機動戦士ガンダムSEED A.I.W. (ゆなつー)
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この作品をお読みいただく上での諸注意

どうも初めまして。ゆなつーと申します。

さて、今回は拙作のページを開いていただき誠にありがとうございます。

 

内容はタイトル通りなので、早速説明していきます。大体大きく分けて

 

・更新速度は完全不定期

・そもそもが遅い

・ガバガバ国語力

・文章くどすぎ

・話の展開も遅い

・独自解釈多め

 

の6つほどの点についてご留意頂ければと思います。

深く考えず、「ああ、この程度の事なら構わないよ」と仰ってくださる方は、以降は読み飛ばしていただいて結構です。どうぞ、お楽しみいただければと思います。

 

この時点でダメな方、申し訳ありません。作者の腕ではこれが限界ですので、今回のこの作品に関しては、以降更新でタイトル程度は目に入ると思います。お目汚し申し訳ありません。

 

 

 

では、以下は各点におけるすこし詳しい説明となります。「もっと詳しく」という方だけお読みいただければと思います。

 

 

 

・更新速度は完全不定期

・そもそもが遅い

 

この2点に関しては作者の技量不足の最たる点です。

とにかく遅い。状況描写や心理描写、キャラクターがどう動くのが自然かを考えると、どうしても書くのに時間がかかってしまいます。ですので、申し訳ありませんが、この点に関しては作者の技量の上昇を待っていただくほかありません。

 

 

・ガバガバ国語力

 

作者、基本的に馬鹿です。そりゃもう、時々自分が何書いてるかわかんない程度に。

この点に関しましては、想定されるような質問、疑問点はできるだけあとがきにて解説しようと思っています。それ以外に疑問に思ったこと、または表現の改善案などありましたら感想にてお知らせください。できる限り対応させていただきます。

 

 

・文章くどすぎ

・話の展開も遅い

 

 

ごめんなさい。作者の悪い癖です。できるだけ丁寧に書こうとするからこうなるわけです。

この点も技量次第で改善されていくのではないかと思いますので、どうか見守っていただきたく思います。

 

 

・独自解釈多め

 

書いているうちにどうも、少しばかり自分で考えなければいけない点が出てきました。大体は原作設定を尊重し、足りない部分を独自の解釈で補うようにしていますが、もしかしたら原作設定と矛盾するところがあるかもしれません。

そういう時は、できるだけ優しく教えていただきたく思います。

 

 

現状、以上6点が主な注意点となります。拙作をお読みになる際は、くれぐれもご留意ください。また、もしかすると随時追加となる可能性もありますが、ご容赦ください。

 

それでは、よろしくお願いいたします。



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1-a

プロローグが短かったため、1話冒頭部分と結合させました。おかげでちょっと違和感。

1000文字規制なんてあったんですね。


コズミック・イラ(C.E.)70年。悲劇は唐突に起こった。

会合で起こった爆破事件により、それまで緊張が続いていた地球国家とスペースコロニー群“プラント”の間で戦争が始まったのだ。

宣戦布告したのは地球側。彼らは国家間で“地球連合”なる勢力を組織しプラント側への攻撃を開始した。

だが、その手法はあまりにも非情だった。

核である。

その日、農業用プラント「ユニウスセブン」は地球連合の放った核ミサイルにより破壊され、述べ24万人以上が帰らぬ人となった。

C.E.70年2月14日、後に「血のバレンタイン」と呼ばれる事件である。

 

プラント側はこれに対し激怒、二度と核攻撃を行わせないために「ニュートロンジャマー(NJ)」と呼ばれる核分裂を抑止する装置を地球へと向けて無数に発射。結果地球上では原子力を動力とする兵器はおろか発電所さえも機能しなくなり、深刻なエネルギー不足によって億単位の人々が命を失った。

 

また、NJの影響で通信やレーダーが使用不可能になったことで既存の兵器は弱体化。物量で勝る地球連合軍の勝利で終わると予想されていた戦争は、プラントの政府組織「Z.A.F.T.」が開発した人型機動兵器「モビルスーツ 」 の登場によって拮抗。どちらが勝つかの予想もつかないままに11か月が経過した。

 

そしてC.E.71年。連合軍が極秘に開発した"6機"のモビルスーツを起点として、戦局は大きく揺れ動くことになる。

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED A.I.W. 1話

 

 

 

「じゃ、彼にもよろしく伝えておいてくれ。私はこれからモルゲンレーテの会議に行かなければならないからね」

「はい。では教授、失礼します」

 

宇宙コロニー、ヘリオポリス。その中のとある工業系カレッジの、これまたとある研究室から一人の少女が出てくる。

少女の若緑色をした髪は肩にかからない程度に整えられており、真紅の瞳は彼女の肌の白さを一層引き立てている。来ている長袖のレディースシャツと赤いベスト、そして赤チェックのロングスカートはどれも上質なもので、彼女のイメージを“大人っぽい”というものに演出している。

彼女は自らの髪を一度だけ手櫛で整えてから、廊下を歩き始める。

 

途中何人かのカレッジ生とすれ違うが、その中の少女たちと比べると、彼女はかなりの可愛い部類に入ることがわかる。すれ違う男子が皆彼女を目で追っていたことが、それが事実であると物語っていた。

そんな視線に気づかないままに、彼女は研究棟の出口へとたどり着き、ドアの前に設置されている端末に向かって学生証をかざす。

するとブザーが短く鳴り自動でドアが開く。端末のディスプレイには、「通行許可:メレアリス・オウルベル」と彼女の名が表示されていた。

 

 

 

所変わってヘリオポリス屋外。日よけのできる東屋で、少年――キラ・ヤマトは作業をしていた。

作業と言っても力仕事ではない。資料を片手に何やら忙しなくタブレット端末のキーボードを叩いている。

その傍らでは彼の宝物である鳥型のロボット、トリィがその姿をじっとみていた。

 

「よっ、キラ。こんなところにいたのか」

「ああ、トールか。それにミリアリアも」

「ええ。こんにちは、キラ」

 

突然声をかけられたので顔を上げてみると、そこには同じゼミの親友であるトール・ケーニヒと、その恋人のミリアリア・ハウが立っていた。

 

「まーた教授に何か頼まれたのか?」

 

トールがキラのディスプレイを覗き込みながら言う。

 

「うん。ちょっとプログラムの解析をね」

「キラ、最近頼まれごと多いもんね。この前も何か頼まれてたでしょ?」

「ああ、あれは教授の研究用プログラムのデバッグだよ。教授、最近はモルゲンレーテの方が忙しいみたいでさ」

「なるほどねぇ。ま、たしかにそっち関連で頼れるのはお前とアイツしかいないもんな」

「はは……」

 

アイツ。その言葉でキラは一人の少女を思い浮かべる。

メレアリス・オウルベル。キラたちが通うカレッジの中でも可愛いと有名な少女だ。

ただ、有名ではあってもあまり親しい友人が多い訳ではないらしい。彼女の大人っぽい雰囲気のせいで、どうやら同じゼミであるキラたち以外からは“高嶺の花”と認識されているようだった。

加えて彼女も割と自由奔放なところがあり、自分から友人を作りに行くこと自体が稀でもあった。

 

(でも、ボクたちはその数少ない親しい友人のカテゴリにいるんだよなぁ……)

 

そう考えるとキラは微妙にうれしくなった。

 

「キラ、ミリィ、トール。3人とも、こんにちは」

「え? あっ、メ、メレアリス?」

「お、噂をすればなんとやらってね。よっ、メレアリス」

「あ、メル。カレッジからの帰り?」

 

そんなことを考えているうちに、メル――メレアリス本人が現れたため、キラは素っ頓狂な声を上げてしまう。

メレアリスはそんなキラに一度だけ怪訝そうな視線を向けるが、すぐにミリアリアたちの方に目を向け、

 

「ええ。教授に頼まれていたものを渡してきたの。まぁ、代わりの物をもらうハメにもなってしまったけど」

 

と若干ながら苦笑し、手に持っていたものを見せる。

そこにあったのは、また何らかのプログラムだと思われるディスクが4枚。

 

「え、また頼まれたのかよ?」

「まぁね。モルゲンレーテ(あっち)で何やってるのか知らないけど、最近は本当に人使いが荒いわ……」

「うっわ、しかも4枚って。メル、あなた大丈夫なの?」

「半分は私のじゃないわ。そこで呆けてるキラの分を預かってきたのよ」

「えー? ボクの?」

 

キラは思わず嫌そうな声を上げてしまう。

 

「そ、アナタのよ。……とは言ったけど、それ、まだ途中でしょ?」

 

メレアリスが視線を向けた先にはキラのタブレット端末。それというのは、どうやら昨日教授に頼まれたプログラムの解析を指しているようだった。

 

「うん、まだちょっと時間かかりそう。昨日預かったものなんだけど、とにかくデータ量が多くて……」

「キラでも一日で捌けない量って……何のデータなのよ、それ」

「うーん、わからない。何かの機械のフレーム構造みたいなんだけど……工業用アームのモノにしてはすごく珍しいんだよね」

「ちょっと見せて。……本当ね、こんなの見たことも無いわ。この精密さだと、作業用ロボットでもなさそうだし」

「うん。なんというか、もっと人間の動きに似せてるような感じがするんだ」

 

メレアリスもそれに同意し相槌を打つ。

 

「これ、あとどれくらいかかりそう?」

「そうだなぁ……まだ結構かかるかな。これで4割くらいだし」

「成程ね。……ならいいわ。こっちの4枚は私がやっておくから、気にしないでそっちを片付けて」

「えっ、そんなの悪いよ。これだって期限は今日までなんだし、どうせそれも期限は短いんだろ? もしデータ量がこれと同じレベルだったら、とてもじゃないけど4枚なんて……」

 

キラがメレアリスを心配するが、メレアリスは心配ないとばかりに微笑む。

 

「悪いと思うなら、それを早く片付けて手伝ってくれると助かるわ。先ずはそっちに専念して。期限に間に合わない方がまずいでしょ」

「……わかったよ。ありがとう、メレアリス」

「どういたしまして。……じゃ、私はここで失礼しようかしら。またね、3人とも」

「え、もう行っちゃうの?」

 

にこやかに手を振って立ち去ろうとするメレアリスにミリアリアが声をかける。

 

「モルゲンレーテの研究室に行こうと思ってるの。コレを片付けるのならあっちの方が早いから」

「なら丁度いいや! 俺とミリィも行く予定だったんだ。一緒に行こうぜ」

「あら、そうなの? じゃあそうしようかしら」

 

メレアリスがそう言ってキラたちの方に向き直った時、

 

『――続きまして、速報です。現在カオシュンでは、7㎞程離れた地点で激しい戦闘が行われ……』

 

キラの端末から流れていたニュースが戦争の話題へと移り変わる。

 

「戦争、ね。いつ終わるんだか」

 

メレアリスがつぶやく。

 

「速報って言ったって、地球で言えば7日前の情報だろ? 今頃、カオシュンも落ちてるんじゃねーのか?」

「本土に近いよね? 大丈夫なのかな……」

 

トールの発言に不安がるミリアリア。

本土というのは、現在キラたちが生活しているこのヘリオポリスが所属している地球上の国家、オーブの事である。

 

「バカ、ガールフレンドを不安にさせるような事言わないの」

「そ、そうだよトール。それに、オーブ(うち)は中立だろう? 大丈夫だよ、きっと」

 

メレアリスの呆れたような声にキラも便乗する。友人の不安そうな顔を見るのは心苦しかったし、何より自分がそう思いたかったというのもある。

そして、それと同時にキラは自分の古い友人の事を思い出す。

 

(アスラン……)

 

アスラン・ザラ。月の幼年学校で親友同士になった同い年の少年だ。キラとは家族ぐるみの付き合いをしていたほど仲が良かった。

キラの気づかないうちに空を飛び始めていたトリィも、実は彼からのプレゼントであった。

 

(……「本当に戦争になることはないよ。プラントと地球で」、か)

 

別れ際にアスランがキラに向かって言った言葉だ。それはキラの不安を払拭するための気休めの言葉だったのか、それとも本心からの言葉だったのか。幼かったキラにはわからなかった。

 

「キラ?」

「……えっ? わぁっ!?」

 

ふと名前を呼ばれて我に返ると、目の前にはメレアリスの顔があった。あまりにも距離が近すぎて、キラは驚いて後ろへすっこける。

 

「あたた……」

「何やってんだか。じゃ、またね」

 

そんなキラに苦笑したあと、メレアリスは再度立ち去ろうとする。ホント何やってんだよ、と笑いながらトールがそれに続き、ミリアリアも笑いながらそれについていく。

 

「ま、待ってよ! ボクも行く!」

 

起き上がったキラはそんな3人についていこうと大急ぎで荷物を片付けるのだった。



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1-b

時を同じくしてヘリオポリス港内。

本来中立であるオーブに属するはずのこのコロニーに、ある戦艦が寄港していた。

 

「……」

 

その戦艦のブリッジに一人の男が佇んでいた。

ノーマルスーツの形状からして、所属は地球連合軍。しかも、そのカラーリングから察するに、いわゆるエースパイロットのようだった。

 

「ふむ、これで本艦の仕事も最後となるな。フラガ大尉、貴様も今回の任務ご苦労だった」

 

同じくブリッジにいた艦長らしき人物に男は声をかけられる。

ムウ・ラ・フラガ。それが男の名だ。前の戦闘での功績から、『エンデュミオンの鷹』の異名で知られる程のエースパイロットでもある。

 

「はっ。航路何もなく、幸いでありました」

 

ムウはそう受け答える。実際、今回の任務は戦闘配置に就くことすらなく終わってしまったのだ。

 

「うむ。……にしても、今回の件。これで本当に戦況が変わるといいのだが」

「……ええ」

 

艦長の言葉にムウもうなずく。

今回の任務は、今後の連合にとっては正に中核であると言っても過言ではない程の重要な計画に関係していた。

 

「艦長!」

 

少し遠くから聞こえてきた声に反応して2人は顔を向ける。見れば、6人の青年がブリッジの出口付近で艦長へ敬礼していた。今回の任務でムウ達が護衛してきた兵士たちだ。

 

「うむ」

 

艦長が敬礼を返すと一斉にブリッジから出ていく。

ムウはその様子を見ながら、前々から思っていたことを口にした。

 

「あんなひよっこ共がGのパイロットとは……」

「確かに些か思うところはあるが、あれでMSパイロットのトップガン達だ。大丈夫だろうさ」

 

艦長も暗に同意しているのか、若干ながら声が先程よりも低かった。

 

「ところで、周辺のZ.A.F.T.艦に何か動きは?」

「2隻、この船をトレースしている艦がある。……なぁに、気にはかかるが、ここは中立のコロニーだ。一度入ってしまえば連中もそう簡単に手は出せんだろうさ」

「中立国、でありますか。聞いてあきれますが」

「この時世だ、どこの国も一筋縄ではいかんのだろうよ。……オーブも地球の一国ということさ」

 

まるで自分の領域ではないといわんばかりに艦長は首を振る。

 

「ともかく、ここまで来て何か起こるということも無いだろう。フラガ大尉、後はゆっくり休むといい」

「……はい、ありがとうございます」

 

答えるムウの脳裏には、一人の男の影がちらついていた。

 

 

 

 

 

再びコロニー内。

メレアリス達4人はモルゲンレーテに向かうべく、まず自動操縦型四輪駆動車(オートビークル)のターミナルへと向かっていた。

 

「ん? あれは……」

 

ターミナルに着くとトールが何かを見つける。

その声につられたメレアリスがトールの視線の先を見ると、そこでは数人の少女が何やら騒いでいた。

 

「ちょっとフレイ、いい加減教えてよ!」

「サイ・アーガイルから手紙貰ったって本当?」

 

数人の中でも一番に目を引くのが、フレイ・アルスターという少女。いわゆる恋バナというやつなのか、2人の少女と共にあーでもない、こーでもないと喋っていた。

乗りもしないのにターミナルで何を騒いでいるのかとメレアリスは少しだけ顔をしかめるが、実際にそれを苦言として口に出す気にはならなかった。

 

「えっ……サイが?」

 

隣にいたキラが呟く。どうやら軽くショックだったようだ。

ちなみにサイ・アーガイルと言うのはメレアリスやキラの1つ上のゼミ生だ。

 

「あ、フレイ!」

 

フレイの友人であるミリアリアは小走りにフレイに駆け寄る。

 

「ミリィじゃない! どうしたの? 」

「これからモルゲンレーテに行くの。……あ、そうだ。今日のサークルなんだけど……」

 

満面の笑みでミリアリアを会話の中に入れるフレイ。

彼女はミリアリアと同じサークルに所属している、キラやメレアリスの1つ下の少女だ。カレッジではメレアリスと並んで可愛いと評判の人物で、メレアリスが“高嶺の花”なのに対して彼女は“アイドル的存在”というイメージである。

 

「……失礼、乗らないのであれば先に使わせてもらえるかな?」

 

ミリアリアたちの会話が終わるのを待っていたメレアリスたちの背後からそんな声が聞こえる。

メレアリスが振り返れば、そこにはサングラスをかけた女性と、それに付き従うように男性が二人。

 

「え? ああ、すみません。どうぞ」

「ありがとう」

 

一番後ろにいたキラがそれに反応し、道を空ける。それに倣い全員が道を空けたところで、件の3人は手早くビークルに乗り込み走り去る。

 

「……確かに此処にいたら邪魔になるわよね。ミリィ、私たちもそろそろ行きましょう?」

「あ、うん。じゃあフレイ、また後でね」

「ええ、またサークルで。私も用事があるから行くわ」

 

フレイはミリアリアに手を振ると、先ほどから一緒にいた2人の少女と共に歩いていく。

メレアリスたちはミリアリアがフレイを見送るのを待ってから、空いていたビークルへ乗り込み、目的地を設定する。

 

「にしてもさぁ、キラ。お前、フレイのこと気になるのか?」

「え、ええっ!?」

 

突然のトールの問いかけに慌てるキラ。

 

「いやさぁ、さっき『フレイがサイから手紙を貰った』とかなんとかって話を聞いたとき驚いてたろぉ?」

「いやっ、それはその」

 

トールのいかにも意味ありげな話し方と、ものすごい慌てっぷりのキラ。そんな二人の会話にメレアリスも参加する。

 

「あら、キラはああいうタイプの子が好きなのかしら」

「メ、メレアリスまで!」

「いやー意外ですなぁ。まさかキラがねぇ」

「ちょっと、二人ともやめなよー」

 

ミリアリアも冗談気味に加わって、キラ以外の3人は笑いあう。

 

「違うって! そういうのじゃ無いよ!」

「ふふっ、はいはい。……でもキラ、本当にそういうのじゃない方がいいかもね」

「え……?」

「あー、キラは聞いたことない? フレイって親が決めた婚約者がいるのよ」

「……うん、ちょっとだけ」

 

ミリアリアの言葉に少し暗めな表情を見せるキラ。

 

「でも意外、メルはこの話知ってたんだ? こういう話(恋バナ)、あまり興味ないのかと思ってたけど」

「あら、これでも女の子のつもりよ? 興味がないと言えば嘘になるわ」

「人の恋路って誰でも気になるよな。……それにしてもキラくん。婚約者がいるって話を知りながらフレイに思いを寄せるとは……これは熱いドラマの予感!」

「だぁっ、だから違うってば!」

 

再び騒ぎ始めるトールとキラ。その傍らで、メレアリスは全く別のことを考えていた。

実は先ほどメレアリスが言おうとしたことは、フレイの婚約者の話ではない。それどころか、そういった話は聞いたこと自体なかった。ミリアリアへの応答通りメレアリスも人並みに恋愛話は好きではあるつもりだが、何しろする機会が少ないのだ。

では何を言おうと思っていたのか。それは、彼女がコーディネーターに対して強い偏見を持っているかもしれない、ということだった。

 

コーディネーター。その言葉が意味するのは、C.E.15年を境に誕生し始めた新たな人種。キラやメレアリスはこれに属している。

彼らの特徴は、赤ん坊として生まれる以前に遺伝子を操作された結果、優れた免疫力や運動能力、学習能力を獲得していることが主である。その証左に、コーディネーターが居住している“プラント”では地球よりも文化的、及び技術的に優れた部分が数多く存在している。

 

しかしそんな存在が生まれれば当然それに反発する者も出てくる。遺伝子を操作されていない天然種の人類――ナチュラルと呼ばれる者たちの一部が結成したブルーコスモスという団体だ。

彼らがコーディネーターに反発する理由は実に多種多様。生来の能力の差から来る嫉妬だったり、倫理観の問題から来る存在の否定だったり。或いは、周りに合わせているだけの者もいるだろう。

『青き清浄なる世界のために』をスローガンとして活動する彼らは、全世界でコーディネーターの排斥運動を行っている。その手法は、村八分や不買運動に始まって集団リンチや殺害までとかなり手広い。

 

そんなブルーコスモスにフレイの父親が所属しているらしいというのをメレアリスは噂に聞いたことがあった。もちろん父親がそうだからと言ってフレイもブルーコスモスであるとは断定できないが、どちらにせよ父親の影響は少なからずあるだろうとメレアリスは思っていた。

 

「……考えすぎならいいけど」

 

誰にも聞こえないような小声でそうつぶやき、溜め息を吐いて、メレアリスはビークルを発車させた。

 

 

 

それから15分程して、メレアリス達はカトウ教授――彼女たちのゼミの教授だ――が担当しているモルゲンレーテの研究室へと到着する。

 

「じゃあ俺が聞いてやるよ! 他ならぬ親友のためだしな!」

「いいってば! そういうんじゃないって言ってるじゃんかぁ!」

 

ビークルに乗ったころにはじまった騒ぎは結局研究室のドアを開けるまで続いていた。

 

「やあ、来たか」

 

騒ぎを聞きつけたのか、メレアリスたち4人が室内へ入ってすぐに一人の少年が顔を出す。

 

「ええ。こんにちは、サイ」

 

メレアリスが挨拶する。続いて残りの3人も挨拶をするが、キラだけが顔をひきつらせていた。

先ほどのフレイたちの会話にも出てきた、サイ・アーガイル。彼は短めのブロンドの髪と、色つきの眼鏡が特徴的な人物だ。性格は温厚で、怒ったところを見た人は少ない。あまり自己主張をしない人物でもあるので詳しいことはわからないが、少なくともメレアリスはそう判断していた。

そして、そんな控えめな人物がカレッジでも可愛いことで有名なフレイに送ったのが。

 

「……手紙、ね」

「うぇっ!?」

 

メレアリスはクスリと笑う。

彼女がつぶやいた言葉に、キラは図星といわんばかりに驚く。

 

「ん? キラ、どうかしたのか?」

 

サイがそんなキラに声をかける。

 

「い、いや、なんでもないよ」

「なんでもないわけないだろー? サイ、キラ(こいつ)が聞きたいことがあるんだってよ!」

 

ごまかそうとするキラにトールが後ろから飛びつきながら横槍を入れる。

 

「なんだい、聞きたいことって?」

「ほ、本当に何でもないんだ! 気にしないで!」

「おいおい、いいのかよキラ? 聞けばいいじゃんかよー」

 

男3人の会話を聞きながら、メレアリスは自分のバッグから端末を取り出して近くのPCに接続しようとする。

と、不意にメレアリスは視界に見慣れない人物を捉える。

全身を包むような黒っぽい服装に、深く被られた帽子。辛うじて顔の輪郭と金髪だというのがわかるが、それだけでは性別はわからなかった。

 

「……ねぇ、バスカークくん。あの人は誰?」

 

メレアリスは丁度近くにいたカズイ・バスカークという少年に聞いてみる。

彼とメレアリスはあまり親しくないが、会話を交わす事が多々ある程度には面識があった。

 

「あ、ああ。教授のお客さんらしいよ。ここで待っててくれって言われたんだってさ」

 

いきなり話しかけられたカズイは多少驚いたようだったが、メレアリスへとハッキリ答えを返す。

 

「なるほどね。教えてくれてありがとう」

「気にしなくていいよ。……あ、あのさ、オウルベルさん」

「なにかしら?」

「あ、いや、その……カズイ、でいいよ」

 

カズイは少し顔を赤くしながらも、メレアリスに向かって言う。なるほど、確かに今この研究室にいるカトウゼミのメンバーのなかで唯一メレアリスが名前で呼んでいないのが彼だった。

 

「ふふっ、いいの? それじゃ、これからはそう呼ばせてもらうわ。私のことも、メレアリスでもメルでも、好きな風に呼んでくれていいわよ。ありがとね、カズイ」

 

メレアリスは軽く笑いながら、そう返す。

彼女は確かに友人を作ることに積極的ではないが、だからといって作りたくないと思っているわけではない。

実際、名前で呼び合うような友達が増えるのはメレアリスにとっても嬉しいことだった。

 

「……! う、うん」

「……? 顔が赤いけど、体調でも悪いの?」

「え? あ、いやっ、別にそういうわけじゃ」

「ふふっ、変なの」

 

そんな彼女の笑みに、更にカズイは顔を赤くしてしまう。

キラがフレイに憧れているように、カズイもまたメレアリスに憧れているようだった。

 

 

 

程なくして、全員がそれぞれの作業に取り掛かる。

トールやミリアリア、カズイとサイの4人は論文用に作成しているパワードスーツの調整を行い、キラとメレアリスの2人は教授からの頼まれごとを消化。

途中、何か手詰まりがあれば2人がパワードスーツの方にも参加するといういつもの流れだった。

 

「ちょ、ちょっとこれ、動かないんだけど……」

 

実際の挙動を確かめるためにカズイがパワードスーツを装着して起き上がろうとする。しかし、件のスーツはほとんど動かない。

 

「俺のところはミスはなさそうだけどな。カズイ、お前が下手なだけじゃねーの?」

「でも、さっきまではカズイも動かせてたわよね。やっぱりどこかミスでもあるのかな」

「うーん、そうなのかも知れないな。僕が調べて……」

「メレアリス、キラ、ちょっとこっち見てくれ」

「今行くわ」

「今度はどうしたの?」

「実はさ……」

 

サイが言いきらないうちに、既に手伝いを呼びに行っていたトールがメレアリスとキラを連れてくる。

2人はトールから簡単に経緯を聞くと調整用のデバイスをいじり始める。

 

「……ああ、これかな。バランサーの数値がおかしいんだ。これ、昨日設定したプリセットと一緒だし。調整の後に変更しないと」

「それにここ、コードの関数値が間違ってるわ」

「あ、本当だ。じゃあこの2つを修正すれば……」

 

2人は手慣れた手つきで修正を行っていく。

数十秒後、2人がデバイスから手を放すと同時にカズイがゆっくりと立ち上がる。

 

「あ、動いた」

「ひょー、一発解決。さっすが我らがゼミのプロフェッショナルズ」

「よくそんな短時間で原因がわかるわよね。すごいなぁ、2人とも」

「運よく1発で見つかっただけよ。普通はこうも行かないわ」

「そうだよ、たまたまだって」

 

メレアリスとキラはそう言いながら、それぞれの作業へと戻っていく。

 

「メレアリス、そろそろこっちが片付きそうだから1枚くれる?」

「あら、随分と速いのね。わかったわ、ちょっと待って……」

 

メレアリスが預かっていたキラの分を返そうと自分の机の上にあったデータディスクに触れたその時。

突然、爆発音とともに巨大な振動が研究室を襲った。

 

「うわあっ!?」

「な、なんだぁ!?」

 

キラの驚く声にトールの声が重なる。カズイはパワードスーツごと転倒し、サイは慌ててカズイが着ていたパワードスーツの装着を解除する。

 

「何かしらね、この揺れ。工場の方で問題でも起こったのかしら? ……ミリィ、平気?」

「何ともないわ、大丈夫。隕石でもぶつかったのかな」

「ともかく、一旦避難しよう。エレベーターは途中で止まったりでもしたら大変だから、階段を使おう」

 

サイの言葉に全員がうなずいた。

 

 




オートビークルとかいう名称は勝手につけました。名前判らないです。

あと、フレイのブルーコスモスくんだりも独自解釈。まあ人種的、民族的な問題と言ったらこんなもんでしょうという勝手な推論です。

で、動かないパワードスーツの関数値のあたりも適当に理由をでっち上げています。作者はその道の人でないので、プログラムに関数値を使って、それが動作に影響を及ぼしてるのかどうかまでは分かりません。問題があるようでしたら、気づいた方、知識のある方、ご一報ください。


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1-c

メレアリス以外のオリキャラが出ます。説明は後ほど。


同時刻、コロニー屋外。メレアリスたちがいるモルゲンレーテに近い山林部分の高台から工場を観察している集団がいた。

彼らが着ているノーマルスーツの独特な形状をしたヘルメットは、彼らがZ.A.F.T.の一員であることを示していた。

 

「アレだ。隊長の言った通りだったな?」

 

赤いノーマルスーツ――Z.A.F.T.では士官学校を卒業した者のうち、成績上位者のみが赤い制服とスーツを与えられる――を着た少年、イザーク・ジュールは隣にいた少年に話しかける。

イザークの眼下には、先ほど自分たちがヘリオポリスに侵入した際に仕掛けた爆弾におびき出され、どこかへ運搬されようとしている奪取対象があった。

 

「つつけば慌てて巣穴から出てくるって?」

 

話しかけられた少年、ディアッカ・エルスマンも軽口でそれに応える。

 

「ああ。やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」

「ははは、違いない」

「……」

 

そんな二人の会話を聞き流しながら、アスラン・ザラもまた眼下の奪取対象を眺めていた。

彼はちらりと別の少年――ニコル・アマルフィを見る。

 

「……どうしたニコル? 震えてるみたいだが」

「だ、大丈夫ですアスラン。ちょっと緊張してるだけですから」

「はは、無理もないよな。だって俺たち、これが初陣だし」

 

会話に入ってきたのはラスティ・マッケンジー。アスランやニコル、そしてイザークとディアッカと同じく赤いスーツを着ている。彼ら5人は同期で士官学校を卒業し、成績上位者として赤い服装を授与されているのだった。

 

「……報告では5機あるはずだが? 残りの2機はまだ施設内か」

「なら、俺とラスティの班で行く。イザーク達はそっちの3機を」

「OK、任せよう」

 

アスランの提案にイザークがうなずく。彼の行動開始の合図によって、その場にいた全員が自身のなすべき任務を遂行すべく動き出した。

 

 

 

 

 

「何があったんですか?」

「Z.A.F.T.に攻撃されてる!」

 

研究室にいた皆を先導して非常階段のドアを開けたサイの問いかけに、避難途中の職員が応える。

 

「コロニーにモビルスーツが入ってきてるんだよ!」

「「「ええっ!?」」」

 

さらに別の職員の言葉に、先頭にいたサイを含め皆が驚く。

ヘリオポリスは地球国家「オーブ」に所属するコロニーであり、そのスタンスはオーブと同じく“戦争に対しては中立”というものだ。だというのに、なぜかモビルスーツがこのヘリオポリスへと侵入してきている……つまり、現状においてただ1つのモビルスーツ保有組織であるZ.A.F.T.からの攻撃を受けているのだ。メレアリスを含め、その場にいたほぼ全員が予想だにしない出来事だった。

加えて、Z.A.F.T.が有する量産型のモビルスーツ『ジン』は全長が20m以上もある鋼鉄の巨人だ。武装の使用はおろか、少し腕を振り回せばビルなど一撃で破壊してしまうような存在なのだ。

そのような巨人が今メレアリスたちがいるモルゲンレーテの近くで破壊活動を行ったなら。……結末は、この場にいる誰もが容易に想像できた。

 

「なら、尚のこと早くシェルターに避難しないと。みんな、急ぎましょ……って、ちょっと!」

「君! 待って!」

 

メレアリスが言い切る前に、カトウ教授の客人だという金髪の人物がどこかへと走り去ってしまう。そしてそれを追ってキラも走っていく。

 

「ちょ、キラも!? ……ああもう! サイ、ミリィたちの事頼んだわよ!」

 

このまま避難するか後を追うかでメレアリスは数瞬迷ったが、結局キラたち二人を追うことにする。

 

「えっ、メレアリス!?」

「すぐ戻るわ! 先に行ってて!」

 

サイにそう言い残して、メレアリスもまたキラたちの後を追うべく走り出す。

20秒ほど走っただろうか、なにやら立ち止まって口論になっている2人の姿を視界にとらえたメレアリスは彼らに駆け寄る。

 

「何してるの!? ほら、早く避難しないと――きゃっ」

 

言いかけた瞬間、メレアリスの背後で爆発が起きる。

爆風に押され、勢い余ったメレアリスの体が教授の客人にぶつかる。かろうじて転倒は免れたものの、客人がかぶっていた帽子が衝撃で落ちてしまう。

 

「ごめんなさい……って、あら?」

「え……女の子……?」

 

キラの口から意外そうな呟きが漏れる。

やや短めの金髪、強気そうな目。やや活発そうな雰囲気があるが、確かに少女だった。

 

「なっ、今までなんだと思ってたんだ!」

 

客人の少女はそう憤る。

 

「ご、ごめん! そういうつもりじゃ……」

「二人とも、とにかく避難しないと! さっき来た道は爆発でふさがれちゃったから……あっち!」

「え、あっ!?」

「あ、ちょ、放せ!」

「こんなところで話していたら、いつ爆発に巻き込まれるかわからないでしょ!」

 

メレアリスは2人の腕を引っ張って出口らしき通路へと走る。

走り出した直後は、少女はメレアリスの手を振りほどこうと少し抵抗していた。が、状況を悟ったのか、途中からは腕を引かれるがままに素直についてくるようになる。

そうして3人が開けた場所へたどり着くと、そこには驚くべき光景があった。

 

「……なに、これ」

 

メレアリスたちがたどり着いたのは、工場区の搬出口2F。屋外と地続きになっている1Fでは怒号と銃声が響き渡り、血だまりと共に数人の死体が転がっていた。

そして何よりメレアリスたちの目を引いたのは、3台のトレーラーの荷台部分にそれぞれ横たわる巨人たち。

モビルスーツと呼ばれる起動兵器だった。

 

「やっぱり、地球軍の新型起動兵器……!」

「……あなた、コレを知ってるの?」

「お父様の、裏切り者……!」

 

メレアリスの問いに答えることなく、少女は泣き崩れる。

 

「君は、一体……うわっ!?」

 

キラも疑問に思ったようだったが、それを少女に投げかけようとしたその時、どこから飛んできたかもわからぬ銃弾がキラの背後の壁に当たる。

 

「ここも、危険みたいね。早くシェルターへ行きましょう!」

「う、うん!」

 

キラとメレアリスは泣き崩れた少女を抱えて、避難シェルターを探すのだった。

 

 

 

「ここはもう一杯なんだ! 他をあたってくれ!」

「女の子が二人いるんです! 何とかなりませんか!?」

 

ようやく見つけた避難シェルターの連絡用電話に向かってキラが言う。

泣き崩れた少女は未だショック状態から抜け切れておらず自力では移動できる状態ではなかったため、この少女だけは真っ先に安全な場所へ避難させなければならないというのがキラとメレアリスの考えだった。

 

「……一人だけならなんとかなる! 左ブロックに37シェルターがあるから、残りはそこへ行ってくれんか!?」

「わかりました! ありがとうございます!」

 

程なくして、シェルターへの移動に使うエレベーターが昇ってくる。そして、エレベーターのドアが開いた瞬間にメレアリスが少女を押し込める。

ここにきてようやく少女はショック状態から立ち直ったのか、驚きの声を上げる。

 

「お前ら、何を!?」

「私たちは大丈夫だから! 行きなさい!」

 

抵抗する少女を何とかエレベーターに入れた後、急いで避難用シェルターへと送り込む。

途中なにやら少女がこちらに向かって言葉を放っていたが、聞き取ることはできなかった。

 

「さ、私たちも急がないと!」

「うん!」

 

キラとメレアリス、2人が走り出す。現在いるブロックと37シェルターのあるブロックは搬出口を挟んで反対側にあるため、一度搬出口に戻らなければならない。

もしかしたら37シェルターにも2人分の空きがないかもしれない。そう考えると2人のスピードは自然と速くなっていった。

程なくして、搬出口へとたどり着く。相変わらず銃声が断続的に二人の聴覚を刺激する。メレアリスがちらりと見れば、先ほどよりも死体が増えたように思えた。

今は離れたところから見ているため多少の恐怖や吐き気で済んでいるが、至近距離で見ようものなら一瞬で恐慌状態に陥るだろうとメレアリスは考える。

 

「まだ子供が!? あなたたち、どこへ行くの!?」

 

不意に1Fから女性の声が聞こえてくる。二人が1Fを覗き込むと、モルゲンレーテの技術士官らしき女性が、拳銃を片手にモビルスーツの陰に身を隠しながらこちらの方を向いていた。

 

「左ブロックのシェルターに向かいます! お構いなく!」

「あそこはもうドアしかない! こっちへ! ……オリノ、カバーお願い!」

「わかりました!」

 

オリノと呼ばれた男性の技術士官――彼は別のモビルスーツの上にいた――の応答と同時に、左ブロックへの入り口から爆風が噴き出す。

それが意味するのは、左ブロックではすでに火の手が上がっているということ。37シェルターを探して無闇に入れば死んでしまうかもしれないし、万が一見つけられたとしても、シェルターへのエレベーターが機能していなければ意味がない。

 

「……くっ、行くしかないのか!?」

「……そうみたいね」

 

2人は女性の言葉に従い、1Fへと降りるべく手すりを飛び下りる。

普通の人間、つまりナチュラルでは高さによっては死んでしまうかもしれないような行為だが、メレアリスもキラもコーディネーターである。持ち前の身体能力のおかげで難なく着地すると、女性の元へと向かうべく走り出す。

――が。

 

「きゃっ!?」

「メレアリス!?」

「怪我はないわ! 大丈夫!」

 

流れ弾なのか、それとも襲撃犯の恣意的な攻撃なのかはわからないが、突然飛んできた銃弾により立ち止まったメレアリスが荷台の陰に取り残されてしまう。

 

「キラ、先に行って!」

「で、でも……!」

「行きなさい! 私は大丈夫だから!」

「……くっ!」

 

キラが先へ向かって走り出す。

 

「……どうしたら……」

 

取り残されたメレアリスは呟く。

今出て行った場合、先ほどの銃撃が流れ弾であればキラや女性と合流できるだろう。ただ、自分やキラを狙ったものだったとすれば、次は確実に撃ち殺されてしまうだろう。……想像するだけで、足がすくむ思いだった。

出ていくか、ここで立ち止まったままでいるか。2択を迫られたメレアリスの心臓は、普段では到底考えられないほどの早鐘を打っていた。

 

(……落ち着いて、落ち着いて考えないと。まず、周りをよく見て……)

 

メレアリスは自身を落ち着かせるために深呼吸をした後、何か使えるものはないかと周りを見渡す。今隠れているトレーラーの荷台を見やると、そこには荷台の上へあがるための梯子が備え付けられていた。

 

(そういえば、コレの上にはモビルスーツがあったけど……。一旦、上ってみる……?)

 

メレアリスの記憶では、先ほど2Fから見下ろしたとき、この荷台にあるモビルスーツの上にはオリノという男性がいた。もしかしたら彼と合流することで結果的にキラたちとも合流できるかもしれない。

ただ、それは彼がまだモビルスーツの上にいるという仮定から成り立つ希望的な観測だ。もし彼がすでに移動していたり、死んでしまっていたりしたら、メレアリスは単にモビルスーツの上という目立つ場所へと無防備な姿を晒すだけで終わってしまう。

再び迫られる選択。どちらにせよ、今のままではまずかった。襲撃犯はこちらを攻撃するために移動を始めているかもしれなかったからだ。

 

「ラスティーーーーッ!!」

 

不意にどこか近くで男性の怒号が発せられる。その音を合図に、メレアリスは梯子へと手を掛けた。




オリノさん。AA組のクルーになると思われます。
なんか原作見た感じ、頼りになるというか、指標になりそうな大人の人って少ないんですよね。AAの人たちの中って。
なので、今回こういうオリキャラを入れてみようと思い立ちました。


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1-d

モルゲンレーテ工場区、その搬出口を襲撃したアスランは困惑していた。

 

(ここにもモビルスーツが3機!? どういうことだ、報告と違うぞ!?)

 

そう、行動を開始する直前にイザークがつぶやいていた通り、事前に入手していた情報では奪取目標――つまり、地球連合の新型モビルスーツの事だ――は合計"5機"とのことだった。

しかし、目の前には3機。イザーク達が奪取に向かった3機と合わせれば合計"6機"存在していることになる。これはどういうことなのか。

 

(……"同型機"か!)

 

注視してみれば、3機のうち2機は形状が酷似している。おそらく、都合2機生産されていたこの型のモビルスーツを1機見逃していたのだろうとアスランは思った。情報といっても偶然キャッチした『遠目から撮影された写真による5種のモビルスーツ』という単純なものに過ぎなかったのだ。そこに齟齬が生じるのは仕方がないと言えば仕方がない。

 

(……落ち着け。別に奪取する数が増えただけで、それ以外に何の問題もないだろう。少しばかり情報が違っていたとはいえ誤差の範囲内だ)

 

アスランはそう自分に言い聞かせる。実際、ここで持ち帰ることのできるモビルスーツの数は多ければ多いほどいいのだ。それはすなわち地球連合の戦力を削ることになり、Z.A.F.T.の戦力を増やすことにつながるのだから。

それに、別に人手はアスランとラスティだけではない。奪取するだけであれば赤服ではないZ.A.F.T.兵でも何ら問題はないのだ。

 

「ラスティは左を! 俺は真ん中を奪う! ノークス、一番右の機体はお前に任せる! 他のものは俺たちを援護しろ!」

「「「了解!」」」

 

アスランは今いる兵の中で、自分とラスティの次に能力が高いであろう同期を奪取に向かわせる。それと同時にアスラン自身もラスティと共に機体の奪取へ向かう。

 

「敵襲ーーっ!!」

「撃て! 奴らをモビルスーツに近づけるな!!」

「モビルスーツの搬出は一旦中止だ! 敵を……ぐわっ」

 

既にコロニー外にあるZ.A.F.T.艦『ヴェサリウス』―今回のアスランたちの母艦でもある―からジンが出撃しているのが確認されていたのだろう。アスランたちの襲撃に即座に反応した技術士官たちが発砲を開始する。

始まる銃撃戦。技術士官が倒れれば、Z.A.F.T.兵もまた倒れる。戦闘技能にコーディネーターとナチュラルという出自からくる差はあれど、だからと言って即座にコーディネーターのほうに軍配が上がるわけではない。技術士官の数はZ.A.F.T.兵よりも多く、数量対質という形で戦闘は長引いていた。

 

「くそっ、あと少しなのに……!」

「焦るな! 相手はナチュラルだ、一つずつ仕留めれば……」

 

ラスティの焦ったような声に、近くで銃撃していたアスランは彼に冷静さを取り戻すよう話しかける。

 

「いや、もうイザークたちは終わってるはずだ。遅れるわけにもいかない! ……アスランは奥のを! 援護する!」

「おい、ラスティ!?」

 

アスランの制止の声も届かずラスティが前に出る。

 

 

(このままラスティだけを先行させては……!)

 

射撃戦におけるセオリーの一つに、一人で突出しない事というのがある。理由は簡単で、単純に多対一の戦闘では数の暴力には屈服するしかないから、というものだ。

実際そうだろう。一人が一度に発射できる弾丸、およびその射線の数と集団のそれとでは比べ物にならないほどの差がある。いったいどれだけの力量があればその差を埋めることが可能なのか。

少なくとも、ラスティ一人で複数人との銃撃戦は無理だろう。いくらコーディネーターで軍人とはいえ、彼もアスランと同じ16歳の少年にしか過ぎないのだから。

 

「くっ、ノークス! 頼んだぞ!」

「任せろ!」

 

アスランは咄嗟に判断し、ノークスと呼んだZ.A.F.T.兵に一言かけてからラスティを追う。

件のラスティは射線を確保するために一旦真ん中のモビルスーツへ飛び乗り、即座に発砲。最奥に隠れて銃撃していた技術士官を倒すことに成功する。

 

「よし、アスラン! これで……」

 

OKだ、とでも言いたかったのだろうか。思わずアスランのほうを向いたことでラスティに致命的な隙ができてしまう。

 

「あ……」

 

危ない。アスランはそう言おうとした。が、言い終わる間もなくラスティのヘルメットが砕け散る。

いくらコーディネーターが身体的に能力が高いといえども、それは人という枠組みの中での話。ナチュラルと同じように、頭部に銃撃を受ければあっけなく死ぬのだ。

 

「ラスティーーーーッ!!」

 

断末魔もなく倒れる同期の姿に、アスランの中で何かが吹っ切れる。

ラスティと同じように射線を確保すべく勢いよく突っ込む。ラスティを攻撃したであろう士官を殺し、真ん中のモビルスーツの上にいた女性の士官へも銃撃する。

 

「……チッ」

 

アスランの放った銃弾は女性士官の腕を掠め、その反動で彼女は倒れ込む。しかし、それだけで致命傷には至らなかった。加えてそこで弾切れしてしまったために、アスランは銃を投げ捨て、ナイフでトドメを刺そうと突進する。

途中、民間人らしき少年が女性士官へ近づくが、アスランは動きを止めない。

 

(避難し遅れたのか? ……かといって見逃すわけにもいかない。可哀想だがここで士官と共に死んでもらう)

 

そう思いながら近づき、自身の間合いに入ったその瞬間。

 

「……アスラン?」

 

目の前の少年が、自分の名を呼んだことで動きが止まる。

 

「……キラ……!?」

 

思わず顔を見れば、月にあった幼年学校に通っていた時の大親友――キラ・ヤマトに似ていた。いや、似ていたというよりも面影が残っていたというのが正しいだろう。最後に見たのはもう何年も前のことで、本人なのかどうかはわからなかった。

だが一度意識してしまうと、アスランは目の前の少年がかつての友と被ってどうしようもなかった。疑念や迷い、動揺が彼をその場に縛り付けていた。

 

(この少年は本当にキラなのか? 俺が、アイツを殺す? 弟分を……?)

「――危ない!」

 

不意に近くで叫ばれる警告の声。即座に見れば、少年の横にいた女性士官が銃を構えていた。我に返ったアスランは即座に後ろに飛びのき銃撃を回避する。

その隙に女性士官は少年ともどもモビルスーツのコックピットへと入り込み、シャッターを閉じてしまう。

 

「くっ」

 

これで1機はほぼ奪取不可能となってしまった。アスランは歯噛みしながらも、ラスティが奪取する予定だった一番左の機体へと飛び移り、コックピットへ即座に乗り込む。

そしてすぐにハッチを閉め、モビルスーツへの動力を供給すべく主電源へと手を伸ばす。

が、

 

「何? すでに起動している……?」

 

動力の供給状態を示しているらしいパネルは既に【NEUTRAL】と今すぐにでも動作が開始できることを示していた。

仮にもモビルスーツという圧倒的なまでの戦力を有した兵器だ、今回はこちらが盗む側ではあるものの、本来であれば強奪防止のためにプロテクトが掛けられていても疑問はなかった。急造ではあるが外部から強制的にOSを書き換えるための機器をも用意していたZ.A.F.T.兵としては、拍子抜けというのがアスランの素直な感想だった。

 

(大方、このモビルスーツの搬送と同時に正規パイロットを乗せるつもりだったんだろう)

 

そう考えたアスランはスリープ状態になっていたシステムを起動状態(アクティブ)へと移行させる。

 

GAT-X303 AEGIS_

 

ディスプレイに機体の名と情報が表示される。それらを一瞥すると、アスランはもう一人の仲間へ連絡を試みる。

 

「こちらアスラン。ノークス、聞こえるか? ……ノークス、応答を!」

 

想定外の“6機目”を強奪する手筈だった仲間の名を通信機に向かって呼びかけるが、一向に応答はない。どうやら彼も失敗し帰らぬ人となったようだった。

 

「くそっ……」

 

ナチュラル共が。

内心で罵倒しながら、アスランは機体の操縦桿へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

メレアリスが梯子を、そしてモビルスーツの肩の部分を上りきったとき、オリノはまだそこにいた。

しかし襲撃犯の攻撃で足に怪我を負ったらしく、胸部と思われる部分のあたりで座り込んでいた。

 

「……っ、あの……!」

 

彼の足から出ている血を見てメレアリスは一瞬だけ悲鳴を上げそうになる。が、それを抑え込んで声をかける。

 

「……誰だっ!? ……って、さっきの」

 

オリノは最初こそ驚いたようだったがすぐに状況を察したようで、反射的にメレアリスへと向けていた銃を下す。

 

「……怪我、大丈夫ですか?」

「なんとか。掠っただけで撃ち抜かれたわけじゃない。一人こちらへ向かってくるのをやったときに、痛み分けとしてもらってしまった」

「……」

 

オリノは軽い口調で言うが、その額には脂汗が浮かんでいる。相当辛いのだろう。

メレアリスはその様子を見て何とかしてあげたいと思うものの、医療の知識がない彼女にできることはない。ただ心配そうな顔で見つめていることしかできなかった。

そんな中、突如爆音が響く。いち早く反応したオリノが音のした方向を見て驚きの声を上げる。

 

「なっ、"2号機"が動く!?」

「"2号機"?」

 

メレアリスがその方向を見ると、先ほどまで起動していなかったモビルスーツたちの、真ん中の機体が立ち上がろうとしていた。

初めて見る光景と金属が拉げる轟音に圧倒されてメレアリスは思わずオウム返ししてしまう。しかし、オリノがそれに応えることはなかった。

ほぼ同時に、その向こうにあるもう一つの機体も立ち上がろうと動いたからだ。

 

「くっ、303もか! 君!ちょっと肩を貸してくれ!」

「……え? あ、は、はいっ!」

 

オリノの声で我に返ったメレアリスは急いで彼に駆け寄る。

 

「すぐそこにコクピットがある! そこに運んでくれ!」

「わかりました!」

 

メレアリスが肩を貸すと、オリノも怪我の痛みを我慢してすぐに移動を始める。

幸い二人のいた場所から数mも離れていない場所にコクピットがあり、30秒もたたないうちにたどり着く。

 

「中へ!」

「え、でもコレって一般人が触れていいものじゃ……」

「状況が状況だ、仕方ない!」

 

オリノの返答と同時に爆発音。どうやら先に動いた2機のうちのどちらか、あるいは両方のせいで搬出口内の機械が爆発したようだった。

 

「ほら、早く!」

「わ、わかりました!」

 

意を決してメレアリスはコクピットへと入る。続いてすぐにオリノも入ってきたので、メレアリスはシートの後ろ側へと移動する。

 

「……くっ、動いてくれよ……!」

 

オリノはそう呟いて操縦桿脇にある主電源と思しきボタンを押す。すると待機状態だったシステム群が一斉にアクティブへと移行し、

 

 

 

GAT-X105-1 STRIKE

 

General

Unilateral

Neuro - Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

Synthsis System_

 

 

 

機体の情報をディスプレイに映し出す。

 

「……攻撃(ストライク)? 単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用統合性システム……?」

「立ち上がるぞ、しっかり掴まっててくれ……!」

 

メレアリスは呆けたようにつぶやくが、その後のオリノの言葉に身を強張らせながらもしっかりとシートにしがみつく。

数瞬の後、機体がゆっくりと立ち上がる。

 

「……すごい」

 

段々と上がっていく視点、広がる視界。ディスプレイを巡る大量の情報に、金属とぶつかるたびに体に響く衝撃。

どれもがメレアリスにとっての未体験で、こんな状況でなければきっと彼女は舞い上がっていただろう。

ふと、メレアリスはキラが教授から頼まれていたデータ解析のことを思い出す。

 

(……アレは、モビルスーツの……)

 

見たことも無いフレーム構造。人体と同じ動きをさせようとしている風に見えたあの構造の正体は、今メレアリスが乗っている鋼鉄の巨人に組み込まれているモノだったのだ。

程なくして視点の変動が終わる。モビルスーツが完全に直立したのだ。

 

「……立てることはできた、か。問題はこの後……」

「……外にもモビルスーツが……?」

 

メレアリスが思わず指差す。そこには、3機の灰色のモビルスーツが飛んでいくのを見送るテレビで見慣れたモビルスーツ(Z.A.F.T.のジン)の姿があった。

 

「102、103、207は手遅れか……!」

 

機体の型番だろう、3つの数字を悔しそうにつぶやくオリノ。

その直後、再び爆発音。メレアリスたちがモビルスーツに乗る直前までいたあたりが爆風と黒煙で見えなくなる。

 

それはまるで、これから始まる激動の1年間におけるメレアリスの逃げ道を塞いだかのようだった。




ノークス氏、哀れ。ただの数合わせキャラです。
また、銃撃戦のセオリーあたりの事は作者がなんちゃってサバゲーに参加した時に考えてたことなので、あまり参考にしないでください。
でも、ギレン閣下も言ってたよね? 「戦いは数だよ兄貴」って。


7/18:イージスの待機状態表示を【NORMAL】から【NEUTRAL】へ変更。
また、ここでそのうち聞かれるかもしれない『なぜストライクが2機なのか』についても説明しておこうと思います。
初期状態+3(+α)の数通りの形態を持つストライクは、他の4機と比べても実戦データが採り難い機体です。.hack//で言うなら練装士ですね。使用武器が複数ある分、他の職と違い一つの武器の熟練度が低くなる。
ですから、その実践データの取得量の差を埋めるためにもう1機を作った、という設定です。単純計算で効率2倍ですからね。


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2-a

「この機体だけでも……私にだって、動かすくらい!」

 

女性の技術員に助けられて入ったモビルスーツのコクピット。その操縦席の傍らでキラは未だ混乱していた。

無理もない。つい数時間前までは何も知らずに友人と談笑していた一般人がいきなり銃撃や建物の崩壊に巻き込まれたのだ。逆に平静でいられる方が驚くべきことでもある。

 

「スリープからアクティブへ、メインカメラをオンに……」

 

件の技術員が呟きながら機器を操作する。と、今まで無機質な様相をしていたコクピットに周囲の景色が映し出される。モニターが起動したようだった。

 

(……アスラン……?)

 

キラは左側のモニターを見やる。そこには先ほどキラ達を襲った赤いノーマルスーツの少年が向かっていったモビルスーツが映し出されていた。

キラが最初に襲い掛かってくる少年を見た時、バイザーから見えたその顔は古い親友のそれに良く似ていた。

だから呟いたのだ。幼年学校時代に、家族を除けば最も行動を共にした時間が多かっただろうその存在の名を。

果たして、その呟きと同時に少年は動きを止めた。何か呟いたようだったが、それは周囲の騒音のせいで聞き取ることができなかった。

 

(いや、そんな。まさか……)

 

もしかしたらという思いは浮かぶものの、それを裏付けるものが少なすぎる。それに、もし彼が本当に親友だったら。その親友は、銃を手に取り人を撃つ――もっと直接的な表現をすれば、人殺しをしていることに他ならない。

再会の喜びと、変わってしまった友人への疑念。自分の見間違いであればという微かな願いも相まって、キラはどうしようもないほどに狼狽していた。

 

「システム、起動……!」

 

不意に女性の声とブート音。

機体情報を映し出すらしいディスプレイをキラが見れば、そこには

 

 

GAT-X105-2 STRIKE

 

General

Unilateral

Neuro - Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

 

Synthsis System_

 

 

機体及びシステムの名らしき文字列が表示されていた。

 

「ガン、ダム?」

 

キラは呟く。それは、システム名と思しき文字列の頭文字をつなげた呼び方。

本来の機体名は上に表示された『STRIKE(攻撃)』なのだろうが、キラにはこちらの方がこの機体に合っている呼び方のような気がした。

 

「立ち上がるわ。掴まって!」

「は、はい」

 

その言葉にキラはシートをつかむ手に力を込める。

技術員が左脇、操縦桿の後方にあるデバイスを前側へと押し上げる。するとディスプレイに表示されたメーターが徐々に上がっていく。

メーターの表示が通常域(グリーンゾーン)へと入ったところで、技術員が何やらボタンを操作する。

その操作に従って、キラたちの乗ったモビルスーツはゆっくりと、しかし力強く上体を起こす。

モビルスーツの姿勢と共に、徐々に回転していくコクピット。モニターに表示されている視覚情報もそれに伴いどんどん変化していく。

その中に。

 

「……えっ、メレアリス!?」

 

こちらを見て呆然とした表情をした見知った少女と、キラの隣にいる技術員と同じ服装をした男性が映し出された。

 

「オリノ! 無事だったのね」

 

キラの声に反応してモニターを見やった技術員も見知った顔を見つけて安堵の声を上げる。

どうやら2人とも無事らしく、キラたちから見て右側に横たわっているモビルスーツの上にいた。

だが、10秒もしないうちに男性がメレアリスへと何やら声をかけ、メレアリスはそれに応ずるように男性へと肩を貸す。

そして、先ほどのキラ達と同じように、2人でモビルスーツのコクピットへと入っていった。

 

「105は2機とも無事……でも、303は……」

 

技術員が先ほどとは逆のモニターを見やる。そこには、キラたちと同じように立ち上がろうとするモビルスーツの姿があった。

が、搬入口の施設が爆発したのか、モニターの映像が一気に炎で埋め尽くされる。

人であれば視界が遮られたことに驚き動きを止めるだろう。実際コクピットの中のキラたちは驚いて硬直してしまっていた。

しかし、動作しているのはモビルスーツという機械の巨人だ。機械に意思などあるはずもなく、『立ち上がること(スタンドアップ)』を命令されたコンピュータは忠実に立ち上がるための動作を実行していく。

そして20秒ほどで全工程が終了、モビルスーツ――GAT-X105-2 STRIKEが大地に立った。

その直後、105-1――ストライク1号機もまた、同じように立ち上がる。

 

「こちら105-2ストライク! 1号機……オリノ少尉、応答を!」

 

その姿を見て、硬直から立ち直った技術員がコンソールを叩き、通信を始める。

すると一瞬のノイズの後、先ほどメレアリスと共にモビルスーツのコクピットへと入っていった男性の顔が映し出される。

 

『こちら105-1。ラミアス大尉、無事でしたか!』

「ええ、ねんとかね。そちらは?」

『足をやられましたが、それ以外では今のところ問題ありません。それと少女を一人保護しました』

「ええ、こちらもモニターから確認したわ」

「……そうだ。メレアリスは? メレアリスは無事なんですか!?」

 

オリノの言葉にキラが反応する。

先ほどオリノと共にいたのは見ていたのだが、それもかなり短い間のことであったために今のメレアリスの状態がわからなかったからだ。

 

『君はさっきの……そうか、君も無事だったのか。心配することはない。彼女は無事だよ』

『キラ、良かった! 怪我は無い?』

「メレアリス! ああ、大丈夫。僕はなんとも……っ、何だ!?」

 

不意にキラ達の耳に聞こえてきたのは、爆発音のような音と、バーナーで何かを炙るかのような音。それが2機のストライクと同じく立ち上がったモビルスーツのスラスター音だとキラが認識した頃には、ソレはすでにストライクの頭上へと飛び上がっていた。

 

「くっ……303はZ.A.F.T.兵により強奪! オリノ少尉、私たちはなんとしてもこの2機を守らなければ!」

『303もですか! となると、残ったのはこの2機のみですか……』

「オリノ……いえ、なんでもないわ」

 

303¨も¨という言い方に、技術員――ラミアスと呼ばれた彼女――はその意味を問おうとする。しかし、奪われた303が飛んでいく方向を見ると、遥か彼方にジンと共に飛び去っていく3機のモビルスーツがモニターに写し出されていた。

 

「まずはアークエンジェルと連絡を取りたいけど……」

『ノイズが酷いですね。港側が電波妨害されているのでしょうか』

「そうね……」

 

ラミアスは小さく舌打ちする。

 

『仕方ありませんね……取り敢えず、工場施設から出ましょう。このままだと崩落に巻き込まれかねません』

「え、ええ」

 

オリノの言葉に頷くラミアス。だが、その声はキラにはどことなく震えているようにも聞こえた。

 

(……この人、動かしたことがないのか?)

 

まるで初めてビークルを運転する人みたいだ。

そう思ったキラの疑問はすぐに確信へと変わった。

「姿勢制御はオート、スラスター噴射……」

 

直立姿勢のまま、ストライクは指示通り空中へと浮かび上がる。工場区が足元に来る位置まで上昇したところでアポジモーターが自動制御され、ストライクの巨体はそのまま前方へと進む。

そしてシステムにアシストされる形でその跳躍は無事終了するはずだったのだが。

 

「……あっ、あのっ、足元にっ!」

「え……? あっ!?」

 

モニターに映ったのは、ちょうどストライクが着地するであろう地点に存在した建物。このまま着地してしまえば恐らくは踏み潰してしまうだろう。

いち早くその存在に気付いたキラがラミアスへとそれを知らせると、彼女は慌てて回避しようと機体を操作する。

 

「うわぁっ!?」

「くっ」

 

スラスターを急に噴かした結果としてくる浮遊感と慣れない着地の衝撃に、思わず二人は驚く。

結果的に何とか建物を破壊することは免れたものの、ストライクは正常に着地することがかなわずバランスを取るために前方へと歩行を開始する。

 

『大尉!?』

「あ、オリノ……いえ、なんでもないわ。慣れないから少し戸惑っただけ」

 

気を取り直したラミアスがストライクの歩行速度を緩めるべく機体を操作する。

 

『そうでしたか。では、我々もそちらに』

「了解。モビルスーツの足元に気を付けて」

 

通信の後、今度はオリノとメレアリスが乗ったストライク1号機が同じようにスラスターを吹かして飛来する。ラミアスの警告が利いたのか、こちらは危なげなく着地。それとほぼ同じタイミングでキラたちが乗ったストライク2号機がようやく歩みを止めて直立する。

ラミアスが何やら操作すると、モニターに2号機の足元が映し出される。そして、その中に。

 

「……ああっ!? サイ! トール! カズイ……!」

 

キラは思わずモニターに向かって名前を呼ぶ。そう、モニターには必死に逃げる彼の友人たちが映し出されていた。

 

『ミリィも……!』

 

開きっぱなしになっていた1号機との回線からもメレアリスの呟きが聞こえてくる。恐らく彼女もまた1号機のモニターから同じ映像を見ているのだろう。

 

「――くっ!?」

「えっ!?」

 

突然聞こえたラミアスのうめくような声に、キラが正面のモニターを見やったのとほぼ同時。2号機のコクピットにアラームが鳴り響く。

キラが視界にとらえたのは、工場で幼馴染に良く似た人物が乗り込んだ機体と、その隣に並んだ機体。

Z.A.F.T.が擁する主力MS、ジンが此方へと手に持った銃を向けていた。

 

――レーダー照射。言い換えればロックオン。

 

警告音が示している物をキラが理解するよりも早く、向けられた銃は轟音を立てて込められた弾丸を発射した。

が、威嚇射撃だったのだろう。発射されたのはグレネード弾かそれに準ずるものらしく、2号機の立つ地点の周囲へと着弾したそれは爆風を起こす。

 

「くぅっ……!?」

「ああっ」

 

如何に鋼鉄で作られた巨大な機械と言えど、その姿形は人間のそれと大差無い。着弾と爆発による振動はキラたちの載るコクピットへと確実に伝わり、彼らを容赦なく襲う。

 

『大尉っ!』

『キラ!?』

 

通信の音声がコクピットに響く。その声で我に返ったキラが見たのは、ジンがライフルをマウントし、反対側の腰部にマウントされていた巨剣を引き抜く姿だった。

 

「き、来ます! 移動を!」

「え? くっ……!」

 

ラミアスが操縦桿を操作、ストライクが覚束ない足取りで移動を開始するのとジンが剣を構えるのが同時。

スラスターの爆音とともにジンが突進してくる光景に、キラはあまりの緊張で思考を一瞬停止する。そんな中、

 

「うわっ!?」

 

ラミアスが回避のためにストライクを空中に浮かせた事で発生した浮遊感に驚きの声を上げた。

そしてその驚きが終わらないうちに、今度は着地時の衝撃がコクピットの中の二人を襲う。

操縦していたラミアスは着地が予想できていたために耐えることができたが、キラはたまらず体勢を崩し情報ディスプレイの前へと体を乗り出す姿勢になってしまう。

 

「下がりなさい! 死にたいの!?」

「す、すみません!」

 

間髪入れずにキラは謝罪し、体勢を戻そうとしながら正面のモニターを見やる。そこには、再度剣を構えながらこちらへ突進してくるジンの姿があった。

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

思わず叫ぶキラ。通信の音声が何やら喚いていたが、パニックによって思考が停止してしまったキラには届かなかった。

キラが邪魔になっているせいで碌に機体を動かせないラミアスは、焦りの表情を浮かべながらもとあるスイッチをONにする。

 

【PHASESHIFT-ARMOR ACTIVATED】

 

システム音声がコクピット内に鳴り響き、スイッチ上部に"PHASE SHIFT"の文字が浮かび上がる。

突進の勢いを殺さずに跳躍してくるジン。落下と同時に手に持った巨大な剣を振り下ろす。

ラミアスはそれを、ストライクをハイブロックさせることで受け止めた(・・・・・)

 




ロックオンにレーダー照射、レーダーロック。だいたい飛行機の方のACEで聞いた言葉を使ってます。だから実際は違うかも。

あと、PS装甲がオンになると通知音声が鳴るって設定にしてます。別に変なことじゃないよね? wi-fiが利用できます、みたいなもんです。



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2-b

この話と次の話、ちょっと納得できない人いるかもしれません。申し訳ない。


「色が、変わった……!?」

 

ジンが振り下ろした巨剣を受け止めるストライク2号機の姿を、1号機のコクピットから見たメレアリスは驚いた。

ジンが跳躍するかしないかの瀬戸際で、キラたちの載った2号機の“灰色い”装甲が突如として鮮やかな“トリコロール調”の色合いへと変化していったからだ。

 

「フェイズシフト装甲! 間に合ったのか!」

 

相転移(フェイズシフト)装甲。ジンの突進の際、オリノが通信でラミアスへと叫んでいた単語だ。

メレアリスが察するに、そのフェイズシフト装甲を展開したために2号機の色が変わったらしかった。

攻撃を仕掛けていたジンが一旦離れ、同時に2号機は体勢を整える。

 

「……あ、あの機体……イージスも……」

 

メレアリスが視線を向ける先で、距離を取ったジンの後ろに立っていたモビルスーツの装甲が灰色から鮮やかな赤色に染まっていく。

レーダーに未だ“味方機”として識別されているその機体の名(GAT-X303 AEGIS)を、モニターが示していた。

 

「303も装甲を展開したか! まずいな……」

 

自身に言い聞かせるかのように呟くオリノ。

イージスが完全に色を変えるのとほぼ同時にその背後から2発のミサイルが飛来する。が、イージスは機体の向きを素早く変えると、頭部に搭載された機銃でいともたやすく撃墜してしまう。

 

「なっ、あの短時間でシステムの補助もなしに……!? 流石はコーディネーターか……!」

 

どうやらオリノはイージスがミサイルを撃墜した際の照準合わせ(エイミング)に驚愕しているようだったが、メレアリスにはよく分からなかった。

 

(口振りからすると、システムの補助ありきということのようだけど。そのシステムのアシストが利かない事を、この人は知っている……? ということは、以前からの機器の故障……いえ、システム自体が未実装なのかしら)

 

故障であるならば即座に先ほどの工場で直されている筈であるし、システムが十全に作動するのならばそもそもオリノの言動は無い。そこから考えられるのは、イージスのみか、或いは今メレアリスが乗せられているこのストライク1号機を含めたすべてのモルゲンレーテ製モビルスーツのコントロールシステムが未完成なのではないかという推論だった。

 

(願わくば、前者の方であってほしいのだけど……)

 

メレアリスが思考に埋没していると、突如としてコクピット内に警報が鳴りだす。レーダーロックを受けていることを示す音だった。

驚いてメレアリスがモニターを見れば、正面にはイージスが、こちらへ銃を向けて立っていた。

 

『GAT-X105-1。搭乗者、応答願う』

 

不意に、通信が入った。送信者は眼前のイージス。映像なし(SOUND ONLY)と表示される通信画像と共に流れてきた音声にメレアリスはふと懐かしさを覚えた。

 

「……こちらGAT-X105-1。敵軍が此方に何の用だ」

 

通信先を2号機からイージスへと切り替えて受け答えをしたのはオリノ。鳴り止まない警報の中で努めて感情を声に出さない彼の額には、薄ら汗が浮かんでいた。

 

『要求は一つだ。そのモビルスーツを放棄し、我々に投降しろ』

「……」

 

沈黙で返すオリノ。

 

『無駄な抵抗はやめろ。その貧弱な武装(イーゲルシュテルンだけ)ではフェイズシフト装甲に打ち勝つことはできないというのはお前たちのほうがよく知っている筈だ』

「……っ、だが、それは……」

『こちらも同じ、とは言えないだろう? 見えているだろう、こちらにはPS装甲を打ち破る武装(ビーム兵器)がある』

 

眼前のイージスが構えている銃を僅かに動かす。メレアリスにはそれが何であるかはわからなかったが、オリノが言葉を詰まらせる音が何よりも現在の状況を物語っていた。

 

「……」

『……』

 

オリノの沈黙と、イージスに搭乗するZ.A.F.T.兵の沈黙。自身の命の手綱を握られていることを察したメレアリスは体の動きどころか思考さえも停止していた。

僅か数百メートル先では、キラとラミアスの駆るストライク2号機とZ.A.F.T.のジンが戦闘を行っている。駆動音はまだしも、金属が硬いものにぶつかる音や装甲同士の衝突音は絶えず続いている。間違いなくここは戦場だった。

しかし、だというのに、彼女の耳には僅かな喧騒すら入ってこなかった。

 

「……条件がある」

 

長い沈黙の後、オリノが僅かに体を震わせながら声を絞り出す。

それと同時に戻ってくる周囲の音。派手な金属同士の衝突音がメレアリスの聴覚を刺激した。

 

『聞こう』

「……先ほどの工場で、民間人の学生を保護した。今コクピット内にいるんだが、せめて彼女は逃がしてやってくれないか」

「……えっ!?」

 

オリノの出した条件に驚いたのはメレアリスだった。てっきりオリノは要求をはねのけると思っていたからだ。

たかが学生一人と、おそらくは軍の最重要機密であるモビルスーツ。天秤にかけるのであればほぼ確実にモビルスーツに傾く筈だった。

 

「な、なんで……!? どうして!?」

 

どうして(メレアリス)を優先するのか。言葉にならない問いは続きを察したオリノによって解を与えられる。

 

「……私は技術者であり軍人だ。それ相応の覚悟と誇りを持って此処にいる。しかし、君は民間人であり未来ある若者だ。平和を望んで此処(ヘリオポリス)にいる君を、これ以上軍人の都合に巻き込むわけにはいかない」

「そ、そんな……」

 

それは彼の矜持だった。

力ある者は、相応の覚悟を持たねばならない。平和のために力なき者を、平和を望む者を代償としてはならない。

損得を考えればそれは明らかな悪手だった。聞く者が聞く者ならば、「とんだ甘ちゃんだ」「軍人失格だ」と罵るかもしれない。

しかし、それは一人の人間としては十分に“正しいこと”の範疇であるはずだ。だからこそ、

 

『……良いだろう。その民間人がモビルスーツからある程度離れるまでは待つ』

 

オリノほどではない長考の後、Z.A.F.T.兵は了承の意を返してきた。

その返答にオリノは短く息を吐いた後、再び問いかける。

 

「……信じて良いんだな?」

『ああ。Z.A.F.T.の名に懸けて、約束は守ろう。……だが、妙な真似をした場合は』

「言われずとも、この状況では出来んさ。……ハッチを開ける」

 

イージスのパイロットの警告を途中で遮って、オリノはコクピットのハッチを開けるべく機器を操作する。すると前方を移していたディスプレイの電源が落ち、10秒もしないうちにハッチが完全に開ききる。

 

「さあ、行くんだ」

 

彼の言葉と共にコクピットの前にストライクの手が移動してくる。恐らく、メレアリスを地上に降ろすためだろう。

この機械の手に乗れば、この恐ろしい戦場から遠ざかることができる。相手の言葉を信じるならば少なくとも離脱の途中で殺されてしまうことは無いだろうし、どこかのシェルターに入れてもらえれば生き延びることができるに違いなかった。

 

(でも……)

 

そこまで考えて、メレアリスは改めてオリノへと目を向ける。まだ衰えを知らない若い顔と、その瞳に宿る確かな決意。工場で足に怪我を負ったせいか息が少し乱れている。

ここで自分がいなくなった後、彼はどうなるのだろうか。ナチュラルとコーディネーターという、ある意味では人種を起因とした戦争の真っただ中だ。捕らえられた後は殺されはせずともそれに近い仕打ちを受けるのではないか。それに、このモビルスーツも共にZ.A.F.T.の手へと渡るのだ。たとえ捕虜から解放されたとしても、友軍から厳しい叱責を受けるかもしれない。

――それも全部、自分(メレアリス)というたった一人の民間人のせいで。

 

「……ッ」

 

嫌だった。自分のために、ともすれば命まで懸けようとしてくれている人物を、何も恩返しせずに見捨てるのは。

だからだろうか。

 

(……さっきから聞いてた、あのパイロットの声。もしかしたら……)

 

メレアリスはとある考えを実行に移そうと思い立つ。

 

「……通信の音量、最大まで上げておいてもらえますか?」

「何? ……いや、わかった」

 

何かしらの決意を感じ取ったのか、オリノは何も聞くことなくメレアリスの頼みを受け入れる。

その姿に一度頭を下げてから、メレアリスはコクピットから外へ出るべく足に力を入れた。

 

 




オリノさんのは完全に個人の考えです。彼が軍人らしくないとか、頭おかしいとか思うかもしれませんがごめんなさい。作者が話を次の展開に持っていくためにこんなことやらせてます。
この点に関しては、どんだけ批判されようともしょうがないですね。


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2-c

前話に引き続き注意。


「……なっ、君は!?」

 

イージスのコクピットの中で、眼前のストライクが民間人を逃がすために動くのを見ていたアスランは驚いた。

風に揺れる若緑色の髪、白と赤を基調とした上品そうな服。極めつけに、白い肌を強調する深紅の瞳。

コクピットから出てきたのは、かつて彼が月の幼年学校に通っていた時に知り合った女の子をそっくりそのまま大人にしたような少女。

彼にとっての、女性の幼馴染。メレアリス・オウルベルがそこにいた。

 

『……やっぱり。アスラン、アナタなのね』

 

思わずあげてしまった驚きの声を繋いだままの通信が拾ったらしい。確信に満ちた声音でディスプレイに映る少女が呟いた。

 

「メル……何故、何故君が」

『それはこちらのセリフよ。アスラン、何故そんなものに乗っているの?』

「それは……っ」

 

工場で見たキラによく似た少年と、風になびく髪を抑えながらまっすぐと此方を見据えるメレアリス。かつて心を通わせ合った友人たちへの想いが溢れて、アスランは言葉に詰まる。

 

アスランがZ.A.F.T.に志願した切っ掛けは、血のバレンタインがその大部分を占める。その日農業プラントにいた彼の母が、撃ち込まれた核によって遺骸すら残さずに消えてしまったのだ。

突如として崩れ去ってしまった日常。続く筈だった明るい未来を閉ざされてしまった彼は、血のバレンタインの背景にあるナチュラルとコーディネーター間の争いを憎んだ。

核を撃ったナチュラルそのものを憎まなかったわけではないが、コーディネーターであるアスランの頭脳は幼いながらも既に敵を憎むことの空しさを理解してしまっていたのだ。

争いを終わらせるための力を。ただそれだけを欲して彼はZ.A.F.T.へと志願した。

当然、争いを終わらせる過程で自分も同じように他者の日常を壊すことになるというのは理解していたし、ある程度納得もしていた。だからこそ、友人が悲しむことになる前に争いが終わってほしいと願いながらこの戦争に参加したはずなのに。

 

「お、俺は……俺は……」

『……』

 

壊したくないと思い続けていた日常は、他ならぬ自分たちの手によって壊されていた。その事実がアスランに重くのしかかる。

そんな時だった。突如、金属を切り裂くような歪な音があたりに響き渡ったのは。

 

あまりの音の大きさにメレアリスは耳を塞いでその場に蹲り、アスランもコクピット内で顔を僅かにしかめる。音の発生源ではメレアリスたちのものとは別のストライクが、彼の仲間であるミゲルの駆るジンに2本の小型ブレードを突き立てていた。

ジンのモノアイが光を失い、銃を構えるべく上げていた腕が力なく降ろされる。搭乗者が居る筈のコクピットこそ無傷であるものの、こと巨人同士の戦闘では人間の急所である首の部分に刃物が刺さり火花を散らしている光景は死を連想させるものに間違いなかった。

 

「ミゲル!?」

 

通信は繋がっていないのにアスランは思わず叫んでしまう。だがその呼びかけに応えるかのようにジンのコクピットハッチが弾け飛び、中から見知った姿が飛び出していった。どうやら機体に見切りをつけて自爆シーケンスを作動したらしかった。

 

「……ッ、メル、コクピットに!」

 

このままではメレアリスが危ない。

自分でも気づかないうちに、アスランはメレアリスへと言葉を投げかける。その言葉に彼女本人ではなく同じコクピットに乗っていた男が反応し、素早く彼女をコクピットへと連れ戻しハッチを閉じた。

直後、かつてない規模の爆発が起こる。閃光や轟音と共に、多少離れているこちらのコクピットまで振動が伝わるほどの爆風。彼女がまだコクピットの外へ出たままだったら、間違いなく吹き飛ばされ絶命していただろうと予測できる威力。

20m超の巨人が持つエネルギーのほぼすべてを凝縮した爆発は、爆心地に立つストライク――アスランが見るモニターにはGAT-X105-2と表示されている――を一気にパワーダウンへと追い込むほどの規模だった。

 

「――このッ」

 

仲間自身は生き延びているものの、その機体を仕留めたのは間違いなくストライクの2号機。鮮やかなトリコロールから一転して味気ない灰色に戻るソレに向かって、アスランの駆るイージスがライフルの銃口を向ける。

 

『アスラン、やめて! 私の友達も乗っているの!』

「ッ!?」

 

トリガーを引く直前、未だ繋がっていた通信からメレアリスの叫び声が聞こえた。思わず硬直したアスランは同時に眼前の2号機にキラとよく似た少年が乗っていたのを思い出す。

ナイフを手に地球軍の士官へと迫った時の、アスランの名を呼ぶ懐かしい顔。呆然と此方を見上げるその顔は、思い返してみてもやはり幼馴染であり弟分であるキラのものに相違なかった。

 

「……くっ」

 

自然と、アスランの額には玉のような汗が浮かび始める。撃つべきか、撃たぬべきか。Z.A.F.T.兵としては撃つべき状況であるのに、アスラン・ザラという一個人としては撃つべきではないという2つの考えの板挟みになる。

そうなってしまえばアスランはもうトリガーを引くことはできなかった。自分はたった今メレアリスの日常を壊したのに、今度はもしかしたらキラの日常どころか命さえ奪うことになるのではないか。その疑念がアスランの中に渦巻き始める。

 

『アスラン!』

 

再度メレアリスの声。その懇願するような声音に、アスランは思わずイージスを反転させ、逃げるようにスラスターを吹かすのだった。

 




アスラン君、何を思ってZ.A.F.T.になんか入ったんですかね?
彼の行動に関してはちょっと「ん?」ってなることも多いので、基本的にはそれっぽい事考えさせるようにこれからもやっていこうと思ってます。


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2-d

まともな戦闘描写の始まり始まり。まあひどいんですが。


メレアリスがアスランと対話してからおよそ20分後。コロニーの地表から数キロ先の宇宙は不気味なほどの静寂に包まれていた。

それ自体は当たり前だ。何せ宇宙には音の振動を伝えるための空気がないのだから。

ただそこに人に『不気味である』と思わせるほどの何かがあるのは確実だった。一種のプレッシャーとも表現できるソレを纏っていたのは、ヘリオポリスへ向かうべくスラスターを噴射する一機のモビルスーツであり、それに搭乗する一人の男であった。

 

「……」

 

無言のまま男はスラスターを吹かし続ける。機体の速度は見る見るうちに上がっていくが、当の男は意に介した様子もない。

ラウ・ル・クルーゼ。それが彼の名だった。

 

「……ふん」

 

彼が駆るモビルスーツはジンの後継機とされる『シグー』。その機体にはZ.A.F.T.のマークがハッキリとペイントされていた。

そんな彼のシグーの進路上に存在していたのは、地球連合の主力とも言われる宇宙戦闘機(MA)『メビウス』が2機。それらはシグーの接近をレーダーで捉えると同時に、彼を撃墜すべく搭載されたリニアガンを撃ちながら向かってくる。

だが、それすらクルーゼは意に介す様子もない。彼のシグーは2機から放たれる弾幕を難なく回避し、すれ違いざまに右手の突撃銃で片方を撃墜する。

 

「弱いな」

 

そう呟いたクルーゼがシグーを反転させる。未だ旋回すら出来ていない残りの一機が真正面のモニターに表示されていた。

シグーの突撃銃から数十発の弾丸が発射される。そのうちの数発がメビウスに着弾し、威力に耐えきれなかった機体が爆散する。

無表情でそれを見つめていたクルーゼだったが、突如何かを感じ取ったかのように口元を歪ませる。

 

「……来るか!」

 

言い切るのが先か、彼が機体を動かしたのが先か。先程までシグーが存在していた場所と進行方向にリニアガンの弾が放たれていた。

そして回避行動をとったシグーに向けても別方向からの砲撃が迫る。

シグーはそれすら最小限の動きで躱すが、それを狙ったかのような、いや、初めからそうすることを知っていたような絶妙なタイミングで、またも別方向からリニアガンの砲撃が迫る。

 

「チィ……ッ」

 

クルーゼは舌打ちするが早いか、機体をその場でロールさせる。急激な移動による強烈なGが彼の体を襲うが、それを耐えきった彼は虚空へと向けて突撃銃のトリガーを引く。

すると、それに吸い寄せられるように一機の戦闘機――いや、バルカンポッドのような物体が射線へとその身を晒す。当然の結果としてソレは銃撃を受けて四散する。

クルーゼはその光景を尻目に、今までも何度か交戦し、その度に落としそこなった宿敵とも呼べる相手に呼びかける。

 

「お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ!」

 

シグーのモノアイが向かう先、オレンジ色の戦闘機が高速で向かってきていた。

 

「くっ、貴様、やはりラウ・ル・クルーゼか!?」

 

通信が繋がっていないにもかかわらず、クルーゼの言葉に反応したかのように声を上げたのはムウ・ラ・フラガ。彼もまたZ.A.F.T.の襲撃に際し己の愛機で戦闘に参加していたのだ。

もっとも戦闘機とモビルスーツでは地力で差がありすぎるために、彼の味方は先にラウが落としたもので全滅。ほんの数十分前に会話していた艦長が居た母艦すらも轟沈して孤立無援の状態ではあったが。

 

「もっとも、お前にも私がご同様かな!?」

「……このッ」

 

直接聞いているわけではないのに何か言われていることが判る。ムウとクルーゼの間におけるこの不思議な現象がどんな理由で起こっているのか、ムウには皆目見当もつかなかった。ただ、コレのおかげで相手がどのような行動をとってくるかが朧気にわかるという点についてはこれほど便利なものは無いとも思っていた。執拗に狙われることになるというデメリットを考えなければではあるが。

 

ムウが駆るMA『メビウス・ゼロ』は所謂エースパイロット用の機体である。操作難度はベースとなっているメビウスの比ではないものの、搭載された有線誘導式の無人兵器である『ガンバレル』4基による多角的な攻撃はいかにコーディネーターの駆るジンであっても回避が難しいとされていた。事実彼はこのガンバレルによって幾多の戦績を上げていたし、以前より通り名として知られていた『エンデュミオンの鷹』は更に有名になった。

だが、目の前のシグーを駆る敵――ラウ・ル・クルーゼは別格だった。前回遭遇した時も同僚を失い、今回もそれなりに親しくしていた部下2名が僅か一瞬のうちに撃墜され、ムウ自身も既にガンバレルの内1基が破壊されている。

今までも苦難続きだったが、今回のは一段とヤバい。ムウの軍人としての勘が彼の頭の中で警鐘を鳴らしていた。

 

「やれるか……ッ!?」

 

呟きと同時に再度ガンバレルを射出する。瞬く間にワイヤーは伸び切り、ゼロ自身に搭載されたリニアガンも含めて計4門の銃口がシグーへと向けられる。

そして、それは短い時間の中でもかなり精密に計算された偏差射撃を行う。だが、シグーはそれらをすべて避けきってしまう。

 

「ふん、貴様も落とさなければならないのは確かだがね。今はそれよりも優先しなければならない物がある」

「……何っ!?」

 

クルーゼがヘリオポリスの搬出口に視線を向けたと同時に、ムウは自身が彼のターゲットから外れた事を察知する。破壊されてはならないとワイヤーを巻き取っていた途中であるガンバレルは使用できないが、今が好機とばかりにゼロ自身のリニアガンを発砲する。

が、シグーはそれを難なく回避した後、ヘリオポリス内部へと侵入すべく搬出口へと向かっていく。

 

「チィッ、ヘリオポリスの中に!」

 

何をするつもりかはわからないが、ヤツを止めなければ。

直感的にそう感じたムウはクルーゼのシグーを追うべくゼロを回頭させた。

 

 

 

 

 

時は少し遡り、ヘリオポリス内部。

モビルスーツ同士の戦闘を勝利という形で終えたストライク2号機とイージスから辛くも逃れることのできた1号機は、一時的にZ.A.F.T.の脅威が認められなくなったために改めて合流していた。

1号機が周囲の警戒のために内蔵されているセンサー類をフル稼働している一方で、戦闘を終えたばかりの2号機は内蔵されたメインバッテリー内の電力が尽きてしまうほどに消耗が激しかったため、今は地表に片膝をついて待機状態になっている。

そんな中、地上ではサイとカズイがそれぞれ別の大型トラックをストライクの近くに運び込んできていた。

 

「戻りました!」

「オリノさん、これでいいんですか?」

「ああ、アーガイル君とバスカーク君か。どうだった?」

 

オリノが顔を向けた先でサイとカズイが声を上げていた。

足を引きずったオリノが2人の方へ歩み寄ろうとするが、その動作に慌てた2人の方からオリノの方へと向かって走ってきた。

 

「見てきた感じ、8割方は大丈夫でした」

「お、俺が指定されてた1番は問題なく持ってこれたんですけど。サイが指定されてた4番はエンジンがかからなかったから、5番のを持ってきました」

「ありがとう。それじゃ、5番は2号機……ああ、片膝ついている方。1番は1号機の足元に持って行ってくれ」

「「わかりました!」」

 

オリノの指示に従って、再びトラックへと乗り込んでいく二人。その姿をオリノは無言で見つめていた。

 

 

イージスが2機のストライクから離れていった後。メレアリスとオリノが乗る1号機の脚部に内蔵されているカメラが、近寄ってくる4人の学生たち――メレアリスのよく知るカトウゼミの面々だった――を捉えた。

どうやらビル陰で爆風からうまく免れた彼らは、メレアリスがストライクのコクピットから出てきていたのも目撃したらしかった。

状況的に仕方のなかったメレアリスやキラはともかく、他の一般人が軍の機密(連合製モビルスーツ)に接触すべきではない。もし接触すれば、軍のしかるべきところと連絡が取れるまでは機密保持の名目で軍に同行することを強制せざるを得なくなる。

彼女ら二人は実際に搭乗してしまっているためにそうしてもらう他ないが、今なら君達だけは見逃してやれる、とオリノは学生たちに告げた。

 

『……友達を見捨てて逃げるなんて、私にはできません』

 

言い切ったのはその中の紅一点だった少女。ミリアリア・ハウと名乗ったその少女の言葉に全員が同意したのはそれから1秒も経たずしての事だった。

オリノにとってそれは意外だった。ラミアスに救助された少年の方は見た目では分からないが、軍の機密であるモビルスーツを初見で操作できるところを見ると、恐らくコーディネーターなのだろう。自分が救助した少女――メレアリス・オウルベルに至っては一発で判断がつく。遺伝子レベルでの調整が行われなければ緑髪赤眼など到底ありえないのだから。

それをかばったミリアリアを含む4人は全員ナチュラルなのだという。ヘリオポリスの外の世界ではその二種類の人間が争い合っているというのに、平和の揺り籠の中ではそれらが手を取り合って生きていた。

 

「オリノさん」

「……ああ、君か」

 

考えにふける彼に声をかけてきたのは件の少女であるメレアリス。

 

「ラミアスさんが目を覚ましたみたいです」

「本当か! 良かった」

 

彼がメレアリスの背後を見ると、そこには茶髪の優しげな少年――トール・ケーニヒに補助されながら起き上がり、ミリアリアから水を受け取っている上司の姿があった。

 

「ラミアス大尉!」

 

オリノは上司の名を呼びながら足を引き摺って近づいていく。

 

「あ、オリノ少尉……この子たちは?」

「ヘリオポリスの工業カレッジに在籍する学生達です。自ら手伝いを志願してきましたので、機密保持のためしかるべき場所と連絡が取れ、処置が決まるまで同行するという条件で許可しました」

「そう……」

 

話しながら近づくオリノは、ラミアスの眼に浮かんでいた何かが消えていくのに気が付いた。もし彼が学生たちに条件を提示していなかったら、彼女が無理やりにでも学生たちを同行させようとしたのかもしれない。一般人から見れば理不尽なことではあるかもしれないが、それでも機密は機密だ。どこから敵側へと情報が漏れるかわからない現状では、そうする他に方法がない。たとえ彼女自身がそれを望んでいなかったとしても。

 

「……状況は?」

「2号機がジンを撃破した後、303は後退。1号機のセンサー類をフルに使用して周囲の索敵を行いつつ、アークエンジェルと連絡を取るため通信を試みていますが……」

「ちょっと待って、1号機で? 誰が……いえ、なるほど」

「お察しの通り、あの少年……キラ・ヤマト君が。私も、コクピットに座るだけならまだしも次に戦闘がおこるとなると」

「無理、でしょうね……」

 

ラミアスの視線がオリノの足へと向けられる。掠めた銃弾が肉を抉ったらしいその傷は、巻かれた包帯によって辛うじて出血を防いでいた。これではコクピットのフットペダルを踏むどころか、立っているだけでも苦痛だろう。

また仮に怪我がなかったとしても、ラミアスやオリノといったナチュラルには到底戦闘など行えるはずもなかった。その証拠が現在1号機を操縦しているという少年――キラ・ヤマトの存在なのだから。

 

「っ、ということは、1号機のOSも?」

「いえ、そのままの設定で行ってもらっています。……にしても驚きました。まさかあの少年がGのOSを書き換えるなんて」

「そうね……」

 

オリノの言葉にマリューはキラが操縦するストライク1号機を見やる。どうやら、既に彼――キラは自身がOSを書き換えたことをオリノに話したようだ。

 

「アークエンジェルとの通信は?」

「未だ電波妨害の影響が酷く、繋がらないようです。また、1号機はともかく2号機はバッテリーに余裕が無かったため、工場区からストライカーパックを運び込みました」

「ストライカーパック……どれを?」

「1号機にはエールストライカー、2号機にはランチャーストライカーです」

 

マリューの視線は各機体の側に停まったトラクターに移る。

GAT-X105 STRIKEは汎用性を重視した機体だ。と言っても単体ですべてを補える万能機ではなく、状況に適した装備へと換装することで戦闘におけるアドバンテージを得るというコンセプトを持っている。

そのコンセプトに則って造られたのが105専用装備群「ストライカーパック」であり、これは現時点で3種類――機動性重視のエールストライカー、遠距離攻撃を重視したランチャーストライカー、近接戦闘を重視したソードストライカーだ――の運用が決定している。

 

「OSが元のままで機動性に難がある1号機にエールストライカーというのは理解できるけど……ランチャー? アレをコロニー内で?」

「主武装のアグニは確かにコロニーで使用するには火力が高すぎるため問題がありますが、肩部のコンボウェポンポッドは問題ないと判断しました。イーゲルシュテルンより遥かに信頼できます」

「でも、それならソードストライカーでも……いえ、近距離用の武装しかないあのパックは適切ではないわね」

「同感です」

 

ストライクの操縦に慣れたパイロットであれば近接武器だけでもジンを排除できるだろうが、現在のところそのような人物はここにはいない。距離をとりながらの重火器による集中砲火であっけなくパワーダウンする可能性の方が高い。

 

「1号機は私が乗るとして、動けるようになった2号機は……あの少年……キラ君といったわね。彼にまた乗ってもらうしかないのかしら」

「……それが現実的でしょう。少なくとも私にはあのOSで105を動かせる技量はありません」

「そんな!? まだキラは兵器(あんなもの)を動かさなきゃいけないんですか!?」

 

二人の軍人の会話に割り込んだのはミリアリア。どうやらマリューが目を覚ました時点でキラの役目は終わると考えていたようだった。

 

「……ごめんなさい。でも、コレがこの状況で打てる最善の手なの」

 

ミリアリアの言葉に、マリューはただ謝ることしかできない。

本来は彼女の言うとおり、民間人のキラは降ろして軍人であるマリューとオリノが両機を操縦するべきなのだ。軍人である上に、連合軍製のモビルスーツの開発――主にPS装甲に関してだが――に関わっていたのだから、当然、その内の1機であるGAT-X105という機体についての知識は相応に持っている。

ただ、知識だけで身を守れるかと問われれば、この状況では無理だと言わざるを得ない。

 

「納得は出来ないかもしれないけど理解だけはして頂戴。現状での最高戦力は彼で、その彼に守ってもらわなければ私達軍人だけじゃなく、貴女達の生存確率も下がるのよ」

「それは……っ」

 

頭では解かってしまっても、感情は抑えきれないのだろう。ミリアリアは言い返そうとして、けれども言い返せずに黙ってうつむいてしまう。

 

「ほ、ほら。元気出せって」

「でも……」

「さっきの赤いのが逃げてから一度も襲撃なんてなかったんだ、きっと大丈夫さ。敵が来なければ、キラだって戦わなくて済むんだし」

「それは、そうだけど……」

 

補助の後もマリューの後ろに立っていたトールがミリアリアを励まそうと明るい声で話しかける。

実際、トールの言っていることに間違いはない。彼曰くの赤い奴――イージスが2機のストライクの元を離れてから一度もZ.A.F.T.の襲撃を受けていないし、そもそも敵が居なければキラは状況が改善されるまでレーダーを確認しているだけでいいのだから。

 

(普段なら楽観的過ぎる考えだって切り捨てるけど……今は、本当にそうなることを祈りたいわね)

 

トールとミリアリアの会話を聞きながら、マリューはちらりと1号機を見やる。

機械の巨人はその体を動かさず、姿勢良く直立したまま沈黙していた。コクピットの中では、自分の代わりに2号機を操縦したあの少年がセンサーと睨めっこしているのだろう。

 

「……そういえばオリノ。貴方が救助した女の子は?」

「ああ、彼女ならあそこに」

 

マリューがオリノと同じ方向へと視線を向けると、緑髪の少女が一号機へと何やら大声で話しかけているのが見えた。どうやら中にいるキラ・ヤマトに自分(マリュー)が目を覚ましたことを伝えようとしているようだ。

 

「メレアリス・オウルベル。彼らの同級生だそうです」

「ねえオリノ。あの髪……」

「……ええ、恐らくは。というより間違いないでしょう」

 

言葉にはしなくとも二人の間で意味は通じ合った。メレアリスがコーディネーターであるかどうかという話だ。これに関してはほぼ間違いないと二人は確信している。戦闘中の行動から察するに、キラもまたそうなのだろうとも。

ヘリオポリスが中立コロニーである以上、ナチュラルの他にも争いを好まないコーディネーターが移住してきているということも十分あり得るため、ここにコーディネーターが居ること自体には何ら問題はなかった。だから、二人が気にしているのは今後のことだ。今回の戦争に人種が絡んできている以上、ナチュラルである味方と合流した際に何かしらのいざこざが起きてもおかしくはない。

 

(頭の固い連中が絡まなければいいのだけど……)

 

後の事を憂いながらも、マリューは立ち上がるべく全身に力を入れた。




戦闘もわりかし難しい……
不明な点があればどうぞご質問ください。


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2-e

 

「よかった! 目を覚ましたんですね!」

 

1号機のコクピットを一時的に離れ、キラはマリューの元へと向かっていた。その後ろにはトラックを指定の位置へと移動させたサイとカズイの姿もある。

 

「ええ。君、怪我は?」

「僕ですか? いえ、特に。それより、あの……」

「何かしら?」

 

何と無くぎこちないキラの切り出しにマリューは首をかしげる。

 

「あの機体……ストライクの2号機のこと、すみませんでした。勝手に弄っちゃって」

「……ああ、その事ね。過ぎたことよ、今は気にしないで」

「……すみません」

「そんなに謝らなくてもいいわ。君がああしてくれなければ、今頃は炭かZ.A.F.T.の捕虜だったかも知れないし。結果を見れば私達は君に助けられたも同然なのよ。……だから、お礼を言うわ。ありがとう」

「あ……」

 

マリューの言葉に、キラは驚いた顔をする。照れているのか少しだけ頬が赤かった。

そんな彼の様子にマリューも少しだけ安堵する。

 

(年相応の反応ね。……コーディネーターだからって何も変わらないわ)

 

そう、彼は少なくともナチュラルが言う化け物ではない。女性にお礼を言われるだけで照れてしまうようなどこにでもいる少年なのだ。

悪い子じゃない。そう思ってマリューは微かに微笑む。

 

「さ、ストライクのバッテリーパックを交換するわ。手伝ってくれる? ええと……キラ君だったかしら?」

「あ、はい。キラです。キラ・ヤマト」

「挨拶が遅れたわね、私はマリュー・ラミアスよ。……じゃあ、着いてきて」

「わかりました」

 

キラの返事を聞いて、マリューはストライク両機の方へと歩き出す。そして、それにトールやミリアリアなど、マリューのそばに居た全員が着いて行く。

 

「でも、バッテリーパックの交換ってどうやるんですか? 見た感じ即座に交換できるような箇所にそれらしいのはなかったんですけど」

「ストライクのバッテリーパックは武装とセットになってるのよ。さっきは武装する暇もなかったから緊急用の内蔵バッテリーを使用したけど、本来は外付けの武装とセットで運用することが想定されているの」

「あ、それがオリノさんの言っていた……」

「そう、ストライカーパックよ」

 

キラの質問に、マリューは出来る範囲で答えていく。通常であれば軍の機密に関連することなので返答できないが、今は非常時である。最大戦力であるキラには仕組みをある程度教えておく必要があった。

 

「じゃあ、あのトラックは……」

「ストライクの追加武装が入っているわ。機体の背面にコネクターがあるから、そこに中の武装を繋いで頂戴」

「わかりました」

 

説明している間に2号機の元へ到着する。キラはマリューに言われたとおり2号機を操作するためコクピットへと向かった。

 

「オリノは2号機のトラック側に。操作はわかるわね?」

「大丈夫です。……アーガイル君、手伝ってくれ」

「あ、はい」

 

オリノは指示を受けて、サイに肩を借りてトラックへと向かう。

 

「さて、じゃあ1号機の方だけど……こっちも、機体側とトラック側で最低限2名必要になるわ。手順は教えるから、トラック側に誰か……」

「いえ、機体側は私がやります」

「メル!?」

「なんでお前が!?」

「そ、そうだよ。なんだってメレアリスが……」

 

ミリアリアが驚き、残っていたカレッジのメンバーも一斉にメレアリスに詰め寄る。

マリューも真剣な表情でメレアリスに問いかける。

 

「メレアリスさん……だったかしら。貴女、自分の言っていることの意味はわかってる?」

「はい」

「本来であれば機密であるあの機体の操作をするということも、操作中に敵が来たら戦闘しなければならないことも?」

「既に一度あの機体のコクピットに入りました。だから機密に触れたことに関してはもう手遅れだと思ってます。そして、戦闘も……覚悟の上です」

 

そう話すメレアリスの眼は真剣そのものだった。元から顔が整っている事もあって、その場にいる全員が少しばかり気圧される。

そんな中、なおもマリューは質問を続ける。

 

「……理由を聞いてもいいかしら」

「ラミアスさんは、その腕の怪我……いいえ。怪我がなくても、あの機体を動かせますか?」

「動かすくらいなら何とでもなるわ。私はG……あの機体専属の技術士官よ」

 

マリューは自身の腕に巻かれた包帯を一瞥してから答える。

 

「……質問が悪かったですね。言い換えましょう。あの機体を使ってキラのように敵を倒せますか? 」

「……それは」

 

出来る。そう言いたいマリューであったが、そう言えないことを一番理解しているのもまた彼女自身だった。

実際に前の戦闘でもジンからの攻撃に対して歩行による回避運動しか取れなかったし、あの調子では例えPS装甲があってもいずれ撃破されるのがオチに違いなかった。攻撃にしても、止まっている的なら未だしも敵の駆るMS相手に当てられるかと問われれば自信はない。そもそもが技術屋のマリューにMS乗りのスキルを求められても応えられるわけがないのだ。

なまじナチュラルの中でも優秀な部類にいる分、彼女は自己分析も冷静だった。

 

「言えませんよね、出来るなんて。出来るならわざわざキラがOSを書き換えてまで戦う必要なんて無いんですから」

「……だからと言って貴女がアレで戦えるということにはならないでしょう?」

「そうですね。まだ一度もやったことのない事ですから自分ですらわかりません。……でも、"同じコーディネーター"のキラは初めての操縦でやれましたよ」

「それは……そうだけど。でも、だからって」

「ええ、もしかしたらキラだけで私じゃ戦闘なんて出来ないかもしれない。でも、ラミアスさんと違って可能性はあります」

「可能性があるからってそんな……貴女の命に関わるかもしれない事なのよ!?」

「あれに乗っていてもそうでなくても、戦闘があったら命の保証なんて何処にもありません。だから、死ぬかもしれないことは承知です。……それでも」

 

メレアリスはそこで言葉を切ってキラやオリノが向かった2号機を見上げる。

コクピットの装甲は開いたままで、中ではキラが難しい顔をしながらコンソールを弄っていた。

 

「……それでも?」

「自分にできることをやりたいんです。私はキラと同じコーディネーターなのに、友達の助けになれるかも知れないのに……全部彼一人に任せて後ろで見ているなんてこと、私にはできません」

「……」

「メル……」

 

沈黙で返すマリューと、心配そうな声を上げるミリアリア。声こそ出さないものの、一緒にいるトールとカズイも同じようにメレアリスの身を案じていることが窺えた。

メレアリスはそんなカレッジのメンバーの様子に、困ったような微笑みを浮かべる。

 

「こんな理由じゃ駄目でしょうか?」

 

メレアリスはマリューに問いかける。マリューは数秒の間黙ってメレアリスを見つめていたが、やがてため息まじりに

 

「……わかりました、いいでしょう」

 

とだけ答えた。

 

「っ、ありがとうございます!」

「ただし、条件があります。戦闘の際は、貴女はキラ君の後方で援護射撃をするだけに留めること。OSは書き換えないこと。いいわね?」

「はい! 約束します」

「ならいいわ。……時間が惜しいから、さっそく取り掛かりましょう。コクピットに入ったら、まずはストライクを座らせて頂戴。動作メニューの『換装シークエンス』を選択すれば、あとは機械がオートでやってくれるわ」

「え? じゃあ、なんでキラはあんなに難しい顔を?」

「彼はきっと機体動作をマニュアルに切り替えているのね。操作はかなり複雑になるけど、その分挙動の自由度が上がるわ」

「成程……」

「さ、やるわよ。機体の足元まで降りてるワイヤーに足をかければコクピットまで運んでくれるわ」

 

マリューの言葉に小さく頷き、メレアリスは1号機の足元に降りてきている昇降用のワイヤーへと小走りで近づき足をかける。1分もしないうちにメレアリスはコクピットへと入り込み、ハッチを閉じる。

 

「えっと、確かこの辺りに……ああ、あった」

 

メレアリスがとあるスイッチを押すと、ストライクは片膝立ちの体勢になる。オリノと共に地上に降りた際に使用したスイッチだった。

本来は今回のように、バッテリーパックの交換の際に使う機能だったらしい。

マリューの言う通りにシークエンスを起動させると、1号機はオートで体勢を適切なものに正していく。ここまでくればメレアリスがやることは無いので、その間に機体の情報をチェックしていく。

 

「何、回避動作まで選択式なの……? はあ、よくもこんなOSでこれだけの代物を……」

 

だが、見れば見るほど不釣り合いなOSの出来の悪さに呆れていく。移動以外のほぼ全ての動作が予め記録されている物を選択する方式で出来ているため、さながら出来の悪いシミュレーションゲームの様であった。

確かにこれでは純粋な戦闘は難しいだろう。どうやら向きが違ったらしいトラックの方向転換作業を尻目に、援護射撃ですら難しいのではないかとメレアリスは不安になる。

……と、その時。けたたましいアラート音と共にレーダーに赤い点と緑の点が一つずつ表示される。

 

「敵!?」

 

ジンがレーダー上で赤い点だった事に思い至ったメレアリスが座標と高度が示す位置へと視線を向けるのと、上空のシャフトで爆発が起きたのがほぼ同時。

爆炎の中から白い機体――ジンとは少し異なる――と、それに遅れてオレンジ色の戦闘機が現れる。

 

「名前は……"ZGMF-515 Cgue"に"TS-MA2.mod00 Möbius Zero"? シグーとメビウス・ゼロ、ね……!」

 

どうやら敵のシグーはこちらに気づいているようで、メビウス・ゼロを適当にあしらいつつ接近してくる。

メレアリスは急いで外部集音機能をオンにしてマリューの指示を仰ぐ。

 

「ラ、ラミアスさん!?」

『待って、今コンテナを……』

 

しかし、まだトラックの向き転換は終わらない。メレアリスは焦りと恐怖で混乱しかけるが、シグーは彼女ではなくキラの駆る2号機へと向かっていく。

 

「キラ!?」

 

見れば、2号機は既に武装の取り付けが終了して立ち上がっていた。向かってくるシグーに対し、巨大な銃口を向けたその瞬間。

爆音とともに、ヘリオポリス宇宙港が炎を上げる。そして。

 

「……何、あれ」

 

巨大な戦艦が、コロニー内へと姿を現した。




子どものわがままに甘々な魔乳さん、そしてガバガバOS。
例のごとく、OSの事については独自解釈です。詳しい説明が必要でしたら感想にてご質問お願いいたします。

あと、とりあえずここまででストックが切れます。正確にはあと1話分くらいはあるのですが、作者の執筆スピードはカメなんて比較にならないくらい遅いので温存させてください……。


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3-a

大学の試験があるため、次の投稿は8月となるかと思います。


シグーから飛来した銃弾が2号機の胴体部分へと着弾する。

 

「うあっ……!」

 

激しい衝撃がコクピットを襲い、キラは堪らず声をあげる。

ディスプレイには損害状況が表示されるが、既に展開されていたPS装甲のお陰で機体の損傷は少ない。

 

「効果なしだと?」

 

依然としてヘリオポリス上空を飛び回るシグー、その操縦者であるクルーゼは戦艦からの攻撃に対する回避行動をとりつつライフルに特殊弾薬を装填する。

乗機であるシグー含め、Z.A.F.T.の兵器群が通常兵装として採用している実弾薬は共通である。その弾薬が連合製のモビルスーツに対してほぼ無力であったことに少なからず衝撃を覚えるが、今はそれよりも眼前の敵(GAT-X105)を倒しうる手段を見つけることが先だった。

 

「ぶ、武器は……!?」

 

一方のキラは、装着したばかりのバッテリー兼専用兵装――ランチャーストライカーパックによってもたらされた武装を調べていた。

PS装甲がある分多少の被弾は問題ないだろうが、それはストライクだけの話だ。足元にいる友人たちが、いつ流れ弾の被害にあうかわからない。

 

「……ビーム砲とバルカン、ミサイルか! なら……!」

 

シグーに対してレーダー照射。それまで緑色で点滅していたカーソルは小さなブザー音と共に対象を捕捉する。

それと同時に、キラはトリガーを引く。

肩部のガンランチャーから2発のミサイルが発射され、クルーゼの駆るシグーへと向かっていく。

 

「……誘導弾か」

 

艦砲射撃を回避しつつ、追いすがるそれらのミサイルを銃撃で破壊したクルーゼは、今一度2機の敵モビルスーツへと向き直る。

ミサイルで攻撃してきた一機は依然としてこちらへの攻撃の機会をうかがっているようだったが、もう一機は片膝立ちの姿勢のまま動かず、こちらの攻撃に反応するそぶりも見せない。

一見して同型機のようではあったが、兵装の多少の違いも顕著だった。

 

「……動かない方は未完成、ということか? ならば」

 

未完成品は破壊し、使えそうな方を持ち帰る。

続く言葉は心の内で呟き、クルーゼはレーダー照射対象を変更すると同時にフットペダルを踏み込む。

 

「こっちに来たっ!?」

 

未だストライカーパックの装着が出来ていない1号機に乗るメレアリスは、ロックオンアラートの中で動揺の声を上げる。

幸い、メレアリスもキラと同様にストライクを操縦することは可能のようだった。慣れないながらも即座にPS装甲を展開したのち、カメラ類に損傷の無いように顔部分を腕によって防御する。投げられた石から顔を守る人間の行動と同じだ。

それに数瞬遅れる形でシグーの放った銃弾が1号機を襲う。

 

「ああっ……」

 

初めて味わう衝撃に、メレアリスは思わず声を漏らす。ディスプレイに映る損害状況はほぼ無傷であることを示していて、そのことに少しだけ安堵した。

 

『オウルベルさん! 聞こえる!?』

「……ラミアスさん!? 」

 

突如入った通信は、どうやら1号機の背後にあるトレーラーからのようだった。

 

『1号機の装甲から跳ね返った銃弾で、トラックのフレームが歪んで開かないの! そっちで抉じ開けて!』

「えっ!?」

 

運が悪いとしか言いようがなかった。

メレアリスは悪態をつきそうになる自分自身を抑えながら、言われた通りに行動すべく操作をアシストからマニュアルへ切り替えようとする。

が。

 

「それでは宝の持ち腐れだよ」

『メレアリス!?』

「あ……っ」

 

メレアリスの眼前には、既にクルーゼのシグーが迫っていた。

キラの呼び掛けでそれを認識したメレアリスは切り替えを中断し、回避行動をすべく1号機を立たせるが、間に合わない。

シグーの重斬刀による一撃が1号機へと振り下ろされる。

 

「――っ」

 

悲鳴にすらならない掠れた息がメレアリスの口から吐き出され、同時に咄嗟の判断がメレアリスの手を――ひいては操縦幹を動かした。

そうして次の瞬間、経験したことのない衝撃がメレアリスの全身を襲う。爆発とは違う、物がぶつかった衝撃だ。

 

「ほう、防いだか」

『メレアリス!』

「ううぅ……」

 

1号機は、メレアリスが命令した通りにシグーの重斬刀をハイブロックで防いでいた。

機体腕部に大きな負担がかかったことによる警報がディスプレイに映るが、メレアリスの視界には入らない。

 

「ぅぁああああああッ‼」

 

叫びと共に操縦幹に付属するボタンを押し込む。

すると、ストライクの頭部に装備されている自動バルカン砲(イーゲルシュテルン)が唸りを上げ眼前のシグーへと弾丸を発射する。

 

「むッ!」

 

意表を突かれたクルーゼは即座に機体を後退させ、1号機から距離を取る。しかし、尚も1号機――メレアリスは射撃をやめようとしない。

 

「来ないで……来ないでッ!」

 

ともすれば先程の攻撃によって死んでいたかもしれないという心理的な負担は、メレアリスにとって予想以上に大きかった。

もちろん、PS装甲が展開されている限りは理論上物理的ダメージに対してはほぼ無敵に近い防御力をストライクは有している。しかし、彼女がその事を知る由もない。せいぜいが頑丈な鎧程度に考えている。

加えて、2号機とは違い装備もなく、PS装甲を維持するためのエネルギーも既に半分を切っているこの状況がメレアリスをパニックに陥れていた。

 

「重斬刀にも耐えうる装甲、加えて頭部にバルカン砲……連合も脳無しではない、か」

 

数発という僅かながらの被弾をしながらもメレアリスの射撃から距離を取ったクルーゼは一言呟く。

損害状況は軽微だが、もし一瞬でも反応が遅れていたら損害は無視できないものになっていただろうと予測できる威力。そして、シグーの主兵装すらものともしない程の装甲。

Z.A.F.T.のジンやシグーとは違い、対モビルスーツ戦闘を明確に意識していると言える敵の機体に、厄介なものが現れたとクルーゼは舌打ちした。

そんなクルーゼのシグーに向かって今度は戦艦からミサイルが飛来する。

 

「ええい、鬱陶しいッ」

 

それを避けるべく、クルーゼは更に機体を後方へと下がらせざるを得なかった。

 

『メレアリス、落ち着いて! ねえ!』

「はぁっ、はぁっ……キ、キラ?」

 

その間に、キラの呼びかけによってようやくメレアリスが落ち着きを取り戻す。ディスプレイには既にイーゲルシュテルンの残弾数低下の警告が表示されていた。

 

『大丈夫? 怪我は!?』

「どこも怪我してないわ、大丈夫よ。……ごめんね、情けないところ見せちゃった」

『そんな! 情けなくなんかないよ。僕だって怖いんだ……謝るようなことじゃないよ』

「……そういってもらえると助かるわ」

 

言って、メレアリスは操作をマニュアルへと切り替える。途端に制御難度が上がるが、動かせない程ではない。慣れればもっと直感的に操作できそうだった。

 

「キラ、これから後ろのトレーラーを抉じ開けるから、その間だけあの敵を近づけさせない事ってできるかしら?」

『え……うん、わかった。やれるだけやってみる』

「ありがと。お願いね」

 

キラとの通信を一旦切断し、メレアリスは1号機をトレーラーの方へ向き直させる。

そして、機体を屈ませながらコンソールを取り出し、高速で入力を始める。

 

「……OSは弄るなって言われてたけど。照準システムの補正くらいは大目に見てもらいたいわね」

 

半ばパニックになりながら行ったイーゲルシュテルンによる攻撃だが、その際にメレアリスは一つだけ確信した。OSが未熟なのに加えて、そのほかのシステムも良くはない。

 

「コンピュータ予測による射撃補正機能がついているのは良いけど、処理が間に合わないんじゃ意味ないじゃない……!」

 

恐らくは弾薬その他を浪費しないためなのであろうが、如何せん予測するにも判断材料が多く設定されすぎている。一定の方向に一定の速度で動く物が相手であれば問題ないが、そんな的は現実的ではない。あまりに正確な照準を求めるあまり、逆にそのせいでコンピュータの判断が遅れ、結果的に命中精度を下げているらしかった。

 

「出来すぎてるシステムっていうのも考え物ね……っと」

 

ストライクの腕がコンテナのの蓋部分を引きはがしにかかる。その様子をモニター越しに一瞥し、メレアリスは再びディスプレイへと目を向ける。とりあえずの措置ではあるが、ネックとなっている判断材料の数を1/4ほど削ってみる。

 

「後は試してみてからだけど……時間があるかしらね」

 

実際のところ、これで照準がどの程度改善されるかはわからない。レーダーを見れば、シグーは未だ近づいてきてはいない。どうやらキラは頑張ってくれているようだった。

1号機がコンテナを半分ほど抉じ開けたところでメレアリスは行動を中止させる。中には武器らしき銃器が一丁、そして得体の知れない赤と黒でペイントされた機械が入っていた。

 

「……キラのとは違う装備?」

 

モニター後方に映る2号機には、緑を基調としたカラーリングのストライカーパックが装備されている。背部に格納されている大きな砲身から察するに、あれは恐らく遠距離戦を想定した装備なのだろう。そう考えながらメレアリスは1号機の向きを反転させて機体を座らせる。そして同時並行で換装シークエンスを起動させてから、前方の戦闘の様子を改めて確認する。味方らしい戦艦から放たれるミサイルを回避したり撃ち落したりしているシグーに向けて、キラはできるだけ邪魔をするようなタイミングで攻撃を入れている。シグーはその対応をしているようで、こちらにはアクションを起こそうとしていないらしかった。

 

「AQM/E-X01 Aile striker。この状況で役に立つのならいいけど」

 

程なくして、シークエンスが正常に終了したことを知らせる音が鳴る。そして、同時に表示されていたバッテリーの残存電力が回復していくのも確認できる。

それらへの反応もそこそこに、メレアリスは同じくコンテナに入っていた銃器を、1号機に両手で構えさせる。と、そこでディスプレイに写る情報から手にしている武器の特徴に気づく。

 

「ビーム兵器……? とすれば、実弾よりも弾速は上よね」

 

つまり、見てから避けられるものではない。本来であれば実弾兵器もそうではあるのだが、先程シグーに至近距離射撃から逃げられたばかりなので少しナーバスになっていた。

ともあれ、気を取り直して狙いを定める。照準システムはまずまずの出来上がりだ。今の状況であれば上出来である。

シグーはこちらの動きに気づいたようだが、戦艦と1号機が張る弾幕を回避することで手一杯のようだった。お陰で、メレアリスとしても狙いやすい。

 

「……捉えた!」

 

ロックオンが完了した瞬間、それまで緑色だったカーソルは赤に変色しブザーが鳴る。それと同時にメレアリスは勢い良く操縦捍のスイッチを押し込んだ。




照準システム云々は独自設定となります。原作2話でアスランがイージスに装備されているイーゲルシュテルンを発射した際の描写を元にしてでっち上げました。
また、イーゲルシュテルンの弾薬はケースレス弾薬(但し、現代の物とは異なり様々な虚弱性を改善したものとする)を使用しているという設定でいきます。そうでないと、今回の場合薬莢が落ちて怪我人が出るやもしれないので。

7/18:不自然な文章を改稿。2重表現でした。
また、『1-d』のあとがきにて、『なぜストライクが2機なのか』の説明を追加。気になる方は是非。


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3-b

遅れてすみません。グランドオーダーが悪いんです、ええ。
そう、グランドオーダーは悪い。色んな意味で。


それまで弾幕を凌ぎながら反撃を狙っていたクルーゼは、回避の合間に先ほどの未完成品が何やら動いていることに気付いていた。しかし、さすがの彼もよそ見をしながら攻撃を避けられるわけではない。結局注視はできず、次にまともに意識を向けたのは件の未完成品からのロックオンアラートが鳴り響いた時だった。

 

「……くっ」

 

頭部のバルカンによる援護射撃か。

回避動作をわざと大きくして意識をそちらへ向ける隙を作ったクルーゼは、その時初めて自身の予想が外れていたことに気が付く。

 

「何……ッ!?」

 

視界に映るのは未完成品、のはずだった1機。無手だったはずのその機体(GAT-X105-1)が、何やら銃器を構えてこちらへと向けている。

只ならぬ気配を感じ取ったクルーゼは、ノータイムで回避行動へと移る。その瞬間、クルーゼの駆るシグーの右脚部装甲の一部が弾け飛んだ。

 

「ぬおッ!?」

 

被弾。同時に伝わる衝撃に意識せず声が漏れる。そして、チャンスを逃すまいと今度はもう1機――先程から弾幕を張っていた機体(GAT-X105-2)が攻め込んでくる。

 

「チィッ」

 

2号機の肩口にある砲身から大量の実弾がばら撒かれる。

それに対し、急激な挙動でかかるGに耐えつつ、クルーゼは自身のシグーに出来うる限りで最速の回避を命令する。果たして、回避はギリギリ間に合った。一瞬ではあるがクルーゼは安堵のため息を溢す。

 

「未完成ではなく、装備をしていなかったということか……!」

 

今一度1号機を見やれば、背部に追加武装らしきものを取り付けてこちら(シグー)へと銃口を向けている。先ほどの射撃から察するに実体弾ではなくビーム兵器だ。

携行型の小型ビーム兵器はエネルギー面での問題もあるため、Z.A.F.T.製モビルスーツには実装されていない。それを平然と装備しているあたり地球連合軍が如何にMS開発に力を注いでいるかということも容易に想像できる。

やってくれる。

クルーゼは心のなかでそう吐き捨て、尚も迫る攻撃を紙一重で躱していく。

2対1の射撃戦、戦艦を含めれば3対1。それでもクルーゼは落とされない。先程は完全な不意打ちであったために不覚をとったが、意識していれば捌くことも不可能ではないのだ。それほどの操縦技術をクルーゼは持ち合わせている。

 

「やはりPS装甲相手では歯が立たんか!」

 

しかし、攻撃面は彼の実力に関係なく手詰まりである。隙をついて放った銃撃は2号機に着弾するが、ダメージが入ったようには見えない。

 

「……やむを得ん」

 

数分後、クルーゼはそう呟くと即座に相手から距離を取る。ジリ貧でしかない戦闘をこれ以上続けようとは思わなかった。

機体を反転させ、入ってきたシャフトへと向けて一気にバーニアを吹かす。背後から射撃を受けるが、難なく躱しながら突き進んでいく。

そして、そのまま後方を一瞥することも無くヘリオポリスを後にするのだった。

 

 

 

 

 

ヴェサリウス機内。アスラン・ザラは自身が奪取したGAT-X303 AEGISのOSを書き換える作業をほぼ終わらせようとしていた。

流れていくプログラム用の言語や数字。それらはすべてアスランが新規に入力、または改変した物だ。一般人ではおよそ考えられない速度でアスランのプログラミングは進んでいく。

 

(……メル……キラ……)

 

しかし、当の本人は意識を別の方向へと向けていた。それでもプログラミングにミスはなく、彼の実力の高さが伺える。

 

――何故そんなものに乗っているの?

 

メレアリスに問いかけられた言葉。それがアスランの頭の中で幾度となく反芻され続けていた。

あの時どうして答えられなかったのか、そもそも何故彼女がヘリオポリスにいたのか。オーブに籍を置いていることはアスランも知っていたが、コロニーに住んでいたとまでは知らなかった。

 

『本当に戦争になることはないよ。プラントと地球で』

 

かつて何も知らなかった自分が二人の幼馴染に、それぞれ別の場面で言った言葉だ。その言葉にキラは曖昧に頷き、メレアリスは「きっとそうよね」と微笑んだのをアスランは覚えている。

 

(そういえば、泣いていたな。どちらも)

 

彼がその言葉を口にしたのは、場所は違えど両方とも別れの挨拶の際だ。当時単身でプラントにいた父親のパトリック・ザラに母子共々呼び戻されることになり、突然月を離れなければならなくなったのだ。

今まで離れ離れであった父とまた三人で暮らすことができるようになるかもしれない。それ自体はアスランにとって最高に嬉しいことであったが、友人と別れなければならないのはひどく辛かった。しかし、自分だけが月に残るわけにも行かない。結局、母親に連れられながらも別れの挨拶として友人たちの家を回った。

 

「そっか……プラントに」

「ああ……」

 

一番辛かったのは、やはり幼馴染二人との別れだろう。弟分でもあったキラはまるで世界の終わりのような顔をしていて、胸が締め付けられるような思いだった。

 

「キラも来ないか?」

「えっ?」

 

そんな顔をさせたくなくて、思わずそんな言葉が口から出ていた。

 

「プラントは僕達コーディネイターが住む場所だ。コーディネイターだからって変な目で見られることなんてないんだ」

「それは、そうだけど……」

「なら!」

「……ボクのお母さんとお父さんは、コーディネイターじゃないから。だから、ごめん」

「! そうか……」

「また、会えるよね?」

「……ああ。きっとまた会える。いや、会うんだ」

「……うん!」

 

その後、再会の約束の証としてトリィをキラに贈った。キラは驚いていたが、大事そうに抱えてお礼を言ってくれた。涙声ではあったが。

自分もその時は鼻の奥につんとした痛みを感じていたから、もしかしたら涙ぐんでいたのかもしれない。今となっては良い思い出だ。

 

(で、最後にメルに会ったのは……病院か)

 

別れの日の数日前から、メレアリスはコペルニクスのとある病院に入院していた。詳しい事情は今も分からないままだが、アスランの記憶に残るメレアリスはおとなしいものの病弱ではなかったし、何かの検査入院か軽い病気にでもかかっていたのだろうと結論づけている。

何を話したかは、キラの時と違ってあまり覚えていない。緊張していたからだ。

 

(……結局、伝えられはしなかったな)

 

やや自嘲気味な思考がアスランの頭を過る。あの日、アスランは胸に秘めた淡い恋心を幼馴染(メレアリス)に伝えようとしていたはずだった。

しかし、いざ彼女の前に出るとそんな心づもりも吹き飛んでしまった。緊張で体を固めたまま事務的なことしか話せなかったような気がする。

しかし、それでよかったのだろうとも考える。あの時想いを伝えたところで彼女とは離れ離れにならなければいけなかったし、何より今の自分には婚約者がいる。父の意向で決まった婚約であったが、それでも相手の女性を蔑ろにすることなど自分にはとてもできないだろう。

 

(……それにしても、どうしてよりによってヘリオポリスに……)

 

連絡を取ろうにも自分は訓練校にいたし、するつもりもなかった。だから、てっきりオーブ本国で暮らしているのだろうと思っていた。加えて、キラだってあそこにいた。そこにたまたま連合の試作モビルスーツがあって、たまたまそれを自分たちの艦が察知して。……なんという巡りあわせなのだろうか。

 

「……うわっ!?」

「! すまない。ついそちらまで弄ってしまった」

 

コクピットの外、搭乗用通路でデータ解析をしていたZ.A.F.T.の技術士たちが驚いた声を上げた。その声によってアスランは我に返る。どうやら、自分が無意識にOSだけでなく周辺のデータまで弄っていたらしい。

 

「い、いえ、大丈夫です。もう終わりますので」

「そうか。……にしても、よくもこんなOSで……」

 

時間をかけて弄ったことで、ハード面は高い完成度を誇るもののOSはそれに反して急造された未完成品だったということは理解できた。しかし、そうだとしてもいくらなんでも酷すぎる出来だ。

こんな状態のものを実戦に投入する気だったのかと呆れかけたところで、MSデッキが俄かに騒がしくなる。どうやら、アスランたちの隊長――クルーゼが帰還したようだった。

 

『隊長機着艦完了!』

『左腕部、及び右脚部に損害! メンテナンス急げ!』

(隊長が被弾!? そんな……いや、まさか)

 

信じられない、そう思った一方でアスランの頭には幼い頃のキラの顔が過る。

基本的にいつも受け身で弱々しい印象のあったキラだが、そんな姿とは裏腹に彼の能力は軒並み高水準だった。運動や勉強はもちろんのこと、機械関連ではロボット製作などのハード方面であればアスランの方が得意だったが、ことソフトウェア面においては兄貴分であるアスランよりも得意だったことは記憶に残っている。

キラなら、もしかしたら自分よりも高度なOSを短時間で組めるかもしれない。いや組めるだろう。そうであるなら、もしかしたら隊長機に損害を与えたのは。

 

(……やめよう)

 

そこで思考を無理やり中断してアスランはイージスのコクピットを離れる。隊長機が戻ってきたのだから、恐らく次の行動に関するブリーフィングがあるはずだった。その時考え事をしていて何かを聞き逃すことなどあったらそれこそ洒落にならない。

半ば現実逃避気味にそう考えながら、アスランはヴェサリウスのブリッジへと向かった。

 

 

 

「ミゲルがコレを持って帰ってくれて助かったよ。でなければ、いくら言い訳したところで地球軍のモビルスーツ相手に機体を損ねた私は大笑いされていたかもしれん」

 

クルーゼの声がブリーフィングに参加している兵たちの耳に響く。アスランの予想は的中し、程なくしてブリッジへの招集命令が下ったのだ。

クルーゼの背後にあるホログラフのディスプレイには先の戦闘記録――ミゲルの駆るジンとストライク2号機が戦闘した際の映像だ――が映し出され、参加していたアスランはおろか、映像を持ち帰ったミゲル・アイマンでさえもその映像を注視していた。

 

「奪取した機体に搭載されていたオリジナルのOSについては君らも既に知っての通りだ。なのに何故、この機体だけがここまで動けるかは不明だ」

 

その言葉にアスランは軽く首肯する。

映像のストライクは、Z.A.F.T.の主力であるジンを上回る速度でコロニー内部を駆け回っている。万に一程の確率であろうが、あの機体だけ最新のOSが搭載されていた可能性だって存在するのだ。とすれば、地球連合軍がこれ以降に生産するモビルスーツはあれほどの運動性能を誇るのかもしれない。

 

「だが我々がこんなものをこのまま残し、放っておくわけにはいかんということはハッキリしている。捕獲できぬのであれば、今ここで破壊するしかあるまい。無論戦艦もだ」

 

そこまで話してクルーゼは一旦言葉を切る。アスランを含め、彼の眼前に立つ部下の面々は真剣な表情で彼の話に耳を傾け、尚且つその視線はディスプレイへと向けられている。誰も反対意見など無いようだった。

 

「敵戦力は未知数な部分も多い。侮らずにかかれよ」

「「「ハッ!!」」」

「ミゲル、オロールは直ちに出撃準備。D装備の許可が出ている。今度こそ本当に息の根を止めてやれ!」

「「了解!」」

 

クルーゼの副官的存在であり、ヴェサリウスの艦長であるアデスから指示が下される。指名された2人は即座にブリッジを離れ、自分たちのモビルスーツへと向かって行った。

 

「……アデス艦長、私も出撃させてください」

 

アスランは、何とかもう一度あのディスプレイに映る2号機に接触したかった。乗っていたのは本当にキラなのか。それを確かめたかったのだ。

しかしその申し出に、アデスではなくクルーゼが反応する。

 

「アスラン? 君には機体がないだろう。それに、君は先ほどモビルスーツの奪取という重要な任務を果たしてきたばかりだ」

「ですが!」

「今回は譲れ、アスラン。あいつらも君に劣らず悔しい思いをしてるんだ。特にミゲルは先の戦闘で屈辱を味わったんだ」

 

なおも食い下がろうとするアスランを今度はアデスが諭す。そこまで言われてしまえば、アスランに反論する余地はなかった。

 

「……はい」

 

どうにかして確かめたい。

了解の返事を返す口とは裏腹に、アスランの頭はフル回転していた。

 




諭吉でもジャンヌは引けなかった。赤王様を引けたから満足どころか本望ですが。

それはおいといて、今回の解説ですが、特に思い当たる点はこちらとしては無いです。なので、疑問点がありましたら感想欄にて教えていただければ幸いです。


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3-c

更新が遅れてすみません。
1年はさすがにヤバイ……


「さっきの戦闘を見てなかったのかよ!? コーディネーターだってだけでこんな……どういう頭の構造してんだお前らは!」

 

所変わってヘリオポリス内。辛くもシグーを退けたストライク2機は、戦闘中に姿を現した戦艦――『LCAM-01XA』通称アークエンジェルのモビルスーツデッキに移動した。

マリューやオリノ曰くところの"G兵器用の戦艦"というだけあって、移動自体はかなりスムーズに行うことができた。そう、移動自体は。

問題は操縦者。軍属であるマリューやオリノが戦闘目撃者の学生を伴ってモビルスーツで帰還したというのであれば頷ける話ではあるが、実態は異なる。操縦していたのはその学生で、尚且つ地球連合が戦争している相手と同じコーディネーターだったのだから。

 

(……ま、こうなるわよね)

 

トールの憤慨する声を聞きながら目の前で何とも言えない顔をしている金髪の男――確かフラガ大尉とか言ったか――を横目にメレアリスは小さくため息をつく。

メレアリスとキラがストライクから降りると、まず先に降ろしたマリューとオリノを迎えに来たアークエンジェルのクルー、その中の一番偉そうな女性(メレアリスの所感だが)が此方に驚きと、そして次に厳しい目を向けてきた。無理はない。メレアリスの髪は良くも悪くも目立つ。通常の人間(ナチュラル)であればありえない緑色をしているのだから。

それでも直ぐにこちらを問い詰めようとせずマリューに事情の説明を求めたことに多少ながらメレアリスは驚いた。マリューやオリノはこれまでの会話でコーディネーターへの偏見はあまり無い、又は表面には出していないことは察していたものの、他の地球連合の人間は大体がコーディネーターを敵とみなしていると思っていたからだ。女性の反応を見るに強ち間違いでは無いのだろうが、下手をすれば顔を見せた途端問答無用で拘束されて営倉入りでもおかしくないと考えていたのである意味では拍子抜けとも言える。

それはそれとして、問題はその後だ。マリューがアークエンジェルのクルーに事情を説明しようと口を開いた時、もう一人の人物が現れる。

 

『キラ・ヤマト君とメレアリス・オウルベルさんです。先の戦闘でも、彼らのお陰でジンを1機撃墜、シグーを中破に追い込むことに成功しました』

『そんな……では、先の戦闘で戦っていたのはラミアス大尉とオリノ少尉ではなく……!?』

『ええ、彼らよ』

『ふうん。民間人が、ろくに操縦法も知らないMSでモビルジンを一機撃墜、クルーゼのシグーを退けた……か。……キミら、コーディネーターだろ?』

 

そしてその人物、つまり今メレアリスの目の前で何かを思案しているムウ・ラ・フラガが先ほど発した言葉が原因となり。

 

(銃、ね……)

 

クルーたちが装備していた銃を一斉にキラとメレアリスに向け、今に至ると言うわけだ。

隣にいるキラをちらりと見れば、銃をつきつけられているのにも関わらず表情がいくらか固いだけだ。特に恐れおののいている訳ではない。そしてそれはおそらく自分も同じなのだろう。

問答無用で襲ってくる敵を相手にしているよりは気分が楽なのである。無論、先の戦闘のせいで麻痺しているだけだが。

 

「ふざけんなよ! キラとメレアリスはお前らの代わりに戦ったんだぞ!? 本来軍人がしなくちゃいけないことだろ!? こいつらに任せて自分たちは戦艦で引きこもってたクセに、いざ対面したら感謝もせずに(そんなもん)突き付けやがって! 何が地球連合だよ! 何がナチュラル(真人間)だよ! お前らのほうがよっぽど――!」

「トール!」

「っ……」

「それ以上は駄目よ」

「でも!」

「いいから」

 

そこまで言えば、トールは渋々引き下がる。後に残るのは気まずさと緊張が入り混じった静寂だ。

しかし、それでも逆上した軍人に友達が撃ち殺されるよりはマシなのだ。最悪の場合、そうして殺した後で口封じにゼミ生全員が殺される可能性だってある。というか、軍事機密であるストライクを目撃し、実際に接触した学生たちの処分などそれが一番手っ取り早い。

 

襲撃してきたZ.A.F.T.兵に彼らのような民間人の学生が殺されました、このような酷いことを平気でするのがコーディネーターです。

 

死人に口無し、処分した後死体をそういう形で公表すれば民衆のプラントへの反感を煽ることだって可能なのだ。正規の軍人がやる事ではないが、ここにいる彼ら地球連合は中立のコロニーで秘密裏に兵器を開発しているような軍隊だ。今更何をしようとも可笑しくない。

マリューやオリノのような軍人ばかりではないのだから、銃を突きつけられている状態でも考えられるすべての事柄に対し警戒するに越したことは無い。そう考えたところでマリューが今まで閉ざしていた口を開く。

 

「銃を下ろしなさい」

「!? ラミアス大尉、しかし――」

「その少年、いえケーニヒ君の言う通りです。私達が銃を向けるべき相手は攻撃してきたZ.A.F.T.であって、民間人のコーディネーターでは無い筈よ」

「それは……。しかし、何故民間人のコーディネーターがプラントではなくヘリオポリスに?」

ヘリオポリス(ここ)は中立のコロニーよ。この戦争に関わりたくなかったコーディネーターが移り住んでいても不思議ではないわ。……違うかしら? キラ君」

「……ええ、まあ。僕やメレアリスは一世代目のコーディネーターですから」

 

第一世代とはつまり、親がナチュラルである事を指す。親はプラントで迫害される恐れがあるため移住はできず、かと言って子供だけを戦争中の場所へと送ることも出来ない。そういった境遇の年若いコーディネーターたちがキラやメレアリスのように中立のコロニーに居るというのは、よくあるとまでは言えないが珍しい訳でもなかった。

 

「あー、なんというか。悪かったな。俺はただ聞きたかっただけなんだ」

 

メレアリスとキラに向けられていた銃が下ろされ、場の緊張が幾分か和らいだところでムウが二人に話しかけてくる。

 

「失礼ですが。好奇心猫をも殺す、後悔先に立たず。どちらも東国の古い諺ですけど、覚えておいた方がいいかも知れませんよ」

「……すまん」

 

お返しとばかりに精一杯の嫌味を込めたメレアリスの返答に、ムウはただ謝罪を繰り返すしかなかった。

 

「ただ、な。ここに来るまでGAT-Xシリーズ(こいつら)のパイロットになる筈の連中のシミュレーションを何回も見させてもらったんだが、連中はノロクサ動かすのにも四苦八苦してたからさ」

「……」

 

視線を上げるムウにつられ、全員がストライク2機に目を向ける。

 

「……ま、やれやれってところだな」

「あっ、フラガ大尉、どちらへ向かわれるのですか?」

 

そういって艦の奥へと歩き去ろうとするムウへ先ほどの偉そうな女性が声をかける。マリューやムウへの態度的に、恐らく彼らよりも階級は低いのだろうとメレアリスは漠然と思った。

 

「どちら、って……俺は被弾して降りたんだし、外にいるのはあのクルーゼ隊だぜ?」

「なっ、そ、それは確かですか!?」

「ああ、なんだったら保証してもいい。奴らはしつこいぞ? こんなところでノンビリしてる暇、無いと思うぜ」

 

先にブリッジに行ってる。

歩きながらそう告げると、ムウはまもなく見えなくなる。

残されたクルー達の反応は様々だったが、そのいずれもが不安に満ちている。どうやら先程襲撃してきたZ.A.F.T.の部隊がクルーゼ隊とかいう部隊だという事が原因でこのような状況になっているらしい。状況がいまいち把握できないメレアリスたちにもそれだけは分かった。

 

「なあ、どうなってるんだ?」

「さあ? 連合軍にも名が通ってるってことは相当有名なんでしょ」

「ってことは……」

「連合軍にとってはかなりの強敵か、或いはZ.A.F.T.のシンボル的存在か。どちらにしろ厄介な敵……そういう事だよね?」

「多分、ね」

 

近場にいたトールとの会話にキラも入ってくる。

 

「……俺たち、大丈夫かな」

「考えるだけ無駄よ。もうなる様にしかならないわ」

「……強いんだな、メレアリスは」

「疲れてるだけ。……今はとにかく何も考えず休みたいわ」

 

度重なる出来事で疲弊仕切ったメレアリスの、本心からの言葉だった。

 

「あ、そうだ。ラミアスさん、一つ謝らないといけないことが」

「オウルベルさん? 何かしら?」

「……約束を破って、ごめんなさい。シグーに攻撃した時に自動照準のプログラムを少しだけ弄りました」

「それは……」

「なっ!? 民間人の子供、それもコーディネーターが連合の最新鋭兵器を使うどころか、勝手に中身を弄るなど!」

「……本当にごめんなさい。でも、あれじゃどうやっても当たらなくて。ええと……すみません、お名前をまだ」

「! ナタル・バジルール中尉だ」

「バジルールさんですね。本当に申し訳ありませんでした。言われればすぐに元に戻せるようになってます」

「しかしだな……」

「ナタル。これに関しては私に任せて貰えないかしら」

「ラミアス大尉?」

「いいから。……時間も限られているわ。貴女には他にもやってもらわなければならないことが沢山あるの」

「……はっ」

「ありがとう。まず、モルゲンレーテに残されてる物資の搬入ね。できるだけ速く、そして多くの物資を運び込まなければならないのは分かるわね? ……貴女が主導して取り組んで頂戴」

「了解しました」

 

指示を受けたナタルはその場にいたクルーの大多数を連れて艦の奥へと消えていく。それを見届けてから、マリューはメレアリスへと向き直った。

 

「さて、オウルベルさん」

「……はい」

「約束を破ったのは感心しないけど、よく話してくれたわね。黙って元に戻しても良かったはずでしょう?」

「……約束でしたから。私の言葉を信じてあの機体を任せてくれたのに、私はそれを裏切ってしまいました。黙ってはいられなくて」

「なるほど、ね。……すぐに元に戻せるって言ってたわね?」

「え? あ、はい。5分もあれば」

「なら、戻しておいて。今回の件はそれで終わりよ」

「え、でも……良いんですか?」

「罰や叱責がないと気が済まないかしら? でもね、今回は特別よ。正直に話してくれたっていうのもあるけど、貴女の射撃が相手を退かせる要因の一つになったのは事実。しかもすぐに元に戻せるんだから、感謝はすれど厳しく責める道理はないわ」

「……すみません。ありがとうございます」

 

そう言って頭を下げるメレアリスを、マリューは微笑みながら見つめる。

 

「さ、あなた達学生は居住スペースに。キラ君とオウルベルさんはX105を今から指定する場所に移して、その後同じく居住スペースに向かって頂戴」

 

マリューの指示で、クルーの一人がカトウゼミの面々を先導し連れて行く。

 

「じゃあ、二人はX105をMSデッキに。場所は……マードック軍曹!」

「はっ!」

 

マリューが一人の男性に声をかける。作業服を着た褐色の男性だ。

 

「物資の積み込みと同時並行でX105の整備を。機体の移動は彼らに任せるから、その誘導をお願い」

「了解しました! よし、ついてこいボウズ共!」

「あ、は、はい!?」

 

いきなり坊主呼ばわりされ、うろたえるキラ。作業服の男性――マードックが返事を待たずに歩いていってしまったので、慌てて二人でついていく。

 

「よかったね、メレアリス」

「キラ……そうね、いろんな意味で一段落ついてホッとしたわ」

「いろんな? ……って、ああ。流石に撃たれることはないと思ってたけど……肝は冷えたというか」

「トールのアレは冷や汗モノね。私達のためにあそこまで怒ってくれるのは嬉しいけど」

「はは……うん、でも、本当にいい友達だよ」

「そうね。……さ、私達もやる事やって休みましょ」

「うん。正直もうクタクタだよ」

 

そこで会話を終えて、二人はストライク二機の前で足を止めたマードックに近づいた。




・一連のメレアリスの態度について
異常に冷めているというかなんというか。表現したかったのは初戦闘での精神的な疲労具合なんですが。極度のネガティブ傾向、投げやりな態度……うーん、心情の描写って難しいですね……


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