美月転生。~お兄様からは逃げられない~ (カボチャ自動販売機)
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プロローグ

『魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)』で美月出番少ないなーっと思い書き始めました。




魔法科高校の劣等生というライトノベルをぼくは読んだことがなかった。タイトルだけは知っていたし、アニメの宣伝とかでちょくちょく目にする機会はあったものの、本編を読むには至らなかったのである。友達から聞いたにわか知識とあらすじくらいしか知らない。

 

そのことを、こんなにも後悔する日が来るとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

『柴田 美月』。

 

 

それが今世でのぼくの名前だ。

 

うん、どういうわけかぼくは転生してしまったらしい。記憶が曖昧でどうにも前世での最後がどんなものだったのか分からないが、気がついたらぼくは赤子になっていた。それも女児だ。正直、転生というあり得ない事態に混乱し、女の子として生まれたことへの不安とか驚きとかそういうのはすっかりタイミングを逃してしまったため、意外と簡単に受け入れられた。

 

 

それから、数ヵ月が経ち、目も耳もしっかりしてきた頃、ぼくは悟る。

 

 

ここ、異世界じゃね?

 

 

というのもだ。プカプカとカラフルな光が浮いてたり、人の周りにオーラっぽいものが見えるのだ。たぶん、魔力的なアレだと思ったぼくはここを異世界だと考えた。が、そのわりには電気もあるし、機械もある。単純に剣と魔法のファンタジー世界というわけでもなく、ぼくの前世の世界と、良くあるファンタジー世界の中間みたいな感じかなと予想した。

 

しかし、一歳になる頃には、それも違うということが判明した。科学に関しては前世の世界より全然進んでいたし、ファンタジー要素も結局は『魔法』という名の科学だったし。どうやらこの世界は前世の世界とは歴史の分岐した世界だったらしい。

 

そして、五歳になり、神童とかなんとか持て囃されながらスクスクと成長したぼくはインターネットで適当に検索をして遊んでいたのだが、そこでとある学校の記事が目にはいった。国立魔法大学付属第一高校。それが何となく気になったぼくは詳しく調べ……気がついた。魔法科高校の劣等生の世界じゃね?、と。魔法師という言葉にどうも聞き覚えがあるような気がしていたのが、一校というワードでピンときた。転生から五年目にして、ぼくはやっとこの世界が前世の魔法科高校の劣等生の世界であることを知ったのである。

 

知ったのだが……それで?という話だった。

 

ぼくが魔法科高校の劣等生について知ってることなんて微々たるもの。話の内容すらあらすじくらいしか知らないのだから、この世界が魔法科高校の劣等生の世界だったとして、何も変わらないのである。

 

前世のぼくを何千回もフルボッコにする勢いで原作を読んでいなかったことを後悔したものの、先の分かる人生なんて詰まらないじゃない(震え声)と開き直り、もはや魔法とは関わらないことにしたのである。

 

魔法に関わらなければ、前世よりちょっと科学が進んだ世界に過ぎない。ぼくの家は母親が翻訳家というちょっと変わった職業ではあるものの、魔法とは無縁の極々一般的な家庭だし、ぼくの名前もモブっぽいし、たぶん原作キャラではないだろうから適当に転生チートして今世を謳歌してやるぜ!というわけだ。

 

とはいえ、既にぼくは魔法的な何かをこの身に宿してしまっている。『霊子放射光過敏症』、カラフルな光が見えてしまうアレだ。オーラ・カット・コーティング・レンズとかいう度の入っていない特殊な眼鏡をかけていないと日常生活にも支障をきたす。これを克服するためにはどうしても魔法を学ぶ必要が出てきそうなのだが気合いでどうにかならないだろうか。

 

 

ぼくは霊子放射光過敏症をコントロールできるように、特訓をした。どういうことをしたかと言うと、目に力を込めてひたすらボーッと何かを見るのだ。暇な幼児だからこそできる詰まらな過ぎる特訓だったのだが、その成果はちゃんとあって、何と眼鏡なしでも霊子放射光過敏症をコントロールできるようになったのだ。凄いぞ、ぼく!

この時点でぼくは七歳。小学校一年生になったぼくはサッカーを始めた。

 

というのもだ。ぼくは前世でサッカーに人生を注いでいたと言っても良いくらいのサッカー少年だったのだ。幼稚園からサッカーを始め、高校三年間も記憶に残っている段階までは続けていた。高校三年の時には全国に行ったし、プロを目指していたくらいだ。自分で言うのも何だけどサッカーに関しては結構凄い奴だったのだ。

 

そんなぼくは転生チートで小学生時代を無双した。前世、覚えている限りでは高校三年生だったから勉強は超余裕、この体、運動神経も中々に良かったため、サッカーでかなり有名に。

ぼくはハイスペック美月さんとなっていた。

 

中学校もそんな感じになるんだろう。漠然とそう思っていたが、そうはならなかった。勉強は余裕だった。高校生の頭脳で幼少から勉強してきたこともあり、常に学年二位だったし、前世の中学時代より全然賢くなっただろう。が、サッカーは違った。熱は冷めていない。サッカーは大好きだ。地元の中学ではなく、サッカーの強豪校に態々進学もした。

 

でも、将来のことを考えてしまう。女子サッカーでプロになってそれで生活できるかと言えば結構難しい。こんなところで、女子に生まれたことがネックになるとは思わなかった。胸も急激に大きくなってきちゃったしね。肩凝って仕方ない。

 

 

そんな悩みを抱えていた中学二年、ぼくは彼女に出会ったんだ。

 

 

司波深雪。

前世ではテレビの中でさえお御目にかかったことのない正に絶世の美少女。容姿だけでなくその仕草の一つ一つまでもが美しく、世の男共の妄想か世の女性の理想を実体化させたのだと言われても十分信じられてしまう程だった。でもぼくが惹かれたのは容姿より何より、その美しい光だった。サイオンの光が、流れが、今までに見た誰よりも美しい。

 

描きたいと思った。それがぼくの使命だと思った。

 

 

そうしてぼくはサッカーを引退し、絵の世界にのめり込んだ。

 

 

「深雪ー!ヌード描かせて!ヌード!」

 

 

「なっ美月!ちょっどこ触ってっ……お兄様ぁあー!」

 

 

「はぁ…またか」

 

 

「げ、達也!やめ…ぎゃあぁあああ!!」

 

 

 

高校は芸術科高校に入学しようと思っている。

霊子放射光過敏症を使ってこの美しい光を描く。それがきっとぼくの使命だから。

 

 

 




次話は明日の0時に投稿します。


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一章 中学生編〈上〉
第一話 司波兄妹


司波兄妹は校内で知らない人間はいないってくらいの有名人だ。

 

兄、司波達也は歳の割に落ち着いた、とても中学生とは思えない言動をする男子生徒で、成績は飛び抜けて優秀、スポーツは何をやらせても一流、恐らく妹がいなければ恐ろしくモテたことだろう。

 

妹、司波深雪は毎日のように男女問わずラブレターを押し付けられる程の美少女だ。もはや『美少女』という種族なんじゃないかというような別次元の美少女である彼女は、その容姿に加え、兄同様中学生とは思えない言動、それも、生粋のお嬢様なのであろう上品さというか気品がその仕草の一つ一つから溢れていた。まあ、そんな妹がいたんじゃ兄の司波達也に告白しようなんて勇気のある女子は中々に現れない。それに、中学二年生になってからというものの、司波深雪は兄にべったりだから難易度はMAXだ。勇者が初期装備でいきなり魔王と戦おうとするぐらい無謀な挑戦なのである。

 

 

「ぐぬぬぬ…また負けた」

 

 

一位 司波達也

 

二位 柴田美月

 

三位 司波深雪

 

 

テストの度に張り出される順位表。上位三十名の名前が張り出されるわけだが、この中学校に入学してからというものの、毎回、毎回、ぼくは二位である。有名人であるものの、去年一年間は他クラスだったし、ぼくがサッカーに打ち込んでいたということもあり、一度の関わりもなかった兄妹。その兄である司波達也にぼくはどうしたって勝つことが出来ない。今回のテストはサッカー部にも顔を出さず、テスト一週間前から勉強したってのに結局、勝つことが出来なかった。

 

朝一番で、順位表を見に来たことが完全に仇となった。テンションガタ落ちでもう何もやる気がおきない。

 

 

 

「お、お兄様ぁ…」

 

「深雪は頑張っていたよ、俺の教え方が悪かったんだ」

 

「そんな!お兄様は完璧でした!なのに私は……お兄様のご期待に答えることが出来ず……」

 

「深雪、そう落ち込む必要はないよ、学年で三位なんだ、十分立派な成績だよ」

 

 

 

そんな、もうお家帰りたい状態のぼくの横で桃色空間を展開している男女がいた。というか司波兄妹だった。おい、司波達也、その距離は兄妹の距離じゃないぞ!司波深雪、兄から頭撫でられて恋する乙女みたいな顔をするんじゃない!中学生で禁断の愛とかお姉さんあまりおすすめは出来ないな!

 

 

「…とりま、隣で桃色空間展開するの止めてもらっていいですかね?さらにテンション下がるので」

 

「桃色空間?……君は…柴田美月さんだね」

 

 

内心でツッコミを入れて耐えようとしたものの、桃色空間の甘い空気に耐えきれなくなったぼくはつい声に出していたようで、司波達也から疑問の声が上がった。

 

 

「なんでぼくのことを?」

 

「毎回こうして名前を見る機会があるからね、顔と名前くらいは記憶しているよ…たしかC組だったかな」

 

 

背後の順位表を親指で指差しながらそう答えた司波達也にぼくは少し意外感を感じた。なんだか他人への興味が薄そうだと勝手に思っていたからだ。

 

 

「そうだね、ぼくはC組だよ。そういう司波くんはB組、司波さんはA組だよね」

 

「司波くん、司波さんでは面倒だろう、名前でいいさ」

 

「そうかい?それは助かるよ達也、ぼくのことも美月でいいよ」

 

 

ぼくの言葉に一つ頷くと、達也は意外とフランクな提案をしてくれた。これからは遠慮なく達也と呼ばせてもらおう。

 

 

「深雪さんもいいかな?」

 

「え?あっはい、よろしく美月」

 

 

自分のことは女だと認識しているけど、やっぱり女の子を呼び捨てにするのは難しい。名前で呼べるようになっただけでも結構成長だったりする。

 

 

「達也は凄いな、今回も勝てなかったよ、密かに打倒司波達也!で頑張ったんだけど」

 

 

 

ぼくがそういうと何故か達也がくすくすと笑いだした。ぼくが達也に勝てるわけがないと、そう言いたいのか!?ぼくはジトッとした目で達也を睨む。

 

 

 

「ああ、いやすまない。そういう意味で笑ったのではなくてな、実は深雪が……」

 

「お兄様!」

 

「今回のテストでは柴田さんに勝つんだって意気込んでいたんだよ」

 

 

達也が深雪の制止も無視して、頭をポンポンと触りながらそう言えば、深雪さんの顔は真っ赤に染まった。

 

 

「はははは、ああそういえば、ぼくが達也に負け続けているように、深雪さんもずっと三位だったね。うむ、ぼくに勝てるように精進したまえ」

 

「美月も俺に勝てるようにな」

 

「ぬぐっ」

 

 

取り敢えず胸を張ってドヤ顔をしてみたが、達也の一言に変な顔になる。くそー転生知識もあるのになんで勝てないんだ!

恐らく本人は意識していないだろうけど、達也の無表情がぼくを小バカにしているように感じる。なんでかドヤ顔の深雪さんは可愛いだけなのでスルーだ。

 

 

「美月、次こそは私が勝つわ」

 

「ぼくこそ、次は達也に勝ってみせるよ」

 

「そう簡単に負けるつもりはないがな」

 

 

ぼくはこうして司波兄妹と友達(ライバル)になった。




今作の美月は司波兄妹と同じ中学校に進学した設定です。


さて、明日も0時に更新します。


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第二話 勝負

普段、ぼくの通う中学校では2クラス合同で体育を行っているのだが今日は珍しく3クラスで合同になった。つまり、A、B、C組の3クラスである。

 

ぼくはこれを運命だと思った。

いつもはD組と合同で達也と体育の授業を受けることはないが、友達(ライバル)になったその日にこうしてテストでの雪辱を晴らすチャンスが与えられたのだから。

 

 

「達也!サッカーで一対一の勝負だ!」

 

「遠慮させてもらう」

 

 

が、達也に勝負を持ちかけてみればあいつはあっさりと拒否しやがった!

 

 

「体育は原則、男女別だ。そして今日の授業は男子がバスケ、女子がバレー、サッカーは授業時間内にやるスポーツとして適切ではない。よってその勝負は受けられない」

 

 

「な、なら放課後に勝負しよう!それなら何も問題ないはずだ」

 

 

正論で口撃されると反撃は不可能。ぼくは仕方なく放課後に勝負をするよう変更する。まさか逃げないよな、という感じの顔をするのも忘れない。

 

 

「はぁ……断ったら断ったで何時までも付きまとってきそうだからな、仕方ない……一回だけだぞ?」

 

「わーい!ありがとう達也!」

 

 

ふふふ、テストの雪辱、晴らさせてもらう!

 

 

 

 

 

「おっぱいのせいだぁぁああああー!!」

 

 

大得意のサッカーで僅差とはいえ達也に敗北したぼくの叫びが放課後の校庭にこだました。一体何事かと、周囲の生徒の視線が集まっているのが分かる。

 

 

「美月、女の子がなんてことを叫んでいるの!」

 

「だって、重いんだもん。これのせいで負けたんだもん」

 

 

ぼくの胸は中学校に上がってからというものの、急激に成長を続け、今や小ぶりなメロンくらいのサイズになっていた。走るのに邪魔だし、重いし、肩凝るし、最悪である。

 

 

「男女の差があるんだ、自分で言うのも何だが男でも俺より動ける奴はそういない」

 

 

「ううぅぅっ!その余裕がムカつく!」

 

 

流石に汗一つかいていない、というわけではないが呼吸はほとんど乱れていない。まさかこの男、サイボーグだとでも言うんだろうか。

 

 

「だったら触ってみろ!本当に重いんだから!」

 

「そんなの無理に決まって……っ!?」

 

 

ぼくは涙目で達也の手を掴んで自分の胸に押し付けた。むにゅり、と潰れる胸。ふふん、どうだ、これでぼくがどれだけのハンデを背負っていたか分かっただろ!

 

 

「み、みみみみ美月!あああ貴女は何てことをっ!」

 

「どした深雪さん?顔赤いし……ってあれ?なんか寒い?…寒っ!えっいやいや今六月ですけどっ!?」

 

 

何故か急激に下がる気温。

夏場のはずなのに、まるで極寒の吹雪の中にいるように痛いくらいの凍てつく冷たさ。

 

 

「深雪っ!」

 

 

ぼくの胸に手を押し付けられたまま固まっていた達也が、物凄い勢いでぼくから離れ、深雪さんに抱きついた。おお!今度はちっぱいの感触も確かめるというのか!そのためなら妹すら餌食にする、なんという鬼畜!流石です達也さん!

 

 

「…申し訳ございません、お兄様。私また…」

 

「いや、今のは俺が悪かった。まさか美月があんな行動に出るとは…完全に油断した」

 

 

そのまま二人の世界に入る司波兄妹。ちょっとーぼくは放置ですかー?

仕方ないので体育座りで地面に『の』の字を書いて過ごす。誰かかまってよー。

 

 

「美月…お前は少し恥じらいというのを持つべきだな」

 

「何さ何さ、女の子のおっぱいを触れたんだからもっと喜べばいいのに」

 

 

 

しばらくして、達也が呆れたというような顔をしながら説教をかましてきた。なんだねその顔!普通、男子中学生なら土下座してでも触りたいものだろ、おっぱい。

 

 

 

「…そういうのを止めろと言っているわけだが」

 

「以後気をつけまーす」

 

 

 

達也の隣で深雪さんが洒落にならない程怖い笑顔をしてくるので一応反省した風を装っておく。なんだあの笑ってない笑顔は。危うくチビるところだった。

 

 

「そんなことより、さっきの何なの?なんか深雪さんからぶわーって冷たいのが溢れてたけど」

 

 

深雪さんが怖いので話題を転換してみる。実際気になるし、使いこなせるなら夏はエアコン要らずだ。暑いときは常に深雪さんの近くにいよう。

 

 

「あー、美月は魔法師についてどの程度知識がある?」

 

「んー、魔法が使える人を魔法師って言うんでしょ?なんかスマフォみたいなの操作してぎゅーん!っていうのをテレビで見たことあるよ」

 

「つまりほぼ知らないと」

 

「そういう見解もあるね」

 

 

ぼくは魔法師についてほぼ何にも知らない。というのも、この世界が魔法科高校の劣等生の世界であると気がついた時点で、魔法師について調べるのを止め、なるべく情報が目に触れないようにしていた。だって魔法には関わらないって決めたのに、そういうのを見たり聞いたりしちゃったら興味が出てきちゃうもん。ぼくの男の子の部分が刺激されて魔法師になりたくなっちゃうかもしれない。実際、テレビで魔法師の学生がやる九校戦っていう体育祭みたいなのを見たときはめっちゃ興奮した。魔法が使えたら楽しそうだなーってちょっと思ってしまう。でも、ぼくは平穏に今世を過ごしたいのだ。魔法師なんて殺伐としてそうなものになるなんてナンセンスだ。平穏と魔法の天秤が魔法に傾いてしまわないように、ぼくは魔法、魔法師関連の情報をシャットアウトしている。

 

 

「美月にも分かりやすいようにザックリと言うと、魔法の暴走だ。深雪は才能があり過ぎてな、普通の魔法師では到底起こり得ない現象だよ」

 

「ふーん、魔法…か」

 

 

霊子放射光過敏症は普段OFFの状態にしており、勿論今もOFFっている。けど、魔法を光や形で捉えることができるこの瞳なら達也の言う魔法の暴走とやらも見ることができただろう。

魔法の暴走と言う普通の魔法師では起こり得ないという珍しい現象を観測できなかったのはとても残念だ。

今度は是非とも霊子放射光過敏症をONにした状態で見てみたい。そのための準備としてまずは比較対象、暴走していない状態も見ておこう。

 

そんな軽い気持ちだった。

 

 

「…わぁ」

 

 

神秘的。

それは人間が発するにはあまりに美しく、深雪さんの容姿と相まってこの世のものとは思えない、思わず涙さえ溢れてしまいそうになるそんな、光景。

 

でもそれはぼくにしか見えていない。その芸術はぼくにしか表現できない。

 

残したい、この光景を描きたい。

 

 

「美月?どうかしたか?」

 

 

心臓がドキドキする。

ぼくは今、最高に興奮していた。

 

世界の全てが希望に満ち溢れていて、進むべき道が一本、光に照らされている、そんな人生の歩むべき道が決まったかのような感覚。

 

 

この感覚は前にも体験したことがある。

 

 

そう、それは前世において、父親に連れていってもらったプロサッカー選手の試合を見た時。

 

ぼくはサッカー選手になるんだってそう決めたあの瞬間のようだ。

 

 

だってぼくは、この光景を絵にするんだって決めてしまっているのだから。




ぼくっ娘美月ちゃん暴れたい放題。

さて、明日も0時に更新します。


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第三話 本気

ちょっと短めです。


達也と勝負をして数日が経った昼休み。

ぼくは親友に胸ぐらを掴まれグラグラと揺らされていた。

 

 

「サッカー部を辞める!?おまっ、お前からサッカー取ったらおっぱいしか残らないだろうが!」

 

「ぼく怒るよ!?おっぱい以外にも色々残るよ!ほら、頭の良さとか、運動神経とか………とにかく残るよ!」

 

 

深雪さんの絵を描きたい!という衝動が抑えられずぼくは等々サッカー部を退部することに決めた。きっと今世でのぼくはサッカーではなく美術に人生を捧げるべきなのだ。というかもうそうとしか思えなくなっていた。

 

サッカーは好きだ。大好きだ。

 

熱は冷めてない。もっと上手くなりたいし、もっとプレイしたい。

 

でも、それ以上に絵を描きたかった。

 

 

 

「まあ、美月が良いならアタシは何も言わないけど……本当に良いのか?」

 

「うん、もう決めたから」

 

 

ぼくがそう言えば、親友は胸ぐらから手を離し、椅子に座り直した。

 

 

「そっか、頑張れよ」

 

 

そして、優しく微笑みながら言葉をかけてくれた。

 

 

ぼくの親友はちょっと男っぽい話し方をするからか、ぼくとしてはかなり話しやすく、こうしてぼくのことを心配してくれてつい甘えてしまう。

 

良き理解者がいるというのは、大事だなーと思います。貧乳だけどね。

 

 

「おい、コラ、今失礼なこと考えてただろ!」

 

 

…ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、俺に負けたからサッカー部を辞めたなんて言わないよな?」

 

「それは本当にまさかだよ、ぼくサッカー大好きだし、今後もちょくちょく練習に交ぜてもらうしね。ただサッカーよりもっとやりたいことが出来たってだけ」

 

 

放課後、珍しく一人でいる達也に遭遇した。なんでも深雪さんのクラスのホームルームが終わるのを待っているらしい。

 

 

 

「達也はさ、やりたいことってないの?達也は頭も良いし、運動も出来るし、きっとなんだって出来ると思うのに」

 

「やりたいこと、か」

 

 

達也はなんでもできる。

まだ数日しか関わりのないぼくでもそう思ってしまうほど才能に溢れているし、実際なんでもそつなくこなす。

 

 

「うん、なんだか達也ってさ自分の意思が薄いような気がするんだよね。流されるままっていうか、仕方ないって諦めてるって感じ。それって勿体なくない?折角沢山の才能があるのに、それをなんでもないもののように扱ってる」

 

 

達也からは情熱というか、熱を感じない。冷たく淡々とロボットのように人生をこなす、そんな印象すらあった。

 

 

「…美月は中々に鋭いな……俺は流されている、諦めている…そうなのかもしれない。…けどな、それも悪くないって思ってるよ」

 

 

小さく微笑んだ達也の視線の先には小走りでこちらに向かってくる深雪さんがいた。

 

 

 

「お兄様、お待たせいたしました!……すみません、お邪魔をしてしまいましたか?」

 

「いや、ちょうど終わったところだ」

 

 

不安げに達也の顔を見上げる深雪さんに、達也は優しく頭を撫でると、ぼくに言う。

 

 

 

「美月、どれだけ才能があっても出来ないことの方が多い。そして、自分の欲しい才能を持ち合わせている人間というのは稀だ……大事にしろよ」

 

 

 

どうしてか、達也のその言葉はぼくの心に何時までも残り、その時の寂しそうな表情がぼくの頭を離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?胸が苦しい…?」

 

 

ぼくは何故か突然、胸を締め付けられるような痛みを感じ、しばらくの間その場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 




話によって文字数にバラつきが出そうです。

さて、明日も0時に投稿します。


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第四話 日陰者の視点

今話は番外編的意味合いが強いですが、後に重要になってくる……はずです。


また四位だった。

 

僕は勉強では誰にも負けないってくらい勉強をしてきた。実際、塾ではいつも一位だし小学生のころは誰にも負けたことがなかった。それが中学校に入ってみればどうだろう。僕は毎回毎回、テストの度に四位だった。

 

 

「柴田美月さん…か」

 

 

自分より上位、常に学年二位である女子生徒の名前を呟く。

 

 

司波兄妹はなんかもう負けても仕方ないかなって思えてしまう。こうして同じ中学校に通っていることを不思議に思ってしまうようなとんでも兄妹だからだ。

 

それに比べて柴田美月さんはどんな人なのか。司波兄妹は校内の有名人だからこそ、教室の隅でひっそり勉学に励む日陰者の僕でも知っていたわけで、普通、一度も同じクラスになったことのない人を詳しく知っているわけがない。

 

僕はひっそりと柴田美月さんを目で追うようになった。

 

 

 

 

 

柴田美月さんは不思議な人だ。

一見、ゆるふわ系の美少女で、読書とかピアノとかを嗜んでいそうな感じなんだけど、実際は考えるまえに即行動!というような体育会系の元気いっぱい美少女。ついでに言うとぼくっ娘だ、ポイント高いぞ。

 

女子サッカー部に所属していて、かなり上手いらしい。僕もこっそり見学したが素人目に見ても凄かった。まるでボールが体の一部なんじゃないかってくらい自由自在に動かしていた。いや、本当に体の一部がボール……ってなんでもございません。別にゆさゆさ揺れてて途中からサッカーを見てなかったなんてことは決してありません。………また暇な時に見学にこよう。

 

 

さ、さて、そんな運動神経抜群の柴田さんは学年で二位を入学以来ずっとキープしている才女でもある。他クラスの友人に聞いた話だと、授業中は寝ていることもしばしばあり、時には机につっぱしてぐっすり眠っていることもあるらしい。その時、机に押し付けられた二つの果実が大変に眼福なんだとか。いやいや、これはあくまで僕の友人の意見であって、僕の意見ではありませんよ?全然、羨ましくなんてありませんよ?……うん、次いこうか。

 

 

運動も勉強も出来て美少女な柴田さん、当然のようにモテるはずなのだが、そういう噂を聞かない。

なんでだろうと考えたのだが、その答えは早々に分かった。

彼女、柴田さんはとんでもない鈍感だったのだ。何人もの男子が告白を流され、心を折られたという。

何故か柴田さんは男子から告白されるなんてことはあり得ないと思い込んでいるらしい。

 

 

 

「また、四位か」

 

 

結局、柴田さんも僕みたいな凡人とは違うということだ。天然でちょっと抜けてるけど、勉強も運動も出来る、『持っている』人間なのだ。

 

 

 

「おっ、田中君じゃないか!万年四位の!」

 

「うん、柴田さん、初対面の君にそこまで言われて僕は酷く傷ついているわけだけど。そして僕は佐藤なんだけど」

 

「あはは、悔しかったらぼくを越えてみろー!」

 

「……そうだね、そうするよ」

 

 

 

そんな人間に僕がお近づきになろう、なんて言うのはおこがましいことなのかもしれない。

あーいや、そんなことを考えていちゃ何時まで経っても彼女に近づくことなんて出来やしない。

 

 

─告白なんて出来やしない。

 

 

まずは自信を付けるところから始めよう。

 

筋トレして、人並みには運動を出来るようにして、もっと勉強して、柴田さんにテストで勝って。

 

 

そしたら告白しよう。

 

まずは今度の期末試験だ。死ぬほど勉強して、きっと…。

 

 

 

「ぷふー、山田君また四位じゃん!」

 

「うん、僕は佐藤なんだけど。そして肩をバジバシ叩くの止めて欲しいんだけど」

 

 

 

……告白は無理かもしれない。




山田……佐藤君は今後もちょくちょく登場予定です。

さて、明日も0時に更新します。


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第五話 相談

サッカー部を辞めて数日。

絵を描くための道具を揃えたり、有名な絵画を見に行ったりと、やるべきことは沢山あるのにどうにもやる気が起きない。

何だかぼーっとしている時間が長くなってしまい、気がついたら時間が経っている、という毎日だった。

 

 

「はぁ……なんでだろ?」

 

 

今日も一日の授業を全て終え、放課後となったのだがどうにも帰る気にならず、机につっぱしてぼーっと外を眺めていた。校庭ではサッカー部が試合形式で練習をしているのが見え、以前のぼくならすぐにでも交ざりたくなったことだろう。それだと言うのに今のぼくと来たらここから一歩だって歩きたくない。

 

 

「あら、美月。こんな時間まで何をしているの?」

 

 

珍しく一人の深雪さんがぐでーっとしているぼくを見つけて教室に入ってきた。なんでも、達也が委員会の集まりで遅くなるから待っていたらしい。先に帰れば良いと思うんだけど、この二人に限ってそれはないのだろう。

 

 

「なんだか貴女らしくないわね、そんなにぐったりして、風邪でもひいた?」

 

「んー…違うと思う…けど……ねぇ深雪さん、ちょっと相談いいかな?」

 

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 

親友に相談したら病院行けと一蹴されてしまったけど、深雪さんなら何か適切なアドバイスというか対処法的なものを教えてくれるかもしれない。これで駄目だったら本気で病院に行くことも考えた方が良いだろう。

 

 

「実は最近、なんだかぼーっとしちゃって何も手につかないんだ、なんかモヤモヤするっていうかチクチクするっていうか」

 

 

「…………えーっと美月、それはたぶん──」

 

 

深雪さんが若干呆れ顔で何かを言おうとした瞬間、教室のドアが開いた。

 

 

「深雪、ここにいたのか。すまなかったな、思っていたよりも時間が掛かってしまった」

 

「いえ、美月もいましたし」

 

 

入ってきたのは達也だった。

 

どうやら深雪さんを探していたようだけど、ぼくより先に深雪さんですか。そうですか。そうですよね、達也はシスコンだもんね、シスターコンプレックスだもんね。

 

 

「美月もすまなかったな」

 

「えっ……んん、深雪さんに付き合って残っていたわけじゃないから別に気にしないで」

 

 

 

なんでだろう?さっきまでのイライラがなくなって代わりに胸が暖かくなった。それに心なしか心臓がドキドキする。

 

 

 

「そうだ、深雪、今日は遅くなってしまったし夕飯は外食にしないか?」

 

「私は構いませんが……」

 

 

 

達也の提案に深雪さんは遠慮がちに同意し、何故かこちらに視線を向ける。

 

 

「最初からそのつもりだよ、…美月、良ければ一緒にどうだ?」

 

「え、あっ、えーっとよろしくお願いします?」

 

 

突然のお誘いに何故かぼくは深々と頭を下げて達也に右手を差し出していた。何なの、アホなの?

顔が赤くなっているのが分かる。うぅ、なんでかいつもどおりに動けない。ぼくの思考がふわふわしていて、心臓がドキドキしていて、全然らしくない。

 

 

 

「なんだ、変な奴だな」

 

「ひゃう!」

 

 

小さく微笑みながら達也に手を握られれば、ぼくの口から信じられないくらい女の子女の子した声が漏れた。当然、ぼくのおかしな反応に達也は訝しげな顔をする。

 

 

「お前、今日はいつも以上に変だぞ?熱でもあるんじゃないか?」

 

「はわ!?」

 

 

達也の顔がぐいっとぼくに近づき大きな手のひらが額に当てられる。何か喋ろうとするけど、口がパクパクするだけで声が出ない。体も金縛りにあってるみたいに動かないし、顔が爆発するんじゃないかってくらい熱い。

 

 

「熱いな……本当に熱がありそうだ」

 

「だ、だだだだ大丈夫だよ!心配してくれてありがとう」

 

「そうか、無理するなよ?」

 

「う、うん!」

 

 

達也の優しい言葉と心配するような顔に、胸がこう締め付けられるというか、チクチクするというか、そんな感覚に陥る。これは本格的に病気かもしれない。

 

 

 

「じゃあ、行こうか……深雪?どうかしたのか?」

 

「あっいえ、なんでもありません」

 

 

達也と深雪さんが並んで歩いていくのに後ろから付いていく。何故か深雪さんがチラチラとこちらに視線を送ってくるものの、今のぼくは平常心を取り戻していた。そう、今のぼくは冷静だ。冷静な思考で考えるに、二人の距離は近すぎるのではないだろうか。深雪さん、絶対くっつき過ぎだ!達也のシスコン!内心ニヤニヤしてるんだろ、この変態!

 

 

 

「おい美月、なんだか謂れのない罵倒を受けている気がするんだが気のせいか?」

 

「気のせいだよ」

 

 

 

あの二人は兄妹として色々間違ってる!これはぼくが間に入って二人の距離を適度なものにするしかないね!

 




どうやら美月ちゃんに異変があったようです(ニヤニヤ)

さて、明日も0時に更新します。


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第六話 暴走

「誰か美月を止めろぉぉおおおお!!」

 

「なんか今日のコイツヤベーぞ!」

 

 

その少女は風のようにフィールドを駆ける。高等技術のフェイントを惜しげもなく使用した無茶苦茶なドリブル突破、誰もそれを妨げることは出来ず、少女は四人の選手をそのまま抜き去り、ゴールキーパーまでをも抜いてシュート、ボールは矢の如くゴールのネットに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「あーイライラする!」

 

「……それで朝からサッカー部をいじめてたのか、同情するよ」

 

 

昼休み、ぼくは胸のイライラをどうすることも出来ず親友から呆れ顔で朝のことを弄られていた。

何日か前、司波兄妹とお食事に行ったわけだけど……何なのあの二人!くっつき過ぎでしょ!当たり前のように隣同士になるし!何さ何さイチャイチャしちゃって!

 

 

「お前、最近変だよな。ぼーっとしてることが多くなったと思ったら今度は暴れだして」

 

「ぼくもそう思う。なんだか自分が自分じゃないみたいって言うか…感情のコントロールが上手く出来ないって言うか」

 

「やっぱり病院行った方が良いんじゃないか?」

 

「体は至って健康なんだけどなー」

 

 

取り敢えず、今日も達也たちに会いに行ってみよう。

ぼくには二人の距離を適度なものにするという重要な任務があるからね!

 

 

「程々にしろよ、何かストーカーみたいだ」

 

「最近親友がぼくに冷たい件について」

 

「……お前が付き合い悪いからだろ」

 

 

少し頬を赤く染めて、そっぽを向きながら小さく呟いた親友はこうギャップ萌え?っていうのかツンデレというのか、とにかくいつも以上に可愛らしく。

 

 

「なんだよー可愛いやつめーこの、このー」

 

「うわ、ばっ止めろ!」

 

 

 

その後、ぼくは親友がぶちギレて拳骨を食らわしてくるまで愛で続けた。

ぼくの親友は最高に可愛いです。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ美月、貴女もしかして最近、突然胸が苦しくなったり、締め付けられるような感覚に陥ったことはないかしら」

 

「え!なんで分かったの!?深雪さんエスパー?」

 

 

「それはあれだけ露骨な態度をとっていれば分かるわよ…。むしろ気がつかない貴女やお兄様が稀よ」

 

 

やれやれ、といった具合の深雪さん。

放課後、任務を遂行するため司波兄妹と帰ろうと突撃すると深雪さんにこうして校舎の隅に引っ張られてきた。深雪さんが達也を待たせてまで話したいことってなんだろうと不思議に思っていたんだけど、まさか深雪さんがエスパーだったとは。魔法少女なだけじゃなく超能力まで使えるとは流石美少女は侮れない。

 

 

「それで……ぼくは何の病気なんだい?」

 

 

ぼくが真剣に訊ねているというのに、何故かため息を吐く深雪さんにぼくついムスッとした顔をしてしまう。

 

 

「そう拗ねないの、仕方ないでしょ、貴女があんまり鈍感だから」

 

 

「鈍感?」

 

 

 

自分で言うのも何だけどぼくは結構鋭い。

フィールド上では些細な動作や仕草から相手の動きを予測して動けるし、小さなチャンスも見逃さない。まあ、それでも達也には負けてしまったわけだけど。……それはちょっとだけ……か、格好よかったかな。

 

 

 

「……もう良いかしら?」

 

「えっ?あ、ああ!ごめんごめん!」

 

 

また、胸が苦しくなってきて、顔が赤くなる。ぼーっとしていたからか深雪さんも怪訝そうな顔というよりも呆れ顔でぼくに声をかけた。

 

 

「……そんな反応をするくらいならすぐに気がつきそうなものだけど……良い?貴女は恋をしているのよ」

 

「こい……?」

 

 

 

こい、濃い、故意、乞い、鯉……恋……恋!?

 

 

 

「良く考えてみなさい、今貴女の頭はその恋の相手のことでいっぱいなんじゃない?ふとした時にはその人のことを考えていて、少しでも一緒にいたくなる……そんな相手がいるんじゃないの?」

 

 

いる。

確かにぼくには、その人のことで頭がいっぱいになって、ふとした時に考えていて、少しでも一緒にいたくなる……そんな人が。

 

 

「やっと気がついたみたいね」

 

 

みるみる顔が赤くなっているであろうぼくを見て、深雪さんは微笑む。

 

そう、ぼくは気がついてしまった。

 

自分の恋心ってものに。

気がついてしまったら、もうこの溢れでる気持ちを抑えられはしない。

急速に早くなる心音、体温は上昇の一途を辿っているだろう。

 

これは確かに病気だ、ロマンチックに言うならば恋の病。

 

もしかしたら、いや、殆ど間違いなくこの恋は叶わない。ぼくはその人のことを沢山見てきたし、考えてきたし、感じてた。ぼくがこの恋に気がつかなかったのは、きっと、叶わない恋という現実から目を背けたかったからなんだろう。傷つきたくなかったからなんだろう。

 

 

それでもこの想いはもう止められない。止めたくない。

 

 

だからぼくは目一杯の笑顔で、ついに、想いを口にした。

 

 

 

「ぼくは司波深雪さんが大好きです」

 

 

 

想いを告げられて、清々しい気持ちでいっぱいのぼくとは対照的に何故か深雪さんは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

 

 




とりあえず溜まっていた分はここまでですが、第一部終了まではこちらを優先で更新していきたいと思います。


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第七話 告白と逃走

書いてすぐ投稿したので、誤字脱字が多いかもしれないです。


ぼくは深雪さんが好きだ。

 

なんでこんな簡単なことに気がつかなかったのだろうと不思議に思う。

好きな娘をノートの端に描いてしまうなんてことは良くあることだろうに。ぼくの場合それが溢れて本格的になってしまっただけだ。

 

 

「ぼく分かっちゃったんだよ、ぼくは深雪さんに恋をしているんだってね」

 

「どうやったらそういう結論に至るのかしら!?普通は異性を思い浮かべるものでしょ!?ほら、身近にいるんじゃない?近くにいるとドキドキするような男の子が!」

 

 

顔を赤くして慌てたように両腕を振っている深雪さんは大変に愛らしく今すぐにでも抱き締めて愛でたいくらいだ。

 

 

 

「ドキドキする男子……んー、いないかなー。そもそもぼく女の子(・・・)が好きだし」

 

 

なんか達也にドキドキしていた時期もあったけど、今思えばそれは達也に嫉妬していただけだったんだよね。あんなに深雪さんとイチャイチャしてけしからん奴め!しかも二人は兄妹だから一つ屋根の下に暮らしているし、休日も四六時中一緒にいるに違いない!なんて羨ましい!嫉妬せずにいられるわけがないのだ。

 

 

「みみみみ美月!?貴女は一体何を言っているのかしら!?」

 

 

「深雪さんに嘘は吐きたくないからね、白状するけどぼくは女の子が恋愛対象なんだ。だって野郎より女の子の方が可愛いし、柔らかいし、良い匂いだし、可愛いし、魅力的に決まっているじゃない」

 

 

転生して十数年が経つとはいえ、まだぼくの前世の方が長い。時折、クラスメイトの女子と思考がずれていると思うこともあるし、男子との距離感なんかは未だに分からない。女の子としての自覚があり、それなりにやっていけているものの、前世の感覚はまだ残っており、その最たるが恋愛感情だった。

 

野郎とちちくりあって何が楽しいと言うのだろうか。やっぱりぼくは女の子に転生しても女の子が好きだった。

 

 

そんなぼくの告白に深雪さんはさらに顔を赤くして距離を取り体を抱くようなポーズをしている。その怯えというか戸惑いというか、とにかくいつもと違うあわあわしている様子がぼく的に大変そそられるので逃がすわけがない。高い身体能力を活かして一瞬で回り込み後ろから抱きつく。うん、素晴らしい抱き心地だ。毎晩抱いて寝たいくらいである。

 

 

「……ペロリ」

 

「ひゃあ!?…あ、貴女、今舐めたわね!?」

 

 

深雪さんの白い肌はほんのり甘かった。美少女の肌は甘いらしい。

 

 

「……はむはむ」

 

「ひゃう!?ちょっ……やめ」

 

 

耳たぶをはむはむしてみると深雪さんは悶えるようにしてしゃがみこんでしまう。なんて背徳的な光景なんでしょう!顔を赤くし息を荒くした深雪さんが身悶えている姿は最高の一言である。これはもう描くしかないね!

 

 

 

「いい加減に……しなさいっ!」

 

 

耳たぶをはむはむしたり、首筋を舐めたりして深雪さんの可愛い反応を楽しんでいたら、プルプルと震えだした後、ぶわっと両手を振り上げてぼくを引き離した。

 

 

「貴女は本当に何をするか分からないわ!」

 

「ふふーん、深雪さんがぼくを誘うからだよ」

 

「誘ってません!」

 

 

深雪さんはお兄様をお待たせしているからもう行くわ、と立ち去ろうとする。ふふっ残念だけど達也にはもう少し待ってもらおう。

 

 

お楽しみはこれからだ。

 

 

 

「深ー雪さーん、機嫌直してよー」

 

「あんなことする人は知りません!」

 

 

頬を膨らませプイッと顔を背けた深雪さん。

そんな可愛い反応をされると余計にぼくが興奮するとまだ学んでいないようである。これはたっぷり教えてあげなくては。

 

 

ぼくは背を向けている深雪さんをぐいっと引き寄せ、ぼくの方に向ける。

急に引き寄せられてビックリした様子の深雪さんだけど、すぐにその表情は煩わし気なものに変わる。

 

そうだよね、大好きな大好きなお兄様をお待たせしちゃってるもんね。ぼくなんかに構ってる暇はないよね。

 

けど─すぐにぼくのことしか考えられないようにしてあげる。

 

 

 

「ん!?」

 

 

ぼくは深雪さんの唇を奪った。

 

きっと達也だってまだなはずだ。じゃなかったらもっと凄いことをすればいいだけの話だけど、たぶん深雪さんの反応からして初めてだろう。

 

抱き締めるようにしてキスをしているから、深雪さんの腕はガッチリホールド。流石に蹴るのは躊躇っているようで殆ど無抵抗のようなものだった。時折漏れる声は甘く、それがぼくをさらに高揚させる。

 

 

「ぼくのことしか考えちゃ駄目だよ?」

 

 

ぼくは放心状態の深雪さんの腰を支えながら、耳元でそっと囁いた。

 

 

 

 

 

「おい美月!アレを何とかしてくれ!」

 

 

慌てているというより焦った様子の達也が息を切らして現れたのは、深雪さんが未だ放心中の、キスしてから数分と経っていないであろう頃だった。

 

 

「一体どうしたのさ、達也らしくない」

 

「時間がないんだ!いいか、美月はただ俺の無実を証明してくれるだけで良い!頼んだぞ」

 

 

達也がそう言ってぼくの後ろに身を潜めると、すぐに大勢の男子生徒がやって来た。あれ?全員ぼくの知り合いである。元サッカー部の仲間とかクラスメイトとか。

 

 

「てめぇー司波ー!女の後ろに隠れて恥ずかしくないのか!」

 

「落ち着け!今から美月が俺の身の潔白を晴らしてくれる!」

 

 

 

どうやら達也は何らかの疑いをかけられ、男子生徒の集団に追いかけ回されていたようだ。この容疑をぼくが晴らせるというのなら、まあ手を貸してやることも吝かではない。

 

 

「達也、一体何の疑いをかけられてるのさ?」

 

「俺がお前を脅し猥褻な行為を働いているとありもしない疑いをかけられている!」

 

 

確かにそんな事実はない。大体達也はいつも深雪さんが側にいるんだから、ぼくなんかに食指が動くわけないだろうに。……あれ、なんかムカムカしてきた。

 

 

「証拠は上がってんだよ!何人もが半泣きの美月が司波に胸を触られてるところを見ているんだからな!」

 

「それが誤解だと言っている!」

 

 

あー、ありもしない疑いの原因はこれか。確かにそのシーンを遠目で見たら誤解するかもしれない。

 

 

「美月、頼んだぞ」

 

 

ぼくに疑いを晴らせと、達也が男子生徒の集団を指差す。うん、つい数十秒前までは助けてやろうと思ってたけど、なんかムカムカするし、それ、なしの方向で。

 

 

 

「……う、うん、分かってるよ達也くん、あ、あれは事故だった、事故だったんだよね?」

 

 

 

胸を両腕で隠し、身を引いて、涙目でぼくは言った。我ながら迫真の演技だったと思う。

 

 

 

「司波ぁぁあああ!てめぇーやっぱりか!」

 

「違う!おい、美月、悪ふざけは止めろ!」

 

 

鬼の形相の男子生徒達を前にして本気で焦っている達也。きっとこんな姿は滅多に見られるものじゃないだろう。

 

 

 

「達也……激しかった」

 

 

 

だから、ぼくは顔を赤くして目を逸らしながら言ってやったのだ。

 

 

「司波ぁぁああああ!!殺す!」

 

「美月ぃいいい!くっそ!何故こんなことにっ!」

 

 

 

大勢の男子生徒に追われる達也をぼくは大爆笑で見送った。

 

 

さて、ぼくはダウンした深雪さんを膝枕して楽しもう。




美月、暴走。達也、逃走。

最近バイトのシフトがキツすぎて中々執筆できないです。ぼくが更新した日はバイト休みだったんだなーっと思ってください(笑)



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第八話 日陰者と親友の密談

昼休み、いつものようにC組の友達の元を訪れ昼食を食べたぼくは柴田さんの親友である桐生(きりゅう)さんに「面貸せ」と呼び出され空き教室に来ていた。

まさか女の子から呼び出されるという奇跡のイベントがこんな「ヤンキーに脅されるガリ勉」みたいな感じで消化されることになるとは思わなかったです。

 

桐生さんは大和撫子みたいな容姿で司波さんがいなければ学園一の美少女と言ってもいいくらいの人なんだけど、中身はまるで逆だ。

男っぽい口調にサバサバした物言いで、ぼくなんかよりよっぽどイケメンである。

 

 

 

「お前さー美月のこと好きだろ」

 

「なな何を言ってるのかちょっと分からないかなっ!?」

 

 

空き教室に入ってすぐ鍵を閉めた桐生さんは、ニヤリっと肉食獣のような笑みを浮かべてそう言ってきた。流行りの壁ドンで、である。

 

突然、そんなことを言われば冷静に返すことなんてできるはずがなく、僕は裏返った声でそう答えるのが精一杯だった。

だって、誰にも言ってない密かな想いを言い当てられた上、超絶美少女の桐生さんの顔が超至近距離にあるんだよ!?僕みたいな年齢=彼女いない系の男子ではこうなってしまう。

 

壁ドン……なんて破壊力なんだ!

 

 

「態度でバレバレなんだよ、どんだけ好きですオーラ出してんだ」

 

 

呆れた様子の桐生さんにそう言われれば顔が赤くなってしまう。誰得な反応をしてしまったが許してほしい。

 

 

「……………そんなにかな?」

 

「ああ、違うクラスなのにお前態々昼休みとか美月のクラスくるだろ」

 

 

死にたい。

桐生さん、そういうのは分かってても言わないで欲しいな!

 

 

「…だってそれくらいしか会えるときがないんだよ、クラスが違うって結構壁なんだよ」

 

「このヘタレ、放課後遊びに誘うくらいのことしろよ」

 

 

グサリと心に刺さる。

言葉の暴力ってあると思うんだ。

 

 

このままでは泣かされる、というかもう泣きそうな僕ではあるが、こんな僕でも決意したことがある。

 

 

 

「……テストで柴田さんを越えたら告白しようと思ってる」

 

「そりゃお前かなり難しいだろう、美月はあれでかなり頭が良い上、打倒司波達也!とか言ってかなり燃えてるからな、相当勉強するぜ」

 

「難しくなきゃ意味がないんだよ」

 

 

ぼくが決意を告げれば、桐生さんがザクザクと言葉のナイフをぶん投げてくるが、こればかりは譲れない。そう、難しければ、難しいほど僕の自信に繋がる。自信を持って柴田さんの隣に立てる男になるのだ。

 

ぼくの決意を分かってくれたのか、桐生さんは「仕方ねぇー奴」と呟いて、頭をガシガシと乱暴に掻いた。

 

 

 

「それにしても司波達也か、柴田さん、アイツのこと好きなのかな」

 

 

最近、しょっちゅう一緒にいるのを見かけるし、司波達也はモテる男だ。もし、柴田さんが司波達也を好きだったとしたら僕なんかじゃとても戦えないどころが、勝てるところが一つもない。

 

 

 

「そりゃたぶんねーよ」

 

 

そんな僕の不安を桐生さんは確信を持った口調で否定した。親友の彼女がそう言うのならばきっとそうなのだろう。なんという朗報!俄然やる気が出るというものである。

 

─そんな希望でいっぱいの僕であったが、桐生さんの次の一言で一気に絶望へと落とされる。

 

 

 

「だって美月の恋愛対象女だし」

 

 

 

しばらくフリーズしてしまったのは言葉の意味が理解できなかったからである。

何それ!何その大どんでん返し!

 

 

 

「じゃ、じゃじゃあ、もしかして二人は付き合ってらっしゃったり…!?」

 

 

しょっちゅう一緒にいる二人だ。もしかしてそういうことなのかもしれない、と邪推するのは仕方がないことだと思うのです。

 

 

「アホか!するわけねーだろ!アタシはノーマルだ!蹴り飛ばすぞ!」

 

「もう蹴ってるよ!痛い!痛い!ごめんなさい!じょーだん!ジョークだから!」

 

 

 

顔を真っ赤にした桐生さんにゲシゲシと蹴られる僕。

顔を真っ赤にするところまでは可愛かったのにその後の選択肢が蹴りというのは女の子としてどうなのだろうか。

 

 

 

「たくっ、それで、これを聞いてもまだお前は美月に告白しようってのか?」

 

「えっ?当たり前でしょ?」

 

 

即答だった。

 

だってぼくが柴田さんを好きなことと、柴田さんが女の子を好きなこととでは話が違う。

結局は柴田さんに僕を好きになってもらわなくてはいけない、というだけの話であって、そこに柴田さんの好みは関係ない。女性が好きというのは少々予想外だったけど、例えば柴田さんの好みが運動の出来る男子、だったり、体格の良い男子だったりしたら僕は結局柴田さんの恋愛対象外なのだから。むしろ女の子が好きだと言うのなら、柴田さんが僕以外の男子と付き合う可能性が減るってものだ。

 

 

 

「……そっか、ならアタシが手伝ってやるよ」

 

「えっ!?本当に!?」

 

 

柴田さんの唯一無二の親友である桐生さんが味方になってくれるというのならこれ以上ないくらい心強い。

思わぬ提案に僕はつい桐生さんの肩を掴み、ガタガタと揺らしてしまうが、当然のように鉄拳制裁を行使されその場に崩れ落ちた。

桐生さん、いくらなんでも鳩尾はアカンよ。

 

 

 

 

僕らが協力関係になって数日後、司波深雪さんに告白したという柴田さんの話を聞いて二人で頭を抱えることになる。

 

僕の恋は前途多難である。




佐藤君は今作第一部では準主人公的な感じになりそうです。
番外編的意味合いが強い日陰者シリーズ?ですが第一部後半で大きな役割を果たす……はずです。


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第九話 前世と矯正

やってしまったぁぁあああああ!!

 

 

内心で叫びながらベッドの上をゴロゴロと転がる。

 

 

ぼくは転生してからというものの、何か感情が高ぶると歯止めがきかなくなってしまう。楽しいときはスゴく楽しく、悲しいときはスゴく悲しく、というように人一倍感情表現が激しい。それも、中学生になってからは自制できていたのだけど……恋愛面ではそうではなかったらしい。小学生時代それで散々な目にあったというのにぼくは全く反省していないようだ。

 

 

「お前は……盛りのついたネコか!しょっぴかれても文句は言えねーからな!」

 

「うう、だって深雪さんがお兄様お兄様って達也のことばっかり気にするから…!」

 

「だからって普通無理矢理キスするか…?お前本当に頭のネジとんでるよ」

 

「少しは慰めてよ!なんでフルボッコなのさ!」

 

「黙れ色情魔」

 

 

深雪さんにキスしたりその他色々まずいことをしてしまったぼくは反省会をするために親友を家に召喚していた。既に深雪さんのことは何やら教室で親友が……さ……斎藤くん?とお話していたからある程度事情はその場で説明してあるけど、ゆっくり話す時間が欲しかったのだ。

 

だから、泊まる用意バッチリで親友はぼくの家に来てくれたわけなんだけどね……なんでかとんでもなくイラついてるよ!

 

ベッドの上に寝転がるぼくの上に座り、バシバシと頭を叩いてくる親友の顔は見えないが、口調からそれが分かる。いつも以上に荒い口調だ。とても女の子の口調ではない。

 

 

「お前は昔っからそうだよな、アタシも酷い目にあった」

 

「えー、ただ出会った瞬間に抱きついてキスしただけじゃん」

 

「男だったら百回殺してたな」

 

 

小学生のころは今以上にぼくはヤバイ奴だった。というのも、だ。ぼくが恋愛面でこんなに押せ押せなのは前世のせいなのである。

 

前世のぼくはそれはもうモテまくった。サッカーが出来て、勉強も出来て、顔も良かったからだ。それこそ日替わりで彼女を変えてもお釣りがくるくらいモテた。女の子に転生した今となっては、前世の自分を説教したい気持ちでいっぱいなのだが、今でも興奮すると前世のぼくが強く出てしまい、強引になってしまうのだ。前世ではちょっと強引にキスしてやれば簡単に落ちたし。

 

転生してからは女の体だからか、生活環境が大きく変わったからか、はたまた長い時間が経ったからなのか、思考も徐々に変わっていき、客観的に見て『前世のぼく』とは大きく違う新しい『ぼく』が形成されたわけだけど、親友、桐生 薫(きりゅう かおる)と出会った小学校低学年のころは前世のぼくに近い性格だったのだ。自分でも黒歴史なんだけどこの世の女は全部ぼくに惚れると思ってたんだよね。それで、今までに見たことないくらい綺麗な親友を見て抱きついてキスしちゃったんだよね。テヘペロ。

 

 

「酷い目にあったのはぼくの方だよ、キスした瞬間腕を捻られて地面に叩きつけられたんだから」

 

「当然だ、あの時ほどハゲに護身術を習っていて良かったと思ったことはない」

 

 

今のぼくがあるのは親友のおかげだ。彼女と出会ってからというものの、ぼくが問題行動をとる度に拳骨がとんできたからね、性格も矯正されていった。結構有名な師匠に護身術を習っていたらしい親友の拳骨はシャレにならないくらい痛いけど!

 

 

「薫には感謝してるよ、薫がいなかったら今のぼくはないからね」

 

「そりゃどーも、意味なかったみたいだけどな」

 

 

辛辣!ここは照れてそっぽを向くところでしょ!いつもの親友ならそんな感じに可愛い反応を見せてくれるはずなのに!蔑む目が突き刺さって痛い。

 

なんだか今日の親友はイライラしているとはいえらしくない。

 

 

ぼくがそう思っていることが声に出さずとも伝わったのだろう。親友はため息を吐いてぼくから下りるとベッドに座り直す。

 

 

「……別にそんなことねぇーよ」

 

「そう?悩みがあるならきくけど?」

 

「お前に話して解決するような悩みならアタシ一人で十分だ」

 

「土下座でもなんでもするからそろそろ許してくれないかな!?」

 

 

あまりの口撃に思わず涙目で親友にすがってしまう。基本的に甘やかされたいタイプのぼくのメンタルは豆腐なのだ、これで親友から無視でもされようものなら完全に不登校になるね!ぼく女友達、薫と深雪さんしかいないし……うん、深雪さんからまず間違いなく嫌われてしまった今、女友達は薫だけ……。

 

 

「薫ぅぅうう!捨てないでぇー!」

 

 

「止めろ!分かったから止めろ!どさくさに紛れて胸を揉むな!」

 

 

結局ぼくはその後、親友の拳骨で夢の世界へと旅立った。だからぼくは聞けなかったのだ、寂しそうに、切なく呟いた親友の言葉を。

 

 

 

「……悪いな美月……ただアタシが勝手に美月に嫉妬しているだけだよ、お前が羨ましくて仕方がないだけなんだ」

 

 

 

 




親友のフルネーム初登場。
オリキャラはあまり増やしたくないので名前ありのオリキャラはもうしばらく出ないかと。



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第十話 親友とお兄様の密会

今話、ぼくにしては中々のボリュームになりました。


放課後の校舎というのは意外なことに人気がないというわけではない。教室でおしゃべりをする者、部活動に励む者、今日の授業の復習をする者、用途は様々だが放課後であっても校舎からはそう人気がなくなるわけではなく、完全下校時刻になるまではそこそこの賑わいをみせている。

とはいえそれは普段生徒達が主に授業を受けている本校舎、美術室、音楽室、理科室などの特別な教室がある第二校舎に限っての話であり、時折思い出したかのように授業で使われてはいるものの、殆どが空き教室で、取り壊しも検討されている旧校舎には人の気配など微塵もない。

 

その、空き教室の一室。

そこに二人の男女がいた。

 

 

「薫、お前から呼び出すとは珍しいな」

 

「まぁ、学校では声かけるなと達也に言ったのはアタシだからな」

 

 

人気のない旧校舎の空き教室に男女が二人きり……と、邪推せずにはいられない状況ではあるものの、この二人に限ってはそういうこともないのだろうと確信できる空気感がそこにはあった。

 

 

 

「お前とお前の妹はとにかく目立つからな、なるべく関わりたくないんだよ」

 

「……薫と美月も同じようなものだと思うが」

 

 

達也の言葉に薫は顔をしかめ、達也は小さな笑いを漏らした。

薫のそれが達也の呟きが気に入らないものの、言い返すことが出来ずに飲み込んだがゆえの表情であることを知っていたからだ。

 

 

 

「達也、実はお前に頼みがあるんだ」

 

「お前がか?それは本当に珍しい…いや、初めてじゃないか?」

 

 

薫は基本的に人に頼ることをしない。

一人で大概のことは出来てしまうし、人に借りを作ることを酷く嫌う性分だからだ。

 

 

 

「ふん、お前に借りを作るのが嫌だっただけだ。お前に借りなんてそれこそ何を要求されるか分かったもんじゃない」

 

薫のあんまりな言い方に今度は達也が一瞬、顔をしかめるが、すぐにやれやれ、といった具合に肩をすぼめ、ため息を吐いた。

 

 

「はぁ…そう思うなら俺への頼みというのは」

 

「……それだけ大事ってことだ」

 

 

大概のことは一人でできる、それも何を要求されるか分からないとまで考えているらしい達也に頼むということは相当のことだ。

達也は一体どんなことを頼まれるのかと薫の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「達也、お前美月を惚れさせろ」

 

 

 

「は?いや、待て!俺が?美月を?お前は何を言っている!?」

 

「つべこべ言わずに美月を落とせば良いんだよ!姉弟子の頼みが聞けねぇーてのか!?」

 

 

薫の突拍子もない頼みは、とても即答で了承できるものではなく、そもそも目的が分からない。疑問で返すのは同然なのだが達也は理不尽にも襟首を掴まれガクガクと体を揺らされる。

 

 

「何故俺がキレられねばならない!?第一、美月大好きで過保護なお前が、俺に美月を惚れさせろ?ありえないだろ!」

 

「なっ!?だ、誰が誰を大好きだと!?」

 

 

薫が顔を赤くして狼狽えた一瞬の隙に達也は薫から距離をとる。残念なことに達也は男女の差があって尚、この少女に体術では勝てないことを痛みと共に散々思い知らされていた。言葉で隙を作りでもしないとyesと答えるまで体を揺らされ続けたことだろう。

 

 

「俺と深雪が美月に接触するのでさえ、半年近くも待たせたお前が良く言う。ツンデレというやつか?」

 

「誰がツンデレだ!てめぇー、そんな言葉どこで覚えてきやがった!」

 

「美月だが?」

 

「だろうな!」

 

 

美月大好き、過保護、ツンデレ、等と達也の言葉にいちいち顔を赤くして突っかかっていた薫だったが、美月によって達也までもが侵食?されている現実に頭を抱えた。達也からツンデレなどという一部で使われているような俗な言葉が飛び出してきたことは、薫にとって美月の恐ろしさを再確認させるには十分なものだったのだ。

 

 

 

 

 

「それで、どうして美月を惚れさせろなんて頼みを俺にしたんだ?」

 

「……お前は顔はそこそこだが、アタシと戦えるくらいには強いし、頭も良い。性格がひん曲がっているのがたまに傷だが、まあ、美月を任せてもいいと思ったんだよ」

 

「今まで散々裏で美月から男を遠ざけていたお前にそう言われるのは光栄だが……それは嘘だな」

 

「う、うう嘘じゃねぇーよ?」

 

「無理をするな、お前は口は悪いが嘘を吐くのは上手くない。いや、確かに嘘は言っていないかもしれないが本当のことも言っていないだろう……正直に話せないなら、この話は受けられない」

 

 

薫から睨み付けられても、達也はすました顔で受け流す。体術において決定的な上下関係があるのと同じく、こうした口での戦いでは薫は達也に勝つことができない。

 

 

「……笑ったら殺すぞ?」

 

 

物騒な言葉とは裏腹に何故か顔を赤くし涙目でモジモジしている薫は、失礼なことに達也の持っている薫へのイメージとは違い、実に女の子らしいものだった。

 

 

 

 

「……あー、つまりなんだ。お前の好きな男が美月を好きだと、そういうことか?」

 

 

 

薫がたどたどしく語った話を要約して、達也はそう結論を言った。瞬間、薫の顔が真っ赤に染まり、拳が達也に飛んでくる。同然、達也が無防備にそれを食らうわけもなく、受けとめようとするわけだが、そこは達也が体術では勝てないと認める薫、すんでのところで達也のガードをすり抜け、強烈な拳は鳩尾に突き刺さった。

 

 

「……そーだよ、好きだよ!美月に告白するために頑張るあいつに惚れたよ!悪いか!」

 

「ゲホッ……ハァ……誰も悪いとは言ってないだろ!お前のその口より先に手が出る癖を止めろ!俺の身が持たない」

 

 

 

最初はいつものように、美月を狙う男を潰しとこうと呼び出した。名前も知らない、男子生徒。

適当に脅して、美月が男に興味がないことを伝えたらそれで終わるはずだった。

 

 

 

『……そっか、ならアタシが手伝ってやるよ』

 

 

気がついたらそんなことを言っていた。

美月を想う気持ちが真剣で、何もおかしなことなんてないとばかりに見詰める瞳が純粋で、助けてやってもいいかな、なんて思ってしまったのだ。

 

それから何度も休み時間や放課後に二人で美月を落とす方法を考えたり、アプローチしてみたりした。その時の美月のちょっとした反応で一喜一憂するが佐藤が妙に可愛くて、薫はもっといじめたい、構いたいという気持ちにかられた。佐藤の一生懸命に頑張るけどちょっと残念な姿が薫には堪らなく壺だったのである。だから、それが恋に変わるまでそう長い時間はかからなかった。

 

 

 

「話は分かったが、俺に美月を落とす気はない。お前も知っているだろ、そもそも俺に恋愛感情なんてものは存在しないんだ」

 

「それは今のお前だろ?……変わるさ、お前は間違いなく。理屈なんて関係ない 、これから美月に関わっていけば、お前は変わる」

 

 

 

絶対的自信に満ち溢れたような、確信を持った表情はすぐに笑みへと変わった。

 

 

「だってアタシがそうだったからな」

 

 

薫の笑みは達也が思わず見惚れてしまう程に魅力的で美しかった。

 

それはきっと美月に出会う前の薫には絶対にできない、本当の笑顔なのだから。

 

 

 

 

薫の用件が終われば、二人が一緒にいる理由はない。下手をすれば、達也と文字どおり四六時中一緒にいる深雪よりも長い時間を共に過ごした二人ではあるが、二人の間にある友情は少々特殊なもののようで、雑談に興じるというようなことはそうあることではなかった。

 

 

「ああそうだ達也、お前の気持ち云々は分かったが……さっさと惚れさせないとどうなるか分からないぞ……特にお前の妹がな」

 

「深雪が?……そういえば最近深雪の様子がおかしいんだか…お前何か知らないか?」

 

だからこそ、去り際、薫のした冗談とも思える忠告を達也は真剣に受け止めた。受けとめた上で考え、妹の様子がおかしいことに思い至ったのである。

 

 

 

「達也の妹とは話したこともないが……具体的にどうおかしいんだ?」

 

 

薫には深雪と面識がない。

 

深雪が達也と薫が師事している「忍術使い」九重八雲の寺を訪れるようになったのは中学一年生の十月ごろ。その頃には既に薫は九重八雲の寺にはいなくなっていた。

それからは少々特殊な友情を築いている二人だ、達也は特に妹を薫に紹介することはなく、薫もまた特に関わろうとはしなかった。それどころが、目立ち過ぎて鬱陶しいという理由で学校での接触を絶ったのである。

 

当然、達也もそれを知ってはいたが、妹の異常と薫の忠告には何か接点があるような気がして、とりあえず妹の異常を話してみることにする。

 

 

 

「なんでもない時に急に顔を赤くしたかと思うと、何やらぶつぶつ呟き出してその後暴れ出すんだよ。しばらくすれば元に戻るから、俺も指摘すべきか悩んでいてな、執拗に唇を気にしているようだったが特に病気ではないようなんだ」

 

 

達也の話をきいて薫の頭には先日、美月から聞かされた事件とも言うべき出来事が過っていた。

薫は深雪の反応はまず間違いなくそこに起因するものだと確信すると同時に、美月さんマジぱねぇー、と美月に畏怖の念すら抱いた。

 

 

 

「………………思春期の女子には良くあることだ、何も言わずに見守ってやれ」

 

 

超絶シスコンである達也に、お前の妹、美月に落とされる寸前だぜ、と伝えることは流石の薫も出来なかったのか、そうやんわり誤魔化すと真剣な表情で達也の肩に手を置く。

 

 

 

「……ただ一つ言っておくが美月を惚れさせるの、マジで急いだ方が良いぞ。妹が新しい扉を開ける前にな」

 

 

そして、そう言い残すと達也を一人残し、部屋を去っていく薫。

 

 

「新しい扉?」

 

 

それを唖然と見送った達也は、意味の良く分からない単語に首を傾げ、しばらく考えた後、何らかの答えを導き出せたのか、静かに教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司波が旧校舎で桐生さんとイチャついてただとぉお!?」

 

「美月だけじゃなく、姐さんにまで手を出しやがって!」

 

「あんな超絶美少女の妹がいるくせにまだ足りないってのか!」

 

 

「「「許すまじ、司波達也!」」」

 

 

 

 

二人は知らなかった。

最近新築されたサッカー部の部室から、二人の密会していた教室が丸見えであったことを。

 

 

こうして達也はこの中学の男子生徒全員と、一部の女子生徒を敵に回すこととなったのである。

 

 




(; ̄Д ̄)達也「なんだかあらぬ誤解を招いたような気がする」


[壁]`∀´)Ψヶヶ 薫「なーんか面白いことになってるけど黙っとくかww」

(( ;゚Д゚))ガクブル 美月「か、薫が楽しそうにしてるっ、絶対良くないことだよぉ…」






達也はオチ担当がぼくの二次小説では安定です(笑)


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第十一話 美月の瞳と仲直り

あの日、美月にキスをされた日から美月は全く私たちに絡んでこなくなった。

あの日のことは忘れよう、とそういうことなのだろうか。お兄様以外の男にキスをされるなんて考えるのもおぞましいことではあるが、女同士であった出来事だ、私も大事にするつもりはない。きっとこれで良かったのだろう。

 

 

数日が過ぎる。

未だ美月は一切接触してこない。私だって向こうから声をかけてくるのなら無視をする気はない。謝ってくれるならこの前のことを許すことも吝かではない。全ては美月次第だ。

 

 

さらに数日。

私は全く問題ないが、そろそろ美月が謝りたいのではないだろうかと美月のクラスを覗きに行く。美月は何やら友人らしき女の子と親しげに会話をしており、こっそり覗いている私には見向きもしない。

 

私にあんなことをしておいて他の女の子と仲良くしているなんて……。

 

ま、まあ私には関係のないことだ。

 

 

関係の…ないことだ。

 

無意識に自分の唇に触れてしまう。そこにはまだあのときの感触が残っている気がして、熱が残っている気がして……って私は一体何を考えているの!

 

もう考えないようにしようと思えば思うほど美月のことばかりが頭に浮かんで、そして、あのときのことが鮮明によみがえる。

 

 

 

「美月」

 

 

結局、私から美月に会いにきてしまった。

 

 

「深雪さん!うぅ会いにきてくれたのはすっごく嬉しいんだけど……その、ぼくの視界に入らないでくれるかな 」

 

「」

 

 

きっと今の私の顔はとてもお兄様には見せられないくらい間の抜けた顔をしていることだろう。

 

 

「ああ、違うんだ!本当だったら何万時間だって深雪さんを見ていたいんだけど……その今日はちょっと持病が……」

 

 

持病?まさか美月が病気だっただなんて……。

あんなに元気に運動だって出来ていたし、明るくてはしゃぎ回ってる美月が病気だとは、思いもしなかった。はっ…!もしかして美月の言動がたまに頭を疑うようなものなのはその持病のせい……

 

 

 

「うん、深雪さん、たぶん今考えてることは全くの見当違いだから!そしてぼくを可哀想なものを見る目でみないでくれるかな!ぼくの言動がおかしいのは病気じゃなくて自前だよ!元からおかし……ってぼくは別におかしくないから!」

 

「それはないわね」

 

「うっ…酷い」

 

 

どうして私の思考を読めるのかはともかくとして、自分の言葉に自分で怒るのはやっぱり美月はおかしいということの証明なのではないだろうか。

 

 

「も、もうその話はおしまい!どう考えてもぼくが追い詰められるから!」

 

 

どうやら美月も本当は自分が変人だということを認めているらしい。

 

 

「認めてないよ!?そして流石に変人は酷いと思う!」

 

 

美月の大袈裟な反応につい小さな笑いが漏れてしまう。

 

 

「ふふっ、ごめんなさい、あんまり美月の反応が面白いものだからついつい遊んでしまったわ」

 

「うう、深雪さんが意地悪だ…この小悪魔め!……でも可愛いから許しちゃう!」

 

 

やっぱり美月は変人だった。いや、変質者だろう。

 

 

「そろそろぼく泣くよ!?今のぼくには深雪さんの考えていること丸分かりだからね!?」

 

 

 

 

 

「霊視放射光過敏症…」

 

「うん、まあ詳しいことはググってもらえば分かると思うけど、サイオン?とかなんか普通の人には見えないものが色々見えるんだよね」

 

 

随分と適当な説明ではあるが霊視放射光過敏症については調べるまでもなくお兄様にお聞きすれば詳しく知ることができるだろう。お兄様に知らないことはないのだ。

 

「で、その霊視放射光過敏症を普段はコントロールしてるんだけど……たまにコントロールできなくなることがあるんだ。なんかより強く見えるようになるっていうか……言葉で説明するのは難しいんだけど、とにかく眼に慣れるまではコントロールできなくなる」

 

 

何故か両手にそれぞれ輪を作り双眼鏡をのぞくような動作をしながらそう説明する美月。美月のよく分からない言動は気にせず無視するよう言われているので特に何も言わない。

 

 

「うん、達也には後でゆっくりお話をするとして……ここからが本題なんだけど……ぼくはこの状態、霊視放射光過敏症の状態だと、人の心が読めるんだ。見える光の揺らぎや色で何となく分かっちゃうんだよ。普段だったら心を読むのだけをオフにすることも出来るんだけどね」

 

「心が……あっ…もしかしてそれで…」

 

「うん、心が読めちゃうからこの状態の時にはなるべく人に関わらないようにしているんだ。誰にだって知られたくない秘密とかあるだろうし……そのだからあのこと(・・・・)も謝りに行けなくって……ぼく暴走しちゃったのに」

 

 

うう、美月の言葉に顔が赤くなっているのが分かる。

 

 

「そ、そのことならもういいわよ。美月も反省しているようだし……でも次は許さないわよ?」

 

「あ、ありがとう深雪さん!大好き!」

 

 

涙目で抱きついてくる美月はなんだか妹のように思えて可愛い。ついついなんでも許してしまいそうだ。

ただ、じっとこちらを睨んでくる方がいるのだけど、私が何かしたのだろうか。すごく綺麗な人だからか迫力があるので止めてほしい。

 

 

でも、少し安心した。

視界に入らないで、というのにはちゃんと理由があったようだ。

 

それにしても、心が読めるというのは随分と凄いことのように思えるのだけど……私との会話から本当に心が読めているようだし。

ただそうなると本当に美月との接触は避けた方が良さそうだ。もし美月に秘密を知られるようなことがあれば殺……おっと心を読めるのだった。

 

 

「ボクハナニモミエテナイヨー」

 

 

冷や汗を流しながら両目を手で覆い、片言でそんなことを言う美月。さっきのは冗談だが、もし本当に秘密……四葉のことを知られてしまったら美月がどうなるかは分からない。命を失うようなことにもなりかねないのだ。

 

 

「それじゃあ、美月、ちゃんとコントロールできるようになったら連絡してね」

 

「あっ明日からは眼鏡かけてくるから大丈夫だよ。前使った時、壊しちゃって。

しばらく使わないし放置してたんだけど、新しいのが今日届くんだ」

 

 

どうやら美月はオーラ・カット・コーティング・レンズという度の入っていない特殊な眼鏡を持っていたようで、それを使えばサイオンや光が見えなくなるらしい。しばらくはその眼鏡をかけつつ、眼をコントロールできるように調整をするようだ。もう何度か繰り返しているようで、あと一週間もあれば眼鏡は必要なくなるらしい。

 

 

「そうだ美月、前から思っていたのだけど私のこと、深雪でいいわよ?美月にさん付けされるの違和感あるもの」

 

「うん、深雪」

 

 

私がそう提案すれば美月はふわっと笑顔を浮かべながら、そう名前を呼んだ。

 

その笑顔はとても魅力的で黙っていれば可愛いのにと思いはしたが、黙っていては美月ではないという気もする。

 

 

でも一つ確かなのは……どうやら私は美月を嫌いになることはできなさそうだということだ。

 

ちょっと……いえ、すごく変わった友人が一人出来た。

 

私は今日、本当の意味で美月と友達になれた気がした。

 

 




\(*゚∀゚*)/ 美月「やっふぅうううー!!深雪と仲直りできたよぉおおおお!!」

( ̄^ ̄) 薫 「"深雪"?ふーん呼び捨てね。そりゃ良かったですねー」

( ´∀`) 美月「なんだよー拗ねるなよー、ぼくの一番の親友は薫だろー(頭ナデナデ)」

(〃 ̄^ ̄〃) 薫 「あっ頭撫でるな!蹴り飛ばすぞ!」

ԅ(´´ิ∀´ิ`ԅ)ニヤニヤ 美月「照れるな照れるな、可愛いやつめ」

薫「う、うるせぇー!」

ヽ(*゚ー゚)θキーック!);゚⊿゚)ノ イッター!/





これから後書きにこんな感じの遊びを入れてみようかと思います。余裕のない時はなしになるかもしれないけど(震え声)

今回は試験的ですが……どうでしょう?

※前話にも入れておきました。


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第十二話 進級と関係の変化

夏コミに行ってきました。八月中旬に予定を詰め込み過ぎた中でのビックイベント。
やっと落ち着いた今日この頃、無茶したものだとだらけきっております(笑)


今日からぼくは三年生になる。

 

ぼくが本格的に絵を描くようになってもうすぐ一年が過ぎようとしているわけだけど、環境にも大きな変化があった。

 

なんだかぼくには絵の才能があったらしく、何とかって賞を獲得。ぼくの描いた絵は数十万、高いときには数百万で売れることもあった。ぼくは基本的に描きたいものを描きたい時に描くため、そのほとんどが深雪の絵になってしまうから絵を売ることはそれほど多くは無かったが。深雪の絵を売るなんてとてもできない。この美しさを皆に伝えたいと思う反面、独り占めしたいという自分もいるのだ。だからぼくが売るのはふとした時に描いた風景画だったり、空想の世界の絵だったりする。

 

 

 

「ワンダーランド?」

 

「うん、そこの新アトラクションのキャラクターをぼくが任されてね、今度そのアトラクションの御披露目があるから出席しないといけないんだよ」

 

 

実はぼくの絵が母の翻訳した小説の日本語版の表紙になったのだが、これが中々に好評だったらしく、それを見たワンダーランドの偉い人が新アトラクションのイメージをまず、ぼくに依頼した。で、そのイメージを描いたぼくが、こんなキャラクター可愛いっすよねーっと見せてみたら正式採用。つまりワンダーランドの新アトラクションはぼくの妄想を再現したものと言っても過言ではないのだ。

 

そこまでは良い。

正直いってめちゃくちゃ上手くいってる。

けどさー、今のぼくは柴田美月という名前ではなく月柴 美(つきしば はる)って筆名の方が有名になっているのだ。というのも、ぼくのところにくる仕事のほとんどがイラストレーターとしての仕事だからである。ワンダーランドのキャラクターを担当してからというものの、徐々にそういう仕事が増えはじめ、ラノベの表紙、挿し絵からアニメのキャラデザ、『絵画も描けるイラストレーター』月柴 美として有名になっていた。うん、別にぼくは好きな絵を描ければ、つまり深雪さんの絵を描ければいいのだけど、それはなんか違うと思う!なんでぼくは締め切りに追われながらロリキャラ描いてるのかな!友達と話ながらも手は絵を描き続ける技術を修得しちゃってるのかな!

 

 

「み、美月、貴女はさっきから何を描いているの?」

 

「ぼくが三巻から絵師を担当することになったラノベの挿し絵を描いてるんだ。

難しいんだよ?ただ絵を描くだけじゃなくて文章の内容を考えながら描かないといけないんだから」

 

「それはどういう内容の話なのかしら!?年端もいかない少女が裸で顔を赤らめるような内容なの!?」

 

「魔法少女系ラブコメ風ファンタジーだからね」

 

「何を言っているのかほとんど分からないのだけど!?」

 

 

深雪にはそのままでいて欲しいので分からないことは良いことだ。達也には無理矢理ラノベ読ませたり、漫画読ませたりしてるけどね!ただ、ラノベと漫画の内容を科学的に検証してぼくに聞かせるのは止めてほしい。リアルラノベの主人公みたいなくせに。

 

 

「安心して、ぼくが好きなのは深雪だから」

 

 

キリッとした表情を意識してそう言ってみた。ぼくは可愛い女の子は皆好きだけど、二次元の女の子も好きだけど、やっぱり一番は深雪なのである。

 

 

「べ、別に安心する要素なんてないわっ!」

 

 

顔を赤らめてそっぽを向く深雪。

 

とりあえず抱き締めておいた。

 

 

 

 

 

放課後、旧校舎の教室で美月、薫、司波兄妹で集まることが二年の後半から増え始めていた。それぞれの思惑があってのことだが、今はそれが当たり前になっており、ちゃっかりそこに佐藤も加わっていた。

 

 

「なーんかあの二人仲良すぎないか?」

 

「……あーそうだな」

 

 

顔を赤くした深雪が美月に抱き締められている様子を見て、若干冷や汗を流しながら引いたようにそんなことを言う薫に達也は上の空な様子で適当な返事をした。恐らく、薫の話などほとんど頭に入っていないだろう。

 

 

「なんだお前、妹の一大事にそんなボケッとして。シスコンならシスコンらしく妹を守れよ」

 

 

薫は拗ねたようにそう言うと今度は佐藤に絡み始めた。薫は蔑ろにされると寂しくなってしまうらしい。

 

 

「お前もさ、ここ数ヵ月美月に何のアピールも出来てないんだぞ?いいのか、このまま美月が深雪にとられても」

 

「え?……うん、そうだね頑張るよ」

 

「なんだよ、お前もそんなんかよ、達也といい、お前といい、ボケーっとして、おじいちゃんですかー」

 

 

誰にも相手にされないと思ったのか薫はブツブツと文句を言いながら部屋の隅でふてくされ始めた。

 

 

 

「ねぇ達也くん。ちょっと提案があるんだけど、良いかな」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

佐藤と達也はこうして一緒にいる機会も増え、男同士ということもあり、友人となるまでそう長い時間はかからなかった。

とはいえ、佐藤から達也へ相談ともなると、初めてのことである。

空き教室だけは沢山ある旧校舎だ、二人は場所を移すことにした。

 

 

「どうやら僕は桐生さんが好きになっちゃったみたいなんだけど……どうするべきかな?」

 

 

 

教室に入って席につくとすぐ、佐藤はそう告白した。

 

正直、達也には専門外だった。




(;´Д`) 美月「男二人で教室を抜け出した……!?これはもしかしてっ!始まるのか!始まっちゃうのか!」

(;・ω・) 深雪 「お、お兄様に限ってそんなことあるわけがありません!」

♪~(・ε・ ) 薫 「だな、達也は妹萌えの変態シスコン野郎だからな」

(〃ノωノ)ポッ 深雪「///」

(・∀・)ニヤニヤ 薫「まあ、佐藤はホモだけどな」ボソッ

!Σ( ̄□ ̄;)深雪 「お兄様ーっ!」






(((( ;゚Д゚)))ガクブル 美月「薫の仕返しえげつない」





次話から新章開始なので今回は少し短め。登場人物も増え盛り上がっていく予定です。お楽しみに!


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二章 中学生編〈下〉
第十三話 達也の気持ち


『どうやら僕は桐生さんが好きになっちゃったみたいなんだけど……どうするべきかな?』

 

 

俺はその相談にろくな答えを返してやることが出来なかった。俺に恋愛経験はないし、そもそもそうなることもない。

 

 

ただ、それからというものの考えていることはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の意思が薄い。

 

流されるままに仕方ないと諦めている。

 

 

折角沢山の才能があるのに、それをなんでもないもののように扱ってる。

 

 

前に美月からそんなことを言われたことがある。

 

 

その時俺は何と答えたか。

よく覚えていないが、きっと今と同じことを言ったはずだ。

 

 

流されている、諦めている、その通りなのかもしれない。だがそれは悪いことだろうか。俺はそれも悪くないと思っている。

 

隣で笑ってくれるただ一人の妹がいてくれるなら、俺はそれで構わない。

 

 

これは美月にも言ったことだが、どれだけ才能があっても出来ないことの方が多い。そして、自分の欲しい才能を持ち合わせている人間というのは稀だ。

 

俺自身、本当に必要だった力は持ち合わせていなかった。それは努力ではどうにもならない力で、だから、代償を払って、文字どおり、魂を売って力を手に入れた。

 

だから俺は妹のそばにいられるし、守ることができる。ならば、流されようと、諦めようとそれは俺が選んだことであり、そうなったことに不満などあるはずもない。

 

 

 

「達也はたぶん『良い人』なんだよ。俺は不幸だって、どうして俺がって、思わないんだから。それは美徳かもしれないけど、楽しくないよね。それに、周りの、達也を大事に思ってる人達が悲しむだけだと思う。理不尽な不幸って沢山あると思うし、嫌なことや辛いことなんて人生で数えきれないくらいあると思うんだ。その数えきれない辛さを達也は一人で抱え込もうとするタイプだ。達也の近くにいる人は悲しいよ、頼ってもらえないし、達也が辛いのも嫌だもの」

 

 

それは何時の言葉だったか。

美月が珍しく真剣な顔で少し怒ったように言った言葉だったのは覚えている。

 

美月は俺のことをどれだけ知っているか、といえばほとんど何も知らないだろう。

俺と美月は出会って一年も経っていない。お互いに何かを知るには短い時間だった。それに俺は意図的に自分のことをあまり知られないようにしていた。中学校という場所ではあまり交遊をしないようにする、と決めていたし、万が一まずいことを知られれば、それはお互いにとって不利益にしかならないからだ。

 

だから美月はきっと、俺の何かを知っていてその言葉を発したわけではないのだろう。

 

 

 

俺は規格外のサイオン保有量を持つ父と、四葉家直系の『特別』な魔法師である母の息子として生まれながら先天的な魔法演算領域を『分解』と『再成』、二つの魔法に占有されていたために、通常の魔法師としての才能を持たなかった 。

妹はその二つの魔法を才能だと言うが、それは余分な才能であり、必要な才能は通常の魔法師としての才能だった。

魔法師でなければ四葉家の人間として居られないからだ。

だから実の母親に6歳の時、『強い情動を司る部分』を白紙化され人工魔法演算領域を植え付ける精神改造手術を施された。

それによって俺は普通の魔法を扱えるようになったが、人工魔法演算領域は一般の魔法師の持つ先天的な魔法演算領域に比べ性能は劣っている。

『強い情動を司る部分』、『兄妹愛』という衝動を除いた全てを代償にして得た力はそんな程度、感情を失ったわけではないが人間として何かが『欠損』してしまったことは間違いないだろう。

 

それでも俺は自分を不幸だとは思わなかった。

必要な才能を持たずに生まれた俺が悪い(・・・・)し、多少、欠損があったところで死ぬわけではない。魔法を得るために仕方のないこと(・・・・・・・)であったし、それに不満はなかった。

 

これで妹を守れるのなら、それは別に失っても良いものだった。

 

 

分解と再成、俺にあった二つの才能を使い四葉家の戦闘訓練をこなし、軍人から格闘技の指導も受けた。学業でも優等生と思われるくらいには賢かったはずだ。妹を守るための力を得て、妹の評価を貶めないために優等生を演じる。簡単なことだった。

 

 

さて、俺のどこが不幸だというのだろうか。

考えたこともなかった。考えることを止めていた。それが流されているということなのだろうか。

 

どうしてか、美月の言葉は俺を揺さぶる。

 

 

「だからさ、うん、達也、嫌なこと、辛いことがあったら暴れちゃいなよ。好き勝手やって、喚いて嘆いて。それに正当性がなかったら、たぶん、ぼくか、薫か、深雪か、誰かが止めてくれる」

 

 

まるで子供だ。

美月は頭は良いが、馬鹿だ。

言っていることはため息を吐きたくなるくらい馬鹿な発想で、他人任せも良いところ。

 

 

なのにどうしてだろうか。こんなにも響くのは。

 

 

 

 

 

「深雪ー!ヌード描かせて!ヌード!」

 

 

「なっ美月!ちょっどこ触ってっ……お兄様ぁあー!」

 

 

 

柴田美月。

同い年で同じクラス。

母が翻訳家だからか、得意教科は英語。

元サッカー部で全国でも指折りの実力者であったが、今ではすっかり絵を描くことに夢中で、賞を取ったことで美月の絵画には数十万円の価値がつくこともあった。だというのに、何故か今は月芝 美の名前でイラストレーターとして活動しており、アニメのキャラクターデザイン、ライトノベルの挿し絵などを請け負っており、締め切りに終われながら忙しくしている。アミューズメント施設の新アトラクションやキャラクターのデザインを担当したことで、月芝 美はさらに忙しくなることだろう。

 

 

 

「はぁ…またか」

 

 

「げ、達也!やめ…ぎゃあぁあああ!!」

 

 

俺が知っているのはこの程度。

そう、たったのこれだけだ。

 

 

 

『変わるさ、お前は間違いなく。理屈なんて関係ない、これから美月に関わっていけば、お前は変わる』

 

 

薫は俺にそう言った。かつて自分もそうであったと。美月にはそういう力があるのだと。

 

 

俺が変わりはじめているのか。

それはまだ分からない。

 

分からないが──

 

 

 

「美月、お前は自重という言葉を覚えた方がいいな」

 

「なんだよ、このシスコン!」

 

「妹想いということなら肯定しよう」

 

 

 

──もっと美月のことを知りたいとは思う。

 

 

 

 

 




(*・∀・*)ノ 佐藤 「ねぇ、桐生さん。僕のことどう思う?」

(; ̄Д ̄)? 薫 「は?なんだ急に気持ち悪い」


!Σ( ̄□ ̄;)佐藤 「酷い!ちょっと聞いてみただけなのに!」

♪~(・ε・ ) 薫 「じゃあ、ヘタレ」


・・・・(;´Д`) 佐藤 「僕、もう帰る!」








(〃 ̄^ ̄〃) 薫 「……でも、そういうヘタレなとこ、アタシは嫌いじゃない」








現在、教習所に通っており、それが終わるまで更新ペースは遅くなりそうです。
書き溜めて一気に投稿できるように頑張ります。

感想の返しも滞るかもしれません(汗)。


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第十四話 美月のモテ期?

書き溜めてから投稿とか無理でした(白目)。
が、大体話の流れは出来たのでなるべく早いペースで投稿できるように頑張ります。


サッカー部の後輩に告白された。

 

 

ぼくは今まで男子から告白なんてものはされたことがなかったけど、最近になってこういうことが増えている。

ぼくに男と恋愛する気は微塵もないので、当然お断りすることになるのだけど、仲の良かった男子と気まずい感じになってしまうのが嫌だった。

 

ぼくに女の子の魅力なんて皆無だ。

どうせ告白するなら薫とか深雪とかの美少女にすればいいのだ。まあ二人に告白するような男がいたら即刻潰しにいくけどね!

 

もしかしたら、薫や深雪みたいな美少女は無理でも、ぼくならいけるんじゃね?、と思われているのだろうか。だとしたら心外である。ぼくを落とそうと思ったらとびきりの美少女連れてこい!

薫や深雪に可愛く告白されたらぼくはもうすぐにでもお持ち帰りするね!(鼻血)

 

 

 

「うお!?今なんか寒気が……」

 

「わ、私もです……」

 

 

この学校には可愛い娘が多い。

一度くらい女の子に告白されてみたい!今世でも甘い恋愛がしたい!

こんなに告白されているんだ、一人くらい女の子が告白してはくれないだろうか。

 

きっといるはずだ!サッカーが上手ければ女の子にモテる!これは世界の法則なのだから!

 

 

「むふっ、むふふふ」

 

 

これは楽しくなってきました!!

 

 

 

 

 

 

「好きです、付き合ってください」

 

「無理ですごめんなさい(棒)」

 

 

全く楽しくない件について。

朝一で告白するとか馬鹿なの?禿げるの?

今日一日ぼくにこのテンションで過ごせと言うのか。大体、なんでぼくなんだ。この学校には薫、深雪を筆頭に垂涎ものの美少女が沢山いるじゃないか。おっぱいか。おっぱいが良いのか。枕でも揉んでろ。

 

 

「どうして駄目なのか……教えてもらっても良いですか」

 

 

いや、シンプルにまず君は誰だ。初見で告白とか勇者というか馬鹿だ。好感度上げてから告白に踏み切ろうよ。

 

そして最大の理由が君、男だろってこと。

男がモジモジ恥じらいながら告ってきても萌えないんだよ!

 

分かってる。向こうからしたら理不尽な理由だということを。けど言わせてもらおう。

 

君、男じゃん!

I LOVE 美少女!I LOVE 深雪!

 

が、最大の理由を言うわけにはいかない。

そんなこと言ったら女子からドン引きである。ただでさえちょっと距離を置かれてる感があって女友達が少ない(泣)というのにそんなことになったらぼくは完全に終わる。なのでここは無難に一つ目の理由を言っておく。

実際、面識もない相手に告白するのはどうかと思うし。同じクラスだったとか、話したことがあるとかなら分かるけどさ。

 

 

「あの……俺去年同じクラスだったんだけど……」

 

「……なるほどー……」

 

 

ごめん!本当にごめん!正直クラスの男子とかあんまり覚えてないんです!

正直にそう白状すると、その男子は半泣きで去っていった。

心の中で土下座した。

 

 

 

「クラスメイトの顔と名前くらい覚えておけ、相手が可哀想だ」

 

「うっ……返す言葉もない」

 

 

 

先程の彼(本当に申し訳ないが名前が分からない)が下駄箱で告白してきたからだろう。遠巻きにこちらを見ている生徒が何人もいる。どうやら達也もその中にいたようだ。

 

 

「あれ?深雪は?」

 

「俺たちだっていつも一緒にいるわけじゃないんだが……深雪ならお前と同じ理由で引き止められているよ。流石にその場に俺がいるのは相手に悪いしな」

 

 

さて、そいつを潰しに行かなくては。

ふふっ、ぼくの深雪に手を出そうとは良い度胸じゃないか。××して××した後に×××になるまで×××をやって後悔させてやる。

 

 

「お、おい美月。どうした?」

 

 

「えっ?ああ!なんでもないよ!別に美術室にノコギリあったかなーとか考えてないし!?」

 

 

「ノコギリなんて何に使うんだ……」

 

 

 

おっと、達也が顔を引きつらせながら声をかけてくれなかったら危ないところだった。やるなら人目のない夜道だよね!

 

 

 

「はあ、お前疲れてるんじゃないか?」

 

 

「うー、そうかも。最近仕事が忙しいのに加えて、謎のモテ期がきてるのか告白ラッシュで……心労が」

 

 

母が無限に受けてくる仕事の締め切りに追われながら頑張っているというのに、男から!男から!(大事なことだから二回言った)告白されるという謎イベント。告白する方は勇気を持ってぼくに告白してくれているのだろうし、断るのはかなりの苦痛だ。でも仕方ないじゃない!相手男だもの!

 

 

「三年になったからじゃねーか?ここで告っておかないとこれからの中学校生活を一緒に過ごせないだろ?」

 

 

今来たらしい薫が心底疲れたというような口調で言う。どうやら薫も朝から告白されていたらしい。ふっ、どうやらこの学校には死にたい連中が多いらしい。薫はぼくの親友なんだい!誰にもあげないんだい!

 

 

「朝からくっ付くな鬱陶しい。アタシは先行くぞ」

 

 

抱きついたらすぐに振り払われた。そしてぼくを置いて教室に向かってしまう薫。反抗期なの?ツンデレなの?デレはまだなの?

 

 

 

「なあ美月、仕事の方はどうにもならんが、告白の方なら無くせる方法を思い付いた」

 

 

スタスタと歩いて行ってしまう薫を追おうとすると達也がふと呟くように言った。

それに何故かぴくりっと反応し歩みを止める薫。

 

 

「お待たせいたしましたお兄様!」

 

「あれ、朝から皆集合してるね」

 

 

そして、我が麗しの深雪に最近仲の良い佐藤君も合流する。深雪、達也の前にぼくに挨拶してほしい。ブラコンなのも可愛いけど、あんまり達也を特別扱いしてると、お仕置きしちゃうぞー。

 

そんなことを考えていたからか、深雪が達也の後ろに隠れてしまった。ふむ、ぼくらの心は通じあっているようだ。

 

 

「で、達也。なんだい告白を無くせる方法って?」

 

 

「ああ、それなんだが──」

 

 

恥ずかしがり屋の深雪がすっかり隠れてしまったので、達也に続きを聞くことにする。本当にそんなことができるなら是非とも教えて欲しい。

 

 

 

 

「──美月、俺と付き合え」

 

 

 

 

時間が止まった。

 

 




(*゜▽゜) 美月 「最近ストレスがマッハで死にそう。久しぶりにサッカーやろう!」

(つд;*) サッカー部男子一同 「ストレス発散に僕らを使わないで下さい(泣)」

( ・∇・) 薫 「美月にボコボコにされると、監督から練習量増やされるんだよなww見てる分には楽しいからもっとやれ」


(;´д`) サッカー部男子一同 「鬼か!被害者の身になって考えて!」


(・_・ )ボソッ 薫 「ほー、じゃあアタシ鬼だから、お前らが試合中美月の胸に夢中になってるのチクろー」



m(__)m サッカー部男子一同 「調子に乗ってました!ごめんなさい!!」土下座





ここからの展開は超速の予定なので一気にいきます。急展開についてこれるかな!(錯乱)


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第十五話 超人と日陰者の計略

なんとか一ヶ月以内に投稿(汗)
もう一つの作品が完結したら本気出します!(きっと)



「美月、俺と付き合え」

 

 

 

えっ?えっ?えっ?いやいやいや、聞き間違いかな?達也がぼくと付き合うみたいなこと言ったような気がしたんだけど?うん、ぼく疲れてるみたい。今日は帰ろう、そして寝よう。なんだか顔が熱いし、たぶん風邪だ。こういうのは無理しちゃいけない。

 

ぼくは覚束ない足取りで下駄箱に向かう。すると、はっとしたように佐藤くんがフリーズから復活し、耳元で何やら囁いてきた。

 

 

「……きっと達也は偽の恋人として柴田さんの盾になるってことが言いたかったんじゃないかな?ほら、柴田さんに恋人、それも完璧超人の達也が恋人になれば告白しようなんて男子はいなくなるじゃない」

 

 

ぼくの耳元で小さな声で佐藤くんが教えてくれた意見。そのおかげで熱くなっていた顔もクールダウンしていく。なんだ、そういうことか。達也は言葉が足りないんだよ。変な勘違いしちゃったじゃん。

いやー、最近、達也と佐藤くんが仲良さ気にしていたから佐藤くんは分かったんだろう。よくよく考えてみれば達也がぼくに告白なんてあるわけないよね。あの一言から達也の考えを読み取るなんて中々やるではないか。流石は達也の唯一の男友達!

 

 

「達也、そういうことならよろしく!」

 

「ああ、美月」

 

 

ぼくは達也とがっちり握手する。

 

 

何故か達也の笑顔が、とある新世界の神志望の大学生のような『計画通り』と言わんばかりのものの気がするけど気のせいだろう。

 

 

「う、ううう嘘です!何かの間違いです!」

 

「はぁぁああああ!?」

 

 

 

ぼくは遅れて復活した深雪と薫の驚きの叫び?を聞きながらそんなことを考えていた。

 

 

 

時は遡ること数日前。

 

 

放課後、旧校舎の教室で美月、薫、司波兄妹で集まることが二年の後半から増え始めていたわけだが、進級と共にその恒例イベントも変化した。

というのも、旧校舎の教室にわざわざ集まる必要がなくなったからである。

 

何故なら今年、教職員がトチ狂ったのか、彼女達は全員が同じクラスだからだ。

今年の三年A組のあまりのカオスっぷりに、この学年の誰もが教師陣の頭を疑ったくらいである。

 

 

「達也と深雪、兄妹なのに同じクラスなんだね」

 

「そういうこともあるだろう。まあ、初めてだがな」

 

「お兄様と同じクラス……なんて素敵なのかしらっ」

 

「おいおい、このクラス混ぜるな危険をなんの躊躇いもなく混ぜやがったな」

 

「うん……桐生さんもその一人だけどね……」

 

 

クラス結成時、そんな会話がされたわけだが薫の言うことはもっともな意見だった。

 

超人にして、全男子の敵、司波達也。その達也の妹にして、才色兼備の超絶美少女、司波深雪。学年二位の才女にして、元天才サッカープレイヤーにして、現役のイラストレーター(他称)、柴田美月。その親友にして、深雪に優るとも劣らない美少女、桐生薫。ついでに佐藤。

 

これでこのクラスに何も起きないわけがない。

 

 

「とりあえず委員長は佐藤だな」

 

「えっ!?」

 

 

そしてそのカオスなクラスの委員長に任命(押し付けられた)された佐藤は日々数々の難題を抱えながらも中々に上手く委員長職をこなしていた。

 

そんな佐藤は現在、絶賛片想い中であり、複雑な事情の片想いに耐え兼ね口の固そうな友人に相談したものの結果は現状維持。片想いの相手、薫には未だに美月のことが好きなのだと勘違いされ続けたままであり、恋愛に発展する気配など微塵もなかった。それどころが、定期的にどんな風に美月にアプローチすればいいのか話し合うことになっている始末だ。この話し合い自体は薫と二人っきりになれる数少ないチャンスなため無くすことはしたくないが、佐藤が美月ではなく薫に恋愛感情を抱いている以上、話し合いの内容は極めて不毛なものであった。

 

 

 

「佐藤、少し相談があるんだが……今日の放課後大丈夫か?」

 

「問題ないけど……」

 

 

 

先日、複雑な片想いについて相談したばかりの達也から、逆に相談があると言われれば、喜んで聞くし、真剣に考える所存の佐藤であるが、達也から相談されるということに何故か緊張していた。

 

達也が一人で解決できないようなことを相談されたところで、期待には答えられそうにないという不安もあったのだろう。

 

 

しかし、いざ蓋を開けてみればなんてことはない、達也の悩みは自分と変わらない思春期男子特有の甘酸っぱい青春の一ページに過ぎなかったのだ。

 

 

難しい言い回しというか、遠回しというか、堅苦しく複雑な言葉で達也は長々と語ったが、佐藤的翻訳で略すと、結局は「美月が気になって仕方がない」ということだったのだから。

 

恋愛などとは無縁そうだ、と思っていただけに佐藤は意外感を覚えずにはいられなかったが、達也とて自分と同じ男子中学生、色恋の一つや二つあってしかるべきだ。いかに達也が超人であっても結局、悩むことは同じで自分とそう変わったところなどない。

そう思えば、今までどこか距離を置いていた達也とも今まで以上に腹を割って話せるような気がした。

 

 

「結局、達也はどうしたいの?」

 

 

「分からない。だが、あいつが誰かと付き合うのは面白くない」

 

 

それは単純に嫉妬なんじゃないだろうか、と長々と話した末に達也が出した結論に思わず笑いそうになった。難しい顔をしてそんなことを言う達也が妙に面白かったのだ。

 

 

 

「そうだな、佐藤。ここは協力しよう」

 

 

「協力?」

 

「ああ、お前は薫に美月に恋愛感情を抱いていると勘違いされていて困ってる、俺は美月を誰とも付き合わせたくない……なら一つ、二つの問題を一度に解決できるかもしれない方法がある」

 

 

さながらピンチに陥った主人公が仲間に一発逆転の作戦を伝えるように、達也は言う。

 

 

 

「俺が美月と付き合えば良い」

 

「ちょっと何言ってるのか分からないかな」

 

 

真剣な顔で何を言うのかと思えば、全男子がそれが出来れば苦労しない!と叫ぶのが目に見えている発言。皆、そこに到達するために悩むのであり、それが難しいからこそ思春期男子に限らず全人類永遠の悩みとして恋愛があるのだ。

 

確かに、達也はモテる。

 

深雪がいるがゆえに自分から告白しようなどという猛者はこの学校にはいないが、運動も勉強もでき、大人びたクールさを兼ね備えた超人を少なからず慕っている者はいるのだ。

 

 

「それは難易度が高すぎるよ」

 

 

しかし、いかに達也がモテようとも、今回ばかりは相手が悪い。

 

なぜなら─

 

 

「だって、柴田さんの恋愛対象、女性じゃないか」

 

 

─越えられない壁が存在するからだ。

 

 

「分かりたくはなかったが、分かっている……深雪が狙われているしな」

 

 

達也は苦笑い気味に答える。

達也の気持ちはかつて美月に片想いをしていた身としては痛いほどに分かるため佐藤はその絶望感を知っていた。

 

 

「だから今回は絡め手を使う」

 

「絡め手?」

 

「ああ、美月のここ最近の状況を考えれば無理なくいけるはずだ」

 

 

美月はここ最近告白ラッシュに襲われ大変疲弊していた。美月は恋愛事において鈍感極まりないようで、今までそういったことはあまりなかったらしく、気苦労が絶えないのだろう。

 

 

「まず、俺が最適だと判断したタイミングで美月に俺と付き合うように言う」

 

「いきなり告白とか達也さんマジパネェっす」

 

 

何が絡め手だというのだろうか、圧倒的王道、正々堂々過ぎる一手じゃないか、と佐藤は口には出さずに思ったが、それは早計というものだった。

 

 

「まあ、作戦の本題はここからだ。この作戦には佐藤、お前の協力が鍵になってくる」

 

「僕の協力?……そりゃ出来ることなら手伝うけど」

 

「何、簡単なことだ。お前は一言、俺が美月に『付き合え』と言った後、他の誰にも聞こえないように美月に囁けばいい」

 

「耳元で囁くって意外と難易度高いんだけど……何を言えばいいの?」

 

異性の耳元で囁くなんてことは勿論佐藤に経験はなく高難度のミッションなのだが、相手が美月ならできないことはない。美月はこちらがびっくりしてしまう程に男子との距離が近い。上手いこと言えば耳を貸してくれることだろう。

 

 

「『俺が偽の恋人として美月の男避けになる』。それをお前の言葉で伝えろ」

 

「……なるほど、それなら柴田さんも頷くかも。柴田さん随分疲れてるみたいだし」

 

 

美月は男子をあまり異性として認識できていない。分かってはいるが感覚がついてこない、という感じだろう。美月にとって恋愛対象は女子であり、男子はそうでないのだから当然とも言えるが。

 

美月がこうまで頑なに前世の恋愛感を引き継いでしまっているのは、一重にその環境のせいだろう。

幼少より出来る友達は男ばかりであり、サッカーに夢中だった美月は女としての感性をいまいち理解することなく成長してしまったのである。

 

その美月が男子からの告白ラッシュを受ければ当然疲弊する。

美月としては仲の良い男子から告白され気まずくなるのは嫌だし、勇気を出して告白してくれたのにそれを断るというのは中々につらいものがあった。

 

それを達也が盾になることで、無くせるというのなら美月はきっと喜んで達也の申し出を受けることだろう。

そうなれば、達也の『美月を他人と付き合わせたくない』という希望は叶うし、佐藤も薫に本当のことを言う良い機会になる。二つの問題を解決できるかもしれない。

 

 

 

「でもそれなら別に僕の口から言わなくても上手くいくんじゃ……」

 

「俺からではなく、俺以外の誰か(・・・・・・)がそれを言うことに意味があるんだ」

 

 

 

一瞬、達也の言っている意味が分からなかった佐藤だったがすぐに達也の思惑に気がつく。

 

 

 

「……まさか!?」

 

 

「……俺は(・・)別に『男避け』になるとは一言も言っていない。お前の囁きで美月が勝手に(・・・)勘違いするかもしれない(・・・・・・)というだけだ」

 

 

まるで詐欺。

達也もあまり良くないことであるのは自覚しているのか、佐藤の方を見ずに窓の外へと視線を送っている。

 

 

 

「呆れた。達也、君僕の想像以上に性格悪いね」

 

「良く言われる」

 

 

佐藤の嫌みに堂々と答える達也。もはや言われなれているのか、これも自覚しているのか。

その態度はさらに佐藤を呆れさせた。

 

 

「大体、そんなんで柴田さんと付き合っても後が大変だと思うけど」

 

「安心しろ。一度手にいれたものを手放す気はない」

 

 

達也はこちらも堂々と答える。

佐藤にはとても言えない、というより考えもしない『そうなる前に美月を自分のものにして見せる』という強気な発言だが、達也が言うと本当に実現しそうなのだから恐ろしい。

 

 

「あーあ……こんなのに目をつけられちゃって、柴田さんご愁傷様」

 

 

心の底からそう思った佐藤は両手を合わせて合掌。

もはや美月が達也から逃れることはできそうにないな、と確信に近い予想が容易く出来たからである。

 

 

 

「お前はその『こんなの』に手を貸すわけだが……」

 

 

あまりにあんまりな自分の扱いに達也も佐藤に嫌みを一つお見舞いするが……。

 

 

「僕も被害者だよ」

 

 

佐藤はケロッとした顔でなんでもなさそうに答えた。

 

 

 

「お前も大概性格が悪いんじゃないか?」

 

 

今度は達也が呆れる番だった。

 

 

「そうかな?」

 

「そうだ」

 

 

二人は小さく笑いを漏らして握手をする。

本当の意味で二人が友人になった瞬間だった。

 





( ゚ρ゚ )ポカーン 深雪「お兄様が美月と……うふっ、うふふふふ」

ヽ(´Д`lll)ノ 佐藤 「うわ、深雪さんがかなりヤバイ状態に……達也!なんとかしてよ!」


ヾ(゚ー゚*) 達也「ふむ、任せた委員長」


Σ(゜Д゜) 佐藤「まさかの丸投げ!?無理!僕には無理だよ!」


( ̄。 ̄) 達也 「大丈夫だ、お前なら出来る。俺が信じるお前を信じろ」


(*`Д´)ノ 佐藤 「そういう台詞、僕の目を見て言おうか!せめて本から顔を上げてから言おうか!棒読みで言うの止めようか!」






| |д・) ソォーッ… ???「うふふ、随分と楽しそうね」


∑(゚Д゚)マサカ!? 達也「!?」


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第十六話 デートと忍術使い

何故かすいすい書けて間をあまり開けずに投稿できました。
自分を褒めたい。


長く美しい黒髪とスカートの裾をヒラヒラと靡かせて、ローラーブレードで坂道を滑って上る(・・・・・)深雪。

重力に逆らってそんなことができるのは当然、魔法を使っているからで、重力加速度を低減する魔法と自分の身体を道の傾斜に沿って目的方向へ移動させる魔法を使っているらしいんだけど……魔法というわりに派手さにかけて魔法感は全然ない。

深雪の少し前を時速六十キロは出ているんじゃないかというくらいの速度で暴走をしている達也も、路面をキックすることにより生じる加速度と減速力を増幅する魔法と、路面から大きく跳び上がらないように上向きへの移動を抑える魔法を使っているって言ってたけど……なんか魔法しょぼい。

 

 

「ねぇ深雪、もっと派手な魔法ないの?炎をバーンって感じの奴とか」

 

「それは今必要のない魔法でしょ?」

 

「でも飽きちゃったよ、この魔法」

 

 

ぼくは並走している(・・・・・・)深雪に文句を言う。

 

 

「我慢なさい。これは移動手段であると同時に訓練でもあるのだから」

 

 

深雪は移動ベクトルを全面的に魔法で制御する訓練。

達也は走るという動作で移動の方向性を決定づけ、一歩ごとに術式を起動し続けなくてはならないという訓練。

そしてぼくも──。

 

 

「訓練ならもう死ぬほどやらされたよぉ」

 

 

ぼくも達也と同じ原理(・・・・)で深雪の横を並走していた。

そう、ぼくも魔法を使って(・・・・・・)、達也と同じ訓練をしているのだ。

 

 

「突然CAD?とか言う機械渡されて、二週間()魔法の訓練させられたんだよ!それも地味な良く分からない作業を延々と!」

 

たったの(・・・・)二週間よ」

 

 

 

二週間も、学校の放課後や休日にフォア・リーブス・テクノロジーとかいう会社に連れていかれて、魔法の訓練をさせられた。四角いロボットみたいな奴をひたすら上下に移動させたり、変な機械にサイオン?とかいうエネルギーを送りまくったり。とんでもなく不毛でつまらない作業とさえ言える訓練だった。達也からのご褒美(・・・)がなければとてもやってられなかった。

 

 

「ッ!?今寒気がしたのだけど……っ!」

 

「あー、幼女深雪もペロペロしたかったなー」

 

「何!一体貴女の頭の中で何が起きているの!?」

 

 

頑張って訓練をちゃんと受ければ達也からご褒美として、深雪の写真が貰えるのだ。ぼくが出会う前の幼き日の深雪なんて色々小さくて可愛い!小学生の深雪がランドセル背負ってる写真とか宝物だよね!

次は是非、水着写真をお願いしたい。

 

 

「深雪たん……はぁ……はぁ……」

 

「あら美月、やっと息切れしてきたわね」

 

「水着……むふっ…ペロペロ」

 

「な、何故か身の危険を感じるわ……!」

 

 

深雪が突然速度を上げたけど、まだまだ余力はある。どこまででも付いていきますよぉー!

 

「達也、先行ってるよー」

 

 

深雪が達也を追い越して先に行ってしまったので、達也に一声かけておく。すると、何故か苦笑いの達也。

 

 

 

「……才能か」

 

 

 

ぼくは深雪のスカートを追いかけて走った。

もうちょっとで見えそうなのにっ!

 

 

 

 

 

 

深雪を追いかけてやって来たのは、今回の目的地らしい小高い丘の上にある寺だった。

山門からプレッシャーというか、威圧というか、そういうのを感じて中々に入りづらい。

なのに深雪は躊躇うことなく、ローラーブレードのまま入っていく。

 

 

「深雪、何かここヤバそうだよ、帰ろうよ!」

 

「そう怯えることはないわ、彼らの殺気は私たちに向いてるわけではないもの」

 

「えっ、じゃあ誰に……」

 

「お兄様よ」

 

深雪が答えた瞬間に遅れてやって来た達也が山門から入る。と、同時にどこからか現れたのは厳つい修行僧のような人たち、凡そ十五人……リンチだ!達也がリンチされる!

 

 

「達也逃げて!超逃げて!」

 

ぼくが慌てて達也に叫ぶがこういうとき一番心配してそうな深雪は何故か可愛いどや顔で傍観の構えだ。

 

 

「大丈夫よ、お兄様は負けないわ」

 

 

自信満々に深雪がそう言い放った直後、戦いは開始された。

一斉に襲い掛かるというわけではなく、数人ずつで達也に挑むスタイルなのか、それともコンビネーションを優先したのか、武術のことなんて毛ほども知らないぼくには良く分からないが、全員で一気に潰してやるぜ!というものではないようだ。

と、言っても結局は十五対一なわけで、圧倒的不利なのだ。いくら超人司波達也でも危ないんじゃ……。

 

 

そんな風に思っていたけどすぐに深雪が正解だったということを思い知らされた。

 

達也を取り囲むように出来た人垣から次々と人が飛んでくる。時折見える達也の表情は余裕とは言わないが、苦戦しているというようではなく、まだまだ余力を残しているようだった。

 

 

「んー、これなら数を後五人くらい増やしても大丈夫かな~」

 

「うひゃあぁ!?」

 

 

突然ぼくの顔の後ろからにょきっとキラキラ光っている頭が生えてきた!

何!?何なの!?誰なの!?ハゲなの!?

 

 

「ハゲじゃないよ、剃ってるんだよ」

 

 

心読まれてるぅうううう!?

えっ?何なの?エスパーなの?悟り開いてるの?

 

 

「先生……気配を消して忍び寄るのは止めてください」

 

「忍びに忍ぶなとは深雪くんも中々にユニークだね」

 

 

ツルツルの頭に、左目を上から下へ一直線に斬りつけたかのような傷。黒染めの胴着?みたいな服を着たこの人はどうやら深雪の知り合いらしく、格好からしてこのお寺の関係者だろう。

 

 

「やあやあ、君のことは聞いてるよ。僕は九重八雲。ここの住職兼忍びさ」

 

 

どうやらエスパーでも、悟りを開いているわけでもなく、『忍び』だったそうだけど、なんかぼくの思っている『忍び』じゃない。忍びってもっとこう硬派なもののはずなんだ。こんなに軽薄で飄々とした俗っぽいものじゃないんだ。だからとりあえずこの人のことは『忍び(仮)』としておく。

 

 

「疑ってるねぇ~。僕は『本物』なんだけど……うん、疑うことは良いことだよ。たぶん」

 

「師匠適当なことを教えるのは止めてください」

 

 

自称忍びのツルツルさんが、ありもしない髭を撫でるように顎を触りながら、うんうん頷いていると、どうやら全員を倒したらしい達也が後ろから手刀で襲いかかる。しかしそれをひょいっと簡単にかわして距離を取るツルツルさん。

このツルツルさん、ただのツルツルじゃないっ!?

 

 

 

「達也くんもう終わったのかい?うん、これなら本当に後五人増やしても大丈夫そうだね」

 

「そうですか」

 

 

達也が拳、蹴り、と何発も仕掛けるものの、全て簡単にかわされてしまう。それどころが、達也の腕を掴みまるで忍術のように不思議な動きで軽々と吹っ飛ばした。すごい!ツルツルさんすごい!

 

 

「うん、美月くん。僕も意外と傷ついているんだけど」

 

 

どよーん、と落ち込んでますオーラ全快で、頭を触りながらしょげているツルツルさん(あえて訂正しない)。

さっきまでのカッコいい忍びっぽい姿はそこにはもうなかった。

 

とりあえずこの人がなんか残念な人なのは分かりました。

 

 

「だからね、美月くん。僕も傷つくわけでね」

 

 

後、結構弄っていて楽しいのも。

 

 

 

 

 

「改めて紹介しよう。この方が俺の師匠でこのお寺の住職でもある、『忍術使い』九重八雲先生だ」

 

「改めてよろしくね、美月くん」

 

 

達也の恋人(偽)になって二週間。

恋人関係(偽)になったその日から偽装のため一緒に帰ることにしたのだけど、あれよあれよという間にフォア・リーブス・テクノロジーに連れていかれて魔法についてとCADの使い方についての講習を夜までみっちり受けさせられ、それから毎日毎日魔法の訓練ばかり。

達也曰く魔法の訓練はデートらしいのだけど……そんなデートがあるかい!魔法の訓練しながらきゃっきゃうふふって想像できないでしょ!いや、男とデートなんてしたくもないけどね!

達也からのご褒美が欲しいので毎日きっちりメニューをこなしたけど。

 

……二人っきりで出掛けて、彼氏からご褒美をもらう。うんデートかもね!(言い訳)

 

でもそんなデートばかりじゃぼくのフラストレーションは溜まる一方。仕事以外は魔法の訓練や勉強ばかりだったんだから当然だよね。

 

それで、ぼくは言ってやった。

 

休日に深雪と遊びに行かせてくれないと、もう魔法の訓練はやらない!っと。

 

そうしたら達也が日曜日に深雪と三人で出掛けようって言うから喜んで集合場所に指定された時間、朝の六時の三十分前に到着。

で、深雪と達也が来て、どこにいくのか聞いてみれば着いてからのお楽しみだと。

ぼくはワクワクしながら、訓練しながら行こう、という達也の言葉に文句を垂れつつ、ここまで来たのだ。

 

そう、今日のお出掛けは頑張ったぼくへのご褒美!ぼくはもっと楽しいところを想像していたのに……。

到着してみれば出てくるのはむさ苦しい男ばかり!華の欠片もない寂れた寺!果てはなんか胡散臭い忍術使い(笑)のツルツルさん!

 

ぼく泣くよ!?泣いちゃうよ!?中学生にもなってぎゃん泣きしちゃうよ!?

 

 

「泣きたいのはこっちなんだけどね……」

 

 

落ち込んで本当に泣きそうな九重八雲先生(流石に可哀想なので)。なのに誰も慰めてはくれず、門人達は各々自らの勤行へと戻っていった。

扱いの酷さ……。

 

 

「ところで師匠、彼女は?」

 

「ところでって……はあ、うん、もうすぐ来るんじゃないかな?」

 

 

どうやらここに来たのは、達也がほぼ毎朝こなしているという稽古をするためというだけでなく、誰かを待つためでもあったらしい。

彼女、ということは女性……可愛いかな。ちょっとワクワクする。

 

 

「あっちょうど来たみたいだね」

 

 

達也同様、いや、それ以上の数の門人を蹴散らしながら堂々とした歩みでやってくる美少女。

誰もが想像する通りの大和撫子、どこまでも深い黒髪はさらりと風に揺れ、整った顔からは門人に襲いかかられようとも、余裕が消えることはない。

 

深雪と並ぶ美少女にしてぼくの親友、桐生薫。

 

 

どうやら待ち人とは薫のことだったらしい。

 




(´・д・`) 美月「魔法の訓練?そんなのなんでぼくがやらなくちゃいけないのさ?やるわけないじゃん」

(゜ー゜)達也「ここに深雪が小学校三年生の時の写真があるわけだが……」

(*`Д´)ノ美月「達也何してるの!早く訓練の準備して!急いで!」

(´゜ω゜) 達也「準備なら既に完了している」(計画通り)







Σ(゜Д゜)深雪「何故かしら……今とても大変なことが起こっているような気がする……」





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第十七話 お兄様の計画

薫は門人達を完膚なきまでに叩きのめし、堂々とした足取りでぼくたちのいる本堂の前までやってくると、気だるげに頭を掻きながら一言。

 

 

 

「……あー、なんだ。これはアタシが嵌められたってことでいいのか」

 

「痛い!痛いよ薫ちゃん!」

 

 

薫は九重八雲先生の頭を掴むとギリギリと握りつぶすように力を込める。

あれは痛い!ぼくも幾度となくやられてきてるけどいくらやられても慣れる気配はない。

 

 

 

「僕は頼まれたんだよ!達也くんに!」

 

「そんなことは分かってんだよ、アタシが言いたいのはなんでてめぇーはそうアイツに手を貸しちまうのかってことなんだよ!」

 

「だって仕事の依頼ってわけじゃなかったし!ほら、美月くんもいるじゃない!」

 

「あっ?」

 

 

達也が目に入った時点で頭に血が上っていたらしい、今時のキレやすい若者の薫は、散々九重八雲先生を痛め付けたところでやっとぼくの存在に気がついたようである。ちょっと悲しい。

 

 

「うー、しくしく、薫が無視するよー」

 

「……」

 

 

ぼくが薫の気を引こうと泣き真似をしてみるけど冷たい眼差しで黙殺された。すごく悲しい。

 

 

「で、なんでお前はここにいんだ?それも大事な妹様と彼女様を連れて」

 

「俺はほぼ毎朝ここで修行をさせてもらっている。この時間は大体いるが?」

 

「そんなことは知ってるんだよ。その『大体』から外れて(・・・)んのが日曜日だろうが」

 

「……知ってたのか」

 

「その日はここに来るの避けてたからな、んじゃ、てめぇの悪巧みを吐いてもらいましょうかね」

 

 

薫が達也を引きずるようにして本堂の裏に連れていってしまった。うん、達也よ、短い間だったけど良い彼氏だったよ。

 

 

 

「というわけで深雪、ぼく達はぼく達で楽しもうか……ぐふっ」

 

「お兄様ー!?私少しまずい状況に!?」

 

 

 

 

妹が窮地に追い込まれているころ、達也もまた別の修羅場の中にいた。

 

 

 

「で、なんでアタシを駄師匠に頼んでまで呼び出した?」

 

 

薫はそう頻繁にはこのお寺にやってこない。それが早朝ともなればなおのことだ。

今日、わざわざ薫が足を運んだのは九重八雲からの連絡を受けたため。

九重八雲からの呼び出しというのは滅多にあるものではなく、素直に応じてしまったのだ。

が、蓋を開けてみればそこには両手に花状態の達也がいた。達也はほぼ毎朝、九重八雲の元で修練を重ねているが、日曜日の朝だけは例外だった。中学生にして既に多忙である達也はフォアリーブステクノロジーにて仕事をするため、日曜日の朝はほとんどこのお寺にはやってこない。それを薫は知っていたからこそ、朝早くからの呼び出しに応じたというのもあるわけだが……。

 

薫は一瞬にして自分が嵌められたことを悟った。

達也が九重八雲を使って自分を呼び出してもらったのだと。

九重八雲の少し申し訳なさそうな顔と、達也の計画通りと言わんばかりの顔を見ればそれは確定だった。

 

 

 

 

「俺達とデートに行って欲しくてな」

 

 

「はぁ?なあ達也。お前まさかと思うが今日美月とデートか?」

 

「ああ」

 

「お前どこの世界に妹を連れて女とデートに行く兄貴がいるんだ!」

 

 

妹同伴でデートなどともはや異常性癖と言っても過言ではない、と戦慄した薫。

しかし──

 

 

 

「いや、美月が言い出したんだが……」

 

 

「……すまん、納得した」

 

 

 

──達也が一言真実を告げれば、それはため息へと変わり、純粋な気持ちで謝罪した。

達也も苦労しているのだ。

 

 

場を何とも言えない空気が支配するが、薫とて今更後には引けない。

少々勢いを失いつつも達也に詰め寄る。

 

 

 

「ま、まあそれはそれとして、アタシを誘う理由はなんだ?」

 

「……俺一人で美月の面倒を見るのは無理だ。手伝ってくれ」

 

「はぁ?なんでアタシがそんなこと……」

 

 

達也の提案に当然とばかりに顔をしかめる薫。

 

 

 

「お前には貸しがあるはずだ」

 

「貸し?……ん?あぁー!?」

 

 

達也、お前美月を惚れさせろ。

 

それは二年のとき、薫が達也にした依頼であり、それを達也は現在進行形で行っているところだ。依頼主である薫がそれをサポートすることは決して不自然なことではない。

 

 

「お前、自分が美月に惚れた癖にそうやって……性格悪いぞ!」

 

「惚れた腫れたはよく分からないが……とりあえず手元に置いておくことにした」

 

 

特に表情を変えるでもなく、そう言い放った達也に薫はげんなりとした様子で。

 

 

「前言撤回だ……お前、壊滅的に性格悪いな」

 

「別に断ってくれてもいいぞ、無理に頼もうとは思っていない。……ただ、俺がつい口を滑らせて『お前から依頼されたこと』を美月に漏らしてしまったらすまんな」

 

「はあ!?」

 

「きっと泣くな、泣いてお前に付きまとい、離れないだろうな」

 

「鬼か!?性格最悪か!?」

 

「ふっ、それが嫌なら今日のところは大人しく付いてくるんだな」

 

 

薫は恨めしげに達也を睨みながら渋々と口を開いた。

 

 

「……今回だけだ」

 

「助かるよ、快く(・・)引き受けてくれて」

 

 

 

薫は達也の顔面に一発かましたいのを、どうにか堪えてせめてもの抵抗とばかりに達也から顔を背けた。

 

 

 

 

 

「深雪ー照れなくて良いんだよ!ほらおいでって!」

 

「うわ、美月くん意外と力あるね」

 

「先生!絶対に離さないでください!」

 

 

 

達也と薫が戻ると、そこはカオスと化していた。

目をハートにして涎を滴ながら手足をバタつかせる美月とそれを羽交い締めにしてなんとか押さえている九重八雲。そして、それを涙目で怯えたように木の後ろに隠れて見ている深雪。

 

 

 

「……あー、断りてぇー」

 

「……報酬は弾もう」

 

 

そのカオスを見て呟いた薫の心からの言葉に、達也はそう付け足した。

 

 

 

 




(´・д・`)美月「達也って性格悪いよね」


( ・д・)薫「ああ、深雪もなんであんなのを慕ってるんだかな」

(*`Д´)ノ!!深雪「お兄様は性格が悪くなどないわ!貴女たちは一体お兄様の何を見ているの!頭脳明晰、容姿端麗、文武両道!素晴らしいお兄様よ!」


( ゜д゜)美月・薫「「容姿端麗……これは洗脳されてますね」」





(つд;*)達也「流石に酷くないか?」








今作の正式タイトルをついに決定いたしました!
皆さんの中には、どうせ今作も(仮)のままなんだろ、なんて思っていた方いたのではないでしょうか?
残念、正式タイトルには(仮)はつかないのです(ドヤ顔)

その正式タイトルですが、明日の0時に次話の投稿と同時に変更したいと思っていますのでお楽しみに。



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第十八話 ウィンドウショッピング

ウィンドウショッピングというものの楽しさがぼくには全く分からない。

 

服が欲しかったらネットで頼めばその日のうちに届くし、わざわざ街を歩き回って欲しい服を探すより、ネットでちょちょいと検索して探した方が断然早いのだから。

大体ぼくは服なんて何でも良いし欲しくもない。サッカー部だったころは学校と家を往復する毎日で休日もほぼ部活で学校指定の物しか着ていなかった上、止めた今も基本ジャージで過ごす日々だ。絵を描くと、服が汚れるしね。

 

今日だって中学校に入学した時に買った適当なジャージだし、彼氏(笑)であるところの達也も「丁度良いな」と褒めてくれた。

 

ならそれで良いじゃない。

ぼくが着飾る意味もなければ、意思もないんだから。

 

 

 

と、思っていた時期がぼくにもありました。

 

 

 

「可愛い!可愛いよ!食べちゃいたいくらいだよ!」

 

「なんで、アタシが、こいつの係りなんだ!」

 

「一応、美月も女子だからな」

 

 

ウィンドウショッピング、最高だよ!

着飾った深雪さんを眺めながら、何故かぼくを羽交い締めにしている薫の胸の感触を背中で楽しむ。うむ、なんて素晴らしい!

ただ達也、お前それが彼氏(爆)の台詞か!一応ってなんだ!その通りだけど!

 

 

「お兄様、身の危険を感じますっ」

 

「大丈夫だ、俺が守る」

 

「守ってるのアタシだけどな!」

 

 

試着室のカーテンで身を隠しながら震える深雪(可愛い)が、格好つける達也(爆発しろ)の台詞に照れている(可愛い)が、ぼくを押さえているのは薫(柔らかい)である。つまり達也は何もしていない。なのに深雪の達也への評価が勝手に上がっていく。マジもげろ。

 

それにしても薫よ、少し大きくなったな。ぼくは嬉しいぞ。

 

 

「おい、達也!こいつアタシにまでセクハラしてくるぞ!代われ!」

 

「悪いな薫、お前が犠牲になることで深雪は守られる。全て計画通りだ」

 

「流石です、お兄様!」

 

「流石ですねぇ!悪魔様!」

 

 

深雪のブラコンはもう駄目かもしれない。

 

でもあえて言おう。流石です彼氏様!本当にありがとうございます。ぼくのことを知り尽くしたかのような見事な策!なかなか素晴らしいじゃないか。褒めてつかわす。

 

そんなことを考えながら、着飾った深雪を舐め回すように(むしろ舐めたい)観察し、幸せに浸っていると何故か突然、悪寒が走った。

 

 

 

 

「……深雪のファッションショーに、薫の犠牲……これで後二週間は魔法漬けにしても耐えられるだろう」

 

 

 

ぼくはとりあえず、考えることを放棄して、今を楽しむことにした。

幸せタイムはまだまだこれからなのだ!

 

 

 

 

朝早くから集合して訓練をさせられ不満たらたらのぼくだったが、神社に来たのは別に達也の稽古のためでなく薫と合流するためだった、というのだから全然オッケーだ。

ぼくはてっきり、深雪を餌にぼくに修行させるのが目的だったんじゃないかと達也を疑っていたけど、うむ、達也はやるときはやる男だったようだ。

 

薫と合流した後、ちゃんとぼくのご褒美デート?が始まった。

 

 

やって来たのは都心のショッピングタワーだ。

ここに来るのは初めてだけど人の多さと店の多さに圧倒されてしまう。

それに、深雪と薫という美少女がいるからか、視線を集めており、気まずいというか恥ずかしい。

 

まあそれも、一つ目の店に入るまでだったけどね。

いつの間にやらギャラリーを集めていたらしい深雪のファッションショーは、ぼくの心を癒すのには十分過ぎた。薫に羽交い締めにされていたから、触ったり、写真撮ったりは出来なかったけど、脳内ライブラリーにしっかり保存されている。

 

 

「美月、今日は元々お前のご褒美として来てるんだ、お前が着なくてどうする」

 

 

深雪や薫を着せ替えて幸せだったぼくに達也が言うが、ぼくは別に欲しくもないし、着たいとも思わないので却下だ。

買ってくれるらしいけど、どうせ買ってくれるならゲームとかの方が嬉しい。

そう達也に伝えるとさっきまでご機嫌だった(不本意なことに達也に服を買ってもらったため)深雪が何故か訝しげな顔でぼくを見てくる。

 

 

 

「美月、まさかとは思うけど今日ジャージなのは運動をするからなのよね?」

 

「えっ?普通に普段着だけど?ぼく今日運動するなんて聞かされてなかったし」

 

 

ぼくは今日、達也から集合時間と集合場所だけを指定されただけで何をするのかは一切聞いてない。

まさか朝から訓練させられるとは思ってもみなかった。彼女がぼくじゃなかったら速攻で破局だったね!偽だけど!

 

 

「あー、こいつ昔からファッションとか興味0だから。ほぼジャージオンリーで過ごしてんぞ、美月は」

 

 

薫の言葉にぼくが頷いていると、深雪が信じられないとばかりに目を見開く。どうした?可愛い。

 

 

「お兄様」

 

「ああ、構わないよ」

 

 

目を見開いた深雪が何かを決意したように達也を呼ぶ。うん、なんでそれで通じたの?テレパシーなの?兄妹通信なの?……別に羨ましくなんてないけどね!ぼくだって本気出せば心読めるし!

 

 

「美月、貴女を今日で立派な女の子にしてみせるわ!」

 

 

あれー、深雪がぼくをかつてないほど熱い眼差しで見てくるぞー。

なんか炎の背景が見えるし……深雪が燃えてる?いや、ぼくが萌えているのか!(確信)

 

 

「さあ美月、行きましょう」

 

 

ぼくは深雪に手を引かれながら(嬉しい)、謎の圧力によって逆らうこともできずに、今時の服っぽいものが並んでいる店へと連行される。

 

 

とりあえず、必要以上に深雪の手をにぎにぎしてみることにした。

 

 




“〆(^∇゜*)♪美月「深雪は何を着ても似合うよね!今度はメイド服とか着せてコスプレ大会やろう!」

Σ(゜Д゜)深雪「そんなことは一生実現させませんけど!」

(・∀・)ニヤニヤ薫「達也にもコスプレさせれば良くないか?」



(*゚Д゚*)深雪「やりましょうか!お兄様なら如何なる衣装であっても着こなして頂けることでしょう!」



( ゜д゜)美月・薫 「「これは洗脳されてますね」」



( ̄▽ ̄;)達也「……お前ら楽しいか?」



ヽ(*゚∀゚)ノ 美月・薫「「凄く(すっごく)♥」」



(つд;*)達也「……そうか」






『美月転生。~お兄様からは逃げられない~』

正式タイトルが決定しました!(拍手)
(仮)を取るだけではないのだよ。(上から)

今後、お兄様がはっちゃける予定ですし、美月と達也の恋愛(笑)がテーマとなってきますのでこうなりました。

美月さん、お兄様から逃げられるのかなー?(棒)


さて、次話は近日中、早ければ明日の0時に投稿します。
お楽しみに!


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第十九話 美月の窮地

書き終わってすぐ投稿なので誤字脱字注意です。


ぼくは服装にこだわりを持っていない。

強いて言うのなら動きやすく、シンプルなものを好む。まあ、だから結局ぼくの持つ服はほとんどジャージになってしまうわけだ。

元々、サッカー以外はインドアなぼくは出掛けることも少なく、学校の制服とジャージがあれば何不自由なく生活できてしまうのだからそれを改めるはずもない。

 

そんなぼくではあるが、着たくない服というものは存在する。

 

それはスカート。

男に媚びるために生まれてきたかのような、穿いているのか穿いてないのか分からないくらいの、ただの布。

見るのは好きだ。中身を想像してワクワクするその気持ちは大切だと思う。

 

でも、自分が穿くとなったらそれは別だ。

 

普通に恥ずかしい。恥ずか死ぬ。

学校の制服でさえ実は恥ずかしいというのに、わざわざ私服でまで穿きたくはない。

 

 

だというのに……。

 

 

 

「美月、我が儘は駄目よ」

 

「理不尽だ!横暴だよ!ぼくは絶対穿かないかんね!」

 

「貴女にだけは理不尽やら横暴やらとは言われたくないのだけど」

 

 

深雪が持ってるのはただのスカートじゃない。ミニスカートだ。

馬鹿なの?なんでわざわざ短くしたの?実に素晴らしいよ、ぼくが穿かなければね!

 

 

 

「薫、美月を試着室に押し込んで」

 

了解(りょーかい)

 

 

 

完全に本気になったらしい深雪による指令で、ニヤニヤとしながら迫ってくる薫。

ぼくは抵抗するも迅速かつ簡単に取り押さえられてしまう。

そして、そのまま試着室へと押し込まれ……。

 

 

 

「さて美月、お着替えしましょうか?」

 

 

そこには手をワキワキとさせて満面の笑顔を浮かべた深雪が。

 

うん、そういうのぼくの役割……。

 

 

ぼくの悲鳴がきっと店内にこだました。

 

 

 

 

 

「……死にたい」

 

 

試着室に押し込まれ、深雪に攻められること十数分。そこには無惨にもヒラヒラの服に着替えさせられたぼくがいた。

 

ヒラヒラと揺れるフワッと広がった裾のスカート。

 

ぼくはファッションには疎い、というか全く気にしていないので分からないが、ラメの入った格子柄で、深雪曰くサーキュラースカートというらしい。ウェストのところにゴムが入っていて着心地は楽なんだけど……短い。

 

スカートに合わせて、セーターみたいな縦線のいっぱい入ったモコモコの服を着せられているからその裾を両手で伸ばして隠そうと頑張るけどいくらも伸びはしない。黒いタイツを穿いているから生足じゃないんだけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。ぼくがスカートを穿いているという事実がそもそも恥ずかしいのだから。

 

 

 

「何モジモジしてんだ。似合ってるぞ、大人っぽくて美月じゃないみたいだ」

 

「そうだな、たしかに普段の美月とは印象が違う」

 

「美月が黒のタイツを穿いていましたので、それに合わせてシンプルにモノトーンでまとめてみました」

 

 

深雪が得意気にぼくの服装について解説をしているけどぼくはそれどころではない。

 

 

「深雪、もう良いよね?」

 

 

さっさと試着室のカーテンを閉めて着替えてしまおうと、深雪の返事も待たずにカーテンを引っ張るが、それを止める白くて細い手……というか深雪。

 

 

「駄目よ、今日は一日お化粧してこのままの格好でショッピングを楽しむの。そうすれば美月も、もっと女の子の自覚を持てるでしょ」

 

「こ、このまま!?」

 

「当然でしょ、そもそもお兄様の隣を歩くのにジャージだなんて信じられないわ」

 

「このブラコン!ブラザーコンプレックス!」

 

 

 

大事なことなので二回言ったわけだけど、それが深雪の逆鱗に触れた。

 

 

 

「美月、私怒るわよ」

 

 

 

もう怒ってるよ!にっこり笑顔なのに目が笑ってないよ!

ぼくは涙目で薫を見るがニヤニヤとした笑みを浮かべていてとても助けてくれそうにない。

 

 

「深雪、あまり無理強いしてはいけないよ。服の好みは人それぞれなのだから」

 

 

意外なことに助けに入ってくれたのは達也だった。

そうだ、そうだ!人それぞれだ!無理強いはするなー!もっと言ってやれ!

 

 

 

「ですがお兄様、ジャージ一辺倒というのはあまりにも……」

 

「少しずつ改善していこう、美月が嫌がっていては仕方がないのだから……美月もそれで良いか?」

 

 

 

ぼくは力強く何度も首を縦に振る。

深雪もお兄様の言葉には肯定的で、しょんぼりしながらも「……はい」と頷いた。まあ、達也が頭をぽんぽんすればすぐに顔を赤らめご機嫌になったが。

 

 

 

「ありがとう達也、助かったよ!」

 

 

 

ジャージに着替えてすぐに、ぼくは達也に散々無理強いされてきたことも忘れて達也に抱きついた。この時のぼくには助かったという安堵感と助けてくれた達也への感謝の気持ちしかなかったのである。

だから、忘れていたのだ。

そんなことをすれば、ブラコンの妹様がお怒りになることなんて少し考えれば分かることだったのに。

 

 

兄の手前、直接なにかを言ってくることはしないけど明らかに怒ってる!

すぐに達也から離れようとするわけだけど、なんでか達也が後ろから手を回しているから離れられない!

達也め!さっきは助けてくれたのになんでこういうことするかな!ぼくが困っているのを見て楽しんでいるに違いない!

文句を言ってやろうと達也を下から見上げると、そこにはいつも以上に固い、とてもふざけられない真剣な顔があった。

 

 

 

「薫」

 

「ああ、分かってるよ(・・・・・・)

 

 

 

達也が薫を呼べば、薫もまた真剣な顔で頷いた。

 

 

「深雪、すまないが美月を連れて先に帰っていてくれ。少し、用が出来た」

 

「お兄様……」

 

 

さっきまで怒っていたはずの深雪も何やら不安そうに達也を見上げており、頭を撫でられて尚、その表情から不安は消えてなくならない。

 

 

「……どうかしたの?」

 

 

突然のただならぬ雰囲気にぼくはどうしたらいいのか分からない。何が起きているのかも分からないのにその対処ができるはずもなかった。

 

 

 

「どうやらお前たちをナンパ(・・・)しようと後を付けている奴らがいるようでな、少し話をしてくる」

 

 

ナンパ。

どうやら達也が真剣な顔をしたのは大切な妹をナンパしようという輩を懲らしめるべく動き出すことを決めたからなのだろう。

だからこその武道派二人、か弱いぼくたちは下がっていろということか。

ぼくも深雪をナンパしようなんて不埒な奴らを懲らしめるのに参加したかったが、深雪を一人にするのも問題だし、まあ、深雪と二人きりになれるというならそれで良しとしようじゃないか。

 

 

 

「じゃあ、ぼくらは二人で仲良く帰ることにするよ」

 

「そうしてくれ、少し長くなりそうだしな」

 

 

ぼくは再び深雪さんに手を握られ、足早にその場を去った。

 

とりあえず、にぎにぎするのは忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と怖いナンパもあったもんだな、達也」

 

「……すまんが手伝ってくれ」

 

 

 

美月と深雪が去ってすぐに、薫が達也をちゃかすように言うが、達也は至って真面目な顔でそう返した。

 

 

 

「は、最初から予想してたんだろ?なんせお相手は……」

 

 

 

ジトっとした目で達也を見た後、どこか遠くを見る薫。達也のような異能(・・)がなくとも分かる、十数人の気配。それは明らかに自分たちに敵意を持ったものであり、薫がそうなるのではないかと、危惧していた敵でもあった。

 

 

 

 

 

 

「ああ、四葉だ」

 

 

 

 

 

 

 

十師族が一家、『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』が動き出そうとしていた。




( ゜д゜)、;'.美月「あんな格好……恥ずか死ぬ!」


(´・д・`)薫「とりあえず、サッカー部の奴らに画像を一斉送信っと」


Σ(゜Д゜)美月「薫さん!?」


(´・д・`)薫「ま、嘘だけど」


(つд;*)美月「良かった!本当に良かった!危うく学校に行けなくなるところだった!」






(゜ー゜)ボソッ 薫「一斉送信なんてしたら達也に怒られそうだからな」






超・展・開。
やっと物語の本筋に乗れた感じですね。当初の構想ではもっと早くこの展開になってたはずなのに……。

原作開始前に四葉も絡んでくれば、原作キャラも多数登場し盛り上がっていく予定です!
次話もお楽しみに!


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第二十話 魔神

明日は冬コミに参戦します!
三日目、欲しいグッズがあるので行きたいんですが行けるか微妙で心配してます……。

皆さんはどうですか?


「はぐれたなう」

 

 

ついさっきまで深雪と手を繋いで小走りしていたはずなのに、ショッピングタワーを出てすぐにとてつもない人混みに呑まれ、はぐれてしまった。

近くでイベント(・・・・)でもあるのか、突如として凄い数の人が溢れてきたのだ。

 

携帯端末で連絡出来れば良いのだけど、仕事の締め切りとかの電話が掛かってくるのが嫌で家に置いてきてしまった。今日は一日楽しく遊びたかったからね。

 

 

困った。

ぼくの深雪レーダーも全く反応しないし、こういう時に便利そうな魔法は教わっていない。そもそも魔法を無闇に使うなと言われているから使えないけど。

 

このまま一人で帰ってから、深雪に連絡すればそれで済む話なんだろうけど、ぼくは深雪と一緒に帰りたいのだ。帰りだけでもデート気分を味わいたい。だから、それでは意味がない。

 

 

 

ここは一旦戻ろう。

たぶん深雪もぼくとはぐれたとなれば、達也たちのところまで戻るだろうし、結構時間経ってるからもうお話を終わってるでしょ。

 

 

そんなわけで、ぼくはショッピングタワーへと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

火災が発生した、という放送がされたのは美月と深雪がいなくなってから少ししてからだった。

 

 

 

「随分と大規模じゃねぇか。店から客を追い出すなんて」

 

「それだけ向こうも本気だということだろう」

 

 

 

火災報知器の音がけたたましく鳴り響く中、達也と薫は臨戦態勢で構える。

 

 

「敵は十八人、銃器を持っているのが十二人、残りは恐らく魔法師だろう」

 

「相変わらず便利だな、その眼」

 

 

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)

 

イデアにアクセスし、存在を認識することができる知覚能力であり、アクセス能力を拡張したものだ。エイドスを認識して直接照準することもでき、存在さえしていればどんな獲物も逃がすことはない。

 

達也の先天的な魔法、分解・再成の副産物でもあるこの能力は、ESP術者でもいない限りまず感知されることはなく、1㎞程度の距離ならば人一人を探しだすことも可能という規格外の力。

 

 

多種多用に応用でき、深雪とは、精霊の眼の知覚情報などを、サイオン情報化されたイメージとして、身体の接触によりやりとりする事が可能。

 

 

この眼がある限り敵は忍ぶことなどできはしない。

 

 

 

「くるぞ!」

 

 

敵は四葉、であるならば、そんなことは理解している。故に忍ぶことはしない。物量で押しきることこそが最善であり唯一の手段だ。

 

ほぼ同時に鳴り響くいくつもの銃声。

達也と薫はすぐ近くの物陰に隠れてやり過ごすが銃声が止むことはない。

このままでは、その銃弾がふたりに届くのもそう遠い未来の話ではないだろう。

 

ゆえに、このまま防戦一方でいるわけにはいかない。

 

 

「武器には武器ってな」

 

 

薫は懐から円筒型の物を取り出すとそれに火を点けて投げ放った。

クルクルと回る筒は煙を吐き出しながら、達也によって看破されていた敵の密集している位置に綺麗に落ちた。

 

 

 

「派手に行こうぜ!」

 

 

 

爆発。

地面が揺れていると錯覚するような轟音と、視界が真っ白に染まる閃光。

そして、破片を撒き散らしながら弾けた筒から濃い煙が吹き出した。

 

 

それが達也と薫にとっての戦闘開始の合図。

 

 

轟音によって聴力を、光と煙によって視覚を、奪われた四葉の精鋭。

 

さらには爆発によって作動したスプリンクラーによって銃器の使用が抑えられ……すぐにバラバラとパーツになって『分解』された。

 

 

聞こえない音、見えない敵、そしてバラバラになる武器。

 

 

そんな中、まともに動けていたのは魔法師の者だけだった。

平均的な戦闘魔法師で通常の歩兵の一個中隊分に匹敵すると言われているだけあり、聞こえなくとも、見えなくとも、敵の位置を把握する手段はある。

他の十二人が無力化されたとしても、魔法師六人で中学生二人を狩ることなど、出来ないはずもない。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 

煙が晴れる。

魔法で煙を飛ばしたのだろう。

既に光によって奪われた視界も回復した彼らの目に映ったのは、何人もの倒れている仲間の姿と、無傷で立つ中学生二人の姿だった。

 

 

 

「魔法師以外は全員仕留めた。あとはこいつらだけだ」

 

「了解、ちゃっちゃと終わらせて帰るか」

 

 

 

二人の言葉は挑発とも言えるものだが、勿論そんなものには耳を貸すことはしない。

六人はそれぞれただ目の前の標的を狩ることだけを考えて動き出す。

 

 

 

「桐生薫は魔法を使えない」

 

 

囲まれて尚、動こうとしない二人、その片割れ、男の方が何やら話始める。

魔法が使えないなどと、わざわざ弱点を自分からバラす人間はいない。

ならばこれはブラフ、追い込まれた状況下で少しでも自分たちを有利にしようとする最後の足掻きだろう。

 

 

六人は何も疑問に思うことなく、ただいつも通り、命を刈り取る魔法を無慈悲に放った。

 

 

 

「──が、桐生薫に魔法は通用しない」

 

 

 

魔法師達の魔法は全て、正常に、十全に、発動していたはずだ。

何も失敗はなく、また阻まれるような魔法を使われたわけでもない。

まるで魔法など存在しなかったかのように消えてなくなったのだ。

 

 

 

「そして、桐生薫に魔法は必要ない」

 

 

 

それは明確な隙となった。

本人たちも自分がどうされたのか分からなかっただろう。

 

魔法が不発に終わり、混乱に陥っていた彼らは一瞬のうちに無力化され、ほぼ同時(・・)に気を失って倒れた。

 

 

「四葉っつっても大したことねぇーな。私特製爆弾一つで簡単に崩れやがった」

 

「対魔法師に特化したお前でなくては六人の魔法師を瞬殺することなど出来ないと思うがな」

 

 

対魔法師の魔法師(・・・)

魔法を使えない(・・・・)魔法師。

それが桐生薫だ。

 

 

 

「流石、師匠が自分以上(・・・・)と称する天才だ」

「少し特殊な魔法を使えるだけだ、地力はたぶんアイツの方が上だろうな」

 

 

 

矛盾(コントラディクション)』。

魔法の干渉を封じる魔法。

彼女を対象としたありとあらゆる魔法を無効にする魔法。そのため薫は他に一切の魔法を使えない。

 

魔法でありながら魔法を消し去る。

故に矛盾。

 

薫のBS魔法はBS魔法の中でも異質のものであり、その特殊性は達也の『分解』や『再生』以上だろう。

 

 

 

 

「さて、どうする?なんだか大騒ぎになっているみたいだが、脱出できんのか?」

 

 

 

戦闘を終えた二人はエレベータが停止していたため非常階段を使って一階まで降りてきたわけだが、火災の放送がされたために、警察や消防隊員、報道陣が詰めかけており、まともに出ていける状況ではなかった。

 

 

 

「関係者専用の出入口に行こう。そこも無理そうなら、ほとぼりが冷めるまで待つしかないな」

 

「それは面倒だな」

 

 

 

達也と薫は知らぬことであるが、火災の発生が誤報であることは既に警察、消防にも知れ渡っており、現在は確認といったところになっている。報道関係者も今は有名なショッピングタワーの不祥事に集まっているだけだ。

それゆえに、わざわざ関係者入り口にまで人がいることはなく。

 

 

 

「大丈夫そうだな」

 

 

そう。

関係者入り口にまで人がいる、なんてことはなく、出入り(・・・)は自由となっている。

 

 

 

「達也!薫!」

 

 

 

だから、美月もここにこれたのだ。

 

ショッピングタワーに戻ってみれば、そこには警察や消防だけでなく報道陣までもが押し寄せており、火災があったらしい、なんて話だった。

そんな話を耳にすれば、居ても立ってもいられない。

近くにいた人から携帯端末を借りて、覚えていた達也と薫の番号に電話をかける……が連絡は一向につかない。

 

どこかに避難していて、単純に電話には気がついていないだけかもしれない。

でも、達也や薫が心配しているだろう自分や深雪に連絡をしないなんてことがありえるのだろうか。

 

この時、美月は混乱していた。

自分が携帯端末を持っていないことも、深雪との連絡手段がないのだということも、全て頭から飛んでいた。ただ、なんとかしなければと、それだけしかなかった。

 

 

美月は感情が高ぶると歯止めがきかなくなるときがある。楽しいときはより楽しく、悲しいときはより悲しく……そして不安なときはより不安になってしまう。

 

 

だからここまで来た。

関係者入り口なんてものがあることなんて知らなかった。ただショッピングタワーの周りを走り回って達也達を探していた時、たまたま見つけたのだ。

 

 

「なんでここに……深雪は?」

 

「はぐれちゃって、そしたら火事で、二人がいなくて、走って、それで……うぅ」

 

 

薫に抱きつこうとしたものの、達也を盾にすることで回避されるが、そのまま達也に抱きつく。

支離滅裂、ただ思いつくままに言葉を口にした。

今はただ二人が無事であったことを確かめたかった。

 

 

「火事は誤報だ……すまない、心配をかけた」

 

「うう、達也なんて心配してないからね!ぼくが心配していたのは薫なんだからね!」

 

 

二人が無事であったと分かると、泣きながら抱きつく自分が恥ずかしくなってきた。

達也に頭を撫でられ、安心している自分に顔が赤くなる。

つい、心にもないことを言ってしまう。

 

 

達也にもそれが分かった。

 

美月が自分を心配してくれたことが嬉しい……ような気がする。

いや、嬉しいというのとは少し違うような気もする。

 

これは……この気持ちは……。

 

 

 

 

「達也!」

 

 

 

達也も薫も、戦いに慣れているかもしれない。技術も経験も一流といって遜色ないレベルだろう。

 

 

それでも彼らは中学生なのだ。

 

 

この瞬間、この一瞬、美月という日常との再会が彼らを緩ませた。

 

 

 

精霊の眼の効果範囲外からの狙撃。

一流の狙撃主なのであろうスナイパーの銃弾は正確無比に美月の心臓へと飛んでいき……。

 

 

 

「……たつ……や?」

 

 

 

寸前で庇った達也の腹を後ろから貫いた。

 

美月の瞳に写る達也の血。

抱き締められていた達也の腕から力が抜けていき、自分の元を離れて倒れていく。

 

 

死んだ。

達也が死んだ。

 

 

視界の赤が、独特の鉄の匂いが、伝わる温かな熱が、美月にそれを感じさせた。

 

 

実際に達也が死ぬことはない。

この程度(・・・・)の怪我ならば『再生』で元通り。

一瞬後には無傷で美月を抱き締められたはずだ。

 

しかし、その事実を美月は知らない。

ただ目の前の事象が美月の現実で、達也が再生する前に美月は一言呟いた。

 

 

 

「……達也が死んだ」

 

 

 

 

その日、一つのビルがこの国から消滅した。

予兆もなく、音もなく、そこには何もなかったかのように、綺麗さっぱり消え去った。

 

 

 

 

そして、『魔神』は誕生したのだ。

 

 

 

 




─そのころの深雪さん─


Σ(゜Д゜)深雪「美月がいない!?」


(´・ω・`)深雪「携帯に連絡を!……出ない……」


ミヅキー! L(゚□゚ L)Ξ(」゚□゚)」ミヅキー!深雪「美月ー!美月ー!?」


(つд;*)深雪「はぐれた……」



美月を探し回った後、一人公園のベンチでショボくれていた……。


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第二十一話 四葉家

疲れたよ……。
冬コミ、一日目でダウン。残りは友人に託し、冬コミ分のエネルギーをここに回しました。




ぼくは今、深雪と達也の実家に来ている。

 

達也たちの名字は司波だけど、実家の姓は四葉らしく、魔法業界ではかなり有名な家らしい。

 

 

旧長野県との境に近い旧山梨県の山々に囲まれた狭隘な盆地に存在していて、地図にすら載っておらず宅配システムが利用できないという、インドア派にとっては辛すぎるとんでもない田舎だから、長距離の移動となり、ぼくはもうお疲れだ。

 

これから、ここの当主だという達也たちの叔母さんに会うことになっているのだけど、正直眠たくてそれどころではない。

 

第一、まだ両親にもあったことがないというのになんで最初に叔母さんからなのか。

 

お父さん、娘さんをぼくにください!を言うタイミングが中々ないので困っている。

叔母さんが四葉家では一番権力を持っているらしいから、叔母さんに頼めばくれるのだろうか。

 

うん、そう考えると少しやる気が出てきた。でも眠い。

 

 

 

「美月、しっかりしなさい」

 

「んー、大丈夫さー、ぼくはしっかりしてるなうー」

 

 

 

なんだかここ最近ずっと眠い。

先週の日曜日、達也たちとショッピングタワーに行った時も途中で寝てしまったらしいしね。

深雪に着替えさせられて、とても恥ずかしかったというのは覚えているんだけど……その後の記憶がないから、たぶん恥ずかし寝したのだろう。

気がついたらキャビネットに乗っていた。

 

思えば集合も朝早かったし、運動もして疲れていたのかもしれない。

 

今日だって朝の五時に起きて、すごく眠いのに無理矢理引っ張れるようにして、家まで迎えに来ていた車に乗せられて……そこからはほとんど記憶がない。

なんか深雪が礼儀作法についてとか語っていた気がするけど全然聞いてなかった。

 

とりあえず、ペコペコしておけば大丈夫かな?

 

 

「本当に大丈夫なのかしら……」

 

「……美月のことは叔母上も分かってくださっている。強い眠気が症状の一つであることもな」

 

 

謁見室と言うらしい部屋でぼくは達也と深雪と叔母さんが来るのを待っているんだけど、もう眠さが限界に近い。

流石にこんなにずっと眠いのはまずいのではないかと自分でも思うけど、達也のすすめで、何日も学校を休んで検査してみた結果、特に異常はなかったという。

達也の話では、魔法師が魔法を覚えたてに、このような現象が起きるらしい。

 

 

「美月、眠っていていいぞ。まだ叔母上がいらっしゃるまで時間がかかるだろうからな」

 

 

なんだか最近妙に優しい達也が良いというので、眠気に身を任せることにする。

 

ふかふかなソファーは、ぼくを簡単に眠りの世界へと誘った。

 

 

 

 

 

四葉家当主、四葉真夜が部屋にやって来ても、達也は美月を起こすことはしなかった。

そしてそれを、真夜も咎めることはなく、今日の本題へと入っていく。

 

 

「『魔神』のことは四葉の外部には漏れていません……今のところは、という注釈がつきますが」

 

 

「その辺は抜かりなく。『魔神』の発動条件が正確に把握できるまで美月には魔法を使わせません」

 

 

 

真夜の言葉は存外に今後も外部に情報を漏らすな、ということに他ならず、達也もそれを理解している。

 

 

 

「三日程美月を検査して分かったのは、美月の瞳は『霊視放射光過敏症』などではないということです」

 

 

 

本人の自己申告によって美月が霊視放射光過敏症であることを知っていた達也は美月から聞いていた症状を常々疑問に思っていた。

 

定期的に症状が強くなる、つまり普段より強く見えるようになることがある、と美月はいうが、特に体調が悪いわけでもないのならそれはおかしい。

そのような症状は霊視放射光過敏症では報告されていない症例だ。

 

そしてもっともおかしいのが美月の能力。

 

霊視放射光過敏症の状態だと、人の心が読める。

見える光の揺らぎや色で何となく分かるというのだ。

実際に真偽は確認しており力が本物であることは理解しているがそれでも信じられない程に破格の力だ。

 

勿論これも通常の霊視放射光過敏症ではありえない。

 

 

 

「霊視放射光過敏症にはない症状が見られますし、美月の眼としての機能は常人のそれを越えています。今の美月には飛んでくる銃弾さえも捉えることができるでしょう」

 

 

そして、ショッピングタワーの一件から美月の瞳は完全に常識を逸したものとなった。

本人はまだ気がついていないが、それは無意識に本人がコントロールしているからだろう。

 

 

 

「美月の瞳の異常性は美月の魔法の副作用……というより俺の『精霊の眼』のような魔法の副産物である可能性が高いです。

 

美月の魔法、推測では『眼で見たあらゆる魔法を解析し、理解する』能力『魔神の眼』、そのおまけが美月の異常な視力でしょう。

 

美月の異常な眠気はこの視力の急激な上昇による一時的なもののようです」

 

 

 

達也のとんでもない報告は一度、説明を受けているとはいえ信じがたいものだった。

何も聞かされておらず、全く話についていけてなかった深雪が、思わず声を上げてしまいそうになったのも仕方がない。

 

 

 

「……現に達也さんの魔法を美月さんは『理解』したのよね?」

 

「ええ、実際に使用したところを見ましたから。

それもビル一つを丸々消し去るという大規模な形で、です。……あの時、俺は美月を庇いながら咄嗟に『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』をスナイパーに放ちましたから、その時、『理解』したのだと思います」

 

 

 

あの日、四葉からの襲撃を受け、達也は被弾しながらも、銃弾の軌道から精霊の眼で捉えたスナイパーを『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』で消し去った。

しかしその直後、そのスナイパーのいたビルが丸々消え去ったのだ。

 

達也は何もしていない。

 

 

そして達也の精霊の眼は魔法を使った人物を正確に捉える。

そこには、虚ろな目で涙を流しながら、右手をどこか遠くに伸ばした美月がいた。

 

 

 

雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』は、とてつもない殺傷性を誇る分解魔法で、軍事機密指定されているほど強力な魔法だ。

 

物質の構造情報に干渉することにより、物質を元素レベルの分子に分解する魔法であり、現代魔法において最高難度の魔法に属するだろう。

 

 

つまり美月はそれをほんの一瞬目にしただけで、即座に使用したのだ。

 

 

 

「眼で見たあらゆる魔法を解析し、理解する……そんなことができたのなら、それは神にも等しい力よ……魔法の神……『魔神』」

 

 

『魔神』。

四葉真夜によって命名された美月の二つ名。

それは美月の魔法であるとされている『魔神の眼』と意味を同じくする、正に神の力の体現者。

 

 

「四葉が最初に発見できたのは最高の幸運だったわ」

 

 

真夜は戦慄する。

 

もし、この力が他家に渡っていたのなら……それだけでこの国の魔法師の勢力図は大きく覆ることになる。

それほどの力だ。

何せ、如何なる魔法でさえ、自分のものとし、理解できるのだから。

 

 

達也に悪い影響(・・・・)を与えるからと処分することにしていたが、こうなってくれば話は変わってくる。

 

 

 

「彼女は四葉が手に入れます……そのために……」

 

 

 

真夜の中で美月を手にいれることは決定事項だった。そのためなら如何なる犠牲、如何なる手札をも切る覚悟。

 

 

 

「柴田美月さんを達也さんの婚約者とします。これは四葉家当主としての決定です」

 

 

 

つまり、達也さん大勝利というわけだった。

 

 

 

美月のあずかり知らぬところで、事態は急展開を迎える。

 

 

それはつまり、娘さんを下さい!の前に、自分が貰われるかもしれないということだ。

 

 

 

美月を落とすためならば、本気の四葉のバックアップを受けられる達也……。

 

 

 

美月はもう、逃げられそうにない。

 




─そのころの深雪さん─


(・_・?)深雪「(えっ、美月を起こさないのですか?)」

“□ヽ(・_・。)フキフキ 深雪「(魔神……?二人は何の話を……あっ美月が涎を……拭いてあげないと……)」


(´・ω・`)深雪「(魔神の眼!?……私、何も聞いてない……)」


(゚ロ゚; 三 ;゚ロ゚)深雪「(ここここ婚約……!?いえ、きっとこんにゃく……!?こんにゃ、にゃ、にゃにゃ!)」




(゚ー゚?)達也「叔母上、そういえば何故深雪には今日まで秘密だったのですか?」

(*゚∀゚)ハァハァ 真夜「この反応を見るためよ」




今年最後の投稿。
後数話で原作突入!原作キャラもガンガン出していきます!

さて、明日も0時に投稿します。
それでは皆さん、良いお年を!


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第二十二話 婚約と挨拶

明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!


起きたら、達也の婚約者になってた。

 

何を言っているのか分からないかもしれないけど、ぼくも良く分かっていないので仕方がない。

 

達也の話だと、まず、ぼくが眠っているところに叔母さんはやってきた。

随分と気持ち良さそうに眠っていたので起こすのは可哀想だということになり、そのまま達也たちと話をして、達也たちの話を聞いた叔母さんはぼくを痛く気に入り、ぼくを達也の婚約者にしたという。

 

 

うん、意味が分からない。

ぼくは眠っていただけなんだけど……。

 

 

というか、そういうの本人の許可なく決めますかね!

ぼく達也と婚約するなんて一言も言ってないんだけど!

 

 

そんなことを達也に言うと「俺達は付き合っているのだから、婚約したところでそう変わるものではないだろう」とのこと。

 

変わるに決まってるよね!?

ぼく、今までの偽恋人から親公認の婚約者にグレードアップしてるじゃん!そうなったらもう本物じゃん!

 

 

当然ぼくは断ろうとしたわけだけど、なんか四葉家の当主というのは凄い地位らしく、当主の決定は覆らず、断ろうものなら、どんな手を使ってでもぼくを達也の婚約者にするだろうとのこと。

 

 

何それ怖い。

 

 

流石に盛りすぎだろうけど、ぼくが断ったら面倒くさいことになるのは確かだろう。

 

 

 

だからぼくは逆に考えた。

達也と婚約し結婚した時のメリットを……。

 

 

まず一つ目に、達也の家は結構お金持ちらしいからお金には一生困らないだろうということ。ぼくも仕事して、父よりもお給料を貰っている状態(父、涙目)だけど、誰だって仕事なんてしたくない。

絵を描くのは好きだし、いくらだって出来るけど……締め切りは嫌だ。借金をしてお金を取り立てられる人の気持ちが良くわかる。

電話の音が鳴る度にガクガクと震えることになるし、締め切り間近にミスに気がついたりすると、デスマーチ確定コースだ。

 

達也と結婚すれば仕事をする必要はなくなり、好きなときに好きなだけ絵をかけるだろう。

これは嬉しい。

 

 

二つ目は、達也相手ならぼくの性癖を隠す必要もないということだ。

普通女の子大好き!なんて言っている女子と結婚しようなんて思う男はいないだろう。ぼくは一生独身上等だったけど、世間体も悪いし、ちょっと寂しい。

その上、達也ならきっと結婚した後、ぼくが女の子を追いかけ回していていても、許してくれそうだ。たぶん、「そうか、俺に迷惑をかけるなよ」みたいな感じで。

 

 

そして三つ目にして、最大最強最高のメリット……それは……なんと、深雪が義理の妹になるのだ!

 

これは駄菓子のおまけに世界一周旅行が付いているようなものである。

あの深雪が、お姉様、お姉様と慕ってくれる(妄想)のなら、達也と結婚しちゃってもいいかな、と思えるくらいには。

 

好きなときに好きなだけ絵を描いて、親友として薫を、義妹として深雪を、愛でて過ごす人生……。

 

 

なんて素晴らしい。

 

 

こう考えるとデメリットは、ぼくが男と結婚するなんて嫌だ、と思っていることくらいだ。

 

 

これなら別に婚約くらいしても良さ気だよね。

もし、嫌になったら解消すれば良いだけの話なんだから。

 

 

というわけで、ぼくは達也の婚約者になったのでした。

最初は達也と深雪に叔母さんを紹介すると半場拉致気味に連れていかれただけだったのに。

 

本当、どうしてこうなったの?

 

 

 

 

 

 

婚約に伴って、達也がぼくの家に挨拶に来た。

 

ぼくの母は翻訳家で年中家にいる引きこもり。不器用で、料理があまり上手くないため、この家の料理担当はぼくである。

 

父は至って普通のサラリーマン。

そこそこ大手の出版社で働いていて、中々の地位らしいけどあまり興味がないので良く知らない(父涙目)。

母とは本好きが高じて知り合ったのだそうだ。

 

 

そんな二人は達也のことをそれはもう大歓迎だった。

ぼくは昔、今以上にオープンな女の子好きだったため、両親にもバレており、ぼくが男の彼氏、それどころが婚約者を連れてきただけでお祭り騒ぎだった。

 

娘の将来を本気で心配していたらしい。

それは本当に申し訳ない。

両親を安心させられる、というだけでも達也には感謝したい。本当に特殊な娘で、二人には苦労をかけたから。

 

 

達也は大歓迎の両親に戸惑っており、それを見ているのは面白かった。なんでも達也の両親はほとんど家に帰ってくることはなく、会社から近い別宅とやらでほとんど過ごしているようなのだ。

仕事が忙しいとはいえ、中学生の兄妹を二人残してほとんど家に帰らないというのは如何なものだろうとは思うが、二人はあまり両親のことが好きではないらしくその方が気楽なんだとか。でもそれって悲しいよね。

 

それならまだ、日常的に、仕事に熱中するあまり飲食を忘れて死にそうになっている家の母の方が万倍マシだ。

 

たまには二人を家に招待して、ご飯を作ってあげようじゃないか。二人よりはきっと賑やかで楽しくなるはずだ。

そう言えば達也は柔らかく笑って「……ああ、美月が大変じゃないならお願いするよ」なんて言いながら頷いた。

 

本当の理由は達也が深雪と二人で毎日お食事なんてずるいからだけどね!?別に照れてるわけじゃないけど!照れてるわけじゃありませんけど!?

 

 

ま、まあ、そのあと達也がぼくの作った夕飯を食べて「美月の料理というからどんなものが出てくるかと思ったが……本当に旨いな、驚いた」なんて抜かすもんだから、拳骨を食らわした。

 

両親がすごい謝って、逆にぼくが怒られた。

ぼくみたいなのを貰ってくれる男はそういないから大人しくしておけ、らしい。酷い。

 

 

そんなわけで、達也はぼくの両親にも気に入られ晴れて?正式な婚約者となったわけだ。

ぼくは達也の両親に挨拶しに行かなくて良いのかな、と聞いてみたら叔母さんが良いと言ったならそれで良いらしい。達也の家は中々に複雑らしい。

 

 

 

それはそうと、何故かどんどん追い込まれているような気がするんだけど、気のせいだろう。

 

 




─そのころの深雪さん─


((*゚д゚*))ソワソワ…深雪「(今頃、お兄様はご挨拶に……落ち着かない)」


(−_−;)深雪「(私が選んだお洋服で大丈夫だったかしら……お兄様ならどんなお洋服でもお似合いだけど……もっと良いものがあったんじゃ……)」


Σ(;´□`;)深雪「(お夕飯は美月のお家でご馳走になってくるのよね……あっ……じゃあ、今日は私一人……?)」


(つд;*)深雪「……寂しい……」モグモグ



その日の深雪さんはちょっと甘えん坊だったという。




どんなシリアスもその可愛さでぶち壊す……深雪テロシリーズ化!
そのころのシリーズは本編で出番のなかった子に出番を与えられるので多用していきます!

次話からじゃんじゃん原作キャラが登場する予定なので誰が登場するのかお楽しみに!


さて、明日も0時に投稿します。


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第二十三話 美少女マネージャー降臨、そして年上美少女も降臨

最近、サブタイトル考えるのがツラいです……。


最近、とても嬉しいことがあった。

 

 

相変わらず、放課後は達也によってフォア・リーブス・テクノロジーへと連行され、魔法漬けの毎日だったのだけど、母が無限に仕事を持ってくるため仕事が忙しすぎて無理だと愚痴ると達也の魔法授業がしばらく休みになった後、マネージャーが派遣されてきた。

 

 

桜井水波ちゃんというのだけど、とにかく可愛い。ぼくより一つ年下で中学二年生なんだけど、落ちついたちょっとクールなところが良い。

なんでも、将来的には四葉家が援助している企業でマネージャー業をやりたいらしく中学生のうちから勉強をしているんだとか。

ぼくが大変だと知った達也が、四葉に相談してくれたようなのだ。水波ちゃんのお給料は四葉から支給されてるからぼくに負担はない上に、可愛い。

 

そして水波ちゃんは可愛いだけじゃなくて、仕事もできる。マネージャーと言っても水波ちゃんの仕事は母が受けてきた仕事の調整で、母が今まで同様大量の仕事を受けてきているのに、調節が絶妙で前よりは全然楽だ。

 

水波ちゃんと直接会えるのは二週間に一回くらいなのだけど仲良くしたい。頭を撫でたりして愛でたい。

 

そんなわけで、今日はその水波ちゃんと会える日なのだけど……なんか、黒い車に拉致されました。

 

 

 

「少し急ぎの仕事があったので、お迎えに」

 

 

二週間振りの水波ちゃんがその車には乗っていて、ぼくは拉致されたわけではないというのがすぐに分かるんだけどね。

でも普通、学校が終わって帰ろうと正門を出たところで、目の前に黒い車が止まり、そこから出てきた黒いスーツの人たちに囲まれて、そのまま車に乗せられたら、拉致されたと思うよね!

怖かった!軽く泣きそうになったよ!

 

 

 

「水波ちゃん、そういうことはもっと早く言おうよ!こんな拉致みたいなことしなくてもさ!」

 

「達也様から『確実に逃げるからギリギリで拉致するように』と」

 

「達也さん!?えっ、水波ちゃんどんな仕事なの!?ぼくが逃げるような仕事なの!?」

 

「いえ、ただ少しパーティーに出席していただければ」

 

「降ろして!ぼく帰る!」

 

 

 

パーティー。

水波ちゃんの言うパーティーというのは一家族が行うようなホームパーティーではなく、著名人が集うヤバそうなパーティーだろう。

前に達也が、四葉の叔母さんがそういうパーティーに出席して礼儀作法や立ち振舞いを今のうちから覚えてさせておくよう言われた、みたいなこと言ってたから全力で拒否しておいたのに!

なんでも四葉家の人間になったらそういうパーティーに出席する機会もそう少なくないようだけど、そんなのなってから考えれば良いじゃない!

きっと大人のぼくが何とかしてくれるから、今じゃなくていいよね!

 

ぼくが水波ちゃんにそんなことを熱弁すると、意外とあっさり降ろしてくれた。

流石水波ちゃん!可愛いよ!

 

 

 

「では、ここで一旦ドレスに着替えて頂きます」

 

 

違った!ぼくの話なんて一ミリも聞いてなかったよ!

 

 

水波ちゃんの一言で、黒服たちによって無理矢理とあるホテルの一室に運ばれると、そこには沢山のきらびやかなドレスや宝飾品が……えっこれぼくがつけるんですか?

 

何も分からないまま、水波ちゃんと、なんかコーディネーター?みたいな人の手によって着替えさせられ、メイクされ、髪型もなんか良い感じにさせられて、再び車へ。

この間、驚異の三十分。

 

そして、目的地であるらしい豪華な洋風の邸宅の近くに到着した。

 

 

「それではこの招待状を持ってあちらへ向かってください。

時間になりましたらお迎えに上がりますのでご心配なく」

 

「心配しかないよ!えっここからぼく一人で行くの!?」

 

 

ぼくの心からの叫びを、水波ちゃんは心底冷たい目で一蹴。

 

 

「当たり前じゃないですか。『月芝 美』の仕事なんですから」

 

 

ぼくをその場に放置して、さっさと帰ってしまった。

どうすればいいのさ、この状況……。

 

 

 

 

 

 

 

七草真由美の周りに美月のような人はいなかった。

 

元々、十師族というお堅い家柄に生まれたこともあり、真由美のまわりに集まるのは自然、『お嬢様』なことが多い。高校に入ってからは、渡辺磨利という、お嬢様とは程遠い(褒めている)親友にも出会え、そんなこともなくなっているのかもしれないが、こうした社交的な場となれば話は別だ。

 

やはり、こういった場にくる子供というのは、誰も彼もが所謂『良いところの子供』であり、将来への糧、交遊関係の拡張など、目的を持ってやってきている。

 

そして皆が自分を七草真由美としてではなく、十師族の、『七草の長女』として見てくるのだ。

 

それが当たり前であり、当然。

 

責任ある立場に生まれ、いずれは七草を背負う者としての自覚はあるし、理解もしている。

 

が、それでもこういったパーティーは好きにはなれなかった。

作られた笑みに、作られた笑みで返し、腹と腹の探り合いに疲弊するだけ。

 

今日もまた、この退屈で憂鬱なパーティーを七草主催であるが故に壁の華となることもできずに、七草の長女としての責任を果たすため耐え抜かねばならない。

 

 

内心ため息を吐きながらも、表面上は笑顔で未成年組のために用意されているジュースの入ったグラスを傾ける。

喉を潤す柑橘系のジュースの僅かな酸味が気付けには丁度良い。まだまだ続くパーティーにこのままの調子で挑むことはできない。

七草の長女として無様を晒すわけにはいかないのだから。

 

真由美は気合いを入れ直し、会場全体へと目を向ける。

 

そこで偶然目に入ったのが柴田美月だった。

このパーティーに参加しているのは、日本で権力を持つ家の者ばかりであり、真由美は全員の顔と名前をほとんど漏れなく覚えている。その程度のことが出来なくては十師族の一家、七草の長女としては落第だ。

 

その真由美が全く知らない顔。

真由美の頭にいくつかの可能性が浮かぶ。

どこの家の娘には会ったことがない、そういえばあの家の娘が……等々、考えれば可能性はいくらでもある。

 

しかし、どこの家の者であれ、顔繋ぎはしておくに越したことはない。

見たところ同年代、やや年下に見える彼女はまだ友人と呼べる者がこの場にいないようで一人でキョロキョロしている。場慣れもしていないのだろう。

顔繋ぎ云々をなしにしても、手助けしてあげよう。

そう考えた真由美はなるべくフレンドリーに優しく声をかけた。

突然声をかけられて緊張してしまうだろうと考えたからだ。

 

 

 

「貴女、こういうのは初めて?」

 

「えっ、はい。ぼく気がついたら、ここに連れてこられて、良く分からなくて」

 

 

若干涙目になっている様子を見るに本当にどうすればいいのか分からずにいたようだ。気がついたらここに連れてこられた、というのもきっと緊張し過ぎてコチコチに固まってしまい、記憶が曖昧になってしまっているのだろう。

ぼく、という一人称、所作からするに場慣れしていないのは明らかだ。

真由美は妹がぼくという一人称で何度か注意されているのを目にしており、ついつい美月に妹を重ねてしまい世話を焼きたくなってしまう。

妹云々を抜きにしてもそうしたくなる何かが美月にはあった。

 

 

「まずは自己紹介からしましょうか、私は七草真由美。貴女は?」

 

「ぼくは柴田美月です」

 

 

七草という名前に特に反応することもなく、やや緊張した面持ちで自己紹介する美月。

今日のパーティーの主催は七草であり、自惚れでもなんでもなく、ただの事実として七草という家は今日のパーティーでもトップクラスの家だろう。多少は反応があってしかるべきなのだが、それがない。

そもそも、柴田という姓は今日のパーティーの主な出席者にはおらず、真由美の中の社交界リストにも特に名前はない。

 

 

「あっちでお話しましょうか?大丈夫、私がいればそうそう声をかけてくる人もいないでしょうから」

 

 

ね?っと、ウィンクと共に真由美が提案すれば美月は小さく頷いた。

 

 

──これはナンパか!?ナンパなのか!?やったよぉぉおお!美少女からのお誘いキター!イエーイ!

 

 

尚、美月の脳内はお祭り騒ぎとなっているがそれは真由美の預かり知らぬところである。

 

 

 

「今日は何方と一緒に出席したの?」

 

「ぼく、一人です。こういうパーティーって初めてでどうしたら良いか……」

 

 

不安そうに涙目で頼ってくる美月に真由美は庇護欲をそそられずにはいられない。人目がなければ抱き締めたいくらいだった。

 

 

 

「初めてで一人じゃ不安よね、大丈夫、今日は私が付いていてあげるから」

 

 

 

こうして美月は真由美のサポートもあって、なんとか初めてのパーティーを乗り越えたのであった。

 

 

 

「ねぇ美月さん、この後何か用事ある?」

 

 

 

そしてパーティーを乗り越えた先にはご褒美があったらしい。

 

 

──ありがとう水波ちゃん!こんな美少女と仲良くなれるなんて、パーティーって凄いね!

 

 

 

美月は真由美の私室に招かれたのだった。

 




─そのころの水波ちゃん─


(´・ω・`) 水波「……迎えに来たものの、一向にこない……もうパーティーは終わっているはずなのに……」


(;゚д゚)ァ.... 水波「時間間違えちゃったかな……」


{{(ノω・、`)}} 水波「……寒い」



美月が来ないことに責任を感じた水波は一人、外で待ち続けていた。




( >д<)、;'.クシュン! 水波「……くしゅん!」







実は十五話のおまけで真夜さんがフライング出演していたりする……(コソッ)

さて、明日も0時に投稿します。


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第二十四話 可愛い二人

ただのイチャイチャ回です。
サブタイトル思いつかない……。


真由美は自分の胸に手を当ててため息を吐いた。

 

 

「真由美さん?どうかしたんですか?」

 

 

それは目の前でお菓子をパクつきながら、のほほーんとしている少女に触発されてのことだった。

 

真由美の視線の先には中学生にしては些か発育の良すぎる胸が。

小柄なわりに大きな方であると自負している真由美ではあるがそれでも自信を無くさずにはいられない。ブティックやエステサロンでいくら褒められても、こうして実際に目の当たりにすると、やはり落胆する。

 

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 

そんなことで落胆していたと美月に悟られるわけにはいかない。美月の前では頼れるお姉さんでいたいのだ。

 

 

 

「真由美さん、国立魔法大学付属第一高校に通ってるんですよね?」

 

「ええ、私、これでも魔法師志望だから」

 

 

真由美が魔法師志望であることは彼女が七草であるのだから当然のことなのだが、七草の意味を知らない美月にはそんなことは分からない。

だから、真由美が会話の中で何気なく話した『一高』というのが、本当に自分の思う『一高』、『国立魔法大学付属第一高校』であるかの確認が必要だった。

 

 

「へー、実はぼくもちょっと魔法を使えたりするんですよー」

 

「ええ!?」

 

 

真由美が驚くのも無理はない。

実用レベルで魔法を発動できる中高生は、年齢別人口比で1/1000前後。

そしてそのほとんどは名の知れた家の者であり、そうでなくとも比較的裕福な家の者が多い。

 

真由美は混乱しかけた頭をなんとか落ち着けて考える。

美月の惚けた、ゆるい雰囲気で勝手に魔法師ではないと思ってしまっていたが、美月がそうである可能性も0ではなかったのだ。

このパーティーに出席しているということはある程度裕福なのだろうし……と改めて美月を見てみる。

 

 

可愛い、というのは贔屓目ではない。

ふわふわとした髪も大きく少し眠そうな黄金色の瞳も、庇護欲をそそられるお人形のような可愛さだ。

そして、大きな胸に、それを強調するかのように引き締まったウエスト。スラッとした手足も白くて長い。何か運動でもしているのかプロポーションが羨ましい程に良いのだ。

私ももう少し胸にボリュームが……と意識が他に逸れそうなのを赤面しつつなんとか防ぐ。

 

 

「真由美さん?」

 

 

小首を傾げて見上げてくる美月。

その可愛さに思わず抱き締めそうになるが、そんなことをして変な誤解を与えるわけにはいかない。

真由美は警戒心の強い小動物のような後輩、中条あずさを思い浮べて、もっとなついてくれるまで我慢しようと決意する。

美月にとってはいらぬ我慢であるが。

 

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 

誤魔化すように視線を美月の首もとへと移す。

そこにはシンプルなデザインのネックレスが下がっており、白い肌の上で輝いている。

真由美にはそれがとても高価なものであることが一目で分かった。

真由美とて七草の長女、高価なアクセサリーを身につける機会は幾度もあり、ある程度、目利きはできる。

 

やはり美月は裕福な家の者だったようだ。

自分が知らなかったのは、芸能人や小説家なんかの本名とは違う名前で活動している人間の娘や孫なのだろうと予想する。

 

 

「じゃあ美月さんも魔法師志望なのね」

 

 

前述の通り、実用レベルで魔法を発動できる中高生は、年齢別人口比で1/1000前後。

魔法が使えるというのはそれだけ希少な才能であり、必要とされている才能でもある。

魔法を使ってみたいと、誰もが一度は思うものだが、本当に使えるのはほんの一握りなのだから。

 

そして魔法を使えるなら進学先として一度は考えるのが国立魔法大学付属高校だろう。

真由美は美月の実家がどこかは知らなかったが、中学生である美月が平日のこのパーティーに参加しているなら東京都内、少なくとも関東圏の人間だろう。

であるならば真由美の所属している国立魔法大学付属第一高校に入学する可能性は高い。

 

 

 

「もしかして、私の後輩になったりする?」

 

 

真由美はキラキラと輝いた瞳で美月の両手を包むようにして掴み、顔を至近距離まで近づけて尋ねた。

美月が後輩になったらなんて素敵なんだろうと、気持ちが弾みすぎた結果だった。

 

 

「へ、あっ、その、ぼくは芸術科高校に推薦貰っているから……えっとごめんなさい!」

 

 

美月は至近距離に近づいてきた真由美に大混乱しており、そわそわとしながらも何とか答えた。

どうやら美月は迫られると弱いようだ。

 

 

「ああ!謝らなくていいのよ!私こそごめんなさい、貴女が後輩になったらどんなに素敵だろうってちょっと焦り過ぎちゃったの」

 

 

美月の反応から自分の大胆な行動に気がつき、少し照れたように顔を赤くして、モジモジとしている真由美はとても可愛く、美月は歳上であることも忘れて頭を撫でて愛でたい気持ちにかられる。

 

 

「真由美さん可愛い!」

 

「あ!……もう、私の方がお姉さんなのに」

 

 

我慢出来ずに真由美を胸に抱いて抱き締める。

頭を撫でられながら頬を膨らませている真由美も、そう気分を害しているわけではなさそうだ。

ただ、お姉さんでいたい真由美としては少し不本意で膨れているのだろう。

 

 

「でも残念ね、美月さんが後輩になったら学校生活も、もっと楽しくなったでしょうに」

 

 

一旦落ちついた後、まだ赤みの残った顔で真由美は言う。真由美はこの短時間で美月を大層気に入っており、学校の後輩、中条あずさ、通称あーちゃんと並べて愛でたいと目論んでいた。

 

 

「ぼくも……真由美さんみたいな先輩がいたら……その、嬉しいかな……なんて思っちゃったり?」

 

 

素直に褒められて照れ、真由美から顔をそらしてそう答える美月。

勿論、顔は赤く染まっている。

 

 

「可愛い!」

 

 

真由美はもう辛抱たまらなかった。

 

 

「ひゃい!?」

 

「もう、どうしてこんなに可愛いのかしら!美月さん家の子にならない!?」

 

 

真由美から頬擦りしそうな勢いで抱き締められ、色々と柔らかいものが当たっている上、至近距離に真由美の顔があって美月は目をぐるぐると回して、完全に真由美の勢いに押されていた。

 

 

「はにゃ~」

 

 

こうなるともう美月は使い物にならない。

 

後は真由美の良いようにされるだけだった。

 

 

「可愛いわ~っ!」

 

「うぅ~っ!」

 

 

このあと真由美が正気に戻り、美月が気を失うまでこのカオスは続くのであった。

 

 

 

 




─その後の二人─

七草邸近辺の駐車場にて。


ヽ(´Д`;)ノ美月「ごめんなさい!」


(≧へ≦)水波「………何がですか?」


(>Д<)美月「うう、水波ちゃ~ん、悪かったから許してって!」


(´・ω・`)水波「別に怒っていないので謝る必用はないです……」


(≧Д≦;)ノ美月「でも水波ちゃん泣いてるじゃん!」


(。 >﹏<。)水波「泣いてないです!時間を間違えたのかと不安に駆られながら、何時間も外で待っていたくらいで泣かないですから!」グスッ


。・゚゚・(>д<;)・゚゚・。美月「ごめんよぉぉおおお!本当にごめんよぉおお!」


結果、二人で号泣してカオスになったという。


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第二十五話 進路

ぼくはどうやら特殊な魔法を使えるらしい。

 

達也から教えてもらったぼくの魔法、『魔神の眼』はあらゆる魔法を見ただけで解析し、理解することができるのだとか。

 

魔法って見たら大体理解できるのかと思ってたけど、実際は見えもしないらしい。

達也のように特異な能力を持っている人間しかぼくの見えているように魔法を見ることは出来ず、見ただけで理解なんてことは達也にも出来ないんだとか。

 

 

ふっ、ぼくはなんて天才っ娘だったんだ。自分の才能が恐ろしいぜ。

 

とか言ってみるけど、本当に恐ろしいことが起きてしまうんだとか。

ぼくの魔法を手に入れるためならどんなことでもする、という連中が世の中には沢山いるらしい。万が一国外にでもぼくのことが漏れれば、国を越えて暗躍する奴等も現れるだろうとのこと。

 

 

達也はどうにも話を盛るから困る。

魔法を習いはじめて数ヶ月のぼくがそんなことになるわけがないじゃない。

 

 

ぼくはそう思うけど、達也と達也の実家は本気でそうなると思っているようで、ぼくにある程度の自衛が出来るようになって欲しいらしいのだ。

ぼくとしても、多少はヤバそうだと思っているので、自衛の手段は欲しい。

というわけで、この夏から九重八雲先生の元で武術を習ったり、実践的な魔法の運用方法を習ったりしているのだけど、そもそもぼくの『魔神の瞳』には、暴走の危険が伴うらしくかなり危ない代物のようなのだ。

 

以前、深雪も才能がありすぎるがゆえに普通の魔法師では到底起こり得ない魔法の暴走というのが起こっていた。

幼少の頃から魔法を学んでいたらしい深雪ですらそうなってしまうというのに、つい数ヶ月前から魔法を学びはじめたぼくでは魔法の暴走とやらもかなり危ういのかもしれない。

 

 

 

「だから美月さんには、もっときちんとした場で魔法を学んで欲しいのよ」

 

 

 

目の前でそうぼくを説得するのは、司波兄妹の叔母である妖艶な女性、四葉真夜さん。

年上の魅力というか魔力をぷんぷん感じさせる垂涎ものの美女で、ただ紅茶を口にしているだけで妖艶にぼくを誘惑してくる。

 

 

「美月さん、達也さんと一緒に国立魔法大学付属第一高校に進学してみない?」

 

 

そしてぼくは、そんな真夜さんによって、重要な選択を迫られていた。

 

 

時は二日前にまで遡る。

 

 

 

 

 

全国魔法科高校親善魔法競技大会。通称、九校戦。

 

 

日本魔法協会主催で行われる日本国内に9つある国立魔法大学付属高校の生徒がスポーツ系魔法競技で競い合う全国大会だ。

 

例年、富士演習場南東エリアの会場で10日間開催され、観客は10日間で述べ10万人ほどで、映像媒体による中継が行われている程人気のある大会なのだ。

 

 

その大会に、真由美さんは出場するようなのだ。

真由美さんは二年生ながら競技の代表に選ばれており、六つある競技の中からスピードシューティングとクラウドボールに出場するようだ。

他にもバトルボード、アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードなる競技があるらしい。

 

 

「というわけで、ぼくは応援に行きたいのですが……」

 

「無理だな、仕事がある」

 

「……ですよねー」

 

 

 

達也に、友人が九校戦に出場するから応援に行きたい!と同行をお願いしたのだが、当然とばかりに仕事があった。

達也はフォア・リーブス・テクノロジーで社員ばりに働いており、夏休みを社畜のごとく過ごしているため、休みなんてほとんどない。

まあ、達也がこうして働いているからこそ、フォア・リーブス・テクノロジーの設備を私的に使えるのであって、ぼくはその恩恵に与っているというわけだ。

仕事の合間にぼくに魔法を教える達也の熱意はどこからくるのかと言いたい。

夏休みだけで凄まじい程魔法の知識が増えました。受験生並みに勉強しているからね。

もう推薦決まってるのに、一体ぼくは何をしているんだろ……。

 

あっ、ちなみに達也を誘う前に薫と深雪を誘ったのだけど、薫には「人混みに行きたくない、興味ない、だるい」とばっさり断られ、深雪には「習い事が忙しいから」とやんわり断られた。

 

最後の頼みの綱が達也だったのだけど……駄目だったのだ。

 

うん……ぼく友達少ないね……。

 

 

 

「一人で富士演習場までいける自信ないし……あっ、そもそも泊まりじゃなきゃ無理なんじゃ……」

 

 

ぼくはちょっとだけ(・・・・・)方向音痴なので、今まで電車やバスで一人で目的地まで辿り着けたことがない。

謎の力が働いて、ぼくを目的地から遠ざけるのだ。

 

 

 

「……今からでは、もうホテルは取れないと思うぞ?九校戦は人気があるからな」

 

 

 

ごめんよ真由美さん……応援はテレビの前でするよ……。

そんな風にぼくが落ち込んでいると、達也が何やら考えてぼくに言う。

 

 

 

「少し待っていろ、当てがあるんだ」

 

 

 

この『当て』というのが四葉真夜さんだったわけだ。

そうしてぼくは九校戦一日前に四葉から派遣されてきた車に乗り込み、四葉本家に一泊することとなった。

四葉本家に一泊した後、真由美さんが出場する競技が行われる間、真夜さんが権力のゴリ押しで取ってくれたらしい会場近くのホテルに泊まる。

ぼくも達也同様仕事があるので、十日間全部、というわけにはいかないのだ。そんなことしたらまた水波ちゃんに泣かれてしまう。

 

 

 

「どう?一校に通うことによって発生する資金は全部出すし、入学までの勉強もしっかり優秀な先生をお呼びするから、貴女ならきっと合格できる。

遠慮はいらないのよ?貴女は達也さんの婚約者なのだから」

 

 

そんなわけでぼくはこうして四葉家にて、真夜さんと対面しているわけだ。

正直、芸術科高校へ進学したところで、どれだけ得るものがあるのだろうかと思っていたところはある。

一高に進学すれば、達也や深雪とまた学校生活を送れるわけで、そもそもぼくが絵を描いているのは、深雪の美しさに感動したからなのであって……。

 

 

 

 

「……すいません、すぐには答えを出せません」

 

「そう、急かすようなことをしてごめんなさい。進学先は良く考えて選ばなくては駄目よね。

お返事はまた今度でいいわよ?自分の意思でしっかり考えなさいな」

 

 

 

真夜さんはそう言ってくれたけど、実際、あまり時間はないだろう。

国立魔法大学付属第一高校は超難関校だ。

実技はともかく、筆記は達也に習っているとはいえ、ほとんど一からのスタートになる。

 

 

このまま推薦で楽々芸術科コースか。

魔法科高校を選んで一般入試の地獄の受験勉強コースか。

 

 

まずは明日の九校戦。

真由美さんの応援だけじゃなく、魔法科高校というのがどんなものなのか、その雰囲気だけでも掴めるようにしよう。

 

 

 

柴田美月、中学三年生。

進路で絶賛迷走中です。

 

 

 

 




─その夜の二人─


( ̄^ ̄)エッヘン 真夜「美月さんに進学の話はしておいたわ。達也さんの言うとおり、自分の意思で選ぶように、ともね」

(・`ω・)達也「美月は周りの環境に影響されやすいですから、その話をした後に九校戦を観戦すれば……一高を選ぶ可能性は高くなるでしょう」


|゚д゚)マサカ…真夜「……達也さん、まさかストーカーはしていないわよね?」


(・∀・)達也「する必要がありませんよ、最近では四六時中一緒にいるので」


(ノ_-;)ハア…真夜「……美月さんが少し可哀想ね……達也さんに協力するけど」


(゜ε ゜*)♪達也「ありがとうございます」





*後書き追加いたしました。




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第二十六話 スピード・シューティング

九校戦初日、今日は開会式の後すぐに真由美さんが出場する競技、スピードシューティングだ。

開会式は来賓挨拶とかあんまりなくて、わりとあっさりと終わったから良かった。九校それぞれに違う校歌があるみたいでそれを聴いているのは意外と楽しかったし。

それに……。

 

 

「……真夜さん、もしかして暇だったり?」

 

 

 

一人じゃない、というのはとても良いことだ。

ぼくの隣には日傘をさして優雅に腰掛ける真夜さんがいるのである。

 

 

 

「ひ、暇ではないわよ?ただ十師族として若い芽を今の内から見ておくのも悪くないと思ったから」

 

「じゅっしぞく?」

 

 

「……日本で最強の魔法師の家系なのだけど」

 

 

「達也が別に覚えなくていいって……」

 

「……そう」

 

 

ちょっと涙目の真夜さん可愛い。

どうやら四葉家というのは十師族とかいう家系の一つみたいで結構すごいらしい。十師族ってくらいだからたぶん十家しか存在しないのだろうし。

うん、益々真夜さん呑気にこんなところにいて大丈夫なのだろうか。

 

 

「ほ、ほらスピード・シューティングが始まるわよ」

 

 

ぼくのジトッとした目に気がついたのか、焦ったようにそう言う真夜さん。

実際、競技が始まるところだったので、真夜さん弄りはこのくらいにして、試合に集中することにした。

 

しっかり観戦できるように、ルールは確認済みなのだ。

 

スピードシューティングは『早撃ち』とも呼ばれる、規定エリア内に射出されたクレーを魔法で破壊する競技だ。

予選は、制限時間の5分間に打ち出される100個のクレーを破壊した数で競うスコア戦で、上位8人による準々決勝からは、紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色のクレーを破壊し、破壊した数を競う対戦型。

 

ルールは簡単なので、この競技のことを全く知らなかったぼくでも十分楽しめそうだ。

 

 

「なんか最前列の方にアイドルのファンみたいな人達がいっぱいいるんですけど……」

 

 

というか良く見たら皆着ている法被に『MAYUMi』って書いてあるんだけど……まさかね。

 

 

「ああ、きっと七草の長女のファンね。『妖精姫』やら『エルフィン・スナイパー』やらと随分騒がれているようだから」

 

 

そのまさかでした!

いや、そりゃ真由美さんは美人だよ?可愛いよ?でもこんなアイドルのファンみたいな人達がいるなんて思わないじゃない!ぼくだけのアイドルでいて欲しいじゃない!

 

 

 

「同じ十師族としてお手並み拝見ね」

 

 

七草って十師族だったんですね!

もしかして十師族って一から十までの数字で名字が構成されているとか、そんなことないよね?

 

 

 

「まあ、深雪さんには及ばないでしょうけど」

 

 

そしてなんか真夜さん対抗意識を燃やしてらっしゃる!?四葉と七草って仲悪いの!?同じ草系でキャラ被ってるじゃん!とかそういう感じなの!?

 

これは、今日ぼくが真由美さんを応援しにきたことは内緒にしておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

真由美さんの試技が始まると同時に騒がしかった観客が一斉に静まった。

ここまで何人かの試技を見ていたけど、やはり真由美さんの人気は別格のようだ。

空中を高速で飛ぶ標的を撃ち落とすという競技の性質上、階段構造になっている観客席の後列の方が見やすいはずなのに、真由美さんのファンは少しでも近くで真由美さんを見ようと、前列の方に固まっているのだから。

 

 

たしかに、スピード・シューティングのユニフォームなのであろう、ミニワンピースのような詰め襟ジャケットにヘッドセットと透明なゴーグルを付けている真由美さんは一見の価値があるけれど、それでいいのかファン達よ。本当のファンならば真由美さんの試合を騒ぎ立てるのではなく、静かに見守ることこそが重要なのではないのか。

で、あるならば試合内容をより把握しやすい後列に座るべきなのだ。

 

 

 

「パーフェクト。まあこのくらいは十師族としては当然の結果よね」

 

 

 

五分の試技時間はあっという間だった。

次々と不規則な間隔で撃ち出されるクレーを真由美さんは慌てることなく、一つずつ確実に撃ち抜いていった。結果は文句なしのパーフェクト。

 

ぼくのハートも撃ち抜かれました。

 

 

「ドライアイスの亜音速弾を知覚系の魔法を併用して百回……一発も外さないなんて格好良すぎる!」

 

「……良く分かったわね」

 

見えて(・・・)ましたから。ドライ・ブリザードもマルチスコープも」

 

 

格好良すぎて思わず叫んでしまった。

真夜さんにはぼくが真由美さんの応援で来たことは内緒にする方針なのだから適当に誤魔化さないと。

 

 

「ぼくも魔法の勉強をしてますからね、メジャーな魔法は大体覚えさせられましたよ。さっき見えた感じに該当する魔法はその二つで、たぶんドライ・ブリザードは原型を工夫して使っていたのではないかと」

 

 

マルチスコープは実体物をマルチアングルで知覚できる魔法だから、効率がいいドライ・ブリザードとの組み合わせであの精密な百回もの射撃を可能にしているんだろうと名探偵美月さんは予想している。

 

 

 

「それだと、手に入れた情報の処理が大変になってしまうけど……マルチサイトの訓練を積んでいたのなら可能ね」

 

 

 

その辺は良く分からないけど、とにかく真由美さんが格好良すぎてヤバい。女性ファンもいるのが頷けるよ。

 

 

 

 

「美月さんごめんなさいね、とても残念なのだけど、私忙しくて、ここまでしかご一緒できないの」

 

 

スピード・シューティングの予選が終わると、日傘をくるくると回しながら、やけに"忙しくて"を強調して、本当に残念そうな顔で謝る真夜さん。

 

からかうと、可愛い反応をしてくれるので、是非この後も一緒に観戦したかったけど、仕方がない。

 

 

「朝と同じ場所に車を待機させておくから、帰りはそれでホテルまで送ってもらいなさいね」

 

 

真夜さんは、しょぼんとしていたぼくの頭を一撫でして、どこからともかく現れたボディーガードと共にこの場を去っていった。

 

 

一人になっちゃったけど、次は女子バトルボードを観戦しようと思う。

 

水着女子……拝ませてもらおうか!

 

 

バトルボードの選手が着る水着が全くと言って良いほどに露出のないものであったことを知らなかったぼくは、一人、意気揚々とバトルボードの会場へと向かったのだった。

 

 




─そのころの薫さん─


(*`Λ´*)薫「服選びって、アタシ来る意味あったか?(これってデートなのか!?そうなのか!?誰かアタシに教えてくれ!)」

( ̄▽ ̄;)アハハ… 佐藤「僕のセンス壊滅的だからね(というか、桐生さんが来てくれないと意味がないんだけど)」


薫が美月の誘いを断ったのには実はこんな理由があったのでした。





┃壁┃д ̄) 達也「あいつも上手くやっているようだな」


そして、仕事帰りの達也さんは精霊の眼を無駄遣いしていた。






フライング九校戦編……中々カオスになりそうな予感。


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第二十七話 迷子と双子

真由美さんとはあのパーティー以降一度も会えていないが、連絡は何度も取り合っており、真由美さんはぼくのことをみーちゃんと呼び、とても可愛がってくれた。

だからぼくはせめてもの恩返しのために、この九校戦で精一杯応援しようとやってきたのだ。

 

 

なのに。

 

 

 

 

「ごめんなさぁぁあい!」

 

「いいのよみーちゃん!一人で不安だったわね!もう大丈夫よ、私がいるから!」

 

 

 

ぼくは早速迷惑をかけていた。

 

 

「ううぅ、チームの応援だってあるのに、迷惑かけて……ぐすっ」

 

「大丈夫、大丈夫だからね?」

 

 

バトル・ボードの会場に向かったぼくは、速攻で迷子になった。観客の一人すらいない会場に一人ぽつんと来てしまって、不安で仕方なくなったぼくは緊急手段として真由美さんを頼ったのである。

真由美さんはチームメイトの応援もあるだろうに、こうしてここに駆けつけて来てくれたのだ。

 

 

「ぼく方向音痴で……一人じゃ目的地にたどり着けないの忘れてて……」

 

「……スピード・シューティングの会場からバトル・ボードの会場までは五分もない距離なのに……みーちゃん余程なのね」

 

「うん、余程なの」

 

 

ぼくが一人で中学校に通えるようになるまで半年かかった。その間、薫には毎朝迎えに来てもらって迷惑をかけたものだ。

慣れ親しんだ街でならなんとかなるけど、初めての地となるとこの様である。

 

 

「それじゃ、一人にしておくのは不安ね……」

 

 

九校戦に会場の移動は付き物だ。

バトル・ボードが終わったら、昼食を挟んで、真由美さんも出場するスピード・シューティングの試合もある。

 

 

「そうだ!私の妹達が来ているはずだから、一緒に連れていってもらいましょう!」

 

 

 

こうしてぼくは、真由美さんの妹達(双子でぼくの一個年下らしい)に面倒を見てもらうことになったのだった。

 

 

……本当に情けないです。

 

 

 

 

 

 

 

真由美さんにバトル・ボードの会場まで連れてきてもらい、そこで七草の双子と合流した。

 

 

 

「七草香澄です」

 

「七草泉美です」

 

 

ぼくの勝手な双子のイメージ通り、ほぼ同時にペコッと頭を下げる香澄ちゃんと泉美ちゃん。

 

泉美ちゃんは文学少女っぽい、いかにもお嬢様といった感じで、肩に掛かるストレートボブの美少女。

対称的に香澄ちゃんは「本なんか読んでられるかー」というような、ぼくのお嬢様像とはかけ離れた元気っ娘系美少女。

 

真由美さんの妹という時点で美少女なのは確定だったのだけど、やっぱり双子って揃ってこそ真価を発揮するんだね、素晴らしいよ。

 

 

 

「じゃあ私は戻らないといけないから、二人とも、みーちゃんをよろしくね」

 

「お任せください」

 

「りょーかい!」

 

 

 

真由美さんは二年生とはいえ、十師族であり、学校では三巨頭と言われている一人らしいから、彼女が意味もなく不在という状況はあまりよろしくないのだろう。

少々慌てた様子で一高の本部へと戻っていた。

 

 

 

「二人ともごめんね……」

 

「大丈夫ですよ!ボクらもお姉ちゃんからお話は聞いていたので、一緒に観戦できて嬉しいです」

 

「お話に聞いていた通りの可愛い方ですしね!」

 

 

うう、こんな駄目なぼくにも優しくしてくれて……好きになっちゃうぞ!

 

馬鹿なことを考えている間に、手を引かれて席に座らせられ、ぼくを挟むようにして両隣に双子ちゃんが座る。

両手に華だぜ。

 

ぼくらが座ってすぐに、両隣に美少女を侍らせたぼくへの抗議なのか会場が騒がしくなる。

 

 

「わあ、相変わらず渡辺選手はスゴい人気だなぁ」

 

 

どうやらこの黄色い歓声はぼくへの抗議ではなく、今から行われるレースの参加者、一高代表の渡辺摩利へ向けられたもののようだ。

香澄ちゃんの話では真由美さんと同じく三巨頭の一人に数えられており、他二人が十師族であるにもかかわらず同格とされるほどの実力派……らしい。

 

たしかにバトル・ボードのために作られた人工水路の足場の安定しないボードの上で、四人が横一列に並び、膝立ちや片膝立ちで構える中、ただ一人真っ直ぐに立っている姿は凛々しい。

 

 

「水着ってこんなのだもんな……」

 

 

格好いいのだけど、今のぼくが求めているのは身体にピッタリ貼り付くウェットスーツではなく、ポロリもあるドキドキな水着だ。

 

 

 

「あれ?もしかして美月さん、バトル・ボードのルール知りませんでした?」

 

「いや、しっかり覚えてるよ」

 

 

もう試合が始まるというのにつまらなそうな顔をしていたぼくを心配してくれたのだろう。

香澄ちゃんが聞いてくれたけど、ルールはしっかり覚えている。

 

バトル・ボードは人工の水路を紡錘形ボードに乗って走破する競争型の競技だ。

他の選手の身体やボードに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはオッケー。

予選を一レース四人で六レース、準決勝を一レース三人で二レース、三位決定戦を四人で、決勝レースを一対一で競う。

 

水着女子を見られると思ってルールも覚えておいたけど、あまり意味はなかったなー。

 

 

 

「始まるようですよ」

 

 

ルールを思いだしつつ、物思いに耽っていると、いよいよレースが始まるようだ。

羨ましいことに熱心な女性ファンが沢山ついているらしく黄色い歓声を受けて、手を振っていた渡辺摩利も、『用意』の合図と共に真剣な顔へ変わる。

いちいち動作の格好いい人だ。

 

 

 

そして、格好いいのは動作だけではなかった。

常時、三・四種類の魔法をマルチキャストし、多種多様に組み合わせることで、臨機応変に対応し、不敵な笑みを浮かべたまま、コースに組み込まれた障害を難なくクリアしていく。

 

 

 

このレース、渡辺摩利は他の選手に圧倒的な大差をつけて一着でゴールした。

 

 

くそぅ、黄色い歓声が羨ましい!

 

 

 




─そのころの真夜さん─


(;・ω・) 真夜「勢いで帰って来てしまったけど……実際暇ね……」


(。´・ω・)真夜「葉山さん、何か仕事は……主にお手を煩わせるようなことはない?……優秀ね、流石だわ」


(´・ω・`)真夜「……やることがない……私ってもしかして……暇なのかしら」


Σ(;´□`;)エッ 真夜「水波ちゃん、何かゲームでも……仕事が忙しい?えっ何かしら、その何年も働かずに部屋にこもっている駄目な人間を見るような目は……?」

(つд;*)真夜「気のせい?そうよね、気のせいよね、お仕事頑張ってちょうだい」



( ̄。 ̄)ボ~ッ 真夜「………」



(;´∀`)真夜「……九校戦でも見ましょう」



意地を張って帰って来たものの、特にやることがなく、結局テレビで九校戦を観戦する真夜さんであった。


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第二十八話 王子様系美少女降臨

サブタイトルのセンスェ……。


「ぼくの奢りだからなんでも買ってね!」

 

 

 

バトル・ボードを観戦し終えて昼休み、午後は真由美さんの出場するスピード・シューティングの準決勝と決勝を観戦することになっているわけだけど、まずは昼食だ。

 

九校戦は十日間で述べ十万人もの観客を集め、映像媒体による中継が行われている程人気のある大会。

十日間で十万人ということは単純計算で、一日平均一万人。

それだけのお客様を見逃す商人はいないわけで。

 

会場の許可されたスペースには何店もの出店が出ており、昼食には困ることはない。

 

中学生とはいえ、裕福な七草家のことだからそれなりにお小遣いは貰っているだろうけど、ここはお姉さんとして、何より多大な迷惑をかけてしまったことのお詫びとお礼にこれくらいのことはしなくては。

お金なら沢山持っているのだ(どや顔)

 

遠慮をしているのか後ろを歩いているであろう双子ちゃんどちらもから返事がないので振り向く……あれ?

 

 

「……二人がいない」

 

 

 

また迷子になった。

 

 

 

 

残念なことに二人の連絡先は聞いていなかったため、とりあえずスピード・シューティングの会場に行ってみることにした。

これ以上真由美さんに迷惑をかけるわけにはいかない!どうにか自力でなんとかしたい。

 

その一心で歩き回った結果……係員の人に保護されました。

うん、半泣きで今日は使われないはずの会場をさ迷っていたからね。心配した係員に声をかけられ、迷子になったと言うと、迷子センター的なところに連れてこられました。……この歳で迷子センターのお世話に……。

 

そこで保護者に連絡するってことになって、保護者の名前を聞かれたのだけど、ぼくの両親は勿論、会場にはいないし、連れてきてもらった真夜さんも帰ってしまったので会場には居ない。年下ではあるけど、ぼくの保護者だった七草双子姉妹は連絡先を知らない。

ぼくが今、会場にいる中で連絡先を知っているのはただ一人しかおらず……。

 

 

 

「ごめんなさぁぁああい!そして優勝おめでとうございますぅうう!」

 

「みーちゃん!」

 

 

当然、真由美さん再び参上である。

迷子になったぼくは真由美さんのスピード・シューティング準決勝、決勝を迷子センターのモニターから観戦するしかなくなった。

真由美さんは華麗に優勝を決めて、大変素晴らしかったのだけど、その直後にこうしてぼくを迎えに来てくれたことを考えると、ぼくの申し訳ないメーターが振り切れる勢いだ。

 

 

「二人もごめんね……」

 

「ボク達こそごめんなさい!美月さんがここまですぐ迷子になるなんて思わなくて!」

 

「ふぐっ!?」

 

「香澄ちゃん正直に言い過ぎですよ!美月さんが可哀想です!」

 

真由美さんから連絡があって一緒に来てくれたのだろう七草双子姉妹だけど、香澄ちゃんの辛辣な一言に、泉美ちゃんが止めると見せかけて、トドメを差しにきたよ!何、この双子のコンビネーション!

お姉さんまた泣いちゃうよ!

ぼくが完全に悪いから甘んじて受けるけどね!

 

 

 

 

「なあ真由美、これが噂の問題児か?」

 

 

ぼくが七草双子姉妹にいじめられていると、そんな声が聞こえてきた。

 

 

「そうよ、可愛いでしょ」

 

「はぁ、お前が随分と可愛がっているのは良く分かったよ」

 

 

 

声の主は、長身に絵本の王子様のようなストレートのショートボブの黒髪、凛々しいキリッとした顔立ちに切れ長の目をした美少女で、頭を押さえながらため息を吐いている。

もしかして……。

 

 

 

「真由美の友人で同じ一高の、渡辺摩利だ」

 

 

 

九校戦女子人気No.1にして、三巨頭の一人、格好いい系クール美人、渡辺摩利さんでした。

 

 

「みーちゃんがまた迷子になっちゃわないように、明日は摩利もつけるから!」

 

「……私も暇というわけではないのだが」

 

 

 

どうやら、二人でダメなら三人だ!という考えに至ったらしい真由美さんはぼくのお守りに、友人である渡辺摩利さんを採用したようだ。

摩利さんは真由美さんの勢いで押しきられただけのようだけど。

 

 

「もうぼく今日で帰ります……迷惑かけちゃうし……摩利さんも忙しいそうだし……」

 

「摩利!」

 

「うぐ、わ、分かったさ……明日は特に予定もないから構わないよ。君が迷子になることは絶対にないと保証しよう」

 

 

惚れてまうやろー!

もはや応援どころが、問題量産機と化しているし、大人しく帰ろう……と思っていたところに、真由美さんに促されてとはいえ、摩利さんがやってきて、今の一言!

なんでさりげなく手を握れるんだ!なんで不思議と安心するんだ!

 

イケメン過ぎる!王子様的イケメンさが溢れているよ!

 

 

 

「うう、是非摩利の兄貴と呼ばせてください!」

 

「誰が兄貴だ!」

 

「じゃあ姉御!」

 

「それも駄目にきまっ……決まっているだろ!」

 

「後輩からそう呼ばれているくせに……」

 

「真由美、うるさいぞ!」

 

 

この二人は本当に仲が良さそうで、真由美さんのちゃちゃに顔を赤くする摩利さんは可愛かった。

普段格好いい人が照れたりしているとなんでこんな可愛いのだろう。

真夜さんもそうだけど、ギャップ萌えってずるい。

 

 

「とにかく!私がいるからには迷子になんてさせないからな!」

 

「明日からですけどね」

 

「な・ん・で・お前が偉そうなんだ!」

 

 

照れ隠しに宣言したのであろう摩利さんにちょっと意地悪をすると、うがーっといった感じで怒りだすけど、顔は赤いままなので、全く怖くはない。ただただ可愛いだけだ。

 

 

 

「美月さんもう仲良くなってる……」

 

「お姉さまもすっかり陥落しているご様子ですしね……」

 

 

こうして今日の九校戦観戦を終えたわけだけど、何故か七草双子姉妹から尊敬の眼差しで見られるようになっていた。

 

 

二人の前では、迷子になって、泣いているところしか見られてないような気がするけど、なんでだろうね。

 

 

とりあえず、明日は迷子にならないようにしたいです……。

 

 

 

 




─そのころの深雪さん─


ε=(・д・`*)ハァ… 深雪「まさかお稽古がお休みになるなんて……」

(´・ω・`)深雪「お兄様はお仕事……美月は九校戦……薫は連絡がつかない……どうしましょう、やることがないわ……」

(;・ω・)深雪「あれ?……私が休日に誘える人ってこれだけ……私って友達が少ないのでは……?」


(つд;*)深雪「…………。」



数十分後。



( ̄。 ̄)深雪「……美月の置いていったゲームでもやりましょう」


深雪が、美月の置いていった恋愛ゲームにはまるまで、後数時間。


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第二十九話 クラウド・ボール

九校戦二日目の朝。

人生で初めて泊まった、高級ホテルの良い部屋で気持ち良く目覚めたぼくは焦っていた。

 

昨日はあの後、摩利さん達に会場の駐車場まで送ってもらい、そこで待機していた四葉の車に乗ってホテルへ。

 

チェックインとかの手続きは全部四葉の執事さんがやってくれたからぼくは何もやることなく、ホテルの部屋に案内され、案内された部屋の豪華さに若干引きながらも、真夜さんにお礼の電話をして、部屋に運び込まれてきた夕飯(というよりもディナー?)を食べ、明日に胸を膨らませながら(物理的にはもうこれ以上膨らんでほしくないが)一人で寝るには大きすぎるベッドで就寝したのだ。

 

さて、ぼくは一つ間違いを犯した。

それはぼくが就寝したのはホテルの部屋で、いつものぼくの部屋ではないということだ。

 

つまりここには、いつも決まった時間に「お腹が減った、今日の朝御飯は?」とぼくを起こしてくる母がいないわけで、そのせいで目覚まし時計を使うという習慣のなかったぼくは、当然のように昨日も目覚まし時計をセットしてはおらず。

 

 

簡単に言うと……寝坊した。

 

 

 

 

 

 

大急ぎで着替えて、朝の身支度をして、迎えに来てくれた四葉の車に乗り込んで会場に到着。

目の前にある会場の入り口には腕をくんでお怒りの摩利さんが……。

 

 

「なあ美月、私の時計が正確であるならば今はもう十一時なわけだが……集合時間は何時だった?」

 

「寝坊しました、テヘペロ」

 

 

ヒクヒクと顔を引きつらせながらぼくに聞く摩利さん。ぼくは言い訳もせずに正々堂々遅刻した理由を話した。勿論、謝罪のテヘペロも忘れずにね。

 

 

 

「よーし、お前はここに置いていく」

 

「ごめんなさぁぁああい!ぼく、ここに置いていかれたらまた迷子センター送りだから!子供達からの生温かい視線に晒されて情けなさで死にたくなっちゃうから!」

 

 

無表情でぼくを置いていこうとする摩利さんにしがみつく。

もう迷子センターは嫌だ!

あの空間はツラいよ、地獄だよ!

アメあげるから元気だしなよ、なんて小学生に励まされた時は泣きそうになったね!

人の優しさと、ぼくの情けなさでね!

 

 

 

「はぁ……私は引き受けたことを心底後悔しているよ」

 

「酷い」

 

「正当な評価だ!」

 

 

頭が痛い……と摩利さん。

ぼくが体調不良ですか?しっかり寝た方が良いんじゃ?と心配してあげたのに、何故か怒られた。

 

誰のせいだ!とか、お前はしっかり寝すぎだ!とか。

そんなに怒ってて疲れないのだろうか?

 

 

「くっ、真由美もとんだ問題児を押し付けてくれたものだ」

 

「あっ摩利さん、ぼくちょっとあっちの出店見てきます!」

 

「一人で動くな!全く……もう迷子にするところだった」

 

「あのくらいなら迷子になりませんよ……」

 

「信用ならん!」

 

 

二回も迷子になっているとはいえ、流石に目と鼻の先にある店に行くのに迷子になったりはしない。

摩利さんにはバッサリ斬られたけど。

 

 

 

「手を出せ、一人にしとくといつの間にか消えてそうだ」

 

「えー、なんか子供みたいで恥ずかしいんですけど……」

 

「うるさい、もう真由美の競技は始まっているんだ。つべこべ言わずに行くぞ」

 

 

ちょっと強引にぼくの手を掴むと、人混みを掻き分けるようにして進む摩利さん。

ぼくへの信用が微塵もない……。

 

 

信用は後で取り戻す(最初からないかもだけど)として、今はとりあえず、摩利さんの手をにぎにぎしておこう。

 

 

 

 

 

 

「摩利さん、美月さん!合流できたんですね!」

 

「良かった……まだお姉さまの決勝はこれからです!」

 

「ふぅ……なんとか決勝には間に合ったか」

 

 

最初は摩利さんと一緒に会場の入り口でぼくを待っていてくれていたようなのだけど、真由美さんの競技が始まってしまうというわけで、摩利さんが先に行かせたようなのだ。

それにしても、クラウド・ボール、もう決勝戦……真由美さんごめんなさい!ついでに摩利さんも!

 

 

 

「ここまでお姉さまは全試合無失点、ストレートで勝ち進んでおります」

 

「なんだかいつも以上に調子良いみたいですし」

 

 

 

クラウド・ボールは完全対戦型の競技で、女子は一セット三分の三セットマッチ。

制限時間内に二十秒ごとにシューターから射出され追加されるボールを、ラケットか魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う競技だ。

 

 

 

「あっ、お姉ちゃんが出てきた!」

 

 

透明な壁で覆われたコートの中に、真由美さんが登場すると共に沸き上がる声援。

いよいよ(といってもぼくにとっては一試合目)この女子クラウド・ボール、決勝戦が始まる。

真由美さん、テニスウェアっぽいポロシャツにヒラヒラのスコート姿なんて……またファンを増やす気ですか!可愛いです!

 

 

「負けるとは思っていないが……まあ見ていてやるか」

 

「何をツンデレてるんですか」

 

「誰がツンデレだ!止めろ!ニヤニヤするな!」

 

 

 

否定しているけど、赤くなった頬は正直。

摩利さんの新たなる萌えポイントを発見した。

 

 

「始まりますね」

 

 

そして、ぼくが摩利さんとイチャイチャしている間に、競技はスタートした。

 

 

「圧倒的だな」

 

 

真由美さんは試合が始まってから一歩も動かない。

両手で持ったCADを胸の前で構え、コートの中央に立っているだけ。

 

しかし、真由美さんのコートにボールが落ちることはない。

ボールがネットを越え、真由美さんのサイドに入った瞬間、ボールが反転し、倍ほどのスピードで相手サイドに返っていくからだ。

堂々と、ただ相手からのボールを魔法で打ち返す。

 

 

 

真由美さんは、その後も相手選手を寄せ付けることなく、全試合無失点ストレートという完全無欠な結果で優勝を飾った。

 

 

 

真由美さん、格好良すぎるよ!

 

 

 

 

 




─そのころの真夜さん─


(´・д・`)真夜「……今日も暇だわ」


(;・ω・)真夜「水波ちゃん、今日こそゲームを……仕事が忙しい?美月さんと連絡が取れない?美月さんなら今、九校戦を観戦しているはずよ」


Σ(;´□`;)エッ 真夜「えっ?水波ちゃん今、役立たずが部屋で寝てろ邪魔だからって聞こえたのだけど」


(;´▽`)真夜「そうよね、気のせいよね、ごめんなさい、お仕事頑張ってね」







(つд;*)真夜「……私って当主よね?」


自分の部屋に戻った真夜は部屋の隅で落ち込んでいたという。


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第三十話 美月の決断

クラウド・ボール決勝の観戦を終え、お昼を食べたぼくたちは午後の競技である、アイス・ピラーズ・ブレイクを観戦するべく、会場に来ていた。

アイス・ピラーズ・ブレイクは高さ二メートルもある氷の柱を十二個も使った大掛かりな競技で、相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝ちという、いわばスーパー棒倒しみたいな競技である。

全競技の中で一番迫力がありそうだし、何よりこの競技……女の子が可愛いのだ。

 

この競技の性質上、純粋に遠隔魔法のみで競い、肉体を使う必要がないため、公序良俗に反しない限り、ユニフォームは自由であり、女子のアイス・ピラーズ・ブレイクは九校戦のファッションショーとまで言われているのだ。

当然?この競技には容姿に自信がある者の比率が高く(偏見)、ネットでは美少女のバーゲンセールや、九校戦最かわ決定戦などと話題になっており、ぼくはとても楽しみにしていた。

 

 

そう、楽しみにしていたのだけど……。

 

 

 

「着信102件、メッセージ215件……水波ちゃん怒ってるよぉ……」

 

 

水波ちゃんからとんでもない数の連絡が来ていたのだ。

実は昨日からずっと連絡があったんだよね……絶対仕事のことだからスルーしてたんだけどいつの間にかこんなことに。

いくつかメッセージを読んでみたけど、急ぎの仕事で、締切が厳しいけど大きな仕事だからやって欲しいとのこと。

最初は事務的な感じだったのに、どんどんメッセージの内容が脅しに近くなっていって、最後のころは泣きそうという水波ちゃんサイクルになっていった。

水波ちゃんが泣いてしまうのは心苦しいので、ぼくはもう帰らなくてはならない。

くっ、涙目の水波ちゃんが待っていると思うと帰らずにはいられない……これが作戦だとしたらぼくはもう人を信じられなくなるね。

いや、女の子の涙に騙されるのは仕方ないか。

 

 

 

「ぼく、もう帰らないといけなくて」

 

「なんだ、今日はまだ真由美の決勝しかみていないじゃないか」

 

「うう、ぼくだってこの後のアイス・ピラーズ・ブレイク観たいですけど……」

 

 

決勝しか観れなかったのはぼくのせいだから、帰って録画しておいたのを見るとして、アイス・ピラーズ・ブレイクは生で観なくてはならなかった。

いくらぼくの瞳でも、直接見なくては美少女の()()を捉えることができない。

それじゃあ、意味がないんだよ!深雪みたいな逸材を発見できたかもしれないのに。

 

 

「まあ、用事があるならば仕方がないな。出口まで送ろう」

 

 

でも、この人と知り合えただけでも九校戦に来た価値は十分にあった。

それに七草の双子姉妹とも知り合えた。

三人もの美少女と知り合えたのだ。なんてかけがえのない時間だろう。

真由美さんの応援はろくに出来なかったけど得たものは大きい。

 

 

 

「ごめんなさい、お世話になったのに明日の摩利さんのバトル・ボード、応援できなくて」

 

「構わないさ、それに応援してくれる必要はない」

 

 

相変わらずぼくの手を引いている摩利さんは、ぼくを冷たく突き放した……かに思えたが不敵に笑ってぼくに言う。

 

 

「私の優勝は揺るがない」

 

 

 

惚れるわ!

 

 

一瞬にしてやられた。

なんだろうこの人、もしかしてぼくを落とそうとしているのだろうか。だったらそう言ってくれればいいのに。ツンデレがぼくにも発動しているのか。

素直に誘ってくれれば即オーケーなのだけど。

ぼくは摩利さんが誘いやすいように体を密着させる。

 

 

「なんだ鬱陶しい、くっついてくるな」

 

「摩利さん、デレ期はいつくるんですか?」

 

 

ツンデレというのはツンとデレの落差が大きいほど強力なものになる。

こんな摩利さんがデレたのならどれ程の威力か。考えただけでも恐ろしい。

 

 

「そんなものは一生こない!」

 

「えー、()()()、ですか?」

 

「は?来年?」

 

 

呆けたように固まる摩利さん。

そういう表情も凛々しいとは、なんと反則的なイケメンさか。

この顔を見れただけでも()()()()かいがあったというものだ。

 

 

「だーかーらー、来年、()()()()()()()()()()、ですか?」

 

「後輩……後輩!?美月、一高を受験するのか!?」

 

 

 

摩利さんはぼくの言葉に口をあんぐりと開けて驚き、素晴らしいリアクションを見せてくれた。

やはりサプライズというのはこのリアクションを見た瞬間が一番楽しい。

 

 

「迷ってましたけど決めました。

だって真由美さんや摩利さんがこんなにも輝ける学校、通ってみたいじゃないですか」

 

 

もし、芸術科高校に行ったとして、こんなにもキラキラ輝いた先輩に出会えるだろうか。

九校戦のような普通では出来ないような経験を出来るのだろうか。

 

きっと無理だろう。

 

魔法という、魔法師でなくては出来ないことが、この輝きを、経験を、与えてくれるのだろうから。

 

 

 

「はあ、ならお前が入るまでに風紀委員を増員しなくてはな。順当に行けば、真由美は生徒会長、私は風紀委員長だ。全く、厄介な年に重役をやらされることになりそうだ」

 

「酷い!」

 

 

摩利さんはため息を一つ吐くと、頭を軽く掻いてぼくから目をそらし、片目を瞑ってニヤリと笑った。

摩利さんのちょっと意地悪な笑顔、ぼく命名、摩利さんスマイル(そのまま)だ。

 

この時ぼくは、摩利さんの言葉の裏に『歓迎しよう』という意味が含まれていることを真由美さんに聞くまで全く分からなかった。

本当に酷かったのは摩利さんのツンデレ具合だったのである。

まだまだぼくは摩利さんを知り尽くせていないようだ。

 

 

とにかく、ぼくは国立魔法大学附属第一高校を受験することにした。

明日から地獄の受験勉強コースが確定したわけだけど、不思議と不安はなかった。

 

だって今は、来年が楽しみで仕方がないから。

こんな先輩たちと、深雪や達也と、過ごす学校生活を思い浮かべて、ぼくは胸を一杯にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「一高を受験することを決めたんだってな。良かったよ、俺が水波と協力して作った、このスケジュールが無駄にならなくて」

 

 

帰宅後、『仕事』と『勉強』の文字だけがびっしりと書かれたスケジュール表が達也から突きつけられ、心が折れそうになるのだけど、この時のぼくはまだ知らなかった。

 

 

合格・不合格の前に過労死しちゃうんじゃないかな……ぼく。

 




─そのころの司波家─


(・_・?) 深雪「お兄様、水波ちゃんと何を為さっているのですか?」

( ̄ω ̄)達也「美月のスケジュール調整だよ、一高を受験するとなれば、勉強と仕事を両立できるようにギリギリの調整が求められるからね」




(;・ω・)深雪「……(このスケジュール……美月、死んでしまうのではないかしら?)」




( ´△`)達也「水波、美月なら後二倍仕事を増やしても大丈夫だろう。アメさえ与えとけば、どこまででもやれるやつだ」

( ̄。 ̄)水波「そうですね、なら勉強時間も二倍にしておきましょう。あれで頭は良いですし、これだけやれば一高でも上位が狙えます」




(´・ω・`)深雪「(美月、帰ってきたら、めいいっぱい優しくしてあげましょう)」




(・∀・)ニヤッ 達也「(アメの確保は完了したな)」計画通り






次話から原作に入っていこうかと思います!
中学校の修学旅行編とか、美月の修行編とかやりたいことはまだあるんですけど、その辺は追々やっていこうかと思います。



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三章 入学編
第三十一話 卒業と合格


入学編スタート!
やっと原作に入れて、ちょっと感動。


合格した。

 

 

超難関校と言われる、国立魔法大学附属第一高校に合格したのだ!

 

 

人生でこれほどまでの達成感を得られたことは、きっと前世でだってないだろう。

なんせ、一高を受験することを決めてから受験日まで、記憶がほとんどないくらいに忙しく地獄のような毎日を送っていたからだ。

 

毎日毎日、締切があり、毎日毎日、勉強のノルマがあり、毎日毎日、修行し、毎日毎日、魔法の練習。

 

 

朝起きて、寺に行って九重八雲(やくもん)先生と修行し、その後は仕事をするか、司波家に行って勉強、合間に魔法の練習、夜は勉強の復習をして、締切が近い仕事に全力を注ぐ、そしてまた朝になり……それを毎日である。

 

死ぬわ!ぼく過労死するわ!

睡眠時間四時間で、ああ良く寝たなーっておかしいでしょ!?深雪(エリクサー)がいなかったら絶対死んでたね!

達也と水波ちゃんは絶対に組ませちゃいけない。あの二人、どこまででも悪魔になるよ。

 

でも、その二人の悪魔と、一人の天使のおかげで、ぼくは今、こうしてここにいるのだろう。

 

 

 

「あっ、なんかまた泣けてきた……」

 

「合格発表の日に散々泣いてただろ……深雪と」

 

「お兄様っ!」

 

 

 

一高の合格発表の日、深雪と抱き合って号泣したのは良い思い出だ。深雪が自分のことのように喜んでくれて嬉しかったし、自分も受験生だと言うのに、ぼくのために献身的に色々やってくれた深雪にはもう、結婚してくださいしか言葉が見つからない。

 

達也にも多大な苦労をかけたし、水波ちゃんにも迷惑をかけた。

ただあの二人は鬼のようにぼくを追い込むので、感謝の気持ちはあるけど、思い出したくない恐怖もそれと同じくらいある。

 

水波ちゃん、たまにドジやるんだけど、締切明日まででしたーとか言いながら三つも仕事持ってくるのはもう止めてね。お姉さん本当に死んじゃうから。涙目でごめんなさいって言われたら許すしかないじゃん!どうにか水波ちゃんに責任を感じさせないために、締切守るしかないじゃん!

……限界のその先って、美少女が沢山いるお花畑だということをぼくはこの時初めて知りました。

 

 

「さて深雪、そろそろ時間だろう」

 

「ええ、それではお兄様、美月、行って参ります。……見ていてくださいね」

 

 

深雪は今年度の総代を務める。

今日の入学式でも答辞をすることになっており、今からリハーサルがあるのだ。

ぼくと達也は深雪に付き添って、入学式の二時間前である今、会場となる講堂の前にいるものの、深雪を見送った今、やることは特にないのだ。

 

 

 

「どうする達也?暇だけど」

 

「適当に書籍サイトで時間を潰しているさ」

 

とりあえず、携帯端末に構内図を表示して、見比べながら歩いているのだけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。かといって達也のようにじっと読書なんてぼくには無理なのだ。

 

 

 

「えー、それじゃあぼく暇じゃん!だったら一人で校内を探検してくるよ!」

 

「駄目だ。お前が修学旅行で引き起こした事件を思い出せ」

 

 

中学校の修学旅行で京都と奈良に行ったのだけど、ぼくはそこで迷子になったのである。

どうやらぼくは自分でも気がつかないうちに、迷子対策として最強の精霊の眼の範囲外に出てしまっていたようなのだ。

もはやこれは才能なのではないかと、最近思い始めていたりする。

 

 

「うっ、そんな些細なことまだ覚えてたんだ」

 

「忘れるわけがないだろう。現地について僅か数秒で行方を眩まし、九島家に保護されていたのだからな」

 

「悪かったって。四葉と九島が仲悪いなんて知らなくて」

 

「そうじゃない……お前の魔法のことを知られれば、危ないのはお前なんだぞ、十師族とはなるべく関わりを持たない方が良い」

 

 

もう『七草』の三姉妹と仲良くなってしまっている件についてなんだけど……達也には言っていない。

真由美さんは、ぼくが合格したときに報告して、双子姉妹と摩利さんと一緒にパーティーをしたりしたけど、その時にも婚約者がいる、とかは言ってないので、達也のことは知らないし。

 

 

 

「それから、四葉のことは秘匿するんだ。俺たち以外の誰にも気付かれてはならない」

 

()()()りょーかい」

 

 

なんでも、四葉は最も恐れられていて、最も秘密主義な魔法師の家系だから、家族構成や組織構成は外部にあまり知られておらず、司波家も四葉の関係者であることは秘密にして暮らしているらしいのだ。

真夜さんにもお願いされているし、四葉が恨みを買いすぎてて、危ないらしいから、うっかりバレちゃわないように気を付けないといけない。

 

うん、恨みを買うって、なにしたんだろうね。

真夜さん、ちょっと抜けてるし、知らず識らずの内に、恨まれたりしてるんだろうか。

とりあえず、涙目の真夜たん可愛いってことしか分からない。

 

 

「それにしても、まさか達也が二科生とはね……ぼくのせい?」

 

「いいや。言っただろ、実技は苦手でな、こうなることは想定済み……いや、むしろ良くここに受かったものだと驚いているくらいなんだ」

 

達也はとてつもなく頭が良いし、武術だって凄いけど、()()の魔法はあまり得意ではないらしいのだ。理由は知らないけど、無理矢理()()の魔法を使えるようにした代償なんだとか。

正直、仕事したり、ぼくに勉強教えたり、仕事したりで、達也が勉強をしているところなんて一ミリも見たことがないから、二科生になってしまったのは、ぼくのせいなのではないかと、ちょっと思ったりもしたけど、そんなことはなかったようだ。

この口振りだと、全部わかった上で一高を受験したようだし。

 

 

「ぼくでも()()()で受かったのに?」

 

「……美月、お前は自分を過小評価し過ぎだ。魔法を一年も学んでいない者がこの場にいる、ということの意味を深く考えてみるといい」

 

「地獄の受験生生活しか思い浮かばないから嫌だ」

 

 

苦手、苦手、とは聞いてたけど、魔法を学んで一年のぼくより出来ない、なんてことがあるのだろうか。

座学、魔法の勉強は、達也が範囲を絞ってくれて、そこをやってたけど、実技に至ってはほとんど何もやっていない。精々、試験の方法とCADの使い方を教えてもらった程度だ。なんか、お前ならやる必要もないとか達也が言ってたけど、もしかしてぼく結構すごい?

 

 

「はあ、まあお前が()()()()()今に始まったことではないか」

 

 

()()()()()というのが何を指しているのかは分からないけど、とりあえずバカにされているということは間違いないね。

澄ました顔で、たまたま見つけたベンチに腰かけて、携帯端末を操作している達也に何を言ったところで口では勝てないのを分かっているから訂正しないけどね。

 

 

「むー、暇なんですけど!」

 

 

ただ、達也が携帯端末で書籍に夢中になっていると、当然ぼくは暇になってしまうわけで。

 

 

「寝ていろ。今朝はいつもより早かったのだろう?」

 

「それは思い付かなかった」

 

 

悲しいことに、『暇な時間』というのがあまりにも久しぶりで過ごし方を忘れていた。

 

 

 

「じゃあぼく寝るから、時間になったらちゃんと起こしてよ」

 

 

ぼくは達也に一方的にお願いすると了承の声も確認せずに、丁度良い位置にあった、達也の膝を枕にしてベンチに寝転がる。

うん、こうして何も考えずに眼を閉じていると、地獄の受験生活の影響なのか、こんなことをしていていいのか、という不安に駆られる。

心地のよい春の日差しと、外特有のほどよい風とどこからかほのかに香る花の香りがぼくを眠りへと誘ってくれているというのに、これでは気持ち良く眠れない。

こんな時は楽しいことか美少女を思い浮かべるべきだし、しばらく会えない薫のことでも考えることにしよう。

 

 

薫は魔法師ではないから、一高は受験しておらず、国際科とかいう頭の良さそうなところに進学した。一緒に学校生活を送れないのは残念ではあるけど、会えないわけでもないし、むしろ会えないことによって、薫がデレることを期待することにした。薫が意外と寂しがり屋なことをぼくは知っている。

 

卒業式の日、薫と佐藤くんが付き合っていると聞かされ、危うく佐藤くんを殺しそうになったことは良い思い出である。薫が止めてくれなかったら危なかったね。まあ、ぼくはまだこの件については認めてないけど!薫に彼氏なんて必要ないんだい!

 

考えていたらムカムカしてきたので、眠くなるまで薫を頭のなかで愛でて、心を癒すことにした。

 

 




今回から後書きでは新しいことに挑戦したいと思います!
美月が中学三年生の冬休みくらいの出来事です。



──────────────────────


1・名無しさん
今話題のイラストレーター、月柴美について語るスレです。


2・名無しさん
前期覇権アニメのキャラデザ担当して、一気に人気出たよな


3・名無しさん
>>2 その前から結構話題になってたぞ?『黒マジ』とか『愛ゼロ』とかのイラストも月柴美だし


4・名無しさん
>>2 確かに認知度が一気に上がったのはそれか


5・名無しさん
>>3 マジか!『愛ゼロ』超好きだわ


6・名無しさん
月柴美はヒロイン描くのが上手い。キャラそれぞれに個性を感じる

7・名無しさん
>>6 それな、キャラの魅力を何倍にもしてるし、何よりキャラへの愛を感じるよな


8・名無しさん
『愛ゼロ』の作者があとがきで、月柴美のイラストを見てから、百倍面白い作品が書けるようになって、一巻の内容をイラスト見てからほとんど書き変えたって言ってる


9・名無しさん
そういや月柴美ってワンダーランドの新アトラクションのキャラデザもしてなかったっけ?


10・名無しさん
>>9それどころが、アトラクションのイメージ画みたいなのも描いてる。というか元々そっちの仕事受けてて
キャラデザはおまけだったらしい。



11・名無しさん
>>10それイラストレーターの仕事じゃねぇーだろww


12・名無しさん
>>11どんな仕事でも受けることで有名だからな、元々ハリウッドで映画化して大ヒットした某海外小説の日本語翻訳版で表紙を担当したのがデビューだし


13・名無しさん
>>12知らんかったわ


14・名無しさん
>>13さらに言えば元々は絵画を描いていて、イラストレーターが副業という説もある


15・名無しさん
なんかデビューから数年で伝説乱立させてるなww


16・名無しさん
最近じゃ月柴美がキャラデザ担当したってだけで売れるもんな

17・名無しさん
>>16先月出たゲーム、月柴美がキャラデザ担当したってだけで買った俺が通りますよ

18・名無しさん
>>17あれ?いつの間に俺は書き込んだんだ?

19・名無しさん
>>17もう一人の僕?


20・名無しさん
お前ら月柴美好きすぎんだろww
俺も買ったけどw

21・名無しさん
>>20おいww

22・名無しさん
ゲームで久しぶりに泣いた


23・名無しさん
>>22それな!


以下、ゲームの内容で盛り上がる。





つづく

───────────────────



(つд;*)深雪「つづく?……ただでさえ出番少ないのに、ここも奪われるんですね……良いですよ、ゲームやってますから……確かにあのゲームは良作だもの」




こんな感じで、しばらくこの後書きが続きます。
入学編は原作とかなり違う感じになると思うので、お楽しみに!



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第三十二話 達也と真由美

サブタイトル思い付かない……。



二科生をウィードと呼ぶことは、建前としては禁止されているわけだが、実際のところ、公然たる蔑称として、二科生達にすら定着している。

 

一科生と二科生の違いは指導教員の有無であり、教員の個人指導を受けられない点を除けば、一科と二科のカリキュラムは同一であるのだが、一科生が何らかの事故によって魔法を使えなくなり、退学した者の『穴埋め要員』でもあるため、二科生自身が自分達をスペア部品のようなものだと認識してしまっているからだ。

 

 

まあ、達也もそれは百も承知、分かった上で入学したのだが、今回達也に向けられた視線や、聞こえてくる罵倒は、一科が二科を見下す、といった類いのものとは少々毛色が違うようだった。

 

 

──くそ、朝から見せつけやがって……!

 

 

──二科生のくせに、入学式から彼女連れとか……爆発しろ!

 

 

 

携帯端末でお気に入りの書籍サイトへアクセスしていた達也だったが、この今にもどこからか魔法が飛んできそうな空間で呑気に読書していられるほど図太くはない。

 

端末の画面の端には現在の時刻が表示されており、入学式まであと三十分であることを確認する。

既に講堂は開場されている時間であり、移動するには丁度良いころだった。

 

今、達也の座っているベンチのある中庭はどうやらクラブの部室として使われている準備棟から、入学式の行われる講堂へ通じる近道のようで、上級生が多く通る。

もう少し人通りの少ない、目立たない場所にしておけば良かったと、少しの後悔を胸に抱きつつも、移動しようするが、達也の膝の上には気持ち良さそうに眠る美月の頭があった。

 

 

「美月、移動するぞ」

 

 

頭を擦って起こそうとするが美月は何やら口をモゴモゴとさせ、何と言っているのか小さく寝言を漏らしており、起きる気配はない。

無理矢理起こすことも出来るのだが、達也はこういう時の対処法を既に心得ていた。

 

 

「美月、新しい仕事だ」

 

 

耳元でそう呟けば、反応はすぐだった。

 

 

「仕事!?水波ちゃんぼくもう無理だから!?死んじゃうから!?」

 

 

大慌てで起き上がると、何に謝っているのかどことも知れぬ方向にペコペコと頭を下げている。

 

 

「美月落ち着け」

 

「へ?ん?……あっ!達也またやったでしょ!この起こし方は止めてって何回も言ってるじゃん!」

 

「これが一番効率的なんだ」

 

「効率の問題じゃないよ!ぼくの心の問題だよ!」

 

 

鬼のように仕事を詰め込まれていた美月は寝ている間に、勝手に仕事を受けたことにされ、朝起きたら新しい仕事が山積みになっている、なんてことが多発したため、『仕事』『閉め切り』『電話の音』に強く反応するようになってしまい、達也はそれを利用して、美月を起こすという悪魔の技を生み出し、多用していた。

 

 

「次やったら許さないからね」

 

「分かったよ」

 

 

ちなみに、このやり取りは既にこれで十数回目。

達也曰く、『()()()()()()では起こしていないからセーフ』だそうだ。

悪徳商法も真っ青な屁理屈である。

 

 

「そろそろ時間だから、講堂に行くぞ」

 

 

落ち着けない原因は美月であって、達也一人ならば問題はないのだが、美月を一人にするとそれこそ大問題になる。

美月を一人にして問題を起こされるくらいだったら、大人しく場所を移動する、というのが達也の考えだった。

 

 

「了解、ただ、ぼく喉渇いちゃったからちょっと飲み物買ってくるね」

 

 

一瞬、一緒に付いていこう、と考えた達也だったが自動販売機は目と鼻の先、目の届く範囲だ。あまり過保護なのも良くないだろうと、一人で行かせて、達也はもう一度ベンチに腰を下ろした。

まるで、子供を初めてのお使いに送り出す親のような思考である。

 

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ」

 

 

美月を送り出してすぐに達也はそう声をかけられた。

 

フワフワした巻き毛の長い黒髪をシンプルな白いリボンで飾った、美月ならすぐにでも飛び付きそうな美少女で、小柄ながらも均整の取れたプロポーションは、彼女の蠱惑的な雰囲気を確固たるものにしている。

ただ、達也にとっては彼女の類い稀な容姿よりも、左腕に巻かれた幅広のブレスレットの方が気になっていた。

彼女の腕に巻かれているのは、普及型よりも大分薄型であるものの、明らかにCADであるからだ。ファッション性も考慮された最新式のCADだろう。

 

CADは魔法発動を飛躍的に高速化する現代魔法師の必須ツールで、一秒以下の簡易な操作で魔法を使うための起動式や呪文など、面倒な行程を全て代替するなのだが、この学校では、()()()()学内におけるCADの常時携行が認められていない。

基本的に、ということは例外もあるということで、その例外が生徒会の役員と一部の委員会のメンバー。

つまり、彼女は左胸の八枚花弁のエンブレムを見るでもなく、一科生で、その中でも優秀な、所謂(いわゆる)、優等生だ。

 

 

「講堂の場所は分かりますか?」

 

「はい、把握しております」

 

「そうですか、なら安心ですね。

毎年迷子になる新入生がいるものですから、生徒会でこうして見回りをしているんです」

 

 

入学式のデータは会場の場所も含めて、入学者全員に配信されており、携帯端末に標準装備されたシステムを使えば、案内を読まなくても、何も覚えていなくても、迷うことはないだろう。それでも迷子者が毎年出るというのは、この学校の広さ故か、入学式という場での緊張故か。どちらにせよ、そんな間抜けを晒す予定は達也にはなかった。

 

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。

『ななくさ』と書いて『さえぐさ』と読みます、よろしくね」

 

 

口調と言葉遣いが、段々砕けたものになってきている点から、随分と人懐こい性格のようだが、達也は警戒を強めた。

彼女が十師族の一家、それも四葉と対を成して最有力と見なされている『七草』の娘だからだ。

 

とはいえ、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀であるし、必要以上に警戒する必要はない。

 

 

「自分は司波達也です」

 

 

達也としては至って普通の自己紹介をしたつもりだったのだが、真由美は目を丸くして驚いている。

一瞬、怪訝に思ったが、彼女が生徒会長であれば深雪と既に面識があるのだろう、ということに思い至り納得した。

それは()()()の兄が()()では驚きもするだろう、という非常に自虐的なものではあったが。

 

 

「あなたが、入学試験、七教科平均百点満点中九十六点の司波達也くんなのね」

 

 

ところが驚きの理由は意外なところにあったらしい。

 

 

「魔法理論と魔法工学に至っては合格者の平均点が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。

前代未聞の高得点だって先生方の間では貴方の話題で持ちきりよ」

 

どうやら真由美は『司波深雪の兄である司波達也』、に驚いたのではなく、『司波達也』に驚いていたのだ。

入試の結果をいくら生徒会長とはいえ、一個人が知ってしまっていることに若干の不安を覚えつつも、隠すことでもないのだから正直に答える。

 

 

「ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」

 

 

魔法科高校生の評価として優先されるのは、テストの点数ではなく、実技の成績。

現に、少々ペーパーテストの危うかったらしい美月も一科生として入学を果たしている。

 

 

「謙遜しなくてもいいのに。そんな凄い点数、入学試験と同じ問題を出されても、私にはきっと無理だろうし。こう見えて私、理論系も結構上の方なんだけどね」

 

 

達也がこの手放しの称賛を、素直に受け止められる性格だったのなら、きっと彼がこの場で二科生に甘んじていることはなかっただろう。

達也はペーパーテストの成績よりも実技が

優先されることの合理性も理由も理解して納得している。

謙遜でもなんでもなく、この驚異の入試結果を大したことだとは思っていなかった。

それどころが、入試にペーパーテストを設けること自体にあまり意味がないとさえ感じているのだ。

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

 

と、そこまで考えたところで達也はふと気がついた。

真由美と話しはじめて優に五分は経っている。

だと言うのに、飲み物を買いに行ったはずの美月が戻ってこないのだ。

自動販売機の付近には既に姿はなく、周辺を見渡すも、影も形もなかった。

 

達也はため息を吐きたくなるのをなんとか堪えながら、真由美と別れることにする。

 

 

「申し訳ないのですが、そろそろ時間ですし連れがいますので」

 

「そう?それじゃあまたね(・・・)

 

「はい、失礼します」

 

 

真由美はまだ何か話したそうにしていたが、達也がここに入学する以上、話す機会などいくらでもある。

だからこその「またね」なのだろうと、達也は勝手に解釈し、美月の捜索へと向かったが、実際、真由美の意図は別のところにあった。

 

 

 

「……なんだか彼とは深い関わりを持つことになりそうなのよね」

 

 

 

彼女の視線の先の達也は少し急ぎ足で歩きながら、周囲に視線を巡らせており、その口元が少しだけ緩んでいるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここどこ?」

 

 

そのころ美月は、一人涙目で学園をさ迷っていた。

 

 

 




前話のつづきです。



──────



82・名無しさん
それにしても、月柴美って色々謎だよな


83・名無しさん
公開されているプロフィールってどんなだったけ?


84・名無しさん
月柴美、って名前と作品一覧だけ
出身や生年月日どころが、性別すら明かされてない


85・名無しさん
デビューからまだ数年ってのもあるだろうけど、ほんと情報少ないな


86・名無しさん
>>85情報少ないって割に、作品一覧がヤバすぎる件について


87・名無しさん
>>86そこなんだよな。覇権アニメの『神斬り』は社会現象にもなったビックネームだし、『愛ゼロ』も『黒マジ』も相当売れてるし


88・名無しさん
>>87デビューからしてヤバイ。イラストレーターの枠を完全に越えてる


89・名無しさん
なんかあれだわ、流石だわ


90・名無しさん
流石です、月柴美様!


91・名無しさん
>>90なんだそれwでも言いたい、流石です月柴美様!



以下、流石です、月柴美様!の嵐が続く。






つづく



────




(´・ω・`) 深雪「……私の台詞取られた……」


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第三十三話 稲妻系金髪美少女降臨

サブタイトルに法則性を持たせてみた。


ぼくと達也が入学式の開場である講堂に着いたのは、会式の三分前だった。

達也が精霊の眼(裏技)で見つけてくれなかったら、間違いなく遅刻していた。

そうなれば、ぼくは晴れの姿をお兄様に見てもらえなかった深雪によって大変なことになっていただろう。

 

 

「美月、ここで一旦別れよう」

 

 

この学校はIDカード交付時にクラスが判明する仕組みになっており、座席の指定はないはずなのだけど、新入生の分布には明らかな規則性があった。

つまりは、前半分に一科生、後ろ半分に二科生、エンブレムの有無で綺麗に別れているのだ。

 

 

「了解」

 

 

ぼくは別に達也と一緒でも良いのだけど、あえて逆らうのは良くない。こんなことで一々無益な波風を立てる必要もないのだから。

 

 

達也と別れたぼくは素直に講堂の前半分で、席を探しているのだけど、ギリギリで滑り込んだからか、席が空いていない。

そんな中、とある少女の隣が一席だけ空いていた。

その少女からは圧倒的存在感、気品が溢れており、近づく者を畏怖させるオーラがあった。

長い金髪は地毛であることが疑いようもないほど自然な煌めきを放っており、姿勢良く座るその姿は中世の貴族のようでもあった。

 

一言で言うと、飛びきりの美少女だったのである。

 

 

 

「隣良いかな?」

 

「どうぞ、お気になさらずに」

 

 

こちらを値踏みするように見る紫色の瞳は挑発的で、意思の強さを感じさせる。

きっと何か強い目的を持ってこの学校に入学したのだろう。

声をかけたいところだけど、すぐに入学式が始まってしまった。

壇上に上がっている生徒会役員は皆美少女でここがぼくの楽園になるのだと思うとワクワクする(妄想)

副会長らしい忍者みたいな名前(どんなだったかは忘れたけど)の人が生徒会唯一の男子らしいけど、そういうのいらないんだよね。なんでこの美少女集団の中で堂々としていられるんだろう。男はお呼びじゃないんだよ!帰れ!

 

ぼくのそんな副会長ディスで荒んだ心を癒すように生徒会長挨拶は始まった。

 

真由美さん可愛い。

 

感想はその一言に限る。

正直内容は良く分かってないけど、たぶん皆入学おめでとう的なことだったと思う。

まあ、真由美さん可愛いってことだけ分かれば問題ないでしょ。

 

そして今入学式のメインイベント(ぼく的に)深雪の答辞は始まった。

深雪が壇上に上がっただけでただでさえ静かだった講堂が静まり返る。まるで呼吸さえも忘れてしまったかのように、この空間は深雪という存在に支配されていた。

 

 

「……司波深雪」

 

 

ぼくの隣の美少女もまた、深雪に圧倒された一人なのだろう。強気な瞳には隠しきれない動揺と畏怖があった。たぶん彼女はプライドとか誇りとかそういうものを重要視するタイプだ。ぼく調べによると、そういうタイプは自分より格上だと感じた相手に対して二通り、どちらかの感情を抱くことが多い。

 

一つ目は忌避。

相手を避け、逃げることで自分のプライドを守るのだ。井の中の蛙であることを知りながらも、上位でいることに固執するタイプ。

 

 

 

「……負けはしないわ」

 

 

そして、二つ目は敵視。

目の前に立ちはだかる敵として、越えようとするタイプ。敵視というよりはライバル視、の方が近かったかもしれない。

自分に自信があるからこそ、本当のプライドを持っているからこその思考だと思う。

 

 

 

 

だから、瞳に強い闘志を燃やしながら深雪を睨む彼女のことはとても好きだ。

いや、これだけの美少女を嫌いなわけがないんだけどね?

 

 

 

 

式が終了したらIDカードを窓口で交付して貰わなくてはならない。

このカードで初めてクラスが発表されるわけで、超重要イベントだ。

この学校は一学年八クラス、一クラス二十五人。そして、A~Dは一科生、E~H二科生と決まっている。

つまり、深雪と同じクラスになれる確率は四分の一!深雪はもう新入生代表としてカードを授与されているけど、何組なのかは分からない。

ぼくの深雪レーダーがその姿を発見したけど、今は来賓と生徒会の人垣の中だしね。

 

 

ここで今年一年全ての運を使っても良い!だから!深雪と同じクラスになりたい!

 

 

ぼくは思い付く限りありとあらゆる神に願いながら窓口の列に並んだ。

すぐにぼくの番がきて、カードを受けとる。すると、丁度隣が、入学式でぼくの隣に座っていた金髪お嬢様(仮称)だった。

これは行くしかないよね!

 

 

「さっきぼく、隣の席だったんだけど覚えてる?」

 

「ええ、随分と熱心に先輩方のお話を聞いているようでしたから、記憶しておりますわ」

 

 

単純に、壇上に上がっている先輩が美少女ばかりで夢中だっただけなのだけど、良い風に誤解されているようだから否定はしない。

確かに熱心に聞いてたよ、うん。

 

 

「クラス、何組だった?」

 

「B組ですわね」

 

「本当に?ぼくもB()()なんだよ!」

 

 

イエーイ、とハイタッチを促すと彼女は戸惑いながらも、応じてくれた。意外とノリは悪くないらしい。

 

一見、威圧的に思えるのは、彼女自身の気質もあるだろうけど、もしかしたら、ちょっと緊張しているからなのかもしれない。口調が固いような気がするし、表情もやや険しい。

 

 

「ぼくは柴田美月。とりあえずは一年間、よろしく」

 

 

名前を名乗りながら、握手をするべく、右手を差し出す。

 

どうやら彼女は本当に緊張していたらしく、ぼくが挨拶すると、些か表情が和らいだ。

もしかしたら彼女も、高校生の少女らしく、友人ができるか不安だったのかもしれない。

 

うん、凄く可愛い。

 

安心しなさい、美月さんが友人として365日何時でも一緒にいてあげるからね!何ならお風呂もベッドも一緒で構わないから!

 

そんなぼくの優しさを感じ取ったのか、彼女もぼくの手を握ると自己紹介をしてくれた。

 

 

 

「私は、一色愛梨。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 

 

交わした握手が妙におかしくて、ぼくらは顔を見合せてくすりと笑った。

 

 

笑顔が可愛くて、鼻血が出そうになったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




121・名無しさん
ぶっちゃけ、そんだけプロフィール隠してるのってなんでだと思う?

122・名無しさん
良く噂されているのは、月柴美って一人じゃなくて、複数人で仕事をしているグループ名だからってやつあるよな

123・名無しさん
>>122確かにあれだけ幅広く、色々やってるしな

124・名無しさん
つか、単純に今年の仕事量ヤバイだろwあれだけのこと一人で、とか完全化物

125・名無しさん
今期アニメ、三作品キャラクター原案、月柴美なんだが

126・名無しさん
それと同時期に月柴美がキャラクターデザイン担当したゲームが二本出ているわけですが

127・名無しさん
ちなみに、『神斬り』の劇場版が現在公開中なわけで

128・名無しさん
……うん、一人だったら軽く三回は死んでるな、この仕事量

129・名無しさん
これは複数人説有力だな

130・名無しさん
俺は学生説を推しているわけだが

131・名無しさん
130>>学生でこの仕事量とか死だろwwどう考えても無理だわ

132・名無しさん
新説、学生のグループというのはどうでしょう!学生だと未成年だし、プロフィール公開していない理由もばっちり!

133・名無しさん
132>>まあ、学生だからプロフィール公開されてないってのはワンチャンだけど、デビューした仕事がビックネームだし、コネがないと無理だろ。新人に任されるような仕事じゃなかったし、そう考えると学生はないと思われる

134・名無しさん
133>>でも女子高生集団とかだったら夢が広がるよな

135・名無しさん
134>>もう集団なのは確定なのなww

136・名無しさん
135>>あれで一人なわけがない(真剣)




つづく

─────


(´・д・`)深雪「あれで一人なんですよね……何かブツブツ呟きながら描いているので、怖いんですけど……邪な視線も感じますし……」






入学編を盛り上げるべく、一色愛梨降臨!
何故彼女が一高に!?という驚きを提供できていれば嬉しいです。
彼女が一高に来た理由も本編で明かされますので、お楽しみに!それまで理由の予想とかして楽しんでください。感想見てニヤニヤしますので(笑)


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番外編 稲妻系金髪美少女は不安である

前話の愛梨視点。
かなりの独自解釈があります。


一色愛梨は不安だった。

 

事情があって一緒に進学できなかった、親友である二人がいない、というのはこうも不安になるものだったのかと友人の大切さを噛み締めながら。

 

 

愛梨は自分が誤解を受けやすいタイプだというのを知っている。昔から、あまり同性には好かれなかった。

家柄の釣り合う者としか付き合わなくなったのは、自分と価値観の合う人間とでなくては長く続かないことを良く分かっていたからだ。

自分のプライドや誇りを、理解のない人間にまで押し付けるのは、愛梨の望むところではない。

 

 

つまり、こうして入学式の会場である講堂に座っている愛梨は、友達ができるかどうか不安で仕方がなかったのだ。

 

 

そして、入学式が会式五分前になったころ、愛梨の不安は加速した。

会式五分前ともなれば、ほぼ全ての新入生がここに集まっているはずで、実際、見渡す限り席は殆ど埋まっていた。

 

なのに…。

 

 

──どうして私の隣には誰も座らないの!?

 

 

愛梨の両隣は空いていた。

そこだけぽっかりと、隔離されたようになっていたのだ。

 

これは別に、入学式前からいじめが始まったとかそういうことではなく、自然とそうなったものだった。

 

愛梨は知らぬことであるが、不安と緊張により、愛梨は周囲の人間を畏怖させるようなオーラを発していたのである。

これは愛梨本来の、気品溢れる圧倒的存在感と合わさって凶悪なものとなっていた。

長い金髪を煌めかせ、中世の貴族のように姿勢良く座る愛梨に、「お前が私の隣に座るの?へー、ふーん」と値踏みされているように感じられて、皆隣に座ることを躊躇ったのだ。

 

当然、そんなことを知るよしもない愛梨は焦る。

焦った結果、

 

 

「お座りにならないのかしら?もう時間ですけど」

 

 

「ひゃ、はい!すいません!」

 

 

誤解された。

近くで席を探しうろうろしていた新入生に、私の隣空いてますよ、と伝えたかっただけなのだが、緊張していた愛梨は大分険のある言い方をしてしまい、相手を怯えさせてしまったのだ。

 

そんなに、怯えなくてもと少し落ち込んだ愛梨だったが、表情にはそんなこと、おくびにも出さない。

それがさらに誤解を加速させるのだが、愛梨は知らぬことだ。

 

 

「隣良いかな?」

 

 

そんな中、フレンドリーに声をかけられて、愛梨は内心飛び上がらんばかりに歓喜した。

 

 

「どうぞ、お気になさらずに」

 

 

実際に出てきた返答は、そんな冷たいものになってしまったが。

やってしまった、どうして私はこうなのかしら!、と後悔するが、声をかけてくれた少女は笑顔でお礼を言うと静かに座った。

予想外の良い反応に、愛梨は早速話してみたくなったが、入学式が始まってしまった。

 

 

そして、始まってしまえば、意識は一人の少女に吸い込まれた。

 

その姿はまるで神話の女神のように、人間離れした美しさ。彼女の前では如何なる装飾も意味を成さず、彼女が彼女であるというだけで美しいのだということを一瞬の内に理解させられる。

 

魂が震えた。

 

 

新入生総代、今学年のトップ。

それがこんなにも高い壁であることに。

 

 

 

──一高に進学して本当に正解だったわ

 

 

 

これから三年間、競い合うライバルの存在に、愛梨は心から感謝した。

 

 

 

 

 

 

入学式を終えれば、後は窓口でICカードを発行してもらい、今日の予定は終了だ。

一高進学にあたり、実家を離れ、一人で暮らしている愛梨は、この後はまだ不馴れな新居(高層マンションの一室)近辺の探索でもしようかしら、と予定を立てながら、自分の番がくるのを静かに待つ。

 

そうして発行されたカードには、B組の文字。

成績順にAクラスから割り振られているわけではないので、どこのクラスでも構わなかったが、なんとなくAの方が良かった、と思うのは愛梨が負けず嫌いだからか、単に子供なのか。

 

 

 

「さっきぼく、隣の席だったんだけど覚えてる?」

 

 

カードを眺めていた愛梨のすぐ近くでニコニコと笑顔を浮かべているのは、入学式で隣に座っていた少女だった。

 

 

「ええ、随分と熱心に先輩方のお話を聞いているようでしたから、記憶しておりますわ」

 

 

実際はそんな理由ではなく、声をかけてくれたことが嬉しくて覚えていたのだし、機会があれば話してみたい、とさえ思っていたのだが、それを口にするのは恥ずかしいし、何より自分のキャラではない。

結果、堅苦しい言い方になってしまったのだ。

 

 

「クラス、何組だった?」

 

「B組ですわね」

 

「本当に?ぼくもB組なんだよ!」

 

 

愛梨の同級生にするには不自然に堅苦しい言い方を特に気にした様子もなく、自分と同じクラスになれたことを喜んでくれた少女に、愛梨はなんとかハイタッチを返した。

なんか友達っぽい!っと少し思ったのは内緒である。

 

 

 

「ぼくは柴田美月。とりあえずは一年間、よろしく」

 

 

そう名乗りながら、右手を差し出す少女。

自分が緊張しているのも、不安だったのも、彼女は全部分かっていて、それで声をかけてくれたのかもしれない。

そう感じさせる優しい笑顔。

 

 

「私は、一色愛梨。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 

気持ちはすっかり楽になった。

 

交わした握手が妙におかしくて、愛梨は堪えきれずに、美月と顔を見合せてくすりと笑い声を漏らす。

 

 

 

 

──一高に進学して良かった

 

 

そう思ったのは二度目。

 

いつの間にか愛梨は自然と話せるように、笑えるようになっていた。

 

 




愛梨 (*´ω`*)「早速友達が出来たわ」


愛梨(`・ω・´)「まあ、師補十八家、一色家の長女ともなればこれくらいは当然の結果ね!」

愛梨(;・ω・)「…………明日になったら、知らんぷりなんてことないわよね……?」


愛梨(。ŏ﹏ŏ)「……大丈夫よね?」



結構心配性な愛梨さんであった。






番外編なので、スレのおまけは一旦お休み。とりあえず次話でスレは一区切りするのではないかと。

愛梨ちゃんの今後の活躍に乞うご期待!


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第三十四話 お転婆系赤髪美少女降臨

お互いに自己紹介を済ませたぼくと愛梨は自分達の教室であるB組に向かっていた。

 

今日はもう授業も連絡事項もないのだけど、新しい友達を作るのなら一度ホームルームへ足を運んでおくのが一番の近道だろう。

一年間、苦楽を共にする仲間と少しでも早く会っておきたいというぼくの意見に愛梨が快く賛成してくれたのだ。

当初の予定では諸手続きを終えたらすぐ、達也たちと帰る予定だったのだけど、愛梨を一人にするわけにはいかないし、別で帰ることにした。

たぶん、きっと、ぼく一人でも帰れるはず……ああ、でも今のぼくには無理かもしれない。

もうね、何もやる気が起きないの。

 

 

「美月、まだ落ち込んでいるの?そんな調子でクラスメイトに会っても仲良く出来ないと思うけれど」

 

 

実はついさっき、深雪から連絡があり、深雪とは同じクラスになれなかったことが判明した……。もう二度と神様なんて信じない。

初詣は深雪の着物姿を拝むためだけのイベントに成り上がるのさ……。

 

 

「友達と同じクラスになれなかったのは残念かもしれないわ。でも、ほら、その……貴女には私がいるじゃない?」

 

 

あのね、神はいないけど天使はいたよ。

仄かに顔を赤くして、モジモジしながらそんなことを言ってくる愛梨は兵器と言っても過言ではないね!

 

 

 

「わ、何!?」

 

「可愛いな、愛梨は~!うんうん!愛梨がいてくれるからぼくはもう大丈夫!」

 

 

軽く抱き締めて、頭を撫でれば愛梨は照れたようで、そっぽを向いてしまったが、嫌がってはいないようだ。

普段、強気で気丈な振る舞いの分、こういう反応をされると可愛くて仕方がない。

こんな性格だし、プライドも高そうだから、たぶん愛梨は愛でられ慣れていないのだろう。初々しい反応だ。

 

 

 

「わあ、二人とも仲良しさんなんだね!」

 

 

そんな感嘆の声に反応して、何よりぼくの美少女センサーが反応して、そちらを向けば、やや小柄な愛らしい美少女がいた。

ルビーのような光沢のある紅い髪が印象的で、彼女の愛らしいさをより増していた。

つまり凄く可愛い。

 

 

「私、明智英美。日英のクォーターだから正確にはアメリア=英美=明智=ゴールディなんだけど、長いからエイミィって呼んでね……ってあれ?もしかしてB組じゃなかった?」

 

 

元気に自己紹介する明智英美、エイミィに言われて、ぼくと愛梨は初めて、いつの間にか、B組の前に着いていたことに気がついた。

エイミィの自己紹介に反応できなかったのは、単純に、呆けていただけである。

 

 

 

「うん、ぼくも彼女もB組だよ。ぼくは柴田美月」

 

「私は一色愛梨ですわ」

 

 

どうやら愛梨はエイミィにはお嬢様バージョンの口調でいくようだ。というより、単に緊張で口調が固くなっているだけかな。

ぼくとは普通に話してくれるようになったし、本来は違うのだろう。

 

 

「二人は同じ中学校?」

 

「いや、入学式で席が隣だったんだよ。そしたら、lDカードを発行してもらう窓口も隣でね、仲良くなったんだ」

 

 

愛梨の腕に抱きつけば戸惑ったように、照れたように、愛梨はまた、そっぽを向いた。

可愛い反応をしてくれちゃって。

 

 

 

「へー!美月に愛梨で良いかな?」

 

「いいよ」

 

「構いませんわ」

 

 

モスグリーンの瞳を輝かせながら話すエイミィは、緊張している様子はなく、愛梨とは逆に、初めて出会う人達にワクワクしているというか、テンション高めだ。

すぐに友達と馴染めて、可愛がられるタイプだろう。ぼくも撫でまわして甘やかしたい!

 

 

「二人はこの後どうするの?」

 

「んー、一応ホームルームには顔を出そうと思っていたけど……」

 

 

 

ホームルームへ顔を出しておこうと思ったのは新たな友人を作るためであり、こうしてエイミィという美少女の友達を作ることができた今、特にそうする理由もなくなった。

つまり予定はない。

 

 

「なら、どこかにお昼を食べに行かない?私、お腹空いちゃって」

 

「ぼくは大丈夫だけど……愛梨は?行ける?」

 

「ええ、ご一緒させてください」

 

 

大分、症状が緩和されている。

愛梨は友達がいると、いつもの自分でいられるタイプなんだろう。この調子ならエイミィともすぐに仲良くなれそうだ。

 

 

 

 

エイミィのおすすめだという、中高生向きのイタリアンレストランにやってきたぼく達は、昼食を済ませ、お喋りに興じていた。

愛梨もエイミィとすっかり仲良くなり、意気投合している。

 

 

 

「へー、愛梨の実家って金沢なんだ。そうだよね、一色家だもん」

 

「そういうエイミィもゴールディ家といえば名家じゃない」

 

 

 

ぼくも、一高に入学するにあたり、魔法師の常識ってやつは多少勉強してる。

師補十八家の一色家は勿論、ゴールディ家も有名だ。日本の魔法師の家系、『数字付き(ナンバーズ)』は似たようなのが多くて覚えにくいけど、一色家は覚えてた。ゴールディ家も、随分と豪華な名前だな、と思ったのが記憶に残っていたのだ。

まあ、両家共にインターネットで調べれば、本家の住所まで分かるんだけどね。

調べても分からないのって四葉くらいだし。

 

 

「でも、それなら三校の方が近いよね?なんで一高?」

 

「……秘密よ」

 

「えー!なんか怪しいなー」

 

 

ニヤニヤとしながら愛梨に詰め寄るエイミィ。

うんうん、美少女同士のじゃれあいを見るのは素晴らしいね。

呑気にそんなことを考えていると話の矛先はぼくに向いてきた。

 

 

「美月はどうなのよ?柴田って魔法師の家ではないでしょうし、魔法科高校を受験したのにはそれなりに理由があるのではないの?」

 

 

魔法が使えるからと言って、魔法師になれるわけではない。

魔法とは色々お金のかかる学問で、教育費は凄まじい。国立の魔法科高校でさえ、教師が足りていない現状、魔法を学べる場というのは少なく、魔法の才能があるというだけでは魔法師にはなれない。

一高を含めた、魔法大学付属高校は国立だから、国がかなり負担してくれるけれど、それでも、私立大学くらいの学費は必要になる。第一、超難関の国立魔法大学付属高校に入学できるくらいの魔法力を身に付けるためにはそれなりに高度な魔法教育が必要であって、そのためには莫大な教育費が必要になるだろう。

だから、魔法科高校に進学する生徒というのは、その殆どが名家で、どこかで魔法と繋がりのある家ばかりだ。

 

実用レベルで魔法を発動できる中高生は、年齢別人口比で1/1000前後で、その中には勿論、ぼくみたいに両親が魔法を使えない、という人間もいるのだけど、そういう人は家が裕福でもない限り、魔法なんてないみたいに、普通に過ごす。

 

つまりぼくみたいに魔法とは縁も所縁もない人間が魔法師を目指すのは珍しいことで、それなりの理由があるはずなのだ。

 

 

 

「んー、愛梨たちと出会うためかな?」

 

 

ぼくがウィンクしながらそう言えば、愛梨は顔を紅くしながらたじろき、エイミィも紅くなった顔を隠すように俯きながら、ストローで勢い良くオレンジジュースを吸い込んだ。

 

二人とも可愛くて、美月さんは満足です。

 

 

 

「冗談、冗談」

 

「もお、ちょっと照れちゃったじゃない!」

 

 

エイミィがぽかっと軽く小突いてくる傍らで、愛梨は頬を膨らませていた。

ちょっとやり過ぎちゃったかな?

 

 

 

「なんだか結局はぐらかされたみたい」

 

「良いじゃん、愛梨だって秘密なんでしょ?」

 

 

 

愛梨ははぐらかされたって思ったみたいだけど、別にそんなんじゃない。

愛梨たちと出会うため、っていうのも、嘘じゃないしね。

 

 

ぼくが一高に入学したのは、それがきっとぼくにとって良いものになると確信したからだ。

その中にはきっと愛梨たちとの出会いだって含まれているのだから。

 

 

この後、ぼくたちは日が暮れるくらいまでおしゃべりをしてから解散した。

別れるとき両手いっぱいで手を振るエイミィが可愛かったり、愛梨の住んでいるマンションがぼくの家から結構近いことが分かったり、色々あったのだけど、ぼくは一人、キャビネットを降りたところで気がついた。

 

 

 

「……ここからどう帰れば良いんだっけ?」

 

 

 

 

とりあえず、達也に電話した。




─────

137・名無しさん
今調べてたんだけど、ワンダーランドの新アトラクションの御披露目には参加していた模様

138・名無しさん
137>>詳しく


139・名無しさん
ワンダーランドのCMを担当しているアイドルの栗宮がブログで、御披露目で月柴美と話したって書いてる


140・名無しさん
栗宮美春か。魔法師アイドルという個性抜きにしても、可愛いよな

141・名無しさん
ブログ見てきたけどワンダーランドの関係者だけで行われたパーティーみたいな感じだったらしい

142・名無しさん
↓これブログのコピペな

今日はワンダーランドの御披露目パーティー!そこでなんと月柴美さんとお会いできましたー!“〆(^∇゜*)♪
と、言っても分からないかな?まだデビューしたばかりのイラストレーターさんで、私が個人的に大ファンなんですよねー(*≧∀≦*)
サインも貰っちゃって、超嬉しかったー!


143・名無しさん
なんかこの内容だと、月柴美一人っぽくね?イラストレーター『さん』だし

144・名無しさん
そこはブログに書くわけだし、本人から色々言われてんじゃね?
このブログでも月柴美のことは殆ど分からないし


145・名無しさん
でもそこまで徹底した秘密主義ってわけでもないのかもな。
正体バレたくないならそもそもパーティーにも参加しない

146・名無しさん
145>>まだまだ新人だった月柴美が断れるわけがないから、そうとも言い切れない



つづく

──────



( ̄ω ̄;)深雪「……私はまだクラスに友達がいないという現実を理解したくない……」


(つд;*)深雪「…………美月と同じクラスが良かった……」





今話では終わらなかったスレ。
次話は愛梨ちゃん回になるので、スレは一旦お休みの予定です。
ついに、愛梨ちゃんが一高に進学した理由が明らかになる予定ですので、お楽しみに!


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第三十五話 愛梨と謎の少年

『でも、それなら三校の方が近いよね?なんで一高?』

 

『……秘密よ』

 

 

愛梨は、数日前から住んでいるマンションの一室に帰宅してすぐ、ベッドにそのまま倒れこんだ。

あまり行儀の良くないことであるのは分かっているが、今はそうしてベッドに沈んでいたかった。

 

 

 

「言えないわよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて……」

 

 

口に出してみると、それがとても恥ずかしいことに思えて、紅くなった頬を隠すように、枕に顔を埋めて足をバタつかせる。

 

 

 

「仕方ないじゃない、好きになってしまったのだから……」

 

 

誰への言い訳なのか、そんなことを不貞腐れた顔で呟きながら、愛梨は、ある少年との出会いを、愛梨にとっては大きなターニングポイントとなった運命の日を、思い出していた。

 

 

 

 

愛梨は明日開かれるリーブル・エペーの大会に出場するべく、この東京の地に大会前日の今日、足を踏み入れた。

金沢に住む愛梨からすれば、今回の大会はアウェーであったが、数々の優勝経験から、また、彼女自身の気質から、彼女は緊張とは無縁であり、今日一日のオフをショッピングでもして楽しむつもりだった。

 

この地ではろくに練習できる施設にあてはなく、そもそも前日に焦って練習をするのは二流だ。師補十八家は高貴でなくてはならない。常に優雅に、悠然と。

 

一色愛梨は中学生ながらに、自分の生まれに強い誇りを持っていた。

だから、努力できたし、結果を残せた。

 

しかし、愛梨は中学生であって、女の子だった。

たまの休日、それも、中々来ることのない東京の地でショッピングとなればそれなりにテンションも上がる。

 

結果、気がつけば両手にいっぱいの手荷物が増えていた。

家に直接配達をすることができるシステムもあったのだが、お年頃の愛梨はなんとなく、自分のいない時に買った服が家に届くというのが嫌だった。

特に見られて疚しいものはないのだが、そういうお年頃なのである。

 

両手の紙袋に入っているのは、そのほとんどが衣服であり、一着一着はそう重くはないが、数が増えれば重くなるのは当然で、それなりの重さになっていた。

それが二つだ。

 

そして、愛梨がその二つの紙袋のあまりの重さに、家に送ってしまうかどうか悩み始めたころ、それは起こった。

 

 

愛梨が先程までいたショッピングタワー。

雑誌やテレビなどで良く紹介され、愛梨が密かに憧れていたそのショッピングタワーで火災が起きたというのだ。

ショッピングタワーから飛び出してきた大勢の人に街は慌ただしくなり、警察や消防が駆けつけたころには、すっかり野次馬が周囲を陣取っていた。

 

あれよあれよという間に押し寄せてきた野次馬に呑まれた愛梨。

すぐにこの場を離れなかったことを若干後悔しつつも、この荷物を持ってこの人混みを歩くのは億劫だと判断した愛梨はしばらく、事態が落ち着くのを待った。

すると、火災が誤報であったという情報と共に野次馬は解散していき、愛梨もそれに乗じてその場を離れた。

 

未だいつも以上に人の多い大通りを態々歩くのは愚行、すこし脇道に反れれば少しの遠回りで人混みを避けることができる。

人混みにうんざりしていた愛梨はこの名案に自分を褒めたいくらいだった。

土地勘のない愛梨だったが、文明の利器に力を借りれば迷うことはない。

すいすいと、但し、両手の荷物には若干の後悔を覚えつつも、愛梨は想定通り人混みを抜け出して、時折携帯端末で場所を確認しながら歩いた。

 

 

 

 

「……大通りを避けてきた口か……ここは危険だ、離れた方が良い」

 

 

 

そんな順調だった愛梨の歩みを止めたのは一人の少年だった。

自分と同い年程度のように見えるのだが、その落ち着いた声質のせいか、不思議と何歳も年上のように感じる。いや、実際年上なのかもしれない。

 

とはいえ、なんの説明もなく、危険だから離れろ、と言われ、はい、そうですかと素直に聞き入れる愛梨ではない。

 

理由を説明するよう、少年に詰め寄ろうとしたところで──少年のすぐ横で、一発の銃弾が弾けた。

 

 

 

「くそ!来い!こっちだ!」

 

 

 

少年に手を引かれて走り出す。

あんなに苦労して運んできた紙袋は二つとも、その場に捨て置いた。そんなものを気にしている余裕はなかったのだ。

 

 

 

「何なの……一体何が」

 

 

愛梨の口から漏れたのは疑問だった。

 

─狙われた?誰が?私が?

 

愛梨は師補十八家の令嬢であり、名前も容姿もそこそこ知られている。

リスクとリターンを考えれば、襲撃される可能性はないに等しいが絶対にないわけではない。

襲撃の可能性を考えなくてはならない程度には可能性はあった。

 

しかし、今回に関して言えば、狙われているのは恐らく自分ではない。

 

愛梨は息を整えつつ、隣の少年を盗み見た。

 

 

「狙われているのは俺だ。君は隙をみて逃げろ」

 

 

心臓が跳ね上がった。

心を読まれているのかと錯覚してしまうほどに、少年の言葉は愛梨の疑問に的確に答えたからである。

 

この少年は一体何者なのか。

 

愛梨の感心は襲撃者の正体よりも、そちらに傾きつつあった。

 

 

 

「3……いや、4人か……魔法を使わずに奇襲したとして、はたして上手くいくかどうか……」

 

 

 

すぐ近くにいた愛梨でさえ良く聞き取れないほど小さな声で、少年が何事かを呟く。

 

ふと、少年と目があった。

 

愛梨はじっと少年を盗み見ていたわけだから、少年が愛梨をみれば目が合うのは当然なのだが、愛梨は何か恥ずかしいところを見られたような気がして顔を赤くした。

 

 

「合図したら走れ」

 

 

そんな愛梨のことなどまるでないかのように、少年はそれだけ告げて突然走り出した。

すると少年の走り出した方から覆面の男たちが現れ、驚いたように銃を乱射した。

少年は壁を使って飛び上がると、銃弾に当たることなく、覆面集団の背後へと周り、一人を無力化した。

しかし、敵は四人、一人を無効化したところで相手はまだ三人もいる上に武装までしているのだ。

 

 

危ない!

 

そう思いはしたが、体は動かなかった。

確かに愛梨は、この距離で、すぐに少年を助けられるような魔法は持ち合わせていなかったし、この時点では、恐らく出来ることは特になかっただろう。

愛梨が現時点ですぐに使用することが出来た魔法は、首のネックレス型CADに入っている『知覚した情報を直接精神で認識し、肉体に命じることができる』魔法のみであったからだ。

それでも、声に出すことくらいは出来たはずなのだ。()()()()()()()()は出来たはずなのだ。

なのに、まるで体が言うことを聞かない。

 

 

愛梨のその困惑は、次の瞬間には驚愕に変わる。

 

 

少年を狙う残り三人の拳銃が突如としてバラバラに()()されたからだ。

 

驚く(覆面で表情は見えないがそんな雰囲気だった)覆面の男たちは、それが決定的な隙となり、瞬く間に少年に無力化された。

 

 

「走れ!」

 

 

少年の叫びが、自身に向けられたものであると認識できるまで、一瞬タイムラグが生じる。

目の前の光景が、自身への困惑が、愛梨の思考力を鈍らせていた。

それでもなんとか指示通りに体は動いた。

少年とは反対方向に全速力で走り抜ける。

 

そこに、先程と同じような覆面をした男が二人、道の脇から飛び出してきた。

 

勝てない相手ではない。

武装しているとはいえ、相手は非魔法師。

師補十八家、一色家の令嬢、『エクレール(稲妻の)・アイリ』こと、一色愛梨が遅れを取る相手ではないのだ。

分かっている、勝てるのだ、負けるわけがない。

 

自信はあった。

数々の大会で優勝してきた彼女には自分に確固たる自信が。

それが崩れていく。

 

動けない、何も出来ない。

 

初めて感じる本気の殺意、目の前の『死』に押し潰される。

 

 

─なんで!

 

 

頭では分かっているのに、思うように動けない。それは落胆となって愛梨を縛る。

今まで積み重ねてきたトロフィーは、結局のところ飾りでしかなかったというのか。

 

 

─そんなはずがない!

 

 

愛梨を動かしたのは誇りだった。

こんな自分は許せなかったし、過去の自分をこの一瞬の自分が否定してしまうことだけはしたくなかった。

今の自分があるのは、自分の努力だけでなく、友人やライバル達と切磋琢磨してきた結果だ。

過去の自分を否定することは、その友人やライバルのことも汚してしまうような気がした。

それだけは、してはならない。

自分の行動で他者を貶めることは、汚すことは、断じてしてはいけない。

自分は、師補十八家、一色家の一色愛梨なのだから。

 

 

男たちが拳銃を構え、引き金を引き、放つまで、一秒とかからないだろう。

訓練された彼らには何千、何万と繰り返してた動作だからだ。

それを、混乱からスタートの遅れた愛梨は越えていく。

 

愛梨は魔法によって、目で見るより速く、知覚した情報を直接精神で認識し、肉体に命じることができるがゆえに、知覚してから動作するまでのタイムラグが0に等しいからである。

愛梨は銃弾が放たれる前に二人の拳銃を蹴り飛ばすと、そのまま一人に掌底を放った。

愛梨の高い身体能力と、魔法が、圧倒的速度を生み出している。

 

 

─いける!

 

 

恐怖から解き放たれた愛梨は実力を十分に発揮できており、自身の確かな力に笑みを浮かべた。

それは、油断というべきものだったのだろう。

 

愛梨は、()()()()()()()()()()()()を知覚していなかったのだ。

 

 

 

「危ない!」

 

 

少年の声が響いた時には、既に銃弾が放たれた後だった。

いかに、『エクレール(稲妻の)・アイリ』と称される愛梨であっても、全くの知覚外から放たれた銃弾を、避けることは既に不可能であった。

 

目の前に銃弾が迫っている。

動きがスローモーションのようにゆっくりと動いているように感じるのは、死が間近であるがゆえなのだろう。

 

 

回避行動は取っているものの、間に合うはずがない。

銃弾は一寸の狂いもなく愛梨の眉間を貫く──はずだった。

 

愛梨の目の前で銃弾が粉々に砕ける。砂のように、霧のように、見えないほどの小さな粒に()()されたのだ。

 

そして三人目の襲撃者の背後から、先程まで自分の後方にいたはずの少年が現れ、ただの一発の拳で、襲撃者の意識を奪った。

 

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

 

明確な死のイメージから解放された愛梨は、助かったという安堵感から腰を抜かし無様にも、その場に座り込んで立つことが出来なかった。

いや、立つことができないのは、安堵感だけが理由ではないだろう。

 

 

 

自分に手を差しのべる少年。

自分を救ってくれた、恩人。

 

 

 

 

かつてない胸の高鳴りが、愛梨を惚けさせていたのだ。

 

 

 

 




( ̄ω ̄;)愛梨「一高に入学したものの、まだ()とは会えていないのよね……」

(;・ω・)愛梨「まさか、入学していないなんてことはないわよね……?」

( ;∀;)愛梨「今考えると、勢いで一高に進学したけど……かなり無計画だったのね……恋は盲目……恐ろしい魔法だわっ!」







(;´∀`) ??「愛梨は意外と天然じゃからな……」

(;´Д`) ? 「やっぱり一人で送り出したのは失敗だったのでは……?」






あの少年は一体何者なんだ……(棒)
次話で正体が明かされます!
そして、あとがきの最後の二人も次話で登場します!


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番外編 数式系美少女と神道系美少女

ついに謎の少年の正体が明らかに!
一体何者なんだ……(棒)


「一高に進学する!?」

 

 

十七夜 栞(かのう しおり)は友人の突然の告白に思わず、声を裏返した。

栞と親友の二人は、国立魔法大学付属第三高校に進学することを、もう随分と前から決めていたからだ。

 

 

「突然どうしたのじゃ?愛梨が何も考えずにそのような結論に至ったとは考えておらんが、些か急過ぎやせんか?」

 

話し方が古風で年寄りじみているのに反し、来年には高校生になるというのに随分と小柄な少女、四十九院 沓子(つくしいん とうこ)もまた驚きを隠せぬ様子で目を丸くしている。

 

 

「貴女達には申し訳ないと思っているわ。でも、もう決めたことなの」

 

 

栞は金沢魔法理学研究所に通うため、沓子は家の手伝いをするため、家を離れるわけにはいかない。

そのため、愛梨が一高に進学するからといって、一緒に一高へは進学できないのだ。

 

しかし愛梨の意思は固い。

栞が愛梨と出会ってからもう二年になるが、この目をしている愛梨の意見を変えるのは不可能に近い。

栞よりも愛梨との付き合いが長い沓子も、それは感じているのか、ふむ、と首を傾げている。

 

 

「うむ、一高は東京の八王子だったかの……して、愛梨よ、お主先週、遠征で大会に行っておるの」

 

 

 

ピクリッと愛梨が動いたのは明白だった。

 

 

 

「そ、そうね。勿論優勝したわよ?」

 

「いやいや、結果は当然知っておる。お主が負けることなど想定しておりゃせん」

 

 

友人からの嬉しい言葉に思わず口角が緩みそうになるが、それは沓子の次の一言でぎゅっと引き締められた。

 

 

「じゃが、どうもその大会から様子がおかしいような気がしとったんじゃよ」

 

「そ、そうかしら?私は分からないけど」

 

 

 

様子がおかしい、というのは栞も感じていたことではあった。

時折ボーッと呆けていることがあったり、やたらとため息が多かったりと、些細なことではあったが明白な変化は確かにあったのだ。

 

 

 

「これは一切の根拠のない単なる()なのじゃが……愛梨よ、お主、恋をしてはおらんかね?」

 

 

沓子の言葉に愛梨はかつてないほどに赤面した。

 

 

 

 

 

 

 

四十九院家は神道の大家『白川家』に連なる家系だ。代々神道系の古式魔法を受け継いできた由緒ある家系で、実家は神社であり、時折巫女として仕事を手伝っていることもある。

だから、というわけではないのだろうが、沓子には特別な直感のようなものがあり、沓子の直感、所謂、()を栞も愛梨も信頼していた。

 

 

 

「ん?どうじゃ?正解であろう?」

 

 

 

そして、沓子自身も己の直感を一つの能力と認識しており、こうした場ではその能力を遺憾なく発揮する。

 

こうして、少ない判断材料から愛梨を追い詰めていく様子を見るに、魔法師でなく探偵としても大成したに違いないと、栞は確信していた。

 

 

「…………貴女に隠し事は無理そうね」

 

 

この場合、『自供』という言葉がもっとも相応しいだろうか。

愛梨はついに、白旗をあげた。

沓子のしてやったりという顔が少々悔しくはあったが、これ以上黙っていてはさらに無様を晒しかねないと愛梨は考えたのである。

 

 

 

()()()と出会ったのは大会前日のことだったわ」

 

 

そして愛梨は語り始める。

彼との出会いを、そこであった出来事を。

 

 

 

 

 

 

「なんというか、あれじゃな、愛梨は意外と乙女というかチョロインじゃな」

 

 

愛梨から、数十分にわたる物語を聞かされた沓子は開口一番そう、愛梨を称した。

 

 

「何なの、チョロインって?」

 

「ふむ、可愛いという意味じゃよ」

 

 

言葉の意味を理解できなかった愛梨は首を傾げたが、沓子がなんでもないような顔でサラッと嘘を教える。

 

 

「でもその男一体何者だろう?愛梨の話を聞くと、彼は、武装集団が現れることを予期していたようだし、何より、自分が狙われている、と言っていたのでしょ?」

 

「ええ、それに実戦に慣れているようだったわ」

 

 

栞は愛梨の恋愛云々の前に、その男についての疑問がいくつも浮かんでいた。

愛梨の話では同年代のようだったと言うが、同年代でそこまで戦闘に慣れている人物はそうはいないだろうし、栞の知る限りでは、『クリムゾン・プリンス』こと一条将輝くらいなものだった。

 

 

「のう、愛梨よ。わしに隠し事は無理そうなのではなかったのか?」

 

 

栞が次なる疑問を口にしようとした時、突然、沓子が何かを確信した様子で、ニヤニヤとした笑みで愛梨にそう問いかけた。

 

 

 

「良いんじゃよ、わしは別に。隠しておきたいというのなら、こちらで勝手に()()しておくからのう」

 

 

 

栞は愛梨の赤面して悔しそうにしている顔を見て、沓子がだんだん楽しくなってきていることをあっさりと看破した。

愛梨のこんな表情は中々見られるものではないし、まして、自分達三人の間で恋愛話があがることも今までなかったのだ。

初めての恋バナ、それも、対象が愛梨ともなれば、楽しくなってしまうのも無理はないだろう。

追い詰められている愛梨としては堪ったものではないが。

 

 

「好いた男のことを、分からないままで済ましておく愛梨ではなかろう?」

 

「うう、そうよ!調べたわよ!」

 

 

ついに限界の来た愛梨が相変わらずの赤い顔で白状した。

 

 

「名前も教えてくれなかったから苦労したわ。こんなことで一色家の力を使うわけにも行かないし」

 

 

自らの家に誇りを持っている愛梨は家の力を自分の想い人のことを調べるために使おうとは思わなかった。

 

 

「名前は司波達也、私たちと同級生で一高の受験を控えている……正直、分かったのはこれだけね」

 

 

「ほお、それだけとはいえ、良く調べられたものじゃ」

 

 

実際、一度会っただけの名前も知らない人物を捜索するというのは極めて難しい。

一個人の力でそこまで調べられたのなら上出来といえるだろう。

 

 

「リーブル・エペーの大会の時、近隣の中学校の選手に聞いて回ったら、当たりを引けたのよ」

 

「ほお、そいつは凄い」

 

 

少年、司波達也が、愛梨のように、観光やその他の目的でそこにいた、という可能性も十分にある中、愛梨がたまたま声をかけた選手の中学校に通っている生徒だったというのは、凄い偶然だろう。

 

 

「彼、校内では有名人みたいで、特徴を言ったらすぐに分かったわ。なんでも、成績は飛び抜けて優秀、スポーツは何をやらせても一流で、テストでは入学以来、一度も学年一位の座を奪われたことがないのだとか」

 

「そいつは凄いな」

 

 

奇しくも、先程と同じ反応になってしまったのは、単純に感心し、出てきた言葉がそれだったからなのだろう。

 

 

 

「そんな彼がどうして武装集団に狙われるようなことに?」

 

 

聞く限り、極めて優秀な人間ではあるようだが、『数字付き(ナンバーズ)』でもなく、魔法師としては無名なのだろう。

そんな彼が実戦に慣れているというのはどうにも不自然だし、武装集団に狙われるような状況もおかしい。

 

 

 

「彼が何故、実戦になれているのかは分からないけど……後から分かったのは、あの日、近くで武装集団によるテロ活動があったらしいということよ」

 

 

この情報は一色家からもたらされたものだ。

娘のいたすぐ近くで、そんなことがあったと分かれば心配するのが親であり、この情報は家に帰ってすぐに愛梨の耳に入った。

 

 

「公にはなっていないから詳しいことまでは調べられなかったけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になったみたい」

 

 

魔法師と、そうでない者の間には社会的に確執があり、こうして、魔法師絡みの事件が隠蔽されることは少なくない。

 

 

「その武装集団の残党があの時の連中だったのではないか、というのが愛梨の考えなわけね」

 

「ええ、彼はその武装集団にあの路地で遭遇、私と出会ったときにはもう戦闘中だったのではないかしら?」

 

 

筋は通っている。

少なくとも、その武装集団が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えるよりは現実的だ。

事件に巻き込まれ、武装集団と交戦しているところに、愛梨が来れば、狙われているのは自分、と言うかもしれないし、この場を離れるよう促すだろう。

 

 

「物騒な話はもう良いではないか。そういうことは大人に任せておけば良い。わしらは女子中学生らしく恋バナの続きでもしようではないか」

 

 

一人称が「わし」である少女に、「女子中学生らしく」と諭されたことに違和感を拭いきれないが、確かに、結論の出そうにないことについてあれこれ話し合うよりは有意義に思えた。

 

 

「もう私の話は良いんじゃない?」

 

 

 

 

少なくとも愛梨以外の二人にとっては。

 




(;´∀`)沓子「愛梨が一人暮らしはちと厳しいと思うのじゃが……」

( ̄ω ̄;)栞「そうだね、やっぱり家政婦さんを雇った方が……」

(*`Д´)ノ 愛梨「二人とも私を甘くみすぎよ!一人暮らしくらいできるわっ」







( ̄▽ ̄;)沓子「(不安じゃな~……)」

( ̄▽ ̄;)栞「(不安だな~……)」





こうして一人、一高に進学した愛梨さん。
次話からまた入学編に戻りますので、愛梨さんの活躍にご期待ください!


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第三十六話 学校見学

昨日はなんとか達也に迎えに来てもらって帰ることが出来たけど、深雪に怒られてしまった。

お兄様の手をこんなことで煩わせるなって言われても、帰れないのだから仕方がない。

ぼくだって半年もすれば一人で帰れるようになるから!

 

 

「愛梨おはよう!」

 

 

一高の生徒が利用する駅は『第一高校前』という安直な名前の駅で、その駅から学校まではほぼ一本道。

その一本道に、とても目立つ金色を見つけた。

 

 

「おはよう、美月。随分早めにきたつもりだったのだけど」

 

 

九重八雲(やくもん)先生のところに行くという達也と深雪に駅まで送ってもらったから、結構早めの登校となった。

駅から学校までは一本道だからいくらぼくでも迷わないしね、たぶん。

 

 

そうして、かなり早めに登校したぼくたちは、B組に到着したものの、教室には誰もおらず、一番乗りだった。

 

まあ、始業の一時間半前だから当然だ。

ここに来るまで、愛梨以外の一高生を見かけなかったしね。

 

 

「そういえば、愛梨はなんでこんなに早く学校に?ぼくは朝寄るところがあったから学校来るのが早くなっただけだけど」

 

 

正確には、寄るところがあったのは達也たちで、ぼくは送ってもらっただけなのだけど。

ぼくも一応、八雲先生(やくもん)の弟子ってことになるんだろうけど、今日はパスした。暑苦しいというか、男臭いというか、最初の苦手意識が先行して、良いイメージが湧かない。

深雪と一緒、ということで悩みはしたのだけど、行ったら行ったで、鍛練させられそうだったから止めておいた。

 

 

「……目覚ましが一時間ずれていたのよ」

 

 

顔を紅くして小さな声で呟いた愛梨は、そそくさと自分の席に座ってデスクに突っ伏した。顔を隠しても耳が紅いのは丸見えである。可愛い。

 

 

 

「もしかして愛梨って結構おっちょこちょい?」

 

 

「ひ、一人暮らしに慣れていないだけよ!」

 

 

愛梨の台詞に説得力はあまりなく、ぼくの中で愛梨には、ドジっ娘属性が追加されたのであった。

 

 

 

 

「おっはよー!」

 

 

始業の十数分前、朝からハイテンション、天真爛漫な笑顔を振り撒きながら教室に入ってきたのはエイミィだった。

エイミィの挨拶に、おはよう、という好意的な挨拶が教室の所々から返ってくるのは、彼女の人柄だろう。あんな可愛い挨拶をスルーすることなんて出来やしない。なんなら抱き締めたいくらいだ。

 

 

「おはよう、エイミィ。早速なんだけど、愛梨が面白いんだよ。今日の朝ね……」

 

「ちょっと美月!」

 

「えっ何々?聞きたい聞きたい!」

 

 

そうしてぼくは、エイミィに愛梨の失態を暴露し、愛梨が再びデスクに突っ伏して同化した。

あはははっ~、愛梨ちょっと天然なんだねー、とエイミィに背をポンポンされ、愛梨の羞恥メーターが振りきったのか、オリエンテーションが始まるまで、愛梨は突っ伏して悶えていた。

 

 

 

「悪かったって、そんな拗ねない、拗ねない」

 

「拗ねてはいないわよ!」

 

「まあまあ、愛梨、美月も反省してるよ!……たぶん!」

 

 

朝一のオリエンテーションが終われば、次は授業見学だ。今日、明日は授業見学をする時間が設けられていて、自由に授業を見学することができる。

ぼくも、ご機嫌斜めの愛梨と、そんな愛梨を宥めるエイミィと一緒に闘技場に向かっていた。

闘技場って物々しい言い方をされてはいるものの、実際は、訓練場のようなもので、魔法の訓練込みの戦闘訓練をする施設だそうだ。正式には第二小体育館って言うらしい。

 

 

 

「なんか普通に体育って感じだね」

 

「まあ、まだ二年生の授業も初日だし」

 

 

エイミィが意外そうに言うが、よくよく考えてみれば、今日はまだ授業初日。

いきなり、エイミィの期待するような、魔法科高校らしいものは行わないのだろう。

 

 

「新入部員勧誘週間の時には、クラブのデモンストレーションが行われるそうだから、その時にまた来ましょう」

 

「愛梨詳しいね」

 

「……オリエンテーションの時に言われたのだけど?」

 

 

愛梨の言葉にぼくとエイミィは苦笑いで誤魔化すしかなかった。

エイミィは眠ってたし、ぼくはそれを眺めてて、全然聞いてなかった。

 

 

 

「全く、私がしっかりしていないと駄目みたいね」

 

 

 

 

ちょっとお姉さんぶった愛梨が可愛かった。

 

入学二日目にして、早くもぼくたちの中で立ち位置が決まっているようだった。

 

 

 

 

 

 

見学を一旦終え、昼食。

かなり広い食堂なのだけど、勝手の分からない新入生の影響なのか意外に混雑しており、四人がけのテーブルを見つけるのに多少苦労した。

 

 

 

「午後はどうする?」

 

「ぼくは『射撃場』に行きたいかな」

 

「たしか生徒会長が所属するクラスの実技だったわね。そうなると混雑しそうだし、早めに行きましょうか」

 

 

愛梨の言うとおり、生徒会長である真由美さんの所属するクラスの実技は人気がありそうだ。

遠隔精密魔法の分野で何度も優勝し、エルフィンスナイパーやら妖精姫やらと呼ばれている真由美さんの実技を見たいという新入生は多いだろう。

 

 

「そう言わず、私のところを見に来ないか」

 

 

そう考えていたぼくの頭の上に軽く手が乗せられた。

 

 

「摩利さん!」

 

「やあ美月、改めて入学おめでとう」

 

 

摩利さんは数人の女子生徒と一緒で、昼食を食べ終わったところみたいだった。

 

 

「普段は弁当なんだが、たまには学食というのも悪くない。ここの学食は中々手が込んでいるからな」

 

 

不思議と摩利さんにおすすめされると、さっきまでなんでもなかった学食が不思議と素晴らしいものに思えてくる。これが魔法か。

 

 

「まあ、それはそれとして、どうだ。この後、私達のクラスを見に来ないか?中々優秀な者が揃っていてな、()()()()()()()、実技だからそう退屈をさせることもないと思うが」

 

 

ぼくらは顔を見合わせて、頷いた。

折角のお誘いを断る理由もないからだ。

 

 

 

「じゃあ、午後は摩利さんのクラスを授業見学することに決定します!」

 

「そうか、まあ、無理だとは思うが驚かないようにな」

 

 

 

ニヤッといつもの摩利さんスマイルで笑うと、愛梨とエイミィにも声をかけて、摩利さんは颯爽とこの場を離れた。やっぱりいちいち格好いい。

 

 

 

「美月、渡辺先輩と知り合いだったの!?」

 

 

 

摩利さんがいなくなってすぐにエイミィに詰め寄られた。摩利さんは女子人気が凄く、エイミィも入学前から知っていて、新入生の間では既に話題になっているらしい。おお、ぼくもそれくらいの女子人気が欲しいよ。

 

 

 

「まあね、格好いいし面倒見も良いし、頼りになる先輩だよ」

 

「渡辺摩利先輩といえば、三巨頭とも呼ばれる一高黄金世代を代表する一人だわ。そこに十文字先輩もいるとなれば見に行く価値は十分にあるわね」

 

 

こうしてぼくらは摩利さん達のクラス、三年C組を見学することにしたのだった。

 






147・名無しさん
天才の俺が考えたんだが、アイドルの栗宮が好意的な感じでブログに書くってことは月柴美って女性なんじゃね。
栗宮って恋愛関連の噂が一切出ないことで有名だし、ブログで同年代の男に好意的なことは書いたことがないし。

148・名無しさん
>>147それは深読みし過ぎ。単純に性別不詳だから事務所からオッケー出たんだろ


149・名無しさん
>>148第一、月柴美が栗宮と同年代かどうかも分からんしな。


150・名無しさん
俺は信じてるぜ……月柴美が女子高生って説をな!

151・名無しさん
>>150女子高生(可愛い)って説だろww

152・名無しさん
>>150それで巨乳なw


153・名無しさん
夢を見るのは自由だからな


154・名無しさん
これで、おっさん集団とかだったら地獄になるなww

155・名無しさん
>>154お前は一番やっちゃいけないことをした

156・名無しさん
>>154良いじゃない!夢くらい見ても良いじゃない!


以下、月柴美の正体について議論が交わされる。





(;・ω・)深雪「美月、結構話題になっているのね……それに比べて私は出番もないし……」


(´・ω・`)深雪「……ゲームしましょう」





とりあえず、スレネタは無くなりましたので、次話からあとがきは元に戻る予定です。
出番の少ない子が可哀想なので(笑)


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第三十七話 妹系黒髪美少女は不満である

今話からしばらく、入学編、達也・深雪サイドです。



「……あら?」

 

 

『IDカードGETだぜ!ぼくはB組だったけど深雪は何組だった?』

 

 

携帯端末に送られてきたメッセージを見て深雪は不満気な声を漏らした。

それは全くの無意識であって、本人は気がついていない。勿論、残念だ、とは思うものの、それだけだ――と深雪は思っている。

だからこそ、周囲の人間は、突如不満そうなオーラを放ち始めた深雪に大慌てである。

大人数で押し掛けて申し訳ない、とか、答辞で疲れているのにごめんなさい、とか、口々に謝られても深雪は混乱するばかりであったが。

 

 

「深雪さん、今大丈夫?」

 

 

そんな深雪を囲む人垣が極々自然と二つに分かれ、そこから深雪の元へやってきたのは生徒会長の真由美だった。深雪は既に何度か真由美と顔を合わせてはいたが、それは事務的なものであって、精々が顔見知り程度の仲である。その真由美の後ろに控えている先輩に関しては、生徒会の人という程度の認識しかなく、名前も知らなかった。

 

 

「兄と待ち合わせておりますので、その後でしたら」

 

「司波くんね、私たちもご一緒しても良いかしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

真由美が「司波くん」という明らかに達也と面識のある言い方をしたことに、少々の疑問は感じたものの、深雪の兄である以上、余程複雑な事情でもない限り――司波兄妹にも複雑な事情はあるが――兄は「司波くん」であり、そこにいちいち口を挟むことはしなかった。

 

 

「お兄様、お待たせ致しました」

 

「早かった……ね?」

 

「こんにちは、司波くん。また会いましたね」

 

 

ところが、やはり達也と真由美は知り合いであったらしい。人懐こい笑顔の真由美に対して、無言で頭を下げる達也の様子を見るに、そう親しいわけでもなさそうではあるが、この二人に一体どんな接点があるのだろうかと考えずにはいられない。

ただ、今はそのことよりも兄の傍らに親しげに寄り添っている少女の方が気になるのがブラコンの性だった。

深雪の放つ不穏な気配に、いつの間にか距離を取る真由美。そうした状況判断能力は魔法師として社会に出たとき、大いに役に立つことだろう。

 

 

「お兄様、その方は……?」

 

「こちらは千葉エリカさん、同じクラスなんだ」

 

「そうですか……美月というものがありながら、早速、クラスメイトとデートですか?」

 

 

深雪が自分でも驚くくらい底冷えした声だった。

可愛らしく小首を傾げ、唇には淑女の微笑みを浮かべながらも、目は笑っておらず、そんな声で問いを重ねられ、一体どうしたことかと、達也は一瞬硬直してしまう。

 

社交性に欠けるわけではないが、幼い時分から誉められる機会には事欠かず、その分だけ、妬み・やっかみにさらされることも少なくなく、チヤホヤされることに多少懐疑的、お世辞やお愛想を嫌う傾向がある。

式が終わってからずっと歯の浮くお世辞の十字砲火にさらされて、ストレスがたまっているのかもしれないが、どうにもそれだけではないらしい、というのが達也の勘だった。妹のことを知り尽くしているシスコン故の勘、である。

 

 

「深雪、そういう言い方は失礼だよ?ただお前を待っている間、話をしていただけなんだから」

 

 

達也の勘は当たっていた。

深雪は自分が思っている以上に、美月と同じクラスでないことが不満であったらしい。そして何より、その美月という存在がありながら、他の女と一緒にいる達也が不満だった。

 

 

「誤解されるようなことをするお兄様が悪いのですよ、そういう行動は控えてください」

 

 

いつもの深雪なら、達也から言われた時点で引き下がっていたのだろうが、今日の深雪は頗る機嫌が悪い。

達也が知らない女の子と仲良さ気にしていることが、美月への裏切りのような気がして、酷く気に入らない。達也の隣は、自分が許した者だけにいて欲しい。

そういう感情が、抑えきれなかった。

 

しかし、紹介を受けて名乗りもしないのは、失礼であることも確かだった。

それに、兄が本当にクラスメイトとデートをしていた、とは思っていない。

 

 

「はじめまして、千葉さん。司波深雪です。お兄様同様、よろしくお願いします」

 

「よろしく、あたしのことはエリカでいいわ。貴女のことも深雪って呼ばせてもらってもいい?」

 

「ええ、どうぞ。苗字では、お兄様と区別がつきにくいですものね」

 

 

深雪がおしとやかな笑顔で自己紹介をすれば、エリカは初対面にしては随分とフレンドリーに挨拶を返した。

馴れ馴れしさと、紙一重の砕けた態度は、お世辞とお愛想にウンザリしていた深雪には、好ましかった。

 

 

「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか?まだだったら、適当に時間を潰しているぞ?」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

達也への回答は深雪からではなく、真由美から返された。

すっかり打ち解けた様子の深雪とエリカに、若干、置いてきぼり感を感じていた達也だったが、だからというわけではなく、深雪の後方に控える生徒会メンバーと思わしき二人を何時までも待たせておくのはまずいのではないか、という達也の気遣いだったのだが、どうやらそれは必要なかったらしい。

 

 

「今日はご挨拶させていただいただけですから。深雪さん、詳しいお話はまた、日を改めて」

 

 

真由美は笑顔で軽く会釈をして講堂を出て行こうとした。元々、今日は挨拶だけのつもりだったからだ。

 

 

「しかし会長、それでは予定が……」

 

「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?」

 

 

真由美の中では、今日は挨拶だけをして、後日また改めて、話をしようと思っていたのだが、生徒会副会長・服部はそうではなかったらしい。

毎年の恒例で新入生総代を務めた一年生を、生徒会の役員に誘うことになっているのだが、その話をするにはもっときちんとした場でするべき、というのが真由美の考えだったが、服部は少しでも早く用件を済ませてしまいたいようだった。

仕事を後に回しているようで、嫌だったのだろう。

真由美は服部のそういう真面目で固いところは、嫌いではないが、大体の場合、短所として働いているような気がした。

 

今回の場合、何の約束もなしに声をかけたのはこちらで、急ぐ予定でもないのだから、無理に深雪を引き止める必要はない。

 

真由美は、尚も食い下がる気配を見せる服部を目で制して、深雪に、そして達也に、意味有りげな微笑みを向けた。

 

 

 

「それでは深雪さん、今日はこれで。司波君もいずれまた、ゆっくりと……」

 

 

再び会釈して、今度こそ立ち去る真由美の背後に続く服部は振り返ると、舌打ちの聞こえてきそうな表情で達也を睨んだ。

責任転嫁というか、単なる八つ当たりであって、達也には一切の落ち度はないのだが、生徒会役員の上級生の不興を買ってしまったのは間違いなかった。

 

 

「……さて、帰ろうか」

 

 

しかし達也は何らいつもと変わりない様子で、そう二人に声をかけた。

残念なことに達也は、この程度で一々クヨクヨできるような順風人生を辿って来た訳ではない。まだ十六年弱だが、その程度のネガティブな強さを身につけるだけの人生経験は有している達也だった。

 

 

「……すみません、お兄様。わたしの所為で、お兄様の心証を」

 

「お前が謝ることじゃないさ」

 

 

深雪が落ち込んでいると見るや否や、達也はポン、と妹の頭に手を置き、そのまま髪を梳くように撫でる。

すると、深雪の沈んでいた表情が陶然の色を帯び、達也の思惑通り、深雪は元気を取り戻した。

 

 

傍で見ていたエリカは顔をひきつらせながらも、この少々危ない兄妹に見えなくもない光景について、初対面の遠慮もあって、何も言わなかった。いや、言えなかった。

 

 

「せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」

 

「いいね、賛成! 美味しいケーキ屋さんがあるらしいんだ」

 

 

少し気恥ずかしそうにしながら、深雪がそう提案すれば、さっきまで微妙な表情をしていたエリカの顔が綻んだ。

 

 

「あっ、エリカごめんなさい、誘っておいて何なのだけど、一人友人を待たないといけないのよ」

 

「そうなの?あたしは全然構わないわよ」

 

 

深雪には、クラスが違うと分かってさぞ落ち込んでいるであろう、美月の姿がありありと浮かんでいた。

今日は元々、一緒に帰る予定になっている。

少しくらいなら慰めてあげるのも吝かではない。

 

 

「ああ、その必要はないぞ。美月から『友人が出来たから、その娘とホームルームに行く。先帰ってて』と連絡があった」

 

「えっ?」

 

 

深雪は一瞬呆けた後、自分でも不思議なくらい苛立っているのが分かった。

それは、達也から携帯端末の画面、美月からのメールを見せられて、さらに加速する。

 

画面に表示されている美月からのメールは、達也が口にしたのと、全く同じ文字の羅列。

 

 

「……もう知らない」

 

 

深雪が小さく呟いた一言を、達也は聞き逃さなかった。

 

 

「仕方ないさ、新しく出来た友人と交流を深めることは大切なことだ」

 

「そうですね、美月はきっと()よりも、その、新しくできた友人の()の方が良いようですから」

 

 

これは何を言っても無駄である、と達也が確信するまでそう長い時間はかからなかった。

深雪がこのように拗ねてしまっては、達也でさえ数日はご機嫌取りに終始することになる。

鈍感を煮詰めたような美月では、深雪の機嫌が治るまでどれだけかかるか分かったものではない。

 

 

「エリカ、待つ必要は無くなったみたい」

 

「そ、そう?」

 

 

明らかに機嫌の悪くなった深雪に、戸惑い気味のエリカだったが、なんとか返事を返すくらいの余裕はあった。

そのエリカの返事に合わせるようにして、チリン、と鳴り響いた電子音。

達也の携帯端末にメールの届いた音だった。

 

送られてきたメールの文面を見て、達也はこのメールを見なかったことにするか割と本気で悩んだ。

 

 

「お兄様、()()はなんと?」

 

 

しかし、メールの差出人すら妹に看破されている今、この文面を隠すことは不可能に近かった。

妹の、この笑みの圧力に耐える術を達也は持ち合わせていない。

 

 

「……昼食も友人と食べてくるからいらない、らしい」

 

 

「そうですか」

 

 

にっこりと、それはそれは美しい笑みを浮かべながら、深雪は頷いた。

なのに、どういうわけか、その笑顔に達也が覚えたのは恐怖だった。――笑顔の起源は威嚇である――そんな言葉が達也の頭を過った。

 

 

「行きましょうか?」

 

 

深雪のその一言に、達也とエリカはコクコクと機械的に首を縦に振った。




─その後の真由美さん─


キョロo(・ω・ = ・ω・)oキョロ 真由美「……いないわね」


(´・ω・`)服部「誰かお探しですか?」


( ̄ヘ ̄)真由美「可愛い可愛い私の友人が新入生にいるのだけど、見つからないのよ」


( ̄ー ̄?)服部「連絡をすればいいのでは?相手も携帯端末の一つくらい持っているのでしょう」


┐(´д`)┌ヤレヤレ 真由美「はんぞーくん、貴方何も分かっていないわね」


( ̄ω ̄;)服部「はあ、これが最も効率的だと思ったのですが」


(≧O≦)ノ 真由美「連絡しちゃったら、格好良く登場できないでしょ!最近、摩利ばっかり格好いいって言われててずるいんですもの」

(;´∀`)服部「は、はあ……」



結果、美月とは出会えず、格好いい登場も摩利に奪われた真由美さんであった。


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第三十八話 電波系天然美少女降臨

エリカが調べておいたらしいケーキ屋は、実際のところ、デザートの美味しいフレンチのカフェテリア、だったため、そこで昼食を済ませ、短くない時間おしゃべりに興じて、家に帰り着いたのは夕暮れも近い時間だった。

家に帰る頃には、深雪も()()()()機嫌を治しており、達也は良い店を紹介してくれたエリカに感謝した。

 

 

『達也ぁ……帰れなくなった……』

 

 

そんな電話が美月からかかってきたのは、達也が深雪の淹れてくれたコーヒーを、飲み終わろうか、という瞬間だった。

 

 

「はあ、今どこだ?」

 

『……駅……朝と同じとこ』

 

 

迎えにいく、とだけ告げて達也は電話を切る。駅まで辿り着ければ帰れるかと思っていたが、どうやら駄目だったようだ。

 

 

「お夕食のしたくはしておきますね」

 

 

達也が伝えるまでもなく、深雪はそう口にした。

 

 

「美月に『あまりお兄様のお手を煩わせないように』とお伝え下さいますか?」

 

「俺は別に構わないのだが」

 

「お伝え下さいますか?」

 

「……ああ」

 

 

どうやら深雪は達也の思っている以上に怒っていたらしい。

これは長期化しそうだ、と考えながら、達也はさっさと家を出た。

とりあえず、この空間に居続けることは、御免だった。

 

 

 

 

 

「達也くん、オハヨ~」

 

 

九重八雲に入学の報告をした後、余裕を持って登校した達也は、深雪と別れ、自分のクラスである一年E組の教室に入ってすぐ、陽気な活力に満ちたエリカに挨拶された。

昨日の内に顔合わせを済ませた生徒も多いようで、既に教室のそこかしこで雑談の小集団が形成されており、エリカはその一つから、一人の女子生徒を伴って抜け出してきた。

 

 

「おはよう、エリカ」

 

 

深雪の機嫌が悪かった()()()()、エリカとはお互いに名前呼びする程度には仲を深めていた。

あの場を乗り切るためには二人の協力が必要不可欠であったため、妙な連帯感が生まれたからだ。……このことを深雪に知られれば、また機嫌が急降下することは間違いないのだが。

 

 

 

「ほら、未亜も」

 

「お、おはようございますっ」

 

 

そのエリカに促されるようにして挨拶をした女子生徒は、随分と緊張している様子でカチコチに固まっており、今にもエリカの後ろに隠れてしまいそうな勢いだった。

 

 

「本郷未亜と言います、よろしくお願いします!」

 

 

ペコペコと必要以上に頭を下げられて、困惑気味の達也。何もしていないのに、こうも頭を下げられては、何かしてしまったような気になる。

 

 

「面白いでしょ?今朝仲良くなったの」

 

 

それをエリカはニヤニヤと見詰めていた。その様子は、新しい玩具を与えられた子供のようで、エリカと未亜の関係がどのようなものなのか、あっさりと看破できた。

 

 

「よろしく、本郷さん」

 

 

若干の哀れみを瞳に乗せて、達也は未亜に返事を返す。

 

 

「お二人は入学前からお知り合いだったのですか?」

 

 

達也が物腰柔らかく接した成果なのか、未亜は緊張が解れた様子で、そう問いを投げ掛けた。

 

 

「いや、昨日話す()()があってな」

 

「そ、昨日が初対面よ」

 

 

苦笑い気味に答えた達也に、同じような表情でエリカが付け足す。

針の筵のような時間を共有したが故に、であるがために、あまり良い()()ではなかったからだ。

 

 

「ほへぇ……お二人は進んでるんですね……」

 

 

しかし、未亜の捉え方は少々特殊であった。顔を赤らめて、二人を見る未亜にエリカが慌てて訂正をする。

 

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

「え、だってお二人は初対面で恋に落ちて今日にはもう付き合い始めているんじゃないんですか?」

 

「誰もそんなこと言ってないでしょ!どういう構造してんのよ、あんたの頭は!」

 

「エリカさんと頭の作りは大体同じだと思うんですが……」

 

「そういうことじゃないわよ!バカにしてんの!?」

 

 

 

未亜の中では、二人は入学式でお互いに一目惚れし、両想いになって、デートした、ということになっている。

未亜はかなりの天然であった。

 

達也は二人が口論しているのを止めることはせず、自分の端末を探すべく、目をやった。

 

 

「ちょっと達也くん!一緒に誤解を解いてよ!」

 

「そのうち、美亜も誤解に気がつく。そうムキにならなくても良いだろう」

 

「なんでそんな冷静なの!?」

 

「ほぁ……やっぱりお二人は……」

 

「ああ!また誤解が加速してる!?」

 

 

まだ何やら争っているエリカと未亜を尻目に、達也は自分の端末を見つけると、IDカードをセットし、インフォメーションのチェックをする。

履修規則、風紀規則、施設の利用規則から、入学に伴うイベント、自治活動の案内、一学期のカリキュラムまで、高速でスクロールすれば達也の頭に叩き込まれた。

そして、受講登録を一気に打ち込んでやっと顔を上げる。

すると、前の席から目を丸くして手元を覗き込んでいる男子生徒と視線があった。

 

 

「……別に見られても困りはしないが」

 

「あっ?ああ、すまん。今時キーボードオンリーで入力するヤツなんて珍しいもんで、つい見入っちまった」

 

「慣れればこっちの方が速いんだがな。視線ポインタも脳波アシストも、いまいち正確性に欠ける」

 

 

達也は、そう男子生徒に説明しながら、そういえば美月もキーボードオンリーであることを思い出した。

彼が美月と知り合う前から美月はキーボードオンリーだったようで、本人曰く、慣れているから、らしいが、どうやら美月は視線ポインタや脳波アシストがあまり好きではないらしい、ということも達也は知っていた。

つまり、美月がキーボードオンリーなのは、慣れているから、というだけでなく、視線ポインタや脳波アシストを使いたくないがために、選択肢がそれ一つしかなかっただけなのである。

 

 

「自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターな所為で、外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。

レオでいいぜ」

 

「司波達也だ。俺のことも達也でいいぞ」

 

「OK、達也。それで、得意魔法は何よ?」

 

 

 

『分解』と『再成』です、とは口が裂けても言えない。しかし、そうなると達也に得意な魔法など心当たりがなかった。

 

 

「実技は苦手でな、魔工技師を目指している」

 

「なーる……頭良さそうだもんな、お前」

 

 

魔工技師、あるいは魔工師は、『魔法工学技師』の略称で、魔法を補助・増幅・強化する機器を製造・開発・調整する技術者を指す。

社会的な評価は魔法師より一段落ちるが、業界内では並みの魔法師より需要が高い。一流の魔工師の収入は、一流の魔法師を凌ぐほどだ。

魔法師の必須ツールであるCADも、魔工技師による調整抜きでは埃をかぶった魔法書以下なのだから。

 

故に、実技が苦手な魔法科生が魔工師を目指すのは珍しいことではない。

 

 

「司波君、魔工師志望なんですか?」

 

 

エリカが何事か言っているのを無視して、達也たちの元へやってきた未亜。

マイペースというか、天然ここに極まれり、な少女である。

 

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 

達也が未亜の質問に頷くと、未亜の顔が綻ぶ。

未亜の笑顔を見るのは勿論初めてだったが、少女の歳が実際には何個か下なのではないかと、錯覚してしまうような幼げな、あどけない笑顔だった。

 

 

「ちょっと未亜!あんた他人が話しているのを全無視(フルシカト)とは良い度胸ね!」

 

 

「達也、コイツ、知り合いか?」

 

 

髪を逆立てて怒りを露にするエリカを、やや引き気味に指差してレオは訊ねた。

 

 

「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し? 失礼なヤツ、失礼なヤツ!失礼な奴っ!!モテない男はこれだから」

 

 

天然過ぎて怒りをぶつけられない未亜の分まで、怒りを乗せて放たれたその言葉は、辛辣かつ強烈な一撃となってレオを撃つ。

 

 

「なっ!?失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねーぞ!」

 

「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男には分からないかもしれないけど。それにな~に、その時代を一世紀間違えたみたいなスラングは。今時そんなの流行らないわよ~」

 

「なっ、なっ、なっ……」

 

 

とりすました嘲笑を浮かべて斜に見下ろすエリカと、絶句が今にも唸り声へと移行しそうなレオ。

どちらが悪いのか、といえば、もうこうなってしまった時点でお互い様だ。

 

 

「司波君、ライバル出現ですよ!これが噂の昼ドラ展開、という奴ですか!どろどろの三角関係ですね!」

 

「違うと思うが」

 

 

何故か目を輝かせている未亜に、達也が冷静なツッコミを入れるが、おそらく未亜には届いていないだろう。

彼女は既に自分の世界に入ってしまっていて、そうなっては全ては無駄だった。

 

 

「ああ!また未亜が変な設定を!」

 

 

一触即発の空気が、未亜のおかげで霧散する。究極の天然は、時にこうして人のためになることもあるらしい。

 

 

「たぶん二人は幼馴染みですね、私知ってますよ、こういう場合、二人は子供の頃に結婚の約束をしているものです!」

 

「おい、どうやら二人は婚約しているようだぞ」

 

 

未亜の突飛もない発言は、二人にとって、とても許容できるものではなかった。

 

 

「はあ!?なんであたしがコイツと!」

 

「そうだ!なんでこんなヤツ!」

 

 

同じような気の強さ、似たような負けず嫌いに、実はこの二人、気が合うのかも知れんな、と考えていた達也だったが、気が合うのと、仲が良いというのは別問題だったらしい。

 

 

「これがツンデレという奴ですね、私分かります!」

 

「何も分かっていないと思うが」

 

 

最初の、ビクビクとした未亜は何処へやら、キラキラと目を輝かせて、間違った知識をドヤ顔でひけらかす姿は、可愛らしくはあったが、無意識に火に油を注ぐこの少女に、達也はため息を吐くしかなかった。




――今朝の深雪さん――


( ̄ω ̄;) 達也「俺たちは師匠のところに行くが、お前はどうする?」

(´Д`)美月「んー……止めとく。なんか鍛練させられそうだし」



(´。・д・)ジー・・・ 深雪「……」



(´・ω・`)美月「深雪、どうかした?」

o( ̄^ ̄o)深雪「いいえ、なんでもありません」

( ̄▽ ̄;)美月「何故に敬語?」

( ̄ヘ ̄;)深雪「特に理由はありません」


(・ω・。)ノイッテキマース♪美月「ふーん、なら良いけど……じゃ、ぼく先学校行ってるね!」





(≧ヘ≦)プイッ 深雪「……もう本当に知らない」



この後、気配を消して忍び寄った八雲が、八つ当たりでとても怒られたという。





新ヒロインについてはネタバレになってしまうので一切解説できないのですが、ちゃんと色々考えてます(笑)


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第三十九話 溝と衝突

ピッタリ5200文字という。
小さな感動がそこにあった。


予鈴が鳴るまで続いたエリカとレオの口論だったが、それもオリエンテーションが終わる頃には、まるでなかったかのように元通り……とはならなかったものの、一段落はついたようだった。

 

オリエンテーションが終われば、今日の午前の予定は終了、昼食を挟んで午後の日程に備えることになるのだが、食堂が開くまで、まだ一時間以上ある。

 

達也は教室で資料の目録を眺めているつもりだったが、魔法課程に馴染みの薄い新入生の戸惑いを少しでも緩和する為に、実際に行われている授業を見学する時間が今日・明日と設けられている。

本格的な魔法科教育は高校課程からであり、魔法科高校中、最難関校に数えられているとはいえ、普通中学からの進学生も多い。専門課程には、そんな生徒たちが見たこともないような授業もあるからだ。

 

達也は当然、『魔法課程に馴染みの薄い新入生』ではなかったが、レオに付き合って、工作室、通称『工房』の見学をすることにしたのだ。

 

 

「私たちもご一緒させていただいても良いですか?」

 

 

そこに同行の申し入れをしてきたのは未亜だった。後ろには、エリカもいる。

これは、また一悶着ありそうだ、という達也の予感はすぐに現実のものとなった。

 

 

「あんたみたいなのが工房にいっても、物壊すだけなんじゃないの~?」

 

「それはお前だろ!どう見ても肉体労働派なんだから、闘技場へ行けよ」

 

「その言葉、そのままアンタに返すわ」

 

 

案の定始まった口喧嘩。

今回は未亜も困惑気味で、この状況を止められるのは達也しかいなかった。

 

 

「二人とも止めろよ……会ったその日だぞ?」

 

 

仕方なく、溜め息混じりに達也が仲裁に入ったが、そう簡単には止まらない。

 

 

「へっ、きっと前世からの仇敵同士なんだろうさ」

 

「あんたが畑を荒らす熊かなんかで、あたしがそれを退治するために雇われたハンターだったのね」

 

「さ、無意味な口喧嘩はそこまでにして、行くぞ。無駄に時間を浪費するだけだ」

 

 

埒が開かないと見た達也は強引に軌道修正を図った。

そうでもしなくては、この二人は何時までもここで口喧嘩をしていそうな勢いだったからだ。

 

 

「そうですよ!もう教室に残っているのも私たちくらいですし……」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡して未亜がそう口にすれば、レオとエリカは不機嫌そうな眼差しで睨み合って、すぐに、互いに、そっぽを向いた。

 

 

 

 

 

 

第一高校の食堂は高校の学食としてはかなり広い方になるが、新入生が勝手知らずという事情から、この時期は例年混雑する。

とはいえ、専門課程の見学を早めに切り上げて食堂に来た達也たち四人は、それほど苦労することもなく四人がけのテーブルを確保した。

 

見学の感想だったり、初めての学食の味に、色々と評価をしたりして、談笑をしながら、達也が半分ほど食べ終わった頃、クラスメイトを引き連れた深雪が達也を見つけてやって来た。

 

四人がけと言っても達也たちが座っているのは、長椅子の対面式で、細身の女子生徒なら片側に三人は座れる。

 

当然、達也と一緒に食べようとする深雪。

 

座れるのは彼女一人なのだが、深雪のクラスメイト、特に男子生徒は、勿論、彼女と相席を狙っていた。

ここで深雪がここに座ることを良しとするわけがない。

 

狭いとか邪魔しちゃ悪いとかそれなりにオブラートに包んだ表現から始まり、頑なにここに座ろうとする深雪に、段々とエスカレートしていき、深雪さんには相応しくないだとか、一科と二科のけじめだとか、言い始めた頃には達也は食事を食べ終えていた。

 

今にも爆発しかけていたレオやエリカ、怯えている未亜を見て、さっさとここを立ち去ってしまおうと、急いで食べ終えたのである。

 

そんな兄の様子を見て、深雪は達也たちに目で謝罪し、歩み去った。

 

 

「何アレ!ムカつく!」

 

「けっ、同感だ」

 

 

珍しく、というか初めて意見が合ったのがこんな場面とは皮肉なものだが、この時点で二人には一科生に対するフラストレーションが大分溜まっていた。

 

そしてそれに追い討ちをかけるように、午後の実習見学中にも事件は起きる。

 

通称『射撃場』と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、3年A組、生徒会長・七草真由美の所属するクラスの実技が行われていた。

 

遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と呼ばれ、数多くのトロフィーを第一高校にもたらしているだけでなく、容姿端麗。

 

当然のように、彼女の実技を見ようと、大勢の新入生が射撃場に詰め掛けることとなった。

見学できる人数は限られているわけで、こうなると、一科生に遠慮してしまう二科生が多い中で、堂々と最前列に陣取った達也たちは当然のように、悪目立ちした。

 

突き刺さる一科生の嫌悪するような視線は、決して居心地の良いものではなく、なんとか堪えたようではあったが、レオとエリカは、爆発の寸前といった具合で、取り扱い注意な状態に仕上がった。

 

 

そうなれば、一つのきっかけで簡単に爆発する。

 

 

 

 

「いい加減に諦めたらどうなの? 深雪は、達也くんと一緒に帰るって言っているんだからさ。他人がいちいち口を挟むことじゃないと思うんだけど」

 

 

深雪を校門の前で待っていた達也ら一行に、深雪にくっついて来たクラスメイトが難癖を付けたのが発端となり、まず、爆発したのはエリカだった。

ちなみにそのクラスメイトは女子であり、エリカとその女子の口論に、横入りする度胸のある男子生徒は一科生にはいなかったようで、傍観に徹している。

 

すでに遠慮や良識はこの場から立ち去っているのか、二人の口論はヒートアップしており、男子達に女子への恐怖を刻み付けるには十分過ぎた。

 

 

「別に深雪はアンタたちを邪魔者扱いなんてしてないんだから、一緒に帰りたいんだったらついてくればいいのよ。大体さ、深雪と一緒に帰りたいなら、深雪の意見を尊重するのが普通でしょ。それともわざわざ私たちを除け者にするのに何か意味があるわけ?」

 

 

理不尽な言いぐさに、少々強い口調で容赦なく正論を叩きつける。

しかしその正論が、一科生には大層気に入らなかったらしい。

 

 

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

 

「そうよ! 司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

 

傍観に徹していた男子生徒が口を開いたのを皮切りに、堰を切ったように飛び出す一科生の一方的な要求。

 

 

「ハン!そういうのは自活――自治活動のこと――中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」

 

「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?

深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

 

無駄なところで良いコンビネーションを発揮するレオとエリカ。どうしよう、どうしよう、と右往左往している未亜だけが、唯一の救いだった。

 

 

「うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

 

レオとエリカの言葉にいよいよキレたらしい一科生がいよいよ幼稚なことを言い出したところで、エリカが()()を口にしてしまった。

 

 

「はあ?同じ新入生でしょ?今の時点でアンタたちブルームが、あたしらより、一体どれだけ優れているっていうのかしら?」

 

 

エリカの台詞は、ある意味でこの学校のシステムを否定するものだが、道理はエリカにある。

それが分かっているからこそ、今のシステムに安住する者は、生徒、教師の区別なく、感情的に反発する。

 

 

「……あらら」

 

 まずいことになった、と達也が思った時にはもう何もかもが遅かった。

 

 

学外における魔法の使用は、法令で細かく規制されているが、CADの所持が制限されている訳ではない。

 

CADは今や魔法師の必須ツールだが、魔法の行使に必要不可欠なわけではなく、CADが無くても、魔法は使えるため、意味がないからだ。

 

故に、CADを所持している生徒は、授業開始前に事務室へ預け、下校時に返却を受ける、という手続きになっていて、学校内でCADの携行が認められている生徒は生徒会の役員と一部の委員のみであるが、下校途中である生徒がCADを持っているのは、別におかしなことではない。

 

 

「どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやる!」

 

 

 

 だがそれが、同じ生徒に向けられるとなれば、非常事態だ。

 

 

「特化型デバイス!?」

 

 

 

特にそれが、攻撃力の高い特化型なら尚のこと。

小型拳銃を模したCADの『銃口』がレオに突きつけられる。

CADを抜き出す手際、照準を定めるスピード、それは明らかに魔法師同士の戦闘に慣れている者の動きであり、その生徒が口先だけでなかったことの証明となった。

 

魔法は才能に負う部分が大きいが故に、血筋に大きく依存する。

優秀な成績でこの学校に入学した生徒であれば、入学したばかりであっても、親・家業・親戚などの手伝いといった形で実戦経験のある者も決して少なくはない。

 

彼は恐らく、そういった者の一人だった。

 

 

達也は右手を突き出す。

手を伸ばしても届かない距離であったが、この場合物理的な距離はあまり関係ない。

 

 

術式解体(グラム・デモリッション)』。

 

 

圧縮されたサイオンの塊をイデアを経由せずに対象物に直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言ったサイオン情報体を吹き飛ばすことで、魔法を無効化する超高等対抗魔法。

 

 

しかし、この場では、その魔法が使われることはなかった。

 

 

「ヒッ!」

 

 悲鳴を上げたのは、銃口を突きつけていた少年が悲鳴を上げたのはCADを、彼の手から弾きとばされたからだ。

そしてその眼前では、伸縮警棒を振り抜いた姿勢でエリカが笑みを浮かべており、誰がやったのかは明らかだった。

 

「この間合いなら身体を動かした方が速いのよね」

 

「それは同感だがテメエ今、俺の手ごとブッ叩くつもりだっただろ」

 

 

残心を解いて得意げに説くエリカに答えたのは、CADを掴みかけた手を危ういタイミングで引いたレオだった。レオもまた、エリカと同じように、一科生がCADを取り出すのを察知して、動き出していたのだ。

 

 

「あ~らそんなことしないわよぉ」

 

「わざとらしく笑ってごまかすんじゃねぇ!」

 

 

 警棒を持つ手の甲を口元に当てて「オホホホホ」などと、ごまかす気があるのかどうかも定かでないごまかし笑いを振りまくエリカだったが、実際、レオの手をブッ叩く気はなかった。

かわせるか、かわせないかくらいは身のこなしを見ていれば分かる。

 

 

「アンタってバカそうに見えるけど、腕の方は確かそうだし、かわせるって分かってたから本当に叩く気なんてなかったわよ」

 

 

バカにしてるだろ!と反論するレオに、だからバカそうに見える、って言ってるじゃない、とエリカが返せば、会ったその日だというのに、お決まりとなった口喧嘩が始まってしまう。

 

そんな二人に、誰もが呆気にとられていたが、特化型デバイスを叩き落とされた生徒の背後で、女子生徒が一人、腕輪形状の汎用型CADへ指を走らせていた。

 

組み込まれたシステムが作動し、起動式の展開が始まる。

 

――しかしそれが、魔法となって現実世界に顕現することはなかった。

 

 

「止めなさい! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

 

女子生徒のCADが展開中だった起動式は、サイオン粒子塊の弾丸によって砕け散った。

魔法師からCADへ、そしてCADから魔法師へ、というサイオンの流れを妨害されると、CADを用いた魔法は機能しなくなるわけだが、サイオン粒子を、展開中あるいは読み込み中の起動式に撃ち込むことで、起動式を形成するサイオンのパターンを攪乱されると、効力のある魔法式が構築されず、魔法は未発のまま霧散する。

 

今のが正しくそれであった。

 

サイオンそのものを弾丸として放出する、魔法としては最も単純な術式ではあるが、起動式のみを破壊し術者本人には何のダメージも与えない精緻な照準と出力制御は、射手の並々ならぬ技量を示しており、誰にでも出来ることではない。

 

 

「あなたたち、1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」

 

 

警告を発し、サイオン弾で魔法の発動を阻止したのは、生徒会長・七草真由美だった。

声の主の姿を認めて、エリカたちを攻撃しようとしていた女子生徒は、魔法によるもの以外の衝撃で蒼白となっている。

 

常に、にこやかだった顔は、こんな時であっても、それほど厳しさを感じさせないが、冷たい、と評されても仕方のない、硬質な声で命じた、真由美の隣に立った女子生徒、風紀委員長の渡辺摩利は別だった。

 

ここで抵抗の素振りでも見せれば、即座に実力が行使されることは想像に難くない、そう思わせるような威厳が彼女からは感じられた。

 

 

――面倒なことになったな

 

 

反抗心からではなく、雰囲気に呑まれて動けなくなった同級生を横にして、達也はそんなことを考えていたが、ここで何時までも突っ立っているわけにはいかない。

 

 

達也は深雪を従え、摩利の前に歩み出たのだった。




( ̄ω ̄;)美月「あれ?ぼくの出番は……?」

( ̄ヘ ̄;)深雪「あるわけがないでしょ」

(;´∀`)美月「えっ、なんか深雪冷たくない?」

(。 >﹏<。)深雪「美月なんて、出番のない寂しさを味わえば良いんだわ!」

Σ(゚口゚;)//美月「深雪さん!?なんで涙目なの!?」



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第四十話 ドロップキック

原作、12巻までしか読んでいなかったのを、最近ついに17巻まで読破……した結果、もう一つの方の連載作品が瀕死状態に……。
知らなかったんだもの、仕方ないじゃない……。
そう思いつつ、最終章を書き直す作者であった……という愚痴です。

では、また後書きで。


「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけ?」

 

 

突然出てきた一年生に、いぶかしげな視線を向けて、問い返すのは、摩利が今の騒動を『悪ふざけ』だとはとても思えないからに他ならない。

 

 

「はい。森崎一門の『クイックドロウ』は有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」

 

 

達也の言葉に、レオにCADを突きつけた男子生徒が、目を丸くして驚き、摩利は、エリカが手にする警棒と、地面に転がった拳銃形態のCADを一瞥し、冷笑を浮かべた。

 

 

「きみの友人は、魔法によって攻撃されそうになっていた訳だが、それでも悪ふざけだと主張するのかね?あちらの女子が起動していたのは攻性魔法だからな」

 

「驚いたんでしょう。条件反射で魔法を起動できるとは、流石は一科生です。それに攻撃といっても、彼女が編成しようとしていたのは失明したり視力障害を起こしたりする心配もない程度の、目くらましの軽い閃光魔法ですから」

 

 

 真面目くさった表情だったからか、何処となく、白々しい印象の抜けきらない達也の言葉に、摩利の冷笑が、感嘆に変わる。

 

 

「ほう?……どうやら君は、起動式が読めるらしいな」

 

 

起動式は、魔法式を構築するための膨大なデータの塊だ。

魔法師は、魔法式がどのような効果を持つものであるかについては、直感的に理解することが出来る。

ただ、単なるデータの塊に過ぎない起動式は、その情報量の膨大さ故に、それを展開している魔法師自身にも、無意識領域内で半自動的に処理することが出来るのみで

『起動式を読む』、ということは、画像データを記述する文字の羅列から、その画像を頭の中で再現するようなものだ。

 

意識して理解することなど、()()は出来ない。

達也がやったのは非常識極まりない、とんでも技能なのだ。

 

 

「実技は苦手ですが、()()は得意です」

 

 

当然、事も無げに、その非常識な技能を、『分析』の一言で片付けようとする達也だが上手くいくはずもなく。

 

 

「……誤魔化すのも得意なようだ」

 

 

 値踏みするような、睨みつけるような、その中間の眼差しで、摩利から視線が注がれた。

達也の表情がそれによって変わることはなかったが、既に次の言い訳をいくつか頭に思い浮かべていた。

 

 

 

「兄の申したとおり、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

ただ一人、兄が矢面に立っていることを許容できる深雪ではない。達也を庇う様に深雪は進み出ると、微塵の小細工もなく、真正面から深々と頭を下げた。

 

 

「ああー、そのだな……」

 

 

そんな深雪の行動に、毒気を抜かれた表情で摩利は目を逸らし、ばつが悪そうにしている。

 

 

「摩利、もういいじゃないですか。達也くん、本当にただの見学だったんですね?」

 

 

差し向けられた真由美の助け舟は、この場合、達也と摩利、二人にとってそうだった。

 

達也は表情を変えることなく、相変わらずの真面目くさった表情で頷く。

すると真由美は、まるで「貸し一つ」とでも言いたげな笑顔を浮かべた。

嫌な貸しを作ってしまったかもしれない、と達也が思ったことは、真由美にとっては大変不本意ではあっただろうが。

 

 

「一年生の一学期の内に授業で教わる内容ですが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。

生徒同士で教え合うことが禁止されている訳ではありませんが、このようなことは控えてくださいね」

 

「……会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように」

 

 

硬直していた、達也と深雪以外のメンバーが、慌てて姿勢を正し、一斉に頭を下げる。

摩利はそんな一同に見向きもせずに踵を返したが、一歩踏み出したところで足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。

 

 

「君の名前は?」

 

 

有無を言わせぬ摩利の問いに、達也は大人しく答えた。

 

 

 

「1-E、司波達也です」

 

「覚えておこう」

 

 

 

 反射的に「結構です」と答えそうになった口をつぐんで、達也はため息を呑み込んだ。

今日だけで、何度のため息を呑み込んだか分かったものではなかった。

 

 

 

 

 

「……僕の名前は森崎駿。お前が見抜いたとおり、森崎の本家に連なる者だ……今回のこと、借りだなんて思わないからな」

 

 

真由美と摩利の姿が校舎に消えたのを見届けて、最初に手を出した、つまり達也に庇われた形になった男子生徒、森崎駿が、棘のある口調と視線で、達也へ向けてそう言った。

 

 

「単に模範実技の映像資料を見たことがあっただけで、

見抜いたとか、そんな大袈裟な話じゃない。それに、貸してるなんて思っちゃいないから安心しろよ」

 

 

達也は本当に、『貸した』とは思っていない。

決め手となったのは自分の舌先ではなく、深雪の誠意である、と思っているからだ。

 

 

「お兄様ときたら、言い負かすのは得意でも、説得するのは苦手なんですから」

 

「違いない」

 

 

深雪のわざとらしい非難の眼差しに、苦笑で返す。

兄妹の、見ようによってはほのぼのとしたやり取りに、空気が緩む。

 

 

「あっ、そういえばあたしもその映像資料、見たことあるかも」

 

「で、テメエは今の今まで思い出しもしなかった、と。やっぱ、達也とは出来が違うな」

 

「何を偉そうに。起動中のホウキを素手で掴もうなんてするバカに、頭の出来を云々されたかないわよ」

 

 

他の魔法師用に調整された起動式は、固有情報体の拒否反応を起こしかねないため、レオの行動は危険であり、『バカ』というエリカの意見はそう間違ったものでもないのだが、言い方が悪い。

 

 

「あぁ!? バカとはなんだバカとは」

 

 

そして、もはや定番となった二人の口喧嘩が始まり、未亜は傍観に徹している……というよりもどうしたら良いのか分からずに硬直しているようだ。

 

 

そんな背後の状況など、知ったことではないとばかりに、目線を合わせたまま、動かない達也と森崎。

 

 

「僕はお前を認めないぞ、司波達也。司波さんは、僕たちと共にあるべきなんだ」

 

 

森崎は吐き捨てるようにそう言って、返事を待たずに背を向ける。

 

 

「いきなりフルネームで呼び捨てか」

 

 

返事を必要としないからこその捨て台詞なのだろうが、達也は独り言のように、但ししっかり聞こえる音量で呟く。

その隣では、森崎の思い込みに辟易しているのか、深雪が肩をすくめた。

 

 

「帰るか」

 

「はい」

 

 

精神的な疲労を共有していた二人は、どちらともなく頷きあって、行く手を遮るように、立っている女子生徒を、達也が深雪に目配せして、そのまま通り過ぎようとした。

目配せ一つで兄の意を汲んで、また明日、と挨拶をしようとした深雪だったが、それより先に相手が深々と頭を下げた。

 

「光井ほのかです。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした!そんな私を庇ってくれて……森崎君はああ言いましたけど、お兄さんのおかげで助かったんだってことくらい私にも分かります」

 

 

先程までは控え目に言ってもエリート意識を隠しきれていなかった少女の、この豹変振りに達也は面食らっていた。

 

 

「……どういたしまして。でも、お兄さんは止めてくれ。これでも同じ一年生だ」

 

 

だから、ほのかの『お兄さん』という呼び方に最初に反応してしまったのだろう。

庇ったつもりはないとか、大事にしたくなかっただけだとか、他にも色々言いたいことはあったというのに。

 

 

 

「分かりました。では、何とお呼びすれば……」

 

 

思い込みが激しそうだ、と達也は思ったが、これから三年間付き合っていくことになるだろう同級生だ。

不機嫌な口調にならないよう注意しながらできるだけフレンドリーに達也は答える。

 

 

「達也、でいいから」

 

 

達也のその言葉に頷いたほのかは、少し躊躇った後、達也を窺い見るようにして言う。

 

 

 

「……駅までご一緒してもいいですか?」

 

 

拒む理由はなかったし、拒める道理もなかった。

どうせ、一高から駅までの帰り道は一本道で一緒になる。

 

 

――帰り道は、微妙な空気になるだろうが

 

 

そう予想した達也だったが、それは覆された。

 

 

 

「たーつーやーくーん!!」

 

 

 

――微塵の手加減も感じられない、背後からのドロップキックによって。

 

 

「お、お兄様!?」

 

「な、何!?奇襲!?さっきの奴が早速仕掛けてきたわけ!?」

 

 

背後からの気配には気がついていたが、深雪が正面にいたため、達也はかわすことが出来ず、そのまま甘んじてドロップキックを食らうことになったのである。

自己修復術式が必要なくらいには強烈なドロップキックを、だ。

 

 

【自己修復術式、オートスタート】

 

【コア・エイドス・データ、バックアップよりリード】

 

【魔法式ロード――完了。自己修復――完了】

 

 

人体からしてはいけないような音を出しながら()()()の下敷きになった達也は、数秒の後、()()()をポイッと放り投げるようにしてどけて立ち上がる。

 

 

「ちょっと達也くん!?立って大丈夫なの!?」

 

 

エリカが武道を経験しているからか、ただの直感なのか、達也が相当まずい状況に陥っていた、ということに気がついたのだろう。

かなり焦った様子で駆け寄ってきた。

 

 

「見た目ほどダメージはないよ」

 

 

嘘だった。普通に痛かったし、普通に重症だった。帰ったら、この()()()をどうしてくれようか、と仕返しのメニューを頭で考えるくらいには。

 

 

 

()()……貴女、勿論覚悟があってこんなことをしたのよね……?」

 

「ひぃ!?」

 

 

その襲撃犯、つまり美月はといえば、未曾有の危機に瀕していた。

 

 

「お兄様に手を出したんですもの、どうなるかは貴女なら良く分かっていたはずなのだけどね」

 

 

この場にいる誰もが、あっこいつもう駄目だ、と美月の生存を諦める程度には、深雪はブチギレていた。

()()()()()()()()()ものも、怒りに上乗せされている今の深雪は、誰が見ても止まりそうになかった。

 

 

「深雪、皆の前だよ」

 

「はい、お兄様」

 

 

しかし、それは達也の魔法の言葉によって表面上は収まった。内心、この暴力娘をどうしてくれようかと怒りが沸々と煮えたぎっていたが。

 

 

「美月、馬鹿なことは止めろ」

 

「達也なら大丈夫って信じてたのさ」

 

達也の割と本気の注意に、美月はハートマークが付きそうな声色で、答えた。ウインクのおまけ付きである。

 

 

「……俺からの電話一本でお前の仕事の調整は自由自在なんだが」

 

「ごめんなさぁあああい!!達也君!達也さん!達也様!どうかお許しを!もう二度としないから!ちょっとノリとテンションでやっちゃっただけなんだよ!」

 

 

しかしそんな余裕綽々とした態度は長くは続かなかった。達也が携帯端末を取り出して、ボソッと一言言えば、美月は達也の足元にすがるしかなかった。

この達也の最終兵器は、中学三年の冬休み頃から、()()()()()により、水波と仕事の調整の権限を共有することとなったために生み出された美月にとっては最悪の手札。

 

実は以前、美月はこの達也の権限によって地獄を見ている。九重八雲の元での修練を何日もバックレた時、罰としての意味合いが強かったのもあるが、達也によって『死なない程度』に調整された莫大な仕事量は、月柴 美、複数人説が有力な噂として出回るようになる程度には地獄だったという。

 

 

「えーっと、達也くん、もしかしなくても、この娘知り合い?」

 

「ああ、中学校が一緒なんだ」

 

 

ここで、達也が美月を婚約者、と紹介しなかったことに首を傾げた深雪だったが、この状況で美月を婚約者と紹介するのはあらぬ誤解――主に達也の心証に関わるような――を招きかねない。

ただでさえエリカは、美月にかなり引いている様子で、婚約者と紹介しても、あまり良い印象は与えられないだろう。

 

 

「い、今時の高校生の挨拶というのはドロップキックだったんですね……私にできるでしょうか……」

 

「出来なくて良いわよ!そんな挨拶あるわけないでしょ!一世紀前のプロレスラーでもそんな挨拶しないわよ!?」

 

 

未亜の的外れな発言にエリカが素早く突っ込む。

この少女ならドロップキックでの挨拶も似合いそうだ、と未亜に思われる程度にはキレッキレのツッコミだった。

 

 

「はあ、全く無鉄砲というか後先考えない奴だ」

 

 

すがりつく美月に、達也はため息を吐いた。美月のこういう刹那主義なところは今に始まったことではない。思い付いたら即実行、に近い美月の思考は達也も良く理解していた。

 

 

「達也には言われたくないな……」

 

 

美月の拗ねたように言った一言に深雪は思わず、確かに、と口にしてしまいそうになり、なんとかそれを堪えた。

自省的な性格の癖に、敵を作るのを躊躇わない自己破滅型の無鉄砲さは、兄の大きな欠点だと彼女は以前から気に病んでいたからだ。

とはいえ、それは後先を考えていないわけではなく、美月とは全く意味合いの違うものなのだが。

 

 

「とりあえず、ここに何時までもいては邪魔なだけだ……行こうか」

 

 

達也のその提案には誰からも異議はなく、皆が達也と共に帰ろうとして――

 

 

「ちょっと美月!?いきなり何をしているのよ!?」

 

「そうだよ!急に飛び出したと思ったらドロップキックって、アクロバット過ぎるよ!?」

 

 

――背後から走ってきた、金色と赤色に、再びその歩みは止まることになった。

 

 

それを見た深雪の少しムッとしたような表情が、達也には印象的だった。




(`・ω・´)美月「出番ないから無理矢理乱入してやったぜ」

Σ\( ̄ー ̄;)達也「乱入の仕方がかなり問題だけどな、恐らく背骨がやられていたぞ」

(´・ω・`)美月「良いじゃん、治るんだし」

(;・ω・)達也「全く良くないが」

(゚∩゚*)美月「ま、ぼく以外の人が達也を傷つけたら許さないけど」



(*´ω`*)達也「……」



ちょっと嬉しかった達也さんであった。





森崎をドロップキックさせるか、達也をドロップキックさせるかで迷った結果、達也に。
いくら美月でも初対面の相手にドロップキックはしないだろうという判断。
……しないよね?


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第四十一話 迂闊

サブタイトル、本当に思い付かない時がある……それが今話である。


一日の日程を全て終えて、下校。

今日も愛梨とエイミィと一緒に帰れると思うとテンションが上がる。これからも毎日、両手に花とは、なんて薔薇色の高校生活なんだろう。出来れば百合色にしたいところだけど。

 

 

 

「いやー、凄かったね!十文字先輩!」

 

「ええ、流石は十師族。圧倒的だったわ」

 

 

 

エイミィの称賛に、何故か誇らしげに答える愛梨。でも確かにあれは凄かった。

3年C組の授業は野外の戦闘練習場で行われた。

新入生の見学を意識してのことなのか、実技は分かりやすく、簡単なもので、二十メートル先の角柱を、思い思いの魔法で倒すというものだった。

摩利さんは相変わらず格好良く、スマートに決め(このとき響いた黄色い歓声から既に一年生にもファンが多数いる模様)、それ以外の生徒も難なくクリアしていく。

そして、十文字家次期当主にして三巨頭の一人、十文字克人の魔法はその中でも別格だった。……派手さが。

 

 

角柱は十文字先輩の魔法によって根本から抉られ、大きく宙に飛んだ後、何回転もして、地面に刺さった。

いやいや、トラックが激突したみたいな音しましたけど!?やってやったみたいなドヤ顔されてましたけど、次の番の人困ってたから!

 

 

「十文字家のファランクス、攻撃にも防御にも応用が効く、強力な魔法ね」

 

 

十文字家のファランクスは、四系統八種全て含む系統魔法なのだけど、かなり特殊な魔法で、四系統八種、全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出すというとんでも魔法だ。

一応分類は防御用魔法なのだろうけど、今回のように、対物非透過の性質を持った障壁を高速で叩きつけることで、射程は短いものの、攻撃にも応用できる。

 

 

 

「ねぇ、なんか門の前が騒がしくない?」

 

 

エイミィに言われて、意識を前に移すと、そこには当然のように達也がいた。うん、トラブルのあるところに達也あり、だからね。こういう場には必ずいるものだ。深雪と一緒なのに、キレていないところを見ると、そう大問題が起こったというわけでもないのだろう。

 

 

「あれ?愛梨どうかした?」

 

 

突然立ち止まった愛梨は、なんというか、驚愕と、困惑が入り交じったような、微妙な顔をしていて、ぼくの声は届いていないようだった。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

50メートルは離れているだろうから、エイミィには見えていないかもしれないけど、生徒会長である真由美さん、風紀委員長である摩利さんが何やら怒っている様子。何かあったのは間違いない。

 

 

「……入学早々トラブルに巻き込まれるとは……流石ですお兄様……なんてね」

 

 

小さくそう呟いたのは、達也が前に出て、摩利さんと話しているからだ。

しばらく、そうして達也が話した後、一年生と思われる十数人の集団が、真由美さんと摩利さんに頭を下げて、散り散りになっていった。

 

 

「見てこようか?ぼく知り合いがいるんだ」

 

「わ、私も行くわ!」

 

 

妙に強ばった、というか、緊張している様子にどうしたことかと思ったけど、そういえば、愛梨は深雪をライバル視していたんだった。

初の邂逅にやや緊張気味なのだろう。可愛い。

 

 

さて、達也、なんかあったの?

 

と普通に聞きに行ってもいいのだが、それでは面白くない。

どうせなら、派手に格好良く登場したい。

 

 

「というわけで行くぞー!」

 

「え!?」

 

 

ぼくは唖然とする愛梨を置いてけぼりにして、全力で駆け出す。

深雪が正面にいる今、達也は避けられない。

絶好のドロップキック日和(?)だ!

 

 

「たーつーやーくーん!!」

 

 

全力全開のドロップキック!

普通の人間には絶対に出来ないから、一度やってみたかったんだよね。綺麗に決まって、最高に気持ちいいです。

 

 

「お、お兄様!?」

 

「な、何!?奇襲!?さっきの奴が早速仕掛けてきたわけ!?」

 

 

やくもんの所で修行するのは好きじゃなかったから、サボったりもしたけど、こんなこともあろうかと、ドロップキックの練習をしておいて良かった。

サッカーって両足で思いっきり蹴ることないし、面白そうだなって思ったんだよね。

 

 

「ちょっと達也くん!?立って大丈夫なの!?」

 

 

達也は上に乗っていたぼくを乱暴に放り投げて、すぐに立ち上がった。

仮にも婚約者にこの扱いですよ……ま、ぼくも達也にドロップキックしたわけだけど!

 

 

「見た目ほどダメージはないよ」

 

 

本当に、痛くも痒くもない、といった表情で立ち上がって、焦った様子で駆け寄ってきた女子生徒に健在をアピールする達也。

達也はどうでも良いけど、こっちの女子は凄く興味がある。

『眼』で見た限り、かなり身体能力は高いし、相当戦い慣れしてるね。得物は剣、かな。たぶん摩利さんと同門、といっても剣術は圧倒的にこの娘の方が上っぽい。まあそんなどうでも良い情報はシャットアウト、一番重要なのは彼女が美少女である、というその一点だ。

 

 

一高、とんでもない美少女率だ……っ!

 

 

 

()()……貴女、勿論覚悟があってこんなことをしたのよね……?」

 

「ひぃ!?」

 

 

そんなことを考えていたら、一高の美少女筆頭、オンリーワンにしてナンバーワン、深雪がとんでもなくブチギレておりました。

 

 

「お兄様に手を出したんですもの、どうなるかは貴女なら良く分かっていたはずなのだけどね」

 

 

周囲の皆の、あっこいつもう駄目だ、という諦めの視線。薄情者!っと目で訴えるけど、ここにいる人、司波兄妹以外初対面でした。うん、助けて。

 

 

「深雪、皆の前だよ」

 

「はい、お兄様」

 

 

助けてくれたのは達也だった。

達也が一声かければ深雪は取り合えず収まる。

なんだかんだで、やる時はやってくれるんだよ!流石です達也さん!

まあ、深雪の目は未だに怒りに燃えているし、後ほどお仕置きされるのは間違いないんだけどね!

 

 

 

「美月、馬鹿なことは止めろ」

 

「達也なら大丈夫って信じてたのさ」

 

 

ウインクのおまけ付きで答える。

ぼくは自分のやったことに誇りを持ってる。だから後悔していないし、謝らない。

それがぼくの美学なのだ。

芸術家とは時に他人には理解されないものなのである。

 

 

「……俺からの電話一本でお前の仕事の調整は自由自在なんだが」

 

「ごめんなさぁあああい!!達也君!達也さん!達也様!どうかお許しを!もう二度としないから!ちょっとノリとテンションでやっちゃっただけなんだよ!」

 

 

速攻で謝った。

誇り?美学?そんなものありませんが?最初からただのドロップキックですが?何か?

 

ぼくね、やっぱり達也がぼくの仕事の調整をする権限を持っているのは駄目だと思うんだ。

そりゃ、ぼくが()()()()()()()()()都合上、達也が仕事の調整をした方が効率的なのは分かるけど!

やくもんのお寺での修練を一週間くらいバックレた時、罰として達也にとんでもない量の仕事を入れられた。

アニメのキャラクター原案三作品、ゲームのキャラデザ二本分、アニメの劇場版の新キャラとか新衣装とかの諸々デザイン……死ぬわ!スケジュールカレンダーに書ききれない時点で察してよ!無理だよ!何が最悪『再成』を使うだよ、使ったところで精神的疲労は戻らないよ!時間は有限だよ!

 

 

「えーっと、達也くん、もしかしなくても、この娘知り合い?」

 

「ああ、中学校が一緒なんだ」

 

 

明るい髪の美少女が、達也に訊くけど、何かな、その宇宙人を見るような目は。

 

 

「い、今時の高校生の挨拶というのはドロップキックだったんですね……私にできるでしょうか……」

 

「出来なくて良いわよ!そんな挨拶あるわけないでしょ!一世紀前のプロレスラーでもそんな挨拶しないわよ!?」

 

 

オドオドとしながら困ったように、呟く小動物のような美少女。

くっ愛でたい。ぼくの愛でたい衝動が、そう叫んでいる。でも、この場でそんなことをしたらどうなるかくらいぼくにだって分かる。

ここは期を待つんだ。後でエイミィと並べて愛でれば良い。

 

 

「はあ、全く無鉄砲というか後先考えない奴だ」

 

「達也には言われたくないな……」

 

達也がため息混じりにそんなことを言うけど、それはブーメランだと思う。

達也だってかなり無鉄砲だと思うんだけど。

まあ、ここで不満を口にしてもぼくの仕事が増えるだけだから言わないけどね。

 

 

「とりあえず、ここに何時までもいては邪魔なだけだ……行こうか」

 

 

達也のその提案には誰からも異議はない。

校門でどんな騒動があったのか、まだ聞けてないけど、もうそれが解決したのなら、ここにいる意味もないし、当然だろう。

 

――ぼくも愛梨とエイミィを紹介して、一緒に帰ろう

 

ぼくがそう考えたのと、二人が走ってきたのは、ほぼ同時だった。

 

 

ふっ、どうやらぼくたちはもう以心伝心らしい。

 

ぼくは両手を広げて二人を待った。

 

さあ、お姉さんに飛び込んでおいで!

 

 

 

「ちょっと美月!?いきなり何をしているのよ!?」

 

「そうだよ!急に飛び出したと思ったらドロップキックって、アクロバット過ぎるよ!?」

 

 

飛び込んできたのは、二人の文句だけでした。

うん、ですよね。

 

 

 

 

 

 

おやっ、と達也が思ったのは、焦った様子で走ってきた金色――金髪の女子生徒――に見覚えがあったからだ。

達也の記憶力を持ってすれば――達也でなくとも愛梨の容姿は印象に残りやすいものではあるが――僅か数分間行動を共にしただけとはいえ、こうして顔を合わせればそれが同一人物であるかどうかは分かる。

彼女が魔法師であることを、達也は『眼』で確認していたが、こうして一高で再会することになるとは思っていなかった。

いや、彼女が魔法師で、彼女と出会ったのが、都内なのだから、一高に彼女が入学していても、何もおかしなことはない。

 

 

――これは迂闊だったな

 

 

達也の失態である、と言わざるを得ないだろう。

彼女には『分解』を見られている。どのような魔法を使ったのか、正確には分かっていないだろうが、異常な魔法を使うということはバレているのだ。

 

当時は達也も、柄にもなく焦っていた。

彼女のことは気になったものの、名前も名乗っていないことだし、問題ないだろう、と捨て置いてしまったのだ。

 

達也は、初対面を装うべきかどうか、思考を巡らす。

初対面を装って、彼女が達也を覚えていた場合、いらぬ疑惑をかけられ、痛くもない腹を探られると、後が面倒だ。かといって、久し振りだな、と声をかけて、向こうが達也の顔を覚えていなかった場合、完全なやぶ蛇だ。

 

考えた達也は取り合えず知らないふりをすることにした。

彼女から声をかけてきたら、適当に思い出したフリでもすればいい。

そう結論を出したのだ。

 

 

対して愛梨。

愛梨は、一目で、それこそぼんやりとしか見えない程遠くからでも、それがあの日出会った『司波達也』である、と確信した。

しかし、それを達也本人に知られるわけにはいかない。

愛梨はあくまで、達也と一高で再会したのは偶然である、と思わせたかったのだ。

達也を追いかけて一高に入学した、なんてことは絶対にバレたくなかったし、恋心を抱いていることも、今はまだ知られたくない。

で、あるのなら、ここは達也の顔を見て、何かを思い出したかのような表情を見せた後、あの日のお礼を言えば良い。いや、ここでお礼をすると、彼が、恐らく友人と思われる周囲の生徒から疑問を持たれてしまうだろう。……それを口実にして二人きりになって、そこでお礼を言って、あわよくばアプローチの一つでもかけられるかもしれない。

もし、向こうが覚えていて、声をかけてくれたとしても、お礼を言うために二人きりにはなれる。

 

私ならできる、と自分に暗示をかけて、いざ行こう――と、したところで、美月が達也に見事なドロップキックをかますものだから、そんな愛梨の作戦は全部吹き飛んだ。

 

 

「ちょっと美月!?いきなり何をしているのよ!?」

 

愛梨の発言には二種類の意味が込められていた。

いきなりドロップキックなんて何をしているのか、と、私の初恋の人になんてことをしているんだ、の二種類だ。

 

 

「そうだよ!急に飛び出したと思ったらドロップキックって、アクロバット過ぎるよ!?」

 

 

五十メートルはあったであろう距離から助走をつけての全力ドロップキック、良く達也はピンピンしているな、と思うのと同時に美月の動きに驚愕しているエイミィ。

とんでもない速さで駆け出したと思ったら砲弾のようにドロップキックだ、唖然としてしばらく固まってしまった。

 

 

「格好良く登場しようと思って」

 

「なるほどね!」

 

 

格好良く=ドロップキック、という結論に何故至ったのか甚だ疑問だったが、まあ美月ならそういうこともあるか、とエイミィは納得したようで頷いている。まだ短い付き合いだというのに、この思考回路を理解できるのは、エイミィもまた同じような考えを持っているからなのか、と愛梨は自分の思考を疑った。

どう考えても、ドロップキックとは日常で使われるようなものではなかった。

 

 

「美月、そちらはお友だちかしら?」

 

 

美しい笑みを浮かべる深雪に、何故か、凍えるような吹雪を幻視したのは、愛梨だけではなかっただろう。

現に、この場の全員が少し、美月から距離を取ったのだから。

 

 

「え、そうだけど……」

 

「そう、凄いじゃない、もうお友だちが出来るなんて」

 

「あ、ありがとう?」

 

 

訳も分からず、お礼を言った美月に、プイッと顔を背ける深雪。

美月には、何故深雪が怒っているのか分からなかった。まださっきの怒りを引きずっているのかとも思ったが、どうも違うらしい。

助けを求めるように、達也を見るが、どうにもならん、と見捨てられた。お手上げである。

 

しかし、どうにもならない、と美月に目で訴えた達也だったが、とりあえず状況を変えることにしたらしい。

 

 

「……さっきも言ったが、ここにいても邪魔なだけだから、帰りながら話さないか?」

 

 

深雪が達也の意見を否定するわけもなく、黙って達也の隣につく。

そうすれば、他の面々はどこか安心したように、各々達也の意見に賛成した。

 

かくして一行は、十人にメンバーを増やし、やっと帰路についたのだった。

 

 

――さて、どうしたものか

 

 

達也は、深雪と愛梨を見て入学早々山積みの問題にどう対処するべきか考えて、またため息を吐きそうになる。

とりあえず、腹いせに、こっそり美月の仕事を増やすことを決意した。





(*´Д`)=3ハァ・・・真由美「あーあ、結局今日はみーちゃんに会えなかったわ。見学も私のクラスに来てくれなかったし」

(°∀° )ニヤニヤ 摩利「それは残念だったな、美月は昼休みに私がC組に誘っておいた」

∑(`□´/)/ 真由美「なっ、ずるい!反則よ!」

(;´∀`)摩利「反則って……別にルールがあるわけでもないだろ」

ヾ(。`Д´。)ノ真由美「そうだけど、反則なの!」

(* ̄▽ ̄)ノ”ナデナデ摩利「分かったから、そんなにムキになるな、美月もここの生徒になったのだから、何時でも会えるだろ」

(。 >﹏<。)真由美「むう、そうなんだけど、そういうことじゃないの!」



この後、真由美の機嫌を直すために、四苦八苦することになる、摩利であった。


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第四十二話 女の戦い~愛梨の初戦~

ちょいとリアルで事件があったため、急いで書いたので誤字脱字あるかも。



一色愛梨は既に戦意を喪失しかけていた。

というのも、この十人で帰ることになってすぐに、皆が自己紹介をしたのだが、愛梨が一方的にライバル視している司波深雪が司波達也の妹である、と知ってしまったからだ。

 

近くで見れば見るほど、その美しさは身の毛もよだつ程完成された美だった。

愛梨は自分の容姿が優れていることを自覚していたが、深雪の前では路傍の石が精々だ、と思い知らされる。

今でさえ、一つ一つの所作に思わず見惚れてしまいそうになる自分を自制しなくてはならない程だ。

これほど美しい人間が、自然に生まれてくるなんてことは、とても信じられなかった。

悪魔と取引した、と言われても簡単に信じてしまうだろう。

 

その深雪を妹に持つ、ということは幼少の頃から――実際はそんなことはないのだが――そんな美少女と共に生活してきたということ。

そんな達也が、自分を魅力的だ、と感じることがあるのだろうか、と疑問に思ってしまう。

 

勿論、人間容姿だけが全てではないが、愛梨は現状、その容姿以外の面でも、深雪に劣っていると感じていた。

愛梨がこれまでの人生を費やしてきたもの、魔法で既に敗北を喫しているのだから。

直接対決をしたわけではないが、明確な数字として算出されたデータの上では負けている。

愛梨が思うに、自分が今、深雪に勝っているのは――実際はこれも違うのだが――家柄くらいだった。それは愛梨自身の魅力ではなく、付加価値、そこを達也に評価してもらいたいわけではないのだ。

そうなると、いよいよ深雪より勝っているところが無くなってきた。

 

 

「へー、じゃあ二人は幼馴染みなんだ」

 

「小学校入学以来だから……大体十年の付き合いなのかな」

 

「いいなー、ぼくもほのかちゃんや雫ちゃんみたいな幼馴染みが欲しかったよ」

 

「何故?」

 

「何故って、可愛いからに決まってるじゃん」

 

 

 

愛梨は、ほのかと、そのほのかの友人だという北山雫、という美少女二人を口説いている美月――愛梨にはただ仲良さそうに話しているだけに見えるが深雪にはそう見えた――をしらっとした目で見ている深雪に再度目を向ける。やはり、吸い込まれそうになる意識を、どうにか浮上させ、愛梨は意外な事実、というより、偶然について考える。

 

なんと美月が、司波兄妹と同じ中学校出身だと言うのだ。それも、ドロップキックしても許されるくらいなのだから――実際には全く許されていないが――かなり親密な関係なのだろう。

 

 

「愛梨、どうしたの?目が潤んでるけど……」

 

「ちょっと目に塵が入っただけよ、大丈夫」

 

 

そう、大丈夫。

隣を歩くエイミィに指摘され、目を拭うと、愛梨はそう自分を奮い立たせた。

 

確かに達也の周りには女性の影が多い。

それはこの集団を見ても分かることだ。

 

十人の大所帯だが、その中に達也も含めて男子は二人だけ。残りは愛梨も含めて全員が女子なのだ。

それも、どういうわけか、全員が水準以上の美少女だ。実際、レオは居心地悪そうに最後尾を歩いている。思わぬアクシデントによって下校時間が遅れたとはいえ、駅までの道のりにはまだまだ多くの生徒がいて、その生徒からの視線のせいだ。

これだけの美少女集団が目を引かないわけもなかった。

 

奮い立たせたばかりだというのに、早速折れそうになる愛梨。

深雪を筆頭に、皆美少女。こんな環境で自分をアピールする手段を、愛梨は身につけていなかった。

愛梨には恋愛経験どころが、異性の気を引こうとした経験さえなかったからである。

 

 

「……じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

 

「ええ。お兄様にお任せするのが、一番安心ですから」

 

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いから、CADのメンテに手が掛からない」

 

 

達也は、自然に会話に参加しつつも、件の少女が師補十八家の『一色』である、と知って内心どう対処するべきか焦っていた。

一色家の令嬢が何故一高に入学したのか、何故あのときあんな場所にいたのか、と疑問に思うことは多々あるが、問題は彼女が達也のことを両親に話してしまっているか、ということだ。

 

あの日の出来事、ショッピングタワーでの戦闘も、美月がビルを消し去ったことも、その後の外で待機していたらしい別部隊との戦闘も、四葉が情報を操作しているし、達也自身、何の証拠も残していない自信はあるが、愛梨には顔を見られている。何を言われても人違いだ、でシラを切り通すことは可能だろうが、疑いは残ってしまう。

一色家に、興味を持たれては困る。一色家程の家ならば、他の師補十八家、十師族とも独自のコネクションがあるだろう。

愛梨自身の力は取るに足らなくとも、一色家は警戒するべきだ。

愛梨が、両親に話しているのか、そうでないのか、それによっては対処が変わってくる。

場合によっては四葉の力を借りることも、達也は考えていた。

 

 

「エリカのそれ、武装一体型CADでしょ」

 

「えっ、良くこれがホウキだって分かったわね」

 

「ぼくのCADも武装一体型だから」

 

 

柄の長さに縮めた警棒を、ストラップを持ってクルクル回していたエリカは、目を丸くして驚いた。

少々オーバーリアクション気味ではあるが驚いたのは本当のようだ。

 

 

「美月さんも達也さんに調整をしてもらっているんですか?」

 

「今は自分でやってる、面倒なんだけど、達也がやってくれないから」

 

「美月のCADはかなり特殊なんだ、俺の手には余るよ」

 

 

美月と達也の答えに意外そうな顔をする面々。

 

 

「何、皆ぼくがCADの調整できるとは思わなかったわけ?」

 

「まあ、予想外だったかな」

 

「意外よね」

 

 

エイミィとエリカにそう即答され、美月はがっくりと項垂れる。いきなりドロップキックをかますような少女にそんな繊細なことが出来るとは誰も思わなかったのだ。

 

 

「話戻すようで悪いんだが、それ、何処にシステムを組み込んでるんだ?いくら考えても見当もつかないんだが」

 

レオがエリカのCADを指差して言う。

どうやらずっとそれを考えていたらしい。

 

 

「柄以外は全部空洞で、刻印型の術式で強度を上げてるのよ。ここまで言えばもう分かるんじゃない?硬化魔法は得意分野なんでしょ?」

 

「刻印型って言うと……術式を幾何学紋様化して、感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するって、アレか?そんなモン使ってたら、並みのサイオン量じゃ済まないぜ? よくガス欠にならねえな?そもそも刻印型自体、燃費が悪過ぎってんで、今じゃほとんど使われてねえ術式のはずだぜ」

 

挑発するようにヒントを与えたエリカに、レオは特に反応することなく、自分の考えを口にした。

好奇心がエリカの挑発を受け流すのに一役買ったようだ。

 

「おっ、流石に得意分野。でも残念、もう一歩ね。強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやれば、そんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」

 

先程まで、美月が浴びていたようなものとは違う、感心と呆れ顔がブレンドされた空気の中、居心地悪そうに訊ねたエリカに答えたのは深雪だった。

 

「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ」

 

それは何気ない指摘だったがエリカの強張った顔は、彼女が本気で焦っていることを示していた。

それを察したのかどうかは分からないが、未亜が口にした一言は訳ありの空気を霧散させるには丁度良かった。

 

 

「刻印型術式と言えば、『黄金の錬金術師』セレネ・ゴールドですよね!」

 

「ああ、なんでも何れはトーラス・シルバーと並ぶんじゃないかって噂の」

 

「まあ、ゴールドとか名乗ってるんだし、トーラス・シルバーをライバル視しているのは明らかよね」

 

 

未亜の言葉に、レオとエリカが返すがあまり興味はないようだ。

 

 

「武装一体型CADしか作らないのと、かなり少数しか世に出ないことからトーラス・シルバーより謎が多い魔法工学技師!」

 

未亜のテンションが高いのは気のせいではないだろう。

弾けるようなキラキラとした瞳はレオやエリカとは明らかに熱量が違う。

 

 

「未亜ちゃん、もうその話は良いんじゃないかな!」

 

 

何故か赤面している美月が悶えながら未亜の口を塞いだ。

そんな美月を何故かニヤニヤと見つめる達也と深雪。

 

 

「そうだな、その話はまた後にしたらどうだ?もう駅だ」

 

 

その達也の言葉に未亜は残念そうにしながらも、セレネ・ゴールドの話は後に持ち越すことにしたようだ。

 

そして、駅に着いたことで、各々別れの言葉を発しながら、それぞれキャビネットに乗り込んでいく。

 

ほのかと雫が二人乗り、エイミィ、エリカ、レオ、未亜が四人乗りで、この場を去った。

 

残るのは当然、達也、深雪、美月、愛梨だ。

 

 

――何故だ、とても不味いことになった気がするぞ

 

 

どういうわけか、嫌な予感がする達也。

いつになく不機嫌な深雪。

その深雪に無視されて落ち込んでいる美月。

何かを決意したかのような顔の愛梨。

 

 

彼ら四人の下校が今――始まる。

 




――その頃の生徒会室――


(●`ω´●)ムゥ 真由美「……むぅ」

(; ̄Д ̄)? 服部「会長、どうされたんですか?」

( ̄ω ̄;)摩利「おお、服部刑部少丞範蔵副会長、良いところに来たな」


(*`Д´)ノ!!服部「服部刑部です!」

(* ̄▽ ̄)ノ摩利「ん?そうなのか?まあなんでも良いが、後は任せたぞ」

∑( ̄Д ̄;)服部「えっ?」



(●`ω´●)ムゥ 真由美「……むぅ」

・・・(;´Д`)服部「……俺にどうしろと……」


服部は摩利に真由美を押し付けられ、一人、かつてない危機に陥っていた。


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番外編 一高入試前日の出会い

最新話が書き終わらなかったので、溜めておいた番外編を放出。
これで完全にストックが無くなった……。



「なんで入試前日にまで仕事があるのかな水波ちゃん!」

 

「水波なら、もう帰ったが」

 

「水波ちゃーん!?」

 

 

何故自分はこの場にいるのだろうか、と深雪はもう何度思ったか分からないことを考えながらじーっと二人を見つめた。

美月が受験勉強を始めてからというものの、達也はただでさえ仕事が忙しいというのに、美月に付きっきりで、自分は蚊帳の外。

 

 

 

――私も受験生なのですが……

 

 

 

そう深雪は言いたかったが、達也が自分のことを心配ないと思っていることは分かっているし、認められていることは嬉しい。嬉しいのだが、構って欲しいお年頃、というか、少々兄妹愛が強過ぎる深雪としては素直に喜べない。なんだか美月に兄を取られたというか、兄に美月を取られたというか……とにかく複雑なのだ。

 

 

 

「終わったー!全く水波ちゃんは入試前日くらい仕事入れないで欲しいよ」

 

「その水波から伝言でな、合格したら、一日デートしてもいい、ということだ」

 

「水波ちゃーん!愛してるー!」

 

「というわけで、とりあえずこの問題を解いてくれ」

 

「何がというわけなの!?その問題の山はどこから出したの!?」

 

 

 

そんな複雑な心境の自分の目の前で、美月と独自の世界を作るのは止めて欲しい、と切実に深雪は思う。

兄と親友のイチャイチャ――だと深雪は思っている――を延々見せられては、堪ったものではない。

かといって、友人の桐生薫も、なんだかんだで彼氏となった佐藤とそういう状態なのだろうし、深雪の周りはどこもかしこもそんな桃色の雰囲気であった。

 

そんなものだから、深雪はすっかりゲームにハマってしまい、最近では、こっそり最新のPCを購入し、時間があれば自室でやり込むことが増えた。

深雪がやるのは、美月がそこそこの頻度で司波家に置いていくゲームで、美月の趣味嗜好が大いに反映されたものであるため、男性向け恋愛ゲームやら格闘ゲームやらであるのだが、その中でも深雪はノベルゲームが特に好みだった。

 

ゲームなどやったことのなかった深雪はコントローラーの使い方さえ分からない。

そんな中、このノベルゲームはボタン一つで楽しむことができるのだ。

元々、読書は嫌いではなかったが、自分の選んだ選択肢によって、様々な展開を見せるノベルゲームは、読書よりも臨場感があり……現実を忘れられる。

 

今の状況にうってつけではあるのだが、入試前日にゲームというのは、どうも憚られる。

かといって、勉強をしようにも、やる気にはなれないし、今から慌ててやる必要もないほどに、深雪は完璧に入試をこなせる自信があった。

 

 

「お兄様、少し散歩に行ってきます、折角の良いお天気ですから」

 

「そうか?気をつけてな」

 

 

天気が良い、というのは完全な口実ではあったが、実際、頗る良い天気だ。

晴れ渡る空に、真っ白な雲は、春の訪れを一足早く知らせに来たかのよう。

普段、散歩など滅多にしない――少しでも兄と一緒にいたいからだ――深雪が散歩と言い出したことに少し不思議そうな顔をした達也ではあったが、入試前日の気分転換には一人になることも良いことだろう、と深雪を送り出した。

 

 

「深雪がいなくなったらぼくのモチベーションが!?」

 

 

 

そんな美月の言葉を無視して、深雪は一人、晴れ渡る空の下に繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

2094年8月17日は旧暦において、2094年7月7日の太陰暦――月の満ち欠けの周期を基にした暦――七夕の日。

 

吉田幹比古の実家では年一回の重要な魔法儀式が行われる日だ。

その日、兄である元比古に対抗心を燃やし、周囲の制止する声も無視して、無茶をしたあげく、無様にもサイオンの枯渇を起こして気絶。

 

起きたときには、自分の思い通りに魔法が使えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

あの悪夢のような夏が終わり、自分の力の衰えに絶望した秋が過ぎ、努力こそしているものの、全く向上が見られない自分に、失望した冬も終わろうとしている。

 

落ち込んでばかりもいられない、と分かってはいるが、今まで当たり前に出来ていたことが、急に出来なくなるというのは、随分と堪えるものだ。

まるで、体の一部を失ったかのような喪失感と、掌を返したかのような周囲の反応が、幹比古の劣等感を加速させていた。

 

 

「……はぁ」

 

 

春休み、という学生が心待ちにしていたであろう長期休暇も、幹比古にとっては、全くありがたくないものだった。家に居場所がない幹比古にとっては、学校がないというのは、逃げ道を塞がれたようなものだった。

 

とはいえ、明日は一高の受験があるということで、もしもに備え、都内のホテルに泊まることになっている。

朝起きて、いつも通りの修練をして、すぐに家を出たものの、ホテルのチェックインまでの間、無気力気味の幹比古には特にやりたいこともなく、偶々見つけた誰もいない廃れた公園のベンチで一人ため息を吐いた。

これから春休みの間、家に帰っても毎日こうなのかと考えると、憂鬱になる。

 

 

「何やってるんだろ、僕」

 

 

神童と持て囃され、調子にのって、天狗になっていた、その鼻を折る代償としては、幹比古の失ったものは大きい。

何もやる気が起きなくなって、ついにはベンチに横になり、空を見上げる。

天気の良い、雲一つない空は青く美しかったが、今の幹比古には、何もないただ空虚なだけの空に思えた。

そんなものを何時までも見ていたくはない。

幹比古は、このどうしようもない現実から少しでも逃れようと、目を瞑った。

きっと今は何を見たって美しいとは思えない。

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 

――そう思っていたのに、幹比古は、この世でもっとも美しいのではないかと思えるものに、この日始めて出会った。

 

 

声をかけられているのが自分である、ということに、気がつくまで数秒。

幹比古は、ゆっくりと目を開けた。

 

 

こちらを心配そうに見つめる瞳は宝石のように、あるいは真珠のように美しく、いや、美しいのは瞳だけではなくて、流れるような黒髪も、白く陶器のような肌も、彼女の全てが美しく、美しいという言葉を擬人化したような、そんな少女。

それが目の前にいて、割とすぐそこまで顔が迫っていて……。

 

 

「うわぁああああ!?」

 

 

幹比古は無様にも声をあげて、ベンチから転がり落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「私、傷つきました。顔を見て悲鳴を上げられたのは初めてです」

 

「ご、ごめん」

 

 

不貞腐れたように頬を膨らませる様子は大変に可愛らしく、幹比古は魅入ってしまいそうになるが、ここは幹比古が謝罪をする場面であり、幹比古はなんとかそれを口にすることができた。

中学校の卒業を間近に控えた純情な少年にとっては、声を出せただけでも、中々の快挙である。

 

 

「冗談です」

 

「あははは……」

 

 

どこかのお嬢様だと言われても驚かない、むしろそれが当然だと思わせるような気品というかオーラのようなものがある彼女が、そんなことを言うのが意外で、幹比古は苦笑いのようなひきつった笑みを返すことしかできなかった。

 

 

「こんな人気のないベンチで横になっていましたから、体調を崩されているのかと心配していましたが、大丈夫そうですね」

 

 

どうやら自分は体調を崩しているのでは、と思われるような状態だったらしい。

暖かな日差しを浴びて、つい寝てしまった、とは思われなかったようだ。

 

 

「あ、えっと、ありがとう、大丈夫、別に体調が悪かったわけじゃないから」

 

 

謝罪か、感謝か、返す言葉を少し考えて、言葉に詰まったが、もうそれほど緊張はしない。

相変わらず、心臓の鼓動は些か以上に早いが、話せない程ではなくなっていた。

 

 

「入試で今日は都内のホテルに泊まることになってて、チェックインまで時間があったからここで寝ていただけなんだ」

 

「……観光をしよう、とは思わなかったのですか?」

 

「ちょっとね……そんな気分じゃなかったんだよ」

 

 

 

観光、という程遠くからこの地に来ているわけではない、というのもあるが、やはり入試のことを考えると何をする気力も無くなる。

昔の自分なら問題なく合格できたであろうが、今の自分ではどう転ぶか分からない。

知識は死ぬほど詰め込んだし、ペーパーテストなら間違いなく合格ライン、しかし、魔法科高校では実技の成績が重要視される。

その実技が、今の幹比古には難題だった。

 

 

「そういう君はどうしてこんな公園に?いつも来るの?」

 

 

彼女がいつもこの公園に来るのだとしたら、こんな寂れた何もない公園でも一つの観光名所に成り得るのではないだろうか、と幹比古は本気でそんなことを考えながら、疑問を口にした。

 

 

「いえ……そんな気分だっただけです」

 

「そっか」

 

 

幹比古は少女の返しが面白くて、微笑む。

心なしか、気持ちも楽になった。

 

 

「僕は吉田幹比古、君は?」

 

「私は司波深雪と申します」

 

 

深雪の洗礼されたお辞儀に、幹比古は思わず背筋を伸ばした。

それに、くすり、と笑いを漏らしたのは深雪だ。

 

 

「そんなに緊張されているんですか?明日の入試」

 

 

深雪は幹比古が何に緊張しているのか、分かった上でそう訊ねた。

初々しい幹比古の反応が、なんだか新鮮だった。

 

 

「うっ……にゅ、入試は緊張していないさ!緊張はしていない……」

 

 

緊張はしていなかったが、不安ではあった。

ここで落ちてしまえば、もう魔法師としての道は絶たれてしまうのかもしれないのだから。

魔法師としての生き方しか知らない幹比古にとって、それは死刑宣告に等しい。

まるで、裁判の判決を待つような気分だった。

 

 

「私も、明日入試なんです」

 

「え、それじゃ?」

 

 

明日、入試があるのは、この辺では一つだけだった。

つまり、国立魔法大学付属第一高校だ。

 

 

「ええ、私も一高を受験するんです」

 

 

一高を受験する、ということは魔法師として、それなり以上のエリートだ。

この容姿に、それだけの才能、神に愛されている、むしろ女神なのかと、幹比古は段々と変な方向に思考をシフトしていく。

 

 

「明日入試なのに、こんな公園にいていいの?」

 

 

それは単純な疑問であったが、深雪はそれに呆れ顔だった。美少女はどんな表情をしても美少女なのだ、という真理を、幹比古は学んだ。

 

 

「それは貴方もではないですか?」

 

「あ、そうだった」

 

 

自分のことを棚にあげて、他人の心配をしているのだから、それは呆れられるだろう。

 

 

「そんな覇気のないことでどうしますか、それでは受かるものも受かりませんよ!」

 

 

彼女から叱責されると、不思議と今こうしていることが悪いことのように思えた。

ここで何もせずにいるくらいなら、少しでも練習をするべきなのではないかと、そんな気が。

 

 

「そうは言うけど、君だってこんなところで暇しているじゃないか」

 

「ひ、暇ではありません、お散歩です」

 

「それ、世間一般では暇って言うんじゃない?」

 

「う」

 

 

言葉を詰まらせた深雪に、何故か勝ったような気になる幹比古。

得意気な顔をしていたのか、深雪がじとっと幹比古を睨む。

 

 

「家に居づらかったのですから、仕方がありません」

 

「んー、その気持ちは分かるかな。ぼくがわざわざ入試のためにホテルに泊まるのも、家に居づらいからだし」

 

 

家にいては、小言を言われるか、無駄なプレッシャーを押し付けられるだけ。

入試前日くらい、リラックスしたい、とホテルに泊まることにしたのだ。

深雪の気持ちは痛いほどよく分かる。

 

 

「そうです、私だって、明日入試なんですよ!なのにお兄様は――」

 

 

どうやら深雪の、禁断の箱を開けてしまったらしい幹比古は、そこから、名も知らぬ、深雪の『お兄様』と彼女の生活について愚痴を聞くことになる。

 

曰く、たまの休日は二人でずっと勉強、私も混ざりたい

 

曰く、彼女がお兄様の膝枕で眠る、私もやりたい

 

曰く、彼女の手料理をお兄様が美味しそうに食べる、私も作りたい

 

 

「えーっと、つまりもっと構って欲しいってこと?」

 

「なっ!貴方は一体何を聞いていたのですか!」

 

 

話を聞いていると、深雪はかな……少々ブラコンのようで、しかし、その兄の彼女のことも嫌いではないらしい。

どの話でも、悪口という悪口もなく、結局は、『私も~』という感じで終わるのだ。

ああ、もっと構って欲しいのね、というのが幹比古の感想だったのだが、深雪はお気に召さなかったらしく、頬を膨らませた。

 

 

「もう知りません!」

 

 

顔を真っ赤にして、プイッと顔をそらす深雪は大変可愛らしいのだが、このまま、というわけにもいかないだろう。

 

「ごめん、ごめん」

 

 

幹比古が形だけの謝罪をすれば、本当に反省していますか、とばかりの不満気な顔をしつつも、顔を向けてくれた。謝罪は受け入れてくれるようだ。

 

 

「私のことばかりですから、今度は貴方のことを聞かせてください」

 

 

これ以上ボロが出る?のを防ごうというのか、単に話題を変えるためなのか、そう深雪に提案され、幹比古は自分のことを語った。

 

事故で魔法が思い通りに使えなくなったこと。

そのせいで家に居づらくなったこと。

努力しても、昔のようには戻れないこと。

 

 

誰にも話したことはなかった。

話せるような友人もいなかったし、話すことを幹比古のプライドが許さなかったからだ。

それが、どういうわけか、するすると口から溢れた。

 

 

「魔法は、才能が必要な技術かもしれません。生まれた時点で、使える者と使えない者がいるわけですから」

 

 

幹比古が生まれたのは、神道系の古式魔法を伝承する古い家系である精霊魔法の名門、吉田家。

神童と持て囃される程度には、才能があった。

 

 

「それでも、才能が全てではないのです。他のスポーツや勉強と同じように努力は裏切りません」

 

 

努力しても、昔のようには戻れなかった。

本当に?今の自分は昔に劣っているのか?努力した意味はなかったのか?

 

 

「貴方は……少なくとも魔法の才能を持っているのですから、今は少し立ち止まっていても、きっとまた進めますよ」

 

 

また進める。

そうだ、過去の自分を追いかけるのでは向上しないのは当たり前だった。

後ろを振り返ってばかりで、進めていなかった。

 

 

 

「ありがとう……凄いな君は……本当に」

 

 

何も見えていなかった。

失ったものにばかり目を向けていて、先に何があるかなんて、考えもしなかった。

今ある自分が許せなくて、どうしようもない自分が嫌で、でもそれは変わることを恐れていただけだったのかもしれない。

神童と呼ばれていた自分を取り戻せなくなることを。

 

 

 

「いえ、私は知っていただけです。魔法の才能がなくとも、努力して、他の技術や知識で補い、常に進んでいく……そんな尊敬すべき人を」

 

 

そう語った、深雪の瞳は、叶わぬ何かを願うように、掴めぬ憧れを羨望の眼差しで眺めるように、どこか遠くを見つめていた。

 

 

「……そろそろ私、帰りますね。散歩にしては随分と時間が経ってしまいましたから」

 

 

言われてみれば、もう二時間近くも話していたようだった。確かに、散歩、というには長い時間だろう。

 

 

「また今度、話を聞いてもらっても良いかな」

 

「ええ、私でよければ」

 

「ありがとう、あ、そしたら連絡先を交換しようか。僕、実家が少し遠いから、またこの公園で、ってわけにもいかないしさ」

 

 

深雪のような美少女と話をするためならば、海外からでも飛んで来る、という男はいくらでもいそうなものだが、この便利な時代にはどれだけ遠くの人間とでもお話をすることができる、文明の利器があるのだ。

勇気を振り絞って連絡先を訊いた幹比古は心の中で自分に拍手を送る。

 

 

 

 

「いえ、止めておきましょう」

 

 

 

しかし、にっこり笑みで断られ幹比古は一瞬、視界が真っ暗になった。

 

女子から断られ、かなり傷ついたが、よくよく考えたら、如何にもお嬢様な深雪が、今日会ったばかりの男子に連絡先を教えたりはしないだろう。

 

 

「だって、貴方が合格したらまた会えるじゃないですか」

 

 

幹比古はそう言って去っていく深雪を、しばらく見送って、またベンチに寝転がった。

 

 

「自分が落ちることは考えていないんだな……」

 

 

視界に広がるのは同じ青空のはずだ。

なのに今は、澄み渡る青が美しく、暖かな日差しが心地良い。

 

 

 

 

 

 

「一高、合格したいな……」

 

 

この短くて、大きな出会いが、幹比古の何かを、大きく変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、入試の時にばったり会ってしまい、恥ずかしかったことはお互いに無かったことにした。




(*`Λ´*)美月「む、なんだか無性に誰かを殺さなくてはならないような気がしたんだけど……気のせい?」

( ̄ω ̄;)達也「何を訳の分からないことを。そんな暇があったら一問でも多くの問題を解け」



(*´ω`*)美月「達也さん、達也さん、ぼくもう休みたい」

“〆(^∇゜*)達也「そんな美月に朗報だ。それを全て解き終わらない限り、お前に休息の二文字はない」

(つд;*)美月「……知ってた」




(´・ω・`)達也「そして、一問ミスする毎に仕事を一件増やしていくから」

Σ(;´□`;)エッ 美月「それは知らなかった!?えっ、達也さんぼく死んじゃう!」

(°∀° )ニヤニヤ達也「さて、何問ミスするか楽しみだ」

Σ(゜Д゜)タツヤサーン!?美月「達也さーん!?」




結局、三問間違えた美月さんであった。



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第四十三話 女の戦い~愛梨の勝機~

このキャビネットから、一刻も早く降りたい、達也はそう願わずにはいられなかった。

誰一人として、口を開こうとはしない、無言の空間。いつも一人、ハイテンションの美月でさえ、深雪から本気の無視をされて相当こたえているのか、無言を貫いている。誰でも良い、何か話してくれ、という達也の念が通じたのかどうかは定かではないが、ついに、無言だった美月が口を開いた。

 

 

「……愛梨、今日の夕食の予定は決まってる?」

 

「いえ、まだ決めてないけど……」

 

 

突然、何の脈略もなく、夕食の話など持ち出されても、別のことで頭がいっぱいの愛梨にはその意味を考える余裕もない。

ただ、聞かれるがままに答えたのだが、美月の表情は明るくなった。

 

 

「じゃあ家で食べていきなよ、ぼく頑張っちゃうから!」

 

 

えっ、美月料理できるの、という言葉は、ギリギリのところで飲み込んだ。

そんなことを口にしていたら、美月は拗ねて、面倒くさい構ってくださいモードに移行し、愛梨はしばらく美月に付きっきりになっていたことだろう。

 

 

「良いの?ご迷惑にならないかしら」

 

 

愛梨は一人暮らしを始めたばかりだ。

正直なことを言うと、愛梨がまともに料理を始めたのは一人暮らしを決めてからで、具体的な期間で言えば、半年間にも満たない。

それでも、ロボットが一般家庭にも普及している今の時代、半年間という浅い料理経験しかなくとも、一人暮らしには困らないし、不便はない……ないのだが、自分の作った料理がロボット以下なのが明らかで、それは愛梨のプライドが許さなかった。

だから今も毎日出きる限り自分で料理をするようにして、日々精進しているわけだが、自分と同年代の女子がどれくらい料理を出来るのか、というのは常々気になっていたことだった。

ロボットの普及により、母の手伝いをする娘、という光景が台所から消えつつある現代では、料理が出来る女子高校生は、意外と少ない。特に、愛梨のような名家のお嬢様は。

実際、愛梨の親友である二人は、

 

――料理?計算と分析でどうとでもなるわ、やったことないけど

 

――鍋に入れてかき混ぜれば大体のものは出来るじゃろ、火が通っていれば食べられないものはそうはあるまい

 

と、料理の出来ない大多数に分類されていた。

 

だから、美月の料理は気になるし、今日の夕食の予定は決まっていなかったのだから、美月の招待を受けることは吝かではないのだが、愛梨はご両親に迷惑ではないのか、と考え、一度美月に聞いてみたのだ。

まだ出会って二日目の私が家にお邪魔して良いのか、ということなのだが、この疑問は愛梨の家柄の良さゆえだった。

愛梨の家では実家に上げる友人は、しっかりと『調査』した上で安全と確認された者だけだったし、実際家に上げたことがあるのは親友の二人だけだ。

愛梨には普通の家柄の友人がいなかったがために、この辺の事情が良く分かっていなかった。

 

 

「全然!どうせ作るのはぼくだし、一人二人増えたところで手間は変わらないよ。それに、母さんは仕事があるから部屋で食べるし、父さん今日帰ってくるの夜中だから」

 

 

「本当に?じゃあ御相伴に預かろうかしら」

 

「やった!」

 

 

イライラ、イライラ。

兄の前でなければこの胸に燻っている何かをきっと吐き出してしまったかもしれない。

しかしそれは、ほとんど揺れもしないはずのキャビネットが震えているのではないか、と錯覚するほどの見えない圧力となって、深雪から放出されていた。

 

 

「どうかした?深雪」

 

「……なんでもないわよ」

 

 

美月に心配されたことが、どうしてか無性にイラついた。素っ気ない、というより、棘のある返事になってしまったのは無意識のことだった。

 

 

「愛梨ー、深雪が冷たいよ」

 

 

シクシクと泣き真似をしながら抱きつく美月を、仕方ないなとばかりに、撫でる愛梨。

深雪は何故か思った。

見せつけられている、と。

 

 

「深雪は何を怒っているのさ、ぼく何かしたっけ」

 

愛梨に抱きついたまま、本当に分からないとばかりの顔で美月が訊ねる。

実際、美月には心当たりがなかったし、ドロップキックのことだとしても、いつもの怒り方ではないような気がする。

以前、達也の『再成』について初めて達也から聞かされた時、とりあえず達也を全力で蹴り飛ばしてみたのだが、当然深雪から烈火の如く怒られた。

怒られたのだが、今回の感じとは違う気がした。

 

 

「別に怒っていないわよ」

 

「目も合わせてくれないのに?」

 

またも素っ気ない態度の深雪に、いよいよ涙目になった美月。

流石にばつが悪くなったようで、深雪は少し押し黙った後、小さな声で呟く。

 

 

「……目があったら妊娠してしまうもの」

 

「しないよ!?ぼくをなんだと思ってるの!?」

 

 

涙目のまま、美月は深雪を問い詰めるが、返事はない。深雪は美月から目をそらすように、横を向いたままだ。

 

 

 

「えっ何、深雪は本当に今までぼくをそんな風に思ってたの!?」

 

「そんなことはございませんよ、美月さん」

 

「美月さん!?出会った当初より他人行儀なんですけど!?」

 

 

愛梨は何となく、深雪が美月に怒っている理由が分かった。先程からチラチラと感じる深雪の視線は、愛梨が達也の隣に座る深雪に対して同じようにチラチラと送ってしまっていた視線と同じもの――つまりは嫉妬。

何もかもが自分を勝っていて、今でも虚勢を張っていなくては気持ちが沈んでしまうような、そんな深雪が自分に嫉妬している。その嫉妬が美月への怒りへと変わっているのだ。

深雪に対して一方的に敗北感を感じていた愛梨は、少しくらい仕返ししたってバチは当たらないわよね、と自分を正当化してから、美月を抱き寄せ胸に抱いた。

 

 

「良いじゃない、美月には私がいるでしょ」

 

「愛梨~!」

 

 

感動した、とばかりに愛梨の抱擁を噛み締めている様子は深雪には鼻の下を伸ばしているようにしか見えなかった。

そして、勝ち誇ったような愛梨の顔。

今度は深雪の勘違いではなく、完全に見せつけている。

 

 

「今日は愛梨の好きなの作ってあげるね!何が良い?」

 

 

そんな深雪の気持ちを知ってか知らずか、美月は、はしゃいだようにそう愛梨に訊いた。

 

 

 

「……笑わない?」

 

「うん」

 

 

何故か躊躇う愛梨に、美月は首を傾げつつも頷いた。

 

 

「……ハンバーグが良い」

 

「あはは、可愛い!うん、ハンバーグにしようか!」

 

 

恥ずかしそうに、小さな声で言った愛梨のリクエストを、美月はついさっき約束したことを反故にして、笑いながら了承した。

 

 

「わ、笑わないって言ったのに!」

 

「良いじゃん、可愛いよ、ハンバーグ」

 

「もう!」

 

約束を反故にされることは想定内だったのか、愛梨の言葉は、やっぱり、というニュアンスが強かったが、顔を赤くしており、可愛らしい。

美月はその可愛らしさを引き出すように、意外と子供っぽかった好物、――愛梨もそれを自覚していたから言いたくなかった――ハンバーグ、と言いながら愛梨がプイッと顔を背けるまで、頬をつついた。

 

 

「…………」

 

 

イライラ、イライラ。

兄の手前、表情は取り繕っているが、全身から不機嫌なオーラを出している深雪。

それを見て、愛梨は思う。――勝った、と。

何の勝負なのかは不明だが、とりあえず愛梨は深雪に勝った。その事実が愛梨をより高みへ、もっとフランクな言い方をするならば――調子に乗らせていた。

 

 

「愛梨、帰りに買い物いこうね」

 

「いいわよ、()()で行きましょう」

 

 

勝ち誇った顔のまま、仲睦まじい様子で美月の頭を撫でている愛梨のそれは、完全に挑発であった。

何を競っているのか変わらず不明だが、二人の世界では確かに愛梨が優勢のようで、深雪は悔しそうな顔をしている。

その悔しそうな顔が愛梨を満たし、深雪を益々イラつかせる。

美月に怒っている、というスタンスを一度取ってしまった以上、ここでそれを覆すことはできない。深雪はただひたすらに耐えるしかないのだ。

 

 

――まだ着かないのかっ!?

 

 

そしてここにもまた、耐える者が一人。

愛梨が達也のことを忘れているように、達也もまた、愛梨への対処なぞ忘れて、ただひたすらに、キャビネットの到着を待った。

隣の深雪はいつ爆発してもおかしくはない。

何故、美月はこの変化に気がつかないのか、と達也は一人、戦々恐々としていた。

美月を争って?起きているらしい、深雪と愛梨の争いは、深雪の防戦一方であり、ただでさえ溜まっていたフラストレーションが、破竹の勢いで増加していく様は、いつ爆発してもおかしくない爆弾を隣にしながら、何も出来ずに眺めているに等しい。

 

そして、こういう状況で、平然と火に油を注ぐのが美月なのである。

 

 

「そういえば、達也、いきなり二人も女子の友達作っちゃって、高校入学早々やるね!ほのかちゃんも、達也のことかっこいいって言ってたよ?」

 

 

なんてことを!と叫ぶことも、表情に出すこともなく、なんとか堪えた達也は、一見平然としつつも、冷や汗を流さずにはいられなかった。

隣から、轟々と荒ぶる吹雪を感じたからだ。季節は春、しかし達也はもう何度かこの感覚を味わっていた。

そして、この後にくる言葉は決まって――

 

 

「お兄様?」

 

 

――この天使のような、されど悪魔も逃げ出すような、笑みと共に告げられる死刑宣告(お兄様)

 

 

深雪の溜まっていたフラストレーションが良い捌け口見つけたのと同時に、静かにキャビネットの扉が開いた。

それはつまり、目的の駅に着いた、ということなのだが……達也はあんなに願った到着が、忌々しく思えて仕方がなかった。

 

 

「じゃあ二人共、また明日!」

 

「では失礼します」

 

「……ああ」

 

 

去っていく二人に、力無く返事をした達也の手を握って、深雪は言った。

 

 

 

「お兄様、私たちも帰りましょうか」

 

 

――お話は帰ってからゆっくりと

 

 

そんな声が聞こえたのは、きっと達也の幻聴ではなかった。




―別のキャビネットにて―

( ̄▽ ̄;)エリカ「美月ってとんでもない奴ね、ドロップキックよ、ドロップキック!達也くん死んだんじゃないかと思ったわ」

(;・ω・)エイミィ「あははは……確かに驚いちゃった。いきなり飛び出したと思ったら凄い速さで飛んでっちゃうんだもん」

(☆ω☆*)未亜「ドロップキックって、練習すれば私でも出来るでしょうか!」

Σ(゚Д゚;ナンデヨ!? エリカ「ちょっと未亜、何目を輝かせんてのよ!?」

ヽ(*゚∀゚)ノ未亜「美月さん格好良かったですよね!私も堂々とドロップキックが出来るような人間になりたいです」

ヾ(*`Д´*)ノ"エリカ「この娘他人に影響されやすいわね!?堂々とドロップキックなんてしちゃダメだからね!?達也くんじゃなかったら、結構ヤバかったわよ!?」

“〆(^∇゜*)♪未亜「じゃあ司波くんにやれば良いんですね!」

Σヽ(`д´;)ノエリカ「そういうことじゃないわよ!」



(;´∀`)エイミィ「……エリカも大変だね」






(つд;*)レオ「(この空間に一人はきちーよ……)」




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第四十四話 ミカエラ・ホンゴウ

ちょっと新作を2・3個書いてみたり、もう一作の方を書いたりしていたら、この様……。


今日は駆け足投稿なので、誤字脱字注意です(小声)。


全国に九つしかない魔法科高校の立地条件から必然的に、遠方から進学してくる生徒もいる。

 

だというのに、第一高校には寮が無かった。

 

 

とはいえ今の時代、二十四時間教育で、学生寮を教育の場として重視している全寮制の特殊な学校以外で、学生寮という施設を見ることは無いのだから、一高が例外というわけでもない。

 

HAR(ホーム・オートメーション・ロボット)が一般家庭に普及し日用品の買い物もオンライン注文・戸別配送で済ませられる現代、学生の一人暮らしでも不自由は全く無く、寮という施設の需要が無いからだ。

そのため、自宅から通えない生徒は学校近くに部屋を借りて一人暮らしをすることになる。

 

本郷未亜もその一人で、学校から電車(キャビネット)で二駅の、現代の交通事情を考えればすぐ近くといえる場所にマンションを借りて住んでいた。

 

そのマンションの扉を開けて中に入るとすぐに、未亜は全身が映る姿見の前に移動してくるりと回る。

 

 

「はあ、やっぱり無理があると思うんですけど……」

 

 

長い制服のスカートを摘まんでヒラヒラとさせながら、未亜はため息を吐いた。

 

 

「まさか、もうUSNAのハイスクールを()()()()()()()()()()()()()()()()、制服を着させられるなんて」

 

 

本郷未亜、というのは、彼女の本名ではない。

今回の任務のために与えられた、使い捨ての名前だ。

 

彼女の本名はミカエラ・ホンゴウ。

外見は少し肌の色が浅黒いか? という程度で、それでも日本国内で特に珍しいという程ではなく、ほとんど日本人と区別が付かないが、立派な日系アメリカ人である。

 

 

「軍は私の年齢、間違えているのかしら」

 

 

彼女の本職は放出系魔法を研究する国防総省所属の魔法研究者であり、高名な研究者からも一目置かれている才媛だ。

そんな彼女が何故、日本の、それも高校生に紛れているのかといえば、それは本人にも分からなかった。

 

確かに彼女は最近著しく技術の発展している日本の魔法師の秘密を探るべくUSNAで密かに計画されていた今回の任務に志願した。

 

トーラス・シルバーの正体が日本人なのではないか、というのは有力な説であったし、最近話題の新進気鋭の技術者、セレネ・ゴールドも日本人だろうという噂だ。

 

次々と現れる天才に、USNAは日本に派遣しているスパイの増員を決定した。

 

研究に少々息詰まっていた彼女は、これ幸いとこの任務に志願したわけだが、蓋を開けてみれば、何故か自分は高校生になっていた。

 

3年間が任務の目安だとは言われていたが、それが高校生活の意味だと誰が予想できるだろうか。

 

未亜はてっきり、共同研究の名目で来日した大学生とか、どこかの企業のセールス・エンジニアとして魔法大学に潜り込むことになると思っていたのだから。

 

 

「良い歳した大人が制服なんて着ちゃって……これは私の名誉のためにも絶対バレるわけにはいきませんね」

 

 

未亜は確かに『良い歳をした大人』なのだが、制服を身に纏ったその姿に違和感は一つもない。

可憐で初々しい、高校一年生そのものだった。いや、むしろもっと幼くさえ見える。

しかし、本人はやはり年齢から無理があると感じているようで、鏡に映る自分を見てはため息を吐いている。

 

 

「もしバレたりしたら、もう日本の地は一生踏めませんよ……物理的にも、精神的にも」

 

 

スパイ活動をしていてた、ということがバレれば当然、日本の地はそうそう踏むことは出来なくなるが、未亜がもっとも懸念していたのは、良い歳をした大人が制服を着て高校生に混じっていた、という事実が明るみに出てしまうことだった。

そんなことになれば、日本、という国名を聞くだけで死にたくなるに違いない。

 

日本の地など踏めるはずもなかった。

 

 

「一応、高校生っぽいキャラを()()()()()()、まだバレてないわよね?」

 

 

自分が15歳・16歳の時を思い出して、キャラを作ってみたが、少々やり過ぎたような気がしないでもない。

未亜の中で学生といえばなんでも話を恋愛方面に持っていくイメージがあったのだが、日本人は違うのかもしれない。

とはいえ、キャラを作ったといっても、彼女は訓練された諜報員でも、本職のスパイでもない。

後半はほとんど素の状態と変わりなかった。

 

 

「はあ、何時までもこうしていても仕方ないか……報告書、できるところまでやっとこ」

 

 

報告書、と言っても、少しでもリスクを避けるために、USNAへ提出するのは三年後、一高を卒業した後になるのだが、生真面目な未亜は、初日から報告書を書き始めることにした。

 

 

「といっても、私二科生になっちゃったし……教育の根本となる教師とはあまり関われそうにないんだよね」

 

 

未亜の目的は、トーラス・シルバー、セレネ・ゴールドの正体を暴くこと……はあくまで趣味で、彼女の本職である放出系魔法のさらなる発展のためのヒントを得ること、である。

しかし、それとは別に、軍へ提出するレポートには、色々軍からのリクエストがあり、その中の一つが、『教育』だ。

未亜が魔法科高校に入学させられたのも、その情報を軍が欲したからなのだろう、と未亜は思うことにした。

魔法科高校には、日本の表側(・・)の魔法研究の、最先端を収めた文献資料にアクセスできる端末があったりと、スパイをする上では意外と理にかなっているとも言えた。

 

 

「うう、魔法師としてやっていける自信がなかったから研究者になったとはいえ、まさか高校生より劣ってるなんて……落ち込むな……」

 

 

未亜は学生時代、自分の魔法師としての才の無さを嘆いたことを思い出す。

魔法に関われる仕事は何も魔法師だけではない、と気がつき、それを受け入れられるまでは、劣等感や不安に押し潰されそうになったこともあった。

一科生、二科生と明確な差をつけて区別してしまうことは、そういう過去の未亜のような気持ちをより増大させ、若い才能を潰してしまう原因になりかねないと懸念していた。教育、の面では、独自の判断で様々な方向に魔法的価値を見いだす、自国の方が勝っているように感じた。勿論、身内贔屓もあるが、それが率直な未亜の意見だった。

ただ、どれだけ詭弁を並べたところで、結局、未亜の魔法師としての能力はこの国の基準では一科生にもなれないのだ、ということに変わりはない。

 

 

 

 

「でも、言い訳ってわけじゃないけど……高校生にしてはレベル高いかな」

 

 

未亜は今日出会った学生達のことを改めて分析し、そう結論を出した。

 

 

「七草家の長女は当然としても……司波くんはレベルが違うわね」

 

十師族の娘である七草真由美は、サイオンそのものを弾丸として放出する、魔法としては最も単純な術式を見ただけでも、その完成度の高さが伺える。

起動式のみを破壊し術者本人には何のダメージも与えない精緻な照準と出力制御は、射手の並々ならぬ技量を示しており、高校生のレベルを逸脱していた。

しかし、未亜が最も評価していたのは、二科生であるはずの司波達也だった。

 

「明らかに実戦経験を積んでるし、あの時使おうとしたのは……たぶん術式解体」

 

 

未亜は、研究者であって、実戦を経験したことはないが、軍の人間と関わる機会は多い。

そして、達也の動きはその、軍の人間と遜色ないものだった。

 

そして、術式解体。

圧縮されたサイオンの塊をイデアを経由せずに対象物に直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言ったサイオン情報体を吹き飛ばすことで、魔法を無効化する……という単純な力任せなのだが、並みの魔法師では一日かけても搾り出せないほどの大量のサイオンを要求するため使い手は極めて少ない、超高等対抗魔法だ。

 

 

「日本の軍の関係者……か、それともどこかの『家』の縁者なのか……どちらにしても彼が二科生というのはありえないし、力を隠している……間違いなく、ただの高校生ではない」

 

 

未亜は勘違いしている――達也が二科生なのは力を隠しているからではない――が、真実を掴みかけていた。

未亜は諜報員としては、多少の手解きを受けただけの未熟者だったが、この学校の誰よりも早く達也の異常性、その正体に踏み込んでいた。

 

 

「目下の観察対象は『司波達也』、高校生にして術式解体の使い手……っと。あっ、一応、妹さんが新入生総代っていうのも追記しておこう」

 

 

報告書を書くのにはまだ慣れていないのか、日記のように、今日あったことを書き綴っていくと――情報漏洩のリスクを少しでも下げるために紙に書いている――今後の予定として、司波達也を観察してみることにしたようで、達也の特長や気がついたことなどを書いていき、最後に優秀な妹がいることを付け足した。

魔法は血筋に左右される技能であるのだから、この事実は達也が二科生であることが『力を隠しているから』という未亜の勘違いに拍車をかけていた。

 

 

「あっ、もうこんな時間か……明日も学校だしもう寝なくちゃ」

 

 

時刻は深夜一時の少し手前、明日も学校がある()()()はもう寝るべき時間を疾うに過ぎていた。

明日に備え、ベッドに入った未亜だったが、しばらく天井を見つめた後、再び起き上がった。

 

 

「や、やっぱり、ちょっとだけドロップキックの練習、しておこうかな……っ!」

 

 

何がそんなにも未亜を駆り立てるのかは不明だが、彼女はドロップキックというものに素で憧れていた。彼女の感性ではアレは格好良かったらしい。

 

「高校生の話題に着いていけないとまずいものね、うん」

 

誰に言い訳をしているのか、キョロキョロしながらそんなことを呟いた後、一人はしゃぎながら、ベッドの上でドロップキックの練習をする未亜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、マンションの管理人から、下の階の住民からクレームがあった、と説教されることになるのだが、それは今の未亜の知るところではなかった。

 




――USNAの某所にて――


(*´ω`*)すごく偉い人「やっぱり、あの娘には制服が似合うと思っていたのだよ」

(´・ω・`)そこそこ偉い人「あの一高の制服を見たときから、我々の計画は動き始めましたからね」

(・`ω・)超偉い人「研究所では半場アイドル扱いされていて、我々でも手が出せんからな、彼女が日本へ行きたいと思っていることを知って、即座にこの作戦を計画したよ」

“〆(^∇゜*)すごく偉い人「流石です」





・・・(;´Д`)ちょっと偉い人「(…………大丈夫なのか、この国は?)」







USNAの陰謀編、あとがきでこっそり不定期スタート。


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第四十五話 忍者系男子

ストックがない……。
純粋に忙しかったんだよ……(言い訳)




愛梨が可愛い過ぎてヤバイ。死ぬ。萌え死ぬ。

昨日は愛梨と買い物に行って、一緒に夕飯を食べて……幸せでした。

ハンバーグはかなり気合入れて作ったのだけど、もうあの愛梨の幸せそうな顔ときたら!

普段ツンケンしている愛梨の子供のような笑み!ぼく、メイドでもなんでもやるんで愛梨の家で雇ってくれないかなっ!そしたら毎日愛梨を愛でてウハウハなんだけど!

 

 

「で、なんで遅刻したの?」

 

「ね、寝坊したんだよ」

 

 

その愛梨から、ぼくは今、尋問を受けていた。

うん、昨日の可愛い愛梨はどこに行ってしまったんだ。

 

ぼくが今日、学校に登校したのは、一限目どころが、二限目の途中だった。勿論、ガッツリ怒られました。

こういう時、指導員がいない二科生がちょっと羨ましかったり。

 

 

「本当に?怪しいわね」

 

「うん、目がキョロキョロしてるしね」

 

 

ジトッとした目で愛梨とエイミィから視線を送られ、思わず後ずさってしまう。

くっ、確かに遅刻した原因は寝坊じゃない。ぼくはいつも通りの時間に目が覚めたし、いつも通りの時間に家を出たのだ。

しかし、いつも通りでなかったのは、達也と深雪が迎えに来てくれなかったことである。

 

 

『このままじゃ何時まで経っても一人で登校できないでしょうから、今日から一人で登校しなさい』

 

 

即座に連絡するも、深雪はぼくに無慈悲な言葉をぶつけて電話を切り、その後、一切連絡はつかず。

当然、達也にも連絡してみるけど、繋がらない。

 

なんで!?

 

ぼくはこの異常事態に、しかし、どうにか学校に登校しようと、駅を目指した。

目指したのだけど……。

 

 

「いやー、二限目には間に合って良かった」

 

 

学校どころが、自分の現在地すら見失っていた所を、奇跡的に、一高の先輩に発見され、ここまで登校することが出来たのだ。

案内役がいたのに遅刻したのは、道中で、近道しようとしたぼくが、先輩とはぐれ、迷子に。

それを先輩が探しだしてくれる、という一連の無駄な動きのせいである。つまりぼくのせいだった。

先輩もまず間違いなく遅刻しているだろうから、昼休みにでも改めて謝罪とお礼をしに行こうと思う。名前は聞いていなかったけど、居場所は名探偵美月さんによって導き出されている。

 

「はあ、まあ本当は美月が遅刻した理由なんて、そんなに興味なかったし、別になんでも良いのだけどね」

 

「酷い!」

 

 

昨日の可愛い愛梨カムバック!今日はどうしてかツンが強い。

ぼくが遅刻してしまった理由は、まあ、運命のイタズラというか、神様のオチャメというか、簡単に言うと迷子なのだけど、それを口にするのは格好悪い。折角積み上げた(?)美月さん株がだだ下がりだ。

だから、ぼくの演技力でこの状況を寝坊ということで突破しようと思っていたのだけど、愛梨が無関心なくらいなら、さらけ出すよ!裸の美月さん大公開だよ!

 

 

「……ただ美月がいないと寂しいじゃない」

 

 

美月さんイヤーは、愛梨のとても小さな呟きを聞き逃さなかった。

ツンっとそっぽを向いたまま、呟かれたその一言の威力は計り知れない。ぼくの中の何かのゲージが一気に振りきれた。

 

 

「愛梨ー!」

 

「な!?ちょ、美月!?」

 

 

抱き締めて、頬擦りする。

どうやら愛梨は萌えの戦略級魔法師だったらしい。

なんだろう、愛梨はぼくを喜ばせるためだけにどこかから送り込まれたのだろうか。こんなに可愛い娘がこの世に存在する奇跡にぼくは感謝したい。

 

 

「……二人はやっぱり仲良しだね」

 

 

どこか遠くを見るような目で傍観しているエイミィ。

そんな彼女にぼくが言えることはたった一言だ。

 

「愛梨の後はエイミィだからね?」

 

「へ?」

 

この後、エイミィは美味しく愛でさせて頂きました。

ぼくの高校生活は最高に楽しいです。

 

 

 

 

「酷い目にあったわ……」

 

「美月のスキンシップはなんかこう……イケない感じの触り方なんだよね……」

 

 

昼休み。

ぐったりとした二人とホクホクのぼく。

もっと二人を愛でていたいのだけど、今日はちょっと用事がある。

食堂で食事を終えた後、ぼくは二人と別れ、一人生徒会を目指していた。

 

今日の朝、ぼくを助けてくれた先輩に名前を聞くのを忘れていたけど――絶賛大遅刻中でそんな暇なかった――遅刻が確定して半泣きで謝るぼくに、『俺は君の先輩で、君が困っているのだから助けるのは当然だ。……それに俺は生徒会副会長だしな』と、格好良すぎる言葉をかけてくれて、その言葉から、彼が生徒会の副会長であることは分かっている。

 

つまり、お昼休みは生徒会室にいるっ!

 

生徒会役員は、生徒会室で昼食を食べるのが常識!もしいなくても、真由美さんに聞けば、その正体は丸分かり!ぼくの策は完璧だ!

 

 

「生徒会室……どこ……」

 

 

――生徒会室に辿り着ければね!

無理だったよ!手元の携帯端末に表示された校内図を見ながら来たんだけどね!辿り着けないよ!

 

 

「……また君か」

 

 

入学式の時に、達也と時間を潰していたベンチの近くで途方に暮れていたぼくの前に現れたのは、今日の朝、ぼくを助けてくれた先輩だった。

 

 

「まさか、迷子だなんて言わないよ……な」

 

 

言っている内に、ぼくが迷子であると気がついたのだろう。段々と顔がしかめられ、最後にはため息混じりだ。

 

 

「迷子です!」

 

「何故偉そうなんだ!?君が手にしている携帯端末に表示されているのは校内図だろ!それがあれば小学生でも迷わんぞ!」

 

「酷い!ぼくは小学生以下だって言うんですか!」

 

「少なくとも迷子になった回数はその辺の小学生より多そうなものだけどな!」

 

 

胸を張ってドヤ顔で迷子宣言をすれば、先輩から小学生以下という評価を下されてしまった。

確かに数百回は迷子になっているけども!いくらなんでも小学生以下はないと思う!

 

 

「はぁ、全く……それで、どこに行きたかったんだ?」

 

「何だかんだ言って、結局は案内してくれるとか……先輩、男のツンデレはぼく無しだと思います」

 

 

「誰がツンデレだ!人の親切をなんだと思っているんだ!」

 

 

この先輩は真面目で良い人なんだけど、だからこそ、からかい甲斐あるというものだ。

いくらでも遊んでいられるね!

 

 

「今朝はありがとうございました!それを言いたくて、生徒会室に向かっていたんです」

 

「俺は基本、昼食は部室で食べるし、生徒会室は正反対の方角なんだが……」

 

呆れるを通り越して、可哀想なものを見るような目で見てくる先輩。

うん、ぼくも自分がスゴく残念に思えて仕方がないよ。

 

 

「まあ、また困ったことがあったら、言ってくれ。これでも一応、生徒会の副会長を務めている。それなりに、頼りになるつもりだ」

 

自分自身のあまりの残念さに落ち込み気味のぼくに、そう声をかけてくれる。

なんという良い先輩!でもたぶん苦労人なんだろうな、という気がしないでもない。

 

 

「そういえば、名前がまだだったか。俺は二年B組、服部刑部」

 

「へー、忍者みたいな名前……あっ、もしかして、はんぞーくん!?」

 

「誰がはんぞーくんだ!?その名前はどこから出てきた!?」

 

「真由美さんですけど」

 

「……会長」

 

 

前に真由美さんから『はんぞーくん』という名前は聞いていたのだけど、それがまさか先輩のことだったとは。確かに真由美さんの言っていたイメージともピッタリだし、真由美さんの好きそうな人柄ではある。遊び相手的な意味で。

 

 

「真由美さんが、『あれだけ、からかい甲斐のある後輩も珍しい』って褒めてましたよ」

 

「それは褒められているのか!?」

 

「摩利さんも爆笑しながら同意してました」

 

「そっちは間違いなく褒められていないだろうな!その光景がありありと目に浮かぶよ!」

 

 

この言葉から摩利さんが、はんぞー先輩をどういう扱いをしているのかが、良く分かる。

はんぞー先輩、色々押し付けられてそうだ。

 

 

「はあ、先輩方には後でお話をするとして……間違っても、『はんぞーくん』などと口にするなよ」

 

「了解です、はんぞー先輩」

 

「はんぞーを止めろ!」

 

 

そろそろ昼休みも終わる時間、というわけで、「俺の名前は服部刑部だー!」などと、叫んでいるはんぞーくんに手を振って、教室へと戻ることにする。

 

何がそんなに嫌なんだろうね、はんぞーくん。可愛いと思うんだけど。

というわけで、ぼくは『はんぞーくん』と呼び続けることにする。名前の呼び方一つでここまで反応するのが面白くて、止められないわけではないよ?たぶん。

 

 

 

 

 

 

この後、一人で教室に帰れず、次の授業に遅刻した、ということは内緒である。

 

 

 

 

 




(;´∀`)男子A「服部、お前後輩の女子に、はんぞーくんと呼ばせて悦に浸っていたって本当か?」

(*`Д´)ノ服部「そんなわけあるか!なんだその話は!?」

( ̄ω ̄;)男子A「いや、噂になってるぞ?なんでも一年生の女子が、はんぞくーん!たすけてー!なんて叫びながら校内を巡回していたらしい」

(。`Д´。)ノ服部「アイツか!」




( ゜д゜)ヒソヒソ 女子A「なんか幻滅しちゃったな、服部くん」

( ̄ー ̄;)ヒソヒソ 女子B「ちょっと良いかなって思ってたけど……流石にねー」




(|||ノ`□´)ノ 服部「誤解だぁああー!!」





このストレスのせいもあり、放課後、服部は達也に絡むのだった。


ちなみに、服部のクラスメイト達、ぐるになって服部を弄っているだけで別に噂は誤解だと知ってたりする。





∵ゞ(≧ε≦o) クラスメイト一同「「「やっぱアイツおもしれーw」」」


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第四十六話 風紀委員会と真由美の野望

「風紀委員会?」

 

「そう。私、そこに所属することになっているから今日の放課後は風紀委員会の本部にいかなくてはならないの」

 

一高の風紀委員会――というより魔法科高校の風紀委員会――というのは、校則違反者を取り締まる組織で、一般的な高校の服装違反や遅刻を取り締まる組織ではなく、そういったものは自治委員会という別の委員会の週番が担当しているらしい。

 

風紀委員の主な任務は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりで、摩利さんの役職、風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定にあたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席し意見を述べることだからだ。

 

 

「風紀委員なんて危なそうなの、愛梨がやる必要ないよ!」

 

「大丈夫よ、私、これでも一色の長女なのよ?それなりに戦闘訓練もしているし、入試の順位も二位だったの。心配いらないわよ」

 

 

「だとしても、風紀委員会は男所帯だって、摩利さんが言ってたんだ!そんなところに愛梨を入れるだなんて、考えられないよ!」

 

 

こんなに可愛い愛梨が危ないことをする必要はないし、男ばかりの委員会だなんて、絶対入れられない。

誰が何と言おうと、お姉さんが認めませんよ!

 

 

「そうは言っても、私は教員会枠、先生方の推薦で風紀委員会に入ることをお受けしたの。それをこんな土壇場でお断りすることなんて出来ないわよ」

 

「なんでそんなの受けちゃったのさ!」

 

「師補十八家の一色家の長女としては、相応しい職務だと思うの」

 

 

ドヤ顔で言う愛梨だけど、それってつまり、やりたかったってことだよね!?

実際、ぼくが説得しても頑なに、私がやる、と言い続けるし。

 

 

「じゃあぼくも一緒に行く!風紀委員会が愛梨が入っても大丈夫なものなのか、この目でしっかり見極める!」

 

 

こうして、ぼくは風紀委員会に向かうことにした。

今日は早く帰らないと仕事がヤバイ――愛梨と夕食を食べるために昨日はサボったから――のだけど、そんなことは関係ない!

いざ、風紀委員会へ!

 

 

 

 

 

「誰もいないわね」

 

意気込んでやってきたものの、もぬけの殻だった風紀委員会本部は、書類とか本とか携帯端末とかCADとか、多種多様な物で埋め尽くされた長机、乱雑に並べられた椅子など、まるでサッカー部の部室のようだった。

 

 

「まあ、今日の放課後、としか言われていないし、正確な時間指定はされていないのだからこういうこともあるわよね。風紀委員会は校内の巡回が主な仕事なのだし」

 

愛梨はそう言うけど、摩利さんに会ったら弄り倒してやろう。前にぼくが大遅刻した時は散々怒られたからね。まあ、ぼくが100%悪いんだけど!

 

 

「どうする?待つ?それとも適当に校内を歩いてみる?風紀委員が巡回しているなら、一人くらい会えそうだけど」

 

「そうね……下手に動き回って入れ違いになってしまうのは避けたいし……あ、そういえば、美月、貴女、渡辺先輩と連絡は取れないの?お知り合いなのでしょう?」

 

「……全く思い付かなかった」

 

 

ぼくはもしかしたら、頭が足りないのではないかと、若干思ってしまったが、きっとそんなことはないと信じることにして、携帯端末で摩利さんに電話をする。

 

 

「んー、出ないな」

 

 

風紀委員長って大変そうだし、忙しいのかもしれないな、とぼくがコールを切ろうとしたところで、どこからか、小さく電子音が聞こえてきた。

コールを続けたまま、音の聞こえる方へ向かうと、そこには開けっぱなしの裏口。

音はその向こうにある、階段の上から聞こえてくる。

 

 

「摩利さん、上にいるみたいだよ?」

 

「この上は……確か生徒会室ね」

 

 

校内図が全て頭に入っているという愛梨によると、この上は生徒会室らしい。

風紀委員会の本部と生徒会室が繋がっているってことは、たぶん、頻繁に出入りする必要があるからなのだろうから、風紀委員長の摩利さんが、この上にいてもなんら不思議ではない。

 

 

「こっちから行っちゃおうか」

 

「勝手に入っても大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だよ、ぼく、生徒会長の真由美さんと仲好しだから」

 

「……貴女の交友関係ってどうなっているのかしら」

 

 

何やら戦慄したような顔をしている愛梨だけど、結局上に行くことにしたようで、ぼくの後ろをついてくる。ぼくとしては、愛梨の後ろから階段を上って、階段を上る愛梨を眺めていたかったのだけど。

 

 

「失礼します……って……えっ、何事?」

 

 

階段を上った先の生徒会室は何やらピリピリとしていて、険悪な雰囲気だった。

 

 

「ん?美月じゃないか。どうしたんだ?」

 

 

この険悪な雰囲気の中でもいつも通りの摩利さんが不思議そうに聞いてくる。

 

 

「どうしたって……友達が風紀委員会の本部に行くって言うから着いてきたんですけど、部屋に誰もいなかったから」

 

「あっ、しまった……今日だったか。色々あってすっかり……」

 

 

忙しいとか、そういうわけではなく、単に忘れていたらしい。摩利さん、しっかりしてそうでそういうところがあるんだよね。

 

 

「すまなかったな、君が教員会推薦の?」

 

「はい、一色愛梨と申します」

 

 

この部屋には、生徒会役員が全員揃っていて、何故か達也も深雪もいる。聞きに行きたいけど、深雪がプイッとぼくから顔を反らすし、達也はなんでか、はんぞーくんと睨み合っている。えっ、本当に何があったの?

 

 

「みーちゃん!遅くなったけど入学おめでとう!」

 

 

ぼくの手を両手で握ってぶんぶん振る真由美さん、マジ天使。この笑顔、永久保存です。

 

 

「さあ、みーちゃん、こっち来て。あーちゃんもよ」

 

真由美さんに手を引かれて、ちっちゃくて可愛い小動物のような美少女の横に連れていかれた。ん、これはこの娘を好きにして良いってことなのかな?

 

 

「ふふ、私の野望がついに!ほら、もっとくっついて!」

 

 

何故か並べられたぼくと、「あーちゃん」と呼ばれた先輩?は、言われるがままにくっついた。

ぎゅっと抱き締めてみると、何故かあーちゃん先輩が落ち込んでいたけど、どうしたんだろ?まあ、ぼくは美少女とくっつけて最高でした。

 

 

「会長、盛り上がっているところ申し訳ないのですが、第三演習室を使える時間は決まってますから、また後にしてください」

 

 

うっとりしていた真由美さんに、そう横槍を入れたのは、背の高いクールな美人さん。

 

 

「ん、それもそうね。また後で楽しむことにしましょう」

 

 

どうやら、時間が押しているらしいが、ぼくはまだ目的を達していない。

ぼくは、愛梨を風紀委員会に入らせないために、ここまで来たのだ。

 

 

「摩利さん!ぼくは愛梨が風紀委員に入るなんて反対ですよ!」

 

「なんだ突然、あたしは別に強制していないし、入るのは本人の意思だ。あたしに言われても困るぞ」

 

「だって本人がやるってきかないから!」

 

「……なら別に問題ないだろ」

 

 

問題しかない!

愛梨を風紀委員会なんて危なそうなところには入れさせたくない!あんな男ばかりのところに、こんなに可愛い愛梨がいたら、どうなるか分かったものではない。

 

愛梨は摩利さんと違って繊細なんだい!

 

 

「おい美月声に出てるぞ!誰が繊細じゃないだと!」

 

「いたっ、いたたた!?ごめ、ごめんなさい!?」

 

 

摩利さんに頭を掴まれて、ギリギリと締め付けられる。痛い!痛い!美月さんの頭が!ただでさえちょっとおかしいのに、もっと馬鹿になっちゃう!

 

 

「美月、お前、なんで会長や渡辺先輩と……」

 

しばらくして、やっと解放されたぼくに、達也が困惑気味に聞いてきた。

そういえば、達也には二人との交友関係を言っていなかったんだった。

 

 

「そういう達也こそ、なんでここに?」

 

「彼はあたしが風紀委員にスカウトした」

 

 

どうやら達也は昼休み、深雪が生徒会に入るついでに、摩利さんから風紀委員の勧誘を受けたらしい。

それで放課後、改めて、生徒会室へやって来てみれば、副会長のはんぞーくんが、達也の風紀委員入りに猛反対。

雌雄を決するべく、模擬戦をすることになったようだ。

何それ、面白い。

 

 

「そういうわけだから美月、一色の風紀委員云々はまた後にしてくれ」

 

「渡辺先輩もこう言っていることですし、私は風紀委員に入ることを止める気はないわよ?美月が何と言おうと、私は自分で決めたことを曲げるつもりはないもの」

 

 

むむ、愛梨がここまで頑固だなんて。

これじゃあ、どうしたって愛梨の風紀委員入りを阻止するのは無理……あっ。

 

 

 

 

「じゃあ、ぼくも風紀委員に入る!」

 

 

そうだよ、なんで思い付かなかったんだ!ぼくが一緒に入って、愛梨を守れば良いんだ!そうすれば、放課後は愛梨とずっと一緒にいられるし、一石二鳥だ。

 

 

「駄目よ!みーちゃんが風紀委員だなんて!危ないでしょ!」

 

 

ところが、ぼくを隠すように抱き締める真由美さんによって否定されてしまう。

柔らかい。この柔らかい感触に包まれていると、もうどうでも良いかな、と思ってしまうが、今日ばかりはそういうわけにもいかない。

 

 

「大丈夫ですよ、ぼく意外とやりますから!」

 

「駄目!何かあったらどうするの!」

 

「そうならないために、ぼくが愛梨を守らないと!」

 

「そしたら今度はみーちゃんが、危ないでしょ!」

 

 

このままじゃ埒が明かない。

何か、真由美さんを納得させられる手は……そうだ!

 

 

「摩利さん!ぼくと模擬戦をしましょう!それで実力を証明してみせます!」

 

「ほぉ?」

 

 

ぼくの宣言に、摩利さんが好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「中条、あたしと美月の模擬戦を追加してくれ」

 

「ちょっと摩利!?」

 

 

あーちゃん先輩に指示した摩利さんに、真由美さんが驚いた声を上げれば、摩利さんが片目をつぶって一言。

 

 

「あたしが負けるとでも?」

 

 

その一言に、真由美さんは押し黙った。

二人の信頼関係、お互いの実力を把握しているからなのだろう。

 

 

「美月、あたしが勝ったら大人しく諦めろ。ま、もし勝てたなら真由美の説得でもなんでもしてやる」

 

「良いですよ、じゃあ、ぼくが勝ったら摩利さんは今後、語尾に「にゃん」をつけてくださいね」

 

「ふっ、ああ、なんなら猫耳も尻尾もつけてやろう」

 

 

 

こうして、ぼくは摩利さんと模擬戦をすることになったのだった。

 

 

 

ネコ摩利さんのために、負けるわけにはいかないね!




――そのころの深雪さん――


(;・ω・)深雪「(あれ、美月?)」


o( ̄ ^  ̄ o) プィッ!深雪「(またあの娘と一緒にいる……)」


( ̄⊿ ̄)深雪「(あの娘のためにここまで?……ふーん)」


(●`ω´●)深雪「(会長とも渡辺先輩とも仲良さそう……私のこと好きとか、愛してるとか言ってたくせに……)」






(。 >﹏<。)深雪「(もう美月なんて負けちゃえ!)」


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第四十七話 輝夜

投稿が久しぶり過ぎて、予約投稿のシステムに戸惑うという。

言い訳すると、別のやつ書いてました……。


「美月、色々言いたいことはあるが、とりあえず、お前に風紀委員は無理だ」

 

「なんでさ」

 

 

生徒会長印の捺された許可証――こういう物は未だに紙が使われている――と引き換えにCADのケースを受け取ってすぐに、達也が言う。

 

 

「風紀委員は放課後の活動が主なんだぞ?」

 

「それが?」

 

「お前、放課後の時間を削って、仕事は大丈夫なのか?」

 

 

わ、忘れてたぁぁあああー!?

それはまずいよ!今でさえ、びっしりとスケジュールが組まれていて、今日もサボってるから、かなりヤバイのに、今後、風紀委員会で放課後の時間を使うことになったりしたら……死ねる。

 

 

「う、そ、そんなの達也だってそうじゃん!」

 

 

でもそれは達也も同じはず!

達也の仕事のスケジュールは把握していないけど、何度か手伝わされた感じ、かなりキツそうなんだけど。フォア・リーブス・テクノロジーの仕事以外にも、別の仕事があるようで、正直、ぼくより忙しそうだ。

 

 

 

「……だから、やりたくはなかった」

 

 

そういえば達也は立候補したんじゃなくて、摩利さんに捕まったんだった。

 

 

「申し訳ありません……」

 

「ああ、いや、お前が謝ることじゃないさ」

 

 

何故、深雪が謝るのかは分からないけど、取り合えずそのポジションを代われ!ぼくにも深雪をなでなでさせろ!

深雪から完全無視だからね、ぼく……。泣きそう。

 

 

「とにかく!ぼくは風紀委員やるからね!達也に出来ることがぼくにできないわけがないんだ!」

 

「……どこから来てるんだ、その自信は」

 

 

やりたくない、とは言いつつ、最終的にはんぞーくんと模擬戦をすることした、ということは、風紀委員になってもやれる、と達也が判断したと言うことだ。

どういう流れで、この状況になったのかイマイチ分かっていないけど、達也は出来ないことを引き受ける人間じゃない。

達也が勝てると思ったからはんぞーくんと模擬戦をすることにしたのだろうし、勝った後、「勝ったけど風紀委員にはならない」なんてこと言えるわけないから、達也が、仕事をしながらでも風紀委員をやれる、と思っているのは間違いない。

 

なら、ぼくにもできる!

できなくてもやる!

 

愛梨はぼくが守る!

 

 

「知らんぞ、どうなっても」

 

 

達也は、最後にそう忠告して演習室の扉を開いた。

 

 

 

 

 

「……勝者、司波達也」

 

達也とはんぞーくんの試合は、ほんの数秒で幕を閉じた。一瞬、と言っても良い。

摩利さんから、はんぞーくんは一高でも五本の指に入る遣い手で一対一で勝てる人はほとんどいない、と聞いていたからちょっと期待してたのに、やっぱり達也があっさりと勝ってしまった。

 

 

「よくもそんな精密な演算が出来るものだと、感心を通り越して、呆れてしまいますが……」

 

 

達也がどのようにして、はんぞーくんを気絶させたのか、気絶したままのはんぞーくんを放置したまま――はんぞーくんの不憫さに泣いた。ぼくも放置したけど――議論がなされ、達也が瞬間移動に近い速さで、はんぞーくんに迫り、CADを向けて気絶させた、という一連の流れで、『瞬間移動に近い速さでの移動』は、深雪の証言もあって、九重八雲直伝の体術、ということで解決した。でも、達也がはんぞーくんを気絶させた魔法が分からず、皆の頭を悩ませていたのだけど、どうやらクールビューティー先輩が答えを見つけたようである。

 

 

「振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波がちょうど服部君と重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波動を作り出したのですね」

 

「お見事です、市原先輩」

 

 

どうやらあのクールビューティー先輩は市原先輩と言うらしい。

達也が使った魔法はどうでも良いけど、この情報はありがたい。

 

 

「待ってください、三つのサイオン波で、強い波動を作り出し、服部先輩を気絶させた、そこまでは分かるのですが……では、あの短時間にどうやって振動魔法を三回も発動できたんですか?」

 

「確かに。それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いはずがありません」

 

 

愛梨の疑問に便乗する形で、達也を『成績が悪い』とディスる市原先輩。

市原先輩の毒舌に、苦笑いの達也だけど、その横にひょっこりとあーちゃん先輩が現れた。

 

 

「あの、もしかして、司波くんのCADはシルバー・ホーンじゃありませんか?」

 

「シルバー・ホーン? シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」

 

 

 真由美さんに聞かれて、表情がパッと明るくなったあーちゃん先輩は大変可愛らしいのだけど、どうやらあーちゃん先輩は所謂デバイスオタクであったらしく、怒濤の勢いで話始めた。

 

若干引き気味の皆だけど、そのおかげで疑問は解消された。

 

 

「いかにループ・キャストに最適化された高性能CADとはいえ、ループ・キャストはあくまでも、全く同一の魔法を連続発動する為のもの。

同じ振動魔法といえども、波長や振動数が変われば、起動式も微妙に異なります。

勿論、その部分を変数にしておけば同じ起動式を使えますが、座標・強度・持続時間に加えて、振動数や波長まで変数化するとなると……まさか、それを実行しているというのですか!?」

 

「多変数化は処理速度としても演算規模としても干渉強度としても評価されない項目ですからね、実技の評価が低いのとは無関係ですよ」

 

 

つまり達也は、全く同一の魔法を連続発動するループ・キャストというシステムに最適化されたCADを使い、相変わらずのチートで無理矢理可能にした、というわけだ。

 

 

「なるほど、テストが本当の能力を示していないとはこういうことか……」

 

「ん?ああ、そういえば服部が気絶したままだったか」

 

 

呻き声を上げながら半身を起こしたはんぞーくん。

自分以外全員美少女の超ハーレム生徒会に所属しているわけだから、羨ましいはずなんだけど……なんだろう、涙が出てきそうだよ。摩利さん、もうちょっと優しくしてあげても良いんじゃないでしょうか。

 

「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!」

 

 

「そうか、じゃあ、審判を頼むぞ。美月、準備しろ」

 

 

真由美さんに声をかけられて、慌てて立ち上がったはんぞーくんの肩を叩きながら、摩利さんが告げる。

この人、鬼か何かなのかな……。流石の真由美さんも苦笑いしているし。

 

 

「ふふ、美月の実力、試させてもらおうか」

 

 

好戦的な笑みを浮かべながら、手首のブレスレット型CADを弄っている摩利さんはどう見ても戦闘狂。

模擬戦挑む相手間違えたかもしれないと、ちょっと後悔。

 

 

「さっきのルールだと、武器の使用は禁止ってことでしたけど、CADって武装一体型でも大丈夫ですか?ぼく、今日、これしか持ってきてなくて」

 

 

直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式・回復不能な障害を与える術式・相手の肉体を直接損壊する術式は禁止。

但し、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃はオッケーで、武器の使用は禁止だけど素手による攻撃はアリ。

 

勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。

 

 

「構わんぞ」

 

 

ぼくの覚えてた限り、武器の使用は禁止されていたけど、あっさりとオッケーが出た。

 

 

「じゃあ、ぼくだけ武器アリっていうのも卑怯だし、摩利さんも()()使ってよ」

 

 

ぼくは、摩利さんに木刀を投げ渡す。

前に摩利さんが剣術道場に通っていることは聞いていたから、武器を渡すなら木刀だと思ったのだ。

 

 

 

「こんなもの、どこに持っていたんだ?」

 

「乙女の秘密ですよ、摩利さんが勝てたら教えてあげます」

 

「ほお、面白い」

 

 

うん、ちょっと挑発し過ぎたかもしれない。

木刀をブンブン振ってやる気満々なんですけど……。

 

でも、ここまできたらやるしかない!

 

ぼくは、開き直って摩利さんと戦う決意を新たにして、CADの入ったアタッシュケースを開けた。

 

入ってるのは、黄金の剣。

 

 

「ま、まさかそれは!?その黄金の塗装、刀身に刻まれたエンブレム!そのCADは!」

 

 

ふらふらーっと、吸い寄せられるように歩いてきたあーちゃん先輩の目は、ぼくのCADに釘付け。

まあ、デバイスオタクのあーちゃん先輩にはすぐ分かったのかな。未亜ちゃんも知っていたし、いくらデバイスオタクのあーちゃん先輩とはいえ、こんな、完全趣味で作った()()のCADでも、気がつかれる、ということは多少は名が売れているようだ。

 

 

「セレネ・ゴールドのCADでは!?」

 

 

興奮した様子で詰め寄ってくるあーちゃん先輩をよしよししながら、ぼくは何となくCADを掲げて言ってみる。

 

 

「そう、これはセレネ・ゴールドの武装一体型CADにして、刀剣型CAD、その名も――『輝夜(かぐや)』だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美月、恥ずかしくないの?」

 

「ぼくのことは無視する方針じゃなかったんですか、深雪さん!?」

 

 

 

なんとなくのテンションでやっちゃったけど、もう二度とやらないと決めた。

何なの、そのニヤニヤとした顔は!皆さん、その生ぬるい目で見守るの止めてもらえませんか!?

 

 

「すごい!まさか本物をこの目で見られるなんて!」

 

 

一人、目を輝かせているあーちゃん先輩だけが、ぼくの救いだった。

 

とりあえず、この試合終わったら、お持ち帰りですね。

 

 




――そのころの三人娘――


(;゜Д゜)!!愛梨「(二年生の先輩相手に瞬殺……ッ!)」

( ☆∀☆)愛梨「(か、かっこいい!勝って尚クールなところが最高にかっこいい!)」



(///ω///)♪深雪「(私のために、戦ってくれるお兄様……私の!私のために!)」

O(≧∇≦)O深雪「(当然だけどお兄様の勝利ね!ああ、なんて凛々しいお姿!さあ、見なさい!これが私のお兄様よ!)」



(;・ω・)美月「(うわー、瞬殺とかつまらない奴……)」

(´Д`)美月「(初見殺しでドヤ顔とかマジないわー)」




報われない達也さんであった。



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第四十八話 セレネ・ゴールドと必殺技

今回ちょいと長めな上、かなり難産だったので、誤字脱字注意です。


「世界で始めてループ・キャスト・システムを実現した天才。フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADプログラマー、トーラス・シルバーは有名ですが、それに対抗するように、昨年、突然現れた魔法工学技師、セレネ・ゴールド!

『黄金の錬金術師』の名で呼ばれるセレネ・ゴールドは革新的な術式、プログラムの面で高い評価を得ているトーラス・シルバーとは対照的に、刻印型の術式を用いた武装一体型のCADを専門としていて、感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するという性質上、燃費が悪すぎるということで、近年あまり使われることの無くなった刻印型術式を、全く新しい形でアレンジすることで、その燃費を従来の物の十分の一以下にまでした天才中の天才!」

 

 

大興奮するあーちゃん先輩を前にして、摩利さんが、セレネ・ゴールド?どこかで聞いたことがあるような、などと口にしてしまったのが運の尽き。

普段のオドオドした態度が嘘のように、目を輝かせながら話し始めたあーちゃん先輩はもう止まらない。

 

堰を切ったように、怒濤の勢いで溢れる知識。

周囲の皆のひきつった表情も目に入っていないのか、言葉の最後には両手を大きく広げてポーズ。

 

やだ、可愛い。

 

 

 

「トーラス・シルバー同様、本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれている上、クローバー・クリエイティブという全く無名の企業の所属……」

 

 

本名、柴田美月。

姿、深雪と同じ美容院で、適当に、とお願いすると完成するフワフワのミディアムロングヘアー。

プロフィール、国立魔法大学付属第一高校の生徒で一年生。イラストレーターとしても活躍しており、高校生、魔工技師、イラストレーターという三つの顔で大忙しの毎日を送っている。好きな人は深雪。

クローバー・クリエイティブ、真夜さんから、何か適当な企業名を考えてくれ、と言われて三秒で考えた企業名。実際はフォア・リーブス・テクノロジー本社の一室で、社員はぼくと達也と何人かのスタッフ、バイトで水波ちゃん。

 

 

うん、謎なんてなかった(震え声)。

 

大体、セレネ・ゴールドって名前自体、企業名と一緒に、トーラス・シルバーみたいな偽名を考えて、と言われて、頭の片隅にあった月の女神の名前に、シルバーならゴールドで良くね?という安易な考えでゴールドをくっつけただけの適当な名前だし。

 

 

「そして、何より特徴的なのが、全てのCADが完全受注生産だということです!これはCAD業界では前例のほとんどないことで、さらに、企業にそれほど生産する力がないのか、その予約数は極めて少なく、予約開始から数秒で売り切れるため、超プレミア値で取引されているんです!金のエンブレムが刻まれた『ゴールド・シリーズ』は、元値が何百万円もするのにですよ!?」

 

 

生産する力がない、とか言われてもこれ以上ぼくの仕事を増やしたら本気で死んでしまうので勘弁してください……。達也の仕事を見てて、ぼくも何かいけそうだなーって思って真夜さんに言ってみたら、いつの間にか企業が出来てただけなんです。

真夜さんって、頭おかしいのかな……。

 

 

「何百万円って……そりゃ特殊なタイプのものはメーカー売価で100万円前後というケースもあるんでしょうけど……」

 

 

真由美さんの疑問はごもっとも。

ぼくは、作るだけで売り出す値段にはノータッチだけど、CAD一台に何百万円って高いよね。政府からの補助金で九割負担されているのに、この値段だからね?

 

ぼくの担当は刻印とデザインで、他の部分は、別のスタッフに任せているから良く分からないけど、手間がかかっているのかもしれない。

達也曰く、信頼できる技術スタッフチームに任せているらしいんだけど。確か、牛みたいな名前の人がリーダーだったはず。

 

 

「特殊な作りな上、刻印型の特性上、どうしても人の手が多く入りますからね、値段も相応に高くなりますよ。ちなみに、昨年発売されたゴールド・シリーズの初代は、プレミア値で一千万円以上だそうですよ!まだ、セレネ・ゴールドの名前が売れる前ということもあり、その生産数は十もないのではないか、と言われていますし仕方がないといえば仕方がないのですが」

 

 

真夜さん曰く、武装一体型を専門に取り扱っている企業は少なく、まだまだ市場には参入の余地があって、このレベルなら、十分に利益を期待できるって話だったけど、こうやって消費者側の意見を聞いていると本当にそうなのかもしれない、と思ってしまう。

頭おかしいとか疑って申し訳ない。

 

 

「そんなあまり数が出回らないため、希少価値が高いセレネ・ゴールドのCADですが、なんと、その正体を隠していながら、指名依頼を受けており、特注でCADを作ることも出来るんです!

武装一体型はCADの中でも特殊ですから、高くてもオリジナルで作りたいと言う人はそれなりに多く、依頼が殺到しているようなのですが、セレネ・ゴールド本人がやりたいと思った仕事しか受けないようで、一年に数件程度しか行っていないようです」

 

 

指名依頼、ぼくが選り好みしているわけじゃないからね!、と心の中で言い訳。

実際は、真夜さんとか、達也の指示で仕事を受けてる。

 

 

「セレネ・ゴールドの正体については様々な憶測が飛び交っており、名前に関しては、セレネ、というのは、ギリシヤ神話に登場する月の女神の名前、ゴールドというのは、トーラス・シルバーをライバル視したため、というのが有力です」

 

別にトーラス・シルバーとかいう人をライバル視したわけじゃないけど、適当につけた名前だと思われるよりはマシだ。

そういえば、トーラス・シルバーって、まだ会ったことないけどどんな奴なんだろ?同じ会社内にいるのに全く会わないというのもおかしな話だ。

 

 

「この名前から、セレネ・ゴールドの正体は女性である可能性が高い、と言われています」

 

「まあ、女神の名前ですものね」

 

 

確かに、よくよく考えたら月の女神の名前なんて使ったら、女性です!と宣言しているようなものだった!

まさかこんな大事になるとは思ってなかったし、適当に決めすぎたかな。

 

 

「そしてこのことから、セレネ・ゴールドは、かなり自己顕示欲の強い人物で野心家である、と言われています。トーラス・シルバーをライバル視しているのは明らかですし、セレネは、月が形を変えるように三つの顔を持つ、魔法の女神である、とも考えられていますから。 魔法の女神を名乗るのは、大きな自信の現れです」

 

 

大きな誤解が生まれてるーっ!?

違う!全然違うよ!自己顕示欲も野心もないよ!セレネが魔法の女神とか知らなかったし、トーラス・シルバーとか何とも思ってないよ!?

 

ただ微妙に、三つの顔を持つ、とか当たってて怖い……。

 

 

 

「中条さん、時間も限られていますから、今日はこの辺で」

 

 

まだまだ話を続けようとするあーちゃん先輩を止めたのは、クールビューティー先輩こと、市原先輩。

基本的に、ヒートアップした役員を冷静に止めるのが、生徒会でのこの人の役割なのかもしれない。深雪も割とヒートアップ――深雪の場合、ヒートではなくcold(コールド)かもだけど――するとヤバイからこれからも頑張って欲しい。

 

 

「あっ……すみませんっ!私、一人で盛り上がっちゃって……」

 

 

市原先輩の言葉で、興奮状態から冷めたのか、ハッとしたように我に帰ると、顔を真っ赤にして小さくなった。

 

 

「さて、時間も押しているし、美月、やるぞ」

 

「はーい」

 

 

 

そんな微笑ましいあーちゃん先輩に、温かい視線を送りつつ、ぼくは、靴を履き替えて、試合前の準備体操を始めた。

 

 

いつまでも真っ赤なままで、けれど視線はぼくのCADに釘付けな、あーちゃん先輩が可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「双方配置に付いたようですので、ルールを説明させて頂きます」

 

ぼくだけでなく、先輩である摩利さんに向けての言葉だからか、はんぞーくんは敬語で話始めた。

 

 

「さっき聞いたばかりなんだが」

 

「模擬戦前の規則ですから。それに、ルールの変更もありますし」

 

「ちっ、頭の堅い奴だ」

 

 

若干イラついた様子ではんぞーくんの説明をスキップしようとした摩利さんだったが、はんぞーくんの正論にあっさり論破された。

この場合、はんぞーくんが頭堅いっていうより、摩利さんが我が儘な気がする……。

 

 

 

「直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式、回復不能な障害を与える術式、相手の肉体を直接損壊する術式は禁止。

但し、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可します。蹴り技を使いたい場合は靴を履き替えてください。

尚、武器の使用は本来禁止なのですが……今回は特例で認めます。

勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不可能と判断した場合に決し、ルールに従わない場合は、その時点で負けとします」

 

 

合図があるまでCADを起動してはいけないルール。だからといって、何も出来ないわけじゃない。

ぼくは、はんぞーくんの説明を聞きながらも、摩利さんをじっと()()

 

 

目の動き、呼吸、些細な筋肉の動き。

 

 

「それじゃあ二人共、準備は良い?」

 

 

集中していると、いつの間にかはんぞーくんの説明は終わっていて、何故か真由美さんから確認が入る。

 

 

「いつでもどうぞ」

 

「こちらもな」

 

 

木刀を構える摩利さん。

やくもん先生から少し習った程度のぼくとは違って、芯の通った気迫のある構え。

 

ピリピリとした緊張感が、演習室を支配する。

 

 

 

「では――始め!」

 

 

 

試合開始の合図と同時に、距離を詰める摩利さん。

 

開始時点でのぼくらの距離は五メートル、魔法による試合が想定されているだけあって、この距離なら、態々接近するより、()()()魔法の方が早い。

 

実際、はんぞーくんは、セオリー通り、試合開始と同時に魔法を発動させようとしていた。

 

この勝負、ルール上、先に魔法を当てた方が勝ちみたいなものだから、普通に考えれば、はんぞーくんのように開幕ぶっぱが主流になるのは当然。

だって、最初の一撃さえ当てられれば、もしそれで倒せなかったとしても、魔法によるダメージを受けながら、それでも冷静に魔法を構築できる高校生なんて、そうはいないから、そのまま畳み掛ければ大概倒せる。

 

それでも、摩利さんが接近してきたのは、先程のはんぞーくんと達也の試合を見て、ぼくも達也のように一瞬で間合いを詰められる可能性がある、と判断したのか、それとも単に戦闘狂なのか。

 

どちらにせよ、この場合、ぼくも達也のように一瞬で間合いを詰めることは簡単なのだから、正解と言えば正解である。

 

 

ただ――

 

 

 

「ほーい」

 

 

 

――セオリー通りではないのは、ぼくも同じこと。

 

 

 

 

ぼくは、右手のCADを、摩利さんのやや上に、ぶん投げたのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

「あー!!」

 

 

摩利さんの驚愕の声と、あーちゃん先輩の悲鳴が同時に上がる。

 

摩利さんの足が一瞬止まって、その凛々しくも可愛らしいお顔は驚愕に染まり、視線がぼくから、上空をくるくると回転しながら飛んでくるCADに移された。

 

それは、大きな隙になる。

 

 

「必殺!スーパースカート捲り!」

 

 

ぼくが全力で右足を天高く上げると同時に、巻き起こった風が、ぶわっ!と大胆にスカートを捲れ上げた。

 

ぼくの脚力と、やくもん先生の元で鍛えた武術の合わせ技!

 

綺麗なお臍が丸見えになるどころが、裾が摩利さんの頭より上にくるくらい、完全に捲れ上がり、すっぽりと摩利さんを隠した。

だから、その真っ赤になっているだろう顔は見えないけど、スカートという鎧を失った摩利さんのパンツがガッツリとお目見えしていた。

 

黒。

吸い込まれそうな錯覚さえ覚える闇のような黒。

黒い糸で施された複雑な刺繍が花や葉となって下着全体を飾り、摩利さんの鍛え上げられた脚線美、その太ももの白とのコントラストが犯罪的なまでの美しさを作り出していた。

 

いつまでも見ていたい、完成された芸術品、ただ、今のぼくには、それを眺めている時間はない。これは試合なのだから。

 

 

スカートで視界を覆い隠されている摩利さんの背後に一瞬で移動し、足払い。

 

 

「うわっ!?」

 

 

バランスを崩した摩利さんのブレスレット型のCADが付いた腕を掴みながら、そのまま床に組伏せる。

 

そして、丁度良く降ってきたCADを掴み、その切っ先を、唖然としてる摩利さんの顔に突き付け――

 

 

「ぼくの勝ちー」

 

 

――勝者、柴田美月、という、やや詰まり気味のはんぞーくんの声が、静まり返った部屋に、響き渡った。




(*´д`*)ハァハァ あずさ「今日は何の記念日ですか!?私の誕生日なんですか!?明日死ぬんですか!?」


(ノ; ゚□゚)ノイヤイヤ 真由美「今日は普通の平日!あーちゃんの誕生日は今日じゃないし、明日死ぬなんてこともないから!」


(;´∀`)ヤレヤレ 摩利「これはかつてない程に興奮しているな」


(*´Д`*)ハァハァ あずさ「トーラスにセレネですよ!?この二つを一緒に見れるだなんて、滅多にないことなんですよ!?ああ、触りたい、撫でたい!むしろ舐めたい!」


Σ(゚口゚;)//エッ 真由美「あーちゃん!?」




その夜、羞恥のあまりベッドでのたうち回ることになることを、このときのあずさはまだ知らない。







最近、諸事情により暗いあーちゃんしか書いていなかったからか、その反動で本編でもあとがきでも、こんなことに。

……うん、あーちゃん可愛い。


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第四十九話 急用

昔のぼくは、どうやってほぼ毎日投稿とかしてたんだろうね……。すごいね、たぶん、暇だったんだね……。


……そんな、第四十九話です。
では、またあとがきで。


「な、なんてことするんですかっ!?CADを!それもセレネ・ゴールドのCADを!な、投げるなんて!?」

 

 

試合が終わってすぐに、突進するような勢いでやってきたあーちゃん先輩によって、ぼくは正座させられ、怒られている。これ以上ないくらい完璧に勝ったのに……。

 

 

「だって、あーちゃん先輩が、CADのこと凄い褒めるから、それなら摩利さんも、ぼくがCADを投げるとは予想もしないだろうって思ったから、投げて動揺させようと思って」

 

「どこの世界にCADを投げる魔法師がいるんですか!故意にそんなことする人いませんよ!考えもしません!」

 

「へへ、ありがとう」

 

「褒めてませんよ!?怒っているんです!」

 

 

「怒ってるあーちゃん先輩も可愛いですね!」

 

「私を褒めなくていいんですよ!?」

 

 

ぼくを怒ることは無理だと判断したのか、あーちゃん先輩のキャパシティがオーバーしてしまったのか、涙目になったあーちゃん先輩は、真由美さんに捕獲され、会長~、と叫びながら、真由美さんによしよしされていた。

どっちも羨ましい。

 

 

「なあ、美月。あれか、あ、あたしのスカートを捲ったのも、動揺させるためか?」

 

「勿論です!」

 

 

震え声で訊ねる摩利さんにぼくは全力の笑顔で答える。

いや、うん、ノリでやったというか、スカート捲りたかったというか、まあ、総合すれば動揺させたかったってことだよね!

 

 

「……くっ、別にスカート捲りはルール違反ではないし……動揺を誘い、視覚を奪う……戦術としては利に叶っている……うう、く、あぁああー!とりあえず殴らせろ!」

 

「何故俺が!?」

 

「お前が見たからだ!」

 

「審判ですからね!?そりゃ見てましたけど!なら、司波達也も同罪では!?」

 

完全に乱心している摩利さんを前にして、焦った様子で達也の名前を口にするはんぞーくん。

あーあ、それは逆効果だよ……。

 

 

「服部先輩、俺は美月の行動を予測して、目を瞑っていましたよ。な、深雪」

 

「ええ、お兄様は目を瞑っておられました。服部先輩、まさか罪のないお兄様を巻き込もうとするなんて……」

 

「服部君、最低ですね」

 

光のない瞳で睨む深雪に同調して、若干いつもの無表情を崩して口許がにやけている市原先輩がはんぞーくんに罵声を浴びせ、それがきっかけとなって、他の女性陣からも冷たい視線が送られる。

 

 

「そ、そんな!?」

 

「問答無用だ!」

 

 

ゴスッと、実際は何の罪もないはんぞーくんの頭に、摩利さんの拳骨が容赦なく叩き込まれた。

 

 

 

 

 

演習室を使える時間には限りがある。

だから、ぼくたちは、ぼくと摩利さんの模擬戦の後の、はんぞーくんの成敗が終わってすぐに生徒会室へと移動した。

 

 

「摩利さーん、約束(や・く・そ・く)忘れてないですよね~」

 

「う、も、勿論、真由美の説得は任せてくれ」

 

 

「そ・れ・だ・け、じゃないですよね~?」

 

 

耳元で囁くように言うと、摩利さんはひきつった顔で、誤魔化そうとするが、そうはいかない。

 

 

「語尾に、にゃんを付ける約束でしたよね~、あ、それにネコミミとネコ尻尾もつけてくれるでしたっけー?いやー楽しみだなー、猫摩利さん」

 

「な、なあ美月、少し相談なんだが――」

 

「だーめ」

 

 

飛びきりの笑顔で摩利さんの言葉を打ち切れば、いよいよ冷や汗を流し始める摩利さん。

ふふーん、ぼくがこんなチャンスを逃すわけないじゃないですかー。たっぷり愛でてあげますよ。

 

 

「でも、まあ、ぼくも鬼じゃありません。嫌がる摩利さんを無理矢理、なんて流石にやりませんよ」

 

「そ、そうか、なら――」

 

 

摩利さんは、安心したように、額の汗を拭っているけど……ぼくは鬼じゃないけど、摩利さんはネコ確定なんですよ。

 

 

 

「――ここではね?」

 

 

「……え"?」

 

「だってこれから、風紀委員の仕事とかあるじゃないですか。それを邪魔するのは悪いですし、それが終わってからやりますよ」

 

「さ、さっき、嫌がるあたしを無理矢理なんてしないって言ってなかったか?」

 

「言いましたよ?えっ、摩利さんは仕事に支障が出るから、嫌だったんですよね?まさか、やりたくない、なんてことはないですよねー?だって自分から言い出したんですもんねー?」

 

「うう」

 

 

若干、涙目になっている摩利さんが可愛すぎてヤバイ。

正直、もう可哀想だからネコ摩利さんは許してあげようかな、って気持ちもあったけど、やっぱりやってもらおう。摩利さんはいじめればいじめる程、可愛いということに気がついてしまった。

 

 

「摩利、そろそろ達也くん達を本部に連れていかないと、説明する時間なくなっちゃうわよ?」

 

 

真由美さんが哀れむような目で、摩利さんを見ながら言う。確かに今日は、達也とぼくが模擬戦をしたせいで、もう結構遅い時間だ。一高に完全下校時間的なものがあるのかどうかは分からないが、常識的にあまり遅い時間まで学校にいるのは良くないだろう。

 

 

「あ、真由美さんも摩利さんと一緒にやってくださいね、ネコ」

 

「え!?」

 

 

驚きの声を上げる真由美さん。それはそうだろう。だって別に真由美さんとは何の約束もしていない。

でも、ぼくは真由美さんのネコ化も見たいのだ。

 

 

「ぼく悲しかったなー、まさか、真由美さんがぼくの希望を否定するなんて……」

 

「ち、違うのよ!だって風紀委員なんて危ないじゃない!?」

 

「真由美さんはぼくのこと一番に信じてくれると思っていたのになー……」

 

「ううっ!」

 

 

しょぼーん、としながら真由美さんにチラチラと視線を送る。

真由美さんは青くなったり赤くなったり、百面相をしたあと、「ああ、もう、やる!やるわ!」と、承諾してくれた。

はい、勝ったー!

 

 

 

「それじゃあ摩利さん、さっさと行って仕事終わらせちゃいましょう!」

 

 

愛梨は、既に説明を受けているようだけど、風紀委員、風紀委員会本部の説明をぼくと達也は受けなくてはならない。

愛梨から大体は聞いたけれど、こういうものは形式が大切、やるからにはしっかりやるのが美月さんのスタイルですよ。

 

 

――と、やる気満々だったところに、携帯端末の音が鳴り響いた。ぼくがキャラデザを担当した今期アニメのOPである。

 

 

「で、出て良いぞ!私は待つ!」

 

 

どこか嬉しそうに電話に出ることをすすめる摩利さん。そんなに嫌なのか。どう足掻いても先伸ばしになるだけで、いつかはやることになるのに。

 

そんなことを考えながら、携帯端末を見てみればそこには「水波ちゃん」の文字が。

どうせ仕事の電話だし、正直無視(シカト)したいのだけど、水波ちゃんから散々愚痴られているのだろう達也がジトッと、隣の深雪が蔑むように見てくるので仕方なく出ることにする。

深雪よ、いくらぼくでもそれは傷つくよ……。

 

 

「はいはい、美月さんですよ」

 

『や、やっと出た……!もう何回もかけているんですよ!?本当にいつもいつも無視(シカト)しないで下さい!』

 

ぼくの携帯端末は特殊な設定で、水波ちゃんからの電話は、5回かかってくるまで音が鳴らない仕様になっている。それは余程の緊急事態だということだからだ。

 

案の定、水波ちゃん、物凄く焦っているしね。

もう半ギレというか、涙目で怒っている水波ちゃんが容易に想像できる。

あの、私泣いてませんが何か?、というような強がりが可愛いのである。だからついつい電話やメールを無視しちゃったりするんだよね。

ぼくは決して仕事をしたくないから電話を無視しているわけじゃない。水波ちゃんが可愛いのが悪いのだ。

 

 

 

「ごめん、ごめん、まだ学校なんだよ」

 

『学校ですね!?迎えに行くので校門の前に立っていて下さい!緊急事態ですから本当にすぐに来て下さいね!』

 

 

ぼくが何かを言う暇もなく、それだけ言って水波ちゃんは電話を切った。

うん、今からぼくには重要な用事があるから、それは無理かな。

 

 

「美月、サボるなよ?」

 

「へ?」

 

 

携帯端末を片手にそう言ってぼくの肩に手を置く達也。どうやら、ぼくが素直に校門へ現れないことを予測した水波ちゃんが、達也にぼくの捕獲を依頼したらしい。

なんということを……っ!

 

 

「先輩方、申し訳ないのですが、一旦美月を校門まで送っていきます。何分、美月は方向音痴で一人で校門まで辿り着くのは、何時間かかるか分かりませんから」

 

「あ、ええ、それは()()分かっているから。お願いしますね」

 

 

真由美さんが苦笑いしながら達也に言えば、摩利さんがぼくの退場を察して小さくガッツポーズをしたのが見えた。くっ、このまま終わると思うなよ、今日の美月さんが駄目でも、第二、第三の美月さんが、必ず摩利さんをネコ化させてやるっ!

 

 

 

 

 

「達也様!ありがとうございます!」

 

「いや気にするな。むしろ、いつも苦労をかけてすまない」

 

 

正門に着くと、そこには水波ちゃんがもう立っていて、後ろに黒い車が止まっていた。

うん、どこから電話してたのか知らないけど早すぎだよね?

 

 

「それより、何があった?随分と忙しないが」

 

「申し訳ありませんが、詳細は追って連絡させて頂きますので!美月様、さっさと乗り込んでください!」

 

 

 

ぼくは水波ちゃんに、急かされるがままに車に乗り込み、水波ちゃんも乗り込むと、すぐに車は発進した。

なんかぼくの扱い雑じゃない?

 

 

「で、何なの?かなり急いでいるみたいだけど」

 

 

達也に事情を説明する暇もない、なんて相当のことだ。急ぎの仕事は無かったはずだし、そんなに切羽詰まるようなことは無かったと思うんだけど。

 

 

「一秒でも早く、美月様を()()する必要がありましたので」

 

「保護?」

 

「ええ、今、美月様は大変な状況に追い込まれています」

 

「え!?なんで!?」

 

 

何故かぼくが知らぬ間にピンチに!?いやいや、ぼく何もしてないよ!?そんな保護されなきゃいけない理由なんて何もないよ!

 

混乱するぼくに水波ちゃんは、はっきりとした口調で確かに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――USNAが、セレネ・ゴールドはUSNAの魔法師である、と訴え出ました」

 

 

 

え?




――そのころの服部さん――


(´□`川) 服部「……うう、ここは?」


(;゜Д゜) 服部「誰もいない……置いていかれたのか……」


(つд;*) 服部「理不尽に気絶させられたあげく、放置とか……流石に駄目だろ……」





ε=(・д・`*)ハァ… 服部「……はぁ……帰るか」



めげない、逃げない、挫けない。

服部刑部少丞範蔵の苦難は続く。






というわけで、次章から新章『USNA編(仮)』!
こ、このネタを考えてたから投稿が遅くなっちゃったわけですね!(目を逸らしながら)

この展開は誰も予想してなかったんじゃないかな!(ドヤッ)

伏線も張りつつ、回収もして、新キャラ登場させて、盛り上げていきます!

ちなみに、猫コンビにはちゃんと出番があるのでご安心を(笑)

では、また次話で!


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四章 USNA編
第五十話 急展


スマフォが充電できなくなる、というハプニングにより、スマフォを替えました。
そのせいで、まだ扱いになれていない上、見直しが不十分なので、今話は、ちょっとミスとか多いかもです。

では、またあとがきで。


「セレネ・ゴールドが所属しているクローバー・クリエイティブと、四葉家の繋がりはどれだけ調べようとも、分からないよう巧妙に隠蔽されています。いかにUSNAが優秀であろうとも、それは覆らないでしょう。ですが、今回、それが裏目に出てしまった形です」

 

 

ホワイトボードに書かれた『四葉家』の文字から矢印が引かれ、『クローバー・クリエイティブ』を差す。

そしてその矢印の下に、隠蔽と書き加えた。

 

 

「トーラス・シルバーの情報もまた、四葉家によって厳重に管理されていますが、トーラス・シルバーは、フォア・リーブス・テクノロジー、という大企業の専属であり、既に確固たる地位を手に入れています。それに、トーラス・シルバーが世に出た時は、四葉家が入念に手を回した後でしたから、こうした事態は起こらなかったのでしょう」

 

 

また、四葉家から矢印が引かれて、今度は『トーラス・シルバー』を差す。『トーラス・シルバー』の文字が赤いペンでグルグルと楕円で囲まれ、保護、という文字が上に追加された。

 

 

 

「奥様がセレネ・ゴールドを世に出したのは、達也様と美月様が結婚をする際に、()()()()()()()()()()美月様が四葉家にとって有益であることの証明として、『地位』や『実績』が必要だったからなのですが、それはつまり、四葉家の当主である奥様以外には、極少人数しか、まだ達也様と美月様の婚約は知らされておらず、故に動かせる人数も限られたものとなってしまった結果、根回しが十分に行えなかったのです」

 

 

四葉家の当主である真夜さんは、ぼくと達也の婚約を認めているけど、それはあくまで真夜さんだけであって、四葉家全体に、それが認められたわけではなく、真夜さんは、次のお正月に行われるという、四葉家の有力者が顔を揃える新年の集い『慶春会』で、ぼくの地位と実績を提示し、達也との婚約を認めさせるつもりだったらしい。

ただ、それまではどうしても動かせる人材には限りがあるし、時間もあまりなかった。

そのせいで、他の警戒が少し足りなかったのかもしれない、とのことだった。

 

 

「それにしても、今回の件は異例中の異例です。いくらセレネ・ゴールドがUSNAの魔法師であると訴えたところで、それは完全な嘘。……ただ、今回はその嘘が問題なのです」

 

 

 

水波ちゃんに連れていかれたのは、都内になる高級ホテル。そこの会議室のような所で、ぼくは説明を受けていた。

正直、話には全くついていけてないけど。

 

 

 

「セレネ・ゴールドは、美月様なわけですから、当然、日本人であり、USNAの言っていることは言いがかりも良いところなのですが……それを、証明することはできません」

 

ぼくが、セレネ・ゴールドであることは、真夜さんの意向で秘密になっている。

証明することができないって言うのが、その事に関係していることは、流石のぼくにも分かった。

 

 

「セレネ・ゴールドが日本人であることを証明するためには、然るべき場で、つまり、公に、セレネ・ゴールドの正体を明かす必要が出て来てしまうのです」

 

 

水波ちゃん曰く、この場合、少なくとも十師族にはセレネ・ゴールドの正体が知られてしまうだろうとのことだった。

十師族は、それぞれ情報収集の手段を持っているから、小さな情報でも漏らしてしまうと、耳に入ってしまう。そして、その十師族から情報が漏洩すれば、セレネ・ゴールドの正体はさらに広まってしまうだろう。

 

 

「しかし、美月様を表舞台に出すわけにはいきません。セレネ・ゴールドを欲しがる人間はいくらでもいて、何より、そこから調べられて、四葉家との関係や、魔神のことを知られるとまずいことになるからです」

 

 

これは、前にも言われたことだけど、四葉家と関係を持っていることは知られるとまずくて、『魔神』のことを知られるのはもっとまずいらしい。

達也は、魔神の()()()()()を四葉にすら知らせていないようで、達也の許可がないところでは、絶対に使わないようきつく言われている。

達也がそこまでするってことは、確かに知られたら色々面倒そうではある。

 

 

 

「別に、堂々とぼくが出なくても、適当な人、例えば達也とかがセレネ・ゴールドです!って名乗り出れば良いんじゃない?ぼくはそれに関して何も言わないわけだから、名乗り出た人が、公にはセレネ・ゴールドってことになるでしょ?」

 

 

でも、別にぼくはセレネ・ゴールドには大した思い入れはない。

誰かを適当に祭り上げれば、その人がセレネ・ゴールドってことになって、全ての問題は解決するじゃないだろうか?

 

 

 

「勿論、それでUSNAの虚言を突っぱねることはできるでしょう。しかし、それでは意味がないのです」

 

 

深刻そうな水波ちゃんの声が、ぼくの意見をバッサリ斬った。

 

 

「元々、セレネ・ゴールドは『柴田美月』に『付加価値』を付けるためのもの。それを他の人間に与えては、全く意味がない」

 

 

そうだった。

元々、セレネ・ゴールドは四葉家にとって有益であることの証明として、魔法関連の『地位』や『実績』が必要だったから、真夜さんにやらされていた、という話だった。

つまり、『ぼく』がセレネ・ゴールドでないと、真夜さん的には全く意味がないのか。

 

 

「この状況を回避する手立てはいくつか用意済みですが、どれも短期解決は難しいものばかりです。それに――USNAには既に、セレネ・ゴールドの正体がバレてしまっているのかもしれません」

 

「それもう詰みだよね!?」

 

 

びっくりした!

今までの話とか全く意味ないじゃん!隠せてないじゃん!

 

 

「いえ、あくまで可能性の話です。

柴田美月がセレネ・ゴールドである、という事実が完全に知られていることは現段階ではまずないが、何人かに絞り込まれている可能性がある、と奥様はおっしゃっていました。

もし、そうであるなら、すぐにでも美月様にはUSNAの監視がつく……だからその前に接触して、対策をしたかったのです」

 

 

 

それで、今日はとんでもなく急いでいたんだ……。

水波ちゃん用の携帯端末の設定は解除しておくことにしよう。

と言っても、ぼくの携帯端末は、四葉家から渡された特殊なものらしく、通信を傍受される心配はないけど、それはこの状況下では怪しすぎるから、市販の携帯端末に変えられてしまったのだから、既に解除されているのだろうけど。

 

 

「さて、今後の予定ですが……美月様には当然、今までと同じように学校生活を送っていただきます。()()()()()を起こしては、監視に怪しまれてしまいますから」

 

突飛な行動、の辺りで水波ちゃんがジトッとした視線を向けてくるけど、流石のぼくでもこの状況でやらかしたりしないよ!

相変わらずの信頼の無さが悲しい……。

 

 

 

「まさか、こんなことで役に立つとは思っていませんでしたが、()()美月様は一人で登下校が出来ません。毎日、恋人である達也様と登下校をしていても何の問題もないでしょう」

 

 

そして唐突なぼくディス!

そりゃ一人で登下校出来ないけども!そんなアホの娘を見るような目で見ないで!

痛い!視線が痛いよ!

 

 

「学校にいる間は、USNAの監視は無くなる可能性が高いですが、登下校時は監視は避けられませんし、万が一襲撃された際に護衛も必要ですから。達也様にはしばらくの間、美月様の護衛を依頼します」

 

 

涙目のぼくを完全に無視(シカト)して、話を続ける水波ちゃん。

最近、水波ちゃんのぼくの扱いが酷い件について!これは一度、会議するべきじゃないかな!

 

 

 

「では、時間もあまりないですし、注意事項をいくつか説明して、後は監視対策の方法をいくつか――」

 

 

 

この後、水波ちゃんから1時間程、説明を受けて、ぼくはホテルを出た。

USNAの監視が既に付いている可能性を考慮して、一人で、である。

じゃあ、一人で帰れないぼくは、どうするのかと言うと――

 

 

 

「美月」

 

 

 

――達也を召喚する。

 

達也は、バイクに寄りかかって、携帯端末を操作していた。

たぶん、水波ちゃんに、ぼくと合流できたことを伝えているのだろう。

ささっと端末を操作して、懐に仕舞うと、ヘルメットをぼくに投げて渡して、さっさと自分も用意を始めた。

 

 

 

 

()()()()()だが、油断するなよ。俺の範囲外から監視されている可能性もある」

 

「了解」

 

 

バイクに跨がり、フルフェイスのヘルメットを被った達也の後ろに乗り込み、ヘルメットを装着していると、達也が小声でそう伝えてきた。

フルフェイスのヘルメットで、達也の口は見えないし、達也の範囲に引っ掛かっていないなら、この会話を悟られることはないだろう。

 

 

「今日は一旦、家に寄っていけ。色々考えることもあるし、紹介したい人がいる」

 

「ふーん、いいよ」

 

 

こうして、ぼくは達也のバイクに乗せてもらって、司波宅へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今の、達也と……美月?」

 

 

 

その様子を、()()に見られていたことになど、気がつくこともなく。

 

 

 




――そのころの深雪さん――



(;゜∀゜)深雪「美月は大丈夫なのかしら!?」


オロオロヾ(・ω・`ヾ 三 ノ ´・ω・)ノ 深雪「お兄様から何の連絡もないということは、特に問題は無かったのでしょうけど……」


((((;゜Д゜)))深雪「もし美月に何かあったら……」


(๑ÒωÓ๑)深雪「やはり私も迎えに!」



チョッマッ(;゚△゚)ツ ?「駄目ですよ!?何のために僕たちがここにいると思っているんですか!」


(`Д´)ノ!!深雪「でも、もう、ここでじっと待つだなんて私には出来ないの!」


Σ(;´□`;)エッ ?「そんな!深雪お姉様!まだ、達也さんが出発してから2分も経ってませんよ!」



とある双子と、戦いを繰り広げているのであった。






目撃者とは誰なのか!
あとがきの『?』とは!

説明と謎と伏線の今話でした。

次話から、新キャラも登場、新展開本格スタート!……なんですが、操作になれるまで、更新が遅くなる可能性はあります。



では、また次話で!


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第五十一話 黒羽姉弟

「美月!大丈夫なの!?怪我はない!?」

 

 

司波宅に着いてすぐに、深雪が飛び出してきて、ガタガタと、ぼくの体を揺らした。

うん、大丈夫じゃないね。

 

 

「深雪、落ち着け。まだ何も起きちゃいない」

 

 

そう、怪我も何も、まだ何も起きていないのだ。

四葉の対応が早かったのか、まだ監視もついていない。

そこまで心配することなどないのだ。

 

 

「美月が大変なときに、私は勝手に怒りを覚えて、無視してしまって……ごめんなさい……」

 

 

なんで深雪が怒っていたのか、ぼくは全く分からないけど、そのことを気にして、異常に心配してくれていたようだ。

別に謝らなくても、ぼくは深雪の全てを許す。

それに、深雪がぼくを嫌いになったって、ぼくは深雪を嫌いにはならないだろう。

どんなに、軽蔑されようと、冷たくあしらわれようと、いずれはそれさえもご褒美にできる自信がある。

 

……でも、それは後々の話。

深雪に無視されて、ぼくもちょっと傷ついた。これはいくらか慰謝料を貰っても、良いんじゃないかな!

 

 

 

「チューしてくれたら許してあげる」

 

「調子に乗るな」

 

 

 

言葉を口にした瞬間、バコッと頭に衝撃が走った。達也が後ろからチョップを繰り出したのである。

 

 

「なんで達也が口出しするのさ!これはぼくと深雪の間の事なの!この、シスコン!完膚なきまでにシスコン!骨の髄までシスコン!」

 

「美月、この二人が紹介したかった――」

 

「無視なんだ!?ビックリした!勝手に話が進んでビックリしたよ!」

 

 

達也のぼくの扱いも、なんだか最近雑じゃない!?ナチュラルに無視って一応とはいえ、婚約者に対してどうなのかな!?

 

 

「わ、私は別にチューくらい……」

 

「深雪、この馬鹿の言うことは一々真に受けなくていいよ」

 

「ですが、このままでは私の気が収まりません!同性同士ですし、それに……一度してますし」

 

「……ん?いや待て深雪。今何かとてつもないことを言わなかったか?」

 

 

 

頬を赤く染めた、艶やかな顔で口許を押さえる深雪。

あら可愛い……って、深雪ぃぃいいいいい!?なんでそれ言っちゃうの!?

ぼくが分解されちゃうよ!今までどうにかバレずにここまで来たのに!

 

 

「た、たたた達也!?紹介したい人ってこの二人のことなのかな!?さっきからげんなりして待ちくたびれた様子だし、早く紹介してくれないかな!」

 

 

急いで話を逸らしにかかる。

部屋の隅で二人固まって、唖然とこちらを見ているのは、この部屋に入った時から知っていた。

この二人を利用して、なんとかこの話を無かったことにしなくては!ぼくの命が危ない!

 

 

「深雪お姉様と達也さんのイメージが……」

 

「み、水波さんの気持ちが良く分かりました……」

 

 

どうやら二人の中で、今の深雪と達也が予想外だったらしく、何だかバグっている。

そのおかげで、達也が二人のフォローに向かい、なんとか話を逸らすことに成功した。良かった!

 

ぼくは、この隙に、未だに頬を赤くした深雪に近づき、耳打ち。

 

 

「深雪、ぼくは別にチュー、って言っただけで、頬っぺたとかでも良かったんだよ?」

 

 

 

カァッと、深雪の顔が真っ赤に染まった。

 

鼻血が出そうだった。

 

 

 

 

「改めまして、黒羽文弥です。先程は取り乱してしまいまして、申し訳ありません」

 

「黒羽亜夜子と申します。文弥とは双子の姉、弟の関係になります」

 

 

中性的な顔立ちの文弥君と、良い感じに縦ロールの効いたお人形のように可愛い亜夜子ちゃん。

文弥君が本当に申し訳なさそうに、少し恥ずかしそうに挨拶すると、亜夜子ちゃんが、クラシカルなワンピースをゴージャスに翻して、丁寧に一礼。

 

 

「ぼくは柴田美月、一応、達也の婚約者ってことになっているよ。よろしくね」

 

 

ぼくの自己紹介に、一瞬、亜夜子ちゃんがピクリッと反応したような気がしたけど、気のせいだろうか?

 

 

「二人は俺たちの再従兄弟で、学年で表すと一つ下になる。ちなみに、二人は俺たちと違って、双子だ」

 

 

双子繋がりで連想したけど、香澄ちゃん・泉美ちゃんと、同じ学年ってことだ。

 

 

「ぼく、深雪と達也の親族って真夜さんしか会ったことなかったけど、ちゃんと存在したんだね」

 

「しないわけがないだろう」

 

「だって、両親にさえ会ったことないんだよ?あ、そういえば、母さんがまた一緒に夕飯食べたいって。作るのぼくなのにね」

 

「そうか、是非、とお伝えしておいてくれ」

 

 

ぼくがナチュラルに達也と会話をしていると、何やら黒羽姉弟が、唖然とこちらを見ていた。

 

 

「どうかした?」

 

「あ、いえ、その、あまりに……達也さんの雰囲気が『普通』で、それが意外というか」

 

 

文弥君の想像する達也って一体どんななのだろうか?

確かに達也は普通ではないけど、普通の会話もする。まあ、親戚って言っても、あまり関わりがなかったりするのかもしれない。

四葉家って、あんまり仲良さそうじゃないし。

 

 

 

「達也って愛想がないからそういう風に思われちゃうんだよ。いっつもむすーっとしちゃって。損だよ、そういうの」

 

 

達也って実は人見知りなんだろうか、というくらいに、初対面の相手にはムスッとしていることがほとんどだ。たぶん、警戒しているだけなんだろうけど、もっと深雪みたいに愛想良くすれば、達也の評価も変わると思うんだけどなー。

 

 

「……それで、この二人に来てもらったのは、四葉との情報伝達、メッセンジャーとしての役割と、美月の護衛を担当してもらうためだ」

 

 

華麗にぼくのアドバイスをスルーして、勝手に話を進める達也さん。

そういうとこだよ!そういうところを直そうって言ってるんだよ!

 

 

「ぼくの護衛って、達也がいるじゃん」

 

「美月に近しい人間の生活サイクルは調べられているだろう。当然、俺もな。そうなると、俺も普段通りの生活を崩すわけにはいかない。俺が美月から離れることもある、ということだ」

 

 

確かに、達也は外出することが多い。ぼくと同じで仕事もあるし、それ以外でもちょくちょく、どこかへ出掛けることがある。それが急に無くなったら確かに不審だし、怪しい。

 

 

「そういう時の護衛を二人には担当してもらう。と言っても護衛を頼むことはまずないだろうから、基本的にはメッセンジャーだと思ってくれ」

 

 

どうやら、四葉が秘密裏に動いているようで、既にぼくの護衛チームが編成されており、活動を開始しているらしい。

文弥君と亜夜子ちゃんは、そのチームの一員だから、護衛を頼む、ということになるけど、この二人が直接ぼくに張り付く、という感じではないらしい。

 

 

「まあ、今日は本当に顔合わせだよ。この二人とはいつか関わることになっていただろうし、『慶春会』に向けての根回しの一環だ」

 

 

ぼくみたいな一般人には分からないけど、四葉家のような大きな家ともなると、分家やらの柵があるようで、婚約一つにも一苦労なんだとか。

 

 

 

「基本的に僕たちは護衛チームの一員ではありますが、学校もありますし、不定期にこうして報告させていただくのが主な仕事になると思います」

 

 

「そうなんだ、大変だね中学生のうちからこんな仕事」

 

 

えらいえらい、と文弥君の頭をなでなですると、文弥君は照れた様子で頬を赤くしていた。うん、初々しくて可愛いね。男の子のくせに中々やるではないか。

 

 

「痛っ!ちょ、姉さん!?」

 

「……文弥、デレデレし過ぎです」

 

 

何やら、二人がコソコソと話し始めた。

どうやら、二人のヒエラルキーは亜夜子ちゃんの方が上のようで、文弥君は振り回されている印象。

弟とはそういうものだよね。

 

 

 

「そ、それでは、僕たちはこれで」

 

 

 

五分ほど、二人で小競り合いをしていたけど、どうにか話は丸く収まったのか、いくらか疲弊した様子で、文弥君達が席を立つ。

 

ぼくと達也、深雪も、見送りのために、二人と一緒に玄関まで付き添う。

 

 

 

「じゃあ、迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくね」

 

 

はい!、と元気よく返事をしてくれた文弥君とは対照的に、亜夜子ちゃんは、なにやらプルプル震えている。

そういえば、文弥君との小競り合い以降、全く話していなかった。

元々、口数の少ない娘なのかな?

 

そんな風に考えていると、亜夜子ちゃんがキリッとぼくの方を向いて、ビシッと指差す。

 

 

 

「美月さん!私は、私は諦めませんわ!負けませんわよ!」

 

 

 

ポカーンとするぼくをそのままに、亜夜子ちゃんは去っていった。

その後をペコペコと頭を下げながら文弥君が出ていくと、達也が言う。

 

 

 

「……普段はこうじゃないんだが」

 

 

 

どうやら、達也の親戚っていうのは、やっぱりどこか普通じゃないみたいだ。

 




――その後の姉弟――



・・・( ̄д ̄)亜夜子「文弥はああいう方が好みだったんですね」

(-。-;)文弥「うぅ……」


(〃 ̄ω ̄)ジトーッ 亜夜子「頭撫でられて、デレデレしちゃって。簡単に誑かされて。意外とむっつりなのかしら?」

Σ(´□`;) 文弥「む、むっつりじゃないよ!誑かされてもないし!」



ヾ(*`Д´*)ノ" 亜夜子「やっぱり胸なのかしら!?胸があれば達也さんも私を」


Σ( ̄Д ̄;) 文弥「達也兄さんに限って、そんなことはないと思うよ!?大体、姉さんの胸にはもう成長の見込みがーー」


ドス(=゚д゚)ニい)'д`)グハァ



この後、文弥がどうなったのか、それは乙女の秘密?である。



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第五十二話 初めての風紀委員会

 

 

朝。

いつものように、達也と深雪が迎えに来てくれて、ぼくは遅刻することなく、学校に登校することができた。

とはいえ、どうやら今日から(達也曰く昨日の夜から)USNAの監視が付いているようで、いつものように、と言うのは無理があるかな。

 

全く、年頃の女の子を付け回すなんて……ぼくがやりたいくらいだよ!

 

 

 

「監視は相変わらず三人、校内には入ってきていないようだが、警戒はしておけ」

 

 

達也はそんなことを言っていたが、魔法師の巣窟である学校で、潜入なんてリスキーなことしてこないと思う。というより、そんなずっと警戒して学校生活を送るなんてぼくには無理なのだ。

第一、結局同じ校内に達也はいるわけだから、何かあったらなんとかしてくれるだろう。

というわけで、ぼくは普通に過ごすことにする。

 

 

 

「で、風紀委員の仕事ってどんなだった?」

 

「昨日は説明だけで、実際に何かした、ということはなかったわ」

 

「へー、じゃあ出遅れてないんだ」

 

 

仮に出遅れてたとしても、達也に全部説明させるから問題はないのだけど。

 

 

「……そういえば、昨日は何の用事だったの?」

 

 

「再従兄弟が家に来るのすっかり忘れてたんだよ。あんまり帰りが遅いから、母さんから電話かかってきちゃって」

 

 

 

嘘だ。

愛梨に嘘を吐くのは、胸が痛むのだけど、正直に全部話してしまっては、愛梨も巻き込んでしまうことになってしまう。

それに、全部正直に話そうと思ったら、四葉のことも話さなくてはいけないわけだし、どうせ誤魔化すことになるのなら、最初から言わない方が良い。

 

 

 

「……そうなの」

 

 

愛梨が少し沈んだように見えたのは気のせいだろうか?

あ、もしかして、昨日、ぼくが最後まで一緒にいられなかったから寂しかったのかな?

よしよし、ここはぼくがハグしてあげようじゃないか。

 

「愛梨ー」

 

 

スッ、と。

ぼくのハグは空を切った。

 

 

「なんで避けるのさ!」

 

「暑いもの」

 

「ちょっとじゃん!ちょっとハグハグさせてくれればそれで良いんだよ!」

 

 

それからぼくと愛梨の攻防は、1限目が始まるまで続いた。

くっ、結局ハグ出来なかった!

 

 

「わわ!ちょ、美月!?」

 

 

だからとりあえず、エイミィを可愛がって我慢しました。

うん、ちっちゃくって抱き心地が抜群で、ぼくは満足です。

 

 

「愛梨助けてー!!」

 

 

 

エイミィの叫びが聞き届けられることはなく、昼休みに屍となったエイミィが発見されたとか、されなかったとか。

 

 

 

 

放課後。

今日こそは!と気合い十分で愛梨と風紀委員会に向かう。

USNAの騒動のせい、というかおかげで、ぼくの仕事の量はかなり減っている。

なんせ、セレネ・ゴールドとしての仕事をしなくて良いことになっているからね。

ぼくが監視されている状態で、フォア・リーブス・テクノロジーに向かうことなんて出来ないのだから仕方がない。うん、仕方がないのだ!

嬉しい。

 

 

 

「何故お前がここにいる!」

 

 

風紀委員会本部の扉を開けてすぐに聞こえたのは、そんな怒声だった。

 

 

「いや、それはいくらなんでも非常識だろう」

 

 

続いて聞こえてきたのは、困った、というより呆れたような達也の声。

うわ、流石トラブルホイホイの達也さん。風紀委員会でも早速問題を起こしているよ。

 

 

「なにぃ!」

 

 

達也のやれやれとでも言うような態度が気に入らなかったのか、相手の男子生徒は今にも掴み掛からんとする勢いで達也に近づく。

 

 

「やかましいぞ、新入り」

 

 

が、ここは風紀委員会本部。

当然、風紀委員長たる摩利さんもいて、不機嫌そうな摩利さんの一喝に、男子生徒は顔を青くしている。

 

 

「まあいい、座れ。美月と一色もな、そろそろ全員揃うだろう」

 

 

摩利さんの言う通り、数分もしない内に、二人の三年生が次々に入ってきて、室内の人数が九人になり、全員が席についたところで摩利さんが立ち上がった。

どうやらこれで全員らしい。

んー、やっぱり女の子は少ない。でも、あのボーイッシュなショートヘアの娘は可愛い。

ちょっと強気な感じで、でも摩利さんには甘えちゃうギャップが良い。

 

 

「そのままで聞いてくれ。今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た。風紀委員会にとっては新年度最初の山場になる。

この中には去年、調子に乗って大騒ぎした者も、それを鎮めようとして更に騒ぎを大きくしてくれた者もいるが、今年こそは処分者を出さずとも済むよう、気を引き締めて当たってもらいたい。

いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

 

 

摩利さん、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ、のところでぼくの方を睨むの止めてもらえませんかね!

ぼくより達也の方がそういうのには縁があると思うんです!

 

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

 

事前の打ち合わせも予告もなく、突然ぶち込んできた摩利さんだけど、全員無難に、まごつくことなく、すぐさま立ち上がれた。

ふう、ちょっとウトウトしてたから危なかった。

 

 

「1ーAの森崎駿」

 

 

直立不動の生真面目そうな男子生徒。

緊張と熱意、それに達也への敵意が感じられる。まあ、この部屋入ったときから分かってたことだけど、早速問題の種があるわけか。

 

達也さん、もうちょっと敵を作らないようにしてくれませんかね。

 

 

「1ーBの一色愛梨と柴田美月」

 

一色、の名前に一瞬ざわつく。

やっぱり師補十八家のネームバリューは大きいみたいだ。隣の森崎君も驚いているみたいだし。

 

 

「1ーEの司波達也、以上四名だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

1ーE、で愛梨の時以上に、大きくざわつく。

が、それも長くは続かない。

摩利さんが睨みを利かせているからだ。

 

 

「多いですね」

 

「去年の騒動を踏まえて今年から『教職員選任枠』を二人に、新たに作った『()()()()()()()()』として一人、増員した。と言っても増員は一人だけの予定だったのを……無理矢理もう一人追加しただけなのだがな」

 

「彼ですか?」

 

 

二年生の男子生徒が、達也に目を向けながら言う。

風紀委員長の特別推薦、なんて無理矢理な制度を摩利さんが作ったらしいことを、ぼくは今初めて知ったけど、そんな無茶をやるくらいの人材、って考えると達也の可能性が一番高いよね。

二科生が風紀委員になった前例ってないみたいだし。

 

 

「いや、彼女だ」

 

「イエス、ぼくなのだ」

 

 

摩利さんが、ため息混じりにぼくを指したから、取り敢えずドヤ顔。

すると、何故かぼくを睨み付けてくる先程目をつけていた二年生の女子生徒。

ぐぬぬぬ、と言わんばかりの表情で、流石のぼくも、ちょっとどう反応して良いか分からない。

 

 

「さて、前回も説明したが、部員争奪週間は問題が多発するからな、各自単独で巡回する。勿論、新入りであっても例外じゃない」

 

「大丈夫なんですか?」

 

 

達也の左胸に目線が向けられたまま、二年生の男子生徒が疑問を口にした。

その表情から、別に二科生を見下しているから、というわけではなく、単に、魔法技能の劣る二科生が一人で巡回をする、ということを心配している様だった。

 

 

「ああ、心配ない。今年は特に優秀でな、全員使えるヤツだ」

 

 

摩利さんがニヤリと笑みを浮かべながら言うと、姐さんがそう言うなら、と二年生の男子生徒は引き下がった。

 

 

「他に言いたいことのあるヤツはいないな?」

 

 

有無を言わさぬ喧嘩腰の口調。これは、姐さんと呼ばれますわ。

まあ、誰も気にしている様子はないし、日常的な光景なんだろうけど、トップがこれじゃあ、そりゃ、風紀委員は脳筋になりますよ(偏見)

よし、愛梨がこうならないよう、ぼくがしっかり守らないと!

 

 

「これより、最終打合せを行う。巡回要領については前回まで打合せのとおり。今更反対意見はないと思うが?」

 

 

ここで異議を唱えられる人なんていないと思う。

……ぼくも今後、姐さんって呼ぼうかな。

 

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。一年生については私から説明する。他の者は、解散!」

 

 

摩利さんの一声で、全員が一斉に立ち上がり、踵を揃えて、握りこんだ右手で左胸を叩いた。

代々風紀委員会が採用している敬礼とのことだったけど、なんだろうこの中二感。

ぼくは好きだけどね!

 

 

「まずこれを渡しておこう」

 

 

ぼくらを除いた六名が出て行ってすぐ、摩利さんは薄型のビデオレコーダーを手渡してきた。

 

 

「今後、巡回のときは常にそのレコーダーを携帯すること。違反行為を見つけたら、すぐにスイッチを入れろ。スイッチは右側面のボタンだ。まあ、撮影を意識する必要は無い。風紀委員の証言は、原則としてそのまま証拠に採用されるからな。念の為、くらいに考えてもらえれば良い」

 

 

胸ポケットに入れておけ、ということだったけど、正直窮屈だ。これは女子用に改良の必要があるんじゃないかな。そんな提案をしてみたら、摩利さんと愛梨から、とんでもない目で睨まれた。なんでだ。

 

森崎くんに聞いてみたけど、顔を赤くするばかりで答えてくれないし、達也には黙ってろ、と一言で一蹴された。

本当にぼくの扱い酷くないかい!?

 

 

「各々の携帯端末に、委員会用の通信コードを送信しておいた。

報告の際は必ずこのコードを使用、こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認するように。

分かったな、特に美月」

 

「なんでぼくだけ名指し!?」

 

 

やっぱり、ぼくの扱いって酷いよね!?あんまりだよね!?

必死で抗議するも、摩利さんはぼくを無視(シカト)して話を進める。

 

いよいよ泣きますよ!?

 

 

「最後にCADについてだ。風紀委員はCADの学内携行を許可されているわけだが使用についても、一々誰かの指示を仰ぐ必要は無い。

状況を判断して適切に使用してくれ。無いとは思うが、一応言っておくと、不正使用が判明した場合は、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられることになっているからな。

一昨年はそれで実際に退学になったヤツもいる。甘く考えないことだ」

 

 

摩利さんの言葉に、森崎くんがゴクリと唾を飲み込んだのが分かった。

心なしか顔色も悪い。いよいよ初仕事だと思って緊張しているのかな。

 

 

「説明は以上だが、何か質問はあるか?」

 

 

摩利さんは何カップなんですかー、とか質問したいことはあるのだけど、そんなことを口にしようものなら、どうなるかは簡単に想像できるので黙っておく。

人間とは学習する生き物なのである。

 

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

 

「……構わないが、理由は?釈迦に説法かもしれないが、あれは旧式だぞ?」

 

 

達也の質問に摩利さんは意外そうな顔をしながらも、どこか興味が抑えられないような様子。

ぼくはそれほどCADの種類に詳しい方ではないけど、達也は違う。なんせ、フォア・リーブス・テクノロジーの社畜。その知識量はプロ並だ。

そして、当然のようにCADにも並々ならぬ拘りを持つ。自社の製品だからかもしれないけど、CADは基本的にトーラス・シルバーの物しか使わないし、いつもメンテしたりして弄っている。

言うならばCADオタクだ。その達也がなんでまた態々旧式のCADを?とはぼくも思う。

 

 

「確かに旧モデルではありますが、プロ仕様の高級品ですよ。調整は面倒ですが、設定の自由度が高く応用範囲の広い点が一部で熱狂的に支持されている機種です」

 

「……そうなのか」

 

「ええ、多分、あれを購入した人がファンだったんでしょう。バッテリーの持続時間が短くなるという欠点に目を瞑れば、処理速度も最新型並みにクロックアップできますから、しかるべき場所に持ち込めば、結構な値段がつくと思いますよ」

 

「……それを我々はガラクタ扱いしていたということか。なるほど、君が片付けに拘った理由がようやく分かったよ」

 

 

CADが旧モデルとはいえ高級品で、最新型並みの性能を発揮できることは分かったけど、そもそも高級品の最新型を持っている達也が、それを使う意味ってなくない?

 

 

「……トーラスは目立つからな。それにこれはこれで使いようがある」

 

 

考えていることが顔に出ていたのか、達也が小さな声で本当の理由を教えてくれた。

確かに、あのあーちゃん先輩の興奮具合を見ちゃうと止めた方が良いかも、と思ってしまう。

あーちゃん先輩程のオタクはそうそういないにしても、魔法科高校なのだ、CADが大好き!という生徒は沢山いるだろうし。

 

 

「そういえば、あーちゃん先輩ならこのCADのことも知っていたんじゃないですか?もしかして、部屋が汚すぎてCADが目に入らなかったとか?」

 

「失礼な!中条は怖がって、この部屋には下りてこないだけだ!」

 

 

あーちゃん先輩、小動物可愛い。

あれほど完成された小動物もそういないんじゃないかな!

ビクビクしながらこの部屋の様子を伺っているあーちゃん先輩を想像して萌えた。

 

 

「コホン。まあ、備品のCADなら好きに使ってくれ。どうせ今まで埃をかぶっていた代物だし、他に誰も使わんだろう」

 

「では……この二機をお借りします」

 

「二機……? 本当に面白いな、君は」

 

 

いつの間にか、自分用の調整データを複写しておいたらしい二機のCADを左右の腕に装着した達也。

 

そういえば前に達也から、CADを二つ同時使用することでキャストジャミングの真似事が出来る、ということでやり方を解説されたのだけど、はいはい、と適当に流していたから良く分かってない。

CADを二つ同時使用するのは、魔法を並列起動させる高等テクで難しいらしいけど、二刀流ってかっこ良くね?というわけでちょっと練習したら出来た。

ぼくでも出来るんだし、たぶん達也も出来るんだろう。

 

 

「では、これで解散にする。私は部活連本部へ行かないといけないからな。各自、風紀委員としての自覚を持って行動するように」

 

 

ここからは単独行動になる。

本当は愛梨と二人が良いのだけど、通常時は二人一組で行動する様だし、 今回は我慢しておこう。

 

初めての風紀委員としての仕事、しっかりやり遂げて見せますよ!

監視されている現状、風紀委員としての仕事も安全な校内に違和感なく居座れるということで、推奨されており、大手を振って出来るのだ。

 

 

 

「委員長、巡回は一人ずつの単独行動ということでしたが」

 

「ああ、そうだが、何か問題があったか?」

 

 

今日から巡回があることは、達也から聞いていたから、今日は『輝夜』じゃないCADを持ってきた。

『輝夜』は金色だし、剣だし、大きいしで、とても目立つから、コンパクトなものにしたのだ。

事前準備を怠らない、うん、風紀委員の鑑だね。

 

よーし、張り切って行くぞー!

ぼくは風紀委員室を出て、早速動き出した。迅速な対応!ぼく、出来る娘!

 

 

 

 

 

 

 

 

「美月を一人にして大丈夫なのか、と」

 

 

「すぐ、追いかけてくれ!行方不明になる!」

 

 

 

 

達也の風紀委員としての最初の仕事は、ぼくを捕獲することだった、とぼくが聞いたのは少し後のことである。




――その後の二人――


(ノ_-;)ハア… 摩利「美月を一人にするとは、なんて愚考を……」

( ̄^ ̄)エッヘン 達也「安心してください。こんな時のために、美月の携帯端末のGPS情報を確認できるようにしています」

ヽ(●゚∀゚)ノ゙ 摩利「用意周到だな!よし!」




(;・ω・)達也「……駄目でした、電源が入っていないようです」

(*`Д´)ノ! 摩利「なんでだ!大体携帯端末の電源を切っていてはこちらからの指示が通らんだろうが!馬鹿なのか!?」

(; ̄Д ̄)達也「馬鹿なんだと思いますが?」


(≧Д≦;)ノ 摩利「そうだったな!すまん!言っても仕方のないことだった!」








(・`ω・)美月「なんだか失礼なことを言われているような気がする」



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第五十三話 美月の初仕事?

午後の授業が終わって、大層ダルそうに風紀委員会本部へ向かおうとしていた達也を呼び止めたのは、偶々視界に入ったから。

 

なんとなく、呼び止めてみただけ。

 

 

「達也くん、クラブ決めてないんだったら、一緒に回らない?」

 

 

「エリカか……珍しいな、一人か?」

 

「珍しいかな? 自分で思うに、あんまり、待ち合わせとかして動くタイプじゃないんだけどね」

 

 

明るい栗色のショートカットで、深雪とはまた違う陽性の美少女であるエリカだ。

達也にしてみれば、出会ってそう長くないとはいえ、周囲に人がいない、という状況が珍しく感じられたのかもしれない。

 

 

「未亜は何か用事があるみたいで、授業終わってすぐに、どこかに行っちゃったから、面白そうなトコないか、ブラブラ回ってみるつもりなんだけど」

 

「レオも、もう決めていると言ってたな」

 

「山岳部でしょ? 似合いすぎだっての」

 

「まあ……確かに似合ってるな」

 

「うちの山岳部は登山よりサバイバルの方に力を入れてるんだって。もう何て言うか、はまりすぎ」

 

 

エリカは、何処と無くつまらなさそうに悪態をついており、達也はそれに肩をすくめる。

 

 

「とういうわけで、達也くん、どう?」

 

 

本人に言えばむきになって否定されるのは明らかなのだが、断ってしまうには少し、寂しそうな表情をしている。

別に断固として断る理由はなく、そもそもこれだけの美少女からの誘いを断れる男はそうそういないだろう。

 

「実は、早速、風紀委員会でこき使われることになってな。あちこちブラブラするのは結果的に同じなんだろうけど、見回りで巡回しなきゃいけないんだよ。それでも良ければ、一緒に回るけど?」

 

「うーん……ま、いっか」

 

 

エリカはさぞ不本意そうに、勿体ぶって答える。

が、その割には笑みを浮かべており、その不本意そうな仕草は、ポーズでしかない、ということが達也には丸分かりだったのだが、それを口にしない程度には達也にもデリカシーがあった。

 

美月相手なら、何の遠慮もなく口にしていたのだが。

 

 

「じゃ、1-Eの教室に集合ね」

 

「ああ、長引くようならまた連絡するよ」

 

 

集合場所と時間を決めて、二人は別れ、それから数十分。

 

 

 

 

約束の時間を僅かに過ぎた現在、エリカは教室にはいなかった。

 

校庭一杯、校舎と校舎の間の通路まで埋め尽くしたテントは、さながら縁日の露天。

そこら中のテントからの勧誘の声が混じり合い、目がチカチカしそうなくらい色々なものが乱雑に並べられている。

 

「お祭り騒ぎね、文字通り……」

 

 

エリカは達也との約束を一方的にないものとして、ゆったりと校庭を歩いていた。

 

その校庭のあまりの賑わいを見て、ぼそりと独り言を呟く。

そしてそんな自分に気付いて、独り笑いの衝動に呑まれそうになるが、ぐっと堪える。

 

エリカは元々、独り言が多い方であるが、入学式からずっと、この癖は影を潜めていた。

まだ入学式から日が経っていないというのもあるが、一人になる間がなかったというのが大きいだろう。

 

 

一人が珍しい。

今日の午後、そう達也はエリカを称したが、エリカに言わせれば、それは全くの見当違いだ。

 

中学生時代も、その前の小学時代も、彼女は一人でいることの方が多い少女だった。

人間嫌い、という訳ではなく、どちらかといえば、愛想は良い方。誰とでも、すぐ仲良くなれるのが、すぐ疎遠になってしまう。

 

その理由をエリカ本人は、四六時中一緒にいる、いつも連れ立って行動する、ということが出来ず、人間関係に執着が薄いからだと、分析していた。

 

比較的仲良くしていた友人からは、醒めている、気まぐれな猫みたいだ、と揶揄され、仲違いした友人からは、お高く留まっていると言われたこともある。

その類い稀な美少女ぶりから纏わりつく男は絶えなかったが、長続きした男もまた、いなかった。

 

 

エリカのモットーは、『自由に、気ままに、何の約束にも縛られず』。

 

 

彼女の複雑な家庭環境、縛られ過ぎた環境が、彼女をそうさせたのかもしれない。

 

 

「エーリーカ」

 

 

一人、宛もなくフラフラと歩いていたエリカに、独特なイントネーションで声がかけられる。

達也経由で知り合ったばかりの友人、美月だった。

両手を後ろで組んで、キラキラと人懐っこい笑みを浮かべており、尻尾をパタパタと振っているような気がして、思わず苦笑いが漏れた。

 

 

「美月、風紀委員はいいの?」

 

 

エリカは美月にそう訊ねたが、風紀委員は見回りで巡回をしなくてはならない、ということを達也から既に聞いていたのだから、この質問に意味はなかった。

美月もまた、見回りで巡回中、なのだろうから。

 

 

「なんか問題が起こるまでは好きにフラフラしてれば良いんだってー」

 

 

返ってきた答えは概ね予想通り。

そして、美月がここにいる、ということは、そろそろ達也もここにやってくることだろうな、とそんなことを考えていると、携帯端末が短い電子音を鳴らした。

確認してみると、達也からメッセージが届いており、ああ、これは怒らせちゃったかな、と苦笑いしながらメッセージを見てみると、そこには全く予想外のことが書かれていた。

 

 

 

――もし美月を見かけたら確保しておいてくれ

 

 

 

メッセージと美月を交互に見る。

 

 

 

「あれ?どうかした?」

 

「いやーなんでもなーい」

 

 

 

エリカは、これは面白いことになりそうね、とイタズラを思い付いたかのように笑うと、()()()()()()()()()()()、言う。

 

 

「美月、見回りしながらで良いから、一緒にクラブ回らない?」

 

 

美月の答えは、考えるまでもないだろう。

美月は達也以上に、美少女からの誘いは断らないのだ。

 

 

 

 

 

クラブの勧誘というのは、密かに出回っている入試成績リストの上位者、競技実績のある新入生を取り合うものだ。

必然、魔法技能の劣る二科生にとっては、縁のないものとなる――はずなのだが。

 

 

 

「これは酷い」

 

「ちょっと美月!見てないで助けなさいよ!」

 

「いやー、女の子同士の組んず解れつって良いなって」

 

「馬鹿なこと言ってないでなんとかしなさい!風紀委員でしょ!」

 

 

エリカを中心に群がる女子生徒。

引っ張り合い、後ろから抱きついて拘束、と、もはや勧誘ではなく、ただの奪い合いとなっており、正に戦争のような雰囲気になっていた。

美月としては、一人の美少女に女子生徒が群がって、ペタペタと身体を触り合っている――そんな生易しい雰囲気では決してないのだが――様子は、心踊るものがある。

 

が、その中心であるエリカとしては堪ったものではない。

 

 

「チョッ、どこ触ってるのっ?やっ、やめ……!」

 

 

「んー、そろそろ助けてあげようかな。もうちょっと見ていたいけど、流石に止めないと後で摩利さんに怒られそうだし」

 

 

エリカが、かなり切羽詰まった声を出し始めたところで、美月はやっと救出に動き出した。

 

 

「はいはいごめんねー」

 

 

そう言いながら、美月はエリカを取り囲む人垣に入っていくと、ちょいちょい、と指先で女子生徒に触れていく。

すると、触れられた女子生徒がくるんっと回転して、あらぬ方向を向き、エリカを奪い合っていた女子生徒達がまるで美月に道を開けるように、勝手に避けていって、いつの間にか、エリカの正面にぽっかりと空間が出来ていた。

 

 

「なんで!?」

 

「体が勝手にっ!?」

 

 

そんな、女子生徒達の困惑をそのままに、美月はエリカの手を掴む。

 

 

「走るよ!」

 

 

突然のことに、唖然としているエリカの返事を待たずに、美月はエリカを引っ張って走り出し、人混みを華麗にすり抜けて、校舎の陰まで来たところで、エリカの手を離した。

 

 

「あははは、楽しかったね!」

 

「何にも楽しくないわよ!もう!酷い目にあった!」

 

 

女子生徒に揉みくちゃにされたからなのか、人混みの中を走り抜けてきたからなのか、髪は酷く乱れ、ブレザーは片側に大きくずれて、真新しい制服のあちこちに皺が寄っている。

その右手には完全に解けてしまったネクタイが握られており、当然、ネクタイを抜き取られた制服の胸元が、はだけてしまっていた。

僅かに日焼けした、しかし、それでも尚、元々の白さを残した肌が大胆に晒され、スッキリした鎖骨のラインどころが、下着がチラリと見えている。

 

そんな、ぶつくさと文句を言いながら服装を正すエリカを、美月は、眼福とばかりに鑑賞している。

女の子同士の特権なのである。

 

 

「それにしても美月、あれ、どんな魔法よ?」

 

 

ネクタイを締め直し、すっかり落ち着いたところで、エリカはそう美月に訊ねた。

単純な興味本意だったが――だからこそ、美月の答えには驚愕を隠しきれなかった。

 

 

「えっ?魔法じゃないけど?」

 

「はぁ!?そんなわけないでしょ!?」

 

 

きょとん、と首を傾げている美月を、ガタガタと揺らすエリカ。

あの光景が魔法ではない、なんてことは到底信じられるものではなかった。

まるで指揮者のように指を振って、自由自在に女子生徒を操作している様は、魔法以外の何物にも見えなかったのだから。

 

 

「ほ、本当だよ!魔法は使ってないって!」

 

「じゃあ、どうやったらあんなことが出来んのよ!?」

 

「説明する!説明するから揺らさないで!うぅ、なんか出ちゃう……」

 

 

本格的に目を回している美月を解放すると、ふらふらーと座り込んだ美月に、で?、と説明を促すエリカ。

涙目で見上げる美月も完全にスルーである。

どうやら、救出が私情で遅れたことに、多少なりともご立腹の様であった。

 

 

「合気道みたいなものだよ。力の流れを()()、その力を利用して動きを誘導したの」

 

 

絶句。

それは、達人、天才、と呼ばれるような一握りの()()が、何十年という時間をかけて、初めて修得できる、そんな奥義とでも言うような技だ。

それを、美月は意図も容易くやってのけたという。

 

武道を嗜むものとして、絶句せざるを得なかった。

 

 

 

「ぼくは目が良いからね。何の警戒もされていない状態だったし、あれくらいは簡単だよ」

 

「目が良いって、限度があるでしょ……」

 

 

達也くん、あんたなんて化け物、あたしに紹介してくれてんのよ、と、お門違いなことを考えながら、エリカは一つ、ため息を吐いた。

 

 

それは、いつかの達也と同じような心境だった。

 

 

 

「ぼくも他人(先生)から、君なら出来るんじゃないかな、って感じで、やり方を教えてもらっただけだけど、教えてあげようか?」

 

「……遠慮しておくわ」

 

 

エリカはどこか遠くを見ながら、携帯端末の電源を入れて、慣れた手つきで操作すると、達也にメッセージを送った。

 

 

 

――さっさと引き取りに来なさい!

 

 

 

 

それは、心からの叫びだった。

 




――そのころの深雪さん――

生徒会室にて。



(´Д`*) 深雪「(今日は美月の初仕事なのよね……大丈夫かしら……)」ピーッ!


( ・∇・) 深雪「(もう!こんな状況なのに風紀委員なんて……でも、校内にいた方が安全だとお兄様もおっしゃっていたのだから、きっとこの方が良いのよね!)」ピーッ!


(#^ω^)深雪「(そう考えれば美月が風紀委員になったのも悪くなかったのかしら……でも美月が風紀委員になったのってあの女の――)」ピーッ!ピーッ!








(;゜Д゜)!! 真由美「深雪さん!?エラーを連発しているな、とは思ってたけど、何事!?」

((((=゚Д゚=;)))) あずさ「さ、寒いです!か、会長!なんとかしてください!」





深雪が我に帰った時、そこには抱き合って凍えている真由美とあずさがいたという。


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第五十四話 美月とエリカ

――すまないが、しばらく美月を頼む。決して目を離さず、手でも繋いでいてくれ

 

「エリカ、どうかしたの?」

 

頭を抱えて、しゃがみ込んだエリカを、美月は心配そうに覗き込んだ。

 

 

「なんでもないわよ……」

 

 

何やら立て込んでいるらしい達也からの返事に、美月のお守りをすることが決定してしまったエリカは、『自由に、気ままに、何の約束にも縛られず』、なんてモットーはどこへ行ってしまったんだ、と遠い目。

面白半分で一時的に達也との連絡を絶ってしまったことを絶賛後悔中であった。

 

 

「あ、そういえば、エリカはクラブを見て回ってたんだよね?さっきは囲まれて逃げてきちゃったし、ゆっくり見て回りたいなら協力するよ?ぼく、一人で見回りしてても詰まらないし」

 

 

さて、達也くんが来るまで、この問題児をどうしてくれようかと、考えていると美月から提案があった。

エリカとしては、正直もう二人きりで美月といたら身が持たなそうだ、とさえ思っているのだが、美月の人懐っこい笑みを見てしまうと、どうにも断ることが出来ない。

達也くんにも頼まれちゃってるし、と誰に言い訳をしているのか、頭の中で自己完結すると、エリカは美月の提案に乗ることにした。

 

 

「一緒に回るのは良いけど、協力、ってどうするのよ?」

 

 

エリカの疑問に美月は、どこか演技めいた、わざとらしい動作で両手を広げる。

 

 

「問題です。ぼくは風紀委員なわけですが……さて、何が使い放題でしょうか?」

 

 

エリカが呆れた顔で答えに辿り着くまで、一秒とかかることはなかった。

 

 

 

 

 

「うわ……本当にさっきの騒ぎが嘘のように誰も勧誘に来ないわね」

 

「ふふん、ぼくを褒めたまえ」

 

 

胸を張ってドヤ顔をした美月に、エリカは、はいはいすごいすごい、と適当に返すが、美月は満足気である。

とりあえず、構ってもらえれば満足なようだ。

 

 

「これ、どうやってんのよ?まさかまた魔法じゃないなんて言わないでしょうね」

 

「さっき魔法使うよ、って言ったじゃん。ぼく一人ならともかく、エリカまで、となると流石に無理だよ」

 

「一人なら魔法なしでも出来るのね……」

 

 

相変わらず、校庭一杯、校舎と校舎の間の通路まで埋め尽くしたテントに、勧誘の声やら、クラブ紹介の声やらで賑やかではあるが、先程まであれほど群がってきていた勧誘は一切なく、楽は楽なのだが、これも魔法ではない、なんて言い出したらどうしようかと考えていたのだが、その危惧は半分正解、と言ったところだった。

 

 

「これ、隠密系の魔法なんだけど、周囲から見えなくなってるとか、認識されなくなってるとかじゃなくて、あくまで意識を逸らしているだけだから、あんまり大声とか出しちゃうと効果無くなっちゃうから」

 

「あんたって、忍者かなんか目指しちゃってる娘?あの武術とか、今の魔法とかさ」

 

「忍者にだけは死んでもならない」

 

「そ、そう?」

 

 

エリカの軽口に、予想外に真面目な顔で否定する美月。余程、忍者というものに良い思い出がないのかもしれない。

 

 

 

そんな二人が隠密の魔法のおかげで、労せず辿り着いたのは、第二小体育館、通称『闘技場』。ここでは、剣道部の演武が行われており、『剣』の家に生まれたエリカは勿論、『剣』のCADを持つ美月としても興味がある。

二人の行き先がここに決まるのも自然なことではあった。

 

 

「魔法科高校なのに、剣道部があるなんて意外よね」

 

「そう?剣道部って無い方が珍しいくらいじゃない?」

 

 

美月の何気ない返しに、じとっとした目を向けるエリカ。えっえっ?と困惑している美月にため息を吐くと、説明を始める。

 

 

「魔法師やそれを目指す者が高校生レベルで剣道をやることはほとんどないのよ。

魔法師が使うのは『剣道』じゃなくて『剣術』、術式を併用した剣技だから。小学生くらいまでなら剣技の基本を身につける為に剣道をやる子も多いけど、中学生で将来魔法師になろうって子たちは、ほとんど剣術に流れちゃうの」

 

「へー」

 

「へーって、武道経験者なら大抵知ってるようなことなんだけど?」

 

「ぼくそんなどっぷり武道に浸かってたわけでもないし、元々、護身用に習っていた感じだからね、全然知らなかった」

 

「護身用って……」

 

 

あのレベルの武術をただの()()()と言い切る美月に、もはや呆れを通り越して悟りの域にあるエリカはスルーという手段を持ってして対処した。

美月の扱いが分かってきたようである。

 

 

「不満そうだね」

 

 

レギュラーによる模範試合は中々の迫力だった。

中でも目に止まったのは女子部二年生の演武だ――決して美月が女好きだから目に止まったというわけではない――。

エリカとほとんど同程度の体格でありながら、二回り以上大きな男子生徒の打撃を力ではなく、流麗な技で受け流し、互角以上に打ち合っている姿は、華があって、美月でなくても目に止まることだろう。

実際、観衆もほとんどが彼女の技に目を奪われていたのだから。

 

が、エリカは違った。

彼女が、殺陣のように(・・・・・・)鮮やかな一本を決めて、一礼するのと同時に不満げに、鼻を鳴らす音が美月のすぐ傍で聞こえたのだ。

 

 

「まあね。つまらないでしょ、こんなの。手の内の分かっている格下相手に、見映えを意識した立ち回りで予定通りの一本なんて。試合じゃなくて殺陣よ」

 

この試合は、クラブを宣伝するためのデモンストレーション。それで当然だということは、頭では分かっているのだが、納得できるかというと、それは別の話なのだ。

 

 

「おお、流石はエリカ!剣のことには厳しいね」

 

「……あたしが、あの(・・)千葉の娘だって知ってたんだ」

 

 

エリカのことは魔法界でもそれほど広くは知られていない。それを看破されている、となれば警戒の一つもするだろう。

が、その警戒が、美月のきょとんとした表情と共に放たれた一言によって、驚きへと一変する。

 

 

 

「え、何それ?ぼくはエリカが、ぼくの会った中では断トツで最強の剣士だから言っただけだけど」

 

「なっ!?」

 

 

最強の剣士。

自分がそれだとは、欠片も思ったことはないが、自分が才ある人間だとは自覚している。

美月の会った中では、というのなら、まあ、そういうこともあるのだろう、という程度には剣の道を極めているのだ。

 

が、エリカは美月の前で、剣を振るったことはない。

増して、千葉の名の意味を知らなかったというのなら、それをどうやって見極めたというのか。

 

 

「言ったでしょ、ぼくは目が良い(・・・・)からね」

 

 

驚いた様子のエリカに、美月はドヤ顔で言うが、それはもう目が良い(・・・・)というレベルではない。

 

 

 

「だから――エリカが寂しそうな顔をしていたら、すぐに分かるんだなー」

 

「……そんな顔してないわよ」

 

 

そして、美月の言葉に、エリカが凍りつく。

まるで、自分の全てを見透かされたような、無遠慮に心の深いところに踏み込まれたような、そんな気がして、エリカはつい、強がってしまう。

 

 

「強がらなくてもいいのに」

 

 

――そんな心情さえ、看破されてしまって、エリカはもう黙り込むしかなかった。

 

 

「良いんだよ、甘えても。ぼくはいつでもウェルカムさ」

 

 

 

エリカは、四六時中一緒にいる、いつも連れ立って行動する、ということが出来ないのは、人間関係に執着が薄いからだと、分析していた。

でも、それは本当は違う、ということもまた、知っていた。

 

 

本当は、不安なのだ。

 

 

愛想が良いように見えて、内心では、人との距離感を測りかねている。

だからずっと一緒にいるということが出来ない。相手が自分をどう思っているのか、どうして欲しいのか、それがわからないから。

 

 

これは、出来る限り人との接触を絶っていた幼少期の弊害なのだろう。

愛される、ということを、ほとんど知らずに育った、弊害。

人に甘えることなど、出来るような家庭環境ではなかった。

 

千葉の名に恥じぬように、自分の生まれを背負えるように――『千葉エリカ』という仮面を付ける。

 

『千葉エリカ』――明るくて、愛想が良く、誰とでもすぐに仲良く出来る、少しお調子者な少女。

でも本当は、人見知りで、一人が好きで、出来るなら放っておいて欲しいとさえ思う内気な少女だ。

 

 

「……甘えたりしないわよ」

 

「んふふ、そういうツンデレなところも可愛いよ」

 

「ツンデレじゃないわ!」

 

 

エリカの軽快なツッコミ。

『千葉エリカ』ならきっとこうするから。

 

 

 

「なら――ぼくには本当のエリカ、見せてほしいな」

 

 

真っ直ぐに、目を見て言う美月。

それがまるで、本当に自分のことを想ってくれているような気がして、本当の自分を見てくれているような気がして――

 

 

 

「こ、こっち見んな!」

 

 

 

――真っ赤になった顔を見られないように、その場にしゃがみ込んで顔を隠した。

熱い。今までにないくらい、本当に顔から火が出ているのではないか、というくらいだ。

今、こんな顔を見られたら、きっとどうにかなってしまう。

 

 

 

「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君!どうしてそれまで待てないの!?」

 

 

顔を隠そうとするエリカと、それを見ようとする美月。二人の攻防の背で、そんな大声が聞こえて、二人は思わず振り返った。

 

 

そして、目が合う二人。

 

 

「……何よ」

 

「いや、可愛いなって」

 

「や、やっぱりこっち見んな!」

 

 

 

やっと赤みが落ち着いてきたところに、また紅がさして、エリカは言うだけ言って、また元の姿勢に戻ってしまった。

それに美月は、心底可愛いものを見た、というように、悶えていて、体育館全体が殺伐とした雰囲気に包まれる中、この二人の空間だけが、別の、どこか桃色のものを漂わせていた。

 

当然、隠密の魔法など、疾うの昔に効果を無くしていたのだった。

 

 

 

 

 





――いつかの美月と九重八雲――


(^ー^)八雲「そうだ美月君、面白い術を教えてあげよう」

( ☆∀☆)美月「術!?どんなの!?」

( ・∇・)八雲「相手の力を利用して、相手を意のままに操る術さ。この書にまとめられているから、まずはこれを読んでみると良いよ」

Ψ( ̄∇ ̄)Ψ美月「わーい、ありがとう!……ふむふむ、力の流れを自身の力でねじ曲げ……」





(-。-;)八雲「(ふぅ、これでしばらく大人しくなるだろう。いやー、達也君に頼まれて預かったものの、言うこと聞かないし、ドロップキックしてくるし、困ったよ。こんな本読んだくらいで、出来るようになるわけないけど、僕も休憩したいからね)」

(*^ー^)ノ♪美月「よーし、大体分かった!先生!ちょっと実験台になって!」

(^_^;)八雲「良いけど、そんなすぐ出来るようには……ってあれ!?僕回ってる!?」


ヾ(@゜▽゜@)ノ美月「あははは!楽しいー!」


こうして美月は、また一つ、技を覚えたのであった。


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第五十五話 二人の剣士

今話、あとがきが割と重要なのでお見逃しの無い様、ご注意を!


「……今、どういう状況だ」

 

 

それは、剣道部と剣術部の諍いに対しての発言だったが、口にしてから、しゃがみ込むエリカと、それを覗き込もうとする美月の攻防を見て、それに対しても、お前らもどういう状況なんだ、と疑問が湧いてきた。

 

 

「……達也くん、遅いわよ!どうしてくれるのよ!」

 

 

未だ、しゃがみ込んだまま、顔の上半分を上げて、達也に文句を言うエリカの顔は赤く、若干涙目で、これは本当に何かあったのか、といよいよ首を傾げることになった。

 

とはいえ、今は風紀委員としてこの騒動がまずい状況(・・・・・)になったとき、対処することが最優先だ。

 

 

「美月、お前も来い。風紀委員だろ」

 

「わっ、ちょっと!」

 

「えっ!あたしも!?」

 

 

美月の手を掴むと、顰蹙を買いながら人混みを掻き分けて、なんとか中が見える所まで移動する。

すると、そこにいたのは対峙する男女の剣士だった。

 

女の方は、ついさっきまで試合に出ていた女子生徒。胴はまだつけているが、面は取っている。セミロングストレートの黒髪が印象的な、なかなかの美少女だ。あの技にこのルックス、この美少女に憧れて、剣道部に入る、なんて新入生がいてもおかしくはないだろう。

 

 

「わぁ、正統派剣道美少女って感じの人だね」

 

「……何、鼻の下伸ばしてるのよ」

 

 

美月に引っ張られて、一緒にやって来たエリカが、ボソッとそんなことを言うと、美月が目を輝かせてエリカに絡んでいく。

 

 

 

「あれー?妬いてるの?可愛いー!」

 

「や、妬いてないわ!勘違いすんな、バカ!」

 

 

 

顔を赤くしたエリカを、美月がからかう、という構図に目を丸くする達也。

一体何があったらこの短時間でこうなるというのか。

頭を抱えそうになるが、どうもそんな暇はないらしい。

 

口論の末、男女の剣士が試合を始める様だったからだ。

 

 

 

「心配するなよ、壬生。剣道部のデモだ、魔法は使わないでおいてやるよ」

 

「剣技だけであたしに敵うと思っているの? 魔法に頼り切りの剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」

 

「大きく出たな、壬生。だったら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

 

女子生徒の方には、防具をつけていない相手へ打ち込むことに対する躊躇もあっただろう。

先に動き出したのは、男子生徒。

いきなりむき出しの頭部目掛けて、竹刀を振り下ろしたのだ。

 

竹刀と竹刀が激しく打ち鳴らされ、二拍ほど遅れて悲鳴が生じた。

竹と竹が打ち鳴らされる音、時折金属的な響きすら帯びる音響の暴威。

二人が交える剣撃の激しさは、既にこの体育館の雰囲気を殺伐としたものに塗り替え、観客は声を出すことさえ出来ずに、その試合を固唾を呑んで見守る。

 

 

「……女子の剣道とはここまでのものだったのか」

 

 

女子生徒の剣捌きに、思わず感嘆の吐息を達也が漏らせば、なんとか調子を取り戻したらしいエリカが驚いた様に補足の説明をくわえる。

 

 

「一昨年の中等部剣道大会女子部の全国二位で、当時は美少女剣士とか剣道小町とか随分騒がれてたけど……私の知っている壬生紗耶香とは、まるで、別人。たった二年でこんなに腕を上げるなんて……」

 

 

壬生紗耶香、というらしい女子生徒は千葉の娘であるエリカをも驚嘆させる程の実力者のようだった。

実際、エリカによると、相手の男子生徒――名前は桐原武明――は一昨年の関東剣術大会中等部のチャンピオンであり、正真正銘の実力者。

その、桐原を相手にして互角以上の試合を繰り広げているのだから。

 

 

「……面白そうじゃない」

 

 

鍔迫り合いで一旦動きの止まった両者が、同時に相手を突き放し、後方に跳んで間合いを取ったタイミングで、戦闘狂の気があるのか、どこか好戦的な気配を放ちながらエリカが呟く。

 

 

「どっちが勝つかな……ぼくは、壬生先輩が勝つに一票だけど」

 

 

そんなエリカとは裏腹に、純粋に勝負の行く末が気になるのか、そんな呟きを漏らす。

 

 

「俺もそう思う。現状、明らかに壬生先輩が有利だろう」

 

 

美月の呟きを拾って、達也が答える。

 

 

「なんで?」

 

「平手の勝負でも、竹刀捌きの技術だけなら壬生先輩に分があるだろうに、桐原先輩は面を打つのを避けている。最初の一撃は受けられることを見越したブラフだろうな。魔法を使わないという制約を負った上で、更に手を制限して勝てるほど、実力に差は無い」

 

「女の子に手加減するのは、男として当然でしょ。むしろ女の子相手にガチとか、ドン引きだわー」

 

 

達也はガチでやるタイプだよね、と美月にジトッとした目を向けられ、状況による、と曖昧な答えを返す達也。

実際、中学生の時、美月との勝負に全力を尽くした過去がある。否定は出来ない。

 

 

「おおぉぉぉぉ!」

 

 

そんな、美月達の会話が聞こえているわけもないが、会話が途切れたタイミングで、この立ち合い初めての雄叫びを上げて、桐原が突進した。――両者、真っ向からの打ち下ろし。

 

 

「まあ、そうなるか」

 

 

 桐原の竹刀は紗耶香の左上腕を捉え、紗耶香の竹刀は桐原の右肩に食い込んでいる。

桐原は真剣なら致命傷。対して沙耶香の方は行動不能に陥る程ではない。

明確なルールの決まった試合ではなかったが、勝者がどちらなのかは、誰から見ても明らかだった。

 

 

 

「くっ!」

 

 左手一本で紗耶香の竹刀を跳ね上げ、桐原は大きく後方に跳ぶ。

 

 

 

「……真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」

 

 

凛とした表情で勝利を宣言する紗耶香。

その紗耶香の指摘が正しいことを、感情が否定しようとしても、剣士としての意識が認めてしまっていることに、桐原は顔を歪める。

 

 

「は、ははは……」

 

 

そして、突如、桐原が虚ろな笑い声を漏らす。

瞬間、達也の中で、危機感の水位が急上昇した。

離れて見ていた達也でさえ感じたのだ。対峙を続ける紗耶香は、それ以上の脅威を肌で感じ取ったのだろう。

改めて構え直し、切っ先を真っ直ぐに向け、桐原を鋭く見据えている。

 

 

「真剣なら?俺の身体は、斬れてないぜ?壬生、お前、真剣勝負が望みか?

だったら……お望み通り、『真剣』で相手をしてやるよ!」

 

 

桐原が、竹刀から離れた右手で、左手首の上を押さえた。

見物人の間から悲鳴が上がり、青ざめた顔で膝をつく者さえいる。それも無理はないだろう。

 

 

ガラスを引っ掻いたような不快な騒音。

それが、竹刀から(・・・・)聞こえる。

 

 

魔法。

竹刀を、『真剣』に、人の命を奪うことの出来る武器へと変える魔法。

振動系・近接戦闘用魔法『高周波ブレード』。

 

 

一足跳びで間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす桐原。

 

 片手の打ち込みに、速さはあっても最前の力強さはない。女の紗耶香でも、受けることは出来ただろう。

が、沙耶香はその一撃を受けようとせず、大きく後方へ跳び退った。

 

 

その竹刀を受けることは出来ないから。

 

 

紗耶香の胴に、細い痕が走っている。

桐原の竹刀が、かすめていたのだ。それだけで、固い胴に痕が走ったのである。

 

沙耶香の頬を冷たい汗が伝う。

 

 

その様子に、追撃をかけようと、再び竹刀を振り下ろす桐原。

が――

 

 

全世界の財産(美少女)に何しようとしているのかな?」

 

 

その眼前に、美月が割り込んだ。

指一本(・・・)で桐原の竹刀を止めると、空いていた左手で、その腹に掌底を放つ。

 

――それだけで、桐原の意識は闇の中へと落ちていった。

 

 

静まり返る体育館。

 

 

 

「……何か文句がある奴は出てくると良いよ。――今ここでこいつみたいになる覚悟があるならね」

 

 

 

飛び出そうとしてた剣術部の部員達が、まるでその場に縫い付けられたかのように動けなくなり――

 

 

「――こちら第二小体育館。逮捕者一名、気絶していますので、担架をお願いします」

 

 

 

――達也の淡々とした報告だけが、静まり返った体育館で、やけに大きく響いた。




――そのころの四葉家――

バタバタ ヾ(≧∇≦)〃チラッ 真夜「ここのところ問題が多くて困るわね!当主としての仕事が多くて!」チラッ

ブツブツ(。_。) 水波「……ここの仕事はキャンセル……、いえ、これは平行して出来る……今月はこの三件の仕事は確実にやってもらうとして……残りの六件は達也様と相談して決めるのが良いですね……」


バタバタ ヾ(≧∇≦)〃チラッチラッ 真夜「ああ、忙しいわ!」チラッ



( ̄。 ̄ )ボソ...水波「……うざ」


Σ( ̄ロ ̄lll)真夜「水波ちゃん!?今、うざって言わなかった!?」



( ・∇・)葉山「例の反魔法師運動の件、ブランシュが第一高校にも手を伸ばしている様ですが」

ヾ(。 >﹏<。)ノ真夜「うう、使い用があると思って残しておいたけど、腹いせに潰してやるわ!葉山さん、すぐに手配してちょうだい!」

( ・∇・)葉山「かしこまりました」



こうしてブランシュは、静かに処理されたという。




はい、本編でのブランシュの件は全カットです。
後々本編でも少しは触れるとは思いますが、ブランシュに活躍はないです。
あんな殺伐とした雰囲気、書けないからね!


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第五十六話 羽ペンと捕獲

シリアス難し過ぎて、結果無くなった……。


「――以上が剣道部乱入事件の顛末です」

 

 

閉門時間間際の部活連本部で、本日遭遇した剣道部の騒動について報告を行った、達也の前には三人の男女。

向かって右に生徒会長、七草真由美。中央に、ある意味で彼の上司である風紀委員長渡辺摩利。そして左の男子生徒が、部活連会頭、十文字克人だ。

身長は一八五センチ前後。見上げるような大男、という訳ではないが、分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かる、くっきりと隆起した筋肉で、巌のような男だった。

 

流石は真由美、摩利と並んで第一高校三巨頭に数えられる人物、と達也はその外見と印象だけで納得した。

十文字、の名は伊達ではないようだった。

 

 

「もう!みーちゃん、危ないことはしないって私と約束したわよね!?どうしてこんなことしたの!」

 

「だって危なかったし、ぼく風紀委員だし……」

 

「達也くんがいたでしょ!」

 

「おい七草、柴田は職務を全うしただけで、何もそこまで叱りつける必要は……」

 

「十文字君は黙ってて!」

 

「……うむ」

 

 

その、十文字克人が、押し黙る程、今の真由美には迫力があった。

 

 

「大体、高周波ブレードを素手で止めようなんて!私なんて、その話を聞いたとき、気を失いそうになったのよ!?」

 

「素手じゃなくて、ちゃんと振動系魔法で相殺してましたよ!」

 

「それでも危ないことに変わりはないでしょ!どうしてそう無茶するの!」

 

 

摩利は完全に呆れた様子で、真由美の好きにさせる方針のようで、達也は特に助け船を出そうとは思っていない。

自分に任せておけば良い、とは達也も少なからず思ったことであるからだ。

これで美月が自重するなら、良い薬だ、と黙りを決め込んだ。

 

 

「とりあえず、みーちゃんは1ヶ月風紀委員はお休みにします!」

 

「ええ!?」

 

「七草、それはいくらなんでも職権濫用なのでは……」

 

「十文字君は口出ししないで!」

 

「……うむ」

 

 

真由美の突飛な発言に、意を唱える十文字であったが、またも真由美の一言に、押し黙ってしまった。

意外に押しに弱いようだ。

 

 

「達也くん、こっちはこっちで話を進めようか」

 

「……はい」

 

 

こってりと絞られている美月の横で、至って冷静に、摩利が達也に言った。

何となく、三巨頭のパワーバランスを理解した達也であった。

 

 

 

 

 

「うぅ、まさか真由美さんに怒られることになるとは……」

 

「まあ、流石に過保護過ぎな気はするが、良いことじゃないか。それだけ美月のことを大切に想ってくれているということだ」

 

「……そうだけどさぁ」

 

 

結局、話し合いの末、1ヶ月から二週間になったものの、風紀委員の仕事を暫く『謹慎』することとなった美月は膨れっ面であった。

 

「もう、こんな時は癒しが必要だ!深雪ー!」

 

「深雪なら先に帰らせたぞ」

 

「嘘!?」

 

 

美月が驚くのも無理はない。

美月が知る限り、達也たち兄妹が片方を置いて先に帰るなんてことはなかった。

それに、深雪の性格上、達也がどれだけ遅くなろうとも、一人健気にいつまででも待っているだろう。

 

 

「勿論、一人では帰していないさ。エリカとレオも一緒だ。それに、四葉()の護衛も付いている。と、言ってもエリカやレオに気取られない程度には離れたところからだがな」

 

「それにしたって、達也が深雪を一人で帰すなんてありえないよ!」

 

「……お前が何故そう頑なに俺の言うことを信じないのかは、この際置いておくとして、だ。

学校に待たせておく方がリスクが高い(・・・・・・・)、と判断した」

 

「なんでさ?」

 

 

達也と口論している内に、校舎内でも、まだ美月の来たことのないところへ来てしまっている様だった。

 

 

 

「――校内に、俺たちを監視している人間がいるからだよ」

 

 

 

言うと同時に、達也は振り返ると、懐から取り出したペン(・・)を勢い良く投げた。

魔法によって加速したペンは、廊下の曲がり角へと飛んでいき、すぐに、ドスッと壁に突き刺さった音が聞こえて――

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

――同時に、可愛らしい悲鳴が響いた。

続けて、あわわわわ!?という大慌ての見本のような声が聞こえてきて、既に、その声の主が判明してしまっていた。

 

 

 

「さて、どうしてこんなことをしたのか聞かせてもらおうか――未亜」

 

 

そして案の定、廊下の曲がり角には、ポールペンでブレザーを縫い付けられ、大慌てで脱ごうとしている未亜の姿があった。

 

 

「くうっ!」

 

 

姿を見られ、もう形振り構っていられないと思ったのか、左腕に装着されたCADを操作して魔法を発動させる――が。

 

 

「悪いが魔法の無効化は得意なんだ」

 

 

魔法は、達也の得意魔法、術式解体でその効果を発揮せずに霧散した。

 

 

「それは予測済みです!」

 

 

しかし、それは事前の調査で予測済み、手のひらサイズの筒のようなものを投げつけると、そこからガスが吹き出した。

 

 

「催涙ガスか!?」

 

 

強力な催涙ガス、訓練を受けた軍人でも、足を止めてしまうほど強力なそれを、高校生が無防備に受けて無事なわけもない。

未亜は、縫い付けられたブレザーをその場に残し、逃走を謀る。

 

 

――その手を、誰かが掴んだ。

 

 

「――悪いが、そういうもの(・・・・・・)は効かない体質なんだ」

 

 

「そんなことって……」

 

 

愕然とした様子で呟いた未亜を、達也はテキパキと拘束していく。

 

 

「ちょっ、達也!ぼくは大丈夫じゃないんだけど!」

 

 

そんな中、離れたところにいたおかげで、なんとか魔法によって催涙ガスを防ぐことに成功した美月が窓を開けて、そのまま魔法でそこにガスを誘導していく。

 

 

「……美月、そのCADで良く防げたな」

 

「空調操作の魔法の()が入ってたんだよ、それを応用したから、なんとか間に合った」

 

 

美月が左手でくるくると回しているのは、羽ペン。

羽ペン、と言っても、それは鳥の羽で出来ているわけではないらしく、鈍い銀色。

羽ペンのような形をした、CAD、というのが正しい。

 

それは達也が、美月の誕生日に贈った――勿論トーラス・シルバー製の――CADだった。

美月が偶然生み出した革新的な魔法の使い方――それに特化したもので、達也にしてみれば、技術的な意味はあるものの、実戦的ではなく、お遊びのためのCAD、という印象だったため、それしか持ってきていないらしい美月に苦い顔だ。

 

 

「そのCADは咄嗟の時に対応が遅れる欠点がある。普段持ち歩くには、あまりおすすめは出来ないんだが」

 

「んー、でも達也からの誕生日プレゼントだし……気に入ってるから」

 

「……そうか、そんなに気に入っているなら後でもっと実戦的なものに改良しよう」

 

「あのー、私がいるの忘れてませんか……」

 

 

相変わらず、差ほど表情に変化はないものの、知り合ったばかりの未亜ですら分かるほど嬉しそうな雰囲気を出している達也に、未亜は思わず、苦言を呈した。

 

 

「いや、忘れていないさ。美月、念のため、魔法的拘束もしておいてくれ。どうも俺はそういうのは苦手でな、足を切り落とすくらい(・・・・・・・・・・)しか思い付かん」

 

「ひぃっ!?」

 

 

全くの真顔でそんなことを言う達也に、すっかり怯えた様子の未亜だったが、美月にはそれが達也なりの冗談であり、本気で言っていない、ということが分かった。

 

 

「もう達也!未亜が怯えてるでしょ」

 

 

自分が監視されていた、ということを忘れているのか、ロープで拘束されている未亜に、怖くないよー、と頭を撫でながら、CADを向けた。

 

すると、未亜の背にサイオンの模様(・・・・・・・)が浮かび上がる。

 

 

「平衡感覚を狂わせる魔法だよ。少しの間だけだから、我慢してね」

 

 

手足を拘束された状態で、さらに平衡感覚を狂わされてはもう何も出来ない。

それどころが、魔法の影響なのか、クラクラとして、こうして床に転がされているだけのはずなのに、体を揺らされている様だった。

 

 

「こうして持続的に効果を発揮できる、という点は強みではあるな」

 

「ぼくとしては、いかにも魔法!って感じで格好いいってところを評価して欲しいんだけど」

 

 

その、未亜の様子を見て、冷静に分析する達也に、美月は不満気に頬を膨らませる。

美月としては、この簡易式刻印型魔法(・・・・・・・・)の真骨頂は、そこではなかったらしい。

 

 

「サイオンを刻印のパターンで投影することによって、刻印型魔法を使う……純粋な魔法師では、まず思い付かんだろうな」

 

「CADに刻印の型を保存しておけば、刻印を描く手間は省略できるし、何より、一度にいくつも魔法を使えるっていうのが魅力なんだよね。――こんな風に」

 

 

美月がCADを向けると、サイオンの模様が未亜に浮かぶ。

未亜本人は、これによってどんな変化が起きたのか、分かっていない様子だったが、達也たちからしてみれば、一目瞭然だった。

 

 

「光学迷彩か……」

 

「うん、これで未亜を運び出せるよね。外に車、用意してるんでしょ」

 

「お見通しか、良く分かったな」

 

「達也ならそうするかなって思っただけ。ここで尋問するのはリスクがあるし、何より、情報の信憑性を確かめるのにここは不便。そうなると、そうだね、先生のところに運ぶんじゃないか、って思っているんだけど、どうかな?」

 

「……正解だ。美月、まさか心を読んでいないだろうな?」

 

「読んでないよ、でも、そろそろ使っておこうかな。未亜が何を考えているのか、分かった方がいいでしょ?」

 

 

先生のところ、とはどこなのか、心を読む、とは何なのか、未亜にはさっぱり分からなかったが、何だか達也と美月の夫婦のようなやり取りがイチャイチャしているような気がして、この場にいるのがツラかった。

もう、何なら、耳を塞いで欲しい。

 

 

「では未亜、これから君を学校から連れ出すが、下手な真似はしないでくれるとありがたい。――俺も人の肉を裂くのはあまり好きじゃないんだ」

 

 

 

やっぱり耳を塞いでください!っと、未亜は心から懇願した。

 

 

代わりに口を塞がれた。

ガムテープで。

 




――そのころの真由美さん――


(゚Д゚;)真由美「あああああ!!どうしよう!みーちゃんに嫌われちゃってたらどうしよう!」

(゜-゜)摩利「はぁ、もう散々話したろ。美月がそう簡単にお前を嫌うわけがないだろう」

(。 >﹏<。)真由美「でも落ち込んでたわよ!?ああ、そういえば最近、メールをする回数も減っている気がするし!私、もう既に嫌われてるの!?そうなの!?」

(゜-゜)摩利「入学直後で色々あるんだ、メールの回数だって減るさ」

((( ;゚Д゚)))真由美「だって、前は、1日に何十件もメールのやりとりをしていたのよ!?それが今では……」

(-。-;)摩利「君らは恋人か何かなのか……もう面倒だな……よし、あいつに押し付けるか」


数分後。


(* ̄▽ ̄)ノ 摩利「というわけで、後は任せた。あたしは帰る」

Σ( ̄ロ ̄lll)服部「は?何がというわけなんですか!?というかなんで会長は泣いているですか!?ちょっと!?」


急に呼び出され、面倒なのを押し付けられるも、何だかんだで、親身に話を聞いてあげる服部であった。





USNA編、本格始動。


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第五十七話 最強VS最強

区切りの良いところで切ったら短めに……。
も、文字数より内容ですよね!(汗)



車に乗せられた瞬間、耳栓とアイマスクで、視覚と聴覚を奪われ、そのままどこかへ運び込まれ、椅子に拘束された未亜は焦っていた。

 

――途中、エレベーターに乗ったのは間違いない……でも、何度も上がったり、下がったりして、何階なのかは分からない……そもそも、ここがどこか分かっていないのだけど。

……明らかにお寺ではないわ……二人の会話を聞いている限り、そこに向かうような口振りだったのに……。

 

 

思考を巡らせるも、答えが分かるはずもない。

精々分かるのは、ここから自力での脱出は不可能だと言うことだけだ。

魔法師としては二流、日本の高校生にすら劣る自分が、近接戦闘に優れ、魔法を無効化する術を持っている達也を含む数人を相手にそんなことは天地がひっくり返っても無理だ。

 

そうなれば、このまま捕虜になってしまうことは避けられない。

なら、考えるべきはその後。

 

 

――どこまでの情報を、どのタイミングで話すか。

 

 

持っている限りの情報を整理し、どこまで言っていいのかを考える。

達也は戦いに慣れている印象だった。どこかの家の関係者かとも思っていたが、実際は、特殊な訓練を受けた軍人なのかもしれない。

高校生として日常を送るセレネ・ゴールド=柴田美月の護衛として軍から派遣された者、そう考えれば、彼の優秀さと、歳の割に戦闘経験が豊富なのも頷ける。

相変わらず、当たらずも遠からず、しかしどこかずれている推理をしながら思考を巡らせ、未亜は一つの結論を出した。

 

 

――本当に重要な情報を言わずに、大した価値もない情報で相手を満足させる。

 

 

これから、されるであろう尋問、それにある程度まで耐え、もう限界であるかのように見せかけて、最も重要なことは言わずに、ここを乗り切る。

嘘の情報を下手に言わずに、本当の事を、本当に隠したいことを黙ったまま、話す。

 

未亜がするべきは、時間稼ぎ。

USNA軍のサポートチームが、この場所を割り出し、準備を整えるまでの。

 

 

 

「さて未亜、これから尋問を始めるわけだが、その前に話すべき事を話してくれれば、俺は何もしない。どうだろう、ここは穏便に済ませてみないか?」

 

 

耳栓が外され、達也の声が聞こえてくる。

感情の読めない声。その声から、何かを感じ取れる程、未亜は達也と親しくはない。

 

 

「頷くとでも?」

 

「まあ、それはそうだろうな」

 

 

ぽんっと、頭に手を置かれたのが分かる。

これから、どのような尋問が始まるのか。どんな尋問であっても、重要な情報は漏らさない。

 

 

 

――そのくらいの覚悟とプライドは私にもあるっ!

 

 

未亜が迫り来る尋問に、覚悟を決めた、その瞬間――

 

 

「なら、これで尋問は終了だ」

 

 

「はっ?」

 

 

―――それは勝手に終わりを迎えた。

 

 

「残念ながら未亜、君の耳栓を取った時点で、既に尋問は終了している。いや、尋問をして聞き出すべき情報(・・・・・・・・・・・・・)は全て引き出し終わっているというべきか」

 

 

達也の言葉の意味が分からなかった。

未亜は一言も、情報について話していない。まさか無意識の内に話していたのか、と一瞬考えたが、今、視界の端に写っている時計を見るに、自分が捕まってから、今に至るまで、自分の時間感覚とズレはない。つまり、自分は何らかの方法で自白をさせられてはいないということ。

ならば、一体どうやって――。

 

 

 

「――魔法兵器トリシューラ」

 

 

 

思考は、達也の一言で全て吹き飛んだ。

それは、一番言ってはいけなかったこと(・・・・・・・・・・・・・・)。未亜が一番隠そうとしていたこと(・・・・・・・・・・)だったのだから。

 

 

「USNA軍が開発中の魔法兵器、『トリシューラ』。衛星軌道上まで上昇し、世界中のあらゆる場所にヘビィ・メタルバーストを放つことができる。全くUSNAは未だに魔法師を兵器としてしか評価できない様だな。……まあ、それはこの国も同じことか」

 

「な、何故そこまでの情報を!?私ですら知ったのは今日だと言うのに!」

 

「俺も知ったのは、ついさっきだよ」

 

 

分からない。

ついさっき、とはつまり、未亜が拘束されている間に、ということだ。

いくら耳栓とアイマスクを付けられていても、何かされれば気がつくだろう。

未亜は精神干渉系魔法を疑ったが、それでも記憶を残さずに、何の違和感も与えず、情報を自白される。

そんなことが出来るとは思わない。

それこそ、有名な『忘却の川の支配者(レテ・ミストレス)』だって不可能だったはず。

 

 

「戦略級魔法『ヘビィ・メタルバースト』、密かにUSNAで開発されていた『FAE理論』、そして、黄金の錬金術師『セレネ・ゴールド』。

これら3つが揃うことで完成する超兵器か。確かにFAE理論が実現しているなら、可能だろうな」

 

 

情報は正確だ。

もう何もかもバレてしまっている。

 

 

――これで、後戻りは出来なくなった。

 

 

自分が不甲斐なかったばかりに、将来のある高校生の命はきっと口封じのために奪われてしまうだろう。

USNAは、日本に最高戦力(・・・・)を投入している。セレネ・ゴールドの確保は、今後のUSNAの発展に大きく関わってくるのだから当然だろう。

いくら達也が戦い慣れた達人であっても、相手はUSNA最強の魔法師。

 

これから起きるであろう悲劇に、未亜は声も出さずに項垂れた。

 

 

「優しいんだな」

 

 

優しさではなかった。

だってきっと、達也たちと話したこともなくて、日本の高校生を抹殺した、と聞いてもこんな気持ちにはならない。

自分が、人の命を奪う、そのトリガーになってしまったことが、嫌なだけなのかもしれない。

 

 

「だから教えておこう。いや、逆に謝らせてくれ。――USNAにトラウマを刻んでしまうことを」

 

 

自信。

アイマスクをされている未亜には、達也の表情は分からなかったが、それでもその声からはそうなることを信じて疑わない自信が溢れている。それはもう確信、と言える域の様ですらあった。

 

 

 

「……無理ですよ。こうして、今回の作戦が漏れてしまった以上USNAは本気になります。迅速に事態を終わらせようとするでしょう。いよいよ投入されるんですよ。

USNA最高戦力……スターズの総隊長にして、戦略級魔法師――」

 

 

そうだ。

既に日本へ入国し、準備を整えている。

正規軍人になって二年、歴代最年少でスターズ総隊長の座に就いた天才。

 

 

「――アンジー・シリウスが」

 

「それが?」

 

 

尚、揺らがない。

最強の名を前にして、それでも自信に揺らぎはない。

何が彼をこうまで信じさせるのか。

 

 

「USNA最強、確かに脅威だ。だがな、こちらは――」

 

 

 

――瞬間、窓ガラスが割れた。

そして、転がるように部屋の中に侵入したのは、怪人。深紅の赤い髪と、黄金の瞳、そこに黒ずくめの衣装、黒い仮面とくれば、そう称する他ない。

背格好から性別が分かる程ではないが、男性にしては小さく、華奢に見えるその怪人は、油断なく周囲を見渡す。その怪人こそがUSNA最強の魔法師、アンジー・シリウス。

 

 

迎え撃つは――

 

 

「動かないで頂戴ね、もう貴女は私の射程範囲内なのだから」

 

 

――四葉真夜。

 

 

 

「世界最強だ」

 

 

夜が訪れる。

闇が全てを覆い隠し、無数に輝く星々は一つ一つが防御不可能の流星となる。

 

 

流星群(ミーティア・ライン)

 

 

『夜の女王』、四葉真夜の代名詞たる魔法は、その深い闇と煌めく光の粒で、完全にアンジー・シリウスを捉えていた。

 




(`・ω・´)キリッ 水波「……もう貴女は私の射程範囲内なのだから」

Σ( ̄ロ ̄lll)真夜「私そんな顔していないわよ!?」



(ノ∀≦。)ノ プッ 水波「……も、もう貴女は、わた、私の射程範囲内なのだから……ぷふっ」

(*`Д´*) 真夜「笑いながら繰り返すの止めてくれるかしら!?///」



(゜-゜)テッテレー 水波「ちなみに尋問用にずっと録音していたみたいで、ここに音源が……カチッ……『もう貴女は私の射――」

(((`□´/)/¥ 真夜「い、いくらなの!?お金ならいくらでも出すから売って頂戴!」






(" ̄∀ ̄")ニヤリ 水波「チョロいですね」


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第五十八話 二人の約束

今話、砂糖注意です。



空間の光分布に作用する収束系の系統魔法である 流星群(ミーティア・ライン)は、光の分布を偏らせることで光が100%透過するラインを作り出し、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ、あらゆる物理・魔法防御が困難な、超攻撃力の魔法。

 

発動してしまった以上、対抗するには、使い手が殆ど居ないと云われている無系統魔法の超高等対抗魔法、術式解体(グラム・デモリッション)のように魔法式を無意味にするか、領域干渉によって「光の分布」という単一要素に対する干渉力で術者を上回る必要があるのだが、その弱点とも言えない弱点すら、今、この場においては存在しない。

 

アンジー・シリウスには、その二つの手段は使えないからだ。

さらに、この場には達也がいる。

 

術式解体(グラム・デモリッション)どころが、術式解散(グラム・ディスパージョン) を難なく使いこなす、魔法無効化を得意とする達也が。

 

つまり、アンジー・シリウスは魔法を使わず、真夜の 流星群(ミーティア・ライン)を防がなくてはならない。

 

当然、いくらUSNA最強の魔法師と言えど――

 

 

 

「いやー、四葉お抱えの魔法師は優秀だね。僕の出番なんて全く無かったよ」

 

「先生の仕事は、ここにアンジー・シリウスを一人で突入させた時点で達成されていますから出番というならそれで十分では?」

 

「まあ、僕は忍びだしね。裏方に徹しているというのは、良いことなのかな」

 

 

 

――簡単に拘束されるしかない。

 

そもそも、この部屋に一人で突入してしまった時点で、全ては達也たちの掌の上だったのである。

アンジー・シリウスは当初、チームで行動していた。いくら高校生相手とはいえ、未亜を誘拐している以上、ただの高校生とはUSNAも考えていない。

油断なく、万全の体制で任務は開始された。

 

しかし、万全の体制であったのは、USNAだけではない。

アンジー・シリウスを含むスターズが入国しているという情報を、どこからか(・・・・・)入手した真夜は、午前中の内から達也に指示を出し、体制を整えていた。

 

 

「でもまさか、美月君のために、四葉家の当主である貴女が直接来るとは思いませんでしたよ」

 

「達也さんと婚約している以上、既に美月さんは四葉の人間ですから、守るのは当然ですわ」

 

 

アンジー・シリウス率いる部隊は、このホテルに辿り着くまでに、何度か交戦し、ホテルの直前でも足止めされ、結果、隙を見てアンジー・シリウスが単独で突入することになったのだが、それこそが巧妙に仕組まれた罠だったのである。

 

 

「確実に無傷で捕らえるには、私が一番適任ではありますしね」

 

「貴女相手に単独、それも達也君がいては万に一つも負けはないでしょうね、考えうる限り最強と言っていい。あ、そういえば、美月君は?」

 

「未亜の心を読んで情報を入手した後は、そっちの部屋で寝てますよ。急に(・・)眠くなったんだそうです」

 

 

未亜を椅子に拘束した後、すぐに尋問をせずに放置したのは、迫り来る尋問に情報を整理している未亜の心を読み、情報を抜き取るためだった。

トリシューラの情報は、こうして手に入れたのである。

尋問が始まった時点で、未亜の持っている情報は全て筒抜けだったのだから、すぐに尋問が終わるのは当たり前であった。

 

 

「俺や叔母上が、万が一にも負傷した場合、『再成』があったとしても、その場面を見られれば、暴走するかもしれませんから」

 

 

そして、その後、美月が急に眠くなったのは、達也が睡眠薬を飲ませたからである。

もし、アンジー・シリウスが一人で突入して来なかった場合、アンジー・シリウス以外は処分(・・)することになるだろうし、もし交戦して、負傷したところを見られれば美月が暴走してしまうかもしれない。

どちらにせよ、見せるわけにはいかず、かといって美月の行動を完全にコントロールすることは難しいと考えた達也が、安全策として眠らせたのだ。

 

 

「あら、私もなのかしら?」

 

「美月は叔母上の事を慕っていますよ。九校戦を一緒に観戦した、と何度も自慢されました」

 

「そ、そう?」

 

 

あまり、そういう類いの純粋な好意を向けられたことがないのか、真夜は照れながらも、嬉しそうであり、達也としては意外感と共に、誰にでも好かれる傾向にある美月に感心した。

 

 

「では、俺は予定通りここで。後の処理はお任せします」

 

「そうですね。流石にアンジー・シリウスを捕らえたとあっては隠蔽も出来ませんし、達也さんは初めからここにいなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)、ということにしないといけませんから」

 

 

USNAが本格的に動きだし、交戦した以上、事は既に国家間の問題にまで発展しようとしている。

四葉家といえど事態の真相を丸々隠蔽するのは不可能だ。

が、今回の騒動そのものを無くすことは出来ないにしても、部分的に隠すくらいは難しくない。

 

達也と四葉の関係は勿論、まだセレネ・ゴールドの正体も明かす気はない真夜は、これからそういった隠蔽のため、情報操作などの工作を行った後、日本魔法協会の関東支部のある、横浜ベイヒルズタワーに向かう予定であった。

セレネ・ゴールドが襲われアンジー・シリウスを捕らえたことを、魔法協会へ報告しなくてはならないからだ。

 

 

「恐らく、緊急で師族会議が開かれることになると思いますから、そこで計画通り(・・・・)に話が進むよう操作はしてみますが、もしダメならまた選定(・・)はやり直します。達也さんも候補から選んでおいて下さいね」

 

「ええ、リストには目を通しておきます」

 

 

こうして、真夜の元を後にした達也は、眠ったままの美月と共に、四葉の車で自宅に帰宅したのだった。

 

 

 

 

 

 

「いつまで膨れてるんだ」

 

「……達也が謝るまで」

 

「すまなかった」

 

「駄目、心がこもってない」

 

 

司波家の客室にて、ベッドに座って枕を抱いた美月は、頬を膨らませて、達也と目も合わせず、つんとそっぽを向いていた。

アンジー・シリウスを確保したとはいえ、まだUSNAと日本の間で、何の取り決めもされていない今、追撃がないとも限らない。

だからこうして安全のために、美月は今晩、司波家に泊まっていくことになったのであるが、もうすぐ日付が変わるというこの時間まで二人が話しているのは、それとは全く関係がないことであった。

 

 

「ぼくに情報を取らせるだけ取らせて、用が無くなったら眠らせるとか……。

今回ばかりはぼくも本気で怒っているからね!もう達也が謝るまで口聞かないから!」

 

「こうして謝っているだろ」

 

「ぼくの耳は今達也の言葉を全カット中ですー、何も聞こえませんー」

 

 

ベッドに寝転がると布団を頭から被って、達也の言葉を完全にシャットアウトする美月。

そんな美月に、これはもう今日は駄目だ、と感じた達也は、腰かけていた椅子から立ち上がり、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。

その時。

 

 

 

「……本当はね、分かってるよ。達也がぼくのためにしたって。……でも、それを許すか、許さないかは、別。ぼくを除け者にした代償は大きいからね……」

 

 

 

小さな声だった。

達也には、こんな美月の声は聞いたことがない。小さなはずの声なのに、どうしてか、良く響いて、どうしてか――胸が締め付けられるような違和感を感じる。

 

 

 

「……じゃあ、どうしたら許してくれるんだ?」

 

 

 

達也は、美月の信頼を利用して、睡眠薬を飲ませて眠らせた、だからこうも怒っているのは仕方のないことだ、と自分の非を完全に認めていた。

だから謝っているし、本当に悪いことをしたと思っているのだ。

 

 

――でもそれで、美月が許してくれるはずもなかった。

なぜなら達也は、美月が怒っている理由を、何一つ理解できていないのだから。

 

 

美月は、自分のために、達也が傷ついてしまうことが、嫌だったのだ。

だから、今回は(・・・)役に立てると、足手まといにならずに済むと思っていた。

魔法を学んだ。体術を学んだ。あの時(・・・)の自分とは違うのだから。

 

しかし結果は、眠っている間に全ては終わっていた。

良く考えれば、分かったことだった。

美月は戦いというものを知らない。そんな素人を、達也が戦わせるなんてするわけがなかったのだ。

 

結局、何も出来なかった自分。何もさせてくれなかった達也。

 

理不尽だと、自分本意だと、そんなことは分かっている。

 

拗ねて、駄々をこねて、達也を困らせているだけなんだと。

 

それでも、許せないことはある。許しちゃいけないことはある。

 

誰かが教えてあげなくちゃいけない。伝えねばならない。

 

 

――達也が傷つくと、他の誰か(ぼくや深雪)も痛いんだ。治るとか治らないじゃなくて、その事実が痛いんだ。

 

 

このままの達也では、いつか消えてしまいそうな気がした。

手の届かないどこかへ、行ってしまいそうな気がした。

 

 

 

「……ぼくの言うことなんでも一つ、叶えてくれるなら許してあげる」

 

「なんでもって、なんだ?」

 

「……まだ考え中。思い付いたら言う」

 

 

 

 

――どこにも行かないで。

 

 

口から出てしまいそうになった言葉は、何とか胸の内に留めた。

なんでそんなことを言おうと思ったのか、一瞬後には全くの謎となったのだが、一瞬とはいえ、そんなことを思ってしまったのは確かで、どうもそれが凄く恥ずかしいことのような気がして。

 

顔が赤くなる。布団を被っていて良かったと心の底から思った。

こんな顔を見られては、もうしばらく、顔を合わせることも出来なかったかもしれない。

 

 

 

「はあ、分かった。それで良い」

 

 

 

達也が了承するのと同時に、のそのそと、布団から顔を半分ほど出した美月は、まだ少しむくれているようであったが、こうして布団から顔を出したということは、達也シャットアウトは終了した、ということなのだろう。

美月にとっては幸いなことに、まだ少し赤い頬は達也からは、布団に隠れて見えることはない。

 

 

「約束だかんね」

 

「ああ、約束だ」

 

 

達也が返事をすると、美月はどこか安心したように、小さな寝息を立てて眠り始めた。

達也はゆっくりと近づいて、顔を半分まで隠してしまっている布団をかけ直してやると、優しく髪を撫でる。

 

柔らかい黒髪は、深雪のものとはまた感触が違って、でも、手からサラサラと溢れ落ちていくのは同じで。

 

 

そして、深雪の時にはない、心揺さぶられるような、温かい『何か』は美月と一緒にいるとき、幾度か感じたことのあるもので。

 

 

 

それが『愛しい』という『感情』なのだと、この日、達也が気がつくことは、最後までなかった。

 




(。_。)深雪「ついに自宅のシーンですら登場できなくなりましたか……」


(´-ε -`)ブーブー 深雪「なんでもUSNAからまた美少女が来たとか」


(_ _|||)深雪「こうなっては、もう私っていらない娘ですよね……」


(つд;*)深雪「……寂しい」


やさぐれ始めていた深雪さんであった。




これから砂糖多めで本格的にラブコメを始めていこうと思います!

ではまだ次話で!


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第五九話 美月の守護者

この世には、ポケットに入るモンスターのゲームがあってだね。それは、時間を無限に奪っていくんだ。

じ、次話から本気出すよ!頑張るよ!


USNAの騒動から一週間。

その後、事件についての情報は何もなく、未だ達也が何やらこそこそしている様なので一言言ってやらねば、と思っている。

ここ最近忙しくて、あまりその辺のことを言う機会がなかったのだ。

 

というのも、実は我が家で大事件があったからなのだ。

父が、海外に転勤することになったのである。突然そんなことになって我が家は当然大慌て。父は英語が殆ど話せないから翻訳家である母が父に着いていくことになった。

 

普通、海外への転勤とか、もうずっと前から教えられているものなんじゃないかと思うのだけど、ぼくは父の仕事のことは全く分からないし、そういうこともあるのか、と勝手に納得している。

 

二人が海外へ行くってなって、学校も仕事もあるし、そもそも魔法師であるぼくは海外へなんていけるわけがないから、日本に残ることになったのだけど、そうなると、困るのってむしろ両親の方なんじゃないか、ということに気がついた。

 

この家の家事って殆どぼくがやっていて、母は無類の料理下手、二人で生活とか大丈夫なのだろうか。

 

不安しかないのだけど、まあ、ぼくが生まれる前はそれで暮らしていたんだし、なんとかなるのかな?

 

さて、そんなわけで一人になってしまったぼくであるが、これが案外、そう大変なのものでもなかった。

ただ、一人だと料理するにも作れるものに限りが出てしまうから、そこは残念ではある。一人分の食事だけを作るのにあまり凝ったものを作ろうという気にはならないしね。

そんなことを考えていたから、というわけではないのだろうけど……どうやら同居人が出来るようです。

 

 

 

 

 

 

「ガーディアン?」

 

「ああ、今回の件で、美月にもガーディアンが必要だと、叔母上と考えてな」

 

 

大切な話があるということで、家にやってきた達也が語ったのは、四葉の仕来たりについてだった。

四葉家というのは、何かと恨みを買っている関係で護衛を付ける仕来たりがあるそうなのだけど、その護衛のことをガーディアンと呼ぶらしい。

ちなみに、達也は深雪のガーディアンで、水波ちゃんもいずれはその任を負うことになる様だ。妹の護衛、ってもうシスコン振り切り過ぎて目も当てられない、と思うのはぼくだけだろうか。

 

 

「じゃあ、もしかして水波ちゃんが!?」

 

 

ガーディアンは主人と衣食住を共にして、常に主人を守る、ということだったから、もし水波ちゃんがガーディアンなら、ぼくのハッピーライフが始まるよ!

 

 

「いや、それも検討はしたが、水波はまだ研修中だからな。それに、その話をしたら普通に嫌な顔をされた」

 

「水波ちゃんってもしかして、ぼくのこと本気で嫌いなのかな!?」

 

 

ぼくへの対応が日に日に酷くなっている様な気はしていたけど、まさか本気で嫌われてるの!?

 

 

「そんなことはありませんよ、まあ、多少うざいな、と思うことはありますが」

 

「あるんだ!?それ言っちゃうんだ!?……って水波ちゃん!?」

 

 

あまりにもあんまりな内容につい突っ込んじゃったけど、水波ちゃんいつからそこにいたの!?

というか、メイド服可愛いね!ありがとうございます!

 

 

「美月に付けるガーディアンの教育係が水波でな、初の顔合わせを見届けに来たんだ」

 

「私の初めての後輩ですから、最後まで見届けさせてください。それに少しずつマネージャー業も彼女に引き継いでもらう予定なので、その辺の打ち合わせも美月様としたかったので」

 

ぼくのマネージャーをしているから忘れがちだけど、水波ちゃんは中学生で、今年受験生なんだよね。水波ちゃんのことだから、仕事と勉強の両立ができない、なんてことはないだろうけど、減らせる負担は減らした方が良いに決まってる。

ぼくのマネージャー業の他にも四葉でメイドとして働いていて、ガーディアンになるための訓練もある、というし。こうやって考えると水波ちゃんって、中学生にして働き過ぎというか、社畜というか……より一層優しくしてあげなくちゃな、って思う。

 

 

「な、なんですか、その可哀想なものを見るような目は……気持ち悪いので止めてください」

 

「水波ちゃん、本当にぼくのこと嫌いじゃないよね!?ちょっとうざいだけだよね!?」

 

「さて、どうでしょう」

 

「水波ちゃーん!?」

 

 

完全に水波ちゃんの手のひらの上で転がされているわけだけど、ぼくは水波ちゃんに嫌われるくらいならいくらでも転がれる!そうしていつか、水波ちゃんを香澄ちゃんと泉美ちゃんと並べて、ぼくの妹として愛でてやるっ!

 

 

「水波、そろそろ彼女を紹介した方が良いんじゃないか?」

 

「あ、そうですね。初対面のインパクトを重視して、まだ玄関に待機してもらっていますから。私自身、良いタイミングを見計らってこの部屋に入ってきましたし」

 

「そんな演出別にいらないよ!?いつまで玄関で待たせてるの!?」

 

 

ぼくが達也と話始めてから、優に一時間は経ってるよ!?その間ずっと玄関で放置とか、可哀想でしょ!別に登場にインパクトとか求めてないのに!

 

 

「冗談です。私が入ってきたのは偶然ですし、彼女を放置していたのは、忘れていただけですよ」

 

「それはそれで酷いよね!?」

 

 

この娘どこからどこまでが冗談なのか全く分からないよ!ぼく水波ちゃんの言うこと全部鵜呑みにしているんだからさ!

 

 

「そういう反応をしてくれるところは好きですよ」

 

「ぼくで遊ばないでくれるかな!?」

 

 

くすくす笑いながら、そんなことを言う水波ちゃん。

昔はもうちょっとぼくを敬ってくれていた気がするんだけど、いつからこうなっちゃったの!?いや、元からこんな感じだったかもしれない……。

 

 

「では、流石にそろそろ呼ぶことにしましょう」

 

 

もう水波ちゃんに翻弄されて疲労困憊なんだけど、ここからが本番だったという……。

水波ちゃんじゃないけど、初対面は大切。しっかりしないとね。

 

心なしキリッとした表情を作ったり、身だしなみを整えたりしていると、玄関の方から、水波ちゃんと、ぼくのガーディアンと思われる女の子の声が聞こえてきた。

どんな会話をしているのかは分からないけど、なんとなく、女の子が怒っているようだ、ということは伝わってくる。そりゃ、一時間も放置されたら、怒るよね……。

しばらく口論していたけど、やがて静かになって、水波ちゃんが笑顔で帰って来た。

 

 

「文句を言ってきたので、論破して、正座させてきました」

 

「鬼か!やることがえげつないよ!」

 

 

文句を言われて当然のことをしておいて、正座させるとか、圧倒的パワハラだよ!ぼくは水波ちゃんをそんな娘に育てた覚えはありません!

 

 

「冗談です。論破して泣かせただけで、正座はさせていませんよ、ほら、入ってきてください」

 

「十分以上に鬼だよ!極悪だよ!」

 

 

ぼくは水波ちゃんの鬼畜っぷりに戦慄していて、初め、彼女が部屋へ入ってきたことに気が付かなかった。

 

 

「うぅ、そんなに怒らなくても良いじゃない……」

 

 

そんな情けないことを言いながら、 涙目で落ち込んでいる様子は子供の様ではあるが、そのやや大人びた容姿に歳相応の愛くるしさを与え、彼女の魅力をまた一段と引き上げるためのスパイスとなっていた。

 

 

「ほら、自己紹介をしてください」

 

 

クルクルと巻いた黄金の髪はツインテールに纏められていて、頭に乗せられているレースの付いたカチューシャがティアラに見えるほどに、煌めいている。

そして、その煌めきに負けないくらいの輝きを放つスカイブルーの瞳がその人形の様に整った容姿を神秘的なものへと昇華させて、一つの芸術品として完成させていた。

 

しかし、その類い稀な容姿さえ今のぼくには、霞んでしまう。

 

 

光。

 

 

それは、いつか見た光と同じくらい、ぼくの瞳の中で弾けた。それなのに、頭を駆け巡るイメージは全く違っていて、ぼくの中で新しい絵となって浮かび上がる。

 

ああ、これは、この感覚は、始めて深雪をこの『眼』で見たときと同じ、あの、心の奥の方から濁流のように溢れてくる、興奮と感動。

 

 

 

「久藤アンジェリーナです、本日から美月様のガーディアンとしてこの身を捧げます」

 

 

 

この出会いはきっと、また一つ、ぼくの何かを変えるだろう。

 

高鳴る心臓の音を聞きながら、ぼくはそう確信した。




――四葉家本家某日の出来事――



( ・-・ )水波「今日から貴女の教育係になりました、桜井水波です。貴女には一週間でメイドとして必要な最低限の技能を習得してもらいます」


(-。-;)リーナ「教育係って子供じゃない、ワタシを雇うくらいだし、ヨツバの人材ってそんなに足りてないのかしら」


(#^ω^)イラッ 水波「……そんなことはありませんよ?(こいつ絶対泣かす)」



一時間後には泣かされていたリーナであった。






リーナ降臨!
どうしてこの娘がこんなことになっているのか、あの名字は何なのか、次話以降で明かしていきたいと思います。

それでは、また次話で!


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第六十話 美月の守護者2

ぼくからのお年玉ということで、投稿!
今年もよろしくお願いします!


達也によると、彼女は元々USNAの魔法師だったんだけど、今回の騒動で、USNAから切り捨てられてしまい、そこを真夜さんが保護してあげたらしい。

日本の戸籍を新しく作って、就職先としてぼくのガーディアンをさせることにしたのだとか。真夜さん優しい。

他にも何か色々達也が言っていたけど、適当に聞き流していたから知らない。別にぼくが知らなくても達也が知っていれば問題ないからね。

 

 

「じゃあ俺は帰るが、本当にリーナは今日から住んで大丈夫なのか?別に無理しなくてもホテルを取るぞ?」

 

「うん、部屋余ってるからちょっと掃除すれば全然使えるし」

 

 

そうしてぼくは、達也が帰った後、リーナ(アンジェリーナだからリーナと呼ぶことになった)と、水波ちゃんとの三人で、今後のことを話し合った後、空き部屋の掃除を行うことになった。

ぼくの家には元々子供部屋が二つあって、一つはぼくの部屋なのだけど、もう一つの部屋は特に何も使い道がなくて、今ではぼくの絵が置かれているだけの物置部屋と化していたからここにリーナを住まわせることにしたのだ。

リーナには、主人とはいえ、堅苦しいのは嫌だから、友達の様に接して欲しい、と頼んでおいたので、掃除は終始和やかなムードで進んだ。水波ちゃんの毒舌にリーナがやられて、それをぼくが慰める、といった感じでね。掃除自体は簡単で、部屋には絵くらいしか置いていなかったから、それほど荷物はないし、1時間もしないで終わったのだけど、その1時間の間にぼくは気がついてしまったことがある。

 

 

「もしかしたら、ぼくの勘違いかもしれないんだけど……リーナって、結構残念な娘?」

 

「はい、無駄に容姿が良い分、際立って残念な感じに仕上がっています」

 

「ワタシ怒るわよ!?」

 

 

怒ると言いつつ、もう涙目で、感情が素直に表に出てしまうタイプなのだろう。可愛い過ぎると思ってしまうぼくは悪くない。

 

 

「まあ、フォローするわけではありませんが、これでも魔法に関しては天才と言う他ありませんね。四葉の戦闘訓練でもそこだけは(・・・・・)オールS評価でしたから」

 

「そこだけは、を強調しないでよ!」

 

「え、実際そこだけでしたよね?他に何か出来ましたっけ?魔法だけのリーナさん」

 

「もう止めたげて!?リーナもうマジ泣き一歩手前だから!」

 

 

ぼくがリーナを庇うように前に出ると、半泣きのリーナがぼくの後ろから顔だけを出して水波ちゃんを睨んだ。うん、主人を盾にするという暴挙だけど、半泣きリーナが可愛いから許す!むしろぼくが守る!

 

 

「ミナミは嫉妬しているのよ!ワタシがミヅキのガーディアンになって自分はなれなかったからって!」

 

「何を勘違いしているんですか!?そんなわけないじゃないですか!」

 

「ほら、そうやってムキになってるもの!素直になれないからってワタシに当たっているんだわ!」

 

 

ぼくという盾を得て強気になったリーナが反撃に出ると、予想以上に慌てた様子で顔を赤くする水波ちゃん。あれ?あれれー?もしかして水波ちゃん、ただのツンデレだった?素直になれない妹的な感じなのかな!?

 

 

「ニ、ニヤニヤしないでください!本当に私は嫉妬なんてしてませんからね!?」

 

「ワタシ、知ってるんだから!ミナミが、研修終わったらミヅキのガーディアンをやりたいって四葉真夜に頼んでたの!」

 

「な!?な、ななな何のことでしょうか!?そんなデタラメを言うのは止めてもらえますか!?」

 

狼狽する水波ちゃんに、好機と思ったのか、怒濤の勢いで攻め立てるリーナに、もう湯気が出そうなくらい真っ赤になった顔のまま、ぼくの背後にいるリーナを捕まえようとする水波ちゃん。

 

 

「じゃあ水波ちゃん、直接真夜さんに聞いてみようか♪」

 

「ちょ、止めてください!大体なんで奥様のプライベートナンバーなんて知っているんですか!?」

 

「普通に教えてもらいましたー」

 

 

ぴょんぴょん跳び跳ねて、ぼくが上に上げている携帯端末を奪おうとする水波ちゃんが涙目で可愛い。

こうしている間にも、携帯端末はプルプルプルと呼び出しを続けており――

 

 

「あっ、真夜さん?すみません、急に」

 

 

――2コールもしない内に真夜さんが電話に出て、リーナが水波ちゃんを羽交い締めにして封じた。さっきまで水波ちゃんにやられていた癖に攻勢になった瞬間、これである。こんなに調子に乗って後で痛い目をみないといいのだけど。

 

 

「ほらミナミ、大人しくしてなさい」

 

「は、離してください!」

『……後ろから水波ちゃんの切羽詰まった声が聞こえてくるのだけど大丈夫なのかしら?』

 

「リーナとじゃれてるだけなので大丈夫ですよ!」

 

『そ、そう?』

 

 

もはや悲鳴に近い水波ちゃんの声に戸惑った様子の真夜さんだけど、全然問題ないので、オールオッケー。

 

 

「あの、聞きたいことがあって、水波ちゃんがぼくのガーディアンをやりたい的なことを言っていたそうなんですけど、本当ですか?」

 

 

『ええ、でもまだ研修が終わっていなかったから、先に(・・)アンジェリーナさんを付けることにしたの。メイドとしての能力はともかく、魔法技能も経験も、世界的に見てもそうそういないレベルですしね』

 

「ん?先に、ってどういうことです?」

 

 

()?それってつまり、普通に考えたら、リーナの()に誰かが来るということで。現状考えられるのは一人しかおらず――

 

 

『――研修が終わり次第、水波ちゃんは美月さんのガーディアンとして付けることにしたの。アンジェリーナさんは技能と経験はあっても、ガーディアンとしての教育は受けていないから、水波ちゃんと二人で組ませることでお互いの足りない部分を補い合えると思ったのよ』

 

「本当ですか!?」

 

 

さっきまでなんとかリーナから逃れようと、ジタバタしていたのが一転。信じられないとばかりにぼくの携帯端末に向かって叫ぶ。

 

 

「あれー、水波ちゃん、達也からぼくの話をされたときは嫌な顔をしていたらしいけど……ツンデレなのかな?ほら、遠慮しないでぼくに甘えて良いんだよ?お姉さんはいつでも大歓迎なんだから」

 

「う、うううう!もう知りません!」

 

 

ぼくが頭をなでなでしていると、沸騰しているんじゃないかというぐらいに真っ赤にした顔で、涙を堪えてプルプルしていた水波ちゃんがついに爆発し、家から出ていってしまった。

 

 

「あーあ、怒らせちゃった」

 

「なんで他人事なの!?」

 

 

ぼくのせい、みたいな目で見てくるけどリーナも共犯だからね!?嬉々として水波ちゃんのこと羽交い締めにしてたじゃん!

というか、そもそもリーナが暴露したことから全てが始まっているからね!?むしろ主犯はリーナだよ!

 

 

「ミヅキ、どうするの?」

 

「土下座してくる!」

 

 

ぼくは、それだけ言って、すぐに出ていった水波ちゃんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もう切ってもいいのかしら』

 

 

――真夜さんを放置したまま。




――その後の真夜さん――


(; ̄Д ̄)? 真夜「切っていいのよね?」


(゜-゜)ジー 真夜「…………」


(;´Д`) 真夜「本当に切っちゃうわよ?」


(。 >﹏<。) 真夜「本当の本当に切っちゃうわよ!?」





(つд;*)グスッ 真夜「……寂しい」


放置され、拗ねてしまった真夜さんであった。


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第六十一話 復活の未亜

生きてたよ!ぼく、生きてたよ!
というわけで、恥ずかしながら戻って参りました!お待たせしてごめんなさい!(気がつけばもうちょっとで一年……)
しばらく作品から離れてしまっていたので、慣らすためにも、今話以降、番外編を何話か投稿し、九校戦編へと入りたいと思ってます。


前回までのあらすじ
美月、USNAから狙われる→未亜確保→リーナ(シリウス)が未亜奪還に来るも真夜様がドヤ顔で撃退→リーナ、美月のガーディアンに←今ここ


リーナが家にやって来て三日。

 

リーナが明るく、人懐っこい性格だったのが幸いし、リーナとはすっかり打ち解けることができた。リーナは日本語がペラペラだったから、ぼくの隠されし英会話能力が火を吹くことがなかったのは残念ではある。母が翻訳家で、昔から日本語以外の言語をいくつか勉強していたのだけど、グローバルな現代なのにあまり役に立つことがない。科学が進みすぎて小型の翻訳機なんてものが出るのが悪いのだ。

 

そんなどうでも良い文句を考えてしまうのは、頭が若干パニックになっているからなのかもしれない。

だって――

 

 

「未亜!あんた、急に学校休んだと思ったら全然学校来ないし、電話は出ないしで心配したじゃない!」

 

「うう、ごめんなさい!熱は出るし、携帯は無くすしで、散々だったんです……」

 

 

 

突然、未亜が学校に登校してきたのだから。

 

 

 

 

 

朝、達也・深雪と共に登校し、入口からして場所が違う、二科生の達也と別れようとしたところで、エリカと未亜はやってきた。

なんでも、校門でバッタリ会ったらしいのだ。

 

 

「ちょっと美月、あんたなんであたしの後ろに隠れているのよ」

 

「べ、別に?」

 

「ふーん……」

 

 

エリカが、すっとぼくの前から半歩移動する。ぼくは、慌てて、その後ろに隠れる。

するとすぐに、エリカがまた移動する。当然ぼくは、その後ろに移動する。

 

 

 

「ほら!やっぱり隠れてるじゃない!」

 

 

エリカの指摘に、ぼくはエリカの側を離れると今度は深雪の後ろに隠れる。どうせくっつくなら可愛い女の子の方がいい。

 

 

「深雪~っ!」

 

「大丈夫よ、私が守るわ。意地悪なエリカとは違って」

 

「ちょ、誰が意地悪よ、というか深雪、アンタまで何なの!?」

 

 

困惑気味のエリカと、ぼくの前に立ってガードしてくれている深雪。これってもしや、憧れの私のために争わないで状態なのでは?(違う)

 

 

「エリカさん、そろそろ行かないと遅刻してしまいますよ」

 

「えっ?あ、そうね」

 

 

威圧的な雰囲気でぼくの前に立つ深雪に、ダラダラと汗を流して、エリカを引っ張る未亜。

当然だけど、エリカはぼくらの間に何があったのかは知らない。困惑した様子で未亜に引っ張られていってしまった。

未亜の正体を知る前は、エリカが未亜を引っ張り回していたのに。

 

 

「で、達也。どういうことかな?」

 

「お兄様、何か弁明があれば仰ってください」

 

 

深雪のニッコリとした笑顔に流石の達也もたじろぐ。ぼくは、深雪の横から顔だけ出して、怒ってますよアピール。深雪シールドは笑顔で敵を威嚇するのだ。

 

 

「おい、何故二人して俺を責める」

 

「達也がまたぼくに隠れて、こそこそしてたの知ってるんだからね。それ絶対未亜関連でしょ」

 

「未亜さんがこうして学校に来ることをお兄様が知らなかったはずがありません。美月にガーディアンまでつけておいて、未亜さんのことを把握していなかった、なんてことはお兄様に限ってあり得ませんから」

 

 

そういえば、まだ深雪はリーナと会ったことがないんだよね。あの二人が並び立つとか、考えるだけで恐ろしい。最近忙しすぎて仕事以外の絵を描く時間がなかったから、今度二人をモデルにして絵を描こう。控えめに言って最高だね!

 

 

「深雪、叔母上がどういう手段を用いたのかは知らないが、USNAと直接交渉してシリウスを奪ったのは知っているな」

 

「はい、本当にどうやったのか、スターズの最高戦力を意図も簡単に……」

 

「叔母上は何故かUSNAの内情に詳しかった。USNAの上層部にとって余程不利になる情報を持っていたのだろう。元々、あちらの強行手段によって交渉は叔母上が有利な状態ではあったが、それにしても普通の対価ではない。シリウスに九島の血が流れていることを利用したらしいが、具体的には聞かされていないんだ。

交渉の内容が気になるところではあるが、今はそれは良い」

 

「ねえねえ、達也さんぼく全然話についていけてない」

 

「安心しろ、お前が知らなくても、俺が知っていれば問題ない」

 

「確かに」

 

 

難しい話は達也に丸投げというのがぼくのスタイルなのだ。実際、今言っていることの八割は分からない。確かスターズっていうのが、USNAで有名なアイドルユニットか何かで、シリウスっていうのが、そのセンターなんだっけ?うん、たぶん違うね。

 

 

「シリウスを引き込んだ叔母上だったが、拘束した未亜の扱いに困ったらしくてな」

 

「スターズの総隊長よりは遥かに扱いやすいと思うのですが」

 

 

ぼくが下らないことを考えているうちに話は、未亜のことに戻ったらしい。確か未亜ってUSNAのスパイとして日本に来てたんだけど、ぼくの捕獲任務を与えられて実行した、ということだったと思う。

ぼくと達也で拘束した後、すっかり忘れていたのが急に学校にいたものだから、びっくりした。

 

 

「未亜が魔法科高校に入学していることが問題だったらしい。USNAのスパイが魔法教育の重要機関に潜入していた、という事実は、明確なスキャンダルだろう。そうなれば、第一高校には大規模な調査が入るかもしれない。叔母上が内密に処理した様だがブランシュの件もあるからな」

 

「あ……調査……そうなると私達のことが……」

 

「ああ、『四葉』のことは発覚してしまう可能性がある、だから叔母上は未亜のことをまだ報告していない」

 

「つまり、未亜はまだUSNAのスパイであることが四葉の関係者にしかバレていない?」

 

「そうだ、そしてもしそのことが明るみになれば、俺たちのこともバレる可能性がある。現状、俺たちは未亜のことがバレては困る、というわけだ」

 

 

四葉のことがバレるかもしれないから、未亜のことは誰にも知られるわけにはいかない。だから、急に退学にしたりはしないで、学校生活を送らせるってことなのかな?

 

 

「では、一週間ほど学校に来なかったのは?」

 

「今回の事態を受けて、師族会議があったからな、叔母上が手を離すことが出来ず未亜のことが後回しになっていた様だ。まあ、その間未亜はホテルに缶詰になっていただけで、何かしたわけではないらしいが」

 

 

「ねえ、達也、深雪、話終わった?ぼくもう飽きた」

 

 

 

全然話についていけないし、意味も分からないから、暇すぎる。これでも我慢した方だと思う。何の意味も分からない会話を、目の前で延々、かなり長い間話し込まれたら、ぼくじゃなくても、呆れると思う。

 

 

「ん?というか、もしかして――」

 

 

ぼくが疑問に思った瞬間、一世紀前から変わることのない、鐘の音が校内に鳴り響いた。

 

 

 

「遅刻なんじゃない?」

 

 

結局、余裕で遅刻したぼくらだったけど、怒られたのはぼくだけだったらしい。

 

今回はぼくあまり悪くないと思うんだけど!

 




。゚(゚´Д`゚)゚。 深雪「久しぶりの登場!久しぶりのセリフ!なんて感動!」

∑ヾ( ̄0 ̄;ノ 美月「なんか深雪が可哀想な娘に!?」

(つд;*) 深雪「本編では名前だけでセリフはなく、果ては唯一の居場所だったおまけですら水波ちゃんや叔母上に侵食され、さらには何やらUSNAから美少女がやって来たとか……私はもういらない娘なのかと」

( *´д)/ヨシヨシ 美月「かつてない程のネガティブ!
そんなことないよ、やっぱり深雪という美少女がいてこそ物語は動き出すんだよ(意味不明)」

|||(-_-;) 深雪「いよいよ美月にまで励まされるなんて……もう駄目だわ」

∑(゚□゚;)ガーン 美月「それは普通にぼくが傷ついたよ!えっ、深雪の中でぼくってどんな扱い!?」


(゜-゜) 深雪「頭の足りない娘」

(つ﹏<。) 美月「泣きたい!」


一応、勉強は出来るはずの美月さんであった。





完全説明会なので、少し短めでした。
リーナについては九校戦編になったらもっと詳しくやろうと思っているので、この辺で。け、決して何も考えていないわけではありません。


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番外編 剣道系美少女降臨

番外編は時系列がバラバラになってしまっているので、こんなこともあったんだな、程度に考えてもらえればと思います。


私が桐原君と試合をしてからもう一週間と少しが経った。

 

「紗耶香、最近そうやって意識飛ばしてるけど、何か悩み事?」

 

「へ?あ、ううん、悩み事……というのとはちょっと違う、かな?」

 

 

ここ最近、何だか自分が自分じゃないみたいだった。劣等感に押し潰されそうになって、ただがむしゃらに剣を振るっていた。

強くなれば、劣等感なんて無くなると思っていた。二科生でもこれだけやれるって見せてやりたかった。

 

でも、それってきっと私が勝手に劣等感を抱いているだけだったんだって気がついた。

環境が私を虐げていたのではなく、結局、自分で自分を貶めて、悲劇のヒロインを気取っていただけ。

確かに、一科生と二科生の間には格差があって、時には虐げられることも、差別されることもある。でもそこで、私は二科生だから、と二科生であることを言い訳にして逃げていたのは私自身の弱さだ。

実力が足りなかったから二科生なのであって、自身の劣等感を二科生であることのせいにするのは、間違っていた。

 

たったそれだけのことに気がつけば、なんだか視界が大きく開けた様な気がした。

今まで見えなかったものが見えるようになって、越えられなかったものが越えられるようになった。

 

 

そうすると不思議と思い出すのは、あの日の出来事。

 

 

高周波ブレードによって真剣へと変わった桐原君の竹刀がもうそこまで迫っていて、ああやっぱり、とどこかで私は諦めていて、なのに、怖かった。

直前に、桐原君の竹刀を胴に掠めてしまっていたこともあって、斬られる、という恐怖がその一瞬、大きく膨れ上がっていたのだ。

 

そんな恐怖の中、彼女は現れた。

桐原君の竹刀を指一本で止めて、そのまま桐原君の腹部に掌底を放ち、意識を奪った。

振動系の魔法で、高周波ブレードを相殺していたとはいえ、相手は桐原君だ。

桐原君の本気の一撃を、ただの竹刀だったとしても指一本で止めるだなんて不可能だ。

なのに彼女はそれを、命の危険がある高周波ブレード相手に意図も簡単にやってのけた。

 

あの時、体育館にいたのは、武道経験者や、少なからず武道に興味がある者が殆ど。

彼女のやったことの異常性に誰もが唖然とし、会場は静まり返った。

 

 

『……何か文句がある奴は出てくると良いよ。――今ここでこいつみたいになる覚悟があるならね』

 

 

桐原君がやられたことで、頭に血が上っていたのだろう、彼女に向かって飛び出そうとしてた剣術部の部員達が、まるでその場に縫い付けられたかのように動けなくなっていて、中には腰を抜かしている奴だっていた。

 

 

『大丈夫でした?怪我とかないですか?』

 

 

そんな圧倒的存在感を見せた彼女は、気絶した桐原君を、もう一人の風紀委員に任せると、人懐っこい笑みを浮かべて私に言った。

 

この時、私は死の恐怖から解放された安心感で気が緩んでいたんだと思う。

彼女の言葉に、細い糸のように、ギリギリの所で私を支えていたものが切れてしまったのだろう。

情けないことに、私はその場で腰を抜かして立てなくなってしまったのである。

そんな私に、彼女は微笑みかけると、保健室まで運びますね、と私を優しく抱き上げた。お姫様抱っこで。

 

今思い出しても顔が赤くなる。叫びたい。とりあえず何か叫びたい。壬生紗耶香、一生の恥だ。

私は恥ずかしくて恥ずかしくて、つい両手で顔を覆ってしまったのだけど、これが更なる羞恥への過ちだった。

 

 

『試合の時の先輩は格好よかったけど……今は凄く可愛い。耳、真っ赤なの丸見えですよ』

 

耳元で、囁くように言ってくる彼女。

君は私をどうしたいの!?そんな心の叫びはもう余裕のない私の口から出てくることはなく、借りてきた猫のように、彼女によって保健室まで運ばれるしかなかった。

 

 

「紗耶香、顔赤いよ?大丈夫?」

 

「へ!?あ、う、うん!全然平気よ」

 

「もう、本当に大丈夫なの?今日は部活休みなんだからゆっくり休みなさいよ」

 

 

友人との会話の途中であったことも忘れて、回想に耽っていたらしく、心配をかけてしまった。頬に触れてみると、未だ熱を帯びていて、たぶん私の顔はまだ赤いのだろう。

 

 

「一人で帰れる?駄目そうなら送っていくわよ?」

 

「ありがとう。でも大丈夫よ、私のことは心配せずに早く部活行きなさい」

 

 

女の子らしくない、と言われることもあったし、自分でも時折そう思うことはある。

花の女子高生、としては、ちょっとズレているな、と。

 

でも私だって、多少はおしゃれにも興味があるし、それなりに女子高生している……と思う。

 

 

「それじゃあ、私行くけど……」

 

「本当に大丈夫、ほら急がないと遅刻するわよ?」

 

 

私を心配しつつ、教室を出ていく友人を、小さく手を振って見送ると、私は一人、教室に残って考える。

 

そりゃ、助けてくれた時は格好良かったし、優しく抱き上げて、耳元で囁かれた時には……ドキドキもした。

 

でも、けど、だとしても、それ(・・)そう(・・)である、と決めつけるにはまだ早い。

いくら私が女子っぽくなくても、花の女子高生としては落第でも、そんなことはないはずなのだ。

 

 

「そうよ、だから今から会いに行くのも、あの日のお礼を言うため。ドキドキしているのは緊張しているから。はい解決!この話はおしまい!」

 

 

私は無理矢理思考を打ち切ると、誰もいない教室を早足で飛び出した。

 

 

 

 

「美月は今謹慎中なんだ」

 

「謹慎!?もしかして私のせいですか!?」

 

「……あー、いや、そうと言えないこともないんだが、簡単に言うとお姉さん気取りの過保護だな」

 

 

苦笑いのような微妙な顔をしている渡辺先輩が指差す方を見てみると、何やら紙の束を持った生徒会長が、階段から降りてきたところだった。

 

 

「ちょっと摩利!後輩に変なこと吹き込まないでくれる?」

 

 

ぷくっと頬を膨らませた姿は愛らしくて、先輩なのだけど、少し背伸びした少女のようにも見える。

相変わらず可愛い人だ。

 

 

「元々みーちゃんが風紀委員になるの、私は反対だったのよ。それなのに、摩利が負けちゃうから」

 

「うっ、あれは事故みたいなものだ!次は負けん」

 

 

喧嘩する程仲が良い、とはこの人達のことだろう。しょっちゅうからかったり、からかわれたりしているけど、それが彼女達にとってはコミュニケーションで、とても楽しそうにみえる。

 

 

「そういえば壬生、美月なら自分の教室にいると思うぞ」

 

「そうね、達也くんと深雪さんを待ってるんじゃないかしら?」

 

 

二人から聞いた話によると、彼女、柴田美月さんは、上級生の間でも既に何かと話題になっている兄妹と、同じ中学校の出身らしく、一緒に帰るのが日課になっているらしい。

仲が良いんですね、と言うと何故か苦笑いを返されたが。

 

 

「あら、会長。凄い紙の束ですね」

 

 

不思議そうな顔をしながら風紀委員会本部に入ってきたのは、金髪の女子生徒だった。

一高には、クォーターやハーフの生徒は珍しくないけど、ここまで綺麗な金髪となると他にいないだろう。一色愛梨、彼女もまた、今年の一年生の中で特に注目されている一人だ。

 

 

「そうなのよ、九校戦の書類なんだけどもう今年は大変!今から準備しても間に合わないくらいだわ」

 

「生徒会だけでは手が回りきらなくて、あたしも手伝わされているくらいだからな。ああ、そうだ一色。美月はまだ教室にいたか?」

 

「美月なら、エリカと一緒に帰ると言ってましたね。随分渋られていましたが、結局エリカが折れるでしょうから、今頃もう帰っているじゃないでしょうか」

 

 

どうやらこの一色さん、柴田さんと同じクラスで仲が良いらしい。柴田さんが風紀委員になったのもそれが関係しているらしいし。

 

 

「へぇ、美月はエリカと帰ったのですか……私のところには何の連絡もありませんでしたが」

 

「ちょ、ちょっと深雪さん!?部屋の室温が急激に下がっているわよ!?」

 

 

その美貌は、男女問わずにあっさりと魅了し、その実力は、三巨頭に並ぶほど。

今年の一年生で、もっとも注目されている彼女、司波深雪さんが、それはそれは美しい笑みを浮かべながらやってきた。

び、美人の笑顔が怖いっていうのは本当ね、寒気さえ感じるわ。

 

 

「落ち着け深雪、美月ならさっきカフェテリアで千代田先輩達と話しているのを見た……まあエリカも一緒だったが」

 

 

その深雪さんを呆れたように見つめながら入ってきたのは、彼女の兄である司波達也君。

二科生でありながら、風紀委員に抜擢された二科生の星で、入試時のペーパーテストでとんでもない点数を叩き出した、という噂もある。本当にこの兄妹は、とんでもないわよね。

 

 

「花音とか?あの二人はまだ一度しか会ったことがなかったと思ったんだが」

 

「五十里先輩もいましたが」

 

「いや、五十里とも特に接点は無かったと思うが……真由美、何か知っているか?」

 

「んー、はんぞー君経由で知り合ったとか?ほら、みーちゃん、はんぞー君と仲良いでしょ」

 

「仲が良いのか?あれは一方的に美月が迷惑をかけているだけの様な気がするが」

 

 

はんぞーくん、というのは服部君のことなのだろう。私達の学年ではたぶん最強の使い手である彼は、二科生を軽視するような発言が目立っていたけど最近は無くなった。人を貶めるより自己の向上に努めるべき、でないと簡単に追い抜かれる、と言っていたらしいということは、部活の友達から聞いていたから、たぶん、何か心境の変化があったのだろう。

 

 

「壬生、どういうわけかは知らないが、美月はカフェテリアにいるらしい。行ってみたらどうだ?」

 

「はい、ありがとうございます。あ、司波君も先週はありがとう、柴田さんと一緒にいたの、司波君だよね?」

 

「いえ、確かに自分はあの場にいましたが、やったのは美月ですから」

 

 

なんだか無表情で、ちょっと怖そうって思っていたけど、話してみると司波君も案外普通の男の子だった。ただ、司波さんから物凄い視線が飛んでくるから、あまり話していない方が良さそうだ。

 

 

私は、もう一度皆にお礼を言ってから、カフェテリアへと向かった。

それにしても、司波さんと一色さんって仲悪いのかしら?なんだか火花を散らしていたような気がしたのだけど。

 




――その後の深雪さん達――


(´・ω・`) 達也「美月が久しぶりに深雪の手料理が食べたいと言っていたぞ」

(//・ω・//) 深雪「そ、そうですか、仕方ないですね」

(。・ω・。) 達也「じゃあ美月に連絡しておくから、俺も楽しみにしているよ」

(*ゝ`ω・) 深雪「はい!腕によりをかけて作らせていただきますね!」


数分後。


(´д`|||) 達也「……」

(*゚∀゚) 深雪「あ、美月から連絡ですか?今日は以前に美月が美味しいと言っていたものを作ろうと思っているのですが――」

(ー_ー;) 達也「……『愛梨と約束があるから今日は無理!』だそうだ」

(゜-゜) 深雪「」



(・∀・)ニヤニヤ 愛梨「……ふっ」


次の日、美月が深雪に冷たくされることとなった。



°°・p(≧□≦)q・°° 美月「完全に理不尽だよ!」




深雪のご機嫌を取ろうとしてやらかした達也さん(笑)

感想返しが間に合わないかも知れませんが、ちゃんと読んでますのでどしどし下さい!

ではまた次話で!


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番外編 地雷系美少女降臨

今年最後の投稿。
あの、地雷娘が語り手です。



「去年の騒動を踏まえて今年から『教職員選任枠』を二人に、新たに作った『風紀委員長選任枠』として一人、増員した。と言っても増員は一人だけの予定だったのを……無理矢理もう一人追加しただけなのだがな」

 

 

気に入らない。

私はもうずっと前からあいつが気に入らなかった。

 

 

『全く困った奴だよ。真由美が甘やかし過ぎるからあたしがしっかり言ってやらねば』

 

 

時折、摩利さんとの会話で登場する柴田美月なる人物。私は会ったことがなかったけど、もうこの時から気に入らなかった。

だからだろう。

彼女が入学してくる、ということを、面倒だ、問題児が増える、なんて言いながらも嬉しそうに話す摩利さんに、私は気がついたら、来期は風紀委員になる、と摩利さんに宣言していた。

部活も習い事もあるのに、風紀委員なんて、大変なのは分かっていたけど、なんとなく彼女に負けたくなくて、口から出ていたのだ。

 

 

その彼女が風紀委員に、それも、風紀委員長(摩利さんの)推薦枠で入ってきて、なんというか、そう、ライバル視していた。

それで、風紀委員の当番の度に彼女がいるかどうか探すようにしていたのだけど、まあいない。全然来ない。

 

一週間が経っていよいよ我慢できなくった私は、放課後、彼女の教室に向かった。

ところが彼女はもういなくなった後で、それが逆に私の心に火を着けた。

もう、絶対取っ捕まえてやるんだから!

 

陸上部で鍛えた足を活かして全力疾走、途中、偶然見つけた啓を拐って、校門前へ。

 

友達らしき女の子と一緒に歩いているのを見つけて、私は思わず舌なめずりした。もう逃がさないわよ!

 

 

「ちょっと待ちなさい柴田美月!」

 

「は、はぁ、ま、待つのは花音だ、よ……こんな全力疾走させられて、ちょっと休ませて」

 

 

啓が隣で何か言っているけど、今はそれどころではない。私は啓を引っ張ったまま、校門を塞ぐように立ち、ビシッと柴田美月を指差した。

 

 

「ここで会ったが百年目、今日という今日は言わせてもらうわよ!」

 

 

私がそう言うと、柴田美月は、何故か一緒にいた女子生徒にじとっとした目を向けられてあたふたとし始めた。

 

 

「美月、何やらかしたのよ?」

 

「なんでぼくが何かやらかした前提!?ぼく何もしてないよ!?」

 

 

こそこそと二人で話していて、私の存在は完全無視。良い度胸じゃない。沸々と込み上げてくる怒りのままに私は両手を振り上げて叫ぶ。

 

 

 

「無視すんなー!」

 

 

無理矢理二人の話をぶった斬ると、何故かにやにやとした笑みを浮かべている柴田美月。

そんな顔していられるのも今の内だけなんだから!

 

 

「私は千代田花音、風紀委員よ」

 

 

名前を名乗っただけでちょっと達成感。何せ一週間以上も待たされたんだから!

 

 

 

「ご存知の様ですが、ぼくは柴田美月です。あの、それでお話って何ですか?」

 

「ふふん、それはね、……えっと、ほら、あれよ、うん……なんだっけ?」

 

 

やっと話せると思ったのに、よくよく考えてみると何を言うか全く考えてなかった。

確か、中々風紀委員会に現れないから、気になって教室まで行ったのにもういなくなった後で、それでカーッとなって駆け出した……うん、特に言うこともない気がしてきた。

そんな風に考え込んでいると、柴田美月がやや困った表情で提案をしてきた。

 

 

「えーっと……お話するなら、とりあえずカフェテリアに行きましょうか?」

 

「……うん」

 

 

大人しく頷いた私に、隣で啓が、呆れたようにため息を吐いていたのが分かった。

 

 

 

 

 

「それは確かに会長が過保護過ぎるわね」

 

「そうですよね!そう思いますよね!真由美さんは初対面の時がちょっと特殊だったので、その印象が強いのかもしれませんけど」

 

 

話してみれば美月は良い奴だった。

風紀委員に来なかったのは、会長に謹慎を言い渡されていたからだった様で、そういえば摩利さんが打ち合わせの時、そんなことを言っていた様な気がしないでもない。

 

 

「あ、そういえば柴田さん。中条さんから、柴田さんがセレネ・ゴールドのCADを使ってるって聞いたんだけど本当?」

 

「ええ、武装一体型CAD『輝夜』ですね」

 

 

中条さん程ではないにしても、十分キラキラとした熱意のこもった目で尋ねる啓。普段は大人っぽくて、落ち着いた雰囲気なのに、こうしてたまにキラキラとした目をしているのは、とても可愛いと思う。

 

 

「それって剣のCADだよね?僕は、というより僕の家は刻印魔法に力を入れていて、セレネ・ゴールドは尊敬しているし、憧れもある。だからセレネ・ゴールドの製品カタログは何度も見ているんだけど、そんなCADは無かったと思うんだ」

 

セレネ・ゴールドの話は啓からもう何度も聞いている。まだ世間で話題になっていない頃から啓はセレネ・ゴールドのファンで、カタログなんてそれこそ擦りきれるくらい見ていた。セレネ・ゴールドの最新情報も逐一チェックしていたし、啓が『ない』、というのなら『ない』のだろう。

 

 

「ああ、それはこれがオーダーメイドだからですよ」

 

「オーダーメイド!?」

 

 

啓が滅多に聞かない素っ頓狂な声を上げる。ん?啓の家でもオーダーメイドでCADの依頼を受けることは日常茶飯事だったはず。武装一体型のCADなんて言っちゃなんだけど、使っている魔法師はそう多くはない。そうなると当然、一般販売されている武装一体型CADは取り扱いが少ないし、どうしても武装一体型CADを使いたい人はオーダーメイドで作る事も多い。

 

 

「セレネ・ゴールドは指名依頼を滅多に受けないことで有名なのに、よく引き受けて貰えたね」

 

「ぼ、ぼくは運が良かったみたいですね、別に指名依頼は選り好みしているわけじゃなくて適当に決めてるみたいですし」

 

 

どうやらセレネ・ゴールドという人物は案外適当な人間の様だ。実は指名依頼を滅多に受けないのも、面倒だから、とかそんな理由なのかもしれない。

 

 

「そうだったんだ、ごめんね質問ばかり。実は中条さんから話を聞いたときからずっと気になっていたものだから」

 

「いえいえ、あ、何なら今度『輝夜』持ってきますよ。あれは屋内で使うには向いてないからって、校内に持ってくるのを達也に却下されちゃったから今は持っていないんですけど」

 

「本当に!?わー、嬉しいな。一回現物を見てみたかったんだ」

 

 

確かに、剣の武装一体型なんて持ち運びは不便だし、ある程度広いスペースがないと使いづらいしで普段使いには向いていないのかも。風紀委員としての活動も考えると校内用には出来ないわよね。

それにしても、こんなに嬉しそうな啓は中々見られない。頭を撫でたい衝動に駈られるけど、この場ではぐっと我慢。そういうのは二人きりの時だけ、って決めているもの。

 

 

「でも美月が風紀委員に戻れるのって、確か一週間後よね?」

 

「あ、そっか。その間はCAD預けなきゃいけないですから放課後になっちゃいますね」

 

 

その後、私と啓は美月と連絡先を交換して、後日また三人で会うことになった。美月はセレネ・ゴールドのCADを使うだけあって刻印魔法に興味があるらしく、啓と話が合うみたいだし、本当に良い後輩が出来たと思う。風紀委員に復帰してきたら色々教えてあげよう。

 

あれ、そういえばなんで美月とこうして話しているんだっけ?

 

 

 

「……こいつ、とんでもない人たらしだわ」

 

 

 

隣でエリカが、小さく呟いたのは私の耳には届かなかった。

 




――その後の美月――


( ´・∀・`) 美月「態々お礼に来てくれてありがとうございます、体は大丈夫なんですか?」

(。・ω・。)ヘーキ 紗耶香「ええ、身体的外傷はないわ。今回のことが原因で、魔法が使えなくなってしまうといけないから、しばらくカウンセリングに通うことにはなったけどね」

(`・ω・´)キリッ 美月「それは良かったです、でも無理はしないようにしてくださいね、壬生先輩のカッコいい剣技、また見たいですから」

(//・ω・//)テレテレ 紗耶香「あ、ありがとう、でも、し、柴田さんも格好良かったわよ!じゃ、じゃあ!」






(-。-;)ハァ エリカ「あたしはさっきからずっと何を見せられてるのか……」


気配を消すスキルが上達したエリカであった。




花音の伏線、大分前に張っていたんですが中々回収できそうに無かったので番外編に(汗)
ちなみに、紗耶香のカウンセリングというのは、実はブランシュ関連のために行っていますが、本人には知らされていません。


来年は九校戦に入ったり、伏線回収したり、色々盛り上げていきますので、これからも美月転生をよろしくお願いします!
それでは皆さん、良いお年を!


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番外編 再会する二人

皆さんお忘れかもしれませんが、この二人、以前に出会ってます。


これは美月が誘拐されそうになった未亜捕獲事件の一週間後の出来事。丁度、柴田家にてリーナのお披露目が行われている頃。

 

 

夕方のファミレス。

昼食には遅く、夕食には早い、そんな微妙な時間帯でありながら、店内では、そこそこの人が食事を楽しんでいた。

 

 

「やはりおかしいのです。この何日か、明らかに美月はお兄様を避けています」

 

「うん、僕としてはまず、司波君と柴田さんが付き合っている、ということすら知らなかったんだけど……」

 

 

どこにでもあるような、なんでもないファミレスでありながら、彼女がそこにいると不思議と格の高いレストランのように感じられる。

 

この日、吉田幹比古は、一高の男子生徒にバレたら間違いなく裁かれるだろう幸運に恵まれていた。

 

 

すなわち――司波深雪と二人っきりで、放課後デートである。

 

 

 

 

 

幹比古が深雪と再会したのはつい三日前のこと。

それは偶然であったと言う他ないだろう。

 

幹比古は何時ものように、1日の最後の授業が終わってすぐに教室を出た。

 

それが、いけなかった。

 

 

「……あっ」

 

「……あら、どこかで見たことのある顔ですね」

 

 

自分の授業が早めに終わり、教室の外で達也を待っていた深雪と鉢合わせしてしまったのである。

 

そして、さらに運が悪いことに、この日、達也はいつも通り風紀委員の仕事があって、生徒会は珍しく休みだった。

つまり、どんな状況かというと、深雪は達也の仕事が終わるまで学校から帰ることはなく、その間、暇なわけで、ここに良い幹比古(カモ)がいる。

 

当然、どうなるかといえば――

 

 

「それで、言い訳なら聞きますよ」

 

「いや、明らかにもう僕の有罪が確定しているよね?」

 

「いいえ?自分から連絡先を訊いておいて、合格したのに私を無視していた正当な理由があるなら許します」

 

 

――事情聴取(おはなし)が始まる。

校内でもほとんど使われていない教室、そこでそれは行われていた。

にっこりと、極上の笑みは何故か極寒の吹雪を思わせる凍てつくような凶器で。

それを突きつけられた幹比古(容疑者)はといえば、もうどんな言い訳をしても判決は覆らないことを悟っていた。

 

 

「私は貴方が落ちてしまったのかと気に病んでいたのに……」

 

「うっ」

 

 

幹比古は当然、深雪が合格していることなど知っていた。そもそも、入学式に参加していたのなら、新入生総代である深雪の存在を知らないということはありえないし、何かと話題になっている、深雪の存在を知らないなんてことは、結局どうしたってありえないのだ。

 

それに比べて、深雪が幹比古の合否を知る機会は、そうあるものではない。

増して二科生では、達也と同じクラスなんてことが起きていなければ、滅多に会うことはなかっただろう。

幹比古からの接触がなければ、落ちてしまったのかと、と考えるのも無理はないことだ。

 

 

「だって君は新入生総代で、僕は二科生だったんだ。それで、合格しました、なんて言えないよ」

 

 

プライド、なんてものではない。

単に逃げていただけだ。彼女に落胆されるのが嫌で、なんだその程度か、とため息を吐かれるのが嫌で、ならばいっそ、もう会わない方が良いのだと、へたれていただけ。

 

 

「なっ、私がそんな嫌な女だと貴方は思っていたのですか!?」

 

 

幹比古がどうして合格を報告しなかったのか、その理由を察した深雪がキッと睨めば、幹比古はもう自分が助からないことを確信した。

 

 

「私のお兄様は二科生でしたが、私のお兄様に対する気持ちには何ら変わりはありませんし、そもそも私は、一科生でも二科生でも、その人の立場で差別し、接し方を変える程、矮小な人間でもありません」

 

「それは、君の交友関係を見れば分かるけど……でもこれは、僕がどう思うかの問題なんだ。僕自身が二科生なのに君に会うのが嫌だったんだよ」

 

 

自分が弱いことを改めて教えられる。

挫折、という言葉を知らなかったあの頃では考えられもしないことだが、あの、手のひらを返される感覚は、もう二度と味わいたくはなかった。

 

称賛は落胆に変わり、『()心』が『無()心』に変わる。

 

 

まるで、世界に一人になってしまったような孤独。

きっと、目の前の彼女には分からないだろう。

この世にまたとない奇跡のような存在である彼女には。

 

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!そもそもです!私は貴方が合格できると確信していたからこそ、あんなことを言ったのですよ!勿論、一科生としてです!」

 

 

――だって、貴方が合格したらまた会えるじゃないですか

 

 

その言葉は、幹比古が合格できると思ったから幹比古を鼓舞する意味で発したもので、だからこそ幹比古が落ちてしまったのでは、と気に病んでいたのだ。

深雪は幹比古という人間のほんの少ししかしらないが、才能溢れる人間だと思っている。今は少しだけ足踏みしているだけで、一歩踏み出せば、後は駆け足で進んでいけると。

だから、この言葉がその一歩になればと思っていた。

 

 

「……そんなに期待されても困るよ。僕は結局僕でしかなくて、出来ることには限界がある」

 

「私は出来ないことは言いません」

 

「現に僕は二科生だったじゃないか。君の期待には答えられていない」

 

「それは貴方が自分を信じ切れていないからですよ。魔法とはそういうものです」

 

 

深雪の強い眼差しは、それが答えであるかのように感じさせる。

 

「頑張れとは言いません。貴方の努力は見て取れます。それを私がどうこう評価することは傲慢でしょう。ですから私からは一つアドバイスです――自分一人で思い詰めないこと。貴方は一人で抱え込み過ぎなのです。一人で考え、決断することは美徳でもありますが、その反面、客観的にものを見ることが出来なくなってしまいます」

 

人は間違う生き物で、それを繰り返さないことで少しずつ間違いを、欠点を補っていく。

 

深雪は、兄のことを思っていた。

 

何年も間違い続けた兄への対応。こうして兄と仲睦まじくいられることの感動。気がつくきっかけがあったからこそ、今がある。

 

 

が、もしそれがなかったら?

 

ぞっとした。

 

そうなったなら、自分の世界は母がいなくなったときに道標となるものを失っていたかもしれない。

 

孤独。

 

 

今の自分には耐えられそうもなかった。

兄のいない世界では呼吸も出来ない気がした。

 

 

幹比古はそんな世界で頑張ってきたのだろうか。

手のひらを返すようにいなくなった周囲の人間。失った力とそれ故の孤独。

そんな中でも努力を続けた彼は立派に強い人間なんだと深雪は思った。

 

ただ、人は一人では限界があるのだと、一人では間違いを繰り返してしまう生き物なのだと知らず、きっかけがなかっただけなのだ。

 

 

「今まで誰にも打ち明けられる相手がいなかったのかもしれませんが、それならば私がいるのです。こうして話を聞くことは出来ますし、自分で言うのはあまり好ましくないのですが、一応は主席ですから、何かお役に立てることがあるかもしれませんから」

 

 

こうして、深雪と幹比古は再会を果たした。

 

まさか断りませんよね?と深雪に半場押し切る形で交換した連絡先。

司波深雪という名前が不思議でならなかった。

 

この名前を押すだけで、彼女と繋がるのだという不思議。自分と彼女の間に接点があるのだという不思議。

 

 

もう切れてしまったと思ったものが、まだ自分の手の中にある不思議。

 

 

 

「僕ってもしかして、人生の全運を使い果たしたのかな?」

 

 

そう呟いた幹比古の元へ深雪から連絡が来たのは、次の日。

 

美月がお兄様を避けています!と、開口一番に告げられた幹比古が、思わず素で、はっ?と聞き返してしまったのも無理はないことだろう。

 

 

彼はまだ、世紀の美少女と放課後デートという幸運が待ち受けていることを、この時はまだ知らなかったのだから。

 




――そのころの美月さん、司波家にて――


(〃゚д゚;)アセアセ 美月「達也、水波ちゃんが激おこで許してくれないんだけど、どうしたら良いかな!?」


(´~`*)シラン 達也「いや、俺に聞かれてもどうしようもないんだが」


ヾ(´Д`;) ポチッタ 美月「とりあえず、水波ちゃんの好きそうなものを沢山注文しといたんだけど!」


(ノ`Д´)ノオイ 達也「おい、さっきから何度も届いてるこの荷物の山はお前か」


(*ゝ`ω・)キラッ 美月「後5倍くらい届くよ!」


( º言º)ブチッ 達也「よし、正座しろ」



この後、滅茶苦茶怒られた。




ちなみに、深雪と幹久古の二人に恋愛感情は今のところありません。今後、女王と下僕みたいな感じになる予定です(笑)
美月が避けてた云々の話は別で用意しようと思っていますのでお楽しみに!


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間章
間話1 メイドの一日


いや、時の流れって怖いね……(土下座)

短編とか出して、リハビリしたのですが、今話はちょっと短めです。


「リーナ、朝だよ」

 

「んみゅ……ミヅキ、おはよう……」

 

「うん、おはよう」

 

 

眠い目を擦りながら、少々舌足らずな発音の怪しい口調のリーナに、美月は微笑みながら頭を撫でた。

 

この家に来てから、リーナの朝は、美月の声から始まる。

軍人だった頃は、寝る時間は遅い上、休みの日でも訓練のために、早朝から、けたたましい目覚まし時計の音で目覚めることが殆どだったリーナとしては、人の声で優しく起こされる、この朝がすっかりお気に入りだった。

 

 

「ゆっくりで良いから、着替えたら下に来てね」

 

「はーい」

 

 

まだ眠そうなリーナに、そう言い残して美月が部屋を出る。リーナはぼーっとしばらく停止した後、やっとベッドから出ると着替え始めた。

リーナがこの家に来た当初こそメイド服だったものの、今では特別な理由(主に水波が来るとき)がない限りは、着ることもない。

着替えを終えたリーナが部屋を出ると、美味しそうな朝食の匂いが、食欲を刺激した。

 

 

「今日は洋風にしてみました」

 

 

テーブルに並んだ料理は、ホテルの朝食のようだった。ふわふわのオムレツに、カリカリのベーコンと添えられたミニトマト。温かいオニオンスープに、透明なボウルに盛られたサラダ。その、サラダのために用意されたドレッシングは美月のオリジナルだ。主食のパンはこんがりと焼けているクロワッサン。今日のクロワッサンは既製品をオーブンで焼いたものだが、時間さえあれば手作りでパンを作れる、というのだから驚きである。美月の女子力は、料理に全振りなのだ。

 

 

「んん!今日も美味しいわ」

 

「ありがとう、デザートにリンゴがあるから、食べ終わったら切るね」

 

美月は殆ど使用することはないが(美月の幼少期には大いに役立っていた)パンを焼いたり、コーヒーを淹れたりできるだけでなく、簡単な料理まで行うことができるロボットがこの家には備え付けてあり、当然、果物を切るくらいのことも可能なのだが、美月は態々自身の手で果物を切った。器用なもので、危なげなくスルスルとリンゴの皮を剥くと、食べやすいように何等分かに切り分ける。慣れているのか、数分でテーブルにはリンゴが並んだ。

 

 

「リーナ、ぼくは制服に着替えてくるよ」

 

 

朝食が終わると、美月は学校へ行くための準備をする。簡単な料理をこなせるロボットがあるように、食器の洗浄もロボットがこなす。料理は趣味として、自身の手で作る美月ではあるが、食器の洗浄という手間はロボットに任せる。美月の性格上、面倒なことを好き好んでやる様なことはしないのだ。

 

 

「今日は風紀委員の仕事もないし、いつもより早く帰ってくるから……あ、何か夕飯のリクエストはある?学校の帰りに買い物してこうと思うんだけど」

 

「ミヅキの料理は全部美味しいからミヅキに任せるわ」

 

一高に通い始めて数週間、達也が何日もかけて考え出した美月の通学路ならば、学校から迷わずに帰れるようになっていた。風紀委員を謹慎になっていた間、何度も地図を片手に往復した結果である。

その、達也考案の通学路にはスーパーがあり、そこにならば寄り道をしても、家まで迷わず帰ることが出来るのである。

 

 

「じゃあリーナ、お留守番よろしくね」

 

「ええ、ミヅキ。いってらっしゃい」

 

「うん、行ってきます」

 

 

こうして、美月は学校へ向かい、ここからはリーナ一人の時間である。

 

 

「んー、今日はどうしようかしら」

 

 

そんなことを呟きながら、テレビのチャンネルを変えた――その時だった。

 

 

 

「どうしようかしら、は私のセリフですよ」

 

 

底冷えするような、冷たい声。背後から聞こえてきたそれは、リーナには聞き覚えのあるもので。

刻み付けられた恐怖心からなのか、さーっと血の気が引いていくのが分かる。

 

それもそのはず。

なんせ、リーナの背後にいるのは――

 

 

「再教育が必要のようですね、リーナさん」

 

 

――満面の笑顔なのに、目が全く笑っていない、桜井水波なのだから。

 

 

 

 

 

「朝からの様子を観察させてもらいましたが、控えめに言って0点です」

 

 

床に正座させられたリーナに、水波は冷たく言い捨てた。

 

 

「美月様に起こしてもらった上に、朝食まで作ってもらうなんて、羨ま……んっ、なんて体たらくですか!」

 

「今、羨ましいって」

 

「言ってませんが?」

 

「……はい」

 

 

ギッと睨まれ、顔真っ赤じゃない、と小さく文句を言いはするものの、完全に立場が出来上がってしまっているのか、素直に返事するリーナ。こうして事件は握り潰されるのである。

 

 

「貴女はガーディアンとして美月様をお守りするのが職務ですが、私が正式に美月様のガーディアンとなるまではメイドとしての職務も全うしてもらわなくては」

 

「そうは言うけど、美月がやらせてくれないわよ?料理は趣味だからって」

 

「洗濯、掃除も美月様がやっている様ですが」

 

 

クリップボードに挟まれた紙の束と、情報端末を見ながら水波が言う。

 

 

「うっ、前にワタシが一回やったら、次からぼくがやるからいいよ、って」

 

「……一応聞きますが、何をしたんですか」

 

「洗濯機壊して、服が縮んで、掃除機と玄関が壊れたわ」

 

「玄関とは!?え、掃除・洗濯という行程の中で、どうやって玄関を破壊したのですか!?いえ、よくよく考えたら洗濯機もそうそう壊れるものではないですよね!?」

 

 

恐る恐る訊ねた水波に返ってきた奇天烈な破壊の数々につい声が大きくなったが、それほど意味不明な現象なのだから仕方がない。

現代の洗濯など、本当にスイッチ一つで洗浄から服を畳むのまでやってくれるのだから失敗のしようがないのである。掃除に関しても、掃除機での掃除は、ロボットが主流の現代にしては珍しいものの、十分簡単に操作出来るはずのものだ。が、これは序の口で玄関の破壊というのは、どうやっても掃除・洗濯と結び付かない。

もはや恐怖である。

 

 

「水波、ワタシも驚いたわ」

 

「もう寝てたら良いんじゃないですか、永遠に!」

 

 

頭が痛い、と頭を押さえる水波に罰の悪そうなリーナ。どうやら自分が悪い、ということは理解しているらしい。中学生に正座させられて説教されているのだから当然である。

 

 

「早く水波が来ればいいのよ」

 

「私だって行きたいんです!ですが、そう簡単には研修が終わらないんですよ!」

 

「魔法ならワタシが教えてあげるわよ?」

 

「あ、黙っててくれたらそれで良いので」

 

「無関心だけは止めて!?」

 

 

涙目のリーナを前に楽しそうな水波。リーナにとっては不本意なことに、この二人、相性が良い。能力的にも二人が組めば、ガーディアンとして十分以上の力を発揮できるだろう。

 

 

「と、茶番は終わりにして真面目な話なのですが」

 

「ワタシで遊ばないでくれるかしら!?」

 

 

今日、水波がここに来たのは、リーナの仕事ぶりをチェックするとか、訓練でストレスが溜まったからリーナで発散しに来た、とかではない。

四葉真夜から、リーナへの伝言を伝えるためにやってきたのだ。

 

 

「リーナさん、貴女には交換留学生として一高の生徒になってもらいます」

 

「えっ?」

 

 

リーナ、ニート生活の終わりである。




――その後の美月さん――


(´・c_・`) 美月「水波ちゃんから連絡来て、リーナ預かるから達也家泊まってだって」

( ゚Д゚)達也「それを連絡してから訪問してくれないか。何故、玄関で言う?」

( ゜ρ゜ ) 美月「そんなことより、ぼくがここまで一人で来たことの方が驚きじゃない?」

(゜ー゜)達也「そういえば、そうだな」

d(*゚∀゚*)bイエーイ 美月「ま、二時間掛ければ、ぼくでも辿り着けるよ!」

Σ(゚д゚;) 達也「何故、ドヤ顔なんだ!?」





そこそこ書き貯めしてはいるのですが、九校戦まで後何話かお話を入れます。
九校戦についても、ガンガン原作ブレイクのオリジナル展開になると思いますが、今後もよろしくお願いします!


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間話2 守護者とデート①

完全ギャグ回ではあるのですが、この二人の絡みが少ない気がしたのでここらで挟みたいなと。


衝撃のリーナ転入決定から数日。

今日は、日曜日ということで、学校はない。とはいえ、いつもなら仕事があるのだけど、今日に限っては完全オフにした。

リーナの転入を祝って、一日デートをすることにしたのだ。

セレネ・ゴールドとしての活動再開はまだしておらず、月柴美としての仕事も最近はセーブしていたから、こんな荒技が出来たのである。

実は転入、と言っても正規の手段ではなく、国が根回しして『交換留学生』として転入するらしいのだ。そのために、転入は大分先になるらしいので、とんだ早とちりではあるのだけど、そんなの関係ない。

 

だってぼくがデートしたいだけだから!

 

 

「ということで、今日は遊びに行きます」

 

 

やや持ち方がおかしいものの、しっかり箸で朝食を食べているリーナはぼくの唐突な発言にきょとんとした表情で首を傾げた。つい昨日まで、水波ちゃんにメイド修行をさせられていた様だけど、その疲れは残っていない様だ。

 

 

「何がということ、なのかは分からないけど、どこに行くの?」

 

「まだ決めてない。どこか行きたいとこある?」

 

 

実は元々リーナとの親睦を深めるために前々から企画していたこと。都心ならいくらでも見るところはあるし、ここ、と決めずにふらふらするのも良いかもしれないけど、折角ならリーナの行きたいところに行く方が良いだろうと思ったのだ。まあ、リーナはウンウン唸って考えているのだけど。

 

 

「あ!そうだミヅキ!ワタシ、秋葉原に行ってみたい!」

 

「えっアキバ?」

 

「ええ、ミヅキが学校に行っている間に見てたアニメが結構面白かったから。

そういうのが沢山あるんでしょ?」

 

 

ぼくが学校に行っている間、一人でお留守番じゃ暇だろうなって思って、アニメのディスクとか漫画とか沢山用意しておいたのだけど、リーナはアニメが気に入ったみたいで、昨日も夜遅くまで視聴していた。

それに外国人には人気だと言うし、意外にアキバも楽しめるのかもしれない。

 

 

「よし、じゃあアキバに決定で!今日はリーナのお祝いということで、リーナの願いを大体叶えてあげようではないか」

 

「ありがとう、でも大体って、なんか締まらないわね」

 

「美月さんにもできないことはあるのです」

 

 

後にぼくは願いを叶えるなんて言ってしまったことをすこぶる後悔することになる。

 

 

 

 

 

「……まあ、こうなりますよね」

 

 

最近は、外国人の姿は当たり前になっているとはいえ、リーナの美貌(それ)は男女関係なく視線を集める。むしろ、近づきがたい凛とした雰囲気のある深雪と違って、目をキラキラさせながらそこら中に視線をやっているリーナの方が、そういう傾向は強いのかもしれない。

 

 

「メ、メイドさんがいるわ!」

 

「うん、一応君もリアルメイドさんだからね」

 

 

天然というか、どこか残念な美少女という感じが拭えないリーナは、トンチンカンなことを言ってくるが、それがまた可愛いと思う。

 

 

「こちら良かったらどうぞ!」

 

ビラ配りをしているメイドさんのメイド服は、水波ちゃんが着ていたようなしっかりしたものではなく、コスプレの域を出ないものだけど、でもそこがまた良い。

 

 

「メイド喫茶?」

 

「ぼくも行ったことないけど、メイドさんが給仕してくれる喫茶店、なんだと思うよ」

 

「面白そう!」

 

「じゃあ、そろそろお昼時だし行ってみようか」

 

 

女の子の準備は時間のかかるもの。朝食を食べて、リーナを着飾っていたら結構な時間が経ってしまったのだ。

もっともリーナを着飾るだけならもう少し早く出掛けることも出来たのだけど、今日はデートということでぼくもそこそこオシャレした。

オシャレと言っても、以前お出掛け用の服を深雪に選んでもらっていたから、それを着て、滅多にしないメイクをした、というだけなんだけどね。深雪と特訓したから、リーナと並んでもそこそこ見られるお顔にはなっているはずだ。人にメイクするのは素晴らしいんだ