やはり俺は間違っている(凍結) (毛利 綾斗)
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1話
『俺は友達がいない。
そんな事はどうでもいいのだが、それによりいつも1人で熟してきた。
そう複数人で行う作業でもだ。
彼らは複数人で作業しているにも関わらずこの俺よりも遅い。
という事はだ、俺は彼らの上位互換である、又は人間は群れる事で脆く妥協するのだと俺は仮説を立てた。
俺は彼らの上位互換なつもりはない。だから導き出される回答は人間は群れる事で脆くなるということだ。
次に群れるのが先か脆くなるのが先かという疑問にたどり着いたのだが答えはでなかった。
全然纏まってないが文字数的にこうまとめさせてもらおう。
群れない俺は最強なのだと』
今俺は職員室の現国担当である平塚先生の前にたっている。見せられているのはこの前書いた作文だった。
「それで一体これは何かね。というか君はこの課題の要点を聞いていなかったのか」
「いえ、ちゃんと聞いてましたよ。高校1年間を振り返ってという作文でしたよね?」
「ああ、じゃあ何でこんな内容になったんだ?」
面倒だ。
何も出鱈目を書いたわけではない。
作文に書いた事は昨年度学校でずっと考え続けた事であり俺の一年の思い出を正確に綴ったものだ。
それがいけないというのなら大人受けの良さそうなものに書き直そう。
「書き直せばいいんですか?」
「私が言いたいのはそういう事じゃないんだよ。なんだい、この脆くなるというのは。某吸血鬼か何かなのかな君は?」
「いえ。俺はただの人間ですよ、残念な事に」
「それに君は孤独ならば強いと思っているのかね?」
「だってそうじゃないですか。
俺は1人で出来るし、平塚先生だってカンペ....すみませんでした。先生が好きそうな内容に書き直します」
やっぱあの人おかしいだろ。
軽くはなった拳の風圧で向かいに置いてあったペットボトル倒したよ。
あんなの食らったらひとたまりもない。
「ダメだ。貴様には私を傷付けた基ふざけた物を提出した罰を受けてもらう。コッチに来たまえ」
そう言われ面倒だと思い逃げようとすると、耳元にブンッという風切音が。横を見ると固く握られた拳がある。
さっきよりも早く、殺気立っていやがる。
「もし逃げたら今の倍だからな」
と逃げ道を封鎖される。
つか待てよ。今のでもまだ半分以下って。一体本気出したらどうなるんだよ。
結局俺は逃げる事も叶わないらしい。
仕方ない、無心で行くか。
少し歩き、人通りが少ない所に来る。と急に先生は扉を開け教室に入っていく。
俺も付いていくと窓際に座り本を読んでいる女子生徒が。他人に興味がない俺には珍しく目を惹かれてしまう。
綺麗だ........。
そう思うのは個人の自由の筈だ。だから俺は悪くな...て何言い訳してんだよ俺は。
駄目だ。この事は忘れて夜飯の献立でも考えるか。今日は肉系にするかな、昨日は魚だったし。
帰り遅くなりそうだし生姜焼きとキャベツの千切り、卵の中華スープにするか。
肉だとあそこの精肉店、キャベツは駅前のスーパーが安かったかな。
などと考えをまとめ意識を戻すと先生はいなくなり、女子生徒は本を読んでいる。
つか俺の存在感薄過ぎだろ、いや寧ろ無いのか。
「貴方はいつまでそこに突っ立っているのかしら?」
そう言って後ろの椅子の山をチラリと見てから本に視線を戻す。
其れから下校時間まで特に何をするでもなくぼーっと過ごし、彼女の一声で部活を終える。
特に何をするでもなく終わったが一体何をする部活なんだろうか。
まあいい、明日は参考書でも読むか。
全くと言っていいほどの絡みのなさ。
でも比企谷君と雪ノ下さんだから仕方ないですよね?
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2話
俺は今中学校に向かっている。
何故かと言われればそこに小町が居るから、としか言いようが無い。
妹に頼まれたら断れない、いや断る気が元々ない。千葉の兄ってそんなもんだろ。
俺が中学校に着くと門にもたれ掛かっていた小町が走ってきて
「いつもありがとう。じゃあ帰ろっか」
といい荷台に腰掛ける。相変わらずの可愛さだ。妹じゃなかったら告って振られちまうぜ。って振られちゃうの決まってるんだな、俺。
買い物に行くぞ、そう小町に言って急いで中学校から離れる。
何故急いで離れたのかって?それはあれだ、周りの中坊がこっちをずっと見て何かひしめきあってるからだ。
「なあ小町、いいのか」
「もー、お兄ちゃんは心配性だなー。お兄ちゃんが思ってる事は絶対にありえ無い事だからだーいじょーうぶー。寧ろ優越感を味わえてるんだよ。
これ小町的にポイント高い♪」
「ハイハイ、高い高い」
優越感を味わえる意味は分からんが小町が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。まあ小町だからな。
つか何であれだけで通じあえるんだよ。こっちの方が俺からしたらポイントたけぇよ。
小町が中学に入ってからは一緒に買い物に行くようになった。
社交的な小町のお陰で安くしてもらえるのだが若夫婦の様だとからかわれてしまう。
俺は気にし無いが顔を真っ赤にしていた小町に、嫌だったら来なくてもいいんだぞ、と言うと、此れだからゴミいちゃんはと怒られてしまい、それ以来ずっと一緒に買い物に行っている。
何故貶されたのか全くもって分からん。
「今日は何を作るん?それに何で遅かったの?小町に言ってみ、言ってみ」
俺は小町にありのままを話す。
それを小町は相槌を打ちつつ笑ながら聞いている。
「へぇ〜。それでお兄ちゃんは明日も行くの?」
「まあそうだな。行かないと平塚先生にボコされそうだしな」
と答えると、此れから小町も部活に行くね〜、といいニヤニヤと笑い企んでいる。
「小町よ。俺としてはすごい有り難いんだが勝手には来れないだろ。俺からお願いしとこうか?」
「ううん、小町自分でなんとかするよ」
などとたわいもない会話を続けた。
次の日、いつも通りに学校に行き、いつも通りに読書をして1日を過ごした俺は小町がどうやってくるのかを気になっていた。
まさか無断で入り込むわけ無いよな。そうだとあの女生徒がなんか言ってきそうだし。
かと言ってお兄ちゃんに会いに来ましたって言って入れるわけ無いし。
コンコン、とノックし扉を開けると同時に身体の右半分が温かく柔らかいものに包まれる。茫然自失としている俺に
「ねぇねぇお兄ちゃん。あの美人な人誰?あの人が昨日言ってたもう1人の部員なの?・・・はっ、もしかして小町の義姉ちゃん候補!」
「落ち着け、妹よ。彼奴は、えーっと、誰だっけか?まあいいもう1人の部員だ。名前は知らん。」
つかお前の兄妹は俺だけだよ、と続け女生徒を見ると溜息をつき額に手を当てている。
不覚にも、そう不覚だがそんな仕草も絵になると思ってしまった俺がいる。
「何にも聞いてなかったのね。私は雪ノ下雪乃よ。おそらく私の事を知らないのは貴方ぐらいね。あとこの部活の部長をしているわ。其方の可愛らしい子は誰かしら?誘拐谷君紹介してくれるかしら」
「誘拐なんかしてない。こいつは俺の妹の小町だ。だからその手に持っている携帯をしまってくれ」
そう、雪ノ下は3プッシュした携帯を持っている。おそらく、いや確実に今の俺には不利でしかない状況だ。
「初めまして雪乃さん。私は比企谷八幡の妹の小町です。仲良くしてくださいね」
「ほら。これでわかっただろ。つか何で俺の名前を知ってるんだ?平塚先生からか」
「ええ。部活で預かる備品だもの。知らないと不便でしょ」
そう言って携帯をしまう雪ノ下。
「ちょ、おま、備品って。せめて人扱いしてくれよ」
「嫌よ。他の人に失礼だわ。それに貴方友達いないでしょ」
「あぁ、いねぇよ。お前も友達なんかいないだろ」
「へぇ、やっぱり友達はいないのね。少なくとも女の子が貴方の周りに来ると思っていたのだけれど。この際私の事はどうでもいいわ」
ちょっと雪ノ下さん。どういう事ですか。俺の周りに女子が来るって嘲笑いにって事ですか、はいそうですね。
最初の頃はよく来てましたよ。
次第に来なくはなったけど時々名前が挙がってる気がするんですよね。
「それに貴方噂を知らないの?国際教養科まで流れてきてるのよ」
「はぁ。さいですか。俺は噂を持ってくる友達なんかいないからな」
「かわいそうな人ね。大丈夫よ私が矯正してあげるわ」
矯正?そんなの要らん、と答えると貴方は矯正されないとマズいでしょ流石に、と返されそこから一方的な罵倒が始まる。
「すみません。流石にほぼ初対面なお兄ちゃんの扱い酷くないですか。雪ノ下さん」
不味い。小町の雰囲気が少し変わったぞ。
それに雪乃さんから雪ノ下さん呼びに変わった。結構怒ってるな。俺のせいで小町の評判を落とす訳にはいかん。
「兄は変わらなくていいんです。皆さんは知らないだけなんですよ。そりゃ兄はボッチですし、捻くれてます。......」
小町さんや。流石に妹に言われると辛いのですが、はい。
「でも、本当は凄い優しい兄なんです。全然知らないのに兄を悪く言わないでください」
そういって小町は雪ノ下に詰め寄って行く。
マズい、何がマズいって小町が俺の事そんな風に思っていたなんて。
いつもごみいちゃん、ごみいちゃん言われてるし、超嬉しい。
でもそろそろ止めないとな。
「小町、そんな風に思ってくれてたんだな。ありがとう。でも俺の事でそんなに怒るな俺は気にしてないから」
「で、でもボッチになった原因の一つには......」
「小町!これ以上は言うな!」
俺の剣幕に驚き身体を震わせた小町に、ありがとなと言いながら小町を後ろから抱きしめてやる。
ボンッ、と音がしたが気にしない。
向き直ってから更に頭を撫でて表情を見ようとすると顔を背けられるがこのリアクションなら大丈夫だろう。
「雪ノ下も悪かったな。まあ俺としてはこんな兄思いの妹に育ってくれて凄い嬉しいんだが。ほれ、小町も謝れ。雪ノ下は悪くないんだぞ」
「雪乃さん。暴走しちゃってすみませんでした」
雪ノ下は小町の雰囲気が元に戻ったのに気づいたのかホッと息を吐くのを俺は見逃さなかった。
「お前だってあったんじゃないか?自身の事を碌に知らないくせに悪意を向けられた事を。そしてその辛さを知っている、違うか?」
だから雪ノ下は今もここで一人、なんだろう......。
ガタッと音を立てながら勢いよく立ち
「今日はここまでよ。鍵は私が返しておくからもう帰って」
と言う雪ノ下は今にも泣きそうな顔をしている。
俺と小町は黙って部室を出たのだった。
雪ノ下と八幡の絡みが難しいです。
進みが亀で申し訳ありません。次でガハマさんまで行けると思います。
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3話
これからも精進していきますので応援よろしくお願いします。
早く彼が来ないかしら?
そう思いながら私は読書をしている。
彼はこの学校で私を知らない少数の内のひとり。
そして私をみて自分のアピールや質問攻めをしてこなかった人。
恐らく、きっと彼だけだろう、此れから先もずっと。少なくとも今まではそうだった。だからこそ私は彼に興味を持ち、更にはもっと多くを知りたいと思っている。
この気持ちはきっともう味わえない、彼だからこその気持ち。
こんな気持ちを胸にしまい彼が来るまで待ち続ける。普通科の授業が終わるまであと20分。私は表情に出さないように読書を続ける。
コンコン
扉を叩く音が聞こえる。
私は声に感情が乗らないように、平静を装いながら、どうぞと声をかける。
扉が開くと、少し驚いた顔の彼とその右腕に絡みつく女の子の姿があった。
あの制服はこの辺の中学校のだったはず。なぜ高校にいるのかしら。というかどうしてそんなに仲よさそうなの。
『こんにちは』という言葉はここまで言いづらいものだったっけ。
そして私の口は動いてしまう。自分の思ってもいない言葉を発するべく。
「何も聞いていなかったようね。私は雪ノ下雪乃よ。おそらく私の事を知らないのは貴方ぐらいね。あとこの部活の部長をしているわ。其方の可愛らしい子は誰かしら?ロリ谷君紹介してくれるかしら」
ダメ、止まって。お願い。
「ええ。部活で預かる備品だもの。知らないと不便でしょ」
なんで。そんな事思ってないのに。お願い、止まって。
そしてトドメの言葉
「かわいそうな人ね。だから私が矯正してあげるわ」
一体私は何様なのだろうか。
ほぼ初対面の相手にでかい口を叩き、罵り罵倒する。
私がした事をそのまま彼がやり返して、言い返してくれたら......。でも彼はそんな事をしない。じゃあ私を誰が罰してくれるのだろう。
そんな時小町さんが私に対して怒ってくれた。それは兄を思う妹を体現している。私はホッとした半面で羨ましいと思う。
お互いに謝罪し表面上では、いや彼と彼の妹の事だきっと許してくれるだろう。何処かホッとしてしまった自分がいて、それが隠せずにいた。
「お前だってあったんじゃないか?自身の事を碌に知らないくせに悪意を向けられた事を。そしてその辛さを知っている、違うか?」
この言葉を聞いて瞬間、雷が落ちたような感覚に襲われた。今まで私が言っていたのはあの頃の彼らと同じこと。そして彼がとった行動は私がとった手段とは全然似ない方法。
「今日はここまでよ。鍵は私が返しておくからもう帰って」
2人は私の顔を見ると黙って出て行ってくれた。
まだ付近にいるのかしら。でもそろそろ限界。
学校で、幾ら放課後で人が近づかない部活塔だとしても、もしかしたら人が来るかもわからない状況でも、私は涙を堪える事は出来なかった。
突如、バンッと音がする。
みっともない姿なんて見せられない。だって私は雪ノ下雪乃だ。学校で泣いている姿を見られるわけにはいかない。
私は必死に涙を堪えいつもの様に立ち振る舞っているフリをする。
「雪ノ下、何があったんだ」
この声は.........平塚先生?
「どうして先生が?それより、いつもノックをしてくださいとお願いしているじゃないですか」
「ノックをしても君は返事をした事が......てそんな事を言いに来たんじゃない。
どうして泣いているんだい?」
先生には関係のない事です、と言い顔を背けると
「関係ないかは私が決める事だ。それより早く準備をしたまえ。こんな時間だし家まで送ろう」
私は時計を見る。長い針が2、短い針が7を少し振れた位置にある。
19時10分.........そうか。私は彼此1時間以上泣いていたんだ。
そして先生が心配してくれた理由を理解した。
それでも私は
「すみません。少し頭を冷やしたいので、歩いて帰ります。ありがとうございます」
そう言って一人で部室を後にした。
「おい、雪ノ下。こんな時間に1人で危ないだろ」
校門の付近で聞こえてくる声。それは私の心を揺さぶるには十分で今にも走って逃げたかった。
いつの間にか私は彼と歩いて帰っている。
互いの間に流れるのは楽しい会話ではなく沈黙となんとも言えない空気だった。
謝りたい。でも何に対して?私は全部知ってから謝りたい。でも親には頼りたくないし、聞いたところではぐらかされるだけ。かといって彼に聞くことは出来ない。
私、雪ノ下雪乃はこの沈黙に耐えられず、考え続けている。沈黙を破るなんてできないわよね、これまでは沈黙を自ら破った事なんてないんですもの。
ふと彼が微笑んだ気がした。まるで私の考えを見透かしたように。
「これは俺の友達の友達の話なんだが聞いてくれるか?」
頷き目を合わして話を聞こうとする。それを見た彼は近くの喫茶店に入り話を始める。
「そいつは中学時代ボッチだったんだ。
そして高校の入学式、きっと楽しみだったんだろうな、そいつは何時もより早く家に出たんだ。
そしてそいつは車に撥ねられた。原因は飛び出した犬を助ける為でそいつの自業自得。そしてそいつは3週間の入院と一部の記憶を失い、高校でもボッチ生活を送る事になったらしい。
まあ俺に言わせりゃ努力すればできただろうに。他人とコミュニケーション取らなかったそいつが悪い。
そいつは常に読書をしていた。きっと自分からいって省かれたりするのが怖かったんだとおもうぜ。
まあこんなところだな」
努力を怠ったその人が悪い。でも本当にそうなんだろうか?ついさっきまでの私ならそう言っただろう。でも今の私には何が正しいのか分からない。
「どうして.......どうしてそんな話をしたのかしら?」
「今のお前は何かを悩んでいたような気がした、だからだ。後は自分で考えろよ。
ってもうこんな時間か。遅いし出るぞ。
お前の親も心配してるだろうし、何より小町に早く会いたい」
「最後に聞かせて。どうして貴方は私を待っていたの?もう会えない事も覚悟してたのに」
「待ってねぇよ。一回家に帰ってから出てきたんだ。まあ.........あれだ。最後に酷いこと言ってすまなかった」
彼は顔を真っ赤にしている。
なんで..........なんて優しいんだろう。でも貴方は悪くないのに謝らないで欲しい。でも私は口を開けずにいる。
もう行くぞ、彼は席を立ち会計を持っていく。
マンションの玄関ホールで彼と別れる。
その時に彼から、まああれだ、気にすんなよと一言。
私は再び彼に何も言えずに、いう間も無く扉が閉まるのを眺めている。
その夜雪ノ下雪乃は過去を知って自分の過ちに涙し、生まれかわることを誓うのだった。
今回は雪ノ下目線でお送りいたしました。
次回は由比ヶ浜さんを登場させたいと思います。
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4話
俺、比企谷八幡は昨日の行動を後悔していた。
あの後最愛の妹、小町には相手にしてもらえず、機嫌を直してもらうのに2時間は要し次の日曜に一緒に出かけることを義務付けられた。そこまでは良い、逆にご褒美だ。
学校に行けば周りを囲まれ質問責めに合う。
ボッチは誰かといることすら許されないのかよ。
つか何で話したこともない奴が冷やかしに来るんだよ。そういや知ってる奴なんて誰も居ないじゃん俺。
あれか、お前みたいな男が女子と歩くなんて100万年早いってことかよ。
昼休みは逃げられたと思っていたら俺のベストプレイスには何度も来客が。
全員が知らない女子だったのだが雪ノ下と付き合っているのか尋ねてくる。違うと答えればいきなり告白されるがプロのボッチである俺は周りの気配を探り当たり障りのない言葉でやんわりと断る。
だってあれだろ。罰ゲームかなんかでオッケーしたら出てきてドッキリでしたって気なあれでしょ。
んでバカにされる。
それにバッサリ断ると断ったら断ったでまた笑いの種にされるやつでしょ。
だから俺は当たり障りのない、笑いの種にもならないように断り続けた。
やっと放課後になった。急いで教室から出て部室へと急ぐ。これ以上教室にいても良いことはない。それに雪ノ下の方に厄介ごとが回ってないか心配しているオレガイル。俺の軽率な行動で雪ノ下に迷惑をかけるのはよろしくない。
扉を開けようとすると中から珍しく声が聞こえる。
小町でも雪ノ下でもない声って事は依頼か。
俺は窓側にもたれかかり、イヤホンで耳を塞ぐ。
途中からきた俺に説明し直すとか手間だし、勝手に聞かれるのも嫌だろうからな。
そう思った俺は部室の前で読書を始めた、いや始めるはずだった。
いきなり扉が開いたと思うと小町が飛び出してきて俺の手を掴んで引っ張る。
「ちょっと待てよ小町。今依頼人来てんだろ。途中から来た俺は入らない方が」
「お兄ちゃんも関係あるんだから来なきゃだよ。詳しい事は後で教えるから来て来て」
小町に言われ俺は部室に入る。
雪ノ下の正面には知らない女子がいてその前に湯気の立っているカップが置いてある。
「小町ちゃん、いきなり飛び出していったから驚いたよ。って比企谷君!どうしてここに?」
顔を赤らめ弱冠挙動不審な女子生徒。
いや、ほんとゴメンね。俺みたいな奴が急に入ってきたらそりゃ驚くよね。
「俺はここの部員なんだ。話を切って悪かったな。続けてくれ」
「だから雪ノ下さん。私にクッキーの作り方を教えてくだ.....さ........い?ってどうしたの、話聞いてる?」
雪ノ下の方を見ると俺の方をチラッチラッと見ていて話を全く聞いていなさそうだった。
ここでどうしてこっち見てんの?とか聞くと切れられるんだよなー、八幡知ってるから絶対に言わないよ。
「何処でやるんだよ。家庭科室でも借りんのか?」
「そうね。じゃあ家庭科室の使用許可を取ってくるわ。月曜日でいいかしら」
取り敢えず元に戻りつつある雪ノ下と俺で話を締めに行くが
どうせならウチでやりませんか、という小町の声に遮られる。
「お兄ちゃんもお菓子作り得意だし教えるの上手ですよ。好条件だと小町思いまーす」
ね、ちょなんでそんなにノリノリなんですか。
まあ明日は土曜日、俺や小町も予定はないし何より沢山練習できる。それに日曜日に家でまた練習できるって事を考えるといい案だ。
「なんで俺ん家なんだよ。雪ノ下の部屋でも、依頼者の家でもいいわけだろ」
「これだからお兄ちゃんは。いつも効率、効率って言ってるじゃん。結衣さんウチの場所知ってるし何より揃ってるし」
「わかった、それでいいよ。明日の11時にウチに来てくれ」
わかった、と元気いっぱい答える依頼者。話も済んだ依頼者は、ありがとーと退席していく。小町は受験勉強の、俺は参考書を出して勉強の準備をする。
「比企谷君。私を迎えに来てくれないかしら?」
どうしてだ、と俺は聞き小町は雪ノ下をじっと見つめる。この目は雪ノ下を観察する目。警戒の色と疑いの色で染まっている。
「別に任せられないとかではないの。逆に貴方なら完璧に教えてくれそうだわ。ただ部長として立会いたいの。それに.......なんでもないわ、忘れてちょうだい」
10時に其方に行く、といい勉強を始める。
それにしても土曜日に部活で、家に2人も来るのか。小学校の頃の俺では考えられないな。
何か大切な事を忘れている気がする......。
「お兄ちゃ〜ん、早く起きないと準備間に合わないよ」
小町の声で意識を覚醒させ今日の予定を思い出す。
今の時間を見て見ると9時15分。雪ノ下を迎えに行くのが10時だったはず.......ってもう時間ねえじゃん。
「ごめん小町。俺もう出るから準備は頼む。朝飯は食ってる暇ないから悪いな。お詫びに昼飯は小町の好きなものにするから」
自室で着替えながら大声でいう。
急いで小町が出してくれていた服を着ると心地よい春の朝の陽かりを浴びながら走るのだった。
雪ノ下の部屋番をおし、インターホンを鳴らす。
時間は9時45分。
結構急いだおかげで時間には余裕がある。毎日鍛えていたおかげか汗もあまりかいていない。
「比企谷君ね。今開けるからちょっと入って来てちょうだい」
と同時に正面の扉が開き、今俺は部屋の前にいる。
ノックすると開いてるわ、と言われるが家の前で待つ。
中は少しバタバタしているのに入っていく勇気は俺にはない。よって俺はここで待っているんだ。などと心の中で言い訳を言っていると扉が開きじと目の雪ノ下が立っていた。
「ねぇ比企谷君、聞こえてたわよね?どうしてそんなところに突っ立ってるのかしら」
「聞こえてたが、中がバタバタしてたからな。入っていいのか迷ったんだ」
心の中で思っていた事をそのまま答える。
行くぞ、と一言言って俺はさっき来た道を戻り始めた。
街を歩いていると男共は振り返って雪ノ下を見る。当然だが隣にいる俺は睨まれるが大抵が諦めの色を写した目とため息をつき歩き去っていく。
思い出した。
俺は昨日聞かないといけない事があったんだ。
「雪ノ下、昨日は大丈夫だったか?」
「昨日?依頼だったら貴方のおかげて上手くいきそうよ」
「依頼の事じゃないんだ。俺との関係を聞かれたりしなかったか?」
どうしたのいきなり、と聞き返される。なんでもない、と答えたいがここは正直に話す事にした。
「俺の所に何人もの奴が聞きに来たんだよ。雪ノ下と付き合ってるのか、てな。違うって言えば俺は貶めようとされるし.........、俺の不始末で迷惑をかけてたら申し訳なくてな。何も無かったようだし良かったよ」
俺はホッとしたのに対し雪ノ下の表情は硬くなっていく。そして雪ノ下は語り始めた。
現時刻 9:40
「比企谷君、本当にごめんなさい。私は人として最低な事をしていたわ。よく知らない相手を罵倒し罵る、かつて私にが受けていた事と全く同じ事していた。知らなかったとはいえ撥ねてしまった人に謝りもせずに失礼な限りだったわよね。そんな私に優しくしてくれてありがとう。本当なら嫌われて当然なのに、貴方は奉仕部にまた来てくれた。どうして貴方はそんなに優しいの?」
俺が優しい?俺がした事は優しさのか。いや、そんな事はない。だって俺は、
「俺は優しくなんかない。俺が今取っている行動は全て自分を守る為のものなんだ」
だから俺は違うんだ、そう言った俺は歩き始めた。雪ノ下は少し出遅れたのか走っているらしい。それから俺の右の手に温もりが.........て何が起こっているんだ?
急いで右手を見ると雪ノ下の左手が、そのまま視線を上げていくと顔を真っ赤にして俯いている。きっと俺も真っ赤にしてるんだろうな。
「ごめんなさい。私、方向音痴で直ぐに迷子になるから..........」
きっと、もしもの話だが、俺が雪ノ下に優しいとしたら、それはきっと妹みたいだからと思っている俺がいるからなのかも知れない。嫌がられるのはわかってるから言わんがな。
そう思いながらゆっくりと歩いて家へと向かった。
由比ヶ浜メインの話になるはずでした。
どうしましょうか、雪ノ下がどんどん原作から離れてい........ってすでに比企谷が原作からかけ離れてるから今更ですね。
応援よろしくお願いします。
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5話
俺は今、ソファの前に正座させられている。
その目の前には小町、依頼人、それと少し肩身の狭い雪ノ下の3人だ。
なぜ正座させられているか、そんなの決まってるだろ。約束の時間を30分も遅れたせいだ。たったそれだけのはずだ。
手を繋いでいるのを見つかった時にさらに眼光が鋭くなったのは気の所為のはず.........。
「あのー、小町さんや。俺は一体いつまで正座を続ければいいのでしょうか?」
小町はその問いに答える事なく
「お兄ちゃんはさ、なんで遅れたのかな?
自分で時間を言ったのに待たせるってどうなの?
ねぇ、ねぇ?反省してるのお兄ちゃん?」
ごもっともだから何も反論出来ん。つか小町さんや、貴方はヤンデレじゃないですよね。いつもの可愛い小町に戻って下さい。
助けを求めるべく雪ノ下を見るが目を逸らされる。とその瞬間顔を鷲掴みされる。
「何目を逸らしてるのさ、お兄ちゃん。今お話してるのは小町だよ」
すみません、と謝ると依頼人が小町を止めてくれる。助かった。
それからクッキー作りを開始したのだがヤバい。何がヤバいってあの依頼人がヤバい。レシピ見ずに作ろうとするんだぜ。隠し味とか言って色んなものを入れようとするし.........。
つか一回言われたら止めてくれよその暴挙。
ソファでくつろいでる小町と雪ノ下に援軍を頼みたいぐらいだ。
「そういえば何でお前は俺の家を知ってたんだ?小町と面識があったのか」
依頼人にそう尋ねると苦笑いが返ってくる。
「あれ、お兄ちゃんに言ってなかったっけ?結衣さんはお菓子の人だよ」
お菓子の人?意味わかんねぇな。
「因みにだけど彼女は貴方と同じクラスよ」
そうなのか。確かあのトップカーストのグループにこんなのがいた気がする。まあどうでもいいが。
「え.....ちょ......比企谷君私のこと覚えてないの?私は由比ヶ浜結衣です、よろしくね」
ちょっと待てよ。小町の事だから自分の友達は友達というだろう。なのにお菓子の人って呼んでいるのはおかしい。
次に俺に関係する事は確定している。そうじゃないと小町は、言ってなかったっけ?って俺に言わないからな。
それを踏まえて友達がいない俺にお菓子を届けてくれたって事は.......
「.......由比ヶ浜、お前があの犬の飼い主だったのか」
いつの間にか由比ヶ浜は隣におらず、ソファに座って雑談している。誰にも聞かれていないようだし安心する。俺も気にしていないしもう終わった事を蒸し返す事はなかった。
俺は油断していた。考えを纏めている間に由比ヶ浜から目を離してしまったのだ。その後も特に気を留めずに片付け、昼食の準備に取り掛かる。
「今から昼飯作るけど何たべたい?」
2人は驚いた顔をして小町は頻りに頷いている。
困ったような顔をして話し合っている2人を見た小町は、パスタ、パスタが食べたい、と一言。2人もそれに乗っかり由比ヶ浜と雪ノ下がカルボナーラ、小町と俺はベーコンとキャベツの和風ベースに決定する。
「小町や、バケットを買ってきてくれないか?ちょうど切らしてるんだ」
小町がいつも通りにかしこまちー、と言う前に雪ノ下と由比ヶ浜が手を挙げ2人で行くといいだす。
客を買い出しに行かせるのは本意ではない。本当ならリビングでくつろいでいて欲しいが、ここは譲らないっと目が語っている。
じゃあ頼む、と言って玄関まで送り雪ノ下が出た瞬間に由比ヶ浜の腕を掴み耳元で
「雪ノ下は方向音痴だから頼むぞ」
と言った。由比ヶ浜は顔を真っ赤にさせてコクコク頷くと出て行く。外からは由比ヶ浜の元気な声が。
これならきっと大丈夫だろう。
ただ問題があるとしたら後ろから感じる視線だ。ここで選択をミスれば俺は死ぬ.........気がする。
「こ、小町さん。手伝ってくれるか?」
小町からの視線が和らぐがまだミスは出来ない。まずはカルボナーラから。
味を整えるために時間が少しかかるからな。やはり小町はすごい。俺が出した材料を見ると俺が欲しいタイミングで欲しいものを用意してくれる。
思ったよりも早いペースでパスタの味を整えた俺と小町は休憩に入る。
「小町、ありがとな。おかげで早く支度が終わった。それに........あれだ.......何時もだが欲しいものを欲しい時に渡してくれる、以心伝心的なの俺的にポイント高い」
そう言いながら頭を撫でる。
顔が熱い、熱すぎる。やっぱこんな恥ずかしい事は言うんじゃなかった。これで小町に引かれたら死ねるまである。
小町は顔を前に向けているため表情が読めない。でも撫でるたびに見える耳が真紅に染まっているのが見える。
「当たり前じゃん!お兄ちゃんに合わせられるのは小町だけなんだから。小町じゃないとお兄ちゃんは支えられないんだからね!」
そう言って振り向く小町の熟れたトマトのような赤顔は見る人を惹きつける弾ける笑顔だった。
不覚にも、そう不覚だが胸が高鳴ってしまう。
自分も恥ずかしいくせに何を言ってるんだよ、小町は。
俺は更に赤面した顔を見られないように背けつつ強めに頭をクシャクシャにしてやる。
結論、やはり俺の妹は可愛い、つか可愛いすぎる。そして小町は誰にもやらん。
その後はご察しの通りだ。雪ノ下と由比ヶ浜の帰宅に気付かずに甘やかし続けた俺は
ガタッ
という音のする方に顔を向ける。
とそこには口をOの字にして突っ立っている由比ヶ浜と携帯を構えている雪ノ下が。その2人の視線の先を見ると表情を蕩けさせている小町がいる。
俺は無言で料理の続きに入りテーブルに皿を並べる。途中から正気に戻った小町が顔を真っ赤にしながら手伝ってくれた。
マジでなんで無言なんだよ。ここまできたら罵ったりしてくれた方がありがたいよ。
べ、別に俺はMなんかじゃないんだからね!
クッキーは真っ黒に焦げていた。原因は設定温度のミス。由比ヶ浜は温度を上げれば時間を短縮できると思っていたらしい。もうキッチンには立って欲しくはないが、仕方ない。俺は本通りに何も手を加えずに作れ、と一言告げるともう一度材料の準備をする。
これまで以上に冷たい声になっていたのだろうか、由比ヶ浜はアレンジを全くせず写真通りのクッキーを作って見せた。
一通り終わった後に俺は雪ノ下から怒られ、弁解しつつ謝り丸く収まった。説教の内容?精神衛生上何があったなんて教えられん。何よりもう思い出したくない。
今は小町の命により由比ヶ浜を送っている。雪ノ下も迷子になるといけないので一緒に来てもらっている。家は遠からずも近からずという距離らしい。土曜の午後ということで沢山の子どもで公園が埋め尽くされていた。
少し先の公園の入り口からボールが転がりだす。車との距離も十分ある。これなら運転手も気がつくだろう。
そう思ったが嫌な予感がする。嫌な予感はよく当たる......。俺はある光景を目にし、二人を置いて走り出した。
コメント、マイリストありがとうございます。
それを糧に頑張って書かせてもらっています。
基本半オリジナルとなっていますがこのまま半オリジナルの作風で書き続けてもよろしいでしょうか?宜しければコメント下さい。
7/3 加筆修正入りました。
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6話
「お兄ちゃん..........。何時まで寝てるの........。小町的にポイント低いよぉ」
兄がトラックにはねられてから1週間経ちました。
まだ意識は戻ってきていません。
事故の原因は女の子を庇ったこと。運転手は、ながら運転で意識が散漫していて気付くのが遅れたらしいです。でも一応ブレーキは踏んだらしく、そのおかげで兄は生きています。
雪乃さんが迅速に電話してくれたおかげでなんとか一命を取り留めました。あと少し遅れたらこの場にいなかったかもしれない。そう考えると胸が締め付けられます。
朝一から雪乃さんと二人でお見舞いに来ています。雪乃さんは毎日お見舞いに来てくれています。結衣さんは.......。
1時間前、兄が庇った女の子とその親がお見舞いに来ました。その子は兄と一緒に轢かれたのにも関わらず軽い打撲で済んだそうです。その原因も吹き飛ばされた衝撃で出来たもの、だそうです。
この子が無事でよかった、そう思うと同時にこの子が居なければと思ってしまう小町は悪い子です。
「雪乃さん、聞いてもらってもいいですか?」
静かに雪乃さんが頷くのを見て、話し始めた。
「兄は小学校高学年から少しずつイジメに合っていました。原因は周りよりも大人びてなんでも一人で出来た兄への嫉妬です。最初はおふざけから始まったんだと思います。
次第に仲間はずれ、一部生徒による暴行、更にはクラス全員による無視。小町も兄が受けていた事の全てを知っているわけではないのです。
中学校でもその延長上でした。
中学校を卒業する頃には目が死んだ魚の様に濁ったものになり、性格も廃れてしまったのです。
小町はですね、一度だけ家出をした事があったんですよ。あれは兄が小学校でイジメに合ってるのを知った日でした。学校に居場所がなく、家でも小町の所為で両親からも蔑ろにされている兄。それを知ってしまった小町は小町の所為で兄が苦しんでいると思ってしまったのです。
小町は公園のトンネルに隠れて一人で泣いてました。寂しかった、辛かった。
辺りは茜色に染まっていましたが、まだ両親が帰ってくるには早い時間で迎えには来れない。兄はきっと私が居なくて清々しているだろう。そう思うとさらに悲しくなりました。そんな時不意に小町の名前を呼ぶ声が聞こえんです。見上げたら汗だくで息を切らしてた兄が其処に居ました。私は
『なんで!小町の所為でお兄ちゃんが蔑ろにされてるのに、どうしてお兄ちゃんが迎えに来たの!』
小町がそうやって兄は困ったような顔をしてこう言ってくれたんです。
『小町が俺の妹だからだよ。兄は妹が泣いてたら助けにいくものだろ』
そして抱きしめて頭を撫でてくれたんです。兄が誰にも理解されなくても、小町だけが兄の優しさを知っていればいい、そう思った小町は今の小町になったのです」
雪乃さんは一言も話す事なく話を聞いてくれている。今はこの静けさがありがたいです。
「高校の入学式の日、兄は一台の車に撥ねられ病院で入院を強いられました。
兄が目を覚ました時に小町は驚いたのです。兄の目がクリアになっていたのです。
その後、話してわかった事は一番辛かっただろう中学時代の記憶を綺麗さっぱり忘れてしまっていたということです。小町的には辛い記憶がなくなって良かったと喜びたいのに当の本人が喜んでいない。だから小町も喜びませんでした。
でも記憶を失っても嫌な過去は心には染みついているのかも知れません。兄は友達を作ろうとしませんでした。
そんな生活が一年続いて小町が諦めかけた時兄が部活に入ったと聞きました。しかも部員が他に1人、いくら兄でもコミュニケーションをとらざるを得ない状況になったのです。小町は嬉しかった、それと同時に兄と同じように一人でいる人に興味が湧き、奉仕部に訪れました。それがこの前のことです。
そして開口一番の雪乃さんの言葉、雪ノ下という苗字でタダでさえ印象は最悪なのに更に苛立ちました。そして兄を攻め続け、ボッチと言うことをネタに攻撃した瞬間小町の堪忍袋の緒はブチ切れました。未だにあのことは許せません。少なくとも責任の一端は当事者である雪乃さんにもあるのに謝罪にすら来なかった、そんな人が言ってもいい言葉じゃ無いはずです。
あ、兄から状況は聞いています。なので仕方ないっていうのはわかってるんです。それに兄が気にしていないのに小町がずっと恨むのも可笑しな話ですよね。
でも兄は昔から自分のことで怒ったことがないんです。だからついつい小町が怒っちゃうんです。
あの夜何があったのか詳しいことは知りません。ですが次の日の態度を見て雪乃さんはいい人ってわかっちゃったんです。その時は嬉しかったなぁ。小町だけでいいと思ってたけど他の人に兄をわかってくれる人が出来て、兄を自慢できる人が出来てうれしかった。
本当に感謝してます、雪乃さん」
「貴女も強いのね、比企谷君と同じで自分に厳しく他人に優しい。でも貴女自身にもう少し優しくしてもいいと思うわ」
その言葉を聞いた瞬間頬に温かく湿った感覚が。いつから泣いてないだろう。確か最後に泣いたのは家出した時だった。あの頃からずっと私の中に引っ掛かって溜まっていたものが溢れ出したみたい。
私は涙を我慢することも、泣くことを隠すこともせずただ、泣きじゃくった。
「小町.........辛かったんだな。......今は..思いっきり泣けばいい..........」
私が泣き続けて10分位たったのだろうか?
頭の上には大きな手が置かれている。兄の声、兄の温もり、兄の優しさに涙腺が再び崩壊してしまった。いつまで泣き続けたのか私は覚えていない。そのまま私は眠りについてしまった。
「小町さん寝ちゃったみたいね」
「まああれだけ泣けばな」
「それもそうね。貴方いつから起きてたの?」
「ついさっきだよ。小町の泣き声で目が覚めた」
「ふふ、流石シスコンね。でも貴方みたいな兄さんがいる小町さんが羨ましい」
「へいへいそうかよ。あとありがとな」
「いきなりどうしたの?」
「俺じゃ小町の重荷を取る事は出来無いからな。本当に感謝する」
「いいのよ、それくらい。って貴方は一体何をしてるの?」
「ちょっとコッチに来てくれ。小町を起こしたくないから動けん」
「仕方ないわね」
そう言って立ち上がり彼の元へ歩いていく。
それで何かし........
「心配掛けただろうし、何かと迷惑もかけた、すまない。
本当にありがとう」
彼はそう言いながら私の頭を撫でている。
何故だろうか、彼の声に、彼に頭を撫でられて落ち着く私がいて、気が緩む。これじゃあ我慢していたものが出てしまう。
でも彼の手から逃げることはしなかった。
だって気持ちいいんですもの。溢れ出る涙、ただ彼が無事で良かったとそんな思いが胸いっぱいに広がっていた。
「ここは俺のベットなんだが....。まあいいか」
俺は病室に備え付けのパイプ椅子に座りながら雪ノ下の持っていた本を読んでいる。
あんな格好で寝られていたら気まず過ぎて俺がゆっくりしないと言うことで小町と雪ノ下にベットを譲った。
今の時間は17:00だ。目が覚めてからかれこれ3時間半になる。小町も雪ノ下も3時間は眠っている。俺を心配してくれた人がいる。それは本当に嬉しいことだ。でも俺は迷惑をかけてしまったという自責の念の方が強くどうやって感謝すればいいか悩んでいる。それと同時に今回の事故の衝撃で一部だが記憶を思い出した。後は中学3年の時の記憶だけが曖昧で何があったのかとさらなる深みに嵌ってしまう。
あとどうでも良いことだが目を腐らしたりクリアにしたりできるようになった。
さて本の続きに戻るか。
そのまま一人の少年は本に再び目を落とす。病室に響くのは彼がページをめくる音、椅子が軋む音、少女らの寝息だけになった。この状態は少女らが目を覚ます3時間後まで続いた。
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7話
俺が目を覚ましてから更に1週間が経った。
その間に色々な人が訪ねてきたが一番驚かされたのは親父と、母さんだ。恐らく前回は驚きながらも事故の相手の大きさに呑まれていたのかもしれない。
今まで放任主義というか放置主義だったし俺の事なんて気にも掛けて無いと思っていたのだが、小町が俺が目を覚ましたと電話すると駆けつけてくれた。
母さんは泣きながら俺を抱きしめ、親父は見た事も無いような優しい顔で頭を撫でてくれた。
親の温もりに少しウルっときたのは気のせいでは無いかも知れない。
その後はトラックの運転手、助けた子供とその両親がそれに..............そんなけだ。
えっ、友達は見舞いに来なかったのかって。俺はボッチだからな、そんな友達はいねぇよ。
雪ノ下がいたじゃないかって?彼奴は友達じゃねぇよ、関係性を聞かれても答え辛い仲だ。
そして俺は今教室の前にいる。時間は8時35分、早すぎず遅すぎないちょうど良い時間だ。
うーっす
心の中で挨拶をしながら扉を開けて入る。ボッチな俺は目立たない様にしなければならないのだ。
そのまま俺の席に座り、本を読み始めるが何かがおかしい。
そう、静かすぎるのだ。
いつもならトップカースト共が馬鹿騒ぎしそれに習うかのように周りの幾つかのグループが話をする。そんなクラスが今日は静かなのである。更に居心地が悪い事にクラスの視線が俺に集まっている気がする。
そんな違和感を感じながらも俺はボッチで視線を集める訳がない。そう思い授業を乗り越え、こうして奉仕部で本を読んでいる。
ノックが聞こえる。俺は雪ノ下に目配せすると彼女は頷き、どうぞ、と声をかける。
「ゆきのーん、依頼客連れて来たよー」
扉を開けて入ってきたのは馬鹿の子由比ヶ浜だった。由比ヶ浜は満面の笑みで微かに誇らしい表情をしている。
雪ノ下が何か言おうとするのを察したのか由比ヶ浜は手を左右に振って
「ほら、私もこの部活の一員だしさ〜。だから感謝なんて要らないよ」
「でも貴女、部員じゃないわよ。入部届けを貰ってないもの」
俺からしたら予想通りのセリフに唖然とする由比ヶ浜は
「入部届けくらい何枚でも書くよ〜」
と泣き真似?をしながらそう言ってノートを破り丸っこい字で入部届けを書き始めた。
「あのー、由比ヶ浜さん。僕入っても良いかな?」
扉の向こうから声がする。
あっ、と由比ヶ浜の口からこぼれた所を見るに自分で連れてきた依頼人を忘れていたらしい。流石アホの子。
「こちら戸塚彩加君。こっちはゆきのんとヒッキーだよ」
「由比ヶ浜さん、その呼び方は何度も辞めてと言ったはずよ。初めまして、戸塚君。用件を教えて貰ってもいいかしら」
..................。
「ではあなたの依頼は自分を強くして欲しいというのでいいのかしら?」
「うん、よろしくお願いします」
それから昼休みに鬼の特訓が行われる事になったのはいうまでも無い。期限は2週間という事が唯一の救いだろう。
「はぁ....はぁ.......はぁ。つかなんで俺までやってんの?」
そう。気づいたら俺も一緒に走り、筋トレし、ボールを打ち続けている。
「競う相手がいた方がやる気になるでしょ。それに貴方少し鍛えた方がいいわ」
「はは.....は。巻き込んじゃってごめんね。比企谷君」
「お前が謝らなくてもいいんだ。それにこれも依頼の一種だと思えば問題ないしな」
それにしても戸塚は体力が凄い。入院して少し落ちているとは言え、結構鍛えていたはずの俺と同等の体力を持っているのだ。其れこそ努力してここまでになったのだろう。それを見た雪ノ下は素振りをさせるが、フォームも整っていて文句の付け所がない。雪ノ下は
「体力面は良さそうね.......。じゃあボールを使って練習するとしましょう」
といい、右手にラケットを持ち反対のコートからボールを打ち始めた。
.........所詮は振り回し練習。されど振り回し練習だ。
雪ノ下は全力を出せば取れるギリギリにボールを出してくる。そんな極限状態を長く続けられる訳は無く、ものの3分で休憩に入る。
籠一杯に入っていたボールは半分ちょっと手前くらいの量になっている。半分しか打てなかったのかと思う者もいるだろう。ただ極限状態を3分も続けていたのだ。そこからは戸塚の覚悟が見られた。
人間というものは楽なものに流れる生き物だ。少し手を抜けば一カゴ打てるかも知れない。だがそれでは意味がない。一度低きに流れた人間はそれからずっと流れてしまう。
戸塚が休憩している間は俺の振り回し練習になる。
俺は残り半分のボールで振り回され、なんとか全てを打ちきるとボール集めに入る。
休憩していたはずの戸塚はいつの間にかボール集めに加わっていて話しかけてくる。
「比企谷君って凄いね。僕より早いペースで僕より打てるなんて」
「それを言うなら戸塚のここまでの努力を褒めるべきだ。並大抵の努力じゃここまで来れないはずだからな」
「でもやっぱり君みたいな人がいたら意識が変わるんだろうな..........。」
「俺がテニス部に入っても変わりゃしないよ。ただ俺を排斥しようとする動きができるだけだ。後から入ってきたくせに生意気だってな」
ソースは俺。
と心の中で呟くだけにする。
中学の頃だった。
最初は良かったんだ。ただ日を重ねるにつれて俺と練習したくないと言い始め、無視が始まる。打つ相手はいなくなり終いには陰での悪口、直接的なイジメが始まる。
誰一人として俺を越す努力をしなくなってしまい、俺が退部すると喜んでいた。
ただ練習そっちのけで俺を排除していた奴らは部での結果も勉学での結果も出せない人間に成り下がっていたが。
「そうね、比企谷君の言う通りだわ。しかも誰一人として努力をして追い抜こうと考えずに陥れて蔑もうとする。貴方みたいな人は貴重だわ」
といつの間にか後ろで会話を聞いていた雪ノ下が告げる。
俺もそう思う。戸塚みたいに自分が頑張るという考えになる者は極少ない。まあ戸塚以外にも知っている限りで3人はいるんだが。
「雪ノ下もう休み時間も終わるしここまでだ」
「そうね。じゃあ毎日こんな感じでいいかしら、戸塚君?」
「うん、ありがとう。これからよろしくお願いします」
こうして俺たちの鬼のような特訓が始まった。由比ヶ浜は何してるのかって?私も走る〜って言って途中でへばってたって事と雪ノ下に連れられてどこかにいったって事しかわからんな。
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8話
それから1週間と2日目の昼休み、俺たちは練習をしていたはずだったのだが気付いたら男女混合の試合をすることになっていた。
ことの発端は簡単だった。
トップカーストの連中がテニスをしたいと言い出し、俺たちを追い出そうとする。こっちは事情を話して引いて貰おうと思ったのだが、結局
『うまい人と練習したほうが戸塚君のためになるよね』
という発言で妥協させられてしまった。
こうなった理由の一つは雪ノ下が保健室に救急箱を取りに行っていて不在だったということだ。
試合は男女混合で戸塚が怪我をしている。俺は出る気は無かったが戸塚が怪我をしているためにしょうがなく由比ヶ浜と参加する。
「お前いいのかよ、あっちすっごい睨んでんぞ」
と言うと由比ヶ浜はうそ、と小さく言うとそーっと相手コートを見る。
それに気がついたのか縦ロールが
「何?結衣、あんたはそっちに付くん?」
「ゴメンね優美子。私がこっちで出ないと試合はできないし.........それに私も部員だから」
「.......そっか。でもやるからには加減しないから怪我する前に止めなよ」
縦ロールからは棘が感じられなかった。それどころか言葉の裏に子供の成長を喜んでいる親の様な優しさを感じられる。
きっと由比ヶ浜が自分の本心を直球で伝えてくれたことを嬉しく思っているのだろう。宣戦布告しながらも心から気遣うのはこいつくらいかも知れないな。
試合形式は6ゲーム先取。テニスを辞めて暫く経っていた俺だったがなんとか相手と対等に渡り合いカウントは3-3となっていた。予想以上の接戦で辺りにはトープカースト目当ての観客で一杯である。
何故かは知らんが両方がんばれー、というか声も聞こえるがあれだろ?
トップカースト(長くて面倒いしトーストで、べ、別に腹が減ってたってわけじゃないんだからね!)のカッコいいところもっと見たいから引き立て役直ぐに負けんじゃねぇぞってことだろ。
由比ヶ浜のサーブで始まるため防戦を強いられていた、そんな時だった。
由比ヶ浜が派手に転んでしまったのだ。
原因は解けていた靴紐だった様で、試合を続けることは出来そうにないくらいに出血している。
取り敢えず転んだ由比ヶ浜をベンチにまで連れて行き綺麗なタオルで簡単な止血をする。
「......大丈夫か?」
「うん......ゴメンね、足引っ張っちゃって。でも試合どうしよう?」
「気にしなくていい。......最悪俺が下手に出るさ」
俺がそう言うと由比ヶ浜が何か呟き、ラケットを再び持つと杖の様にして歩き始めた。
「おま.....怪我したんだから座ってろよ」
由比ヶ浜は真剣な表情で
「ちょっと保健室行ってくる」
と言い、コートの外へと出て行った。
おおよそ3分が経過していた。
「ねー隼人ー。これって試合続行不能であーしらの勝ちじゃない」
「そうだな....。そろそろ時間切れだろうし、あと1分待って試合が続けれそうじゃ無かったら俺たちの勝ち。それでどうかな?」
トーストによる提案という名の強制。にこやかに優しい声で告げたため誰も違和感を抱かない。だがそんな提案を飲むわけにはいかないんだ。
それにまだ勝負は終わっていない。
というかまだ始まっていない。
俺の勝負は今からだ。考えるんだ、彼女が帰ってきさえすれば試合は再開できる。一人の時点で俺は得点を稼ぐことすら出来ない。だから俺は最後まで諦めなければいい。
.......方針は決まった。あとは実行するだけだ。
「NOだ」
審判である戸塚の声が響く。
「30-40」
また25秒がたった。
「ゲーム。チェンジサーブ、チェンジコート」
俺はベンチに座る。
「お前らは「はぁ?」........由比ヶ浜を心配しないのか?」
ちょっとあの縦ロール何であんなに機嫌悪いの?直ぐにキレるとか何なの、おこなの?
「心配はしてるし。でもあの子が決めたことだし、勝ってから様子見に行く」
縦ロールさん、男前っす。つかもう勝った気でいますのね。それにしてもあのトーストは何を考えてるのか全然わからん。口では心配してるとか言いながら目の奥には何処か冷たいものが蠢いているような気がする。
「あんたはどうなんだし。隼人の提案まで蹴って結衣のことどー思ってんの。ましてや部活のために怪我までしたんだよ」
ここで俺は立ち上がり所定の位置につく。ここで答えてしまうのは得策じゃない。
来る時のために幾つかの種を撒いておく。
少しでも時間稼ぎはしたいがルールに抵触しない様にギリギリを攻めなければダメだ。そして由比ヶ浜の努力を無駄にしない為にも.......。
「4-3リード葉山、三浦」
結局更に100秒が経過した。
ゲームカウントは
「5-3リード葉山、三浦」
万事休す。
あと100秒で負けが決まるのに彼女が現れる気配が一向にない。
「0-15」
俺は持っているボールを握りしめる。このままだと俺は負けるだろう。最悪、俺が土下座するくらいは覚悟しとかないとな。
「0-30」
俺は目を閉じて最後まで思考を止めない。どうすれば、どうすればいいんだ。
「比企谷君、いつまで目を閉じているのかしら?反撃の時が来たのだけれど」
俺の耳に入ってきた声は鈴の様な音色で凛としていた。
「間に合った.....な。ここからの反撃は楽じゃないぞ」
「貴方は私を誰と思っているのかしら。貴方と私なら絶対に負けないわ」
そんな言葉に俺は珍しく勇気付けられ、構え直す。
トスを上げ体を鞭の様にしならせて打ったサーブはセンターに入り縦ロールは身動き一つ取れない。
辺りから上がる歓声。
俺は気にせずに構えようとすると、
「へぇ、貴方ってテニスできたのね」
「昔に少しな......。やっと肩が回ってきた様だ」
「15-30」
次もセンター.........に見せかけてワイドにサーブ。
打つ瞬間に手首をずらしてっと。
思った以上にいいコースに飛んで行ったボールをトーストは計画通りというかの様に不敵な笑みを浮かべている。
既に決めた気でいる奴は気づいていない、此処までは俺の計画通りに進んでいるということに。
バウンドするボールはラケットの面に吸い込まれることなく奴の面に吸い込まれる。ほんの一瞬の出来事、トーストは咄嗟に左手でボールを掴む。所詮はツイスト、されどツイストだ。とっておきを見せてしまったのは辛いが相手は警戒するものが増えて大変だろう。
「30-30」
俺のフラットを警戒していた縦ロールはいつもより少しだけ後ろに構えている。
曲がるスライスサーブをネットギリギリに打つ。体勢を崩しながらも返されたボールは雪ノ下の頭上へ。スルーすると思っていた俺が動き始めた瞬間、雪ノ下が跳んだかと思ったらボールは相手コート後ろのフェンスに挟まっている。
理由は簡単だ。
雪ノ下がスマッシュを打った。
ただ余りにも綺麗だった雪ノ下のモーションに魅了されていて見逃してしまったのだ。
「40-30」
.............
「.........そんなに見られると困るのだけれど。早くサーブを打ってくれるかしら」
「う......ぁ、すまん。お前でも照れるんだな......。見られることには慣れてそうなのに」
「真意は後で確かめる事に事にして.....とりあえずこのゲームはあと1ポイントなのよ。早く取りましょう」
後で尋問される事が決定した様だ。
まあ、このまま負けるのは癪だし一丁やりますか。
そのまま俺は構え、トスを上げる。ボールはスローモーションの様に見え、最高のタイミングでラケットにボールが当たる。
今日で、いや今までで一番のサーブ。
問題は、フレームに当たってしまったこととその衝撃でガットが切れてしまったこと。
それを読んでいたかの様な動きで打ち返そうとするトースト。
ラケットに吸い込まれるボール。
返されればこのポイントを取られてしまう。
万事休す。
ラケットにボールが当たる。
フルスイングされボールは自陣コートに叩き込まれた........筈だった。
振り切った姿勢で立っているトースト、ただ手には何も持っておらず、彼のラケットはボールと共に彼の後ろに転がっている。
「5-4リード葉山、三浦」
辺りからは物凄い悲鳴が上がる。
これ後で大丈夫だよね。トーストのファンに刺されたりしないよね?
大丈夫だわ。この学校で誰にも認識されてないし。.......自分で言って悲しくなってきた。
実際は悲鳴というより歓声の方が多く、少なくなかったファンが更に増えるのだが本人は気づいていない。
「比企谷君。サイドはどっちに入ればいいのかしら」
俺としてはお前の得意なサイドに入って欲しい、が流石にメンバーチェンジを許してもらっているんだ。サイドまでは無理だろう。
「フォアサイド何だが、大丈夫か?」
「問題ないわ。ならこのまま終わらせるわよ」
そこからは圧倒的だった。
雪ノ下はギリギリのコースを打ち分け、ギリギリ返されたボールを自身か俺が一撃で決める。
そんな感じで結局1ポイントも取られずにマッチポイントになっている。
相手チームは何処か焦っている様だ。今まで撒いてきた種が芽を出し始めたのだろう。下に見ていたイラつく相手に負けるという屈辱という種が。
雪ノ下のサーブはワイド一杯を抉り、トーストはロブで繋げようとした。
だが甘い。あげられたボールは俺の頭上、チャンスボールとなっている。
ジャンプしてスマッシュを放つ。最後には絶好のシチュエーションだった。だからこそ俺は緊張してネットギリギリに叩き込んでしまう。高く上がったボールは徐々に高度を下げる。普通なら諦めてゲームセットの場面。しかし種が完全に開花してしまった縦ロールはそれを追い下がっていく。ただ一点、ボールを見ながら。
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9話
最近全然確認していなかったため今日初めて気が付きました。
桐那宇宙様ご指摘ありがとうございます。
次からは同じ間違いをしない様に気をつけますので、これからもよろしくお願いします
結果は俺たちの勝ち。カウントは6-5。ただ
「試合に勝って勝負に負けた。そんな気分だわ」
雪ノ下がそう告げる。
全くその通りである。
高く上がったボールを追う縦ロールは文字通りボールに目を奪われていた。周りを見ずに下がっていった縦ロールがフェンスに直撃するのをトーストが防いだ。
たったそれだけのことだがトップカースト勢のハプニングで辺りからは変なコールが聞こえてくる始末。そんな青春ラブコメは絶対に間違っていると思う俺がいる。
つか誰だよ、葉山の事をトーストって呼び始めた奴は。お腹空いてくるだろ。
ってことで勝負に勝った俺たちは最終日まで戸塚との特訓を終え、週を開けた月曜日の放課後。奉仕部での反省会が開かれていた。
金曜日の練習が終わると戸塚は
「練習ありがとうございました。自身も少しだけついたし、部員を引っ張っていける様に頑張るね」
と満面の笑みで言ってくれた。
「練習に手伝った期間はたったの2週間、戸塚の技術は上がったのかはわからない。それでも戸塚自身に自信が付いたなら俺たちの役目は果たされたんだと思うぞ」
少し納得いっていない様な顔をしている雪ノ下。多分だが、あの試合に戸塚が出れなかったのを残念に思っているのだろう。葉山達と頑張って試合しているのを見れば付いてくる部員が出る、そう思っているのかもしれない。だから俺は続ける。
「戸塚には実力がある。これまでは自信がなかったから部員を纏められなかった。でももう大丈夫、戸塚はやるさ」
「そうね。戸塚君なら大丈夫よね」
「そうだよ!彩ちゃんならいい部長さんになれるよ」
意見は纏り、次の議題はなんだ?そういう意味で雪ノ下を見ると
「今日の部活は以上よ。帰りましょうか。私が鍵を返すから早く出てちょうだい」
雪ノ下はカップの洗浄、由比ヶ浜は机拭き、俺は椅子を片付けるというそれぞれの分担を終えると各々が荷物を纏めだす。
「ねぇゆきのん、今日は早く終わったし一緒に遊びにいかない?」
「由比ヶ浜さん、登下校時の寄り道は校則違反よ。それに再来週からテストなのだけれど、遊んでいる余裕はあるのかしら?」
「そんな校則あったっけ?じゃあ一回帰ってから勉強会しよ!えーっと駅前のガ○ト集合でよかった?」
「ちょっと待ってちょうだい。どうして行くことが決定しているのかしら」
雪ノ下が行くことは決定した様だ。
今の流れから行かないという選択肢に持っていくのは見ものかも知れない。が、かの雪ノ下でも理屈が通用しない由比ヶ浜を説得するのは無理だろう。
つうか由比ヶ浜、何でそんなに雪ノ下にベタベタしてんだよ。
別に誰がゆるゆりしてても俺には関係ないからいいんだが目の前で繰り広げるのは良くないと思う。
「ヒッキー」
あ、あれか。お前みたいな奴が存在を認められてるとおもってんのか、ってことなのか?
「ねぇヒッキーってば!」
イジメいくない......って総武高にはイジメはないんだった。
「ねぇ、話きいてる!」
思考を止めると前には上目遣いでちょっと怒った顔をしているのガハマさん。
「.......あぁ、聞いてたぞ」
何も聞いていない俺は取り敢えず話を合わす。これぞ長いぼっち生活で培われた技だ。
「じゃあ比企谷君は賛成ってことでいいかしら?」
「そういう事だな」
「良かったわね。比企谷君も参加する様よ由比ヶ浜さん。それじゃあ行きましょうか」
由比ヶ浜は一瞬意味がわからないという表情をするが、流石空気を読むのに長けている。その表情を隠すと
「やったぁ!じゃあ早く行こうよ、ゆきのん、ヒッキー」
と喜びを表す。
「ちょっと待ってくれ。そんな話してなかった筈だ......よな?それに俺にはこの後用事が.........」
「うそ!(嘘ね)」
例え嘘だろうが本当だろうが最後まで言わしてください。
「いや、本当だから。今日は俺が飯の当番なんだよ。だから今日は無理だ」
と、いきなり携帯を取り出した由比ヶ浜はいじり始める。
いきなり始めたと思ったら同様にいきなり弄るのをやめる。
一体何をしているんだ。
そう思っていると携帯が振動し内容を確認した由比ヶ浜は表情を暗くして
「ほんとみたいだよ、ゆきのん。ヒッキーは週5日でご飯作ってるみたい」
「仕方ないわね。今日は諦めて帰って次の機会を待ちましょう」
こいつ俺を使って上手く回避しやがった。まさか逃げるためだけにここまで計算していたのか.......。
.......由比ヶ浜が何か物欲しそうな顔で携帯を見つつこっちを見ている。
「あー、あれだ。ほれ俺の携帯。雪ノ下も携帯だせよ」
由比ヶ浜の顔がパーっと明るくなる。どうやらこれで正解だったらしい。
俺が携帯を机の上に置くとそれに倣って雪ノ下も置く。
雪ノ下はというと満更ではない様で少し顔を赤らめている。
操作方法の分からない俺と雪ノ下の携帯を一通り由比ヶ浜が設定すると解散となった。
「小町〜ぃ、たでーま」
「おかえり、おにーちゃん。結衣さんからメールきたけどなんだったの?」
「あぁ、勉強会をしないかって誘われてな。今日はおれの飯当番だって言ったんだ」
今までハテナを浮かべていた顔から納得いったのか表情が晴れている。
「お兄ちゃん行ってくれば良かったのに。どうせパパんやママん帰ってくる前に帰ってこれたでしょ。ていうか小町が作ったって良かったのに。あ、これ小町的にポイント高い!」
「最後のがなかったら良かったんだが.....。
まあ小町は週2回ご飯作ってくれてるだろ、それで十分だ。兄孝行ならうちの高校に受かってくれればいい。そうすりゃ一緒に通えるしな」
「ちょ、お兄ちゃん。なに言ってんの!
ただでさえダメ男なのにそんな事言っちゃダメでしょ!ヒモになりたいの!」
心から思っていた事を言ったら顔を真っ赤にした小町に怒られた。
そんなに真っ赤になって怒らなくたっていいんじゃないですか小町さん。
流石の俺も堪えますから........。
俺は制服から室内着に着替え台所に立つ。小町も休憩するのだろう、リビングのソファに腰を下ろす。
と、急に真面目な顔をする小町。
「そいえば.....最近どうなの?学校とか、.........部活とか」
俺は冷蔵庫の中身を確認しながら
「そういや今日、終わった依頼の反省会をしていたんだ。俺的には依頼者は満足してた様に見えたし成功したんじゃねぇの。俺は知らんけど」
小町はそれを聞くと笑いだした。
「何それ?でもお兄ちゃんらしくて良い答えだね。それでね、もし小町も依頼が出来たら聞いてくれる?」
本当に表情がコロコロと変わる奴だ。この短い間でも5つも見られた。我が妹ながらすごいと思う。
っと質問に答えないとな。
俺はキッチンからリビングに移動し小町の隣に腰を下ろす。
「おう、当たり前だ。お兄ちゃんにまかしとけ!」
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10話
何というか京都と東京って正反対な感じで......。
それはそうとお土産一杯買ったんですけど、むしろお土産以外にお金を使っていなくて家族にもっと自分の物を買ってもいいんだぞって言われちゃいました。
楽しい時間は過ぎ去り、忘れ去られたかの様に俺は自電車を漕いでいる。
理由は簡単だ、寝坊した。起きた時間は9時。
起きたばかりは病み上がりで遅れたって事にしようと考えゆっくりと支度していると思い出してしまったのだ。今日の1限目は国語だという事に。
完全にサボれば殺される、俺は自転車に飛び乗り疾走する。時刻は9時30分。
そして今、階段を駆け上り扉に手をかけた。
よし間に合........
キーンコーンカーンコーン
わなかった。
俺が扉に手をかけて固まっていると扉が勝手に開く。
目の前には白衣を羽織ったスーツの女性、平塚先生が。何所か心配そうな表情で急ぎ早だったので道を開けるが一向に横を通る気配がない。
「ひ〜き〜が〜や〜、どうして遅れたんだ。サボりか?私の授業でサボりなのか?」
俺は上げたくない首をゆっくりとあげる。
「い、いえ。あれですよ先生。国語のテストで校内2位の俺は国語に関しては重役のはずです。だから俺は重役に相応しい重役出勤というのをですね.......」
「問答無用」
俺の口上を途中で遮ったかと思うと、いつの間にか腹に激痛がはしる。だから俺の周りの奴は最後まで話しを聞かないんだ。
そんな事を思いながら痛みを耐えられなかった俺はそのまま平塚先生の方に崩れ落ちる。
そんな俺を平塚先生は優しく抱きしめる....事なく無情にも避ける。
俺は仰向けになって上を空を見上げる。
あ〜、今日も良い天井だ......って黒のレース??
「君も重役出勤かね、川崎」
「そんな奴と一緒にしないでください。バカバカしい」
という声がする。
平塚先生は、はぁと息を吐くと
「まあいい。次からは気を付けたまえ。君もだぞ、比企谷」
と言って出て行く。
俺はもう1人の遅刻者の顔を見ると睨まれる。
黒レースの青髪、眼つきわっる....。
俺は立ち上がり黙って席に着くと本を読み始めた。
授業を終え、俺は奉仕部の部室へと向かう。
教室棟を抜け、部活棟の一階、二階と生徒らの声が遠くなっていき3階の部室に着く頃には何の音もしなかった。
手を掛けスーッと扉を開くといつもと変わらない景色があると思っていた時期も俺にはありました。
雪ノ下は立って俺を睨んでいる。
理由はわからないがどうやら怒らせてしまったらしい。
他人に迷惑をかけないように振舞ってきた筈なんだが。
「あー、雪ノ下さん。どうして怒ってらっしゃるんでしょうか?」
「別に怒ってなんかないわ。ただ何処かの寝坊谷君の不真面目さに呆れているだけよ」
そう言いながら額を押さえて息を吐く雪ノ下。
寝坊谷.........どうやら雪ノ下の不機嫌は今朝の遅刻が理由らしい。
なんか約束してたか?.......うん、思い出せん。
「朝、なにか約束してたか?」
「いいえ。朝に私と比企谷君は何も約束してないわよ。何一つ」
段々と熱くなっていく雪ノ下。
つかこれで怒ってないとか怒った時はどうなるんだよ。
.........本当にどう収拾つけようかな。土下座すればいいのか?
ふむ、論点をずらしてみるか。
「......これから一緒に行くか?」
雪ノ下の睨みつける。
八幡はかける言葉を間違えたようだ。
いや、強ち間違ってないのか?嫌がってるならこっちで上書き可能の筈だ。
「雪ノ下、これから一緒に通ってくれませんか?」
俺の訂正は正しかったのだろうか。雪ノ下は表情を少し和らげると、
「仕方ないわね。貴方がそこまで一緒に登校したいっていうなら一緒に行くことを許してあげるわ」
一呼吸開け
「そうすれば比企谷君の事を一番に知れるし」
と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
雪ノ下は俺の遅刻を知らないはず。
でも今の感じだと......由比ヶ浜がメールで知らせたか、白塚先生か。
それより俺と一緒に通うのを許可した?普通はここで『貴方と通う?寝言は寝てからにして欲しいわ、ストーカー谷君』と言うところじゃないのか?
もしかして.....
「迷惑かけた......のか?」
俺は心の中で思っただけのはずだった。
「い、いいえ。迷惑なんて思ってないわ。ただ私が勝手に心配して怒っただ......」
雪ノ下は顔を真っ赤にして俯く。
「貴方って卑怯だわ。あんな声で言われたら嘘をつけないじゃない」
どうやら俺は声に出していたらしい。俺のいつもとは違った真剣なトーンに雪ノ下はタジタジになっている。
こんな時にかける言葉.....。
「心配かけて悪かった。次からは先ずお前に連絡を入れるようにする」
そう言いながら頭を撫でると雪ノ下は更に顔を下げる。サラサラな黒髪の間に見える白い耳は赤みを帯びていた。
「別に連絡なんて入れなくていいわ。比企谷君が遅刻しようが学校を休もうが私には関係ないもの」
「これから一緒に通うんだろ?待たせるのも悪いし、お前の家に着きそうになったら連絡入れる。単なる業務連絡ならいいだろ?」
コクっと頷く雪ノ下。
頭から手を離そうとする。
「お願い。もう少し、もう少しで良いから.....」
仕方ない。誰も見てる奴は居ないし少しなら、と俺は頭を再び撫でる。
ガラッ
「やっはろー」
急に開いたドアと気が抜けるようなバカっぽい挨拶に驚いた俺は動きが止まる。
気づいた時には遅く由比ヶ浜に見られていた。
事情を知らない奴が見たら俺が泣かしている、最悪襲っていると思われて通報されるだろう。
だって俺自身、今の状況を目撃したら通報しちゃうもん。
そんな予想を裏切り由比ヶ浜は
「(ぇ.....どうして?)ゆきのんだけ卑怯だよー。私も、ヒッキー私も撫でて」
最初の方は聞こえなかったがこんな事を言っていた。
つかあれだろ、由比ヶ浜のは触った瞬間に罵詈雑言吐かれて挙げ句の果てに慰謝料請求してくるんでしょ。八幡絶対騙されない。
「んな事より部活だ、部活するぞ」
と言って雪ノ下を見る。
「じゃあ、今日は自習でもしましょうか。あと少しでテスト期間に入ることだし」
それから俺達は勉強するべくサイゼに向かったのだがそこで依頼を受け、解決すべく奮闘していた。結局落ち着くところに落ち着いたのだがそれはテスト期間の前日で.....。
ちゃんと勉強していた俺と雪ノ下は1、2位をとり、雪ノ下大先生との勉強会を逃した由比ヶ浜は悲惨な結果だった。
サキサキ回だと思った?
何というかサキサキの話が上手く纏まらなかった為にこんな感じになりました。
でもサキサキもヒロインの候補?本命?の1人なのでサキサキメイン回も作ろうと計画しています。
最後まで読んで頂きありがとうございます
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