東京レイヴンズ~英霊を従えし陰陽師~ (スペル)
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原作一巻
プロローグ


三作目です
書いてみたくて書き出しましたが、メインはあくまでも一作目ですので更新はかなり遅いと思います

楽しんでくれたら嬉しいです


美しい満月が夜空を屋敷を照らしている。夜を照らすその美しい満月を、屋敷のテラスから一人の男が見ている。

男の表情は何処か寂しげでありながらも、とても嬉しそうにも映っている。

そんな男がいるのは自分の西洋屋敷。しかし、それはとてもおかしなことだ。いま日本は、西洋と戦争をしている。

西洋のモノを扱うだけで、死刑は待逃れないにも関わらず、男はその屋敷にいる。それが既におかしい。

 

「やはり此処にいました」

 

ふと、男の背後から凛とした声がかけられる。男は視線を月に見せたまま 「よくわかったな」 と声の主に向かって言葉をかける。

影のせいで姿が見えない声の主は、男の言葉に

 

「当然です。貴方の事は誰よりも知っている。この世の誰よりも」

 

何処か自慢げに発した言葉を聞いた男は、クスと小さく笑みをこぼす。

そして、もう一度月を見た後 「今までありがとう」 声の主に向かって礼を述べる。

「お前のお蔭で、俺はここまで来れた」 だからと男は一度言葉を止め、部屋の方に視線を向ける。

 

「俺の事を()()。知っての通りの未熟者だ。お前が導いてやってくれ」と告げた。

 

男の言葉を聞いた声の主は、男の方へ一歩踏み込む。瞬間、今まで影で見えなかった姿が月明かりに照らされた。

 

声の主は少女だった。

その少女を一言で表すならば、美しいとしか言えない。月明かりに照らされた金色の髪がキラキラと輝いている。

凛とした目など整った顔立ち、そして青いドレスの様な服の上から騎士の甲冑が所々に見受けられた。

その姿は間違いなく『騎士』と言う言葉が相応しい姿。

 

少女は男の言葉に対して

 

「当然です。貴方はまだ未熟だ。私が必ずや立派に鍛え上げて見せます」

 

任せて下さいと告げる。少女のセリフを聞いた男は「お手柔らかに頼むぞ」と若干、苦笑しながらも少女の言葉に応える。

 

しばしの沈黙が部屋を支配したその時

 

「おっ!集まってるね~」

 

第三者の声が響く。

しかし、二人は驚いた様子も見せず

 

槍兵(ランサー)、今までどこに行ってたのですか?」

 

「何だよ剣士(セイバー)。俺はただ、マスターの命令で酒を買ってただけだぜ」

 

ランサーと呼ばれた男の言葉を聞いたセイバーと呼ばれた少女は、男に視線で「本当ですか?」と問う。

その視線に気が付いた男が笑みを浮かべながら頷く。

 

「ほらな」

 

「ええ、どうやら本当の様ですね」

 

勝ち誇った笑みを見せたランサーは、男の方に歩んで持っていた酒を手渡す。

「ありがとうな、ランサー」男の言葉にランサーは「気にすんな」と両手を頭の後ろで組みながら笑う。

 

ランサーと呼ばれた男は、青い髪を後ろで一本に括っており、その顔つきは何処か獰猛な(いぬ)を思わせる『騎士』。

青いタイツの様なスーツの上に軽装な鎧に身を包んでいる。纏う雰囲気は、正しく兄貴分と言った感じだ。

酒を受け取った男は、壁際に置いてあった盃を三つ取り出して酒を注ぎ、セイバーとランサーに手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

「さんきゅーな」

 

手渡された盃を見つめながら礼を述べるセイバーと満面の笑みを浮かべながら友に話しかけるように礼を述べたランサー。

そのセリフにセイバーの眉が若干上がるが、男も笑みを浮かべたので渋々と言った感じで堪える。

男も最後の一つの盃を手に取り、三人は静かに盃をぶつけた。

 

「ぷふぁー。うまい」

 

一気に飲み干したランサーに続くように

 

「ええ、確かに美味しいですね」

 

両手を使って酒を飲んだセイバーが同意する。二人のその顔は何処か満足そうにほころんでいた。

二人の反応を見た男は、何処かおかしそうに笑った後、静かに盃を置き二人を見た。

 

「今度お前達と酒を飲めるのは、一体何時になるだろうな」

 

その言葉にランサーは

 

「なに、すぐにまた飲めるさ」

 

笑みでそう答えた。

そしてセイバーもまた

 

「ランサーの言う通りです。また直ぐに飲めます」

 

同意の言葉を述べる。二人の言葉を受けた男は「それもそうだ」と返し、背にある月に視線を向ける。

その姿を見たセイバーとランサーは、頷き合いながら立ち上がる。

「どうした?」と問う男に向かって二人は

 

「私は貴方の剣であり盾だ。そして私の人生は貴方と共にある。故に幾たびの時が経とうと、私は貴方の()だ」

 

「俺はアンタを大将と決めている。我が必殺の槍は大将の敵を滅ぼすためのモノだ。たとえどれだけ時が過ぎようが、俺のアンタに対する忠誠の契約は消えない。だから、此処でもう一度誓いを立てよう。俺はアンタを裏切らない。ただアンタと共に歩む()と化すと誓う」

 

己の覚悟を男へと告げる。二人の宣言にポカンとしていた男だが、直ぐに笑みを浮かべると立ち上がる。

セイバーとランサーの二人は、男が立ち上がると同時に膝をつく。

その姿を確認した男は静かに告げた。

 

「ああ、俺達三人の絆は此処にて不滅だ」

 

その光景は、窓から差し込む月明かりと相まって、一つの絵画の様に美しい。

 

これが、本当に意味で物語が始まる六十年以上昔の話

 

そして時は現代に戻る。




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第一夜 安息の刻 その1

第一話です
後一話ぐらいは、平和な日常が続きますのでご了承下さい

楽しんでくれたら嬉しいです


衛宮家(えみやけ)。陰陽師を目指す者ならば、誰だって知っているであろう家の名である。しかし、それは決していい意味ではなく悪い意味である。ある意味その名は、陰陽師の開祖の子孫である土御門家よりも有名な名。

そんな衛宮家の屋敷の一室。カーテンの隙間から洩れる日の光が、その部屋の主を眠りから目覚めさせる。

 

「うん、夢‥‥?」

 

朦朧と覚醒する意識の中で、何か夢を見ていた様な気がする。しかし、どんな夢だったのかは、全く思い出せない。

 

「まあ忘れるぐらいなら、大した夢じゃないんだろ」

 

自分でそんな言葉を口にしながらも、その言葉を否定する。上手く言葉にできないが、何か大切な事を強制的に忘れてしまった様な、違和感とも呼べない違和感が少年の胸の内の僅かな場所に張り付いてる。

 

「って、そんな事を考えてる暇なかった」

 

即座に部屋の時計を確認した少年 衛宮四季(えみやしき)は急いで身支度を整えて一階に下りていく。

 

「よう、四季」

 

「おはよう、四季。時間は大丈夫?」

 

「おはよう。父さん、母さん」

 

リビングに下りた四季の耳に、父である衛宮士郎(えみやしろう)と母である衛宮桜(えみやさくら)の挨拶が届く。二人に挨拶を返した四季は、静かに自分の席に着き、母が作った朝食を食べはじめる。

 

「えらく急いでたべるなぁ」

 

「うふ。今日は凛ちゃんと約束があるんですよ」

 

「ああ、それでか」

 

せっせと朝食を食べる四季の姿に疑問を持つ士郎。そんな士郎の疑問に台所から戻ってきた桜が答える。桜の言葉に士郎は、納得と言った表情を浮かべる。桜は急いで朝食を食べる四季を微笑ましそうに見ている。

 

「ご馳走様。っと、行ってきます」

 

「おう、ゆっくり楽しんで来い」

 

「凛ちゃんによろしくね」

 

了解と言って外に出た息子の姿を見た二人。先ほどとは違うゆったりとした時間が流れる。

 

「もう半月になるんですね。あの子が陰陽師になると言った、あの日から」

 

「ああ、時間が経つのは速いもんだ」

 

「あの時は本当に驚きました。四季が陰陽師に興味があるのは知っていましたが、まさかあんな手で来るなんて」

 

「確かにな。ホント、誰に似たのやら」

 

「貴方に決まってるじゃないですか」

 

「やっぱり‥?」

 

「はい」

 

その中で二人が思い出すのは、去年の出来事。ある意味大事件だったそれを思い出し、二人は笑みを浮かべる。

 

「憧れでしたからね。あの子にとって陰陽師は、自分の夢を叶える」

 

「そうだな」

 

そう言いながら士郎は、四季が出ていった扉に視線を向ける。自分達の家柄故に、その道がどれだけ険しいモノかを士郎は知っている。かつての自分がそうだったのだから。

だからこそ士郎は、自分の息子の未来を願うようにそして憐れむ様な表情を見せる。

 

「夢か‥‥それとも運命(さだめ)か」

 

小さく呟かれた士郎の声は、近くいた桜にも聞こえる事無く消えていった。

 

そして屋敷を出ていく四季の姿をナニカが期待する様に見ている事に彼は気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の強い日差しが射し込む中、四季は急いで約束の場所に向かって走る。

 

「はあはあ、ギリギリかな」

 

走りながら携帯の時計を確認した四季は、若干の安堵の表情を見せる。

そんな四季の耳に見知った声がいた。

 

「よう、坊主。朝っぱらから、そんなに急いで何処に行くんだ?」

 

「あ、アンタか」

 

声のする方を振り向けば、青い髪にアロハシャツを着た男が釣り道具を片手に手を振っている。

西洋人だろう堀が深い顔は、隠し切れない野性味が見て取れる。

 

「そう言うアンタは、また釣りなのか?」

 

「おうよ。釣りってのは、何度やっても飽きねえしな。お前もやってみるか?精神力を楽しく鍛えられるぜ」

 

そこそこ親しく話している四季だが、目の前の男の名前を知らない。会うたびに尋ねているのが、そのたびにのらりくらりと躱される為、四季自身もう聞くのを諦めていた。

 

「また今度機会があればな」

 

「そうかい。それはそうと、何で急いでんだ…いや、坊主が急ぐ理由と言えば、嬢ちゃんしかねえか」

 

自分で尋ねておきながら男は、勝手に納得したのかニヤニヤと四季を見ている。

 

「あの嬢ちゃんは、良い女だからな。捨てんじゃねえぞ」

 

「なっ!!」

 

四季にそう告げながら男は、海辺に向かって歩き始める。男の言葉に息をつまらせる四季、何か言おうとしているが言葉にならない。

そんな四季を横目に見ながら男は

 

「まだまだ青いね~」

 

面白そうな笑みを浮かべた。その後四季は暫らくその場に立ちつくし、平常運転に戻ったのはそれから数分後だった。

そして、待ち合わせの時間に間に合わないと理解すると、四季の絶叫が辺りに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季が約束の場所に着いたのは、約束していた時間を十分ほどオーバーした頃だった。

汗だくに息を切らせながら辿り着いた四季は、急いで辺りを見渡す。待ち合わせの相手は直ぐに見つかった。

彼女のイメージカラーである赤で彩られた服と黒いニーソックスが異常に似合っている艶のある美しい黒髪をツインテールにして、木陰で待つ姿は、一枚の絵の様だ。

 

「悪い凛。遅れた」

 

何かに怯える様に発せられた言葉。その言葉に反応したのか、凛と呼ばれた少女は、ゆっくりと四季の方を振り向く。

そして四季の姿を見つけると、それはそれは綺麗な満面の笑みを浮かべる。しかし、対照的に四季の顔色はどんどんと悪くなり、先ほどとは違う汗が流れ始める。

 

一歩凛が歩を進めた。反射的に四季は、一歩後退した。そんな四季の反応を見た凛は、より笑みを浮かべながら近づいてくる。四季は既にその場から動けなくなっている。

そして即座に四季の近くまで来た凛は綺麗な笑みから対照的に、イラつきマックスと言わんばかりの不機嫌な表情に変わり

 

「遅い!!!」

 

怒鳴る付ける様に、ただ一言を四季に向かって言い放った。




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それにしても自分で書いててあれだけど、桜の凛ちゃん呼びには、違和感しか感じない


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第二夜 安息の刻 その2

第二話です
終わり方が結構変な気がしますが・・・これ以上話を長くしたくなかったので無理やりに終わらせました
その為、後半は結構変かもしれません




凛の口から怒りの言葉が発せられたると、四季の身体は恐怖から震える。幼馴染でもあり、共に東京の陰陽塾で学ぶ学友でもある少女遠坂凛(とおさかりん)

第三者から見れば、誰にでも分け隔てなく接し、頭脳明晰で面倒見が良いと言うし、しかも美人と言う、正に絵にかいたような優等生だろう。

しかしそれは自分の口から言わせれば、凛の本質ではない。彼女が周りにそう認識させているだけだ。ある意味陰陽の乙種に近いだろう。動作や話し方などを使い、巧みに自分を偽る凛の本質を掴めている人間は陰陽塾にもそう多くはないだろう。

 

(あいつらが凛の本質を知ったら、どう思うだろう)

 

小さい頃からともにいた自分に言わせれば彼女は正真正銘「あかいあくま」だ。誰よりも負けず嫌いで意地っ張り。そして敵対する者は容赦なく潰しにかかる。

そしてなにより問題なのが

 

(我儘って事なんだよな)

 

子供の頃から自分を知っていると言う理由から、四季は当然の様に彼女の我儘に付き合わされた。それこそ、喉が渇いたからジュースを買ってきてと言う、子供らしい物から様々だ。

そして断ろうものなら、それはそれは満面の素敵な笑みで毒を吐かれたり、子供の特権を使い大人を味方につけるなどして絶対に断れない状況にしてしまう。あかいあくまなのだ。

 

「四季。今凄く失礼な事を考えてなかった?」

 

軽く恐怖を紛らわせるために現実逃避していた四季だが、ジト目でかつ人差し指を鼻に突き付ける形で、自分の顔を覗き込んでいる。綺麗な青い瞳に僅かに影がある。ヤバイと瞬時に察した四季は、考えるまでもはなく言葉を発する。

 

「考えてない!!絶対に考えてない!!」

 

「‥まあいっか。遅れてきた罰は、おいおい考えるとして行きましょっか」

 

「はい」

 

うん素直でよろしい。と笑みを浮かべながら歩き出した凛の後ろを、苦笑いをした四季が付いて行く。

気がつけば、二人は肩が触れ合うギリギリの距離まで近づき並んでいた。それが現在の二人の距離だ、その距離を片方はもどかしく思い、もう片方はその距離に何も疑問を抱かない。

故に二人の距離は決して交わらないし、交わってはいけない。今交わってしまえば、それは少女が望むモノと似て非なるモノになる。少女もそれが分かっているからこそ、その一歩に満たない場所に行けない。

少年は、近すぎるが故にそれに気づかず。少女は、聡明であるが故に踏み込めない。

 

そんなもどかしくも愛おしい距離を保ちながら二人は歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が辿り着いたのは、街を一望できる丘の上に来ていた。そこにシートを引きながら二人は風景を眺めている。別段何を話す訳でもなく、二人はシートの上に座り景色を眺める。

 

「そう言えばさ、あんた今朝のニュースみた?」

 

「ニュース?」

 

不意に問いかけに対して四季は問い返す様に声を返す。実際四季は、凛が言わんとしているニュースを知らない。起きたのがギリギリだったと言うのもあるし、急いでいたので気にもしてなかった。

四季の反応に凛は、そうよ。と髪をかき上げながら内容を話し始める。

 

「簡単に言っちゃうと、ある田舎町で一研究員である陰陽師が暴れて何人か負傷者が出たみたい」

 

「??。それがどうかしたのか?そんなモン呪捜管たちがとっくにおさめたんじゃないのか」

 

「ところがどっこい、犯人は未だに逃亡中。目的も不明と来てるの」

 

そこまで聞いて四季は僅かな違和感に気がつく。何かとは判らないのだが、まるで砂糖の塊を食べてしまって、他の味が感じ取りにくくなってしまっている様な、そんな違和感。

 

「何かお前の気になる様な事があったのか?」

 

「あたしも別に最初は気にしてなかったんだけどね、その場所が問題なのよ」

 

「場所?」

 

四季には凛はええそうよ。と告げ、その場所の名前を告げるが、勿論四季には聞き覚えが無い。

しかし、次の一言でその違和感の正体がハッキリとする。

 

「ええそうよ。確かにそこはただの田舎町‥ただ土御門家の本家がある場所なのよ」

 

「ッ!!」

 

凛のその一声に四季は息を呑む。土御門本家‥現在の陰陽術を作り上げた土御門夜光(つちみかどやこう)が生まれた家。当然そこには、現在では禁止されている禁忌と言われる術が隠されていると言うのが陰陽師たちの一般的な考えだった。

だからこそ気がつく。そこに唯の一研究員が暴れる?おかしい、だったら土御門家の秘術を狙ったと言われた方が納得がいくし、陰陽師で言うところの運動がダメな理系派の人間が、未だに呪捜官に捕まっていない?

 

「気がついたいね」

 

四季の反応を察した凛は、人差し指をピンと伸ばして自分の考え口にする。

 

「わかってると思うけど、呪捜官はプロよ。一介の研究員が一人で逃げ切れるわけがない。それが出来るとしたら」

 

「『十二神将(じゅうにしんしょう)』クラスの陰陽師」

 

「そう言う事」

 

四季の言葉に凛は満足したように頷く。

 

「一波乱ありそうだな」

 

「そうね」

 

そう呟く四季は、ふとある事気がつく。

 

「なあ、そう言えば夏目って、今俺達と同じで帰省してるし…巻き込まれてるとか無いよな?」

 

「無きもあらずね。あの優等生の事だから、自分の家の問題に口を挿まない訳がないだろうし」

 

「…ヤバいんじゃね?」

 

「まあ、大丈夫でしょう。向こうには本家筋の人間がいる訳だから、夏目君を巻き込ませるようなことにはならない筈よ。ヤバそうなら、当主あたりが無理やり送り返すでしょ」

 

「あ~でも‥一理あるか」

 

実際にはもっと切迫した状況な訳だが、それを知らない二人がそう楽観視してもおかしくはない。

 

「そうよ。それに彼、なかなか上手いし身ぐらいは守れるでしょ」

 

そう言ってはい、この話はお終い。と言う凛。しかし長年付き添って来た四季には、その声に僅かな不安を感じ取る。

その真意を悟った四季は、しれっと言い放った。

 

「心配してるなら、素直にそう言えばいいのに。相変わらず、不器用な奴」

 

「なっ‥!!」

 

放たれた一言に凛は、顔を真っ赤にして狼狽える。

 

「わ私は別に心配なんてしてないわよ!!ただ、彼との決着をつける前にいなくなられたら困るから‥そうよ、そう言う心配よ!!」

 

慌てて理由を述べていくうちに、知らない間に自分が心配してますと告げる凛。

その理由を聞いて四季は笑みをこぼす。

実際凛の成績は、学年の中でもトップレベルだ。凛に対抗できるのは、四季が知る限り二人しかいない。

 

一人は、先ほどから名前が挙がっている 土御門夏目(つちみかどなつめ)と言う()()

土御門家の次期当主であり、その名に恥じない実力を持つ。しかも成績は凛とドッコイドッコイだ。とある複雑な理由を持っているが、四季自身はあまり気にしていない。

もう一人は、倉橋京子(くらはしきょうこ)と言う少女

現在では陰陽界を引っ張る一族の令嬢であり、確か陰陽庁のトップが彼女の父親で、陰陽塾の塾長が祖母と言う、正しくお嬢様だ。何かと夏目に張り合っている節がある。

 

しばし四季は、凛の苦し紛れの言い訳を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ‥買ってきました」

 

「ありがと」

 

しばし言い訳を続けていた凛だが、突如思い出したように意地の悪い笑みを浮かべた。その笑みを見た瞬間、長年の経験からヤバイと判断した四季が、何か手を打とうとするよりも早く凛は飲み物を要求した。唯のそれと侮るなかれ。彼女は品目を指定したのだ。それもこの街で扱っている場所が一か所しかなく、しかも今の場所から軽く十キロは離れていた。

遅れてきた罰よ。と微笑みながら告げた凛の姿を見た、四季は抗う事を諦めた。抗えばより碌でもない事になる事を経験から知っているのだ。

そして全力ダッシュで買って戻ってきたと言う訳だ。その為息は切れ、シートの上に大の字で寝転がる。

視界の端では、凛が買ってきたジュースをおいしそうに飲んでいる。

 

「そう言えばさ、()の方は大丈夫なの?」

 

その声は、鞘を心配するのではなく四季本人を心配するような言葉だった。

 

「心配すんなよ。全然問題ねえから」

 

そう言って四季は自分の胸辺りを指す。凛が言っている鞘とは、四季が陰陽塾に行く前に、士郎より渡された鞘の事だ。士郎曰くお守りとして渡したらしい。

凛が心配する理由は、鞘を受け取った時、鞘は意思があるかのように四季の体内に取り込まれたのだ。それによって一週間高熱にうなされたと言うのが理由だ。

 

その後士郎より、心配ないと告げられている。しかし、四季はその時の父親の表情がどうしても忘れられない。なぜ心配しなくてよいのかは、結局説明されず、四季自身も体に異変がなく、陰陽医からも心配がないと言われ、納得した。一種の護符の様な役割を担っているらしい。

 

「そっか」

 

四季の言葉を聞いた凛は、それだけ告げる。その表情は四季には見えないが、安堵に染まっている。

その後二人は、食事をとったり街を意味なく二人で歩いたりしながら、一日ともに過ごした。

 

「さてっと、お互い明日には東京に戻らないといけないから、今日はもう解散しましょうか」

 

「それもそうだな」

 

凛の言葉に四季もうなずく。夏期講習もそろそろ始まるし、戻るべきなのだろう。

明日の集合時間を決め、二人は別れる。

 

物語の始まりを告げる日は、確実に近づいていた




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いよいよ、次回から原作に突入します


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原作二巻
第三夜 土御門 その1


主人公よりも凛の方が存在感を見せている・・・・次は活躍させたいな
違和感とかあったら、言って下さい。自分でも少し、上手くまとめれたか不安があるので


陰陽塾。未だに幼い鴉達が学ぶ場所。そう問われれば一般の人達は古臭い家屋を想像するかもしれない。しかし時が経つにつれゆっくりと近代を取り入れ始めたためなのかわからないが、現代の陰陽塾は、無駄のない最新鋭の現代風のビルである。されど纏う雰囲気は神殿の様な厳粛さを併せ持っている。

 

そんなビルの黒き烏羽(からすば)色の制服と白い制服に身を包んだ男女が続々と入っていく。

四季も例にもれず、校舎と言えるビルに向けて歩いている。その隣には凛の姿はない。基本的に朝に弱い凛。だからこそ、あえて早く行動する事でその弱点を隠している。

その為二人が朝に揃って登校すると言うのは極めて少ない。

 

二枚の二重ドアとなっている自動ドアの一枚目をくぐった四季は、その空間の左右に置かれた狛犬に視線を向け

 

「おはよう。アルファ、オメガ」

 

朝の挨拶を告げる。普通ならば、何をやっていると思うだろう。しかし、この陰陽塾において言えば、全くおかしくない。

 

「ふむ。おはようである。今日も勉学に励むとよい」

 

「元気そうで何よりである」

 

陰陽塾の守護を任される式神「アルファ」と「オメガ」それが狛犬の正体。厳つい表情や姿からは想像も出来ない程、親しみやすく話しやすい存在で、塾生の間では密かに人気者なのだ。自分の家柄を気にしない二体に四季は好感を持っている。故に毎朝の挨拶を欠かさないのだ。

 

アルファとオメガに挨拶を交わした四季は、ゆったりと自分のクラスの扉を開ける。もう既に多くの生徒が教室に集まっている。その中で四季は、窓側の一番後ろから七列目の席ヘ向かう。その場所の隣には既に凛が座っている。彼女の隣が常に四季の指定席なのだ。

 

「おはよう。衛宮君」

 

「おう。おはよう天馬」

 

席に向かう途中に挨拶を交わしたのは、痩せ気味で眼鏡をかけた見るからに気弱そうな少年百枝天馬(ももえてんま)。家柄的に友好を広めにくい四季に対しても、気負うことなく話しかけてくれる四季の学友である。

 

「どうだった夏季休暇は?確か故郷に戻ってたんだよね?」

 

「まあ、久しぶりに落ち着いてのんびり過ごせたかな。学生寮もいいんだけど、やっぱ我が家が一番だって再認識したかもな」

 

四季の言葉に天馬も苦笑しながら同意する。互いに他愛もない話をする二人。ふと天馬が四季にある事を尋ねる。

 

「そう言えば、四季君。今学校に流れてる噂って本当かな?」

 

「噂?なんだそれ」

 

天馬の言葉に聞き覚えがない四季は、興味津々と言った感じで逆に問う。その反応に天馬は、少し音量を落としながら話し始める。

 

「うん実はね、このクラスに転入生が来るんだって」

 

「この時期で陰陽塾に、転入生?」

 

天馬の言葉に四季は、今一現実味がないと言った感じの反応を見せる。理由として、陰陽師と言う世界はとにかく閉鎖的で狭い。その為陰陽師をめざし、陰陽塾に通う塾生は基本的に古くから陰陽に関わっているのがほとんどだ。その為一般人がこの世界に入って来るのは、極めてまれな事だ。

しかも陰陽塾の授業(カリュキラム)には無駄がない。一年の後半に入って来るなど、生半可な事ではない。

それ故に四季の反応も当然かもしれない。

 

「ガセじゃないのか?」

 

「僕もそう思ったんだけど、先生たちがここ最近慌ただしかったんだって。それに真新しい制服二着を発注したんだって」

 

「なるほど…確かにそれはガセと切り捨てれないな」

 

「そうでしょ。だから皆、噂が本当か少しソワソワしてるんだよ」

 

天馬の言葉に四季は苦笑する。何と言うか年相応の反応に笑いが出る。

 

「それじゃあ噂が本当かどうか、もう暫く待ってみるか」

 

「うん。そうだね」

 

そこで話を切り二人は、お互いの席に向かう。

 

 

席に腰を下ろした四季。

 

「その様子だと、噂は聞いたみたいね」

 

()()はどう思う」

 

「普通ならガセよって一蹴するんだけどね。前に言った件があるから、可能性は高いと思うわよ」

 

「来るとしたら、土御門家の誰かって事か?」

 

「でしょうね。しかも十二神将像クラスと戦えるレベル。‥‥上等じゃない」

 

凛は闘志をありありと燃えさせる。負けず嫌いもここまで来たら凄いなと四季は思う。その負けず嫌いな部分がきっと、凛の強さの根幹の一つなのだろう。

闘志を燃やす凛の隣で、珍しく四季も来るかもしれない存在に想いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばし時間が経った頃、教室の扉が開く。

 

「いや~お待たせお待たせ。皆のお待ちかねの転校生連れてきたで~」

 

現れたのは、四季たちの担任である新米教師大友陣(おおともじん)。背が高くヒョロリとしていて枯れた印象を与えるが、何より目を引くのが手に持つ杖と右足から生える時代錯誤と言える木製の義足。

頼りないという印象を与えがちだが、凛曰く「かなりの腕を持っている」とのこと。そしてそれは四季自身が感じた事でもある。

 

大友に続く様に現れたのは、本当に何処にでも良いそうな少年といかにもと言えるヤンキー風の少年。

 

「注目~。今日から皆と一緒に学ぶ、土御門春虎クンと阿刀冬児クンや。はい、挨拶しな」

 

「‥‥つ、土御門春虎(つちみかどはるとら)です」

 

阿刀冬児(あととうじ)です」

 

目元に五芒星(シャーマン)をつけた平凡そうな少年春虎が緊張をしながら、ヤンキー風の少年冬児は気負うことなく、自己紹介を告げる。

余りの淡白さに大友が言っているが、四季は不思議と春虎に意識を向ける。

ふと春虎の表情から緊張が消える。春虎の視線の先には、夏目がいた。見て伝わる何かを四季は微笑ましそうに見る。

 

「二人は皆より遅れるわけやから、最初の方は講義についてこられんかもしれんから、いろいろ教えたってや。仲良くするんやで~」

 

どうやら顔見せが終わるらしい。そう思った直後一つ手があがる。それを見た四季は、深くため息をつく。

 

――――頼むから、最低限で終わってくれ

 

これから起きる討論を予期して四季は、願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を上げたのは京子だった。何かと夏目に張り合っている彼女の事だ。今回も何かしらのアクションを起こすとは思っていたが、思った以上にあからさまだと四季は思う。

 

「大友先生。質問があります」

 

「なんや?なんでも聞いてあげたってや…カノジョの有無からなにまでな~」

 

「この時期に突然入塾するなんて、おかしくありませんか?本来なら、来期の募集を待つべきでしょう」

 

告げたのは明らかな拒否の念。しかしそれはある意味で四季や凛の様な例外を除きこの場に居るメンバー全員が抱いている事だ。

 

「そうやねんけどな。ちょっと深い事情があって、半端なこの時期に入塾するはめになってもうたんや」

 

「事情ってなんですか?」

 

「事情は事情やで」

 

「言えないようなことなのですか?」

 

「実はその通りや」

 

その言葉に京子の顔が怒りで赤く染まる。

 

「私達は必死な思いで突破して、此処にいるんです!!それなのにそこの二人は言えない事情とやらで、あっさりと入塾したんですかっ!!」

 

京子の怒りも最もだ。それでも大友はペースを崩さない。むしろペースを自分のモノにしている。

その中でふと、視線を春虎に向けて、そして静かながらもよく通る声で問う。

 

「…‥彼が土御門家の人間だからですか?」

 

空気が張り詰める。それだけの意味を持つのだ。土御門と言う名は。

そんな空気を破ったのは、またしても意外な人物。

 

「言いがかりも甚だしい」

 

凛としてよく通る声で告げたのは、もう一人の土御門である夏目。手を突き机から立ち上がる夏目の姿は、何時ものイメージからは離れたモノ。だからこそ、驚きが湧き上がる。

 

「君は一体、何の根拠があって、土御門の名を出す?同じ土御門の人間として言わせて貰うが、今回の件に関して土御門家は一切関与していない。ただの思い付きで言ってるのであれば、それは僕ら二人に対する侮辱だ。即刻取り消して貰おうか」

 

鋭い刃を思わせる言葉が、教室の空気を切る。塾生たちが息を呑む音が響く。

それは発端である京子も例に漏れない。それでも今更引き返せない。

 

「だ、だったら説明してちょうだい。何の説明もなく、納得できるわけないでしょ!!説明が無ければ、土御門家の意向が反映されているとしか思えないわ。そこにいる彼はあなたの式神だそうね。彼を傍に置くために入塾させたと考えるのが普通でしょ」

 

これは長くなるなと四季が場違いな事を考えていると、隣で立ち上がる音が聞こえる。それだけで全てを察した四季は、やっぱりこうなったかと深く息を吐いた。

 

「発言、宜しいでしょうか?」

 

突然、場の空気を裂きながら凛が立ち上がる。視線が凛に集まる。しかし凛は、むしろそれが当然と言わんばかりに堂々としている。

 

「まず、倉橋さん」

 

「な、なによ」

 

「貴方の言い分は正論です。でもそれを告げたいがためだけに、私達の時間を奪うのは違うのではないかしら?」

 

「ん!私が何時、貴方達の時間を奪ったっていうのよ」

 

「今まさにです。本来ならば、顔見せが終わり講義に入れたのにも関わらず、貴方がそれを延長させている‥‥くだらない張り合いの為に。違うかしら?」

 

正論。紛れもない正論が為に京子は何も反論できない。

 

「そもそもこの世界において言えない事情なんて珍しくないと思いますが。それを考査するのも陰陽師にとって大切なスキルだと思いますが」

 

凛の言葉に京子は息を呑む。案に告げているのだ。この程度の事情など、自分で理解できないの?と。

明らかにプライドを刺激している。しかし、明らかに正論であるために言い返せない。

その反応に満足した凛は、次の標的である夏目に視線向ける。

 

「次に夏目君」

 

その言葉に夏目は何か構える様に凛を睨み付ける。

 

「僕は間違った事を言っているつもりはない」

 

「ええ。貴方の意見も決して間違っていない。それでもこの世界におけるあなた達の家名の重さは理解しているでしょう?その決意を持ってこの塾に来たのだから、貴方の反論は、そこにいる彼の覚悟を侮蔑していないかしら」

 

案にその程度の覚悟せずに、この場所に来たわけじゃないでしょ?と告げる凛。

 

「それに彼らが入塾するならば見せて貰います。あなた方が此処にいるべきかどうかは、遅かれ早かれじゃないかしら?勿論、私達も敗けるつもりもありませんが」

 

打ち抜く様な目で春虎達を見る凛。示さなければ、貴方達に居場所など無い。と告げる。

知らぬ間に場の空気が、転入して来た二人を受け入れ切磋琢磨して受ける者と挑む者に変わってきている。

その手腕に四季は流石と呟き、大友は小さく口笛を吹き、冬児はおおという表情を見せる、春虎は身を震わせる。夏目と京子は悔しそうに唇を噛む。

 

――――勝った

 

――――勝ったって思ってるよな

 

ゆったりと座った凛を見た四季は、そんな事を考えていると察する。そんな中で四季の意識は不思議と、春虎から離れなかった。




良かったら、感想をお願いします

凛の反論
言いたい事が伝わりましたかね?


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第四夜 土御門 その2

お待たせしました!!

主人公達との会合です
上手くレイヴンズらしさを出せてるか心配ですが、頑張ってみました

楽しんでくれら、嬉しいです!!


二人の転校生の登場と小競り合いを終え、昼休みの時間帯。四季は、カバンから二つの弁当を取り出すと、隣に座っている凛に手渡す。

 

「ありがと」

 

弁当を受け取った凛は、簡潔に礼を述べる。これもまた東京に来た二人の変わらない日常だった。互いに交互に昼ご飯を用意する。最初にそう告げたのは、凛の方だった。四季自身、母親である桜から料理を習っていたから了承したわけだ。

 

「今日は一人で食べるのか」

 

「ええ、少し考えたい事もあるしね」

 

「了解」

 

このやり取りもまた、東京に来てからの変わらないやり取り。互いに一緒に食べるときもあれば、別々に食べるときもある。理由としては、お互いに何かを考えたいときは一人になりたいタイプだからというの挙げられる。

恐らく、凛は転校してきた二人について何か考えたいところがあるのだろう。

 

淡白に告げて教室から出ていく凛。四季は、ゆったりと立ちあがり天馬の方に歩いて行く。自分と同じ弁当組であり、四季の少ない学友の一人。こう言った状況では二人で食べるのが通例となっている。

 

しかし今日はどうやら先客が居るらしい。天馬の隣に座っている話題の転校生の一人冬児がいる。そして天馬の前の席には春虎が座っている。

もう仲良くなったのか。と考えた四季だが、何となくそれは違うと感じる。

 

―――偵察って所か?

 

全く別の世界に放り込まれたのだ。少しでも塾内のことを知ろうとするのは当然かもしれない。そしてそう言った役目に天馬はバッチリあっている。

 

―――まあ、俺も興味あったしいっか

 

果たして、土御門の人間が自分の名を聞いてどんな反応を取るのか。少し興味がある。夏目の時は、全く関わろうとしない彼の性格上何もなかったが、見るからに活発そうな彼ならどうなのか、反応を見て土御門の反応に探りを入れるのも面白いと思っている。

だからこそ

 

「悪い。隣いいか?」

 

いつも通りの口調で輪の中に入っていく。最初に反応したのは天馬だった。人の良さそうな笑みを浮かべながら、冬児がいる場所とは逆の場所を指してくれる。

一言入れてから席に座った四季。次に話しかけてきたのは、冬児だった。

 

「俺の名前は…」

 

「阿刀冬児だろ。さっき自己紹介してたらから覚えてるよ。俺の名前は、衛宮(・・)四季だ。まあよろしく」

 

話しの主導権を握ろうとした冬児の言葉を遮る様に四季が名前を告げる。一瞬、驚いたような顔をした冬児だが、次の瞬間にはニヤリという効果音が付き様なほどの笑みを浮かべる。

 

「でそっちが、土御門春虎だよな。よろしく」

 

「ああ、此方こそ。えっと…」

 

「四季でいいよ」

 

「ああ、よろしくな!!」

 

次に四季が話しかけたのは春虎だった。話を振られた春虎は少し驚いた様子を見せながらも嬉しそうに答える。しかしその反応が逆に四季を困惑させる。

 

――――俺の家のことを知らないのか?

 

そんな考えが頭をよぎる。しかしこの世界で自分の家の名を知らないのは少し可笑しいと感じる。

意外にもその疑問を解消させたのは冬児だった。

 

「良かったな春虎。早速、つるんでくれそうな友人候補が出来てよ」

 

「それってどう言う事?」

 

「いやなに。こいつも戸惑ってんだよ。土御門って言っても分家筋の人間で、陰陽術のことなんて全く知らないド素人だからな。俺もそうだが、この夏まで一般の高校に通ってぐらいなんだ」

 

「へ~。土御門って言ってもいろいろあるんだね」

 

「確かに意外だな」

 

冬児の言葉に天馬と四季は純粋に驚いたような声を漏らす。それだけに意外だったのだが、二人の反応を見た冬児は笑みを噛み殺し、春虎はうっ!とした反応を見せる。

 

「そう言う事なんだよ。それに陰陽塾(ここ)に入れたのだって、褒めらてた事情があった訳じゃないんだぜ?。ほら、さっき女子が言ってたろ?実はな、この前の陰陽師が起こした事件があっただろ?」

 

「お、おい、冬児」

 

突然の話題の変化に天馬は驚き、春虎は焦ったような声を出す。対して四季は、感心するふりをしながら、凛と自分の予想がある程度的を得ていたことを悟る。

 

「その犯人が実は陰陽庁の幹部の関係者(スジ)でな、それに巻き込まれた一般人の俺らはいっそ『業界の人間』にして丸め込めって感じなんだよ」

 

「あの事件に、そんな事情があったんだ」

 

「というか、その事俺らに話してよかったのか?極秘じゃねえのか」

 

「いやなに。さっきの女子の言葉から察するに、何人かにばれてるなら、下手に隠すよりは話した方がいいと思ってよ。まあ、ある程度覚悟して来たんだが、まさか初っ端に堂々と弾劾(だんがい)されるとは思わなかったぜ。それのせいで、春虎(こいつ)なんて午前はへこみぱなっしだったんだぜ」

 

「へえ、そんな事が」

 

冬児の話を聞いた天馬は、同情した様な目で春虎を見る。その反応を見て四季は改めて天馬がの人の良さを再確認する。何と言うか、騙し合いの世界であるこの世界では、大分浮いている様に思える。

対する、四季は冬児の話を聞きながら、語られたのがあらかた真実であると推測する。

 

「あの事件をきっかけに、陰陽師を目指す事を決めたんだ。勿論、さっきの女子が言ったように、望むところだって覚悟して来たんだけど‥‥ちょっと戸惑ってな」

 

春虎の言葉に当然だと四季は思う。誰だってあそこまで露骨に言われたら、覚悟していようが戸惑うに決まっている。自分がそれに近かったのだから。

 

「で、だな。知っている範囲で構わないんで、『クラスの事情』的なモノを教えて欲しい。‥‥今朝の『倉橋』なんだっけ?」

 

漸く本題に入ってきたのか。身を乗り出し、他の塾生には聞こえない様にしている。言わんとしたことを理解した二人は話始める。

 

「彼女、倉橋家の令嬢なんだ。でも令嬢って言っても、お高くとまった子じゃないよ。僕なんかとも…それに四季君とも気取らないで話してくれるし」

 

「でもまあ、土御‥夏目が絡むと、な。ライバル視してるみたいだしな」

 

二人の話す最中、春虎がある意味での問題発言をかます。

 

「さっきからずっと気になってたんだけど、『倉橋』ってなに?。そんなにも有名なの?」

 

この発言には流石の四季も驚かずにはいられない。ふと見れば、天馬も驚いたような顔をしている。

二人の反応を見て面白そうにしている冬児が茶々を入れる。

 

「な?この業界のことなんて全く知らないド素人なのさ」

 

冬児の言葉に四季は、本当に春虎があの事件に関わったのか、疑いたくなってきた。『倉橋』の説明を受けた春虎は、純粋に反応を見せている。

 

「ただね。現在の権威がどうであれ、やっぱり『土御門』の名前は歴史的とかで『家格』として、圧倒的なんだ」

 

「だから、倉橋の奴がつ‥夏目を一方的に敵対しているってのが、このクラスの大体の相違だな」

 

夏目の奴がまったく相手にしてないから余計にそう見える。と告げる四季。

 

「そうだね。一回生は座学が中心だけど、偶にある実技じゃ、遠坂さんを含めて三人がトップだね。でもやっぱり、護法式(ごほうしき)を持ってるのは二人だけだし、二人が上に見えちゃうね」

 

天馬の発言に若干イラッときた四季だが、此処で怒っても筋違いだし天馬に悪気がないと理解しているため何も言わない。

 

「遠坂って誰だ?」

 

「ああ、ほら今朝、二人を論破した子がいたでしょ?あの子が遠坂さん」

 

天馬の言葉に二人は、先ほど堂々と凛としながら夏目を言いくるめた少女を思い浮かべる。そして納得と言った表情を見せる。

その後、春虎が再び唖然とする発言をするのだが、ある意味で慣れた二人は無視し、冬児が「少し黙ってくれ」と釘をさした。

 

「でも今日のことは驚いたよ‥‥夏目君があそこまで熱くなるなんて」

 

「確かにな」

 

二人の言葉に冬児は「どう言う事だ?」と聞いてくる。

 

「さっきも言ったけど、夏目って基本的に倉橋の挑発も冷静に受け流してたんだよ。しかもクラスメイトとあまり関わろうとしないからな、何時も淡々と講義を受けてる印象なんだよ。だから、今日みたいに反論した事なかったからな」

 

「だから、倉橋さんも余計に驚いたんだと思うよ」

 

二人の言葉に春虎と冬児は顔を見合わせる。

 

「きっとそれだけ、君のことが大切なんだね夏目君は」

 

「確かに、俺もそう思うな」

 

「‥‥」

 

二人の指摘に春虎は照れた様にそっぽを向く。

 

「‥‥‥ま、これから『一緒に頑張ろう』ぜ」

 

冬児のその言葉と共に話し合いはお開きとなった。




どうでしたでしょうか?
いよいよ次回は、凛も交えての春虎達との会話と思ってます

良かったら、感想をお願います


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第五夜 土御門 その3

凛と春虎を話しさせようと思っていたのに、出来なかった
期待していた方がいたら、本当にすみません
次こそは必ず!!

まださして話は動きませんが、楽しんでくれたら嬉しいです


講義も終わり放課後。四季は、未だに机から立たずに、一点を見つめている。その表情は唖然と呆れで染められている。

 

「なあ‥‥遠坂」

 

「言わないで」

 

視線を動かさず、隣で同じような表情をしている凛に声を掛けるが、本人も何を問われるかを察している分、何も言いたくない。

それでも四季は言わずにはいられなかった。

 

春虎(あいつ)って本当に訳ありなのか?」

 

「言わないでって言ったでしょ」

 

四季の言葉に凛も頭を抱える様にうずくまる。原因たる春虎は、先ほどから夏目と冬児に囲まれ何かを言われてる。

発端は、春虎の余りの無知さ加減だ。陰陽師を目指すならば、知っていて当然というべき知識すら春虎は知らなかったのだ。最初誰もが、ふざけていると思ったが、次第に呆れ果て皆が彼の存在を無視した。

凛としてもあれだけのセリフを言った手前これでは恥ずかしいし。何より自分達の仮説が本当かどうかすら疑いたくなる。

 

「まあ、ともかく明日に成れば何か変わるかもしれないわ。それにアンタが聞いた話が話が本当ならば何かが彼にはある筈よ」

 

「‥‥たぶん」と告げる凛。いつも物事を断言する彼女にしては珍しい。しかしその想いが分からない訳ではない。何しろあの土御門家の人間がそうなのだ。

 

「それじゃあ、私は先に帰るわね」

 

「おう、また明日」

 

「ええ」

 

席を立った直後には、先ほどまでの気配を隠し、優等生に成り切る凛。その姿を見送り、しばし春虎達を観察していた四季だが、なぜかとても阿保らしくなり自身も寮に帰る為に席を立ち、教室から出ていく。

 

「うん?」

 

教室を出て、廊下を歩く中でふと、何か視線を感じ振り返る。入塾してからと言う物、そう言った視線には慣れてきたはずだが、今のは違う。もっとどドロドロとして濁った暗い狂気に似たナニカだ。

辺りを見渡すが、帰宅する生徒達やスーツ姿の男性などしか見渡らない。その視線は感じられない。気のせいかと割り切り、四季は再び歩き出す。しかし、ふと視界に映った黒いスーツ姿の男の姿が、四季の記憶に不思議と焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、変わらずに陰陽塾の教室で講義を受ける四季。話を聞きながら、四季の視線は何処かに話している様にボケっとしてる春虎に向けられる。

 

「こらあ、何ボケっとしてんねん、新入生、春のつく方」

 

「わっ!すみませんでした!!聞いてます聞いてます!!」

 

「だったら、何で謝ってねん」

 

大友の言葉に驚き席を立つ春虎の姿を見て、クラスメイト達はクスクスと笑ってる。凛は頭を抱え、四季はため息を吐く。

 

「あかんなあ、春虎クン。入塾二日目でそれじゃあ、遅れは取り戻されんで・ただでさえ、君、えらいぐらいもの知らんって、講義の先生方の間でも評判になってるんやから」

 

嘆く大友の姿見ながら、四季は春虎に視線を向ける。渋面しているが、何処か意識が別に向いている様に見える。

そんな中で大友が、講義の復習を提案する。しかしそれに待ったをかけたのが、やはりというか京子である。

 

「たった二人の新入生の為に、カリキュラムを捻じ曲げるなんて、それこそ特別待遇ではなくなんなんですか!!」

 

正論の前ですら大友はペースを崩さない。のらりくらりと京子の話を躱し、此処にいる塾生たちの復習になると告げる。しかし四季からしてみれば、復習とは己に知を収着させる物であり、あくまで講義の中でする必要はないと思う。それは凛も京子も同じなのか、凛も顔を顰め、京子は食って掛かる。

 

「みんながついて来る事が前提なのが、陰陽塾のカリキュラムです。講義に遅れている自覚のある者なら尚更、自分の責任で復習するのが当然ですっ。その為に真面目に受けている者達が被害を被るのはおかしいと思います」

 

「それやと、ついて来れない人は切り捨てるって聞こえるけどな」

 

何処か試すような言葉にも京子は、狼狽える事無く断言する。

 

「それが陰陽塾のカリキュラムだと思いますけど」

 

「傲慢」と取られても仕方がない言葉。しかし京子はそれを信じているのだろう。自信に満ちている声だ。

そして驚く事に大友は淡白にそれを認める。しかし同時に告げる。「自分はその在り方が好きでないと」。矛盾した言い方。だが、四季にはまるでそれが陰陽だと感じた。矛盾を抱え、それを容認し、それでも進む。答えなき答えを知るために。

空気が変わる、全てが大友陣という存在に支配される。それも一瞬のことだが、それでも四季は改めて彼が凄腕だと再確認する。そしてそれは凛も同じだろう顔が先ほどまでの顔が嘘のようになっている。

 

「…納得できません」

 

空気を破ったのはやはり京子だった。

 

「何を言ったて、それは土御門に対する贔屓じゃないですか!!先生だって、彼のために言ったんですよね!わたしは納得できません!!」

 

昨日と同じ流れ。だからこそ誰もが夏目に注目したが、驚く事に彼は昨日の事が嘘のように沈黙を貫いている。

一向に動かない夏目に矛を向けても無駄だと悟ったのか、京子は春虎に矛先を変える。

 

「俺は…」

 

春虎が言葉を発した瞬間、教室は沈黙し春虎の言葉が辺りによく響く。凛は何も言わない。今回の件で見定めるつもりなのだろう。もしも価値なしと判断すれば、次からは凛も京子に加わり春虎を追い出すために動くだろう。いうならば最終試験。彼がこの場所で学ぶに値する人物かどうかを計る為の。

 

――――試されてる中で、お前は何て言うんだ、春虎?

 

心の中で四季は、春虎にそう問いかける。

 

「俺は確かに講義についていけてない。だから、先生が復習してくれるならすげえ助かる」

 

「悪いとは思わない訳…?」

 

「いや、すげえ悪いと思う」

 

「だったら――――」

 

直後凛もまた京子を援護せんと立ちあがろうとするが、四季がそれを止める。一瞬、交差する視線。頼むという目に凛が折れ、再び聞き手に周る。

 

「でも遠慮はしない(・・・・・・)。土御門の名なんて大層なもんだとは俺には思えない。俺からすれば、アンタらが過敏に反応している様にしか思えない」

 

誰もが息を呑む。その中でも春虎は迷いなく告げる。己の居場所を得る為に。

 

「俺は、自分が陰陽師になる事を最優先にさせて貰う。迷惑だと思うし、悪いとも思う。それでもそこだけは絶対に引けない」

 

 

その宣言に凛は感心した様に笑みを浮かべる。四季もまた面白そうな顔をする。しかし京子は怒りを感じながら宣言する。

 

「…‥土御門春虎。私は貴方に自主退塾を進めるわ」

 

「辞めろって事か?」

 

「ええそうよ。初回の講義で貴方がついて来れないというのは誰の目を見ても明らかでしょ。ここは陰陽師を目指す中でもトップレベルの場所、貴方のような才能のない人間がいるべき場所ではないわ!!」

 

怒りに任せた宣言。されど春虎は怒りを受け流し淡々と告げる。

 

「‥‥まあ、大目に見てくれよ」

 

瞬間、京子の怒りが限界に達し、春虎に踏み出そうとする。刹那に四季は確かに視た。春虎から何か霊気の塊が京子に迫るのを。

直後

 

「そこまでだ、痴れ者!!」

 

突如、怒りを含んだ声が放たれたと思えば、京子が重心を崩され床に投げ出される。誰もがあまりの事態の変化に驚く中でその存在は告げる。

 

「厳命故に大人しくしておれば、春虎様に何と言う無礼!!その愚行最早看過できぬ。即刻、我が哀悼の錆にしてくれる故に、大人しく――――」

 

直後現れた狐耳の少女の頭を春虎が叩く。誰もが驚く中で凛が四季に問う。

 

「ねえあれって――――」

 

「ああ間違いない。護法式だ。でも何か封印されてるみたいだけど、間違いねえ」

 

「ふ~ん、何だ彼相当な食わせ者ね」

 

「あんな切り札を隠してたなんて」と告げる。その言葉に四季も同意だと思う。大友もまた春虎に対する認識を変えている様だ。これで同時に流れが変わった。先ほどとは別の感情が春虎に向けられる。

 

白桜(はくほう)黒楓(こくふう)!」

 

鋭い京子の声と共に、彼女を守護する二体が彼女の背に現れる。黒と白の近代的な鎧を身に纏った彼女の護法式『モデルG2・夜叉』だ。

 

「よくも騙してくれたわね。わざわざ無能を演じるなんて、大した狸だわ」

 

「え?」

 

「とぼけないで!一体何のつもりで演じてたかは知らないけど、もう容赦しないわよ」

 

完全に頭に血が上っている。春虎の言葉すら届かず、「殺」の意思のみを見せる。不穏な空気に、冬児が腰を上げ、夏目は呪符のケースに手を伸ばす。そして四季もゆっくりと腰を上げる。その姿を見た凛も仕方がないかと呟きながら腰を上げる。

一触即発の空気が場を支配する。故にその声はひどく響いた。

 

「よっしゃ、わかった!」

 

活発的な声、が空気を壊す。声の主は大友だった。彼は更に元気よく宣言する。

 

「やる気と元気は十分。大いに結構。二人とも式神をなかなかに操れるようやし、ここは一つ、実技の手本を見せて貰おうか」

 

『は?』

 

その発言の意味を一瞬全員が、何を言っているのか理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

陰陽塾の地下には、巨大な呪練場がある。貼られている結界の強度は陰陽塾の中でも一番であり、フェーズ3までの霊災ならば耐えられるほどだ。実技では主に此処を使う。

 

「さて、どうなるかしらね」

 

観客席に座り、凛は面白そうにアリーナを見下ろす。彼女からすれば、価値のない子猫だと思った存在が、虎の子だったのだ。興味がない訳がない。

隣に座る四季もまた、何が起きるか高揚感があるのを否定できない。

二人の耳に冬児の「あいつを侮ると痛い目見るぜ?夏にも前例(・・)があるからな」という言葉が届く。それが余計に興味を引き立てる。

ふと視線を下に向ければ、京子がリラックした状態で春虎を待っている。肝心の春虎は、何か準備があるのかまだこの場にいない。

だが、アリーナに現れた春虎は、二人の想像を超えたモノを示す。何と春虎は自分も護法式と戦ういうのだ。余りにも常識外れな選択に誰もが驚き思考が停止する。

しばしの空白の中で、凛はいい方向でのバカねと判断し、呆れ6好奇心4という顔をする。

対する四季は、何が起きるかワクワクした表情で見守る。その姿を見た凛は、理解できないわねと呟きながらも、何かがるのかと評価するためにアリーナに視線を向ける。

 

京子は止めろと言い、主である夏目に視線を言葉を向ける。しかし春虎は譲らずに戦う意思を見せる。主の意思を押しのけ春虎は、戦うと告げる。その意志の固さが凛の評価を改めさせる。

そして前代未聞の戦いが始まった。

 

放課後、珍しく四季と凛の二人は揃って帰路についている。話の内容は勿論春虎と京子の試合。

 

「どう見る?」

 

しばし互いに考える時間を取ったために問われるのは、己の考え。

 

「普通に視たら当然の結果だけど、明らかに春虎は勝筋を得ていたように思える」

 

「そうよね。私も同じ考えよ。でもだとすると―――」

 

「春虎の武器が壊れた事だよな?」

 

「ええ、仮にも講師が施した術が掛けられていたはず。それも『夜叉』の攻撃に耐えれる物を」

 

「でも実際には壊れたって事は――――」

 

「ええ、春虎君の呪力が先生の想像を遥かに上回ったって事よね」

 

「ああ、間違いないだろうな。『視て』てもそう思えたし」

 

結果は当然のように京子が勝った。しかし二人はその中で見せた春虎の違和感を感じ取っていた。

 

「何にせよ、これからが楽しみね」

 

「確かにな。明日が楽しみだ」

 

果たして、明日クラスメイト達は春虎にどんな反応を示すのだろうか?少なくとも、自分と凛は春虎を認めた。あの場所で自分達と同じ場所を目指すに値すると判断した。

だからこそ、他の面々の答えが気になるところだ。

 

二人は寮の分かれ道までその話で盛り上がった。

 

そしてこの日を境に狂気が運命が、衛宮の姓を持つ四季を巻き込み動き出す。




次回から漸く物語が動くのかな・・・?
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第六夜 盲信者

いよいよ、物語がスタート
キリが良い所で切る為に、結構長くなってしまいました

そして何度やっても、急急如律令の最初の「きゅう」が正しく変換されない
その為、今後も上の形となります 
ご了承ください

違和感なくいけたかな?
楽しんでくれたら嬉しいです


前代未聞の試合から翌日。四季と凛は、変わらずの指摘席に座って全体を見渡している。いつもよりも空気が明るい。それが四季と凛の感じた事。理由は言うまでもなく、あの試合が原因だろう。その証拠に、春虎が教室に入れば彼を中心にクラスメイト達が話しかける。

そこに否定の意見はなく、間違いなく彼ら彼女らに土御門春虎という少年は認められた証拠だ。

 

「やるわね、彼」

 

「そうだな。少なくとも俺にはできない」

 

凛の言葉に答える四季の表情は、何処か羨望に春虎を見ている。その感情に気がついたのだろうか、凛が誰にも気がつかれない様に四季の足を踏む。一瞬、痛みで顔が歪むが、理由を察してありがとうと告げる。礼を言われた凛は、フンといいながら顔をそらウ。不思議と朱色に染まった顔を見られたくなくて。

 

その後、事の発端でる京子が春虎を呼んだことで教室話更に沸き立つ。如何に陰陽師を目指す雛たちといっても、年相応の学生なのだから仕方がない。

ふと四季の視界の淵に、何かを戸惑う様な夏目の姿が映る。しばし、春虎達が出ていった扉を見つめたかと思えば、決意した様な瞳と共に立ち上がり二人を追うように教室から出ていった。

 

そしてその後、春虎と京子は帰ってきたが夏目は戻ってこない。その事を疑問に感じつつも四季は講義を受ける。

結局、午後の講義に夏目は出席しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後、本来ならばもう既に寮に帰っている時間帯なのだが、四季と凛の二人はまだ教室にいた。いや、二人だけではなく春虎や冬児そして京子の三人もとどまっている。

 

「おかしいよな」

 

「ええ、おかしいわね」

 

真面目な優等生である夏目が何も言わずに講義を欠席。それ自体が既におかしい。二人はそう考えるが、明らかに話しかけれる様な雰囲気ではない。

ふと、音をたて扉が開かれる。瞬間、五人の視線がそこに集まる。現れたのは、夏目ではなく天馬。何も知らなかった分、集まる視線に驚く。

萎縮を感じた四季が、何時もの様に天馬に話しかける。

 

「どうしたんだ、天馬。お前がこの時間帯に残ってるなんて珍しいな」

 

「あ、四季君。うん。実は大友先生が、至急春虎君にこれを渡してほしいって頼まれて」

 

「俺に‥?」

 

突然、自分の名前が出たことに驚く春虎。対する四季と凛の二人は、大友が天馬に渡したであろう物を見る。修行僧など持ち歩く錫杖(しゃくじょう)である。冬児と京子も興味をひかれたのかそれを見る。天馬曰く「前回の試合で折れた木刀のリベンジマッチらしい」。貰った春虎自身はどうするか困り果てている。

自分の仕事を達した天馬は、ふと自分の疑問を口にする。

 

「そう言えば、春虎君達はどうしてまだ教室に居るの?四季君だって普段だったら帰ってる時間でしょ?」

 

「そこにいる二人は知らんが、俺らは夏目待ちだ。午後の講義出席してなかっただろ?」

 

天馬の疑問に答えたのは冬児だった。その言葉を聞き、天馬も納得という表情を見せる。

 

「俺ら二人も同じだよ。あの夏目が講義を欠席したからな、どんな理由なのかと…まあ、野次馬根性だな」

 

そしてそれに続くように四季が答える。四季の答えに天馬は納得の表情を見せる。何て言ったて学年一の優等生が理由も告げづに欠席したのだ、興味を惹かれるのも理解できる。

 

「俺が最後に夏目を見たのは、昼休みに教室から出ていく姿だけど、誰かその後のこと知ってるか?」

 

「ああ、それなら。そこのバカと喧嘩したらしいぜ。倉橋も一緒にいたらしい」

 

「え!そうなの」

 

四季の言葉に答えた冬児の言葉に天馬は驚いた顔をする。何て言ったて昨日の今日なのだ、あららと言いたげな顔をしている。天馬の視線を京子は無視を選択、対する春虎は不貞腐れた様に告げる。

 

「すっぽかしたって言ったて、どうせ特別カリキュラム(・・・・・・・・)だろ?別れる前に、例のスーツ姿の野郎が迎えに来たしな」

 

一瞬、冬児を除く全員が何を言っているのか理解できないかった。一番早く動いたのは凛。彼女は立ち上がり、春虎の前まで歩いて行く。そして確認する様に問う。

 

「春虎君、確認したいのだけどいいかしら?」

 

「え?…ああ、いいぜ」

 

何処か否定を許さない声に身を竦ませながら春虎は凛の言葉を待つ。

 

「貴方の言う、スーツの男性というのは、昼休みなどに訪れる人の事かしら」

 

「そうだけど、何でそんな事聞いてんだ?」

 

凛の質問の位置が読めないという顔をする春虎。対する面々は、あらかたの事情を察する。

 

「初めに言っておくとね。夏目君は、特別カリキュラムなんてものは受けていないわ。たぶん、貴方を心配させまいと嘘をついたのね」

 

「嘘ってどう言う事だよ!!」

 

凛の言葉に今まで呆けていた春虎の顔が強張り、言葉が荒くなる。しかし凛はそれをどこ吹く風と受け流し、四季に視線を向ける。向けられた四季は、バトンタッチをする様に話始める。

 

「あれは呪捜官で事情聴取を受けてたんだよ」

 

「はあっ!?何で夏目が事情聴取されないといけないんだよ!!」

 

「呆れた。遠坂さんも言ってたけど、夏目君本当に隠してたみたいね」

 

告げられる言葉に今度こそ春虎は驚く。そしてその姿を見た京子は、先ほどの凛の言葉が真実であると察する。不穏な空気に先ほどまで静観に徹していた冬児は、イスに座り直し情報を集めようとしている。自分だけがのけ者された様で、苛立った春虎が何かを言うとした刹那

 

「春虎様!!」

 

突如、彼の護法式『コン』が実体化し臨戦態勢に入る。何事かと誰もが疑問に思った瞬間、一歩遅れて四季が察する。

 

「下がれッ!!」

 

四季が怒鳴ると同時に、教室の廊下側の窓を粉砕し、何かが教室に入り込んでくる。四人が何が起きたのか全く理解していな中で、コンと四季と凛の三人は動いた。

 

「凛!!」

 

「OK」

 

机を踏み台に二人が、春虎達の元へと跳ぶ。二人は流れる様に呪符を取り出し、頭上に現れた存在を遮る様に告げる。

 

「「急急如律令(オーダー)ッ!!」」

 

上に放たれたのは護符。空中に静止したように呪符が壁となり、使用者を護る術だ。

着地した四季は、改めて上に居る存在を見据える。それは(もや)とも取れ、霧とも取れ、煙とも取れる何か。しかしそれは生きているかのように蠢めいている。

 

「な、なんだよあれ!?」

 

「陰陽塾では、あんなものまで飼ってるのか?」

 

「わかんない。って言うか、何で僕に聞くの?」

 

騒然と事態を飲み込めない春虎達が焦る様に言葉を発する。しかし肝心の四季は答えずに、未だに空中に漂う泥土(でいど)のような噴煙のようなそれを視る。

 

「これって…」

 

「ああ、蠱毒(こどく)だ」

 

「なんでそんなモノがって聞くだけ野暮ね」

 

「だろうな」

 

震える様な京子の言葉を受け継ぐ様に四季が正体を告げる。その言葉を聞いた冬児と天馬は驚き、凛は不敵に笑って見せる。

 

「おい、まさかあれも式神なのか!!」

 

「ああ、それもバリバリの禁呪だぜ」

 

陰陽庁に許可なく作るとこすら禁じられるそれが四季たちに襲いくる。

 

「ででも、おかしいよ!!塾舎全体には結界が張られている筈なんだ!!式神といえど許可なく侵入できない筈なのに!!」

 

「その疑問に答える必要があるかしら」

 

「え?」

 

「簡単な事よ。外が無理なら内側で使えばいい。結界って言うのは、あくまで外側から護る物。内側からの侵略には無力よ」

 

慌てる天馬たちに、上に漂う蠱毒を睨み付けながら凛が静かに告げる。そして同時に、上に溜まっていた蠱毒から目が生まれ、その不気味な瞳が春虎を見据える。

 

「春虎様!!」

 

「来るぞ!!」

 

四季とコンが吠えると同時、雨漏りの様に蠱毒から不気味な雫が垂れ落ち襲いくるが…

 

「そう簡単には…」

 

「行かせないわよ」

 

二人が放った護符が、蠱毒の侵入を拒む。しかし蠱毒も学習しているのか、垂れ落ちた雫は意思を持つかのように左右から襲いくる。

 

「行かせね」

 

「クッ――――白桜、黒楓ッ!!」

 

即座に動ける様にしていたコンが右側から迫る蠱毒を切り伏せ、続いて京子が護法を操り左の蠱毒に対処する。

しかし、いくら切り伏せようともラグが輪郭を歪ませても即座に本体に吸収され、全く勢いが減らない。

しかも

 

「うわぁ…ま、前からも来た!!」

 

「四季、お願い!!」

 

「わかってる、急急如律令(オーダー)

 

まるで天幕を張る様に四方から蠱毒が攻めはじめる。

 

「春虎!!お前の護法に後ろを護らせろ!!倉橋は、『夜叉』の一体を右を放て」

 

中央にて四季の指示が飛ぶ。未だに状況が読めない春虎は、四季の指示に戸惑っていたが、凛の「早くしろッ!!」という怒鳴り声に震え、急いでコンに命令する。対する京子は、即座に行動を起こし指示を実行する。現状四季の指示が正しい事を理解したのだ。

しかし、蠱毒の勢いは殺せずに、六人は徐々に窓側に追いやられる。

 

「ダメだな。ご丁寧に携帯も繋がらねえ」

 

「窓が開かない。何でだよ、クソッ!!」

 

「チィ。完全に後手後手ね」

 

二人の言葉に凛は唇を噛む。現状の襲撃が明らかに計画されたものだと理解する。

既に壁際まで追い詰められており、四季とコンが最も勢いのある正面を、京子が護法を操作し左右を、凛が真上を防御してどうにか持ちこたえている形だ。

冬児が窓にイスを投げつけるが、全く意味をなさない。完全に物理破壊を封じられておる。

 

「クソ‥‥おい、倉橋、遠坂、衛宮。お前らの誰でもいいが、この結界を破壊できないのか?」

 

「ふざけないでよ!!今はそれどころじゃないわよ!!」

 

「残念だけど、こっちも手一杯で動けそうにないわね」

 

「悪いけど、こっちも二人と同じだな」

 

蠱毒の攻勢が強すぎ、現状では誰かが手を緩めただけで崩れる様な危険な状態なのだ。そんな状態で結界の破壊まで出来るはずもない。

しかもいつ崩れてもおかしくないという時限爆弾のような状態なのだ。

「天馬、アンタも手伝いなさい!!二人よりは戦力になるでしょ」京子の言葉で天馬も呪符を使おうとするが、慣れない手つきで使ったためか床に落としてしまう。急いで広い術を唱えるが、既に教室全体に広がった蠱毒の前では完全に焼け石に水だ。

 

その中で黒楓の薙刀を躱した一滴が春虎に迫る。反射的に春虎は、錫杖を持った手で受けようとするが、それよりも早く放たれた凛の護符がそれを防ぐ。

 

「わっ悪い」

 

「別に構わないわ」

 

ふと、全体を見ていた冬児が口を開く。

 

「‥‥どうやら、こいつは春虎が狙いらしいな」

 

「お、おれ?」

 

「ああ、完全にそういう動きだ」

 

冬児の言葉に天馬と京子は顔を見合わせ、四季と凛はやっぱりかと呟く。

 

「まさか、これって夜光信者(・・・・)の‥‥」

 

「あり得るわね…ったく冗談じゃないわ!!」

 

「というか、それ以外に考えられないでしょ」

 

三人の言葉に今度は春虎と冬児が聞きとがめる。その存在を二人は、入塾と同時に塾長から教わっていた。しかし、現在陰陽の基礎を生み出した土御門夜光(つちみかどやこう)を信仰する者達とこの蠱毒に何のつながりがあるのか全く理解できない。

二人の疑問に答えたのは、前方で防御する四季だった。

 

「さっきの話に戻るが、お前らが入塾する二日目に、夏目を拉致しようとした夜光信者がいたんだよ。それ自体は塾講師たちによって防がれたけど、呪術戦になるまでになったんだよ。お前らが特別カリキュラムの講師だと思ってた呪捜官は、その事に対して取り調べと事情聴取してたんだよ」

 

「で、でも夜光信者ってのは、夜光を信仰する奴らなんだろ?だったら、何でこんなことをするんだよ!!夏目を夜光だと思ってるなら(・・・・・・)、こんな真似しない筈だろ!!」

 

四季の言葉を聞いた春虎が戸惑う様に問う。そうそれが土御門夏目に関するうわさ。かつて現代陰陽の基礎を生み出した夜光は、最後の術にて失敗。東京に霊脈を乱し、霊災を生み出した。しかし、そん中でも陰陽師たちの間では、ある噂があった。「土御門夜光の術は成功しており、現代に転生した」という噂だ。そしてそ転生者だと思われているのが土御門夏目なのだ。

 

「確か、捕まった奴は『夜光の覚醒を促しに来た…』とか言ってたらしいぞ」

 

最早狂気と盲信の押し付けに近い。信仰とは呼べず、狂信に近いだろう。

 

「そんな‥‥」

 

四季の言葉に唖然になる春虎。そんな中で凛が厳かに告げる。

 

「でもまあ、これは全く別の目的でしょうけどね」

 

「…どう言う事だ?」

 

凛の言葉に冬児が反応する。凛は、上を見据えながら己の考えを口にする。

 

「考えてもみなさいな。夜光信者(あいつら)にとって、土御門夜光とは完璧でなくてはならない。でも春虎君が来て夏目君は大恥をかいたはわ。それは一点の曇りも許されないダイヤに起きた曇り。なら、その曇りを払う事こそが夜光の為とかと思ってるんでしょうね。だから、貴方という曇りをなくすための行動なんでしょうね」

 

余りにも常識外れの考えに誰もが唖然とする。いや四季と凛だけは唖然とせず、蠱毒を見据える。

 

「貴方にいらぬ心配を掛けない為に嘘までついていたのにね。これじゃあ報われないわね」

 

春虎の中に何かが湧き上がる。そのまま外に吐き出そうとした瞬間

 

「ふざけるなよ…」

 

別の怒りがこぼれた。誰もが声の主である四季に向けられる。

 

「てめえらの都合で命をもてあそぶんじゃねえッ!!」

 

瞬間、四季の感情に呼応する様に暴風が吹きすさぶ。蠱毒を吹き飛ばし安全圏が生み出される。誰もが驚愕する中で四季が春虎に告げる。

 

「お前はどうする、春虎。今の状況を考えるに夏目に何かが迫っているのは間違いない」

 

四季の言葉に誰もがそうだと、なぜ気がつかなかったという顔をする。午後の講義を欠席したのが、そういう理由だとするのならば納得がいく。

 

「春虎君。夏目君に言ったわよね?お前には周りと触れ合う勇気がないって」

 

「それは…」

 

若干落ち着いた事で、冷静になれたのだろう。だからこそ今問う。恐らくは、先ほど言っていたケンカの原因なのだろう。京子の言葉に春虎は答えれない。

 

「当然だとは思わない?彼に関わると言う事は、こう言う事に巻き込まれるって事なのよ。誰だって関わりたいとは思わないし、彼だって躊躇して当たり前だわ」

 

京子の言葉に春虎は唇を噛む。そうしている間にも、吹き飛ばされた蠱毒たちが再び襲いくる。

四季が凛が京子がコンが、再び構えた刹那、カランと錫杖の音が響く。春虎は、止まることなく四季とコンのいる場所まで歩を進める。

 

「-----コンに四季、悪いけど退いてくれ」

 

春虎の言葉にナニカを感じたのか四季は道を譲る。コンはしばし粘ったが、春虎の決意に敗け、脇をそれ道を譲る。

迫る蠱毒を、春虎は錫杖で一突き。ラグが生まれ動きが止まる。鬼気迫るその姿に誰もが驚く中で、春虎は四季と凛、天馬に京子を見据え頭を下げる。

 

「四季、遠坂、倉橋、天馬。巻き込んですまない。だけど、頼む!!夏目を助ける為に力を貸してくれ」

 

春虎の懇願に誰もが一瞬無言になる。

最初に動いたのは四季だった。春虎と同じ場所に立ち蠱毒を見据えながら告げる。

 

「心配するな。逃げろって言われてもそうする心算だったからな」

 

「まあ、このまま尻尾を巻いて逃げるってのは、私のプライドが許さない訳だし」

 

続くように凛が呪符を取り出しながら答える。そして天馬は身体をぶるっと振るわせた後「うん」と告げる。

そして京子も少し考えた素振りを見せた後

 

「まあ、このままじゃどのみち殺されかねないしね。やるしかないんじゃない」

 

苛立告げにしかし不敵に告げる。春虎は四人にもう一度だけ「すまん」と謝る。すると今度は、冷静に低い声で冬児が告げる。

 

「だったら、話が早い。実は今一つ打開策を思いついた。上手くいくかどうか、先輩である四人の意見を聞かせてくれ」

 

反撃が始まる。

 




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第七夜 衛宮 その1

今回、衛宮の名の意味が少し明らかになります
明かすのは、次回になりますが・・・・

楽しんでもらえたら、嬉しいです


冬児の作戦は「呪詛返し」を行い、術者に蠱毒を返し居場所まで案内してもらおうと言う物だ。

 

「おお、確かにそれならいけそうだ!!」

 

説明を聞いた春虎は打開策に喜び現す。

 

「それにしても冬児お前、一体何時呪詛返しなんて覚えたんだよ」

 

「いや、俺は使えねえぞ」

 

「はい?」

 

突然のカミングアウトに春虎の時が止まる。

 

「という訳で、この中で呪詛返しが出来る奴はいるか?いないなら、別の策を考えるしかないが」

 

「随分と他力本願な作戦ね」

 

冬児の言葉に凛は呆れた声を出すが、まあいいわと告げる。

 

「私が出来るけど、倉橋さんはどう?」

 

「ええ、やった事はないけど知識としてなら」

 

「そう、なら二人でやりましょう。そうすれば時間も短縮出来るはずだし」

 

そう言いながら凛と京子は、準備に取り掛かる。しかし曲がりなりにも格上が放った術だ、如何にトップレベルの二人とは言え、難しい。

だからこそ、凛は問う。

 

「四季。これを『視て』どう?」

 

「たぶん、火行をメインに組まれてるな。薄らと霊気に火が視える。だから、水なら呪力を弱めれる」

 

じっくり観察していた四季の言葉に、凛はなるほどと告げる。

 

「じゃあ、水札で攻撃すれば‥‥」

 

「でも、これだけの広範囲となれば、かなりの呪力が必要になる。結界を壊す分の呪力も尽きるぞ」

 

京子が希望が見えたという様に笑みを浮かべるが四季が待ったを掛ける。再び打つ手なしかと思われたが、今度は冬児が不敵に問う。

 

「なあ、水ってのは呪術じゃないといけないのか?」

 

「いや、そう言う訳じゃない。実体のある水でも効果はある」

 

その言葉を聞いた冬児は、そうかといい。一枚の札を取り出し一点を目掛け投げる。

 

「確かこうだったよな…急急如律令(オーダー)

 

冬児が唱えると同時、札に炎が生まれる。それを見た四季が、成程と冬児の考えを察する。投げられた札が、教室の上に設置されたスプリンクラーに触れ、教室全体を消火用の水が降り注ぐ。

 

「ナイス!!」

 

冬児の行動により呪力が弱まった事を確認し、凛と京子が呪詛返しの準備を急ぐ。冬児と春虎は、蠱毒を攻撃し勢いをより弱まらせる。

 

「天馬、今から俺が指示するから、結界を破壊しろ」

 

「え!ぼ、ぼくが」

 

四季のの突然の言葉に天馬は驚き狼狽えるが、先ほどの決意と四季の目を見て覚悟を決める。天馬の決意を見た四季は、辺りを視る。教室全体を薄く覆っている霊気は、学生だと侮っているのか、それほど強固な物ではない。物理的防御と世界からの分断がメインであり、呪術に対する耐性はさほど高くない。

 

―――これならいける

 

「天馬。今から、俺が札を投げる。その後、追撃を掛けてくれ。一点に呪力を集中してくれればいい」

 

「わかったよ」

 

天馬の返事を聞いた四季は、流れる動作で呪符をケースから引き抜き、天馬の後ろの壁に目掛け投げる。

 

急如律令(オーダー)ッ!」

 

札が金気を纏い、剣の形を作る。グサッと壁に突き刺さる。瞬間、結界の霊気が僅かに乱れる。

 

「今だ、天馬!!」

 

「うん。いけ、急如律令(オーダー)

 

四季の言葉に答える様に天馬が、突き刺さった剣に札をぶつける。金気の剣を糧とし水気の札が発動、突き刺さった剣から放たれた水流がが結界を打壊す。

結界が壊れると同時

 

「「出来たッ!!」

 

呪詛返しが発動。先ほどまで教室に満ちていた蠱毒たちが、一纏まりになり教室から出ていく。それを見た六人は、それを追うように教室から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蠱毒が導いた先は、昨日春虎達が試合をした呪練場だった。アリーナ中央に夏目とスーツ姿の男の姿。それを見た春虎の叫びに答える様に夏目もまた歓喜の声をこぼす。春虎に少し遅れ四季たちも夏目の姿を確認する。

 

「状況を見るに、あいつが犯人みたいね」

 

「ええ、少し信じられないけど」

 

状況を見渡し、呪捜官が犯人だと決める凛に同意する京子。そして京子は、講師たちに簡易式を飛ばしたため、もう逃げ場はないと告げ、夏目の解放を要求する。それに続くように天馬も吠える。が、予想に反し、呪捜官は簡単にそれを受けていれた。毒気を抜かれる面々だが、彼を止めれる術がないため口惜しいが何もできない。事実蠱毒や呪詛返しのせいで面々は限界に近い。しかし、主を危険にさらされた式神はそんな事関係がない。虎が吠えるが、呪捜官はどこ吹く風と受け流す。此処で戦えば、夏目にも危険が迫ると冬児に指摘され、本当に渋々敵意を消す春虎。

 

「オーケー。それでは失礼します」

 

悠然とその場を後にしようとする呪捜官に口惜しさを感じながらも手が出せない。だが、突如夏目が告げる。

 

「貴方は僕の飛車丸(ひしゃまる)だと言った‥‥好きに妄想すればいい。あなたやあなたの同志が何を思おうと、所詮唯の妄想(・・)だッ!!。もしも僕に飛車丸がいるとするならば、それは間違いなく春虎(・・・・・・・)だ。現代の僕の式神は、春虎ただ一人(・・・・)だ」

 

それはお手本のような乙種だ。そしてその言葉は、今まで冷静を保っていた男を揺さぶった。

だが、それは悪い方向にも傾く。

 

「王よ!なんと嘆かわしいか」

 

「失望を覚えまするぞ」

 

仮面を脱ぎ捨て本性が露わになる。そこには先ほどまでの冷静な姿など何処にもなく。

しかも

 

「幼き器といえど、あんな小僧に唆されるとは!!」

 

「両翼たる、我らの前で‥‥未だに目覚めぬとは言え、暴言にも程がありまする!!即刻訂正を」

 

まるで人格が分かれたかのように、二つの声質でしゃべり始める。それを見た凛の表情が険しくなる。余りの状況の変化に、誰もが驚く。夏目にすら噛みつき、その実夏目を見ないその姿を見た、冬児は「まずいな」と呟く。

 

「ならば、是非もなし。今はまだ時期ではないと思っていたが…」

 

「我々が、北辰王(やこう)の両翼に相応しき姿を、ご覧に入れましょうぞ」

 

瞬間、無風のアリーナが揺れ始め、呪捜官の後ろに巨大な霊気が渦き、姿を現す。

 

「…鬼…ッ!?」

 

その現れた存在に春虎、冬児、京子、天馬、凛、夏目は息を呑む。そこにいたのは、絵にかいたような鬼の姿を模し、仮面を付けた隻腕の鬼(・・・・)

かつて、土御門夜光には、二体の護法ありといわれ、式神でありながら軍の最高位を授かった二体。その片翼は、隻腕の鬼だったと言いう。

誰もが唖然となる中で、呪捜官は高らかに告げた。

 

「我が名は、飛車丸」

 

「我は、角行鬼」

 

誰もがその名に騒然とした、次の瞬間

 

「魔の目を晦ませよ、急急如律令(オーダー)ッ!!」

 

眩い閃光がアリーナを包み込む。突然の事に対処できなかったのか、誰もが目をつぶる。

そんな中、夏目の耳に信じられない声が届く。

 

「夏目無事か?」

 

「ッ!!」

 

そこにいたのは四季だった。実は四季は、アリーナに夏目の姿を確認すると隠形を使い、人知れずアリーナに続く道を走っていたのだ。

 

――――よし、拘束自体は強力じゃない

 

即座に夏目の動きを拘束する術を視て、即座に解除する。それまでの動きに無駄はなく、閃光が治まる頃には夏目は自由になっていた。

目が慣れた男が、突然の乱入者を視界に納める。

 

「貴様は…ッ!!」

 

四季の姿を確認した瞬間、男の顔が信じられない程怒りに染まる。

 

売国奴(ばいこくど)の分際で、我らの王に触れるかッ!!」

 

一瞬、春虎と冬児は男が何を言っているのか理解できずいた。かろうじて夏目たちは男の意味を察する。

怒りの感情を向けられた四季は、顔を険しくしながら男を見据える。

 

「それは俺のご先祖様(・・・・)がした事だ。俺には関係ない」

 

「よくぞまあ、汚らしい面を王の前にお出しになったモノだ。そもそも貴様の様な裏切り者(・・・・)の一族が、未だにこの世界で王と共に塾に通う事自体許されんッ!」

 

男の唾を吐き、怒りは吐き続ける。そしてふと、名案が浮かんだという様な顔をする。しかしその顔は明らかに狂気に満ちている。

 

「いいでしょう、王に仕える身として衛宮の血をここで絶っておきましょう」

 

殺意が四季に向けられる。向けられていない筈の夏目が顔を青くする程の殺意だが、四季は冷静に呪符を取り出す。

 

「ああ、名案だ。‥‥そう、王に曇りを与える者と同じようにね」

 

「ッ!!春虎、避けろ!!」

 

男の意図を読んだ四季が叫ぶが、それよりも早く角行鬼がアリーナの壁を殴りつける。霊的なダーメージは防がれるが、物理的な勢いは相殺できない。アリーナの淵に脚を掛けていた春虎は、勢いに揺られアリーナに落ちて来る。

 

「春虎っ!!」

 

「チィ!!行け!!」

 

夏目が叫ぶと同時、四季はいつくかの簡易式を飛ばし、落下のクッションとする。

 

「無駄の事を」

 

落下の勢いを殺せてもすぐそこに角行鬼という脅威があるのだ。押しつぶすように脚を振り上げる角行鬼。間に合わない。誰もがそう察し、冬児は手すりに手をかけ叫び、京子と天馬は顔を覆い、夏目は顔を真っ青にする。そして凛は、静かに一人を見ていた。

 

「邪気を縛れ、急如律令(オーダー)

 

角行鬼が脚を振り上げると同時、四季が軸足となっている場所に二枚の札を投げ込む。木行の札は、即座に脚を縛るツタとなり動きを僅かに止める。そして直後、もう一枚の火行の札が木行の力を借り、爆発を起こす。爆風にあおられ、角行鬼が尻餅を着く。

余りにも流れる様に放たれる手に、誰もが驚きの声を上げる。

 

「おのれ、売国奴の裏切り者がッ!!」

 

「そう簡単に思い通りにさせるかよ」

 

害悪を向ける男に四季は不敵に告げる。

隠し続けてきた牙が、遂に本性を見せる。




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第八夜 衛宮 その2

衛宮の設定こんな感じでいいのだろうか?
なんか後半が雑になっているかもしれません 違和感とかあったら教えて下さい
出来る限り直していこうと思います

楽しんでくれたら嬉しいです


目の前で放たれた呪術の技に誰もが驚嘆の声をこぼす。それほどまでに流れるほど美しい技だ。アリーナで繰り広げられる四季の呪術を見ながら天馬は「すごい」と声をこぼす。

 

「さっきから気になってたんだが、あいつ何でさっきから衛宮(・・)の名前に怒ってんだ?」

 

先ほどから感じていた疑問を冬児は問う。それは時を同じく夏目の元に来た春虎も彼女に問うた。冬児の問いには凛が、春虎の問いには夏目が答える。

 

かつてその家は土御門に匹敵する栄華を栄えていた。そしてその家に一人の天才が生まれた。彼は文字通り天才だった、それこそ土御門夜光に匹敵するほどの。二人は、短い時間で親友となった。ある時、彼の目の前に異国の女性が倒れていた。彼はその女性を手厚く介護した。女性は彼に恩義を感じ、自分の領地に招待した。そこで彼は、陰陽とは違う魔術を知る。そしてその家と深い交流を持ち、彼は陰陽を独自に進化させた。しかし、それを他の者達は良しとしなかった。特に土御門の分家の者達の一部の者達は、彼を彼の家を許さなかったが、夜光がそれを押しとどめた。そして戦争が起きた。国が危機に瀕した時、夜光は彼に助けを求めたらしい(・・・)。されど彼はそれを拒んだ。そして悲劇は起きた。その後、陰陽の家は彼を彼の家を責めた。そして彼は人知れず姿を消した。

その天才の名は衛宮式(えみやしき)

 

話された事に二人は息を呑む。かつて天馬はいくら落ちぶれようとも土御門の『家格』は変わらないと言った。それと同じだ、陰陽の世界は狭い。一度家につけられた烙印は、早々に剥がす事は出来ない。故に、一度『裏切り者』の烙印を付けられたなら、それは今なお消えない。つまり四季は、スタートが他と違う。マイナスからのスタートなのだ。

 

話を終えた凛は、アリーナで戦う四季を見つめながら告げる。

 

「それだから結構苦労してるよね。実際何だかんだとあいつと話すのって、私や此処にいる二人だけだし。他の面々は何処か見下して、四季を見るのよね」

 

一体どんな気持ちなのだろうか。それに似た心境を経験している冬児にはよくわかる。

そんな話をしている間に、事態は大きく動く。

 

 

 

 

見鬼(けんき)』とは、霊気を視る才能であり、陰陽師を目指すならば、なくてはならない才能だ。これが無ければ、陰陽師にすらなれない。

そしてその見鬼の力を持って、四季は自身の前に立ちはだかる鬼を視る。霊気の流れから次の動きを予測し躱す。そして隙を見つけて呪術を放つ。

然したるダメージにもなっていない無いが、確実に霊気の乱れを四季は視ている。

 

「何をしているのですか、角行鬼ッ!!そんな裏切り者即刻、踏みつぶして…ッ!!」

 

何時までも死なない四季に憤りを感じた男が吠えるが、直後目の前に迫る金気を纏う剣を視認する。慌て、護符を使い防御するが、その顔は隠しようもない怒りに染めらている。

 

「おのれぇぇぇっ!!」

 

――――いいぞ、もっと冷静さを失え

 

冷静さを失い単調な命令に成ればより読みやすくなり、自分に有利に傾く。故に、四季は不敵笑い挑発する。これもまた一瞬の乙種なのだろう。確実に流れは、四季に傾いている。

しかし

 

――――問題は、俺の残りの呪力で削り切れるかだよな

 

蠱毒戦での呪力消費と、迫る圧によるプレッシャーが予想以上に四季の体力と呪力を奪っていた。

集中力も散漫になり、危うい場面が多くなる。そしてその綱渡りが長く続く訳もなく、拳を回避した直後、脚を縺れさせる。

 

「しまっ…」

 

刹那、好機と感じたのか角行鬼が回し蹴りを四季に向かって放つ。避けられない。即座にそう悟った四季は、護符を取り出そうとするが‥

 

―――やば、品切れだ

 

蠱毒の時に全てを使い果たしてしまったため、完全に打つ手がなくなる。どうすると思考する中でどうしようもない現実が迫った瞬間

 

「うおぉぉぉぉお!!」

 

「はる‥」

 

角行鬼と四季の間に春虎が現れる。

何でここに来たのか、春虎自身判らない。ただ、夏目から彼の家の事を聞き、そして戦う四季の目を見たとき、考えるよりも先に身体が動いたのだ。それは直感だった、淋しく一人で戦う四季をこれ以上一人にさせてはならない。なぜだか判らないが、春虎はそう思ったのだ。

春虎の乱入にも呪捜官は慌てない。むしろ歓喜の笑みを見せる。殺すべき対象を同時に葬れるかもしれないのだ。

クソッと悪態衝きながら春虎は、本能的に錫杖を持った腕でガードする。直後、高く澄んだ音が鳴り響く、二人の身体は衝撃で飛ばされたが、想像していたよりも明らかに軽い。一体何がと考えるが、直ぐに担任講師である大友から渡された錫杖が原因だと察する。

 

―――いい仕事するぜ、大友先生

 

笑みを浮かべる。これなら四季の足手まといになれずに戦える。そう思った春虎の耳に四季の声が届く。

 

「何やってる。此処は俺に任せて、早く夏目を連れて逃げろ」

 

満身創痍に近い状態にありながら四季は二人を気遣う。それが春虎には、少し歪に視えて、そして腹が立った。

 

「ほう」

 

「おや、面白い玩具を持っているみたいですね」

 

今の春虎には、二人の声など聞こえていない。ただ真っ直ぐと四季を見る。

そんな戦場に

 

「止めて!止めてくださいっ。お願いだからもう‥二人を」

 

夏目の切羽詰まった声が届く。その言葉に呪捜官は、歓喜に震える様に自身の存在を道めさせようとする。そして王の命には従うと告げる。しかし春虎の目には、四季を見る目が狂気と怒りに染まっている様に見えた。故に直感する。こいつは何があろうと四季を殺すと。

だからこそ、今ある感情を夏目に言わねばならない言葉を、四季に伝えねばならない想いを吐き出さないといけないと悟る。

 

「まあ待てよ、夏目」

 

春虎の言葉に夏目は振り返る。今にも泣きそうな顔をした幼馴染と自分よりも他人を気遣う友人を見ながら告げる。

 

「んな、ネジのおかしいおっさんに合わせる必要なんかこれっぽちもないぜ。前世なんていう不確かな仲間に何か頼る必要なんてない。現代(いま)のお前の仲間は、俺達だろう!!」

 

春虎の言葉に夏目は状況を忘れ、ただ真っ直ぐに春虎を見る。

 

「だから、噂やなんやらに怯えるな。一人で背負いこむな、引きずるな、恰好をつけるな。確かにお前を怯える奴も迷惑だと思う奴もいるかもしれない。けどな、それでもお前に力を貸してくれる奴は、確かに存在すんだよ!!だから、恐がらずに向き合え。勇気を持って向き合え」

 

その言葉が夏目に伝わると、不思議と先ほどの疲労感が薄れる。主と式神。その繋がりが増強したのを確かに感じる。そして春虎は、そのままの体勢のまま告げる。

 

「四季!!俺はド素人だ。何も知らないしお家のことなんて言う難しい事は判らない。でも、お前があの時話しかけてくれて本当に嬉しかった。だから、お前は俺のダチだ!!一人なんかじゃない!!」

 

春虎の言葉に今度は四季が驚愕し息を呑む。それは彼がずっと待ち焦がれた言葉。焦がれ焦がれ続けた言葉。まさか土御門の家の者に言われるとは。どうしてか判らない。それでも、今までの自分の努力を始めて第三者に認めて貰った気がして、何処か救われた。

 

「全くもって」

 

「下らぬ!」

 

無理解と断絶を含んだ呪捜官の口から放たれた。

 

「やはり貴様らは捨て置けぬ!!王を惑わす道化と裏切り者が!!」

 

「そうですね。角行鬼、そこの二人を始末しなさい」

 

呪捜官の言葉に角行鬼が駆け出そうとした刹那

 

「滑稽で笑えるわね」

 

凛とした声が届く。誰もが声の発信者である、遠坂凛に視線を集める。

 

「さっきから見てたけど、その子供も笑わない様な、一人二役は本当に滑稽よ」

 

見下し嘲笑うような視線を呪捜官に向ける凛。その言葉に呪捜官が吠えるが、凛はどこ吹く風で更に言葉を発する。

 

「思い上がりもここまで行けば、一種の才能よね。自分が偽物だとも疑いもせず、二つの偉大な名を穢しているのですもの」

 

「口の利き方には気を付けなさい小娘。貴方だってまだ死にたくはないでしょう」

 

どうにか怒りを隠し、冷静に話すようにしているつもりだろうが、その顔はひどく歪み声も荒々しい。対しする凛は、一度大きくため息を吐き「呆れた」と呟いた後、それはそれは美しい笑みを浮かべる。その笑みに一瞬誰もが見惚れる。

 

「まず第一に、貴方は飛車丸の転生者だと言っているけど、ならば夜光に知っているんでしょうね」

 

「ふん。何を言い出すかと思えば、当然です!私は前世にて、王の全てをその後ろで見てきたのですから」

 

凛の言葉にまるで自分に酔う様な表情をしながら自信満々に告げる呪捜官。それを聞いた凛は笑みを浮かべ告げる。

 

「じゃあもちろん知っているわよね?彼の土御門夜光が最後に行った儀式(・・・・・・・・)の仕組みを」

 

瞬間、呪捜官の顔が凍り付く。それを見た凛は意外そうな顔をしながら問う。

 

「あら?まさか答えられないなんて事はないでしょう?何て言ったて、常に夜光の傍に仕えた式であり、最も信頼した式なのだから、知ってて当然の筈ですよね?」

 

「あ、あああ…」

 

凛の言葉に呪捜官は何も答えない。まるで自分に言い聞かせるように「私は飛車丸だ」と呟き続けている。

そしてそんな呪捜官に対して凛は攻め手を緩めない。

 

「第二に、貴方とそこの鬼は気がついていないだけかもしれないけど、一度足りとして夏目君を夜光様と呼んでない(・・・・・)わよね?おかしくないかしら?どうして前世の名で呼ばないのかしら?先ほどから、王や北辰王と、それこそ現代の名でしか呼んでいないわ。本当に貴方達が転生者なら、親しい呼び名を知っててもおかしないのだけれど?むしろ其方で呼ぶほうが、当然だと思うのだけれど?どうしてかしら?」

 

正に乙種のたたみ掛けといえるだろう。呪力がほぼ尽きかけている凛は、言葉で動作で戦うと決めたのだ。事実、凛の指摘は聞く者を成程と納得させるものがある。既に春虎達の考えから彼らが本物であるということは抜け落ち始めている。

 

「理解してもらえたかしら?貴方の言葉には重みも真摯さも感じない。今のを答えらえないと言う事は、貴方が唯の自意識過剰な痛い奴っていう証拠なのよ。ねえ、そう思うでしょ四季」

 

瞳だけを四季の方に向ける凛。それに答える様に四季も立ち上がる。

 

賭け(・・)は私の勝ちよ」

 

「そうだな」

 

「もう、迷いはないでしょ」

 

「ああ」

 

「なら、さっさと倒しない…協力してね」

 

「ああ、そうだな」

 

二人にしかわからない絆。それを感じさせる会話。四季はふと春虎を見て告げる。

 

「俺も勇気を出して頼るよ。だから、春虎、冬児、天馬、夏目、倉橋!!俺と一緒に戦ってくれ!!」

 

それはほとんど懇願に近い。初めて四季は凛以外に懇願する。そしてそれは一種の乙種となる。故に秘められた想いが真摯に伝わる。だからこそ、誰もが頷く。その言葉を聞いた四季は、笑みを浮かべながら、春虎に近づく。

 

「あいつにデカいの喰らわせる算段があるけど、かなり時間を喰う。だから、暫く任せる」

 

「おう任せろ!!そっちも頼りにしてるぜ」

 

「ああ、任せておけ」

 

互いに笑みを交わし行動を起こす。それと同じく、先ほどまで狼狽えていた呪捜官は迷いを忘れる様に狂った声と共に角行鬼に指令を出す。

指令を受けた角行鬼は、春虎に迫る。普通に考えれば、未熟な雛鳥一人では対抗できるはずない、そう一人ならば(・・・・・)

 

「いまだ!頼む!!」

 

春虎の声に応える様に、コンが、白桜が、黒楓が、角行鬼の動きを止める。その隙に春虎が錫杖で角行鬼の腕を貫く。凄まじいラグと共に角行鬼の動きが止まる。そしてその隙を三体の護法が責める。

そして四人の働きを視界に納めながら四季は、自分の役割を果たすために動く。

 

『いいか、四季。俺達衛宮の神髄は、造る事(・・・)だ。常にそれを忘れるな』

 

――――動きは春虎達が止めてくれる。なら、デカいのを準備すればいい

 

四枚の札を取り出し、箱を作る様に設置する四季。瞬間、その区切られた場所の霊気の流れが変われる。

 

「これは‥!!」

 

その瞬間を視た夏目は驚きの声をこぼす。先ほどまで角行鬼の霊気のせいで、不安定だったのが、流麗で一本の流れと変わる。そして一本の霊気を覆う様に、四枚の札から、火行の霊気が注がれる。

 

――――これは、霊気を製造している!!これが、衛宮の術っ

 

明らかにその場所の霊気だけが別物に変化する。そしてその変化は、その場にいた誰もが感じ取る。

 

「か角行鬼ッ!!裏切り者を先に…」

 

「行かせるかよ!!」

 

危険を感じ取った呪捜官が指示を出すが、それよりも早く春虎の一突きが、角行鬼の仮面を割る。

瞬間、鎖から放たれた獣のように、角行鬼が雄叫びを上げる。

 

「なんだ‥?」

 

露わになった角行鬼の顔は、能面の仮面のように無表情な人の顔に近かった。その淡白さが非常に不気味な存在。そして何を思ったか角行鬼は、辺りをなにこれ構わずに破壊し始める。

 

「こ、このおお愚か者!!あの仮面は、角行鬼の封印ですよ!?あ、あれがなくなれば、角行鬼は全てを破壊するまで止まりません!!」

 

焦った様に呪捜官の声が飛ぶ。既に角行鬼らしい声は消え失せている。

 

「こ、こんな筈では…!クソなんてことをしれくれたんです!!」

 

子供の癇癪の様に辺りに怒りをぶつける呪捜官の足元に角行鬼の拳が叩き付けられる。「ヒィイ!!」と対面も殴り捨てた声を出しながら、なりふり構わずゲートへと逃げ出す。春虎が追おうとするが、暴れる角行鬼が邪魔をして動けない。

そこへ

 

「準備OKだ」

 

四季の声が届く。誰もが四季に視線を向け驚嘆する。それを視たが故に。それはまるで炎の槍だろう。アリーナの結界のてっぺんにまで伸びる、大樹の様であり槍の様でる。

 

「夏目っ!!頼むぞ」

 

「はい、呪力も回復しました!!行けます」

 

四季の声に応える様に夏目が印を切る。

 

「土御門夏目の名において命じる。出でよ、北斗!我が敵を討て―――」

 

夏目の声に呼応して出てきたのは、一匹の本物の黄金の竜。土御門に仕え夏目が使役する使役式。誰もがその存在に、驚嘆する中北斗と呼ばれた竜は、悠然と自由を満喫している。

そこへ

 

「北斗!」

 

夏目の声が命として北斗に伝わる。しばし、めんどくさそうにわかったよとでもいう様に、北斗は角行鬼に向けて尾を振りかざす。たったそれだけ、たったそれだけのことで角行鬼は、大きくアリーナに叩き付けられる。

 

「今です!!」

 

動きが止まった。瞬間、北斗ですら目を丸くする程の火行の霊気の槍が、動き出す。

 

「灰へと還れ、急急如律令(オーダー)ッ!!」

 

ボゥと、視ているだけでやけどをしそうな程の焔の槍が、空気を霊気を燃やしながら、角行鬼を貫く。悲鳴すら許さず、角行鬼は一枚の式呪符となる。

 

「勝った‥」

 

誰かがそう言った途端、四季はドサッと地面に倒れる。視界の端で夏目と春虎が何かをしている様に見えるが、疲れて何もわからない。

そんな中、アリーナに下りてきた冬児と凛は、角行鬼だった呪符を見ながら告げる。

 

「やっぱり、偽物ね」

 

「ああ、途轍もなかったが、本物の鬼はあんなもんじゃなかった」

 

ひらひらと呪符を見つめる凛。それを見て京子は、驚きの声を上げる。

 

「それ式符?‥‥ってそれ市販のやつじゃない!!」

 

「え?でも可笑しいよ、角行鬼は使役式のはずだよね」

 

「偽物って事よ。本物なら、未熟な四季の術でもあそこまで簡単に倒れるはずがないもの」

 

そう言いながら凛は、地面に倒れ眠っている四季の顔の位置でしゃがみ込み笑み浮かべながら

 

「お疲れ様」

 

と、優しく呟いた。

 

一つの山場を終えた。これより、土御門と衛宮二つの家の運命の歯車がかみ合い、動き出す




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第九夜 裏で暗躍せし者達

祝!!お気に入り三桁!!
単純に凄くうれしいです!!!

そして今回で原作に終了です
完全に舞台裏感が強いです

楽しんでくれたら嬉しいです


陰陽塾の裏口から、顔面蒼白の男が出て来るのを一台の黒いリムジンが見ていた。男の姿が見えなくなると、窓が開き一人の老人の姿が現れる。

 

「なんとも、期待外れじゃな」

 

一度ため息を吐いた後、しわまみれの口から出てきた声は、姿からは想像も出来ない程若い。

 

「いや存外、子供たちが期待以上なのか‥‥‥あの衛宮(・・・・)がおるし、そちらの方が濃厚じゃな。しかし、もう少しどうにかならんかったもんかの…‥大の大人が不甲斐ない。流石に人選を誤ったか?」

 

血のように赤いサングラスを付けた和服姿の老人。まるで死人の様に枯れた姿からは想像も出来ない程、声は若々しい。むしろ死人に生者が乗り移っていると言われた方が、納得できる。

ふと、窓を開けているにも関わらず、老人の視界に影が差す。

 

「…‥よお」

 

老人の視界に影を差したのは、一人の男だった。窓から老人を覗きながら、黄金のような短めの金髪で南欧の血を感じさせる筋骨隆々たる長身の男は、己の右腕を車の上に乗せ

 

「他人の名前を勝手に使わないでもらおうか」

 

老人を咎める口調で話す。しかし腹を立てている様子はない。男の言葉に老人は、イタズラの見つかった子供のように「もうバレたか」と軽く返す。

 

「じゃが、お前さんも気になるじゃろ?」

 

「別に、そこまでだ」

 

「冷たいの。かれこれ六十年経って、漸く土御門と衛宮が交わり出した(・・・・・・・・・・・・・)のじゃぞ」

 

「まだ…‥‥六十年だ。俺やアンタが、懐かしむ様な時間じゃない」

 

男は平然と言う。しかし男の言葉を聞いた老人は、何処か面白そうに笑う。

 

「そうか。じゃが、儂はこの六十年でずいぶん鬱憤が溜まっとる。衛宮の様な麒麟児も現れんしな。あやつらが生きとった頃が懐かしいわ」

 

「アンタはいい加減に落ち着くべきだと思うが…?そもそも衛宮の様な奴が早々に生まれるとは俺には思えない。アンタもわかっていた事だろう」

 

「それとこれとは話が別じゃ。第一昔から儂はこんな感じじゃったろう」

 

「まったく…‥せめて黒幕に徹してほしいモノだ。アンタが動くと、面倒事が余計に面倒になる」

 

男は辟易(へきえき)した口ぶりで言うが、半分以上は形だけだ。彼自身、関心が関わらない限り、何が起きようと首を突っ込む事など無いのだから。

老人は、その無関心が面白くないのか再び問う。

 

「本当に、全く、気にはならんのか?」

 

「全くと言う訳ではないが…‥それでも自分から確かめようとは思わないさ。俺は飛車丸とは違う」

 

「そんなもんかの。そう言えば、相変わらず向こうも音沙汰なしか。存外、向こうも冷たいの」

 

「それこそアンタが知らなくても良い事だ」

 

付き合いの長さを感じさせる二人の会話。

 

「それにしてもお主は、昔から自分の鬼気に無頓着すぎる。お蔭で、儂まであんな若造に見つかったではないか、まったく」

 

「悪いな。昔から、そこら辺は雑でな」

 

責められながらも男は対して気にせずに、気配だけを感じ取る。

 

「‥‥あいつか。確かに筋は悪くなさそうだな。知り合いか?」

 

「前に、生意気にも片足を引き替えに、儂の手から逃れおった」

 

老人の悔しそうな言葉に男は笑みを浮かべ「ほう。そいつは有望株だ」と告げる。

 

「まあ、どのみち陰陽塾(ここ)の塾長は、やり手の星読みだ。アンタの思惑は、当に知られてたんじゃないのか?」

 

「それを出し抜くのが楽しいんじゃよ」

 

「困った趣味だ」

 

それだけ言うと、男はリムジンから腕を離し老人から離れていく。老人も止めはしない。しかし、ふと離れ際、何かを思い出したように、男は珍しく間を置きながら

 

「‥‥‥そう言えば、あのガキは‥‥‥一体何者だ?」

 

「うん?どのガキじゃ」

 

「虎」

 

「ああ。分家筋の男らしいぞ。面白いわい。これで竜虎並び立つじゃな‥‥虎は少々貧弱じゃが‥‥‥それでそやつがどうかしたか?」

 

珍しく男が見せた好奇心に、老人は楽しそうに問う。しかし男は揺るがず淡白に

 

「…‥いや、別に何でもないさ」

 

告げる。そして去り際に「おちょくるのもほどほどにしな」と告げて今度こそ老人の前から姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

老人と塾舎を視界に納めるビル裏。まるでそこが己の生きる場所とでもいう様に違和感のない男は、一度塾舎を見て、男は何処か懐かしむ様に呟いた。

 

「‥‥相変わらずの忠義者だよ。お前は」

 

それだけ告げ、右手をポケットに残る左手の袖が振り返る風に煽られ、ふわりと舞う。そうして歩き出そうとした、次の瞬間

 

「よう。久しぶりだな」

 

上から声が男の耳に届いた。一瞬、自分が気取られずに背後を取られたことを驚いた男だが、声を聞き納得する。男は体勢変えないまま声に応える。

 

 

「ああ、久しぶりだな。お前がこっちに来た(・・・・・・・・・)って事は、あいつ(・・・)がそうなのか?」

 

「それはこっちのセリフだ。あいつ(・・・)が仕えてるてって事は、あの坊主がそう言う事だな」

 

互いにわかっている。それでも問う。

 

「それにしても相変わらず、冷めた奴だぜ。もう少しぐらい、興味を持ったっていいだろうに」

 

「生憎、お前らみたいな騎士道精神は持ち合わせてなくてな」

 

「ケッ。面白くねえ奴‥‥‥まあ、互いに自由な時間は随分過ごしたな」

 

「たかが六十年だぞ」

 

「長げえよ、新鮮な刺激も面白みもあったが…それでも足りねえ。使命ある自由と責務ない自由の差はお前も俺もわかってて過ごしてんだからな」

 

そのセリフに男は答えない。ただ沈黙が肯定を示す。

 

「そう言えば‥‥あいつはどうした?飛車丸と同じ位の忠義者は…」

 

「見守ってやがるよ。ご丁寧に個人ではなく家そのもの(・・・・・)をな。うんで、今は坊主の内(・・・・)にいる」

 

「成程な。お互いに、変わってないな」

 

「全くだ」

 

昔を懐かしむ様に話す二人。それっきり会話が途切れる。沈黙が支配する中、一方の声が

 

「うんじゃあ、またな。今度は酒でも飲もうぜ」

 

それだけ告げてその場から消える。一人残された男も一度目を閉じた後、ゆっくり歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルとビルに挟まれた路地。涙と鼻水で顔を汚し、肩で息をしながら呪捜官はそこまで逃げていた。

 

「どうしてこんな目に…‥わ私は、ひ飛車丸なのだぞ!!、そそうだ、こんなのは間違ってる!!」

 

自分に言い聞かせるように譫言の様に呟く呪捜官だが…

 

「‥‥‥暫らく見んうちに、随分と呪捜官の質も落ちたもんやな」

 

何処からか聞こえる声に取り乱したように辺りを見渡すが

 

「‥‥いや、違うか。それだけ優秀な人材が霊災の修復員に偏ってるって事やな。霊災の増加の悪影響やな」

 

背後。それもすぐにでも触れそうな距離に追手はいた。直後、何かに縛られた様に身体が動かない。呪術。それもかなりレベルの隠形と金縛り。こんな事が出来るのは、国内最高峰の『十二神将』クラス。

ふと呪捜官は、昔職場で聞いた噂を思い出す。かつて『十二神将』の一人に数えられながらもその隠密の任務故に公に名が上がらなかった、最早伝説に数えられる凄腕の呪捜官の事を。そこまで思い出した呪捜官の意識が完全に縛られた。

 

「やれやれ、ひどい時間外労働もあったもんやな。これって残業手当つきますん?」

 

頭を掻いながら大友陣は、自身の後方に問う様に話す。するとにゃあと一匹の猫が大友の前に現れる。陰陽塾の塾長倉橋美代(くらはしみよ)の式神だ。

 

「可愛い生徒の為なのですよ?心優しい大友先生?お金の問題ではありませんよ」

 

「金やのうて、誠意の問題やっちゅうに‥‥」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ、別に!!」

 

小言の筈がまるで感情を読まれたような地獄耳に大友は身体を委縮させる。

 

「それはともかくお疲れ様でした、大友先生」

 

猫は倒れた男を見ながら一応いたわりの言葉をかける。

 

「言うて何ですけどね、こいつ雑魚ですわ。今時おるんかって位のレベルの」

 

「恐らく深層心理にまで深い暗示を長期間受けていたのでしょう。彼を見ていましたが、かなりの人格の乖離が見られました」

 

「ああ、あの遠坂クンにも見破られた、あのみっともない一人二役。なんや塾長も見てはったんですか」

 

「ええ、当然です。しかし、遠坂さんの乙種は想定外であり見事でした。これは嬉しい誤算です。それに…」

 

「衛宮の術を見れたからですか?」

 

一瞬、式神の気配がブレる。大友自身、あれを見ていたが凄まじいの一言だ。現役時代噂には聞いていたがあれ程とは思いもしなかった。準備に膨大な時間がかかるのが、難点と見たが、もしもその時間を角行鬼や飛車丸と言った式神が主を守護(・・・・・・・)すればと考えると、恐ろしい。

 

「ええ。私自身、衛宮の術を詳しく知りませんからね。一度でも見れたのは行幸でした。そして担任に貴方のような彼の名を気にしない講師を付けれて良かったと思ってますよ」

 

「そらまあ、僕自身あの名に思う所は有りますけど、それだけで彼を責めるのも筋が違いますからね」

 

「世の中、そう上手く行かないモノですよ。特に彼のような家はね」

 

今後の事も考えれば。彼らの結束は不可欠なのだ。その中で不確定な物は出来るだけ除外したいというのが彼女の考えだ。でも同時に教える身として、彼の道を大人の都合で潰したくないとも考える。

 

「それにしても今回は随分と危ない橋を渡りましたね。塾長は既に、こいつが夜光信者って知ってたんやないんですか?知ってた上で野放しとは…‥結構危ないはんだんちゃいます?」

 

「彼が双角会(そうかくかい)の一員だというのは、早い段階でわかっていました。しかし、それ以上は判らなかったのです。それにしても危ない橋を言うなら、大友先生もじゃありませんか?あの紛い物の角行鬼が出た時点で介入すべきだったのでは?」

 

「そないな事言うてもですよ?ただのストーカー一人ならともかく、すぐ傍に超大物が二人おったんですよ。僕まだ、もう片方の足まで差し出したくはないですよ」

 

大友は「無理ですやん」と呟きながらも、そこには確かな自信があった。そう犠牲さえ覚悟すれば、彼らと戦えると案にそう告げている。ただ今はその時(・・・)では無いだけだと。

 

「それに予防策なら僕も打ちましたし。僕の作った錫杖、役に立ってたでしょ?前回の木刀は、まさかのオーバーヒートされたけど、あれは自信作やったんで!!これって結構僕のお蔭とちゃいます?」

 

「‥‥まあそれは置いておきましょう。それでは後処理はお願いしますね。私は陰陽庁の方に、色々手をまわしておきますので」

 

「…‥時間外手当ってつきますん?」

 

「あら、先ほども言ったでしょう?可愛い生徒の為なら、お金なんて問題ではない筈ですよ」

 

「‥‥‥うわぁ、このババアはよ逝かんかな…」

 

去りゆく三毛猫の式神に嫌味を言うが、すでに姿は何処にも見えない。一度深くため息を吐いた後、大友は後処理を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春虎達が転校してきて初めての日曜日。当初呪力を使い果たした四季は、一日丸々寝ていたが、凛と天馬のお蔭で講義に遅れることはなかった。宿題を終わらせた四季は、息抜きの為というか、最近できた友人が心配になったために様子を見に行こうと思ったのだ。

そして案の定、春虎は今までの無理がたたり何度か講義を休んだため、頭から煙を出しそうな勢いでノートを写している。

 

「大丈夫か?」

 

「なに何時もの事さ」

 

先に部屋にいた冬児に問う四季。問われた冬児は、面白そうな笑みを浮かべながら「前の学校でもこんな感じだったからな」と告げる。それを聞いた四季は何とも言えない表情をする。そして冬児から、事の顛末を聞く。

 

「結局、全ては闇の中って事か」

 

「ああ、呪術的なプロテクトが掛けられていて全く繋がりも背景もわからないらしい」

 

「あの角行鬼は?」

 

「遠坂の言う通り、市販の式符を改造しただけの物だったらしい」

 

全てはあの呪捜官の妄言だったと言う事だ。そんな中四季は、鬼の話をしている冬児の目線が僅かに鋭くなっている事に気がつく。

ふと、四季は隣の部屋がうるさい事に気がつく。そしてそれはノートを必死に写していた春虎も気になったのか、隣の部屋の文句を言いに行くと‥‥突然驚きの声が聞こえる。四季と冬児の二人は、顔を見合わせ春虎の後を追うように部屋から顔を出す。そこには何か言い争う春虎と夏目の姿。

 

「おい!此処は男子寮(・・・)だぞ!」

 

「僕だって男子だ!!」

 

「いや、まてまて!!お前には無理だって!!」

 

「なあ、何で春虎はあんなに拒絶してんだ?ってか、夏目って確かマンション暮らしじゃなかったか?」

 

「さあ、な。俺にも分らん」

 

言い争っていた二人。四季と冬児そしてコンは、野次馬の様に二人のやり取りを見ている。

 

「あれ?何やってるの、春虎君」

 

「天馬…っと倉橋。それに遠坂も」

 

そこへ天馬、倉橋、凛の三人が姿を見せる。三人の姿と四季のの姿を確認した夏目は、僅かに戸惑う春虎をしり目に前に出る。

 

「四季君。天馬君。倉橋さん。遠坂さん。この前は、本当にありがとう。迷惑を掛けて、すまなかった」

 

居るとは思っていなかった、夏目が突然現れ謝罪したのだ。四人は驚き動きが止まる。

 

「い、いいよ。気にしないで。僕自身‥‥そんなに役に立てなかったし」

 

「迷惑なんて思ってないわよ。こっちが首を突っ込んだわけだしね」

 

「同じく。友達だしな。これからも頼ってくれると助かる」

 

「本当にありがとう」

 

天馬は戸惑いの声を、凛と四季は気にするなと告げる。それでも夏目は、何度も裏目の無い態度で謝罪した。

 

「なんだか知らないけど、賑やかになりそうね」

 

「そうだな」

 

そんな中、春虎と京子が何処かへ行っている内に、凛はお詫びの代わりに今後も四季と自分と仲良くしていってほしいと告げる。それに対して夏目は、勿論と告げる。

 

「これからよろしく、四季君。お互いに大変かもしれないけど、互いに頑張ろう」

 

「ああ、こちっこそよろしく」

 

夏目と四季は握手を交わす。その後、なかなか帰って来ない二人に焦れたのか夏目が呼びに行くと告げてその場を離れる。

四季は、今後の塾生活が凛の言ったように賑やかになると感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――これは今から何十年も昔の一幕

美しい月が照らす中

 

「決意は変わらねえのか」

 

一人の槍兵が尋ねる。かつて二人はある人物に仕えていた。しかし、ある理由から今は

契約を一時破棄されており、完全にフリーな状態だ。そして主自身も、来たる時まで自由にしてくれて構わないと告げた。それが自分達二人の仕事(・・)なのだ。そして槍兵は、主のそう言う所を好いていた。従者の誓いを交わしながらも、友し戦友とし、家族とし接してくる彼が、槍兵は本心から好きだった。そしてそれは他のメンバー全員がそうであろう。

だからこそ、家に縛られる必要もないのだが

 

「ああ」

 

何の迷いなく躊躇いなく剣士は告げた。待ち続けると決めたのだと、そして自分が見守ると決めたのだと告げた。

 

「だからしばしの間、時が来るまでお別れだ」

 

「相変わらず、堅てぇ奴だな」

 

剣士の意思が変わらないことを悟った槍兵は「わあったよ」と告げ、剣士の前から姿を消す。

月と槍兵だけが、剣士の決意を見届けた。

 

―――――もう何十年も昔、一人の槍兵が記憶する。一人の相棒との一時期の別れの記憶。




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原作三巻
第十夜 星に迫る影


いよいよ、原作三巻突入
楽しんでくれたら嬉しいです!!




東京の某所にある釣り堀。料金を払って都会にいながら海の魚を釣れる場所に、一人の男がいた。ヨーロッパ地方の血を感じさせる野性味を隠せない顔つき、青い髪を一本にまとめている。アロハシャツという明らかに場違い感のある服装の筈なのに、不思議と違和感なくその東京という場所に溶け込んでいる。

男は口笛を吹きながら、微動だにしない浮きを見ている。まるで機械のような正確さで男の持つ釣り竿は微動だにしない。何も知らない素人からすれば、何ともない光景だが、釣りを知る者達からすればそれを維持するのにどれだけの集中と筋力が必要か察する為、男は通い出して数日にも拘らず、常連たちも一目置く存在となっていた。

事実、男のバケツには多くの成果が入っている。

 

「おっと」

 

素早いスナップで竿を引く。上がってきた獲物から即座に針を剥がし、再び流れる様な動作で投げ入れる。男の持つ竿はリールもない、何世代も前のモノだ。しかし男は己と竿が一体になるそれがとても気に入っている。否定するわけでは無いが、男の中では今時の電動リールなるものは邪道だと考えている。

そんな気分よく釣りをする男。

そこへ

 

「釣れてるかね?」

 

男の気分を害す声が届く。声の主もまた一人の男。年は男と同い年だろうか、白髪の髪に鷹を連想させる鋭い目(今は比較的穏やか)。顔つきは少々日本人離れしているが、確かに東洋の血を感じさせる。服の上からでも鍛えられているのがよくわかる。かけられた声に「ボチボチだ」と視線も動かさずに告げる。鷹の目の男は「そうか」と告げると、男の横に荷物を降ろし、釣りを始める。それを見た男の眉が僅かに上がる。

 

「何しに来やがった」

 

「やれやれ、連れないな。折角旧知の知り合いが尋ねてきたというのに」

 

やや挑発的な言葉にも、鷹の目の男は自分のペースを崩さない。それは逆に気に食わないのか、男は舌打ちを鳴らす。

 

「なに、心配はいらないさ。仕事は終わらせた(・・・・・・・・)。それで暇だったのでね。そろそろ時期(・・)だと思い、一度顔を見ようと思ったわけだ」

 

「そうかよ」

 

事務報告のようなセリフにも男は不貞腐れた様に答える。何というか仲が悪い悪友のような関係にも見える。事実、二人の付き合いは長く深い。

 

「それでどうなんだ?」

 

「まあほぼ当たり(・・・・・)だ。兆し(・・)はまだ見えてねえが、時間の問題だろ」

 

「そうか」

 

世間話をしながら二人は釣竿を引き魚をボックスに入れる。しかしその声音は明らかに違うナニカを含んでいる。

 

「そういえば、向こうの家(・・・・・)はどうだ?」

 

「そっちも順調だな…‥まあ少々変則的(・・・)になってるが、間違いはねえな」

 

「尚更、確証と言う訳か」

 

鷹の目の男は「やれやれ、忙しくなりそうだ」と告げると、来たばかりだというのに荷物を片付け始める。

 

「手は出すんじゃねえぞ…‥まだその時(・・・)じゃねえ」

 

気配が消える直前、視線も何も動かさず男は警告する様に告げる。それを破れば、手を下すという明確な意思をのせて。対する男も「わかっているさ。だが、別の人間を助けて結果的に手を出す形となったのなら、仕方はあるまい」と不敵に返す。

 

「たっく、相変わらずのタヌキが」

 

独り言のように男が呟く。既にその場所に彼の姿はない。そんな中一人の常連が、一つのコーヒーカンを持ちながら男に問いかける。

 

「なあ兄ちゃん?この辺に白髪の兄ちゃんがいなかったか?さっきまで此処にいた筈なんだが」

 

辺りを見渡しながら常連は「壊れたリールを直して貰った礼をしたいんだよ」と告げる。話を聞いた男は、空いている方の手に顎を置き、不貞腐れた顔をしながら

 

「帰った」

 

と短く告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終了のチャイムが鳴る約五分前。四季は自分の回答の見直しを終え、ゆっくりと息を吐く。本当は身体も伸ばしたいが、流石にそれはと自重する。暇になったので解答用紙を裏返し、視線だけで辺りを見渡す。凛は完全に満点の自信があるのか鼻歌を唄い、京子も自信ありとあくびを零し、天馬は最後まで問題と向き合っている。冬児は未だに問題に取り組んでいる。そして夏目は何処か顔を青くしながら、自身の前の席に視線を向けている。夏目の視線を追った四季は、うわっという顔をする。二人の視線の先には、最早虫の息というべき姿の春虎の姿。これは完全に望み薄だ。

 

――――大丈夫か?

 

そんな事を考えている間に、終了のチャイムが鳴り響いた。解答用紙を前に回しながら、四季、凛、冬児、天馬、京子の四名の視線は、机を涙で濡らす春虎を捉えている。それを見た凛と京子は呆れたというわんかりにため息を、四季と天馬は乾いた笑みをこぼし、冬児は面白そうに笑っている。そんな中、一人夏目は春虎にどこが出来なかったのか、そしてなぜできないんだと問いかけているが、完全に燃え尽きた春虎には効果がない。

近くに凛が来ることを視界に納めながら、四季は最近できた友の先を案じると同時

 

「もういい…‥全力は尽くした。だから、あとは実技で挽回するっ!!」

 

そんな春虎の決意の声が届いた。その決意を聞きながら、四季はふとを窓の外を見る。もう既に春虎と冬児が転塾してから半年が過ぎていた。

そして一回生から二回生に上がる為の、進級試験が行われていた。

 

 

 

 

 

アリーナで行われる模擬戦を見ながら凛は「ホント、よくやるわね」と呆れた声を漏らす。左側にいる天馬は応援を、そして凛の右側に居る夏目はハラハラしながら、春虎と京子の一戦見つめている。発端としては、半年前の起きた夏目を巡る夜光信者との一戦が原因だ。あれ以来、力不足を痛感した故にこうして放課後をアリーナを借りて自主練をしていると言う訳だ。まあ今回は、来たる実技に向けてという意味合いもあるが。

そんな事に意識を裂いていた凛だが、ふと隣から「やった!」という歓喜の声が届く。その声につられ、アリーナに視線を向ければ春虎が京子の式神『黒楓』に錫杖を付けている。勝負ありだ。

 

「春虎君って本当に筆記は最悪だけど、実技はなかなかよね」

 

「ホントだよね。僕なんか、もう抜かされてるよ」

 

「あら?そう言えないわよ。何たって彼、未だに呪力の変換は錫杖頼みだし、簡易式の扱いまだまだだから、総合的にはまだ天馬君の方が上の筈よ」

 

「遠坂さんの言う通りだぞ、春虎!!自力で変換できないと意味がないぞ。実技では呪具の使用は禁止されてるんだからな」

 

ガミガミと自分の式神に欠点を述べる夏目。その姿を見て天馬は「クス」と笑みをこぼす。

 

「な、なんだよ、天馬君。何がおかしいのさ」

 

「だって‥‥春虎君が勝った瞬間に腰浮かせてガッツポーズして『やった!』って言ってたんじゃない。それも顔を真っ赤にさせて」

 

「本当よね。もしかして夏目君て、ツンデレなのかしら」

 

天馬と凛の指摘に夏目は顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。その際、夏目の土動揺を春虎がたしなめるという一幕があったが、比較的に賑やかな雰囲気がそこにはある。

 

「あれ…?そう言えば冬児と四季は、どこ行ったんだ?」

 

ふと辺りを見渡していた春虎は、先ほどまでいた二人の友の姿が見えない事に気がつく。その疑問に答えたのは、夏目といい合っていた天馬だ。

 

「二人とも塾長に呼ばれて、塾長室に行ったよ。塾長の式神の三毛猫に呼ばれてね」

 

「わざわざ塾長室に呼び出し。なんか心当たりあるか、京子?」

 

「さあ。私は特に何も聞いてないわ。けど、お祖母様の事だから、もしかしたら二人によくないモノを読んだんじゃないかしら?」

 

「よくないモノ?」

 

「そ。お祖母様はは国内屈指の星読みだから」

 

「星読み?」

 

「占いの事よ、春虎君。塾長は、対象の少し先の未来に何が起きるか予知にも近い占いが出来るのよ」

 

「やっぱりアンタ、もう一回一回生をやり直した方が良いんじゃないかしら?」

 

余りの無知に京子は呆れた様に呟く。

 

「うるせえ。でもまあ‥‥塾長のやる事なら心配ないか、大友先生ならともかく」

 

「二人とも落第直前のアンタに比べて、心配する要素はないわね」

 

京子の指摘に春虎は苦汁の顔をする。その後、夏目による実技試験の対策が行なわれた。

 

 

 

 

 

塾長室の前。そこに四季はいた。最初は冬児と共にたのだが、塾長に席を外してほしいと頼まれ部屋から退室してここで待っているのだ。呼ばれた理由として思い浮かぶのは、やはり自分の家柄だろうか。塾長は高名な星読みだ。自分について何か伝えておくような読みが出たのかもしれない。

時間にして数分後、扉か冬児が出て来る。

 

「お疲れ、で塾長は何だって?」

 

「生憎、堅く口止めされたよ」

 

「それもそうか」

 

入れ替わる様に部屋に入る四季。その間際、四季は先に帰って良いぞと告げる。冬児は「助かる」と告げて歩を進める。少し様子のおかしかった友人は、そのまま見えなくなった。

部屋に入った四季は、そのまま塾長が座る机の前に立ち止まる。

 

「あらいらっしゃい。其方のソファーに掛けてらっていいわよ」

 

「‥‥わかりました」

 

イスから立ち上がり、ソファーに腰掛ける塾長に続き四季もまたソファーに腰を下ろす。

 

「それで何の為に俺を呼んだのでしょうか?」

 

「あら?早急ね。余り物事を早く知ろうとすることは、賛成できなわよ?ゆっくりとでしかわからない物事だってある訳ですから」

 

四季の言葉に塾長である美代は、笑みを浮かべながら受け流す。

 

「ただお話がしたいんですよ」

 

「話しですか…?」

 

余りにも予想外の言葉に四季は一瞬呆けたよ顔をする。

 

「ええ、聞きたい事は一つ。貴方が土御門夜光と衛宮式に対してどんな印象を持っているとか言う事よ」

 

瞬間、四季の顔が僅かに堅くなる。美代はそれを察していながらも、先ほどと変わらない口調で「どうかしら」と問う。

 

「土御門夜光についてですが、俺は…‥少し陰陽に優れた普通の人としか思えないのですが」

 

今度は美代の眉が僅かに上がる。「失礼だと思うんですけどね」と四季は告げる。事実、四季は夜光と言う名にそれ程何も感じていなかった。

その言葉を聞いて美代は小さく「本当に似てる(・・・)わね」と呟く。

 

「それじゃあ、貴方の先祖については?」

 

「その前に一つ。塾長は俺の先祖と会った事があるんですか?」

 

「ええ、夜光と一緒に一度だけですが」

 

当然のように発せられた言葉に四季は驚き息を呑む。それでもしばし考える素振りを見せたと一言

 

「…‥よくわからないですね」

 

「あら、どうしてかしら?」

 

「単純に家に彼に関する資料がほとんどなくて、伝聞されたことしか聞いていないのですが、それだと俺の思っている事にはなりませんし、第一言ったら失礼かもしれないんですけど、なんかみんなが言うほど悪いようには思えないんですよ。むしろ相当お人よしだったんじゃないかなと聞く限り思えて」

 

「そう」

 

四季の言葉にお茶を飲みながら美代は小さく呟く。その後しばしたわいのない会話をした後、美代が告げる。

 

「実は、今回の実技。貴方の星が読みにくく先が見えないのです」

 

「‥‥どう言う事ですか?」

 

「貴方達の家の星はひどく読みにくいの…‥。でもよくないモノが貴方知近づいているわ。それだけは心の淵にでもとどめておいて」

 

その言葉を聞き四季は「判りました。忠告ありがとうございます」と告げ、塾長室から退室する。

一人となった美代は、先ほどの四季の瞳を思い出す。似ていた。かつて一度見た彼に。性格は似ていない、されど確かに似てるモノがある。

あの瞳は案じる目だ。自分に迫る者が、周りに影響を及ぼすことを。そして彼はその為に戦うだろう。

そういう男を美代は一人知っていた。

 

「本当に生き写し様に似てるわね」

 

衛宮の星の読みにくさの理由は判らない。全く別の術による影響か?それとも星読みの力すら凌駕する何かがあるのか?美代にはわからなかった。一度、ゆったりとお茶を飲み思い出す。

初めて彼と会った時の、そのセリフを

 

『初めましてだな、俺の名前は衛宮式。夜光の親友だよろしく』

 

言葉だけ聞けば、普通の会話だろう。しかし汗だくで道場に仰向けになりながら言われたのだ。戸惑わない訳だない。その姿を夜光は腹を抱えて笑っていたが。ある程度笑い終えた夜光は、仰向けの式に一言告げた。『手を貸してくれ』と。

その時の式の瞳を自分は生涯忘れないだろう。子供のようにキラキラと歓喜に光、同時に抜身の剣の様に鋭く冷徹な瞳。

そんな瞳を四季もしていたのだ。

 

しばし美代は昔と現代(いま)を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場所はある意味自分には似ても似つかないだなと大友は思った。かつての上司に呼ばれて来てみたが、やはり自分にはこう言った雰囲気の店は合わないなと思う。まあ、あの腹黒上司に事だから、それを踏まえて此処を選んだ可能性だってあるが。

 

「それで用って何ですか?僕、一応部長とは縁切ったつもりなんですが‥」

 

「バカ野郎。今までさんざん面倒見てやってきただろうが!その恩をたった一枚の紙きれでチャラにできると思ってんのか」

 

どんな場所でも自分の「場」とするような男にして、かつて呪捜官だった大友の上司天海大善(あまみたいぜん)は、笑いながら大友の言葉を否定する。

どうして自分の回りにはこう言ったジジイやババアしかいないのだろと大友は常思う。

しばし半年前の夏目の事件のことを出しに嫌味を言ったが、全く効果がない。むしろ自分にその嫌味が倍になって帰って来る始末である。

そんな中、知り合いの名と共にある男(・・・)の名前が挙がった瞬間、大友の雰囲気が変わる。先ほどの胡散臭い空気が嘘のように冷たい刃が顔を出した。

 

「へえ…まだ倉橋長官は、あの(ボン)安生飼いならせとらんのですか」

 

「首輪はハメた。鎖にもつないだ。狂犬から牙を折るような真似は意味がねえ。言っただろ、どこも人手不足なんだよ。それに現状では小暮と言峰(・・)の奴が頑張ってくれてるから。出番は最低限に抑えられてるがな」

 

これ以上無駄話をしても意味がないかと大友は本題を切り出そうと決意する。その為に先ほどから自分達を覗き見ている存在を呼ぶ必要がある。大友の指摘に天海は「…、目ざといな」と笑みを浮かべ呼びかける。

現れたのは、比較的に顔の整った男性だった。呪捜官らしい個性のない事だが、癖のない真っ直ぐな黒髪の一部が血のような朱色に染まっている。男の名は比良田篤弥(ひらたあつね)。かつて大規模なテロ「上巳(じょうし)大祓(おおはらえ)」を起こした盲信的夜光信者の巣窟だった御霊部(ごりょうぶ)の一斉摘発の尽力者だと大友は記憶していた。天海の話を聞く限り自分の後釜(・・)のようだ。

 

「でだ。漸く本題だ」

 

天海の言葉に大友は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「言っておきますけど…‥‥僕一介の塾の講師ですからね?」

 

「おうよ。そのただの塾の講師様に用があるんだよ。噂の転生者がらみのな」

 

瞬間、再び刃が大友から顔を出す。その姿に天海はクスッと笑み零す。

 

「なんだ。講師なんてガラじゃねえと思っていたが、存外板についてるじゃねえか」

 

無駄話はいいからさっさと本題を教えろと大友は静かに告げる。大友の言葉に答えたのは比良田だった。

 

「現状で双角会に新たな動きが見られます。それも超大物が動いている」

 

「大物ってまさか…‥『D』やないでしょうね」

 

比良田の言葉に大友は冷や汗をかきながら天海を見る。天海は何も答えないがその空気が全てを語ってる。

呪捜官たちの間である陰陽師を指す隠語だ。そしてその名は誰もが知っている超有名人だった。

芦屋道満(あしやどうまん)。またの名を道満法師(どうまほうし)

文字通り伝説の陰陽師。何百年と昔の人物だが、実際に存在し脅威としてマークされている存在だ。

 

「最近『D』は積極的に双角会のメンバーと積極的にコンタクトを取っています。そしてそのメンバーも特定できました」

 

「…‥それは?」

 

「かつて御霊部のトップにして『上巳の大祓』の首謀者。そして『現・十二神将』大連寺鈴鹿(だいれんじすずか)の実の父親である大連寺至道(だいれんじしどう)の右腕だった男 六人部千尋(むとべちひろ)です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大友が比良田よりその名を聞いていた独刻。一台のリムジンが渋谷駅付近に止まった。リムジンから出てきたのはおよそ高級なリムジンとは全く縁の風貌をした男。

 

「お世話になりました」

 

男は後部座席一度頭を下げる。

 

「構わん構わん。どうせ何時ぞやの詫びじゃ」

 

窓が開き、座っていた和服の老人が姿を現す。ミイラのような風貌からは想像も出来な程若々しい声だ。

 

「じゃが惜しいの‥‥お主、死ぬつもりじゃろ?祭りはまだ始まってすらないというのに」

 

「…‥‥」

 

「まあ、儂には関係がないか。ま、どうせなら派手にやってくれ。その方が儂も退屈せん。‥‥それに衛宮がどう動くか楽しみじゃしな」

 

老人の言葉に僅かに男の眉が上がる。しかし老人は全く気にした様子もない。むしろ何か期待している節がある。今回の件もある意味でその名のお蔭でこの老人を説得できたのだから、男の心境はモヤモヤしている。

 

「ええ、わかっています。ですから、どうか‥‥」

 

「わかっておる。今回は傍観に徹するよ。少なくともケリがつくまでな」

 

「…‥恐縮です。道満法師」

 

それだけ告げて男はリムジンから離れた。決意の色を瞳に宿し、今は亡き上司に告げる。

 

「見ていてください。大連寺部長」

 

そう言って歩き出した足が止まる。男の視界に陰陽塾の制服を着た一団が映っている。

 

「‥‥北辰王」

 

その呟きはか細いモノだったが、確かな羨望が合った。一瞬、男に黒髪の少年と話がしたいという欲求が込み上げる。しかしその欲求を押しとどめ、男は傍観する。その中で二人の男子が男のナニカに触れる。一人は判る衛宮の人間だ。彼を巻き込む(・・・・)事を条件に男は老人の傍観を約束させた。色々な意味で男にとって複雑な対象だった。人間らしい感情は少年を巻き込むことに心を痛め、罪悪感が募る。しかし逆に陰陽師としてはそれでいいというむしろ許せないという感情が湧く。

だが、もう一人の男子生徒は判らない。自分は何処かで彼と会ったのだろうか?男は、一団が通り過ぎるまでその場に佇んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道路を走るリムジンの中老人はこれからか起きることを想像し笑みをこぼす。

 

「さてさて、現衛宮は何を見せてくれるのかの?今から楽しみじゃ…‥」

 

かつて光景を思い出し老人は傍観する。本当ならば自分も介入したい。しかし少し前、自分の隠れ家に放たれた一本の矢文。『手は出すな』ただそれだけ書かれた分を読み、老人は全てを察する。(とき)が近づている事を、そして彼ら(・・)がまた集まり出している事を。

 

「お主はどう動くつもりじゃ…‥のう、弓兵よ」

 

ああこれだから衛宮は面白い。そう思いながら見せた笑みは、深いナニカを纏っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、寮のベットで横に成りながら四季は、なかなか寝付けなかった。不安と期待で自分が思っている以上に身体が興奮し寝付けない。参ったなと思う。これでは明日の試験に差支えが起きるかもしれない。進級が関わっているのだ、ほんの僅かな不安も残したくない。

しかし同意に悟ってもいた。これはたぶん塾長のセリフが原因だと。自分が巻き込まれるのはいい。そうなることなど、父親から聞いていたし覚悟もしている。だが、それに他が巻き込まれるのは容認できない。

 

「ふぅ」

 

零れるため息は何に対してかわからない。準備はした、対策も行った。例え疑似霊災の修復でも何ら問題はない。そういう強さを四季は父から学んだ。

それでも不安が残る。

 

「参ったな‥‥此処までメンタル弱かったけ、俺?」

 

自分の夢がかかった最初の試練というのもあるあろう。此処でしくじれば、自分の夢は潰える。

そんな中、自分の携帯がメールを受信している事に気がつく。慌てて内容を確認する。差出人は凛だった。

中身を見て、四季は笑みをこぼす。

 

「流石。凛だな」

 

書かれていたのは『くだらない心配をしてる暇あるなら、さっさと明日に備えて寝ろ、バカ!』だった。隠していたつもりだたたが、凛には筒抜けだったらしい。今までも凛に隠し事を隠せたためしはないが、今回は結構自信があったのだが。そしてふと、画面がスクロールする事に気がつく。スクロールした、最後に一文だけ添えられていた。『アンタは一人じゃないんだからね、忘れんじゃないわよ!!』

 

「ははっ」

 

そうだったと思う。そうだ。試練があるなら乗り越えればいい。危機が迫るならば、払えばいい。何時だってそうだ、自分が迷い戸惑い足踏みした時、何時だって凛が背を押してくれた。

不思議と先ほどまでの不安も興奮の消え失せた。

 

「やってやるさ。俺は絶対に超えて見せる」

 

宣言し、凛のメールに『大丈夫。心配かけてすまなかった』と送り、四季はベットに入る。数秒で四季の意識は夢に消えた。

 

明日すべてが決まる。道が続くか途切れるか。どれだけ焦ろうが、明日の今頃には答えは出ている筈だ。

そんな四季の決意を笑う様に、後『上巳(じょうし)再祓(さいはらえ)』と呼ばれる事件が、刻一刻とその時を待っていた。




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第十一夜 遥か高みの怪物たち

鏡令路の「れい」が、どう頑張っても人偏の令にならないので、「令」でいこうと思います
ご了承ください

楽しんでくれたら、嬉しいです!!


その日、陰陽庁祓魔局(おんみょうちょうふつまきょく)の第一オペレーション・ルームは慌ただしかった。霊災観測の為の施設であり、彼らが霊災をいち早く見つけ、祓魔官(ふつまかん)達に伝えるのだ。そんな場所だからこそ、慌ただしいの仕方がないのだが、本日は特に霊災が多発しておりより忙しい。しかも夕暮れ時から深夜にかけて、霊災が活発となる『逢魔が時』になるまでまだ少しある。

それはつまり、東京の霊相が乱れている証拠。そして数分後には、逢魔が時に入る。故にオペレーション・ルームのメンバーは静かに緊張の糸を張り付ける。

そんな中課長がモニターに映る一点に気がつく。

 

「うん?あの渋谷の霊災はどうなっている?未だに修祓されていないが、後回しになってるのか?」

 

「ああ、それはあれですよ。一昨日連絡のあった」

 

そこまで言われて課長は納得のいったという表情をする。

 

「試験に使うと言っていた疑似霊災か。わざわざ表示しているのか?」

 

「ええ、一応霊災には違いないので」

 

そこから話題は、陰陽塾へと移行する。現在、陰陽庁の中でも腕利きな面々のほとんどが、陰陽塾の卒業生なのだ。陰陽師に慣れる人間は限られるため、能力の高い人物は貴重なのだ。

 

「そういえば、あの噂って本当ですかね?何でもあの衛宮が通ってるって…」

 

「なんだ?お前は否定派か」

 

「課長は違うんですか?」

 

「そうでもないが‥‥人手不足だからな。たとえどんな噂を持とうが、実力があるなら欲しいさ。猫の手も借りたいほどだからな」

 

「なるほど」

 

緊張を張り詰めながらも、のどかに会話が出来たのはここまでだった。

最初は普段通りの光景。しかし何時もなら、ある程度したら止まる筈のコールが全く止まらない。

そこで課長は初めて異変に気がつく。

 

「…なんだ?どうした」

 

「それが‥‥れ、霊脈に乱れがあるそうです。それも尋常ではない程の」

 

「場所は?」

 

オペレーターの言葉に課長は緊張した声音で問う。問われたオペレーターは震えながら報告する。

 

「…‥と、都内全域‥‥‥‥少なくとも我々が感知できる範囲全ての霊脈で乱れが起きています」

 

報告を聞いた課長は即座に指示を出す。

 

「司令室には、私から連絡する。それと特視官に連絡…‥…‥独立官は何人残ってる?」

 

陰陽庁が誇る特機メンバーへの連絡を急がせる課長。問われたオペレーターが時計を見ながら告げる。

 

「本部には、宮地(みやち)さんと弓削(ゆげ)が。目黒には、木暮(こくれ)言峰(ことみね)さん…‥‥‥あと、まだ残っていれば鏡が」

 

その直後、更なる変化が起きる。

 

「だ、第六小隊から連絡!!れ、霊災がフェーズ3へと移行とのこと」

 

「バカなッ!?早すぎる、さっきフェーズ2に入ったばかりじゃないのか!!」

 

その後も次々とフェーズ3に移行したという報告が入って来る。帰宅ラッシュの時間帯それm駅に近く、被害は想像を絶する。映し出されるモニターに映る水柱が。徐々に生物の形を作る。瞬間、報告というよりも悲鳴に近い声がモニターから発せられる。

現したのは、体長五メートル以上で、宙を躍動する姿は、鎖から解き放たれた野獣を連想させる。

 

フェーズ3。実体化した「魔」。陰陽法が定める移動型霊的災害通称「動的霊災」。

 

『動的霊災発生!水気を帯びているが、五気が偏在している模様ッ!!「タイプ・キマイラ」飛行型・(ぬえ)ですッ!!」

 

その報告に課長は厄介だとうなり、即座に待機部隊に全体を緊急出動(スクランブル)を命じようとした瞬間、近くにいるオペレーターが、上野でも霊災がフェーズ3に移行したと告げられる。更に追い打ちを掛ける様に品川でも霊災がフェーズ3に移行したという報告が上がる。

それは二度目の経験。一度目は最悪の事態の前兆として現れた。そして今の状況酷似しすぎている。

 

「まるで‥‥‥二年前(・・・)の再来じゃないか‥‥」

 

誰もが「霊災テロ」の名を頭に思い浮かべる。東京の『鬼門』と『裏鬼門』。陰陽においても重要視される部分で起きた霊災。そしてまだ一つ全く変化の起きていない場所がある。

 

「まさか…‥」

 

そこまで考え付き、課長は恐怖した様な声をこぼす。そしてその考えの正しさを裏付けるように

 

「渋谷にて、新たな霊災が発生ッ!!」

 

最後の霊災が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男は、山手線の内回りの電車に乗車していた。公共機関にも関わらず、男は一つの座席を独占し、のけぞる様に座っている。既に帰宅ラッシュの時間帯にも関わらず、男の半径一メートルに全く人が寄り付かない。その場の空気を男は紛れもなく支配している。近づきたくないという一種の恐怖で。

二十歳前後で細身で銀髪。何よりその服装は、男の雰囲気を具現化したかのように攻撃的だ。周りの事などお構いなしに携帯用の音楽プレイヤーからは激しいビートがこぼれている。そして何より、世界の全てを嘲笑う様な冷笑が張り付けられている。

だが、何よりも目を引くのが、額に刻まれた刀傷のような「×」のタトゥーだ。

と、男の携帯に着信が響く。男は、顔を僅かにしかめながらも携帯を取る。

 

「…‥‥‥残業かよ」

 

携帯のディスプレイを見た男は、鋭く舌打ちをする。直後、電車が駅に停まる。すると男は、他の客を押しのけて悠々とホームから出ていく。

逢魔ヶ時の夕暮れが男の身に着けたサングラスに反射する。

一瞬、猛獣の様に荒々し炎を宿しつつ、戦士のような氷の瞳と表情が、男の顔を彩った。

 

 

 

 

そしてもう一人の男は、古びた協会に一人でいた。薄暗い中、聖母を祀る十字架の前で膝をつき、手にした十字架を額にかざしている。

四十手前だろうか、しかしその身体は年を感じさせない程に若い。服装は、祓魔官の服装と神父の服装を合したような独特のモノを身に着けている。

何処か現実離れした雰囲気を醸し出す、男のポケットから着信音が鳴る。薄暗い中、男はゆったりと立ちあがり、ポケットから携帯を取り出す。ディスプレイの光が照らす中で、男はディスプレイに映る文字を見て、ゆっくりと携帯をしまう。

 

「さて‥‥‥‥仕事と行こうかね」

 

万人が見て、(たの)しそうな笑みを浮かべながら、男は教会を後にする。協会の扉を開け、夕暮れを飛ぶカラスを見た男は、ふと思い出す。

 

「そういえば‥‥‥お前の息子が、今東京に居るのだったな、衛宮士郎」

 

男は本当に(たの)しそうな笑みを浮かべ、一歩踏み出す。瞬間、男の姿は何処にもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――順調ね。この調子なら、大丈夫そうね。

 

渋谷の一角のオフィスビルの近くの小広場のような場所に、陰陽塾の一回生たちは集まり、その中央付近に発生している霊災一歩手前の瘴気を修祓している。

霊気の祓いを行っている凛は、僅かに気を緩めるが、即座に気を張り戻し集中する。一体何が起きるかわからない現場での少しの気の緩みは、間違いなく油断となり、自分だけではなく仲間も危険にさらす。

だからこそ、深呼吸をして再び集中し始める凛の耳に

 

「ちょっ!春虎、強気すぎるってお前!!もう少し弱めろって!!」

 

「わっ!春虎君、今度は弱すぎだよ!!上げて上げて!!」

 

「何やってんだよ、ツッチー!!今度は目測からずれてるって!!目の前の霊気に合わせろってッ!!」

 

「俺かっ!!?俺なのかっ!!?全部俺のせいなのかっ!!お前ら、自分のミスも俺のせいにしてないかっ!!」

 

ある意味緊張感のない声が届く。その声を聞き、凛はため息をこぼすのを我慢する。霊災の修祓において、凛たちは修祓を行う班と結界を貼り霊気が広がるのを抑える班の二つに分けた。凛、京子、冬児は前者で、四季、春虎、天馬は後者だ。凛たちは上手く連携がとれているが、四季たちはそうはいっていない。理由は先ほどから名前が挙がっている通り春虎が原因だ。学年でもトップクラスの霊力を誇る春虎だが、それを呪力に変換するとは苦手であり、宝の持ち腐れ状態なのだ。変換を任せてきた錫杖の持ち込みは禁止とされており、春虎は「刀印」を斬り必死に呪力を出しているのが、これが全くもって安定しない。その姿に試験を免除された夏目が、アワアワと心配そうに見ている。

 

「くっそーッ!!何で出来ねえんだッ!!」

 

「は、春虎君!!強い、強すぎるよ」

 

「わっ悪い!!」

 

イラつくように斬られた印により再び呪力が乱れる。天馬の指摘で慌てて抑えるが今度は弱すぎる。

 

「春虎‥‥‥弱くてもいいし強くてもいいから、頼むから安定させてくれ」

 

「悪い!!本当に悪い!!」

 

結界班を指揮する事となった四季が、疲れた表情と声で春虎に懇願する。春虎が呪力を乱す度に、四季が調整しているのだからそんな言葉が出ても無理はないだろう。

現状での不安要素は、春虎ともう一人。

 

――――まあ、こっちは大丈夫そうね。

 

凛が向ける視線の先には、若干苦しそうにしながらも己の役目を果たす冬児。霊災の被害者である彼にとっては、かなりの苦行の筈だが、それでも今の現状では大丈夫そうだ。

ふと視線を講師側に向ければ、夏目の必死にさに苦笑しながら、そろそろ止めようとしている。

その瞬間だった、僅か。本当に僅かに噴き出す霊気の質が変わる。

 

――――なにっ?

 

そこから蓋を開けた様に膨大な霊気が瘴気となって放出される。それを見て講師たちが慌ただしくなる。その中で凛たちは、少しでも霊気の勢いを弱めようとするが、全く効果がない。「マズイわね」と呟こうとした凛の耳に、京子の悲鳴が届く。

 

――――しまったッ!!

 

悲鳴のする方を見れば、冬児が歯を食いしばりナニカを抑える(・・・・・・・)様に歯を食いしばっている。

僅かな時間で起きた異常事態が、塾生たちの動揺をうみ。遂に結界を維持できなくなる。

瘴気が結界を突き破り、辺りに満ちようとし始めた瞬間

 

「聖域を満たせ、急急如律令(オーダー)ッ!!」

 

四季が小さな緑色の宝石を投げ、魔術を行使する。瘴気に触れた緑の宝石は、緑の柱となり瘴気の暴走を止める。

 

「夏目ッ!!」

 

「ッ!!――――北斗、主たる命にて、陰なる邪気を払えッ!!」

 

四季の呼び声に驚いた夏目だが、一瞬にして己の役目を思い出し、己の式たる竜を呼び出す。呼び出された北斗は、まるで吸い寄せられるように緑の柱に高速でぶつかり、瘴気を散らす。

一瞬の沈黙のあと、誰もが無事だったことに安堵する者や尻餅を付く者など様々だ。

凛も一度深く息を吐く。無事だったと誰もが判断しようとしたが…‥

 

「ッ!!」

 

「まだだッ!!」

 

冬児が吠えると同時に四季も符を取り出し、コンもピクリと反応する。舞い降りてきたのは、容姿を変更しながらもまるで伝説に記されるような魔物の姿をした怪物。視てみれば、数多の気が己を主張しぶつかり合っている。

 

「フェーズ3…‥‥(ぬえ)

 

一人の講師が信じられないといった様に呟く。誰もがその存在に畏怖し、動きが止まる。その中で一人の老講師が囮に成ろうとするよりも早く‥‥

 

「雷光よ、魔を滅せ 急急律令(オーダー)ッ!」

 

四季が黄色の宝石を投げ、魔術を行使する。放たれた雷光が、鵺に直撃し悲鳴と怒りの声を上げる。

 

「逃げろッ!!」

 

誰もがその威力と事態に唖然とする中、四季が声を張り上げる。その声に発せられて、全員が動き出す。それを視界に納めながら、四季は目の前の脅威を視る。

 

「こいつ‥‥」

 

それに気がついた四季。そして春虎の命令すら無視して、鵺を見ていたコンも警戒する様に呟く。

 

「あやつ…手負いです」

 

「恐れている?」

 

けん制のつもり放った魔術に対するあの反応。明らかに大きなダメージを負っていた証拠。

一体誰に?と四季の頭に疑問が過った瞬間、四季の視界に異端な霊気が映ると同時、鵺が何かを威嚇する様に吠える。

 

瞬間、全ての視線と意識がその男に注がれる。

 

「なんで、ガキどもが俺の得物を囲んでやがる?おまけになんだ、マジ物の竜までいるじゃねえか」

 

その存在を知る者は、先ほどとは別の意味で動きが止まる。知らない者も、その発せられる霊気を視て動きが止まる。

 

「オ、『鬼喰い(オーガ・イータ)』…‥」

 

その者の通り名といえる名を講師の一人が告げる。

 

「おい、俺をその名前で呼ぶんじゃねえよ、ジジイ。俺の名前は鏡令路(かがみれいじ)だ。あんま、『十二神将(じゅうにしんしょう)』相手にチョーシくれってと、ひねりつぶすぞ」

 

その名に反応し鏡は、イラつくように告げる。瞬間、鵺が鏡に向かって明確な敵意と攻撃を見せる。しかし、肝心な鏡は全く動じない。むしろ蚊をウザがる様な表情を見せ、その手を動かそうとした刹那

 

「やれやれ、慢心とは感心せんな鏡よ」

 

新たな声が届くと同時に、鵺に幾重の剣が突き刺さり、その衝撃で吹き飛ぶ。

 

「…‥言峰さん」

 

吹き飛ばされた鵺の存在に全く気にせず、さも当然のように受け入れ声のする方を振り向く。

 

「ふむ。全員無事かね?」

 

辺りに倒れる生徒達を見渡しながら、言峰と呼ばれた男は確認する様に老講師に尋ねる。

神父の服装と祓魔官の服装を合した独特な服装をみて、講師は呟く。

 

「『代行者(だいこうしゃ)』…‥‥」

 

「あまり、その名は好かんのだが‥‥‥その通り、『代行者(だいこうしゃ)』の名で通っている、しがない祓魔師だ」

 

鏡のように威圧する訳でもなく、まるで友達をご飯に誘う様に淡々と男言峰綺礼(ことみねきれい)は肯定を示した。




いかがでしたでしょうか?
良かったら、感想をお願いします

少し早いですが、今年の更新はこれで最後となります
来年も東京レイヴンズ~英霊を従えし陰陽師~をよろしくお願いします



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第十二夜 急転

お持たせして申し訳ありません
色々と大学のテストやら身内の不幸やらで遅くなりました

事態の繋ぎの話なので全然物語は動きませんが、それでも約一名のキャラを地味ながら目立たせれるように頑張りました
楽しんでくれたらうれしいです!!


言峰が差し出した手を老講師はゆっくりと取り立ち上がる。そして時を同じくして、吹き飛ばされた鵺が、咆哮を上げながらこちらに迫ってくる。

 

「い、いけない!!」

 

迫る脅威に急いで生徒たちの安全を確保しようと駆けだそうとする老講師を言峰が止める。

 

「やめたまえ。巻き添えを食らうぞ」

 

「なにを………」

 

生徒たちが危険だ!!そう叫ぼうとした老講師の言葉を遮り

 

「言峰さん。こいつは俺の獲物だっ!たとえあんたでも邪魔をするなら、容赦しねぇ」

 

その場を支配するような霊圧とともに鏡の言葉が場を掌握する。その圧に鵺の動きまで停止する。

 

「無論そのつもりだ。まさか『十二神将』たる君が、私ごときに助けを斯うはずなどないのだからな」

 

神経を逆なでるするような挑発と取れる言葉に、鏡の纏う雰囲気がより凶暴性を増す。その霊気に当てられ、何人かの生徒は尻餅をつき、体の震えが極限に達する。それは最も近くにいた四季も例外なく体を震わせ、無意識に後ずさりする。だが、特にそれが顕著なのは冬児だ。何かにこらえるように頻りにヘアバンドを抑えている。

そんな中、己が畏縮させられたのがプライドに触ったのか、今までとは違う明確な「敵意」をもって鵺が、鏡に向かって吠えるが……

 

「うるせぇ、目障りだ。黙れ(・・)

 

当の本人である鏡は、まるで眼中にないと言わんばかりに視界にすら収めない。一言。たった一言のつぶやき。されど、恐ろしいほどにその場にいた全員の体の芯に響く。そして言葉の通り、鵺は強制的に黙らされた。その現象に誰もが驚き、その中で夏目や凛を含む数名が「甲種言霊」であると察する。人の動きを強制的に支配するその術を霊災相手に発動させる。その事実に誰もが鏡が口先だけの者でないと察する。

 

――――っていうか、フェイズ3の霊災が眼中にないって、どんだけ化け物なのよ!!むしろ今彼の眼中にあるのは、あの言峰っていう男だけ…味方のはずでしょうに

 

凛は騒然となる事態の中で、その思考を働かせ現状を理解する。ゆえに、現状の危険度をいち早く理解する。

 

――――不安要素が多すぎる。早く逃げないと…

 

頭では理解している。しかし体が震え全く動かない。理性に反して本能が体を縛る。動け動けとうなるが、全く動かない。

そんな誰もが震え硬直する中で、声を封じられた鵺が鏡に向かって突進する。獣のようなしなやかさで、敵意と怒りを込めた攻撃を放とうとするが、鏡の放ったあまりにも短い種子(しゅじ)に阻まれ、その姿が激しいラグを起こし吹き飛ぶ。一瞬、上空で待機していた北斗が攻撃する動作を見せるが、思いとどまったように距離を取る。明らかに鵺ではなく鏡を言峰を警戒している。

 

「鏡よ。やはり手を貸そうか?獲物をいたぶると、思わぬ反撃を食らうぞ」

 

「チィ。手持ちが少ないんでね、少しめんどくさいんすっよ」

 

「そうか。ならば尚更、早々に決着をつけたまえ。それが出来ない君ではないだろう」

 

場違いなほど二人は平然とそれでいて日常会話のように乙種を交差させる。しかし、二人の顔を見れば鏡は苦虫を潰した顔を言峰は愉しそうな顔をしている。どちらが優勢かなど聞くまでもない。

しばし視線を交差させていた鏡が、視線をそらし鵺に視線を向ける。

 

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ―――――」

 

独特の抑揚をつけ鏡の紡がれるのは火界咒(かかいしゅ)。呪力によって生まれた炎は、もはや本物の熱風と大差ない。放たれた炎は、空を走る鵺を容易に炎で包み込む。火界咒に飲まれた鵺は、重力に従うように落下する。――――落下する真下には、ほかの塾生を避難させようとしていた京子がいた。

 

「京子ッ!!」

 

「倉橋さんッ!!」

 

叫んだのはいったい誰だったか。その叫び声で京子は自身に迫る危険に気が付くが、わずかに遅い。京子は二体の護法式を展開し衝撃に耐えようとするが…瞬間、巨大な剣ともいえる二刀が、鵺をビルに刺しつける。

 

「やれやれ、大丈夫かね」

 

唖然とした表情の京子の隣に、先ほどまで老講師の近くにいたはずの言峰の姿。京子を労わるように手を差し出し、その場から退避させる。それだけで放たれた刃が言峰の物であると理解する。

 

「倉橋!!?ど、独立官!民間人の安全に考慮しろ!!」

 

少し遅れ、老講師が鏡に向かって怒鳴る。

 

「倉橋~~~っ?」

 

老講師の言葉の姓の部分と先ほどの言峰の動きを見て、漸く鏡は周りにいる塾生たちを眼中に収める。

 

「倉橋ってことは……陰陽塾!!つまりそこのアマが局長の娘か。………あ?待てよ。確か今年の陰陽塾と言ったら…この場所に本物の竜がいることだって説明が付きやがる」

 

――――まずい!!

 

春虎が四季が凛が鏡の言わんとしていることを察する。そして鏡は面白いおもちゃを見つけるように塾生たちを見渡しながら告げる。

 

「つまりいるんだな此処にッ!嘘かホントか知らねぇが、例の夜行の転生者(・・・・・・)って言われている、土御門のガキがよ!!」

 

辺りを見渡した鏡が、上空にいる北斗と霊的につながる人物を見つけるのは簡単。ゆえに鏡は迷うことなく夏目の前に立った。止めようとした老講師は、鏡の言霊によって動きを止められている。

 

「へぇ…思ったよりもいい子ちゃんなガキじゃねぇか。お前だろ、土御門?」

 

「そ、…そう…です」

 

「名前は?」

 

「つ、土御門夏目」

 

「おいおい、そんなに脅えるなよ。別に食おうってわけじゃねえんだぜ。それに聞いたぜ?お前、大連時のゴスロリ娘を、負かしたそうじゃねぇか。あんなガキでも『十二神将』の一人だ。そいつを負かしたんだから、もちっと胸張ってもいいんじゃねぁか?少なくとも、俺はそっちのほうが好きだぜ?」

 

鏡はケラケラと笑いながらさらに続ける。

 

「なんせ―――――そういった粋がったガキの方が、色々と『やりがい(・・・・)』があるからな。テメェで手前を賢いと思ってるやつの方が、からかいがいもやりがいもある。テメェで手前を強いと思ってる間抜けの方が、潰しがいがある。土御門の跡取りともなりゃ、なおさらだ」

 

鏡の言葉に夏目は唇をかむ。既にこの場は鏡が支配している。ゆえにこの場で彼に意見を言えるのは

 

「未来ある若者を脅すのは関心せんな。そもそも我々の仕事はまだ終わっていない。ここでこれ以上時間を食えば、品川の霊災もこちら側に来てしまうぞ。そうなってしまえば、いささか面倒ではないかね?」

 

同じ化け物である言峰しかいない。言峰の言葉に鏡は舌打ちをこぼし、夏目から視線を外す。

 

「さて鏡よ。あれは私が滅しても構わんかね?ああ、もちろん手柄は君に挙げるさ。陰陽塾の生徒たちを守り切り、見事滅したと上に報告しておくさ。だから、構わんだろ(・・・・・)?」

 

まるで聞き分けのない子供に親が折り合いをつけ宥めるように、言峰は優しくつぶやく。

対する鏡は、一瞬怒りで顔を染めるが、即座に自重する。そうなればどうなるかは、既に経験積みだから。

 

「それとも何かね?未来ある雛闇烏である、そこの少年に修祓させる気かね?確かに、本物の竜を使えば鵺如きには遅れはとるまい。そもそもの格が違うのだからな」

 

言峰の言葉に反応したのは鏡ではなく春虎たちである。確かに言峰の言う通り格が違う。鵺如き、北斗の本領を発揮すれば敵ではないだろう。しかし北斗は式神であり、その実力は夏目に依存する。夏目は確かに強いがあくまで「優等生」でしかない。ゆえに満足に北斗を使役できず、ましてや鵺を修祓する実力はない。

 

その言葉が夏目の限界だったのだろう。

 

「あ、あなたはそれでも祓魔官ですか?」

 

「あ?」

 

突然意識外からの言葉に、再び鏡の視線が夏目に向けられ、言峰は面白そうだと笑みを浮かべる。

 

「霊災はおもちゃではありません!それもフェイズ3ですよ?こんな真似をするよりも前に、まずはきっちりと修祓すべきだ!!」

 

面罵(めんば)に近い言葉に鏡の瞳がスゥと細められる。そしてその腕が夏目に伸びそうとした瞬間、二人のわずかな足元の空間に刃が差し込まれる。

 

「流石にそれは見逃せんな」

 

放ったのは言峰。しかし彼はそれだけをするだけで、夏目を助ける素振りを見せない。むしろにこの状況を愉しんでいるようにも見える。言峰に乗せられている感じがするが、今の言葉に言い返さないのは自分らしくないと鏡は、薄く笑みを施しながら夏目に告げる。

 

「いかにも優等生らしいお言葉だ。頑張ったなぁ、夏目クン。名門の優等生らしく、正義と勇気を振り絞りましたってか?―――――いいね。実にいいぜ。そういうのは『やり甲斐』がある」

 

「いい加減にしやがれ、バッテン野郎(・・・・・・)

 

その罵倒に震え上がったのは、当人ではなく周りの人間だった。瞬間、鏡の眼光が罵倒した春虎に向けられる。その事態に夏目は「バ、バカ」と春虎を叱るが、当の二人は夏目の言葉など聞いていない。

その事態を一歩引いてみていた言峰は、面白そうだといわんばかりに笑みを深くする。

 

――――今わかった!!あいつ絶対に性格悪い!!

 

近くでその笑みを見た凛は悪態をつく。が何かをしようにも自分に今できることは何もない。優秀であるがゆえにたどり着く無情な真実に凛は唇をかむ。

 

「テメェは?」

 

「土御門春虎!分家の息子だ!」

 

「分家だぁ~」

 

恐怖よりも身を焦がすような怒りが春虎の恐怖心を焼き尽くし、目の前の存在に吠える。鏡は春虎を値踏みするような視線を向ける。そしてその中で、全く別の何かを感じ取る。目の前の春虎でない、同じくらい弱者だが、潜む物は自分が全く知らないもの。どこだと、鏡は瞳だけを動かしそれを探る。

しかし以外にもその正体に先に気が付いていたのは、全体の状態を見ていた言峰だった。

言峰の視線は、四季に注がれている。今も体を震わしながらも、息を整え呼吸を安定させ、ポケットにから取り出したであろう宝石を手に持っている。その姿が、言峰にはある人物と被る。

 

――――そうか、あの少年が…

 

これは傍観に徹するにはあまりにも状況が美味しすぎる(・・・・・・)。土御門夜行の転生者と言われる存在にあの男の息子(・・・・・・)。しかも今ならば、監視の目もない。鏡は厄介だが、厄介なだけで壁ではない。ゆえに、言峰は行動を起こすことを決める。

そう決めた言峰の顔に刻まれた笑みを、凛は見た。だからこそ、凛は即座にその危険度を理解する。

 

「し…」

 

凛が四季に向かって叫ぼうとした刹那、言峰と鏡の二人が別々に動き出そうとしたが………その二人の動きを止めるように事態が急転した。

それに気が付いたのは、当然のように鏡と言峰。そして扱う術がゆえに(・・・・・・・)四季がわずかに遅れた反応する。

 

「―――なに?」

 

「これは――――?」

 

「ッ!!」

 

大地が沸騰し、見知らぬ札(・・・・・)が大地の沸騰に飲み込まれた。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
いよいよ次回より、本格的に事件が動きます
上手く描けるように頑張ります

存在感出たかな……どこぞの神父さん?
あと、文字変換のアドバイスを沢山いただき、本当にありがとうございます!!

よかったら、感想をお願いします


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第十三夜 生成り

お待たせしました!!
今回は、過去最長(区切りのより所まで行きたかったから)プラス過去最高クラスに駄文な感じがします
なんていうか、上手く文で表現できた気がしない

それでも楽しんでもらえたら嬉しいです


数日前。某アジト。そのある一室に乾いた死人のような老人と流浪人といった風貌の男の二人が向かい合って座っている。

 

「どうか、お願いしたします」

 

流浪人の方が深く頭を下げる。しかし老人の方は、外見に似合わないほど若々しい声で「どうするか?」と楽しそうに考えている。

全く考えを読ませない老人に男の焦りは大きくなる。これから行う自分の計画にこの老人が介入すれば、一体何が起きるのか全く予想できない。下手をすれば、自分の目的が達せられない可能性もある。だからこそ、老人には静観してほしいのだ。

 

「ふむ………そうじゃな、ではこちらの条件を一つ飲んでくれるなら、今回わしは傍観に徹しようではないか」

 

老人の言葉に男の表情が全てがこわばる。条件。ただその一言葉。されど老人の出す条件は、陰陽の中で暗部たる何かだと想像は難しくない。今、自分が頭を下げているは、そういう化け物なのだから。

その男の考えを察してか、老人はおかしそうに笑う。

 

「そう強張るではない。なに一人、そのテロに必ず(・・)巻き込んでほしいのじゃ」

 

その言葉を一瞬、男は理解できなかった。それほどまでに老人の条件は軽かった。そして

思考の穴は主導権を老人に握られたと同じだった。

 

「その者の名は衛宮という者じゃ。今、一人陰陽塾に入塾しておる。そやつを巻き込むと約束できるのであれば、わしは今回傍観に徹しようではないか。お主らにとって、何ら困ることでもあるまい」

 

その言葉に嘘はない。事実、その名は忌むべきものであり巻き込むことに何ら不満もない。しかし僅かな部分が、それを躊躇させるが…

 

「ここにある札を使い、霊脈を細工するだけでよい。無論、お主らの計画が崩れることない物じゃ。ただ使うだけで構わん。さすれば、衛宮は否応なし(・・・・)にも巻き込まれるじゃろ」

 

そう言って差し出される一枚の札。差し出された札をしばし見つめ、男は懐に直す。その行動を見て老人は深い笑みを浮かべた。

 

奇しくもその時、塾長の星読みがなされ衛宮の星に陰りが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地を沸騰した様に湧き上がる陰の気を纏う霊気。

 

「チィ、霊脈そのものかっ!?」

 

「むっ」

 

流石の鏡と言峰の目の前の事態に動きが止まる。霊脈に干渉するなど並の術師ではない。二人は急ぎ当事者を探すが、当然隙を見せるようなへまをするような敵ではない。

そして敵を探さんとするために、二人の意識はそれだけに向けられた。それは彼ら二人にとっては脅威ではないが、紛れもない災害にとっては一隅のチャンス。

鵺がひときは大きな声を上げる。するとまるで、その声に呼び寄せられるように、吹き出た霊気が鵺に集まっていく。鵺の巨体が一回りも二回りも巨大になっている。噴出した霊気を文字通り喰らい力としているのだ。

 

「チィ」

 

「ふむ」

 

その変化に二人は即座に行動を起こす。鏡は複雑な手印を結び、言峰は札からオリジナルの刃を生成する。

ほぼ同時に二人が攻撃を仕掛けようとした瞬間、二人は迫る敵意に気が付く。

 

「鏡よ」

 

隠形されたうえで投擲された札が二人に迫るが、その二枚の札を言峰が弾く。その隙に鏡が鵺を縛ろうと術を発動させるが…

 

「なにっ!?」

 

鏡が放った術は、鵺にあたる直前火花を散らし阻害される(・・・・・)。余りの事態に誰もが動きを止める。その中で動けた者は二名(・・・・・・・)。一人は言峰、そしてもう一人は先ほどまでほかの生徒の避難を優先していた四季の二名。

 

「ふむ。呪的防壁ではないな。これは……………なるほど」

 

一目見て全てを察した言峰は、懐から今までとは全く(おもむ)きの違う札を取り出す。そして小さく本当に小さく言峰は呪を唱える。生み出されたのは、先ほどと同じ剣。しかしその形状はどこか十字架に似ており、斬るよりも投擲に適した形をしている。

 

「ふっ!」

 

言峰はそれを抉りこむように鵺に向かって投擲する。それと同時に…

 

「満たし、放て急急如律令(オーダー)ッ!」

 

四季もまた青い宝石を投げ込む。青い爆発が起きる同時に投げ込まれた刃が鵺を貫く。その一撃の苦痛に鵺は悲鳴を上げる。

しかし四季はそれ以上に今、投擲された武器を見た衝撃に動きが止まる。

 

「あんた…どこで黒鍵(こっけん)を」

 

「ふむ…まさかこのような場にて出会うとはな。私の名は言峰綺礼。お前の父、衛宮士郎とは同期(・・)だった男だ。先ほどのは、いつぞやに奴から学んだものだ」

 

その衝撃に再び四季の動きが思考が止まる。

 

「その様子から察するに、あの男はお前に何も語らなかったと見えるな」

 

少し楽しそうに四季の様子を見ながら言峰はつぶやく。お互いの意識がお互いに向いている。その隙を狙ってか、鵺はその場を去ろうと空を蹴る。

 

「チィィ」

 

襲撃者の警戒と自身の術が効かなかったことにより鏡に打てる手がない。半歩遅れ、言峰も気が付くが、同じく襲撃者からの攻撃を示唆され、打つ手がない。

そして脅威が去った瞬間、

 

「っっがぁぁぁぁああああああああっ!!」

 

新たな霊災が発生する。言峰はその霊気を四季はその声に反応し、同じ方向を見る。そこには、頭を抱え苦痛に暴れている。

その霊子を見た鏡と言峰は、先の現状と考え見て、全てを察する。

 

「あの少年…『鬼』が憑いているな。生成りか」

 

言峰のそのつぶやきと鏡の笑いが大きくその場に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ一つの事態を正確に処理するよりも早く刻々と変化する状況に、四季と凛の頭の思考が完全に止まる。唯一動けるのは、事情をある程度知っていた春虎だけだ。その隙に鏡は冬児に近づく。その正体をかつての二年前に起きた大霊災『上巳の祓』にて生まれた鬼だと推測する。

 

「ヒャハハ、立派な生成りじゃねぇか。『堕ちる』まで、あと一歩で処か」

 

冬児の額にはラグを起こしながら存在を主張する双角。さらには犬歯が鋭く牙の様になっている。

その光景に思わずといった空気が漂う。その中で、四季は動けずにいた。いや、もっと正確に言うならば、何かが自身を狙ってる。そんな感覚が四季の動きを完全に停止させていた。僅かに動く視線で、辺りを見渡すが全く正体がわからない。しかし、ふと視界の端に…

 

――――哂ってる(・・・・)

 

それはそれは愉しそうにに弧を描く言峰の姿が映る。

 

 

――――ふむ、どうするべきか

 

混沌とする状況の中で、言峰の思考は恐ろしいほど冷静に動いている。ただ、鏡を止めようとしない時点で、彼の思考は現状とは少し違うものを捉えている。

 

――――鏡に手を貸し、鬼を降ろせば…より事態が混乱し、私好みの状況になるか。それとも()を考え、鏡を止めるか…だが、今はお前に動かれるのは困るな、衛宮

 

気づかれないギリギリで金縛りにかけ、困惑する四季を視界に収めながら、言峰は深く笑みを浮かべる。

 

――――こいつ…

 

誰もが冬児と春虎そして鏡に視線が向く中で、凛は言峰だけを見ていた。それゆえに僅かに言峰が現場を見ていないことに気が付く。

伝えたい。だが、ナニカが彼女からその行動を奪う。いや、その正体は分かっている。

 

――――怯えてんじゃ、ないわよッ!!

 

無意識な怯え。それが少女の動きを止めてる。そんな中で事態は、春虎が鏡に僅かに食って掛かる。それを切っ掛けに場の雰囲気が変わる。そして同じく…

 

――――やはり此処は止めるべきだな。整っていない、この場で弾けさせるには、余りにも愉悦が大きい

 

言峰も鏡を止めるべく動かんとしようとするが

 

「カガミ、何をしてるカ!!」

 

甲高い子供のような声が響いた。その声が聞こえた瞬間、鏡は煩わしそうに舌打ちを零し、言峰も笑みを消す。

誰もが目線を声のする方に向ける。そこには、祓魔官の制服を纏った子供の姿にカラスの羽やくちばしをつけたような烏天狗。しかも一匹だけではなく、続々とその場に現れる。

彼らは、現れると空にいる北斗の存在に驚き、次に鏡を責め立てる。その声にどこか場の緊張感がなくなっていく。

 

「ふむ。鏡だけを責めるのはやめたまえ」

 

「あっ!コトミネ。カァ、何があった。コトミネがいながら、鵺逃がすなんて、珍しい」

 

カアカアと場が先ほどとは違う形で混乱していく中で、言峰の言葉に烏天狗たちの視線と言葉が集まる。

視線が集まった言峰が口を開こうとした瞬間、

 

「鏡!言峰さん!!鵺はどうなった?祓われた気配はしなかったが」

 

大型バイクと共に颯爽と現れたのは、『十二神将』の中でも最も有名な存在で祓魔局のエース小暮禅次郎(こぐれぜんじろう)

彼は烏天狗たちの話を聞くと、即座に辺りを視る。

 

「言峰さん!一体何があったんですか?貴方と鏡がいながら逃がすなんて…それにそこに倒れている少年は」

 

話を振られた言峰は「不甲斐ない話だが」と前置きを置いて、事の詳細を話始める。それはある情報(・・・・)を除き見事なまでに簡潔にまとめられており、かつ的確な話。しかし、誰もが言峰の言葉に意を唱えない。それほどまでに完璧に近い話術。

 

「というわけだ。今回の件に双角会が関わっている可能性は非常に高い」

 

「なるほど。それにしても陰陽塾か…そういいや、陣の奴が言ってたな」

 

全ての話を聞き終えた小暮は、倒れている冬児に視線を向ける。それはプロとしての目線。ゆえに緊張がその場に走るが…

 

「よしっ!鏡と言峰さん。今から俺と一緒に鵺を追ってくれ」

 

「はっ?マジっすか…さっきの話聞いてたでしょ。テロの可能性があるんですよね。なら敵はもうすでに隠形してるはずだし、あの鵺だって手が加わってる」

 

あえて小暮はそれを黙認する。そしてその発言に鏡が食いつくが、小暮は動じず「それを今から確かめに行く」と譲らない。このままこの場を去る流れ。それに漸くといった感じで思考が戻った四季が声を掛けようとするが、それよりも早く言峰が告げる。

 

「追うのは構わないが小暮よ、あの鵺には魔術が掛けられている(・・・・・・・・・・・)。普通にやっては鵺は祓えんだろう」

 

「なんだってッ!?」

 

言峰の発言に小暮は一瞬その言葉の意味を理解できず、鏡もその表情に驚きが見て取れる。それほどまでにその言葉の衝撃は大きい。

 

「私自身に手段がないこともないが、ハッキリ言って祓うまでのレベルではない」

 

言峰の言葉に小暮は先ほどの言葉を撤回すべきかと迷う。自分たちもこの業界にいるからこそ、その名を知っている。しかし知っているだけで全く知識がない。その状態で追っても言峰の言う通り何もできないだろう。ゆえに一度戻り上に指示を仰ぐべきなのだろう。しかし自分たちが動かなければ、被害者が大勢生まれる。それは何としても避けねばならない。その2つの中で小暮は揺れる。その揺れに気がついてか、それとも無意識か言峰は笑みを浮かべながら言葉をつづける。

 

「しかし私に()がある。二人は鵺の追跡をしてくれ。私は一足先に陰陽庁に戻り、手続き(・・・)を施す」

 

「ッ!!わかりました。すみませんが、頼みます!行くぞ、鏡」

 

言峰の言葉を信じたのか小暮はバイクにまたがりその場を後にする。そして鏡も僅かに言峰に視線を向けたのち舌打ちをこぼしながら、最上位の難易度を誇る『卯歩(うほ)』を使いその場を後にする。

一人残った言峰は、老講師に向かい合う。

 

「すまないが、聞いての通り緊急事態でな。恐らくだが、もうしばらくすれば目黒区の部隊が到着するだろう。後始末は、彼らに任せてもらえばいい。それと今回の件に対する抗議は、すまないが後ほど祓魔局に申請してくれたまえ」

 

手短にそう告げると言峰は倒れている冬児の方に進み、頭に手を乗せる。その行為に老講師が春虎が慌てて止めようとするが

 

「ふむ。いい腕だ」

 

冬児の顔色が僅かに戻っているのを見て動きを止める。

 

「軽くだが応急処置を施した。暫くは持つはずだが、早急に安定させるべきだ」

 

「あんた…」

 

「なに、一応陰陽医としての資格もあるのでな。だが、急ぎたまえよ」

 

僅かに安定した呼吸。冬児を抱え込みながら春虎は何度目かわからない衝撃に襲われる。そして言峰は今度こそその場を『卯歩』にて去る。

 

台風が通り去った様に鎮まる中で、言峰が言った通り祓魔局の部隊が到着したのは5分後の事だった。

しかしこれはあくまで台風の目。次に来る風は今までの比ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃の事件から脱した四季たちは陰陽塾にいた。誰もが霊的なダメージを受けており、講師たちが全力で治療にあたっていた。それは四季も例外ではなく、今は治療が終わったが、その不可は思ったよりも大きいのかソファーから立てない。

その中で、夏目、天馬、京子、凛、春虎を交え冬児の話を聞いていた。その話に天馬も京子も凛も四季も少なからず動揺がある。

 

「みんな、悪かったな。今まで黙ってて」

 

現在、冬児はほかの塾生とは違う場所で結界を施されたうえで陰陽医の資格を持つ講師たちが、彼に駆けられた封印を安定させている。講師たち曰く応急処置が的確だったため、最悪からは少し遠のいているとのことだ。それでも油断はできない状態だ。

 

「別に構わないわよ。おいそれと、言えるような秘密じゃなかったわけだし。こういうことを言うのはたぶん間違えだと思うけど、春虎君と阿刀君が言いたくない気持ちも分からなくはないもの」

 

「遠坂さんの言う通りよ」

 

重い空気の中凛と京子が言葉を返すが、その重さはなくならない。そんな空気の中で春虎が重い口を開き、言い訳の様に話始める。

 

「俺、どこかでこのままでいいやって思ってて…また壊れるのが嫌で…」

 

ふと零された言葉にピクリと夏目が反応する。そして別の意味で凛と四季も眉を上げる。しかしその変化に春虎は気付かずに自嘲気味に話をつづけ…

 

「黙ってて、ごめん」

 

その場にいる夏目達に頭を下げる。そこにどんな葛藤があったかは分からない。それでも言わないといけない。そう思った四季だが、言うのをやめる。自分よりも言いたいことがあるであろう少年にその場を譲る。

 

「春虎。二度と、そんなくだらない(・・・・・)理由で謝るな。これは主としての正式な命令だ(・・・)

 

頭を下げる春虎に、居合の様に鋭く夏目が告げる。その言葉にわかっていたはずの四季や凛すらも息をのむ。その言葉は、乙種の霊威を纏っている。

 

「ごめんか…ならこれで――――おあいこ(・・・・)だね、春虎」

 

四季たちからは見えない角度で呟かれた一言。一瞬、春虎の頬が朱色に染まる。そして夏目は四季たちの方へと振り向く。

 

「全く、春虎も冬児も僕たちの事を馬鹿にしすぎです。冬児が生成りだった……それだけの事で、僕らが態度を変えると心配していた。冗談じゃない、生成りだろうが何だろうが、冬児は冬児です」

 

不敵に告げた夏目は四季たちに「そうでしょう?」と確信にも似た言葉を送る。

 

「ええ、その通りね。全くまさか私たちがその程度の事で怯えるなんて思われていたなんて心外よ」

 

「確かにな。ただ霊障を負っただけの存在にビビってたら、やっていけないな。むしろ凛や夏目と同感だ。そんな事で怯えると思われていたことの方が、ショックだし頭にくる」

 

「……その通りね。天馬、あなたもそうでしょう?」

 

「へ?う、うん!そうだよ、水臭いよ春虎君!!」

 

凛の言葉を皮切りに、誰もが夏目の言葉に同意する。

 

「誰だって言いたくない事はある。それに、厄介事って意味だと、俺の方(・・・)が迷惑かけるしな」

 

「そうだよ。僕だってみんなに迷惑かけてるんだし。春虎だって言ったじゃないか、勇気を出して俺達を頼れ(・・・・・・・・・・・)って、なら君だって僕たちを頼ってください」

 

「夏目…みんな――――」

 

夏目の言葉に春虎は涙を浮かべる。僅かにあったしこりが消えていくような感じ。一度涙をぬぐい、笑顔を浮かべ

 

「………ありがとう」

 

ただ感謝を述べる。春虎の感謝に四季は恥ずかしそうに頬を掻き、凛は全くとため息をこぼすが、僅かに四季に視線を向けて笑みを浮かべ、天馬も恥ずかしそうに鼻を掻き、京子は肩をすくめる。

そして夏目は、ヒマワリの様に温かな笑顔を春虎に向ける。

空気が変わり、温かなものが場を満たす。

 

一息の安息は終わりを迎え、二陣目の風がゆっくりと吹き始める。

 




如何でしたでしょうか?
次はもっと早めに更新できるように頑張ります!!それにもう少し納得できる様にしていきたいと思います
良かったら、感想をお願いします


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第十四夜 表へ

お待たせしました!!
いささか、上手く文にできたか不安ですがどうにか完成しました!!

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


大友は陰陽塾の人通りの少ない場所で天海に連絡を取っている。その表情はいつもの様な枯れたものではなく、苛立ちを隠せていない。

 

「……なんで、鏡のアホがうちの生徒たちと衝突しとるんですか。ダダでさえ、動的霊災に巻き込まれとるのに」

 

『それは不運だったとしかいえねえよ。第一、誰が予測できるんだってんだよ。出来るとしたら、それこそ美代ちゃんぐらいだぜ』

 

「そこやのうて、鏡の方ですよ」

 

『鏡は独立祓魔官だぞ?修祓の最中に鉢合わせるって事はなきにしもあらずだろうが』

 

「あんな事仕出かしてですか…?」

 

『鏡の奴が何をしたかは詳しく知らねえが、現場は小暮と言峰の奴が上手くさばいたって聞いたぞ。言っとくが、被害はお前のところだけじゃねえぞ』

 

ほんの僅かに強められた口調に大友は唸る。先ほどまで「自分がいない間に起きた事件で負った霊障の治療」を行っていた。もちろん、天海の言う通り、現状東京で同時に起きた霊災は即刻ニュースで流れている。幸い負傷者は出てはいないが、多くの霊障を負った患者が、都内の陰陽医のいる病院に運ばれている。

 

『しかもまだ、霊災は終わっちゃいねえ。もう聞いていると思うが、鬼門と裏鬼門に二体づつ。既に二体は修祓したが、もう二体は依然として潜伏中。おまけに奴ら隠形まで使いやがるから、発見が極めて困難。しかも飛行型ときた。通常の方法じゃまずどうにもならん』

 

「ヘリでもなんでも使ったらいいでしょう」

 

『無茶いうんじゃねぇよ。鵺の機動力には及ばねえし、第一各関係各所許可を取らなきゃいけねぇ』

 

「それこそ部長がやったらいいでしょ!!無駄に顔広いんですから」

 

『うんだと、テメェ!!今クソ忙しい時に電話かけてきやがって!!こっちだって暇じゃねぇし、事はそれどころじゃねぇんだよ!!』

 

「?どういうことです」

 

重苦しく呟かれた言葉に大友は反応する。問われた天海は「極秘情報だぞ」と念を押してから告げる。

 

『今回の霊災には、魔術が使われている事が分かった』

 

「なんですって!!」

 

その事の重大さに大友は、冷静さを乱し声を荒げる。

 

『声がでけぇよ、バカ!!言峰の奴がそう判断したんだよ』

 

「言峰さんが?でもそれだけで決めつけるのは…」

 

『実際に鏡の奴の呪術が弾かれたらしい。少なくともそんな事が出来る術を俺は陰陽では知らねぇな』

 

「そうですか」

 

天海の言葉に大友は何も言えなくなる。それでも自分がいればと思ってしまう。そんな大友の心情を察してか、天海がその時だけは神妙に詫びを入れる。

 

「呼び出しに応じたのはあくまで僕の判断ですので…」

 

『そうか、ならいいや』

 

「おいコラ、待て、このジジイ。昔の義理引っ張り出して人をただ働きさせといて、その態度はどういう事や!!」

 

『ただ働き?おかしいな、美代ちゃんには、うちの講師貸すからにはって、しっかりギャラの請求されたんだが……』

 

「あの…ごうよくババア!?マジか、なんで僕の周りにはこんなんしかおらんねん!!」

 

衝撃の事実に大友は喚かずにはいられない。その声に天海は「美代ちゃんらしい」と笑っているのが、余計にむかつく。

 

『とにかくだ、現状で双角会のメンツは、うちが何人かしょっ引いているが、リーダー格は未だに尻尾を掴ませてねぇ。呪捜部もまだ気が抜けねぇ。ギャラが欲しいなら直接くれてやるから、こっちきて手伝え』

 

「はあ?今、塾が大変なんですよ!そないな状況で手が空く訳ないでしょ…ってか、リーダー格って前に比良多君の言ってた、六人部ですか?」

 

『そう考えてる。鏡や言峰の話じゃ、直接霊脈をいじって妨害してきたってのがクサい。実際あいつの上司の大連時も使っていた手だ。だが…』

 

「それだと、魔術が説明つかない」

 

『ああ、そもそも双角会の奴らは、普通の陰陽師以上に魔術に対して否定的だからな』

 

天海の言葉に大友もまた思考する。それ自体は自分も知っている。だからこそ、天海の言葉に自分の同意せざる得ない。

 

『そうい訳だから、俺は忙しい。愚痴なら他でしな。……………ああだが、ちょうどいいから、お前さんに教えておく情報がある。ついさっき、言峰の申請も通り、祓魔局は作戦を決定した』

 

「なんです、作戦って。そもそも、その作戦に陰陽塾が関わるんですか?」

 

口でそう言いながらも、大友は嫌な予感がした。魔術とは陰陽にとってはパンドラの箱だ。ゆえに名は知れども、全く詳細を知らない。だからこそ、知っている存在は限られる。そしてその数少ない一人を大友は知っている。

 

『まず前提として、祓魔局は動的霊災鵺をおびき寄せるために、二年前と同じく餌を用意する事となった』

 

「餌?」

 

『ああ、竜だ』

 

「り、竜ってまさか」

 

此処まで来て大友は前提を理解する。本物の竜を使役する陰陽師など、都合よく東京に何人もいるわけはない。

 

『土御門の竜を利用するために祓魔局は、その主である土御門家次期当主土御門夏目に協力を要請するそうだ。一応、父親は、既に許可を出している』

 

この時点で大友は最悪だと思っていた。しかしそんな大友を畳みかける様に天海は淡々と告げる。

 

『そこまでが祓魔局の作戦だ』

 

「なんですって…」

 

『更に施された魔術に対応するため、言峰は正式に陰陽塾に申請したそうだ。衛宮家の次期当主衛宮四季に修祓の協力依頼をな。そして二人の両親は、息子の安全を100%保つことを条件にその件を承諾した』

 

「……わかってて(・・・・・)、その作戦を承認したんですか」

 

『仕方ねぇだろ。現状で打てる手はそれしかねぇ。そしてそれもわかってるさ。こちらも持てる手を使って、護るつもりだ。なんて言ったって、まだ未成年の子供を修祓の前線に出す(・・・・・)んだからな』

 

「最善を尽くしてくださいよ」

 

『いわれるまでもねぇ。最良を尽くすさ』

 

大友は元上司の言葉を祈りながらも一抹の不安を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大友が天海より事の詳細を知ったと同時、塾長室に呼ばれた四季たちもまた、美代よりその作戦を聞かされていた。

 

「そんな!!夏目君も四季もまだ学生なのよっ!?どうして祓魔局の作戦に駆り出されないといけないよの!!」

 

「これは強制ではありません。夏目さんや四季さんが拒否するなら、私はその旨を伝えます」

 

伝えられた話に、京子と天馬は唖然とし、凛はどこか苦虫をつぶしたような表情を一瞬見せる。

当の本人である夏目も顔を青くし、唇を噛んでいる。そして四季はどこか精神を落ち着かせる様に目を瞑っている。

 

「あんな事件の後なんですよ!!あんまりだと思います!!祓魔局は陰陽塾の現状を把握できていないんですか!!」

 

その理不尽な命令に普段温厚な天馬ですら言葉を荒げる。しかし美代は、何も言わずに二人の決断を待っている。そしてそれは意外にも春虎と凛も同じ。

 

「受けます」

 

しばしの瞑想のち、小さいながらも四季はしっかりと覚悟を感じさせる言葉でそう呟く。その言葉に京子と天馬は唖然とした表情を見せる。

 

「現状で自分しか対処できないなら、全力で臨みます。少なくともそれが、持ってしまった者の役目だと思っているので」

 

「…僕も祓魔局に出頭します」

 

四季の言葉に続く様に夏目もまた覚悟を滲ませながら同意する。二人の意思を変えようと京子が代案を出すが、二人の意思は全く揺るがない。

そんな京子をたしなめるためか、それとも二人に知らせておくべきかと考えてか、美代は淡々と、

 

「おそらく祓魔局は初めから夏目さんに竜を使わせるつもりです。本家への連絡も未成年だからこその形式を踏んでいるだけ」

 

「どういうことですか?」

 

「知っておくべきでしょうね。今回の事件には、双角会が関わっています。だからこそ(・・・・・)、夏目さんなんです」

 

「そんな!!つまりは人質って事じゃない!!」

 

その言葉だけで察した京子は言葉を荒げる。それは余りにも危険すぎる。その脳裏に半年前の事件が思い出される。

 

「勿論、祓魔局もそれがわかっているからこそ、夏目さんのみは何が何でも護るでしょう。そういう意味では祓魔局にいた方が安全なんです」

 

「質問ですが、四季(・・)もそれには適応されますか?」

 

今まで無言だった凛が鋭い目つきで塾長に問う。その意味を理解しているからだろうか、一瞬美代は視線を下げる。

 

「ハッキリ言って、夏目君よりも四季の方が危険度が大きいです。しかも家柄の事もあります。その状況全てを確認したうえで聞きます、大丈夫ですか?」

 

凛の言葉に春虎たちも理解し、全員の視線が美代に集まる。集まる視線の中で美代は重く口を開く。

 

「祓魔局は最善を尽くしすとだけ言っています」

 

「つまり、事によってはないがしろにすると」

 

「お婆様それはッ!!」

 

「そんな!!」

 

美代の言葉に凛の目つきは更に鋭くなり、京子も天馬も声を荒げる。夏目や春虎も四季にみて心配そうにしている。

そんな中でも四季は――――

 

「構いません」

 

決意を告げる。誰もが驚く中で、美代と四季の視線が交差する。そしてそれを見た凛は、あきらめたようにため息を吐く。

 

「それなら私も同行します」

 

()!!」

 

「私がいれば、少しは役に立つでしょう?塾長、構いませんか?」

 

「ええ、そう祓魔局に伝えておきます」

 

凛の言葉に美代は笑みを浮かべ承諾を告げる。そして美代は今度は夏目と視線を合わせ、こちらもまた承諾する。

そして夏目の意思に答える様に春虎もまた同行する事を告げる。しかし事態はうまく運ばない。突然なった電話。そして告げられたのは、冬児の意識が戻った事とその冬児が姿を消したこと。安静になったとはいえ油断は許さない状況。

その言葉に最も付き合いが長い春虎の焦りが大きくなる。夏目の事は心配だが、同じくらいに冬児の事も心配だ。

そんな春虎の迷いを察したのか、京子が元気よく言葉を発する。

 

「春虎、天馬!!あんたたちは、急いで冬児を探して。夏目君と四季には私と遠坂さんがつくわ」

 

その申し出に誰もが驚く。特に顕著なのは春虎だ。

 

「ま、待てよ、京子!俺は夏目の――――」

 

「式神で冬児の友達でしょう。それと私も夏目君と冬児の友達よ。もちろん、遠坂さんだってね」

 

「ええそうね。それに私たちの方が祓魔局にとっては都合がいいわ」

 

京子の言葉に続く様に凛もまた言葉を発する。何か思うところがあったのか凛は「それと凛でいいわよ、倉は…京子さん」京子と手を握る。

 

「ええ、凛ちゃんの言う通りよ。私は陰陽庁の長官の娘なのよ。あんたが行くよりも役に立つわよ」

 

滅多に家柄を言わない京子のその言葉には強い決意を感じさせた。

 

「構いませんね、塾長」

 

「仕方ありませんね。ですが、四人とも無茶だけはしない様に」

 

美代はその言葉に微笑む。そして誰よりも唖然としている春虎に京子はチャーミングなすまし顔で、いつぞやの春虎の言葉を告げる。

そしてその背を押す様に夏目が春虎の肩に手を置く。

 

「春虎。倉橋さんの言う通りだ。僕や衛宮君の心配はいらない。きちんと、僕らの役目を果たしてくるから、春虎は冬児を頼む」

 

「事が終わったら、冬児に迷惑かけた詫びに全員に何かおごらせようぜ」

 

夏目の言葉に続く様に四季もまた春虎の背を押す。二人の言葉を受けて、春虎は覚悟を決める。

 

「わかった。みんなよろしく頼む。それで全部終わったら、四季の言う通り冬児の金でなんか食べようぜ!!」

 

決意を決め、各々は己の役目を果たすために動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるビルの屋上。その存在は、夜の東京を見下ろしている。

 

「まさか間接的に手を出してくるとは……いささかあの術師を甘く見すぎていたか」

 

己の詰めの甘さを悔いる様なセリフを呟いた後、鋭い鷹の目で再び夜の東京の街を見る。

 

「さて、現状で打てる手は少ないが…すまないが(・・・・・)、少々関わらせてもらう」

 

そう呟いて男はその場から姿を消す。その身に纏う赤い外套をはためかせ。




如何でしたでしょうか?
上手く文にできていたでしょうか・・・不安です

よかったら、感想をお願いします


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第十五夜 それぞれの役割

口調が最近こんがらがってき始めてます
その為違和感とはあったらすぐに教えてください

本編は大舞台に移動する直前のお話となってます・・・・最近四季に全然スポット当てれてない気がする

楽しんでもらえたら、嬉しいです


霊災の影響だろうか、いつもは賑やかな渋谷の街が重い静けさに包まれている。人がいない訳ではないが、歩く人の顔には僅かに恐怖が浮かんでいる。

その僅かな人ごみの中を一人の少年冬児が歩いている。足取りはおぼつかず、その顔は病人の様に真っ青であり、まるで幽鬼のようだ。

誰もが触れるのを恐れ、距離を取る中で――――

 

「おっと、すまない」

 

不意に冬児の体に軽い衝撃を感じる。下に向けていた視線を上に向ければ、白い髪に赤い外套を纏う男が目の前にいる。

普段ならば、詫びの一言でもいい頭を下げるのだろうが、生憎今はそのような気にもなれない。

 

「怪我はなさそうだな。すまないな。だがこちらにも落ち度はある。あまり下を向きながら歩くのは危険だぞ」

 

僅かな皮肉を混ぜながらも自分を気遣う男。今はその気遣いが図々しく、舌打ちをこぼしながら早々に離れるつもりだったが――――

 

「まあ、少し待ちたまえ」

 

「ッ!??」

 

離れようとする自分の肩を男がつかみ、動きを止める。その動作がよりウザったく振り払おうとするが、男の手はビクともしない。

あり得ない(・・・・・)。今、自分は確かに力を使った(・・・・・)のだ。それなのにビクともしない。

 

「呑まれかけているが…ふむ、どうやら、いらぬ心配だったかもしれんな」

 

「あんた…何を言って―――」

 

独り言のように呟かれた言葉。その言葉を聞いて冬児は、胸の中に湧き上がったその感情を認識する。

目の前に立っているのは、自分の中で封じられているモノよりも明らかに高位のナニカだと。

僅かな恐怖が冬児の足を一歩後退させる。しかし、目の前の存在は害意を見せない様でありながら皮肉気に笑みを浮かべる。

 

「君の事は()に任せて大丈夫そうだ。幸運に思いたまえ、そしてそれを手放すな。大丈夫だ、君は一人ではない」

 

その言葉と共に冬児の意識が沈んでいく。最後に見た光景は、皮肉気な顔をしながらも、どこか安堵の表情を浮かべている男の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力なく倒れこむ冬児を男は容易く受け止める。

 

「さて、場所はやはり、あそこだろうな」

 

冬児を抱きかかえた男は、僅かに膝を落とす。そして地面を蹴ろうとした瞬間――――

 

「全く、変わらずのお人よしだな、お前は」

 

短い王冠の様な金髪に二メートルになろうというほどの巨漢の男が背に現れる。

 

「やれやれ、いきなり背に立たないでもらいたいものだ」

 

「それは、すまないな。最近、いきなり背に立たれた事があってな」

 

深い溜息を吐く男に、金髪の男は面白そうに返す。その言葉に男は「全く…」と先ほどとは違うため息を吐く。

 

「それにしてもよく気が付いたものだな。念のため(・・・・)にと結界を張っていたのだが」

 

「…あまり見くびるなよ」

 

称賛に近い言葉に、金髪の男の声音が僅かに落ち、場に重圧が圧し掛かる。両者無言の時間が生まれるが、先に男の方が息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

「無礼、すまなかった。少々口が軽かったようだ」

 

先ほどの皮肉さが嘘の様に真っすぐとした表情と言葉で頭を下げる。すると、圧が消える。金髪の男もわかればいいといった表情を見せている。

 

「皮肉も大概にしておけ、いらん怒りを買うぞ」

 

「ああ、今しがた身に染みたところだ。以後注意するとするさ」

 

先ほどとは打って変わっての世間話。先ほどの緊張感がまるでない。

 

「それはそうと、君がいるなら都合がいい。()の案内は任せても構わないかね」

 

「まあ、それぐらいならな」

 

「そうか…では、また近いうちに(・・・・・)

 

それだけ言って、男は冬児を背負い、姿を消した。それを確認した金髪の男は、一度だけ息を吐き己の役目を果たさんと動く。

「本来なら俺の役回りじゃないんだがな」と、どこの誰に言ったかはわからない不満の言葉。一瞬、金髪の男は星がすまなそうに面白そうに笑った様な気がした。

 

 

 

 

 

 

冬児は気が付けば先の試験会場にいた。

 

「どういうことだ…」

 

自分の最後の記憶は、確か妙な男に会ってからの記憶がない。意識がなかったというよりも完全に意識を失っていた気さえする。

混乱している冬児の聴覚に――――

 

「冬児!!」

 

聞き間違えるはずのない悪友の声が届く。瞬間、冬児の中の何かが疼いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏目と四季が案内されたのは本部ではなく目黒支部の方だった。案内されるままに移動する四人。ピリピリとした緊張感に包まれているが、パニックになっている者は一人もいない。その事が彼らが歴戦の猛者である証であり、同時に頼もしさも感じる。

しかし、今回の件には魔術が関わっている。そう考えると、その状況は少し不気味だった。

 

――――末端には情報を教えてないのかしら

 

場の様子を見定めながら凛はそう思考する。僅かに視線を逸らせば、緊張した趣きの夏目と京子の姿。そして表面上はいつも通りの四季の姿。しかし、その手はきつく握られており、その心情は理解しやすい。

無理もない。なぜなら、彼自身がこの作戦の核たる存在ともいえるのだから。その重圧は並ではないだろう。

そうこうしてる間に、四人は指定された部屋に入る。そこは対策本部といった場所ではなく質素な待機所のような場所だ。ある意味肩を透かされた四人は、少し脱力するが、そこにいる人たちを見て夏目と京子は「あっ」という声をこぼし、四季は僅かに眉をしかめ、凛は露骨に「げっ」といった表情を見せる。

 

その場にいた二人は、四人の入室を確認すると席に座るように促す。

 

「かしこまる必要はないぞ。リラックスしてもらって構わない。先ほどは、ドタバタして自己紹介が遅れたが、小暮禅次郎だ。初めまして。そしてこちらが―――」

 

「言峰綺礼だ。君たちの護衛を任された」

 

小暮と言峰の二人が自己紹介を述べる。そのあと、軽い世間話の様に小暮が夏目や四季たちに話しかける。

その中で夏目が、自分たちに貴方たちの様な実力者が護衛任務で、作戦は大丈夫かとこぼすが、小暮と言峰は笑ってそれを否定する。

自分たちがいなければ、何もできないほど陰陽庁は脆くないと言わんばかりだ。

 

「それに今回は魔術という我々にとっても未知なる部分がある。それに唯一対抗できる者を護るのは当然の事だ」

 

言峰の言葉に視線が四季へと集まる。

 

「ああ、そうだな。不甲斐ない、俺たちの代わりに君の様な未成年を前線に立たせることになって、本当に申し訳ない!!君の身の安全は、俺や言峰さんが責任をもって護るから安心してくれ!!…そして決断してくれて本当にありがとう。陰陽庁を代表して、感謝を伝えるよ」

 

言峰の言葉を聞き、小暮が頭を下げる。そもそも一番最初にしなければならなかったはずだが、言峰がいきなり頭を下げられても返って緊張を促すだけだと言われ、タイミングを計っていたのだ。

突然、頭を下げられ困惑する四季はどうにか言葉をひねり出す。

その後、鏡の仕出かしたことに対する謝罪もすみ、先ほどの緊張が僅かに緩められていく。

その中で会話が進む。

 

「あっ!そいえば、君らの担任教師って陣なんだって?どう、あいつ?真面目に教師してる?」

 

ふと出た名前を理解するのに全員が時間を要した。「陣」その名が自分たちの担任である大友の名であることにいち早く気が付いたのは、凛だった。

 

「失礼ですが、大友先生とお知り合いで?」

 

「知り合いも何も、俺と陣は陰陽塾の同期でな」

 

凛の質問に小暮は種を明かすマジシャンの様に面白そうな笑みを浮かべんがら答える。その言葉に京子が驚きの声を上げる。その反応が意外だったのか、小暮は陰陽庁には多くの塾生の卒業生がいることを告げる。

 

「ちなみに、君らって何期生?」

 

「よ、四七期生です…」

 

「うげ。もうそんなにたってるのか…なんかショックだな。自分が年取ったって認識されられるよ」

 

「ふむ。小暮よ、君は十分若いではないか。そういうセリフを吐くには、数十年速いな」

 

何処か精神的なショックを受けている小暮に言峰の言葉が鋭く突き刺さる。暗に、私の年齢を知っているであろう。という意味が込められたセリフに、小暮は分が悪いと察して、急いで話題を変える。

 

「あっ!俺や陣は三六期でさ。『三六(さぶろく)四羽烏(よんばがらす)』っていう名前で呼ばれてたんだ。最も悪名の方で、塾長の頭痛の種だったけど」

 

「ふむ。その名前は当時の陰陽庁にまで轟いていな」

 

余りにも意外な事実に誰もが開いた口が塞がらない。しかし、そこで興味が勝ったのか、かなり緊張もほぐれた京子が他の二人について聞くが――――

 

「あ~うん…まあ、大したことじゃ、ないんだけどな」

 

明らかにしまったという表情で小暮が言葉に詰まる。そんな態度に誰もがこれ以上踏み込んではいけないと悟る。

と、その時部屋の扉がノックされ、一人の男が入ってくる。長髪の穏やかそうな青年だ。しかし双眸は鋭い。何より特徴的なのは、髪の一部が赤い朱色に染まっている。

 

「言峰祓魔官。小暮独立祓魔官。お待たせしました」

 

「お!来たな」

 

話題がそれ、注目が青年に向いたことに安どの表情を浮かべながら小暮は入ってきた青年を招き入れる。

 

「紹介しよう。陰陽庁の犯罪捜査課の比良田篤祢(ひらたあつね)だ。今回は、俺や言峰さんそして比良田を含めた三人が同行する。理由は……まあ、言わなくてもわかるよな」

 

呪捜官の存在に誰もが体のこわばりを感じる。あの事件もそうだが、霊災の修祓に出てくる理由など一つしかない。

全員の反応を見た比良田は、夏目の前に歩み寄ると――――

 

「初めまして、土御門夏目さん。呪捜官の比良田と申します。こういった事は、あまり言うべきではないのでしょうが、私はあなたの事情を知っています。特に、去年は私たちの同僚がとんだご不名誉な真似をしてしまい、誠に申し訳ありません。同じ、呪捜官として深くお詫びします」

 

そう言って学生に過ぎない夏目に深く頭を下げる。その事に誰もが驚きを見せる。

 

「すぐにまた私たちを信用しろと言うのは、無理な話かもしれません。しかしあなたの抱えている問題は、一人では決して解決できるレベルを超えています。すぐにとは言いません。ですが、あなたの問題を解決するために、私たちが力を添えることをどうか受け入れてください。私は(・・)あなたの味方ですから」

 

初対面でいきなりの発言に誰もが言葉を発せない。唯一渦中の夏目だけが、どうにか言葉をひねり出した。

比良田の行為を小暮が呆れながら窘めている。

 

「全くお前は呪捜官には珍しいタイプだよな。天海の爺さんといい陣といい、あそこのメンバーは大抵がひねくれているんだが」

 

小暮の言葉と共に話題が切れる。そして小暮が全員を見渡し「座ってくれ」と告げる。たったそれだけで空気が変わる。

誰もが言われたとおりに席に着く。ただ言峰だけは小暮の背に立っている。

四季もまた言われた通り、夏目の隣に腰を下ろす。

すると

 

――――うん?

 

一瞬、どす黒い感情が自分に向けられたように感じる。そこを辿れば、そこには先ほど以上に鋭い双眸に怒りの色を乗せた比良田の姿があったが、それもほんの一瞬の事で、すぐにその色は消え失せ、先ほどの比良田の姿に戻っている。

 

その姿に四季は、自分がどういった存在だったかを再確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を彼は遥か上空の離れた場所から眺めている。

 

「随分と青春をしているな。見ているこっちが恥ずかしくなる程だな、あれは」

 

皮肉気に呟きながらもその表情は、優しげでとても嬉しいそうだ。その嬉しさは、同時にあるいつかの光景(・・・・・・)を男に思い出させる。

 

「さて、一方の荷は下りた。ならば、もう一方の荷も下すとするか」

 

その言葉と共に先ほどの優し気な表情は消えうせ、鋭い鷹が顔を出す。男が見つめるはるか先に一匹の獣の姿。

 

「心配いらん。殺しはしない。それは私の役目ではない。だが―――少々お前は暴れすぎだ」

 

そう告げる男の手には、いつの間にか夜を切り取ったような黒塗りの弓が握られていた。




如何でしたでしょうか?
二人の男の会話に違和感とか無かったでしょうか

いよいよ次回から本格的な修祓の場面となります
上手く描けるように頑張ります

それにしても設定のためとはいえゴロが悪くなったな・・・・

良かったら、感想をお願いします


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第十六夜 夜の影に当たる日

お待たせしました!!
八月中に一話更新したかったのですが、間に合いませんでした、すみません

そしていよいよ、衛宮が動きます
楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


神宮外苑。今回祓魔局が動的霊災である鵺の修祓に選んだ場所であり、その中でも特に広い軟式のグラウンド。とにかくだだっ広いその場所に、多くの闇鴉(レイヴンズ)たちが集まっている。

修祓のためだけではなく、逃亡防止用の結界に加え二機のヘリなどその他もろもろの逃走された場合に必要なものが揃っている。

そしてそのグラウンドの中心の上空50メートルの夜空を、金色の竜で夏目の使役式である北斗が旋回している。もう何十分も同じ場所を旋回するだけであり、北斗自身だいぶイラつきがたまっており、今にもどこかへ飛び出しそうな顔をしている。

そんな北斗を夏目は我慢強く使役し続けている。その近くには、四季や凛や京子そして小暮に言峰に比良多が揃っている。

 

「無理はするよなよ、夏目君。君に倒れられたら、元も子もないからな」

 

今までにない程の北斗の使役による疲労。それを察知した木暮が夏目に声をかける。木暮の言葉に夏目は「はい」と答えるが、視線は決して北斗からそらさない。そんな夏目達の周りには祓魔官たちが北斗の霊気を霊脈に流すための呪文を永遠と口に出している。そのほかの祓魔官たちは、ただ無言で夏目を見ている。

 

――――ある意味、皮肉な光景ね

 

集まる視線を見据えながら凛は、今の状態をそう評す。今の陰陽界は、表向きに言えば土御門家を切り捨てているのだ。この状態を生み出したのが、土御門家なのだから仕方はないのだが、それを祓うために切り捨てたはずの土御門の力を借りている。そして技術だけではなく家自体にも協力を仰ぐ。一体どんな思いが渦巻いているのであろう。そしてそれを一心に受けねばならない重圧はどれほどだろうと、ふと考えてしまう。

 

――――ホントよくやるわ

 

ただひたすらに北斗の方を見る夏目の姿に凛は内心で感嘆の言葉を告げる。そして今度は少し悲しそうな顔をして、夏目の少し後ろにいる四季に視線を向ける。此処にいる人間の全てが四季の正体については知らされている。だからこそ思う。今四季はどんな思いで、その視線を受け止めているのだろうか。全く身に覚えのないご先祖の仕出かしたとされる責を背負わされ、その技術を継承する。そして今、四季は彼らの渦中に自分の意思で立った。

周りの祓魔官たちは、どんな思いをしているのか。きっと心情は複雑を超えているだろう。自分たちが嫌悪に近い感情で日陰に追いやった存在に縋らねば、事態を収拾できない事に、そして自分たちが縋ったのが、まだ幼い雛鳥という事実。

風評被害はある意味で呪いに近い。それも陰陽界のそれは、もはや呪いと言っても過言ではないだろうと、凛は考える。

だからこそ、今の状況が皮肉だと告げる。共に陰陽界から日陰者とされた家の力に縋るしかできない状況。

 

――――勝手と言えばそれだけなんでしょうけど…

 

様々な考えが頭をよぎる。しかし、時間は一刻一刻と過ぎ去ってゆき。その時が来る。

 

『動的霊災発見!北東の鬼門より、鵺が接近!』

 

拡声器からその報が告げられると同時、場の緊張感が今まで以上に張り詰められる。

 

「――――来たか」

 

木暮が言峰が静かに己の武器に手をかける。そして上空の北斗も気配を感じたのか、北東の方向をにらんでいる。

 

――――来るッ!!

 

陰陽師としての直観が、夏目と四季にそのその存在を悟らせる。風に乗り、咆哮が聞こえてくる。そしてその歪なシルエットが視認できる距離にまでくる。

 

『目標視認!接近まで、およそ二分!』

 

「迎撃用意」

 

その言葉と共に祓魔官たちが慌ただしく動きがはじめ、矢継ぎ早に指示が飛び交う。その中で木暮と言峰が夏目と四季に向き合う。

 

「よし、夏目君。いよいよここからが本番だ。先ほど指示したとおりに竜を操ってくれ。そして――――」

 

「覚悟はいいか。衛宮四季よ」

 

木暮と言峰の言葉に二人の表情が否応なしに強張る。その中で言峰が何かを告げようとした瞬間、再び拡声器から――――

 

『第二の動的霊災を確認!南西の裏鬼門より接近!』

 

新たな霊災を発見したと報が響く。その報に祓魔官たちが今以上にざわつきを見せる。そしてそのざわつきは未だに幼い四季たちに重い焦りを生ませるが――――

 

『これより北東の鵺を「キマイラ01」南西の鵺を「キマイラ02」と呼称。そしてこれより当作戦は「プランC」に移行する。繰り返す、「プランC」だ!キマイラ02接近まで、およそ六分』

 

即座に持ち直すのがプロの実力。ざわつきは消え、各々各自が役目を果たさんと動く。その中で木暮がプランCの説明を夏目達に告げる。

 

「要は二つ同時に修祓するってだけの話なんだが――――」

 

「タイミングがシビアになるだけならばよかったのだが。……衛宮四季よ、いけるか?」

 

木暮の説明を補う形で言峰が四季に問う。そう今回の作戦には、四季の魔術の力が不可欠だ。そしてそれを理解できるのは、四季以外にいない。二つ同時にすることの難しさも危険も向こうは把握せずに勝手に決めたのだ。その事に夏目が驚き、京子と凛が怒りを覚える。

しかし四季は、一度つばを飲み込むと―――

 

「いけます」

 

断言して告げる。その答えが満足したのか言峰は「ふむ。ならばいい」と笑みを浮かべ木暮は「俺たちも全力でフォローするさ」と肩を押す。同時に四季たちは場所を譲るように少し離れた噴水付近まで下がる。そしてそれに連動する様に先ほど四季たちがいた場所に三人の人影が現れる。

一人は男、一人は女、そして最後の一人は『鬼喰い(オーガ・イーター)』の鏡だ。彼らが其処に揃うと同時―――

 

「やはり進行が速いな」

 

「ええ、かなり手が加えられていると考えるべきでしょう」

 

双頭の竜。それも西洋版のドラゴンの形で鵺の一体がその場に現れる。その姿に京子はふざけるなと言わんばかりの声を上げ、四季と凛はあふれ出る冷や汗を止めれない。動きが止まる四季たちをしり目に小暮たちは事態の深刻さに舌を打つ。

 

「まずいな」

 

「ええ、いつフェイズ4――――百鬼夜行に変わってもおかしくありません」

 

「ああだが、間に合ったというべきでもあるな」

 

言峰がそう言った瞬間、稼働護摩壇が一斉に点火。焦熱の炎が燃え上がると同時に

 

――――ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバダ

 

祓魔官たちが一斉に火界咒を唱える。次々に炎の弾丸が鵺へと放たれる。着弾した火界咒が鵺に迫るが、一歩手前で見えない壁のようなものに阻まれる。その攻撃に鵺が威嚇するように瘴気を纏った咆哮を上げるが、鵺に最も近くにいた鏡が術をもって散らす。全体に散らばる瘴気は焼かれ燃え尽きるが、範囲が広く夏目や四季のいた場所にすら届くが、言峰と小暮が刹那の時間で祓う。

その中で鵺に向かい北斗が威嚇の声を上げる。それを見た夏目が「バカ」とたしなめるが、止まる気配を見せない。その光景に言峰と木暮が動かんとするが、それよりも早く呪具である独鈷杵(とつこしょ)が鵺に迫る。呪術では今の鵺にダメージを与えられないが、込められた呪力が鵺をグラウンドへと押し返す。その光景に「流石、宮地さん」と小暮がこぼす。その余りの技術に夏目や京子に凛は驚いて何も言えない。

しかしその中で四季だけが、静かに鵺を視続ける。

 

そして――――

 

『キマイラ02接近!!』

 

拡声器が吠える。瞬間、凛と夏目がその姿を視認する。それは自分たちの試験に乱入した奴だ。一回り以上体が大きくなっている。同族の気配を感じてか、01が助けを斯う様に吠える。

その瞬間――――

 

「夏目君!!」

 

「行くぞ」

 

木暮が夏目を、言峰が四季に指示を飛ばす。小暮の言葉に夏目は慌てずに北斗を操り、言峰と四季が鵺たちへと接近する。

 

「簡易結界を用意しろ」

 

言峰がそう指示を出した瞬間、青い膜が二頭の鵺を囲う。そして鏡たちと同じタイミングで現れた女性が術を構える。

四季が結界のすぐ近くに立つ。

 

「周りは気にするな。私が全力をもって君を守ろう。集中してやりたまえ」

 

札から刃を生み出した言峰が背に立つ四季に淡々と告げる。しかし四季は答えずに結界にぶつかりに行く鵺たちに意識を向けている。そして懐から、言峰が見せた黒鍵を六本取り出すと、円を描く様に結界の周りに展開させる。更に続けて四枚の札が、結界を上空から覆う形で旋回を始める。

 

その瞬間、その場にいたすべての祓魔官の意識が衛宮四季一人に向けられる。

 

刺さる視線に凍えるような瘴気。その全てが体を畏縮させる。しかしもう止まるわけにはいかない。

 

「行くぞ」

 

常夜の暗い陰に今、夜の光が当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を離れ観察する影が四つ。一人は、公園内のから見上げる形で光景を見ている。

 

「さて、見せてくれ坊主。今のお前の実力を」

 

試す様にどこか当然の結果を知るように青髪の男は笑みを浮かべる。しかしその表情はどこか晴れない。

 

――――あの野郎、やっぱ手を出しやがったな。呪術に対する壁が若干あめぇ。削りやがったな…まあ、誰もわかりは知ねぇと思うが、今坊主に尻尾を見せる訳にはいかねぇんだ

 

これが奴の為ならば止めれたのだが、彼はおそらく人的被害を減らす(・・・・・・・・)ために動いたのだろう。その結果偶然(・・)奴を助ける形となっては手は出せない。

 

「相変わらず、気に食わねぇ野郎だぜ」

 

そう呟きながらも視線はそこからぶれずに見届けんとしている。

 

そしてもう一人ははるか遠くのビルの屋上に腰かけ見守っている。

 

「お膳立てもここまでだ。ここから先は見せてもらおう、君の真価の鱗片を」

 

常人にはいや呪的存在ですら見えるか怪しいその距離の光景を彼は鮮明に見ている。最小限出せる手は打った。削れるだけ削り、対処の難易度は下げたつもりだ。むしろこのレベルを今の状態でなしてもらわねば、困るかもしれない。

 

「忘れるな。衛宮の神髄は『創る』のみ。ただそれだけに特化したのだから」

 

まるで出来の悪い弟の初試合を見守るように白髪の男はそう呟いた。

 

そして三人目は公園の入り口から十メートルほど離れた建物の影で見守っている。その顔はどこか懐かしい物を見るような優し気なものだ。

 

「ふっ…」

 

何処か遠い記憶を思い出しながら男は笑みを浮かべる。その笑みの意味は男にしかわからない。笑みを浮かべた瞬間、男の服の袖がふわりと風に吹かれ靡いた。

 

最期の一人は黒い黒いリムジンからその光景を見つめている。その顔は枯れた死人のようだが、今は歓喜に震えるような笑みを浮かべているが、やはり死人が無理やり貼り付けたようなイメージが残る。

 

「ほぉほぉ…さて現代の衛宮は何を見せてくれる」

 

面白そうに試す様に老人は想像もつかないほどに若い声でつぶやく。それはまるで大好物を目の前で見せつけられる子供のような危うさを同時に感じさせる。

 

「やはり祭りはこうでなくてはの」

 

出したいちょっかいを必死に理性で押しとどめる。今動くのは今後の愉悦を考えるに得策ではない。それに自分が動けば、彼ら(・・)が黙っていないだろう。だからこそ必死に飴のような理性でそれを押しとどめる。




如何でしょうか?
いい感じにレイヴンズの世界を描けていたらいいのですが・・・

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第十七夜  雛鴉たちの決意

お待たせしました!!

PCが壊れ、部活の幹部の引継ぎ、期末テストに期末レポートとありえないほど重なり、執筆出来ませんでしたが、漸く落ち着き更新できました

楽しんでももらえたら、うれしいです!!


結界に捕らえられた二匹の鵺を視る。禍々しく、淀んでいる瘴気は視るだけで意識を失いそうになるほどの圧と重みを含んでいる。

それでも視線を逸らさずに視ることにより

 

――――よし、思っていた以上に魔術的な防御は甘い。これなら一括でも行ける

 

霊災の状況を無事に把握する。無意識に息を吐き、徐々に意識を切り替えていく。

 

――――焦るな。思い出せ、さんざん言われてきたことだろう

 

魔術を使う。そう意識を切り替える。カチンと意識の中でナニカが切り替わる。

 

「行くぞ」

 

その言葉を口に出した瞬間、四季の怯えは消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその変化はその場にいた誰もが感じ取れるほどにハッキリとしていた。

 

――――四季…

 

――――衛宮君

 

不安を胸に抱える者。

 

――――行けるのか?

 

――――ほぉ、すでに此処までとはな

 

何が起きても動けるようにする者、自分の想定を超えている事に歓喜を示す者。

そして

 

「———————」

 

ある者は隠しきれぬその感情を必死に隠しつつ、誰もが四季の動作一つ一つに意識を向ける。視線が集まる中で、四季はゆっくりと行動を始める。

 

『いいか、四季。この術は完全に会得できれば、霊災を修祓するほどだ。だから、ひとまずはこれを完璧にこなせることを目標にするといい。衛宮の基礎にして奥義の方の一つだ』

 

思い起こすのは、魔術を学ぶ上で最初に告げられたる父の言葉。まだ完璧に会得できたわけではないが、少なくとも今の魔術的防壁を祓う事は出来る。

 

「主の恵みは深く、慈しみは永久に絶えず」

 

その声音は普段の四季の声を知る者たちからしても驚くほどに澄んでおり、精神に直接響くように聞こえてくる。

そしてその言葉に呼応するように四季の足元を中心に淡い光が立ち昇り始める。

 

「あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず」

 

足元より立ち昇った光が、突き刺さった黒鍵の方へと進んでいく。その光景は、このような状況でありながらも美しい。

 

「飢え、渇き、魂は衰えていく」

 

光は黒鍵に重なり、結界の周りを囲み、輝きがさらに増してゆく。誰もが初めて見る魔術の現象に十二神将たちも目を奪われる。

 

「彼の名を口にし、救われよ。生きるべき場所へと導く者の名を」

 

地面に円を描くように輝き循環していた光が徐々に上空にある札の方へと進んでいく。

 

「渇いた魂を満ち足らし、飢えた魂を良き物で満たす」

 

光が札へと達し、光が結界を覆う檻のような結界を形作る。鵺たちは、ここにきて危機を感じ始めたのか、先ほどからは考えられないほどの勢いで暴れ始める。

 

「深い闇の中、苦しみと鉄に縛られし者に救いあれ」

 

札をなぞるように光が円を生み出し、結界の中へと光が降り始める。

 

「今、枷を壊し、深い闇から救い出される」

 

上に呼応するように下からも黒鍵の場所から光が結界の内部へと流れ込んでいく。この時点で最初に貼られていた簡易結界が、光に圧迫される形で崩れ去る。

 

「罪に汚れた行いを痛み、不義を悩む者に救いあれ」

 

「むっ!」

 

「————言峰さん!!!」

 

詠唱する四季の元に呪術が迫るが、言峰が切り捨てる。一歩遅れて夏目や京子の口から悲鳴が、凜からは息をのむ音が聞こえる。木暮と言峰はあたりを見渡すが、目の前の現象のせいでうまく見鬼を働かせることができず、襲撃者を見つけれない。

 

――――まるで、強大な霊脈を直に視てるみたいだ!!

 

――――それよりも自分が攻撃されたというのに、全く動じずぬとは、完全に意識が切り替わっている証拠か?

 

内心の驚きを隠しつつ、木暮は必死に探索を続ける。対する言峰は、四季の精神に達しぐわいに僅かな感動を覚える。

 

「正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を」

 

上下から伸びる光は螺旋を描きながら霊災を飲み込んでいく。

 

「————去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

 

詠唱を終えた瞬間、今まで以上の光があたりを包む。その輝きに誰もが一瞬視界を奪われる。

視界が戻ったと同時、彼らの目に映りこんだのは、修祓されたかのように瘴気の質が落ちた二体の鵺。

そして大量の汗をかき、膝をつく四季の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚きの中、誰よりも早く動いたのは言峰と凜の二人。言峰が周りの隊員に指示を出す中、凜は四季の元に向かって駆けだす。一歩遅れて木暮が、凜を静止させようと腕を伸ばす。

しかしそれよりも早く――――

 

「なにっ!!??」

 

霊脈が突如うねる。否、四季たちの試験の時と同じように火山の噴火といえる規模で霊脈が暴走している。

そして放出された霊気が、弱っていた二体の霊災を飲み込む。

 

「これはいかんな」

 

「わっ!?」

 

一番近くにいた言峰は消耗した四季を抱え、その場を後にする。対する木暮は「結界を急げ!!」と指示を飛ばすが数手遅い。

『01』を閉じ込めながらも『02』を取り逃がして、結界が完成してしまう。そして更に―――

 

『れ、霊災連鎖確認!!「キマイラ01」フェーズ4に移行しました』

 

「くそっ!!双角会だ!!どこから仕掛けている!!??」

 

初めて見る魔術という技術の迫力によって周りの警戒が疎かになっていた。その僅かな隙に付け込まれる形となった。

もしも前もって打ち合わせや認識の共有をしていれば、防げたかもしれない事態。

 

――――結局、俺もってことか

 

脳裏をよぎる後悔の念。それに捕らわれようとした木暮に――――

 

「木暮っ!!」

 

木暮が宮地と呼んだ男の声が届く。声が届くと同時、己の成すべきことを自覚した木暮は「言峰さん!!」夏目たちの元にまで下がってきていた言峰に声をかける。

それと同時に噴水の裏手に置かれていた彼のバイクが独りでに動き出し、木暮の前にまで駆け寄ってくる。

 

「比良多!今の奴を探せ!!言峰さんは、俺と一緒に」

 

「はい!」

 

「わかっている」

 

木暮の言葉にそれぞれが即答し、役目を果たさんと動き出す。そして木暮は、今までからは想像もできないほどに鋭い目で、逃げた鵺を見据えている。

 

「夏目君!それに他のみんなも!悪いが、俺たちは少し離れるっ。誰でもいいから、近くにいる祓魔官に保護を求めてくれ!此処の心配はいらない。このメンバーで修祓できな霊災はないからな!だから――――」

 

木暮が言い切るよりも早く、彼のバイクの後ろに夏目が飛び乗る。突然の事態に、京子も凜も驚いて何も言えない。

その中で木暮が怒りをあらわにするが――――

 

「鵺を引き付けるなら、北斗の協力が不可欠なはずです!同行します」

 

「うむ」

 

夏目の言葉に反論することができずに押し黙り、言峰は納得したような表情を見せる。木暮の答えを待つように夏目は視線を小暮からそらさない。

想定外の事態に比良多の足も止まり、結果を見守る。

 

「わかった。代わりに、陣には黙っておけよ」

 

「はい!」

 

木暮が答えると同時にバイクがうなりを上げる。その言葉に京子が泡を吹いたように慌て始めるが

 

「倉橋さん、遠坂さん、衛宮君!行ってくる!」

 

それよりも早く木暮のバイクがスタートした。

そして言峰がそのあとを追うとした瞬間、

 

「俺も連れて行ってくれ」

 

「うん?」

 

「ちょっ四季!!」

 

四季の手が言峰の動きを止める。その動作に凜が驚きをあらわにする。対して言峰は静かに四季の瞳に視線を向ける。

 

「………いいだろう。しっかり捕まっていろ」

 

言峰の言葉を聞いた瞬間、凜の怒りが爆発する。

 

「何考えてんのよ、バカ!!あんたは役目を果たしたでしょうが!!これ以上あんたが義理を立てる必要もないでしょうが!!こうなったのも祓魔局(むこう)のせいなんだから!!」

 

もはや隠す気なしに告げられた言葉に、四季は僅かに笑みを浮かべる。

 

「そうかもな。でも、まだ首謀者が捕まっていない状況で、逃げた鵺に魔術を仕掛ける可能性がある。そうなった場合、俺がいないと始まらないだろ?」

 

「————っ!!??」

 

正論に凜は口を塞ぐしかできない。そんな反応に四季は、一度言峰の手を放し、凜の頭に軽く手をのせる。

 

「心配しなくても、必ず戻ってくるから」

 

「……わかったわよ

 

しぶしぶといった感じで呟かれた小さな言葉を聞き取った四季は、今度こそ言峰の腕に捕まる。

 

「行くぞ」

 

「おう」

 

次の瞬間、二人はその場から文字通り消える。その姿を凜は、己の無力さと噛みしめながら見届ける。その背を京子が何とも言えない表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季や夏目が決意をもって更なる前線へと進んでいる時を同じくして、陰陽塾に冬児と塾長の姿。

塾長の口から聞かされたのは、わざと自分にかけられた封印を弱めることで、自分の意志で鬼の力をコントロールするという、今まで考えもつかなかった方法。それは独立祓魔官でもある『鬼喰い』鏡伶路と同じ次元だという。

そしてその為に必要なのが、悪友ともいえる春虎の存在とも聞いた。

 

『幸運に思いたまえ、そしてそれを手放すな。大丈夫だ、君は一人ではない』

 

その話を聞いたときに、脳裏を過ったのは顔も覚えだせない男の言葉。あの時は全く意味も分からなかったはずの言葉が、話を聞いて恐ろしいほどしっくりと胸の中にはまった。

だからこそ、覚悟は決まり、自分がすべき行動も分かっている。

 

「行くのですね」

 

そんな冬児の思いを察していたように呟かれた塾長の言葉に冬児は付き物が落ちた表情で「ええ」と答える。

その言葉を聞いた塾長は満足そうに笑みを浮かべる。

 

塾長の言葉に答え終わると同時に冬児は校門まで歩を進めていた。

 

「おお、主よ。今宵は一段とご機嫌が良いようで」

 

「然り然り。何か良いことでもございましたか」

 

外へと出る間際にアルファとオメガが楽しそうに嬉しそうに声をかけるが、冬児はただ前を見据え答えず、塾長はただ微笑みを返す。

 

「見送りはここまでで結構です」

 

「そうですか。では、一つ私からあなたへ餞別を」

 

そういって塾長が印を切ると、神馬のごとき堂々たる気高い風格を持つ白い馬が現れる。そして冬児はその存在を知っていた。だからこそ、驚きを見せるが。

 

「ちょうど夕方に土御門家から届けられました。彼も星を読みます(・・・・・・・・)。きっと、こうなる予感があったのでしょう」

 

その驚きの答えを塾長が告げる。一瞬、冬児は自分が全てが大人たちによって揃えられた道を歩まされているような嫌悪感を抱くが、すぐに振り払う。

今必要なことは、己の意志で選び進むこと。例え揃えられた道であろうと、選んだのは自分だと胸を張って言えるように。

 

「春虎から聞いてる。すげぇ式神なんだってな。俺に気にせずに全速力で駆けてくれや」

 

雪風はその言葉に答えるように蹄を鳴らす。冬児が雪風に跨ると同時、陰陽塾から錫杖を持った天馬が現れる。

 

「間に合った!!」

 

「天馬?」

 

「冬児君、これを春虎君に届けて上げて」

 

天馬が手渡したのは、大友先生より春虎に作られた専用の呪術補助具である錫杖。しっかりと天馬から錫杖を受け取った冬児は、天馬が笑っていることに気が付く。

 

「なに、笑ってるんだよ」

 

「ううん。別に大したことじゃないんだけど、安心して。僕ちょっと自信なかったから…」

 

「自信?」

 

「うん。冬児君の事情を知った後でも普通に接することが出来るかって。ほら僕、結構そういうところ頼りないからさ。でも……全然大丈夫みたい。やっぱり、生成だろうが冬児君は冬児君だよ」

 

「天馬、お前…」

 

まっすぐ普段と変わらない声と表情でそう告げられ、冬児は言葉に詰まる。

 

「春虎君たちの事、お願いね」

 

普段と何も変わらない友人からの頼み(・・・・・・・・・・・・・・・・・)に冬児はいつもの笑みを浮かべて返す。

 

「ああ、任せろ」

 

「うん、お願いね」

 

二人のやり取りを塾長は微笑ましそうに見つめている。

そして冬児は塾長の方へと視線を向け

 

「…行ってきます」

 

「ええ、気を付けて」

 

そうして雪風と冬児は、東京の夜を駆けて行った。

 

 

 

そして教え子の背を見送りながら塾長は

 

「…ほんと、期待以上に先生役が嵌ってくれそうね。あとは、任せましたよ、大友先生」

 

小さな声でささやいた。塾長のその言葉に答えるように一瞬、陰陽塾の影の一部が不自然に揺らいだ。




次はもう少し早めに更新出来たらいいな・・・・・・・・できるかな?
三巻ももすぐクライマックスなので、気を抜かずに頑張っていこうと思います


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第十八夜 日陰者たちの戦い

前回からだいぶ時間がたちましたが、どうにか復活です
思った以上にリアルが立て込んでいたので、申し訳ないです
色々不甲斐なさとかありますが、とにかく楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


言峰の腕を掴み凛と別れを告げた直後、四季の視界を霊気の流れが覆う。瞬間、それが『卯歩』による移動だと理解する。そして霊気の流れを四季が理解すると、ほぼ同時に再び四季の視界が変化する。

 

「うおぉっ!!」

 

「ふむ」

 

立て続けに変化する視界に四季は少し酔ったように足元がふらつくが、どうにか転ぶことだけはこらえる。対する言峰は、くまなく辺りを視る。その行動は、道に迷ったというわけではなく、見鬼を使い先に行った小暮たちを探しているのである。

 

「あちらか…」

 

辺りを見渡していた言峰の視線がある一点で止まる。言峰の言葉と共に、四季もも彼が向いている方角を視る。

言峰が指し示す方角には、陰の気であり瘴気とそれを追うように走る竜の気が視える。

 

「あんたなら、一度確認しなくても土御門達に追いつけたんじゃないのか」

 

なんでこんな回りくどい真似をと四季が言峰に問う。問われた言峰は、視線を四季に向けることなく、口を開く。

 

「なに、霊脈の流れをズラされていたのでな。何処へと飛ばされる前に、抜け出しただけだ」

 

「っ――――!!」

 

何気なく発せられた言葉に四季は驚愕し何も言えない。つまりもう霊脈での移動ができないということ。そうなれば追いつくのは至難の業だ。

 

「だが、恐らく急ごしらえの罠だろう。霊気への細工がほとんど隠せていなかった。今一度霊脈へ霊気を流して確認してみたが、もう細工の後はない。次で追いつく」

 

四季の戸惑いなど関係ないと言わんばかりに、言峰はただただ事実を述べる。語られる高次元な話に、四季は理解が追いつかない。それでも体を動かし、必死に食らいつかんとするように言峰の腕を掴む。

 

「ふ、行くぞ」

 

「おう」

 

四季の感情を察してか、言峰は笑みを浮かべながら再び『卯歩(うほ)』を使って、二人はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木暮と夏目をのせたバイクは、グランドを出て車道から鵺を追跡する。鵺の姿を視認した木暮は、

 

「削ぐよりも足止めが先決だな。黒竜(こくりゅう)獺祭(だっさい)醴泉(れいせん)鳳凰美田(ほうおうびでん)!」

 

びんっ!と響く声で、己の式神が呼ぶ。その声に答えるようにバイクがエンジンの唸り声をあげ、四つの霊気を放出、その霊気が愛くるしい鴉天狗の姿を形づくる。

余りにも特異な実態を持った式神である機甲式(きこうしき)に夏目も驚きの声を上げる。そんな夏目の反応が簡単に予測できたのだろうか、木暮は「変わった奴らなんだ」と短く説明する。

 

「神宮球場へ鵺を誘導しろ!そこでケリをつける!」

 

主のオーダーを受けた四匹は鵺へと接近し、互いに連携して鵺を球場へと落とす。愛くるしい外見とは対照的に纏う霊気は十二神将の式神ということで強力の一言だ。

 

「よしっ!」

 

鵺が落ちたことを確認した木暮がバイクの速度を上げ、一気に球場内に入ろうとするが、

 

「なにっ!」

 

轟音と共に再び、鵺が空中へと舞う。自身の式神の失態に木暮が吠える。

 

「カアァ!あいつ賢いっ!フェイントかけられたぁ!」

 

「ゼンジローの目論見、見抜かれてる!」

 

「何でもいいから、次こそちゃんとしろっ!。この先の秩父宮(ちちぶのみや)ラグビー場から先は、もう青山通だぞっ!!」

 

「北斗――――っ!鵺を逃がすな!!」

 

バイクを反転させながら、木暮が怒鳴る。そして夏目もまたキッ!と唇を結び、待機させていた北斗を召喚する。その動作に木暮が何か言うよりも早く、「手伝いますっ」と夏目が鋭い声で答える。

 

「…よしっ!俺たちも追うぞ!」

 

木暮がアスファルトを蹴り、バイクを発進させる。上を見上げげれば、鴉天狗と北斗が協力して、うまくラグビー場へ鵺を落下させている。その光景に木暮が「よしっ!」と声を上げる。

今度こそ逃がさぬようにと、木暮が先ほど以上にアクセルを踏み、スピードを加速させる。

その瞬間

 

「夏目!」

 

間違えるはずのない己の式神の声が届く。その声に夏目は笑みを浮かべ

 

「春虎!」

 

 

愛しき、己の式神の名を呼ぶ。突然の乱入者に木暮が誰かと夏目に問おうとした瞬間、木暮はバイクを急ブレーキ。大きく態勢を崩す夏目をかばう形で、ジャケットから護符を取り出し

 

急急如律令(オーダー)!」

 

展開すると同時、呪符自体を隠形していた札と護符がぶつかり合う。最初の札を皮切りに、絶え間なく正確に木暮だけを狙って札が投げ込まれる。

 

「夏目!」

 

突然の事態に春虎が己の主の安否を問うような声を上げる。その瞬間、春虎の方に札が迫る。

 

「やべっ!」

 

護符を出そうにも遅すぎる。視界の端には、顔を青くした夏目の顔と迫る札を斬り裂いた木暮が動くのが見えるが、明らかにワンテンポ遅い。

やられると思った瞬間

 

「ふむ、間一髪といったところか」

 

春虎のそばに現れた言峰の呪力を纏った拳が札を叩き潰す。突然の乱入に春虎が驚きの声を上げ、その傍にいる四季の存在をみると再度驚きの表情をする。それは四季も同じなようで「春虎!」と驚きの声を上げる。

二人が驚いているさなか、木暮と言峰の二人は銀杏並木の歩道を鋭い目つきで見つめる。

 

「…六人部か」

 

木暮の言葉に答えるように、流浪人のような風貌ながら学者としての知性を感じさせる男六人部が隠形を解除して姿を現す。

 

「言峰さんっ!此処は貴方に…」

 

任せてもと木暮が問おうとした瞬間、轟音と共に鵺が鴉天狗と北斗の包囲網を無理やりに突破して、再び逃亡を図る。

なおさら決断を急がねばならなくなり、木暮と言峰がアイコンタクトのみで動き出そうとした瞬間、

 

「っ―――――!!ヤバイっ!!」

 

四季が何かを感じ取り声を上げる。四季が声を上げると同時、六人部の懐から札が独りでに踊り出て、鵺へと吸い込まれる。

 

「魔術っ!」

 

「むっ」

 

急ぎ二人は、札を施された鵺を視る。霊的には何も変化がない。しかしこの状況で何の効果もないなどありえない。ともなれば、答えは一つ。その事実に二人が苦虫を潰したような苦い表情をする。

だが、策を弄したはずの六人部もまた木暮や言峰と同じような苦い顔を一瞬見せ「法師」と、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

鵺の逃走、主犯格の六人部、魔術の行使。混沌と化す状況下の中で、木暮と言峰はどうするべきが最善か高速で思考する。それは援軍が期待できな上での二人が優秀であるが故の初速の遅れ。決して責めれるわけもない遅れ。だからこそ、未熟であるがゆえに二人の行動は早い。

 

「夏目ぇっ!」

 

「逃がすかっ!」

 

向かい合う形となっていた春虎が夏目の名を叫び、四季は鵺を追って駆けだす。春虎の呼びかけを聞いた夏目もバイクから降り、鵺を追うように駆けだす。

考えてもみなかった三人の行動に、木暮は止めることが出来ない。そして言峰は、四季の瞳を見て、笑みを浮かべる。

 

「ええいっ!言峰さん、此処は俺に任せて、あなたは鵺を…」

 

追ってくれ。と木暮が告げるよりも早く、事態は悪化する。今まで気が付かなかった方がおかしい程の霊気の乱れ。まるで二人の足を縛るように霊気が絡みつく。

 

「しまっ!」

 

「いかんっ!」

 

瞬間的に、自分たちが何かの術式に掛かったことを悟る。しかしそれは、木暮の知識には全く当てはまらない未知なるもの。

 

――――まさかっ

 

「木暮よ、気を抜くな。これは魔術だ」

 

金縛りに類似したものだろう。という言峰の言葉に木暮は、祓魔官としてこの目の前の男を全力で相手せねばならないと覚悟を決める。だからこそ、同時に腹が決まる。それは言峰も同じ。

 

醴泉(れいせん)鳳凰美田(ほうおうびでん)!は夏目君たちのフォロー!黒龍(こくりゅう)獺祭(だっさい)は戻ってこい!」

 

「衛宮四季をフォローしろ」

 

木暮が己の式神に指示を飛ばし、言峰は簡易式神を飛ばす。そして互いに、己の動きを捕縛する霊気をどうにか断ち切らんと動く。

その間、六人部は式神を展開し、静かにたたずんでいる。

 

 

 

 

鵺に魔術が施されたことを悟った瞬間、四季は鵺を逃がさぬように駆けだす。ふと視線の端には、夏目が駆けだすのが見える。

明らかに追える足ではないのだが、そんなものは関係ないと駆ける。そんな四季の隣に、巨大な虎の式神が現れる。

 

「乗るがいい、衛宮四季よ。こいつがお前の足になろう」

 

機械的な言峰の声を聞き、四季は迷うことなく虎に飛び乗る。

 

「我々は六人部の妨害に合い、鵺を追えぬ。ゆえに、我々が追いつくまで鵺は任せるぞ」

 

そのメッセージと共に虎は口を閉ざす。言峰の言葉を受け、四季はゆっくりと息を吐き意識のスイッチを切り替える。

そんな四季の耳に

 

「つかっ、お前!免許あんのかよっ!!」

 

「そんなのあるわけないじゃないですかっ!!」

 

ここ最近聞きなれた、友人たちの怒鳴り声は聞こえる。そんな緊急事態とは思えぬ言葉の応酬に四季の肩から力が抜ける。

気が付けば虎とバイクは並走している。

 

「おい、土御門、春虎!よく聞け」

 

「四季!」

 

「ど、どうしたんですか、衛宮君」

 

「あの鵺には魔術要素の防御膜が貼られている。だから普通の攻撃じゃ、易々とはいかない」

 

「そんな…」

 

四季の言葉に夏目は顔を青くさせる。春虎も驚いたように、上を見上げる。そこには攻撃を仕掛ける、醴泉と鳳凰美田そして北斗の姿。しかし四季の言う通り、その攻撃は鵺に通っていない。

その光景に春虎が大きく舌打ちをかます。

 

「だから、とにかくあいつの動きを止めてくれ!俺の魔術でその防御膜を破壊する。修祓はそこからだ!」

 

四季の要望に夏目は息をのみ、一瞬答えに詰まる。しかし代わりに春虎が真っ直ぐとした瞳で四季を見る。

 

「いけるのかっ?」

 

「お前は役目をはたして、此処に来たんだろう?なのに俺が役目を果たさないのは、かっこ悪いだろ」

 

春虎の言葉に四季も真っ直ぐとした瞳と言葉で返す。その言葉を聞いた春虎は、いつもの人の好い笑みを浮かべ「任せろ」と告げる。その言葉に聞いた四季は虎に速度を上げてくれと頼む。四季のオーダーを受けた虎は一声吠えると、ぐんぐんとスピードを上げていく。

 

「近くに交差点があったはずだ!そこに鵺を」

 

「わかった!夏目っ!」

 

「はい、わかりました」

 

夏目の覚悟を決めたのか力強く答える。二人の返事を聞きながら、四季は一人先へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、車も通らない交差点の真ん中に四季は降り立つ。僅かに鵺の叫び声が聞こえる。時間はそうないと、四季は早速準備を始める。

 

「よしっ!」

 

霊気を製造する地点を決め、四季は一気に札を展開する。札で囲まれた地点の霊気が、ゆっくりと変化を見せ始める。

 

————去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)を準備する時間はない。だから、最大火力で防御膜のみ(・・)を破壊することだけに集中する。

 

元々の体力でも修祓は不可能だったのだ。消耗した状態では、より無理だろう。だが、それのみに特化したならば、可能だ。

 

「こっちの言語は苦手なんだが……やるかねぇよな――――Assimilation(同化)

 

札ので作った界の中に四季は呪文を唱えた宝石を投げ込む。青い宝石は、四季の声に呼応するように青く輝き、霊気の流れと質を変化させて霊気の中に消えていく。

霊気の流れがより一層激しくなる。印を結びながら、四季はその霊気の流れに己の霊気を混ぜ合わせ、流れを生み出していく。

 

――――よし少しミスったが、どうにか落ち着けた。

 

ドイツ語による術の発動は、強力な分魔術要素が強くなるため、どうしても扱いが難しい。今回も僅かに配分が狂ったが、どうにか戻すことに成功する。

造られた霊気が、四季の手を離れようと暴れているが、うまく手綱を握れている。

 

――――よしっ!」あとは、二人を待つだけだ

 

四季が術を完成させるとほぼ同時に、交差点から僅か10メートルといった場所に鵺とそれを追う醴泉と鳳凰美田に北斗。そして北斗に騎乗した春虎とその式神のコンが姿を現す。予想外の場所にいる春虎の姿に驚きをあらわにしながらも、四季は笑みを浮かべる。

 

「ホント、よくやるぜ」

 

その耳にバイクのエンジン音を戦闘音を聞きながら四季は、その僅かなチャンスを逃さぬようにより集中を高めた。




次回で原作三巻を終われるようにしていきたいなと思っています



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第十九夜 雷樹

大変遅くなりましたが、こっそり更新です
三巻、今回で終わらなかったよ…‥…次で、必ず終わらせよう

楽しんでもらえたら、嬉しいです


四季が準備を終えたとほぼ同時期、もう一つの勝負が決着がついていた。

 

「言峰さん!!これは…」

 

「ふむ。どうやら、初めから死ぬつもり(・・・・・)だったようだな」

 

黒鍵を駆使し、己らにかけられた魔術を斬り裂いた言峰は、木暮と共に駆け出し、六人部の繰り出した式神を切り伏せると同時に、六人部が霊気が乱れ、そのまま息を引き取った。

その事態に木暮は驚愕するが、言峰は冷静に状況と事態を解析するように考え込んでいる。

 

「木暮よ、人員を数名此処に呼べ。ただし最低でも一人、陰陽医の資格、もしくは心得のある者を呼べ。人員が来るまで、六人部の死体はお前が守護せよ」

 

「わかりました!!それで、言峰さんは…」

 

言峰の言葉に頷く木暮。そんな木暮の問いに対して、言峰は少し先を視ながら…

 

「私は、先行して行った彼らの援護と保護に回る。本来なら、二人で行くべきなのだろうが、六人部の死体に何かしらの術や、六人部の仲間に回収られるわけにもいくまい。そう考えると、鵺に魔術が施されていることも考えれば、私が行くしかあるまい」

 

淀みなく反論すら、不可能なほどの正論を口にする。言峰の言葉に、木暮は自分の無力さを噛みしめるように刀をきつくに握りしめる。

 

「……わかりました。言峰さん、あの子たちをお願いします」

 

「ふむ、木暮よ。己の無力さを悔いることはない。そんな暇があるならば、強くなるために精進せよ。お前はまだ、若いのだからな。今は、私たち|古兵(ロートル)に任せておけ」

 

言峰はパンパンと木暮の頭を叩くながら兎歩を使い、その場を離れた。言峰が場を離れると同時に、木暮もまた本部へと連絡をつける。

 

「無事でいてくれよ、みんな…」

 

陰陽庁でも屈指の実力者である言峰が行くのだ。不安などを覚えるのは、むしろ彼に対する侮辱でもある。しかし魔術の行使という、今までにない事態に、木暮は言いようのない不安を振るえなかった。

 

木暮が言いようのない不安を振るえなかったその瞬間、東京の夜空の上で金色の竜と暗き鵺に銀色の子狐に三点の鴉天狗が、そして白色の白馬が未熟なる鬼と雛鳥が、一堂に会していた。

 

――――恐れるな…これから先に待ち受ける全てに

 

天を駆ける雪風の上で冬児は、今まで無理やりに抑え込んでいた感情(すべて)を開放する。感情の開放につられて、冬児の体をラグが多い、鬼火と鎧をまとう。視線の先には、金色の竜に跨る人影。クハァ!と笑みがこぼれる。自分の知る限り、そんな馬鹿をするのは、一人かしか思い浮かばない。

 

『それを手放すな。大丈夫だ、君は一人ではない』

 

瞬間思い出すのは、顔すら思い出せない誰かの言葉。ああ、確かにこれは得難いものだ。そして、だから自分は大丈夫だと確信できる。

内側から、沸き上がる鬼の叫びと闘争。自我を喰われんとする中で、その言葉は不思議と阿刀冬児(じぶん)を保つうえで、確固たる友情(あかし)を支えるものとなっている。

 

――――感謝するぜ、どっかの誰かさんよぉ

 

もう迷いはない。沸き上がるその全てを受け入れたうえで…

 

――――さあいま、獲物をくれてやる

 

今、自分が放ちえる全てを込めた錫杖を…

 

「春虎ぁっ!!!」

 

先にて戦う友へと、全力で投擲した。

 

 

声が聞こえた。聞き間違えるはずのない、悪友の声。振り向けば、雪風に跨る冬児の姿。なぜという疑問が頭をよぎるが、その疑問を全て頭の隅へと追いやる。

槍のように投擲された錫杖の只ならぬ気配を察した鵺は、その射線から身をひるがえすが…

 

「北斗っ!!」

 

それこそが冬児の狙い。まるで吸い込まれるように春虎の手に錫杖が収まる。春虎の声の意味を理解した北斗が、その姿を見て自分のすべきことを理解したコンが鴉天狗たちが動く。

北斗が春虎を乗せ、蜷局(とぐろ)を巻く様に鵺の周囲を覆うと、頭上に乗せた春虎を鵺の頭上へと誘う。そしてコンと鴉天狗たちは鵺の動きをこれでもかと阻害する。

 

「うおおぉぉっ!!」

 

冬児からのパス。その錫杖に込められた思いに答えるように、春虎の常人以上の霊気が錫杖を介して呪力となり、錫杖が螺旋を纏った牙と化す。それは、春虎が春より取り組んできた訓練の集大成でもある。

鵺が頭上の力を察して逃走しようとするが、そうはさせぬとコンと鴉天狗が逃がさない。そして北斗が頭上の春虎ごと、鵺に向かって強襲を仕掛ける。

 

「喰らえっ!!」

 

北斗が噛みつき、完全に動きが止まった鵺に向かって春虎が錫杖を振り下ろす。その牙が鵺にあたる直前……

 

 

 

 

「その終わり方(・・・・)は、些かつまらんのぉ」

 

赤いサングラスの老人が楽しそうに笑い呟くと同時に、六人部より鵺に取り込まれた札が効力を発揮する。

 

「チィ。読みの逃していたか………多少難易度が上がったが、彼には超えてもらしかないか」

 

そして春虎たちから遥か先のビルの屋上で、紅い外套を身に纏い弓で構えた、鷹の目の男は、打ち漏らした(・・・・・)自分に向け、大きく舌打ちをこぼした。これ以上は、許さぬと、今まで以上に鋭い目ではるか先に停車する、黒塗りのリムジンを睨んだ。

不安が無いわけではないが、先ほど見せた技量ならばギリギリ突破できるだろうと、あたりをつけ、信じると決める。

 

「ほっほぉ。さて、どう動く?衛宮よ。先ほどのよりも強力だぞ」

 

自身に向けられる殺意をその身で感じ流れらも、老人は子どもの声音で愉快そうに笑う。一度は視れた実力。本来ならば、それで目的は達したと考えてもいいのだが、そんな常人の思考を彼は持っていない。

もっと混乱を、もっと試練を。その血が目覚める事を望み、老人は次に期待する。

 

 

 

 

入った。春虎は、錫杖を振り下ろしながらそう確信する。鵺の動きを北斗とコンに加え三匹の鴉天狗が止めているのだ。春虎がそう思っても無理はない。

ただしそう思うには、今回の事件において重要なファクターである魔術の存在を、興奮がゆえに一時的に忘れてしまっていた。もしくは、彼が何もいなければ、その通りになっていただろう。

 

「なにっ!!??」

 

ガキン!と甲高い音を立てながら、錫杖が見えない壁に阻まれたように弾かれ、大きく体勢を崩す。

 

「春虎様っ!!」

 

「「「わわぁ!!??」」」

 

「—————!!??」

 

コンが春虎の身を支える。そして連動するように、攻撃を仕掛けていた北斗と鴉天狗たちも弾かれる。

そして鵺自身も自分の身に起きた変化に戸惑いながらも、今がチャンスとばかりに怒号を響かせる。その声は確かな力となり、コンを春虎を空中へと吹き飛ばす。

 

「なぁっ!!??」

 

「「春虎(様)っ!!」」

 

空から落下する春虎の姿に遠くから見ていた冬児が体勢崩したコンが叫ぶ。そして鴉天狗たちや北斗も目を大きく開きまずいという表情を見せる。

 

―――――ヤバい、死ぬっ!!

 

落下する。しかし自分には、打てる手がない。そう思い、来るであろう衝撃に備えるように目をつむる。

その瞬間、ポンと優しい衝撃が春虎を襲う。

 

「えっ?」

 

驚き目を開ければ、大型の鳥を模した簡易式が春虎をその背に乗せていた。

 

「一体……」

 

誰がと。疑問を口にするよりも早く…

 

「春虎ぁぁああああっ!!」

 

陰陽塾で初めて友人となった四季の声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬児が錫杖を春虎に投擲する直前、地上では準備を終えた四季がその時を計っている。そしてその隣に、少し遅れてなバイクに跨った夏目が合流する。

 

「冬児っ!!??」

 

「いいタイミングだ!!」

 

上空を見つめていた四季と夏目は、冬児の登場に驚くがそれ以上に安堵が心に広がる。だが、春虎の行動を見た四季の顔色が変わる。

 

「あのバカ!!完全に忘れてやがる!!」

 

春虎君(・・・)っ!!」

 

弾かれ、空に落下する春虎に夏目が声を荒げる。

 

――――クソ、イチかバチかだ

 

集中しているからこそ、維持できている霊気(まじゅつ)の柱。今、簡易式を使えばどうなるかは、わかない。それでも動くしかない。

言峰に託されていた簡易式に呪力を流し込み…

 

「春虎を助けろ!!」

 

命令を出す。瞬間、四季の前に聳え立っていた力が拡散する。

 

「そんな…」

 

突破口が霧散した事実に、夏目が体が震える。

 

――――どうする?今からじゃ、間に合わない

 

元々、ギリギリだったのだ。今から新たに精製する余裕は、四季にはない。打つ手なし。自分の無力さに身体が、包まれかけた瞬間…

 

―――――たわけ!!強大な呪力が目の前にあるのに、貴様は何をしている

 

「え?」

 

聴こえたのは、叱咤激励に近い声。身に覚えのない声。なのになぜだろう、心の底から湧き上がる何かは?そして同時に沸き上がったのは、その言葉。

 

――――強力な呪力が、目の前に?それってどういう…っ!!

 

そうだ!!自分にないなら、他を使えばいい。そんな都合のよい存在が、今いるのだ。なら自分は、それを魔術に返還さしてやればいい。

だからこそ、四季はこの逆境を生んだ発端であり突破口である存在に向け……

 

「春虎ぁぁあああっ!!」

 

あらん限りの声をもって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を呼ぶ声。誰が自分を助けたのか、すぐに理解する。そして…

 

「思いっきり、呪力を込めた錫杖を鵺に向かって投げろっ!」

 

その言葉をなぜと疑問に思うこともなく。考えるよりも先に身体が動く。

 

「おらぁ!!」

 

あらん限りの力を込めて、自分にとどめを刺さんと迫っていた鵺に向かって、錫杖を投擲する。

そして「コン!!みんな、避けろ!!」今なお、鵺と戦う仲間に声をかける。春虎の声に一瞬、戸惑うがその瞳を見て、彼らは一時鵺から離れる。

錫杖が鵺にあたる直前で、何かに阻まれる。しかし、錫杖を追う形で数枚の札が、鵺と錫杖をとりかこむ。

札は回転し大きな渦となり、錫杖に込められた呪力を取り込むことで、淡い青色の光を生む出す。

 

『フランケンシュタインの怪物は、膨大な雷鳴よって命が稼働したとされている。なら、逆はどうだ?膨大な電気が逆に生命を吸収し、力を削ぐ可能性だってあるわけだ。そういう考えもまた、魔術には必要なんだ』

 

「札の効力ごと、一気に削いでやる!!」

 

思い出すのは、父親の言葉。今回は、その考えを利用すればいい。消すのではなく、地面に設置した札に、相手の魔術的効力を放出させる。その為に必要な呪力は、春虎が用意してくれた。

鵺も何か危険を感じているのであろうが、もう遅い。

 

「行け!!弔いの雷樹(オーダー)!!」

 

四季がその言霊を発すると同時に、青い雷電が錫杖を中心にまるで巨大な大樹のような霊気を生み出し、地面に設置された札へと落雷として発射される。

眩い雷光で、その場にいた全ての者の視界が一瞬白で染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩い雷光が晴れ、視界が回復する。その中で春虎が、最初に目にしたものは…

 

「なっ!!全然、効いてないのか」

 

錫杖が腹に刺さりながらも、未だにその不気味な瘴気をほとばしらせる鵺の姿。しかし春虎が動揺している中、二人は冷静に動く。

 

「夏目!!」

 

「はい!!」

 

夏目は準備を、そして四季は連絡を。四季の連絡を受け上の頭上より三点の流星が走る。鴉天狗たちが、鵺を思いっきり道路へと叩きつける。

悲鳴をあげながら鵺は起き上がろうとするが、鴉天狗たちの攻撃が強力だったのか、体に大きくラグが広がってる。

そしてそんな鵺の周りに札が、現れる。

 

天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)の威を以て、これなる邪気、瘴気を一掃せん!急急如律令(オーダー)!!」

 

呪文と共に淡い光が夏目を覆い。そして呪文を唱え終えると同時、夏目は刀印を思いっきり振りかざす。

瞬間札の内側に向け、先ほどの四季とは似て非なる光が辺りを包み込む。

そして光が収まる頃、春虎が目を開けると今度こそ、鵺の姿はその場から消えていた。




次回の更新も、遅くなるかもしれません…‥…‥申し訳ないです


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