クラウン (そもりす)
しおりを挟む

CLOWN―クラウン―

道化師として旅をする2人組。
クラウンとマーナ。
2人は父親と娘のように見えるのですが、実はずいぶんと『訳あり』のようでした。
この物語はどんなに苦しくても辛くても、笑顔で生きていこうとする人間に起きた1日の出来事を纏めたものです。


初めまして。真空ぱっく(しんくうぱっく)と申す者です。

CLOWN―クラウン―の世界を楽しんでいただけると幸いです。





私は手錠で身動きが取れなくされていた。

 

目は見えないように黒い布で覆われて。

 

なにも服も着せてくれなくて。

 

代わりに苦痛でしかない実験で、無数の傷を付けられた。

 

いつも頭の中をかけ巡るのは、出来る限り無感情になれっていう命令。

 

私はその命令に従った。

 

だって、そうすることが一番痛みに耐えられたから。

 

最初の頃は、嫌だ、やめてって感情を言葉にした。

 

でも、そのたびに顔を、腕を、腹を、心に激痛を与えられた。

 

そして、いつの間にか私は全てを諦めて。

 

彼らが私達を人形(ドール)と呼ぶように、無感情に徹しようとしたんだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

僕はネクタイをきつく締めると、仕事道具を詰めたアタッシュケースを持って部屋を出る。

 

なかなか寝心地の良いベッドだった。今度この街に来た時もここに泊めてもらおう。

 

僕はそんな事を考えながら、隣の部屋のドアをノックした。

 

「おはようマーナ。仕事に出かけよう」

 

しかし、部屋の中から返事がない。再度ノックするが、無音のままだ。

 

まだ寝てるのか。それにしては静かすぎないか?

 

瞬間、頭の中で嫌な予感が駆け巡る。

 

例えば、夜寝ている間におねしょをしたと仮定する。彼女は今年で10になるから、恥ずかしさのあまり隠蔽工作をするだろう。ドライヤーで乾かしたり、思いっきりバッドスイングをする事で水分を蒸発させたり、雑巾をしぼる要領で無理やり布団から尿を排除しようとするだろう。とにかく、彼女の頭で考えられるだけの案を試すはずだ。

 

しかぁし、どうあがいても匂いが残る無理!と考えた彼女は土壇場で最っ高のアイディアを思いつく。

 

そうだ、新しいのを買えばいい!

 

慌てて部屋から出て作戦を決行しようとするが、その時。

 

ドンドンドンっと、ドアをノックする僕が!

 

まずい、外に出るため人目を避けるとなるとドアが使えない。だからマーナは窓から飛び出すなんて恐ろしいことを―――?

 

い、いや。いやいやいや。ちょっと待て僕。マーナは最近は寝る前にトイレに行くことを覚えたと言っていたし、おねしょをすると仮定するのは安直すぎやしないだろうか。

 

それよりも、彼女には悪魔的なまでの寝相の悪さがある。そちらの方がありうるのでは?

 

なにせ、この前泊まったホテルじゃ1階の部屋で寝ていたというのに、僕が起きてマーナを発見した所は2階の見知らぬ老夫婦の部屋だった。いや、もうそれ寝相ってレベル越えてね!?なんて突っ込んだのを今でも鮮明に覚えている。

 

この寝相の悪さを今日も全力で発揮したと仮定する。ベッドから転げ落ちた直後。窓の近くの机にマーナは登った。いや、ジャンプした!彼女のぐらいの寝相の悪さなら布団に入った時のポージングのままジャンプをする程度、余裕でこなせるに違いない。

 

そして、そのジャンプした勢いのまま。この前1階から2階まで飛び上がったように2階の部屋から窓を経由して空高く飛びだして―――?

 

「お、おい早まるなマーナ!ちょっと落ち着けぇぇっ!」

 

僕はスーツが汗びっしょりになるほどドアをノックしていた。まだ6時だというのに何の騒ぎだと他の客がドアを開けて覗き込む始末。しかし、こちらとしてはそれほどの大事件なんだ。

 

「これこれ、どうしたんです?」

 

目をこすりながら、おばあさんが話しかけてきた。確か、ホテルの受付をしていた人だ。

 

「おばあさん、僕の連れが返事をしないんだ。なんかこう、やばいっ」

 

「やばいのはあなたですよ、そんな血相変えて。ちょっとドアから離れて」

 

おばあさんは鍵を取り出しドアを開けた。中を見るなり、溜め息をつく。

 

「女の子の着替え中ぐらい、静かにしてくださいね」

 

「え、へ?」

 

途端、あたりの人たちからの僕に対する呆れが蔓延する。

 

僕はまるで取引先と電話中の新人サラリーマンのように、客とおばあさんに頭を下げた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「部屋の中に忘れ物はしてないかい?」

 

「僕は無いです。マーナ、きみは大丈夫?」

 

僕の横で手提げバックをぎゅっと握り締める少女、マーナ。

 

彼女は相変わらず笑わない。10歳の子供らしい笑顔なんて作らずに、口を動かす。

 

「無い、です」

 

「そうか。それじゃあ、ありがとうございました。今度この街に来たら、またあなたのホテルに泊まらせてもらいます」

 

「あぁ泊まっておくれ。それにしても・・・」

 

おばあさんは、物珍しそうな目で僕たちを見ている。

 

「不思議だねぇあんたたち、家族だってのに同じ部屋じゃなくて別々の部屋に泊まるのかい」

 

「あぁ、それは・・・」

 

僕は一瞬口ごもると、小さなトーンで答える。

 

「僕たち、血が繋がってなくて。だから、ホテルに泊まるときは別々の部屋にしているんです」

 

「え、そうなのかい?もしかして、悪いこと聞いちゃったかしら」

 

「いいえ、他の所でもよく聞かれるので慣れています」

 

「そうかい。でも、家族に間違っちゃうくらい似てるよあんた達」

 

僕はおばあさんのその言葉を聞いて、目を丸くした。

 

「似てる、ですか。確かに『()()』という点で似ている」

 

「道化?」

 

「え?あぁ、僕達道化師をしているんです、ですからこんな朝早くにチェックアウトをするんです。用意をしようと思って」

 

「あら、お仕事が…大変ねえ…。それは呼び止めて悪かったねぇ」

 

「いいえ。では」

 

僕はおばあさんに挨拶すると、ホテルの外に出た。

 

マーナが後ろから付いてくるのを確認すると、彼女の方に歩幅を合わせて歩き始めた。

 

太陽は既に昇っている。朝のひんやりとした空気と陽の光が体に触れて心地よい。

 

重い荷物も、まるで綿毛のように軽くなるような気分だ。

 

「良い天気だな」

 

マーナに言ったつもりだったんだが、言葉は返事もなく霧散する。期待はずれだったので、わざとらしく肩を落としてみせた。

 

しかし、無視するほど僕と話したくない訳ではない。

 

彼女にとって、天気よりも大事な考え事をしていたようだった。

 

「ねぇ、クラウン」

 

「どうした?」

 

「私のせい、で、こまった?」

 

「・・・なんだマーナ。またその事か」

 

マーナは僕が毎回ホテルに泊まるたびに言われる質問について、嫌気が差していると思っているようだった。

 

「あのねマーナ。僕は君を1人の人間として尊重しないといけないと思う。だから、君と家族でもましてや血の繋がってもない僕が一緒の部屋に泊まるなんて事はおかしい事なんだよ」

 

「・・・わ、私は・・・」

 

マーナは立ち止まって、スカートの前の手をもじもじとさせる。

 

「なんだい?」

 

「それに・・・」

 

何か言いたいけど、言葉にできない様子でいた。

 

俺はマーナの前に立って彼女の目線に合うようにしゃがむと、両手をわざとらしく合わせた。

 

「とにかく、この話はおしまい!あぁ、そうだマーナ。今日はこんなにお天気だし、この街には遊園地があるんだ。お仕事は早く切り上げて遊園地に遊びにいかないか~?」

 

「ゆう、えんち?」

 

「そう!メリーゴーランドにゴーカート、観覧車!可愛いマスコットにファンタジーな世界観!マーナの大好きなアイスクリームだってあるぞ~」

 

「あい、すくりーむっ」

 

表情はあまり変わらないが、眉毛がちょっと上に動いて、瞬きの回数が増える。頬も紅潮するのが分かる。良い傾向だ。喜の感情が汲み取れる。

 

「そうだ、アイスクリーム!それじゃあお仕事にレッツゴー!」

 

「れっつ、ごー」

 

俺は年甲斐もなくスキップする、マーナもそれを真似た。

 

30歳になっても、どんなに汚れても。

 

スキップってのは楽しくなる魔法がかかっている。そう思った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

お昼も近づいてきた。私は受付の仕事を一旦終えて、昼ご飯の用意をする。

 

「と、その前に・・・」

 

まずはティータイム。

 

「・・・うん、やっぱり旨いねぇ。日本の静岡ってとこのお茶って他と別格の旨さだわぁ。買ってきてくれた孫にありがとうの連絡しないとねぇ」

 

私はソファに深く腰を掛けると、ふぅ、と息をはいた。

 

「そういえば・・・」

 

孫と同じくらいの年に見えたね、あの娘。

 

確か、マーナちゃんだっけ。笑わなかったけど、べっぴんさんだったねぇ。将来うちの孫の結婚相手になってほしいくらいだよ。

 

私は、ぼぉっとそんな事を考えて目をつむる。

 

すると、入り口から足音が聞こえてきた。

 

「あらあら、お客さんですか。いらっしゃい」

 

サングラスをかけ、ベルトに鉄の輪っかをジャラジャラと付けたヤンキー風の青年。

 

それとは対照的に、日本人形のような長い黒髪の女の子。2人組だ。

 

黙り込む女の子。青年が返事をする。

 

「ばあさん、悪いが俺たちは客じゃあねぇ。ちょっと人探しをしててな」

 

「人探し、ですか?」

 

「あぁ。こいつなんだが」

 

青年は胸ポケットから1枚の写真を取り出す。最初は誰だろう、と思ったがすぐに分かった。

 

今朝、早くに出たスーツの男だ。マーナちゃんを連れた。名前はえっと…クラウンと言ったっけ。

 

「その人なら見ましたよ、それがどうしたんですか?」

 

「ほぅ・・・。見たのかッ!」

 

青年は、仰け反りながら大声を出した。

 

急に寒気がする。普段人の態度や服装が悪そうでも何もないのに、この青年から発せられたその言葉に私は嫌な汗をかいた。

 

何故かは分からないが、私の脳細胞が囁く。こいつにこれ以上関わるのは危険だと―――。

 

「で、今この写真の男はどこにいるんだ?このホテルにまだいるのか?」

 

「そ、それはお答え出来ません」

 

「はぁ?」

 

途端、青年は近くの机を蹴り飛ばした。

 

可愛い孫が買ってくれたお茶が湯呑みごと地面に落ちる。

 

私の癇に障る部分に青年は土足で踏み込んだのだ。

 

「孫が買ってくれた・・・なんてことをっ。警察に連絡しますから!」

 

私は危険だと分かっていても、言葉にせずにはいられないほど激昂していた。

 

そして、このような時に最も危険な()()をしてしまったのだ。

 

「このババァ、こっちが口だけにしてやろうと思ってたのによぉ。おい、『M101』出番だ。婆さんの首を絞めあげろ」

 

「了解しました」

 

カーナビの音声機能のように必要最低限の感情も込めていない言葉を放った少女。

 

M101なんて人間の名前とは思えない文字と数字の羅列に疑問が浮かぶころには、少女は私の目の前に立っていた。

 

瞬間、重い金属がぶつかったかのような感覚。なんの躊躇もない少女の右手が、私の身体を腕1本で壁まで押し付けた。その距離は5メートルもあったというのに。

 

「ぐうぅぅ・・・!?」

 

搾られた声を上げるのが精一杯。2階のお客様達に助けを呼ぶことさえ出来ない。

 

青年はその光景に笑いながら近づいてきた。

 

「ババァ、殺されたくなかったら吐いちまえよ。写真の男の居場所をよぉ。あ、これじゃあ無理そうだな。M101、少し緩めてやれ」

 

「はい」

 

命令通り緩まれる手。それでも、彼女の手は振り解けなかった。

 

殺される―――。私は身の危険を感じて、気づいたときには全てを話していた。

 

悪気はあった。でも、私はまだ死ねないの・・・。

 

「彼は、ここにはもういません・・・。朝早くに出て行きました・・・っ」

 

「ふぅん、行き先は知らねぇの?なにかしたいことがあるとか言ってなかったのか?」

 

「ど、道化師らしいので・・・お金を稼ぎに行ったのだと思います・・・行き先までは知りません・・・」

 

「あっそ。そうかい。…そんじゃ殺せM101」

 

「えっ!?は、話が違うじゃないですか・・・喋ったら殺さないって・・・嘘もついてません・・・っ、警察にも言いませんから・・・っ」

 

「お願いしてもだーめっ。ていうか、ちょうどドールの力を見てみたいから試し切りの()が欲しかったのよ。だからあんた死んでや」

 

青年の殺せという命令に反応するように、少女はもう片方の手を振り上げる。私は恐怖のあまり目を閉じた。

 

・・・しかし。

 

いくら経っても手刀が振り下ろされる事はない。

 

おそるおそる目を開けると、黒髪の少女はこちらを見ながらぶつぶつとつぶやいていた。

 

「孫・・・・・・家族・・・・・・・・・」

 

「おいどうしたM101。ババァを殺せ」

 

「すみませんマスター。それは最優先命令の許容外です」

 

振り上げた手刀は、空気のみを切断しながら元の場所に下ろされた。

 

「どういうことだ?そんな短い言葉ではなく、ちゃんと説明してみせろ」

 

「最優先命令は『M382』の捕獲。及びクラン元研究員の殺害です。命令達成の為に一般市民から話を聞く事は許容されますが、殺害することは命令外であり、マスターの悦楽的感情が占める言動だと断定できるからです。もし、私の考えが異なるのであれば、この老婆を殺すことで最優先命令を達成できる直接的要因を述べてください」

 

「んなのあるわけねぇだろ馬鹿。殺されたくなかったら、俺の言うことを聞いてろよ」

 

男は、いつの間にか右手に銀色のライターのようなものを持っていた。しかし、ライターなら火が出る部分に親指を置く構えをしている。

 

どうやら、スイッチのように押せるようになっているらしい。

 

黒髪の少女は私を押さえたまま、じいっと男の方を見つめる。

 

沈黙。時計の針だけが、その場で唯一の音となった。

 

…しばらくして青年は舌打ちをすると、げらげらと笑い始めた。

 

「なあんてな。お前を今ここで殺したら雇い主様にこっぴどく怒られるわ、んで金も貰えないわ散々だしな。ちょっとしたジョークだよ、本気にすんなよドールの分際でよぉ」

 

「分かって頂けたなら幸いです」

 

「・・・ッ。逐一カンに障る反応だぜ。良かったなババァ、寿命で死ぬことがが出来てよぉ」

 

青年はソファを蹴ると、苛立ちを見せながらも私のホテルから出て行った。

 

・・・青年が見えなくなると、黒髪の少女は手を離した。

 

私はようやく不自由なく息をすると、青年に付いていこうとする黒髪の少女に話しかける。

 

「ねぇあなた、あんな男の話なんか聞いちゃダメよっ」

 

すると、黒髪の少女は入り口手前で立ち止まった。

 

「あなたは弱いです。でも何故1度あいつに歯向かおうとしたのですか。孫が買ってくれた・・・家族の()()というものを踏み躙られたからですか?」

 

私は呼吸を整えるのに精一杯で、瞬時に彼女のその言葉に返事出来なかった。

 

でも、言葉には出来なくても、私はうなずくことで黒髪の少女に意見した。

 

「そうですか。でも、私には分からない。自分の命を強者に晒してまでも貫きたい命令なんて・・・」

 

寂しそうに、それでいて淡々と呟く。

 

黒髪の少女は眉1つ動かさずに青年の元へ戻っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

賑わう路上。普段は人が通りゆくただの道だろうが、今日は違う。

 

僕とマーナという2人の道化師が来ているんだ。その多様な芸の数々によって、道行き通り過ぎるだけの人たちは足を止め、感嘆の声をあげながら、拍手を起こす。

 

そして、その観客が増えるたびに興味が最初は無かったり無視していた人たちも気になって僕たちを見るんだ。もちろん、幸せそうな笑顔でね。

 

「さぁて、観客の皆様!今日は誠に残念なことに、はやくもフィナーレとなりました!」

 

残念がる声や、もっとやってーという声が聞こえる。僕はこうやって何の関係もない、他人だった人たちが僕たちを通して一致団結する時が最高に楽しい。

 

「静粛に!」

 

途端、静まり返る観客。

 

最初はあれだけ足音だけだった路上は歓声しか聞こえなくなっていた。

 

「フィナーレを飾るのは、我が劇団のルーキー、マーナです!まぁ、劇団といっても2人しかいないんだけどね!はっはっは!」

 

軽いギャグで乾いた笑い(このギャグが馬鹿ウケしたことはない。やっぱり劇団と言えばひとりの方がインパクトでかいからかな)が生まれた所で、大物感たっぷりで現れたマーナ。

 

まぁ普段から表情を変えないので、勝手に大物感が出ているだけなんだけど。

 

顔に出さないだけで、マーナとしては心臓バクバクの状態なのである。

 

「今回フィナーレを飾る芸は、ズバリ!玉乗りをしながらジャグリングをする、というものでございます!え、あまりにも普通?トリを飾るのがそんなものなの?言いたいことは分かりますが、マーナには他の人が絶対にマネ出来ない特技があるのです!」

 

なんだなんだ、と聞き耳を立てる観客たち。私は更に声を張り上げる。

 

「このマーナはお客様がジャグリングをしてほしいとチョイスしたものを例えどんな物体であろうとな・ん・と5つまでなら見事成功させることが出来るのです!」

 

嘘だろ!そんな馬鹿なっ。皆それぞれ驚きを隠せないようだ。

 

ざわつくだけで、観客は最初誰も答えない。

 

その時。手前の方で、マーナくらいの身長の男の子が手を挙げた。

 

「あの、それってこのお人形でも?」

 

男の子が僕に渡したのは、特撮ヒーローものの人形。手が万歳している。あぁ、空飛んでるってことか。

 

「あぁもちろんだよ、このヒーローだって見事マーナの手で空を飛ばせてみせましょう!」

 

じゃあこれをっ、これを!男の子を皮切りに一斉に観客たちが声を上げ、あっという間に5つのアイテムが揃った。

 

ヒーロー人形。スイカ。箒に、ワイングラス。そして、包丁だ。

 

「それでは、フィナーレを飾るに素晴らしい芸!とくとご覧あれ!」

 

マーナはまず玉に乗る。そしてその不安定な場所でバランスを取ると、俺がヒーロー人形から順に投げ渡した。

 

マーナは口を逆三角にして、運ばれてくるものを空中に放り投げる。その顔・・・というよりは眉が真剣そのもの。ピクピクと渡されるたびに動く。

 

だが、さすがに日頃の練習の成果は十二分に発揮されている。元々勘も良いから安定感も段違いだ。

 

一つずつどうすれば最良の運びが出来るのかを必死に考えているに違いない。

 

最後の包丁を渡し終えると、観客からは歓声が上がった。

 

「まだまだ終わりません!逆回転、行きましょう!」

 

僕の合図でマーナの手の上で円を描く5つの物が逆に動き始める。

 

言うまでもなく、観客のボルテージが最高潮に上がった瞬間だった。

 

よし、これで最後に僕が預かった品を受け取れば芸も終了だな。

 

僕は芸の終了の声をかけようとする。

 

しかし、その時だ。事件が起きたのだ。

 

「にゃーお」

 

突然の猫の声。どこにいるのかと思えば、玉乗りの後ろにいる。そしてその頭で玉に触れたのだ。

 

もちろん、その猫の力は玉を大きく前進させるほどのものではない。しかし、小さな振動は確かにマーナに伝わって、彼女は振り向いてしまったのだ。

 

当然、マーナのバランスが少しばかり崩れる。

 

ざわつく観客。俺もやばいと思い、仕事の時の作った声ではない素の声で、マーナに話しかける。

 

「立て直すんだマーナっ!そして、僕に早く投げるんだっ!」

 

「わか、った」

 

重たいスイカから、僕に手渡されていく。1つ1つ渡していくたびにマーナのバランスは元の安定した状態へと戻っていった。

 

しかし、4つめのワイングラスを僕に渡した時。

 

「っ・・・」

 

手元がぶれ、包丁が手前の観客目掛けて落ちていく。

 

ちょうどそこにいる観客は・・・人形を渡してくれた男の子だ!

 

「きゃああああ!」

 

悲鳴をあげる観客たち。凄惨な事を想像して、その場にしゃがみ込む人もいる。

 

だが、観客たちの想像する未来が訪れる事はなかった。

 

「・・・・・・え―――?」

 

包丁は鋭く尖った刃先を男の子に向けながらも、すんでの所で止まっていた。もちろん、ワイアーのようなもので吊るしてあるわけでも、男の子の肌が超合金で出来ているという訳でもない。

 

ただ、少年の周りの空中に固定されているのだ。まるで見えざる手が押し返しているように。

 

静まり返る観客。観客の中で、ひとりとしてその状況を理解できたものなどいない。

 

分かっているのはその場で僕とマーナだけだった。

 

僕は、マーナがしでかしたその事をフォローしなければならない。このままでは、一般人には超常現象にしか見えないからだ。

 

「さ、最後の最後!僕が使いましたのはハンドパゥワーです!この力により、見事全ての道具を落とさない事が出来ました――!」

 

一応、テレビの見よう見まねで両手を包丁にかざす。顔を引きつらせれば、わざとらしく見えるだろう。

 

そして、ハンドパワーという言葉とそれっぽい行動を道化師が使った時点で、観客にはそれが芸の1つであると捉えれる訳である。

 

「お、おおおおお!素晴らしいっ面白かった!」

 

一斉に静まり返った観客が嘘のように。惜しげもない拍手をまるで雪崩のように僕たち2人にたたみかけた。

 

マーナは玉から降りると僕の顔を見る。力を人前で見せてはいけない………僕との約束を破ったからか、悲しそうに肩を落とす。

 

僕は、彼女に声を届けることが出来ない(拍手でかき消される)ので、笑ってみせた。

 

怒ってなんか、ないからね。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

観客は一般人に戻り、再び道を歩み出す。

 

だけど、その顔は喜びに溢れていた。平凡な日常から一転、僕たちの芸で楽しい思いをしてくれたのなら、それは本当に嬉しいことだ。

 

そして、これで僕たちもまた旅を続けるお金が手に入るのだから。これ以上素晴らしいことは数えられるほどしかないだろう。

 

「うん、これだけあれば十分だ」

 

なんの変哲もない調理器具のボウルに、溢れるほど置かれている金貨と札。

 

僕がそれを袋に移し替えると、マーナは僕のスーツの裾を引っ張った。

 

「ん、どうしたんだい」

 

「怒って、る?」

 

「さっきから言っているじゃあないか。怒ってないよ。むしろマーナにも男の子にも、怪我がなくて良かった」

 

「なんで、クラウンは怒らないの?めいれい、破ったのに」

 

「え・・・命令…?」

 

「めいれい破ったら、顔叩かれた。いっぱい、いっぱい、痛いことされた。なんでクラウンは、私にそんなこと、しないの?」

 

10歳の悲痛な言葉。こういう時、僕の心が一番きゅうっと締め付けられる。

 

こういう思いを2度としないように、あの場所を逃げ出したのに。

 

マーナの心はまだ、あの場所で起きたことを忘れられないでいる。

 

もちろん・・・僕もだ。

 

「あのね、マーナ」

 

僕は、マーナの頭を撫でた。

 

「人前で力を見せちゃだめ。確かにそれは約束だ。でも、強制力のある命令なんかじゃあない。君と僕が一緒にいるための約束だ。そして今日君が約束を破ってくれた理由が、僕はとっても嬉しいんだ」

 

「うれ、しい?」

 

「そう、嬉しい。君が自分と僕以外の、それも赤の他人を助けるために初めて行動してくれたからね。だから、怒るなんてとんでもない!むしろ君を褒めちゃう。偉い、偉いよマーナっ」

 

ごしごしと、マーナの頭を強く撫で回す。ストレートヘアーの彼女の髪がちょっとハネるくらいまで念入りに褒め倒した。

 

マーナも僕が怒ってないことがようやく分かってくれたらしい。陰気な雰囲気が吹き飛んだみたいだった。

 

「それじゃあ、約束してた遊園地に行こう!閉園まで楽しむぞ、おー!」

 

「おーっ」

 

手を天高く突き上げると、少し遅れてマーナも真似た。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

時々、実験の時に目を覆う黒い布を外してくれる時がある。

 

その時は白い服を着た人たちが代わりに黒く塗った眼鏡をかけているんだ。

 

詳しい顔は眼鏡のせいで分からないけど、体つきとか、若いか年取ってるかぐらいは私にも分かった。

 

「やあ、今日から僕が担当だ。クランって言うよ、よろしくね」

 

今回は、いつもの実験とは違った。

 

太ったおじさんじゃなくて、若い、背丈の大きな青年だった。

 

自分の事をクランと名乗った青年は、まるで私を人間扱いしているような声色で接した。

 

実験は注射をさして、私の様子を観察していたようだけど。

 

私が痛い、って言葉にするたびに、うるさいって怒鳴るんじゃなくて。

 

クランは、私にごめんね、痛いよね、ごめんねって、優しく声をかけてくれたんだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

気分が悪い、吐き気がする。

 

コーヒーカップに乗った。それが原因だ。

 

僕はコーヒーカップから降りると一目散にベンチに駆け込んだ。

 

一応先に断っておくが、マーナが思いっきり回したとかではなく、僕自身の手でハンドルを軽く操縦しただけ。

 

しかし、結果ブルーベリーみたいな顔色になった僕が誕生した。

 

「クラウン、大丈夫・・・?」

 

「あ、あぁ大丈夫さ。くっそぉ・・・年を感じるなぁ」

 

昔はゴーカートくらいでへばってたのに、今じゃコーヒーカップさえ乗れないとは。

 

これ、後10年経ったら観覧車でさえ嘔吐するんじゃないだろうかな。頭にふとよぎった疑問に反論できなくて、僕は乾いた笑いが出た。

 

・・・うっかり、ゲロも出そうになった。

 

「大丈夫?」

 

僕の顔色を見て、マーナは頭を撫でてくれる。

 

「あ、あぁ大丈夫だよ。ちょっっっっっと立ちくらみがしただけで、全っっっっ然平気さ。それよりも、次に乗りたいやつがあったら言ってごらん。僕も付いていってあげるから」

 

「あれ、がいい」

 

「えっ」

 

マーナが指差す方向にそびえ立つのは、この遊園地最強・・・いや最凶の絶叫アトラクション。

 

広義な名前でジェットコースターと呼ばれるものである。

 

乗ってる人たちが、この世の地獄みたいな声を出しているんですけど、え、嘘でしょ。

 

「あ、んー。でもさっき身長制限で130センチメートル以下は無理だって言ってたしなぁー」

 

「さっき受付で測って、きたよ。大丈夫、だった」

 

やる気満々という言葉遣いでブイサインを作るマーナ。

 

いや、僕はVサインどころかあんなの乗ったらV字になるまでハゲあがっちゃうんですが。

 

でも僕はマーナのしたいことを優先しなければ。

 

「うん、ちょっと覚悟を決めるため・・・い、いや。気分晴らすためにアイスクリーム買ってくるよ。何味がいい?」

 

「!アイス、ばにらがいいっ」

 

アイスという常套手段で彼女から1度ジェットコースターの話題を切り上げると、僕はベンチから腰を上げた。

 

「どっこいしょ。それじゃあ行ってくるから待っててね。ベンチに座っているといいよ」

 

「分かった。早く、帰ってきてね」

 

「もちろんだよ」

 

僕は財布の中に今日儲けた金を少し入れると、アイスクリームを買うために売店へと向かった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

私はクラウンの言うとおり、ベンチに座って待っていた。

 

・・・遊園地、楽しいなぁ。

 

クラウンが昔私に読ませてくれた、おとぎ話の国みたい。

 

みんなも、楽しそう。

 

ここでは、私とクラウンが芸をしている時みたいな顔をしている。

 

あの顔の表情を見るたびに、私は胸のあたりがむずむずしてしまう。

 

あんな顔、どうやったら出来るんだろう。

 

私は自分の顔を触って、口元を引っ張ってみたけど、そんな顔になっている気がしなかった。

 

むしろ、今私がしている事を見ると、クラウンが心配してくるんじゃないかな。

 

私は手を膝の上に戻すと、足をぱたぱたとまるで2つ並んでこいでいるブランコのように動かした。

 

・・・クラウンがいないと、退屈だなぁ。

 

やっとあの場所から逃げることができた時、飽きることなんて絶対にないって見て思った空。

 

でも、1人になった途端、急に狭く感じるし、色あせて見える。

 

ホテルの時もそう。1人でうずくまるベッドは、広くてあたたかくて。

 

それでも、クラウンがいないから狭くて孤独で寂しいんだ。

 

だから、クラウンはいつも私に『1人の人間として』って言って部屋を分けるけど、私は恥ずかしいけど()()()()が言いたいんだ。

 

言うときどんな顔で頼めば良いのかなんて、能面みたいにへばりついた顔の私じゃ分からない。

 

どんな声色で頼んだら良いのかも分からない。仕草だって良く分からない。

 

それでも、それでも、今みたいに灰色の眠りにつくのは嫌だ・・・。

 

「パパーっ」

 

考え事をして、周りが見えていなかった私に入り込んでくる言葉。

 

たくさん歩いている人たちがいる中で、その言葉だけがよく聞き取れた。

 

そう言い放った私くらいの背丈の少女は、男の人と手を繋ぐ。

 

そして、顔を見合わせながら、さっきのクラウンとは真逆の気分が良さそうな表情をしていた。

 

手を繋ぐ・・・あの仕草、なんかいいな。

 

私は自分の右手をじいっと見つめると、ぐーぱー、と閉じたり開いたりした。

 

・・・クラウンに、私もぱぱと言えば、あの仕草してくれるのかな。

 

なんてことを考えると、急に体中がひりひりと熱くなった。

 

こういう気持ちの事を、クラウンはなんて言ってたっけ・・・。

 

恥ずかしい、だっけ。

 

気分が悪い、だっけ。

 

暖かい、だっけ。

 

近いけど、違う気がする。私にはまだ難しい気持ち。

 

でも、この気持ちは、あの場所を逃げ出した時。

 

クラウンが私を抱えて逃げ出した時に感じた気分に良く似ていた。

 

坂道を下っていたから、決して車のように安心できる訳じゃない。

 

今日乗った遊園地の乗り物のどれよりも不安定だった。

 

でも、クラウンに抱きかかえられて私は安心できた。それに似ている。

 

・・・あの時、ぼんやりとしか見えなかったけど。

 

クラウンが歯が折れるんじゃないかってくらい噛み締めて。

 

目からは大粒の汗をかいて。

 

眉なんて、ぐにゃぐにゃに折り曲がった針金みたい。

 

そんなクラウンの顔に、私の体はひりひりと熱くなった。

 

「クラウン・・・遅い、なぁ」

 

クラウンの事ばっかり考えていると、早く帰ってきてって気持ちになってくる。

 

だけどその時、寂しい以外の別の感情が、私の身体を駆け巡ったんだ。

 

「あれ・・・」

 

背筋を電流が通ったみたいな感覚。アイスを食べ過ぎて、頭がきーんとするような感覚。

 

嫌な、予感。

 

刹那、遠くの方から落雷のような声が轟く。

 

この声は、あの場所で何度だって聞いた声。

 

痛い、助けて。悲鳴・・・。

 

「クラウン・・・?」

 

クラウンの顔が浮かんでは消える。彼が痛い思いをしていたらどうしよう。彼が助けてって思いをしていたらどうしよう。

 

私は彼に、こんな気持ちにはなって欲しくない。

 

自然と、クラウンとの約束を破って、私は走り出していた。

 

道行く人の波を切り裂いて、私は走る。

 

人にぶつかりながら走るものだから、ぶつかった人たちはざわついている様子だった。

 

でも、関係ない。

 

クラウン・・・!

 

悲鳴の出どころにたどり着くと、そこには、倒れている男の人たちが3人。

 

首をまるで洗濯バサミで挟まれたような、くっきりとした跡があった。

 

その横で泣きじゃくる子供と女の人たち。

 

私の寒気も、目の前がくらくらするくらいになっていた。

 

「クラウン、どこ・・・?」

 

その時。

 

がすっ。歩き出そうとすると、つま先に当たる何か。

 

確認してみるとそれはアタッシュケースだ。

 

見覚えがある、クラウンが、愛用していたものだ。

 

でも、ここにはクラウンの姿が見当たらない・・・。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

僕が夢を初めて持ったのは、10歳の時。今のマーナと同じ歳の時。

 

両親と隣の国に旅行に出かけたとき、路上でパフォーマンスをする道化師がいた。

 

彼は見事な芸で、その空間にいる人たちの心を完全に掴んでいた。

 

もちろん、僕も虜にされた。

 

その時思った、将来は彼みたいに人を笑顔にできる道化師になりたいって。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

両親の反対から、道化師として世界を駆け巡る夢は潰えた。

 

収入も安定しない、地元に帰ってこられるかも分からない。反対の理由は僕もよく分かる。

 

だから、僕は自分の心の中で妥協案を出した。

 

医者になるよ。

 

そういうと両親は喜んで僕を大学に行かせた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

大学6年生、本格的に進路を決めなければならない時。

 

僕は大学に来てなんだけど、疑問を感じていた。

 

本当にやりたいことが出来ない、妥協された人生なんておかしいんじゃないかって。

 

こうして頭がもやもやすると、僕は決まって公園へ向かう。

 

そして我流でジャグリングの練習をしていた。

 

ある日、去年卒業した知り合いの先輩に話しかけられた。

 

お前、まだ進路決まってないって?

 

僕はその言葉に、ぼんやりとはあるんですが、確定はしていませんと答えると。

 

先輩は、俺の働いている研究所に行きたいやつがいるって声をかけてやるよと言ってくれた。

 

僕はせっかくの先輩の誘いを断るだけの説得力のある答えを返せなくて。

 

断るだけの情熱も既に医者の世界に見出せなくて。

 

よろしくお願いしますって、口に出していた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「クラン研究員、君に担当してもらうのは被検体M382だ。M382の実験を行うときは、必ずサングラスの着用することを忘れないように。それでは行ってきたまえ」

 

先輩に従うまま、僕がたどり着いた就職先。

 

名前を思い出したくない、あの場所、研究所。

 

僕は白衣を押し出すほど太っている上司に言われるままサングラスをかけると、隔離された部屋に入った。

 

その部屋は、壁も地面も天井も一面白色で塗り固められている異質な部屋で、意外と広い。

 

そして、その部屋の中には、僕以外に1人・・・被検体M382がいた。

 

手錠で動けないようにされていて。頭は垂れ、口は開きっぱなし。

 

服なんて着てなくて、無数の生々しい傷跡が目立つ。

 

じんわりと流れ出す血が、動かない彼女が唯一生きていると実感させるものだった。

 

初めて見たとき、僕はあまりの光景に絶句した。

 

こんな事、許されていいんだろうか。

 

人を、それもこんな小さな、本来ならランドセルを背負って小学校に通っているだろう少女を、何もない真っ白な部屋に閉じ込めて。彼女の人生を固定して。

 

ありえない。僕は心の中から思った。

 

僕が望み描いた将来は、こんなものじゃあない。

 

どこまでも広い蒼空の元、人を笑顔にして、かつ自由で、それでそれでそれで・・・・・・。

 

思いつくためらいの気持ちはたくさんあったが、イヤホンから上司の声が届き、思考を停止させる。

 

上司は別室から、モニター越しに僕が固まっているのが見えていた。

 

「どうした、何か問題があったか」

 

「少女が、1人血を流しています・・・体も・・・ぼろぼろで・・・」

 

「あぁ、君、それは人間じゃあない。それは人形(ドール)だ」

 

「ドール・・・?」

 

「そう、物言わぬドール。それに私達人間がどれだけ感情を込めても、ドールは何も起こさないし何も言わない。感情なんてものはない」

 

「そんなこと・・・おかしい・・・この子は、生きている・・・・・・」

 

「はぁ。新人はみなこれを見て同じことを言うがね。いいかい、M382はドールだ、モルモットだ。モルモットが死んでいては実験の意味がないだろう?そして君はニュース番組でモルモットが何匹殺されましたなんていう報道を見たことあるのかい、ないだろう。それはどれだけ壊れようと死のうと人権を持つ我々とは異なるという証拠なのだ。いいか、もう一度言う、そいつはドールだ。変な考えは捨て作業的に行動するといい」

 

「作業的に・・・?」

 

「そうだ」

 

上司のその言葉に、僕はある意味救われてしまった。

 

まるで、小学校の学芸会で緊張した子供が、観客をかぼちゃと思うかのように。僕は自分で自分の心に暗示をかけた。

 

この子は人じゃない、女の子じゃない。もの、もの、モノ・・・・・・モノ・・・・・・ドール・・・。

 

今考えても恐ろしい。

 

クランという人間はそこで自分が信じ、なろうと夢描いた道化師を1度裏切ったのだ。

 

そこから、1度目の実験はよく覚えていない。上司の声も、少女の悲鳴も、何も聞こえていなかった。ただ僕は命令に従って仕事をこなしていたらしい。

 

その様子を見た上司は、僕がM382に挨拶をしたり、人間的に接したりするたびにまるで町の医者みたいだと腹を抱えて笑っていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

1度目の実験を終えたあと、僕が従順な犬になった。

 

2度目も3度目も、全て一切の不備もなく完璧にこなしていた。

 

僕が再び人として大事な感情を取り戻したのは、4度目の実験の時だ。

 

その実験前に、上司と研究所内の飲食店で夕食を取ることになっていた。

 

白いプレートに、サラダやチキンをのせる。

 

そして僕は上司が取っておいた席に座った。

 

上司は豚のように汚らしく飯を咀嚼する。

 

「クラン研究員。最初はどうかと思ったが、お前もずいぶん慣れてきたようだな」

 

「・・・はい、たぶん。慣れてきたんだと思います」

 

慣れた、屈服していた。慣れてしまった。

 

「そうだ、お前に言ってなかったけど、こんな面白い話があるんだ」

 

「・・・なんですか?」

 

「ドールって名前の由来。なんだと思う?」

 

人形、動かない、無表情、人が造ったモノ。

 

僕の思考回路はそんなことしか導かなくなっていた。

 

「動かない、無表情、人が造ったモノ・・・だからでしょうか」

 

「うーん、まぁ半分アタリみたいなものだ。でもそういう感じの答えを期待したんじゃなくて、もっと面白い答えを期待したんだがなぁ」

 

「面白い、答えですか?」

 

「そうだ、ユーモアを身につけたまえよ。ドールと言えば、マトリョシカだとか、雛人形だとか、着せ替え人形だとか、たくさんあるでしょうが。まぁ俺たちが研究しているのは紛れもなく()()()()だがね」

 

操り人形・・・。

 

「お前も入った頃に聞いただろう。被検体M382の目を合わせたものはその『操り人形にされちまう』と。だから俺たちはドール達を馬の手綱を持つ騎手のようにサングラスをかけるんだろうが。まぁ、これはM382だけの特殊な力だが。一般のM型ドールは皮膚接触程度まで近づかれん限り操られることはない。故に肌さえ触れないように服を着ればいいしな」

 

操り人形、そうか。僕たち研究員がドールを操り、ドールは言うことを聞かない人間を操るための力を持つのか。だから、ドール、操り人形。

 

は、はは。

 

まったく・・・ふざけてる。とんだ、ブラックユーモアだ。何が面白いって言うんだ・・・。

 

「さて、それじゃあそろそろ実験に行こうか」

 

「操り人形・・・人形・・・」

 

「おい、聞いているのかクラン研究員」

 

「・・・ドール・・・」

 

「こら、返事をしろ!」

 

「!は、はい・・・」

 

「まったく、さあ行くぞ」

 

僕は残しておいたチキンを口の中いっぱいに頬張ると、それを10秒くらい噛み締めた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

今回の実験は、強度実験だ。

 

もともと耐久値が高く壊れにくいドールに、予測耐久値未満の外的圧力をかけるというものだ。

 

今回の実験でも僕はサングラスをかけていた。目を使う実験ではないので、M382の視力を奪うために黒く光を遮蔽する布を掛けたままにしてあった。

 

「それじゃあ実験開始だ。行ってこい」

 

僕はM382を置いてある部屋の前で立ち止まる。ドアノブを掴みながらも、まるで電動ノコギリみたいに小刻みに震える僕の手は、それを開けることが出来なかった。

 

「おい、クラン研究員。早く行け」

 

「すみ、ません。手が震えて・・・動かなくて・・・な、なんでだろう」

 

「お前の手なのに知るか。ったく、仕方なぇな・・・どいてろ俺がやる」

 

上司は僕をドアの前から力づくでどかすと、黒いゴルフケースのような袋を担いだ。

 

僕からイヤホンを取っていくと、ずかずかと音を立てて部屋に入った上司は、まるで給料日当日のサラリーマンのような笑みを浮かべた。

 

「分かってねぇなぁ・・・いたぶるんが楽しいんだろうがぁよぉ」

 

ゴルフケースの中から取り出したのは、金属特有の光沢を帯びた棒状の物体。

 

長さはちょうど、野球のバットくらいだろうか・・・?

 

それを剣道の素振りのように扱う姿を、僕は白い部屋の様子を確認できるモニターから呆然と見つめていた。

 

嘘だろ、あれで、もしかして・・・あの女の子を・・・。

   あれは人形、人形をぶつことの、何がおかしいことだ・・・。

 

右目がぴくぴくと痙攣していることが分かる。

 

やめろ・・・。

 

心の中で、誰かが囁きかける。

 

「そーぉれっ!」

 

上司は勢いよくM382の脳天に一撃を加えた。

 

瞬間、その金属棒にはおびただしい量の血液が付着する。

 

漫画とか、ドラマでしか見たことがないような、潰したトマトのように鮮やかな血。

 

画面越しだが・・・これは、ドアの向こうで起きている現実だ。

 

「おらっおらっ、オラアッ!」

 

上司は口角をこれでもかという程上げて。何度も、何度も、M382の頭を強打する。

 

あまりの光景に、僕は何も言葉が出ない。

 

心が、その映像に対して考えることを拒否している。

 

嘘だ、嘘じゃない、ダメだ、当たり前のことじゃないか、許されるわけがない、あれは人間じゃない、少女だ、モルモットだ。

 

飛び散る血彼女は生きている、モルモットから血が流れるのは当たり前だ、人形から血は流れるか、ドールからは流れるんだよ。

 

神経回路がショートしそうになるくらい色んな言葉が溢れて、事実を拒んだり受け止めようとしたりして。

 

花火のように、光ったと思うと否定の言葉は肯定する闇に吸い込まれていって。

 

そしてすっかり暗闇に包まれた脳内に唯一残ったのは『やめろ』という3文字の感情だった。

 

「・・・お、クラン研究員。君もようやくやる気になったか」

 

「やめろ」

 

気づけば僕は、上司の目の前に立っていた。

 

「は?」

 

なんだこいつ、と、しかめっ面をする上司。

 

僕は上司がかけているサングラスを力いっぱいに引っペがして、踏み潰して粉々にした。

 

「な、何をするんだお前ッ!?」

 

「こうしてやるんだよ!」

 

僕は()()の目の前に立つと、その布切れが目隠しと分からないくらいに力いっぱい細切れにして破いた。

 

「お、お前なんてことをッッ!」

 

上司はすかさず防衛反応に出る。金属棒を持っていない左腕で目元を隠そうとする。

 

その行動よりも速く。

 

僕は、歯を食いしばって、上司の顔面に正拳突きをかました。

 

初めて、人間を殴った。

 

自分の拳に触れた何かがきしむ音。

 

そして、僕の拳には硬い骨がぶつかり痛覚が悲鳴をあげた。

 

手の振動はいつの間にか止まっていたが、代わりに上司の鼻血と僕の皮膚が破れて血がべっとりと付着していた。

 

僕の拳のせいか、はたまた床に頭をぶつけたせいか。

 

大の字になって白目を剥く上司を見て、やっと僕は冷静さを取り戻した。

 

やってしまった。

 

上司に手を出した上、メインモニターからの映像で僕がした事がすぐに他の研究員に伝わる。

 

でも、不思議と後悔は薄らいでいった。

 

僕はやっと、自分の気持ちを貫くことが出来たんだから。

 

上司の白衣から鍵の束を取り出すと、少女を拘束する手錠を開放した。

 

目はうつろで、近くの僕さえ見れていない。

 

恐怖のあまり肩は震えている、当たり前だ。

 

口から微かに、いたい、いたいって声を漏らしていた。

 

やっと僕は、この少女の言葉を聞くことが出来た。

 

僕は彼女を抱きしめた、血が付くのなんて構わずに。

 

耳元で、確かに息をしているのを感じた。

 

僕は鼻声で、涙を流して、彼女を強く抱きしめた。

 

「ごめんね。痛かっただろう、辛かっただろう。友達とはしゃいだり、美味しいもの食べたり。勉強したりしたかったよね。なんでこんな苦しい思いしなきゃならないのって、ずっと思ったよね。全部全部、知らなかった僕の責任だ。見逃してきた僕の責任だ。ごめん、ごめん、ごめん・・・・・・」

 

今まで見て見ぬふりをしたことを、許されたいなんて思っている訳じゃあない。

 

ただ、彼女に謝りたかった。分かってくれなくても、自分の弱い心が許せないから謝罪を繰り返した。

 

・・・君のこれまでの失った人生を取り戻すことは出来ない。

 

僕は、自分の力不足にも嘆いた。

 

でも、それでも。

 

僕にだってあるはずだ。

 

真っ先に浮かんだのは、子供の頃見た光景。

 

たくさんの人の笑顔を生み出した、道化師のパフォーマンス。

 

そうだ、僕にだってあるはずだ。

 

せめて、この子に自由を取り戻させる事ができるだけの力が。

 

お日様の下、笑顔で生きていけるだけの力が。

 

その願いを叶えるのならば、僕は自分だけの人生(クラン)を辞めよう。

 

そして、道化(クラウン)として、彼女のこれからの人生を照らす光になろう―――。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「ここは・・・」

 

長い夢を見たような気がする。懐かしい、夢を。

 

目がすっかり覚めた僕は、自分の身動きが取れないようになっている事に気がついた。

 

「縄・・・?」

 

「よーやくお目覚めかい、クラン元研究員さんよぉ」

 

薄暗い小屋の中に入ってきたのは、見覚えのない顔の男。サングラスをしていて目の辺りまでは詳しく分からない。

 

やたらチャラチャラとした風貌で、放った言葉からまずい状況であることを瞬時に判断した。

 

「人違いだ。僕はクラウン、君のそのクランという人間ではない」

 

「っけ。いい性格してるぜ。名前を変えれば行った罪が許される、とでも思っているのか?ま、名前なんてどうでも良い。お前に聞きたいのはただ1つ、M382はどこにやった」

 

「・・・聞いたこともない。知らない」

 

「ッケ。面倒くせぇなぁ、シラを切るか。おい、M101。こっちへ来い」

 

「はい」

 

小屋の入り口から、今度は少女が入ってきた。まるでお面を被ったようにぴくりとも動かない表情は、すぐにそれがドールであることを実感させた。

 

しかし、何故ドールがここに・・・研究室の中でならまだしも、外に出して命令を聞くほどドールはお人好しでは無いぞ。

 

それも、このM101と言われた少女。彼女はマーナよりも5歳以上は年上だろう。被検体番号も200番も早いのが何よりの証拠だ。

 

会社が倒産して金が無く、銀行強盗をする父親のような心境の彼女が、こんな1人の人間の命令を聞くわけがない。

 

僕の焦る顔を見たからか、男はけっけっけと作り笑いをしてみせた。

 

「言いたいことが言わなくても分かるぜ、どうして人を操ることが出来るドールが、こぉんな馬鹿そうなやつに仕えているんだってなぁ」

 

男は黒髪の少女の近くに寄ると、その身体をいやらしい目つきで見始めた。

 

「これだよこれ、このスイッチだ。お前も研究員をしていたのなら分かるだろうが、M型ドールが人を操れる原理は『接触した人間を取り巻く空気の圧を変動、固定させること』だ。これによって、例え自分よりも重たい人間であろうと引きずり回す事だって出来るし、割り箸のように折ることだって出来る。このスイッチは、そのドールの力を強制逆流させるスイッチだ」

 

強制逆流。つまり、押されたら黒髪の少女は踏まれた空き缶のようになる・・・という事か。

 

あいつら、なんて物を・・・。

 

男は得意げに続ける。

 

「スイッチと言っても、押すだけが起動条件じゃあない。スイッチが破壊されたり、今の持ち主である俺の心の臓器が運動を停止した時も起動するんだ。よって、こいつは例え今どんな事をされても逆らえないってワケ」

 

男は左手で黒髪の少女の太ももに触れると、腹部、胸、肩と徐々に手を移動させる。

 

「・・・・・・ッ」

 

少女は口をぎゅっと固く閉じ嫌がっている。

 

男は関係なしに、顔を撫で、舌で舐めた。

 

その光景に、鳥肌が立つ。これはあの場所で起きていた事だ。少女たちから人権を簡単に奪い去る、汚い大人どものやり方。

 

俺の視界に入る場所で、そんな事は絶対にさせない。

 

あの日から僕はもう、目を背けないと決めたんだ。

 

「やめろ」

 

「・・・は?」

 

「やめろ、と言ったんだ。ドールは人間だ、彼女のプライバシーを僕の目の前で犯すような行為は、絶対に許さない」

 

「・・・とりあえず、お前がクラン元研究員であることを認めるな?」

 

「そんな事、認めてやる。だから早急にその子から手を離すんだ」

 

僕は最大限、その男に対して目つきを悪くした。

 

もちろん、僕は知っている。今このような態度を彼に取ることが、僕の命を縮めるということに繋がる事だと。

 

身体は縛られ身動きが取れない、ドールに命令さえ下せば、僕は踏み潰される蟻のようにぺしゃんこにされて死ぬだろう。

 

殺される前に、死んだほうがマシと思えるような拷問だってされるに違いない。

 

でも、あの時決めたんだ。

 

僕は、例えどんな事があっても、奥底に眠る3文字の言葉を信じて生きていくんだって。

 

男は僕の言葉を聞いて、呆れるように口をあんぐりと開いた。

 

「お前、馬鹿じゃねーの。そんな事よくこの状況で言えたなぁ。クランなんてやつは本当に死んだらしい。お前はただの、みすぼらしい道化(クラウン)だ」

 

黒髪の少女に何も命令せずに、男は僕を素手で殴った。

 

口内が裂ける。鉄の、血の味がする。

 

息を荒げて、僕に罵声を上げている様子だったが、僕にはそんな安い言葉は届いていない。

 

ただ、僕はそのドス黒い心の持ち主に、刺すような視線を与えた。

 

「本気で気に食わねぇ・・・どいつもこいつもよぉ。M382の事を聞きだしたらいたぶって殺そうと思っていたけどやめた。順序を逆にする。おい、M101。こいつの首を絞めつけてやれ」

 

男は僕の顔に靴をぐりぐりと押し付けた。

 

「おい・・・聞いてんのかM101」

 

黒髪の少女は、聞こえていない様子だった。どこか、僕でもチャラい男でも無い、違う場所を見つめている。

 

「なんで、強がれるの・・・弱い癖に。屈服しないの、力の差は歴然としているというのに・・・」

 

「おい、人の話を聞いているのかって言ってんだよォッ」

 

男は声を荒げて少女に近づく。

 

男が目の前に来た時に、ようやく少女は自分の意識がここではないどこか・・・(おそらく脳内で考えが錯綜しているのだろう)に飛んでいた事に気がついた。

 

「痛い思いをしたいらしいな。顔上げろ、嬲ってやる」

 

「お前、その子から離れろ、やめるんだ!」

 

振り下ろされる、男の拳。

 

「・・・・・・は?」

 

しかし、拳は彼女の頬をじりじりとかすめ、止まった。

 

男の目にあるものが飛び込んできたからである。

 

僕にも、すぐその正体が分かった。

 

その正体・・・女の子・・・()()()は、肩と息を荒げながらも、一点だけを、僕だけを見つめていた。

 

「クラウン・・・よかったぁ・・・」

 

入り口近くにいる男と黒髪の少女には目もくれず、ふらふらと危ない足取りで、僕に近寄ってくる。

 

マーナは、僕をぎゅうっと抱きしめた。

 

「いなくなっちゃ、やだよ・・・こわかった・・・」

 

その身体は小刻みに震えていた。日がとっくに沈んだ夜の通りを、必死になって駆け回ってくれていたんだろう。

 

その身体は熱を帯びていた。僕は生きていると、実感できた。

 

男は気味の悪い高笑いをすると、黒髪の少女を突き飛ばす。

 

「おいおいそのチビ・・・もしかして、もしかすんのか・・・?なんでこの小屋が分かった・・・?いや、そんな事はもうどうでも良い。ここにいるんだ、捕まえて元の地獄に戻してやるよォッ!」

 

男はズボンに付いているポケットから、小屋の灯りに反射するナイフを取り出す。

 

そして、マーナの背後から僕たちのどちらかを刺そうとした。

 

しかし。

 

「おじちゃん、悪い、人なの・・・?」

 

「なッッ・・・・・・?」

 

男のナイフを持つ腕は、文字通り『空中に固定された』。

 

マーナは、無秩序にその力を使おうとしている。

 

「な、なんで・・・目を直接合わせているわけじゃあねぇのに・・・・・・う、う、動かねェ・・・助けてェ・・・・・・」

 

「クラウンに悪いことする、人なら・・・許さない・・・」

 

男の腕が、関節の可動域を無視してあらぬ方向に捻じ曲がる。

 

鉄球が地面に落とされた時のような、鈍い音が響いた。彼の骨が折れた音だ。

 

「あァアァああああああああああ止めてくださいィィィ・・・・・・」

 

男は自分の腕が意のままに操られる圧倒的な恐怖と神経がぶつぶつと切れる激痛の前に口から目から、下腹部から、汁を大量にこぼした。

 

2、3周回転する腕。

 

腕は回転を止めると、男の首元に刃先を突きつけた。

 

その刃先は確実なる憎悪の念を持って、少しずつゆっくりと首の内部へ侵入する―――。

 

「や、やめるんだマーナ!それ以上は、彼を殺してしまう!君が、君ではなくなってしまう!」

 

「・・・・・・・・・え。あれ、わたし・・・」

 

憎悪の支配からマーナが開放されると同時に、男の手から刃物が落ちる。

 

白目を剥き泡を吹き気絶したであろう男は、そのまま地面になんの防御体勢もとらずに突っ伏した。

 

マーナは頭を抱え込む。

 

「わたし、クラウンの血を見て、その人が刃物を持ってこっちに来て、やったんだって思って、それで・・・」

 

「マーナ・・・大丈夫、気持ちを落ち着かせて。深呼吸だ。能力を使わない感覚を思い出すんだ」

 

「う、うん・・・」

 

胸に手をあて深呼吸をしたマーナは、荒かった呼吸音をしだいに沈静化させた。

 

・・・マーナは、確実に成長している。それは人間としてもだが、ドールとしての能力もだ。

 

僕を街から探し出す。後ろを振り返らなくても男がどのような動作をしているかが分かっている。目を合わせなくても、対象に圧をかけられる。

 

そして、彼女が時折り我を忘れて能力を剥き出しにする・・・。

 

彼女の人間としての成長の速度と同じように、悲しいことだが、彼女は最悪の対人兵器(ドール)としても進化している。

 

僕が与えた『能力を使用しない』という薬も、能力の成長速度を遅らせているに過ぎなかった。

 

昔、上司に言われたことがある。マーナは最終的に地球上の全ての人間を意のままに操る最悪の対人兵器(ドール)になると。

 

絶対に、そんな事はさせない。僕は血反吐を吐くと、マーナに優しく声をかける。

 

「マーナ、悪いけどそこのナイフで僕の縛っている縄をほどいてくれないかい」

 

「わかっ、た」

 

マーナは男が落としたナイフをおそるおそる取ると、縄をゆっくりと切っていく。

 

「うんっ・・・しょ。うーん・・・しょ」

 

僕を間違えて傷つけないように、細心の注意を払いながら。

 

あぁそうだ。マーナはこういう気配りが出来る、優しい子なんだ。

 

「ほど、けたよクラウン」

 

「あぁ、ありがとうマーナ。それじゃあ早くここから、そこの女の子も連れて逃げよう」

 

僕は黒髪の少女が突き飛ばされた場所をあらためて見ると、彼女はいつの間にか立ち上がっていた。

 

僕が自由になるのを待っていたようだ。

 

彼女は僕とマーナを交互に見ると、下で寝そべっている男のふくらはぎに触れた。

 

触れた瞬間に、男の足はまるで骨なんて無いみたいに簡単に曲がった。

 

僕は黒髪の少女に手を差し伸べる。

 

「君も、ようやく解放された訳だ。さぁ、僕たちと一緒に逃げよう」

 

「逃げる?それは無理です。この男がこの有様では、私は任務を果たせなかった不良品として嬲り殺されるでしょう」

 

「だから、逃げるんだよ。こいつや研究所の目の届かない、遠くに逃げて」

 

「スイッチが機能している限り、私はM382のように逃げることは出来ない。大気中に私がいる限り、その信号は地球の裏側でさえ私に届くからです」

 

「そんな・・・。君を助ける事は出来ないのか」

 

「不可能です。助けられたいとも思いませんし。それにM382の能力を見せられて立ち向かおうとも思いません。私は自分よりも強い奴に立ち向かうような事はしません」

 

「でも・・・」

 

「くどいですね、クラン元研究員。いいえクラウン。私はもともとあなたを殺しM382の捕獲を命じられた敵なんです。敵を気遣う必要はありません」

 

黒髪の少女は、淡々とした口調で僕にそう言い放った。

 

「それにしてもこんな圧倒的な力の差・・・命令遂行が最初から出来たとは思えない。おそらく真の目的はM382と他のM型ドールの戦力差を測るための実験体だったんでしょう。まあ既に死ぬことが決められた身。そんなことはどうでもいいです。ただ・・・」

 

「ただ・・・?」

 

「最期に1つ、あなた方に質問があります。どんなに考えても頭がフリーズして、それを導く事を拒むのです」

 

暗くなる口調。僕は黒髪の少女の疑念を出来る限り晴らしてあげたいと思った。

 

「いいよ、僕に答えられる事であれば答えよう」

 

「ありがとう、クラウン。今日初めて研究所以外の場所に出て、外の世界を体験しました。その時、あなた方を知る老婆を恐喝したのです。でも、彼女は圧倒的な戦力差があるのに、孫に貰ったお茶をこぼされたからという理由でこの男に歯向かった。クラウンあなたもそう。この男に殴られても、あなたは決して屈しなかった。力の差ははっきりと分かるはずなのに。分からない。どうして、あなた達人間は勝てないと分かっていても挑もうとするのですか?」

 

「それは・・・」

 

頭の中でフラッシュバックする過去。弱いクラン。一度は屈したクラン。

 

立ち向かう術を知らなくて。抗う術を知らなくて。ただ機械のように働いていたクラン。

 

あの弱いクランじゃあ、答えることなんて出来なかっただろう。

 

でも、僕は今、その答えを知っている。人間らしさを知っている。

 

「それは」

  「たいせつな、人だから」

 

僕が話始めようとしたとき、今まで黙りこくっていたマーナが話し始めた。

 

僕の胴に腕を回して、身体を密着させる。

 

「離れるの嫌なの、そばに居てほしい。いなくなるとさみしいの。胸のあたりに、大きな穴が開いたみたいになるの。でも、一緒にいたら、あったかい。だから、痛い思いをしてほしくないの」

 

ぎゅっと、ぎゅうっと。マーナは僕を小さな身体で必死に抱きしめた。

 

黒髪の少女は、その言葉を聞くとしばらく沈黙した。

 

顔を上げた少女は、相変わらずお面のように張り付いた表情だけど、光が差しているように僕には見えた。

 

「・・・全く分からないけど、分かることにします。それが人間らしさ。強弱だけでは測れない感情がそこにはあるのですね。負けることよりも、優先されるもの。それが、老婆には家族だった。M382・・・いえ、マーナ。あなたにはクラウンだったのですね」

 

「クラウンは、私にとって、かぞく」

 

「父親のようなものですか?生殖活動によって、子供を産ませる存在の」

 

父親・・・なんか、嬉しいような悲しいような。俺30歳ですよまだ。いや、もう30歳なのか。

 

「父親でもいいけど。違う、もっと大事なひと」

 

え、父親じゃないのに家族でもっと大事な人?となると・・・。

 

「マーナ、僕って君にとってお爺ちゃんみたいなものなのかい?」

 

「・・・・・・」

 

マーナは無言で、僕に『それも違う』と訴えかけているようだった。

 

それと、微妙に締め付ける力が強くなった気が。い、痛いんだけどマーナ。

 

僕とマーナのやり取りを見ていた黒髪の少女は、そっと入り口から自分の身体をどけた。

 

「ありがとう、マーナ。そしてクラウン。最期にあなた達に会えて良かった。人間らしさを1つ聞くことが出来た。さぁ早く、あなた達の日常に戻るといい」

 

「・・・本当にごめん。君を連れていけなくて」

 

「いいんです。私にはあなたの人間らしく扱うその心が痛い。ここでお別れの方が、よっぽどいいんです」

 

「・・・ごめん。そしてさようなら」

 

「さようなら、です」

 

歩き出す僕とマーナ。マーナは黒髪の少女に礼をした。

 

意味が分かったかどうかはさておき、少女もまた礼を返した。

 

「さよ、なら」

 

「さようなら。小さい人間の女の子・・・」

 

黒髪の少女の視線を感じながらも、僕たちは振り向かずに歩いていく。

 

しばらくして・・・。

 

距離が離れたからか。彼女の視線を感じなくなった。

 

振り返ってみた。そこには、米粒サイズまで小さくなった小屋が見えた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「家族、か。あたたかいんだ」

 

私は手に入れた知識を、何度も口に出していました。

 

「お、おい・・・M101。あいつらは、どこだ・・・」

 

男は目が覚めると、自分の使い物にならなくなった腕と足を見て震えていました。

 

「知りません。私も気絶している間に消えました」

 

「嘘をッ付くんじゃねぇ・・・俺知ってるんだぞ・・・覚えているんだ・・・お前が俺の足をこんな風にしたことを・・・ッ。お前、あいつらを逃がしたろうッ」

 

「だったらどうするんですか?第一、あなたが戦闘不能になった時点でこちらは2対1と不利です。そして接触せずとも操る事が出来る()()()がいるし、能力差的にも勝目なんてありませんよ」

 

「マーナ・・・?今マーナと言ったな・・・お前、M382を人間の名前で呼んだなッ・・・」

 

「それがどうかしたんですか。彼女はもうドールではあろうとしていない。人間を文字と数字の羅列で呼ぶのは不自然というものです」

 

「きぃ・・・さ・・・マァッ・・・殺すッ・・・殺してやるゥ・・・」

 

スイッチを構える男。しかし、もうそれは脅しとは言えない弱々しいものでした。

 

「どうせ、お前がスイッチを使わなくても私は殺されますよ。それも可愛がられた後にね。既にスイッチを出したところで、それは私を優しくすぐ殺してくれるだけの道具にすぎません」

 

「・・・ッケ、構うものか。失敗した時点で報酬が出ねぇだけじゃねぇ・・・こんなスクラップ決定のオンボロ車みたいな俺を研究者が生かしておく訳がねぇだろうが・・・俺も死ぬんだよォ・・・だったら、だったらせめて、お前が苦しみ悶える姿を、お前の内蔵を全て撒き散らすパーティーをしてから死んでやるよォ・・・!」

 

いとも簡単でした。決意した男は親指を動かすと、スイッチを深くしっかりと押しました。

 

「?ぐぅぅ―――!!?」

 

途端、私の体には、今まで受けてきたどの実験よりも強烈な負荷がかかります。

 

右足が、男が路上で踏んだ缶のように潰れます。

 

身動きが取れない私は男を()()()にするようにしてその場に倒れ込みました。

 

「ぐああぁァァァ!!?」

 

男からも、悲鳴が聞こえます。

 

どうやら、理屈は分かりませんが。

 

私に今かかる圧力は、接触した事により男にもかかっているようでした。

 

「嫌だァァァァァ死にたくなィィィィいいい・・・・・・い・・・ィ」

 

男は身体の全てが潰される前に、動かなくなってしまいました。

 

私はドール。この男よりも外的な圧力に耐久があったから耐えられたのでしょう。

 

でも、じきに同じように潰されます。

 

私には、死ぬ間際になってこいつのように生にしがみつけるだけの楽しい記憶はありませんでした。

 

ただ、研究室の白い天井じゃなくて、外で死ぬことが出来るのは良かった。

 

消えゆく意識の中、マーナが言ってくれた人間らしさが私を支配します。

 

たいせつな、人・・・・・・。

 

あぁ、おかしいなぁ。

 

研究所でひどい目に合わされているときは、あんなに早く死にたかったのに。

 

さっきまで、痛さ辛さからやっと解放されると思っていたのに。

 

あぁ・・・私、後悔しているんだ・・・絶対しないと思ってたのに。

 

痛い、痛い、あれ、もう痛くない。

 

感覚が薄れていく。

 

眠気に似た感覚。肉塊になった瞼が閉じていくのが分かります。

 

嫌だ。閉じたくないよぉ・・・。

 

まだ生きていたいよぉ・・・。

 

知りたいんだ、マーナみたいに。

 

あぁ、でも私には無理なんだ。

 

もう、時間がないや。

 

あぁあ残念だなぁ。最期にせめて、せめて・・・・・・。

 

 

「温もりを、知りたかったなぁ・・・・・・」

 

閉じようとする瞼の隙間から、一粒の水が流れ出るのが、私の最期の感覚でした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

僕とマーナが向かった先、それは今朝泊めてもらったホテルだ。

 

「ごめんくださぁい・・・」

 

夜遅くなので小さいトーン。

 

しばらくすると、おばあさんが現れた。

 

「いらっしゃい・・・ってあんた達か」

 

今朝最後に会った時と違って、包帯を首にぐるぐる巻いている。

 

僕はすぐに、黒髪の少女が言っていたことを思い出した。

 

老婆・・・まさかこの人が。

 

僕のせいでという気になって、引き返そうとした。

 

「どうしたの、泊まりたいんじゃあないの」

 

「いや、その・・・ごめんなさい」

 

「なんだい、なんだい。むしろ私が謝りたいくらいさ」

 

「え、それって・・・」

 

「昼頃にチンピラが来てね、あんた達の事を聞かれたんだよ。悪いと思ったけど喋っちゃった。その傷、あいつらにやられたんだろう?」

 

おばあさんが指差す先には僕の口元。そうだった、僕も怪我しているんだった。

 

「だからチャラ、どっちも痛い思いをした。それで良いじゃないかい。それよりあんたの連れのマーナちゃん、そんな小さい子を野宿させる訳じゃあないだろうねぇ」

 

おばあさんは腕を組んで背筋を伸ばした。僕はこの人の懐の深さにただ頭を下げることしか出来なかった。

 

「すみません、それじゃあ・・・泊まります」

 

「ん、それでよし。あ、そういえば・・・」

 

「どうしたんです?」

 

おばあさんは、僕たちの前に部屋の鍵を1つだけ置いた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「あはは…困ったねマーナ、1つしか部屋がないなんて」

 

僕は部屋に入るとすぐにそう言った。そしてソファにもたれかかる。

 

体が重い。今日はどっと疲れてしまった。

 

「そういえば、マーナ」

 

「なに、クラウン」

 

「仕事道具とかってもしかして・・・」

 

「遊園地に、置きっぱなし」

 

「あちゃー・・・明日取りに行ってから、この街を出ようか」

 

「うん」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「それじゃあ電気を消すよ・・・じゃなくて、ちょっと明るくないと嫌なんだったっけ」

 

ベッドで毛布を鼻の所までかぶるマーナ。

 

彼女のうなずきを確認すると、部屋の灯りを豆電球のみにした。

 

「おやすみ、マーナ」

 

僕は彼女の睡眠を阻害しないように静かにソファに腰掛けた。

 

「…ねぇ、クラウン」

 

「なんだい」

 

「さむく、ない?ベッドで、寝ないの?」

 

「気遣ってくれるのかい?ありがとう、でも大丈夫。マーナが1人で使っていいんだよ」

 

「うぅぅ・・・。うー…」

 

もぞもぞと、うめき声をあげながらベッドの上で動くマーナ。

 

「どうしたの?お腹痛いのかい?」

 

「ちがう、ちがう・・・そうじゃなくてぇ・・・」

 

急に動かなくなって、静かになって。

 

マーナはまるでご主人様の足に頭をぶつけ、ごろごろ鳴く猫のような柔らかい声色で言う。

 

「私が、さみしいから。クラウン、一緒に寝て・・・おねがい」

 

「ぇ」

 

驚いた。まさか、マーナがそんな事言うなんて。

 

小さい子供が父親に頼むような、そんな事を内心思っていたなんて。

 

僕はなんだか、涙腺が緩みそうになる。

 

素直に、この子の成長が嬉しい。

 

「いいよ、いっしょに寝よっか」

 

「!うんっ」

 

僕はソファからマーナのもとへ静かに歩いていく。

 

寝転ぶと、僕の重みでベッドが軋んだ。

 

毛布を彼女がちゃんとかぶれるように、僕はなるべくベッドの端の方に寄った。

 

「まさか、マーナが1人で寝るのを寂しがっていたなんて気付かなかったよ」

 

「うー…。悪いこで、ごめんなさい・・・」

 

「いいや、むしろ言葉にして言ってくれて嬉しい」

 

「そ…う?」

 

「もちろんだよ。おかげで僕は1人の人間として君を扱おうとした結果、寂しい思いをさせていたことに気づいたんだからね。もっとしたいこと素直に言ってくれるといい」

 

「ほんと?して、くれるの?」

 

「あぁいいよ。他にどんな事したいんだい?」

 

「遊園地でね。女の子が、してたの。手を、繋ぐこと」

 

「ほーう手を繋ぐか…」

 

昔見た映画で、パパとママに子供が手を繋いでもらって、夕日をバックに家まで帰るなんてシーンがあったなぁ。

 

ふと浮かんだイメージを消し去ると、僕は答えた。

 

「それなら、今してあげるよ」

 

マーナの小さな手の上に、僕の手を重ねるようにして繋ぐ。

 

「ひゃっ」

 

「どうしたの?あー…強く握りすぎちゃったかな?」

 

「ち、違う。な、なんかそわそわする・・・は、は、はず、はずか・・・」

 

「恥ずかしい?」

 

「そ、そう」

 

「ははは、今日小屋で僕のこと『思いっきり抱きしめていた』じゃあないか。それに比べたら手を繋ぐことぐらい恥ずかしくなんて・・・」

 

「………すみ」

 

「…ってあれ。どうしたの?」

 

急に僕から手を離すと、毛布も全部引っ張って、彼女は僕から遠ざかっていく。

 

「…おやすみ」

 

「あれーもしかしてマーナちゃん…なんか、怒ってる?」

 

「おやすみ、クラウン」

 

「あーえっとぉ・・・・・・」

 

なんか悪いことを言ったのだろうか?

 

疑問符を頭に浮かべながら、まぁ、とりあえず納得して。

 

「おやすみマーナ。また明日ね」

 

「・・・うん」

 

僕とマーナの長い1日は終わった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

次の日の朝。

 

マーナの寝相の悪さによって、ベッドから2人とも落ちていたことは言うまでもない。

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

いかがだったでしょうか。

キャラクター及び作中ワードの設定を別に書いていますので、よければお読みください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

CLOWN―クラウン― 設定

初めまして、真空ぱっくと申します。

CLOWN―クラウン―を読んでくださり、ありがとうございます。

ここでは、キャラクターと作中のワードについての設定を軽く説明します。

よかったら、引き続き読んでいってくださいね。


キャラクター紹介

 

〇クラウン

元々の名前はクラン。生まれは英国。改名の理由と彼の過去は作中の通り。マーナの事は歳の離れた妹のように思っている。作中では描かれていなかったが、マーナに道化師のパフォーマンスを教えたのはクラウンであり、彼はマーナよりも格段に上手い。母国から飛び出し、マーナが笑顔になれるその日まで付き添う覚悟でいる。

作者からの一言:名前の由来は道化。私が彼が改名したのには、親になる、という意味が込められています。結婚することは今までの自分を変えることだと私は思うからです。

 

〇マーナ

元々呼ばれていたのはM382。生まれは不明。彼女に迫る暗い過去と愛しい現在は作中の通り。クラウンの事は父親のようにも思っているし、それ以上の感情も持っている。ただし、それを表現するすべを彼女は知らない。逃げ出したのが早かったからか、欠落していた感情はクラウンとの旅の途中にほとんど取り戻している。ただ、顔の表情は固く、甘えるという事柄に非常に抵抗を持っている。クラウンと共に道化師の旅を続けている。

作者からの一言:名前の由来はお母さんの意味を持つ沖縄のアンマー(ANMAA)。そのアナグラム(MAANA)。理由は原案ではマーナは愛する妻を失ったマッドサイエンティストの娘で、脳を食べさせることで妻の魂を呼び戻す媒体にされるという設定だったから。しかしあまりにも可哀想だしギャグが入れる余地が無いので現在の設定に。名前はその名残。

 

〇M101

研究所から仕向けられたM型ドール101番実験体。生まれは日本。大和撫子。欠如している感情は強者に抗おうとする意思と、自分よりも大切な家族を守る意思。研究所に入れられてはいたが、その中である程度の言葉の勉強をされている。自分に好意を持つ人間には対応が優しく、反面弱くて嫌いな人間には態度が厳しい。研究所に命令が下った時から、逃げたクラウンとマーナに興味を抱いていた。最期の最期になるまで死にたがっていたのでスイッチの脅迫はあまり意味をなしていなかった。チャラ男は大嫌い。

作者からの一言:某女児向け美少女戦闘アニメの2007年公開映画に登場する闇夢(英語)さんがモチーフ。知らなくて、でも知りたくて。分からないけど分かろうとする。そんなM101が書いてて好きになりました。

 

〇チャラ男

ある意味こいつが一番の道化。ただのチンピラで研究所のお偉いさんに金やるから逝ってこいと言われた人。なのに行動するM101は言うこと聞かないしクラウンは折れないし自分の骨は折れるしチャラ男マジ道化。

作者からの一言:クラウンとマーナ並にセリフはあるのに、こいつに名前が与えられていないのは、作中のどのキャラよりも劣ると思っているからです。作中の悪はチャラ男と上司にほとんど割り振られています。

 

〇おばあさん

孫が可愛くて仕方ないおばあさん。小さなホテルを経営するオーナー。意外とタフネスで、頑固者。

作者からの一言:伊達に歳を取っているんじゃないって感じを出すのに苦労しました。こういうおばあさんは好きです。

 

〇上司

クラウンの過去に現れる上司。また、マーナの過去の中で太ったおじさんというのもこいつ。マーナなどの子供をいたぶるのに悦びを覚える変態。ドールと思えなんていうのは建前で、ホントは誰よりも人間扱いしながら、その人格を侵害する事を楽しんでいる。

作者からの一言:悪キャラその2。早くクラウンに殴らせたかった(笑)。でも、新入社員に急に殴られて仕事の邪魔をされるって書くと、途端に可哀想な人に見えてきますね。

 

〇男の子

ちょい役。マーナの力を示すための登場。

作者からの一言:持っていた人形はカップラーメンが食べられない日本のヒーロー。

 

 

 

 

作中ワード紹介

 

◇ドール(M型)

クラウンが昔居た研究所で実験されていた生きる対人兵器。その名前の由来は作中通り。能力も作中通り。マーナは特別な存在であり、現在生存しているM型ドールの中で唯一接触せずに能力を使用できる。ただし、過酷な実験内容と投与される薬の影響で顔の筋肉が普通の人間よりも動かせない(口は例外)。ゆえに無表情になる。また、人間的な感情の欠落が見られる。早くに脱出したマーナはどの症状も軽度である(M101の反応が普通のドール)。身体能力は特に秀でているわけではないが、耐久力は高い。痛みに過剰な嫌悪感を覚える傾向にあり、耐久力が高いとはいえ、限界を超えると最悪感情の欠落が起きる場合がある。

 

◇研究所

ドールを作り、実験する組織。M型以外のドールも作っている。新人のクラウンをM382に抜擢したのは、最も危険な能力を持つドールだったから駒として使うため。M382の逃走以降、その捕獲とクラン元研究員の殺害(研究所の実態を隠蔽するため)も目的としている。M382の性能を上回りかつ自分たちにより従順な『全ての感情を失ったM型ドール』を作り出すことが最大の行動理念。

 

◇M~~~

Mは操り人形のドールを指し示す。数字は製作開始時期が早いドールほど若い。現在も制作しているため、M382は既に古い数字である。

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。

何か他に説明してほしいことがあれば、言ってくださると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。