史上最強の弟子達 双子の凡人 (daiya)
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プロローグ

初投稿、執筆初挑戦
完結目指して頑張ります


ある夕暮れ時の公園で一人の子供が複数の子供に囲まれている。

 

「や~い、ちびすけ~」

 

「もやし~」

 

「おい、こいつなんかずっと震えているぜ~」

 

「じゃあこいつの名前、震動にしようぜ!」

 

「やめてよ~!僕には兼一って名前があるんだよ~」

 

いま一人の子供に不名誉なあだ名が付けられようとしている。

 

少年は勝ち目が無いと分かっているのか目に涙を浮かべ抗議するしかできない。

 

「なんだと~、震動のくせに生意気だぞ!」

 

見下している者に少しでも抵抗されたのが囲んでいた少年達のリーダー格が殴ろうと手を

上げた、多勢に無勢、少年は来るであろう痛みに目をつぶり体を強張らせる。

 

しかし、ここで小さな人影が横から出てきていじめている少年たちの前に立ちはだかった

 

「こら~!兼一をいじめるな!」

 

一喝

 

相手は複数人、中には自分より体が大きい者もいるのに脅えることなく言い放つ

横やりを入られて白けたのか子供たちはすぐにどこかに行き、その場にはいじめられてい

た少年と割り込んできた少年が残った。

 

「大丈夫か?兼一」

 

「グスっありがとう信一兄さん」

 

よく見るとこの2人、背丈は同じ顔もよく似ているはどうやら双子の兄弟のようだ。

 

少年達から解放されて安心したのか泣いていた弟の手を取り立ちあがらせ砂を落とし

 

「なぁに気にしない気にしない、弟を守るのは兄の特権だからな!」

 

泣き止ませようと笑顔を浮かべながら言った。

 

「さ、そろそろ晩御飯だよ早く帰ろう、母さん達がまってる」

 

「うん!」

 

こんな風に兼一と呼ばれている少年がいじめられるのが度々あったがその都度、信一と呼ばれている少年が守っていた。

 

中学に上がり兼一へのいじめがだんだん暴力を伴うものにエスカレートしてきた、当然その時も信一は駆けつける、幸い大事になってほしくないのか信一が来るのがわかったらいじめっ子達はすぐにどこかへ行ってしまう。そんなことはさせないよう何とかいつも兼一のそばにいるようにしているが剣道部に入部しているためどうしても放課後は目が離れてしまう。そこを狙ういじめっ子たち、待ち伏せなどされていると生来の危険察知高さから回避できるが堂々と来られるとやられてしまう。体こそ大きくなったが体格は貧弱なまま、当然やり返そうなどとは思えずただ身を縮めてやられるがまま、フヌケのケンイチ、略してフヌケンとも呼ばれるようになった。

 

中学三年のある冬の日

 

いつものごとくストレスのはけ口としていじめていた、普段は怪我などが目立たないよう加減して殴っていたいじめっ子たちはその日はなんだかイライラしていてそんな加減なん

てしていなかった。

 

「おらっ」ドゴッ!!

 

「ぐぁ!」どさっ

 

「いつまで寝てんだよ、まだまだ殴り足んねぇからさっさと起きろや!」

 

「も、もうやめて」

 

「いやだね、まだイライラが収まらねぇ」

 

「そんな、僕が何をしたって言うんだ」

 

拒絶する兼一、なぜこんなことをするのかと理由を尋ねる

 

「お前の顔を見ているとムカついてくるんだよぉ、たく、今日はただでさえイライラしているのに、あ~全っ然収まらねぇもっと殴らせろや」

 

「ぎゃはは~、お前ひで~な!でも確かにこいつの顔なんかムカつくよな~、うおし俺も殴ろ~っと♪」

 

と、理不尽極まりない言い分が返ってきた。

 

何も悪くないのに、何もしていないのになぜ自分がこんな目に

抵抗したいのに恐怖で体がうごかない、なんで!

今、兼一の心の中は理不尽な暴力に対する疑問と恐怖、そしてその恐怖に打ち負けている自分に対しての情けなさと悔しさでいっぱいになっている。

 

そんなとき

 

「兼一!」

 

いつものごとく信一が駆けつける、もうすでに部活を引退した身だが今日は後輩たちの面倒を見に行っていたようでその手には竹刀(しない)袋(ぶくろ)をもっていた。

 

部活を引退してから学校にいる間は常にすぐそばにいたので最近は兼一がいじめに合うことがなくなっていたので、もう諦めたのかと思い久々に顔を出したのがまずかった!

 

信一は後悔の念に苛まれながら走る、そして兼一のもとにたどり着き

 

「俺が相手になってやる!」

 

いつものごとく啖呵(たんか)を切る

 

いつもならここで散っていく、現にさっさと散っていこうといじめっ子たちが動き出す、が久しぶりということでフラストレーションがたまっていたのか、あるいは手加減せずに殴っていたのでテンションが上がっているのか、リーダー格の少年は動かず信一に向かって

 

「じゃあ、そうしてもらおうか」

 

と言い放ち殴りかかってきた。

 

「な!」

 

これまでと違うパターンで来られて驚いたが何とか避けた

 

「かかってこいと言ったからそうしたんだぜ?反撃しないのか?」

 

そう言われ信一は殴りかかろうとした、だが

 

体が動かない、なんで!?

 

兼一みたく体が震えて動かない、完全に飲まれている

そして飲まれている理由は至ってシンプル、信一はまともに喧嘩をしたことが無いのだ。今までは駆けつけるとすぐに散っていたので喧嘩なんてすることはなかった。

 

「ほらほら、ビビってんのか?こいよ、ほら、殴ってこいよ」

 

少年が挑発する、だが信一は殴ることができない。剣道の打ち込みで自分に向かってこられるの慣れているから危なげながら回避はしているが反撃ができない。

 

正直殴られことへの恐怖はそうでもない、剣道で痛みには慣れているしやはり先生と稽古(けいこ)をするときの方が怖い、だが相手を殴ることに対する恐怖が湧き上がってくる理由は分からない、さらに反撃されるのが怖いのか、ルールもなく防具もつけていないので怪我をさせてしまうのが怖いのか、もっと別の理由なのか

 

おそらく、全部だろう。今まで経験したことのない喧嘩、ルールのない場こういったものに飲まれて混乱し恐怖し体が前に出ていかないのだ

 

そんな中、相手は構わず襲ってくる

 

「ははは!やっぱり兄弟だぜお前もフヌケなんだよぉ!」

 

少年は思う、今までなぜこんな奴が割り込んできて散っていたのかと

そんなやり取りを見ていた少年達もそう思い始めていた。

 

そして信一はとうとう一発もらってしまう

 

「ぐわっ!」

 

「良いざまだな、今まで楽しみを邪魔してくれた礼を今からしてやるぜ」

 

少年は下卑(げひ)た笑みを浮かべ言った

 

「これから毎日お前らをサンドバッグ見たく殴ってやる、さぞいいストレスの発散になるどろうよぉ~」

 

それは、それだけは許されない!

 

信一は思う、自分が殴られるのはいい我慢すればいいだけなんだから、だが自分が原因で兼一に更なる暴力が降りかかる、それだけはだめだ!

 

そのとき、ふと心にストンと落ちてきた

兼一に聞いたことがある、なぜ声高に助けを求めないのかと、よくある教師が屑なわけでもないし何より自分がいるのにだ。その時兼一は困ったような笑みを浮かべるだけで答えてくれなかったけれど

 

あれはこういうことだったのか

 

つまり兼一も同じ自分が我慢すればいいと思っていたのだ自分以外に鉾が向かないようにと、もちろんそれだけではないだろう恐怖で声が出なかったなど他にも理由があると思う。だが、大半はこの思いだったのだ

 

なんて、なんて勇気があるんだこいつは!

 

その時、信一の心に湧いた感情は驚きと尊敬、そして後悔

いつも守っていたつもりが守られていた。こんな恐怖に耐えながら自分以外の者の事を思っていた。

 

心の奥底では自分も兼一のことを根性なしと決めつけていたのかもしれない

そんな思いがあったからこそ沸いた驚き、実は兼一の事なんかわかっていなかった、見下していたという後悔、そして思いやる心からきた優しい勇気に対する尊敬

 

お前の勇気、台無しにはさせないよ

 

「さぁ、そろそろお終いにしようぜ」

 

信一がそんなことを思っているときに少年はそう言ってきた

よく見ると周りの少年たちも活気づいてきていた。信一が負けたらおそらくこいつらは全員でこの双子に襲いかかってくるだろう

 

「情けないな~、実はいままで守られてただなんて、なら今この時は絶対に弟を守って見せる」

 

そうつぶやいたのが聞こえいたのか

 

「ああ~ん、何言ってんだ?」

 

さっきまでの混乱や恐怖はもうない体はもう前に行ける

だがもう余裕はない、こいつに早く勝たないと周りの奴まで参戦してくる。そうすると喧嘩慣れしていない自分はどうしようもなくなる

 

なら、もうなりふり構っていられない。正直これは使いたくなかったけど迷っていられない。むしろここで使わないと後悔しかない、もう兄とも名乗れない!!

 

そう思うと今まで持ったままだった竹刀袋から竹刀を抜いた

 

「お?そんなもん使うのか、へ、無駄だからやめときな。所詮竹刀なんてあたったって痛かねぇよ」

 

信一は基本の構えを取り、少年の言葉に反論する

 

「剣道三倍段、刀を持ったものを相手にするときはだいたい三倍の力量が求められるって意味だ。俺はこれでも小1のころからずっと剣道をしているさっさと帰った方がいいんじゃない?」

 

信一は最後の忠告とばかりに言った

 

「あん?剣道なんか所詮チャンバラだろが喧嘩には役立たねぇよ!」

 

だが少年は聞き入れなかった

 

「そう、なら怪我しても文句を言わないでね」

 

すると信一は中段(ちゅうだん)の構えを解き、両腕を上げ左足を前に右足を下げた

それは上段(じょうだん)の構えといわれるもの、中学ではこの構えを取ることはできないが高校生になったらこの構えをとろうと思い、引退した後から練習していた。今日、部活に顔を出したのもこの構えで打ってみたかったからだ。

 

「さぁ、来い」

 

その瞬間、少年の勢いが削(そ)がれた

 

なんだ、この感じ

 

上段の構え、それは防御を捨てた攻撃の構え

火(ひ)の位(くらい)とも呼ばれ、圧倒的な気合で相手を委縮させ、そこを切る。または恐怖に負け突っ込んできたものを切ることを目的とした構え

 

そう、今、少年が感じている物はさっきまでの信一と同じ

信一に飲まれているのだ

 

「どうした、来ないのか?」

 

さきほどとはまるで逆

だが先ほどと違うことが一つ、それは信一からは前に出ていないことだ

 

片手打ちじゃあいつの言った通り大したダメージは与えられない。諸手(もろて)でしっかりと頭頂部を振りぬく。飛び込む必要はない自分の間合いに入ってきたところに渾身の一振りを喰らわす。

 

そのためには、足幅は肩幅より少し狭く、右ひざを軽く曲げ、左足は張りすぎない程度に伸ばし、右足と左足の間の真ん中に重心が来るよう前傾姿勢にならずそして、相手が間合いに入って来るまで我慢。

 

乾坤(けんこん)一擲(いってき)、今はただこの一撃に集中する。

 

気合で押している、少年はもう完全に飲んでいる。それ故になかなか前に出てこない、先ほどまでは押していたから優勢に立っていたからいまさら逃げるなんてことはできないのだろう、そこで信一はふと気を緩めた

 

変な感じがなくなった?これならいける!

 

少年はその隙を逃さなかった。だがそれは信一の罠、信一はわざと気を緩めて誘ったのだその誘いに少年はまんまと乗ってしまった。

 

少年が間合いに入ってきた瞬間、信一は緩めていた気を一気に引き絞り一歩前にでた、頭頂部めがけ竹刀を振り落す当たった瞬間、渾身の力を込めて、大地を踏み砕くような気持ちで踏み込み振りぬく。

 

その瞬間、少年は沈んだ。

試合ならだれがどう見てもまごうことないなき一本。

それも高段者が放つような中学生レベルならそうそう見ることの出来ない一振り

気絶した少年が打たれ弱かったわけではない、たとえ面をつけていても気絶していたかもしれないそんな一撃だった。

 

その後少年たちは、気絶していたリーダー格の少年を引きずって散って行った。自分たちの方が先に手を出していたし、これまでの経緯から味方になる者はいないだろうから誰かに言いふらすようなことはしないだろう。

 

信一は余韻に浸っていた

今までの剣道人生の中で会心の一振りだった。

だがそれ故に剣道をやめるのに悔いはなくなってしまった。

剣道家が防具をつけていない者を竹刀で殴るのは、剣道家として最低の行為だ、もちろんそんなこと気にしていない者は多い、だが信一は剣道をはじめるときに竹刀で人は殴らないと決めてしまった。それを破ったのだ、たとえ弟を守るためとはいえ信一はこれをしょうがないとは思えなかった。

 

最高の一本を取った、だが皮肉なことにこの場ではその行為が剣道家 白浜信一にとっての手向け(たむけ)となってしまった

 

「兄さん、ありがとう」

 

そんな信一をよそに兼一が近くにより信一に礼をつげた

 

ほんとは俺の方が礼を言いたいし、謝らなくちゃいけないけど

 

「気にしない気にしない、いつも言っているだろう?弟を守るのは兄の役目だって!」

 

「うん、でも今日の兄さんはいつもと違った気がしたから、なんかいつもよりも頑張っていた気がしたし、それになんだか今言っておかないと思ったから、だからありがとう!」

 

!・・・ほんとこの弟はなんで人の心の在り方読むのがうまいかな?こういうところがあるからいじめられやすいんだろな~、というよりは思うだけでいいのに、口に出してしまうから苛められるんだろな~

 

だがその言葉で信一は救われた、剣道をやめることになったけど後悔はしていなかった

 

「さ、帰ろうか。父さんたちには怪我した言い訳をなにか考えないと」

 

「そうだね、心配させるといけないからね」

 

そして双子は帰路に着く

今思えばここから双子の運命が動き出したのかもしれない

そう、その後(のち)、武術界にその名を轟かす双子の凡人の運命が

 

 

 

 

 

先ほどまでの出来事を見ていたのは当事者たちだけではなかった。

たまたま目についたのだろう、夕日が背後にあるから顔までは分からないがシルエット的には女性が見ていた、ただ見ている場所は電柱の上という常識では考えられないとこだが

 

「ん・・・・特別な才能はないけどいい一振り、だ」

 

と一言つぶやきどこかに行ってしまった。

 




信一が剣道をやめたことを兼一が知ることになるのはもうちょっと先、このことが兼一にどんな変化をもたらすかはまた今度

6/3 改稿


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第一話 兼一の決意

僕の兄さんはかっこいい

 

顔がとかではなくその行動とかあり方が、少なくとも僕はそう思っている

僕は習い事(スポーツ)が長続きしない、チビで泣き虫、体を動かすのが苦手だし、痛いのも嫌いだ。今までメジャーなものは一通り習ってみたが最長で2週間、最短で3日でやめてしまった。

 

だけど兄さんは違う、僕と同じチビなのに、僕ほどじゃないけど体を動かすのもそんなに得意じゃない。でも僕が3日でやめてしまった剣道をずっと続けている。痛い思いしかしないのになかなか試合に出して貰えないし、出して貰っても勝てないのに諦めずに続けているそのあり方がすごいと思った。

 

僕はよくいじめられる、チビで泣き虫でもやしっ子、もう格好の的にしか見えないのだろう、よく公園などで囲まれ苛められている。でもそんな時、信一兄さんは颯爽と駆けつけていじめっ子達を追い払ってくれる。僕と同じ体格なのにどこにそんな勇気が詰まっているのだろ?

僕を守ってくれる兄さんの背中はまさにヒーローそのものだ

 

中学に上がってもいじめられた。だが小学生の時とは違って暴力を振るわれるようにもなった。相も変わらず兄さんに守ってもらっているが、兄さんは剣道部に入部したため暴力沙汰はご法度だ。これ以上兄さんに迷惑をかけるわけにはいかない。でも反撃することなんてできないし逃げるにも限度がある。だから、我慢することにした。兄さんに迷惑をかけないよう、兄さんがのびのびと剣道ができるよう、そして万が一にも兄さんに鉾が向かないように、僕が我慢すればいじめっ子達は兄さんには手は出さないだろう。だから我慢して耐える。

 

中学3年になり夏を過ぎて兄さんは無事に剣道部を引退、レギュラーに選ばれ試合には出られたものの目立った成績は残せなかったけれど、試合に出ている兄さんはやっぱりかっこよく見えた。

 

部活を引退したことで一緒に過ごす時が長くなった。兄さんは分かっていたのかいじめっ子達は僕が一人じゃないと絡んでこないため3~4ヶ月はとても平和なものだった。

 

だけど、ある冬の日。この日がある意味僕と兄さんの運命が動き出した日だったんだろう

 

その日、兄さんは久々に部活の方に顔を出していた。なんでも高校に入ったらやってみたい構えがあるみたいで家にいる時も一人で練習していたけどそろそろ実際に打ってみたいと言っていた。

最近はいじめっ子達も来ないし、兄さん自身の時間も大事にしてほしかったから、どうも行きづらそうにしていた兄さんに「僕のことは気にせず行ってきなよ」と言って送り出した。

 

でも、運悪く件(くだん)のいじめっ子達と遭遇してしまった。

ああ言った手前兄さんの邪魔をしてはいけないと思い、道場から絶対に見えない校外まで逃げたがすぐに捕まってしまった、しょうがないと腹をくくり何とかばれないよう耐えるしかないと思っていた。

 

不幸というものは重なるもので今日はいじめっ子達リーダー格の少年がイライラしているようで、いつもは目立った怪我などをしないように加減して殴ってくるのだが今日は怪我しようがお構いなしに本気で殴ってきた。おそらく久しぶりにする、ということもあるのだと思う。

 

怖かった、いじめられることにある意味もう慣れたと思っていた。でも甘かった。本気の悪意・害意を持った殴打がこんなにも痛くて怖いものだなんて思いもしていなかった。いつも以上に抵抗しようという気になれない、口も動かせないからやめてという言葉も発せられない。

 

なんで、声すら出せないんだ

なぜ、少しでも抵抗しようとしないん僕は!

 

今、僕の心の中は、殴られる恐怖、そして理不尽な暴力に屈し、やられるがまま何もできない自分に対する情けなさと悔しさでいっぱいになっている

 

僕がいつも以上に無抵抗なのが気に入ったのかさらに力を入れて殴ってくるそれに感化され見ているだけだった周りの人達も参加しようとしてきた。

 

もうだめだ、と思ったそのとき兄さんがいつも見たく駆けつけてくれた。

 

なぜいじめられていることと場所が分かったのか?と後で聞いたらちょうど部活が終わってすぐに新島が来て知らせてくれたらしい。

新島とは小学生のころから一緒で、過激なことはしないが僕をいじめる常習犯だ。

僕に対して地味な嫌がらせをずっとして来る(自分が教師にした悪戯を僕のせいにしたりなどetc)が兄さんに阻止されたりお仕置きされている。兄さんも警戒はしているが変に馬が合うとこもあるらしい、新島の方もなぜか兄さんに対してはよく情報提供をしたりとそこそこにまともな付き合いをしている。

 

まぁそんな経緯があって駆けつけてくれた兄さんだがいつもは兄さんが来るとすぐに散っていくのに今日は散らずにいるリーダー格の子に対し戸惑いを見せていた。

するとリーダー格の子がいきなり兄さんに殴りかかっていった。

何とか避けたけどさらに追い打ちをかけられていた。

 

兄さんはすぐにやり返すものだと思っていたがなんだか様子がおかしい、ずっと危なげに避けているだけだ、それどころかなんだか既視感を覚えた。なぜだと思ったが兄さんの顔をみてすぐに分かった、あれはいじめられているときの僕と同じだ。

 

なぜ、あの兄さんがと思ったが思えば兄さんは喧嘩なんてしたことが無いじゃないか!

今、僕には兄さんの気持ちが手に取るようにわかる。

 

ごめん、ごめんよ兄さん。

僕のせいでこんな目に合わせてしまった。

心のどこかで兄さんなら喧嘩なんてどうってことないだろうと思っていた。だから僕は今までただ守られるだけだった、駆けつけてくれるのを待っていた。

この恐怖は僕が一番わかっていたのに!

何が我慢すればいいだ、そりゃそうだよだって、たった1~2回耐えれば最後には兄さんが守ってくれていたんだもん。

何が迷惑をかけたくないだ、かけているじゃないかそれも最低な形で!

結局、甘えてばっかりなんだ僕は。なぜ、なぜこんなにも僕は弱いんだ!

 

僕がそんな風に後悔ばかりしている中とうとう兄さんが殴られた。

自分の経験上この後の展開は目に見えている、周りをよく見ると今まで見ていただけの人達も兄さんがまともに抵抗できないと解り始めたのか自分たちも参加しそうな雰囲気になっていている。

 

これ以上は兄さんを傷つけさせまいとせめて声だけでも出して助けを呼ぼうとした、だが依然声は出ない、今ほど自分が嫌な時はない。大事な人に守られるだけで、大事な人の危機を知らせることすらできないなんて

誰か、誰か兄さんを助けてくれ!僕はどうなってもいいから!

 

リーダー格の子が兄さんに近づいていく、兄さんの雰囲気が変わったような気がした。

そう思っていたら、今まで手に持ったままだった竹刀袋から竹刀を取り出した。

そのあとは、なにか言葉をかわしていたがすぐにリーダー格の子が前に出ようとしたが、兄さんは今まで練習していた上段の構えを取ったとたんに足を止めてしまった。

 

そのあとの展開は一瞬の出来事のように感じた。少しの間睨み合っていたかと思ったがリーダー格の子がいきなり前に出た、だけど兄さんの竹刀が届く距離に入ったとたん、兄さんは竹刀を振りおろした。そこそこの距離があったにも関わらず打撃音が聞こえてきた。そして、リーダー格の子は沈んだ。

 

しばらくの静寂、ほかの人たちはリーダー格の子が気絶したと解ったとたんその子を抱えてどこかに行ってしまった。

 

脅威が去ったと解り、兄さんの方に行こうとして何か兄さんの様子がおかしいように見えた。すぐに駆け寄りお礼を言う、いつも通り気にするなと言われたが何かいつもと違う感じがてすぐに言わないといけないと思ったと伝えるとなんだか驚いたような顔をしたけれどすぐに元に戻り帰ろうかと言われ、そのまま帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

二人そろって大小の傷があったので帰りつくまでに適当な言い訳を考えた。

 

家に帰ると案の定、傷について聞かれたが考えた言い訳でゴリ押し両親ともになにか言いたそうだったが何とか納得してくれた。

 

その後、夕飯を食べて風呂から上がった時リビングへ行くと兄さんと両親が何やら真剣に話していたので入らず隠れて話を聞くことにした。

 

「さて、信一よ話とはなんだい?もしや恋愛相談か!?なら父に任せろこう見えて若いころはモテたからな!」

などという父さんに母さんが一言

 

「あなた」

 

するとすぐに口を紡ぐ父さん

そんな一連の流れを気にせず信一は語りだす

 

「急な話で悪いんだけど、俺、剣道やめようと思う。高校では剣道部には入らない」

 

いきなりな話に両親ともに唖然としていた。もちろん僕も

 

「な、なぜだ信一!あんなに頑張っていたじゃないか!?」

 

「そうよ、それに楽しそうにもしてたじゃない、どうしていきなりやめるなんて言い出すの?」

 

動揺する父さん、戸惑っている母さん、僕も困惑している

 

「ちょっと、ね」

 

「何がちょっとなのか、理由を言いなさい!」

 

父さんが兄さんに詰め寄る

 

「あなた、落ち着いて」

 

母さんが宥めるが

 

「落ち着いていられるか!」

 

強い口調で怒鳴る父さん、すると

 

「あなた!!」

 

と、さらに強い口調で父を制する母さん

父さんの動きが止まり落ち着きを取り戻したら

 

「信一、理由を聞かせてくれる?お父さんの言うとおりあんなに頑張っていたじゃないの」

 

その言葉に答える兄さん

 

「俺は、どんな理由があれ剣道家としてやってはいけないことをした。だからもう剣道はできない。ただそれだけだよ」

 

その言葉に僕ははっと思いいたってしまった。

3日でやめてしまったけれど始めるときに剣道の先生から剣道家がしたらいけないことを教えてもらった。何個かあったけれど特に強く言われたことがある。

それは、防具をつけていない人を竹刀で殴ったらいけないということだ。

剣道とは戦うすべに非ず、あくまで己を鍛えるための物だということを言われた。

 

「それは何?」

 

そういうことを知らない母さんが聞くが

 

「言えない」

 

と兄さんが拒否。おそらく言ったら今日のことを話さないといけなくなり余計な心配をさせることを避けているんだろう

 

「信一!」

 

「母さん」

 

まともに理由を話そうとしない兄さんに今度は母が激昂する

しかし、先ほどとは逆に今度は父さんが母さんを抑え兄さんと向き合う

 

「信一」

 

「はい」

 

「それはその傷と関係あるのかい?」

 

「それも言えない」

 

話の核心を突いて来た父さん

しかしかたくなに話そうとしない兄さん

 

しばらく兄さんの目を見ていた父は確固たる意志を感じたのかこれ以上聞こうとしなかった、だけど最後に

 

「最後に聞かせなさい」

 

「なに?」

 

「試合に勝てないからやめるんじゃないんだな?」

 

「はい」

 

「練習がきつくなるだろうからやめるんじゃないな?」

 

「はい」

 

「何か後ろ暗いことをしたからやめたいんじゃないんだな?」

 

「・・・はい!」

 

「なら、いい」

 

「あなた?」

 

「母さん、信一は何か思うことがあってこんなことを言い出したんだろう。でもこの顔を、目を見て分かった決して逃げているわけではないと、譲れない何かがあったんだと。」

 

「それに特に悪いことをしたいということでもなさそうだ。おそらく高校では別のことがしたくなったんだろう。ならここは応援してやろうじゃないか、はっはっは~」

 

と、何かに納得したような父さんは母さんにそう言った。

 

「・・・ふう、分かりました。」

「信一、私ももうこれ以上聞きません。」

 

「・・・ありがとう」

 

何とか両親を説得できたみたいだ

そしてもう寝ようと思ったのか僕が隠れている廊下に出ようとしたので僕はあわてて自分の部屋に戻ろうとしたので兄さんに両親が最後に一言いったことに気がつかなかった。

 

 

 

 

「「信一」」

 

「何?」

 

「9年間よく頑張りました」

 

「どんな理由があったかわからないけれど今はゆっくり休みなさい」

 

と母さんと父さんが交互のに言った。

 

「・・・はい!ありがとうございました!」

 

信一は目に涙を溜め、喉を少し震わせながら9年間の剣道生活を支えてくれた両親に礼を告げ部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

部屋に戻った僕は今日の出来事を思い出していた

今日感じた情けなさと悔しさ、そして改めて感じた兄への憧れを

 

そして先ほどの両親と兄とやり取りも

 

兄さんが剣道をやめたのは僕のせいだ

僕が弱かったから、僕に勇気がなかったから

 

何度も繰り返す自責の念

そして兼一は決意する

 

もう兄さんに守ってもらうばかりなのはだめだ!

強く、強くなりたい!

これ以上兄さんの大事なものを無くさせないように、大事な人を守れるように

 

そして

兄さんのように誰もが見て見ぬふりをする悪に立ち向かえる自分になれるように!

 

僕は変わらなくちゃいけない

 




一話と言っておきながらまだほとんどプロローグみたいなもの
原作では美羽に憧れてなりたい自分を自覚した兼一、でもここでは兄に憧れてなりたい自分を自覚しました。まぁ美羽にはなんだかんだで憧れて惚れるので安心してください。

ちなみに信一と両親とのやり取りの最中、ほのかはもう自室で熟睡していました。

次回からやっと原作一巻に入ります。
実は書けそうならオリキャラをもう何人か出す予定、何分(なにぶん)小説を書くのなんて初めてなので、できそうになかったら出て来ることはないですが。
頑張ります。
では


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第二話 新たなる憧れ

長すぎるかも


あの冬の日から早数ヶ月、信一と兼一は高校生になる。

 

入学する高校は荒涼高校、かなり多くの生徒数を誇るマンモス校だ。

 

生徒の自主性を重んじているので開けた校風である。そのため不良生徒も多く、有名な不良校でもある。

 

なぜ、信一たちはこの高校を選んだのかというと単純に近かったのと、なんだかんだで真面目な生徒数の方が多く、優秀な教師もそろっているので進学校としても有名でもあり、両親も特に反対しなかったため入学した次第だ。

 

 

そして入学式の日

一通りの行事も終わり校門前で待っている両親と合流しようと二人で歩いていた。

 

しかし、ふと兼一が足を止め信一の目をまっすぐ見て

 

「兄さん、僕、空手部に入部するよ」

 

いきなりの弟の言葉に呆然とする信一、しかし意識が戻ると

 

「・・・いきなり何を言い出すんだい兼一」

 

体を動かすのが苦手で、痛いのが嫌いな弟のセリフがどういう意味なのか理解できないのと聞き間違えだったのかもという思いからもう一度問い正そうとした

 

「だから、空手部に入部するよ」

 

どうやら聞き間違えではなかったみたいだ

 

「やめとけ、剣道も3日でやめただろ?空手は基本寸止めだけど事故が多いって聞くよ」

 

入部をやめさせようと説得する信一、しかし兼一は

 

「らいしいね、でも入るよ」

 

拒否する

 

「なんでいまさらそんなことをしようと思うんだい?」

 

それでも思い直させようと理由を聞こうとする信一

 

「強く、強くなりたいんだ僕は」

「もう兄さんに迷惑をかけたくないんだ」

 

「なんだ、それは?俺がいつ兼一を迷惑だなんていった!」

 

心外だ、と言わんばかりに語気を強めて信一は否定する

 

「・・・剣道を」

 

「ん?」

 

少しの沈黙の後、兼一がつぶやく

 

「剣道をやめたのは僕の所為なんでなんでしょ?」

 

「っつ」

 

この瞬間、信一はあの日の夜の出来事を聞かれていたことに気がついた

 

「僕をかばうため、竹刀で何もつけていない人を殴ったから剣道をやめたんでしょ?」

「僕が弱かったから、僕に勇気がなかったから兄さんの大事なものを捨てさせてしまった」

 

うつむきながらにそういう兼一、弟が気にすることを分かっていたから兼一がいないときを見計らって両親に言ったのに、結局聞かれてしまっていた。

 

「・・・兼一の所為じゃないよ、あれは竹刀を使わないと勝てなかった俺に問題があったんだから」

 

信一は心の中で自分の迂闊さに頭を抱えながら、自分の本心を兼一に言い聞かせる。

 

「でも!それでも僕があの時、抵抗できていたら、そもそもいじめにあっていなかったらこんなことにはならなかった!」

 

信一は驚いた

今まで弟が自分に対しここまで強い感情を言ってくる、ぶつけてくることなんてなかったから

 

「もう、兄さんに迷惑をかけたくない!兄さんが傷つくのを見たくない!兄さんの、兄さんの大事なものを失わせたくないんだ」

 

・・・やっぱり見抜かれていたか

 

あの時の自分の心を見抜かれていた

迷惑だなんて思ったことなんてない、それは兄の義務とかではなくれっきとした自分のしたいことだったから。あの時の選択も後悔なんてしていないそうしないと勝てなかったから、守れなかったから。でもやはり心のどこかにぽっかりと穴が開いた気がした

 

「僕は、変わりたい。いや、変わらなくちゃいけないんだ!!」

 

うつむいていた兼一が顔を上げまっすぐと信一の目を見た

 

ああ、この目はあの時の目だ

 

それはいつかほのかが一人で公園に遊びに行き近所の悪がき共に苛めれられていたとき、二人でほのかを迎えに行きその場面に出くわした。

兼一を助けるときみたく駆けつけようとしたら自分より先に兼一が駆け出し、ほのかをかばった。いつもと違う感じの弟に驚き出遅れたがすぐに後を追った。

 

その時に見た目と同じ目をしている。

そう、絶対に引かないと決めた、自分を貫くそういう目をしていた。

 

これは、もうなにをいっても無駄だな

 

こうなった兼一が梃子でも動かないことを知っている信一は説得を諦めた

 

「・・・はぁ、わかったよ」

 

「じゃあ」

 

「ああ、空手がんばりなよ」

 

「うん!」

 

まぁ何かあったらいつも通り守るけどな

 

弟の意思を尊重したものの結局どこか過保護なことを考える信一

 

「さ、この話はお終い!さっさと父さんたちのとこにいこう。きっと校門前でそわそわしているだろうから」

 

「ふふっ、そうだね」

 

兄弟は両親(正確には父)をどう説得しようと考えながら校舎を出た。

 

そして入学から一か月の時が立った。

 

 

 

 

「お~い、兼一~」コンコン

 

信一は弟の部屋のドアの前でノックをしながら兼一の名を呼んでいる

 

現在時刻 朝7:00

 

いくら学校が近いといってもそろそろ起きないと遅刻する、なのになかなか起きてこない弟を起こしにいている信一、だがいくら呼びかけても反応なし。これはもしやと思い遠慮なくドアを開ける

 

「やっぱり」

 

 

本、本、本

運動が苦手でインドアな兼一の部屋は窓とドアと机があるスペースだけを開けてあとは本棚が部屋の周りを囲っている。そんな部屋だからポスターなどの飾りは一切ない、だが殺風景というわけではない。確かに部屋の中は本ばかりだが窓の外、ベランダには色とりどりの花が咲いていおり、ドアの前に窓があるから部屋に入った時の印象は明るく感じるようになっている。

子供の頃は図鑑を見ていることも多く、特に植物の図鑑がお気に入りだった兼一はガーデニングが趣味になり、はじめはそれこそこのベランダだけだったのだが気がつけば庭にまで手を付けており、白浜家は一年中季節の花に囲まれることになった。

 

 

そんな兼一の部屋の解説は置いといて話を戻す

 

信一が弟の部屋に入ると兼一は机の上で突っ伏して寝ていた

中学に上がったころから夜遅くまで本を読み、寝落ちするといったことは多々あった。

 

そういう時、信一は

 

「じゃ、俺は先に学校へ行くからな~」

 

容赦なく弟を置いて先に学校へ行く

はじめのうちはきちんと起こしていたのだがなかなか起きず自分も遅刻しそうになったためもう置いていくことにしているのだ

 

「あらあら、またなの?」

 

「はっはっは~、兼一はしょうがないな~」

 

「兼お兄ちゃんは寝坊助だじょ~」

 

「そうみたい、だから俺はもう行くね~行ってきま~す」

 

「「「いってらっしゃい」」」

 

両親、妹ともにいつもの日常とばかりに普通に長男を送り出す。

 

「う~ん、いい天気だ。さて今日は何を作ろうか」

 

実は信一、高校では技術工作部に所属、剣道部に入部せず、兼一は空手部に入部し暇な時間ができたため前から興味のあった物作りや機械いじりをしようと思い入部したのだ。

 

意外にも信一はそういう物作りの才能があった。

家の小物の修理や作製なんかもしていたから意外と基本ができていたこともあるのだろうが、先輩に教えられたところで分からないところや出来なかったところは今のところない、現在、工作部には2年が居いないし飲み込みも早いのですでに次期エースとして期待されている。なんのエースなのかはわからないが(笑)

 

“剣道は結局ぱっとしなかったけど俺ってこういう才能があったんだな~”

“兼一も植物を育てる才能があるっぽいしつくづく戦うっていうことに対しては兄弟そろって縁遠いな~”

 

そんなことを考え、今日作る物を考えながら登校した。

 

学校に着き、自分の教室へ行きそして自分の席に着いた。ちなみに兼一とは別のクラスである

 

さて今日の兼一はどのくらい遅れてくるかな~

 

そんなことを思いながら、一限目の授業の準備をして何人かの友人と談話しているとすぐに授業の時間になった。

 

そして昼休み

いつも通り、兼一と昼食を食べようと兼一の教室に行った

 

「兼一~昼ごはん食べようぜ~」

 

「あ、兄さんまた来たの」

 

「なんだ、その言いぐさは」

 

「だってクラスも遠いのに毎日来るんだもん、もしかして友達いないの?」

 

「おバカ、それは兼一の事だろうに」

 

「うぐぅっ」

 

「一人さみしくないように来てやっているんじゃないの」

 

「うう、ありがとうございます」

 

「よろしい、じゃあ食べようか」

 

今の会話から察せられる通り兼一にはいまだに気のおける友達がいない

それにはいくつか理由がある

 

もともと引っ込み思案ということもある

 

それに兼一は心の中心を見抜く能力にたけている、それも無意識に

ただそれだけなら友達ができないなんて事態にはならないだろうが問題はそれをすぐに口に出してしまうことだ。

誰でも自分の心にずかずかと入って来られたくないだろう。そこにずかずか入り込むのだからそれは嫌われる。

 

そして一番の原因はなめられているからだろう

ある腐れ縁の宇宙人がフヌケンという名をまき散らしたため男子にはなめられ女子には相手にされないクラス内カーストは最下位なのだそういった奴はいじめに会いやすい、そういうことを分かっているため巻き込まれたくないから誰も近づこうとしない。

 

こういった理由から入学して一か月、兼一にはいまだに友達がいないのである。

 

まぁ兄弟の仲がいいから一部の女子からはネタにされてたりしているのだが、それはこの双子の兄弟は知らなくていいことだろう

 

椅子を借り二人で弁当を食べていると信一はあることに気がついた

 

 

「兼一、今日は結局何時くらいに学校へ来たんだ?」

 

「ああ~!そういえば、なんで起こしてくれなかったの!」

 

「起こしたよ、でも起きなかったんだからしょうがないだろ自業自得だよ」

 

「うぐ、確かにそうだけど」

 

「いつも言っているだろ?早寝早起きって」

 

「うう~」

 

基本ブラコン、シスコンな信一だが甘いだけではない、意外と生活態度には厳しい

説教が始まりそうになったとき信一はあることに気がついた

 

「ん?なんだか見かけない子がいるね?」

 

「ああ、今日転校してきたんだよ、確か名前は風林寺 美羽さんだったかな?」

 

これ幸いにと話題を変えようと情報を与える兼一

 

「へ~、入学して間もないこんな時期に珍しい、どこから?」

 

「それがね松竹林高校なんだ」

 

「ふ~ん、あの名門から転校だなんて余計にめずらしいな」

 

「だよね~」

 

「まぁ、気にすることないか」

 

「それもそうだね、ただ」

 

少しめずらしい経歴を不思議に思いつつ、そんなこともあるかと思った信一に同意した兼一しかし何か気になることがあるようだ

 

「どうした」

 

「うん、なんだか僕と同じような感じがするだ」

 

「はぁ?」

 

信一はどういうことか分からず聞き返す

 

「どこが?」

 

「どこと言われると難しいんだけどね?ただ、まぁなんとなくそう思ったんだ」

 

兼一がそう思うんならそうなんだろうな~

 

兼一の心中を見抜く力はいつも実感しているため納得する信一

 

そんなことを思っている中、信一はあることを思いついた。

 

「そうだ兼一、あの子と友達になってきなよ」

 

「なななななんで、そそそそそそんなことを!?」

 

突然の兄の提案に驚く兼一

 

「だってあの子、まだお前のあだ名なんて知らないだろう?」

 

「そ、そうだね」

 

信一の言いたいことは分かった、兼一が友達を作れない最大の理由を転校生は知らないからチャンスだと言いたいのだろう

 

「それに、よく見るとかわいい子じゃないか」

 

「いや、ぼ、僕には女の子の友達なんてとてもそれにあの子は・・・」

 

「ん、なにかあったのか?」

 

実は兼一、登校時にあっている。その時にいきなり投げ飛ばされ

 

「後ろに立たれたら投げ飛ばしません?」

 

などという危険極まりない一言をもらっている

 

“あ、あんな危なさそうな娘とは友達になれそうにないよ~”

 

実際、そんなことを言われ実行されたら誰でも敬遠するだろう

だが兄に朝あったことを正直に言うわけにもいかず

 

「い、いやぁ?特に何もないよぉ?」

 

と、ごまかす。だが

 

あ、なんか隠してるな

 

信一には何か隠していることはバレバレ、外見は、信一含め弟妹みな母親似なのだが兼一は内面的には父親にそっくり、父も隠し事はへたくそなのである

 

「そうか、まぁ無理にとは言わんさ」

 

何かあったことは分かるが、それに触れてほしくないのだろう、とりあえずこの話題を打ち切る

 

「ところで兼一」

 

「何?」

 

「空手部はどうだい?」

 

信一がそう聞いた瞬間、兼一の表情が曇った

 

「う~ん、まだまだだね、やっぱり僕には才能がないから、なかなかうまくならないよ」

 

だがすぐに取り繕い当たり障りのないことを答えた

 

「・・・そうか、まぁ焦ることはないよ、じっくり自分の速度でやっていけばいいさ。これ経験者からのアドバイスね」

 

「あはは、いいことを聞いたな~、まぁうん、自分のペースでやれるとこまでやってみるよ」

 

兼一が何か隠している、その事には気がつている。いや実は何を隠しているのかも気がついている・。

 

でも、入学式の日に言われたことを、兼一が自分で決めたことをできる限り邪魔をせず、兼一の思いを尊重して。本人の口から直接言って来るまである程度は我慢しようと決めているため、余計なことはいわず見守る。

 

そのあと適当に雑談をして予鈴がなったので急いで信一は自分のクラスへ戻った。

 

そして放課後、技術工作部の活動が終わり帰路についている、空手部は帰宅時間ぎりぎりまで練習するので帰りはいつも別々だ

 

そんな下校中、後ろから不快な声が聞こえた

 

「し~んい~ちく~ん」

 

その瞬間、信一は苦虫を3~4匹つぶしたような顔になり声のする方向へ顔を向けた

 

「なんだ宇宙人、充実した部活動を終えて春の終わりを感じながら気持ちよく帰宅している中、お前の不快な顔なんか見たくないし声も聴きたくないんだが?」

 

「ひゃははは!そうほめるなよ、照れるじゃねえか//」

 

「ほめてないよ!!」

 

さてこのおかっぱで耳が尖がり、舌の先が二股で心なし額から触角が出ているように見える宇宙人と悪魔を足して人間に変身させたようなこの人物は誰かというと

 

こいつこそ件の宇宙人、新島 春男である

信一と兼一の天敵だ

小学校から今まで全部同じ学校で、暴力こそ振るってこないが兼一をいじめる常習犯

教師に悪戯をして兼一のせいにしたり、いじめっ子に兼一の居場所をリークしたりとほかにもいろいろ兼一を陥れようとしている(しかしことごとく信一が食い止めている)。要注意人物である。

当然、信一はこいつのことを警戒しているが、同じ弟を大事にしている兄同士というところでなんだか気が合うところもあり、自分が計画していないイジメなら逆に情報をリークしてくれることもある。何を隠そうあの冬の日、信一が駆けつけることができたのはこいつが兼一の現状と居場所を教えてくれたからだ。

 

「で、どうした?こんな夕暮れに、いつもはもっと早く帰っているだろ?」

 

ほぼ毎日顔を合わせているが下校時に顔を合わせるのは珍しい、そう思い問いただす

なぜならこいつがいつもと違う行動をするときは何か企んでいる時だからだ

 

「いや、なにちょっとな」

 

「なんだよ」

 

にやけながら質問に答えない新島、そんな新島を気味悪がりながらさっさと答えろと言わんばかりに返す信一

 

「その様子じゃ気がつてないってわけじゃないな、兼一の現状に」

 

「・・・・・・」

 

そういわれ沈黙する信一、しかし1~2分くらいたってから

 

「・・・はぁ、当たり前だろう」

 

新島の問いに、肯定の意思を返す。信一が何に気がついているのかそれは

 

「あいつ、またイジメられているんだな」

 

「けけけぇ!まぁその通りだ。よく気がついたな」

 

「何を、バカなことを言っているんだ兼一のことだぞ分からないことの方が少ないよ、それにあんな見覚えのある怪我をしてたら誰だってすぐにわかるよ」

 

そう、昼休みに兼一が一瞬見せた表情、それはイジメられているから出た表情だった。

 

「はじめはただの怪我だと思っていたんだがな」

 

空手で怪我をすることは珍しくないと思う。防具をつけている剣道だって怪我は付き物だましてや兼一は初心者で才能なし(まぁ俺もだけど)、いろいろと馴れないこともあるから毎日怪我をして帰ってくるにはおかしくない

 

だが怪我をしている場所が少しおかしいと思っていた。

軽く現代空手について調べたがその試合で有効打とされるのは頭、胴の上半身ばっかりだから当然その練習も蹴りにしても突きにしても上半身狙いの技がほとんど、当然、怪我をする部分は上半身、それも体の前面ばっかりになるはずなのに兼一は全身に万遍なく怪我をして帰ってくる。

 

「知っているならなぜ放置してんだ?いつも真っ先に駆けつけてるのに」

 

そう今までの信一ならすぐに駆けつけて、空手部をやめさせているだろう

今までと違う、行動をしている信一を不思議に思い、新島は問いただす

 

「お前には関係ないだろう」

 

だが信一は答えない

 

まぁ大方、フヌケンの意思を尊重して~とかそんな感じだろう

 

信一は答えていないが大体の理由を察している新島

おそらく信一は見通されていることは承知している、だからわざわざ答えなかった

 

「で、どうするんだ?とうとう見捨てんのか?」

 

と絶対に信一がしないであろうことをわざわざ言って煽ってくる宇宙人

 

信一は挑発だと解っていながら

 

「そんなわけないだろう!!」

 

と声を荒げて答える、そんな信一の何が面白いのかニタニタしながら

 

「まぁ、そうだよな~」

 

と答える新島、さらに

 

「じゃ、どうするんだ?」

 

と信一が何をするのか聞こうとする

 

「兼一が直接言ってきてくれるまで何もしない」

 

「それは見捨ててんじゃないのかよ」

 

「・・・これ以上ひどくなりようなら問答無用で乱入してやめさせるつもりだ」

 

「そうかい。結局は相変わらずかい」

 

その答えを待っていたかのようにもう用はないとばかりに去る新島、しかし信一は呼び止めた

 

「新島」

 

「なんだ」

 

「これ以上悪くなりそうならその前に教えてくれ」

 

「はん、気が向いたらな~、ひゃははは~」

 

そして今度こそ用はなくなったと帰る新島、そして信一も

 

「・・・帰るか」

 

信一が帰宅し、一時間ほどたって兼一も帰ってきた

 

相変わらず傷だらけになって

 

しかし、その事には触れずいつも通り風呂に入って、夕食を食べ就寝した

両親は心配していたけれど兼一はまだ慣れていないだけと言った。その後、信一に真意を問うが今は信じてあげてと言い、それでとりあえずは納得してもらう。

 

そして次の日

兼一はまた寝坊していたので構わず先に登校

 

そのまま特に何もなく昼休み

 

「お~い、兼一~今日は外で食べないか?」

 

「どうしたの急にまぁいいけど」

 

信一はもしかしたら誰もいないところでならいい加減打ち明けてくれるかと思い外で食事をしようと誘う

 

だがその思惑は意外な形で破られる

 

外に出て適当なベンチに座り弁当を取り出す双子

 

少し食べてから信一が話しかける

 

「兼一、最近元気がないけど大丈夫か?」

 

「う、あはは、何を言っているのさ兄さんそんなことはないよ僕は元気いっぱいさ」

 

「・・・そうか」

 

まだ言ってくれないかと心の中で肩を落とす信一

 

「でも」

 

お、と思いとうとう来るかと思い期待するが

 

「いい加減、友達はほしいかな~」

 

言ってほしかったこととは違うがこの問題もなかなかに切実なこと

 

「そうだな~、とりあえず参考までにどんな友達がほしいんだい?」

 

仲を取り持つくらいならできるだろうと思い、兼一の希望を聞く

 

「う~ん、そうだね~、できればごっつい人がいいな」

「そんな人が友達だったらもういじめられることはないだろうしね」

 

後半はなんていったのか聴こえなかったが

まったく予想していなかった答えが返ってきた

 

「ご、ごっつい人か~それは難しいかな~」

 

「あはは、だよね~」

 

とその時

 

「あの~ごつくないんですけれど私で良ければお友達になっていただきたいんですの」

「私も転校してきたばっかりでお友達がいないんですの」

 

と声をかけられた

 

「「ん?」」

 

どこから聞こえるのか分からないから兄弟そろって左右に首をきょろきょろして声の発生源を探す。

 

「ふふふ、上ですわ」

 

と言われ上を向いた瞬間、兼一の顔の上に何かが降ってきた

 

「ぎゃっ」

 

と短い悲鳴を上げる兼一、信一は何が降ってきたのか目で追った

 

「よっと」

 

降ってきたのは女の子、それも昨日、転校してきた娘だ

 

「き~み~は~、この間といい何か僕に恨みでもあるの!?」

 

珍しく怒っている兼一、しかし顔に足形がついているのでいまいち迫力に欠ける(まぁもともと迫力なんてものはないが)

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「ここの制服、スカートが短くて」

「うう、わたくしの馬鹿」コツッ

 

ここで予想外の登場に少しフリーズしていた信一が復活

 

“ちょっと変な娘だけど、素直ないい子っぽいな”

 

とさっきの行動とすぐに謝るその姿勢からそういう評価をつける

 

「あ、そちらの方は同じクラスではありません、ですわよね」

 

いきなり話を振られる信一

 

「ああ、そうだよ転校生さん」

 

特に気にせず答え

 

「申し遅れました。わたくし風林寺 美羽です。松竹林高校から転校してきました」

 

とそのまま自己紹介をされた

 

“これはチャンスか?この子も友達がいないってさっき言ってたよな?”

 

と思う。信一うまくいけば昨日言ったように兼一に友達ができるかもと期待する

 

「これはご丁寧に、俺は白浜 信一んで隣にいるのが弟の白浜 兼一見ての通り双子の兄弟です」

 

肘で兼一に挨拶を促す

 

「よ、よろしく~」

 

「まぁ!やっぱりそうでしたのね顔がそっくりですわ」

 

“よしよし、なかなかに好感触”

 

うまくは好印象をつけれたようだ

 

そこで信一はすかさずさっきの本題に戻らせる

 

「ところで、さっきのってどういうこと?」

 

「・・・わたくし前の学校から友達がいませんの普通にしているつもりでしたけど、どうも浮いてるみたいで」

 

おそらく原因であろうところを知っている兼一は

 

“そりゃそーでしょ、殺し屋だもん”

 

と失礼なことを思っていた

だが信一はそのセリフから昨日、弟が言ってたことを納得できた

 

“なるほど、兼一がどこか似ていると思っていたのはこういうことか”

 

この二人の共通点、それは望まない孤独

 

原因は違えど二人はハブられていたのだ

 

そんな中、美羽は話を続ける

 

「そうそう忘れていました。これはあなたのですよね?」

 

と取り出したのは一冊の本、題名は「友人作成法 高校生編」

 

「え、それは僕の?ちょ、ちょっと待って」

 

そういって焦ったように鞄の中を漁る兼一

 

「ああ、ない!それは間違いなく僕の本だ!!」

 

と無くなっていることに気がついてなかった兼一、そしてこのままでは確実に無くしただろうと思い見つけてくれたことに感謝する・

 

そんな兼一を節目に

 

“なんてアホみたいなタイトルの本を読んでいるんだ”

 

と呆れ顔になっている信一、だがそんなタイトルに目をつぶると、これはいいきっかけではあることに気がつく

 

「それで、あのうわたくしと友達になるのはダメ、でしょうか?」

 

そしてこの追い討ちの言葉、兼一を方を見ていると

 

“うわ~わかりやすい、鼻が伸びきってるよ”

 

となんともだらしない顔をした弟がそこにいた

そして、もしかすると兼一に春が来るかなと思い気を利かせることにする

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

と言って、携帯を取り出す信一

 

「ごめんな、部活の先輩からなんか呼び出しが来たから先にお暇させてもらうね」

 

「え、ちょ、兄さん!?」

 

もちろん嘘だ

兼一にはあくまで自分の力で友達を作ってほしいという兄心3割とうまくやれよという余計なおせっかい7割からできている嘘

 

双子アビリティ・目で会話を発動して

 

(頑張れよ~)

 

とエールを送り退散、兼一が何かを語りかけていた気もするが無視して去って行った。

 

“さてさて、どうなるかな~。まぁいきなり女子との会話はきついかもしれないがこれもいい経験だとおもいなよ”

 

自分とてまともに会話なんてしたことないくせに、自分を棚に上げてそんなことを思う信一であった

 

そして特に何もなく学校も部活も終わりいつも通り兼一より先に帰宅

 

そして約一時間後、兼一が帰ってきたいつも以上にぼこぼこになって

 

これ以上はもう見過ごせないと思い、兼一に近づく

 

だが、近づいてみるといつものしょぼくれた雰囲気じゃないことに気がつく

 

何があったんだと思い兼一に何かあったのか聞く

 

すると兼一は

 

「ちょっとね、大したことじゃないよ」

 

と答えなかった。特に悪い感じはしなかったからまぁいいかと思いそのまま行かせてしまったが、すぐに空手部をやめろって言うタイミングを逃したことにきづいた

 

そして就寝前、風林寺さんとはどうなったか聞くために兼一の部屋に行く

 

「兼一~入るぞ~」

 

「いいよ~」

 

そしてすぐに本題へ

 

「風林寺さんとはどうなった?」

 

ちょっとわくわくしながら聞く信一、そんな兄に兼一は

 

「へへ、友達になれたよ。高校に入って初めての友達ができたんだ」

 

と答えた。その顔をみて一安心した信一は

 

「そうか、よかったな~。仲良くするんだぞ?」

 

「ああ、当然さ、久しぶりに本当に久しぶりにできた友達だからね!」

 

と兼一は昔のことを思い出しながらうれしそうに言った。

 

そう、過去に一人、兼一にも友達がいた信一が剣道に言っている間はその子と二人で遊んでいた。

名前は朝宮 龍斗

父さんの都合で引っ越しすることになりそれっきりだが今頃どうしているだろうか、そういえば去り際に何か言ってたような気がする。父さんのテンションが変に上がり車を飛ばしたのでよく聞き取れなかったが

 

そんな思い出に浸っている兼一の邪魔はすまいと

 

「それだけが聞きたかったんだ。じゃあ、お休み。明日はきちんと起きろよ~」

 

「うん、わかってるよ。おやすみ~」

 

空手部についてまたもや言いそびれたがあの感じじゃまだ大丈夫そうだと思い信一は自分の部屋に行きベッドに入る。

 

 

その夜兼一は、学校帰りあった出来事を思い出していた。

 

実は兼一、美羽がヤクザ絡まれているのを目撃、はじめは見てなかったと思うことにして通り過ぎようとするが立ち止まり、高校に入って初めてできた友達を、それも女の子を見捨てられるかと、そして兄さんみたいにかっこよくなるんじゃなかったのか、だれもが見て見ぬふりをする悪に立ち向かうヒーローになるんじゃなかったのかと自分が変わろうとした想いを思い出し立ち向かったのだ

 

まぐれで一発当てたがそのあとは後ろから捕まりあと一歩のところであわや大惨事になるところを、美羽に助けられた。美羽は瞬く間に4人の悪漢をのしてしまう。そしてその後兼一に向かいお礼と勇気があることを誉め、帰って行った。

 

今、兼一は彼女が戦っている姿を思い浮かべている

 

まるで羽が風に舞っている様な動き、かと思えば燕の翼のように風を切り裂いて相手を攻撃する姿、ほかにもいろいろあるがとにかくそのすべてに魅入ってしまった。

 

“どうやったらあんな動けて、あんなに強くなれるんだろう”

 

信一の心の強さとは違う具体的な力にそして

その力を暴力に使わず守ることに使っている美羽のあの強さに、戦う姿に兼一は憧れてしまった。




あとがき

無駄な話が多いな~と自分で思いつつ気がつけば一万字を超えてた
しかもまたもやバトルなし、テンポ悪いし、信一の口調が安定してないかも

ちなみに
原作では兼一はガーデニングは男らしくないと言われそうだから敬遠してたけど今作では特に気にせずガンガン育てています。
そして新島についてですが弟が居り、弟思いのお兄ちゃんというのはオリジナル設定じゃありません。史上最強の秘伝書の方に書いてあった、裏設定から持ってきています。


一話分の文字数ってどのくらいがいいんでしょうね?
読むだけの時は3000~5000くらいでいいと思ってたけど書く方になると分からなくなってしまった

ご意見、ご感想をお待ちしております

では次話で


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第三話 初めての喧嘩

前回以上に長い


朝5:00

信一の朝は早い、こんな早くに起きて何をしているのかというと

 

「はっはっはっ」

 

ランニングだ

剣道をやめて体を動かすことがなくなり、体が鈍るのが嫌だったため朝はランニング、夜は素振りをすることにしたのだ。

 

“・・・やめたって言うのに未だに素振りをしているのは我ながら未練がましいな~”

 

素振りに関しては、剣道を始めたころからの日課にしていたのでそれが抜けてないというのもあるのだろうし、一日一回は竹刀を握らないと落ち着かないからだろう。

 

やめて後悔はないと言いつつ、やはり何かしらの未練があるのであった。

 

だいたい3~4kmぐらいを毎日走る。そんなに速いペースで走っていないのでだいたい一時間ほどで帰宅し、そのままシャワーを浴びる。

 

6:00くらいに母が起きてお弁当と朝食を作ってくれるのでシャワーを浴び終えるとテーブルに着き朝食を食べる。

 

「母さん、信一おはよう。今日もいい一日になりそうだ!」

 

「お母さん、信兄ちゃんおはよだじょ~」

 

食べ終えるころに父と妹、そして双子の弟が起きてくのるだが

 

「また、遅くまで起きていたな。まったく昨日寝坊するなと言ったばっかりなのに」

 

そう、兼一は昨日の夜、信一が去った後に少しの間、物思いに浸っていたが結局本(大学館『部活の中でうまくやっていく方法』)を読んでしまったため、今日も寝坊、一応起こしに行くがまぁ毎度のごとく起きなかったため先に登校する。

 

今日も頑張ろうと思いながら歩いていると、ふと眼の端に見覚えのある後姿が映った。

あの三つ編みはと思い声をかける。

 

「おはよう!風林寺さん」

 

少し肩をビクッとさせ振り向く

 

「お、おはようございます。たしか兼一さんのお兄様の」

 

「ああ、覚えてくれてたんだ。改めまして白浜 兼一の双子の兄、白浜 信一です。信一って呼んでくれていいよ。急に後ろから声をかけてごめんね驚かせちゃったね」

 

「いえ、お気になさらず。驚いたというわけではありませんの」

“危なかったですわ~、もう少し近くで声をかけられたら投げてたですの

 

そう、この風林寺 美羽

後ろから近付いた者を思わず投げてしまう、変わった習性がある。現に兼一は後ろから通り過ぎようとしたところを投げ飛ばされた、しかもそれが初対面となった。早々には忘れることの出来ない出来事だろう。そして先ほどの美羽の反応は驚いたのではなく投げるのを我慢したから起こった反応らしい。

 

「?まぁ驚いたんじゃなかったらいいや、ところでそんな端っこで何をしてるの?」

 

特に共通の話題もないのでちょうどいいと思い、先ほどは壁のほうを向いて、そして声をかけた後でもちらちらと後ろを気にしている美羽が何をしているのか気になったので聞いてみた。

 

「ええと、その・・・猫ちゃんを見てましたの」

 

「へ~、猫好きなんだ、というか野良なのによく触らせてくれるね、人間慣れしてるのかな?」

 

「ふっふっふ~、私くらいの猫好きになるとどんな野良猫も触らせてくれるんですの」

 

なんだいそれはと思いながら雑談をする二人、そして信一は遅刻しそうになるのでなるのでこの場を離れようとする

 

「そろそろ、行こうかな。風林寺さんはどうする?」

 

「わたくしはもう少し猫ちゃんと戯れていきますわ」

 

とここで別れることに、再び学校へ行く信一、しかし言っといた方がいいことがあるのを思い出したので足を止めて、再び美羽の方へ体を向ける

 

「ああそういえば、風林寺さん」

 

「どうしました?」

 

「兼一と友達になってくれたみたいで、兄としてお礼を」

 

そう、兼一と友達になってくれたお礼だ。過保護かなと思わなくもないが、こういうことは言っておいて損はないだろうということで、でもやはり兼一の前でこういうことをするのはどこか気恥ずかしいので今がちょうどいいと思い実行した。

 

「いえいえ!お気になさらず!わたくしもお友達ができてうれしいですし」

 

「まぁそういわず、弟とこれから仲良くしてくれるんっていうんだ何かお礼をしないと気が済まないんだよ」

 

「では、その・・・よろしければ信一さんともお友達になってくれませんか?」

 

「え、そんなんで良いの?」

 

「これがいいんですの」

 

「ま~、それでいいなら」

 

「本当ですの!?わ~いですわ。昨日に引き続きお友達ができましたわ~♪」

 

“大丈夫かなこの娘、なんかちょろいぞ?いつかたちの悪い人にだまされるんじゃないか?”

 

まぁだまされても美羽なら切り抜けられる実力があるがそんなことを知らない信一。

 

「では、わたくしの事もこれからは苗字ではなく美羽と名前で呼んでほしいですわ」

 

「な、なんか女の子の名前を下の名前で呼ぶのは気恥ずかしいけど了解です。」

 

わ~いと喜んでいる美羽をよそに

 

“よく考えたら女の子の友人なんて初めてじゃん俺。ど、どうやって接したらいいんだ!?”

 

昨日は、自分を棚に上げて兼一に対しいろいろ思ってたのに、いざ自分が当事者になると気後れしている。兼一は名前で呼ぶくらいはどうとも思っていないみたいで、女性関係はもしかしたら兼一に優位に立たれるかもしれないと思う信一だった。

 

「おっと、ほんとにそろそろいかないと遅刻しそうだ。風林寺っと、み、美羽ちゃんもなるべく急ぎなよ~」

 

は~い、という返事を聞きながら今度こそ学校へ行く信一。

 

 

 

特に何もなく今日の学業も終了。部活もつつがなく終わり下校中

 

「お~い、信一~」

 

と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「はぁ、なんだ宇宙人」

 

嫌々ながらに答える信一、嫌がっているのなら無視すればいいのに相手をするのはなかなかお人好しだ。

 

「フヌケnんん、兼一について面白い情報があるぜ~」

 

兼一がほんとはフヌケじゃないことを知っている信一は兼一をフヌケンと呼ばれるのが大嫌いだった。新島も理由は分からないけれどフヌケン呼ぶと信一が結構本気で怒るので信一の前では言わないようにしている。・・・兼一本人の前では普通に言っているが。

 

「今フヌケンって言わなかったか?」

 

「言ってない、言ってないで聞かないのか?」

 

「・・・何があったか教えてくれ」

 

肝心な話が聞けなくなりそうなので見逃す信一、とうとう何か動きがあったかと思い新島に情報を求める

 

「いいだろう、耳をかっぽじってよく聞けい!」

 

なぜか偉そうにする新島、その態度に我慢、我慢と耐える信一。

 

「まず結論から言うと、一週間後、兼一が退部をかけた試合をすることになった」

 

「・・・そうか、ある意味予想外というか、まぁリンチをされ始めたとかじゃなくてよかったと思おう」

 

予想してたような物じゃないので肩透かしを食らう信一、しかし安心している信一に新島は不穏なことを言う

 

「それがあんまり穏やかなもんじゃないんだな~これが」

 

「どういうことだ?」

 

「試合とは名ばかり、ヘッドギアなし寸止めなし、顧問の立会なし、どちらか降参するか気を失うかでしか負けは認められない、実質ギャラリーがいるだけの喧嘩、タイマンだ。まぁ先輩の審判がつくみたいだからそこまでひどいことにならないとは思うが貧弱な兼一なら間違いなく大なり小なり怪我をするな」

 

「な!?」

 

兼一がそんなことになったことと、武道嗜む者がそんなことをすることに驚いた

 

だがそんな信一をよそに新島は言う

 

「だけど、考えようによってはいいんじゃねえか?今迄みたいにむやみやたらにボコボコにされるんじゃなくて、一発もらえばそこで今までの状況からオサラバなんだからよ」

 

「それは」

 

確かにそうだ、だが

 

「でも、当たりどころが悪ければ大事だ・・・ちなみに相手は?」

 

「うきゃきゃきゃ、それがまた割れえるぜぇ~大文字だとよ」

 

「よりによってあいつか」

 

最悪だった、気に入らないことがあればすぐに手が出る超問題児、無駄に体格がいいからちょっとやそっとの攻撃じゃダメージは通らない、兼一じゃまず勝てないだろう。それに手加減なんてしないだろうから大怪我する可能性大だ。

 

「今まで兼一を尊重してあまり強く言ってこなかったがもう無理だ。兼一が帰ってきたらすぐに空手部をやめるよう言おう」

 

そういってすぐにでも家に帰ろうとする信一

 

そんな信一を新島は止める

 

「まぁ待て、最後まで話を聞け」

 

「なんだよ」

 

「いやね、そういう状況になった経緯を話しとこうと思ってな」

 

「経緯?」

 

こういった情報は基本結果しか言わないこいつがめずらしいなと思い聞くことに

 

「どうも最初はな大文字の奴が問答無用でやめさせようとしたみたいだ、ことの始まりは昼休みに兼一に武術ってのはお前みたいな才能のないやつがするもんじゃねえとか言ってな」

 

これを聞いた瞬間、信一の胸の内に湧いた感情は憤り、何を言っているんだと。

小学生のころに通っていた道場の先生に、「武道の元になった武術は元々、戦う才のない者が身を守るため、戦うための術(すべ)として出来やモノだ、武術とはむしろ弱者のためにある」と聞いた。その言葉を聞いたから才能のない自分は頑張れた、剣道を好きでいられたんだから、それを真っ向から否定された、自分の恩師と今まで自分がしてきたことを否定されたのだ

 

「それでまぁ、その後なんか転校生の女の子に「風林寺さんか?」ああそうだそいつに、そんなことないと武術は戦う才能のない人のためにあるってな感じの事を言われて慰められてな」

 

そのとき信一は美羽が何かしら武術を習っていたことに驚き、そして恩師と同じことを言っていてなんだかうれしくなった。

 

“ほんと、兼一はいい子と友達になれたな。あ、俺ももう友達だったなそういえば”

 

「で、その言葉に元気づけられた兼一はそのまま放課後また空手部に、それが気に食わなかったのか大文字がさらに脅してきて、弱いやつは空手をする資格はないって言葉になんと兼一が強ければしていいんだねと反論。その態度が気に食わず1週間後に退部をかけて試合って感じらしいぜ」

 

「・・・・・・・」

 

新島の言葉を聞き信一は声が出ない

 

「けけけ、兼一のやつ身の程知らずにも逃げないみたいだぜぇ」

 

「そう、みたいだな」

 

未だ衝撃が抜けきらない信一

 

「じゃ、言いたいことは言ったから俺は帰るぜ~」

 

と言って新島は帰って行った。

 

取り残された信一はしばらくその場に佇んでいた

 

“そうか、あの兼一がそんなことを言ったのか”

 

信一は兼一が勇気のあることを知っている。だが同時に今まで戦おうとしてこなかったのも知っている。

 

その兼一が戦うと、自分の意思で決めたのだ

 

“とりあえず、もう少しだけ様子を見るか”

 

信一は兼一が自分で決めたことならと考えを改め、6日は見守ることにした。

 

家に帰りつき、しばらくしたら兼一が帰ってきた、どこか脅えている感じだったがその眼は腹をくくり戦うことを決意しているように見えたので何も知らないふりをした。

 

 

次の日、兼一はいつも以上に帰ってくるのが遅かった。

いや、正確には一度早くに帰って来たらしいがすぐにどこかへいったらしい、服などに土がついていることから、どうやらどこかで特訓をしているようだ

 

信一はもしもの時のために空手部を隠れて覗いている、少しでも動きを覚えておいて何かあった時のために自分が助けられるようにしている。

 

この1週間は二人とも全部こういった行動の繰り返しだった。

 

そして試合の日の前日

 

信一は兼一の部屋の前にいる

 

“なんか部屋で騒いでいるな、大方明日の試合についてだろう”

 

信一はこれがやめさせる最後のチャンスだと思い、うるさいと注意するように見せかけて説得しようと中に入った

 

「こら!兼一夜中に何を騒いでいるんだうるさいぞ!」

 

「わわわ、兄さん!?ご、ごめんなさい!!」

 

案の定慌てふためいていたみたいだ

 

まぁ入るきっかけがほしかっただけなのですぐに本題に入る

 

「新島から聞いたよ、明日、大文字と試合するんだって?」

 

「・・・やっぱり知っていたんだね。うんそうだよ」

 

さすが双子と言ったところか、信一は兼一を、兼一は信一を、お互いの事はある程度お見通しらしい。

 

「今ならまだ、やめられるぞ。俺は正直危ないことはしてほしくないと思ってるからやめてほしいんだけどな」

 

自分の本心を告げる信一

そんな信一に兼一は、少し間を開けて

 

「・・・それは、できないよ」

 

信一の提案を拒否する兼一

 

「なぜ?」

 

理由を問う

 

「ある人に言われたんだ、戦う前から負けているって。そう言われて自分が今まで戦ってきたことなんか無かったなって、今まで逃げてきたから偶には逃げずに戦おう思ったんだ。よくよく考えればそういう自分を変えたくて空手部に入ったんだしね」

 

「だから僕はもう、逃げないって決めたんだ。」

 

ここまで言われたらもう説得は無理だ、と信一は思った。

 

「そうか、ならもう俺は何も言わないよ。」

 

「兄さん」

 

「でも、やっぱり出来れば怪我をする前に棄権してほしいって言うのは変わらないけどな」

 

そう言われて困ったような笑みを浮かべる兼一

 

 

「兼一~お友達から電話よ~」

 

「あ、うん分かった~」

 

と一階から兼一を呼ぶ母の声により兼一が降りようと部屋を出る

 

「兼一」

 

だがそんな兼一を信一は呼び止め

 

「今のお前、かっこいいぞ」

 

と言い、すぐに弟の部屋を出た

 

信一は自分の部屋に戻り弟が成長したことをうれしく思っている

 

“兼一、お前はもう変わったよ、中学の時までのお前とは全然違う”

 

“それに比べて俺は、全然だな”

 

兼一を守るためと自分に言い聞かせ、未だに竹刀を振り続けている未練間がしい自分、体を鍛えるのならそれこそ柔道部やボクシング部に入ればいいのに

 

“俺もそろそろ、自分を変えるために前へ進まなくちゃいけないな”

 

兼一を見て、いい加減自分も変わろうと思う信一、しかし眠気が来たのでこのことを頭の片隅に置きベッドに入り明日の兼一の無事を祈りながら寝付いた。

 

 

そして次の日の放課後

 

信一はちょっと技術工作部に顔を出す、20分くらいしてから来た部長に用事があって休むということを伝えすぐに空手部に行く

 

“すこし遅れた、もう始まっているよな”

 

兼一がどうなっているのか気が気でない信一、そして道場前に到着中に入ることは出来ないのでいつも覗いていたポジションに移動し覗き込んだその瞬間

 

兼一が壁にぶつかって降ってきた

 

“はっ!?”

 

今、目の前で起きたことに何が起きたんだと驚く信一

 

「マジかよ吹っ飛んだぜ!」

 

「ガハハハハ!おもしれぇ!」

 

「やめ!場外」

 

大文字と兼一の試合(喧嘩)を見物している部員のセリフからおそらく突かれて吹っ飛ばされたのだと予想する信一、今にも気を失いそうな兼一を見て

 

「やっぱりいわんこっちゃない!もうやめるんだ兼一!」

 

外にいるから聞こえるわけがないが思わず声に出して兼一を止める信一、今にも乗り込んで中止させようかと考えているその時

 

「おい下っ端、もうやめるか?これ以上したら死ぬかもしれんぞ」

 

と、審判を務めている一番ガラの悪い先輩が信一の代弁をしてくれた

 

「よく言ってくれたガラの悪い先輩、始まる前に止めない時点でろくでもないと思っているが今回は特別感謝してやる!」

 

となぜか上から目線でほめている信一、よほどテンパっているのだろ

 

だが兼一は、胴着の袖を噛んで意識を繋ぎ止め

 

「い、いいえ!まだ行けます!」

 

と拒絶

 

「なんでやめない!!」

 

信一は信じられないといったように叫ぶ

 

「ぎゃははは、まだやる気だぜフヌケンの野郎」

 

「マジかよ!もうやめといた方がいいんじゃないかぁ?死んじまうぞ~」

 

そんな信一とは逆にまだ続く試合に湧く部員たち、言葉でこそ止めてはいるが全員一方的な試合を楽しんでいる

 

“黙れ!兼一はフヌケじゃねぇ、今この場で一番勇気があるのは兼一だろうが!!”

 

そんな部員の態度に腹を立てる信一、話を聞いていたが実際に見るとやはりこいつらは武道家じゃないと思った。ただの身に着けた力を暴力にしか震えない暴漢でしかないと

 

兼一が開始線まで戻ったため試合が続行される

 

「死ねぇぇぇぇ!」

 

と大文字が突きを繰り出す。兼一はもうヨロヨロ、今度こそクリーンヒットかと信一を含めたその場の全員が思った。だが

 

「え!?」

 

誰が上げた声か分からないが全員の予想に反することが起きた、大文字が空振り、兼一が消えたのだ。

いや、よく見ると消えたわけではない大文字の側面に回り込んでいる、普段はなかなか見ない接近してからの急な横移動、それと大文字との体格差で兼一が隠れたため消えたように見えたのだ

 

「おお!」

 

と驚く信一、もしかして一週間練習していたのはこれか?と考えたが今はそんなことどうだっていい、大文字の脇腹はがら空きまさに絶好のチャンス

 

「いけ!兼一!!」

 

「おおおおお!」

 

信一の声援に応えるかのようなタイミングで突きを出す兼一そして見事にクリーンヒット

 

「よっしゃあ!」

 

勝ったと喜ぶ信一、実際これが試合なら見事な一本、試合は終了だろう。だが信一は忘れていた。これは試合ではなく喧嘩だということを

 

ニヤリ

 

大文字が不敵にわらう。突かれたというのに表情一つかえてない

 

「残念だったな!この筋肉の前では貴様ごときの突きなんかきかないんだよ!!」

 

そう言いながら蹴りを出す、兼一はとっさに避けたのでまともに当たってはいないが掠っただけでまた倒れてしまう。

 

「兼一!!」

 

ここにきて何度目の叫びか、だが兼一は

 

「まだ、まだやります!」

 

諦めない

 

“もうやめろ!このままじゃじり貧だ!!”

 

どうしようもない体格差、今の兼一の力じゃ何十発突いてもダメージは与えられないと思う信一

 

「分からん奴だな」

 

と言いながら再び突きを繰り出す大文字

 

だが、兼一はまた先ほどと同じように避ける

 

「おお、また避けたぜ」

 

二度も避けれるとは思わなかったんだろう周りがどよめく

 

兼一は再び脇腹に突きを入れる。今度もきれいに入ったがやはりダメージはない

 

「いくら避けるのがうまくてもダメージが通らなきゃ勝てないぜ!」

 

「ううう」

 

兼一自身が思っていることを大文字に言われどうすればいいか悩む兼一。

 

「ほんとどうするんだ兼一!?」

 

反撃の意味がないと解り焦っている信一

 

「どうする、やっぱりもう乱入して無理やり連れだすか!?」

 

そういって腰を浮かす信一

だが兼一の目はまだ諦めていないように見える、その証拠に先ほどからずっと避けては突き避けては突きを繰り返している。

 

「・・・お前はまだ諦めていないんだな」

 

“あいつは今戦っているんだ、大文字だけじゃなく逃げ出したくなっている自分と、もう逃げないと決めたから必死で戦っているんだ”

 

そんな兼一を見て再び腰を下ろした

 

昨日、自分に言った言葉を実行しようとしている弟の邪魔は出来ないと

 

 

そして10数分たった兼一はいまだに避け続けている

 

「はぁはぁ、いつまで逃げてんだよ」

 

「はぁはぁはぁ、逃げてるんじゃないやい、避けているだけだい」

 

二人とももう体力が限界なんだろう息が絶え絶えになっている

 

攻撃を避けられ続けている大文字、当たるはずの拳が空振りしているこのにより普通に突くよりも体力を消耗している、隠したとみている相手にとことん避けれら肉体的なダメージは少しでも精神的なダメージは大きい。

 

一方兼一も受けたら一発KOの突きをぎりぎりでかわし続けているので精神がすり減っている、また初めに受けたダメージもここにきて重みになっている。

 

そんな兼一を見てとうとう我慢できなくなった信一

 

「・・・もういい兼一、お前はよく頑張った。」

 

そういって腰を浮かし今度こそ乱入しようとする信一、だがそんな信一に後ろから声をかけてきたものが者がいた。

 

「お待ちください、信一さん」

 

一人だと思っていたため、いきなり声をかけられ驚く信一

 

「いつ来たんだい?美羽ちゃん、というか兼一が試合をするの知っていたんだね」

 

聞き覚えのある声に振り向いた。彼女がここに来ることは予想外だったが

 

「はい♪この一週間、兼一さんに修行をつけていましたから」

 

その言葉を聞き、思い出す彼女が武術をしていたことを、そして兼一を指導していたことに驚いた

 

「そうか放課後どこかで特訓しているのは知っていたけど、美羽ちゃんと一緒にいるのは知らなかったな」

 

「放課後だけじゃありませんわ、朝の登校時もあの歩法を特訓していましたよ兼一さんは」

 

それを聞き笑みを浮かべる信一、本当に自分を変えるため頑張ってたんだなと

 

そんな信一をほほえましく見ていた美羽だが目を少し鋭くして

 

「それよりも今どこへ行こうとしていますか」

 

「・・・・・・」

 

美羽の問いに信一は答えない。だが沈黙は答えと言わんばかりに自分の予想通りのところに行こうとしたとして更なる言葉を信一に告げる美羽

 

「兼一さんはまだ負けていませんわ、今兼一さんの邪魔をするのは見過ごせません」

 

「それは分かってる!!でも、もう見ていられないんだ」

 

声を荒げて答える信一、だが尻すぼみになっていく

 

「特訓中、兼一さんはよく信一さんの事を話してましたよ、いつも僕を助けてくれるヒーローだって、僕の憧れだって」

 

「あいつそんなことを//」

 

当然の美羽の発言に気恥ずかしいのか頬を掻く信一

 

“あいつめ、そんなこと人に言ってんじゃないよ。あ~恥ずかしい”

 

そんな信一をさらに追撃する美羽

 

「それに昨日の電話でも」

 

昨日かかってきた電話での出来事を話しだす美羽

 

『明日の試合なんですが今の兼一さんだとよくて相打ちにしかできないと思いますの。だから、ひとまず理由をつけて逃げるのも兵法のうちかと』

 

『・・・・・・・』

 

『兼一さん?』

 

『ああ、すみません先ほど兄からも同じことを言われたので』

 

『まぁ、そうですの』

 

『ええ、ですから美羽さんにも兄と同じことを言います。僕はもう逃げないと決めたんです。だからいくら勝見込みがなくても今回の試合だけは逃げません』

 

『・・・そこまでの決意でしたらもう何も言いませんわ』

 

『それに』

 

『それに?』

 

『兄さんが僕をかっこいいって言ってくれたんだ。僕の憧れである兄さんが』

『だから、明日の試合は諦めずに頑張りますよ』

 

「と言ってましたよ」

 

信一に言葉はない、そんな信一に美羽は

 

「ですから最後まで兼一さんを見てください、兼一さんを信じてください、あなたがかっこいいと言った弟さんの決意を最後まで見守ってください」

 

その言葉に説得された信一は黙って座る

そしてそんなやり取りのすぐあと試合は動いた

 

先ほどと同じように動いていた兼一と大文字だが、大文字の方が足にきている

大文字の筋肉はスポーツをするのに向いていない、ただ単純なパワーだけをお求めて鍛えていたため疲れやすいのだ。

 

そんな大文字の足に兼一の足が引っ掛かり大文字はこける

 

「おいおい、大文字、足にきてんじゃねえか」

 

「だらしいねぇぞ!」

 

いままで兼一が一方的になぶられるのを楽しんでみていたほかの部員たち、だがこれまでの攻防から手に汗を握って見ていた。そんな時にこのようなことが起こった。

 

もしかすると下っ端が勝つかも

 

そんな思いが部員全員の胸に飛来する

 

「大丈夫か」

 

大文字に近づく審判

 

だが大文字は審判の言ったことが聞こえなかったのかすぐに立ち上がり吠える

 

「この、フヌケならフヌケらしくとっとと沈んどけー!」

 

「兼一!」

 

いよいよ、ここまでかと信一は思った、だが美羽は兼一の表情を見て

 

「ようやくあの歩法の真の意味に気がついたみたいですわ」

 

「え?」

 

自分とは真逆に安心しきった声でそう言った

 

「わたくしが兼一さんに教えた歩法は何も避けるためだけの物じゃありません」

 

「それは」

 

信一に自分が教えたことを解説している美羽、そんななか大文字は兼一に突っ込んで行った。

 

「真にすぐれた技というのは攻撃と防御が一体になっている技」

 

兼一は己の左足を大文字の左足の内側に滑り込ませ、すかさず己の右足を大文字の左足の外側へもっていき攻撃が当たる瞬間、右足を軸に側面へ回り込む

 

“扣歩”

 

「兼一さんはあの歩法が避けるための物と先ほどまでは勘違いしてずっと避けていました」

 

ここまでは先ほどと同じ、しかし兼一は先ほどまでと違って体制を戻すとき右腕を大文字が突いてきた腕の下側をくぐらせ顔面に持って行った、そうしたことで当たるまいととっさに避けようとした大文字の重心が後ろに移動する

 

「ですが先ほど、足が引っ掛かったことで気がついたのでしょうあの位置からさらに一歩踏み込むことで攻撃ができることに!」

 

兼一はその隙を見逃さなかった、いや体が勝手に動いたのだろ、この一週間この練習ばっかりやってきたのだから

軸にしていた右足と大文字の左足を踵を合わせる、そうすることでとっさに左足が動かなくなってしまったため大文字の上半身だけが後ろに行く、兼一はそのまま左足をスライドさせ体ごと一歩前に出た

 

“擺歩!”

 

大文字はそのまま後頭部から倒れた

今までの疲れもあったのだろう、気を失ってしまった

 

そして兼一は大文字に言い放つ

 

「僕は、僕はもうフヌケじゃな!!」

 

一人を除きこの場に全員がいま起きたことが信じられないとばかりに静かになった

 

審判をしていた先輩がまず動き大文字に近ずく

 

「おい!バケツに水を入れて来い!気を失ってやがる」

 

その瞬間部員たちと信一は理解した

兼一が勝ったのだと

 

「うおおおおお、マジかよ!」

 

「下っ端が大文字に買っちまったぜ!」

 

その瞬間湧き上がる歓声、誰一人兼一の負けを疑わなかったのに起こった大番狂わせ

 

「ほら、信じてよかったでしょう?」

 

未だ呆然としている信一にどうだ、と話しかける美羽

 

「・・・勝ったんだよね?」

 

「ええ」

 

未だに信じられない信一が美羽に問いかける

 

「本当に勝ったんだよね?」

 

「だからそういってますわ、なんなら頬をつねって差し上げましょうか?」

 

いい加減じれったかったのか痛みに訴えかけようとする美羽を拒否する信一

 

「そうか、勝ったのか、あの兼一が、あの泣き虫だった兼一が」

 

怪我をすることなく終わった安心感もあるのだろう信一は目に涙を浮かべ喜んでいる

 

そんななか大文字は目を覚ます

 

「お前の負けだ大文字」

 

審判をしていた先輩はそう告げた、だが大文字は

 

「あ、あんなの反則だ!空手の技じゃねえ!」

 

言い訳をする。自分から喧嘩みたいなルールを振っておいていざ負けると言い訳、まったくもって往生際が悪い

 

そんな兼一の勝利にケチをつけ始めた大文字に信一は

 

“あの野郎!いい加減にしろよ”

 

と怒りを顕わにする

 

だがその辺のことは意外と厳しいのか先輩が

 

「往生際が悪いぞ、見苦しい、負けたら空手部を去る。そう決めていただろうが男と男の約束なんだろ?」

 

と大文字の言い分を却下する

 

その言葉を聞いた大文字は

 

「オ、オレ・・・空手部やめたくないよ!」

 

と叫ぶ、信一は怒りこそ収まっていたがさっきから言っている自分勝手な言い分にあきれ返った。

 

だが兼一は

 

「確かに空手に投げ技はありませんよね、この試合、僕の反則負けです」

 

という、勝ちを捨てた兼一に驚く一同、しかし信一はそんな兼一の事をなんとなく予想してたのか

 

“はぁ、なんかそう言うような気がしたよ兄ちゃんは、まったくお人好しすぎるぞ”

 

と思っていた。

 

信一の後ろにいた美羽にも今の発言は予想外だったのかクスクスと笑い

 

「本当に愉快な方ですね兼一さんは」

 

「とんでもなくお人好しなだけだよ」

 

「ふふふ」

 

と二人そろって笑みを浮かべる

 

「でわ、そろそろ行きますわ、部活を途中で抜けてきたものですから」

 

といい戻ろうとする美羽に信一は

 

「美羽ちゃん」

 

「はい?」

 

「兼一と友達になってくれてありがとう、美羽ちゃんがいてくれたからあいつは立ち向かえた」

 

お礼を言う

 

「お気になさらず、立ち向かえたのは元々兼一さんに勇気があったからですわ、私はただ技を教えただけ」

 

あくまでも兼一が頑張ったからだという美羽

 

「だけど、その勇気を引き出して、後押ししてくれたのは美羽ちゃんだろ?だからありがとうなんだ」

 

すでに昨日、兼一が言っていたある人が美羽だということに気がつている信一、弟の背中を押してくれてありがとうと言わずにはいられなかった

 

これ以上は失礼になると受け入れる美羽、そしていい加減戻らないといけないと言い後ろを向き走り出す。その背中に信一は

 

「なにか困ったことがあったら言ってくれ、兼一の兄として、そして一人の友達として出来る限り力になるから」

 

今度は答えず返事代わりに笑みだけ浮かべて去っていく美羽

その姿を見てすごい身体能力だと信一は思う

 

美羽が去って、兼一もすでに道場から出ている

これ以上ここに用はないと信一は立ち去る

 

兼一を探そうと正門の方へ急ぐ信一、運よくちょうど正門を出たあたりのところに兼一はいた

 

「兼一」

 

「あ、兄さん」

 

「お疲れ様」

 

「うう、やっぱり見てたんだ」

 

「まぁな、やっぱり心配だったし、というか普通にいつ乱入しようかと思ってたよ」

 

「ううう~、心配かけてごめんなさい」

 

「ほんとだよ、まぁ特に怪我らしい怪我はしていないからいいけど」

 

心配かけたと謝る兼一、気にしてないと言う信一これ以上は埒が明かなくなるから二人とも話を打ち切る

 

「・・・兄さん、結局退部になっちゃたよ」

 

「だな、たくっあいつの事なんか気遣わなくていいだろうに」

 

「あはははは」

 

特に言い返さない兼一

 

「うん、でも譲れない物があったんだ、それが何か自分でも分からないんだけど」

 

「なんだそりゃ」

 

自分でもよくわかってないという兼一に笑う信一

そのまま、二人は黙って帰路についていた。だが

 

「よお、兼一!試合はどうだった?」

 

と宇宙人登場

 

「人がいい雰囲気で帰ってたのに水差すんじゃねよ」

 

「ひゃ~はははは!」

 

信一の訴えにそんなこと気にしねえと笑う新島

 

そんな新島が兼一もうっとおしかったのか

 

「僕の反則負けだよ、結局空手部は退部さ」

 

とぶっきらぼうに答える

てっきり笑い転げるのかと思っていた二人だが

 

「俺様の耳をなめるなよ、確かにみんながお前の反則負けだと言っているが、今日のあれは試合じゃねえ、喧嘩だ。だったらあれは誰がどういおうとお前の勝ちだ兼一。俺はゆがめられた情報が大嫌いなんだよ」

 

と予想外の事を言ってきた。

 

これに驚く二人

兼一はありがとうと言い横を通り過ぎる

信一は珍しこともあるなと、今は特に何も言うことが無いのでそのまま横を通り過ぎる

しかし二人はあることに気がついた

 

“あれ?そういえばあいつ俺(兄さん)が一緒にいてもフヌケンって絶対一度は言うはずなのに”

 

どういう心境の変化かこの日を境に新島は兼一の事をフヌケンと言わなくなった。

 

 

 

 

「ああ、そうそう祝勝祝いにいい情報を教えてやる」

 

「「?」」

 

急に振り向き何やら不穏なことを言い出しそうな新島

 

「今日の結果を兼一の勝ちだと思っているのは俺らだけじゃ無くてな。審判をしていた筑波先輩っているだろ?あの人がそうでよ」

 

「「それで?」」

 

「近々お前の腕試しをするっていきり立ってたぜ~」

 

「「な、なにぃ~!?」」

 

二人そろって驚く信一の方もこんな展開になるなんて思わなかったんだろう

 

「筑波先輩といえば空手部でも1,2を争う実力者、しかも裏じゃ不良グループとつながっているって噂だぜ~、ひゃははははは!!これでお前も今度こそお終いだな~」

 

何が面白いのか、爆笑しながら走り去っていく新島

 

“ど、どうしよう~!?”

 

と呆然と立ちつくしている兼一

 

“これはいよいよ俺も変わらないといけないな”

 

そして信一の方は決意をする、もう立ち止まっている場合じゃないと

 

 




あとがき

すいません前回以上に長くなってしまいました。
回を増すごとに文字数が増えていく、読みにくいと思われましたらすぐにでもおっしゃってください。

さて、ようやく原作一巻の大部分が終了、プロローグ以来の戦闘描写です。やっぱり難しい、というかやっぱり戦闘はしないうちの主人公、期待されている方、本当にすみません。

さて次回はようやく兼一が梁山泊に入門、信一も(一応)戦闘をする予定です。

ご意見、ご感想お待ちしております
ではまた次回。


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第四話 その名は梁山泊

いろいろとすみません


いつも通りの朝、信一はランニングから帰ってきてシャワーを浴びていた

 

「・・・はぁ、どうすればいいかなぁ~」

 

信一は悩んでいる、原因は兼一が置かれた状況だ

先日、兼一は空手部退部をかけた試合(喧嘩)をし、勝つには勝ったが投げ技を使ったということで反則負けになり結局退部、となったのだがあの試合(喧嘩)の審判をしていた筑波という先輩に兼一が目をつけられてしまった。

 

どうやらいきなりあんな戦いができるようになった兼一が気になっているらしい。

 

「なんでそんなことになるんだろうな~」

 

と漏らす信一、弟もだが信一自身こんな事態になるなんて想定外だった。まぁ普通はこんな事態を想定できないだろう。まさに一難去ってまた一難だ。

 

さて、兼一の問題だがなぜ信一がなやんでいるのかというと

 

「兼一は勿論のこと、俺も多分歯が立たないんだよな~」

 

そう、つまりその筑波というの先輩が強いということなのだ

 

新島からの情報だと、筑波先輩は空手部でも1,2を争うほどの実力者、自分より強いというのは事実なのだが信一が勝てないと思っている主な理由はそこじゃない、この先輩どうやら不良グループとつながっている札付きの悪だということだ、要は喧嘩慣れしているというところが信一が勝てないと思っている主な理由だ。

 

信一自身、自分も兼一と同じぐらい戦う才能は無いと思っている。だけど強い者、才ある者が必ずしも勝者にはならないということも知っている。

 

剣道の試合でも、自分より強い者に勝ったことはある、今まで自分より弱かった奴に負けたこともある。よほどの実力差が無い限り絶対の勝利というものはない、だけど経験の差というものはどうしても覆すとこは難しい。

 

信一が喧嘩をまともにしたことがあるのはあの冬の日だけ、対して筑波先輩はほぼ毎日喧嘩しているのだろう、自分が武器を(竹刀)を使うとしても対して変わらない、喧嘩をするときに鉄パイプなどを使うやつはいるだろう、そういう武器をもった相手との戦い方を知っているが自分はそういう経験がある者と戦ったことはないためそういう相手とはどうやって戦えばいいか分からない。

 

ただでさえ実力差があるのに経験でも差をつけられている、だから信一は勝てないと思っているのだ。

 

「今まで俺がやってきたことじゃ勝てない、じゃあどうすればいいんだ」

 

信一が悩んでいることはここにもある、今まで自分やってきたこと(剣道)じゃ兼一は守りきれなくなってくる、強くなって行かなくちゃいけない。でもその方法が分からない

 

「どうやったら強くなれるんだろうなぁ」

 

 

 

信一がシャワーから出てきたら兼一が起きていた

 

「おはよう兼一、よしよし、今日は寝坊してないな」

 

朝の挨拶をする信一、いつもこんな感じならいいんだけどな~と思いつつ兼一の顔を見る

 

「お、おおおおはよう兄さん~」

 

その顔は、気持ちのいい朝を迎えている顔ではなかった

 

“あ、負け犬の顔になってる”

 

先日の覚悟はどこに行ったのか中学時代のいじめられていた時の顔に戻っている

 

“まぁ今回は、相手が相手だから仕方がないかな”

 

と、自分でも多少はビビっており、今は何を言っても如何にかなるわけではないで特に触れない信一

 

そのまま兄弟そろって朝食を食べ、家を出る

 

登校中信一は今後の事を兼一に聞く

 

「で、どうするつもりなの?」

 

「どどどどうって?」

 

分かっているだろうに現実逃避しているのか信一の問いにとぼける兼一

 

「筑波先輩の事だよ」

 

と信一は現実を叩きつける

 

「と、とりあえず荒波立てないように武道系の部活には入らず、園芸部に入るよ。そして静かに暮らしますとさめでたしめでたし」

 

と錯乱しているかのようだが兼一の答えに

 

“まぁその辺が無難かもな、とりあえず今は目立たないようにしとくのは悪くないだろう”

 

と思う信一、そのままこの話題は横に置いといて兼一を落ち着かせようと園芸部で何をするのか、何をしていきたいのかということに話を逸らした。

 

話しているうちにある程度落ち着いてきた兼一は急に黙り込む、何か言おうと思っているのが分かっているのか兼一が話出すのを待つ信一、そして兼一の口が開いた

 

「兄さん、強くなるにはどうしたらいいのか解る?」

 

「・・・戦う気なのかい?」

 

「いやいやいや!さすがにそんな気はないけど、相手の方ががこっちに来そうだしそれに何より」

 

「何より?」

 

「逃げるのはもうやめたから」

 

“やっぱり、兼一お前は強くなったよ。あんな人相手に逃げ出そうとしないなんて、すごいことだよ”

 

兼一が成長したことを改めて実感する信一、だが今はとりあえず兼一の問いに答える

 

「で、強くなるにはか」

 

「うん、兄さんはどうやって剣道が強くなれたの?」

 

「難しいな~、まず一定以上の筋力が必要だろ、でひたすら技の練習、経験を積むっていうのが普通にしてて強くなる方法なんだけど、まぁ要は日々の積み重ねなんだよね。で兼一が聞きたいのはどちらかというと短期間で強くなれる方法だろ?」

 

「ま、まぁうん」

 

「だよな、だったら俺はそういう方法は知らないな~、しっての通り俺もそんなに才能なんてないからひたすらコツコツと努力を積み重ねていくしかできなかったからね」

 

「う、やっぱりそうだよね~」

 

と予想していたのかがっくりくる兼一

 

“というか短期間で強くなる方法なんて俺が知りたいわ”

 

兼一が肩を落としているのを傍目に信一はむしろ自分が知りたいと思った。

 

そして気がつけば学校に着き、下駄箱のところで二人は分かれた。

 

 

 

体育の時間

荒涼高校はクラス数が多いため体育は3~4クラス合同でやる

この時間は兼一のクラスと信一のクラスが合同でやっているため、今は信一と兼一と美羽そしてなぜか新島が一緒に集まっている。

 

 

「え?空手部の副主将がですか?」

 

「この間の試合で審判をしていた男なんですが」

 

「あの試合でどうやれ目をつけたみたいで近いうちに兼一をしめるってんです」

 

なぜ、美羽と新島がこのような話をしているのかというと

兼一が朝からまた負け犬の目をしていたのに困惑していた美羽に新島がでしゃばってきて、朝はもう時間がないからこの体育の時間に説明すると言ったらしい。

 

「はぁ、しめるですか?」

 

「要は、一戦交えようということです」

 

「なんだそんなことでしたの!?兼一さんやっつけちゃえばいいんですよ!」

 

「それができればこんなんになってないよ美羽ちゃん」

 

新島に事の経緯を聞き、軽く勝てと言い放つ美羽、そんな美羽に信一は突っ込む

 

「なぜですの」

 

「その筑波って先輩はこの間の大文字よりも数段強いんだよ」

 

美羽の疑問に簡潔に答える信一、そんな二人の横では兼一が何かつぶやいている

 

「筑波先輩ねぇ、素手で石を割っちゃうの、それからバット・・・蹴りで折っちゃうの」

 

「と、まぁこんな感じに力があってどうやらそれなりに喧嘩の経験も豊富みたいなんだよ」

 

となんか軽く幼児対抗しているような兼一の補足を聞き

 

“なるほど、おそらく黒帯クラスですわね、それに喧嘩慣れしてると確かに今の兼一さんでは・・・・”

 

その説明を聞きようやく兼一の状態に納得する美羽、そんな美羽に新島は

 

「ま、それはさておき・・・俺様、君のことが知りたいな~」

 

と言いながら後ろから近づき方に手を置く

 

「お前、そんなこと聞くために近づいt「ぐふっ」・・・え?」

 

新島が美羽の情報を得るために近づいてきたことを察した信一は一言注意しようとしたが新島が美羽の肩に手を置いた瞬間、ぐるんと美羽が新島を投げ飛ばした、その光景に信一は驚き言葉を途中で切った。

 

「あ!?」

 

と美羽がやってしまったというような声を上げる

 

「ああ、なんでみんな投げられるのに後ろに立つのかしら!?大丈夫ですか~」

 

と、そんな美羽に信一は

 

「み、美羽ちゃんなんで投げたの?」

 

と問いかける、美羽はいつか兼一に言ったことと同じことを信一に言う

 

「え?普通いきなり背後を取られたら投げません?」

 

“どこの殺し屋だ!?”

 

とやはり双子、兼一と同じことを思った信一だった

 

“昨日見たトンデモ身体能力と言い、この不思議な習性といい、どこかずれてるな~・・・あ、前の学校でハブられてたのってこういうのが原因なんじゃ”

 

そんなことを思っている信一、兼一は慣れているのか特にリアクションは無い、しかし兼一は美羽の方をじっと見ているそんな兼一を不思議に思って信一は声をかけた

 

「どうしたんだ兼一、美羽ちゃんの方をじっと見て」

 

「い、いやちょっとね、美羽さんに聞きたいことがあって」

 

「聞きたいこと?」

 

こんな状況で何が聞きたいんだろうと思う信一

 

「み、美羽さん」

 

「はい?どうしました?」

 

兼一は投げられて気絶している新島を起こそうとしている美羽に話しかけた

 

「あなたはどうやってそんな強くなったんですか?」

「どうやったら、僕はあなたみたいに強くなれますか?」

 

“兼一・・・”

 

美羽の目をまっすぐ見る兼一、信一はそんな弟をみて

 

“お前はもう十分強くなっているのに、なぜそこまで強くなろうとしてるんだ”

 

入学当初に言っていた、自分に迷惑をかけないということ以上の事を望んでいる兼一が何を目指しているのか解らなくなっていた

 

一方、美羽もまっすぐ見てくる兼一の目を見てその本気度を理解したのか

 

「本気で強くなりたいんですのね」

「・・・確かにわたくし、短期間で強くなれる方法を知っています」

 

「「え?」」

 

予想外の答えに驚く双子

 

「ある場所に行き、そこで武術を教われば飛躍的に強くなれるでしょう。ただし・・・・・・」

 

1拍開ける美羽、二人は真剣に話す美羽の雰囲気と話している内容にゴクリと唾を飲んだ

 

「生き延びることができれば・・・・・・ですが」

 

美羽の異様な雰囲気にのまれ何も言えない二人

 

「もし覚悟がおありなら、明日この場所へ」

 

そんな二人をよそに、とりあえずその場所とやらの地図をもらいこの場は解散した。

 

それから放課後

 

兼一が文化系の部活に変わったことにより帰宅時間が同じくらいになったので二人そろって帰ることになった。

 

二人並んで静かに歩いていく、静寂を破ったのは信一だ

 

「なぁ、兼一」

 

「お前は知っているみたいだから聞くけど、美羽ちゃんってどのくらい強いんだい?」

 

とりあえず、美羽に対して気になったことを聞く信一

 

「そうだね、本気を出しているのは見たことないけど、武器を持った大人5人を苦も無く倒すくらいだね」

 

「・・・・そんなに強いのか」

 

「うん」

 

そこでまた会話が切れた、だが信一は意を決したように本題を聞く

 

「兼一」

 

「・・・なんだい兄さん」

 

「お前、美羽ちゃんの言っていたところに行く気かい?」

 

「うん、行こうと思っている」

 

即答だった、兼一の覚悟はもう決まっているらしい

 

「・・・美羽ちゃんは結構本気で言ってたよ、ほんとに死ぬかもしれないぞ」

 

「・・・うん、僕もそう思うよでも、僕は行く」

 

ここ何日かでよく見るようになった覚悟を決めた目をしている兼一を見てこれ以上は何をいても無駄だと思った信一はもうそれ以上聞かなかった。だが最後に一つだけ聞こうとしたが

 

「なぁ、なんで・・・・・・いや、なんでもない」

 

聞かなかった

 

「?」

 

そんな兄を不思議そうに見ている兼一、何が言いたかったんだろうと

 

“・・・聞けなかった、なぜか聞いたら兼一に置いていかれる気がしたから”

 

信一が聞きたかったこと、それは、なぜそんなに強くなろうとしているのか、ということだった

 

 

帰宅後

一応どんなところなのか気になる信一は自分も同行すると兼一に言いに、兼一の部屋に行く、すると

 

「お、女の子の字だあ~!!」

 

と妹のほのかの声が聞こえた

 

「なんだいほのか、夜中に大声を出したらいけないじゃないか」

 

「あ、ごめんだじょ信兄ちゃん」

 

「うん、でなんであんな大声出したの?」

 

素直に謝ったので許す信一、そしてほのかに大声を出した原因を聞く

 

「えっとね、なんかこの兼お兄ちゃんが、いかにも女の子から書いてもらった地図を持ってたからだじょ」

 

とちょうどみたかった地図のことだった

 

「なんだ、そんなことか」

「あ、兼一~俺も明日一緒に行くから、一応地図見せて」

 

「え、まぁいいけど、たぶん兄さんも見てもわからないと思うけど。はい」

 

不可解なことを言う兼一、しかしそれは地図を見て納得できた

 

「ん?なにこれ、最寄駅や近くのバス停すら書いてないじゃないの」

 

「そうなんだよ、それにグネグネ曲がっていてわからなくてほのかなら解読できないかな~って見せたらさっきみたいな大声出したんだよ」

 

「あ~そういうことか、ほのか俺からも頼むよ」

 

難解な地図の解読を妹に頼む兄二人、お兄ちゃん子なほのかは断れるはずもなく

 

“う、なんか兼お兄ちゃんに悪い虫がつきそうだけど、お兄ちゃんたちの頼みなら仕方ないじょ”

 

「ほのか頑張る!!」

 

「ありがとな、ほのか」

 

「参考文献はいくらでもあるからな、それと都内の詳細な地図だ」

 

この30分後地図は無事解読され、明日、二人そろって美羽の言っていた場所に行くことになった。

 

 

 

そして次の日

 

昨夜に解読してもらった地図を頼りに目的地にたどりついた二人

 

「なぁ、ほんとにここで合っているのかい?」

 

「う、うん、地図通りにきたし、ここでいいと思う」

 

だが、二人は困惑しその場で佇んでいた。

 

「「妹よ、ほんとにここなのか?」」

 

だが、それも仕方ないだろう、なぜなら今二人の前にあるのはまるで時代劇に出てくる城門のような巨大な門なのだ

 

「ま、まぁここまで来たんだいまさらビビっても仕方ないし」

 

と珍しく兼一の方が先に行動する

 

「そ、そうだなとりあえず中に入ろう」

 

と信一が言ったので兼一は中に入ろうと門を押す、だが

 

「?兼一、中に入らないのかい?」

 

そう兼一がずっと押したまんまの姿勢で中に入ろうとしないのだ、いや正確には

 

「んぎぎぎぎ~、違うんだ門がびくともしないんだよ!この門異様に重いんだ!!」

 

そう、立てつけが悪いのか、錆びついているのか解らないが異様に重く中に入れないのだ

 

「はは、兼一は非力だな~そんなんでこれから大丈夫かい?どれ俺が開けよう」

 

と言って今度は信一が門に手を付ける、だが

 

「ぬおおおおお」

 

開かない

 

「ね?開かないでしょ?」

 

「そ、そうだな。・・・一緒に押そうか」

 

「だね」

 

だが二人で押しても少し動くだけだった

 

「なんで出来ているんだこの扉は~」

 

「あ、あかないいいいいい!」

 

二人で四苦八苦していると横から手が出てきた、二人はまるで気がついていないが、その手がチョンと門に触ると

 

バァン!!

 

と勢いよく開いた、二人は門を力の限り押していた二人はいきなり体を支えていたものがなくなったためすごい勢いで転がり込む

 

何事かと後ろを向く二人、そこには

 

“でかっ!!”

 

とても大きな老人が立っていた、いや大きいだけではない服の上からでもわかるくらい筋骨隆々なのだ。

そんな老人が話しかけてくる

 

「はて、お若いのここに何の御用かの?」

 

「「あの~、いや、その~」」

 

いつもはしっかりしている信一もさすがの迫力に兼一とそろって挙動不審になる。さすが双子、狼狽の仕方が同じになっている

 

“さすがに美羽ちゃん(さん)が言っていたとこってここじゃないよな(ね)”

 

と二人ともそのような答えになったのか

 

「「ご、ごめんなさい!!間違えました~」」

 

「あ、これ」

 

とすぐに出ていこうと走り出す二人、しかし

 

「「わぷっ」」

 

「またんか!!」

 

先回りされた

 

“え!?さっきまであっちにいたのに”

 

「二人とも何やら深刻そうな面持ちじゃったではないか、大丈夫かね?」

 

この一連の動作で兼一は思いいたる

 

「もしやあなたは何かの武術の達人ですか!!?」

 

「ほ、達人というほどではないがの・・・生まれてこの方負けたことはないぞ!!」

 

“やはり、美羽さんが言ってたところはここだったんだ!!”

 

このとんでもない老人を見て、美羽の言った通りここでなら強くなれると確信する兼一、これから教わろうと思ってきたので失礼のないようすかさず自己紹介をする。

 

「あ、あの僕、いや自分は白浜 兼一と言います!風林寺さんの紹介でここに来ました。よろしくお願いします!!」

 

ここ何日間で美羽絡みで非常識なことには少し慣れていた兼一と違い、美羽とのつながりが薄くダメージが大きかったので今まで呆然としていた信一も挨拶をする

 

「あ、えと、自分は白浜 信一と言います。兼一の兄で付き添いで来ました。よろしくお願いします。」

 

「ほっほ、二人とも若いのに挨拶がしっかりとしとるの。」

 

「そうかね、美羽の紹介かね。どれついて来なされ。」

 

礼儀正しくしたのが功をなしたのか、好印象で受け入れてもらえたようだ

 

案内され廊下を歩く3人、一応の確認のため兼一は老人に話しかける

 

「あの、この道場で空手を教えてくれますか?」

 

「うむ、空手も剣術も教えとるよ」

 

と兼一が聞いてないことも答える老人

 

「え?剣術は別にいいんですが」

 

という兼一、当然だろう兼一は武器を使おうなんて思っていないのだからだが老人は首を横に振り

 

「ソナタではなく、お兄さんのほうじゃ、筋肉の着き具合からして剣を扱っているじゃろ?」

 

それを聞いて驚く二人、ただ腕を見ただけでそんなことがわかるなんて普通は思わない。

少し間が開いたが、早く答えないと失礼なので答える信一

 

「あ、いや確かに剣道をしていました。ですけど自分は入門希望ではなくただの付き添いなんで」

 

その答えに意外そうにする老人

 

「ほう、そうだったのかね、すまんの勘違いしてもうた」

 

勘違いだったと謝る老人、そしてまた歩きだそうとした瞬間

 

ズバム!ズバム!!

 

と何やら聞いたことのない豪快な音が聞こえてきた

 

何の音か、と二人そろって音のする方へ顔を向ける、そこにはサンドバッグに向かってとてつもない蹴りを繰り出す茶色の肌をした巨人がいた。

 

「「な、なんですかあれぇ!?」」

 

またもや二人そろって叫ぶ、だが老人は特に気にせず巨人を紹介する

 

「ん?ああ、彼はタイ人のアパチャイ・ホパチャイ君28歳、ムエタイ家じゃ」

 

そんな紹介をしている最中も豪快な蹴りを繰り出しているアパチャイ、彼の一挙手一投足に驚いてる二人

 

「アパァ!」

 

「うおおおおお」

 

「アパパ!」

 

「すげぇえええええ」

 

「アッパァ!!」

 

「「ひいいいいいい!」」

 

どうやら二人のリアクションが気に入ったのかどんどん過激になっていく、これ以上いろいろな物を破壊されてはかなわんと

 

「アパパパパパパ!!!」

 

「「ぎぃや、んぐっ」」

 

口を塞ぐ老人

 

「あまり驚かんように、彼喜んで調子に乗るんじゃよ。これアパチャイやめんか!!」

 

“あれ喜んでいたのか!?”

 

衝撃的な事実に二人は驚き困惑した、今のどこに喜ぶ要素があったのかと

 

「すまんのう、久々の客人に興奮しとるんじゃよ」

 

そう言いながら先に進む老人、その後をついていく二人、しかし途中で襖の開いている部屋があったため思わず覗いてしまう、そこのは絶世の美女と言える二人の女性がいた。

 

二人ともこんなきれいな人たちもいるんだと安心したが、その二人の女性の周囲を見て驚く

 

ポニーテールにしている袴は掃かず、上着のみのワンピースのような感じで着物を着ていて背中に刀を背負っている女性の周りには沢山の武器が並べられている

 

一方、長い髪を後ろでまとめて剣道着のようなものを着て腰に二本の小太刀を下げている女性の周りには複数の丸太が並べられている

 

何をしているんだろうと気になりじっと見ている二人、次の瞬間

 

女性二人が身に着けている武器に手をかけたと思ったら、並んでいたたくさんの武器はまるで紙でできていたかのように細切れになり、周りにあった丸太は何とも見事な仏様になった。

 

「「な、なんとぉ!?」」

 

ここに来てから何回目の驚きか今の一瞬の出来事にまたもや驚く二人

そしてポニーテールの女性からいきなり話かけられる

 

「おい、僕たちに何か用、か?」

 

じっと見ていたのが癪に障ったのか少し怒ったような感じで言われ謝る二人

 

「「ご、ごめんなさい!!」」

 

だがもう一人の髪をまとめている女性は手を自分の頬にあてながら双子に向かって

 

「あら、ごめんなさい。しぐれはあなたたちに言ったんじゃないんですよ」

 

と気にしないでと言った

 

では誰にと二人が疑問に思っていると、しぐれと呼ばれた女性が

 

「何か用があるなら畳の上からにし、ろ馬 剣星!!」

 

といきなり畳の隙間を刀で刺す、その瞬間畳が跳ね上がり中から帽子をかぶった中国服を着て、長い口髭をはやした男性が飛び出してくる

 

「ほっ、いやちょっと通りかかっただけねしぐれどんに、桜花どん」

 

と言いすたすたと出て行こうとするが

 

「お待ちなさい」

 

桜花と呼ばれた女性が片方の小太刀を首にあて、静止させる

 

「ただ通り過ぎただけというのにその懐の怪しげなカメラで何を撮っていたのかしら、剣星さん?」

 

そう言われて冷や汗をかいている男性はバッと言い訳をしながら逃げた

 

「パン、ん、んん・・・風景を撮っていただけね~」

 

明らかに違うものを撮っていた男性に向かい二人の女性は怒り

 

「待、て剣星」

「待ちなさい剣星さん!!」

 

二人して手裏剣を投げる、このまま当たれば男性はただでは済まない、だが男性は器用に避け、双子の横を通り過ぎる。当然手裏剣もひきつれて

 

「兼一、危ない!」

 

信一は自分の後ろに弟を移動させ自らを盾としたが、当たる瞬間老人の手が出てきて見事に手裏剣を取り

 

「あちこち覗いてると危ないぞ」

 

と注意をする。

 

双子は腰を抜かし

 

“ここ、何!?”

 

といまさらながらに疑問に思う

 

そして立ち上がり一直線に目的のところへ

 

「さておぬしの希望の空手の先生なのじゃが、実は少々気難しくての」

 

「は、はァ」

 

どうせここもまともじゃないんだろうと心の中は逃げ出したい気持ちでいっぱいになっている兼一

 

そんな兼一は気にせず老人は扉を開け

 

「おお~い、逆鬼君、相談なんじゃが」

 

とさっそく兼一がきた経緯を話す、だが逆鬼と呼ばれた男性は話を聞き終わるとまるで怒気をまとっているような雰囲気で

 

「なにぃ~弟子だァ?ばっきゃろう、俺は弟子は取らねえ主義だ」

 

気難しいじゃろ?と兼一を見る老人

 

「それに、俺なんかに弟子入りしたら」

 

そう言いながら、つるした畳に向かって構えを取る男性、その畳はよく見たら人の絵が描いてある

 

「チェストォ!!」

 

いきなりの発声、それとともに描かれた人の急所に向かって寸分の狂いなく抜き手を放つ、すべて手が腕が畳を貫通した

 

そんなことをしでかし

 

「三日で死ぬぜ」

 

とさらに脅して来た。そんな姿に兼一は当然逃げ出す。いや兼一でなくともこの状況は逃げ出すだろう。

 

「そっすか~、弟子は取らない主義なら仕方ないですね~、お邪魔しました!!」

 

「あ、おい兼一!」

 

と扉の方に走る兼一、そしてそれを追う信一

 

兼一が出ようとした瞬間、急に扉が開くその中から出てきたのは何とも逆らい難い雰囲気をまとっている男性だ、とてもダンディな顔立ちをしているがよく見ると白目がしかにように見える。

 

こんな場所で突然あらわれたのだ、今までの精神的ダメージも相まって兼一は叫びながら気絶してしまった

 

「兼一~!」

 

兼一に駆け寄る信一、そんな兄弟を傍目に

 

「おいこいつ鍛えて大丈夫か?」

 

「まぁ、美羽が連れてきたし大丈夫だろう」

 

「ほっほっほ、素直ないい子じゃないか」

 

と話す老人と二人の男性

 

 

 

そしてすぐに兼一は目を覚ました。

 

「おお起きたか兼一」

 

「兄さん、それと」

 

「大丈夫ですか兼一さん、すみません内の師匠達は人を驚かすのが大好きで、言い聞かせてたのですが」

 

「美羽さん・・・って内の?」

 

目を覚ました兼一に寄り添う、兄と美羽

だがそんなことはどうでもいいと言わんばかりに美羽の言った意味を理解しようとする兼一

 

そして美羽から衝撃的なことを聞き

 

「実はここ・・・・・・わたくしの家なんですの、そして兼一さんたちをここまで案内してたのが、わたくしの祖父です」

 

 

「「な、なにいいいいいいいい!」」

 

二人の叫び声が木霊した

 

 

 

ここは梁山泊!!

 

スポーツ化された武術になじめない者や武術を極めてしまった豪傑たちが集う場所

 

ケンカ百段の空手家 逆鬼 至緒!!

 

哲学する柔術家 岬越寺 秋雨!!

 

あらゆる中国拳法の達人 馬 剣星!!

 

裏ムエタイの死神 アパチャイ・ホパチャイ!!

 

武器と兵器の申し子 香坂 しぐれ!!

 

桜華絢爛の二刀使い 世戯 桜花!!

 

そしてそれらを束ねる梁山泊の長老

無敵超人 風林寺 隼人!!

 

 

ここから兼一と信一、双子の凡人の史上最強への道が開かれた!!

 

 

 

 




あとがき

すみません、梁山泊に入門させるなんて言ってまだ入門できませんでした!
バトルさせるなんて言ってバトルさせれませんでした!

はぁテンポが悪い、この調子だと完結するのはいつになることやら


話は変わり二人目のオリキャラ
名前からわかるとおりある人物の血縁者です、あ、別にヒロインではないのであしからず。
でも、ヒロインの関係者ではあります。

ご意見・ご感想お待ちしております
ではまた次回


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第五話 二人の信念

兼一と信一の二人の危険への感がサイレンを鳴らしている

 

“やばい、やばいよ兼一。危険なにおいがプンプンするよ~”

 

兼一はイジメられっ子の感を

 

“こ、怖~!!なんか目茶苦茶強かった道場の先生に稽古つけてもらう直前みたいな感じがするんだけど!?”

 

信一は剣道の先生に稽古をつけてもらう時の経験から危険への信号をキャッチしていた。

 

「さてと、私・・・お茶を入れてまいりますわ~」

 

“ちょ、置いていかないで~!”

 

とんでもないところを紹介してしまって気まずくなったのか美羽は二人を置いてその場を後にしてしまった。

 

「美羽の奴、押しつけるだけ押し付けて逃げたぞ」

 

「まるで、クモの巣にはまった蝶を助けようとしたらもっと大変なことになってしまった時の子供のような行動じゃのう」

 

「クスクス、その表現ナイスね♪」

 

「で、この蝶々たちをどうするかね諸君?」

 

双子は並んで正座をし、がたがたと震えている、美羽の行動と双子の反応を見てどこか楽しげに話している達人たち、この二人の処遇を話合おうしようとしたとき長老が止める

 

「まぁ、それは本人に聞こうではないか。覚悟があってきたのだろうから・・・」

 

その言葉を聞き、はっとする兼一。信一はそんな弟をこの人たちの前に立ってなお引かないのかじっと見る。

 

まるでここが引ける最後の瞬間だと言わんばかりに少しの静寂が漂う。

 

そして長老が口を開き最終確認を取る。

 

「・・・改めて聞こう、白浜兼一君。入門するかね?我らが梁山泊に!!」

 

兼一は少し間を開け

 

「強く、強くなれるなら!!」

 

入門すると宣言する。その顔を見て信一はもう何も言わないという顔をし、長老はいい顔じゃ、というように笑顔を浮かべた。

 

「じゃ、この巻物に住所と名前を書いてね」

 

もう逃がさないとばかりに剣星が入門書?を書かせる

 

「じゃあ、月謝は二万円ね」

 

「「ええっ!?高!!」」

 

書き終わった兼一に、月謝を取ろうとする剣星。

しかし法外な値段に驚く二人

 

「ちょ、自分が子供の頃に行ってた剣道道場は3500円くらいでしたよ!」

 

「じゃあ、一万円くらいでいいね」

 

実はいつも財政の厳しい梁山泊、ここで貴重な収入源を逃してたまるかと一万円も落としてきた。だがそれでも微妙な顔をする双子を見て、無いよりましかと思ったのか

 

「・・・五千円でいいね」

 

と一気に安くなり

“いきなり四分の一になったよ、ほんとに大丈夫かここ?”

 

と二人そろって思ってしまった。

 

「はしたないぞ剣星!」

 

そんな一連の場面を見て注意する秋雨、彼としては月謝なんてとる気はなかったのだろう

 

「まあまあ、秋雨君」

 

だが、そんな秋雨を会長は止め、梁山泊が貧窮を極めていて美羽がよくやりくりしていることを説明する。

 

その話を聞き兼一はちょっとでも美羽の助けにならなければと思い改めて入門を決意した。

 

ちょうど話が一区切りしたところで美羽がお茶を入れて戻ってきた

 

「それで兼一さんは何の武術を習いたいんですの?」

 

お茶を配り終えた美羽は兼一が何を習いたいのか聞いてきた

 

「う~ん、できれば思い入れがある空手がいいんですけど」

 

やはり初めて手を付けたからか空手がいいとこぼす兼一、しかし当の空手の担当者は

 

「俺は弟子は取らねえ主義だ!」

 

と変に迫力を出して拒否、どうしようかと悩んでいるとしぐれがボソッとつぶやく

 

「ボク・・・秋雨が教えたらいいと・・・思う」

 

「おいおい私かね?」

 

突然のしぐれの推薦に軽く困惑する秋雨、しかし、しぐれの他にも推薦者いる

 

「そうですね、私も岬越寺さんがいいと思います。教えるのに慣れていますし」

 

「そうじゃの、わしもそう思うわい」

「それに、ほかの者じゃと冗談抜きに殺してしまうかもしれんしの」ボソっ

 

桜花と長老の二人も秋雨が教えることに賛成のようだ

だが長老がつぶやいた言葉は兼一並びにほかの者にも聞こえており、兼一は脅え、何人かは目をそらす。

 

「み、美羽さん~、兄さん~」

 

脅えている兼一は思わず二人に縋り付く

 

「大丈夫、岬越寺さんは比較的常識的な方ですから」

 

「美羽ちゃんがこういっているんだし大丈夫だろ、小さくつぶやいたことがなんか気になるけど、しっかりしなよ兼一」

 

大丈夫だと元気づける美羽、しっかりしろと背中を押す信一そんな二人の後ろから秋雨が顔を出し、兼一に質問する

 

「一応聞くが、君は全くの武術素人かね?」

 

「は、はい!!どうしても強くならないと先輩に殺されちゃうんです・・・」

 

兼一の答えを聞き、ここに来た理由を察する秋雨

 

「なる程、そういうことか。わかるよ私も昔いじめられていたからねえ」

 

「ええ!?本当ですか!」

 

半信半疑な兼一をほんとだよというように微笑む秋雨

 

「柔術は身を守るのにとても有効だ、大丈夫、私はそんなに厳しい方じゃないから」

 

その言葉を聞き安心する兼一、この人なら大丈夫そうだと思っている。だが信一は、

 

“う~ん、確かに任せても大丈夫そうだけど。厳しくないと自分で言う人ほど大抵はかなり厳しいんだよな~経験的に”

 

任せられるがどこか安心できないと思っているのだった。

 

 

 

 

「さて、とりあえずは大丈夫そうだから俺はもう帰るよ」

 

「あら?あなたは入門しないですか?」

 

梁山泊に兼一を預けても大丈夫だと思った信一は、ここでお暇しようと立ったところ桜花に話しかけられた

 

「え、ええ自分は弟の付き添いで来ただけですから」

 

長老に言ったことと同じことを言う信一

 

「あら、そうでしたの。てっきりあなたの方はしぐれに師事するのかと思いましたわ」

 

桜花のその言葉に疑問を持つ

 

「なぜ、武器を使う人に教わると思うんですか?」

 

そう、なぜ武器使いに教わると確信しているんのかということだった、長老以外には剣道をしていたことを言っていないのに、だ。

 

その疑問を聞いた梁山泊の豪傑たちは全員不思議な顔をし皆を代表して秋雨が言った

 

 

「おや?君は剣を使うんじゃないのかい?」

 

うんうん、と頷く豪傑たち

 

 

「いや、まぁ剣道をしていましたけど。というか長老さんもですけどなんでわかるんですか?」

 

自分が剣道をしていたこと打ち明け、どうして何をしていたのかがわかるのか聞く信一、その疑問に秋雨は

 

「ああ、やっぱり剣道か道理で刀を振っているのとは少し違う筋肉の着き方をしていると思ったよ。」

 

「なぜわかったのかという、と。

筋肉の着き方を見れば、一目瞭然。

あと手に剣ダコが出来て、る。

よく見れば誰でもわかること、だ」

 

“いや誰でもは分かんないでしょ”

 

予想通りという秋雨、そしてそれに続いてしぐれが信一の疑問に答える。長老と同じく筋肉を見ただけでわかることに驚きながらも、だれでもわかるという言葉に心の中で突っ込みを入れる信一

 

「でも残念ね~しぐれ、弟子ができるかもってちょっと期待したでしょう?」

 

「・・・・・・べつ、に」

 

桜花がしぐれを茶化す。確かにそこはかとなくしぐれは残念そうにしている

 

そんなしぐれを見てなんだか罪悪感に駆られる信一

 

「その~すいません。なんか期待させたみたいで」

 

罪悪感から思わず謝罪してしまう信一

 

「ああ、気にしないでいいですよぉ、こっちが勝手に勘違いしてしまっただけですから、ですけど、もし何かあったら遠慮なく来てくださいね」

 

その言葉を聞き、まるでまた自分が来ることを確信したような物言いに疑問を持ったがもういいかと思い、今度こそ帰ろうとする信一、障子を開け兼一に頑張れよといい廊下に出て、玄関に行き、門を出ようとした

 

「まちなさい」

 

だが後ろから声をかけられる

 

信一が振り向くと、そこには長老がいた

 

「何か、悩んでいるようじゃの」

 

・・・・・

 

信一は沈黙する

 

そんな信一を見て、何も話さないと思ったのか長老は一方的に話し出す

 

「人間だれしも悩むことはある、わしだってそうじゃし、まだ若い信一君なら悩みの無い日の方が少ないじゃろう。じゃが、そこで足を止めたらいかん、前に出れる機会に巡り合えたなら前に進んだ方がええぞい」

 

その言葉を聞き信一は長老に聞き返す

 

「今がその前に出れる機会だというんですか?」

 

「どうかのぉ、わしは神様じゃないからの~、ただまぁ長生きしてきたじじいのあどばいすじゃと思ってくれ」

 

「なんかはぐらかされてる気がしますが、ご助言ありがとうございます。改めて兼一をよろしくお願いします」

 

「うむ、またいつでも来なさい」

 

そう言って梁山泊を後にする信一を長老は見送った。

 

 

 

その日から兼一はボロボロになって帰ってきた。

ただ、空手部の時みたいに暗鬱な感じではなかったので信一は特に気にしないことにする。

 

数日後、いよいよ筑波先輩が本格的に兼一を探し始めたらしい、それに合わせて兼一がより一層ボロボロになって帰ってくるようになった。

 

あまりにもボロボロなのでとうとう両親が兼一を呼び出しその道場がまともなのか聞いてくる。当然、兼一はまともじゃないと答えたがまともじゃ間に合わないと言い、特に詳しく説明はせず席を立つ。

 

兼一が去った後、道場の方に行ったことのある信一にどんなとこか聞くことにした両親、信一は初日以外行っていないからどんなことをしているのかは解らないと答えたが、教えている人たちは悪い人じゃなさそうだったと言い説得する。

最終的には母が父に今まで何をやってもすぐに逃げ出してきた兼一が今戦おうしているから見守ってあげましょうと援護してくれて、父には納得してもらうことができた。

 

 

 

放課後

部活に行こうと教室を出る

 

「信一~」

 

例のごとく宇宙人が来た

 

「なんだ、宇宙人。せっかく今から楽しい部活に行こうとしてたのに」

 

「そういうなよ、それよりもとうとう兼一が筑波に捕まったぞ」

 

「なんだと!?」

 

とうとう捕まったと聞き驚く信一

 

「今どこに居るんだ!?」

 

急いで駆けつけようと場所を聞き出そうと新島の襟元を掴み前後に揺らす

 

「校舎裏に連れて行かれたらしいぜ」

 

場所がわかり新島から手を放し走り出す信一

 

「ちょっとまちな」

 

走り始めた信一を新島は呼び止めた

 

「急いでいるんだよ、また後でね」

 

無視して行こうとする信一

 

「だから待てって、お前丸腰でどうするんだよ」

 

そう言われて気がついた、自分は竹刀は持っていないと

 

「・・・す、素手で何とかするさ!」

 

明らかに強がっている信一

 

「竹刀持ってても勝てないだろう相手に経験の無い素手で何とかできるわけないだろうが」

 

「うっ」

 

図星を刺される、どうしようと悩み始めた信一に新島は何かを投げつけた

 

「たく、ほれこれでちったぁマシだろうよ」

 

新島が投げつけてきたものそれは竹刀だった

 

「これは」

 

「剣道部からパクって来た、まぁそれでも負けるだろうがせいぜいやられて来い」

 

ありがたがったがなんだか気味が悪くなった信一

 

「どうした、いやに親切じゃないか気持ち悪い」

 

「ひゃははは!喧嘩系の記事は人気だからな。武器を持った相手に勝ったって書きゃそれなりに新聞が刷れるんだよ!というわけで盛大に負けて来い」

 

やはり裏があった、まぁ確かに負けるだろうが人から言われるのはムカついたので一発拳骨してさっさと走り出した

 

 

 

校舎裏

 

曲がり角をまがって信一が校舎裏に着いたときに兼一が筑波に腹を蹴られているのが目に入った

 

「うぐぇぇぇぇ~、ぐ、ぐぇぇ」

 

よほどきれいに入ったのか腹と口を押さえてのたうちながら吐き気を抑えている

 

期待してた兼一がまるで素人だったのが気に入らなかった筑波は近できさらに追い打ちをしようとしていた

 

だが信一がそんなことさせまいと駆け出す

 

「兼一!!」

 

突然聞こえた声に足を止めた筑波、信一はそんな筑波を気にせず兼一の元に駆け寄る

 

「大丈夫か!?兼一」

 

「に、兄さん?なんで」

 

「なんではこっちのセリフだなんで逃げないんだよ!今はまだ勝ち目なんてないのは分かってただろ!?」

 

兼一に駆け寄りなぜ逃げなかったか問う

 

「・・・あの人は僕をフヌケって言ったんだ」

 

「兼一?」

 

「それを訂正させたくて、僕はもうフヌケじゃないって、その言葉からもう逃げたくなかったから、だから!!」

 

目に涙を溜めながら自分の心の内を語った兼一

 

「・・・そうか、そうかぁ。よく、頑張ったな、お前は確かにもうフヌケじゃないよ」

 

兼一が逃げなかったことを認め、ほめる信一

 

「でも、ここからは俺がやる」

 

そして、信一は筑波の方を向く

 

「ダメだ兄さん!」

 

兄を止めようと動こうとする兼一、だがいまだにダメージが抜けきらないから動けなかった。

 

「おめぇは誰だよ、いきなり横入りしやがって」

 

ただでさえ兼一が期待外れだったためイラついていた筑波はさらに邪魔されて余計に頭に来ていた。

 

「白浜 兼一の兄だ」

 

一応、問われたことに答える信一。そして竹刀を中段に構える

 

「は、なんだよそこのフヌケの兄貴か。じゃあ全然期待できねぇじゃねえか!!」

 

さっきまで自分がボコっていた者の兄だと知り、全然期待できないとさらに怒りだす筑波

 

「なんだぁ?竹刀なんてもって、いつもの鉄パイプとと違ってそんな棒切れ当たったって痛くもなんともねぇ!本気で俺とやるって言うんなら覚悟はいいんだろうな!!」

 

そういって筑波は構えた、半身になり両手はまるでボクシングの構えのようにして、足は肩幅と同じくらい開き左足を前に右足を後ろにしてピョンピョンとスッテプを踏んでいる

 

「見たところ剣道をしているみたいだな、だがんなもん珍しくぇ。いつも遣り合っている連中のなかにも五万といるぜ!」

 

そういって掻い潜り攻撃を繰り出そうとする筑波、だがそれなりに距離があったため信一は竹刀の先端を素早く筑波の喉に向ける。前に出ようとしたところに竹刀があるため攻撃せず筑波は踏みとどまる

 

「そいつらは間合いってもんを分かってないだけじゃないですか?剣道をしている人は普通はこういう風に牽制できるんですよ」

 

武器を持っている者が無手の者と戦う時の最大の利点それは間合いの違いだ。

武器というのは強力だ。それは威力の事だけを指しているんじゃない、攻撃範囲も驚異の一つ、いやむしろ攻撃範囲こそが武器を持つものと戦う時に一番に気お付けないといけないことなのだ。自分の攻撃が届く前に攻撃されるのだからたまったものではない

 

「ちっ、ちょっとは出来るみたいだな!」

 

今の攻防で少しは出来る奴と認識した筑波、ちょっとは警戒させれたかと思った信一。

しかしこの心の隙が命取りだった、武器使いとして一番に気お付けないといけないことは武器を持っていることに対する安心感だ。その安心感が慢心になり隙を生む

 

ここで信一の経験の無さが出てきた。

 

この間合いを保っている限り大丈夫だと、安心してしまったのだ

 

「だが、言っただろう!お前ぇみたいなやつとも遣り合って来たってな!!」

 

そういうと筑波は竹刀を思いっきり下から蹴りあげた

安心していたところにバットを折る蹴りを受け竹刀が跳ね上げられた。

 

小学生のころに行っていた道場の先生からの言いつけから絶対に竹刀を手放さないようにしていたので、かろうじて竹刀は持ったままだが腕ごと跳ね上げられているため体はがら空き、保とうとしていた間合いは崩れた

 

その瞬間を見逃すわけはなく、筑波は懐に入り込み中段突きを放った。

頭一つ分の身長差があったため筑波にとっては中段突きでもちょうど信一の顔が胸のあたりにあるため筑波の拳は信一の顔面に突き刺さる

 

ばきゃあ!

 

“はや、重!!”

 

今まで受けたことのない痛みに衝撃

去年の冬の奴とは違う、鍛錬された拳、本当に喧嘩慣れしている拳

その威力に一発で心が折れそうになる

 

だが、後ろにはボロボロの兼一がいる。

逃げなかった弟がいる。

双子の弟が逃げなかったのに自分が逃げてたまるかという対抗意識と、そして大切なモノをこれ以上傷つけさせてたまるかという気持ちがわき出てくる。

 

信一は何とか吹き飛ばされず踏ん張り、上がっていた腕を振り下ろす

 

「なに!?」

 

吹き飛ぶものかと思っていた筑波は、その攻撃に虚を突かれた。

だが素早く横に跳び回避する

 

「ふん、今ので吹き飛ばなかったのはほめてやる、だがもうフラフラのようだな」

 

筑波の言うとおり、信一の意識は今の一撃で朦朧としている

 

ここでも信一の経験の無さが出た

実は兼一もまともに顔面に突きをもらっていたのだが信一ほどダメージは受けていなかった

 

なんだかんだで兼一は殴られ慣れていたので無意識に体を引きダメージを少し減らしていたのだ。しかし信一は衝撃には慣れているが直接殴られる経験は全然ない、その結果が今出てきた

 

“ちくしょう、たった一発で意識が朦朧としてきた”

 

だけど

 

“まだ、まだやれる!今倒れたらまた兼一がおそわれる!”

 

兼一を思う一心で意識を何とか意識を引き戻した、だがやはりダメージは甚大

 

だから

 

“あの冬の日みたいに次の一撃にすべてをかける”

 

中段の構えから上段の構えに変える

 

「ふん、一撃に全力を込めるってか無駄だ!!」

 

また構えステップを踏む筑波

すぐにでも前に出ようとしたが踏みとどまる

 

あの日と同じ信一は今、持ちうる限りの気合で迎え撃とうとしている

その雰囲気を感じ取ったため筑波は踏みとどまったのだ

 

「ほう、いい感じじゃねぇか」

 

「だが、このくらいはいつもこのくらいの気迫はいつも感じてるんだよ!!」

 

信一の全力も対して意に介さない筑波

前に出てくる、そして信一の間合いに入った

 

“今だ!!”

 

信一は振り下ろす、あの日と同じ乾坤一擲の一撃を繰り出す

 

そして竹刀が筑波の頭に当たった

 

信一の感覚としてはあの日と同じくらい会心の一振りだった

 

だが

 

「ふん、やっぱりこんなもんか」

 

筑波はぴんぴんしていた

 

“そ、んな”

 

会心の一撃を難なく耐えられ精神的にもダメージを負う信一

 

「言っただろうが、いつも鉄パイプを相手にしてんだよ俺は!いまさら竹刀なんてもんどうってことはねぇよ!!」

 

そういってまた信一の顔面に突きを繰り出す

 

この一撃で信一は完璧に意識を失った

 

だが、筑波は追い打ちをかける

 

「だが、まぁまぁな一発だっだぜ、そのお返しだ!!」

 

倒れている信一の腹を思いっきり蹴り、そのまま足蹴にする

 

しかし信一を完全に踏む前に兼一が筑波の足首を掴んだ

 

「もう勝負はついたでしょう!?これ以上兄さんに触るな!」

 

「また手前か、離せ!!」

 

筑波は兼一の顎を蹴る

 

「おごっ」

 

兼一は蹴り飛ばさた、顎に当たったことで脳が揺らされたのかもう立ち上がれなかった

 

「ちっ、雑魚どもが手間かけさせやがって」

 

筑波はそう言い、気が済んだのか立ち去った

 

 

 

そこそこ距離が離れたところで筑波は頭を抑えた

 

「く、今頃打たれたダメージがきやがった」

 

信一の一撃はダメージを与えてなかったわけではない、だが筑波もなんだかんだで打たれ馴れている。それも竹刀よりも固いもので

 

「まぁこの程度いつも喰らっているから気にすることじゃねぇか」

 

特に気にせずまあ歩き出そうとした

 

だが今度は足首に違和感を感じた、制服の裾を捲ってみると

 

「なんだぁこりゃあ!?」

 

そこには手形がついていた

 

「完全に内出血してやがる!?あのフヌケ野郎どんな筋力トレーニングをしやがった?」

 

こんなになる程の筋力が短期間で付くものかと驚愕し、兼一の顔を思い浮かべ

 

「明らかに素人の動きだったのにわけわかねぇ」

 

とつぶやきまた歩き出した

 

 

 

 

「はっ、ここは?」

 

信一は目を覚まし、当たりを見回す。

古臭いがどうやら病室らしい

 

「そうか、俺は・・・・負けたのか」

 

少し頭を整理して自分がどうなった思い出す。

 

“俺の全力の気合も意に返されず、渾身の一撃も通じず完敗か・・・”

 

ケンカでは初めてだが負けること自体は初めてではない、心の整理のつけ方は身に着けている

 

「は!?兼一、兼一は!?」

 

兼一がいないことに気がつき焦り出す、その時、帽子をかぶり中国服を着た者が入って来た

 

「ほ、どうやら目を覚ましたようね」

 

「あなたは、確か」

 

「おや、どうやら覚えてたようね。そう、兼ちゃんに中国拳法を教えている馬 剣星ね」

 

確かに覚えていた、だが信一は気になることがあった

 

「そうですかここは梁山泊でしたか・・・・・・あれ?兼一が教わっているのは確か柔術じゃありませんでしたっけ?」

 

「あれ?兼ちゃん言ってなかったのかね?」

 

「何をですか?」

 

「兼ちゃん柔術だけじゃなく、ムエタイと中国拳法も習い始めたね」

 

「・・・それ大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、出来なかったらそこまでね。強くならないわけじゃないし」

 

「はあ」

 

何か思うこともあるがとりあえず相槌を打つ信一、だが剣星の話はまだ続いていた

 

「それに」

 

「それに?」

 

「昔から、弟子は生かさず殺さずと言うしね」

 

何とも言えぬ雰囲気を醸し出し、何やら目が光っているように見えた

 

“ひぃぃぃ!?”

 

その雰囲気に信一は脅えるが

 

「そ、そうだ兼一はどこですか!?あいつは大丈夫なんですか!?」

 

と最初に聞きたかったことを思い出す

 

「落ち着くね、というか兼ちゃんよりも君の方が重体ね」

 

「じゃあ」

 

「うん、軽く手当をして今は母屋の方にいるね」

 

「そう、ですか」

 

兼一の無事を聞き安心する信一

 

「じゃあ、ちょっと体を見せてね。おいちゃんこう見えて医学の心得もあるからね」

 

「あ、はい」

 

そう言い信一の体を診る剣星

 

「うん、少し内臓にダメージがあったけどこれなら特に問題なさそうね」

 

「そうですか」

 

「でも、念には念を入れて薬を飲んでね」

 

と言われ出されたのは独特の香りのする粉薬だった

 

「これもしかして」

 

「そう、漢方ね。それもおいちゃん特性よく効くよ~その分かなり苦いけど」

 

そう言われ顔をゆがめながら飲む、その瞬間信一の顔が崩れ、涙も浮かべている。どうやら相当苦かったようだ。

 

「じゃあ、兼ちゃんのところに行くかね実際顔も見といた方がいいよね?」

 

「あ、はいお願いします」

 

 

剣星についていき病室を出て兼一のいる母屋に向かう信一

 

「ここね」

 

兼一のいる部屋に着き中に入ろうとしたが

 

「ん?ちょっと待つね、何やら取り込み中らしいね」

 

「え?」

 

剣星に止められる

 

「ちょっといけないけど、聞いてみるかね」

 

そういうと障子を少し開け中の声が聞こえるようにする

二人はなるべくばれないよう身をかがめる

 

中をよく見ていると、中央付近に秋雨と兼一が座っていた。確かに何やら真剣な雰囲気だ

それにほかのところではアパチャイと逆鬼が隠れる気もなく堂々と聞きに来ており、天井にはしぐれと桜花がいる

 

「で、君はどうしたい?そいつを同じ目に合わせてやりたいのかい?」

 

どうやら兼一の今後を話しているようだった

 

秋雨の問いに兼一は泣きながら答える

 

「僕は、間違っていることを間違ってるって言いたいだけなんです」

 

「でも、それを口に出すだけじゃ・・・何も変わらなくて」

 

「それにもう僕の所為で兄さんが傷つくのを見たくないんです!!僕の所為で剣道をやめる羽目になって、今回だって僕をかばったせいで兄さんが怪我をした!」

 

「自分が思ったことを実際にやろうとするには、兄さんをこれ以上傷つけないためには」

 

「力がいるんです!!力と勇気が!!」

 

「僕にはどちらもまるでないけれど・・・」

 

兼一の答えに達人たちは笑みを浮かべる、その笑みの意味はそれぞれ違うだろう

だが、これからすることは全員一致した

 

「よし!明日より技の稽古に入る!!」

 

今の兼一の心からの叫びに達人たちは認めたのだ正式な弟子にすると

 

“「信じる正義を貫くための力」か・・・まさか遙か昔わが師に言ったことが自分に返ってくるとはな!!”

 

秋雨が懐かしさに浸っている

 

他の者たちもどこか昔の自分と重なっているんだろう

 

そんな中、剣星の横にいた信一はその場にいない

 

 

 

信一は道場の方にいた

 

「こんなところに来て、どうしたんですか?」

 

道場の真ん中で突っ立ていた信一にいつの間にか桜花が来て話しかけてきた

 

「おおう!?ビックリした~急に後ろから話しかけないで下さいよ。ええ~っと」

 

話しかけられるとは思わなかったのか驚く信一、名前を思いだそうとしていると

 

「ああ、そういえばまともに名乗っていませんでしたね」

 

「わたし世戯 桜花と言います。桜花と呼んでくださいな」

 

桜花は軽く自己紹介をして話を戻す

 

「それでどうしたんですか、こんなところに来て安静にしてた方がいいですよ」

 

至極当然のことを言う桜花、しかし信一は何も答えない

 

「もしかして、気にしてますか兼一君を守れなかったことを」

 

「なんで・・・わかったんですか」

自分の心の内を言い当てられた信一

 

「なんとなくです。そういう顔をしてるな~って思っただけですよ」

 

その答えを聞き、隠し事は出来そうにないとどこか諦めて語り出す信一

 

「自分は子供の頃から剣道をしていたんですよ、始めた理由はよくいじめられていた兼一を守ろうと強くなりたかったからで、剣道を選んだのは自分は兼一と同じく恵まれた体格をしていないから武器を持ってたら何とか太刀打ちできるかなって考えたからなんですよ。まぁ才能はなかったから目立った成績は残せてないですけど」

 

「していたとは?」

 

「去年の冬、まぁ今日みたいに兼一が苛めれていたところに横入りして、竹刀で防具をつけてない人を殴っちゃったから剣道をやめたんです」

 

そこで疑問を持つ桜花

 

「もともと兼一君を守ろうと身に着けたモノなのになんでそれでやめたんですか?」

 

「結構ぐいぐいきますね、まぁ気にしませんけど」

 

「理由は簡単です。小学生のころ通っていた道場の先生に初めに習ったことが剣道家が防具をつけていない者を竹刀で殴るのは、剣道家として最低の行為だってことです。その言葉を聞いたとき理由もなくかっこいいって思ったんですよ。それで剣道をはじめるときに竹刀で人は殴らないと決めちゃったんです」

 

「今思うとおかしい話ですよねぇいじめられっ子から兼一を守るには殴らなきゃいけない時があるかもしれないのに自分から目的を忘れちゃっているんですから」

 

気がつけば先ほどの兼一の時みたく周りに達人たちがいる

 

「信一君は剣道が好きだったんですねぇ、真摯に向き合っていたから竹刀で人を殴った自分が許せなくて剣道を、正確には剣道家をやめたんですね」

 

その通りだった

 

「・・・はは、なんでもお見通しですねぇ。まぁそういうことです」

 

「あいつは自分の所為だと言っていたけど所詮は自分のエゴでやめたようなもんですよ」

 

「剣道家をやめてからも未練たらしく竹刀を振り続けました。高校でも兼一を守るため鍛えると理由をつけて」

 

「でも」

 

「でも?」

 

「今日、いやほんとはあの冬の日からわかってたんです。剣道じゃ兼一は守れないって、でも自分の今までやってきたことが無駄になるのが、剣道が役立たずと思うのが嫌で勝手に理由をつけて納得していたんです!」

 

信一が叫ぶ、心の中にため込んでいたものを吐き出すように

 

「剣道家をやめると言いながら、新しいモノに手を付けず結局、剣道しかやってなかった剣道家の自分を変えることから逃げていたんです俺は!!」

 

この間、梁山泊に来た時に心の奥底で悩んでいたのはこのことだったのだろう、桜花は納得する

 

「でも今日はあなたがいなかったら兼一君はもっと怪我をしていましたよ」

 

その言葉に感情的になっている信一は声を荒げて

 

「傷つけさせたくないんです!あの冬の日だって今日だってそうだ、俺がもっと強かったら、俺がいるから兼一に手を出そうなんて思わせないようにできていれば兼一を傷つくことがなかったかもしれないのに!!」

 

その言葉を聞き桜花は信一に問う

 

「タラればを話してもしょうが無いですよ、あなたは、今、何がしたいんですか?」

 

桜花は少し口調を強めて信一に問いかける

 

「一度断った手前、図々しいのは百も承知ですが。俺を、自分を弟子にしてください!!」

 

信一は弟子入りを申し込む、自分が変わるために

 

「私たちに教えを買うても、兼一君を守れる保証はありませんよ」

 

「それでも!ある人から足を止めなと、前に出れるチャンスがあるなら前に進めと、言われました。それに」

 

「それに?」

 

「今は力が欲しいんです!!大切な人を降り注ぐ暴力から守る力が!!!」

 

これが信一の本心なんだろう自分を変えるための一歩、それに力に対抗するための力が欲しいというのが

 

 

少しの静寂、信一の言葉に桜花は一瞬どこか懐かしいといった顔をし、まっすぐと信一の目を見る

 

「・・・・・・わかりました。今日よりあなたを弟子にします」

 

この言葉に喜ぶ信一

 

「ただし、しばらくはあなたの後ろにいるしぐれが教えることになります」

 

後ろ?と思い振り向く信一

 

「よろし、く」

 

そこには逆さになっている香坂しぐれがいた

 

「うおおおおおおおお!?」

「び、びっくりしたぁ!!今までの人生で一番びっくりしたぁ」

 

期待通りの反応だったのかどこかうれしそうなしぐれ

そんな二人を後に桜花は部屋を出た

 

他の達人たちはひと段落したところでもう解散している、弟の兼一同様これからが楽しみだと言わんばかりの顔をしながら

 

だが一人だけその場から離れずにいた者が居た、秋雨だ

 

秋雨は自分の前を通り過ぎる桜花に話しかける

 

「懐かしいセリフを聞きましたな」

 

「・・・・・・ええ」

 

「まさか、あいつ以外にあのセリフを言うものが出てこようとは」

 

「そう、ですねぇあんなくさいセリフを言うような人はあの人以外いないと思っていましたよ。そう私の夫以外は」

 

二人は昔を懐かしむ、かつての友が言っていたセリフを。夫が言っていたセリフを。

 

「「守りたいものを守れる力」かあいつの口癖であり、武術を始めたきっかけでしたな」

 

「・・・そう聞いてます」

 

懐かしんでいる桜花の邪魔をするのは無粋だと思いここから去る秋雨

 

「これからが楽しみになってきましたな」

 

「ええ、本当にそうですわねぇ」

 

最後に一言いい二人はこの場を後にした。

 

 




あとがき

出張で水曜日更新できんかった

ようやく信一も入門長かった
そして久々に戦ったと思ったら、敗北するし。まぁでもこのタイミング逃したら入門するタイミングがほかでは書けそうになかったので勘弁してください

さて感想の方で言われましたが
桜花のイメージとしてはセキレイという漫画の美哉というキャラクターを黒髪にした人をイメージしてください私服もこのキャラとほぼ一緒で構いません
ただ、戦闘服は世戯煌臥之助の格好(マフラー込)に赤色の薄い羽織を着ているということにしています。

信念の方も兼一と対して変わらないようなシチュですが

兼一の方は自分の正義を貫く
兼一の正義の中には大切なモノを守るというのも入っている
ただ信一の方はただ単純に大切な人は守るというだけ

この作品では兼一は広くて深く、信一は狭くてより深くで信念を貫くと思ってください


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