AtoZの所持者≪改≫ (GENERAL)
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第一章 プロローグっぽい物
第1話 普通とは


この番組は、以前執筆していた作品の出来の悪さに絶望した作者がどうにかこうにか頑張ってお送りします。
生暖かい目でご覧になってください。


 普通とは、特筆すべき属性を持たない状態のこと。「特別」「専門」と対比される概念である。類義語として、「尋常」「並み」「人並み」「十人並み」「月並み」「凡」「平凡」「平々凡々」「凡庸」「類型」などがある。

 

 

 

 

―――以上、Wiki◯ediaより抜粋。

 

 普通という言葉がそこら中に転がっているように、普通の高校生という人種もまた、日本中、世界中に存在している。

 

 それはここにいる高校三年生、茅野(かやの)(さき)にも言えた事であり、小学、中学、高校の12年間、特筆すべき才能が芽生えることもなければ、成績の悪さに呼び出されることもなく。

 

 かと言って友達が居ないわけではなく、夢は普通のサラリーマン。

そして中学、高校の6年間、願い続けてきた物は、彼女でも、大金でも無い。

 

 

 

 

「…二次元行きてぇ…」

「今日もか…お前その言葉1日1回は必ず言うよな。今ので何回目だ?」

「2191回。心の中で言ったのも含めれば21910回目だな」

「数えてたんかい…」

「1日10回は願うようにしてる」

 

 

 

 

 

 二次元行きてぇなどと呟くこの少年が、先程紹介した茅野君である。

もう一人のこの少年は…友達Aとでもしておこう。

 

 

 

 

 

「てかもうすぐ俺ら大学生なんだよなぁ…実感湧かねーや」

「まぁ、それなりに楽しめれば俺はそれでいいや」

「安定してんなぁ…」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

 既に合格通知は受け取り、入学まで残り1週間、今日も2人でカラオケに行ってきたばかりである。ホモではない。

 もう1度言っておこう。ホモではない。

 偶々今日は予定の合う奴が居なかったのだ。

 

「明日はどーすんだ?」

「秋葉原」

「あぁ、言ってたなそんな事。土産頼んだ」

「駅の写真を撮ってきてやろう」

「誰得だよ…」

「強いて言うなら駅オタク得?」

 

 他愛もない話をしながら、人通りの少ない道を自転車で走り抜ける。

 3月も今日で終わりだというのに、未だ厚めの上着が必要な程度には肌寒い。

 日はとっくに沈んでいるため、余計に寒さが沁みる。

 

 そんなこんなで自宅に到着し、友人に別れを告げて家の中に入る。

 

「ただいまーっと」

「お帰りー」

 

 出迎えてくれたのは母、茅野愛衣(あい)

 某声優さんと苗字までモロ被りだが、いたって普通の主婦である。強いて言うならちょっと抜けているところがあるくらいか。

 

「遅かったな。夕飯は先に食ったぞ?」

「はいよー」

 

 リビングで国民的週刊漫画雑誌を読んでいたのは、父、茅野雄三(ゆうぞう)

 二次元への理解は深く、暇な時は共にゲームをする事もあるが、大抵負ける。曰く、

 

『お前の攻め方は分かりやすい』

 

との事。

 

 

 

 飯を食い、皿を洗い、自分の部屋に肩掛けの鞄を放り込む。

 部屋の大半はライトノベル、普通の小説、特撮玩具などで埋まっており、更に目を引くものが、明らかに手作り感の溢れる小さな社であった。

 「二次元神様」と書かれたそれは中学生の時に作った物で、作って以来毎日欠かさず手を合わせている。年明けの初詣も最初はここだ。

 

「なむなむ…っと」

 

 ノラ◯ミという漫画に影響を受け作ったのだが、これが中々愛着の湧く出来になり、最近は賽銭箱も追加した。1円玉と5円玉以外入れた事が無いが、その辺りは許して貰おう。

 

 参拝(?)を済ませるとノートパソコンを起動し、高2の春頃から続けているオンラインゲームにログインする。

 

「さーて、本日のデイリークエストは…」

 

 日曜夜に放送している御長寿アニメのあの人を意識した口調で、クエストを進めていく。

 最後のモンスターを倒し終わりリザルトを表示したところで、ログアウトして明日の準備をする。

 とは言え財布などの小物を鞄に入れるだけなのだが。

 

 

 

 

 

 ……さて。

 ここまで読んで頂ければ大体分かって貰えただろう。

 見ての通り、この少年は至って普通である。

 少年と呼べる年なのかって?細かいことを気にすると禿げるぞ?私が言うのだから間違い無い。

 ……そんな目で見ないでくれ。自分で言ってて泣きそうになってるんだ。

 

 私が誰なのか、察しの良い人ならもう気付いているだろう。残念ながらこの少年には全く気付いてもらえないまま2年が経過しているが、そんな事はどうでも良い。

 

 

 

 

 

「うーし準備完了。目覚ましセット完了。我ながら完璧」

 

 鞄はベッドの脇に置き、とりあえず10時まで携帯弄って寝ようと思いつつ自作の社に目を遣る。

 願い続けていればきっと二次元に行ける。そう思って作った物だが、あの時の俺は中学生、右腕が突然疼きだしちゃったりするお年頃だ。願えば行けるなどとは随分甘い考えを持っていたものである。まぁ今もお祈りは続けているがそれは置いておいて。

 

 

 ――現実は非情だ。

 どこかのゲーマー兄妹も言っていた。「人生はクソゲーだ」と。

 実際その通りだと思う。勝ちすぎた者は妬まれ、省かれる。負け過ぎればこの世で生きていく事すら叶わなくなる。

 だからこそ俺は普通が好きだ。

 普通でいれば何も言われる事はない。

 将来は公務員になり、独身貴族でもやっていれば良い。気楽なものだ。

 ……本当に、気楽なものだ。

 

「……なーに真面目に考えてんだか。気持ち悪っ」

 

 ネガティヴな考えは早々に打ち切り、ベッドに寝転がってネットサーフィンを楽しむ。

 

 これが俺の日常。これが普通。

 

 そんな俺の「普通」が木端微塵に砕け散るのは、

 

 ―あと9時間ほど、先のお話。

 




少しはマシになった…?のでしょうか…

ご指摘などなど、お待ちしております。


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第2話 未練

転生前だけで三話使うことになりそう(白目)
進行速度の遅さは見逃してください…


……き……

 

 

 4月1日、朝。

 今日は秋葉原に出かける予定が入っている為、普段より早めに目覚ましをセットしていた。

 具体的には5時くらいに。

 

 

……起…き……

 

 

 薄目を開けて確認すると、真っ暗な部屋が目に入る。

 つまりまだ朝ではないのだが…

 

 

…い…加減…き…!…

 

 

 どうも先程から耳鳴りが止まない。

 ひょっとして風邪でも引いたんだろうか。

 昨日歌いまくって喉がやられたか…

 

『いい加減起きろ!』

 

「Wasshoi!」

 

 部屋の中に大声が響き、慌てて起き上がる。お蔭で忍殺語が出てしまった。

 壁掛けの時計は暗くて見えない為携帯を開くと、時刻は午前4時。

 目覚ましをセットした時間には1時間ほど早い。

 

「……夢か……」

 

 いきなり大声で怒鳴られて終わるとは不思議な夢もあった物だと思いながら、二度寝の体勢に入る。

 

「夢じゃないよ」

「!?」

 

 まただ。

 先程と同じ声で、今度は後ろから囁かれている。

 どうする茅野咲。

 後ろを振り向くか、否か…

 

「ええい、男は度胸……あれ?」

 

 意を決して振り返ったものの、そこにはいつもと変わらない本棚とラックがあるだけだ。

 中学入学と同時に集め始めたラノベと玩具はかなりの数で、本棚もラックももうすぐ完全に埋まり切ってしまう。

 

「いや本棚はどうでも良くて…」

 

 兎に角今は先程の声の主を探すのが先だ。

 あれが幻聴だとしたらどうしようもないが、確かに「夢じゃないよ」と子供の声が聞こえた。

 とすれば…

 

「ここか?」

 

 机の下をのぞき込む。

 何も居ない。

 強いて言うなら少し埃を被ったノートなどがある。今度掃除しよう。

 

「こっちだって」

「……え?」

 

 また聞こえた。

 今度の方向は……ミニ社の方だ。

 反射的に振り返るとそこには居たのは――

 

「……何だコレ」

 

 ――人ではなかった。

 何やら白い球のようなものが浮いている。

 球と言っても実体があるようには見えない、要するに光の玉的な奴だ。

 

「……まさか、お前が?」

「お前とは失礼だねぇ。これでもれっきとした神様なのに」

「少なくとも俺には只の光の玉にしか見えん」

 

 最近は科学が進んでいるのだ。

 特に最近は小型のドローンだってある。

 こんな下らない悪戯をする奴がいても何ら不思議では無い。

 

「うーん困ったねぇ…となるとアレやっちゃうか…いやでも…」

 

 ブツブツと呟きながら何かを考えているらしい自称神の光の玉。

 なんだこの胡散臭い呼び名。

 

「よし!じゃあこうしよう!」

「何をどうするんだよオイ」

「ご両親に挨拶する」

「ハァ!?」

 

 いきなり何言いだしてんだこの神(笑)。

 てかそもそも…

 

「神だのなんだの、嘘吐くのはいい加減止めろよ。体が痒い」

 

 中の人は相当な中二病患者か、はたまた只の暇潰しか。

 何にせよ聞いててイライラする。

 俺の信じてる二次元神様に乗っかってんのも気に食わない。

 いや俺が重度の中二病なのは置いておいて。

 

「だから正真正銘神様だと……あ、じゃあこれでどう?」

「これでどう……って……?」

 

 そう言うと神モドキは光を増し、その体(?)から腕を生やし、見せびらかすようにひらひらと手を振る。

 ……腕?

 

「あー……まだこんだけしか無理か……まぁいっか♪」

「良くねぇよ!何だよこれ!気持ち悪いわ!」

 

 光の玉から人間の腕が生えている光景は中々に強烈で、ゴリゴリとSAN値が削られていく。

 

「あーしんどい……これ結構疲れるんだよ……で?どう?信じてくれた?」

 

 腕をしまうと、まるで悪戯に成功した子供のような無邪気な声で問いかけてくる神。

 流石にこんなもん見せられたら認めざるを得ない。

 ……認めるとしたら、だ。

 

「……ひょっとしなくても、二次元神様?」

「そうだよ?てかそれ以外に誰か居るの?」

 

 さらりと答える。

 そしてその声を聞き、脳が現実を受け止め始めると同時に俺の心臓は音を増していく。

 ずっと祈り続けた、信じ続けた神様が今、目の前にいる。

 それだけで胸が熱くなり、何も言えなくなった。

 

「ふぅ……ゴメン、もう限界」

「え?」

 

 そう言うと神様は、社の中に吸い込まれるように消えてしまった。

 

「ちょ、待ってくれよ!聞きたい事は山ほどあるんだ!」

「あーハイハイ、話だけならできるから落ち着いて…」

 

 社から声が響いてくる。

 姿を現す限界だったのか。びっくりした。

 

「とりあえず何から話そうか…とりあえず、私……いや僕の方が良いかな?うーん…」

「どっちでも良いから話を進めてくれ」

 

 さっきからワクワクが止まらない。

 非日常が目の前に居るのだ。興奮しない方がおかしいだろう。

 

「じゃあ僕で行こうか。……ゴホン、とりあえず自己紹介だね。僕は二次元の神。君の祈りから生まれた存在。ここまでは良いかな?」

「ハイ質問」

「なんだい?」

「俺一人の願いで神様できちゃうの?」

 

 たかだか人間1人の願いでできるとしたら、今頃世界中神様だらけだろう。

 あ、でも日本には八百万人も神様が居るんだっけ?。

 

「君の祈りは特別強かったからねぇ……普通二次元行きたいなんて願い、三年持てば良い方なのに」

「そうなのか?」

「人の願いの力は強く、無限の可能性を秘めているんだよ。但し……」

「但し?」

 

 もったいぶるように言い淀む神様。

 

「問題は「願いを継続できる人が居ない」と言うことだ」

「……?」

「まぁ要するに、特定の神の存在をずっと信じ続ければ神様はできちゃうんだけど、その信じ続けることが出来る人が居ないって事」

 

 つまるところが集中力の問題らしい。

 俺はそこまで集中力がある方ではなかったと思うのだが……

 

「ああ、集中力とかそういうのじゃなくて……何て言うかな。信仰心?心の問題?うーん……」

 

 考えていたことを読まれた。

 神だけあってどうやら心を読む能力はデフォで搭載されているらしい。

 

「まだ僕産まれて二年だからねえ…神の中ではひよっこの中のひよっこの中のひよっこの中のひよっこみたいなもんだし、まだ分かってないことも多いんだよ。今は勉強中、かな?」

 

 語尾が疑問形なのは大丈夫なんだろうか。

 

「さて、まぁ大体分かってくれたと思うけどここで質問です。二次元「行きたい!!」……即答かい」

 

 当たり前だ。

 てか二次元行きなんてオタクの夢だろJK。

 俺は6年間毎日欠かさず願ってきたんだ。

 

「ふむ、意志はある……第一関門突破。じゃあ次の質問だ」

「おう、何でも来い」

「ん?今何でも」

「(そういう意味じゃ)ないです」

「やっぱりホモじゃないか!」

「違えよはっ倒すぞ」

 

 ネタを振ってきたのは向こうだ。

 

「えーと……第2の質問。この世に未練はあるかい?」

「未練……?」

「たとえばホラ、リア充になりたかったとか、食べておきたいものとか」

「それが転生に関係あんのか?」

 

 特にそんな欲望は無かったが、一応聞いておく。

 彼女が欲しいかについてはまぁ……ノーコメントで。

 別に欲しくてたまらないという訳じゃないしな。

 

「大アリなんだよこれが。もしこっちに少しでも未練が残ってたら……」

「残ってたら?」

「その未練を果たすために必要な部分だけがこの世に留まる。要するにさっき言ったおいしい物食べたい、とかだったら、頭まるごとと腕一本……まぁそんな感じで部分的に留まるんだ。しかもその状態でも死ねない」

「なにそれ超怖い」

 

 軽く想像してみる。

 頭と腕だけになった俺が食べ物を求めて彷徨う……吐きそう。

 

「あ、そうそう、親御さんについてはどうすんの?」

「え?」

「だって別の世界に行くんだよ?もう会えないんだよ?」

「……あぁ……そっか……」

 

 ――ふと。

 この18年の人生を振り返ってみる。

 小さいころの記憶はもう殆ど残っていないが、良く遊んでいたことはぼんやりと覚えている。

 我ながら無邪気だったものだ。

 

「まぁ何だ。君だって人の子だし、親と別れるのは辛い物があるだろう」

「……まぁな」

 

 何だかんだで幸せな家庭だった。

 

「それと二次元、天秤にかけてよーく考えてみるといい。明日までは待ってあげるからさ」

 

 その言葉を最後に、声も聞こえなくなる。

 活動限界だったんだろうか。

 

「家族と自分の新たな人生、どっちを取るか……ねぇ……」

 

 ベッドに倒れ込み、考える。

 二次小説の主人公はこうやって悩むことはなく、大体即決でホイホイ転生してしまうが……

 ……俺は、どうしたいんだろう。

 

 平凡に、だがそれなりに幸せなまま、一生を終えるか。

 今の全てを捨てて、新たな人生を歩むか。

 

 ――答えは、直ぐには出せそうにない。

 




つ、次の回で転生します!
…多分。
ご指摘等々、お待ちしております。


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第3話 レッツ転生

なんか始まる前からグダッてる(絶望)
よ、よろしくお願いします。


 ――その日の夜。

 結局咲は秋葉原に行く気力を失い、部屋で寝て過ごしていた。

 愛衣が部屋に来ても「何でもない」の一点張りで、雄三が引っ張り出してようやく飯を食ったほどだ。

 そして夜になった今、リビングのテーブルを3人で囲み、2対1の体制で話をしていた。

 最初に口を開いたのは――雄三だった。

 

「……一体何があった?」

「だから……何もないって……」

「一日中部屋から出てこなかったのに「何もない」で済ませるつもりか?」

 

 そうは問屋が卸さんとばかりに、咲を睨む。

 

「どこが具合でも悪いの?」

 

 と、何時もより少し慌てた表情で問いかける愛衣。

 基本的に放任主義で育ってきた息子だが、部屋に引きこもるなんて事は無かったので、余計に心配している。

 

「……」

 

 咲は考える。

 2人に本当のことを打ち明けるべきか、否か。

 打ち明けたとして、本当に信じてもらえるか?

 二次元に転生することになりましたなんて言ったら、まず間違い無く精神病を疑われるだろう。

 と言うか痛い人を見る目で見られる。確実に。

 

 ……あぁ、そういえば。

 確実に信じてもらえるであろう「証拠」がいた事を思い出し、それを呼び出す。

 

「じゃあ説明するから……神様、いるか?」

「ほいほい〜っと」

 

 俺が呼びかけるとその場に光の玉、もとい二次元神様が現れる。

 2人とも目を見開き、見つめていた。

 

「どうも、神様です」

 

 手だけを出現させ、ビシッと効果音がつきそうな敬礼を見せつける神様。

 突然の出来事に、2人はポカンと口を開け。

 

「えーと……最近のオモチャは良く出来てるな?」

「え、ええ……」

「残念ながら本物。そしてこれが、俺を悩ませてたモノの正体」

「いやはや、息子さんにはいつもお世話に……」

 

 話が噛み合ってない。

 2人は慌て、1人は頭を抱え、1人(?)はテンプレの様な挨拶を続ける。

 何だこのカオス。

 

「と、とりあえずかくかくしかじかで…」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

 話を省略した際に具体的内容の代用として用いられる表現であり、「実はかくかくしかじかの事情で……」のように、内容を全体的に省く際に用いるのだが…

 

 人生で使ったのは初めての事だ。

 

「……ふむ、大体理解した」

「私はよく分からないわ〜」

 

 割と真面目な顔で答える父と、楽観的な母。

 対照的な2人だが、だからこそ結ばれたのだろう。

 まぁそれは今は置いておいて。

 

「それで、咲?」

 

 雄三は真面目な顔のまま、顔を上げて咲に話しかける。

 

「お前は、どうしたい?」

 

 ……ずっと夢見ていた。

 6年間願い続けて、奇跡が起きて、そして今叶おうとしている夢。

 だけど俺は……

 

 ……どうしたいんだ?

 

 作品にもよるが、基本的に俺が望む二次元は殺伐とした戦いの世界が多い。

 命を賭けて戦う事もあるだろう。

 そうなった時、只の人間でしかなかった自分がマトモに動けるか?

 否、絶対に不可能だ。

 現代日本の平和な日常に慣れた俺が、何の覚悟も持たずに二次元に飛んだとして、夢見たような大活躍ができるわけがない。

 俺は……

 

「咲」

 

 思考の海に沈みかけていたところに、声を掛けられて我に帰る。

 見ると、雄三は見たことも無い顔をしていた。

 笑っているような、怒っているような。

 

「お前の夢はその程度か?」

 

 挑発的な口調で、更にまくしたてる。

 

「どうせ覚悟が無いだの何だの考えてたんだろうが……お前は二次小説を読んだ事がないのか?」

「あるに決まってんだろ!でも!」

「お前は主人公になるんだろう?何を恐れることがある」

 

 ――そうだ。

 俺は主人公になる権利を与えられた。

 それでも――

 

「ホント馬鹿だよ俺……行きたい行きたいって駄々こねて……そのくせ行けることになったら今度は足がすくんで……怖くて仕方がないなんて…」

 

 俺の一言に、雄三は、

 

「ハァ……」

 

 大きすぎるといっても過言ではないくらいの溜息で答えた。

 

「何だよ……」

「君は実にバカだな」

「息子をバカ呼ばわりか!?」

「折角のチャンスをモノに出来ない奴をバカ以外になんと呼べば良い?」

 

 口喧嘩は続く。

 

「チャンスって……下手したら死ぬかもしれないんだぞ!?それを……」

「だからバカだと言っているんだ」

「人の話聞けよ……」

「確かに危ない目には遭うだろう。下手したら死ぬような場面も、勿論あるだろう」

 

 だが、と雄三は続ける。

 

「それら全て乗り越えてこその主人公ではないのか?」

「……!]

 

 ……あぁ、そうだった。

 そうだ。何を恐れる事がある。

 自分が行くのは二次元。三次元とは何もかも違う、心踊る世界。

 主人公は――恐れない。

 

「あぁ、なるほど」

 

 今気付いた。

 俺の夢は、二次元に行くことじゃなかったんだ。

 俺は――

 

「主人公になりたい」

「声が小さい」

「主人公になりたい!」

「まだ弱い!」

 

 息を吸って、叫ぶ。

 

「主人公になりたいいいぃぃ!!!」

「近所迷惑だ!」

「理不尽!」

 

 シリアス?あぁ、あいつはいい奴だったよ。

 

「……えぇと」

 

 顔は無いが、おそらく困り顔で呟く神様。

 さっきまで忘れてたわ。

 

「特に悩む必要なんて無かった!俺は二次元に行って、主人公になって、俺TUEEEして、可愛いおにゃのこと幸せに暮らして、それで……」

「欲望が漏れてるよー」

「とにかく!この世に未練は無い!」

 

 友達への説明は神様に任せる。

 何とかしてくれるだろう。

 

「……親御さん方、息子さんはこう言っていますが……」

「異議なし。強いて言うなら俺も行きたかった」

「残念ながら転生権は1人用です」

「くっ……」

 

 本当に残念そうに俯く雄三。

 それで良いのか親父よ。。

 

「ではお母様は……」

「……正直よくわからないけれど……別の世界に行くのよね?」

「ええ。恐らく二度と会えないでしょう」

「じゃあ、咲。一回しか言わないからよく聞きなさい?」

「な、何……?」

 

 珍しく真面目な顔の母に少したじろぐ。

 

「孫は2人くらい……」

「はいありがとうございましたー」

 

 シリアス?ああ、知ってる知ってる。

 コーンフ◯スティの仲間だろ?

 

「それはシリアルだよ咲くん」

「心読むなっての」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ……さて。

 長かった。

 実に長かった。

 正直ここまでの展開いらないだろってレベルで長かった。

 

「じゃあ……準備はいいかい?」

「大丈夫だ。問題無い」

「まぁ何だ。楽しんでこい」

「行ってらっしゃい、咲」

 

 魔法陣のようなものが展開され、身体を包む。

 意識がだんだん遠のいていく。

 

「それじゃあ……転生システム、起動!」

 

 神様が叫ぶと身体は浮き上がり、足から徐々に消えていく。

 勢いは早く、あっという間に胸まで消えたところで俺は叫んだ。

 

「行ってきます!」

 

 その瞬間、この世界から俺の存在は消えた。

 

 さぁてこれから始まるは輝かしい転生ライフ。

 どんな人生が待っていることやら……

 

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

 

 ――落ちている。

 すっげえ勢いで落ちている。

 体験したことは無いが、スカイダイビングのよう…な……

 

「!?」

 

 目を見開けば――マジで落ちていた。

 

「嘘だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 記念すべき転生初のセリフは、黒く広大な空に吸い込まれていった。

 




HAHAHA!
……笑うしかねぇわこんなん。
あ、次回、転生先決まったり能力決まったりします。ハイ。


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第4話 落ちたな(確信)

サブタイトルに偽り無し。


「とりあえず姿勢を……」

 

 下を向いたままでは喋る事もままならないので、仰向けになる。

 それでも落ちている事に変わりはないが、まぁ気分は悪くない。

 

 それよりもこれからどうしようか。

 ある程度の覚悟はしていたものの、何の能力も無い上にここが何処かすら分からないのに空に放り出されるとは。

 

「やぁやぁ咲くん、調子はどうだい?」

「体の調子は良いけど早速死にかけてます!」

「それは何より!」

 

 落下しているといきなり神様が隣に現れ、話しかけてくる。

 最早驚かない。

 

「このまま落ちてThe endとか無いよね!?」

「あーだいじょぶだいじょぶ!これ落ちてるように感じてるだけだから!」

 

 言われてから改めて下を向いて見ると、確かに地面が全く近づいてこない。

 さすが神様というか何というか。

 

 

 人生初の終わらないスカイダイビングは中々楽しく、しばらくの間回ったり回ったりデ◯モンアドベンチャーのOPごっこをしたりと、色々堪能した。

 

「吐きそう」

「あんだけぐるぐる回ってりゃそうなるよ…」

 

 楽しかったからね。

 仕方ないね。

 

「さて!じゃあ色々決めてこうか!」

「その言葉が聞きたかった!」

 

 おそらく転生先の世界とかチートとか決めていくのだろう。

 うは。夢が広がりんぐ。

 

「まずは転生先だけど……ここね」

「え?」

「いや、だからここ。今いるこの世界」

「いやそりゃ分かったけどさ。ここどこよ?」

「そんなん教えたらつまらないだろう?とりあえずラノベの世界だとは言っておいてあげるよ」

「ラノベで空中からスタートっつーと……ノゲ◯ラ?」

「残念ながら外れ。言っておくけど、原作知識チートができないようにその作品に関する記憶は消してあるからそのつもりでいてねー」

「そんなー」

 

 出荷される豚の気分だ。

 まぁよくある話だし仕方ないかと思いつつ、次の話に入る。

 

「じゃあ次、能力だけど……」

「待ってました!」

 

 これで普通から脱却できる。

 そう思うだけで胸が高鳴る。

 

「選べる能力は3つと0.3個まで!」

「0.3?」

「僕の神性の高さの問題でね……ささやかな願い程度なら一個だけ後で叶えられるから、とりあえず3個決めちゃってよ」

 

 3個か……

 

「しばらく悩んでおk?」

「OKOK!但し10分までねー」

 

 原作知識無しで能力を選ばなければいけないとなると、割と悩む。

 とは言えやりたい事……というか前世からの妄想で使ってた能力は大体決まっているので、あまり悩まなかった。

 

「じゃあ1個目……ダブルドライバーとガイアメモリのセットが良いな。可能か?」

「うーーん……うん。大丈夫そう。メモリは26本までだけど」

「そりゃ好都合。AtoZのT2メモリ……って伝わるか?」

「大丈夫だよ!じゃあ2つ目カマン!」

 

 ノリノリな神様を見つつ、想像していた2つ目を頼む。

 

「相方が欲しい。Wになるには必要不可欠だし」

「相方かー……人間は流石に用意…あ、できる?マジで?」

 

 誰かと話をしているようだ。

 話し方が初期に比べてだいぶ人間臭くなってきているが、大丈夫なんだろうか。

 

「えーと……完全な人間は用意できないけど、半人なら用意できるって」

「半霊は付かないのか?」

 

 斬れぬものなどあんまり無い感じの。

 

「半人っていうか……ほら今ドライブやってるじゃない?あれのロイミュードの怪人にならない版みたいな感じかな」

「相変わらず曖昧だなぁ……」

 

 とは言え、相方が居るだけでも随分心強い。

 ひとりぼっちは寂しいもんな。

 

 ……と、ここで大事な事を思い出した。

 

「ドライブまだ途中じゃん……」

 

 折角あそこまで見たのに最終回はおろか夏の映画まで見れないとは……

 

「あー……じゃあ仮面ライダーはちゃんと存在するようにしておいてあげるよ。W以外」

「ありがとうございます!!」

 

 仮面ライダーが放送されてないのは中々辛いものがあるから、これはかなり嬉しかった。

 

「それじゃあラスト、3つ目カモーン!」

 

 お前は戦極ドライバーかと突っ込みたくなるのを我慢しつつ、最後の特典を頼む。

 

「えーと……ほら、なんて言うか……」

「あー……魔力的な?」

 

 俺が言い淀んでいたので心を読んだらしい。

 

「そうそう、そんな感じの。ドラ◯ンボールの気みたいなの」

 

 体からエネルギーを放出するってのは男の夢だ。

 かめはめ波とか、マスタースパークとか、天撃とか、ペガサス流星拳とか。

 アレ正確にはパンチの連打らしいけど、明らかになんか出てる描写があったよね。

 

「うーん……じゃあ、魔力的な何某っていう名前で登録しとくよ。使い方は自分で学びな」

「了解」

 

 魔力的な何某か。

 その気になればスーパーな野菜人にもなれるんだろうか?

 

「じゃあ最後の最後、ちょっとしたお願いだけど……」

 

 何が良い?と困り顔()で聞いてくる神様。

 ささやかな願い……ねぇ……

 

「あ、じゃあ他の人より比較的運が良いとか……できるか?」

「問題ナッシング!ホント若干になるけど良いかな?」

「普通じゃなければ良いさ」

 

 これで特典は全て言い終わった。

 

「んじゃあ最終段階、君の身体の改造を始めようか」

「……は?」

 

 一瞬耳を疑った。

 え、改造って言った?

 ねぇ今改造って言ったよね?

 

「今の身体だと色々不都合があるから……ねっ!」

 

 ボキリ、と嫌な音が聞こえた。

 痛みは感じないが、明らかにどこかが折れて……いや変形している?

 ぼんやりとした感覚だけが残っている為かーなーり気持ち悪い。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……そんなの聞いてな……」

「聞かれなかったからね。はーい、力抜いてー」

「ちょ……待っ……アッーー!」

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

「もうお嫁に行けない……」

「ハイハイ。身体の調子はどう?どこか痛い所とかは?」

「特に無いです……」

 

 (魔)改造を受けた俺の体は、まず身長が縮み、顔も幼くなり、体重も減り、細胞の年齢が若返り……要するにショタと化していた。

 年齢は恐らく10歳くらいだろうか。

 

「今の改造で魔力的な何某も使えるようになったから、有効活用してねー」

「ハイ……」

 

 もうなにもこわくないや。あはは。

 

「さて、僕の出番はここまでだ」

「っ……そうか……」

 

 なんだかんだで6年間信じ続けた神様だ。

 少しだけ涙が出そうになったが、

 

「さて……これであの部屋のコレクションは僕の物に……」

 

 一瞬で引っ込んだ。

 

「聞こえてんぞオイ……」

「聞こえたところで君に出来ることは何も無いからねー♪」

 

 この神、最初からこれが目的だったのか。

 クソッ……済まない俺の特撮玩具(コレクション)達よ……

 

「まぁなんだ……咲くん」

「んだよ」

 

 身体に合わせて高くなった声をできる限り低くし、唸る。

 

「君の歩む主人公ロードがどうなるか、楽しみにしているよ。それじゃ、バイバーイ!」

「……は?」

 

 その言葉と同時に神様の姿は消え、先程まで落ちているように感じているだけだったのが、今度は本当に落ち始める。

 

「……オイオイオイ待て、ウェイト、お願いします待ってください!」

 

 地面が近づいてくる。

 

「どうするどうする……そうだ、こんな時こそ魔力的な何某を開放して……フオオオオオオオ……」

 

 全身に力を込めるが、顔が赤くなっただけで何も起こらない。

 

「だあぁクソ!使えねえ!どうすんだよマジで!」

 

 こうしている間にも、地面はどんどん近づいてくる。

 あと1分もあれば激突してミンチになるだろう。

 

 あぁ、これ死んだわと思いながら、咲の意識は徐々にブラックアウトしていった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――咲が落ちている地点の丁度真下にて

 

「親方!空から男の子が!」

「何を馬鹿な……ラ◯ュタを観たばかりでネタを言いたい気持ちは分かるが、現実にそんな事は「良いから早く!お姉様!」分かった分かった……引っ張るんじゃない」

 




落ちた所はまぁ……ハイ。あそこです。あそこ。


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第5話 説明

タイトルに偽り無し。
いやまぁ、うん。説明回です。
多分。


 私の名はクラリッサ・ハルフォーフ。

 17歳だが、こう見えてドイツ軍特殊部隊の隊長を務めている。

 階級は中尉だ。

 

 17年生きてきた私だが――

 

「あゝ……此処が天国か……」

 

 空から男の子が降ってきたのは初めての経験だ。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 話は数時間前に遡る。

 私は部屋で書類を片付けていた。

 隊長に任命されたのは最近な上に、そもそもシュヴァルツェ・ハーゼ(この部隊)自体発足して1年も経っていないのだ。

 訓練以前に片付けなければいけない仕事は山ほど残っていた。

 そんな時だ。

 

「親方!空から男の子が!」

 

 部屋に飛び込んできたのは、臙脂色のショートカットがよく似合う活発な少女、ヴァネッサ・アウデンリートだった。

 彼女はこの部隊のムードメーカーであり、いつも笑顔でいる。

 この明るさはある意味才能と言えるだろう。

 

 だが今は訓練中だった筈だ。

 確かに先程の休憩時間にアニメ映画を見せていたが、訓練を放り出してまで台詞を言いに来るとは……

 

「何を馬鹿な……ラ◯ュタを観たばかりでネタを言いたい気持ちは分かるが、現実にそんな事は「良いから早く!お姉様!」分かった分かった……引っ張るんじゃない」

 

 あまりに必死そうな顔に違和感を感じ、手を引かれて外の訓練所に連れて行かれる。

 

 そこでは隊員全員(と言っても私含めて5人しか居ないが)が上を向いて口を開けており、その視線の先には…

 

「……馬鹿な……」

 

 ――男の子が落ちてきていた。

 ……男の子が落ちてきていた。

 何を言っているのか分からないと思うが、私も何が起きているのか分からない。

 

 しかも落下速度が異様に遅く、明らかに重力に従っていない。

 

 と思えば糸が切れたかのように落下速度が増し、隊員の1人に抱きとめられる。

 

「お、お姉様、この子……」

「分かっている。直ちに救護室へ」

「了解」

 

 男の子を抱き抱えて走っていく隊員を見送ると、未だに口を開けっぱなしの隊員に指示を出す。

 

「今見たことは私達だけの秘密だ。いいな?」

「「り、了解」」

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 訓練終了の時間になると、書類仕事をキリのいいところで終えて救護室に向かった。

そして部屋に入ったところで……

 

「あゝ……此処が天国か……」

 

 冒頭に戻る、という訳だ。

 どうやら日本語で寝言を言っているらしい。

 

「様子はどうだ?」

「見た所怪我も無く健康体そのものでした。先程からからずっと寝たままです」

「ふむ……」

 

 考えられる可能性としては……スパイ、手の込んだ育児放棄、只の悪戯……スパイと考えるのが一番現実的だが、それにしては無防備すぎる。

 

 そもそも空から男の子が落ちてくるって何だ。

 冷静に考えて色々おかしいだろ。

 

 とりあえず今はこの子が起きるのを待つ他無いようなので、椅子に座って寝顔を見つめ続ける。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――茅野咲は悩んでいた。

 落下中に気を失いはしたものの抱きとめられた時点で目を覚ましていたのだが、起きるタイミングを完全に見失ったのだ。

 そもそも日本語で話していなかったというのも起きる事が出来ない理由の一つである。

 

 薄目で確認した二次元初の人の顔はとても美しく、元の世界に存在すればどんな女優も霞んで見えるに違いないと確信できるほどだった。

 思わず変な事呟いちゃったし。

 

 だがここで一つの疑問が生じる。

 何故自分は二次元を認識できている?

 確かに自分は二次元の世界に来た筈なのだが、先程の人の顔や建物などは明らかに三次元として捉えられていた。

 

『知りたい?』

『突然話しかけてこないでくれよ飛び起きるだろ……』

 

 寝ていると頭の中に神様の声が響いてきた。

 脳内会話が出来るのは便利だが、いきなり話しかけられるとかなり驚く。

 

『いやー色々説明不足だったのを忘れててさ……とりあえず順を追って話すよ』

『……了解』

 

言いたい事はあるが、一先ず黙って話を聞く事にする。

 

『まず何で死なずに済んだかだけど……これは僕が助けた。人間が高い所から落ちたら死んじゃう事をすっかり忘れててさ』

『それうっかりミスじゃ済まないと思うんですが』

『まぁ助けたからいいじゃないか。じゃあ次、認識についてだけど……』

 

 この話が馬鹿みたいに長かったので、省略。

 

 要約すると、あくまで「二次元の世界」なのであって、物質やら何やらは普通に三次元として存在しているらしい。

 要するに世界観だけが二次元なわけだ。

 人の顔などは俺の居た元の世界を基準に、所々変わっているらしい。目とか鼻とか唇とか輪郭とか。

 通りで綺麗なわけだ。

 

『さて、とりあえず一通り話したけど、他に質問はあるかい?』

『えーと……魔力的な何某が使えなかったんだけど?』

『そんなの僕が知るわけないだろう?』

『待てやゴルァ』

 

 やれやれといった雰囲気が漏れているのが実に気に食わない。

 

『使い方は自分で学べって言ったじゃないか。第一"何某"って付いてるように定義が曖昧だし、僕は使えるようにしただけだ。知りようがない』

『マジかよ……』

 

 とりあえず力むだけでは使えない事しか分かっていない。

 これからどうすれば良いのか。

 

『心配しなくてもそのうち使えるようになるさ。じゃ、僕はこの辺で……』

『……ありがとうございました』

 

 一応礼を言うと、神様の気配が消える。

 

 落下時の精神的疲労と今の話によるストレスのせいか、今寝ているベッドの柔らかさからか、狸寝入りは完全な熟睡へと移行していった。




話の進みが遅い…
あ、ちなみに私はドイツ語知りません。
御了承ください。


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第6話 弟になりました

進行速度が遅すぎる(白目


 翌日。

 空腹感で目を覚ますと、部屋には赤……いや臙脂色と呼んだ方が良いだろう。

 臙脂色の髪の美少女が側で座って寝ていた。

 “美”少女だ。本当にこの世界は美人じゃない人間の方が少ないのかとさえ思う。

 それにしても、だ。

 

「起こした方が良いのかねぇ……」

 

 幸せそうに寝ているのを起こすのは忍びない。

 かと言ってこのままでは飯が食えない。

 そもそもここが何処なのかとかそういうのは置いておいて。

 

「……外に出てみるか」

 

 幸い扉はスライド式で、音を立てず外に出る事ができた。

 視線が低いのが物悲しい。

 

 それにしても――

 

「殺風景な場所だな…」

 

 壁は白く、無駄な色が一切無い。

 窓はあるが身長の問題で外は見えなかった。

 今後の成長に期待しよう。

 

「っと、行き止まり……いや扉か」

 

 しばらく歩くと、これまた白い扉の前に辿り着いた。

 鍵はかかっているが若干の隙間は開いているため、中を覗いてみる。

 

「んー……み、見え…あ、見えた……?」

 

 隙間から辛うじて見えた物は、パワードスーツ……の様な物だった。

 確かここは軍だった筈(さっきの人の服装が明らかにソレだった)なので、これを使って戦争でもしているのだろうか。

 随分とSFチックな世界である。

 まぁ二次元だから仕方ない。

 

 暫くの間見つめていると、

 

「〜〜〜〜!!」

「うぉおう!?」

 

 突然後ろから声がかかる。

 振り返って見ると先程の美少女だった。

 俺がいない事に気付いて慌てて飛び出してきたのか。

 

「〜〜〜〜?〜〜〜〜!」

「いやあの、何言ってるのか分からないんですけど……」

 

 少なくとも英語ではない事は分かったが、一体どこの国の言葉なのだろうか。

 そもそも地球では無い可能性もある。

 

「〜〜〜。〜〜?」

 

 手を引っ張られる。

 まぁ連れ戻すんだろう。

 大人しく従い、手を繋いで歩く。

 ……美少女と手繋ぐとかもう最高ですわ。

 柔らかいし柔らかいしよく見たらっていうかよく見なくてもスタイル良いし可愛いし。

 ショタボディ万歳。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 しばらく歩くと外に出る……が靴が無い。

 今更ながらその事に気付いたのか、向こうの建物から靴を持ってきてくれた。

 若干煤けているようだがサイズはピッタリだったので、有難く使わせてもらう。

 

 その“向こうの建物”に入ると、どうやら寮になっているようで、食堂のようなものがあった。

 だがしかしスルー。

 若干涙目になった。

 一体何時になったらこの空腹を満たせるのか。

 

 寮といっても部屋数は少なく、あっという間に目的地と思しき場所に到着した。

 誰かの部屋なんだろうか?

 

「〜〜〜!」

 

 何やら叫びながら乱暴にノックする美少女。

 中の人寝てるんじゃないのか?

 

「〜〜……〜〜〜!?」

 

 案の定というか何というか、若干寝癖のついた美少女…少女?俺と同い年くらいだろうか。まぁ美少女でいいだろう。

 髪型は……あの、ホラ、何ていうか。

 後ろ髪だけパッツンな奴。

 兎に角そんな髪型で、色はかなり暗めの紺色だった。

 普通の黒髪が居ないあたり流石二次元と言えるだろう。

 

 そんな事を考えていると、寝癖を手で押さえつつ話しかけてきたが……

 

「あの、言葉がわからないんですけど…」

 

 通じたのだろうか。

 臙脂美少女は頭に?マークを浮かべ、紺色美少女は!マークを浮かべる。

 

「あぁ、これは失礼……日本人の方でしたね」

 

 言葉通じたヤッターー!!!

 本当に良かった…転生早々詰むところだった。

 

「に、日本語分かるんですか?」

「ええ、日本の漫画は……」

「「世界一イイイイィィ!!!」

 

 見事にハモった。

 

「貴女とは仲良くなれそうです……」

「いえいえこちらこそ。ところで……」

 

 ……一瞬で目つきが変わる。

 

「貴方は一体何者ですか?」

 

 ――きた。

 そのうち来るだろうと思ってはいたが、ここで何と答えるかによって今後の俺の生活が決まるだろう。慎重に考えて答えなければいけない。

 

「えーっと………………強いて言うなら…………」

「強いて、言うなら?」

 

 よし、考えはまとまった。

 

「分かりません!記憶喪失です!ここに置いてください何でもしますから!」

「ん?今何でもすると…」

 

 クソッ、世界が違ってもホモネタ好きは居るのか。

 まぁ今はこれしか方法が無い。

 異世界から来たなんて信じてもらえないだろうし、この方が何かと都合が良い。

 

「しかし記憶喪失ですか……名前は覚えていますか?」

「咲です。茅野咲」

 

 こっちは黒猫の…いや何でもない。

 

「ふむ…………では咲、貴方の身柄はドイツ軍IS部隊で預かります」

 

 IS……ってさっきのパワードスーツか?

 てかそれよりも、

 

「……良いんですか?こんな怪しい奴をいきなり軍に入れちゃって」

「見たところ大した筋力もなく、何か武器を隠し持っている様子もありませんし、何より……」

「何より?」

 

 若干嫌な気配のする笑みを浮かべて、紺色美少女はこう告げた。

 

「念願の弟が手に入りました」

 

 精神年齢的には同い年、もしくは年下の子達に弟扱いされるのか、俺は。

 まぁ居場所は確保できたので良しとする。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 その日の夜の事。

 とりあえずあの2人の名前を聞いた。

 臙脂色の方がヴァネッサさん、紺色の方はクラリッサさんと言うらしい。

 さん付けなのは一応目上の人だからだ。

 精神年齢的にはまぁ以下略だが。

 

 ドイツ語も少しだけ教えてもらい、なんとか挨拶と自己紹介だけはできるようになった。

 3ヶ月もあればそれなりに話せるようにはなるだろう。多分。

 

 そして軍での俺の扱いだが、どうも上の人には内緒で匿ってくれるらしい。

 皆弟が欲しかったのです、と言われた時は若干拍子抜けしたが、まぁ二次元だしと強制的に自分を納得させた。

 “上の人”にバレたらどうなるかとかは考えない。

 考えてはいけない。

 

 明日は他の隊員との顔合わせをすると言われ、飯を食って今に至る。すっげえ美味かったです。

 ちなみに部屋は空き部屋があったらしく、そこにとりあえず住まわせて貰う事になった。

 とは言え手荷物は今着ている服くらいしか無いので部屋はほぼ空っぽだ。

 

「……軍隊生活、かぁ……」

 

 あのパワードスーツっぽいのが着られる日がいつか来るのだろうか?

 だとしたらかなり嬉しいが、その前に……

 

「……体力持つんかなぁ……」

 

 まずは筋トレから始めよう。

 そう決意した咲であった。

 




というわけで主人公、軍に入り弟になりました。
これでやっと話が進む……
進むのかなぁ……


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第7話 わんいやーれいたー

サブタイ通りです。
こうでもしないと話が一向に進まないんや……


 やけに大きな音量に設定された目覚ましを止め、体を起こす。

 ベッドの脇に置かれたその時計を見やると時刻は朝6時、日課であるランニングの時間だ。

 

「さて……今日も1日がんばるぞい……っと」

 

 

 ドイツ軍IS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの訓練所に落ちてきてから早くも1年が経った。

 1年もあればこの世界の事も大体理解し、割と軍隊生活もエンジョイしている。

 

 まずこの世界だが、基本的に俺の居た地球と変わらなかった。

 ただ一つ違うのがこの世界、異様に科学が発展している。

 

 と言うのも、数年前に現れた天才博士篠ノ之束によって開発されたIS、正式名称インフィニット・ストラトスというマルチフォーム・スーツが原因なんだとか。

 説明口調なのは気にするな。

 

 このスーツ、元々は宇宙進出の為に作られたらしいのだが、現在では核に代わった抑止力として各国の軍に配備されたりしているらしい。

 開発者の篠ノ之博士も不本意だろうな。

 

 そして物凄く重大な欠点として”女性しか動かせない”というのが存在する。

 来たばかりの頃は期待に胸を高鳴らせたものだが、これを聞いた時に一瞬で萎えた。

 以来ISは視界に入れないようにしている。

 あんなに格好良いパワードスーツを着れないなんて、考えるだけでも泣きそうになるのだ。

 

 そしてここまで聞くと「特典貰ってたじゃん」とか言われそうだが、未だにダブルドライバーは手に入る気配すら無いし、相方も居ない。

 魔力的な何某と幸運(笑)しか無いこの状況でどうしろと言うのか。

 

 ちなみにその2つの特典のうち、片方……魔力的な何某はこの1年で割と使えるようになった。

 これが意外と便利なのだ。

 ドラ◯ンボールの気と同じ様に放つ事も出来るし、身に纏えば若干だが身体能力を強化できる。

 まだまだ修行中なので、さらに応用も出来るだろう。

 

 幸運はどうしたって?

 アレは制御できてんのかすらよく分からない代物なので、あまりアテにしていない。

 ここ数ヶ月で偶にネットの懸賞に当たったりしたが、その程度だ。

 

 

 とまぁ説明はここまでにして、日課のランニングを終わりにする。

 今でこそ1日10kmをそれなりに余裕を持ってこなせるが、初期はまぁ大変だった。

 何せこの体、絶望的に体力が無かったのだ。

 100m走ったらぶっ倒れる貧弱さに笑った。

 今でも若干体力にブーストをかけているので、近いうちにコレ無しで走るようにしようと思っている。

 

「む、咲か。おはよう」

「おぉラウラ、おはよう」

 

 美しく伸びた銀髪と真紅の瞳が良く似合う小柄な少女、ラウラ・ボーデヴィッヒと寮への帰り道でエンカウントした。

 彼女は俺と同じ11歳(肉体年齢)なのだが、既にこの部隊の副隊長に就いている事から如何に能力が高いかが伺える。

 ちなみに階級は小尉だ。

 

 この異常なほどの能力の高さには秘密があるらしいのだが、皆教えてくれない。

 色々複雑な事情があるのだろう。

 

「ラウラは今からランニングか?」

「ああ、先程まで日本語の勉強をしていた。アイサツができるようになったぞ」

 

 どうだ、と慎ましやかな……というか11歳故にほとんど無い胸を張るラウラ。

 アイサツか……あれ?何か文字おかしくね?

 

「で、ではいくぞ……ドーモ、カヤノ=サン。ラウラ・ボーデヴィッヒで「ストップラウラ、それは間違いだ」何?それは本当か?」

 

 おい誰だこの純粋な子に忍殺語を覚えさせた阿呆は。

 ――あぁ1人しか居ないわ。

 

「クラ姉が元凶か……後でお仕置きだな」

「さ、咲?一体どう間違っていたんだ?」

「今日の訓練終わったら一緒に勉強しよう、な?」

「うむ!了解した!」

 

 また後で会おうと手を振り、ランニングに向かうラウラを見送る。

 あの子には純粋なままでいて欲しい。

 唯一の同い年()だし、軍人と言えど小さな女の子なのだ。

 そもそも11歳って小6じゃん?

 1年前にはもう部隊に居たけどそん時は小5じゃん?

 そんな子を軍隊にブチ込むとか何考えてんだよドイツ軍上層部。

 

「……飯食いに行くか」

 

 今日の飯当番は……ああ、リー姉だ。

 これはのんびりしていられない。とっとと身支度を済ませて食堂に向かわねば。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 食堂にて。

 

「あら、おはよう咲。いつも早いわねぇ」

「おはようリー姉。今日のメニューは?」

「今日は日本から取り寄せたお米とお味噌を使ってみたわぁ。美味しくできてるといいんだけど……」

「リー姉の飯はいつも美味いから心配いらないよ」

「あらあら、お世辞が上手くなっちゃって」

 

 俺がリー姉と呼ぶこの女性はセリーナ・デンプヴォルフ。

 明るい栗色の髪はクラ姉……もといクラリッサと同じく後ろがパッツンになっており、全体的におっとりとした雰囲気を醸し出している。

 

 話し方がどこぞのドールと被っているのは気にしない。

 ちなみに苗字のデンプヴォルフは、日本語で狼殺しって意味らしい。

 その事を気にしているらしいが、実は怒ると隊一怖いためあながち間違っていなかったり。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 朝食を食い終わると訓練所に直行する。

 とは言っても正式に隊に属している訳ではない為、やる事は簡単な組手とトレーニングだけだ。

 

「つーわけでよろしく、ラウラ」

「うむ。どこからでもかかってくると良い」

 

 目の前で余裕の表情を見せる幼女はとんでもなく強い。

 気を引き締めていかないと一瞬で関節を持っていかれる。

 

「じゃあ遠慮な……くっ!」

 

 思い切り地を蹴り、ラウラに肉薄する。

 世界補正によって加速した身体の勢いをそのままに、蹴りを打ち込む。

 

「ハァ……その大雑把な攻撃はいい加減直せ」

 

 呆れた声でやすやすと俺の蹴りをいなすラウラ。

 どんな技術を使っているのか、衝撃を逃しているらしい。

 

「そうは言っても俺ガチ軍人じゃねぇし……」

「言い訳をしている暇があるのか?」

 

 言い終わる前にラウラに手を掴まれ、捻り上げられそうになるのを慌てて振り払い、距離をとる。

 この細い腕のどこにあんな力があるのかは本当に謎だが、これも世界補正だろう。

 さっきの俺も普通じゃありえない速さで近付いてたし。

 

「んじゃ今度こそ本気で……スゥー…ハァー……」

 

 呼吸を整え、身体に鎧を纏うイメージを持つ。

 そのまま鎧と身体を完全に同化させて……

 

「うっし成功……」

 

 魔力的な何某を全身に張り巡らせて、身体能力を強化する技。

 要するにガ◯シュのラウザルクである。

 或いはFa◯eの強化魔術か。

 全身から薄黄色のオーラが流れ出るこの状態は、見方によってはスーパーな野菜人にも見える。

 

「毎回思うが、それはどういう原理で発動しているんだ?魔力なんて迷信だろう?」

「魔力的な何某だって。正体は俺にも良く分からんよ」

「そうか」

「そうだ」

 

 

 ――一瞬の間。

 先に動いたのはラウラだった。

 小柄な身体ならではの速度を生かし、瞬間移動と見紛う程の速さで咲の後ろに回り込む。

 それを黙って見ている咲ではなく、敏感になった五感を駆使し背後のラウラの位置を把握、ノールックで手を伸ばすが、ラウラはしゃがんで回避し咲の足を払いにかかる。

 次の瞬間、ラウラの目の前にあった咲の両足は消え、上空から踵落としの状態でラウラに迫る。

 食らったらタダでは済まないその攻撃を背後に跳んで回避し、コンクリートの地面に走る罅を見やる。

 

「相変わらず威力だけはとんでもないな……」

「正直俺も驚いてる……」

 

 けどもう限界、と呟き、咲は倒れこむ。

 魔力的な何某は確かに便利で強力なのだが、お約束と言うか何というか、1分使えばこうして倒れこむレベルで体力を消費する。

 

「使い物になるのは当分先、だな」

「仰る通りですラウラ少尉……」

 

 これが現在の俺の日常。

 こうして朝は組手をし、ぶっ倒れ、体力トレーニングをし、ぶっ倒れ、筋トレをし、ぶっ倒れる。ぶっ倒れすぎだろアホか。

 常人ならまず無理なこのメニューを11歳の身体でこなせているのはある意味奇跡だろう。

 

 今日はどんな無茶メニューが渡されるか、嫌だと思いながらも心のどこかで楽しみにしつつ、ラウラにお姫様抱っこで運ばれる咲であった。

 




このラウラは最初っから黒ウサ隊員と仲が良いです。
あとナチュラルに咲が姉呼びしているのは…まぁ、色々あったんです。色々。


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第8話 待たせたな

遅くなって申し訳ありませんでした……
テストなんて無かったんや……


 ドイツ軍IS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ。

 その部隊のメンバーはわずか5人のみであり……え?今までに4人しか登場してないだろって?

 ……まぁもう1人はそのうち出てくるだろう。そのうち。

 

 そしてその部隊について最近、妙な噂がある。

 ある者曰く、犬を飼っていたとか。

 ある者曰く、幻の6人目が存在したとか。

 ある者曰く、黄金の戦士を見かけたとか。

 一つ目はともかくとして二つ目と三つ目はなんだ。

 超次元バスケでもおっ始めようというのか。

 もしくは宇宙の帝王とでも戦うのだろうか。

 

 ……話を戻そう。

 とにかく、隊員以外の人間が居る可能性がある、と報告を受けた。

 もしそうならば一大事だ。ISを取り扱っている部隊に万が一部外者が入り込んでいた場合は、然るべき処置をせねばならない。

 

 ドイツ連邦軍元帥、名もなきオッサンは、その鋭すぎる眼で壁を睨むのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……噂?」

「ああ、どうも咲の姿を最近視察に来た上官数人に少しだけ見られてしまったらしくてな。色々な噂が上層部で飛び交っているそうだ」

 

 とある日の事。

 朝飯を食いながらラウラと話していると、とても胃によろしくない話をされてしまった。

 とは言っても確信的な証拠を掴んだ者は居ないらしく、犬だの影だのカカロットだの言われているらしい。

 若干不服だがバレるよりはマシだろう。

 

「それで、俺はどうしたらいいんだ?」

「別に気にする必要は無い。普段通りにしていればいい」

「そうは言ってもなぁ……」

 

 もしバレたら速攻撃ち殺される事もありえなくは無いだろうに。

 ほら、汚物は消毒的な感じで。

 あれは火炎放射だが。

 

「どうしても心配なら……屋内の射撃訓練場でしばらく過ごせば良い。それなりのスペースはあるし、なんなら銃の扱いでも覚えるか?」

「勝手に触らせていいのかよ銃とか……」

「咲は既にこの部隊の一員、家族同然だ。文句を言う奴など居ないさ」

 

 ……ラウラさん、その言葉はオラの涙腺にダイレクトアタックですわ。

 いやね?向こうの世界で親に別れを告げて早1年と数ヶ月、その間家族が居ない事に寂しさを覚えることは何度かあったのよ。

 まぁそれは仕方ない事だし諦めてたんだけど、こうして面と向かって言われるとこう……色々ぐっとくるものがある訳で。

 

「……ラウラはほんと良い子だなぁ……」

「む……何故上から目線なのだ」

 

 その少し膨れた顔がもうね。堪らないよね。

 

 子ども扱いされた事に若干ぷんすかしているラウラを宥めつつ、最近食卓に並ぶ頻度が高くなりつつある味噌汁を啜るのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 そしてそれからの数日間、俺は言われた通り射撃訓練場で活動していた。

 組手をやれるだけのスペースは普通にあったし、筋トレもできた。

 ただ走り回るのは場所的に不味かったので、代わりに射撃訓練をやらせてもらった。

 勿論撃った人間の記録の偽装など色々手回しはしてくれたらしいが。

 頭が下がります。

 

 そして、そんな生活が始まった5日目の事だった。

 

「今日こそ的に当ててみせる……」

「そう焦らずとも、初心者が1週間で銃の扱いをマスターするなど、普通ありえない事ですよ?咲」

「……でもラウラは完璧じゃん」

 

 今日はクラリッサに訓練の監督をしてもらう日だった。

 意気込む俺を宥めるように話しかけてくる姉(精神年齢的には同い年)に対し、少し反抗してみる。

 

「うっ……か、彼女は特別ですし……何より年季が違いますし……」

「それだよ。前々から聞こうとは思ってたけど、ラウラのあのウルトラスペックには訳があるんだろ?」

「それは……」

 

 言葉を詰まらせるクラリッサ。

 彼女としてもそろそろ話すべきだとは思っているのだろう。

 と、その時だった。

 

「ほう……まさか本当に居たとは」

「「!?」」

 

 背後から突然ダンディな声で話しかけられ、振り返る。

 

「……スネーク?(cv杉田)」

「……?誰だ、スネークとは?」

「あ、いえ、人違いでした」

 

 皺は少し多いがパワフルさを感じさせる顔つき、濃いめの髭、右目に着けられた眼帯、オールバックに近い髪型、どれを取ってもそっくりだ。

 喋っている言語は英語ではなくドイツ語だし、バンダナも着けていないのが残念なところ。

 

「ささささ咲?こ、このお方は……」

「……このお方は?」

 

 多分偉い人なんだろうが、ここまで怯える必要があるのだろうか?

 あれか、個人的に弱みを握られてるのか。

 くっ殺せと叫ぶ女騎士クラリッサ……アリかもしれん。

 

「このお方は、現ドイツ連邦軍元帥閣下だ……あぁ、バレる可能性はあったがまさかこのお方が直々に来られるとは……」

 

 顔を手で覆い嘆くクラリッサ。

 

「……えーと?」

 

 つまり?

 さいこうにえらいひとで?

 そのひとにばれて?

 おれしんで?

 

 

 ………

 

「嫌だアアアア!!!死にたくないイイイイイィィ!!!!」

「おいおい、そう慌てるな」

 

 回れ右をしてダッシュで駆け出そうとした俺を難なく捕まえるスネーク元帥。ちなみに声は完全に大塚さんだった。

 てか捕まるなんて絶対嫌だ。俺の主人公ロードはまだ始まってすらいないんだ。こんな所で死んでたまるものか。

 

「クソッ……そっちがその気なら……セイッ!」

「むっ……ほぅ……」

 

 咄嗟に全身を強化し、肩を掴んだ手を払いのけて思い切り距離を取る。

 魔力で強化しないと振り払えない手ってどんなだよ。

 

「この俺の手から逃れるとは……中々手応えがありそうだな」

「生憎男色の気は無いんですよ……見逃してもらえませんかね?」

「それは困るな。こちらも仕事でね」

 

 言い終わると同時に姿が掻き消える。

 

「なっ……」

「フゥン!」

 

 瞬間、腹に強烈な衝撃が撃ち込まれる。

 ……ナニコレクッソ痛え。

 と言うか気持ち悪い。

 

「うっ…ぷ……あ、危ねえ……出るところだった……」

 

 数歩後ずさり、口を抑える。

 強化を施した体にこれ程のダメージを与えられたのは初めてだし、何より腹パンされるのが初めてだ。

 一瞬頭に某ニーサンが浮かんだ。

 もっとも今はネタを言ってる場合ではなくガチで吐きそうなわけだが。

 

「ふむ……普通なら出た上で気絶する筈なんだがな……」

「もうやだ……ゲホッ、この人怖い……」

 

 俺のライフはもう0よ、勝負はついたのよ。

 

「まぁ前置きはここまでにしておいて……」

「前置きと言いましたか?人に【自主規制】出させかけといて前置きと言いましたか?」

 

 こんな人間が元帥やってんのかよ……

 さすが二次元……

 

「まぁ許せ。IS部隊に犬が紛れ込んでいると聞いたものでな、どう噛み付いてくるか確かめたわけだ」

「……はぁ、そうですか」

 

 犬扱いされているのは気にしない。

 実際今遊ばれてるわけだし。

 

「野良犬に名前はあるのかね?」

「……一応、咲って名前がありますが」

「サキ……咲……ふむ、なぜ日本人がここに居るのかとか、子供の癖に身体が頑丈なのかとかは敢えて聞かん」

「そうしていただけると大変助かります」

 

 説明しても納得する人はそうそう居ないだろうし。

 

「というわけで咲よ、ドイツ軍に入らんか?」

「わぁお唐突ぅ」

 

 話し方はもう吹っ切れた。

 偉い人だろうが何だろうがどうだって良い。

 

「その妙な力は戦力になる。それに、部外者をこのまま放置する訳にもいかん」

 

 傍で魂が抜けかけているクラリッサは放置され、どんどん話が進んでいく。

 戸籍やら何やら色々な都合上正式に所属させるわけにはいかないらしいが、有事の際はその力を振るえとのことだ。

 

 正式に所属してない人間が戦に参加して良いのかは甚だ疑問だったが、戦場で味方をしている人間に手を出す馬鹿は居ないだろうと言われて引き下がった。実際戦争があるのかはともかく。

と いうかISがあるんだから既存の兵器なんてゴミ同然だろう。

 

 そして待遇だが、今まで通りの生活を保障してくれるらしい。ありがとうございます。

 

 とりあえず今はIS部隊に身を置き、力を磨けと言ってスネーク元帥は去っていった。

 後ろ姿だけでもカッコ良さが滲み出ていた。

 

「……………ハッ!咲!このお方は……あれ?」

「……もう話は終わったよクラ姉」

 

 その後、クラリッサは説明された内容を聞いてまた気を失ったのだった。




というわけで咲、お偉いさん公認になりました。
いやぁこれからどうなるんでしょうね。
……どうなるんですか?


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第9話 中二病患者は自覚が無いものである

勢い余って連日投稿です。
今回も時間飛びます。
超飛びます。


 ――俺がこの世界に落ちてきてから、三年の月日が経った。

 時の流れは早いというが本当にその通りだった。

 当時10歳相当だった俺の肉体も成長し、現在は13歳、要するに中学2年生にあたる年齢である。右腕は別に疼かない。眼帯もしてない。

 身長はだいぶ伸び、筋肉も体力もついた。

 ちょっとつき過ぎた気もするが、仮にとはいえ3年間軍隊式のトレーニングをしていたのだ。嫌でもこうなる。

 

 そして今は10月半ば、日本と違って既にかなり肌寒く、外出時は上着が手放せない時期である。

 そして今日はIS操縦者の世界王者を決める戦い、モンドグロッソが開催される日だ。

 とは言ったものの1人だけテレビに張り付いているわけにもいかず、今日も訓練に励む。

 

「折角の大会なのに……よっ!」

「私だって見たいさ、織斑選手の活躍は……なっ!」

「づぉっ!?……っと、まぁ前回の優勝者らしいしな。同じ日本人として誇らし「貰った」あ()っ!」

 

 軽口を叩きながら組手をする俺とラウラ。普段通りの光景である。

 

「痛ってえ……目潰しは卑怯だろ流石に……」

「……私としては今のを食らって平然としてるお前の方が怖いんだが」

「そこはほら、俺の専売特許だし」

「ハァ……本当に反則級だな。ソレは」

 

 3年もあれば能力もかなり使いこなせるようになるわけで。

 現在は連続15分まで全身を強化できるまでに至った。

 全身の場合15分しか保たないのであって、一部に纏うだけなら消費が少なくて済むと分かったのは割と最近の話である。

 

 更に発動速度も短縮し、突然の目潰しにも対応が可能だ。まぁ痛いっちゃ痛いが。

 

「反則で結構、チート万歳。てか、ラウラのソレだって十分反則だし、そもそも俺からしたら性別だけで反則だわ」

「そ、それは確かにそうだが……」

 

 ラウラ……というかシュヴァルツェ・ハーゼの全員が、今は左目に眼帯を着けている。

 1年前に軍が行った手術で「越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)」と呼ばれるそれは、肉眼にナノマシンを移植し脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした……まぁ要するにチートが使えるようになる手術だ。

 何の補助も無い状態でも2km先の目標を撃ち抜けると聞いた時は驚いた。

 

 俺には何の知らせもなく……まぁ表向きには軍の関係者じゃないんだから当然だが、朝起きたら誰も居なかったあの恐怖は忘れられない。

 帰って来たみんなは眼帯を着けており、何故かと聞けばどうやら移植された目の色が変わってしまったらしく、金色に輝いていた。

 正直カッコいいと思った。

 

 眼帯をする理由は隠すためではなく、単純に見えすぎる上に目立つからだそうだ。

 訓練すればそれも抑えられると聞いて安心した。

 ちなみに、「単純にこの方がかっこいいでしょう?」とも言われた。

 俺の心配を返せ。

 

「初期は適合せず大変だったがな……」

「あぁ、あの時のラウラ相当荒れてたよな……」

「ばっ……それは言わない約束だろう!?」

「そうは言ってもなぁ……事実だし」

 

 そう。ラウラだけは拒否反応が出て、移植される前よりも能力が落ちてしまったのだ。

 その時の落ち込みようは半端ではなく、自室に閉じこもって出てこなくなったほどだ。

 

 

 

 

 ……まぁドアをぶっ壊して外に連れ出した訳だが。

 鬱要素?なにそれおいしいの?

 

「と言うか、あの時の咲のセリフも相当こっ恥ずかしかっただろう。確か「あーーー!!!聞こえないーーー!!!俺は何も言ってないーーー!!!」

 

 外に連れ出す時に何か言ったような気がするが覚えていない。

 覚えていないったら覚えていない。

 

「ほぅ、訓練中に私語とは随分偉くなったな、ボーデヴィッヒ大尉?」

「っ……!?げ、元帥閣下!?こ、これはその……」

 

 いつものように気配無く現れたスネーク元帥。

 偶に姿を現し、こうしてちょっかいをかけてくる。俺はもう慣れた。

 ちなみに初めて会ってから1年以上経った今でも本名を知らない。何故か隊のみんなも知らない。謎である。

 

「まぁそう硬くなるな。それよりも咲?組手の相手には困っていないか?」

「お、相手になっていただけるので?」

 

 まだまだ元帥閣下には全く敵わないが、相対する事で学べる事もある。

と言うのもこの人、原作通り(?)にクロースクォーターズコンバット…要するにCQCが異様に強いのである。

 

 拳2発に足払い1発で何故か誰も逆らえずに転ばされてしまうから不思議だ。

 大勢で囲んでも、目にも止まらない速さで全員投げられてしまった。

 しかもたまにホールドして「言え!」とか言ってくるし。

 アレか?ブーメランパンツを履いて夕暮れの砂浜に立てばいいのか?

 

「今日は新技を試そうと思ってたんで、ちょっと受けてもらえますか?」

「ふむ……いいだろう、かかってくると良い」

 

 仁王立ちをしているだけでかなり威圧感があるが、それをなるべく気にしないようにし、集中する。

 男なら誰しも1度は練習した事があるだろうあの技……今なら使えるかもしれない。

 

 開いた両手の手首を合わせ、指を曲げて体の右側に構える。

 

「かぁ……」

 

 いつもは体に張り巡らせる魔力的な何某を手だけに集中させ、さらに固めていく。

 

「めぇ……」

 

 圧縮されたエネルギーは徐々に光を発し、存在感を増してゆく。

 

「はぁ……」

 

 ……説明することが無くなったな。

 

「めぇ……」

 

 限界まで引き絞った両手に、最後の仕上げとばかりに力を込め、一気に……放つ!

 

「波あああぁぁぁッッ!!」

 

 青いエネルギーの奔流が手から発射され、真っ直ぐ元帥に向かっていく。

 だが……

 

「ふん」

 

 それを真正面から手で受け止められ、やがて消えてしまった。

 

「……これで終わりか?」

「お、終わりです……」

 

 確かに出た。エネルギー波は出た。

 だがその太さは精々10cm程度であり、本家と比べたら月とすっぽんである。

 

「まぁなんだ、そう落ち込むな」

「今ならイケると思ったのに……」

 

 orzの体制をとる咲。

 ちなみにこの他にも色々試したが、どうも本格的にエネルギー波として放つには体内の魔力的な何某の量が足りないようだ。

 そもそもコイツがどういう原理で発生しているのかもサッパリ分からないため、対処のしようがなかった。

 

「だがまぁ、牽制には使えるだろう。精進すると良い」

「ありがとうございました……」

 

 去り際にラウラは投げられていた。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 その日の夜。

 

「いけっ!そこだ!ああもうなんで避けないんだよ普通に見えてるだろ!?」

「なぁ咲、何で織斑選手を応援しないんだ?」

 

 俺の部屋にて、録画してあったモンドグロッソを隊全員で見ていた。何故かテレビがこの部屋にしか無いのだ。

 今はアメリカと日本が戦っているのだが、咲が応援しているのはアメリカ側だった。

 質問してきたラウラに対し、咲は、

 

「何でって……絶対勝っちゃう方応援してもつまんないじゃん?」

「あぁ、確かに」

 

 日本代表、織斑千冬選手。

 専用機「暮桜」と刀一本で準決勝まで勝ち進んでおり、その全てが一撃必殺というとんでもない人だ。あと美人。すっげえ美人。クールビューティーって奴?

 どんな相手も一撃で堕としてしまう為、見てる側としては少しつまらなかった。

 

「この調子なら明日の決勝も……まぁ一撃は無いと思うけど圧勝だろうな」

「あぁ、我らがドイツ代表は踏み台にされてしまうのか……」

 

 一応ドイツも決勝に進んではいるものの、織斑選手の前には紙クズ同然だろう。

 ちぎってポイされるのが目に見えるようだ。

 

「お、攻めてる攻めてる……なっ、今瞬間移動したよな!?」

瞬時加速(イグニッションブースト)だな。あんな動きは普通出来ないはずだが」

 

 アメリカ側が攻め込んでいたように見えたが、気が付いたら織斑選手が刀を振り終えていた。

 まぁアメリカ側も1発は耐えたのだから充分凄いと言えるだろう。

 

「いやー終わった終わった。明日の決勝どーなるかなー」

「結果は目に見えているが……万が一の可能性を信じよう」

 

 自分の国の代表にその扱いはどうかと思うが、あの鬼神を前にして勝てる気がしないのも事実なので、黙っておいた。

 

 3発ぐらいは耐えられるだろうかなどと呑気に考えながら、部屋に戻っていくみんなを見送るのだった。

 

 ――明日、何が起こるかなど知る余地も無く。




さて、次回はいよいよ原作におけるあのお話…
どうなるんでしょうか。


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第10話 変身、満を持して…?

何だかずいぶん長くなってしまいました。


 モンドグロッソ二日目、決勝戦。

 日本対ドイツの試合が行われようとしている会場では、とある騒動が起こっていた。

 

「ええい、まだ見つからないのか、織斑選手は!」

「申し訳ありません、どうも『あの情報』が何処かから漏れたようで……」

「何が何でも探し出せ!クソッ、何の価値も無い弟の為に抜け出すとは……」

 

 1時間前、大会主催国である日本政府に一通のメールが届いた。

 長々とした名乗り口上から始まったその文の内容を要約すると、

 

『織斑千冬の弟は預かった。返して欲しければ奴の決勝出場を辞退させろ』

 

 というものだった。

 

 当然このようなふざけたメールに日本政府が対応するはずもなく、決勝戦の準備は着々と進められていた。

 そう、ほんの40分前までは。

 

 しかしメールの内容に不審を抱いた役人の一人が確認すると、本当に誘拐事件が発生していた事が判明した。

 だが姉である千冬と違い、弟の方にこれといって特筆すべき才能もなかった為、日本政府はこの情報を秘匿、何事もないように見せかけて大会を始めようとした。

 ……だがしかし。

 

「情報が漏れるなどありえん……一体何者が……」

 

 20分前、何者かにハッキングを受け、しかもそのメールの文があろうことか織斑千冬のISに転送されてしまった。

 控室にいた千冬は部屋を飛び出し、ISで飛び去ってしまったとの事だ。

 

 会場ではいつまで経っても試合が始まらない事に観客が苛立ち、いつ暴動が起きてもおかしくない雰囲気になっていた。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――織斑千冬は焦っていた。

 世界初にして世界最強のIS操縦者をここまで焦らせたのは、男性の権利を主張する過激派テロリストであった。

 

 ISの登場により女尊男卑となった世界の頂点に立つ千冬に対し、決勝を前にして逃げ出した臆病者のレッテルを貼ることが出来ればと考え、弟である織斑一夏を会場から攫ったのだった。

 

「どこだ……一体どこにいるんだ……一夏……!」

 

 じっとしていられず飛び出してきたは良いものの、どこに攫われたのかなど検討もつかず、千冬はひたすら空を飛び続けていた。

 

 その時。

 

「着信……?まさか……!」

 

 最悪の知らせを想像し、そんな筈は無いと頭を振って考えを吹き飛ばす。

 震える手で空中投影ディスプレイの応答ボタンを押すと、声が響いてきた。

 

「あー……あー……マイク音量大丈夫……聞こえたら返事をお願いします」

 

 聞こえてきた声は若い男……いや、一夏と同じくらいの年齢だろうか?

 かなり若いであろう事は想像できた。

 

「聞こえている……貴様、何者だ?」

「おっ、本当に通じた。あー……俺はまぁ……ドイツ軍所属の名もなきファンです。弟さんの捜索、協力させていただきたい」

 

 ドイツ軍なのに何故日本語で話しかけてきたんだ?そもそもコイツは何者だ?

 ……いや、今はそんな事はどうでも良い。

 

「協力してくれるのか!?」

「うっ……こ、声が大きいです……」

「あ、あぁ……すまない……」

 

 恐らく向こうで耳を抑えているであろう相手に対し、トーンを落として謝罪する。

 

「まぁ協力するって言ってももう場所は掴んでるんですわ。座標を送るんで来てください。もう終わってるかもしれないけど」

「分かった、すぐに向かう」

 

 通話が終了すると同時に送られてきた座標は、近くの廃工場を示していた。

 

「罠の可能性もあるが……今はこれしか方法がない……」

 

 それにあの声から悪意は感じなかった。

 この場所に一夏がいることを信じ、私は全速力で向かうのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――40分前、ドイツ軍IS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの訓練場にて。

 

「……胸騒ぎがする」

「?どうした、いきなり」

 

 訓練中だった咲とラウラは動きを止め、話を始める。

 

「うーん、なんつーか……イライラする……いやムカムカする?……うーん……」

「風邪でも引いたんじゃないか?」

「いやそういうんじゃなくて……あぁクソ、ここまで出てるような気がするのに……」

 

 咲が原因不明のもやもや感に苛まれ、訓練どころではなくなっていた。

 

「あ゛ーもう!気持ち悪い!ちょっと吐き出す!」

「吐き出すって……あぁ、アレか」

 

 手に魔力的な何某をかき集め、空に向ける。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

 野菜人の王子よろしく、大量のエネルギー弾(直径はやっぱり10cm)を空に放つ。

 青白い弾幕(笑)は天を目指して飛び続け、やがて崩れて消えてしまった。

 

「ふぅ、スッキリ……してないな。まだもやもやしやがるぜチクショウ」

「本当に風邪ではないのか?今までこんな事なかっただろう?」

 

 心配そうに話しかけてくるラウラ。

 

「熱はないっぽいし……怠いってわけでもないし……とにかくもやもやするんだよ」

「ふむ……分かった、一度寮に戻るといい。疲れが出ているのかもしれん」

「疲れ……ねぇ?」

 

 言われてみれば確かに、ここ最近しっかり休んだ覚えがない。

 気付かないうちに疲労がたまっていたのだろうか。

 

「んー……じゃあ少し休んでくるわ。ゴメンな組手の途中なのに」

「そんな事はどうでも良い。早く治すんだぞ?」

「ハハハ……善処いたします、大尉殿」

 

 芝居がかった口調と共に敬礼し、寮へと戻った。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……治んねえ……」

 

 自室に戻って大人しく寝ていたが、もやもやが取れない。

 むしろ悪化している。

 熱はなかったし、体調管理用のスキャナーも使ったが異常はなかった。

 

「……そういや今決勝の時間じゃん」

 

 どうせ寝ているだけだし、何となくテレビをつける。

 すると、

 

「……アレ?織斑選手いなくね?」

 

 ドイツ側は準備完了しているようなのだが、いつまで経っても日本側が現れない。

 若干ブーイングも聞こえてきた。

 

「なんかあったの……づっ!?」

 

 突如、猛烈な頭痛に襲われる。

 

「ぎっ……あ……なんだよ、コレ……」

 

 痛みと共に、頭の中に直接情報がねじ込まれる。

 黒い宇宙、青い星、島、町、廃工場。

 次々と映像が流れ込み、俺は悲鳴をあげる。

 

「クソ……ひょっとしてアレか……能力が手に入る前触れ的な奴か……?」

 

 ありがちだよなこういうの。

 いきなり体に不調が現れて能力に目覚める的な。

 PSY◯EN的な。

 

「にしても収まんねえな……ある程度楽にはなったが……」

 

 映像は既に止まり、今はただ頭痛だけが続いている。

 耐えられないほどではないにせよキツいものはキツい。

 

 

『くっ……静まれ俺の右腕……』

 

 

 

 

 

「……おほぅ!?」

 

 突然目の前に腕付きの光の玉が現れて右腕を左手で抑えていた。

 あまりにも突然すぎておほぅとか言っちゃったよ。

 んほぉとかじゃなくてよかった。

 

『やーやー咲くん、3年ぶりだね。元気してた?』

「……あぁそっか、そういやアンタ日本語で話すんだった」

 

 いきなり日本語で話しかけられ少し戸惑うが、すぐに思い出した。

 来たばかりの頃はクラ姉とよく日本語で話していたが、ドイツ語を覚えてからはほとんど話さなくなったな。

 たまに知らない言葉の意味を聞くときに使うくらいで。

 

『随分染まっちゃって……お母さん悲しいよ……』

「俺の母親は別にいるわ阿呆。んで?何の用だ?プレゼントなら喜んで受け取るからこの頭痛止めてくれないか?てかいつまでも放ったらかしすぎなんだよ馬鹿なの?」

『うわぁん反抗期だぁ』

 

 3年も放置しておくお前が悪いと思う。

 

『まぁ時間も無いから本題に入ろうか。特典のプレゼントに来たってのは当たってるんだけど、ちょっと面倒な事が起きててね』

「面倒な事?」

 

 神に面倒と言わせるとは余程な事と見える。

 

『とりあえず一気に説明するけど、この世界には主人公が元々存在するんだけどさ、そこに君がねじ込まれちゃったもんだから修正力が働いて、元の主人公君が死にかけてるのよ』

「……ハァ!?何?俺以外にも主人公いたの?」

『そりゃあいたさ。ここラノベの世界だもの』

「それは聞いたが元の主人公が居るとは聞いてねえぞこの野郎」

『聞かれなかったからね』

 

 恐らく読んだ事はあるのだろうが、記憶から抜き取られているためどんな作品だったか全く思い出せない。

 無念である。

 

『で、それは困るってことで君に助けてもらいたいのさ』

「あーうん……大体分かった……」

 

 口調が破壊者っぽくなったけど気にしない。

 

「……で、その話とこの頭痛の関係は?」

『んー、あと少しで収まると思うよ?君の予想通りそれは能力が手に入る前触れ的なアレだし』

「mjd?」

『mjd』

 

 言われた通りにしばらく待っていると、なるほど確かに収まってきた。

 さっきまでのが嘘のようだ。

 

『よーし、準備できたね。それじゃあコレ、腰につけてー』

「お、おおおぉぉ、ついに……」

 

 目の前に差し出されたのは、赤と銀の2色で彩られたバックル、ガイアドライバー2G(セカンドジェネレーション)……つまるところがダブルドライバーだった。

 

 玩具と違ってずっしりとした金属の重みがあるそれを言われた通りに腰に装着すると、自動でベルトが巻きつき、マキシマムスロットも展開される。便利なものだ。

 

『それが君の専用IS、名は「ダブル」だ。大事にしなよ?』

「言われなくても大事にするわ!」

 

 念願の夢が叶った。これでやっと俺もIS操縦者に……

 ……アレ?

 今なんて言った?

 

「……コレISなん?」

『?そうに決まってるじゃないか』

 

 何を今更、という感じで答える神様。

 いやちょっと待て。

 

「女しか動かせないんじゃないのか?」

『それが何故か動かせちゃうのが主人公だぜベイビー?』

 

 マジかよすげぇな主人公。

 まぁラノベ的に考えたらそうなるか。普通。

 普通って何だっけ?

 

「まぁISなのはいいとして、メモリは?あと相方は?」

『あーゴメン……それはちょっと待って…』

 

 曰くまだ調整が終わっていないとかで渡せないらしい。無念である。(2回目)

 

『まぁそれだとお話にならないから、はいコレ。一本だけは用意できたからさ』

「これは……おおぉジョーカーメモリ……実物はなんか色々すげぇな……」

 

 T2ジョーカーメモリ。

 劇場版で翔太郎が仮面ライダージョーカーに変身する時に使っていたメモリだ。

 その端子は通常のボディメモリの金色と違い、水色に輝いている。

 

『T2は原作と違って、と言うか元々設定が存在しないからアレだけど組み合わせ自由だ。思う存分やるといいよ』

「ありがとうございます」

 

 しかしここで疑問が発生する。

 ダブルドライバーとメモリ一本、まぁここまではいいとして、

 

「これじゃ変身できなくね?」

『……あぁ!ゴメンゴメン!ちょっとドライバー外して!』

 

 相変わらずというか何というか、どこか抜けている。

 その点だけ見れば母さんにそっくりだな。

 

『えーっと確かこれを……こうするんだよ』

 

 ダブルドライバーの真ん中の部分にある丸いボタンらしき場所―シンキングエンジンと言う演算用回路らしい―を押すと、左側のスロットが消えてロストドライバーに変化した。

 

「スロットが無くなっちゃったわ!」

『これで出来た』

「相変わらずノリいいなぁオイ」

 

 今度溶鉱炉に落としてみようか。

 きっとサムズアップをしながら沈んでいくだろう。

 

『さて、準備は全て完了した。あとは変身するだけだ』

「了解。じゃあ遠慮なく……」

 

 メモリのスタートアップスイッチを押し込み、切り札の記憶(ジョーカーメモリ)を起動させる。

 

【Joker!】

 

「~~~くぅ~~っ!コレだよコレ!」

『感動してるとこ悪いけど早くしてくれないかな?』

「アッハイ」

 

 メモリをスロットに挿し込むと、待機音声が流れ始める。

 さぁ、いよいよだ。

 前世で散々夢見たあの光景を、今、現実に!

 

「変身!」

 

【Joker!】

 

 ドライバーを展開すると旋風が巻き起こり、その強さに思わず目を閉じると、足から装甲が装着されてゆく。

 装着が全て完了すると同時に、目を開いた。

 

「……あれ?」

 

 何か違和感がある。

 まず第一に、視点が高い。

 いつもの1.5倍程度はある。

 そして第二に、目の前を遮るものが何も無い。

 俺は仮面ライダーになったんじゃないのか?

 

 

 恐る恐る下を向くと、そこには――

 

 

「なっ……なっ……なんじゃこりゃあああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()I()S()を装着した自分の姿があったのだった。

 




主人公、ようやくISに乗りました。
次回も説明回になりそうです…


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第11話 未だに終わらない説明

いやもうほんとすいませんこれが最後の説明回なんです許してくださいなんでもしますから。


「おい神様!どういう事だコレは!説明!はよ!」

『わかったわーかった。少し落ち着いて』

 

 どうも茅野です。

 仮面ライダーになれると思って変身したら普通のISに乗ってました。

 わけがわからないよ。

 

 装甲の色は黒、所々紫で、ジョーカーのマークらしい意匠があちこちに施されていた。

 部隊に置いてあったものより全体的に細く、スラリとした外見だ。

 武装が特に見当たらないところを見ると、やはり仮面ライダージョーカーと同じ徒手空拳で戦うのだろうか?

 

『いいかい?この世界……というか元の世界でもそうだったけど、仮面ライダーはあくまで創作の世界の存在なんだ。それがいきなり……まぁこの世界にWは存在しないからいいとしても、見た目的に仮面ライダーだって分かるだろう?』

「それとこれと一体何の関係が…」

『そんな形のISが存在しない以上、君のコレはどこが造ったのか、みんな探し始める。んで、もし君がこのISを作ったなんて思われたら……』

「お、思われたら……?」

『まぁ捕まって拷問されて吐かされるだろうね。ISのコアを作れる人間は篠ノ之束しか居ないんだ。確か今は指名手配されてただろう?』

 

 要するに目立たない為だそうだ。

 現存するISに似た姿なら怪しまれない……いや怪しまれはするが、普通のISとかけ離れた姿よりはマシらしい。

 だが、

 

「じゃあ何?俺仮面ライダーにはなれず終い?」

『そこについては対策はしてあるよ。まず……』

 

 神様による説明を聞いている間も、刻々と時間は過ぎていく。

 織斑千冬に通信が入るまで、あと、5分。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

『……とまぁ、そういうわけだ。OK?』

「オーケィオーケィ。それ聞いて安心したわ」

 

 説明は意外と早く終わり、その内容に胸を撫で下ろした。

 

『あと話す事は……あぁそうだ。この世界の元々の主人公君について簡単に説明しておくよ』

「至れり尽くせりだな。原作知識は教えないんじゃなかったのか?」

『今は非常事態だからそうも言ってられないの。んで肝心の主人公君だけど織斑千冬の弟ね。現在誘拐されて監禁中。犯人は武器持ってるから殺されるのは時間の問題です』

 

 随分とヘヴィな状況じゃないですかやだー……

 それにしても弟……あぁ、そういえば聞いたことがある。

 確か名前は……一夏、だったか?

 姉と違って特に何かができるというわけではなく、世間から注目される事も全くない。

 顔はかなり良いためそこだけはどっかで取り上げられていたと思うが、まぁその程度だ。

 イケメンで世界最強の弟か……確かに主人公らしい。

 んでもって多分ISも使えるんだろ?何だよそのチート。

 あ、イケメンと弟成分抜いたら俺とあんまり変わらんかったわ。

 

『さて、もう時間がないから……ほい、画面のソレタッチしてー』

「おぉ……空中投影ディスプレイ……タッチっと、うわ、なんか変な感じ」

 

 腕部の装甲から一旦腕を抜き取り、画面をタッチする。

 抜き取った後も装甲はそこに留まったが、一体どういう原理なんだろうか。

 ちなみに人生初の空中投影ディスプレイだが、触った感じはないもののしっかり操作できた。

 不思議なものだ。

 

「んでこの画面ってなんぞ?」

『なんだと思う?これね、ミキプ……じゃない、織斑選手のISへの通信ボタン』

「ファッ!?」

『はいこれカンペ。うまいこと演技してよ?』

 

 どこから取り出したのか、ホワイトボードを掲げる神様。

 ……えぇい、なるようになれだ。

 

「あー……あー……マイク音量大丈夫……聞こえたら返事をお願いします」

 

 なんで最初っからネタぶっこんでいくんだよアホなの?

 艦隊の頭脳なの?

 いやどっちだよ。

 

「聞こえている……貴様、何者だ?」

「おっ、本当に通じた。あー……俺はまぁ……ドイツ軍所属の名もなきファンです。弟さんの捜索、協力させていただきたい」

 

 この部分は別に読まなくても素でいけた。

 さてここからだが……

 

「協力してくれるのか!?」

「うっ……こ、声が大きいです……」

「あ、あぁ……すまない……」

 

 まぁ肉親が攫われたんだから慌てもするだろうが、それにしても大きい声だった。

 少し耳が痛くなり、片手で抑える。

 

『はい、ここ操作しながら次のセリフねー』

「りょ、了解……」

 

 画面の操作をしながらカンペを見て話を続ける。

 なかなかに骨が折れる作業だがこれも主人公君を救うためだ。

 

「まぁ協力するって言ってももう場所は掴んでるんですわ。座標を送るんで来てください。もう終わってるかもしれないけど」

「分かった、すぐに向かう」

 

 即答ですかそうですか。

 通信終了の文字が表示され、緊張から解放されたことで力が抜けるが、ISが強制的に姿勢を保つ。

 

「場所は掴んでるって……弟は日本にいるんだろ?いくらISとはいえ今から行くのは無理があるんじゃ……」

『何の為にさっき頭を痛めてもらったと思っているんだい?空間転移するに決まってるじゃないか』

「俺の常識のHPがマッハで削られていくんですが」

 

 追跡をふっとばして撲滅から始めるとはこれいかに。

 ま、まぁ二次元だから空間転移ぐらいできる……のか?

 物理法則ってなんだっけ?

 

『君の頭にさっき浮かんだ廃工場、あそこに主人公君は捕らえられている。さぁねんじろ。ささやきとかいのりとかえいしょうとかいらんから』

「は、はい…」

 

 なんか口調変わってないか?この神。

 何となく怒っているような感じがする。

 

『本来はこんな事しちゃいけないし、したくないんだよ……後にも先にもこれが最後。さぁ目ぇ閉じてー』

 

 言われた通りに目を閉じると、若干の浮遊感を感じた。

 そのまま5秒ほど経っただろうか。

 

『はい着いた、帰りは自分でなんとかしてね。んじゃさいなら』

「ちょ、おい!……いくらなんでも怒りすぎだろ……」

 

 最初の方は我慢できていたようだが後半はだいぶキレていた。

 主人公が死にかけてるのは俺をねじ込んだからじゃなかったのか?

 自分でやった事の後処理もできんのかあの神は。

 

「まぁグダグダいってもしゃーない、な」

 

 目の前には廃工場。

 己の手には最強の兵器。

 ……覚悟はできている。

 

「まぁ絶対防御とやらもあるし死にはしないだろ。自力もだいぶついたし」

 

 覚悟はしたが、割と気楽な気持ちで工場へと乗り込んでいった。

 




次回、ようやく戦闘開始です。
……まぁ相手が普通の人間な時点でお察しですが。


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第12話 追跡、撲滅…え?確保もマッハ?

最近提督に着任しました。
響かわいいです。


「失礼しま〜す……」

 

 こっそりと金属製の引き戸を開け、中に潜入する。

 派手に登場しても良いが、万が一建物を崩してしまっては主人公君が埋まってしまう。

 慎重に、なるべく暴れないようにしなければ。

 

「それにしても……」

 

 今更ながら、身体に溢れる全能感に気付く。

 魔力強化を施した時よりも格段に強くなっている……ような気がする。

 いや実際に強くなっているのだ。

 ISのサポート機能、恐るべし。

 

「今後あれ使う機会あんのかねぇ……?」

 

 ISを手に入れた今、わざわざ体力を消耗して魔力的な何某を使う理由はどこにもないわけで。

 まぁエネルギーが尽きた時は役に立つか?

 

「……とりあえず進むとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 その後もコソコソと進み続けていると、いきなり目の前にディスプレイが現れた。

 

「……もう驚かねぇぞ……えーと……?」

 

 どうやら生体反応をキャッチしているようで、近くの壁を透過して人の形が見えている。

 さすがは超科学の世界。

 

「奥にいるこれは……多分主人公君だな」

 

 周りに立っている人間が10人ほど、そしてその中央のあたりに1人だけ椅子に座っているようなシルエットが見える。

 おそらく手も足も縛られて……口にはガムテープってところか。

 

「さて……アイアンマンみたく敵だけ撃ち抜けるような武装は……」

 

 しばらくあちこち弄ってみたものの、やはり武装は一切見当たらなかった。

 拳で戦えということか。

 まぁジョーカーだしこれが当たり前だろう。

 

「んじゃせめて何か顔を隠せるような物は……おっ、あるじゃん」

 

 顔の上部分だけは隠せるようなメットを確認したので、画面をタッチして実体化させる。

 若干見え方が変わったがこれはこれで良い感じだ。ライダーマンっぽい。

 さて次。

 

「空は……飛べる、よな?」

 

 確認はしていないがISだし飛べないということはないだろう。多分。

 最悪飛べなくてもなんとかなる。

 ……よし。

 準備も終わった所で、部屋に突撃した後の動きを脳内でシミュレーションする。

 

「入ったら椅子掴んでUターン……安全な場所まで運んでその後はマッハで撲滅、これで決まりだな」

 

 扉の前に立ち、深呼吸する。

 初の実戦、気を抜かないようにしなければ。

 

「よし行くぞ……3……2……1……」

 

 カウントを数え終わると同時に扉を突き破り、椅子のある位置まで一瞬で移動する。

 

「な、なんだテメェは!」

「通りすがりの仮面ライダーだ!いいからそこ退け!邪魔!」

 

 椅子を掴んで抱え込むと即座にUターン、扉までの道を塞いでいた輩はショルダータックルで全て吹き飛ばした。

 

「逃がすな!撃て!」

「うおっ!痛っ……くない!」

 

 拳銃で撃たれたようだが全く痛くない。

 絶対防御様様である。

 

「ん゛—!む゛—!」

「?あぁ、失礼忘れてた」

 

 全力で奴らから遠ざかりながら傷つけないよう丁寧にガムテープを剥がし、主人公君の口を開放してやる。

 ……本当にイケメンだな。

 一瞬投げ捨てそうになったが紳士なのでそんな事はしなかった。暴力いくない。

 

「ぶはっ……あ、あんた一体……」

「だから通りすがりの仮面ライダーだ。……っと、ここまで来りゃ大丈夫だろ。ほれ、とっとと外出ろ」

 

 椅子を下ろし、手と足を縛っていたロープを引きちぎる。

 

「仮面……ライダー?」

「そ、正義のヒーロー仮面ライダーだ。覚えておけ。んじゃあいつらブチ殺……じゃない、ちょっとお話ししてくるから、そこで待ってろよ?いいな?動くなよ?絶対動くなよ?」

「あ、あぁ……」

 

 フリじゃなくて本当に動いてもらっては困るのだが、まぁいいか。

 そのうち織斑選手も来るだろう。

 

 来た道をこれまた超高速で戻り、誘拐犯達と対峙する。

 武装は……拳銃、ドス、ロケラン……ロケラン?

 何であんなもんがあるんだか……

 それと鉄パイプに金属バット、と。

 一部を除けばヤの付く自由業みたいな装備だな。

 

「テメェ…よくもやってくれたな…」

「ただじゃ済まさねぇぞゴルァ!」

 

 IS相手にこれだけ挑発するとは余程度胸があるのか、それともただの阿呆か。

 まぁいずれにせよ撲滅あるのみだ。

 色々試してみたい事もあるし。

 

「あー……生憎だがただで済まさせてもらう。とっととかかって来い」

 

 右手を上げてちょいちょいと挑発すると、声を上げながら金属バット君が向かってきた。

 本当にこれが通用すると思ってんのかね?

 

「よっ……ほい」

 

 バットを掴むとメシリと音を立ててひしゃげたので、そのまま取り上げて遠くへ放り投げた。

 

「なっ……嘘だr「はい1人目—」ゲフゥッ!」

 

 軽〜く、本当に軽〜く腹パンを食らわせる。

 ニーサンではない。断じて。

 それにしてもこの一発だけで動かなくなってしまったが、大丈夫だろうか?

 まぁ気にする必要はないか。

 

「う、うわああぁ!」

「おぉ、今度はドス君かい……」

 

 悲鳴を上げながら向かってきた男の刃をISの太い指でタイミングを合わせて摘まみ、 これまた取り上げて放り投げて腹パン。

 うぅむ、つまらん。ワンパターンすぎる。

 まだラウラと組み手をしている方が手応えがあるというものだ。

 未だに勝てたためしは無いが。

 

「クソッ……撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 ボスらしき奴の怒号と共に、大量の銃弾とロケット弾が飛んでくる。

 こんな場所で使って自分達が埋もれる可能性を考えてないのかよ。

 

 銃弾は気にする必要がないのでスルー、ロケット弾は…

 

「柔よく剛を……制すッ!」

 

 ISの機能によって延長された感覚を活かして弾の下に手を当て、体を右に傾けつつ軌道をずらす。

 スネーク元帥の強力すぎる右ストレートを受け流すために覚えた技が役に立った。

 後方に弾き飛ばされた弾は爆発を起こし、その爆風で何人か吹き飛んで気を失う。

 

「ひ……ば、 化け物……」

「いやIS乗ってんだからこれくらい普通だろ……」

 

 ぶっちゃけ今の俺でも元帥閣下には勝てない自信がある。

 

 残った1人、威厳の欠片もないボスらしき奴は、腰を抜かしたのか間抜けな姿勢のまま後ずさる。

 ……待てよ?

 

「あぁ……良いこと……思いついちゃったなぁ……」

「い、嫌だ……やめてくれ…ごめんなさい許してくだ…あ……ああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「ふぅ……これこそまさに快・感……ちょっとやりすぎたか?」

 

 10分ほど経っただろうか。

 目の前には、少し人前に出すのに躊躇する見た目になったボス(笑)の姿があった。

 ここまでやってしまえば拘束する必要もないだろう。放置しておく。

 他の気を失った奴らは……一応一纏めにして柱に縛り付けておいた。

 都合よく縄も落ちていたし。

 

 ドライバーを戻してメモリを引き抜くと変身……もとい装着状態が解除され、装甲がバラバラになって舞い上がるように消えてゆく。

 これすっげえ好きなんだよなぁ。再現してくれてよかった。

 

 余韻に浸るのもほどほどにして、入り口に向けて歩き出す。

 いつまでも主人公君を一人にしておくわけにはいかない。

 もっとも織斑選手が居る可能性もあるが。

 

「初陣、うまく戦えてたかなぁ……」

 

 戦いというよりは一方的な殲滅だったような気がするが、それでも初の対人戦だ。

 若干、本当に若干だったが緊張もしたし、正直相手を殺してしまわないかヒヤヒヤしたし……あれ?なんか違う?まぁいいか。

 

 そんなことを考えているうちに入り口が見えてきた。

 さぁて何て説明しようかね。

 まさか神に連れてきてもらったなんて言えんし……うーん……

 

 まぁなるようになる。ケ・セラ・セラってやつだ。

 カンヤ祭前夜の折木君だってそう言っていた。

 結果的にあれも完売できていたし、大丈夫だろう。多分。きっと。

 ……それにしても外が騒がしくないか?

 

「なんかあっ、た……の……」

 

『そこを動くな!動けば撃つ!』

 

「……え?」

 

 目の前には軽く20人を超えるであろう機動隊、後ろの方には主人公君と仁王立ちした織斑選手。あぁ実際目の前にすると凄く強そう。

 

『手を頭の後ろに当てて、大人しく投降せよ!』

 

「え……あ…………はい……」

 

 動くなって言ったじゃん、などとつまらないことを言う余裕は既に無く、俺は大人しく降伏のポーズを取ったのだった。

 




戦闘()終了。
次回はどうなる事やら。


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第13話 華麗なる逃走劇

2-4の壁にぶち当たりました…
戦艦育てなきゃ…


「あのー……」

「何だ」

「カツ丼とか出ません……よね?」

「生憎ここは取調室じゃなくてなぁ、それにそんなのは大昔のドラマだけだ」

「で、ですよね〜……」

 

 やぁ、茅野咲だよ。

 色々あって拘束衣を着せられて窓の無い部屋なうだよ。

 こんな物着る機会があるなんて人生何が起こるかわからないもんだね。

 何で人助けしてこんな目に会わなきゃいけないんだろうね。

 クソが。

 

 

 

 

 ……話は2時間ほど前に遡る。

 機動隊に捕らえられた俺は大人しく従い、拘束衣を着せられて連行されていた。

 ドライバーは懐に仕舞ってあったので今のところは無事だ。

 もっとも取り出す事はできないが。

 

「あの、俺何か悪い事しました?」

「……」

「無視ですかそうですか…」

 

 両隣を歩く隊員に話しかけても沈黙しか帰って来ず、できることと言えば頭の中で神に対する呪詛を唱えまくる事くらいだった。

 何故俺がこんな目に遭わにゃならんのだ。

 

 少し横を向くと織斑選手が眉間に皺を寄せて歩いていた。

 貴女の弟さん助け出したの俺なんですけども。

 と言うかさっきの通信で話したばっかなのに覚えてないの?

 ねぇこっち向いてよ。言いたいことがもっとあるんだよ。

 

 そんな事を考えていたら凄い目で睨まれた。

 おぉ怖い怖い。

 でも本気で怒った時のリー姉の方が怖いな。

 視線だけで動けなくなったのは後にも先にもあの時だけだ。

 

 澄まし顔で死線、もとい視線を流していると、舌打ちをして前に向き直ってしまった。

 いや、だから助けたの俺……まぁいいか。

 

 その後はまぁ、目隠しをされて車に乗せられて運ばれて、部屋に放り込まれたわけだ。

 いやぁ〜乱世乱世。

 脱獄はできそうにないでゴザル。

 

「あの、刑事さん、お名前は?」

「なんだ、随分と余裕があるんだな。こんな状況だってのに」

「い、いやぁ……知った顔に似ていたものですから…」

 

 どっからどう見ても泊進ノ介にしか見えないんだよなぁ……

 とは言っても仮面ライダードライブは既に放送が終わっているし、中の人も別に居るから他人の空似なんだろうけど。

 

 しかしこの状況……さしずめ俺は合体スペシャルの時の天晴といったところか。

 生憎忍者になる予定は無いがな。

 

 と、そこへノックが鳴り響き、泊巡査(仮)はドアを開ける。

 入ってきたのは……普通の人か。

 ここで霧子とか来たら面白いのに。

 

「泊警部補!報告があります!」

「どうした?」

 

 うお、苗字まで同じだった。

 ……って警部補!?

 思ってたよりだいぶお偉いさんだったのか……

 

「それが……織斑一夏があの人に会わせろと……」

「弟くんが?……分かった。但し特殊面会室を使う。拘束衣もそのままだし、長くても5分程度だと伝えてくれ」

「了解」

 

 おぉ、主人公君ナイスプレー。

 これで俺の身の潔白が証明されれば、晴れて解放……

 

 

 ……待てよ?

 

 よくよく考えると、これはかなりマズイんじゃなかろうか。

 

 誘拐犯達の前ではメットをつけていたから顔はバレていないし、男がISを使っていたという証拠も無い。

 織斑選手は……どうだろう。何故か俺の事を覚えていない様子だったし、今更会う事も出来ない。

 だがしかし。主人公君はおそらくISに乗っていた中身が俺だと知っているだろう。

 そしてその事をバラされていたとしたら……

 

 解剖、実験、モルモット……

 嫌な単語ばかりが頭に浮かぶ。

 

 ……仕方がない、逃げるか。

 犯罪者の烙印を押されるだろうが、実験動物になるよりは遥かにマシだ。

 

 幸いな事に着せられた拘束衣は手を前で固定するタイプだったので、引きちぎるのは容易かった。

 しかも運が良いことに持ち物も取り上げられていない。

 

「ふっ……ぬっ……らぁっ!」

 

 バツン、と響いた音に、ドアの方を向いていた泊さんは慌てて振り向く。

 

「なっ……お前!」

「保釈金は後日お支払いしますんで!」

 

 軍服の上着のポケットに隠してあった超小型スモークグレネードを放り投げ、起爆させる。

 ドイツの科学力は世界一ィ。

 いや今は日本が世界一だけどもそこは置いておいて。

 

「うわっ!ま……待て!」

「待てと言われて待つ馬鹿は……い、ま、せんッ!」

 

ドアの横の壁を強化した拳で何度か殴りつけて破壊し、出口であろう方角へ走り抜ける。

 

「……?おい君、一体どこから……」

「失礼!」

 

 曲がり角から現れたおっさん……あの人現さんじゃね?

 まぁ特に気にせず、顎に渾身の左フック(強化解除済み)を叩き込む。

 これも何度か元帥閣下にやられた技だ。

 顎を殴ると脳震盪を起こして気絶してしまうらしい。

 

 骨を折らないように加減したつもりだったが、今は確認している暇がない。

 合掌して先に進む。

 

「上に向かう階段は……あった!」

 

 窓のないところを見るに、今居るところは地下のはずだ。

 上に向かえば窓の一つくらいあるだろうし、そこから脱出する事にする。

 

「居たぞ!絶対に通すな!」

「あぁもう……あと少しだってのに……」

 

 階段の途中で5人程度に塞がれた。

 もう情報が伝わったか。流石というか何というか。

 こんな時は……

 

「上手くいってくれよ……念糸!」

「な、なんだ、体が……」

「た、隊長、体が動きません!」

 

 よっし上手くいった。

 ハンターハンターではなく結界師の方をイメージして作った念糸で、隊員さん達の体を纏めて縛りあげたのだ。

 まぁ今回はたまたま上手くいっただけなので、この隙に脇を抜けてとっとと退散する。

 去り際にコッソリ拳銃を奪うのも忘れずに。

 使うかどうかは分からんが念の為だ。

 

 

 

 

 

「しっかし入り組んでんな……テレビ局かっつの……」

 

 そのまましばらく走り続けたが、占拠されにくい造りが行く手を阻み、中々思うように上に上がれずにいた。

 もういっそIS展開して上まで突っ切ってやろうかと考えたが、下にいる人が埋まってしまう可能性もあるからそれはしたくない。なるべく。

 となるとやっぱり正攻法で行くしか……待てよ?

 

 前後の安全確認完了。人の気配は近くには無い。

 何でそんな事が分かるのかって?……鍛えてますから。

 

 懐から取り出したドライバーを素早く腰に当て、上着の内ポケットに入れていたメモリも取り出す。

 

「上手くいくといいけど……変身!」

 

【Joker!】

 

 メモリを装填してドライバーを展開、ISを装着する。

 そんでもって……

 

「えぇと、どっかこの辺弄れば……出た!」

 

 ISには操縦者の視覚その他諸々を補佐するハイパーセンサーとやらが搭載されている。全方位視界接続だとか、射撃の際の補佐だとか、そう言った事を全て行ってくれる優れ物だ。

 そしてこれをフル稼働させてやれば……

 

「空気の流れを探知、周辺のスキャニング……建物の構造、把握!これで勝つる!」

 

 俺の視界には、かなり詳細なマップが表示されていた。

 もう少し先に分かれ道があり、右に進めば階段があるようだ。

 さらにそこからこう言ってこう進んで……えぇい、面倒くさい。

 

 上に行っても入り組んだ構造が続くようで、少しげんなりした。

 まぁそんな事を言っていても仕方がないので、装着解除してまた走り出す。

 まだ、先は長い……

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 とは言ってもマップがあるだけでかなりヌルゲーと化した。

 道中出くわす機動隊であろう人たちとか刑事さんとかは全て殺さず無力化。

 我ながら上出来である。

 

 そしてとうとう、この建物の一階に辿り着いた。

 あとは窓の一つでも探して逃げるだけ……なのだが……

 

「そこを動くな!貴様は既に包囲されている!」

「……そのセリフをリアルでまた聞くとは思わなかったなぁ……」

 

 一階に辿り着いた俺を待ち受けていたのは、数十人もの機動隊全員が銃をこちらに向けているという絶望的な状況だった。

 階段の後ろにも前方の廊下にも大量にいる上に、開いた部屋の入り口からも銃が覗いているのが見える。

 おまけに付近には窓無し。あるとしたらずっと先に見える正面入り口くらい、か。

 

(これは……想像以上に詰んでるっぽい?)

 

 ドライバーはもう仕舞ってあるし、取り出そうと少しでも動けば確実に撃たれるだろう。

 いや撃たれても死にはしないが、痛いものは痛い。

 それにこれだけの数に一斉に撃たれたら流石の俺と言えど原型を留めていられない。

 人肉ミンチの完成ってか。今夜のオカズはハンバーグかな?

 そうじゃない。

 

 動こうに動けない、絶体絶命の状況、そんな時だった。

 

「…………何か、来る?」

 

 一応全身強化を施しているために聴覚も過敏になっており、何かが飛んでくるような音をキャッチした。

 この音は何度か聞いたことがあるからすぐ分かる。

 そう、この独特の風切り音は……

 

「……RPG!?」

 

 とっさに身を屈めると、前方から飛んできた砲弾はうまいこと機動隊の間をすりぬけ、近くの壁に命中する。

 爆発するかと思いきや壁に突き刺さり、かなりの量の煙を吐き出し始めた。

 

「ゲホッ……ぐっ、催涙弾だ!」

「何だ一体……ブエックショイ!どこから飛んできた!」

「分かりません!エックショイ!」

 

 隊員の人達が途端にくしゃみを連発し、隙だらけになった。

 勿論俺も被害を受けているが、これなら何とか脱出でき……

 

 ガシッ

 

 ……ガシッ?

 

 突然後ろから腕を掴まれ、

 

「ちょっと失礼するね♪」

「ムグッ!?ン……」

 

 口に押し当てられたこれは……麻酔……か……

 

 薄れゆく視界の中に、一瞬だけ兎が映ったような……

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

――その頃ドイツでは。

 

「咲は大丈夫だろうか……」

「今は多分寝てるわよね……」

「こら、あまり大声を出すな。起こしてしまうだろうが……」

 

 黒ウサギ隊員達が、咲の部屋の前で身を案じているのだった。

 




そういえば仮面ライダーゴーストの情報が結構出回ってますね。
ちなみに私はニュートンの音が好きです。
映画館で聞いた時は中々衝撃でしたが。


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第14話 世の中にはそっくりさんが3人いるらしい

ようやくッ……!
ようやく2-4突破……!
長かった……!
まさか1週間以上かかるとは……


「ん……むぅ…………ミツザネェ!」

 

 自分の寝言で目を覚ました。

 我ながらなんてセリフ口走ってんだ。

 

「……ここは……」

 

 確か俺は脱走しようとして、あと一歩のところで誰かに捕まって……

 

「眠らされたんだっけか……にしても何処だよここ」

 

 周囲には怪しげな機械がずらりと並んでおり、モニターに表示された意味不明な数字の羅列がぼんやりと部屋全体を照らしていた。

 なんて言うか、すっごく「科学者の部屋」って感じだ。

 主にマッドな方面の。

 全部私のせいだとか言いそうなタイプ。

 

「お目覚めですか?」

「ッ!?」

 

 暗闇から突然現れたのは、銀髪の美少女……って、

 

「ラ、ラウラ……か……?」

 

 小柄な体格、流れるような銀髪、目は閉じているから確認できないものの、外見がほとんど一致していた。

 だが声が違うし、何よりラウラはここまで流暢に日本語は話せない。

 

「私はクロエ。クロエ・クロニクル。こちらへどうぞ、束様がお待ちです」

 

 それだけ言うとまたゆらりと消えてゆく。

 

「お、おいっ!……何なんだよ一体……」

 

 タバネサマ……とやらが俺を攫った張本人なのだろう。

 ん?タバネサマ……たばね様……束様?

 

 ……その名前にすっごく聞き覚えがあるんですけど……

 

「嫌な予感しかしねぇ……」

 

 とは言え今は従うほかない。

 クロエ……さん?が消えていった方に向かって、とりあえず歩いて行くことにする。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「こちらです」

「お、おぅ……」

 

 しばらく進むとまたぬるりと現れ、扉を開いてくれた。

 この人は良い人なのか何なのか……

 と言うかラウラに瓜二つなところも色々聞いてみたいんだが。

 

 ……うん、とりあえず聞いてみよう。

 少しでも時間を稼

 

「早く入ってください」

「うおッ!?」

 

 け、蹴り飛ばして強引に部屋に入れおった……

 蹴られた場所をさすりながら前を向くと、誰かが立っているのが見えた。

 

「やーやー不思議くん!ようこそ我が家へ!」

「眩しっ!」

 

 暗い部屋に突然光が溢れ、目を閉じる。

 と言うか今の声……どう聞いてもゆかりんボイスだったよね?

 え、何?世界一可愛いよとでも言えばいいの?

 いや確かに前世でも今世でも王国民やってるけどさ。

 ちなみにこの世界ではもうゆかりんは結構な年……何でもない。

 

 しばらく経ってようやく目が慣れ、目の前にいる人物を把握した。

 まず目を引いたのは頭に着いているメカニカルなウサ耳、その次に超弩級の胸部装甲。

 戦闘力(サイズ)は……馬鹿な!?90を超えている!?

 

 ……アホやってる場合じゃないな。

 

 ピンク……というか紫か?

 日本人離れした髪に不思議の国から出てきたかのような青を基調にしたエプロンドレス。

 そう、この世にISをもたらした天災科学者、

 

「私は篠ノ之束!まぁ知ってるだろうけどさ」

 

 ……その気になれば一人で世界制服もできるであろう最恐の科学者が、目の前に居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 お、落ち着かねぇ……

 とりあえず椅子に座らされてテーブルを挟んで向かい合っているんだが、じぃっとこちらを見つめるばかりで何も話しかけてこない。

 正直逃げ出したい。

 確実に捕まると分かっているけど逃げ出したい。

 

「束様、夕食の準備ができました」

「おー!待ってたよくーちゃん!」

 

 あぁ、飯を待ってたのか……

 って何だあの皿の中身……

 あれは…炭?その横のはマジで分からん……

 半透明で四つ繋げたら消えそうな見た目の何かが置いてあった。

 篠ノ之博士はそれをフォークで突き刺し、次々と口に運んでいく。

 

「うん!今日も美味しいよくーちゃん!」

「ありがとうございます。束様」

 

 ……誰でも良い……

 誰でも良いから……助けてくれッッ……!

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「さて!本題に入ろうか!」

 

 その後、食後の紅茶……らしい何やらざらざらとした物体を流し込んだ篠ノ之博士は、ようやくこちらに話しかけてきた。

 もっとも俺のSAN値は既にピンチなんですけどね。

 

「は、はい……」

「じゃあ質問させてもらおうか。君、一体何者?何で君からコアの反応があるの?」

「……ええと……」

 

 コアの反応……と言うのはまぁ、俺の懐に入ってるドライバーの事だろう。

 生みの親だものな。そりゃ一発でバレるわ。

 

 ……どう説明すれば良いんだ?

 

 まさか神から貰ったなんて言っても信じてもらえないだろうし、かと言って誤魔化そうにもこの人には通用しないだろうし……

 てか何でこんなアッサリバレるように作っちゃってんだよ。

 やっぱりダメダメじゃねーかあの神。

 

「ねぇ、早く答えないと……分解(バラ)すよ?」

「は、はいぃ!!」

 

 ……えぇい、こうなりゃヤケだ。

 正直に全部ぶちまけてみよう。

 嘘なんて言おうものなら確実に殺られる。

 いや死すら生温い「何か」をされる。

 

「えっと……かくかくしかじかまるまるうまうまで……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……で、貴女に捕まって現在に至るわけです……」

「…………」

 

 と、とりあえず全部正直に話したが……

 俯いて何も反応が無い……

 

「あ、あの「面白い!!!」…………はぇ?」

 

 がばっと顔を上げた篠ノ之博士は、さっきまでのが嘘のように目を輝かせていた。

 そしてそれに驚いて変な声を出す俺。

 

「面白い面白い!実に面白い!君、名前は?!」

「えっあっ……か、茅野、咲……です……」

「そうかそうか、さっくんか!これは良い実け……ゲフンゲフン、研究対象ができたもんだよ!」

 

 実験って言ったよね?

 絶対言ったよね?

 

 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、背中をバンバン叩いてくる篠ノ之博士。

 普通に痛いのでやめていただきたい。

 力強すぎるだろ……

 こんなんじゃ将来絶対男が寄り付かな

 

「何か言ったかな?」

「い、いえ、別荘もございません」

 

 

 とりあえずなんか知らないけど天災博士に気に入られてしまった……

 

 

 ……ラウラ……シュヴァルツェ・ハーゼのみんな……

 俺、生きて帰れないかもしれない………

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

――その頃のドイツ。

 

「や、やはり気になる……先程から何も物音がしないではないか……」

「確かに静かすぎるな……というか寝息すら聞こえなくないか?……まさか、息をしてないんじゃ!」

「開けるぞ、咲!」

 

 ドアを開けたその先には……

 

「い、いない……だと……」

「さ、咲!どこだ!咲——!」

 

 ……ちょっとした騒動が起こりつつあった。

 




……そろそろ原作入りさせなきゃマズいですかねぇ……
なかなかタイミングが掴めないというか何というか……


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第15話 ハーレム王に、俺はなりません

そういえばデレステを始めました。
3回のリセマラでSSR蘭子をお迎えした私は勝ち組だと信じたい。


――第二回モンドグロッソ決勝戦から、2日が過ぎた。

 

 あの日、織斑選手が棄権という扱いになった為に大会の優勝は自動的にドイツに決まってしまい、全世界の人々が日本政府、ひいては織斑選手にもブーイングを送った。

 ドイツは頭を抱えた。

 しかしどこから嗅ぎつけたのか、一社のテレビ局が織斑一夏誘拐事件の一連の騒動を纏めてニュースとして放送。

 その内容は瞬く間に世界中に広がり、これまでブーイングを送っていた人々は一斉に掌を返し、大会二連覇の可能性を捨ててまで弟の元に向かった織斑選手を褒め称える声が上がり始めた。

 

 

 

 ……ちなみに、一連の騒動を撮影し、送りつけた人物はこう語ったという。

 

※音声加工済み

「いや、これ渡しておかないと後で何て言われるか分からないし……いやいや、こっちの話だよ。別に一々ダメ神だの何だの言われるのがうざったいって訳じゃなくてだね……」

※長すぎるため割愛

 

 後日、このインタビューの内容を収録しておいた媒体からはデータが消え、インタビューに関わった全ての人間の記憶からも抹消されてしまったらしいが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 ――そして世間が騒ぎ続ける中、こんな声も上がり始める。

 

『結局織斑一夏を誘拐したこの犯人は何者なのか』と。

 

 ニュースで使用された動画では、建物から出てきた織斑一夏を姉である千冬が抱きとめ、その後更に建物から出てきた犯人と思しき男を拘束するところで終わっていた。

 

 だがしかし、確保されたその日のうちに犯人が脱走。

 顔などはともかく、名前などが全く分からない状態で逃してしまった為に素性を調べることも出来ず終いだったらしい。

 

 

 ――そして、その犯人()は今。

 

「何やってくれてんだよあんの大馬鹿神があぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ただひたすらに己の不運を嘆いていた。

 まさか全世界に顔が知れ渡った挙句、織斑選手から優勝を取り上げた極悪犯みたいに騒がれるとは。

 こいつぁ1本取られたぜHAHAHA。

 笑い声じゃねえよアホ。

 

「なんでわざわざこんなシーンだけ切り抜いて……助け出したのは俺だって言ってんのにてめえら話聞かなかったじゃねえかこんのマスゴミに無能警察があああぁぁぁ!!!!!」

「まーまーさっくん、一旦落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかこん畜生オオオオオオオォォォ」

 

 心の底から叫んだのはいつ振りだろうか。

 ……割と最近だった。

 

「ハァー……ハァー……オーケィ落ち着け俺……クールに行こうクールに…」

「そうそう、落ち着いてこれでも飲んで♪」

「おぅサンキュ……!!?!??!!!!???」

 

 渡されたカップの中身を一息で飲み干すと、まず喉が焼けつき、焦点は定まらなくなり、瞳孔は開き、全身から汗が噴き出し、10秒ほど痙攣したのちに……

 

「あ、美味い」

「くーちゃんが作ったものが不味いわけがないのだよ!」

 

 何と言うか……全身から邪気が抜け出たような気がする。

 言うなればあれだ。ジョジョ4部のトニオさんの料理みたいな。

 一度食ってみたいとは思っていたがこんな形で叶うとはな。

 ちなみに味は完全にオレンジジュースでした。

 一体何が材料になっているんだろうか……

 

「さて、落ち着いたところで話を戻そうか」

「了解……俺の今後について、だよな?」

「そうそう、君がまぁ転生者?って奴で、男なのに何故かISに乗れる上に専用機まで持っちゃって……」

「万が一身バレしようものならドイツがヤバいんだよなぁ……どうしたもんかねコレ……」

 

 今回の騒動の結果ドイツが優勝してしまった為に、この犯人はドイツの回し者なのではないかという推測も挙がっている始末。

 あながち間違っていないのがまた恐ろしいところである。

 

「このまま束さんの研究材料になってくれるなら別に構わないけど?」

「それだけは絶対に嫌だ。俺は何が何でもドイツに帰る」

 

 きっと隊のみんなも心配しているだろう。

 ちなみに携帯は自室の机の上に置いてあった為今は持っていないし、ISで連絡を取ろうにも向こうの番号を知らない。八方ふさがりである。

 だったら飛べばいいだろとか筋肉モリモリマッチョマンの変態あたりに言われるかもしれないが、それこそあっという間にとっ捕まってしまうので駄目だ。

 戦闘機と鬼ごっこなんてしたらまず負ける。

 主に俺の経験不足が原因で。

 

「う〜〜ん…………あっ!じゃあこうしよう!」

「何か良い案があるのか?」

「フッフッフッ、この束さんを侮っちゃあいけないぜ。IS学園に入っちゃえばいいんだよ!」

「IS学園って……あの女だらけの夢の国とか呼ばれてる?」

「まぁIS動かせるのは普通女性限定だからねー。君のそれが本当にISなのかはともかく。ひょっとして君女の子だったりしない?」

「生憎だがちゃんとついてる」

 

 驚いたことにIS学園の中では治外法権が適用されるらしく、一先ず入ってしまえば日本政府も俺に手出しは出来なくなるんだとか。

 だが……

 

「入学試験とかの段階で捕まるんじゃないか?」

「うーーん……その可能性はほとんど無いんじゃないかな」

 

 俺の予想と正反対の事を口にする篠ノ之博士。

 

「顔は割れてるし、こんだけ騒がれてるんだから絶対捕まるって。てか最悪の場合処刑されるまである」

「いや、忘れてるかもしれないけど君、現時点で世界に1人の男性操縦者だよ?それを普通に警察に引き渡すような大馬鹿はいないんじゃない?この世のほとんどの奴らは馬鹿だけど」

「……あー……そういやそうだった……」

 

 となるとアレか?

 女子しかいない学校に1人だけ男子が入ってそこからハーレム王に俺はなる的な展開になっちゃうのか?

 生憎俺はハーレムは苦手だし、この世界に来てからラッキースケベが発生した事は一度も無い。念のため。

 というかその役はあの主人公君、もとい一夏君の役目だろう。お好きなだけToLOVEるして、どうぞ。

 

「まー入ったら入ったでハーレム作るなり何なり好きにすればいいさ。とりあえず今は……」

「今は?」

「さっくんを納得いくまで調べ尽くさないとねーーーー!!」

「ちょ、おまっ、馬鹿どこに手ェ突っ込んでんだ離せ!年増の癖にベタベタくっつくんじゃねぇ!」

「ハァ!?束さんまだピチピチの23歳だよ!?」

「あぁそりゃ失敬随分と老け顔あだだだだだ!」

 

 ……ちなみに咲の精神年齢は一応束より年下である。

 一歳だけだが。

 

 細胞レベルでオーバースペックな科学者と魔力強化によって耐久力だけはやたらと高い転生者の争いは、クロエが夕食の用意を完了させるまで続いたのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

――そしていつも通り、ドイツでは……

 

「……発信機の反応は?」

「ある地点から突然反応が途絶えている……恐らくこの地点の周辺にいると考えて間違いないだろう」

 

 

「……大丈夫かしら……」

「信じよう、咲を」

 

 下らないケンカの裏側で、何やら大事になりつつあった。

 




次回、お姉ちゃん達が頑張る……
かもしれません。
ここまで読んでくださった方、闇に飲まれよ!
……なんつって。


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第16話 勢いは大事

今回地味に長いです。
あとサブタイの通り……ね。


「……そちらの様子はどうだ」

「異常無し、引き続き出入り口と思しき場所の監視を継続する」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 太平洋のとある場所に位置する名も無い無人島……いや、今は8人ほど人間が居るが、その島の中心には現在、真っ白な立方体が居座っていた。

 一辺の長さはおよそ50mあり、内部からの音は完全にシャットアウト、耐火性対爆性ともに万全、窓は存在しないが内部には陽光が差し込む部屋も存在する謎仕様。

 要するに束のラボである。

 

「……なぁ」

「……」

「……オイ」

「……」

 

「……老けg「何か言ったかなぁ?」

 

 椅子に座る俺と、その傍で作業に没頭する束。

 正直暇で暇でしょうがないです。はい。

 

「一体何時になったらこっから出してくれんだよ……もう一ヶ月だぞ?」

「そうは言ってもねぇ……まだまだあと二ヶ月は無いと解析終わらないし、どうせ君も暇だろ?」

「だから一刻も早く帰りたいっつってんだろ……」

 

 大掛かりな機械の中心には、俺のISの本体?であるダブルドライバーとジョーカーメモリが置かれている。

 神が造ったISを解析しようとしたところ厳重に厳重を重ねてその上に厳重で更に駄目押しに厳重を重ねたようなプロテクトがかかっていたようで、かなり苦労しているらしい。

 あの束が一ヶ月かかっても解析しきれないだけの事はある。

 

「今のところ判明してるデータはほとんど役に立たないものばかりだし……コア・ネットワークには一応繋がってるみたいだけどさ」

「えぇっと、ISの相互情報交換の為のデータ通信ネットワーク……だっけ?」

「そうそう、なんだけどねぇ……必要最低限の情報以外は発信してくれんのよこの子。照れちゃって可愛いんだからまったく」

「さいですか」

 

 機械オタの考える事はよく分からない。

 

「それよりもさぁ」

「んだよ」

「さっきから外にいる奴らが煩くってしょうがないから、片付けてきてくれない?」

「外……?」

 

 ラボ内にいる為に外の様子なんて確認しようもないのだが、監視カメラでもあるんだろうか?

 

「まぁ行かなくても別にいいけどねー。そのうちくーちゃんが全部やっつけちゃうし」

「やっつけるって……」

「?普通に殺すけど?」

 

 ――ダッシュで外に向かう。

 例え関係無い人だとしても殺すのは良くない。

 よっぽどの極悪人ならともかく、こんな島まで来たということは調査団か何かだろう。

 何の罪もない人をみすみす殺させるほど俺は腐っていない。

 何と言っても主人公ですから。

 

 ……自分で言ってると虚しくなってくるな。

 

 

 

 一応顔を隠すためにバイザーを装着し、外に向かう。

 どうかまだ、クロエ……さんが気付いていませんように――

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

「……」

「「「「「……」」」」」

 

 ――なんだこの状況。

 

 クロエさんとシュヴァルツェ・ハーゼのみんなが睨み合い、お互いを牽制し合っている。

 ちなみに俺はそこから50mほど離れた木に隠れてます。

 まだ戦闘は始まっていないようだけど……

 

「……」

「……」

 

 ラウラが思いっきり怪しげな目で睨んでる……

 並び立つと本当にそっくりだよなぁ……

 そりゃ気になるわ……

 

 

 

 

 結局その後10分、両者一歩も動かない状況が続いたので強硬手段に出ることにした。

 一先ず近くの木によじ登り、そこから音を立てないよう慎重に前方の木へ飛び移る。

 

「よっ、ほっ、と」

 

 木の上を移動し続け、やがて現場に到着したので、

 

「とうっ!」

「なっ!?」

「……」

 

 なるべくカッコよさそうな声で叫びながら飛び降り、間に割って入る。

 

「争いはやめたまへ!私の顔に免じて!」

 

 一応今はバイザーで顔が隠れてるから、バレてはいない……よね?

 ちなみに今のは日本語で言いました。念のため。

 

「……咲?」

「ッ!?」

「その反応……やっぱり咲か!無事だったんだな……良かった……」

「ちょッ、あの、だ、抱きつかないで……」

 

 名前を呼ばれてつい反応してしまい、俺に気づいたラウラが抱きついてきた。

 あああ女の子の体が俺の体にていうかいい匂いするしああああああ。

 てか俺の精神年齢的に考えるとこれ犯罪にならないだろうか。

 俺はロリコンじゃない。恐らく。多分。

 

「捕まったって聞いて……行方もわからないって……もう……会えないんじゃないかって……」

「あぁ……うん、ゴメンな。心配かけて」

 

 抱きしめ返すのは流石に俺の脳がオーバーヒートする気がするので、頭だけ撫でる。

 こんな小さい子泣かせるとかアホか俺は。

 

「茅野様のお知り合いでしたか……ですが、侵入者は全て排除しろと束様から仰せつかっています。そこを退いてください」

「断る。みんな俺の大切な家族だ。そっちがその気なら全力で抵抗させてもらう」

「……」

「……」

 

 ――沈黙が流れる。

 みんなが居る手前思いっきり強がってしまったが、ISが無い今の俺ではクロエさんに勝てないだろう。

 魔力強化だけで……5分保てば良い方か?

 無理矢理にでもドライバーとメモリを持ってくるべきだったか……

 

 だが今は退くわけにはいかない。

 この世界で右も左も分からなかった俺に優しくしてくれたこの人達を、全身全霊を賭けて守る。

 それが今俺にできる……精一杯の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………よく言った、咲くん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?今の声……ってコレ……!」

 

 突然頭の中に声が響き、俺の目の前にはラボに置いてあるはずのドライバーとメモリが現れた。

 慌てて掴み取って腰に巻きつけると、更に別の声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

『始めまして、私はジャーヴィス。貴方のIS「ダブル」のコアとして、貴方の相棒として、誠に勝手ながら仕えさせて戴きます』

『……なんかいきなり色んなことが起こりすぎて、言いたい事は山ほどあるが……この場面ならアレを言うべきか?逆かもしれんが聞いてくれジャーヴィス、いや、相棒』

『何なりとお申し付けください。ご主人様』

『……悪魔と相乗りする勇気、あるか?』

『私の魂は常に貴方と共に。どこまでもご一緒させて戴きます』

『そいつは何より……んじゃまぁ、よろしく頼む』

『畏まりました。【Cyclone!】』

 

 

 

 

 

「さ、咲、何だそのベルトは……」

「あーー……詳しい事はまた後で話す。取り敢えず今は……【Joker!】下がっててくれ」

 

 あまりに突然すぎて色々と混乱しているが、今はまぁ、盛大にカッコつけさせてもらおうか。

 頭の中では仮面ライダーWのオープニングテーマが流れ始め、まるで体温が上昇していくような感覚を覚える。

 ジョーカーメモリを持った右手を顔の左側に構えあの時と同じように、今度は二人で――叫ぶ。

 

『「変身!」』

 

 いつの間にかベルトに装填されていたサイクロンメモリを奥まで押し込み、ジョーカーメモリも装填、ドライバーを展開する。

 

【Cyclone! Joker!】

 

 一ヶ月前のあの日と同じように旋風が巻き起こり、装甲が装着されていく。

 ただしあの時とは何もかもが違い、左半身は黒く細身、右半身はメタリックグリーンで左側と比べるとほんの少しゴツく見えるデザインと、ISにしては珍しい左右非対称型になっていた。

 額にはダブルフィーラーが付き、1人だけで変身した時よりも仮面ライダーWらしさが上がっている気がするが、見た目はやはり普通もISである。

 

「……やっぱまだ駄目か……まぁいいとして、クロエさん?」

「……何でしょう」

 

 クロエさんは突然俺がISを装着した事にあまり動じた様子は無いが、背後にはきっと目を丸くした隊のみんながいるんだろうな。

 さっきの台詞が恥ずかしすぎるから絶対振り向かんけども。

 

 とりあえず今は目の前の事に集中しようと、一歩ずつクロエさんに近づきながら喋り続ける。

 

「……一つ、俺は隊のみんなに嘘を吐いた」

「……?」

 

「二つ、警察及び機動隊の方々に迷惑をかけた」

 

「そして三つ、女の子を……泣かせてしまった」

「……一体、何が言いたいのですか?」

 

 意味が分からない、と言いたげな表情で問いかけてくるクロエさん。

 まぁいきなり言われたら意味が分からないのも無理はないだろう。

 

「……俺は自分の罪を数えたぜ。さぁ、クロエさん……いや、クロエ・クロニクル」

 

 左手を前に突き出して相手を指差し、決め台詞を口にする。

 

「お前の罪を……数えろ!」

 




……さぁて、ご都合主義のタグを追加してこなくては……


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第17話 シリアスは3分まで

今回、自分で書いてて恥ずかしくなるような台詞があったりなかったり。
おかしいなぁ……
あと短いです。


「……罪を数えろ、ですか……」

「あぁそうだ、だがまぁ今は良い、この戦いが終わったらゆっくり……」

 

 脚と腕に力を込め、高速移動の構えを取る。

 

「……数えさせてやる」

 

 真正面から思いっきり突進していく。

 いつものように後ろに回りこまなかった理由は至極単純、木が邪魔なのである。

 ここは孤島の森の中、訓練場の障害物の無い環境とは訳が違う。

 とは言え文句を言うわけにはいかない。

 

「先ずはお手並み拝見!」

 

 突進した勢いのままに、正面に拳を突き出す。

 

 だが……

 

「遅すぎます」

「なっ……ガハッ!」

 

 いつの間にか俺の横に移動していたクロエさんに脇腹を蹴り抜かれ、そのまま3mほど吹き飛ばされる。

 生身でIS吹き飛ばすとか……流石と言うかなんと言うか。

 

「ゲフッ……束はともかく、アンタも大概バケモンだなオイ……」

「今ので力の差はお分りいただけたはずです。そこを退いてください」

「だーから嫌だっての。俺を動かしたけりゃ……そうだな、今やってる仮面ライダーのサブライダーのベルトを持って来れば考えてやる。考えるだけな」

 

 アレ今価格高騰してるんだよなぁ……

 おのれ財団B。

 

「……貴方の事を束様は大変気に入っておられます。私も貴方を傷つけるような事はしたくありません」

「じゃあ見逃してくれよ……融通のきかない奴は嫌われるぞ?」

「それは……できません。束様の、御命令です」

「……そうかよ」

 

 どうやら本当に頭が固いらしい。

 もしくは束を盲信しているか……

 何にせよ、このまま放っておいてはいけない気がする。

 

「じゃあ交渉決裂、とりあえず……」

 

 横に吹き飛ばされた為に、今はクロエさんの向こうにいるみんなに(ドイツ語で)叫ぶ。

 

「今すぐこの島から出てくれ!事情は帰ってから話す!」

「なっ……そんな事できるか!私達も戦「頼むから!」ッ……」

 

 ISさえあればと思っていたが撤回する。多分今の俺ではクロエさんに勝てない。

 さっきの蹴りのダメージが想像以上に大きくて叫ぶのも結構辛いし。

 

「俺は多分殺されはしない!絶対に生きて帰る!ゲフッ……だから早く!」

「……」

 

 

 

「……行くぞ」

「……お姉様?」

 

 最初に動いたのは、クラリッサだった。

 

 

「咲?貴方が私達に嘘を吐いたというのは……本当ですか?」

「……最初に会った時、言っただろ?記憶喪失ですって……」

「え?アレの事ですか?」

「え?」

「え?」

 

 ――不味い、シリアスが薄くなっている。

 

「いや、アレ結構罪悪感あったんだけど……初対面だったし……」

「あんなバレバレの嘘で騙される人はそうそういないかと……」

「マジで?」

「マジです」

 

 …………。

 

「い、いやホラ、他にも何回か嘘吐いたし!前のプリンも……あっ」

「え?アレ犯人咲だったの?寝ぼけた私が食べたって事になったよね?」

 

 久し振りに登場したヴァネッサ。

 

「だ、だって実際半分は食ってたし……」

「半分って事は……もう半分は咲が食べたのか?!」

 

 ちなみにあの時食ってしまったのはラウラの分だ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 シリアス、短い間頑張ってくれてありがとう。

 次はもう少し長く働いてくれ。

 

「まったく……罰として、帰ったら1週間デザート抜きだ!いいな?」

「そ、そんな殺生な……って、え?」

 

 

 

「……だから、絶対無事で帰って来い!約束だ!」

 

……約束、か。

 

「了解しました!ラウラ大尉!」

「よろしい!」

 

 敬礼し、森の向こうに消えていく隊のみんなを見送る。

 何故かクロエさんは手を出してこなかった。

 

「……私には分かりません。家族とは……そこまで大事なものなのですか?自分の命を賭けるほど、価値のある物なのですか?」

 

 この人がこんなに動揺しているところを見るのは初めてだなと思いつつ、話を続ける。

 

「……例えばの話だがな、クロエさん。もしも、万が一……いや本当に有り得ない事だけど束が危機に陥った時、アンタならどうする?」

「そんなの……命を賭してお守りするに決まって……!」

 

 ハッとした顔で目を見開くクロエさん。

 ……初めて見た時は随分と驚いた、白目に当たる部分が黒く瞳は金色をした、不思議な色の目だ。

 

「……アンタと束の関係はよく知らんけどさ、家族ってそういうモンなんだよ。俺はまぁ……前世ではこんな大した事言える人間じゃなかったけども、それでも今の俺にとって一番大切なのは、隊のみんななんだ」

 

 ラウラに家族だと言われた時は本当に嬉しかったなぁ……

 涙腺ダイレクトアタックと言ったのもあながち間違いではない。

 実際あの時は半泣きの状態だったのだ。

 

「……私などが……」

「?」

「私などが、束様の家族で……本当に良いのでしょうか?」

「俺は逆に駄目だと言うところが想像できん」

 

 むしろ嬉々として抱きついてくるまである。

 

「とりあえずラボに戻ろう。んで束に聞いてみればいいさ」

「……分かりました。ですが……」

 

 まだ何かあるのかねこの子は。

 

「侵入者を討ち漏らした事をどう説明いたしましょうか……?」

「そ、それは……俺が責任取る!なぁに心配はいらん……多分」

「……フフッ」

「ちょ、今笑った?笑ったよね?」

「笑っておりません」

「いや絶対笑ったって!なぁ!ほらもっかい!ワンモアプリーズ!」

 

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――そしてその後。

 

「……く、くーちゃんが……デレた、だと……?い、一体何をどうしたのささっくん!?」

「ちょ、おま、説明するから離せ!締まる!締まってるから!」

「……♪」

 

 束は意外な反応を見せてくれたのだった。

 




主人公が主人公するお話でした。
これはおかしい……おかしくない?


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第18話 ハッピーライフ・ハッピーホーム・タm(ry

遅れて申し訳ありませんでした。
いやぁ大会は強敵でしたね……
数日間帰宅時間が22時半過ぎるのはもう嫌でち。


 ついに……

 

 ついにッ…………!

 

「俺は帰ってきたぞおおおおおォォォ!!!!」

 

 時は流れ、年すら跨いで季節は既に春。

 咲はおよそ六ヶ月ぶりにドイツに帰って来ていた。

 

「アホみたいに長かった……途中めげそうにもなった……!駄菓子菓子!だぁがしかし!今の俺はまさに自由!待ってろマイファミリイイイィィ!!!!」

「別にそんな急がなくたっていいじゃん、ここしばらく毎日電話してたでしょ?」

「それとこれとは別なんだよ!」

 

 それにしても本ッ当に長かった。

 ダブルの解析が終わった後も束は俺をドイツに帰らせる事を渋り続け、1週間前にようやく帰国の約束を取り付けたのだ。

 

 ちなみに五ヶ月前にはドイツ軍に繋がる番号を束に入手させ、それからはISをフル活用して毎日みんなと話していた。

 最初に話した相手はスネーク元帥でした。いやぁ驚いた。

 

「っと、送ってくれてサンキューな。助かった」

「もっと褒めてもいいのよ?」

「いや褒めてねえし」

 

 ちなみに今いる場所はシュヴァルツェ・ハーゼの寮の屋上である。

 束の自慢の小型ロケットで送ってもらいました。

 何でも絶対に衛星に感知されないんだとか。相変わらずぶっ飛んだものを造る。

 

「さーて景気付けに飛び降りるか!とうっ!」

「ちょっ、さっくんキャラ!キャラがぶれてるよ!」

「知ったことかああああぁぁぁ!!!」

 

 屋上から飛び降り、全身強化して着地。

 ここ数か月のクロエさん&束との特訓の成果か、発動速度と強度に磨きがかかった気がする。

 とりあえず100m程度の高さまでなら衝撃を緩和できる事はこの六ヶ月の間に確認した。

 こう……足の裏から魔力波(仮称)をだして、落下速度を低下させるのだ。

 そのうち空も飛べるようになるかもしれん。

 無理だけど。

 

「よっと。いきなり飛び降りるからびっくりしたよさっくん」

「俺は普通についてきたお前が怖いよ」

 

 細胞単位でオーバースペックとはよく言ったものである。

 一体何をすればこんな人間になるんだか。

 

「まぁいいや、とりあえず訓練場行きゃ誰かいるだろ!うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「やれやれ……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「…………居ねぇ…………」

 

 勢い勇んで訓練場まで来たものの、誰も居ない。

 訓練をしていたような形跡も無かった。

 

「今日は休憩の日なんじゃないの?」

「そんなどこぞの神社じゃあるまいし……」

 

 昨日ちゃんと帰宅する旨を伝えておいたはずだ。

 ラウラの大喜びする顔が眩しかった。

 

「……とりあえず寮見に行くか。誰か居るかもしれんし」

「あいあいさ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし寮にも誰も居ない。

 というか当たり前だが全部屋鍵がかかってて確認しようがなかった。

 

「人の気配はしないから多分中にも居ないんだよな……残るは……」

「……さっくんの部屋だけ、かな?」

「つっても鍵無いんだけどな」

 

 まぁ念の為と言うことで、自室の前まで来た。

 とりあえず……

 

「ノックしてもしもーし」

 

 某波紋使いの如く拳でドアを叩く。

 当然ながら返事はない。

 

「鍵は……あれ?開いてる?」

 

 ノブを捻って引っ張ると、引っかかる事なく開いた。

 

 まさか敵襲が来たのかと思い慌てて部屋に入ると、途端に連続して破裂音が響く。

 

「なっ!?」

「咲の帰還を祝って!」

()——ッ!!」

 

 飛んできたのはクラッカーから飛び出した大量の紙テープだった。

 しかもバズーカタイプだからテープの量が多い。

 絡まって動けねえ。

 

「あ、あの……皆さん?」

「フッフッフッ……一度はコレをやってみたかったのだ……」

 

 そう言ってラウラが取り出した板には、『ドッキリ大成功』の文字。

 しかもご丁寧に日本語で書かれている。。

 って言うか……

 

「みんな日本語喋ってるのは何故……?」

「そりゃあ勿論……」

「咲を驚かせようと思って……」

 

 クラリッサ以外のみんなが流暢に日本語を話している。

 不思議な光景だ。

 

「日本ではこういったドッキリが流行っていると聞いてな!どうだ?ドッキリしたか?」

「あぁした。物凄くドッキリした。ただその前に……」

「む……何だ?ひょっとして文字を間違えたか?」

 

 慌ててボードの文字を確認しだすラウラ可愛い。

 いやそうではなくて。

 

「……ただいま」

 

 ハッとしてお互いに顔を見合わせるラウラ達。

 そして一斉に口を開き、

 

「「「「「おかえり!!」」」」」

 

 俺はようやく、本当の意味で帰ってきたのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……異世界、ねぇ……」

「ラノベでは散々見た設定ですが……」

「まぁ正直、あまり驚くことではないな」

「軽っ?!」

 

 テープやら何やらの片付けを終えてみんなに俺の事情を話すと、何故かあまり驚かれなかった。

 解せぬ。

 

「向こうとこちらの違いは「ISが有るか無いか」だけなのだろう?まぁ神が実在するというのには驚いたが」

「アレを神と呼んでいいのかはよく分からんけどな……」

 

 失敬な、と何処かから声が聞こえた気がしたが気にしない。

 

「それにその……日本語で言うと……」

「魔力的な何某?」

「それだ。アレを見せられたら大抵の事では驚かなくなると思うぞ?手からビームが出る人間などそうそう居ない」

「あー……確かに……」

 

 最早使うことは生活の一部のようになっていて気付かなかったけど、この中で一番人外じみてるのは俺だったな。

 順調に危ない方向に染まっている気がする。

 

「むしろ私が一番驚いたのは年齢ですね……まさか同い年だったとは……」

「あー、まぁ向こうでは18歳だったしな」

「弟が一転お兄ちゃんに……コレは新ジャンルの予感が!」

「ねぇから」

 

 この隊の中ではクラリッサが一番年上だったので、必然的に俺も最年長という事になる。

 しかも誕生日はクラリッサの方が遅いので俺の方が一応年上という事に…

 

「まぁとりあえず、これからもよろしくって事で」

「うむ!あぁ、そういえば元帥閣下が呼んでいたぞ?」

「自由への逃走!」

「あ、こら!窓から逃げるな!」

 

 どうせ碌でもない事に決まっている。

 寮の外に生える木の上を飛び回りながら、久々の我が家を堪能したのだった。

 

 

 

 

 ――ちなみにものの数分で元帥閣下直々に捕まえられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……束さんはいつまで此処にいればいいのかなー?」




さぁてようやく原作入りです。
どうなる事やら。

そういえば、番外編とか書いた方が良いんですかね?
と言うか書きたいです。
ギブミーネタ。


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第19話 別れ

……次回から原作入りすると言ったな。
あれは嘘だ。

すいませんどうしてもキリのいいとこまでやりたかったんですごめんなさい。


「……どうしても、行くのか?」

 

 早朝、寮の前。

 いつになく真剣な表情で咲を見つめるラウラが居た。

 

「ああ。俺はもう……此処には居られない」

「そんな事はない!きっと他にも方法が……」

「……ゴメンな。今まで……楽しかった」

「待て!待ってくれ!咲————!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんの?」

「感動的なお別れごっこ」

「日本のドラマを真似てみたのだ!」

 

 ヴァネッサからのツッコミが入り、中断してしまった。

 ここからがいいとこなのに。

 

「まぁ確かにもうすぐ離れ離れにはなるけどさ……何?ひょっとして練習?」

「その事言わないでくれ憂鬱になる……」

 

 第二回モンドグロッソから既に1年以上が経過し、俺は15歳(精神年齢では23歳)になった。

季節は冬。1月ももうすぐ終わる時期である。

 

 要するに俺はもうすぐIS学園に入らなきゃいけない……というか束に入れと脅されている。許すまじ。

 まぁいつまでも此処で匿ってもらうのにも限界があったので、仕方のない事ではある。

 ちなみに元帥閣下には、

 

「嫁の一人や二人作ってこい」

 

 と、無駄に渋い声でありがたくもなんともないお言葉を頂いた。

 俺はハーレムものは苦手だと何度言ったら分かるのか。

 

 ちなみに俺は直接IS学園に運ばれ、極秘の新入生として処理されるらしい。

 裏口入学染みた方法だと思うと良心が痛むが、そんな事気にしてたらこの先やっていけないとも束に言われた。

 そういえばあの主人公君……もとい一夏君はどうなるのかね?

 なんかの拍子に動かすとか?

 いや仮にも兵器であるISに触れる機会なんてそうそう無いと思うんだが……

 

 ……気にしたら負けだな。うん。これが今後の俺のスタンスになりそう。

 

 

 

 そういえば俺の専用機……ダブルだが、束の解析の結果コアに人格がある事が分かったそうだ。

 AIではなく、一個人としての人格があるらしい。驚いた。

 それがまさか実写版アイアンマンのジャーヴィスになるとはこのリハクの目をもってしても以下略。

 ちなみに神によって作られたためか前世の俺の記憶をある程度持ち、ネタにも対応可能な素敵仕様。

 貴方のボケライフに的確なツッコミをお約束します、と紙に書かれて送られてきた。速攻で破って捨てた。

 

 ガイアメモリに関してはは現時点でサイクロン、ヒート、ルナ、ジョーカー、メタル、トリガー、アクセル、バード、ダミーの計9本が手元にある。

 一応武装として設定されているようで、基本的にはダブルの拡張領域に格納され、必要な時に取り出す感じだ。

 ……なんで基本6本以外を律儀にアルファベット順に送ってくるんだよあの無能神め。

 どうせならゾーンとか欲しかったわ。この感じだと最後になるぞ?

 

「離れ離れとは言っても毎日電話はしていただろう?そう憂鬱になる事でもあるまい」

「気持ちの問題だよ……あぁぁ安請け合いした俺がバカだった……行きたくねぇ……」

 

 だが冒頭で言った通り、いつまでもここに居られないのは動かしようのない事実だ。

 ドイツ軍の結束は固く俺の存在が世間にバレる事はなかったが、新入りが口を滑らしたりする事がないとも限らない。

 実際この前は外部のお偉いさんが抜き打ちで来てかなり危なかったのだ。

 

「ほらほらいつまでも沈んでないで、今日はセリーナが当番だよ?」

「OKすぐ行こう」

「切り替えが早いな……良い事だが」

 

 とりあえずあと二ヶ月、この日常を目一杯楽しもう。

 そしてその後の事は……今は忘れよう。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「何て言ってる間に二ヶ月経っちまったなぁ……」

 

 四月五日、今日俺はドイツ軍のヘリでIS学園まで送られる。

 同行者はなんと元帥閣下だ。この人いつ仕事してるんだ?

 

「準備完了、いつでも出れます」

「うむ、ご苦労」

 

 操縦士の人と会話を交わしている閣下を横目に見つつ、隊のみんなとの別れを惜しむ。

 

「……やっぱ行きたくねぇ……」

「咲?辛くなったらいつでも帰ってきていいんだからね?」

「ありがとうリー姉……」

 

 実際の年齢は俺の方が上なのに、何だかんだで一番姉らしかったと思う。

 結局料理の腕は敵わないままだったな。頑張らねば。

 

「あぁ兄様……名残惜しい……」

「だから兄様やめろ。同い年だろうが」

 

 クラリッサはいつからこんな残念な子になってしまったのやら。

 過去を話したら何時の間にか兄様呼ばわりされるようになったし。

 

「帰ったら日本のお話、また聞かせてよね!」

「おう、楽しみにしとけ」

 

 前世での事を話す前も後も全く対応が変わらなかったヴァネッサ。

 ある意味才能だな。

 初日に繋いだ手の感触は未だに忘れていない。

 

「そ、その……頑張って……」

「あ、あぁ。頑張ってくる」

 

 作者の都合により全く出番がなかった◯◯◯……名前すら出してもらえないとは……

 内気な子だが、戦闘面での技術は中々のものだった。

 ちなみに黒髪ポニーである。美少女。

 

 そして……

 

「……ラウラ」

 

 隊を一時的にとは言え離れてから既に1年半近く経っている。

 その間になんとラウラはシュヴァルツェ・ハーゼの隊長を務めるようになる程に実力をつけていた。

 階級も少佐に上がっており、余程努力したであろう事が分かる。

 

 ――思えばここに来てからの5年間、かなりの時間をラウラと過ごしていた気がする。

 肉体的には同い年だったから?

 こんな小さい子を放っておけなかったから?

 それとも……いや、分からないが、俺の中ではかなり大きな存在になった。

 

「……咲」

「な、何だ……?」

 

 目の前に立つラウラはいつもと同じ服、いつもと同じ髪型だ。

 それなのに纏う雰囲気だけはまるで違う。

 

「……これ」

「あ、あぁ……これは……お守り、か?」

「そ、その……本当はもっと凝った作りにしたかったのだが……」

 

 渡されたのは黒色の布袋に赤い飾り紐が通されたシンプルな作りのお守りだった。

 裏返すと文字も刺繍してある。

 

「えっと……長寿祈願、か。よくこんな細かいの出来たな……凄ぇぞ」

「に、日本では一般的なお守りと聞いて……その……」

 

 雰囲気が違う、と言ったが、何だか今日のラウラはやけにしおらしい。

 いつもの自信に満ち溢れた態度が嘘のようだ。

 

「……ラウラ?」

「は、ひゃいぃ!?」

「……そんな驚かれるとちょっと悲しいんだけど……」

「す、すまない……何だか、きょ、今日の私はおかしいな!あ、あはははは……」

 

 イカン、本格的におかしかった。

 

「その、さ。俺はその……口下手だから、正直に言うぞ?」

「う、うむ……」

 

 大きく深呼吸して、次に言うセリフを頭に浮かべる。

 ……良し。

 

 

「あー……その、何だ。たとえ離れていても、俺はずっとラウラの事を……じゃなくて!その……とにかく!コレ!受け取ってくれ!」

「あ、ああ……ってえぇぇ!?いや、あの……こんなの受け取れない……」

「だああああああ!ス、スマン!やっぱり嫌だったよなこんな重そうな見た目のは!本当はもっと別の形になる予定だったんだが……束の奴が……」

「ち、違うぞ!?別に嫌とかそんなんじゃなくて……い、良いのか?本当に貰って……」

「いや、むしろ貰ってくれないと俺が困るというか……何と言うか……」

 

 二人してしどろもどろする様子に、隊員一同+αはニヤニヤと擬音でも付きそうな笑みを浮かべる。

 咲とラウラは全く気づいていなかった。

 

「じゃ、じゃあ……有難く……頂戴いたす……」

「う、うむ……苦しゅうない?」

 

 とうとう日本語がおかしくなったが、それにすら気づいていない。

 ちなみにヘリの操縦士の人やらその他の人達も遠目にもわかるレベルでにやけていた。

 

「はいはいごちそーさま。イチャつくのはいいけどもう時間だよ?続きはまた今度ねー」

「「イッ、イチャイチャなんてしてない!」」

「……うん。そうだね。うん」

 

 最終的にヴァネッサによって謎空間は終わった。

 あれ以上続けていたら……考えるのはやめよう。どこぞの警察官もそう言ってる気がする。

 

 

 

 

 

 

「システムオールグリーン!面舵イッパーイ!」

「覚えたての日本語使いたいのは分かるけど普通にお願いします操縦士殿……」

 

 別れの挨拶が済むと閣下と共にヘリに乗り込み、いよいよ出発の時が来た。

 

「それじゃあまぁ……名残惜しいけど、行ってくる!」

 

「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」

 

 扉が閉まり、離陸する。

 遠く離れて見えなくなるまで、みんなは手を振り続けてくれていた。

 さぁ、これから始まるは二度目の高校生活。

 どんな事が起こりますやら。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……行って、しまわれましたね」

「……あぁ」

「寂しいですか?」

「勿論だ。だが……」

 

 ラウラは手元で何かを動かし、微笑む。

 

「……いつでも一緒だ」

「た、隊長が……大人になられた……」

「失敬な、私はもともと大人だぞ?」

「……えぇ、そういう事にしておきます」

 

 どこか決意したような表情で空を見上げるラウラの右手の小指には、小さな銀色の指輪が輝いていた。




成し遂げたぜ。
これにてプロローグっぽいものは終了。
次回よりいよいよ原作入りします。
右手の小指の意味は……調べてみてくださいな。


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第二章 原作突入編
第20話 人外怖い(棒


番外編と並行して書いてたら遅くなってしまった……
近いうちに投稿します。多分。


「…き……咲………咲!!」

「うおぉう!?」

「着いたぞ。IS学園だ」

「うぇ……あ……あー…そうでしたね……」

 

 いつの間にか寝てしまっていたらしく、閣下に叩き起こされた。

 ヘリだけで日本まで飛べる訳は無く、途中から小型ジェット機に乗り換えてここまで飛んできていた。学園が手配してくれたそうだ。

 

 寝ぼけ眼を擦りつつジェット機から降りると、深呼吸をして眠気を飛ばす。

 ドイツとは空気の匂いが違うような、それでいて懐かしいような……不思議な気分になった。

 

「さて、我々ドイツ軍が入れるのはここまでだ」

「えっ?いやでもここって……」

 

 IS学園は大きな島の上に作られているのだが、今いる場所から学園と思しき建物までは結構な距離がある。

 一本道だから迷う事はないだろうが……

 

「IS学園は一つの国家、本来なら軍を島に入れる事は許されないそうだが……今回は特例だ」

「そう、ですか……」

 

 詰まる所、ここから俺は完全に一人になるということだ。

 見知らぬ場所で年下の女の子達に囲まれて過ごす……夢の楽園かもしれないが、その前に俺の胃が悲鳴を上げるだろう。

 え、今までと大して変わらないだろって?

 見知らぬ人と家族が一緒な訳なかろう。

 

「まぁなんだ、そう気負うな。せっかく二度目の青春が楽しめるんだ、楽しまなきゃ損だろう?」

「そりゃまぁ……そうですけども……」

 

 高校3年間は帰宅部で割と灰色だったような……

 ……考えるのやめた。

 

「お前がここでどれだけ成長するか……期待しているぞ、咲」

「……了解しました。元帥閣下」

 

 割とあっさりとした別れの挨拶を終えて、飛び去って行く閣下を敬礼して見送る。

 白い機体は直ぐに小さくなり、見えなくなった。

 

「……さて、行きますか」

 

 一先ず学校まで行けば、職員の人が案内をしてくれるらしい。

 綺麗に舗装された一本道をのんびりと歩く。

 

「しっかし本当に広いな……敷地面積どんくらいだ?」

『シュヴァルツェ・ハーゼの訓練場が10個は収まる程度の広さとお聞きしています』

「解説どうも」

『恐縮です』

 

 懐に仕舞ってあるダブルドライバーから、相棒の声が聞こえる。

 そろそろ別の収納方法も考えたいところだ。ぶっちゃけ上着に仕舞うと鬱陶しい。

 腰に着ける……いや常に装着状態でいればいいのか?

 でもバックルにするには大きすぎるし……

 

『前方にご注意を』

「え?あ()ッ」

 

 下を向いて歩いていたせいで電灯に頭をぶつけた。地味に痛い……

 

「もうちょい早く言ってくれ……」

『善処致します』

 

 アイアンマンでは様々な仕事をこなしていたジャーヴィスだが、やはり相棒とは根本的に異なっているようだ。

 変身状態ならまだしも、普段の状態では今の所話し相手にしかならない。

 情報収集などもさせようとは思ったのだが、ネットに繋がらないと言われてはぐうの音も出ず。

 携帯を経由させる事も出来なかった為放置中である。どうしろってんだ全く。

 

「っと、ようやく着いたか……」

 

 目の前にはこれまた大きく立派な作りの校門があり、隅の方に守衛室と思しき場所があった。

 一先ず守衛さんに事情を話して入れてもらおうと、踏み出したその時。

 

「そこの君!」

「え?あ……!?」

 

 大きい門の方から呼ばれて見てみれば、そこに立っていたのは一人の女性だった。

 黒く長い髪を後ろで束ね、少しキツそうな顔立ちをしたその人はまさしく……

 

「……織斑、選手?」

「あぁ、選手はやめてくれ、今は先生と……」

 

 ――一瞬の間。

 気がつけば俺は首を掴まれ、持ち上げられていた。

 

「かっ……!」

「……まさかこんな所で会えるとは……私は運が良い……」

 

 こちらを見る目は先程とは一転し、暗く染まっている。

 

「離…し、て……くれませんか、ねぇッ!!」

「ッ……少しは腕が立つようだな」

「そいつぁどうも……」

 

 締め上げていた手を掴んで引き剥がし、距離を取る。

 

「手配中の人間がよくここまで来れたな。まさか本当にドイツの回し者だったとは……」

「だからそれ全部誤解だって……言っても無駄っぽいっすね……」

 

 あの時も話は聞いてもらえなかったが、今回は更に怒りが増しているらしい。

 テレビに映っていた凜とした表情は何処へやら、最早ここまで来ると鬼である。

 

「今更何の用があって来た?まさかまた一夏を……」

「だーかーら全部誤解なんですって…と言うかこっちも聞きたいんですけど、何で俺が犯人扱いされてんですか。あん時建物の中に武装集団居たでしょう?」

「生憎だがあの場にはお前しか居なかった。惚けようとしても無駄だ」

「……え?」

 

 居なかった、だと?

 あの場に居た集団は確か纏めて縛っておいた筈だ。

 それが全員逃げたって言うのか?

 ボスに至っては原型あやふやになる直前まで痛めつけたってのに。

 

「じ、じゃあ弟さんは?彼の口から何があったか聞いてないんですか?」

「それは……貴様に言う筋合いは無い。とっとと私に捕まれば話してやっても良いぞ?」

「お断りします!」

「なっ、待て!」

 

 待てと言われて待つバカはおりません。

 正門から入れないなら別の場所から入るまでよ。

 他の先生にも追い立てられたらそん時は理事長室なりなんなり駆け込んでやる。

 

「ジャーヴィス!いけるか!」

『何時でも大丈夫です。【Cyclone!】』

「後で何言われるか分からんけどまぁ、今は非常事態だろ!【Joker!】」

 

 走りながら腰にドライバーを装着し、メモリを両方装填し、開く。

 

【Cyclone!Joker!】

 

 装着完了と同時に上空へ飛び立ち、校舎の方へ向かう。

 ……向かおうとしたのだが……

 

「……今なんか変な音しなかったか?」

 

ガツン、と大きな音が後方から聞こえた。

ジャーヴィスに機体をチェックしてもらうと、驚きの結果が返ってくる。

 

『どうやらミス織斑からの攻撃を受けているようです。回避を』

「攻撃って一体何……で……?」

 

 振り返った俺の目に、そこそこ大きな石が映る。

 慌てて避けたが、その間にも織斑…先生は次の石を構えていた。

 

「うぉおお危ねえ!何だよあの人!てか本当に人かよ!」

『石でISに傷を付ける人間は今の所咲様と閣下様くらいのものかと』

「……俺そんな人外だったっけ……あと閣下に様は付けなくていい」

『畏まりました』

 

 と、とりあえず遠くに逃げよう。

 さすがにこれだけ高いところまで届く訳が……

 

 ガゴォン!

 

『ソウルサイド、スラスター損傷。飛行状態を維持できません』

「ウッソだろオイ……!」

 

 どうやらピンポイントで弱い部分にぶつけられたらしい。

 ぐるぐると回転しながら、校舎の方へ向かって落ちていく。

 

「ちょ、待て、流石にこのまま突っ込んだら、マズ、いっ!」

 

 メモリを両方抜き取って格納し、装着を解除する。

 そのまま目の前に迫る窓に向かってダイブし、全身を強化して割れるガラスから身を守る。

 

「どおおおおぉぉぉぉ!?」

 

 体を床に思い切り打ち付け、かなりの痛さに悶える。

 さらにその勢いのまま転がり、恐らくドアであろう物まで突き破ってしまった。

 後で弁償しますごめんなさい。

 

「痛っ……ててて…………あっ」

 

 

 

 

「な、何この人……」

「今、廊下の窓突き破って入ってこなかった……?」

「と言うか、男……?」

 

 目の前には見渡す限り、女子、女子、女子……一人男子が混じってた。

 

「え、ええと……初めまして?」

 

 かくして、俺の二度目の学園生活は波乱の幕開けを迎えた。

 さて……ここからどうしたものか……

 

 本当に、どうしたものか……

 




そういえば今日は例大祭ですね。
ちなみに私は友人にぬいぐるみを買ってきてもらう予定だったり。


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第21話 自己紹介で趣味は読書と答える奴は大概虹オタ

ようやくマトモに原作が始まりました。
こっからはどんどん話が進む……予定です。

11/8 かなり大幅に内容を付け加えました。


 ……どうしよう……

 明らかに不審者を見る目で見られている……

 勢い余って教室に突っ込んだ挙句、第一声が「初めまして」て。

 まずはこの状況の説明をしろよ俺。

 一先ず立ち上がって姿勢を正し、自己紹介をする。

 

「え、えぇと……き、今日からお世話になります、茅野咲です。一応、IS動かせます」

 

 うわぁ……

 自分で言って何だけど片言すぎるだろ……

 もっと色々うまいこと説明しなきゃ駄目だろこの場面……

 

「え、今IS動かせるって……」

「二人目の男性操縦者なんてニュースであったっけ?」

「軍服……?」

「と言うかあの顔どっかで……」

「【朗報】二人目の男性操縦者現る……っと」

 

 マ ズ い。

 俺が手配されたのは二年前……ほとんどの人は忘れているだろうが、思い出されないとも限らない。

 と言うか学園から説明とか無かったのか……?

 つか最後、何さらっとスレ立てしてんだ。

 

「あ、あの……質問、いいか?」

「ん?……ってお前は……」

 

 俺がぶつかった教卓の丁度目の前の席から、この教室唯一の男子が立ち上がる。

 ……二年前も会ったけど相変わらずイケメンだな。爆発すればいいのに。

 

「俺は織斑一夏。えっと……二年前、あの事件の時に俺を助けてくれた人が居たんだけどさ、その人の声と随分似てるっていうか……同じっていうか……」

「……覚えてんのか?」

「!その反応……やっぱりそうなのか!?」

 

 こいつは好都合だ。

 ここで二年前の濡れ衣を晴らしてしまえばあの鬼にも対処できるだろう。

 

「ああ、でもあの日何故か犯人扱いされて……まぁ色々あって逃げ果せたんだ」

「……俺、警察の人に全部正直に話したんだけどさ……何でか信じてもらえなくて、その……ごめん!」

 

 頭を下げてくる織斑君。

 ……信じてもらえなかった、か……

 謎が更に深まったが、それより今は……

 

「別に謝んなくても良いって。折角男同士なんだ。仲良くしようぜ?」

「あ……ああ!こちらこそよろしく!」

「おう、よろしく!」

 

 良し、多少強引ではあったが友好関係は築けた。

 後はここからどうするかだが……

 とりあえず学園長室的なのを探してみるか?

 流石に話は伝わってるだろうし……

 

「一夏!無事か!」

「えっ、ちふ……織斑先生?」

 

 ドアから息を切らした織斑選……先生が入ってきた。

 もう追いついてきやがったか……

 駄菓子菓子、今の俺には最強の盾があるのだよ。

 

「貴様……一夏から離れろ!」

「うおっ、とっ!」

 

 だが話す暇も無く、いきなり攻撃される。

 右手、左手、左足…あ、パンツ見えそ……

 

「フンッ!」

「がっ!」

 

 余所見をした隙を先生は見逃さず、首筋に綺麗に延髄切りを決められてしまった。

 勢いよく吹っ飛ばされ、黒板に体を打ち付ける。

 今日は厄日だわ……

 

「ちょ、ちふ……先生!そいつは俺の命の恩人で……」

「黙れ。お前をあんな目に合わせたのは此奴だ。仕留めなければ……今、この場で確実に……」

「千冬、姉……?」

 

 

 

 

 

 

 

「……痛ったいなぁ……俺が普通の人間だったら死んでますよ?織斑先生」

「!?」

 

 おぉ驚いとる驚いとる。

 ぶっちゃけ今の俺なら余程強力な一撃でない限り致命傷にはならない。

 つっても今回は割とヤバかったが。

 首が吹っ飛ぶかと思ったわ。耐えたけど。

 

「この化け物が……」

「そ、そこまで言わなくても……」

「「「メンタル弱っ?!」」」

 

 数人からツッコミが入る。

 いやだって俺普通の人間よ?流石に化け物呼ばわりされたら傷つくわ。

 ……さっきの台詞と矛盾してるとか言わんといてくれ。

 

「ええい、らちがあかん!織斑!」

「あ、俺の事は一夏で良いぞ?」

「そうか、俺も咲で良い。では改めて一夏!お姉さん説得ヨロシク!」

「あ、あぁ……千冬姉、この人はかくかくしかじかで……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

「……そんな、馬鹿な……」

 

 一夏から全ての真相を聞いた後、どこぞのCIA中米支局長の如く呟き、愕然とする織斑先生。

 ……色々俺も聞きたいことがあるんだがなぁ……

 

「あの、先生?」

「あ、あぁ……本当に君には、申し訳ない事を「いやそうじゃなくて」……?」

 

「……他の人、どうにかしません?」

「…………!!」

 

 ハッとした顔で教室を見渡す先生。

 こちらを見る女生徒達の目線は……なんか全員ポカンとしてるな。

 そりゃこんな急展開に巻き込まれたら誰だってこうなる。俺だってこうなる。

 

「…………諸君、私がこのクラスを担当する織斑千冬だ。早速だが授業に入る。茅野はそこの席に座れ。窓は後で片付けておく」

 

 直ぐに凛とした元の顔に戻り、生徒に指示を出す先生。

 言っちゃなんだが強引すぎる……

 何事も無かった事にしようとしてるのだろうか……

 

「茅野についてだが、こいつは政府により極秘で発見された二人目の男性操縦者だ。決して外部の人間に口外しないよう。特にそこの……」

「ひぃっ!?」

「……こいつのように、授業中に携帯端末を弄って情報を流したりしたら……」

 

 さっきスレ立てしてた奴、マジだったのか……

 先生が席に近づいて端末を取り上げ、素手で粉々にしてゴミ箱に突っ込む。

 

「……こうなると思え。分かったら返事!」

「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」

 

 ……これはひどい。

 どう考えても恐怖政治じゃねえか。いやまぁ情報漏洩は許しちゃいけないけども。

 生徒が先生に敬礼するってどうなのよ?

 

「では改めて授業に入る。先ずはISの基礎についてだが――」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……となる。今日の授業はここまで。午後は各自寮に向かい、荷物の整理をすること。解散!」

 

 今日は初日ということもあってか、午前中だけで授業は終わった。

 内容は本当にISの基礎……アラスカ条約の話や篠ノ之束などについて話しただけだった為、置いていかれることは無かった。一安心である。

 

「あぁ茅野、織斑、お前たちは残れ。寮の部屋割りについて話す」

「あ、はい」

 

 俺と一夏だけが残り他の人間が居なくなると、先生は少し肩の力を抜き、俺の方に向き直った。

 

「……茅野、済まなかった。私は、恩人にとんでもない事を……」

「いやあの、もういいですって」

「しかし……これでは私の気が……」

 

 相当義理堅い人なのだろうか。

 いくら俺が言っても聞き入れてくれず謝罪の言葉を述べ続ける先生に対し、少しだけイラついた。

 ……ので。

 

「てい」

「……?」

 

 ぽすり、と先生の頭にチョップを入れる。

 この人精神年齢的には俺の先輩ぐらいの年らしいし、こんな事をするのもあまり抵抗は無かった。

 

「はい、これで全部チャラです。貴女は謝った、俺は受け入れた、それで終わりで良いじゃないですか」

「……随分と、クサい台詞を言うものだな」

「毎日練習してます」

 

 俺の言った言葉に対し少し微笑んだ先生は、ようやく頭を上げてくれた。

 うむ。万事解決。これでいいのだ。

 

「さて、面倒臭い話も終わった所で、本題お願いしますよ、先生?」

「お前は本当に15歳か……?……まぁ良い、寮について話そう」

 

 今の今まで少し距離を置いていた一夏も戻ってきたので、並んで話を聞く。

 

「寮の部屋についてだが、他の生徒と同じように2人部屋を使ってもらう。これが鍵だ。万が一無くしたらすぐに報告しろ。部屋のドアを付け替える」

「了解っす」

 

 まぁこの辺りは別に問題無い。

 セキュリティを考えたら当然の事だ。

 

「そして風呂はまだ話がまとまっていない。暫くは部屋の備え付けのシャワーを使え。間違っても大浴場には行くなよ?」

「え?何でだ……何でですか?」

「……一夏、お前女子と風呂入りたいの?俺も入りたいけど」

「あっ、いや別に入りたくない!」

「……」

「黙って尻を抑えないでくれよ!」

 

 だって女子と入りたくないって……ねぇ?

 まさか一夏君ソッチ系なの?ウホッでアッーしちゃう系なの?モーホーなの?

 

「……とにかくそういう事だ。不純同性交遊はするなよ?一夏」

「だから俺は違うっての!」

 

 話をしてみれば、意外と先生はネタに乗ってくれる人だったらしい。

 まだまだ聞きたいことは山ほどある訳だが……今はまだいいだろう。

 とりあえず鍵を受け取り、寮に向かうのだった。

 




情報漏洩ダメ絶対。
ちなみに咲の国際手配はこの時点でひっそり解除されてます。
どうでも良い情報でした。


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第22話 説明は計画的に

勢い余って連日投稿です。
短い上にほぼ説明回ですが。


「……広くね?」

「……だな」

 

 場所は変わって寮の部屋の中、想像していたよりだいぶ広いことに驚いていた。

 シュヴァルツェ・ハーゼの自室の2.5倍はありそうだ。

 ベッドも高級ホテルのようにモッフモフである。手入れ面倒臭そうだな……

 

「さて、一夏よ。今からやる事は分かっているな?」

「ああ……悪いが本気で行かせてもらうぜ?咲」

 

 ドドドドドドと周りに効果音でも発生しそうな状況下、俺と一夏は同時に右手の拳を握り後ろに引き、戦闘態勢を整える。

 

「じゃあ……行くぞ……」

「……来い!」

 

 深く息を吸い、同時に叫ぶ。

 

「「最ッ初はグー!ジャンケン……」」

 

 拳を突き出して引いたこの瞬間、魔力で視神経を強化し、一夏の右手に全ての意識を集中させる。

 微妙な筋肉の動き、指の開き方、勢い……幾つもの要素を検証し、相手の手を予測。

 こいつは……間違いなくパーを出すッ……!!

 

「「ポン!!」」

 

「いよっシャアアアアァァァ!!!」

「ば、馬鹿な……俺の必殺のパーが……」

 

 結果は勿論俺の勝ちである。チート万歳。

 

「んじゃあ俺窓際な!文句は言わせん!」

「くっ……無念だ……」

 

 まぁ何を決めてたかと言えば、自分のスペース決めである。

 この部屋は南向きだったからどうしても窓際に陣取りたかったのだ。

 

「さて……次だ。もう話していいぞ、ジャーヴィス」

『おはようございます。咲様』

「え!?なんだよ今の?」

 

 懐に入っているドライバー……ジャーヴィスに話しかけると、どうやらスリープ状態だったらしく返事が返ってきた。

 そして一夏は驚いている。

 

「あぁ、こいつだよ。俺の専用機、中にサポート用のAIが入ってるんだ」

 

 ドライバーを取り出し、一夏に見せる。

 本当はAIじゃないが、こう言っておけば納得するだろう。

 

「せ、専用機って……ひょっとしてどっかの国の代表なのか?て言うか、俺を助けてくれたのって2年前だったよな?その時から持ってるのか?」

「質問が多いな……まぁ順に答えていくぞ、まず俺は……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ここに来るに当たって、俺は自分の身元を説明する言葉を色々考えていた。

 一応閣下とも相談した結果、自分の事をこう自称する事にした。

 

「ど、ドイツ軍の生体兵器って……それ本当なのか?」

「あぁそうだ。ちなみに2年前助けたのはアレだ、日本政府に依頼されてな(大嘘)。」

 

 これである。

 ドイツ軍の研究によって生まれたISを使える男(特殊能力付き)という名目で、学園には話が通っているのだ。

 出身がドイツなのも妙な力を使えるのもこの説明でゴリ押すことができるのだ。

 あとは何故日本人の名前なのかだが、ISの開発者が日本人だったからそれをリスペクトしましたー、とでも言っておけば大丈夫だろう。

 

 そして専用機は俺に目をつけた束から押し付けられた、という設定にしてある。

 色々と現存するISとは違うところがあっても、あの天災が作ったとなればみんな納得する筈だ。

 万事抜かりは無い。筈。

 

「ほれほれ、指の先から謎の光〜」

「うおぉ……」

 

 ちなみにこれらの設定は最重要機密として扱われ、決して外部の人間には伝わらないようになっている筈だけど……大丈夫だよな?信じてるぞIS学園。

 

「まぁ作られたとはいっても俺は俺だ。ちょっと特殊な普通の人間。ビバ日本文化。って事でよろしく頼む」

「……ああ!改めてよろしくな!咲!」

 

 嗚呼美しき友情。

 ぶっちゃけ女しかいないこの学園で男友達ができるっていうのは本当に良いことだ。

 今だけは神に感謝しておく。

 

「……さて、俺の事も話し終わったところで、だ。もう終わったな?ジャーヴィス」

『室内に計36個の盗聴器、及びカメラを確認しました。どうなさいますか?』

「壊すに決まってるだろ。どこだ?」

『ではご案内「ちょ、ちょっと待ってくれ!盗聴器?それにカメラって……」

 

 当たり前のように動き出した俺に向かって、一夏がツッコミを入れる。

 いや、待てって言われても……

 

「お前は世界初の男性操縦者だぞ?いやまぁ俺もだけど……まぁ何にせよ監視されてるに決まってるじゃねえか」

「か、監視……」

 

 話してる間にもジャーヴィスの案内を聞きつつ、一つの盗聴器を見つけ出した。

 

「……こんなちっさいのか……ほれ一夏、何か言いたい事あるか?」

「えっ、いや、急すぎて何とも……」

「そうか、じゃあ言わせてもらおう。こんな事するくらいなら正々堂々インタビューでも来やがれクソ野郎。以上」

 

 指で潰して粉々にし、ゴミ箱に捨てる。

 

「よーしこの調子でどんどん行こうか。一夏も手伝えー」

「……あ、はい……」

 

 

 結局全て見つけ出した時には夕方になっており、自分の時間を潰された俺はかなりイライラしたのだった。

 犯人分かったらとっちめてやる。絶対にだ。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……せ、生徒会予算で買った高性能盗聴器に超小型カメラが……」

「会長、何をブツブツ…………はぁ……ちょっとお話ししましょうか?」

「ちょ、待って虚ちゃん、これには深い訳が!」

「問答無用です」

 

 その日、学園にとある女生徒の悲鳴が響いたとか。

 




ジャーヴィスマジ有能。
こんな執事がいたらダメ人間になる自信があります。


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第23話 時には主人公らしく

今回一部キャラの性格改変を含みます。ご了承ください。
……え?ラウラの性格?
あの子は元々純粋な良い子でしょうが。


 入学初日、夜。

 既に飯も済ませ、部屋でくつろいでいた。

 しっかし大変だった……

 

「何で飯の時に話しかけてくるかね……話すんだったら部屋に来いっての」

「さ、咲って……意外と怖いところあるんだな……」

「いやあれは全部向こうが悪いだろ。俺何かしたか?」

「強いて言うなら殺気を放ってた」

 

 だってよく考えてくれよ。

 食堂に行くだけでキャーキャー騒がれるんだぜ?

 珍しいのは分かるけどそんなパンダみたいに扱われたら……なぁ?

 不機嫌にもなろうて。

 ちなみに殺気の出し方は閣下に教わった。最もあの人のは殺気を超えた何かだが。

 何をどうやったら人を言葉だけで眠らせられるんですかね……

 英雄度か?英雄度が足らんのか?

 

「いくら顔が良くてもあれじゃ興醒めだわ。てかラウラの方がよっぽど可愛いし。天使だし。マジ天使だし」

「ラウラって……ひょっとして彼女か?」

「?いや家族だけど?」

「じゃあ、妹さんか?」

「妹……とは違う、かなぁ……」

「……?」

 

 そうこうしている内にも時間は過ぎるもので、一夏を先にシャワー室に押し込んだ。

 さて……

 

「そろそろ入ってきたらどうです?」

「あ、バレてた?」

「食堂から尾けてたでしょうが……」

 

 ドアに向かって話しかけると、開いて1人の女生徒が入ってくる。

 水色をした髪が外側にはねていて、顔は……割と美人さんである。

 どこぞの氷結の魔女に似てなくもない。

 てか割とそっくりだと思う。

 

「はぁい茅野君?ご機嫌いかが?」

「機嫌は最悪ですね。アレどうにかできないんですか?」

 

 アレとは勿論、大量の女生徒たちの事である。

 

「乙女の迸る情熱を押さえつけるなんて、例え神でも不可能だと思うわよ?」

「さいですか」

 

 駄目だこの人。早くなんとかしないと。

 

「っと、話が逸れたわね。茅野君?突然だけど君に頼みが「却下」……即答はちょっと酷いと思うなー?」

「どうせロクでもない頼みでしょう。その口ぶりからして割と偉い人ですよね?だったら俺の頼みも聞いてもらえませんか?実は最近ストーカー被害に悩まされてましてね?」

「え、いや、あの、茅野君?女の子の襟を掴んで一体何を……わ、私はまだ心の準備が……」

「それでそのストーカーが中々部屋から出て行こうとしないんですよ。だから……」

 

 何故か急に顔を赤らめてくねくねしだす変態。

 もう呼び方は変態で良いよな。

 ドアを開き、外に摘まみ出す。

 窓から放り投げなかっただけ感謝してほしい。

 

「二度と入ってくんな。いいね?答えは聞いてない」

「ちょっ、茅野君!話を……」

 

 扉を閉め、鍵をかけ、チェーンもかける。

 ついでに魔力で補強。

 なんかドンドン叩かれてるが気にしない。

 

『よろしかったのですか?』

「ああいう輩は無視に限る。どーせハニトラとかその辺だろ?お約束乙だっての」

『咲様、誠に恐縮なのですが、咲様はまだ童t』

「わーー!!そういう事言うな!!台無しじゃねえか折角カッコつけてたのに!」

 

 相棒のコメントが辛辣すぎて辛い。

 スレでも立ててやろうか畜生め。

 

「咲?シャワー空いたぞ?」

「おおそうか分かった直ぐに入る今すぐ入る!」

 

 クソッ、良い感じに主人公してたのに。

 まぁ良い、今に見ていろ……俺が完全無欠のなんかカッコいい系主人公になるその時を!

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……と思っていた時期が私にも以下略」

 

 IS学園2日目の朝、クローゼットの中に入っていた制服を着て校舎に向かった。

 しかし白すぎて落ち着かない。もっとジャパンの学生服リスペクトしてもいいのよ?

 軍服の黒さが恋しい。

 

 ちなみに今朝の食堂では誰にも話しかけられずに済んだ。実にめでたい。

 できればこのまま放っておいて欲しい。

 おばちゃんの笑顔が眩しかったです。

 

「全員揃っているな。ではホームルームを始める。先ずはクラス代表決めだ」

 

 先生曰く、要するに学級委員のようなものらしい。

 普通と違うところと言えば、一ヶ月後にあるクラス代表戦に出なければいけない事か。

 正直やりたい。すっごくやりたい。

 折角専用機持ってるんだし。

 

「自薦他薦は問わないが、推薦された者に拒否権は無いと思え。さぁ、やりたい奴は手を挙げろ」

 

 何故拒否権を無くす必要があるのか。コレガワカラナイ

 まぁ良いとして、

 

「じゃあ俺、自薦します」

「む……茅野か。確か専用機を持っていたな?」

「ええまぁ、一応」

 

 専用機持ちである事をさらっと明かすと、どよめきが起こる。

 まぁそりゃそうか。467機しか無いISの一機を所持してる訳だし。

 もっとも俺のは束が作ったものではないため、その中には含まれないが。

 

「じゃあ私は織斑君を推薦します!」

「私もー!」

「ええっ!?俺か!?」

 

 まぁ、うん。知ってた。

 お約束すぎて何とも言えんな。

 そして2人で熱いバトルを繰り広げるんですね分かります。

 いいじゃないの。こういう展開は嫌いじゃないわ。

 

「ふむ、ではこの2人以外に誰か居るか?居なければこの2人で……」

「はい、(わたくし)も自薦いたしますわ」

「お前は……イギリス代表候補生、セシリア・オルコットか」

 

 そう言って手を挙げたのは、長い金髪をドリル型に纏めた、何ともまぁお嬢様って感じの奴だった。

 というか今袖がチラッと見えたが、何かフリルっぽいの付いてなかったか?

 ひょっとしたら現実じゃ有り得ない制服改造が許可されているのかもしれない。

 後で聞いてみるか。

 

 代表候補生についての説明を先生がしてくれたが、まぁ文字通りその国家の代表になるかもしれない人間だそうだ。

 中には専用機が与えられている者も居るらしく、他のクラスにも何人か居るとの事だ。

 

「ではこの三人で後日、ISを用いたクラス代表決定戦を行う。日程は分かり次第連絡する。良いな?」

「「「はい」」」

 

 そういや一夏って専用機……持ってないって言ってたな。昨日。

 大丈夫だろうか。

 

「では授業に入る。山田先生?よろしくお願いします」

「は、はいっ!」

 

 そんなことを考えていると、教室のドアが開いて新しい先生……先生?が入ってきた。

 髪の色はこれまた珍しい緑色で、かなり小柄な体格はまるで小動物のよう……だったが、一部だけ百獣の王もびっくりのサイズだった。

 束とほぼ同レベル。

 

「え、えぇっと……副担任の山田真耶です。みなさん、よろしくお願いしまひゅ!」

 

(((((噛んだ……)))))

 

 赤面してプルプルと震えている山田先生。

 一瞬でクラスの人間を和ませるのはある意味才能と言えるだろう。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 まぁその後は特に変わった事は無く、偶に噛んだりする山田先生を見てほのぼのしながら1時間目が終わった。

 

「んで一夏君?どこが分からないって?」

「いや、ほぼ全部ってさっきも……」

 

 さっきの授業中判明したのだが、コイツ結構抜けている。

 入学前に渡された(らしい)参考書を捨ててしまっただの、山田先生に分からないところを聞かれれば全部だだの。

 

「俺も予習はしてないが流石にここまでは分かるから……帰ったら補修な。覚悟しとけ」

「うぅ……面目無い……」

 

 何故か今のやりとりを見たクラスメイトが騒がしい。

 腐った人が混じってるんだろうか?

 これが本当のぞんぞんびよりってか。何も嬉しくないわ。

 

 なんて馬鹿な事を考えていると、

 

「ちょっといいか?」

「少しよろしくて?」

 

 いきなり2人に話しかけられた。

 一人はあの金髪ドリルっ娘、もう一人は……知らんな。誰だ?

 

「箒……?お前、箒か?」

「知り合いか?」

「あぁ、幼馴染だ。」

 

 同じクラスなのに何で今気づいて……あぁ、昨日は俺が乱入したんでした。

 咲くんうっかり。てへぺろ。

 

「あれ、咲……顔色悪いぞ……?」

「いや大丈夫、ちょっと自分に対して吐き気がした」

 

 似合わない事はするもんじゃないね。

 

「それで、その箒さん?は良いとして、オルコットさんは何の用?」

「私は茅野さんに用がありますの」

「私は一夏に……」

 

 結局、一夏は箒さんとやらに廊下に連れて行かれ、後には俺だけが残った。

 とりあえずこっちから話しかけるか。

 

「んで、何の用だって?」

「少しお聞きしたいのですが、貴方もどこかの代表候補生の方なのですか?専用機をお持ちになっていると聞きましたので」

 

 もっとも、男の代表候補生など聞いた事がありませんが、と付け加えられる。

 まぁ大体言いたいことは分かった。正直に答えよう。

 

「いや、俺は今の所どこの国にも属していない。勿論、日本にもな」

「……?では専用機をどうやって手に入れられたのですか?」

「コイツは束から貰ったモンだ。IS開発者の、な」

 

 そう言ってドライバーを取り出して見せると、またも教室からどよめきが以下略。

 目の前のオルコットさんも俺の台詞に少し驚いた様子を見せたが、直ぐにいつもの澄まし顔に戻った。

 

「……成る程、そういう事でしたか」

「あぁそういう事だ。まぁ専用機持ち同士仲良く……」

 

 差し出そうとした手は、直ぐに払われた。

 まぁ予想はしていたが、これだけの美少女にこんな扱いをされると色々内面にダメージが来る。

 絶対に顔には出さないようにしつつ、一応問いかける。

 

「……何でこんな扱いされなきゃいけないのか、一応聞いてもいいか?」

「そんなの決まっていますわ。貴方が男で、しかも力を手に入れて調子に乗っている、最低最悪の人間だからです」

 

 蔑んだ目でこちらを見るオルコットさん。

 やだそんな目で見ないで興奮しちゃう。しません。

 

「私と同じ代表候補生であれば少しは見直そうかとも思いましたが、どこの国にもついていない上にISは篠ノ之博士に貰った?巫山戯るのも大概にしたほうが良いですわよ?」

 

 取り敢えずこの人が男嫌いの高慢ちきだという事は大いに分かった。

 あとついでに相手の力量も測れないらしい。

 

「束に貰ったのは本当なんだがなぁ……まぁ良い、ここで口喧嘩しててもらちがあかん。という事で拳で語り合いましょうやオルコットさん。もし俺がアンタに勝ったら、さっきの最低最悪発言は取り消してもらおう。OK?」

「まさか、私に勝つつもりですの?」

「そりゃ勿論、俺負けるの嫌いだし」

 

 目線と目線がぶつかり合い、火花が散っているように見える。

 結局休み時間の終了を告げるチャイムと同時に、オルコットさんは席へ戻って行った。

 同時に廊下から一夏も帰ってくる。

 

「咲、結局あの人と何話してたんだ?」

「んーー……宣戦布告?」

 

 作戦練らないとなー、と呟く咲の口元は大いににやけていた。

 




ここのセシリアは多少は常識があります。
他国をいきなり貶すような事はしませんが、男嫌いは相変わらず、といった感じです。


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番外編 とある日常っぽいお話

前に言ってた番外編ができたので投稿です。
短いですがどうぞ。


「……暇だ」

 

 あくる日の事。

 珍しく閣下から直々に休めと言われ、寮の自室に引きこもらざるを得なくなっていた。

 外に出ようにもドイツの地理は分からない。

 携帯はこの前ぶっ壊して修理に出してるし……

 

「……ネトゲでもするか」

 

 一応軍隊に所属している為それなりに金は持っているのだが、いかんせん使い道が無い。

 特撮玩具などの類は集めようにもこの部屋はあまり広くなく、ある程度集めた所で棚がいっぱいになってしまったのだ。

 

 そこで無駄にある金を少しでも使おうと、廃スペックなパソコンを購入し夜中などに楽しむことにしたのである。

 最近はツイッテーで知り合った「Dan」って人と仲良くなった。

 よく友人の朴念仁さに呆れるツイートをしているが、その友人はよほどモテるのだろう。

 爆発すればいいのに。

 

 ……話が逸れた。

 

 とにかく今はこの有り余る時間を有意義に使うのだ。

 スリープ状態を解除し、いざ冒険の世界へ……

 

「咲、居るか?」

 

 ……旅立てなかった。

 ドアを開けると、立っていたのはラウラだった。

 

「おぉ、どうした?……ってか今日ラウラ休みだったっけ?」

「それが何故か閣下直々に……」

「OK把握したわ」

 

 あのジジイめ。

 今度補佐官の人に色々言いつけてやる。

 

「それでなんだが、ほら、これを見ろ!」

「?えーと……オクトーバーフェスト?なんかの祭りか?」

「ああ、毎年この時期になるとドイツでは大きな祭りを開くんだ。まぁ私も行ったことは無いんだが……」

 

 どうもかなり大きい……というか世界規模の祭りらしく、このためにドイツを訪れる人も少なくないとか。

 会場ではビールやらソーセージやらが大量に振る舞われるそうだ。

 

 ……ビールか……

 一応現在の体は元の俺の体が組み替えられただけなので、アルコールの吸収などにはあまり問題は無い。

 問題は、無い。いいね?

 

 だがドイツでは飲酒は16歳からと法律が……

 ……待てよ?

 

「なぁラウラ、保護者の同伴があれば16歳未満でも酒は飲めたよな?」

「?あ、あぁ……まぁビールに限って、だがな」

「……良い事思いついた」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……それで、何で私なのですか?咲」

「だって一応一番年上だし、隊長やってるんだからストレスだって溜まるだろ?偶には発散しないと」

「全く……いきなり元帥閣下が訓練場に来たから何事かと思いましたよ…」

 

 ちょっと脅しをかけたらクラリッサも休みにしてくれた閣下に感謝しないとな。

 

「さーさー、早く行こうぜ隊長!」

「はいはい……」

 

 クラリッサの運転する車で会場へと向かった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「お、おおおぉぉぉ……何じゃこりゃあ……」

「人が多いな…祭りとはこういうものなのか?」

 

 会場は人でごった返し、入場するのも一苦労だった。

 

「私も来るのは初めて……って咲―!」

「おぉ!兄ちゃん若いのにいい飲みっぷりじゃねえの!」

「んっ……ぶはぁ!美味い!もう一杯!」

 

 ジョッキでビールを買い、一気に流し込む。

 前世では一口飲んで苦さに顔をしかめていたが、味覚が変わったのか凄く美味しく感じる。

 不思議なものだ。

 

「その服……軍の人かい?」

「あぁ、今日は休憩の日なんだ」

 

 その言葉を聞いた屋台のオッサンがニヤリと笑い、日本語で話しかけてくる。

 

「じゃあ、明日は?」

 

 まさか、このオッサン……!

 いや、確かめなければ……

 この返しには、あのセリフを!

 

「ドイツ軍閉店の日!」

「「はっはっはっはっは!!」」

 

 何と言う事だ、例のアレのネタが通じてしまったではないか。

 ISを開発した日本が注目されているのは知っていたが、こんな所にネタが通じる人がいるとは思わなかった。

 しかもこんなオッサンに。

 

「いやあ驚いた、アンタ日本人だろう?なんでまた軍なんかに?」

「それが色々ありましてね……他言無用で頼むよ、もう一杯買うからさ」

「あいよ!楽しんでいきな!」

 

 人の良いオッサンで助かった。

 軍服は脱いでくるべきだったか…まあいっか。どうせ番外編だ。

 

「さ、咲?大丈夫なのか?その……一気にあんなに飲んで」

 

 ちなみに会場で使用されているジョッキはかなり大きい。

 

「んっ……くっ……ぶはぁ……大丈夫らねえか?ほれちゃんと歩けてふ」

「そっちは壁だ……」

 

 なんだか視界が鮮やかだ。

 それにふわふわと気分も良い。

 酒ってこんなに良い物だったのか……

 

「ほら、しっかり掴まれ。座れるところを探すぞ?」

「うぇい……」

 

 ふらふらと千鳥足で歩く咲を、ラウラが脇から支える。

 傍から見れば夫婦のようだが、年齢的には中学生だ。

 ちなみにクラリッサは鼻を押さえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……落ち着いたか?」

「あー……うん、多分落ち着いてる。さっきは若干フラフラしたけど」

「全く……いくら飲むのが許可されてるとはいえ、この年であの量は体に悪いぞ?」

「すいませんでした……」

 

 一先ず座り、ラウラに貰った水を飲んだら大分回復した。

 どうもアルコールの分解が速い……というか体の異常を強制的に直されているような感じだった。

 これも魔力的な何某のお蔭なんだろうか?

 

「しかし、こんな物のどこが良いんだ?さっき一口貰ったが苦いだけだったぞ?」

「いやアレが良いんだって。というか貰ったって……?」

「?咲の持っていたジョッキにはまだ少し残っていたからな。持たせておいたら危なそうだったから私が飲み干した」

 

 何事も無かったように話すラウラ。

 ……俺の持ってたやつに口を付けたって……

 

 

 

 

 

 

 

 それってつまり間接…………!!?!?

 

「む、どうした咲、顔が赤いぞ?」

「さ、酒飲んだからな!ハハハ……」

 

 イカンイカン……何を動揺してるんだ俺は……

 ラウラは家族じゃないか……これぐらい普通だ普通……

 普通……だよね?

 

「ほ、ほら、俺は回復したからさ、今度はソーセージ食いに行こうぜ!な!」

「うむ!他にもいろいろ見て回ろう!」

 

 強引に話を逸らし、ラウラの手を掴んで会場内に飛び出していく。

 こんな日常がいつまでも続きますようにと、密かに願うのだった。

 

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

ほんの少しのおまけ

 

 

 

 

 

 ――その後。

 

「ご来場のお客様に迷子のお知らせを……」

「咲――!ラウラ――!」

 




自分で書いてて砂糖吐きそうになるとかこれもう分かんねぇな……

ちなみに咲は方向音痴じゃないです。単純に飲みすぎで酔ってました。


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第24話 謎武術はお約束

少し時間が空いてしまい申し訳ありません。
いやあんな物書いてた私が悪いんです。ええ。
……高評価付いちゃったけどどうしよう……(本音)

-追記-
この前これまでの話の誤字やら何やら一気に書き直しました。
少しだけ追加した場面もあるのでよろしくお願いします。


「さて、代表決定戦は一週間後と連絡が来たわけだが、一夏君?」

「ISは借りられませんでした……」

「……俺の方もアリーナは使えないって言われた……」

 

 今居る場所はIS学園武道場(小)。

 大きい方は部活で使うそうなのでこちらだけ貸してもらった訳だが、俺も一夏も揃って頭を抱えていた。

 今の会話で大体察してもらえたと思うが、まぁ、うん。

 『模擬戦が出来ない』のだ。

 

「他の奴らの熱意を甘く見てたな……まさか入学初日から予約殺到してたとは……」

「使えるのは早くても3週間後だってさ……」

「「ハアアァァァァ…………」」

 

 2人揃って特大のため息をつく。

 いくら専用機を持っているとは言えそこらで勝手に展開するわけにはいかず、アリーナを借りれば使えると言われていたのだが……

 

「クソッ、こうなったら女生徒になりすまして強引に……」

「絶対嫌だ!」

「えー」

 

 けっこう女装似合うと思うんだがなぁコイツ。

 イケメンだし。イケメンだし。

 大事なことなので以下略。

 

「ところでさぁ、さっきから気になってたんだけど……」

「?」

「……なんで箒さんいるの?」

 

 道場の隅っこでさっきから素振りを繰り返していたのは、この前一夏を連れて行った箒さんだった。

 篠ノ之さんと呼ぼうとしたらその呼び方は嫌いだと言われたため、名前で呼んでいる。

 

「あぁ、なんか俺が武道場行くって言ったらついてきたんだよ」

「……ははぁん?」

 

 つまりあれですか、ホの字って奴ですか。

 え、言い方が古い?

 

「まぁ今は置いとくか。さて一夏、ISが使えないとなればやる事は一つだ」

「な、何をやるんだ?」

「徒手空拳の練習」

「へ?」

「だから、徒手空拳の練習」

「としゅ……?」

 

 なんだ知らんのかコイツ。

 ちなみに徒手空拳というのは要するに身一つの状態の事だ。

 仮面ライダージョーカーの戦闘スタイルとも言う。

 

「ISに搭載されている武器は基本的に高性能すぎるからな。逆に言えば武器がないと何もできなくなる奴も少なくない(筈だ)」

「えっと……つまりその状況での戦闘トレーニング、って事か?」

「ざっつらい。と言うわけでやるぞー、構えとけー」

「え、今すぐかよ?」

「当然」

 

 とは言えいきなり硬い床の上でやるのは一夏が危ない為、柔道用と思われる畳の上に移動する。

 ここ柔道部なんてあったっけ?

 

「先ずは基本、パンチからやってみよか。ほいどうぞ」

「あ、ああ……ふっ!」

「腰が入ってない。もっと全力で俺を吹っ飛ばすつもりで」

「ぐっ……ハァッ!」

「もう一発!」

「うおおおおぉぉぉ!!」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

「……もう、限界だ……」

「おー、まぁまぁマシになったんじゃね?少なくとも最初よりずっと良い」

「それは……何より……」

 

 とりあえず三十分一夏のパンチを受け続けたが、飲み込みが早いのかかなり力の入れ方が上手くなった。

 主人公恐るべし。コイツ苦手な事無いんじゃなかろうか。

 

「仮に武器を持っていても、接近していきなり殴られれば誰だって驚く。勿論武器無しで戦っても良い」

「いや、流石にそれはキツイだろ……」

「ちなみに俺はそうするつもりだ」

「……マジで?」

「マジで」

 

 正直な話、俺はあまり武器の扱いが上手くないのだ。

 シュヴァルツェ・ハーゼで銃を撃った時にも結局あまり上達しなかったし、剣なんて持てば自分を斬りかねない。

 ジャーヴィスのアシストが入るIS戦ならともかく、生身で武器を使う事はこの先無いんじゃなかろうか。

 

「じゃあ次は応用編だけど……これは例を見せたほうが早いな。おーい箒さーん」

 

 三十分ずっと素振りをしていた箒さんに呼びかけ、少しこちらに来てもらう。

 少し不機嫌そうだけどまぁ気にしない。

 

「……何だ」

「や、一夏に色々レクチャーしててさ、少し協力してくれんかね?」

「別に、私に出来ることなど何も……」

「……一夏との仲が進展するかもよ?」

「!」

 

 後半小声で言った内容に箒さんは思いっきり反応した。

 やっぱり惚れてるじゃないか(歓喜)

 

「し、仕方がない、協力してやる。一夏、私がやるからには手は抜かせんぞ。良いな?」

「あ、あぁ……」

 

 突然態度が変わった箒さんに戸惑いながらも返事を返す一夏。

 まぁこの二人は放っておいても良いだろう。今は他にライバルもいないっぽいし。

 ……いないよね?中学で彼女作ってたりしないよね?

 いやでも幼馴染って言ってたから既に婚約してるとかいうお約束的なアレな可能性も……

 

「咲ー、どうしたー?」

「いや何も?ちょっとぼーっとしてた」

 

 とりあえず後で聞いてみるとして、今は特訓に集中しよう。

 まずは……

 

「じゃあ箒さん、俺に向かって竹刀振ってみて。適当に」

「な……防具も無しに危険だ!怪我をさせてしまうぞ?」

「ダイジョーブダイジョーブ。何かあっても俺の責任だから。な?」

「……本当に知らないからな?」

 

 武道場の真ん中で向かい合い、箒さんは中段の構えを、俺は特に構えを取らず、両手を少しだけ上げて準備をしておく。

 

「では、いつでもだうぞ」

「……ッ!」

 

 正面から向かってくる箒さんは竹刀を振り上げ、面の構えを取る。

 そしてそこから振り下ろされる攻撃を……

 

 たしっ。

 

「「は?」」

 

 一夏と箒さんの声がシンクロする。

 

「いや待て、何だ今のは?」

「何って、受け流したんだよ」

「そうではない!一体何をどうやったらそんな音で受け流せるんだ!たしって言ったぞたしって!」

「いやこう、手の甲を使って」

「も、もう一回見せてくれないか?咲」

 

 俺はただ単にどこぞの師匠を真似ただけなんだがなぁ……

 ほら、鋼で錬金術師な漫画の。

 幼少期の修行中のアレ。

 

「ぜあああああ!!」

 

 たしっ。

 

「何故だああああ!!」

「いや何故って言われても……」

 

 目の前から来ることが分かってるんだから出来て当たり前だろう?見てから回避……はしてないけどまぁこの程度なら隊のみんなも出来る。

 流石に気配消して来られたり力が強すぎたりしたらどうしようもないが。閣下みたいに。

 

「この受け流し技は色々と応用が利くからな。ハイ一夏君行ってみよう」

「一夏……覚悟!」

「え、ちょ、流石にいきなり本番は無理が……」

 

 

 アッーーーーーー

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……今日はこの辺でやめとくか」

「ぜぇ……ぜぇ……も、もう……駄目……だ……」

 

 がくり、と膝をついて倒れる一夏。

 頭から煙が出ているけどまぁ、いいか。

 前半は当たりまくっていたが後半からはどんどん音が良くなってたし、手にかかる負担も減っていただろう。

 これだから主人公は。

 

「箒さんもありがとうな。助かった」

「あ、あぁ……流石に私も疲れた……」

 

 一夏のようにぶっ倒れてはいないが肩で息をしている箒さん。

 束の事を話しておこうかと思っていたが今は良くないだろうし、また今度にするか。

 

「じゃあコイツ部屋まで運ぶから、肩の方持ってくれ」

「ふぇっ!?……こ、こんな……一夏の顔が近くに……」

「はいいっちにーさんしー」

 

 俺は足を持ってやり、真っ赤な顔で一夏を抱える箒さんをニヤニヤしながら眺めつつ部屋に戻るのだった。

 道中で一夏が奇異の目で見られていたけど関係ないよねっ。

 




そういえば艦これ始めて早3ヶ月、ようやくリベちゃんを手に入れました。嬉しすぎてボロ泣きしてました。ええ。
そして4-5ぐるぐるしてるうちに響が65レベに。
待ってろヴェールヌイ……


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第25話 しゅじんこうこわい(棒)

薄い内容を連日投稿でごまかすスタイル。
これはいけない。


 ――そんなこんなで。

 

「一週間経っちまったなぁ……」

「だな……」

 

 特訓開始から一週間、今日はクラス代表決定戦の日である。

 あれからは毎日徒手空拳の練習をしつつ、偶に箒さんから剣道を教わったりして放課後を過ごしていた。

 俺自身は大して成長していないが、何と言っても一夏がヤバい。

 どれだけヤバいかって言うと受け流しをほぼ完璧にマスターしたレベル。

 俺あれ完全習得するのに2ヶ月くらいかかったんですけど……

 

「そういやISは今日届くんだったか?」

「あぁ、山田先生がそう言って……「織斑く〜ん!」っと、来たみたいだ」

 

 今いる場所はアリーナにISを射出する為のカタパルトがある倉庫のような部屋――ピットと言うらしい――だ。

 壁やら何やら至る所がメカメカしく思いっきり男心をくすぐられたわけだが、触ろうとしたら織斑先生に止められた。割とやんわりと。

 この人こんなに優しい人だったか?

 多分負い目を感じてるんだろうけど、俺からしたら既にどうでも良い事なのでとっとと普通の態度に戻って欲しいというのが本音である。

 

「はぁ、はぁ……お、お待たせしました!織斑君の専用機が、ついさっき……」

「山田先生、取り敢えず落ち着いて深呼吸を」

「は、はい……すぅ……はぁ……」

 

 大きく息を吸って吐くたびに山田先生の胸部装甲もとい主砲が以下略。

 眼福眼福。

 

「では、織斑先生!」

「うむ」

 

 壁のボタンを織斑先生が押すと傍の壁が開き、奥からISが出てくる。

 鈍い銀色に輝いていて、かなり渋めだ。

 いや嫌いじゃないけど、嫌いじゃないけど……地味じゃね?

 あ、京水さんはお帰りください。

 

「これが織斑君の専用機、白式です!」

「アリーナの使用時間の都合上、フォーマットとフィッティングは試合中に何とかしてもらう。出来るな?出来なければ負けるだけだが」

 

 フォーマットとフィッティング……あぁ成る程。

 詰まる所コイツはまだ専用機として完成していないのだ。

 しばらく乗っていれば搭乗者に適応した形になるのだろう。良くできてるよなぁ。

 

「試合の順番だが、一回戦はオルコット対織斑、二回戦はオルコット対茅野だ。奴は代表候補生だからな。万が一お前達二人とも勝ってしまった場合は三回戦を行う」

「お、織斑先生!?アリーナの使用時間の延長は……」

「何か?」

「い、いえ……」

 

 ……山田先生、大変だな……

 これ個人的には勝ちたいけど山田先生の事を考えると……

 まぁいっか。

 勝てばよかろうなのだ。

 

「まぁなんだ、三回戦やりたいから勝て。一夏」

「あぁ、分かってる!」

「ええぇ!?」

 

 この一週間の特訓の成果、見せてもらおうじゃないの。

 カタパルトで射出されアリーナに飛び立っていく一夏を見送り、モニターを見つめる。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……一夏君?」

「はい」

「俺の言いたい事は分かるな?」

「はい」

「言わなきゃいけない事は?」

「ホントすいません」

 

 ――結論から言うと、一夏は負けた。

 序盤は押していたのだ。武装も何も無い状況で手の甲を使った受け流しだけでオルコット……さん?でいいか。オルコットさんのIS……ブルーティアーズのビット兵器から放たれるレーザーを対処していたのだ。大したものだと思う。

 そして弾幕を全て受け流してドヤ顔してからの一次移行、ここまでは良かった。完全に主人公してた。UCすら流れてた。

 だがその後展開した武装が何とびっくり、自分のSE(シールドエネルギー)を攻撃力に転換するトンデモ剣だったのだ。

 姉である織斑先生の現役時代と同じ武器で興奮したのか、自分のSEが減り続けているのにも気付かず戦闘を続けた結果、エネルギー切れで試合終了、という訳だ。

 

「お前さぁ……SE減ってんの気づいてなかったの?ねぇ?」

「正直興奮してました。反省してます」

「ハァ……まぁ良い、そこで見ておれ」

「咲……勝つよな?」

「当然。俺を誰だと思ってやがる」

 

 お説教も程々にして、展開準備をする事にしよう。

 ISスーツを着ているため手に持っていたドライバーを腰に押し当て、ベルトを巻きつける。

 

「茅野君のIS……変わってますね?」

「えぇまぁ、ちょっと特殊なもので。ジャーヴィス?」

『準備完了しております』

「そいつは結構」

「しゃ、喋りましたよ?!」

 

 いちいちリアクションが可愛いなぁこの人。いやあざといと言った方が正しいか。

 

「こういうISなんですよ。じゃ、行くぜ?相棒」

【Joker!】

『了解しました』

【Cyclone!】

 

 相変わらずジャーヴィス側は何処で鳴らしてるのかわからないガイアウィスパーを聞き、右腕をいつもと同じようにして構える。

 

『「変身」』

 

【Cyclone!Joker!】

 

 メモリを叩き込んでドライバーを展開、いつも通り装着する。

 あ、両手を横に広げるあのポーズも忘れずに。

 

「これが咲のISか……展開面倒臭くないか?それ」

「ロマンだよロマン。んじゃ、行ってくる」

 

 カタパルトに脚をセットし、空へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 ……そう、飛び立とうとしたのだ。

 だが。

 

『スラスターの損傷が修復されておりません。飛行中止します』

「……は?」

 

 状況が飲み込めず、重力に従って下へ落下していく。

 幸いにも真っ逆さまに落ちるようなことはなかったので、周りからはただ着地しただけに見えているだろうが、違う。飛べないんです。あいきゃんのっとふらい。

 そこ、しゃるうぃだいぶとか言わない。

 

「ちょっと待て……自動修復とか無かったのか?」

『その様な機能は御座いません』

 

 ひそひそ声で話しかけると絶望が返ってきた。

 ふむ。

 

 

 ……これはちょいと……

 

「……ヤバいかもしれんね」

 

 頭上に浮かぶオルコットさんを見上げながら、状況を打破する方法を必死で模索する。

 そして思いついた方法は――

 

「……これに賭けるしかない、か」

 

 一発限りの、大博打であった。

 




次回、いよいよ……?
お楽しみに。


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第26話 変身

【朗報】ヴェールヌイに改装完了
いやぁ長かった……
さぁ次はぽいぽいだ(白目


「……咲の奴、なんで飛ばないんだ?」

「あれも作戦……なんでしょうか?」

「…………」

 

 ――言えない。

 まさか自分が投げつけた石が原因だなんて絶対言えない。

 いつも通りの凜とした表情に見える千冬の内心は正直ヒヤッヒヤであった。

 

「……すまん、茅野」

 

 試合が終わったら謝ろう。

 そう決意した千冬だった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……さてジャーヴィス、今からやらなきゃいけない事は……分かってるよな?」

『成功率はおよそ50%ですが、本当に実行されるのですか?』

「当たり前だろ。つかこの状況で他にどうしろってんだよ」

『……畏まりました』

 

 状況は絶望的だ。

 空を飛べるか飛べないかだけで、戦いには大きな差が生じる。

 ましてや相手は遠距離タイプだ。このままハメ殺されてもおかしくは無い。

 よって今の俺がする事はただ一つ。

 そう。

 

「……オルコットさん、少しは男を見直す気になったか?」

「……ええ」

 

 ――時間稼ぎである。

 確かに賭けに出るとは言ったが、それにも時間が必要なのだ。具体的に言うとあと10分くらい。

 汚いと言われても構わない。俺だってあの子の気持ちを利用するのは卑怯だと分かってる。

 だがしかしあれだけの啖呵を切ってしまった以上、勝たなければ今後の俺の学園生活に大きな支障をきたす。

 代表候補生にケンカ売ってボロ負けしたんだってーwwwとか言われたら二度と立ち直れない。断言する。二度と立ち直れない。

 よって俺は勝たなければならない。俺自身の未来の為に!

 

『失礼ですが咲様、とても格好悪いです』

「るっさい」

 

 相棒からのツッコミはさて置き、依然として上に浮かぶオルコットさんと少しでも長く話すべく口を開く。

 

「さっきの戦闘で分かった筈だ。男だからってだけで見下すのがどれだけ馬鹿な事か」

「……ええ、確かにあの人は強かったですわ。彼があと三十分だけでも長くISに乗っていたら……きっと負けていたでしょう」

「まぁ慢心して負けたけどな。そこは否定しない」

 

 

 

「ぐふっ……」

「お、織斑君?!」

 

 

 

「だが次はああは行かない、決着をつけようじゃないかオルコットさん。俺が只の力に溺れた馬鹿な男なのか、否か!」

「……ええ!全力でお相手させていただきますわ!」

 

 敵IS、射撃体勢に移行。

 空中に浮かぶ文字を眺めながら、次の行動の準備をする。

 

「たったの数分しか稼げんかったが……どうだ?ジャーヴィス」

『PICは正常に機能しています。ですが……』

「何だ、はっきり言ってくれ」

『スラスターだけでなく反重力翼も片方損傷しています。飛行は絶望的です』

「なっ……ひょっとして一発目に貰ったアレか?二箇所もぶっ壊されてたのかよ……」

 

 クソ、せめてアレだけでも生きてれば上に飛ぶ事は出来たのに。

 まぁ無い物ねだりのI want youしてても仕方がない。

 会話を終え、空から飛んでくる無数のレーザーを躱し、受け流し、更に時間を稼ぐ。

 受け流すだけでも()()SEを消費するため、なるべく回避に専念する。

 

「先程から何やら独り言を言っているようですが……飛ばないのはハンデのつもりですの?」

「色々事情が……あるんですよッ!」

 

 本来ならサイクロンメモリの力を引き出せばスラスターがどうのこうのは無視して空を飛べる筈なのだ。

 ただでさえ強力なガイアメモリ、しかも強化版であるT2メモリを使用しているにも関わらずそれができないのには訳がある。

 

「ジャーヴィス、まだか?」

『残り二分です。耐えて下さい』

「了解……!」

 

 先程の一夏と違い、俺はとにかく避ける。避ける。偶に受け流す。

 逃げに徹する俺の姿に観客席のクラスメイトはざわつき……というか非難の目を向け始めた。ごめんなさい、精神的に来るからやめてください。

 

「くっ……いつまでも避けていられると思ったら大間違いですわ!」

 

 レーザーの速度が更に上がり、とうとう自分の速度に追いつかれた。

 脚から腰にかけて被弾し、SEを大きく削られる。

 

「ヤバッ……」

「捉え、ましたわっ!」

 

 食らった際の一瞬の隙を見逃さず、レーザーの雨が咲に降り注ぐ。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「咲!」

「か、茅野君……」

「……ハァ……機体に救われた、と言うよりは狙っていたな?アイツは」

「「……え?」」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……な、何ですの、この風は……」

 

 大量のレーザーが咲に当たる直前、突如咲を中心として爆発的な風が巻き起こった。

 ビットすら吹き飛ばしたその風はやがて収束し、中心から現れたのは――

 

「フゥーー……間に合った……」

 

 先程までと変わらず、緑と黒の二色で彩られたIS……いや、非対称だったデザインが纏まり、完全なる左右対称になっている。

 淡い光を放ち、機体からは常に風が噴出していた。

 

「ま、まさか……貴方も?」

「……ずっと不思議だったんだよ。どう考えてもスペックが弱すぎてな」

 

 初めて装着した日も、束のラボでジャーヴィスと出会った時も違和感を覚えていた。

 馴染むようで馴染まない、微妙な感覚。

 それは今や完全に取り払われ、身体は心地良い全能感に包まれている。

 IS「ダブル」の一次移行(ファーストシフト)が、今ここに完了したのである。

 

「さて……と」

 

 ドライバーを展開前の状態に戻し、オルコットさんに正面から向き合う。

 

「じゃあ改めて、見せてやるよ……俺の……変身!」

 

【Cyclone!Joker!】

 

 腕をクロスさせて再度ドライバーを展開すると、ダブルの装甲はバラバラになり、身体と完全に一体化していく。

 脚、腰、胸、腕……己の肉体を地球の記憶の強大なエネルギーによって変質させていく。

 顔には変身時特有の紋様が浮かび、真紅の複眼が目立つ仮面を纏って変身が完了した。

 

「ダブル改め『W(ダブル)』……なんつってな。さぁ、セシリア・オルコット……」

 

 右手を構え、ジャーヴィスも一緒に決め台詞を叫ぶ。

 

『「お前の罪を……数えろ!」』

 




ようやく変身まで辿り着きました。時間掛け過ぎた気もしますが後悔はしていません。

そして最近UA数が2万を超えました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願い申し上げます。


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第27話 ナヅチリスペクト

モンハンクロスの体験版の配信が始まりましたね。
回避性能とは何だったのか……(ブシドースタイルを眺めながら



「さぁて、ここからが本番だ。行けるな?」

『システムオールグリーン。サイクロンメモリ稼働率、100%。飛行開始します』

 

 サイクロンメモリは疾風の記憶を内包したガイアメモリだ。

 故に全ての風は俺に味方する。

 当然、身体を浮かせるだけの風を起こして空を飛ぶ事も出来る訳だ。

 風というよりはサイクロンドーパントの使っていた様な小型の竜巻に近いが。

 

 空に飛び上がり、オルコットさんと向かい立つ……向かい浮く?

 まぁどっちでも良い。

 

「その姿は……第二世代型、なのですか?」

「あ?あー……そういやアレは基本的に全身装甲(フルスキン)タイプなんだっけ?悪いがコイツは全くの別物だ。油断してると……」

 

 背後から強烈な風を吹かせ、一瞬で距離を詰める。

 

「落ちる、ぞッ!」

 

 ドロップキックでオルコットさんを吹っ飛ばし、追撃を加えるべく更に接近する。

 

「きゃあっ!……くっ、ティアーズ!」

「ぬ……」

 

 変身の際に発生した余波で吹き飛ばされていたビットが戻ってきて、背後から先程と同じ様にレーザーで攻撃を仕掛けてくる。

 だが、甘い。

 

「どぉぉおらッ……せいッ!」

「嘘!?」

 

 追い風を超強力な向かい風に変更し、背後のビットに背中を向けたまま接近。

 そのままサマーソルトキックで撃ち落とす。

 ISのサポートにより、雌火竜もびっくりの綺麗なフォームが決まった。

 地面と激突したビットはしめやかに爆散。お達者で。

 

「一丁上がり!」

 

 さぁ一気に残り3つも……

 

『後方注意』

「な……ぐぇっ!」

 

 ……かなり強力な一撃を背中に貰ってしまった。

 複眼部分……ホークファインダーには、相手の武器名であろうスターライトmkⅢの文字が表示されている。

 そういえばビット以外にも武器あるんだったか……

 こんな当たり前の事を忘れているようじゃまだまだ駄目だな。

 

「いつつ……流石にこれだけじゃ無理があったか……ジャーヴィス」

『畏まりました』

 

 俺の思考を読んで、ジャーヴィスが手にメモリを転送してくる。

 メモリのイニシャルは三日月を模したL。

 

「T2の底力……見せて貰おうじゃないの!」

 

 ドライバーから両方のメモリを引き抜き、新たに送られたメモリをソウルサイド、サイクロンメモリをボディサイドに装填し、再び展開する。

 

【Luna!Cyclone!】

 

「?色が……変わった?」

 

 右半身は黄色、左半身が緑色という変則フォーム、ルナサイクロン。

 ボディメモリとソウルメモリという概念が無いからこそ出来る組み合わせである。

 

「ほんでもって……よっ、うわ本当に伸びた!」

「ハァ!?貴方、腕が伸びて……」

「隙あり!」

「なっ……返しなさい!」

「嫌だねー!」

 

 某霞龍が如く伸ばした手に驚いているオルコットさんの隙を突き、スターライトmkⅢ――面倒臭いので以下スターライト――を奪い取る。

 最も扱い方は分からない……が。

 

「分からないなら、分かるようになれば良い!」

 

【Luna!Trigger!】

 

 再度メモリを交換、相性の良いルナトリガーの組み合わせにフォームチェンジする。

 銃撃手の記憶が武器の使い方を脳に直接叩き込んでくる。

 少し気持ち悪いが……閣下の腹パンに比べればどうと言う事は無い。

 

「うぉ……っと。サイクロンじゃないから飛べないんだったな……」

 

 浮力を失ったが華麗に着地。

 まぁここまで来れば後は消化試合だ。

 スターライトを右腕で構え、制御はジャーヴィスに任せる。

 

「俺は銃撃苦手だからな。頼むぜ?」

『了解』

 

 巨大なレーザーライフルから放たれた三発の光線は幻想の記憶によって軌道が捻じ曲がり、残り三つあった全てのビットを撃墜した。

 

「なっ……貴方、レーザーライフルで偏光射撃を?!」

「いやそんな高等テクじゃないんだけど……まぁ良いや誤解させとこ」

 

 使い終わったスターライトはその辺にポイして、ボディサイドのマグネホルスターに装着されていたトリガーマグナムを手に取る。

 うむ、やはり拳銃型の方がしっくりくる。下手だけど。

 

「さぁてどうする?ビットは全部潰した。ライフルも奪った。まだ他に武器があるんなら付き合うぜ?」

「ぐっ……まだ……まだですわ!インターセプター!」

 

 コールして呼び出された武器は……ショートブレードか?

 呼び出すのに名前を言わないといけないという事は使い慣れていないのだろう。

 そこまでして勝ちに来るか……

 

「だったら正面から……迎え撃ってやる!」

 

【Trigger!Maximum Drive!】

 

 ドライバーから引き抜いたトリガーメモリをマグナムのマキシマムスロットに装填、グリップバレルを上に持ち上げ変形させる。

 マキシマムマズルにエネルギーが収束していき、黄色と水色の光を放つ。

 

「……かかりましたわね!」

「何……ファッ!?」

 

 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 オルコットさんのISのスカートっぽいパーツが持ち上がったと思ったらミサイルが……って言ってる場合じゃねぇ!

 

「息合わせろ!ジャーヴィス!」

『了解』

 

 トリガーマグナムへのエネルギー充填率はまだ60%……

 頼む、貫通してくれ……!

 

『「トリガー・フルバースト!」』

 

 撃ち出された無数の光弾は軌道を変えながら進み、うち何発かはミサイルと激突する。

 残った全ての弾はオルコットさんに向かい、そして……

 

「きゃあああぁッ!」

「……やったか!」

『……咲様、その台詞は……』

 

 

 …………あっ。

 

 

 だが時すでに遅し。

 迂闊にフラグを立ててしまったせいか、全てのSEを削りきれなかったらしい。

 マキシマムをモロに食らって満身創痍ながらもブレードを構え、此方を見つめるオルコットさんが居た。

 

「ハァ……ハァ……くっ、ここまで、ですのね……」

「……正直、武器奪った時点で勝ったと思ってたんだけどなぁ……」

「わ、わたくしを誰だと思っていますの……?イギリス代表候補生、セシリ……ア……」

 

 既に限界だったのだろう。

 全てを言い終わる前にISが解除されて意識を失い、こちらに倒れこんで来てしまった。

 これは仕方が無い。受け止めなくては。

 決してやましいことなんて考えてないからそこんとこヨロシク。

 

「よっ、と………………柔らけぇ……」

 

 なんか全体的にふにふにしてて柔らかくてトビそうですはい。

 髪から漂う良い匂いと相まって更に意識を刈り取りにかかってくる。

 女性から抱きつかれた……というか今回は相手からしたら不本意だろうがこんな場面を経験するのが初めてでなかったのが幸いし、何とか耐えた。

 ありがとうラウラ。

 

『試合終了!勝者、茅野!』

『お疲れ様でした。咲様』

「おう、お前もお疲れ、ジャーヴィス。ただもう少し早く一次移行(ファーストシフト)できなかったもんかね?」

『それに関しては訓練を怠った咲様に非があると思われますが』

「申し訳ありませんでした」

 

 何にせよ初のISバトルは無事勝利に終わった。

 色々あったがまぁ今は……

 

「……ちょっとくらい揉んでもバレないかな……」

『茅野、そこから指一本動かすな』

「イエス、マム」

 

 固まって織斑先生をただ待つのであった。

 




チャアクの連携が削られてエフェクトも若干しょぼくなって……
連携は別に良いのですがせめてエフェクトの方だけでも4G仕様にならないものか……
あのズドドドドンって感じが好きなんですよね。
あ、エネルギーブレイドに関しては文句ないです。ええ。


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第28話 主人公的に考えて

あぁ^〜気の利いたセリフ考えるの大変なんじゃぁ^〜
素敵な言い回しができる作者さんは本当尊敬します。


「……目、覚まさないな」

『その様ですね』

「……」

『……』

 

「…………覚まさないな」

 

 クラス代表決定戦の後気を失ってしまったオルコットさんは医務室に運ばれたのだが、夕方になっても目を覚まさなかった。

 衝撃による一時的なものだと先生は言っていたが、原因を作ったのが俺である以上ここで待つ必要があると判断し、こうして傍の椅子に座って目を覚ますのを待ち続けている。

 

「まさかマキシマム一発……しかもフルチャージじゃないのにあんな威力が出るなんてな……地味に俺自身へのダメージもあったし」

『私の特性上それは仕方の無い事です』

「いやでも……その、何て言うか……」

『…………ご自分の力に呑まれそうになる、と?』

「……ああ」

 

 一次移行して初めて分かった。

 「変身」した状態でのコイツの力は予想を遥かに上回っている。

 いつかまた今回と同じ……いや、今回以上の事が相手の身に起こったら……

 

「……どうすりゃいいんだ?」

 

 要するに自分は浮かれていたのだ。

 人智を超えた力を得て、相手を倒して……

 そんな自分に酔っていた。

 これが主人公なのだと。

 

 だが現実はどうだ。

 仮にも自分より年の低い女の子をチート使って倒して。

 その挙句気絶させた?最低のクズ野郎じゃねえか。

 

「……試合の時は、こんな事思わなかったのにな……」

『それはISのサポートによる精神高揚が「そうじゃなくて!」……』

 

「……あの時……変身を解除した時にさ、いきなり怖くなったんだよ。それまであんなはしゃいでたのが嘘みたいに」

『……』

「……やっぱ俺、主人公には向いてな『お言葉ですが』……んだよ」

『これは少し私のキャラから外れてしまうのですが……そんな事を気にしてウジウジして凄く気持ち悪い、と言わせていただきます』

 

 …………!?

 

「なっ……ハァ!?何だ今の声!?どっから出した!?」

『大体君は転生前からそうだ。あれかい?ひょっとしてハーフボイルドでも演じてるつもりなのかい?この翔太郎モドキ』

「てめェ……言わせておけば好き放題ペラペラと……!」

 

 突然声が変わり、あろうことかフィリップの声で俺を罵倒し始めた。

 あのジャーヴィスが、だ。

 いつもの紳士然とした態度は何処へやら、完全に別人……いや別ISである。

 

『……以上が私の本音です。驚かれましたか?』

「当たり前だろ……」

『そもそも咲様はどうでも良いタイミングで鬱を発動される傾向にあります。振り回される側の身にもなって下さい』

「辛辣すぎやしませんかねジャーヴィス君……」

 

 とは言え罵倒され続けたお陰?かは知らんが、少し気が楽になった。

 女の子1人気絶させといて楽になるも何も無いわけだが。

 

「……んぅ……?ここは…………って茅野さん?」

「申し訳ありませんでしたッッッ!!」

「え、いやあの、え?」

「調子に乗って武装破壊してすいませんでした!おちょくってすいませんでした!挙句の果てに気ぜ――「ストップですわ」痛い!」

 

 オルコットさんの目が覚めたので土下座で謝罪の言葉を述べ続けていたらグーで頭を殴られた。

 言うほど痛くはないが強いて言うなら心が痛いです。

 

「……あれは全て私の慢心が招いたことですわ。貴方に非はありません」

「いや、でも……」

「そもそも代表候補生たる私が、一回や二回気絶させられた程度で恨むとでも思ってますの?もしそう思っているのであれば……」

「いや思ってない思ってない!いやぁさすがイギリスの誇る御令嬢懐が広い!」

「……調子が良いんですのね」

「い、いやぁ、ハハハ……」

 

 …………

 

 ど、どうしよう……

 ここからどう話を繋げばいいのかさっぱり分からん……

 謝罪……は幾らしてもし足りないがあっちからしたら迷惑だろうし……

 普通の女子のクラスメイトと話したことなんてほとんど無いからなぁ……

 

「……私、男の人が大嫌いでしたわ」

「え?」

 

 悩んでいたら向こうから助け舟を出してくれた……のか?

 椅子に座って向き合い、耳を傾ける。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――その後、オルコットさんの身の上話を聞いた。

 家の発展の為に力を尽くす母親に憧れていたこと、そしてそんな母親に対していつも腰の低い態度をとっていた父親を嫌っていたこと。

 そして――その両親は列車事故で亡くなってしまったこと。

 

 母の様になりたい一心で勉強を重ね、遺産を守ってきたということも聞かされた。

 そうして暮らすうちにますます父への憤りは増し、男嫌いの性格になってしまった……と。

 

「……急にこんな話をして申し訳ありません」

「いや、その……こちらこそごめん。辛い話させちまって」

「だから貴方は……ハァ、言っても無駄でしたわね」

「あっ……」

 

 また俺が謝った事に対し溜息をつくオルコットさん。

 そうは言っても謝る以外にどうしたら良いか分からないのだ。

 

「……その親父さんがどんな事を思っていたかは俺には分からないけどさ」

「……?」

「頑張ってる妻を支える夫って……なんか凄い格好良くないか?」

「な……!あ、あの人は……」

「俺だったら多分劣等感で潰れちまうよ、そんな事してたら。でも親父さんはISが世に出る前から奥さんを支えてたんだろう?立派なもんじゃねぇか」

「……」

 

 ……ハッ!

 

「わ、分かったような口利いてスマン……忘れてくれ」

 

 ヤバいヤバい何を口走ってんだ俺は。

 大体他人に偉そうに説教できるような人間じゃないだろお前。

 これ絶対怒って……

 

「……っ……!ぐすっ……」

 

 泣かしてるじゃねえかアアアア!!

 

 ど、どうしたら良い?

 謝るべきか?いや慰める……なんてこの状況でできるか!

 

 右往左往する俺に対し、オルコットさんは泣きながら笑った。

 

「ふふっ……何ですのその顔は……目の前でレディが泣いてるんですのよ?」

「いやあの……ほんと申し訳……」

「……ありがとうございます」

「……はぇ?」

 

 何かしら罵倒されるのを覚悟していたら感謝された。

 ……ドウイウコトナノ?

 

「……今にして思えば、意地になっていたのだと思いますわ。男性は弱い生き物だと……ずっとそう思って生きてきたものですから」

 

 でも、もう止めにします。と言葉を続ける。

 

「私も貴方のように、もっと大人にならないといけませんわね。ですからこれからも……どうかよろしくお願いします。咲さん」

「……あぁ、よろしく。オルコットさん」

「もう、そこは名前で呼ぶところですわ」

「えぇと……が、頑張ります」

 

 何はともあれ一件落着……か?

 過去の自分を振り切ったお嬢様の顔は、夕日に照らされ輝いているように見えた。

 俺も少しは人間として……成長できたのだろうか。

 

 波乱のクラス代表決定戦は、医務室に響く二人の笑い声と共に終わりを告げるのだった。




あくまでこの作品のヒロインはラウラです。念の為。

そして10日ほど更新が滞ります。
理由はまぁ……お察しください。
この時期の学生の宿命です。


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第29話 レッツパーリィ

祝!祝!祝!!!!!
遂に評価を頂く事が出来ました!!
お名前は伏せますが、ありがとうございます!
これからも頑張ります!
テスト明け故テンション高めの前書きでした。


「……えー、それでは!」

「茅野君のクラス代表就任を祝して!」

 

「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

 クラス代表決定戦の次の日の夜、食堂では1組による菓子パが行われていた。

 いつの間に企画されていたのやら、気付けば他クラスの子も結構混じっている。

 ちなみに見ての通り、クラス代表は俺に決まった。

 仲直りはしたとは言え流石に罪悪感があったので本当はセシリアに譲ろうとしたのだが、とても良い笑顔で、

 

『私に恥をかかせたいんですの?』

 

 と言われたので、素直に従った。

 笑うという行為は本来攻撃的なものであるとどこかの漫画にも書いてあったが、どうやら事実だったようだ。

 

「それにしても咲があんなに強いなんてなぁ……俺完全に噛ませキャラになってないか?」

「いやお前だって良いところまで行ってたじゃねえか。戦闘センスはお前のほうがよっぽどあると思うぞ?」

「いやいや咲の方が」

「いやいや一夏の方が」

「何をやっているのだ二人とも……」

 

 二人で漫才をやってたら篠ノ之さんに突っ込まれた。

 いやこういうノリってええやん?

 貴重な男友達だし。本当に貴重な。

 正直一人でこの学園入ったら胃が持たないと思います。ええ。

 

「まぁ何にせよ今度試合だな。アリーナも一応2週間後には使えるわけだし」

「その時には俺が勝つ!」

「ほう?じゃあ今度の特訓でも篠ノ之さんに手伝って貰うか。二方向からの攻撃に対応できるようにしたる」

「お、お手柔らかに……」

 

 その後クラスメイトからの質問に答えたりして親睦を深めつつ、適当に菓子をつまみながらワイワイやっていると、突然後ろから声をかけられた。

 

「えーと、君は茅野君……だよね?」

「ええ、そうですけど?」

 

 話しかけてきたのは……誰だ?

 クラスメイトにこんな子いたっけ?

 と言うかこんな質問してくるぐらいだし他のクラスの人だろう。

 

「私は新聞部2年の黛薫子。あ、これ名刺ね」

「あぁ、上級生の方でしたか。初めまして、茅野咲と申します」

「おぉ……良いねぇその返し。二人目の男性操縦者は紳士的な高身長タイプ……っと」

「いやただの社交辞令ッスけど」

「と思わせといてからの荒っぽさアピール!イイよー絵になるよー。あ間違えた。文になるよー」

「て、テンション高いなこの人……」

 

 一夏が若干引き気味になる。

 俺は結構好きだがなぁこういう性格の人。

 恋愛的な意味じゃなく。

 

「織斑君と違って突然学園に現れた男の子だからねー、情報が全く無いのさ。強いて言うなら二年前の……」

「その話はナシの方向でお願いします。色々複雑なんで」

「……うん、了解。本気で嫌みたいだし、詮索はしないよ」

「助かります」

 

 あっぶねえ……

 ほとんどの人が忘れてるとは言え手配されてた事は確かだし、学園中に情報がバラ撒かれたらちょっと面倒な事になる、というか俺が泣く。

 3年間を針の筵の上で過ごすのは嫌です。

 

「じゃあ別の質問!彼女居ますか?あ、織斑君は答えなくていいよ」

「えっ?何でですか?」

「そりゃお前……なぁ?」

「彼女がいる人の素振りに見えない!以上!」

「えぇ……」

 

 実際コイツに彼女ができたらどうなるのか想像もつかない。

 多分ハーレム系の主人公だし、鈍感属性も持ってるだろうし……

 え?何だって?とか言いだしたら殴り飛ばそう、そうしよう。

 

「で、茅野君はどうなの?ひょっとしてもう……」

「あー、残念ながら居ません。つか俺の境遇って知られてないんすか?」

「え?うん。強いて言うなら窓ガラス破って入学したって事と、織斑先生に頭を下げさせたって事くらい?」

「Oh……」

 

 いや、秘密をしっかり守るのは良い事だけども。少しくらいは話しておいてくださいIS学園職員の方々。

 このままだと俺のイメージが尾◯豊っぽい感じのヤバい人で固まってしまう。

 盗んだバイクで走り出したりしませんから。

 とりあえずこの人には俺の事を話しておこう。

 真っ赤な嘘だが学園にも伝わっている内容だ。

 

「え、えぇと……かくかくしかじかまるまるうまうまで……」

「……それこそ書いていいのか戸惑う情報なんだけど……」

「そこはホラ、面白おかしく編集加えちゃってくださいな先輩」

「中々無茶を言いなさるねぇ……だが乗った」

「ありがとうございます」

 

 固い握手を交わす俺と黛先輩。

 こうして「学園内での俺のイメージを良い感じにしちゃおうぜ大作戦」は始まる事になる。

 始まりません。

 

 とりあえず俺についての情報操作に関してはこの人に任せよう。

 ISが存在するような世界だ、生体兵器だって居ても違和感は無いだろう。

 ……無いよな?

 

「よし、情報提供ありがとう!また何かあったら報告よろしく!」

「了解っす」

 

 食堂の出口に向かって歩いていく先輩を見送る。

 ……と思ったら戻ってきた。

 忘れ物でもしたのだろうか?

 

「ゴメンゴメン、最後に写真だけ撮らしてくれないかな?こう、専用機持ちの集合写真みたいなの」

「わ、(わたくし)もですの?」

「とーぜん。せっしーちゃん綺麗だし」

「せっしー……?」

 

 先輩の言う通り、セシリアはかなりの美人さんだ。

 一夏と並べたらさぞ映えることだろう。

 ……悔しくなんてないやい。

 

「はいはい、並んで並んでー」

 

 とりあえずクラス代表だからと言うことで真ん中に俺、右に一夏、左にセシリアが並んだ。

 そしてさらっとクラスのみんなも後ろに並ぶ。箒さんはさり気無く一夏の隣へ。

 当の一夏は全く気付いていないようで、若干不満そうな顔をしていた。

 頑張れ箒さん。今の所ライバルは居ない。筈。

 

「はーい撮るよー!7×5×3はー?」

「315!」

「いや何でだよ?」

 

 一夏が突っ込みを入れると同時にシャッター音が鳴る。

 俺は突然振られたライダーネタが嬉しかったので満面の笑みである。

 ちなみに数人を除いてほぼ全員がポカンとしていた。

 

「先輩、アンタ最高です」

「フッフッフ、専用機の形から予測したけどビンゴだったね。じゃ今度こそさらば!」

 

 バックル型の待機形態なんてそうそう無いだろうからなぁ、やはり分かる人には分かるようだ。

 そしてあの一枚で良かったのだろうか、今度こそ黛先輩は食堂を出て行った。

 その後、俺は……

 

「茅野君ってもしかしなくても特撮好き?」

「おぉ、同志よ……」

「今宵はじっくりと語り合おうではないか……」

 

 思わぬ形で見つかったクラス内の同志数人と存分に語り倒すのであった。

 

 余談だが後半からは一夏も引きずり込み、他クラスの人も巻き込んでの大騒ぎになり、織斑先生と山田先生に怒られるまでパーティは続いたのだった。

 




少し遅れましたが無事にクロスを買えました。
ただ武器強化が面倒臭くなってて多少イライラしたり。


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第30話 漢の戦い ROUND1

また評価いただいてしまったよ!やったねたえ(ry
イヤァ有難い事です。目指せ五人(何

MOVIE大戦見に行きましたが……うん……
イグアナがカッコよかったかな!(白目


「……さて、遂にこの時が来たな、一夏」

「ああ、申請してから3週間……待った甲斐があったな」

 

 アリーナに立つ二人。

 その間には風が吹き抜け、その場はピリピリとした緊迫感に包まれる。

 

「「いざ尋常に!勝ォォ負ッ!!」」

 

 クラス代表決定戦から早くも2週間が経ち、黛先輩の書いた記事によって俺の情報が学園全体にほぼ浸透した。

 幸いにもドイツから代表候補生は一人も来ていなかった為、特に誰かに何かが起こるという事もなく。

 もし居たら全力で土下座した上でハラキリしなければいけないところだった。

 

 そして今、待ちに待ったアリーナでの試合を始めようとしている。

 と言ってもお互い未だ慣れていないので、まずは色々な確認から始める事に。

 冒頭のアレは何だったのか。

 

「締まらないな……」

「仕方ないだろ、お互いに自分のISについてよく知らないんだし」

「そりゃあそうだけど……」

 

 ぶつくさ言いながらも一夏は白式を展開し、適当に剣を振り回している。

 俺も始めるか。

 

「ジャーヴィス」

『……』

「……おい、どうした?」

『いえ、随分とお久しぶりでございます。咲様』

「?毎日話してるじゃねえか」

 

 丸々一話出さないとはどういうつもりだとかよく分からない事を言っているジャーヴィスは放っておいて、腰の右側に付けたホルダーに入っているドライバーを取り出す。

 束ンニが半日で作って送ってくれました。うーん、語呂が悪い。

 どんな仕組みなのか、俺以外の人間では取り外せない優れ物だ。

 制服ごと、もしくはISスーツごと持って行かれたらどうしようもないが。

 

 あっそうだ(唐突)、その制服についてだが、めでたく改造を許可された。

 毎年毎年申請を出す生徒は少なくないのだと、事務所のお姉さんが話していた。

 と言うわけであの驚きの白さだった制服から一転、下は黒いパンツ、上は許可を貰ってシュヴァルツェ・ハーゼの制服をそのまま羽織っている。

 最早改造と言うより別物だろうと思うが、一応名目上は改造だ。一応。

 そして元の制服の上着はお星様になりました。仕方ないね。

 

 もっとも今着ているのはISスーツなので関係は無い。どうでも良い情報でした。

 

「うし、今日は始めからアレ使ってみるか」

『畏まりました』

 

【Cyclone!】

【Joker!】

 

『「変身」』

 

【Cyclone!Joker!】

 

 目線の高さは少しだけ高くなるもののほぼ変わらず、肉体が変質する不思議な感覚と共に変身が完了した。

 

「えーっと、これが単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)……なんだよな?」

『その様です。名称はそのまま「変身」となっています』

「一時的に肉体とISを融合させる能力って神様は言ってたけど……ホントどういう理屈なんだろうな、コレ」

 

 ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する能力、それが単一仕様能力だ。

 本来二次移行(セカンドシフト)した後から発現する能力らしいのだが……これが主人公補正って奴か?

 確か一夏も使ってたし……零落白夜とか言うなんともまぁ中二感溢れる名前だったが。

 

「そんでこの状態だとスペックが全体的に向上、代償としてはサイクロンかバード以外だと飛べない、ってとこか」

『飛行に必要な装備を全て肉体との融合に使用していますので、そうなります』

「良くも悪くも完全再現って事か……せめてハードボイルダーとリボルギャリーがあればなぁ……」

『ドクター篠ノ之にご相談してみては?』

「ドクターって……あぁ、ミスだと箒さんと被るからか?まぁダメ元で聞いといてくれ」

『畏まりました』

 

 一次移行した事でジャーヴィスの能力も解放されたらしく、情報収集やメールの返信、毎日の生活習慣の管理など様々な事をしてくれるようになった。

 ダメ人間製造機と言えなくもないが、あまり頼りきりになると無視される事もあるので注意が必要だ。

 

「謎って言えばこのメモリも……「おーい咲—、終わったかー?」……間の悪い……」

 

 飛んだり走ったりしていた一夏が戻ってきた。

 まぁメモリについては今度でいいだろう、束の解析結果とかもまだ聞けてないし。

 正確には教えてくれなかった、だが……都合の悪い事でもあったのか?

 

「あぁ、一応終わった。もうやるか?」

「おう!もうこの前みたいなポカはやらないからな!」

「それフラグって言うんだぜ?」

「うっ……だ、大丈夫だ!……多分」

「本当に大丈夫かよ……まぁ始めますか」

 

 アリーナの隅に設置されたコンソールでモニターを操作し、試合モードにする。

 お互いのSEや残り時間などが表示され、準備完了だ。

 

「そんじゃ改めて……」

「あぁ、改めて……」

 

「「勝負!」」

 

 試合開始のコールが鳴り、一夏は剣を構えこちらに突っ込んでくる。

 ……?この感じどっかで……

 

「っ、はぁッ!」

「真正面から突っ込むのはアホのやる事……あぁ、思い出したわ」

 

 上段切りを躱して懐に入り込む。白式に比べかなり小柄だからこそ出来る技だ。

 そして思い出した。この状況は……

 

「……昔の俺にそっくりだな」

『四年程度では昔とは言えないのでは?』

「……ノーコメン、トっ!」

「ぐあっ!」

 

 横っ腹を蹴り飛ばすと一夏は俺の予想以上に吹っ飛ぶ。

 えっと……Wの公式スペックでのキック力は確か……

 

『6tです』

「えげつねえ……」

 

 分かりやすく言えば象三頭を纏めた重さが、普通の人間より遥かに早いスピードで繰り出される蹴りに乗っているわけだから……

 ……いや、ちょっとシャレにならなくないか?

 

「おーい一夏ー、生きてるかー?」

「あ、あぁ……すげえ驚いたけど……」

 

 流石はIS、6tの蹴り程度では壊れる事は無いらしい。

 まぁ元は宇宙開発の為に造られたモンだし、当然と言えば当然か。多分。

 

SE(シールドエネルギー)もあんま減ってないな……6tの衝撃って意外と弱いのか?」

『生身の状態ではミスター織斑が少しお見せできない事になっていました』

「前言撤回、やっぱえげつねえ」

 

 一撃でISを粉砕できるようなスペックと言えば……やっぱクウガか。

 100tのキックなんて正直想像もつかないけども。

 昭和ライダー?ありゃ別次元だ。

 

「まだいけるな?一夏」

「当たり前!」

 

 考えるのも程々にして、試合を再開する。

 だが一夏の剣が全然当たらない。

 元々動体視力はかなり鍛えられているし、更に今はジャーヴィスのサポートもあるのだ。

 余程の事がない限り当たらな……

 

「!そこだ!」

「な……()ッ!」

 

 か、回避した先を読まれた……?

 どんだけだよコイツ……やっぱ主人公補正って怖いわ。

 

「っしゃ、当たった!」

「クッソ……やっぱ地味に痛え……」

 

 いくらガイアーマーが硬いとはいえISの剣には弱いらしい。

 当たった場所からは火花が散り、煙が上がっている。

 

『ソウルサイド、SE10%減少。注意を』

「了解……」

 

 このままやられっぱなしと言う訳にはいかない。

 距離を取り、メモリを交換する。

 

【Metal!】

 

「やらせねえ!」

「ちょっ、おまっ!」

 

 メモリを構えたら一夏が突っ込んできた。

 それもそうか、ここは番組の中じゃない。

 相手は大人しく待っていてくれはしないのだ。

 

「あぁもう……ちょっと、堕ちろ!」

「なっ、へぶっ!」

 

 隙を突いて顔面に踵落としを食らわせる。

 おかしな声を上げ、綺麗に落ちていった。

 

「堕ちたな(確信)」

『早くメモリの交換を』

「へいへい」

 

【Cyclone!Metal!】

 

 疾風の切り札から疾風の闘士へ。

 左半身が銀色に変化し、背中にはメタルシャフトが現れる。

 

「とっ……バランス取り辛いな、コレ」

『相性の悪いフォームなので仕方ありません』

 

 背中からメタルシャフトを取り外すと両端が伸び、身の丈より長い棍になる。

 

「一夏のSEは?」

『残り68%、マキシマムドライブ一撃で決着が可能です』

「顔面蹴りが効いたか?……まぁ何にせよ、とっとと決めちゃいます、か!」

 

 下に落とした一夏が上がってこないうちに、ドライバーからメタルメモリを引き抜き、シャフトに装填する。

 

【Metal!Maximum Drive!】

 

 右手からサイクロンのエネルギーがシャフトに流れ込み、両端が強力な旋風を纏う。

 

「ハアアァァァァ……」

「クソッ、顔面に踵落としとか反そ……く……?」

 

 今更一夏が立ち直って上がってきたが、もう遅い。

 

「もっぺん堕ちな!」

『「メタルツイスター!」』

「ちょ、がっ、ぐあぁぁッ!」

 

 怒涛の連撃を叩き込み、最後に胴体へ思い切り振り下ろす。

 先程とは別の姿勢で地面に落ちていき、白式の形のクレーターを作った。

 同時に試合終了のコールが鳴り、スクリーンには勝敗が表示される。

 当然俺の勝ちだ。

 

 ……と思ったその時。

 

『時間切れです。変身を解除します』

「へ?時間切れって……」

 

 言い終わる前に装甲はバラバラになり、元のISの姿に戻る。

 同時にドッと疲れが押し寄せるが、これはこの前もそうだった。

 変身が勝手に解除されるなんて事は無かった筈だ。

 

『変身を使用できる時間は現在10分までとなっています』

「いや、何でだよ?」

 

 メモリの毒素はドライバーで処理されている……筈だし、変身時間の制限なんてW本編でも聞いた事がない。。

 

『使用し続ければそれだけSEを消費します。10分というのは変身し続けた際に消費されるSEが50%を超えるボーダーラインです』

「……うわ、本当にゴッソリ減ってやがる」

 

 SEの残量が表示されている空中投影ディスプレイを見れば、確かに残りが45%と表示されている。

 ……45?

 

「……なぁジャーヴィス、コレって……「お〜い、咲〜」……ええい、毎回毎回間の悪い」

 

 まぁ良い、後で聞けばいい話だ。

 

「何用かね敗者くん」

「いや……抜けるの手伝ってくれ……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 その後アリーナの地面にガッチリ埋まってしまったルーサー……じゃない、一夏を引っ張り上げ、倉庫から土を持ってきて埋め直し、清掃を済ませれば夕方になっていた。

 

「いやー疲れた疲れた。主に地面の後処理で」

「元はと言えば、俺を下に落とした咲が悪いじゃねえか」

「その攻撃を避けられなかったのは誰かなぁ?」

「ぐぬぬ……次は絶対勝つ!」

「あぁ、また2週間後だけどな」

「……今回よか縮まったけど長いな……」

「しゃーない」

 

 夕暮れの道を友と歩く。

 いやぁ実に良い青春だ。俺の高校時代が霞みまくって消える程度に。

 

「……俺もさ」

「あん?」

「俺も、咲みたいに強くなれるかな?」

 

 一言問いかけ、どこか迷うような目で俺を見つめる一夏。

 ……この言い回しは駄目だ、お腐れ様が湧く。

 

「……人外とほぼ毎日特訓してりゃ、その内こうなるさ」

「何だよそれ、自分が人外って言いたいのか?」

「いや、俺なんて人外のじの字にすらなれないから……」

「ドイツで何があったんだよ……」

 

 俺の語る閣下伝説に目を白黒させる一夏の反応を楽しみつつ、寮への帰路を行くのだった。




というわけでVS一夏、それなりに完封勝利でした。
もっと一夏をチートにしなきゃ(使命感)

クロスはようやくHR7まで来ました。
アグナコトルは絶対に許さない。絶対にだ。
地面潜り過ぎじゃありません?


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番外編 X'masなお話

滑り込みセェェェフ……?
大分間が開いてしまい申し訳ありません……
決してCSMディエンドライバーが届いて浮かれてたりクロスやりまくったりなんてしてません。
ワタシウソツカナイ。
というわけで突貫で書き上げたクリスマスエピソードをどうぞ。
時系列的には咲が中一の頃になります。


――12月25日。

 世間一般ではクリスマスと呼ばれるこの日の朝、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員寮敷地内にて、怪しげな影が動き回っていた。

 赤い外套に身を包み、しっかりと付け髭までつけたこの人物は言わずもがな、咲である。

 

「良い子のみんなにプレゼントをお届け……ってな」

 

 背中にはこれまたお約束通りの大きな袋を背負い、隊の皆を驚かせようとわざわざ窓の外から届けようとしているのである。

 煙突?んなもんは無い。

 

 まず最初に選んだのはセリーナの部屋だ。

 とは言え窓はキッチリ鍵が掛かっている。さてどうするか。

 

「……アレを試してみるか」

 

 昔よく読んでいたヴァンパイアの物語の一場面に、とある髪の薄いヴァンパイアが静電気を使って鍵を開けるシーンがあった。

 もっとも静電気でどうやって開けるのかなど皆目見当もつかないので、毎度おなじみ魔力的な何某の出番である。

 

「念糸の応用で良い感じに…………良し、いけたな」

 

 窓を開けて、閣下に教わった隠密潜入術をフル活用し、スルリと部屋に忍び込む。

 そういえばリー姉の部屋に入るのは初めての事だ。

 

「うぉ、これ全部料理本か……?こっちはレシピ集か……」

 

 本棚にはぎっしりと料理に関する本が詰まっており、余程勉強したのであろうことが伺える。

 他には普通の小説などもあったが、知らないものばかりだったのでとりあえずスルー。

 

「置き場所は……ここが良さそうだな、っと」

 

 枕元の棚の上に丁度いいスペースがあった為、そこにラッピングされたプレゼントを置く。

 ちなみに中身は最新鋭の調理器具一式だ。

 

「これで良し……メリークリスマス、リー姉」

 

 規則正しい寝息を立てるセリーナに別れ(?)を告げ、次の部屋に向かう。

 当然鍵を閉めるのも忘れずに。

 

 次に向かった部屋はヴァネッサの部屋だ。

 先程と同様に鍵を開け、忍び込んでプレゼントを置いた……その時。

 

「ん……ん~……?」

「!?」

「……うへへ……でっかいシュトーレン……」

「ね、寝言か……びっくりした……」

 

 余談だが、ドイツのクリスマスではシュトーレンと呼ばれるケーキを食べるのが一般的らしい。

 レーズンやレモンピールなどが入ったケーキにたっぷりの粉砂糖が掛かっていて、とても美味しいんだとか。

 作者は食ったことが無いので味が分からないのです。ご了承ください。

 

「意外と部屋は綺麗にしてるんだな……というかぬいぐるみ多くね?」

 

 結構女の子らしい一面もあるようだ。

 まぁそれは前情報で知っていた為、プレゼントのビッグサイズテディベアを枕元に置き、さらに次の部屋へと向かう。

 

「お次はニコ姉か……よっと」

 

 ついに発覚した最後の隊員。

 名前はニコル・ブラーシュ。隊の中では珍しい黒髪の持ち主で、長い髪をポニーテールに纏めている。

 戦闘センスはクラリッサとほぼ互角という中々の実力の持ち主だ。

 そんなニコ姉へのプレゼントは……

 

「……本当にこれで合ってんのかねぇ……?」

 

 前情報を参考にし選んだのは、なんと日本の木刀である。

 ……今更変更も効かないのでとりあえず枕元に置いたが、大丈夫なのだろうか?

 

「……悩んでても仕方がない。きっと大丈夫だ。俺は俺を信じる」

 

 某幽霊なライダーもそう言っていた。

 

「ほい次、クラ姉のお部屋は……」

 

 二階に行くため木に登り、音を立てないよう慎重に窓に飛び移る。

 手慣れた手つきで鍵を開け、袋からプレゼントを取り出す。

 

「……まぁ、偶にはこういうのもアリ……だよな?」

 

 そう言って取り出したのは、ラッピングされた小さな箱だった。

 中に入っているのはなんとG-SH○CKの最新モデルである。

 伏字?はて何の事やら。

 

 とりあえずこれも前情報に従っている為、間違いは無い筈だ。

 女性に贈るプレゼントがゴツい腕時計ってどうなのかと思うだろうが、本人がネットの記事をみて頬を緩ませていたのを咲は知っている。

 

「……うし、ラスト行きますか」

 

 最後に向かったのはラウラの部屋だ。

 若干緊張しつつもしっかりと音無し潜入を決めて、いざプレゼント……

 と思ったのだが。

 

「……居ない?」

 

 ベッドはもぬけの殻だった。

 慌ててドアを確認したが閉まっている。

 つまり廊下に出ているわけではない、と。

 

「……まさか、いやそんなまさか……ねぇ?」

 

 妙な予感がし、窓を開けてすぐ下にある自分の部屋に戻る。

 閉めていた筈の窓が――開いていた。

 

「……えぇっと……」

「あ……」

 

 部屋に忍び込んでいたのは、自分と同じ赤い外套を身に纏った美しい銀髪の少女……まぁ、うん。要するにサンタコスのラウラである。可愛い。

 

「そ、その、これはだな!決して疾しい事をしようとしていたわけでは……」

「っと、静かに。みんなが起きちまう」

「あ、あぁ……そうだな……」

「……」

「……」

 

 ――沈黙が流れる。

 

「え、っと……その……お互い、一気に出しちゃうか?」

「……あぁ、そうだな。黙っていても仕方ない」

 

 ラウラの言う通りいつまでも黙っていても埒が明かない。

 二人とも同時に袋に手を突っ込み、そして……

 

「一……」

「二の……」

「「さんッ!」」

 

 ラウラは黒色の小さな箱を、咲は白色の小さな箱を同時に取り出し、互いに差し出す。

 

「……似てるな」

「……だな」

 

 そしてそれをお互いに受け取ると、また沈黙。

 もはやいつものと言うか、お約束の光景である。

 

「その……ありがとうな」

「い、いや、こちらこそ……ありがとう」

「…………お?ラウラ、外見てみ」

「ん?あぁ、雪か……」

 

 窓の外を見れば、はらはらと風に舞う雪が朝陽を反射し、眩しく輝いていた。

 

「……メリークリスマス、ラウラ」

「む、違うぞ咲?ドイツではFröhliche Weihnachten、だ」

「ふ、ふろ?」

「フローリッヒェ、ヴァイナハテン、だ」

「……やっぱメリークリスマスの方が言いやすいだろ?」

「……それもそうだな……メリークリスマス、咲」

 

 小さな二人のサンタクロースの笑い声は、クリスマスの朝陽の中に溶けていくのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――おまけ

 

「こっ、これ!ずっと欲しかった調理器具!」

「でっかいクマさんだ~~~ッッ!!」

「……やっぱり日本製は、良い」

「ああ……この無骨なフォルム……おっと、涎が……」

 

 

 

「……まさかとは思ってたけど……」

「……被るとは、な……」

 

 それぞれの部屋に戻った咲とラウラの手の中では、黒と白のブレスレットが輝いていたのだった。

 

((……大事にしよう……))

 




本編も年内中に更新する予定です。
多分一話だけですが……

あ、メリークリスマスです。


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第31話 天丼はお嫌いですか、そうですか

さ、サブタイのネタが思いつかなかった……
許してヒヤシンス……
あ、今回地味に長いです。


「学年別……」

「クラス対抗戦?」

「そうだよ〜」

 

 あくる日の1組。

 素晴らしき同志達の協力もあって、何とかクラスに馴染むことに成功した俺は今、何と クラスの女子とフツーに話していた。

 まぁ流石にほぼまる一ヶ月も経てば皆男に慣れたのだろう。初日のような目で見てくる人は居なくなった。一安心である。

 

「それぞれのクラスの代表同士で戦うんだよ〜」

「そんなイベントが……っていうかよく知ってるなのほほんさん」

「私〜これでも生徒会役員なんだよ〜」

「……マジ?」

「まじ〜」

 

 今発覚した驚愕の事実。

 あ、のほほんさんっていうのはこの子のあだ名だ。

 本名は布仏本音というらしいが、一夏がのほほんさんと呼んでいたので俺もそれに倣っている。

 

「勝ったクラスは食堂のデザート半年フリーパスが貰えるんだって!」

「茅野君、期待してるよー?」

 

 他のクラスメイトからも声が上がる。

 デザート食べ放題……確かに魅力的だ。

 リー姉には到底敵わないもののここのメシはとても美味い。

 勿論デザートも。

 

「きっと咲さんなら大丈夫ですわ。何せ私を倒したんですもの」

「ぷ、プレッシャーがぱねぇ……」

 

 セシリアにも期待されてしまっている。

 まぁ代表候補生を破ったのは確かだしなぁ……

 ……代表候補生と言えば。

 

「他のクラスにも代表候補生っているんだよな?」

「?ええ、ですが専用機持ちの候補生がクラス代表なのは確か……」

「1組と4組だけ!」

「わ、私のセリフが……」

 

横から入ってきたモブ子さんにセリフを奪われたセシリア。

ドンマイ。

 

「4組か……一夏、知ってるか?」

「いや、なんで俺?」

「何となく専用機持ち繋がりで」

「まだクラスのみんなの名前すら把握してねえよ……」

「あ〜……4組の子はね〜……」

「?知っているのか雷電」

「いや雷電って誰だよ咲」

 少し言い淀むような雰囲気を見せるのほほんさん。珍しい。

 そして一夏よ、お前にはまだまだ色々教え込まねばな。

 と思ったその時。

 

「その情報、古いよ」

「あ、あれは何だ!」

「回鍋肉か!」

「恋女房か!」

「いや、ロリ少女だ!」

「それを言うならロイミュード……って誰がロリ少女よ!」

 

 ノリの良い同志達に感謝しつつ改めて教室の入り口に目を見やると、ツインテールの可愛らしい少女がこちらを睨んでいた。

 あとちっさい。すげえちっさい。身長をはじめとして全体的にちっさい。

 そしてこの声は……あさぽんか?

 んっふっふとか言ってくれないだろうか。

 

「おお、同志ぞ!」

「同志であるぞ!」

「者共道を開けい!」

「え、何このクラス……」

 

 フッ、今このクラスでは同志達の手により特撮の輪が広がっているのだよ。

 故にネタが通じる者は誰でもウェルカム。

 ネタが通じない者には懇切丁寧に教えよう。

 

「……鈴?お前鈴か?」

「知っているのか雷で「そのネタはもういいから」一夏がグレた……」

 

 まぁ要するに幼馴染だったそうな。

 あれ?幼馴染って確か箒さんも……

 

「い、一夏!誰だソイツは!」

「え?……あぁ、箒は知らないんだったな。箒が転校した後、入れ替わりで入ってきたんだよ」

「い、入れ替わり……?」

 

 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た

 

 修羅場だよ修羅場。俗に言う三角関係だよ。ちょっと違うけどまぁいいや。

 初めて見たお約束のような展開にオラワクワクすっぞ。

 自分で言うのもなんだがクズだなぁオイ。

 

「だ、誰よアンタ!一夏とどういう関係よ!」

「私は一夏の幼馴染だ!」

「それを言うなら私だって!」

「「ぐぬぬぬぬぬ……」」

 

 デコを突き合わせて睨み合う二人の美少女。

 側から見れば割と微笑ましい光景……あヤッベ。

 

「おーいお二人さん、その辺にしとかないとそろそろ……」

「何だ!」

「何よ!」

「授業だ馬鹿者共」

 

 スパパァン、と二連続で良い音が響いた。

 先生自慢の出席簿アタックを食らった二人は頭を抑えて涙目になっている。

 ……そんなに痛いのだろうか。一度食らってみたい。

 いやそんな趣味は無いけども。興味本位って奴?

 

「痛った……って千冬さん!?」

「織斑先生、だ」

「きゃうっ!」

 

 スパァン、と更にもう一発。

 変な声を上げて鈴さんとやらは撃沈。

 あ、箒さんが嬉しそう。

 

「篠ノ之、お前は早く席に着け」

「あうッ!」

 

 結局二人とも二発食らったな。

 喧嘩両成敗と言うかなんと言うか。

 ちなみに俺をはじめとしたクラスの全員はとっくに席に着いていた。

 危機察知大事。

 

「うぅ……また後で来るから!待ってなさいよ一夏!」

 

 言い終わるとまた叩かれるのを恐れたのか、ダッシュで逃げて行った。

 走る姿美しい。あ、ツインテールの話ね。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「代表候補生?お前がか?」

「そうよ!驚いた?」

 

 時は流れて昼休み。

 食堂では俺、一夏、箒さん、セシリアといういつものメンバーに鈴さんが加わり、席が賑やかになっていた。

 いつの間にかこの四人で食うのが当たり前になっていたので、若干新鮮だ。

 

「凰鈴音……確かに中国の代表候補生リストに載っていますわ。半年前に見た時は居なかったと思いましたけど……」

「そりゃあそうよ。だってあたしがIS乗り始めたの中三からだし」

「「「「ハァ!?」」」」

 

 え、たったの一年で代表候補生入り?

 うせやろ?

 

「な、貴女、一年で代表候補生になったと言いますの?!」

「結構大変だったけどまぁ、やっぱり才能かしらね?」

 

 ちなみにIS適性はAだそうだ。

 元々の才能に加えて相当な努力をしたのだろう。

 

「なんつーか……さっきはスマンかったな。ネタとは言え初対面の人に」

「別にあれくらい気にしないわよ。と言うか、私としてはあんたの事も聞きたいんだけど」

「あー……」

「うん……」

「な、何よ四人とも。あたし変な事言った?」

「いや、何と言うか……」

「いつも通りの流れだなぁ、と」

「……?良いから話しなさいよ」

「はいはいかくかくしかじか……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「えっと……突っ込みたいところはいくつもあるけど黙っとくわ」

「そうして貰えると助かる」

 

 もはや慣れた自分の境遇の説明(ほぼ大嘘)を終えると、まぁ予想通りというかなんというか、微妙な顔をされた。

 いつもの事である。

 

「そういや二年前にそんな事もあったわね……忘れてたけど」

「まぁ顔だけしか報道されてなかったしな。そこは助かった」

「にしても何で咲が疑われたのか未だに謎なんだよな……」

「そこは俺も気になってるんだがなぁ……あ、この話したっけか?この間……」

 

 

 

 

 

 

―回想―

 

「織斑先生、今いいですか?」

「ん?あぁ茅野か。どうかしたか?」

「いや、俺の入学初日の時の事覚えてます?」

「……あぁ、覚えている。本当に「それはもういいですって」……うむ」

 

 一夏との模擬戦の少し前の話だ。

 俺は授業終了後に先生の元へ向かい、少し話をしていた。

 

「あの時言ったことは……覚えてますか?」

「?どの事だ」

「あの場にはお前しか居なかったっていう……ホラ、校門の前で」

「……あぁ、思い出した。確かにそんな話をした記憶が……ある……?」

「?どうかしたんですか?」

「いや、確かに覚えてはいるのだが……妙だ」

「と言いますと?」

 

 その後聞いた内容に不可解な点がいくつもあったのだ。

 まず二年前の事件の時、現場には俺以外の人間が居た痕跡が無かったということ。

 この時点で色々おかしい。俺は確かに奴らを縛っておいたし、1人はストレス発さ……個人的な都合でボコボコにした筈なのだ。

 残党がいたとしたらISに反応が出るだろうし、やはり妙である。

 

 そして次、これが一番おかしいのだが、先生は事件後に一夏と話した内容を覚えていないと言うのだ。

 入学初日に聞いた時に口を濁したのはこれが原因だったらしい。

 本人も何故忘れているのかが分からないと言う。

 記憶操作……この人に効くとは到底思えないんだがなぁ……

 

 そして最後に、あの初日の異様なまでの俺への敵対心。

 今にして思えば、何故お前があそこまで憎かったのかが分からない、との事。

 冷静に考えたら分からない事だらけで、先生も俺も混乱したのだった……

 

―回想終わり―

 

 

 

 

 

 

「……すまん、話がぶっ飛びすぎてて何が何だか……」

「だよなぁ……俺もそう思う……」

 

 ポカンとしている女組はさて置き、この問題についての答えは一応考えている。

 一つ、織斑先生が何者かによる精神攻撃を喰らい、記憶操作を行われた。

 恐らくこれが一番可能性が高いのだろうが……どうしてもあの人に精神攻撃が効くビジョンが湧かない。ダブル本編でも精神攻撃が効かない特異体質の刑事が居たわけだし。

 

 そして二つ、織斑先生が俺を騙し、かつ命を狙っているという可能性。

 まぁこれに関しては完全にネタの域だ。もしこれが当たっていたとしたらとっくに俺は死んでいる。

 

 精神攻撃がもし効くとしても誰が、何の目的で、どんな手段を使ったのかとか色々疑問は尽きないわけだがとりあえず……

 

「おーい、起きろお三方—」

「「「……ハッ!」」」

 

 女組に声をかけると、ようやくポカンとした顔から普段の顔に戻った。

 やれやれである。

 

「……って咲さん!?こんな話私たちにしても良かったのですか!?」

「いやまぁ、ここに居るメンバーで他人に喋るような人いないだろうし」

「ま、周りの連中はどうするのだ……間違いなく聞かれて……あれ?」

「あぁそこは心配いらん。このテーブルの周りの音を遮断するようにしてある」

「魔力的な何某、ねぇ……。まぁ本当に聞こえてないみたいだし、信じるしかないわね」

 

 ちなみにこれは束との修行で身につけた能力だ。魔力的な何某バンザイ。

 応用が利く超能力は本当に便利である。

 もっともこれがどういう理屈なのかは皆目見当もつかないが。

 その内サイコキネシスとか使えるようにならんかね?

 

「さて、とりあえず今の話は覚えておいてくれ。同じ様な事が起こらないとも限らないし」

「え、えぇ……」

「あぁ……」

 

 微妙な空気になってしまったがまぁ、警戒は大事だ。

 何と言ってもここは二次元の世界。敵の組織が居るっていうのがお約束だろう。多分。

 空気を悪くしてしまったことに若干の罪悪感を感じつつ、少し伸びてしまったラーメンを啜るのだった。

 




一先ず今年の投稿はこれで締めとなります。
ここまで読んでくださった方々、どうか来年もよろしくお願い申し上げます。
それでは、良いお年を。


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第32話 世界は広い

新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます……

申し訳ありませんでした(土下座)
完ッ全にサボっておりました。ハイ。
投稿が滞っている間もお気に入りが減る事がなくて少し驚いたりしましたが私は元気です。ありがとうございます。
では本編をどうぞ。


 鈴ちゃんなう……じゃない、鈴との対面を済ませた日から暫く経って。

 

「うーし、今日はこの辺にしとくか」

「あ、あぁ……今日も疲れた……」

「でも初期に比べりゃ相当体力もついてるじゃねぇか。特訓の時間伸ばすか?」

「の、ノーセンキュー……」

 

 今日も今日とて武道場(この前とは別の第二武道場の方だ)で一夏と特訓だ。

 ただこの前までと少し違うのが……

 

「おっ、今日もやってるなお二人さん」

「あ、どうもッス部長」

「そんなかしこまらなくても良いって前言ったじゃねえか。ダリルでいいよ」

「いえ、一応目上の人なんで」

「一応なのかー……お姉さん泣いちゃうぞ?」

「え?誰がお姉さんですって?」

「あぁん?」

「スンマセンっした」

 

 俺と一夏が正式に部活に入った、という事だ。

 この学園には『武道部』という部があり、剣道部などとは違い、己の身一つで『武』を学ぶ部活らしく、最近俺が入ってから一夏も引きずり込んだ。

 部長のダリル・ケイシーさんと副部長のフォルテ・サファイアさん、そしてその他数名の部員によって構成されている。ちなみに二人とも代表候補生で専用機持ちだ。

 何でも部長と副部長の2人は学園でも有名なカップルなんだとか。俺得。

 基本的に女性しかいないIS学園なので、百合っプルも珍しくはないという事を最近知った。

 

「部長はもう帰るんですか?」

「いや、少しやっていこうと……何なら手合わせするか?」

「だってよ一夏」

「いや俺じゃないだろ!?人外の戦いに俺を巻き込むな!」

「「人外とは失礼な」」

「……もう何も言わねぇ」

 

 一夏の言う事も半分当たっている。

 部長と言うだけあってその実力はかなりのものだ。

 単純な筋力は人体の構造上俺の方が上……上……?多分上だと信じたいが、技術では劣っていると言わざるを得ない。

 最初にやった時は気付いたら投げられていた。咄嗟に全身強化しなければどうなっていたか。

 

「んじゃルールはいつも通り、審判は一夏君ね」

「了解です」

「……何も言わねぇ」

 

 お互い向かい合い、一礼。

 先輩はファイティングポーズをとり、俺はCQCの基本である脱力を意識する。

 

「判定はしっかり頼むぜ一夏?下手したら俺が死ぬ」

「オレとしては、君を殺せるビジョンなんてちっとも浮かばないんだけどねぇ……」

「ご冗談を、この前のアレを忘れたわけじゃないでしょう?」

「フッ、あの時は咲君も本気じゃなかっただろ?今度は最初から本気で頼むぜ?」

「……バレてたか」

「伊達に部長やってないから、なッ!」

「うおっと?!」

 

 会話の途中、一瞬で距離を詰めてきた部長のジャブを右手で受け止める。

 

「あ、あっぶねぇ……セイッ!」

「うおっ、とっ、とっ、と。暴力はんたーい」

「どの口が言いますか!」

 

 受け止めた手を先輩の手首に移し、左手で上着を掴んで放り投げる。普通に受身を取られた上に、部長は余裕綽々といった表情だ。

 流石にカチンときたので、魔力を解放し全身を強化する。

 但し出力は全力の半分に留める。フルボッコにする気なんざさらさら無いからな。

 ……あれ?これフラグじゃね?

 

「聞いてはいたが……こうして見ると本当に凄いな」

「後で文句言わないで下さい……よッ!」

 

 先程までの脱力状態から一転、全身に漲る力を発散させるかのように攻める、攻める、攻める。

 だが部長はファイティングポーズを崩さないまま、身体を軽く傾けるだけでほとんどの攻撃を避けて見せた。

 動く度にフリフリと揺れる金髪が美しいが、今は見とれている場合ではない。

 ただでさえ短いうえにスリットまで入っているスカートから覗く太ももに目を奪われてなんていない。断じて。

 

「ホラホラ、どんなに強くても当たらなければ意味が無いぜ〜?」

「こんの……だったら!」

 

 俺と部長が一進一退の攻防を続ける中、一人の女生徒が武道場へと入ってきた。

 

「うわー……咲とマトモにやり合ってる、て言うか咲が押されてる……?」

「ちわーッス……あれ、一夏君じゃないッスか。久しぶりッス」

「あ、フォルテさん。お疲れ様です」

 

 彼女こそ武道部副部長にしてダリルの恋人、フォルテ・サファイアその人だ。

 そして彼女が来たことに気づいた部長はと言えば……

 

「!?オルァッ!」

「げふぁッ!」

「フォルテー!咲君がいじめるのー!」

「いや、見てたッスよダリル……彼大丈夫ッスか?」

「咲ー!しっかりしろ!傷は深い!」

「それ駄目な奴や……一夏……」

 

 全力のジャーマンスープレックス、しかも壁に向けて投げっぱなしバージョンを俺に食らわせ、副部長にベタベタとひっついていた。

 顔面を武道場の壁にめり込ませた俺は完全に放置である。恋する女性、恐る……べし……

 

「……がくっ」

「咲ー!」

「あぁもう言わんこっちゃない、引き抜くッスよダリルー」

「え?うっわどうしたの咲君壁にめり込んじゃって?」

「む、無意識だったんすか部長……」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――その日の夜。

 

「……って事があったんだよ」

『ふむ……どこの世界にも天才というのはいるのだな』

 

 頬に絆創膏を貼った俺は、ISに備わった通信機能を使って今日の出来事をラウラに話していた。

 お互いの顔が見えるこの通信をラウラも俺も気に入り、ほぼ毎日と言っていいほどコレで話している。

 別れの際に渡した指輪は右の小指につけてくれているらしい。左の薬指とかじゃなくて少しホッとしたような残念なような複雑な気分になったけど気にしない。

 ちなみに俺も俺で貰ったお守りは隊の制服の内ポケットに忍ばせている。

 

『それで……その後ろのはどうしたんだ?』

「?あぁ一夏か。俺を壁から引っ張り出した後に部長とやって……な」

『ノックアウトされたわけか……』

 

 窓の方を向いている俺の後ろでは、一夏がベッドの上で顔を枕に突っ込みうなされている。

 仇を取ろうとしてくれたのは嬉しいが、こうもあっさりやられては何も言えない。

 

『む、そろそろ夕飯の時間だ。また明日。咲』

「あぁ、おやすみラウラ」

 

 通信終了の文字が表示されると、俺も一夏のように顔を枕に突っ込む。

 

『お疲れのようですね』

「あぁ……ホント、部長には敵わん」

『先程の咲様の戦闘データを基に、新しい訓練プログラムを構築しました。ご覧になりますか?』

「んあー……後で……見る…………」

 

 結局寝落ちてしまい、翌朝ジャーヴィスに説教を食らったのはまた別のお話。

 




色々と原作崩壊著しいですが許してください、何でもしますから。
最近仮面ライダー要素が薄まってる気がするのは私だけでしょうか?
……ネタをぶっこまなきゃ(使命感


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第33話 START YOUR ENGINE

お、遅れて申し訳ありません……
ここしばらく行き詰っていました。
若干長くなりましたが、どうぞ。


「模擬戦するわよ!」

「「へ?」」

 

 部長による投げっぱなしジャーマンを食らった次の日、休み時間になると鈴が一組にやってきた。

 この光景も見慣れたもので、クラスのみんなは少し注目したくらいで直ぐに元の姿勢に戻っていた。

 

「だから模擬戦!あたし今日アリーナ取ってあるんだけど、アンタ達もやるでしょ?」

「貴女が神か」

「ひゃっ!?ちょっ、手掴むんじゃないわよ!」

「っと、スマン」

 

 テンションが上がり、つい鈴の手を掴んでしまった。

 ここ最近めっきり変身していないのが原因なのか、俺はフラストレーションが溜まりに溜まっているのである。

 昨日の部長との組手も中途半端に終わってしまったし、そろそろ暴れた……

 

「フンッ!」

「ちょっ!何やってんだよ咲!」

「いや、少し自分に嫌気が差した」

「ご、ごめん、あたしそんなつもりじゃ……」

「あぁ鈴は関係無い。気にすんな」

 

 思い切り机に頭を打ち付けると、一夏が慌てたように話しかけてくる。

 どうやら自分が手を振り払ったのが原因だと思っているらしい鈴はひたすらオロオロしていた。

 タイミングが不味かったな。

 

(何が暴れたいだよ……この前の事をもう忘れたかこのポンコツ。駄目人間)

 

 心の中で思いっきり自分をこき下ろすと少し落ち着いた。

 

「ほら、もう休み時間終わるぞ鈴。また出席簿食らいたいのか?」

「ん〜〜……とりあえずまた昼休みに来るから!」

「へいへーい」

「気にしてないからー!」

「わーかったから早く行け」

 

 ドアのところまで行ったところで念を押すように叫ぶ鈴。

 お前が原因ではないと言ってもあの様子では聞かないだろうし、もうそのままにしておく。

 サッパリした性格の女性というのは良いものだ。

 ……最近思考がオヤジ臭くなってないか?

 

「諸君、席に……どうした茅野?」

「え?あ、何でもないッス」

「……?まぁ良い、授業を始める。今日はーー」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……なんでアンタも居るのよ」

「何だ、私が居ては不満か?」

「……まぁ良いけど」

 

「あいつら何睨み合ってるんだ?」

「さぁな。自分の胸に聞いてみろ」

「……?」

 

 放課後のアリーナでは、俺と一夏、鈴に加え、何故か箒さんとセシリアもISスーツに着替えて立っていた。

 というかピンクのISスーツなんてあるのか。

 鈴の身長と相まってなんともまぁロリロリしい……

 

「誰が小学生か!」

「まだ言ってない」

 

 中国では読心術でも流行っているんだろうか?

 

「で、箒さんとセシリアは何故ここに?」

「あぁ、二人は俺が呼んだんだよ。大勢でやった方が色々経験できるだろ?」

「いやまぁ、セシリアはいいとして……箒さん、打鉄の使用許可は?」

「と、取っていない……」

「あっ」

「……誘うのはいいが、もう少し考えたほうが良かったな。一夏」

「す、スマン箒……」

 

 まぁ見学だけでも学べる事はあるだろう。

 箒さんはアリーナの端っこの安産な場所に移動し、俺たちは一斉にISを装着する。

 一瞬で装着を完了した三人に対し、俺は大幅に遅れていた。

 仕様上仕方のないこととはいえ、何か対策を考えないとコレはマズいかもしれない。

 装着に手間取ってやられたー、なんてシャレにならん。

 

「あんたのISって変わってるわね……て言うか面倒臭くないの?いちいち着けたり入れたりして」

「ろ、ロマンだよロマン……行くぞジャーヴィス」

『了解』

 

【Cyclone!】

【Joker!】

 

『「変身」』

 

【Cyclone!Joker!】

 

 肉体の変化する感覚と共に変身完了。

 久しぶりだからか若干体が動かしづらいが、じきに戻るだろう。

 

「……ねぇ、それってもしかしなくても仮面ライダー……よね?」

「流石鈴ちゃんお目が高い。確かにモチーフは仮面ライダーだ。初代リスペクトのな」

「いや普通に放送されてても違和感無いわよコレ……」

「?お二人とも一体何の話を……」

「放っておこうぜ。ところでこの前のリベンジがしたいんだけど……」

「あら、奇遇ですわね。わたくしも貴方ともう一度戦いたかったんですの!」

 

 特撮談義を続ける俺と鈴をよそに、一夏とセシリアは上空でバトルを始めてしまった。

 偶にレーザーが飛んできて少し危ない。

 

「っと、話はまた後にしようぜ。今は……」

「ええ、見せてもらうとするわ……仮面ライダーの力!」

 

 こちらも戦闘開始だ。

 とはいえ今日は模擬戦、後日あるクラス対抗戦の事もあるし、お互いの能力確認が主になるだろう。

 だから流石に最初っから本気では来な……

 

「ラァッ!」

「うおぉう?!」

 

 いと思っていた俺が甘かった。

 二振りの大型の青龍刀、双天牙月と表示されているそれの攻撃を紙一重で躱し、大慌てで距離を取る。

 

「ちょっ、いきなり飛ばしすぎだろ!?」

「あら、悪い?」

「いや悪かねぇが……それならこっちも全力で行かせてもらうぜ!ジャーヴィス!」

『了解』

 

【Cyclone!Trigger!】

 

 ボディサイドをトリガーに変更し、風の弾丸を連射しつつ接近する。

 ――が。

 

「生憎だけど……それはアタシの専売特許よ!」

「何を……ぐあッ!」

 

 何をされたか分からなかった。

 俺が撃った弾丸が何故か全て叩き落とされ、俺自身も謎の攻撃で後方に吹き飛ばされる。

 

「ジャーヴィス、アレは何だ!?」

『解析完了、固有名称、龍砲。空間を圧縮する事で不可視の砲身と砲弾を作り出しています。更にハイパーセンサーに感知されないような仕組みになっているようです』

「それなんてチート……?」

 

 戸惑っている間にも不可視の砲弾は絶え間なく俺を襲い、とにかく逃げる事に手一杯になった。

 

「クッソ……何か手は…………!アレだ!」

『……了解。ご武運を』

 

 作戦を決定すると即座に急降下し、地面スレスレを飛び続ける。

 後ろから地面を抉る空気砲の音が聞こえてくる中、メモリを交換しある武器とメモリを構える。

 

「土煙を上げて身を隠そうったってそうは……」

 

【Steam!】

 

「?今の声って……ってハイパーセンサーが……!」

「貰ったァ!」

 

【Electric!】

 

「なっ……キャアッ!」

 

 突如起こったISの不具合に困惑している隙に、赤と銀で彩られた剣の一撃を決める。

 電気を纏った剣はそれなりのダメージを向こうに与えてくれたようだ。

 

「よっし作戦成功!」

『お見事です』

「ちょ、ちょっと待って!何よ今の!てかいつの間にか色も変わってるし!」

「……聞きたいか?」

「聞きたい!」

 

 まぁ秘密にするほどの事でもないので、素直に教える。

 

「まずこの色が変わったのはメモリを変えたからなんだが……今回使ったのはコレだ」

 

【Accel!】

 

「アクセル……加速?」

「そう、アクセルメモリは加速の記憶を内包している……そんな顔すんなよ」

「いや記憶の内包とかいきなり言われても……」

「ま、まぁとにかく、コレで飛行速度を底上げして、コッチを使った」

 

【Engine!】

 

「エンジンって……まさかそれはエンジンの記憶がー、とか言わないでしょうね」

「コイツはギジメモリっつってまた別のモンだ。で、コイツは三つの能力を使えて……」

 

 長くなったので割愛。

 要するにスチームによって発生させた蒸気で認識を撹乱させ、土煙と合わせて俺の居場所を感知されないようにしたのだ。

 あとは目にも留まらぬスピードで突っ込んで斬るだけ。

 アクセルの武装としてエンジンメモリとエンジンブレードが有る事は事前に知っていたが、スチームを使った際に出る蒸気にジャミング能力があるのは最近知った事だったので試しにやってみたら大成功、というわけだ。

 

「それなんてチートよ……」

「敵の妨害は基本だ。古事記にもそう書いてある」

「ぐぬぬぬ……悔しいからもう一回!今度は食らわないわ!」

「オーケィ!」

「「START,YOUR ENGINE!」」

 

 俺がペプラーさんボイスで言うと案の定乗ってきた。

 やはりコイツとは良い友達になれそうだ。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……も、もう無理……」

「き、今日はこの辺にしといてあげるわ……って言いたいけどアタシも限界……」

 

 およそ一時間ぶっ続けで戦い続けた頃、体力とSEが同時に尽きた俺たちはアリーナに倒れこんだ。

 辺りは俺の飛ばした斬撃や鈴の飛ばした砲弾で荒れまくり、この後に片付けをしなければいけない事を思い出して軽くげんなりした。

 

「二人とも何やってんだよ……」

「いやぁ、脳細胞がトップギアで……」

「訳わかんないこと言ってないで片付けようぜ。俺も手伝うから」

「わたくしも手伝いますわ」

「二人ともサンキュー……」

「ありがと……」

 

 そういえば一夏とセシリアは上空で戦っていたが、決着はついたんだろうか?

 とりあえず今は寮の門限に間に合わせるべく、大急ぎでアリーナの穴埋めをする俺たちだった。

 




エンジンメモリのジャミング能力は何となく思いついたのを書いてみました。
対ISで目くらましは通用しないので。

そしてまたしばらく更新が滞るかもしれません。
これも全部学年末テストって奴の仕業なんだ……


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第34話 開幕

テスト期間なのに執筆意欲がうなぎ登りになってしまう不思議。
大丈夫明日は休みだし明後日の科目は……
……これ死んだんじゃね?(白目)


 そんなこんなでクラス対抗戦当日。

 1組から4組までのクラス代表は一箇所に集められ、クジを引かされていた。

 箱の中には1〜4までの数字が書かれた紙が入っており、それによって短いトーナメント方式を組むのだという。

 全員が引き終わると結果が発表され、アリーナのモニターと目の前にあるモニターの両方にトーナメント表が表示される。

 俺の相手は……って嘘ぉ……

 

「まさか初っ端から当たるとはな……」

「決勝戦で当たったら面白かったのに、ツイてないわね」

「……」

 

 俺と鈴の隣では、3組と4組の代表の子たちが互いに何か話し合っていた……というより3組の子が一方的に話しかけてるだけか。あれは。

 つか4組の子よく見たら派手……いや地味……?

 纏う雰囲気は落ち着いた感じで、図書館に居そうな眼鏡っ子なのだが……髪が水色だ。

 まぁ紺色の髪の人だっているわけだし、水色がいてもおかしくはないだろう。

 それにしてもあの髪の色どっかで見たような……

 

「……駄目だ、思い出せん」

「どうかした?」

「いや、大したことじゃねえよ」

 

 駄弁っていると山田先生から声がかかる。

 

「お二人とも、そろそろピットに移動してくださいね」

「ウイッス。じゃあまた、アリーナで」

「この前みたいにはいかないわ!」

 

 鈴と拳を合わせ、互いにニヤリと笑う。

 趣味が合うこともあってか俺と鈴の関係はかなり良好だ。

 もちろん友達として。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……さてジャーヴィス、今日の作戦は分かってるな?」

『問題ありません』

「よぉし……目にもの見せてやろうぜ。【Luna!】」

『了解。【◯◯◯◯◯!】』

 

「『変身』」

 

 今日は最初から変身を使うわけではないが、お約束として口に出して装着する。

 左右で若干の違いはあるもののほぼ黄色で統一されており、ショルダーアーマーや非固定浮遊部位(アンロックユニット)には三日月の意匠が施されている。

 

「さて……装着も完了したところでそろそろ突っ込んでいいか?」

「どうした咲?」

「どうしたじゃねえよ!なんでお前がここに居んだ一夏!」

 

 このピットって関係者以外立ち入り禁止じゃなかったか?

 どうやって入り込んだんだコイツ。

 

「しかもさり気なくセシリアも箒さんも居るし……」

「わ、私は一夏に着いてきただけだ!」

「セシリアは?」

「わ、わたくしは……その……勉強ですわ!咲さんのISについては分からないことだらけですし!」

「お、おう……そうか……」

 

 若干顔を赤くして叫ぶセシリア。

 勉強熱心なのがバレるのが恥ずかしいんだろうか?

 

『……唐変木』

「何か言ったかジャーヴィス?」

『いいえ、何も』

「……?」

 

「全く、見当たらないから何処にいるかと思えば……」

「げっ」

 

 通用口から鬼……いやちっひ……間違えたちっふ

 

「茅野、後で職員室に来い」

「謹んでご遠慮させていただきます、サー」

 

 なに?中国だけじゃなくて日本でも読心術が流行り始めたの?

 俺が時代に取り残されてるの?

 

「ピットは立ち入り禁止だ。職員用の部屋に特例として入れてやるからついて来い」

「あ、ありがとう千冬姉!」

「織斑先生だ」

 

 箒さんもセシリアも怒られるのが怖いのか、素直に先生についていく。

 

「まぁ、その……負けるな、茅野」

「応援していますわ、咲さん」

「鈴も応援したいけど……同じ1組として、俺の分まで戦ってきてくれ!咲!」

「……あぁ、行ってくる!」

 

 これぞ青春よ。

 3人の心強い応援を受けた俺は、カタパルトによって勢いよくアリーナへ飛び出していく。

 上空にはすでに鈴が待ち構えていた。

 

「女の子を待たせるなんていい度胸してるじゃない!」

「ハッ、ヒーローは遅れてやって来るんだよ!」

「自分でヒーローって言ってるようじゃ底が知れるわ!」

 

 試合開始のコールが鳴る。

 と同時に鈴が空気砲を撃ってくる……ここまでは想定通りだ。

 急上昇することで初撃を躱し、アリーナの周囲に貼られているシールドが衝撃で揺れる。

 

「へぇ、見えないのに回避するなんてやるじゃない」

「この前のアレで大分痛めつけられたからな……今度はこっちから行かせてもらうぜ!」

 

【Luna!】

 

「え?ちょ、まさか……」

「そのまさかだ!」

 

【Luna!Maximum Drive!】

 

 ベルトからルナメモリを引き抜き、マキシマムスロットへ叩き込む。

 これも作戦のうちだ。

 

「初っ端から必殺技ってわけね……燃えるじゃない!」

「(計画通り)」

『咲様、顔が』

 

 自分の思っていた通りの鈴のリアクションに、思わず某新世界の神のような笑みがこぼれる。

 だがここからが本番なのだ。慎重に行こう。

 

「合わせろよジャーヴィス!」

『了解』

「二人の息を合わせた必殺技って……〜〜〜ッ、ますます燃えるじゃない!受けて立つわ!」

「その意気や良し!でもって食らいな!」

 

 マキシマムスロットのスイッチを叩き、エネルギーを腕に集中させていく。

 両手首を合わせた、某野菜人の王子の必殺技のポーズを取り、凝縮された光弾を放つ。

 必殺技名は事前にジャーヴィスと相談済みだ。

 

「『ルナティック・ファンタズマ!』」

「何だか知らないけど、その程度のエネルギー弾があたしに通……用……?」

 

 獲物を構えた鈴を他所に、光弾は見当違いの方向へと飛んで行く。

 黄色い光の軌跡を残しながら、俺と鈴の頭上10m程度のところでピタリと止まった。

 

「な……何のつもりよ!まさか失敗とか言わないでしょうね!」

「とんでもない、大成功だ。そしてこれで……」

『仕上げです』

 

 ジャーヴィスが右手を操作し指を鳴らすと、光弾が弾け光の粒が辺り一面に降り注ぐ。

 

「さぁ、ショータイムだ……精々足掻いて見せよ、雑種!」

「何処の金ぴかと魔法使いよあんた……って、え?」

 

 しっかりとネタには突っ込んだ後で自分の周囲を見渡すが、もう遅い。

 アリーナには大量の俺の分身体が生まれ、全員が鈴の方を向いて構えているのだ。

 予算は大丈夫なのかって?この世界にそんな縛りは無い。

 

「なっ……で、でもこのタイプの分身は攻撃すれば消えるか、本体へのダメージがとんでもなくなる筈……」

「あぁ、確かに一発でも攻撃を食らうか、少しでも擦れば消えちまう。だが――」

『当たるまでは実体があります。ご理解いただけましたか?』

「……冗談よね?」

 

 まぁ弱点はしっかりあって、増やせば増やすだけ消費SEと俺の体力消費量が増えるんだが……黙っておこう。

 

「生憎だがこれが現実だ。さぁ、一人ライダー大戦開幕と行こうか!俺の数を数えろ!」

「いっ…………やーーーーーー!!!!」

 

 無数の俺の手から放たれる光弾の波に鈴が飲まれる、その瞬間。

 ガラスの割れるような音と共に、空から黒い何かがアリーナの地面へ激突し、分身体を光弾もろとも吹き飛ばした。

 あまりにも唐突すぎたその光景に一瞬思考が止まるが、直ぐに再起動して鈴を探す。

 

「鈴!無事か!」

「な、何とかね……て言うか今あたしやられる寸前だったし、ある意味吹き飛ばされて助かったわ」

「お前、なんつーか……(したた)かよな」

「お喋りは後にしましょう。――来るわ」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 アリーナの制御室内で彼らを見守る一夏たちは、突然の出来事に動揺を隠せずにいた。

 

「な、何だ今のは……」

「咲さん!鈴さん!」

「咲!」

 

 友の名を呼ぶが、モニターには砂嵐しか映らない。

 

「お、織斑先生!アリーナのシステムがハックされています!内部に干渉できません!」

「何……?くっ、とにかく山田先生は観客席へ避難警告を。私は上級生部隊に招集をかける」

「はい!」

 

 目の前では大人達が忙しなく動いているのに、自分はただ固まっている。

 このままで良いのか……?いや、良い筈がない。

 気付いた時には一夏は走り出していた。

 

「一夏!」

「一夏さん!」

「戻れ織斑!」

 

 引き止める声は歩みを止めるには至らず、一夏はアリーナへと繋がる廊下を走って行く。

 

「頼む二人とも……無事でいてくれ……!」

 

 後に世界最大の事件とも呼ばれるようになるその発端が、今、動き出そうとしていた。

 




さて、ここから原作ともリメイク前とも大幅に違った展開になる……筈です。多分。
乞うご期待。
次回は多分一週間と少し後くらいになると思います。頑張ります。


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第35話 IS三連星、後に不穏な影

私「次の話はテスト後に書き始めると言ったな……」
成績「そうだ大佐、だから勉強を……」
私「あれは嘘だ」

一度書き始めたら止まらなくなりました。私悪くない。
強いて言えばコマンドーを放送したBS朝日が悪い。(?)


「……さて、アイツをどう思う?鈴」

「どうって言われてもねぇ……あんなの見たことないもの」

「奇遇だな、俺も見たことがない」

 

 軽口を叩いているが、内心はかなり焦っていた。

 土煙の中から現れた謎の物体はどう見てもISで、しかも――

 

「名称不明、ね。操縦者情報も出てこないし、本当にISなのかしら?アレ」

「俺の方もジャーヴィスが解析してくれてるんだが……どうだ?」

『かなり厳重なプロテクトに阻まれています。突破は困難です』

「困難って事は……時間かければいけるか?」

『善処致します。既にドクター篠ノ之には連絡済みです』

「流石だな」

 

 束ならプロテクトの突破くらい造作もないだろう。

 何せ神が創ったISを解析したくらいだ。

 とは言え……

 

「どうにかしなきゃいけない事は確かだ。(やっこ)さんがまだ動かないうちに……」

「ええ、集中砲火で一気にやっちゃいましょう」

 

 どういうわけだか知らないが、今のところ全く動く気配が無い。

 これが向こうの作戦だとしたらそれまでだが、やるだけやってみる価値はある。

 

「で、あんたのさっきのアレ、一体何なのよ?分身作れるなんて聞いてないわよ」

「そりゃ言ってねえからな。ちなみに使ったのは、【Dummy!】……これだ」

「ダミー、ねぇ……本当に何でもアリね。もう考えるのやめたわ」

「お前ドライブ好きよな……」

「何だかんだでかなり王道してたしね。さ、とっとと片付けちゃいましょう!」

「了解……!行くぞジャーヴィス!」

「『変身!』」

 

【Luna!Dummy!】

 

 ドライバーを閉じて再び展開。

 身体とISを一体化させ、更にルナメモリをマキシマムスロットへ。

 

【Luna! Maximum Drive!】

 

 地上に降り立つと先ほどと同じようにマキシマムドライブを発動させ、数秒で作った分身で謎のISを取り囲む。

 今度はもう吹き飛ばされはしない筈だ。

 ……上から来るぞ!とか無いよな?信じてるぞ?

 

「息合わせなさいよ!」

「そっちこそな!ジャーヴィス!」

『了解』

 

 分身体と俺は同じフォームで手を構え、鈴は龍砲を発射するための非固定浮遊部位を前方に持っていく。

 

「龍砲50発……纏めて食らいなさい!」

『「ルナティック・ファンタズマ!」』

 

 正面からは鈴の龍砲、その他の方向からは俺と分身体が放つ光弾。

 当たればタダでは済まない筈のその攻撃は確かに奴に命中し、巨大な爆炎をあげた。

 ISによる保護が無ければ今頃鼓膜が吹っ飛んでいるだろう。

 

「うわぁ……えっげつない技ねアレ……」

「爆発はロマンだろ?」

「それには同意するわ」

 

 さて、これだけ派手に爆発したのだからもう動けないだろう。

 土煙の中をハイパーセンサーを使って捜索する。

 やがて見つけたISは、既に満身創……痍……?

 

「ッ!危ねえ!」

「キャアッ!」

 

 咄嗟に鈴を突き飛ばし、俺も同じ方向へ飛ぶ。

 その次の瞬間、俺たちのいた場所には極太のビームが放たれ、地面を抉っていた。

 

『咲様、あのISはまだ機能を停止していません』

「んな馬鹿な!アレはもうボロボロに……」

「ね、ねぇ咲……あれ……!」

「……!?」

 

 鈴の指差す方向には、先ほどと同じ姿勢で佇むISの姿があった。

 だが重要なのはそこではない、あのIS――

 

「壊れた箇所が……修復されてる?」

 

 もげていた腕はくっつき、ひび割れていた胴体はまるで逆再生を見ているかのように元に戻っていく。

 おかしな方向に曲がっている首はそのままなのが逆に恐ろしい。

 

「っていうかアレ、ひょっとして……」

「あぁ、まさかとは思ったが無人機だ。もし人が乗ってるならあんな壊れ方はしねえ」

 

 クソッ、どうしたら良い?

 手持ちのメモリでアレを粉々にぶっ壊せるほどの大火力が出せるのは……

 

「……ツインマキシマムしか無いよな。やっぱ」

 

 仮面ライダーW本編にて翔太郎が使用した、ベルトのマキシマムスロットとトリガーマグナムのスロット両方にメモリを入れて発動するツインマキシマム。

 二つのメモリの力を一気に引き出すことにより強大な技を放つ事ができるが、そのぶん身体にかかる負担はシャレにならない博打技だ。

 

『咲様、ツインマキシマムの成功率は現状5%です。通用するとも限りません』

「じゃあどうしろってんだよ!……ってうおッ!」

 

 どうやら完全に直ってしまったらしい。

 先ほどと同じような光線を俺は慌てて避け、鈴は上空へ退避する。

 だがそれを見た向こうは学習したのか、今度は小さい光弾を連続でばら撒いてきた。

 

「ちょっと!さっきまでと全然動き方が違うわよ!」

「分かってる!クソ……一か八かだ、頼むジャーヴィス、メモリを……」

 

 ――と、次の瞬間。

 

「うおおおおおおォォォッ!」

 

 ガラスの砕けるような大きな音と共に、雄叫びをあげて謎のISに突っ込む男が一人。

 

「やっと来やがったか、一夏!」

「遅いわよ!」

「言い訳は後で、するッ!」

 

 一夏の剣は既に零落白夜を発動しており、そのまま謎のISに袈裟斬りを繰り出した。

 初撃は躱されたものの、一瞬で下から切り上げられた青い刃がISの装甲を切り裂く。

 謎のISはエネルギーを奪われ少しグラついたようだが、すぐに体勢を立て直してまた光線を放ち始める。

 一夏はギリギリでそれを避け、上空へと舞い上がった。

 

「クソッ、削りきれなかった……!」

「いや、ナイスだ一夏!鈴!ジェットストリームアタックをかけるぞ!」

「了解!」

「いや何だよそれ!?」

「知らねえのかよ使えねぇな!」

「理不尽な!」

 

 まぁ良い。

 俺が先頭になり、再び地面に降りてきた鈴は後ろから追従する。

 当然正面からは光弾が迫ってくるわけだが……

 

「甘ぇよ!」

 

【Luna! Trigger!】

【Trigger! Maximum Drive!】

 

 速攻でメモリチェンジを済ませ、トリガーマグナムのスロットにメモリを装填する。

 走りながらの射撃だがこの技にとっては問題では無い。

 

「食らいやがれ!」

「『トリガー・フルバースト!』」

 

 向こうから放たれた光弾をはるかに超える数の青と黄色の光弾がトリガーマグナムから放たれ、相殺する。

 更に残った弾は謎のISに直撃し、先ほどの一夏の剣によって開いた傷を更に広がらせた。

 

「鈴!」

「分かってるわ、よッ!」

 

 双天牙月を構えた鈴が俺の肩を踏んで跳躍し、そのまま一気に振り下ろす。

 

「俺を踏み台にしたぁ!?」

「ここは乗らなきゃダメでしょう、よっと!」

 

 振り下ろされた青龍刀は深々と突き刺さり、そのまま鈴は離脱する。

 

「締めはお前だ!」

「「一夏!」」

「う……おおおおおォォォッッ!!」

 

 俺の後ろから剣を構えた一夏が突撃し、すれ違いざまに一閃。

 零落白夜の一撃で胴体を引き裂き、エネルギーを根こそぎ奪い取った。

 そして三人の全力の攻撃を受けた謎のISはしめやかに爆発四散。

 爆風の中から飛んできた双天牙月を鈴は後ろ手で掴み取り、刀のように背中に仕舞う。

 俺はトリガーマグナムを指先で回し、顔の横に構えた。

 

「「……決まった(わね)……」」

「お、おう……」

 

 どうやら完全に壊しきることができたようで、背後からは何の反応も無い。

 これくらい格好つけてもバチは当たらないだろう。

 

「さて……一応確認だけはしないとな」

 

【Cyclone! Trigger!】

 

 ソウルサイドをサイクロンに変え、風の力で土煙を吹き飛ばす。

 爆発の起きた場所にはクレーターができ、中心には謎のISの残骸が横たわっていた。

 胴体は真っ二つだが、それ以外の場所は割と原形をとどめているようだ。

 あれだけの爆発を起こしたのにどういう事なんだろうか?

 

「ま、流石にエネルギーが切れれば何もできないだろ……ってどうしたジャーヴィス?」

 

 右手に引っ張られ(?)謎のISに触れる。

 

『……咲様、これを』

「あん?一体何……が……ッ!?」

 

「おーい、どうしたんだ咲—?」

「い、いや何でもない!」

 

 手にしたあるモノを咄嗟に手の中に隠し、一夏と鈴の元へ駆け寄る。

 

「何かあったの?」

「いや、完全に止まったかどうか確かめたくてな。それより一夏、どうやって入ってこれたんだよ?あの先生が黙っちゃいないと思うぞ?」

「あー……千冬姉からは走って逃げて……アリーナのシールドは破って入ってきたんだ」

「死んだか……」

「ご愁傷様、一夏」

「薄情者ー!」

 

 その後勝手にISを使った事やシールドを破壊した事などについてみっちり絞られたらしい一夏は、マトモに戦った俺たち以上に疲れた顔をして部屋に戻ってきたのだった。

 自業自得とはいえ流石に良心が痛んだが……まぁ、許せ。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――織斑先生からの説教が終わり、一夏を残して一人で部屋に戻ってきた後。

 先ほど回収したあるモノをポケットから取り出し、まじまじと眺めた。

 暗い黄緑色をしたそれはUSBメモリの形に酷似しており、表面には……

 

「G……ジーンメモリが、何でアイツから……」

 

 DNAの螺旋構造をモチーフにしたGのマーク。

 それは確かに、俺が特典として望んだ26本のT2メモリの一つ、ジーンメモリだった。

 




ぶっちゃけ今日明日の科目は消化試合でしたので。
大丈夫です、きっと。多分。

そしてこの前また評価をいただけました。有難いことです。
これからもどうぞよろしくお願いします。


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第36話 GWは里帰りの為にある

遂に届きました、CSMガタックゼクター&ハイパーゼクター!
箱を開けてからずっとニタニタしてました。
問題はもう飾れるスペースが部屋にない事なんですよねぇ……


「……すまない、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」

「だーかーら、あのISは束さんが造ったんだよ!」

「……すまない、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」

「NPCか!」

「本当に聞こえなければ良かったのに……」

 

 謎のISの襲撃の翌日。

 珍しく朝早く起きた俺は、昨日やろうと思ってすっかり忘れていた束への連絡を思い出した。

 まだ一夏が起きていないのを確かめるとそっと部屋を出て、共用スペースの椅子に座って電話をかける。

 周りに人はいないようだが念のため音を遮断し、会話を始めたわけだが……

 

「一体何の目的だ。場合によっちゃ殴りに行くぞこのタコ」

「いやー、単にいっくんのISの調子を確かめようと思って……」

「……まさか、あいつの性格まで考えた上であんな事したのか?シールド破って施設をハッキングして、どんだけ周りの奴に迷惑かかったか分かってんのか!」

「ち、違うんだって!話を聞いてよさっくん!」

「……何だ」

「確かにあのISを送り込んだのは私だけど、あんな事できるプログラムは組んでないんだよ!」

「……?どういう事だ」

 

 あんな事っていうのは……戦闘行為とか、あの自己再生とかか?

 俺はてっきりジーンメモリを束が勝手に使ったのだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 

「いっくんのISの調子を確かめようと思ったけど私も忙しくてさ、簡単なチェックだけなら無人機を介してできるし、放課後くらいの時間に着くようにセットしてたんだよ」

「それって……まさかとは思うが……」

「そう、よりによってこの束さんの、私の造った可愛いISを乗っ取りやがった不届き者がいるって事だよ」

 

 いつもの明るいトーンから一転し、明らかにキレている事が分かった。

 自分の息子とも呼ぶべきISが乗っ取られたんだ、そりゃ怒るだろう。

 

「……で?さっくんはさっき、ガイアメモリがISから出てきたって言ってたよね」

「ああ。あれは確かに俺のモノ……になる予定だったメモリだ」

 

 ジーンメモリは今はダブルの拡張領域に収納され、俺の意思で取り出しができる。

 ジャーヴィスにも調べてもらったが、所有者情報はリセットされていて俺が最初の所持者だという事になっているらしい。

 

「そしてそれはあの……神とかいう奴に渡されてたんだよね」

「いつもだったら勝手に拡張領域に入ってるんだがな……今回みたいに俺の手元を離れてたのは初めてだ」

「……つまり、さ」

「あの神が……裏切った?」

 

 いや、可能性としては否定しきれない。

 なんせ神だ。いつもの態度がアレだったから忘れていたが、本来なら俺たち人間なんぞとは比べ物にならない存在。気まぐれで事件を起こしても何らおかしくはない。

 

「もしそうだとしたら私としても黙っちゃいない……と言いたいけど、あっちに干渉する手段が無いしね。さっくんの方からも話しかけたりはできないんでしょ?」

「あの事件以来ぱったりだな。向こうから話しかけてくることも一切無くなった」

 

 そもそもどうやって脳内で会話をしてるのかが分からん。

 魔力的な何某でどうにかできないかと思ったが、テレパシーの使い方なんて見当もつかなかった。

 

「ふむふむ……とりあえず束さんはドライバーから抽出できた情報を更に分析中だからさ、また何かあったら連絡してよ。何ならこっちに来てくれても……」

「誰が行くか。まぁ助かったよ。じゃあな」

 

 半ば強引に電話を切る。

 ISからガイアメモリが出てきたり、神の裏切りの可能性が出てきたりとごちゃごちゃしてきたが……

 

「……ジャーヴィス、もっと鍛えるぞ。なんか嫌な予感がする」

『了解。訓練プログラムをアップデートしておきます』

「いつも悪いな」

『恐縮です』

 

 そう言うとジャーヴィスは少し気配が薄くなる。

 多分仕事モードに入ったのだろう。

 

「……とりあえず、俺はコイツの扱いを覚えないとな……」

 

 取り出したジーンメモリを手の中で弄びつつ、自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「ゴールデンウィークだよ」

「お、おう……どうした咲?」

「いや、なんか言わなきゃいけないような気がしてな」

 

 そう、時は飛んでゴールデンウィークである。

 IS学園の寮では、自宅に帰る者と寮に残る者の二種類に別れるらしく、織斑をはじめとしたいつもの連中は自宅に帰るのだそうだ。

 あ、鈴は残るって言ってたな。

 既に荷物をまとめ終えた俺はコーヒーを啜りながら、着替えをまとめる一夏を眺めていた。

 

「家の中埃だらけになってるだろうしな……咲はどうするんだ?」

「俺か?当然ドイツに帰るが」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫って何が……」

 

 ここまで言いかけて思い出した。

 そういえばコイツはドイツに対して良い印象を持っていないのだ。

 えっとこの場合はどうすれば……

 

「あ、でも咲は向こうに彼女がいるんだったな。確か……ラウラさんだっけ?」

「ブフゥッ!?」

「ちょっ!コーヒーが服に!」

「あ、あぁスマン……清めたまえ清めたまえ……」

「シミ取りもできるのかソレ……」

「ちなみにやろうと思えばシワも伸ばせる」

 

 盛大にコーヒーをぶちまけてしまった一夏の荷物に手を向けると、青く輝く光がコーヒーを消していく。

 これはドイツに居た頃、洗濯してもどうしても落ちないシミがあった時に使えるようになったものだ。

 原理?さっぱり分からん。

 

「よしっと、で?誰が誰の彼女だって?」

「いや、だからラウラさんが……」

「前にも言ったけどラウラはそういうのじゃねえよ。家族だ家族」

「……そういうもんなのか?」

「そういうもんだ」

 

 ラウラの可愛さについては確かに以前懇切丁寧に説明してやったが、それはあくまでこう……家族の紹介をしただけだ。うん。

 

「まぁ咲がそう言うなら何も言わねぇよ。……よし、全部まとまった」

「うし、じゃあ鍵渡しに行くか」

 

 寮を出る際は必ず寮監に鍵を返さねばならないため、2人揃って寮監室……織斑先生の生活している部屋に向かう。

 ものの数分で部屋の前まで辿り着いたので、一夏に呼び出しを頼む。

 弟から呼ばれた方が幾分か気分は良いだろう。

 

「織斑と茅野か。入れ」

「え、入って大丈夫なんですか?」

「別に構わん」

 

 それじゃあ失礼して、と中に入った俺が見たものは……

 

「うっわ何だこれ……腐海?」

「千冬姉……幾ら何でもここまで……」

「い、いや、今日片付けようと思っていたんだ」

 

 床に散乱したビールの空き瓶やら脱ぎっぱなしのワイシャツやら……

 ……流石に下着は無いか。

 とにかく汚かった。

 

「今日片付けようとねぇ……本当は?」

「……一人だけじゃ片付けられない」

 

 やだ、なにこの可愛い生き物。

 この俺が一瞬とはいえ先生に萌えたぞ。本当に一瞬な。

 

「はぁ……俺も手伝うから片付けようぜ、千冬姉」

「いつもすまんな、一夏……」

 

 なんか夫婦みたいだな。立場は反転してるが。

 

「鍵は俺が持っとくから、咲はもう行っていいぞ?」

「あぁ……何というか、頑張れ」

「そっちもな」

 

 また連休明けに、と別れの挨拶をし、寮を出て空を見上げる。

 雲ひとつない青空は、今の俺の気持ちを代弁しているようだった。

 

「……さて、行きますか」

 

 鞄に入ったパスポートとチケットを確認すると、駅に向かって走り出した。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――そしてかれこれ13時間後。

 現地時間では午後3時になろうとしている頃に、フランクフルト空港へと到着した。

 ドライバーはどうにか隠し通すことができた。魔力的な何某様様である。(n回目)

 ちなみに荷物だが、大きな物は先ほど言ったダブルの拡張領域に量子化して突っ込んである。便利なものだ。

 

 ……そういえば、学園から尾けてきた奴はいなかったんだろうか?

 男の操縦者を一人にするなんざそうそうあっちゃいけない事だと思うんだが……と思った時、電話が鳴った。

 画面に表示されているのは……誰だ?

 知らない番号だが、一応出ておく。

 

「はい、どちら様で?」

「やっほー茅野くん♪私が誰だか……」

 

 即座に携帯の電源を切り、近くにいたタクシーの運ちゃんに(ドイツ語で)声をかける。

 

「チップは弾む。最速ルートで軍基地まで向かってくれ」

「あいよ」

 

 この国のおっちゃんは察しが良くて助かる。

 急発進したタクシーは一気に空港を抜け、ドイツの街を駆け抜けていく。

 後ろからは……やっぱりだ。かなりの速さで一台のタクシーが尾けてきている。

 これは作戦変更だな。

 

「金は置いとく。そこの狭い道に入って一瞬だけ止まってくれ」

「あいよ」

 

 猛スピードのまま裏路地に突っ込んだのを確認すると、ドアを掴んで構える。

 一瞬だけ止まったその瞬間、ドアを開けて路地に転がり、即座に閉める。

 サムズアップをタクシーに向けると、向こうも前を向いたままこちらに返してきてくれた。

 

「……さて、走るか」

 

 久々に本気で全身を強化すると、そばにあった家の屋根まで駆け上がり、屋根伝いに走っていく。

 目指すはドイツ軍基地……ではなく、それとは別の場所にあるシュヴァルツェ・ハーゼの基地だ。

 帰郷早々カーチェイスとは中々にスリリングだったが、ここまで来てしまえばこっちのものである。

 地理を把握していないであろう向こうは今頃迷子になってるんじゃないか?知らんけど。

 

 

 

 

 

「あ、あれ……?ここ、どこ……?」

『おい、金払うのか払わねえのかどっちだ嬢ちゃん』

「は、払います……」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで無事に寮に到着した。

 流石に走って帰るのは無謀だったのか、既に空は暗くなり始めている。

 クソッ、これも全てあの尾行女のせいだ。俺は悪くねぇ。

 

 訓練所には寄らずに寮まで来てしまったが、みんなはもう帰ってきているだろうか?

 寮の玄関を開け、すぐそばにある食堂に入ってみる。

 

「ただいまー……なんちゃって……」

 

 途端に暗い部屋から響く幾つもの破裂音。

 なんというかデジャヴというか……

 

「「「「「おかえり、咲!!」」」」」

 

 明かりをつけると、この世界の俺の大事な五人の家族が、それぞれクラッカーを構えて俺を待っていた。

 

「……ただいま!」

 

 たった1ヶ月、されど1ヶ月。

 ポッカリと空いていた心の穴が一瞬で埋まったような、そんな気がした。

 そして、まずは手を洗って来なさいとリー姉に言われた俺は大急ぎで洗面所へ向かうのだった。

 




先日また評価を頂きました。本当にありがとうございます。
目標の5人まであと1人……!
これからも頑張ります。


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第37話 美少女を傷つける者は人に非ず

時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
違うんです、決して白猫で島掘りに集中していた訳ではないんです。
ノアをお迎えしたら投稿しようなんてそんな事考えてなかったです。


「ふっ!はっ!せいッ!」

「踏み込みが甘い、狙いが見え見え、キックは使うなと言った筈だ」

「ちょっ、うぉわっ!」

 

 ゴールデンウィーク初日のパーティが終わり、2日目。

 訓練所で閣下と久々の組手をしていた。

 組手と言っても、ほぼ俺が攻めて閣下が捌くだけだ。

 

「痛つつ……普通の人は片手で人の足掴んで投げませんよ閣下……」

「それがどうした、現に今やっただろう」

「ソッスネ」

 

 なんだこの筋肉式言いくるめは。しかもなまじ威圧感があるから反論できないし。

 なんなの?俺のアイデアがファンブルでもしてるの?

 ダイスの女神様(クソビッチ)が荒ぶってるの?

 

「咲—!目だー!目を狙えー!」

「股間も効果的ですよお兄様—!」

 

 自分たちの訓練をしつつ俺たちの方も見ているらしいラウラとクラリッサから檄が飛んでくる。

 あとお兄様言うな。

 

「じゃあ遠慮無く!」

「おっと、そう簡単にはやらせんぞ?」

 

 目潰しを繰り出すも容易く避けられる。

 だがその仰け反った姿勢なら……!

 

「よっ、オラァッ!」

「なっ……ぐあッ!」

 

 まるで何かに引っ張られたかのように勢いよく体勢を崩した閣下は、後頭部を思い切り地面に打ち付けた。

 別にこの程度ならこの人(?)には大したダメージにならないから気にする必要はない。

 

「ぬぅ……あの糸で引っ張ったか。しかも今回のは……」

「ええ、見えないようにしてみました。頭は平気ですか?」

「この程度どうという事はない」

 

 一応聞いたが、やはりダメージになっていないようだ。

 これだから人外はいけない。

 え?ブーメラン?

 

「さて、まだまだ終わら……」

「やはりここにいましたか閣下。さ、仕事に戻りますよ」

「なっ、もう気づかれ……あはははははは!!!そ、その棒はやめがははははははは!!」

 

 突如として閣下の後ろに現れた人は、電磁くすぐり棒を持った補佐官殿だった。

 両脇腹に当てられた閣下は見事に大爆笑している。

 あれ実際やられたら相当キツいらしい。

 

「お久しぶりです、補佐官殿」

「はい、一ヶ月ぶりですね茅野さん。……さぁ閣下、貴方の相手は書類が引き継いでくれます。戻りますよ」

「わ、分かった……分かったからその棒はしまってくれ、頼む」

 

 引き摺られるように本部へと戻っていく閣下を敬礼して見送ると、俺はラウラたちの元へ駆け寄る。

 

「今日は15分でしたか。また短くなりましたね」

「最初期は2、3時間経ってから補佐官殿が来ていたからな……あの人も苦労しているのだろう」

「まぁ閣下ならすぐ戻ってくるだろ」

 

 いつもあんな調子だがあれでも元帥だ。

 やる時はちゃんと仕事をしているし、手際も良い。

 

「っとそうだ、突然なんだけどラウラに頼みがあって……」

「む?」

「……模擬戦、やってくれないか?」

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 ――なんやかんやあって1時間後。

 

「……しかし驚いたぞ、まさかISの模擬戦を申し込んでくるとは」

「いやぁ、学園だとあまりできなくてな。……色々事件もあるし」

「む、何か言ったか?」

「いんや何も?」

 

 シュヴァルツェ・ハーゼは実戦を想定したIS部隊だ。

 故にISを使った訓練はアリーナなどではなく、屋外の演習場で行われる。

 日本の自衛隊の演習場みたいなものだ。

 秋の夕方とかに行くとススキが綺麗なんだよなぁ。

 

「ルールは公式戦のものを適用、ただしどちらかのSE(シールドエネルギー)が半分を切った時点で終了です。隊長もお兄様も、怪我はしないようにしてくださいね?」

「大丈夫だ。ラウラに怪我なんてさせたら罪悪感で死ぬ」

「そんな大げさな……ちなみに、私は手は抜かないぞ?」

「望むところだ」

 

 お互いに草原で向かい合い、ラウラはその身に第三世代IS、シュヴァルツェア・レーゲンを纏う。

 黒い雨の名を冠するその機体の右肩には、大型のレールカノンが装備されており、他にもワイヤーブレードの射出など様々な戦法を使ってくる。

 もう一つ厄介な能力があるが……まぁ何とかする。

 

「さて、これを見せるのは初めてだよな。最初から飛ばすぞジャーヴィス」

『了解』

【Cyclone!】

【Joker!】

『「変身!」』

【Cyclone! Joker!】

 

 この身体が変質していく感覚にもだいぶ慣れた。

 いつも通りに変身し、風の力で宙に浮かぶ。

 

「それは……」

「まぁ話は後ってことで、来いよラウラ!」

「フッ……悪いが武器は捨てないぞッ!」

 

 ネタにしっかり反応してくれたラウラはワイヤーブレードを射出し、俺を捕らえようと狙ってくる。

 この装備にはある程度の追尾性があるため、逃げても追ってくるのだ。

 とすればここは……

 

「いつも通り、突っ込むべし!」

 

 ブレードは方向を変え、ラウラの方に突っ込んでいく俺を後ろから追いかけてくる。

 そして恐らくラウラは……

 

「またか……すぐ突っ込むのは悪い癖だぞ、咲!」

 

 ビンゴだ。

 右肩に装着された大口径のレールカノンが俺を捉え、チャージを始めている。

 そう、恐ろしいほどの速さと破壊力はあれど、チャージの時間だけは無防備になる……筈だ。

 そしてここを狙って……!

 

「ぶっつけ本番……やるぞジャーヴィス!」

『出力調整はお任せください』

 

一瞬でサイクロンメモリを抜き取り、マキシマムスロットに装填する。

 

【Cyclone! Maximum Drive!】

 

 前々から気になっていた事が一つある。

 サイクロンメモリは風の記憶……つまるところ風を操る事ができるメモリなのだが、その風を操るとは具体的にどういうことなのか?という事だ。

 風というのはそもそも気圧の変化によって生じるもので、つまるところ風を操る=気圧を操るという事になる。

 そして気圧を操作できるならば、当然こんな技だって使えるのだ。

 

『「サイクロンディフェンス!」』

「なっ……レールカノンを防いだ!?」

 

 強大な圧力によって空気を圧縮し、超が付くほど頑丈な盾を作り上げる。

 大抵の攻撃は受け付けない上に、ここから……

 

「吹き、飛べぇ!」

「うわあぁっ!」

 

 圧縮した空気を一方向に向けて解放し、ラウラを遠くへ吹き飛ばす。これこそ、ジャーヴィスと考えた攻防一体のマキシマムだ。

 ちなみに殺傷力はゼロに等しい。後ろから何かぶつけてやればダメージは入るかもしれないが、今は空中だ。ただ吹き飛ぶだけで終わる。

 

「隙が出来た今なら……!」

 

【Cyclone!Gene!】

 

 今日のメインテーマ、ジーンメモリへと切り替える。

 体勢を立て直そうとしているラウラに左手を向け、ジーンメモリを右手で引き抜いてマキシマムスロットへ。

 二連続のマキシマムだが……まぁ大丈夫だろう。

 出力も控えめにしてもらってあることだし。

 

【Gene! Maximum Drive!】

 

 ボディサイドで増幅されたエネルギーは左手に集中し、暗い緑色の光が槍の形をとる。

 

「くっ……させん!」

「悪いがもう遅い!」

「『ジーンインヴェイジョン!』」

 

 1メートル程度しかない小さな光の槍は猛スピードでラウラに迫り――

 

「なっ、速……」

 

 ――吸い込まれるように消えていった。

 

「……ふぇ?」

「さて、上手くいくかどうか……」

 

 一瞬の間があり、基地の方から終了を知らせるサイレンが響く。

 

「えー、そ、そこまで……。シュヴァルツェア・レーゲンのSEが残り49%となったので、この勝負は咲の勝ちです……?」

「…………えぇ?」

「無事成功か……流石だジャーヴィス」

『恐縮です』

 

 かくして、ラウラに一切ダメージを与えずに勝つという目標は見事達成された。

 達成されたのだが……

 

「咲!今のはなんだ!説明!」

「わ、分かった分かった。あと日本語片言になってるからラウラ」

「お兄様、私にも説明を……」

 

 ラウラとクラリッサの両者に詰め寄られ、やはり説明を余儀なくされたのだった。

 




ここ最近咲のチート化が進んでいる気が……
そろそろ壁にぶつけきゃ(使命感)


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第38話 いい漢は目線で語る

申し訳ありませんでした(土下座)
現在、PCの前で土下座をしつつこの文章を打っています。
この1ヶ月何をしていたかと言うとまぁ、色々あったのです。
ネトゲをしたり、ネトゲをしたり、ガルパンを見に行ったり、ガルパンはいいぞ。免許を取ったり。
夜の雨なんて大っ嫌いです(真顔)


「……短かったなぁ……」

「そうため息ばかり吐くな。十分リフレッシュできただろう?」

「そうは言ってもですね閣下……」

 

 五日間のGWはあっという間に過ぎ去り、現在俺は帰りのジェット機に乗っている。

 あと20分も経てばIS学園に到着すると言われ、休みが終わってしまうという現実を改めて突きつけられていた。

 眼下に広がる青い海を楽しむ余裕も無い。

 というか学園に行けばどうせ毎日見ることに……思い出したらまた鬱になってきた。

 

「クソッ……こうなったらここから飛び出してドイツに……」

「おっと手が滑った」

「ちょオフッ、ギブ、ギブです閣下……ですから首は……」

「分かれば良い」

 

 一瞬で首を掴まれ息が止まり、手に構えていたドライバーを取りこぼす。

 べしべしと閣下の手を叩いてギブを訴えるとようやく離してもらえた。

 咄嗟だったから魔力防御も間に合わず。

 

「ふぅ……それにしても、ラウラまで隊を離れて大丈夫なんですか?」

「心配はいらん。奴らは優秀だ」

「閣下が普通に褒めた……」

 

 今話している通り、ラウラはある任務で一時的に隊を離れている。

 何度聞いても行き先は教えてくれずはぐらかされてばかりだった為、閣下から口止めでもされているのだろう。

 危険な任務ではない事は教えてくれたが、心配なものは心配である。

 

「有能な者を有能と言って何が悪い。お前からすればただの娘っ子にしか見えんだろうが、俺たち男はISを使えんからな」

「そ、そういえばそうでしたね……」

 

 ISがあったとしてもあんたに勝てる奴がいるのか、という言葉を飲み込み、先ほどまでの話に戻る。

 

「そういえば、具体的にどこに行くんですか?ラウラは。何度聞いても教えてくれなかったって事は口止めしてるんでしょう?」

「あー……そうだな、あまり詳しい事は言えんが……人の多いところだ」

「……?」

「いずれ本人から知らされるだろう」

 

 珍しく口を濁した閣下は、それ以降何も情報をくれなかった。

 ラウラもすぐに連絡をくれると言っていたし、それまで待つとするか。

 

「そういえば咲、ラウラと模擬戦をやったと聞いたが」

「へっ!?模擬戦!?」

「……なんだその顔は」

「い、いえ何も?あ、あの時は何とか俺が勝ちましたでござる」

「……?」

 

 冷や汗をダラッダラと流しながら、頭上に?マークを浮かべる閣下から目を逸らす。

 気分を落ち着かせようと窓の外を見ながら、俺はあの模擬戦の時まで記憶を遡りーー

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「ISへの干渉能力ぅ!?」

「あー……干渉っていうほど強力なもんでもないけど、一応?」

 

 ――あの試合の少し後。

 説明を要求してくる2人に対して話をした結果、これである。

 

「一応って……SE(シールドエネルギー)の残量を操作するなんて、干渉以外のなんだというんだ?」

「あぁ、実際にSEは減ってないんだ。減ったように表示されたり、他のISに認識されるようになるだけ」

「……つまり、超強力なジャミング能力……という事ですか?」

「Exactly」

 

 ベルトさんを意識して言ってみたが似合わんな。

 

「ISにはフラグメントマップ……人間でいう遺伝子みたいなものがあるのは知ってるよな?」

「ああ。ISが独自に構築していく道筋……のようなものだよな?詳しい事は篠ノ之博士しか知らないと聞いている」

「そう。そのフラグメントマップにこのメモリの能力で侵入して、あとはジャーヴィスの領分だ」

『システムの書き換えに関する知識は、ドクター篠ノ之にご教授いただきました』

 

 ちなみに、やろうと思えばフラグメントマップを全て消去し、専用機を無力化する事もできる……らしい。

 もっとも、そこまで深い部分まで干渉するには相手のISの同意も無いといけないらしいが。

 他のISにもジャーヴィスのように人格があるのだろうか?

 今の所喋るISはジャーヴィス以外見たことが無い。

 

「むう……若干腑に落ちないところもあるが、実際に体験した以上信じるしかないな。……そういえば、そんな事をされてレーゲンは大丈夫なのか?」

「心配はいらない。書き換えが持続するのは現状もって5分なんだ。もう完全に元どおりになってる筈だ」

「なら良かった。……流石に閣下を本気で怒らせるわけにはいかんからな」

 

 ――その瞬間、3人の間の空気が凍りついた。

 そういえばそうだ、今はラウラの専用機とはいえ、シュヴァルツェア・レーゲンは元々ドイツ軍から支給されたものだったのだ。

 万が一元に戻らなくなっていたらと思うと……

 

「……今回の件は、3人だけの秘密だな」

「ええ」

「私も命は惜しい」

 

 完全にコントロールできるまで、ジーンメモリは対人戦使用禁止にしよう。

 そう決意したのだった。

 回想終わり。

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……き、咲」

「んぁ……?」

 

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 目を開けて窓の外を見ると、見慣れた校舎の姿が見えた。

 

「早く降りてくれ、長居はしないようにと忠告されている」

「了解」

 

 言われるままに、荷物の詰まったキャリーバッグと共に地上に降りると、直ぐにジェット機の発進準備が始まる。

 

「また2ヶ月後に会おう、今度は俺を気絶させる事を目標とするようにな」

「無茶を仰らないでくださいよ……」

 

 この人を気絶させようと思ったら俺があと四人は欲しいわ。

 ……あれ?全員地に倒れ伏してるイメージしか湧かないぞ?

 

「おっと、忘れるところだった。咲、耳を貸せ」

「何ですか?」

 

 また嫁がどうのこうの言われるんだろうか?

 俺はそんな物とは無縁だと言うに。

 

「……どうも最近、胸騒ぎが治らなくてな」

「年でしょう閣下」

「違う、真面目な話だ」

 

 ……どうやら本当に真面目な話のようだ。

 いつもと目つきが違う。

 

「俺の勘はよく当たる。不測の事態に備えるようにしておけ」

「……了解」

 

 ジーンメモリに関しての謎もまだ分かっていないからな。

 手っ取り早いのはあの神と連絡がつくことなんだが……

 

「……ままならねぇな」

「そんな深刻な顔をするな。いいか咲、こっちを向け」

「はい?」

 

 向けと言いつつ俺の顔を掴んでそちらに向けているのには突っ込まないでおこう。

 

「お前は我々ドイツ軍の仲間だ。お前に何かあれば、我が軍は全力でお前をサポートする。忘れるな」

 

 鋭い眼が、真っ直ぐに俺を見てくれていた。

 この世界にとっての異物である俺を、しっかりと。

 

「……はい、元帥閣下」

「分かれば良い」

 

 柄にもなく若干泣きそうになって慌てて背を向けたが……バレてるだろうな。

 そういう人だ。

 

「では、健闘を祈る!茅野咲二等兵!」

「えっ!?俺そんな下の階級なんですか!?」

「はっはっは!上がるといいな!」

 

 最後に地味に大きな爆弾を残し、閣下は去っていった。

 そうか、俺は二等兵だったのか……

 三等兵とか言われなかっただけマシか?

 誰がロボットだよ畜生め。

 

「……何か無性に腹が立ってきた!走るぞジャーヴィス!」

『咲様、鞄をお忘れに』

「先に言えよ締まらねぇ!」

『それが咲様でしょう』

 

 重い荷物を担いで寮に走る俺を物陰から誰かが見ていた事に、この時は全く気付いていなかったのだった。

 

「ただいま戻りました織斑先生!」

「走るな」

「ひでぶっ」

 




これからは更新速度も元に戻る……
戻る……

…………筈です!
いやほんとごめんなさい石を投げないでください。


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第39話 金<銀

投稿ペースを元に戻す(大嘘)
どうにも気力ががが……


「おはようございま……ってどうしたんですか茅野くん!具合が悪いんですか!?」

「あ゛ー……気にしないでください、時差ボケっス」

「時差……あ、そういえば茅野くんはドイツの人でしたね」

「忘れてたんですか山田先生……」

「わ、忘れてませんよ?」

 

 休み明けも俺たちに癒しを提供してくれた山田先生はさておき、久しぶりの学校である。

 この時間は向こうでは夜中なので正直かなり眠い。一夏が起こしてくれなかったら間違いなく遅刻していたレベル。

 昨夜は早く寝ようと努力したんだが眠れない理由があった。

 これも全てGWに大規模アプデをする運営の仕業なんだ。俺は悪くねぇ。

 

「なぁ咲、本当に大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題な……い……」

「だから寝るなっての」

 

 軽めのチョップを貰ったが眠いものは仕方があるまいて。

 明日には多分元に戻せると思うが……

 ぼんやりとしているうちに山田先生は出欠を確認したのか、話を始める。

 

「はい、みなさん静かに。今日はなんと転校生を紹介します!しかも2名です!」

「転校生?こんな時期に?」

「この学校って転校生入ってくるっけ?」

「て言うか2人も?」

 

 クラスメイトがざわつく中、俺は半覚醒状態で先生の話を聞いていた。

 転校生がどうとか言ってるが……いかんせん眠い。

 

「咲起きろって。ほら、転校生入ってきた……ぞ?」

「あぁ?どうせ普通の女の子……はぇ?」

 

 クラスメイトのざわつきが収まると同時に、俺の意識は完全に覚醒した。

 目の前で揺れる、何年も見てきた綺麗な銀髪が俺の視線を釘付けにしていた。

 金髪?んなもん今はどうだっていい。

 

「えっと、シャルル・デュノアです。この学校に僕と同じ境遇の人がいると聞いて、フランスから来ました。よろしくお願いします」

 

 じれったさを感じつつ金髪の自己紹介が終わり、彼女の口が開く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍IS部隊の隊長を務めている。ここには様々な事情があって来たが、どうかよろしく頼む」

「な、なっ……」

「その……黙っていてすまなかった、咲」

 

 少し目を逸らし、右手で髪の毛を弄る彼女は間違いなくラウラだった。

 いや、もしかしてこれは夢なのではないか?

 確かめなくては。幸い目の前に織斑先生もいる。

 

「織斑先生、ちょっと俺のこと叩いてくれませんか?」

「いいだろう」

「痛い!」

 

 スパァンと良い音が響く。

 というかいいだろうの「い」の字を言う前に叩かれたぞ今。

 それにしても痛いということは……

 

「……本当に、ラウラなのか?」

「ふむ、そんなに信じられないなら咲の昔の話を」

「オーケイ分かった間違いなくラウラだ」

 

 と言うかあの話をしたらラウラも相当恥ずかしいと思うんですが。

 気付いてないのか自滅覚悟か。

 あ、そのことに気付いたみたいで赤くなった。可愛い。

 

「え、えーっと……そろそろ突っ込んでいいか?」

「うわ一夏、何でここにいるんだお前?」

「ちょっと酷くねぇか!?」

 

 とりあえずこの唐変木イケメンは置いておいて、だ。

 

「えっと、デュノアさん……だっけ?」

「あ、やっと気付いてもらえた……」

 

 いや、俺だって完全に無視していたわけではない。

 ただラウラのインパクトが強すぎたというか最強だっただけで。

 

「ひょっとして君……」

「うん、君たち2人と同じ、男だよ」

 

――一拍あって。

 

「「「「「「きゃああああああああああーーーっ!!!」」」」」」

 

 予想通りというかなんというか、悲鳴(?)が上がった。

 事前に察知していた俺はラウラを近くに引き寄せて耳を塞いでいる。もちろん自分の耳を保護するのも忘れていない。

 一夏?あぁ、いい奴だったよ。

 

「勝手に殺すな……」

「まだ何も言ってないだろ」

 

 現役JKたちの超音波ではコイツを混乱させることはできなかったようだ。

 混乱……いばる……みがわり……うっ頭が。

 

「嘘、本物?」

「こ、このクラスだけに三人も男子が集まるなんて……」

「神様ありがとう……!」

「イケメンデツヨイノネ!キライジャナイワ!」

 

 若干何かが混じっていたような気がしたが、気のせいだろうか。

 それにしても……

 

「どう思うよ、と言うかどうだジャーヴィス」

『……女性のバイタルデータは最重要機密です』

「予想はしてたけどやっぱそうか……」

 

 腰にぶら下がったドライバーに小声で話しかけると、やはり小声で返事が返ってきた。

 ダブルドライバーはIS、すなわち高度なセンサーの塊だ。

 加えて中にジャーヴィスが入っている為、近くにいる人間をスキャンする事など朝飯前なのである。

 もっとも情報は全部ジャーヴィスが管理しているし、見せてもらった事もない。

 ほら、俺ってば紳士だから。

 

『……半熟紳士』

「何か言ったかジャーヴィス」

『いいえ、何も』

 

 ともかくこれで確定した。

 シャルル・デュノアは男性操縦者などではない。

 恐らく俺と一夏の情報でも盗りにきたどこかのスパイだろう。

 ……待てよ?

 

「デュノアって、どっかで聞いたことあるような……」

『検索完了。デュノア社はフランスの大手ISメーカーです。近年では、他国に開発速度で遅れをとっており、業績が悪化しております』

「それで娘をスパイに送るか普通……社長はアホか?」

「さ、咲?私はいつまで耳を塞がれていればいいんだ?」

「っと、スマンスマン」

 

 俺とジャーヴィスのコソコソ話を中断させたのは、ラウラだった。

 そういえばさっきから塞ぎっぱなしだったな。

 色の白い顔がまた若干赤くなっているが、まぁ慣れない土地で緊張しているのだろう。

 俺も配慮が足りなかったな。

 

「みなさん静かに!えっと、デュノアくんとボーデヴィッヒさんは一番後ろの席になります。視力などは大丈夫ですね?」

「大丈夫です」

「問題ありません」

「ガッデム……」

「ドンマイ、咲」

 

 一番前の席である事をこんなにも呪ったことはない。

 授業中にサボりにくい事は今までも少々不満だったが。

 

「あー……これでSHRは終わりだ。各自授業には遅れないように」

 

 もう色々と面倒になったらしい織斑先生の一言で全員が動き出す。

 ラウラを一人にするのは不安だが、大丈夫だろうか――と思ってたら目が合った。

 

『一人で大丈夫か?』

『心配はいらない。また後で話そう』

『了解』

 

 目線とハンドサインでの短い会話を終えると、一夏とデュノアさんと一緒に教室を出る。

 今日はISを使う授業なのだが、男である俺たちはアリーナの更衣室で着替えることになっているのだ。

 そしてここの女子たちは(一部を除き)羞恥心が欠落しているのか、まだ男が教室内にいるにも関わらず着替え始めることがあるので、早めに出ないと色々面倒なことになる。

 主に箒さんやセシリア関連で。

 

「あ、あれ?どこに行くの?」

「あぁ、男は別の更衣室で着替えるんだよ。あのままあそこで着替えるわけにいかないだろ?」

「へっ?あ、あぁ、うん!そうだね!」

 

 この子本当にスパイなのかしら。

 まぁ一夏の事が報道されてから二、三ヶ月しか経っていないことを考えると、この程度が限界だったのだろう。

 もっとも俺がいることは予想外だっただろうが。

 と言うか織斑先生も間違いなく気づいてるだろうな。さっきもうっすら笑ってたし。

 

「とりあえず更衣室までの道を覚えて……うげ」

「金髪の貴公子!目撃情報と一致してるわ!」

「織斑くんと茅野くんも一緒よ!」

「であえであえー!」

 

 どこから嗅ぎつけたのか、上級生の方々が道を阻んでいる。

 ……っていうか。

 

「なんで部長も副部長もいるんですか……」

「面白そうだったからな!あと出番が欲しかった」

「6話もほったらかされた恨みを晴らすッスよ!」

 

 MOREとDEBANの文字が書かれたプラカードを持っているが、どういう意味なんだろうか?

 何故かピンク髪の鍛冶師とツインテの竜使いみたいな幻影も見える。

 

「こっちがダメなら別ルートで……」

「咲!後ろからも来てるぞ!」

「ダニィ!?」

 

 後ろを見やれば、もうかなり近いところまで来ている上級生軍団の姿があった。

 というかあんたら授業は?

 

「ッ……ええい、南無三!」

「仕方ねぇ……なっ!」

「えええぇっ!?」

 

 窓から飛び降りると受身を取って着地。

 一夏も順調に体術を身につけつつあるため、この程度どうということはない。

 問題は……

 

「デュノアさん!そこから飛び降りて!」

「む、無理だよー!」

「大丈夫だ!絶対受け止める!一夏が!」

「いや咲も手伝ってくれよ!」

 

 どこぞの劇場版一号とヒロインのようなやりとりがあった後、なんとかデュノアさんも飛び降りてくれた。

 受け止めた際に「ひゃっ!?」とか言って赤面してたけど、もう気にしないことにする。

 大体男がざーさんボイスって何だよ。

 

「え、オレたちの出番これだけか!?」

「そりゃないッスよー!」

 

 申し訳ありません部長、副部長。

 なぜか申し訳ない気分になりながら、デュノアさんを連れて更衣室へと走るのだった。

 

「あ、あの……そろそろ離してもらってもいいかな?」

「あ、悪い」

 

 ……男子と手を繋ぎっぱなしだったコイツ(一夏)はどう扱ったものだろうか。




ようやくヒロインが学園入りしました。
え、金髪二人組?知らない子ですね……


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第40話 赤と黒が合わさり最強に見える

UA40000、お気に入り300件越えありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
そして遅れて申し訳ありませんでした!
……幻想戦艦を沈める仕事なんてしてませんよ?


「――さて、今日は二組との合同授業だが……」

「先生、織斑くんたちが……」

「「滑り込みセェェェェフ!!!」」

「……今来ました」

「チッ、早く並べ」

「生徒に舌打ちってどうなんスか」

「何のことだかな」

 

 無事に先輩方の追っ手を振り切り、授業である。

 ちなみに更衣室でも一悶着あり、無駄にコミュ力のある一夏がデュノアさんに話しかけまくったせいで少し遅れてしまった。とりあえず一発入れて大人しくさせたが、あのままいったらセクハラで捕まってたぞコイツ。

 あれ?今はデュノアさん男扱いだから大丈夫なのか?

 いやそれはそれでお腐れ様の餌食になるな。

 

「ごめんね、僕のせいで遅れそうになっちゃって……」

「いやアレは一夏のせいだろ。な?」

「わ、分かった分かった、俺が悪かったって……」

「ほら本人もそう言ってる」

「う、うん……」

 

 申し訳ございません。このような主人公で。

 ニーサンはお帰り下さい。

 まぁとりあえずこの子は放っておいて大丈夫だろう。

 どうやら胸部装甲はほとんど無いらしく、まぁ言ってしまえばぺたん娘だ。

 これならバレることもあるまい。

 下半身は知らんが。

 

 出席簿の記入がまだ終わっていないらしい先生を尻目に、ラウラに声をかける。

 

「ラウラ、何か変なことされなかったか?」

「む?特に何もなかったぞ?ここは人の良い生徒が多いようだ」

「あー、茅野くんひどーい」

「あんたらは普通におもちゃにしかねないでしょうが」

「くっ、確かにモフモフさせてもらったけど……」

「おいコラ」

 

 しっかり手出しされてた。

 まぁラウラの言う通りこのクラスは良い人が多い。

 と言うか全員(・・)善人(・・)なまである。

 ……そこ、寒いとか言わない。

 

「よし。ではまず、専用機持ちに戦闘を実演してもらう」

「えぇ……」

「何だ茅野、不満か?」

「別荘もございません」

 

 実際俺は別荘なんて持っていない。

 いやそんな事はどうでもよくて。

 

「専用機持ちっつってもこの場には……あれ、デュノアさんそれ……?」

 

 さっきまであまり気にしていなかったが、そういえばデュノアさんはネックレス……ペンダント?とりあえず首にかけるタイプの待機状態の専用機を持っているようだ。

 

「うん、一応僕の専用機だよ。と言っても、ラファールのカスタム機なんだけどね」

 

 他の女子たちからどよめきが起こる。

 専用機持ちってのはそれだけでかなりのステータスになるからな。

 

「んじゃあデュノアさん含めて六人か」

「え?俺と咲と……五人じゃないのか?」

 

 そういえばコイツは知らないんだったか。

 

「ラウラも専用機持ちなんだよ。ドイツ軍IS部隊って言っただろ?」

「そういうことだ」

「へぇ……一度手合わせしてみたいもんだな」

「やめとけ、負けるぞ」

「なっ、やってみなくちゃ分からないだろ!?」

「仮にお前がラウラにダメージを与えたら、その時は俺がお前を倒しに行く」

「えぇ……」

「話を続けるぞ」

 

 スパパァン、と二連続で音が響く。

 俺と一夏だけで何故デュノアさんは叩かれないのか。コレガワカラナイ

 

「専用機持ち全員ではない。そうだな……ではボーデヴィッヒ、茅野」

「はっ」

「うっす」

「二人にはこれから山田先生と……」

 

 そこまで喋った先生が口を閉じ、上を見上げる。

 釣られて俺たちも見ると、青い空から何かが落ちてきていた。

 

「あ、あれは何だ!」

「鳥か!」

「飛行機か!」

「いや、山田先生だ!」

「ギャグやってないで避けなさいよアンタ達!」

 

 同志たちといつものようなやりとりをしていると、すでに退避済みの鈴から鋭いツッコミが入る。

 とは言えアレは受け止めないとマズいだろう?

 

「ラウラ、サポート頼む」

「了解した」

 

【Cyclone!Joker!】

 

 俺とラウラは一秒足らずで装着を終え、俺は空へと飛び上がる。

 そのまま落ちてくる先生をキャッチして……

 

「ラウラ!」

「はァッ!」

 

 ラウラが俺の方向に手をかざすと、落下の勢いが弱まり、そのまま止まった。

 ゆっくりと地上に下ろすと、山田先生にぺこぺこと頭を下げられる。

 

「すいません、すいません……」

「いや、礼ならラウラに言ってください」

「ボーデヴィッヒさん、ありがとうございます!」

「いえ、大したことでは」

 

 そんな俺たちの事を、1組と2組の生徒たちはぽけーっと眺めていた。

 

「何あの空気……」

「これが夫婦か……」

「勝てない(絶望)」

 

 最後の方はともかく、俺とラウラの連携に皆驚いているようだ。

 伊達に何年も一緒に訓練しているわけではないのだよ。

 と言うか二人の連携能力を高めないと閣下に指一本触れられなかった。

 今でも不意打ちくらいしかマトモに当たらない。

 

「静かに!山田先生、お話は後でじっくりとさせていただきますので、授業を」

「は、はいぃ……」

 

 なぜだろう、織斑先生の背後に白い悪魔が見えた気がする。

 ついでに魔法少女の服を着た先生の姿も想像してしまったが、一瞬でかき消した。

 

「さて、では今から実演してもらうわけだが……茅野はワンオフ無しで戦ってもらう」

「……分かりました」

 

 そりゃあそうか、既存のISとかけ離れた姿じゃ参考にならないものな。

 

「山田先生はこれでも元代表候補生だ。油断はしないように」

「あの操縦で……?」

「さ、さっきのは事故です!」

 

 事故なら仕方がないな。

 

「では、始め!」

 

 織斑先生の一言で、俺たちは一斉に空へ飛び上がる。

 ラウラは山田先生の後ろに、俺は前に。

 地上に目をやると、どうやらデュノアさんがISについての解説をしているらしい。

 流石は社長令嬢というべきか。

 

「余所見してていいんですか?」

「ええ、優秀な味方がついてるんで!」

 

 山田先生はサブマシンガンを取り出し、牽制のように撃ってくる。

 軽くかわすと、ラウラにプライベート・チャネルを……いや、ここは普通に話すか。

 

「ラウラ!生身じゃないがプランCで行こう!」

「アレを先生相手にISでか……?まぁ良い、了解した」

「ぶ、プランCってなんですか!?」

 

 どうやらご存知ないらしい。

 某ペットな彼女が言っていたのを知らないのだろうか?

 

「作戦コード『屠る』……始めようか」

『了解』

 

【Accel!Bird!】

 

 メモリを交換し、全身が真っ赤なボディへと変わる。

 左右で若干の違いはあるものの、まぁ真っ赤と言っていい。

 

「な、何だか怖いですけど、そう簡単にやられませんよ!」

 

 そう言い放つと、山田先生は両手に銃を持ち、俺に向かって更に追撃を始めた。

 何発か当たったが大したダメージではないので、続行。

 

「さて、行きますかね!」

 

 右手にエンジンブレード、左手にはバードメモリの固有武装、バードスラッシャーを構える。

 片方だけのメカメカしい翼のような形をした高周波ブレードで、かなり使い勝手の良い武器だ。

 マキシマムスロットが付いていないのが残念なポイントだが。

 

「二刀流ですか……っと!」

「ふむ、やはり躱されるか。流石は教員といったところか?」

「ワイヤーブレードは避けられるのに地面は避けられない、と」

「も、もう忘れてください……」

 

 流石は元代表候補生。

 背後からのラウラの攻撃にもしっかり反応して見せた。

 だがもう遅い。

 ラウラのこの攻撃はただの合図に過ぎないのだから。

 

「いっ……」

「せぇ……」

「「のっ!」」

「わわっ、二人同時!?」

 

 前と後ろから同時に攻め込む。

 山田先生は言葉では慌てているが体はしっかりと動き、銃口が俺たち二人を同時にを狙っている。

 そう、それでいい。

 

「今だ!」

 

【Accel! Maximum Drive!】

 

 アクセルメモリをマキシマムスロットに叩き込み、全身に紅蓮のオーラを纏う。

 音速に耐えるためか、身体が若干変質したような気がした。

 とりあえず今は気にせず、超高速で山田先生の周りを飛び続ける。

 黒い砲身が自身を狙っていることに先生は気付いていない。

 

「あ、あれ?攻撃してこな……!しまっ――」

「もう遅い!」

「破ァッ!」

 

 レーゲンの大型レールカノンから放たれた弾丸は確実に山田先生を捉えた――

 かと思いきや、先生は持っていた銃を犠牲にして弾丸を弾いて見せた。

 確かにあれならIS本体へのダメージにはならない。

 しかしあの速さの弾を弾くか……

 

「……まぁ、そこも織り込んでますけど、ねっ!」

「へ?きゃあっ!」

 

 俺が高速で飛び回っていたのは、この弾丸をまた弾き返すためだ。

 蹴り返し、弾かれ、蹴り返し、弾かれ。

 6回ほど繰り返したところで、とうとう先生の武装が尽きた。

 弾丸を思い切り蹴り飛ばし、その後に二刀を構えて追従する。

 

「さぁ……振り切るぜ!」

『「シュヴァルツェアエース!」』

 

 レールカノンをモロに食らって仰け反った先生を、「A」を描くように斬りつける。

 若干涙目になっていた先生を斬るのは抵抗があったものの、勢いは全く弱めなかった。

 合体技って気分が高揚するじゃないですか。

 

「あー……そこまで。二人とも降りてこい」

「「了解」」

「うぅ……生徒相手に完封されるなんて……あの子がいれば……」

 

 何はともあれ実演は終了だ。

 若干呆れ気味の先生に呼ばれ、俺とラウラは地上へと降りていった。

 




お気に入り300件突破ということで、番外編のネタとか募集しています。
活動報告なり感想なりで送ってくださると私が大喜びします。
投稿ペースに関しては……努力します。


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