デジモンアドベンチャー リライト (早野 ひろかづ)
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プロローグ



本編前の前座的な話です。



 空はとても青く澄んでいる。

 夏の太陽は、地上に蠢くものに光を浴びせてくる。

 暑くてとても作業などは出来ない。

 

 夏休みとはすばらしいもんだ。

 俺はそんなことを考えながら窓の景色を眺めている。

 

 

 

 俺は大学のサークル仲間(軽音部)と夏の旅行に来た。

 学校のミニライブが結構受けたので、打ち上げしようと先輩が言い始めたのがきっかけだ。

 その後、どうせなら皆で旅行に行こうという結論に至ったのだ。

 後輩二人と俺と先輩、合計四人で金をためて。

 

「やっぱこういうのはいいな!!」

「それさっきも言ってません?」

「……聞き飽きた」

 

 先輩の今日何度目かのセリフに後輩二人が突っ込みを入れる。

 今まで何回と見たこの光景。

 

 皆飽きないのかな、と思いながら俺はまた窓の外を見る。

 

「退屈なんですか?」

 

 声をかけられた。

 

 この子は後輩の鶴巻 るなだ。

 こいつはかなり饒舌でサークルのムードメーカー的な奴だ。

 

「そう見えたかな?」

「せっかくの旅行なんですからもっと笑いましょうよ!」

 

 自分では分からなかったが、退屈そうにしていたらしい。

 

「なんなら添い寝してあげましょうか?」

「いや、必要ないし」

 

 いきなりなんてこと言うんだお前は!

 

「なんだそれ超うらやましいんだけど!!」

 

 先輩も加わってきた!

 勝手に仲良く寝とけばいいじゃんよ!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 もう夜になった。

 どっと疲れた気がする……。

 こういう時はさっさと寝るに限る。

 

 そんなこんなで俺は今、布団を敷いている。

 まったく、誰も敷こうとしないなんて。

 自分の位自分で敷こうよ……。

 

「先輩……」

 

 声の聞こえた方に顔を向ける。

 そこには、るなの姿があった。

 

「どうかしたのか? てか先輩と真由香は?」

「お兄ちゃんとマカちゃんはお土産買ってくるって」

 

 あいつら人に布団敷かせといてお買い物かよ……。

 ちなみに、先輩はるなの兄貴で、真由香はあんまりしゃべらない後輩だ。

 

「それでね……、少し、話したいことが……」

 

 爆発。

 

 ドンともいう破裂音が、鼓膜を破らんばかりの轟音とも言える音が、聞こえた。

 

「なに!?」

 

 次に火災警報器が鳴るのが聞こえてくる。

 室温が急に上がってきたような気がした。

 まさかこれって……。

 

「火事?」

 

 俺の予想は当たっていた。

 焦げ臭い匂いがこちらの部屋まできた!

 このままでは死んでしまう!

 

「先輩……」

「大丈夫だ、落ち着け」

 

 自分にも言い聞かせるようにそう言った。

 汗で全身がべたついてきた。

 

「とりあえず、ドアを開けて早く逃げないと……」

 

 まだ外に出るのは間に合うかもしれない。

 

「うそ!?」

「どうした!」

「ドアが開かないんです!」

 

 俺が代わりドアを開けようとする。

 ガチャガチャと音は立てどもビクともしない。

 

 いくらドアを開けようとしても、一向に開く気配がない。

 たぶん、ドアの前をなにかが塞いでしまっているのだろう。

 

「煙が……」

 

 そうこうしてるうちに、煙が部屋に入ってきた。

 炎も近くまで来たようだ。ドアノブを熱くて触れなくなった。

 

 ここは四階だが、幸い、窓から二階建ての建物が見える。

 恐らく、飛び移れる。頭さえ打たなければ生きてるだろう。

 

「先輩? なにをする気ですか?」

「るな、バスルームで水を溜めろ」

 

 るなに飛び降りろなんて言えるわけがない。

 それなら、水の中にいる方がいい。

 

「それとハンカチ濡らして口に当てて、あとできるだけ低い姿勢でいろ」

「……はい」

 

 とりあえずはこれでいい。

 早く消防車が来てくれないかと願う。

 

 何もできない自分に腹が立つ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 確認するのも怖くてできない。

 浴槽に水は溜まった。その中にるなを入らせた。

 

 俺たちはどうしたらいいのか分からないままここにいる。

 飛び降りてみようとも思ったが、るなに止められた。

 

 だから今、俺たちは浴槽に浸かっている。

 これが最善であると思ったからだ。

 だが、これが本当に最善なのか。

 そんな考えが、頭から離れてくれない。

 

 

 

 

 

 何故だ?

 

 

 

 

 

 何か見落としてないか?

 

 

 

 

 でも、じゃあ、どうしたらいいんだ。

 

 

 

 

 

 これ以上いい方法あるのか?

 

 

 

 

 

 飛び降りたらいいのか?

 

 

 

 

 

 それは大きな賭けだ。

 

 

 

 

 

 もしかしたら、頭でも打ったら死ぬだろう。

 

 

 

 

 

 俺のけいさんが間違っていたら?

 

 

 

 

 

 きめられない。

 

 

 

 

 

 きまらない。

 

 

 

 

 

 だれか、おれに、こたえを、おしえてくれ。

 

 

 

 

 

 せいかいを……。

 

 

 

 

 せめて……。

 

 

 

 

 

 るなだけでも……。

 

 

 

 

 

 たすけて……やって……く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一話 転生者の自覚

二話投稿です。



 あーだこーだと悩んでるうちに俺は死んでしまった。

 

 

 

 炎の対策はしていたのだが、煙までは頭が回っていなかった。

 窓を開けていたらよかっただろうな。

 迂闊だったと思うよ。それよりはまぬけという方が適切かもしれない。

 

 

 

 るなは無事なんだろうか?

 

 

 

 いや、本当は分かっている。

 無事ではないだろう。

 炎ではなく煙で死んだんだ。生存は絶望的だろう。

 

 もっと俺がしっかりしていたら……。

 

 もっとちゃんとした知識があったら……。

 

 もっと冷静だったら……。

 

 

 後悔しても遅い。

 分かってはいるさ。どうしても……やはり考えてしまう。

 

 こんなことを考えている小学生は、傍から見てどう見えるんだろうか。

 

 少し気になる所だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 確かに俺は死んだ。

 だが、ただ死んだわけではない。

 

 転生……。

 確かそんなだったはず……。

 物語でよくあるあれだ。

 

 自分で経験するまでは、こんなこと有り得ないと思っていた。

 だが、俺は確かに生まれた。生まれ変わった。

 

 それだけならまだしも……。

 

 それからしばらくして、俺はある事件を目撃した。

 『光が丘爆弾テロ事件』というものだ。

 

 これだけでピンと来る人もいるだろう。

 そう、ここはデジモンアドベンチャーの世界だ。

 

 生まれたのが一九八八年なのでもしかしてなんて思っていた。

 それにしても、あれはすごかった。

 

 七歳になり、家族旅行的な感じで光が丘に来た。

 なんで光が丘なのかは分からなかったが、行かないとは言えなかった。

 

 そして、グレイモンとパロットモンだったか、それを見た。

 

 めちゃくちゃかっこよかった。

 本当にかっこよかった。

 

 生でデジモンを見ることができたのはとてもよかった。

 

 しかし、ここで気になることができた。

 

 俺は御台場小学校の一年生だ。

 恐らく、選ばれし子供達はお台場に来るだろう。

 

 原作に関われるのはとてもうれしい。

 だが、接触のし過ぎは良くないのではないだろうか?

 

 ストーリーの流れを大きく変えてしまわないだろうか?

 このままではまずい……。

 何としても原作に忠実にしなければ!!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そういうふうに俺は考えていた。

 俺はクラスでも地味であろうと頑張った。

 

 今は一九九九年だ。

 俺も小学五年生になった。

 

 正直舐めていた。

 太一は持ち前のリーダーシップというか、カリスマというべきか。

 隅っこにいた俺にいろいろよくしてくれた。

 

 恐らく本人は自覚がない。

 そこに空まで加わったのでもう逃げきれない。

 

 原作と少し変わってしまった……。

 だがまだ俺に勝機はあるぞ!

 

 デジモンアドベンチャーは、サマーキャンプから始まる。

 つまり、俺がサマーキャンプに行かなければいい。

 そうすれば、気づけば物語は終了だ。

 

 デジモンを見たいとは思うが、あと三十年ほどの辛抱だ。

 そうすれば、世の中にデジモンが溢れるほど来るだろう。

 

 そう思っていたさ……。うん。

 

「拓斗! 帰ろうぜ!」

 

 元気な声が俺の耳を刺す様にやってきた。

 声の主は太一だったようだ。

 

 ちなみに、今世での俺の名前は宮島(みやじま ) 拓斗。(たくと)

 

「ああ、そうだな」

 

 鞄を背負い、太一に付いていく。

 俺と太一はマンションが一緒だったのもかなり驚いた。

 なんで今まで気づかなかったんだろう。

 

「サマーキャンプ楽しみだな~」

 

 太一はサマーキャンプが楽しみでしょうがないらしい。

 それはなにより。というかそうじゃないと困る。

 

「拓斗もそうだろ?」

「いや、俺は行かないから」

「なんでだよ!? 行こうぜ!」

 

 俺が行ったら色々まずいんだよ!

 なんて言えない。言えるはずがない。

 

「で……でもなー」

「絶対おもしろいから!」

 

 これは行かないといかんかも……。

 

「分かった、行くよ」

「そうこないとな!」

 

 人の気も知らないで……。

 どうやら俺はもう少し忙しくなるらしい。

 だったら相当の準備が必要かな?

 

 

 なんだかんだで楽しみなのは否定しない。

 

 

 

 

 



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第二話 いざ! 冒険の島へ!

 さて、準備は万端!

 ……なんて言える状態にはならなかった。

 

 大体、サマーキャンプに行かない筈だったのに、太一に強引に誘われたから用意したのだ。

 全く、準備が捗らない。

 

 あれ? そういえばサバイバル道具の準備っていらなかったよな?

 どうしてか忘れたけど。いらなかった気がする。

 

 だったら他の事をすべきか……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 サマーキャンプ当日。

 特に問題なんてないと思っていた俺がバカでした。

 吹雪が来るの忘れてた……。

 太一の誘いに乗るんじゃなかった。

 

 俺は太一達七人と一緒に蔵の中に入っていた。

 

 アニメは普通に見ていたんだが、結構覚えてないもんだ。

 だが、ここから先は大体覚えているから大丈夫。

 

 先程の吹雪に驚いていた皆だったが、それが止むとすぐ外に出ていった。 

 

 

「やっと止んだみたいだな」

 

 太一が嬉しそうに外へ駆け出す。元気っていいね。

 

「わ~! 雪だ! すご~い!」

「おいタケル、気をつけろ」

 

 タケルとヤマトも外に行ってしまった。

 ヤバイぞ……。どんどん物語が進んでしまう……。

 

「寒いわね……。夏とは思えない……」

 

 当然だよ。異常気象だし。

 空は身震いしながら外に出て行った。にしても寒いな。ホント。

 

「早く大人たちの居るキャンプ場に戻ろう!」

 

 丈さんが帰還を提案している。

 ここはそれに賛同し、自分はさっさと帰ればいいのでは?

 

「そうですね。帰りま――」

「なにあれ? きれーい!」

 

 後ろからの声に遮られてしまった。それは可愛らしい声だった。

 その声は丈さんの提案は無かったことにし、俺の帰りたいアピールも一緒にかき消されてしまった。

 

 ミミちゃんがここで出てくんの忘れてた……。

 

 まだ光子郎がパソコンを起動させているが、ここにいてもあまり意味はないな。

 仕方ない。外に出てみようかな。

 

 とりあえず俺は蔵から出た。

 そして、そのすぐあとに俺はオーロラを見た。

 

 うん。オーロラだよ。オーロラ。

 日本じゃ見ることなんてできないあのオーロラだよ。

 

 ミミちゃんがロマンチックだとか言ってるが、ロマンどころではない。

 日本では見れない自然現象の出現。

 異常気象怖い、……くらいは考えていただきたい。

 

「おい! あれなんだ?」

 

 太一の声で皆が注目する。

 

 彼の指した先、そこには黄緑色をした渦巻が現れていた。それはオーロラの奥にあり、反時計回りの渦に見える。

 

 渦の中心には光を覗かせており、奥は映らない。これはもしかして……。

 

「やばい!」

 

 間違いない。ここはデジヴァイスが落ちてくるシーンだ!

 まだ間に合うかもしれない。

 巻き込まれる前に早く逃げないと!

 

 そう考えるには少し遅かったみたいだ。

 渦の中にあった光は分裂し、こちらに側に飛来する。

 

 その光の数は八。それはここにいる全員の人数と一致している。

 

「うわ!!」

 

 皆の前にデジヴァイスが出現する。やはり間に合わなかったか……。

 事態はこれだけには留まらない。。

 俺に飛んできた光もまた、デジヴァイスの光だった。

 

 何故だかは知らない……。

 俺以外の七人しか選ばれてない筈だろ?

 八人目はまだ居ない。これで合っているはずだ……。

 その筈なんだ……。

 

 

 これは、俺のデジヴァイス……?

 喜んでいいものだろうか……?

 いや、良くない!

 

 次の瞬間、また物語は進みだす。

 巨大な波がやって来たと思ったら、波は割れた。

 割れ目からはとてつもない力で引き寄せられる。

 

「マジかよ!!」

 

 恥ずかしながらくるくる回って波にのまれました。

 まさか、自分もあんな感じでくるくるする羽目になるとは……。

 

 ここで俺の意識が途切れる。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ひどい目に合った……。

 来て早々、木に引っかかっているとは思わなかった。

 

 なんとか生きているみたいだ……。

 二度目の転生はないかもしれないからな。慎重に生きていかねば。

 

 それにしても頭が痛い。

 起きてからは胸やけみたいな感じがする。まるで二日酔いみたいだ。

 だが、体調は悪いが動けない訳じゃない。

 

 パッと辺りを見渡してみる。

 俺の目前にはジャングルの木が、耳には何かの鳴き声が聞こえてくる。

 クワガーモンじゃなかろうな?

 

 うろうろしてたら俺のパートナーが出てくるかと思ったが、一向に現れる気配がない。

 

 当然だよね。俺、選ばれて無いんだもんね!

 ……泣いてないし。

 

 不貞腐れながら歩いていたら、ヤマト達と合流した。

 ヤマト達は状況の整理をしており、早くもこの環境に順応し始めていた。

 

 小学生のはずなのに、なんかすごく頼もしいく感じてしまう。

 俺の方が年上なのにね。

 

 俺は知っているのだが、ツノモン達の事を聞いておいた。

 特に変わった点もなく、ここはやはり、デジタルワールドのファイル島であることが分かった。

 

 その確認のすぐ後に、太一達があわててこっちに走ってきた。

 まさか、クワガーモンが来たのか?

 少し早い気もするが……。

 急いで皆と逃げないと……。

 

「みなさん! 無事ですか!?」

「ああ、そっちも無事みたいだな」

 

 太一達は怪我なんかもしていないようだし、一安心だ。

 

 そんなことを考えていると、男の悲鳴が聞こえてきた。

 声の正体は丈さんで、こっちに向かって走ってる。これも原作通りだ。

 

 彼はかなり取り乱してるみたいで、自分のパートナーを変な奴呼ばわりしている。

 

 いや待てよ?

 元から知ってる俺はともかく、他の皆は初めてのことだらけなのに、意外と冷静だ。

 もしかして、おかしいのは俺達の方かもしれないな……。

 

「なんだコイツら!? 一体!?」

 

 丈さんは悲鳴に近い声でそう叫んだ。

 その問いに彼らはこう答える。

 

「ぼくたちデジタルモンスター!!」

 

 

 

 

 



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第三話 急襲! クワガーモン

できるだけアニメみたいなサブタイトルを付けたいなって思ってました。
上手くいかないんですけどね。


 

「デジタルモンスター?」

 

 彼らは、デジタルモンスター。通称デジモン。

 この世界の、デジタルワールドの住人。

 

 もちろん、ここにいる七人の子供たちは知らない。

 俺だけが知っていることだ。

 

「ぼく、コロモン」

「ツノモンです……」

 

 デジモン達の自己紹介が始まった。

 やはり、それぞれ喋り方や振る舞いなんかがアニメの時と同じだ。

 といっても、あんまり覚えてないけど……。

 

「オレは八神太一。お台場小学校の五年生だ」

 

 ここらへんも多分、同じだと思う。

 全部覚えているわけじゃないし、今となっては確認のしようがないけど……。

 

 こうなるんだったらもっとアニメ見とけばよかった。

 

「それで、こっちが同じクラスの拓斗」

「宮島拓斗。よろしく」

 

 俺が居ても話がちゃんと進んでいく。

 このことに少し驚いてしまう。

 

 一人増えた程度じゃ問題ないのか?

 だったらあまり気にしなくてもいいのか?

 

 いやいや、冷静になるんだ俺。

 油断してたら意外とアッサリ死んじゃうような世界だぞ……。

 

 もしも太一達と別行動なんてしたら……。

 

 ……よし! できる限りアニメに忠実に行動しよう!

 そうすれば、きっと安全だ!

 

 

 二回も死にたくないわ! 

 

 

「これで全員だっけ?」

「待って……。確かもう一人……」

 

 俺が一人悶々としている間に、話は進んだみたいらしい。

 なんか一人足りないんだとかなんとか。

 

「ミミさんが! 太刀川ミミさんが居ません!」

 

 そうそう、ミミちゃんだ!

 あれ? ミミちゃんって何年生だっけ……。

 三年生だったかな?

 

「そうだ、四年生のミミ君だ!」

 

 四年生だった……。

 主要人物の学年も忘れるなんて……。

 

 ま、まぁあれだ。五年生以外とはまったくと言っていいほど面識がないし、同然なんだけどね!

 

 ……これからがとても不安になった――。

 

「きゃああ!」

 

 そのとき、女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 たぶんミミちゃんだ!

 

「行ってみよう!」

 

 俺達は悲鳴のした方角に向けて走り出した。

 

 あれ?

 皆、足速くないか?

 

 俺はすぐに最後尾になってしまった。

 

「ミミちゃん!」

 

 彼女は泣きながらこちらに駆け込んだ。

 

 その後ろからはガサガサと木々が強く揺れ、倒れていく。

 この独特な鳴き声には聞き覚えがある。

 

 間違いない――。

 

「クワガーモンだ!」

 

 クワガーモンはこちらに向かってくる。

 

「うわぁぁ!」

 

 クワガーモンは俺たちの頭上を飛んで行った。

 その風はすさまじく、尻もちをつくところだった……。

 

「ミミ、大丈夫?」

「タネモン……」

 

 どうやら全員、無事らしい

 

 それにしても、実物はかなり怖い。

 想像以上に生き物っぽくて、不気味だった。

 

 奴が飛んで行った後にはスッパリと切れている木々が残っていた。

 あのハサミ、とんでもなく鋭いらしい。

 

 当たったらヤバイ!

 

「また来るぞ!」

 

 クワガーモンが戻ってきた。

 とにかく、逃げないと!

 

「クカカカ!」

 

 振り返れば、独特な鳴き声と共にあいつが追いかける!

 こんな事なら、もっと走る練習しとけばよかった!

 

「伏せろ!」

 

 ヤマトの合図で一斉に伏せると、あいつがすぐ上を通過した。

 旋回はすぐに出来ないようで、木を伐りながらそのまま飛んで行ってしまった。

 

「な、何なんだこれは!? 一体ここはどういう所なんだ!?」

「またくる!」

 

 泣き言を言ってる暇はない。

 クワガーモンがまたこっちに飛んで来る。

 また、逃げないと!

 

「くそっ! あんな奴にやられてたまるか!」

「太一、無理よ!」

「そうだ! 俺達には何の武器もないんだぞ!」

 

 ここは二人の方が正しい。

 今のままでは勝ち目はない。

 

「ここは逃げるしか!」

 

 また俺たちは逃げる。

 しかし、クワガーモンは少しずつ距離を詰めてくる。

 追いつかれるのも時間の問題だ……。

 

「あっ!」

 

 逃げ続けてしばらくたったが、もう逃げられない。

 目の前に崖が迫って来たからだ。

 

「こっちはダメだ! 別の道を探すんだ!」

「別の道って……!?」

 

 今から別の道を探す時間なんてない。

 それに奴はすぐ後ろに――。

 

「クカカカ!」

 

 羽音が聞こえるほど近くにやって来たあいつは、俺たちの頭上を通過した。

 伏せていたから大丈夫なのは分かっているんだが、かなり怖い。

 

 クワガーモンはそのまま飛んで行ってしまった。

 

「今のうちに……!」

 

 そう思っていた矢先。

 クワガーモンが方向転換を終え、太一に向かって飛んで来た!

 その速度はさっきよりも速い!

 

「タイチ!」

 

 コロモンがクワガーモンに向かって飛び込む。

 泡を吐きだしたが、それは奴に当たりはしなかった。

 

 コロモンは奴に弾き飛ばされてしまった。

 やはり幼年期じゃだめなのか……。

 

「コロモン!」

 

 クワガーモンはそのままこちらに突っ込んできた。

 このままじゃやられる!

 

「あぁ!」

 

 死んでしまうかも。そう考えてしまった時、クワガーモンは俺達を通り越して木に激突した。

 再び飛んでくる様子はなく、辺りは静まり返った。

 

「助かったのか……?」

「ピョコモン……」

 

 辺りを見渡すと目の前には倒れたデジモン達。

 恐らく、クワガーモンがこっちに飛んできた際に、泡を吐いて撃退したんだろう。

 

 しかし、彼らは幼年期だ。

 いくら大勢いるからと言っても、成熟期相手に無茶をし過ぎだ。

 皆ボロボロになってまで――。

 

「クカカカ!」

「なんだ!?」

 

 奴は木を押しのけながら帰ってきた。

 やはりこのままだとマズイな……。

 

 ハサミを鳴らし、クワガーモンはこちらに向かってくる。

 

「あいつ、まだ生きてやがった?」

 

 ドスン、ドスンと、一歩ずつ。距離を詰めてきている。

 

「くそ、このままじゃ……」

 

 皆が諦めかけたその時。

 

「いかなきゃ……」

「え……?」

「ぼくたちがいかなきゃ。ぼくたちが、戦わなきゃ、いけないんだ!」

「何言ってるんだよ!?」

 

 コロモンが戦おうと起き上がる。無論、それを太一は止める。

 しかし、戦おうとしているのはコロモンだけではなかった。

 

「そうや! ワイらはそのためにまっとったんや!」

「そんな……!?」

 

 一人、また一人と起き上がる。

 

「いくわ」

「無茶よ!」

 

 その目には諦めという言葉はないだろう。

 

「あなた達が束になっても、あいつに敵うはずないわ!」

 

 そうだ、きっと勝ち目はない。

 それでも、彼らは立ち向かう。

 

「でもいかなきゃ!」

「ぼくも!」

「おいらも!」

 

 自分のパートナーを守らなければという本能なのか。

 それとも……。

 

「タネモン……。あなたも?」

「うん……」

 

 遂にコロモン達は皆起き上がった。

 俺はこの時に幼年期である筈の彼らの後ろ姿がとても頼もしく思えた。

 

「いくぞ!」

 

 コロモンの言葉と共に、彼らは一斉に飛び込んだ!

 

「コロモーン!!」

 

 

 

 ――その瞬間、光が辺りを包んだ。

 

 

 

「コロモン進化!」

 

 それは進化の光だった。

 

「アグモン!」

 

 進化は一瞬だった。

 彼らは幼年期ではなく、成長期になった。

 

 

 クワガーモン、覚悟しろよ。

 さぁ、反撃開始といこうじゃないか……。

 

 

 

 完全に他力本願なわけだけども。

 

 

 

 

 



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