外へ向かう箒を偶然見かけ、気になって後をつけたのだが一連の流で納得がいった。

 

今日は箒の誕生日だったんだ。だから一夏は、誰もいない場所に誘って……。

 

(見なかったことにしましょう。その方がきっといいわ)

 

旅館に戻りながら思った。できる限り早く、このことは忘れるように心がけよう。私も自分の誕生日で、一夏に2人きりで祝って貰えばいいし。

 

(……あれ?)

 

ふと、遠くの方に誰かが立っているのを見つけた。あれは千冬さんと……篠ノ之束?

 

(下手に首突っ込むのはやめた方がいいわね)

 

直感でそう判断すると、私は急いで旅館へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「全ては順調、と言ったところか……いっくんとあっくんが墜ちた時はさすがの私も肝が冷えたけど、これなら……」

 

「その口ぶりだと、1.5ガンダムの暴走にはお前が一枚噛んでいそうだな」

 

「っ、ちーちゃん……」

 

岬の柵に腰掛けて呟いていた束が振り返ると、千冬が腕を組みながら立っていた。

 

「何故あんなことをした? ダブルオーとウイングゼロの第二形態移行(セカンドシフト)、それに一夏のイノベイター化が目的だったのか? だとしたら、わざわざこんな「時間がない」何?」

 

「時間がないんだよ、ちーちゃん。悠長に構えて居られる暇なんてどこにもない。だから……」

 

「束……何を焦っている?」

 

親友の心情の変化を感じ取った千冬は、戸惑いながらも束に尋ねた。すると束は、しばらく沈黙してから千冬に問いかけた。

 

「ねぇちーちゃん。今の世界って、楽しい?」

 

「……そこそこにな」

 

「そっか。………………ちーちゃん、『奴ら』には気をつけて。きっとまた、いっくん達を狙ってくる」

 

そう言った直後、束は姿を消した。千冬は「『奴ら』とは何か? 今後、一夏達の身に何かが起きるのか?」と嫌な予感を感じながら考えていた。



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63th Episode

翌朝の臨海学校最終日。俺達は帰り支度を済ませ、バスに乗り込んだ。リボーンズガンダムと戦った疲労がまだ抜けておらず、俺も一夏も眠気が残っていたが。

 

「一夏ぁ……何か飲み物持ってない?」

 

「持ってたらとっくに飲んでるよ……」

 

少し望みを掛けて聞いてみたが、やはり持ってなかった。途中のサービスエリアまで我慢するしかないか……。

 

「失礼。矢作彰人君は居るかしら?」

 

「俺ですが……何か?」

 

後ろから名前を呼ばれ、振り向きながら返事をすると金髪の外人女性が立っていた。はて、どこかで見たような……あ、確かあの人だ。

 

「君が矢作なのね。じゃあ君が織斑一夏君ね」

 

「はい。……なあ彰人。この人ってリボーンズガンダムの―――」

 

「ああ、操縦者だ」

 

「そう、私はナターシャ・ファイルス。初めまして。君達にお礼をしに来たの」

 

「「お礼……ですか?」」

 

一夏とハモりながら聞き返した。てっきりリボーンズガンダムの武装をぶっ壊しまくったから、それについて何か言われるのかと思っていた。

 

「ええ……あの子の暴走を止めてくれて、ありがとう」

 

そう言うと、ナターシャさんは俺と一夏の頬に手を添えて唇を近づけてくる。俺と一夏は半ば反射的に手を顔の前に出してストップをかけていた。

 

「すいません。お気持ちは嬉しいのですが……キスは、恋人としかできないというか……」

 

「俺も彰人と同じです。俺の中では、キスは恋人であることの証であると思っていて……すいません、生意気なこと言って……」

 

「いいえ。2人の気持ちは、私にもよくわかるわ。恋人の証か……大事なことを教えられちゃったわね」

 

ナターシャさんはにこやかな顔つきで手を振りながら去って行った。俺達がしばし呆然としていると、いつの間にかバスは発進していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「……で、どうだった? 2人の男性操縦者は」

 

バスから降りたナターシャは千冬に問いかけられ、微笑みながら答えた。

 

「2人とも素敵な人でしたよ。心に芯があって、将来きっと大物になると思います。……ただ」

 

「ただ、何だ?」

 

「一瞬だけですけど、目を見た時、大事な人の為なら悪人になるのも厭わない……そんな覚悟が伝わって来ました」

 

「何? まさか」

 

千冬は驚いてバスに乗ってる2人を見た。正義感の強い一夏と彰人が、そんなことをするだろうか?

 

「(いや、守るべき者達を得た今なら、確かに悪になるのも辞さないとは思うが)それより、身体の方はもう平気なのか?」

 

「ええ、ご覧のとおりです。あの子が守ってくれましたから」

 

「リボーンズガンダムが?」

 

「はい……それに気を失っている間、あの子の悲しげな声が聞こえたような気がするんです。単に夢なのかもしれませんけど、どちらにせよ私は許すことができません。目的が何であれ、あの子を暴走させた元凶を」

 

「……そうか…………」

 

怒りを露わにするナターシャを、千冬は複雑な眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

 

彰人SIDE

 

俺達はバスに揺られてIS学園に着くと、すぐに寮へと戻った。

 

「っしゃあ! 色々あったけど、ようやく帰って来れたぜ!!」

 

「……テンション高いね」

 

廊下を歩きながら叫ぶ俺に、簪が苦笑いしながら言う。別に普通の臨海学校なら背伸びするだけで終わってたんだけど、今回は一度死にかけたからね。叫びたくなるってもんさ。

 

そんなこんなで感動を噛み締めながら、俺は自分の部屋の扉を開けた。

 

「ただいま~!」

 

誰もいない部屋に向かって言う。勿論返事はない。むしろあった方が逆に怖い……って、何か俺のベッドの上に水色の髪の人が居ませんか? しかも段々近づいて―――

 

「彰人君っ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

気がつけば、俺は何故か部屋に居た楯無さんに突撃されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は前日に遡り、生徒会室にて。

 

楯無SIDE

 

「…………今……何て言ったの……?」

 

私は虚ちゃんに聞き返していた。虚ちゃんを通じて聞かされた本音の報告内容が、とてもではないが信じられるような内容ではなかったからだ。

 

「ですから、その…………織斑一夏と矢作彰人が、暴走中の1.5ガンダムに………撃墜、されたと……」

 

「ふ、2人の様子は、どうなの?」

 

「…………意識不明の、重体だそうです」

 

瞬間、全身から全ての力が抜けていくような気がした。いや、実際に抜けていたのかもしれない。とにかく私は呆然として、持っていた扇子も無意識の内に放してしまっていた。

 

「嘘……よね……? あ、彰人君が…………意識不明……?」

 

私は今までにはない程取り乱していた。けど、どうにか平常心を取り戻そうと1つ咳をすると虚ちゃんを見据えた。

 

「……とりあえず、虚ちゃんは今後新たな情報が来たら真っ先に教えて。仕事は私が片付けておくから」

 

「お嬢様、しかし……いえ、わかりました」

 

虚ちゃんは怪訝そうな視線を向けながらも、退室した。彼女の心配は当たっていて、私は生徒会の仕事や授業がそれ以降ほぼ手に着かない状況になってしまった。何度か気持ちを切り替えようとするも、その度に報告を思い出し、更には悪い方向に想像力が働いてしまうこともあった。

 

(もし…彰人君が死んだら、私…………って、何考えてるのよ! まだ死んだって決まった訳じゃないでしょ!!)

 

必死で自分を奮い立たせながら、私は半日を過ごした。そして放課後になった時、再び報告があった。

 

「お嬢様! 先ほど、織斑一夏と矢作彰人の意識が回復したとの連絡が入りました! 2人とも無事です!!」

 

「っ!!!!」

 

私は驚愕と歓喜に打ち震えた。彰人君が……無事で……!! もう居ても立っても居られなくなり、その日の晩は中々寝付くことができなかった。

 

翌日の一年生が帰って来る日に至っては、朝早くからマスターキーを使って部屋で待つなんていう暴挙までやってしまった。挙げ句、待ちくたびれて彰人君のベッドの上に寝転んだら寝不足でそのまま寝るという失態を犯した。

 

「ただいま~!」

 

扉が開く音と彰人君の声で、私はようやく目を覚ました。そして彰人君の姿を見つけると、気持ちが溢れて抑えきれず、まだ寝ぼけてるのもあって今がどんな状況か全く考えずに彰人君に抱きついた。

 

「ぐおっ!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「彰人君、大丈夫だった!? 撃墜されたって聞いた時は凄く心配したけど、怪我とか残ってない?」

 

「ぐっ……え、ええ。あの、何故俺が撃墜されたことを?」

 

見ると、彰人君は困惑した様子で尋ねてきた。

 

「……本音が報告したんだと思う。電話掛けてるところを見たし」

 

隣に居た簪ちゃんが言うと、彰人君は納得したように頷いた。

 

(……あれ? 何で簪ちゃんが……あ、そういえばここ、彰人君の部屋だっけ……)

 

「あの…楯無さん? 何でここに居るのかは敢えて聞きませんから、そろそろ離れてくれませんか? その……色々とまずいところが当たっているというか……」

 

「え?」

 

彰人君に言われて気づかされた。今の私は彰人君に正面から密着しており、その様子を簪ちゃんに見られているということを。

 

「……っ!!!!!!! こ、これは……違うの!!」

 

今更恥ずかしさがこみ上げ、私は彰人君に背を向けた。

 

「いや違うって……簪、どういうことかわかるか?」

 

「(もしかしたら、お姉ちゃんも私達と……)多分。確証はないけど。ただ、ちょっとセシリア達を呼んで会議しないといけないかもしれない。」

 

「会議? 何故にWhy? まあいいけど……」

 

「……念のために、虚さんにも声を掛けておいた方がいいかな」

 

簪ちゃんの話を聞いて、流れがどんどん危うい方向に向かっていることを冷や汗を流しながら感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

楯無さん激突事故(俺命名)があった後、俺と簪と楯無さんは生徒会室に来ていた。周りには簪が呼んだセシリア、シャル、ラウラにのほほんさんのお姉さんも居る。けど……そんな大事なのか?…………大事だな。生徒会長が部屋に不法侵入してたんだもんな。まあ盗られて困るものとかないんだけどね。いや、ライダーベルトは困るか。

 

(何か……見当違いなこと考えてない?)

 

(無理もない。ここ最近驚きの連続で余裕がなかったからな)

 

何か言われてる気がするけど、多分気のせいだ。

 

「ねぇ虚ちゃん……やっぱり、やめにしない? 他の皆だって居るし……」

 

「ダメです。元はお嬢様の行動が招いた結果なんです。こうなってしまった以上、自分の気持ちをさらけ出す以外に方法はありません。言いたくないなら、私の口からお伝えしましょうか?」

 

「そ、それはダメよ! こういうのは、ちゃんと自分の口から言うものだから……」

 

珍しいな。あの楯無さんがここまで取り乱すなんて。俺が簪との話を言った時も、ここまで取り乱したりはしなかったぞ。でも俺にも前世で似たようなことはあった。確か、隠してたエロ本を親に発見された時だったな。あれには相当びびったぜ……。

 

俺が昔の苦い思い出を振り返っていた時、楯無さんは深いため息をすると俺を真っ直ぐ見据えてきた。その様子からして、何か重要な話がされるのかもしれない。楯無さんのことだ、意味もなく俺の部屋に居る筈はないだろう。

 

「とにかく、思い切って言うべきです。」

 

「(もう覚悟を決める他ないわね……ええい、当たって砕けろよ!)彰人君、単刀直入に言うわね…………実は私……貴方のことが…………………す、好きなのっ!!」

 

「…………………………………………………………………は?」

 

顔を真っ赤にして言った楯無さんに、脳がフリーズする。そのまま十秒が経過して再び脳が動き出す。

 

「…………えっと……好きって、俺が? 何でまた……?」

 

「……わからないわ…………ただ、気づいたらどうしようもなく好きになったとしか……」

 

「嘘ぉ…………」

 

そんなのありかよ……それじゃあ自分の取った行動のどれに原因があるか、探しようがないじゃないか……というかそれ以前に、みんなの反応はどうなんだ? さすがに人数が飽和してきているんだ。さすがに無理って言う―――

 

「「「「(コクリ)」」」」

 

「え、何その頷き?」

 

―――と思ったら完全に違っていた。無言で頷かれたけど、これって容認されたってこと? え、何で!?

 

「話は先ほど簪さんに伺いましたわ。彰人さんに負担がかかるのは承知の上なんですが、楯無さんだけ認めないというのは自分で納得がいかなくて……」

 

「……私のお姉ちゃんだもの。好みの人が一緒になるかもって予想はしてた。だから、お姉ちゃんの気持ちはよくわかるの」

 

「楯無さんには僕とお父さん達を助けて貰った借りがあるし、どうしようもなく好きになったって気持ち……よくわかるんだ」

 

「私もシャルロットと同意見だ。それに更識家の当主と結ばれるのは、メリットが大きい。……加えて、クラリッサが言っていた姉妹丼とやらが見られるやもしれんしな」

 

各々が理由を話してくれたが、ラウラのところでズッコケそうになった。おいクラリッサさん、アンタ何てこと教えてやがる! お陰でこの場に居る面々全て(ラウラ除く)が赤面したじゃねーか! いっそツインバスターライフル叩き込んでやろうかな。うん、それがいいかも。

 

「と、ともかく、私達の総意は伝わりましたわよね?」

 

「アッハイ」

 

もう何か外堀埋められてるっぽいし、ここで断ったら俺が酷い目に遭わされるのは明白だ(IS使われるかも)。それに……シャルとラウラの時のように世間体云々より今自分がどんな気持ちを抱いているかを優先したら、自ずと答えが出てきた。

 

「楯無さん……こんな軟弱者でよければ、俺の恋人に……なって下さい」

 

言うと同時に頭を深々と下げる。恋人多すぎだと世間に言われようが、優柔不断と言われようが関係ない。前に言った通り、俺は俺の意志で楯無さんとも付き合うことを選んだ。

 

「あ、彰人君…………本当? ……う、嬉しい……嬉しいよぉ……!!」

 

ポロポロと泣きじゃくりながら、楯無さんは言った。セシリア達が貰い泣きをし、俺がポカンとしている中、楯無さんは俺を見てこんなことを言い出した。

 

「あのね……彰人君。私の楯無って名前、本当の私の名前じゃないんだ」

 

「え……そうなんですか?」

 

確か襲名されるとか言ってたけど、本当の名前はなんだっけ? 忘れた……。

 

「私の本当の名前は、刀奈って言うの。これからはそう呼んで欲しいんだけど……わがまま、かな?」

 

不安げに尋ねてくる楯無―――刀奈さんは反則級の可愛らしさだった。俺のハートが打ち抜かれたと言っても過言ではない。

 

「わかった……刀奈」

 

「っ!! 彰人君!!」

 

感激して立ち上がり、机越しに俺に飛びついてくる刀奈。驚きながらも、これで新たな問題は解決……してるのかこれ? 俺の恋人ついに5人になったんだぞ? 某エロゲーじゃあるまいし、モテる顔でもない筈。むしろそれは一夏の方なのに、何故平凡な俺? 今日一日そんな疑問が尽きなかった。



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夏休み編
64th Episode


「……何で俺ばっかりこうなるんだろうな……」

 

ある日の昼休み。俺は一夏と偶然通りかかった男性用務員の轡木十蔵さんに愚痴を零していた。この轡木さん、柔和で親しみやすい人柄から『学園内の良心』と言われている。俺も最初は取り留めない話をしていたのだが、いつの間にか愚痴っていた。

 

「絶対さ、俺より一夏の方がイケメンだと思うんだよ。周りの女子に告白されたことなんてなかったし、あったとすれば俺経由で一夏に告白を伝えてくれって奴だったし」

 

「ああ、片っ端から断ってたアレか。けど、んなこと言われてもな……案外お前の方がカッコイイんじゃね?」

 

「ええ? それこそないって。俺の顔は平凡だし」

 

「ふふ……一夏君が言ったのは内面的なカッコ良さではないでしょうか?」

 

「内面的、ですか?」

 

微笑みながら言った轡木さんに、俺は首を傾げた。内面的って、顔はアレだけど性格は良い人ならいくらでもいるんじゃ?

 

「あ。確かにコイツ、いつもカッコイイ台詞言ってるな。それもここぞという場面で」

 

「……そうだっけ?」

 

「言ってたじゃないか。シャルロットの時だって、操真晴人の決め台詞使ってたじゃんか」

 

「いや、あれは体に染み付いてるというか。てかそれ言うならお前だってそうじゃないか」

 

「操真晴人? ドラマか何かの登場人物でしょうか?」

 

「あ、それはですね―――」

 

頭に?を浮かべていた轡木さんに、俺は仮面ライダーシリーズについてかいつまんで話した。

 

「―――で、俺と一夏は仮面ライダーに出てくるようなカッコイイ人に憧れてて、よく決め台詞やカッコイイ台詞の練習とかをしていたんです」

 

「そういうことだったんですね。納得がいきました……だから彰人君は、複数の女性に想いを寄せられるのですね」

 

…………………ん? 何か轡木さんがおかしなことを言ったぞ?

 

「ち、ちょっと待ってください。今の流れで何故そのような結論が?」

 

「君が行動力に富んだ人物だということは前々から噂されていましてね。『あたかもヒーローみたい』だそうですよ?」

 

それ簪が言ったんじゃないか!? 広めちゃってどうすんの……!

 

「ヒーローのような行動にヒーローのような言動……女の子なら誰しも、そんな人に惹かれるのではないでしょうか?」

 

「そうかもしれませんけど、それでしたら一夏だって似たようなもんですよ?」

 

「いやお前の方が俺より積極的に行動してたからな?」

 

「え……」

 

一夏のツッコミを受けて、俺は全てのピースが当てはまっていく感覚に陥った。そうだ……箒ちゃんや鈴ちゃんのことはともかく、IS学園に来てからは俺が率先して行動したんじゃないか。セシリアも、簪も、シャルも、ラウラも……原作で一夏が行う部分を俺がやってしまったんだ。だから、一夏じゃなく俺を……。

 

「……なーんだ、結構簡単な理由だったんだ。わかってスッキリしたぜ」

 

「おいちょっと待て。お前、自分の恋人が多すぎることに悩んでいたんじゃなかったのか?」

 

「違うよ。何で俺の方が数多いのかなーって疑問に思ってたんだよ」

 

「……そうだな、お前は昔からそういう奴だったな」

 

「そういう奴とは?」

 

「コイツ、『無理を通して道理をぶっ飛ばす』を座右の銘にしているんですよ」

 

「ああ…だから疑問を感じる点が違ってたんですね」

 

轡木さんに一夏が説明すると、更に納得したような表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後轡木さんと別れると、俺達は廊下の窓から外を眺めた。どこからかセミの鳴き声も聞こえてくる。

 

「もう夏なんだよな……」

 

「そういえば後少しで夏休みか。変に長かった気がするよ」

 

IS学園はもう少しで夏休みに入る。中学の時はクラスの男子と一緒に合宿的なものをやってたが、今年の夏はどうやって過ごそうか……。

 

「……カラオケでも行くか?」

 

「カラオケ? 別にいいけど……ってまさか5時間歌いまくる気か?」

 

「おう。前にもやったことあるだろ?」

 

「そうだけど、あの時は人数大分居たからな。弾と数馬も誘うのか?」

 

「いいや誘わん。2人で思う存分歌いまくる!」

 

「俺等だけかよ……まあでも、たまには親友と2人ではめを外すのも悪くはないな」

 

「んじゃ、決まりな」

 

とまあ一夏とカラオケの約束をしたのだが、その時一瞬だけ誰かの気配がした。

 

「ん?」

 

「彰人?」

 

「今、誰か近くに居なかったか?」

 

「いや、気のせいなんじゃないか?」

 

何か嫌な予感がしたものの、気のせいだと片付けて俺達はその場を立ち去った。にしてもカラオケ行くのは今年に入ってから初めてだな。何を歌うのか今の内から決めておこうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某レンタカー店の中にあるカラオケルームにて。

 

俺と一夏は若干気落ちした表情で椅子に座っていた。別にカラオケが急に嫌になったという訳ではない。

 

「ここがカラオケルームというところなのですね。思ってたより広いですわね」

 

「何だか薄暗いな。どこもこんな感じの暗さなのか?」

 

「多分そうじゃない? ジャ○レン以外行ったことないからわかんないけど」

 

「あ、メニュー表がある。食べ物や飲み物を頼むことができるんだね」

 

「なら冷たいお茶を頼んでおいた方がいいだろう。大声を出した後はのどが枯れるからな」

 

「……戦隊とライダー、どっちから歌おうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「どうしてこうなった……」」

 

そう、カラオケに行く途中で偶然(を装った)セシリア達に出会い、同行することになってしまったのだ。

 

「ちょっとちょっと2人とも、テンション下がってない? 折角のカラオケなんだから、明るく行きましょう?」

 

「「誰のせいだと思ってるんだ!!」」

 

俺達は『明るく楽しく』と書かれた扇子を持った刀奈を睨み付けて言った。というのもこうなったのは彼女が原因で、俺が一夏と簡単な約束をした日に偶然聞いていたらしく(あの時感じた気配は刀奈のだった)、セシリア達に情報をリークしていたのだ。

 

「ったく、久々に2人で全力出して歌えると思ったのに……まあ他ならぬ簪達だからいいけど」

 

「これで赤の他人来たら俺も即帰ってるな。けど、どうしてこんなことを?」

 

「んー、そうねぇ……単純に2人の歌声がどんなものか気になったのと、この中じゃ私が一番新参者だから、何かしないとってつい思っちゃったの」

 

ウインクしながらペロリと舌を出して言う刀奈。彼女のことだから、どっちも本心なんだと思う。でなきゃ何か仕返ししてやる。

 

「……まあ、過ぎたことを言ってても仕方ない。歌おうか」

 

「そうだな……って、アイツ等既に入力してるし」

 

しかも曲が流れ始めてる。この曲は確か……幸せの砂浜?

 

「夕焼け空~」

 

(おっ)

 

セシリアが歌うのか。てか何気に歌上手いな。

 

「中々上手かったよ、セシリア。次は僕だね」

 

今度はシャルがマイクを手に取る。その間に俺と一夏は曲を入力していくが―――

 

「わたしが願うすべて~」

 

(ほう、これは……)

 

自主恋Shoooooter!を歌うのか。これまた上手いし。心の中で感想を言いながら曲が終わるのを待ち、そして次の曲になる。

 

「キミを見てるといつも~」

 

箒ちゃんはふわふわ時間を歌っていた。みんな歌唱力高いな~……声綺麗だし。

 

「次は私よ! ……タラリンTurn it up~」

 

スタ→トスタ→を元気よく歌う鈴ちゃん。何だかこっちまで元気になって来そうな感じになる。

 

「む、私の番か。では…I saw unswerving~」

 

ラウラが歌っているのはSteadfast。意外と上手いな……向こうでも歌ったことがあるんだろうか?

 

「……わ、私の番だね。えっと、光の街の天使達に~」

 

お、簪が歌ってるのはデカレンジャーか、懐かしい歌だな。デカブレイクの真似をよくやったっけ。

 

「今度は私が歌う番か。……ねぇ、こんな~」

 

DAYBREAK'SBELLを歌う刀奈。うーん、上手い! ていうかみんな上手い!

 

「よし、次からは俺と一夏の番だっ」

 

「交互に歌うんだからな。間違えんなよ?」

 

やっと5人の歌が終わり、俺と一夏の番になる。交互に歌っていくんだけど……ほぼ衝動的にやったせいで入力した曲の数が半端じゃないことになっている。これ、二桁超えてるけど……歌えるよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……!!」」

 

結論から言うと、死に物狂いで全てを歌いきることができた。てか時間のほとんどを一気に歌って使い切るってどうよ……休憩挟むべきだったよ……。

 

ちなみに歌ったのは序盤だけでも―――

 

 

 

 

 

 

『マジか! マジで!? マジだ!!』

 

『今っにも、飛び抜ける~』

 

『チェンジッ! チェンジッ! ゲッター!!』

 

『友よ一緒に、腕を組め~!』

 

『名~護~シーステム』

 

『エイッエイッ、オー!! エイッエイッ、オー!!』

 

『溢れ出す、感情が』

 

 

 

 

 

 

―――……等々。もう途中からは何を歌ったかすら覚えていない。あ、ただし最後の曲名がReckless fireだったのには覚えている。

 

「し、死ぬかと思った……主に喉が」

 

「酸欠で若干クラクラしやがる……新鮮な空気をっ」

 

すっかりダウンしてしまった俺達だったが、みんなが心配して声を掛けてこないことに気づいた。心配する必要はないと思われてるのか? と思って見てみたら……。

 

「な、何て迫力の歌ですの……痺れてしまいましたわぁ」

 

「「か、カッコよかったよぉ……」」

 

「何て素晴らしいんだ……心を撃ち抜かれてしまった……」

 

「身体も心も熱くなっている……この気持ちは、何なのだ?」

 

「やば、興奮しすぎて鼻血が……」

 

「私も……」

 

何故か俺達以上にグロッキーなことになっていた。鼻血まで出るようなことなのか!? ていうかいつからそうなった!? 途中から酸欠気味だったんで全くわからないんだけど!

 

「……時間も時間だし、帰るか」

 

「……そうしよう」

 

時間が来たのとグダグダになったこともあり、俺と一夏はセシリア達を正気に戻してジャ○レンを後にした。……どうしてこうなってしまったんだろう。




今回のカラオケ、簪以外のヒロインのチョイスは全部声優ネタです。


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65th Episode

一夏SIDE

 

―――夏祭り。

 

それは夏における風物詩の1つであり、人間が生み出した文化と言っても過言ではない。夏祭りで行われることは花火や屋台等があるが、神社等では巫女による舞を行うことがあるという。それを楽しみにしている人も居るとか居ないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり何が言いたいかと言うと、俺も舞の1つである篠ノ之神社の『神楽舞』を楽しみにしているのだ。理由は至って単純、箒が舞をするからだ。確実にその姿を拝むために俺は最前列をキープし、記録に残せるようビデオカメラを持っている。ちなみに鈴も来る筈だったんだが、風邪を引いて家で寝てるそうだ。一緒に見たかったが、残念だ。彰人はどうしたって? アイツも来るって言ってたけど、まだ見てないな。別行動かもしれん。

 

っと、そうこうしてる間に開始時間になった。舞台をじっと見ていると、奥から箒がゆっくりと歩み出てくる。その身には真白の衣の上に綺麗な赤い舞装束を纏っており、神々しいオーラを放っていた。また右手には刀を、左手には扇を持っていて演奏に合わせて神楽舞を踊り始める。その神秘的な姿に、俺は見入ってしまっていた。

 

(この世界に神はいないという台詞があったが……目の前に居るじゃないか)

 

そう思いながら見ていると箒と目が合った。すると箒は頬を赤く染めながら笑みを浮かべてきた。……この破壊力抜群の一撃に若干悶絶してしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は箒と一緒に屋台を見て回ることにした。箒は赤い浴衣を着て、顔には薄化粧をしている。正に大和撫子という言葉がピッタリだ。やっぱり箒には和服が似合う。

 

「ん? どうした一夏?」

 

「ああ……さっきの衣装もそうだけど、似合ってて綺麗だなって思ってさ」

 

「っ、そ、そうか……ありがとう……」

 

少し俯きながら箒は言う。照れているのだろうけど、これもまた可愛い。気がつけば、俺は自然と箒の左手を握っていた。箒は一瞬びっくりしてこっちを見たが、すぐに握り替えしてきてくれた。

お陰でテンションが上昇し、俺は率先して色んなところを巡り、付き合ってから初めての2人だけでのデートをした。金魚掬いに射的、リンゴ飴に焼きそばetc……これまでに何度か行ったことはあったが、今日ほど楽しく感じたことはなかっただろう。

 

そんなこんなで夏祭りを全力で楽しみながらふと時計を見ると、名物である花火が始まる少し前になっていた。

 

「やべっ、花火始まっちまう! こりゃすぐ行かないと間に合わないな」

 

「どこかへ行くのか?」

 

「実はとっておきの穴場があってな。折角だからそこに行こうと思ってるんだ」

 

「穴場か。わかった、連れて行ってくれ」

 

「オッケー!」

 

俺は箒の手を引くと神社から少し離れた雑木林を抜け、穴場へと向かった。その場所は街全体が見渡せる場所で、これまでで知っていたのは俺と彰人だけだ。

 

「ふぅ……久しぶりに来たからどうなってるかと思ったけど、昔とちっとも変わってなくて安心したぜ」

 

座りながら言った時、花火が打ち上がって夜空が輝いた。この場所で箒と一緒に、花火を満喫できるのはこの上なく幸せなことだ。

 

「花火……綺麗だな……」

 

「そうだな……一夏と一緒に見られて、良かった」

 

花火に見とれながら会話をしていると、俺はあることを思いついた。そこでまずは箒の肩を指でトントンとし、顔をこちらに向けさせる。次に俺は箒の顎を手で軽く上げると顔を近づけ―――キスをした。やがて離れると、箒は恥ずかしげに俺を睨んでいた。

 

「……不意打ちはずるくないか?」

 

「箒のことが好きなんだから、仕方ない」

 

「ものは言いようだな……だが、一夏らしいよ」

 

笑い合いながら、互いに見つめ合う。そのまま次のキスをしようと思っていたが―――

 

 

ガサッ

 

 

「「っっ!?」」

 

突然背後から物音がして、驚いて一緒に振り返った。すると、

 

「いかん、バレた……」

 

「……ど、どうしよう……」

 

困り顔で頬を赤く染めた彰人と簪が草むらに立っていた。

 

「な、何故彰人と簪が!?」

 

「もうすぐ花火が始まる時間になるから、穴場スポットで簪と一緒に見ようかなと思って来たんだ。そしたら2人が先に居て、キスまでしてるし……」

 

「俺と同じ考えだったのか……」

 

さすがは親友と言うべきなんだろうけど、こんな時まで同じでなくても……。

 

「……ご、ごめんなさい。見るつもりはなくて、その……」

 

「そ、そのことならもういいんだ。過ぎたことなんだし……それより、どうしてお前だけなんだ? 他の皆は?」

 

「……お姉ちゃんは生徒会の仕事で学園に。他の皆は用事が被って来られなかったの。そっちこそ、どうして箒だけ?」

 

「鈴は風邪を引いたようで、今は家に居るんだ」

 

……さりげなく状況まで似てるし。俺は苦笑しながら、スターマインで彩られる空を見上げた。



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学園祭編
66th Episode


どうも皆さんこんにちは、矢作彰人だ。楽しい時間はあっという間に流れるもので、夏休みが過ぎて現在二学期に入っている。

 

んでもって今はみんなと朝食を取っているんだが……。

 

(視線を感じる……)

 

一学期の時よりも増して周りからの視線を感じるようになった。それも向けられているのは俺や一夏ではなく、箒ちゃんにである。

 

「最近、妙に視線を感じて気になりますわ」

 

「大方私が第4世代型ISを所持しているからだろう」

 

「間違いなくそれだな。どいつもこいつも、嫉妬やら憎悪やらの黒い感情ばかり向けてやがる」

 

「へぇ、イノベイターはそんなこともわかるんだ。苦労しそうね」

 

「まあな」

 

冗談混じりの鈴ちゃんの発言に肩をすくめながら一夏が言う。他人の負の感情なんて、知りたくないもんな……。それに、日に日に強くなってる気がするし。

 

「箒も大変だね……」

 

「仕方ないさ。強い力を持ってる以上、こうなることはわかりきっていたことだ。……まあ、余りにも度が過ぎる輩が現れたら、一夏達と同じスタンスを取るが」

 

「「え?」」

 

俺達と同じスタンス? それって……。

 

「彰人や一夏と同じ…………なるほど、そういうことか。中々良い考えだ」

 

「……結局、そうなるんだ」

 

言葉の意味を理解したラウラは非常に良い笑顔を浮かべ、簪は引きつった笑みを浮かべていた。てことはやっぱり―――

 

「私に対して不満があるなら、陰口を叩かれるよりも遠慮無く勝負を挑んでくれた方が良い。その方がわかりやすいし、それにレッドフレームの性能を試すいい機会だ」

 

『『『っ!!!!』』』

 

((うわぁ……))

 

最後の一言を言った瞬間、周囲の視線が更にきつくなった。箒ちゃんのことだから本気で言ってるんだろうけど、周りからすれば挑発にしか聞こえないもんな……。

 

強い意志と覚悟を決めた箒ちゃんに感心と苦笑しつつ、俺達は朝食を食べ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館

 

その後、俺達は全校集会で体育館に集まっていた。どうやらIS学園の生徒会長(つまり刀奈)が挨拶するらしい。このタイミングってことは、あのイベントのことかな?

 

『では、生徒会長の挨拶です』

 

(いよいよか)

 

アナウンスの声が終わると、壇上に刀奈が出る。その堂々としたどこかミステリアスな雰囲気に、生徒全員が水を打ったように静かになった。

 

「やあみんな、おはよう。今年は色々立て込んじゃってちゃんとした挨拶がまだだったわね。私は更識楯無。このIS学園の生徒会長よ。初めまして、そしてよろしく」

 

ここに居るほとんどの生徒は、今みたいな凛とした刀奈しか知らない筈。そう思うと、一種の優越感のようなものを感じる。

 

「早速だけど、今月の一大イベント学園祭について、今回に限り特別ルールを導入するわ。その名も……」

 

そう言うのと同時に、背後に空間ディスプレーが展開された。さて、そろそろ来るか……。

 

「名付けて『織斑一夏&矢作彰人争奪戦』!!」

 

予想通りの宣言と共に一夏と俺の顔写真がディスプレーに……………………え?

 

「は!? 何!? どういうこと!?」

 

「えっ! 俺も!? 何で!!??」

 

まさかの俺も含まれているという事態に混乱し、一夏と一緒に騒いでしまう。

 

「静粛に。今年は世界で初めての男性操縦者が2人入学しました。しかし、そのどちらとも未だ特定の部活動には所属していません。皆も不満を募らせていると思い、勝手ながらこのイベントを作らせてもらいました。して、その内容は題名の如く、学園祭の催し物で一位と二位の成績を収めた部活動に、織斑一夏君と矢作彰人君のどちらかを強制入部させちゃいます!」

 

刀奈は閉じた扇子でディスプレーの俺と一夏を指す。途端に場の空気が一気に盛り上がった。

 

「きゃあああああああああっ!!!! ほ、本当に!?」

 

「何て素晴らしい仕事をするのかしら!」

 

「さすが更識生徒会長だ! 私達にやれないことをズバッとやってくれる! そこに痺れる、憧れるぅ!!」

 

「ようし! 全身全霊を掛けて、勝ちを取りに行くわよ!」

 

『『『えい! えい! おーっ!!』』』

 

生徒達(ほぼ)全員がカチドキアームズの変身音声になった瞬間だった。

 

「おいおい、これ俺達の意志とかどうするんだよ?」

 

「刀奈にとっても苦肉の策なんだろうさ。ここは腹を括るしかない……」

 

「マジかよ……」

 

とは言ったものの、本人が遊び半分でいる可能性は十分にある。……だから何だって話だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年一組

 

集会を終え、現在放課後のHR。黒板には色々な出し物の案が書かれている……のだが、内容は『織斑一夏と矢作彰人によるホストクラブ』、『男子2人とツイスターゲーム』、『男子2人と王様ゲーム』、『男子2人とポッキーゲーム』etc……

 

「「全力で却下だ!!」」

 

結論。即刻却下となった。

 

『『『えぇぇぇえええええええええええええええ!?』』』

 

「誰が喜ぶんだ、こんなの!」

 

「私が嬉しい! 断言する!!」

 

「そうだそうだ! 男子は女子を喜ばせる義務を真っ当せよ!」

 

「織斑一夏と矢作彰人は共有財産である!」

 

「他のクラスから色々言われてるんだってば! うちの部の先輩も煩いし!!」

 

「私達を助けると思って! お願い!」

 

コイツ等、切羽詰まってるのはわかるが好き勝手言いやがって……!!

 

「ふざけんな! こういうのは心に決めた相手としかしないって決めてんだ!」

 

「そうだ! 赤の他人となんかできるか!」

 

「心に決めたって、例えば~?」

 

のほほんさんがにこにこしながら尋ねてきた。例えばだって? そんなの……

 

「「セシリアと簪とシャルとラウラと刀奈(箒と鈴)に決まってるだろ!! わかりきったことを言うな!!」」

 

そもそも俺達に恋人が居ることは前に言っただろ! あ、でも刀奈のことはまだ言ってなかったっけ。まあいいか!

 

『『『えっ……』』』

 

クラス全体がシーンと静まり返る。そうなってから俺達は初めて、自分達がとんでもない爆弾発言をしてしまったことに気づいた。

 

「い、一夏!? な、なな、何を……!!/////////」

 

「あ、あああ彰人しゃん!? い、今の発言は……//////////」

 

「あ、彰人……気持ちは嬉しいけど、その……//////////」

 

「う、うむ。ストレートに言われると、照れるな/////////」

 

4人とも完全に真っ赤に茹で上がってらっしゃった。可愛い。

 

「はいはい、ごちそうさま」

 

「チッ、リア充め……」

 

……どこからかそんな声がしたが気にしない。

 

「コホン。えっと、他にまともな意見はないか?」

 

咳払いを1つして尋ねると、女子達は再び話し込む。と、ラウラがスッと手を挙げた。

 

「はい、ラウラ」

 

「今までのがダメなら、メイド喫茶はどうだろうか?」

 

『『『えっ!?』』』

 

ラウラの口から出たのは、普段の彼女からは想像できない言葉だった。まあ、俺は言うんじゃないかなって思ってたけどね。

 

「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それならば、休憩場としての需要も少なからずある筈だ」

 

「な、なるほど。ラウラにしちゃあ珍しい意見だが、みんなはどうだ?」

 

一夏が全体を見渡して尋ねると、シャルが答えた。

 

「良いんじゃないかな? 彰人と一夏も執事や厨房をやればいいし」

 

「織斑君と矢作君の執事姿……良い!」

 

「私も賛成! でもメイド服はどうする?」

 

「私に任せて! 私、演劇部衣装係だから縫えるよ!!」

 

あっという間に話は進んでいき、俺と一夏が執事をやることは半ば確定していた。

 

「俺達が執事やるのは既に決まってるのね……ま、いいか。―――そういう訳だから、出し物は『メイド喫茶』で決定だ。異論はないな?」

 

最後に一夏が確認すると、全員一致で可決した。しかし俺が執事か……話し方とか練習しなきゃな。

 

 

 

 

 

 

「……ていうか刀奈って…………誰?」

 

こっそりと呟いた相川さんの言葉は周りにかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園整備室

 

出し物を決めた後、俺と一夏は整備室に来ていた。何でも一夏が見せたいものがあるんだそうだ。

 

「で、その見せたいものとは?」

 

「これのことなんだが……」

 

一夏はクアンタのデータをモニターに表示する。と、一部のデータに気になる点が見られた。

 

「あれ? 拡張領域(パススロット)にパッケージがある……どうやって入れたんだ?」

 

「俺が聞きたいよ」

 

そう、ダブルオークアンタの本来埋まっている筈の拡張領域(パススロット)に何故かパッケージがインストールされていたのだ。しかも名前は『GNソードⅣフルセイバー』ときてる。

 

「とりあえず使ってみなよ」

 

「わかった」

 

頷いてモニターをタッチする一夏。すると『GNソードⅣフルセイバー、起動』と表示が現れ、クアンタが光り輝くと共に背面装甲が変化し、右肩部分に巨大な剣―――GNソードⅣフルセイバーが装備された。驚くべきことに、かかった時間は一秒程であった。

 

「「ごついな……」」

 

クアンタの新たな姿、ダブルオークアンタ フルセイバーを見た俺と一夏は同時に感想を述べた。そう感じるのは俺達以外にもきっと居る筈。

 

『はろはろ~! こんにちは~! みんなのアイドル、束さんだよ~!!』

 

直後、突如として新たなモニターが出現し、束さんが(多分録画だろうけど)映し出された。

 

「た、束さん? 何で?」

 

『このメッセージを見てるってことは、GNソードⅣフルセイバーを見つけて装備したってことだね。嬉しいなぁ~!』

 

「なるほど。このパッケージを見つけることが一種のフラグだったのか」

 

『ではでは、いっくんが疑問に思ってるであろうGNソード……長いからフルセイバーでいいや。について説明しよう! フルセイバーはいっくんのダブルオーが第二形態移行(セカンドシフト)すると出現するように設定したパッケージで、それまでは使うことはできないし表示すらされないようになってるんだ~』

 

巧妙に隠してあったということか。束さんらしいというか、何というか……。

 

『フルセイバーの性能は原作とプラモ設定を混ぜてあるから、カタールにもすることができるし、現存するIS全てを単機で撃破することも可能だよ! あ、でも操縦者の負担とかは考えてないから実際には無理っぽいけどね。んでもってクアンタムシステムは使えなくなっちゃうから、状況に応じて使い分けることをおすすめするよ』

 

ちょい待て。今さらりととんでもないこと言わなかったか!?

 

『それじゃあ説明はここまで! 武器の詳しい使い方は取り扱い説明書を読んでね! じゃあ、ばいば~い!!』

 

そこで映像が切れ、しかも『消去しました』と音声が流れる。一度再生されたら自動的に消滅するよう仕組んであったらしい。

 

「ったくあの人は。どこまで原作再現するんだよ……しかも今度は、ほぼ無理だけど単機で全ISを撃破可能だって? マジかよ」

 

「どうも大マジらしい。んで、性能テストとかやるのか?」

 

「そりゃあやりたいけど、相手が務まる人が居るかどうか「ここに居るわよ」え?」

 

聞こえてきた声に揃って振り向くと、扇子を広げた刀奈が壁にもたれて立っていた。

 

「話は全て聞かせてもらったわ。中々興味深い代物を持ってるじゃない、一夏君」

 

「こっちは冷や汗もんですけどね。で……現れた目的は?」

 

「君の推測通りよ。その新装備の相手、私が務めてあげるわ。フフッ…こんなサービス、滅多にしないんだからね?」

 

どこぞの銀河の妖精っぽい台詞を言いながら、不敵に微笑む刀奈であった。



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67th Episode

アリーナ

 

一夏SIDE

 

俺と刀奈さんは第三アリーナにてISを装着し、対峙していた。本気でかかってこいとのことだから、相手も全力を出すだろう。

 

「いくらデータ計測だからって、本当に全力を出していいのか?」

 

「問題ないわ。本気を出さなきゃちゃんとしたデータは取れないもの」

 

「それもそうだな」

 

「そんなことより、そろそろ―――始めましょうよ!!」

 

「ああ―――望むところだ!!」

 

彰人しか見てないアリーナにブザーが鳴り響くと同時に俺はGNソードⅤ(ソードモード)を、刀奈さんはトツカノツルギを所持すると、接近して斬り合う。

 

「(っ、このパワー……並のISじゃないわ!)せえいっ!」

 

ガキンッ!

 

「そうらっ!」

 

ガッ!

 

互いに一歩も引かず鍔迫り合いになったところで一度距離を取ると、刀奈さんはビームライフルを連射してきた。

 

「(そう来たか。なら)コイツを使ってみるか!」

 

GNソードⅤを腰にマウントし、フルセイバーから取り外したGNガンブレイド二丁をガンモードで連射する。撃ってからわかったが、結構弾速いな。

 

「威力は低めみたいだけど、連射速度がバカにならないわね! 下手に距離取るのはまずいかも!」

 

トツカノツルギとビームサーベルの二刀流を構え、刀奈さんは突撃してくる。俺もGNガンブレイドを合体させたツインエッジを投げつけると、GNソードⅣセイバーモードを持って突撃する。

 

「「でぇやぁああああああああああああ!!」」

 

俺とツインエッジを弾き飛ばした刀奈さんの剣が交わり、火花が散る。相手が二刀流とは言え、俺の方が若干押されている。

 

「簪と勝負したときとは全然違う強さだ……こっちがホントの本気か!!」

 

「あの時は簪ちゃんの豹変ぶりに動揺して、全力を出し切れなかったからね。甘く見てると危険よ!!」

 

「そうか。だったら遠慮は一切しねぇ!!」

 

ISコアの出力を上げ、腕により力を込める。

 

「やるわね! だったら!」

 

「っ! うお!?」

 

刀奈さんは至近距離でランサーダートを放つと再び離れ、ミラージュコロイドで姿を消した。

 

「消えた? ハイパーセンサーは…ダメか」

 

俺はありとあらゆる方向を警戒しつつ、GNソードⅣをライフルモード(連射&高出力モード)に切り替える。

 

「ぐあっ!?」

 

直後、何かで引っかかれたようなダメージを受けた。ツムハノタチによる攻撃か。しかも見えないままか。反則気味だな……だが!

 

「GNビット!」

 

GNソードビットを射出し、手当たり次第に攻撃していく。これで誘い込むことができればいいが……。

 

「くっ!」

 

! 声が聞こえた!!

 

「そこかぁ!!」

 

すかさずGNソードⅣライフルモードを高出力モードで放つ。と、そこには右腕のシールドで防ぐゴールドフレームのシルエットが浮かんだ。

 

「下手な鉄砲、数打ちゃ当たるか。この空間では有効な攻撃ね。さすがの私も一杯食わされちゃった……」

 

そう言うとビームライフルで攻撃してきた。

 

「お陰で余計に燃えてきたわ!!」

 

「そりゃどうも。俺もフルスロットルで行くぜ!!」

 

GNソードⅣをライフルモード(ワイドカッター粒子ビーム)にすると連続射撃を行い、すぐにGNランチャーモードに変形させる。

 

「本当に多彩な攻撃パターンを持ってるわね。じっくり披露させた方がいいんだろうけど、そうしてたらこっちが負けそうだから!」

 

ガキッ!

 

ワイヤー型の武器、マガノシラホコを射出すると、それを巧みにコントロールして俺の足に突き刺した。

 

「しまった!?」

 

GNビットで切断しようとするも遅く、俺は刀奈さんに引っ張られていく。しかし尚も体勢を立て直すと、引っ張られながらGNランチャーで狙いを定め―――撃った。

 

ドォォォン!

 

「やったか? ってこれは失敗フラグ―――どわっ!?」

 

つい禁句を言ってしまったところへ腹部に衝撃が走る。見るとミラージュコロイドを発動させた刀奈さんがマガノイクタチで俺を挟み、エネルギーを吸い取っていた。

 

「貴方のエネルギー、私のものにさせてもらうわよ!!」

 

「そうはいくか!!」

 

俺はGNソードⅣをフルセイバーモードにするとGNソードビットを展開して真後ろにテレポートゲートを作り、俺だけが通った段階でゲートを閉じた。

 

「なっ!? そんな―――」

 

「もらったぁ!!」

 

動揺している刀奈さんの真後ろから現れ、GNソードⅣを振り翳す。そして……

 

「……私の、負けね」

 

刀奈さんのシールドエネルギーが、無くなった。

 

「危なかった……あと少し判断するのが遅ければ……」

 

「結構僅差だったのね。ちょっと悔しいけど、素直に負けを認めるわ。で……使ってみた感想はいかがかしら?」

 

「凄まじい力です。仮に俺が全部の装備を把握しきった上で戦ったら、ウイングゼロ以外には敵はいないかもしれません」

 

「そうね。実際戦ってみたけど、その可能性は大だわ。でもどうしてウイングゼロは例外なの?」

 

「ゼロシステム積んでますし、操縦者が彰人なんで俺の癖とか見抜かれてそうなんで」

 

「ああ……2人とも付き合い長いからね」

 

俺が言うと、刀奈さんは納得したように頷いた。と、その時だった。

 

「生徒会長! 覚悟っ!!」

 

突如、M1アストレイ二機とGN-XⅣ一機が各ピットから出撃し、対艦刀とGNバスターソードを持って突進してきた。

 

「コイツ等!? ええいっ!」

 

「きゃあああ!?」

 

反射的に一機のM1アストレイに蹴りを入れて沈黙させる。

 

「私の座を狙う輩か。疲弊したところを狙ったんでしょうけど、その程度で!」

 

刀奈さんももう一機のM1アストレイをマガノイクタチで挟み込み、エネルギーを吸い尽くしてから解放した。えげつねぇな……。

 

「トランザム!」

 

だが最後に残ったGN-XⅣがトランザムを発動し、刀奈さんの背後から一気に迫った。

 

「! しまった!」

 

「遅い! これで会長の座は―――」

 

 

ドォォォォン!

 

 

言いかけた時、GN-XⅣがビームに飲まれて墜落した。思わず放たれた方向を見ると。

 

「生憎だったな。お前なんかに明け渡す席は無いんだと」

 

ツインバスターライフルを構えたウイングガンダムゼロカスタムが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分前

 

彰人SIDE

 

勝負はかなりの接戦だったが、最終的に一夏が勝った。これがもし一夏がGNソードⅣフルセイバーの全機能を把握した状態で挑んでいたら、刀奈は一方的に負けていた筈だ。俺も負けるかもしれない。気をつけなきゃな。

 

「ん? あれは……」

 

俺がピットに迎えに行った時、そこからM1アストレイが発進して行った。見れば他にも2つの機影が見える。気になってウイングゼロを展開しつつ入り口付近で待機して聞き耳を立てていると、どうやら生徒会長の座を狙う者達らしい。その内二機は刀奈と一夏に撃墜されたが残ったGN-XⅣがトランザムで刀奈に奇襲を掛けた。

 

(甘いな)

 

俺はゼロシステムを作動させていてこうなることはわかっていたので、ツインバスターライフルを構えて発射した。

 

「生憎だったな。お前なんかに明け渡す席は無いんだと」

 

構えを解きながら言う。……心なしか未来を予測してから行動に移るのが早くなったような?

 

「っと、彰人か。サンキュー!」

 

「これくらい軽い軽いっ」

 

フェイス部分を解除しながら2人に近づく。

 

「とりあえずもう帰ろうぜ。また狙われるかもしれないし」

 

「ええ、そうするわ。でも……そうなったら、またこうやって助けてくれるかしら?」

 

そう尋ねてくる刀奈は、顔を赤く火照らせていた。助けてもらったのがそんなに嬉しかったのかな?って自意識過剰な考えは我ながらキモいな。

 

「勿論だよ。約束する」

 

「? ちょっと待て。向こうのアリーナから何か聞こえないか?」

 

一夏に言われて指された方向を見る。確かに何かが聞こえてくる。ハイパーセンサーで見てみると……。

 

『どうしたどうした! 束で挑んでもこの程度か!!』

 

箒ちゃんがガーベラストレートとタイガーピアスを持って無数のISを薙ぎ払っていた。

 

「………………マジでやっていたとは……」

 

「…………見なかったことにしよう……………」

 

「………………その方がいいわ………」

 

さすがに本人も見られたくないと思うので、俺達はさっきの光景を忘れてアリーナを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

今日は俺、一夏、簪の3人で食堂に集まって昼食を取っていたが、簪からある相談を受けていた。

 

「へぇ、四組は野外ライブをやるのか。いいんじゃない?」

 

「……でも、ここって実質女子校で男子がいないから、困ってるの」

 

「要するに男の歌い手が欲しいと。うーむ……」

 

腕を組んで考える。要は男手が欲しいってことだ。身近な友人に歌が上手い奴は…………あ。

 

「そうだ、居るじゃないか! うってつけの奴らが!」

 

「おお、そうだった!」

 

「……それって本当!?」

 

「勿論。よし、そうと決まれば明日早速アイツ等に伝えに行くぞ」

 

「歌の一覧表と役割表、借りるね」

 

俺は内心でこれを聞いたあの2人がどんな反応をするのか楽しみにしていた。



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68th Episode

文化祭まで残り二週間を切った今日。俺と一夏は五反田食堂の弾の部屋に上がっており、弾と偶然居た数馬に四組の野外ライブについて話をしていた。

 

「はー、野外ライブとはまた派手なことをやるもんだな。俺等の高校はまだ先だけど、やるのか?」

 

「やろうと思えばやれるんじゃないかな? それより2人とも、どうしてその話を僕達に?」

 

数馬に問われ、俺はいよいよ本題に入る。

 

「ああ。弾と数馬ってさ、バンドやってるよな? そこでだ……」

 

俺は文化祭の招待状二枚を見せながら話を続ける。

 

「2人に四組のライブで助っ人バンドメンバーとして出て貰いたい」

 

「「え…………えぇぇぇええええええええええええええ!?」」

 

2人は思わず叫ぶと同時に立ち上がる。落ち着くように言うと、動揺しつつも腰を降ろした。

 

「さっきも言った通り四組は野外ライブをやるんだけど、全員が女子だから男子メンバーが欲しいということになってな。俺と一夏は一組の出し物をやらないといけないから、他に誰か……ってところで真っ先に弾と数馬が浮かんだんだ。……やってくれるか?」

 

緊張しつつ尋ねる。2人は招待状を見ながらしばし呆然としていたが、やがて我に返ると即答した。

 

「「ああ! 任せろ!!」」

 

「サンキュー2人とも! これで簪も喜ぶぜ!」

 

「これが役割表と希望してきた歌の一覧だ。一応楽譜も落としてきたから、見てくれ」

 

俺はホッと一息つき、一夏は簪から借りたのをコピーした一覧表と楽譜を渡した。

 

「どれどれ……うーむ、難しい曲ばかりだな」

 

「けど上手くいけば、女の子にモテるかもしれないぞ?」

 

「よし、やるか!!」

 

((やっぱり目的はそこか……))

 

熱く闘志を滾らせる弾と数馬に苦笑しつつ、期待を寄せていた。この2人なら、必ずライブを成功させてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そして時は流れ、学園祭当日―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一組にて

 

開始一時間にして俺達は大忙しだった。招待状を渡した人しか来てない筈だが、そのほとんどが流れて来てるんじゃないかと錯覚する程に大量の客が押し寄せてきたからだ。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様。席までご案内いたします」

 

今お客さんを案内したのは一夏だ。黒い執事服とイケメンフェイスがよく似合っており、更に持ち前の笑顔によって女性客の中には顔を赤くしてる人もいる。……お陰で箒ちゃんが時折不安げな顔になってるけど。

 

「ご注文はお決まりでしょうか? ……メロンソーダを1つとレモンケーキを2つ、オレンジスカッシュを1つですね。畏まりました。少々お待ち下さい」

 

かくいう俺もあちこちを走り回って注文を承っていた。事前に一夏共々虚さんに指導して貰ったお陰で、執事としての振る舞いや喋り方は完璧だ。だから失敗とかはしてない筈なんだが、何故か俺が声を掛けた女性客は顔を赤くすることがある。怒ってるのか? 俺と執事服が似合ってなくて怒ってるのか? セシリアとシャルとラウラはたまに心配そうにこっち見てくるし、何故……って考えてる暇はないか。

 

「いらっしゃいませ。あちらの席にご案内しますわ、お嬢様(彰人さん、まだ気づいていないのでしょうか? 自分が女子に密かに人気があることを)」

 

「お待たせしました! クルミ&チョコクッキーとバナナパフェ、お持ち致しました(うーん、立場的に彰人がやや鈍感なのは良いのか悪いのか……)」

 

(なるほど、気づいてないのか。ともあれば私達には好都合だな)

 

? 何か今変なこと思われた気がするが、気のせいか。

 

言い忘れたが、一組に人気が集中しているのは俺や一夏だけではなく、セシリア達美少女が笑顔で接客をするからでもある。ちなみに格好だがセシリアは青いドレスの様なメイド服を、シャルはオレンジのオーソドックスなメイド服を、ラウラは眼帯を付け黒いゴスロリメイド服を、箒ちゃんは模造刀を腰に携え赤のメイド服をそれぞれ着ている。最初はみんな気乗りしてないと言うか緊張気味だったが、あまりの可愛らしさに俺と一夏が絶賛したらすぐに乗り気になった。褒めて伸ばすとはこのことか。

 

「へぇ~、結構繁盛してるじゃない」

 

「いらっしゃいませ……って刀奈じゃん。どうしたの?」

 

「各クラスの見回りがてら彰人君に会いに来たのよ」

 

やっぱりか。そうじゃなきゃ立ち寄ったりしないもんな。

 

「それにしても、こんな早くからお客さんが来たら後が大変じゃないの?」

 

「そうなんだよな。どっかで減ってくれると助かるんだが」

 

「ふうん。……ならさ、今からデートしない?」

 

耳元に顔を近づけて、囁くように刀奈は言った。ってデート?

 

「今から?」

 

「ええ。いいでしょ?」

 

「俺はいいけど……一夏ー! 俺今から抜けるけど、1人で大丈夫かー?」

 

「え? 別にいいぞー!(助かった。これで彰人目当ての客分が減ってくれる)」

 

一夏はあっさりと了承してくれた。なら気にすることは何もないか。

 

「OK、行こう」

 

「エスコートお願いね、執事さん」

 

「お任せを、刀奈お嬢様」

 

俺は一礼すると、刀奈と一緒に学園内を見回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園正門前

 

OutSIDE

 

「数馬……」

 

「弾……」

 

周囲を見渡した後、弾と数馬は顔を見合わせて言った。

 

「「桃源郷って、あるんだな……」」

 

まるで夢のようだとここに来る間2人は思っていたが、この言葉と共に夢ではなく現実であることを確信した。

 

「ようし、弾。早速色々見て回ろうぜ」

 

「まあ待て。まずは招待状を見せないとな」

 

「っとそうだった。ええっと、受付の人は……」

 

『ああっ!? どういうことだよ!』

 

2人が受付を探そうとした時、誰かが声を荒げるのが耳に入った。

 

「「ん?」」

 

弾と数馬は思わず声がする方を見る。

 

「何で俺達は入れないんだよ!?」

 

「ですから、招待状がないとだめだと先ほどから」

 

「んな細けぇことどうだっていいだろうが!」

 

「ダメなものはダメなの~!」

 

そこには虚と本音が3人組の不良男子に絡まれていた。しかもその3人は、弾と数馬の通う高校の評判の悪い先輩達だった。

 

「アイツ等、こんなとこにまで来てたのかよ……」

 

「どうする? 僕としてはすぐにでも止めに入りたいんだけど」

 

「奇遇だな、数馬。俺もそう思っていたところだ」

 

そう言うと、2人は背中に背負っている楽器を降ろして3人のところへと歩いて行った。

 

「失礼」

 

「あ? んだよ?」

 

「その人達、嫌がってるじゃないですか。他のお客さんにも迷惑だし、招待状持ってないなら早く帰ってくれませんか?」

 

「テメェ等何様のつもりなんだよ? テメェ等こそ招待状持ってんのかよ?」

 

「「当然」」

 

懐から招待状を取り出して見せると、すぐに仕舞う。こういった状況では盗られる可能性もあるからだ。

 

「ほぅ、持ってんのか。だったら丁度いい。テメェ等から招待状奪って俺等の内2人だけでも楽しい思いをしてやる! おい、やれ!」

 

リーダーらしき男子が言うと、両隣に居た男子達が前に出た。そして有無を言わさず襲いかかるが……。

 

「ふっ! はっ! はっはっはっはっはっはっはっ! てやぁっ!!」

 

弾は相手のパンチを避けて突き出された腕を上へ弾くと、すぐに腹に連続でパンチを決め、とどめに蹴りを放って相手をダウンさせる。

 

「おっと! よっ! ほっ……おらぁっ!!」

 

数馬は後ろに少し下がって攻撃を避けると素早く身を屈めて足払いをし、バランスを崩させる。それによって相手が前のめりに倒れるのを見ると左手で肩を押さえつけ、右手で鳩尾に強烈な一撃を食らわせた。

 

「「ふぅー……」」

 

2人は息を整えながら、リーダー格の男子を「まだやるか?」と言わんばかりに睨み付ける。

 

「なっ!? テメェ等よくも……もう容赦しねぇ!!」

 

逆上した男子はナイフを一本取り出す。それを見た弾と数馬は気を引き締め、構えをつくる。

 

「死にやがれっ!!」

 

男子がナイフを持って突進する。が、頭に血が上った攻撃は弾達に軽々躱され、弾の膝蹴りでナイフを落とされると数馬のパンチが顔を直撃。更に弾と数馬は顔を見合わせ頷き合うと、同時にキックを放って男子を吹っ飛ばした。

 

「ぐあっ!? ば、バカな……後輩の癖に、何でそんなに強ぇんだよ……!」

 

「こんなこともあろうかと、日頃から鍛えていたからな(ドラゴンナイトのレンに影響されて良かった)」

 

「まさか先輩に対して役に立つとは思ってなかったけど」

 

「くっ……覚えてやがれ!」

 

不良男子達は立ち上がると、捨て台詞を残してフラフラと立ち去って行った。

 

「はぁ…あれが僕らの先輩だと思うと情けなくなるよ」

 

「全くだ。ああいう奴らが居るから、女尊男卑が酷くなる原因になるんだ。……っとそれより、2人ともお怪我は?」

 

地面に降ろした楽器を背負いながら、弾はポカンとしている虚と本音に声を掛ける。

 

「……あ、えっと…大丈夫です」

 

「う、うん。どこも怪我してないよ」

 

「良かった……あ、それとこれ、招待状なんだけど」

 

再び取り出した招待状を弾は虚に、数馬は本音に渡した。

 

「招待者は……彰人さん?」

 

「あっきーの友達なんだ~!」

 

少し驚いたような表情をしたが、すぐに招待状を返す。弾と数馬はIS学園に向かって歩き出したが―――

 

「あ、あの!」

 

「待って!」

 

呼び止められ、振り向く。すると虚が弾の前へ、本音が数馬の前へと駆け寄って行った。何だろうと思っていると、2人は口を開いた。

 

「私は布仏虚といいます。あの、貴方のお名前は?」

 

「私、布仏本音って言うんだ~。君は何て言う名前なの?」

 

それを聞いた2人は初対面の女性に名前を尋ねられるという事実を心の中で深く噛み締め、こう言った。

 

「俺は五反田弾って言います。覚えて頂けると嬉しいです」

 

「僕は数馬。御手洗数馬って言うんだ。よかったら、君の胸に刻んでおいて欲しい」

 

自己紹介を終えると、弾と数馬はIS学園に向けて今度こそ歩み始めた。その後ろ姿を見ながら、虚と本音は考えていた。

 

(五反田弾さん……私を助けてくれた、カッコイイ男性(ひと)……)

 

(御手洗数馬、カズーだね……言われなくても、もう刻まれちゃったよ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「ほぅ、やるじゃないか……」

 

建物の陰から刀奈とともに様子を伺っていた俺は、弾と数馬の活躍を見て呟いた。

 

「そうね。年齢が上の相手にああも立ち回るなんて、良い鍛え方をしているわ」

 

「いや俺が言いたいのはそうじゃない。アイツ等普段から彼女欲しい彼女欲しい言って、俺や一夏に女性の落とし方とか聞いてくるのに、今落としてるじゃん…って思ってな」

 

「え? ……ああ、なるほどね」

 

刀奈は疑問を浮かべながらも、虚さんとのほほんさんを見て納得した。2人とも目が完全に恋する乙女のそれになっている。

 

「まあこっから先は各々に任せるとして、とりあえず2人に合流しましょう」

 

「え、いいのか?」

 

「彰人君の親友なんでしょ? だったら案内してあげないと。それに、友達を助けて貰ったお礼をしたいし」

 

「なるほど……わかった」

 

合点がいき、俺は弾達に声を掛けた。

 

「おーい、弾! 数馬!」

 

「おお、彰人! こないだはありがとな~って、何その格好?」

 

「今は休憩してるが、ご奉仕喫茶で一夏共々執事やってるんでな」

 

「執事!? お前と一夏が!? きっと似合ってるんだろうなぁ~」

 

「それはともかく、2人とも曲は弾けるようになったか?」

 

背中に担いであるギターとベースを見ながら俺は言う。ちゃんとできてるとは思うが。

 

「当然。一生懸命練習したからな!」

 

「男子3日会わざれば刮目せよって奴だ。しっかり目に焼き付けとけよ!」

 

自信満々に宣言する。これなら安心して任せられるだろう。あ、でも2人は大勢の人の前に立つのは初めてだった筈。そこは大丈夫かな?

 

「ところで彰人。隣に居る水色の髪の女子は…誰だ?」

 

弾が刀奈を見て不思議そうに尋ねてくる。

 

「ああ、彼女は―――」

 

「初めまして。私は更識楯無。IS学園二年生で、生徒会長をしているわ。それと、彰人君の恋人の1人よ♪」

 

俺の言葉を遮って自己紹介を済ませた刀奈は、俺の左腕に絡みついてきた。聞いていた弾と数馬は呆然としている。

 

「……………………あれ? お前、確か恋人はセシリアと簪って子の2人じゃ―――」

 

「悪い、言ってなかったな。あの後訳あって恋人が3人増えたんだ」

 

申し訳なく思いながら言うと、2人は何度か頷くと、俺に掴み掛かってきた。

 

「彰人テメェ! 何いつの間にハーレム拡大してやがる!? 何をどうしたらそうなった!」

 

「く、詳しいことは俺にもわからん! 俺はただ自分の思うままに行動しただけで―――」

 

「やっぱり! 彰人は一夏以上の行動力を見せる時があるからな! 大方それに惹かれたんだろ!?」

 

「え、そうなの!?」

 

「「知らなかったのかよ!!」」

 

そんな同時にツッコまれても……てか、俺の行動力が原因って本当なの!? 今まで全然意識してなかったけど、今度から注意しといた方がいいな。

 

「まあまあ。そんなことより、ライブ会場に案内してあげるわ」

 

「え……でも、2人ともデート中なんじゃ―――」

 

「気にしない気にしない。ほら、行くわよ!」

 

「わ、わかったから引っ張るな!」

 

先頭に立って進んでいく刀奈引っ張られていく俺を、弾と数馬は苦笑しながら追いかけてきた。……何か恥ずかしい……。



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69th Episode

一年一組

 

「ここが、彰人君達がやっている喫茶店よ」

 

列に並びながら、刀奈は繁盛している俺達の教室を指す。

 

「結構繁盛してるんだな……他のとこと客の勢いが違う気がするが」

 

「そこは気にすんな。それより、次は俺達だ」

 

前の客が席に移動し、案内し終えた一夏がやってくる。

 

「いらっしゃいませ……って、弾と数馬じゃないか」

 

「よお一夏! 執事やってるって聞いたが本当だったんだな」

 

「ったく似合っちゃって。だからお前はモテるんだろうね」

 

「いやそれはわかんないが…でも何で彰人達も? 案内してたのか?」

 

「そんなところだ。それよりどうだ、売り上げは?」

 

「見ての通りさ」

 

教室全体を見渡し、肩をすくめながら言う一夏。この様子なら売り上げは大丈夫だし、俺が抜ける分の余裕はまだありそうだ。

 

「で、これからどこに行くつもりなんだ?」

 

「次は二組に行く予定よ」

 

「てことは鈴か。……あれ? 何かか…楯無さんが仕切ってる?」

 

「ああ、ご覧の通り仕切られてる」

 

苦笑して一夏に言う。さすがは生徒会長の肩書きを持っているだけあり、色々な場面で刀奈は率先して先導していく。……率先して変なことをやらかすこともあると虚さんから聞いたが。

 

「2人とも、聞いての通りだ。今から二組行って鈴に会うぞ」

 

「おう。久々の再会といくか」

 

「そうだね」

 

久しぶりに再会するであろう中学時代の友人に思いを馳せる2人と共に、俺達は二組へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年二組

 

ここは中華喫茶をやっているようで、クラスの女子のほとんどは色取り取りのチャイナドレスを着ている。

 

そんな中でクラス全体を見渡していると鈴ちゃんを見つけた。丁度接客を終えたタイミングだったので、声を掛けることにした。

 

「おーい、鈴ちゃん!」

 

鈴ちゃんは俺の方を見ると、俺の後ろに居る2人に一瞬目を丸くするものの、すぐに笑顔になって駆け寄ってくる。

 

「よう鈴! 久しぶり!」

 

「元気にしてたか?」

 

「弾! 数馬! そっちこそ久しぶりじゃない! ていうかよく来られたわね」

 

「彰人に招待券を貰ったんだ」

 

俺を指して言う弾に、鈴ちゃんは納得したように何度か頷く。と、ここで鈴ちゃんは2人が背負っているものを見てあることに気づいた。

 

「そういえば、簪が彰人と一夏に男子の助っ人を紹介してくれるよう頼んだって言ってたけど、それって弾と数馬のこと?」

 

「正解。で、ライブ会場まで案内しているんだけどまだ時間があるから、立ち寄ったんだ」

 

「へぇ~……私は時間的に見に行けないけど、成功を祈ってるわ」

 

「ああ、期待していてくれよ!」

 

激励の言葉を貰ったところで、俺達は二組の教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特設ライブ会場

 

アリーナの1つに作られたライブ会場に俺達はやってきた……のだが。

 

「あ。彼って確か、天を獲るって言ってた人?」

 

「隣にいるのは更識会長? でも後ろにいる2人は……誰だろう、友達かな?」

 

「う~ん、私は茶髪の人が好みかな?」

 

「そう? 私はその隣の人だと思うけど」

 

もう歩いているだけで注目が集まる集まる。俺と刀奈は苦笑し、弾と数馬は顔を顰めていた。

 

「彰人、お前等の普段感じてる気持ちがようやくわかった……」

 

「よく今まで無事でいられたな……」

 

「知り合いが居たのと、早い内から皆と打ち解けることができたからね」

 

弾と数馬が理解してくれたことに内心感謝しながら、肩をすくめて言う。

 

その後、控え室兼集合場所となっている更衣室の前に来て弾にノックを促すと、ドアを三回ノックして「あの、四組の助っ人として来た弾と数馬です……」と緊張気味に言う。するとドアの向こうから「どうぞー」と声が聞こえた。

 

「「し、失礼します……」」

 

完全に緊張しながら部屋に入る。その直後―――

 

パンッ! パンッ!

 

『『『ようこそ、一年四組へ!!』』』

 

クラッカーを一斉に鳴らされながら四組の女子達が出迎えてくれた。そのことに弾と数馬は驚きつつ、中へと入る。

 

「更識さんから話は聞いているわ。2人とも、今日はよろしくね」

 

「「……はい!!」」

 

1人の女子が期待して言った言葉に、2人は真剣な眼差しで頷く。まだ緊張しているとは言え、スイッチが入ったようだ。その時、俺達の後ろから声が聞こえてきた。

 

「6番、後5分で出番です」

 

振り返ると虚さんが居た。連絡事項を伝えに来たようだが、丁度弾と目が合った。

 

「あ……貴方は、あの時の!」

 

「っ、まさか……!」

 

二度目の再会に言葉が出ない2人。青春してるねぇ。刀奈なんてニヤニヤが止まらないって顔してるよ。

 

「いけない、もうこんな時間! 早く行かないと!」

 

そう言って先ほどまで座っていた女子達が部屋から出て行った。頑張ってな~。

 

「ところで虚ちゃん、2人の出番は?」

 

興味本意に刀奈が虚さんに問いかけると、持っていたプログラムを見た。俺も横から内容を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

『一年四組主催・特設野外ライブ~私達の歌を聴け!!~』

 

1日目

 

(1)Round ZERO~BLADE BRAVE (2)W-B-X~W Boiled Extreme~ (3)JUST COMMUNICATION (4)Switch On! (5)Shout out

 

休憩

 

(6)守護神-the guardian (7)Realize (8)Action-ZERO (9)Double-Action Strike form

(10)Alive A life―全員合唱ver―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……色々と濃いラインナップだった。しかも最後に龍騎の主題歌を合唱か……混ざりたいな。

 

「お2人の出番は…9番の『Double-Action Strike form』ですね」

 

ふむ、今が6番だからまだ時間はあるな。

 

「じゃあ俺は先に観客席に行ってるよ。楯無も行くか?」

 

「ええ」

 

ここで俺と刀奈は観客席に移動しようとしたが、

 

(ん?)

 

偶然にもスタンバイしている簪を見つけた。刀奈は気づいてないようだが、可愛い衣装を着ているな……あ、目が合った。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもない。先に行っててくれ」

 

「? わかったわ……」

 

先に刀奈を観客席に行くように言うと、俺は簪にそっと手を振った。簪はニコリと微笑んで手を振って返してくれた。俺は同じく笑顔になると、刀奈を追いかけ観客席へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺は刀奈と、弾達の活躍を見たいと言ってやってきた一夏と共に簪達の歌う『Action-ZERO』を聴いていた。

 

「心に響くな……」

 

「素晴らしいの一言だ」

 

「ええ。あんな風に歌い上げるのは私にだって難しいわ。さすがは簪ちゃんね」

 

やがて歌が終わり簪達がステージから下がると、ステージ袖から弾と数馬が緊張気味に歩み出てきた。無理もないか。

 

見守っていると2人は目を閉じて一度深呼吸した後、一気に見開いて楽器を掻き鳴らし、歌い始めた。周りに居る人達は更に盛り上がる。

 

「すげぇな。2人とも本気出すとここまでやれるのか」

 

「こりゃ一部の人達には効果覿面だな」

 

「みたいね」

 

チラリと横を見ながら言う。俺達から少し離れたところには虚さんとのほほんさんが座っており、弾と数馬をポーッと見ていた。

 

しばらくして歌い終えた2人は下がり、ステージ上には誰もいなくなる。最後の歌を今か今かと待ち侘びていた時、スモークと共に四組女子達と弾達がステージ下から迫り上がって来た。こんな演出までやるとは、改めてかなり凝ってることがわかる。そして……。

 

「本日最後の曲、行くわよ!」

 

「「俺(僕)達の!」」

 

『『『私達の!』』』

 

『『『歌を聴けぇぇえええええええーっ!!』』』

 

魂の籠もった叫びと同時に曲が始まる。全員揃っての合唱は中々迫力があり、観客達も先ほど以上に盛り上がり、聞き入っていた。

 

歌い終わる頃には、割れんばかりの拍手と歓声が四組の皆に送られた。一日目のライブは大成功で幕を閉じることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「あー疲れた……」

 

「こんなに疲れるとは思ってなかった……」

 

更衣室にて弾と数馬はベンチに座って背伸びしていた。周りには四組の女子達が疲れ果てて寝てしまっている。

 

「……2人とも、お疲れ様」

 

そこへ簪がお茶の入ったコップ2個を持って現れた。

 

「あ、どうも」

 

「ありがとう」

 

2人はお茶を受け取って一口飲むと、歌っている最中に観客席に見えた女性をそれぞれ思い出した。

 

「「布仏虚さん(布仏本音ちゃん)、か……」」

 

今日初めて出会ったあの2人に、彼らは好意を抱いていた……が、相手はIS学園の生徒。もう会えることはないかもしれない。それを寂しく感じながら、2人は楽器等の片付けを始める。そこへ―――

 

「あ、あの、五反田さん……」

 

「え、えっと…カズー……」

 

聞こえてきた声に弾と数馬は即座に振り返る。そこには頬をほんのり赤く染めた虚と本音が立っていた。その様子を見た簪は、気づかれないようにそっと部屋を出た。

 

「その、は、話がしたいのですが……ついてきて、くれますか……?」

 

「は、はい……」

 

虚に促されるまま、弾は人気のない廊下へと出た。そこで互いに何も言い出せない状況がしばし続く。

 

(こ、こういう時はどうやって切り出せばいいのかしら!? うぅ、こんなことならお嬢様か妹様に聞いておけばよかった……)

 

「……う、虚さん……?」

 

「は、はひっ!」

 

名前を呼ばれたことで思わず返事をするものの噛んでしまい、恥ずかしそうに顔を赤くする。その様子を弾は可愛いと思い見とれていたが、我に返って本題に入った。

 

「お、俺とメールアドレスを……交換、してくれませんか……?」

 

「え…………」

 

弾の申し出に虚はポカンとしていた。弾はこれまでの経験から、「ダメだ……脈なしか……」と判断した。だが、

 

「……はい。いいですよ」

 

「やっぱり……って、え?」

 

今度は弾がポカンとしていたが、慌てて携帯を取り出すと赤外線でメールアドレスのやりとりをした。その時点でいっぱいいっぱいだったので戻ろうとしたが、虚が声を掛けた。

 

「あの、五反田……弾さん! 私、待っています……明日も」

 

「っ! はい! 必ず来ます! ですから、楽しみにしていて下さい!!」

 

弾は満面の笑みを見せて応える。それから彼はガッツポーズを連発していたが、一方で虚もとても嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、更衣室では。

 

「隣…座っても、いい?」

 

「え? ああ、うん……いいけど」

 

ベンチに数馬が頷くと、本音は嬉しそうに笑みを浮かべて数馬の右隣に座る……が、ベンチの上に置こうとしていた本音の左手が数馬の手と当たった。

 

「っ…!」

 

「はわわっ!? ご、ごめんね……!」

 

互いに顔を赤くしながら身を寄せ合う。数馬は初めての経験にドギマギしながら、本音をチラチラと見た。

 

(可愛い……こんな可愛い子、僕の学校には居たかな? 居ないだろうな……)

 

「? カズー、どうしたの?」

 

それに気づいた本音が首を傾げて尋ねる。気がつくと数馬は思っていたことを口走っていた。

 

「いや、君みたいな可愛い女の子と一緒に居られるなんて、幸せだなって…………あ」

 

慌てて口を塞ぐも時既に遅し。本音はびっくりした表情で数馬を見つめていた。

 

(いかん、下手こいた……僕、終わったかな……)

 

完全に諦めモードに入る数馬。しかしそれは間違っていた。

 

「そ、そうなんだ……えへへ、初めて男の人に可愛いって言われちゃった……」

 

照れて顔を赤くする本音に、数馬は思い切って声を掛けた。

 

「えっと…本音、ちゃん……」

 

「本音、でいいよ」

 

「……本音。その、メールアドレス、交換しない?」

 

「……うん! いいよ!」

 

にっこりと笑顔を見せて頷くと、本音と数馬は携帯を取り出してメールアドレスを交換した。それから数馬は立ち上がって弾の元へと行こうとする。

 

「カズー。明日も待ってるからね」

 

「……うん。必ず来るよ」

 

そう言い残して、数馬は立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪SIDE

 

「……本音も虚さんも、上手くいくといいな……」

 

廊下を彰人と歩きながら私は呟いた。2人とも私を支えてくれた大切な人だから、幸せになってくれると嬉しい。でも恋愛経験はなさそうだし、大丈夫かな?

 

「なーに、きっと大丈夫さ。惚れた女には一途だからな、弾と数馬も」

 

「……彰人……そうだね」

 

彰人が言うなら、心配は要らないだろう。私は今度恋愛成就のお守りでも買ってあげようかな?と思いながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。とあるホテルの一室にて。

 

OutSIDE

 

「今回の任務を再確認するわ。まずオータムが偽名を使ってIS学園に侵入。織斑一夏ないし矢作彰人の所有するISを奪取する。失敗した場合は私とエムが突入して援護しつつ脱出……大丈夫かしら?」

 

金髪の女性、スコール・ミューゼルが茶髪の女性、オータムに尋ねる。

 

「私は特に問題ない。……ま、このまま組織にいていいのかとは思うけどさ。それよりアイツだよ。おい、本当にやれんだろうな?」

 

オータムは部屋の隅に一夏の写真を持って立っている小柄な少女を見て言った。その顔は織斑千冬にそっくりだった。

 

「当然だ。ただ、兄さん……織斑一夏は私の手で倒す。それを忘れるな」

 

「……いいの? 折角貴女のお兄さんに会うことができるのに」

 

「それが任務だからな」

 

淡々と述べ、写真を握り潰すエムという少女。それを見たオータムは顔を顰めていた。

 

「アイツもある意味不憫だな。この組織に居たばっかりに……」

 

「そうね……でもどうしようもないわ。私達にできることは、任務を遂行することだけよ」

 

そう言うと、スコールは自身の右耳につけてある金色のイヤリングに触れた。



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70th Episode

簪SIDE

 

学園祭もいよいよ2日目。私達は野外ライブの準備を進めていた……と言っても、ほとんどは昨日のままだからそんなに急いではないけど。

 

「……えっと、今日の内容は……」

 

手元にある2日目のプログラムを見る。

 

(1)Anything Goes! (2)ETERNAL BRAZE (3)LIFE IS SHOW TIME (4)Time judged all

 

休憩

 

(5)RHYTHM EMOTION (6)Happily ever after (7)Revolution (8)SKILL―四組全員&一年生専用機持ちver―

 

 

昨日よりかは数が少ないが、それでも十分濃密な内容だ。でも最後のにはとても焦った。実はまだ了承を得てない状況でノリと勢いで決まってしまい、大慌てでみんなに頼み込む羽目になったのだ。けど、みんな快く了承してくれてホッと一安心した。

 

「……今日もたくさん見に来てくれるといいな」

 

音楽機器を見ながら、私はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、IS学園正門前にて。

 

OutSIDE

 

「さすが学園祭だな。熱気が半端ないぜ」

 

「私達がやってた時よりも凄いわね」

 

ラフな格好をしてサングラスを掛けている省吾と同じくラフな格好をしている由唯が周りを見て言う。

 

「んふふ~、いっくん達はご奉仕喫茶をやってるんだって。楽しみだな~!」

 

隣には変装(髪型と服装を変え、伊達メガネをつけている)をした束が立っている。

 

「ったく。お前が来たと知ったら、千冬の奴どんな顔をするのやら……」

 

「ブリュンヒルデの驚く顔か……ふむ、一度は見てみたいものだな」

 

顎に手をやりながら言ったのは、省吾達と同じくラフな格好をしているB.Dことブラントだった。

 

「……つーかお前が来ることにまず驚いたわ。息抜きでもしに来たのか?」

 

「それもあるが、昨晩展示用に運び込まれた我が部隊のマニューバスレイヴがどうなってるか気になったのと、部下達を休ませようと思ってな」

 

「なるほど。道理でお前の部下まで居る訳だ」

 

言葉の通り、ブラントの部下達はそれぞれ自由な服を着て学園祭を楽しもうとしている。更に彼や省吾のSP達も、自由な格好で警護に当たっていた。

 

「もうしょーくん! そんなことより、早く行こうよ!」

 

「わ、わかったから引っ張るなって!」

 

束に服を捕まれて引っ張られる省吾を見て、由唯は「あらあら」と微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「いらっしゃいませ! あちらの席までご案内します」

 

2日目の初っ端から俺達は飛ばしまくっていた。相変わらず客足が遠退くどころか増加し続けているからである。

 

「いらっしゃいま……って兄ちゃんに由唯さん?」

 

「よう彰人! 久しぶりだな」

 

俺が次に接客しようとした相手はグラサンを掛けた省吾兄ちゃんと、由唯さんだった。

 

「何でここに?」

 

「彰人君達が頑張ってるところを一目見たかったの。ふふ、似合ってるわよ。服」

 

「うっ……あまり見られると、恥ずかしいです……」

 

いたたまれない気持ちになってしまい、一夏に助けを求めようと視線を向けるが……。

 

「執事服姿のいっくん、可愛い~!」

 

「可愛いっておかしくありません!? ていうかは、離れて下さい!」

 

「そ、そんなに一夏に引っ付くのはやめて下さい!」

 

束さんに思い切り抱きつかれており、箒ちゃんが慌てて止めに入っている始末だった。……俺の方がマシだな。

 

「ほう……これはまた、中々どうしてクオリティが高いな」

 

と、省吾兄ちゃんの隣に立っていた男性が周りを見渡して言った。あれ? この人って……。

 

「……あの、ブラントさんですか?」

 

「ああ。改めてよろしく頼む、矢作彰人君」

 

「いえ、こちらこそ」

 

俺はブラントさんと握手を交わしながら言った。それにしても大統領まで学園祭に来るとは、改めてIS学園の凄さがわかった気がする。

 

「うりうり~♪」

 

「……助けて~…」

 

……そろそろ束さんを止めた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特設ライブ会場ステージ裏

 

OutSIDE

 

「俺達の出番は4番、午前のラストか」

 

「妙に緊張するよ」

 

弾と数馬は椅子に座ってプログラムを一通り見る。すると、彼らの前にお茶が出された。思わず顔を上げると弾の前には虚が、数馬の前には本音が立っていた。

 

「虚さん……!」

 

「本音……!」

 

2人は自分の思い人の名前を呼んで破顔する。虚と本音も頬が緩むが、虚は気を引き締めて言った。

 

「だ、弾さん。ライブ、見てますから……」

 

「私もカズー達のライブ、見てるからね~!」

 

「「え……」」

 

弾達は思わず呆けてしまい、そうしてる間に虚達は観客席へと去ってしまった。弾と数馬は少しして我に返ると、顔を見合わせて言った。

 

「……数馬、やるぞ」

 

「……うん」

 

「「俺(僕)達の歌を、虚さん(本音)に届ける!!」」

 

決意を胸に、2人は各々の楽器のチェックを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方観客席では。

 

「弾さん……」

 

「カズー……」

 

最前列に腰掛けた2人はポーッと空中を眺めながら恋した相手を想っていた。

 

(中学の頃まで、私の周りには良い印象の男性は居なかった。でもあの人は、弾さんは身を挺して私を守ってくれた……)

 

(カズーに助けられた時に、私の心にはカズーのことが深く刻まれちゃった……今も考えるだけで胸が熱くなっちゃう……)

 

彼女達の弾や数馬に対する想いはこの2日間で強くなっていった。それは自分の抱いている気持ちを自覚させるのに十分であった。

 

((私は、弾さん(カズー)のことが……好き))

 

そして時間は流れ、弾と数馬が歌う番になる。

 

「よし…行くぞ数馬!」

 

「ああ! 行こう弾!」

 

気合を入れ、2人はステージ上へと進む。マイクの位置等を調整すると、演奏を開始した。

 

「「Time judged all!!」」

 

歓声と共に『Time judged all』がアリーナに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ、一年一組

 

彰人SIDE

 

俺は一通りの接客を終え、腕時計をチラッと見た。

 

「そろそろ時間か……みんな、行くぞ」

 

声を掛けると周りに居たセシリア達が作業を止めて廊下へと向かい始めた。

 

「あら、もうそんな時間なんですの?」

 

「だったら早く行かないとな。あ、鈴は俺が呼びに行くよ」

 

「確か専用の衣装に着替えないといけないのだったな。その時間を入れると、急いだ方がいいかもしれん」

 

「何に着替えさせられるんだろう? あまり変なのじゃないといいけど」

 

「同感だ」

 

「大丈夫さ、多分な」

 

アリーナのライブ会場に向かいながら言う。人前に出す衣装なのだから変なのが混じってる訳は無い筈……だよな?

 

「あ、来た来た! こっちだよ~!」

 

ライブ会場に着くと1人の女子が手招きして、男女別で更衣室に案内してくれた(俺と一夏は大体の場所はわかってたけど)。さて、衣装はと……。

 

「この服って、まさか……」

 

「これボロボロだと思ったら仕様なのかよ……じゃあやっぱあのキャラなのか」

 

 

俺と一夏はどんなキャラの格好をするか察し、「果たして似合うか?」と思いながら着替えた。その後は更衣室から出ようとしたのだが―――

 

「ん? ちょっと待て」

 

「どうした彰人?」

 

「みんなも着替え終わったようだ。折角だから全部見てから出ようぜ」

 

「それ逆にハードル上がるんじゃ……」

 

イマイチ気乗りしない一夏の肩を軽く叩いて「いいからいいから」と言うと、みんなが出てくるのを見届けた。

 

まず最初は箒ちゃん。赤と白の二色の巫女姿だ。一夏曰く、「夏祭りの時とちょっと違う」んだそうだ。

 

「着る分には文句はないが、どことなくデジャヴ感があるな」

 

袴を見ながら箒ちゃんは言う。何となく気持ちはわかる。次に出てきたのは鈴ちゃん。ドラゴンの刺繍が入った緑と赤のチャイナドレスを着ている。二組で着てたのとは違う奴だ。

 

「アルトロンみたいな感じがするわね。良いじゃん」

 

衣装が気に入ったのか、鈴ちゃんは笑顔を浮かべる。3番目に出てきたのは簪だ。MEGAMAXで登場した美咲撫子の着ていた制服を着用している。

 

「……宇宙、キター?」

 

何となく真似をしてみたようだが、すぐに顔を赤くしてしまう。……可愛い。今度はセシリアが出てきた。青と白のワンピースを着込んでいるのだが、とてもしっくりくる。

 

「似合っていますかしら?」

 

どこか不安げにセシリアは呟いた。大丈夫、かなり似合っている。

 

次はシャルがショートパンツにオレンジのシャツという出で立ちで現れた。どことなくシャルのイメージに合っているが……。

 

「うぅ……は、恥ずかしいかも……」

 

本人は恥ずかしげだった。最後にラウラが出てきた。どうやらガンダム00の地球連邦の軍服を着ているようだ。

 

「ふむ、ガンダム00の世界観ではこのような軍服を着ているのか。良いデザインだな」

 

本物の軍人であるラウラもご満悦、と言ったところらしい。

 

「……おい、俺が言った通りにハードル高くなったぞ。どうする?」

 

「……腹括って出よう」

 

結局自信を無くしてしまい、覚悟を決めて更衣室を出た。そうしたら全員の視線が俺と一夏に集中して固まった。当然だ……何故なら、一夏がマジンカイザーSKLの海動剣の格好をしてて俺が真上遼の格好をしているからだ。が、固まったのは一瞬で次の瞬間、皆一様に顔を真っ赤にさせた。

 

「い、いい一夏! は、は、裸の上に……!」

 

「一夏!? ヤバイ、鼻血出そう……!」

 

「彰人さん……(ポーッ」

 

「「か、カッコイイ……」」

 

「に、似合っているぞ、彰人……」

 

「「お、おう……」」

 

そう言われるのは嬉しいが、顔真っ赤にする程か? うーん、恋する乙女には目にフィルターがかかると言うが、そんなものか?

 

 

 

 

 

 

疑問を感じながらステージ下へと移動すると、照井竜の格好をした弾と秋山蓮の格好をした数馬が居た。……俺達もライダー系の衣装がよかったな。

 

「おっ、やっと来たか。てか2人とも似合ってんな~」

 

「イケメンだからな、一夏も彰人も」

 

「お前等だって十分似合ってるじゃないか」

 

互いにからかいながら準備を進めていく。そして全員が立ち位置に立ったところで、ゆっくりとステージ上に上昇して行った。

 

ステージからは大勢の観客が見える。その中には省吾兄ちゃんに由唯さん、束さんと千冬さんも居る。これは期待に応えなきゃな!

 

『さて皆様、大変長らくお待たせしました! 最後は四組と専用機持ちが歌う『SKILL』!!』

 

進行役の人の合図と共に、曲が流れ始める。そして………………俺達は全力で歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ライブは無事大成功に終わり、俺達専用機持ちは急いで着替えて別のアリーナに向かった。そこで刀奈が開くシンデレラの劇に参加する為だ。……もう完全に嫌な予感しかしないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「あの、すみません。織斑一夏さんでしょうか?」

 

「ん? 誰です?」

 

着替えて走っている時、俺は1人の女性に呼び止められた。

 

「初めまして。私、こう言う者です」

 

名刺を渡してきたので受け取って読む。

 

「何々、『IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙礼子』……巻紙さんと言うんですか」

 

「はい。是非、我が社の装備を使っていただけないかと」

 

要するに装備の売り込みらしい。本当ならじっくり話した方がいいが、生憎時間がない。

 

「すいません、今から演劇を行わなくてはならないので、それが終わってからでいいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「助かります。それじゃあ」

 

俺は大急ぎでアリーナへと向かった。……にしてもあの人、どっかで会ったことある気がするんだよなぁ。どこだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四アリーナ

 

彰人SIDE

 

『昔々、あるところに、シンデレラと言う少女達が居ました』

 

ライトが点灯すると同時に刀奈のナレーションが始まる。が、やはりおかしい。シンデレラ『達』なんて……あ、『JUST LIVE MORE』が流れ始めた。

 

『シンデレラ達は神に等しい力をもたらすという黄金の果実を手に入れるべく、戦場を駆け回っていました。しかし果実は最後に勝ち残った者にのみ与えられるもの』

 

ここで俺と一夏にスポットが当たる。……果実を与える者は俺達ってことなの?

 

『今宵もまたシンデレラ達が戦う。黄金の果実を持つ2人の王子に選ばれる為に、彼女達は駆け巡る!』

 

まずい、これ逃げた方が良さそうだ。

 

『さあ戦え、シンデレラ達よ! 戦わなければ生き残れない!!』

 

その直後、武装してドレスを着たシンデレラ(という名の肉食系女子)達が一斉に走ってきた。

 

「……どうする彰人?」

 

「……決まっている…………………逃げるんだよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

 

一先ず俺達は全力で逃げる。えーっと、セシリア達はどこだ!?

 

「彰人さぁぁぁああああああん!!」

 

「「彰人ぉぉぉおおおおおおお!!」」

 

「……あ、彰人…!」

 

……居た。それも目の前に。

 

「彰人さん! その王冠を渡して下さいまし!」

 

「えっと、渡したらどうなるの?」

 

「……彰人と同室になる権利が与えられる」

 

「何っ!?」

 

そんな話は初耳だ!? おのれ刀奈め、よくもやってくれたな!

 

「この中から1人選べとか、鬼畜の所行か!」

 

全員という選択肢があればまだ良かったのに!! いや、無理だろうけど!!

 

「そういうことだから、渡して……ね?」

 

「すまん彰人。私も彰人と同室になりたいのだ!!」

 

「クソッ……!」

 

過去最大級の難関を前に、俺はどうすることもできずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「「一夏、頼む(お願い)。私に王冠を……」」

 

「う、うぐぐぐ……!!」

 

箒と鈴に詰め寄られて俺は悶えていた。2人の内どちらかと相部屋だと? どちらともという選択肢はないのか!? 刀奈さん、アンタ鬼だよ!!

 

「し、しばらく考えさせてくれ!!」

 

そう言って俺は走り出した……が、直後に誰かに腕を捕まれて引っ張られた。

 

「うおっ!? な、何だ…って巻紙さん?」

 

「大丈夫ですか? 何やら困っていたようなので、助けに入りましたが」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ある意味困ってはいたけど、理由言ったら呆れられそうだな……。

 

「それで装備の件なのですが」

 

「あー……それでしたらすみません。俺のISには既にパッケージがインストールされていて、それで容量埋まっててもう入らないんですよ」

 

そう、ダブルオークアンタにはフルセイバー以外のパッケージが入らないようになっている。当然交換も不可能だ。

 

「そうですか……では」

 

「っ!?」

 

直後、巻紙さんから殺気を感じて慌てて飛び退く。と、俺が居た地面がファングらしきもので抉られた。

 

「チッ! 良い勘してやがる……やっぱりただのガキじゃねぇな!!」

 

いつの間にか彼女はISを展開していた。その姿はガンダムスローネツヴァイだ。

 

「その口調……アンタ、あの時の!」

 

「覚えていたか。そうとも! 私はオータム、あの時お前等を誘拐した亡国機業(ファントム・タスク)の一員さ!!」

 

「くっ!」

 

クアンタ(フルセイバー)を展開して身構える。楽しい学園祭が、とんでもないことになりそうだぜ……。



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71th Episode

俺は目の前の敵、ガンダムスローネツヴァイを見据えながらGNソードⅣフルセイバーを構える。

 

「アンタの目的は何だ? また俺の誘拐か?」

 

「いいや……私の任務は、お前のダブルオークアンタを奪うことだ!」

 

そう叫ぶと、オータムは接近しながらGNバスターソードを引き抜き、そのままの勢いで振り翳してきた。俺はGNソードⅣでそれを防ぐ。

 

「っ、そうかよ……! なら尚更戦う理由ができた!!」

 

GNソードⅣからGNガンブレイドを1つ取り外すと、ガンモードにしてオータムの腹に撃ちまくる。

 

「うおっ!? やるじゃねぇか! ますますソイツが欲しくなったぜ!」

 

オータムは左腕に取り付けられたアタッチメントから何かの機械らしきものを射出した。それは俺の体に取り付くとエネルギーを放ち、直後にクアンタが解除された。

 

「クアンタが!? 剥離剤(リムーバー)という奴か!!」

 

「ほう、知っていたとは大した奴だ。その通り、これのお陰でダブルオーのコアはいただきだ!」

 

スローネツヴァイの左手にはダブルオークアンタのコアである、菱形のクリスタルが握られていた。

 

「チッ、万事休すか……クソッ!」

 

「そういうこった。お前のことは嫌いじゃないが、これも任務なんでな。悪く思うなよ!!」

 

再びGNバスターソードを構える。だが―――

 

 

 

 

ドガァァァァァン!!

 

 

 

 

「なっ、グアッ!?」

 

そこにバスターライフルのビームが襲いかかり、オータムを吹っ飛ばした。

 

「ったく、遅いじゃないか……彰人!」

 

「悪い悪い。抜け出すのに苦労してな」

 

振り返った先には、ツインバスターライフルを構えたウイングガンダムゼロカスタム―――彰人とガンダムアストレイコールドフレーム天ミナ―――刀奈さんが居た。

 

「気づくのが遅かったら危なかったわね……状況は?」

 

「クアンタを奪われた。どうにかして取り返したいんだが、できないか?」

 

「OK。私に任せて頂戴」

 

「俺も手伝った方がいいか?」

 

「いいえ、この程度の相手なら1人で平気よ」

 

刀奈さんはそう言って1人前に出た。随分自信があるようだが、大丈夫だろうか?

 

「チッ…横から割り込んだ癖に言うじゃねぇか! 食らえ!!」

 

立ち上がったオータムはGNファングを放つ。

 

「甘いわね」

 

しかし刀奈さんは即座にミラージュコロイドを発動。ファングを全て避けた。

 

「ミラージュコロイドか! どこへ行った―――グアッ!!」

 

周囲を見渡すオータムの身体がくの字に曲がると、トツカノツルギで装甲を貫き、マガノイクタチで機体を挟み込んだ刀奈さんが姿を現した。……アレをやる気か。

 

「貴女のエネルギー、吸わせて貰うわよ!」

 

そう言った直後、マガノイクタチが光り輝いた。

 

「スローネツヴァイのエネルギーが!? させるかっ!!」

 

咄嗟にGNハンドガンを放つオータム。刀奈さんはトリケロス改で防ぐが、オータムは脱出してしまった。

 

「まさかエネルギーを吸収するとは恐れ入ったぜ。だがその目論見は外れたな!」

 

「そうね……でも、目的は達成したわ」

 

刀奈さんは右手をひらひらさせて見せる。そこにはクアンタのコアが握られていた。

 

「っ! テメェ、あの時に奪ってやがったか!!」

 

「ええ。……ああそれと、シールドエネルギーに気をつけた方がいいんじゃない?」

 

「はぁ? 何を言って―――」

 

怪訝そうに首を傾げた時、オータムは何かに気づいたようだ。

 

「……シールドエネルギーが減少し続けている? テメェ、何を……まさか!?」

 

「そのまさか。私のマガノイクタチには、直接触れなくてもエネルギーを吸収できる機能があってね。速度は落ちるけど不意打ちには持ってこいなの」

 

トリケロス改を構えながら言う刀奈さん。形勢逆転とはこのことだ。

 

「さて、どうするかしら? 大人しく降参してくれると助かるんだけど」

 

「誰が……っ! ようやく来たか!」

 

その時、上空から三機のISが降下してきた。機体はどれもサイコガンダムだった。

 

「またコイツ等だと? お前等が持ってたのか?」

 

「ご名答だ。さあ、やれ!!」

 

サイコガンダム達に指示を出すと、オータムはISを解除して逃走した。

 

「逃がすか!」

 

「待って彰人君! まずはコイツ等を倒すのが先よ」

 

「っと、そうだったな」

 

「一夏君、これを」

 

「おっと。ありがとうございます」

 

投げ渡されたクアンタのコアをキャッチすると、俺もクアンタを身に纏う。

 

「さあて、やるか!」

 

「ああ! 一気に決めてやるぜ!」

 

「相手が無人機なら、私も遠慮はしないわ!」

 

それぞれの得物を構え、俺達はサイコガンダム三機と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「はぁ……はぁ……クソッ! 私としたことが!」

 

息を切らしながら悪態をついたオータムは、建物の陰に隠れた。そこで息を整えると、状況を判断する。

 

(任務に失敗したから、スコールとエムが来る筈だが、それまでに私が襲われたら―――)

 

「そこを動くな」

 

「っ!?」

 

突然後ろから聞こえてきた声に振り返ると、ビームサブマシンガンを突き付けてくるハイペリオンガンダム―――ラウラがおり、その周辺にはストライクフリーダムガンダムやアルトロンガンダム、アリオスガンダムにアストレイブルーフレームセカンドLとアストレイレッドフレーム改が武器を構えてオータムを取り囲んでいた。

 

「突然楯無さんが来て緊急事態って言うから何事かと思ったけど、テロリストが侵入してたなんて」

 

「僕達が遅ければ、そのまま逃げられてたかも」

 

言い合いながらも、彼女達は武器を下ろさない。相手が生身だからと言って、決して安全ではないからだ。

 

「お前の所属はわかっている。亡国機業(ファントム・タスク)……だったな。目的は一体何だ?」

 

「へっ、私は口が堅いんだ。誰が言うか!」

 

「……そうか、仕方ない。少々手荒に行くぞ」

 

ビームキャノンを展開しながらラウラが言った時、ハイペリオンが警告を示した。

 

『上空より二機のISが接近中。本機及び周辺機はロックされています』

 

「! いかん、全員避けろ!!」

 

「「「「「っ!!!!」」」」」

 

ラウラの咄嗟の指示で全員がその場から離れた直後、先ほどまで居た場所に一斉にビームが襲ってきた。

 

その後上を向くと、敵機と思われる二機のISが映った。が、その内の一機を見てセシリアは目を見開いた。

 

「そんな……まさかアレは!?」

 

ドラグーン搭載型IS二号機、『プロヴィデンスガンダム』。ストライクフリーダムの兄弟機として開発されていたが、展覧会で何者かに奪われたとセシリアは聞いていた。

 

亡国機業(ファントム・タスク)でしたのね……!」

 

理解しつつもう片方の機体を見る。こちらは全身を金色の装甲で包んでおり、データベースに該当するものはなかった。が、基になったガンダムと照合したことで少なくとも『アカツキガンダム(オオワシ装備)』という名前であることはわかった。

 

二機のISは銃口を各機に向けながら降下し、その内のアカツキガンダムにオータムは駆け寄った。

 

「スコール、ごめん……ダブルオーもウイングゼロも、奪えなかった……」

 

「いいのよ。貴女が無事なら……チャンスはいくらでもあるわ」

 

そう言うとスコールはオータムを脇に抱えて再び飛行し、離脱しようとする。

 

「逃がすと思っているのか!」

 

「……ここで倒す!」

 

箒と簪が接近しようとするが、その前にプロヴィデンスが立ちはだかる。

 

「ありがとう、エム。できる限り時間を稼いだら戻って来るのよ。いいわね?」

 

「……了解だ」

 

エムは一言だけ応えると、スコールとオータムが上空に脱出するのを見届け、『ユーディキウム・ビームライフル』を構えた。

 

周囲に緊張が訪れたその時―――突如としてサイコガンダム三機が吹き飛ばされてきた。

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

全員が思わず吹き飛んできた方向を見ると……。

 

「どいてろみんな! 怪我するぞ!!」

 

叫びながら走ってきた彰人、一夏、刀奈がISを纏った状態でジャンプ。それぞれGNソードⅣフルセイバー、ビームサーベル、トツカノツルギを投げつけ頭部に突き刺すと、空中からキックを放った。

 

「「「セイッ、ハァァァァァァアアアアアアアアアアア!!」」」

 

それは各々の武器を蹴り込んでより奥に押し込むと、サイコガンダムのボディを足場に武器を引き抜きながら離脱し近くで着地した。サイコガンダム達は火花を散らし、ツインアイから光が消えて動かなくなった。

 

「ふぃ~、やろうと思えばライダーキックもできるんだな」

 

「機体に負担がかからないか心配だが」

 

「中々面白い技ね。今後取り入れてみようかしら」

 

余裕有り気な3人を見てセシリア達は安堵するが、ただ1人、エムだけはダブルオークアンタ・フルセイバーをじっと見つめていた。その視線に一夏も気づき、プロヴィデンスを見据える。

 

「? 何だお前? 俺のこと見つめてきて」

 

「私の名前はエム。織斑一夏、貴様を倒させて貰う!」

 

言うが早いか、エムは左腕の複合兵装防盾システムからビームサーベルを展開し、一夏に斬りかかった。一夏は咄嗟にGNソードⅣ・セイバーモードで攻撃を防ぐ。

 

「っ……! 恨みを買った覚えは、無いんだがな! せめて理由を聞かせてはくれないか!?」

 

「……いいだろう。よく見るが良い」

 

そう言うと、エムはプロヴィデンスのフェイス部分を解除した。現れた素顔に、一夏だけではなくその場に居たほぼ全ての人間が驚愕した。

 

「な、何だと!?」

 

「……………………」

 

「嘘でしょ……」

 

「ば、バカな……有り得ん……!!」

 

「な、何故…………!!」

 

「……どういう……こと!?」

 

「な、何よ? 何がどうなってるっていうの!?」

 

「これって現実? 僕の目が、おかしくなっちゃったんじゃないの!?」

 

「そんな……何故貴様がその顔を!!」

 

彼女の顔は―――織斑千冬そのものであった。正確には、若い頃の織斑千冬であったが。

 

「ついでに教えてやろう。エムというのはコードネームだ。私の本当の名前は……織斑マドカだ」

 

『『『っ!!!!!!!』』』

 

エム―――織斑マドカの言葉に彼らは目を見開く。一体彼女は何者なのか? 一夏と千冬には他にも血縁者が居たのか? など様々な疑問が脳裏を過ぎる。

 

「さて…これでわかった筈だ。私が貴様を倒さねばならない理由が!!」

 

言いながらマドカは距離を取り、複合兵装防盾システムからビーム砲を放つ。一夏はソレを避けつつ、GNソードⅣフルセイバーをライフルモード(連射)にする。

 

「いいや、余計わからなくなった! そして知りたくなったね! お前の正体がさ!!」

 

GNソードⅣ・ライフルモードからビームを連射し、マドカを攻撃していく。マドカは軽々避けるが、避けた先に投げられたGNガンブレイド・ツインエッジを食らって機体がダメージを受ける。

 

「っ、そうか。なら私も、本気になるとしよう!!」

 

今度はドラグーンを全機展開すると、それらを使ってオールレンジ攻撃に移行。更にマドカ自らも移動しつつユーディキウム・ビームライフルを放つ。

 

「うおっ!? くっ!」

 

一夏も負けじとGNソードビットを放つが、マドカの方がやや有利であった。

 

(ドラグーンを稼働させながら自らも攻撃するなんて……! ドラグーン適正が私よりも高いと言うんですの!?)

 

公式記録でドラグーンの最高適正値を持つセシリアは、マドカの操作技術を見て愕然とした。

 

「一夏! 1人じゃ危険だ! 私が加勢し「必要ない!」一夏!?」

 

「コイツの相手は俺が努める。干渉、手助け、一切無用!!」

 

「よく言った織斑一夏ぁ!!」

 

一夏の宣言にマドカも攻撃の手を強める。が、一夏はGNソードⅣを量子変換して通常のクアンタに戻ると、攻撃を避けながらマドカに問いかけた。

 

「織斑マドカと言ったな! お前が何者なのか、何故俺を狙うのかを、話す気はないのか!?」

 

「ない!」

 

「そうか……なら少々強引な手を使うまでだ!!」

 

そう言うと一夏は動きを止め、モニターを操作した。

 

 

 

『ツインドライヴ完全安定。システムオールグリーン』

 

 

 

 

『              TRANS-AM BURST/.

               QUANTUM SYSTEM              』

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「な、何だ―――うわあぁぁぁああああああっ!?」

 

GN粒子がクアンタとプロヴィデンスを包み込み、2人の意識は現実から切り離された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

クアンタムバーストによって意識が繋がれた空間に飛んだ俺は、そこで織斑マドカとその隣に佇んでいるプロヴィデンスガンダムのコアと思われる、グレーの髪の少女を見据えた。

 

『よう。気分はどうだ?』

 

『一体何なんだこの空間は? 不思議と心地良いが……それに私の隣に居るコイツは誰だ?』

 

『彼女はプロヴィデンスのコアだ』

 

『何?』

 

『こうして顔を合わせるのは初めてね。改めてよろしく、マドカ』

 

『あ、ああ……』

 

随分フレンドリーに絡んでくるプロヴィデンスのコアにマドカは困惑しているようだ。

 

『さて、マドカ。色々と聞きたいことがあるんだが……いいか?』

 

『……別に構わない。ここには武器も、何もないのだからな。良い退屈凌ぎになる』

 

反応が上々だったことに一先ず安心し、俺はマドカに1つずつ質問を投げかけていく。

 

『何故お前は千冬姉さんと同じ顔をしているんだ? 俺に妹はいなかった筈だが』

 

『それは、私が織斑千冬をベースにして生み出されたクローンの1人だからだ』

 

『クローン…ラウラと似たようなもの、か……1人ということは他に何人も居るんだろうな……まあそれは今は置いといて、何故お前は俺の命を狙った? 俺に何か恨みでもあるのか?』

 

『いや……任務だからだ』

 

『そうか……随分と従順なことで。で、そこにお前の意志とかは含まれているのか?』

 

『…………………………………………………………』

 

俺がそう問いかけた途端、マドカは急に押し黙ってしまった。

 

『おい、何とか言ったらどうだ?』

 

『……言わない。言える訳がない、それだけは…………!?』

 

小声で呟いたマドカは何かに気づき、体中をまさぐる。一体どうしたんだ?

 

『体内の監視用ナノマシンなら既に消滅してるわよ』

 

プロヴィデンスのコアが代わりに答えるように言った。……監視用ナノマシンだと? そんなものが体の中に?

 

『マドカは組織に対しての忠誠心が無かったから、逆らえないようにナノマシンを注入されていたの。それが消滅したのは、恐らくクアンタムバーストの影響よ』

 

『なるほどな……』

 

確かに原作でも疑似GNドライヴの毒性に蝕まれていた人達の体を、完治させたもんな。そっくりそのまま再現してあるなら、ナノマシンを消滅させても何ら不思議じゃあない。

 

『で、では……私は、自由なのか……!? もうなんのしがらみも無いのか……!!』

 

『……マドカ。さっきの質問に、答えてくれるか?』

 

『ああ…いくらでも答えよう。私を縛るものは、無いようだからな』

 

驚いた表情から落ち着いたものに変わると、マドカは少しずつ話し始めた。

 

『私は、貴方を……兄さんを殺すつもりは無かった。任務の性質上仕方なく従っていただけで、本当はずっと……会いたかった』

 

『そうか…なら、組織に戻りたいという気持ちはないんだな?』

 

『当然だ。拾ってくれたことには感謝しているが、誰があんな組織に……!』

 

手を強く握りしめて腹立たしげに言うマドカに安堵し、俺は次の質問をした。

 

『じゃあ組織の事とか、身の回りの事とかも詳しく教えてくれるか?』

 

『わかった。そうだな……まずは―――』

 

『待て、ここから先は一度みんなのところへ戻ってからしよう。その方が手間がかからない』

 

『兄さんが言うなら私は構わないが、それではプロヴィデンスと離れてしまうな……』

 

コアを見つめながら寂しそうに言うマドカだったが、彼女は頭を振るとマドカを見て言った。

 

『心配いらないわ。私はいつもマドカの傍に居るもの。だから……ね?』

 

『……ありがとう、プロヴィデンス。お前と話せて、嬉しかった』

 

マドカが言った後、俺の意識は空間から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、俺はクアンタを装着した状態で立っており、マドカはプロヴィデンスを解除した状態で倒れていた。俺はマドカに近づいて彼女を抱きかかえると、呆然としている箒達を見て言った。

 

「この子を保健室に連れていく。尋問等はそれからだ」

 

すると箒達は我に返って頷き、ISを解除した。ただ……彰人だけは難しそうな顔でマドカを見ていた。



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72th Episode

OutSIDE

 

彰人達がサイコガンダム三機にキックを放っている頃、IS学園から少し離れた上空では。

 

「ここまで来れば、逃げ切れたか?」

 

「さあ……どうかしらね? 逃げ帰る場所さえも、私達には無いのかもしれないのだから」

 

「……そうだな」

 

アカツキガンダムを展開したスコールとその脇に抱えられたオータムが若干暗い気持ちで話す。2人とも何かにウンザリしているようだった。スコールは首を横に振って気持ちを切り替えると、アカツキガンダムのスラスターを噴かそうとした―――だが。

 

「逃がさないぜ、亡国機業(ファントム・タスク)さんよ!!」

 

「「!!」」

 

声がすると同時に目の前にGR-2ガーランド隊とヴィルデ・ザウ隊が立ちはだかり、更にそれぞれの部隊の先頭にはガンダムアストレイアウトフレームD(エールストライカー装備)とザーメ・ザウが佇んでいた。

 

「騒ぎを聞きつけたら、まさか白昼堂々と忍び込んで来ていたとは……こんなこともあろうかと、持ってきた甲斐があったな」

 

「まさかこんなところで貴方と相まみえるなんてね……しかもデータにないISまで居るし」

 

「スコール、奴の相手は私にさせてくれ」

 

いつの間にかスコールの腕を抜け出し、ダメージが抜けきってないガンダムスローネツヴァイを展開したオータムがアウトフレームDを見て言った。

 

「大丈夫なの? 貴女のISはダメージが残ってるし、あのISは性能が未知数だから私が相手した方がいいと思うんだけど」

 

「だからこそだ。私じゃ負けるかもしれないが、スコールならブラントと互角に張り合ったことあるんだろ? だったら賭けてみるべきだ」

 

「なるほど……確かにそうね(最も、彼の実力が前のままだったらという話だけど)」

 

若干の不安を胸に抱きながらも、スコールはザーメ・ザウの前へ進んだ。

 

そして……

 

「さあて、行くぜっ!!」

 

「来るぞテメェ等! 気をつけろ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

「悪いけど、本気モードで行かせて貰うわよ!!」

 

「全機、撃ち方用意。ターゲットは金色のISだ!!」

 

『『『はっ!!』』』

 

両者の戦いがついに始まった。一体どのような戦いになるのか、まずはオータムの方からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「散開して敵を取り囲め! 相手が手負いだからって油断すんなよ!」

 

省吾の指示でGR-2ガーランド達がオータムの周囲に散らばり、省吾自身は正面から一斉攻撃を仕掛けていく。

 

「(チッ、やるじゃねぇか……だが!)行けよ! ファングゥ!!」

 

オータムは8基のGNファングを射出し、GR-2ガーランド達へ攻撃させる。が、それを見た省吾はマスクの下でニヤリと笑みを浮かべた。

 

「よし、かかった! やっちまえ!!」

 

指示を飛ばすとGR-2ガーランド達は広く散らばった上でビームガンを使って一機ずつ、確実にGNファングを撃墜していく。

 

「なっ!? まさか、最初からこれが狙いで!?」

 

「いくらファングでも、あんなに広がっちまったら威力は分散されるからな!」

 

そう言い、ビームライフルを連射しながら接近する。

 

「っ!!?? その声、テメェまさか男なのか!?」

 

驚きながらもオータムはその場で左右に動いて回避し、GNバスターソードで迎え撃とうとするが省吾はエールストライカーパックを分離しつつオータムを飛び越える。その行動に一瞬反応が遅れた為、オータムはエールストライカーの体当たりを食らってしまった。

 

「ぐおっ! んの野郎! 小癪な手を―――うわぁあああっ!!」

 

背中への強い衝撃に悲鳴を上げるオータム。彼女の後ろには、ブラストシルエットを装備したアウトフレームDがケルベロスを構えて見下ろしており、彼女が振り向くより前にソードシルエットに換装してエクスカリバーを両手で一本ずつ持ち急接近する。

 

「貰った!」

 

まずは右手に持ったエクスカリバーでGNバスターソードを真っ二つに両断すると、左手に持ったエクスカリバーを喉元へ押し当てる。オータムはGNハンドガンを展開するが、省吾に右手で掴まれ握り潰された。

 

全ての武器を破壊され、更にとどめと言わんばかりに周囲をビームガンを構えたGR-2ガーランド隊が取り囲んでいた。

 

「……参ったよ。降参だ」

 

勝ち目なしと判断したオータムは両手を上げ、降参の姿勢を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方スコールは、アカツキガンダムのバックパックをシラヌイ装備に変更し、ビームライフル『ヒャクライ』を構える。

 

「各機、プラズマサーベルを構えろ。あの機体にビーム攻撃は通じない」

 

ブラントは部下に指示を出し、プラズマサーベルを手に持つ。ザーメ・ザウやヴィルデ・ザウの主武装はほぼビーム兵器であり、アカツキガンダムの特殊装甲はビームを無効化する効果があるので接近戦を挑まざるを得ないのだ。

 

「良い判断だわ。でも、それで上手く行くほど甘くはないのよね……」

 

呟きながらスコールはバックパックにある7基のドラグーンを射出し、ヴィルデ・ザウ達を追尾しつつビームで攻撃する。そして自分はヒャクライでブラントを狙い撃っていく。

 

奇しくもオータムと似た戦法だったが、ビームが効かないという能力がある分、こちらの方が有利であった。ブラントはどうにか攻撃の合間を潜り抜けて懐に飛び込んでプラズマサーベルを振るうが、スコールは柄を連結させたビームサーベルでソレを防いだ。

 

「ふふ、惜しかったわね。念願だった初勝利、獲らせて貰うわよ!」

 

ビームサーベルを持つ手に力を込めるスコールだったが、ブラントは小さく笑って言った。

 

「フッ……私の部下をあまり舐めない方がいいぞ?」

 

「? どういう意味かしら?」

 

怪訝に思いながらハイパーセンサーで見てみると、衝撃的な場面が映った。今まで動き回っていたヴィルデ・ザウ達が急に動きを止め、そこにドラグーンで攻撃した。……のはいいが、それと同時にヴィルデ・ザウ達は急速上昇して回避し、目標を失ったビームは互いに衝突、爆発が起き煙幕でドラグーンやヴィルデ・ザウが隠れてしまった。

 

「っ!……良い部下達を持ったのね」

 

「まあな!」

 

言うと同時にブラントは一度身を引いてスコールを前のめりにさせると、ビームサーベルを持っている手を掴んで膝蹴りを食らわせ、ビームサーベルを落とさせる。更にアイアンクローをかまして頭部のバルカンを潰すと、プラズマサーベルを喉元寸前まで斬りかかって静止させる。そこへ続々とヴィルデ・ザウ隊が集まって来る。どうやらドラグーンは全て撃墜されたようだ。

 

「生憎だが、まだまだ勝ちは譲れんよ」

 

「……そうみたいね」

 

オータム同様全ての武器を失ったスコールは、彼らに投降することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・保健室

 

彰人SIDE

 

「……どうしたんだ? 人の顔をじろじろ見て」

 

「いや……あまりに似ていると思ってな。織斑先生に」

 

保健室のベッドに入って上半身を起こしている織斑マドカは、刀奈を含めた専用機持ち達や千冬さんの視線を受けていた。

 

「もう調子は良くなっただろうし、そろそろ聞いてもいいんじゃないかしら? あの子が何者なのか……とか」

 

「そうだな。よし、では私が「ちょっと待った~!」ん?」

 

鈴ちゃんの言葉に千冬さんが頷いた時、保健室の扉が開いて束さんが入って来た。後ろには唯さんと険しい顔をした省吾兄ちゃんが居る。

 

「束さん……それに省吾兄ちゃん達まで?」

 

「束さん……?」

 

「ね、姉さん?」

 

「束…省吾…由唯……何故ここに?」

 

突然の登場に俺、一夏、箒ちゃん、千冬さんは不思議に思い、セシリア、鈴ちゃん、シャル、ラウラ、簪、刀奈は驚いて目を見開いていた。

 

「この娘に関しての詳細は束さんが代わりに答えるよ~! さすがに本人の口からは言えないようなこともあるし、いいでしょ?」

 

そう言って束さんはマドカを見る。いきなり現れたことに驚いていたが、事情がわかると無言で頷いた。彼女的には言いたくないこともどうやらあるらしい。

 

「ではまずこの子の正体からなんだけど~……なんとこの子は、ちーちゃんの遺伝子から生み出されたクローンなのだ~!」

 

『『『なっ……!?』』』

 

束さんの言葉に、この場に居た全員が声を上げる。いや、前以て知っていた俺とある程度予測してたらしい一夏はそこまで驚いてないが。それと省吾兄ちゃん達も驚いてはいない。既に束さんが話してたのかな?

 

「そ、それは本当なのか……? 束……」

 

恐る恐る千冬さんが尋ねると、束さんはマドカちゃんを一瞥して言う。

 

「そうだよ。正確には、最強の兵士を誕生させる為にちーちゃんの遺伝子を使って作られた、A~Zまでの26人の試作クローンの内の1人……『M』だけどね。ああそれと、その研究所は地球上から末梢してあるよ」

 

続けて言う束さんに俺達は驚くと同時に背筋が寒くなる。特にA~Z辺りで俺は「マジか……」と思った。マドカちゃん以外にクローンが作られていたとは……予想外だ。

 

「だけど私が研究所に向かった時には、もう試作クローンのほとんどは『処分』されてて、まーちゃんや僅かに生き残った子達も奴ら……亡国機業(ファントム・タスク)に攫われていた。そこでまーちゃん達はナノマシンを注入され、奴らの戦闘マシンとして訓練させられた。織斑マドカって名前も、その時与えられたんだと思うよ」

 

「そうだったんですか…………ん? 待って下さい。その話だと、マドカの他にも生き残ってる子達が居ますよね? その子達はどうなったんですか?」

 

「それは「みんなは……まだ亡国機業(ファントム・タスク)に居る」まーちゃん?」

 

「この説明は私にさせてくれ。そうでないと、みんなに申し訳がない……」

 

「まーちゃん……わかった」

 

神妙な面持ちで言ったマドカちゃんに束さんは頷く。そして、マドカちゃんはゆっくりと話していった。

 

「篠ノ之博士が言った通り、私と共に生き残った者達は亡国機業(ファントム・タスク)に拾われ、逆らえないようナノマシンを注入された上で戦闘マシンになるよう訓練を受けさせられた。そして訓練だらけの日々の中で、私達は織斑一夏とオリジナルである織斑千冬の存在を知った」

 

どこか遠い目をしながら、マドカちゃんは説明を続けていく。

 

「更に、IS学園に潜入するメンバーを私達の中から1人選抜するという連絡も来た。……正に渡りに船で一瞬喜んだよ。私達の兄さんや姉さんに会うことができるんだから。でも、それは同時に会いに行くことができるのは、たった1人ということを意味していたんだ」

 

「で、マドカが選ばれた、と……」

 

「ああ。最初は皆に申し訳がなかったが、希望を託し、後押ししてくれたお陰で行く決心がついた。……だが、私に与えられた任務は『ダブルオークアンタ』ないし『ウイングガンダムゼロカスタム』の奪取に失敗した場合、敵を足止めしろというものだった…無論、兄さんもだ。織斑マドカという名も、敵を錯乱してその間に撃破する為に与えられた」

 

「そんな……それじゃあ、一夏や千冬さんと会えても、戦うことしか……」

 

「酷い……」

 

「酷いなんてもんじゃねぇ、奴らは悪魔そのものだ。束経由で詳細を見たが、奴らは仲間の意志なんかこれっぽっちも考えちゃいない……!」

 

愕然として言う鈴ちゃんとシャルに、怒りを滲ませて言う省吾兄ちゃん。やっぱり束さん経由で知っていたのか。でもあの兄ちゃんがここまで怒るなんて、相当ヤバイんだな。亡国機業(ファントム・タスク)って。

 

「結局、私の体内にあったナノマシンはクアンタムバーストで消滅して自由の身にはなれたんだがな……」

 

「……それで、マドカはこれからどうするんだ?」

 

「これから、と言うと?」

 

千冬さんの問いにマドカちゃんは首を傾げると、刀奈がそれに続いて言った。

 

「本来ならIS委員会に引き渡すべきなんだろうけど、マドカちゃんの件に関しての元凶だからそれだと危険すぎるのよね」

 

「それってどういう……! まさか、織斑先生の遺伝子を渡したのは、IS委員会だと言うんですの!?」

 

「そうでなきゃ、人間のクローン作製が禁止されてる中でとても研究なんてできないもの。委員会が後ろ盾になってる可能性はほぼ100%よ」

 

そうだったのか……確かに、刀奈の言う通り監視の目を誤魔化すにはIS委員会の力を借りなければ不可能だ。どこの組織も、一部の人間が悪いことをするというのはお約束なのか……。

 

「だから織斑先生はどうするかを尋ねたのよ。このままここに居るのかどうかを、ね」

 

「…………私は……」

 

マドカちゃんは俯き、黙り込んでしまった。自分だけがここに居ていいのか、とかを考えているんだろう。俺は思い切って声を掛けることにした。

 

「選ぶんだ。亡国機業(ファントム・タスク)の一員じゃない、君自身の意志で」

 

「私の、意志……」

 

再び俯くと、彼女は顔を上げ何かを決心した表情で言った。

 

「……私は…此処に、兄さん達の居るこの学校に居たい。他の誰でもない、織斑マドカとして。……あんなところは、もう嫌だ……」

 

「マドカ……」

 

「よっし、決まり! んじゃ後は色々手続きとかしないといけないけど、そこんとこ頼んじゃっていい?」

 

「ええ、勿論です」

 

パンッと手を叩いて言った束さんに、刀奈は頷く。手続きか……一体何をするんだろう。機体を引き続き使えるようにするのかな? まあそれはともかく、大事なのは―――

 

「その……これから、よろしく頼む」

 

―――マドカちゃんは、俺達の仲間になったってことだ。

 

「ああ、こちらこそよろしく。だけど……ごめん。俺達のせいで、迷惑を掛けて」

 

「すまない……」

 

「兄さん、姉さん、顔を上げてくれ。私は兄さん達を恨んじゃいない。むしろ感謝してるぐらいだ。2人が居なければ、私達は生まれなかったのだから。……ただ、スコールやオータムが聞いたら、どう思うか―――」

 

「あら。私は喜ぶけど? やっと組織の呪縛から逃れられたんだし」

 

「私も同意見だな」

 

『『『っ!!!!』』』

 

突然聞こえて来た声にドアの方を見ると……。

 

「よっ。さっきは包囲してくれてどーも」

 

「もうオータムったら。嫌味を言わないの」

 

「昔から変わらないな」

 

手錠をつけたオータムとスコールという女性が、ブラントさんに付き添われていた。




マドカにオリジナル設定を加えました。後々生き残りも登場します。


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73th Episode

「オータム……! それに隣の人は、アカツキのパイロットか!?」

 

「何故ここに……!! ひょっとして、ブラントさんが撃墜したのか?」

 

何が起きてもいいよう警戒しつつ、ブラントさんを見る。そうでなければ説明がつかないが、果たしてどうなのか。

 

「そうよ。見事に追い詰められちゃってね」

 

「最もブラントにやられたのはスコールで、私はソイツのISでやられたんだがな」

 

そう言いながら、オータムは省吾兄ちゃんを見やる。そうか、兄ちゃんが倒したのか…………………ん? 今何て言った?

 

「ちょっ! おま、その話は―――」

 

「IS? どういうこと?」

 

「い、いや、それは……」

 

汗をダラダラ流しながら省吾兄ちゃんが言葉に詰まっていると、束さんが焦ったように前に出た。

 

「い、言っちゃダメだよしょーくん! それ以上言ったら、しょーくんにIS適正があって、私がこっそり専用機を作って渡したことがバレちゃう!!」

 

「何だって!? 兄ちゃんにIS適正が!?」

 

「専用機を渡したぁ!?」

 

「ほらバレた~!」

 

「お前が言ったんだろうが!! 何もかも包み隠さず!!」

 

自分から言っておいて頭を抱える束さんに、省吾兄ちゃんが鋭いツッコミを入れる。いやそんなことより、束さんが言ったことの方が大事だ!

 

「……省吾、束。どういうことか、詳しく話して貰おうか? 包み隠さず、な?」

 

千冬さんの絶対零度の視線に束さんと兄ちゃんは無言でガクガクと頷くと、すぐに色々話し始めた。それによると、俺と一夏がISを動かした段階で束さんはもしやと思い省吾兄ちゃんにIS適正があるかどうか調べたそうだ。結果、理由は不明ながらも適正があることがわかったので、来るべき時(おそらく亡国機業(ファントム・タスク)との本格的な戦いのことだろう)の為に束さん、兄ちゃん、由唯さんの3人(+ブラントさんの部隊)だけの秘密とした上で専用機を作った……らしい。

 

「事情はわかった。が、私にずっと隠していたのは許せない。後でたっぷり説教をさせて貰うぞ、いいな?」

 

「「「は、はい……」」」

 

明らかに怒り心頭の千冬さんに兄ちゃん達は気圧されており、みんなはそれを見て絶句していた。

 

「そ、それよりスコールとオータムが言ってたことなんだけど、本当なのか?」

 

空気を変えるように言ったマドカちゃんの言葉に、スコール達が我に返って答えた。

 

「勿論そうよ。というか、私が今まで嘘をついたことがあったかしら?」

 

「それはそうだけど……でも、私は亡国機業(ファントム・タスク)を抜けるんだぞ? 放っといていいのか?」

 

「いいんだよそんなこと。私もスコールも、ついさっき組織を抜けたばっかだし。ま、元々上の連中のやり方には賛同しかねていたし、いい頃合いさ」

 

「抜けたって……」

 

「元々任務にしくじったら抜けようって決めててな。それにどうせ、今頃上の連中は私達を死亡扱いしてるだろうからな。仮に戻ったところでお前等誰だ?ってなるに決まってらぁ」

 

肩をすくめながら冗談めかしたようにオータムは言ったが、とても笑えるような話ではない。任務に失敗した者は即切り捨てるのが、向こうの連中のやり方か……酷いなんてもんじゃないな。

 

「……ちょっと待って。じゃあそこの2人は、味方になったってこと?」

 

疑いの目を向けながら簪が言うと、代わりにブラントさんが口を開いた。

 

「そうだ。勿論私も疑ったが、我々の仲間になる代わりに重要な情報を与えてくれた」

 

「交換条件ってことか。ちなみに、どんな情報だったんだ?」

 

ただならぬ雰囲気を出しているブラントさんに省吾兄ちゃんも真剣な面持ちで尋ねる。どうにも嫌な予感がしてならないな……何があるって言うんだ?

 

「今度、IS学園でキャノンボール・ファストという行事が行われるそうだが、そのタイミングで再び亡国機業(ファントム・タスク)が仕掛けてくるらしい」

 

『『『何だと(ですって)!?』』』

 

原作通りの展開だが、驚いてしまった。本来そこで襲って来る筈のマドカちゃんはここに居るのに、誰が仕掛けて来るんだ?

 

「それなら私達の方でも少しは知っているわ。確か織斑マドカが襲撃してくる予定になっていたけど、別の誰かが来るのかしら?」

 

「ああ。万一織斑マドカが任務に参加できない場合には、エスとオーともう1人の人物が任務を遂行させるそうだ」

 

「何っ!? それは本当なのか!?」

 

刀奈の問いに答えたブラントさんに、マドカちゃんが目を見開いて驚く。エスとオー……まさか―――

 

「マドカ。そのエスとオーってのは、お前の……」

 

「……そうだ。私と共に救出された、試作クローンの2人だ……」

 

やはり……嫌な予感は、これのことだったのか……。

 

(姉妹同士で、戦うことになるっていうのか……)

 

重苦しい雰囲気になってしまい、結局その場は一旦解散することになった。だが俺と一夏、ラウラと千冬さんは保健室に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「マドカ、大丈夫か?」

 

「ああ。この通り、元気そのものだ」

 

「そうじゃない。さっき言ってたことだ。……戦うことになるかもしれないんだろ? 姉妹と」

 

心配そうに一夏が言う。マドカはため息をつくと言った。

 

「兄さんが心配しなくても、私はちゃんと戦える。相手が誰であってもな」

 

「本当か? 無理をしているんじゃあるまいな?」

 

「無理なんてしていない。私はこう見えて、任務で多くの戦場を渡り歩いて来たんだ。肉親同士の争いなど、とっくに見飽きた」

 

ラウラの言葉にマドカは事も無げに答えると、「だが」と前置きをして話を続けた。

 

「だからと言って何も話さずに戦う訳じゃない。できる限り穏便に済ませられるように心がけるさ」

 

拳を強く握りながら、マドカは言う。それを見て、皆はマドカが本当は姉妹との戦いを望んでいないことを悟った。

 

「……マドカ」

 

「? どうした、姉さん?」

 

「お前はこれからIS学園で生活することになるんだが、制服のサイズを測らせてくれないか?」

 

「わかった」

 

場の空気を変えようと発言した千冬に頷き、ベッドを降りようとしたマドカだが、突然動きを止めた。

 

「どうしたの?」

 

「いや……よく考えれば私は普通の暮らしをしたことがないと思ってな。楽しいものなのか?」

 

首を傾げて素朴な疑問を投げかけてくるマドカに、一夏と彰人は顔を見合わせると笑顔で述べた。

 

「ああ、一言じゃ言い表せないくらい楽しいことがあるぞ」

 

「例えば、そうだな―――」

 

思いつく限りの楽しいことを上げていくと、マドカは目を輝かせる。IS学園での暮らしに期待を寄せてる彼女を見て、千冬もラウラもつられて笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸にて

 

省吾とブラントは並び立ち、共に無言で海を眺めていた。が、やがて省吾の方から口を開いた。

 

「IS学園も、そろそろ安全じゃなくなって来たな……襲撃されまくってるし」

 

「退学者も増えているそうだ。平和ボケしていた者を一掃できたという意味では良いかもしれんが……」

 

「良い訳あるかよ。ったく」

 

近くに落ちてた小石を拾って海に投げ込み、小さくため息をつくと省吾は座り込んで再び海を眺めた。

 

「……何でこんなことになっちまったんだろうな……俺達はISやガーランドを兵器として作ったつもりはねぇのに。十年前のミサイルハックから、全部おかしくなったんだ……」

 

「……省吾。そのことだが……」

 

ブラントは省吾の隣に座り込みながら、話を切り出した。聞いてる側の省吾もただならぬ雰囲気に何事かと顔を向ける。

 

「あの日、世界中のミサイルをハッキングしたのが俺の指示によるものだとしたら……どうする?」

 

「っ!!」

 

その言葉に省吾は目を見開き、そしてブラントを睨むように見る。が、ふぅと一息つくと昔を懐かしむような表情で見て言った。

 

「やっぱりな……って言うと思うぜ。何せお前は、軍を掌握したことがあったからな。それくらいやっても不思議じゃあない」

 

「理由は聞かないのか?」

 

「大方、束をバカにした連中が許せなかったんだろ? 俺だって今も許せないからな、あの場に居た連中は」

 

「そうか………………」

 

彼の言葉に目を閉じながら呟いたブラントは、ゆっくりと立ち上がりそれにつられるように省吾も立ち上がる。

 

「B.D。お前、名乗り出る気か? 今の世界を作ったのは自分(テメェ)だって」

 

「ああ。亡国機業(ファントム・タスク)を片付けた後でな……墓場まで持っていくには、少々荷が重くてな」

 

「………………………」

 

立ち去ろうとするブラントの肩を省吾は掴み、今度は強い怒りの籠もった目で睨み付けた。

 

「俺はテメェがどう行動しようが知ったこっちゃねぇって思ってる。だがな、アイツ等のことはどうすんだよ?」

 

そう言って省吾は目配せする。その方向をブラントが見ると、スコールとオータムが立ち尽くしていた。

 

「スコール、オータム……聞いていたのか」

 

「ええ。お陰で色々と知りたくないことを知ってしまったわ」

 

言いながらスコールは近づき、ブラントをじっと見つめた。

 

「勝手な人ね……昔からいつもそう。何でも独断で決めちゃって、私達のことなんてほったらかしでどんどん先に進んで行って……挙げ句に、居なくなるって言うの? ふざけんじゃないわよ」

 

スコールは目に涙を浮かべ、言葉を繋いでいく。

 

「やっと本当の意味で会うことができたのに、置いて行かないでよ……もう、寂しい思いをするのは嫌なの……!」

 

ブラントに抱きつき、啜り泣くスコール。そんな彼女とブラントを見て、オータムが近づいて言った。

 

「スコールさ……お前と誘拐事件で一度会った時、私以上に喜んでいたんだ。組織を抜けるのも、お前と共に歩められると思ったからだ」

 

「俺は世界を変えた、重罪人だぞ?」

 

「そんなこと関係ねぇよ! 確かに今の世界に不満は抱いてる。けどな、今更自分がやったって言って晒し者になるってんなら、ぶん殴ってでも止めてやる!」

 

「………………」

 

「俺もソイツと同意見だ。テメェのことを想ってくれてる奴が居るのに、1人でどっか行こうってんなら、ぜってぇ許さねぇ。それにテメェだって、本当は……」

 

しばし考え込んだブラントは深いため息をつくと、スコールとオータムを見やって言った。

 

「……そうだな。お前の言う通りだ。俺が正しいと信じていたことは、全て正しい訳ではなかった」

 

「お前……」

 

「思い通りに生きる……ずっと前にお前に言ったことを、お陰で思い出せたよ」

 

「かなり大事なことじゃない、それ。思い出すのが遅すぎるのよ、貴方は……」

 

そう言うとスコールはブラントの胸元に顔を埋め、オータムも彼の体にコツンと頭を当てた。ブラントは無言で彼女達を抱き締め、省吾は静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園生徒会室

 

「今度はキャノンボール・ファスト、か……アイツ等、どうしてこうも行事がある時ばかり狙って来るのかしらね」

 

呆れながら刀奈は、手に持っていた缶ジュースを飲み干す。近くには簪と箒、セシリアに鈴にシャルロットがいた。

 

「中止にはできないんですか? そうすれば―――」

 

「できるんならとっくにやってるわよ。でもそんなことをすれば逆に学園全体がパニックになるし、連中が何をしてくるかわかったもんじゃないわ」

 

セシリアの疑問に即答で刀奈は返す。中止にしたくてもできないというジレンマに、彼女は困っているのだ。

 

「とりあえず予定通りキャノンボール・ファストを行って、襲って来たら僕達が相手をするのがいいと思う。大丈夫だって! 勝てない相手じゃないんだからさ」

 

「……そう、ですわね」

 

頷きながら同意したセシリアだったが、彼女の脳裏にはプロヴィデンスの戦闘場面が何度も再生されていた。

 

(プロヴィデンスガンダムが奪われてから今日までの日数は、私が訓練をしていた日よりも短い……なのに操作技術は彼女の方が上……私は、これまで何の為に―――)

 

「ちょっとアンタ、どうしたの? そんな険しい顔して」

 

「っ、何でもありませんわ(これまで以上に練習しなければ。負けっ放しは、もうたくさんですもの)」

 

心配そうに覗き込む鈴に平静を装うが、その心中には闘志が沸いていた。

 

「それが妥当ね。でも……アレはどうしたらいいのかしら?」

 

横目で刀奈は部屋の隅を見る。そこには待機状態のアストレイブルーフレームとプロヴィデンスとスローネツヴァイを持った束が何やら考え込んでいた。

 

「姉さん、さっきから何をしているんですか? というか残ってていいんですか?」

 

「ん? あ~、帰るタイミングを逃しちゃってね~……それにやりたいことも見つけたし」

 

「……手に持ってる私のISと、何か関係があるんですか?」

 

「モチのロンだよ! 3つとも中々の出来だとは思うけど、私的にはもうちょっと改善できると思うんだ。これから本格的な戦いも始まるだろうし、やっておいて損はないからね」

 

「は、はぁ……」

 

「キャノンボール・ファストまでには完成させとくから安心しといて。……あ、ところでキャノンボールっていつやるんだっけ?」

 

「今月の27日ですけど」

 

「あ……」

 

日程を刀奈が言った瞬間、箒が何かを思い出したような顔になった。

 

「……どうしたの?」

 

「9月27日……その日は、一夏の誕生日なんだ」

 

「あ、そういえばそうだったわね」

 

箒の言葉に鈴も思い出したようで、2人して「どんなプレゼントをあげたらいいんだろう?」という話になる。更にセシリア達も「そういえば彰人の誕生日っていつだっけ?」という話題で盛り上がった。

 

(いいねぇ、青春だね~。ま、ちょっと違うとこがあるけど)

 

その状況を束は楽しみつつ、三機のISの改造プランを考えていた。



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設定3

登場IS

 

1.5ガンダム/リボーンズガンダム

 

原作での銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に当たる機体。一次形態の1.5ガンダムでは背部のバインダーを駆使することで様々な攻撃及び防御をすることが可能。必殺武器はアルヴァアロンキャノン。

戦闘中に二次移行(セカンドシフト)し、リボーンズガンダムに変貌。内部に隠されていたもう1つのISコアが露出しツインドライヴシステムを発動。トランザムが使用可能になり、リボーンズキャノンと呼ばれる形態への変形能力を得た他、新たにGNフィンファングが追加された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムエピオン

 

原作でのファング・クエイク。射撃武器が一切なく、全ての武器が近接格闘武器のみという特徴を持ち、ウイングガンダムゼロのゼロシステムと同じシステムの『エピオンシステム』を搭載している。その為、システムを使ったウイングゼロと唯一対等に戦える機体と噂されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアストレイレッドフレーム改

 

原作での紅椿。しかし本作では後述するM1アストレイのベースになった機体でもある。当初はフライトユニットを装備したレッドフレームだったが、箒の強い意志によって変化。エネルギー回復能力は無いが、背部にあるタクティカルアームズⅡLの機能はそれを十分賄える。武装はタクティカルアームズⅡLを変形させた剣や弓にクローアーム。そして両腰にマウントされている日本刀型武器のガーベラ・ストレートとタイガーピアス。

タクティカルアームズⅡLは地上に居る時は基本のVフォームだが、空中に飛ぶ時は即座にフライトフォームに変形する。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は『ヴォワチュール・リュミエール』で、ソレを応用した最大加速能力は無限大。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウイングガンダムゼロカスタム

 

ウイングガンダムゼロ(TV版)が二次移行(セカンドシフト)した機体。変形機構はオミットされたが、背中のウイングは天使の羽のようなものになり、運動性と攻撃力が強化された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダブルオークアンタ

 

ダブルオーライザーが二次移行(セカンドシフト)した機体で、原作での雪羅の立ち位置に当たる。武装はGNソードがⅢからⅤに変化し、GNソードビットが追加。機体のバランスがより良くなった他、トランザムバーストがクアンタムバーストに進化しISコアそのものと対話することが可能になった。

 

原作にはない専用パッケージのGNソードⅣフルセイバーが存在し、使用した場合は限定的な状況ではあるが、全ISを単機で殲滅することが可能になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアストレイゴールドフレーム天ミナ

 

原作におけるミステリアス・レイディで、本作ではブリッツガンダムのデータを基に開発された。ブリッツのパーツ(右腕部分)を流用しており、ブリッツ同様にミラージュ・コロイドによるステルス機能を搭載している。またマガノイクタチというエネルギー吸収機能を持ち、相手のシールドエネルギーを吸収し自分のエネルギーとして回復できる。吸収方法は相手に密着して直接吸い取るか、特殊なフィールドを展開しそこに相手を誘い込んで触れずに吸い取るの二種類で前者は一体にしか使えないが吸収スピードが速く、後者は何体にも使えるが吸収スピードはやや遅い。自機のエネルギーが満タンの時に吸収すると、空きスペースに自動的にストックされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロヴィデンスガンダム

 

原作でのサイレント・ゼフィルス。ストライクフリーダムとは兄弟機で、全体的に高性能な機体。ドラグーンシステムを搭載しており、操縦者のマドカの技量もあって凄まじい機動力を誇る。後に束によってレジェンドガンダムに改造される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムスローネツヴァイ

 

原作のアラクネに当たる機体。GNバスターソードとGNファング等を装備しており、トランザムは使えないものの、操縦者次第ではその性能差を充分にカバーすることが可能。ただし一対多ではやや不利になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカツキガンダム

 

原作でのゴールデン・ドーン。全身金色のカラーリングが特徴で、ビームを無効化する特殊装甲を持つ。強力なビーム砲を備えたオオワシ装備と、ドラグーンを備えたシラヌイ装備の2つから装備を選択し、戦闘中も自由に付け替えることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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キャノンボール・ファスト編
74th Episode


やあ諸君、矢作彰人だ。学園祭も終わって兄ちゃん達も帰り、再びいつもの日常が始まった……とは残念ながら言えない。朝のSHRからして既に変化があるからだ。

 

「みんなおはよう。今日は、新しいクラスメイトを紹介したいと思う。では入って来なさい」

 

ガラッ

 

「失礼します」

 

千冬さんに促されて教室に入った女の子を見て、誰もが目を丸くした。無理もない話だ。何せその顔は、千冬さんそっくりだからな。

 

「初めまして、織斑マドカだ。兄さんや姉さんとは訳あって離れて暮らしていたが、この度転校することになった。何卒よろしく頼む」

 

女の子―――マドカちゃんの挨拶にクラスの女子達は納得して頷く。ちなみにこれは一夏と千冬さんが捻りだした案だそうだ。中々上手いと俺も思う。ああそれと、スコールとオータムはIS学園の教師としてしばらく働くことになったそうだ。確かオータムが体育教師でスコールが保険医だったような。

 

「よし。では織斑妹は……ボーデヴィッヒの隣に座りなさい」

 

「はい」

 

教壇から歩き出し、ラウラの隣の席に腰掛けるとすぐに2人で軽く話をし始めた。

 

「よろしくな、ラウラ」

 

「ああ。私こそよろしく、マドカ」

 

……こうして見てると似てるよな、ラウラもマドカちゃんも。喋り方とか雰囲気とか。

 

「次に連絡事項がいくつかあったな。山田先生」

 

「はい。まずは今度行われる『キャノンボール・ファスト』についてですが―――」

 

この後HRは滞りなく進んだが、休み時間にはマドカが質問攻めに遭っていた。見てて辛かったので俺達で救助してあげた。

 

そういえば学園祭の結果が気になったけど、一夏は剣道部に入ったみたい。偶然だけど本人も嬉しがってたな、箒ちゃんと一緒だって。俺? 俺はソフトボール部だよ。お陰で力加減が大変。割と楽しいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、食堂

 

「疲れた……何なんだ彼女達は? 何故戦場に居る時よりも疲れなければならないんだ……」

 

疲れ切ってテーブルに突っ伏しているマドカを見て苦笑しながら、俺はみんなと食事をしながらキャノンボール・ファストについての話をしていた。

 

さて以前から話題となっているキャノンボール・ファストが一体何なのか、説明しよう。と言っても、ISを使ったレースのようなものだが。ちなみにこれはIS学園と市の共同による特別イベントで行われ、安定性が約束されているので、妨害が認められている。無論量産機と専用機では性能が違い過ぎるので、別々に行われるが。

 

「確か、それ用にISを調整するんだってな。具体的に何するんだ?」

 

「例えば、私のストライクフリーダムのように高機動パッケージを換装しますわ」

 

つまりミーティアということか。アレは一口に高機動と言っていいのか些か疑問ではあるが。

 

「エネルギーの配分を調整するのも良さそうだな」

 

「スラスターの出力調節も、忘れずやっておかないとね」

 

「私はパッケージを使うわ。リボーンズガンダムの時と同じだけど、機動力が上がるからね」

 

順にラウラ、シャル、鈴ちゃんが答える。やっぱり機体ごとにカスタマイズできるというのは正直羨ましい。一度でいいからやってみたいなぁ。

 

「……私の機体は束さんが改造しているからどうなるかはわからないけど、ちゃんとキャノンボール・ファスト用の調節もしてくれるみたい」

 

「私のもだな。ただ、しの……束さんがどんな機体にするのか気になるけど」

 

簪とマドカちゃんの話を聞きながら俺はふとセシリアを見た。が、セシリアはどこか沈んだ表情をしていた。

 

(マドカちゃんが来てからずっとこの調子だ。理由は大方わかっているけど)

 

多分マドカちゃんの方がドラグーン稼働率が高いので、焦りを感じているんだろう。昨夜もそれでか結構遅くまで練習してたみたいだけど、あまり根を詰めるのはよした方がいいと思う。

 

「彰人。俺等はどうしたらいい?」

 

「小細工なしの全力、これに尽きるな。だから量子テレポートとか使うんじゃねーぞ」

 

「当たり前だ。あんな反則技、レースで使う訳ないだろ」

 

わかっていると思いながらも一応一夏に釘を刺しておき、俺達は昼食を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、整備室にて。

 

簪SIDE

 

私は織斑先生立ち会いの元、マドカとオータム…先生と整備室に訪れていた。何と、束さんが改造していた私達のIS全てが昨日の今日で完成したと言うのだ。

 

「本当に完成したのかよ? いや疑う訳じゃないけどさ、普通じゃまず無理だぜ」

 

「ふふん。ISを一度に改造するくらい、束さんには朝飯前なのだ~!」

 

至極真っ当なオータム先生の疑問に束さんは胸を張って答える。どうしてか説得力のある答えだと思った。

 

「コイツは昔から不可能を可能にしてきたからな……」

 

「(姉さんがそれを言うのか?)それでどんな機体になったんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれました! ではでは早速お披露目しちゃおう!!」

 

言いながら束さんは待機状態のISを地面に置き、手持ちのディスプレーを操作するとパイロットがいない状態でISが通常形態に変化した。

 

「……これが、改造した私達のIS……」

 

「どことなくプロヴィデンスの面影はあるな」

 

「何か私のだけ、悪人面じゃないか……?」

 

それぞれのISを見て抱いた感想を口にする。

 

「順番に説明していくね。まずかんちゃんのISはガンダムアストレイブルーフレームセカンドリバイと言って、タクティカルアームズに新たに2つのフォームを追加して使いやすさを向上させたんだ。それとアーマーシュナイダーのデザインも変えたし、踵にも仕込んどいたよ」

 

「……す、凄い……」

 

それしか言いようがなかった。たった1日で武装を追加して、しかもレース用に調整してあるだなんて。……ていうかその呼び方、本音や姉さんみたい。

 

「次にまーちゃんのだけど、このISはレジェンドガンダムって名前なんだ。具体的にどこが変わったかって言うと、まずビームライフルの連射性の向上に小型化でしょ? それから複合兵装防盾システムを取っ払って柄同士で連結できるビームジャベリン二本とビームシールドにして、ドラグーンは前よりやや小型化して連結状態でも向きを変えて攻撃できるようにもしたよ」

 

「……昨日の今日でホントよくここまで改造できたな」

 

マドカは束さんの業に脱帽しているようだった。かくいう私もとことん改造されてるマドカのISを見て驚きを隠せない。

 

「最後に君のISを説明するね。名前はアルケーガンダムで、GNファングを10基に増やして威力と速さを上げたり、GNバスターソードにライフルモードに変形する機能を加えたんだ。後、両足の爪先にGNビームサーベルを隠し武器で追加しといたよ」

 

「へぇ、見た目の割に中々高性能じゃないの」

 

腕を組み、感心した様子で言うオータム先生。その後ろでは織斑先生が額を押さえてため息をついていた。

 

「束……少しやり過ぎじゃないか?」

 

「え、そうかな?」

 

「これをやり過ぎと言わずに何と言うんだ。ブルーフレームやレジェンドはともかく、アルケーに至っては原型を留めていないじゃないか」

 

「…………た、多分大丈夫だよ。もしアレなら、謝罪文でも送るし」

 

2人の話を聞いて、「それだったらどこの人も許してくれそう」と私は思った。

 

(これからもよろしくね……ブルーフレーム)

 

新たな力を備えた相棒に、私はそっと手を添えて微笑んだ。……ブルーフレームの目が一瞬光ったように見えたけど、気のせいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、アリーナにて。

 

OutSIDE

 

「……ふぅ…」

 

そこではセシリアが1人、ISを纏って練習をしていた。周囲にはドラグーンが展開されており、ビームライフルや他の武装も展開して仮想ターゲットをロックする。

 

「……はぁっ!!」

 

そして一気に攻撃する―――だが放たれたのはドラグーンからのビームだけで、他の武装からは何も出てなかった。

 

「またダメですわ……はぁ、何故出来ないのでしょう……あの時は出来たと言うのに」

 

ビームライフルを降ろすとセシリアはため息をついた。リボーンズガンダム戦でドラグーンを操作した時のイメージを元に彼女は練習しているのだが、中々上の段階に進むことができずにいる。

 

「やはり私には……っ、いいえ! このセシリア・オルコットに不可能はありません! 必ず可能にして「おーい、セシリア~」って彰人さん?」

 

自分に言い聞かせるように力強く宣言すると、声が聞こえてきたのでハイパーセンサーで見る。そこには彰人が手を振って立っていた。

 

「どうしてここに?」

 

「例によって挑戦者達を倒しまくってたら偶然見つけてな。苦戦してるようだし、様子を見に来たんだ」

 

「そうですの……」

 

歩いて近寄る彰人を見つつ、セシリアは再びため息をついた。

 

「……確か、ドラグーン・フルバーストだったな?」

 

「はい。ですが、最大稼動までまだまだでして……」

 

「ふむ……どれ、まずは深呼吸してリラックスしよう。何か無理してるっぽいし」

 

「わかりました。すぅー……はぁー……」

 

言われた通り深呼吸をし、心を落ち着かせる。すると幾分か気分が良くなったようにセシリアは思えた。

 

「で、どうやってフルバーストをするかだったな」

 

「リボーンズガンダムでの時は上手くいったんですけど……」

 

「その時の自分の心境を教えてくれないか?」

 

「心境ですか? そうですわね……強いて言えば、1つの感情を爆発させた、でしょうか」

 

「感情を爆発……」

 

顎に手を当ててしばし考えていた彰人はふ何かに辿り着き、はっとした顔になるとセシリアを見た。

 

「それだ! 意識を集中させて1つの感情……怒りでもなんでもいいけど、とにかくソレを高めるんだ」

 

「感情を高める、ですか。確かにあの時動かしたイメージに近い気はしますが、上手く行くでしょうか?」

 

「うーん、どうだろう。絶対とは言えないけど、確率としては高いと思うぜ?」

 

「……そうですわね。やってみて、それでもダメなら別の方法を探せばいいんですし」

 

「その意気だ。けど今日はもう休んで、続きはまた今度だ。でないと千冬さんに怒られちまう」

 

そう言い、彰人はセシリアと共に寮の廊下を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス 某刑務所

 

様々な犯罪者が収監されているこの刑務所の一室に、とある女性が投獄されていた。彼女はストレスを発散するかのように、鉄格子に何度も何度も頭をぶつけ、やがてやめると呟いた。

 

「クソッ! そろそろ限界だ……この私をこんなところに閉じ込めやがって! これも全てシャルロットのガキが裏切ったせいだぁ……!!」

 

何を隠そう、彼女は全ての真実を白日の下に晒され、転落したソランジュ・デュノア……否、ソランジュ・エキューデだった。

 

「アイツの! アイツの! クソォォォッ!!」

 

再び頭突きを再開するソランジュ。そんな彼女の居る部屋の前に、帽子を深々と被った2人の女性警備員が近づいてきた。

 

「ソランジュ・エキューデ。そんな風に自分を痛めつけて、何が楽しい?」

 

その言葉にソランジュは振り向くと、鋭い眼光で睨み付けて言った。

 

「イライラするんだよ……! 奴らのことを考えているとね!」

 

「……そんなに復讐したいのか? シャルロット・デュノアに」

 

「ああしたいね! アイツが秘密をバラしたせいで私の人生は滅茶苦茶になったんだ! ぶっ殺さねぇと気が済まないよ!!」

 

怒りをぶちまけるソランジュを見て、2人の女性はひそひそと言い合った。

 

(姉さん、本当にこんな人を強襲隊に入れてもいいの? 小物にしか見えないんだけど)

 

「(まあ問題ないだろう。こんなのでも使いようはある)ならばお前に、復讐のチャンスをやろう」

 

片方から「姉さん」と呼ばれた女性は懐から待機状態のカオスガンダムを取り出すと、格子を介してソランジュに差し出した。

 

「……何でアンタがこれを? っ、まさか2人とも、組織の―――」

 

「そうだ。今度IS学園に襲撃するんだが、専用機持ち達が中々厄介でな。お前にも手伝って欲しいんだ」

 

「なるほど。要するに人手不足だからどうにかして欲しいってことか…………いいね、乗ったよ。丁度あのガキを殺したいと思ってたし、ここでの生活にもウンザリしていたところだし」

 

「お前ならそう言ってくれると思ってたよ。お前の活躍、期待させて貰うぞ(ま、コイツが連中に勝てるかどうかは正直疑問だが)」

 

女性が抱いてる感情に気づかないまま、ソランジュは待機状態のカオスを手に取った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分後のことだった。全世界に、ソランジュ・エキューデが脱獄したとのニュースが流れたのは。



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75th Episode

数日後、キャノンボール・ファスト当日

 

ついにキャノンボール・ファストが開催される日がやってきた。会場となっている市のアリーナには大勢の見物客が来ており、その中には各国の重鎮達も居る(兄ちゃんやブラントさんもいるかな?)。みんな、各国のISの性能を是非この目で確認しようとして来てる人達だ。かなり大事な催しなので、襲撃の有無に関わらず俺達は全力を出すことを心に決めている。

 

キャノンボール・ファストのプログラムだが、まず二年生のレースが訓練機、専用機別に行われ、次に一年生の専用機持ちのレースでそれが終わったら訓練機のレース。最後に三年生によるエキシビションレースが行われることになっている。

 

「なあ彰人。お前、チケット誰に渡した?」

 

「俺は数馬に渡した。それ以外に思いつかなかったからな」

 

俺と一夏が何を話しているか気になった人もいると思うが、キャノンボール・ファストでは開催前に全生徒に優先チケットが配られ、1人につき1人ずつ一般人を招待することができるのだ。一夏と鈴は既に弾と蘭に渡していたので、俺は数馬に渡したという訳だ。

 

色々話しながら順番を待っていると、一夏の隣に箒ちゃんと鈴ちゃんにマドカちゃんが寄ってきた。

 

「一夏、調子はどうだ?」

 

「ん? ああ、バッチリってところだ。もしかしたら優勝は、俺になるかもな」

 

「へぇ、言うじゃない。けど私だってそう簡単に譲るつもりはないから」

 

「私とレジェンドだって、負けないぞ」

 

4人とも笑顔だが、火花が散ってるように見える。下手に話しかけない方がいいな……。そう考えていると、簪達が近づいてきた。

 

「……彰人。今日のレースは負けない。パワーアップしたブルーフレームの力を見せる」

 

「私も、今度ばかりは負けませんわよ」

 

「共に全力を尽くそう」

 

「おう、みんな強気だな。でも俺だって簡単には負けないからな」

 

みんなを見渡しながら言っていると、1人だけ元気がない奴を見つけた。

 

「シャル……?」

 

「…………え? な、何かな?」

 

「いや、さっきから黙ったままだから」

 

「そ、そうだったっけ? えと、じゃあ…僕も負けないからね」

 

笑顔を作って言うが、明らかに無理をしていた。こうなるのも無理はない。マドカちゃん達が仲間になった次の日に、逮捕されていたシャルの義理の母であるソランジュ・エキューデ(旧姓デュノア)が何者かの手によって脱獄したと言うのだ。更に悪いことに、彼女から押収されフランス軍に保管してあったカオスガンダムまで盗まれたらしい。

 

裏に亡国機業(ファントム・タスク)が居ることとエキューデが襲撃メンバーの1人であることはすぐに察しがつき、それでシャルは気を落としている。

 

「そう暗くならなくても大丈夫だ。ソランジュ・エキューデが襲って来たら、私達が相手をする。お前が戦う必要はない」

 

シャルを気遣ってラウラが声を掛ける。が、シャルは顔を上げると首を横に振って言った。

 

「ありがとう……でも僕は戦うよ。あの人を付け上がらせたのは多少なりとも僕にも責任があるし、自分の手でケジメをつけたいんだ。ああでも、1人で戦うって訳じゃないからね?」

 

確固たる意志を持って答えたシャルに、俺達は笑顔を向けた。心配する必要は、どうやら無いみたいで安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市アリーナにて

 

Out SIDE

 

二年生のレースが終わり、観客席が歓声に包まれる最中、刀奈は観客を1人1人注意深く見ながら歩いていた。

 

「ここはいないか……」

 

そう呟いていると前方からオータムが、後方からスコールが歩み寄ってきた。

 

「そっちはどうだった?」

 

「誰もいなかったぜ。スコールの方は?」

 

「こっちは誰もいなかったわよ。やっぱり観客として紛れ込んでいる可能性は薄いわね」

 

2人の報告を聞いた刀奈は「そう……」と言って軽く目を閉じると、レース会場を見て不安げに声を漏らした。

 

「せめてレースが終わるまでは大人しくしてくれるといいんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

二年生のレースが終わり、いよいよ俺達の番になる。全員ISを展開し、スタートラインに並んでいく。

 

「全て…振り切らせて貰う!」

 

ウイングバインダーを調節しながら、俺は自分の士気を高める為に宣言する。

 

「させるかよ。ここは俺がフルスロットルで、一っ走りさせて貰うぜ!」

 

ダブルオークアンタのツインアイを輝かせながら、一夏も宣言してくる。

 

「優勝、それが私のゴールだ!」

 

レッドフレーム改を纏った箒ちゃんは、見た目もあってまるで武士のような気迫が感じられる。

 

「そうはいかない。最速なのは、この私だ」

 

マスクの下で笑みを浮かべているのが想像できるようなトーンで、ハイペリオンのブースターを調整しながらラウラが言う。

 

「フフ。言っとくけど今日の私は、かーなーり、強いわよ!」

 

パッケージで機体をアルトロンカスタムとした鈴ちゃんが、拳を強く握り締めた。

 

「残念ですが、ここからは私のステージですわよ!」

 

ミーティア装備のストライクフリーダムを正面に向けながら力強く言うセシリア。

 

「負けないよ。今日は僕のショータイムだ!」

 

アリオスの可動域を確認したシャルが、軽快に言う。

 

「……見えた。勝利のイマジネーションが」

 

新しくなったブルーフレームセカンドを展開した簪が感触を確かめつつ立ち並ぶ。

 

「兄さんにも彰人にも、誰にも負けない。最初から最後までクライマックスで行く!」

 

レジェンドを装着したマドカちゃんがいつでもスタートできる体勢をつくる。

 

誰にも勝利を譲る気も、譲らせる気もない。あるのはただ1つ、自分の勝利のみ。それ以外の考えは排除する。

 

『それでは、これより一年専用機のレースを開始します』

 

山田先生のアナウンスと同時にスラスターを点火させる。これで発進はいつでもOKだ。

 

3、2……

 

カウントダウンのシグナルが点滅する。決して目を逸らしてはならない。そして……

 

1……GO!!

 

「「行っっくぜぇぇぇえええええええええええええええええ!!」」

 

「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 

「「「「はぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」」」」

 

その瞬間、俺達は一斉にスタートを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

最初にトップに躍り出たのは彰人と一夏だった。どちらが一位になるかで猛烈なデッドヒートになっているが……。

 

「これも勝負だ、悪く思うなよ!」

 

「今だ!」

 

「そこですわ!」

 

箒がビームトーチで、マドカが突撃ビーム機動砲で、セシリアがミサイルランチャーで2人を狙い撃った。キャノンボール・ファストでは妨害が許可されているので、こういうのも有りになっている。

 

「うおっ危なっ!?」

 

「やっぱり狙って来たか!」

 

「……これも勝負。やらなければ、こちらがやられる」

 

言いながら簪が彼らの隣を通り過ぎ、更に皆が続いていく……が、彰人達も負けてはいなかった。

 

「こっちもやってやるぜ!」

 

「行け、GNソードビット!」

 

スピードを上げながらツインバスターライフルを発射したり、GNソードビットを射出したりして牽制していく。勿論実際に当てる気はないが、それでも相手の集中力を削ぐには十分だった。

 

「くっ、避け切れませんわ!」

 

「ああもう、冷や冷やするじゃないの!」

 

混乱する面々の合間を縫って一夏と彰人は進んで行く。このまま順調に順位を上げていこうとした―――その時。

 

「「っ! 来るっ!!」」

 

イノベイターの力とゼロシステムで何かを察知した一夏と彰人は、先頭を行くラウラとシャルにわざと避けられるような攻撃をした。

 

「熱源!? ええい!」

 

「うわわっ!?」

 

2人がそれを回避した直後、上空から先ほどまで居た位置に2つのビームが放たれた。

 

「今のは……! てことはついに来たって訳ね!」

 

「……せめてレースが終わってからにして欲しかったんだけど」

 

他のメンバーも襲撃者が現れたことを察知すると、機体を止めて上空を見た。そこにはマスクオフした三機のISが佇んでいた。

 

「チッ! 奴らのせいで当て損ねたか!」

 

(さすがはイノベイターだね、姉さん。危険を察知する能力が長けていると見たよ)

 

(そうだな、オーよ。だがウイングゼロの能力もかなり厄介だ。十分に気をつけるぞ)

 

明らかに憎々しげな言葉を吐いているのはカオスガンダムを纏ったソランジュ・エキューデだ。残りの2人はこの場にいる誰とも面識はないが、その顔は千冬やマドカと酷似していたので自ずと正体はつかめた。

 

「とうとうこの時が来てしまったか……エス、そしてオー」

 

悲しげにマドカは言う。そう、残る2人はマドカの姉妹である、ガンダムヴァサーゴを纏ったエスとガンダムアシュタロンを纏ったオーだ。

 

三機はゆっくりと降下しながらマスクを装着し顔を隠す。

 

「相手は三機……さて、ここはどうするか」

 

「カオスは私とシャルと簪で行こう。あの赤いISは彰人とセシリアとマドカ、残る一機は一夏と箒と鈴で相手をする。異論はあるか?」

 

「いや、それで行こう」

 

ラウラの提案に一同は反対することなく3つに分かれ、それぞれが担当する敵ISをセンサーで捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒&鈴vsオー

 

「アシュタロンか……2人とも、アイツはアトミックシザースっていう伸縮可能な二本のハサミを持っている。十分気をつけてくれ」

 

「わかった」

 

「伸縮自在ね…私と似たようなもんか」

 

オーの機体、ガンダムアシュタロンを見ながら一夏が注意を促す。

 

「見ているだけとは随分余裕だね? じゃあこっちから行かせて貰うよ!」

 

笑みを浮かべながらオーはアトミックシザースを展開、内蔵されているシザースビーム砲を放った。3人はそれを回避する。

 

「いきなり攻撃とは上等じゃない! 食らえっ!」

 

反撃に鈴がドラゴンハングを伸ばしてアシュタロンを掴む。そのままダメージを与えようとするがオーはアシュタロンをMA形態に変形させ、スラスターを全開にして強引に離脱。更にその勢いで箒へと向かった。

 

「可変機だと! それにこのスピード……ならば!」

 

箒は敢えて正面からアシュタロンを受け止める。衝撃で肺の中の空気が外に出て、頭がグラグラとするが正気を保つとアトミックシザースの付け根部分を掴み、強引に押さえ込んだ。

 

「アトミックシザースを!? コイツ、どれだけ無茶なことを!」

 

「今だ、一夏! 鈴!」

 

「「おう!!」」

 

そこへフルセイバーを装備した一夏と鈴が、それぞれGNソードⅣとツインビームトライデントを持って斬りかかろうとする。

 

「チッ!」

 

「うわっ!?」

 

だがオーはノーズビーム砲で箒を引き剥がすとMS形態に変形。ビームサーベルとアトミックシザースで応戦する。

 

「GNソードビット!」

 

「何?」

 

そこへGNソードビットが襲い来るが、オーは機体を後退させ防御姿勢を取り、自慢の装甲で攻撃を耐えた。

 

「中々やるわね」

 

「だがエネルギーは削れている筈だ」

 

「くっ…どいつもこいつも、思ってたよりやるじゃあないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人&セシリア&マドカvsエス

 

「エス……どうしても戦うつもりか?」

 

対峙したマドカは通信でエスに問いかける。エスは驚いたようにレジェンドを見つめると、声を上げた。

 

「お前、エムか? 敵の捕虜になった筈では? それに私達に反逆しているということは、ナノマシンが―――」

 

「私の中のナノマシンはもうない。そして今の私はエムじゃあない。兄さんと姉さんの妹の、織斑マドカだ!」

 

力強く宣言すると、エスは満足そうにため息をついて述べた。

 

「そうか……私達の希望は、潰えてなかったのだな……」

 

「ああ。だからエス達も組織を「だがそれとこれとは話が別だ」何!?」

 

「私達姉妹は心の奥底から、この世界を憎んでいる。故に組織にも自分の意志で加わっているのだ。いくら私達を懐柔しようとしても無駄なことだ」

 

「そんな……」

 

愕然として棒立ちになるマドカだが、その隣に彰人とミーティアを解除したセシリアが並んだ。

 

「……残酷なことを言うけど、敵対した以上はやるしかない。行けるか?」

 

「…………ああ……私とてこうなることは覚悟していたのだが…辛いな」

 

「仕方ありませんわ。相手は自分の家族なんですから……」

 

セシリアもマドカとエスを交互に見つめて悲しげに言う。直後、エスが戦闘体勢を取った。

 

「どうやら来るらしいな。セシリア、ヴァサーゴは全体的に出力が高い。攻撃もそれに比例するから、気をつけろ」

 

「わかりましたわ」

 

「っ、来るぞ!」

 

マドカが叫んだ瞬間、ビームサーベルを持ってエスが突撃してきた。咄嗟に彰人もビームサーベルを引き抜き、エスと斬り合う形になる。

 

「重い……だが!」

 

「ほう、やるな。学生だと侮っていたが、認識を改める必要があるか!」

 

互いにツインアイで睨み付けるが、そこへマドカとセシリアによるドラグーン攻撃が放たれた。

 

「!? くっ!」

 

鍔迫り合いをやめ、すぐに回避をしようとするがいくつか当たってしまう。しかしエスは両腕のストライククローを展開すると、セシリアとマドカに向けて腕を伸ばした。

 

「「っ!!」」

 

2人はほぼ同時に反応し、マドカは素早く回避したがセシリアはシールドで防いだ。これを見たエスは何かに感付き、セシリアの方のストライククローからクロービーム砲を連射した。

 

「この! しつこいですわ!」

 

ドラグーンを収納したセシリアは回避行動を取る。ここでエスは確信し、マスクの下でニヤリと笑う。

 

「食らえ!」

 

「お返しですわよ!」

 

バスターライフルからのビームやレール砲にカリドゥス等が放たれる。エスは反撃しつつ、その時を今か今かと待っていた。

 

そしてセシリアがドラグーンを再び展開した瞬間―――エスはヴァサーゴの腹部を上下に展開し、背部のラジエータープレートも展開させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ&シャルロット&簪vsソランジュ

 

「自分からこっちに来るなんてね……手間が省けて良かったよ! シャルロットォォォオオオオオ!!」

 

言うが早いか、ソランジュはいきなりビームライフルを連射する。が、ラウラ達は難なくそれを回避する。

 

「いきなりか。しかも狙いが荒すぎる。素人が何故襲撃を?」

 

「……多分、人数合わせだと思う。でなきゃ参加させる筈がない」

 

「それとも僕と当たらせて揺さぶり掛けようとしてるのかも。まあ確かに、また顔を合わせなきゃならないのかってウンザリしてたけどさ。だからトドメは僕に譲ってよ」

 

攻撃を余裕で避けながら3人は言い合う。機体性能の差は置いておくとして、パイロットの力量差ではソランジュの方が明らかに下であった。加えて彼女は精神的にかなり荒々しくなっており、まともに狙いをつけられる訳はなかった。

 

「了解した。なら初撃は私と簪か」

 

「……任せて」

 

ビームサブマシンガンとタクティカルアームズⅡ(ソードフォーム)を構えたラウラと簪が前に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園で始まった戦いは、激しさを増していく。




エスとオーのキャラクターは、とあるガンダムの某兄弟を意識しています。機体の時点で、誰もがわかるとは思いますが……。


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76th Episode

刀奈SIDE

 

(一般客の見ている前で、堂々と襲って来るなんて……少し想定外だったわ)

 

観客達を避難させながら、刀奈は心の中でそう呟いた。前にも無人機やスコール達が襲っては来たが、いずれも学園の生徒達のみだったり一般客には知られていなかったりと、どこか境界線が張られているような気がしていた。しかし今回のことで、それが破られたようにも思えた。

 

(もう世界一安全な場所だなんて、言えないわね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

ラウラ&シャルロット&簪vsソランジュ

 

「クソッ! クソクソクソクソクソクソクソクソッッ!! 何で当たらない!?」

 

「行くぞ、簪」

 

「……うん」

 

攻撃が当たらないことに苛立つソランジュにラウラと簪が接近していく。乱射されるビームライフルの弾を避けながらラウラがまずビームサブマシンガンを放って確実に当て、次に簪がタクティカルアームズⅡを振り下ろし、そこへ踵に展開したアーマーシュナイダーをキックで当てる。

 

「ぐぁああああ!? この……痛いじゃないかぁぁぁあああああああ!!」

 

ソランジュはカオスをMA形態に変形させるとスラスターを噴かせ、カリドゥス改と機動兵器ポッドからビームとミサイルを連射しながら簪へと接近する。

 

「……はぁ……」

 

深くため息をつくと、簪は両腕にソードアームを装着してビーム刃を展開。カオスの弾幕と突進を回避して背後からカオスを滅多切りにした。

 

「ああああああああっ! お前ぇぇぇぇえええええええええええ!!」

 

怒り狂ったソランジュはMS形態に再変形すると機動兵器ポッドを分離し、遠隔稼働でビームを放ってきた。

 

「こんなもの……!」

 

「セシリアの足下にも及ばない!」

 

だがすぐにガトリングアームとビームキャノンで2個とも撃墜され、挙げ句に貫通したビームキャノンがそのままソランジュに直撃した。

 

「お、おのれぇ!! たかが学生が、よくも…よくもこの私を! アンタ達、この私を誰だと思って―――」

 

「多分、誰も何とも思ってないんじゃないかな?」

 

ソランジュの耳にシャルロットの声が聞こえると同時に、背中に衝撃が走った。見れば、トランザムを発動させたアリオスがGNキャノンを構えており、続けてGNミサイルを放つと武器をGNツインビームライフルに交換して連射。更にMA形態に変形すると加速して接近、GNビームシールドでカオスを挟み込んでダメージを与える。

 

「シャルロットォォォオオオオオオオオオオ!! 泥棒猫の娘如きが、よくもぉぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

「お前だけは許さない。手加減無しの、全力で殺ってやる!!」

 

機体をMS形態にするとシャルロットはGNビームサーベルを突き立て、装甲が脆くなった箇所に両腕を向けるとGNサブマシンガンを展開し―――ゼロ距離で連射した。

 

「うああああああああああああああ!?」

 

瞬く間にシールドエネルギーがゼロになり、ソランジュはISを解除されて地面に投げ出され、更に待機状態となったカオスガンダムはシャルロットに回収されてしまった。

 

「チェックメイト、だね」

 

「そういうことになるな(本気で怒るとこうなるのか……)」

 

「……ふぅ(二面性なのかな? シャルって)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒&鈴vsオー

 

「てやぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」

 

「はぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

再びツインビームトライデントでオーに斬りかかる鈴。逆側からは箒がガーベラストレートとタイガーピアスを振りかぶる。

 

「させないよ!」

 

対するオーもアトミックシザースやビームサーベルを駆使して戦う。しかし2人の合間なく放たれる攻撃によって完全に防ぎきることはできずにいた。

 

「どうしたの!? まさか、こんな程度じゃないでしょうね!」

 

「だとしたら、とんだ肩透かしだな!」

 

「言わせておけば……勝手なことを!!」

 

鈴と箒の挑発に乗ったオーは、武器を振り回して反撃に出る。そのまましばし激しい攻防が繰り広げられたが、突然鈴と箒はその場を離脱した。

 

「? 逃げたのか? でもこれは「うああああああああああああああ!?」ん?」

 

離脱したことと聞こえてきたソランジュの悲鳴に怪訝に思うオーだったが、直後にアシュタロンのセンサーが強力なエネルギー反応を察知していることに気づいて背後を見る。

 

そこには、トランザム状態でライザーソードを発動している一夏のクアンタがいた。

 

「織斑一夏!? そうか、お前が!」

 

「気がついたか。だが遅い!」

 

一夏はオー目掛けてライザーソードを振り下ろす。オーはどうにか直撃を避けるも、機体を掠めたせいで吹き飛ばされ、シールドエネルギーを大きく持っていかれてしまった。

 

「エネルギーが! よくも!」

 

(オーよ、一旦退くぞ)

 

尚もアシュタロンで攻撃しようとした矢先、オーの脳内にエスの声が響いた。

 

(姉さん!? でもコイツ等が!)

 

(オーよ、感情に流されるな。私達の本当の目的を思い出せ。ここは命を捨てるステージではない)

 

(くっ!……わかったよ、姉さん)

 

エスの説得によって、オーは渋々ながら離脱することを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人&セシリア&マドカvsエス

 

ヴァサーゴが腹部の武装を展開するのを見た彰人とマドカは、顔を青ざめて叫んだ。

 

「メガソニック砲だ! 来るぞ!!」

 

「避けろセシリア! さっさと仕舞え!!」

 

「え!? メガ…何ですって!?」

 

「遅い! 発射!!」

 

そこへエスがヴァサーゴから拡散タイプのメガソニック砲を放った。彰人とマドカは回避や防御行動を取るが、ドラグーンを収納していたセシリアは回避が遅れ、何発か被弾してしまった。

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

衝撃でセシリアは吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。そこへエスが降り立ち、ストライククローを向ける。

 

「せめてもの情けだ。一撃で葬ってやろう」

 

(死ぬ……このまま、私は……)

 

そう思った時、セシリアの心に不思議な感情が湧き出してきた。

 

(……何でしょう、この気分は……お父様…お母様…チェルシー……何もかもが過ぎ去っていきますわ……今あるのは、目の前の死だけ……)

 

そして最後に、最愛の男性が思い浮かぶ。

 

(彰人さん……ッ!!)

 

瞬間、セシリアの脳裏にイメージが浮かんだ。水の雫が水面に落ち、静かに大きく波紋を広げていくのが……。

 

(っ! 見えた! 見えましたわ!!)

 

確信した直後、セシリアの脳裏で青い種が弾けた。そしてレール砲を展開すると同時に発射してエスを怯ませると、空へと舞った。

 

「何だ!? この気迫は……!」

 

「行きますわよ、ストライクフリーダム!!」

 

戸惑うエスを見つめながら、セシリアはドラグーンを射出する。更にビームライフルを連結させると、ドラグーンで縦横無尽に動かしながら攻撃し、自身も位置を変えながらビームライフルで狙い撃っていく。

 

「ぐああああっ! まさか……土壇場だぞ!?」

 

「だからこそですわ!」

 

更にセシリアはドラグーンを自分の周囲に並べてエスに向けると、ビームライフルを分割し全武装を展開した状態でエスをロックする。別の方向からはマドカが突撃ビーム機動砲で、彰人がツインバスターライフルで狙う。

 

「いっけぇぇぇえええええええええええ!!」

 

「これでっ!!」

 

「ツインバスターライフル、最大出力!!」

 

三機が放った必殺の一撃は、回避行動を取ったエスを捉え、シールドエネルギーを大きく減らすことができた。

 

「うおおおおおおおお!? こ、こんなことが……「うああああああああああああああ!?」むっ!?」

 

狼狽するエスの耳に悲鳴が聞こえ、ハイパーセンサーで調べるとソランジュがISを解除されるのが見えた。

 

(チッ。所詮は小物か……)

 

心の中で吐き捨てると同時に、オーの方も確認する。丁度その頃オーはライザーソードでダメージを受け、吹き飛ばされているところだった。

 

「いかん! オー!」

 

尚も戦いを続けようとするオーに、エスは通信も行わずに頭の中で話しかけた。

 

(オーよ、一旦引くぞ)

 

(姉さん!? でもコイツ等!)

 

(オーよ、感情に流されるな。私達の本当の目的を思い出せ。ここは命を捨てるステージではない)

 

(くっ!……わかったよ、姉さん)

 

アシュタロンがヴァサーゴの方に移動してくる。それを確認したエスはストライククローを使ってソランジュを拾い上げると、オーと共に高く移動する。

 

「逃げる気か!?」

 

「戦略的撤退と言って貰いたい。オー」

 

「任せて、姉さん」

 

促すエスに頷いたオーは、アトミックシザースのシザースビーム砲でシャルロットの持つ待機状態のカオスガンダムを正確に撃ち抜き、破壊した。

 

「うわっ!?」

 

「ち、ちょっと! 何で私のISを!?」

 

「フッ、戦場に誤射はつきものでね。私はただ目眩ましに攻撃しただけだよ」

 

「そういうことだ」

 

言うが早いか、ヴァサーゴはMA形態に変形したアシュタロンに乗るとその場から離脱して行った。

 

「勝った……のか?」

 

「みたいね。完全勝利とはいかなかったけど……勝ちは勝ちよね」

 

「うん。ともかく、戻ろうよ。僕もう疲れちゃって……」

 

「私も、いつもの倍以上疲れましたわ」

 

一先ずの勝利に安心しながら、彰人達はピットへと戻って行った。



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77th Episode

IS学園、地下ルーム

 

千冬SIDE

 

「ヴァサーゴにアシュタロンか……操縦者の出自も考えると、皮肉としか思えんな」

 

私はモニターに映っている二機のISを見ながら呟く。聞けば、基になったガンダムのパイロットはフロスト兄弟と言い、自分達を紛い物と見なした世界へ復讐する為に暗躍したと言う。これを皮肉と言わずに、何と言えばいいのだろうか……。

 

「そうだね……全然笑えないジョーク出されてる気分だよ」

 

そこへ学園祭が終わってからずっとここに居る親友がやってきた。

 

「遅かったな。それでカオスの方はどうだった?」

 

「見事なまでに破壊されてたよ。コアも部品も、みんな粉々。さすがの私も修復は無理だね」

 

「……証拠隠滅の為、だろうな」

 

「うん」

 

カオスガンダムの残骸を見ながら、悲しそうに束は俯いた。アイツにとって、全てのISは娘同然の存在だ。それを壊されたんだ、悲しくない訳がない。

 

「それよりちーちゃん、今日いっくんの誕生パーティがあるんだってね。ちゃんと行ける?」

 

「問題ない。だが…お前も来れば良かったのに」

 

「無理無理。束さんが行ったら場が白けちゃうって」

 

とは言っているが、本当は行きたいに違いないのを我慢しているんだろう。私だけ行くのは気が引けるが、そうなったら束は落ち込んでしまう。……まあ、束の分も祝うと思えば、いくらか気も楽になるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、織斑家

 

彰人SIDE

 

皆さんこんばんは、矢作彰人だ。今夜は一夏の家でとあるパーティーをやっている。それは……。

 

「ようし、やるぞ! せーのっ……」

 

『『『一夏(織斑君)(おりむー)(兄さん)! お誕生日、おめでとう~!!』』』

 

パンパンッ! パンッ!

 

「ありがとう、みんな! とても嬉しいぜ!」

 

一夏の誕生パーティーだ。メンバーは俺や一夏は勿論、千冬さん、箒ちゃん、鈴ちゃん、セシリア、簪、シャル、ラウラ、刀奈、マドカちゃん、のほほんさん、虚さん、弾、数馬だ。パーティーはリビングでやってるけど、人数が人数だけにちょっと部屋が狭く感じる。

 

「ところでセシリア。今日はかなり疲れてたみたいだが、大丈夫か?」

 

「ご心配なく。この通り元気ですわ」

 

微笑を浮かべながら、セシリアは言う。どうやら本当に大丈夫のようだ。

 

「みんな! 昼間は色々大変だったけど、今は思う存分騒いで楽しもうや!! アーユーレディ!?」

 

『『『イェェェェェェェーイ!!』』』

 

「近所迷惑にならないようにな」

 

注意する千冬さんだったが、そうは言いつつとても楽しそうでノリノリなのは明らかだった。さて、今年はいつも以上に騒ぎまくるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒いだことその1、ケーキ

 

誕生日パーティーはまずこれを食べることから始める(今年のは大勢来るので結構でかいのを買った)。なので切り分けていざ食べようとしたのだが……。

 

「「「「「彰人(さん)(君)、あ~ん♪」」」」」

 

「おい待て、一斉に来られても食えんぞ!?」

 

セシリア達がはい、あーん×5をしてきた。勿論俺の分のケーキで。だけど5人が差し出して来たのを一緒に食うのはさすがに無理がある。

 

「あ、そっか。じゃあ順番決めなきゃ」

 

「なら、手っ取り早くジャンケンで決めるか」

 

と、大きな争いもなく解決してくれるので助かった。一夏も同じ状況か? と思って見てみると……。

 

「一夏……あ、あ~ん……」

 

「あむ……」

 

「今度は私よ。はい、一夏」

 

「はむっ」

 

見事なまでに交互に食べさせ合っていた。……ある意味手間がかからなくて羨ましいというか何というか……贅沢な悩みだが。

 

「はぁ、一夏も彰人も可愛い女の子に囲まれて……」

 

「僕、初めてリアルでハーレムを見たよ……」

 

…………この2人の前では、特にな。

 

「あ、あの、弾さん……」

 

「ねぇ、カズー……」

 

「「ん?」」

 

「「あ、あ~ん……」」

 

「「っっっ!!??」」

 

前言撤回。コイツ等もリア充の入り口に立っていた。まあ妬まれなくなるなら、それでいいか。

 

「やった……!」

 

「え、簪? ひょっとして一番勝った?」

 

「……うん。だから、その……あ~ん」

 

「お、おう」

 

簪にケーキを食べさせて貰いながら、俺はふと千冬さんの方に視線を向けた。

 

「青春か。全く、羨ましいよ」

 

「姉さん、あ~ん」

 

1人飲み物を飲んでいる千冬さんに、マドカちゃんがみんなが俺や一夏にやってるのと同じことをやる。

 

「? どうしたマドカ? 何でそれを?」

 

「これは自分にとって大切な人にやる行為の1つではないのですか? 彼女達の行動からして、そう解釈したんですが……」

 

「(そういうことか……)いや、間違ってない。少し戸惑っただけだ。どれ……はむ」

 

微笑ましい光景がそこにはあった。見てて和むな……って見過ぎるのは失礼か。

 

「次は私だぞ、彰人。あ~ん」

 

「あむっ」

 

「…………くっ、これがリア充と言うものなの……!」

 

促されるままラウラに食べさせて貰っている時に、蘭ちゃんが何やら言っていたが……小さくてよく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒いだことその2、カラオケ(W○i U版)

 

切っ掛けは弾が「お前W○i U持ってたよな? だったらカラオケできんじゃね?」と言ったことから始まった。俺もそれには賛成だったけど、ちょっと変わったものになってしまった。どう変わってるのかと言うと女子達は歌ってるのを見るだけで、歌うのは俺達男子だけという奴だ。

 

ちなみに提案したのは例によって刀奈で、「そうすれば彰人君達の歌を、何度も聞けるじゃない」だと。しかも、これに皆は(虚さんとのほほんさん、そして何と千冬さんとマドカちゃんまでも)大賛成してしまい、俺達4人で順番に歌うことになった……喉、大丈夫かな?

 

「つーか何歌うよ? アニソンと特撮ソングに、その他カッコイイ系の歌?」

 

「「「それ以外に何があると?」」」

 

「だと思ったよ……」

 

カラオケ行く度にそればっか歌ってるからな、俺達。何でそればっかだって? だって俺達、カッコイイの好きなんだもん。

 

「んじゃ、歌いますか」

 

「俺オーズな」

 

「なら俺Vガンダムで」

 

「僕はガンダムSEEDを」

 

喉を痛めないように気をつけながら、俺達4人はローテーションしながら歌い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして歌い終えた後、みんなを見やる。さすがに今回はトリップしてないみたいだ……と思っていたら。

 

「やっぱり、カッコイイです……弾さん……」

 

「カズーの歌……ハートにズ~ンって響いて来ちゃった」

 

虚さんとのほほんさんがしてました。今度はそっちか……あ、刀奈と簪がそれぞれ耳打ちしてる。んでもって2人が真っ赤になった。ははーん、さては「そんなに好きなら告白すればいいのに」とか言ったな。俺としても同感だが、どうするかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒いだことその3、変身遊び(!?)

 

「本当にやらないといけないのかよ……」

 

期待の目線を向ける女子達を見つめながら、天を仰ぐ。偶然にものほほんさんが隅っこに置いてあったオーガドライバーを見つけたことから発展したことだが、こんなことなら奥の方に仕舞うように言っとくべきだった。箒ちゃんと鈴ちゃんも久々に見たいって言うし、簪に至っては目を輝かせてるし。

 

「心配すんな。弾と数馬も居るんだ、恥ずかしさは減る筈だ」

 

「いや恥ずかしいとかじゃなくてだな。何かこう、やりにくいというか」

 

「確かに。子供達に見られるのとは、また違うもんな」

 

ため息混じりに呟いた言葉に、弾が同意する。中学時代に近所の子供達の前でヒーローショーの真似ごとをしたが、あの時感じた視線と今回の視線はまるっきり違うのがわかる。上手く言えんが。

 

「ま、やるしかないっしょ。幸いバカにされることはないし」

 

「そんなことする奴らじゃないからな」

 

言いつつバックミュージックとしてEGO ~eyes glazing overを流しながら、俺はキバットバット二世を、一夏はリュウガのカードデッキを、弾はダークカブトゼクターを、数馬はオーガフォンを持つ。そして俺は二世を腕に噛ませるアクションをし、数馬は変身コードを入力する。

 

『ガブリ!』 『Starting By!』

 

「「「「変身!」」」」

 

ほぼ同時に『変身』を叫ぶと、それぞれのアイテムをベルトにセットしていく(弾のみ、変身と同時にゼクターホーンを動かした)。

 

『変身!』 『HENSHIN! CHANGE BEETLE!』 『Complete!』

 

効果音が鳴り響き、やがて曲も終わって静かになる。……この静まり返った時の間が嫌なんだよ、俺は(前世の経験による)。でも何故か、みんな凄いと言いたげな目線を向けてきていた。「何で?」と聞いてみると「本気で変身できるような感じがした」とのことだった。まあ、その為の変身ベルトだからな。やる以上は本気でやらんと(気迫的な意味で)。ちなみに箒ちゃんと鈴ちゃんは「久しぶりだけどあの頃を思い出した」と、簪は完全に感動しきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒いだことその4、プレゼント

 

テンションが上がりまくった時、ついにパーティーのメインであるプレゼント渡しが行われた。誰がどんなプレゼントを渡したのかは順番に説明しよう。

 

まずセシリアが渡したのは高級ティーセットに同じく高級な茶葉だ。正直羨ましいと思った。

 

続いてシャルがブランド物の腕時計を、ラウラが愛用している軍用ナイフを渡した。腕時計はとても綺麗で多機能と目が行ったが、ラウラのナイフも普通じゃ手に入らないようなものなので驚いた。

 

弾と数馬はスーパーヒーロージェネレーションのPSV○TA版と攻略本を、蘭ちゃんは手作りのクッキーをプレゼントした。正直スパヒロは俺も欲しいと思ったが、そこはさすがに我慢した。自分で買おう。

 

刀奈と簪は自分達のISの基になったガンダムアストレイのプラモがプレゼントだった。出来上がったら是非見させて貰うか。

 

千冬さんとマドカちゃんはTシャツとネックレスを一夏に渡した。ああいうのもありなのか、勉強になった。

 

そして本命である箒ちゃんと鈴ちゃんからは夫婦茶碗とペアリングを貰っていた。ぶっちゃけこの2人からのプレゼントを貰った時の一夏のテンションが一番高かった気がするが、恋人なんだし当然だろう。

 

最後は俺が渡す番になる。ここで渡すのは……。

 

「一夏。前にドライブドライバーが欲しいって言ってたよな?」

 

「え? ああそうだけ……! まさか!?」

 

「そのまさかさ! ほら!」

 

後ろに隠していたDXドライブドライバーを一夏に渡す。

 

「うおおおおっ!! マジか! スゲー嬉しい! でもいいのか?」

 

「おう。もうありすぎて困るぐらいだからな。いっそ周りに分けて周りたいよ」

 

肩をすくめながら俺は言う。少なくなったとは言え、兄ちゃんからライダーベルトは送られてくる。近所の子供達にちょくちょく分けたりしているが、それでも結構あるからな……。

 

「結構苦労してるんだね、彰人って……あれ? そういえば彰人の誕生日っていつ?」

 

苦笑していたシャルが尋ねてきた。ああ、俺の誕生日はまだ言ってなかったか。

 

「12月15日だよ。だからまだまだ先だな」

 

「そうですわね。ですがそれなら、プレゼントを考える余裕も大分ありますわ」

 

「そうだな…何にせよ、楽しみにしているよ」

 

「(カズーの誕生日はいつなんだろ? 今度聞いてみようかな)……あ、ジュース無くなっちゃった」

 

「じゃあ俺が買ってくるよ。何でもされっぱなしじゃ、悪いもんな」

 

ぽつりと呟いたのほほんさんに一夏が自ら立ち上がり、欲しい飲み物を聞き出すと財布と買い物袋を持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

「よし。これで全部……っと」

 

頼まれた分のジュースを自販機で買い、袋に入れていく。買い忘れがないことを確認して俺は家に戻ろうとした……だが。

 

「ん?……っ! お前達は!!」

 

「先ほどは妹が世話になったな、織斑一夏君。だが安心したまえ、今は休戦だ。戦うつもりはない」

 

壁にもたれかかって腕を組むエスとその隣にいるオーに出会した。思わず買い物袋を置いて身構えたが、戦うつもりがないとわかると若干の警戒をしつつも構えを解いた。

 

「じゃあ、何の用でここに来た?」

 

「何、妹の……マドカのことで礼を言いに来たのだよ」

 

「マドカの?」

 

「君のクアンタムバーストが彼女のナノマシンを破壊したんだろ? 何となく察しはつくさ」

 

「という訳で、一夏君には感謝しているんだ。……ありがとう。組織の呪縛から、マドカを解き放ってくれて」

 

そう言うとエスとオーは頭を下げた。予想してなかったことに、俺は戸惑ってしまった。

 

「い、いや、あの時はただ相手の素性を知りたかっただけというか、まあ結果的には助けたことになるから、良かったというか……」

 

「何であれ、君がマドカを救ってくれたことに変わりはないよ。……さて、用事も済んだことだし帰るとするか、オーよ」

 

「そうだね、姉さん」

 

どうやら本当に礼を言う為だけに来たようで2人は帰ろうとする。が、俺は思わず呼び止めていた。

 

「待ってくれ! どうして2人は、世界を憎む? 廃棄されかけたのが理由か!?」

 

「……そうでもあるが、一夏君。私達2人が世界を憎むのは、もっと別な理由があるんだ」

 

振り向きながらエスは険しい顔つきになる。そして周囲を確かめると訥々と話し始めた。

 

「私達姉妹が織斑千冬のクローンとして生まれたことは既に知っているな? その姉妹達はそれぞれ個性があってな、何が得意で何が苦手とかも様々だった……だが、それを連中は許さなかった」

 

拳を強く握り締め、エスは怒りを滲ませる。

 

「私を含めた全ての姉妹が完璧でないことを知るや否や、奴らは私達を殺そうとした! ただ完璧でないという、それだけで!」

 

「……………………」

 

「私とオーもだ。私達には本来全ての姉妹に備える筈だった、シンクロニティという姉妹間における一種のネットワークを唯一所持することができた。それも奴らは、どちらかが欠けたら何もできないと、失敗作(フェイク)と見なした!……だから私達は世界を憎むんだ。長々と済まなかったね」

 

エスから彼女達が廃棄された理由を聞いて、俺の中に怒りがこみ上げてきた。余りにも信じられなかったんだ。

 

「それだけ……?」

 

「何?」

 

「たったそれだけの理由で、アンタ達姉妹を廃棄したって言うのか……!? 完璧でないのは当たり前だろ! 1人じゃ何もできないのは当たり前だろ! 何か欠点があるから、支え合うことができるから人間なんだ! 完璧じゃないことが、命を奪う理由になるなんて……!!」

 

正直、頭が狂ってるんじゃないかとさえ思えた。マドカやエスにオー。彼女達は確かにクローンなんだろうけど、今も生きている。自分の主張をこうしてぶつけてきている。なのに廃棄だと!? ふざけてるのか!!

 

込み上げてくる怒りを必死で抑えながらエスとオーを見ると、彼女達はとても驚いたように俺を見ていた。

 

「……優しいな、君は。いや…君だけじゃないか。君の親友や仲間達も、優しいんだろうな」

 

「残念だよ。君みたいな人が、あそこにも居てくれたらよかったのに……」

 

悲しげに言うと、2人は姿を消した。俺は買い物袋を持ちながらため息をつき、語りかける。

 

「隠れてないで出て来いよ。居るんだろ?」

 

「……やれやれ、やっぱ気づかれたか」

 

電柱の陰から彰人が現れた。気配を感じたのでもしやと思ったんだが。

 

「嫌な予感がしたんで後を追いかけたんだ。そしたらエス達が話すところを見てな」

 

「それじゃあ、聞いたのか?」

 

「ああ。全く腹立たしい話だ……!」

 

彰人は全身から怒りを滲ませていた。下手をしたらフリットモードになる一歩手前だ。彰人がここまで怒るのも相当だ……。

 

「っと、それより早く戻らないと。みんな待ってるぜ」

 

「あ、やべっ!」

 

我に返った俺達は大急ぎで来た道を戻って行った。その間、俺の中ではある決意が固まっていた。確かにエスとオーの気持ちもわかる。だがだからと言って、それが誰かを傷つけるのは間違っている。だから俺は戦う。俺の大事な人達を守る為に。



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タッグマッチ編
78th Episode


IS学園食堂

 

いつも通りに食事をしながら、これからのことを話す。

 

「もうすぐタッグマッチだったな。誰とペア組もうかな」

 

そう、もう間もなく新たな行事である専用機限定タッグマッチバトルが開催されるのだ。これは読んで字の如く、専用機持ちのみで行われる2人1組の戦いだ。なので単純な戦闘力もだがペアとの相性も大切になってくる。以前の学年別トーナメントとほぼ同じだ。

 

「楯無、何か良いアイデアとかないか?」

 

「そうねぇ……だったら私が決めようかしら? カタログスペックには全て目を通しているから、どれとどれが相性が良いのかは知り尽くしてるつもりよ」

 

その提案に中々決められずに居た俺達はすぐに頷いた。という訳で、各ペアは刀奈によってテキパキと決まっていった。

 

ちなみにペアは、俺&セシリア、シャル&ラウラ、一夏&簪、箒ちゃん&刀奈、鈴ちゃん&マドカちゃん、だ。

 

一夏と簪辺りが意外に思ったが、新鮮さもあって良いとも思えた。とにかくこれで後は練習をしていくだけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、アリーナにて

 

スコールSIDE

 

今私はアカツキ(オオワシ装備)を纏い、アルケーを纏ったオータムと模擬戦をしている。別にタッグマッチに出る訳ではないけど、体が鈍らないようにする為だ。

 

「オラァッ!」

 

振り下ろされるGNバスターソードをシールドで受け止め、ヒャクライを放つ。

 

「っ、やるじゃんか! なら、これでどうだ!」

 

一度距離を置いたオータムはGNファングを放ってくる。さすがに部が悪いか……でも。

 

「分の悪い戦いって、嫌いじゃないのよね!!」

 

ビームサーベルを連結させ、接近しつつオオワシのビーム砲を放つ。オータムはGNバスターソードで防ぐけど、それで発生した爆煙の中を私は突撃してビームサーベルを突き立てる。

 

「うおおっ!? チイッ!」

 

負けじとオータムもGNバスターソードを装甲に食い込ませてくる。そのまま膠着状態が続いた後、私とオータムは同時にため息をついて力を抜いた。

 

「今日は引き分け……だな」

 

「ええ」

 

そう言うと私達はピットに戻り、ISを解除してタオルで汗を拭う。途中で私はふと、あることをオータムに言った。

 

「攻めてくるかしら? 亡国機業(ファントム・タスク)

 

「来るな、間違いなく。今までもそうだったんだし」

 

予想してたのとほぼ同じ答えを聞き、私はさっきとは違う意味でため息をついてしまった。自分達が所属してた組織に襲われるなんて、複雑な気分だわ。

 

「そう気を落とすなって。今の私達は先生なんだからさ。生徒を守んなきゃな」

 

「……そうね。先生としての仕事だもの」

 

短期間で早くも順応しているオータムに少し驚きつつ、笑みを浮かべた。……向こうにはエスとオーも居るんだったわね。今頃何を考えているのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

OutSIDE

 

「くしゅんっ!」

 

「どうした、オー? 風邪か?」

 

「ううん。誰か噂してるのかな……?」

 

「気のせいなんじゃない?」

 

とある施設の一室(高級ホテルのワンルームような場所)で、鼻をすするオーをエスが心配し、その隣にいる彼女達と同じ顔の少女が「大丈夫だよ」と見る。他にも同じ顔の少女達がそれぞれ自由にしていた。

 

「そうだね。それよりエー達こそ、何でここに居るんだい? 専用機の調整は?」

 

「まだだけど、プロフェッサーが今後の予定を話すって言うからからここに来たんだ。みんなもそうだよ」

 

「私達と同じということか」

 

 

コンコン

 

 

「失礼するよ」

 

ドアがノックされ、部屋の中に白衣を着た女性が入ってきた。

 

「プロフェッサー。私達を集めたということは、何か大事な話が?」

 

「ああ。まずこれからだが、少なくとも後二回は襲撃して奴らのデータを集めなければならない」

 

「またですか? この前行ってきたばかりなのに」

 

「心配せずとも、君達2人が行くのは後だ。まずは早速完成したこの機体を複数向かわせる」

 

プロフェッサーと呼ばれた女性は端末を操作し、とある機体のデータを3人に見せた。

 

「こりゃまた随分と凶悪な面構えで……ていうか私の出番は無いんですか?」

 

「ごめんね。機体の最終調整がまだなんだ。時が来たら暴れさせてあげるから、ね?」

 

「む~っ」

 

先ほどオーにエーと呼ばれた少女が、ぷくっと膨れ面をする。

 

「マスター、私の機体は?」

 

「ピーのは完璧だ。すぐにでも出撃可能だよ。まあまだだけど」

 

ピーと呼ばれた少女は、「わかりました」と言うとアイスを頬張った。

 

「ところでプロフェッサー。エキューデは?」

 

「ん? ああ、まだサイコをベースにした発展機のテスト中さ。もう何十回と強化繰り返してやっと形になってきたところなんだ。後二回の襲撃は、完成と量産までの時間稼ぎでもあるんだ」

 

(強化か。それって機体の方なのかそれともパイロットなのか、どっちだろうね。姉さん)

 

(さあな。だがこれであの女も前よりは少しは役に立ってくれるだろう。発展機が規定数まで量産され、世界を文字通り変える為にな)

 

ここにいないソランジュを考え、ほくそ笑む。果たして彼女はどうなっているんだろうか? それはプロフェッサーのみが知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園、地下秘匿区画

 

(そろそろ、あの子も連れてくるべきかな……)

 

部屋に籠もりながら、束はずっと考え込んていた。自分が世界を点々とする為に作った移動基地に残してきた、ある人物が気になっているのだ。

 

「(ちょっとまずいことになってるし、そうしよう)くーちゃん、居る~?」

 

決心した束は通信を開いて、とある少女と会話をする。

 

『どうしました、束博士?』

 

「うん。実はタッグマッチが終わったら、くーちゃんにもこっちに来て欲しくて」

 

『構いませんが……何故タッグマッチ終了後なのです?』

 

「開催中に奴らが来る可能性があるから。鉢合わせするのって嫌でしょ?」

 

『それはまあ……』

 

「てな訳で決定ね~!」

 

そこで束は通信を切ってしまい、ディスプレーを見る。が、その目はいつにもなく真剣そのものだ。

 

(うーん……これは本格的にまずいね。ここに封印してある『アレ』の再起動も、早める必要があるかも……)

 

ディスプレーを操作しながら、束は尚も考え続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中

 

彰人SIDE

 

タッグマッチまで後1日と迫った今日。俺は自室で色々なことを考えていた。

 

(結局今日まで、何事もなかったな)

 

本来ならここで簪と刀奈が仲直りをする話があった。けどそれは、俺が既に修復したことで無くなり普段通り過ごしていた。

 

(まあ今更何でもいいが。事実は小説より奇なりって言うし。てかそもそも小説の中じゃなくて、それによく似た世界だし)

 

でなきゃ全てのISがガンダムだなんてあり得ない。ホント今更だけど。そんなことより、明日に備えてもう寝よう。難しく考えるのはやめた。



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79th Episode

タッグマッチ開会式

 

どうもこんにちは、矢作彰人だ。いよいよ専用機持ちによるタッグマッチトーナメントが始まる。と言っても、まだ開会式だが。

 

「皆さん、おはようございます。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は皆さんにとっても充分参考になるでしょう。ですのでしっかりと見ていてください」

 

良い声でスピーチをするなぁ、刀奈は。みんなも真剣に聞いてるし。先生の話の時は聞かない癖に。

 

「まあそれはそれとして、今日は生徒の皆さん全員に楽しんでもらえるよう、生徒会側である企画を考えました! 名づけて……『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!!」

 

いつもの調子で言うと同時に女子達から黄色い声援が上がる。え、何? 俺聞いてないぞ? まあ食券程度ならいいけど。

 

「ルールは簡単! まず事前にトーナメントに参加するチームから優勝しそうなチームを1つ選び、投票する。そしてそのチームが優勝したら、投票した生徒には食堂のマル秘メニューが食べられる食券が貰えるって仕組みよ!!」

 

マル秘メニューか。クイズ番組みたいで面白いな。てか投票で思い出したけど、俺黛さんに投票一覧らしきものを見せて貰った気がするわ。アレこの為の奴だったんだ……確か一位予想は箒ちゃんと刀奈だったな。で、俺や一夏のチームは最下位近くと。……泣けるぜ。

 

「では対戦表を発表します」

 

大型空中投影ディスプレイが現れ、第一試合の対戦相手が表示される。何が来るかな?

 

 

 

 

『第一試合 織斑一夏&更識簪 VS 篠ノ之箒&更識楯無』

 

 

 

 

Oh、いつもの如く最初からクライマックスじゃないですか。でも頼むから試合中に邪魔すんじゃないぞ? でなきゃ怒るぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの廊下

 

「初っ端からこの2人とは、お前も中々ツイてないな」

 

「言うなよ。俺だってこうなるなんて予想できなかったんだし」

 

壁にもたれてオロ○ミンCを飲みながら、2人して話をする。困り顔をしてはいるが、緊張はしてないようだ。

 

「方や国家代表、方や最新型だもんな。しかも姉妹同士や恋人同士の対決ときてる。戦場じゃ絶対嫌だが、大会だと客は燃えるって話だ」

 

「何に燃えるんだよ、何に……」

 

「そこまでは俺も知らん。黛さんが言ってただけだ」

 

「だと思ったよ。てか、改めて思ったが凄いな。専用機持ちの大半が一年生で、しかもほぼ一組に集中してるし」

 

「俺やお前の影響だな、間違いなく」

 

しかも俺、一夏、箒ちゃん、マドカちゃんはイレギュラーな形で専用機を入手している。マドカちゃんに至っては強奪したのを改造してるという有様だ。

 

「かと言って今更何か言う訳でもないが。……それよりそろそろ時間だ。一夏、頑張れよっ!」

 

「それ、簪に言った方が喜ぶんじゃ?」

 

「………………すまん、応援してるって伝言しといてくれ」

 

「失念してたのかよ……」

 

俺だってうっかりすることはあるんだよ! 親友ならわかってよ! と、一夏に対して心の中でツッコミしていた時―――

 

 

 

 

ドォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

「「うおおおおおおっ!?」」

 

突然かなり大きな衝撃が俺達を襲った。

 

「何だ、地震か!?」

 

「それならいいが……」

 

淡い期待は裏切られ、廊下にサイレンが鳴り響き、モニターも全て『非常事態警報発令』の文字で埋め尽くされる。

 

『非常事態発生! 全生徒は地下避難シェルターに避難して下さい! 繰り返します、全生徒は……きゃあああああああああ!?』

 

放送がかかったと思いきや、悲鳴と共に雑音と轟音が混じり、途切れた。これは間違いない。奴らの仕業だ!

 

亡国機業(ファントム・タスク)め! 試合中に乱入するだけでは飽き足らず、ついに試合前に妨害しに来たか! どんだけ俺達に試合させたくないんだ!!」

 

「言ってる場合か! 早く事態を把握しないと!」

 

「っ、そうだな。よし、俺は簪のところへ行く。一夏は他の場所へ行ってくれ!」

 

「ああ、気をつけろよ!」

 

互いにウイングガンダムゼロカスタムとダブルオークアンタを展開しながら走り出す。頼むから無事で居てくれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおらぁぁぁっ!!」

 

ビームサーベルでピットの入り口に切れ目を入れ、全力で蹴っ飛ばす。その先にはソードフォームのタクティカルアームズⅡを構えた簪と、侵入者らしきISが居た。先ほど蹴っ飛ばした扉は侵入者に当たっており、装甲に若干傷がついていた。

 

「無事か、簪!」

 

「……うん! でも、このISは……」

 

簪の隣に立ち、侵入者を見る。その姿はサイコガンダムに似ていたが、カラーリングが紫でメガ粒子砲の数が増えており、顔がかなり凶悪なものになっていた。なるほど、そういうことか。

 

「コイツはサイコガンダムMk-Ⅱだな。ったく厄介な……だがやるしかないか!!」

 

言いながら敵意を剥き出しにする。例えAIによる制御だろうと、こんなガンダムは破壊してやる!

 

対するサイコガンダムMk-Ⅱは俺にターゲットを変えたのかツインアイを光らせると、右手のビームソードを発生させて更にワイヤーで射出してきた。

 

「さすがはMk-Ⅱ。だが甘いな!」

 

俺はしゃがみ込んで攻撃を避けると同時に、射出された右腕を思い切り蹴り上げる。するとビームソードが天井に突き刺さり、サイコガンダムMk-Ⅱが戻すのを手こずらせる。

 

「悪いが、今だね!」

 

素早くビームサーベルでワイヤーを切断すると、一気に接近して本体に斬りかかる。サイコガンダムMk-Ⅱはシールドで防ぐと、全てのメガ粒子砲にエネルギーを充填させていく。おいおい、この狭い空間でソレをぶっ放すのか!? AIってのは何でもありだな。でも―――

 

「今だ! やれ!」

 

「……これで!!」

 

背後から簪がタクティカルアームズⅡで突き刺し、貫通させる。更にソレを真上に上げて頭部を両断する。Iフィールドバリアなんて使わせるか!

 

サイコガンダムMk-Ⅱはツインアイを弱々しく点滅させながら、左手の指部ビーム砲を向けてくる。

 

「しぶといんだよ! さっさと落ちろや!!」

 

ビームサーベルでまだ繋がっている部分を切断する。完全に真っ二つになったサイコガンダムMk-Ⅱは左右に倒れ、ツインアイが消えた。

 

「敵機撃墜!」

 

「……終わったの?」

 

「いや、おそらく他にも同型機が来てる筈だ。コイツは倒したことだし、みんなの援護に行くぞ!」

 

「……了解!」

 

ピットの壁をツインバスターライフルで吹っ飛ばすと、先へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒&刀奈側のピット

 

箒SIDE

 

私と刀奈さんは突如襲撃してきた無人IS、サイコガンダムMk-Ⅱと戦っている。

 

「せぇぇぇいっ!!」

 

「はぁぁあああああ!!」

 

私はガーベラストレートとタイガーピアスを駆使してビームソードを弾きながら攻撃し、刀奈さんはミラージュコロイドで姿を隠しながら死角から様々な攻撃をしていく。

 

サイコガンダムMk-Ⅱも全身のメガ粒子砲や指部ビーム砲を放って来るが、その度に一度下がって防御することでダメージを軽減する。

 

やがてメガ粒子砲を放つだけのエネルギーが無くなったのか、サイコガンダムMk-Ⅱはビームソードでの格闘戦のみを繰り出して来るようになった。

 

「そろそろ決めるわよ、箒ちゃん!」

 

「はい!」

 

掛け声と共に各々の得物(今回刀奈さんはビームサーベルとトツカノツルギ)を構えて突撃する。サイコガンダムMk-Ⅱは右腕をロケットパンチの如く放つが、私達は左右に避けて回避すると懐に飛び込んで連続で切り裂いた。

 

斬られて内部構造が剥き出しになった箇所から火花が上がり、サイコガンダムMk-Ⅱは機能を停止して倒れ込んだ。とその時、後ろの壁が破壊されて一機のISが現れた。

 

「箒! 刀奈さん! 無事か……って大丈夫そうだな」

 

現れたのは一夏のクアンタだった。どうやらGNバスターソードで壁を破壊したようだ。

 

「援護に来てくれたんだな。だが見ての通り、コイツは既に倒してしまってな」

 

「ちょっとタイミングが悪かったかしら?」

 

「あはは……かもしれませんね。でも―――」

 

苦笑しながら一夏はGNソードⅤを地面に突き刺す。……否、地面ではなくよく見たらサイコガンダムMk-Ⅱから射出された右腕のワイヤーを切断していた。どういうことかと見れば、真っ二つに割れた右半分のツインアイが未だに点滅しており、今ようやく消えた。

 

「見方によれば、ナイスタイミングでしょ?」

 

肩をすくめながら言う彼を見て、私は頬が自然と熱くなるのを感じた。その後、私達は他のピットへと援護へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ&シャルロットのピット

 

ラウラSIDE

 

(まずい流れだな……)

 

目の前に立っている敵IS、サイコガンダムMk-Ⅱを見つめながら私は内心焦る。奴は全身に装備されたメガ粒子砲を放っており、更にリフレクタービットを放ってビームを反射。死角から私達を狙って来る。しかもIフィールドバリアまであるので、こちらのビーム兵器はダメージを軽減されてしまう。おまけに、サイコガンダムMk-Ⅱはどうやら絶対防御を無効化するジャミング装置を備えているようで、被弾した際のダメージが軽減されなくなった。

 

(素の防御力は当てにできない。かと言って、このままアルミューレ・リュミエールを展開し続けていてはいずれエネルギーが……)

 

「くっ、この! 攻撃が鬱陶しい!」

 

自慢の機動性で避けるシャルロットは、狭い空間故にトランザムを封じられてかなり苦戦していた。

 

どうにか決定打を与えられるチャンスはないものかと考えていた、その時だった。

 

 

ドガァァァッ!!

 

 

入り口を破壊しながら赤いIS……アルケーガンダムが現れ、GNバスターソードでサイコガンダムMk-Ⅱの左腕を肩から両断した。

 

「怪我はねぇか、ガキども!?」

 

「ああ。すまないオータム、助かった」

 

「先生な。それとこれくらい、私にゃ朝飯前さ!」

 

「それより先生、気をつけて! ジャミングのせいか、絶対防御が効かなくて」

 

「んあ? 要するに食らったらヤバイってことか……はっ! 逆に燃えてくるじゃねぇか!!」

 

「おい」

 

どういうことか逆に闘志を漲らせるオータムにツッコむが、彼女は無視して突撃した。

 

「オラオラオラァァァァ!!」

 

サイコガンダムMk-Ⅱが反撃するよりも前に、オータムはGNバスターソードと爪先のGNビームサーベルで連撃を与えてくる。実体剣が主武装のアルケーは相性がいいのか。

 

「チッ、相性良すぎて逆につまんねぇな。ガキども、トドメは任せたぜ」

 

ボロボロになったサイコガンダムMk-Ⅱを見下ろしながら、オータムは言う。

 

「うわ、見る影もないや……容赦がないと言うか、何と言うか」

 

「いくつも戦場を渡り歩いて来たのなら、ここまでしなければ安心などできないんだ。私にはわかる」

 

弱々しくツインアイを光らせる頭部にビームナイフを突き立て、そのまま頭部を引き抜きながらシャルロットに言った。すると、向こうからISを纏った彰人と簪が来るのが見えた。

 

「シャル! ラウラ!」

 

「おう、遅かったじゃねーか。コイツは私が倒しちまったぜ」

 

「……オータム先生が? ありがとうございます」

 

「礼よりコイツ等のことを心配しろよ。ジャミングで絶対防御が効かない中、何とか粘ってたらしいし」

 

「何だって!? それは本当か!?」

 

「うん。お陰で中々攻められなくて」

 

「装甲で護られてなければ、最悪の事態も有り得た」

 

「……対IS用に作られていると言うの……?」

 

破壊されたサイコガンダムMk-Ⅱを見ながら呟く簪。その可能性は大いにあるだろうな。もし大量生産なんかされたら、絶対防御に頼り切りの奴らは太刀打ちできんかもしれん。

 

「ともかく無事でよかった。俺達はまた援護に向かうから、シャル達は別のところへ援護に向かってくれ」

 

「うん、わかった」

 

「了解した」

 

「任せときな」

 

頷き合うと、私達はそれぞれ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ内

 

OutSIDE

 

別のピットにもサイコガンダムMk-Ⅱが一機襲撃してきていた。が、その場にいる生徒の咄嗟の判断により壁を破壊して広いスペースのあるアリーナ内部に移動することができた。が……

 

「面倒だな。フォルテ、行ってこい」

 

黒い海賊のようなIS、ガンダムAGE2ダークハウンドを纏った生徒が両手をやる気なさそうにだらんとさせていた。彼女の名はダリル・ケイシー。IS学園三年生で、かなりの実力者ではあるのだが……。

 

「え~!? 嫌っスよ~! 先輩がやればいいじゃないっスか!」

 

文句を言いながら空中に寝そべっているIS、デスティニーガンダム。操縦者はフォルテ・サファイア、IS学園の二年生。彼女も相当な実力を持っている。いるのだが……。

 

「こういう面倒事はアンタが片付けるのがお決まりだろ?」

 

「いやいやいや! その理屈はおかしいっス! そこは年長者である先輩が戦陣を切るべきでは?」

 

「時には可愛い後輩に道を譲るのも、先輩としての役目さ」

 

「不思議! 良いこと言ってるのに先輩が鬼に見えるっス!」

 

こんな具合に全然戦おうとしない。サイコガンダムMk-ⅡのAIでさえ、戸惑ってどうしたらいいかわからなくなっている。だがすぐに判断すると、リフレクタービットを射出して全身の砲口からビームを放った。

 

「ヤバイッ!」

 

「へ? うわっ!?」

 

さすがの2人も慌てて回避行動に移る。先ほどまでのやる気の無さはどこへやら、2人は死角から放たれるビームを軽々と避けていた。少しすると破壊されたピットの奥から、オオワシ装備のアカツキを纏ったスコールが現れた。

 

「援護に来たわ! 2人とも無事?」

 

「どうにか、無事です!」

 

「ただ中々攻撃できなくて……助けてくれると嬉しいっス」

 

咄嗟に嘘をつく。スコールは「何か怪しいな」と思いながらも、助けない訳にはいかないので支援にまわる。

 

「アイツの攻撃は私が引きつけるわ。その隙に攻撃して!」

 

指示を飛ばしながらスラスターを点火し、サイコガンダムMk-Ⅱに肉薄する。アカツキのヤタガノカガミ装甲の前では、ビーム兵器は無意味なものとなる。

 

「はー、さすがっスね~。ビームを完全に無効化するなんて」

 

「だがアカツキの武器はIフィールドバリアとは相性があまり良くないみたいだな。フォルテ、行くぞ」

 

「はいっス、先輩!」

 

打って変わって雰囲気を変えるとフォルテはアロンダイトを、ダリルはドッズランサーを構える。そしてフォルテは光の翼を展開し、高速移動でサイコガンダムMk-Ⅱの背後を取るとアロンダイトで切り裂いた。

 

背中へのダメージにサイコガンダムMk-Ⅱはよろめく。そこへダリルがドッズランサーで攻撃し、拡散メガ粒子砲の発射口を潰す。ダリルはそのままドッズランサーで各砲門を破壊していき、フォルテは武器をフラッシュエッジ2に持ち替えてダリル同様砲門を潰していく。

 

「やるわね。私も負けてらんないわ!」

 

感心しながらスコールは、サイコガンダムMk-Ⅱの左腕をビームサーベルで肩から一気に両断すると、内部構造が丸見えになったところへビーム砲を放った。

 

「うわ、スコール先生って案外えげつない……」

 

「相手が無人機なのもあるんだろうよ。それより、これで決めるぞ」

 

若干引いているフォルテを促して接近していく。途中でビームソードを発生させた右腕を射出されるも、ダリルはアンカーショットを左手で構えて打ち出し、右腕を捕まえる。ワイヤーをフォルテがビームライフルで切断すると、ダリルはアンカーを振り回して右腕をサイコガンダムMk-Ⅱの頭部にぶち当てた。

 

「どうだい? 自分の右腕を食らった感想は?」

 

「先輩も負けず劣らずえげつないっス……」

 

呆れながらも接近したフォルテがアロンダイトでサイコガンダムMk-Ⅱの首をはねる。全ての武装と頭部を失ったサイコガンダムMk-Ⅱはその場に倒れ伏した。

 

 

 

 

こうして、IS学園に訪れた幾度目かの危機は排除された……かに思えた。



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80th Episode

IS学園司令室

 

千冬SIDE

 

「織斑先生、敵ISの内四機の撃墜を確認したとのことです!」

 

「そうか。だが油断はするな。引き続き、拠点防衛布陣のまま待機だ」

 

教員の1人からの連絡に、私は一息つく。無人ISが五機も襲撃したと聞いた時はさすがに焦りを感じたが、報告の通り一機を残して撃墜したので少しは安心できる。

 

「(問題は残る一機の動向だな)最後の一機は、現在どこに?」

 

「確認しています…………っ!? そ、そんな……!!」

 

「どうした?」

 

突然声色が変わった教員に尋ねる。何かあったのだろうか?

 

「残る一機は……ひ、避難シェルターに向かって移動しています!」

 

「何だと!?」

 

思わず叫ぶと、モニターを見る。そこには地面スレスレを飛行するサイコガンダムMk-Ⅱの姿が映っていた。

 

「何ということだ……近くに専用機持ちはいないのか!?」

 

「織斑マドカさんと凰鈴音さんが向かって……訂正、交戦してる模様です!」

 

「そうか……念のために他の専用機持ちにも連絡を」

 

そう指示を飛ばすと、私は焦る心を落ち着けようと息を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴SIDE

 

「こんのぉ……! 止まりなさいって!!」

 

アルトロンのドラゴンハングでサイコガンダムMk-Ⅱを掴んで後ろへ引っ張ろうとするが、推力が違いすぎて止めることができない。

 

「いい加減に、止まれ! 機械人形が!!」

 

正面からはマドカのレジェンドが攻撃を仕掛けているが、ビーム兵器が主なレジェンドはIフィールドバリアの前に威力が半減されてしまう。

 

「ああもう! こうなったら!」

 

向かっ腹が立ってきた私は火炎放射でサイコガンダムMk-Ⅱのスラスターを焼き尽くし、破壊してサイコガンダムMk-Ⅱを地面に落とす。最初からこうすれば良かったかも。

 

けどスラスターを破壊しただけなので、サイコガンダムMk-Ⅱは起き上がろうとする。

 

「そのまま寝てろ!」

 

「永遠にね!」

 

そこへマドカがビームジャベリンで頭部を、私がツインビームトライデントで人間で言う心臓辺りを突き刺す。こっちは攻撃されることもなく、サイコガンダムMk-Ⅱは機能を停止した。

 

「AIが。マシンの性能を完全に引き出せるとでも思っていたのか?」

 

「確かに、人間が乗ってた方がある意味厄介だったかも」

 

でなきゃ頭部を破壊するなんて無茶なことできないし。これが無人機で良かったと心底思いながら、私達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

全ての無人機が撃破されたと連絡があった後、俺達はIS学園の地下にある秘匿区画に集められた。俺どころか全員が戸惑ったが、きっと何か大事な話があるんだろうと考えた。ちなみにサイコガンダムMk-Ⅱ撃破に貢献してくれた二機のIS、デスティニーとAGE2ダークハウンドのパイロット(確かフォルテとダリルと言ってた)は事態が収束するなりさっさと帰ってしまった。案外マイペースな人達なのかもしれない。

 

「さて、本題に入る前に無人機の件だが……皆よくやってくれた。お陰で最悪の事態は避けられた」

 

表情を綻ばせて言うと、チラリと山田先生を見やる。端末を持った山田先生は前に出てくる。

 

「今回の無人機は以前襲撃してきた無人ISの発展型のようです。コアは全部で3つ回収できましたが、それ以外は戦闘で破壊されていました。それとコアはどれも登録してありましたが……全て行方不明になっていたものでした」

 

「それ、盗まれてたってことですか?」

 

「それも含めて、本題に入ろう。と言っても、説明するのは私じゃないが」

 

驚く鈴ちゃんに千冬さんは答えると、後ろを見て目で合図をした。すると束さんがいつにもなく真面目な顔つきで歩いてきた。ただごとじゃなさそうだな……。

 

「何故姉さんが……っ、まさか無人機と姉さんには、何か関わりが?」

 

「うん。最初に学園に現れた無人機……サイコガンダムMk-Ⅰは元は私が作ったんだ。けど色々あって廃棄処分して、気がついたら盗まれてたの」

 

亡国機業(ファントム・タスク)の仕業か」

 

「それなら納得がいくな」

 

「では、最初に得た無人機のデータを解析してMk-Ⅱを開発し、奪ったコアを……」

 

ISを強奪することができる連中なんだ。コアだけを盗んだりすることも可能なんだろう。

 

「それより本題に入るけど、その前に紹介したい子が居るんだ。……いいよ」

 

束さんが何やら促すと、その後ろから1人の女の子が現れた。彼女の姿を見た俺達は、息を飲んだ。特にラウラの驚き方が半端じゃなかった。それもその筈。女の子の見た目は……ラウラそっくりだったからだ。強膜の部分が真っ黒で両方の瞳が金色なことを除けば。

 

「お、お前は……誰だ? 何故、私と同じ顔を……!?」

 

「私の名はクロエ・クロニクル。完成形であるラウラ・ボーデヴィッヒを生み出す為に作られた、プロトタイプです」

 

「くーちゃんは私が見つけた研究所に偶然居て、まーちゃん達同様に廃棄されかかってたんだ。だから私が助けて、助手として置いてるという訳」

 

随分と複雑な経緯だな……束さんが居なかったら、この子も今頃……。

 

「……聞いたことがある。私が生まれる過程で、何人も「私」が生まれてきたと。最初は単なる噂としか思ってなかったが…………なら…貴女は、私の姉……なのか?」

 

「え?」

 

ラウラの問いかけに思わず聞き返すクロニクル。

 

「まあ間違っちゃいないわね。経緯がどうであれ、先に生まれたのはあの子みたいだし」

 

「……いえ、私は姉ではありません。私とラウラでは、何もかも違いすぎる……能力も、目の色も……」

 

クロエは刀奈さんの言葉に首を横に振ると、悲しげな表情を浮かべた。

 

「……それの何がいけないの?」

 

「っ……?」

 

「……私とお姉ちゃんにも、違う部分はいっぱいある。違うことが姉妹であっちゃいけない理由には、ならない」

 

「ですが「くーちゃん」束様?」

 

「あの子の言う通りだよ。それに私と箒ちゃんを見てよ。同じところがあると思う? そういうことなんだよ」

 

優しく語りかける束さんに、クロニクルは戸惑いを見せる。するとラウラはクロニクルを真っ直ぐ見つめて言った。

 

「私は……貴女の妹になりたい。貴女と姉妹に……なりたい」

 

「っ、いいんですか……?」

 

「ああ……『姉さん』」

 

「!! ら…ラウラッ!!」

 

尚も戸惑っていたクロニクルは、ラウラの最後の言葉で何かが吹っ切れたのか、泣きながらラウラに抱きついた。

 

「姉さん……! 姉さん、姉さんっ!!」

 

「ラウラ……ああ、ラウラ……! ずっと、ずっと会いたかった……!!」

 

2人はしばらく抱き合った後、周りを見て少し気まずそうにしながら離れた。ちょっと微笑ましいと思ったのは内緒だ。

 

「さて、結構脱線しちゃったけどいよいよ本題だ。くーちゃん、アレを」

 

「はい」

 

クロニクルは手に持った端末を操作して、空中にディスプレーを展開していく。その速度は凄まじく、人間業とは思えない程だ。やがて全て展開されると、表示された情報に目を見張った。

 

「これ、全部亡国機業(ファントム・タスク)の情報!?」

 

「そ。私とくーちゃんで調べたんだ。でも肝心なのは暗号化されてわからなくて、その中でも特にこれが気になったんだ」

 

数あるディスプレーの中から1つが前に現れ、あるファイル名が拡大される。そこには赤文字で『世界最後の日』とあった。

 

「こりゃまた大層な名前だな……何かの作戦か?」

 

「その可能性は大だな。文字通り、世界レベルの作戦かもしれん」

 

「私の方で解読は進めるけどとにかく、これに気をつけて欲しい。単なる悪ふざけや暗号にも思えなくてさ。これもあるから余計に」

 

ディスプレーが切り替わり、何かの設計図へと変わる。これは……。

 

「まさか、デストロイガンダムか!?」

 

「正解だよいっくん。どうやら亡国機業(ファントム・タスク)はコイツの量産にも踏みだそうとしてるみたいで、しかも体勢が整いつつあるんだ」

 

それを聞いた俺と一夏は戦慄し、クロニクルが見せたデストロイガンダムの設定資料を見た他の皆も同様に戦慄していた。

 

「もしかしたら、連中の目的はこれを使った世界主要都市への同時攻撃……!?」

 

「お、おい。いくら何でもそれは……」

 

「いや、彰人の意見も十分有り得るぞ兄さん。何せあそこに居る連中は過激だからな」

 

俺は単に可能性の1つとして言ったんだが、どうも可能性としては思えなくなってしまった。そんな俺の心境はつゆ知らず、束さんは「それと」と付け加えると、千冬さんに言った。

 

「もしもの時を考えて『アレ』の再起動を始めてるから、その時はちーちゃんもお願い」

 

「っ、『アレ』か……もう使うことはないと思ったんだが……わかった」

 

この後俺達は解散することになったが、俺は最悪の可能性のことが終始頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首相官邸

 

省吾SIDE

 

「ったく、厄介なことになりつつあるな……」

 

俺は唯と共に束から送られた資料を見て、呟いた。

 

「『世界最後の日』に、デストロイガンダムの設計図……何が起きるって言うの?」

 

「さあな。ただ亡国機業(ファントム・タスク)の連中が、何かとんでもねぇことをしでかすことは確かだ。それが何かはわかんねぇが」

 

とにかく、このことはB.Dにも連絡しといた方がいいな。どうも嫌な予感がしやがるし……。まさか、デストロイで世界各国襲うつもりじゃあるまいな? 考えすぎか?



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81th Episode

あれから数日。最悪の可能性のことが頭から抜けきらない俺は、一夏と轡木さんと共に放課後の釣りに興じていた。

 

「クソッ、全然釣れねぇ……」

 

「俺もだ……」

 

「はは、心に雑念がある時は中々釣れないものなんですよ」

 

雑念か……もしかしなくても、可能性のことだな。深くは考えるなってことか? よーし……!

 

「っしゃ釣れた!」

 

「何!? どうやったんだ!?」

 

「なーに、難しいことを考えるのはやめたんだよ。どうせ俺達はただの学生なんだし、世界の危機とか可能性とか、そん時ゃそん時だ!」

 

「お前ってたまに変に吹っ切れるよな……ま、いいけどさ!」

 

言いながら今度は一夏が釣り上げる。上手いじゃないの。

 

「よくわかりませんが、下手に考えるよりは敢えて考えないのも心を落ち着かせるいい手段です」

 

と、ここで轡木さんの竿が大きく揺れ出した。

 

「おお! 大物がかかったか!?」

 

「みたいですね……! くっ!」

 

「頑張って下さい! ……あ、そういえば弾と数馬がメール寄越してたぞ。何でも虚さんとのほほんさんのデートを取り付けたって」

 

「お、やるじゃん! とりあえず応援のメールを送っておこう」

 

「このぉぉおおおっ!!」

 

携帯を操作した時、轡木さんが竿を全力で持ち上げた。

 

 

ザバァァァァン!!

 

 

大きな飛沫と共に現れたのは、1匹の鯖だった。元気よくピチピチと跳ねている。

 

「お、鯖ですね。結構な得物じゃないですか」

 

「はは…おや? 君達の竿もかかったみたいですよ?」

 

「え?……あ、ホントだ!」

 

「引こう引こう!」

 

俺達も竿をぐいっと引っ張り、それぞれの得物を釣り上げて見る。

 

「鯖だな。そっちは?」

 

「同じく。今日は鯖づくしか…いいな」

 

「でしたら、後でとっておきの調理法を教えてあげましょう」

 

「「マジすか!? 是非!」」

 

思わずハモった後、しばらく釣りに興じたのであった(ちなみに得物はほぼ鯖であった)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Out SIDE

 

あれから少し経ち、彰人と一夏は寮の部屋で協力し合って鯖料理を作っていた。

 

「この味付けはこれで……どうだ?」

 

「いいんじゃないか? あ、でも隠し味でこれ入れても―――」

 

『『『…………………』』』

 

楽しく料理をしている2人を、箒達はじっと待っていた。あの後、手作り料理を振る舞うと言って彼女達を部屋に呼び出したのだ。

 

「2人とも生き生きしてるね……」

 

シャルロットがため息をつきながら言う。

 

「一夏も彰人も、かなりの料理好きだからな」

 

「……でも、女子よりも女子力高いってどういうことなの…?」

 

「それは私も思ったわ。この前愚痴を偶然聞いた時だけど、部屋の角のほこりを取る方法だとか、キッチンの焦げの取り方だとか……何で男子なのに女子力半端なく高いのよって」

 

「私そんなことあんまりしないのに……どこで女子力見せたらいいのよ……」

 

「な、何かありませんか? こう、豆知識とか」

 

「いや……さっぱりだ」

 

ラウラの一言と共に沈黙する。どうしたもんかと腕を組んだ、その時―――

 

「「待たせたな!」」

 

どこぞの傭兵の如く現れた彰人と一夏が、テーブルに料理を並べていった。

 

「今日は鯖尽くしということで、色んなものを作ってみました」

 

(いや作りすぎでしょ! 軽く10種類は超えてるわよ!?)

 

(こんなにレパートリーあったかしら、鯖料理って……)

 

「んじゃ食べようか。せーの」

 

「「いただきます!」」

 

『『『いただきます……』』』

 

それぞれ料理を一口頬張り、味わっていく。

 

「どうだ?」

 

「うまいか?」

 

「ああ…うまい」

 

「おいしいですわ……」

 

「「「おいしいわよ……」」」

 

「う、うん。凄くおいしい」

 

「ふむ。中々の味だな」

 

ラウラ以外の女子達が沈んだ表情で答える。が、2人は気づかずに「よかった」と微笑む。が、その直後……

 

「でもね一夏……」

 

「彰人……」

 

「「ん?」」

 

『『『やっぱり解せなぁぁああああああい!!』』』

 

「「な、何がぁぁぁあああああああああああああ!?」」

 

乙女達の叫びに、2人の男子はただただ困惑するばかりだった。

 

「どれ、これも食べるか……うむ。絶品だ」

 

ちなみにラウラは1人、夢中で食べ続けていた。



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82th Episode

とある休日、生徒会室にて

 

刀奈SIDE

 

「ん~、終わった~! やっと休憩できる~!」

 

生徒会長の仕事を終え、大きく背伸びをする。この前のキャノンボール・ファストの襲撃についての書類を纏めなければならなかったので、休日なのにかなりの重労働になった。

 

「……にしても」

 

チラッと虚ちゃんを見る。綺麗な服を着て、時計を見る彼女は普段引き締まっている表情を恍惚と緩ませていた。今日は彰人君達の友達の弾君とデートするって言ってたけど、明らかに影響が顔に出てるわね。

 

(完全に恋する乙女って感じね。私も彰人君に引っ付いてる時は、こんな顔してるのかしら?)

 

何にせよ、虚ちゃんに春が訪れまくっているのは確かだ。ちょっと応援してあげようかな。

 

「虚ちゃん」

 

「っ、はい。何でしょうか?」

 

「そう畏まらなくていいわよ、プライベートなことなんだから。……今日のデート、頑張ってね♪」

 

「はい……ってえ、えぇっ!? あの、その、うぅ……」

 

「そんなんでデート中大丈夫なの……」

 

いくら何でも初心過ぎでしょ……何かちょっと不安になって来ちゃったわ。まあ弾君の人柄からいって問題は無さそうだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の廊下

 

簪SIDE

 

今日は折角の休日。連戦で疲れた体を休ませようと、私は自販機でドリンクを買って部屋に戻ろうとした。

 

(……あれ?)

 

途中で私服を着た本音がスキップしながら向かってくるのが見えた。表情からして、かなり機嫌が良いのがわかる。

 

「……どうしたの、本音? 何か良いことでもあったの?」

 

「あ、かんちゃん! えへへ、実はね~、今日はカズーとデートなんだ~♪ だからね~、すっごく楽しみなの~!」

 

そう言うと、嬉しそうに廊下をスキップして行った。ポカンとしていると、前から戸惑いの表情を浮かべた彰人が歩いてきた。

 

「何か凄いことになってるな……」

 

「……うん。あんなに嬉しそうな本音、初めて見たかも」

 

「初デートだもんな。そりゃ有頂天にもなるさ」

 

「……上手くいって欲しいな」

 

「きっと大丈夫だ。数馬にはメールでシャルお墨付きのオススメ喫茶店を教えといたから。@クルーズって言ったかな?」

 

「…………え?」

 

私は彰人の言葉に耳を疑った。何故なら、私は少し前にある話を偶然聞いたからだ。確か一夏がラウラに「弾からデートの行き先でオススメない?って聞かれたんだけど、何か知ってる?」と尋ねてて、ラウラがそれに@クルーズと答えていた。

 

………………だ、大丈夫だよね? 時間とかずらせば………問題ない、よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾SIDE

 

「よし、時間は大丈夫だな」

 

俺は待ち合わせ場所に駆け足で向かいながら腕時計を見て呟いた。何せ人生初のデートだ、失敗なんてしないように気をつけないと。……だけど蘭の奴がデートの時の服を真面目になって選んでくれるとは、思わなかったぜ。やっぱこういうのって女子の目線で選んだ方がいいんだな。お陰で助かった。それと、出かける時に蘭や母さんどころか、あの祖父ちゃんまで俺を応援してくれるなんてなぁ。予想外だったな。

 

(って考えてる内に着いた……ぞ……?)

 

5分程前に待ち合わせ場所に着いた俺が目にしたのは―――ワンピースを着込んで薄く化粧をした虚さんだった。

 

「綺麗だ……」

 

思わずそう言ってしまった俺は我に返ると歩いていく。今の一言で気づいたのか、虚さんはこっちを見ると顔を赤らめる。

 

「だ、弾さん! い、今来たんですか?」

 

「ええ。すいません、待たせてしまって」

 

「い、いいえ! 私の方が早く来すぎたぐらいですからっ」

 

コロコロと表情を変える虚さんを微笑ましく思いつつも、そっと虚さんの隣に立つ。

 

「あ……それで今日は、どういったところへ?」

 

「そうですね……あの、虚さん。お昼はまだですか?」

 

「ええ、そうですが?」

 

「ならまずは昼食にしましょう。良いお店を知ってるんですよ」

 

そう言うと、虚さんは笑顔で「わかりました」と言ってきた。……俺、これだけでしばらくは生きられるかもしれない。ってダメだ、こんなとこで満足してたら!!

 

かなりドキドキしながらも、俺は虚さんの手を引いて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数馬SIDE

 

「んへへ~、カズーとデート♪」

 

僕は本音ちゃんと手を繋ぎながら道を歩いている。内心テンションが上がりまくりだが、本音ちゃんはそれを全身で表していた。僕もやろうかな?……やめとこう。間違いなく変な目で見られる。

 

兎にも角にも、僕らはまず@クルーズという喫茶店に向かっていた。中々良いお店らしい(ちなみにメイド喫茶だという)。

 

「さ、入ろう」

 

「うん!」

 

@クルーズの前に着いた僕達は、ドアを開けて中に入る。すると―――

 

『『『お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!』』』

 

綺麗なメイドさん達が出迎えてくれた。初めて来たけど、凄いな……。圧倒されている間に僕達は席に案内された。

 

「それではお嬢様、ご注文は如何いたしましょうか?」

 

「んーとね~、これと、これ!」

 

「ミートソーススパと烏龍茶ですね、畏まりました。ご主人様は?」

 

「えっと……カレーライスと、コーラかな」

 

「畏まりました。ミートソーススパと烏龍茶、カレーライスとコーラですね。ではお持ち致しますので、それまでの間しばしお待ち下さい」

 

メイドさんは厨房の方へと歩いて行った。僕は椅子の背にもたれて、ふと顔を通路を挟んだ反対側の席へと向けた……って、あれ?

 

「え、弾!?」

 

「ん?……か、数馬!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「本音……!?」

 

僕らは驚きながらもこれ以上騒がないように気をつけ、どういうことなのか話をする。

 

「そっちもデートだったのか……何でこの店を?」

 

「一夏がラウラって子を通じて教えてくれたんだ。お前は?」

 

「シャルって子から聞いたって彰人が……」

 

そこまで来て、僕達は深くため息をついた。人に頼ってばかりじゃいけないってわかったよ、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾SIDE

 

数馬とまさかのかち合いをした後、俺達は昼食を取ってから店を歩いていた。

 

「まさか本音がいたなんて……は、恥ずかしい……」

 

「だ、大丈夫っスよ。俺も同じ恥ずかしさを感じてますから」

 

いや何言ってんだ俺。こんなん慰めにもならないだろ。

 

軽く自己嫌悪に陥っていると、虚さんが声を掛けてきた。

 

「……恋人みたいでしたね、本音達」

 

「え? あ、言われてみれば確かに」

 

こっちを意識しつつもじゃれてたもんな。本音って子が。メンタルすげぇと思ったよ。と思っていると、虚さんが俺の腕を絡ませてきた……!?

 

「う、虚さん?」

 

「私も……本音みたいに、好きな人に甘えたい……たくさん尽くしてあげたい……そう思っています。……へ、変でしょうか?」

 

上目遣いで尋ねてくる虚さんに心奪われながら、俺は必死に言葉を紡いでいく。

 

「えっと…いいと思いますよ? 好きな人に甘えるのは別におかしいことじゃありませんし。ただ…………その対象が俺に向いてくれると、嬉しいんですけど」

 

自分で言ったことに内心悶絶しながらドギマギしてると、顔を真っ赤にしながら虚さんは答えた。

 

「……なら……甘えても、いいですか? 尽くしても、いいですか……?」

 

「……俺でよければ、幾らでも構いませんよ…………虚」

 

「っ!! だ、弾さん……!!」

 

思い切って呼び捨てにするといよいよ虚さんは俺に正面から抱きつき、何かが吹っ切れたかのように耳元で「好き」と何度も言ってくる。俺もそんな彼女を抱き締め、何度も「好きだ」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数馬SIDE

 

「弾と鉢合わせるなんて、思わなかったよ……」

 

本音ちゃんと歩きながら、ため息をつく。

 

「私もお姉ちゃんと会うなんて思わなかったな~。びっくりしちゃった」

 

「その割に平然とじゃれついて来たよね、本音ちゃん」

 

「あははっ! でも~、これでお姉ちゃん達には私達が恋人同士って映ったかも」

 

「だろうね……」

 

ちょっと恥ずかしかったけど、本音ちゃんの笑顔が見られたなら大満足だ。そう密かに思っていると、本音ちゃんが顔を赤くしながら僕を見上げてきた。

 

「本音ちゃん?」

 

「……ねぇ、カズー。カズーは恋人に見られてるかもって思って、嬉しかった?」

 

「え……そ、そりゃまあ……本音ちゃんとなら、そうなりたいって思ってるから……う、嬉しかったよ」

 

「ふぇっ? あ、そ、そうなんだ……」

 

僕の答えが予想外だったのか、本音ちゃんは顔を更に赤くして俯いてしまった。

 

「わ、私も……カズーと、恋人になりたい……周りに思われてるだけじゃなくて「本音ちゃん!」ひゃわ!?」

 

気がつくと僕は本音ちゃんを抱き締め、目を真っ直ぐ見つめて言っていた。

 

「ありがとう。僕なんかを、そんなに想ってくれて………………本音、好きだよ」

 

「ふぇええええ!?(よ、呼び捨て!? あ、あうぅ……)」

 

本音は恥ずかしそうに服を掴みながら、小声で「……好き」と言ってくれた。上がりまくるテンションを抑えながら、僕は本音を長い時間抱き締めていた。



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体育祭編
83th Episode


アリーナ

 

皆さんこんにちは、矢作彰人だ。季節は10月の半ばになり、肌寒い風が吹き荒れ刺激してくる。こんな時に俺を含む全校生徒や教師達はアリーナに集まっている。今度は何をしているのかって? それはだな―――

 

「宣誓! 我ら生徒一同はスポーツマンシップに乗っ取り、正々堂々競い合うことを誓います!!」

 

―――聞いた通り、体育祭だ。

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』

 

女子達が一斉に雄叫びを上げる。……男子より男らしいとか思ったが口にはしない。したところでどうせ聞こえないが。

 

ちなみに今回勝者への特典は無い。嘘だと言ってよ、刀奈……。

 

「ここんとこ襲撃続きでテンション下がってるのに、更に半減しちまうよ……何かくれよ」

 

げんなりしながら言った時、俺の様子に気づいたセシリアが近づいて小声で伝えてきた。

 

「優勝したら、私がご褒美をあげますわ。ですから……頑張りましょう?」

 

瞬間、俺の脳裏に稲妻が走り、「RX-0」が脳内再生される。

 

「ゲームスタートだ……」

 

油断も容赦も一切しない、デストロイモードの気分で挑ませて貰おうか……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一種目・100メートル走

 

最初に行われるのは至ってシンプルで、各クラスから2名ずつ選ばれた代表が100メートルを全力で駆け抜けるというものだ。そして一組の代表は俺と一夏。同じクラスだが、奇しくも直接対決の形になる。

 

「一夏、ちょっと勝負しないか?」

 

「どっちが先にゴールするかって奴だろ? 勿論、やってやるぜ!」

 

闘志を漲らせながら言う一夏。提案したこっちも張り合いが出てくるというもんだ。

 

「位置に着いて! よーい……」

 

ピストルを真上に構えて言う先生の声に、俺や一夏に他の走者達が構える。

 

パァン!

 

「「っらぁぁあああああ!!」」

 

音が鳴り響くのと同時に一気に走り出す。俺と一夏は男子なのでぶっちぎりで女子を追い抜いて行く。

 

「ようし! このまま一位をもぎ取ってやる!」

 

「させるかぁ! トップは俺だ!」

 

「「ぬぅぅぅうううううううううううううう!!」」

 

負けるかという気持ちと根性で、俺はついにゴールまで辿り着いた。

 

「矢作彰人君、12秒52!」

 

「織斑一夏君、12秒52……って嘘! 同時!?」

 

「「何ィ!?」」

 

先生の言葉に驚愕し、それぞれの記録を計測していた先生の元へ行って確認する。

 

「ほ、本当に同じだ……」

 

「んなアホな……決着つかずかよ」

 

がっくりと項垂れながら、一夏と共に一組のテントへと戻る。クラスの女子達に賞賛と驚きを持って迎えられたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二種目・障害物競争

 

2つ目の種目である障害物競争は、平均台にハードル、跳び箱や網潜りと最後に即席着替えがある。単純に速さが求められる訳でもないし、障害もそう多くないからそんなにきつくはないかな。俺や一夏がやる訳じゃないけど。

 

「障害物か。基本は軍の訓練と同じだ、行ける!」

 

「いや軍の方が明らかにキツイでしょ」

 

「……落ち着いて、普段通りのリズムで」

 

今回一組からはラウラが、二組からは鈴ちゃんが、四組からは簪が出場している。なので俺と一夏は観戦且つ応援役なんだけど……。

 

「彰人。俺個人としては鈴を応援したいんだが……」

 

「言うな。俺だってラウラと簪の両方を応援したいんだ」

 

よりによって応援したい人が違うクラスに居るという状況が枷になってしまっていた(ラウラは俺達と同じクラスだから、一応応援はできる)。

 

「……とりあえず、心の中で応援しとこうぜ」

 

「そうだな……後で何か言われそうで怖いが」

 

やめてくれ一夏、変なフラグを立てないでくれ。俺も怖くなるから。

 

「では位置に着いて! よーい……」

 

パァン!

 

そうこうしているとピストルの合図で始まり、選手達が一斉に走り出す。先頭はラウラ、鈴ちゃん、簪が並び平均台まで辿り着く。

 

「ふっ!」

 

「よっと!」

 

「……っ!」

 

ラウラはバランスを全く崩すことなくクリアし、鈴ちゃんと簪も順調にクリアする。この時点でラウラが若干有利になる。

 

続いてハードルは3人共難なくクリア。そのまま網潜りに挑戦する。

 

「何の、この程度は!」

 

ここではラウラが匍匐前進で一気に突破し、差を広げた。毎度思うけど、伊達じゃないな。

 

そして最後に待ち受ける即席着替えへと向かう。これはちょっと特殊で、選手毎にコース上に設置された試着室へと入り、その中で選手が予め指定したペアに用意されてるコスプレ衣装に着替えさせて貰うというものだ。これが原因で俺と一夏は参加出来なかったようなもんだが、中々面白い試みだと思う。はてさて、どんな衣装を着てくるのやら。

 

「どうやら私が一番みたいね!」

 

最初に出てきたのは鈴ちゃん。着ているのは、張五飛の白いチャイナ服だ。

 

「……任務完了(ミッション・コンプリート)って奴?」

 

次に出てきた簪が着込んでいるのは、叢雲劾の制服だった。しかもご丁寧に彼のサングラスまでしている。

 

「しまった! 遅れたか!」

 

その次に出てきたラウラは、カナード・パルスの服を着ていた。……っておい、ちょっと待て。確かにコスプレだけども、これ各々の持ってる機体に関連するものじゃないか! よく調達したもんだ……。

 

その後、一位は再び追い抜いたラウラになり、二位が鈴ちゃん、三位が簪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三種目・ISファイト

 

さて、この3つ目の種目だが……タイトルからして予想できる方も居ると思うが、あのガンダムファイトをISで再現したトーナメントバトルだ。と言っても完全に再現している訳ではなく、相手が特設されたバトルステージから落下したり、「参った」と言ったり、頭部パーツに甚大なダメージが与えられた場合に決着が着くという形になっている。ちなみにこのISファイトでは公平を期す為に、専用機持ちも含めて全員がM1アストレイに乗る義務が与えられている(カラーリングを変えてあるので見分けはつくらしい)。

 

『いよいよ始まりました、第三種目ISファイト! 司会は私、黛薫子と!』

 

『サラ・ウェルキンがお送りします!』

 

お、今回は司会があるのか。気合入ってるな。心なしか2人ともノリノリだし。でも正直驚いたな……黛さんはともかく、ウェルキンさんはイギリスの代表候補生でセシリアに操縦技術を教える程優秀な人って聞いてたから、てっきり生真面目な人なのかなって思ってたけど……そんなことはなかったな。

 

『では一回戦の選手はバトルステージに移動して下さい』

 

すると通常カラーのM1アストレイと赤い部分がイエローになったM1アストレイがステージに上がり、対峙する。

 

『最初の対決は、こちら! 現代(いま)を生きる和風少女! 一年一組、篠ノ之箒!!』

 

ディスプレーに通常カラーのM1アストレイがアップで表示され、一組から歓声が上がる。

 

『そして! お菓子好きの今時女子! 一年三組、ティナ・ハミルトン!!』

 

イエローカラーのM1アストレイが表示され、今度は一年三組から歓声が上がる。

 

『紹介も終わったところで……それでは! ISファイト、レディィィ……ゴー!!』

 

いやその掛け声もやるんですか、黛さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

『ISファイト、レディィィ……ゴー!!』

 

「はぁああああああああああ!!」

 

「っ!」

 

試合開始の合図と共に、ハミルトンがビームサーベルを構えて突っ込んで来る。それを私は受け流し、拳を叩き込んでいく。この競技は基本的に徒手空拳とビームサーベルとバルカンしか使えないので、対艦刀を主武装としていた私には少し不利だ。

 

「だがそんな状況下でも相手を倒すのが、真の一流というものだ!」

 

「きゃあっ!?」

 

相手の腹部にパンチを当てて怯ませると、右手で頭部をすぐに掴んで地面に倒す。

 

「剣の無い私なら倒せると睨んでいたか? 確かにそう思うかもしれんが、生憎剣が無い時の対処法も考えていてな……!!」

 

アイアンクローの応用で手に力を込める。ハミルトンのM1アストレイの頭部が軋み始め、バキッ!という音と共に一部がへこむと火花が散り、ツインアイの光が消えた。

 

『決まったぁーっ!! ISファイト一回戦勝者は、篠ノ之選手!! 決まり手は頭部破損!!』

 

拍手と歓声が響き渡る中、私は倒れたハミルトンに肩を貸すと客席に居る一夏を見た。

 

(一夏、見てくれたか? この戦い、私は勝ち進んで見せるぞ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園上空・高高度

 

OutSIDE

 

「体育祭だってさ。呑気なもんだね、姉さん」

 

ISを纏ったオーが隣に居るエスに忌々しそうに言った。

 

「年に一度の大切な行事らしいからな」

 

「私達は体育祭どころか、学校すら行ってないって言うのにね……」

 

「言っておくが、癇癪を起こすんじゃないぞ、オーよ。私達はこれまで全ての行事を潰して来たのだから、最後の行事ぐらいは終わるまで見逃してやろう」

 

「わかってるよ姉さん。ちょっと羨ましかっただけだよ」

 

釘を刺されながらも、オーは体育祭の様子をハイパーセンサーで羨ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

『さぁて! ISファイトもいよいよ最終決戦! 対決するのは一年一組篠ノ之選手と、三年二組相原選手!!』

 

バトルステージで私はブルーカラーのM1アストレイと睨み合う。まさか相原先輩が最後の相手とは。

 

『しかも情報によると、相原選手は篠ノ之選手が所属している剣道部の元部長だそうで、短いながらも互いに剣を交わしたこともあるそうです!!』

 

解説が言うように、相原先輩は私が部活でお世話になった人だ。正直戦いたくは無いのだが……。

 

「言っておくけど、私は手加減しないから。貴女も手加減は無しでお願いするわよ?」

 

「っ、望むところです!!」

 

『ようし、それじゃあ行ってみよう! ガンダムファイト最終決戦! レディィィ!!』

 

『『『ゴォォォオオオオオ!!』』』

 

「はぁああああああああああ!!」

 

合図と共に最初に相原先輩が右腕で殴りかかってくる。私はなんとかそれを避け、殴り返すが逆に左手で殴られ、更に連撃を食らい一気に端まで追い込まれる。

 

「これで終わりよ!!」

 

「くっ……!」

 

相原先輩が突っ込んで来る。いよいよ私も負けるかと思った、その時―――

 

「箒ーっ! 負けるなぁぁぁあああああああ!!」

 

「(っ、一夏!)うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「何っ!? ぐあっ!!」

 

一夏の声援で体に活を入れ、相原先輩の攻撃を避けると頭部を掴んで力を込める。が、相原先輩も私の頭部を掴む。

 

「ここまで来て、負けてたまるかぁぁぁぁああああああああああ!!」

 

「それは……こっちも同じだぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 

互いに全力を出し、頭部を握り締める。やがて同時に頭部が破損し、センサーにノイズが走る。判定は……?

 

『えー、少々お待ち下さい。…………判定結果が出ました! 勝者、篠ノ之選手! 篠ノ之選手の優勝です!!』

 

大きな歓声が会場を包み込む。私は頭部マスクを解除し、一夏を見る。一夏は笑顔でサムズアップをしてきてくれた。私も笑顔とサムズアップで一夏に返した。



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84th Episode

第四種目・借り物競争

 

どう見てもガンダムファイトな第三競技が終わった後、昼食を挟んで借り物競争が始まった。先にある箱からお題の書かれた紙を取り、書かれた物を持って審査員のところへ行くというポピュラーなものだ。一組からはセシリアが参加する。

 

「位置に着いて。よーい……」

 

パァン!

 

ピストルの合図で一気に走り出し、箱の中の紙を取り出して見る。セシリアにはどんなお題が出たんだろうか?

 

「え、えぇ!? こ、これは……」

 

何だ? 顔が赤くなってるが……ってこっちに来る? 何で!?

 

「あ、彰人さん! 一緒に来て下さいまし!」

 

「へ、何故? まさかお題って俺!?」

 

「い、いいから早く!」

 

半ば強引に腕を引っ張られ、俺は審査員のところへと連れられる。セシリアが紙を渡すと、審査員はニヤニヤしながら俺とセシリアを見ていた。

 

「合格」

 

「それちょっと見せて」

 

合格は貰えたみたいなので、審査員の紙を取って見てみると……。

 

『初恋の人』

 

…………………ん?

 

「あ、あの、彰人さん、これは……」

 

「……皆まで言わなくていい。俺もセシリアが初恋だったからな」

 

「ふぇ!?」

 

「ほ、ほら行くぞ!」

 

セシリアだけに恥ずかしい思いはさせまいと自ら恥ずかしいことを言ったが、凄くいたたまれなくなり手を引いて二着でゴールした。……周りから余計ヒューヒュー言われて簪達にむすっとした顔で見られたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五種目・クラス対抗リレー

 

いよいよ体育祭のクライマックス、クラス対抗リレーだ。現在は俺が一位でアンカーの一夏にバトンを渡し、一組が一位を守っている。

 

「一夏ぁー! 後少しだ、そのまま来いー!!」

 

「うおらぁぁあああああああああああああああ!!」

 

最終コーナーを周った一夏が全力で走り、ぶっちぎりでゴールテープを切った。

 

「はぁ…はぁ…よっしゃ一位じゃあ!!」

 

「よくやったぁ!!」

 

走りきった一夏と肩を組んだ―――その瞬間。

 

ドォォォォン!!

 

爆音と共に砂煙が上がった。

 

「何だ? 祝砲を失敗したのか!?」

 

「いや違うと思う。てか、もしそうだとしたらえらい事だぞ!」

 

確かにそうだ。となると考えられる可能性は1つ。

 

「また亡国機業(ファントム・タスク)か」

 

呆れながら晴れていく砂煙の先を見つめていると、そこにガンダムヴァサーゴとガンダムアシュタロンに4機のサイコガンダムMk-Ⅱが浮かんでいた。それを確認してISを展開すると、千冬さんから通信が入った。

 

『専用機持ちの諸君、聞こえるか?』

 

「はい、聞こえます」

 

即座に返事をしたが、どうやら専用機持ちのメンバーに向けた一斉通信らしい。

 

『一般生徒の避難等は私達が行う。避難が完了するまで連中の足止めを頼む』

 

「了解!」

 

通信が切れた後、俺は一夏達とすぐに合流する。と、エスとオーがこちらに通信をしてきた。

 

「やあ、久しぶりだね。キャノンボール・ファスト以来だったかな?」

 

「ああ。全然会いたくなかったけどな……例によって行事の途中で介入して来やがるし」

 

「これでも待ってた方なんだよ? むしろ感謝して欲しいな」

 

「そこまでにしておけ、オー。私達の任務を果たさねばならないのだから」

 

「わかってるよ、姉さん。……という訳で一夏君。私達と戦ってくれないかな?」

 

「矢作彰人君、君もだ」

 

「「何?」」

 

俺達との戦いを望んでいる? だが何の為に……っ、ひょっとして……。

 

「俺達のデータ取りが目的か?」

 

「察しが早くて助かるよ」

 

「ふざけるな! そんなことの為に一夏達を危険な目に遭わせられるか!」

 

武器を構えながら箒ちゃんが反論し、他の皆も戦闘体勢を取る。

 

「悪いけど君達に用は無いよ。せいぜいコイツ等と遊んでいてくれ」

 

オーがそう言うと、サイコガンダムMk-Ⅱ達が皆の前に移動した。足止めの為に連れてきたのか。

 

「援護は期待できない、か。だがやるしかない」

 

「そうだ。俺達は負ける訳にはいかないんだ」

 

一夏と共にビームサーベルとGNソードⅤを構えて言う。向こうもアシュタロンをMA形態にするとその上にヴァサーゴが乗った。

 

「さあ行くぞ…織斑一夏君! 矢作彰人君!」

 

スラスターを噴かせて突撃してくるエス達は、近距離で再び分かれると俺の方にエスが、一夏の方にオーが向かった。

 

「先手は貰ったぞ!」

 

「どうかな!」

 

エスが繰り出すビームサーベルを右手に持つサーベルで受け止め、左手でもう一本サーベルを取り出すと突きを食らわせた。

 

「うおっ!? くっ、やるな……!」

 

退きながらもすぐにエスは体勢を立て直す。一方一夏の方ではMA形態から変形したオーがビームサーベルで斬りかかった。

 

「はぁっ!」

 

「させるか!」

 

一夏はGNソードⅤで防ぐと、動こうとしていたアトミックシザースにGNソードビットを当てる。

 

「読まれた!? ええい!」

 

オーも一旦後退して体勢を立て直す。

 

「余所見をしているとは、随分余裕だな!」

 

エスが左腕のストライククローを射出する。俺は回避するとマシンキャノンを撃ち込む。

 

 

今のところ俺は問題ないが、みんなはサイコガンダムMk-Ⅱを相手にしている筈。無事だといいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Out SIDE

 

箒&マドカ

 

一機のサイコガンダムMk-Ⅱがビームソードを発生させて構える。

 

「はぁあああ!!」

 

気合の叫びと共にガーベラストレートを持った箒が一気に近づいて右腕を切断する。

 

「所詮はAIか。攻撃パターンが同じだな」

 

その様子を少し上からマドカが見る。サイコガンダムMk-Ⅱはリフレクタービットを射出すると残った左腕のビームと全身のメガ粒子砲をマドカに放つ。

 

「っ……!」

 

左手にビームシールドを展開しながらマドカはビームの間を紙一重で回避していき、避け切れないと判断したものはシールドで防ぐ。そして至近距離まで近づくとビームジャベリンを胴体に突き刺した。

 

火花を散らすサイコガンダムMk-Ⅱは頭部のメガ粒子砲にエネルギーを溜めていく。が、後頭部からガーベラストレートが貫通した。

 

「これで……終わりだ」

 

突き刺さったガーベラストレートを右手で保持し、左手でタイガーピアスの切っ先を首に当てるとそのまま横一文字に刎ねた。

 

「ナイスアシストだ、マドカ。お陰でコイツに隙ができた」

 

「問題ない。……友達として、当然のことをしたまでだ」

 

そっぽを向いて言うマドカを見て、箒は頬を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア&鈴

 

少し離れた場所では別のサイコガンダムMk-Ⅱがセシリアと鈴を相手にしていた。が、

 

「そらそらそらそらそらぁぁぁっ!!」

 

「これで!」

 

鈴のツインビームトライデントの連撃とセシリアのビームライフルによる援護射撃で攻撃する暇もなく押されていた。リフレクタービットは放った直後にレール砲で撃墜され、メガ粒子砲の砲門も鈴によって的確に潰されていく。そう、2人は「やられる前にやれ」と考え実行したのだ。

 

「そんじゃ、トドメの一撃!」

 

「いきますわよ!」

 

そして鈴がトライデントを頭部に突き刺すのと同時にドラグーンの一斉射がサイコガンダムMk-Ⅱを襲い、機能を停止させた。

 

「ジ・エンドですわ」

 

「ま、こんなもんよね」

 

撃墜を確認した2人は、彰人達の方へと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀奈&簪

 

「何のっ!」

 

サイコガンダムMk-Ⅱが振り下ろすビームソードを刀奈はトツカノツルギで止める。腕に力を込めながら、サイコガンダムMk-Ⅱはツインアイを光らせた―――

 

 

ザシュッ!

 

 

―――直後、背後から簪が放ったタクティカルアームズの一閃が右腕を切断した。生じる一瞬の隙を突き、刀奈はツムハノタチを足に引っかけて引っ張り転倒させる。

 

そこに簪はタクティカルアームズ・ガトリングモードで連射し、装甲を徹底的に破壊。

 

「こいつで終いよ!」

 

最後にランサーダートを頭部に連射し、サイコガンダムMk-Ⅱの機能を完全に停止させた。

 

「撃破成功! サポートありがとう、簪ちゃん」

 

「……気にしないで」

 

少し照れながら簪は姉に言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロット&ラウラ

 

リフレクタービットを展開したサイコガンダムMk-Ⅱがビームを乱射する。

 

「以前と同じ戦法だな。私達にIフィールドバリアは突破できまいと高をくくっているのか……だが」

 

ラウラとシャルロットは互いに頷き、シャルロットがその場から離脱するとラウラが囮となり、サイコガンダムMk-Ⅱの攻撃を集める。このまま勝てると踏んだのか、サイコガンダムMk-Ⅱはツインアイを光らせる。が、そこへ背後から変形したアリオスガンダムのGNビームシールドで胴体を挟まれ、締め付けられる。

 

「生憎、僕達も成長しているんだよね!」

 

「ああ。それが人間とAIの違いだ!!」

 

ハイペリオンガンダムの前方にアルミューレ・リュミエールを集中させ、ラウラはフォルファントリー突撃をぶちかます。正面から直撃を食らったサイコガンダムMk-Ⅱは、シャルロットに切断されかけていたのもあり上半身と下半身に真っ二つにされた。

 

「何の対策も講じてないと思ってたのか? だとしたら浅はかだったな」

 

「言っても意味ないと思うよ」

 

破壊したサイコガンダムMk-Ⅱを見下ろして言うラウラに、シャルロットは苦笑しながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「はっ! でぇいっ!!」

 

連続で繰り出されるエスの攻撃を避け続け、ビームサーベル等で反撃する。が、相手も素人じゃない。致命傷になる攻撃は上手く躱していた。

 

(この前も感じたが、まるで千冬さんそのものと相手しているみたいだな……まああの人よりは戦いやすいけど)

 

「チィッ……! こちらの攻撃が当たらんとは、これがゼロシステムによる未来予測の力か!!」

 

ビームサーベルで鍔迫り合いをしながらエスは焦り気味に言う。確かに驚異的だが、髪の毛と瞳の色が変わるのはどうだかなぁ……。ところで一夏はどうなってる……?

 

「このっ! いい加減に当たれ!」

 

「そう言われて当たる奴が居るか!!」

 

一夏はGNソードⅤとGNソードビットを駆使し、オーを翻弄していた。イノベイターの力を全開にしているみたいだ。

 

「む……? まずい、オー!」

 

「え、姉さん!?」

 

突然エスが後退するとオーも一夏から離れてエスと合流する。何が起きたんだろう? そう疑問に思った時、周りにセシリア達が武器を構えてやってきた。2人はこれを察知したのか。

 

「君達がここに居るということは、無人機は全て撃破されたということになるか」

 

「思ってたより早かったね。これじゃ足止めにすらならないよ……そう思うよね、姉さん?」

 

「だが織斑一夏と矢作彰人の最新データは入手できた。オーよ、引き上げるぞ」

 

「うん、姉さん」

 

言うが早いかオーはアシュタロンを変形させてヴァサーゴを乗せ、ブースターを噴かせてあっという間に去ってしまった。

 

「また逃げられたか……」

 

「でも一時的ですが、危機はまた免れましたわ」

 

「そりゃそうだけど、何度『また』がつけばいいのやら」

 

ため息をつきながら、俺は破壊されたアリーナシールドを見上げた。



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vs亡国機業編
85th Episode


数日後・IS学園地下

 

千冬SIDE

 

亡国機業(ファントム・タスク)の再襲来でまた大量の報告書を書く羽目になってしまったが、ようやくそれも終わり、私は地下秘匿区画にある特殊戦闘ルームに来ていた。このルームは地上のアリーナとは違い、ホログラムで様々な環境を作り出すことができる。そこで私がやっていることは、量産型を用いた訓練ではない。それは―――

 

「どうちーちゃん? 生まれ変わった『エクシア』は?」

 

「完璧だ。私の動きについてきてくれる」

 

―――束が改修・再起動させたエクシア……否、ガンダムエクシアリペアⅡを装着してターゲットドローン相手に戦闘を行っていた。

 

「しかし凄いものだな。機体性能が上がっている以外にも、各装備を洗練して性能を向上させるとは……武器が減って不安だったが、さすがは束だ」

 

「えへへ。まあ設定資料とか読んで粗方再現して、それから自分好みの性能に引き上げただけだけどね」

 

「……その時点で凄いと思える私はまだまだ……か?」

 

相変わらずの束の天才ぶりに半ば呆れてしまうが同時に頼もしく思う。

 

「だがエクシアを復活させたとなると、いよいよ連中の規模が大きいと思い知らされるよ。お前や省吾達に大統領まで奴らを何年も追っているんだろう? なのに未だ尻尾は掴めないとは……」

 

「全くだよ。この束さんのハッキング能力を持ってしても本拠地を探せないし、手に入れた情報にも重要なのにはプロテクトが何重にもあるし……「あの、束様」ん、くーちゃん?」

 

「例の『世界最後の日』の件なんですが……先ほど判明しました」

 

「本当!? で、どんなのだった?」

 

「はい、それが……」

 

クロエは不安そうな顔で端末を束に見せる。するとみるみる内に束の表情が険しいものへと変わっていった。

 

「何て事……」

 

「束? どうした?」

 

「ちーちゃん、状況が変わった」

 

「は?」

 

「連中が世界規模の作戦を企ててるかもって前に言ったけど、私が予想していた以上のことをしでかすみたいなんだ。早く戦力を整えないと、まずいことになる……!!」

 

一体何が何なのかさっぱりだったが、猛烈に嫌な予感がするのを肌で感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「そろそろ寝るかな」

 

時計を見て携帯ゲームの電源を切り、ベッドに横になる。隣のベッドでは読書を終えた簪が同じく横になっていた。

 

「おやすみ、簪」

 

「……うん、おやすみ………? 彰人、変な色の髪があるよ?」

 

「え、どれ?」

 

「……ここのとこだけど……」

 

小さい明かりをつけて手鏡を見てみる。すると前髪に僅かながら金髪が混じっていた。

 

「ホントだ……何でだろ? 白髪ならまだわかるけど」

 

「……黒く染める?」

 

「んー、いいや。面倒だし。それにこの程度で染めてたら、簪と刀奈に失礼だよ」

 

言いながら俺は再び横になり、そのまま眠った。それが自分の身体に起きている異変の前兆とも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

OutSIDE

 

某国の地下にある施設のサーバールームらしき場所で、プロフェッサーが通信でエスと会話をしていた。

 

「さて、みんな持ち場に着いたかな?」

 

『はい。後は指示を待つだけです。……しかし、プロフェッサーもやりますね。数日でデストロイを量産まで持っていくとは』

 

「パーツはいくらでもあるし、生産もオートメーションをフル活用したからね。それに何より、君達が得た織斑一夏と矢作彰人のデータや、他の専用機持ちのデータを電子頭脳に入力できたのが一晩で間に合って良かったよ」

 

『あの時無人機で他の面々のデータまでリアルタイムで記録していたとは、貴女には脱帽しますよ』

 

「そう褒められるとむず痒くなるね。……っとそろそろ準備しなくては。悪いけどここまでにしておこう」

 

通信を切ると、プロフェッサーは自らのISを展開。無数の空間モニターを起動すると、機体のあちこちにコードを繋げていく。

 

「『姉妹達』と『モビルドール』の配置は完了……あ、エキューデも居たんだっけ。ともかく後は宣戦布告の準備のみだ。フフ、腕が鳴るよ」

 

心底楽しそうに言うと、プロフェッサーはモニターに映る世界中の映像を見て言った。

 

「それじゃ……マスターインテリジェントシステム、起動っと」

 

今、最大の作戦が始まろうとしていた。



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86th Episode

どうも皆さんこんばんは、矢作彰人だ。真夜中に突然千冬さんに簪諸共叩き起こされたかと思うと、他に起こされた専用機持ち達と共に寮長室へと集められた。そこには何故か束さんとクロニクルにスコールとオータムも居て、端末には省吾兄ちゃんとブラントさんが映っていた。

 

「皆、夜分遅くにすまない。これを見てくれ」

 

そう言って千冬さんは音を小さくしてテレビをつける。それを見て俺達は眠気が一気に覚めた。どのチャンネルも一貫して同じ映像が流れており、そこにはISを纏った女性がマスクオフの状態で微笑を浮かべながら座っていた。

 

「……どういうことですか? この人は、一体……」

 

「彼女はプロフェッサー。亡国機業(ファントム・タスク)の創設者で、天才的な研究者よ。私達も何度か世話になったことがあるわ」

 

「何か変な奴だったけどな」

 

「ん? 何か言うみたいだ」

 

一夏の言葉に画面を注視すると、プロフェッサーという女性が話し始めた。

 

『テレビをご覧になっている諸君、ごきげんよう。我々は亡国機業(ファントム・タスク)。政府に生まれた闇を知り、社会から離反した者達だ。確認してみればわかると思うが、私はマスターインテリジェントシステムによって世界中のあらゆるメディアや通信網を掌握している。つまり、世界をどうにかすること等我々には容易いことなのだよ。ああ、通信の回復とか逆探知とかやっても無駄だから。ま、篠ノ之束ならできるかもしれないけどね』

 

皆言葉を失い、愕然とテレビを見た。携帯を操作してネットに繋げようと試みたが、彼女の言う通り使用不可能になっていた。でも束さんの端末は機能している。束さんならできるとはこういうことか……。

 

『ところで、我々が我々を知っている人達になんて言われているか知ってるかな? 人殺しにテロリストさ。フッ、おかしな話だよね。政府の方がもっとあくどいことをして、隠蔽までしてるのにさ。しかもインフィニット・ストラトスが広まってから余計悪化した。何の罪もない男性達が有罪にされ、良識ある女性達の声まで揉み消してしまう。呆れる以外の何者でもないと私は思うよ』

 

肩をすくめて言うと、身を少し乗り出して続きを述べた。

 

『そこで我々は今の世界が間違っていることを実力で示したいと思う。具体的には、この放送が終わったらフランス、アメリカ、イギリス、中国、ドイツ、イタリア、スウェーデン、カナダ、ロシア、ルクセンブルク、日本。これらの首都に潜伏している私達の戦力が一斉に破壊活動を行う。ISを使ったこともないのに威張り散らしている女性達は、己の愚かさを後悔しながらせいぜい逃げ惑ってくれたまえ。……後言い忘れてたけど、IS学園にも部隊を送り込むからそのつもりで』

 

映像が途切れ、画面が真っ黒になる。とてもじゃないが、冗談には聞こえなかった。アメリカの同時多発テロよりも大きな規模の行動を連中はするつもりなんだ。

 

「これが、『世界最後の日』ってこと……?」

 

「文字通り世界を終わらせる気なのか!? バカな!」

 

「だが事実だ。そして、私達もむざむざ見過ごす訳にはいかない」

 

そう言うと千冬さんは首から掛けてある待機状態のISを見せる。それは俺と一夏も見たことがある。ガンダムエクシアの待機形態だ。

 

「束、奴らが潜伏している場所の正確な位置は?」

 

「ちょっと待って……今わかったよ! ついでにプロフェッサーって奴が居る場所も!」

 

操作してる端末を見せる束さん。千冬さんと省吾兄ちゃん、ブラントさんはそれを見て重い表情をした。

 

『妙だな。これまでは絶対に逆探知はできなかったと言うのに、こうもあっさりといくとは』

 

『これ、俺達を誘ってるんじゃねぇのか?』

 

「有り得るな。だが行くしかあるまい。……一夏、お前のISでこれらの場所に私を送ることは可能か?」

 

「え? できないことはないと思うけど……っ、まさか千冬姉さん! 1人で行く気なんじゃ!?」

 

「私1人じゃない。省吾だって居る。お前達はスコール達と共に学園の警備に当たってくれ」

 

「そんな、千冬さん! いくら何でも無茶じゃないんですか!?」

 

「鈴音の言う通りです! 敵の戦力がどれ程なのかもわからないのに、戦いに赴くなど!」

 

「だがお前達を行かせるよりは、子供を戦地へ送り出すよりは……「でもこの子達の言うことにも一理あるよ」っ、束」

 

苦々しい表情で言う千冬さんは、束さんの発言に若干怒りを見せる。

 

「ちーちゃんも何度か見てきたでしょ? いっくんもあっくんも…ううん。此処に居るみんな、死線を乗り越えて来ている。それに私の計算だと、みんなを各地へ向かわせた方が勝率は高くなる」

 

「っ、だが…………」

 

千冬さんは俺達を見ると目を閉じ、やがて開けると尋ねてきた。

 

「……お前達は……奴らを止める為に世界各地へ向かってくれと言ったら……向かって、くれるのか?」

 

「はい。何せ、世界の危機ですから。それに此処に居てもどの道襲われるんですし、なら俺達に出来ることをしないと」

 

「クラリッサ達に任せてばかりでは、隊長として面目が立ちませんから」

 

俺とラウラが応え、他の皆も決意を秘めた目で頷く。そして千冬さんは深くため息をつくと、小さく笑みを浮かべた。

 

「まだ子供だと思っていたのに、すっかり強くなったか……寂しいが、頼もしい限りだ」

 

「織斑先生……」

 

「……すまんが、諸君。世界の危機を救うのを手伝ってくれ。これは命令ではない。私の、織斑千冬としての頼みだ」

 

『『『っ、はい!!』』』

 

力強く返事をすると、俺達は寮の外へと出ることにした。世界の命運を掛けた戦いに、緊張を走らせながら―――

 

「あ。あっくん、少しいいかな?」

 

「何でしょう?」

 

―――そして、俺にのみ告げられた事実に驚愕しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなISは展開したね? それじゃあ確認するけどいっくんがスウェーデン、あっくんがカナダ、まーちゃんがイタリア、箒ちゃんがルクセンブルク、鈴にゃんが中国、セッシーがイギリス、シャルーがフランス、ラウランがドイツ、かんちゃんが日本、たっちゃんがロシアで合ってるよね?」

 

集まった俺達は束さんに言われて頷く。既にISは展開済みだ。

 

「いっくん、まずはイギリスへのゲートをお願い」

 

「わかりました」

 

束さんの指示を受けた一夏がGNソードビットでゲートを作り、そこにストライクフリーダムを纏ったセシリアが入る。

 

「それじゃ次はフランスへのゲートを」

 

一度ゲート消し、再び出現させる。こうすることで各首都へ送ることが可能だ。ただ、それを行っている間に俺はさっき束さんにこっそり言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっくんってさ、ゼロシステムを使ってる時に髪の毛と瞳の色が大きく変わるよね?』

 

『ええ、まあ……別にマスクに隠れているんでいいですけど』

 

でなかったら試合の度に恥ずかしい思いをしていたに違いない。けどどうして今そんなことを?

 

『……残念だけどあっくん。それはもうできないかもしれない』

 

『え?』

 

『ウイングガンダムゼロのアビリティーは、普通の人でも扱えるように私がちょっと細工をしておいたの。……ゼロシステムに呑まれない為に、搭乗者の肉体を耐えられるよう変質させることを』

 

『っ! それじゃあ……!』

 

俺がゼロシステムの情報量の多さを乗り越えられたのも、俺の肉体が変化していたからってことか……金髪になってたのは変化した弊害か。

 

『でもゼロシステムを何度も使ったせいで、あっくんの身体は目に見えて変化するようになってきてる。髪に少し金髪が混じってるよね? それがその証拠だよ』

 

『証拠って……もしかして、このまま使い続けると俺は変化した状態の身体で固定されるんですか?』

 

『それだけじゃない。生身の状態でもゼロシステムの力が一部使えるようにもなる』

 

『生身でゼロシステムを……』

 

恐ろしいことだ―――素直にそう思った。一部とは言え未来予知ができるなんて、いくつもの未来の重圧に押し潰されてしまいそうで……震えてくる。でも―――

 

『そうなったらなった時……ですよね?』

 

『へ?』

 

『生憎ですけど、それで怖じ気づくような人間じゃありません。どんな力にも危険はつきものだってわかってますし。それに世界の危機を前にどうこう言ってられませんよ』

 

日本人離れした外見になるとか、ゼロシステムの重圧とか、そん時はそん時だ。今はただ、目の前の敵を相手にするだけだ。

 

『そっか……そうだよね。あっくんならそう言うかもって思ってた。ごめんね、時間取らせちゃって』

 

『いいえ。俺のことを心配してくれたのは、よくわかりましたから。ありがとうございます、束さん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いずれは俺の髪と瞳は変色したままになり、ゼロシステムの一部が常時使えるようになってしまうか……複雑だな)

 

特に誰にも言えないのが一番キツイ。余計な心配を掛けたくないし、戦意を削ぐことになるからしないんだけど、辛いことは辛い。

 

「じゃあ最後はまーちゃんだね。行ってらっしゃい」

 

「ああ……アイツ等を止めてくる」

 

っと、いつの間にか俺と一夏以外の面々が転送されてた。んじゃ次は俺か。でもカナダって奴らの本拠地もあるんだよな。てことは防御も厚い筈。一筋縄じゃいかないな。

 

「そんじゃ頼むぜ、一夏」

 

「任せとけ!」

 

サムズアップしながらゲートを展開する一夏。俺は深呼吸をすると、そこへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

「行ったか……」

 

「じゃあ最後にしょーくんのところへ行って、しょーくんの転送を手伝ってあげて」

 

「わかりました」

 

一夏はゲートを自分が潜り、GNソードビットもゲートの先へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たな」

 

「お待たせしました省吾さん……ってそのバイク……」

 

ジャンプした先に居る省吾は、アストレイアウトフレームD(デスティニーシルエット装備)を展開した状態でプロトガーランドに跨がっていた。

 

「これか? やっぱでかい戦いに行く時は、コイツじゃないとって思ってな。引っ張り出して来たんだ」

 

「それはいいけど、何て説明すればいいの? こんな時に総理が居なくなったら、大混乱するわよ」

 

エンジンを掛ける省吾の後ろで由唯が心配そうに言う。省吾は振り返るとこう言った。

 

「そうだな……ちょっとアメリカ(ダチ公)救って来るって言っといてくれ」

 

目を丸くする由唯を尻目に、省吾はゲートを潜って行った。

 

「どこのアーマード大統領だあの人は……」

 

ため息をつきながら一夏もゲートを潜った。



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87th Episode

イギリス・ロンドン

 

欧州連合城内等で最大の都市圏を形成しているこの都市は今、未曾有の危機に晒されていた。プロフェッサーの宣戦布告が終わると同時に密かに運び込まれていた三機の無人IS『デストロイガンダム』が起動。圧倒的な火力で街を破壊し始めた。突然の事態にIS部隊やガーランド部隊が大慌てで出撃し対応をするも、火力の差と防御力の違いから有効打は与えられなかった。

 

「クソッ! 何なんだ、この化け物ISどもは!」

 

「相手が三機だからって見くびっていた……奴ら、とんでもなく強いぞ!!」

 

GN-XⅣとGR-2ガーランドのパイロットが叫ぶ。直後、一機のデストロイが両腕部飛行型ビーム砲「シュトゥルムファウスト」を分離してビームを放つ。二機は咄嗟に回避を取ったが、それにより別のガーランドに流れ弾で直撃してしまう。

 

「そ、そんな!? うああああああああああああああっ!!」

 

ガーランドは爆散し、周囲に血が飛び散る。回避した二機の内ガーランドは肝を冷やされ、GN-XⅣは死を目の当たりにして恐怖のあまり動きが止まる。

 

「何してる!? 避けろ!!」

 

慌ててガーランドのパイロットが叫ぶが遅く、GN-XⅣはMA形態に変形したデストロイの高エネルギー砲「アウフプラール・ドライツェーン」をまともに食らってシールドエネルギーがゼロになり、パイロットは生身で放り出され放たれたミサイルランチャーによって消し飛んだ。更にガーランドも別のデストロイが放った「スーパースキュラ」を浴びて爆発した。

 

「これは……」

 

そこへセシリアのストライクフリーダムが現れた。彼女はデストロイによって破壊されていく故郷と散らばったISやガーランドの残骸を見て、驚愕すると同時に怒りが込み上げた。

 

「よくも私の故郷を……! 堪忍袋の緒が切れましたわ!!」

 

SEEDを発現し、ツインアイを光らせた彼女はビームライフルの銃口をデストロイへと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国・北京

 

鈴のアルトロンガンダムが到着した時には、既に市街地は三機のデストロイによって戦場と化していた。逃げ惑う人々にも容赦ない攻撃を加えるのを、鈴は呆然と見つめる。

 

「な、何よこれ……これが世界を正す行為だって言うの……?」

 

地面に降り立ち、数歩進んだ鈴は傷つき倒れた少女が目に入った。少女は目の前に落ちている焼け焦げたぬいぐるみに手を伸ばしており、後少しで届きそうであった。鈴はしゃがむとぬいぐるみを手に取り、少女にそっと渡す。安心したのか、少女は鈴に笑いかけると事切れた。

 

「っ……!! こんなのが、世界を正す筈がない! こんなの……ただの虐殺よ!!」

 

ツインビームトライデントを構え、鈴は破壊行動を続けるデストロイガンダムを睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス・パリ

 

ここでも三機のデストロイガンダムが起動し、火力に物を言わせて街諸共IS部隊やガーランド部隊を薙ぎ払っていた。しかしその内の一機だけは他のとは明らかに挙動が違った。

 

「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!! 最っっっ高だよこれはぁぁぁああああああ!!」

 

マスクの下で狂ったような笑みを浮かべてビームを乱射するのは、ソランジュ・エキューデだった。デストロイを動かす為にプロフェッサーに『調整』され、元の人格とはかけ離れてしまっていた。

 

「パリが……何て酷いことを……!」

 

丁度そこへシャルロットが現れ、三機いるデストロイガンダムを認識する。しかし、ハイパーセンサーがシャルロットにとって不自然な反応を示した。

 

「生体反応? あのデストロイガンダム……人が乗ってる?」

 

何故無人機二機に混じって有人機が? そう思いつつシャルロットは通信を試す。以外にも相手はそれに応えた。

 

「あ゛ぁ゛!? こんな時に一体誰だぁぁぁああああああああ!?」

 

「!? まさか……エキューデさん……!?」

 

「何でお前が私の名前知ってんだよぉぉぉ!? 誰だお前はぁぁぁ!! 私の前に出たってことはお前も敵でいいんだよな!? ひゃはははははははははは!!」

 

「……………………………」

 

狂人。その一言でしか、言い表すことができなかった。自分を虐めてきたとは言え、義理の母であった女性は、もう自分のことも覚えていないただの戦闘マシーンとなっていた。

 

「貴女は、僕が倒す。それが貴女への、せめてもの手向けだ……!」

 

ターゲットをロックし、シャルロットは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ・ベルリン

 

「このっ! いい加減に止まれ!!」

 

ベルリン市街を蹂躙する三機のデストロイを止めようと応戦しているのは、クラリッサ・ハルフォーフが纏う『ハイペリオンガンダム2号機』率いる『ハイペリオンG』で結成された『シュヴァルツェ・ハーゼ』だ。

 

「ふ、副隊長! あのバリアを突破するにはどうしたらいいんですか!?」

 

「無理に突破しようと考えるな! 相手がMAになったら、回避に専念しろ!」

 

狼狽える隊員の1人にクラリッサは檄を飛ばし、デストロイにビームキャノンを放つ。その時、ラウラのハイペリオンガンダムが現れた。

 

「クラリッサ! 皆! 無事か!?」

 

「た、隊長!? 来てくれたのですか!」

 

「部下達に任せてばかりでは示しがつかんからな。しかし……中々厄介な相手だな」

 

デストロイガンダムを見ながらラウラは言う。その最中にも攻撃は行われ、ラウラ達はスラスターを全開にして回避する。

 

「チッ、まるで要塞だな。だが相手はISだ、倒せない筈は!」

 

軍人としての闘争心を剥き出しにしたラウラは、ビームサブマシンガンをデストロイに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルクセンブルク

 

「街が、破壊されている……」

 

ルクセンブルクに着いた箒は、焼け野原になっている街と自然に佇む三機のデストロイガンダムを見て呟き、同時に宣戦布告してから大して時間が経ってないことに驚く。

 

「私が早く来ていれば、或いは……いや、言っても仕方がない。今は奴らを止める、ただそれだけだ!」

 

ガーベラストレートの切っ先をデストロイに向ける。直後、デストロイの目が箒を捉え、標的としてロックした。

 

「覚悟しろ亡国機業(ファントム・タスク)! 貴様等の行い、私が断ち切って見せる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン・ストックホルム

 

工業技術が発達したストックホルムの美しい町並みも、デストロイガンダム三機によって破壊が進んでおり、多くの人々が命を落としていた。

 

「世界の間違いを正すことが、これに繋がるって言うのか……? だったら敢えて言わせて貰うぞ」

 

惨状を見た一夏はGNソードⅣとⅤを片手ずつで構えると、デストロイを睨んだ。

 

「そんなものは、クソ食らえだっ!!」

 

イノベイターを発現させ、一夏はダブルオークアンタ・フルセイバーの出力を全開にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・東京

 

「きゃああああああああああああーっ!?」

 

「逃げろ、逃げろーっ!」

 

平和な国、日本。戦争とは無縁となった筈のこの国にも、三機のデストロイガンダムによる魔の手が伸びた。

 

「や、やめろ来るな……ぎゃあああああああああああ!!」

 

駆動系をやられたガーランドの頭部がパイロットごと踏み壊される。更に別のデストロイはM1アストレイ一機を行動不能にし、目の前でシュトゥルムファウストのエネルギーをチャージする。

 

だが放たれる直前にガトリングガンの弾をモロに食らった。

 

「……そうはさせない!」

 

デストロイとM1アストレイの間に入ったのは簪だった。その状況を見た他のデストロイも簪にターゲットを変更する。

 

「集団で来るつもり? いいわ、纏めて破壊してやる!!」

 

ソードフォームのタクティカルアームズを構え、簪は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ・ワシントン

 

ブラント率いるヴィルデ・ザウ隊は五機のデストロイガンダムに苦戦を強いられていた。

 

「ええい! プラズマキャノンまでバリアに弾かれるとは!?」

 

「いたずらにエネルギーを消耗するな。MS形態の時に攻撃しろ!」

 

その時、プロトガーランドに跨がった省吾のアストレイアウトフレームDが現れた。省吾はプロトガーランドを止めると飛翔し、ブラント達の元へ向かった。

 

「無事か、B.D!!」

 

「省吾か。無傷とはいかないが、どうにか無事だ」

 

「そうか……にしても酷いな。まるでメガゾーンに居た頃を思い出すぜ」

 

「どっちにしろ地獄に変わりは無いがな」

 

ぼやきながら2人はそれぞれの得物を手にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリア・ローマ

 

「ふん、何がIS部隊だよ。軍隊の癖しててんで弱かったね、姉さん」

 

「まあ通信網が掌握されてるのもあるからな。が、確かにガーランド部隊の方が強かったな。最もメンタル的な意味でだが」

 

IS操縦者の死体を蹴飛ばしながら言うのは『ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク』を纏ったエスと『ガンダムアシュタロン・ハーミットクラブ』を纏ったオーだ。周囲では二機のデストロイガンダムが暴れている。

 

「……む、オーよ。工作兵達が軍事施設の制圧に成功したそうだ」

 

「やったね、姉さん。これで新しい武器を使うことができるよ」

 

仲間からの通信でオーは歓喜の表情を見せ、エスも笑みを浮かべる。そしてアシュタロンHCはMA形態に変形すると増設された砲身を展開し、ヴァサーゴCBが背部アクティブ・バインダーを展開してアシュタロンHCに乗って砲身のトリガーを持つ。

 

「エネルギーチャージ、開始!」

 

エスが指示を送ると軍事基地にある遠距離エネルギー送信アンテナと呼ばれる、緊急時にISにエネルギーを遠隔で与えられる装置からエネルギー電波が発信され、ヴァサーゴCBにチャージされていく。

 

「姉さん。お誂え向きに的があるよ?」

 

「ならば存分に使わせて貰おう」

 

オーがハイパーセンサーで察知した方向には他の国から向かって来たと思われるIS&ガーランドに戦艦の大部隊が接近し、そちらへ砲身を向けた。

 

「エネルギー充填120%。いけるよ、姉さん」

 

「確か、こういう場面ではこう言うのだったな……我らの世界に栄光あれ……!!」

 

言い終えた後、エスはトリガーを引く。すると砲身から強力なビームが放たれ、ISとガーランドや戦艦等を一瞬で消滅させてしまった。

 

「なっ!? い、今のは……!!」

 

その瞬間をやってきたマドカは偶然目の当たりにし、撃ち終えたエスとオーを唖然とした表情で見つめた。

 

「ん? マドカか。何の用だい?」

 

「……エス、オー。これがお前達の言う、世界を正すことなのか……?」

 

「そうだ。私達を黙殺した世界を破壊し、一からやり直す。世界を変えるには、これが一番の方法だ」

 

「私達は正さなければならない。ISに胡座をかき、威張り散らしている女達を。そしてISを動かし、その力に酔う者を!」

 

「そうか…………これではっきりした。そんなものは間違っている!」

 

言いながらマドカは銃口を向ける。同時にデストロイが反応するが、エスはそれを手で制した。

 

「どうやらやる気のようだな、マドカ。ならば先の約束通り、私達も容赦はせん!!」

 

「来い! お前達は、私が止める!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシア・モスクワ

 

世界最大である国の軍隊も、電撃作戦の前では無力に等しかった。刀奈が到着した時には二機のデストロイガンダムが街を滅茶苦茶に破壊していた。

 

「酷い有様ね……復興までにどれだけ時間がかかるのか、わかってるのかしら?」

 

怒りを滲ませながら呟いた直後、背後から殺気を感じた刀奈は右に回避する。と、そこへ黒いIS『バンシィ』が殴りかかってきた。

 

「ほう、今のを避けるとはな。やはり国家代表は伊達ではないと言うことか」

 

「奇襲なんて味な真似するじゃない。でもせめて名前ぐらいは名乗って欲しいわ」

 

「私はピー。お前達のところに居る、織斑マドカの同類だ」

 

「……そう。織斑先生のクローンの1人って訳ね」

 

「察しが早くて助かる。では……行かせて貰うぞ!」

 

ピーはバンシィの装甲及び武装を展開し、その姿を黒と金の獅子のような「ガンダム」へと変えた。

 

「本気って訳ね。上等じゃない……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナダ・オタワ

 

オタワに着いた彰人は、周りの建物が破壊されているのが目に入ったが敵の姿が全く見えないのがわかった。デストロイガンダムもおらず、誰がどうやって周囲を破壊したのか疑問に思う彰人。と、そこへ金色のビームが放たれ、彰人は咄嗟に避ける。見てみれば金色のGNファングを操る巨大な機体が存在していた。

 

「コイツは、アルヴァトーレ!? 誰が乗っている!?」

 

「今のを避けるなんて凄いね。やっぱりゼロシステム使ってるからかな? ……あ、私はエーって言うんだ。よろしく!」

 

アルヴァトーレのパイロットのエーが彰人に通信する。彰人は機体をハイパーセンサーで調べてみると、ISコアの反応を7個探知した。

 

「いやそこまで再現しなくてもいいのに……ったく」

 

「早速で悪いけど、戦ってくれない? みんな弱すぎてさ、正直飽きちゃったんだよね」

 

「……何はともあれ、コイツを倒すことが先決だな」

 

ツインアイを光らせ、彰人はエーと対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

 

「そろそろ来るかな」

 

端末を見ながら束は言う。近くにはISを展開した千冬、スコール、オータムが立っている。

 

「どうやらおいでなすったみてぇだな。来るぞ!」

 

オータムはハイパーセンサーで視認した物体を拡大する。そこにはMA形態で向かって来るデストロイガンダムが五機居た。

 

「反対側からも幾つか来てるが、そっちには別の専用機持ちと教師達が向かっているから問題はないな」

 

「ええ。それじゃ、行きましょうか!」

 

「ああ。蹴りをつける!!」

 

三機のISはIS学園からデストロイガンダム目掛けて飛ぶ。世界を巻き込んだIS学園と亡国機業(ファントム・タスク)の戦いが始まった。



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88th Episode

「もう好きにはさせませんわ。これ以上何も壊させない……殺させない!!」

 

ドラグーンを展開しながら、セシリアはビームライフルを連射しドラグーンレーザーも放つ。しかしMS形態のデストロイには多少ダメージを与えられたが、MA形態のはバリアである陽電子リフレクターを展開されて無傷だった。

 

「やはりMS形態でしか碌にダメージは与えられませんわね。でしたら!」

 

セシリアはMA形態のデストロイへの攻撃をやめ、MS形態のデストロイへと集中した。現在MS形態なのは二機だが、まずは落ち着いて一機ずつ仕留めようと彼女は考えた。

 

狙いを定めたデストロイから両腕が分離して放たれ、ツォーンMk2とスーパースキュラの複合攻撃で狙い撃って来る。セシリアは冷静に回避すると、ビームシールドでシュトゥルムファウストを防ぎながらビームサーベルで右腕を切り裂いて破壊し、すぐに左腕も破壊する。そしてドラグーンを自分の周囲に配置すると、ドラグーンフルバーストをデストロイに放つ。デストロイは再びツォーンMk2とスーパースキュラの複合攻撃を行い反撃する。最初は拮抗していたが徐々にセシリアの方が押し始め、やがてデストロイのボディを貫いた。

 

倒れゆくデストロイに息をつく間もなく、セシリアは残るデストロイ達の攻撃を回避する。

やがてある場所でセシリアが止まり、MA形態のデストロイがそこにアウフプラール・ドライツェーンを発射する。だがマスクの下でニヤリと笑って回避すると、真後ろに居たもう一機のデストロイに直撃。ツォーンMk-2を発射しながら倒れ、機能を停止した。

撃った方はツォーンMk-2を食らってバランスを崩し、倒れたところにスーパースキュラの発射口にビームサーベルを突き刺され、内部構造が剥き出しになる。そこへビームライフルを構えながら、セシリアは言った。

 

「この距離なら、バリアは使えませんわね!!」

 

直後にトリガーを引き、内部から破壊されたデストロイは起き上がることもできずに機能を止めた。

 

「ふぅ……」

 

ため息をつくと、セシリアは怪我をしている人々の救援に回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴はデストロイの一機に真上から取り付くとツインビームトライデントを振り回し、頭部を貫き引き千切った。

 

「ガラクタ風情が……!」

 

仰向けに倒れるデストロイから飛び降りながら鈴は憎々しげに言うと、フルバーストをしてくる残りのデストロイを見た。

 

「そんなもので私を止める気? 笑わせるわね……!」

 

横に飛んで回避するとドラゴンハングを伸ばし、一機のデストロイの足に引っかけると転倒させ、即座に頭部に火炎放射を行い電子頭脳ごと丸焦げにして破壊する。

 

最後の一体にはスーパースキュラを放とうとしていたところにツインビームトライデントを投げつけ、エネルギーを暴発させて倒した。

 

「はぁー……これで少しはスッとしたわ。一夏達は大丈夫かしら……」

 

他の国で戦っている仲間達を思い、鈴は空を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せぇええええええい!!」

 

ビームサーベルとGN-Ⅳ用のGNバスターソードを振るい、シャルロットはエキューデのデストロイにダメージを与えていく。

 

「あぁぁぁああああああぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!! ウザイウザイウザイウザイウザイうざいうざいうざいうざい!! このガキがぁあああああああ!!」

 

シュトゥルムファウストやスーパースキュラを滅茶苦茶に発射する。シャルロットは落ち着いて回避するが、苛立ったエキューデはブースターでジャンプすると押し潰すようにパンチを繰り出してきた。面食らったものの回避には成功したが、偶然落下地点に居た別のデストロイが代わりに下敷きになり、頭部を破壊されて哀れ機能停止してしまった。

 

「ててててててめぇえええええええええええ!! よ、よくもバカにしやがってぇぇぇええええええええええ!! ここ、殺してやる! この私と! デストロイが!!」

 

変形しアウフプラール・ドライツェーンを放つエキューデ。しかしそれさえもシャルロットには避けられ、逆にGNバスターソードを構えて突撃してきた。

 

「はぁあああああああああああああああ!!」

 

スラスターを全開にした彼女の突きは陽電子リフレクターを破ってデストロイのボディを貫き、GNバスターソードの刀身を血に染めた。

 

「あ……はは…は………私は、まだ………………」

 

命の輝きが消えてもたれかかるエキューデのデストロイを、シャルロットはそっと地面に寝かせた。何故そうしたのかは彼女自身もわからなかった。

 

そこで彼女は背後に佇む最後のデストロイに注意を向けた―――が、その直後。突然地上から放たれた桃色の光線にデストロイは撃ち抜かれ、倒れて沈黙してしまった。さすがにシャルロットも困惑して発射された方を探すが、GNロングライフルを持って半壊してるGN-XⅣしか見えなかった。きっとアレが最後の力を振り絞って助けてくれたんだろう。彼女はそう思い、名も知らぬパイロットに敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、久しぶりだけど威力は落ちてなかったね」

 

『マスターも無茶しますね。危うく見つかるところでしたよ』

 

「にゃはは……さすがに危ないなって思って。考えるより先に行動しちゃってたんだ」

 

『マスターらしいですね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

フォルファントリー突撃でデストロイの一機に肉薄したラウラは、そのまま押し切ろうとする。しかしデストロイは至近距離でスーパースキュラをチャージし撃とうとした。半ば無意識でラウラはビームナイフを発射口に押し当て、エネルギーを暴発させるが自身も吹き飛ばされてしまう。

 

「隊長! ご無事ですか!?」

 

「ああ、何とかな。しかしAIにしては、強いな……」

 

クラリッサに助け起こされたラウラは、目の前のデストロイが沈黙しているかどうか確かめた。煙を上げながら横たわるデストロイのツインアイは光を失っており、二度と動くことはなかった。

 

少し離れた場所では別のデストロイに、ハイペリオンG達の至近距離でのビームキャノンの発射と別働隊のGR-2ガーランドがレーザーブレードで頭上から深々と突き刺したことで断末魔に熱プラズマ複合砲「ネフェルテム503」を撒き散らせながら屠った。最後に残った一機は状況不利と見て、その場を離脱しようとした。

 

「逃がすか!」

 

「食らえ!」

 

その背中にラウラとクラリッサのビームキャノンが直撃し、俯せに倒れる。そこへハイペリオンG達のビームサブマシンガンによる一斉射撃でデストロイは完膚無きまでに破壊され、活動を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガーベラストレートを右上から左下にかけて振り下ろし、MS形態のデストロイは斜めにずれて爆発する。それを見ていた他のデストロイ達が両腕を飛ばしてシュトゥルムファウストで仕留めにかかる。

 

「ただのAIの動きではないな……だが!」

 

ビームの嵐を避けつつガーベラストレートで腕を次々に切り落とすと武器をタクティカルアームズⅡ・アローモードに持ち替えてトリガーを引き、一機の頭部に命中させる。その隙に箒は急接近するとクローモードにアームズを変えて頭部を掴み、力任せに引っこ抜いた。そのまま頭部を投げ捨てると、MA形態に変形して防御力を高めている残りのデストロイを見てデストロイの真上に上昇すると、タクティカルアームズⅡをデルタフォームへと変え、ガーベラストレートを上段に構えた。

 

「行くぞ、レッドフレーム。今こそ奥義を使う時だ……!」

 

静かに言い放ち、箒は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の『ヴォワチュール・リュミエール』を発動し、デストロイに向かって加速し続ける。自分に向かってくるアウフプラール・ドライツェーンもガーベラストレートで防御し、そして……。

 

「はぁああああああああああ!! チェェェェェェェストォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

勢いのついた一閃のもとに、デストロイを真っ二つに切り裂くと着地の衝撃に一瞬顔を歪めながらもデストロイを後ろにガーベラストレートを鞘へゆっくり戻していき―――

 

「我がガーベラストレートに……断てぬもの、無し!!」

 

カチッ、という音と共に完全に収めると背後でデストロイが爆発した。

 

(ここはどうにかなったが、他は大丈夫だろうか。彰人には格闘武器の少なさからアレを渡しておいたが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパースキュラ発射口にGNソードⅣを突き刺した一夏は、機体が爆発するのを尻目にGNソードビットで他のデストロイの両目を破壊。

 

「マスクを外して目視に頼るかい? ま、無理だろうがな」

 

視覚を失いデタラメに攻撃するデストロイ。その内の一機に、一夏はGNソードⅤを投擲、頭部を貫き破壊する。素早く接近してそれを引き抜き、GNバスターソードに合体すると最後の一機をGNソードⅣとの二刀流で滅多切りにし、破壊した。

 

「あっけないな……世界を正すとか大層なこと言ってても、所詮はただの機械ってことか」

 

デストロイの残骸を見下ろしながら、一夏は肩をすくめた。

 

(こっちは終わったことだし、彰人のところへ行くとするか。何せ敵のトップが居るからな……1人じゃ危険だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やああああああっ!」

 

分離した両腕をソードアームで破壊し、ソードフォームに変形させるとアウフプラール・ドライツェーンを回避しながら接近。陽電子リフレクターを突破してデストロイのボディを切り裂き、露出した内部にガトリングアームを押し当て連射し破壊した。

 

「くっ、まだ……!」

 

一息つく間も与えず攻撃してくる別のデストロイに簪は武器を向ける。だが戦っているのは簪だけではなかった。

 

「子供だけに活躍されてちゃ、自衛隊の名折れだ! 大和魂を見せてやれっ!!」

 

付近の自衛隊基地から発進したIS&ガーランド部隊も、最前線で戦っていた。隊長の女性が駆るのは赤いIS、セイバーガンダム。デストロイとの相性はあまり良くないが、それでも隙を見つけては善戦していた。しかしツォーンMk-2に被弾し、バランスを崩してしまう。

 

「うあっ!? この……落ちろカトンボ!!」

 

何とか体勢を立て直してスーパーフォルティスビーム砲を放つと、直後に地面に墜落する。デストロイの方は、ビームが足に当たったせいか膝を地面につけながらもセイバーガンダムを見据え、スーパースキュラとツォーンMK-2にチャージを始める。

 

(くっ、ここまでか……情けない……!)

 

諦めかけた時、彼女の前に金髪で青と白の服を着た女性が現れた。

 

「な、何してるんだアンタ!? 早く避難を―――」

 

慌てて言うセイバーガンダムのパイロットだが、全て言い終える前にデストロイから攻撃が放たれる。覚悟を決めて目を閉じた、その瞬間―――

 

「はぁあああああっ!!」

 

目の前の女性らしき声が聞こえ、何かが両断される音が響く。いつまで経っても痛みが訪れないことに違和感を抱いた彼女が目を開けると、女性はおらず真っ二つになったデストロイが居た。

 

(何だったんだ、一体……)

 

「……大丈夫ですか!?」

 

唖然とする彼女の元へ簪が駆けつける。既に三機目のデストロイも撃破されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(少々無茶をしてしまいました……これではマスターに叱られてしまいますね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五機のデストロイを相手に、省吾達は獅子奮迅の活躍を見せていた。

 

「テメェ……吹っ飛びやがれ!!」

 

両手で掴み上げられた省吾はテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔を近距離発射し頭部を破壊して離脱すると、すぐにエクスカリバーを構えた。

 

「チッ、どいつもこいつも……おいB.D! これ一本貸した方がいいか!?」

 

「できる限り、そうして貰いたいな!」

 

エクスカリバーを一本投げ渡すと、共に構えて一体のデストロイへと向かう。

 

「だぁあああああああああああっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

そしてエクスカリバーを使用した2人の連携攻撃でデストロイの脚部を破壊して倒れさせると、ブラントがプラズマキャノンを放ち撃破した。

 

「隊長達もやったんだ、俺達だって!」

 

「うおおおおおおっ! やってやるぞ!」

 

数機のヴィルデ・ザウとGR-2ガーランドがデストロイ一機を取り囲み、一斉射撃を行って怯ませると頭部にレーザーブレードを突き刺し、更にプラズマキャノンで消し飛ばした。

 

「一刀両断! でやぁぁぁああああああああああああああ!!」

 

また別のMA形態のデストロイは駆けつけたイーリスのガンダムエピオンが、最大出力のビームサーベルで一刀の下に切り捨てた。

 

「後は二機だ! このまま一気に―――どわぁ!?」

 

省吾の背後で爆発が起き、スラスターが損傷する。シュトゥルムファウストで撃たれたのだ。省吾のアウトフレームDは警告を鳴らしながらフラフラと地面に近づいて行く。

 

「や、やべぇなおい…………ん?」

 

その時、視界の端に先ほど乗っていたプロトガーランドが映り、省吾は素早くISから脱出するとプロトガーランドに乗ってMSモードに変形させた。その頃にはアウトフレームDは墜落し、爆散していた。

 

「へっ! やっぱ最後は、お前が切り札になるか……!」

 

ビームガンを連射しながら一機のデストロイに接近し、顔面を何度も殴りつけトドメにショルダータックルで頭部を胴体と分離させ繋がっているコードを引き千切った。

 

「フッ、その機体を駆るお前と戦うことになるとはな……だがISとはスペックがまるで違うぞ」

 

「わかってらぁ! でもコイツは全てのガーランドの親みたいなもんだ。簡単にゃ負けないぜ!!」

 

言いながら省吾とブラントは最後のデストロイに火力を集中。防御姿勢を取った隙にイーリスのヒートロッドが背部ユニットを掴んで強引に引き千切り、そのせいで後ろに傾きかけたところにヴィルデ・ザウ隊やガーランド隊、IS部隊による集中攻撃を受けスーパースキュラを虚空に発射して機能を止めた。

 

「ようやくか……亡国機業(ファントム・タスク)は随分厄介なものを作ってくれたな」

 

「ああ。今更だが本当にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ行くよ、マドカ!」

 

オーはMS形態になると以前より強化されたハサミ、「ギガンティックシザース」にある「シザースビームキャノン」を連射しながら接近する。

 

「こんなもの!」

 

マドカも負けじとビームライフルを放ち、応戦していく。やがて2人は待機しているエスから少しずつ離れていく。

 

(いいぞオーよ。そのまま時間を稼いでくれ)

 

(任せて、姉さん)

 

エスは地上に降りて両腕のストライククローを地面に引っかけて固定し、胸部装甲を展開し腹部も上下にスライドさせ、3つの砲門を露出。エネルギーをチャージし始める。それにマドカが気づいたのは、ビームサーベルで鍔迫り合いを行っていた時だった。

 

「ん? まさか……しまった! コイツは最初から―――うわっ!?」

 

「フフフ、今更気づいても遅いよ。マドカ。見事に時間稼ぎに掛かってくれたね」

 

ギガンティック・シザースでマドカのレジェンドを捕まえながらオーはマスクの下で笑みを浮かべる。

 

「姉さん、今だ!」

 

「いいぞオーよ……トリプルメガソニック砲、発射!!」

 

「ま、まずい……!!」

 

必殺武器「トリプルメガソニック砲」が放たれる直前、咄嗟にマドカはドラグーンを幾つか分離し、オーにビームを浴びせて拘束を解いた。結果、トリプルメガソニック砲は何にも当たらず通過して行った。

 

「しまった……!」

 

「やるな。さすがは私達姉妹の希望だ、伊達ではない。が……私達とて死に物狂いで訓練に耐えた身だ。お前に勝利は与えん!!」

 

合流しながら言うと、エスは再び変形したオーの上に乗り、マドカに接近しながらクロービーム砲とシザースビームキャノンの同時攻撃を行う。

 

「それはこちらの台詞だ! 勝利するのは、私の方だ!」

 

連結したまま向きを変えて撃ったドラグーンビームとビームライフルを放つ。しかし2人は一度分かれて攻撃を回避する。そして一瞬の隙を突いてギガンティック・シザースで再度捕まえる。

 

「同じ手が何度も通じると―――」

 

「生憎、同じではないぞ!」

 

そこへエスがストライククローで攻撃し、更にビームサーベルで装甲を貫く。

 

「ぐぁああああああああああああああ!?」

 

「悪いね。まだ終わりじゃないんだ!」

 

最後にマドカを地面に振り落とすとシザースビームキャノンを撃ち込んだ。墜落したマドカは割れた装甲から血を滴らせ咳き込む。

 

「あ……がっ……!」

 

立ち上がろうとするが、倒れ込んで動かなくなってしまう。

 

「最早これまでだね…姉さん」

 

「ああ。だがこれ以上痛めつけるのは忍びない。せめてもの情けだ、痛みも感じさせず一瞬で葬ってやろう」

 

エスはMA形態になったオーの展開された砲身を持ち、エネルギーが溜まるまで待つ。

 

「これで終わりだ……「フッ、どうかな?」何!?」

 

その直後、マドカがドラグーンとビームライフルの銃口を全てエスとオーに向けた。

 

「バカな! 芝居を打っていたのか!?」

 

「ね、姉さん!」

 

「……マドカを撃つ!」

 

「!? でもまだチャージが!!」

 

「構わん!!」

 

戸惑うことなく、エスはトリガーを引きビームを発射した。

 

「させるかぁっ!!」

 

マドカも最大出力のビームを一斉に放った。互いのビームは途中でぶつかり合い、爆発を起こした。

 

「「「うわぁぁぁぁああああああああああああああああ!?」」」

 

マドカとエス、オーは爆風に装甲をボロボロにされながら吹き飛ばされ、付近に居たデストロイガンダムは二機とも巻き込まれて破壊されてしまった。マドカが起き上がった時には、ヴァサーゴとアシュタロンとデストロイの残骸以外何も見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああああああああああああ!!」

 

ピーの駆るバンシィ(デストロイモード)の「アームド・アーマーVN」が刀奈のゴールドフレーム天ミナに襲いかかる。

 

「くっ!!」

 

咄嗟にトツカノツルギで防いだ刀奈だが、4つの爪から発生する超振動によって粉々にされてしまう。

 

「何て威力なの……!」

 

「トドメだ! 食らえ!!」

 

今度は右腕の「アームド・アーマーBS」を発射する。精度はほぼ100%だったが辛くも刀奈はシールドで防御姿勢を取りつつ回避に成功する。しかしシールドの一部が焼き切れており、近くの建物や偶然巻き込まれたデストロイの一機が纏めて溶断されていた。

 

「まだくたばらないか! なら!」

 

(またアレが来るわ。一か八かの博打だけど、やるしかない……!)

 

アームド・アーマーVNで殴りかかるピーだが、刀奈は左手のトリケロス改を突き出し超振動で破壊される前にランサーダートを発射しアームド・アーマーVNをショート、爆破した。

 

「っ!? 貴様……!!」

 

ピーは再びアームド・アーマーBSを撃とうとするが懐に飛び込まれた刀奈のツムハノタチを引っかけられ、彼女の全力で引き千切られた。

 

「小賢しい真似を!」

 

しかしピーは両腕に装備されたビームサーベルをビームトンファーとして展開し、刀奈に斬りかかる。

 

「あら? 小賢しいとは、こういうことを言うのよ!」

 

言いながら刀奈が避けた瞬間、ビームトンファーが背後に居たデストロイを貫き破壊してしまった。

 

「何っ…がっ!?」

 

「そして貴女は、これで終わりよ」

 

マガノイクタチでピーを掴み上げエネルギーを吸収する。やがてバンシィはエネルギー切れで待機形態となり、その際のショックで気絶した生身のピーを刀奈は抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GNファングからビームが放たれ、オタワの大地を焼く。彰人はローリングバスターライフルで全機撃ち落とすが、アルヴァトーレには傷1つ与えられない。

 

「へぇ~、やるじゃん! ファングが落とされちゃったよ。でも私のバリアは貫通できなかったみたいだね」

 

「だが貫ける手筈はきっとあるさ!」

 

攻撃を避けながら彰人はゼロシステムでバリアを突破しダメージを与える手段を模索する。しかしマシンキャノンやビームサーベルはおろか、ツインバスターライフルでも破るのは不可能という結果が突き付けられた。

 

(不可能かどうか、試しにやってみないとわからないだろ!)

 

内心で叫びながら彰人はツインバスターライフルを最大出力で放つ。しかしエーは相変わらず無傷だった。

 

「無駄無駄無駄って奴だね。今のが君の必殺技なんでしょ? じゃあ私の勝ちは貰ったも同然―――」

 

「……果たしてそうかな?」

 

勝利を確信するエーの言葉を遮り、彰人は手に一本の刀……タイガーピアスを握った。

 

(出撃前に敵の本拠地に乗り込むならって箒ちゃんに託された時には驚いたが、まさか役に立つとは……心配性もバカにしちゃいけないな)

 

「実体剣!? 何でウイングゼロが!?」

 

驚くエーを余所に、彰人は一気に近づくとゼロシステムで探った効果的な場所を、タイガーピアスで素早く切り刻んでいく。それが終わった時、アルヴァトーレはバラバラになったが、中から人型のIS『アルヴァアロン』が姿を表した。

 

「まさかアルヴァトーレがやられるなんて……でも! このアルヴァアロンがあったことはさすがに見抜けなかっただろう! ここからが本当の戦いだよ!!」

 

「いいや。この戦いの勝敗は、既に決している」

 

彰人の言葉に「?」と首を傾げると、分割したバスターライフルを撃ってくる。すぐさま避けるがその先に向けて投げたビームサーベルがGNビームライフルに直撃、破壊する。

 

「うわっ!? くっ、この!」

 

慌ててGNビームサーベルを構えるが、その時には彰人に接近を許しマシンキャノンで蜂の巣にされ、ビームサーベルで斬られた後ツインバスターライフルをまともに食らった。

 

「あ、アルヴァアロンが……! 私のISが!?」

 

「お前の負けだ。しばらく眠っていろ」

 

ISが解除されたところに手刀を叩き込んでエーを気絶させると、降下して地面に寝かせた。丁度そこにワープした一夏が現れた。

 

「終わったか?」

 

「どうにかな。箒ちゃんの剣が無かったら、負けてたかもしれないが……」

 

「ともかくプロフェッサーが居る場所を探そう」

 

一夏の言葉に「ああ」と頷いた彰人だったが、その時彼らのISに何らかの情報が送られてきた。

 

「これは……敵の居場所までの正確なマップ? それもプロフェッサーが送り主だと……どういうことだ?」

 

「誘っているのかもな、俺達を……何にせよ進むしかない。行こう」

 

意を決し、彰人と一夏はマップを頼りにとある建物の地下駐車場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぞ!」

 

海面スレスレを進むガンダムエクシアリペアⅡ、アルケーガンダム、アカツキ(シラヌイ装備)はデストロイガンダムの部隊を目視できる距離まで移動した。

 

「2人とも、行くぞ!」

 

「了解だ、決めてやるぜ!」

 

「脱退したとは言え、後始末はつけさせて貰うわよ!」

 

それぞれGNソード改、GNバスターソード、ビームサーベルを構えるとデストロイ達へと向かう。デストロイ達はアウフプラール・ドライツェーンを発射して迎撃行動に移る。

 

「そんな攻撃で!」

 

千冬は背面のISコアをオーバーブーストモードに変形させると、GNソード改を居合のように構え、ビームの合間を縫ってデストロイの一機の横を一閃しながら通過した。瞬間、横一文字にデストロイは破壊され海に落下した。

 

「へっ! ちょいさぁ!!」

 

出力をアップさせたオータムは一機のデストロイの前にGNバスターソードを縦に構える。咄嗟に止まることができず、デストロイは自分のスピードを利用されてGNバスターソードで両断された。

 

「ハッ! ぶちのめしてやるのは気分がいいぜ!!」

 

一方スコールはビームを無効化しつつビームサーベルをデストロイの一機に突き刺すと、内部機関が丸見えになった部分にドラグーンを全て展開し近づけた。

 

「これで終わりよ、人形さん!」

 

ドラグーンを一斉射し、デストロイを海へ撃墜した。残る二機のデストロイは三機を無視してIS学園に向かおうとする。

 

「させるかっての!」

 

内一機はGNバスターソードの投擲で破壊されたが、一機は攻撃をかいくぐった。

 

「まずい! このままでは『心配要りません』…クロニクル? 何を―――」

 

『私に任せて下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園のある島に辿り着き、MS形態に変形するデストロイ。クロエはそれに背を向けて立っている。

 

「終わらせます。この力で……!」

 

クロエは背中から巨大なカラフルな蝶の羽のようなものを発生させる。それにデストロイが触れた途端―――デストロイは砂のように消滅してしまった。

 

『な、何だ? 今のは一体……』

 

「くーちゃんはね。ISと一体化していてその力を直接使うことができるんだ。今のはくーちゃんのIS……『∀ガンダム』のアビリティ『月光蝶』だよ」

 

「今まで使ったことは無いんですけどね」

 

『月光蝶だと!? お前はまた恐ろしいものを……だが状況が状況だけに、怒るに怒れん……』

 

戸惑いを隠せず、千冬は大きなため息をついた。



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89th Episode

彰人SIDE

 

「さて……と」

 

送られてきた情報を頼りに、俺達はとある地下駐車場へと入る。地図的には真上に何らかの会社があったようだが、完全に倒壊していてわからない。

 

「ナビゲーターはここを指しているが、壁しかないな……」

 

「罠か、それとも秘密の入り口でもあるのか?」

 

いつでも逃げられる体勢を作りつつ、壁面を凝視する。何も無いように見えるが、果たして……。

 

そう考えていると、再び連絡が来た。

 

『ごめんごめん。入り口を開けておくのを忘れていたよ』

 

(入り口? コイツ、ふざけているのか……?)

 

そう思った時、目の前の壁がまるでドアのようにスライドし、エレベーターのような空間が現れた。

 

「というかまんまエレベーターだな」

 

「完成度の高いカモフラージュをしてたのか。ISのセンサーでもわからないとは、誰にも見つからん訳だ」

 

ISを解除(ただし腕に部分展開している)してエレベーターに乗り込む。すると驚いたことに、自動でドアが閉まって独りでに下に動き出した。

 

「向こうから遠隔操作されているようだ。やっぱり罠か、彰人?」

 

「わからない。が、用心するのに越したことは……ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、束さんからメッセージが」

 

一体何だろうと思い見てみる。そこに書かれていたことに最初は驚き、次に喜びへと変わった。

 

「『世界各国のデストロイガンダム他ISの撃破に成功したよ!』だってさ!」

 

「っしゃあ! やったぜ! これで残るはプロフェッサーだけか!」

 

一夏とガッツポーズをし、そして再度緊張感を高める。全ての敵が撃破されたのなら、プロフェッサーとやらは目の前で逃亡を謀るかもしれない。それだけは阻止しなければ……!

 

「ん……着いたみたいだ」

 

長い時間を掛けて止まったエレベーターを降り、目の前に見えるこれまた長い廊下を表示されたマップ情報に従って歩く。やがてとあるドアの前に辿り着くとソレが自動で開き、その先の司令室らしき部屋にマスクオフした状態のISを纏った1人の女性が佇んで居た。

 

「ようこそ、亡国機業(ファントム・タスク)へ。歓迎するよ、矢作彰人君、織斑一夏君。私がプロフェッサーだ」

 

「……随分と余裕そうだな。お前達の戦力は全滅したんだぞ?」

 

「ああ、知ってるよ。デストロイは私がモビルドールシステムで直接指揮していたんだけど……やっぱり経験値の差が出ちゃったね」

 

「そんなことより、さっさと投降したらどうだ。アンタは負けたんだ!」

 

「『負けた』? フフ、バカを言っちゃ困るね。まだ私と言う戦力が残っているじゃあないか」

 

肩をすくめながらプロフェッサーはマスクを展開する。俺達も全身にISを展開し、ビームサーベルとGNソードⅣを持つ。

 

「なら、アンタをさっさと倒させてもらう! この戦いを終わらせる為に!」

 

「これ以上世界をお前達の好きにはさせない!」

 

「若くて熱いねぇ。では刮目して貰おうか。私の『ブルーディスティニー改』の力を、さ。……システム、起動」

 

ツインアイを赤く光らせ、近接武器のビームサーベルを構えるプロフェッサーに、俺と一夏は時間差で突撃した。だが……

 

 

バキッ! ドガッ!!

 

 

「「ぐおぁあああああああ!?」」

 

こちらの攻撃は避けられ、一方的に攻撃を受けていた。何故だ……? ゼロシステムで行動を読んでいる筈なのに!?

 

「クソッ……! トランザム!!」

 

一夏はトランザムを発動し、残像で相手を翻弄しつつ斬りかかる。

 

「……トランザム」

 

 

シュンッ! ズシャッ!

 

 

「うわああああ!!」

 

しかし、どういう訳かトランザムを発動させたプロフェッサーに量子化で回避され、逆に斬りかかられた。

 

「まだまだ、たっぷり見て貰うよ。私自らが特別にチューニングしたISの力を!」

 

言い終えるやいなや、プロフェッサーはトランザムを発動しビームライフルやビームサーベル、100mmマシンガンで連続攻撃を仕掛け、俺達を圧倒する力を見せつけられ、地に伏せられた。

 

「な、何で量子化ができるんだ……それにゼロシステムで予測しているのに、ちっとも避けられない………………っ! まさか、ゼロシステムとツインドライヴシステムをEXAMと同時に積んでいるのか!?」

 

「んなバカな!?」

 

「いいや、彼の言う通りだよ。私は君達のデータを元にして作った、ツインドライヴシステムを搭載し、ゼロシステムをEXAMシステムと混ぜ込んだ『EXAMゼロシステム』を搭載している。お陰で君達を圧倒することができたよ。最も、戦闘慣れしてないからさっきみたいに手加減ができないし、持て余しているんだけどね。それと余談だがこの機体を選んだのは、私の趣味だ。いいだろう?」

 

歩きながら自慢するかのようにプロフェッサーは言う。そして大げさにポーズを取りながら、何やら語り始めた。

 

「ところで君達は、疑問に思っているんじゃないかな? 何故私達は世界の平和を願いながらテロ行為を行うのか?と。まあ思ってなかったとしても、君達はここでやられるんだし話しておくよ。……私はね、他人の力を傘に威張り散らしているバカな奴らが、それより上の力で慌てふためくのを見るのが大好きなんだ。フフ、世界を救うなんてのは二の次だけど、最終的な目標は一致しているからいいだろう?」

 

「な、何だよソレ……! お前、無茶苦茶だよ!」

 

「目標が一致してるだと? ふざけるな! アンタはただ自分の欲望を満たそうとしているだけじゃないか!」

 

「だが今の世界にとっては良い薬になるんじゃないかな?」

 

「だとしても! 破壊や犠牲を必要とするものが、正しいとは言えない! たとえ正しいとしても、結果は手段を正当化したりはしないんだ!!」

 

起き上がりながらバスターライフルを構えて叫ぶ。プロフェッサーの行動原理は自分の欲望だが、確かに人間は一度痛い目に遭わなければわからないかもしれない。それは正論だ。それでも俺は……!

 

「一夏……行くぞ!! 俺達が信じる人達の為に……信じるものの為に!!」

 

「お前に言われなくてもわかってる……。俺達は、負ける訳にはいかないんだ!!」

 

「やっぱり熱いね、君達。……そういうのって、嫌いなんだよ!!」

 

プロフェッサーは有線ミサイルをぶっ放すが、寸前で避けると受け身を取りながらバスターライフルを発射する。しかしプロフェッサーは量子化して回避した。

 

「おっと。そんな攻撃じゃ「せいやっ!!」がはっ!?」

 

直後、俺がタイガーピアスで背後から横薙ぎに斬りつける。何をしたかって? さっきのバスターライフルを避けた隙に一夏がGNソードビットで作ったワームホールに飛び込んで背後に回ったんだ。ぶっつけ本番だったけど、上手くいくもんだな。

 

「え、EXAMゼロシステムの予測ではこんな攻撃は!?」

 

「実戦経験の少なさが仇になって、システムを使いこなせなかったようだな! やっちまえ、一夏ぁ!!」

 

「ぬぁああああああああああああああああ!!」

 

正面から一夏が接近しGNソードⅣを振りかぶる。プロフェッサーはトランザムを発動してビームライフルを放つが一夏に弾かれ、痛烈な一撃を食らった。その証拠に装甲に深い傷が走り、そこから火花が散っている。

 

「ごふっ……こ…こんなバカなことが……私はまだ、倒れる訳にはいかないというのに……!」

 

「残念だが、お前の企みもここまでだ。潔く負けを認めろ」

 

「潔くだと……? ふ、フフフ……あははははははははは! 誰がそんなことをするとでも!?」

 

「!? こ、コイツ!」

 

「そんなことをするぐらいなら、私は世界に爪痕を残す程凄まじい死を選ぶよ!!」

 

そう言うと、プロフェッサーはトランザムを発動させたブルーディスティニー改の出力を目に見えて危険なレベルまで引き上げた。

 

「自爆する気か!?」

 

「惜しいねぇ! 私はこれからEXAMシステムとゼロシステムで負のイメージを増幅させた上で、GN粒子を撒き散らしながら死ぬのさ!!」

 

「な、何だとぉ!?」

 

俺も一夏も耳を疑った。彼女のやろうとしていることは、恐怖のイメージをGN粒子に乗せて世界中に頒布しようというものだ。ただでさえ戦争で傷ついているというのに、そんなことをしたら…………それがコイツの断末魔の叫びか!?

 

「一応止めることはできるよ? ブルーディスティニー改のシールドエネルギーをゼロにすれば……最も、本当にできたらだけど」

 

「「何―――うああああっ!?」」

 

次の瞬間、脚や腕から放たれたアンカーランチャーが俺達の身体を雁字搦めにしてプロフェッサーと密着させて身動きを取れなくさせやがった。

 

「こんなこともあろうと用意しといたのさ! さあ! 止められるものなら止めてみなよ! あははははははははははははは!!」

 

「く、クソッ……!!」

 

碌に腕を動かすこともできない状況下で、ゼロシステムをフル稼働して勝算を導いていく。しかし見せられるものは、一貫してある行為だった。

 

「(これしかない、か……)……一夏。クアンタのパワーを上げ続けろ。俺もパワーを上げる」

 

「え? 何言って……お前、まさか―――」

 

「早くしろ!」

 

「……わかった。俺も覚悟を決めるぜ!」

 

力強く頷くと、俺と一夏はウイングガンダムゼロカスタムとダブルオークアンタのパワーを限界以上まで引き上げていく。プロフェッサーは「ん?」という様子を徐々に焦りに変えていった。

 

「や、やめろ! 君達、自分が何をしようとしているのかわかっているのか!?」

 

「「わかった上での行動だ!!」」

 

更に更にパワーを上げ続け、モニターが警告メッセージで埋め尽くされ次いで中央にそのボタンが表示される。

 

(悪いな。セシリア、簪、シャル、ラウラ、刀奈……俺、帰れそうにないかもしれない)

 

(こんなことなら、行く前に箒と鈴とキスしとけば良かったな……)

 

愛する人達を思い浮かべながら、俺達は最後の手段―――『自爆スイッチ』を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……ここは……?」

 

気がつくと俺と一夏は無傷のISを纏って浜辺に居た。おまけに驚くべきことに、IS学園の浜辺だった。自爆の直前までカナダの地下に居たのに……?

 

「……おい彰人。こりゃ一体……?」

 

「俺に聞くな……」

 

可能性としてはクアンタのワームホールでギリギリ助かったことだけど、何か……違和感を感じる。ここは本当に、俺達が居た学園なのか……?

 

「ん? センサーがIS学園からの反応を察知している。これは味方のISだな」

 

「いや、どうだろうな」

 

どうにも不安を拭えずに腕を組む。少しして現れたのは、千冬さん率いる教師が纏ったIS達だった。が、その外見はガンダムどころか全身装甲(フルスキン)でもない、生身の四肢が露出したアーマーを纏っていた。

 

「な、何だこれは……彰人」

 

「……みんなが纏っているのは、原作に出てきたISだ」

 

「え? いやでも、俺達の世界じゃISは丸っきりガンダムだった筈じゃ」

 

大いに戸惑っていると、目の前に居る千冬さんが通信をしてきた。

 

『そこの所属不明機。悪いが大人しく投降して貰うぞ』

 

「え、何言ってるの千冬姉さん?」

 

『なっ!? そ、その声は一夏か!? だが一夏は学園に居る筈……』

 

その言葉を聞いた瞬間、俺や一夏は理解してしまった。俺達は、別の世界のIS学園に来てしまったのだと。



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設定4

登場人物

 

エス

 

性別 女性

 

織斑マドカことエムと同じく、織斑千冬の細胞から作られたA~Zまでのクローンの生き残りで、名前は製造ナンバーを表している。冷静な性格だが非道な面も併せ持っている。オーとは距離に関係なく会話が出来る他、互いの視覚・感覚なども共有可能なツインズシンクロという特殊能力を持ち、2人揃ってのコンビネーション戦闘時に強力な戦闘力を発揮するものの、片方だけでは役立たずという烙印を押されて廃棄されかけた。その為心の底から自分達を失敗作と見なした今の世界を憎んでおり、自らの意志でガンダムヴァサーゴを駆って亡国機業(ファントム・タスク)に従う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オー

 

性別 女性

 

織斑マドカことエムと同じく、織斑千冬の細胞から作られたA~Zまでのクローンの生き残りで、エスを『姉さん』と呼んでいる。これはエスと同時期に目覚め、尚且つエスの方が僅かながら早く目覚めたからである。エス同様に非道な性格だが、激昂し易い性格でもあり、彼女に窘められることも。またエスと同じ理由から今の世界を心の底から憎み、それに目をつけた亡国機業(ファントム・タスク)にガンダムアシュタロンを与えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピー

 

性別 女性

 

織斑マドカことエムと同じく、織斑千冬の細胞から作られたA~Zまでのクローンの生き残りの1人。エスやオーと違って世界を憎んではいないが、自分達を救ったプロフェッサーに恩義を感じており、彼女を「マスター」と呼んで従っている。基本的にプロフェッサーの命令には忠実で、彼女の為なら人殺しさえ厭わない。しかし本質的には優しい性格である。専用ISバンシィを駆る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エー

 

性別 女性

 

織斑マドカことエムと同じく、織斑千冬の細胞から作られたA~Zまでのクローンの生き残りで最初に覚醒したナンバー。その為か精神的にやや幼く、無邪気な一面もある。しかしその無邪気さにつけ込まれ、ISを使って暴れたいと思っている。専用ISはアルヴァアロンと支援パーツを装着したアルヴァトーレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登場IS

 

サイコガンダムMk-Ⅱ

 

原作でのゴーレムⅢ。サイコガンダムを強化した機体で、禍々しい外見が特徴。メガ粒子砲の数が増えており、近接武器としてビームソードが追加。更にリフレクタービットにより自分のビームを反射して攻撃することができる。サイコガンダムと同じく無人操作で動かされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジェンドガンダム

 

原作における黒騎士。ドラグーンの数が減ったが、その分合体させた状態で攻撃できる他、操縦者への負担は軽減されている等改良されている為使いやすさは向上している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルケーガンダム

 

ガンダムスローネツヴァイを改造した機体。全体的に出力が向上しており、GNファングの数が増えている他、GNバスターソードにライフルモードが追加。また爪先にGNビームサーベルを隠し武器として装備している。シルエットはスローネツヴァイとはかなりかけ離れ、凶悪な面構えになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアストレイブルーフレームセカンドリバイ

 

ブルーフレームセカンドL・LLを束が改造した機体。タクティカルアームズにガトリングアームとソードアームが追加され、より使いやすくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスガンダム

 

ソランジュ・エキューデが操縦するIS。MA形態への変形機構とドラグーン等多彩な武装を搭載した強襲用機体で、MA形態時は高い加速力と破壊力を活かした一撃離脱戦法を得意としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムヴァサーゴ

 

エスが搭乗するISで高出力ジェネレーターを内蔵し、背部にはバインダー兼用のラジエータープレートを装備している他、腹部に大口径メガ粒子砲「メガソニック砲」を搭載している。全体的にエネルギー効率が良く、外付けタンク無しのシールドエネルギーのみで高威力のメガソニック砲を放つことができる。後にガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクに改造される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアシュタロン

 

オーが搭乗するIS。モビルアーマー形態に変形可能な可変モビルスーツで、重厚な見た目に反して高い機動力を誇る。ガンダムヴァサーゴを乗せたまま飛行する事もでき、バックパックには大型クローアーム「アトミックシザーズ」を装備している。またMA形態では水中戦が得意になるという面も持つ。後にガンダムアシュタロン・ハーミットクラブに改造される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク

 

ガンダムヴァサーゴを改造した機体。基本性能の大幅強化に加え、メガソニック砲を新たに胸部最終装甲内に左右一基ずつ増設しトリプルメガソニック砲にパワーアップさせている。

ジェネレーターもより高出力なものになり、シールドエネルギーのみでトリプルメガソニック砲を複数回発射可能にしている。ガンダムアシュタロン・ハーミットクラブとの連携で必殺武器のサテライトランチャーが使用可能となり、本機は制御面を担当している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムアシュタロン・ハーミットクラブ

 

ガンダムアシュタロンを改造した機体。バックパックが以前より大型・一体化され脚部も大型スラスターを内蔵し、防御力と機動性が大幅にアップしている。

武装もアトミックシザーズからギガンティックシザーズへ強化された他、更にオプション兵装として必殺武器であるサテライトランチャーが用意され、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクと連係する事で発射が可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムAGE2ダークハウンド

 

原作のヘル・ハウンドに当たる機体。額と胸部に施された髑髏のレリーフと、右のツインアイのアイパッチ型照準用バイザーが特徴的で、胸部の髑髏マークには眩惑用の発光装備「フラッシュアイ」が内蔵されている。機動性が高い他、ストライダーと呼ばれる形態に変形可能で、複数の僚機を牽引しつつ速やかな戦域離脱が可能となっている。主な武装は長槍型の「ドッズランサー」にフック型有線射出兵器「アンカーショット」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスティニーガンダム

 

原作でのコールド・ブラッド。遠近両方に対応できる機体で、背部ウイングユニットの内部のスラスターは出力増大に伴って「光の翼」が発生する。これは自機のエネルギーを特殊光圧に変換し、主推力として用いるというもので、また光の翼発生と同時にミラージュコロイドを散布させ、複数の残像を発生させながら推進することができる。実は量産化が検討されている機体でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンシィ

 

ピーが操縦するIS。漆黒の装甲で覆われており、普段はブレードアンテナが折りたたまれていてガンダムのようには見えない。が、「デストロイモード」を起動することで各部装甲と武装、及び頭部ブレードアンテナが展開し獅子のような「ガンダム」に変身する。主な武装は両腕に装備されたアームド・アーマーで、近接格闘用のVNと射撃用のBSを片腕ずつ装備している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルヴァトーレ

 

エーが操縦する金色の巨大ISで、ISコアが合計7つ使われている破格の機体。各出力もコアの数に比例して高くなっており、特にシールドバリアーは最大出力のツインバスターライフルさえも完全に防いでしまう程強い。武器は両側面と機首に装備されたビーム砲とGNビームライフルにGNファング、並のISやガーランドなら簡単に引き千切ることができるクローアーム。機体内部にはアルヴァアロンというISが隠されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルヴァアロン

 

追加装甲をパージしたアルヴァトーレの真の姿で、この状態では機動性が大幅に向上する。代わりに武装がGNビームライフルとGNビームサーベルとシンプルなものになるが、両方共供給エネルギーを調節することで威力を上げることができる。



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並行世界編
90th Episode


前回のあらすじ。

ゼロシステムで増幅した負のイメージをGN粒子に乗せて世界中にばらまくという、とんでもないことをやろうとしたプロフェッサー相手に捨て身の自爆を敢行した俺達は目を覚ますとIS学園……それも別の次元のに漂着していた。

 

あの後俺達はISを解除し、千冬さんに連れられ学園にて事情聴取を受けていた。で、一夏と共に洗いざらい話したんだが……。

 

「ISと共に普及したというガーランドとやらは私達の世界にはないし、お前達が言う亡国機業(ファントム・タスク)との最終決戦も起きていない。ということは……俄には信じがたいが……お前達は別の世界から来たということになる」

 

「まあ…そうでしょうね」

 

「じゃなきゃ逆に驚きますって」

 

「……しかし、言われずとも私に礼儀正しく接する一夏とは、私からすると違和感があるな。だからこそ別の世界から来たという確証を得たのだが」

 

顎に手を当てながら言う千冬さんに、一夏は「え?」と声に出した。

 

「もしかして、ここでの俺って千冬姉さんを敬ってないんですか?」

 

「そういう訳ではないのだが……公私が混同していてな。何度注意しても「千冬姉」と呼ぶわ敬語が出ないわ……成長しないのかアイツは…と、すまない。思わず愚痴が零れてしまった」

 

「い、いえ……」

 

顔には出してないが、一夏はショックを受けているみたいだ。そりゃ今の自分の元になった人が、別の存在とはいえ自分の姉に愚痴られていたらそうなるだろう。

 

(というか彰人。お前のその髪、一体どうしたんだ?)

 

小声で言う一夏は、金髪になった俺の頭を指してくる。

 

(ここに来る前に束さんが話してくれたんだけど、俺の身体はゼロシステムに対応すべく発動時に変異しているんだそうだ。で、そうなると金髪緑眼になるが、ゼロシステムを使い続けたせいで常時こうなるかもしれないんだと)

 

(かもしれないって、もう遅いじゃん。てかそれだといつもとどう違うんだ?)

 

(簡単なゼロシステムと同じことを常にできるらしい。例えば……もうすぐ山田先生がこの部屋に来る)

 

コンコン、ガチャッ

 

「失礼します、織斑先生」

 

扉を開けて入ってきたのは資料を抱えた山田先生だった。

 

(……な?)

 

(チートすぎんだろ……)

 

いや確かにチートだけど、先に起こることが常にわかってしまうのってかなりつまらないと思うぞ。サプライズとか無理だし……ま、へこんでばかり居ても仕方ないが。

 

「それでどうだった?」

 

「はい。矢作彰人君と、もう1人の織斑君が装着していたのは…形こそ違いますが、ISです。それと、織斑君の方はコアが2つ内蔵されていた他、コアが『白式』と同じ反応を示しました」

 

「何っ!? そうか……」

 

(『びゃくしき』って何だ?)

 

(本来の織斑一夏の専用機で、真っ白の白と計算式の式で書き表すんだ)

 

(白式……ああ、白い百式か!!)

 

(全然違うからな……)

 

確かにネットで画像検索すると真っ先に出てくるけど。同じ名前でもそっちの方が性能的に安定しているけど。

 

「ありがとう、山田先生。……さて。今までの話を纏めると、お前達が自力で元の世界に帰ることはほぼ不可能に近い」

 

「「……はい」」

 

「そこでだ。帰る手段が見つかるまで、IS学園(ここ)に居るというのはどうだ?」

 

「「えっ?」」

 

揃って面食らってしまった。俺の方から頼み込もうとずっと考えてたから、ちょっとびっくりだ。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「ああ。束の奴にも多少強引にでも手伝わせるから、期待しておいて損はない筈だ」

 

「そうではなくて、IS学園に居ることです。混乱しませんか? 特に、織斑一夏と同じ顔や背格好、名前を持つ男が現れたら」

 

最大の疑問を一夏が言い放つと、千冬さんは「それなら問題ない」と言って続けた。

 

「お前達のことは真実を話すつもりだ。下手に隠すよりも、その方が場を収めやすいからな。たださすがに『そちら側』の織斑は名前を変えて貰うぞ。呼ぶ時に紛らわしいからな」

 

「それくらいならOKです」

 

「では名前は「菅山龍でお願いします」……やけにあっさりだな。まあいいが」

 

一夏の返答を聞いた千冬さんは頷くと、山田先生に寮の部屋と思われる鍵を渡した。

 

「私は諸々の手続きを済ませてくる。山田先生は2人を部屋に案内してくれ」

 

「わかりました」

 

先導する山田先生に俺達は席を立ってついていく。しばし歩いていると、俺達の部屋の前に着いたがその隣辺りの1025室から何やら騒ぎが聞こえる。

 

「ん? 何だろう」

 

「あ、あんまり近寄らない方がいいですよ」

 

「へ?」

 

「だって多分、あの中では……」

 

言いにくそうに山田先生が話そうとした瞬間―――轟音と共に1025室の扉が吹っ飛んだ。

 

「「うおおおおおおおっ!?」」

 

突然すぎる出来事に驚きながら、部屋から出る煙の奥を目をこらして見る。大体見当はついてるんだけど……。

 

「ま、待ってくれみんな! 頼むから話を聞いてくれ!」

 

「問答無用! その根性を叩き直してくれる!」

 

「い~ち~か~? 覚悟はできてるんでしょうね?」

 

「あまり動かないでくださいまし。狙いがずれるので」

 

「フフ、安心して。痛みは一瞬だから」

 

「嫁よ、どうやらお仕置きが必要なようだな」

 

「……み、みんな待って。お願いだから、彼の話も聞いてあげて……!」

 

腰を抜かして必死の形相で頼み込む『この世界』の一夏に、真剣(!!)を構えた箒ちゃんとISを展開した(!!!)鈴ちゃん、セシリア、シャルや軍用ナイフを持ったラウラがじわりじわりと近づく。後ろで簪が必死に止めようとしている。……うん、これはアレだな。

 

「「バイオレンス過ぎだろ!!」」

 

どうやらい…龍も同じことを考えていたようだ。原作で読んでて知ってたけど、あんな感じなの? アレ死人出るよな!? 間違いなく殺しにかかってるよ! そう思っていたら一夏がこちらを二度見して目線が合った。

 

「ん!!?? ち、ちょっと待て! あれを見ろ!!」

 

「ふん! そんな古い手を使って、どうせ何も………………え?」

 

次に鈴ちゃんが見たのを切っ掛けに、次々に視線が向けられる。先ほどまでの殺気が嘘のように消えている……切り替えが早いというか、何というか。

 

「お、男だと? IS学園には一夏以外の男子生徒はいない筈……」

 

「しかも片方は、一夏と同じ顔してるよ!?」

 

「……ど、どうなっているの? 貴方達は一体……」

 

「説明したいのは山々だけど……なんでこんなことになってるの? 山田先生、何か知ってますか?」

 

「え!? あ、それはですね。こちらの織斑君は恋愛事に物凄く疎くて、皆さんの気持ちに全く気づかないんですよ。いつしか『唐変木・オブ・唐変木ズ』なんて呼ばれているくらいですし」

 

訳がわからないといった風に聞く龍に山田先生が答えると、龍は目を見開きそして静かに涙を流した。

 

「……龍。今の説明でわかったのか?」

 

「……ああ。わかったが故に、情けなく思えて……」

 

その気持ちはよくわかる。現に俺も一夏が情けなく見えてきた。

 

「いや何の話かさっぱりだけど、それよりアンタ達は何なんだ!? 説明してくれ!」

 

「混乱してるのは理解したから、少し落ち着けって。とりあえず俺達の部屋で話をしようぜ」

 

ずいっと顔を近づける一夏を制し、俺はこれからしばらくやっかいすることになる部屋へ案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に移動した後、俺達は自分が何者であるか、どういった経緯で『こちら側』に来たのかを幾分噛み砕いて説明した。ちなみに先ほどの騒ぎを聞いて駆けつけた楯無さんも居る。

 

「平行世界の一夏君か……普通なら信じられないけど、現にこうして目の前に居るんじゃあね……」

 

「それよりそっちの俺…龍と、彰人って言ったか? 結構凄まじい経緯でこっちに来たんだな」

 

「差し違える覚悟はあったからな。まさかこうなるとは夢にも思ってなかったよ」

 

「何にせよ、2人が相当な実力の持ち主だということは私にもわかる」

 

「うん。戦うことを覚悟してるっていう雰囲気が出てるよね」

 

そんな雰囲気が出ていたのか? 言われるまで気づかなかったが……まあ覚悟してるのは合ってるが。

 

「男である俺達がISを動かした時点で、やがて戦いに巻き込まれることは想像してたからな。特に、ブリュンヒルデの弟となると余計にな」

 

「だからよく体を鍛えたりとかはしたな。いくらISに乗れても、きちんと体が作れてなかったら碌に動かせずに終わっちまうし」

 

肩をすくめながら言うと、一夏が顔を逸らした。……そういえば、原作の一夏はバイトを切っ掛けに練習をやめたんだっけ。確かに俺達もバイトはしたけど、トレーニングは欠かさなかったな。折角身につけたものを無駄にはしたくないもの。

 

「……あの。2人の居た世界ではISはガンダムと同じ見た目になってるって言ってたけど、私達の機体はどんな機体になってるの?」

 

ここで簪が恥ずかしげに尋ねてきた。なるほど、気になるところではあるな。折角だし話しておくのもいいだろう。

 

「えっと、箒ちゃんのはアストレイレッドフレーム改で、セシリアのがストライクフリーダムで鈴ちゃんのはアルトロン。シャルがアリオスでラウラがハイペリオン、楯無がアストレイゴールドフレーム天ミナで、簪はアストレイブルーフレームセカンドだ」

 

ざっくり説明すると簪は「おおっ」といった感じで目を丸くしていたが、他のみんなはちんぷんかんぷんのようだ。そこで簪が端末を使って各ガンダムの情報を見せていくと、様々な感想が出てきた。

 

「日本刀二本に、大剣を使うのか。ううむ、向こうの私が羨ましい」

 

「ブルーティアーズのように、BT兵器を搭載しているのですね。けどそれ以上に、武装が豊富なのが羨ましいですわ……」

 

「ドラゴンの意匠が入っているのね。おまけにパイロットも中国人……私が使っても違和感ないわ」

 

「へぇ~、僕のと同じバランスタイプか。でも可変機構があるのか…いいなぁ」

 

「機体全てを覆うバリアか。状況によってはAICより使い勝手がいいかもしれん」

 

「ミラージュコロイドによる不可視化に、エネルギー吸収能力。クリア・パッションとは違った便利さがあるわね」

 

「……カッコイイ機体で良かった」

 

皆素直に驚いたり感心したり羨望したりしている。ちなみに隣では一夏が龍のIS、ダブルオークアンタのデータを見て沈んでいた。

 

「俺の武器はどれも燃費悪い上に、近接武器が大半を占めてるっていうのに……ビットがある上にワープ可能でエネルギー自動回復って、チートすぎんだろ!? 少しはこっちにも分けて欲しいぜ……」

 

「そんなこと言われてもな……」

 

「ともかく、今日からここで過ごすことになる。迷惑を掛けるかもしれないけど、これからよろしく」

 

「……ああ。よろしくな!」

 

右手を差し出すと、一夏も応じて握手をしてくれる。その上から更に龍が手を乗せる。そして互いに笑みを浮かべると、手を離した。

 

「あ、ところで一夏。1つ聞いてもいいか?」

 

「何だ? 俺にわかることなら何でもいいけど」

 

「じゃあさ……お前って、面と向かって女子に告白されたこととかある? 『好きです』とか『付き合ってください』とか」

 

小声で耳打ちする。これでどう返ってくるかによって鈍感さを調べたいが……。

 

「は? ないない! てかそれって、食べ物とか買い物の誘いとかじゃねーの?」

 

「「……………………は?」」

 

「あれ告白だったのか? そう考えればいくつかあるが、だからってさすがにあんなに多いの全部な訳ないよ。だってほぼ毎日言われてたし」

 

「「…………………………………」」

 

一夏の話を聞いて俺は直感した。コイツはかなりの強敵だと。面と向かって告白されても気づくどころか完全に違う考えをすることが、どれ程厄介なのかこうしているだけで伝わってくる。……俺達、一夏争奪戦に巻き込まれないようにできるかな……?



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91th Episode

???

 

束SIDE

 

信じられないことが起きた。時空の歪みを観測してその周囲一帯を調べた結果、見たこともないISがそこに居たんだ。しかも片方の操縦者はいっくんと同じ顔と名前だし……もう片方は全く知らない顔だけど、何故だか束さんと似た存在だと一目で感じられた。

 

束さんとしては何としても彼らのデータを集めたいけど、IS学園に保護されるとなると迂闊に手を出せない。少し前に無人機送り込んじゃったからなぁ……どうしたものか。

 

「…………ん?」

 

ふと気がつくと、束さんの携帯電話が鳴っていた。この着信音は……!!

 

「もしもし、ちーちゃん! 何か用かな~?」

 

『単刀直入に言うぞ。こちらで保護した男子生徒が2人居るんだが、彼らが元居た世界を探してくれないか?』

 

「……どういうこと?」

 

『すまない、単刀直入過ぎたな。わかりやすく話そう』

 

そう言うと、ちーちゃんは見たこともないISを纏ったあの2人が平行世界の地球からやってきたいっくんとその親友だということと、彼らがどういう経緯で現れたのかを話してくれた。

 

「ふーん、平行世界ねぇ……信じがたいけど、そうでなきゃいっくんと瓜二つな理由が見つからないものね」

 

『それで、できるのか?』

 

「元居た世界を探すって話? できないことはないよ。束さんのIQは宇宙一だからね! ただ1つ条件があるよ」

 

『何だ?』

 

「あの2人の戦闘データを取って欲しいんだ。できれば個別で……どうかな?」

 

『その程度でやってくれるなら、安いものだ。任せてくれ』

 

「任せたよ。そんじゃね~」

 

携帯を切ると、私はハックしたIS学園の監視カメラの映像を見た。そこには廊下を歩く例の2人の姿があった。

 

「見せて貰うよ。別世界のISの性能をね……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

翌日。俺と龍は千冬さんにアリーナへ呼び出された。俺達と戦って、戦闘データを取りたいんだそうだ。

 

「でもまさか、朝一番に呼び出されるとは思ってませんでしたけど」

 

「その方が人目に付かないからな。……それにしても……」

 

千冬さんは俺達を目を細めてじっと見つめた。何かを測られている気がするが……。

 

「2人とも……強いな」

 

「え、そうですか?」

 

「ああ。筋肉の付き方がとても良い。それに戦うことへの『覚悟』がひしひしと伝わってくる。いざとなったら迷いを捨てられるような、な」

 

「はぁ……」

 

戦いの時には敵味方を割り切っているのは確かだけど、そういう『覚悟』って見ててわかるもんなのかな? こっちのシャルにも言われたし。

 

「それで戦う方法だが、正直あまり時間がない。2人同時に挑むとしよう」

 

「大丈夫なんですか、千冬姉さん? 実力を見くびってる訳ではないんですけど……」

 

「何、これでも元世界最強(ブリュンヒルデ)だった身だ。性能と数の差は腕でカバーしてみせるさ」

 

何だろう、千冬さんが言うと本当に出来そうな気がしてくる。と言っても、負ける気は更々無いが。

 

「では私は打鉄を持ってくる。お前達は各々のISを展開していてくれ」

 

言い終えると千冬さんは一旦アリーナから出る。俺達はウイングゼロカスタムやダブルオークアンタを展開するが……。

 

「彰人。率直に聞くが、千冬姉さんに勝つ自信あるか?」

 

「そんなにない。今の俺は常時ゼロシステムを発動している状態だが、行動を読んでもそこを突けるかどうか……お前はどうなんだ?」

 

「お前と同じだ。量子テレポートを使っても勝てるかどうかはわかんないし、何よりGNソードⅣを丸ごと『向こう側』に置いて来ちゃったしなぁ」

 

手数が足りないんだよな、と龍は頭を掻く。俺もタイガーピアスを置いてくるべきではなかったかも……技の数は多いけど、武器の数は3つしかないんだし。

 

「ま、やるっきゃないけどな」

 

「……だな」

 

「すまない、待たせた」

 

改めて覚悟を決めたところに打鉄を装着した千冬さんが現れる。その両手には近接ブレード『葵』が握られている。

 

「問題ありません。むしろ丁度良かった位ですし」

 

ビームサーベルを右腕で引き抜き、龍はGNソードⅤを持つ手に力を込める。千冬さんも葵を構え、そして……。

 

「織斑千冬、打鉄。いざ参る!!」

 

「「勝負だ!!」」

 

ほぼ同時にブーストし、まず俺がビームサーベルで斬りかかる。千冬さんはそれをアーマーで受け止めた後右腕の葵で押し返し始めた。

 

「そこだ!」

 

龍がGNソードⅤを振りかぶって接近し、千冬さんが左手の葵の切っ先を向ける―――が、直前でGNソードビットで発生させたワープゲートに飛び込み、千冬さんの真後ろへ移動して斬りかかる。

 

「くっ!」

 

だが千冬さんは左への瞬間加速(イグニッション・ブースト)でこれを回避し、距離を取る。そこへ俺がバスターライフルをぶっ放すが、これも回避される。今度は龍のGNソードビットも攻撃として使われるが、避けられるか葵で防がれるか、致命傷ではない最小限のダメージで済まされる。

 

「このままじゃ埒が開かないな。龍、ちょっと耳を貸せ」

 

「何だ?」

 

「それがだな―――」

 

秘匿回線(プライベート・チャンネル)で俺の考えた作戦を龍に伝えると、龍は一も二もなく引き受けてくれた。

 

「じゃ、後は作戦通りに頼む」

 

「了解! トランザム!!」

 

トランザムを発動させたクアンタが、GNバスターソードと化したGNソードⅤを振るう。千冬さんは葵で受け止めるが、威力の違いに目を丸くしていた。

 

「先ほどより攻撃が重い……! それにISの性能そのものまで引き上げられている……これがお前の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)か!」

 

「ええ、そうです……よっ!!」

 

そのまま千冬さんを押し切り、残像を残す動きで千冬さんを惑わすとやがて真上にジャンプする。それに釣られた千冬さんは龍が移動した方向を見るけど、それこそが狙いだ!

 

「ん?……っ!?」

 

何かを感じた千冬さんが正面に視線を戻した時、目を疑ったような表情をした。当然だ。そこには俺が、バスターライフルを持った両腕を水平に構えていたのだから。

 

「最大出力、攻撃開始!!」

 

荒めの必殺技、ローリングバスターライフルを発射する。ハイパーセンサーで察知したら、千冬さんは2、3発は貰ったもののすぐに上空に退避していた。その判断は間違ってない。ただ……相手が単独(俺だけ)であれば。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「何っ!?」

 

GNバスターソードで龍が斬りかかり、右腕の葵を破壊しつつダメージを与える。更に俺が即座に地上からツインバスターライフルを千冬さんにぶち込む。結果、打鉄のシールドエネルギーはゼロになった。

 

「……やられたよ、降参だ。あんな連携をしてくるとは、思ってなかった」

 

「咄嗟に考えたものなんで、上手く行くかどうかはわからなかったですけどね」

 

「咄嗟であれだけできれば上等だ。互いのことを信頼し合っていることがわかる」

 

「そりゃあ俺達、親友ですから」

 

拳をトンッと軽く合わせて言う。そう、長い間ダチをやっているからこそ相手の意志を理解したり、自然に合わせることができた。多分元の世界のみんなともやろうと思えばできるだろう。

 

「何はともあれ、ご苦労だった。……これでアイツも満足する筈だ」

 

「え?」

 

「何でもない、独り言だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束SIDE

 

「ご苦労様、ちーちゃん。お陰でデータはバッチリ取れたよ」

 

コンソールに目をやりながら呟くと、コーヒーを一口飲む。けど、2人がかりとは言えちーちゃんに勝っちゃうなんて、予想外だったな。2人のコンビネーションが抜群なのもあるけど、ISの性能が『こちら側』より上なのも勝てた要因かな。

 

「敢えてオリジナルのデザインじゃなくて、既存のものを再現することで性能を高めたのか……『向こう』の束さんもやるもんだね」

 

正直嫉妬しちゃうな。別の世界とは言え、私より凄いものを作ることができるなんてさ。

 

「ま、それは別にいっか。そんなことより、早く会いたくなっちゃったなぁ」

 

久しぶりに感じることができた気がする。何かに興味を持つ感覚を。

 

「でもどうしよっかな。アイツ等と会食しなきゃなんないし、例の作戦も……あ、そうだ!」

 

我ながら良いこと閃いちゃったかも!

 

「ふふ、楽しみにしててね……2人とも♪」



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92th Episode

休み時間・一年一組

 

一夏SIDE

 

みんな初めまして。俺は『この世界』の織斑一夏だ。最近ISを動かしたこと以上に驚いたことがある。それはもう1人の俺と出会ったことだ。何でも傍に居た男共々、平行世界から来てしまったらしい。なので帰る目処が立つまで、俺達のクラスで今日から一緒に授業を受けることになった。勿論最初はみんなも驚いていたんだけど……。

 

「ねえねえ! 矢作君達が居たIS学園とここの違いって何かある?」

 

「そうだな……まず時期が違うってのがあるな。こっちじゃタッグマッチの直後だけど、『向こう』じゃ体育祭終わってるし」

 

「後は……いや、これ言ってもいいかな?」

 

「気になるから言ってよ~! 別に気にしたりしないからさ!」

 

「じゃあ。実は『向こう』ののほほんさんだけど、彼氏が居るんだ」

 

「ほぇ~!? りゅうりゅう、それ本当~?」

 

こんな具合にもう馴染んでいる。うーん、この馴染み具合は正直羨ましい。

 

「最後に一番の違いだけど―――」

 

ん? 彰人も龍もこっちを見てる……何だろ?

 

「―――ここより確実に平和だ」

 

「間違いない」

 

『『『ああ……うん』』』

 

どういう訳か周りのみんなも納得して頷くと同時に、俺に対して言いたげな目線を向けてくる。……俺、何かした?

 

「どうした一夏?」

 

「ん? ああ、箒。いやさ、彰人と龍が向こうの方が平和だって言ってるのが聞こえてな」

 

「……世界規模の戦いが起きていたのにか?」

 

「やっぱお前もそう思うよな……」

 

「それより、今日は合同実習があると聞いた。ISのダメージが抜けきってないのに、何をするのだろうか?」

 

「さあな。そん時になってみないとわからないぜ」

 

とは言え、今日の実習は特に気になる。龍達が居るのもだが、今回限りのものをやるらしいんだ。ま、特に問題が無ければそれでいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド

 

その後、俺達一年生はグラウンドへと集合して整列した。さっき箒と言ってたが、どんな内容なんだろうか。

 

「まず織斑、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識。前に出ろ」

 

早速呼ばれた? ということは、俺達専用機持ちに対して何か重要なことがあるのかも。

 

「先日の襲撃事件で、お前たちのISは全て深刻なダメージを負っている。自己修復がかなりかかる為、当分の間はISの使用を禁止する。いいな?」

 

『『『はい!』』』

 

さすがに前回は機体を酷使しすぎたからなぁ。その分しっかり休ませてあげないと。

 

「そしてその代わりと言っては何だが……山田先生」

 

「はい。皆さん、こちらに注目してくださーい!」

 

声を張る山田先生の後ろには、複数のコンテナが並んでいる。あれの中身を使うのか……でも何だろう?

 

「何が入っているんだろ、あれ?」

 

「新しいIS、とか?」

 

「それだとコンテナじゃなくてISハンガーじゃない?」

 

「何かな何かな? あっ! ひょっとしてお菓子!? ねぇお菓子!? ねぇお菓子かな!?」

 

「ああもううるさい! 本音! アンタ黙っててよもう、頼むから!!」

 

約二名コントをしている人達が居るんですが。ていうかのほほんさん、あのコンテナにお菓子は無いって。

 

「静かにしろ! 全くお前達は……言わなければ口を閉じていられないのか? はぁ、山田先生、開けて下さい」

 

「わかりました。それでは! オープン・セサミ!!」

 

『『『……………………………?』』』

 

「彰人、オープン・セサミって……何?」

 

「俺にもさっぱりわからん」

 

「うぅ……世代差って、残酷なんですね……」

 

誰も山田先生の掛け声を理解できず、項垂れながらリモコンでコンテナを開ける。その中からは金属製のアーマーらしきものが現れた。

 

「諸君。これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲、『EOS(イオス)』だ」

 

「イオス……」

 

「正式には『Extended(エクステンデッド) Operation(オペレーション) Seeker(シーカー)』。その頭文字を取って『EOS』だ。その目的は災害救助から平和維持活動など、様々な運用を想定している」

 

「あの…織斑先生。それでこのEOSをどうしろと言うんです?」

 

質問する箒に、千冬姉はシンプル且つ明確な一言を放った。

 

「乗れ」

 

『『『えぇっ!?』』』

 

「これらの実稼働データを提出するようにと学園上層部に通達があった。お前たちの専用機はどうせ今はまだ使えないのだから、テストパイロットとしてレポートに協力しろ」

 

『『『はぁ……』』』

 

戸惑いを隠さずに返事をする。だが用意されているEOSは全部で九機。専用機持ちが乗っても二機余るが、龍と彰人が乗るんだろうか?

ちなみに他の生徒は山田先生の指示のもと、訓練用ISでの模擬戦の準備をし始めた。みんなEOSの性能を見られずに残念そうだ。

 

「早くしろ、バカ共。時間は限られているんだぞ? それとも何か? お前達はいきなりこいつを乗りこなせるのか?」

 

「お、お言葉ですが織斑先生。代表候補生である私達が、この程度の兵器を扱えないはずがありませんわ」

 

「ほう、そうか。ではやってみろ」

 

セシリアの反論にニヤリと笑みを浮かべた千冬姉に、誰もが背筋を凍らせた。……これ、セシリアの奴地雷踏んだかも。そんなこんなでEOSに乗り込んだが……。

 

「うっ!? こ、の……!」

 

「なっ、これは……!」

 

「な、何て重さ……なんですの……!」

 

「嘘でしょ、これ……」

 

「凄く動かし辛い……」

 

「……くっ!」

 

俺や箒、セシリア、鈴、シャル、簪は完全に悪戦苦闘してしまっていた。まさかこんなに重いだなんて、予想だにしてなかった。これならパワーをカットしたISの方がまだマシだ。……今更ながら、ISのありがたみを心底感じた瞬間だった。

 

「ふっ、はっ……よし」

 

「おらっ! せえいっ!」

 

「でりゃっ! そぉりゃぁ!」

 

どうやらラウラはEOSの癖を掴んだようだ。羨ましい……けど、彰人と龍は何だ!? よく組み手ができるなおい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

やれやれ……外骨格攻性機動装甲なんてカッコイイ名前だから期待してたが、とんだ欠陥機だな。スペックデータでは、30kgもするバッテリーを搭載していながらフル稼動で十数分しか保たない上に、パワーアシストはデフォルトでOFFになってるそうだ(そもそもあって無いようなものらしい)。産廃どころじゃないレベルだろこれ……同じパワードスーツでもガーランドの方が高性能だ。しかも平和維持活動って、アロウズ的なものを狙ってるとしか思えない。これでよく狙えたものだと思うが。

 

実際辛うじて乗りこなせているのは軍人のラウラだけだし、俺達も組み手をやるのに滅茶苦茶疲れた。普通にやった方がマシだったと後悔したよ。

 

「それではEOSによる模擬戦を開始する。なお、防御能力は装甲のみの為、基本的に生身には攻撃するな。射撃武器はペイント弾だが、当たるとそれなりに痛いぞ。では……始め!」

 

おっと、いよいよ始まりか。まずは誰から狙おうか……。

 

「彰人、一夏(アイツ)は俺に戦らせてくれ」

 

「おう、程々にな」

 

真っ先に一夏に向かう龍に手を振る。実力を試すつもりかな? EOSをつけた状態じゃ実力もへったくれもないが。

 

「せいやぁああああああっ!!」

 

「え、俺!? そんないきなぐほぁっ!?」

 

どこぞのATの如く地面をランドローラーで滑走する龍のパンチを受け、一夏は沈んだ。戦いにいきなりなんて言葉はないんだぜ、一夏。そんじゃ、俺は……

 

「慣れてない奴から狙っていくとしますか!」

 

ランドモーターを全開にし、まずセシリアに突撃していく。

 

「私ですか!? ええい!」

 

サブマシンガンをフルオートで放つセシリアだが、反動で照準がブレブレで簡単に避けることができた。

 

「くっ、なんて反動ですの! 火薬銃というだけでも扱いにくいのに!」

 

ISはPICとかで反動を相殺してくれるけど、これにはそんなもの無い。ほぼ生身と同じだ。

 

「そこだ!」

 

「え、きゃあ!?」

 

しゃがみながら右腕で足を掴むと、近くに居た鈴ちゃんにぶつけてバランスを崩す。

 

「ちょっ!? うわわっ!!」

 

こけたところにペイント弾をぶち込み、2人を討ち取る。

 

「二機撃墜っと……」

 

ここでふと龍を見る。あっちはどうやら、箒ちゃんとシャルを隅に追い込んでいるようだ。

 

「これで決める!」

 

そしてペイント弾を発射すると同時にスライディングし、2人の真下から更にペイント弾を撃つ。

 

「「うわあああっ!?」」

 

「三機撃墜ってとこだな。後は……」

 

龍の視線が簪とラウラに向けられる。当然俺もそちらを見る。

 

「……あ、あの……私は、降参で……」

 

簪は自分から降参してきた。なので相手はラウラ1人になった。コイツはかなりの強敵だな。

 

「戦うか?」

 

「ああ。お前達の実力は私が確信した通りだった。故に腕を試したい」

 

「二対一だが、いいのか?」

 

「戦いは不利な状況も付き物だからな。卑怯なことではない」

 

「なるほど。じゃあ、俺達も遠慮無くいくよ」

 

「その言葉を待っていた。行くぞ!!」

 

サブマシンガンを構えてラウラは連射する。狙いは明らかに正確で、反動も抑えていた。さすがは軍人だ。

 

でも俺達も負けてられない。ペイント弾を腕のシールドで防ぎつつ同時に肉薄し、龍と片腕ずつ押さえつける。

 

「くっ、この!」

 

脱出しようとあがくラウラにサブマシンガンの銃口を向け、トリガーに手を掛ける。いつでも発射は可能だ。

 

「どうする?」

 

「……はぁ。私の負けだ」

 

ラウラは負けを認め、模擬戦は終了した。

 

「織斑先生、データは取れましたか?」

 

「ああ。だが……こんなもの碌に使えるとは思えんな。ま、PKOなどで多大なシェアを獲得するだろうが」

 

肩をすくめて言う千冬さんに、俺達も顔を見合わせて苦笑した。



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93th Episode

昼休み・屋上

 

今日は気分転換で昼食を屋上で摂っていた。食べているのは自分で作った弁当だが、これが我ながら中々美味い。

 

「ふぃ~、ごちそうさま」

 

「やっぱ自分で美味いもんを作って食うってのはいいな」

 

「ホントそれな」

 

楽しく会話をしていると、ガチャッという音とともに箒ちゃん、鈴ちゃん、セシリア、シャル、ラウラ、簪が現れた。

 

「どうしたんだみんな? 揃いも揃って」

 

「実はちょっと、聞きたいことがあってね。アンタ達の世界のことなんだけど……」

 

「それなら前に話したぞ?」

 

そう言いつつみんなを見渡して表情を伺うと、何やら言い辛そうな顔を皆一様して浮かべていた。それを見て、俺達は直感した。

 

「ひょっとして……」

 

「「恋愛関係……?」」

 

「え、えぇ……そうですわ。お2人は、恋人はいらっしゃいますか?」

 

「え? あ、居るけど……」

 

頷くセシリアを見て、俺と龍は困り顔になる。なんせ俺達は複数の女性(しかもここに居るメンバー)と付き合っているからだ。おまけに龍は2人とまあわかるが、俺は5人だしなぁ……。

 

「あ、心配しないで。僕達はあくまでどういう過程で付き合ったのかを聞きたいだけで、誰が相手とかまでに首を突っ込んだりはしないよ」

 

あ、そうなんだ。ならそのことは言わなくていいか。にしても付き合う過程か……。

 

「参考にするのは難しいと思うぞ? 俺はその子に一目惚れして、それで告白して付き合うことになったんだからな」

 

「俺の場合は、抱いた気持ちが何なのか彰人に相談して、そんで自覚して告白したって流れだし……でもここの一夏は、惚れることはおろかそういう気持ちも抱いてないんだろ?」

 

「……うん。照れたりとか恥ずかしがったりはするけど、ね……」

 

少し呆れたように言う簪に続き、みんなも「はぁ……」とため息をついた。

 

「まあ確かに、ここの一夏がとてつもない鈍感だということは、短い間だが接したり周りから聞いたりして知ってる。けど、だからといってお前達に非が無い訳じゃない。これも周りから聞いたことだが、むしろありすぎと言っても過言じゃあない。唯一皆無なのは簪だけだ。……何故か知りたいか?」

 

俺の問いかけに、目の前に居る面々は真剣な面持ちで頷いた。なら言わせて貰おうか。原作を読んでて俺が予てから疑問に思っていたことを。

 

「まず簪を除く全員に言うが、一夏がラッキースケベ等をやらかす度に行う制裁でISを使う時点で大問題だ。そもそもISの個人的な運用は禁じられているじゃないか。この前も目の前で部屋のドアを吹っ飛ばしたし……しかも箒ちゃんに至っては木刀や日本刀を振るっているじゃないか」

 

「それはその……ついカッとなってしまって……」

 

「カッとなったで殺されかけたら、命がいくつあっても足りないよ。てかその内本当に死ぬことになるって、絶対。そうなったら殺人罪で有罪になるのは確定で、愛する人と添い遂げることもできなくなるぞ? それをわかってやってるのか?」

 

箒ちゃんの言い分に龍が言うと、全員が顔を青くして体を震えさせた。ISという兵器を扱う時点で、気づいて欲しいんだけど……恋心と嫉妬心で麻痺していて気づかなかったのか?

 

「とにかくすぐに暴力で解決しようとするのは禁止! 後、こっちの俺のラッキースケベぶりもいい加減にして欲しいが、そういう時こそ逆にチャンスなんじゃないか?」

 

「だが……そんなの、恥ずかしいし……」

 

「気持ちはわかるけど、いつまでも恥ずかしがってたらちっとも進展しないぞ? 時には羞恥心を捨て去ることも必要なんだ。あ、このことは鈴にも言えるからな」

 

「え、私も?」

 

「ハミルトンから聞いたけど、酢豚の約束を味噌汁云々の約束と同じ意味じゃないか?と一夏が問うた時、きっぱり否定したらしいな。羞恥心のせいで墓穴掘ってる証拠だ」

 

「……そっか……」

 

鈴ちゃんは龍の言葉を聞いて失敗を悟り、俯いた。

 

「セシリアとシャルは、何かあったら手を出すのをやめればいいかな。要は忍耐も必要ってことだ。さてラウラだが……」

 

「どうした?」

 

「この中じゃストレートに好意を示してはいるが、一般常識が欠けているのが難点だ」

 

「一夏に対して『嫁』なんて呼び方してるしな」

 

「だが日本では気に入った相手を嫁にするとクラリッサが言っていたが……まさか、それが間違いなのか?」

 

「大間違いだ。『嫁』という表現は女性にのみ使われるもので、女性から男性に対しては『婿』という表現を使う」

 

「そうだったのか……」

 

「加えてそれらの表現は互いを呼び合うのに相応しくない。『旦那様』とか『あなた』とか『ダーリン』とか、その方が違和感がなくていい」

 

「そのどれかを使うのが正しいということか……了解した」

 

理解してくれたようで、ラウラは頷いた。……こうすると俺達の世界のラウラが(正確にはクラリッサさんが)いかにマシだったかがわかる。Gガンダムの告白再現しただけだもんな……あれ。

 

「最後に簪だけど……注意すべき点は、特にないかな」

 

「強いて言うなら、少し押していくといいかもしれない。普段お淑やかな子の意外な行動を目の当たりにすると、男ってのは落ちるもんだ。……実際中学の頃の同級生は、これで落ちたしな」

 

「……ありがとう。勇気を出してみる」

 

全員への意見を述べたところで、最後にまとめとしての意見を言う。

 

「とにかく暴力はやめて、別の角度からアプローチをするのがいい。それでも効果がないなら、また相談してきてくれ」

 

「はい。お2人とも、ありがとうございました」

 

お礼を言うセシリアを最後に話を終え、俺達は教室へと向かう。いつの間にか昼休みが終わりそうだからな。

 

「ところで、当の一夏はどこに居るんだ? 朝から姿を見ないんだが」

 

「……特別外出扱いで、白式の開発元に行ってる」

 

道理で居ない訳だ。確か倉持技研だったな。俺達はまだ行ったことがないけど、どんなところなんだろうか。帰ったら行ってみよう。そう思った時だった。

 

「…………ん?」

 

一瞬にして廊下の……否、ありとあらゆる電気が全て消えた。停電か? だとしても……。

 

「!? そんな……防護シャッターが降りていく!?」

 

窓に備え付けられている防護シャッターが全て降り、IS学園内部は暗闇に包まれた。

 

「二秒経ったけど……緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯も点かない」

 

「ただごとじゃないってことは確かだな」

 

俺達はISをローエネルギーモードで展開し、視界を暗視モードに切り換える。ここで使うことになるとは思わなかったぜ。

 

『専用機持ちと菅山、矢作は全員地下のオペレーションルームへ集合しろ。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合は、その破壊を許可する』

 

スピーカーから千冬さんの声が聞こえる。やはり何か起きているようだ。だがそれは一体……? 疑問を抱きながら俺達はマップを頼りに移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園地下・特別区画

 

「では、これより状況を説明する」

 

千冬さんと山田先生によって集められた俺達+楯無さんは、現状の説明を受けていた。ここには俺達の方ので来たことがあるが、どうやら独立した電源で動いているらしく停電にはなっていない。

 

「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。これらは何らかの電子的攻撃、つまりハッキングを受けているものだと断定します」

 

神妙な顔つきで山田先生が言う。IS学園のコンピュータはちょっとやそっとのハッキングは効かないようになっている筈だが、それをやったということは自ずと犯人像が見えてくる。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められることはあっても、命に別状があるようなことはありません。全ての防壁を下ろした訳ではなく、どうやらそれぞれ一部分のみの動作のようです」

 

という事は、侵入者が居た場合は防壁が下りてない箇所を通り放題だということか。余計に危険だ。

 

「ではこれからの行動ですが、篠ノ之さん・オルコットさん・凰さん・デュノアさん・ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコアのネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

『『『で、電脳ダイブ!?』』』

 

俺、龍、楯無さん以外の面々が驚きの声を上げる。俺も選抜されてたら驚いてただろうな。

 

「はい。理論上可能なのはわかっていますよね? ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての進入が出来る。ですが、あれは机上の空論ではないんです。実際のところアラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」

 

「そ、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

 

「そうですわ! 電脳ダイブというのは、もしかして、あの……」

 

「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと進入させる……」

 

「それ自体に危険性は無い。しかし、メリットが無い筈だ。どんなコンピュータであれ、ISの電脳ダイブを行なうよりもソフトかハードか、あるいはその両方をいじった方が早い」

 

「……しかも電脳ダイブ中は操縦者が無防備。何かあったら困るかと……」

 

「それに、1箇所に専用機持ちを集めるのはやはり危険ではないでしょうか?」

 

各々が意見を述べる。確かに電脳ダイブをするよりは、こちらもハッキングのプロを用意した方が早い。ていうかどうでもいいけど、ウェブダイバーみたいだな。

 

「駄目だ。この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない。嫌ならば、辞退するがいい」

 

そんな言い方しなくても……でもこの発言からして、学園側にはそういった人員が居ないんだろう。だから電脳ダイブをやるしかないと。

 

「いや……別に嫌とは……」

 

「ただ、ちょっと驚いただけで……」

 

「で、出来るよね…ラウラ?」

 

「あ……ああ、そうだな」

 

「……ベストを尽くします」

 

「や……やるからには、成功させましょう……!」

 

みんなも同意するけど、何となく逃げ道を無くされた感がする。どうもこっちの千冬さんはトゲトゲしい印象があるんだよな。

 

「よし! それでは各人は電脳ダイブを始める為、アクセスルームへ移動! 準備が出来次第、作戦を開始する!」

 

千冬さんの指示で選抜された6人が退出し、残った俺達に千冬さんは視線を向けた。

 

「さて…更識。お前には別の任務を与える。菅原と矢作も頼めるだろうか?」

 

「なんなりと」

 

「良いですとも」

 

「俺もです。で、任務とは?」

 

「これは私の勘だが、この隙を狙って別の勢力が学園にやって来るだろう」

 

「便乗ってことか。敵さんも大変なこって」

 

「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが、頼らせてもらいたい」

 

「了解、任されました」

 

「わかりました」

 

「任せて下さい」

 

軽く敬礼して一礼した後、俺達3人は部屋を退室して地上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後校舎の一角に辿り着いた俺達は、そこで楯無さんが設置した監視カメラの映像を見ていた。すると6人の侵入者がカメラに映っていた。しかしその姿はやがて景色と同化した。

 

「あれは確か、周囲の風景を撮影して表面投射する最新型の光学迷彩ね」

 

「混乱に乗じるなら、それに見合った装備を持ってるということか」

 

「けどシステムダウンからこんな短時間で襲撃して来るなんて、ちょっと変じゃないか?」

 

「いいえ、常時監視されてると考えれば辻褄が合うわ。ったく、乙女が通う学園に対して無粋ったらありゃしないわ」

 

肩をすくめながら歩く楯無さんに続き、廊下へと出る。見渡す限り誰もおらず、物音1つしない。だが……『何か』が確実に居る。

 

「どうやら接触したみたいね。はぁ、私って運命に愛されてるのかしら?」

 

「こんな運命は御免だけどな」

 

「同感だ」

 

 

ピシッ、ピシッ!

 

 

小さな音と共に何かが発射された。おそらくサイレンサー付きの銃から弾丸が放たれたんだろう。

 

「連中も惜しかったな」

 

「ああ。相手が俺達じゃなければな」

 

各々のISを展開し、ウイングバインダーと左肩のシールドで弾丸を防ぐ。シールドをどけた時、楯無さんも専用IS『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』を部分展開していた。

 

「どうやら敵も動揺してるみたいね。気持ちはわかるけど……そこが命取りよ」

 

そう言って楯無さんが親指を閉じた途端、廊下で大爆発が起きた。

 

「ミステリアス・レイディはナノマシンで水を操ることができるの。その技の1つ、『清き熱情(クリア・パッション)』はいかがかしら?」

 

ハイパーセンサーで爆発が起きた辺りを調べてみると、アクア・ナノマシンが検出され更に爆発が水蒸気によるものだということが判明した。廊下という空間もあって強力な技だな。相手にとっちゃ不幸だが。

 

「それじゃあ次、行くわよ!」

 

今度は楯無さんの姿がいきなり5人に増える。

 

「ま、アクア・ナノマシンの応用技だけどね」

 

センサーで判断するに、ナノマシン・レンズによる幻影とアクア・ナノマシンで直接作った水人形か。しかも水人形には爆発機能付きときた。

 

「俺達も負けちゃいらんねぇぜ!」

 

「奴らに一泡、噴かせてやる!」

 

俺はゼロシステムで、一夏はイノベイターの能力解放で敵を察知し素手で相手していく。特殊装備を持っているとはいえ敵は生身なので、バスターライフルやGNソードビットは迂闊に使えない。

 

「ドカーンってね♪」

 

楯無さんの方では次々と水人形が爆発していく。実体はあるが水でできているので銃弾は効かず、敵に打つ手はない。

 

「い、いかん! 退却だ!」

 

「ダメだ! こっちにも敵が!!」

 

「こ、こんなところで死にたく……ッ!!」

 

「さあ、まだまだこれからよ」

 

逃げ惑う敵を追撃する楯無さんを見て俺は思った。これじゃあどっちが敵なのかわからない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、3人で特殊部隊(どうやら名も無き兵たち(アンネイムド)と言うらしい)の隊員達を拘束し、各教室のシャッターを破壊していた。

 

「緊急時とはいえ、学校の設備を壊すのはなぁ……」

 

「私も抵抗あるけど、仕方ないのよね」

 

「直すのに金がかかりそうだ……ん?」

 

龍が何かに気づいたらしく一方を見る。俺の予見だと、一夏が白式纏って来る筈だ。

 

「楯無さん!」

 

「あら一夏君。今帰って来たとこなの?」

 

当たりだ。でもやけにタイミングが良いな。何でだろ? こっちの世界の束さんが連絡したのかな?

 

「一夏くん、今から地下のこの場所に行ってちょうだい。そこに織斑先生も居るから、彼女に指示を仰いで」

 

「はい、わかりました!」

 

マップデータを受け取った一夏は、白式のスラスターを全開にして地下へと向かった。

 

「彼にも電脳ダイブを?」

 

「ええ。ちょっと厄介なことになったみたいだし」

 

厄介なこと? 何だろう……妙な気がする。

 

「龍、千冬さんのところへ行こう」

 

「わかった。ちょっと待ってろ」

 

GNソードビットでワープゲートを作り、そこへ俺と龍は入りゲートを閉じた。

 

「え、ちょ……私は!? 置いてかないでよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを通って着いた時、千冬さんと山田先生はISを纏って敵IS一機を鎮圧していた。

 

「織斑先生?」

 

「む、お前達か。援護に来てくれたのなら、残念ながら少し遅かったぞ」

 

「そうではなくて、一夏が来ませんでしたか? 電脳ダイブやるらしいんですが、何かあったんですか?」

 

「ああ、そのことか……実はシステムへの侵入者が『ワールド・パージ』という能力を使ってきてな。電脳ダイブをした生徒達が幻覚に捕らわれてしまっているんだ」

 

「なるほど、それを救いに一夏が行ったと」

 

「良い時に来てくれたよ、アイツは」

 

少し嬉しそうに言う千冬さんだが、やはり納得できない。いくらなんでもタイミングが良すぎるし、敵の行動もまるで一夏にみんなを救わせるように仕向けているみたいだ。

 

その後聞いた話だが、一夏はみんなを助けた時にそれぞれを異性として意識し始めたらしい。……もしかして、その為だけにハッキングをしたのか? 壮大すぎるな……。



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94th Episode

「ふぅ、何とか無事に終わりましたね……」

 

大方事後処理が終わった時、俺は龍と千冬さんにそう述べた。龍は頷いたが千冬さんは首を横に振って俺達にこう告げた。

 

「まだだ。ハッキングを仕掛けてきた奴のところに行って、一言物申さなければな」

 

「え、場所わかるんですか?」

 

「ハイパーセンサーで特定した。移動していない今がチャンスだ」

 

「でしたら俺達も行きますよ。敵の正体がわからない以上、いくら千冬さんでも1人は危険すぎます」

 

「お願いします、千冬姉さん」

 

「……わかった。他の教職員も後始末に追われているし、お前達に頼むとしよう」

 

申し訳なさそうな顔をしながら、千冬さんは歩き出し俺達もその後に着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海公園前カフェ

 

千冬姉さんが入ったのはとあるカフェだった。そこで俺達は飲み物を頼むと、あるテーブルに座っている目当ての人物に近づいた。

 

「失礼、相席させて貰おうか」

 

「………………!」

 

目を閉じたまま座っていた『彼女』はギクリとすると目をゆっくりと開けた。その目は金色の瞳に黒い眼球というものだった。

 

「織斑千冬……それに、貴方達は……?」

 

「俺は平行世界から来た織斑一夏だ。こっちじゃ菅山龍って名乗ってる」

 

「龍のダチの矢作彰人だ。同じく平行世界から来た」

 

俺と龍が名乗ると、彼女は目を見開いて驚いた。

 

「驚くのも無理はないが、まあ座れ。それとお前の分のコーヒーだ。ブラックだが構わないか?」

 

その問いに頷くと、彼女は千冬さんからコーヒーを受け取る。

 

「さて、単刀直入に言おう。……束に伝えておけ。『余計なことはするな』、と」

 

千冬さんは目の前の少女―――『この世界のクロエ・クロニクル』を睨みながら言う。やはり俺の予想は間違ってなかった。原作の束さんは一夏や箒ちゃんの為にならどんなことでもする。今回のことも、一夏に身近な女性を異性として意識させる……たったそれだけの為にクロニクルに引き起こさせたんだ。

 

「…………っ!!」

 

クロニクルから殺気が発せられる。しかしエスやオー、エーといった敵と戦ってきた俺達にとってはこの程度何ともない。

 

「それにしても生体同期型のISとは……束の奴、そこまで開発していたのか」

 

じっとクロニクルの目を見つめながら千冬さんは嘆息する。どうやら彼女はISと融合しているらしい。黒い目がその証拠だとすると、俺達の方のクロニクルも何らかのISと融合している可能性が高い。そんなことを考えていると、周囲の空間が上下左右の無い真っ白なものに変化した。気を抜いたら感覚がわからなくなるな……。

 

「なるほど。電脳世界では相手の精神に干渉し、現実世界では大気成分を変質させることで幻影を見せる能力か……大したものだ」

 

感心した様子で千冬さんが言った時、俺達の首筋にナイフが投げられる。予め予測しておいた俺はキャッチし、龍と千冬さんもキャッチする。そして千冬さんはクロニクルに接近すると、ナイフの切っ先を右目の直前で止めた。

 

「……抉られたいか?」

 

瞬間、周囲の景色が元に戻る。さすがに千冬さんには敵わないと思ったんだな。

 

「それでいい」

 

ナイフを遠ざけると、クロニクルはコーヒーを一口飲んで苦そうに顔を歪めると立ち上がった。

 

「もう行くのか? ラウラに……妹に会わなくていいのか?」

 

俺が問いかけると、クロニクルは首をゆっくり横に振るとこう言った。

 

「妹じゃない……あれはなれなかった私。完成型の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。私はクロエ…クロエ・クロニクルだから」

 

「……………………」

 

会う気はない、という訳か……その場にラウラが居たとはいえ、『向こう側』のクロニクルは会えたことに感激し、互いに姉妹となれた。こっちのクロニクルはそうなりたいと思う気持ちが無い(或いはあっても隠している)と考えるべきか。少し寂しいな……。

 

「そうだ、俺からも束さんに伝えておいてくれ」

 

「……?」

 

立ち去ろうとするクロニクルに龍が呼びかけ、不思議そうに龍を見る。

 

「今回のことって、束さんが私情でやったんだろ? もしそうでなくてもさ……こういうの、良くないと思うんだけどなぁ?って」

 

「………………ッ!!??」

 

おう、久々に草加スマイルをやりやがったな。てことは龍が完全にキレているという証だ。若干ビビリながらもクロニクルは今度こそ立ち去っていく。

 

「やれやれ…………ん?」

 

ため息をついた時、頭にクロニクルが『こちら側』のオータムに攫われるビジョンが見え、同時に俺と龍のISに何らかのメッセージが送られてきた。そこでISを展開すると、何故か束さんが現在居る場所のマップデータが表示された。

 

「こんなところで展開して、アラスカ条約違反だぞ」

 

「それどころじゃありませんよ。かの天才科学者の居場所が掲示されているんですから」

 

「でも俺達2人に表示されたってことは、千冬姉さんは誘われてないってことか……?」

 

「アイツ……ふん」

 

何か言いたげな千冬さんだったが、すぐに顔を逸らした。様子からして俺達を止める気がなくなったようだ。

 

「んじゃ行くか」

 

「追跡だな。ダンボールとかあれば完璧だが」

 

「逆に怪しまれるわそんなん」

 

軽口を叩きながら、俺達はマップを見つつ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OutSIDE

 

某地下レストラン

 

「あのさぁ、私ってよく天才天才と周りに言われるけど、それって思考や頭脳だけじゃなくてさ……肉体も細胞レベルでオーバースペックなんだよ」

 

亡国機業(ファントム・タスク)のスコール・ミューゼルは、篠ノ之束とIS開発について会食しつつ交渉していた。断られていた時の為に食事に睡眠薬も入れて。

 

ところが束には睡眠薬が効かず、ISの話も拒否された。そこで先ほどクロエを人質に取ったオータムが新造ISをコア込みで提供するよう脅しを掛けたが、逆に束が驚異的な身体能力を発揮してオータムを圧倒し、クロエを救助して現在に至っていた。

 

「ちーちゃんぐらいだよ、私に生身で挑めるのはさ」

 

「そこを動くな」

 

その場に外で待機していたエムこと織斑マドカが専用IS『サイレント・ゼフィルス』を纏って現れ、束にライフルを突き付けた。

 

(ナイスタイミングよ、エム。これで交渉は……)

 

「ふうん……君、面白い機体に乗ってるね」

 

スコールが安堵した瞬間、束は一瞬でマドカに接近すると指だけを動かしてライフルを『解体』した。

 

「なっ!? バカな……!」

 

更に束はサイレント・ゼフィルスのビットやアーマーまで『解体』し、ヘッドギアを『解体』して素顔が見えたところで手を止めた。

 

「ん? 君は…………」

 

「っ……」

 

「ねぇ君。名前なんて言うの?」

 

突然投げかけられた質問にマドカは答えたれない。だが―――

 

「当ててみよっか? ……織斑、マドカ……でしょ?」

 

「「っ!!??」」

 

「その顔だと当たりみたいだね! えへへ、やった~!」

 

スコールとオータムの驚く顔を見て満足そうにする束はしばし考え込むと、スコールを向いて言った。

 

「私、この子の専用機なら作ってもいいよ」

 

「え……?」

 

「だから、私のところにおいでよ。ねえねえ、この子貰ってもいいでしょ?」

 

「そ、それは困りますが……」

 

マドカは重要な戦力であり切り札でもある。ここで手元から失う訳にはいかない。

 

「え~? もう、ケチだな~。っとそれよりマドっち、どんな専用機がいい? 遠距離型? それとも近距離型? 特殊装備はいる? もしくは単純にパワー勝負?」

 

次々と捲し立てる束に一同は着いていけない。だが……

 

「そうだな……圧倒的火力で殲滅するってのはどうだ?」

 

「或いは一撃離脱戦法で攻める、でもいいんじゃないか?」

 

そこに堂々と意見を述べた者が居た。今し方来たばかりの彰人と龍だ。

 

「来てくれたんだ。束さん嬉しいなぁ~」

 

「よく言うよ。ハッキングから俺達に自分の居場所を教えるまでが一連の作戦だったなんて、ここに来るまで思わなかったぜ」

 

「ありゃ、気づかれちったか~!」

 

「それでどうして俺達を呼んだんだ?」

 

「聞かせてほしいからだよ。君らの世界で起きたことを全てね……ダメかな?」

 

「ダメと言って引き下がる人じゃないだろ、貴女は。まあ話すこと自体に異論はないけど、せめて自己紹介くらいはさせてくれ。他の面々が混乱してる」

 

「それくらいならいいよ」

 

彰人はふぅ、とため息をつくと未だに唖然とした表情で固まっているスコールとマドカ(と起き上がったばかりのオータム)を龍と共に見渡して言った。

 

「俺は矢作彰人。平行世界から来た人間で、IS操縦者だ」

 

「菅山龍だ。平行世界からここに来た『織斑一夏』だが、紛らわしいんでこう名乗っている」

 

「「「なっ……!?」」」

 

驚きのあまり目を見開くスコール達。とても信じられないという表情だが、織斑一夏そっくりの顔の男とIS学園の制服、更に待機状態のISを見てしまっては信じる他なかった。

 

「さて、それじゃ話してくれるかな? 君らの世界では何が存在し、何が起きていたのか」

 

「そうだな……どれから話そうか……」

 

少々悩みながらも、彰人と龍は学園で話した時同様1つずつ話し始めた。自分達の周囲に居る『家族』から『向こう側』での『白騎士事件』と女尊男卑に対する抑止力たるガーランドの存在。ISの根本的なデザインと性能の違い、『向こう側』の束さんの思惑とスコール、オータム、マドカのこと(ただしエスやオーについては伏せておいた)、世界規模で起きた決戦等を。

 

「……ふむふむ。そっちじゃガーランドってのがISと同じく出回ってて、差別が緩和されてるんだね。これは驚きだなぁ」

 

「信じてくれるのか?」

 

「そりゃあ衛星中継して君達のIS見ちゃったし、2人がかりとは言えちーちゃんに勝っちゃうんだもん。そんな人この世界に居る訳ないよ」

 

「なっ……!?」

 

束の言葉にマドカは目を見開いた。織斑千冬が二対一だが、目の前の男達に敗北したのだというのだ。驚いてしまうのも仕方ない。

 

「それと君達を元の世界に返す件だけど、りゅーくんのISを貸してくれると助かるな」

 

「(りゅーくんて、俺か)クアンタを? それで帰れるなら貸すけど、変に弄くり回さないでくれよ?」

 

「まっかせなさーい!」

 

((ちょっと心配だな……))

 

胸を張って言う束に「大丈夫かな?」と思う龍と彰人。それを見ていたマドカ達は自分達が割り込む隙は無いと考え立ち去ろうとした。が、そこに龍が声を掛けた。

 

「待ってくれマドカ。お前、他に姉妹は居ないか?」

 

「姉妹……? 何のことだ? 千冬姉さんのことしか私は知らないぞ?」

 

「いや……ならいいんだ」

 

訝しみながら去るマドカを見て、龍は『こちら側』のマドカの出生が根本的に違うことを感じた。



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95th Episode

皆さんこんにちは、矢作彰人だ。この世界に来てから一ヶ月が経過した。束さんは俺達が元居た世界を全力で探してくれているが、その方法に驚いた。何でも俺達とこっちの住人とでは体から発せられるオーラが違うらしく、しかもオーラは元々の世界と繋がっているようでそれを辿れば元の世界がわかるという。

 

で、割り出した世界の座標をワープ機能のあるダブルオークアンタに記憶させれば完了なのだが、先ほど言った通り一ヶ月も見つかっていない。「平行世界は辞書のページと同じで、オーラを頼りに大まかなところに当たりをつけてそこから細かく探さなきゃいけないから大変」とも束さんは言っていた。なのでこれ以上時間がかかるのも覚悟しなければならない。

 

それはそうと、この世界での一夏ラブな皆さんの行動は目に見えて大人しくなった。クラスのみんなもやっと平和が戻ったとホッとしていた。やはりストレスになってたらしい。

 

「あの千冬さん。話とは何でしょうか?」

 

ところで俺は現在、龍と一緒に千冬さんに寮長室へと呼び出されていた。ちなみに近くには別件で来ていた一夏が座っている。

 

「実は先ほど、束が菅山のISを渡して来たんだ」

 

そう言うと千冬さんは待機形態のダブルオークアンタを龍に差し出した。束さんに渡したこれが、ここにあるということは……。

 

「俺達、帰れるってことですか……?」

 

「ああ、そうだ。可能なら今すぐにでも帰ることはできるが、そうするのか?」

 

「それは…………はい。考えれば一月もこちらに居る状況ですし、これ以上『向こう』のみんなをほったらかしにはできませんから」

 

考えを巡らせて言った龍に、千冬さんは「そうか」と呟くとクアンタを渡した。その時、このやりとりを見ていた一夏がこう言った。

 

「そっか、帰っちまうのか…………そうだ! なら最後に、頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 

「何だ? 俺達にできることなら言ってくれ」

 

「それはな…俺、龍と一度戦ってみたいんだ」

 

「え、俺と?」

 

「平行世界の俺と戦う機会なんて、これを逃したら二度と無いだろうし。本当は彰人とも戦いたいけど、あまり引き留めるのもアレだしさ」

 

「えっと……」

 

返事に困り、揃って千冬さんを見る。千冬さんは深くため息をついて俺達に言った。

 

「良いんじゃないか? 折角の機会だしな」

 

「千冬さんがOK出してくれるなら、俺はいいけど……」

 

「本当か!?」

 

「ああでも、1つ条件がある」

 

身を乗り出す一夏を制しながら俺はあることを提案する。

 

「今回やる戦いは、実戦形式でやって欲しいんだ」

 

「実戦形式というと、卑怯な手段とかラフプレイも有りになるのか?」

 

「そうなる」

 

いち早く意味を理解した龍はそう質問をしてきた。一方首を捻っていた一夏も俺と龍の会話を耳にしてようやく合点がいったらしい。

 

「要はゴーレムとの戦いみたいに容赦すんなってことだろ? ならオッケーだ!」

 

自信満々に承諾する一夏を見て俺は思った。果たしてコイツは、実戦というものをどれ程理解しているのか?と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後・アリーナ

 

龍SIDE

 

俺はクアンタを展開してピットから出撃する。目の前には一夏が専用機『白式・雪羅(せつら)』を装着して待機していた。観客席には彰人や箒達が居る他に、他の女子生徒や先生方が見学している。

 

「さてと。んじゃ、始めるとするか!」

 

「ああ……」

 

雪片弐型を構えて言う一夏に、GNソードⅤの感触を確かめながら返事する。……このやりとりだけで、彰人が何故実戦形式でやるように言ったのかが理解できた。コイツは、一夏は―――

 

「行っくぜぇぇぇええええええええ!!」

 

「菅山龍、ダブルオークアンタ。戦闘を開始する!」

 

―――実戦というものを、真の意味で理解していない。

 

ガキンッ!

 

振り下ろされる雪片弐型をGNソードⅤで受け流し、同時に斬りつける。

 

「うっ……!?」

 

「まだだ!」

 

怯んだところにGNソードⅤだけではなく、肉薄してキックやパンチ等の肉弾戦でダメージを与えていく。近接戦闘が得意だからといって接近し過ぎていては満足に剣を振るうことは出来まい。荷電粒子砲も、この距離なら迂闊には撃てない筈。一夏…お前はこの状況をどう切り抜ける?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「まさか近接戦闘で一夏さんが圧倒されるなんて……」

 

「剣を持った相手に対する戦い方は、距離を取るか間合いを詰めるか。龍は後者を選んだということだ」

 

「理屈ではわかるが、しかし……」

 

箒ちゃんが戸惑うのも無理はない。雪片弐型を用いた必殺技『零落白夜』は射程が短い分、当たれば相手をほぼ一撃で屠ることのできるIS相手では最強の武器だ。が、どんな凄い武器でも当たらなければどうということはないし、そもそも使わせなければ尚良い。下手に距離を取れば使われる可能性があるので、龍は敢えて接近して連撃したんだ。ま、実際にはそんなダメージ与えちゃいないが(舐めプって奴だな)。

 

さて…一夏はどうするんだろうか? 俺なら龍を全力で蹴飛ばして距離取って、ツインバスターライフルで狙い撃つが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍SIDE

 

一夏のシールドエネルギーを見てそこまで減ってないことを確認すると、俺は後退して距離を取る。

 

「クソッ! 接近戦でここまでやられるなんて……だが勝負はここからだ! 雪羅!!」

 

荷電粒子砲を放つ一夏を見て、俺は自分の目の前にGNソードビットでワープゲートを作りそこに荷電粒子砲を潜らせた。ちなみに一夏は気づいてないが、出口は一夏の真後ろだ。よってどうなるかと言うと……。

 

ドガァァン!!

 

「うわあっ!?」

 

自分で撃った攻撃を自分で受ける羽目になる。これによって白式のシールドエネルギーが半分を切る。

 

「自分の武器でダメージを食らうとは思ってなかっただろ? お前の武器は俺には通用しない……それでもまだ戦うか?」

 

「っ、当然だ! 一方的に負けたまま終われるかっ! 例えどんな不利な状況でも、俺は絶対に降参しない!!」

 

「……そうか。なら俺も、遠慮無くお前を叩き潰す」

 

やはりコイツはわかっていない。実戦において、余計なプライドや拘りは自分の死に繋がる。投降したり逃げることも自分が生きる為には必要な選択だ。こんな姿勢で実戦に赴いていると、いつか死ぬことになる。今までが自分にとって都合が良すぎただけなのだと、思い知らせよう。

 

俺はGNソードビットをGNソードⅤに連結させ、GNバスターソードに変えると一夏に向ける。

 

「さあ、勝負だ」

 

「次で決める! 零落白夜、発動!!」

 

雪片弐型が展開し、眩い光が発生する。そして瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動して急接近してくる。その姿を見て、俺は小さく呟いた。

 

「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「…………トランザム」

 

一夏の剣が振り下ろされた瞬間、俺はトランザムで回避すると同時に一夏の背後へと回り込む。そしてGNバスターソードを全力で振り下ろした。

 

「なっ―――ぐぁああああ!?」

 

勢いよく墜落し、土煙を上げる。GNソードビットを分離させ未だ起き上がれない一夏へと向かわせると、雪片弐型と雪羅をピンポイントで破壊する。

 

「そ…そんな……雪片と雪羅が……!」

 

「隙だらけだぞ」

 

俺はすぐさまトランザムを発動させると、GNソードⅤにGNソードビットを合体させトランザムライザーソードを起動させた。

 

「な……何だよソレ!? そんな武器がっ!!」

 

「お前さっき、絶対に降参しないと言ったよな? 当然、やられる覚悟も出来てる筈だよな?」

 

「ま、待て! 待ってくれ!」

 

「待てと言われて待つ敵はいない。叫ぶ暇があったら考えろ……生き抜くことを!!」

 

ライザーソードを直撃させ、白式のエネルギーを一気に削り取る。そして振り切ってライザーソードを消した時、試合終了のブザーが鳴った。俺の勝ちという訳だ。

 

「……………………」

 

俺はマスクオフした状態でISが解除された一夏の前に立つ。一夏はフラフラと立ち上がり、俺を見た。

 

「り、龍……お前、何でここまで……!」

 

「お前に実戦を真の意味で理解させるという、彰人の意志を実行しただけだ。……気づいたのは試合開始直後だけどな」

 

「実戦……? どういうことだ!?」

 

「いいか? 実戦で一番大事なのは『何が何でもこの場を切り抜ける』ことだ。その為なら多少卑怯な手を使うことも視野に入れなければならない……」

 

「なっ!? そんな邪道な「それが理解してないと言うんだ!!」!?」

 

「そういう問題じゃ無いんだよ、戦場は。お前の大事な人達に悲しい思いをさせたくなければ、プライドを捨てろ。邪道でも何でも、切り抜けることだけを考えるんだ。誰もお前を責めたりはしないさ」

 

「っ……」

 

「真っ直ぐなのも悪くない。だが真っ直ぐすぎるのも考え物だ。今のままだと―――いつか無駄死にするぞ」

 

俯く一夏に背を向け、俺はピットへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彰人SIDE

 

「実戦を理解させる為ねぇ……でもアンタ、いくら何でもあれはやり過ぎじゃない?」

 

試合が終わった後、鈴ちゃんに問いかけられた。確かにオーバーキルにしか見えないしな。

 

「あれくらいやらなきゃ、アイツは変われない。みんなだって、そう思うことはあるだろ?」

 

「確かにな。ダーリンの意志は良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐすぎる。柔軟さが足りないとは時折思う」

 

「……でも、これで一夏は本当に変われるかな?」

 

「大丈夫よ。彼、相手とぶつかり合って得たことは絶対に忘れないもの」

 

「だといいけど……」

 

「心配ないさ。人は変わろうとする意志さえあれば、変わることができる。無論、支えがあってこそだが」

 

立ち上がり、一夏を一瞥してピットへ歩いて向かう。勝負も終わったことだし、早く帰らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……準備はいいか?」

 

「任せろ。座標通りにやってみせる」

 

ピットで合流した俺達は互いにISを起動。一夏の発生させたワープゲートを見つめた。

 

「……行こうぜ、彰人」

 

「ああ。久々の再会だ!」

 

皆に会えることに期待を膨らませ、俺達はワープゲートへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けると、そこは地球の遙か上空だった。慌てて姿勢を制御してハイパーセンサーで周囲を確認する。

 

「ここはどこだ……?」

 

「IS学園だ! 俺達はIS学園の真上に来ている!!」

 

「何!?」

 

真下を拡大して見てみると、確かにIS学園が見えた。しかも一瞬だが、M1アストレイらしき機体も見える。ということは……。

 

「俺達、帰ってこれたんだ! 元の世界に!!」

 

「やった! やったぞ!」

 

ようやく帰ることができた。俺達の居場所……本当のIS学園に。

 

「ところで、今日は何日の何時だ?」

 

「12月14日の真夜中だ。彰人の誕生日の前日に帰ってこれたんだな」

 

「危ねーな俺……危うく誕生日迎えずに年カウントされるとこだったぜ……ってそんなことより早く帰ろうぜ」

 

「だけどどうやって? もう真夜中だぞ?」

 

「えっと……とりあえずワープ使って自室に行こう。まずは寝たい」

 

「時差ボケ物凄いんだが、寝れるか……?」

 

そんな心配をしながら、俺達は自分達の部屋へ行った。



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96th Episode

12月14日

 

セシリアSIDE

 

「……ふぅ」

 

亡国機業(ファントム・タスク)との激闘から一ヶ月が過ぎた。一日の授業を終え、一息ついた私はベランダに出て夜空を見上げた。

 

(今日も帰って来ませんでしたわね……彰人さん……)

 

愛する人の名前を呟く。あの戦いで私達は世界に平和をもたらしたが、それと同時に私達にとって最愛の人達を失うこととなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、全ての敵を倒した私は他の状況を知ろうと通信で連絡を取った。織斑先生含むほとんどのメンバーにそれは繋がったが、彰人さんと一夏さんだけは返事がなかった。

瞬間的に全員が嫌な予感を感じた。でも信じていた。2人はダメージを負っていて返事ができないだけなのだと。しかしその希望は打ち砕かれた……。

 

あの後ブラントさん達が2人が向かった国を捜索してくれましたが、カナダで彰人さんが箒さんから受け取ったというタイガーピアスとGNソードⅣが見つかり、その周囲に飛び散ったISの破片と気絶したプロフェッサーも発見されたという。そこから判断されるのは……彰人さんと一夏さんは敵を道連れに自爆した、ということだった。IS学園で報告を待っていた私達の耳にそれはすぐに届き、箒さんとシャルロットさんは愕然とし、ラウラさんと鈴さんと織斑先生は「嘘だ……嘘に決まってる……」と繰り返し、私と簪さんはその場に泣き崩れた。

公式でMIA認定がなされ、私達は大いに悲しんだ。そしていつまでも悲しんではいられないと、2人の死を乗り越えようと決意した。でも私は、2人がいつか帰ってくることを信じた……信じようとした。そうしなければ、心が折れてしまいそうだから……。

 

そして今日も私は彰人さんを待ち、空を見つめる。

 

(…………あ、そういえば……)

 

明日は彰人さんの誕生パーティーを開く予定があった。みんなで祝いたいと思い、少し前に決めたんだ。

 

「喜んで頂けるでしょうか……」

 

部屋に戻って机の引き出しを開け、プレゼントの入った箱を手に取る。自然と、涙が溢れてきていた。

 

「っ……彰人さん……!」

 

会いたい……会いたいのに……どうして……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラSIDE

 

「明日は彰人の誕生日……だな」

 

「ああ……」

 

私は廊下の壁にもたれかかり、箒と共にお茶を口にする。彰人の誕生日を祝うことは皆で決めたことだし、プレゼントも買ておいたのだが……。

 

「当事者のいない誕生パーティーか……」

 

「気が進まないか?」

 

「……ああ。私は勿論、シャルも簪もセシリアも、皆気を落としている。あの日から空いた穴が広がりそうな、そんな気さえする」

 

「それでも……祝おう。いつ帰って来るかはわからないが、少なくともアイツは喜んでくれる筈さ」

 

「っ、そうだな……」

 

箒も、本当は辛い筈なのに……強いな。私も強くあらなければな…彰人達が帰って来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・IS学園廊下

 

OutSIDE

 

(何故かあまり寝付けなかったな……)

 

朝早くに目を覚ました千冬はあくびをしながら廊下を歩いていた。すると視線の先に見覚えのある人物達を見つけた。

 

「ん? お前達……」

 

「あ、織斑先生……」

 

「今は千冬でいい。それにしても、揃いも揃ってどうしたんだ?」

 

彼女の前にはセシリア、鈴、箒といったいつものメンバーが勢揃いしていた。教師の千冬でさえ早すぎる時間帯だというのに、一体どういうことだろうか。

 

「昨夜から何だか寝付けなくて、ついさっき完全に目が冴えてしまったんです」

 

「それで少し廊下に出ていたら、同じ理由で出てきたみんなを見つけて合流したんです」

 

「妙な話だな。皆が皆、同じ理由で朝早くから一堂に会するなど」

 

「その……今日が彰人君の誕生日だからではないでしょうか?」

 

「……かもしれん。ともかく、このままここに居続ける訳にもいくまい。とりあえず食堂に行くとしよう」

 

こうして千冬の判断で一旦食堂に向かうことになったが、この判断を下さなければこの後の展開はいくらか先延ばしされていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

やがて食堂の前に着くと千冬が扉を開け、全員が中に入る。そして―――そこに居る人物を見て、目を見開いて固まった。食堂には―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごちそうさまっと」

 

「んでどうする彰人? 一ヶ月ぶりだぞ? どんな顔して会えばいいんだ?」

 

「うーん……マジでどうしよう……こればっかりは俺も良い案が思い浮かばん」

 

「気まずい空気になる予感がするなぁ……」

 

「あ!」

 

「どうした彰人!?」

 

「考え込んで放っといたんで忘れてた……ここにセシリア達が間もなく来るって予見が出たんだ」

 

「何ぃ!? まずい、急いで場所を―――」

 

「その間もなくが、今なんだよ……」

 

慌てて立ち上がった一夏と冷や汗をかきながら振り向いた彰人の視線の先には、唖然とした表情で立ち尽くしている千冬達が居た。

 

「……おいどうするよこれ? この時間帯なら誰も起きないからってここで相談することになったのに……」

 

「落ち着け……落ち着いてタイムマシンを探すんだ……」

 

「いやお前が落ち着け」

 

少々2人は揉めていたが、気を取り直すと全員を見渡した。

 

「や、やあ…久しぶり、だね……」

 

「ひ、一月ぶりだった、かな……?」

 

どうにか言葉を紡ごうとする2人だったが、その先を言うことはできなかった。

 

「い……」

 

「あ……」

 

「「ん?」」

 

「「「一夏ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」」」

 

「兄さぁぁぁぁああああああああああああああああん!!!!」

 

「「「「「彰人ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお(さぁぁぁぁああああああああああん)!!!!」」」」」

 

「「どわぁぁああああああああああ!?」」

 

目に涙を浮かべた面々に全速力で抱きつかれ、バランスを崩して床に倒れ込んでしまったからだ。

 

「一夏! 一夏! 一夏ぁ! 本当に一夏なのだな!?」

 

「突然居なくなったと思ったら突然帰って来て……アンタって勝手すぎるのよ、バカァ……!!」

 

「今までどこに居たんだ、兄さん! 連絡もしないで……心配したんだから!!」

 

「全く、姉をここまで心配させて……ようやく、ようやく帰って来てくれたのだな!」

 

「か、帰って来た! 帰って来たからどいてぇぇええええ! 苦しいぃぃぃいいいいいいい!!」

 

「彰人さん! い、今までどこに行ってたのですか!! 私がどれだけ、どれだけ心配したことか……!!」

 

「会いたかった、会いたかったよ、彰人ぉ!」

 

「帰って来てくれたのは嬉しいけど、遅いよ……でも嬉しい……!!」

 

「良かった。お前が無事で、本当に……」

 

「彰人君が心配すぎて仕事に身が入らなかったわ! だから……心配させた分、一緒に居させて……」

 

「わかった! わかったから一旦どいて! 潰れる! 俺潰れるぅぅぅうううううううううう!!」

 

抱きつかれた重みで2人は押し潰されそうになるが、どうにか説得して離れてもらい息を整える。

 

「コホン。では改めて……2人とも一体今までどこで何をしていたんだ?」

 

「話せば長くなるけど、いいか?」

 

全員が同意したのを確認すると、彰人と一夏は自分達がブルーディスティニー改を巻き込んで自爆した後、別の世界のIS学園に転移して帰る方法が見つかるまで一ヶ月間過ごしたことと、そこでの生活等を細かく話した。

 

「平行世界の地球と、僕達……本当にそんなものがあるなんて」

 

「それなら今まで連絡がつかなかったことも説明がつくわね」

 

「てか彰人、アンタ身体変化してたの!? 道理でIS展開してないのに金髪になってる訳だわ……」

 

「こっちの彰人君もカッコイイから、私としてはグッドね」

 

「でも驚きですわ。向こうには彰人さんがいないとはいえ、私達全員が一夏さんのことを好きでいらっしゃるなんて」

 

「それも二学期に入ってようやく意識する程の鈍感男とは……聞いて呆れるな」

 

ラウラの一言に一夏は何とも言えない表情をし、彰人は「うんうん」と頷いていた。

 

「……じゃあ次は私達が話す番だね」

 

今度は簪達が彰人と一夏が居なくなっていた間の状況を説明していた。

 

彰人と一夏が行方不明となった後、ブラント率いる部隊は必死で2人を探したが、やがてMIA認定が下されてしまう。省吾はその後総理を辞任。一市民として由唯と束とクロエと共に今も彰人達を探しているという。そしてデストロイやヴァサーゴ・チェストブレイク等に破壊された国の街は、徐々に復興しているとのことだ。

 

「そうか……兄ちゃん、総理辞めちゃったんだ……しかも今も探してくれてるなら、早く知らせてあげないと「その必要はないよ!!」うおおおっ!?」

 

突然天井から束がモニターを持って現れ、彰人は驚きの声を上げる。

 

「ひ、久しぶり。束さん」

 

「久しぶりじゃないよ! 私もしょーくんもゆーちゃんも、すっごい心配したんだから!!」

 

『全くだ。どんだけ走り回ったと思ってるんだよ。ったく!』

 

『今回ばかりは2人に同意するわ。やむを得ない事情があったとはいえ、一ヶ月も私達の前から居なくなったんだから』

 

「「返す言葉もありません……」」

 

『それに通信越しに聞いてたら何? 貴方達、みんなに何も言わずに自爆した訳?』

 

『『『あっ……!』』』

 

「あ、ちょっ! それスルーされてたのに……!」

 

由唯の指摘で気づいたセシリア達は、彰人と一夏を睨む。2人は冷や汗を流しながら何とか言葉を絞りだそうとしていく。

 

「み、みんな落ち着いてくれ、な? 俺達も何もしたくてやった訳じゃないんだ」

 

「そ、そうだ。それ以外に手がないと判断したからであって、だから―――」

 

『『『問答無用っっ!!!!』』』

 

『ま、そうなるだろうな……』

 

しかし当然許せる筈もなく、セシリア達のビンタを受けることとなった……。




次回、最終回です。


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Episode FINAL

夜、IS学園海岸

 

「あいたた……まだ痛むよ」

 

「俺もだ、いてて……」

 

「仕方ないよ。さすがの束さんも想像しなかった自爆をしたんだもの」

 

セシリア達からビンタを貰い、その後食堂に入ってきた他のクラスメイトの歓喜の叫び声を聞き、帰還パーティーなるものをほぼ一日中開催しある意味疲弊したところで夜中に束さんと海岸にISを纏って一夏と訪れていた。

 

「まあそれより、早く始めちゃおっか。2人とも準備はいい?」

 

「いいけど、大丈夫なんですか? 地球の反対側までGN粒子は届かないんじゃ?」

 

「心配ご無用! 既に衛星軌道上にGN粒子を発生させる装置があるから、どこへだって届くよ」

 

「なんつーもんを作ってるんですか……」

 

この人に際限というものは無いのだろうか? 無いんだろうな……。

 

「ともかく始めるか。彰人、しっかりやれよ!」

 

「お前もな」

 

「んじゃ……クアンタムバースト!!」

 

一夏はダブルオークアンタのトランザムを発動させると、機体を碧色に輝かせ各部アーマーをパージ。クアンタムバーストを発動させた。

 

「行くぞ、ゼロ……!!」

 

俺もゼロシステムを作動させ、無数の未来映像から必要なものを選んでいく。今回ゼロシステムで映し出したのは、人類が男女の隔てりを超えて互いに手を取り合い、ISの本当の目的―――宇宙進出を始めるところだ。これをGN粒子で世界中の人達に見せることが束さんの真の目標らしい。

 

これで本当に平和になるのか?と俺は疑問に思ったが、束さんはこう言っていた。「私の計画はあくまで道標を見せるだけ。そこに到達するかは賭けに近い。けど……私は人類の『可能性』を信じている」と。そうまで言われたら、俺達も信じる他ない。

 

(嫌いじゃないしな、俺も。人の可能性を信じることは……)

 

直後、俺達を中心に世界が光で包まれた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――4年後――――

 

『さあて! いよいよモンド・グロッソIS部門も決勝戦! 果たしてこの戦いを制し、勝利の栄光を手にするのは誰なのか!?』

 

ドイツのモンド・グロッソが行われている会場にて、ナレーターがテンションを上げて言う。勿論客席に居る観客達も同様だ。その様子は平和そのものであったが、こうなるにはそれなりに時間がかかった。

 

マスターインテリジェントシステムによってネットワークや通信網が一時的に掌握されたことで復興支援等の為の連絡が行き届かず、破壊された都市や人命救助がしばらく滞っていた。それによって様々な人が心に傷を負い、諦観する人も居た。が、彰人と一夏と束によって行われた作戦により、多くの人々に互いに手を取り合うことが必要だと認識させ、女尊男卑に関係なく互いに助け合いを始めた。更に束によって通信網等も回復し、迅速に支援が開始されて3年後の現在には完全に元通りとなった。それだけではなく、IS本来の目的である宇宙進出や工事作業等をガーランドと共に行うことも進められている。

 

IS学園では世界を救い、無事帰還した彰人達がテレビ等でブラント達共々ヒーローとして大々的に報道され、彼らが在学中の年度毎の入学者数が激増することになった。勿論、卒業してからも入学者は増えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園職員室

 

「ついに2人とも決勝へ駒を進めたか……まだ辞める前に見ることができるとはな」

 

モンド・グロッソのテレビ中継を見ながら千冬は呟く。彼女は以前に唯や束と一緒に省吾と結婚した為、機を見て教師を辞めようと決意していた。

 

「どちらが勝つと思いますか?」

 

「ん~、どうだろうねぇ~」

 

「……何だ、来ていたのか。少し驚いたぞ」

 

いつの間にか自然に千冬の隣でテレビを見ていた束とクロエに驚きつつも笑みを浮かべた。

 

「ちーちゃんはどっちが勝つと思う? いっくん? それともあっくん?」

 

「さてな。何せ2人の実力はほぼ互角だ。どっちが勝っても不思議じゃない(まあ…私としては一夏に勝って欲しいが)」

 

密かに心の中でそう思いながら、千冬はテレビを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンド・グロッソ観客席

 

「彰人さ~ん! 頑張って下さいまし~!!」

 

「ファイトだ一夏! 負けるんじゃないぞ!!」

 

大勢の観客達の喧噪に負けないくらいの声量でセシリアと箒が声を張る。

 

「そんなに声張り上げなくても大丈夫よ。勝つのは一夏に決まってるんだから」

 

「聞き捨てならないな。ここで勝つのは彰人の方だろう」

 

「いいや、間違いなく兄さんが勝つに決まっている」

 

「ち、ちょっと3人とも」

 

「……お願いだから、落ち着いて」

 

一触即発になった鈴、ラウラ、マドカを宥めようとシャルロットと簪が身を乗り出した時、マドカを除く2人が「あっ」と表情を変えた。

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「え? ああ、ちょっと……赤ちゃんが暴れて、ね」

 

「きっと喧嘩はやめてって言ってるのよ」

 

「それもそうだな……」

 

刀奈の言葉にラウラは頷き、お腹を見下ろす。他の面々も釣られてそれぞれのお腹を見る。マドカ以外の女子達のお腹は丸く膨らんでいた。

 

「ふふふ、みんなもうお母さんになるものね」

 

そこにジュースを持った由唯とポップコーンを持った省吾がやってきて近くの席に座る。

 

「あ、由唯さん。それに省吾さんも」

 

「みんな元気そうで何よりだ。が……改めて見ると壮観だな。こうも妊婦が1つに纏まっている光景は。いやマドカは違うが」

 

「というか個人的に変な気がするんだよな。妊娠のタイミングがみんな同じだし、兄さんも彰人も聞いても話してくれないし……由唯さん何か知ってるか?」

 

「ああ、それは私がパワープレイで攻めろと言ったからで―――」

 

「アシストしたのお前かよ!? つーかそれ、俺にやる為の試金石にしたんじゃないか!?」

 

「それにしてもどっちが勝つのかしら? 気になるわ」

 

「無視すんなおい!!」

 

ツッコミを入れる省吾にセシリア達は苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

省吾達から少し離れた場所ではブラント、オータム、スコールが座っており省吾達の騒ぎを半ば呆れて見ていた。

 

「やれやれ、アイツはここでも騒がしいな……」

 

「気にしない気にしない。それより彰人君と一夏君、どっちが勝つと思ってる?」

 

「こればかりは私もわからんよ。どちらが勝ってもおかしくはないからな」

 

「じゃあ私はどっちに賭けたらいいんだよ? 負けたらスコールに飯奢らなきゃいけないんだぞ」

 

「他人任せは良くないわよ。こういう時は自分の勘を信じないと」

 

「相変わらずだな、お前達も……」

 

結婚しお腹が大きくなっても言い争っている2人に挟まれながら、ブラントは試合会場に歩き出す彰人と一夏の姿を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある民家

 

車いすに座った女性と、それを押す女性がテレビでモンド・グロッソの決勝戦の開始を今か今かと待ちかねている。

 

「姉さん。どっちが勝つかな?」

 

車いすを押している女性……オーが車いすに座る女性エスに尋ねる。2人は激闘の末ISを失いつつ辛くも生き残り、こうして暮らしているのだ。

ISを破壊されたからかクアンタムバーストの影響かはわからないが、2人の中にある世界への憎悪は 消えていた。

 

「実際に始まらないとわからない。だが間違いなくいい勝負をしてくれるだろうさ」

 

「そうだね、姉さん」

 

2人で笑みを浮かべながら、再びテレビの画面を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾の家

 

二階の部屋で弾、数馬、虚、本音はモンド・グロッソの様子をテレビで見ていた。

 

「楽しみだね、決勝~。どっちが勝つかな~?」

 

「一夏さんと彰人さん、どちらが勝ってもおかしくないわ」

 

「確かに。でもいいんですか? 俺の家に来て。更識さん家の用事とかがあるんじゃ……」

 

「大丈夫。あの子達に任せてあるから」

 

虚の言うあの子達とは、以前彰人や刀奈と戦ったエーとピーだ。戦う為に生み出され、行く宛てもない2人を刀奈は放っておけず、更識家の使用人として引き取ることにしたのである。

 

「そう言えばそうだったね~。ちゃんとやってるかな?」

 

「1人は問題ないとして、もう1人は……確か調きょ、いえ教育したから……多分大丈夫よ」

 

「……何だろう。僕、今幻聴みたいなのを聞いた気が……」

 

「安心しろ、俺もだ」

 

少し背筋が寒くなる弾と数馬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンド・グロッソ会場

 

満を持して彰人と一夏は各々のビットから生身で歩いて登場し、中央付近へと進んでいく。

 

「ついに決勝か……長いようで短かったな」

 

「俺は早く決着をつけたくて時間とか考えてなかったぜ」

 

肩をすくめながら言う一夏に彰人は真剣な眼差しで見つめ、言った。

 

「んじゃ……やるか!!」

 

「おう。最初からクライマックスで行くぜ!!」

 

同時にウイングガンダムゼロカスタムとダブルオークアンタ・フルセイバーを展開し、互いの得物を構え、そして―――

 

「「うおりゃあああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

―――2人の激闘が、始まった。




という訳で、この小説も最終回を迎えました。
長々と続けた割にはやや唐突な幕切れかなと思いますが、それでも完結できて良かったと思います。
それでは、今までのご愛読ありがとうございました! またいつか、別の小説でお目にかかりましょう!


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