世の中クソだな in ダンまち (アレルヤ)
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1話

 エイナ・チュールは怒っていた。

 

 ダンジョンを運営管理する『ギルド』の受付嬢のハーフエルフ。

 それがエイナという女性であった。

 

 パリっと整ったギルドの制服に身を包み、そこにはしわひとつ見受けられない。

 短く切りそろえられたブラウニーウッドの髪は、艶がありしっかりと手入れがされていることが解る。

 

 その佇まいは真面目なギルド職員そのもの。

 

 実際に彼女は自他ともに認めるほど、職務に忠実で非常に真面目なハーフエルフだった。

 堅実な仕事ぶりは、他のギルドの職員からの評判もよい。

 親身に相談に乗り、的確なアドバイスを行ってくれる事から、冒険者達からも人気が高い。

 

 面倒見が良く、仕事もできる。

 そんな彼女は、目を吊り上げて息巻いていた。

 

 「……リア」

 

 「はい、なんで……ひっ!?」

 

 見知った仕事仲間を呼び止める。

 リアと呼ばれた少女が、エイナの顔を見て真っ青になる。

 

 「え、あの、その、わ、私、何か、間違いを」

 

 「別にあなたに怒っているわけではありません」

 

 「え、じゃ、じゃあ」

 

 戸惑い気味に疑問の意を表したリアに、エイナは怒りを圧し殺して尋ねた。

 

 「アダチさんがどこにいったのか、知っておりますか?」

 

 ああ、アダチさん。またですかー。

 

 リアの恐怖が、氷が溶けるように消えていく。

 原因が自分では無いことに安堵し、同時にここにはいない同僚に呆れた。

 よくもまぁ、ここまで彼女を何度も怒らせて懲りないものだと。

 

 「えーと、またですか?」

 

 「またです。それで、ご存知ですか?」

 

 「す、すいません。私は知りません。でもお昼休みの後から、ギルド内では見かけておりません。もしかしたら外に出ておられるのかと……」

 

 「……ありがとうございます」

 

 声がまた一段と低くなったエイナ。

 怒気を漂わせながら、歩き去っていくその姿を見送った後。

 話をこっそり盗み聞きしていた同僚の一人が、リアに恐る恐るといった様子で声をかける。

 

 「えーと、アダチさん。またなの?」

 

 「は、はい。そうみたいです」

 

 すると同僚が、大きくため息を吐き出す。

 

 「あの人も本当に懲りないよね。それにエイナだって真面目すぎ、いい加減に放っておけばいいのにさ」

 

 まぁ、エイナも意地になっているところがあるよね。

 そう言って苦笑する同僚の姿に、リアも乾いた笑いをこぼしながら頷いた。

 

 エイナはそんな事などつゆ知らず、有無をいわさずに外出許可を取ると、ギルドの外へ踏み出す。

 

 女は怒ると非常に怖い。美人であれば尚の事。

 というのはどこに行っても、通じる普遍的な真理であるが、容姿端麗なエイナもまたその例に漏れなかった。

 屈強な冒険者達が、顔をそむけて自ら進んでエイナの為に道を開けていく。

 

 多くの怯えた視線を向けられていたが、怒りに燃えるエイナはまったく気がついていなかった。

 

 恐らくはそこまで遠くには行っていないだろう。

 ギルドの周辺にある屋台で、お茶でも啜っているに違いあるまい。

 そう目処をつけていたエイナは、周囲を行き交う人へ男の情報を尋ねる。

 

 彼らも既にアダチという男と、エイナの追っかけっこを十分に理解しているのだろう。

 またかい、と慣れたように対応する。すぐに角の店に彼がいる事が解ってしまう。

 そこは男の行きつけ、サボり先とも言える茶屋であった。

 

 また、あそこですか。

 エイナが思わず笑みをこぼすと、その情報を話した獣人は、怯えた様子でそそくさとその場を離れる。

 

 それから時間にして数分と経たずして、件の茶屋に到着。

 エイナが目線を彷徨わせていると、すぐに目的の男が視界に入った。

 

 

 「……いた」

 

 男はギルドの制服を身につけたまま、椅子にゆったりと腰掛けて、ぼうっと空を眺めていた。

 丸机には茶器と、何も乗っていない皿が一つ。茶菓子でもあったのだろうが、既に食べ終えているのだろう。

 

 さらに怒りのボルテージが上がる。

 まるで東方に存在するシノビのような足運びで、ゆったりと男の背後に立つ。

 そしてエイナは氷のような笑いを浮かべると、冷え冷えするような優しい声をかけた。

 

 「アダチさん」

 

 男は、その声に大きく肩を跳ねる。

 数秒の後、恐る恐るといった様子で。ゆっくりと、油の切れたブリキ人形のように背後へ振り向いた。

 そこには目の奥に怒りの炎を燃やしたエイナの姿をが。

 

 「あ、あはは……ええと」

 

 「随分とまぁ、寛いでいるようですね」

 

 視線を右往左往させる、東方風の顔立ちをした男性。

 この男こそ、アイナが探していた『アダチ』なる人物であった。

 

 「うん、エイナちゃんもお茶を飲むかい?ここは年上として奢ってあげるから」

 

 「へぇ、そうやってごまかすつもりですか」

 

 「い、いや、別にそんなことはないんだけどね」

 

 周囲は何があったとのかと二人へ顔を向ける。

 だがそれがエイナとアダチであると判れば、いつものかと言った様子で興味を失う。

 この街では、既に珍しくもない光景になっていた。

 

 「あ、あはは。ほら、一応仕事は全部終わらせたからさ。ほんの少しの休憩を楽しみたいっていうか」

 

 「そうなんですか。ですがまだアダチさんの就業時間は終わっていないはずですが」

 

 背を丸めて髪をかくアダチに、エイナは苛立ちが募っていく。

 困ったと言い訳を考えているのかもしれないが、困っているのは私だ。

 もう何度目になるのか、このどうしようもないやりとりは。

 

 「アダチさん、ギルドに戻りますよ。みっちり、ええ、それこそみっちり今日は仕事をして頂きます」

 

 「いや、今日の僕の仕事はもう無いっていうか」

 

 「ご安心を、ちゃんと私が掛けあってご用意して差し上げますから」

 

 苦い薬を噛み締めた顔に変わったアダチの手を取ると、ギルドへ引っ張り連れ戻す。

 アダチはああだこうだと口を動かしているが、エイナはその一切を聞き流しながら、歩みを止めることは決してなかった。

 

 その日の夜。

 煤けた背中をさらしながら、アダチは疲れきった様子で帰路につく。

 帰り際に同僚たちにからかわれ、今日あったアイナとの遣り取りを揶揄されたためか、余計に疲れてしまっていた。

 

 この迷宮都市『オラリオ』は、昼間とはまったく違った顔を夜に見せる。

 明かりを灯すいくつもの酒場からは、酔った男女の喧騒が外にまで響き渡る。

 路上では酔った冒険者達が険悪な雰囲気になっていたり、酔いつぶれた獣人が大イビキを発しながら寝ている姿もあった。

 

 アダチは下手に絡まれぬよう道の端を歩きながら、そんな光景を冷めた目で見つめていた。

 ポケットに手を突っ込みながら、眠たげな瞳は一つ一つの夜のオラリオを捉えていく。

 

 「……はぁ、何やってんだろうねぇ。僕はこんなところでさ」

 

 その問いかけは、いったい誰に向けたものであったのだろうか。

 

 アダチはギルドの紹介で住まわせてもらっている、集合住宅の自分の部屋にたどり着く。

 扉を開けると、そこにあったのはベッドと机、それに数着の私服。必要最低限の物しか無い、飾り気の一切ない部屋。

 

 軽く水で自分の体を拭った後、アダチは黒パン一つを食べると、明かりを消してすぐにベッドに横になる。

 暗い中、誰もいないこの部屋で一人目をつむっている。

 そうすると嫌でも今日もまた、目をそらし続けた事実と向き合わざるをえない。

 

 何度、これが夢だと思ったのか。何度、起きたらあの牢の中で目を覚ますと思ったか。

 しかし何度こうして目を瞑り、朝の光で目を覚ましても、自分がいる世界は変わっていない。

 『アダチ』はここオラリオのギルド職員として、これからも、ずっと生きていくことになる。

 

 むっくりと、ベッドの上で背を起こす。

 狂気の光を瞳に宿し、手を握りしめ、開く。

 

 一枚の、禍々しく光を発するカードが浮かび上がった。

 

 アダチはそれを胡乱な目で見つめていたが、やがて大きなため息を吐き出す。

 つまらなそうに手を振り払ってカードを消した。

 

 「ダンジョンがあろうが、神様がいようが、冒険者や獣人やエルフがいようが、結局―――」

 

 ベッドに身を預けながら、頭の後ろに腕を組む。

 意識がゆったりと落ちていくことを感じながら、アダチは気だるげに呟く。

 

 「―――世の中クソだな」

 

 それは悲観的なものではなく、どこか空虚な言葉であった。



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2話

 「アダチさん、その髪は何ですか?」

 

 エイナは頬を引き攣らせながら、目の前の男を睨む。

 厳しい視線を受けたアダチは、困ったように頬をかきながら、曖昧な笑みを浮かべた。

 

 「何って……髪だけど?」

 

 「ええ、寝ぐせまみれの髪ですね」

 

 「……いやぁ、そのさ、朝はやっぱり忙しいでしょ?それでどうしてもね」

 

 「ええ、そういうこともあるでしょうね。ですが毎日毎日、髪に寝ぐせがあるのはどうしてですか?」

 

 苦笑いを浮かべるアダチに、冷めた顔でそれを見つめるエイナ。

 ギルドにおいては、最早見慣れた光景であり、日常ともいえるものであった。

 

 周囲の職員たちも、最初はアダチとエイナの喧騒にあたふたとしていたものの。

 毎日飽きること無く繰り返される光景に、やがて「ああ、いつものか」と慣れてしまったのだろう。

 エイナとアダチの横を興味を持つこと無く、チラリと見ては通り過ぎて行く。

 

 「ともかくッ!ちゃんと寝ぐせを直して来てくださいね」

 

 「そうだね、うん、検討するよ」

 

 「実行してくださいッ!」

 

 「あ、そろそろ仕事場にいかないとさ、ほら」

 

 逃げ出すかのようにその場を後にするアダチに、エイナはまるで威嚇する犬のように、小さな唸り声をあげたのであった。

 

 『ギルド』。

 それは迷宮都市オラリオの管理機関である。

 

 冒険者の登録といった役所的な役割から、迷宮から回収される魔石の利益管理まで。

 さらにはダンジョンの情報提供や、未熟な冒険者へのサポートなど、実に幅広い役割を担っている。

 言ってしまえば、このギルドは行政機関そのものであり、街の中心であった。

 

 エイナはギルドの受付、かつ冒険者のサポートや相談が仕事。

 一方でアダチは事務仕事等を行う、完全な裏方であった。

 

 ようやくエイナと離れることができたと、疲れた様子でアダチは所属する部署の扉を開ける。

 

 「おぉ、アダチ。おはよう」

 

 「また朝から派手にエイナさんに言われてたようだな」

 

 軽い挨拶とばかりに、同僚から飛ばされるやじ。

 

 顔を顰めながら放っておいて欲しいと言うと、カラカラと笑いながら彼らは仕事に戻っていく。

 まったくやになるなぁとボヤきながら、アダチは自分の机にカバンを置く。

 そして疲れた老人のように椅子に深く座り込み、あくびをして書類を手にとった。

 

 「お、おはようございます」

 

 女性の声に首を動かすと、書類を抱えた職員の姿があった。

 青色の髪を後ろにひとまとめにした、気の弱そうな、まあ美人。

 確か彼女は他部署の職員であるはずだが、何か用があったのだろうか。

 

 「そ、その、これ、私のところで分かる人がいなくて。それで、アダチさんならって」

 

 差し出される資料の束。

 明らかに自分の管轄ではないそれに、思わず顔を僅かばかり顰めてしまった。

 

 それが悪かったのか、気の弱そうな女性職員は肩をびくっと跳ね上がらせる。

 そしてついには目の端に涙を浮かべ始めた。

 

 あ、これは不味いな。そう思ったところで感じる周りからの視線。顔をゆっくりと動かす。

 

 野郎職員からは、てめぇ美人に話しかけられ、挙句に泣かせやがってという嫉妬の視線。

 女性職員からは、女の子を泣かせるとか酷いわねという冷たい視線。

 

 「あ、ごめんね。ほら、自分は朝が弱くてさ。ちょっと貸してくれるかい?」

 

 ひったくるようにして、書類を受け取ると、パラパラと見流していく。

 

 たくさんの数字が翻る書面を見ながら、アダチは「ここと、ここが計算間違っているね」と指摘を重ねる。

 そのまま手元の紙で計算式を書き出すと、正しい数値を割り出して記入。

 

 これで問題はもう無いよ、放るように差し出した。

 女性職員はオドオドといった様子で受け取り、目を見開く。

 そのまま何度も頭を下げ、御礼の言葉を言って嬉しそうに去っていった。

 

 アダチは胡乱な目でそれを見送った後、肩を鳴らしながら自らの仕事にとりかかる。

 気だるげに仕事を済ませていくアダチに、先ほどの光景を見つめていた同僚の一人が声をかけた。

 

 「あれ、会計課の資料だろ?お前よくわかったよな」

 

 「……はぁ。まぁ、そのね。何となくやったらできたみたいな、ね?」

 

 なんじゃそりゃ、そう言って笑う。

 

 「お前、記憶喪失って言ってるけどさ。やっぱりあれじゃない?名の知れた商家の息子だったんじゃないか」

 

 興味のままに飛び出た言葉。

 しかし彼はいけないとすぐに口をつぐむ。

 

 「すまん、忘れてくれ。あんまりいいもんじゃないよな」

 

 「……いや、別に。忘れた過去より生きる今ってね」

 

 飄々と変わらない様子に、安心したのか。

 その同僚は今度昼飯でも奢るよと改めて謝罪した後、仕事に戻っていった。

 

 「生きる今……ねぇ」

 

 何かを思うように呟くアダチ。

 普段の軽薄な様子とは打って変わって、その顔には一種の感情が浮かび出ていた。

 握られたペンが、軋んで悲鳴の音を上げる。

 

 「おい、アダチ。ちょっといいか?」

 

 「へ?ああ、何ですか先輩」

 

 そう言って席を発ったアダチには、先程まであった剣呑な様子が一切感じられなくなっていた。

 普段と変わらない、どこか抜けている覇気のない雰囲気と共に、アダチは上司の下へと向かった。

 

 トオル・アダチという男は記憶を失っている。それはこのギルドで周知の事実であった。

 見慣れない生地の衣服を身につけ、気がつけばダンジョンの低階層に、たった一人で倒れていたのだという。

 

 通常ではありえないことだった。

 魔物から身を守るための武器や防具を装備しておらず、さらには着る物以外何一つ持っていなかったのだ。

 

 幸いにも魔物に見つかる前に、人が良い冒険者に発見されたからいいものの。

 通常であれば魔物に殺されるか、素行の悪い冒険者に身ぐるみを剥がされて捨て置かれるか、そのどちらかであっただろう。

 

 ギルドに運び込まれてからも、彼の存在にはいろいろな推測が飛び交っていた。

 

 体の線が細く、さらに神からの恩恵を受けていない彼は冒険者ではないだろう。

 身なりが整っており、しっかりとした布地の服を着ていることから、恐らくどこかの商家の息子が、興味本位でダンジョンに潜ったのではないかと言われていた。

 

 実際、そのような無謀極まりない人間は後を絶たない。

 いくらギルド側が目を見張っていても、その隙をつこうとするものはいくらでもいる。

 誰かが手引したのだろうか、ともかく起きた後に話を聞かなければどうしようもないだろう。

 ギルド職員たちはそう考えて、彼が起きるのを待った。

 

 だが本当の問題は、男が起きてからであった。

 

 亜人や獣人の存在に驚き、ギルドの存在に首を傾げ、ダンジョンの存在に笑い、神の存在に目を見開いた。

 さらには文字を理解できず、大陸や国の名前、この世界の常識ともいえる知識を知らないという。

 

 男は自身の名前が「トオル・アダチ」ということ以外、この世界のありとあらゆる知識を失ってしまっていたのだ。

 

 「そういえばさ。アダチさんが記憶を失ってから、もうすぐ一年は経つよね」

 

 ふと気がついたように、隣で受付の業務を行っていた女性のギルド職員から、そのような言葉が飛んできた。

 エイナが顔を向けると、感慨深そうに当時の事に思いを馳せている。

 

 「ギルド側はもうほっぽり出すつもりだったけどさ。エイナが必死になってアダチさんを庇ってあげて、身元引受人にまでなって」

 

 ニヤニヤと笑いながら、さらに続けて口を開く。

 

 「文字やら何やら、全部教えたのもエイナでしょ?はっきりいって、どうでも良かったらそこまでしないよね?ほらほら、お姉さんにちょっと本音を語ってみたら?」

 

 明らかに妙な事を考えている同僚に、エイナは呆れてその頭を小突いた。

 

 「目の前に困っている人がいたら、出来る限り力になるのは当然じゃない。貴方が考えているようなことは何もありません」

 

 「え、なにそれつまんない」

 

 「うわっ、こいつマジか」と言わんばかりに、顔を引き攣らせる。

 

 他人の色恋沙汰に関する話は、女性にとっては大好物であることが多く、このギルド職員もその例に漏れなかった。

 特に目の前のハーフエルフの友人は、綺麗な割にまったく浮いた話がない。

 ついでに、本人もまったくそのことを気にしていない様子であった。

 

 だからこそ、アダチとの関係に期待している自分がいたのだが……。

 

 「いや、でもさ。あれだけ毎日アダチさんに世話やいてるじゃない?」

 

 「身元引受人として当然です。彼が一人前になるよう、最善を尽くすのが何かおかしいことですか?」

 

 「そ、それにしては接する回数とか、態度がさ」

 

 ね、とひと押し。

 すると何か考えるところがあったのか、豊満な胸の下に腕を組んで考えるエイナ。

 やがて思い至ったのか、「ああ、なるほど」と納得する。

 

 「犬……かなぁ」

 

 「……は?」

 

 「ほら、お腹を空かせて鳴いている野良犬を見ると、一生懸命助けてあげないと……みたいな。ほら、アダチさんて、どこか犬に似ていませんか?」

 

 ああ、なるほどね。駄目だこりゃ。

 

 持ち前のお節介焼きと、頼りないだめ男好きを、何をどうなってか二つ合わせて拗らせてしまったらしい。

 本人は間違いなく否定するだろうが、自分ではなく他人の方が解ることもあるのだ。

 

 「ま、いいけどさ。でもアダチさん、あれでも人気あるのよ?」

 

 「まーた話を盛って」

 

 「いやいや、本当なんだなぁ。これがさ」

 

 一年間も同じ職場で働けば、トオル・アダチがどのような人間なのかは周りもわかってくる。

 

 本人は「優秀なギルド職員」を自称しているが、お調子者でおっちょこちょい。

 いい加減なところも多く、気を抜けばよく仕事を抜け出す。制服にはいつもシワが残っている。

 

 そのために頼りない男と思われがちだが、実際のはそれだけではない。

 文字を僅か一ヶ月で覚え、口を開けば弁も立つことから頭は悪くない。

 仕事も最初の三ヶ月は、それこそ四苦八苦していたものの、今では他の部署の仕事まで見れるほど要領が良い。

 

 「あの人はあんな性格だけど、意外といい相談相手になってくれるって人気なんだよ。話すのが上手いっていうかさ」

 

 「誤魔化すのが上手いってことじゃないですか」

 

 「それも話し上手の一つだよ。実際、最近は交渉事もいくつか任されているらしいじゃん。上司との仲も悪くないしさ。買いって思っている子も多いよ」

 

 エイナは眉を顰めた。

 彼女はやや浮かれ気味にアダチのことを、非常に高く評価している。

 いや、事実彼女の言うことに間違いはない。

 

 処世術に長けているというべきか。

 能力も有り、口も達者。皮肉交じりなところもあるが、基本的には誰でも受け入れる鷹揚さを持ち合わせていた。

 

 我が強い者には、どうしても肩肘を張ってしまいがちになる。

 だが、アダチのように抜けていて砕けていると接しやすく話しやすい。

 そういうところも、彼の美点の一つとして、周囲に受け入れられていることは分かっている。

 

 だが……。

 

 「私は、アダチさんのあの振る舞いは好きじゃないかな」

 

 エイナは、決してそうは思っていなかった。

 普段らしからぬ様子に驚いた女性職員は、目を見開いてエイナを見つめる。 

 自然に飛び出してしまった言葉だったのか、エイナ自身も驚きを顔に浮かべた。

 

 数瞬の間。

 常に明るさと前向きな態度を崩さないエイナが、その時ばかりは顔を暗くして俯いた。

 心配した同僚が、気遣いの言葉をかけるも反応が悪い。

 

 「え、えーと、エイナはどうしてそう思うの?」

 

 「それは……」

 

 そこから先の言葉は生まれなかった。

 それを言ってしまえば、これまで自分がアダチと共に築き上げてきた何かが、あっという間に崩れ去ってしまう気がしたからだ。

 

 エイナはそれを恐れてしまった。

 

 重い沈黙がしばらく続く。

 エイナは躊躇いがちに口を開く。しかし、続く言葉は出なかった。

 彼女を信頼する冒険者が、彼女の下へと訪れたからだ。

 

 「エイナさん、お疲れ様です」

 

 「……あ、ベルくん」

 

 「おーい、ちょっといいか?」

 

 「ん、お疲れ様でーす。本日はどのようなご用件で?」

 

 それは、となりでエイナの言葉を待っていた女性職員も例外ではない。

 先ほどあった時間の余裕が嘘のように、多くの冒険者が受付へ押しかけてくる。

 

 目の前の冒険者をサポートするために、一人一人親身に相談にのっていく。

 エイナは、先ほど自分が考えてしまった事を振り切るように、普段以上に仕事に力を入れる。

 しかし、それでも拭いきれぬ言いようのない、もやもやとした感情は心に残ってしまう。

 

 『もしかしたら、アダチさんは私を、私達を信用していないのかもしれない』

 

 その言葉を飲み込み、心の奥に押しのけるようにして。

 エイナはいつも通りの姿を演じて、その日も立派にギルド職員としての義務をなし終えた。

 

 その何かに苦悩する姿が、どこかアダチと同じモノであることを。

 エイナが気がつくことは、最後の最後まで無かった。

 

 迷宮都市オラリオは、いくつもの顔を持つ。

 南北のメインストリート近辺。その第三区画から第四区画にまで広がっている『歓楽街』も、オラリオが持つ黒き一面であった。

 

 冒険者は、命を削って金を得ていると言っても過言ではない。

 迷宮に潜り、数多の魔物と相対し、時には同業者すらも出し抜いて生と金を掴む。

 見返りは、賭ければ賭けるほどに、命を削れば削るほどに大きいのは知っての通り。

 

 自身の冒険者としての名誉と結果を表す者の一つが、膨大な『金』であった。

 それを誇示するかのように、装備や衣服、趣味等に多大な金銭を費やす事は、冒険者の一種の美徳として考えられている。

 

 酒、女もまたしかり。

 生を賭けて金を掴みとるからこそ、生に金を還元することは人の世のコトワリである。

 

 ここには東方・砂漠といった様々な文化が融合した、オラリオでも珍しい外観の建物が並び立つ。

 扇情的な格好をした女が行き交い、道には甘い香の香りが漂う。

 ありとあらゆる種族が集められ、世界中の様式の娼館と賭博場が立ち並ぶ。それがオラリオの『歓楽街』であった。

 

 そんな中、鼻を擽る香りに眉を顰める男がいた。

 男であれば情欲がくすぐられる格好も、蠱惑的な女性の微笑みも、艶がノッた声すらも、男は全て煩わしそうに払いのける。

 

 やがてついたある立派な娼館に足を踏み入れ、案内された先には三つの影。

 対面した足立は猫のように背を丸めながら、伺うように彼らに笑いかけた。

 

 「……というわけで、これがうちのギルドとしての見解なんですよね」

 

 アダチはそう言って、頭を書きながら手元の書類を差し出した。

 殺伐とした雰囲気に、アダチは内心毒を吐きながら天を仰ぐ。見えた景色は彩色に彩られた天井。細かい金細工が施されたそれに、金の周りがいいなと目を細めた。

 

 「ロイマンの奴が、どう考えているかっていうのは解った。まぁ、これぐらいなら許してあげる」

 

 「いやぁ、それはこっちも助かりますよ」

 

 イシュタル様、そう言ってアダチは笑った。

 

 二人をアマゾネスを側に控えさせ、豪華絢爛な椅子に座す神がそこにいた。

 彼女こそ美の象徴、性愛の根源とした信仰を集めた神。娼婦たちの主神。

 狂気すら感じさせる蠱惑的な色気を漂わせながら、イシュタルはアダチをじっと見つめる。

 

 「……おまえ達は下がりなさい」

 

 自らの敬愛する主人の言葉に、二人のアマゾネスは、迅速に、かつ静かに部屋から出て行く。

 残されたのは、神と一人の人間。

 

 「……それでアダチ、前に話した誘いに対する考えはまとまった?」

 

 優雅に微笑むイシュタル。

 そしてそれに対して、誤魔化すようにアダチは笑みを顔に貼り付けた。

 アダチは顔でこそ笑って入るものの、その目の奥には漆黒の深い闇が感じられた。

 それを知っているからか、イシュタルは、益々嬉しそうに笑みを深める。

 

 「ええと、どういうご用件でしょうか?ああ、当方ではもちろん秘密裏に支援させていただくご用意は……」

 

 「このイシュタルのファミリアに入りなさい」

 

 そう言って、イシュタルは身を乗り出す。

 体を強ばらせるアダチの頬に手を添えると、額が密着しそうになるほどに顔を近づけた。

 神の深い嫉妬と狂気の瞳が、アダチの闇を見つめていた。



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3話

 太陽が昇り、暖かな光がオラリオの街の通りを照らし始めた。

 店には看板が立てられ、屋台からは客を呼び寄せる声が響き、オラリオへ訪れた商人達が露天を広げ始める。

 誰もが新しい今日の一日を始めようと動き始める中。

 一人、顔を曇らせながらふらふらと歩く男がいた。

 

 「……まったく、勘弁してほしいなぁ」

 

 ブツクサと呟きながら、アダチは天を仰ぐ。

 彼の心に反して、憎ったらしいほどに良い天気であった。

 

 「今日が休みになるんだったら、昨日のうちに教えてくれないとさぁ。もう目がぱっちり起きちゃったし」

 

 いつも通り、眠気まなこでギルドへ出勤したアダチ。

 そんな彼を待っていたのは、怪訝な顔をした自分の上司。そして突然の休日命令であった。

 

 あまりにも唐突な申し出に、アダチはまだ自分が夢の中にいるのかと疑う。

 思わず頬をつまんで引っ張る。……うん、痛い。現実だ。

 アダチの上司もこれには不振に感じているのか、首を傾げてアダチを見ていた。

 

 『いや……ギルド長から直々なんだよ。何でも、「昨日アダチくんには十分に仕事してもらったから」って、そういう話なんだが』

 

 昨日、行ったことといえば……。

 恐らくはイシュタル・ファミリアへの交渉だろう。あれは中々に難儀していたらしい。

 娼館を取り仕切っているイシュタル・ファミリアは、その神の存在もあってか。オラリオの深い闇に通じている。

 

 イシュタルは一癖も二癖もある神である。

 かの神はいろいろと黒い噂も多く、権謀術数に長けている事で知られる。

 実際、その噂は事実であろうとオラリオの人々は考えている。

 そうでなければ娼婦達をまとめあげて利権を掌握し、『歓楽街』の実質的な支配者になれるはずがない。

 

 イシュタル・ファミリアへの対応に、ギルドは苦悩していた。

 

 だが、アダチは難儀していた交渉を、あっさりと取りまとめてしまった。

 その理由は……思い出したくもない、とアダチは顔を歪める。あの神の顔を思い出すだけで胸糞が悪い。

 

 「急に休暇なんてもらっても……。何もすることなんて無いんだよね」

 

 既に報酬として、金で十分な額を貰っていた。

 急な休みなど、これっぽっちも聞いていない。

 予想するに、勝手に舞い上がって、勝手に押し付けてきたのだろう。

 

 「本当にさ、いやになるなぁ」

 

 目を彷徨わせると、街を楽しそうに歩くオラリオの人々の姿があった。

 恋人、親子連れ、友人。人々は、みんな自分の大切な人達と笑っている。

 

 丁度、アダチの前から歩いてくる集団があった。

 鎧を身につけ、武具を纏い、歴戦の戦士の思わせる風格から、彼らが冒険者達であることが見て解る。

 エルフ、獣人、人間。互いに憎まれ口を叩きながら、今日のダンジョンへ入る計画を話し合う。

 アダチは思わず、その場で立ち止まった。

 

 ふざけ合い、夢を語り合い、共に笑い合う。

 冒険者達はアダチの横を通り過ぎると、そのあままダンジョンの方へ向かっていった。

 アダチはそんな彼らの背中を視線で追う。二つの空虚な光が、冒険者達を見定めていた。

 

 「……ちょっと早い気もするけど、お昼にでもしようかな」

 

 遠ざかる冒険者達に背を向けて、あくびを一つ。

 賑やかな街並み、希望に笑顔を浮かべる人々。

 アダチはオラリオの街中で輝くもの全てを無視しながら、一人、歩き出した。

 

 オラリオは堅牢な市壁に囲まれた、円形型の大都市である。

 その大都市の北には、ギルドの関係者が住む高級住宅街が存在する他、商店街が活気づいている大通りが存在している。

 メインストリート界隈は特に服飾関係が有名であり、昼間には多くの女性がこの通りを行き交う。

 他にもかの有名なロキ・ファミリアの本拠地である、『黄昏の館』があることで知られる。

 

 アダチはよくここへ仕事をサボっては来ていたが、今日は新規開拓とばかりにさらに北の方へ訪れていた。

 多くの店と多種多様な種族が行き交っている光景に、アダチは流石は迷宮大都市オラリオで一番の商店街だと関心を強める。

 

 露天や屋台が立ち並ぶ中、何をつまもうかと視線を彷徨わせていたその時。

 

 「へい、そこのお兄さん!」

 

 という威勢のいい声が、アダチの耳に飛び込んできた。

 顔を声の方向に向けると、そこには満面の笑みでアダチを見つめる……過激な服装をした少女の姿があった。

 

 「ひょっとして、美味しい食べ物を探しているんじゃないかい?」

 

 陽気に微笑む、背丈が低い少女。その整った容姿に、アダチの目が微かに見開く。

 

 しかし、その姿は何とも奇妙なものであった。

 背中の大きく開いた白いワンピース。黒く美しい長髪を二つのリボンでまとめたツインテール。

 そして豊満な胸の下を通すように、二の腕に結ぶ青い紐。

 付け加えるならば、白い手袋、そして素足であった。

 

 昨日はオラリオの歓楽街に行った身ではあるが、例えあの歓楽街であっても、ここまでの格好はお目にかかれるものではない。

 

 アダチは一瞬呆気に取られる。

 そしてすぐに、その存在から感じった力に目を細めた。

 面倒くさいことになった、と内心つばを吐く。

 

 「もしそうなら、是非ともうちの―――」

 

 「悪いけれど、僕はそういうの間に合ってるんで」

 

 「……はい?」

 

 きょとん、と目を見開く少女。

 アダチは顔でこそ笑っているが、その目はまったく笑ってはいなかった。

 

 「え、えぇと、君、もしかして何か勘違いしていないかい?」

 

 「あはは、いやだなぁ。そんな恐れ多いことを言わないでくださいな」

 

 あたふたと慌てる神に、アダチは苦笑しながらも、警戒をさらに強める。

 

 『神』は人という存在に、面白半分で干渉する存在。

 それをアダチはギルドに努めて一年で、これでもかという程に理解していた。

 面倒事を限りなく避けて行きたいアダチにとって、昨日のこともあってか、その存在は容認しきれるものではない。

 

 この場をすぐに脱出するべく、頭を回転させて言葉を連ねようとするアダチであったが……。

 

 「いや、ボクはただ『ジャガ丸くん』を売っているだけなんだけどさ」

 

 頭の回転が止まった。

 

 

 「……ええと、じゃがまるくんっていうのは?」

 

 「よくぞ聞いてくれた!ボクがアルバイトしているところの、美味しい食べ物だよ!たったの30ヴァリスで食べられるんだから、これは買いだと思うね!」

 

 そう言って、目の前の少女はある屋台を指さした。

 店主が油を使って衣をつけた何かをあげている。

 店主が此方の視線に気がついてか、ぐっと親指をつきだした。

 

 じゃがまるくん?アルバイト?

 アダチの仮面が、ここで初めて崩れ去った。

 頬を引き攣らせながら、アダチはさらに問う。

 

 「君、神様だよね?」

 

 「ん?そうだよ」

 

 「神様が、あそこでアルバイト?」

 

 「ま、まぁボクにも事情ってものがあるのさ……」

 

 顔を背け、何やら暗い影をおびはじめた少女。

 視線をまた店主に向ければ、人が良さそうな笑みで苦笑している。

 アダチは大きく肩を落とした。無駄なとり越し苦労だったらしい。

 

 「……ちょうど、お腹が空いていたしね。それじゃあ一つ貰おうかな」

 

 「ありがとう!店長、ジャガ丸くん一つ!」

 

 店長と互いにサムズ・アップする少女、神を見て頬が自然と引き攣った。

 

 いや、解るはずないだろう。

 

 大体、地上に降りてくる神はほぼ間違いなく、自分のファミリアを持つ。

 冒険者を集めて加護を与えた後、自分はファミリアの椅子の上で威張っているか、それともファミリア内の仕事をこなすか。

 もしくは自分の趣味に興じるのが、アダチがこれまで一年の間見てきた神の姿であった。

 

 目の前で「今日のノルマもあと少しだぜ!」と言って額の汗を拭う神がいるなんて、いったい誰が想像できるだろうか。

 

 そういえば鳴上くんから、―――もガソリンスタンドで働いていたと聞いたけれど。

 あれか、最近の神様はアルバイトがトレンドなのだろうか。……世も末だな、とアダチを頭痛が襲った。

 

 「それにしても、何やらえらくボクの事を警戒していたようだけれど。何かあったのかい?」

 

 不思議そうな顔で話しかけてくる少女。

 普段通りであれば、神と世間話することなど考えすらしないのだが。

 「まぁ、この威厳が全くないお嬢ちゃんならいいか」と、アダチは暇つぶしに口を開く。

 

 「……まぁ、昨日ちょっと仕事でね」

 

 「仕事?その制服はギルドのものだから……ああ、何となくわかったかな」

 

 困ったようにから笑いする少女に、アダチは頬をかいて笑う。

 

 「どこのファミリアの神を相手にしたんだい?そんなに疲れるところ言ったら、やっぱりガネーシャ・ファミリア、もしくは」

 

 「もしくは?」

 

 「あの、くっそいけ好かないお胸ぺたんこ洗濯板のロキがいるロキ・ファミリアかな」

 

 黒い笑顔を浮かべて、妙な威圧感を出し始めた。

 神様同士のいがみ合いは、よく見られる光景と思っていい。

 昨日のイシュタルの奴も、そんな感じだったと思ったアダチは、特に疑問もなく言葉にする。

 

 「いや、イシュタル・ファミリアなんだけどね……あ」

 

 「い、イシュタル・ファミリアぁッ!?」

 

 言った後ですぐに後悔する。

 内部の機密情報を漏らすことは好ましくない。

 エイナ、そして堂島先輩がこの場にいたらと思うと背筋が凍る。

 

 「あ、やっぱ今の無し。ここだけの話しね」

 

 「あぁ、うん。本当にそれはご愁傷様だね。あそこは僕達神の中でも、特に極まってるからなぁ……。余計なお世話だと思うけれど、気をつけた方がいいよ?」

 

 まるで自分のことのようにして、心配そうに話しかける少女に、アダチは「有りがたく受け取らせていただきます」と苦笑する。

 

 「そうだ、ちょっと聞きたいんだけれどいいかな?」

 

 「へ、何ですか?」

 

 「君はギルドの職員なんだろう?それなら、ボクのところにいるベルくんのことを聞きたいんだけれど……」

 

 『ベルくん』という名前にアダチは首を傾げる。

 顎に手を添えながら考える。確かどこかでその名前を聞いたはずだ。

 

 「ベル・クラネルだよ、あの子がうちのファミリア唯一の冒険者だからね。本音を言うなら、心配で仕方がないんだ」

 

 「ベル・クラネル……。もしかして、ファミリアっていうのは」

 

 「そういえば、紹介がまだだったね」

 

 そうだ、確かエイナが自分へ話していた冒険者の名前であった。

 いい加減な返事を返していたら、「聞いているんですか」と理不尽に怒られたから覚えている。

 

 目の前の少女は、「ふふん」と得意気に笑う。

 両腕を組み、その大きな胸を突き出して、鼻高々に天を仰ぐ。

 本人は威厳高々な自分の姿を想像しているのかもしれないが、身長と可愛らしい容姿が先立ってしまっている。

 アダチからすれば背伸びして、大人ぶっている子供にしか見えない。

 

 「ボクはヘスティア。ヘスティア・ファミリアを持つ神なんだ!」

 

 「ああ、ご丁寧にどうも。僕はギルドに勤めるトオル・アダチと申します。あ、これ名刺ね」

 

 「……あ、ありがとう。うーん、釈然としないのは何でだろうね」

 

 名刺を受け取って頬を膨らませるヘスティアを無視して、アダチはベル・クラネルの情報を脳から引き出そうと考える。

 

 「うーん、まぁ悪評は聞いていないから、がんばってるんじゃない?」

 

 「へ?そ、それだけかい?」

 

 「あと、いろいろと抜けているって同僚がいっていたけどさ」

 

 「い、いや。確かに最初はゴブリン一匹を倒して、喜んで帰ってくるような子だったけど……」

 

 ズーン、という重く静かな幻聴が聞こえた。

 何やら気を落としてしまったようだが、アダチにとっては別に知ったことではない。

 

 冒険者になったからといって、全ての冒険者がその才能を開花させたり、名が知られる程に実力をつけるわけではない。

 むしろ大半が名も無き、凡庸な冒険者として分類される。

 大金を稼ぎ、偉業を積み重ねるような冒険者はほんの一部しか存在しない。

 

 才能があり、運があり、仲間に恵まれ、スキルに恵まれ、神に恵まれ、ファミリアに恵まれる。

 そうでなければ、一流の冒険者になどなれやしないのだ。

 

 アダチが考えるに、そのベル・クラネルという冒険者は凡庸な存在なのだろう。

 確か多くのファミリアから門前払いを受けていたと、エイナから聞いていた。

 

 才能もない、スキルもない。

 神がこのようなアルバイトをしなければならないということは、神の固有の権能がそこまで良いものでないということに他ならない。

 ファミリアも貧乏で、神も言ってしまえばハズレだ。

 それに一人でダンジョンに潜っているということは、仲間もおらず同僚に恵まれてすらいない。

 

 どうしようもないな、とアダチは心の底で嗤った。

 何かを夢を見ているのかもしれないが、すぐにそんなものは現実に打ち砕かれるだろう。

 ギルドに務めてから、そうして夢も希望も失っていく冒険者の姿は大勢見てきた。

 

 そのベルくんとやらも、すぐに嫌になるんじゃないかい?

 嘲りの笑みを潜ませながら、アダチはヘスティアを期待した目で見る。

 

 だが、目の前のヘスティアはそれでも安心したのだろう。

 ほっと胸をなでおろし、満面の笑みでアダチを見た。

 

 「まぁ、でもこれからだよ!確かに彼は抜けているところもあるけれど、すごいいい子だからね。きっと伸びるはずさ」

 

 ヘスティアは、そう言って何度も頷いた。そして晴天の空を見つめる。

 大切な存在を想い、決して失望すること無く、温かい笑みで笑っていた。

 照れくさそうに、それでも確たる言葉でヘスティアは言う。彼はきっとやってくれるさ、と。

 

 アダチはその姿を能面のような、感情が抜け落ちた顔で見つめていた。

 

 「へぇ、なるほどね。……どうして、そう思うか教えてくれるかい?」

 

 「あの子はボクの唯一の家族なんだ!ボクが信じなくて、誰がベルくんを信じるんだい?」

 

 アダチは笑った。

 

 「あはは、君は本当にそのベルくんという子が好きなんだねぇ。いやぁ、羨ましいなぁそのベルくんが。君みたいなかわいい神様に、そこまで言ってもらえるんでしょ?いよ、色男ってね」

 

 「も、もう!やめてくれよ、流石にちょっと照れてきちゃったからさ!」

 

 アダチとヘスティアは互いに笑い合う。

 そんな二人のところへ、店長が現れる。その手には丁度焼きあがった、出来立てほやほやのジャガ丸くん。

 アダチはジャガ丸くんが入った袋を受け取り、代金を払おうと財布をズボンのポケットから探す。

 

 その最中、ヘスティアは何かに気がついたのだろう。

 躊躇いがちに、財布を取り出したアダチへと口を開いた。

 

 「そういえば、キミも不思議な人だね」

 

 「それって、変わってるってことかい?酷いなぁ、まぁ同僚にはよく言動が軽いって怒られるんだけどね」

 

 苦笑いを浮かべながら、財布から硬貨を取り出す。

 いや、違うんだとヘスティアは首を横に振った。

 

 「いや、ボク達神っていうのは、その人間が大体どういう人間なのか分かるんだ。でも、キミについてはなんていうかさ、霧がかっているっていうか」

 

 「『霧』……ねぇ」

 

 アダチには心当たりがあるのか、考える素振りを見せる。

 その様子を見て、自分の言葉が勘違いを招くものであることに、ヘスティアは気がついた。

 

 「あ、いや、キミがすごいいい人だっていうのは分かるんだけれど、どうしてもそれが不思議に感じてしまってね。不躾に変なことを言ってしまってごめんよ」

 

 慌てふためく姿が面白かったのか、吹き出したアダチは全然気にしていないと宥める。そして手に持っていた硬貨をヘスティアに手渡した。

 

 安堵したヘスティアは、その硬貨を受け取る。

 そして「また来てね!ベルくんをよろしく!」と、元気に手を振って客寄せに戻っていった。

 アダチはこれに手を軽く振って見送ると、ゆっくりとした足取りで離れていく。

 

 しばらく歩いていると、大通りから離れたのか。人の姿が疎らになっていった。

 アダチは人気がない裏路地を見つける。迷うこと無く、表通りを離れてそこに入り込んでいく。

 そこは明るい太陽が当たらない、人々の声がどこか遠くに感じる薄暗い小路であった。

 

 アダチはしばらく佇んだ後、手元の袋を覗いた。

 美味しそうな匂いを発する、小麦色の揚げ物。その匂いに釣られた野良犬の一匹が、アダチに鼻を鳴らして近づいてきた。

 アダチはそれを見ると、袋を手放す。足下にころがるジャガ丸くん。野良犬は目を輝かせて、アダチへ小走りに近づく。

 

 瞬間、アダチは足下にころがるジャガ丸くんを踏みつけた。犬はその音に驚き飛び退る。

 だがアダチは無視して、ジャガ丸くんを何度も踏み躙る。ガラス球のような目が、自分の足を見つめていた。

 

 時間にして、十秒もなかった。

 アダチがゆっくりと顔を上げると、犬の姿はない。アダチに怯えて、逃げ去ってしまったのだろうか。

 

 そしてアダチは土に塗れ、ぐちゃぐちゃになったジャガ丸くんを一瞥。

 

 「お昼、とっとと済ませないとなぁ」

 

 両ポケットに手を突っ込むと、何事もなかったように、表通りへ戻っていった。




イメージは、ペルソナ4Gの6話。
こんなんでも、最終的にはハッピーエンド予定。残り5~6話ぐらいで完結。

あとがきをここで初めて使ったのは、次回更新が遅れるからです。
大体、三ヶ月から四ヶ月ぐらい。
リアルの生活関係で、これはどうしようもない。

のんびり頑張ります。

追記12/04

のんびりしていられませんでした。
更新は来年になりそうです。いや、本当にどうしてこうなったんだろう。


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4話

 「このイシュタルのファミリアに入りなさい」

 

 ほんの少しでも動けば、互いの唇が触れ合う。

 そう思ってしまうほどに近い距離で、目の瞳を見つめ合う二人。

 扇情的な手つきでアダチの顎を撫で上げる。イシュタルは口を三日月のように歪め、自身の唇を舌先でなぞった。

 

 「貴方がいれば、あの女の手駒である最強すらも打ち破れる。貴方がいれば、この迷宮都市だけではなく世界すらも手に入る」

 

 イシュタルは男であれば誰もが虜になるであろう、蠱惑の艶を持たせた声でアダチに呼びかけるのだ。貴方が欲しいと、貴方の全てを私に頂戴と。

 イシュタルは愛欲に濡れた瞳、情欲に滾った感情を隠そうともせずにアダチを誘惑する。

 

 「貴方の力と神たる私の力さえあれば、この地上で私たちに勝てる存在はいない。名誉も、至上の富も、万民万神の喝采も、全て貴方と私で分け合える」

 

 欲無き聖者すらも堕落させるイシュタルという神。

 その欲望を滾らせんとする心振るわせる言葉を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪いけど、そういうのは別にいいから」

 

 ――――アダチは笑顔の仮面と冷めた瞳で受け止めた。

 

 部屋の空気が一瞬にして凍りつく。アダチの一言が時を止めた。

 そこにいるだけで息が出来ぬような張り詰められた緊張感が、二人を中心に室内を蹂躙する。

 

 「……理由を、聞いても?」

 

 己の意識を強引に手繰り寄せたイシュタルは、静かな笑みを顔に浮かべた。ただし、最早冗談は許さぬと言わんばかりに神の圧力を以って問いかける。

 

 イシュタルは熾烈にして傲慢な神である、とアダチはその怠惰な目の奥に、鋭い光を宿して観察していた。

 

 言ってしまえば我儘だ。自分が袖にするならまだしも、袖にされるのは大嫌い。

 実際にかの神話では、己の愛を拒絶したギルガメッシュに対して、特上の災難を送りつけた神であった。

 この世界においても、その本質は変わりが無いのだろう。

 

 今でも平静を保っているように見せかけているものの、内心ではハラワタが煮えたぎっているのはよく解る。

 ああ、結局神だのなんだのいいながらも人間と変わらないじゃないか。そう心の中でアダチはあざ笑いながら言葉を紡ぐ。

 

 「単純に興味がないんですよ。理由はそれぐらいですね」

 

 イシュタルは言葉を返さなかった。以外にも殺気に似た威圧は、イシュタルから消え去っている。

 ほうっと安心して息を吐き出したアダチは、凝り固まった足をほぐしながら力を込める。

 

 「あー……まぁ、今のお話は無かったことにしませんか。これからのお互いのためにも、そうした方が間違いないでしょうから」

 

 軽薄な笑みと共にアダチは立ち上がった。

 沈黙を未だ保ち、静かに自身を見つめるイシュタルに一礼して背を向ける。

 まったく、面倒くさい一日であった。とっとと家に帰って眠ろうと決意を固め、扉に歩き始める――――が。

 

 「……そう、そうなのね」

 

 おかしくてたまらない、そんなイシュタルの声に歩みを止めた。

 

 「解ったわ、ええ、そうなの。そうなのね」

 

 クスクスクスクスクスクスクスクス。

 幼い少女のように、おかしくてたまらないとイシュタルは笑う。嗤う。嘲笑う。

 

 アダチはその笑い声にどうしようもなく不愉快な気持ちにさせられた。

 実際、イシュタルの笑いはアダチを滑稽だと嘲笑う、神故の傲慢さが感じられた。

 思わず立ち止まり、振り返る。

 

 直後、アダチは後悔した。

 

 一瞬でも人間と変わらないと思ったのは大きな間違いだ。

 こいつは人間じゃない。人間がこんな悪辣な顔で笑えるわけがないと。

 

 「空虚ね、本当に空虚だわ。だからこそ私は貴方が愛しいの。ええ、愛しいのよ」

 

 もう付き合えない、無視だ無視。

 

 アダチはこんな所に派遣した豚(ギルド長)を脳内でローストビーフ調理。野犬に放り投げた。

 「あ、あはは。失礼します」と、これまでとは打って変わって余裕を失ってヘタれたように、後ろ姿を見せて足早に去ろうとしたその時。

 

 イシュタルは艶やかな唇を開いて言い放った。

 

 「道化師のようにふらふらと周りを散々に振りまわしてあげなさい。このオラリオを、フレイアを、私すらも。人である限り欲望からは離れられない。貴方はきっと、きっと私の下に来るわ」

 

 神話において女神の予言は絶対だ。数多の英雄は神と女神の予言によって振り回され、殺されてきた。

 イシュタルのその言葉は、間違いなく予言であり、また絶対であると確信する。

 この世界の神は人に乗り越える試練しか与えはしない。そしてこの世界の神は我が子と見定めた命を、思うがままに愉しみたいと考える。

 

 二つの意を乗せたイシュタルの予言。その神の予言をアダチはどう受け止めたのか。

 

 「……って、普通途中で帰る?……もう」

 

 嫌な予感がするからと、大半を聞き逃して逃げ去っていた。

 イシュタルは頬を膨らませて、アダチが逃げ帰った扉を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

 アダチは不真面目である。

 

 これはアダチ自身も、周囲のギルド職員も認めている事であった。

 よく仕事を抜け出してお茶を飲みに行く、そのへんを適当にぶらぶらと歩く。面倒事はできるだけ避け、楽な方を好む。身なりはだらしなく、態度もいいかげんである。

 

 だが、アダチは仕事ができないわけではなかった。

 

 一般的に『不真面目』と、『仕事ができない』ことは混同されがちである。

 『不真面目』な人間は物事への取り組み方に問題がある場合があり、結果として『仕事ができない』ことが多いからだ。

 

 しかしアダチはそのいい加減さに反比例するが如く、周囲のギルド職員と比べても彼は仕事がとても上手かったのだ。

 

 より効果的に、より効率的に。ギルド従来のやり方とは異なる場合が多く、最初は上司を初めとした多くのギルド職員から不審に思われた。

 だが時間を経て仕事に慣れ、責任を求められる仕事が任されるにつれて、彼自身の処理能力の高さが発揮されるようになると、彼に対する評価は自然と変わっていった。

 

 交友関係では彼自身の性格の問題もあって、中々人柄や距離感を計りかねているものも多い。

 だが彼を知る者は、皆彼自身をギルドの仲間であると認めていた。その中には、彼を頼り助けられた者も大勢いたのだ。

 

 助けを求められれば、アダチは面倒くさがりながらも、短いながらも的確な言葉と行動で答えを示す。

 ため息を吐き出して嫌そうではあるものの、その本質的な部分ではお人よしなのだろうと周囲は理解した。

 

 実際はそんなことはない。

 アダチはそんな出来た人間ではなく、そもそも周囲を助けるなどやりたくもなかった。

 しかし、これにはエイナの働きが大きく関係していた。

 

 アダチは助けを求められても、当初は面倒臭がって決して動こうとはしなかった。

 しかしアダチが馴染めているか、仕事が出来ているかと、エイナはちょくちょく受付からここまで来て顔を出しており、その場面を見つかってしまうことが多々あったのだ。

 

 その結果は火を見るより明らかであった。

 エイナは頭に怒りの四つ角を浮かべ、アダチは冷や汗をかきながら目を彷徨わせることとなる。

 

 エイナの有難いお話は人の道を説き、ギルド職員としての心構えを説くものであったが、アダチは大半を聞き流そうとするので終いにはエイナのくどくどとしたお説教へと変わった。

 そんな体験を幾度と無く経験したアダチは、大の面倒事より小の面倒事を取ろうと、困った職員に対して手を貸すようになっていった。

 

 そしてそれが体に染み付いてしまい、エイナが来ない今となってもこの環境から抜け出せずにいる。

 

 これじゃ鳴上くんをお人好しと笑えないと、アダチは自分自身に呆れて嫌になった。

 

 「すいません、ガネーシャファミリアの申請書がまとめられているところをご存知ですか?前年度のものが資料室になくって……」

 

 「昨日受付の子が持って行ったよ。人間で紅い髪の子だったかなぁ。返却されてないし、まだ受付にでもあるんじゃないの?」

 

 「ちょっと!この区画は出店が許可できなくなったって、今年から決まったことを忘れたの!?」

 

 「あぁ、それ?いや、上からの命令で今年も大丈夫って事になったみたい」

 

 今、ギルドは『怪物祭(モンスターフィリア)』で大忙しであった。

 ぶつくさと文句を言って走り去っていく職員。それをしりめに頬杖をつきながら、アダチは大きな欠伸をついた。

 最近どうしてか、やたらと周囲の職員が自分に質問をしてくる。同じ部署であればまだしも、他の部署からもわざわざくるのだから、たまったものではなかった。

 

 「前までは嫌な顔すれば帰ってくれたんだけどねぇ……」

 

 「それだけみなさんに受け入れられてきたっていうことですよ。喜んでいんじゃないですか?」

 

 何気なくつぶやいた言葉。それに返された事で、アダチは顔を上げる。

 目の前には書類を抱えた仕事仲間であるエイナの姿があった。思わずアダチの頬が引き攣る。

 

 ただでさえ話したくもない連中に話しかけられて疲れているというのに、エイナの小言にまでまた付き合わされたのでは、たまったものではなかった。

 

 「あ、あはは。エイナちゃん?どうしたの?ほら、僕ちゃんと仕事してるよ」

 

 「知ってますよ、どうしてそんなに慌ててるんですか」

 

 「いや、君が僕のところにくる理由なんてそれぐらいしかないじゃん」

 

 経験から語るアダチに、エイナは眉をしかめる。呆れたように肩をおとした。

 

 「それはアダチさんがいつも仕事を抜け出したり、仕事を真っ当せず楽しようとするからです。それとも、それ以外の理由で来たらおかしいですか?」

 

 「いや、別におかしくはないのだけどね。えーっと、じゃぁ……何か新しい仕事?」

 

 「違います、アダチさん。今日は何の日か知ってますか?」

 

 じとーっとした視線を向けられて、アダチはたじろぎエイナがここへ来たわけを必死に考える。しかし、これがまったく思い浮かばなかった。

 

 「……あーうん、ごめん」

 

 「……何がですか」

 

 「降参」と目を泳がせながらお手上げとばかりに両手を上げる。

 見ようによっては恋人の痴話喧嘩にも間違われかねない様子に、周囲は苦笑しアダチを小声でやじる。

 アダチは周囲を睨んだが、全く効果が無いようだった。むしろ若い女性職員が黄色い悲鳴をあげて笑って茶化す始末。

 

 一方、そんな周囲の流れをまったく理解していないエイナは大きくため息を吐き出した。

 

 「アダチさん、別に悪いことをしているわけじゃないのですから謝らなくていいじゃないですか」

 

 「いやぁ、あはは……だってエイナちゃん顔が怖いし」

 

 最後はものすごく小さな声であった。正面からは怖くて言えない、そんなアダチのささやかな抵抗だった。

 情けないと言うのなら、ここに来て是非とも僕の立ち位置に立ってほしいものだ。恐らく秒にも満たない僅かな時間で後悔するに違いない。

 

 「今日はアダチさんがここに来てから、ちょうど一年目になる日です。それで」

 

 言葉が途切れてしまった。エイナは口を開こうとするが、その度に迷い、声にならないようであった。

 

 この時点でアダチは一刻でも早く家に帰りたいという思いに苛まれた。

 ああ、こういった展開は青春していた鳴上くんみたいな青ガキの専売特許だったはずだ。どうして自分はここにいるのだろうか、しかも当事者で。

 

 気がついたのだが、周囲から一切の物音がしなくなっている。視線を動かすと、部屋にいる全員が自分たちに注目していた。

 固唾をのんで見守られているという気まずい雰囲気に、額から汗がつたい落ちていく。

 「おい、お前ら散々助けてやってるのだから恩を返せよ」と心で叫んでも、もちろん伝わるわけもなく。助けてくれるヒーローが、ヒロインではない自分のところに現れてくれるはずがなく。

 

 仕方がなくアダチは視線を未だ迷っているエイナに戻し、いつも曖昧な笑みを浮かべた。

 

 一方、エイナは躊躇いを覚えて踏み込めずにいた。

 

 アダチは自身の心が覚られてはいないと思っているだろう。しかしエイナには解っていた。アダチが自分を面倒くさい相手だと、好意的に決して見てはいないことに。

 

 昔はいろいろとお節介をやき、仕事だけでなく私生活にまで口を出してしまっていた。仕事が終わった後も、エイナはアダチを食事に誘う事も多かった。

 

 だがエイナがアダチと時間を共に過ごし、彼を知るにつれて、エイナはアダチの心の壁の大きさを知ってしまった。

 皮肉なことにアダチを心配すればするほどに、アダチを知りたいと願えば願うほどに、エイナはアダチに受け入れてはもらえない事を知っていく。二人の関係はより遠いものになっていったのだ。

 アダチが拒絶する態度を取るにつれて、エイナも心を開かないアダチに躊躇いを覚えていった。徐々に私的な時間を共有する回数は減り、ついには完全に仕事だけの関係となった。

 

 これは人付き合いを好まないアダチが望んだ結果であった。

エイナがアダチとの関係の改善を望んでいたことは察していたものの、そこまで彼女に付き合ってあげる理由はないと考えていた。

 エイナもアダチの心のうちを察するからこそ、手が伸ばせない。仕事という隠れ蓑を被っていなければ、アダチに話しかける事すらできなかった。

 

 エイナはいつかアダチが心を開いてくれることを願っていた。

 アダチはお節介焼のエイナが諦めることを願っていた。

 

 そして。

 

 「一緒に、お祝いしませんか?」

 

 エイナは願うだけでは意味が無いことを知り、傷つくことを承知でアダチへと手を伸ばしたのだった。

 

 「……お祝い?」

 

 「はい」

 

 「えーと、誰と?」

 

 「私と、です」

 

 「二人で?」

 

 「……はいッ!」

 

 アダチはその誘いを受けて、天を仰いで嘆いた。

 神様は元々大嫌いであったが、さらに嫌いになった。

 

 アダチにはエイナがどうしてここまで自分に付きまとってくるのか解らない。

 エイナは何やらの持ち前のお人よしを使命感に変えているようであったが、放っておいてほしいアダチからすればいい迷惑であった。

 

 頭をこねくらせて何とか断ろうと、必死に言い訳を探す。

 

 「ああ……気持ちはうれしいけれども、みんな怪物祭で残業だって辞さない覚悟で働いてるでしょ?なのに僕だけが早く帰るっていうのは流石に、ね?残念だけど、また別の機会にしたほうが、今回はいいかもしれないね」

 

 アダチは本当は残業などするつもりは全くなかった。ましてや別の機会などあってもやるつもりもない。

 そんなアダチの心を察して悲し気に目を伏せて「そうですね」とエイナが呟いた、その時であった。

 

 「アダチさん、先に帰っていいですよ?」

 

 不穏な言葉がアダチの耳に飛び込んできた。

 アダチがまるで油の切れたブリキ人形のように首を動かすと、快活に笑う一人の同僚の姿が。

 

 「せっかくエイナちゃんに祝ってもらえるんだからさ、俺たちに遠慮しなくっていいって」

 

 そう言って彼が周囲に同意を求めると、次々と賛同の声が上がっていく。

 それはアダチにとって「死んでくれる?」と言われているに等しかったが、そんなことを周囲の同僚たちが知る由もない。

 

 「これぐらいなら大丈夫だよ~いつもアダチさんにはお世話になってるし~?」

 

 うん、お世話になっている自覚があるなら助けてよ。

 

 「せっかくのエイナちゃんの心遣いなんだ、断られたら見ている俺たちの方が心苦しいぜ」

 

 違うね、今一番心苦しくて死んでしまいそうなのは、間違いなく僕だ。

 

 「わぁ、エイナちゃんもついに!?アダチさん、行かなくちゃダメですよ!絶対です!」

 

 君に至ってはすごーく面倒な勘違いしてない?

 

 おい、何でみんなそんなに楽しそうなんだよ。

 アダチは内心悲鳴をあげるも、祭り事が大好きでお人よしなオラリオの住人達がそんなことを知るわけもなく。

 

 「よっし、俺達も終わったらそっちにすぐに向かうから……。って痛い、誰だ叩いたの」

 

 「馬鹿野郎、野暮な事すんじゃねぇっての」

 

 「まったくもう!空気を読みなさいよね!せっかくエイナが勇気出して誘ったんだから……」

 

 アダチは乾いた笑いを浮かべ、最後には天を仰いで悟ったのであった。

 そうだ、これまでの経験上。周りが楽しい時ってのは大体自分が楽しくない時であったと。

 自分の役回りがまったく改善されてないことに気づき、思わず変な笑い声が口からこぼれ落ちていった。まさか自分が祝福される側にまわってもこんな目に会うとは……。

 

 「このこの、エイナにも春が来たわけね~」

 

 「いいな~私もアダチさんのこと狙ってたのにな~」

 

 「へ……?え、あ、ち、違いますッ!私はアダチさんをお祝いしないとと思って……ッ!?」

 

 「はいはーい、分かってる分かってるって♪」

 

 目の前には周りに応援されてテンパり、冷やかされて顔を真赤にしているエイナ。

 これじゃ帰ってきてからも、何かいろいろと有る事無い事で冷やかされそうだとアダチは肩を落とした。




気がついたら年を越えておりました。
オラリオの陽気な住人が中心であるダンまちのターンの話。
次回でいつも感じに戻ります。


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第5話

 「いらっしゃいませー」

 

 店員の歓迎の声に迎えられ、活気ある店内へと足を進ませる。

 

 「……ここが、僕のお祝いの場所?」

 

 「ええ、そうですよ」

 

 エルフの店員と予約の確認をしているエイナ。

 いつものギルド職員の服装ではなく、お洒落にも気を使った装い。いつも仕事着しか見ていないギルドの男連中がみたら喜ぶだろう。

 エイナの顔は朗らかであり、実に嬉しそうな様子であった。一方で、アダチは何とも言えない表情である。

 

 「と、お待たせしましたね。アダチさん、あそこが予約した席ですよ」

 

 「……ああ、うん、了解」

 

 見目麗しい店員によって、案内された席へと座り込む。 

 

 エイナがアダチを案内したお店は、『豊穣の女主人』であった。

 冒険者向けの酒場であり、極めて質の高い料理と女性定員により、多くの飲食店の中でも一際有名な店舗だ。

 

 確かにここであれば、美味い酒と料理が頂けることだろう。店員の質も良く、少し騒がしいが、下手に気合の入った店に連れていかれるよりは気軽でよい。

 

 ……裏の事情を知らなければ、の話だが。

 

 「……どうかしたんですかアダチさん?」

 

 「へ?ああ、いや、何でもないよ。うん、ほら、可愛い店員さんばかりだからねぇ。思わずびっくりしちゃった」

 

 白い目で此方を見てくるエイナを余所に、アダチは顔を崩して周囲の店員を眺める。瞳の奥に興味と感心、そして僅かな侮蔑の色を隠しながら。

 

 ギルドの統括者であるロイマン、そしてオラリオの闇であるイシュタルファミリアと繋がっている身としては、ここは何とも居心地の悪さを感じる場所だ。

 何も知らない連中であれば、美しい店員に鼻の下を伸ばせるのであろう。だが彼女達の正体を少なからず知っていると嫌にもなってくる。

 

 「ここに来るのは初めてだからさ、いやぁ、嬉しいなぁ。眼福だよ眼福」

 

 「アダチさん、最低ですね」

 

 苦笑するアダチにエイナは目を細める。

 だが大きくため息をついた後、嬉しそうに、花が咲いたような笑顔で笑った。

 

 「……でも、どんな理由であれ喜んでくれたのは嬉しいです。ここは料理も美味しいですから、期待していてくださいね」

 

 どのような形であれ、アダチに喜んでもらえたことがエイナは嬉しかった。

 ここまで来るのに不安を抱えていた。迷惑で、嫌々ながらに連れてきてしまったのではと心配もしていた。

 だからだろう、いつもならお説教をしているところだが、今日は許してあげようと思った。祝いの席だ、楽しくアダチを祝ってあげたかった。

 

 エイナの笑みにアダチは一瞬呆けた。

 そして苦笑すると、周囲の店員から視線を完全にエイナに向ける。

 

 「うん、あれだ、じゃあギルドの安月給で食えない高め奴を飲んで食べようかな」

 

 「酷い人ですね、アダチさんは。でも良いですよ?先輩として、後輩に奢るのは世の常ですから」

 

 ふふん、とエイナは口の端を吊り上げた。

 アダチは一転して苦い顔になる。年下の先輩、それも女性に高いものを奢られるのは、アダチとしても男のプライドが揺らぐものであったらしい。

 

 そしてそんなアダチの心を読んで挑発するあたり、この先輩も後輩の影響を受けてきているようだ。本人はこれっぽっちも自覚していなかったが。

 

 アダチは皮肉の一つや二つ、言葉に出そうとした。

 だが、エイナはそれに先んじて口を開く。

 

 「本当に、気にしないでください。先輩とか、後輩とか、本当はどうでもいいんです。私はただ本当に、アダチさんが一年間、頑張ってきたことをお祝いしたいだけなんですから」

 

 頭の中に、かつての自分の上司の姿が浮かんだ。そして、自分の前に立ちはだかった少年の姿も。

 二人の姿がエイナに重なり、アダチは目を見開いた。

 

 「おめでとうございます、アダチさん。この一年、お疲れさまでした。これからも、宜しくお願いしますね」

 

 運ばれてきた真っ赤な果実酒、豊潤な香りと共にそそがれたグラスをアダチの目の前に差し出した。

 しばらく固まっていたアダチだが、何が面白かったのか、クツクツと笑いながら自分もグラスを持ち、エイナのグラスに軽く打ち付けた。

 

 「……うん、ありがとう」

 

 その時、エイナは初めてアダチの心に触れられた気がした。

 言葉で説明できるものではない。気のせいかもしれない。だが、アダチのいつもの笑い顔とは違い、今のアダチは心から笑ってくれていると感じた。

 

 頬が僅かに熱くなったのは、お酒のせいだろう。

 次の瞬間、からかい混じりの言葉を投げかけられたエイナ。その時に感じた感動と喜び以外のもう一つの感情に、エイナが気がつくことはなかった。

 

 しばらくお酒と食事が進んだ。

 

 あそこのお店はこうだ、最近の冒険者は、同僚は、仕事は、そんなたわいない話に花を咲かせていく。

 こうした会話をアダチと共にするのも久しぶりかもしれない。基本エイナが話し、アダチが言葉を返す流れだ。それでも、ここまでアダチが会話を重ねることに仕事仲間は驚くことだろう。他人と関わろうとしない彼がこのような姿を見せるなど、滅多に見られるものではない。

 

 そんな時、何度聞いたか解らない扉の音がまた聞こえた。

 日頃のギルドにおける些細な話を楽しんでいたエイナは、何気なく目を向けて短く小さな驚きの声をあげた。

 アダチはエイナの様子を見て、エイナの見ている方向へ視線を動かす。

 

 見つけたのは白い髪に華奢な体。赤い瞳が特徴的な少年だった。

 剣を持っているあたり冒険者なのだろうが、華奢な外見でどうにも強そうに思えない。強者が持つ獅子の如き威というものがまるでなかった。

 

 「良くてペンギン、兎だな」と、アダチは果実酒と共に言葉を飲み込んだ。

 言わなかったのは、エイナの反応があったからだ。あの少年がエイナの知り合いであるなら、今の言葉を聞いたエイナは怒るかもしれない。いや、きっと怒るだろう。面倒くさいほどお人よしだからな、こいつ。

 

 カウンターの席に着いた少年を、ちらりと何度も気にしたように伺い見るエイナ。

 アダチは態々尋ねるのも面倒であったが、仕方がないかとエイナに声をかけた。

 

 「んー、さっきからあそこの若い子みているけど、知り合いかい?」

 

 「へ、あ、すいません。そうです、ベルくんっていう私の担当の冒険者なんですけど」

 

 「……ああ、君が話していた例の子か。あと、今日血だらけでギルドの受付を汚した子」

 

 掃除していた職員が、今日愚痴っていたことを思い出す。あれは酷かったらしい。

 さらに最近、どこかでその名前を聞いたことがある気がするのだが……。どうでもいいことだろうと、目の前の少年を見ながら思った。

 

 「心配なんです。すぐに無茶をしようとするし、今日だって……」

 

 何かを思い悩むエイナの姿に、アダチはいつもの心配癖かと、内心呆れを隠しながら肉料理にフォークを刺した。

 

 彼女はこうやって何かと担当冒険者に世話を焼くのだが、少々、いや、大変それが職員の枠を超えて行き過ぎるきらいがある。

 彼女のスパルタな教えに、今まで何人の冒険者が彼女から逃げ出したことか。アダチは何とも無駄でお節介な事をしていると、冷めた目でそれを見ていたものだから、今回もそのたぐいだろうと考え至った。

 

 そう思うとあの少年には、同じエイナの被害者として同情すら感じてくるものがある。

 

 「……エイナちゃん。言っちゃ悪いけれど、あの子が才能あるようには思えないね」

 

 アダチは多くの冒険者を見ており、またその観察力もかなりのものがある。

 かつてその力を持って事件の中で多くの人間を欺き、あと一歩で完全に逃げ延びていた。彼が捕まったのは、規格外のイレギュラーの存在があったからだ。

 

 そんな彼から見て、あの少年は大成するようには思えない。

 レベル高い冒険者は、低レベルから持つべきモノを持っている。自分を追いつめた子供達だってそうだ。

 

 知らず知らずの内にアダチの口から出た言葉は、感情の発露だったのかもしれない。もしくは、アダチからエイナへの善意だったのかもしれない。

 ただ、エイナにとってその言葉は良い物ではなかった事は確かだ。

 

 「……アダチさん、それは酷いと思いますよ。彼は頑張っています、ただそれが空回りしちゃうことがあるだけで」

 

 「エイナちゃんが優しいのは解るよ。でも時には夢を早いうちに諦めさせるのも、僕らの仕事だと思うけどね。『仲間』もいない、才能もないんじゃ無理だ。最後には夢にも裏切られることになる」

 

 エイナはその言葉に怒りの感情を覚えた。

 

 アダチは言葉の裏で、あの優しい少年の努力を無駄だと切って捨てたのだ。彼の頑張りを知っている者として、応援する者として、とてもではないが許せるものではない。

 

 確かに悲しいことに才能というものが無く、理想と現実の狭間で諦めてしまう人たちもいる。

 または焦りを募らせ、無謀な行いを繰り返し、勇気と蛮勇をはき違えた結果、ダンジョンから帰ってこなかった冒険者もたくさん見てきた。

 

 だが、才能だけが冒険者の全てだとエイナは思わない。遥か高みに至る栄光だけが、冒険者の全てだとはエイナは思わない。

 

 冒険者として生きる中での多くの出会い、気づき、そして感動が人を成長させていく。それが何よりも尊く、素晴らしいものである事をエイナは知っている。

 ゆっくりでもいい、焦らなくていい。一般で冒険と呼ばれる事を無理にする必要はない、それはあくまできっかけに過ぎないのだから。そこで死んでしまっては、あまりにも、あまりにも悲しい。

 

 エイナはアダチが才能がないとの一言で、あの少年の未来を否定したことが許せない。

 それに夢が裏切るのではない、夢を冒険者が諦めるのだ。いつだって、それこそどんなになっても、夢は追い続けることができる。

 それを他人がどうこういうなど、あまりにも過ぎた行いだ。

 

 だから声を上げようと、キッとアダチを睨み付けた。

 そして――――何も言えなくなった。

 

 「……アダチ、さん?」

 

 アダチはエイナを見ていなかった。

 顔を向け、視線を向けてる少年、ベルを見ていなかった。

 

 空虚な瞳だった。

 

 感情は何一つなく、訴えるものは何一つなく、ただそれを知っている。

 そんなどうしようもないものを知り、見てきた者の目。

 アダチはベルを通して何かを見ているのだ。

 その手はアダチが身に着けている、いつも大切にしているネクタイを強く握りしめていた。

 

 エイナはこの時、自身がアダチという人間を何も知らないことに気がついた。

 

 エイナは記憶を失う前のアダチを知らない。だがエイナが保証人となり、様々な事を自らが常識から教え、ギルド職員になってから一年。

 このオラリオにアダチが来てから、自分が最も彼とは親しい間柄だとエイナは思っている。実際、それは決してエイナの思い込みではない。

 

 記憶を失っており、さらには誰一人として彼の事をオラリオで知る者はいない。しかも記憶の始まりからして、ダンジョンで武器もなく一人。

 アダチに居場所を与え、共に今の生活を築いてきたのはエイナであった。

 

 だが、果たして彼が一度でも、その軽薄な笑みの下にある感情を自分に打ち明けてくれた事はあっただろうか。不安を、不満を、苦しみを、自分に話してくれた事はあっただろうか。

 エイナという存在に、少しでも心を打ち明けてくれたことはあっただろうか。

 思えば、アダチとの間で自分はずっと話してばかりだった。このお祝いの席だけではなく、出会ってからずっと。

 

 私は、彼の何を知ったつもりでいたんだろうか。

 

 急に目の前の存在が遠くに行ってしまったような、もう帰ってこないような恐怖に襲われる。

 エイナが耐えきれず、手をアダチに伸ばした。その時であった。

 

 激しい音と共に、豊穣の女主人のドアが開かれる。

 店内の誰もが何事かと視線を向けると、現れたのは冒険者の大集団。その先頭を進むのは、糸目で緋色の髪を一つにまとめた神気を放つ女性。

 

 「さぁーッ!みんなで久しぶりに飲むでーッ!」

 

 怪しい関西弁に続いて入ってきた冒険者達の歓声。

 そのファミリアを象徴するエンブレムはピエロの道化師。

 エイナとアダチはその集団を見るや、それぞれ顔に感情を露わにする。前者は驚き、後者は厄介なと。

 ここにいる誰もが、エイナ達のように彼らを知っている。否、オラリオで彼らを知らないものはいないだろう。

 

 神であるロキに率いられた冒険者達。

 オラリオ屈指の探索系ファミリア、『ロキ・ファミリア』であった。




お久しぶりです、就職したり、他の虹を書いてたりでのんびりしてました。
最近またモチベが戻ったので、ひっそり投稿。
次回がロキファミリアとのテンヤワンヤ書いて、その後にアダチがカッってなって。
頑張れば3話で行けそうだ!(無計画


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