やはり俺のSAOは楽しい。 (Aru96-)
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1話


どうも、あるです。

pixivで投稿しているSAOクロスをこのサイトにも載せたいと思い、投稿させてもらいます。

感想や、アトバイスなどいただけたら嬉しい限りです。


 

今日も俺はアラサーの鉄拳制裁を喰らい、部室に足を運んでいた。

つかなんだよあの威力、人間じゃねぇ。あの人見た目美人なんだからそういうとこ無くせば結婚できると思うが。

そんなこんなで部室に到着。扉を開くとそこには一枚の絵のような絶世の美少……

 

「……気持ち悪い」

 

女じゃなかった、氷の女王こと雪ノ下雪乃がいた。いやまぁ美少女なんですけども、認めますよはい。

 

「入ってきていきなり悪口とかやめてくれる? 泣くよ、俺」

 

本当に、泣いていいかな。何もしてないよね僕。と言っても冗談って分かるから泣かないんだけどね、テヘ。

やべ、気持ち悪いな。うん。やめよう。

 

「ふふ、冗談よ」

 

時折こいつは俺や由比ヶ浜に対して自然な笑みを見せるようになってきた。雪ノ下も少しずつ変わってきているのか。そう思うと俺も自然と笑顔になれた。

そう思いながらいつもの定位置に椅子を出して座ると同時に扉の方からアホっぽい挨拶が教室に響く。

 

「ゆきのん、ヒッキー、やっはろ〜!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

「おう」

 

相変わらずビッチっぽい身だしなみだな。まぁその豊かな二つの山はいいと思います。べ、別に大きいのが好きってわけじゃないんだからねっ!

冗談はさておき由比ヶ浜もいつもの席に着く。

そこからはもう自分の世界。雪ノ下はひたすら読書。由比ヶ浜はひたすら携帯。……たまにチラチラ見てくるのやめてもらえます?勘違いしちゃうから。

俺は読書か勉強だな。え? 聞いてないって? あぁ、トラウマが蘇る。

 

 

 

でも俺はこの時間が、この場所が、嫌いじゃない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「てかさっきヒッキー女の子に話しかけられてたよね!」

 

おいなんでそれを知っている。待て雪ノ下、携帯を構えるな。とりあえず二人とも睨むな、怖いから。超怖いから。あと怖い。

 

「いやあれだよ、何か渡したいものあるとか言われて貰ったんだよ」

 

「ほえ〜、何貰ったの? てかそれ本当にヒッキー宛てなの?」

 

止めて、ちゃんと俺宛てだよね? そうじゃなかったら人間不信になりそう。明日になって教室に入るといきなり黒板にナルガ谷とか書いてないよね?大丈夫だよね?

 

「クッキーだよ、クッキー。まぁ俺宛てかはわからんが多分俺だろ。誰かに渡してとか言われなかったし」

 

「ふーん、最近目の腐り具合が無くなってきたからかな? 何か普通にイケメンでちょっと複雑」

 

え、本当に?あの超絶腐った目が治ってきてんの?やだ嬉しい。待てよ、もしこれでイケメンになったら周りに人だかりが出来て葉山2になったりして。あれじゃん、超迷惑。神様元に戻して。 ……ないわ、ないな。

 

「まじかよ、これで俺もモテモテの仲間入りか……」

 

「えっ、ダメだよ! ヒッキーは私のヒッキ……てうわぁぁああ、何もない、なんもないからぁ! ヒッキーマジきもい」

 

これ完全に被害者だよね?ヒッキーマジ泣きそう。

 

「落ち着いて由比ヶ浜さん。この男が入部してきたときの依頼が解決しそうでよかったじゃない」

 

「何、お前は俺にいなくなって欲しいの?」

 

「別にそうとは言ってないわ、でもいなくなったらきっと寂しいわ、きっとね」

 

おぉふ…。雪ノ下がデレた。ちょっとときめいたじゃねーか、ときめきメモリアルしちゃうよ俺。ヒッキーがユッキーに恋しちゃうぞ。

 

「茶番はここまでにして、今日は終わりましょう。鍵を渡してくるから2人は先帰ってて」

 

茶番だったのかよ。少し残念だよおい。

俺は由比ヶ浜と雪ノ下に別れを告げると足早に駐輪場に向かった。

自転車で帰路を走ると風が当たり気持ちいい。そういえば今日はSAOの製品版が発売だったな。予約しておいてよかった。もう届いてるかなと俺は胸を躍らせながらペダルを強く漕ぎ出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

家に着くと小町による愛のある一言でテンションが上がった。まぁおかえりって言ってもらっただけなんだけどね。

自室に行き、制服から部屋着に着替えると、ベットの横にある白い箱を開ける。中にはヘルメット、通称ナーヴギアと説明書と手書きのお礼の言葉が入っていた。

説明書の方を見るとナーヴギアを被ってからの動作とβテスターは初期装備とお金がちょっと豪華になっていると書かれていた。

 

「βテスターねぇ、SAO内で絶対なんか言われるよ」

 

俺はβテスターだ。何故かと言うと最近のゲームはほとんどクリアしてしまい、暇になってぶらぶら散歩していた時、SAOβテスター募集のチラシを見て、挿入絵には草原やお城などが書かれていて、衝撃だったのが仮想世界に行ってみませんか?の言葉。俺はそれを見たとき面白半分で送ってしまったところ見事に当選した。

あの時はマジでベットの上で暴れまわったね。そのあと小町にフルボッコに罵倒されたけど。そのあと枕を濡らしました。

 

やってみるとゲームはゲームでも遊びじゃなく本当に凄かった。近頃有名な茅場晶彦さんが作った仮想世界では夢にまで見た自分がドラ○エの主人公のような感覚。ものすごい震えました。嬉しすぎて嬉しすぎて震えるってことあるんだね。

 

製品版が発売って聞いた時は光を超えるスピードで予約しました。高かったけど。一年のお小遣い全部はたいて買ったけど。

 

「あいつも今頃やってるかな」

 

β版で出会った友達……というか、フレンド。お互いぼっちで意気投合してしまった。柄にもなく本当に柄にもなく友達と呼ぶ響きに嬉しさを覚えてしまい、少し恥ずかしかったのを覚えている。

 

ナーヴギアを被ると書かれていた動作を行いコンセントを挿す。

ベットに寝転がってエアコンで適切な温度を保つ。

 

準備万端、では

 

 

「リンクスタート」

 

吸い込まれるような感覚に陥り意識を失った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

意識が覚醒するとそこは見覚えのある街だった。初期設定を済ました俺はβ版の時の記憶と重ね合わせる。

ふむ、だいたい思い出してきた。少し歩くと右手を振りかざしてウインドウを開くとマッピングをし、草原のある方へ走り出す。

 

「相変わらず、すげぇな」

 

目の前には延々と広がる大草原。大草原不可避ってのはこの事かな?

草原に足を踏み入れるとすぐに牛型のモンスターが現れた。モンスターは俺を見ると突進してくる。

俺はそれに合わせ剣を抜き、一瞬溜める。なんとなくのタイミングで撃つような感覚で剣を振るうと一撃で倒した。

牛はガラスが割れた音と共に無数のポリゴンが散らばり消えていった。

ドロップしたアイテムがストレージに追加されていく。

 

「この溜める感覚がいいな、いかにも技使ってますよ感満載」

 

「それ分かる」

 

不意に後ろから声をかけられる。すぐに振り向きざまに後ろへ飛んで武器を構えるがそこにはあの顔。

 

「よおプロぼっち」

 

「よお未熟ぼっち」

 

俺はこいつを知っている。そしてこいつも俺を知っている。知ってるよね?間違ってないよね?

HPゲージの横を見るとそこには《kirito》と表示されており安心する。よかった、これで違ってたら今すぐログアウトしてるレベル。

 

「久しぶりだなキリト」

 

「おう、ハチ。そうそう後ろにいるこの人はクラインって言ってちょっと戦闘の仕方をレクチャーしてたんだ、お前も一緒にやろうぜ」

 

相変わらずお人好しだな、マジでなんでこういう性格のこいつがぼっちやってんのか不思議だわ。あれだろ、どうせ葉山みたいにイケメン君なんだろ、爆発しろよ。

 

「あぁ、いいけどステ振りするから少し待ってくれ」

 

分かったとだけ聞こえるとメニューを表示させステ振りの画面にする。

基本的に俺はAGIにほとんど振って余ったのをSTRに振っている。

 

「終わったし行くか」

 

「自己紹介遅れたけど俺はクラインってんだ、よろしく。ハチも見たところβテスターだろ? いろいろ教えてくれよな!」

 

 

あれ、俺って何で名前ハチにしたんだっけ。

 

 

 

 



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-2話-

 

 

 

 

 

 

あれから俺たちはひたすら牛型っていうの面倒くさいから牛でいいか。

牛を倒しまくった。討伐数をみると80を超えていてレベルも3に上がっていた。コルもそこそこ溜まっていて

アイテムストレージが上限を超えそうだった。少し街に戻ろうと思い声をかける。

 

「ストレージもそろそろ限界だから一旦街へ戻らないか?」

 

キリトはそれに頷くがクラインは申し訳なさそうな顔をして、

 

「いや、俺は腹も減ったしそろそろ落ちるわ」

 

「そうか、まぁここでも食事は空腹を紛らすだけだからな」

 

キリトが言うとクラインはウインドウを開きログアウトボタンを押そうとするが、少し慌てた様子で指を動かしていた。

 

「ログアウトボタンがねぇ」

 

その言葉を聞いた俺たちは同じようにウインドウ開き確かめるが、クラインが言ったようにどこにもない。

次の瞬間目の前に強制転移の文字が現れ俺たちは光に包まれ、街に戻された。

 

街に戻るとそこには無数の人。多分SAO内の全てのアバターが集まっているだろう。俺はなぜか落ち着いていた。それはキリトも同じなようで目を合わせると互いに頷く。

 

「一体何がどうなってるの!?」

 

モブキャラが騒ぎ始め、それが広がるように街は喧騒に包まれた。うわうるせぇ。逃げたい。超逃げたい。

すると空を防御障壁が覆い繋がれた壁の間から血のようなドロドロとした液体が流れて、巨大な赤いマントを作り出した。

 

「私の名前は茅場晶彦」

 

マントから発せられる声はTVで聞いた声と同じで本人であることが分かる。その声に反応するように周りは静けさを取り戻し一斉に視線が茅場晶彦に向いた。

うん、俺だったら無理。この視線は耐えらんない。

 

「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅しているのに気づいていると思う。しかしゲームの不具合では無い。繰り返す。 これは不具合ではなくSAO本来の仕様である。諸君はこの後アインクラッドをクリアしてもらうために勤しんでもらいたい。また外部からナーブギア停止を試みた場合、ナーブギアが諸君らの脳を破壊する、またHPが0になった場合も脳を破壊する。回復手段は無い。」

 

待って。それって帰れないじゃん、小町に会えない、と、ととと戸塚にも会えないだと……

もうマヂ無理、死の。あ、死んじゃダメだわ。

 

「最後に私から君たちにプレゼントだ、確認してくれ。それではSAOの公式チュートリアルを終了する」

 

すると茅場晶彦は消えていった。

周りは騒然としていて、泣き始める奴もいる。本当かどうか俺らでは確かめようがない。これからどうなるんだろうな。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

先ほど茅場晶彦が言っていたプレゼントを確認してみると手鏡が入っていた。それを具現化させて出してみる。一見どこの家にでもある鏡だが何かに使えるのか。模索していると1人の叫び声に続き何人もの人が光に包まれていき、そばにいるクラインやキリト、そして俺も光に包まれた。

 

「お前、ハチか?」

 

声がする方を見ると背は低いもののそれをカバーする可愛らしい顔立ち。なんだイケメンか。まぁだいたい察しは付く。ナーヴギアを被った時の動作で身長や体重までも計測し、顔は覆われているため現実世界の身体が仮想世界で形成されたのだろう。

 

「キリトか? イケメンかよ爆発しろよ」

 

「お前らハチとキリトか、アバターと随分印象が違うな」

 

クラインはアバターとそんなに変わらず社畜ロードを走ってそうな感じの顔。サラサラの赤髪にバンダナが印象的だったが今じゃツンツンになっていた。まぁ明らかに俺らより年上ですよね、これって敬語使ったほうがいい感じ?

俺は先のことを提案してみる。

 

「これからどうする、外からの助けはまずないとして帰る方法はさっき言った通りクリアするしかないよな。俺はこれから次の街に行くがお前ら2人は来るか?」

 

今の装備やアイテムのままじゃクリアするなんてまず無理だ。そのためにはいち早く次の街へ行き情報や資源を集めそれを公開しなければならない。βテストでも俺とキリトは1層の半分も行けなかった。それを踏まえて考えてもやはりテスターの俺が頑張らないといけなかった。

あいにくβテストの時に腕のいい情報屋とも知り合えた事だしな。

 

「あぁ、俺は行くがクラインはどうする?」

 

キリトは俺の意見に賛成のようだ。てかこいつは付いて来てもらわないと困る。一人じゃ死んじゃうよ。まぁ戦闘はこいつに任せるのが目的なんだけどね。こいつ上手いし。

 

「誘いは有り難いけど俺はダチと一緒に来てんだ、そいつらを見捨てられない。だからお前達だけで行ってくれ」

 

渋い顔をするキリト。まぁ当然だよな。製品版で初めて仲良くなったかもしれない相手だ付いて来て欲しい気持ちも分からんでもない。ただ人数が多ければ多いほど死んだ時の悲しみが大きくなる。つまりソロでやってたほうが悲しみを背負わなくて良い。ただその分ソロは回復やその他諸々全部一人なため限界がある。

どちらにせよ厳しい事には変わりない。

 

「わかった、じゃあ俺たちは先に行く、またいつか会えたらその時はよろしくな」

 

「おう、当たり前だ」

 

こうして俺たちは別れ、次の街に向かった。

そして数日が経ったが結局ソロでやる事になり、会った時はパーティを組む形に落ち着いた。

 

 

 



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-3話-

 

 

 

 

 

俺は今一層のボス攻略会議の場所に向かっている。本当なら行きたくないんだが、キリトにメールで強制されてしまった。場所に着くといかにもゴツくていかついメンツが集まっていた。

何これ、俺いらなくね?だって見た目からして強そうな人ばっかじゃん。

すると部屋の傍には俺を呼んだ張本人がいる。そいつはフードを被った人と話していた。多分女の子だろう。このゲームは殆どが男で女なんてものはごく僅か。バレてしまえば厄介ごとに巻き込まれるのは絶対と言っていいだろう。だからバレないようにしてるか何かだろ。多分。

 

「よっ、ちゃんと来たな」

 

ニコニコ笑顔で話しをかけてくる。うっわ超ムカつく。なんなら今すぐ斬りたいまである。後ろの方に目をやるとやはり華奢な身体で壁にもたれ掛かりながら少し下を向き腕を組んで黙り込んでいる。この偉そうな態度なんなの、噛み殺すよ?違うな、うん。ごめんなさい。

 

「なんだよリア充かよ爆発しろよ、じゃあな」

 

「待て待て待てって、この人は今さっき俺とパーティを組んだんだ、でお前も入れよ」

 

パーティ招待のメッセージが来る。まぁ会議が始まったらパーティ組めとか言われるだろうしYESを押した。

危ねぇ、うっかりNOを押すところだったぜ。

 

「まぁ、よろしく」

 

彼女は此方を向いてよろしくと呟くように言うと元の体勢に戻った。初対面の人に話しかけられるのは嫌だよな、分かる。でも嫌そうな顔で言われると傷ついちゃうだろ。

 

「えー、では、第一層ボス攻略会議を始めたいと思います。俺はディアベル。気分的にナイトやってます」

 

青髪の好青年が指揮をとる。葉山2号といったところか。みんなに笑顔を振りまいて周りを統一させるところとか超似てる。故に無性に斬りたい。あ、逆に斬られるか。

ひと笑いとった所で真剣な面持ちになり攻略の作戦を立て始めた。

あれやこれやなんや話しているうちに会議は終わってしまい、最後にパーティを組むことになった。

 

「ちょっと待てや」

 

大声で叫ぶパイナップル頭が前に出て喋り始める。内容はβテスターのせいで死んだ人間が数多くいるから詫びを入れて身包み全部置いていけとの事。

 

「おいパイナップル頭」

 

「なんや、ワイの事か? 喧嘩売っとんのかワレ、いてこましたるぞ」

 

物凄い関西弁でヤクザドラマかよというくらいの脅し文句で返してきた。いかんいかん、吹き出しそうになった。ぼっちはいかなる時も冷静に冷静に。

 

「お前は死んだ人間を把握しているか? 死んだ人間のほとんどはβテスターだ、自分の力を過信してな。この情報はとあるクソ鼠から仕入れた情報だ、多分そいつはSAO内トップの情報屋だ。間違いはないはず、それにガイドブックがあるだろ、それはお前の憎っくきβテスターが書いたことも忘れるな」

 

そう言うとパイナップルは黙り込んで隅にはけていった。俺の行動に周囲は沈黙した。おい葉山2号、ここでお前の番だろ、出てこいよ。と目で合図すると苦笑いを浮かべて

 

「うん、文句はないかな? 今回は初ボスだしβテスターが居ないと勝てないのも確かだ。仲良く行こうじゃないか。では解散」

 

やっべ、でしゃばっちゃった。リアルでこんな事出来ないのにゲームではできちゃうってなに、まさかゲーム内は俺の住むにふさわしい世界なのか……

そんな事ないな、うん。静かにぼっち暮らししたい。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

あれから俺はレベル上げをした。いまは24だ。まぁ1層でこんだけ上げたら十分だろう。β版では10手前くらいにしか上げれなかったからな。あれ、俺すごくね、超頑張ってんじゃん。まぁおかげでこうやって木の下で寝っ転がってられるんだけどな。

太陽燦々、そよ風が吹く。そんな1日が嫌いじゃない。

そしてやつらを待っている。スイッチの練習とやらをしたいそうだ。にしても遅いな。

 

「遅くなって悪いな」

 

「本当に遅いわ、危うく寝そうだった」

 

爽やかに申し訳なさそうに謝るイケメン。もう何も思いませんよ。一言言うなら斬りたい。

 

「じゃあまず装備の確認とそれに合わせた連携の練習だな。最初は俺とアスナで次はアスナとハチ、俺とハチはまぁいいな。最後は3人でやろう」

 

キリトが指示をする。こいつ絶対リーダーとか向いてるよ。攻略会議のリーダーやれよもう。

 

「私の武器は盾無しのウインドフルーレ。攻撃スピードが落ちるから盾はないんだ。ステはAGIに結構振ってるかな」

 

と見せてきたRの細剣。追加効果も悪くなく、防具もR装備。鍛錬もちゃんとしてあり耐久力が高い。これなら相当なことがなきゃ死なないなと安心する。

そんな俺の表情を見てアスナさんはふふんと鼻を鳴らしドヤ顔でいらっしゃった。

 

「次は俺だな。ハチは知ってるかと思うが盾無しの片手用直剣のディニタースソード。まぁ何で盾無しなのかは理由は言えない。ステはSTRに振っている」

 

こちらも見てみると、メールできた情報通りSR武器の追加効果無し。R防具で鍛錬度はMAX。なんだよこいつ廃人かよ。ちょっと引いたわ。

 

「最後に俺だな。俺は刀で名前は阿修羅。防具も武器もSR装備だ。追加効果もお前らに劣っているものの使えないわけじゃない。まぁ説明は以上だ」

 

二人とも驚いていた。まぁそりゃそうだろう。武具共にSRなんだから。ドロップした時は俺も驚いてその場で発狂しちゃったからな。お陰で周りから白い目で見られてしまった。黒歴史がまた1ページ増えた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-アスナside-

 

キリト君との戦闘練習が始まった。初めての2人での戦闘だったので余り慣れない私を引っ張ってくれた。HPゲージがイエローゾーンに入ると必ずポーションを使って私の分まで負担してくれる。

そして必ず一言添えてアドバイスをしてくれて数回戦う内に慣れて来たかなと思ったところで休憩を提案し、少し休む。私としてはもう少しやりたい気分だが無理するのもよくないと言うわけで正直に従う。

 

「次はハチとアスナだな、頑張れよ」

 

ハチ君という男の人はよろしくとだけいうと足早にモンスターに向かっていった。その後に私も続く。

ハチ君は初撃を入れるとすぐさま追撃も行う。途端スイッチという声が聞こえ、私も攻撃態勢に入り武器を構えて走り出す。

虫型モンスターのHPはレッドゾーンに入っていたのでソードスキルを使い難なく倒せた。

私は違和感みたいなのを感じ、それを確かめるためこの人のスピードについて行くように戦い続ける。

 

「ふぅ、そろそろいいか、切り上げて宿に行こうぜ」

 

ハチ君が言う。

……強い。そして戦いやすい。さっき感じた違和感が確信に変わった。ハチ君は何も無さそうにやっているが私が合わせられるように考えて動いている。そのためか一度も危険な場面になっていない。

私はこの人についていきたい。そう思った。この人の隣で歩きたい。君はその目で何を見ているの?君の見ている景色を一緒に見たいと思う。

憧れる強さ。それを知っているかもしれない。そんな期待を胸にしながら街へと戻る。

 

「そうだな、じゃあ行こうか」

 

キリト君が返事を返して私たちは街へ向かった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-八幡side-

 

あれからキリトの宿に来た。部屋は1部屋しかないと言うことでキリトはアスナさんに使わせようとしたがアスナさんが頑なに断ったため渋々といった形でキリトは部屋に行った。

そしてこの状況。とても気まづいことこの上ない。男と女。二人きりでベンチに座っている。

 

「ねぇ、君は、ハチ君は怖いと思った事はないの?」

 

「ん? 怖いよ、超怖い。俺は現実世界に妹がいるんだそいつは世界一可愛い妹なんだ。親は社畜ロードをひた走っているから帰りも遅くて、いつも俺が妹の帰りを待ってたんだ。俺が待たなきゃ誰が待つ。だから死にたくないし、帰りたい。いつ帰れるかわかんないのに怖くないわけがないだろ」

 

アスナさんはそうとだけいうと申し訳なさそうに下を向いた。

 

「まぁ、でも今俺たちが生きているのはこの世界だからな、ここを精一杯生きて階層をクリアするしか方法はないんだろうよ」

 

「そうだね。うん、頑張ろう!」

 

そう言って笑う彼女はとても美しかった。まぁもともと雪ノ下や由比ヶ浜レベルの美人だからな。中学の時の俺だったら即効告白して振られるレベルである。なんだか悲しくなってきた。

そういやあいつら、今頃どうしてるかな。

 

「アスナさんの宿は俺が取っておいた。場所を言うからそこに行って休むといい」

 

驚くアスナさんを視界の隅に捉えながら俺は敏捷スキルを使い家々を飛び越えていく。

 

 

 

 

 




こんなの八幡じゃない!(殴

ってのはご了承くださいw
どのSSでも八幡は不憫なので活躍的な事をさせたかったんです(震え


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-4話-

 

 

 

 

「よし、気を引き締めていこう」

 

ディアベルがボス部屋の大きな扉の前で声を上げる。それに続いて40人近い人数が一斉に雄叫びにも似た叫び声が迷宮区に広がった。

俺の横にキリトとアスナさんが息を飲んで扉が開かれるのを待つ。

ディアベルはそっと扉に手を出し押す。扉が開かれるのと目の前には巨大なモンスターとその取り巻きがいた。

名前は《イルファング・ザ・コボルトロード》武器は斧とバックラー。HPゲージは3本。取り巻きは2本か。こりゃキツイな。

 

「全軍突撃!!」

 

いつの時代の方ですか?と言いそうになった。それに釣られまたも全員がおーと雄叫びをあげて取り巻きにダメージを与えていく。

 

「ッ!」

 

取り巻きから斧が飛んできた。これを俺はなんとか交わすと空中で体制を整え着地と同時に地面蹴る。

 

「っらぁぁ!」

 

3連撃の攻撃を叩き込む。HPは半分まで削れた。あと1本半。長い戦いになるな。

 

「スイッチ!」

 

キリトに言うと待ってましたと言わんばかりに飛び出す。俺と同じ3連撃するとクリティカルが発生したのか一瞬でレッドゾーンに入る。

次にキリトがアスナさんにスイッチと言う。

 

「行くわよ」

 

殺意剥き出しの目で取り巻きの1体を倒す。それを見届けると俺は索敵スキルで周りの状況を確認したら40人近くいたメンバーがおよそ半数に減っていた。

圧倒的不利な状態。こうしてる間にもボスに倒される仲間達。

 

「ヤバイな、この状況」

 

「どうしたらいいの…」

 

2人とも顔面蒼白していた。

 

--帰りたい

 

--小町

 

--雪ノ下

 

--由比ヶ浜

 

 

何かが切れる音がした。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

何故だろう。すごく不気味なくらい落ち着いている。

夢を見ているみたいだ。心地が良くてなんでもできそうな予感がする。

ふと右を見る。女性プレイヤーが仰向けに倒れていた。HPも残りわずかで今まさにトドメを刺そうと斧を振り上げていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-アスナside-

 

何が起きたのか分からなかった。いきなり私とキリト君の前からハチ君が消えた。

すると視界の端で消えていくボスの取り巻き。それを見るとまた倒されていく取り巻きたち。眼の前で繰り広げられる戦闘に私の目は追いつかなかった。

目を凝らしてみると魚眼レンズのように視界が一点に集中する。どんな速い動きでも捉えられるこのスキルを使用してでも影しか追えない。

 

「速すぎる…」

 

次々に倒されていくモンスター。ついにはボス1体だけになっていた。そしていきなり現れるハチ君。

私はそれに驚きを隠せない。周りもそれは同じなようで呆然とハチ君の背中を見ていた。私もAGIに相当振っているけど私には追いつけないスピード。すごい。素直にそう思い、そして改めて感じる。この人のようになりたいと。

 

「お前たちは俺が守る」

 

彼が小さく呟いた言葉は私の耳に確かに届いた。キリト君もその言葉を返すようにハチ君の横に並んで

 

「なら俺も、お前が危なくならないように守らないとな」

 

2人は笑い合いながら互いの絆を確かめ合った。それは私の求めた本物の関係。ハチ君もまたそういう不確かな関係を求めているのは薄々分かっていた。そして気付いたら私も彼の隣にいて、

 

「私も、君を守りたい。君を追いかけたい」

 

そう言っていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-八幡side-

 

俺はひたすら取り巻きたちを倒していった。自分でも何が起きたのか分からない。ただ体が誰かに操られている感覚。だがそれに違和感はなく、身を委ねると流れる水のように滑らかに動いた。

気付くとボスだけになっていて、ボスは子分を倒された怒りによって甲高い声を張り上げている。

 

「グルルル……」

 

その場でジャンプしながら此方に近づいてくる。ドンと地面が揺れる程の着地。地震で足元が覚束ない。それを見たコボルトロードは大きく息を吸うと思いっきり吐いた。風の範囲攻撃で吹き飛ばされた俺たちは全員が壁に飛ばされた。

ぶつかった衝撃でダメージを受けるも皆んな何とか耐えた様子だ。

 

「やられっぱなしじゃいけねーな」

 

俺は壁を利用して蹴る。まっすぐボスに飛んでいくと武器を構え一瞬溜めた。

 

「居合い、影峰!」

 

閃光にも似た早業で一太刀振るう。鋭い切れ味でコボルトロードにダメージを与えるがゲージが3本あるため大ダメージを与えてもピンピンしている。

ボスは俺の方に振り向くと斧の平らな部分でぶっ叩いてきた。

 

「ガッ!」

 

地面に叩きつけられ、物理ダメージと落下ダメージを同時に受け、俺のHPは一気にレッドゾーンに突入した。追撃来るかと構えていたがキリトがタゲを取っていたお陰で免れ、ポーションでHPを全開させた。

アスナさんが此方に近寄り手を差し伸べてきたので一瞬それに戸惑ったがその手を取り起き上がる。

 

「もう、無茶したらダメだよ」

 

俺はスマンとだけ言うとボスを見た。ディアベルやパイナップル頭、そしてキリト達の頑張りでボスのHPはレッドゾーンに突入した。

 

「残りは俺がやる!」

 

そう言って前に出たディアベル。待て、普通に考えて全員でいくべきだろ。

 

「そうかこいつは……」

 

そう思った矢先コボルトロードの異変に気付いた。敏捷スキルを最大限に使いディアベルの前に出てそれを制止させる。

 

「止めるなよ!」

 

「馬鹿野郎よく見やがれ」

 

コボルトロードは苦しそうな呻き声をあげると持っていた巨大な斧を二つに分け片手斧に変形した。

それを見ていなかったのかパイナップル頭が俺たちより前に出る。

俺はボスに集中していたため一瞬だけ反応が遅れる。

 

「うわぁぁぁああ!!」

 

パイナップル頭が真っ二つに切られ無数に分裂し散らばっていった。

それに呆気にとられた俺はまたも動きを止め、ボスの攻撃に気付くのが遅くなり斧が振り下ろされる。

 

--死ぬ

 

反射的に目を瞑った。誰かが俺を抱え上げる感触がして目を開けると、そこにはキリトがいた。十分な距離を取ると俺を降ろしてこう言った。

 

「今は考えてる暇はないぞ」

 

「俺が時間を稼ぐ、最後はお前に任せる」

 

「……わかった」

 

キリトは満足そうに頷くとボスに突撃していった。器用に攻撃を交わしながら戦うのに安心して俺は武器を構え直す。

 

「ハチ、スイッチだ!」

 

「抜刀、幻夢」

 

まるで刀が六本あるような錯覚を起こしぐにゃりと曲がるようにしてボスに6連撃を叩き込むと、ボスはポリゴンとなり散らばって消えた。

 

「終わった」

 

周りから歓声が上がる。だが一層にしては死人が多すぎた。喜ぶべきではない。俺やキリト、アスナさんにディアベルは苦い顔をしていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おい、何でお前はディアベルさんは守ったのにキバオウさんは助けなかったんだよ」

 

来たか。まぁ何となくは予想していた。

 

「まぁまぁ仕方がないよ、落ち着こう、な?」

 

ディアベル、お前は反応しなくていいんだ。悪いのは全部俺だから。

だから俺一人が傷付けばいい。

 

「ディアベルさんには話してないっす、そこの紺色のマントに話してるんすよ」

 

確かに俺の装備は紺色のマントを羽織っているがせめて名前で呼んでほしい。

だけど結局どこにいっても同じか、現実世界でも、仮想世界でも。

 

なら俺はこの方法を取る。

 

「クク、アハハハハ」

 

突然笑い出すと周りは俺の事を変なものを見る目で見てくる。何度やってもこの視線にはなれないな。くそ。

 

「キバオウ? あぁ、あのパイナップル頭の事か、あいつが死んだのは自業自得だろ? 様子見もせずかっこつけようとして一人で突っ込んで行ったのがあのざまってわけだ」

 

ふざけんな、謝れ、人殺しなどの声がちらほら聞こえ始める。よし、思惑通りだ。俺という共通の敵を作って周りを一体化させる。それで万事解決だ。

 

「くだらねぇな、俺は先に行く。じゃあな」

 

俺が歩き出す方向にはキリトとアスナさんがいた。1歩2歩と歩みを進めて二人の横を通り過ぎた。

2人は振り返るが俺は振り返らない。振り返ってはいけない。階段を登ると後ろから声をかけられる

 

「ねぇ、一つだけいい?」

 

「なんだ」

 

アスナさんのこれを聞いたら俺はこいつたちとは関わらない。

 

「君は強い。だから私はその強さを知るために君を追いかける。そして教えてもらう、強さの秘密を」

 

「……君は、強くなれる。だからもし心から信頼できる仲間が見つかってギルドに誘われたりしたら断らず入るといい。俺なんかよりもっと強いプレイヤーがいるから」

 

 

そう言うと俺は2層の扉を開けて歩き始めた。

 

 

 

 



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-5話-

 

 

 

 

 

 

 

36層迷宮区。俺は次の階層へ行くため、ボス部屋をソロで探している。

 

「……クッ」

 

30層を突破してからモンスターの動きが変化してきた。ソロだと骨が折れる厄介ぶりだな。1体倒すのに少し時間がかかる、いくら強い武器だからと言って油断してたら一瞬でやられるな。気を引き締めよう。

 

「おっ、はーちゃん」

 

どこからともなく鼠の様に現れる茶色いローブに黄色い髪。印象的なのが頬に描かれた三本の線。まるでどこかの九尾ですね、わかります。

そしてなによりこいつは女だという事。ちょっと前まで男だと思ってました。

 

「キー坊とアーちゃんとはまだ仲直りしてないのカ?」

 

「いいかアルゴ、そもそも喧嘩なんてしてない。俺が一方的に避けてるだけだよ」

 

キリトとアスナさん、俺。俺は悪者であいつらはヒーロー。それでいい。今じゃアスナさんは攻略の鬼、黒の剣士と言われるキリトは有名な攻略組トッププレイヤー。あいつらが目立つと俺はそいつらの影で静かに居られるから悪者も捨てたもんじゃない。まぁたまに視線が痛いけど。一回泣いちゃったけど。

 

「それでもダ。はーちゃんはキー坊達と一緒に居た方がいい。それにあの2人から毎回会うたびにはーちゃんの場所を教えてって言ってくるの迷惑してるんダヨ。特にアーちゃんがナ」

 

言葉は冗談交じりでも顔は真剣そのもの。まぁ、アスナさんにはキリトを押し付けるような事を言って別れてしまったからな。それだけが少し後悔というかなんというか。

 

「あぁ、分かったよ、次会ったら話し合う」

 

「いーヤ、今回とは別の件だけど前もそんなこと言って一回も連絡寄越さなかったじゃないカ。だからオイラが場所と時間をセッティングしておいたゾ」

 

ちっ、こいつまだあの事根に持ってんのか。しつこい奴は嫌われるぞ。あ、嫌われてるのは僕の方でしたね。あれ、目にゴミが……

 

「わかったわかったんで、いつ?何処で何時何分地球が何回回った時なわけ?」

 

「小学生かよお前。恥ずかしいぞ。時間は17:30。場所はアーちゃんの宿だそうダ。何処にあるかはメールで送るヨ。まぁそゆことだからじゃあナ」

 

初めの方一瞬素に戻ったよね?怖い。超怖い。これから敬語使ったほうがいいかな。メールで場所が送られてきた。29層で場所は随分端っこだな。アスナさんなら中心部に住みそうなんだけど。

 

「まぁ、行くか…」

 

あまり気乗りはしないものの転移結晶で迷宮区を出た。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

指定された場所に行くと誰もいない。イジメかな。俺は仮想世界でもイジメられるのか。何個かのトラウマが蘇ってくると同時に帰ろうと元来た道を歩こうとする。

 

「ハチ君待ってよ」

 

後ろから随分聞いてない声。だけどはっきり覚えている凛とした声は俺を振り向かせた。栗色の綺麗な髪。可愛らしく綺麗な顔立ちに華奢な体。俺は覚えている。なんか変態っぽいな、止めよう。

要はあれだ、振り返るとアスナさんが笑顔で立っていた。

 

「久しぶりです。アスナさん」

 

「そういう所、変わってないんだね。敬語じゃなくていいし呼び捨てにして。それにハチ君の方が年上でしょ?」

 

そう言ってベンチに座り隣をポンポンと叩いて俺に何かの合図をする。

一色に教えてもらったこの合図。ここ座れって言う意味だそうだ。

 

「別に気にしないのに」

 

彼女がそう言ったのは多分一人分間を空けて座ったからだろう。俺が気にするんですいません。

髪の毛を耳にかけこちらに顔を向けるアスナに胸がざわついてしまい、封印していた感情が出ようとしていた。

 

「敬語の件はすまん。なんつーの、あまりに綺麗だからつい現実世界みたいに萎縮しちゃってよ」

 

唇をきゅっと閉めて顔を真っ赤に染めて彼女は俯いてしまった。あれ〜、怒っちゃったのかな?後で謝っておこう。

 

「んで、話ってのは?」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

-アスナside-

 

 

ーー綺麗だから

 

ーー綺麗だから

 

ーー綺麗だから

 

さっきからこの言葉が頭の中で無限ループしてる。顔が熱くなるのがわかる。何で仮想世界なのにこういう所は妙にリアルなのよ。

彼は冗談で言ったのかもしれない。横目で彼を見ると鼓動が早くなり、胸がざわつく。一度見てしまうと目が離せなくなってしまう。

 

「んで、話ってのは?」

 

その言葉により冷静さを取り戻す私。そして今の気持ちを存分に言ってやった。彼の顔はびっくりしていて少し笑いそうになる。

 

「まぁ、わかった。あの時はごめんな。何かあったらアスナ頼るから。これからもよろしくお願いします」

 

馬鹿正直に頭を下げてきてつい私はその頭に手を乗せて撫でてしまう。

現実世界でもこんな感じの髪の毛なのだろうか。アホ毛が立っていて少し癖毛。いつまでも触りたくなってしまう。

 

「何してんの? 俺そろそろ帰りたいんだけど」

 

「ご、ごめんね。うん今日は時間作ってくれてありがとう。また会おうね」

 

フレンド登録を済まし、無愛想におうと返事をして去って行く彼。彼の大きな背中を見て小さくなるまで見送る。そして宿に戻ってベットにダイブする。

フカフカな羽毛のベット。枕に顔を埋めて気持ちを整理する。

 

さっき私は今の気持ちを全て言った。でも心の奥に残ってしまうこの思い。

 

 

 

 

この気持ちはいつかまた、きっと……

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-キリトside-

 

面白い場面に遭遇した。俺とアスナとハチで話し合うために指定の場所に行く途中でアスナがハチの頭を撫でていた。

俺はその場面を動画と写真に収めてハチが去っていったあと送ってやった。

 

「うそだろ!」

 

ハチからすぐにメールが来て文面を見たら衝撃が走った。

 

 

《今までありがとう、キリト》

 

背筋が凍った。しばらくするとピロリーンと運営からの着信が入る。

メッセージを押して内容を見てみるとそこには、

 

 

 

 

 

 

『フレンドから《ハチ》が消去されました』

 

 

 

 

 



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-6話-

 

 

 

 

 

 

 

あれから俺を含めた攻略組は一気に50層まで登りつめた。特に大きな被害や損害もなく、着々とクリアして行きますます勢い付く。2週間という短いスパンで約20層を突破できたかと言うと、ついこの間から最強ギルドと呼ばれる《血盟騎士団》の団長《ヒースクリフ》が使うスキル《神聖剣》で楽々とボスを倒していった。大きな十字の盾に片手用直剣というスタイルで戦い、盾の耐久力は凄まじく、ヒースクリフのHPがレッドゾーンを切った事を見たことがないという。

 

何より神聖剣はヒースクリフだけのユニークスキルらしく、凄まじい強さで知られていた。

すぐに次の階層へと急ぐのはよくない。ここ最近は緊張した毎日が続いているから一旦攻略を中断させ、1週間の休暇をみんなに与えた。カリスマ性半端ねぇな、葉山かよ爆発しろ。

 

そんな俺は今アスナから教えられたオススメの武具店に来ていた。

ウザいほど元気いっぱいに挨拶をしてくれるこの子はリズベットという名前で何でも凄腕らしい。

 

「そうだな、君を信用してこれを見せる。だだし誰にも言うなよ」

 

「うぇっ!? 何これこんな知らない? これを作れって、どうやって作るよ……」

 

ぶつぶつ文句を言っているが渋々了承してくれた。これのために寝る間を惜しんで素材を全て腐るほど集めた。それを全部渡すと彼女は奥の製造部屋に入っていった。

 

「なるべく早めに作ってくれ」

 

少し恥ずかしいが大きめに言うと部屋からわかったわよと言う怒号が聞こえ逃げるように店を後にした。

 

そして俺はある噂を確かめるべく46層にある森の中に来ていた。確かめるというか手に入れるが正しいか。

何でも森の中心部には突然丸い平地に太陽の光が直接差している場所があってそこには刀掛けに掛けてある名刀正宗があるらしい。あれが完成するまでの武器。

 

「ここか…」

 

そんなこんなで特にモンスターも出ることなく中心に辿り着いたわけだが、本当に刀掛けに刀が置いてあった。

 

平地に足を踏み入れると先程まで濁っていた視界が突然クリアになる。風の流れを感じ、ゾワゾワっと背筋に寒気が走る。木の呼吸。森のざわめきがはっきり聞こえ生命を感じると言えばいいのだろうか。

 

「これが正宗。確か何人か此処に来てこいつを取ろうとしたら拒絶され気絶させられたらしいな」

 

恐れたら掴めなくなるようで怖いため、勢いよく正宗を掴む。途端世界が凍ったかのように感じ、周りには冷気が漂い始める。

俺はこいつに拒絶されている。直感的にそう思った。

 

「逃げてたまるかよ」

 

ぐっと力を入れて掴み直す。ヒシヒシと伝わるこいつの力。割れる音が聞こえる。それはまるで俺の精神が壊れる感覚で冷や汗をかき、全身に痛みが走り始める。

 

「ガッ!」

 

破裂音とともに吹き飛ばされ、後方に吹き飛ぶと背中から地面に落下した。冷気は収まっておらずそれどころか冷気自体が形を作り始めモンスターに変形した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「我、汝ヲ試スモノ」

 

頭に語りかけてくるそいつはまさに自然そのもの。そいつには何故かHPゲージがなく《?》で埋め尽くされていた。名前を見るが同じようだ。

 

「まぁやるしかないよな」

 

そいつは突進をしてきた。俺も走り出すとそいつの目の前で刀を抜く。

そして空を斬った。すぐに後ろを振り返るがそいつは真っ二つになりながらも平然としていた。

 

「こんなんありかよ…」

 

不定形なそいつは、雲のようにフワフワしていて斬っても斬っても当たる感覚すらない。

後方にジャンプして距離を取ると、そいつから白い冷気が飛び出してくる。俺はそれを敏捷スキルで避けていくが何本も枝分かれして襲ってキリがなく、ついには捕まった。

 

「何で俺を掴めるんだよ!」

 

俺がいくら刀を振っても傷どころかかすめるだけなのにそいつは俺を平然と掴んできた。

 

「っらぁ!」

 

掴んでいる手を斬るとそいつは苦しみだし、手らしき物を引っ込めた。

……攻撃するときだけ具現化するのか。と一つ仮説を立ててみた。どうしても確信が持てない。

 

「もう一回試してみるか」

 

もう一度そいつに向かって走り出す。そして敢えて目の前に行っても何もせずほんの少し止まってみると腕らしきものが伸びてきた。そしてそれは俺に近づいて来るたびに形を作り始め、目にはっきり映るようになる。

 

「よし、こっからが本番だ」

 

一旦距離を置く。相手が自然そのものならこちらも自然エネルギーを使えばいい。とどこかの九尾が言っていたのを何故か思い出してしまう。本当に出来るかは疑問だがやるしかない。まぁあれだ、俺もあるんだよ、そういうスキルが。

 

「いくぜ、俺だけのユニークスキル」

 

大きく息を吸って止める。ゆっくり吐き体の力を抜くと、小さな光の粒子が俺を取り囲む。それを危険だと察知したのか範囲攻撃をして邪魔をしようとする。

 

「もう遅いぜ」

 

エネルギーが溜まってきたのか身体がポカポカする。そして足に力を入れて思いっきり地面を蹴る。一瞬にして間合いを詰めてソードスキルを発動した。そいつは俺に気づくと攻撃をやめ不定形に戻るが、エネルギーを武器に通しているためそいつを斬る事ができ、倒せた。フシューと空気が抜ける音と共に刀に吸い込まれていった。

 

「これでこいつは俺のものか?」

 

正宗を掴んで見ると先程感じた憎悪の塊は感じない。持ち主を許されたのだろう。システムコマンドを表示させてアイテムを見ると《名刀・正宗》の文字があった。

そしてもう一つ確認する。スキル欄には《氣》が表示されていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

八幡のユニークスキルの説明です。

これはSAO内で一番一人でいる時間が多い人に与えられるスキル。

《氣》は自然から取り寄せるエネルギーを使い、それを体内で練り上げ、爆発的な力を得られるというものです。

 

武器や防具に通すことも可能で一時的に攻撃力や耐久力が格段にあがったりします。

移動する際も足に練り上げた氣を集中させてものすごい速さで走れたり自分の体なら何処にでも集中させることは可能です。

 

但しものすごい集中し、膨大なエネルギーを体に入れ込むため限界があり、一度にHPゲージ以上のエネルギーを取り込むと自爆する。

精神を相当すり減らすので一度にできるのは回数には限界がある。

今のところ八幡が出来る回数は3回。

 

 

ものすごいチートになってますね 笑

てかSAO内って氣とかあるのかな……まぁその辺はオリジナルってことで 笑

変えたほうがいいという意見があったら変えたいと思います。

 

 

 



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-7話-

 

 

 

-リズベットside-

 

私は32層にある街の中心部にある小さな武具店、鍛冶屋を営んでいる。自分で言うのもあれだけど結構人気があり、日々店にはお客さんが絶えない。

数日前、私の親友のアスナから紹介されたハ…ハ…ハツ?だっけな。めんどくさいからハッちゃんでいいや。ハッちゃんからオーダーメイドの品を作ってくれと頼まれた。

 

「こんなのどう作れってのよ」

 

彼が私に依頼したのは意外にもブレスレットだった。アスナから聞いた話ではなんとなく依頼の予想はしていたけどまさかブレスレットとは思いつかなかった。

そしてそれがどうしても欲しいのか、ブレスレットを作るのに必要な素材は全て渡してくれた。

何個か試作品を作ってみたもののハッちゃんのメモと一致しない。そしてなにより私の納得のいくように出来なくてイライラしていた。

 

「早く現実世界に帰りたいし、こんな作れるかわからないような品は頼まれるし、もうやだ。店を閉めようかな……」

 

「早くなるかは分からんが必ず現実世界に帰してやるぞ。俺が保証する」

 

俯いていた顔を上げ、店の扉の方を見ると印象的なアホ毛がひょこひょこと動くハッちゃんがいた。

彼は私の隣に来ると壁にもたれ腕を組み始めた。そして何を言うでもなくずっと黙ってくれている。

 

「何も言わないの? 何か言いなさいよ。私の気持ちも分からないくせに、何が現実世界に帰してやるよ!いつになるか分からないじゃない、早く帰りたいのに、攻略組がモタモタしているから、私みたいに戦闘に参加できない人たちはみんな怯えて暮らしているのよ!!」

 

私自身何を言っているのかわからなくなってきた。早く帰りたいのは彼も同じなのに、攻略組が頑張ってくれているから現実世界へ一歩一歩進んでいるのに。そして攻略組が一番死ぬ確率が高いことも知っている。そう思ってはいても口から出た愚痴は漏れ出すと止まらなかった。

 

「なぁ、これは俺の友達の友達の話なんだけどな」

 

そう言って話し始めたハッちゃんの顔は少し照れくさそうに、少し嬉しそうに話していた。それがなんだとっても可愛らしくて、思い詰めてた私がバカみたいに思えてきた。

 

「奉仕部という部活に強制的に入れられたんだよ。そこには1人部員がいてそいつは馬鹿正直なやつで自分の言ったことは曲げない。そういうやつだった。そのあと部員がもう一人増えたんだよ。その人はいつも真っ直ぐで空気を読むスペシャリストでバカでアホっぽい。けどどこか憎めないやつ。そいつらと過ごしていく時間はとてもかけがえのない……って聞いてるか?」

 

ハッちゃんは覗き込むように私を見た。顔を見て何かを察知したのか急に頭に手を乗っけて撫で始める。

 

「まぁその、お前の不安も分かるけど、あれだ、いつかは分からないけど必ず。必ず帰してやるから待ってろ」

 

少し胸が締め付けられる感覚。この感じは多分あれだ。でも今はこの気持ちを言っちゃいけない。言うとしたらそう。最高の出来でブレスレットを渡すとき。

 

「ありがとう、私もう一回作ってみるよ」

 

全力の笑顔で笑うとハッちゃんは頬を人差し指で掻き、そうかとだけ言い店を出て行った。

それを見送ると私はまた部屋にこもる。

 

 

 

 

 



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-8話-

 

 

 

 

暗い。辺りは果てしなく広く光は届かなくて女の子のすすり泣く声が聞こえる。

暗闇の中で一人ぽつん立つ俺の目の前に少し背の低い女の子とアホっぽい子。黒髪の美少女が現れ、その子たちはこう言っている。

 

 

 

お…にい……ち……

 

 

ひき……が…

 

…ヒ…ッ……ー

 

 

 

聞こうとすればするほど声は掠れていき、近付けば遠ざかる。徐々に走るスピードが上がっていくのが無意識のうちにわかってしまう。手を伸ばし必死に追いつこうとしても倍の速さで向こう側にいってしまう。

 

ふと何かに躓いて転ぶ。痛みはないが前を向くとさっきまでの少女たちはいなくなっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

意識が覚醒する。体を起こすと頭に激しい痛みが襲い、大事な何かが消えていく感じがした。

 

「それにしても嫌な夢だ」

 

顔に手を当てて必死に先ほどまでのことを掘り起こし、少女は何だったのか思い出そうとする。

泣いている姿を思い描くと胸のあたりが締め付けられ、とても息苦しい。泣かしてはいけない、笑顔になってほしい。自然とそう思った。

 

「……小町…雪ノ下…由比ヶ浜…」

 

俺はこんな大事な思い出を一瞬忘れていたのか。そう考えると早く帰らないといけないと俺の中に眠る何かが熱くなる。早くあいつらにあって罵倒されて、殺人料理の味見して、可愛い妹の帰りを待たないと。

 

右手を振りかざし、アイテムから防具を選択して具現化させる。体に少しの違和感を感じ、膝丈まである紺色のコートが着させられる。便利だがいきなり着ている状態になる時の感じは未だになれない。

それを紛らわすように肩を廻してから宿を出る。

 

「最近サボり気味だし、レベル上げにでも行くか。」

 

攻略組の一週間の休暇は残り4日となり、まだ休めるという気楽な気持ちと、今からにでも気持ちを引き締めなければという気持ちが入り乱れる。そのための今日。俺は少し強いモンスターが出現する49層の迷宮区に行くことにした。流石に50層はソロじゃ無理です。そのため50層に行くときは毎回アスナにパーティを誘われるのだが正直めんどくさい。

 

「転移、マーテラス」

 

転移門に立つと行き先を言い青白い光に包まれて目の前が見えなくなる。気付くとそこは俺の言った街に付いており、マップを広げる。

 

いつ来てもこの街は複雑に入り乱れているので何回も道に迷ってしまった事がある。そのためマップを見ながらでないと、この街から出られないのだ。

 

「ピナ…ごめんね、ピナ」

 

鎌倉時代に出てきそうな木で出来た大きな橋の手摺。そこに赤を基調としたアーマーを装備した小さな女の子が下に流れる川に向かって何かを呟いていた。

勿論俺は華麗にスルー厄介ごとには巻き込まれたくないんでね。

 

「ちょ、普通可愛い子が困っているのに声をかけないってどーゆーことですかぁ!」

 

と俺の腕をがっちり掴んで文句をたれるこの少女。

 

「あざとい」

 

まるでどこかの後輩だな。超あざとい。でも守ってやりたくなる。こいつまさか妹属性持ってんのか、お兄ちゃんスキルが勝手に発動されてしまう…

 

「酷くないですかそれー? まぁでも話くらい聞いてくださいよー」

 

「分かった、分かったから腕を揺らすのやめてくれない?」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

このシリカとか言う女があまりにも説明が下手くそだったので代わりに俺が説明するとこいつはビーストテイマーで飼っていたピナというフェザーリドラを自分の不注意で死なせてしまったとのこと。

 

「知らん、自業自得だろ。俺に言うな、じゃあな」

 

手を振ってその場から立ち去ろうとすると大声で

 

「この人私に痴むぐっ」

 

慌てて口を手で押さえるもハラスメントコードが表示されてしまう。周りにチラホラ人が見え始めたので手を引き人影の少ない場所へ移動した。

 

「こんなところ連れてきて何するつもりですか? まさか本当に変態行為を…」

 

自分の体を抱きしめ身を守るシリカだがそれを華麗にスルーして提案をした。

 

「一つだけお前のその、ぴ、ぴ、ピーナッツ?を生き返させる事が出来るぞ。ただまぁ今のお前の防具じゃ速攻やられるから俺のを貸してやらんこともない」

 

「ピナです、次間違えたらぶち殺しますよ?」

 

怖っ、まるでどこかのラブリーマイエンジェル小町たん。

それにしてもいつから俺はこんなにもお人好しになったのだろう。大体理由はわかってるがこの世界に来てあいつら2人に出会ってから変わったのかな。昔の俺が見たらきっと笑われるなこりゃ。

そんなこんなで武具を渡してさっそうと行き先へと歩き始めると俺の後ろにぴょこぴょこ付いてくる形でシリカが歩く。まるで金魚のフ……ゲフンゲフン。可愛い妹のようだ。

 

「本当にこれ借りてもいいんですか?は、まさか後で貸してやっただろとか言って私に卑猥なことをさせる気じゃ……それにさりげなく私の歩くスピードに合わせてくれてますし」

 

「最後の方はなんて言ったのか本気で分からないが、そんな事しないから安心しろ、ガキは相手にしないタイプだ」

 

同い年も年上も同じなんだけどね。あ、俺の場合相手にされないの間違いか。言ってて悲しくなってきた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

フラワーガーデンというフィールドダンジョンに付くと、何事も無く蘇生アイテムをゲットし、マーテラスに帰る道中視界の隅で怪しい動きをしながらこちらを見てる連中がを捉えつつ道を歩いた。

推測だがこの子は多分狙われている。そう思った俺はこっそり耳打ちをすると彼女は頷き、俺の後ろに隠れる。

 

「出てこいよ」

 

というとリーダー格の赤い髪をした槍使いが出てきた。それに続くようにして取り巻きが数十人目の前に立ちはばかる。その取り巻き全員が男でなんとも言えぬいやらしい目つきでシリカを見えいることがわかる。

俺はそれを必要以上にイラついてしまう。

 

「おやシリカ、もう男を誑かしたのかい? それにしては微妙だねぇ」

 

「違います、この人は、ハチさんは私に協力してくれてるだけです。ロザリアさんこそ男を見る目がないんじゃないんですか?そんなブッサイクな人たちばっかり連れてお山の大将気取りですか?残念な女ですね、だから頭の悪そうな連中しかついてこないんですよ」

 

待て、煽るな煽るな。ほらロザリアさんとかいうやつプルプル震えてるじゃないか。危うく吹き出しそうになってしまった。

するとロザリアはこちらを睨みつけ、取り巻きに合図を送るのが見えた。即座に身構える。

 

「この男さえやっちまえば本当にシリカちゃんを好きにしていいんですよねぇ、ロザリアさん」

 

「当たり前だよ、報酬はあの子さ、煮るなり焼くなり……もちろんあんなことやこんなことも、わかったならさっさとやれ!」

 

流石オレンジプレイヤーやる事なす事全部がゲスいな。ただロザリアだけが善良なグリーンカーソルなのが気になるな。

眼を凝らすとスキルが発動し魚眼のようになる。彼女の全身を見るが特別何かをしているわけではなさそうだ。大方自分の手は汚さないんだろうな。

 

「まぁ攻略組がこんなところでうろついてる訳ないしここで燻ってる雑魚プレイヤーでしょ」

 

「悪かったな雑魚で、でもお前達よりかは強い自信あるぜ」

 

そう言うと俺は一瞬でロザリアとの間合いを詰め首に政宗を構える。彼女顔からは冷や汗が流れ恐怖で顔が歪んでいた。最後の抵抗の様に口を開く。何を言い出すのかは予想がつく。

 

「言っとくが俺はソロだ。1日2日オレンジになっても構わない」

 

それを言うとロザリアは武器を落とし両手を上に挙げる。それを見て取り巻きたちも武器を落とす音が聞こえ、跪いたり俯く人がいた。

シリカはNPCにこの状況のメールを送ってもらうとすぐに警察官のような格好をしたNPCが現れ彼女たちを連れて行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「今日はありがとうございました。ピナも生き返りましたし、何から何までなんとお礼をしたらいいか」

 

「お礼なんかいらないし、なんならその武具も上げるよ」

 

俺はじゃあなと手を振ってその場を立ち去ろうとするとシリカは俺のコートの襟を掴んで頬に柔らかい感触が伝わる。

 

「これは私からのお礼です」

 

シリカは満面の笑みでその場を立ち去っていった。俺は頬に手を当てながら彼女の背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 



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-9話-

 

 

 

 

 

 

休暇も残すところあと3日となってしまった今日。ベットから起床すると2通メッセージが届いていた。差出人はアスナとリズからで、メールを見ることに慣れていない俺はそれをスルーしてウインドウを閉じる。

 

今日は散歩にでも出かけてみようと思う。50層にある街はあまり散策などしていなかったため少しだけわくわくと胸を躍らせてしまう。この街の名はスフィン、通称煉瓦の街。色とりどりの煉瓦で出来たとても西洋風で家が連なる。家と家の幅も狭く、ご近所づきあいが盛んな街。見る分にはいいが住むのはちょっとごめんだな。

 

「だってご近所づきあいとかめんどくさいじゃん」

 

ぽしょりと独り言のように呟く。ベットから立ち上がると俺は洗面台に行き、歯を磨き顔を洗う。別段この世界ではそういった日常的な行動は取らなくても良いのだがやはり現実世界で身体に染み付いた行動なのでやらないと落ち着かないものである。

 

一通り作業を終えるとウインドウを開いて一応念のために買っておいたおしゃれ(笑)の服を着る。全身が映る鏡に行くと、そこには目の腐っていないイケメンがいた。自分でも驚くくらい目が生き生きとし、輝いていたのだ。ゲームの世界で戦闘アシストの他にも顔面アシストと言うもので補正されたのだろうか。なにそれ俺だけが掛かりそうじゃん。

 

「これはオシャレなのか、全くわからん」

 

俺の服のセンスは全くと言っていいほど良くはない。というより自分で買った試しがないので最初見たときは頭が爆発しそうだった。なので個人的にいいと思うのを何着か買ってきたのだ。

あいにくこの世界のお金の通貨、コルは腐るほどあり、使っても使っても減らないので少しだけ困っている部分もある。まぁ家とか買ってないのが大きいかな。

 

まぁ多分ダサくはないと思う服装。どこかの後輩が 、

 

「先輩はスタイルが良いのでジャケットとか似合うと思いますよ?」

 

と言われたので目に付いたものを買ったのだが、これでダサイと言われた日には一生服を買わないレベルどころか一生スウェットで過ごす覚悟が出来ている。

 

外に出てみると日差しがとても強く風が心地いい。仮想世界って雨とか降らないんかな。そんな事を思いながらもブラブラと徘徊していたところ前方に見覚えのある栗色の髪をした女の子。俺のチャームポイントのアホ毛がぴょこぴょこ揺れて危険信号を察知する。

その女の子はキョロキョロしていて誰かを探しているみたい。

 

「俺じゃない、よし行こう」

 

変な勘違いは起こさない。多分キリトあたりを探しているのだろう。徐々に彼女との距離が縮まる。そして横を通り過ぎる。ミッションコンプリート。OK超クール。これで俺は何もも怖くn……

 

「あ、やっと見つけた」

 

見つかっちゃった。テヘペロ。気持ち悪、自分で言ってて死にたくなった。まぁ当の本人は名前を言っていないから俺じゃないな。うん。あれだ俺だと思って振り向いたら違う人でしたってやつだろ。

 

「あ、ちょ、ハチ君待ってよ」

 

えー、名前呼んじゃうんですか。手を掴まれ強制的に止められ、俺はその場に立ち尽くす。彼女は俺の前に回り込むと頬を膨らませ怒っていた。

その表情はとても可愛い。捻くれぼっちと呼ばれる俺でも素直に言えちゃうのだからそうなのだろう。

でも、勘違いをしてしまいそうになる。そう思うと胸に針が刺さった様に痛苦しい。

 

「もー、朝メールしたのに返事くらいしてよ、おかげでこの街中探し回ったんだから」

 

未だ手を握られ、時折にぎにぎと俺の手の感触を楽しむように両手で揉んでくる。反射的に俺は手を引いてしまう。彼女からは寂しそうな声と共に俯いてしまう。罪悪感。俺の感情を支配して何も言えずにただその場には沈黙が訪れる。

 

この空気は一度訪れると中々壊せないもので、いくら素直になったとかお人好しになったからとはいえこの微妙な距離を縮めることは俺には出来ない。何かを言ったら何かを失いそうになる。それが怖いから。

彼女を大切に思っているから、この近すぎず遠すぎずの関係を心地いいと感じているから。一歩踏み出すのはとても勇気がいる事。俺にはそれができない。

 

不意に通知音が流れる。メールが届いたのか俺はメールボックスを開くとリズから来ていた。内容はブレスレットが完成した。最高の出来だから早く来いと書いてある。何とも女の子とは思えぬ書き方だった。あ、よくよく考えたら女の子とメールなんて由比ヶ浜か一色くらいしかやったこと無いわ。

 

「誰からなの?」

 

「ん、あぁ、リズからだ」

 

差出人の名前を言うとアスナはまた可愛い膨れっ面になり、

 

「ずいぶんと仲がいいんだね」

 

と眉を下げて俺に言う。またもほんの少しの罪悪感とちょっとした嬉しさも感じてしまう。きっと彼女は嫉妬をしている。そう思ったから。由比ヶ浜は俺が一色や川…川…サキサキと話している時、いつもこんな様な顔をしていて僅かだが女子が何を考えたり思っているかを読み取れるようになってきたからだ。

 

「まぁあれだよ、プレイヤーメイドの品が完成したから取りに来いってメールだ。まぁ攻略開始まであと3日もあるから急ぐことはない、何なら一緒に行くか?」

 

先程とはうって変わってニコニコ笑顔で俺の手を取り、抱きしめる形で寄り添ってくる。小さく「んふふ〜、ハチ君、ハチ君」と頬を擦り合わせている。何とも上機嫌なようだ。

彼女のあの顔はもう見たくないと思ったからか、今度は手を引くことはなく、少し恥ずかしながらも俺は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

-リズベットside-

 

扉に付けられた鐘が聞こえ、店に誰かが来たのだと分かる。工房の端に取り付けてある鏡をみて軽く身だしなみを整え、埃を払う。そして店内に入るとアホ毛がある男性が彷徨いていた。一瞬通報しかけたが、あと一歩のところで手を止め、声をかける。

 

「ハッちゃんいらっしゃい、ブレスレット出来てるわよ」

 

彼は無愛想ながらも返事をしてこちらを見てくれた。先程鏡で確認してきたのにも関わらず、顔に変なもの付いてないよね、服は汚くないかな。髪型は崩れたりしてないかな。色々な不安が私を襲う。

 

彼のことを思ったり、一緒の空間に居るだけでとても落ち着く。元気いっぱいが取り柄な私だけど、彼と居ると少し肩の荷が下り、素の私でいられる。もちろんどちらも私なのだが、やはりいつもニコニコしていたら疲れてしまう。

 

「早速見せてくれるか?」

 

私は小さな木の箱を引き出しから取り出すと彼に渡す。箱を開いて私の作った最高傑作のアイテムをマジマジ見つめていた。

数秒がとても長く感じられる。すると一息ついて彼は満足そうに頷くと緊張が解けたのかどっと疲労感に襲われる。

 

「いい出来だな、ありがとう」

 

頬を掻き照れ臭そう言うとそそくさとブレスレットをアイテムストレージに入れ、まだ店内を徘徊する。

他にも何か作って欲しいんだろうか。そうは思ったが彼は良くも悪くも言うときは言う男だ。ただ単に見ているだけだろう。

そして私は胸の内に仕舞い込んでいた想いを打ち明けようと口を開く。

 

「あ、あのさ」

 

「ハチ君! 置いてくなんてひどいよー」

 

タイミング良く彼女が現れる。いや、私には最悪のタイミングなのかもしれない。彼女は私の親友。彼女は何の戸惑いや躊躇いもなく彼の腕に抱きつく。

心臓を思いっきり握り潰された感覚。あくまでそう感じただけなのに顔がその痛さに歪んでしまう。

 

「あれ、リズ! どうしたの? 具合でも悪いの?」

 

「ん? あぁ、いやいや何でもないよ。それより、応援してる」

 

私は咄嗟に誤魔化し、最後の方は彼女に耳打ちで言う。耳に付けているイヤリングが私にはとても眩しいものに見えた。本当は今にでも一人になりたい。そして泣いてしまいたい。そんな気持ちを抑えながら私は彼と彼女が出て行くのを見守る。

 

彼はまた来るとだけ言うと彼女と店を出て行った。応援してるって言った時のアスナ、顔を真っ赤にして否定してて可愛かった……な……

 

「ふっ……う…ぐ……うぇ…」

 

その場にしゃがみ込むと泣いてしまい、呼吸がしにくくなる。この世界では涙は抑えられない。一度泣いてしまえば収まるまで止まることなく涙は流れ続ける。悲しい。悲しいのに、凄いくらいに清々しい。涙を流してすっきりしたのもあるかもしれない。だけど一番の理由は私の親友が幸せにやっている。彼が彼女を幸せにしてくれている。そう思うと自然に涙は止まっていた。

 

彼は素敵な人だ。くだらない話をして、兄のように甘やかしてくれて、厳しく叱ってくれる。

 

「私もいつかそんな人が現れるかなぁ」

 

倒れるようにベットに寝転がるとすぐに睡魔が私を襲った。

 

 

 

 



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-10話-

 

 

 

-クラインside-

 

 

 

 

 

 

 

《風林火山》これは俺がリーダーを務めるリアルで友達だったやつらで形成されたギルド。このギルドも大事なのだが、この世界に来て1番最初と2番目に出会ったやつらの事が心配で、それでいて信頼している。1年半前俺はSAOの世界に囚われた。その2人は迷うことなく始まりの街から次の村へ行くといい俺を誘ってくれた。戦い方やその他諸々教えてもらった義理があるがやはりリア友は見捨てられない。その誘いを断り、俺たちは別れた。

 

そして風林火山を設立させ、そのギルドでボス攻略をしていく集まり、後の攻略組と呼ばれる最前線でSAOクリアを目指す仲間たちと一緒に行動するほど俺たちは強くなった。だが第1層にいた2人は当たり前のごとく攻略組に参加していて、貫禄すら感じさせるものがある。

 

出会った1人。キリトは30層攻略してからは《黒の剣士》なんて呼ばれていろんな所で噂されていた。全身黒ずくめな装備に端正な顔立ちで女性受けするルックスと楯無し片手剣というスタイルで圧倒的な強さを誇るため注目の的で本人は少し困ったよう。爆発しろ。

 

それを同じくして注目を集める男、ハチ。俺の見解ではキリトよりも強いと思う。本人は自覚すらしていないし、どちらの方が強いんですかとか聞かれているのを聞いてしまった時にはすぐさまキリトを指差していた。

ハチはキリトが黒の剣士と呼ばれる以前から《雷狼》と密かに呼ばれていた。由来は雷のように速く狼のように仕留めるからだそうだ。蝶のように舞い蜂のように刺すと同じ意味だろうか。……俺も二つ名欲しい。

 

ハチが言うには俺の目は腐っているからそれ見て寄ってくる奴らがいなくていいなんて言っているが俺からしたら普通にキリッとしている目である。手鏡に顔を写した時なんてあいつはこの世の終わりみたいな顔していた。顔面補正でもかかっているのかとかブツブツ言っていたが、気にしないようにしよう。

 

 

 

俺もいつかあいつらと信頼し合い背中を任せられ肩を並べる事が出来るかな。

 

 

そんな淡い思いを抱きながら今日も攻略に励む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、モテたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

-アルゴside-

 

 

流石に地の文まで語尾をカタカナにするのは控えよう。情報屋をやっているオイラはほぼ全プレイヤーの新しいスキルやらアイテムやらフィールドやら。それらをまとめて売り出して情報を提供しているため金に困ることはない。先に言っておきますがオイラは女です。よく間違われます、慣れてるけど。

 

今日も新しい情報を仕入れに探索や人に話をかけて回っている。何度も死にかけた事があるがそこは金持ち。アイテムをバンバン使って命からがら逃げたり回復したりする。

そうしている今も敵に囲まれ絶体絶命のピンチに陥っているのだが不思議と焦りはない。慣れって怖いな。

 

逃げれました。23層にあるとある村。そこに拠点を置くオイラは宿で休憩をしている。この宿は穴場で見てくれは最悪なのだが中に入ると別世界で高級感漂うホテルのようだった。代金も安く済むしまさに良物件。

 

ふかふかのベットに寝転びながらうんと伸びをする。普段描いている3つのヒゲは落とし、今は一人の女の子の時間。白のタンクトップに下は下着だけと完全なオフ。

そんな中メールの通知音が届くと差出人を見る。ハーちゃんからだった。内容はユニークスキルについて話したいことがあるという文章。

 

少しワキワキとした胸が踊る衝動を抑えローブを被り何時もの格好になる。アーちゃん、キー坊、ハーちゃんに会えるのかぁ楽しみだな。

彼らは頼りになり信頼できる仲間だ。そんな人たちに会えると思うと抑えていた感情が高ぶりスキップで約束の場所まで向かってしまう。

 

いろんな人に変な目で見られたのは内緒だけど、そんなのは気にしない。

 

さて今日はどんな事が起こるんだろう。

 

 

 



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-11話-

 

 

 

 

 

 

第51層攻略会議が始まった。久しぶりということもあり、入念に作戦が組み立てられた。もちろん指揮を取るのはヒースクリフ。彼によるほぼ完璧とも言える作戦に皆が納得し、5時間半という長い会議がようやく終わった。

 

久しぶりと言ってもつい3日前くらいに会ったばっかだがあいつら2人と顔を合わせた。パーティもその3人で落ち着き、50層の宿に俺らは集まった。

 

「久しぶりだな、皆」

 

キリトが笑顔で言う。俺はそれに適当に返事をし、アスナはそれにちゃんと言葉を返す。それから休暇は何していたか、攻略の事、現実に帰った時に一番初めに何が食べたいかとか色々喋った。あの部室とそっくりな空気に俺は酔いしれた。早くあいつらに会いたい。この時間は好きだけどあいつらと過ごす毎日はもっと好きだ。

 

「もう、人の話を聞いてるの?」

 

とアスナは俺が寝転がっているベットに覗き込む様に座って体を揺する。いろんな意味で勘違いしちゃうからやめて。

 

俺は極めてクールに冷静に体を起こすと目の前にアスナの顔があった。鼻と鼻がぶつかりそうなくらい至近距離。互いに互い、顔が熱くなり赤くなるのを感じる。耐えきれず俺は顔を反らすと向かいのベットに座って笑っているキリトの指に目がいった。

 

「お前、その指ってまさか……」

 

「あぁ、俺にもやっと守るものが出来たんだ」

 

と言い左手薬指に嵌めてある銀色の指輪を見せてくる。何故か涙が溢れ出そうになるのを堪え、俺とアスナはもう一度顔を合わせ、キリトに身体ごと向き直ると精一杯の笑顔でこう言う。

 

「おめでとうございます、キリト」

 

「おめでとう、キリト君」

 

本当に今にも零れ落ちる涙を指で拭い笑顔を作る、アスナに関しては号泣だ。

 

「なんでハチは敬語なんだよ、でも2人ともありがとう」

 

「ばっかお前、こういう大事な時は敬語を使うのは当たり前だ。例えそれが年下でもな」

 

そう、俺はこういうのは絶対に敬語と決めてある。何故かは分からないが使わなくちゃダメな気がする。何でもかんでも略せばいいってもんじゃない。新年一発目の挨拶であけおめことよろなんて殴りたくなる。

 

「大事にしてあげてね、キリト君。その人はキリト君の事大好きだと思うから」

 

「あぁ、2人で幸せになる。そして現実でも」

 

守るもの……か。無意識に俺はアスナの方に視線がいってしまう。彼女の笑っている顔が俺の瞳に映る。

 

「アスナは結婚とかってどう思う? あ、いや、別に変な意味じゃないから」

 

思わず口から漏れる言葉に俺自身動揺した。めちゃくちゃした。

 

「へ? あ…え、その、えっと……」

 

 

 

 

俺より動揺してる彼女。

 

手をブンブン振ってる彼女。

 

顔を真っ赤にしてる彼女。

 

でもどこか嬉しそうな彼女。

 

 

 

 

 

感情表現豊かな君を見ているだけで笑顔になれる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあぁ、俺はきっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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-12話-

 

 

-キリトside-

 

《月夜の黒猫団》という俺が一時期所属していたギルドがある。彼らは現実世界でも友人同士でとても仲が良く、ケイタ、ササマル、ダッカー、テツオ、サチ。そして俺で編成され6人となった。小規模ギルドだが皆んなのレベルもそれなりでこれならいずれ攻略組にも入れるほどとなっていた。

 

だが攻略組に入ってしまうと彼らには死ぬ確率が跳ね上がってしまう。このギルドに特別な感情を抱いている。俺は攻略組に入るか入らまいかを言えずにいた。

 

「キリトは攻略組なんでしょ? 攻略ってどんな感じなの?」

 

不意に隣に座ってサンドイッチを頬張っていたサチが顔をこちらに向け話しかけてくる。紺色の髪が揺れ、それに目を奪われていた俺は反応に少し遅れてしまう。

 

「ん、あぁ、大雑把に言えばボス戦前日に作戦会議して次の日に討伐かな」

 

「じゃあ注目選手じゃないけど凄い人とかいるの?」

 

首を傾げたり覗き込む仕草だったりがいちいち可愛い。SAN値がゴリゴリ削られちょっとヤバい。

 

「そうだな、ハチとアスナかな、現時点ではこの2人くらい。てかこれからも……かな」

 

ハチとアスナ。さっきも言った通り今もこれからもあいつらより注目できるやつはいないと思う。このギルド同様に特別な感情を持ち合わせ、戦闘においては戦いやすさはピカイチだ。それはそれは相当なことがなければ負けないくらいに。

 

「そっか、凄いねその人たち、キリトにそこまで言わせるんだから……」

 

俯きながら呟くサチ。落ち込んでいるようにも見えるし何かを考えているようにも見える。どちらなのかはわからないが俺はサチの膝に置かれている手をそっと握る。

 

「サチも十分凄いじゃないか、強くなりたいのなら無理してなる必要はない。焦ったらそれこそ死ぬ。ゆっくり行こう、俺がついてる」

 

「っ……、私もその2人みたいにキリトの隣に立てるかな」

 

涙ながらにそう言い手を握り返してくる。それを返すようにまた俺も握り返す。肩にサチの頭が乗り、泣き疲れたのか眠ってしまった。

 

「なれるさ、きっと」

 

小さくそう呟くと彼女は少し笑った気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

36層にある街、クリスメール。年中雪の降る街の中央に大きなクリスマスツリーがあり、生産業が盛んな街として知られ多くのアイテムや装備品が売られている。そこで俺はサチとともに買い物をしていた。

 

他の4人も誘ったのだが、俺たちを見てニヤニヤしレベル上げに行ってしまった。俺たちを見て何がそんなにおかしいのかね。

 

「あ、ねぇキリト、これなんかいいんじゃない?」

 

自分の体に合わせるようにして服を見せてくる俺はサチに苦笑いする。似合ってると言っちゃ似合っているのだが目的が違うため、注意をする。

 

「似合ってるけど今日は装備を買いに来たんだろ? ほら行くぞー」

 

「あ、待ってよー」

 

目的地に行く後ろをちょこちょこと付いてくる。俺はそれになんとなく歩幅を合わせ、並んで歩く。

サチは俺の服の裾を掴んでうっすらと微笑んでいるように見え、これが見れただけでも今日は一緒に来た甲斐があったなと心の中で思いながらまだ明るい街中を歩いていた。

 

「サチはなんで前衛で戦っているんだ? 後衛の方がいいだろう」

 

素朴な疑問だった。あいつら4人の性格上と普通に考えれば女の子であるサチは後衛に下げ安全を確保するだろう。だが反対に危険性のある前衛で戦っていた。それに単純に向いていなく、正直足手まといになっている。とそんな事は言えないのだがそれとなく質問をしてみる。

 

「……今の私が前衛で戦ってギルドの足手まといになってるのは知っている。私ね現実じゃあ引っ込み事案で人見知りなんだ、そんな自分に嫌気がさして、だからせめてゲームの世界だけでも強くなりたいの。そうしたら現実の私も強くなれる気がするから。」

 

「それでも死ぬかもしれないというリスクが--」

 

分かっている。とサチは続ける。

 

「でもその時は、キリトが助けてくれるんでしょ? そしてキリトがそうなったら私が助けるの」

 

 

そう言って真っ直ぐな瞳で前を見つめる彼女の横顔はどこまでも美しかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

《助け》

 

そうケイタからメールが届いたのは装備を買って店を出た時だった。嫌な汗を掻きはじめる。すぐに俺はケイタを追跡スキルで足跡を見つける。その足跡を辿るように街中を駆け抜ける。

 

「私も行く!」

 

最近敏捷スキルにステを割り振っていたサチが俺の後をついてくるように走る。街を出て密林に入り、奥まで進んでいくと地下に繋がる石畳の階段があった。

 

「地下迷宮区か、普通の迷宮区より強いモンスターが出ると噂されるが本当にあったとはな、行くか?」

 

横目でサチに問いかけると勿論と強い意志と共に応えてくるのだが心配があった。36層はサチを含めたほか4人のレベルでは苦戦するほどの強モンスターがうじゃうじゃしているのに地下迷宮区となると一撃くらっただけでほぼ確実にレットゾーンに入ってしまう。

 

どうしたものかと考えていると階段から人が登ってくる気配を感じ、とっさに剣を構える。段々と見えてくるその姿は見覚えのある2人組だった。

 

「ケイタ、ササマル! 他の2人はどうしたの?」

 

いち早くそれに反応したサチが2人の元に駆け寄り肩を貸す。ケイタとササマルはずっと押し黙っていた。大体の予想は付く、2人は死にそして2人は生きて帰ってきた。まずは街に変えることが一番と判断した俺はサチ同様ケイタに肩を貸してゆっくりと歩く。街への道中誰一人喋る人はいなく、ただひたすら沈黙が続いた。

 

宿を取り部屋に入ると2人をベットに寝かせ、俺とサチも寝ることにした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「……嘘」

 

翌朝2人から告げられる言葉に分かっていながらも頭を鈍器で殴られたようなショックを受ける。それに耐えきれないのかサチは部屋を飛び出してしまった。

ウインドウを開いてフレンド欄からサチを探すと現在地が表示され街の中にいるということに安心する。

 

「サチは後で追い掛けるよ。街の中にいると思うから」

 

それで何があったと付け加えると彼らはあの場所での出来事を話し始めた。ケイタたちは密林の奥で知らないエリアを見つけ、レベリングついでに探索を行う事に。そして何とかモンスターを倒しつつ奥に進むと扉をがあり開くと無人の部屋で中央には宝箱があったそうだ。だがそれはトラップでモンスタールームと言われ、引っかかると大量のモンスターが出現し、プレイヤーを襲う罠。そこで2人はやられたと説明した。

 

言っている最中の彼らの顔は絶望にも似た顔つきだった。俺はケイタたちに今日はゆっくり休むといいと伝え、2人は納得しまたベットに横たわった。それを確認するとまた追跡スキルを使いサチを探し始めた。

 

「何やってんだ、こんなところで」

 

橋の下、目の前で水が流れる場所で膝を抱えてぼんやりとしている少女が1人涙を流していた。

 

「私、死ぬのが怖い。昨日はあんな格好つけて強くなりたいとか言っていたけど仲間があんな目にあったりして……私…私…」

 

震えているのが分かる。俺はそんな彼女を見て何も言えず、ただ隣に座って見守ることしか出来なかった。しばらく泣き続けるとサチは無理矢理笑顔を作り、話しかけてくる。

 

「ごめん、泣いてばっかでキリトに迷惑かけてるね。私、疲れちゃった。このままギルドにいても余計に足手まといだから一旦離れたい。ダメ……かな」

 

何故か俺はここで言わなければいけない気がした。こんな状況で状態で、可笑しいのは百も承知なのだがこれを逃したらもう二度と訪れない、そう思ってしまった俺は話し始める。

 

「その、もし離れるんなら俺と一緒に。22層に森と湖で囲まれた場所があるんだ、そこに2人で引っ越そう。それで……」

 

「……それで?」

 

死んでいった2人とケイタとササマルの顔が一瞬よぎる。だがその顔はいつもあの4人が俺たちに向けた笑顔で背中を押してくれた気がした。

 

「結婚しよう」

 

サチは胸に手を当てて、

 

「はい」

 

と返事をする。そうすると彼女はまた涙した。今日は彼女に苦しい顔しかさせていない。だからこれからは沢山笑顔を作れるように頑張ろうと心に決め、すぐにケイタたちに話をした。

 

彼らは案外すんなりと受け入れてくれた。そんな彼らに感謝しつつ、これまで死んでいった者たちを忘れることがないようにと建てられた石碑にダッカーとテツオの名前を見つけ、祈るようにサチと結婚することを報告した。

 

「これからも俺たちを見守っていてください」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

-八幡side-

 

キリトが結婚するまでの経緯を聞いたところでひとつ疑問に思うところがあった。

 

「じゃあ今そのギルドはどうなってるんだ?」

 

「あぁ、今は活動中だよ、もう二度とあんな事が無いように無理せずレベリングして頑張っているさ」

 

そうかと呟くと俺は物思い耽る。

それにしても休暇中にそんな事があったとはね。キリトは恋愛系のことに関しては疎そうなのにちゃっかりしてるな。ちっ、末長く爆発しやがれ。

 

「結婚かぁ、いいなぁー」

 

アスナが何かを言いたそうにこちらに視線を向ける。なんだよ、言いたいことがあるなら言いなさいよ、ほら怒らないから。

でも多分言いたいことは分かっているんだけどね。ただやっぱり一歩踏み出すのは怖い。

 

「今度サチさんに会わせてよ、会ってみたいな」

 

期待の眼差しでキリトに言いよるアスナだが若干困った様子のキリトはしどろもどろになりながら承諾した。あれ、俺は? 俺も会ってみたいんだけど。下心なんてありませんよ。本当だよ。

 

「ねぇハチくん。私たちもそろーー」

 

「あ、俺用事思い出したわ、そろそろ行く時間だから行く、じゃあな」

 

アスナの言葉から逃げるように立ち去る。最高に格好悪いのは分かっている。だがこれまで受けてきたトラウマの数が言葉を聞くを拒否してしまう。嘘ではないのか。勝手に期待して勝手に絶望する。嫌になる程学んできたはずなのに。また期待している自分がいる。

 

 

悲しい表情をしたアスナを尻目に俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 




そろそろ恋愛短編集の方も更新したいと思います。



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-13話-

 

 

 

 

事の発端は俺とアスナが食事をしていた時だった。急に女性の叫び声が聞こえ、店を出ると少し前に人集りが出来ていた。近づくと全員上を見上げていて俺はつられて視線を動かすと、ロープに縛られ宙ぶらりんになっている人が剣に貫かれている光景が目に映った。

 

アスナが走り出してロープを固定しているであろう建物に入る。そして俺はここに集まっているプレイヤーの《デュエルwinner》表示を探したが何処にもそれは現れておらず、アスナが2階のベランダに出るとこの現場を最初から見ていたプレイヤーが居ないかと声をかける。とある女性プレイヤーが前に出てくると涙ながらに彼女は名前と所属していたギルドを教えてくれたが、ショックが大きいのかその後はずっと泣いていた。

 

一頻り泣き終えると俺とアスナは後日また話を聞きにきますとだけ言い、彼女の宿屋まで見送ると俺たちは解散となった。

 

「ヨルコさん、グリムロックという名に聞き覚えはあるか?」

 

翌日の朝、俺とアスナとヨルコさんは俺の宿泊している宿に集り、話し合いをする。そして俺がその名を何処で知ったのか。それは今日の朝一に鑑定スキルを持つエギルという知り合いに会い、カインズさんを貫いていた剣を見てもらったところ、グリムロックという製作者がでた。

 

彼曰く一線級の刀匠ではないとのこと、そんな奴らはこのSAO内に腐るほどいるのだが一応ヨルコさんに聞いてみた。

 

「昨日、お話しできなくてすみませんでした。忘れたくて話さなかったのですが、お話します。」

 

そう言ってヨルコさんが語ってくれたのはグリムロックに関する情報と死んだカインズさん、ヨルコさん、そして攻略組にいる聖竜連合のシュミットがまだ他のギルドに所属していた時の話。

 

3人が所属していたギルド名は《黄金林檎》半年前くらいのある日たまたま倒したレアモンスターが敏捷力を20アップさせるレア指輪をドロップした。ギルドで使う意見と売って儲けを分配しようという意見で割れたのだが多数決で決め、結果は5対3で売却という形で決まった。

 

前線の大きい街で競売屋さんに委託するために黄金林檎のグリセルダさんというプレイヤーが1泊する予定で出かけたそう。だがいつまでたってもグリセルダさんは帰ってこなかった。

 

後にグリセルダさんが死んだ事を知らされた彼女たちなのだが、どうして死んだのかはわからないという。俺はそんなレアアイテムを抱えて圏外に出るはずがないと思い、睡眠PKかと思ったのだが指輪がドロップした時期はまだ手口が広がる前だった。

 

だがレア指輪の存在を知っているプレイヤー、つまりヨルコさんを除く黄金林檎の残り7人。中でも怪しいのは売却に反対した人間だろう。

 

「売却される前に奪おうとしてグリセルダさんを襲ったってこと?」

 

俺の言いたいことをアスナが言うとヨルコさんは肯定した。そして俺はグリセルダさんの事を聞くと彼女はこのゲーム内でのグリムロックの妻だった。

 

グリセルダはとても強く、美人で頭もいいという。何それ完璧じゃん。殺意が湧いてきた。……冗談だって、睨むなよ。アスナさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

翌日の夕方。ある部屋に聞こえるのはシュミットの貧乏ゆすりする音だけ。何かを考えている様子なのだが、その貧乏ゆすりだけはやめてほしい。

 

「グリムロックの武器でカインズが殺されたというのは本当なのか?」

 

とても焦った様子で向かい合わせに座っているヨルコさんに聞く。

 

「本当よ」

 

彼女は落ち着いた口調でそれを認めるとシュミットの顔色が変わり、早口で喋り始めた。

 

「なんで今更カインズ殺されるんだ! あいつが、あいつが指輪を奪ったのか? グリセルダを殺したのはあいつだったのか……、グリムロックは売却に反対した3人を全員殺す気なのか、俺やお前も狙われているのか」

 

立ち上がって放つ言葉放つ言葉は少し怒気を孕んでいた。その気持ちはわからないでもない、だがシュミットは必要以上に怯えていた。確かにそういう状況になってみないとわからない事もあるのだろう。だが俺はこの時シュミットが何かを隠していると思った。

 

「グリムロックさんに武器を作ってもらった他のメンバーかも知れないし、もしかしたらグリセルダさん自身の復讐かも知れない」

 

この部屋にいる全員が驚きの声を上げてしまう。

 

「だって幽霊でもない限りでは不可能だわ。昨夜寝ないで考えたの、結局のところグリセルダさんを殺したのはメンバー全員であるのよ! あの指輪がドロップした時、多数決なんかしないで、グリセルダさんの指示に従えばいいんだわ!」

 

と俺たちに訴えかけ、こちらを向きながら一歩、一歩と後ろに後退していく。窓の手すりに腰をかけると共に目は大きく見開かれ、2回の窓から後ろから落ちていく。

 

落下した音が聞こえると同時に俺は窓からヨルコさんを見る。背中には短剣が刺さっていてポリゴンとなり消えていく。アスナは駆けつけるも一足遅く、目の前で起きた事実に目を瞑っていた。

 

「ちっ」

 

周りを見渡すと一人の黒いローブを着た男が向かいの屋根に立って笑っている。それを見ると俺は窓から飛び出す。男は俺に気づき走って逃げ去り、転移結晶を持つ手が見えたので投剣スキルで大きめの針を飛ばすと同時に聞き耳スキルも発動させるが突然鐘の音が鳴り出し、針が当たる頃にはローブの男は転移していた。

 

「くそ!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「いつの間に弁当なんて仕入れたんだ?」

 

俺とアスナはベンチに座り少し遅めの夜飯を食べていた。アスナが持ってきたバケットサンドはとても美味しく、毎日でも食べたいくらいだ。

 

「こういう事もあろうかと朝から用意してたの、因みに手作りです」

 

なん…だと…。これはあれですよね。そういう事だよね。

落ち着け比企谷八幡、フラットにいこうじゃないか。フォルテッシモと叫びたくなる衝動を抑えクールになれ。よし落ち着いた。

 

「まぁそのなに? いっそのことオークションにでも出せば大儲けだったのにな」

 

冗談交じりでそう言ってみるとアスナはムッとした表情を浮かべ地面を蹴る。急な物音に弱い俺は手に持っていたバケットサンドを落としてしまい、耐久値が切れて消滅してしまった。

 

「おかわりはありませんからね」

 

横から聞こえる言葉は耳に入ってきても頭に入ってこず、俺は消滅した時の映像を脳内で思い出していた。

 

「そうか、そういうことか」

 

独り言のようにそう呟くとアスナにヨルコさんの居場所を確認してもらうと俺はすぐその場所に向かった。

アスナにはギルドのちょっとした精鋭たちを呼んでもらい少ししたらヨルコさんの場所に向かうように指示してもらうときょとんとした表情で俺を見ていたが気にしていられない。

 

道中、アスナにさっきのことを説明した。カインズさんとヨルコさんは死んではおらず、そう見せかけた演出で鎧の耐久値が切れ壊れる瞬間を狙って転移結晶で何処かにテレポート、その時に発生するエフェクトは限りなく死亡した時に近いが全く別の物。

 

圏内で殺人が出来る武器もロジックも存在しない事、そして今こうしている間にも彼らはグリセルダさんを殺した犯人を探していてそいつを殺そうとしている。シュミットの事は最初からある程度疑っていて、多分今は一緒にいると思うという事。

 

それらを説明し終える頃、俺たち彼らの元へとたどり着いた。

目の前に映し出される光景はシュミットが膝をついてそれを見下ろしているカインズさんとヨルコさん。

 

シュミットは2人に何かを謝罪している様にも見え、俺たちはすぐに3人の元へ駆け寄る。すると後ろに気配を感じ索敵スキルを発動させると1人の男がこちらを覗いていた。剣を構えると両手を上にあげ戦う気がないという意思表示を見せて出てくる。

 

「お前、グリムロックか…」

 

「如何にも、よくわかったね若者よ。そしてお前らには死んでもらう」

 

指を鳴らして出て来たのは最初から攻略組で注目されている殺人ギルドの《ラフィンコフィン》通称ラフコフ。ギルドの象徴であるマークを右手の甲に見つける。リーダーと《PoH》その右腕《ザザ》そしてよくわからん取り巻きが一人、薄ら寒い笑みを浮かべていた。

 

「朗報だ、もうすぐ攻略組のメンバーが30人ほど来るらしい。大人しく捕まりやがれ」

 

「……何故だろうな、お前とは気が合いそうだ、また会おう」

 

俺も同じことを思った。不愉快極まりないがな。軽く舌打ちをすると俺はグリムロックの方に向き直る。そして地面に膝をつき、彼は魂の抜けたような顔でペラペラとグリセルダさんの事について話し始めた。

 

「私がグリセルダを殺したんだ。私とグリセルダは現実世界でも夫婦だった。一切不満もない理想的な妻だった。可愛らしく従順で、一度も喧嘩などした事はない。だが共にこの世界に囚われたのち、彼女は変わってしまった。デスゲームに怯え恐れたのは私だけだった。彼女は現実世界にいた時よりも遥かに生き生きとして充実した様子で。私は認めざるを得なかった。私の愛した優子は消えてしまった。ならば合法的殺人が可能なこの世界で優子を永遠の思い出の中に封じ込めたいと思った私を誰が責められるだろう!」

 

優子さんってグリセルダさんの事か。そんな理由で奥さんを殺したのかよ。ふざけるな。

 

「君にもいずれ分かるよ。愛情を手に入れ、それが失われ用とした時にはね」

 

「いいえ、間違っているのはあなたの方よ、グリムロックさん。あなたが抱いているのは愛情ではなくただの所有欲だわ。」

 

アスナによる言葉が引き金を引いたのかグリムロックは涙を流した。顔を手で覆い涙を拭ぐっている。そんな彼にカインズさんとシュミットは近づきグリムロックの両手を掴み、森の奥へと消えていく。ただ一人ヨルコさんは俺たちに頭を下げ、謝罪の言葉を口にすると彼女もまた深い闇に飲まれていくように消えていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

朝日が昇り始める。グリセルダさんの墓が陽に照らされ、霧が晴れていくのがわかる。とても幻想的だった。

 

「ねぇ、もし君なら借りに誰かと結婚して、相手の隠れた一面にきづいたとき、君ならどう思う?」

 

俺に背を向けて語りかけるアスナ。その声はどこか震えていて泣いているようにも見えた。

 

「……何とも思わないかな。結婚するってことはそれまで見えてた一面はもう好きになってるって訳だろ? ならまだ見ぬ一面も好きになればいい。それに例えそれが勘違いだとしても傷付くのは俺だけだからな」

 

アスナは振り返り無理矢理作ったような笑顔を俺に向ける。嫌悪感。俺はそれを振り払うかのように言葉を続ける。

 

「まぁなに? 俺ってほら、惚れやすいからな。だからアスナにそんな顔されると俺も悲しくなるっていうかなんて言うか」

 

先ほどまでの笑顔とは打って変わり涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。笑顔作ったり泣いたり、忙しい奴だな。だがそれを見るととても胸が痛い。

俺の胸に頭を預け抱き着くように密着してくるアスナ。……柔らかい。無駄にリアルな感触再現とかいらないから。

 

「好き、好き、大好き」

 

俺の胸に額を擦り合わせて言葉を紡ぐ。意外と弱い俺の理性。何処かの誰かさんは俺の事を理性の化け物と言われたのだがそんな事はなかった。

 

「俺も……好きだ」

 

抱き締める力が自然と強くなる。顔を上げたアスナは目が真っ赤でお世辞にも綺麗とは言えない。が俺の目にはとてもそれが可愛らしく見えた。そっと目を瞑り顔を近づけてくる。それに応えるように俺も。互いに近づきゼロ距離になる。

 

「んっ……」

 

涙の味が口いっぱいに広がった。

 

 

 

 



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-14話-

 

 

 

 

どうしてこうなった。俺とアスナが結婚とまではいかないものの、付き合っているということがSAO中に知れ渡り街行く人に声を掛けられては嫉妬や羨ましそうな目線が刺さり俺のHPは無くなる寸前だ。いやだってさ、ぼっちは人の目線とかに敏感なんだぜ? 胃がキリキリしちゃう。

 

「ハチ君、待った?」

 

噴水の前で立っていた俺に横から声を掛けてくる女の人。俺はそれが誰か分かっていて、そして愛する人だという事。自然と顔がニヤけてしまう。これで別の人だったら黒歴史どころか自殺するまである。

 

横を振り向くと栗色の髪の毛に端正な顔立ちの彼女、アスナが笑顔で立っている。いつもの白を基調としたギルド指定の服装とは違い、アスナ自身が選んだと思われる。お洒落なんて1mmもわからん俺にとっては一言で表すと"ふわふわしてて清潔感のある格好"と言えばよろしいのだろうか。

 

思わず見惚れていたためアスナの言葉に反応が遅れてしまう。そのせいか若干眉が下がっていて伏し目がちになっていた。やばいその表情すら可愛い。

 

「……待ってないぞ、まぁその、凄く似合ってるよ、それ」

 

こんなセリフを言える様になったのも、俺が人間的に成長したからだろうか。昔の俺なら思ってはいても口には出せなかったからな。

そういう面でもキリトとアスナには感謝をしている。……今度なんか結婚祝いのプレゼントでも渡してやらないとな。てか今日はそのためので、デートでもあるし。……口に出してないのに噛むとかあり得ないな、うん。

 

「あ、ありがと」

 

顔を真っ赤にしてしおらしくなり、モジモジとする俺の彼女まじ可愛い。戸塚に並ぶ天使だわこれ。あぁ、現実に帰ったら戸塚成分補充しないといかんな。大事なことを忘れていた。

 

「じゃあ行こっか」

 

それを合図に俺はさりげなくアスナの手を握る。驚いたのか一瞬ビクッと身体が震えるが直ぐに握り返してきた。柔らかい手の感触を楽しみたいのだが、いかんせんこういう経験が全くなかったので感触どころか本当に手を繋いでいるの怪しくなるレベルで緊張していた。

 

「つっても行き先決めてないんだよな」

 

「適当にぶらぶらしようよ、私ルートとか決めて行くのあんまり好きじゃないんだよね、それに私はハチ君といられるならいいかな」

 

いちいち俺の心を的確に揺さぶる言葉を言ってくれる。胸の高鳴りがいつまでも治らないんだが、死なないよね? まぁでも確かにぶらぶらするのは好きだ。散歩とか超得意だし。むしろ散歩しすぎて徒歩で千葉から出そうになったまである。あん時はマジで焦った。気付いたら知らないところにいるんだもん。

 

「分かった。それなら森へ行こう。奥に湖とかあって綺麗だぞ。人も少ないし結構いいところだし」

 

うんと元気よく返事をし、腕に抱きついて周りに見せつけるかの如く密着してくる。爆発しろって聞こえてるから。ちょ、アスナさんあなた自分の可愛さ分かってる?……俺そのうち殺されそうだな。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-アスナside-

 

 

 

「閃光のアスナさんですよね?」

 

「は、はい」

 

「うわっ、本物だ、すごく可愛いですね! よかったら僕たちと遊びませんか?」

 

「あー、今はちょっと……」

 

13層の森の奥深く、そこで数人の男性プレイヤー達に遭遇したところ、私に話をかけてきた。幸いモンスターは出ないフィールドで完全な観光地の場所のようだ。今までこういう風に話掛けてくる人など腐る程いたのだが、この人たちは何処か怪しい。その証拠にいつも感じる視線とは違う品定めやいやらしい視線をひしひしと感じる。自意識過剰といえばそこまでだけど私は少し機嫌が悪くなる。

 

「いいでしょ? あれ、後ろのやつもしかして連れ? そんな奴より俺らの方が強いしかっこいいっしょ」

 

ハチ君を悪く言われたのに腹立たしいけど手を上げるわけには行かない。グッと胸に押さえ込み、黙らせるために口を開いた瞬間、両肩を掴まれて後ろに引かれた。

頭に少しの衝撃が走るが痛みはなくむしろ安心する。そして肩にもたれかかる両腕。お腹の辺りで手を組み、覆い被さる形でハチ君は私を抱きしめた。

 

「悪いけど俺らデート中なの。分かったら帰ってね」

 

右耳に掛かる彼の吐息。くすぐったい感覚と共に普段全くこういう事をやらない人だ。嫉妬をしてくれたということなのだろうか。そう思ったらとても嬉しかった。

 

思わず私は彼の左頬にキスをする。彼は驚くも私の右頬にキスを返す。した時のちゅっという音が耳に残りこそばゆいけど幸せでたまらない。

 

この光景を目の当たりにした男性たちは何を思っているのだろう。悪いことしたかな? だけどハチ君を悪く言ったんだからいいよね。

 

「もう用はないかしら? 私たちはこれで失礼するわ」

 

自分でも冷めた言い方をすると私たちはまた恋人繋ぎで木で出来た道を歩き始める。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-八幡side-

 

ここに着くまで一悶着あったが無事に辿り着けた。そして目の前に広がるのはこの13層を一望できる高台。もちろん湖など見たのだが一番の目的は彼女にこの景色を見て欲しかったからここに連れてきたのだ。現実とは違い高いとはいえ酸素は薄くならない。それ故あまり疲れることもなく景色を楽しめた。

 

「すっごい綺麗」

 

アスナはフェンスに寄りかかって綺麗な瞳でこの景色を眺めていた。だが俺はこの景色が霞むくらいにアスナが綺麗に見えてしまう。ふっと小さく笑う。ベタ惚れしてるんだな俺。改めて気付いた事、好きだとは自覚していたがまさかこれほどまでとはな。

 

「うん、ここなら気持ちよくお弁当食べれるね」

 

鞄の中からバスケットを取り出す。俺の好きなバケットサンドが中に入っていた。初めてこれを食べた時は衝撃を受ける美味しさだった。以来俺の胃袋はアスナに掴まれていた。此処まで来ると身体全部がアスナに惚れてるんじゃないかと疑ってしまう。

 

そんな馬鹿げた考えを止め、近くのベンチに移動する。そしてバスケットに掛けてある布を完全に捲るとゴクリと喉が鳴る。手に取ろうとするとアスナに取られてしまい、

 

「え……」

 

「ちゃんとあげるわよ、その、あーんしてあげたかったの」

 

顔を真っ赤に染めて言うマイエンジェル。まさか俺の彼女が出来たらしてほしいランキング第2位をしてもらえるとはちょっとヤバい、嬉しすぎて泣きそう。

 

「はい、あーん」

 

口を開けて彼女の持っている食べ物に近づく。大丈夫だよね、食べようとした瞬間自分の口に運ぶとかいうオチは無いよね? シャクっという咀嚼音が響く。緊張し過ぎて味なんてよくわからない。だがトマトが入ってるのは八幡的にポイント低いのだが、まぁ許すとしよう。

 

そして成り行きで俺も食べさせる事になり、互いに食べさせあいっこしてたらいつの間にか無くなっていた。食べ終わった後なんて気まずいことこの上なかった。

 

「今日はありがと、楽しかったよ!」

 

「ん、それはよかった、また何処か行こうな」

 

うんとだけ言うアスナ。あれから38層にあるアスナの家に送り玄関先で少しだけ喋る。だがその後は会話が続かなくなり沈黙する。俺は意を決してアスナの顎に手を当てて上を向かせる。それを分かっていた用に目を瞑り、唇を少し尖らせる。それ吸い込まれるように唇を重ねる。

 

 

 

 

ーーちゅ

 

 

 

 

そんな音がしたような気がする、ソフトタッチより少し長いキス。顔が離れると名残惜むように唇に空気が触れる。俺はアスナの頭を軽く撫で、またなと言うと玄関を出る。いつか2人で住める家を買いたいな。そんな事も思いながら夜道を一人歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、結婚祝いのプレゼント買うの忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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-15話-

 

 

 

 

「手練れが一人いると戦闘が安定するな……」

 

74層迷宮区。俺とアスナはパーティを組み、レベリングをしている。最近はデートとかデートとかデートでサボり気味だったので流石にやばいと思い、2人で挑んでいた。

ほぼアスナによる華麗な攻撃で俺はトドメといった形でモンスターを倒している。蝶のように舞い蜂のように刺すという表現がぴったりな戦い方であった。

 

マップを見ながら道を進んでいく。それからしばらく歩いていると目の前に大きな扉が現れる。

 

「……ボス部屋だな」

 

「覗くだけ覗いてみる?」

 

そう言いながら服の裾を掴んでくる。絶対に2人だけでは74層のボスには敵わないだろう。てかまず行かないだろう。ボスモンスターは守護する部屋からは出ないため覗くだけ覗いてみるのもありだな。

 

「作戦も建てやすくなるだろうし、念のため転移結晶は持っておこう」

 

俺とアスナは手に結晶を持つと扉に手を当てて軽く押す。唸るような音と共に扉が開かれ、前を見る。薄暗い部屋に勢いよく青い炎が灯り、青白く照らされる。

 

「ヴヴヴヴヴ……」

 

部屋の中央に両手用大剣を持ち、羊の頭をしている二足歩行の巨大悪魔型モンスターが堂々たる風格で立っていた。一瞬にして身体中から嫌な汗が吹き出る。圧倒的その姿は俺はお前達より強いと物語っているようだった。

 

「き、きゃぁぁああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。絶対に敏捷性低いのに俺の倍の速さで道を駆け抜けて行きやがった。ついにバグったかこのゲーム。速すぎて追いつこうとするのが馬鹿馬鹿しくなり、のんびり歩いていると岩の陰でへたりこんでいるアスナを見つけた。

 

ちょっとだけ早歩きになる。これも恐らく慣れ。ほぼ毎日一緒にいたりするとこういう事になっちゃうのね。つくづく自分はアスナに惚れているんだなと自覚する。

 

「……おい」

 

「ひゃっ!?」

 

……かわいい。じゃねぇ、いや確かに可愛いんだけどね? でもそんなに驚かなくたっていいじゃない。傷ついちゃうだろーが。

 

「なんだハチくんかー、驚かせないでよー」

 

「驚かせたつもりはないんだが」

 

ゆっくりとアスナの隣に腰を下ろす。そうするとアイテム欄から何かを取り出して目の前に置き、それに掛かっている布をめくる。

 

それは何時ぞや食べたアスナが作る手料理の中で最も好きなバケットサンドが敷き詰められていた。思わず唾を飲んでしまう。クスリとかわいく微笑むと手渡ししてくれた。

 

アーンとかしてほしい訳じゃないからね?本当だから。

 

「美味しい」

 

率直に味の感想を述べるとやはりアスナは笑ってくれる。そのストレートな表情は俺には少しむず痒いモノだが、とても嬉しく思える。

 

やっと"ホンモノ"が手に入った気がする。

 

しみじみとそれをサンドの味と共に感じながら互いに無言でたまに笑いが溢れる空間が心地よいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

その後、クラインたちと久々に出会うとパーティは組まないでとりあえず一緒に行動をする様になった。

 

「この先がボス部屋か?」

 

「あぁ、この人数というかフルパのレイドじゃなきゃまともに戦うことすら出来ないかもな」

 

うーんと唸りながら何かをする考え始めているのか、はたまた考えてますよアピールをしているのか。それは分からないが空っぽの頭で何かしてるようだった。

 

特に話す事もないので黙ってクラインの行く末を見守っていると、暇だったのかアスナが俺の手を取りにぎにぎとしたり指を絡めたりしてきた。やっべぇ、幸せだわ。

 

「お、ハチたちじゃん、久しぶりだな」

 

俺たちの後ろから声がする。何でこうよく集まるんだろうね。赤い糸で繋がってるの?やだなにそれ、運命感じちゃう。

 

後ろを振り向くと見慣れた全身黒ずくめの服装に盾無しの片手用直剣さえも黒い。どこかの組織ですか、薬飲まされて小さくされちゃうの?

 

カツカツと靴の音を響かせて此方に歩み寄る姿には何処か王者の風格とでも言えばいいのだろうか、そんな雰囲気を纏っている。

 

「ボス部屋ね、中のモンスターに関してはアルゴから情報は聞いてる。一回街に戻って会議開くか?」

 

キリトがリーダーシップを発揮し、この場を纏める。流石黒の剣士様です。何処ぞの赤い髭面のサムライとは違いますねぇ。てかクソネズミ、モンスター知ってるなら教えろよ。

 

そして俺たちはキリトを先頭に一旦そのフィールドから離れようとするとまたも少し先から全員が黒い甲冑にマントを身につけている連中を見つけた。

 

あれは確か……連合軍のやつら。

 

それを見かけると場に静寂が訪れ、足音のみが響いていた。少しずつ距離を縮めるとすれ違う。先頭のリーダーらしき人と目が合うとそいつは笑っていた。不気味な雰囲気にのまれ鈍い感覚に襲われてしまい、ぼーっとしてしまう。

 

完全に交差すると緊張の糸が切れたように周りから息が漏れる。かく言う俺も肩で息をしてしまっていた。さっき目があった時から自然と呼吸をしていなかったのだろう。

 

「……あいつら多分、あの人数でボスに挑むぞ」

 

落ち着きを取り戻すと思っとことを述べる。当たり前に驚きの声が上がるが分かっていた、そんな感じの声。そんな中アスナだけは一人取り乱していた。

 

「ダメよ、助けなきゃ、あれじゃあ全員死んじゃう!」

 

一目散に元の道を駆け出して行く。それに合わせて目が追ってしまうが先を見ると連合軍は中に入っているようだ。いくら評判の悪いといっても無茶する戦いはしないだろう。

 

それを願いながらもキリトやクラインとその連中に顔を向ける。

 

「しょうがない、いっちょやるか!」

 

「そうだな、ハチ、クライン、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 



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-16話-

 

 

 

 

 

鳴り響くのは度重なる金属音がぶつかり合う音。聞こえるのは感情が恐怖に支配された声。連合軍がボス部屋に入った数分後に俺たちは入るとそこには予想しなかった光景が目の前に映し出されていた。

 

例え少ない人数で戦闘を行ったとしても早すぎる展開、俺たち以外そこにいるほぼ全員のHPゲージがイエローゾーンに入っていた。小さく舌打ちする。

 

考えろ、思考を止めるな、集中しろ。どうすれば現状を打破出来る。何かいい手は無いのか。しかし考えれば考えるほど深みにハマり、モンスターの攻撃に反応が遅れてしまう。

 

キリトの呼び声に意識が戻され、周りに意識が行く。前を見るとその時にはもう大剣は振り下ろされていた。

 

一つの声と共に横に視界がぐらりと動く。死を覚悟した俺にとっては刹那の出来事。まるで空間ごとどこかに弾き飛ばされた気分。

 

「しっかりして、ハチくん。考えてる暇なんてないよ!」

 

ハッと完全に覚醒する。俺はさっきの出来事がアスナが俺を抱えて攻撃を交わしたのだと分かる。そうだな。俺にはこんなにも頼れるな、仲間たちがいる。少しだけこちらに視線を向けたキリトに気づく、考えるな、感じろ。そう言われているようで少し笑ってしまう。

 

溜め息を一つ。すると全ての邪念が消え、視界がクリーンになる。心臓の音がやけに大きい。みんなの呼吸が聞こえる気がする。

多分これはそう、集中するの究極形態。鞘から刀を抜くと、底冷えするような冷気を纏う。

 

「よし、こっから切り返そうか」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……はぁ」

 

俺、キリト、アスナ、クライン。とその仲間たちで連合軍を庇いながらも何とか闘えている。残りのHPが1本になったその時。グリーム・アイズは自身の大剣を上に掲げ、それを真っ二つに割り出す。そうするとこのゲームには存在しない筈の両手剣になり俺たちに先ほどとは比べ物にならない様な連続攻撃を仕掛けてきた。左右によければもう片方の剣で上によければしっぽ攻撃。あらゆる場面で自分の体を最大限に活かし殺そうとしてくる。

 

「こいつはキツイぞ」

 

クラインが言う。確かにそうだ。回復アイテムも底を尽きてきたし、何より使えるほど暇にならない。レイドによる大人数パーティなら時間を多少取れるものの今はかなりの少数。このゲーム内最強の剣士のキリトでさえも苦い顔をしている。クラインのギルド風林火山のメンバーに至ってはほぼ使い物にならない程の大ダメージを食らってしまい安易に動けない状態。

 

「ちっ」

 

そうこうして一瞬でもスキが出来ればブレスなどで範囲攻撃を仕掛けてくる。交わすのは安易だが、やはりそれにより考えが遮られる。考えながら闘うなどという器用なことは出来ない。感じろとは言ってる気がしたもののそれは俺の推測でしかなく、本当にキリトがそう思っていたのかなんて知る由もない。

 

やはり第一に必要になるのは作戦。それらを建てずにボス部屋に行くには無理がある。だが諦めるという言葉は不思議と浮かんではこなかった。アスナがいるから、仲間と呼べる人たちが出来たからだろうか。守るべきものがあるからか。

 

それは分からないが、それらを思い浮かべるだけで勇気が湧いてくる。何処かの主人公っぽく必殺技なんてない。俺は俺なりに、泥臭く。格好悪く。

 

「この際勝てれば何でもいい。とことん真正面からぶつかってやる」

 

クラインが言うとキリトたちは返事をして一気に畳み掛ける。俺は出せるトップスピードで背後に回り込み両足の腱に深く切り傷を入れる。リアルの世界に似せたと言うならこの辺もそういう事か。この世界にそれが加わっているか分からないが確か一時的な行動不可が与えられた筈。永遠に足が使えなくなる訳では無いけれど彼奴らに攻撃チャンスを与えられる、それだけで大きい。意識を完全にキリトたちに向けてしまい、俺は尻尾に薙ぎ払われる。

 

「ぐっ!」

 

「ハチ!」

 

「ハチ君!」

 

吹き飛ばされる中、空中で体勢を立て直し壁に足をつける。残りHPを即座に確認する、残り僅か、レッドゾーンに近いイエロー。少しだけ意識が朦朧として、感覚が鈍くなる。

何とかそれに耐えつつ目標をしっかりと見据える。まだ硬直自体は解けていないらしい。

必死にブレスと尻尾で攻撃をしている。

 

ぐっと力一杯に壁を蹴る。確かアタックの巨人の兵長さんはこうしてたな。見よう見まねで人類最強と言われる人の技を真似してみる。身体を捻らせ回転する。そしてそのままグリームアイズのうなじに3回攻撃。

 

「ギャアアアア!!」

 

部屋自体が大きく揺れるほどの鳴き声。これは効いたらしい。すると衝撃波の様なモノが俺たちを襲った。またも吹き飛ばされ壁に衝突する。地面に落ちると落下ダメージも加えられた。

 

 

 

 

 

 

ーー視界がボヤける中、HPが無くなっていくのだけがハッキリと見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなり申し訳有りません。

お知らせです。少しだけ長い期間休載します。
この作品は終わりが近いので近いうちに更新はしますが、恋愛短編集は今のところはあれで終了です。

休載期間が終わりましたら必ずALO編を投稿しますのでしばしお待ちください。


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