GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! (混沌の魔法使い)
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外伝リポート Fate/Grand Order 道化と歩む人理修復

どうも混沌の魔法使いです。今回は年始と言う事で特別企画の外伝リポートとなります。嘘予告?……的な感じいや将来的にはやりたいと思っているので予告かな?予告になると思います。好評なら真面目に考えて見ようと思うので、ご意見どうかよろしくお願いします


「Fate/Grand Order 道化と歩む人理修復」

 

それはありえない出会いであり、決して出会ってはいけない出会いだった……

 

とある雪山の中に作られた巨大な建造物。その名を人理継続保障機関・カルデア……

 

時計塔のロードであるアニムスフィア家が主導となり運営している魔術師たちの組織である。人類を存続させ、栄えるための理。すなわち「人理」が正常に働き、そのことによって未来においても人類が繁栄しているということを保障することがこのカルデアの役割である

 

カルデアは、これまで百年先まで人類が続いていると観測し、保障してきた。しかしながら半年前から突然未来は変わってしまった。百年後、どころか翌年の7月で人類は滅亡する未来に切り替わってしまったのである。今まで百年先の未来を観測し、人類の繁栄を保障してきたカルデア。しかしその観測結果は唐突に変動してしまったというわけだ。これはつまり、なんらかの方法で過去が書き換えられてしまったということに他ならない。

 

本来の歴史に存在していなかった、人理を脅かす大きな異変。その異変が起きた場所・時代を「特異点」とし、その原因を排除する。もちろん過去へ介入するということはただ事ではない。カルデアに用意された様々な最先端の技術でもって、過去の地球へとレイシフト……乱暴に言ってしまえば、つまりタイムジャンプするのである。

 

しかし、誰でもレイシフトできるわけではない。過去の魔術師(メイガス)たちは残念ながら専用のシステムに対応することはできなかった。これを行なうことが可能なのは、新世代の魔術を操ることのできる魔術師(ウィザード)だけであった。そのためカルデアは世界各国から適合者を探し、その結果、48人ものマスターを確保することに成功したのであった。

 

そしてそれは初のレイシフトを控えたその説明の時に現れた

 

「うんぎゃああっ!ぐへらっ!?」

 

重々しい音を立てて落ちてきた謎の男。それを見てカルデアの管制室にいた全ての面々は硬直した。突如現れた男、もしや人理を乱す敵が送り込んだ刺客ではと考え警戒するのは当然だ。しかし鮮血の泉に倒れこむその姿を見て、その考えも消えた、どうせ死んでいると……あれだけの高さから落ちてきては確実に死んでいると……だが落ちてきた男は

 

「この!ハンバーグのクソ爺ーッ!!俺を元の場所に返せーッ!」

 

ハンバーグのクソ爺と叫んで立ち上がり、額の血を拭いながらきょときょとと辺りを見回し、深い溜息を吐いてから

 

「おーい皆いるかー?」

 

間延びした声でそう尋ねる。まさか自分達に声を?と思ったがそれは違っていた

 

「みーむう」

 

「ギャーウ♪」

 

「ぷぎー」

 

「うきゅー」

 

「ピーピーッ♪」

 

「ココーン♪」

 

男の近くから続々と現れる数多の幻想種としか思えない小動物の数々。その中には竜種までいると言う事で更に管制室にいた面々は絶句し、それと同時にある考えが脳裏を過ぎった

 

守護英霊召喚システム・フェイト

 

人理の乱れを正す為に英雄譚・神話の中に存在した英雄を呼び出すシステム。それから呼び起こされた英霊かとしかし

 

「あーすんませーん。ここ何処か判ります?ワイ、東京に帰りたいっすけど?」

 

にへらと笑うその姿はどこからどう見ても英霊とは思えなかった。しかも彼が口にした東京の名前にその考えは強くなった

 

「えっと君は?」

 

モスグリーンのスーツを着込んだ紳士が引き攣った笑みで男の名前を尋ねた

 

「ワイ?ワイは横島。横島忠夫や。んでおっさん?ここどこ?えらい寒いけど?」

 

おー寒い寒いっと自分の身体を抱きしめながら笑う横島。その姿からは覇気や自信を全く感じられず、英霊とは思えない……と言うか思いたくない

 

「ここはフィニス・カルデアと言って、私はレフ・ライノールと言うのだが、ところで君の言っていたハンバーグの爺とは?」

 

「あーとたしかー、キシュウ……ゼルリマン?シュハンバーグ?やっべ、ハンバーグの爺としか呼んでねえから名前が判らん」

 

頬をぽりぽりとかきながらうろ覚えの名前を呟く。しかしここにいる何人かは横島が言うハンバーグの爺の正体に気付いた

 

「まさかキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグか!?」

 

「ああ!それそれ!そんな名前だった、あの爺、いっつも俺にトラブル押し付けるっす。本当はた迷惑っすよ」

 

第2魔法の使い手に送り込まれた横島。それはこの前代未聞のミッションに置いて、魔法使いが協力してくれたという証とも思えた。数多の幻想種を従える何者か?それはきっと魔術師として優秀な人材だと

 

「良いわ、貴方にもレイシフトして貰うわ。私は「おお!これはこれは美しいお嬢さん。どうか私とお茶でもしませんか?」ふえ!?」

 

傲岸な態度で自己紹介を始めようとしていた少女の手を掴んでナンパを始める。その仕草はどこからどう見ても優秀な魔術師には思えず、その軽い態度からも信用に値する人物ではなかった。だがそれはその場での話だった……

 

「「「GI―――AAAAAAAAAAA!!」」」

 

なぞの襲撃により崩壊したカルデアの観測室。そして偶然いや、必然的にレイシフトしたマスター「藤丸立香」そしてその少女を護る盾を掲げた少女「マシュ・キリエライト」

 

「先輩!こちらへ!」

 

迫ってくる骸骨を薙ぎ払い、1人でその少女を護り続けていた……しかし、数があまりに多すぎた。完全に囲まれ絶望的な状況になった時。道化はその真の姿を見せた。道化などではない、その真の姿を

 

「GO!うりぼー!1000匹うりぼー大行進+αだ!!」

 

管制室に突然現れた横島が2人の前に現れ、足元の小さな小さな猪に指示を出す

 

「ぷぎー!!」

 

とてとてと走り出したうりぼー。あんな一匹で何がと思った、だがその考えは間違っていた……

 

「「ふ、増えてる!?」」

 

マシュと立香の驚愕の声が重なる。なぜなら走りながらうりぼーの姿がぶれ始め……

 

「「ぷぎー!!」」

 

1匹が2匹になり

 

「「「「ぷぎー!!」」」」

 

2匹が4匹になり

 

「「「「「「「「ぷぎー!!」」」」」」」」

 

4匹が8匹と倍々に増えて行き、その中を良く見るとドラゴンや鳥にモグラも混じって、まさしく大行進と言うに相応しい勢いとなり骸骨達を薙ぎ払い踏み潰していく

 

「ぷぎゅううううッ!!!」

 

「みーむ!」

 

「うきゅー!」

 

「ぎゃーう!」

 

「ピーッ!!」

 

勝鬨と言わんばかりに粉砕した骸骨の上で雄たけびを上げる小動物軍団に完全に呆気に取られているマシュと立香の前に横島が着地して

 

「おー良かった無事かー、えーと確かマシュちゃんと立香ちゃんだよな?っ!伏せて!」

 

急に怒鳴られ、咄嗟に頭を下げた2人の頭上を緑色の刃が通過し、何処かから飛来した槍を両断する。

 

「よ、横島さん?貴方は?」

 

その光の刃を見て立香が驚きながら尋ねると横島は子供のような人懐っこい笑みを浮かべて

 

「ワイはGS、GSの横島忠夫。悪霊退治から妖怪・神様とかの交渉から幻想種の育成から妖怪の保父さんまでなんでもござれ、横島霊障相談所所長や」

 

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが連れて来たというか落とした男は紛れもなくジョーカーだった

 

「まぁ乗りかかった船やし?最後まで付き合うわー♪よろしくなー」

 

にへらと人の良い笑顔で笑う横島にマシュと立香も釣られて笑ってしまうのだった

 

人理修復に紛れ込んだ霊能者。それが彼女達の旅にどんな影響を与えるのか?……いやただしくは

 

「見てくれ!こんなの拾った♪」

 

「きゃう?」

 

「「「どこで拾ってきたの!?そのキメラ!?」」」

 

「森の中。良し!決めた!お前はポン太だ!」

 

「きゃーう!きゃーう♪」

 

小さなキメラの赤ちゃんを拾ってきた上に、首輪をつけてポン太と名づけたり……

 

「へい、お手」

 

「グルオウ」

 

「「「ワイバーンがお手してる!?」」」

 

「はっは!ドラゴンはでっかい犬だ!」

 

「「「絶対違う!!!」」」

 

ナチュラルボーントラブルメイカーであり……

 

「あはー♪お兄さん来ましたよー?」

 

「んぎゃああああ!!!出たアア!?監禁幼女おおおお!?」

 

ちょっとおかしいサーヴァントに追い回されて涙するその道化が進む道に何が待っているのだろうか?

 

「ご用とあらば即参上!貴方の頼れる巫女狐、キャスター降臨っ!です!」

 

「おお、おおおー!めちゃ美人来たーッ!!これで勝つる!しかも色っぽい!」

 

着崩した着物を着た狐の耳と尻尾を持つ美女に興奮する横島だったが、その影から小柄な影が飛び出し

 

「キャットの召喚によくも割り込んで来てくれたな!このオリジナルめ!ご主人はキャットのご主人なのだぞ!」

 

ぽかぽかと玉藻の前の足を叩く10歳前後のメイド服の少女を見た横島の顔が変わった

 

「あ、あれ?もしかしてキャット?」

 

「うむ!やはり聖杯の導きがあったな!ご主人よ!また会いに来たぞ!」

 

「キャットーッ!!ああ、良かった。良かった、消えてしまったからまた会えて嬉しい」

 

「うむ!ご主人があたしにくれたリボンが触媒になって会いに来れた♪」

 

あははーっと笑いながらキャットを抱きしめ、くるくると回転する横島

 

「あ、あれー!?私は放置なんですか!?放置プレイは嫌ですーッ!!!」

 

そして私が先に自己紹介したのに!?と言うか私も構ってくださーい!と涙し、横島に突撃するキャス狐

 

丁度その頃横島達がいる方向とは別方向の瓦礫の山の近くでは……

 

「すっごい嫌な予感がするわ」

 

「え、えええ!?き、狐が女の子に!?え、え。えええええ!?」

 

レイシフトの前横島に無理やり押し付けれた子狐が少女の姿に変わり、目に見えてうろたえるオルガマリー

 

「ま、ここがどこか?とかは後で聞くわ、とりあえず今は」

 

「「「GIAAAAAAッ!!!」」」

 

瓦礫の中から姿を見せた大量の骸骨を前に、顔面蒼白になるオルガマリーに対して、好戦的な笑みを浮かべた少女は

 

「あの骸骨を吹っ飛ばして、横島と合流しましょ」

 

その手に青白く輝く炎を集め、骸骨の群れへと打ち出し、骸骨を完全に焼き払う

 

「す、すご……えっと……貴女は?それと助けてくれてありがとう」

 

「私はタマモ。横島の所で世話になってる妖狐のタマモ。横島が護れと言ったからやっただけよ、別に護る気は無いわ」

 

そのドライな口調に引き攣った笑みを浮かべるオルガマリーの手を取ったタマモは

 

「ほら、行くわよ。あ、喋ると舌かむわよ?」

 

「え。えええええ!?無理無理無理ぃぃッ!!!いぃやあああああああああ!?!?」

 

その手を無理やり引いて、瓦礫の山の上から下に向かって飛び降りた。オルガマリーの悲壮な悲鳴が周囲に響き渡るのだった……

 

元の世界の家族のタマモ。そして奇妙な縁で2人の玉藻の前のマスターとなった道化の進む先に待つのは、絶望のバッドエンドか、幸福のハッピーエンドか!?

 

「ばっかやなあ。物語の最後はハッピーエンド!それに決まってるやろ!」

 

大・円・団

 

翡翠色に輝く伝説の珠がありとあらゆる運命を越える!そして終焉の運命を変えた最強の道化が最後のマスターと共に人理修復の旅を行く!!!

 

「Fate/Grand Order 道化と歩む人理修復」

 

とぅーびぃーこんてにゅー?



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ライダー情報

どうも混沌の魔法使いです。今回は横島が変身したライダーの情報を更新しようと思います。新しいフォームが出るたびに随時更新して行こうと思います


 

シッカリミナー。開眼ウィスプ!アーユーレデイ?OK!イ・タ・ズ・ラ! ゴ・ゴ・ゴーストッ!

 

仮面ライダーウィスプ魂

 

ハロウィンのジャック・オー・ランタンに似た模様が顔がヴァリアスバイザーに浮かび上がった。黄色とオレンジを基調にしたライダー。羽織っているパーカーは黄色がメインで襟等に黒が入った派手な物となっている。これは横島の陽気な性格を基にした結果だとカオスと優太郎は分析している。装甲の展開状態は一種の幽霊と同じ状態であり、空中浮遊や物体を通り抜けるということも可能。横島が韋駄天事件の時に致命傷を負ったときにハチベエとの融合により、身体の傷と霊力の覚醒をしたということを蛍やマリアから聞いたことにより、更にその融合レベルを上げ、横島の霊力の覚醒を促すために作られた補助スーツだったのだが、横島とハチベエの融合レベルが予想よりも高かった事、それにくわえ逆行前よりもGSとして僅かに成長していた横島の事を想定していなかった事。更に魔族によって操られた九兵衛の神通力と魔力が合わさった力を取り込んだ事、そして横島自身の戦うという意思……この3つの要素が大きく影響し、擬似魂【ウィスプ】の誕生とそれにともなうスーツの進化。それにより仮面ライダーウィスプと言う予定外の存在の誕生へと繋がった。極めて高い戦闘力を持つが、変身解除後に両手足と肋骨が居れ、うっと呻いた後に相撲レスラーの曙が上空から落下してきて押し潰されたような痛みが横島を襲い、更に凄まじい霊体痛が襲ってくる。それは横島の潜在霊力を無理やり引き出している弊害である

 

韋駄天ハチベエが変身ヒーローに憧れているという事と横島の霊力の覚醒にはハチベエの憑依も大きく影響していると考えたカオスと優太郎により、より横島とハチベエの融合レベルを上げるために作り上げた強化スーツが元であり、本来は霊力と神通力を巡回させる機能と肉体強化の効果を持つだけの強化アーマーだったのだが、横島とハチベエの霊力と神通力がカオスと優太郎の予想を上回るレベルで融合した結果。擬似魂の生成につながり、それが「ウィスプ眼魂」へと変化し強化アーマーを更に上のレベルへと進化させる結果となり、仮面ライダーウィスプが誕生した。

 

ウィスプ魂の能力としては物の中に潜り込む・自身を透明にすると言ったトリッキーな能力を持つ反面、打撃力や防御力には若干の難がある、専用武器として剣と銃としての特性を持ち、更に眼魂によって変形を行うガンガンブレードを持つ

 

 

打撃力・防御力・機動力のバランスが取れたフォームで突出した物を持たないが、バランスのいい能力と変身後のリバウンドが弱いのが特徴。特殊能力として自身を霊体に変化する能力を持ち、姿を隠しての奇襲や、壁や床に身体を半分隠すなどのステルス能力を持つ

 

 

 

仮面ライダーウィスプ ジャックランタン魂 バッチシミロー!カイガン!ジャック!トリック・オア・トリートッ!ハ・ロ・ウ・ィ・ン!ゴ・ゴ・ゴースト

 

 

眼魂のマークをランタンへと変更することで、左腕に現れるナイトランターンににセットする事で変身するフォーム。ウィスプ魂が横島の魂の象徴なのに対して、ランタンモードはウィスプ自身の魂の象徴と言える。パーカーが1度解除されて反転し、黒を基調とした丈の長いコートのような形状に変化する。左腕には眼魂をセットすることが出来る窪みと炎や水のマークを持つ円盤が装着されたランタンの形状を模したガントレット「ナイトランターン」を装備し、顔の上半分を覆う四角いバイザーが装着される

 

能力としては逃走と射撃に特化しており、逃走経路を常にバイザーに投影し。横島の逃走を補助しつつ、形状を自在に変化させる炎を放ち距離を取って射撃するスナイパータイプ。逃走に特化している分打撃力や防御力はウィスプよりも低くなっている為、接近戦には非常に弱い

 

ライトランターンは射程の長い射撃・放射状に広がる射撃、腕の振りで形状を変化させると3種類の攻撃を使い分ける事が出来。ヒット&アウェイに特化した武器となっている、眼魂を装填することにより、攻撃パターンに変動を持たせる事が可能となっている

 

 

 

 

仮面ライダーウィスプ 韋駄天眼魂 神界!最速!天の飛脚ッ!!

 

韋駄天八兵衛と九兵衛の神通力が込められた眼魂。白を貴重としている韋駄天の特徴であるスピードが大幅に強化され、ガンガンブレードが2つに分離し両足へと装着され、加速を生かした蹴りを武器としている。スピードを生かした撹乱と勢いに乗せた蹴りを得意とする反面、打撃力と防御力は若干低めとなっている。ガンガンブレードが足に装着されているのでアイコンタクトが出来ない代わりに、4回グリップを操作することで超加速を使用することが出来るフォーム。神である韋駄天の力が込められているだけあり、非常に強力な眼魂だが、牛若丸や信長と異なり、中に韋駄天の両名が存在しないため。本来は神霊の眼魂だが、牛若丸・信長の英霊眼魂よりも内方霊力は上だが、総出力は英霊眼魂よりも低い物となっている

 

マスクは飛脚が担いでいる棒と箱で漢字の八を逆さにしたものが浮かび、パーカーも白一色に背中にも大きく八の文字が赤字で染め抜きされた物に変化している

 

 

仮面ライダーウィスプ シズク魂 カイガン!シズク!唸れ水龍!渦巻く水流!

 

シズクの神通力が込められたシズク眼魂でウィスプが変身した姿。ゴーストのベンケイ魂に酷似したマリンブルーのパーカーに、両肩が龍の爪を模したプロテクターへと変化している。マスクは水の王冠現象の瞬間をバックに龍の顔を模したマークが浮かんでいる

 

シズクの能力である水を操る能力を持ち、自身を水へと変化させたり、水を氷や霧へと変化させトリッキーな戦術を得意とする。ガンガンブレードは刀身が消え槍の柄へと変化し、水で出来た刃を持つトライデントへと変化する。必殺技はバリエーションが非常に多く水や氷を操りそれらを打撃や蹴りに用いる物や、トライデントから水と氷の刃を飛ばすなど「水」と言う特徴をフルに生かした物を使用する

 

 

 

仮面ライダーウィスプ 牛若丸魂 カイガン!ウシワカマル!シュバッと八艘!壇ノ浦ッ!

 

紫色のパーカーと両肩は船の船首を模した装甲になっており、両腕の袖は少し長くなっており着物を連装させる

顔のマークは笹竜胆(ササリンドウ)の上に武蔵と同じく刀が×マークになっている。牛若丸の経験を持つ為軽業師のような身のこなしと正道と邪道の合わさった太刀筋の見極めにくい剣術を使う。その性質が横島と似ているのか、横島との共鳴率は高く、自身が参加した壇ノ浦の戦いで使った八艘飛びを高いレベルで再現している

 

 

 

 

仮面ライダーウィスプ 沖田魂 開眼!沖田!病弱・虚弱・薄幸の剣士!

 

沖田の霊体の状態に強く影響を受けるため、沖田自身が弱っていると、病弱・虚弱・薄幸の剣士!となり桜色のパーカーに変化する。この状態は火力と防御は劣るが、機動力に特化し、沖田総司の天才的な剣術をトレースした接近戦を得意とする。現段階では不明だが、沖田自身の霊力が上昇すれば新撰組をモチーフにした姿に変化すると思われるが、今の段階ではその姿があるかどうかも不明である、なお牛若丸と似た性質を持っているが、横島自身と霊体の相性はそれほどでもないのか、3段突きを完全に再現する事は出来ていない

 

 

仮面ライダーウィスプ 信長魂 開眼、信長!過激な刺激、乱れ撃ち!

 

ノスフェラトウと破れた信長の魂が封じ込められた眼魂。今までの変身と異なり装備や装飾がかなり増えており正道と邪道を組み合わせ、剣と銃を自在にスイッチしトリッキーかつパワフルな戦いを得意とする。最初に黒いパーカーが装着され、腰に1本、背中に2本のガンガンブレードがマウントされた後、紅いマントを装着している。背中のガンガンブレードは銃モードに固定されており、必要に応じてマウントしているアームパーツにより手元まで自動的に運ばれてくる。追加されたマントは防御に使用することが出来遠距離防御には強いが、耐久力に難があり数回程度の使い捨ての盾として使用される、必殺技は霊力で出来た無数の銃を自身の背後に召喚してから放つ一斉射撃、面による制圧力に特化しており多数の相手に対して絶大な効果を持つが、射撃の軸を一転に集中することにより点による一点突破も出来。状況に応じて2種の射撃に切り替えることが出来る



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キャラ設定

どうも混沌の魔法使いです。今回はだいぶキャラも増えてきたので、キャラの解説を書いていこうと思います

こちらはそのキャラが正式登場した回の完結後に増やして行こうと思っています

追加情報のときは前書きに記載するするのでよろしくお願いします



それではどうかよろしくお願いします

 

 

ルシオラ→横島蛍→芦蛍

プロローグより登場

 

本作「GS芦蛍絶対幸福大作戦!」の主人公でありメインヒロイン。横島と美神の間に生まれたルシオラの転生者、転生前の記憶は失っていたが17歳の誕生日に記憶を取り戻し、自分が横島と結ばれ幸せになる為に最高指導者を説得(脅して)して宇宙卵を用いた逆行の許可を得て逆行し、アシュタロスに最高指導者の手紙を渡しアシュタロスの娘として逆行世界を生きている。現在は自分の知らない女性ばかりが増えて気が気じゃない、そのむしゃくしゃはアシュタロスにハンマーなどの鈍器で文字通り叩きつけて発散している。なお逆行により、ルシオラと横島蛍の2つの横島に向けていた愛情が1つになっている為、横島への好感度はもちろん最初から最大である。なお魔族ルシオラと人間横島蛍の相反する存在の融合による影響か。半分ほど魔族になっている為ハーフに近い存在になっている

 

霊能力としては逆行により、ルシオラの身体になっているので魔力を扱うことも出来るハーフに近い存在になっている

横島蛍の時に使用していたサイキックソーサー系の霊能力に加え、霊波砲などの扱いを得意とし、母であった令子から道具の扱いを教わり、護身用に格闘術を覚えているためどの距離での戦いも得意としている。

 

 

アシュタロス→芦優太郎

リポート1もう1度始めよう

 

ソロモンの魔神アシュタロス。原作では敵キャラだったが、逆行してきた蛍の話と最高指導者の手紙の中に仕込まれていた、逆行前の横島の感情に影響を受けて原作のカリスマの大半を失い、代わりに「カリスマ(笑)」と「親馬鹿」のスキルを与えられた、基本的には蛍の恋愛を応援しているのだが、その応援は高確率で失敗し、その度に蛍にハンマーで殴られている

 

横島争奪トトカルチョの胴元をしているが、蛍も知らない女性が増えていく事に驚愕し、その度に横島と蛍の関係が進むようにと悪巧みするが……やはり高確率で失敗する。そしてその度に蛍にお仕置きされ、生死の境を彷徨っている。残念魔神その1

 

 

横島忠夫

リポート1 もう1度始めよう

 

本作のもう1人の主人公になる。ほかの登場人物と違い、逆行などの記憶は一切持っていないが、原作開始より先に蛍と接触している為。原作開始時にはある程度の霊能力の知識を得ている、原作と違い逆行した世界の影響なのか

妖怪などと心を通わせる才能・陰陽術を扱う才能が上昇している……らしいのだが、まだ霊力に覚醒していないのか十分に扱うことは出来ていないが、危機的な状況になるとそういった才能が一時的に表に出ることがあるので、助手としての役割は十分にこなしている

 

煩悩はあるのだが、チビやタマモと行った家族が多くいる為。煩悩は若干控えめになり、代わりに父性がログインしており、チビやモグラちゃんをとても大事に育ている。なお逆行前は出会うことが無かったが、この世界では前世である高島と友好のあったシズクなどの竜神などに遭遇しており、蛍をやきもきさせている。だが横島自身は一番最初に自分を認めてくれ、今も励ましてくれている蛍の事が好きなのだが、あまりに自分が何も出来ないためか、その思いを口に出来ないでいる

 

リポート2でタマモ・リポート5でグレムリンのチビ・リポート10でモグラちゃんと言った妖怪と出会っており、妖怪や人外に好かれる才能は原作よりも非常に高くなっている上に心に闇や悩みを抱えている女性にも好かれるようになっている

 

なお原作との違いは、百合子がナルニアに向かう前に蛍と出会って話をしているため、人並みの生活をするための資金と原作よりも少し大きな家を借りて貰っている所である

 

 

リポート19より

 

シッカリミナー。開眼ウィスプ!アーユーレデイ?OK!イ・タ・ズ・ラ! ゴ・ゴ・ゴーストッ!

 

仮面ライダーウィスプ魂

 

ハロウィンのジャック・オー・ランタンに似た模様が顔がヴァリアスバイザーに浮かび上がった。黄色とオレンジを基調にしたライダー。羽織っているパーカーは黄色がメインで襟等に黒が入った派手な物となっている。これは横島の陽気な性格を基にした結果だとカオスと優太郎は分析している。装甲の展開状態は一種の幽霊と同じ状態であり、空中浮遊や物体を通り抜けるということも可能。横島が韋駄天事件の時に致命傷を負ったときにハチベエとの融合により、身体の傷と霊力の覚醒をしたということを蛍やマリアから聞いたことにより、更にその融合レベルを上げ、横島の霊力の覚醒を促すために作られた補助スーツだったのだが、横島とハチベエの融合レベルが予想よりも高かった事、それにくわえ逆行前よりもGSとして僅かに成長していた横島の事を想定していなかった事。更に魔族によって操られた九兵衛の神通力と魔力が合わさった力を取り込んだ事、そして横島自身の戦うという意思……この3つの要素が大きく影響し、擬似魂【ウィスプ】の誕生とそれにともなうスーツの進化。それにより仮面ライダーウィスプと言う予定外の存在の誕生へと繋がった。極めて高い戦闘力を持つが、変身解除後に両手足と肋骨が居れ、うっと呻いた後に相撲レスラーの曙が上空から落下してきて押し潰されたような痛みを横島が襲い、更に凄まじい霊体痛が襲ってくる。それは横島の潜在霊力を無理やり引き出している弊害である

 

韋駄天ハチベエが変身ヒーローに憧れているという事と横島の横島の霊力の覚醒にはハチベエの憑依も大きく影響していると考えたカオスと優太郎により、より横島とハチベエの融合レベルを上げるために作り上げた強化スーツが元であり、本来は霊力と神通力を巡回させる機能と肉体強化の効果を持つだけの強化アーマーだったのだが、横島とハチベエの霊力と神通力がカオスと優太郎の予想を上回るレベルで融合した結果。擬似魂の生成につながり、それが「ウィスプ眼魂」へと変化し強化アーマーを更に上のレベルへと進化させる結果となり、仮面ライダーウィスプが誕生した。

 

ウィスプ魂の能力としては物の中に潜り込む・自身を透明にすると言ったトリッキーな能力を持つ反面、打撃力や防御力には若干の難がある、専用武器として剣と銃としての特性を持ち、更に眼魂によって変形を行うガンガンブレードを持つ

 

 

タマモ

リポート2 ナインテールフォックス

 

傾国の大妖狐九尾の狐の転生体。本来は9本の尾が回復するまで殺生石の中で眠り続けるはずだったのだが、逆行の影響か不完全な状態で目覚め、わずかに得た逆行の記憶の中にあった、横島に会う為に東京まで走ってきて、横島に拾われた。霊力が十分に回復しておらず、本来9本存在する筈の尾は2本しか無く、時間と共にその尾の本数が増えているが、9本全てが復活するには相当な時間が掛かることが予測される。なお満月の晩のみ霊力が増幅するため人間の姿になることが出来る

 

現在はほぼマスコットとして横島の家で暮らしている。喋りたいが喋れないジレンマを抱えつつ、今日もマスコットとして日々を暮らしている。なお動物と言うことで横島にかなり可愛がられているので、若干このままでもいいと思いつつある、動物的な本能が横島には勝てなかったらしい……

 

 

 

 

美神令子

リポート3 GSのアルバイトを始めよう

 

若手GSNO1として有名な女性。がめつい上に高飛車で我侭な性格をしていたのだが、若干逆行の記憶の影響を受けており、更に蛍との出会いにより性格が若干丸くなっている。優秀な助手である蛍と実力が未知数ながらその潜在能力を見せ付けている横島を引き抜こうとするエミや六道冥華に悩まされている。また引き抜かれない為に蛍の時給は5000、横島の時給は4000と一般的なGSの相場と比べると少し低いが、十分な時給を支払っている

 

 

おキヌ

リポート4 幽霊少女と蛍と狐

 

死んだばかりの時に逆行して来てしまった事により、300年間横島を想い続けていたせいか、超高度に圧縮されたヤンデレへと化している、だが自分の中でしっかりスイッチのON/OFFが出来ており、基本的には天然気味の白モードだが、ほんの些細なきっかけで嫉妬1000%の黒モードになるので、横島も若干警戒しているが、自分に好意を向けてくれている美少女なのでずっと白モードで居て欲しいなあっと心のそこから思っている。なおおキヌ自身は早く生き返ってもっと積極的にアプローチを掛けたいと思っている。なお仲間を増やすことを得意としており、小竜姫が黒モードを取得したのは100%おキヌの影響であり、ある意味一番の危険人物なのかもしれない

 

 

グレムリンのチビ

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪

 

原作でも登場したグレムリンの赤ちゃん。原作ではいつの間にか消えてしまったが、今作では横島の家のマスコットとして住み着いている。大きさはハムスターより少し大きい程度で、背中に翼を持つため飛行能力を持つ。横島に名前を与えられたので使い魔の一種へと変化しており、成体のグレムリンになることは無い。その代わり知性などが上昇している、みむやみーとしか言わないが、非常に感情豊か横島にとても懐いているが、それ以外には殆ど懐くことは無く、家の中に入り浸っているおキヌや蛍にもいまだに警戒心を見せている。家族以外で懐いているのは「冥子」だけなのでその気難しさが良く判るだろう。TVで前回りや、歌を歌うに踊りを覚えるなどその知性は非常に高い、また最近は「電気ショック」などの攻撃系の技を覚えるなど(リポート13)マスコットとしてだけではなく、悪魔としてもしっかりと成長している

 

 

六道冥子

リポート6 式神使い六道冥子登場!

 

非常に強力な12体の式神を操る式神使い……なのだが、その実あんまりコントロール出来ておらず、かなりの確立で暴走させている困ったお嬢様である。性格はかなりの天然でしかも箱入り娘なので世間知らず、だがその反面活花や料理や裁縫と言った技能は人並み以上に出来るなどかなりアンバランスな面もある。横島とは良くショウトラの散歩で出会っており、良く話をするほどに仲が良い。またチビに懐かれるなど、冥子ももしかすると横島と同じく妖使いの才能があるのかもしれない……横島には割と好意的で年上と言うこともあり、蛍にはかなり警戒されている人物。なおそのぽわぽわした雰囲気と間延びした喋り方からは信じられないが、彼女は21歳である。見た目とその喋り方で成人してないと思われることもあるが、れっきとした成人である

 

 

六道冥華

リポート6 式神使い六道冥子登場!

 

冥子の母親で六道家の現当主。日本のオカルト業界に強い発言力を持ち、自身もGSになる女子を育てる六道女学院の理事を務めている。常に笑顔を浮かべており一見温和そうに見えるが、必要なことならばと悪を行うこともある冷酷な人物でもある。現在は失われた陰陽術を扱い、妖使いの才能を持つ横島を何とかして美神の所から引き抜こうと悪巧みをしていたりしてなかったり……色々と何を考えているか判らない人物でもある。

 

 

ドクターカオス

リポート7 逆行者ドクターカオス&マリア

 

1000年の時を生きる錬金術師。原作ではボケた只の足手まといの老人だったが、今作では蛍達とは別のアプローチによる逆行により逆行してきた、未来の横島から譲り受けた「若」の文殊で若返り、全盛期の知識をフルに活用し、メタソウルを応用した、過去の自分に未来の記憶を与えるという方法の逆行である。自身が作り上げたマリアを娘と呼び、とても大切にしている。今の目的はマリアの幸福な未来とテレサを今度こそ自分の娘として作り上げることである。なお科学者と言う面では優太郎と意気投合し、時折変な発明をしている

 

マリア

リポート7 逆行者ドクターカオス&マリア

 

ドクターカオスによって作られた人造人間。未来の横島達との出会いで完全な感情を手にしている、横島への強い好意を持っているが、機械の身体なのでどうしても一歩後ろに下がってしまう。今はドクターカオスが有機ボデイを作ってくれているのでそれが完成するのを心待ちにしている。性格は穏やかで本来なら人に好かれ易いはずなのだが、表情が非常に硬いので若干怖がられることも多いのを密かに気にしている。

 

 

シズク (元ネタおまもりひまり 静水久)

リポート8 怒れる水神ミズチ!

 

八岐大蛇の系譜の水神。水神であり、竜神と言う二重属性を持つ神。平安時代の陰陽師である「高島」に神社を作ってもらい、そこに祭られていたが、自身の神社を魔族に操られた人間に破壊され、怒りを持って目覚め、周囲の神族などから神通力などを奪い、竜神としても水神としても完全に復活した。怒りのまま東京に来たが、そこで高島と良く似た雰囲気とかつて自分が高島に授けた加護の名残を持つ横島を高島の転生者だと判断し、見極める為に自身の住む異界に引きずり込み横島のあり方を確かめた。その後は妙神山に赴き奪った神通力などを小竜姫に返し、力を失ったことで水神としての子供の姿に戻った。子供の姿をしているがその力はやはり強大で、水・氷を操り、非常に高い能力を持つ。横島が育つのを近くで見ると言う名目で「リポート10無垢なる土竜」の後で横島の家に転がり込んだ。横島の家の頼れる毒舌系ロリおかんとして君臨している、なお横島にはきつい言い方をするが、基本的に優しい。ある意味逆光源氏を実行しているとも言える

 

 

 

小笠原エミ 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト

 

令子のライバルのGS。主に黒魔術を得意としバックアップに長ける。3分間踊りながら霊力を高めて放つ霊体撃滅波が奥の手になる。基本的なGSの技能は取得しており、破魔札・神通棍も扱えるが、自身の除霊のスタイルから特殊な加工をしたブーメランを愛用している。GS協会の注目の若手として登録されていた横島と蛍に目を付けてスカウトに行ったが、拒否され、もう少し早く出会えてたらと呟き、スカウトは諦めたが、若手GS実習としてならいつでも訪ねて来ていいと言って去って行った。なおその際に横島を引き抜けると思っていたので大金を支払って入手していた妖怪に関する書物を横島へと譲っている

 

 

神代琉璃 (外見イメージ ISより更識楯無)

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト

 

紅い瞳に蒼い髪を持つ美しい女性。神代家の現当主であり、非常に強い霊力を持ち、その身に神を降ろし特殊な能力を扱うことの出来る巫女でもある。ただし神卸に特化した霊能力しか持たないため、除霊やお祓いはあまり得意ではない(本人の感覚で得意ではないと言うだけでCランクからB-程度の能力はある)霊刀による接近戦と冥華に教わった簡易式神の術と基本的な除霊術を使いこなすオールラウンダー。性格としては猫のようなと称されるほどに悪戯好きであり、人をからかったりするのを好む。なお懐に入れた人間にはそれが特に激しくなる傾向があり、蛍や横島が主な被害者となっている

 

 

 

唐巣 和宏

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト

 

エクソシストの男性。令子の師匠をしていたこともあり、令子からは先生と呼ばれている。GSの中では屈指の実力者で唐巣神父と呼ばれているが、正しくは神父ではない。かつては神父だったのが禁止されていた悪魔祓いを行ったことで破門されている。そのせいか一時期は非常に荒れていたが、今は自身の教会を持ちそこで霊障に悩む貧しい人達を助けているが、当然まともな報酬をもらっていないので、いつも赤貧に悩まれている。普段は聖句を用いた除霊を行うが、眼鏡を外すと荒れていた時に戻り、八極拳などの体術を用いて戦う。なお、このハ極拳は自身と同じく破門されたマーボー好きの神父に教わったとかないとか……詳しい所は不明である

 

 

メドーサ

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト

 

優太郎直属の部下として行動している……結構思いつきで動いてしまうこともある優太郎に振り回されていると言えるが、それなりに充実した日々をすごしている。逆行してきた未来のメドーサの記憶と魂が憑依しており、自分の知らない記憶と体調不良に悩まされている。隠遁の術を使っていても見つけてきた横島に魔装術を触り程度見せた、それが横島に強い影響を与えたのは言うまでもない。夢で見るお人よしが最近気になり始め、それは未来の自分との融合が大分進んでいる証明でもある

 

 

 

夜光院柩 (元ネタ おまもりひまり)

リポート10 無垢なる土竜

 

GSではあるが、除霊を滅多に行わない事で有名なBランクGS。夜光院の人間は「超速思考」「完全空間座標知覚」「時間座標把握」と言った特殊能力を持つのだが、柩はその全てを兼ね備え天才なのだが、その反面その3つの能力に脳が圧迫されており、薬を手放すことが出来ないで居る。またIQも非常に高く特殊能力抜きでも天才と呼ぶに相応しい頭脳を持っている。人を食ったような態度とくひひっと言う不気味な笑い声から友人と呼べる人間は少なく、基本的に事務所権自宅に閉じ篭っている。しかし未来の見えない横島には若干の興味を持っているようだ

 

 

モグラちゃん

リポート10 無垢なる土竜

 

長い年月を生きて竜変化を取得したモグラ、両手が竜の爪となっており。その巨体とあいまって非常に高い攻撃力を誇る

霊力探知に非常に高い能力を持ち、霊力のある人間を捕まえて霊力を奪っては逃げるを繰り返し非常に高い霊力を持つ、現在は竜気と強力な霊力を持つシズクを追いかけて移動している。モグラとしてはかなりの歳だが、妖怪としては子供なので善悪の区別がなく。自分と似た気配を持つシズクを追いかけてはいるが、悪意はない。横島に人を襲うことはよくないと諭され、迎えに来たお爺ちゃんのロンに連れられ、妙神山へと連れて行かれた。

 

 

ロンさん

リポート10 無垢なる土竜

 

土竜族に属する老竜。正体はモグラちゃんと同じくモグラだが、小山ほどの大きさ持つ大モグラ。モグラちゃんと違い、完全に自分の能力をコントロールしているため人間の姿を取っている。なお若い時はかなり強力な竜だったらしく、火炎放射や電撃などの特殊能力を自在に操ったらしい……今はそんなに無理が出来ないので妙神山でモグラちゃんを育てつつ、のんびりと暮らしている

 

 

神宮寺くえす (元ネタ おまもりひまり)

リポート11 平和な時間

 

長い銀髪と完璧とも言える体型をした美少女。A-ランクに属するプロのGSだが、表ではなく裏のGS。暗殺・呪札・破壊工作特化のGSで、一応GS協会に属しているが、基本的にはフリーランス。しかしここ最近はやり過ぎた為、GS免許の停止処分から、琉璃の監視下に置かれている。プライドが高く、傲慢と言えるほどに自身の能力に強い自信を持っている。また彼女は魔女として有名で、豊富な魔力と霊力を兼ね備え殲滅戦を得意とする。神宮寺の家は先祖が魔族と契約しており、それ以来子孫には魔力を持つものが多く、くえすはその中でも先祖がえりと言っても良いほどに膨大な霊力と魔力を兼ね備えている。その魔力のせいか非常に凶悪な性格をしており、自分に歯向かうものを徹底的に叩きのめし、その精神を焼き尽くし何人もの廃人にしている。そのせいか自分の側に人を寄せ付けない雰囲気を纏っているが、それを気にせずに自分の側に来た横島に自分でも表現出来ない不快感を感じている。その不快感が何なのか判らず、苛立ちを覚えている

 

 

ピエトロ・ド・ブラドー

リポート12 吸血鬼の夜

 

始祖の吸血鬼ブラドーの息子。非常に強力な魔力と持つハーフバンパイヤ、原作と違い。双子の妹が存在する以外は殆ど原作と同じ

 

 

シルフィニア・ド・ブラドー 

リポート12 吸血鬼の夜

 

ハーフパンパイヤの少女、ピートの双子の妹で、長い金髪と青い瞳を持つ美少女。父であるブラドーを助けてくれた横島に好意を持っている。ハーフだが、バンパイヤと言う事で人間に受け入れられることは無いと思っていたのだが、美女・美少女なら妖怪や悪魔でもOKと言う横島はシルフィーの理想のタイプであり、かなり強引と言える方法で横島に自己アピールをしているが、蛍やシズクが居るとかなり吹っ飛ばされたり、封印札で封印されかけたりかなりの不運。そして妨害されない時は、横島の血を吸おうとするなどかなり残念属性でもある。若干ストーカー気質もあったりする、その度にピートが頑張ってシルフィーを止めている

 

 

ブラドー

リポート12 吸血鬼の夜

 

始祖の吸血鬼であり、ピートとシルフィーの父親、原作と違い。人間に友好的だったが、人間は異質な存在を恐れる。ゆえに始祖の吸血鬼としての責務として吸血鬼達が暮らす結界で覆われた島ブラドー島を作り、その中で眠っていた。だが自身の妻の遺体を奪われた事もあり、ブラドー島を後にしそこでドクターカオスと戦い、破れ逃げ帰るようにブラドー島に戻った。妻の遺体を取り戻すことが出来なかった失意とブラドー島の住人を護ると言う義務から、自身の眠りを基礎とする封印をブラドー島に施した。目覚めることの無い眠りのはずだったのだが、高位の魔神によって強制的に目覚めさせられ、魔族に身体を操られ、ピート達と戦うことになった。今は横島の強制除霊のダメージが大きく治療に勤めている

 

 

 

ガープ

リポート12 吸血鬼の夜

 

金色の角を持ち、蝙蝠の翼を背中に持つデーモンで、ソロモンの序列33番の大総裁にして強大な君主。人の意識を失わせたり、一時的に無知な状態に陥れる。また人同士の愛憎をかき立てる能力を持つ。ピートとシルフィーの母親が死ぬきっかけになった魔神であり、人の感情を逆なでする事を好む。また魔術の扱いに秀でるだけではなく、錬金術などの科学にも精通した魔神であり、過激派魔族の頭脳として行動している

 

 

 

ビフロンス

リポート12 吸血鬼の夜

 

ソロモン序列46番の地獄の伯爵。非常に強力なネクロマンサーであり、交霊術にも長けている。本来は自身が上位魔族となり、部下を持つ立場だが、ガープのあり方に共感し、彼の執事としてガープ直属の部下となっている。魔族としての姿も持つが、それは私の部下には相応しくないということで禁止されており、黒のタキシード姿の初老の老人の姿に擬態している

 

 

 

魔神アリス

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS

 

ネクロマンサーの少女。卓越した魔力と霊力を持ち合わせる13歳前後の少女。青いエプロンドレスに長い金髪、そして血のように赤い瞳をしている、正体は異なる世界で神の生贄として死んだ少女。その無垢なる魂に轢かれた魔神「ベリアル」魔神「ネビロス」によってゾンビとして復活させられた。性格は純粋無垢だが、その幼さゆえの邪悪さを持つ。また魔界で暮らしているため、友達=「ゾンビ」または「悪霊」の為。友達は死んでいるのが普通なんだという異常な価値観をしている。なお横島だけはアリスの生きた友達であり、お兄ちゃんと呼びとても懐いている。

 

 

 

魔神ベリアル

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS

 

ソロモンの魔神の1柱。本来は好戦的なのだが、アリスとの邂逅で丸くなった……と言うか娘馬鹿になった。本来は赤い龍の姿をしているが、アリスを怖がらせるため赤いタキシード姿の青年の姿をとっている、アリスが可愛くて仕方ない、手遅れに近いロリコン。アリスには「赤おじさん」と呼ばれている。残念魔神その2

 

 

魔神ネビロス

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS

 

ソロモンの魔神の1柱。かつてはアシュタロスの相談役をしていた大精霊。本来ソロモンに属するのは彼の分霊の1人なので、彼自身はソロモンの魔神であり、そうではないと言う変り種の魔神。卓越したネクロマンサーであり、アリスに友達として「ゾンビ」を与えている張本人。だが魔界には人間が居ないから人間の変わりと言うことで悪意があるわけではない。アリスにネクロマンサーを教えており、覚えの良いアリスを褒める事が好き。アリスには「黒おじさん」と呼ばれている

 

 

 

犬塚クロ

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪

 

原作では天狗との戦いで目を失い、それが原因でポチに殺されてしまったシロの父親。クロの名前の通り黒い犬の耳と尻尾を持つ、妻と死別しているため、残された娘であるシロを溺愛しており、シロを救う為ならばと自身の手足を失うことになってもかまわないと考えていた、だが横島の乱入により再戦の約束と共に無傷で天狗の薬を得ることが出来た。そして後日の再戦で骨折をした物の、天狗を打ち倒し人狼の里一番の剣士として称えられる事になった

 

 

犬塚シロ

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪

 

名前の通りクロの娘。まだ幼く、自分で人間に化けることが出来ないので白い毛並みの子犬のような姿をしている。高熱を出してしまったのは、未来の記憶を思い出したことによる知恵熱だったりする

 

 

右の鬼門・左の鬼門

 

鬼族で妙神山の門番を勤めているが、はっきり言って弱い。最近はチビにも負けて精神的に死んでいる……

でも噛ませ犬だから仕方ないかもしれない……

 

 

 

小竜姫

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪

 

妙神山の管理人の女性。スレンダーな体型と赤毛が特徴、神剣の使い手として名を馳せた武神だが、若干実戦経験が足りないため不測の事態に弱いという欠点を持つ。未来の小竜姫の魂も今の彼女に宿っているのだが、未来の小竜姫はどちらかと言うと魔族よりの思考を持っている為上手く融合出来ておらず、突然の意識の喪失による主人格の変化と言う症状を起こしている。なお未来の小竜姫はおキヌの黒いオーラに感染しているので、本当に神族か?と言いたくなるほどの黒いオーラを纏うこともある

 

愛子

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪

 

古い机の九十九神の少女。おキヌちゃん同様早い段階で記憶を取り戻しており、友好的な出会いをする為に自分の中に生徒を閉じ込めて行っていた神隠しなどを行っていない。その代わりに横島のことばかりを考えていたせいか、青春空間が青春空間(スイーツ)へと変更された。これはおキヌちゃんと違い純粋に横島を思っていたからか、それとも元々愛子がスイーツ属性だったのかのか、あるいはその両方なのか?生まれた原因は不明。横島と自身含む女性を取り込んだ場合、奇妙な属性と性格が付与される。なお横島以外を取り込んでもスイーツ空間には移行せず、それ以外は普通の学校を模した異空間に取り込まれることになる。なお愛子は自身をスイーツと認めてないので、凄まじい精神的ダメージを受けることになる

 

 

 

テレサ

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕

 

逆行前の世界ではカオスが呆けていた事と厄珍のせいで性格が歪んでしまったテレサだが、今回はカオスが呆けておらず、さらにアシュタロスのおかげで計算通りの性格で誕生した。マリアと同じく有機ボデイなので人間とほぼ同じ事が可能。しかしその反面霊具を装備しきに換装した為戦闘力自体は若干低下している。外見こそ大人だが、精神が成長しきってないため常識や羞恥心などが欠落している、現在はシズクによって家事などを学んでいる

 

 

アスラ

リポート19 開眼!疾走する魂

 

三面六臂の屈強な魔神であり、武具の扱いに長ける武人でもあるが、人間のみならず神魔族でさえも狂わせる思念波も持ち合わせており、戦いに置いては正々堂々と戦うが、戦う前にはその思念波を用いて、仲間割れを起こさせるなど卑劣な手段も使う。デタントを認めず、徹底抗戦を掲げていた魔神。神魔を狂わせる思念波を危険視され、能力を封印された上で幽閉されていた。現在はアスモデウス一派に属している

 

アスラは元々は太陽神に属する神族だったが、帝釈天との戦いの中で悪神として貶められた「アスラ」と神族として認められた「阿修羅」へと分裂し、阿修羅は今もまだ神族として天界に属しているが、アスラは魔神として魔界に属している。神であったが、魔に落とされ、永遠に帝釈天と戦う運命に囚われた。怒り、そしてデタントと言う人間の事を考えたかりそめの和平を認めておらず、アスモデウス達の思想に共感し過激派魔族として行動している

 

狂気の波長

 

アスラが放つ思念波をガープが名づけた物。人間は愚か、神魔でさえも狂わせる恐るべき思念波。だが幽閉された際にその能力は大幅に抑制され、かつての存在するだけで全てを狂わせた力は失われている

 

狂神石

 

狂気の波長をガープが分析し、様々な実験を繰り返した果てに生成されるようになった、血の様に紅い石。魔族が持てば魔力を強化し、神族が持てば属性が反転し、所持している間。もしくはアスラ・アスモデウス一派の念によって堕天させられる、人間に埋め込めば徐々に魔族へと変化するなど、恐ろしいまでの能力を秘めている。その反面制御が極めて難しく、常に暴走する危険性を秘めている。

 

またこれ自体も生命体であり、所有した神魔族の魔力や神通力を吸収し、ある程度吸収すると擬似魔神へと変貌する

 

 

セーレ

リポート19 開眼!疾走する魂

 

 

穏健派に属する振りをしている過激派魔族。好きな所に移動できると言う能力を駆使し、自身のアリバイを作りながら過激派魔族の行動を手助けしている。黒髪のホスト風の優男の姿をした分霊の姿で穏健派に属しており、その正体は10歳前後の黒髪の少年でありで、気性が荒く凄まじい魔力を持つ魔界のペガサスを愛馬とする

 

 

アスモデウス

リポート19 開眼!疾走する魂

 

激怒と情欲を司る魔神。龍に跨り、その手に槍と盾を持ち、真紅の鎧に身を包んでいる。デタントに不満を持つ数多の魔族を纏め上げ、ガープを参謀とし、最初は魔界統一の際の敗者が再び立ち上がった程度に思われていたが、今では魔界正規軍でさえ迂闊に手を出すことが出来ない派閥を作り上げた。その点から凄まじいまでのカリスマを持っていると思われ、彼を崇拝する魔族も少なくは無い。ガープの魔術でアジトを転々と移動しており、魔界正規軍も神界部隊も補足することが出来ず、魔術を用いた電撃戦を仕掛けてくる事もあり、戦士としての能力だけではなく、軍師としての能力も非常に高い

 

 

ビュレト

リポート19 開眼!疾走する魂

 

ソロモンの魔神の1柱。かつては「ベリアル」「アスモデウス」「ガープ」と共に魔界の4大公爵に数えられた極めて強大な力を持つ魔神。男女間の恋愛に関係する権能を持つ為恋愛の魔神と言われることもあるが、実際はかなりの武戦派の魔神であり、ベリアルから魔界の炎を操る術や、ガープから魔術を教わっており。彼自身も魔剣と魔界の名馬を駆り近接・中距離に高い能力を持つ。サッちゃん事サタンの魔界統一の際はアスモデウス達と共にサタンの軍と戦ったが、神魔が戦い続ければ世界が滅ぶ、いつまでも決着の付かない戦いを続けることの虚しさ、アスモデウス達が負傷した事もあり、自らの宮殿に結界を張り自ら戦いから降りた。恋愛の魔神であるがゆえに、魔族であり、魔神でもあるビュレトは人間が嫌いではなかった、むしろ好んでいた。このままでは人間界が滅び、更に言えば魔界も天界も消滅すると悟ったゆえの行動だが、アスモデウス達にとっては酷い裏切りになってしまい、袂を分かつことになった。それ以降は中立派を宣言し、魔界からも天界からもの不干渉を貫いてたが、アスモデウス達の動きが活発になったことで、かつての友を止めるという目的の為、一時的に魔界正規軍と協力体制をとることにした

 

人間の姿としては黒のファーつきのジャケットと赤いズボン。そして逆立った黒髪をした青年の姿に擬態することが出来。かつて自分を呼び出した人間の魔術師のカズマの名を借りて、カズマと名乗っている

 

魔界の魔獣の中でも凶暴とされるバイコーンを愛馬としており、剣士としても、騎乗兵としても非常に優秀な能力を持つ

 

 

八兵衛

リポート19 開眼!疾走する魂

 

鬼であり、神である。善と悪の2つの側面を併せ持つ韋駄天の1人。屈強な身体を持ち、韋駄天の中でもかなり恵まれた身体能力を持つが、性格に若干の難が有り、人間に赴いた時に見たTVの中のヒーローに強い憧れを持ち、言動が少しばかり……いや、かなり残念になってしまっているが、根本的には正義感の強い熱血漢であり、速さに対して強い拘りを持つ。なお韋駄天は基本的に2人一組で行動することが多く、九兵衛とは仕事の同僚であり相棒同士であり、ライバルでもあり。どちがらより速いかをよく競い合ってきた事が、八兵衛と九兵衛が韋駄天の中でも最良と言われるほど霊核を高める要因となっている

 

 

九兵衛

リポート19 開眼!疾走する

 

八兵衛よりも細身の姿をした韋駄天。口は少し悪いところがあるが、基本的には八兵衛と同じく正義感の強い熱血漢

天界の飛脚そして伝令係としての職務に強い拘りを持ち、自らの仕事に誇りを持って行動している。今回はそれが裏目に出てしまい、八兵衛の忠告を無視して、仕事に1人で出発し、その結果待ち構えていたガープ・アスラによって捕獲され、精神操作と肉体改造を受けて魔族へと堕天してしまった

 

 

 

 

ブリュンヒルデ

リポート19 開眼!疾走する魂

 

逆行前の世界では既に結婚し魔界を後にしていたワルキューレとジークの姉。美しい銀髪と穏やかな笑みを浮かべているのが特徴的。魔界正規軍副指令と言う立場にあるが、基本的には天界や魔界の社交界に出席したり、戻ってきた隊員の労いなどと言った裏方に近い業務をしているが、いざ戦闘になればルーン魔術と愛用のミスリル銀の大槍を振り回して戦う。(なお戦闘に滅多に出ないのは、そのミスリルの大槍を振り回す戦闘スタイルのせいで、敵味方含め被害が異様に増大する可能性が高いためである)強い力と心を持つものを英雄と呼び、大変好む。それは殆ど押し付けるという形の愛となり、相手の迷惑を考えないところがあり美人で家庭的でもあるブリュンヒルデがいまだ独身なのはその性格に若干……いや、かなりの難があるのが原因である。今は横島に英雄の素質を見出し、興味を持ち始めている

 

 

清姫

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

先代竜神王の孫娘。竜族の中で非常に優れた能力と高貴な血筋を持つが、あるとき事故で下界に落下し、記憶を失った時に高島に保護され、シズクと同時期に高島の家に転がり込んだ。人間ではないと言うことは判っていたが、本人の記憶が無く、何の妖怪か判らず、かと言って見捨てるわけにも行かないと考えた高島によって式神として側に居ることになった。

 

1年ほどで記憶を取り戻したが、その時既に高島に想いを寄せており、天界に戻ることを選ばず、そのまま高島の家で暮らすことを選んだ。火竜に属する竜族であるが為か水神のシズクとは致命的に相性が悪くよく喧嘩しているが、喧嘩するほど仲が良いという奴で喧嘩はするが、それなりに友好な関係を気付いていた。高島の処刑の際にその関係は憎み、殺しあう関係へと変化した。自分と同じく高島の家で暮らしていた妖怪と協力し、高島の処刑を止めようとしたが、シズクの不在などがあり、それが叶わず、死んだ高島を蹴りつける役人などを見て切れそのまま竜へと変化し怒りのまま周囲の人間を殺し、焼き尽くした

 

暴れ周り弱った所を竜神達によって捕獲され、天界へと連れ戻された。本来なら処刑される所だったが。竜神王の孫娘と言うこともあり、処刑されず幽閉されることになった。長い時間が経てば高島を忘れると竜神の役人は考えたが、1000年経った今も高島を思い、裏切ったシズクを憎んでいたが、喧嘩の後は高島の家で暮らしていた時のように仲良く喧嘩する関係に戻った。現在はヒャクメの家で保護観察中

 

 

源義経 (元ネタペルソナ4 義経)

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

平安時代末期の武将である義経が人々の信仰によって英霊へと昇華された存在。本来英霊は下界に現れることが無いのだが、ガープそして狂神石のせいで狂った状態で現界した。史実では男性だったが、本当は女性だったようだ、紅い甲冑に仮面つきの鎧兜で長い髪と顔を隠しているが、仮面の下の素顔は絶世の美女と言うべき美しき女性。英霊となったおかげか、電撃などの攻撃も得意としており、天狗に授かった兵法と自らが戦場の中で生み出した剣術を使いこなし、正道と邪道の合わさった独特な剣術を使いこなす。

 

竜神王

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

現竜神族の長。高いカリスマを持ち、歴代最高の支持率を誇る。性格は厳格ではあるが、非情ではない。何事に対しても公正な対応をすることを心がけており、冤罪で追放されたメドーサの罪を無罪としたり、魔族に操られていた九兵衛にも温情とも取れる裁きを下すなど、鷹派が多い竜神族の中でも穏健派で知られる。現在はトトカルチョに娘の名前が入ったに若干悩んでいるお父さんでもある

 

 

天竜姫

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

竜神王の娘。竜神族の中の天才児で、角の生え変わりを無しに超加速などの秘術を使いこなす。礼儀正しく物静かな性格だが、皇女としての風格を持ち。非常に高いカリスマを有している、自身直属の護衛権召使いのイーム・ヤームと共に行動することが多いが、超加速で行動することもあり、イーム・ヤームを置き去りにする事も多い。下界で横島とあげはと仲良くなりまた下界に行きたいなーと思っている。見た目は大人しげだが、意外なほどにアグレッシブな性格をしているようだ

 

イーム&ヤーム

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

 

本来は人間界に住まう下級竜族。一時期は天界の竜族に対する叛乱を考えていたが、偶然下界に訪れていた天竜姫に出会い。そのまま天竜姫つきの仕官として雇われることになった。あくまで下級竜族なので戦闘力などは低いが、料理から裁縫、掃除と非常に有能で、現在は竜神王邸の住み込みのお手伝いとして暮らしている

 

 

芦・あげは

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄

 

本来は魔族のパピリオして生まれるはずだった魔族が、アシュタロスによって再調整され芦 あげはとして生まれた存在

自身が魔族であることも知らず、魔力の扱いなども知らないので外見通りの10歳前後の少女。若干舌足らずの所があり、独特な口調をしている。甘えん坊な性格をしており、横島も蛍の事も大好きな普通の女の子

 

 

 

渋鯖 人工幽霊壱号

リポート21 ああ、騒がしき日常

 

美神の新しい除霊事務所に宿った魂。マリアやテレサとは違うプロセスで生まれた人工幽霊。旧渋鯖邸に宿っていたが、霊力が底を尽きかけ、新しいオーナーとして美神令子を選んだ。本来は美神達に試練を出すつもりだったのだが、横島のマスコット軍団が頑張り楽に突破されたことに軽くショックを受けながらも、試練を突破した事は事実なので美神達を新しいオーナーとして認め、現在は美神令子除霊事務所として存在している。たまーに悪戯するチビとモグラちゃんの事は苦手だが、比較的に友好的に接している

 

 

タイガー・寅吉

リポート22 英雄の見る夢は?

 

エミが見つけてきた助手候補。2メートル近い巨漢で外見通りの腕力と非常に高い体力を持つ、見た目から攻撃的な霊能者と思われがちだが、彼自身は精神感応能力による幻術などを得意としている。女性が苦手で恐怖心が限界を突破すると女性にセクハラをしてしまう自分を嫌っている。なお精神感応能力の使い手だけあり、人の内面などを読み取ることも得意としている。

 

牛若丸 (元ネタ FGO)

リポート22 英雄の見る夢は?

 

義経の幼年期である牛若丸がタイガー寅吉の精神感応能力と横島が変身したウィスプの能力で義経の中から分かれた存在。本来は成仏できるのだが、未来の自分である義経を倒すことに協力してくれ、なおかつ自分を信頼してくれた横島に恩返しをするため、成仏せず眼魂の中に宿る事で横島邸に文字通り転がり込んだ。本来なら具現化できるそうなのだが、霊力を消耗している為具現化できず、眼魂の中で療養中。ボールと勘違いして転がしに来るチビとモグラちゃんに若干の苦手意識を持っている

 

 

沖田総司 (元ネタ FGO)

 

リポート23 フィルムの中の剣士

 

義経や牛若丸と違い、映画の演出の中で新しい新撰組と言う事で作られた女性としての沖田総司。映画の幽霊で映霊と美神が命名した。勿論演じた役者がおり、その役者と全く同じ容姿をしているのだが、映画監督が設定した異常なまでの病弱と言う設定が沖田を苦しめている。天然気質でどこか抜けている点もあるが、一度刀を手に取ると一転して冷酷とも取れる性格となる。新撰組の羽織を紛失しており、ピンク色の着物を着ている。現在は横島の負傷やモグラちゃんの怪我の理由となったと言う事で慰謝料1000万を返済する為に除霊助手として行動している。基本的には美神令子除霊事務所所属だが、助っ人してあちこちの除霊事務所を渡り歩いている。なお役者と同じ顔をしているのを誤魔化す為の霊具を身につけている為、腕の立つ女性剣士として認識されている。時折映画の中に戻らないといけない為借金返済のペースは非常に遅い、なお割りと横島や蛍とは友好的だったりする

 

 

伊達雪之丞

別件リポート 闇の胎動より

 

白竜寺のGS育成道場白龍会に属するGS候補生。若くして死に別れた母との約束で強い男になると言う約束は果たす為に白龍会に入門した。性格は義に厚く、仲間想いだが、母親を神聖視しすぎているのか重度のマザコンであり、強くなるために貪欲な戦闘凶。ガープによって気付かないうちに精神操作をされており、本来の性格とは異なる性格へと変貌している。

 

メドーサとの契約より魔装術を会得しているが、こちらもガープによって狂神石の投与により変化しており、本来は甲殻類を思わせる生物的なデザインをしているのだが、自らの身の危険や闘争心の高まりによって魔装術が変化し、氷を扱うデーモンへと変化する。ガープの洗脳解除後も冷気を扱う能力は残っている

 

 

鎌田勘九朗

別件リポート 闇の胎動より

 

雪之丞と同じく白龍会に属するGS候補生。それなりの名家に生まれ恵まれた体格と霊力を持つ大男だが、口調は女口調である。なおオカマと言うわけではなく、性同一性障害であり、それを矯正する為に両親によって白龍会に預けられたという経緯を持つ。高い白兵戦能力に霊力のコントロール技術など、候補生と呼ぶには高すぎる能力を持ち、更には非常に頭も切れる優秀な人材

 

ガープに従っていたのはガープによって廃人寸前になってしまった同門生や仲間を好き勝手操ったガープに対する報復を行う為であり、自分が知りえる情報を全て蛍に託し、横島を攻撃しようするガープの妨害を行い、ガープの魔炎によって精神も肉体も燃やし尽くされ瀕死の状態になった。その後ドクターカオスによって本人の意思次第だが、メタソウルに魂を移しマリアとテレサ同様有機ボデイに組みこむ事で生存させる為にドクターカオスによって回収された

 

 

陰念

別件リポート 闇の胎動より

 

ガープが来るまでは口調は厳しいが、面倒見の良い兄貴分として白龍会の門下生に非常好かれていたが、ガープの襲来によって次々と廃人になっていく門下生達を見て心を痛めていた陰念はガープと1つの賭けをした。1人の門下生を逃がす代わりに実験台になると自ら志願し、魔族との二重契約実験の被験者となった。そのせいで魂を喰われ、人形同然となったが、東條が見事逃げ延び、ガープの存在をGS協会と神魔に伝える事となった。

 

魔装術は二重契約そして過剰な狂神石の投与によって異質な存在へと変貌しており漆黒の悪魔を思わせる物へと変化している。ウィスプに変身した横島によって助けられたが、その対価としてチャクラが完全に崩壊し、2度と霊力を扱えない身体になったが、本人は生きているだけでも儲けものだと言って、崩壊した白龍会の復興に尽力している

 

 

 

東條修二(オリキャラ)

別件リポート 闇の胎動より

 

白龍会の落ちこぼれ、身体能力こそ高いが、霊力の扱いは絶望的で他の門下生にも馬鹿にされていたが、厳しくはあったが自分の面倒を見てくれた陰念を助ける為に白竜寺から脱出し、唐巣神父と言峰に救援を求める事に成功した

 

 

言峰綺礼(fateシリーズより 外見第5次 中身第4次)

 

唐巣と同時期に教会を破門された神父。筋骨隆々の大男で神父と思えないほどに性格が悪いが、破門された今も信仰心は厚い。唐巣とは破門されてから暫くの間2人でヨーロッパを中心に除霊活動を行っており、その間に唐巣に八極拳を教えた。GS協会からも教会からも要注意人物として警戒されているが、格闘戦に加え、神父としての能力も高く、彼を慕う孤児なども多いので手を出すことが出来ない。なお結婚しており、それなりに充実した日々を過ごしている

 

 

都津根毬夫 (名前金田一少年の事件簿 元ネタ女神転生)

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~

 

ゴムマスクをした巨漢のネクロマンサーとしてGS試験に参加していた。ネクロマンサーではあるが、高い白兵戦の能力を持ち、ネクロマンシーと合わせ遠近両方の隙の無い戦闘スタイルを持つが、陰念の暴走により負傷し、蛍との試合で棄権した

 

正体はかつて神魔を相手取り戦った魔人一派の1人、ぺイルライダー。絶対的な死を与える、ヨハネの黙示録の終末の4騎士の1人。姫と呼ぶ魔人の復活を迎える為にその準備の為日本より消えた

 

 

アマイモン

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~

 

ソロモンには含まれないが、かつて太陽神と呼ばれた非常に神格の高い魔神。現在は神魔混成軍のまとめ役。緋色の髪をした青年の姿をしている、本人曰く剣や鎧を置いて数千年たっているので相当弱体化しているとの事だが、素手でガープを圧倒するほどに戦闘能力が高い。以前は中立を宣言し、神魔のどちらにも与せず傍観者としての立ち位置だったがガープの動きが激しくなってきたので、かつての部下を止めるために介入を宣言し神魔混成軍の結成に協力したが、ガープの予想外の攻撃に隻腕となり、独断専行の責任を取る形で混成軍を辞任した

 

 

織田信長 (FGOより)

外伝リポート 外史からの来訪者

 

かつて第六天魔王と名乗った戦国大名「織田信長」の英霊。本能寺の前にノスフェラトウに襲われ死亡し、その名と姿を奪われ悪事ばかりを与えられた存在。ノスフェラトウが存在する限りは正式な英霊になれず、ノスフェラトウ復活と共に現界し、美神達の協力をもありノスフェラトウを撃退。その後正式な英霊として昇華された

 

正史では男性として伝わっているが、実は少女であり。その外見から14~16歳と推測される。新しい物好きの珍しい物好きで成仏したと思いきや、霊力をほとんど捨てる事で現世に残り横島の家に居候として転がり込んだ。幽霊ではあるが、英霊であるので物を食べることが可能で食事を霊力に変換すると言った特殊な性質を持つ、性格はお調子者を装った切れ者で、言動は軽いが、その実思慮深く戦略分析に長け六天魔王と名乗るだけの実力を要している。霊力を失っているとは言え、それでもその能力は高く霊力で火縄銃や刀を作り出し戦うなど戦闘能力は極めて高い

 



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リポート0 プロローグ
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回はかなり古い漫画を題材にした小説です。元は「GS美神極楽大作戦!!」です。知ってる人いるかな?結構古い漫画ですけど、私にとってはとても懐かしい漫画で、中古で全巻1000円だったのかってしまい。読んでいたら書きたくなってきてしまい、こうして執筆しています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


プロローグ

 

鼻歌交じりで廊下を歩く5歳くらいの幼女。短く切り揃えられた髪と華の様な笑みが特徴の幼女は

 

「パパー♪」

 

「おーう。蛍おいでー」

 

決して整った容姿ではないが、優しさを感じさせる男性が幼女を抱き上げて笑う

 

「お仕事終わりゅ?」

 

「うん。今終わった所だよ。相変わらず隊長も西条の野郎も人使いが荒いんだよな」

 

あははと苦笑する男性。彼の名は「横島忠夫」世界で唯一「SSS」ランクのGSであり、文殊使いにして……

 

「あら?おかえりなさい」

 

「ただいま。美神さん」

 

神界・人界・魔界の3界随一の悪女と呼ばれた「美神令子」の夫であり、神魔族の和平「デタント」の立役者であり、かつておきた魔神「アシュタロス」との戦いを生き抜いた。まさに現代の英雄といえるのだが彼は

 

「もー蛍は可愛いなぁ」

 

「うきゃー♪」

 

超愛妻家であり、そして親馬鹿でもあった……

 

 

【魔神大戦】

 

ソロモンの魔神の1柱。「アシュタロス」が起こした戦争で、本来なら率先して戦わなければならない「神族」「魔族」は最初の攻撃で霊界とのチャンネルを破壊され戦うことが出来ず、人間と1部の妖魔だけでアシュタロスと立ち向かうことになったのだ。だがアシュタロスは純粋な悪ではなく、元は豊穣神だったのが堕天させられ魔族となり、そして死んだとしても蘇る「魂の牢獄」から抜け出すために争いを起こした。魔神であり、魔族でもあったがその考えは人間に近いものがあったのでは?と推測されている。美神と横島との活躍で最終兵鬼「究極の魔体」を破壊され、最高指導者に許しを与えられ消滅した

 

 

「今回はどこだったけ?」

 

「魔界。ワルキューレとジークに連れてかれた。人間に魔界の空気は辛いってのを全然理解してないんだよ」

 

蛍を寝かしつけてから晩酌をしながら今度の仕事の事を聞いてくる美神さん(令子と呼ぶように言われたのだが、美神さんはやっぱり美神さんと呼んだ方がどこかしっくり来る)色々あって結婚し、蛍が生まれてからは前みたいに守銭奴じゃなくなったし、優しい顔をするようになった。まるで別人のようだ」

 

「言っとくけど声に出てるわよ」

 

神通根を握り締める美神さん。そこからは当然ながら霊力が

 

「かんにん!かんにんしてええ!!!ぎゃああああ!!!!」

 

振り下ろされた神通根の一撃に俺は頭を押さえてのた打ち回るのだった。

 

(さ、流石は美神さん。現場を離れてもなお現役のGSの数倍の霊力だ)

 

【GSとは】

 

ゴーストスイーパーの略称であり。俗に言う「除霊師」「霊媒師」と呼ばれるもので、依頼を受け「妖怪」「幽霊」と戦う者達のことである。1つの除霊で何千万~何億と掛かる場合もあり、オカルトの知識のないものには「詐欺師」「ヤ○○な仕事」などとかつては散々な言われようだったが、「魔神大戦」の折にオカルトに対しての世間常識が一変しGSは今や華の職業として世間の注目を受けている。

 

「で、気持ちの整理はついたのかしら?」

 

美神さんの問い掛けに俺はフローリングに転がったまま

 

「なんとかっす。ルシオラと蛍は違う。子供って形になっちまったけど……また会えて嬉いっす」

 

【蛍魔ルシオラ】

 

魔神アシュタロスの作り出した悪魔であり、最初は敵だったが、横島との触れ合いでアシュタロスを裏切り人間側についた悪魔であり、自分を庇って死に瀕した横島を救う為に自分の霊基構造を大量に分け与え消滅した。彼女の妹である「べスパ」は充分な霊基構造が足りていたため長い時間を掛けて蘇る事が出来たのだが、ルシオラは蘇る事が出来ず、横島の子供として転生することになった

 

「そう……横島。ほら、いつまでも寝転がってないで座りなさい。今日くらいはゆっくり飲みましょう」

 

「はい……」

 

グラスに注がれたビールを見つめる横島と美神。確かに蛍……横島蛍は横島と美神の娘なのだが、それと同時にルシオラの転生者とも言える

 

横島忠夫にしては愛した魔族の生まれ変わり

 

美神令子にしては自分の恋敵の生まれ変わり

 

最初は互いにギクシャクもした。その可能性が高いといわれていたのにも関わらず、自分と相手の距離が判らなかった。だが5年と言う歳月で互いに漸く気持ちの整理が出来た。蛍は蛍であり、ルシオラではないと

 

「結構長い事かかったのね?」

 

「それは堪忍してや?ワイにとっては1番だいじやったんや」

 

酔っているから饒舌とまでは言わないが、すの大阪弁が出ている横島に美神は穏やかに微笑みながら

 

「そう、じゃあ私は2番なんだ?」

 

「あ、いやいやちゃうねん!えーとえーと」

 

言葉に詰まる横島に美神は穏やかに笑いながら、横島の肩に手を伸ばし

 

「冗談よ。冗談、いくらあんたでも娘には欲情しないだろうしね」

 

「当然や!!「ならいいわ。あんたは私の物になってるからね」

 

「うーじゃあ。こんな事をしても」

 

横島がそろーと美神の胸に手を伸ばすと美神は横島の顔を見て

 

「結婚って出来ちゃった婚じゃない?あんたルシオラの事忘れられなかったわけだし」

 

その言葉に硬直する横島。記憶の片隅に封印していたトラウマの扉が開きかけ、青い顔をしている

 

「これなーんだ」

 

美神が横島に向けたのはビー玉ほどの大きさの水晶。中には「淫」の文字。それは文珠と呼ばれる、万能の霊具だった。キーワードを込めることでその効果を発揮する。無論限界もあるが、人間では使えない力を発揮することも出来る。まさに万能と呼ばれるに相応しい霊具だ

 

「も、もしかしてそちゃれワイを……?」

 

横島が絶句して青い顔をしているのに対して、美神は嬉しそうに笑いながら

 

「あったりー♪私にも「妊」「娠」の文珠を使ったけどね♪」

 

【文珠】

 

霊力をビー玉ほどの大きさに圧縮した霊具。これに漢字1文字を込めることで様々な能力を発揮する。攻撃から撹乱まで何でもこなす、学問の神「菅原道真」のみが作る出せる霊具だったのだが、後に横島も使えるようになったもので、霊力が充分なら幾つも生成することができる。最も優れている所は横島以外も使用できるという点

 

「そしてえいッ♪」

 

「ほもご!?」

 

口の中に文珠を叩き込まれた横島の目がどんよりと曇る。それを見た美神はにっこりと笑い

 

「夜は長いわよ?横島君?」

 

そうつまり、神・悪魔・妖怪と人外にモテていた横島を美神が夫にするため打った手は「既成事実」と「文珠」の力を使ってのものだったのだ……だがそれだけではなく、少なからず横島が美神を思っていたことも大きな要因だろう……

 

 

 

 

わたし。よこしまほたるはやさしいパパとママがいてすごくしあわせ

 

「パパ?らいじょうぶ」

 

「ん?ああ。そうだな。俺は幸福だな」

 

どうしたんだろう?いつもにこにことわらっているパパがどこかとおくをみてるきがする

 

「つかれてるの?」

 

「ん、ああ。大丈夫だよ~蛍ー」

 

「うきゃー♪」

 

ぎゅーとだきしめてくれるパパのかおをみながら

 

「ママは?」

 

ほたるがそうたずねるとパパは

 

「うん。隊長の所かな?」

 

「おばあちゃん?」

 

「そうそう、でもおばあちゃんって言ったら駄目だからな?」

 

「はーい」

 

おばあちゃんをおばあちゃんとよぶとおこる。これはパパとママになんかいもいわれているのでちゃんとおぼえてる

 

「きょうはどこいくの?」

 

あそびにつれてってくれると言うパパとてをつなぎながらたずねると

 

「パピリオと小竜姫様の所に行こうと思うんだけどどう?」

 

「いくー♪サルのおじいちゃんは?」

 

パピあねとあねそれにサルのおじいちゃんはやまにすんでいる。パパがなにかするとあっというまにそこにつく。パパはすごい

 

「じゃあ行こうか?」

 

パパがぽけっとからなにかをとりだす。するとパパと私は山の前にいて

 

「よう、鬼門あけてくれねえか?」

 

『久しぶりだな、横島。通れ』

 

ゆっくりととびらがひらいていく。きもんさんのひだりとみぎさんにあたまをさげてなかにはいると

 

「ヨコシマー!!」

 

みどりいろのかみをして、きいろのワンピースを着たパピあねが勢い良く走ってきて

 

「げぶう!?」

 

パパをはねとばしました。くるくるとかいてんしながらそらをまうパパをみて

 

「パパー!?」

 

パピあねのとつげきされてはねとばされるパパ。シロねえとかがやってもおなじようにそらをまっている

 

「んー蛍ー♪おいでおいで」

 

パパのことをむししておいでおいでというパピあねにだっこしてもらっていると

 

「あー死ぬかと思った」

 

そういって立ちあがったパパはパピあねの頭を撫でながら

 

「久しぶり。皆は?」

 

「いるよー早く遊ぶでちゅ」

 

パピあねにだっこされているとなんかとてもなつかしいきぶんになるのは、なんでだろう?すこしだけそんなことをかんがえていたんだけど

 

「蛍ちゃん、いらっしゃい」

 

「小竜姫様。少しだけお世話になります、美神さんが隊長と一緒にお父さんの所に行くそうなので」

 

「どうぞ。妙神山はいつでも横島さんを歓迎しますよ」

 

パパとりゅうあねがはなしているのをみていると

 

「おじいちゃんのとこにいくでちゅ」

 

「はーい」

 

おくのほうにいるさるのおじいちゃんのところをめざして、わたしとパピあねはろうかをのんびりとあるきだしたのでした……

 

 

 

 

「蛍ちゃん。元気そうですね」

 

横島さんにお茶を出しながら言う。明るくて元気でいい子だ

 

「そうですね……俺はあんまり一緒にいてやれないですけどね」

 

横島さんは今や世界一のGSであり、神と悪魔の両方からも依頼を受けることもある。忙しく世界を飛び回っているのだろう

 

「でもほら、美神さんが待っていてくれるのはいいんじゃないですか?」

 

私がそう言うと横島さんは饅頭を齧りながら

 

「それは確かに嬉しいし、幸せなんすけどね?小竜姫様。覚えてます?俺が結婚するって言ったとき」

 

その言葉に少しだけ胸が痛んだが笑みを浮かべて

 

「ええ。美神さんが好きだから、ずっと一緒に居たいからですよね?」

 

今だから言うが、私は少なくとも横島さんに好意を持っていた。一目見たときから彼の才能に気付いた、だから心眼を与えた。そして最初はただのトラブルメイカーで、そしてただのスケベな少年は戦いを乗り越えるたびに、その力を増させ魔神殺しをやってのけた、現代の大英雄。私には彼が誇らしい弟子であり、そして肝心な時に何も出来なかった。彼が世界か想い人か?を選ばせてしまった。その不甲斐なさは10年立っても消えることはなく、そしてその10年は私から横島さんを想う気持ちを奪わせるには充分な時間だった。神族と人間、どれだけ想ったとしても叶うことはないのだから

 

「いやーあれ実は俺。美神さんに襲われましてね。文珠つきで」

 

「は?」

 

予想外の言葉に絶句していると横島さんは頬をかきながら

 

「正直言うと俺は誰とも結婚するつもりはなかったんですよ。ルシオラの魂を抱えたまま死んで、2人で転生したいって思ってました」

 

それは確かにそうだろう。自分の愛した者が娘として蘇る。それをはいそうですかと受け入れることなど出来ないだろうから、だけどそれよりも

 

「文珠で気持ちを操作されたのですか」

 

「そうなるんすっかねえ?淫って文字を入れた文珠を飲み込ませたって昨日言ってましたから」

 

なんだそれは……横島さんの気持ちを考えず既成事実で無理やり結婚させたというのか

 

「別に美神さんのことは嫌いじゃなかったけど、まさかそんな方法をされたなんて知らなかったっす」

 

当然だ。そんなことをされたのなら横島さんも素直に結婚するわけがないのだから

 

「それでどうしてその話を私に?」

 

そう尋ねると横島さんは私を見て、少しだけ泣きそうな顔で

 

「もし俺が死んだら、俺の中にあるルシオラの魂。今度は2人で同じ時代に転生できますか?」

 

その言葉に私は胸が苦しくなった。確かに横島さんは美神さんを愛しているだろう、だけどそれよりもより深い愛情を感じているのは間違いなくルシオラさんのほうだ。

 

「出来ます。出来るはずです、今度は間違いなく」

 

「……そうですか。安心しました……いやーすんません!どうしても気になって、これでやっとものを食べれるっすよ。こら美味いってね?」

 

ぱくぱくと饅頭を頬張る横島さん。でもそれは誰がどうみても無理をしているようにしか見えなかった……

 

「横島「ヨコシマー!おじいちゃんがよんでるでちゅよー!」

 

パピリオが来てそう言う。横島さんは緑茶を飲み干し

 

「そっか、直ぐ行く。じゃあ小竜姫様。話聞いてくれてありがとうございました!」

 

「あ……」

 

そうワラって、パピリオと一緒出て行ってしまった横島さん。思わず伸ばしかけた手を机の上に下ろすと

 

「ヒャクメ……いますか?」

 

「はいなのね~」

 

隣の部屋から来た、無数の目を模したアクセサリーをつけた神族。ヒャクメは言いにくそうに私を見て

 

「正直に言うのね。横島さんとルシオラさんが同じ時代に転生できる可能性は殆ど0なのね」

 

横島さんにはああは言ったが、一緒に転生できる可能性はかなり低いというのは私も判っていた

 

「……そうですか。ありがとう」

 

消えていくヒャクメを見ながら、私は拳を握り締めた。蛍ちゃんにルシオラさんの記憶はないが、その存在は間違いなくルシオラさんだ。同じ時代に転生できる可能性は殆どない……それに

 

「美神さん。貴女はなんてことを……」

 

そんな方法で横島さんを自分の物にして嬉しかったのだろうか?確かに横島さんと美神さんには前世からの縁があった。だけど

 

「そんな方法を……」

 

美神さんへの怒り、そしてあの時素直に祝福してしまった私。だけどあの時の美神さんの顔を思い出すとにやりとした顔をしていたとおもう。だけどもう全てが手遅れで

 

「……もしも過去に戻れるなら……」

 

叶わない願いと知っていたのに私はそうかんがえずにはいられなかったのだった……時間跳躍は最高指導者に禁じられている。それに私に時間跳躍の能力はない……だからあの時間違っていたのは

 

(あの時身を引いた私自身……)

 

もしあの時一歩前に踏み出せたのなら……私はそう思いながら羊羹を頬張るのだった……

 

プロローグ その2へ続く




えー今回の話は私の独自解釈を多く交えていますが、もしも美神と横島が結ばれるとしたら、ルシオラの存在がある横島がはいそうですか。と言うとは思えなかったので、むしろ結婚しないんじゃないか?とかを思ってしまったわけですね。別に私は美神アンチではないのでそこだけはご了承ください


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はプロローグ2となります、少し成長した「蛍」とGSのキャラが出てきます

基本的には私の好きなキャラになりますけどね。プロローグは全て完成しているので本日の夕方にもう1つ更新するつもりです


それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



プロローグ2

 

今日のテストは中々上手く出来たとおもう。お母さんとの約束点数は楽に越えている……筈。勉強を頑張るのは今日で終わり

 

「ん、んーこれでよしっと」

 

日課になっている日記をつけ終えて大きく背伸びをする。小学校1年からの日課になっている毎日の日記も2年で4冊目だ

 

「蛍ー!日記書き終わったら夕ご飯の用意手伝ってー」

 

「はーい!今行くよー」

 

下から聞こえてきたお母さんの声。日記を引き出しの奥に仕舞い階段の上から返事を返す

 

(今日はパピリオお姉ちゃんが来てるんだよね)

 

妙神山から遊びに来てくれる姉のことを思いながら階段を下りていくと

 

「てめえ!それは俺のつまみだ!!」

 

「いいだろうが!たまに遊びに来た親友に譲れこの野郎!」

 

黒髪の小柄な青年とパパが喧嘩していた。それを見てキッチンに入る前にリビングに入る

 

「雪之丞さん。パパを困らせないで?」

 

私がそう言うと小柄な青年。伊達雪之丞さんはうっと言葉に詰まる様子を見せる。だがパパは

 

「いや、良いんだ。蛍、俺とこいつはずっとこうさ!」

 

「あ!それは俺のマグロ!!」

 

「ははっ!油断するほうが悪いんじゃー!!」

 

「なろお!」

 

たがいのつまみを取り合っているパパと雪之丞さんを見てどうしようと思っていると

 

「ほっといていいよ。これがヨコシマとユキノジョウのやりとりだから」

 

「パピリオお姉ちゃん」

 

お風呂上りなのか、首にタオルを巻いているパピリオお姉ちゃんはパパの隣に座って

 

「ヨコシマ~ユキノジョウをほっておいてこっちむくでちゅ……あ」

 

「ぷっ。まだその癖が抜けないのか?」

 

最近パピリオお姉ちゃんはすごく背が伸びて、女の人って感じになっているけど、子供の時の口調がたまに出てしまうらしく、パパにからかわれて真っ赤になっている。不思議とこのやり取りを見ていると安心する

 

「もう仕方ないでしょ!ずっとあの口調だったんだから、それよりもほらグラス。ビール注いで上げるわ」

 

グラスを向けるパパと雪之丞さん。だけどパピリオお姉ちゃんは雪之丞さんを無視して、パパのグラスにだけビールを注いで自分のグラスにオレンジジュースを注ぐ

 

「俺は無視か?」

 

「お前につぐ理由はありません」

 

ふんっと鼻を鳴らすパピリオお姉ちゃんを見ているとキッチンから

 

「蛍ー?いい加減料理を手伝って」

 

お母さんの呼ぶ声にはーいと返事を返し私はキッチンに向かったのだった。料理をしながら思う、今日は和食に中華ジャンルがとても多いし、外に机も用意してある

 

「お母さん。今日なんでこんなにたくさん料理するの?」

 

「今日はね。お父さんのお友達に、弟子だった人が来るの。だからたくさん料理を作るの、判った?」

 

お父さんのお友達と弟子の人!話には聞いてたけど会うのは殆ど初めての人が多い。どんな人が来るんだろう?と楽しみにしながら私はお母さんの料理を手伝うのだった……だけど

 

(妙にお肉とお揚げが多いのは何でだろう?)

 

普段の倍の量の牛肉やこんなにどうするんだろう?と思う量のお揚げに私は首を傾げるのだった

 

 

 

 

 

 

「むータマモ。何を持っていけばいいでござるか?」

 

「ワインと私達の食べたいもの」

 

そんな話をしながら買い物をしているのはナインテールとでも言うのだろうか?変わった髪形をした金髪の美女と白と赤の混じった髪を持つ美女だった。彼女たちは横島そして美神と共にGSとGS見習いとして働いていた人狼「犬塚シロ」と九尾の狐「タマモ」だ

 

「あーしかし先生と一緒の仕事の方が楽しいでござるなあ」

 

大量の買い物を済ませゆっくりと横島の家に向かいながらシロが呟く。横島と美神が結婚して暫くはそのままGSとして活動していたが、時期もいいしとの事で、私とシロは「横島除霊事務所」に所属しているが、フリーで活動できるGSとして活動していた

 

「そうね。だけどそれも難しいのよね。今になっては」

 

私もシロもそれぞれAAランクのGS。それに横島はSSSランク。1つの事務所にそれだけのGSを集める事はオカルトGメンもGS協会も許さない。一応横島の事務所に所属したままで入れるのが最大の譲歩だった

 

「朝と夜は顔を見れるんだからいいじゃない」

 

「うーそうでござるがあ……面白くないでござる」

 

そんなの私も思っている。横島は美神の物になってしまった、九尾の狐は本能的に強い男を求める。この時代でもっとも強く、そして優しいのは横島以外に考えられない、しかしその横島は美神と結婚してしまった

 

(妖怪だから関係ないって強引に割り込むことも考えたんだけど)

 

既に子供もいて幸せそうな美神と横島を見ると、そこに無理に割り込もうという考えはどこかにいってしまった

 

「……モ、たま……タマモ!聞いているでござるか!」

 

「え?あ……ごめん聞いてなかった。何の話?」

 

シロにそう訪ね返すとシロは酷く言いにくそうに

 

「長老から、拙者とタマモに縁談の話が「断るわ。それと死ねって言っておいてくれる?」

 

私もシロも既に子供を生むには最も適した時期にある。霊力も充実しているし、今子供を生めば強い霊力を引いた子供になるだろう。だが私はそんな気は一切ないのだ

 

「シロもそうでしょ?もう勝てない勝負って判ってるけど、諦めたくないでしょ?」

 

「……拙者一生未婚でも良いでござるよ」

 

その言葉がなによりも今の私とシロの気持ちを示しているだろう。誰よりも愛しているが、その愛した者は既に妻子がいて自分の入る隙間はない

 

(はぁーなんでもっと早く行動しなかったのかなぁ)

 

チャンスは合ったはずなのに、そのチャンスを手放してしまった。そして今は常にこう思っている

 

(もしも時間が巻き戻せるのなら)

 

あんな意地を張らず、助けてくれてありがとう。手を握ってくれてありがとうと言えば良かった。私をGSから、オカルトGメンから庇ってくれたのは横島だというのに、つい意地を張ってしまった。横島が私の嫌いな人間とは違うと判っていたはずなのに

 

「拙者どうしてあの時子供だったのでござろう?」

 

「そんなの私も考えてるわよ」

 

横島がまだ美神の物になる前だったのなら入り込める隙間もあったのに、今では何もかも全てが手遅れだ、そんな事を考えながら横島の家に向かっていると

 

「ん?あれは小竜姫様では?」

 

「本当ね、何してるのかしら」

 

私とシロの視線の先に入るのは、赤色の髪を短く切り揃えた女性の姿。耳の後ろに見える角から小竜姫だと確信して近づく

 

「何してるの?」

 

「タマモさん、それにシロさん……どうも」

 

どこか暗い顔をしている小竜姫は私とシロに

 

「あの、これを横島さんに」

 

差し出された包みを受け取りながらシロが不思議そうに首をかしげ

 

「それは構わないでござるが、会っていかないのでござるか?」

 

私とシロは知っている。小竜姫も私達と同じように横島に想いを寄せていたと、それはもちろん今は殆ど顔を見せないおキヌちゃんにも言えることだが

 

「今は……ちょっと美神さんに会いたくなくて、急用が出来たので帰ったと伝えておいてください」

 

言うが早く歩いていってしまう小竜姫。一体どうしたというのだろう?

 

「まぁいいでござる、先生ー!いまきたでござるうう!!!」

 

嬉しそうに笑いながら横島の家に入って行くシロ。私はシロの背中と歩き去っていく小竜姫の背中を見て

 

(何かあるわね)

 

第六感に来る何かを感じ追いかけていこうとしたのだが

 

「タマモーそろそろきつねうどんが出来るぞー」

 

家の中からそう声を掛けてくる横島の声にまた後で聞けばいいかと思い、小竜姫から視線をそらし横島の家の中にと入っていくのだった

 

 

 

 

美神と横島が結婚をしてから2人の前から姿を消したおキヌはと言うと

 

「ご飯できましたよー?いい加減に降りてきたらどうですかー?」

 

間延びした声でそう告げると、遥か上空から2人の美女が降りてくる。1人はオレンジ色の髪に昆虫を思わせる触覚を持つ気の強そうな女性で、もう1人はある意味おキヌ。横島・美神と縁があるともいえる、薄紫に蛇を思わせる金の目をした女性。2人は魔族であり、何度も横島と美神と戦った「べスパ」そして「メドーサ」だった。なぜそんな2人とおキヌが行動を共にしているとかと言うと

 

「すまないねえ。あたしはどうも料理は苦手でね」

 

「あたいもだ、迷惑かけるよ。本当」

 

頭を下げてくるメドーサさんとべスパさんに私は

 

「いいえ、構いませんよ。それよりも早く食べましょう」

 

コスモプロセッサで蘇ったメドーサは滅の文珠で消滅したが、コスモプロセッサの力で再び蘇った。だがその時にはアシュタロスは既に死に、自分も追われる身だったが、魔界正規軍にその腕を見込まれ軍属になる事を条件に身の安全を約束されていた。そして今は……

 

「横島と美神の護衛かぁ……なんとも奇妙な役回りだね」

 

メドーサとべスパは文珠使いの横島と時間跳躍の能力を持つ美神。その2人の身辺警護を勤めていた。おキヌは通貨の単位やその勝気の性格でトラブルを起こしていたメドーサとべスパに偶然出会い。話を聞いてそのまま共に行動するようになったのだ

 

「いつまで続くんですか?」

 

「わからいさね……上からの指示が終わるまでか?それよりおかわり」

 

お碗を差し出すべスパさんにご飯をよそりなおしていると

 

「良いのかい?横島の奴に呼ばれてたんだろう?」

 

確かに今日横島さんに仲間が集まると聞いていた、だけど私はそれに顔を出したいとは思えなかった

 

「その正直に言いますと……私。美神さんなんて大嫌いなんです」

 

「そりゃまたなんで?」

 

驚いた顔をしているメドーサさんに私は軽く笑いながら

 

「横島さんが美神さんと結婚したの、文珠で理性を飛ばされて既成事実を作られてしまったからなんですよ」

 

私はその時忘れ物をして事務所に帰り、横島さんの口に文珠を入れる瞬間を見た。だけど私はそれを悪い夢だと思った、いくらなんでも美神さんがそんなことをするわけが無いと……

 

「「はぁ!?」」

 

揃って驚いたという声を上げるメドーサさんとべスパさん。だけど後日どうしても気になり尋ねた。美神さんは少しばつが悪そうな顔をしたが、それを認めた……私は最初は祝福していたけど、その話を聞いてから美神さんに会うのが苦痛になった。そして横島さんが余りに不憫で忍びなかった。だから私は距離を取ることを選んだ……

 

「だけど蛍ちゃんに罪はないですし、私は横島さんには笑ってて欲しい。だから美神さんには何もしない、憎いともなんてひどいことをしたのとも思いますけど、何もしません。横島さんを護ってくれているメドーサさんとぺスパさんには感謝しています」

 

魔族と元神族の護衛。これ以上にない護衛だろう……だけどまぁ……

 

「メドーサさんが横島さんをたまーに熱い目で見てるのは気に食いませんが」

 

思わずくすくすと忍び笑いが零れる。愛憎と言う言葉がありますけど、メドーサさんはまさにそれだとおもうんですよねーと笑いながら言うと

 

「いや、ほら……変な話あたしの四分の一くらいは横島の霊基構造だし、奇妙な感じだけど父親とか兄貴みたいに感じなくもない」

 

メドーサさんは2回横島さんに殺され、しかも最終的には横島さんの身体の中で再生した事もある。奇妙な親近感を抱くのも無理はないとおもう

 

「メドーサさん。時間跳躍できる神具とかないんですか?」

 

「そんなのあったらあたし……いや!今のなし!無しだからな!!」

 

思わず口が滑ったという顔をしているメドーサさん。多分メドーサさんもどこかで納得してないのだろう、文珠を使ってまで横島さんと結婚した美神さんの事を。べスパさんにいたっては不機嫌そうに酒を煽り続けている、横島さんが愛したのは彼女の姉。そんな方法で横島さんを捕まえようとした美神さんを苛立ちを感じているのだろう

 

「妙神山管理人小竜姫!魔界正規軍のべスパ、メドーサ両名と話がしたい!この結界を解除してください!」

 

外から聞こえてきた声に思わず私たちは顔を見合わせた、メドーサさん達の護衛は極秘なはずなのに如何して……もしかしたら何かの罠なのではと怪しむべスパさんとメドーサさんを見ていると、結界の外から

 

「お願いします。結界を解除してください、今この事を話したいんです。私は神なのに、竜族なのに、今自分でもどうしようもない気持ちと感情に囚われている。だけど神族や老師に話せない、だから話だけも聞いてください」

 

その必死な声を聞いたメドーサさんは結界を解除して

 

「入ってきな!あたし達も色々と考えたいことがあるんだ!!」

 

そう怒鳴り、イスを1つ増やし私を見て

 

「酒追加お願いできるかい?美神の奴の話を聞いて、少しいらっと来てるんだ」

 

「あたいも頼むよ」

 

恐らく小竜姫様も横島さんと美神さんの結婚の真相をどこかで知ってしまったのだろう。だからこうしてここに来た、ならば迎え入れよう。どうしても認めたくない真実を知ってしまった私たちだけで話をするのもいいはずだ……そうして私達は美神さんと横島さんの結婚での真実とどうしても諦めれないという話を延々と朝まで繰り返すのだった……

 

 

プロローグ3に続く

 

 




逆行の所まで中々話が進まない。再構成の逆行物、プロローグはシリアスですが、本編からはギャグテイストで勧めれるのでそこまではシリアスを頑張って書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回もやはり前回に引き続きシリアスになります。本編に入ればギャグテイストで勧めれるので、それまではシリアスで行きます。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



プロローグ3

 

夜景を見ることの出来るホテルで久しぶりに親子水入らずの食事をしていると令子が

 

「ママ。蛍も生まれて15年ね」

 

「そうね。可愛い初孫よ」

 

横島君と令子の娘は、多数の神族・魔族の予言通り。魔神大戦の時に死んだ「ルシオラ」さんの転生体であるのは間違いないのだが、記憶を取り戻す様子もなく横島蛍として幸せに暮らしている。

 

「どうしたの?何か気にしてる様子だけど?」

 

生まれた当時は横島君が蛍をルシオラとしてみてしまいギクシャクしていたのを、注意した令子がなんかもごもごと言いにくそうにしている。もう35になると言うのに、まだ言い難いことは話したくないのね……苦笑しながらワインに手を伸ばそうとして

 

「……私さ、横島君が如何しても欲しくて、文珠を飲み込ませて無理やり子供作って結婚したのよ」

 

「令子!?」

 

自分の娘の予想外の言葉に絶句してしまう。確かに横島君と令子の結婚は急な話だったけど、まさかそんなことをしていたなんて思っても無かったのだ。令子はアルコールが回ってるのかすらすらと自分のしたことを話す、何でも7年かそこら前に横島君には謝っているらしいけど……

 

「んで。横島君の記憶は文珠で少し弄って「令子!貴女は何をしたか判ってるの!」

 

思わずそう怒鳴る。ここがVIPルームでよかったと安堵する。私も令子もGS業界では顔が知られすぎている。そして横島君は私達以上の有名人だ。まさか美神令子が文珠で横島忠夫の気持ちを操作した。こんなのとてもではないが人に話せる内容ではない

 

「判ってる!判ってるけど!横島君は私を見てくれなかったし、この手段しかなかったのよ!神界にも魔界にも行かせたくなかったんだから!」

 

その言葉にはっとなる。横島君は人間界で唯一の「文珠」を作れる人間にして、その魂の半分には「魔族の因士」がある。彼さえ望めばどちらの陣営にも慣れるだけの活躍をしていた。そして当時では「小竜姫」と「ワルキューレ」の2名の神族と魔族との婚約を望む声があった。それに令子は焦ってしまったという事だろう……とはいえ

 

(自分でも悪いことをしたって思ってるのね)

 

成長してルシオラさんに似てきた娘を見て、罪悪感を感じているのだろう……とは言えこればっかりは私でもどうしようもない

 

「ママ。もし来世……ううん。やり直せるなら……私はこんな結末は嫌。ずるして、卑怯な事をして横島君を手にしたけど、嬉しくない……」

 

ぼそぼそと呟く令子。結婚したときは良かったとしても、色々考える事があった結果だろう……だけどやり直すことなんて出来はしない。美神の一族は「時間移動」の能力を持つが、それは神族・魔族両名の最高指導者に禁止され、今は私も令子も雷を受けても霊力には変換できたとしても時間移動は出来ない。だからこそこうして悩んでいるのだろう。アルコールが回ってしまって眠りに落ちた令子の髪をなでながら

 

(横島君。貴方は今何を思っているのかしらね)

 

私はそれだけが不安だった。確かに横島君と令子が結婚してくれたのは嬉しいし孫の存在も含めて幸せだった。だけどこれから横島君がどんな選択をするのか?蛍がルシオラさんと同じ背格好になったとき彼がそのまま令子を愛してくれているのか?それがどうしても不安だった。私は酔いつぶれた令子を見て

 

(上手く収まると良いんだけど……)

 

このまま令子と横島君が一緒にいてくれる事を願いながら鞄から携帯を取り出して、横島君の携帯に連絡を入れるのだった……

 

 

 

 

 

美神君が美智恵君と食事に行ってしまったと言うことで横島君と蛍君が珍しく私の教会に遊びにきていた

 

「唐巣神父。GS協会の会長を辞任してまた神父って本当に良かったんですか?その……お金的に」

 

蛍君を寝かしつけてからそう訪ねて来る横島君。確かにGS協会の会長をしている時はコンスタンスに収入があった……だけど

 

「破門されたとは言え、やはり私は神父なのだよ。協会の会長をやっているよりこっちの方が性に合っているよ」

 

それにGS協会だとやはりお金を貰わないと除霊が出来ない。貧しい人の為に働くならフリーの方が良いんだよと付け加えると

 

「唐巣神父らしいっすねえ」

 

苦笑されてしまったが、仕方ない。今は協会長の職で貯金したお金を切り崩しながら生活している。今は殆ど礼金を貰ってないから昔のままでは直ぐに生活が苦しくなっていただろう

 

「横島君はどうだい?今の生活は苦しくないかな?」

 

世界で唯一のSSSランクのGS。魔神殺しの英雄。そして神族・魔族の両方につながりのある横島君は私よりも多忙な日々を送っているだろうと思いながら尋ねると

 

「……まぁあえて言うなら悩みが1つだけ……相談乗ってくれます?」

 

やっぱりかと小さく心の中で呟く。こうして横島君が来た事で何かあるような気がしていた、私の所に行くよりかは冥子君の所にでも行けばもっと良い食事も出来ただろう。蛍君が六道女学院の優等生でもあるしね……それに冥華さんはなんとしても横島君を六道の人間にしたがっていた。それが無理だと判った今は非人道的なことをやりかねない。遺伝子だけでもとか……もしかしたらそれを恐れこっちに来たのかもしれないね

 

「最近美神さんが蛍によそよそしいんっす」

 

「それは……」

 

さすがの私も返答に悩んだ。横島君と美神君の娘の蛍君は魔神大戦で亡くなった魔族にして、横島君の恋人だったルシオラ君の転生者だ。記憶はさすがに引き継いでないが……

 

「14歳になった今。確かにルシオラ君の面影が出てきているからだね」

 

私の言葉に頷く横島君。子供のときから確かにその片鱗は出ていた、だがこうしてあの時の年齢に近づいてくるに連れてどんどん蛍君はルシオラ君に似てきている。美神君が気にしてしまうのも無理は無いだろう

 

「それに蛍の霊能力も美神さんと全然違いますし」

 

「幻術系とソーサー系かい?」

 

私がそう尋ねるとそうっすと頷く横島君。ルシオラ君が得意としていた幻術系は当然といえば当然だが

 

「ソーサー系とはまた珍しいね。教えてあげたのかい?」

 

「んなことしませんよ、ソーサー系は危険っすから」

 

横島君が即答する。ソーサー系の霊能は簡単に言えばハイリスク・ハイリターンの典型的な例だ。本来自分のみを護る「霊力」を盾の形状に圧縮し、ブーメランのように扱ったり、地面に設置して地雷として使ったりと応用力は高いし、その気になれば誰でも使える霊能だが。その盾以外の霊的防御力がなくなる事それが「サイキックソーサー」系の弱点なのだ。

 

「遺伝的に、もしくは魂のレベルで横島君と同じ様になりたいと思っているのかも知れないね。もしかすると「栄光の手」もそのうちに使えるようになるんじゃないかな?」

 

栄光の手 横島君の代表的な霊能力の1つ。霊力を圧縮し、篭手として扱うだけではなく。霊波刀や鉤爪・ロープなど。イメージ次第では斧や槍の形状にも変化する、万能型の霊能力だ

 

「いやーさすがにそれは無理じゃないですかね?俺の能力って他に使える人間いないじゃないですか?」

 

「血縁関係だからこそ出来るという可能性の話だよ」

 

栄光の手を真似しようとしたGSは山ほどいるが、それをマスター出来た者はいない。霊波刀くらいは出来るが、どんな形にも変化する栄光の手がつかえるのは横島君の特性。霊力の圧縮・形状変化の特性があるから出来ることなのだ。そして横島君と美神君の血を引く蛍君は言うならば霊能力のサラブレッド。普通のGSなら身につけることの出来ない能力を身につける可能性は充分にあるだろう

 

「俺としてはGSなんて仕事はしないで欲しいんですけどね。危ないから」

 

「あはは。それは親としては当然だね」

 

GSといえば華の職業と思われがちだが、その実死亡率が高く危険であり、大成できるのは一部の人間だけだ。普通の親ならば息子や娘がGSになるといえば反対するのが当然と言うものだろう

 

「それで俺はどうすれば良いんですかね?美神さんと蛍の仲が悪いのはどうにも嫌なんですよ」

 

若い時は女好きで馬鹿で有名だったが、彼はその実とても優しい上に、判りにくいフェミニストだ。そして愛妻家であり娘の蛍君も溺愛している。そんな2人が仲違いするような事はしないで欲しいのだろう

 

「私としては時間が解決するとしか言いようがないね。昔の横島君と同じだよ」

 

蛍君が生まれたばかりのときは神界・魔界に行く依頼ばかりを受けていて、家に帰ることのなかった横島君と同じだよと言うと

 

「そ、それは手厳しいっす」

 

苦笑する横島君。横島君の不安も当然だが、それは美神君の覚悟を知らない

 

「美神君だって自分の娘がルシオラ君の転生者になると判って……「美神さん。俺に文珠呑みこませて、んで自分に「妊」「娠」の文珠を使ってたそうなんっす」

 

「なぁ!?」

 

横島君の淡々とした口調で語られた言葉に思わず絶句する。だがそう言われると思い当たる節があるので確かにとも思ってしまう

 

「それで美神さんって意外に子供っぽいじゃないですか?気持ちの整理がつかなくなってしまったんじゃって」

 

「そ、その可能性はあるね。しかし流石にそれは私や横島君じゃ無理だ。美智恵君じゃないと」

 

夫婦であれ、美神君の複雑な心境を全て把握するのは難しい。それが出来るのは母親の美智恵君の者だろう

 

「ですよねー……だから今日2人で出かけて……ん?すいません。電話っす」

 

携帯を手にして立ち上がって二言三言話をした横島君は

 

「すんません、隊長が美神さんを迎えに来て欲しいって言うんで、今日はこれで失礼します」

 

奥の部屋で眠っていた蛍君を抱えて出て行く横島君の背中を見ながら

 

「美神君……それに横島君」

 

あの2人が挙式の際に神父を勤めたのはこの私だ。あの時は2人とも幸せそうに見えたのに、今ああして見える横島君の背中は妙に小さく見える。今彼の中にはかなりの葛藤が繰り広げられているのだろう

 

「どうかあの2人に祝福を」

 

小さくそう呟き十字を切ろうとして、やめた。今の私ではとてもではないが、あの2人を祝福する事はできない。横島君の気持ちを操作してまでも結婚に持ち込んだ美神君がどうしても許容できなかった

 

「はぁ……どうなることやら」

 

自分が祝福した夫婦がもしかしたら離婚するかもしれない。そう思うと溜息を吐かずに入られなかったのだった……なお唐巣は気づかなかったが、その髪がゆっくりと数本抜け落ちているのだった……

 

 

 

「あーまた来ちゃったなあ」

 

高校生になってから何故かお母さんが私を避けているような気がして、お父さんは気のせいだというがどうしても気になる。そしてこうなると私はいつも夕日の見える時間帯に東京タワーに来ていた

 

「誰もいないよね?」

 

周囲に誰もいないことを確認してから幻術を使い、更にお父さんと同じ霊能力のサイキックソーサーを空中に作り出し、それを蹴るようにしてどんどん上へ上へと上っていき

 

「ここだと尚のこと綺麗よね」

 

東京タワーの展望台の上に腰掛け、鉄骨に背中を預ける。何故かこの場所が好きで東京タワーで夕日を見るときは必ずここだ。

もしも、もしもここに横島がいたら驚いただろう。蛍が背中を預けている場所はルシオラが死んだ場所と同じであり、割り切ったとは言え横島が動揺する光景だからだ

 

「あーここで夕日を見ていると本当に落ち着くのよね」

 

なんでか判らないけど、夕日は凄く好きだ。見ていると凄く落ち着く……お母さんが如何して私を避けるのか?それが判るまでここで夕日を見ていようかな?なんて考えていると

 

「えっ!?」

 

急に私の中の霊力が活性化していくのが判る。もしかして霊的成長期♪それならお父さんと同じで栄光の手を使えるようになるかも♪なんて思ったのも束の間

 

「いた!いたたたたたた!!!痛い!全身がちくちく痛いいッ!!!」

 

直ぐに全身に走るちくちくとした痛みに代わり悶絶していると

 

「大丈夫かい!?どうしたって言うんだい!べスパ!べスパッ!!」

 

「姉さん!?大丈夫!しっかりして」

 

空気から浮き出るように現れた2人の女性。オレンジ色の髪に昆虫を思わせる触手を持つ気の強そうな女性で、もう1人は薄紫に蛇を思わせる金の目をした女性

 

(誰?ううん……知ってる!私はこの2人を知っている!)

 

知らないのに知っている。そんな奇妙な感覚と共に全身の走る痛みは既に鈍痛に変わりつつある

 

「どうすりゃいいんだい!?あたしは治癒術は苦手だよ!?」

 

「ヨコシマのところに連れて行くか、妙神山に連れて行けば!」

 

私を見て動揺している2人の声。だがそれとは別にもうひとつの声が聞こえる。私の目にはその2人の後ろにバイザーをつけて、頭に虫の触覚のような物を生やした私の姿が見えていた

 

(なに……これ)

 

知らないのに知ってる記憶がどんどん頭の中に浮かんでは消えていく、その内容の殆どは私と同じ年くらいのGジャンにジーパン。それに紅いバンダナ姿のお父さんばかりだ。懐かしいと感じる間もなく、どんどん記憶は流れて行き、最後には今私が横になっているところで消えていく私の姿……

 

(私は……私は!)

 

私はヨコシマの事が好きで。それで……それで私の名前は!!!全身に走っていた激痛が消え、今までの記憶とは別の記憶が私の中にある。そして目の前の2人のことも思い出した

 

「メドーサ、べスパ。久しぶりね」

 

「「!?!?」」

 

驚いている2人を見ながら服の埃を払っていると

 

「ね、姉さんなのか!?蛍じゃなくて!?」

 

「んー違うとはいえないわね、私は横島蛍でもあるけど……それと同時にルシオラでもあるわ」

 

これは何故か判らないが確信があった。蛍でありルシオラ。そして同じ外見になった事とこの場所に来た事で閉ざされた記憶が開いたのかもしれない

 

「さてと、メドーサ・べスパ。頼みがあるんだけど良いかしら?」

 

今はとりあえずお母さん……じゃなくて、文珠なんて非道な手で横島を自分の物にした美神さんに逆襲しなけば納得行かないし、それに何よりも

 

(この状態で納得できるかあ!)

 

横島と再会できたのは嬉しいが、娘という立ち位置では自分の望む関係になる事は出来ない。法律的にも道徳的にもだ、だがそんな結末は認めない、認めるわけにはいかない!

 

「何をしろって言うんだい?」

 

「そんなに難しい事じゃないわ。私を妙神山に連れてって、それだけで良いわ」

 

「ねえ……ほた……」

 

私を呼ぼうとして戸惑っているべスパの頭を背伸びして撫でながら

 

「どっちでも好きなほうで呼んでべスパ」

 

「ね、姉さん……姉さん……」

 

子供のように泣きじゃくるべスパの頭を撫でながらメドーサに

 

「それでお願いできる?」

 

「まぁ……構わないよ。あたしは横島の護衛任務をするだけだし、報告のついでに連れてってあげるよ」

 

そう笑うメドーサにありがとうと返事を返し、泣きじゃくるべスパに

 

「私はメドーサと一緒に妙神山に行くわ、戻ってくるまで横島をお願いね?」

 

小さく頷くべスパの頭をもう1度撫でて、私はメドーサに抱えられるように東京を後にし、妙神山に向かうのだった。その目的は1つ

 

(こんな結末認めないだから!)

 

何もかも認める事ができない。じゃあ如何する?時間移動をするしかない、でもそれは最高指導者に禁じられている。ならば

 

(直談判してやる!何回でも何十回でも!!!)

 

そして逆行を無事に成功させて私は!私は!!

 

「今度こそ幸せになってやるうううう!!!」

 

「耳元で叫ぶんじゃないよ!」

 

メドーサに怒鳴り返されながら、私は妙神山へ向かったのだった……

 

 

プロローグ その4へ続く

 

 




ルシオラ復活です。蛍だけどルシオラでもある状態ですね。次回でプロローグは終了です。シリアスはそこで終わり、この後は私の大好きな「ヤンデレ」の時間になります!みんなヤンデレ状態ですよ、YES!と言うわけで次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです、今回で予告通りシリアスは終わり、この次からは私の持ち味「ヤンデレ」を出して行こうと思っています。まぁ暫くは下準備なんですけどね。なお今回は私の独自解釈を大量に含んでいるので、ご理解よろしくお願いします。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



プロローグ その4

 

メドーサと共に妙神山に入ろうとしたんだけど、鬼門とやらがテストだなんだのと騒ぐので

 

「腕が~ぼきんとなる~♪」

 

お望み通り鬼門と組み手をしてあげることにした(断じて八つ当たりなのではない)

 

「「ッギャアアアアアッ!!!」」

 

サイキックソーサーで先制。制服の下のロープで足を縛り関節技を一通り決めて戦闘不能に追い込んでおいた。今の私の邪魔をする存在する手加減なんて存在しない。とりあえずあの巨体の手足を全部明後日の方向にへし折っていると

 

「なんかあんた随分性格変わってない?」

 

メドーサの問い掛けに私は鬼門の左足の関節をしっかりスピニングトゥホールドに極めながら

 

「美神さんがッ!覚えておけって!!」

 

私自身の霊力は高いが、身体能力は若干低い……だからこそ覚えておけといわれていた戦闘技術がこうして生きている。あと美神式交渉術(脅し)のスキルも充分に高い

 

「ギブッ!!ギブうううううッ!!!」

 

「左の!?見捨てるのか!?」

 

左のほうはギブアップしたので、右はそうはさせまいとキャメルクラッチに切り替え、タップも出来ないように手を足で抑えてしっかりと背骨を極めていると

 

「蛍!?いやだけどこの気配は……」

 

門から顔を見せた緑色の髪の少女。一瞬誰?と思ったが直ぐに判ったパピリオだ

 

「パピリオ。つもる話はあるけど少しまってて、こいつの頚椎へし折るから」

 

主に美神さんに対する怒りとかその他もろもろの知ってしまった現実を忘れるためには、知ってしまったことによるストレスを発散するしかないのだ。と言うわけで締め上げる手に力をこめる

 

「ツギャアアアアアア!!!」

 

「ま、まつでちゅ!ルシオラちゃん!ルシオラちゃんなんでちゅよね!?うわあああああんっ!!!」

 

泣きながら走ってきたパピリオの突撃で私は鬼門の上から投げ出され、地面で強かに背中を打ち付けたが

 

「ルシオラちゃんなんでちゅよね!?記憶が戻ったんでちゅね!?」

 

号泣しているパピリオを抱きしめながら立ち上がる。私と同じくらいの背丈なのが胸は2サイズは大きい、それに若干切ないものを感じながらも漸く再会できた妹を抱きしめる

 

「これは一体何の騒ぎなのですか?」

 

門から顔を出して困惑している小竜姉……っじゃなくて、小竜姫を見ながら立ち上がると

 

「蛍……いや……ルシオラさんですか!?どうして」

 

困惑している小竜姫に私は笑みを浮かべながら

 

「あのさ、最高指導者に会わせてくれないかしら?こんな認めたくない結末をぶっ壊してやり直してやるのよ!!!」

 

握り拳を作りながら叫ぶと小竜姫は一瞬驚いた顔をしてから

 

「説得できるのですか?私は無理だったんですよ?」

 

「やり遂げて見せるわ、私を信じて」

 

互いに目の前の存在は敵だと判っている。そしてついでに言えば

 

「メドーサ。手伝ってくれるよね?」

 

「な、なんであたしが!もう報告も終わったし帰るよ!」

 

そう言って出て行こうとするメドーサの背中に小さく

 

「擬態・夜・窓の外」

 

びっくう!?っと肩を竦めるメドーサ、度々横島の部屋を見ている白い蛇を見た。それは間違いなくメドーサだ……蛍の時はめずらしいへびがいるていどにおもってたけどね……今は判る。部屋の中を観察していたのだと、時折部屋の中に入って行くのも見たしね……

 

「暴露して欲しい?」

 

「しょうがないね!手伝ってやるよ!」

 

そう言って建物の中に入って行くメドーサを見ながら、私は泣きじゃくっているパピリオを抱っこし小竜姫と共に最高指導者を説得する。情報を集め始めたのだった

 

 

 

 

小竜姫・ワルキューレの連盟でどうしても会って欲しい人間がいるというんでわしときーやんが時間を空けて待っていると

 

「お初にお目にかかります、最高指導者さん」

 

にっこりと笑う少女を見てわしときーやんは困惑した。目の前にいるのはよこっちと美神の娘である筈の「横島蛍」なんやけど……

 

「もしかしてルシオラさんですか?」

 

「はい。外見年齢が元に戻ったので記憶も取り戻しました」

 

にっこりと笑っているのだが、不思議とわしの背筋に寒気が走った。信じられないほどの瘴気やな

 

「実はですね。時間移動の許可をいただきたくてですね」

 

その言葉にわしときーやんは首を振りながら

 

「流石にそれは許可できへんなあ」

 

「ええ。歴史改変はとても危険なのですよ」

 

わしときーやんがそう言うと蛍。いやルシオラはにっこりと笑いながら

 

「アシュ様の南極の基地・宇宙卵・トトカルチョ」

 

淡々と語られた言葉にわしときーやんの顔が引き攣る。この娘……何を知ってるんや

 

「……なんのことかわかりませんね。それよりも時間移動の許可は「トトカルチョ失敗して大損したんですよね?」

 

その言葉にきーやんの顔が凍る。本当はよこっちとその周囲の人間で誰がよこっちとくっつくか!?でトトカルチョをやる予定だったのに、それは実行する前に終わってしまった

 

「もしそれを再開できるとしたらどうですか?私がしっかりと考え直したのです。宇宙卵を使えば実行可能ですよ」

 

その言葉に若干心が躍ったが、わしときーやんは最高指導者。私情で決まりを変える訳……

 

「詳しく聞きましょう。ルシオラさん」

 

「ちょっちまちい!?」

 

まさかのきーやんがわしより先にGOサイン。きーやんは神族の最高指導者の癖に何を言ってるんやと思ったものの

 

「もうええわ!わしも聞く!聞かせてくれや!」

 

とりあえず聞くだけ聞いてみてからやと思い尋ねる。ルシオラはわしときーやんに何かの書類を手渡してくる

 

【横島忠夫 トトカルチョ】

 

と銘打たれた書類の1番最初のページを見る。最初の失敗は文珠が原因と書かれていた

 

「時間逆行は確かに危険です。しかしアシュ様の南極の基地と宇宙卵を使えば出来ることはあります」

 

次のページに書かれていた宇宙卵を使う。時間逆行ではなく、殆ど同じ世界を宇宙卵の中に作ることで可能性世界をつくり、そしてその世界を進ませ、元の世界であるわしらが今存在しているこの世界の時間を逆行させる……

 

「平行世界を作るわけですね?」

 

宇宙卵はそれ1つが別の世界になるとも言える神秘の存在。平行世界を作ることも充分に可能な神秘や。アシュタロスの基地から数個回収しておいたけど、まさかそれを知ってるとは思わへんよな……逆に言えばそれを調べきる事ができるほど本気と言う事だ

 

「はい。この世界は既に存在しているので、いま逆行させても大丈夫になるというわけです」

 

同じ世界は2つ存在できへん。片方を逆行させるのなら確かにそれならば宇宙意思も回避できるかもしれへんけど……

 

「アシュ様には別の仕事をしてもらい。その功績で魂の牢獄からの解放を認めて欲しいのです」

 

「そりゃあかんわ。平行世界といえどその縛りはそう簡単に蔑ろに出来ん」

 

この世界をベースと言う事はデタントの事も関係している。アシュタロスを牢獄から……

 

「抑えきれてない過激派による強襲10回・時空内服消滅液を転移で飛ばすこと7回・神魔結界で世界からの追放17回。これを全部美神さん達に言えばどうなるんですかね?」

 

「「すいませんでした」」

 

あかん!完全にわしらの後手に回ってしまった事件も調べとる!?よこっちを愛している妖怪・神族・魔族にこのことをしられたら命が無い。あの連中ならそれくらいやりかねん。それを知っているからこそ、わしときーやんはギブアップした。ヒャクメが見ていて知られたら本当に危険やからな……

 

「その過激派神族・魔族をおびき出すためにアシュ様にはこの世界と同じように動いてもらいます。だけど最高指導者の命で動いて貰います、その報酬に牢獄からの解放。その後はトトカルチョの胴元をしてもらう……これが私のプランですが?」

 

書類には本当に様々な条件をクリアすることが出来るように何重にも何重にも策を練っているのが判る……

 

「で、この逆行者の記憶封印ってどういうこっちゃ?自分だけ回避してるみたいやけど?」

 

わしが気になったのはそれだ。平行世界を作り上げ、この世界を逆行させるのはいいやろ、だけどしれっと記憶封印者の欄にルシオラの名前が無いことが気になるそう尋ねると

 

「ここまで完璧に考えたんですよ?それくらいのご褒美は良いじゃないですか」

 

しれっと言い切ったルシオラ。しかも記憶が戻る確率はよこっちを想う気持ちが強ければ強いほど。もしかすると戻らない可能性もある。そうすれば自分が有利になると判っているのだろう。確かにそれくらいはしても良いおもうやろ、それにあの悲恋を考えるとそれくらいのサービスはしても良いはずだ

 

「あっははは!良いでしょう、ルシオラさん。その願い聞き届けますとも」

 

きーやんが大笑いしながら告げる。確かにここまでされてたらわしらも動かないわけには行かない

 

「ではすぐに準備に入ります。アシュ様に渡す手紙を忘れないでくださいよ」

 

そう笑って消えていくルシオラを見ながらわしは

 

「あそこまで一途やとこじれるよなあ?」

 

「こじれるでしょうねえ」

 

病みと言う状態になりかねない。そうなればとっても面白いことになるだろう

 

「もしかすると小竜姫とかも?」

 

「いやいやメドーサやろ?」

 

よこっちの周りの人間がどんどん病んでいく。そう考えると笑みが零れてくる、これは面白いことになる。そう判断したわしときーやんは早速ルシオラの持ってきた資料を基に平行世界を作る準備を始めたのだった……

 

 

 

蛍に呼び出されてきた妙神山に来て私は驚いた。蛍なのだが、その感じは違う。そうルシオラの気配と同じなのだ

 

「お母さん。いや美神さんと呼びますね」

 

「ええ、それで構わないわよ」

 

最近家に帰ってこないと思えば。記憶を取り戻していたのね、帰ってこないわけだ。横島君は家出とか騒いで必死に探してるみたいだったけどね

 

「さてこれで全員集まりました。今から話すことは多分忘れますが、ちゃんと聞いてくださいね」

 

蛍。いやルシオラは淡々とした声でそう告げる。周囲を見るとメドーサや見たことの無い魔族に加えて、姿が見えなくなっていたおキヌちゃんの姿があった

 

「では単純明快にいいます。今から記憶を封印して全員逆行します」

 

「「「はあ!?」」」

 

予想外の言葉に私達全員が驚く。逆行は最高指導者に禁止されているはずなのに何を言っているのだろうか

 

「私は文珠を使いお父さんと結婚し、私を生んだ美神さんを認めません。いやむしろ全員がそう思っているはずです」

 

「はっ!?」

 

さすような視線に身体を小さくする。良く見ると小竜姫やワルキューレも鋭い視線を向けている。とんでもない針の筵だ……と言うか知らなかったけど、小竜姫も横島君の事好きだったのね、その目は明らかに敵を見る目をしていて、とても居心地が悪い

 

「最高指導者の許可は得ています。宇宙の卵を使いこの世界をコピーして、この世界の時間を巻戻します。いやとかはないです。もう機械は動いてますからね」

 

とんでもない霊力が部屋の奥から解放されていることに気づいていたが、まさか時間逆行の機械とは思ってなかった。そして

 

「シロ!?」

 

「ってタマモちゃん!?」

 

皆の驚く声が聞こえたと思った瞬間には小竜姫やヒャクメ。それにシロにタマモにオキヌちゃんと次々を消えていく、そして残ったのは私とルシオラ

 

「美神さん。今度は貴女の思うとおりに「いや、ありがとう。凄く嬉しいわ」

 

呆然としているルシオラを見ていると手がうっすらと消え始める。何度も願っていたやり直す機会が手に入ったのだ。嬉しくないわけが無い

 

「私自身もあんな方法は嫌だったのよ。もしかしたら今度は結ばれないかもしれない、ずっと意地を張り続けるかもしれない。だけどこうしてやり直せる機会が来たんだもの。凄く嬉しいわ」

 

私はそう言うと同時にこの世界の時間軸から姿を消した。自分に掛かる鎖のような重圧を感じながらも、もう1度やり直せることに歓喜し、直ぐに何に喜んでいるのかも判らなくなったが。不思議なほどこころは安らかなのだった

 

 

 

「やっぱり納得してなかったか」

 

消えていった美神さんを見送りながら小さく呟く。私だけは記憶を残した逆行だ。他の人間よりも時間が掛かったが、漸く私の逆行が始まった。薄れていく景色、なくなっていく手足の感覚を感じながら私はにっこりと笑いながら大きく息を吸い込み

 

「私は!今度こそ!絶対に!文句なしの幸福を掴んでやるんだからぁッ!!!!」

 

今まで出した事の無い大声で力強く叫び、私の魂がどこかに引っ張られていく感覚と共に意識を失ったのだった……

 

 

GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!始まるよ!! 

 

 

リポート1 もう1度始めよう その1に続く

 

 




長いプロローグでしたが。これにてシリアスフェイズは本当に終わりです。ここからは私の世界観で「GS美神」を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート1 もう1度始めよう
その1


どうも混沌の魔法使いです。GS横島蛍!絶対幸福大作戦はここからがスタートとなります。全体的には原作の話を順番にしていくつもりですが、キャラクターが増えているとかの若干の変更点はございます。原作開始の少し前、横島が中学3年生の時辺りから始めていこうと思います。それでは混沌の魔法使いが描く「GS美神」の世界をどうぞお楽しみください



リポート1 もう1度始めよう その1

 

 

逆行装置の影響で薄れていた意識が徐々に明白になっていく中、私は自分の中に存在する2つの存在をしっかりと認識していた。

 

1つは私「蛍魔ルシオラ」そしてもう1つは「横島蛍」似ているけど、違う私たちは本来なら互いに異物と認識し、どちらかを消滅させようとするのだが、私達は1つの所で共通の意識があり、同一の存在として認識していた。それは

 

「横島への愛」

 

「お父さんへの愛」

 

私の横島に対する独占的かつ一途な愛と

 

蛍の横島に対する病的なファザコン

 

それが絶妙な具合でミックスされ、私と蛍の意識も1つへと統一されるのを感じていると、閉じた瞼に日差しが当たっているのを感じ、私は目を開けたのだった

 

「……妙神山じゃあないわね」

 

とりあえず目を開けて妙神山じゃなかった事に安堵したが、この時点ではまだ逆行の成功したかもわからない

 

「とりあえず……えーと」

 

今の自分の服装を確認する、普通のブラウスにスカート。六道女学院の制服でも、戦闘服でもないことに安心し。次に最重要アイテムである最高指導者の手紙があることを確認する

 

(アシュ様への接触はもう少し後で良いわね)

 

まずはアシュ様はどうでも良いので、まずは横島の確認!アシュ様に会うのはそれからでも良いわ!そして目立たないように横島の気配を探して歩き出したのだった。なお蛍は気づいていないが、その徒歩のスピードは競歩並みだったことを追記する

 

「どちくしょー!!男は顔か!こんちくしょーッ!!!」

 

黒の学生服姿で叫ぶ少年。私の知る横島よりも数段若いそして目の幅の涙を流しているのを見て

 

(ああ。横島だ)

 

そうそう横島はこうじゃないの駄目なのだ。スケベで女好きで馬鹿で、だけど優しくて、思いやりがある。逆行したんだから、矯正するべきとか言う人もいるかもしれないけど

 

(横島はこうじゃないと駄目なのよ)

 

趣味が悪いといわれようが構わないわ。横島は横島らしくしていてくれないといけないから

 

(さてと名残惜しいけど、今は退散ね)

 

今横島の前に行ってナンパされても良いけど、まずはこの時代で暮らす下地を作らないといけない……そのためには

 

(アシュ様と接触ね)

 

横島を確認してるから、ここからやっと本来の目的で動けると安堵する。この世界に横島がいるかどうかを確認しないと落ち着かないからだ。横島がここに存在している事を確認できたのだから、第一目標は達した。もう少し後で会おうと思っていたアシュ様に会おうと思えるのは、間違いなく横島を見ることが出来た事による安堵からだろう

 

「さーてアシュ様の人間界の拠点はどこだったかしらねえ」

 

南極のバベルの塔じゃなくて。確か東京にもあったはずよね?ルシオラの記憶を探ろうとしてふと顔を上げて

 

「あー思い出した」

 

芦グループとかかれた巨大な企業看板。アシュ様は確か芦・優太郎という偽名を持ってたことを思い出し、私はその看板に書かれている地図を暗記して芦グループのビルへと歩き出したのだった

 

(はー流石アシュ様。凄いわね)

 

ビルの入り口には何重にも張り巡らされた結界があり、人間は疎か神族・魔族でさえ認識できないだろう。だけど私はアシュ様の娘でもあるわけだし、しっかりと認識できていた

 

(私ってどっちよりな訳?)

 

蛍をベースに私になったのか?私をベースに蛍になったのか?そこは気になるけど、認識できるってことは私ベースなのよね?とかを考えながらビルの中に入ると

 

「き、貴様何者だ!?なぜアシュタロス様の結界の中に入れる!?」

 

上ずった声を出す老人。一瞬誰?と思ったけど直ぐに判った。土偶羅魔具羅様だ。土偶型の演算ロボで、確か魔界軍のジークが引き取ったのよね?とかを思い出しながら

 

「土偶羅魔具羅様。悪いんだけど早急にアシュタロス様に繋いでくれないかな?コスモプロセッサの事で話をしたいんだけど?」

 

極秘事項のことを知っている人間の小娘と言うことで攻撃に移ろうとした土偶羅魔具羅様の腕を掴んで

 

「へし折っても良いかしら?」

 

「あいだだだ!!あいだーッ!!!」

 

イタイイタイと暴れている土偶羅魔具羅様の腕を締め上げていると

 

「良いだろう。私が話を聞こうじゃないか。お嬢さん」

 

人間に擬態したアシュ様が階段から降りてくる。土偶羅魔具羅様は気づかなかったけど、アシュ様は気付いてたみたいね。今の私は霊力に加えてアシュ様の魔力に近い魔力を放つ事ができるんだから

 

「急に来て申し訳ありません。ですが至急の用がありましたので」

 

「それも含めて話を聞こうじゃないか?さぁこっちだ」

 

エレベーターのほうに歩いていくアシュ様の後をついて歩き、エレベーターへと乗り込んだ

 

(ここからが正念場!私の未来はここで決まる!)

 

アシュ様を味方につけることが出来れば、これほど頼もしい味方はいないのだから

 

 

 

「さ?どうぞ」

 

何故か私と同質の魔力を持つ少女を自分の部屋に招きいれ気づいた事は1つ

 

(今私が作ろうとしている造魔と同じ顔だな)

 

私芦優太郎ことアシュタロスは下級の魔族を作り出す能力がある。そして魂の結晶を手にするために造ろうとしていた部下と同じ顔をしている少女を見つめていると

 

「まずはこうして話し合う機会を作っていただき感謝します。アシュ様」

 

「それは構わないよ。私の名前を知っているという事は魔族かね?」

 

違うと判っているが一応尋ねると目の前の少女は

 

「はい。半分は魔族です。正確には今から3年後に貴方が作る。ルシオラの転生体です」

 

その言葉に思わず眉が動く。蛍魔ルシオラ。蜂魔べスパ。蝶魔パピリオ。今私が作ろうとしている部下の名前の1つだからだ

 

(この話は誰も知らないはず、では何故この娘が)

 

この娘の正体がわからず困惑していると娘はポケットの中からビー玉状のものを取り出す                              

 

「それは文珠かね?」

 

万能の霊具珠。文献で見たことも、実際に見たこともあるが、こうして目の前で見るのは何百年ぶりだろうか?

 

「はい。私の父が作ったものです。アシュ様さえ良ければ、これを使って私の記憶を伝えようと思うのですが」

 

その言葉に少しだけ考える。万能の霊具「文珠」ならば使いようによっては私を滅ぼすことも出来るが、単体では不可能だ

 

「良いだろう許可しよう」

 

「ありがとうございます。では楽にしてください」

 

文珠が浮かびあがり、中に伝の文字が浮かぶ。それと同時に私の脳裏に途方も無い量の情報が流れ込んできた

 

作り出した部下が私を裏切った事、その裏切った魔族は横島という私とも因縁のある人間の転生者だった

 

魂の結晶を奪ったメフィストの転生者を見つけ出し、コスモプロセッサを起動した事

 

横島に自分の霊基基盤を与え消滅したルシオラ

 

そして私は本来の私の望みを叶え。満足し消えていった……

 

ルシオラは横島の子供として転生したが、それを良しとせず逆行してきたと

 

「これはまた随分ととんでもない記憶だ」

 

思わず肩を竦めてしまう。私は本来望みを叶えることが出来たので良いが、まさか自分の恋を叶えるために逆行してくるとは

 

「そしてこれを私の時代の最高指導者から預かってきました。アシュ様の望み「魂の牢獄」からの解放を約束するので、その代わりにこなして欲しい仕事の内容です」

 

差し出された手紙の封を切り中身を改める。神族と魔族の最高指導者から特別な許可を得て発行される書類だ

 

「……過激派神族と魔族の炙り出しの為に私に敢えて悪の振りをしろっとそれをこなせば、報酬として魂の牢獄からの解放と約束する……それとトトカルチョの胴元依頼」

 

神族最高指導者・魔族最高指導者。連名による聖字とルーン文字による連盟契約書。これならば私の存在を変えることも不可能ではない。しかしトトカルチョの胴元依頼とはなんだ?と首を傾げていると

 

「破格の条件だと思いますが?」

 

確かにこれは破格の条件だ……しかしこれをはいそうですかと引き受けることなんて出来はしない。何千年も前から準備してきた事なのだし……逆行してきたルシオラには悪いと思いながらも断ろうと思った瞬間

 

ドクン!

 

「ぐがあ!?」

 

突然身体の中で何かが大きく脈打つ。それは徐々に大きくなっていき……私と言う存在を変えていく……

 

「あ、アシュ様!?」

 

驚いている娘。ルシオラの顔を見るととんでもない愛情の念を感じる。これは間違いない

 

(消滅させて貰った私の押さえ込んでいた記憶が私の中へ流れ込んでくる)

 

私は元々は豊穣神。深い愛情を持つ神族だった……だが自身の目的のために封じ込めていた感情が濁流のように私の中に流れ込んでくる。最高指導者が私の石頭を懸念しての事だとわかるが

 

(無意味だよ。最高指導者、私が如何するなんか決めている)

 

心配そうに私を覗き込んでいるルシオラの頭に手を置いて

 

「良いだろう。その話を引き受けるよ、ルシオラ。そして今回は私の目的のためではなく、娘のお前の幸せを思って行動しようじゃないか!!!」

 

わしゃわしゃとその頭を撫でる。過激派神族と魔族をおびき出すだけで魂の牢獄から解放してくれる。それを何故断る理由がある!

 

「良いんですか!?アシュ様!」

 

「アシュ様なんて呼ばなくても良いさ。お父さんだ!」

 

私は娘の幸せのために生きるぞ最高指導者ーッ!!!!私は心の中で声も高らかに叫ぶのだった

 

アシュタロスの叫びを聞いた最高指導者達はでっかい汗を流しながら

 

「効き過ぎや無いか?」

 

「これは私も予想外です」

 

あの手紙の中に封じ込められていたのは確かに別のアシュタロスの記憶なのだが、特別にもう1つ封じ込めていた物があった

それは逆行の際にどうするか扱いに困った。横島の蛍への愛情だ……

 

「凄い化学変化やな」

 

「横島さんの愛情が強かったんですよ」

 

煩悩魔神などと言われていたが、その実女性に優しく。そして思いやりのある横島の溢れんばかりの娘への愛情と別のアシュタロスの記憶が超レベルでミックスされてこの時代のアシュタロスが崩壊してしまったことに最高指導者達は汗を流さずにはいられなかった。しかし

 

「これで上手く回りそうやな」

 

「ですね♪これからが楽しみです」

 

未来の自分からの手紙を受け取り、ここから面白いことになっていくことを知っているこの時代の最高指導者達は手にしているメモを見て

 

「わいは、小竜姫の目覚めが早いとおもうんやけど?」

 

「私はタマモさんですね」

 

誰に賭けるのか?と言うことをニヤニヤ顔で相談していたりするのだった……

 

 

 

 

リポート1 もう1度始めよう その2へ続く

 

 




今回の話は短めでした。次回からがルシオラ、いや蛍さんの悪巧みの開始の回になります。私の意見ですがアシュ様は救済されるべき人だと思っているので壊れアシュ様に変身して貰いましたのであしからず。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回もまだ「横島」の出番はありません。横島の本格登場はこの話の後からになりますね
この話では悪巧みをメインに考えて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


今日は諸事情があり、更新が遅れましたが夜の9時にもう1度投稿するのでよろしくお願いします


リポート1 もう1度始めよう その2

 

アシュ様もといお父さんの説得は予想よりも数段早く成功した。それにより私は戸籍を得る事ができた

 

【芦蛍】

 

これが今の私の名前になった。まずは第一歩。戸籍はクリアした……あとクリアすべき条件は2つ。これをクリアできるかどうかが、私の今後を大きく左右する

 

(敵の確認・横島の両親に気に入られる……よね)

 

逆行してきている面子の記憶は封印されているが、何かのきっかけに解除される事を最高指導者に約束させられている。つまりいつ私と同じ記憶を持つ者が現れるかもしれないので、その時の対応を考えておかなければならない

 

「それで蛍。今のところの計画はどうなんだい?」

 

優しい顔をしているアシュ様。私の記憶のアシュ様とは全然違うけど、お父さんだった横島に似てるかもしれないと思いながら真向かいに座りながら

 

「まずは敵の確認をしようと思うんだけど、これ見て」

 

机の上においたのは最高指導者が発行した。横島が誰とくっつくかのトトカルチョの賭け票だ。お父さんはこの賭けの胴元をやるように言われているのでちゃんと見せておいたほうが良い

 

横島蛍×→芦蛍 1.3倍

×××× 1.1倍

×××× 2.4倍

×××× 2.5倍

×××××× 2.2倍

××× 2.7倍

×××× 2.1倍

×× 2.0倍

 

「殆ど名前がわからないんだが?」

 

「うーん。それは多分まだ私が会ってないからか、それとも横島があってないからか、記憶が戻ってないからだと思うんだけど、私の予想だとこうなるかな?」

 

美神令子 1.1倍

氷室キヌ 2.4倍

メドーサ 2.5倍

ワルキューレ 2.2倍

タマモ 2.7倍

小竜姫 2.1倍

シロ 2.0倍

 

「だと思うんだけど、全然少ないのよ」

 

「少ない!?これで!?」

 

驚いているお父さんを見ながらうんっと頷く。逆行してきた面子の数には全然足りてないし、それにこの紙は最高指導者が常に更新している特殊な霊子で作られた紙だ。いつ更新されるかも判らないし、名前が伏字なのも意味があるはず

 

「ふむ、じゃあ蛍、私が横島君の精神を操作しよう。それで横島君は「お父さんのバカーッ!!!」

 

「げぶう!?」

 

精神操作なんて真似をしたら、前の時間軸の美神さんと同じじゃない!私が欲しいのは横島からの心からの愛情なのに

 

「蛍!?駄目だ!?ぎぇ!?ぎゃあ!?大理石の灰皿で!強打は駄目だぁ!?」

 

私の灰皿の一振りごとに紫の血液が舞い、趣味の良い部屋がドンドン魔窟になっていくけど気にしない。全力で振り下ろし続ける

 

~~暫くお待ちください~~

 

「なるほど、薬・洗脳はNGなんだな。すまなかった蛍」

 

頭に包帯を巻いているお父さん。自分で手当てをしていたけど、横島並みに回復力が高いのかもしれない

 

「さっきは気にならなかったんだけどね、小竜姫は妙神山の管理人。メドーサは私の部下のメドーサなのか?」

 

確認と言う感じで尋ねてくるお父さん。そりゃ普通は神族と魔族が人間に恋するなんて考えられないし、横島なんかをとおもう気持ちは判るけど

 

「横島は心が凄く綺麗なのよ。概観よりも心で見る神族とか魔族それに妖怪は横島に惹かれ易いの」

 

見た目で考える人間と違って、神・魔・妖は心で判断する。その基準で言うと横島ほど心が綺麗な人間は存在しない。だがそれは判る人間にはわかる事で、未来の横島は「人外ハンター」とも呼ばれていたっけな……と考えていると

 

「人外キラーと言う事だね、つまりはしっかり計画を立てないと難しい」

 

それは判りきっている。横島はぱっと見ただの馬鹿だが、とても優しいし、思いやりがあり、そして超1級のGSの才能を秘めている。横島がまだ中学生と言うのは私にとっては最高の条件だ、なぜなら

 

(まだ横島のご両親は日本にいる!)

 

ナルニアに行くのは横島が高校に入る頃だったはず、今ならば横島のご両親に会うことも出来て、運がよければ気に入ってもらえる

 

(これを利用しないては無いわ)

 

少しでも自分が有利になる条件と場所を整えておかないと不味い。

 

「それじゃあ、お父さん。私は少し計画を考えるから部屋に戻るわね」

 

「ああ。構わないよ、出かけるときは声を掛けてくれ」

 

そう笑うお父さんに手を振り返し、私は芦グループのビルの中に作ってもらった部屋へと向かった

 

「うーん。何か嫌な感じがする」

 

私の霊感が囁いている、このまま何もかも上手くいくとは思えないと……

 

(これは少し早く動くべきかなあ)

 

少し休憩してから街に出かけてみよう、もしかすると何か私の記憶と違う展開になっているかもしれないし……私はそう判断し少しだけ身体を休めることにした。逆行による霊力・魔力の減退による疲労からか、自分でも驚くほど早く眠りに落ちるのだった……

蛍が眠りに落ちた頃。別の場所ではあるが、全く同じタイミングで

 

「ふああ……おかしいですね。妙に眠いです」

 

「なんだい……どうしてこんなに眠いんだい……」

 

聖と邪の違いこそあれど同じ龍神族に分類される神族と魔族は全く同じタイミングで眠りに落ちるのだった……

 

聖の龍神の娘が見た夢は、自分が諦めてしまった事で手が届かなくなってしまった少年の夢

 

邪の龍神の娘が見た夢は、敵でありながらも自分を助けようとした少年の夢

 

それは知らないのに知っている。非常に鮮明でそして激しい悲しみを与える夢だった……

 

 

 

 

「ふーむ、どうしたものかねえ……」

 

蛍が部屋に戻って直ぐ、胴元用の賭け票に変化が起きた。×××の所に2名の名前が浮かび上がったのだ

 

「小竜姫とメドーサ……これはもう何といえば良いのか判らん」

 

竜族のなかでも武闘派と知られる神剣の使い手にして、妙神山の管理人の「小竜姫」かの有名なハヌマン「斉天大聖」の弟子でもある。そしてメドーサは私の部下の中でも最も真面目な魔族の1人だ。ネクロマンサーのデミアンは腹黒いし、蠅の王のコピーの1人のベルゼブブは自分こそが真の蠅の王だと慢心しているし

 

(あれ?私部下に恵まれてない?)

 

私ってもしかして部下運ってかなり悪い?ふとそんなことを考えるが、直ぐに首を振り

 

(仕事をこなせば魂の牢獄から開放され、娘の幸福を見ることが出来る。ならばそんな些細な事はおいておこう)

 

実際は全く些細な問題ではないのだが。アシュタロスこと芦優太郎は些細な事として割り切る事にした

 

(デミアンとベルゼブブは確実に過激派魔族だ。この2人を利用すれば情報が手に入るかもしれんな)

 

かといって今まで特に指示を出していなかったわけだし、いきなり指示を出すのも難しいのでここはメドーサを呼ぶべきだと判断した。次期竜族の女王。天龍姫の暗殺計画について話していたわけだし

 

「メドーサを呼んでくれるか?」

 

使い魔を作り出しメドーサを呼びに行かせる。今は多分どこかで作戦を練っているんだろうなと思う。メドーサは戦術に長けた魔族だ。二重三重にも策を作るのはメドーサの得意技でもある、きっと天龍童子のことで作戦を立てているんだろうと思いながら待っていると

 

(メドーサも何とか罪を減刑させれるかもしれないな)

 

私が最高指導者から発行された書類には、味方となり協力した魔族の罪の減刑についても記されていた。メドーサも協力してくれるなら減刑してもらわないとなと思っていると

 

「アシュ様。失礼します」

 

その言葉と同時にメドーサが私の部屋に入ってきた。予想より早かったな、超加速でも使ったのか?と思いながら振り返る

 

「どうかしたのかい?なにか不機嫌そうだが?」

 

「少し目覚めがわるくて」

 

そう言って眉を顰めるメドーサ。ポーカーフェイスが出来る部下のはずだったんだけど……まぁいいや、もしかするとリストに名前が浮かび上がったことが関係しているのかもしれないなと思いながら

 

「計画の進行具合はどうかな?」

 

「はい、今は過激派の神族からの情報を得ています。天竜姫についてだけですが……」

 

やはりメドーサを呼んだのは正解だった。元は神族と私と似た境遇のメドーサだ、ちゃんと私の望んでいた通りの情報を獲得していたようだ

 

「他には?」

 

「人間界に追放された竜族を何人か抱きこむことが出来ました。とは言え計画の実行は大分先になりますが」

 

魔族と人間では時間の感じ方が違う。私達では一瞬でも人間界の時間ではだいぶ長い時間があることは判っている

 

「ご苦労。下がって良い」

 

「は、……アシュ様。1つだけ聞いても宜しいでしょうか?」

 

部屋から出かけたメドーサが振り返り尋ねてくる。私は手にしていた蛍のこれからの計画書を見ながら

 

「なにかね?」

 

出来るだけ自然な声で尋ねる。何故かメドーサの倍率が元の2.5から2.0に下がっていた事に驚いたからだ

 

「最近、私のものじゃない記憶の夢を見ることがあるんですが、どこか不調でも出ているのでしょうか?」

 

その言葉に一瞬だけ血の気が引いた。それは間違いなく逆行してきた未来のメドーサの記憶だろう

 

「ふむ……人間界に長くいすぎて必要以上に邪念を溜め込んでしまったのかもしれないね。1度私の城に戻って休むと良い」

 

魔界にある私の城なら適度に魔力を吸い上げてくれるはずだから、メドーサに良い影響が出るだろうと判断し許可を出すと

 

「すいません、少し休ませてもらいます」

 

そう言って頭を下げていくメドーサ。そして再び手元を見て

 

「NOッ!!更に下がってる!?何故だ!?」

 

メドーサの倍率が2.0から1.7に下がっていた。倍率が下がるという事はそれだけ結ばれる可能性が高いわけで……

 

「私は何か間違えたのか!?」

 

私は何か致命的なミスを犯してしまったのではないか?と言うことに気付き思わずそう絶叫してしまうのだった……

 

 

 

 

アシュタロスの絶叫の意味を知らないメドーサは、アシュタロスの許可通りにアシュタロスの城の一室でワインをあおりながら

 

「全くあたしはどうしちまったんだい」

 

自分でも理解できない感情と記憶があたしの中にある。かと言ってそれはあたしが認識できる物ではなく、ただそこにあるというだけなのに

 

「なんでこんなに腹立たしいんだい!!」

 

手にしていたグラスで飲むのもまどろっこしい、あたしはワインをそのまま煽った。理解できない感情が自分の中で大きくなっていくのを感じる。

 

「あーもう!!腹立たしいたっらありゃしない!!!」

 

ワインのボトルを机の上におき。あたしは横たわり目を閉じた、軽い睡眠なら人間界でも良いが、魔界まで戻ってきたということは長期の睡眠になる。少なくとも半年、長くて1年。それだけ寝れば気も晴れるだろうと思い。あたしは目を閉じたのだった……そして眠っているあたしが見たのは顔の判らない人間や魔族、神族、妖怪。その中心にいる顔の見えない男の姿。顔は見えないくせに笑っているのが判る……そして

 

【悪い。滅するとかいっときながらやっぱり俺はお前を殺せねえや】

 

何処かの場所でその男と対峙するあたしに押し付けられたビー玉のような何か。そしてそれは途方も無い霊力と共にあたしをどこかに飛ばした

 

(待て。お前は誰だ!)

 

遠ざかっていく景色の中、それでもなお咄嗟に手を伸ばした。だがその手は届くことはなかった……眠っている中、ずっとあたしは知っているのに知らない記憶を繰り返し体験し、目が覚めたころには「誰か知らないが、あたしに手を伸ばした大馬鹿を見つけてみるかねえ」と思うくらいにはなっていたりするのだった……

 

そしてその頃にアシュタロスがまたメドーサの倍率が下がっているのを見て再び絶叫していたりするのだった……

 

 

リポート1 もう1度始めよう その3へ続く

 

 




メドーサと小竜姫とルシオラ。はGSの中ではかなり好きなキャラです。もちろんおキヌちゃんも好きなんですけどね?それとは別にこの3人は特に好きなんですよ。だから少し優遇して進めて行くつもりです、アシュ様にはドンドン壊れて行ってもらいますけどね、それでは次回のこうしんどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回からやっと「横島」を出して行こうと思います!原作の横島らしさ全開とまでは言いませんが、出来る限りその雰囲気で勧めていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

その3

 

街中で目の幅の涙を流している少年。まだ若干のあどけなさと男らしさの片鱗を見せているその少年は、声も枯れよと言わんばかりに

 

「男は顔だって言うんか!!どちくしょおおおおおお!!!」

 

血の涙を流す少年にうんうんと頷いている男達の姿。彼の名前は「横島忠夫」さっき振られた女性で見事18回目のナンパ失敗の大記録を樹立した少年だった……

 

「くそお……やっぱ中坊じゃ駄目かあ」

 

来年には高校生だから、もしかしたらナンパが成功するかも?なんて甘い考えで挑戦してみたが、結果は惨敗。その大半が「子供が生意気言ってるんじゃない」といわれた事を考えると、俺はまだ若いのかもしれない

 

「はぁーお袋に怒られる前に帰ろう」

 

やっぱり俺にはまだ早かったんだなあと思いながら、帰路に着こうとした瞬間、首筋にちりっとした刺激が走る。思わず振り返る

 

(あ……)

 

夕日の中を鼻歌交じりで歩くショートカットの同年代に見える超がつく美少女がいた。もう頭で考えるよりも身体が動いてしまった

 

「生まれる前から愛していましたぁ~!!!」

 

そう叫んで飛び掛る。それを見ていた横島の言葉に賛同していた男達があっと言う顔をした次の瞬間

 

「ええ。わたしも生まれる前から愛してたわよ?」

 

柔らかい笑みと共に俺を抱きしめ返して来て、初めて間近に感じた女子の体温に赤面しながら

 

「え、えええええ~~~!?」

 

まさかのナンパ成功に俺は思わず、自分でも信じられないような大声を出してしまうのだった

 

「何にします?」

 

そして俺はその少女に手を引かれるように喫茶店に連れ込まれていた。メニューを見てそう尋ねてくる少女……こうして見るととても整った顔をしていて、もしかしたらモデルとかでも活躍できるような美少女だった

 

(なんでワイなんか……)

 

馬鹿でスケベで良いところ無しの俺にあんなことを言ってくれたのだろうか?と少し考え、思い浮かんだのは

 

(ドッキリ?)

 

どこかでTVカメラでも回ってるのかもしれないと思い辺りを見ていると

 

「ねえ?何にするの?」

 

もう1度飲み物は何にする?と尋ねてくる少女に我に帰り

 

「え、えーとカフェオレ」

 

「じゃあ私もそれで」

 

カフェオレ2つを注文した少女と俺はとても目立っている。いや、正確には俺ではなく目の前の少女が目立っていると言えるだろう

 

「えーと……」

 

「なに?」

 

嬉しそうな顔をしている少女を見ていると、ドッキリとかの悪意とかはなさそうだけど……

 

「生まれる前からって冗談やよな?」

 

「あら?違うわよ?私は貴方を知っていたし、ずっと会いたいと思っていたのよ?」

 

くすくすと笑いながら言う少女。その笑顔がとても綺麗でなんと言えば良いのかわからないでいたが

 

(あれ?俺を知ってたってどういう意味や?)

 

如何して俺を知っているのか?もしかして大阪のときのクラスメイト」

 

「残念だけど、私は東京生まれの東京育ちよ?大阪には行った事は無いわ」

 

「しもた!?口に出てたか!?」

 

自分の考えていたことが口に出ていたことに軽くショックを受けていると目の前の少女は

 

「名乗るのが遅れたわね。私は蛍。芦蛍……GS見習いになる予定よ」

 

そう名乗りながらにこりと笑う。俺も直ぐに我に帰り

 

「横島。横島忠夫だ」

 

「そう、じゃあ横島って呼ぶから、貴方は蛍って呼んでくれれば良いわ」

 

「え。ええ?芦「蛍」……」

 

ギロリと睨みつける眼光に負けて俺は少しだけ顔が赤くなるのを感じながら

 

「ほ、蛍さん?」

 

「ん♪それで良いわ。「お待たせしました」ありがとう」

 

店員に運ばれてきたカフェオレを受け取る蛍さんに促され、俺もカフェオレのカップを受け取り、ストローでカフェオレを口に含んだ。喉がからからだ、どうしてこんなに緊張するのか判らなかったが

 

(嫌な感じはしないんだよなあ)

 

彼女から向けられる好意?の様な物を感じて、頬が赤くなるのを再度感じるのだった……

 

 

 

 

もじもじしている横島を見て私のテンションは完全に振り切っていた

 

(あ~可愛い~♪)

 

もじもじしているし、ちらちらと私を見るその視線までもが愛らしい

 

(探しにきてよかった~♪)

 

横島の気配を探して歩いていたら広場のほうから聞こえてきた横島の絶叫。間違いなくそこにいると思い歩き出し、やはり居た横島の姿に笑みを零し、鼻歌を歌いながら歩いていると生まれる前から愛していましたーと叫んで飛び掛ってきた横島を抱きしめ返したのは良いが……

 

(胸がドキドキ言ってる。ああ、でも嫌じゃない)

 

この胸の高鳴りは……うん。わるくない……

 

「GS見習いになるんですか?」

 

「もう。敬語じゃなくて良いわよ。私と横島は殆ど同じ歳だと思うし」

 

横島が15歳で私は16歳。殆ど同じ歳のはずだからと思いながら言うと

 

「じゃあGS見習いってことは除霊帰りとか?」

 

ある程度はGSのことを知っているのね。まぁこれだけGSの事が知られてるんだから当然ね……それに少しは知識があるほうが話が進めやすいわよねと思いながら

 

「んーまだそこまでは行って無いわね」

 

とりあえず師匠を見つけて、身元引受人になってもらわないとGSの資格を取れないし……と付け加えていると横島は

 

「俺を知ってたのは霊感っていうやつで?」

 

あ、そうか……この時代の横島はまだ霊力に目覚めてないのね。話によると妙神山での修行の後らしいしね……しかしそれにしても

 

(コンプレックスの塊ね)

 

自分に自信が無いとは聞いていたけど、まさかここまで卑屈だったとは正直予想外だわ。私が会った横島もコンプレックスは持ってたけどここまでじゃあなかったし……

 

(これじゃあ一緒にGSになりましょうって言ってもだめそうね)

 

私の計画では横島と一緒に美神さんの所でアルバイトをする。その後GSになっていくという予定だった、あまり歴史を変えすぎると未来を知っているという私のアドバンテージが消えてしまう。だから出来るだけ歴史にそって動くほうが良いというのは私とお父さんの出した結論だ。ふと窓の外を見るとお父さんの使い魔が私を迎えにきていた、これは近くに神族かGSが居るという合図だ。まだ私の下地が完全に出来てないのに出かけると不味いというお父さんの警告に従って僅かな時間だけでも横島と一緒にと思い許可を得たんだけど、思ったよりも短かったわねと苦笑しながら

 

「あ、ごめん。横島お父さんが呼んでるからそろそろ帰るね。また会いましょう」

 

本当はもっと横島と話して居たいけど、ここで神族・魔族に目をつけられると困るし……

 

「あ、ああ……また」

 

そう笑う横島に手を振り、レジで会計を済ませてから私は早足で芦グループのビルへと帰った。色々と計画を練り直さないといけなさそうだ……

 

夕食の後の第1回作戦会議の場で私はお父さんに

 

「何とかして横島をGSにしないと何もかも変わってしまうわ」

 

「ふむ……考えていた計画では無理そうだしな」

 

私が横島を誘って一緒にGSになる計画だったが、それも難しいだろう。今の横島の心理状態では

 

「自信をつけさせ、なおかつ横島君をGSにさせる方法……ふむ。少々荒っぽいが不可能ではないな」

 

お父さんが自身ありげな顔をするんだけど、何か不安だわ……優しくなってくれたことは良いんだけど、なんか振り切ってはいけないメーターを振り切ってしまったような気がして

 

「少々危ない橋になるが……乗るかね?蛍。上手く行けば横島君とそのご両親からの高い信頼を得る事が出来るぞ?」

 

「聞きましょう」

 

横島とその両親からの高い信頼。それは記憶以上に素晴らしいアドバンテージになる。それが判っているからこそ、多少の不安はあれどお父さんの作戦に従う事にしたのだが

 

「……これ大丈夫?」

 

「大丈夫だ、研究標本として借りておいて良かったよ」

 

合成獣としか言いようの無い化け物を使う、ある意味自作自演の襲撃劇をやるのは良いが

 

(勝てるかしら……)

 

今の私で勝てるかどうか?それが激しく不安になるのだった……

 

 

 

蛍が合成獣を前に作戦を考えている頃、横島の家では

 

「百合子。久しぶりに家族で外食なんてどうだ?」

 

「急にどうしたんだい?」

 

珍しく一緒に外食しようと言う父さんに顔を顰めながら尋ねると

 

「すまん……嵌められた。暫くは大丈夫だが、忠夫が高校になる頃には日本を離れなきゃならん」

 

「部長?」

 

私とお父さんが働いていた「村枝商事」でお父さん、いや大樹は結構なやり手のサラリーマンとして働いていた、なんせこの私が手ほどきしたんだから並のサラリーマンではない。しかしそんなお父さんを妬んでいた部長の事を思い出しながら尋ねると

 

「ああ、あのやろう……まさか提携している会社のほうに俺に出向依頼を出させやがった」

 

それは確かに断れない。今ナルニアで作っている施設のほうに手を回すとは中々やってくれる

 

「と言うわけでだ、なんとか社長と交渉して忠夫が高校生になるまでは時間を作ってもらった。それでどうだろうか?」

 

「出来れば忠夫は連れて行きたいんだけどねえ」

 

とは言え高校生にもなれば自分の意思という物もあるだろう。はいそうですか。と言って着いてくるとは思えない

 

「それについても話し合う。とりあえずゆっくり家族団欒で食事しながら考えたいんだ」

 

お父さんは申し訳ないという顔をしている。嵌められた事に怒りを覚えているのは言うまでも無いだろう

 

「いいよ、明日の夜皆で外食して話し合おうか」

 

忠夫の説得はまだ良いだろう。忠夫がこっちについてきたいというように仕向ければ良いんだから

 

「はーあのはげに出し抜かれるなんて」

 

握り拳を作り悔しそうにしているお父さん。部長に気をつけろとは言って置いたけど、まさかそこまで頭が回るなんて思ってなかったしね……保身に走る人間って言うのは怖いわねえと小さく呟きながら

 

「経験不足だよ。まぁ今度はそう言うことが無いようにね」

 

私の技術の全てを教えはしたが、やはりまだ経験不足だったかと苦笑する

 

(まぁ多分忠夫もついてくるって言うでしょう)

 

日本に居たいと言ってもそこは子供。親とはなれるのは辛いだろうから着いてくるというだろう

 

(まぁ恋人でもいるって言うのなら話は変わるけどね)

 

今の所忠夫に彼女がいるなんて話は聞いてないし、あの子の判りにくい優しさを理解するような見る目のある女の子も居ないしねえと小さく苦笑するのだった。だが百合子は知らない、その横島の判りにくい優しさを全て理解し、そして横島と添い遂げるためだけに2柱の神を完全に掌握し、逆行してきた少女がいるということを……

 

「芦蛍かぁ……なんでだろう?物凄く気になるんやけど」

 

初めて会ったのに、ずっと知り合いだったような奇妙な感覚を感じた横島は枕を抱えてベッドの上でごろごろしていた。無論それは美少女がやって初めて成立する物で横島がやっても見苦しいだけなのだが

 

「まさか恋なんか!?」

 

このドキドキと奇妙な感覚、そしてGS見習いの言葉

 

「もしかして前世の縁者だったり?それだったらまさに運命やなぁ……また会いたいなあ……」

 

初めて自分に友好的に接してくれた蛍にかなりの好感度を持ってしまった横島だったのだった……

 

その4へ続く

 

 

 




登場人物が増えてきて、少しずつ話が長くなって来ましたね。キャラが増えれば増えるほど、私の得意とする混沌の展開をやっていけると思います。それまではゆっくりと話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回は僅かに戦闘の風味を出して行こうと思います、私が考えているGS美神はヤンデレだけで良いじゃん?それがきっと面白いじゃん?って感じなので戦闘はそんなに期待しないでください。と言うわけで!今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

その4

 

「良い!横島!イメージして!剣よ!何でも斬れる大きな剣!!」

 

「わ、ワイにそんなのイメージ出来る訳無いやんかああ!!!」

 

「出来る!自分を信じて横島!」

 

「この世でワイは1番ワイが信用できへんのやああああ!!」

 

「シャアアアアッ!!!」

 

雄叫びを上げて出てきた合成獣を見た蛍は横島の手に自らの手を添えて

 

「私が信じる!横島なら出来るって!2人であいつを倒すのよ!」

 

「ほ、蛍……う。うううう!しゃーない!覚悟決めたるで!!!」

 

どうして蛍と横島がこんな事になってしまったのか?全ては2時間前に遡る……

 

「うえ!?な。ナルニアァ!?」

 

滅多に外食をするなんて言わない親父とお袋に連れてこられたレストランで俺が聞いたのは、俺が高校2年になる頃には親父が海外へ赴任しないといけないという衝撃的な発言だった

 

「母さんは父さんについて行くつもりだけど、お前は如何するんだい?」

 

「そ、そんなことを言われたって……」

 

普通に考えたら着いて行くというしかないだろう。だけど……俺の脳裏には昨日出会った少女の横顔が浮かんでいた

 

「着いて行かないって行ったらどうなる?」

 

俺がそう尋ねると親父は呑んでいたウィスキーのグラスを机の上におき

 

「最低限。学費と光熱費と家賃はこっちが持つ、だがそれ以外の費用は出せん」

 

うっ……それだと趣味に使う金と食費は無いってことか……この2人はかなり稼いでいるのでこれは恐らく俺を向こうに連れて行こうとする為の物

 

(生活は苦しくなるかもしれへんけど……ワイは)

 

昨日あった蛍のことがどうしても気になる。また会いたいって思ってる……

 

「別に直ぐに決めなくても良いんだよ。あと2年はあるからね」

 

優しい顔をしているお袋だけど……多分俺が着いて行くというと思っているんだろうなあ……っとそんなことを考えていると

 

ガッシャアアンッ!!!!

 

激しいガラスの砕ける音と俺とおふくろ達の目の前に転がり込んできた人影を見て

 

「ほ、蛍!?」

 

その人物は昨日であった芦蛍だった……ボロボロとまでは行かないが、怪我をしている蛍は俺とお袋たちを見て

 

「危険だから早く逃げてください!妖怪が「グルオオオオッ!!!」来た!判りましたね!早く逃げてください!」

 

自分が弾き飛ばされてきた窓から外に飛び出していく蛍

 

「蛍!!」

 

俺は咄嗟にその後を追いかけて外に飛び出そうとするが

 

「忠夫!あんたが行って何が出来るの!あんたがあのお嬢さんと知り合いとかは知らないけど!あんたが行っても邪魔になるだけよ!」

 

「そんなことは判ってる!だけど俺は蛍をほっておけない!!」

 

俺は振り返らずにそう叫び蛍の後を追って夜道へと走り出したのだった……自分には何も出来ないって判ってる。だけどそれでも俺は蛍が心配だったから。俺はそれだけを考えて夜道を走り出したのだった……

 

「百合子。忠夫もしかするとナルニアにはついてこないかもしれないな」

 

「そうね。私もそんな気がするわ」

 

普段スケベで馬鹿をやる自分達の息子が初めて見せた、男の表情。それを見て百合子と大樹は自分達の息子はナルニアにはついてこないかもしれないと考え……

 

「まさか忠夫に彼女が出来ていたとは驚きだ」

 

「本当ね。家に連れてきてくれたらよかったのに」

 

自分達の息子に彼女がいたことに驚き、漫画のようなでっかい汗を流していたのだった……

 

 

 

 

ぐうう!!追いかけてくる合成獣の気配を感じながら足に霊力を溜めて走る速度を増させるが

 

(駄目!これじゃあ追いつかれる)

 

お父さんが借りていたという合成獣は相当なレベルを持つ魔獣だった。正直な話今の私では倒せるかギリギリレベルの……

 

(不味いわね!このままだとやられる!)

 

横島達が居るレストランに叩き込まれたのは偶然だったが、その偶然には何かの意味があるような気がした

 

「ッ!!」

 

合成獣の放った毒針をソーサーで弾き、反撃にと霊波砲を放つが

 

「グルゥッ!!!」

 

「固いわね!本当に!」

 

それなりの力を込めた霊波砲だったけど、簡単に弾かれた……正直言って今の私では勝機は無い

 

(く、このまま逃げ込むとして……唐巣神父の所しかないわね)

 

美神さんと今エンカウントするのは避けたいし、お父さんが出てきたら確実に神族が動く、だから神父の教会にと向かおうとした瞬間

 

「え!?」

 

足に何かからみついたと思った瞬間。私は地面に叩きつけられていた

 

(くっ、ミスった!?)

 

合成獣の尾からは糸が伸びて私の足に絡み付いている。それで足を取られたのだと理解する

 

「グルルル」

 

牙を打ち鳴らしながら近づいてくる合成獣……正直な話霊力だけでは勝てない……右手のブレスレットを見る。お父さんが作ってくれた一種の封印具。今の私は魔族と人間のハーフに近い存在だから魔力がある、だから神族から目をつけられないようにと魔力を封印している道具だ。

 

(ああ!もう!作ってもらって直ぐ封印解除なんて冗談じゃないわよ!!)

 

これで妙神山の小竜姫とか魔界正規軍のワルキューレに目をつけられたりしたら横島と仲を深めるのも不可能に近い。だけどこのままだとやられる。歯を食いしばりながらブレスレットに手を伸ばすと

 

「蛍!!」

 

ききっと自転車のブレーキの音と同時に横島の声が聞こえて思わず振り返ると

 

「よ、横島ぁッ!?」

 

自転車に跨った横島が私を見てて、慌てた様子で

 

「早くその化け物の糸を切ってこっちに来い!逃げるぞ!!」

 

その言葉に如何してここにとか、危ないとか考える前に手が動いて合成獣の糸を切る。それと同時に地面に手をついて横島の自転車の後ろに立ち乗りで乗る。だけどこんな危ない所に横島が来るなんて……

 

(もしかして別の世界の横島だから、私の好きな……)

 

「行くぞぉ!!逃げて逃げて!あいつが馬鹿になるまで逃げてやるううううう!!!」

 

目の幅の涙を流しながら凄まじい勢いで自転車のペダルをこぎ始めた。そのスピードは信じられないことに合成獣の物よりも速くて……そして

 

「どちくしょおお!!こええ!怖すぎるうううう!!!」

 

(あ、大丈夫。これは私の知ってる横島だ)

 

おお泣きしながら自転車を漕いでいる横島を見て。間違いなくこの横島は私の知っている横島だと確信したのだった……

 

 

 

蛍が心配で駆け出して直ぐ同級生を見つけて自転車を借りて走ってきたのは良いが……

 

「グルアアアアアッ!!!」

 

「来るなー!!来るな来るな!!バカヤローッ!!!」

 

唸り声を上げて追いかけてくる馬鹿でかい犬みたいな化け物にそう叫ぶ。やばい!やばいやばい!!これはあかん!死ぬ奴だ!!!

必死でペダルを漕ぎ加速を増させて必死で逃げ続ける。今の俺には後ろに居る……彼女の存在が俺を支えていた

 

「横島!そのままスピード下げないで!反撃できる隙を探すから!」

 

蛍の言葉だけが頼りだった。俺自身は霊能力も何も無い子供。怪我をしている蛍の機動力になる程度しかできることが無い

 

「シャアアアアッ!!!」

 

「横島!ハンドル切って!」

 

「うひいいいいいッ!!!」

 

怖え!怖すぎるうう!!GSなんてこんなに危険なのかよおおおお!!!俺は心の中でそう叫びながら必死で自転車のペダルを漕ぎ続けるのだが

 

(や、やべえ……足ががくがくしてきた)

 

全力で漕ぎ続けてもう10分以上。いくらなんでも体力の限界が見えてきていた……

 

「ぜえ!ぜえ!ほ、蛍!すまん……これ以上はスピードはでん……」

 

体力的にも気力的にも限界が近い、どれだけ頑張っても……これ以上のスピードは出ないと言うと

 

「横島!お願い頑張って!」

 

背中に蛍の体温と同時にむにゅっと柔らかい感触が俺の背中に当たる……

 

(こ、この密かな膨らみはああああ!!)

 

まさかあれか!?これは漫画とかゲームでしか見ないあれか!?自転車を運転している男の背中にしがみ付く女子と言う図。そして俺の背中に当たっているのは蛍の胸と言う事で

 

「俺に任せておけ!!!うおおおおおおおッ!!!!」

 

信じられないことにさっきまで限界だった。体力も気力も信じられないほどに回復し

 

「ウォオオオオオッ!!!」

 

「ッきゃあ!?」

 

後ろからぎゅっと蛍に抱き占められ、更に背中で蛍の胸の感触を感じた俺は鼻から夥しい鼻血を噴出しながらも、信じられない加速で化け物から距離を取ることに成功したのだが……

 

「うおおお!?」

 

「きゃああ!?」

 

余りにスピードを出しすぎたせいで自転車の前輪と後輪がスリップし、俺と蛍は2人同時に自転車から投げ出されてしまった

 

「いてええ……」

 

「大丈夫横島?」

 

心配そうに俺の顔を覗きこんでいる蛍の顔を見て、少し違和感を感じた。昨日よりも血の気がない

 

「蛍のほうこそ大丈夫なのか?」

 

「……だ、大丈夫よ」

 

笑顔を浮かべているが、その声は震えている……思い当たるのはあの時。俺と蛍が自転車から投げ出された時しか考えられない

 

「それよりも、横島は逃げて!見習いだけどある程度の攻撃は出来るから!横島が逃げるくらいの時間は「馬鹿言うな!いくら俺がへタレで情けない男でもな!女を見捨てて逃げれるかあ!!」

 

霊力も何も無いけど、このまま蛍を見捨てて逃げれるわけが無い。近くに落ちていた木材を手に取り構えたのだった……

 

 

 

 

私の前で木材を構えている横島を見て、心臓がどくんと高まるのを感じた。私……私達が知る横島よりもずっと幼いけど……その後ろ姿は私の知る横島と同じものだった……

 

(横島の霊能力は小竜姫が与えたらしいけど……)

 

私の霊力は横島の物と似ている。横島の霊能力の目覚めを手伝う事ができるかもしれない、そうなれば

 

(小竜姫の手に出来るアドバンテージは減る!)

 

合成獣が追いかけてきているのにも関わらず、如何に他のライバルを出し抜く方法を考えている辺り……私はそれしか考えて無いんだろうなあと苦笑しながら

 

「横島……」

 

「ほ、蛍!?」

 

後ろから横島を後ろから抱きしめるようにして横島の手を握る。すべすべと柔らかいその感触を感じながら

 

「このままだと私と横島も2人とも死んでしまうわ」

 

「う……や、やっぱり?」

 

青い顔をして居る横島の顔を見ながら、私は真剣な顔をして

 

「だけど、私と横島なら何とかできると思うの」

 

横島の霊能力はまだ目覚めていないが、その霊力は人間の中では最高と言えるほどに成長する。私の霊力と横島の霊能力を同調させれば……

 

(横島の霊能力の特性は収束・結晶化)

 

稀少な能力ゆえにその指導の方向性が極めて難しいと言われていて、かつての美神さんはその能力に気づく事が出来なかったけど、元から横島の能力を知ってる私なら!

 

「良い!横島!イメージして!剣よ!何でも斬れる大きな剣!!」

 

霊能力に大事なのはイメージ。私がある程度イメージを操作して、横島がそれをコントロールしてくれれば

 

「わ、ワイにそんなのイメージ出来る訳無いやんかああ!!!」

 

大泣きしながら叫ぶ横島。コンプレックスの塊って言うのは知ったけど酷すぎるわね、本当に!

 

「出来る!自分を信じて横島!」

 

「この世でワイは1番ワイが信用できへんのやああああ!!」

 

無理だ!無理だと叫ぶ横島……うう。時間がないって言うのに……

 

「シャアアアアッ!!!」

 

雄叫びと共に私達の前に降り立つ合成獣。さすがの機動力ね……

 

「横島。私は貴方が本当に好きなの……いろんな思い出が欲しいって思ってる」

 

「蛍……?」

 

呆然としている横島の耳元に口を近づけながら脳裏に浮かぶのは、ルシオラの時の記憶の数々……本当は横島と一緒にいろんな季節を見たかったし、一緒に隣を歩きたかった……だからこうしてやり直す機会を手にしたの……まだ始まっても居ないのに終わりに出来るわけが無い

 

「だから一緒に生き残りましょう!それで2人で夕日を見ましょう!」

 

結局2回しか一緒に見ることが出来なかった夕日。これからは何回でも一緒に見たい

 

「……夕日か。俺は朝日の方が好きだなあッ!!!」

 

「そう。じゃあ朝日も一緒に見ましょうか!」

 

横島の闘争心が上がってくると同時に私と横島の手の中の木材に緑の光が集まり始める

 

「これが……」

 

「霊能力よ。やっぱり横島には才能があったのね」

 

とは言え、今は私の霊力で横島の霊力を無理やり引っ張り出している形になっているけどね……予想以上に横島の霊能力の開け閉めをする弁は固いようで思うように霊能力を引っ張り出せない

 

「行くわよッ!!」

 

「おおっ!!」

 

私と横島の手の中の木材に霊力が集まり剣の形になる。殆ど暴走しているのを私が無理やり形にしてるからとんでもなくでかいけど……これなら行ける!

 

「グルオオオオッ!!!」

 

雄叫びと共に飛び掛ってきた合成獣目掛けて2人で走り出し

 

「「いっけええええ!!!」」

 

私と横島の霊力で作られた霊波刀が一閃され、合成獣を顎から両断したのだった

 

「は、はあ……はぁ……」

 

肩で息をして今にも倒れそうな横島……だけどその霊能力の高さの片鱗は確かに見ることが出来た

 

「お疲れ様。横島」

 

「う……あ」

 

ゆっくりと倒れてくる横島をしっかりと抱きしめ、私自身も疲労で立ってられずその場にへたり込み

 

「本当にお疲れ様」

 

寝息を立てている横島の髪を撫でていると、少しだけならと言う気持ちが浮かび上がってきて

 

「横島。大好き♪」

 

眠っている横島の額に軽い口付けを落とし、私も霊力と体力の消耗の激しさから眠りに落ちてしまうのだった……

 

寄り添って眠る蛍と横島を見つめる男性。言うまでもなくアシュタロスだ、予想以上に合成獣の力が強く。蛍と横島が危ないと判断し見にきていたのだが

 

「余計な心配だったか」

 

まだ未熟な横島が内に秘めている霊能力の一端を見ることが出来た。蛍の言うとおり、あの横島と言う少年はこれから伸びるだろう……

 

「百合子!忠夫が居たぞ!」

 

「本当!?どっち!?」

 

横島君と蛍のほうに駆け寄る夫婦を見て、あの2人がいれば大丈夫だと判断したアシュタロスは踵を返し。懐のトトカルチョを見て

 

「しゃあ!」

 

蛍の倍率が下がっている事にらしくないガッツポーズをしてから、鼻歌交じりで歩きさって行ったのだった……

 

 

その5に続く

 

 




リポート1は次回で終了ですね。横島と蛍と百合子と大樹の4名をメインに話を進めて行こうと思います。あと蛍ことルシオラは当然メインヒロインです、そして今までの私の作風で理解してもらえていると思いますが、当然ヤンデレですのであしからず。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。リポート1のもう1度始めようはその6まで予定しています。今回はグレートマザーと大樹と蛍をメインに進めて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート1 もう1度始めよう その5

 

「ん……ここは」

 

ゆっくりと目を開く、霊力の消耗と体力の消耗のせいで眠ってしまったのは覚えているけど

 

(ここはどこかしら?)

 

布団の上に寝かされているのは判る。お父さんに回収されたのだろうか?と考えていると

 

「すう……」

 

穏やかな寝息が聞こえてきて振り替えるとそこには横島が居て……思わずゆっくり身体を起こして

 

「横島?」

 

小さな声で問い掛けながら頬を突いてみる。意外な位柔らかい、それにくすぐったそうに身をよじる。そんな仕草に愛しさを感じ

 

(い、いまならば……)

 

邪魔者は誰も居ない……ちょっとだけ!ちょっとだけいたずらしても……そーっと顔を近づけようとした瞬間

 

「ちょいまち。私の息子を助けれくれたのは感謝するけど、悪戯は看過できないわよ」

 

その言葉に肩を竦めて振り返ると腰に手を当てている横島のお母さんが居て、私は直ぐに姿勢を正して

 

「すいません、少しだけ魔がさしました。許してください」

 

ここで気に入られないといけないので、いきなり好感度が下がるのは良くないと判断し、私は深く頭を下げたのだった……

 

「まぁ今回は特別に見逃すとしましょう。それよりも話聞かせてもらえるわよね?芦蛍さん?」

 

わ、私の名前を知っている!?どうしてと一瞬混乱したが、直ぐに理解した。百合子さんはとんでもないほどに計算能力が高いし、ハッキング技術もある。それで調べたんだと理解し服の乱れを素早く直してから

 

「はい。判りました」

 

あの合成獣との戦いは前座。ここからが本当の勝負ね……初めての霊力の消費で起きる気配の無い横島に布団をかけてから私は百合子さんの後をついて、横島の眠る部屋を後にしたのだった

 

 

 

妖怪と戦っていた少女の名は「芦蛍」最近頭角を現してきた企業「芦グループ」の総裁「芦優太郎」の娘となっているけど……それは最近追加された事で、目の前の少女には本来戸籍は愚か、名前すらない

 

(何を考えているのか見極めないと)

 

もし忠夫を利用する事を考えているなら相応しい制裁を……

 

「お嬢さん、出来たら年上のお姉さんとか居ないかな?」

 

「なにやっとる!この宿六が!!」

 

「げぶう!?」

 

慣れた手つきでナンパしているお父さん、もう大樹で良いか。大樹の腹に拳を叩き込み意識を刈り取って、手足を縛ってから奥の部屋に放り込む

 

「慣れてますね」

 

「ん?まぁね」

 

あの馬鹿と忠夫の事を考えると素早く処理しないとドンドン話がややこしくなるから

 

「それで蛍さん?貴女は忠夫を如何するつもり?」

 

蛍さんの瞳をじっと見つめる。何かやましい事のある人間は目を見られると咄嗟にそらすことがあるけど、蛍さんは私の目をしっかり見返して

 

「出来たら私と同じでGSになってほしいです……ううん。GSにならなくても良いです。ただ横島が私の傍に居てくれればそれで」

 

その目に映るのは純粋な忠夫への好意。少し暴走しがちだけど素直で良い子だ。どこでこんな良い子に出会ったんだろうと思いながら

 

「忠夫をGSにって言うのは正直賛同できないねえ。危険な職業だからね」

 

GSは確かに高給取りだけど、その代わり殉職率が極めて高い。親として息子にそんな危険な職に勤める事は認めることが出来ない

 

「そうですか……」

 

明らかに落ち込んでいる様子の蛍さん。その様子はなんと言うか好きな人を独占したいと言うのが見え隠れしている

 

(大丈夫よね?良い娘そうだし)

 

この手のタイプの子はこじれると危険だが、話してみてそう悪い子ではないというのは判った。もしこの子がこじれるとしたらそれは忠夫が原因になるだろう

 

「だけど忠夫がなるって言うなら、親としてはその意思を尊重するわ。その時は蛍さんがGSの心構えを教えてあげて」

 

「あ……はい!私頑張ります!それでえーとお名前は?」

 

あら。私としたことが名乗り忘れてたわね……

 

「百合子。横島百合子よ、所で紅茶入れるけど飲むかしら?」

 

宿六は多分今日は起きないだろうから無視して良いし、忠夫も起きる気配が無いので2人分で良いだろう。それに邪魔者が入らないのでゆっくり話をするのも悪くない

 

(もしかすると養女になるのかもしれないしね)

 

忠夫の判りにくい優しさを理解してくれる女性が居るかどうかが不安だったけど、蛍さんは良い子そうだから心配ないわね……私はそんな事を考えながら紅茶の茶葉の缶を空けるのだった……

 

 

 

お、恐ろしいわね。百合子さん……完全に自分のペースに持ち込んでいる。スーパーOLと言うのは伊達でもなんでもなかったようだ。だけどそれよりも

 

「お嬢さん。知り合いで若くて綺麗な「お前はええ加減にせんか!!」ぐはああ!?」

 

倒れる事をさえも許さない高速のラッシュ。どれもこれも角度が絶妙でダメージが深い角度で打ち込んでいる

 

(あのリバーブローは1級ね)

 

体重のばっちり乗っているし、何よりも角度が凄い。あのリバーならもしかすると世界でさえも狙えるのかもしれない……しかし大樹さんはどうもあんまり好きに慣れない気がする。横島に似てるけど何か駄目なのよね?何でだろう?アッパーで身体を浮かされ、サイドリバーブローを叩き込まれ悶絶している大樹さんを見て

 

(あ、横島と違って本気だからだ)

 

横島は場を和ませるため。もしくは失敗すると判っていてそう言う態度をとるが、大樹さんは本気だ。そして隙あれば本当に頂いてしまおうとしている。つまりスケベなただの嫌な奴と言う事で

 

「百合子さん。これをどうぞ」

 

釘バットを百合子さんに渡した。どこから出したかは聞かないで欲しい

 

「あら。良いバットね。ありがとう」

 

「む、無理だ!?そんな物で殴られたら!死んでしまう」

 

「1度死んで来い!この馬鹿亭主!!!」

 

フルスイングで吹っ飛ばされ窓から飛んで行く大樹さんを見送るのだった

 

「さてとこれでゆっくり話が出来るわね」

 

「そうですね」

 

頬に若干紅い何かのついている百合子さんは、慣れた手つきで頬の紅い何かをふき取り、紅茶に砂糖を入れながら

 

「蛍さんはどうして忠夫を好きって言ってくれるの?」

 

不思議そうな顔をしている百合子さんに私はにこりと笑いながら

 

「横島が誰よりも優しいからです、あの優しさが……何よりも私を惹きつけるんです」

 

「判るの?忠夫の優しさが」

 

信じられないという顔をしている百合子さんだったが

 

「判るのね!?忠夫の優しさが」

 

「判ります!横島は少しスケベだけど女性に優しいし、思いやりがあるって」

 

あと本人にやる気が無いのが問題だけど頭も良いし、運動神経も良い事を私は知っている

 

「蛍さん。今日泊まっていく?もう遅いし」

 

日付が変わってから2時間。そろそろ遅い時間で、女性が1人で歩くのは危ない時間帯だが

 

「大丈夫です。私これでも強いですから」

 

霊力は使えないけど美神さん仕込みの体術なら問題なく使える。そこいらの暴漢なんて返り討ちだ

 

「それでもよ。危ないから泊まって行きなさい、私はまだ貴女に聞きたいこともあるしね」

 

その目は私の全てを見透かそうとしているような目だ。これはもし泊まって行けば話さなくてもいい逆行の事まで話してしまうかもしれない。それは良くない、歴史の変更は少なくしないと思うように動けなくなってしまう。かといって嘘を言えば、もう横島に会えなくなるかも知れない。ここは少しだけ本当のことを話しておこう

 

「……横島は人間には余りもてないでしょうね。中身ではなく外を見る人間が多いですから」

 

その言葉にぴくりと眉を動かした百合子さんは私を見て

 

「蛍さんは人間じゃないのかしら?」

 

このことは隠しておくつもりはなかった。本当に横島と結ばれることを望むのなら、これは隠していてはいけない事だから

 

「……半分だけ魔族です。半分は人間です」

 

ルシオラとしての記憶が戻ったときに身体が少し変化したのを自覚している。今の私は半魔族と言った所だ

 

「……忠夫を好きって言ってくるのは魔族としての感性って事?」

 

確かにそうとも言える、だけど私は芦蛍、いやルシオラは横島を愛するだろう、記憶があろうがなかろうが……百合子さんが警戒しているのは判る。なら私は本当のことを話そう

 

「私はずっと前も横島を愛した。だけど結ばれなかった、私は死んでしまったから」

 

「何があったの……」

 

「酷い争いがあった。私は最初は横島の敵だった、だけど横島の優しさを知って自分の陣営を裏切って横島の味方になった……横島はその争いの中で私を庇ってくれた……だけどそのせいで横島は死んだ」

 

思い出すのは東京タワーでのべスパとの決闘だ。お互いに退くことのできない戦いだった

 

「だから私は自分が死ぬと判っていて、横島に自分の魂を分けた。私にとって横島は自分の命よりも大切な存在」

 

こうしてまた横島に会えた。だけどそれだけで満足出来なかった。あの時は結ばれなかった、だけど今回は横島と永遠を過ごせるかもしれない。邪魔者が居るけど

 

「忠夫と貴女は前世っていうやつの?」

 

流石百合子さん。与えられた情報とそして私のGS見習いと言う情報から正しい答えを導き出した

 

「はい。前世の縁って奴ですね。私は半分は魔族だから記憶を持って転生しました。だけど横島は人間だから違う、私は長い事横島に会いたいと思って生きていました。それが私。芦蛍です」

 

百合子さんの目を見つめてそう告げる。少し嘘は言ってるけど大筋は事実だ……

 

「転生してもなお家の忠夫を?」

 

私はきっと記憶があろうが無かろうが横島しか愛さない。それは魂のレベルで私に刻まれている事だ

 

「はい。私は彼を愛しています」

 

百合子さんはそうっと小さく呟くと私の頭をわしゃわしゃと撫でて。にっこりと笑いながら

 

「そう。じゃあ忠夫の事は蛍さんに任せるわ。ナルニアにも連れて行かないわ」

 

「百合子さん!?「だけど子供はまだ要らないからね?私はまだおばあちゃんとは呼ばれたくないの」

 

悪戯っぽく笑う百合子さん。これはまだ第一段階だけど認められたという事!これで少し有利な位置に立てたわ!!!

 

「はい!それじゃあまた来ます!百合子さん!」

 

今はこの喜びを発散するために走りたい気分だ。私は百合子さんに深く頭を下げ横島の家を後にしたのだった

 

「あ、蛍さん!?」

 

走って行ってしまった蛍を見つめる百合子はしょうがないなあと言う素振りで肩を竦め

 

「前世の縁かあ……忠夫は随分いい子に好かれているのね」

 

蛍の真剣な表情を見た百合子は蛍が嘘を言ってない事を悟ったのだ

 

「お袋。蛍は?」

 

頭を押さえてふらふらと歩いてきた忠夫を見た百合子は

 

「今帰ったわ。また来てくれるそうよ」

 

「そうかあ……安心したわぁ……まだ寝るなあ?」

 

「ええ。明日も学校なんだから早く寝なさい」

 

眠そうに欠伸をしながら部屋に戻っていく忠夫を見た百合子は

 

「これで少しは心配事が減ったかもね」

 

穏やかにそう微笑み。自分も部屋に戻ったのだった……なお釘バットでホームランされた大樹は

 

プカー

 

でっかいたんこぶを作って川をゆっくりと流れていたのだった……

 

 

 

最近見る奇妙な夢がある。知らない人物がたくさん出てくる夢だ、それなのにどこか懐かしいと思える。

 

(あの人は誰なんだろう?)

 

その夢の中心になっているのは紅いバンダナを巻いた青年。馬鹿をやるし、スケベだし、それなのにここぞと言う場面ではとても頼りになる。そんな不思議な青年……

 

「くすくすくす……」

 

「誰ですか!?」

 

突然響く何者かの声に咄嗟に周りを見るが誰の姿もない。そこまで認識した所で

 

(これはただの夢じゃない!?)

 

何者かが私の精神に干渉しようとしている。今の笑い声の人物か!?神剣はないが、それでも身構え警戒する。夢の中でも殺されれば、私の身体は乗っ取られてしまう。それだけは回避しなければならないからだ

 

「あの人の才能は私が見出したんですよ。誰も気付いてないうちから」

 

あの人とはあのバンダナの青年の事ですか……

 

「誇らしかった……どんどん強くなっていく彼の存在が……誰も気づけなかった彼の才能に気付いたと言う喜びもありました」

 

この声どこかで……しかし近くで聞こえるのに声を出している存在を見つけることが出来ない

 

「だけど……あの人は私の物にはなってくれなかった……悔しかったし、悲しかった……私は気がつけば彼を愛していたから」

 

ぞっとするような冷たさを伴った声があちこちから聞こえる。それは神族である私でさえも威圧するそんな声だった

 

「ふふふふふふふふふ……今はまだ早いけど、直ぐにあなたも理解できる。この気持ちが」

 

「な、何のことですか!」

 

そう怒鳴るが声の人物の姿は見えない。苛立っている私を見て声の人物は更に楽しそうに笑いながら

 

「少しずつ私の夢を見せてあげる。そうすれば判る……私の気持ちが」

 

その言葉を最後の謎の人物の声は聞こえなくなり、代わりに止まっていた夢の映像が再び私の脳裏の中に流れ始めたのだった……それを見ていると何故かその人物の事は綺麗に忘れてしまい、また夢を見るたびにその人物の声が聞こえてくる。そして夢を見るたびにその人物の事ばかり考えている自分が居る……

 

「貴方は誰なんですか……?」

 

私は夢を見る度に見る赤いバンダナの青年の事が気になり、気がつけば彼のことを考えていたのだった……

 

(ふふふふふふっふふふふふふふふふふ……ルシオラさん?ああ?蛍さん?どっちでも良いや……貴女に彼は渡しません……何をしてもね……)

 

一瞬夢の中の人物の声が聞こえた気がしたが、気のせいだと判断し日課の修練へ向かったのだった……

 

 

リポート1 もう1度始めよう その6へ続く

 

 




はい。最後に私の得意なヤンデレを出してみました。GSを知ってる人なら誰か判るでしょうね。私の意見ですけど、彼女はヤンデレが良く似合う。まぁあの巫女様の黒さと比べればマイルドですけどね!真っ黒いヒロイン。大好きです!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです、今回の話でリポート1は終わりです、次のリポートからはオリジナルを入れて、その次のリポート3から原作開始ですかね……あんまりオリジナルを続けるのも難しいので、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート1 もう1度始めよう その6

 

「♪」

 

バイクを買って欲しいと言うので最初は新品を買うつもりだったが、改造するつもりと言うので中古を買い与えた。朝からずっと機械弄りをしている蛍を見て、やっぱり娘と父親は似るんだなあと思いながら

 

「随分とご機嫌だね、蛍。何か良いことでもあったのかい?」

 

鼻歌交じりでバイクの調整をしている蛍にそう尋ねる。蛍は元の時間軸でバイクの免許を取っていたらしく、朝の内に免許を取りに行き。バイクの改造をずっとしているのだが、随分とご機嫌だ。これはバイクだけのせいじゃないなと思っていると

 

「昨日百合子さんと話が出来て凄く楽しかったんです」

 

百合子……昨日ハッキングを仕掛けてきた人間か、横島君の母と聞いていたが素晴らしい人材だ。演算処理に特化した土偶羅魔具羅

の防御を抜いた人間として私は高く評価している

 

「横島がGSを目指すなら私に任せてくれるって言ってくれたんですよ」

 

「それは良かったね。見たまえ蛍。倍率が更に下がっているよ」

 

1.3から1.2に下がっている。それだけ結ばれる可能性が高くなったことを教えると更に上機嫌になる

 

「バイクの調整を終えたら如何するんだい?」

 

「このまま横島を迎えに行って、一緒にGSになろうって誘うつもりです。ある程度は歴史に沿って動かないといけないから、強敵の膝元「美神除霊事務所」でアルバイトすることになりそうです」

 

あ、ああ……確か平安時代に私が作った魔族「メフィスト」の転生者の……かつての私の目的を考えると彼女の中のエネルギー結晶体は必要な物だったが、既に役目を果たせば魂の牢獄から開放されることが決まっているんだから、それほど気にすることはないのだが……

 

「大丈夫なのかい?あの守銭奴のことを考えると危険だと思うんだが?」

 

横島君を250円でこき使った事は蛍から聞いている。労働基準とか最低賃金とかに喧嘩を売っているとしか思えない美神玲子の所で将来の息子と愛娘を働かせるのは不安だ

 

「そこは何とか交渉のテーブルに持っていくから心配しないでお父さん。私の霊力ならなんとか美神さんの目に適うとおもう。横島を雇ってくれないなら私もお断りするし、それに時間は1年あるわ。少しの除霊の基礎を教えれば足手纏いにはならないとおもうから」

 

美神さんは見た目のいい助手を求めていた、私なら多分ギリギリセーフだとおもうと言う蛍。だけど私としては心配だ……しかし

 

(会いに行くのも不味いしなぁ)

 

下手に接触してメフィストの記憶を取り戻されても困るし、私は純魔族。人間界では余り表立って動きたくない、だから

 

「じゃあ私は百合子さんにお願いしておくよ。法律違反をしたら攻撃してくれって」

 

「それは……いや、良いか、それなら普通の時給はもらえそう」

 

命を賭けた仕事で薄給なんて認められない。なんとしてもある程度の時給は引きずり出してやる。そのためには百合子さんと接触する必要があるわけで

 

「あとで会いに行って来るよ。やはり親として話し合いの場を設けなければ」

 

「頑張ってね。お父さん、百合子さんは強敵だからね。よしっ完了♪」

 

バイクのネジを締めた蛍がにこりと笑う。その仕草は可愛いが、ニトロを積んでいたのを私は見逃さなかった。まぁ良いか……逃げるためと考えれば

 

「それじゃあ横島の学校まで迎えに行って来るね♪夕食までには戻るから」

 

そう笑って出て行く蛍を見送り、私はスーツに着替えに戻り

 

「少し出かけてくるよ」

 

「アシュタロス様?……はい。判りましたお気をつけください」

 

土偶羅魔具羅に見送られ街に出た私は近所で評判のパティスリーでケーキを買い、それを手土産に横島君の家に向かうのだった……

 

 

 

「うああああ……」

 

昨日の全力の自転車運転と霊力の消費で身体がズタボロの俺は机の上で呻いていた

 

「だ、大丈夫か横島?」

 

友人Aが心配そうに尋ねてくるので大丈夫だと小さく返事を返しながら時計を見る。帰りのSHRで帰宅できる、そうすればゆっくり休める

 

(明日が土日で良かったぜ)

 

じゃないとこの酷い筋肉痛は治らないだろう……親父は朝家の前で瀕死で倒れてたし、お袋は上機嫌だったけど、休むなと言う事で学校に出てきたが、正直授業どころではないダメージだ。ずっと寝ていたので授業を受けた記憶が無い

 

(蛍は大丈夫なんかなあ)

 

俺はボロボロになってるけど、蛍は見習いとは言えGS。多分元気なんだろうなあと思っていると教師が来てさっさとSHRを済ませたので、痛む身体に眉を顰めながら鞄を手に下駄箱に向かい靴を履いて

 

(あー帰るのに時間かかりそうだな)

 

朝も遅刻ギリギリだったしなぁと思いながら歩き出し、校門を出た所で派手なバイクなエンジン音が聞こえる。暴走族か?と思って振り返ると真紅のバイクが校門の前に止まり。ヘルメットを脱ぐ

 

「横島♪」

 

バイクを運転していたのは蛍だった。周囲の同級生は突然現れたバイクに跨る美少女に絶句している

 

「ほ、蛍ぅ!?何してるんや!」

 

かと言う俺も驚いて素の大阪弁が出ている。蛍はくすりと笑いながら

 

「はい」

 

「わわ!?なんやこれ?」

 

投げ渡されたヘルメットに驚いていると蛍は軽くバイクを吹かして

 

「そろそろ夕日が綺麗な時間なのよ、約束したでしょ?一緒に夕日を見るって」

 

確かに約束した。迎えに来てくれたのか……だけど

 

「俺後ろ?しがみ付いて怒らへん?」

 

「怒らないわよ。ほら」

 

手招きする蛍の後ろに回り、タンデムシートに座る。立場が逆だけどなんかしっくり来る。回りがざわざわしてるけどそれも全然気にならない。

 

「ヘルメットを被ってね」

 

「もう被ってる」

 

蛍の腰に手を回すと蛍もヘルメットを被って楽しそうな声で

 

「さぁいくわよ!横島!」

 

「うわあああ!?」

 

いきなりフルスロットルに入れた蛍、そのスピードに軽くなんて言ってられずしっかりとしがみ付き、吹っ飛んでいく景色の中

 

(やらかいなあ。それにいい匂いやあ)

 

初めて近くに感じる女性特有の柔らかい感触と甘い匂いに若干くらくらしてしまうのだった。なお残された横島の学校の生徒達は

 

「「「横島にあんな綺麗なお姉さんの彼女がいるなんてええええッ!!!」」」

 

スケベで馬鹿をやる横島に彼女がいると言う事実を認められる絶叫する男子に

 

「「「……ショックちょっと狙ってたのに……」」」

 

見る目のある一部の女子が深く溜息を吐いていたのだった……

 

「ほら、横島ここよ」

 

蛍の運転するバイクで来たのは東京タワーだった。確かにここの展望台から見ればさぞ絶景……あれ?

 

「あ、あのう蛍さん?何故に私を抱え上げているのでしょうか?」

 

しかもお姫様抱っこで、回りに人がいないから良いが。これはとんでもない羞恥プレイとしか思えない

 

「捕まっててね」

 

蛍は俺の言葉に返事を返さず、ジャンプする。すると一瞬だけ空中に板のような物が見えて、それを踏み台にしてドンドン上へ上へと上っていく蛍。

 

(これも霊能力なのか?)

 

一瞬しか見えないが翡翠のように輝く緑の板が見えた。もしかするとそれも霊能力なのかもしれないと思っていると

 

「とうちゃーく♪」

 

蛍にゆっくりと降ろされる。そこは展望台の屋根の上、凄い強風だけど蛍が手を握ってくれているので飛ばされることは無い

 

「ここに座りましょう」

 

鉄骨に背中を預けて座る蛍の横に座り夕日を見つめる。それは今まさに沈んでいこうとする所だった

 

「昼と夜の一瞬の隙間……短時間しか見れないからよけい美しいのね」

 

夕日を見ながらそう呟く蛍の顔はとんでもなく綺麗で、思わず見惚れてしまった。そしてそれと同時に

 

(な、何でワイなんかを)

 

こんな綺麗な人ならもっとかっこよくて頭の良い人が好きになってくれるはずなのに……なんでワイなんか」

 

「そんなに自分を卑下しなくても良いわ横島」

 

「なんでワイの考えてる事を!?」

 

もしかして俺の考えている事を全部読み取っているのか!?これも霊能力!?っと横島は驚いているが、ただ口に出ていただけである。蛍はそんな横島に苦笑しながら、その頬に手を伸ばして

 

「今はまだ横島は本当の力に目覚めてないだけよ、貴方が本当の力に目覚めたら私なんかよりももっと強くなるわ」

 

「そんなあ。嘘や」

 

俺にそんな力があるわけが無い、あの時の化け物だって蛍が居たから、俺は助かったような物だし

 

「あの時の私は殆ど霊力が残ってなかったの。だからあの刃は全部横島の力よ、だけど横島の霊力は強すぎるから、自分では思うように使えないんだわ」

 

「……漫画とかで見るリミッターってやつ?」

 

まさか?自分にそんな力は無いだろうと思いながら尋ねると蛍は

 

「そう、それに近いわ。もっと成長すれば貴方の力は開眼するわ横島。ねえ横島私と一緒にGSになりましょう」

 

俺の手を握って真剣な表情で俺を見る蛍。GSと言えば華の職業に思えるけど命懸けの職業で危ない、綺麗な奥さんを貰って退廃的な暮らしをしたい俺には無縁の職業といえる。だけど蛍の目を見ているともしかすると俺にも出来るのかもしれないと思えてくる。あの時の光り輝く刃の事を思い出す。そして蛍を助けたいと思った気持ちも

 

「ワイ本当にGSになれる?」

 

「なれるわ。横島なら誰よりも強いGSに……時間は掛かるけど絶対に」

 

蛍の信頼と好意……初めての女性からの純粋な好意に俺は赤面しながらも

 

「蛍が教えてくれるんか?GSになるにはどうしたらいいのか?」

 

「ええ。私が教えるわ、横島が霊力に目覚めるのはもっと先になると思うけど、GSとしての心構えとか霊力がなくても戦える方法とか」

 

美人の先生が教えてくれるんか!?それは気合が入るってもんやな!それに蛍と一緒にいるには俺もGSにならないと難しいのかもしれない……だから

 

「ならなるわ!俺もGSに」

 

「横島ッ!」

 

ぎゅっと抱きついてくる蛍。胸のやわらかい感触と甘い匂いに俺の意識は完全に吹き飛ばされ、更に

 

「ブッシャアアアアアアッ!!!!」

 

「ッきゃああああ!横島!横島ぁッ!!!」

 

目と耳と鼻から大量の血液を噴出し意識を失い倒れる俺が最後に見たのは

 

「白の……レース」

 

「えっきゃあ!?もうどこ見てるのよ!?」

 

そう言って後ずさる蛍の気配を感じながら俺は意識を失ったのだった……

 

「もう。横島ったら♪」

 

スカートを押さえて嬉しそうなのに恥ずかしがっているという器用な事をしている蛍は、気絶している横島の血をハンカチでふき取り。横島を抱きしめて

 

「これから2人で頑張りましょうね」

 

大切な宝物を抱きしめるような蛍は嬉しそうに笑いながらそう告げた。気絶している横島は

 

「おおう……」

 

意識が無いのに返事を返す横島に更に笑みを深め、蛍は横島を抱き抱えたまま東京タワーから降りたのだった……

 

 

 

「なるほどねえ……忠夫がそんな大層な力を持っているとは思えないだけどねえ」

 

蛍さんの父親を名乗る「芦優太郎」の言葉に私は眉を顰めた。芦さんが言うには忠夫はこれから先、神や悪魔からも一目置かれるほどに強い存在になるとの事らしいんだけど

 

「やっぱり信じられないわ」

 

「信じられなくとも事実です。これは決まっている未来なのですから」

 

芦さんは蛍さんと違って逆行はしてないらしいだけど、蛍さんの話と忠夫の霊力の分析で限りなく事実だと判断できたからこうして来てくれたそうだ

 

「六道とオカルトGメンに気をつければ良いのね?」

 

芦さんの話では遠い未来で忠夫が身につけるある力は神や魔族でさえ滅ぼすことが出来る究極の力。それを求める者が来るはず、酷い言い方をすれば忠夫を道具として利用しようとするような人間

 

「ええ。本当は美神も気をつけた方が良いのですが、横島君と美神の人間は深い縁がある。これを断ち切るのは難しいですから」

 

縁ね、蛍さんの縁とその美神令子の縁。どっちが上なのかしらね?と考えながら

 

「心配ないわ、うちの息子をそんなくだらないことに利用するって言うなら潰すから」

 

可愛い1人息子を利用するような連中に生きている価値はない。社会的な抹殺をしてくれる

 

「貴方のすごさは理解しているつもりですが、気をつけて。私には私のやるべきことがあるので表立っては協力できませんが、これを」

 

差し出されたのは名刺サイズの金属片。不思議と何の重みも金属の冷たさも感じない

 

「これは?」

 

「私との直通の連絡する物です。何か困った事があれば連絡ください、出来る限り協力させていただきます。それではまた今度」

 

そう笑って帰ろうとする芦さんを見送ろうと立ち上がったんだけど

 

「すいません、百合子さん。横島がおきなくて」

 

気絶している忠夫を連れて家の中に入ってきた蛍さんを見て

 

「折角ですし、ご夕食でもご一緒しません?芦さん」

 

「む……うーん。そうですね、折角だからご一緒します」

 

蛍さんも来たんだし一緒に夕食にしましょうと誘う。大樹は残業らしいのでいつ帰ってくるのかもわからないしね

 

「忠夫はリビングのソファーに寝かせておけば良いわ。多分その内起きて来るからね。芦さんはTVでも見ててください」

 

私はそう声をかけエプロンを身につけキッチンに向かった。忠夫がどうなるかなんてどうでも良いけど、ここまでうちの忠夫を心配してくれる蛍さんと芦さんは悪い人じゃないと判断した

 

「百合子さん、手伝います」

 

「あら本当?嬉しいわ」

 

それにこうして並んで料理をするのって結構夢だったのよね。忠夫が馬鹿をやって蛍さんに愛想をつかれないと良いんだけど……私はそんな事を考えながら夕食のお好み焼きの準備を始めたのだった……

 

「不味い!?血が足りなすぎる!?横島君!?目を覚ますんだ!死んだら駄目だぞ!?」

 

TVを見ていてくれと言われた芦は、出血多量で瀕死の横島を現世に呼び戻すために必死に延命措置を施していたのだった

 

 

横島が大量出血で生死の境目を彷徨っている頃

 

会いたい……

 

貴方は誰……?

 

東京から遠く離れたある場所では

 

「どこにいるの?」

 

巨大な岩から姿を現した少女はふらふらと導かれるようにその地を後にした。その場所は栃木県那須町のある巨大な岩が眠る場所……その岩の名前は「殺生石」と言うのだった……

 

 

リポート2 ナインテール・フォックス その1へ続く

 

 




はいこれでリポート1は終わりです、次回からはオリジナルの話を少し入れるつもりです、まぁタイトルとラストで判るとおもうんですけどね……好きなんですよ、あの人と言うか狐さん。多分GSを知ってる人は皆知っていると思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート2 ナインテールフォックス
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回は原作から考えるとかなり早いですが、あの人が出てきます。出てくるけど裏が当然ありますのでご理解ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート2 ナインテール・フォックス その1

 

この日私は厄珍堂に来ていた。見た目は小さい上に汚い店だが、その実裏のルートに詳しい店長がいるため。GSとして活動する人間の大半が利用する店とも言える

 

「うーんとこんなものかなぁ」

 

GSの道具と言えば厄珍堂と相場が決まっている。他にも売ってる店があるにはあるのだが、厄珍堂が良いと言われるのにはその品揃えにある。今日だって横島の訓練に使える道具を探しに来たのだが

 

(結構いいのが揃ってるわね。買わないけど)

 

霊体ボウガンに神通混に扇……GSの武器として一般的に流通されているのが揃っている。無論GSの道具だけじゃなく、ステアーやコルトパイソンとかの銃もあるけど

 

(横島にいらないわね、えーと安い破魔札は……あったあった)

 

横島に今は霊力を使う技術は教えれない、なぜなら厳重に封印とでも言うのだろうか?それが施されていて無理やりあけたとしても、酷い後遺症を横島に与える。私はそんなことはしたくない、だから今は霊力がなくてもある程度使える破魔札を買うことにする。1円と5円と10円をそれぞれ200枚ずつだけ買っておけば、大丈夫でしょう。

 

「これどう?おまけしておくあるよ?」

 

小柄なサングラスの中国人「厄珍」が何かを手にして話しかけてくる、そういえばこの人も全然外見変わってないわね……ドクターカオスと同じで不死だったりするんだろうか?

 

「それで?それは何?物によっては買うわよ?」

 

厄珍が直接売ろうとしてくるものは警戒しろ。これは厄珍堂に来る全員が知っている

 

「ふっふっふ、これは妖怪捕獲用の特性の護符ね!変化してる妖怪もいちころアルヨ!」

 

変化してる妖怪……脳裏に浮かんだのはナインテールが特徴的なクール系のタマモと犬娘のシロだ

 

「買うわ、いくら?」

 

「2万アルヨ」

 

2万……ちょっと安いわね、ちゃんと効果があるかは怪しいけど買っておきましょう。私は3万で支払いを済ませ

 

「また来るわ。今度はもう少し安い破魔札を多めに仕入れておいてね」

 

「判ったアルヨー」

 

手を振る厄珍と別れ、買ってきた破魔札を見ながら

 

(やっぱり最初は投げ方よね……横島なら足にセットすると良いかなあ)

 

破魔札ホルダーは拳銃のホルダーと同じように装備することが多い、まぁ女性の中には胸の谷間とかにはさんでいる人も居る。それは貧乳に対する嫌味だとおもう。ちなみに私は太ももにホルダーを嵌めてたけど、多分横島も太ももか肩からさげる形で

 

(あとは投げ方をどう教えるかよね)

 

破魔札は霊力がなくても使えるが、霊力で補助してコントロールする。霊力が使えないので純粋に投擲技術を磨かないと当てるのは難しい

 

(まぁその内栄光の手とかサイキックソーサーが使えるようになるから、それまでのつなぎね)

 

横島は荷物持ちとして行動していた。だから基本的には荷物持ちになる可能性が高い、だけど基礎があればある程度は美神さんも妥協してくれるはず。問題は……

 

(投げれるのかなあ)

 

サイキックソーサーの扱いは得意だったけど破魔札はどうなんだろう?そこだけが不安だけど、今の横島はスポンジ状態、与えられた知識をすんなり吸収していくはずだから大丈夫だと判断して、横島と待ち合わせしている公園に向かったのだった

 

 

 

 

春休みの間俺は蛍にGSについての基礎知識を教わっているのだが

 

「あかん……全然理解できへん……」

 

蛍は丁寧に教えてくれているのに、俺には全然理解できない……除霊の基礎だけでもこんなに難しいのか……

 

「最初は難しく思うのは当然だけど、頑張れば大丈夫よ」

 

蛍はそう励ましてくれるけど俺には理解できるが果たしてくるのだろうか?

 

「まぁいざとなれば私がフォローするから心配しないで」

 

「ほ、蛍うううッ!!」

 

俺はその優しい言葉に嬉しくなり、蛍に抱きつこうとしたがそれよりも早く

 

「え、もう!急に抱きつくのは無し!」

 

「へぶう!?」

 

蛍の振り下ろしの右に頬を打ちぬかれ、その場に倒れこむ……

 

「あ、ごめんなさい。思いっきり打ち込んじゃった……」

 

「だ、大丈夫やあ……ワイが悪かったんやあ……」

 

だけど多分急に抱きつく癖は治らんやろなあ……ふと思うのは俺が飛び掛ったときに迎撃してくれる人間がいれば良いんじゃないか?そして逆に言えば、迎撃してくれる人間をナンパすれば良いのではないだろうか?俺はそんな事を考えながら、痛む頬を摩りながら座り

 

「それじゃあ今日は終わり?」

 

今日のGS訓練は終わりかと尋ねると蛍は違うわよと首を振りながら、バイクにくくり付けてある鞄から何かを取り出している

 

(チェ……折角の春休みなのに……)

 

ずっとGSの訓練ばかりしていたら飽きてしまう。正直な話蛍と2人きりだから、少しはこう……華やかなイベントを期待してたんだけどなあ

 

「落ち着いたら2人で遊びに行きましょう?だけど今は訓練よ?春休みは短いとは言え、長期休暇よ?いつでも一緒に遊べるじゃない」

 

「しゃああ!!蛍!俺はどうすれば良いんだ!!!」

 

一気に気合満点になり、軽くシャドーをしながら言うと蛍は俺に

 

「はい。じゃあこれね」

 

「なんやこれ?」

 

1円と書かれた札を見て尋ねる。蛍はにこりと笑いながら

 

「破魔札よ。霊力があるほうが良いんだけど、ある程度は霊力がなくても使えるからまずはこれの使い方を覚えましょう?」

 

俺は手の中の札を見るでかでかを1円と書かれている札が束である。多分1円ってことは1円だからこれで300円くらい?

 

「じゃあこれホルスターね。拳銃みたいに脇に下げるか太ももにつけるかは横島の好きなほうで、私は太ももね?」

 

太ももの所にホルスターを巻く蛍。なんかエロいぞ……なんでだ!?ドキドキする……

 

「はい。これはプレゼントだから好きな場所に巻いて見て」

 

自分の太ももに巻いていたホルスターを外して手渡ししてくる蛍

 

(お、おおおお……)

 

これがさっきまで蛍の足に……なんて羨ましい……と、とりあえず巻いてみるか。蛍と同じように太ももに巻いて、渡された札を中にしまう

 

「それで準備OKよ、じゃあこれは見本ね」

 

蛍が俺のホルスターから札を引き抜いて指の間に挟んで

 

「シッ!」

 

「おお!?すげえ!!!」

 

ただの紙がシュッと鋭い音を立てて飛んで行き、的にした木に当たるとパンッと言う乾いた音を立てて爆発した

 

「まぁこんな感じね。鋭く振りぬいて飛ばす感じよ?少し上を狙ったほうが良いわ」

 

蛍が俺の後ろに回って手を取って投げ方を教えてくれる

 

(う、うわわ……や、柔らかい感触が!?それに甘い匂いも」

 

「横島?声に出てるわよ?」

 

「あいたたた!!!ごみゃんにゃはい!!」

 

頬を抓られて涙目で謝る。普段は優しいけど、こういう時は真面目じゃないと怒る。GSは命懸けだから当然やな、必死で謝ると蛍は俺の頬放して

 

「ゆっくりね。多分最初は飛ばないと思うけど、勘さえつかめば大丈夫だから」

 

そう笑っている蛍に頷き。俺は破魔札を視線の先の木目掛けて投げつけたのだった……

 

「……大丈夫。最初はそんな物よ」

 

足元で炸裂した破魔札。そして優しい目で俺を見てくる蛍に

 

「そんな優しい目でみんといてええええ!!!」

 

「ああ!横島!?まって!逃げないで!!!」

 

恥ずかしさで逃げ回る俺を追いかけてくる蛍。直ぐに捕まり投げる練習を再開したんだけど、結局真っ直ぐ飛ばず……今日1日だけでかなり気まずい空気になるのだった……

 

 

 

目覚めてもぼんやりと頭に浮かび続ける青年の姿。その姿を求めて私はふらふらふらとさ迷い歩いてきた

 

(ここ?ここなのね?)

 

夢の中に光景と完全に一致する街に来た私は安心した。ここで探せばきっと夢で探している青年に会える

 

(なんでこんなに会いたいんだろう)

 

夢の中で見た人間だから、本当はいないかもしれないのに……何でこんなに必死になってここまで来たんだろう?

 

(私らしくないのかな?)

 

あの青年への謎の愛しさを感じている私とそれを見て何を馬鹿な?と思う自分がいるのに、私はここまで来た

 

(疲れた……それにお腹減った……)

 

人間に化ける事もできるが、そんなことをする体力と妖力も無い。それに仮に出来たとしても月の出ている夜の間だけ、夜は人間の姿で行動して、朝と昼は正体である動物の姿で行動し。少しでも霊力の消耗を抑えたけどもう限界

 

(動けない……)

 

ぽてっと倒れこみ、そのまま動けなくなってしまう。このままだと危ないと判っているのだが動けない

 

「んお?なんだ?狐?」

 

突然聞こえたぼけっとした声に閉じかけた目を開いて驚いた

 

(みつけた……本当にいたんだ)

 

若いけど間違いない、夢で見たあの青年だ。少年と言えるかもしれないけど

 

「おーおーおー、随分汚れちまって」

 

ひょいっと私を抱き上げる。近くで顔を見て確信する、間違いないこの少年が夢で見た青年だと判る

 

「お袋が怒るかも知れねえけどほっておけないな……なぁ?お前俺の家来るか?ははは、人間の言葉は判らないか?」

 

何をやってるだろうなと呟く少年。だけど私にはこの青年がなんて言ってるのか判っている

 

「コン!」

 

「ん?もしかして返事したか?お前」

 

不思議そうな顔をする少年の袖口を噛んで

 

「コン!コン!!」

 

もう鳴声を出すのも辛いけど、必死に着いて行くという意思を示すと

 

「判った。判った。じゃあ一緒に行こうな」

 

優しく抱きなおしてくれた少年。噛んでいた服をはなし少し腕の中でもぞもぞと動き、少年の腕の中で目を閉じる

 

(暖かい……夢と同じ)

 

夢で感じたのと同じ優しさと暖かさ。私は疲労の事もあり、その少年の腕の中で眠ってしまったのだった……

 

 

 

「あー如何するかなあ」

 

蛍との訓練を終えて帰る途中の路地裏で見つけた金色の子狐。ドロで汚れてるけど、多分洗えば綺麗な金色なんやろなあ

 

「お袋良いって言うかなあ」

 

動物飼うって言って良いって言ってくれるかな?それが不安だけどどうしてもほっておけなかった

 

「くう……くう」

 

小さい寝息を立てている子狐。野生動物って気難しいって聞くけど、なんか懐いてくれてるんかなあ?

 

「それにしてもお前どこからきたんや」

 

東京なんて街に狐がいるわけないしなぁ……腕の中の狐を見るとなんか不思議な愛着を感じる

 

(なんか蛍に初めて会った時と同じ感じや)

 

蛍に狐と同じ扱いなんてって怒られてしまうかな?と思いながら歩き出そうとして

 

「あれ?尻尾増えてる」

 

さっきは1本だったのに今は2本だ。尾が2本の狐なんかいるわけ無い……と言うことはこの狐は妖怪?

 

(あかん。蛍に相談できへん!まずは家に帰ろ!!!)

 

GSも近くにいるし見つかったら大変なことになると判断し、俺は子狐を服の中に入れて家へと走ったのだった……

 

リポート2 ナインテール・フォックス その2に続く

 

 




狐。尻尾。答えは既に出ていますが誰かは言いませんよ?ばれていたとしても言いませんからね?

次回は狐ちゃんのフェイズです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は狐フェイズですね、まぁGSを知ってる人なら判ると思いますが、ナインテール・フォックス。
まんま九尾の狐ですね?そして九尾の狐といえばタマモちゃんです。好きなキャラなので少し早めに出してみる事にします
基本は狐フォームですけどね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート2 ナインテール・フォックス その2

 

夕食の準備をしていると忠夫がこそこそと学生服の中に何かを入れて歩いてくる

 

「忠夫」

 

キッチンの中からそう呼ぶと、忠夫はしっかりと学生服の腹の所を押さえて

 

「なんでもないで!なんでもないんやで!!」

 

ぽっこりと膨らんでいる学生服を見れば、何かを隠しているのは一目で判る。それになによりも

 

「まだ何も言ってないで」

 

首をぶんぶんと振り、更に手を振るオーバーリアクション。明らかに怪しい……なべの火を止めて

 

「怒らないから何を持ってきたか教えるんや」

 

まぁ物によっては怒るけどなと心の中で付け加える。これが捨ててあったエロ本とかなら今月のお小遣いは無しにしようと思っていると

 

「あのな、おかん……この子なんやけど、飼っても良いか?」

 

忠夫が私の前に置いたのはボロボロで薄汚れた子狐。今は眠っているのか動く気配が無い

 

(尻尾が2本。妖怪か?)

 

蛍さんの話では忠夫は妖怪に縁が出来やすいって聞いてたけど、これもその1つなのかしら?

 

「なぁ?あかんか?こんな泥だらけで可哀想や……」

 

忠夫の言うとおり、その狐はあちこち汚れている、もしかすると怪我をしているかもしれない、そう考えると確かに痛々しい……少し考えてから

 

「怪我が治るまでやで?もし出て行こうとするなら無理に捕まえたらあかんで?」

 

狐と言うのは我が強い。あんまり人間になれる生き物ではないと聞いている、それは妖怪ならなおの事そうだろう。もし出て行こうとするなら止めたら駄目と言う条件をつけると

 

「ありがとう!おかん!俺ちゃんと世話するわ」

 

嬉しそうに笑う忠夫。大樹に似たせいで女好きでスケベだけどその本質は誰よりも優しい子だから

 

「おかん。この子お風呂に入れても大丈夫かなあ?」

 

忠夫の手元を見る。確かに汚れてボロボロに見えるけど傷は殆ど無いわね。お風呂に入れて綺麗にしてから手当てしたほうが効率が良いと判断し

 

「良いわよ。ただし湯船は駄目だからね?桶よ?」

 

「はーい」

 

狐を抱えて歩いていく忠夫の背中を見つめながら冷蔵庫を開けて

 

「狐が油揚げを食べるって本当かしら?」

 

謎は残るがとりあえず用意してみようと思い。私は油揚げを薄味で煮る事にしたのだった……

 

 

 

 

風呂の桶の中でも起きる気配のない狐を綺麗に洗って、ドライヤーでぬれた毛を乾かしてみたら

 

「おお……ぴかぴかや」

 

金色ともとれる黄色の毛はとても綺麗だ。電灯の光でもぴかぴかと輝いているのが判る

 

「ふかふかや」

 

それにふかふかと柔らかくてぬいぐるみみたいだ。だけど生きているのでほのかに暖かい……

 

「可愛いなあ」

 

犬とか猫も好きだけど、この狐は別格だ。まだ眠ってるけどとても可愛い……

 

「お袋みてーぴかぴか」

 

「あら本当。綺麗な毛ね、もうご飯できるから座ってまってなさい」

 

お袋の言葉に頷き和室の畳の上に座り、自分の隣に狐を横にしながら

 

「おとんは~?」

 

「残業。今日は帰って来れないかもね」

 

そっか。残業かあ……もしかしたらナルニアのことが関係しているのかもしれないと思っていると、お袋が夕食を運んできてくれる

 

「今日はカレーなんやね!」

 

「忠夫好きやろ?」

 

「うん!大好きや!」

 

特にお袋のカレーは出汁が良く効いていて美味しい。そばやとかで食べるカレーと同じ味がするから好きや。皿の横のスプーンに手を伸ばすと

 

「そのまえにほれ」

 

お袋が小さな皿に載せた油揚げを差し出してくれる。狐といえば油揚げ

 

「おきるかなぁ「コン!コン!!」起きてる、食い意地の張った奴やなぁ」

 

風呂の中でも起きへんかったのに油揚げの匂いで起きてくる所を見ると、食い意地の張った狐やなと思う。狐の目の前に置くと

 

「はぐ!はぐはぐ!!!」

 

凄まじい勢いで食べていく、狐が揚げを好きって本当やったんなと思いながら俺もカレーを頬張るのだった……

 

「んーこんなもんかあ?」

 

夕食の後。籠と布とタオルをお袋に貰い狐のベッドを作ったのだが、こういうのは初めて作るのでこれで良いのかどうなのかが不安だ。狐は狐で油揚げを5枚ほど食べたらお腹を上にしてまた眠ってしまっているので反応を見ることも出来ない

 

「とりあえず駄目なら駄目でまた考えれば良いか」

 

くーくーと寝息を立てる狐を篭の中に入れて毛布をかぶせる。これで良いだろうと判断し

 

「ふあ……俺も寝るかあ」

 

蛍とのGSの訓練で霊力と体力を使い切っているので、俺も正直しんどいので布団に潜り込むと同時に俺は深い眠りに落ちるのだった……

 

 

 

チチチチッ!

 

外から聞こえてくる鳥の鳴声で目を覚ます。うっすらと目を開き周囲を確認する、見たことの無い物が並んだ部屋の中。そして自分は籠の中で眠っている。今までの朝と違い少し混乱し

 

(ここはどこ?)

 

咄嗟に飛びのき周囲を確認し、直ぐにその警戒を止めた。なぜなら

 

「ぐおおおおお」

 

怪獣みたいないびきをかいている少年を見つけたから、私は彼を探してここまで来た。だからここが安全なのだと判り篭の中から出て寝ている少年に近づく

 

「ぐおおおお。ぐるるるるる」

 

凄まじいいびきを立てる少年に抗議の意味も込めて、ぺしぺしと前足で少年の顔を叩く、暇だしやることも無いのでただの暇つぶしだ。そんなことを思いながら

 

(何でこいつを探してたのかしら?)

 

こいつの傍なら安全だとわかってここまで来たのだが、こうしてみても霊力も少ないし、金持ちにも見えない。如何してここに来たんだろう?横島の場所に……

 

(ん?横島?……なんで私こいつの名前を知ってるの?)

 

どうしてこの少年の名前が横島だと知っているのか判らず、混乱しながらも前足を動かしていると

 

踏み

 

(ぁ)

 

「ふぎあああああああ!?なんや!?目が!目がアアアアア!!!!」

 

おもいっきり肉球で横島の目を押してしまい悶絶している横島を見て小さく頭を下げるのだった

 

「いてて……おお!起きたんやな!狐「ガブッ!」ほあちゃあああああ!?」

 

狐呼ばわれが気に食わなくて思いっきり手を噛み付くと再び絶叫する横島。それをみて噛むのを止める

 

「狐って呼ぶのが駄目なんか?」

 

「コン」

 

「うーむ……シロ?「グルルルル」シロはだめなんやな?OK」

 

その名前はどこか懐かしい気もするが、気に食わない。それに私にはちゃんと

 

(タマモって名前があるのよ!)

 

心の中でそう叫ぶ、残念な事に今の私が人間に化ける事ができるのは夜の間だけ、しかも霊力が一番高まる満月の丑三つ時じゃないと完全に人化することは出来ない。だから届かないと思いながらもそう叫ぶと

 

「ふえ?タマモ?」

 

「コン!?」

 

なんで判ったのか判らず変な鳴声が出ると横島は

 

「そーか、お前タマモって言うんだな?って言うかなんで俺はわかったんやろなぁ?」

 

どうも本人も今一理解して無いらしいが私の名前が伝わったのでよしとしよう

 

「俺は横島な?横島忠夫。判るか?」

 

「コン」

 

判るわよと言う意味をこめて返事をすると、横島は嬉しそうに笑いながら

 

「よっしゃよっしゃ。んじゃあ朝飯食いに行こうぜ」

 

私を抱えて歩いていく横島。暖かくてこのままで良いやと言う気持ちになり、私は大人しくしているのだった

 

「あら狐ちゃん元気になったのね?」

 

「お袋。狐ちゃんじゃなくてタマモって言うらしいぞ?」

 

横島が横島のお母さんと話をしているのを聞きながら朝ご飯の油揚げを食べていると

 

「忠夫がつけたの?」

 

「んや。自分でタマモッて」

 

「そうなの……」

 

普通は何を言っている?という所だけど霊能力を持つ息子を持つ母親だから、驚くほど簡単に納得していた

 

「それで今日は蛍さんとGSの訓練をするんでしょ?お弁当作ってあるけどもって行く?」

 

「持っていくわ。疲れるし腹減るしな。そんじゃご馳走様!」

 

横島は手をあわせてご馳走様と言うと私を見る。何を言いたいのか理解した私は横島の足にしがみ付き、そのままするすると登っていき、頭の上で伏せる

 

「しゃあ!じゃあ行ってきます」

 

横島はお弁当の入った鞄を抱え、私を頭の上に乗せたまま出掛けて行ったのだった……私は横島の頭の上でバランスをとりながら

 

(ふあーいい天気)

 

暖かい日差しと安心できる横島の傍って事もあり。私はうとうとと浅い眠りに落ちていくのだった……

 

 

 

 

いつもの公園で横島を待ちながら今日の訓練を考える。破魔札の投擲術に、ちょっとした近接戦闘の心構えを教えれば良いだろう

 

(横島なら何かとんでもないことを閃きそうだしね)

 

横島の最大の武器はその柔軟な思考にある。型に嵌らないその戦術はトリッキーで対峙するのが難しいスタイルだ、その最大の武器をなくしてしまうのは惜しい。だから教えるのはあくまで基礎程度で良いだろう

 

「蛍ー」

 

横島の声がして振り返り、絶句した何故なら横島の頭の上に見覚えのある狐がいた……

 

(た、タマモ!?なんでこの時期はまだ殺生石で寝ているはずじゃ!?)

 

アシュ様の侵攻が終わった後に、目覚めたはずのタマモが横島の頭の上で寝息を立てているのをみて絶句していると

 

「蛍。タマモ妖怪みたいなんだけど一緒にいても大丈夫か?」

 

頭の上のタマモを見てそう尋ねてくる横島。うーん……妖力は殆ど無いし、9本あるはずの尻尾も2本……状態としては半覚醒くらいだから大丈夫かな?

 

「大丈夫よ。だけど急に妖力が上がったら危険だから毎日連れてきてね」

 

様子見をするほうが良いと判断しそう告げる。恐らく逆行してきたタマモさんの力で予定よりも早く目覚めたけど、力が足りないって感じだと思うから

 

「やっぱり蛍に相談してよかった。ありがとな」

 

嬉しそうに笑う横島はお弁当の入っている鞄の上にタマモを寝かせる。全く起きる気配が無いのは妖力を回復させる目的のためだろう

 

「よっし!じゃあ今日は如何するんだ!」

 

屈伸運動をしながら尋ねて来る横島。霊力が殆ど使えないから基礎しか使えないけど、物覚えは速い。そこは百合子さんの血だろう

 

「今日は軽く組み手と破魔札の投擲術ね。早く投げれるようになったほうがいいからね」

 

今日の訓練メニューを言いながら振り返ると、屈伸運動していた横島の姿はない

 

「組み手は嫌やーッ!!!!」

 

砂煙を上げて逃げていく横島。私は手にしていたヘッドギアをタマモの近くにおいて

 

「待ちなさい!横島ーッ!!!」

 

「嫌やー!!アッパーもボディブローもいやああああ!!!」

 

私の近接戦闘は美神さんに教わったボクシングかシロと小竜姫に教わった剣術だ。剣術では横島に不利だと思ってボクシングにしていたというのに、それでも逃げ出した横島を追いかけて全力で走り出したのだった

 

「ボデイは!ボディだけは許してええ!!」

 

前の組み手で思いっきり打ち抜いた左の脇腹を押さえてる。完全なトラウマになっているようだ……

 

「待ちなさい!横島!!!」

 

滝のような涙を流して逃げ回る横島を捕まえて、元の場所に戻りながら

 

(!この気配は……神族?)

 

だけど程度が低い、天界から追放された神か……その視線は眠っているタマモを見ている。大方九尾の狐を倒した功績で元の地位に戻ろうと考えている浅ましい神だろう

 

(これは一悶着あるかもしれないわね)

 

最悪横島とタマモが危ない。私は嫌や!嫌やあと泣いている横島を見て

 

「横島。今日の訓練は中止にしましょう、このまま遊びに行きましょうか?」

 

訓練を見られると横島がまだ霊能力に目覚めてないことが露見してしまう。そうなれば横島とタマモだけのときに襲われるかもしれない。横島は九尾の狐を庇った人間とかと言う理由で殺されてしまうかもしれない、そのリスクを考えればこれが正しい選択だろう

 

「遊び?どこへ!どこへいくんや!」

 

さっきまでの涙はどこへやら嬉しそうに笑っている横島に微笑み返し、特に考えて無いわと返事を返してから

 

「私の行きたいところ。横島の行きたいところに行きましょう?」

 

私は横島が好きな物は知ってるけど、もう1度新鮮な気持ちで知りたいという気持ちもある。だからそう言うと

 

「そっか。じゃあ色々見て回って、どこかでピクニックもいいかもしれないな」

 

タマモを頭の上に乗せて鞄を手にする横島と一緒に私は公園を後にした。私達のことを監視している神族のことは取り合えず後回しに……いや、正確には

 

「グルルルル」

 

「……上等じゃない」

 

横島の頭の上から私を睨みつけてくるタマモとの睨みあいで神族のことをすっぱりと忘れていたというほうが正しいのかもしれない……横島はその雰囲気を恐れ、空を見つめていたりするのだが、それは全く関係ないので割愛しておく

 

 

リポート2 ナインテール・フォックス その3へ続く

 

 




次回はアシュ様のフェイズとか小竜姫の視点を入れても良いかもしれないですね。今回も少しだけ戦闘の話を入れたいと思っていますので、狐フォームは可愛いので好き、人間時も可愛いのでタマモは好きですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は横島や蛍の出番は少なめですね。彼達の周囲の人間の行動を書いていこうと思います
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート2 ナインテール・フォックス その3

 

「ふむ……イレギュラーと言うのは結構近くに転がっている物だね」

 

蛍から聞いた九尾の狐の転生体と落ちぶれた神族の事。これは確かに予想外の出来事と言えるだろう

 

(逆行者の記憶と言うのはやはりエネルギーが強いのだろうか?)

 

本来目覚める時間よりも早いと言うのは、充分なエネルギーを得る事が出来ただろう。それにオッズ表に

 

タマモ 5.7倍の文字が躍っている。急に数値が上がったのはまだ人間の姿に変化できないだろうからだろう。これでもし人化出るようになればもっと数値が減るかもしれないね

 

(まぁまずは神族の事だね。この周囲にいる神族はっと……)

 

天界から追放され、しかも魔界に落ちることもなかった神族となればそれなりに情報は手に入る。一通り調べて

 

「この2人だね。間違いない」

 

妙神山と天界へ続く馬車の世話役をしていた2人の鬼族。程度が低く名前も蛮と勇と繋げて蛮勇と呼べる、程度の低い鬼だが、これで活躍して名前と天界に戻る事を考えているのだろう

 

(馬鹿だねえ……天界も魔界も九尾の狐を危険視していたのは何千年の前の話だと言うのに)

 

九尾の狐はあの当時には危険視されていたが、今の時代では安倍晴明が自分の名前を売るために時の帝を懸命に治療していた、玉藻前を追放したと言う説もある。人間界はどうかは判らないが、天界と魔界は既に九尾の狐にかけていた賞金を取り下げているのだ。それ所か保護しようとしている流れもあるというのに……

 

(誰かにそそのかされたか?それとも過激派の動きがあったのか……どっちにせよ警戒が必要だね)

 

デミアンとベルゼブブは好きにさせているし、メドーサはまだ寝てる。今私の手元で自由に動けるのは土偶羅魔具羅くらいなものだから、表立っては動けない。こうして情報収集をして天界にリークするくらいだ

 

(最高指導者も何か言ってくれれば良いものを)

 

そうすれば表立って行動できるのだが、今はまだそんなことを出来ない状況と言うのは先日の手紙で理解している。まぁ内容が

 

【逆行者の魂の管理でパンクしそうで無理なので、暫くは1人で頑張ってください きーやん】

 

【この賭けに参加したいって神様仰山おって部下に話をしてる時間は無いわ。悪いけど気張ったって さっちゃん】

 

あの2人を殺してやろうと思ったのは言うまでも無い。とは言え神格で劣っているのでどう足掻いても勝てないのだが……

 

「それとなくヒャクメにリークしておくとするかね」

 

人間界にいるこの2人の鬼は天界追放の前に、龍神の酒と小判を大量に盗んで行った事で天界から指名手配にかけられている。無論下っ端程度にそこまで重要視してないが、他に何かの神具を盗み出している可能性もあるので充分に役に立つだろう。そう考え鬼に対する書類を作っていると

 

「お父さん」

 

「どうしたんだい?蛍」

 

部屋の中に入ってきた蛍は黒い笑顔を浮かべる。一応魔神である私でさえぞくりとする恐ろしい笑みだ

 

「タマモの変化を永久に禁止する封印具とか作れない?」

 

確かにそうすればタマモ君が自分のライバルにならないと思ったのだろう。私も蛍の幸せを祈っているからそれは非常に効果的な案だと思うのだけど

 

「いや、それは無理かな?ほら、ルール見てくれないか?」

 

オッズ表の所に現れている巨大な紅い文字そこには

 

【参加者への妨害行動を禁止する。もしそれをした場合、横島忠夫との縁を切る ※参加者同士の妨害も度が過ぎた場合警告あり】

 

それがあるから私もあんまり妨害できないんだよねと言うと蛍は

 

「うぐぐ、なんてことを」

 

物凄く悔しそうな顔をして握り拳を作っていた。今ならもしかするとダイヤモンドも破壊できると言わんばかりの気迫だ

 

「と、言うわけだからそこの所は諦めてほしい。それとそれとなく天界にあの鬼達の事は伝えておくが、横島君とタマモ君に危機が迫るのは避けることが出来ないだろう。今の時点で横島君はどうなんだい?」

 

そう尋ねると蛍は凄く渋い顔をしながら溜息を吐いて

 

「簡単に開けるはずのチャクラもうんともすんとも言わない……霊力の封印が硬すぎるの」

 

潜在霊力はかなり高いはずなんだけど……それが使えない。可能性としては

 

「今代の英雄としての器だからかもしれないね」

 

もしも私が本来計画していた通りに動いていたのなら、横島君が私を倒すことになる。しかし私の目的は変わってしまったので横島君の霊能力に枷が掛かったのか?それとも最初から一定の年齢になるまで霊能力が使えないのか?

 

「それはとても不味いね……どうしたものか……」

 

「うん。私が傍にいれば良いんだけど……」

 

蛍が傍にいれば下級の鬼くらいなら難なく倒せるだろうが、横島君と霊力を使えないタマモ君では勝てる要素が無い

 

「ヒャクメを上手く利用するしかないね」

 

「……駄女神だから不安」

 

うん、それは判らなくも無い、ヒャクメは元は妖怪でかつての功績で神族に迎えられたという経歴を持つ。悪い神ではないが、その好奇心旺盛な性格に加え、相手の心の中を見ることの出来る心眼のせいで色々と引け目のある神族からは嫌われている女神だ。まぁドジな所もあるのでうだつの上がらない神でもあるが、情報収集能力だけは相当高いから心配だろう

 

「あとは蛍がそれとなく護身用の護符でも持たせてあげれば良い。なんなら私が作ろうか?」

 

私がそう尋ねると蛍は首を振り

 

「横島を護るのは私。これだけは誰にも譲れないから」

 

そう笑って出て行く蛍。私はその小さな背中を見ながら肩を竦めながら

 

「さてと作業を再開するかな」

 

ヒャクメの興味を引くような文を作り上げ、私は追跡されないように細心の注意を払い。3つの経路を経由してヒャクメの元に完成した文を送った。それは経路を経由するごとに文字化けするだろうが、それが却ってヒャクメの興味を引くはずだから

 

「さてと、お前達。横島君を頼むよ」

 

「「「キキ」」」

 

私の手の上から飛び立つ3匹の使い魔を見送り、私はイスの背もたれに深く背中を預け目を閉じた。さすがに少しばかり疲れた、少しの間だけ眠ろうと想い。目を閉じたのだった……

 

 

 

「ん?これはなんなのね?」

 

天界でトランク型のPCを操作していた女性の眉がピクリと動く。民族衣装に目玉を模したアクセサリーを身につけたその女性の名は「ヒャクメ」。全てを見通す心眼を持つ女神であり、情報収集と分析に長けた神なのだが

 

「こ、これは面白そうなのね!!」

 

その好奇心旺盛な性格に心眼と言う能力のせいで、興味を持てば人の心の中でさえ無断で覗き込んでしまう。能力は高いが嫌われ者でもあった。そんなヒャクメが目を輝かせたのは人界から送られてきたある文書

 

【■■にて転生したと思われる■■■■が目覚めた。無垢なるそれは東京の地で■■■■と言う人間に拾われて■らしている。かつての■の記■は無いのか、その人間に■いて暮■■ている。だがかつて天界から■■された■と■の鬼が自分達の■■のために、■■の狐とそれを■■している人間に■■を■えようとしている。■■に対策求む】

 

所々文字化けしたその文章をみて私は目を輝かせた。■■の狐。これはもうどう考えても

 

「九尾の狐なのねー」

 

膨大な霊力の反応があったけど、すぐにその反応が消えたから誤認識と思ったけど、この文章で確信した。九尾の狐は無事に転生を果たして今は人間と共にいると

 

「そうと判れば早速探すのね!」

 

九尾の狐は妖怪の中でも最も神に近い妖怪。かつてある人間のくだらぬ野心のせいで死んでしまった不遇な妖怪。それが九尾の狐……つい700年ほど前に冤罪と判明し、保護対象の妖怪になっている妖怪だ

 

「えーとここはんーと……たぶん。蛮と勇なのね、あの手癖が悪い馬鹿妖怪兄弟」

 

かつては妙神山と天界の馬車番をしていた鬼族だが、あろうことか龍神王の酒を盗み、更に幾つかの神具を奪った事で指名手配になっている鬼だ

 

「どうせ九尾の狐を倒すために~とか大義名分を掲げるつもりなのね~」

 

今更そんなことをしても天界になんて戻れないのに馬鹿なのね。しかし問題は別にある

 

「九尾の狐と一緒にいる人間なのね」

 

蛮と勇は一応神族扱いの鬼だが、元は人食い鬼。その人間が危ない、ただでさえ今デタントに向けて動いているのにそんなことをされては元も子もない。それに……

 

「あの気難しい九尾の狐が一緒にいるってことは相当魂の綺麗な人間に違いないのね」

 

九尾の狐は妖力も高いうえに神格を持つことも出来る妖怪だが、その本質は庇護者。護られることを望む妖怪だ、そんな存在が人間の傍にいるのは権力者か、居心地が良いからとしか思えない。そして可能性としては後者の確率が高いのだ

 

「んーとんーとどこにいるなのねー」

 

九尾の狐の妖力と透き通った人間の魂を探す。今の時代には九尾の狐が心を許す人間なんてそうはいないからすぐに見つけることが出来た……

 

【よーしよしよし】

 

【クウ♪】

 

胡坐をかいて座る少年の膝の上でブラシで毛を梳いて貰ってご機嫌そうな狐。その尾は2本……九尾の狐の力も感じるから間違いなく、この狐が九尾の狐の転生体だろう

 

【リボン買ってきたけど結んでやろうか?こっちの首輪が良いか?】

 

【クウ】

 

少年の手のリボンに頭を摺り寄せる子狐。その顔はとても穏やかで警戒心なんて丸で見えない

 

(ああ、なんか羨ましいのね……)

 

妖怪から神になった私に友達と呼べるのは小竜姫だけ、良いも悪いも真っ直ぐな彼女だけだ。そしてあの少年はあの狐が妖怪だと知っていてもなおああして笑いかけている。それがとても尊い物見えて、思わず羨ましいと思ってしまった。

 

「っといけないなのね、とりあえず見つけたから小竜姫に頼んでおくのね」

 

少し調べたのだが、蛮と勇が盗んだのは小竜姫の死んだ父君の刀と龍神王の扇。小竜姫は蛮と勇を探していたが、妙神山の管理人と言う立場上表立って動けなかったが、こうして動き出したと言う証拠があれば、小竜姫は妙神山の最高責任者である老師に頼んで人界に下りるだろう。それであの少年と九尾の狐の転生体の安全は保障されるはずだ。そう判断して一応私の上司扱いになっている神に妙神山に下りる許可を貰いに行きながら

 

(あの子綺麗な目をしてたのねー)

 

いまどき珍しい綺麗な目と魂をしていた。少しだけ記憶を覗いたが、女好きでスケベらしいがあの年齢はそんな物だろう。無理やりやナンパも失敗すると知っててする辺り変わった面白い少年だ

 

(私の事はなんて思うのかな?)

 

心の中を読んでしまう神。普通ならいやがられるけど、あの少年はどうだろう?九尾の狐のように私に手を伸ばしてくれるのだろうか? 

 

【あの人はとってもお人好しだから、絶対手を伸ばしてくれるなのねー】

 

「今の声はなんなのね!?」

 

突然聞こえた自分じゃないけど自分の声に驚き振り返るけど姿は見えない。疲れているのかな?と首を傾げながら私は早足で歩き出しながら

 

(そういえば小竜姫もこんな事を言ってた気がするのね?)

 

夢で見る自分じゃない自分の記憶。そして自分の声、もしかして私も小竜姫と同じ?小竜姫にノイローゼとかストレスじゃないのね?と言っておきながら?

 

「ゆ、有給を使って身体を休めるのね!それが良いのね!!」

 

私は自分に言い聞かせるようにそう呟き、さっさと書類を書いて有給を手に妙神山に向かったのだった

 

【ふふふふ、やっとなのね~ここからは私のターンなのね~】

 

「頭の中で声がするなのねー!!!」

 

半泣きで走るヒャクメはその間延びした喋り方と違い、結構追い詰められていたのかもしれない。そしてそれは

 

「NO-ッ!!!増えてる!また増えてるううう!!!」

 

いきなり紅い文字で「ヒャクメ 3.5倍」とオッズ表に浮かんだのを見てアシュタロスは、頭を抱えてそう絶叫したのだった……

 

 

 

 

「へへ、これでやっと天界に戻れるぜ。兄貴」

 

「だな。長かったぜえ?1700年」

 

くっくっくと喉を鳴らしながら歩く、体の大きい2人組み。兄貴と呼ばれている所を見ると兄弟なのかもしれない。

 

「上等な酒につまみ。早く九尾の狐を殺して妙神山に連れて行かないとな」

 

「ああ。そうだな」

 

くっくっくと下卑た笑い声を上げる蛮と勇の二鬼の兄弟。かつての自分達の罪など九尾の狐の首でなんとでもなると思い込んでいるその2匹の鬼は闇に紛れてゆっくりと歩き出す、2人合わせて蛮勇だがその実2匹とも頭は非常に切れてるほうだ。だからこそ上級神族と魔族でさえ切る事が出来る龍牙刀と、結界を作り出す扇を奪い逃走したのだ。それは逃げたのではなく、指名手配の魔族を倒すためだったと言い張るために、そして2人はとても慎重な性格をしていた

 

「兄貴。九尾の狐の力が増す満月の夜は駄目だ。下手をすると完全覚醒されちまう」

 

「判ってる。仕掛けるのは新月の夜だ」

 

新月の夜。妖怪の力が一番低くなる一晩。その一晩に全てを終わらせると呟く蛮

 

「あと2日かあ、長いなあ」

 

にやりと笑いながら言う勇。その顔はそんな事など思ってないと言うのが判るほどに楽しそうだ

 

「何言ってやがる。1700年と比べれば一瞬だ」

 

ちがいねえと再び笑い合う蛮と勇の視線の先には浮浪者が集まっている公園が見える

 

「前祝いに食っちまうか?」

 

「いいねえ、食っちまおうぜ」

 

2人は本性である鬼の姿に戻り、浮浪者達へ襲い掛かったのだった。1度は神族にまでなった鬼だが、1700年と言う月日の中で神気は全て抜け落ち、本来の邪悪な姿に戻っている蛮と勇が再び神族に戻ることはありえない、だが既に狂いきっている2人にはそれが判らない。そんなことを理解する知性は当に消失してしまっているからだ、今蛮と勇に残っているのはかつての地位へ戻る事とそしてそこに戻るための手段だけである……そして新月の夜は刻一刻と迫っているのだった……

 

 

リポート2 ナインテール・フォックス その4へ続く

 

 




今回は少し短めでしたね。次回からはシリアスで行こうと思っているんですが、ここまでかいて思うんだ。横島のキャラが違うのでは?と言う不安が……横島は横島らしくとい言うのはとても難しいのだと改めて実感いたしました。でも書いてるのは楽しいので頑張りますけどね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回は若干のシリアスと戦闘回で行きます。かっこいい横島は居ませんがすこしかっこいい横島はいるかも知れません。と言うかあれですね、書いて気づくんですけど、キャラが少ないと横島を暴走させることが難しいと気付きました。ので早めに原作のイベントに入るべきなのは?と思いつつありますね。それにまだヤンデレを書けてない、それが一番の誤算だったりするのですよ。もっとすんなりかけると思ってたんですけどね、と言うわけで早めに原作に入れるように頑張りたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート2 ナインテール・フォックス その4

 

蛍と出かける約束をしていたのだが、約束の時間よりも大分早く着てしまった俺は、蛍が来るまでの間タマモをリュックの中に入れたまま

 

「お嬢さん!僕とお茶をしませんか!」

 

「顔を洗って出直してきなブサイク」

 

「君のためなら死ねる」

 

「かってに死ねば?」

 

だがその結果は予想とおり惨敗。そして……

 

「ヨ・コ・シ・マ?」

 

地獄のそこから聞こえてくるかのような蛍の声にブリキのように振り替える。そこには前髪で目を隠している蛍……

 

「か、かんにんしてええええ!!!ぐぎゃあああああ!?」

 

無表情で機械的に拳を振り下ろしてくる蛍の姿がトラウマとして心に刻まれたのは言うまでもないことだろう

 

「反省してる?」

 

「ハイ。真に申し訳ありませんでした」

 

街の往来の中で土下座。もうなりふり構わず蛍の機嫌を取らないと次の訓練で死ぬ、それを確信していた俺はもう土下座外交をするしか手段がなかった

 

「ガルルルルル」

 

タマモが思いっきり頭に噛み付いているけどそれも我慢だ。俺が全て悪いのだから

 

「判ったわ。今回だけ見逃してあげるから行きましょうか?」

 

「蛍!温情どうもありがとうございます!」

 

良かった良かったと思いながら、立ち上がった俺に蛍は会心の笑顔で

 

「次の訓練は厳しくするけどね?」

 

世の中そんなに甘くないと俺は理解した。何故なら目が全然笑ってないからだ……会心の笑顔なのに目が笑ってない、それがどれほどの恐怖か判るだろうか?俺は次の訓練の事を考え滝のよう涙を流しながら

 

「……はい」

 

ぺしぺしと俺を慰めるように頭を叩くタマモの優しさが心に染みた春だった……

 

「それで横島。私の上げたお札はちゃんと持ってる?」

 

クレープを齧りながら尋ねてくる蛍。なお言っておくが、蛍の金は使っていない。お袋に話をしてちゃんと小遣いを貰ってきているからだ

 

「持ってるぞ?これとこれだろ?」

 

首から下げるお守りとポケットの中に入れている札。蛍が言うには霊能力を思い通りに使えない霊能者は悪霊に狙われやすいらしい。念のためのお守りとして持っておくように言われている

 

「それはちゃんと持ってないと駄目だからね?」

 

「判ってるよ。何回も言われたからな」

 

絶対に身につけていろと何回も言われている。いくら俺が馬鹿でもここまで言われたら忘れるはずが無い、それに……

 

(色気は無いけど、初めてもらったプレゼントやしなぁ)

 

お守りと言う事で色気は無いけど初めて女性から貰ったプレゼント……言われなくてもずっと身につけているに決まっている

 

「所で今日タマモ元気ないわね?どうかしたの?」

 

リュックの中から顔を出しているタマモを見ながらそう尋ねてくる蛍。俺は首を傾げながら

 

「判らないんだ、普段は揚げを5枚は食べるんだけど、今日は1枚だけ。それにずっと寝てるし……」

 

なんか調子が悪いみたいだから連れて来たくはなかったんだが、足に噛み付いてはなれないので連れてきた。だけど病院にも連れて行けないのでどうしようと思っていたというと

 

「新月だからよ。妖怪って月の満ち欠けに大分影響されるのよ。タマモは子狐だから妖力をうまく調整できないのね」

 

新月?そういえば今日はそうだった気がする。じゃあ

 

「明日になれば元気になるのか?」

 

「なるわよ。新月の日だけだからね」

 

良かった病気とかだったらどうしようかと思っていたからだ。これで一安心した

 

「それじゃあ今日はどこに行くんだ?」

 

「特に予定は無いわ。横島と一緒なら何をしてても楽しいし、特に予定なんてなくても大丈夫よ」

 

蛍が俺の顔を見て笑いながら言った。その顔はとても綺麗で思わず見惚れてしまったのは言うまでも無い……

 

(ごめんね。横島)

 

だがその笑顔の裏で蛍は横島に謝っていた。新月の夜、蛍と優太郎の予想では蛮と勇の鬼兄弟が動く夜。しかし蛍がいては襲ってはこないだろう。だから横島とタマモにお守りの護符を持たせて囮にする方法しかなかった

 

(心が痛いわ……)

 

横島とタマモの安全を護るためとは言え、一時的にでさえ横島を危険に晒す事に蛍は心を痛めているのだった……

 

「それじゃあ、何かプレゼントする!アクセサリーとかどうだ」

 

そんな蛍の気持ちを知らない横島は純粋に蛍と出かけれることを喜んでいた。それがまた蛍の心を締め付けるのだった……

 

 

 

 

蛍が表面上は笑い、内面で泣きながら横島と一緒に過ごしているころ。妙神山では

 

「蛮勇の鬼兄弟を見つけた!?本当ですか!ヒャクメ」

 

久しぶりに遊びに来ていた友人のヒャクメの言葉を聞いて、一瞬で頭に血が上り

 

「ほ、ほほほ……本当なのねえ!お願いだからふりまわさないでええええ」

 

ヒャクメの声に我に帰る。私はヒャクメの襟首を掴んで振り回していた……

 

「すいません」

 

「けほ……べ、別に良いなのね」

 

けほけほと軽く咳き込むヒャクメ。だけど長年探していた蛮と勇の情報を聞いて冷静ではいられなかった

 

(やっと、やっと……取り戻す事ができる)

 

父の遺品「龍牙刀」その名の示すとおり龍の牙を鍛えて作った剣であり、神剣だ。本来は私が父から引き継ぐ予定の一族の家宝だったのだが、蛮と勇が龍神王の酒と小判を盗んだ事件の折。私用に打ち直されるために宮殿に預けられていた龍牙刀も奪われてしまった

 

「だけどちょっと不味い状況なのね?」

 

「不味い状況とは?魔族と結託でもしているのですか?」

 

蛮勇は本来は人食い鬼だ。だけどその鬼の本能を押さえ込む事ができる知性とその強大な力を認められ、馬番として神族に迎えられた鬼だが、職務怠慢を咎められ再び鬼に戻されると聞いて窃盗をし、逃げ出した鬼だ。魔族と結託していたとしても驚く事ではない

 

「九尾の狐を殺してその殊勲で神族に戻ろうとしているのね」

 

その言葉に呆れた。既に神気も全て抜け落ち、邪気に満ちているあの二鬼が今更神族に戻る事なんてできはしない

 

「九尾の狐の場所は確認しているのですか?それならばすぐに許可を取って人界に下りますが?」

 

九尾の狐は保護対象の妖怪だ。その強大な妖力と霊力。そして知識……どれをとっても妖怪の枠に収まる存在ではなく、神でも魔にもなる妖怪として保護対象になっている

 

「人間に保護されてペットとして過ごしてるのね」

 

「は?」

 

一瞬ヒャクメの言った言葉が判らなかった。九尾の狐といえば人間不信で有名だ。そんな九尾の狐が人間と一緒にいるなんて信じられない

 

「これを見るなのね」

 

ヒャクメが写真を数枚差し出してくる。それを見て私は

 

「また心眼を悪用しましたね?」

 

ヒャクメの心眼は心の中を覗くだけではなく、道具を併用すればどんな場所でもどんな結界でもすり抜けてその場を盗撮する事が出来る。だがその殆どを自分の好奇心を満たすために使い謹慎を申し付けられたのは記憶に新しい

 

「そ、それとこれは別なのね!あくまで身辺警護のためなのね!」

 

慌てた様子のヒャクメを見ながら差し出された写真を見て

 

(この人は!?)

 

黒い学生服に赤いバンダナ姿。夢で見る青年と瓜二つの容姿をしている少年の膝の上で伏せている2尾の狐。それは力が足りないから本来の数の尻尾を作り出すことの出来ない九尾の狐だと判る

 

【どうして……どうして私よりも先にタマモが】

 

「つうっ!!!」

 

夢の中で聞こえる声が突然頭の中に響く、そして激しい頭痛が私を襲うと同時に言いようの無い焦りと焦燥感とどろどろした暗い感情が胸の中に広がっていくのが判る

 

「小竜姫!?どうしたのね?

 

突然の私の変化に気付いたヒャクメが心配そうにそう尋ねてくる。私は大丈夫ですと小さく呟き

 

「それでこの少年と九尾の狐はどこに?今日は確か新月のはずですよね?」

 

蛮勇兄弟が動くのは九尾の狐の力が一番落ちる新月の夜しかない。子供とは言え九尾の狐と戦うのはリスクが高い

 

「東京なのね、場所ももう調べてあるのね。だから後はお願いするのね」

 

ヒャクメの言葉に頷き、私は妙神山を後にした。許可自体は既に下りているので特に問題はなかったのだが、私は龍牙刀を取り返したいから蛮勇兄弟と戦うのか、それともあの少年に会いたいから人界に降りるのか?それが判らなかった、それに

 

(最近頭の中の声が大きくなってきてる気がするんです)

 

前は寝ている間しか聞こえなかった声も今は何かのきっかけで聞こえてくる。その声はあまりに暗く、そして自分をその闇の中に引きずる込もうとしているのが判る、だけど

 

(それが落ち着くって……思うのは何故なんでしょうか)

 

その闇の中に居るほうが落ち着くと思う自分がいる。確かに闇の中に落ちるが、その代わりに求め続けた何かが手にはいるような気がする……

 

(私はどうしてしまったのでしょうね)

 

最初は不快だったはずなのにそれが今や心地良い……その奇妙な感覚に自分がどうなっていくのかの不安と奇妙な安心感。相反する2つの感情を抱きながら私は人界に降りたのだった……

 

 

 

小竜姫が人界に降りた頃。とあるビルのフロアに事務所を構える女性がその整った顔を歪めていた

 

「人間を食い殺す……普通に考えれば妖怪だけど……残った霊力の残滓で考えると……」

 

浮浪者5人が食い殺された事件の依頼を受けた凄腕のGS。美神除霊事務所所長「美神令子」は眉を顰めながら集めてきた遺留品を見て

 

「これは4000万じゃ全然足りないわね。もっと要求しないと」

 

腕は確かだがそのがめつい性格のせいで、魔族よりも凶悪と言われる彼女だが、その腕は業界NO1と謳われるだけあり非常に凄腕だ

 

「鬼……しかも結構強い鬼ね」

 

最初は何かの獣の人食いでは?と予想を立てていたが、獣の妖怪では人間の骨ごと噛み砕くなんて真似を出来るのはそうはいない。そして慎重に調査をして見つけたのだが

 

「現場に残る足跡……どうみても鬼よね」

 

歩幅2メートル。足のサイズ90センチ強……これから推測されるのは鬼か獣人方の妖怪しかありえないが、東京なんて場所に獣人が出るわけも無い。必然的にその妖怪は鬼と推測される

 

「他のGSにも協力を求めるしかないかもしれないわね。あーとんだ散財よ!」

 

鬼しかも足跡は2組。鬼は龍族と比べれば弱い妖怪だが、それでも脅威となる存在だ……それを知っている美神令子は頭をガシガシとかきながらイヤイヤと言う素振りを見せながら、協力してくれるであろうGSの事務所を回る為に事務所を後にしたのだった……

 

 

 

 

日が落ち、月が昇った頃……

 

「はぁ!はぁ!くそ!どちくしょおおおお!!!俺が!何をしたって言うんだよおお!!!」

 

悲鳴を上げながら逃げ回る。腕の中に居るタマモをしっかり抱きしめる

 

「クウ……」

 

心配そうに頭を胸に擦り付けてくるタマモに

 

「大丈夫だ、心配すんな」

 

蛍と別れた後家に戻る途中で気がつけば周囲の人間の姿は消え、何の音も聞こえなくなり。何かやばいと思った俺の前に現れたのは2匹の鬼。片方は右目がなく、もう片方は左目の無い鬼は何も言わず俺を襲ってきた

 

「げっははは!こうして逃げる人間を追いかけるのは最高に楽しいぜ」

 

「そうだな。捕まえて食い殺すのが楽しいんだ」

 

凄まじい足音と鬼の言葉を聞いて顔を青褪めさせる。捕まれば殺される、それが判ってるから1度も止まらず走り続けてきたのだが

 

「遊びはそろそろ終わりだ。人間」

 

「そういうこった」

 

いつの間にか俺の前に回りこんでいた鬼を見て、慌てて立ち止まる

 

「その狐を寄越せ。そしたら一思いに一口で殺してやる」

 

「そうだぜ。痛いのは一瞬の方が良いだろ?」

 

下卑た笑い声を上げながら言う鬼。霊力も使えない、札も無い。どう考えても死ぬ……それが判っていたが

 

「やだね。お前なんかに可愛いタマモを渡すかよ!!!」

 

俺が走りながらそう叫ぶ。だが今度は逃げ出すことは出来ず

 

「言っただろが?遊びは終わりだってな」

 

「げはっ!?」

 

扇で強打され思いっきり殴り飛ばされる。それでもなおタマモをしっかり抱き抱えていると目の前の鬼が

 

「その狐が何なのか知ってんのか?あの九尾の狐だぜ?傾国の大妖怪。そんなんを庇う人間は罪人だよなあ?}

 

「そうだぜ兄弟。こいつはきっともうあの妖怪に騙されてもう狂ってるんだぜ」

 

俺からすれば手前らの方が狂ってるぜ……と言ってやりたいが、今の一撃で禄に息が出来ず、視線だけで抵抗するのが手一杯だった

 

「罪人は殺しちまおう」

 

「そうだな。殺しちまおう」

 

嬉々とした表情で扇と刀を振りかぶる鬼。タマモを抱き抱えて小さくなると同時にその一撃が放たれた……だがそれは俺に届く事はなかった

 

「あ?結界?」

 

「ただの人間じゃなくて、退魔師か!こいつはご馳走だ」

 

蛍がくれたお守りから淡い光が放たれその攻撃を防いでくれた、だがそれは2匹の狂った鬼にはただの破壊して遊ぶ玩具程度にしか感じられず、何度も何度も扇と剣を叩きつけられて。それはあっけないほどに砕け散り

 

「ごぼお!?」

 

返す刀の柄で思いっきり顔面を殴られ。俺はサッカーボールのように吹っ飛ばされ、その衝撃で腕の中に抱え込んでいたタマモを手放してしまった……

 

「クウ!クウ!!」

 

前足で俺の顔を叩くタマモ……ずしずしっと重い足音を立てて近づいてくる鬼。逃げなければと思うのに身体は動かない

 

「さーて……勇半分ずつな。俺は足を食うからお前頭食えよ」

 

「良いのか兄貴!最高だ」

 

俺の身体を持ち上げて笑う鬼。タマモはふうううっと尻尾を立てて威嚇しているが、その鬼達はそんなのを気にした素振りも見せず、俺を投げ飛ばし大きく口を開く。

 

(ああ。死ぬのか……)

 

あっけないほどに死ぬという事実を受け入れてしまった。みっともなく泣き喚く事も逃げようとおもう気にもならず……俺の中にあったのは

 

(悔しいなあ……)

 

何にも出来なかった自分に対する言いようの無い怒りと妙な悔しさ。それと蛍とタマモのこと……何もかもがゆっくりに見える中……俺の耳に飛び込んできたのは

 

「フウウウウッ!!!」

 

憎悪と怒りに満ちたタマモの唸り声

 

「「ギギャアア!!!」」

 

鬼達の苦悶のうめき声。俺は鬼に放り投げられた勢いのまま地面に叩き付けられ、その衝撃で意識を飛ばされかけながらも見たのは

 

「フーッ!フーッ!!!」

 

漆黒の着物に身を包んだ紅い目の女性の姿、その目は怒りしか映しておらず、その背後には半透明の9本の尻尾が揺らめいていたのだった……

 

 

リポート2 ナインテール・フォックス その5へ続く

 

 




小竜姫はおキヌちゃんの次くらいにヤンデレが似合うと思うんだ。違うと言う意見は聞かないのであしからず。情けない横島をかきたいのに少しかっこいい横島になってしまう謎。これが解決する日は来るのでしょうか?そして最後のは言うまでもなくタマモちゃんの暴走です。次回はそこから始めていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回は暴走してしまったタマモと結界の中に入る事のできない蛍の焦りとかをテーマに書いていこうと思います。あと少しだけカッコイイ横島が出るかもしれません……違うって判ってるのになあ……まぁそこは話が進むうちに修正しようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート2 ナインテール・フォックス その5

 

鬼に横島が殴り飛ばされて、私もその衝撃で横島の腕から放り出されて地面を転がった。身体が凄く痛かったけどそれよりも

 

(横島が……私のせいで)

 

横島が怪我をしているということの方がもっと痛かった。横島は馬鹿をやるけど、優しくて私の場所を作ってくれて……私がずっと傍にいたいと思えた居場所なのに、今その場所が壊されようとしていた

 

「さーて……勇半分ずつな。俺は足を食うからお前頭食えよ」

 

「良いのか兄貴!最高だ」

 

動く事の出来ない横島を掴みあげながら下卑た笑い声を上げる鬼。

 

止めろ……

 

止めろ……

 

馬鹿でも判る。このままだと横島がどうなるかなんて……あの優しい横島がこんな屑に喰われて殺される。そんなの認められるわけが無い……

 

(だけど私じゃ何も出来ない)

 

新月の夜……そして今の霊力も何もかも足りない私では何も出来ない。横島の身体が宙を舞い、鬼が大きく口を開いたのを見た瞬間自分の中で何かが切れるのを感じ。そして視界が一気に高くなり、見慣れた毛で覆われた腕が白い陶器のような肌になる

 

(止めろッ!横島に手を出すなッ!!!)

 

両手に赤黒い炎が集まる。それを考えるよりも早く投げ飛ばし鬼は苦悶の声を上げながらのた打ち回る

 

「フー!フーッ!!!!」

 

この馬鹿達は横島を殺そうとした、許さない……ユルサナイ……ゆるさない……潰してやる、切り刻んでやる、燃やしてやる

 

「ア、アアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

 

もうなにも考えられない、判っているのは横島を殺そうとしたこの馬鹿鬼を殺すことだけ……私はそれだけに突き動かされるかのように、怯えた顔で扇と剣を構えている鬼へ飛び掛ったのだった……

 

 

 

「あーもう!!!何よこの結界!どれだけ複雑なのよ!!!」

 

そう怒鳴りながら何とか結界を解除する事を考えるのだが……

 

(魔族払い。しかも最上級の神気と竜気……これは不味いわね)

 

仮に結界を解除したとしても、その中に入れば私も動きを大幅に制限される。横島とタマモを襲っている鬼はまだ辛うじて神気が残っているから抵抗が無いのだろうけど、半分魔族とも取れる今の私では結界の中に進入出来たとしても戦えないと結界を突破する事のできないの2つしかない。こうしている間も横島が危ないって言うのに……

 

(直接転移できる札でも作っておけばよかった!!)

 

転移札の出口となる札を横島に持たせておけばそのまま転移できると言うのに……焦る中でも必死に自分に出来る事を探していると

 

「な、なに!?この妖力は!?」

 

結界の中からでも感じる凄まじい妖力。結界越しでもこれなら中はどれほどの自体になっているのだろうか?

 

(そ、そんなことを考えている場合じゃないわ)

 

今のは間違いなくタマモの妖力。しかしそれは今のタマモの出せる力ではない……

 

(このままだとタマモが消える!)

 

今のタマモは自分の存在を維持する妖力しかない。それなのにこれほどまでの力を使えば間違いなくタマモの霊基構造は深刻なダメージを受けてしまう

 

(戦えなくなるけど仕方ない!)

 

タマモが消えてしまえば、横島の心に深い傷を残す事になる、そうなれば私を見てくれなくなる可能性も充分に考えれる……ううん。そんなのじゃない、私がタマモに消えて欲しくない。蛍の時は色々とタマモさんにも色んな事に教えて貰った……恩人とも言える存在が消えるのはどうしても納得できない。それに

 

(タマモと遊んでる横島はとても可愛いし……)

 

あれほどほにゃっとした顔の横島が見えなくなるのは私としても惜しい、私は結界のほころびを見つけて、そこから結界の中へ潜り込んだ

 

(うっ、これは予想よりもきつい)

 

封印具を外せば何とか普通に行動できるだろうけど、今の九尾の狐の霊力でもしかすると神族が動くかもしれない。そう考えるととてもじゃないけど、封印具を外せる状況ではない。身体にかかる神気と竜気の圧迫感に眉を顰めながら歩く

 

(なんとか霊波砲くらいならいけるかもしれないわね)

 

ソーサーは殆ど紙程度だけど少しは使えるはず……とりあえず周囲を警戒しながら進んでいると

 

「アアアアアアアーッ!!!!」

 

魂を軋ませるような怒りと憎悪の雄叫びが聞こえてくる。この声は……タマモ!

 

「あっちね!」

 

今の声が聞こえてきたほうへ走り出す。時折聞こえてくる爆発音と鬼の悲鳴……それと禍々しいまでの妖力……

 

(完全に暴走してる)

 

怒りと憎悪で暴走しているのだとわかる。九尾の狐は神族と魔族の両陣営からスカウトを受けるだけの大妖怪。どちらになる事も出来る妖怪だ。そして今のタマモは私と横島の知ってるタマモではなく間違いなく

 

(玉藻前になっているのかもしれない……)

 

憎悪と怒りのあまり、前世の姿になっているのかもしれない。下手をすると戻ってこれなくなる可能性がある。少しでも早く暴走を止めなければ

 

「はやくとめないと!」

 

厄珍から買った妖怪捕獲用の護符。これで何とかなるかは判らないけど、これに賭けるしかない!私は霊力の残滓と聞こえてくる爆発音を頼りにタマモと横島を探して結界の中を走るのだった……

 

 

 

(これはとんでもないですね。これが九尾の狐の力)

 

蛍は気付かなかったが、既にこの結界の中には小竜姫が潜り込んでいた。神気と竜気の複合結界。龍族である小竜姫ならば何の抵抗もなく入れるのは当然の事だ。では何故蛮勇兄弟と戦わないのかと言えば

 

「よくも!よくもよくもよくも!!!横島をッ!!!!」

 

完全に怒りに我を忘れて暴走している九尾の狐の事を考えてだ。武神として名を馳せる小竜姫でも完全に暴走している九尾の狐と戦うのか危険だと思わせるほどの霊力と妖力を放っていた。その膨大な力は放電していて近づくのも危険だと思わせるレベルだった

 

(しかしあの力はいつまでも続かない)

 

怒りによる暴走はいつまでも続かない。それは膨大な霊力と妖力を持つ九尾の狐と言えど同じだ

 

「ひいいい!兄貴!兄貴!!!!」

 

「逃げろ勇!捕まったら殺されるぞ!!!」

 

悲鳴を上げて逃げ回る蛮勇の鬼兄弟の兄。蛮の手の中の龍牙刀を見て

 

(酷い……刃こぼれに皹が入ってる)

 

天界1と言われた龍牙刀は竜気の無い鬼に使われてるからか、刃こぼれも皹も修復できずその姿をボロボロにしていた

 

(もう見ているだけなんて無理です)

 

九尾の狐に襲われる可能性はあるけど、このまま無理やり使われたら龍牙刀が折られてしまう。私は妙神山から貸し与えられた神剣を鞘から抜き放ち、切り込むタイミングを計っていると

 

「タマモー!!!止めろ!俺は……俺は大丈夫だから!もう止めるんだ!」

 

赤いバンダナを巻いた少年が足を引きずりながら九尾の狐の後を追いかけて来ていた

 

(あ……)

 

今まさに飛び出そうとしていたのにその気が完全に無くなってしまった。夢の中でしか会う事のできなかった少年が目の前にいることに完全に気勢を削がれてしまった……

 

【ああ、やっと。やっと会えた……追いかけないと、今はまだ会えない……だけど顔をもっと見たい】

 

普段は頭痛共に感じるあの声。だけど今は頭痛を感じる事もなく、自然に私の耳に届いた。抜いた神剣を鞘に収め私はその少年を追いかけて家の屋根から屋根へと飛び移りながら追いかけていくのだった……その途中どこかで見かけた黒髪の少女を見て

 

(知ってる?私はあの人を知っている?)

 

【どうしてここに、まだ居ない筈なのに】

 

嬉しいような、憎いような、安心したような、不安なような、そんな色々な感情が混ざり合った複雑な気持ちを感じながらも私は屋根を蹴って少年を追いかけていた。けどどこか心の中に引っかかっていた何かが取れたような気がして、少し安心するのだった……

 

 

 

くそ、タマモどこに行ったんだ!痛む足を引きずりながら追いかけてきたが完全に見失ってしまった

 

(九尾の狐とか言ってたよな……)

 

話に聞いたことはあるがそんなのは俺にとってはどうでもいい。タマモはタマモ。それでいい

 

「横島!」

 

「蛍!?どうして……つう……」

 

ここに居ない筈の蛍の声に振り返るまでは良かったのだが、痛めていた足では踏ん張る事が出来ずそのまま転んでしまう

 

「大丈夫!?」

 

駆け寄る蛍は見たこともないくらい焦った顔をしていて、俺に護符を当てながら

 

「ごめんなさい!こんな事になるなんて思ってなかったの!タマモが狙われてるのは知ってた、すぐに助けに来るつもりだったんだけど結界が邪魔で」

 

泣きながら言う蛍。つまり蛍はこうなるかもしれないってことは判ってたのか……

 

「怒ってる?」

 

不安そうに尋ねてくる蛍。怒っているか?と言われると返事に困る。蛍は俺とタマモの事を考えて行動してくれていた筈だ。少し計算外の事があったから助けに来るのが遅れたのだろう

 

「ああ。怒ってる「ごめ……」だからタマモを無事に保護したら、また遊びに行こう。今度は遊園地に行こう」

 

「え?」

 

驚いた表情をする蛍。護符の効果で漸く痛みが取れてきたので立ち上がりながら

 

「蛍は最善を尽くしてくれたんだろう?ただ鬼が予想外に強かった。そうだろ?」

 

こくりと頷く蛍。何でもかんでも計算通りにいかないのは当然のこと……今回もそうだっただけ

 

「俺は蛍を信じる。だけど今回見たいのは困るから、今度からはそう言うのは教えておいてくれよ?」

 

教えてもらっておいても何も出来ないんだけどな。今の俺だと……霊力も何も使えないんだから

 

「横島……」

 

「あとあれな?お弁当頼むぜ。1度で良いから女子の手作り弁当を食べてみたいんだよ」

 

俺が笑いながら言うと蛍も小さく笑う。今するのは後悔する事じゃない、タマモを助ける事だ

 

「約束するわ。タマモを助けて、3人で出かけましょう」

 

「おう!行こうぜ!」

 

蛍のしたことは多分正しい、ただ少し計算外のことがあっただけ、俺もタマモもまだ無事だ。なら怒る必要も責める必要もない

 

「横島。これを」

 

走りながら渡された護符を見る。今まで練習で使っていた物とは違う、何か特別な護符だと判る

 

「これはなんや?」

 

「妖怪捕獲用の試作用の護符らしいけど、試してみたら霊力と妖力をある程度吸い取る物だと判ったわ。これでタマモの力を吸い出せば元に戻るけど……」

 

「けどなんだ?」

 

蛍は少し考える素振りを見せてから

 

「タマモが九尾の狐の力を取り戻すのに時間が掛かるかも」

 

タマモが九尾の狐と言うのはあの鬼から聞いた。言い換えればタマモが九尾の狐だから襲われたってことだから

 

「それメリットちゃうんか?タマモが安全になるんちゃう?」

 

「……そういえばそうね。これはデメリットじゃなくてメリットね。その間に私か横島がGS免許を取れば保護妖怪に出来るし」

 

デメリットは無いと言う結論になった俺と蛍は頷きながら走る速度を増させた。タマモが力を使いきる前に早く見つけないと……

2人で結界の中を走っているとすぐにタマモの姿は見つかった

 

「ア、ア……ウアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

頭を抱えて絶叫する女性。黒い着物にナインテールとでも言うのだろうか?奇妙な髪形をした女性は自分の身体に纏わりついてくる黒い闇を振り払うかのように炎を待ち散らし、長い黒髪を振り回し暴れていた

 

「いけない。暴走した時の霊力で周囲の雑霊を吸収しすぎたんだわ……このままだとタマモが危ない」

 

近くにあの鬼はいない。自分達が手出しできる相手じゃないと理解して逃げ出したようだ

 

「どうするんや……?」

 

今タマモがいるのは公園だ。確かに広い場所だが、タマモが出鱈目に放っている炎のせいでとてもじゃないが近づける雰囲気じゃない

 

「近づいて札を貼るしかないんだけど……「アアアアアアアッ!!!」っこれだもんね!」

 

蛍に向かって飛んできた炎。蛍はそれを手の平に霊力の盾を作り出し防ぐ

 

(あれ?なんでわいにとんでこないんや?)

 

俺と蛍の立っている場所は殆ど同じ、見ている間で4つは蛍に炎が飛んでいるが俺には向かってきてない

 

「蛍!それ霊力なくても使えるんか?」

 

「つ、使えるけど!ああ!もう!この結界鬱陶しい!!!」

 

蛍の話では、あの結界のせいで今の蛍は殆ど力を使えないらしい。だからいつもの余裕な態度はなく必死そうだ

 

「俺が何とかする!」

 

蛍の手の中の護符を奪い取ってタマモの方に走り出す。それを見た蛍が

 

「横島!?」

 

悲鳴にも似た声を上げる蛍。だけど俺には何故か判っていた、タマモが俺を狙ってない事を……蛍には今も炎が放たれているが、俺には炎は疎か火の粉すら届いていない……

 

「あ、アアアア……」

 

頭を抱えているタマモの顔を見る、あの狐がこんな美人になったなんて思えない。でる所は出ているし、切れ長の目もクール系の美人と言うのが良く判る……

 

「タマモ……もう良いんだ。ほら、お前のおかげで俺は怪我無いぞ」

 

両手を広げて怪我をしてないのを見せる。あの時タマモがあの鬼を攻撃してくれたことで俺は無事だった……

 

「ア……ああ……」

 

ゆっくりと手を伸ばしてくるタマモ。その爪が頬に刺さって少し血が出るけど大丈夫

 

「もう大丈夫なんだ。ありがとうタマモ。お前のおかげだ」

 

タマモの背中に伸ばして抱きしめる。自分よりも背が高いからタマモの着崩した胸元が顔の前に来る。普段ならお姉様とか言うが……今はそんなことをしている場合ではない

 

「ヨ、ヨコ……シ……マ?……ケガ……シテ……ナイ?」

 

「ああ、大丈夫だ。全部お前のおかげだ……だけど、お前が怪我をしたら俺は悲しい」

 

霊力と妖力のせいで肌から血が出ているタマモの姿はとても痛々しい……

 

「ヨコ……シマ……カナシイ?」

 

「ああ、悲しいぞ。タマモ……折角会えたんだ、いきなりさよならは悲しいさ」

 

タマモが九尾の狐とかどうかは関係ない、タマモはタマモ。それでいい、俺は蛍から預かった札をタマモの額に伸ばそうとすると

 

「イヤ……イマナラ……ワタシは……アナタヲマモレル……チカラノナイ……スガタニモドルノハ……イヤ」

 

首を振り嫌だ、嫌だと言うタマモ……少ししか一緒にいなかったけど、こんなにタマモは俺の事を思っていてくれたのか

 

「それはあんまりにもみっともないだろ?俺が強くなるよ、そりゃ痛いのも辛いのも嫌だけど……」

 

離れた所で見ている蛍と目の前のタマモを見る。狐の時に何度か見た瞳の色と違う。確信はないけど今の目の前にいるのは……

 

「女に護られるのは余りにも情けないぜ?だから俺が強くなるよ、タマモも蛍も護れるように。だから今は眠ってくれ、それでまた今度会おうぜ。玉藻前」

 

これはただの直感。目の前のタマモは玉藻前でタマモじゃないって俺には判った、なんとなくだけど玉藻前は一瞬驚いた顔をしたが、小さく微笑んだ

 

「……ワカッタ……マタコンドアイタイ」

 

そう笑う玉藻前の額に蛍から預かった札を貼ると、玉藻前の背中の9尾が一本ずつ消え、周囲の炎も消えていく。これで終わりか……

 

「オマエ……キライ。ヨコシマは……ワタシの……ううん……ワタシノモノ」

 

玉藻前はそう宣言すると俺の額に軽く口付けをすると同時にぽんっと乾いた音を立てて狐の姿に戻った……

 

「よこしま?」

 

離れた場所にいたはずの蛍がいつの間にか俺の目の前にいた、前髪で目が隠れていて非常に怖い

 

「……俺のせい!?俺のせいなんか!?」

 

鬼の様な形相をしている蛍は正直、さっきまで俺を追いかけて来ていた鬼よりも恐ろしく。

 

「いっぺん死んでみようか?」

 

「い、いやあああああああ!?」

 

悪魔のような顔をして俺を見下ろす蛍を見て、心のそこからそう絶叫するのだった……

 

リポート2 ナインテール・フォックス その6へ続く

 

 




蛮勇がどうなったのかは次回で判明します。今回はタマモがメインだったので、次回でナインテール・フォックスは終わりですね。
リポート3から少しずつ原作に向けて動いていこうと思います。額にキスでも嫉妬するくらい、蛍はやきもちやきです。やきもち焼きのヒロイン可愛いですよねそれでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回でナインテール・フォックスは終わりの予定です。今回は黒龍姫を出してみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート2 ナインテール・フォックス その6

 

結界の中の外れの中で荒い呼吸を整える蛮勇の鬼兄弟。蹲りぜーぜーと荒い呼吸を整えながら

 

「はぁ!はぁ!あ、兄貴……危なかったな」

 

「ああ……新月でもあんなに強いとは、思っても見なかった」

 

新月の夜ならば九尾の狐を倒す事が出来ると思っていた蛮勇の鬼兄弟だが、暴走したタマモの狐火で焼かれ、その爪で引き裂かれ重傷を負いはしたが何とか生き延び、そして近くに隠れていたのだ

 

「まぁこれで九尾の狐を殺せるぜ。それにあの餓鬼……中々上質な魂を持ってやがる。今のうちに殺しちまおう」

 

蛮勇の鬼兄弟の視線の先には意識を失っているが、タマモを抱きしめている横島とそんな横島の頭を撫でている蛍の姿。今なら殺せると確信しにやにやと邪悪な笑みを浮かべる蛮勇の鬼兄弟。だが彼らは気付いていなかった、彼らの後ろに佇む女性の姿に……女性はその目に何の光も宿さず、腰の鞘から両刃の剣を抜き放ち無造作に振るった

 

「なあ兄……貴?」

 

勇がその目を丸くする。何故なら蛮の首は切り落とされ、その身体はゆっくりと地面に倒れていたからだ

 

「て、てめえは!?なんでお前が「黙りなさい」げぼ……」

 

その女性は非常に整った顔をしていたが、その冷酷な光を宿している瞳のせいで、残酷な審判者のように見えた。彼女は手にしていた剣を無造作に突き出し勇の心臓を貫き一太刀で絶命させた。

 

「横島さんを殺そうとするとは万死に当たる罪ですよ。この小竜姫が許しません」

 

小竜姫と名乗りはしたが、その目と纏う気配は妙神山の小竜姫とは思えないほどに重く、暗い気配を放っていた。魔族と言っても通用するだろう

 

「それでいつまで見ているつもりですか?アシュタロスさん?」

 

振り返りながら言う小竜姫、その視線の先には黒いスーツを纏った男性。芦優太郎……いやアシュタロスは

 

「今の自分を乗っ取るほどに君の力は強いのかね?」

 

魔神たるアシュタロスの目には見えていた。目の前の小竜姫の中に2つの魂が存在している事に……

 

「力じゃなくて想いがですけどね。ごゆっくり話でもしますか?」

 

にこりと笑う小竜姫にアシュタロスは少し考える素振りを見せてから

 

「それならば私の家へ来るかね?蛍は横島君を家まで連れて行くそうだしね」

 

その言葉に一瞬眉を顰めた小竜姫だが、仕方ないと判断したのか蛮勇の奪って行った竜牙刀と扇を拾い上げ

 

「行きましょう。今はまだ時間制限があるので、時間が惜しいですので」

 

そう笑う小竜姫を見たアシュタロスは内心で深く溜息を吐いた。魔神である自分よりも禍々しい雰囲気をしている小竜姫をどう扱えばいいのか?迷っているのは言うまでも無いことだろう……

 

 

 

アシュタロスに案内されて来たビルは何重にも結界が張ってあって、ヒャクメでも覗く事の出来ない一種の聖域になっていた。魔神なので聖域と言うのもおかしな物だが、間違いなくここは聖域だ

 

「紅茶ですか?日本茶は無いのですか?」

 

「私の好みじゃないのでね。そこは我慢してくれたまえ」

 

そう言うことなら仕方ない。差し出された紅茶を啜りながら

 

「それで今の君は蛍がいた時間軸の小竜姫で良いのかね?」

 

私を観察しながら尋ねてくるアシュタロス。私はカップをを机の上に戻し

 

「そうですよ、最高指導者が今何をしようとしているのかも、魔神大戦の結末も知ってますよ」

 

最終的には美神さんの裏技勝ちで、非常に腹立たしい上に何もかもぶち壊してやりたいと思っているというと

 

「君さ?もう堕天してない?その気配はもう魔族で充分通るよ?」

 

呆れたという顔をして尋ねてくるアシュタロス。自分でもそんな気はしているが、龍神と言うのは情が深く、一途で盲信的な一面もある。多分それが大きく前に出ているだけだ

 

「私はずっと神族です、もし堕ちていると言うのならそれは横島さんへの愛に他ならないでしょう」

 

物凄く会いに行きたいけれど、今の私に横島さんの面識が無いので会いに行っても、自分が表に出れないので今は我慢するしかない

 

「今表に出れているのは横島君を殺そうとしたあの馬鹿鬼兄弟のせいかな?」

 

「ええ。あの瞬間今の私も殺意を覚えてたので何とか無理やりに」

 

殺意が共鳴したので私が前に出てこれた。出来るのならば殺意ではなく愛や好意での変化の方が好ましいのだが……

 

「君が知っているということはハヌマンは?」

 

老師の事ですね。老師もまた逆行してきてちゃっかりトトカルチョに参加している。何故か弟子である私ではなくおキヌさんと蛍さんに賭けている事は詳しくお聞きしたい所ですけどね

 

「勿論。全てを知った上でどうやって神族と魔族の過激派をおびき出すかを考えていますよ」

 

過激派を燻りださない事には私も思う様に動けないし、それにある程度歴史に沿って動かないといけないので、妙神山に横島さんが会いに来てくれるまでの1年ちょっともどかしい気持ちでいないといけないのは落ち込みますけどね。いやむしろ出し抜かれる事が怖い。ルシオラ……いや蛍さんがどんな手を使ってくるのか判らないからだ

 

「まぁそれは私にはどうもしようも無いので諦めてくれ」

 

「それは私も判っているので大丈夫です。老師にここに来れる様に場所を教えておきます、ではまたいずれ」

 

本当はもう少し話しておきたい事がありますが、この時間の私が目覚めそうなのでその前に妙神山に戻るとしましょう。私はボロボロの竜牙刀を持って妙神山に転移しながら

 

(少しだけど表に出てこれた)

 

殺意という引き金だったが、私は表にでてこれた。それは少しずつだが、今の私に干渉できるほどに力が強まっていると言うことだ。いや、正しくは……

 

(融合し始めている……)

 

現代の私と未来の私が混ざって1つになりつつある。神族・魔族は魂だけの存在、時間軸こそ違えど同じ私こうなるのは必然だったのかもしれない。恐らく私が消えて、現代の私に統一されるだろう。だけどこの想いだけは消えないはず……

 

(今度はもう絶対に諦めませんからね)

 

あんな痛くて悲しい思いは2度としたくない。今度はもう絶対に諦めないと心に誓い、私の意識はゆっくりと魂の奥底に沈み。代わりに現代の私が目を覚ますのだった……

 

残されたアシュタロスは眉を顰めて非常に難しい顔をして

 

「これは蛍にとっては不利かもしれないねえ」

 

同じ想いを持って逆行してきた未来の小竜姫。その想いの重さは言うまでもなく蛍と同じだろう

 

「はぁーとりあえず、美神令子の実績を上げる事を考えるか」

 

今の美神令子は少しだけ知名度が低い、蛮と勇の鬼兄弟は神族・魔族からすればたいした事のない小物だが、人間にすれば充分に脅威だ。これを倒したのを美神令子にすればGS業界での地位はある程度約束される。そうすればいずれあの事務所でアルバイトをする、蛍と横島君に少しは好条件をつけてくれるかもしれないと淡い期待を持ちながら公園に美神令子が足を踏み入れるのを確認してから、広域幻術で美神令子を幻術の世界に引き込んだのだった……そしてアシュタロスの思惑通り。美神令子は鬼を滅した若手GSとしての箔をつけてより一層GSを盛り上げる立役者となるのだった……

 

 

 

 

あの鬼兄弟を退けた次の日。いつものように横島とGSの訓練をしていたんだけど

 

「……横島何かした?」

 

目の前の光景を見て若干思考停止してからそう尋ねる。今の横島は霊力も何もない筈だからこんな事になるわけが無いのに……

 

「……ちゃうねん」

 

ぎぎぎっと油の切れたブリキの玩具のように振り替える横島。その視線の先には中ほどから真っ二つになった大木の姿。普段の練習用の的で例え霊力が使えたとしても5円の破魔札でどうこう出来る様な木ではないはずなのに……

 

「コンッ!」

 

横島の頭の上で誇らしげに鳴いているタマモ。そういえばさっき横島が破魔札を投げた時……一瞬だけで霊力が上がったような……

 

「横島今度はこれ、1円の破魔札を投げてみてくれないかしら?」

 

練習用の1円の護符を投げるように言う。さっきは一瞬しか見てなかったから良く判らなかったけど、今度は最初からちゃんと見ていようと思う

 

「大丈夫なんか?さっき見たいのは嫌やで?」

 

びくびくしながら横島がホルダーから1円の破魔札を取り出して

 

「行けッ!」

 

指の間に挟んで腕と手首のスナップで投擲する。その一瞬だけ霊力が発現し的の木にぶつかると同時に炸裂し、その大木をへこまさせる。当然ながら1円の破魔札の威力ではない

 

(軽く見積もっても2000から8000代後半の威力ね)

 

あの一瞬で破魔札の中の霊力を刺激して必要以上に込められた破魔札が一種の爆弾のようになっている。理論的にはサイキックソーサーと同じだが、それよりも霊力の消耗が少ないという利点はあるが、消耗品の破魔札を使うのが少し痛いわね

 

「わ、わい!パワーアップしとる!」

 

身体を震わせて喜んでいる横島。今日は珍しくやる気だったのは昨日の鬼兄弟の襲撃で何も出来なかったからで、少しは変わるかな?と思っていたけど、これは予想以上のパワーアップだ

 

(これで1万とかの破魔札を使ったらどうなるのかしら?)

 

少なくとも桁が1つ上の威力になるわけでとても経済的なはずだ。まぁ使いところが難しくなりそうだけどね

 

「コン!コン!」

 

「ん?もしかしてお前のおかげか?タマモ」

 

「コーンッ!!!」

 

正解と良いたげに元気良く鳴くタマモ。先日までは尾が2本だったが、今は1本になっている。霊力と妖力を使い切ったのでさらに霊格が下がっているのだ。今ではただの狐にしか思えない、タマモが何かした?と言って思い浮かぶのは昨日の玉藻前がしたこと

 

「横島。ちょっとこっち来て」

 

若干その事でいらついた事を思い出したけど、その事で横島を怒るような器量の狭い女じゃないから、きっと私は笑顔のはずだ

 

「ひいッ!?」

 

なんか横島が引き攣った悲鳴を上げてるけど気にしない、おどおどと近づいてきた横島の目を覗き込む

 

「な、なんや?目が怖いで」

 

横島の身体の中の霊力のラインを探す。強固な弁で開くことの無い霊力の通路を探していると、横島がおどおどと尋ねてくる。霊視はあんまり得意じゃないから怖い顔をしてるかもしれないけど、そこは我慢して欲しい

 

「ちょっと静かにして」

 

集中して横島を霊視する。私の予想が正しければ……

 

「あーなるほどね。とんでもない加護を授けたわけね?」

 

横島の頭の上のタマモを見て呟く。タマモは当然と言いたげの顔をしている

 

「えーとタマモがわいになんかしたんか?」

 

どういうことかわからないと言う顔をして尋ねてくる横島。もし世のGSが知れば羨ましいと妬むほどの加護が今の横島には憑いている

 

「したわね。しかもとんでもない加護を残してるわ」

 

玉藻前がしたのは本来は自身の眷属を作る術。だけど横島は人間で玉藻前の眷族たる資格を持つ狐や狼ではない。眷属として霊格を上げる術はそのまま横島自身の霊格を上げたわけだ、だけど横島の霊力は膨大だ、その鍵を開けるのは玉藻前でも不可能だったらしく、一時的に霊力の弁をあけるのが手一杯だったようだ

 

「まぁ九尾の狐の加護って感じね。多分今の横島なら火は全然効かないじゃない?」

 

九尾の狐といえば幻術と火炎を得意とする妖怪。その妖怪の加護なのだから間違いなく、幻術系と火炎系の霊力や妖力はその効力を薄めるだろう

 

(これなら美神さんも人並みの給料を出してくれるかも)

 

破魔札の強化に幻術と火炎の耐性。これなら250円なんてありえない時給は無いはずよね。うんうん、小竜姫や私じゃなくてタマモの加護って言うのが気に食わないけど、これは仕方ないので割り切ろう

 

「た、タマモ……蛍が怖い顔をしてるで?お前わいになにしたんや?」

 

「キューン……」

 

視界の隅では横島とタマモがビクビクしているけど、気にしない。今はそんなことを考えている場合じゃない

 

(訓練はもうここじゃ駄目ね、別の場所を考えないと)

 

横島には破魔札のことをもっと詳しく教えないといけないし、いつまでもこの公園だと狭すぎるわ。どこかの山をお父さんに買い取ってもらってそこを訓練所にしましょう

 

「それよりも、横島♪凄いわ!この調子なら予定よりも早くGSになれるかもしれないわ♪!今日はもう訓練を止めて遊びにいきましょう。それがいいわ!」

 

「え?え?急にどうした……待ってえ!首掴んで走らんといてえ!怖い!転ぶ!転んでまうからぁ!」

 

「グルルルルッ!!!」

 

横島の慌てた声も威嚇しているタマモの声を無視して、私は周囲の結界を解除しながら街へと走り出したのだった……

 

 

横島ステータス更新 

 

九尾の狐の加護

 

傾国傾城の大妖怪九尾の狐の「タマモ」と「玉藻前」の加護。横島の潜在霊力の1部を解放している、九尾の狐の加護なので幻術と火炎に若干の耐性を与える。

 

リポート2.5 動き始める物語へ続く

 

 




今回は状況整理みたいな感じになりましたね。次回は少し時間を飛ばしてグレートマザー達がナルニアに行く時間まで飛ばそうと思います。いちおう情けない横島を目指しますが、若干の強化の要素を組み込むので時折、こういう感じでステータスを更新して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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幕話

どうも混沌の魔法使いです、今回の話から原作に入っていこうと思います。ただ本格的な話はもう少し先になるので、今回はつなぎの話なので、短い上に原作への繋ぎとなる話なのであまり面白い要素は無いかもしれませんが、今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

幕話

 

過激派神族と魔族の情報を集め始めて1年と少し……結果は芳しくない

 

「うーむ。中々尻尾を出さないな」

 

向こうも自分達が少数と判っているのでなかなか尻尾を出しはしない。私も一応過激派の魔族に分類されるが、情報は殆どなし

 

(警戒しているんだろうなあ)

 

まだ動く時期には適していない。だから表立って動かないのだろう、ハヌマンも中々尻尾を出さないとぼやいていたしな……

 

「ん?」

 

百合子さんに渡していた直通の電話になる道具が音を立てる、どうしたのだろうか?と思いながら電話の横に置く。これでこの電話は盗聴や録音もされる心配はない

 

「もしもし?どうなされましたか?」

 

「芦さん。実はお願いがあるのだけど」

 

声が固い百合子さん。これは珍しいな、常に自信に満ちている彼女の声とは思えない

 

「近い内に私は夫と一緒に日本を離れてナルニアと言う国に行く事になります。本当なら忠夫も連れて行きたいところなんですが」

 

ここで口ごもる百合子さん、私は何を言いたいのかを理解して

 

「蛍の事もあるので引き離したくないと言うことですね?」

 

「そうなりますね、芦さんも嫌でしょう?」

 

嫌に決まっている。血の繋がりは無いとは言え愛しい娘だ。それに横島君も気に入っているので嫌に決まっている

 

「蛍も悲しみますしね。私としては横島君を日本に置いて行ってくれるのはありがたいですね」

 

しかしそれで電話をしてきたということは、何か私に頼みがあるのでは?と尋ねると

 

「私と夫が日本を離れている間。忠夫の事を見ていてもらえませんか?一応今暮らしている借家は会社の持ち家なのでそのままにしておくのも難しいので、近くに新しく家を借りてあげるつもりなんですが、もし出来るなら忠夫の保護者をお願いできませんか?」

 

断る理由も無いので2つ返事で引き受ける。蛍も喜ぶとおもうしね

 

「ありがとうございます、生活費などはこっちである程度は見ますのでよろしくお願いします」

 

そう言って電話を切る百合子さん。私は受話器の近くに置いていたカードを拾いポケットにしまいながら

 

「あ、いつ日本を発つのか聞き忘れた」

 

芦優太郎、いやアシュタロスはかつては豊穣神イシュタルであり、そして男神になった今でも女神時代の呪い「うっかりEX」はばっちり継承されていたりするのだった……

 

 

 

 

高校1年も終わりに近づいた春。蛍のおかげでなんとか留年せずに進学できると安心した日の夜

 

「ほえ?ナルニア?」

 

会社の都合でナルニアに行くというお袋と親父の言葉に目が丸くなる。まさか俺もナルニアに行くとか無いよなと内心焦っていると

 

「お前は日本に置いていく。芦さんが保護者になってくれるといっているので迷惑をかけないように」

 

芦さんと言うと優太郎さんだな。蛍の親父さんで、超がつく美少女の蛍の父親だけ会って彫りの深い、まるで彫像のようなイケメンだった。そして俺を見るなり握手をしてきたので正直面を食らったのは記憶に新しい

 

「それにタマモも日本の方がいいだろしね」

 

「クウ?」

 

最近漸く尻尾が3本になったタマモはそれを器用に振りながら揚げを食べている。タマモは日本の妖怪なので海外はきっと合わないだろう

 

「芦さんのビルの近くに丁度良い借家があるからそを借りる。光熱費と学費はこっちで見るが、小遣いはそんなにやれん。蛍さんと出掛けたいならアルバイトでも探せよ」

 

アルバイトか。それはしたほうがいいかもしれない、たまには俺が蛍におごってやりたいと思っているし

 

「それと高校を留年や退学なんてしないこと、良いわね?成績が出たらこっちに郵送する事。あんまり酷いと仕送りを減らすから」

 

うっ、これはまた蛍に色々と教えてもらわないと行かんな……無事進学できたのも蛍の力が大きいわけだし

 

「それでいつナルニアに行くんだ?」

 

こうして話をしたことを考えるともうすぐのはずなんだよなと思いながら尋ねると

 

「今週末になるわ。だから土曜に引越しをするから、荷物を纏めておきなさいよ。それと蛍さんに新しい家の場所をちゃんと伝えるのよ」

 

一つ一つの注意をするお袋に判ってるよと返事を返し、食事を終えて膝の上に昇って来たタマモを抱っこして部屋に戻るのだった

 

「最近籠ちょっと小さいか?」

 

部屋の片づけをしながらタマモにそう尋ねる。つい2日前に3本目の尻尾が生えた(?)のだが、そのせいで

 

「クー」

 

「うん、狭いんやな?判るで」

 

その3本目の尻尾のせいでお気に入りの篭から若干はみ出ているタマモが切なそうに鳴く。1年近く寝床にしていた篭だから愛着もあるだろう

 

(うーん。だけどこれ以上大きい篭は無いしなぁ)

 

家に有る篭の中ではこれが一番大きい。九尾の狐なので少なくとも後6本は尻尾が生える(?)訳で

 

「明日篭探しに行こか?」

 

「コン!」

 

嬉しそうに鳴きながら尻尾を振るタマモ。一応俺の言ってる事は理解しているらしく、ナンパをしようとすると噛み付いてきたり、引っかいてくるけど、基本的には可愛い子狐だ。なんでも少しの霊力を使って尾を1本に見えるようにしているらしく、今の今まで問題なんて何一つ無い

 

(あ。たまに蛍と喧嘩するのは問題か)

 

蛍に噛み付いたり引っかいたりするのだけは問題やなと思いながら、とりあえず教科書類と漫画を全部縛り。ある程度部屋を片付けてから

 

「おいで。篭狭いからこっちで寝ればいいで」

 

「コーン♪」

 

あんな狭い篭で寝かせるのも可哀想なのでベッドの中に寝かせる。普段は洗濯が面倒だからお袋も駄目だって言うけど、引越しが近いから多分今日は怒らないと思う

 

「クウ♪クウ♪」

 

小さく鳴きながら擦り寄ってくるタマモ。春とは言えまだ若干肌寒い、子狐のタマモの体温は中々心地良い。ちょっとした湯たんぽみたいで暖かい……のだが

 

「ガジガジガジ」

 

「痛い……お前何の夢を見てるんや?それとも俺を食おうとしてるんか?」

 

タマモは眠ると何故か周囲の物を噛む癖がある。だから篭もタマモの口が来る所はボロボロだ、一応ある程度は意識してくれているのかは判らないが、甘噛だが長時間噛まれると痛い。だから少し引き離す

 

「スピー」

 

噛むのをやめて寝息を立てて丸くなるタマモの頭を撫でながら

 

「はふ……おやすみ」

 

最近は破魔札ではなく、体捌きとでも言うのだろうか?近接の訓練を重点的にしているので結構疲れている。俺は大きく欠伸をしてから眠りに落ちるのだった

 

「んじゃ。お袋小遣いありがとな」

 

「タマモのベッドを買うんだからね。無駄遣いするんじゃないよ」

 

判ってると返事を返し、タマモを頭の上に乗せて俺は街に出かけるのだった。本当は鞄とかの中にタマモを入れたいんだけど、タマモは頭の上を気に入っているので、頭の上から降ろすと泣くので頭の上に乗せている

 

「ペットショップは嫌か?」

 

「コン」

 

まぁ一応確認程度から仕方ないな。タマモはそのうち人間に変身出来る様になるらしいのでペット扱いは嫌やろうなあと思いながら歩いていると、突然タマモの毛が目に掛かりそれを振り払った瞬間。誰かとすれ違った

 

「うん?」

 

妙な懐かしさを感じて振り返る。だがそのすれ違った人は既に曲がり道を曲がってしまったらしく、俺が見えたのは長い亜麻色の髪

 

「……うーん。まぁいっか」

 

ただすれ違っただけでこれだけ気になるって事はきっと美人なんやろうなあ。ちゃんと見ておけば良かったなあと思いながら

 

「んじゃあ家具専門店に行くか?」

 

「コン♪」

 

嬉しそうに尻尾を振るタマモを頭に載せたまま、家具専門店へと足を向けたのだった……

 

 

 

「きーやん。いま邪魔したやろ?」

 

魔の最高指導者であるさっちゃんが隣の神の最高指導者であるきーやんをジト目で睨む。きーやんは柔和な笑みを浮かべながら

 

「ええ。今このタイミングで横島さんと美神さんが出会うのは得策ではないので」

 

「そんなん言うてももうカウントダウンしてるんちゃうんか?」

 

逆行してきた複数の魂の管理に横島のトトカルチョの調整で何日も寝ていない。きーやんとさっちゃんの目の下には濃い隈がある

 

「ええ。確かにカウントダウンしてますよね、もうタイムスケジュール的にはギリギリですしね」

 

逆行は本来なら世界の抑止力からの影響を受けるが、今回は逆行前の世界を複製するという裏技でそれを回避したが、そのせいである程度複製された世界にそって動かなければならないという制約が存在している。少しずつ歴史を変えることにより最終的には結末を変えることが出来るが、今の段階では歴史にそって動かないといけない

 

「横島さんと美神さんが会うのは美神さんがアルバイトを募集すると決めた段階です。今の段階で下手を打ってこれを変えてしまうと全て崩れてしまいますよ?」

 

この世界の歴史は横島さんと美神さんがある程度基点になっている。今の段階で蛍さんと九尾の狐というイレギュラーが存在しているのに、これ以上狂わせるのは危険だとキーやんは判断したらしい

 

「あーそういうことかあ……ほんならしゃあないなあ……あー終わったで」

 

さっちゃんが机の上に倒れこむ。それはきーやんとさっちゃん。そしてアシュタロスが胴元になっている横島と誰がくっつくかのトトカルチョの参加者を纏めたリスト。神魔の中でも最高位に属する存在はある程度記憶を持っている。しかしその記憶が

 

「自分の眷属とか娘が惚れてる記憶だけってどないせいちゅうねん。龍神王ぱないで」

 

「それはなんとも言えないですね」

 

横島さんは今はまだ力に目覚めていないが、今代の英雄と言う立場が約束された世界の抑止力の化身とも言える存在だ。人間であるが故に成長する事が続き。最終的には文殊に目覚める事が約束されている。そんな存在と思う娘と眷族がいると知った神族と魔族がどうするか?そんなのは言うまでも無く自分の陣営に引き入れようとする。魂を重要視する神族と魔族にすれば横島さんの魂は綺麗で欲するのに充分に価値のある魂だからだ

 

「龍神王いくら入れました?」

 

「0が9桁や」

 

桁が違いますね。さすがは道教の神。小竜姫を一押ししているだけはあります、ヒャクメに少しだけ賭けているのは保険程度でしょう

 

「まぁまだ始まってないで、一番人気はやっぱり蛍やな。アシュタロスの同僚のソロモンの連中がこぞって賭けてるわ」

 

「それはきっと彼にとって嬉しい誤算でしょうね」

 

今のソロモンの魔神の多くは魔界の政治に顔を出さず、裏から見ているだけだ。だからこそ賭けの一覧が送られている。

 

「きーやんの方は?終わったか?」

 

ググーと背伸びをするさっちゃん。残念ながら人間と神族の一部の魂の処理しか終わってないですねと言うと

 

「しゃーないな。じゃあ魔族のほうは引き受けたるわ」

 

「助かります」

 

魔族の逆行者の魂を現代に認定するための書類を引き渡す。神族・人間と比べて少ないが

 

「……むっちゃ魂こいやん」

 

「仕方ないです」

 

魂の密度がとんでもない事になっているので顔を引き攣らせるさっちゃん。だけど私も神の魂の処理には苦労してるんですからと小さく呟き

 

「それじゃあ準備を続けましょうか。最高の喜劇を作り出す世界の準備を」

 

「へーへー。なんか嵌められた気もするけどなあ」

 

そう苦笑するさっちゃんを無視して私は魂の処理とこの世界のタイムスケジュールの確認を始めるのだった。今はまだ準備期間だったが、もう動き始める。逆行してまでも自分の想いを叶えようとした女性達と英雄となる事が確約された少年の物語が……幕を開ける……

 

 

 

なお英雄となることは約束されている少年はといえば

 

「ガウウウウッ!!!」

 

「NO-ッ!!!!ワイのお宝ーッ!!!」

 

引越しをするという事でタンスや天井裏に隠してきたR-18の規制がかかる雑誌の数々をダンボールの底に隠そうとしていたのだが、それをタマモにビリビリに引き裂かれムンクの叫びの用に絶叫していた。なおこの時のタマモは正直若干焦っていた

 

横島のお宝の本の系統が1年前の「巨乳・お姉様」から「貧乳・お嬢様系」に変化しつつあり、本来の姿に戻ったタマモは恐らく前者になるわけで、このままでは駄目かもしれないというのに気付き、横島の本を紙くずにしたのだった。もしも狐火が使えていたら、全て聖灰になっていた可能性もあったりする

 

「プイ」

 

「ああー御免。ごめんなあ」

 

一時はお宝を紙くずにされた事で嘆いていたが、そっぽを向き自分に近づきもしないタマモの機嫌取りに必死になっている所を見ると生粋のお人好しなのは言うまでも無いだろう

 

「ほら、リボン。新しいの買ってやったから」

 

「コン?」

 

そして最終手段としてタマモのお気に入りの赤いリボン(刺繍入り少々お高い)を取り出し、その首に巻いてやる横島は

 

「よーし、可愛くなったぞタマモ」

 

「コーン♪」

 

機嫌を直してくれたようで安堵しながら新しいタマモのベッドを作る作業に戻るのだった……

 

 

 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その1へ続く

 

 




今回はインターバルなので短めです。次回から原作に入って行きますが、いきなりは第1巻の内容に入っていけないので少しだけオリジナルの話をやっていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート3 GSのアルバイトを始めよう!
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回から原作の主要キャラ「美神令子」を出して行こうと思います。これから少しずつギャグテイストが強くなっていくと思います。それと今回の美神さんですが、面接と言うことで猫を被っています、若干違和感があると思いますが、そこはご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その1

 

「はぁ……苦渋の決断だわ」

 

亜麻色の長い髪を翻し、ボディコンと呼ばれる服を身に纏った女性。美神令子はしぶしぶと言う顔をして椅子に深く背中を預けた

 

「はぁー必要経費として割り切るしかないのかしら」

 

美神令子 20歳にして業界NO1と謳われるが、その傲慢な性格と大金を要求する点から1部の富豪や大手からの依頼がメインだったのだが、去年の連続人食い事件を起こしていた鬼兄弟を倒した経歴から、強力な妖怪や妖獣退治を莫大な報酬と共に引き受けていた。無論鬼退治のネームバリューは大きく、霊的不良物件の除霊なども多く依頼されたのだが、ついに限界が来た

 

「しんどすぎ……もう1人じゃ無理よ……」

 

アシスタントを今まで雇うことなんて無かったけど、ここまで忙しくなるとさすがに無理だ。

 

「顔の良い男か女が来てくれると良いんだけど……」

 

霊能力は最悪2の次。顔がよければそれだけ話題性になるし……あとはいつ頼んだチラシの効果がでるかね……私は手元のちらしをみる

 

【アシスタント募集!!】

 

と大きく書かれた赤い文字と私の顔写真。時給や勤務状況は応相談にしてある

 

(顔がいいなら2000円くらいは出してもいいかもしれないわね、霊能力の心得があるなら3000くらいかな?)

 

逆に私の顔目当てで来た様な役立たずはすぐに厄介払いしたほうがいいわよね。私はそんな事を考えながら面接希望の電話が来るのを待つのだった……

 

 

 

百合子さんと大樹さんが日本から遠く離れたナルニアに行って2ヶ月。百合子さんが借りた横島の新しい家は広くも無く、狭くも無い。1人暮らしで考えるのなら充分すぎる家だった。しかしなにより私が嬉しいのは

 

(お父さんのビルから近い事よ)

 

前は電車を使う必要があったけど、今は自転車でいける。これは凄く大きい、その証拠にこの2ヶ月殆ど通い妻状態

 

(合鍵も貰ったし!もう最高ね!)

 

勉強を教えてあげたりしている間に遅くなるので泊まったりもしたし、今までで一番充実しているような気がする

 

「じゃあお父さん。出掛けて来るから」

 

「気をつけて」

 

アシュ様をお父さんって呼ぶのも大分馴れたわねと思いながら家を出て、横島の家へ向かう。今日は土曜日だから家にいるはずだ

 

「寝てると悪いわよね」

 

最近横島がGSについては非常に勤勉だ。だがそのせいで夜遅くまで勉強していることもあるので合鍵を使って家の中に入ると

 

「グルルルルル」

 

玄関の所でタマモがいて唸り声を上げている。3本の尻尾を立てて威嚇体制だ

 

「上等よ、この狐」

 

「フウウウウッ!!!」

 

入るなと目が物語っている。無論今のタマモをあしらうことは容易い、霊波砲いや霊波弾でも充分だが横島が可愛がっているタマモ

を怪我させると心証が良くない。タマモはそれが判っているから威嚇してきているのだ、実にあくどい子狐だ。そんな事を考えながら家の中に入る

 

「フー!!!」

 

唸りながら引っかいてくるタマモの首を掴んで持ち上げて

 

「あんまり調子乗ってると、人になれるようになったら潰すわよ」

 

「キュウッ!?」

 

今は子狐だから多めに見てるけど、これで人間になれるようになったら容赦しないわよと言う。威嚇していた尻尾をペタンとさせてびくびくしているタマモをフローリングに降ろすと横島の部屋へと逃げていく。その姿を見つめながら持って来ていた鞄からエプロンを取り出して

 

「さーて、今のうちに朝ご飯でも作ろうかしら」

 

一昨日買って来た鯖を焼いて、味噌汁を作る。タマモには揚げを炊いたので充分よねと思いながら朝食の準備をしていると

 

「うー蛍かあ?おはよーさん」

 

腕の中にぷるぷる震えているタマモを抱えてリビングに入ってくる横島。若干驚いた顔をしたけどそのまま玄関に新聞を取りにいく

 

「なんか最近蛍がいる日常に慣れた気がする」

 

味噌汁を啜りながら呟く横島。もう少しね、ここに私が居ても普通って思えるレベルにまで刷り込めれば……

 

芦蛍 見た目は清純派だが、その本質はやはり病んでおり、かなり黒いのだった……

 

横島が着替えに行くために新聞を机の上においていく、朝食の準備も出来たので新聞の折込チラシを見て

 

(これは!?やっとね)

 

ここ数年ずっと待っていた1枚のチラシ。それには目立つ赤い文字で【アシスタント募集】の文字と亜麻色の髪の女性。美神令子の姿が写っているのだった……つまりここから始まるのだ、私が求めて止まない横島との生活を真の物にするための戦いが……ッ!

 

 

 

うむ。白味噌か……やっぱりこれやなー……大阪生まれの俺にとって白味噌は慣れ親しんだ味でありとても落ち着く。赤味噌も悪くは無いんだが、やはり白味噌だろう

 

(塩鯖も絶妙だしなぁ)

 

塩加減も最高だなと思いつつ白米を頬張る。足元ではタマモが尻尾を振りながら揚げを食べていて、蛍は俺と向かい合って食事をしている。この2ヶ月ほとんど毎日繰り返している日常だ。冗談で通い妻?と尋ねたら、毎日通って上げるから合鍵といわれた。流石にそれはどうだろうと思い、聞かなかった振りをしたのだが、その目力に負けて鍵を渡してしまった。そのおかげでこうして毎朝美味い飯を食べることが出来ているが、もうなんか俺の生活って蛍がいないと駄目になってきている気がする……

 

「ごちそうさまでした」

 

「はいお粗末様」

 

片付けてくるわねと言って食器を片付ける蛍の背中を見ながら

 

「おいで」

 

「コン」

 

タマモを膝の上に乗せてその毛をブラシで梳きながら、蛍がくれたGSの本を見る。1年近く蛍に師事していたからかそれなりに幽霊の事を覚える事はできた

 

(全然霊力使えへんけど!!!)

 

今俺に出来るのはタマモの加護のおかげで使えるようになった札術と近接戦闘の心得程度。早く蛍の得意としてる霊波砲とかも使えるようになりたいなーと思っていると

 

「ねえ。横島。GSの勉強も大分進んできたよね?」

 

う、この声の感じは……今まで何回か経験があるが断ってはいけないときの蛍の声だ。呼んでいた本を閉じてタマモの毛を梳いでいたブラシを机の上に置く。もっともっと言う感じでタマモが手首を噛んでくるが、今はそんな状況じゃない。少し我慢してくれ

 

「そやな。霊力のれの字も使えないけどな」

 

「そんな事無いわ、破魔札は必要だけど、攻撃力だけなら今の横島は充分に通用するわ」

 

あのランダムで変わる奴?コンクリートを粉々に粉砕してその破片で顔面強打をした……俺的にはそんなのは忘れたいが蛍の膝枕の感触を忘れる事が出来ないのでそれもしっかり覚えている

 

「それにそろそろ私もGSの師匠を見つけようと思うの。ほら今年はGSの免許の試験もあるし」

 

あ、これはあかんやつや……俺は蛍が何を言おうとしているのか理解してしまった。GSのアルバイトを始めようといいたいのだ

 

「若手GSではNO.1って言われてる人の事務所がアルバイトを募集してるから2人で行きましょう?ね?」

 

若手NO1か……もしかするとそこでなら俺も霊能力が目覚めるかもしれんけど

 

「ちなみに所長はこの人」

 

蛍が差し出したチラシには亜麻色の髪を腰元まで伸ばした、抜群の美人がウィンクしていた

 

(とんでもないナイスバディや……胸も腰もばっちりだ。蛍とは違う」

 

「ふーん……」

 

はっ!?蛍の視線が絶対零度に……まさか声に出ていた?

 

「横島。右が良い?左が良い?」

 

蛍が両手を構えてニッコリと笑う、普段は可愛らしい笑顔だが今は悪魔の笑顔にしか見えない

 

「返事が無いってことは両方よね?歯を食いしばりなさい」

 

「ちょっ!?まっ!?げぶろおああああああッ!!!!」

 

可愛らしいお嬢様のような笑顔で繰り出された。全く可愛げのない拳の連打を前に俺の意識は吹っ飛ばされたのだった……

 

「く、口は災いの元……ガク」

 

俺はその言葉を最後に意識を失うのだった……そして目覚めた頃には履歴書とボールペン

 

「早く書いてね?面接の連絡はしたから」

 

にっこりとワラウ蛍に反論する術を持たなかった俺は今後に若干の不安を感じながら、履歴書を記入するのだった

 

 

 

チラシを出してから3日。残念ながらただの1人の面接希望者は現れなかった

 

「エミの奴がなにか私の嫌がらせてもしてるんじゃないでしょうね」

 

小笠原エミ。呪術を使うGSで私がGS試験を取ったときに出会い、馬が合わず喧嘩ばかりしている相手だ

 

「あーもう!チラシの料金代だけ損してるんじゃないの!?なんで誰も電話してこないのよ!」

 

絶対誰かは電話してくると思ったのに!苛立ち紛れでお気に入りのウィスキーでも飲もうと立ち上がったとき

 

ジリリリリ

 

電話が音を立てる、依頼か面接希望か……面接希望に期待しながら電話を取る

 

「はいこちら美神令子除霊事務所です」

 

【チラシを見て電話したんですが、面接って高校生でも大丈夫ですか?】

 

よしっ!と小さくガッツポーズをとる。この声の感じは女性ね、顔がよければ私とツートップで活躍させることも出来るわ

 

「それは大丈夫よ。学校のほうは私が手続きを取って公休要請をしてあげるわ」

 

GSの家系の高校生とかのための処置なんだけど、やっと来た面接希望者。なんとしても逃がしたくないと思うので好条件を出す

 

【面接希望は私と私の……そのですね。えーと】

 

「あーはいはい、大体判るから良いわ」

 

口ごもっている少女にそう言う。多分彼氏とかそんな感じよね、まぁそう言うのも悪くないんじゃない?と思いながらOKを出す

 

【安心しました。それで今日は面接は可能ですか?】

 

「全然OKよ!今丁度お昼になったところだから、15時に事務所に来て、証明写真つきの履歴書も忘れないでね」

 

【はい。それでは失礼します】

 

私が受話器を置くまで通話状態になっているのを見るとちゃんと礼節もあるようね

 

「よしよし!今日は仕事もあるし、ぱっぱっと面接しちゃいましょう」

 

GSは命懸けだから除霊現場を見せるのもいいわよねと思いながら、面接の準備をするのだった……そして15時10分前

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

ちゃんと面接の時間10分前に来た一組の男女。女性のほうは活動的な印象を受けるブラウスとフレアスカート。軽く見るだけでも判るけど中々の霊力の持ち主だ。その隣の少年はGジャンにGパンそして赤いバンダナを頭に巻いていた。彼からはなんの霊力も感じないがその頭の上を見てぎょっとする

 

「その頭の上の妖狐は?」

 

並みの妖怪の数倍の霊力持っているであろう、妖狐が尻尾を振りながら私を見ていた

 

「家族のタマモっす。はいご挨拶」

 

「コーン」

 

私の前に狐を突き出す少年。その狐の尾は3本……まさか九尾の狐の転生とか言わないわよね……まぁ面接に来てくれたんだから、まずはそっちを優先しないと

 

「ようこそ美神令子除霊事務所へ。まずは履歴書を預かるわね」

 

2人から履歴書を受け取り目を通す。少女のほうは芦蛍、今勢力を伸ばしている芦グループの娘で海外の大学をスキップで卒業。

若干の霊能力を使用可能っと……少年のほうは横島忠夫。高校生で霊力は使えないっと……その代わり若干の霊能の知識と体力に自信ありか……

 

「うーん。悪いけど霊力の使えない子はちょっとねー?」

 

それに言っちゃ悪いけどブサイクだし……採用とは行かないかなーと思っていると

 

「そうですか。じゃあ私もお断りしますね。履歴書返して貰えます?」

 

そう言って立ち上がろうとする芦さんを見て慌てる

 

「ちょちょ!?待って!待って!横島君を採用しないと貴女も?」

 

「ええ、お断りです。私は2人でGSになりたいですから」

 

ぐう、2人同時じゃないと採用できないって事なのね。横島君は正直どうでもいいけど、芦さんは手放すのに惜しい人材だ。かと言って役に立たないのを雇うわけにも行かない……

 

「じゃあこうしましょう!今日簡単な除霊があるんだけど、そこで横島君と芦さん。今日早速除霊に付き合ってくれるかしら?そこでGSがどういうものなのかを説明して、自分に向いているかどうなのかを判断してもらうわ」

 

芦さんが入れ込むのは惚れただけなのか?それとも何か特別な力があるからなのか?もし前者なら涙を飲んで芦さんをリリースするけど、後者なら2人とも雇うだけの理由になる。本来なら受けないような安い除霊の依頼だけど、こういうことなら良いかも知れない

 

「じょ、除霊っすか!?ほ、蛍。ワイ大丈夫か?」

 

顔色を面白いくらい青くさせている横島君を見ながら電話で依頼を受けるという話をしている。向こうは私のネームバリューが欲しいらしく、少し報酬に色をつけてくれるらしい、これは嬉しい誤算だ

 

「大丈夫よ。横島ならそこらへんの悪霊なんて目じゃないわ。自分を……「ワイは自分が一番信じられんッ!!」じゃあ私を信じて、横島なら出来るって信じる私を信じて」

 

「蛍……判った。ワイ頑張るよ」

 

なんか甘酸っぱいやりとりしてる……その事に若干のイラつきの胸のざわつきを感じながら

 

「出発するのは午後20時。それまではこの事務所で休んでいてくれて良いわ。私は準備があるから」

 

うーすと返事を返す横島君を見ながらガレージに向かう。さてさて、芦さんは今の時点では十分すぎるほどの逸材。しかし横島君は未知数だ、しかしそれゆえに大化けするかもしれない

 

(まぁ私らしくないんだけどね)

 

現世利益優先の私が何にもならないことをしようとしている。これは珍しい事だと自分でも思う、だけどあの芦さんと横島君はとても気になるのだ。ここで手放してはいけないと霊感が訴えている。今まで私の霊感が私を裏切ったことは無い、だから今回も信じてみることにしたのだ。そして午後18時45分。私は芦さんと横島君を連れて今日の除霊場所である、廃ビルへと向かうのだった……

 

 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その2へ続く

 

 

 




美神さんのキャラが難しい。いや面接で猫を被ってるだけさ、採用すればあの美神を書けると私は信じる。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は若干の戦闘回を書いて見ようと思います。基本的には美神さんか蛍の視点で進めて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その2

 

横島君と芦さんを連れて除霊に来たのはDランクのGSでも処理できるような簡単な依頼だったはずだ。だが蓋を開ければ雑霊たちは集合・融合しレギオンと化していた。レギオンは耐久力も高いうえに再生能力も持つ。ちゃんとした装備がなければ倒せないような強敵だ。神通棍と純度の低い精霊石が3つと念の為に持って来ていた、5000万と7000万の破魔札。装備が何もかも足りない……しかも能力が未知数の芦さんと横島君がいる。プロのGSとして研修生に怪我を負わせるわけには行かない

 

(これは不味いわね……)

 

1度撤退するしかないかもしれない。この建物に縛られているので追ってはこれない筈だけど……まさかと言う可能性もある。とりあえず……

 

「横島君!芦さん!取り合えず逃げるわよ!精霊石よッ!!邪を退けたまえッ!!!」

 

精霊石を投げつけレギオンを潰し、私は芦さんと横島君を連れて廃ビルの階段を駆け下りたのだった……

 

「はぁ……はぁ……これで少しは時間を稼げるわね。芦さんは何か除霊のスキルはある?いきなりで悪いけど実戦よ」

 

私だけで処理できるはずだったけど、レギオン相手で1人は多少不利。ちゃんと装備が整っていれば何とかできるんだけど……

 

「私が使えるのは霊波砲とこれですね」

 

芦さんの手に六角形の霊気の盾が現れる。確かにその密度は濃さそうだけど、これって……少し集中して霊視をして確信した

 

「そんな霊能止めておきなさい!他の守りが手薄になってるわよ!」

 

彼女の全身を覆っている霊力が全て手に集中している。確かにその盾の密度はかなり高いようだが、デメリットがありすぎる

 

「だけどこれ投げてある程度コントロールできますし、ぶつければ爆発するので結構便利ですよ?」

 

芦さんの言葉は的を得ている。事実若手の霊能力者がこういう風に戦うことはある、だけどレギオン相手では明らかに不利だ

 

「霊波砲をメインにしなさい、それで横島君は?」

 

「えーと破魔札の5円と10円と50円と100円が「役立たず!!」へぶうっ!?」

 

明らかに戦力外だ。頭の上の妖狐も戦力にならない、その怒りで横島君の顔に拳を叩き込む。もう猫を被ってる場合じゃないわ、死ぬかもしれないのでそんなことをしている場合じゃない

 

「そっちが素ですか?」

 

私をジト目で見ている芦さんは無視。物凄く睨んできてるけど、その程度で動じるこの美神令子様じゃないわ

 

「そうよ!悪い!とりあえず何とかこのビルから逃げるわよ!!!」

 

除霊費は4000万。とてもじゃないが割に合わない、これは1億貰わないと……とりあえず持っている神通棍に霊力を通し攻撃できるようにし、周囲を警戒しながら1階の出口に向けて歩き出したのだった……

 

 

 

レギオンになった雑霊を前に流石の美神さんも素が出始めていた、ぶつぶつと割に合わないだの、これだと赤字よ、赤字などと呟いている。どっちかと言うとこっちの方が美神さんらしくて安心する

 

(なぁ蛍。美神さんってこっちが素なんか?)

 

さっきまでは大人のお姉さんと言う感じだったのに、今はぶつぶつと呟き、指折りしながら何かを計算している。恐らく利益と収入を考えているのだろう

 

(そうよ?)

 

私が即答すると横島はふーんと呟きながら、まぁ良いかと呟いている。基本的には美人に優しい横島だ、性格はあんまり気にしないのだろう。ついでに妖怪や悪魔でも気にしないだろう。美人ならよしッ!それが横島だ

 

「コン!」

 

横島の頭の上のタマモが鳴く。すると横島は勢い良く地面を蹴り

 

「美神さーんっ!!」

 

「えッ!?きゃあ!?なにすんのよ!!!」

 

美神さんの胸の方に体当たりをして美神さんを押し倒す。軽く弾んでいる美神さんの胸と自分の胸を見比べる。圧倒的な戦力差があるけど

 

(まだ成長期!なんとかなる!)

 

自分に言い聞かせるように呟く。横島の好みの傾向が徐々に貧乳系になっているのでまだ大丈夫と思っていたのだ

 

「はーん♪やっぱり乳は大きい方がええなー」

 

横島が美神さんの胸に顔を埋めているの見て自分の胸を見て、物凄く悲しくなってしまった。

 

「なにしとるかーッ!!!このセクハラ坊主ッ!!」

 

「ふげろぶっ!?」

 

横島の顔面がビルの床にめり込む。だけど横島がこんな状況でこんな事をするとは思えない。周囲を霊視し……

 

「美神さん!横島飛んでッ!」

 

「え!?」

 

「はいよっ!」

 

横島が美神さんの手を掴んで後ろに飛ぶ。タマモはしっかり横島の頭も後ろにしがみ付いている。私は2人がはなれた事を確認してから

 

「行けッ!!」

 

サイキックソーサーをビルの床に叩きつける。すると

 

【ウゴアアアアアッ!?!?】

 

不気味な唸り声を上げてレギオンが姿を見せる。完全な擬態能力、ただのレギオンならこんな能力は持ってない筈だけど

 

「な!?まさかあんた気付いて?」

 

驚きながらもレギオンに霊波弾を当てて怯ませると同時に横島に尋ねる美神さん

 

「ワイやなくてタマモっす。な?」

 

「コーン♪」

 

横島の言葉に尻尾を振りながら返事を返すタマモ。だけど今はそんなことをしている場合じゃない

 

「私と美神さんの霊視をすり抜ける擬態。こいつただのレギオンじゃないわよ!早くこのビルを出ましょう!」

 

これだけ瓦礫が散乱していて、しかも雑霊がまた集まり始めている……このビルはレギオンのホームグランド。今の装備も何もかも足りてない私達で除霊は不可能だ。美神さんも同じ結論になったのか、再び精霊石を掴み

 

「精霊石よ!邪を退けたまえッ!!!」

 

精霊石が強烈な閃光を放つ。これにより再びレギオンが怯む

 

「こっちよ!」

 

近くに見えていた階段のほうに走り出そうとすると、それよりも早く

 

「駄目だ!蛍!」

 

横島が私の手を掴んで引き寄せる。えっと私が驚くのと同時に見えていた階段が中ほどから消滅する

 

(幻術!?嘘。こんなのレギオンが使う術じゃない)

 

幻術に擬態まで使えるレギオンなんて聞いた事が無い。もしかして今見えている2階の景色って

 

「蛍の予想とおり。俺達はぐるぐる回ってるだけみたいだな。そうだよな?タマモ」

 

「コン!」

 

幻術に長けたタマモが言うなら間違いない。私達は階段を降りているつもりでグルグル回っていた、だから地面に擬態したレギオンの奇襲を受けかけた。美神さんは渋い顔をしながら

 

「横島君。それにタマモだったわよね?貴方達は大丈夫なのよね?この幻術は」

 

認めたくないって言うのが良く判る顔をしている。横島は今は霊力は使えないけど、タマモと九尾の狐の加護がある。GSとしては充分に活動できるレベルなのだ

 

「ワイはさっぱり、違和感を感じるくらいっすね。タマモは?」

 

頭の上のタマモを見ながら尋ねる横島。タマモは前足をぴこぴこさせてから尾で横島の頬を撫でる。横島はふむふむと呟き

 

「きつねうどんを所望するそうっす」

 

タマモの加護のおかげかある程度言葉が判るらしい、正解と嬉しそうに鼻を鳴らすタマモ

 

「き、きつねうどん!?それで助かるならいくらで奢るわよ!だから早く私をこのビルから脱出させて!」

 

美神さんがそう怒鳴る。GSは命あっての物。こんな状況になってしまったのなら、撤退するのが基本だ

 

「じゃあワイには美神さんの胸触らせてください。今先払いで」

 

横島が美神さんに飛びかかろうとするのを見て、私と美神さんは同時に動いた

 

「「調子に乗るなッ!!!」」

 

「へぶう!?」

 

私と美神さんの挟み撃ちの裏拳で顔が変形する横島。鼻血を出してビルの床に沈む横島。その身体の下にいる金色の狐を見て

 

「「はっ!?」」

 

「キュー……」

 

横島の体重で完全に目を回しているタマモ……レギオンはまだ怯んでいて近くに霊気の気配は無いけど

 

「これやばいわ。どうする?芦さん」

 

「と、とりあえず。横島を運びましょう。タマモもその内起きると思いますので」

 

自分と美神さんの失態。これは完全に私と美神さんのミスだ。横島とタマモに背を向けて

 

「これって労働基準局とかに言わないでくれる?暴行とかでしょっぴかれるのはちょっと」

 

「大丈夫です。横島も美神さんの胸に飛びついてましたし、とんとんでしょう。ただその代わり私も横島も雇ってくださいよ。黙っておきますので」

 

とりあえず私と横島を雇ってもらわないといけない。今の暴行は充分に労働基準局に言われると不味い状況だ……とりあえず横島を連れて移動しないと……

 

「おーい。蛍ー!美神さんー!行くぞー!」

 

「コーン」

 

いつの間にか復活した横島が私と美神さんを見て笑いながら手を振る。横島が不死身に近い耐久力を持っているのは知ってたけど……まさかこんなにも回復が早いなんて……横島の頭の上で前足を振っているタマモに驚いていると

 

「うん……私の見る目が悪かったわね。横島君は霊力はまだまだだけどこの様子を見る限り、成長しそうね。このビルを無事に脱出できたら横島君も蛍さんも雇うわ。横島君にはあんまり高い時給は出せないけどね」

 

高い時給は出せないとは言え、255円ではないだろう。セクハラは明らかにマイナスだけど、少しは能力を認めてくれてるみたいだしね……

 

「ありがとうございます」

 

とりあえず美神さんの所であるバイトできる事が口約束だけど出来た。詳しい詳細はあとは無事に生き残ってからね……そしてこのビルを脱出すれば……

 

(私の幸福な物語が幕を開けるのよ!)

 

今度こそ私が幸せになるための物語が始まるのよッ!!!私は心の中でそう叫び横島の後を追いかけて今度こそビルの1階に向かって歩き出したのだった。

 

 

 

横島を先頭に今度こそ階段を下りていく一行を見つめる黒い異形。しかしその目に悪意は敵意はなく、むしろ微笑ましい物を見ているような視線だった。そうこの異形は芦優太郎。いや……アシュタロスの使い魔であり、その視覚を共有してアシュタロスはビルの自分の部屋でこの状況を見ていた

 

「まだか……もう少し追い詰めるべきなのだろうか?」

 

美神達が除霊に出かけたビルにいたのは、確かに駆け出しのGSでも倒す事ができるような雑霊だった。だがアシュタロスはそれを良しとしなかった。蛍から聞いている横島君と最高指導者から聞いている横島君。確かに好青年なのは認めるが、それだけでは納得しきれないアシュタロスは

 

(少し早いけど霊力を覚醒させてみよう)

 

と思ったのだ。使い魔を通じて自分の魔力を少し分け与え、レギオンへと変化させ。自分の使い魔を通じてレギオンを媒介に魔力を使い、特殊な能力を発現させてみたのだが

 

「まだかね?」

 

生命の危機になればなるほど霊力が発現する可能性は増していく、擬態化に幻術。九尾の狐の加護を持つ横島君なら楽に見破れる程度のレベルに抑えているのだが……

 

「横島君が未熟すぎるのか?」

 

おかしい、このレベルなら大丈夫なはずなのに……もしかすると蛍と美神令子とタマモに甘えているのかもしれない

 

「もう少しパワーアップさせてみるかな?」

 

そうすれば横島君の霊力が目覚めるかもしれない。しかし耐性のない属性攻撃をさせるのは良くないとおもう……

 

「うん。ここは火炎だね。耐性があるから大丈夫だろう、うん」

 

火炎に耐性があるから。あんまり高温じゃなければ大丈夫だろうと判断し、更にレギオンの魔力をつぎ込み……

 

ぶつん

 

「あ、あれ?」

 

レギオンとのリンクが切れた感触がする。使い魔のリンクで確認する。そこで見たのは

 

【グルオオオオッ!!!】

 

私の与えた魔力でパワーアップして最下位レベルだが魔族といえるレベルになってしまったレギオン……やば……魔力を回収しないと!慌てて魔力を回収し始めるが……

 

「な、なんかやばいわよ!タマモ、横島君!急いで!」

 

「急げって言われても無理やッ!タマモ何とかなるか!?」

 

「クーン……」

 

「あ、あれ?この魔力……もしかして……」

 

慌てている美神令子と横島君と頭の上で慌てた様子で鳴いているタマモ。そしてあのレギオンから私の魔力が発せられているのに気付いた蛍が辺りを見て

 

「あ」

 

「あ」

 

私の使い魔と蛍の目が合った。そして蛍の目が吊り上がって行く……一瞬だけ凄まじい殺気を私に叩きつけ

 

【帰ったらお仕置きするからね。お父さん】

 

その殺気におびえて使い魔のリンクが切れてしまった。これであのビルで何が起きているのか判らなくなってしまった、しかも私の魔力の回収は4割程度しか回収できてない。魔族レベルではないが、充分危険域だ。私は思わず天を仰ぎ

 

「の、ノオオオオオッ!!!!どうしてこんなことにいいいいッ!!!」

 

私は良かれと思ったのに!少しでも早く横島君が霊力に目覚めるように頑張っただけなのに!全部蛍の為にと思ってやったことなのに!!!全てが空回りした現実に絶叫し、蛍が帰ってきた時のお仕置き。それを考え恐怖した絶叫だった……

 

「ってこんな事をしている場合じゃない!!!」

 

とりあえず、もう1度使い魔を飛ばして……いやそんなことをするよりも自分で出たほうが早いか!?だが今私が動くと……

 

「アシュ様。長い間申し訳ありませんでした。メドーサいま……「来たぁッ!メドーサ!早速で悪いが仕事だ!」はっ?」

 

転移で姿を見せたメドーサ。何と言う絶妙なタイミング、今この瞬間だけはキーやんに感謝だ

 

「今このビルでレギオンと対峙している人間がいる。今後脅威になるかもしれないので監視をしてきてくれ!いいね!頼んだよ!!!」

 

椅子から立ち上がりメドーサの服を掴んで窓のほうに歩き出す。私の行動に驚いているメドーサが普段の冷静な素振りはどこへやら慌てた様子で

 

「え、えーと……どういうことなのですか!?「説明は後だッ!!!」

 

私はそう叫ぶとあのビルのほうに向かってメドーサを転移させたのだった。

 

「ふーこれでなんとか……え?」

 

これで横島君達は大丈夫だろうと汗を拭いながら机に座った私は、拭ったはずの汗が吹き出るのを感じた、何故なら

 

【メドーサ 倍率変化中】

 

メドーサのオッズの処理が始まっていた。これは上がるか、下がるか?これでは判らないが、何故か嫌な予感が頭を過ぎる

 

「ま、また私は何か間違えたのか!?」

 

また何か選択肢を間違えてしまったのかもしれない。私は溢れる冷や汗を拭いながら

 

「土偶羅魔具羅。少し休む、蛍が戻ったら教えてくれ」

 

【判りました。ごゆっくりお休みください】

 

土偶羅魔具羅に後を任せて眠る事にした。これは別に使い魔の視点を見るのが怖かったとか、蛍の鬼神の表情を見るのが怖かったとかじゃない。ただ疲れたので眠る!それだけだ!

 

「……無事に過ごせると良いなぁ……」

 

最近私の障壁も楽にぶち抜く蛍の剛拳の事を考えながら眠りに落ちるのだった……

 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その3へ続く

 

 




次回は横島とメドーサの視点をメインに進めて行こうと思います。伽羅が少ないのでボリュームが少なくなりがちですが、もう少しでおキヌちゃんを出せるので少しは会話とかのパターンに幅をつけることが出来ると思います。そして情けない原作の横島に似せれるようにもっと頑張りたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の更新で取り合えず戦闘回は終わりの予定にしています。この後は出来たらギャグをメインに考えて行きたいですね。GSは戦闘よりもギャグが輝くと思うので、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします

PS

それと今後GSで出す予定のキャラを活動報告に上げています
こういうキャラも出して欲しいと言うのがありましたら、活動報告かメッセージでよろしくお願いします

出せるかは判りませんが、前向きに検討したいと思うので



リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その3

 

アシュ様の城で身体を休めて、復帰してすぐにアシュ様の所に行けば……まさかの強制転移

 

(はぁーどういうことなんだろうね)

 

別にその指示に逆らう気は無いんだけど、いきなりだとさすがに驚く。それにアシュ様の所に来たのは

 

(自分の物じゃない記憶の事を聞きたかっただけどねえ)

 

寝ている間に見ていた夢はそのまま私の頭の中に残っている。だけどおきた事が理由なのか?それとも世界の修正力なのか?あれだけ鮮明だった記憶は、一気に劣化して所々穴抜けになってしまった

 

(……どういうことなんだろうねえ)

 

その記憶は今よりも先の記憶。それが如何して私の夢として現れたのか?その理由が判らない……しかしそれにしても

 

(あの男の名前が気になるねえ)

 

バンダナを巻いた男。2枚目と言うか、3枚目ですらとてもじゃないが英雄としての器ではない。それなのに色々な出来事の中心人物

 

(あー気になる!あの男が気になってしょうがない!!!)

 

転移の中で髪をかき毟る。この魔族メドーサ様がただの人間をここまで気にするなんて……こんなことはありえない。人間なんて取るに足りない存在のはずなのに……

 

(これが終わったら本格的に探してみようかねえ)

 

会いたいとおもう。メドーサ様がただの人間に?そんなことはありえない、だけど私の穴抜けの記憶の中には

 

何度も何度もあの男に邪魔をされた記憶があり

 

そして自分が若返る為の苗床にしたが、男はそれを回避した。この時に私はその男の霊気の1部を引き継いだ

 

そして私を1度倒した。最初は取るに取らないと思った人間の小僧が

 

ここで1度記憶は完全に穴抜けになり何も判らなくなる。なにか見たような記憶もあるが、思い出せない

 

何故か生き返った私は、魔族からも神族からも追われ行き場のない私……そしてこんな私の手を掴んだのは能天気に笑う男

 

そして私は見たことも無い魔族と人間の娘と行動を共にして、陰からその男を見守っていた

 

(あーなんなんだろうねえ……)

 

憎いと思う気持ちもある、しかし愛おしいという気持ちもある、そして自分ではと言う劣等感もある。自分でもどうしようもない複雑な感情に頭を抱えながら転移した先は

 

「ビル?しかしずいぶんと派手に霊力を使ってるねぇ」

 

隠遁術を使いこっそりとビルの中に入る。中から感じるのは魔力と霊力

 

(下位の魔族か?となれば私を送り込んだ理由も納得だね)

 

今下手に暴れると神族にばれる可能性がある。それを考慮しての事だろう、それに警戒するべき人間と言うのも納得で中々の霊力の持ち主が2人いるのだが

 

(ずいぶんとへっぽこが混じってるねぇ)

 

殆どないような霊力とそれと一緒にいる妖怪の気配。人間と行動する妖怪なんて相当の変わり者だねと呟きながら、階段を上り3階へと足を踏み入れた私が見たのは

 

「死ぬーッ!しんでまうううううう!!!」

 

「コーンッ!!!」

 

バンダナを巻いた少年とその頭の上の尾が3本ある妖狐が涙を流しながら目の前を駆け抜けていく。そしてその後ろを

 

【ウヴォアアアアアアッ!!】

 

レギオンが魔力刃を展開しながら追いかけていく。そして更に

 

「美神さん!私の横島になにするんですか!許しませんよ!」

 

「しょうがないじゃない!私の顔を切られそうだったんだから!!」

 

短い黒髪の少女と亜麻色の髪の女が喧嘩しながら駆け抜けていく。そのあんまりな光景に

 

「はっ?」

 

思わずマヌケな声を出してしまう。しかしそのマヌケな声の原因が今のやり取りではなく

 

(あいつら知ってる。私は知っている)

 

夢で見た人間達に良く似ている。穴抜けの記憶なので顔はうろ覚えだが、間違いないと断言できる。しかし私が注目したのは

 

(見つけた!あいつだ!)

 

夢の中で私に手を伸ばした男。私はその男の後を追って姿を消したまま移動するのだった、なおメドーサが横島を追いかけ始めた頃

 

「!!!なんでしょう?今の嫌な気配は?」

 

妙神山の小竜姫は何かを感じ取って首を傾げていたりするのだが、それが何なのか?を知るのは随分先の出来事になるのだった……

 

 

 

レギオンに追いかけられて必死に逃げていく横島を追いかけているのだが

 

(中々距離が縮まらない!)

 

元々横島の運動神経は悪くない。むしろ良い部類だ、そして横島の痛いことを嫌がる性格とあの超人的の反応速度が組み合わさると

 

「どひゃー!?」

 

【グガアアア!?】

 

上体をほぼ90度そらしてレギオンの刃をかわし

 

「どっひゃあああ!?」

 

何か足をもつれさせてた勢いで顔面から廊下に倒れかけた勢いで攻撃を更に回避し、バランスを崩したレギオンから更に逃げる

 

「横島君。信じられない運動神経ね」

 

美神さんもさすがに信じられないという感じで呟く。タマモの嗅覚と視覚で常人よりも視界が広いとはいえこの回避は既に常人の動きではない。だが

 

「感心してる場合じゃないですよ!早く横島と合流しないと!」

 

レギオンの後ろを追いかけながら走る。今の横島は集中が全然出来てない、あの状態では破魔札を使うことなんて不可能だ

 

「判ってるんだけど早すぎるのよ!」

 

美神さんの言うことも最もだ。レギオンは私と美神さんには目も向けず横島を追いかけている。それは手ごろでしかもある程度の霊能力を持っていると言う事で取り込むのに適した存在だと判断したからだろう

 

(魔力を使えば追いつけるけど、使うわけには)

 

まだ魔力を使うには時期が早過ぎる。だけど今のままでは追いつけない、私が焦り始めたころ

 

「コーーーンッ!!!!!」

 

一際大きいタマモの鳴声と同時に青い炎がレギオンを襲う。それは普通の雑霊ならまとめて倒せるだけの出力の狐火だった、だがレギオンにはあまり効果が薄いようで倒すまでには至ってないが

 

【ギギャアアアア!?】

 

炎に加えて何かの幻術も併用しているのか、レギオンは苦悶の声を上げて暴れているが

 

(あんな霊力を使ったらどうなるか判らないわけじゃないでしょうに)

 

今のタマモは人化する霊力もなく、基本的に横島の頭の上で眠り。横島の潜在霊力と周囲の霊気を吸って体力を回復させているのに。その状態であれだけの攻撃をするのは正直自殺行為だ。それでも横島を護るために……

 

(あーっもう!ますます邪険に出来なくなるじゃない!)

 

別にタマモは嫌っているわけではない。そりゃ確かに私から横島を取ろうと考えている所は嫌だけど、魔族でもある私にとっては別に一夫多妻と言うのは別に嫌悪する事じゃないし。それにそもそも

 

(私4分の1くらいは横島の血引いてるしねえ)

 

逆行した際にルシオラと横島蛍が混ざり合い。全く別の存在になっているし……まぁそんなに気にしない。自分が第一婦人にしてくれるのなら大丈夫。まぁ絶対嫉妬とかすると思うけどね!

 

「美神さん!蛍!早く1階へ!!」

 

ダウンしたタマモを抱えて走ってきた横島はそのまま私と美神さんの横を通り。ある場所の前に立つ

 

「ちょっと!?本当にそこなの!?」

 

美神さんが怒鳴るのも無理はない。そこは窓ガラスの前だからだ、飛び降りて無事で入れる高さではない。それにタマモがダウンしてるから横島の感のはずだ。

 

「ここっす!絶対に!」

 

横島がそう断言して窓の外に飛び出す。私もそれに続いて

 

「先に行きます!」

 

美神さんにそう叫んでから窓の外に飛び出す。私は何があっても横島を信じると決めてるんだから

 

「ええ!?嘘……大丈夫なの!?もう!!何かあったらひどいわよ!」

 

そして後ろから聞こえてくる美神さんの声。少しの浮遊感の後両足が地面につく感触がする

 

「良かった。あれ?横島は?」

 

先に飛び降りたはずの横島の姿がない。少し辺りを見ると下のほうから

 

「み、水玉」

 

「え?」

 

いや、確かに今日は白と水色の水玉模様だけど……下を見ると横島がその目を充血させて私の足元にいて

 

「ッきゃあ!?」

 

スカートを両手で押さえて後ずさる。べ、別に見られても良いんだけど、あまりに色気が無いわけで、どうせ見せるならもっと派手な……って私は何を考えているのよ、そう言うのはもっと段階を踏んでからで……怒ればいいのか、喜べばいいのか判らず沈黙していると

 

「よっ「フギャあああああ」あ、あら?」

 

美神さんが降りてきて、横島の鳩尾を踏み抜いて昏倒させる……美神さんは

 

「ふ、不慮の事故よね?」

 

でっかい汗をかきながら私を見てそう尋ねる。ふ、不慮の事故。そ、そうよ!横島が私の下着を見たのも不慮の事故!気にする事じゃないんだわ!

 

「え、ええ」

 

これは不慮の事故。故意じゃないから……と話しつつ、横島を抱えてビルの外に出ようとしたのだが

 

「結界!?こんなのまで使えるの!?」

 

ビルの出入り口は結界で封じられていて脱出できない。そして

 

【グルオアアアア】

 

雄叫びと共にレギオンが姿を見せる。どうもここでやるしかないみたいね……横島とタマモを瓦礫の陰に横にして結界を張り。それと同時にサイキックソーサーを両手に展開する。霊力と魔力に制限を掛けてるけど、まぁそれなりには決まるはず

 

「これ後で絶対。請求してやる」

 

美神さんが胸の間に手を突っ込み。そこから何かを取り出して投げ渡してくる

 

「使いかた判るでしょ?持ってなさい」

 

渡されたのは高純度の精霊石が2つ。それも0が9はつくレベルの代物だ。だけど目の前のレギオンを考えるとこれでも行けるかどうか。もうこれも全部何もかもお父さんのせいねと心の中で呟くと同時に

 

【グルオオオオッ!!!】

 

「来るわよ!気をつけて!」

 

「はい!」

 

私と美神さんのタッグ対レギオンの戦いが幕を開けるのだった……

 

 

 

美神と蛍は気付かなかったが、横島が寝ている瓦礫のそばには隠遁術で完全に気配を隠したメドーサがいた

 

(ふーん……随分とマヌケ面だねえ)

 

記憶の中ではもっと凛々しい顔をしていたと思うんだけど……

 

(人間だから違うのかねえ)

 

成長の遅い神族や魔族と違って人間は成長が早い。もしかするとそのせいかもしれないねと思いながら、瓦礫に腰掛け脚を組む

 

「このおっ!!!」

 

気配を殺してついてきていたから判るけど、あの黒髪の女は蛍と言うらしい、その隣で霊力の篭った棒でレギオンと応戦している女は美神。そして私の足元で寝ているのは横島で、抱えているのはタマモと言うらしい

 

(こいつは九尾の狐じゃないのかい?)

 

大分前に中国で見たような気がする。私は名前こそはメドーサだけど、中華系の系統を汲んでいるから実は数回あって話したこともある

 

(なんともまぁ……凄い?やつなのか?)

 

九尾の狐が懐くというのは正直信じられない。狐のときは更に人間の悪意に敏感になるというのに……タマモは横島を護った。それだけ善良な人間と言うことなのかもしれないねと思いながら戦いに視線を戻す

 

(押されてるね。ありゃ並のレギオンじゃないよ)

 

かなり上等な魔力を核にしている。これはそう簡単に倒せる相手じゃない、無論ちゃんと装備が整っていれば勝てる相手だけど

 

「行けッ!」

 

見たところ美神の装備は神通棍とか言う人間の使う武器と精霊石。多分破魔札も持っているだろう。だけどあれだけの再生能力を持つレギオン相手では分が悪い。蛍のほうは

 

「脆いくせに硬いわね」

 

霊力を板状にして投げることと霊波砲を武器にしているようだけど、決め手に欠いている……ダメージよりもレギオンの再生能力の方が上だからだ

 

(これを態々偵察させた理由が判らないね)

 

別にそこまで危惧する事は無いんじゃないだろうか?それに私は知りたかったバンダナの男の名前も判ったし、あの2人が死んだら横島は連れて帰ってもいいかもしれない。仕込めば強くなりそうだし……ねえ?並の人間では見抜くことが出来ないが、横島の中にはかなりの潜在霊力が眠っている。これを鍛えるのも面白いかもしれない

 

「くっ!?」

 

そんな事を考えていると美神がレギオンに殴られ体勢を崩す。その勢いか、50万と書かれた破魔札が横島のほうに飛んでくる

 

(この程度じゃ駄目だろうねえ。あのレギオンには)

 

普通のレギオンならこれでも充分だろうけど、まぁ相手が悪かったってことでこれで監視も終わりか?と思い立ちあがろうとすると、私の視界を隠すように横島が立ち上がり自身の足元に落ちていた50万の破魔札を掴む。

 

(無駄なのにねえ)

 

どうせ効かないのにと思いながらも横島が如何するのか気になり見ていると

 

「……」

 

目を閉じて意識を集中している横島の手の中の破魔札の中の霊力が増していく。おかしい普通破魔札と言うのは込められた霊力以上の力は使えない筈だけど……それに

 

(こ、これは!?)

 

発動することも無く、レギオンに引き裂かれた破魔札と横島の手の中の破魔札が共鳴し、更に霊力を引き上げる

 

「!?美神さん!離れて!」

 

蛍が美神を連れて飛びのいたのと同時に横島の手の中から破魔札が放たれ、レギオンに張り付く。それと同時に地面に落ちていた破魔札の破片も浮かび上がりレギオンの身体を覆う。そして横島は指で印を組み

 

「■」

 

何事か呟くと強烈なまでの霊力が炸裂しあのレギオンを跡形もなく消し飛ばした。これは間違いない、陰陽術だ。しかもかなり高位の……

 

ぐら……

 

糸の切れた人形のように倒れこむ横島を見て、アシュ様が警戒しろと言った言葉の意味を理解した私は

 

(こいつはとんでもない大物に育つかもしれないね)

 

とりあえず報告が優先だ。私はそう判断し、隠遁術を維持したまま廃ビルを後にしたのだった……

 

 

「い、今のはなに?」

 

見たところ破魔札を起点にした高位の陰陽術のように見えた。しかも現代には伝わってないほどのレベルの代物だ。それを素人のはずの横島君が使ったという事実に驚いていると、横島君の隣にしゃがみ込んでいた芦さんが脈を図りながら

 

「……美神さん。横島……意識無いです。しかもかなり前から」

 

つまり今のは横島君の意思ではない。もしかすると祖先の中に陰陽師かそれに属する人間がいたのかもしれない。生命の危機を感じて咄嗟に使ってしまったと考えていいと思う

 

(これはとんでもない拾い物ね)

 

幻術を見破る能力と幻術そして狐火を使えるタマモ

 

ある程度GSとして完成している芦蛍

 

まだ霊能力には目覚めてないけど、大化けするかもしれない横島忠夫。これだけの逸材を逃すわけには行かない!

 

「いいわ!決めた!2人とも雇うわ!詳しくは事務所に帰って、ううん。明日!明日話し合いましょう!ほら行くわよ!」

 

とりあえず今は話している元気もないし、早く休みたい。私はそう思いながらコブラに横島君と蛍さんを乗せて私は廃ビルを後にしたのだが

 

(ああ……出費が……これはたっぷり違約金を貰わないとね♪)

 

強力なレギオンだった。BランクのGSが何十人も束になって戦うレベルの悪霊だった。これは2億くらい貰わないと割に合わない。普段ならこのまま飲みに行くところだが、除霊の報酬に磨けば光るダイヤモンドの原石を2つも拾った私は珍しく鼻歌を歌いながらハンドルを切るのだった……これだけ優秀なGSの卵をむざむざ手放してなるもんですか!

 

(また会えた。1000年待った甲斐があった)

 

「ん?芦さん何か言った?」

 

「いえ?なにも?」

 

おかしいわね?いま確かに誰かの声がしたような気がしたんだけど?疲れているのかな?私は多分疲労のせいだと判断して

 

「少し飛ばすわよ」

 

「え?ま、待って!?」

 

横島君を抱えなおす芦さんを確認してからコブラのギアをトップに入れたのだった……これなら5分くらいで帰れるわね。日付が変わる前に事務所に戻って報告書を仕上げて

 

「今日は泊まって行っちゃいなさいよ。そのほうが話も早いわ」

 

「ひいいいい!?」

 

加速のせいで返事を返すことの出来ない芦さんに苦笑しながら、私は事務所への道を高速で走り抜けて行くのだった……

 

 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その4へ続く

 

 




横島(?)の活躍でレギオン消滅。もうどういうことかGS美神を知っている人は判ると思いますけどね。次回はメドーサとかアシュ様の視点もいれて書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回は前半はアシュタロスやメドーサの視点。後半は蛍の視点で進めて行こうと思います
アシュ様は久しぶりに少しシリアスかな?蛍視点は交渉をメインにしていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



GSのアルバイトを始めよう! その4

 

廃ビルの監視を終えて帰ってきたメドーサに目の前の椅子に座るように促してから報告を聞く

 

「廃ビルのレギオンですが、かなりの再生能力に加え。火炎・幻術・結界の3種類の能力を持っていました」

 

うん。それは知ってる、私が力を与えたからね。今思えばやりすぎた気がしなくも無い

 

「黒髪の少女と亜麻色の髪の女。それと……バンダナを巻いた少年と妖狐についてですが」

 

「ああ。黒髪の少女のほうはいいよ。彼女の名前は芦。芦蛍。ここまで言えば判るだろう?」

 

人間界では私は芦優太郎。ここまで言えば聡いメドーサなら判るはず

 

「アシュ様の眷属でしたか?その割には魔力が……」

 

「眷属と言うか娘だね。愛しい娘」

 

「はい?」

 

間の抜けた声を出すメドーサ。私の中では凛とした女性と言うイメージがあったが、こんな顔もするんだなあと思いながら

 

「私の目的のためにね。バンダナの少年。横島君を鍛えてもらってるんだよ。それまでは基本的には人間側で行動してもらうつもりでね」

 

まぁ最終的には私が人間側になるんだけどねえと思いながら言うと。メドーサは若干目に喜びの色を浮かべて

 

「ではあの横島はこちらの陣営に?」

 

私の城で寝ている間に逆行してきたメドーサの精神と融合したのか、横島君への好意が若干あるようだね

 

「それも考えて行動しているんだ。無論私の最終目的のためでも在る」

 

ちなみにその最終目的は横島君と蛍の結婚なのだが、メドーサは私の表向きの理由。最高指導者の抹殺だと思ったのか

 

「判りました。アシュ様の目的が適う様に協力します。それではまた指示があれば連絡を、それまで私は天龍童子をどうするのか考えますので」

 

あーそういえばそんな話もあったなあ、別に天龍童子をどうこうしようと言う気はないんだけどなあ。メドーサが私の部屋を出てからオッズ表を見ると

 

メドーサ 1.7倍→2.6倍

 

倍率が戻っていた。もしかすると蛍と横島君の事を考えたのかもしれないね。とは言え魔族だから一夫多妻とかにも抵抗が無い。倍率が元に戻ったからと言って楽観視は出来ない

 

(小竜姫と会われると何か変わりそうだしね)

 

未来の意志と現代魂の結びつきは個人差がある。蛍は特例で記憶を持っているが、知らない記憶も多い。小竜姫のように明確な意識を持って現代の自分を取り込もうとしているのはかなり珍しい

 

(メドーサも出来たらこちらがわに引き込みたいんだけど、今のままだと難しいね)

 

現代のメドーサがはいそうですかといって、従ってくれるとは思えない。彼女はプライドも高いしね

 

(少しは未来の記憶が戻ってくれると良いんだけどね)

 

そうすれば本格的に動くことの出来ない私と違って、顔の広いメドーサは過激派を探すのに役に立ってくれるだろう。だがその場合メドーサは蛍の敵になるということで

 

「ままならないねえ……」

 

私としては味方にしたいけど、味方にしてしまうと蛍の敵が増える。なんともままならないものだねと思いながら背もたれに背中を預けて

 

「……とりあえず敵が増えてないってことで蛍の怒りが収まってくれると良いなあ」

 

蛍は恐らくあの廃ビルに居たメドーサのことを気付いていただろう。これでオッズが下がっていたら更に怒りを買っていただろうなあと思いながら。土偶羅魔具羅が集めてくれている過激派の行動だと思われる事件についての資料に目を通すのだった……

 

 

 

アシュ様のビルを後にして、人界のアジトにしているホテルに戻り

 

「はーなんか疲れたねえ」

 

精神的肉体的の疲労はそこまでではないんだけど、妙な疲労感を感じる。ベッドに横になり目を閉じる

 

(アシュ様の手がかかってる人間がGSの組織に居るのかい……となると私はどうするかねえ)

 

天龍童子の襲撃の後に何処かのGSの養成施設に潜り込んで、見込みのある人間に魔装術を教える予定だったが、アシュ様が動いているのなら実行するかどうかも判断に悩む

 

(うーん。だけどアシュ様には一応聞いてる訳だし……多分あの蛍って言うのは横島をこっちに引き込むための人員なんだろうね)

 

あの廃ビルで見た陰陽術。あれは下手をすれば私でも大ダメージを受けかけないほどの術だった。どうも本能的に使ったらしいが、その威力は充分すぎる。警戒するのも納得の人間だ

 

(……まずは人界にいる龍族を焚きつけて……足がつかないように……)

 

ベッドで横になっているうちに眠くなり、私はそのまま眠ってしまうのだった……しかし眠りに落ちたはずのメドーサはすぐに身体を起こし

 

「……変な感じだね。まぁいいか」

 

さっきまでのメドーサの口調よりも少し柔らかい口調で話すメドーサ。目の光も随分とやさしいものになっている

 

「だけど手足の感覚は鈍いね。魂の差異か?」

 

判ると思うが今話しているのは逆行してきたメドーサだ。今のメドーサの属性は魔族・悪なのだが、未来のメドーサは魔族・中立であり。その差が手足の感覚の鈍さや、穴抜けの記憶のせいになっている。魂は同一でも根本的な属性が違う、小竜姫は同じ存在で属性も同じだから驚くほどに同化が早かったのだが、メドーサはそうは行かなかったようだ

 

「リンクも無いしね。こりゃ私が表に出るのは相当難しそうだ」

 

魂同士の繋がりを感じない。現代のメドーサの属性が変わるまでの自分が表に出るのも、同化もするのも難しいねと呟き。ベッドの淵に座り足を組みながら鏡を見て

 

「……私ってこんな顔をしてたんだね」

 

少しショックを受けながら呟く。あの時代ではもっと肌に張りもあったし、目付きも柔らかいものだった……

 

「うーん。これじゃあ横島が怖がるかもしれないねえ……」

 

こうして表に出れたのなら少しは横島に会って見たい気もするが、暫くの間人界での行動は私がメインになるはず。下手に動くわけにも行かないしねえ……

 

(月って何時だったかな……)

 

まずは若返らないと蛍と勝負にならない。美女・美少女ならOKと言う横島だが、少々歳をとりすぎているような気もするし……

 

「ふっふっふ……あの時は諦めたけど、今度は諦めないよ」

 

私も蛍。いやルシオラは横島の霊気の引き継いでいるから、姉妹と言えなくも無い。別に私も一緒に居ても良いと言うのなら蛍のために協力しても良いと思うし

 

(まぁその為にはまずは蛍との接触する必要もあるし、それも中々難しいような気もするしね……)

 

多分こうして表に出ている時間はかなり短い筈。接触するのも難しい……だけど蛍と接触しないと不味い……

 

「あ……」

 

今思い出した。ぺスバとおキヌと話している時に来た小竜姫。なんか色々と焚きつけてしまって振り切った表情をしていたっけ……

そして更に思い出すのは恐怖の記憶。私とべスパが目を逸らした瞬間に聞こえた「ガパアッ!モグシャアッ!!!」「きゃあ!?」「くすくす笑ってごーごー……ふふふふふふふふ」

 

おキヌが真っ黒いオーラを纏い。小竜姫を飲み込み、自身と同じく真っ黒にしていた。そして私とぺスパは悟ったのだ。この世には触れてはいけない存在が居ると、それが間違いなく。おキヌだ……

 

「あーあー……刺し殺したいなあ」

 

とかをエガオで言っていたあの顔は魔族である私でさえも恐ろしかった。そしてそのおキヌに飲み込まれていた小竜姫も同じようになっていた。それを思い出した私は

 

「私殺されないよな……」

 

龍としての凶暴性を表に出すようになってしまっていた小竜姫の事を思い出し、GS試験の時と原始風水盤の時殺されかねない事を思い出た。無論小竜姫だけではなく、おキヌの存在もかなり危険だ

 

「届け、届け、届けッ!!」

 

ベッドに座り腕を組んで繰り返し呟く。現代の私は白龍会に手を出すのを止めようとしていた、それは不味い。少しは干渉できるかもしれないので必死に祈る。小竜姫には気をつけろ、計画通りに動けっと必死で念を送る。冗談じゃなく命が危ないからだ……だんだん薄れていく意識の中も必死に祈り続けるのだった……

 

「ん?……寝てたのか?私らしくないねえ」

 

苦笑しながら身体を起こしたメドーサは頭を振りながら身体を起こして

 

「とりあえず白龍会に顔を出して、人界の龍族に声をかけて……防具を新調して……意外なほどにやることは多いねえ……」

 

今のメドーサは気付くことはなかったが、やろうと思っていたことがかなり増えている。未来のメドーサの想いはしっかりと現代のメドーサに届いているのだった……

 

 

 

美神さんの事務所のソファーで一晩を過ごした俺は凄まじい威圧感を感じながら

 

「なータマモー。俺家に帰りたいなー」

 

「クーン……」

 

膝の上でお腹を見せているタマモのお腹を撫でながら呟く。タマモもぷるぷると震えていることを考えると怖いんだろうなあ……

 

「時給450円?労働基準法って知ってます?」

 

「霊力も使えないんだし、荷物持ちと囮位しか使えないんだから。450円でも高いわよ!」

 

蛍と美神さんの怒鳴りあいが恐ろしい。もしタマモが膝の上に居なければ俺は逃げ出していたかもしれない

 

「最低賃金は護ってください!」

 

「蛍さんには3000円出すって言ってるんだからそれでいいでしょ!?」

 

「冗談じゃないです!横島だって危ないんですよ!?せめて2000!」

 

「高いわよ!」

 

アルバイトとして雇ってくれるのだが、俺の時給についての口論をしている。

 

「クウ」

 

ガジガジと甘かみしてくるタマモ。前足でじゃれついてくるタマモが可愛くて仕方ない。タマモのおかげで怖くない……

 

(うーありがとなータマモ)

 

心の中でタマモに感謝する。朝起こしてくれるタマモにこうして甘えてきてくれる、もうタマモがいない生活は考えられないかもしれない。あ、勿論蛍もだけど

 

「判ったわ!ここでアルバイトはしない!横島!別の事務所に面接に行くわよ!」

 

「え?」

 

怒った様子で言う蛍。俺としてはこんな美人のお姉様と一緒に働けるのは最高だと思ってたのに

 

「早くする!小笠原除霊事務所に「1500円!横島君が霊力を使えるようになればその都度査定する!」

 

美神さんが焦ったように叫ぶ。この時俺は見逃す事はなかったが、蛍がにやりと悪い顔で笑ったのをしっかりと見た

 

「OK。それで行きましょう。それと横島は学生だからある程度はそこの所は考慮してね?」

 

「うう……判ってるわよ」

 

しぶしぶと言う感じで契約書を書き直している美神さん。俺は勝ち誇った笑みを浮かべている蛍の背中に

 

(お、お袋。蛍に何をしたんや)

 

あの背中はどう見てもお袋と同じ背中。一体日本に居る間にお袋は蛍に何を教えたのか?俺はそれが激しく気になったが、知ってはいけないことだと判断して詳しく聞くことは無かった

 

「それじゃあ、とりあえず昨日の除霊の費用を少し頂戴?10万でいいから」

 

「まぁ確かに私1人じゃだめだったから……」

 

ものすごーく嫌そうな顔をして蛍に金を手渡す美神さん。事務所の中の威圧感がなくなったので、定位置の頭の上にタマモが上ってきたところで

 

「それじゃあ!横島!タマモ!何か美味しい物でも食べに行きましょう。何が食べたい?」

 

笑顔で尋ねてくる蛍。美味しい物……そう言われて頭の中に浮かんだのは

 

「寿司は?回ってる奴で良いで?」

 

最近食べてない寿司の事を思い出して言うと、蛍はくすりと笑い

 

「回ってない寿司で大丈夫よ!行きましょう!」

 

「まじか!?」

 

回ってない寿司屋なんて言った事が無い。もしかすると大トロとかも食べれるかもしれないと思い立ち上がる

 

「クウ?」

 

「タマモには美味い稲荷寿司だよなー?判ってる」

 

「コーン♪」

 

タマモも頑張ってくれたんだからのけ者なんてことはありえない。俺は頭の上のタマモにそう声をかけ

 

「それじゃあ美神さん!今度からよろしくお願いします!」

 

俺はそう頭を下げ、既に事務所を後にした蛍の後を追いかけて事務所を後にしたのだった……

 

 

 

 

楽しそうにビルから出て行く芦さん達を見て私は深く溜息を吐いた

 

(やられた……芦さんが時給3000円で横島君が1500円。一律危険手当が5000円)

 

かなりの大損で、損して得取れとは言うが、損せず得取れと現世利益最優先の私にとっては手痛い出費だ。だけどあの2人がエミの所に行くのを防げたのだから仕方ないと割り切るしかない

 

「エミの所にあの2人が行くことになったら大損よ」

 

そう思えば、ここであの2人にそれなりの時給を出すことを約束しても何の問題もない。優秀な従業員1人と、そうなるかもしれない従業員が1人。充分元は取れるはずだ……

 

「さーて、それじゃあ最初はどんな依頼を受けましょうか」

 

まずはあの2人に実戦の経験をつませないといけない……あー横島君の訓練もあるか

 

「ま、それは大丈夫でしょう。芦さんがいるし」

 

芦さんはかなりGSについて勉強してきているので、このままGS試験に出せるレベルだ。それに見た感じだけど、芦さんは横島君を随分と気にかけているみたいだし、態々私が稽古をつける必要もない

 

(そう言うところでは本当に良い子よね)

 

まぁ交渉のレベルの高さには正直驚いた。ある程度基礎を教えれば私の代わりに依頼を取れるレベルだと感心しながら、依頼の書類に目を通していく

 

博物館の除霊 400万 没 安すぎる。霊具のコストも馬鹿にならないし駄目

 

祟り塚の鎮魂 1200万 没 これも安すぎる。祟り塚の除霊を1000万で出来るわけが無い。

 

廃神社の除霊 4000万 没 レート的にはまあまあだけど、祭ってる神によっては死に兼ねない。これも当然駄目

 

霊的不良物件 1億円 ただし午前中のみ、早急に除霊求む

 

「不良物件の除霊にしておきますか。条件も楽そうだし」

 

それに情報に詳しく目を通すと、自殺した元工場の経営者が起こしている事件らしいし、これくらいなら本当は2000万が相場だけど、流石大企業。太っ腹だわ……この依頼で決まり。

 

「美神令子除霊事務所です。依頼の件でお電話しました……はい……はい。では明日の明朝にお伺いします」

 

早く除霊してくれと詳しく話も聞かず。私に依頼してきた、これならもう少しお金を取れそうね

 

「芦さんと横島君もやっぱり連れて行こうかしら」

 

前のレギオンなんて滅多にでる者じゃないし、今度はちゃんとした除霊現場に連れて行かないとね。私はそんな事を考えながら、明日の除霊に必要な道具の準備を始めるのだった……

 

 

GSのアルバイトを始めよう! その5へ続く

 

 




メドーサがメインでしたね。メドーサはかなり好きなキャラなので優遇して行きたいと思います。あと先に言っておきますがおきぬちゃんは魔王で黒おキヌをメインにしたいと思っていますので、先にご了承ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の前半は横島と蛍の話で行こうと思います。今回の話は横島の心境をメインにして行こうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



GSのアルバイトを始めよう! その5

 

蛍と一緒に来た寿司屋は蛍の言うとおり回らない寿司屋で……ビルが立ち並ぶ見るだけでもわかる高級店と言う感じの店だった

 

(どないしょ。俺場違いやん!)

 

ここは自分の来るべきよう名店ではないような気がして汗がだらだらと流れるのが判る。俺なんかは回転寿司なんかで充分だというのに……蛍に案内された店を前に俺は冷や汗が流れるを感じた。タマモもお気に入りの頭の上から、俺の服の中に潜り込んでいる

 

「こんにちわ」

 

「いらっしゃいませ」

 

蛍が慣れた感じで着物を着ている女性に話しかける。蛍は芦グループって言う大企業の娘らしいのでこういう雰囲気に慣れているのかもしれない

 

「今日は彼氏さんと?」

 

着物の女性が俺を見てそんな事を蛍に尋ねる。俺が口を開くよりも早く蛍が穏やかに微笑みながら

 

「そんな所です。いつもの所でお願いします」

 

蛍と着物の女性に案内されて店の奥に通される。プライベートルームって感じでますます落ち着かない

 

「ほ、蛍は良くこんな店にくるんか?」

 

俺がそう尋ねると蛍は大丈夫よと小さく笑って、真向かいではなく俺の隣に座る。蛍の甘い匂いがしてますます落ち着かない

 

「お父さんと良く来るのよ。でもいつかは横島と一緒に来たいと思ってたわ」

 

普段ならタマモが唸るのでこんな雰囲気にはならないが、タマモが全然動かないのでこの甘い空気に完全に呑まれてしまった

 

「あ……あう……」

 

こんな経験がなくて赤面して俯くと蛍はますます楽しそうに笑って

 

「美神さんがお金をくれたし、好きなの頼んでもいいわよ?」

 

値段が書いてない寿司なんて何を頼めばわからないのでとりあえず

 

「稲荷寿司と卵」

 

値段の書いてない寿司なんて怖くて注文できない。一番安いと思われる卵とタマモのお稲荷を注文すると

 

「もうッ!そんなにビクビクしなくていいのに……すいません。横島に板長のお勧め3人前。私は1人前でそれと稲荷寿司をお願いします」

 

蛍が勝手に注文してしまう。着物の女性が出て行ったのを確認してから、タマモが服の中から這い出し。俺の膝の上で丸くなる

 

「た、たかいんちゃうか?」

 

お勧めには大間のマグロとかウニやホタテと名前が踊っていた。どう考えても高いとわかるネタだ

 

「大丈夫大丈夫♪昨日はあんなに大変だったんだから、美味しい物食べてゆっくりしましょう?」

 

蛍がそう笑ってくれるがそんな気分ではない、俺は膝の上のタマモを撫でながら

 

(早く来ないかなー)

 

とりあえず食事でもすれば、この感じにも慣れるだろうと思い早く料理が来てくれるのを祈るのだった……

 

 

 

お父さんと良く来る寿司屋に横島を連れてきたんだけど……

 

おどおど……

 

きょろきょろ……

 

そわそわ……

 

落ち着きが無い様で目が物凄く泳いでいる。これは可愛い横島だ、私の心の中の横島フォルダにしっかり保存しておこう

 

「お待たせいたしました」

 

仲居さんが寿司の皿を運んできてくれる。この店はこうやってゆっくり食べれるからいいわね……

 

「それじゃあ頂きます」

 

仲居さんが部屋を出て行ったのを確認してから。手を合わせて寿司に手を伸ばす……横島も若干おどおどしながら寿司に手を伸ばし

 

「う、美味いわア……これが大トロって奴なんやなぁ……」

 

心底美味しいという感じで嬉しそうに笑う横島。その顔を見るだけでここに連れてきて良かったと思うのだった

 

「タマモも美味いか?」

 

狐は雑食なので横島は自分の分の大トロなども分け与えている。タマモは嬉しそうに尻尾を振りながら

 

「コン♪」

 

稲荷寿司を食べてご満悦と言う感じのタマモ。あ……尻尾が6本になった。そんなに美味しかったのかしら?それとも横島の霊力が上がって自分の霊格も上がったのかしら?まぁなんにせよ……

 

(あと3本で完全体ね。どれくらい時間が掛かるのかしら?)

 

タマモが人化を使えるようになるまでにもう少し横島の懐に入りたい。横島が人外に好かれるのは個性だし、懐に入れた存在にはとても甘い。それで行くとタマモが最大の敵になるのは言うまでも無い

 

(時間はまだありそうだけど油断は出来そうに無いわね)

 

あの廃ビルのレギオンの時に使った陰陽術。お父さんとしての横島はそんな物を使うことは出来なかった、可能性としては逆行時に何かの要素が加わってしまったのかもしれない

 

(だけどまぁ。基本的には馬鹿でスケベな横島だから良いか)

 

かっこいい横島やスケベじゃない横島は横島ではないので、ここはまぁ良いかと判断する。失ってしまった霊力を回復させるために食事を進める。話はその後でもいいしね

 

「さてと横島。初めての除霊はどうだった?」

 

一通り食事を終えたところでそう尋ねる。私は1人前だったけど、横島3人前。私の方が早く食べ終わると思ったのだけど、実際には食べ終わったのはほぼ同時。女性と男性の違いだろうか?いやそれだけじゃなくて多分、横島自身がかなり霊力を消耗した事も原因なのかもしれない

 

(あの陰陽術。中位の悪魔なら一撃で消滅させるわね)

 

見た感じ、破壊されたまたは効果を使用した破魔札と自身の持つ破魔札の霊力を共鳴させて出力を跳ね上げた破邪の術。悪魔や魔族に効果的なのは言うまでも無い。横島は最後のマグロを頬張ってから

 

「よー判らん。なんも覚えてないし……蛍と美神さんがわいが倒したって言うてくれたけどな」

 

頭をかきながら呟くように言う横島。やっぱりあの時は意識を失っていたのね……多分そうだと思っていたけどその通りだったわけだ……

 

「わい……GSになれるんかなあ?不安や……」

 

いけない、まだこの時期の横島は霊力に目覚めていない。不安になるのは当然だが、このまま自信を失われても困る。横島は元々自分に対する評価がかなり低いので自信を無くされてGSを止めるといわれたら困る

 

(どうしよう……予定と大分狂ってるわ)

 

私の予定ではあの廃ビルの除霊のときに横島に破魔札を使わせて、ある程度自信を持たせる予定だったのに、お父さんのせいでご破算になっている。どこか近くの自殺現場にも連れて行って除霊の経験をさせようか……

 

「わい……大丈夫かな?なぁタマモ」

 

「クウ?」

 

タマモを抱き上げてそんな事を呟いている横島。不味いわね……かなり意気消沈しているわ……私は立ち上がって横島の前に座って

 

「大丈夫よ。初めての除霊だったんだからあんな物よ、次があるわ」

 

その手を握り、横島の目を見て呟く。最初から出来る人間なんていない、だから自信を失う事なんて無い。ここから頑張っていけばいいのだから

 

「コン」

 

タマモも横島を励ますように鳴く。横島は私とタマモを見て

 

「そっか……最初から何でも出来るわけや無いもんな!次頑張るわ。痛いのも怖いのも嫌やけどな!」

 

そう笑う横島にその息よと励ます。横島は最初は未熟だけど、大丈夫。横島はこれからもっと強くなるのだから

 

「横島が強くなるまでは私が護るわ。だから一緒に頑張りましょう」

 

横島の頬に手を添えて私の方を向かせてから額に軽く口づけをする。額にキスは祝福・友情。きっと横島はこのキスの意味を知らないだろう。頬を赤くする横島を見て自分も頬が赤くなるのを感じながら立ち上がり

 

「今日はそろそろ帰りましょう。昨日の除霊で疲れたしね」

 

美神さんの事務所のソファーで眠ったけど、正直疲れはあんまり取れていない。やはりベッドで寝ないと駄目だ

 

「そやな……ふあ……満腹になったら眠くなってきたわ」

 

そう笑う横島に苦笑しながら仲居さんに料金を支払い(横島には見せなかったが3万を越えていた)

 

「じゃあね横島。また明日」

 

「ん。また明日」

 

横島の家の前で別れた私はさっきまで浮かべたいた笑みを消しながらビルの中に入り。そのまま最上階に向かう

 

「や、やあ……蛍。お帰り」

 

引き攣った顔で窓を開けて外に逃げようとしているお父さんに

 

「ただいま。お父さん少し話があるんだけどいいかな?」

 

拳を握りしめるついでに手首のブレスレットも外して魔力を解放し、更に霊力も込める

 

「い、嫌……今は少し忙しいかな?」

 

逃げるというのは無駄なことだからもう諦めてほしい。と言うか今はまだ神魔に追われているのだから、逃げる場所なんて無いに等しいのだから無駄な抵抗はしないでほしい。時間の無駄だから

 

「大丈夫。すぐに済むから」

 

お父さんのせいで横島が死に掛けた。これはもう断じて許すことなど出来はしない……ゆっくりとお父さんに近づき、その肩を掴んで

 

「余計な事するなーッ!!!」

 

あのレギオンを作り出したのはどう考えてもお父さんだ。下手をすれば私達も死んでいた。その事に対する怒りと霊力と魔力を拳に込めて

 

「げぶろぶ!?」

 

全力のアッパーをお父さんの顎に叩き込んだ。ビルの天上の完全に突き刺さっているお父さんに

 

「今度余計な事をしたら許さないからね」

 

聞こえているか怪しいが、私はそう声を掛けてから自分の部屋に戻るのだった。その途中で

 

「アシュ様ーッ!!!!!!」

 

たまにしか見ない土偶の嘆きの声を聞いたが、私は対してそれを気にも留めず歩き続けるのだった……

 

 

 

 

蛍と分かれて家に帰ってきた俺はそのまま風呂お湯を張りながら、自分が入浴する前に

 

「はいはい、大人しくしてる」

 

じたばたと暴れているタマモの胴体を掴んで逃亡を阻止しつつ、タマモ専用風呂(大きめの桶)にお湯を入れて

 

「ほれ」

 

ぬるい目のお湯をかけているのだが、タマモは嫌そうに鳴きながら

 

「コーン!!コーンッ!!!!」

 

尻尾を振りばたばたと暴れているタマモも押さえ込んで手にシャンプーをつけて

 

「汚れてるんだから大人しくしてろ!蛍が怒るから」

 

俺は別に構わないのだが、部屋を汚すと蛍が怒るので暴れるタマモを押さえつけてわしゃわしゃと無理やり泡を立てる

 

「グルルルルル!!」

 

俺を睨んで唸るタマモ。普段は大人しくて可愛いらしい狐なのに、風呂の時だけはどうしても駄々をこねるなと思いながら

 

「唸っても怖くないで、大人しくしい!」

 

唸っているタマモにそう怒鳴り、タマモを洗い終え。用意してあったドライヤーでタマモの毛を乾かしながら梳いてやると

 

もふ……

 

「くう……」

 

毛がもこもこと膨れ上がっているタマモをベットにしている篭の中に寝かせてやると

 

「クー」

 

不機嫌そうに俺を睨みながらも、眠いのか丁寧にならしてから伏せるタマモに苦笑しながら、俺も風呂にはいることにしたのだった

 

「はーさっぱりした」

 

満腹なのと風呂でさっぱりした事で強烈な眠気を感じながら、布団に潜り込む。自分でも驚くほど早く眠りに落ちた。それだけ疲れていたのかもしれない……

 

「ぺしぺしぺし」

 

「んああ!?」

 

額に連続した衝撃を感じて目を覚ますとタマモが前足で俺の額を必死に叩いていた

 

「まだ。眠いって……「ぺしぺしぺし」ん?なんや?」

 

タマモがあんまりに必死に額を叩くので身体を起こす、時計を見ると17時30分。4時間ほど寝ていたことになる……すこしぼーとしていたのだが、俺の耳にけたたましくなる電話の呼び鈴の音が飛び込んでくる

 

ジリリリ!!

 

ジリリリ!!!

 

「電話?おお!やべえ!?」

 

もしかしたらお袋か親父かもしれん!慌てて飛び起きて

 

「サンキュー!タマモ!」

 

「コン♪」

 

タマモに礼を言って電話を取る。蛍がたまに来て掃除してくれているのですんなり電話を取ることが出来た。本当蛍には感謝だな

 

「もしもし横島です」

 

【あ、横島君?美神よ。もしかして寝てた?そうだったらごめんね】

 

「いや、全然大丈夫っすよ?なんのようですか?」

 

電話の相手は美神さんだった。いきなりなんの様だろうか?と考えていると美神さんは

 

【明日早速仕事だから、朝8時に事務所に来てね?学校のほうにも連絡して公休にさせてもらいなさい】

 

「うっす……」

 

【じゃあ伝えたからね?今度のは前のビルみたいにレギオンなんて化け物はいないから安心しなさい】

 

そう言って電話を切る美神さん。俺は受話器を元の位置に戻して寝室に戻る

 

「クウ?」

 

首を傾げながら俺を見ているタマモを抱き上げ。そのクリクリした目を見ながら

 

「明日除霊だって、今度は大丈夫かな?」

 

前みたいな事にならないだろうか?と呟くとタマモは頭を摺り寄せて俺の目を見つめてくる

 

「うん……大丈夫、頑張ってみるよ」

 

一見すると狐に話しかけている頭の痛い人間だが。別に構わない、タマモは妖狐だ。ちゃんと俺の言おうとしている事は理解してくれている

 

「コン♪」

 

頑張れと言いたげに鳴くタマモを抱えたまま布団にもぐりこむ。タマモはもぞもぞと俺の腕の中を動いて、丁度良い位置を見つけたのかそこで動かなくなる。俺は再び大きく欠伸をしてから目を閉じた。除霊は不安だが、蛍と美神さんがいるのだから大丈夫だろう。今度は少しは活躍できるように頑張ろうと思いながら俺は再び眠りに落ちるのだった……

 

(もっとがんばらないとな)

 

折角GSの所であるバイトをしているんだ。今までの独学と蛍の訓練だけじゃなくて、少しは目に見える成果が出せるようになりたいと思うのだった……

 

 

GSのアルバイトを始めよう! その6へ続く

 

 




次回は除霊の話になります。これからGS美神の雰囲気をもっと出せていけると思います。横島の魔改造は段階的に進めて行こうと思います。だけど基本的には原作の馬鹿でスケベな横島のままにしたいので、俺最強!見たいな感じにはならないと思います
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回はオリジナルの除霊を書いていこうと思います。その後は原作で面白いと思うもの、必要だと思うものを選んで書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート3 GSのアルバイトを始めよう! その6

 

美神さんに言われた通り。朝8時に事務所に行くとそこでは

 

「ヌアアアア!?目がッ!目があああああッ!?」

 

「フウウウウッ!!!!」

 

目を押さえてのた打ち回っている横島とその近くで威嚇体勢で唸っているタマモ。そして部屋の奥から聞こえてくるシャワー音

 

「横島。美神さんのシャワーを覗こうとしたのね?」

 

「チ、チガイマスヨ?ホタルさん」

 

目を両手で押さえながら呻く横島。だけど不自然な敬語のせいで判る、と言うかそんな事を考えなくても判る。横島がこの状況で覗きをしないわけが無いと……

 

(このままだと多分私も覗きに来るかな……べ、別にそれ自体は良いんだけど)

 

多分このまま私と横島にシャワーを浴びるように言われるだろう。本来では水でやるのだが、恐らく禊の儀式だからだ。

 

「ううーワイが一番最後にシャワー浴びるように言われてるんや。こんなの耐えられへん」

 

煩悩に忠実な横島が涙ながら呟く。だけど私は知っている……煩悩に忠実な横島の弱点を……のた打ち回っている横島の前にしゃがみ込む。スカートを履いているが、キュロットスカートなので構造上見ることが出来ないのだが、横島の視線を感じる。若干……いやかなり気恥ずかしい思いをしながら

 

「じゃあ私とシャワーする?」

 

少しの沈黙後。信じられない顔を色になった横島は次の瞬間には……

 

「ぶばあッ!?」

 

目と鼻と耳からありえない量の血液を出して意識を失う横島。横島は自分から飛び掛る場合もあるが、それは必ず失敗すると知っているからだ。成功するかもしれないとおもうと足踏みしてしまう。そして更に好意を向けられるのにも弱い、だからその弱点を考えれば昏倒するのは当然の事だったのだ

 

(ま。まあ私は別に良いんだけどね)

 

横島が望むのなら……一緒にシャワーをしても良いんだけどねと心の中で呟いていると

 

「ほ……芦さん来てたのね」

 

長い髪をタオルで拭っている美神さんは事務所の横で血の海に沈んでいる横島を見て、一瞬眉を顰めたがそのまま所長の椅子に座る

 

「言い難いのなら蛍でいいですよ。私もそのほうが良いですし」

 

必死に前足で横島を起こそうとしているタマモ。だけどそれは無駄と言うものだ、完全に意識を失った人間と言うのは中々起きる事は無いのだから。私は気絶している横島をソファーに座らせていると

 

「蛍さんはどうしてそんなのが好きなのかしら?私からすると理解できないわね」

 

仕事の前だからお酒を飲まず、変わりに水を飲んでいる美神さんがそう尋ねてくる。私はくすりと笑いながら

 

「横島の魅力は判りにくいですから」

 

私がそう笑うと美神さんはそう言うもの?と首を傾げている。私としては気付いてほしくはない、あの人は1000年も横島を持っていた。もし自分の気持ちと横島の事に好意を持たれると最大の敵になる。だから出来れば横島の良さには気付いて欲しくないなと思いながら

 

「それじゃあシャワーを浴びてきますね」

 

「うん。そうしなさない、除霊の前には身体を清めるのは当然の事よ。GSとしての心構えだからちゃんと覚えておきなさい」

 

その言葉に判りましたと返事を返し、私はシャワーを浴びるために浴室へと向かうのだった……

 

 

 

 

蛍の言葉に鼻血と耳血を出して意識を失った俺が目を覚ますと

 

「あら?おきた?横島も早くシャワーを浴びて身体を清めてくると良いわ」

 

「除霊の前の下準備だからね、ちゃんと身体を洗って来なさいよ」

 

髪を拭いながら言う蛍。それと除霊の準備をしている美神さん。俺は軽い頭痛を感じながら頭を振って

 

「さっきの冗談やったんか?」

 

俺と一緒にシャワーの言葉の真意を尋ねると蛍はふふっと小さく笑って

 

「本当よ。まぁ横島が鼻血を出さないようになったらね?」

 

また鼻に熱が溜まるのを感じた俺は鼻を押さえて

 

「シャワーを浴びてきまーすッ!!!!!」

 

俺は逃げるように浴室へと逃げ込むのだった……なおそこはちゃんと男性用と女性用に分かれていた。女性用は鍵がかかっていたので、男性用の浴室に入り、そこでお湯ではなく、水のシャワーで頭を冷やそうとしたのだが

 

「つ、冷たいッ!?当然か」

 

その冷水で完全に頭が冷えたのだが体も冷えた……

 

「あー冷たい」

 

今度はお湯にして身体を温め、美神さんと蛍に言われた通り、しっかりと身体を洗ってから浴室を出ると

 

「おお!美神さはーんっ!!!」

 

胸を大きく強調し、しかも丈の短いボディコン姿の美神さんを見た瞬間。飛び掛ったのだが

 

「はいはい。おいたは駄目よ。横島」

 

「ぎぇ!?」

 

Gジャンの襟を蛍に掴まれ、一瞬意識が遠のいた上に

 

「あんまりセクハラしてると減給するわよ!!!」

 

額に青筋を浮かべた美神さんの鬼の笑みに心こそ恐怖を感じ、俺は壊れたブリキ人形のように何度も何度も頷くのだった……

 

「じゃあ割と近い現場だから歩いていくわよ、はい、横島君」

 

ドスッ!(←重々しい音を立てて俺の前に置かれるリュック」

 

「……なんすか。これ?」

 

ちょっとした丘のようになっている巨大なバッグを前に目が点になる。これをまさか俺に運べと……

 

「除霊具よ。しっかり運ぶ事、落としたり壊したりしたら時給250円にするからね」

 

そう言って歩いていってしまう美神さん。俺は目の前のとんでもなく重そうなリュック背負う。見た目同様かなりの重さだがもてない事はない

 

「……なんかイメージと違う」

 

もっとこう……何と言うか霊的なイメージだったんだけどと呟くと

 

「それは仕方ないわ。GSによってそのスタイルは全然違うもの。美神さんは道具を使いこなす事にたけたGSだから」

 

そ、そんな物なのか……重いけど運べない事も無いリュックを背負い

 

「すぐにはついて行けん。道案内よろしく」

 

「ええ、行きましょう。横島」

 

蛍にこんなに重い荷物を持たせるわけにも行かない。気合を入れて立ち上がる俺の頭の上で

 

「コーン」

 

頑張れという感じで鳴くタマモの声に頷いてから俺はゆっくりと歩き出したのだった……

 

 

 

横島君と蛍さんを連れてきたのは私の事務所の近くの廃工場。なんでも5年ほど前に不渡りを出して社長が自殺した工場らしい

 

「さて、この手の除霊は比較的多いわ。今のこのご時勢だとね」

 

土地の再開発やバブルのおかげでこのような、廃工場などの除霊は比較的多い……だが

 

「自殺者って言うのは怨念が強い場合もあるわ。だからしっかりと現場を見て、追加報酬の話をする必要もあるから覚えておきなさい」

 

今回の除霊の報酬は1億円。軽く霊視をしながら工場を見て

 

(かなりの怨念が篭ってるわね。これは少し難しいかもしれないわね)

 

自殺した社長とやらの意識が残っているなら比較的簡単だけど、自我が崩壊してると不味いわね……

 

「横島君。霊体ボウガンと神通棍を」

 

「これと……これっすか?」

 

除霊具を持っている横島君にそう声をかける。横島君は背負っていたリュックを下ろして霊体ボウガンと神通棍を手渡してくれる

 

「じゃあ蛍さんはこれ、横島君は破魔札を持って蛍さんと一緒に行動して」

 

この手の除霊はまずは自殺者の魂を探す所から始まる。自殺現場にいる可能性が高いが、ほかに強い思い入れがある所にいる場合もあるからだ

 

「私は東側から回るわ。横島君達は西側から、霊を見つけても応戦せず撤退。見つかったら逃げなさい良いわね」

 

霊視の結果は東側に強い霊力を感じる、だから西側は安全な筈だ。実戦現場と言うのを肌で感じさせる事ができるいい機会だ

 

「判りました。美神さんも気をつけて」

 

私の意図に気付いた蛍さんに追加として破魔札を数枚渡し

 

「それじゃあ散会。単独行動は控えるのよ、横島君」

 

蛍さんなら心配がないが、横島君が狙われると危ないのでしっかりと念を押す。横島君もそれは理解しているようで

 

「うっす」

 

短く返事を返す横島君達と別れ廃工場の中に入る……

 

「空気が随分淀んでるわね」

 

これだと瘴気を探すのも一苦労ね……とは言えこの程度の除霊は何回も経験している。肉眼で見るのではなく霊視で見ればいい、あまり専門ではないのでそこまで強力ではないが、悪霊を探すのには何の問題もない

 

(近くの気配はなし……霊力の残滓は奥のほうに続いてるわね)

 

壊れている機械の残骸などに気をつけ、ゆっくりと奥へ進んでいくと

 

【ここは俺の……俺の俺の俺の……俺の工場だ……】

 

ぶつぶつと繰り返し呟いている幽霊を見て舌打ちする。既に自縛霊になりかけている上に自我が崩壊しかけている……

 

(だけどただの自縛霊一撃で決める)

 

神通棍に霊力を通して、後ろから一撃を叩き込もうとした瞬間

 

(ッ!これは!?)

 

周囲のドライバーやネジが浮かび上がり、私の方に飛んでくる。踏みとどまりそれを回避する

 

【お前、お前まえまえ!?ここ、こここここ!?ここは俺の!俺の工場だ出て行けエエエエエエッ!!!!】

 

近くの廃材や工具を飛ばしてくる自縛霊。よっぽどこの工場に対する執着が強いのか、強力なポルターガイストを使いこなしている

 

(これは不味い!)

 

場所が悪い上に1人で倒せる相手ではない。この工場全部が武器になるってことは今の手持ちの道具では不利すぎる

 

(いや、倒せなくは無いんだけど……絶対赤字になる)

 

持っているなけなしの精霊石と1千万の破魔札を使えば倒せない事は無いが、もったいないのでとてもではないが使いたくは無い

 

(あああッ!もう何で最近こんなことになるのよ!)

 

楽な除霊な筈なのにいたのはレギオンにポルターガイストを使いこなす自縛霊。予定が狂いまくっていることに舌打ちしながら、持っていた破魔札を投げつけると同時に1階へと飛び降り、西側へと走り出したのだった……

 

 

 

「ああ……怖いなあ」

 

幽霊を探して歩いているんだが、俺としてはそんな物は探したくない。出来ればずっと隠れていたいのだが

 

「こっちもいないわね。じゃあこっちね」

 

蛍の前でそんな情けない姿は見せたくないので意地で震える足を押さえ込んで歩いていく

 

「気配を感じるか?」

 

頭の上のタマモの霊力センサーを頼りにしてそう尋ねる。だがタマモは尻尾を振るどうもタマモのセンサーでも発見出来ないという事は

 

「こっち側じゃなくて東側ね。行きましょうか」

 

「うう……いかなあかん?」

 

誰が好き好んで幽霊がいる所に行きたいものか、だが絶対に行くって言うんだろうなあと思いながら、駄目もとで尋ねると

 

「ええ。行かないとだめよ」

 

「へーい」

 

どうせ嫌だといっても行くことになるのだから観念してゆっくりと東側に歩き出した

 

「横島。ちゃんと破魔札は準備してる?」

 

ボウガンに矢を装填しながら尋ねてくる蛍。出来るなら俺ああいうのを使いたいのだが、霊力が足りなくて使えない。必然的に破魔札になる

 

「ちゃんとホルスターを身につけてる」

 

あれだけ練習した唯一の武器とも言える。破魔札を納めている太もものホルスターから1枚引き抜く

 

「ちょっと奮発して500円だ!」

 

今までの練習用の1円・5円・10円・50円の札ではなく、自分で買い足した500円の札が4枚。これが今の俺の最大の武器になる

 

「あんまり無駄打ちしないように気をつけてね。霊力の消耗が少ないとは言え消耗はするんだから」

 

「判ってる。俺が霊力を使い切ると危ないんだろ?」

 

僅かだが霊力のある俺の身体は悪霊にとっては最高の入れ物になるらしい、だけど普段は霊力があって駄目らしい……なので使い切らないようにと何度も何度も注意されている。周囲を警戒しながら、東側に向かっていると

 

「コン!」

 

タマモが何かに気付いたのか鋭い鳴声を上げる。その方向を見ると破魔札を投げながらこっちに走ってくる美神さん。その背後には

 

【俺の俺の俺!!オレレレレ!!!オレエエエエエエ!!!!】

 

奇声を発しながら周囲の機械を操りながら追いかけてくる悪霊の姿。それを見た蛍が

 

「いけない!自我が完全に崩壊してる!あのままだと危ない!」

 

そう叫ぶなりフェンスを飛び降りて美神さんのほうに走る蛍。自我が崩壊した悪霊は危険だと聞いている、このままだと蛍と美神さんが危ない……俺は咄嗟に500円の破魔札を2枚取り出す

 

(行けるか!?)

 

距離は俺が普段的当てに使う距離の約2倍。それでも滅多に当たらないのにこの距離で行けるか?いや……考えるのは止めだ!!!

 

「いっけええ!!!」

 

両手の破魔札を裂帛の気合と共に投擲したのはいいが、その勢いで老朽化していた、通路の床が抜けて

 

「う、嘘オオオオオ!?」

 

「コーンッ!?」

 

タマモを抱えたまま、俺は真っ逆さまに落下してしまったため、破魔札が当たったかどうか?と言うのを見ることも出来ず、そして落下の衝撃で意識を失ってしまったのだった……

 

「な。何よ……今の」

 

美神は信じられないという感じで呟いていた。自分の破魔札が効かなかったのに、素人のしかも何の霊力もない横島の放った。破魔札であの悪霊が消滅したからだ。凄まじい青い炎を伴った破魔札が炎と光で悪霊を一撃で滅したのだ

 

「これが横島の潜在能力です……とは言え、見たのは私も初めてですけどね」

 

蛍は横島の力の凄まじさを知っていたが、それでもなお顔が引き攣っていた、何故なら2人の視線の先にはぽっかりと開いたクレーターが存在していたからだ……それは破魔札の命中した痕跡なのだが、その威力は到底500円の札の威力ではない

 

「とんでもない人材みたいね……これからどうなるのかしら?」

 

今はまだ自在にコントロール出来ないようだが、将来的に凄まじいGSになるかもしれない素質を目の当たりにした美神は、長い髪についた埃を振り払いながら

 

「横島君を如何するかはあとで考えるわ。とりあえずクライアントの報告して戻りましょうか?」

 

横島の力について考えることは後でも出来る。まずは除霊終了の報告をすべきだと蛍に声をかける

 

「そうですね……結構汚れてしまいましたし」

 

爆心地の近くの美神と蛍は煤と埃で汚れていた。折角の美女・美少女が台無しだ……二人は落としてしまった除霊具と居るはずの横島を探した。幸い2人の近くに横島とタマモは居たのだが……

 

「うー」

 

「クーン」

 

鉄くずに埋もれている横島とタマモを見て、苦笑しながら2人を助けだし

 

「まぁなんにせよ、初除霊は大成功でいいわよね?」

 

「ええ!大成功ですよね!」

 

美神と蛍はそう笑い合い。クライアントに報告を済ませ、後日報酬の話をするという事で除霊現場を後にしたのだった……

 

 

幕話へ続く

 

 




次回はオリジナルの話ですが、狂い始める歯車。それは逆行により歪みだったりするわけですよ。その歪みが強く出る話を書いてみようと思います。後半は横島と蛍の話でも書いて見ようかな?それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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幕話 その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はインターバルの話になりますね。次回からは第1巻の「美神除霊事務所出勤せよ」の話に入っていこうと思います。インターバルの話になるので少し短めですが、今回の更新もどうかよろしくお願いします

あと最後の一言

「黒いおキヌちゃんはお好きですか?私は大好きです」


 

 

幕話 その2

 

今日は除霊の仕事もないので、ここ1ヵ月の除霊完了の報告書を纏めていたのだが

 

「うーん。思った以上に凄い人材よね。横島君も蛍ちゃんも」

 

横島君は霊能力が殆どないが、破魔札を使わせればある程度の除霊は出来るし、なによりタマモが凄い。悪霊の捜索に高い霊感……1人と1匹で1人前ではなく、2人前の仕事はしてくれている。まぁ……

 

(あのセクハラさえなければねー)

 

女性を見るとナンパする・飛び掛る。前の依頼のクライアントが20代の女性で横島君が飛び掛ってしまった。私と蛍ちゃんで止めたけど、随分と気分を損ねてしまっていた……

 

(もうちょいそこだけを何とかしてくれればいいのに……)

 

重い荷物を持たせても文句は言うがちゃんと運ぶし、それに普段な馬鹿な行動を見ているからそんなに凄いとは思えないが、いざと言う時の集中力と頭の回転力は中々高い

 

(蛍ちゃんがぞっこんなのも判る気がするわね)

 

二枚目ではないが、中々愛嬌のある顔をしているし、さりげない優しさもあると……蛍ちゃんみたいな良い子が気に掛けるのも充分理解できる。それに人の邪気に敏感な妖狐が一緒と言うのも、実は邪気があんまりないからかもしれない

 

「まぁなんにせよ。優秀な人材を確保できたってことでいいわね」

 

GSに関係のある人間なら誰でも知っている「六道財閥」やあのいけすかない「小笠原エミ」の所ではなく、自分のところに来てくれたと言うのは本当に運が良かった……

 

「蛍ちゃんはもう今年のGS試験に出してもいいかもしれないわね」

 

独学で学んでいたという割には知識も技術もしっかりしている。その体捌きや除霊の仕方は確かに独学なのか変な癖があるが、それは癖と言うよりも個性のレベルだ。霊力を収束して作るサイキックソーサーと除霊具の扱い、それは実に適確で、そして正確だ……

このままGS試験に出ても合格できるレベルだと私は確信しているが

 

(彼女何か隠してそうなのよねー)

 

横島君を見る目は純粋な好意に満ちているが、私を見る目はどこか敵を見るような目をしている。それに1年やそこらであのレベルの除霊技術を身につけることが出来るなら、GSはもっと多くの人員がいるだろう……

 

「まぁ別にいいか」

 

私の霊感が蛍ちゃんは悪い子ではないと告げている。だからそこまで警戒する事はないだろう……それに蛍ちゃんと横島君のおかげで少しずつ依頼者も増えてきているし……2人に除霊の経験を積ませる為に普段の私がやらないような依頼も受けていたのだが……

これが予想以上の効果を出してくれた

 

「横島君の明るい人柄とタマモの愛らしさに蛍ちゃんの丁寧さ。これがまさかここまで受けるなんてねえ……」

 

最初は怪訝そうな顔をしていた依頼者が多かった。私ではなく、見習いの二人がやるとのことで不信感を抱かしてしまったのだが。いざ除霊をさせれば蛍ちゃんとそれをフォローしようとする横島君。私でも驚くほどのコンビネーションを見せてくれた、そしてその人柄で依頼者の信頼を得て、そしてそれが口コミで広がり、大手の依頼者も依頼を持って来てくれるようになった……その結果

この1ヵ月の私の収入は以前と比べて1.5倍近く増えていた……

 

「ちょっとは労ってあげないとね」

 

アルバイトだけど結構酷使させているのは理解している。確かにアルバイトである横島君と蛍ちゃんにそこまでお金を出す気はないが、辞められて他の事務所に行かれても困る……だがいきなり慰安旅行と言うのもおかしな話だ。だから

 

「この依頼にしましょう」

 

人骨温泉ホテルからの依頼だ。報酬は100万だが、最大2泊と三食食事つき。雪山の近くなので少し寒いかもしれないが、雪を見ながら露天風呂と言うのも悪くない筈だ……

 

「もしもし?美神除霊事務所です。ご依頼のほうお受けしますわ、私と助手2名とペットの狐でお伺いしますのでよろしくお願いします」

 

2つ返事で了承を得れた私はそのまま横島君の家へと電話したのだが

 

「はい、もしもし横島ですが」

 

「……なにしてるの?蛍ちゃん」

 

電話の声は横島君ではなくて、蛍ちゃんで。さも当然のように横島ですと名乗ったので思わずそう尋ねると

 

「横島にGSの教本を見せてたんですけど……オーバーヒートしちゃって」

 

その言葉に小さくご愁傷様と呟く。蛍ちゃんは基本的には横島君の味方だが、厳しい面もある。電話口から聞こえてくる

 

【もう眠いよ……タマモ、ゴールしても良いよね?】

 

【コーンッ!!コーンッ!!!!!】

 

戯けた事を言っている横島君と必死そうなタマモ。もしかすると本当に不味い状況なのかもしれない。まぁそれは蛍ちゃんに任せておけばいいので

 

「明日から泊りがけで除霊に行くから準備をしておいてね?」

 

「泊まり……ですか?現場はどこですか?」

 

「人骨温泉ホテルよ。とは言えすぐ終わる除霊だから……言いたいことは判るわよね?」

 

ねぎらいの為と言うのもおかしいのでそう言うが、蛍ちゃんに反応がない。あ、あれ?喜んでくれてないのかしら?

 

「蛍ちゃん?」

 

「え。ああ!?大丈夫ですよ?横島にはちゃんと伝えておきます」

 

「そう、良かった。明日の朝電車で行くわよ、軽く登山しながら温泉に向かうから、山歩き出来る準備でね?」

 

私はそう言うと電話を切り、普段着ている服ではなく、登山用の服をクローゼットの中から引っ張り出しながら

 

「この服を着るのも随分久しぶりよね」

 

先生。唐巣神父と一緒に除霊していたときは山とかの除霊が多かったので、こういう服を好んでいたが、こうして着るのは何年ぶりだろうか?少し懐かしい気分になりながら私は明日の除霊の準備をするのだった……

 

 

 

「もうこんな時期なのね」

 

受話器を電話に戻してそう呟く。人骨温泉ホテル……そこに行く途中で横島とおキヌさんは出会ったと聞いている。

 

(予想より全然早いわ)

 

もう少し時間的に余裕があると思っていたんだけど……私の知る中ではおキヌさんは横島を本当に想っていた。かなりの強敵なのは間違いない……だけど確か

 

(出会った頃は幽霊だったって言ってたわね。それなら大丈夫かしら?)

 

おキヌさんは物に触れるほどの霊格を持つ幽霊だが、いくらなんでも横島も幽霊には飛びつかないだろうと思いながら

 

「アー」

 

「コーン!コーン!!」

 

机に突っ伏して死んでいる横島と必死に舐めてヒーリングをしているタマモを見て

 

「今美神さんから電話があって、露天風呂のある温泉で除霊だって「どこや!?混浴か!?」

 

がばっと飛び起きる横島。実際に混浴なんかになってたら何も出来ない癖にと苦笑しながら

 

「人骨温泉ホテルって言う現場らしいわ、山の中を歩くらしいから準備をしないといけないし、買物に行きましょうか?」

 

私も横島も当然山歩きが出来る服装なんて持ってないので少し買い物行かないといけないだろう。最低でも登山用のブーツは欲しい所だ

 

「そうだな、行くか。おいでタマモ」

 

「コン!」

 

横島の差し出した手に器用に乗り、するすると肩のほうに登っていくタマモ。ああいうのは絶対に私にはしない、タマモは横島だけに甘えている。敵対するような態度をする事もあるから、もう完全に自意識はあるんだろうなと思いながら

 

「それじゃあ行きましょう」

 

「お、おう……」

 

横島の腕を取って笑う。横島の鼻の下が伸びるの見て、肩の上のタマモを見てふふんと笑うと

 

「フー!」

 

尻尾を逆立てて威嚇するタマモ。悔しかったら早く人化出来るようにでもなるのね。と笑いながら

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

近くにもちゃんと登山用品の専門店はある。私は横島と一緒に街に出かけたのだが、私はここで1つの誤算をしていた。おキヌさんは300年幽霊をしていた、逆行時の記憶と言うのはある程度の時間もしくはきっかけで戻るようになっていた……300年の月日はおキヌさんの記憶を呼び戻すのには充分すぎる時間であり、そして……その想いを狂わせるには十分な時間だったのだ……

 

 

 

ああ……まだあの人は来てくれない……もう何年も何百年もここで待っているのに……

 

今日は来るかもしれない、明日は来るかもしれない……

 

ただそれだけを考えて、この場所でずっと待っているのに……

 

ここで会えることだけは判っているのに……

 

だけど何時会えるのかが判らない……

 

会いたい……

 

言葉を交わしたい……

 

あの笑顔を見たい……

 

時間が経てば経つほどに……

 

まだ会えないと言うことが判るたびに……

 

【胸が痛い……】

 

あの時は私は手を引いてしまった……それが駄目だったんだ。私はあの人が好きだったのに……

 

その結婚に反対するべきだったんだ……いや、もしかすると2人で出かけると行ったときに止めるべきだったのかもしれない……

 

洗脳と言う手段であの人を自分の物にしてしまったあの人を私は許せない……だけど

 

あの時手を引いてしまった自分はもっと許せない……

 

出来るのならば飛んで行きたい。あの人の場所に……だけど今の私には出来ない、私はまだこの山に縛られた存在だから……

 

目を閉じればあの時の笑顔がすぐ瞼の裏に浮かぶ……

 

馬鹿でスケベだったけど……

 

誰よりも優しくて……

 

思いやりがあった……

 

そして誰よりも……強かった。力でなく、心が……

 

あの太陽のような笑顔がまた見たい……

 

あの手に触れたい……

 

だから……

 

だから……

 

「早くここに来てください。横島さん……私はここでずっと……貴方を待っていますから……」

 

雨の日も……

 

雪の日も……

 

晴れの日も……

 

ここで、ずっと……ずっと待っています……

 

あの時とは違います……

 

私はもう自分の気持ちを我慢するのはやめました……

 

良い子じゃ、横島さんが私を見てくれないのなら……

 

悪い子になります……私の想いを貴方にだけに贈りますから……

 

だから……だから……

 

「早く私に会いに来て……!!」

 

横島さんっ!!

 

「ん?」

 

「どうしたの横島?」

 

遠く離れた東京で横島が立ち止まり振り返る。それを見た蛍が不審そうに思いながら尋ねる

 

「ん~?今誰かに呼ばれた気がしてな……」

 

「誰も呼んでないわよ?気のせいじゃないの?」

 

横島もそうだよな……っと小さく呟く。もし誰かが横島を呼んでいたのなら、隣にいる蛍と頭の上のタマモが気付いてもおかしくないのだから

 

「そうやな。気のせいやな、急いで買い物を終わらせようか」

 

結局横島はそれを気のせいだと判断し、蛍と並んで買い物に戻るのだった……

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その1へ続く

 

 

 




はい。おキヌちゃん真っ黒ですねー。私のヤンデレ好きはもしかするとこの時から始まっていたのでは?と想ったりしています
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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レポート4 幽霊少女と蛍と狐
その1


どうも混沌の魔法使いです、今回の話は人骨温泉とおキヌちゃんの話になります。癒しキャラのおキヌちゃんを真っ黒にするという暴挙(?)だけどきっと黒いおキヌちゃんでもいいと言ってくれる人がいると信じます。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その1

 

美神さんの除霊と言う名目の慰安旅行に来る事になった私と横島、そしてタマモは電車の窓の外を見つめながら

 

「どんどん山奥に入っていくな。タマモは山は好きか?」

 

「クウ?」

 

膝の上のタマモは小さく首を傾げている。あんまり興味がないようだ

 

「もう少しで降りる駅だからね、準備してなさいよ」

 

いつもの派手な服装ではなく山歩きに適した服を着ている美神さん。私は飲んでいた緑茶のペットボトルの蓋をしめながら

 

(大分印象が違うのよね)

 

私の印象ではもっとがめつい印象だったのに、最近の美神さんは少し優しい気がする。お父さんとも話をしたけど、若干だけど逆行の影響が出ているのかもしれないとの事だけど……かなり強力に自分に暗示をかけているのでまず解ける事はないそうだ。逆行前の責任を感じているのかもしれないというのがお父さんの出した結論だ。私ももしかすると思っているので、多分この推論は当たっているのかもしれない

 

「さーて、ここからは山歩きよ。頑張って行きましょうか」

 

珍しく自分のリュックを背負って歩いていく美神さん。今回の除霊はかなり楽勝らしいので持って来ている道具も少ないから、横島も普通に山を登っている

 

「コン♪」

 

尻尾を振りながら横島に早く早くとでも言いたい様子のタマモを見ながら

 

「元気だなあ。やっぱり狐だから自然の方がいいのかな?」

 

そうじゃなくて横島と一緒だから楽しいのよとは口にしないで

 

「判らないわ。私は狐じゃないからね」

 

タマモの考えていることは判らないと言うと、横島は頭をかきながらそれもそうやなと呟き

 

「タマモー。あんまり先に行くなよ、危ないからなー」

 

「コーン」

 

横島の心配する声とは逆に嬉しそうに鳴いてまた走り出すタマモを見て

 

「ああ、だから待てって言ってるだろ!?」

 

「こコーン♪」

 

追いかけて来る横島を見て、更に嬉しそうに鳴いて走り出すタマモとそれを追いかける横島を見ていると

 

「本当に横島君とタマモは仲が良いわね。見ていてなんか幸せな気分になるわね」

 

子狐のタマモと横島が遊んでいる姿を見ると確かに幸せな気分になるのよね。だけどその理由は判っている。今のタマモの姿が子狐だからだ、これがもし人型ならきっと私は相当嫉妬しているという確信がある。

 

「さてと!もう少しで温泉だから頑張って行きましょうか」

 

そう笑って歩き出す美神さんの後ろをついて山を登っていると

 

「ッ!」

 

誰かに見られてる気配がして振り返るが、姿はないだが強烈な敵意を感じた……今のは一体?

 

「どうかした?」

 

私が立ち止まっていることに気付いた美神さんがそう声をかけてくる。私は軽く首を振り

 

「なんでもないです、今行きます」

 

美神さんの後を追って歩き出すのだった……暫く歩くと

 

「いないなー。タマモー!タマモーどこだー!」

 

茂みを掻き分けてタマモを探している横島がいた。結構必死そうな声をしているので、相当探しているようだ

 

「どうかしたの?」

 

横島は美神さんの声に横島は振り返りながら、頬をかいて

 

「いや、タマモが山の中に入って行っちゃって。悪いっすけど先に行ってくれます?タマモを見つけてから行きますんで」

 

道理。道理なのだが、妙に嫌な予感がする。とんでもなく悪い予感が

 

「私も残って探そうか?」

 

ここに横島を残したら駄目だと判断してそう言うが横島は首を振りながら

 

「駄目駄目。まだ雪も残ってるだから、女の子が体を冷やしたらあかん。ワイもすぐ行くからホテルで休んでてればいいわ」

 

大阪の口調が出ているときは駄目だ、何を言っても横島は駄目だという。それに美神さんも

 

「そうね。暗くなると危ないから、先に行くわ。あんまり見つからないなら明日捜せばいいから戻ってきなさいよ?」

 

「うっす!暗くなる前に見つけてホテルに向かいます」

 

そう笑う横島。本当は嫌な予感がするから私も残ってタマモを探したいんだけど、この雰囲気では残ることは出来そうにない

 

「気をつけてね。横島」

 

私に出来るのは横島にそう声を掛ける事だけだった。だが私は後に後悔する、ここで残って横島と一緒にタマモを探すべきだったのだ……美神さんと横島が駄目だと言っても残るべきだったのだ。何故ならこの時、横島の近くにはタマモは既にいたのだ、だが

 

「うー!うー!」

 

【ごめんね、大人しくしててタマモちゃん】

 

暗い瞳をした幽霊の少女がタマモをしっかり押さえて、横島の所に向かえないようにしていたのだ。そして彼女は

 

【早く向こうへ行って。貴女達は邪魔なの】

 

どす黒い瘴気を撒き散らしながら、その少女は美神と蛍を睨んでいたのだった……

 

 

 

美神さんと蛍に先に行ってもらい。残ってタマモを探しているのだが

 

「いないなー、どこに行ったんだ?」

 

おかしなー普段は呼んだらすぐ来るのに……探しても探しても姿の見えないタマモに徐々に不安になってくる

 

(うーん。ここじゃないのか?)

 

この茂みに入ったと思うんだけどここじゃないのか?別の茂みに手を伸ばし、その茂みを掻き分けてタマモを探していると

 

「うおお!?」

 

地面から伸びてきた白い腕に肩を捕まれ、そのまま地面に押し倒される

 

(あかん!?幽霊か!?)

 

破魔札は鞄の中だし、俺だけでは霊力を使うことが出来ない。抵抗しようとしたが、俺を押さえ込んでいる幽霊の顔を見て、抵抗する事を完全に忘れてしまった。何故なら

 

【会いたかった。横島さん】

 

泣き笑いのその顔を見て、何故か抵抗しようと言う気持ちがなくなってしまった。俺が身体を起こせないように押さえつけているのに痛みがない。それなのに身体が動かない、一体どうやっているのだろうか

 

【ずーと、ずーとっ!私はここで待ってたんですよ。横島さん】

 

愛おしいという顔で俺の頬を撫でる巫女服姿の少女。幽霊なので少し冷たいが、しっかりと触られている感触がする。だけど嫌だとか気持ち悪いとか言う感じはない。目の前の少女の慈しみに満ちた顔を見ると、そんな気持ちは沸いて来ない。だが1つ気がかりな事がある

 

(どうして俺の名前を……)

 

当たり前の話だが、俺に幽霊の知り合いはいない。だが彼女は俺を知っている、蛍と同じだ。俺は知らないのに向こうは俺のことを知っている……

 

「君は誰なんだ」

 

【……おキヌと言います。ずっとずっとここで横島さんを待っていました】

 

待っていたって何で?と言うかおキヌちゃんは何で俺の名前を知っているんだ?それに押さえつけられているので動けない。いつまでも美神さんと蛍を待たせるわけには行かないので

 

「美神さんと蛍が待ってるから。話はホテルで【なんで私がいるのに他の女の人の名前を言うんですか!】

 

さっきまでの優しい顔はどこへやら、一気に恐ろしい表情になったおキヌちゃんは

 

【私はもう決めたんです、我慢しないし、悪い子になるって】

 

悪い子って何!?それに何時決めてしまったの!?強烈な嫌な予感に逃げようと身体をよじるのだが、ぴくりとも身体は動かない

 

【もうここでぱくっと食べてしまいましょうか。相すれば横島さんは私の……ふふふふふふふふふふふ】

 

いやーッ!!!怖い!この子怖いよーッ!!!!!心の中でそう叫ぶ、どす黒い瘴気を撒き散らし、ふふふと笑うおキヌちゃんはとんでもなく怖い。

 

【と言うわけでぱくっと美味しく横島さんを頂いてしまおうと思います♪】

 

「やめてーッ!」

 

食われる!?妖怪に魂を食われる!その恐怖でそう叫んだ瞬間

 

「コーンッ!!!」

 

青黒い炎が俺とおキヌちゃんの間に放たれる。これは

 

「タマモ!?」

 

「コーン♪」

 

尻尾を振りながら駆け寄ってきたタマモを抱き上げて、少し距離を取る。おキヌちゃんは別にダメージを受けた素振りはないが

 

【なんでなんでなんでなんで、私の邪魔をするんですかあ!!!】

 

そう怒鳴り全身から黒いオーラを撒き散らすおキヌちゃん。気配は邪悪なのだが、悪い子ではないと言うのは判る。だから

 

「えーとおキヌちゃん!俺の話を聞いてくれないか!」

 

駄目もとでそう叫ぶ。今俺には何の装備もない、だから言葉を使って説得するしかない。それに悪い子になると言っていたが、俺にはあの子が悪い子には見えなかった。

 

(どうせ駄目だとおもうけど……)

 

だが俺の予想に反して、おキヌちゃんは嬉しそうに笑い、両手を頬においていやんいやんと言う感じで宙に浮きながら

 

【おキヌちゃんって呼んでもらえた……えへへ♪】

 

思ったより単純なのかもしれない。いや、俺も大概単純だけどさ……

 

【話聞きますよ。横島さん】

 

物凄く嬉しそうに笑いながら俺を見るおキヌちゃん。さっきまでの邪悪な笑みとオーラはどこへやら……

 

「えーとじゃあ、人骨ホテルに行こうか?」

 

まずは美神さんと蛍に相談に乗ってもらおう。俺じゃあどうすればいいのか判らないし

 

【はい!じゃあ憑いて行きます】

 

背中にぴとっと張り付くおキヌちゃん。背中に当たるのは柔らかい感触

 

(ふおおおお!?これは!?これはまさか……この柔らかさはあああああ」

 

蛍より少し大きくて、女性らしい柔らかさに満ちているし、背中に当たるつんとした感触は間違いなくあれだ

 

【ふふふふ♪横島さーん♪】

 

嬉しそうに背中にしがみ付いて、すりすりしてくるおキヌちゃん。幽霊なのに感じる甘いにおいに

 

「だばだばだば……あかん……これはあかん」

 

ここまで女性と密着したことは数える程度しかない。しかも巫女服の美少女……溢れる鼻血と幽霊とかでもいいかもしれないと悶々とした妄想が頭に広がるが

 

「コンッ!」

 

「あいだあ!?サンキュータマモ」

 

肩の上のタマモの噛み付きでその妄想から引き戻されながら、俺は人骨ホテルに向かって歩き出したのだが

 

【横島さーん♪】

 

胸を背中に押し当て、嬉しそうに。そして甘えた声を出しているおキヌちゃんに心臓が爆発しそうなくらい、高鳴るのを感じるのだった……時折タマモが頬を舐めたり、噛み付いてくれなかったら。俺はとんでもない過ちを犯していたかもしれないとおもうのだった……

 

 

ああ。暖かい。それに良いにおい……横島さんの背中に憑いたまま人骨ホテルに向かう中。私は

 

(どうしてタマモちゃんが)

 

まだこの時期には居ない筈なのに……横島さんの肩の上から敵意を見せるタマモちゃん。だけど狐の姿のままなら何の恐怖も感じない。それに尻尾の本数も少ないから、怖いとおもう要素がない

 

(今気をつけないといけないのは美神さんだけ)

 

まだ敵は少ない、今のうちにリードすれば。私が生き返ったときにきっと横島さんは私を見てくれる、そうなるように頑張っていこうと思い、横島さんの背中に憑いて人骨ホテルに向かい。そこで私は驚きに目を見開いた

 

(ルシオラ……さん。いや蛍ちゃんですか?)

 

ロビーで横島さんを待っていたのは間違いなく蛍ちゃんだ。だが気配が違うことを考えると、この世界のルシオラさんと融合して別の存在になっているのかもしれない。蛍ちゃんは私と横島さんを見てつかつかと歩いてきて

 

「邪魔よ」

 

物凄くイイエガオで霊力を込めた手で私の肩を掴んで

 

【きゃあ!?】

 

無理やり私を横島さんから引き離し、私が横島さんに近づけないように横島さんの前に立つ。そう、そうですか……判りました

 

【貴女は私の敵なんですね?私から横島さんを奪うんですね!】

 

まだこの時期に居ない筈の蛍ちゃん。だから大丈夫だと安心していた、だが一番危険なのは美神さんではなく。この蛍ちゃんなのだ

 

「は!何言ってるの?横島は私の!無理やり奪おうとしているのは貴女のほうよ」

 

この短い会話で私は完全に理解しました。私が幸せになるためには蛍ちゃんが邪魔なのだと、なら排除しないといけないですね。私が幸せになるために

 

【ここで消えてもらいましょうか】

 

霊力を高めてオーラを纏いながら浮かび上がる。今の私は霊脈と繋がりがあるので神魔にも負けない自身がある。それになによりも横島さんへの愛で負けるわけがない!!!

 

「上等よ、今すぐどっちが上か教えてあげるわ」

 

破魔札を手に私を睨む蛍ちゃん。だけど負ける気はない。300年待ったんですよ?どうして私が我慢しないといけないんですか、もう私はきっと一生分我慢した。だからもう我慢はしないと私は決めたのだからッ!!!!

 

「ううう……タマモぉ……俺怖い」

 

「くーん、くーん」

 

視界の隅でタマモちゃん震えている横島さんを見て私は

 

【少し霊力を抑えたらどうですか?横島さんが怖がってますよ?】

 

「貴女の瘴気が怖いんじゃないの?」

 

どうやら私と蛍ちゃんはもう会話で分かり合える段階ではないようですね。仕方ありません、私が幸せになるために

 

【「潰す!「します」】

 

ホテルのロビーで私と蛍ちゃんの戦いの幕が切って……

 

「依頼の場所で喧嘩するなッ!!!」

 

突然聞こえてきた声に振り返ると。エントランスから私と蛍ちゃんを睨んでいる美神さんが何かを投げるのが見える。緩い放物線を描いて飛んできたのは

 

(【精霊石!?】)

 

それは小さな小さな精霊石のかけら。欠片とは言え、その威力は折り紙つきで……目の前で爆発したその欠片に

 

「へも!?」

 

【ふみゃっ!?】

 

美神さんの怒声と共に投げつけられた、小さな小さな精霊石のかけらのせいで私と蛍ちゃんは同時に意識を失ってしまうのでした……

 

「蛍ーッ!?おキヌちゃーんッ!?」

 

意識を失う寸前に聞こえた横島さんの声、だけど私が二番目だったことに若干のイラつきを覚えながら、私は意識を失ってしまうのでした……

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その2へ続く

 

 




黒いおキヌちゃんは可愛い。異論は認めます!しかし私の中ではこれがおキヌちゃんが一番輝くと思うので、次回も当然おキヌちゃんの話になりますが、今回よりは少し冷静な感じで進めて以降と思います。横島へは暴走特急で進んで行きますけどね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はちょっとした状況整理とワンダーホーゲルの話に入っていこうと思います
まぁ蛍とおキヌの衝突は当然ながらありますがね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その2

 

ホテルのロビーで喧嘩していた幽霊の少女と蛍ちゃんを見て、咄嗟に屑精霊石を投げて昏倒させた後(投げた後に物凄く後悔した、

 

破片とは言え数百万)咄嗟に投げてしまった自分の愚かさに後悔しながら、ロビーの隅でタマモを抱えて震えている横島君に

 

「その幽霊の子……どうしたの?」

 

見た感じ取り憑かれているという感じはしない。それに見習いとは言え僅かに霊力はある。そう簡単に取り憑くことはできない筈だ

 

「えーとタマモを探してたら、なんか俺に会いたかったとか、ずっと待ってたとか言ってて」

 

横島君に会いたかった?それに待っていた?それは随分とおかしな話ね、見た感じこの少女の幽体は相当安定している

 

(5年や10年所じゃない、これは100年とかそう言うレベルよ)

 

何百年も同じ場所に存在していたので幽体が相当安定している。このレベルなら物とか人にも触れるはずだ……しかしそれにしても珍しいケースだ。色んな気配が集まる山の中で100年以上存在していたというのに悪霊となっていない。これは随分と珍しい……

 

(もしかして人身御供とか?)

 

もしかしたらかつてこの御呂地岳で何かの霊事件があって、その生贄にされた少女と言う可能性もある。だから霊体が安定しているのかもしれない、とは言え全ては推測になるから今話すことじゃないわね

 

「横島君、部屋を取っているからそこで依頼者の話を聞いて夕食にしましょう。蛍ちゃんとその子を運んできてくれる?」

 

蛍ちゃんの話を聞けば横島君はスケベだが、無理強いはしないと聞いている。だからそう頼むと

 

「よいしょ。部屋はどこっすか?」

 

宝物を運ぶかのように丁寧に蛍ちゃんと幽霊の少女を抱き上げる横島君。蛍ちゃんの言っていた事は本当だった見たいね

 

「こっちよ」

 

ホテルのほうも幽霊を除霊してもらえないと営業に支障が出るとのことで、このホテルで一番良い部屋を用意してくれている。もしかしたら横島君が背負っている幽霊の少女が出る幽霊と言う可能性もあるので1度依頼者に話を聞いてみよう

 

「オーナーさん。ホテルに出る幽霊って言うのはこの子ですか?」

 

椅子に幽霊の少女を座らせて尋ねる。蛍ちゃんは奥の部屋で横島君が布団を引いて寝かしている。本当なら彼女も寝かせるのが一番なのだが、一応念の為にオーナーさんに会わせて、この幽霊の少女なのか?と尋ねる必要があった。オーナーさんは意識のない少女を見て首を振りながら

 

「うんや。こんなめんこいお化けなら却って客寄せになるで、うちに出るのはむさくるしい男のお化けですわ」

 

この子のじゃないのか……まぁ私も違うって思ってたしね。

 

「そうですか。その幽霊が出る時間帯は?」

 

「あと1~2時間って所ですわ。丁度入浴時の時間帯ですわ」

 

となると大分時間があるわね。それまでぽつーんと露天風呂で待っているのもおかしな話なので

 

「夕食をお願いできますか?」

 

まずは腹ごしらえよね。久しぶりの山歩きでお腹空いてるし♪私はそう笑いながらオーナーさんに夕食を頼むのだった

 

 

 

目の前の机には並べられたのは高級和牛を使ったしゃぶしゃぶに新鮮な魚の刺身に、山の幸の山菜の天ぷらの数々。普段食べる事のできない高級な食材の数々に目を輝かせたのは最初のほうだけ。今はだらだらと汗を流しながら

 

「ほら。横島この魚の刺身美味しいわよ?はい、あーん」

 

【こっちのお肉の方が美味しいですよ?横島さん?】

 

両サイドから差し出される魚と肉……そしてこっちですよね?と目で威圧してくる蛍とおキヌちゃん。

 

「大変そうねー♪」

 

美神さんは俺のこの状況を見て苦笑しながら、刺身を頬張っている。タマモはタマモで怖いのかそうそうに逃亡し、美神さんの隣で刺身と肉を生のまま食べている

 

「はい、横島口を開けて?」

 

【こっちですよ~横島さん】

 

顔は笑っているのに目が笑っていない蛍とおキヌちゃん。

 

(わ、ワイが何をしたっていうんやーッ!!!!)

 

俺は心の中でそう叫び、差し出された刺身から口に入れたのだが、隣で明らかに不機嫌そうな顔をするおキヌちゃんに肝を冷やした。美味しいはずの食事を機械的に済ませた俺は

 

(殆ど味がわからへんかった……)

 

強烈なプレッシャーを前に味を感じるような度胸は俺にはなく、殆ど味を感じる事がなかったことに心の中で泣くのだった……そして出来れば明日は自分でゆっくりと食べたいと思うのだった……

 

「さてと腹ごしらえも終わった所で早速除霊の仕事に入るけど……貴女は?成仏したいの?」

 

美神さんがおキヌちゃんにそう尋ねる。すると

 

【ぷいっ】

 

そっぽを向いて空気に溶けるように消えていってしまった。

 

「え?成仏した?」

 

姿も気配も感じる事のできないおキヌちゃんの姿にそう呟くと、美神さんが首を傾げながら

 

「違うわ。この場所から遠ざかっただけよ、成仏はしてないわね。でもおかしいわね?私何かした?」

 

俺の見ている限りではおキヌちゃんには優しく接していたと思うんだけど、なんであんなに嫌そうな顔をしたんだろう?俺と美神さんが首を傾げていると

 

「まぁおキヌさんのことは後でいいじゃないですか。まずは依頼を優先しましょう?」

 

蛍の言葉にそれもそうかと頷く美神さんは。鞄から数枚の破魔札と吸引符。それと

 

「なんすっかそれ?」

 

玩具のような何かを取り出す美神さん。神主をデフォルメしたような人形がふらふらと揺れている

 

「これは見鬼君って言って幽霊とか悪霊の気配を探す道具なのよ。こういう山とか海だと沢山幽霊の気配がするからね、こういう道具も必要なのよ」

 

そう笑う美神さんはその見鬼君を抱えて歩いていく、俺と蛍もその後をついて露天風呂に向かう

 

「だけどあんなのあるんなら何で前の除霊のときに使わなかったんだ?」

 

かなり前だが悪霊がどこにいるか判らず、相当苦戦したのを思い出し隣の蛍にそう尋ねると

 

「中々難しいのよ。見鬼君の索敵範囲って結構広いから、街中で使うのは難しいのよ」

 

そうなのか……まぁ蛍と美神さんが持ち出さないってことはこういう状況じゃないと使えない道具ってことなんだな。と思いながら露天風呂に向かうと

 

「うーん。見た所霊の気配はないわね……それに見鬼君もこのざまだしね」

 

こっちこっちこっちと言いながらグルグル回転している。探している状況なのだが、反応が特定できないらしい

 

「ここに地縛されている幽霊じゃないみたいね……」

 

ぶつぶつ呟きながら歩き回っている美神さん。確か目撃情報によれば、女性が風呂に入ってる状況じゃない駄目らしいので

 

「……も、もしかして女性がふ、風呂に入ってないと駄目なのでは?」

 

俺がぼそりと呟くと美神さんは見鬼君を抱えたまま

 

「そうね。じゃあ早速入るとしましょうか」

 

露天風呂のほうに美神さんが歩き出す、

 

「さ、さすがはプロ必要なら途惑わない……「横島ぁッ!!!」ふぎゃあ!?」

 

蛍の拳が俺の頬を打ち抜くしかもそれだけではなく

 

「この!横島の馬鹿!すけべ!」

 

「ふ、ふぐああ!?す、すんません!つ、つい出来心で!!!」

 

怒り心頭と言う感じで俺の頬を連続ではたく蛍。だが俺の視線は美神さんが脱ぐかもしれないと思い、そっちに視線が集中してしまうしかしピコピコ!見つけた!みつけたあ!!と見鬼君が叫ぶ音が聞こえる。その声に俺と蛍が振り返るとそこには、髭面の男がいた

 

「き、貴様アア!なんであと5分!いや3分待てなかった!!!もう少しで!はっ!?」

 

「横島?もう少しで何?」

 

鬼の形相をしている蛍と俺を睨んでいる美神さんに俺は顔を青褪めさせ

 

「少し話をしよう?ね?横島?」

 

「え、いや、待って!いやああああああああッ!!!!」

 

笑っているのに目が笑っていない蛍の容赦ない連続攻撃に俺は意識を吹き飛ばされるのだった……

 

 

 

「ちょ、ちょっと蛍ちゃん?その程度にしておかないと」

 

美神さんに声を掛けられ我に帰る。足元を見ると

 

「すんません!すんません」

 

ボコボコの上に鼻血を出している横島と手についている血痕……

 

「ご、ごめん!横島!!」

 

いけないついカッとなってやりすぎた。これもあれもおキヌさんの挑発のせいで気が立っていたからだわ。しゃがみ込んで横島にごめんねと繰り返し謝っている私の後ろでは

 

めんねと繰り返し謝っている私の後ろでは

 

【じ。自分は明痔大学のワンダーホーゲル部であります!さ、寒いのであります!助けてほしいのであります!!】

 

髭面の男が美神さんに助けて欲しいと頼んでいる。どうもあの幽霊が今回の除霊対象らしい

 

「大丈夫や。ちょっと痛かったけどな」

 

そう笑って立ち上がる横島。まさか自分でもここまでやるなんて……これじゃあとても美神さんの事を怒れないわねと反省していると

 

「遭難したの?」

 

美神さんがワンダーホーゲルから話を聞いている。地縛霊だが、知性があるので話を聞いてから除霊でも充分間に合うと判断したのだろう

 

【そうであります。雪山で仲間とはぐれ、雪崩に飲み込まれて埋もれて死んだであります。お願いですから助けてください】

 

「じゃあ死体を見つけて供養すれば成仏するのね?」

 

海難事故者や遭難者の幽霊が望むのは死体を見つけてくれることか、事故現場での供養だ。この幽霊も同じようで

 

【はい!そのつもりであります】

 

びっと敬礼しそうな勢いのワンダーホーゲルと既に回復している横島を見ている美神さん

 

「だ、駄目ですよ!横島雪山に送り出すなんて反対ですからね!」

 

横島を抱き抱えて首を振る。今この人の考えている事は間違いなく、横島に遺体探しをさせるつもりだと思い。駄目だと叫ぶ

 

「でも私と蛍ちゃんの体力じゃ無理だわ。横島君じゃないと」

 

そんな事を言ったって季節の変わり目。しかも春間近の雪山になんて横島を行かせることは出来ない。それに

 

(おキヌさんもいるのに!)

 

私のいるときならいいが横島を1人きりするのは不安だ。色々と感情が振り切っているおキヌさんも危険だし

 

「いや、流石に俺も雪山は少し」

 

引き攣った顔をして居る横島。いくら横島でも危険すぎる、しかもこれから日が落ちるから余計に危険だ

 

【お願いっすよ~見捨てないでください!!】

 

「だああ!纏わり憑くな!うっとうしい!」

 

横島に擦り寄っていくワンダーホーゲル。なんとなく腹が立ったのでその頬に霊力ビンタを数発叩き込んでおく

 

【ふがああ!?】

 

痛いと悶絶しているワンダーホーゲルを見ながら美神さんが

 

「行ってくれたら背中くらい流してあげるんだけどねー。蛍ちゃんが」

 

「私!?」

 

まさかの私を指名する美神さん。これはさすがに予想外だ

 

「よし、行くぞワンダーホーゲル!」

 

【ありがとうございます!】

 

「正気なの!?横島!?」

 

さっきまでごねていたのはどこへやら良い笑顔をしてワンダーホーゲルを伴って露天風呂を出て行く横島。私は思わずその場に蹲り

 

「スケベなのは知ってたけど……自分の命は大事にしてよ……」

 

もしそこを考え直してくれるなら背中を流す所か、一緒にお風呂に入ってもあげていいから……

 

 

 

蛍が戻ったら背中を流してくれるというので夜の雪山に出発したのだが

 

「あ、あかん、これは死ぬ」

 

凄まじい吹雪に手足の感覚がなくなってきた。ワンダーホーゲルは幽霊だから元気だけど、このままじゃ本当に凍死する

 

(欲望に任せたのは失敗だったか!?)

 

このままだと凍死する……逃れられようもない死の気配を感じながら、前を歩いているワンダーホーゲルに

 

「まだ先なのか?」

 

【あと2時間くらいっす!】

 

元気良く言うワンダーホーゲルに俺は

 

「ふざけるな!あと2時間!?その前に俺が死んでまうわ!それにこの天気で遺体なんて探せるかあ!!!」

 

不味いこのままだと俺まで死んでしまうぞ……俺が死の不安を感じそう叫ぶ。もしかしてこの野郎、俺も殺すつもりでここまで案内したんじゃないだろうな?

 

【この程度の吹雪なら、ビバークすれば大丈夫っすよ!今準備するっすから!】

 

俺の背負っているリュックから何かを取り出すワンダーホーゲル。段々勢いを増していく吹雪を見て

 

「いかん……本当に死ぬ……」

 

霊力を完全覚醒する前に死ぬのか?せっかく蛍とも仲良く慣れてきたと思っているのに……段々強くなってくる死の気配に俺は心底恐怖するのだった……横島が死の恐怖を感じている頃、人骨ホテルでは

 

「横島……」

 

案の定吹雪になった雪山を見つめて無事を祈る蛍。いくら横島がタフでも死んでしまうかもしれない

 

「コン!」

 

蛍の足元でタマモが力強くなく、それを見た蛍は

 

「行ってくれるの?」

 

「ココーン!!」

 

タマモは九尾の狐。山はホームグランドと言える。蛍はそれに気づき

 

「お願い。横島を探し出して」

 

「コーン!」

 

気合を入れて鳴いて雪山に駆け出していくタマモ。それを見送った蛍は再び雪山を見つめながら

 

「横島」

 

横島の無事を祈るのだった。なお美神はまさか吹雪になるなんて思っておらず、冷や汗を流しながら

 

「特別報奨だしてあげないと……と言うか。横島君が死んだら不味いわね……」

 

自分のGSとしての活動が危険になっていることに気付き、青い顔をして横島が戻るのを祈っているのだった……

 

「さ、寒い……くらい……死ぬ」

 

テントの中で毛布をまきつけて暖を取るのだが、全然暖かくなってこない。このままだと本当に不味い

 

【どうぞ。横島さん、コーヒー入れたっす】

 

ワンダーホーゲルからコーヒーを受け取り、それをちびちびと啜っていると

 

【横島さん。俺凄く嬉しいっす】

 

「何がだよ」

 

今まさに遭難して死にかけているのと言うのに。なぜ嬉しいなんて言葉が出てくるんだ?いやこいつはもう死んでるから関係ないのか?

 

【死んだ後もこうして男同士で夜の山を味わえるなんて、最高っす】

 

嬉々としたその表情、いかん……こいつまさか

 

(ホ、ホモか!?)

 

このままでは行かん。死の恐怖もあるが、ホモと一緒にこんな閉鎖空間なんて耐えられん。もしかするとこいつが探してもらえないのもその性癖のせいで嫌われていたからじゃ……

 

【ご、誤解せんでください!俺が言ってるのは男同士の友情とか連携とかの話で……】

 

このとき強烈な吹雪の音と砕ける何かの音がした。そして次の瞬間

 

【横島さん。寒くないっすか!?】

 

「ひ、ひいいいいいいッ!!!!」

 

襲われる!本能的にそれを察した俺はテントの中から飛び出し、雪山を走り出すのだった。背後から聞こえてくる

 

【横島さんどこへ!?男同士暖めあって、友情と青春と人生を!】

 

「やかましい!冗談じゃないわあああああ!!!」

 

俺を呼び止めようとするワンダーホーゲルの声にそう怒鳴り返し、俺は雪山を疾走するのだった……

 

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その3へ続く

 

 




このノリがずっと書きたかった。これこそGS美神って感じですよね。色々と再構成しつつ、原作の雰囲気を残して以降と思います。このレポート4「幽霊少女と蛍と狐」のラストもどうなるのか楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は前回よりも更にカオスな雰囲気で進めて行こうと思います。敵はワンダーホーゲルです
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その3

 

弱い狐火を作り、吹雪の寒さを和らげながら横島を探して雪山を進む

 

【霊力はこっちね】

 

横島の霊力は少ないけど私はずっと一緒にいるから、微弱な横島の霊力もはっきりと感知できる

 

【うー寒い……】

 

いくら狐火で軽減しているとは言え中々冷える。早く横島を探そう……少し歩く速度を増して横島を探す。この山には「おキヌ」と言う幽霊の少女がいる。彼女が横島を見つける前に見つけないと

 

【あの女は危険】

 

蛍と同じ、私から横島を取ろうとする。そんなのはさせない、まだ人間になる事は出来ないけど、もう少しすれば人になれるだけの霊力と妖力が回復する。それまでは大人しくしているつもりだが、自分の加護を授けた人間を奪われるつもりはない。

 

【こっち……ふえ!?】

 

横島の霊力が急に高速で移動を始めた。えって言うか速い!?私のスピードじゃ追いつけない

 

【友情っすよ!青春っすよ!!!】

 

「やかましー!!そんな異常な青春は同類としてろやーッ!!!!」

 

徐々に近づいてくる横島の霊力とワンダーホーゲルの声。

 

「む?タマモ!?」

 

「クウッ!?」

 

私に気付いた横島は走っている勢いのまま私を抱き上げて頭の上の乗せる

 

「捕まってるんやで!変態がくるでな!!!」

 

そう叫んで走る速度を増させる横島。変態?と思い振り返ると

 

【男同士の熱い友情をー!!!互いに温まり合いましょーッ!!!】

 

信じられない寒気と恐怖を感じた。ナ二あれ怪物!?

 

「嫌だ!男は嫌だ!死んだほうがましだ!ああ!だけど死にたくねえええ!!!」

 

私が恐ろしいと思ったあの化け物に追われている横島は恐怖のせいか、半狂乱になっている。落ち着かせようと思い。頬をなめるが効果がない

 

「嫌だッ!俺は死なんぞッ!!!生き延びて、可愛くて、優しくて、柔らかいねーちゃんと暖めあうんだああああッ!!!」

 

「フーッ!!!」

 

横島のその叫びに怒りを覚えて噛み付くが、全然効果がない。ドンドン加速していく横島に必死にしがみ付いていると

 

【横島さーん♪こっちですよ♪】

 

おキヌが姿を見せて両手を広げると横島の目が怪しく輝き

 

「ねーちゃーんッ!!!!」

 

「コーン(駄目ーッ!!!)」

 

必死に横島を止めようとするが、悲しきかな。狐の身体で横島を止める事はできず、鋭角に曲がりおキヌのほうへと突進するのだった……

 

 

「ねーちゃーんッ!!!」

 

必死の形相で走ってくる横島さん。ここで待っていれば来てくれるって判った両手を広げて走ってくる横島さんを抱きとめる

 

「やーらかいな!いい匂いだなーッ!!!」

 

私の記憶では横島さんはこんな事をする人じゃないけど、よっぽど恐ろしかったのか、完全に暴走している

 

「コーン!こーん!!!」

 

ぺしぺしと前足で横島の額を叩いているタマモちゃんも無視して、私の腰と胸元に手を伸ばして

 

「これやー!これなんやー!ワイが欲しいのはーッ!!!」

 

横島さんの手が身体をまさぐるのを感じて恥ずかしいと思ったが、横島さんなら良いかと思い……いやむしろ大歓迎なので。抵抗もせずにいたのだが、突然その手が止まり。両手で顔を覆って

 

「わ、ワイはなんてことを!?うわああああ!蛍ーッ!!!!ごめんよおおおおッ!!!!」

 

大声で泣き出す横島さんに一瞬きょとんとなり、思考が停止する。今恐らく横島さんの頭の中では、蛍さんに浮気者と言われているシーンが浮かんでいるのだろう……

 

【横島さーんッ!!!友情っす!これっす!これなんっす!!「フーッ!!!」ぎゃあああああ!?】

 

髭面の幽霊が横島さんに組み付き、横島さんの頭の上のタマモがその顔に爪を立てる。その隙に横島さんは立ち上がり

 

「うわあああ!ホモはいや!蛍うう!俺はあああああッ!!!!」

 

頭を抱え号泣しながら走り去って行った。それを居って行く髭面の幽霊……

 

【ふ、ふふふふふふ】

 

横島さんに触られたことで着崩れた巫女服を直しながら、雪を蹴り上げて走っていく横島さんの背中を見て

 

【私がここまでしたのに、他の人の名前を言うんですねーッ!!!!】

 

絶対私の方が蛍ちゃんよりも横島さんの好きな料理を知っているし!私の方が胸も大きいんですからね!!!

 

【横島さん!止まってください!私の方が蛍ちゃんより良いって言わせて上げますから!!!】

 

「うわああああん!!蛍ーッ!!!!」

 

【横島さーん!お互いに温まりあいましょー!!!】

 

横島さんを襲おうとするホモの幽霊の顔面に肘うちを叩き込み、その勢いを利用して横島さんを追いかけるんだけど

 

【横島さん!】

 

手を伸ばして服を掴もうとするのだが、器用に回避しながら更に加速していく

 

「蛍も好きだけど、あの子も可愛くて、いややあ!お仕置きは嫌やーッ!!!」

 

くう!私が思っている以上に蛍ちゃんに教育されている横島さんは私の声を聞いてくれない。だがまだ間に合う!間に合う場所に私はいる!

 

(小竜姫様もいないし、愛子さんもいない!今この時が最大のチャンス!)

 

タマモちゃんと蛍ちゃんと言う予想外の敵はいるけど、今この時期ならば横島さんはそんなにモテてない。150年近く孤独で過ごし、逆行をしてまで手に入れたこのチャンス!!!

 

【絶対に逃がしませんッ!!!】

 

全力で横島さんの腰へタックルする。腰を押さえられると思うように動けなくなるからだ

 

「ぬあ!?」

 

【あ、あれ!?】

 

狙いは良かった。だが雪山と言う滑りやすい場所でのタックルは良くなかったようで

 

「うわあああああ!?」

 

「コーンッ!?」

 

【きゃあああああッ!!!】

 

【うおおおおッ!?】

 

私達は足を滑らせて、雪山を転がり落ち人骨温泉の露天風呂の方へと転がって行ってしまったのでした……

 

 

 

露天風呂に続く道のところで美神さんと並んで腰掛け、横島が戻ってくるの待つ

 

「こんな事になるなんて思ってなくて、ごめんね?」

 

美神さんがそう謝ってくる。だけど良く考えるとこれは本来なら私がいない筈の事件。だから横島は大丈夫な筈だ……

 

「きっと大丈夫だと思います。もうすぐ戻ってくると思います」

 

美神さんとそんな話をしていると

 

「「「うわあああああああッ!!!!」」」

 

3人の悲鳴が聞こえて驚いてその声の方角を見ると

 

「「ゆ、雪玉!?」」

 

とんでもなく大きな雪玉が転がり落ちてくる。それは真っ直ぐにこっちのほうに転がり落ちてきて、温泉の中に飛び込んだのだった……ゆっくりと浮かび上がってくる横島を見て

 

「よ、横島ぁッ!!!」

 

温泉の中に飛び込んで浮かんでいる横島とタマモを引っ張り上げようとすると

 

【私のオオオ!】

 

温泉の中でもしっかり横島の胴体を掴んでいるおキヌさんが浮かんでくる。その光景はかなりホラーで

 

「沈めッ!!!」

 

霊力を込めた拳骨を全力で容赦なく振り下ろしたのだが

 

【ホモバリヤー】

 

浮かんでいた髭面を掴んで盾にする。この感じ、間違いなく美神さんの技だ!?

 

【ふごおおおお!?】

 

幽霊の顔面だがしっかり砕く感触がする。おキヌさんはその間に再び横島に手を伸ばして

 

【ふふふふふふ、私の】

 

横島の身体に手を伸ばし怪しい笑みを浮かべている。それはどう見ても悪霊か何かにしか見えなくて……と言うかそれ以前に

 

「違うって言ってるでしょうがッ!!!」

 

横島は私のなんだからいつまでもくっついてないの!と叫び引き剥がそうとするが

 

【私のなんですー!!!】

 

やはり私とおキヌさんは相容れることがないようだ。ここで後腐れがないように潰しておこうと判断する、温泉の中だから多少動きにくいが問題ない

 

「何馬鹿やってるの!!横島君死ぬでしょうが!」

 

美神さんの一喝で我に返り下を見ると

 

「死ーん……」

 

ぷかーと浮いている横島を見て私とおキヌさんは声を揃えて

 

「横島ーッ!!!」

 

【横島さーんッ!!】

 

横島の名前を呼んで慌てて温泉から引き上げお湯を吐き出させるのだった……なお人工呼吸が必要だと思ったのだが、予想以上に横島の回復が早く

 

「げぼお!がぼお!げほごほ!!」

 

咽込む横島を見て、私とおキヌさんが舌打ちしたのは仕方ない事だと思う。こんな美味しい機会を逃がしてしまったことに軽くショックを受けるのだった……

 

 

 

温泉で喧嘩している蛍ちゃんとおキヌちゃんを一喝し、溺れかけて瀕死だった横島君がある程度回復したところで

 

「それで?貴女はなんなの?」

 

横島君にしがみ付いているおキヌちゃんにそう尋ねる。

 

【私はキヌと言って。300年位前に死んだ娘です。火山の噴火を抑えるために人柱になったのですが……】

 

やっぱり人身御供……悲しい過去なのだが、横島君の腕を抱え込んで幸せそうな顔をしている顔を見ていると、なんだかんだで幸せそうに見える

 

「……ギリ」

 

おキヌちゃんの向かい側で横島君の腕を抱えている蛍ちゃんが物凄い顔をしているけど、今はそんな事を考えている時間がないのでスルーする。横島君が助けてという感じで私を見ているけど、それも無視する

 

「だけどそう言う幽霊は普通は山の神霊になるのが普通よ。何かあったの?」

 

妖怪とか幽霊の妨害でもなければ人身御供になった。おキヌちゃんが山の神になれないわけがないと思い尋ねると

 

【そ、それが私幽霊としての才能がなくて、成仏も出来ないし……】

 

くすんくすんと泣き声を出すおキヌちゃん。だけどその腕はしっかり横島君の腕を抱え込んでいる

 

「でも300年前の幽霊何やろ?なんでワイのことを知ってるんや?」

 

横島君がそう尋ねる。300年前に死んだ少女が横島君のことを知っている。これは辻褄が合わない

 

【それがいつか判らないんですけど、横島さんのことが突然頭の中に浮かんで、それからずっと横島さんの事だけを考えてて】

 

くすくす笑うその姿に若干の寒気を感じるが、ある程度の仮説が出来た。

 

(魂が覚えていた記憶かな)

 

人間の魂は輪廻転生を繰り返している。おキヌちゃんと横島君は相当昔に知り合いだったというのがかなり高い可能性だ

 

「いい加減に離れろーッ!!!」

 

【乱暴ですね。横島さんは乱暴な女の子は嫌いですよね?】

 

「うえ!?俺に話を振らんといて!」

 

なんか修羅場を作っている横島君と蛍ちゃんとおキヌちゃんを見ながらおキヌちゃんを霊視する

 

(山の神にはなれてないけど、霊脈自体は繋がってるのね)

 

彼女の身体を縛っている強大な霊力の鎖。あれは間違いなく。霊脈だろう。だから成仏できないと……それなら

 

「ワンダーホーゲル!」

 

【っはい!?なんすっか!?】

 

正座しているワンダーホーゲル。私は彼を見て

 

「成仏するの止めて山の神になって見ない?」

 

おキヌちゃんを縛っている霊脈を切断して、変わりにワンダーホーゲルを山の神にすれば彼女は解放される。その代わりワンダーホーゲルが成仏できなくなるけど

 

【や、山の神!?なる!なるっす!俺達山男は街には暮らせないっす!】

 

そう、これでおキヌちゃんは霊脈から解放されて、成仏できるわね。まぁ横島君を好いてるみたいだから、成仏しないで現世にいるのが幸せだと思うんだけど、そうも言ってられないしね

 

「そう言うわけでいいわね?おキヌちゃん?」

 

【は、はい!】

 

蛍ちゃんと喧嘩をしながら返事を返すおキヌちゃん。自分が成仏できるかどうか?って段階なのに……まぁ幽霊でも恋をするわけだし、とは言え報われないと気付く筈だし……まぁ良いかとつぶやき、両手で印を組んで

 

「この者を捕える地の力よ!その流れを変え、この者を解き放ちたまえ!」

 

霊脈の流れをワンダーホーゲルに繋ぎ変えるとワンダーホーゲルの姿は白い着物姿になり、その手に弓矢を手にしていた

 

【おお遥か神々の澄んだ巨峰に響く雪崩の音がするっすよ♪】

 

楽しそうに笛を吹いて消えていくワンダーホーゲル

 

「なんなんやあいつは?」

 

横島君の呆れたような声。まぁ成仏できなかったのは遺体を見つけてもらえなかった無念もあるだろうけど、多分山が好きだったのね

 

「これで成仏できるわよ?」

 

ふよふよ浮いているおキヌちゃんにそう声をかける。だがおキヌちゃんは

 

【私成仏なんてしませんよ?私はずっと横島さんに憑いてるんですから♪】

 

嬉しそうに笑って横島君に抱きつくおキヌちゃん。成仏できるのに横島君に憑く事を選ぶなんて予想外で、さすがの私のなんと言えばいいのか判らなかった

 

「離れなさい!横島は私のなんだからね!」

 

【違います。私のなんです!】

 

両サイドから横島君を引っ張り合っている蛍ちゃんとおキヌちゃん……私は少し考えてから

 

「明日は少しピクニックとかするんだから、あんまり夜更かししたら駄目よ?」

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんの好みは正直悪いと言わざるを得ないが、別に私に関係ないんだから横島君が頑張って2人を説得すれば良いと判断し、回れ右をして露天風呂を後にしたのだった。薄情者ーと叫ぶ横島君の声は当然ながら無視したのだった……

 

 

とりあえずいつまでも露天風呂で喧嘩しているわけにも行かないし、タマモも疲れた様子でぐったりしているので

 

「とりあえず。もう休んだほうが良いとおもうんだけど?」

 

睨み合っているおキヌちゃんと蛍にそう声をかけると

 

「それもそうね。明日はピクニックって行ってたし早く休みましょうか」

 

【そうですね。横島さん疲れてますよね?早く休みましょう】

 

ほっ、これで喧嘩はひとまず大丈夫そうだなと安心し、俺にあてがわれた部屋に向かうのだが

 

「蛍の部屋はあっちだろ?」

 

美神さんの隣の部屋の筈なのに、俺の部屋に付いて来ようとする蛍。なんとなーく嫌な予感を感じつつ言うと

 

「背中を流してあげれなかったから一緒に「駄目!はい!おやすみ!」

 

蛍の背中を押して、押し出す。確かにあの時は背中を流して欲しいと思っただけど……

 

(そう言うのは少し恥ずかしい)

 

やっぱり恋愛と言うのはもう少し段階的に進んで行くものだと思う。蛍が襖の向こうから

 

「じゃあせめてこれだけでも」

 

そう言って隙間から渡されたのはお札。なんのお札だろう?と思いながら拾い上げると

 

「おキヌさんが襲ってこないように」

 

「ありがとな!凄く嬉しいぜ!」

 

行け行けの性格のおキヌちゃんが入れないようになるお札。これはちゃんと張っておいた方が良いと判断し、部屋の隅にきっちりと札を貼ってから

 

「じゃあ寝よか?」

 

「コン♪」

 

尻尾を振っているタマモを抱き抱えて布団に潜り込みながら。

 

(おキヌちゃんかあ……あのこも可愛いよなあ)

 

蛍とは少しタイプが違うが間違いなく美少女と言える。勿論蛍も超美少女だ

 

「なんで俺のことを好きって言ってくれるんやろうなあ?」

 

自分で言うのも何だが、俺は馬鹿でスケベでいい所なんてないと思うのに、なんで蛍とおキヌちゃんが俺を好いてくれているのか判らず。思わず抱えているタマモにそう呟くと

 

「クウ」

 

ぺろっと頬を舐めるタマモ。その愛らしい素振りに俺も微笑み返し

 

「考えても判らんし、寝よか?」

 

「クウ♪」

 

もぞもぞと布団の中に潜り込んで来るタマモに笑みを零しながら布団に潜り込み、ふと窓の外を見て

 

「今日は満月か。綺麗だな」

 

さっきまでの吹雪も止んで、雲の切れ目から覗く満月を見て思わずそう呟き布団を頭まで被った、何故なら

 

【横島さん。お話しましょうよ~】

 

襖の向こうから俺を呼ぶおキヌちゃんの声がすこーしだけ怖かったからである……

 

「クウ」

 

横島が寝てから数時間後。横島の腕の中から抜け出したタマモは満月の光を浴びて、失っていた7本目の尻尾を取り戻し、その身体を金色に光らせるのだった……

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その4へ続く

 

 

 




次回はタマモちゃんのフェイズで行こうと思います。今登場しているヒロインの中では一番登場しているのにも関わらず、狐と言うことで不憫な目に合っているタマモを活躍させようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回はタイトルの「幽霊少女と蛍と狐」の狐がメインになります。いいまでは「幽霊少女」の「おキヌちゃん」がメインでしたからね。この次は蛍と来て、その次は3人と言う感じで進めて行こうと思います。


 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その4

 

山歩きとホモ騒ぎで疲れ果て、普段より大分早い時間に眠りに落ちたせいか中途半端な時間に目を覚ます。ちらりと時計を見ると

午前零時を少し過ぎた所だ。寒い寒いと思いながら一緒に寝たタマモをカイロ代わりに抱き抱えようとして

 

「んお?タマモー?」

 

いるはずのタマモの姿がない。眠いのを我慢して目を開けるが近くにタマモの姿はない

 

「どこに行ったんだ」

 

いつも一緒なので姿が見えないと不安になり。眠い上に寒いが布団から抜け出し、タマモの姿を探す

 

「部屋の中にはいないな。となると外か?」

 

窓の外を見る。ちらちらと降る雪と闇の中。金色の光が走っていくのが見える

 

「タマモ……か?」

 

タマモの毛は金色に近い。あれは多分タマモのはずだ……浴衣を脱いでいつものジーパンとジージャン。それと防寒用のジャケットを羽織りバンダナを頭に巻いて

 

「ったく1人で出歩くなって言ったのに」

 

俺にとっては可愛い子狐だが、タマモは九尾の狐と言う強力な妖怪らしく、名を上げたいGSや下っ端神族とかに狙われる可能性が高いと美神さんと蛍に言われていた。だから迎えに行こうと思い部屋の外に出ると

 

「ぬお!?」

 

おキヌちゃんがふよふよと浮きながら俺の部屋の前にいた。腕を枕代わりにして目を閉じているのを見て

 

「幽霊って寝るんだな」

 

幽霊でも眠るという新事実に少し驚きながら、襖を閉めて。蛍から貰った札を張り俺はホテルの外へ向かったのだった

 

「タマモータマモーどこだー!」

 

タマモの名前を呼びながら山の中を進む。少しだけだが雪が降っているので視界が悪い

 

「コーン」

 

「タマモ!?」

 

聞こえてきた狐の鳴声に振り返ると金色の光を帯びたタマモが俺を見つめている

 

「良かった。探した……って待て!タマモ!本当にどうしたんだ!?」

 

俺を見るなり再び山の中へ走っていくタマモ。普段はこんな事をしないのに本当にどうしたんだ!?タマモの放つ金色の光を頼りに山の奥のほうへ進んでいく、かなりのスピードで走っているのに何故か1回も木の枝や茂みに飛び込むこともない

 

(なんか変な感じだ)

 

なにが変と言うことは出来ないのだが、何かが変だという気がする。そんな事を考えながら山の中を走っていると急に開けた場所に出る。その中央ではタマモが座って俺を見ている

 

「遊んで欲しかったのか?」

 

今日はなんだかんだでタマモに構ってやれる時間が短かった。だからこんな事をしたのかもしれないと思いタマモに尋ねるが、タマモは空を見上げていて返事を返す素振りがない

 

「雲?」

 

さっきまで満月が出ていたのに、いつの間にか雲で隠れている。山の天気は変わりやすいって言うからそんなところか?と思いながら

 

「ほら。ホテルに帰るぞ」

 

「フーッ!!!」

 

タマモに手を伸ばすと尻尾を立てて威嚇する。ん?あれ?良く見るとタマモの尻尾の数が増えているような気がして数える。

 

「7本目?」

 

ホテルに来る前は6本だった尾が今は7本になっている。その事に若干驚き立ち止まった瞬間。風が吹いて月にかかっていた雲が飛ばされる。そしてそれと同時にタマモの光が強くなり、そのあまりの眩しさに目を閉じる。そして光が弱まったのを感じてから目を開くとそこには

 

「タマモ……なのか?」

 

美しい光沢を持つ金色の髪をナインテールとでも言うのだろうか?特徴的な髪型に結び、短めのスカートに白いシャツとセーター姿。そして引き込まれるような真紅の瞳をした少女はにこりと微笑み

 

「そうよ、横島。やっと話が出来るわね♪」

 

タマモは俺に手を伸ばしながらそう笑いながら指を鳴らす。すると雪が椅子へと作り代わり

 

「座って話をしましょう?横島」

 

あまりに嬉しそうに笑うその顔に思わず赤面しながら

 

「あ、ああ」

 

そう返事を返し、タマモの隣に腰掛けるのだった……

 

 

 

やっとこうして話が出来る。その事を考えると笑みばかりが浮かぶ。横島が隣に座って私を見て

 

「タマモなんだよな?」

 

確認と言う感じで尋ねて来る横島。私は自分の髪を指差して

 

「ほら、これが証拠」

 

私の指の先には横島が買ってくれたリボンが結ばれている。それを見た横島は

 

「た、確かにそれはタマモに買ってやったリボン……じゃあやっぱりタマモなのか?」

 

「そうだって言ってるでしょ?」

 

横島は私をじっと見つめて……ぼそりと

 

「だけど玉藻前は黒髪……「私と玉藻前は違うの!」ぬお!す、すまん」

 

玉藻前と私は確かに同一人物だけど、私と玉藻前は違う。横島に玉藻前と言われるのは嫌で思わず大声を出してしまう

 

「悪かった、タマモはタマモだよな。ごめんな」

 

謝りながら私の髪を撫でる横島。私は腕を組んでそっぽを向いて

 

「ふんだ!」

 

別に怒っているわけじゃないけど、怒った振りをすると横島は目に見えてうろたえる。その仕草に思わず噴出すと

 

「振りか!?」

 

「そうよ、別に怒ってるわけじゃないもの」

 

こうして横島と話せる時間は短い。だからそんな事で時間を潰したくはない

 

「今日は満月でしょ?だから月が出ている間だけ霊力が上がってるから人に変身出来るの。隠れたらまた狐に戻るわ」

 

完全に人化が出来るようになるのは速くて8本目の尾が戻ったときだろう。それまでは狐の姿のままだと思う

 

「そうか。だけど何でこんな場所で話をするんや?ホテルで良いやろ?」

 

「判ってないわね。2人でゆっくり話をしたかったからに決まってるでしょ」

 

横島の頬に手を伸ばす。横島は少しびっくりした様子だが、私の好きにさせてくれている。耳を澄ますと

 

「タマモは狐。タマモは狐……だけど可愛い。あと2~3年すれば……ああ、違う。違う。タマモは可愛い家族で……」

 

ぶつぶつと繰り返している横島。うーん狐として一緒に過ごしすぎたわね、まぁ完全に人化出来るようになれば後はなんとでもなるか……

 

(だって私は九尾の狐なんだから)

 

狙った獲物は逃がさない。確かに今の横島は弱いし、お金もない。だけど優しいし、私のために鬼に立ち向かってくれた事もある。

庇護者を求める本能のある私が、初めて好意で選んだのだ。しかも私の加護まで与えた、だから横島は誰がなんと言おうと私の物なのだ

 

(出遅れてるけどまだ巻き返せるんだから!)

 

蛍やおキヌには負けない、だけど今日この場所に横島を連れてきたのは別の理由がある。雪で作った椅子から立ち上がり横島の前に立つ

 

「タマモ?」

 

不思議そうに私を見る横島。私は少しだけ怖いという気持ちを感じながら

 

「私はドンドン力をこれから取り戻していくわ」

 

7本目の尾のおかげで周囲の霊力や妖力を取り込む力が増した。これまで以上に力が回復していくスピードは上がるし、それに伴って神通力や幻術と言う能力も取り戻していくだろう

 

「かつて神族や魔族に追われる理由となった力もきっと全部取り戻す」

 

今はまだ使えて狐火くらいだけど、後に現実となる幻術や強力な精神操作も身につけるだろう

 

「もしかするとまた追われるかもしれない」

 

神族や魔族だけではなく、人間に……もっと言えば美神や蛍にだって追われる可能性はある。九尾の狐と言うだけで、私の意志なんか関係なく敵と判断されるかもしれない

 

「それでも横島は私の……「ばーか。何言ってるんだ」

 

横島は私の手を握って自分のほうに抱き寄せて

 

「タマモはタマモ。それで良いだろ?」

 

「だけど人間はううん。神族も魔族もそれじゃあ納得しないかもよ?」

 

「そんな頭でっかちは俺が説教してやるよ」

 

「横島に説教される神様か、なんか地に落ちた感じね」

 

横島が説教している場面なんて思い浮かばずそう言うと、酷いなと苦笑しながら横島は私の頭に手を伸ばして

 

「だからタマモはここにいて良いんだ。タマモはタマモ。俺の家族。それでいいだろう?」

 

その言葉を聞いて顔を隠す、多分自分でもみっともないとおもうくらいにへらとした顔をしているとおもうから

 

「私妖怪だよ?」

 

多分横島がなんと返事を返すかなんてわかっている。

 

「だから?妖怪だろうと、悪霊だろうが、それこそ神様や悪魔でも美女・美少女は俺のモンじゃ!」

 

横島らしい言葉に笑みを零しながら、横島の服を掴んで

 

「じゃあ私の手を放さないでね?約束だよ」

 

「おう。約束する」

 

にかっと笑う横島。残念だけどもう月が隠れてしまう……人化の力を維持できず狐の姿に戻りながら、横島を見て

 

【横島。大好き】

 

声にならない声でそう告げる。当然横島はなんて言われたか判らず

 

「おやすみ。タマモ」

 

そう笑って私の頭を撫でる。私はその手の感触と暖かさに笑みを零しゆっくりと目を閉じたのだった……私の想いを告げるのは完全に人の姿を維持できるようになってから……それまでは

 

(可愛い狐のタマモでいるわね)

 

馴れ親しんだ狐の姿に戻り。横島の腕の中で丸くなり私は眠りに落ちるのだった……

 

 

 

 

横島を起こしに行くと部屋の前では

 

【横島さーん。あけてくださいよ~お話しましょう】

 

おキヌさんがかりかりと襖を引っかいているのが見える。何時記憶を取り戻したのかは判らないが、結構前に記憶を取り戻したのだろう。性格がかなりやばい方向になっているのを見てそれを確信する

 

「おキヌさん?邪魔ですよ」

 

若干警戒しながら言うとおキヌさんは振り返る。だがその目は予想に反して私の知るおキヌさんと一緒で澄んだ目をしていて

 

【おはようございます。蛍ちゃん、良い天気ですね】

 

にっこりと笑うおキヌさん。その姿に昨日の悪霊じみた面影はないが……

 

(油断は禁物ね)

 

いつどのタイミングで黒化するか判らないので警戒していると

 

「あれ?おキヌちゃんに蛍?俺の部屋の前で何してるんだ?」

 

横島がタマモを抱えて歩いてくる。その姿はいつものジーパン・ジージャン姿だ

 

「おはよう【おはようございます!横島さん!】

 

私の言葉を遮って横島に朝の挨拶をするおキヌさんに若干のイラつきを覚えるが、それを押さえて

 

「おはよう横島。どこに行ってたの?【ふぎゃっ!?】

 

おキヌさんの巫女服の裾を掴んで地面に叩きつけ、ついでに背中を踏みつけながら尋ねる

 

「お、おう……タマモと散歩にな」

 

「コン♪」

 

横島の腕の中で嬉しそうに鳴くタマモを見ると、7本目の尻尾が生えてゆらゆらと揺れていた。

 

「良い天気だからね。私も後で一緒に散歩しても良い?」

 

「おう♪朝ご飯食べてからな!」

 

そう笑う横島は服を着替えるからと部屋に入っていく。ふと足元を見るとおキヌさんがいない、まさか

 

「きゃーっ!?おキヌちゃん!でてって!俺着替えてるから!」

 

【横島さん】

 

「なにしてるかーッ!!!」

 

私は目を閉じたままおキヌさんの首を掴んで部屋の外へと引きずり出したのだった

 

「なにしてるの!?」

 

【別にただ横島さんのお着替えを手伝おうかと】

 

若干頬を紅くしているおキヌさん。私の知ってるおキヌさんはこんな事をする人じゃなかったけど、違う。いまのこの人は欲望に忠実すぎる

 

(私が横島を護らないと)

 

私は横島の部屋の前で腕を組んで、両手にお札を持って

 

「これ以上近づいたら除霊する」

 

【くっ!卑劣な!】

 

幽霊と言うアドバンテージを使いこなそうとしているおキヌさん、このままほっておけば横島の日常生活に平穏はないと判断した私は家に戻り次第

 

(横島の家の霊的防御を上げないと)

 

幸いにも今の横島の家の場所をおキヌさんは知らない。場所がばれる前にしっかりと防御を固めようと誓うのだった

 

「なにしてるの?蛍ちゃん?おキヌちゃん?」

 

朝風呂に行っていたのかぬれた髪を拭いながら歩いてきた美神。その目は丸くなっているが無理もない、横島の部屋の前で腕組し両手に破魔札を手にしている蛍とその前で悔しそうに、しかし隙を窺っているおキヌを見れば動揺するのも無理はない

 

(多分ついてくるわよね。また個性的な面子が増えるわねえ)

 

美神はおキヌがついてくる可能性も考慮し、そして頭の中で素早く利益と損じる損失を計算した……そしてでた結論は

 

(儲かる!)

 

その目が一瞬$のマークになる。幽霊なので人権費も安く済むなど色々な要素がある。それに横島君と一緒ならご機嫌だから、もしかしたら給料を支払う必要もないとどんどんプラス要素が思いついた美神は笑顔で、おキヌを東京に連れて帰るのを決め

 

「ほらーもうすぐ朝ご飯の時間だから早く来なさいよー」

 

一応子の中の面子では一番年上と言うこともあり、蛍達にそう声をかけたのだった……

 

 

 

朝食を終えて横島さん達とピクニックに来たのですが

 

「コーン♪」

 

嬉しそうに鳴いて横島さんと追いかけっこをしているタマモちゃんは物凄く可愛いんだけど、横島さんが私を見てくれないことに若干苛立ちを覚える。だが横島さんがタマモちゃんを可愛がっている為、攻撃も出来ず離れたところで見ることにした

 

「コーン!」

 

「うおお!?」

 

急に飛び掛ってきたタマモちゃんに驚いて引っくり返る横島さんとそれを見て

 

「運動神経悪いわね。もっとしっかりしなさい」

 

美神さんがくすくすと笑っている。私の記憶ではこんな時間はなかったはずだけど、タマモちゃんと蛍ちゃんの影響なのかもしれないと思っていると

 

「隣座るわよ」

 

蛍ちゃんが私の隣に座る。一瞬身構えたが、蛍ちゃんはタマモちゃんと戯れている横島さんを見ながら

 

「何時記憶を取り戻したの?」

 

【150年位前ですかね?ふっと思い出しました】

 

2人がいない内に逆行について話そうとしているのだとわかり。素直に答える

 

「辛かった?」

 

【死んでるけど死にたいほど辛かったですよ】

 

会いたいとおもう人に会えない。心が引き裂かれるを感じて何度も涙した

 

【だから私は我慢するのをやめました。私は私のやりたいようにやります】

 

これは変わらない決意。誰にも負けないし、引くつもりはない。逆行前は引いたことで全てを失ってしまったのだから

 

【アシュタロスはどうなったんですか?】

 

私も質問する。あの時間ではアシュタロスが全ての悲劇の引き金になっている。だから今がどうなのか?と尋ねると

 

「ただのお父さんかな?うん、馬鹿やるけど大丈夫。敵じゃないわ」

 

微妙に引き攣った顔をしているのでこれは詳しく聞いてはいけないのだと判断し、質問を変える

 

【じゃあ部下のメドーサさん達は?これからどうなるんですか?】

 

天龍童子の暗殺未遂にGS試験での暗躍。彼女達が起こした事件の事を思い返しながら尋ねると

 

「とりあえず失敗するように動いて、過激派神族と魔族をおびき出すわ。それが終われば……」

 

蛍ちゃんは私を見る。言いたいことは判っている。全てが決まるのは全てが終わった後。だがそれまで横島さんを取り合いをしないと言うことではない。今も互いに互いの隙を窺っているのが判る

 

「出し抜きもするし、罠にもかける。OK?」

 

【OKです。私もしますから】

 

自分の目的のためには手段を選んでいる余裕なんてない。恋は戦争なのだから、蹴り落とし、罠に嵌め、策謀を張り巡らす。それが勝利するためのたった一つのさえた選択だ

 

「おーい!蛍もおキヌちゃんも遊ぼうぜ~!」

 

「コーン!」

 

原っぱのほうから私と蛍ちゃんを呼ぶ横島さんの声がする、その手にはボールが見える

 

「今行くわよ。横島」

 

【今行きますね!横島さん】

 

蛍ちゃんと同時に立ち上がり、お互いに足を伸ばして転ばせようとして、2人ともこれを回避する

 

「【ふふふふふふふ】」

 

いきなりとはやってくれますね。だけどこれくらいじゃなければ面白くないです。これからドンドン増えていく恋敵の存在を考えればこの程度で目くじらを立てていては恋の成就なんて程遠い。互いに笑い合いながら横島さんのほうへと歩き出したのだった。

なお顔は笑っているが目が笑ってないので、横島と美神。そしてタマモが少しだけびびったのは言うまでもないことだろう……少し黒いオーラが蛍とおキヌから漏れていたのも原因の1つだと思われる……

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その5へ続く

 

 




次回は蛍の視点で進めて行きます。レポートの話は少し飛ばして、蛍視点での除霊レポートと言う感じになると思いますが、よろしくお願いします。普通に書いてもいいのですが、それだと話数ばかりかさんでしまうのでこういう形になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「蛍」の視点で進めて以降と思います。除霊レポートとしては「オフィスビルを除霊せよ」の依頼結果を簡潔にまとめて書いてみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その5

 

私は今日横島の家に来ていた。アルバイトとして事務所には行かないが、これもちゃんとアルバイトの一種だ

 

「うう……こんなのもやらなあかんのか……」

 

横島が眉を顰めてうめいている。その目の前にはレポート用紙。これは除霊レポート、GS協会と依頼者に提出する除霊の結果を伝えるための物だ。無論本来のレポートは既に美神さんが完了させて提出しているが、今回は勉強としてやるようと美神さんに渡されたのだ。

 

「あーこういうのは苦手なんだけどなあ」

 

ぶつぶつとぼやきながら、美神さんから渡された簡易のレポートを見つめる横島。軽く纏めてあるレポートと、除霊した日の事を思い出し記載していくのだが……

 

「よー思い出せん」

 

横島が冷や汗を流しているのはこれだ、記憶力は悪くないのだが、どうも必死すぎて覚えてないのだろう

 

「だから私も一緒なんでしょ?ゆっくりやって行きましょう」

 

時間はあるし、おキヌさんの邪魔もない。今おキヌさんは美神さんの保護下の幽霊と言うことで書類申請しているんだけど、中々手間取っているらしく、今の所はここにはこれない。ただし事務所だと

 

【横島さん♪おはようございます】

 

【横島さん。お昼作ったんですけど、一緒にどうですか?】

 

家に来れない分横島にべったりだけど、家に来れるというアドバンテージは私にあるのでそこまで気にしない。本当は霊的防御もあげて、侵入も防ごうと思ったんだけど

 

「くう……」

 

「あかーん!!すぐ止めてくれ!タマモがぐったりしてる!!!」

 

タマモにも予想外のダメージがあるのでなくなく断念した。だがおキヌさんの侵入とストーカーを防ぐ方法は何とかして防ぐ方法を考えないと不味いだろう

 

「えーと確かオフィスビルの悪霊は株に失敗した悪霊だったっけ?」

 

横島の言葉で思考の海から引き上げられる。今はおキヌの対処法じゃなくて、このレポートを横島に仕上げさせる事を考えないと

 

「ええ、ついでに言うと株に失敗して全財産をすって飛び降り自殺して3時間後に死んだ幽霊ね」

 

「そこまで詳しく書かないと駄目なのか?」

 

顔が引き攣っている横島に頷きながら、私が纏めたレポートを見せる

 

「うげ!?びっしり……」

 

しっかりと細部まで書いてあるレポートに顔を引き攣らせる横島。まぁそれなりに大変だけど、ここをしっかりしないといけないのよね。莫大な収入を得れる分、こういうのも凄く細かい

 

「だから頑張ってね♪お昼ご飯は私が作ってあげるから」

 

私がそう笑うと横島は資料の書類を見ながら

 

「判らん所は教えてくれるか?」

 

「勿論♪だから頑張ってね」

 

私は横島の隣に腰掛け。横島が真剣な顔をしてレポートに書いているのを見て

 

(集中力と頭の回転は悪くないのよね)

 

ここは流石百合子さんの息子と言わざるを得ない。横島は馬鹿はやるが、馬鹿ではないのだ。頭の回転も速いし、吸収力も高い。こつさえ掴めば直ぐにやり方を覚えるだろう。

 

(あの除霊は結構すんなりいけたけどね……)

 

人骨温泉から戻った次の日の依頼で、完全に自我が崩壊している悪霊の除霊と結構難しい除霊だったのだが……

 

「コーンッ!!!」

 

【ケケケー!?】

 

霊力の回復し始めたタマモは狐火をある程度放てるようになっていたし、横島自身も

 

「どっひいいい!死ぬ!死んでまううう!!!」

 

悪霊に追い掛け回されて涙目だったけど、時折5円の破魔札を強化して投擲して悪霊の妨害をしていたし

 

「タマモのことは書いても大丈夫なんか?」

 

隣に置いた篭の中で寝ているタマモを見ながら尋ねてくる横島。多分タマモのことを心配しているんだろうけど

 

「大丈夫よ。これは美神さんが見る個人的なものだからね」

 

正規のレポートは既に提出してある。すこし誤魔化しているが、タマモのことだけなので問題ない

 

「そうか、じゃあタマモのことも書いていいんだな」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

横島は安心したようでレポートを書き始める、時折ぶつぶつと

 

「えーと、蛍のソーサーで悪霊を吹っ飛ばして……俺はおキヌちゃんに抱きつかれて……タマモに頭をかまれて」

 

ぶつぶつと呟いている横島。その呟きで私も段々その時の除霊の事を思い出してくる

 

【怖いですー♪】

 

態とらしい声で横島の顔を自分の胸元に抱え込むようにするおキヌさん

 

「ぶぼお!?」

 

そして胸の感触と甘い匂いで鼻血を噴出し昏倒する横島に

 

【ケケケケーッ!!!】

 

自我の崩壊した悪霊が襲い掛かり

 

「横島に手を出すなッ!!!」

 

「このおッ!!!」

 

私のサイキックソーサーと美神さんの神通棍でその悪霊を吹っ飛ばして

 

【横島さーん♪】

 

「げほ!?ぶほお!!!」

 

「コーンッ!!!」

 

「ほっぎゃあああああああ!?」

 

おキヌさんに更に胸を押し付けられて窒息寸前になっている横島の頭をかみつくタマモ

 

「ちょっとは真面目にやりなさいッ!!!」

 

そしてそんなやり取りを見て怒鳴る美神さん。今思い返してなんだけど

 

(良く無事だったわね……)

 

普通の除霊現場とは思えない状況だったのにも生き残れた。誰か大怪我してもおかしくない状況だったんだけどね

 

「……最後は蛍のソーサーと美神さんの破魔札で除霊完了っとこんな所か?」

 

横島に差し出されたレポートを見る。誤字・脱字はないし、字もそこそこ綺麗だけど……

 

「はしょってる部分があるわね。悪霊と遭遇した所と除霊開始のくだり。ここも書き足して、あとここも、止めを刺したのは美神さんよ、横島が書いたのは弱らせた所ね」

 

「書き直しか!?」

 

青い顔をして居る横島。本当ならこのレポートは除霊の次の日に書くものだが、あえて日数を開けて書かせているのは横島の記憶力と、印象を薄れさせてどこまで正確に書けるのか?の判断のためだろう

 

「書き直しとまでは行かないわ。忘れてる部分を書き直して、レポートを分割して繋ぎ合せましょう」

 

こういう手法もあるあんまりお勧めできる方法じゃないけど、書き直させるのも可哀想なのでここは裏技を使わせてもらおう

 

「じゃあこれはこれでおいといて、書き直せばいいんやな?」

 

「その通り。私はお昼の用意をするから、頑張ってね♪」

 

おうっと返事を返す横島を見ながらキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける

 

「牛肉の細切れ……それと人参・タマネギ……よしっ決まり♪」

 

ここは肉じゃがで攻めて見よう。煮物系とりわけ肉じゃがは男性の好きな煮物だ。リビングで一生懸命リポートに取り組んでいる横島を見ながら

 

(ふふふふ、料理と言うアドバンテージでも負けてないんだからね!)

 

今頃GS協会で書類に奮闘しているであろうおキヌさんの顔を思い浮かべ呟く。何冊も料理の本を読んで勉強している今の私なら、おキヌさんの料理のも負けない自信がある。私は戸棚から圧力鍋を取り出し、肉じゃがの準備を始めた。横島は大阪人だから出汁を重視して……この肉じゃがで横島の好みの煮物の味を覚えようと思いながら、ゆっくりと肉じゃがの準備を始めるのだった……

 

 

 

 

郵送されてきた横島君の書いた除霊レポートを見ながら、冷蔵庫から取り出したビールのプルタブを開ける

 

(蛍ちゃんのことだから自分のレポートを写させるかも?と思ったけど違うみたいね)

 

横島君と蛍ちゃんのレポートは着眼点が違う。どうやらちゃんと横島君に書かせたみたいだ

 

【美神さん。ビールの摘みはチーズでいいですかー】

 

キッチンから私を呼ぶおキヌちゃん。ちょっとまだ表情が固いし、私に対する敵意みたいものも見せてるけど

 

(悪い子じゃないのよね。もしかするとおキヌちゃんが生きていた時代に私に似た女性がいたのかも?)

 

それが原因で敵対されているのかもしれないと思いながら

 

「無事に私の保護幽霊になったわけだし、今度横島君の家の場所を教えてあげようか?」

 

【ほ、本当ですか!?】

 

キッチンから顔を出すおキヌちゃん。その顔は喜色満面だ。物凄く嬉しそうで鼻歌を歌いそうな勢いだ

 

【おつまみを増やしますね♪】

 

「ありがと。良かったらビールもう1本♪」

 

いいですよーと返事を返すおキヌちゃん。とりあえず保護しているという事なので私の家に連れてきたけど、掃除はしてくれるし、ご飯は作ってくれる。結構いいこだと思う

 

(裏表の変わりはかなり激しいけどね)

 

まぁそれも個性ってことで良いわよね。GSなんて商売をしていると、これも普通かって思えてるくるから不思議よね。ビールを煽りながら

 

(良い人材が入ったわね)

 

物に触れるし、家事全般が出来る幽霊。私自体はそこまで料理が得意ではないのでありがたい。まぁ横島君を相当思ってるみたいで暴走しがちだけど……まぁそこの所はいいわね。私には関係ないし

 

【はーい♪ビールのお代わりとおつまみの生ハムです♪】

 

机の上に摘みを並べてくれるおキヌちゃんに

 

「ねえ?おキヌちゃんも私の事務所で働いてみる?日給500円でどう?」

 

【500円もくれるんですか!?嬉しいです】

 

両手を組んで笑うおキヌちゃん。そんなに高い金額じゃないけど、幽霊だからそこまで物がいるわけじゃないからこれくらいで丁度いいのかもしれない

 

「それとこれね。横島君の家の地図」

 

軽く書いてあるだけだけど……ここまで書いてあればおキヌちゃんなら見つけるわよね?と思って渡すと

 

【う、嬉しいです♪】

 

大切な宝物のように胸の中に入れるおキヌちゃん。そんなに横島君が好きなのね……多分蛍ちゃんと追突すると思うけど、そこは横島君が何とかしてくれるとおもうから良いか

 

【美神さん。お夕食は何が良いですか?】

 

嬉しそうに笑いながら尋ねてくるおキヌちゃん。2本目のビールのプルタブを開けながら

 

「そうねえ。肉じゃがとか作れる?久しぶりに食べたくなっちゃって」

 

言った後に300年前に肉じゃがなんてあるわけないと思いやっぱりなしと言おうとしたら

 

【肉じゃがですね♪判りました。ちょっと材料が足りないんで買い物に行ってきますね】

 

「あ、じゃあこれ」

 

足りないといけないと思い1000円を渡す。直ぐ戻りますね?と言って出て行くおキヌちゃん。私はその背中を見て

 

「なんでおキヌちゃん。肉じゃが知ってるんだろう?」

 

私に家には除霊関係の書籍はあるが、料理関連の本はない。なんで知ってるんだろう?と首を傾げながら、GS協会から送られてきた、最近の霊障を纏めたレポートを見て

 

「水神の祠の破壊……馬鹿ばっかりねえ。良く見て仕事しなさいよ」

 

東京の近くのかつて水神を祭っていた廃神社を誤って破壊してしまい。膨大な霊力がそこから飛び出していった……その近くで除霊していた若手GSと指導役のGSはチャクラに酷いダメージを負って再起不能……その後竜神と思わしき、霊力の反応はない

 

「私に依頼が来なければいいけど」

 

水神といえば龍神。いくら私でも神であり、龍神と戦うような度胸はない。命がいくらあっても足りないからだ

 

「あとは特にないかな?」

 

ほかに気にするような記事はない。普通ならここでこの記事を捨ててしまうのだが……

 

「なんか気になるのよね」

 

霊感が囁いている。この記事は保管しておくべきだと、一流のGSとなれば自信の霊感で何回もの危機を乗り越えている。私もその1人だから、私はこの記事を処分せずに机の引き出しへとしまい。冷蔵庫から3本目のビールを取り出し中身を呷るのだった……

 

 

 

「ふむ。これはもしかするともしかするかもしれないね」

 

私のほうに回ってきたGSのレポートを見た。それは破壊された龍神の祠と言う記事だった。

 

(過激派の動きかもしれないね)

 

わざと周囲に雑霊を放つ。そしてGSに除霊させるのだが、その時期に自分達も行動してそのGSを罠に嵌める

 

(充分に考えられる。しかもこの2人のGSはこの神社の近くで暮らしていたらしいし)

 

そんな人間が祭っている神の祠を破壊するとは思えない。そろそろ過激派が動き出すかもしれない思っていた時期だ

 

(警戒を強めておくか)

 

恐らく今回の過激派の作戦としては水神を暴れさせ、人間を殺させたうえでデタントを持ち出してその水神を殺すことだろう。

 

(私が動かないといけないかもしれないね)

 

人間界の神の数は神界と比べて少ないが、信仰を自らの力にしているので強大な力を持つ。出来る事なら味方に引き込みたいな……表立って動く事のできない私に変わって動いてくれる人材。それが今欲しい、メドーサはもしかすると動いてくれるかもしれないが、まだ時期が早いし……中々難しい問題だねと溜息を吐き、蛍から聞いていた横島君の事を思い出す。人骨温泉で「おキヌ」と言う少女の幽霊を連れて帰ったらしいのだが、オッズ表におキヌ 2.4倍の文字が現れたことを考えれば蛍の敵になる。ここまで人間を引き寄せるのは一種の才能かもしれない。そしてそれはそのまま妖怪にも適用される

 

(彼なら祠を壊されて怒り狂っている龍神を鎮めることが出来るかもしれないね)

 

とは言え横島君に命を危険に晒す事になる。おいそれと実行できるわけじゃないね……それに

 

(龍神は情が深いしねえ)

 

男の龍神ならその恩義に報いようとするし、女の龍神なら恋に落ちるかもしれない。そうなれば蛍の敵を増やすことになる。そう考えればそう簡単に決めて行動できることではない。冷め始めている紅茶を口に含み

 

「とりあえず1度その場所を見ておくか」

 

なんの龍神が祭られていたのか?そして魔力なり、神気の残滓があればどっちの策略か判るし……

 

「行くとするか、どっちの過激派が動いたか調べないと」

 

幸い完全に擬人化出来る私は力さえ使わなければ、神族にも魔族にもバレない。今のうちに調べに行こうと立ち上がると

 

「アシュ様?どちらへ?」

 

部屋の外から聞こえてくるのはメドーサの声。油断していた、普段なら気付くのに……

 

「すこし調べ物にね」

 

「……調べ物ですか」

 

疑わしいという目をしているメドーサ。彼女は私の忠実な部下だが、勘がいい上に頭が回る

 

「過激派とは?」

 

やっぱり一番聞かれてはいけないことを聞かれたかと眉を顰める。だが部屋の中に入ってこないのは逃げることも考えているからだろう

 

「そのままだよ、過激派は過激派さ」

 

「どういうことか説明はしていただけないのですか?」

 

説明してもいいがまだ時期が悪すぎる。私は部屋の扉を開ける、そこには片膝をついているメドーサがいて

 

「いずれ説明する。それまでは私の与えた指示に従ってくれ。もし時が来て、私の考えに賛同してくれるなら全てを説明する。だからその時が来るまでは私の今の言葉を忘れよ、判ればこの場は去れ」

 

びくんっとメドーサが身体を竦める。上級魔神や神族の言葉には特別な力がある。言霊と言ってそれだけで気の弱い人間や下位の神魔なら操ることが出来る。メドーサも私の言霊には逆らえなかったようで

 

「失礼いたします」

 

何の抑揚もない言葉でそうつげ、溶ける様に消えて行った。出来れば部下にこんな事をしたくはなかったが、仕方なかった

 

「それじゃあ行くとするか」

 

私は壁にかけてあった外套と帽子を被り。このビルを管理している土偶羅魔具羅に

 

「少しでてくる。蛍には過激派が動いた可能性があると伝えておいてくれ」

 

「判りました。お気をつけて」

 

土偶羅魔具羅の見送りの言葉に頷き、私は闇夜に紛れて空を舞った。この時私が考えていたのは暴れるかもしれない水神が龍族の中でも下位であることを祈っていたのだが、残念な事に私が向かう神社で祭られていたのはミズチ。しかもただのミズチではない、強い龍気と神通力を持ち、かの有名な邪龍「やまたの大蛇」の血縁たる、もっとも天界の龍族に近く、それでいて魔界の龍に近いという極めて強力な水龍なのだった……

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その6へ続く

 

 




ミズチは後半出てくるオリキャラの伏線です。次回は「蛍・おキヌ・タマモ」が絡む横島の日常を書いてみようと思います
それと原作を知ってる人なら判るとおもうんですが、赤ちゃんグレムリン可愛いですよね?出来たらレギュラーにしたいななんて考えています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はオリジナルの話をしようと思います。蛍・おキヌ・タマモがいる。横島の日常を書いてみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

レポート4 幽霊少女と蛍と狐 その6

 

 

まだ日が昇りきらない前、横島の家に忍び込む女性の影

 

【ふふふふ。チャンスです】

 

きらーんと目を光らせるその少女は言うまでも無く、おキヌだ。美神に横島の家の場所を教わってからは結構の頻度でこの家を訪れている。しかし横島が寝ている間に訪れるのはこれが初めてだ

 

(あの時の家よりも大きいですよね)

 

私の記憶では横島さんはとても小さいアパートで暮らしていたけど、その家よりも大きい。私の身体は浮いているので足音を立てず横島さんの部屋に向かう。

 

【失礼しまーす】

 

壁を抜けて横島さんの部屋の中に入る。多分おおイビキをかいて寝ていると思ってたんですけど予想に反して、静かな寝息を立てていた

 

「クウ……クウ……」

 

横島さんの近くではタマモちゃんが篭に入って丸くなって寝ている。私に気付く気配はない……まさか私がくるなんて思ってないから警戒していないのだろう

 

【横島さん】

 

ずっと会いたいと思っていた、それが今目の前にいてこんなに無防備な姿をさらしている。

 

【横島さん……】

 

自分の欲望が命ずるまま、横島さんの口元に自分の口を近づけた瞬間

 

「何をしてるかッ!!!」

 

【蛍ちゃん!?】

 

横島さんの部屋の扉を蹴り破りそのままの勢いで回し蹴りを叩き込んでくる。霊力が込められているのでダメージを受けてしまうので腕をクロスしてその一撃を耐えて

 

【どうして入って来れたんですか!?】

 

確かに鍵がかかっていたはずなのに、どうして横島さんの家の中に入って来れたのかが判らずそう尋ねる。すると蛍ちゃんは勝ち誇った笑みで財布の中から鍵を取り出す。まさかそれは!?

 

「私は既に横島のお母さんに挨拶を済ませ。そして自分の想いを伝えている。これがその結果……合鍵よッ!」

 

【そ、そんな……】

 

それはもはや宝具と呼んでも問題のない最高の一品。私がどれだけ欲してもそう簡単には入手出来ない上に、あの人。百合子さんに認められたという蛍ちゃんの言葉に、私はがっくりと膝を落とし俯いて

 

【しくしくしく……私のアドバンテージが消えていきます……】

 

蛍ちゃんは絶対朝に横島さんの家にこれないって思ってたのに……ふふんと勝ち誇っている蛍ちゃんを見て更にショックを受け

 

【料理なら負けないんですから!!!】

 

料理なら負けない!そしてこれだけは譲れないと言う思いで私は半分くらい泣きながらキッチンへと向かうのだった

 

 

 

泣きながら出て行くおキヌさんの背中を見ながら

 

(やっぱり来たわね)

 

朝早くにくるかもしれない思って見に来て正解だった。眠っている横島を起こさないように枕元に立ち

 

(私も結構迷うからね……)

 

いびきのうるさい日とそうじゃない日。その違いがかなり激しいのだが、今日の横島は静かに寝ている日で穏やかな寝息をたてている。その子供のような顔を見ていると、少し、そう少しだけ!本当に少しだけ!!!いたずらしたいと思うけど!!!なお蛍は少しだけと言っているが、この時の顔を見られれば千年の恋も冷めかねないほどの顔をしていたりする

 

「横島。そろそろ朝の訓練の時間よ?起きて」

 

朝は空気が澄んでいるので霊力をあげる訓練をするには最も適した時間帯の1つだ。あとは深夜だが深夜の場合悪霊も動き回る時間帯なので、朝の方が安全だ

 

「んーんあー」

 

もそもそと布団の中にもぐりこもうとする横島。私は横島の体をゆすりながら

 

「ほら、起きて」

 

「んー?ほにゃるー?」

 

寝ぼけ眼かつ舌が回っていない横島の声にドキンとする。急に見せるこの素振りに私はかなり弱い、何故なら

 

(こんな可愛い横島は滅多に見れないわ!?)

 

横島はスケベで馬鹿をする。それが私の大好きな横島だけど、こういう可愛い素振りも見せてくれる。このギャップに私はかなり弱い

 

「ええ。私よ、ほら朝の訓練に行くわよ?」

 

「んあーい。着替えるわぁ」

 

ふあああと欠伸をしながら起き上がる横島。枕元に畳んであった着替えを手にするのを確認してから

 

「外で待ってるからね?今日は破魔札だけでいいから」

 

訓練に使う道具を言ってからキッチンに向かうと、いい味噌汁の匂いがする

 

「おキヌさん。朝の訓練に行って来るから7時には戻るわね?」

 

今の時間は5時45分。人が起きてくる時間になると朝の神聖な霊気はどこかに行ってしまうのでそれまでが勝負だ

 

【7時ですね。判りました。じゃあ卵焼きとかを用意するのは止めておきますね】

 

そう笑うおキヌさん。彼女がどこまで料理を出来るのかが?それを確かめ、今の戦力差を知るのにいい機会だと判断し

 

「ええ。お願いするわ」

 

大分勉強したから負けてないと思うんだけど……おキヌさんはかなり料理が上手だったから、そこが不安だ

 

「うーし!行けるぞ!」

 

「コン!」

 

肩にタマモを乗せた横島が降りてくる。その姿はいつものGジャン・Gパン姿にバンダナだ

 

「じゃあ行きましょう」

 

「行って来るな。おキヌちゃん」

 

【はい。行ってらっしゃい】

 

おキヌさんに見送られ、朝の神聖な霊気に満ちた空気に触れる

 

「はー今日もいい天気だなあ」

 

ぐぐーっと伸びをする横島。私はその隣で同じように伸びをしながら

 

「気持ち良いのは判るけど、霊力の流れを意識してね」

 

神聖な空気と言うのはそれだけで霊力を持っている。唐巣神父なんかはこういう神聖な霊力を身体に溜める事が出来るように聖句や、信仰を利用している。横島にはそんなことは出来ないけど、霊力の強い空気が満ちている時間なら、それを利用して霊力の流れを覚えさせることが出来る

 

「えーと、呼吸法を変えるんだよな。コオオオオオッ!!!」

 

大真面目な顔でどこぞの考古学者か、座ったまま飛び上がることの出来る紳士のような呼吸をする横島に

 

「それ違うからね?」

 

そんな事をしなくても朝の空気に触れていれば、僅かながらに霊力の活性化に繋がる。無論意識して呼吸すればその吸収量は増す

 

「あっははは……渾身のボケのつもりやったんやけど?」

 

そう苦笑いする横島。大阪人だから何かボケをしなくては!?と思ったんだろうけど

 

「訓練は訓練真面目にね?はい。ランニング始め」

 

乗って来た自転車に跨り、走る横島に並ぶ。タマモを乗せていると走りにくいので

 

「コン!」

 

私の自転車の篭にすっぽり収まり。頑張れという感じで横島を応援しているタマモ

 

「はっはっは!!!」

 

短く吸い込んで長く吐く。長距離を走るときの基本だが、これは霊力にも応用できる。一気に大量の霊力を吸収すると身体に変調をきたす。だからゆっくりと時間を掛けて身体に馴染ませるのだ

 

「今日は川の方へ行くわよ。霊力を取り込むイメージを忘れないでね」

 

本来は神社のほうに走るのだが、今日は何かのイベントがあるらしく、慌しい雰囲気をしていた。恐らくどこかの地鎮祭の準備で忙しいのだろう。そんな場所に行くのも悪いので川原に向かう

 

(川の近くはあんまり良くないんだけど仕方ないわね)

 

川や海。そして湖には幽霊が集まりやすい。だから今の横島を連れて行くのは正直不安なのだが

 

「コン!」

 

「任せるわよ。タマモ」

 

7本目の尾を取り戻したタマモがいれば、その霊力を恐れて並みの浮遊霊や雑霊は寄って来れないからと言うと

 

「もしかして俺よりタマモの方が強い?」

 

横島の言葉になんと答えればいいのか少し悩んだが、ここで言葉を濁すのもなんなので

 

「うん。タマモ結構強いかな?」

 

「オーマイガッ!!!!」

 

頭を抱えて嘆く横島。だけどタマモは九尾の狐だから、並みの妖怪どころか神にも等しい存在なわけで比べるほうが悪いというレベルだ

 

「ほら、行くわよ」

 

ショックを受けている横島にそう声をかけ私と横島は川に向かい

 

「ゆっくり息を吸って、霊力を取り込むイメージ。一気に取り込んだら駄目よ?」

 

あまり取り込みすぎると横島の潜在霊力と反応してしまう可能性がある。今の横島に潜在霊力に耐える事は出来ないので結構気を使っている。霊視をして、横島の中に入っていく霊力の流れをしっかりと見極める

 

「はっはっは……ふー」

 

「コーン。ココーン」

 

横島と並んで霊力を取り込んでいるタマモを見つめる。取り込んでいる霊力の量も多いし、溜め込んでいる霊力も多い。少しでも早く九尾に戻ろうとしているのが良く判る

 

(ん?これは……?)

 

微弱な霊力を感じる。凄く弱いからタマモの霊力を恐れて現れてないんだろうけど……

 

(そろそろ切り上げようかしら?)

 

タマモは全然平気そうだが、横島には少し疲労が現れている。そろそろ終わるべきだろう

 

「はい。今日の訓練は終わり!戻りましょう」

 

手を叩きながら言うと横島はその場に座り込む。まだ霊力が覚醒していない横島には結構きつい訓練だ

 

「終わりじゃないからね?霊力を放出しながらランニングよ」

 

今の横島には霊力を使う術がないから、まずは溜めた霊力を使わせる。使えない霊力を溜め込んでいても疲れるだけだしね

 

「判った。タマモを頼むな」

 

「コン♪」

 

横島に抱っこされてご機嫌と言う感じのタマモを自転車の篭に入れて、私達は来た道を引き返して行ったのだった

横島達が居なくなってから数分後。川の水が盛り上がり球体となり、飛び去って行いくのだった……

 

 

 

 

訓練を終えて戻ってきた所でおキヌちゃんが用意してくれた朝食を食べるのだが

 

「ウマイ!こらウマイ!!!」

 

卵焼きは俺の好きな中にネギが刻んである奴だし、味噌汁は大好きな白味噌の味噌汁。これだけで食が進む

 

「横島は白味噌が好きなの?」

 

「う……うーん。馴染んだ味だからな?だけど蛍の赤味噌も好きだぜ?」

 

蛍が用意してくれる事の多い赤味噌の豚汁。あれも好きなのだが、豆腐とネギだけと言うシンプルなこの白味噌の味噌汁。これは俺の大好きな味だ

 

【喜んでもらえて嬉しいです。お代わりもありますからね♪】

 

ふよふよと浮きながら言うおキヌちゃんに早速空になった茶碗を差し出し

 

「お代わり」

 

【はい、今用意しますね】

 

おキヌちゃんがご飯をよそりなおしてくれている間。膝の上のタマモに

 

「はい。あーん」

 

「コーン」

 

甘辛く炊いた揚げを長細く切ったのをタマモの口に運ぶ。俺の指をかむのは愛嬌なのであんまり気にしない

 

「横島今日は学校よね?時間に気をつけてね?」

 

蛍の言葉にうっと呻く。本当はいやだけど……行かないといけない。何故なら蛍がお袋に俺の学校の成績と生活態度を送っているのでサボるわけには行かないのだ

 

「判ってる。飯食ったら準備する」

 

「ええ、頑張ってね」

 

蛍の笑顔に判ってると返事を返し、おキヌちゃんが持って来てくれたお代わりを受け取り。味噌汁と卵焼きで食事を済ませ

 

「んじゃ行ってきまーす」

 

行ってらっしゃいと笑う蛍とおキヌちゃんに手を振り返し、学校に入り。つまらないSHRを終え授業のための教科書を取り出そうと鞄を開けると

 

「ふおおおおお!?」

 

思わず奇声が出た。それを気付いた教師が俺の前に来て

 

「何か持って来ているな?出せ」

 

「いやいや!無理!無理ですって」

 

鞄を抱えて駄目だと首を振る。だが教師はその程度で諦めなかったのか、俺の鞄を引ったくり

 

「またエロ本でも持って来てるんだろう!「コン♪」ふぁあああああ!?」

 

鞄からひょっこと顔を出したタマモに絶叫していた。俺は頭を抱えながら

 

「タマモ!学校についてきたら駄目だろう!」

 

「クーン」

 

寂しそうに鳴くタマモ。くっ、小動物の愛らしさか!これはなんて強敵だ

 

「横島?その狐は?」

 

「ペットの狐のタマモッス。鞄に隠れて付いて来たみたいで」

 

いつもの定位置の頭の上に上って首を傾げているタマモ。俺は駄目元で

 

「大人しくさせるんで一緒でも良いっすか?」

 

「クーン?」

 

俺の頭の上のタマモを見た教師はそんなつぶらな目で俺を見るなと言いつつ

 

「大人しくさせているならな。特別に許可する」

 

「おー良かったな。タマモ」

 

「コーン!」

 

この日俺はずっとタマモを頭の上や肩の上、そして膝の上に乗せて授業を受けていたのだが、タマモを触りたいという女生徒が大勢居てかなり困る事になる。追記で言えば、たまにタマモが鞄に隠れてついてくることが多くなり、その内には

 

「タマモちゃんおはよー♪」

 

「コン♪」

 

俺の教室の半ば公認マスコットになっていたりする。だが返事は返すが、甘えてくるのは俺だけで可愛い物好きの女子に睨まれたり

 

「横島は人間にはモテないのにな」

 

「狐にはモテモテだな」

 

とからかう馬鹿が現れたりしてそこそこ大変なのだが、肩の上でコン?と鳴きながら甘えてくるタマモを見るとそんなに気にならない。小動物の居る生活と言うのは思っていたよりも充実しているのだった。だけどいつかあの雪の夜に見た、美少女になるという事を考えると

 

「ちょっと複雑だよなあ」

 

「クウ?」

 

ぺろぺろと俺の頬を舐めるタマモに少しだけ複雑な気分になってしまうのだった……

 

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その1へ続く

 

 




横島がハーレムになりつつある。まぁ1人は狐ですけどね……次回は原作レポート「極楽宇宙大作戦」の内容を書きたいと思います。これはかなり原作風味で進めて意向と思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回は「極楽宇宙大作戦」の話しになります。「オフィスビル」「狼の死後」はカット。何故ならあんまり面白くないから、それよりもこの「極楽宇宙」で出したいキャラが居るので、これを優先します。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その1

 

授業を終えて帰って来た横島と美神さんの事務所に向かう。GSの勉強もあるし、色々と勉強をするには専門書のある美神さんの事務所の方が良い

 

「今日タマモが学校についてきて大変だったんだ」

 

姿が見えないと思っていたら、横島の学校に居たんだ

 

「コン?」

 

しれっとした顔で横島の肩の上に居るタマモ。どう見ても完全に自我を持ってるわね、私とおキヌさんに敵意を見せているし

 

(尾が増える度に強くなってるのね)

 

多分自我がハッキリしたのは7本目の尾が戻った時だろう。6本の時よりも感じる感覚が強くなっているので良くわかる

 

「おはよーございます」

 

「おはよう。横島君、蛍ちゃん」

 

事務所に入ると美神さんが見ていた書類を引き出しの中にしまう

 

「それは?」

 

妙にその書類の事が気になり尋ねる。美神さんは少しだけ眉を顰めて

 

「タマモの保護妖怪申請よ。九尾の狐が害悪って言うのはもう古い話だし、もうちょっとしたら許可下りるんじゃない?」

 

確かにそれもありそうだけど、ほかにも何かありそうな気がする

 

「マジですか!良かったなー♪タマモ!」

 

「コーン!」

 

ただ横島とタマモが喜んでいるから今聞くのは止めておこう。

 

【いらっしゃい横島さん♪いまお茶入れますからね?】

 

おキヌさんが持って来てくれたお茶とお菓子を食べながら

 

「今日は何か仕事があるんですか?」

 

「うーん。特にないかな?とりあえず横島君と蛍ちゃんのGSについての勉強でもする?」

 

いかに美神さんが一流のGSでもそう毎日仕事があるわけじゃないのよね。まぁ当然の事だけど、それならそれで今日はGSの勉強でも横島にさせようかな?と思っていると

 

ピンポーン

 

「MHKの者です」

 

事務所の外から聞こえてくる声。美神さんは無言で立ち上がり

 

「うちはMHK見てないわよ」

 

背中しか見えないが笑顔のような気がする、威圧感のあるタイプの怖い笑顔

 

(見てなくても受信料払わないといけないんじゃ?)

 

(その筈だけどね)

 

優しいと思っていたけど、やっぱりこう言う所は美神さんなんだと思う

 

「じゅ、受信料の取立てではなく依頼で来たんです」

 

外から聞こえる声に美神さんは振り返りざまに扉を開けて

 

「嘘だったら呪い殺すわよ?」

 

「「は、はひ」」

 

依頼者を脅すGSって正直どうなんだろう?だけど腕が良いのも確かなので……まぁ個性として割り切るしかないわね

 

「ほら。横島片付けるわよ」

 

「うーす」

 

依頼者が来たならここでお菓子を食べているわけにも行かず、私は横島に机の上のお菓子とマグカップを片付け

 

「依頼者の人の分のお菓子を用意するわよ。そこの戸棚」

 

あけるな!と書かれている高級なお菓子が締まってある戸棚から茶菓子を取り出すように指示をして私は同じくあけるなと書かれている戸棚から高級茶葉を取り出して、お茶の準備をするのだった……

 

 

 

依頼者のMHKの社員2人に横島君と蛍ちゃんが羊羹と日本茶を置く、当然私の前にも置いてくれている。こういう接客も何も言わなくてもやってくれるからありがたい

 

「通信衛星に妖怪?」

 

MHKの社員は鞄から写真を取り出しながら

 

「はい、これです。先日シャトルからの望遠カメラで撮影しました」

 

差し出された写真には大型の虎くらいの大きさの異形の姿が映っている。それを見た横島君が

 

「ずいぶんと大きいっすね?肉食っすか?」

 

私は見ただけで判ったけど横島君は駄目みたいね。今度は世界の妖怪・悪魔辞典でも貸しましょうか?見ただけでも判るように。蛍ちゃんは顎の下に手を置いて

 

「もしかしてですけど翼のある小悪魔「グレムリン」ですか?」

 

「当たり。戦時中は飛行機とか戦車とかに悪戯をしてパイロットを恐怖させたのよ」

 

実際グレムリンは危険とまでは言わないけど、警戒レベルの妖怪だしね

 

【怖い妖怪ですね】

 

「殺しをする妖怪なのか、これは不味いなあ」

 

横島君とおキヌちゃんがちょっと誤解してるわね。私は渡された写真を見ながら

 

「別に悪い妖怪って訳じゃないのよ。攻撃性とかも殆どないし、機械弄りと悪戯が好きな妖怪でね。多分今回もそれよ」

 

態々人を苦しめようとかする妖怪ではない。地上なら横島君でも除霊出来るような弱い妖怪だ

 

「でもなんでこんな所に……」

 

「さあねえ?もしかして上って降りられなくなったとかじゃない?」

 

猫じゃあるまいしとも思うが、その可能性も充分に考えられる

 

「今のところ深刻な被害は出ておりませんが、衛星が壊れてしまえばMHKは勿論民放も衛星放送も大混乱です。費用はいくらでも出しますので何とかしていただけないでしょうか?」

 

宇宙となると霊体でいく必要もあるし……危険手当とかもあるし……それに国からの依頼ならかなりの額を取れるわね

 

「10億。びた一文まけないわ。それが嫌ならNASAでもソ連にでも行くのね」

 

社員は顔を青褪めさせたが、宇宙と言う除霊場所を考えればそれくらいは普通だ

 

「判りました。それではよろしくお願いします」

 

「この美神除霊事務所にお任せください」

 

少し渋るかと思ったけど、思ったよりも早く契約することの出来た。私は奥の部屋から特別なハチマキとリストバンドを持って来て

 

「じゃあこれ。横島君それじゃあ行くわよ」

 

宇宙となると霊力が勝負になる。無論私が行けば一番いいのだが、幽体離脱した魂を元に戻すのは蛍ちゃんでは難しいし、魂の尾の維持をするの必要もあるので、これは蛍ちゃんに任せる。消去法で横島君になるので簡易の霊力のコンバーターを持たせる。これで少しは霊力が上昇するはず。仕事は直ぐ始まるので、急いでMHKに行かなければならない

 

「しかし10億って請求するほうも方だけど、支払うほうも大概だよな」

 

走りながら呟く横島君。その呟きを聞いた蛍ちゃんが

 

「相場よ。宇宙となると幽体離脱をしないといけないの、身体のない分危険性が増すわ。危険手当を考えればこれくらいよ」

 

本当蛍ちゃんはGSの知識があって助かるわ。幽体離脱しないと出来ないような除霊は危険なので、それ相応の危険手当がつくのが当然なのだ

 

「それと多分横島が宇宙に行くことになるからね。気合入れてよ?」

 

「へ!?」

 

「コン!?」

 

驚いている横島君とタマモ。私はMHKに向かいながら

 

「幽体を元に戻すのと、魂の尾が切れないようにサポートする人材が居るのよ。横島君は出来ないでしょう?」

 

うっと呻く横島君。本当はド素人に幽体離脱除霊なんてさせないんだけど……

 

「おキヌちゃんフォローしてあげてね?」

 

幽霊としての経験が長いおキヌちゃんがフォローしてくれれば大丈夫なはず。

 

【私頑張ります!】

 

おキヌちゃんも気合を入れた顔をしているから多分大丈夫

 

「うう……怖いなあ」

 

びくびくしてる横島君。確かに一人の除霊だから怖いのは当然だけど……

 

「頑張ってね。今回はMHKが放送したいらしいから頑張れば英雄よ」

 

10億を支払うが、除霊は撮影させてくれと言い出した。こう言う所はたくましいわよねTVクルーって

 

【横島さん。一緒に頑張りましょうね♪】

 

「はーなーれーなーさーいッ!!!

 

「おうふッ♪」

 

おキヌちゃんに正面から抱きつかれてだらしない顔をして居る横島君と、おキヌちゃんを引き離そうとしている蛍ちゃんを見て

 

(大丈夫かしら?)

 

若干の不安を感じながらMHKの放映局に向かうのだった……

 

 

着替え終えてスタジオに入るとそれと同時に

 

「こんにちわーMHK放送局!MHKシスターズです!今回は幽体離脱で宇宙空間の妖怪の除霊に挑戦する横島さんに密着取材をしようと思います!」

 

いきなりTVで良く見るリポーターにマイクをつけられる。TVでしか見ない人物がすぐちかくにいることに赤面するのだが蛍とおキヌちゃんの鋭い眼光を感じ、無理やりだらけそうになる顔を引き締める

 

「横島。こっちよ」

 

蛍に呼ばれてそっちに行くと魔法陣が用意されている。複雑な図形が3つ重なったそれを見て

 

「これは?」

 

「霊体を呼び出す魔法陣と魂の尾を維持する魔法陣。こっちは私が維持して、もう片方は蛍ちゃんが維持するわ。これでそのまま死んでしまうって事はないわ」

 

そうは言われも不安だな、だけど美神さんと蛍を信じよう。その魔法陣の中に座ると妙な感覚がする

 

「どうかした?」

 

「いやなんか、こうむずむずする感じが」

 

身体の中がかゆいと言えばいいのか?とにかくそんな感じだ。

 

【それじゃあ頑張りましょうね】

 

カメラを構えているおキヌちゃん。多分これで撮影するんだろうなあと思う。あとは俺が上手く出来るかか……

 

「始めるわよ。汝横島忠夫の魂よ!肉体の呪縛から解放され!その姿を見せよ!幽体離脱!」

 

「ほぎゃあああ!?」

 

信じられない激痛を感じ振り返り

 

【美神さん!なんてこと……するんです……え?】

 

美神さんの前には白目を向いている俺。そして俺の身体は宙に浮いている。これが幽体離脱!しかし鈍器で強打って随分原始的な……俺が文句を言おうとするとそれよりも早く美神さんが

 

「成功ね!横島頑張ってね!」

 

【行きましょう♪横島さん】

 

笑顔のおキヌちゃんに手を引かれ、俺は天へと登っていくのだった……

 

「横島君?どう?」

 

暫くしたところで美神さんの声がする。周囲を確認しながら

 

【いま空が藍から濃紺に変わってきました】

 

「それだともう少しで太陽からの太陽風が強くなるわ、霊体は軽いから飛ばされないように気をつけて」

 

【了解。俺の身体は大丈夫か?】

 

ちょっと不安になり尋ねると直ぐに蛍が

 

「大丈夫よ。私がちゃんと魂の尾を維持してるから。何の心配も要らないわ」

 

蛍の言葉を聞くと不思議と安心できる。判ったと短く返事を返し更に上に上ると

 

【きゃあ!】

 

【おキヌちゃん!】

 

突然の突風に飛ばされそうになったおキヌちゃんの腕を掴む。これが太陽風って奴か

 

【ありがとうございます。横島さん】

 

にこりと笑うおキヌだったが直ぐに真剣な顔になって

 

【あっちから凄い勢いで霊力が近づいてきてます】

 

俺には判らないけど、おキヌちゃんは索敵が得意らしいので間違いないだろう。それを裏づけするように

 

「方角・スピード間違いないわ!それよ!気をつけてかなり速いわよ!」

 

その言葉に気を引き締めた瞬間

 

【げぼあ!?】

 

【横島さーん!?】

 

巨大な何かに追突される。おキヌちゃんの悲鳴が少し聞こえる

 

(これが放送衛星か)

 

なんとか体勢を直して衛星を見る。予想よりも少し小さいなと思って観察していると突然俺の視界に影が落ちる。まさか……

 

【シャーッ!!!!】

 

【うおおおおお!?】

 

牙を向いて襲ってくるグレムリンの牙を両手で掴む。いかん!これは食い殺される!?

 

【美神さん!横島さんがグレムリンに襲われています!】

 

「そんな!?グレムリンはそんなに凶暴な妖怪じゃないわよ!?」

 

おキヌちゃんと美神さんがそんな話をしているのが聞こえるが俺に返事を返すような余裕はない

 

【シャアアアア!】

 

【ひゃあああああ!?食われる!死んでまう!!!!】

 

牙を鳴らすグレムリンの攻撃を必死に交わす。だがそこまでもちそうにない

 

「歌よ!おキヌさん!歌を歌って!綺麗な歌!」

 

蛍のその叫び声でおキヌちゃんが口を開き子守唄を謳い始める

 

【この子の可愛さ限りない、山では木の数、萱の数。尾花かるかや、花桔梗、七草千草よりも大事なこのこがねんねする】

 

その子守唄はとても優しくて、眠くなってくる。グレムリンはそれに対して苦しむ素振りを見せる

 

【ギグアア!?ギギギャアア!!】

 

尾を振り、翼を羽ばたかせ暴れるグレムリン。俺はこれでやっと一息つくことが出来た

 

【星の数よりまだ可愛。ねんねやころり、ねんころり】

 

おキヌちゃんが歌い終えると同時にグレムリンは叫び声を上げて飛び去って行った。

 

(あれ?)

 

グレムリンが飛び去った後には、抱えるくらいの大きさの丸い球体。もしかして卵!?

 

(こいつを護ろうとしてたのか……)

 

だからあんなに強暴だったのかと理解して、その卵を抱えあげる

 

【卵ですね。横島さん】

 

【ああ、悪いことをしちまったな】

 

あのグレムリンは子供を守ろうとしただけでなにも悪くない。卵を抱えているともぞもぞと動き出し

 

「みー♪」

 

【ぬわあ!?】

 

丸っこい身体に小さい牙と翼を持ったチビグレムリンが殻を割って孵化する。そして俺を見て

 

「みー♪みー♪」

 

すりすりと擦り寄ってくるグレムリン。可愛いけど……もしかして俺のことを親だと思ってるんじゃないだろうな?

 

【【どうしよう……】】

 

こんな可愛い妖怪なんて除霊出来ない……俺の腕の中でつぶらな瞳で俺を見るチビグレムリンを抱えて

 

【とりあえず、美神さんに相談しよう】

 

【で、ですね】

 

「みー♪みー♪」

 

俺の頭の上で楽しそうに鳴くチビグレムリン。俺は深く溜息を吐きながら、魂の尾を伝って身体の元へ戻るのだった

 

 

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その2へ続く

 

 




グレムリン。これ可愛いですよね。原作を知ってる人なら判るとおもうんですが、あのぬぼーっとした感じが可愛いんですよ
あとレギュラーにする予定なので楽しみにしていてください。主に今はまだヒロイン枠ではなく、マスコット枠のタマモとの闘いとかを、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はグレムリンの今後がどうなるかです。まぁマスコットとしてレギュラーになる予定ですが
そうなるまでの話を書こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします

なおグレムリンのイメージは

アニメとかで良く見るデフォルメハムスターで悪魔の尻尾と羽があり、身体の色は紺色です



リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その2

 

無事に放送衛星のグレムリンは除霊出来て、横島君も無事に戻って来たんだけど

 

「みーみー♪」

 

丸っこい身体に蝙蝠の様な羽、そして短い尻尾を持った妖怪をその腕の中に抱えていた

 

「おーおー。よしよし、大人しくしてような?」

 

横島君は人間の赤ちゃんにするように顎の下を摩ってやりながら言うと

 

「みっ♪」

 

にぱっと笑うグレムリンの幼生を抱えている横島君は困ったような顔をして

 

「凄く懐かれました、どうすればいいですか!?」

 

どうしろって言われてもねえ……どうしよう?グレムリンの生態って良く判ってないから貴重といえば貴重なんだけど

 

(除霊の特番には使えそうにないですね)

 

そりゃあんなチビスケを除霊と言って消滅させたら悪役はこっちだ。しかし既に放送枠を押さえているので困ると言うプロデューサー

 

「コン?」

 

タマモが横島君の抱えているグレムリンを見て前足を出すと

 

「ミミ!?」

 

びくびくとした感じで横島君にしがみ付くグレムリン。横島君はしゃがんで抱えていたグレムリンを足元に立たせる

 

「大丈夫。怖くないぞタマモは優しいぞ?」

 

タマモのほうに優しく押す。グレムリンは短い足でととっと歩き、きょとんとした顔で見ているタマモに

 

「みー」

 

びくびくとタマモに手を伸ばすグレムリン。タマモは小さくコンっと鳴く

 

「み?」

 

「コン!」

 

「みみみー」

 

「ココーン♪」

 

なんか意思疎通してる。私には何を言っているのか全然判らないけど……

 

「横島君?グレムリンどうするの?」

 

勿論除霊をするなんて言うわけないし、なんて言うのかは大体判っているけど一応尋ねる

 

「んー出来るなら家で飼おうかなって思ってる。なんか懐いてるし」

 

横島君のそばから離れないグレムリン。そしてそれを見て苦笑している蛍ちゃん。もしかしなくても横島君は幽霊とか妖怪に好かれやすい体質なのかもしれない。いくら生まれたばかりって言っても人間を親だと思う込むほどグレムリンは馬鹿じゃない

 

【グレちゃん?おいで?】

 

「みみー」

 

おキヌちゃんが抱っこしようとしているけど、いやいやと首を振って小さい翼を羽ばたかせ、横島君の肩に乗って頬を摺り寄せるグレムリン……もの凄く懐いてる

 

「除霊じゃなくて、幽霊と妖怪と心を通わせる少年ってどうですかね?」

 

下手に除霊除霊と言うのではなく、あえてこう言う妖怪も居るってことを紹介しては?と言うと

 

「それも良いですね!貴女の事務所の方なんですよね?お願いできますか?」

 

まぁGS=除霊のイメージを変えるのにいいかもしれない。幽霊といっても意思疎通の出来るおキヌちゃんみたいな幽霊もいるんだし……だけど勿論

 

「追加料金は頂きますわ」

 

TVに出るとなると当然ギャラが発生する。そしてGS業界NO1である、この私美神令子の事務所の人間をTVに出そうというのだから追加で料金を貰うのは当然の事だ

 

「ええ!?10億払いましたよ!?」

 

顔を引き攣らせるスタッフに私は笑顔で笑いかけながら

 

「それは除霊の費用ですわ。撮影には撮影の費用を頂きます。横島君は未成年なのですから」

 

TVに出るというのはそれだけでも大変だ。しかも妖怪と仲良くしようと言う横島君がTVに映ると考えるとそれなりの弊害もある

 

(妖怪撲滅の過激派とか、六道のおば様とか……)

 

過激派からすれば横島君は邪魔になるし、六道のおば様からすれば、かなり数の少ない妖使いと呼ばれる才能を持つGSになるかもしれないと引き抜きをされるかもしれない。だからこそ

 

(降りろ)

 

撮影を諦めさせるための追加料金の請求だったのだが

 

「判りました!1千万!1千万払います!」

 

まさか乗ってくるとは……私は表面上は笑い、内心は舌打ちしながら

 

「私はOKですが、決めるのは横島君です。宜しいですね?」

 

「はい!横島さんが嫌だというなら諦めます」

 

引く気のないTVクルーに肩を竦めながらグレムリンを抱えている横島君に

 

「横島君。TV局のオファーがあるんだけど話だけでも聞いてくれる?」

 

とりあえず決めるのは私ではなく横島君だ。だから横島君に話を通すことにしたのだった

 

 

 

衛星で生まれたグレムリンを膝の上の乗せる。短い手足を動かして

 

「みみー♪」

 

俺のGパンを掴んで登ってころころと転がり落ちて遊んでいる。なんて愛らしい生き物なんだ、とても妖怪とは思えない

 

「えーと横島さん。お願いと言うのは何ですけどね、妖怪と心を通わせる少年と言うことでTVに出てみませんか?」

 

出てみませんかって……普通ならアイドルデビュー!?とか言いたくなる所だけど

 

「み?」

 

「くう?」

 

ようはタマモとグレムリンを見世物にするってことだよな?なんかそう言うのは嫌だな。

 

「無論私生活の話になるのでとりあえず試しに撮影してみて、駄目そうでしたら諦めますし」

 

俺が渋い顔をしているのに気付いたプロデューサーがそうは言うけど

 

「どう思う?蛍?」

 

俺の家には良く蛍も来るし、蛍の意見も大事だ。蛍は少し考える素振りを見せてから

 

「こっちでカメラの電源をON・OFFを出来るようにしてくれるならOKです。それとスタッフは無しでプライベートの侵害ですので」

 

こういう時は本当に蛍は頼りになるな。GSの知識だけじゃなくて、こういうのも詳しいのかと思っていると

 

「みふぁーむにむに」

 

大きく欠伸をして眠そうにしているグレムリン。どうやら眠いらしい、まだふにふにと柔らかいので優しく抱きしめてやると

 

「みー」

 

安心したように目を閉じてもぞもぞしている。小動物が居る生活って凄く癒されるな。

 

「ではこの条件で、それと没の場合は放映無しで」

 

「はい、それではよろしくお願いします」

 

どうやら蛍が契約を纏めてくれたようで俺は寝ているグレムリンと足元にじゃれ付いているタマモを肩に乗せて

 

「じゃあ美神さん、俺帰ります。こいつのベッドを作ってやらないといけないし」

 

「え、ああそうね。じゃあまたね」

 

若干引き攣った笑みをしている美神さんに頭を下げて俺は家へと帰るのだった……

 

「うし、これで良いだろう」

 

タマモが一番最初に寝ていた篭を引っ張り出し、破けているタオルを詰めて毛布にした

 

「み?」

 

篭の周りをちょこちょこと歩いているグレムリン。時折機械のほうに歩き出すのでそれは駄目だと言うと離れる。見かけによらずかなり賢いようだ

 

「お前のベッドだぞー」

 

抱き上げて篭の中に入れる、すると

 

「みー♪(がじがじがじ)」

 

嬉しそうに鳴いて篭をかじり始める。腹が空いてるのか?タマモは狐だからある程度何を食べるのか判ったけど、グレムリンは全く判らん

 

(とりあえず適当に何か見せてみるか)

 

蛍が買い物してくれているので冷蔵庫の中は完璧だ。タマモのご飯の油揚げを取り出しながら冷蔵庫の中を見て

 

(とりあえずこれとこれとこれか?)

 

肉食かもしれないのでソーセージと魚。それとりんごを取り出してグレムリンの前においてみる

 

「み?」

 

「どれが食べたい?」

 

グレムリンにそう尋ねると篭から出てきて俺がおいた餌を見て

 

「み?み?」

 

ソーセージとかの周りをうろうろしたがぷいっとそっぽを向き、魚も同様。最後のりんごで

 

「みーみー♪」

 

ぺちぺちとりんごを叩いてこれ!これっと!と言う感じを見せる。だが赤ちゃんのグレムリンがそのまま食べれるとは思えず

 

「ちょーと待ってろよ」

 

確か卸金が合った筈。キッチンの引き出しを開けて卸金を探す、お目当ての卸金は直ぐに見つかる。皮もむかずそのまま摩り下ろし、小さなスプーンをさして部屋に戻る

 

「み?」

 

待ってろの意味をちゃんと理解していたのかちょこんと座っていた。本当に賢いなグレムリンは

 

「ほれーあーん」

 

「みー♪」

 

大きく口を空けるグレムリンの口の中にりんごの摩り下ろしを入れてやると、小さい口をもごもごと動かしてご満悦の表情。どうやら気に入ってくれたようだ

 

「クーン」

 

すりすりと頭を寄せてきたタマモ。俺はタマモの油揚げを少しとって

 

「はい、あーん」

 

「コーン」

 

もしゃもしゃっと油揚げを食べるタマモを見ていると

 

「みー!みー!!」

 

もっともっとを言っているのかぺちぺちと俺の足を叩くグレムリン。

 

「はいはいあーん」

 

「みー♪」

 

はむっとりんごの摩り下ろしを美味しそうに食べるグレムリン……うーん

 

「グレムリンって言うのも呼びにくいな」

 

それにいつまでもグレムリンと呼ぶのは可哀想だとおもう。俺が世話をするんだし、何か名前を……

 

「み?」

 

美味しそうにりんごを食べているグレムリンを見つめる。うーん……何か可愛い名前は……小さくて丸っこい……

 

「チビ。そうだチビにしよう」

 

可愛らしいし、チビって名前にしよう。チビにりんごのすりおろしを与えながら

 

「お前の名前はチビな?」

 

「みー」

 

尻尾を振るってことは理解したんだよな、と言うかそう思いたいので

 

「チビ。あーん」

 

「みーん」

 

うん。反応してる、こいつの名前はチビに決定っと!これでもう一匹ペットが増えたから、これからもっとGSの勉強をしないとな!俺は決意を新たにし

 

「さーて俺も飯飯っと」

 

蛍が作ってくれた肉じゃがの残りに溶き卵を加えて、簡単牛丼もどきにしてそれをかき込むのだった……

 

 

 

今横島さんの家では妖怪と少年の心の触れ合いってことで収録をしているらしい。ただしプライベートもあるのでちゃんと電源をON・OFF出来るらしいので横島さんの家に向かう。

 

「んー?おキヌちゃんか?おはよう」

 

まだ寝ていると思ったらもう起きて何かの工作をしている横島さん

 

【おはようございます。横島さんは何をしてるんですか?】

 

「首輪。ほれ」

 

横島さんが差し出した首輪にはチビの文字が刻まれていた。しかも何かのタグ見たいのも見える

 

「保護妖怪の証明なんだって、これがあればチビも安全らしいからさ。よし出来た。チビおいで」

 

横島さんが呼ぶとボールを抱えて遊んでいたチビは背中の小さな翼で飛び上がり

 

「み!」

 

横島さんの前に座り込む。その様子を見ると子犬のように見えなくもない

 

【随分と懐いてますね?】

 

「俺も驚きだ。こんなに懐いてくれるなんてな」

 

今もすりすりと身を寄せているチビちゃん。物凄く懐いているのが判る、たった2日なのに……もうずっと一緒にいたかのように懐いている

 

(そういえば横島さんは妖怪とかに懐かれやすいんですよね)

 

裏表がハッキリしているから妖怪とか精霊とかに懐かれやすいって言うのは聞いた覚えがある。それはやっぱりこの時間でも同じなんだなーと思いながら

 

【いま朝ご飯の用意をしますね】

 

買い置きの食材があるのでそれで朝食を作ろうと思う。だけど横島さんは少しだけ渋い顔をして

 

「なんでも幽霊との触れ合いも撮りたいらしくて、TVに出ることになるかも知れないけどいいか?嫌なら電源切るし」

 

TVですか……出来たらそう言うのは嫌ですね……うーんだけど横島さんにはご飯を作ってあげたいし……

 

【撮影OFFにしてもらえます?】

 

私はTVなんかに出たくないし、OFFにしてくださいというと横島さんは了解と言ってカメラの電源を切って

 

「ほれータマモおいで」

 

「コーン」

 

足元に擦り寄ってきたタマモちゃんの毛を梳いてあげている。タマモちゃんが気持ち良さそうに目を閉じているのを見るとなんだか幸せな気分になってくる。だけどいつかは人の姿に成れる訳でそうなると何か複雑な気持ちになる

 

【そういえば蛍ちゃんは?】

 

最近あんまり見ない蛍ちゃんのことを尋ねると横島さんはブラシを机の上において、リボンを結んであげながら

 

「なんかあんまりGSの事をTVで写すのは良くないってことでな。暫くは来ないって」

 

横島さんの言葉に小さくガッツポーズを作る。今この間に少しでも有利になるように行動しよう

 

「みー♪」

 

ボールを抱えて横島さんのほうに飛んで行くチビちゃん。横島さんは小さく笑いながら

 

「よっしゃ、朝ご飯までボールで遊ぼうなー」

 

「みー♪」

 

嬉しそうになくチビちゃんとボール遊びをする横島さん。横島さんは面倒見がいいから子供とかに懐かれるんですよね。それだけ純粋で優しい人ってこと、私が大好きな横島さんの姿だ。

 

【ふっふーん♪】

 

久しぶりに私の大好きな横島さんを見ることが出来て、私は鼻歌を歌いながら朝食の準備をするのだった

 

「みー♪」

 

「おお!チビ上手いな」

 

ボールを両手で持ち上げて山なりに横島さんに投げるチビちゃんと、そんなチビちゃんと楽しそうに遊んでいる横島さん。それは種族こそ違うけど、親子のように見えておもわずくすりと笑ってしまうのだった……

 

 

 

楽しそうにボールで遊んでいる横島とグレムリンを写しているカメラ。MHKのスタッフは電源を切り

 

「申し訳ありませんが、今回の話はなかったことにしていただけませんか?」

 

予想通りの結果になった。MHKは妖怪と少年の心の触れ合いを謳っておきながら、グレムリンが暴れる事を期待していたようだが、そんな事は一切なく。横島に非常に懐いている様子を見て良心が痛んだらしい

 

「人権侵害ですわよね?これ?慰謝料と契約不履行の反則金を頂きますわ。しめて2千万」

 

電源をON・OFF出来る機能なんて最初からなくて、横島が収録されてないと思ってるだけで全部収録されていた。風呂とかはさすがにカットされていたが、今おキヌさんが横島のために食事を作っているのが見えて、イラついた。本当なら私が食事を作るのに美神さんに呼ばれていたので行かなかったのだ

「はい。それに付きましては大変申し話ないことをしました。横島さんに申し訳ないことをしたと伝えてください」

 

白紙の小切手に2千万の文字を書いて美神さんに渡すMHKのスタッフに

 

「どう思いました?横島とチビとタマモは?」

 

タマモのことは九尾の狐とまでは教えなかったが、妖狐としては伝えた。そしてスタッフはその言葉に嬉々とした表情をしていた。もしこれでどちらかが暴れればと思っていただろうが、結果はタマモもグレムリンも横島に懐き。横島はその二匹を心のそこから大事にしているシーンばかりが撮影された。

 

「私は自分が恥ずかしい。なにかトラブルが起きて横島さんが怪我をすれば大スクープになると思っていた」

 

妖怪と聞けばそう考えるのが普通だ。無論人間の邪気に敏感な妖怪だから、普通の人間ならきっと暴れる。だけど

 

「横島君は妖怪と心を通わせることが出来る優秀なGS見習いですわ。だからこそこの美神除霊事務所の所員をしているのですよ?」

 

美神さんも少し怒ってるのか口調が冷たい。私もかなり腹が立っているのだが、近くに怒っている人間が居ると冷静になると言う話は本当らしく、私は苛立ちこそ覚えているが冷静で居ることが出来ている

 

「大変申し訳ありませんでした、このテープはお預けします。私達は収録を見ていて思いました、横島さんは本当に妖怪と心を通わせている。下賎な事を考えていた自分が嫌になりましたよ……」

 

横島は馬鹿でスケベに思えるが、実は誰よりも純粋で心がとても綺麗だ。そしてグレムリンとタマモでそれが更に強調されたのだろう。悪いことをしたと言う顔をしているスタッフに美神さんが

 

「GSが全て妖怪を除霊するわけじゃないですよ。中には横島君みたいに妖怪と分かり合おうとするGSもいる、今後気をつけることね」

 

美神さんの言葉に項垂れ出て行くスタッフ。全員出て行ったところで美神さんが

 

「蛍ちゃん塩!塩まいといて!」

 

その言葉に若干驚きながらも塩を玄関先に撒く。美神さんはスタッフが置いて行ったテープを自分の机の中にしまう

 

「横島が妖怪と分かり合おうとするGSって言うのは?」

 

私がそう尋ねると美神さんは溜息を吐きながら

 

「妖狐は警戒心が強いし、生まれたばかりとは言え妖怪が人間に懐くわけないでしょう?横島君は今のGSとは全然違うGS。妖怪と分かり合えるGSになるかもしれないわ」

 

美神さんはそう笑う。私の聞いた話では美神さんは横島の才能を見抜けなかったらしいけど、もしかしたら違うのかもしれない

 

「だけど想いを通すには力が必要よ。だから横島君がその道を目指すならもっと強くならないと駄目だわ」

 

神妙な顔で言う美神さんは私を見る、その顔は出来の悪い弟を見るような優しい目をしていた

 

「今聞いた事とMHKのスタッフの事は聞かなかったことにしてくれる?いまの横島君には聞かせたくないから」

 

その真剣な声に私は頷きながら

 

「はい。判りました」

 

「ありがと、それじゃあ横島君のところに行きましょう?撮影は終わりって伝えないと」

 

そう笑って車の鍵を手に出て行く美神さんの背中を見て、私は腕を組んで

 

(もしかしたら美神さんは横島の才能に気付いていた?)

 

妖怪や神族・魔族と心を通わすことが出来る一種の才能。異端とも言える才能に……だけど自分だけでは指導できないと判断して、教えることがなかった?

 

(これは少し考えてみる必要があるかもしれないわね)

 

守銭奴で横島の才能を見抜くことができなかったと思っていたけど事実は違うのかもしれない。それに

 

(グレムリンの赤ちゃんを横島が育てたなんて話は聞いたことがない)

 

どうも徐々に私の知る未来と変わり始めているみたいね。ここからは何をきっかけに私の知る未来と変わって行くかもしれない。慎重に行動する必要があるわね

 

「蛍ちゃーん?いくわよー?」

 

美神さんの言葉に思考の海から引き上げられる、今考えても答えは出ないのだしとりあえず今出来る事をしよう。

 

「はーい。今行きます」

 

美神さんにそう返事を返し、私は事務所を後にしたのだった……無人となった美神除霊事務所。机の上におかれていたグラスの水が盛り上がり、小さな龍の姿になり、そこから更に人型になる。良く見ると20代後半のように見えるスレンダーな女性だった……

 

【妖怪と分かり合える?退魔師?……ありえない……】

 

怨嗟の色をその目に宿し、蔑むような声で

 

【退魔師は皆敵……私が殺す……】

 

もう何もかも諦めきったような表情をした女性は現れた時のように、全身を水に変えながら

 

【もう人間なんて信じない……】

 

悲しみと憎悪を込めた口調でそう呟き、空気に溶けるように消えていくのだった……

 

 

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その3へ続く

 

 

 




最後の妖怪が出るのはもうちょっと先ですが、予定ではプリンス・オブ・ドラゴンの辺りには出そうと思っています。もしくはドラゴンへの道になるかもしれないですね。別作品で登場する妖怪なんですけど、個人的な好みだそうと思っています。まあ予定なので代わるかも知れませんが……それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回で横島と悪戯好きの小悪魔の話は終わりなります。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート5 横島と悪戯好きの小悪魔♪ その3

 

おキヌちゃんが用意してくれた朝食を食べ終え、チビと遊んでやる

 

「みー♪」

 

手にじゃれ付いてくるチビ。本当に愛らしいし賢いな。もう甘噛みを覚えたようだ

 

「クウ?」

 

ちなみにタマモは膝の上で丸くなっている。ここはタマモの居場所なのでチビが乗ろうとすることはない。その代わり肩の上はチビの居場所で、頭の上は2人の話し合い(?)で決まっている。ちなみに頻度としてはタマモの方が多い

 

【ちびちゃん。可愛いですねーおいでおいで】

 

おキヌちゃんが手を叩いて呼ぶ。だけどチビはぷいっとそっぽを向いて

 

「みーみー」

 

いやいやと言う感じで尻尾を振る。チビは中々気難しい性格をしているのかもしれない……俺には懐いてくれてるんだけどなあ……

 

ピンポーン

 

「ん?誰やろ?」

 

今日は仕事がないって聞いてたから、美神さんじゃないはずけど……それとも急な仕事かな?と思って玄関に向かう

 

「はーい。あれ?美神さん、それに蛍?」

 

玄関に居たのは美神さんと蛍だった。2人揃ってくるなんて珍しいなぁと思いながら家の中に招き入れる

 

「みっ!」

 

俺の肩の上で手を上げるチビ。挨拶を教えたら意外なほど早く覚えてくれた。

 

「おはよう。チビ」

 

蛍と美神さんがおはようと言うとチビは短い手を振りながら

 

「みーん♪」

 

おはよーと返事を返す。みっとしか鳴けないけど、結構感情豊かだし、それに素振りも愛らしい

 

「まぁ上がってください」

 

リビングに美神さんと蛍を通すとおキヌちゃんが

 

【美神さんそれに蛍ちゃん?とりあえずお茶を入れますね?】

 

俺が用意しようと思ったのだが、おキヌちゃんが用意してくれるらしいのでソファーに腰掛けると

 

「みーん」

 

俺の肩を滑り台のようにして滑り降りてくる。膝の上でころんと転がりみっと両手を広げる

 

「可愛いわね」

 

美神さんが可愛と言ってチビに手を伸ばすが

 

「みっ!」

 

その手をさっとかわして俺の隣で伏せているタマモの背中の上に避難する

 

「……嫌われてる?」

 

ぼそりと呟く美神さん。これに少し慌てながら

 

「チビはなんかあんまり人に懐いてくれないみたいで」

 

おキヌちゃんや美神さんにも懐かない、それに蛍にもだ

 

「気難しいって言うより警戒しているのね。生まれたばかりで力も弱いし……安心できる横島にしか懐いてないのね」

 

蛍がそう呟く。そう言うものなのだろうか?膝の上でみっ?と首を傾げているチビを抱っこする

 

「美神さんとか怖いのか?」

 

「みい?」

 

不思議そうに首を傾げるチビ。俺が何を言いたいのか理解していないようだ。なので

 

「ほい」

 

抱っこしたまま美神さんの方に向ける。これで怖がっているかどうか判るはず

 

「みみみーっ!!!」

 

両手両足をじたばたさせるチビ。次におキヌちゃん

 

「みみみーッ!!!」

 

同じように手足をじたばたさせる。最後に蛍に向けると

 

「みー!」

 

美神さんとおキヌちゃんよりかは暴れないが、それでも暴れる。ためしに俺の前に座らせると

 

「みみ♪」

 

短い足で立ち上がりとととっと歩いてきて服を掴む。なんだこの反応の違いは……嬉しいとおもう半面何か複雑だ

 

「マジで俺だけみたいなんっすね」

 

冗談だと思っていたが、この様子を見る限り本当のようだ。まじで俺のことを親だと思っているのか?

 

「まぁグレムリンはかなり気難しいみたいだしね」

 

若干引き攣った顔をしている美神さんがそう言う。俺にはそんな事はないんだけどなあ……

 

「それでどうしたんですか?今日仕事ですか?」

 

2人が尋ねてきた理由が判らず尋ねる。ちなみにチビは暇なのか

 

「み!みっ!」

 

短い手でGジャンを掴んで登って遊んでいる。俺は遊び道具か何か?と思っていると

 

「TVの撮影だけどなかった事になったわ」

 

予想外の言葉に一瞬何を言われたのか判らなかったが、直ぐに我に帰り

 

「えっ!?どうかしたんですか!?」

 

今も撮影されて居うると思ったので驚きながら尋ねる

 

「それがね。他のGSの除霊の取材に着いて行く事になったらしくて、残念だけど今回は見送るんだって」

 

そうなのか……だけど不思議と残念とは思わなかった。だけど一応

 

「残念っすわ!折角アイドルデビュー出来ると思ったのに!」

 

そう笑う。まぁ実際僅かながらに落胆はしている、だけどチビとタマモを見世物にするくらいならTVに出たくないと思っていたので、あんまり気にはならない

 

「横島はアイドルって感じじゃないわよ」

 

【そうですね。横島さんがアイドルなんて向いてないと思いますよ】

 

蛍とおキヌちゃんの言葉に若干ショックを受ける。庶民派アイドルなんて者が居るんだから、別にそこまでないって事はないと思うんだけどなあ……

 

「横島君はまだGS免許がないから、一応チビとタマモは私の保護妖怪として預かっているわ。もし横島君が資格を取れば正式に保護妖怪になるからね」

 

保護妖怪かぁ……保護って言うよりも家族って感じなんだけどな、俺からすれば

 

「み」

 

「コン」

 

タマモに首を咥えられ運ばれているチビ。そう言えばタマモにも懐いているな……

 

「それと来たのは明日の仕事の話。明日昼から仕事だからね?場所は事務所の近くだから上手く行けば、その日の内には終わるわ。だからちゃんと準備しておいてね。学校に行っても良いけど、疲れると思うから止めておいて方が良いと思うわ」

 

美神さんの言葉に少し考える。除霊の仕事はかなりハードだ、学校に昼間だけとは言え学校に行くのはしんどいと思う

 

「判りました。とりあえず電話しておきますね」

 

 

仕事か。最近はなんか学校に行ってるより、GSの仕事をしているほうが多いなあ……と思いつつも。しっかり美神さんが書類を書いてくれているので公休扱いなので出席扱いなので助かっている。だけど……

 

「蛍また助けてくれな?」

 

俺の言いたい事をすぐに理解してくれた蛍が頷きながら

 

「ええ。勉強ね」

 

その代わりかなり難易度の高い試験を受けさせられる事になるので蛍に助けてもらわないと絶対赤点だ

 

「そう言うわけだからちゃんと心構えをしておいてね?それと遅刻厳禁ね」

 

そう笑って出て行く美神さん。蛍は良い機会だからと笑い

 

「チビの成長記録でもつけてみる?」

 

成長記録?机の上でなーに?と言う感じで首を傾げているチビを見る。そう言えば生まれたばかりの赤ちゃんなんだからそう言う記録をつけてみるのもいいかもしれない。机の中から手帳と巻尺を取り出して

 

「おキヌちゃーん。量り持って来てー」

 

【はーい。今もって行きますねー】

 

そして蛍の提案でチビの成長記録をつける事になるのだった……

 

 

 

横島がグレムリンを育て始めてから4日後。やっとビルに帰ってきたお父さんにその事を話す。本当はどこに出かけていたのか?とかも聞きたいけど、嫌な予感はしないから多分私に害のあることじゃないと判断した。だからお父さんが話してくれるまで待つことにしたのだ。

 

「ほほう。それはまた珍しいね、グレムリンは中々人になれない妖怪なんだけどね」

 

若干疲れた顔で苦笑しているお父さん。何をしてたのかは知らないけど、仮にも魔神であるお父さんが疲れているとなると、過激派がらみの話なのかもしれない……

 

「まぁそれも横島君の才能なんだろうね」

 

横島の才能かぁ。霊力の圧縮・凝縮が横島の才能だと思っていたけど……実は他にもあったのかもしれない

 

「まぁ大丈夫だと思うよ?名前さえ付けなければ大人になれば出て行くよ」

 

名前……?お父さんがさりげなく言った言葉に停止する。そういえば横島は……

 

「も、もしかして名前をつけたとか?」

 

引き攣った顔をしているお父さんに頷くと

 

「まずいねえ……もしかすると……もうそのグレムリンはずっと子供のままかも知れない」

 

「ど、どういうこと!?」

 

私がそう尋ねるとお父さんは頬をかきながら

 

「言霊って強いんだよね。チビって名前もそれは言霊で、もしかすると横島君の使い魔のチビって事になってしまえば多分身体的な成長はないかもしれない……」

 

あ、ありえる……私が横島につけさせていた成長記録と比較してみるのも良いかもしれない

 

「まぁその場合は恐らく横島君の使い魔として霊的な成長はするかもしれないよ?」

 

式神化ってことかも知れない。ただあのチビグレムリンがどんな能力を身につけるかと言うのは楽しみだが

 

「盗撮とかだったらどうしよう?」

 

「あはは……いくらなんでもそれは……」

 

無いと言い切れない所が怖い。使い魔は使役者によって成長を変えるから……横島の優しい面が前に来ればヒーリングとかを覚えるかもしれない、だけどスケベの面が前に来ればと考えるだけでも恐ろしい……まぁそうなるとは限らないのでそこまで恐れることはないだろう

 

「所でお父さんはどこに行ってたの?」

 

ここ数日姿の見えなかった理由を尋ねるとお父さんは無言で大量の札を差し出してくる

 

「これって土の護符?こんなのどうしたの?」

 

それは五行相克で言えば水の属性に強い、土の属性の札の数々だった

 

「集めれるだけ集めてきた。どこぞの馬鹿の過激派が八岐大蛇の系譜のミズチの祠を破壊した」

 

眉を揉み解しながら言うお父さん。だがこれはかなり不味い問題だ

 

「なぁ!?う、嘘でしょ!?」

 

八岐大蛇。邪龍としては最高位に位置する龍族。人界では最狂と言われる龍の1体だ。だから念入りに封印を施されている。だがその眷属となれば話は別だ。それは既に別の固体なので封印はされていない、代わりに神として崇められている筈なのに……

 

「人間を操ってね破壊したんだ。東京に来るとは思えないが、念の為にね」

 

念の為……ミズチは水に属する龍神だ。土には弱いはず……とは言え……八岐大蛇の系譜となると並の相手ではない筈だ。もしかすると地属性の札にも強いかもしれない。だが無いよりかはましな筈だ

 

「横島君と美神に分けて渡しておくと良い。もしもと言うこともある」

 

そう言って渡された札を抱え込む。お守りとしてはかなり優秀なはずだ……私は渡された護符を手に自分の部屋に戻り、私のほうでもミズチと事を調べる事にした。もし襲われたらと言うこともある。八岐大蛇に属するミズチなんて強大すぎる水神相手に出来る事なんて殆どないけど……出来る限りの備えをしておくべきだと思うから……

 

「美神さんにもそれとなく伝えておいた方がいいかもしれないわね」

 

顔が広く、情報に詳しい美神さんにも伝えておいたほうが良いかもしれない。もしかしたらお父さんが入手できない情報が手に入るかもしれないから……だけどその前に……

 

(1度おキヌさんと話をした方が良いかもしれないわね)

 

今回のグレムリンの件に加えて、ミズチの事も聞いたほうが良いかもしれない。私が知らないだけで起きていたのかもしれない事件だし……

 

 

 

蛍がミズチに対する情報を整理している頃。公園では

 

「みー!みー!!」

 

「あんまり遠くに行くなよー」

 

横島がチビと一緒に遊びに来ていた。横島の考えでは、ずっと家に閉じ込めておくのは良くないと言う考えだ

 

「みーん♪」

 

初めてくる公園に楽しそうに鳴きながら進んでいくチビ

 

「こら!遠く行ったら駄目だって!!」

 

パタパタと飛んでいくチビを追いかける。見た目は鈍重そうだけど、意外とチビは素早いから少し焦る

 

「あら~可愛いわぁ~」

 

追いかけていくと、チビは大きな白い犬の近くに腰掛けている女性の方に近づいていた。それを見て慌てて走り

 

「わあああ!!すいませんすいません!!」

 

その女性から慌ててチビを引き離す。可愛い外見でもチビはグレムリンと言うれっきとした妖怪だ。一応美神さんの保護妖怪だから、チビが怪我でもさせたら大変だと思いチビを抱き抱える

 

「みーん♪」

 

俺に遊んで貰っていると思っているのか楽しそうに鳴くチビに少し脱力する

 

「大丈夫よ~私もGSだから~」

 

へらっと笑う女性を見返す。短めに切り揃えられた髪と品のいいブラウス。どうみてもお嬢様と言う感じの女性だ。

 

「ふぇ!?」

 

まさかこんなのほほんとした女性がGSだとは思っておらず驚いた顔をする。ふと隣を見ると犬だと思っていたが、良く見ると犬じゃない!?犬よりも一回り大きいし、何より顔がかなり精悍だ。虎とか狼と言っても通用する

 

「ショウトラちゃんって言うの~その子は~」

 

俺の抱えているチビを見ながら尋ねて来る女性。俺はチビを抱きなおして女性のほうに向けながら

 

「チビッす。グレムリンのチビ」

 

「みー♪」

 

俺の腕の中で両手をピコピコと振るチビ。ん?美神さん達と反応が違うぞ?なんか友好的?

 

「可愛いわぁ~だっこしてもいい~?」

 

そう笑う女性に少し悩む。腕の中のチビを見ると

 

「み?」

 

普段は警戒する素振りを見せるチビが無警戒だし、顔を向けてみても暴れる素振りも見せない

 

「どうぞ」

 

試しにとチビを渡してみる。女性は自分の隣の犬の背中を撫でながら

 

「この子はショウトラちゃん~チビちゃんの変わりに抱っこしてもいいわよ~」

 

「わふ」

 

俺の足元に来るもふもふの犬の前にしゃがみこんで見る

 

「うおおお!?」

 

「わふわふ♪」

 

前足で圧し掛かって俺の頬を舐めるショウトラ。なんか知らんが懐かれてる!?

 

「あは~ショウトラちゃんが凄く懐いてる~君いい子なのね~」

 

チビを抱っこしてそう笑う女性。チビも暴れていない所を見ると少し驚く、美神さんや蛍におキヌちゃんでも暴れるのに……

 

「みー」

 

「ふふふ~可愛いわぁ~」

 

擦り寄ってくるチビに笑みを零す女性。珍しいなぁ……チビが懐くなんて……ほわほわと笑う女性。今まで会った事のない女性だなぁ……と思う

 

(だけどナンパは出来んッ!!!)

 

俺が育てているチビが居るのに、親としてそんな真似は子供に見せられん!!!チビがぐれてしまう!!!

 

「みっ?」

 

首を傾げているチビは女性の腕から飛び上がって

 

「みー!みー!」

 

すりすりと擦り寄ってくるチビを抱っこする、それと変わりショウトラが女性の前に戻る

 

「貴方のお名前は~」

 

にこにこと笑いながら尋ねて来る女性。既に立ち上がり、ショウトラを連れて帰る準備をしている。散歩を終えて帰る所なのだろう

 

「横島です。横島忠夫」

 

チビが居なければ、あの手を掴んでナンパをするのだが。それが出来ないもどかしさを感じる……

 

「みー?」

 

ああ、お前は可愛いよ?チビ。だけどお姉さんとは比べてはいけないと思うんだ。お前の愛らしさとお姉ちゃんの愛らしさは全く別物なんだ。

 

「横島君とチビちゃんね~私は六道冥子。またどこかでね~」

 

にこにこと笑いながら歩いていく冥子さん……さんって言うかちゃんだな。あの人はまた会いましょうと笑って去っていく冥子ちゃんを見送り

 

「んじゃ帰るか?」

 

「みー!」

 

元気良く返事を返し、抱きついてきたチビをしっかりと抱き抱え、俺はゆっくりと家へと帰路へ付いた。だが不思議とあの冥子ちゃんとはまた会うような気がするのだった……

 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その1へ続く

 

 

 




次回は結構話を飛ばして、冥子の話に行こうと思います。今回のファーストコンタクトはそんなに悪い感じじゃないですよね?
次回は蛍とおキヌの逆行組みの話から入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート6 式神使い六道冥子登場!
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回は蛍とおキヌの逆行組みの話をメインにしていこうと思います。最初期から事務所のメンバーのおキヌとの情報交換は必要な話だと思うので、後半は冥子を出して行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート6 式神使い六道冥子登場! その1

 

蛍ちゃんに来るように言われたビルは言われてなければ気付かないように複数の結界が張られていた。そのせいかビルを見ている人は私しかいない。周囲を観察しながら

 

【ここが今のアシュタロスさんの基地ですか】

 

そうとしか考えられない。ここまで念入りに結界を張るということは見つかってはいけないと言うことしか考えられない。となればアシュタロスさんの基地以外に考えられない

 

【失礼しまーす】

 

結界にはじかれない筈だから、入ってきて良いと言われていたのでビルの中に入る。

 

「早かったわね。美神さんは?」

 

そのロビーで新聞を見ていた蛍ちゃんがそう尋ねて来る。

 

【お昼からの仕事らしいので書類の整理に忙しいみたいなんで出てきました】

 

仕事に行く為の書類作成をしているときは邪魔をしない、これが暗黙のルールと言うのはあの時から変らない。コーヒーサーバーと軽いサンドイッチだけを用意して出てきたと言うと

 

「そう、横島にはカレーを用意してあるから朝食の心配もないわね。それじゃあこっちよ」

 

新聞を脇に抱えてエレベーターに乗り込む蛍ちゃん。その後をついて私もエレベーターの中に入り

 

【ここにアシュタロスさんは?】

 

呼び捨てすると良くないと思いそう尋ねる。蛍ちゃんはうーんっと少し考える素振りを見せてから

 

「少しトラブルがあってね。今回の話はそれも関係しているから、私の部屋で話すわ」

 

トラブル……もしかして私の記憶と少し事が起きていることも関係しているのかもしれない。

 

「色々と話を聞かせて欲しいんだけど……どこまで思い出せた?」

 

蛍ちゃんの言葉に少し考える。記憶はかなりあやふやだけど……わりかし覚えている。だけど……

 

【少し私の記憶と違うんですよね】

 

美神さんがやっていた事件でおきていないのが存在しているし、それに

 

【チビちゃんは直ぐに横島さんの所から居なくなってるんです】

 

確かに懐いていたけど、直ぐに野生化して横島さんのそばから居なくなっている。後は……

 

【女子高の事件もないし、精霊の壷の事もなかったです】

 

私の記憶であった美神さんが関わった事件がまだ起きていない。いや、それを言えば他のGSが解決してしまっている

 

「かなり違うの?えーと紙に書いてくれる?」

 

蛍ちゃんに言われて覚えている事件を紙に書いていく。オフィスビルの除霊はしたけど……

 

「女子高に、銀行強盗に、呪いの人形に、人魚の事件に、幽霊潜水艦……がないのね?」

 

蛍ちゃんの確認の言葉に頷く、これだけの事件がない。私の覚え違いと言うことはない筈だ、どれもこれも楽しかった思い出なのだから……

 

【それで蛍ちゃんのほうのトラブルってなんなんですか?】

 

私がそう尋ねると蛍ちゃんは自分の机の引き出しを開けて書類を机の上に並べる

 

【これは?】

 

書類に目を通しながら尋ねる。蛍ちゃんは険しい顔をしながら

 

「私とおキヌさん。ううん……もっといるかもしれない逆行者。その影響で少しだけど流れが変り始めてる。これもその1つ……」

 

書類を捲る、次のページには水神様の事が記載されていたが

 

【わ、私こんなの知らないです!】

 

水神様の事件なんてなかった。私の知らない事ばかりが起きている。蛍ちゃんがいきなり横島さんのそばにいるし、タマモちゃんもいるし、それに美神さんも少し優しいし、チビちゃんは横島さんに凄く懐いているし

 

「かなり知らない事があるわね。とは言えそこまで念入りに相談することも難しいわ。美神さんと横島に聞かれると不味いし、かといって話しすぎて凝り固まった考えを持つのも危険だし」

 

今この時期にこの事件が起きると思い込んでしまうことが危険だという蛍ちゃん。確かにその考えは私にも判る、思い込みって言うのはかなり怖いし……

 

「とりあえず記憶のことはあんまり気にしないで臨機応変って事で」

 

【ですね】

 

記憶と言うアドバンテージに頼りすぎると後が怖い、もし違う順番で事件が起きたらと思うと混乱してしまうから……先入観と思い込みは何よりも怖いと思う。っとここまで考えた所でふと思い出す

 

【横島さんが公休があるから、楽だなあって言ってましたけど、高校で公休ってありましたっけ?】

 

私がそう尋ねると蛍ちゃんは苦笑しながら

 

「それはね、若いGSを育てる特別な制度の中の1つなのよ「学生の霊的業務に関する法律」で「学生霊業法」って言われてるわ」

 

【学生霊業法……ですか?】

 

思わず鸚鵡返しで尋ねる。私の記憶の中にそんな法律はなかったと思うし、横島さんも美神さんもそんなことは言ってなかったと思うけど

 

「幽霊や妖怪が多くなってきてるからね、六道女学院とかだけじゃあ足りないから、民間の学校からでもGSとしての適正が高い生徒が受けれる特別な援助って所よ。学費の一定額の免除だったり、学校を休んでも出席日数に影響がなかったりね。まぁ指導してくれるGSがいて初めて受けれる制度らしいわね」

 

指導してくれるGS。横島さんの場合、美神さんが入りから条件を見てしているわけですけど……

 

【私の記憶だとそんなのはなかったと思うんですけど?】

 

だから横島さんは学校の出席日数が足りないとかで毎日困っていた。こんな制度があるならあの時も使っていたはずだ

 

「ああ。それは仕方ないわ、普通いくら霊能の素質があるからって知識も技能も足りないのをつれて除霊現場に行くGSなんているとおもう?自分も死ぬかもしれないし、弟子も死ぬかもしれない。早々援助を受けようなんてGSはいないわ」

 

そう言われると納得ですね。これで疑問に思っていたことが解決した、横島さんに余裕が見えるのはこの制度のおかげって事なんですね。1人で納得してうんうんっと頷いていると

 

「逆行の記憶も役に立つけど、いいことばかりじゃ無いって判ったでしょ?」

 

【そうですね、確かにそのとおりです】

 

これも逆行してきた私にとっては思い込みだったわけだ。今後こういうのが多いかもしれないから、気をつけておこう。あと時間があればそう言う関連の事を美神さんに訪ねてもいいかもしれない

 

「だから日々を楽しんで、難しく考えない方が良いと思うわ」

 

騒がしく楽しい日々。それを楽しく過ごす、これはきっと大切なことだと思う。だから

 

【じゃあさっそく横島さんの所へ♪「待ちなさい!」なんですか!日々を楽しめって言ったじゃないですか!】

 

さっそく横島さんの所に行こうとした私の肩を掴む蛍ちゃん。霊力を込めてるからしっかり捕まっている

 

「横島の所に行くのは私ッ!!!」

 

幽霊の動きを束縛する封印符を私に貼ろうとして来る。それを身体を捻ることで回避し、腕で蛍ちゃんの手を振り払う

 

【幸せになれるのは1人。最初から判りきっていたことですね】

 

判っていた仕事の時間までの2時間と少し、その間を幸せに過ごせるのは1人だけだと

 

「手加減はしないわ」

 

両手に封印符を構える蛍ちゃん。私は周囲のハサミや本をポルターガイストで浮かび上がらせ、応戦の姿勢をとる。向こうが実力行使に出るならこっちも実力で応戦しなければならない

 

【「覚悟ッ!!!」】

 

私と蛍ちゃんは互いの幸せのために目の前の敵を倒すために同時に駆け出したのだった……

 

「今日は騒がしいですね。アシュ様」

 

「蛍が友人を連れてきたらしいよ。元気で良いじゃないか」

 

最上階の優太郎と土偶羅魔具羅は2人の衝突で揺れるビルに若干冷や汗を流しつつ、そう苦笑しているのだった。なお決着がつくことはなく、慌ててビルを飛び出していく蛍とおキヌを見て苦笑することになるのだが、それはまったくの余談である。

 

 

 

「なんかこの依頼嫌な予感がするのよね」

 

横島君と蛍ちゃんの除霊の経験に良いと判断して引き受けた依頼だが、何か嫌な予感がする

 

(B-の依頼だから確かにハードルは高いけど……どうなのかしら?)

 

B-如きで私の霊感がここまで訴えかけてくるという事はめったにない。引き出しから筮竹を取り出して

 

「えいっ!」

 

この依頼のついての占いをしてみる。街中にいる2流の占い師と違って、GSは仕事の事を占いで調べる傾向がある。霊感が強いのでかなり当たる確率が高いからだ、そして占った結果

 

「うっ……引き受けないと経営のピンチ……」

 

恐らく当たるはずなので引き受けるしかない。だがそれだけの事となると何が原因だろうか?

 

(どこかの大手企業の下請け?それとも黒い組織?)

 

依頼自体は民間人からだけど、何か裏があるかもしれない……

 

「ちょっと備えておこうかしら」

 

(名、上位、超級?)GSへと大成するかもしれない2人の弟子に怪我を負わせるわけにも行かない。それに2人はアルバイト扱いなのだから、怪我をされると私の責任になるし

 

「防護札でいいわよね」

 

普段の除霊では滅多に使う事のない防護札を用意する。これは霊的なエネルギーを蓄えてある霊力で相殺するという中々高級な札だ。

 

(これでいいでしょう。でもなんなのよ?この悪寒は)

 

とんでもなく嫌な予感がしている。出来れば断りたいレベルだ……だけど断ることが出来ない。暫く悩んでいるとおキヌちゃんが戻ってきて

 

【美神さん?そろそろ仕事の時間ですよ?横島さんと蛍ちゃんが待ってます】

 

そんなに考え込んでいたのかと苦笑して、書類を引き出しに戻し、代わりに防護札を3枚取り出して

 

「よっし!それじゃあ行きましょうか!」

 

どれだけ嫌な予感を感じていても、私は美神令子。引き受けた以上は職務を全うするだけ!嫌な予感を振り払うために気合を入れてビルを出ると

 

「みみ♪」

 

「おはようございます」

 

チビを肩の上に乗せて、タマモを頭の上に乗せた横島君と眉を顰めている蛍ちゃんがいて、蛍ちゃんが眉を顰めている理由は恐らくチビだろう

 

「横島君。チビは置いて行った方が良いわ」

 

赤ちゃんのグレムリンを連れて行くなんて危ないというと横島君は困った顔をして

 

「おいていくと泣くんです……物凄く、それで窓ガラスが壊れました」

 

「みい?」

 

横島君の頭の上で首を傾げているチビ。あの小さい身体でそこまでの声を出せるとは思えないけど……嘘をついているようには見えない

 

「はぁ……面倒は横島君が見るのよ。あと荷物」

 

普段と同じリュックを横島君の前に置く。かなりの重量だけどあっさり担ぎながら

 

「うっす」

 

「みい!」

 

横島君の肩の上で手を振るチビ。なんであんたが返事をするのよ……

 

「チビ?危ないからおキヌちゃんと一緒な?おキヌちゃんお願い」

 

横島君がおキヌちゃんにチビを渡す、チビは当然ぐずるが

 

「大人しくしてるんだ、いいな?終わったら遊んでやるから」

 

「みぃ……」

 

しょんぼりとしているチビを抱き抱えているおキヌちゃんは

 

【可愛いです】

 

チビの頭を撫でてご満悦と言う表情をしていた。こんなんで大丈夫かしら?

 

「とりあえず現場に行きましょう?」

 

「そうね」

 

私は蛍ちゃんの言葉に頷き現場へと向かうのだった……美神達が事務所を後にしたあと、美神が見ていた依頼書にある紋章が浮かんでいた。それはGSならば全員が知っている「六道家」の家紋だった……

 

 

 

部屋で書類整理をしていると冥子が部屋に入ってきて

 

「お母様~冥子昨日お友達が出来たのよ~」

 

嬉しそうに言う、だけどその話はこれで5回目だ。よっぽど嬉しかったのねと苦笑しながら

 

「その話は~何回も聞いたわ~それにそろそろ美神さんと除霊でしょう~現場に向かったほうが良いわ~」

 

はっとした顔になり遅れちゃう~と言いながら部屋を出て行く冥子を見送り

 

「この子ね~横島忠夫君~」

 

私は見ていた書類に再度視線を戻した。今私が見ているのは部下に頼んで調べてもらった横島君のプロフィールだった。

 

【横島百合子。旧姓紅井百合子。通称、村枝の紅ユリと呼ばれた伝説のスーパーOLと呼ばれた、その手腕は今でも伝説になっている】

 

「百合子さんの~息子さんだったのね~」

 

スカウトしたけど断られてしまった。あの時の株の取り合いの戦争は中々スリリングで楽しかったわ~と昔を思う。あの後は仲良くなって、たまに夕食なんかもご一緒したけど、今は確かナルニアにいるのよね~

 

「ふふふ~これはいい機会かもしれないわね~♪」

 

百合子さんを六道の家に引き込むのは失敗したけど、横島君ならもしかしたら引き込むことが出来るかも?それに

 

「この子~妖使いの素質があるかもしれないし~♪」

 

かなり稀少な才能だが、妖怪と心を通わすことの出来る人間と言うのは少なからず存在する。横島君は人間に懐く事の少ない妖狐とグレムリンと一緒に暮らしているらしいし、これはもしかするともしかする人材かもしれない、なにせ40年来、世に出ていない妖使いになれそうな人材となるとぜひとも欲しい

 

(ただ令子ちゃんの~事務所でアルバイトしてるのよね~)

 

あの子の所から引き抜くのはかなり難しい。それが判っているからまずは冥子と一緒に除霊をさせてみる。多分令子ちゃんと一緒にアルバイトをしているという芦さんと言う子も一緒だと思うけど

 

「優秀なら~引き抜いてもいいわよね~♪」

 

それで出来たら冥子の事務所で働いてもらえると嬉しいわあ~と思いながら、着物の袖から1枚の紙と筆を取り出しそれに文字を書き

 

「汝に命を与える!彼の者を監視せよ!急急如律令ッ!!」

 

投げた札はそのままツバメの姿になり飛び立っていく。これは式神ではなく、使い魔だ。式神は自己の意識を持つので偵察にはあまり向かない。だが使い魔ならば与えられた指示を適確にこなす上に、使い魔の視界は術者とリンクさせることが出来る、これで私も横島君のことを知ることが出来る

 

「さて~どんな子なのかしら~」

 

妖使いの才能があったとしても人格に問題のある人間ならお断りだし、冥子を怖がるようじゃ問題外。冥子を理解しようとしてくれる人間じゃないと駄目。それにGSとしての才能がないなら妖使いとしての才能があっても宝の持ち腐れ

 

「しっかり見極めないとね~現六道の当主として~」

 

そう笑う女性。彼女の名は六道冥華……GSに関わる人間は勿論、政財界や世界の裏と表に深いつながりを持つ冥華。彼女は式神の視点を通じて横島を見極めようとしていた。先ほどまで瞳に写していた穏やかな光は消え、代わりに鋭いまでの光をその目に宿していた。六道家党首にして六道最高と謳われた式神使いとしての顔をしているのだった……但し

 

「いい子だったら~冥子のお婿さんにいいかもね~」

 

その眼光からは考えられない間延びした口調はそのままなのだった……

 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その2へ続く

 

 




今回はインターバルの話なので少し短めです。次の話は冥子をメインにしようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2


どうも混沌の魔法使いです。今回の話は冥子をメインにして行こうと思います。あとはチビもメインに来るかもしれないですね
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その2

 

クライアントとの待ち合わせの場所は新築のマンションの前だった。そこでクライアントと顔合わせをする予定だったのだが、そこには禿げた中年ともう1人いた

 

(嫌な予感はこれか!?)

 

私の霊感が囁いていたのはこれだったんだ。肩を出したピンク色のドレスに胸元を飾る紅いリボン。それと白の手袋……腐れ縁といでも言うのだろうか?そして私が一番苦手にしている「六道冥子」が私を見て嬉しそうに手を振っていた

 

「どうしたんですか?」

 

隣の蛍ちゃんが青い顔をしている私を見てそう尋ねて来る。お守りとして持たせた防護札はあるけど、冥子が相手なら全然足りない……

 

(ど、どうしよう)

 

蛍ちゃんと横島君を怪我させるわけには行かない。出来る事なら引き返したいが……それよりも早く

 

「令子ちゃん~待ってたよ~」

 

嬉しそうに笑って近寄ってくる冥子。もう逃げられない……私は隣の蛍ちゃんを見て小さく

 

(ごめんね。こんな仕事とは思ってなかったの)

 

(なんで急に謝るんですか?)

 

私の謝罪の意味が判らず首を傾げている蛍ちゃん。お願いだから、冥子が仕事の間暴走しない事を祈っていると

 

「ふーすんませーん。重いんで遅れましたー」

 

除霊具をかなり持って来たので遅れていた横島君の声がして振り返る。横島君の背後を浮いているおキヌちゃんとその翼で飛んでいるというよりかは浮いている感じのチビが見える

 

【横島さんを待っていたので遅れました】

 

「みみーんッ!」

 

横島君達が遅れてくると冥子は私の服を掴んでいた手を放して、私の後ろを見て

 

「まぁ~横島君~また会ったわねえ~」

 

え?横島君冥子と知り合いなの?私が状況を理解できないでいると、冥子の影からショウトラが飛び出して

 

「わーん♪」

 

とんでもない勢いで横島君に向かって走っていく……それは大好きな飼い主に遊んでもらいたい大型犬にしか見えなかった。

 

「げぶろお!?」

 

凄まじい勢いで突進された横島君は、荷物のせいで回避できなかったようでショウトラに倒される

 

「あらあら~ショウトラちゃん。横島君が好きなのね~」

 

のほほんと笑う冥子だけど、横島君はそれところではない

 

「わんわん♪」

 

圧し掛かられた上にリュックに潰されている横島君は顔を真っ赤にして

 

「いてええ!リュック!リュックがアアアア」

 

【よ、横島さん!!】

 

ショウトラに圧し掛かれて絶叫している横島君。近くのおキヌちゃんが助けようと手を伸ばすが

 

「ぐるるるるッ!!!」

 

唸り声を上げられた上に噛まれかけて、チビを抱えたまま

 

【ひーん!美神さーん!!!】

 

半泣きで近寄ってくるおキヌちゃんを見ながら、隣で目を丸くしている蛍ちゃんに

 

「冥子を泣かせたら駄目よ?全滅するからね」

 

下手をすると入院じゃすまなくなる。GSとして再起不能の可能性もあるだから怒らないようにと声をかけるが

 

「大丈夫~ごめんね~」

 

ハンカチで横島君の土埃を払っている冥子とそのぽわっとした空気に呑まれているのか、ぽーっとした顔をしている横島君を見て

 

「ギリっ!」

 

【バチッ!】

 

拳を握り締めている蛍ちゃんと霊気をスパークさせているおキヌちゃん。冥子が気付いてないだけで一触即発と言う感じの空気になってしまっている。まだ除霊も状況も何一つ把握してないのに……

 

「あ、あのー説明しても宜しいでしょうか?」

 

おずおずと話しかけてくるクライアントに私は穏やかに笑いかけながら

 

「よろしくお願いします」

 

とりあえずこのままでは埒が明かないと判断し、クライアントにそう頼み……

 

「ほら!除霊の打ち合わせをするわよ!蛍ちゃんも冥子もこっちに来る!」

 

手を叩き好き好きに動き回っている冥子達を呼び寄せるのだった……

 

 

 

「新築のマンションなのに、相が悪いのか悪霊が集まってきて人が住めんのです」

 

マンションの前で今の状況を話してくれるオーナーさんの言葉を手帳にメモする。こういう情報は案外馬鹿に出来ないのだ。美神さんも真剣な顔をして話を聞いている

 

「みー?」

 

「もうーチビちゃん可愛い~♪」

 

「みみーん♪」

 

六道さんはクライアントの話を聞かないでチビと遊んでいる。私にも懐いてくれないのに何で六道さんに懐いてるの!?納得行かないわ!その事に関してかなり文句を言いたいが、取り合えず今は除霊の打ち合わせに集中する

 

「かなりの数の悪霊が集まってきているので、お2人に協力していただこうということになりまして、今回ご依頼しました」

 

「私がね~令子ちゃんがいいわよ~ってお願いしたの~」

 

その言葉に嫌そうに美神さんが顔を顰める。見た所そんなに危なそうな感じはしないけど……美神さんは腕組をして何かを考えているようで六道さんの声が聞こえていなかったようだ。多分この建物の事を考え、どういうプランで除霊していくのかを考えているのだろう

 

「無視しないで~令子ちゃーん……無視されると、うわああああんっ!!!」

 

だがそれを無視されていると思ったのか、六道さんが泣き出すとその影から11体の異形が飛び出してきて

 

「なんでじゃあああ!?」

 

近くにいた私や美神さんを無視して、奥の方に居た横島の方に突進していく。11体の異形はリュックを背負っている横島を跳ね飛ばしてもみくちゃにしている

 

「よ、横島ッ!?」

 

【横島さんッ!?】

 

「こーん!?」

 

11体の異形にもみくちゃにされている横島を見て私とおキヌさん、それにタマモの絶叫で我に帰った美神さんが

 

「止めなさい!冥子!うちのアルバイトを潰す気ッ!」

 

その一喝で我に帰える六道さん、即座に式神を自身の影に戻して

 

「ご、ごめんね~横島君~私泣いちゃうと式神を制御できなくて~」

 

そう謝る六道さん。この人とんでもない危険人物ね。接し方を考えないと……私は冷や汗を流しながら六道さんの評価を普通の人から危険人物へと跳ね上げたのだった。意識が無く痙攣している横島は

 

「コーン、コーン」

 

「わふ!わふ!」

 

タマモとショウトラとか言う白い犬のヒーリングで徐々に回復し

 

「あー死ぬかと思った」

 

頭をかきながら身体を起こす横島。私が声をかけようとするよりも早く

 

「みみーッ!!!」

 

おキヌさんの腕の中から飛び出したチビの突撃を顔面に喰らい

 

「へぶうっ!?」

 

再度引っくり返る横島。心配してたんだろうけど、もう少しチビには色々教えないといけないと思う。物凄く賢いからすぐに覚えてくれると思うし

 

「駄目よ。横島は疲れてるからね?」

 

「みー……」

 

顔にしがみ付いているチビの背中を掴んで横島から引き離すのだった……とりあえずなんにせよ。六道さんとの共同除霊は普段以上に警戒して注意しなければならないのだと悟るのだった……

 

 

 

あー酷い目に合った。冥子ちゃんの影から飛び出してきた異形、式神と言うらしい、それにもみくちゃにされたせいか全身が痛い。美神さんがくれた防護札のおかげでかなり衝撃を和らげる事が出来たらしい、直撃だったらどれほどの激痛だったのか?想像するだけでも恐ろしい

 

「コン」

 

頬を舐めてくれているタマモ。なんか痛みが引いてるけど、何かの特殊能力なのだろうか?とりあえず身体の痛みが収まるまで地面に座り込んで美神さん達の話を黙って聞くことにする

 

(おお♪視点が低いから見えそで見えない)

 

スカートの蛍と美神さんに神秘の三角形が見えそうで見えない。それが俺を興奮させる、もう少し屈めば見えるかも……若干姿勢を低くしようとした所で

 

【横島さん?話聞いてます?】

 

おキヌちゃんの声で顔を上げると不思議そうな顔をしておキヌちゃんが俺を見ている。

 

「え、えーとうん!ちゃんと聞いてる!」

 

本当は何も聞いてませんとは言えないので、聞いていたと言う。神秘の三角形が見たくなるのは健全な男子高校生としては当然だと思うのだが……

 

「グルル」

 

背中のタマモが唸っている。これは怒っている、邪まな考えをやめないと噛まれると判断し、美神さん達の話に耳を傾ける

 

【言いませんけど、そう言うのは駄目ですよ?ね?】

 

とても静かだがはっきりと聞こえるおキヌちゃんの声に背中を伸ばし

 

「はい……」

 

俺はそう呟いた。タマモもへそを曲げると怖いけど、おキヌちゃんの怖さはその非じゃない……流石幽霊と言わざるを得ない

 

【それならいいんですよ?えへへ】

 

ニコニコと笑い俺の隣に浮かぶおキヌちゃん。可愛い、確かに可愛いんだけど

 

(何が地雷か判らんから気をつけないと)

 

突然怒り出すことがあるので言動に気をつけようと心に誓うのだった。クライアントは図面を美神さんに見せながら

 

「このマンションは採光を考えて、上階に行くに連れて面積が小さくなっています」

 

採光?面積を小さく?駄目だ。どういうことか全然判らん……美神さん蛍。それに冥子ちゃんは理解しているようで時折頷いている。あれ?この中で話についていけてないの俺だけ?若干切ない気持ちになりなががら視線を落とす。そこには

 

「みい?」

 

「わふ?」

 

俺の顔を見上げるチビとショウトラ。いや動物は判らないのはわかるけど……なんかとても悲しい……

 

「なるべくユニークなデザインにしようとしたんで、複雑な多層構造にしたんですが……」

 

言いにくそうにするクライアントに蛍が図面を見ながら

 

「この多層構造のせいで、霊脈の流れが乱れている?」

 

霊脈が乱れると悪霊が集まると言うのは蛍にも美神さんにも聞いている。だから新しく建物を作るときはそう言うのも考慮しないといけないらしい、また地鎮祭や霊的な観点でアドバイスのできるGSに協力を頼むのが普通らしい。

 

「うーん。私は違うと思うわ、このアンテナね。このアンテナが丁度霊脈の上に来てるわ。この電圧で霊脈が乱れてるのね」

 

本当にさっぱり判らん……もっとGSの事を勉強しないと行かんな……膝の上でごろごろしているタマモの背中を撫でる。

 

「クウーン」

 

もう少し勉強しないと話に割り込むことも出来ない。ここは邪魔しないように静かにしていよう……甘えた鳴声を上げるタマモを撫でていると

 

「それで冥子?どうするつもり?」

 

美神さんがそう尋ねる。これは少し以外、美神さんだから自分の意を通すと思っていたのに……

 

「そうね~私が~回りの幽霊を食い止めるから、令子ちゃんと蛍ちゃんと横島君で結界を作って貰えばいいと思うわ~」

 

俺!?なんで俺!?しっかり頭数に入っていることに驚いていると冥子ちゃんはにこにこと笑いながら、期待してるという顔で俺を見て

 

「横島君は~妖使いなんでしょ~?」

 

「はい?妖使い?」

 

全く聞き覚えのない単語に聞き返してしまう。妖使い?なんじゃそら?俺が首を傾げていると

 

「横島君はまだ見習いよ。結界札なんて高位のお札は使えないわ。破魔札くらいなら使えるけどね。横島君は冥子のフォローをして頂戴。結界札は私と蛍ちゃんでやるから」

 

てきぱきと指示を出して、俺が運んできたリュックから除霊具の数々を取り出して装備していく、打ち合わせはこれで終わりと言うことだろう。本当は妖使いが何なのか聞きたいが、とても聞ける雰囲気ではないので、除霊の準備に集中する事にする

 

「ほい。蛍の分の霊体ボウガンと破魔札な」

 

蛍の分を纏めてある除霊具を渡す。あの大きいリュックの中の7割は美神さんの装備だ、蛍でも使いこなせない物が多く、オーソドックスなボウガンと破魔札が蛍の装備になる

 

「ありがとう横島」

 

にっこりと笑う蛍。俺はまだ未熟だから蛍達の影に隠れるしか出来ないだから、その分サポートに徹する。命懸けで守ってくれるのだから

 

「これくらいしないと罰が当たる」

 

そう苦笑してリュックを背負いなおすと同時に自分用の破魔札をホルスターに納める。膝の上にいたタマモは頭の上に乗せて

 

「コン!」

 

「今日も頼むぞ」

 

幻術と狐火を仕えるタマモ。蛍と美神さんを抜かれた場合、タマモの能力と俺の破魔札で対応しないといけないので正直頼りにしている。俺の破魔札の投擲術はまだまだ未熟だから、絶対当たると言えない訳だし

 

【私も頑張りますよ!横島さん♪頼りにしてくださいね!】

 

ポルターガイストを頑張れば使えるおキヌちゃん。力こぶを作るようなポーズをしているが、正直可愛いとしか思えない。しかしそれとは別に暗い考えが頭を過ぎる……

 

(女の子に護ってもらってばっかり……俺情けねえ……)

 

少しでも早く霊能力を使えるようになると良いんだけどと思いながら、その翼で俺の周りを飛んでいたチビを捕まえる

 

「み?」

 

小首を傾げるチビをGジャンのポケットに入れて

 

「大人しくしてるんだぞ?危ないからな?」

 

「みっ!」

 

判ったという感じで手を上げるチビ。美神さんと蛍に迷惑をかけるわけには行かないから、大人しくしてて貰わないとな

 

「横島君~頑張りましょう~?」

 

にこにこと笑う冥子ちゃんと並ぶ。式神使いなので式神を召喚した後は後方支援になるらしい、先頭は美神さんと蛍が担当して。俺と冥子ちゃんは2人の後ろについて2人の援護と言う手筈だ

 

「行くわよ。しっかりね。今回はかなりハードよ」

 

美神さんの言葉に頷き、マンションに入ろうとすると

 

(横島君は~GSの見習いさんなのね~私の方がお姉さんだから~わからないことは私に聞いてね~)

 

小さな声でそう言う冥子ちゃん。除霊についてはは間違いなく俺よりも詳しいはずだ

 

(よろしくお願いします)

 

俺が頭を下げながら言うと冥子ちゃんは嬉しそうに笑って、手を組んで俺を見て

 

(任せて~横島君♪)

 

頼られるのが嬉しいのか凄く嬉しそうに笑う冥子ちゃん。俺は大きく深呼吸し覚悟を決め、悪霊の巣窟となっているマンションに足を踏み入れるのだった……

 

 

 

マンションに入っていく美神達を見つめる白いツバメ。冥華が放った使い魔だ

 

(ん~予想よりも錬度が低いわね~)

 

あの令子ちゃんの弟子だからもう少し錬度が高いと期待していたんだけど、使えるのが破魔札だけとは正直期待外れだ

 

(あの狐ちゃんが主な攻撃手段なのかしら)

 

妖使いと言えば納得できるけど、GSとしては正直期待外れかな~それとも~

 

(まだ霊的成長期の前なのかしら~?)

 

霊力を持つ人間は、霊的成長期という物がある。もしかすると横島君はまだ霊的成長期に入ってないのかもしれない……

 

(もう少し様子を見てみようかしら~?)

 

霊力は素人より少しまし程度だけど、もしかすると何か特別な能力があるのかもしれないわね。あの令子ちゃんが弟子にしているんだから、GSとしての能力ではなく、もしかしたら特殊な能力があるのかしれないわね~

 

(もう少し様子見してみましょう~)

 

まだ決断するには早いと判断してツバメをマンションの中に行かせる。

 

「さて~どんな能力を持っているのかしら~」

 

除霊の中で何か特別な能力に目覚めるかもしれない。それにあの蛍ちゃんも歳が若い割にはかなり堂々としているし~

 

(凄い掘り出し物なのかもしれないわ~)

 

私の霊力でコーティングしてあるから、雑霊程度なら問題なく倒すことが出来る。私は期待を込めてツバメをマンションの奥へと向かわせた。そこで私が見たのは既に失伝されたはずの陰陽術……そして欲しいと、自分の手元に置いておきたいと思えるほどの才覚を横島君は私に見せてくれたのだった……

 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その3へ続く

 

 




次回は少し戦闘回で進めていこうと思います。主には冥子の式神がメインになると思います。蛍とか横島とかは冥子を見ている感想になるかな?あとは最後に若干強い横島が出てくるかもしれないですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は除霊の話になりますが、原作を知っている人なら判ると思いますが基本的には冥子が活躍する予定です。後は……すこしかっこいい横島?が出るかもしれませんね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その3

 

除霊するマンションの前に立つ。まだ中には入ってないが判る……コンクリート越しでも放たれている、叩きつけるような悪意……

 

(とんでもない数の悪霊ね)

 

そして周囲の空気も、悪霊が放つ独特な淀んだ霊力のせいで濁っているように感じる。それに横島の頭の上のタマモも

 

「フー!!!」

 

尻尾を逆立てて威嚇している。それだけ悪霊の数が多いと言う事かも知れない……これはかなり厳しい除霊かも

 

「さてと……私は準備完了よ」

 

大量の破魔札とボウガンを身につけ、更にほかに細かい除霊具を装備している美神さんを見た六道さんが

 

「すご~い。令子ちゃんは除霊具を殆ど使えるのね~♪」

 

六道さんが嬉しそうに笑う声を聞いて私は激しく不安になり

 

(だ、大丈夫なんですか?あの人で横島のフォローを出来るんですか?)

 

むしろ横島が六道さんのフォローをしそうに思える。それだと横島を後衛においた意味がない、若干不安に思いながら美神さんに尋ねる

 

(大丈夫よ。冥子の式神はかなり強力よ、むしろ今日の除霊は冥子だけでも大丈夫なんだから……除霊すると言うことなら1人でも大丈夫なのよ。周囲が更地になるけどね)

 

更地?あの人の式神そんなに強力なの?私はあんまり六道さんと面識がないので良く判らない。おキヌさんにちらりと視線を向けると、私の言いたいことを理解してくれたのか私の後ろに来て

 

【冥子さんの式神は凄く強力です、攻撃力なら間違いなく美神さんより上です】

 

そんなに?だけどそんなに強いならどうしてあんまり有名じゃないのかしら?

 

【……直ぐ暴走しちゃうんですよ】

 

「暴走!?」

 

それ大丈夫なの?横島が危険なんじゃ!?私が慌てていると美神さんが

 

(だから急ぐわよ。私1人だと冥子まで面倒みきれないけど、蛍ちゃんが居るから多分大丈夫よ。さぁ行きましょう)

 

うう……本当に大丈夫なのかしら?私は除霊の不安ではない不安を感じながらマンションの中に足を踏み入れた

 

「さあ~バサラちゃん。お願いね~♪」

 

マンションに入ると同時に冥子さんの影から巨大な影が現れ

 

「モオオオオオ!!!」

 

その雄叫びから牛?の式神では?と予測する。そしてその式神は大きく口を広げ

 

「ズゴオオオオッ!!!」

 

【【【ぎゃあああああああ!!!】】】

 

掃除機のように悪霊を吸い込み。強烈な勢いで除霊をし始めた

 

「……え?」

 

まさかあの人の式神があんなに強力とは思わず。思わず目が点になる

 

「心配ないでしょ?冥子は攻撃力だけなら私より上なんだから」

 

そう苦笑する美神さんの隣で六道さんは

 

「サンチラ、ハイラ、インダラおいで~」

 

蛇のような式神と毛玉のような式神に馬の姿をした式神を追加で召喚して

 

「令子ちゃん。蛍ちゃん!がんばりましょ~」

 

にこにこと笑う六道さんは、召喚した馬の式神に跨りながら楽しそうに笑う。その姿に若干力が抜けるのを感じながら、破魔札をホルスターから抜く。悪霊がどこから出てくるのか判らないから備えとしてだ。あの式神は強い、よっぽどのことがなければ抜かれる事はないだろう

 

「さぁ行くわよ。ちゃっちゃっと除霊を終わらせましょうか」

 

そう笑って歩いていく美神さんの後をついて、私達はこのマンションの屋上を目指して長い階段を登り始めたのだった

 

 

すげえ……冥子ちゃんの式神バサラは凄まじい勢いで悪霊を吸い込みながらドンドンマンションを登っている

 

「これがね~私の式神のバサラちゃんよ~すごいでしょ~♪」

 

よほど自分の式神が自慢なのかそう尋ねて来る。それが自慢したいからではなく、可愛いペットを褒めてと言ってる様に思えて

 

「凄いっす。冥子ちゃ……冥子さんは凄いGSなんですね」

 

さすがにここまで凄いのを見せられるととてもではないが、ちゃんづけでよぶ事ができなくて、さんと言いなおすと

 

「……」

 

じーっと俺を見つめてくる。目を逸らすがそれでもなお俺を見つめてくる視線を感じるし

 

「もきゅ」

 

足元を跳ねている毛玉の式神がずっと俺を見つめている。そして

 

「みい?」

 

訳が判らないけど取り合えずって感じで俺を見つめているチビ。

 

「冥子さん?」

 

もしかしてさん付けが嫌なのか?と思いながらもう1度さん付けで呼んでみると

 

「ぷくう」

 

頬を膨らませて私怒っています。と言う感じの冥子さん……えーとじゃあ

 

「冥子ちゃん?」

 

「なーに?」

 

嬉しそうに返事を返す冥子ちゃん。さんづけが嫌だったのか……俺よりも年上なのに子供っぽい人だなと少しだけ呆れはしたが

 

「なんでもないです、俺はGSとしては見習いなんでよろしくお願いしますね」

 

「うん!任せておいて~」

 

にこにこと笑う冥子ちゃん。感情の起伏の激しい人だなあと思いながら、俺自身も破魔札を3枚抜いていつでも投擲できるように準備しながら

 

「頼むぜ、タマモ」

 

「コン!」

 

周囲を警戒してくれているタマモ。とは言えバサラが片っ端から悪霊を吸い込んでいるので殆どこっちには悪霊が来ていない

 

【邪魔をスるんなあああ!?】

 

「とっとと極楽に行きなさい!」

 

たまにバサラをすり抜ける悪霊も居るが美神さんの振るった神通棍と蛍の

 

「ていっ!!!」

 

霊力を手に集めたパンチで除霊されている。蛍いわく未完成らしく、まだ上の形態があるそうなんだが、俺には霊力パンチも出来ないので正直。その上の形態なんて想像もつかない

 

「コン!」

 

考え事をしているとタマモが俺の頬を叩いて上を見るようにと言う。顔を上げると悪霊が上から落ちてきていた

 

「いけっ!!!」

 

【ぎゃああ!?】

 

破魔札を投げる。当たるか外れるか五分五分だったが、見事除霊して消滅させるのを見て安堵の溜息を吐く

 

(これで3匹目か)

 

10回除霊に参加してやっと3匹目。やはり破魔札だけじゃあ中々上手く行かないな……と内心溜息を吐いていると

 

【まだまだですよ。横島さん、ゆっくりがんばって行きましょう?】

 

おキヌちゃんの柔らかい笑みと励ましの言葉。だけど俺が美神さん達みたいにまともな霊能力を使えるようになるかは正直不安だ……

 

(いやいや、蛍があれだけ大丈夫って言ってくれてるんだから大丈夫!ゆっくり頑張ろう)

 

自分を鼓舞していると先頭を歩いていた美神さんが少し慌てた様子で

 

「思ったよりも悪霊の数が多いからバサラの吸い込む力が弱まっている!このままだと後数分も持たないわ、急ぎましょう!」

 

美神さんの言うとおりバサラの吸い込む量がかなり少なくなってきている。急いだほうが良さそうだ

 

「サンチラちゃん~お願いね~」

 

「シャー」

 

サンチラと言う蛇の式神が突然俺の肩を軽く噛む

 

「うえ!?」

 

突然の事に完全に停止すると同時に、サンチラによってインダラの上に引き上げられる。

 

「じゃあ急ぎましょ~サンチラちゃん。お願いね~♪横島君は危ないから捕まっててね~」

 

どこへ掴まれと言うんですか?腰ですか?……さすような視線を2つ感じる。駄目だ、腰を掴んだら殺られる……若干不安だが仕方ない、タマモを頭の上から懐に抱えなおし、両手でインダラを掴む

 

(思ったよりも掴める所があるな)

 

意外とごつごつしているのでしっかり身体を支える事ができたので

 

「大丈夫っす」

 

「じゃあ~しゅっぱーつ♪」

 

楽しそうに笑う冥子ちゃんの合図でインダラが走り出す。その前をバサラとビカラと言う猪の式神が走り、悪霊を纏めて薙ぎ払いながら進んでいく。美神さんと蛍が後ろからついてくるのを感じながら

 

(は、早く止まってくれエエエ)

 

バイクとか車とかとは全く違う振動の気持ち悪くなり、吐きそうになってしまった……俺はもうインダラには乗りたくないと思った

 

「みー!みみー♪」

 

ちなみにGジャンのポケットの中のチビは楽しそうに鳴いていたのだった……

 

 

 

 

バサラとビカラのおかげで霊力の消耗も少なく無事に最上階に来れた。服の中から結界符を取り出し

 

「蛍ちゃんはあっちの隅からね、多分悪霊の妨害もあるから気をつけて」

 

今は姿が見えないが、また直ぐに現れるはずだ。急いで結界を作らないと不味い

 

「令子ちゃーん。横島君はどうすればいいの~」

 

インダラに運ばれてきてぐったりしている横島君を見てそう尋ねて来る冥子。冥子はずっとインダラの上に乗っているから慣れてるけど、横島君はかなりきつかったみたいね

 

「おキヌちゃん、介抱して上げて。冥子はインダラを影に戻して変りにサンチラとアジラ、それとアンチラで身を守りなさい。いいわね」

 

【判りました!任せてください!】

 

「判ったわ~私に任せて~」

 

サンチラは電撃。アジラは火炎と石化能力、そしてアンチラは鋭い耳での斬撃……これだけ徹底させれば大丈夫でしょう。横島君介抱しているおキヌちゃん。これで横島君も大丈夫っと

 

「蛍ちゃん!急いで!直ぐに来るわよ」

 

「はい!」

 

後は時間との勝負。私は左側、蛍ちゃんは右側に分かれる。結界符の特徴上。建物の4隅に結界符を貼り付け1枚ずつ霊力を込めて起動させる事で結界とするのだが

 

(あああ!もう!本当にいつも遅いわね!!)

 

私は滅多に結界符を使わない。何故なら起動するまで時間が掛かるからだ、だが今回は依頼の内容上結界符でなければならない。壁に張り霊力をこめるのだが、中々起動しない……本当にもう!時間が掛かるわね!!!

 

「念!」

 

漸く起動できる状況になったので霊力を更に送り込み、完全に起動させる。蛍ちゃんも同時に起動を済ませ別の角に向かうのだが

 

「きゃ~!きゃ~!!!令子ちゃん!悪霊が私を狙い始めたみたいなんだけど~!!」

 

間延びした声だから焦っているように思えないが、冥子の慌てた声が聞こえてくる。悪霊も馬鹿ではない、冥子の式神は強いけど、冥子自身は除霊具の扱いが得意ではない。つまり接近されると弱いのだ

 

「終わったら手伝うから待ってて!結界さえ作れば新しく悪霊は来ないから!」

 

今除霊してもまた直ぐ悪霊が来る。まずは結界を優先だ、少し多めに霊力を注いで結界符の完成を急ぐが

 

「美神さん!不味いですよ!数が多いです!!」

 

蛍ちゃんの焦った声が聞こえる。だけど態々振り返らなくても状況は判る、何故ならば

 

「くっ!なんて物件よ!ここは!!!」

 

【死ねええええ!!!】

 

【ウォオオオ!!!】

 

私の方にも四方八方から悪霊が襲ってきているからだ、こんな状況では結界符を作ることも出来ない

 

(不味い!不味い不味い!!!このままだと!!!)

 

冥子のほうにも凄い数の悪霊が向かっている。サンチラとアジラが奮闘しているが、倒しきれていない。このままだと最悪のことになる

 

【横島さんに何すんですかッ!!!】

 

「コーンッ!!!」

 

横島君に襲い掛かった悪霊はおキヌちゃんとタマモが対応しているけど、ジリ貧だ。数が多すぎる

 

(あー!!こんな事ならもっと除霊具を持って来れば良かった!!)

 

広範囲を攻撃できる精霊石とかがあればもっと楽に除霊出来るのに……そこまでランクが高くなかったから準備を少しおろそかにしていた私のミスだ。

 

「あ……血が……」

 

「え!?」

 

一番聞きたくない声に振り返る。冥子の頬から少しだけ血が出ている

 

「ふ、ふええ……」

 

冥子の肩が震えてその目に涙が溜まっていく……ま、不味い!!!

 

「な、泣いたら駄目よ!!!直ぐ行くから!!!」

 

慌ててそう怒鳴るが……冥子の耳には届かなかったようで

 

「ふええええええんっ!!!!!!」

 

へたり込んで大泣きする冥子。その泣き声と同時に冥子の影から式神が飛び出し暴れまわる

 

「なななな!!なんですかこれえええええ!!!!」

 

悪霊だけではなく私達にも襲い掛かってくる式神。蛍ちゃんが頭を抱えて逃げ回る、勿論私も逃げながら

 

「冥子は泣くと式神をコントロールできないのよ!!!」

 

「そんな人をGSにしたら駄目でしょおお!!!」

 

サンチラの電撃とアジラの火炎を必死で回避しながら叫ぶ蛍ちゃん。私は噛み付いてきたハイラとインダラをよけながらそう叫ぶ

 

(不味い!このままだとマンションが崩れる!?)

 

そうなれば除霊失敗だ。失敗した除霊の記録がないのが自慢だったのにこれじゃあ!私の経歴に傷が

 

「急急如律令ッ!!!陰陽五行!地の力を持って汝を守護する!」

 

鋭い横島君の声が響いたと思った瞬間。私と蛍ちゃんの前に土の壁が現れる

 

「な!?お、陰陽術!?」

 

今では失伝したはずの高位の陰陽術。どうしてそれを横島君が!?

 

「横島!?」

 

蛍ちゃんが声をかけるが横島君に反応はない。それ所かゆらゆらと立っているだけで意識がないように思える

 

(まさか前世の記憶!?)

 

考えられるのはそれしかない、だが横島君はそんな話をしてなかったし……それにそんな家系ならもっと霊力に詳しいはずだし……

 

「「シャアアア!!!」」

 

私が考え事をしている隙にサンチラとアジラが横島君に向かって電撃と火炎を放つ

 

「横島!」

 

【横島さん!】

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんの悲鳴にも似た声に我に帰る。そしてそこで見たのは、親指を噛み切り手にしていた破魔札に自身の血で文字を素早く描く横島君の姿。

 

「急急如律令ッ!!!炎と雷の力を散らしめよ!」

 

その札を投げつけ火炎と電撃を無効かさせる横島君。目の前で見ているがとてもではないが信じられない。陰陽術は既に使い手が殆ど存在せず、使い魔と式神くらいはいるが陰陽術を使える人間なんて殆どいない

 

「急急如律令ッ!!汝らに命ずる!主の元へ戻れ!」

 

ぱーんっと横島君が手を叩くと式神達はびくんっと身体を竦め、冥子の影へと戻っていく。それと同時に

 

「ふらっ」

 

糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる横島君。近くにいたおキヌちゃんが慌てて抱きとめる

 

「ちょっと見せてくれる」

 

霊力の消耗のし過ぎによる昏倒だと危険だ。おキヌちゃんに声を掛けてから脈を測り、目を見る

 

「大丈夫ですか?」

 

心配そうに尋ねて来る蛍ちゃん。私は大丈夫と小さく返事を返す

 

「霊力の消耗じゃなくて体力の消耗だから大丈夫。やすませれば回復するわ……冥子。悪いけど……今日は先に帰るわ。報酬の話は明日しに来るわ」

 

本当なら報酬の話をしたいが、横島君の状態も心配なので先に帰ると声をかける。無論霊力も消耗しているので危険な状態なのには代わりはないわけだし……

 

「うん~報酬の話~は令子ちゃんが7で私が3で良いわ~横島君を休ませてあげて~」

 

ちらちらっと意識のない横島君を見ながら言う冥子。ん?なんでそんなに恥ずかしそうに見ているの?

 

「助かるわ。じゃあまた明日。いくわよ、蛍ちゃん」

 

詳しく聞きたい気もするが、今は横島君を休ませる事が優先だ。まぁ冥子が横島君を好きになれば、私への被害が少なくから良いわね……後で蛍ちゃんとおキヌちゃんが怒るかもしれないけど、私には関係ないしね

 

「はい」

 

私と蛍ちゃんで横島君をかついでマンションを後にし、除霊現場の近くの公園のベンチに横島君を横にしながら

 

【横島さん……】

 

意識のない横島君を心配そうに見ているおキヌちゃん。近い現場だから歩いてきたのは間違いだったわね……まさかこんな事になるなんて思ってなかったから……やっぱりもっと準備しておくべきだったと後悔しながら

 

「タクシーを呼ぶわ。かるくヒーリングをしておいて」

 

弱いとは言えヒーリングを使える蛍ちゃんに頼み。近くの公衆電話からタクシーを呼び、除霊事務所へと帰るのだった

 

 

「す、すごいわあ~」

 

使い魔の視点で見ていたけど凄いとしか言い様がない。失われたはずの陰陽術に、六道家の式神を強制的に影に戻す術

 

「凄い!凄いわぁ~♪」

 

欲しい!あの子を是非六道お抱えのGSにしたい!!

 

「明日にでも~呼んで見ましょうか~」

 

今日にでも話をしたいけど、横島君は疲れで意識を失っているみたいだし……

 

「報酬の話が残っているし~丁度良いわ~」

 

明日報酬の話も兼ねて、令子ちゃんと横島君を屋敷に招待して話をしましょう。特に横島君は妖使いのことも、陰陽師の事も知らないだろうし

 

(いま引き抜けないとしても、面識があるほうがいいわよね~)

 

最終的に引き抜くとしてもまずは話をして見ることが大事よね。

 

「お母様~依頼終わったわよ~」

 

嬉しそうに笑いながら帰ってくる冥子。私は机の上においてあった湯飲みを手にして

 

「お疲れ様~どうだった~」

 

一応見ていたから知ってるけど、冥子から聞いてみようと思い尋ねると冥子は両手を頬に当てて

 

「横島君~って言うね?令子ちゃんの所のGS見習いの子なんだけど~」

 

えへへっと嬉しそうに笑った冥子は自分の影からショウトラを出して、抱き抱えながら少し頬を紅く染めて

 

「かっこよくて~それに優しかったわ~~私横島君ともっとお仕事したいな~」

 

その言葉に私は小さく笑みを零した、冥子の横島君への評価はあんまり悪くない見たいね

 

「じゃあ~明日報酬の話を~するときに横島君も呼ぶ~」

 

「呼んでくれるの~冥子嬉しい~♪」

 

「わふ♪」

 

幸せそうに笑う冥子とその腕の中で尻尾を振っているショウトラ。式神にも好かれるなんてますます欲しい人材だわ

 

「それじゃあお風呂に入ってくるわね~♪」

 

横島君に会えるのが嬉しいのか、それとも久しぶりに依頼を無事に遂行できたのが嬉しいのか?スキップしながら部屋を出て行く冥子の背中を見ながら

 

「絶対~手に入れるわ~」

 

六道の血をより強くさせるために、そして冥子と式神が気に入っている。これはとても珍しい事だ、だからなんとしても横島君を引き抜いて見せる!と決意を新たにし電話を手にして

 

「さーて、じゃあ明日のためにケーキと~お茶を用意しましょう~」

 

まずは好意的に見て貰う必要があるので、ケーキと最高級のお茶それと

 

「若い男の子だから~お肉かしら~それともお寿司~?」

 

冥華はニコニコと横島を餌付けするための準備を始めるのだった、そして優太郎はと言うと

 

「ノオオオオオッ!!!増えた!また増えたアアアア!?!?横島君!君は何者なんだい!?」

 

新しく増えた「六道冥子 2.7倍」の文字に頭を抱えて絶叫しているのだった……

 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その4へ続く

 

 




次回は蛍や美神をメインに持って来ようと思います。横島がメインになるのはその次ですね。六道家を出すと面白い事になると思うので早めに出してみました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はオリジナルの話になると思います、基本的には「冥子」と「冥華」の2人の「六道」の暗躍をメインに書いていこうと思います。それでは今回の話もどうかよろしくお願いします


リポート6 式神使い六道冥子登場! その4

 

昨日の除霊の際、最後に横島が使った陰陽術……だけどこれはおかしい

 

(横島は陰陽術なんて使えない筈なのに……)

 

蛍の記憶もルシオラの記憶の中にも横島が陰陽術を使ったという記憶はない。これは一体どういうことなのだろうか?

 

【私も横島さんが陰陽術を使ってるところなんて見たことないんですけどね】

 

おキヌさんがそう呟く、今もこうして念の為に横島の家で待機している。これは美神さんの指示なのだが……

 

「横島はまだ寝てる?」

 

陰陽術は凄まじいまでの霊力と消耗する術だ。今の横島の霊力では、使いこなせるはずのない術なのだ。美神さんは酷い霊体痛を起こすかもしれないという事で私とおキヌさんに横島の家で待機するように言って、朝一番から何か調べ物をしていた

 

「これももしかして逆行の影響なのかしらね」

 

私はまだうまれる前の素体と記憶が混ざった影響か。霊力と魔力を使える上に、サイキックソーサーと未完成の栄光の右手を未来の記憶から引き継ぐ事ができた。そしておキヌさんは

 

【私は霊力の上昇とポルターガイスト能力……私は前はこんな能力ありませんでしたから】

 

逆行の影響は小さい物から大きい物、色々あるが……自身の霊能力の強化と言う形で現れている

 

「横島は前世の記憶が影響しているのかもしれないわね」

 

とは言え私もおキヌさんも横島の前世の話を聞いたことがないので、何とも言えない……どうしたものか……

 

「ミイ!ミミミーッ!!!!みーッ!!!!」

 

「コーン!ココーン!!」

 

横島の部屋から飛び出してきたチビとタマモ。その必死の姿に横島に何かあったのかと横島の部屋に向かうと

 

「うっ、うぐううう!ぐあああああ!!!」

 

布団の上で苦悶のうめき声を上げる横島がいて、慌てて美神さんから預かっていた霊薬を横島に飲ませる。これは霊力を回復させるものでとても稀少な物だが、念の為と言う事で美神さんが持たせてくれたのだ

 

「横島!?大丈夫!?」

 

薬を飲んだことで落ち着いたのか、暴れるのをやめた横島を起こそうと身体を揺すると

 

「あ。ああ?蛍?それにおキヌちゃん?」

 

ぼんやりとした口調の横島は頭を押さえて

 

「いや、なんか酷い夢を見てさ……なーんか変な紫の体に金髪の男に頭を打ち抜かれて死ぬって感じの夢でさ」

 

紫の体に金髪?それってお父さんの魔神としての姿……おキヌさんもそれに気づいたのか神妙な顔をして

 

【ほかに何か見ませんでしたか?】

 

そう尋ねられた横島は何かを思い出す素振りを見せる、これがもしかすると横島の前世なのかもしれない。横島の使った陰陽術の謎が解ける可能性がある

 

「えーと……変な……変な着物見たいのと帽子……それと……えーと……あかん、思い出せへん」

 

変な着物と帽子……もしかすると平安時代の確か狩衣かしら?もしそうなら横島の前世が陰陽師と言う可能性が濃くなる

 

「とりあえず今日は学校を休ませてもらえるように美神さんが電話してくれてるから、もう少し休んでて」

 

「あ、うん」

 

もう1度寝転がると直ぐいびきを立てる横島。それだけ消耗したってことね。心配そうに横島を見ているチビとタマモに

 

「大丈夫よ、すぐ元気になるわ」

 

あの霊薬は服用者を眠らせることで霊力と体力の回復を行うものだ。今のは間違いなくその副作用だ

 

「おキヌさん。私は1回家に帰るわ。お父さんに聞いてみる」

 

もし私の予想通りなら、前世の横島とお父さんには何か関係性があるはずだ。私は鞄を手に横島の家を後にした

 

【判りました。チビちゃん、タマモちゃん。横島さんをゆっくり休ませて上げましょうね】

 

「ミ~」

 

「コン」

 

残されたおキヌも横島の今の状態を考慮して、チビとタマモを連れてリビングに戻り

 

【チビちゃん。おいでおいで】

 

「み?」

 

チビに懐いてもらおうと必死の努力を始めるのだった……なお横島が起きるまでの2時間。必死に挑戦したのだが

 

「みー!!!」

 

懐く気配を一向に見せないチビにおキヌの心が折れかけるというハプニングがあったりする……

 

「お父さん。横島の前世に付いて何か知っている?」

 

「HAHAHA……何のことやら?」

 

だらだらと汗を流すお父さん。これは絶対知っている……

 

「教えて?」

 

「……横島君の前世の頭をぱーんっして殺したのは私です」

 

「なにをやっとるかあああ!」

 

私は思わず荷物がたくさん詰まった手提げ鞄でお父さんの頭を強打するのだった

 

「とりあえず、横島は陰陽師が前世なのね?」

 

とりあえず私の気が済むまでお父さんの頭に鞄を叩き付けてからそう尋ねる

 

「ハイ……ソノトオリデス」

 

血塗れのお父さんは無視して。手帳に横島の前世は陰陽師と書き足す。横島の事は大分知ってるつもりだったけど、前世は陰陽師なんて考え持つかなったわ

 

「もし調べれるなら陰陽術の事を調べておいてね」

 

今の時代には陰陽術を教えてくれるGSも居なければ、それを公に使う陰陽師も居ない。自分達の秘伝を表に出すことを良しとせず、GS協会にも所属せず、陰陽寮にも所属せず、自分達の一族の中だけで陰陽術を研究し高め続けている。だがアシュタロスであるお父さんならば調べる事が出来る筈だ。今は教えることは出来ないが、今後の事を考えると調べておく価値はありそうだ

 

「ああ、それはかまわないよ」

 

既に回復している。お父さんが横島に似てきたと小さく汗を流すのだった……

 

 

 

おキヌがチビに懐いてもらおうと奮闘している頃。美神はと言うと……

 

「参ったわねえ……」

 

私は昨日の除霊の報告書を纏めているんだけど、どうしたものか?と頭を抱えていた。

 

「GS見習いが陰陽術を使ったなんてかけないしね」

 

正直現代には碌な陰陽術使いなんて存在しないので、報告書として書くわけには行かない。伝わっていたとしても、それを秘伝として公の場で使う人もいない。

 

「とりあえず精霊石と破魔札で対応したって書いておきましょう」

 

書いても良いんだけど、横島君が陰陽術を使えると知られれば、横島君の立ち位置が危ない。

 

(六道家にGS協会……それに陰陽寮……どこもちょっかいをかけてくるわね)

 

可能性としては陰陽寮が一番厄介だ。陰陽術を売りにしている京都のGS組織なのだが、陰陽術を使う事ができないので破魔札を作る組織だ。無論それは全てとは思えない、あれだけの組織が陰陽術を使える人間を把握していないとは思えない。表にしていないだけで何人かの陰陽師の事を把握しているとは思っている

 

(これは知られるわけには行かないわね)

 

それに使えたとしてもそれを毎回使えるという確証もない。どちらかと言うと危機的状況で咄嗟に使ったという感じが正しいような気がする

 

(となると今の横島君は使えないんじゃ……)

 

あの陰陽術の霊力の消耗はかなり激しい物だった。横島君の霊力の数倍だと私は思う……

 

「まぁこんな物かな?」

 

私は精霊石を良く使うから、これで通るでしょう……

 

「さてとじゃあ、お昼から冥子の所で報酬の話し合いっと……ジリリリリ。嫌な予感」

 

机の上の電話が鳴る。直感的に嫌な予感がして眉を顰めながら電話を取る

 

「もしもし?」

 

『もしもし~令子ちゃん~覚えてる?私~よ~』

 

この間延びした口調は冥子だと思うけど……違う。これは……

 

「冥華おば様でしょうか?」

 

冥子の母親にして、GS協会の大御所。六道冥華さんに間違いない。私この人苦手なんだよなと苦笑する。

私のお母さんの師匠に当たるので面識はあるんだけど、どうも苦手なのよね

 

『そうよ~この前の除霊ありがとね~』

 

もしかして、使い魔であの除霊を見ていた?冷や汗が流れるを感じながらあくまで平常心を保つ、冥華おば様は現代では殆ど居ない陰陽術の使い手でもある、とは言え使えるのは式神と札を媒介にする使い魔の召喚……見られた可能性が極めて高い。

 

「いえいえ、私の方も冥子のおかげで無事に除霊を完了する事が出来ました」

事実冥子の式神が無ければ、あの除霊は失敗していたと思う。

 

『ふふふ~そんな事はないわ~冥子もそうだけど~あの除霊は横島忠夫君かな~彼のおかげじゃないかしら~?』

 

舌打ちを打ちそうになるのを必死にこらえる。間違いなく、この人はあの除霊を見ていた

 

「それで何の御用でしょうか?横島君は霊体痛で動けないので会わせる事が出来ないですよ?」

 

間違いなくあれだけの霊力を消耗している横島君は酷い霊体痛になっているはずだ

 

『もう~そんな事を言わないで~私知ってるんだから~横島君の為に霊力回復薬を買って持たせてあげたんでしょう~』

 

ぐう!?どうしてそこまで知っているの!?私が呻くと冥華おば様は嬉しそうな声で

 

『娘を助けてもらった~お礼をしたいので~今日のお昼からの報酬の話の時に横島君も同席させてね~』

 

これは絶対あれだ。自分の所に引き込もうとしている……だが断るわけにも行かない

 

「判りました。それでは何時ごろに伺えば宜しいでしょうか?」

 

考え方を変えよう。六道冥華の名前があれば大概のGSは手を引く。横島君の身の安全の為にと考えればいい。

 

『それじゃあ12時頃に来てくれるかしら~お昼をご馳走したいから~』

 

「判りました。では12時に伺わせて頂きます」

 

『待ってるわ~』

 

楽しそうに電話を切る冥子おば様……私は溜息を吐きながら椅子に腰掛

 

「これは少し不味いかもしれないわね」

 

本気で六道家が横島君の引き抜きに力を入れてきたら不味いわね……

 

「これは何とかしないと……」

 

横島君を引き抜かれると蛍ちゃんとおキヌちゃんも引き抜かれる可能性がある。これは気合を入れていかないと

 

「あの狸を相手にするのはきついわね」

 

人の良い顔をしているが、かなり厄介な相手と言うのは私も知っている。もしかするとどんな除霊よりも厳しいかもしれないと思いながら横島君の家に連絡し、後で迎えに行くと伝え、完成した報告書をGS協会と依頼者の下に郵送するために事務所を後にしたのだった……

 

 

 

 

受話器を電話の上に戻して、部屋の入り口を見る

 

「……」

 

じーっと私を見ている冥子。その顔は期待と不安の色を見せている

 

「入ってらっしゃい~」

 

取り合えず顔を見て話をしないといけないと思い。冥子を呼び寄せる、冥子はショウトラを抱き抱えて

 

「横島君は~来てくれるの~?」

 

「わふわふ!」

 

冥子の腕の中で鳴声を上げるショウトラ。凄く懐いているわね。どうして冥子より懐いているのかしら~

 

(もしかして~陰陽師が関係しているのかしら~?)

 

ショウトラ達は初代の六道家の当主と懇意だった陰陽師が作り出した式神と聞いている。もしかすると陰陽師の持っている独特な霊力があるから、もしかするとそれに懐いているのかもしれない

 

「お昼に来てくれるわよ~一緒にお昼を食べましょ~って誘ってるわ~」

 

私の言葉を聞いた冥子と腕の中のショウトラは

 

「本当~嬉しい~♪」

 

「わふ♪わふ~♪」

 

にっこりと笑う冥子の腕から出てきたショウトラは机の上で尻尾を振りまくっている。凄い懐いているわ~

 

「ショウトラちゃん~お着替えして~出迎える準備をするわよ~それじゃあお母様~また後で~」

 

「わふーん♪」

 

楽しそうに部屋を出て行く冥子とショウトラ。特にショウトラが飛び跳ねるようにして移動している。よっぽど横島君が気に入ってるのね~

 

「さてと~じゃあ~ご飯の用意よね~」

 

キッチンに通じている電話を手に取る。決まったら連絡するって言っておいたから直ぐに出てくれた

 

『はい。大奥様、なんの御用でしょうか?』

 

「お客様~が来るから~お肉と~お寿司と~もうとにかく色々用意しておいて~」

 

横島君が何を好きなのか判らないので、とりあえずもう色々用意してもらいましょう。お酒は控えたほうが良いわね。冥子はお酒を飲むと式神をコントロールできないから

 

「さ~頑張って横島君に好印象を~与えるのよ~」

 

いきなり引き抜くなんて話をしたら、間違いなく失敗するから、少しずつ段階を踏んでいく。まずは外堀から埋めるのが定石よね

 

「あの子は本当に六道家に欲しいわ~」

 

使い魔の視界で見た横島君。もう誰も使えないはずの高位の陰陽術。そして式神を外部からのコントロール……それに……

 

「妖使いの才能。どれもこれも欲しいわ~」

 

正しい名称は当の昔に失伝してしまっているので正しい名称はしらない。だけど妖と共に戦う退魔師と言うのは今でも伝わっている。とはいえ今の時代に妖怪と共に暮らすGSなんていない。だけど横島君はグレムリンの赤ちゃんと妖狐と一緒に暮らしている。だからもしかすると妖使いとしての適性があるのかもしれない。無論詳しい文献はないのであくまで推測段階なんだけどね……

 

「会えるのが楽しみね~」

 

今の時間は11時25分。あと30分ほどで令子ちゃん達が来るはずだから、全てはそれからね。私は時計を見ながら門の外を見て、令子ちゃん達が来るのを楽しみに待つのだった……

 

「横島君が来るの楽しみね~」

 

「わふう♪」

 

母親が悪巧みをしているなんて事を知らない冥子は服を着替え、髪を整え。そしてショウトラの毛にブラシをして

 

「ほら~ショウトラちゃん可愛い~♪」

 

「わふーん♪」

 

赤いリボンをショウトラの首に巻いて、ショウトラを可愛らしく見せようと色々と考えていたのだった……

 

 

リポート6 式神使い六道冥子登場! その5へ続く

 

 




ショウトラも可愛いですよね。私はアレルギーなので触ることが出来ないですが、犬は可愛いと思っています。見る分には……ですけどね。次回は横島をメインにしていこうと思います。勿論チビとかタマモも出てきますので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は前回の予告通り、横島をメインにした話を書いていこうと思います。マスコットとかの活躍もあるので楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート6 式神使い六道冥子登場! その5

 

「あー良く寝た……」

 

ゆっくり身体を起こし大きく欠伸をする。体の疲れもなくて最高の目覚めだ、伸びをしていると俺が起きた事に気付いたチビが

 

「ミミー!みーみー」

 

俺が身体を起こすと直ぐに膝の上に乗って、小さい手を振るチビ

 

「おーよしよし」

 

「みーん」

 

指でチビの頭を撫でていると壁からおキヌちゃんが顔を出す。最初は驚いたが、今では慣れた物だ。人間ってたくましいよなあと思い苦笑していると

 

【横島さん。もう大丈夫ですか?】

 

心配そうな顔で尋ねて来るおキヌちゃん。心配してくれてるのは判るんだけど……

 

「大丈夫って何のこと?」

 

別に身体の調子は悪くないし……何のことだろう?

 

【霊体痛で呻いていたんですよ?】

 

霊体痛?なにそれ?聞いた事のない言葉に首を傾げると

 

「霊体痛って言うのは霊力を使いすぎると起きる現象で、酷い痛みが走るのよ」

 

蛍が部屋に入ってきながらそう説明してくれる。俺は手足を動かしながら

 

「そうなんか?ワイどこも調子悪くないけどなあ」

 

手足を動かしてみるが、そんな痛みはどこにもない……本当にそんな状態になっていたのか?と首を傾げていると

 

「美神さんが霊体痛の薬をくれたからよ、あとでお礼を言っておきなさいよ」

 

そうなんか……お礼を言わないと行かんな……チビを頭の上に乗せてベッドから立ち上がり……ふと気付く

 

「なんでいるん?」

 

いないはずのおキヌちゃんと蛍がいる事に不信感を抱き尋ねると

 

「念の為に美神さんが様子を見てなさいってね」

 

【そう言うわけです】

 

そうなのか……本当に美神さんには世話になってるなあ……本当口は悪いけど良い人だよなあ……

 

「それよりも出かける準備をして、美神さんから電話があって六道さんの家に行くことになったからね」

 

六道……って冥子ちゃんの家か。何の用事だろう?

 

「じゃあ着替えるから。リビングで待っててくれ」

 

蛍とおキヌちゃんが部屋を出たのを確認してからジャージから普段のジーパンとジージャンに着替える

 

「み!」

 

よほどジージャンのポケットが気に入ったのか、顔を出して手を振っているチビに苦笑しながらリビングに向かうと

 

「コーン」

 

7本の尻尾を振りながら駆け寄ってくるタマモを抱き上げて

 

「おはようなー」

 

「コーン」

 

顔を摺り寄せているタマモの頭を撫でていると

 

「もう美神さんも待ってるから行くわよ」

 

「ん?飯は?」

 

腹空いてるんだけどなあと思いながら言うとおキヌちゃんが

 

【冥子さんの家で食べれるそうですから少し我慢してくださいね】

 

そう言われると無理に駄々をこねるわけにも行かない。頷いて蛍達と一緒に家を出ると

 

「おきたわね。身体の調子はどう?」

 

いつものコブラではなく、バンの隣に立っている美神さんに

 

「霊力の薬どうもありがとうございました」

 

それが無ければもっと調子が悪かったんだろうなと思いながら頭を下げる

 

「構わないわ。まぁ先行投資って所ね。早く一人前のGSになって恩返しして頂戴」

 

そう笑った美神さんだけど、次の瞬間には真面目な顔をして

 

「六道家はGSの中でもかなり力のある家系よ。失礼の無いようにね、それと……いろいろと言われる事があるとおもうけど……下手にハイって返事したりサインとかしたら駄目よ」

 

何の話か判らず首を傾げると隣の蛍が

 

「覚えてないかもしれないけど、前の除霊の時に横島は陰陽術を使ったのよ?覚えてない?」

 

んな事を言われてもなぁ……あの時は悪霊から冥子ちゃんを護るのに必死だったし……それに悪霊に体当たりされて意識を失ったしなぁ。それに

 

「陰陽術ってあれだろ?りんぴょーかいしゃーなんちゃらとかの?」

 

漫画とかTVで見た事はあるんだけど……んなもん俺は蛍にも教わってないし、それに美神さんにも教えてもらってない

 

「何かの間違いじゃないのか?」

 

「蛍ちゃんの言ってることは本当よ。私も見てたしね」

 

美神さんにもそう言われる。だけど覚えてないから何ともいえないんだけどなあ……

 

「六道家は式神を使いこなす家系よ。式神と陰陽術は密接な関係があるから、今回呼ばれたのはそれが関係しているはずよ」

 

「はぁ……」

 

なんか大変な事になっているのは判るんだけど……内容がさっぱり判らない

 

【判ってないなら無理に返事をしないほうがいいですよ?】

 

おキヌちゃんにそう言われて苦笑していると

 

「まぁ良いから乗りなさい、待ち合わせの時間に遅れるからね」

 

美神さんの言葉に頷き、俺達はバンに乗り込み冥子ちゃんの家へと向かったのだった……

 

 

 

 

美神さんの運転する車で六道さんの屋敷に向かう。

 

「遠いんですか?」

 

車で移動ってことは結構遠いのかもしれないと思い尋ねると美神さんは正面を見たまま

 

「割と近いわよ?だけど歩いていくのもね。おかしな話でしょ?」

 

まぁ……確かに1流のGSと言われる美神さんが歩いていくって言うのもおかしな話だね……

 

「車で10分位ね。直ぐ着くわよ」

 

そう笑う美神さん。車の運転を邪魔をするのも良くないので同じく後部座席に座っている横島を見ると

 

「み!みっ!みっ!」

 

「よしよしよし」

 

膝の上に座って短い手を振っているチビと遊んでいた

 

「ん?どうかしたか?」

 

「ううん。なんでもない」

 

なんか見ていて和む光景なのでそのままで良いや。おキヌさんも遊んでいる横島とチビを見て

 

【こういうのも良いですね~】

 

小動物と遊んでいる横島と見て和んでいた……まぁ私も和んでいるんだから何とも言えないんだけどね……

 

「コン……」

 

「よしよし」

 

膝の上に丸まって私も構えと言いたげなタマモの頭を撫でる横島を見ながら

 

(多分今回呼ばれたのは陰陽術のせいよね)

 

そうで無ければ横島を六道家が呼ぶ理由がない。それに……お父さんのトトカルチョに刻まれていた「六道冥子」名前……

 

(警戒を強める必要があるわね)

 

六道家がどれほど強大かは判らないけれど、横島は私のだから奪わせないんだからね!握り拳を作り心の中でそう誓うのだった……

 

「なんか蛍が怖いなあ」

 

「みみ……」

 

「コン……」

 

【ですねえ。大丈夫ですか?横島さん】

 

蛍の威圧感に負けた横島とチビとタマモとおキヌはぶるぶると震えていたのだった……

 

「着いたわよ。降りて」

 

車を降りる。そこは都心の真ん中に居を構えた豪邸

 

(凄いわね。これは)

 

とんでもない……こんな都心の真ん中に豪邸を構える。もしかすると六道家は相当のお金持ちなのかもしれない。

 

「わふーん!!!」

 

突然聞こえた犬の声に振り返ると巨大な白い犬。六道さんの式神のショウトラがジャンプしていた

 

「ぬわあああああああ!?」

 

「横島ー!?」

 

その巨体に体当たりされ引っくり返る横島。ショウトラは横島の上に乗って

 

「わふわふわふ♪」

 

「なー!止め!ぺろぺろやめー!!!!」

 

物凄い勢いで横島の顔を舐めているショウトラを引き離そうとするのだが

 

「す。凄いパワー」

 

【引き離せない……】

 

私とおキヌさんで引っ張っているのに動かないショウトラ。信じられないパワーだ

 

「ミ!ミー!!!」

 

「コン!」

 

横島のポケットから這い出したチビがぺちぺちとショウトラの鼻先を叩き、タマモが前足で攻撃するが

 

「わふわふー!」

 

全然効果がない。どれだけショウトラは横島が好きなのよ!

 

「のわー!止めてくれ!」

 

前足で押さえつけられているので逃げられない横島が叫ぶ。私達も助けてあげたいんだけど……ショウトラのパワーが強すぎる。

 

「駄目よ~ショウトラちゃーん」

 

のんびりとした六道さんの声がすると、ショウトラはさっきまでの嬉しそうな素振りとは逆にしょんぼりした感じで

 

「わふ……」

 

名残惜しそうに横島から離れるショウトラの後ろから

 

「ごめんね~横島君~ショウトラちゃんが走って行っちゃって~」

 

笑いながら姿を見せる六道さん。私はスカートからハンカチを取り出して、ショウトラの唾液でべとべとの横島の顔を拭くいてあげるのだった

 

「ひでえ……」

 

うん。私から見ても酷い有様、Gジャンには犬の肉球のあとがついてるし、顔は唾液でべとべとだし、本当に酷い有様だ

 

「本当にごめんね~横島君~」

 

謝っているんだけど、声が間延びしているので謝っているように思えない

 

「いやいや大丈夫っすよ?」

 

ちょっと疲れているように思えるけど立ち上がって笑う横島に

 

「別に我慢しなくてもいいのよ?冥子の式神は強力だから結構きついんじゃない?」

 

「だ、大丈夫っす!」

 

美神さんに言われても大丈夫と言う横島。本当に女性の前では見栄を張るのね……

 

「本当~じゃあ来て~今日はね。横島君と令子ちゃんにお礼するために~ご馳走なのよ~」

 

えへへと笑って歩いていく六道さん。その仕草を見ていた私とおキヌさんは直感的に感じた

 

【(あれは敵だ)】

 

間違いない。あれは間違いなく、私達の敵だと……

 

「うおおおお……す、すげえ……」

 

案内された部屋には寿司に肉に天ぷらに洋食の数々。そのどれもが名店の品だと判るほどのご馳走がたっぷり並べられていた

 

「待っていたわ~令子ちゃん~横島君~それに芦ちゃんだったかしら~まずはお食事してからお話しましょう~?」

 

ニコニコと笑っている六道さんのお母さん。美神さんの話では冥華さんと言うらしい……なんて怪しい人なの!?笑顔なのに警戒心ばかりが強くなる

 

「それじゃあ。頂きますね。冥華おばさま」

 

「どうぞ~皆様の為に~用意したのよ~」

 

とりあえず食事をしないことには話が進まないと判断して私も椅子に座る。横島は直ぐ寿司を食べ始めると思ったんだけど……

 

「ほーれ。チビあーん」

 

「みーん♪」

 

小さく斬った果物をチビに与えつつ、ゆっくりと食事を始めていた。私も目の前のサラダに手を伸ばすのだった……

 

 

 

はー美味かった……こんなに美味いの食べたの始めてや……

 

「喜んでくれてなによりだわ~横島君~」

 

ニコニコと笑う冥子ちゃんのお母さんの冥華さんに

 

「ミーン!」

 

チビに食べさせた果物なのだが、随分気に入っているみたいだから後で少し分けてもらえないか聞いてみよう

 

「それで、冥華おば様?今日私達を呼んだ理由は?ギャラの話だけではないですよね?」

 

美神さんがそう尋ねる。俺や蛍が話に割り込むと邪魔になるので静かにする。報酬の話とかはデリケートな話なので邪魔をしてはいけないからだ

 

「報酬の話は~8・2でいいわぁ~横島君と令子ちゃんがいなければ冥子だけじゃあ除霊出来なかったからね~」

 

そう笑う冥華さん。だけどそれで良いんだろうか?冥子ちゃんも頑張ったはずなのに……真向かいで食事していた冥子ちゃんを見ると

 

「……さ」

 

なんで俺から目を逸らすんだろうか?そんなに俺は怖い顔をしているだろうか?足元には

 

「わふ♪」

 

ご主人から離れていいのか?ショウトラ?なんでそんなに落ち着いているんだろうか?

 

「その代わり~お願いがあるんだけど~?」

 

にこにこと笑う冥華さん。笑顔のはずなのに、どうしてだが寒気を感じる。

 

(お、お袋と同じだ……)

 

あの笑顔はお袋と同じだ。それを見て警戒心が一気に跳ね上がる。手にしていたグラスを取りオレンジジュースを飲んで気を落ち着ける……じゃないとそのままあのオーラに飲み込まれてしまうからだ

 

「内容によりますわ。横島君は我が美神除霊事務所の優秀なGS見習いですから」

 

優秀……まぁこれは多分話の流れで言っているんだろうなあ……俺はまだGSとしては余り未熟すぎるだろうから

 

「それは判ってるわ~横島君は~自分が妖使い~って言う稀有な才能があるって知ってるかしら~?」

 

妖使い?なんのこっちゃ?そう言えば前も冥子ちゃんがそんな事を言ってた気がするけど……

 

「み~み~」

 

果物をぺちぺちと叩いているチビ。まだ食べたいのか、ナイフで果物の皮をむいて小さく切ってから

 

「はいあーん」

 

「みーん♪」

 

小さい口を大きく開いて果物を頬張るチビ。最近は歯が生え揃ってきているので摩り下ろす手間がないので少し楽だ。

 

「コン」

 

俺をじーとっと見ているタマモ。今度はお稲荷さんに手を伸ばして

 

「ほい。あーん」

 

「コン♪」

 

小さく口を開くタマモの口にお稲荷さんを入れて、食べさせているとそれを見た冥華さんが

 

「それよ~横島君は~妖怪と心を通わすことが出来るのよ~それはとっても稀有な才能なのよ?」

 

稀有って言われてもなぁ~俺としては普通に接しているだけなんだけど……

 

「それに横島君は~陰陽術師としても~優秀な才能を持っているみたいだし~その才能を伸ばす事を考えるべきだと思うのよ~?」

 

「ですが、今は実戦で使えるような陰陽術を使えるような陰陽師は存在しませんわ。無理に伸ばせない才能はそのままの方が宜しいのでは?」

 

まぁ俺としては覚えたいけど、師匠がいないのなら無理に覚える事はないかな?

 

「公にはね~?裏の世界とか名家には陰陽術は伝わっていると思うけど~どこも秘密主義だからねえ~だからね~六道の家に伝わっている陰陽術の本を令子ちゃんに貸してあげるから~横島君に陰陽術を教えてあげて~?」

 

俺の前に差し出された古い和綴じの本……少しページを開いていると達筆なのか、下手なのか良く判らない字が書かれている。よ、読めん……俺が冷や汗を流している中美神さんは真剣な顔をして

 

「……なにを企んでいるんですか?」

 

美神さんがそう尋ねる。俺も少し違和感を感じている、お袋と似ているからただではないとおもう……

 

「優秀な~GSを育てるのはGS協会の人間としては当然よ~」

 

「見返りがないじゃないですか?これはおかしなことだと思いますが?」

 

美神さんと冥華さんが難しい話をしている。なんかこう大人の黒い面を見ているような気がする

 

「なんか怖いな~」

 

「そうね。静かにしてましょう?」

 

【霊力がぴりぴりしてますね。居心地が悪いです】

 

俺と蛍それにおキヌちゃんはその雰囲気が恐ろしくて、身体を小さくする。こういう時は大人しくしているに限る。それは野生を持つチビ達も同じのようで

 

「みー」

 

「こーん」

 

「わふ……」

 

頭を下にして尻尾を突き上げているチビ達。やっぱり怖いんだろうなあ……

 

「えーとね~えーとね~横島君たまにでいいから~私と除霊のお仕事をしましょ~それがお願いなの~?」

 

冥子ちゃんが上目目線で尋ねて来る。いや、そんな事を言われても俺もGS見習いだからそんな事を言われても困る

 

「六道さん。横島はまだGS免許もないんですよ?判ってますか?」

 

「判ってるわ~だけど冥子。横島君と仕事したいな~」

 

にこにこと笑う冥子ちゃん。冥華さんも厄介だけど……冥子ちゃんも厄介だな……

 

「……その件は少し考えさせてください。難しいことですから」

 

「判っているわ~でも多くの事務所でGSの勉強をするのも~悪くないわ~前向きに考えておいてね~」

 

にこにこと笑う冥華さんに美神さんは眉を顰めながら

 

「前向きに検討しますわ。それじゃあ横島君、蛍ちゃん、おキヌちゃん行くわよ」

 

立ち上がって出て行く美神さん。俺も立ち上がり

 

「ご馳走様でした!それとこの本どうもありがとうございました」

 

机の上の本を抱え、チビをポケットの中。タマモを頭の上に乗せて追いかけていこうとして

 

「あのすいません、この果物貰っていっても良いですか?」

 

胸ポケットの中からつぶらな目で見ているチビを見て、忘れかけていた事を思い出し尋ねると

 

「どうぞ~持って行っていいわよ~」

 

冥華さんが笑いながら言ってくれた事に安心し、机の上の果物を2~3個貰い

 

「ありがとうございます。じゃあまた今度」

 

「またね~横島君~」

 

「わふ」

 

手を振る冥子ちゃんとショウトラに手を振り俺は六道の屋敷を後にしたのだった……

 

「横島、その本は私が預かるから」

 

車に乗るなりそう言う蛍。有無を言わさない迫力があったのでその本を手渡す

 

【んー横島さんのそばが居心地がいいのは、妖使いの才能なんですかね~?】

 

俺のそばでぷかぷかと浮いているおキヌちゃんがそう呟く。そんな事を言われても俺には判らん

 

「とりあえず横島君。暫く妖使いと陰陽術のことは忘れなさい、今は普通のGSになることだけだけ考えなさい。2つも3つも同時に覚えるのは無理だからね」

 

運転しながら言う美神さんに頷く。俺自身そんなに頭が良くないことを自覚しているので1つに絞ったほうが良いと思う

 

「まぁなんにせよ。まずは事務所に帰りましょうか、なんか疲れたし……」

 

確かにあの雰囲気だけで疲れた。それに満腹な事もあり、俺は車の背もたれに背中を預け眠りに落ちるのだった……

 

 

美神達が冥華との話会いを終えて事務所に戻っている頃。空港に降り立つ長身の老人と女性

 

「いやーやっと日本に来れたのうマリア?」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

ドクターカオスと呼ばれた老人はにやりと笑いながら

 

「逆行とはまた面白い事を考えるのう、あのお嬢ちゃんは」

 

「イエス・だけど・私は逆行できて・嬉しいです」

 

無表情なのに嬉しそうと珍しいことをするマリアと呼ばれた女性。いや正しくは女性ではなく、ヨーロッパの魔王と呼ばれる。ドクターカオスが作り出した人造人間なのだが……

 

「さてとまずは蛍のお嬢ちゃんを探すかの?話をしないといけないしな」

 

先ほどの逆行と言う言葉と蛍を知る。ドクターカオスとマリア。彼と彼女もまた逆行者だが、蛍達とは別の方法で逆行してきた2人組みだ

 

「蛍さんの・霊力の波長は・データベースにあります・すぐに検索に入ります」

 

「任せるぞ、マリア」

 

楽しそうに笑うドクターカオス。身長とその鋭い目つきのせいで若干恐ろしくも見えるが、その優しい目の光は孫の幸せを願う老人その物だった……

 

レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その1へ続く

 

 




次回はドクターカオスとマリアを出してみようと思います。逆行しているので原作のイベントは若干カットしますけどね
逆行してきたカオスが何を企んでいるのか?それを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回のレポートは「逆行者ドクターカオス&マリア」と銘打っていますが、その1と言うこともあり登場は少しになります。本格登場は次回からになりますのでご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その1

 

昨日冥華おば様から預かった陰陽術の本。読んでみようと思っても読めないと言う蛍ちゃんから預かり見ているんだけど

 

「私も読めないわね」

 

達筆だから読めないなどではなく、これは特定の人物しか読めないように特別な加工を施されているのだ

 

「だからこんな貴重な本を私に手渡したのね」

 

特定の人物しか読めないのなら、歴史的な価値はあるが……GSとすれば読めない陰陽術の本なんて正直何の価値もない。

 

「どうしましょうかね」

 

もし読めるなら横島君に少しずつ陰陽術を教えようと思っていたんだけど……なんせ今の横島君は「破魔札」しか使える武器がないから……とは言え、読むことが出来なければ教えようがない

 

「図式と術式は書いてあるけど……その周りの文字は読めないのよね」

 

術式と図式で推測してやるのはあまりに危険すぎる、となるとこれはお蔵入りにしないといけないかもしれない……

 

「あー誰かいないかしら」

 

この文字が何なのか?そして読める人材……知り合いのGSの顔を思い浮かべるが、やはり陰陽術を使えるようなGSの知り合いはいない。もしかしたら先生なら……

 

「だけどあの人神父だしねえ」

 

私のGSの師匠「唐巣神父」ならもしかしたら……神父だから陰陽師に詳しいかどうかは不安があるけど……

 

「横島君と蛍ちゃんを紹介するついでに見せてみればいいか」

 

読めなくて当然。メインは私の弟子の紹介と言うことで先生の所に行けばいいか

 

「おキヌちゃーん」

 

【はーい?なんですか?】

 

キッチンから顔を出したおキヌちゃん。横島君の家に出かける事も多いけど、基本的には私の事務所にいてくれるおキヌちゃん。食事の用意に掃除をしてくれる彼女の存在はとても助かっている

 

「明日。私のGSの先生の所に行くんだけど、あの人貧困生活をしてるから……食べ物を持って行くから何かその場で作れる料理の材料を考えておいてくれる?」

 

私もそれなりに料理は出来るつもりだけど、めんどくさい後片付けとかは好きじゃ無いし、道具をしまうのも苦手だ。その点おキヌちゃんは整理整頓とかも得意だしおキヌちゃんに頼めば楽だし……なんかおキヌちゃんがいるようになってからあんまり家のの事しなくなったなあと苦笑しながら

 

【判りました~えーとお好きな料理とかは?】

 

そう尋ねて来るおキヌちゃんに私は昔の事を思い出しながら

 

「和食が好きだからそれでお願いするわ」

 

先生は神父だけど日本人だし、和食が好きってよく言っていた事を思い出しそう頼む

 

【はーい。判りました~それじゃあ私横島さんの所に行くんでまた明日。夕食は用意してあるので自分で温めてくださいね~】

 

そう笑って窓から出て行くおキヌちゃん。これは間違いなく朝まで帰ってこないパターンね。まぁ……幽霊だからどうこうってことはないだろうけど……

 

(300年前の子にしては随分積極的よね)

 

あの時代の子と言うのはもっと奥ゆかしい物では?と言う感想があるが、今の時代に慣れただけ?とも思うのでそんなに気にしない。代わりに机の上の受話器を取り

 

『もしもし。横島ですが?』

 

「あ。横島君?私よ美神。明日私の師匠の先生の所に行くからね?朝から行くから……そうね。9時ごろに迎えに行くから」

 

『明日俺学校なんっすけど……」

 

まぁ確かに平日だからそれは当然だけど、そこはGSの弟子としてちゃんと学校に話も通してある

 

「公休要請しておくから心配ないわ。蛍ちゃんにも伝えておいてね?じゃあ明日」

 

用件だけ伝えて電話を切り、キッチンに自分の夕食とビールを取りに行こうとして

 

「おっとしまっておかないとね」

 

一応歴史的な価値がある古文書でもある陰陽術の本を机の引き出しにしまう。本の表紙に書かれている恐らくこの本を書き上げた人物。「高島」の名に若干の懐かしさを感じつつ、私は引き出しにしまって鍵を掛け

 

「さーて今日のつまみはなにかしら~♪」

 

料理上手なおキヌちゃんの事だから失敗はないはず。今日のつまみが何なのかを楽しみに私はキッチンに向かったのだった……

 

 

ツー・ツー・と音を立てる電話に溜息を吐きながら受話器を元に戻す

 

「美神さん?」

 

キッチンから顔を出した蛍に頷き、肩の上に座っているチビを落とさないように気をつけながら座布団の上に座り

 

「明日なんか美神さんのGSの師匠さんの所に行くんだって」

 

ふーんと返事を返しキッチンに引っ込む蛍。夕食を終えて洗物をしているところだ。最初は手伝おうとしたのだが、私に任せてと言われたので、こうしてTVを見ている。もう最近は朝か夜は蛍かおキヌちゃんがいるし、2人ともいることもある。そのおかげで俺の食生活と生活習慣は大幅に改善された。不満があるとすれば、男子高校生の必需本を見る事が出来ない事だが

 

「み?」

 

俺の肩の上のチビがいるのでどの道諦めるしかない。小さい子供がいる所でエロ本は駄目だろう。妖怪だけど、子供は子供。そこの所はちゃんとしないといけない

 

(良く考えたらこれって通い妻ってやつで……ふふふふ」

 

彼女なんてお前には出来ないとか言ってくれた同級生にこのことを教えてやりたいぜと思っていると、膝に軽い重みを感じて視線を下に向けると

 

「……」

 

タマモが頭を乗せて俺を見ていた。自分も構えと言いたげな表情は愛嬌がある。タマモを膝の上に乗せて頭を撫でる、なお横島は気付いていないが、さっきの言葉は口に出ており。キッチンで洗い物をしていた蛍は

 

「シッ」

 

小さくガッツポーズを取っていた、自分の作戦が思うとおりに進んでいる事に対する喜びだろう

 

【こんばんは~横島さん~】

 

「ん?こんばんわ。おキヌちゃん」

 

チビと遊んでやっていると壁から顔を見せるおキヌちゃんに返事を返す。たまーに黒いけど基本的には良い子だ

 

(幽霊じゃなかったらなあ……)

 

黒いけど優しいし、母性に満ちているし……それにあの優しい笑顔も結構……

 

「よ・こ・し・ま~!」

 

「あいだだだだ!!!」

 

どうやら声に出ていたようで、蛍に耳を抓られ嬉しそうに頬を紅くしているおキヌちゃんを見ながら、へそを曲げてしまった蛍の機嫌取りに苦戦するのだった

 

「それで何しに来たの?夜に来るなんて少し常識がないんじゃない?」

 

【若い女性が男性の家に泊まるのもどうかと思いますけどね?】

 

何とか蛍の機嫌は直ったんだけど、今はおキヌちゃんと蛍がにらみ合っていてとても怖いので

 

「チビ~おいで」

 

「みーん♪」

 

小さな羽根でパタパタ飛び回っていたチビを呼んで抱っこしてやると

 

「みーみー♪」

 

その小さい手で俺の指に手を伸ばすその愛らしい仕草に癒されていると

 

【横島さん。これ美神さんからです】

 

どうも俺がチビと遊んでいる内に話が進んだみたいでおキヌちゃんが机の上に瓶を置く

 

「それは?」

 

見たことのない黒い瓶に若干の恐怖を感じながら呟くと

 

「霊体痛の薬。念の為に飲んでおきなさいって」

 

蛍の説明を聞きながら瓶の蓋を開けて中身をあおり

 

「まっずうううう!!!」

 

信じられない不味さに絶叫する。苦い・甘い・辛い・すっぱい・とにかく訳のわからない味だ。俺が苦しんでいるの気付いてタマモが近寄ってくるが

 

「こ、コン?」

 

さすがにどうすればいいのか困惑している様子。不味い物を飲んだダメージなんて流石のタマモでも回復させることが出来ないだろう

 

「飲んだら早く寝ると良いわ、睡魔が来るからね」

 

蛍の説明を聞き終わる前に既にかなりの睡魔が襲ってきている。近くのタマモを抱き抱えながら立ち上がり

 

「んじゃあ。俺の部屋から毛布をもってきれくれるかあ?今日はソファぁで寝るからぁ」

 

既にかなりの睡魔のせいで呂律が回ってないが何とか言い切る。蛍をソファーで寝かせるのなら俺がソファーで寝ると言うと

 

「駄目よ。私はソファーで平気だから早く自分の部屋にね?」

 

「いやあ……だめらって」

 

女の子が身体を冷やしたらあかん、お袋が何回も言っていたのでそう言うが蛍は

 

「良いの良いの。ほら自分の部屋にね?」

 

俺の背中を押して俺の部屋に押し込む蛍。俺は欠伸をかみ殺しながら

 

「チビお休みなー」

 

「みー」

 

タンスの上のチビの籠にチビを寝かせる。無論まだ寝る気はない様で籠を噛んだりして遊んでいるが

 

「タマモも……おやすみ」

 

「くう」

 

ベッドの近くに置いてある、大きいタマモ用の籠にタマモを寝かせ、俺も布団にもぐりこむと同時に眠りに落ちたのだった……

なお蛍が横島を部屋に戻した理由は

 

「横島の布団なんて恥ずかしくて無理よ……」

 

【心臓に悪いですよね~】

 

想い人の布団で寝るのが恥ずかしいという極めて乙女な理由からだった……そしてもしその布団に入ると

 

「なんかとんでもない粗相をしそうだしね……」

 

【その意見は同意です】

 

そして逆行してでも横島と添い遂げる事を目的にしていた蛍とおキヌには刺激が強すぎたと言うのが主な理由だったりする……

 

 

 

美神君が弟子を連れてくるというのでなけなしの食費から紅茶のパックを買ってきてお茶の準備をしていると

 

「先生?いますかー?餓死してませんかー?」

 

緋色の髪を翻し、悪びれた様子もなく言う美神君。その姿は弟子時代から殆ど変っていない

 

「はは……君は相変わらずだねえ」

 

私は弟子の変らない姿に喜べいいのか悲しめばいいのか良く判らなかったが

 

「今紅茶を入れたところなんだ。茶菓子はないけどね」

 

「それなら心配ないですよ。買って来ましたから」

 

そう笑って教会に入ってくる美神。その後ろをついて

 

「失礼しまーす」

 

「みー!」

 

「コン」

 

頭の上に妖狐とその手にグレムリンを抱えたバンダナをした少年が入ってくる。恐らく電話で聞いた横島君と言う少年だろうが

 

(これはまた随分と個性的な弟子を……)

 

妖怪を普通に連れていること自体かなり稀有なのだが、横島君はどうやらかなり膨大な潜在霊力を持つらしい。霊視が得意な私には完全に見えている。私や美神君よりもはるかに膨大な霊力の存在を……ただかなり奥深くに眠っているらしく、何かのきっかけがなければ目覚めることは無いだろう。大器晩成とでも言えばいいだろうか?そして横島君の後ろについて入ってきた

 

「失礼します」

 

短く髪を切り揃えた横島君より少し年上に見える少女。彼女は彼女で既に普通のGSとして活動できるだけの霊力を持っていた。それに足捌きを見る限りかなり近接戦闘も出来そうだ。そして最後に

 

【お邪魔します】

 

買い物袋を持った幽霊の少女。物質に干渉できるとは相当霊格が高いのだろう……しかしGSの所に一緒にいる幽霊と言うのもかなり珍しいだろう

 

「先生。どうですか?私の事務所のメンバーは?」

 

そう尋ねて来る美神君。若手NO1と言われる彼女が選んだけありかなり優秀そうだが……

 

「凄く個性的な子が多いね」

 

何と言えばいいのか判らず取り合えずそう呟き、美神君達を奥の部屋に案内したのだった

 

「そうそう。先生たぶんまた何も食べてないと思っておにぎりを作って来たので後でどうぞ」

 

「それは助かるよ」

 

私はどうも困っている人間を見捨てる事が出来ないので、報酬を貰わない事が多い。そのせいで赤貧生活……その事を知っている美神君の言葉に苦笑するのだった……暫く雑談しながら自己紹介を済ませた所で美神君が机の上に本をおく。古い和綴じの本だ……

 

「陰陽術の本か……専門ではないんだけどね」

 

クッキーと紅茶を飲みながら本日尋ねてきた理由である。陰陽術の本を手にする、長い時間経っているにも関わらず、風化をしてないところを見るとかなりの高位の術師が書いたのだろう

 

「横島。はいあーん」

 

【横島さーん。こっちの方が美味しいですよ~?】

 

2人の少女にクッキーを向けられて汗を流している横島君。うーん……どういう状況なんだろうねと苦笑しながら

 

「恐らくだけどこの陰陽術の本は自分の血縁の物にしか読めないのだろう」

 

特別な呪によって構成されている。恐らく血縁者にしか読めない物なのだろう、もしくは陰陽師にしか読めないようになっているのでは?と呟く。魔術書などはそう言うのが多いのだ

 

「みーん♪」

 

小さな手にクッキーを抱え込んでいるグレムリン。普段はもっと強暴だと聞くが、この子は随分と大人しい……恐らくだが横島君は妖使いの特性があるのかもしれない。優秀な才能だが、リスクもある……普通のGSは妖怪を祓うもの……しかし妖使いはその妖怪と共に歩く者。かつてはかなりの数がいたと聞いたことがあるが、現代ではそんなGSはいない。その面では異端者と言われる可能性が極めて高い。正直美神君の弟子になっていて良かったかもしれない

 

「あーむ」

 

2人のクッキーを同時に食べるという方法でその危機を乗り越えた横島君を見ていると

 

「先生でも読めないですか?」

 

美神君の問い掛けに私はぱらぱらと手の中の本を見ながら

 

「普通の所は無理だね。聖句に近い文面の所はかろうじて……と言う所だね」

 

陰陽術は仙術の流れも汲んでいる。破邪の術は辛うじて私の使う術に近いものがあるので、図式と術式を元にある程度は理解できる

 

「そんなに難しい物なんっすか?」

 

紅茶で口直しをして、チビと言うグレムリンの口元を拭っている横島君に

 

「君も見てみるかね?」

 

多分無理かもしれないけどと思いながら横島君のほうにその本を手渡す。

 

「横島君。とっても貴重な本だからね?汚したりしないでよ?それだけで横島君が六道の家に引き抜かれる事になるからね?」

 

そう呟く美神君。私はその中に聞き捨てならない言葉を聞いて……

 

「この本……まさか、六道の……?」

 

どこで入手したんだろう?と思っていたが、まさか六道の本だったとは……

 

「横島。本当に気をつけてね?冥子さんとか冥華さんに付け込まれる隙を作らないでね?」

 

どうも話を聞いているだけだけど、既に横島君は六道冥華さんと冥子さんにかなり目をつけられている可能性があるということか……

 

「じゃあ……丁寧に見させてもらいます」

 

ゆっくりと本を受け取り。そのページを開く横島君だが……直ぐに視線が虚ろになり

 

「ぶつぶつ……ぶつぶつ……」

 

理解できない言葉を繰り返し呟き始める横島君。それと同時に膨大な霊力が彼の身体からあふれ出す

 

「いけない!先生!」

 

「判っているよ!」

 

美神君と一緒に即座に立ち上がり横島君の額に触れる。やはり制御できていないのか身体に少し影響が出ている。このままだと危険だと判断し

 

「「はっ!」」

 

私と美神君の霊力を横島君に流し込み、意識を刈り取る。がっくりと机の上に倒れこむ横島君

 

「……もしかして横島はこの本の作者の血縁者?」

 

蛍君がぼそりと呟く。確かにその可能性は極めて高い……呼応して霊力の上昇が起きているから

 

「美神君。この本は横島君に見せては駄目だ、すくなくともこの本の霊力に耐えれるだけの霊力を身につけるまでは」

 

今の横島君ではこの本の霊力に耐える事が出来ず、その本に呑まれてしまう。

 

「判りました。この本は私の方で厳重に管理します」

 

封印札で陰陽術の本に封印をする美神君。それが最善だろう……

 

「まぁなんにせよ……横島君にはまだこの本を見せるのは考えたほうがいいと思う。ゆっくり育てていくと良いよ」

 

妖使いに陰陽師の才能。これははっきり言って今の時代ではかなり異質な才能といえる。育てるのはかなり難しいと思うけど、しっかり育てる事が出来れば「Sランク」だって夢ではない筈だ

 

「クウ……クウ」

 

意識のない横島君を起こそうとしているタマモと言う名の妖狐。とても良く懐いているのが良く判る。暫く雑談をし、近況と横島君の育成方針の話をし、夕方頃に

 

「それじゃあ先生。失礼します……また今度相談に乗ってください」

 

「高名な唐巣神父様の話を聞けて面白かったです」

 

【唐巣神父さん?キッチンに夕食を準備してあるので暖めて食べてくださいね】

 

横島君を連れて教会を出て行く美神君達を見送り、いそいそとキッチンに向かい

 

「……3週間ぶりのまともな食事だ」

 

炊きたての白飯と豚汁に鯖の煮付けに肉じゃが……普段の食生活からは考えられない食事。思わず喉を鳴らし食事の準備を始めるのだった

 

 

気絶している横島を家に連れて帰る。車で来ていて良かったと思う。結構距離が合ったから実に助かった

 

「じゃあ、蛍ちゃん、おキヌちゃん後はよろしくね」

 

そう笑って事務所に向かっていく美神さん。私も本当は横島が心配だから様子を見ようと横島の家に入ろうとした所で

 

「!?」

 

私達を見つめている視線に気付き、おキヌさんと同時に振り返ると十字路の先に長身の老人と黒の服を着た金髪の女性がいた……その2人には私もおキヌさんも見覚えがあった

 

「ドクターカオス!?」

 

【マリアさん!?】

 

私とおキヌさんが同時に叫ぶとドクターカオスとマリアさんは穏やかに笑いながら近づいてくる。笑っているのはドクターカオスだけだけど、マリアさんも笑っているように見える

 

「久しぶりじゃのう、横島蛍。それに氷室絹」

 

そう笑うドクターカオス。まさか……ドクターカオスとマリアさんも……

 

「イエス・貴女の予想とおり・ドクターカオス・私も貴女達と違う方法で逆行してきました・蛍さん・おキヌさん」

 

マリアさんの言葉に私とおキヌさんが絶句する。何故ならマリアさんもドクターカオスも逆行者のリストにはいなかった人物だからだ

 

「ゆっくり話をしたいが、その前に小僧を休ませるほうが先なんじゃないかのう?」

 

横島を見て笑うドクターカオス。確かに今は横島を休ませるほうが先決だと判断し、私が横島を家の中に運び入れようとするとマリアさんが

 

「私が手伝います・蛍さん」

 

気絶している横島は完全に脱力しているので運ぶのは確かにしんどい。だけどマリアさんはアンドロイドなので私よりもはるかに力が強い

 

「大丈夫?」

 

丁寧に扱って貰えるかが心配でそう尋ねるとマリアさんは口元だけで小さく笑い

 

「大丈夫です・横島さんは・大事な人だから」

 

そう笑って横島を丁寧に抱き上げるマリアさん。この瞬間私とおキヌさんは同時に心の中で

 

「【敵が増えたぁ!?】」

 

まさか自分達と違う方法で逆行してくるとは思わなかった人物(?)に驚愕していると

 

「ははは、ワシもやるだろう?マリアに完全に感情を……いや、小僧じゃな。小僧がマリアに感情を与えたんじゃ」

 

嬉しそうに笑うドクターカオス……確かにそれは誇れるべき事だが……私達にとっては敵が増えたと言うことで何か複雑な物を感じるのだった……なおその頃優太郎といえば

 

「ノオオオオオゥッ!!!!!増えた!また増えたあああああ!?」

 

マリア 3.4倍の文字に窓ガラスが割れるほどの絶叫をしていたのだった……

 

 

レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その2へ続く

 

 




うちのカオスはボケてません。逆行で色々と準備をしていますので、ただし悪巧みし天然です。カオスの名のとおりカオスの状況を作り出す人になります。全く違うカオスの活躍を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はカオスとマリアの話にしようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

レポート7 逆行者ドクターカオス&マリア その2

 

小僧が住んでいたアパートは空き室でマリアの霊力センサーを頼りに来た家は、中々大きな賃貸だった

 

(こんな所も歴史とは違うのう……)

 

ワシが調べた結果では、ただの逆行ではなく、限りなく同じ時間軸の平行世界と言うのが正しいのだろうな……歴史の僅かの差異を考えるとその可能性が極めて高い

 

「お茶でいいわよね?」

 

「おおう。すまんのう」

 

蛍のお嬢ちゃんが入れてくれた緑茶を啜りながら、部屋を飛んでいるグレムリンを見つめ

 

「グレムリンがマリアに近づかないように頼むぞ?」

 

アンドロイドとは言え精密機械。グレムリンが触るとどうなるのか判らないのでそう頼む

 

【チビちゃん。横島さんが心配だから見てきてくれる?】

 

「みーん!」

 

元気良く返事を返し小僧の部屋に向かうグレムリン。これで心配事はなくなったか……

 

「それでドクターカオス。それにマリアさん?貴女達はどうやって逆行してきたのかしら?」

 

お嬢ちゃんの質問にワシはお茶請けの煎餅をかじりながら

 

「あの時代でワシはある研究をしておった。精神のバックアップと言えば良いかのう?マリアのメタソウルの応用で記憶と精神を保存することを考えたのじゃ、あんまりにボケるのでな」

 

なんせあの時代では、恥ずかしい事にワシはボケにボケていた。まともな生活が出来ていたのはマリアのおかげだったと言える。

 

「そんな状態で良くメタソウルなんて作れたわね?」

 

無論その状態を知っているお嬢ちゃんが苦笑しながら尋ねて来る。ワシは羊羹を頬張り、緑茶を1口含んでから

 

「文珠じゃよ。「若」の文字の文殊で若返っている間にちょいちょいとな」

 

流石に文珠がなければメタソウルを造ることなんて出来はしなかったと言える。事情を説明したら快く文珠を譲ってくれた未来の小僧には感謝している

 

「でも神族とか魔族の時空封印をどうやって突破したの?」

 

不思議そうに尋ねてくるお嬢ちゃん。まぁ確かに普通は突破できないじゃろうな

 

「自分達が逆行したのを忘れてないかのう?」

 

あっと言う顔をするお嬢ちゃん達。時空間封印はお嬢ちゃん達が逆行する僅かな時間だけ解除された、それは本当に短い時間じゃったが……

 

「お嬢ちゃん達が転移するのに膨大な霊力や魔力や神通力が妙神山に集まるのを測定器が察知してな、失敗するのは覚悟の上でワシとマリアの記憶を封じたメタソウルをこの時代のワシとマリアに送り、記憶のダウンロードをしたんじゃよ」

 

「無論失敗すると思っていたのじゃが、予想に反してワシとマリアの記憶を封じたメタソウルは無事にこの時代のワシとマリアの下に到着し、メタソウルだと理解した今の時代のワシが触れることでまずワシの記憶が現代のワシにダウンロードされ、ワシはそこからマリアの記憶を今のマリアにダウンロードしたのだ」

 

「だから正しくは逆行ではなく過去と未来のワシをひとつにしたと言うことじゃな」

 

逆行は最高指導者に目をつけられるので、抜け道を用意したってことじゃなと付け加えると

 

【じゃあ今のマリアさんは私の知っているマリアさん?】

 

「イエス・あなたに教わった料理は今もちゃんと覚えています・それに裁縫・洗濯・掃除もばっちりです」

 

キヌのおかげでマリアの家事能力が大幅に上昇して助かっている。それに今はボケていないので

 

「除霊道具を売りながら日本に来たんじゃ、この天才錬金術師ドクターカオス。以前のような極貧生活ではないぞ」

 

これだけでも精神だけの逆行に成功した意味がある。前よりも大きなアパートを借りて、厄珍堂とかに海外のオカルトGメンなどに

売って生計を立てていると今の自分の状況を話していると

 

「逆行してきた目的は?」

 

鋭い目付きで嘘はゆるさないという視線でワシを見る蛍。その眼光は小僧よりも美神玲子に似ていると思う

 

「ははは、気になるのはそこか?」

 

ワシの近況なんか興味ないと言う顔をしている蛍にワシはコートの中から一冊の本を取り出す

 

「それは?」

 

「マリアの設計図じゃよ。これでかつて作ったマリアの妹、テレサはワシのせいで暴走して壊れてしまった。ワシにすればマリアもテレサも娘じゃ。今度こそ幸福をなとな」

 

子供がいないのでワシにとってはマリアとテレサが娘だ。この幸せを祈らない親はいない、無論テレサとてワシの娘に変りはないのだ

 

「そう。だけどそれって私から横島を取るってことよね」

 

ふふふふふと笑い出した蛍、おおう。いかん地雷を踏み抜いてしまった……

 

「マリア!緊急脱出用意!」

 

こんな時の為の脱出手段は用意している、マリアはワシの言葉に頷き

 

「丸秘・射出します」

 

頭のアンテナから無数の写真を射出する、それを見た蛍とキヌの顔色が変わる

 

「【大人の横島(さん!?)】」

 

あの時代の横島の写真を見て顔色を変える2人。その隙に立ち上がり

 

「ではまた会おう!さらばじゃ!」

 

「失礼します・またどこかで」

 

慌てて写真を拾っている蛍とキヌを見ながら小僧の家を後にしたのだった……

 

「ドクターカオス・日本では如何するのですか?」

 

隣を歩きながら尋ねて来るマリア。ふーむと唸りながら

 

「まずは美神令子と友好的な接触。次に小僧じゃな」

 

テレサを作るにしても莫大な資金がいるし、それに作ったとしても以前のような暴走を起こさせない為にはしっかりとメタソウルを育てる必要がある。それには小僧の助力が必要不可欠だ

 

「だから妹に会うのはもう少し待っていてくれるかのう?」

 

「問題ありません・テレサに会えるのを楽しみにしています」

 

ぎこちなく笑うマリア。笑う事が出来るようになったマリアに笑みを零しながらワシは借りているアパートへと歩き出したのだった

 

 

 

今日私の事務所に直接電話をかけてきた老人。ヨーロッパの魔王「ドクターカオス」を名乗る老人は、私に除霊具を提供するので有事の時には力を貸して欲しいと話を持ちかけてきた。一応話だけは聞くと言ったが

 

(本物かしら?)

 

ドクターカオスは秘術で不老不死になったと聞く錬金術師だが……その名を騙るGSはかなりの数がいる。本物かどうかわからないが、一応話だけは聞いてみようと思い朝のうちに来てくれるように頼んだのだ

 

「失礼する。美神令子じゃな?」

 

扉を開けて事務所に入ってきたのは大柄な老人と人の姿をしているが、生者の気配がしない女性

 

(キョンシーの類じゃないわね。勿論魔族でもない)

 

これはもしかすると本物かもしれない。私は即座に椅子から立ち上がり

 

「美神除霊事務所の所長の美神令子です。ご高名な「慣れてない敬語はいらんわい。普通でいい」

 

私の言葉を遮って笑う老人。その目の迫力は確かにヨーロッパの魔王と言われるだけの事はある

 

「何しにきたの?ドクターカオス本人なら1人でも大丈夫なんじゃないの?」

 

その錬金術の知識と経験があれば自分ひとりでも、ううん。その隣に控えているアンドロイドの女性で充分なはずだ

 

「いかんせん偽者が多くてなあ……ドクターカオスと名乗っても中々信じてもらえん。じゃが……若手NO.1の美神令子の名があれば多少は信憑性がでてくるじゃろう?」

 

そう笑うドクターカオス。偽者が多いのは知っているが、まさか本人でも困るレベルだったとは意外だ……とは言えこれは幸運と言える

 

「そういう事ね。だけど私はまだ本物って信じたわけじゃないわよ、何か自分が本物だって証明できるものは?」

 

無論本物と可能性が高いのはわかるが、隣に立っているアンドロイドが一言も喋らない事を考えると、まだ信じるには早いとおもう

 

「マリア。あれを出しておくれ」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

アンドロイドが手にしていた小さな鞄が机の上に置かれる。ドクターカオスはその鞄を開けて

 

「とりあえず、お近づきの印という事で持って来た。次回からは買ってくれるとありがたいのう」

 

机の上に置かれたのは小粒な精霊石の欠片の数々……それでも買えば400万はするような代物

 

「これはまさか……」

 

信じられないけど、本物のドクターカオスなら……ありえないわけではない

 

「複製の精霊石・の欠片です・効果は多少本物に劣りますが・使えないわけではありません」

 

本当に!?まさか精霊石の複製を作れるなんて……これは本物と信じるしかないだろう。目の前の鞄には7個の精霊石……

 

「信じるわ、ドクターカオス。貴方は本物だと」

 

これを見てもなお偽者だと言えるわけがない……ドクターカオスは鞄の蓋をして私の前に押し出し

 

「それでは私はどうすれば?貴方が本物だと言えば?」

 

それが目的なのだから、そうすれば良いだろうか?と尋ねるとドクターカオスは首を振り

 

「それは良いわい。暫くは大人しくしているつもりだからのう……動き出そうとした時に頼むわい」

 

動き出す時がいつかは判らない……それがいつか判らないが……その時は協力すると約束する。それと同時に

 

「そうだ。車とかって作れない?」

 

人数も増えてきたのでコブラのままでは駄目だ。それに横島君の事を考えるとまた妖怪とかを拾ってきそうなので、車を買い替えようと思っていたが、並みの車では私の運転には耐えられないし……それに値段も馬鹿にならない。その点ドクターカオスならば

 

「ふむ……良いじゃろう。引き受けた、これはサービスとまではいかんのでな、500万じゃ」

 

500万でヨーロッパの魔王と謳われたドクターカオスの作成した、ほぼ魔道具としての車

 

「OK。急ぎでよろしく」

 

「ふふん、判っておるわ。そちらも即金で頼むぞ?ではの、日本で暮らす準備もしないといかんので今日は失礼するわい」

 

「また今度・お会いしましょう・美神さん」

 

並んで出て行くドクターカオスとマリアと呼ばれたアンドロイドを見送り、机の上の精霊石の欠片を見つめる。

 

(今度の除霊に持って行って見ようかしら)

 

効果はある程度は期待できるはず……だけど見てみないと信じれないしね……

 

「しまったな……本の解析を頼めば良かった」

 

ドクターカオスなら読めないにしろ解析は出来るはず、頼めば良かったと後悔しながらドクターカオスが持って来てくれた精霊石を金庫にしまい。最近の依頼やGS業界の流れを纏めている雑誌を見ていると

 

「また……」

 

破壊された水神・龍神に関係する仏閣の数々。それは段々東京に近づいてきている……

 

「もしかしたら私に依頼が来るかもしれないわね」

 

東京で優秀なGSと言えば先生と私と……あともう1人……私に声が掛けられる可能性が高い事に気づき眉を顰めながら、受話器をとり

 

「もしもし?厄珍?防護札のAランクを20枚と水神符を100枚。あとは破魔札の1000万を10枚と500万を20枚よろしく」

 

どうせ道具を頼む時期が近いので、もしかしての可能性も考慮して厄珍に除霊具を大量に注文するのだった……

 

 

 

最近神社仏閣が破壊され居場所のなくなった神が妙神山にくる事が多くなった。一時的に妙神山に滞在して貰い、天界に向かってもらっているんですが

 

(あまりに多すぎる……)

 

ここ数ヶ月で20件。既に信仰のない土着の神やかつての水神が襲われている……

 

「どういうことなのでしょうか」

 

襲われた神の話を聞いても、襲ってきたのは2首の竜だったや、鬼だったなど……どれも証言が違う。別の個体……もしくは姿を変えることが出来る妖怪……もしくは

 

「水神に関係している……?」

 

一応調べてはいるが、全く足取りがつかめない……関連性があるのは水神に関係しているという事だけ……

 

「どうしたものでしょうか……」

 

私は妙神山に縛られた神であり、基本的には離れることが出来ない。日本の水神と言うのは太古の時代に関係した神が多いので、警戒し、調べるように言われていたが……正直妙神山で調べるのは難しい

 

「人界に降りないと難しいですね」

 

なにせ神界では気配を探るのも難しいし、人界で直接捜索すれば見つける事ができるかもしれないが……流石にそこまでの許可は下りていない、むしろ私は今謹慎を言い渡されているので直接動く事が出来ないのだ

 

(蛮と勇の鬼兄弟のせいですよね……)

 

龍牙刀を取り返し、扇も奪い返したが、蛮と勇は討伐の指示が出ていたが、どちらかだけは捕獲せよと命じられていた鬼だったらしく、両者とも滅してしまった私は今は謹慎状態。そのままでも調べる事が出来る事を調べているんだけど……正直この状態で調べる事は不可能に近い、私は戦闘系の神で調べ物は余り得意ではないのだ

 

「小竜姫~今大丈夫なの~」

 

空間の裂け目から顔を出したヒャクメ。彼女も調べるように言われている神の1人だ。心眼を持つヒャクメなら天界でも調べる事ができるので彼女の方が適任と言える。私が調べるように言われたのは1つのお仕置きと言う所だから文句は言えないけど……

 

「大丈夫です。何か判りましたか?」

 

私がそう尋ねるとヒャクメは頬をかきながら

 

「襲撃犯は見つけることが出来なかったの~もう少し派手に動いてくれれば良いんだけどねえ~だけど今回は少しだけ気になる事があって」

 

気になる事?私が首を傾げているとヒャクメは私が見ていた地図に丸を付け加える。その3箇所を見て直ぐに理解した……その場所は神族でも知っている場所であり、警戒するように言われている場所でもあったからだ

 

「まさか!?」

 

考えられる可能性はそれだけだが……もしその通りなら大変な事になりかねない

 

「熱田神宮・伊勢神宮そして……関門海峡」

 

熱田神宮と伊勢神宮には三種の神器の「天叢雲剣」「八咫鏡」が安置されている、無論レプリカなのだが……その神性は本物で強力な霊具であるのは言うまでもない。そして関門海峡は人間の中では「壇ノ浦の戦い」と言われる争いの行われた場所であり、そこでは「八尺瓊勾玉」は沈んだとされている……無論回収はされていると聞くが、レプリカと言う可能性も高い、当時の陰陽師なら不可能ではないからだ

 

「だけど伊勢神宮と関門海峡の反応は少ないのね。反応が濃いのは「熱田神宮」なのね」

 

熱田神宮といえば「天叢雲剣」そして熱田神宮に関係のある者と言えば……

 

「八岐大蛇……」

 

龍族の中で最高とまで言われた。最強の邪龍……完全に封印されていると聞いているので、ありえないとは思うが警戒する必要はあるだろう。

 

「その可能性が極めて高いのね。まだ確証はないけど警戒しておいて欲しいのね」

 

じゃあ調べるのに戻るのねと呟き消えていくヒャクメ。私はヒャクメから与えられた情報を頼りに、妙神山の資料に目を通し始めたのだった……

 

 

 

人のいない森林を進む、長い緑色の髪と真紅の瞳の女性……その女性が身に纏っているのは黒色の狩衣に似た着物だ

 

「……うそつき」

 

その女性は小さな声でぼそぼそと呟きながら森林を進んでいく……彼女が歩いていく場所は水に濡れている。

 

「人間は悪くない……なんて嘘……私の神社を壊した……」

 

約束したのに……私の神社を作り、敬い崇拝するって約束したのに……眠っていた私を起こしたのは人間による神社の破壊……憎いと思った……だから私は本来の私の役目を果たす為に動き出した……それでも。それでもなお……

 

(……忘れられない)

 

私が1度目覚めた時に私をもう1度封じるために現れたあの男の事を……

 

【俺が敬うから、もう少しだけ俺を……人間を信じて見ないか?】

 

人のいい顔で私にそう声をかけた男。最初は信じることが出来なかったが、何回も会ううちに信じたいと思った、だから私の加護を授け、その言葉を信じた挙句がこのざまだ……やはり人間は醜く愚かだ……だけどあの男だけは違うかもしれない、いやそう信じてみたい……だから私は行く、既にあの男が死んでいたとしても、私が授けた加護は消えることはない。いまもしっかりと繋がっているのを感じる。ゆっくりと山の中を進み、崖に面した川の前に立ち

 

「……こっち」

 

ゆっくりと崖の上から身を投げ、私は川の中を高速で泳ぎ目的地へと向かった。東京と呼ばれる人間の住む土地へと……私が1000年前に授けた加護を持つ者の気配の元へと向かうために……

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その1へ続く

 

 




カオスが美神と対峙する理由がないので、時空消滅内服薬のイベントは飛ばします。代わりにオリジナルの話を入れます
別の作品の妖怪ですけど、個人的な好みで投入します。多分知ってる人は知ってるはずですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート8 怒れる水神ミズチ!
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話からはオリジナルの話になります、その後は「エミ」「クリスマス」「極楽愚連隊」と進めて行こうと思います。今回は導入回ってことで少し短めになるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします


 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その1

 

つまらない授業を終えて欠伸をしながら家に帰る。学校の勉強はつまらないし、理解できないので殆ど寝てばっかりだ

 

(今度の試験の範囲も貰ったから蛍に助けてもらわないとなぁ)

 

公休扱いで休ませて貰っているがその分テストが多い。俺だけでは絶対赤点だよなあと苦笑しながら歩いていると

 

「ん?なんだ?」

 

髪から雫が垂れてくる。おかしいな雨なんて降ってないし、それに鳥もいないけどなあ……ハンカチで髪を拭って顔を上げると

 

「……」

 

血の様に紅い瞳と視線が合う。次に見えるのは長い緑色の髪……そこまで理解した所で

 

「のわあ!?」

 

驚いて後ずさる。なんせいきなり目の前に誰かいたら驚くのは当然だろう、それにもしかして妖怪?と言う可能性も頭を過ぎり咄嗟に学生服の上着のポケットに手を伸ばす。念の為に持ち歩いている破魔札だ……若干警戒しながら前を見て

 

「う、生まれる前から愛してましたああ!!!」

 

警戒を一瞬で解除して俺を見つめていた人物に駆け寄り手を握った。離れて見ると俺を見ていたのは白のブラウスと緑色のスカートにジャケットを着た女性だった。若干切れ長の目がお姉様と言う感じがしていてとても綺麗な人だった

 

「………」

 

手を握っているのだが、叫びもせず、振り払おうともせず、じっと俺を見つめている女性。すべすべで柔らかいてやなあ……

 

(それに何の反応もないって事はOK!やった!初めてナンパに成功した!」

 

「……声に出ている」

 

ぼそっとしたその声に驚いていると女性はもう用は済んだという感じで俺の手を振り払う。その仕草は怒っているように見えて

 

「も、もしかして怒ってらっしゃいますか?」

 

そりゃいきなり手を握ったりしたら怒るよな、これは道の真ん中だが土下座で謝るしかないのか!?そしてあわよくば神秘の三角形を!!!!

 

「……別に怒ってはいない、少し懐かしいと思っただけ」

 

「ふぇ?」

 

いざ土下座しようとすると再びその女性が小さく呟く。その女性は優しい目で俺を見ながら

 

「……私は用は済んだから帰る。また今度」

 

ゆっくりとすれ違って歩いていく。ふわりと香る香水のような甘い香り……

 

(ふわぁ……今日はなんかいいことありそうやなぁ)

 

とは言えもう寝るだけなのだが、何故かそんな気がしてさっきまでの重い足取りと違って俺は軽やかに家へ向かって歩き出したのだった……

 

「……やってくれる」

 

スキップしかねない勢いの横島を見つめている先ほどの女性。その足元には水の中に閉じ込められ意識を失っている半裸の女性の姿がある。水の中に浮いている破魔札などを見る限り彼女もGSのようだ

 

「……用は済んだから。もういい」

 

その女性が指を鳴らすと水は弾け飛び女性は力なく地面に横たわる。着ていた服を脱いでその女性に着させた女性が再度指を鳴らすと水が集まり黒い着物に変化する。その間も女性は横島の背中を見つめている

 

「……私のに手を出したな。狐」

 

彼女の目には見えていた、自分の加護に加えてもう1つの加護が横島を覆っている事に気付いたのだ。

 

「……道理で判らないはずだ」

 

加護を授けた妖怪と人間は一種の霊的ラインで繋がる。だから直ぐに女性には横島の場所が判る筈だったのに、判らなかった。それはタマモの……九尾の狐の加護が自分の加護の上に重ねられていたから

 

「……まぁ良い」

 

にやっと女性は笑い、その身体を水へと変化させ溶ける様に消えていくのだった……

 

「ただいまー、チビーチビー散歩行くぞー」

 

鞄を玄関の上に置いてチビを呼ぶと直ぐ顔を出して

 

「みーん♪」

 

リードをくわえて顔を見せたチビ。くわえているリードに手を伸ばすと

 

「み?」

 

「ん?どうかしたか?」

 

俺の顔をじっと見つめるチビ。そのせいかリードをくわえている力が強くなっている……チビはみーんと首を振りリードをはなす

 

「よしよし、散歩に行こうな」

 

「み♪」

 

チビの首輪にリードを繋ぎ散歩の用意をして家を出る。チビは賢いので本当はリードはいらないのだが、なんとなくだ

 

「あーチビちゃーん♪」

 

「みーん♪」

この時間帯になると俺はチビの散歩をしているので、近くの小学生に声を掛けられる。

 

「おーう。元気だなあ!」

 

「みみーん♪」

 

声を掛けて来る小学生達に手を振り返しゆっくりといつもの散歩のコースを歩いていると

 

「わふ!わふ!!!」

 

「横島君~こんにちわ~♪」

 

途中で冥子ちゃんとショウトラと合流して並んで散歩をする。おキヌちゃんと蛍も一緒に散歩をしたい見たいなんだけど、チビが嫌がるので一緒に散歩が出来るのは冥子ちゃんだけなのだ

 

「行きましょ~」

 

嬉しそうに笑いながら歩き出す冥子ちゃんに頷き、ゆっくりと夕日の中を歩き出すのだった……

 

 

 

家の合鍵を使って横島の家に入る。この時間帯は横島とチビが散歩をしている時間帯の筈なので家には誰もいない。

 

「またきたの?よっぽど暇なのね?」

 

そう声を掛けられ驚いて振り返る。そこには階段の所に座り込んでこっちを見ているタマモ

 

「もうそこまで回復したの?」

 

尻尾はまだ7本だったはずなのに……まだ完全に人化出来ないのではと思ってたんだけど……

 

「明後日は満月だからね。霊力が上がって来てるだけよ」

 

そう手を掲げるタマモの手はうっすらと透けている、まだ完全には人化出来ていないと言う事なのだろう

 

「私の前に来た理由はなに?」

 

普通なら私ではなく、横島の前に現れるはずなのに……タマモはよっと軽い素振りで立ち上がり

 

「ロリね」

 

「うっさい!霊力が足りないのよ!!」

 

タマモの姿は中学生よりももっと幼い。小学校低学年と言う感じだ

 

「霊力が足りないのにあえて出てきた理由は?」

 

タマモは無駄なことはしない。多分今人化して私の前に現れたのは何か特別な理由があるはずだ。

 

「ミズチが横島に接触したわ」

 

「!もう東京にいるの!?」

 

お父さんの話ではミズチの反応が途絶えたと聞いていたけど、まさか横島に接触しているとは思わなかった

 

「あの蛇。なんであんなばいんばいんになってるのよ。絶壁だったはずなのに!!!」

 

ん?もしかしてタマモはミズチと知り合いなの?言葉に中に見え隠れする棘に気づくとタマモは不機嫌そうに

 

「平安時代に少しね。あっちは直ぐ封印されたけど、それなりに顔見知りではあるわ」

 

それなら話は早い。容姿を聞けば探しやすいのでは?と思っているとタマモは手を振りながら

 

「あいつは馬鹿みたいに慎重で策略家だから満月までは出てこないわよ。横島に接触したのはあれね、自分の加護を授けた人間を探しにきたって所ね。それに姿を好きに変えれるから探すのも難しいわよ」

 

そうか探すのは難しい……ちょっと待って、今聞き捨てならない言葉が……

 

【ミズチの加護ってなんですか!?私そんなの知りませんよ!!!」

 

「「うわあ!?」」

 

おキヌさんが床から顔を出してそう叫ぶ。まさかの登場に私とタマモが揃って悲鳴をあげる中

 

【どういうことなのか!説明してください!!!】

 

床から上半身だけ出して詰め寄るおキヌさんは正直怖い、タマモの顔も引き攣ってるし

 

「良く判んないけど……横島の魂に残ってるのよ、ミズチの加護が。もしかすると前世で知り合いなのかも?」

 

横島って前世から人外に好かれてたんだ……知ってたけど、あんまり知りたくない事実だ

 

「多分奪いにくるか、殺しに来るとおもう、残ってる匂いがなんか危険な感じ」

 

「【その表現が危険な感じだとおもう】」

 

香りって……なんか随分と変態臭い。タマモは狐だから仕方ないと言えばそうなんだけど……タマモは頬を紅くして

 

「満月は妖怪が力を増す日だけど!それ以上に水に密接な関係があるから!そうなったらミズチと対峙するのは難しいから!気をつけなさい!」

 

そう言うといつもの狐の姿に戻り開いていた窓から出て行ってしまう。ミズチの加護について聞きたかったんだけど……

 

「苛めすぎたわね」

 

【ですね】

 

どうも苛めるのは好きだけど苛められるのは弱いみたいね。とりあえず明日美神さんに話して見よう、もしかするともうミズチの事を調べているかもしれないし

 

【じゃあ横島さんが帰る前にご飯の用意をしましょうか】

 

「そうね。ってじゃなくて帰りなさい」

 

さも当然のようにいるおキヌさんにそう言う。昨日おキヌさんが作ったんだから今日は……ん。ちょっと待って

 

「さっき床から出てきたわよね?もしかして……」

 

【♪~♪】

 

鼻歌で誤魔化すおキヌさんに確信した。絶対に横島の日常生活を見ていると

 

(なんかストーカーっぽくなっている)

 

最初にあったときの黒さは消えたけど、その代わりにドンドン進んではいけない方向に進んでいるような気がする。私は冷や汗を流しながら

 

「まぁ今日は私が料理をする番だから」

 

キッチンの入り口にお札を貼っておキヌさんが入れないようにする。何故ならこの料理にはこれが良い、あれがいいと口を出すので自分で料理をしている気にならないからだ。

 

(今日は……んー……野菜炒めにしようかなあ)

 

横島はあんまり野菜が好きではないので肉を多めに知れば食べてくれるだろうと思い、冷蔵庫から豚肉と野菜を取り出し夕食の準備をするのだった……

 

「ただいまー。なんかタマモも来て楽しかったぜ」

 

「コーン」

 

帰ってきた横島はその頭の上にタマモを乗せ、肩の上にはチビを乗せて帰ってきた。当然ながら3人とも汚れているので

 

「じゃあ風呂に入ってくるわ。タマモ大人しくしてろよ」

 

「コーン♪」

 

そう笑って風呂場に向かう横島。一瞬頭の上のタマモと視線があう、勝ち誇ったような目をしていて

 

「負けた気がする」

 

【私もです】

 

説明しにくいのだが、何か負けた気がして思わずそう呟いたのだった……

 

 

 

「はいはい。判りました……明日から捜索に入ります」

 

受話器を叩きつけるように元に戻し、私は頭をかきながら

 

「あー!!もう!どうしろって言うのよ」

 

依頼先はGS協会。内容は東京にいるはずの「ミズチ」の捜索と可能ならばと討伐。報酬は2億だが……正直言って割に合わない

 

「最近のGSの襲撃犯は間違いなくこいつね」

 

表ざたにはなっていないが、CランクとBランクのGSが妖怪に襲撃され入院しているという話は裏のネットワークで聞いていた。

身体的には問題ないのだが、霊的。しかも魂にダメージを受けているGSが多く、霊能力を使えないため今も入院していると聞く

 

「念の為に準備したけど本当に遣うことになるなんてね」

 

ミズチと言えば龍神に名を連ねる水神であり。非常に強力な妖怪だ。いや神族と言っても充分に通用するレベルだろう。ミズチと言うのは先日襲撃されたGS。次の事案で「Bランク」に昇格できるかもしれない、と言うほどに経験をつんでいた巫女のGS……確か名前は「土門」数少ない陰陽術を使う家系と聞いている。とは言え実戦向きではないので基本的には破魔札を使っているらしいが

 

「あんがい使えたのかもしれないわね」

 

自分の技を教えるGSはいない。もしかすると使えないとは言っていたが、普通に陰陽術を使えた可能性がある。そんな土門のGSが負傷しつつ聞き出した名前がミズチ。

 

「全部繋がったわね」

 

一番最初の神社が破壊された事件。その事件の神社で祭っていたのは「水神」そして続く全国の水神に関する祠や神社の襲撃事件……間違いなく全てミズチの仕業だ……

 

「これはもう少しいるわね」

 

受話器を番号をコールする。今の手持ちの道具では正直不安だ、もう少し道具が要る

 

『もしもし・こちら・ドクターカオスの家・です』

 

特徴的なこの口調マリアだ。少し聞き取りにくいけど、仕方ないと割り切り

 

「カオスはいる?特注の除霊具を注文したいんだけど?」

 

まだ活動するつもりはないといっていたけど、ミズチ相手では普通の除霊具では駄目だ。特別な道具が必要になる

 

『今・代わります……特注の除霊具?物によるが高いぞ』

 

マリアから電話を代わったカオス、あのドクターカオス手製の除霊具となれば高くなるのは当然だ。何せ偽者かもしれなくとも、ドクターカオスの名があればオークションでは1千万から始まるような除霊具だ

 

「ミズチの捜索の依頼があるの、倒すつもりはないけど逃げる為の道具とかお願いするわ」

 

正直な話倒す事は不可能に近い。見つけて逃げる、これが一番安全だ。見習いを2人育てているのだから無理は出来ないからだ

 

『捜索と逃亡か……おまけに少し武器をつけて……そうさな。今度格安で依頼を受けてくれるなら4000万でどうじゃ?』

 

その言葉に少し考える。格安で依頼……何を頼まれるかの不安はある。だが4000万で3つも除霊具と考えれば充分すぎる

 

「OK。それで頼むわ、早く作ってね」

 

この依頼は短期の依頼なのでそう付け加えるとカオスは電話越しにカッカと笑いながら

 

『明日の朝一番に届けてやるわい。無論車のほうもな』

 

前に頼んだ車がもう出来たのかと驚いていると、カオスは私のそんな様子を脳裏に浮かべたのか

 

『この天才ドクターカオスを侮るでないぞ?並みの天才とは格が違うのじゃからな?それと前払いで900万ほど用立ててくれ、無論現金払いで頼むぞ、残りは後で構わんからの。では製作に取り掛かるので失礼するぞ』

 

電話を切るカオス。私も受話器を机の上に戻し、丁度ファックスから送られてきた書類を見る

 

「……手の回しが早いことで」

 

今回の依頼は除霊保険の非適応に加え、医療費は自己責任に加え、GS協会は一切の責任を負わないと来た……

 

「蛍ちゃんと横島君はどうしようかしら……」

 

今回の山は普段の除霊と違う。今度のGS試験に合格確実の蛍ちゃんならまだしも、見習いレベルの横島君を連れて行くのは不安がある。だが、私と蛍ちゃんでは大量の除霊具を運ぶ事ができない。そう考えると横島君も連れて行くしかないのだが……

 

「今回は生き残る事を教えましょうか」

 

GSは命あって物……生き残るためには卑怯な手も罠も使う。そう言う面を教えるのもいいかもしれない……それで横島君が自分には向いてないと判断したのなら残念だが、こういう面を見せる必要もある。私は机の中から最近書き慣れた横島君の公休要請紙に期間4日と書き、FAXで学校に送りそのままもう1度受話器を手にし、横島君の家に電話をするのだった……

 

 

 

久しぶりにアシュ様に呼ばれてビルに向かうと険しい顔をしているアシュ様がいて、これはただ事ではないと判断し気を引き締めると

 

「メドーサ。今東京に来ている龍神には気づいているかい?」

 

尋ねるような口調だがこれは確認だ。私はその言葉に即座に頷き

 

「気付いています、随分強力な龍族のようですね」

 

私ほどではないが、かなり強力な龍族だ。人間では太刀打ちできないような、とても強力な龍神と言うのは判っている

 

「その捜索依頼が蛍が働いているGSの事務所に出された。恐らく戦うことはしないだろうが、ミズチは気性の荒い水神と聞いている。念の為についていてくれないか?」

 

ミズチは確かに凶暴な水神だ。利用する事が出切ればアシュ様の目的を進めるのに役に立つはずなのだが

 

「それは私に守れという事なのですか?」

 

まさかと思いつつ尋ねるとアシュ様は笑顔で頷きながら

 

「まだあの事務所の人間を失う訳には行かないんだ。当然私の娘もね……」

 

アシュ様の考えている事が判らない、だけど何か真意があるのだろうと思い頷き、アシュ様の部屋を出ようと振り返ると

 

「もし、もしも再び神族に戻れるかもしれないと言ったら君は如何するね?」

 

それはかつて何回も考えた事だ。元神族の魔族。やってもいない罪を押し付けられ堕天させられた……戻りたいと思ったことはある。だけどそれは叶わない望みだ。1度堕天した神が再び神の座に戻ることなんてありえない……だけど

 

「それも悪くは無いかも知れないですね」

 

私を陥れた神は既にいない、確かに若干の蟠りはあるだろうが……天界に戻るのも悪くないと思いはしたが

 

「だけどそれはありえないことでしょう?それでは失礼します」

 

龍神王はとんでもない堅物だ。私を再び神族に戻してくれるわけがない、それ所か私の冤罪すら認めないだろうと苦笑し。アシュ様に一礼しビルを後にした、残された優太郎はふむふむと上機嫌そうに顎の下に手を置いて

 

「やはり引き込めるかもしれないな」

 

蛍の敵を増やす事は控えたいが、メドーサはやはり自分の陣営に引き込みたい。未来の記憶ではメドーサが主立って事件を起こしていたから、直ぐに引き抜くわけには行かない

 

「記憶を取り戻してくれたらなあ……」

 

そうなれば話は早いのに……と言う感じで呟いた優太郎は溜息を吐きながら、再び過激派魔族・神族の捜索作業に戻るのだった……

だが優太郎は気づかない、メドーサの倍率の文字が変動中になっていることに

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その2へ続く

 

 




次回からミズチ編になります。謎解きと言うか捜査?をメインにしたいと思うので戦闘は少なめになるかもしれないですね
あとはタマモとミズチの因縁と言うのはおかしいかもしれないですが、そう言う話も書いて見たいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はミズチ編と言うことでオリジナルの話になります。40話近くまでやっていますが、思うように進まない状況。書きたい話が多いというのも困り物ですね。それでも書いてて楽しいのでこれからも頑張っていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その2

 

朝一でドクターカオスが自ら乗って来た車を見て、私は思わず笑いながら

 

「中々凄いじゃ無い」

 

バンタイプの車なのだが、外見が実に整っていて並のバンとは比べられないほどの勇ましさを持っていた

 

「じゃろう?中は中で空間湾曲の技術を使っているのでな、広くて快適。ついでに霊的防御もバッチリじゃ!んでこれが頼まれた除霊具じゃ」

 

車の後ろから取り出された鞄を見て、思わず私は若干うさんくさいと思いつつも、腕は確かなはずと自分に言い聞かせながら

 

「かなり小さいわね?」

 

かなり小型の道具の数々。普通なら大型なのが普通なのでこれはかなり珍しい

 

「このドクターカオスをそこらへんの人間と同じと考えないで貰いたいのう……」

 

自身ありげに笑うドクターカオスは私に2つの円筒型の道具と正方形の道具を手渡し

 

「これは見鬼君を改造した奴じゃ、強力な妖力に反応するようにセットしてあるからの。恐らくミズチかそれに準ずる霊格の持ち主にしか反応せんぞい。んでこれは逃亡用の円筒じゃ。霊力を込めて起動する、即効性があるから恐らく逃げ切れるじゃろう」

 

「武器のおまけは?」

 

私がそう尋ねるとカオスは笑いながらコートの中から菱形の結晶を取り出す

 

「ミズチは水を司る龍神じゃ、水の流れを一時的に断ち切る呪を刻んである。どれほどの霊格かは判らんが、効果はあると思うぞ」

 

差し出されたそれを服の中にしまい。足元のアタッシュケースを渡す

 

「4000万丁度よ。ありがとね」

 

中身を確認し、また残りは調査の後に頼むと呟き歩いていくカオス。今回は倒すのが目的ではなく、あくまで捜索。戦闘は極力回避なのでありがたい道具だ

 

「「おはようございます」」

 

「コーン♪」

 

「みー♪」

 

蛍ちゃんと横島君。それにタマモとチビが来る。最近判った事だが力の弱いチビは索敵に長けるようで、捜索依頼だから役に立つと判断して連れてきてもいいと許可を出したのだ

 

「おはよう。今回はある妖怪の捜索依頼になるわ。戦闘は極力回避して生き延びる事を第一に考えてね。それとこれにサインをしてね」

 

本当は嫌だけど、横島君と蛍ちゃんにGS協会からの書類を渡す。死んでも一切の訴えを起こさないという誓約書だ

 

「……こんなに厳しい依頼なんですか?」

 

引き攣った顔をしている横島君。今までこの誓約書を見せた事はないから当然だ

 

「念のためよ。私も戦う気なんてないからね、逃げるつもりだし」

 

正直言ってミズチと戦うなんて正気の沙汰じゃない。今回はあくまで調査なのだから、戦うつもりはない。生き延びる事が絶対条件だ

 

【大丈夫ですよ。横島さん。死んでも生き返れます!】

 

ガッツポーズを作りながら力強く言うおキヌちゃん

 

「「それ違うから」」

 

おキヌちゃんの言葉に私と蛍ちゃんが突っ込みを入れる。だけどそのおかげで大分リラックスできた

 

「さぁ行くわよ、乗って」

 

「うお!?なか広いぞ!?」

 

「本当ね……これどうしたんです?」

 

カオスの作ってくれた車に驚いている横島君と蛍ちゃん。私も乗り込んで若干驚いた。中が物凄く広い、バスまでは行かないが10人以上乗っても大丈夫そうだ。これなら今後の足として文句はないわね……3人で動くときはこれをメインにしましょう。あのコブラにも愛着があるから、プライベートと単独行動のときに使えば良いかと思いながら、捜査の事に頭を切り替える

 

「ドクターカオスって言う錬金術師に頼んだのよ。今度紹介するわ、それより行きましょう。どうやらこの近くには居ないみたいだしね」

 

見鬼君が反応しないって事はこの近くにはいないようだ。それを確認してから横島君と蛍ちゃんをそれぞれ後部座席と助手席に乗せ、ゆっくりと走り出したのだった……

 

 

 

ミズチと言う妖怪の捜索と言うことで、美神さんの運転するドクターカオスって人の特製の車の後部座席で見鬼君を抱えているのだが

 

「全く反応がないですね」

 

都心は全て見たが反応がない、もしかしてミズチは東京周辺にはいないのかもしれない

 

「その可能性はあるわね、美神さん。1度止めてダウジングをしましょうか?」

 

ダウジング?それってあれか?針金を2本持ってやるあれか?美神さんはそれもそうねと呟き車を止めて

 

「横島君地図」

 

「ういっす」

 

持っているように言われていた鞄から地図を取り出して美神さんに渡し、美神さんを見る。菱形のペンダント?見たいのを地図の上に掲げて目を閉じている。これからどうなるんだろうか?と見ているとペンダントが独りでに回り始める、指し示す場所は

 

「愛知県……随分と移動してるわね」

 

東京で目撃されたと聞いていたのに今いる場所は遠く離れた愛知県……ん?

 

「美神さん。またダウジングが動いてますよ?」

 

再び動き始めたダウジングを見てそう呟く。だが美神さんと蛍は地図ではなく、近くの河を見て

 

「!横島君!移動するわよ!急いで!」

 

「横島!行くわよ!」

 

2人は血相を変えて車に乗り込む、俺は訳が判らず半ば後部座席に放り込まれる。俺の耳にはコンクリートを穿つ音が聞こえていた

 

(これはまさかミズチの攻撃なのか?)

 

危機的状況なのに自分でも驚くほど冷静で居ることが出来て驚いていると、今度はおキヌちゃんの声が耳に飛び込んでくる。

 

【横島さん!】

 

おキヌちゃんが両手を広げて俺を受け止めてくれる。そのせいか俺の顔は必然的におキヌちゃんの胸元に抱え込まれ

 

(ええ匂いやあ。それに柔らかい)

 

おキヌちゃんは普通の幽霊と違うので、こうして触れることが出来る。こっそりとおキヌちゃんの胸に手を伸ばそうとした瞬間

 

「行くわよ!掴まってなさい!」

 

美神さんのその叫びと同時に車のエンジンが唸りをあげて高速で走り出す!

 

「のわあああ!?」

 

その凄まじい加速に思わず更におキヌちゃんの胸に顔を埋める事になり……

 

(こ、これはたまらん!?)

 

おキヌちゃんの甘い香りと言葉では言い表す事の出来ない極上の柔らかさ。膝の上のタマモが噛んでいるのが判るが、そんな事はどうでも良いとおもうほどの幸福感……

 

(わいこのまま死んでも良い……)

 

俺はそんな事を考えながら、おキヌちゃんの胸に顔を深く埋めた事で呼吸が出来なくなり、幸福な気持ちのまま意識を失うのだった……美神と蛍は川から飛んでくる水の矢を回避するのに必死で後部座席を見る余裕がないし、横島を抱き締めているおキヌは

 

【役得ですぅ……♪】

 

自分の胸の中で痙攣を始めている横島を無視して、放す物かと言いたげに横島の後頭部を抱えていた。横島の生命の危機に気付いていたのは

 

「みみー!!!みみみー!!!!!」

 

小さい身体と声で必死に助けてあげて!と叫ぶチビの見る中。ピクピクと痙攣していた横島の動きが完全に止まるのだった……

 

 

 

 

川や噴水……挙句の果てには通行人の持っているジュースの缶。水に関係する全てから放たれる水の矢。私は手にしていたペットボトルの中の水が泡立つのを見て、龍神の力の高さ。そしてその危険性を再認識しながら

 

「とんでもない能力ね!!」

 

それを橋の上から下の川に向かって投げた、聞こえてくるのは炸裂音。どうやらペットボトルが爆発したのだろう

 

「流石水神。強いわ……ねっ!!!」

 

美神さんが鋭くハンドルを切る……ギリギリで放たれた水の矢を回避し、更に加速していく。少しでも減速すればあの水の矢で串刺しにされてしまう……

にされてしまう……

 

「蛍ちゃん!水の矢はどこから飛んでくる!」

 

運転に集中している美神さんがそう怒鳴る。私は周囲を見て悲鳴にも似た声で返事を返す

 

「全方位攻撃です!!!」

 

橋の上を走っているのだが、あちこちから水の矢が飛び出してくる。霊的防御を持つらしいが、氷と水と言うことで、霊的防御ではなく物理防御が必要だ。だから回避を続けているのだが、美神さんの運転技術でも回避を続けるのは難しいだろう……

 

「全方位でも関係ないわ!!!」

 

加速と減速を繰り返し、連続で降り注ぐ水の矢を回避して加速していく……信じられない運転技術だ……それともカオスの車のおかげなのだろうか?

 

「このまま加速していくわ!しっかり掴まってるのよ!!!」

 

そう叫ぶ美神さん。私はシートベルトをしっかりと掴み、加速していく車……信じられない加速の衝撃に顔を歪めるのだった……

 

「やっと止まったみたいね……」

 

ずっと加速していた車がやっと止まる。カオス特性の車だけあって殺人的な加速だった。私は助手席だったので大分衝撃が酷かった……途中で高速を降り、山道に逃げ込んだのも関係しているのかもしれない

 

「はーきついです。美神さん」

 

途中で高速警備隊を振り切った所を何回も見たので心臓に悪かった……だけど止まっている時間は無かったので仕方なかったのかもしれない。

 

「横島は大丈夫だっ……た?」

 

後部座席を見て絶句する。横島の頭を自分の胸に抱き寄せ、恍惚の表情を浮かべているおキヌさんと

 

【逝ける!!】

 

横島の背中からふわっと抜け出てくる横島の魂。天空から降り注ぐ光の中良い笑顔でガッツポーズを作り、そう叫ぶ横島の魂に

 

「逝くなあ!!!」

 

慌てて横島をおキヌさんの腕から引き離し、今まさに成仏しようとしているその魂を掴み、横島の身体の中に押し込んだのだった……

 

「あー死ぬかと思った。だけどあんな死に方ならいいなぁ。「ヨコシマ?」……すんません、冗談です」

 

鼻の下を伸ばしている横島を睨む。さっきのは冗談じゃなく危険な状態だったのだ。そんな事は冗談でも言って良い言葉ではない

 

【横島さんなら何時触ってくれてもいいですよ?】

 

胸を強調するような姿勢で笑うおキヌさん。どうやら普段はサラシを巻いているようだが、私よりも上のサイズだったようだ

 

「マジで!?なら早速」

 

手をわきわきと動かしておキヌさんに手を伸ばす横島。今はこんな事をしている状況じゃないって言うのに……

 

「ヨコシマぁッ!!!!!」

 

「へぶろお!?」

 

私は初めて霊力の篭った右拳を横島の頬に振り下ろしたのだった……足元で痙攣している横島を見ていると若干やりすぎた?と思い冷や汗を流していると

 

「そろそろ終わった?現状把握をするから集合。蛍ちゃんは横島君を連れてきてね」

 

近くを調べていた美神さんの言葉に頷き、こっそり横島に手を伸ばそうとしていたおキヌさんを睨む

 

【あ、あはははは。先に行きますねー!】

 

逃げるように美神さんの方に向かうおキヌさんを見ながら、気絶している横島を抱き抱え美神さんのいる方に向かって歩き出しながら……

 

(帰ったら胸を大きくする薬でも開発してみよう)

 

やはり胸は大きい方が良いのかもしれない、今まで何回も開発しようとして失敗しているけど、また挑戦してみようと思うのだった……

 

 

 

ミズチの攻撃だと思われる水の矢に追い掛け回され、今の現在位置は正直把握できていない。走っていた方角と時間から考えると……

 

(京都の方角かしら)

 

夢中で走っていたのであくまで憶測だが、走ってきた方角から考えるとそっちの方角だろう。来た道を引き返せば良いんだろうが、山道を水の矢に追い掛け回され逃げてきたので引き返せるかどうかも怪しい。この近くに住んでいる人間を探したほうがいいだろう

 

「私達はこの場所に追い込まれたのでしょうか?」

 

気絶している横島君を隣に座らせている蛍ちゃんの言葉……確かにその可能性は極めて高い

 

「確かに、その可能性が高いわね、この周囲がミズチのホームグラウンドなのかもしれないわね」

 

今の現在場所が判らないけど、方角的には一番最初に破壊された神社の方角だ。

 

「まずは現在位置の確認ね。おキヌちゃん近くに何か見えないか見てくれない?」

 

【はーい】

 

返事を返し浮かんでいくおキヌちゃんを見ながら、車のトランクに地図を乗せて

 

「うーん。場所的にはここら辺かな?」

 

場所の把握をしないことには帰る事も出来ない。いやそれ以上にこの場所に追い込まれたという事を考えると……

 

(ミズチが襲ってくるかもしれない)

 

こんな山の中でと思うかもしれないが、山の中には水脈がある。それを利用されるとまず間違いなく勝率はない……それに逃げる事を前提にしていたが、ホームグラウンドに連れ込んだ私達を逃がしてくれるだろうか

 

「うあ、死ぬかと思った」

 

横島君が頭を振りながら身体を起こす。霊力のパンチを受けていたはずなのに信じられない回復力だ

 

「……あの蛍さん?」

 

「なに?」

 

普段なら真っ先に声を帰る蛍ちゃんが腕組して怒っていますのポーズ。こういう仕草を見ると歳相応で可愛いと思える。だけど横島君は焦った様子で自分の頭の上のチビと一緒に

 

「すんませんしたー!」

 

「みみー!!」

 

横島君とチビが並んで頭を下げる。チビは真似しているだけみたいだけど、中々に愛らしい仕草だ。ピコピコと揺れる尻尾が更にそれを加速させる

 

「……今回は許してあげるわ。今度はないからね」

 

「へへー」

 

「みみーん」

 

蛍ちゃんが機嫌を直したところで近くを調べていたおキヌちゃんが戻ってきて

 

【美神さん。近くに神社見たいのがありますよ?】

 

神社……もしかすると報告にあった。あの神社かもしれない……詳しい場所は知らないが、確か人の住んでいる場所も近いはずだからそこを目的地にすれば良いだろう。ただし……罠と言う可能性も充分に考えられる、蛍ちゃんも同じ結論になったのか

 

「ミズチの罠かもしれないですね」

 

蛍ちゃんがそう呟く、GSの勉強をしているだけあって頭の回転は速いわね

 

「ええ。その可能性は充分にあるわね」

 

むしろその可能性しかない、トランクから除霊具を取り出す。一番最初に取り出したのはAランクの防護札

 

「じゃあ横島君は10枚ね。しっかり身につけておくのよ」

 

私と蛍ちゃんは霊力の護りがある。霊力をコントロールできない横島君に多めに持たせるのは当然だ

 

「う、うっす」

 

Gジャンの裏と表に札を貼っている横島君を見ながら蛍ちゃんと私は近くの茂みに向かう。

 

「あれ?美神さんに蛍は?」

 

私達に気付いて尋ねて来る横島君に私は

 

「ミズチは水を使うから肌に貼り付けたほうがいいのよ。言って置くけど覗いたら殺すからね」

 

「YESマム!」

 

敬礼する横島君を見ながら茂みの中に入り上着を脱いで下着姿になり、その下着も脱いで裸になる

 

「や、やっぱり女同士でも恥ずかしいですね」

 

顔を紅くする蛍ちゃん。それは私も同じなので言わないでと言い、素肌に直接防護札を貼り付けていく。これがあるとないとでは全然違う。

 

「蛍ちゃんも早くしてね」

 

私が張り終わってもなお胸と腹にしか貼ってない蛍ちゃんにそう声をかけ、服を着なおして車の方に向かうと

 

「……んー?」

 

横島君が腕を組んで難しい顔をしていた。なにか考え事をしている様子だ

 

「どうかしたの?」

 

「いや?なんかここを知ってるような気がして。おかしいですよね」

 

そう苦笑する横島君。だけどそれはもしかすると霊感に目覚めつつあるのかもしれない

 

「お待たせしました」

 

まだ頬に若干赤みの残っている蛍ちゃんが合流した所で、トランクから破魔札や霊体ボウガンを取り出し、更にもう1つ

 

「これは水神符って言う稀少なお札よ。水の流れを断ち切るものでミズチには効果的だから一応横島君も持っておいてね」

 

使えるかどうかは判らないが、お守り代わりに持たせる。前の事もある、もしかするとまた陰陽術を使う可能性もあるので持たせておこう。近くを浮いているおキヌちゃんに

 

「それじゃあ案内してくれる?」

 

【はい、こっちです】

 

ゆっくりと先導してくれるおキヌちゃんに案内され神社に向かう。山の中腹に面しているその神社からは近くの町が見える。

 

(思ったよりも都心なのかもしれないわね)

 

近くに道路も見えるので上手く運転すれば道路に出れる。カオスの車だから多少の悪路も問題ない、そのための道順を確認していると

 

「なんやろ?この神社の奥にある岩?なんか文字が刻んであるんやけどなぁ?」

 

神社を調べるように言っておいた横島君の声が聞こえる。何か見つけたのかしら?私が振り返ろうとした瞬間

 

「……ようこそ。私の城に」

 

静かだが嫌に耳に響く声。その声に懐の破魔札を引き抜きながら振り返る。私の視界に飛び込んできたのは大量の水

 

「しまっ!」

 

やはり罠だった。この神社はミズチの領域だったのだ、私から離れていた横島君が真っ先に水に飲まれ

 

「のあああああ!!」

 

その濁流のような水が横島君を攫いその姿を飲み込む。咄嗟に水神符で水の流れを断ち切ろうとするが……駄目だ!間に合わない!!!

 

「横島!」

 

「みー!」

 

「こーん!!」

 

【横島さん!!!】

 

蛍ちゃんたちの悲鳴が重なるがそれは一瞬で消える。私達もまたミズチの放ったであろう水へ飲み込まれてしまったからだ……

 

 

 

「……成功」

 

この場所に上手くおびき出し、全員を私の異界の飲み込むことが出来た。後はあの男を見極めるだけ……私の加護を持つ男。その魂はあの時と変らない、だけど今はどうなのか判らない。それを見極めるためには私の異界が一番良い……私も異界に潜ろうとすると

 

「待ちな。今すぐ飲み込んだ奴を吐き出せ、蛇」

 

私の背中に当たる鋭い切っ先。この感じは多分槍……それに同属と言うのも判る

 

「……蛇は失礼。そっちの方が蛇」

 

「言われてみればそうだね」

 

軽口を叩いてはいるが、切っ先はいつでも私を貫ける姿勢のままだ、体が水である私を貫けはしないが……ダメージは受ける。槍の切っ先を覆っている魔力はかなりの密度だ。実体をなくす事のできる私でもダメージは避けられない

 

「もう1度言うよ。今飲み込んだ連中を吐き出せ」

 

その声は静かだが、いつでも貫く事ができるんだぞと言う意思を感じる。私の領域で私が気付かなかったことも加味して考えるとこの槍の持ち主はかなりの強者だと判る。だけど……

 

「……断る」

 

私には私の目的がある。だから吐き出すつもりはないと言うと、切っ先が私の背を穿とうとする。それよりも早く

 

「……シッ!」

 

横っ飛びしながらその切っ先を交わすと同時に右手を振るう。手の平に溜まっていた水が三日月状になりとんでいく

 

「ちっ!!!」

 

舌打ちしながら刃を交わす龍族。手を振り水の刃を飛ばす。普段ならこんな山の中で使うことのできない能力だが、ここは私の城。高島が私の為に作った神社だ。ここにいる限り、私の水は尽きることはない

 

「……敵対の意図はないが、迫り来る敵は振り払う。互いに武器を引いて話をしよう」

 

紫の髪をした龍族にそう声をかける。神気ではなく、魔力を纏っている所を見ると魔族だろう、私もそちら側なので別に嫌悪感はない

 

「話の内容によるね。私にも私の都合があるんだよ」

 

槍を構えるのはやめたが鋭い視線は依然私に向けられている。一瞬で間合いを詰める事も可能だろう……

 

「……私はあのバンダナを巻いた少年を見極めたいだけ。攻撃はするが殺す気はないし、終われば怪我は治す。だから邪魔をしないで欲しい」

 

私は遠距離型なので近接はあまり得意ではない、ここは穏便に話を進めたい。無論戦いとなれば負けはしないが、勝てもしないと言うのは互いに判っている

 

「殺さないって言う保証は?」

 

「……大蛇(オロチ)の系譜。ミズチの名の下に誓う」

 

その言葉に肩を竦める龍族。日本神話に登場する八岐大蛇。その正体は斐伊川の化身と言う説がある、だから火を司る龍である八岐大蛇だが、水を司る面もある。私はその面を継いでいる……とは言え攻撃性は殆ど継承されていないが……

 

「OK。判った信じよう」

 

八岐大蛇の名は龍族の中では有名だ。取り分け龍族の中では龍神王と並び立つと言われる最強の龍種。その名前はとても力がある

 

「……ありがとう。貴女も来る?」

 

ゲートを作りながら訪ねるとその龍族は槍を消して、服を調えながら

 

「メドーサだ。お前は?」

 

私の名を尋ねて来る龍族。私はミズチ……だけど別の名前もある。高島が加護の代わりに授けてくれた名前

 

「……シズク」

 

人間に与えられた名前なんてと思うかもしれないが、私にとっては特別な名前。

 

「シズクだね。よろしく。じゃあ頼むよ」

 

「……判った」

 

私はメドーサを連れ、異界の中へと飛び込んだ……あの人間達をここに追い込んだのも、見極めるため……高島の転生者を……

 

(……裏切ってくれるな……)

 

人間は嫌いだけど、高島は信じたい……私はそんな事を考えながら自分の世界へと足を踏み入れたのだった

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その3へ続く

 

 




次回は戦闘回で進めて行こうと思います。ミズチはおまもりひまリの静水久がモデルです、名前もそうですが、漢字明記とカタカナ明記で違う存在と思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は戦闘回になる予定です。とは言え勝てる勝負ではないのでかなり不利な戦闘になるのは当然ですね。主な焦点は横島になります、戦闘ではなく人格面でですけどね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その3

 

なんか……変な感じだなあ……何も見えない闇の中。俺は何とも言えない不思議な感触を味わっていた

 

(水の中なんだよな。ここは)

 

意識を失う前に見た濁流のような水。そんな水の中にいるんだから息苦しい筈なのにとても穏やかな気分だ。もしかしてこのまま死んでしまうから?と一瞬不吉な予想が頭を過ぎるが、そんな嫌な感じもない。ここはどこなんだろうか?と思っていると脳裏に断片的といえばいいのだろうか?様々な場面が浮かんでは消えていく

 

漫画で見るようないかにも陰陽師と言う格好をした青年

 

その青年を見つめる緑色の髪をした少女

 

(あれ?あの子どこかで見たような?)

 

どこかで見覚えのある少女の姿に首を傾げる中も映像は変わっていく

 

神社の前で小さな岩に文字を刻み。札を貼る青年とその青年の隣で岩を見つめている少女

 

次の瞬間には少女の姿は岩の中に消えていく。だが完全に消えるその瞬間に青年の頬に手を伸ばし、自身のほうに引き寄せ額に触れるだけの口付けをする。

 

【……またどこか、ここじゃない時代で、貴方じゃない貴方に私は会いに行く。それまでさよなら……高島】

 

その言葉と同時に奇妙な感覚は消えて、代わりに信じられないくらいの息苦しさが襲ってきて慌てて目を開ける。

 

「がぼがぼがぼおおおお!!!」

 

予想とおり水の中だったが、驚いて絶叫してしまう。当然ながら水の中なので声にならない上に酸素を吐き出してしまい

 

(あかん死ぬ!!!)

 

水の中って事は水面は上か!咄嗟に上のほうに光が見えるのを見つけて必死に泳ぎ

 

「ぶっはああ!し、しむう……」

 

水面から顔を出して荒い呼吸を何度も繰り返して、必死に酸素を取りこんでいると

 

【み、見つけましたぁ!横島さん!無事で良かったぁ!!】

 

「が、がぼおお!?」

 

上空から突撃してきたおキヌちゃんに再度水面に押し込められる。だがこうして探しに来てくれたということは美神さんたちも無事だろうし、何よりも

 

(み、見えたぁ!!!)

 

水面に突撃した事でおキヌちゃんの巫女服の前が少しはだけ、ほんの少しだけ見る事の出来た双丘に痛いほど心臓が高鳴るのを感じるのだった……おキヌちゃんに案内され、平泳ぎで泳いでいるうちに見えてきた。水の上に浮かぶ神社……まだ大分距離はあるが、そこには美神さんと蛍の姿が見える。それにチビとタマモの姿があって一安心した。

 

【も、もう!横島さんはスケベなんだから!】

 

俺の頭の上でいやんいやんと身体をよじるおキヌちゃん。水面から出ると自分の胸が少し見えていたことに気付いてからはずっとこうだ。案内してくれるのはありがたいが、このままでは命がないので

 

「今度何か埋め合わせはするから……ごぼ!がぼ!普通に接してくれないかなあ?」

 

事故だったのでどっちが悪いとは言えないが、だけど素肌を見た俺の方が圧倒的に悪い。だから今度埋め合わせをするので普通に接してくれとお願いすると

 

【判りました♪私別に横島さんなら恥ずかしくも何ともないんですけどね】

 

えへへと笑うおキヌちゃん。なんでこんなに良い子が俺の事を好きって言ってくれるんだろうか?蛍にしてもそうだけど

 

(なんで俺なんかを……)

 

何をしても駄目な俺を何で?と言うことを考えながら泳いでいると神社の前に来たようで、石畳の上から

 

「大丈夫?横島?」

 

俺に手を伸ばしてくれる蛍の手を握り返し、ひっぱり上げられながら

 

「なんとか」

 

俺はそう返事を返しながら神社の石畳の上に上がる。すると美神さんが見鬼くんを手に周囲を警戒しながら

 

「今近くに敵の気配はないわ。今のうちに着替えてきなさい。神社の中で」

 

その視線の先には荷物が置かれている、元々長丁場の予定だったので着替えも準備してある。まさか1日目で使うとは思ってなかったが……このままでは破魔札も使えないので早めに着替えてきた方が良いだろう

 

「じゃあ着替えてきます」

 

このままだと風邪を引くかもしれないので早く着替えたほうがいいだろう。神社の境内の中で着替えるのは悪いと思うが緊急事態なのでここは我慢して貰おう。境内の中に入る前に手を合わせて中に入ろうとして

 

「覗かないでね?」

 

冗談で言うとおキヌちゃんが肩を竦めて明後日の方向を見ていて口笛を吹いている

 

「すまん。タマモ頼む」

 

「コン」

 

俺は裸を見られて喜ぶような趣味はない。なので、石段の上で日向ぼっこをしているタマモにそう頼み境内の中に足を踏み入れたのだった……

 

 

 

水中に浮かぶ神社を見つめる2つの視線。メドーサとシズクだ……ここはシズクの世界。霊力の気配を消すなんて事は簡単な事なのだ

 

「随分とすごい能力だね。水の近くならもっと強いんじゃないのかい?」

 

槍を肩に担ぎながら尋ねる。山の中でこれだけの異界が作れるなら水の近くならもっと強力な結界を作れるのでは?と尋ねると

 

「……無理。この山と神社は高島が私の為に水の流れ・霊力の収束を調整してくれた山。水の近くでも、ここじゃないとこれだけ強力な異界は作れない」

 

高島ねえ……聞き覚えのない名前だけど、シズクの話を聞く限りでは陰陽師もしくは風水師なのかも知れない

 

「……それにこの力は他の水神から奪った力だから」

 

「お前さん?指名手配にでもなる気かい?」

 

神の力を奪う。同系統の神では不可能ではない話だが、それは重罪だ。下手をすれば私と同じでブラックリストに載る事だって考えられる

 

「……問題ない。力は後で返す、分身体を使ってたから問題ない」

 

シズクはそう言うと指を鳴らして空中に水で出来たいすと机を作り座る。私の分もあるが当然水なので座ろうか悩んでいると

 

「……ぬれないから大丈夫。メドーサも座ると良い」

 

そう笑うシズク。断るのもおかしな話なので座る。すると眼下の水が柱のようになり、その姿を巨大な龍に変える……8つ首の大蛇……

 

「これが分身体ってやつかい?」

 

さっきの話にあった奴かもしれないと思い尋ねる。見た所だと水を媒介にした術のようだけど……霊力もあるから本物としか思えない。それに8つ首は八岐大蛇を連想させる。分身といえるレベルの能力ではないだろう

 

「……そう。私の得意技……これであの少年を見極める」

 

少年と言うと横島か。確かに今の横島はあまりに弱い。ここで見極めてみるのも面白いかもしれない。私は槍を消して神社に襲いかかろうと牙をむく巨大な龍の姿を見つめるのだった……シズクは操作に集中しているのか目を閉じて動く気配がないので

 

「一杯やるかねえ。良い肴になりそうだ」

 

魔力で槍を収納している空間から酒のボトルを取り出す。グラスがないのでそのまま煽りながら、水龍とGSの戦いに視線を向けるのだった……

 

 

 

まさか異界を作れるほど強力な水神だったとは予想外ね。高位の神や魔族は自身の力を使い、異なる世界を作ることが出来るとは聞いていた、だけどこうして見ると信じられないと言う感想しか感じない

 

(とりあえず記録ね)

 

見鬼くんには映像記録の機能もあるのでしっかりと記録しておく。後の情報にもなるし、なによりも

 

(これだけ危険な山だったんだから追加報酬をもらえないと割に合わないわ!)

 

心の中でそう叫び自分を奮い立たせるが、状況としては最悪のまま。山の中にあった神社がそのまま異界に取り込まれ、周囲は全て水。どう考えてもミズチの領域であり、勝てる要素はどこにもない。かと言って異界の中から逃げる方法なんて知らないので正直言って詰んでいる……どうした物かと考えていると

 

【ギャオオオオオッ!!!!!!】

 

咆哮と共に水が盛り上がり、巨大な身体を持つ8つ首の龍が姿を見せる

 

「まさか八岐大蛇ッ!?」

 

とんでもない大物だ。龍族の中でも最高位に属する最強最悪の龍、はっきり言って勝ち目などない……なんでこんな高位の龍が……

 

「斐伊川の化身……水の……そうか!」

 

八岐大蛇は斐伊川の化身として扱われる事もある。龍族に属するが、水神と言う解釈も出来る。つまり私達が対峙しているこのミズチは八岐大蛇に属する水神。ミズチの中でも最高位のミズチだったのだ……

 

「美神さん!来ます!!」

 

蛍ちゃんの言葉に我に帰り咄嗟に後ろに飛ぶととんでもない威力の水の柱が立つ。直撃を喰らえば水神符に防護札が一瞬でお釈迦になるようなそんな強力な霊力と物理を兼ね備えた一撃だ。だが問題なのはそれではない、今の水を吐き出したのは首の1つ。大きく口を開いている首は3つ……まさか!

 

「精霊石よ!!!」

 

カオスから受け取っていた複製精霊石を2つ取り出し霊力を込め投げる。空中で壁になると同時に八岐大蛇の吐き出した水のブレスを弾き飛ばしてなお存在している

 

(今度これはもっと買っておきましょう)

 

効果を見る限りでは複製とは言え、最高レベルの精霊石と同じ効果があるという事が判った。今度はもっと買っておこうと心に決め

 

「おキヌちゃんは周囲の警戒!背後から首が回ってこないように監視してて!」

 

八岐大蛇の首は8本。正面だけではなく背後も警戒してなければならない、だけどそこまで手が回らないのでおキヌちゃんに頼む

 

「だけど攻撃は避けなさい。あれだけの霊格だと幽霊と言っても危険だわ!」

 

【はい!判りました!】

 

八岐大蛇の霊格を考えると掠っただけでもおキヌちゃんには致命傷だろう。とは言え監視を頼まないわけには行かないのだ

 

「チビとタマモは!?」

 

「もう隠れてます!」

 

蛍ちゃんがそう叫びながら鞄から霊体ボウガンを2丁取り出して片方を私に投げてくる、距離があるのでまず破魔札も水神符も届かない。効果があるかは不安だが霊体ボウガンに賭けるしかない

 

「美神さん!俺はどうすれば良いですか!」

 

いつものGジャンGパン姿ではなく、普通の黒の上下に着替えてきた横島君が境内から飛び出してくる。人手が足りないが霊体ボウガンを使えない横島君では正直言って役に立たない。だけど……いつまでもそんな事を言っていても横島君が霊能力に目覚めないだけ

 

(ここは荒療治だけど……やってみる価値はある!)

 

潜在霊力は高いのだから何かのきっかけで解放されるかもしれない。そして相手とすれば最強最悪の八岐大蛇……その霊格に引きずられる事で霊力が目覚める事だって考えられる

 

「横島君!これを持ってなさい!私と蛍ちゃんは攻撃に集中するから護りは任せるわよ!!!」

 

自分の分は必要最低限の枚数だけ残し、予備の分の水神符を全て取り出して横島君に押し付ける

 

「う、うっす!!!」

 

震える声で返事を返す横島君。今回は防御に気を回しているだけの相手ではない、不安は残るが横島君に防御を任せるしかない。

 

「行くわよ!!横島君!蛍ちゃん!」

 

相手はとんでもない強敵だ。生き残れる可能性は極めて低い……しかし戦わないわけには行かない

 

「生き残ったら好きな物なんでも奢るから気合を入れなさい!!」

 

「うっす!!」

 

「横島よろしく頼むわよ!!!」

 

もしかすると生き残る事すら難しいが、こんな所で死ぬつもりはない。気合を入れ上下左右から襲ってくる水のブレスと、凄まじい勢いで突進してくる巨大な牙を相手に勝ち目のない戦いに挑むのだった……

 

 

 

目を閉じて私の作り出した水の大蛇との視覚リンクで高島の転生者を見ているのだが……

 

(……力は引き継がなかった?)

 

本来高位の陰陽師と言うのは、身につけた術をその魂に刻む。転生することで記憶を失うが、魂は覚えている。何かのきっかけで解放される可能性が高い……それなのに転生したと思われる少年は逃げるだけ……いや

 

「このお!!水神符ッ!!!」

 

無様に泣きながらも手にしていた札を叩きつけ、水のブレスを無効にしている。僅か、本当に僅かながら陰陽師としての力は残っているのかもしれない。

 

(……あの札はそんなに強力な物ではない)

 

何回か戦ったGSと言う現在の退魔師も同じような物を使っていたが……これだけの効果を持ち得なかった。恐らく、転生者の少年と一緒にいる2人の女性が使ったとしてもあれだけの効果はないだろう……

 

(……興味深い)

 

札で私のブレスを防ぐ度に少年の霊力が解放されている。そこは高島の転生者だけあり非常に強力だ……だけどなぜ

 

(……泰山父君の祭に挑戦したんじゃ?)

 

泰山父君。閻魔様の試練に挑み完全なる転生を目的にしていたのでは?話に聞いていただけど高島があの時代では最高峰の陰陽師だった。その知識と術を重要視した陰陽寮から泰山父君の祭に挑戦するように言われて嘆いていたのを覚えている。まぁ性格は少しおかしい物だったけど……実力は確かだった。泰山父君の祭。あれは本来死んだ陰陽師のみが挑戦でき、しかも魂の容量が(桁外れor並外れ?て)無ければ挑戦できない。それを生身で挑戦するなんて無謀の極みだ……私でさえ泰山父君に会おうとは思えない。それだけの難しい試練だ……

 

(……失敗した?)

 

その術に失敗して不完全に転生してしまったのか?それとも泰山父君の祭に挑戦しなかった事で処刑されたのか?私が封印された後のことだったから判らない……

 

(……もう少し攻撃してみる)

 

少しずつ霊力が上がってきている。もしかするとこのまま追い詰めれば高島が得意としていた五行陰陽術を開眼するかもしれない。

高島が全ての陰陽術そして式神の扱いに長けた実力・名声ともに最高の陰陽師だった。性格には若干の難があったが……霊力を散らしめる封魔術。火・水・木・金・土の五行からなる攻撃・防御にも使える五行陰陽術に加え、独自の陰陽術を開眼した天才でもある。その貴重な才能をあの少年が引き継いでいるのか?それがどうしても気になる

 

「ほどほどにしておきなよ?あの中の面子の誰か1人でも殺したら、私がお前を殺すことになる」

 

メドーサの呟きに判っていると返事を返し、亜麻色の髪と黒髪の女に4本の首を向け、もう1本を少年のほうに向けたのだった……

 

 

 

【シャアアアア!!!】

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

何故か美神さん達ではなく俺を狙い始めた首の一本に絶叫する。タマモとチビは境内の中に隠れているので普段の回避の補助は狙えない。唯一の救いは

 

【横島さん!ジャンプ!ジャンプして!!!】

 

背後からの奇襲がないので俺のサポートをしてくれているおキヌちゃんの存在だ

 

「どっひゃあああ!!!」

 

【がアアアア!!!】

 

大口を開けて俺を飲み込もうとしてきた首を回避して、そのまま走り出し

 

「いけえ!!!」

 

蛍と美神さんに向けられたブレスを防ぐために水神符を投げる。これで残りは7枚……最初は数枚余るかもしれないと思っていたが……

 

(やべえ!消耗が早い)

 

俺にも水のブレスが来るようになったから水神符の消耗が激しい。美神さんもそれに気付いているようで

 

「馬鹿!私達は何とか避けるから自分のみを護るのに使いなさい!!!」

 

両手に霊力の盾を作ってブレスを弾こうとしていた美神さんがそう怒鳴る。だけどあんな盾で弾けるようには見えなかったのでこれで良かった筈だ。美神さんと蛍が無事なのを見て一瞬気が緩んだその瞬間

 

「横島!避けてッ!!!!」

 

【横島さん!】

 

蛍とおキヌちゃんの声が聞こえた瞬間。背中にとんでもない衝撃が走る……それは首の1つが吐き出した水のブレス。蛍が投げてくれた霊力の盾を容易く貫き俺の背中を打ちぬいたそのブレスに

 

「う、があ!?」

 

苦悶の声を上げたと思った瞬間。石畳に2回ほど叩きつけられ、そのまま俺は水面に背中から落ちゆっくりと水の中へ沈んで行ったのだった……意識を失う瞬間に聞こえたのは

 

【……お前はここまで?それとも先に進むの?】

 

期待するかのように、それとも失望したとでも言うかのような……蛍でも美神さんでもない澄んだ女性の声と

 

【だー。んでこんな事になるかなあ……はぁ。少しだけ、少しだけだからな?今回は俺が力を貸すからな?今回だけのサービスだからな?】

 

どこか俺に似た声をしている困ったような青年の声だった……

 

 

 

水の柱を上げて沈んでいく横島……咄嗟に投げたサイキックソーサーも意味はなく簡単に貫かれた

 

(あいつが……)

 

唸り声を上げる八岐大蛇。最上級の邪龍?神族?関係ない……横島を私から奪った……

 

(もういい、もういい……)

 

手首のブレスレットに手を伸ばすこれが私の魔力と霊力を制限させている物……これを外せば魔族としての私の力が使える。倒せないにしてもあの蛇にダメージを与える事が可能になる。

 

(ゆるさない……許さないッ!!!)

 

私が手に仕掛けた幸せを奪った。あれだけの威力のブレスを受けて未熟な横島が生き残れるとは思えない。

 

「蛍ちゃん!?早く立って!もう一撃来るわよ!」

 

うるさい……

 

【蛍ちゃん!急いで!!】

 

うるさい!!!

 

(私の気持ちなんて判らない癖に!!!)

 

私がどんな思いで逆行を考えたかも知らないくせに、私はあの時代の全てを失ってでももう1度横島に会いたかったんだ。父も母も友人も全て捨てて、この1回しか出来ない逆行に全てを賭けたのに!!!!

 

【【【ガアア!!!】】】

 

三つ首から吐き出されるブレス。それを避けるためにブレスレットを外そうとした瞬間

 

「急急如律令ッ!!!霊符を持って命ずる!!!水の力を散らしめよ!!」

 

水面から飛び出してきた札が空中に六芒星を描き、吐き出されたブレスを無効化する。それと同時に水面から横島が飛び出してきて

 

「急急如律令ッ!!!霊符を持って命じる!我が傷を癒せ!」

 

神社の上に降りた横島は更に札を使って自身の傷を癒す。

 

「よ、横島君?それは?」

 

横島が立て続けに使った高位の陰陽術。美神さんが信じられないという感じで呟く

 

「なんかわかんないっすけど、判ります。使えますよ陰陽術。大丈夫か?蛍?」

 

心配そうに私に手を伸ばす横島。私は外しかけたブレスレットを元に戻し

 

「心配したのはこっち!!今度こんなことをしたら許さないんだからね!!!」

 

そう怒鳴り涙を拭って立ち上がる。横島が生きてるなら魔力を使わない。まだ魔族としての力を横島には見せたくないから

 

「どういうことかわからないけど戦力として数えていいのね?」

 

「うっす!大丈夫っす!」

 

破魔札を構える横島からは霊力が溢れている。あれだけの霊力があれば大丈夫。それにさっきの封印術と陰陽術があれば八岐大蛇の力を削いで脱出する隙が生まれるかもしれない

 

「蛍ちゃん!横島君のフォローに回るわよ!横島君は陰陽術の準備!少しでもいいから八岐大蛇の力を削いで!そうすれば脱出の隙が生まれるかもしれない」

 

素早く作戦を立てる美神さん。私はその言葉に頷き両手にソーサーを作り出し横島のフォローに回る。横島は両手に破魔札を構え意識を集中する……

 

「行くわよ!2人ともしっかりね!!」

 

霊体ボウガンではなく、両手に破魔札を構える美神さん。そして8つの首全てが同時に私達に向けられる。さっきまでは脅威だったが、今は大丈夫だと思える。今度は何とかなると私は確信していたのだった……

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その4へ続く

 

 




次回は戦闘回の続きになりますね。陰陽術を使う横島がメインのポジになると思います。とは言え今回限りですけどね
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回で戦闘回は終了の予定です。陰陽術を使えるようになったとは言え、相手は神であり龍族の八岐大蛇勝利できる可能性は0です。どういう結末が待っているのか?楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その4

 

少年に打ち込んだ水は只の水じゃない、私の霊力を収束しなおかつ威力を限りなく0にした特別な水。これがあの少年の霊力の呼び水となると予測していたのだが

 

(……高島の気配が一瞬した)

 

ほんの一瞬。ほんの一瞬だが懐かしい高島の気配を感じた。もしかすると転生に失敗したのではなく、あえて失敗しその魂の一部に残るという事をしたのかもしれない

 

「化けたね……あの小僧」

 

メドーサが手にしていた酒のボトルを握り潰し呟く。私とメドーサの視線の先ではみっとも無く逃げるのは同じだが

 

「ひいい!れ、霊符を持って命じる!水の力を散らしめよ!急急如律令ッ!!!」

 

水の分身に霊符をぶつけてその力を徐々に削り、なおかつ2人の女性を護ると言う器用な事をしている

 

「ナイス!段々避けれるようになってきたわ!その調子でドンドンやって!!」

 

破魔札で攻撃しながら叫ぶ女性とその隣で霊力で出来た盾で攻撃をしながら

 

「霊力の使いすぎに注意して!今の横島はまだ細かいコントロールが出来ないんだから」

 

あの黒髪の言っていることは正しい、今の少年は私の霊力で一時的に霊力を開放している状態だ……もしかすると高島の霊的知識の補正があるかもしれないが、それでも細かい操作は出来ない。本来1の霊力で出来る事に10を使っているのと同じ状況だ。膨大な霊力があっても近い内に尽きるだろう

 

「いつまで様子見をするんだい?」

 

メドーサの問い掛けに少し考える。見たい物の1つは見れた。あの少年はちゃんと高島の陰陽術の一部を引き継いでいる……これは彼が高島の転生者である証明だ。あれだけ強力な五行陰陽術は平安時代でも高島しか扱う事の出来なかった物だ

 

(……だけど私の見たいのはこれじゃない)

 

力も必要だ。思いを通すにはまず力……どれだけ崇高な願いも力が無ければ叶える事は出来ない。願いを叶えるにはまず力……あの少年はまず私に力を示した。次は

 

(……心)

 

心無き力はただの害悪。そして私が見たいのは人間に対する優しさではない、妖に対する理解と優しさ……私は少しずつ力を失っている分身体の目から見える2匹の妖怪。九尾の狐タマモとその隣にいる謎の毛玉……

 

(……謝るのは後でも出来る。今はごめんとしか言えない)

 

敵対する意思がないのは知っている。だけど必要な事だ。隠れている二匹の方に向かって首を1本仕向けたのだった……

 

 

 

敵の攻撃が緩くなってきている……それに8本の首のうち2本は既に完全に動きが停止している。

 

(このまま行けば脱出できるチャンスがある!)

 

カオスから預かっていた菱形の結晶石。これを上手く当てる事が出来れば大幅にあの水の竜の力を弱めさせる事が出来る。外見こそ八岐大蛇ではあるが、あれは外側だけを真似て作り上げられた水の人形。それこそが唯一の勝機。いや逃亡できるチャンスだ。その要は私でも蛍ちゃんでもない

 

「横島君!まだ行ける!?」

 

横島君の陰陽術。それしかない、まだ辛うじて動いている首から放たれた水のブレス。まだ残っている精霊石を投げ障壁を作り横島君を護る。

 

「ぜー……ぜー……ぜー!!ま、まだ大丈夫っす!!!」

 

荒い呼吸を整えながら再度札を構えるが、足元がふらついている。急激な霊力の消耗による体力の消耗だろう……もう長くは持たないというのが判る。それでも横島君は

 

「急急如律令ッ!!!霊符を持って命じる!水の力を散らしめよッ!!!」

 

言霊を乗せて霊札を投げつける。それは八岐大蛇の山のような胴体に張り付き霊力を更に削っていく……だがその勢いは最初と比べて大分弱くなっている

 

「美神さん!それ以上横島に陰陽術を使わせないでください!!」

 

水のブレスをサイキックソーサーで弾きながら蛍ちゃんが叫ぶ。今の横島君は自分の霊力をコントロールできていない。これ以上陰陽術を使わせるのは彼の命に関わる

 

(ギリギリか……もう少し霊力を削られないと)

 

今ので更に2本。首が動かなくなった、これで残るは4本。だけどその首に霊力を集中させているのか水のブレスの威力は一行に衰える気配はない……

 

「こうなったら私が!!」

 

手持ちの水神符を取り出す。残りの符は7枚……横島君の陰陽術の効果と比べれば格段に劣るが無いよりかはましの筈だ

 

「霊符を持って命じる!水の力を散らしめよ!!!」

 

持っている3枚の霊符を同時に投げる。それが命中すると本当に僅かだが霊力が減り始める……だけどそれは本当に微々たる物だ。

 

「蛍ちゃん!蛍ちゃんの水神符もこっちへ!!」

 

私の手持ちだけでは足りない。蛍ちゃんにそう叫ぶと

 

「もうおキヌさんに渡しました!受け取ってください!!!」

 

【美神さん!これを!!】

 

石畳から顔を出したおキヌちゃんから4枚の水神符を受け取る。横島君に符の殆どを渡してしまったのでこれくらいしか残っていない。だけど効果はあるはずだ……蛍ちゃんの分と合わせて8枚

 

「霊符を持って命じる!水の力を散らしめよ!!!」

 

手持ちの8枚の霊符を投げて霊力を削る。これでやっと八岐大蛇の首が動く首が残り2本になった

 

「これでやっとこれを使える」

 

カオスから預かっていた菱形の結晶を取り出した瞬間

 

【【ガオオオオッ!!!!】】

 

残っている2本の首が雄叫びを上げたと思った瞬間。その内の1本の首が凄まじい勢いで私達のほうに伸びる

 

「蛍ちゃん!横島君!おキヌちゃん避けなさい!!」

 

自身も飛びのきながらそう叫ぶ、水とは言え。あれだけの質量、掠っただけでも致命傷になりかねない。その巨大な牙を回避し石畳の上を転がる。代わりに木材の破砕音が響く

 

「チビ!タマモ!!!」

 

それに続いて横島君の悲鳴が響く。空を見上げるとその小さな身体が宙を飛び水面に沈む。それを見た横島君が立ち上がり水の中に飛び込もうする。

 

「横島!無理よ!危険すぎる!!」

 

蛍ちゃんがそう叫ぶ。水面に顔を出して暴れているタマモとチビを飲み込もうとする首と私達に水のブレスを吐き出そうとしている首。自分の身を護るのを優先するべきだ

 

「横島君止まりなさい!貴方まで死ぬわよ!!!」

 

私もそう怒鳴るが横島君は必死で走りながら。ズボンから水神符を取り出して

 

「危険がなんだ!!チビとタマモは俺の家族なんだよ!!!見捨てられっか!!!霊符を持って命ずる!!水の力を散らしめよ!!急急如律令ッ!!!」

 

私と蛍ちゃん。そしておキヌちゃんを水神符の結界で護ると同時に横島君は水の中に飛び込み

 

「タマモ!チビ!」

 

「こ、コーン」

 

「みいい……」

 

チビとタマモを抱き抱える、だが次の瞬間。大口を開けた首に飲み込まれる

 

「横島!」

 

【横島さん!!】

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんの悲鳴が重なった瞬間。吐き出された水のブレスが私達を纏めて飲み込んだ……凄まじい水量に飲み込まれながらもこの世界に引きずり込まれたときと同じ声が耳の中に響く

 

「……合格」

 

嬉しそうなその呟き。誰が何に合格したのか?それが判らないが確かに私はそんな声を聞いたのだった……

 

 

 

「あ、あれ?」

 

水のブレスに飲み込まれた筈なのだが気がつけば私達は元の山の中腹の神社の中に居た。服も濡れていないし……

 

(まさか幻術?)

 

一瞬その可能性を考えるが離れた所にある水溜りを見ると幻術ではないと言うのが判る。

 

「異界から放り出されたみたいね。あのミズチなにがしたかったのかしら?」

 

美神さんが立ち上がりながらそう呟く。何か目的があって異界に引きずり込んだというのは判るんだけど……何がしたかったんだろう?

 

「そうだ!横島は!?」

 

離れた所で飲み込まれていた横島の姿が見えない。立ち上がり探すがその姿はない

 

(まさか攫われた!?)

 

何の為に八岐大蛇が横島を攫って言ったのかは判らない。だけどその可能性があると言うだけでどこかに横島がいるかもしれないと思いその姿を探す。おキヌさんと美神さんも一緒に探してくれるがその姿はない

 

「なんで……横島が」

 

横島を攫う理由がない……いや……もしかするとあれだけの陰陽師の才能を見せ付ければ攫っていく可能性は充分にあるけれど……

 

【横島さーん!!】

 

おキヌさんが空を飛んで探しているがやはりその姿が見えない様子で肩を落としている

 

「参ったわね……神様に攫われたと考えると神隠し。見つけるのは困難よ……」

 

眉を顰めている美神さんと見つけることが出来なくてへたり込んでいる私とおキヌさんの前に大きな水溜りが現れる。咄嗟に身構える。もしかして八岐大蛇がまた……だけど予想に反して姿を見せたのは

 

「げほ!ごぼっ!!うえ!げほげほ!!!」

 

四つん這いで咳き込んでいる横島。その腕の中にはタマモとチビの姿。ちゃんと助ける事ができたらしい……その事に安堵していると水が宙に浮き上がりその姿を人型に変える

 

「……もう戦わない。目的は果たした……攻撃してごめんなさい」

 

ぺこりと頭を下げる水の人型。さっきまでの猛攻撃がなんだったのかと力が抜ける

 

「目的は何?何のために私達を攻撃したの?」

 

美神さんがそう尋ねると水の人型。顔がないので良く判らないが、少しだけすまなそうな雰囲気を見せながら

 

「……力がコントロールできなかった。霊力を適度に削いでくれてありがとう。じゃあね?」

 

そう言うと水の塊になってミズチ(?)が飛び去っていく。凄まじい勢いで飛び去って行く水の塊を見て美神さんが

 

「迷惑をかけたとおもうなら何か置いていけーッ!!!」

 

確かにそうだろう。こっちは何度も死に掛けたのだからそれ位してくてもいいはずだ……だけどまぁ横島が無事に帰ってくれたので私的にはこれでOK……私にとってはどんな宝よりも横島が大事だから

 

「ぐおおお……い、いてえ……身体が超イテエエッ!!!」

 

タマモとチビを話して呻いている横島。間違いないあれだけ膨大な霊力を使ってしまったゆえの霊体痛だろう……だけど

 

「あがががががが!!!」

 

転がりまわっている横島を見ると尋常じゃない痛みなのは間違いないだろう。可哀想だけど、意識があると余計に苦しむ事になるのでしゃがみ込んで首筋に手刀を叩き込み意識を刈り取り

 

「美神さん!この神社の捜索は明日にして横島を近くのホテルにでも運びましょう!」

 

美神さんも同じ意見だったようで頷きながら、横島を背中に背負って

 

「急ぐわよ!ホテルで霊体痛の薬を飲ませて安静にさせないと!」

 

霊体痛は霊力を使いすぎれば起きる症状だが、横島の苦しみようは異常だ。これはかなり深刻かも知れない

 

「くーんくーん」

 

タマモが心配そうに鳴くが、横島は呻くだけで何の反応も見せない。かなり深刻なダメージを受けているようだ

 

【荷物は私が運びます】

 

ポルターガイスト能力で荷物を持ち上げるおキヌさんを見ながら

 

「ほら。来なさい」

 

「グルルル!!」

 

警戒心を露にしているタマモとしょんぼりしているチビを無理やり抱き上げて車の元に戻る

 

「しっかり捕まってなさい!蛍ちゃんとおキヌちゃんは横島君を押さえて!荒っぽい運転で行くわよ!!!」

 

言われた通り私とおキヌさんで横島を押さえると美神さんはハンドルを切り。迷う事無く山の中へと突っ込んで行った

 

「道!道ないですよおお!!!」

 

「大丈夫!突っ切れる!!!」

 

大丈夫じゃなーい!!!私は心の中でそう叫び。山中を走る衝撃で意識のない横島を私とおキヌさんで必死に押さえるのだった。なお蛍とおキヌは気付かなかったが、意識がないにも関わらず横島の顔が胸の感触で緩んでいた。恐るべし横島の煩悩である……

 

 

 

 

どこか判らない空の上空で一緒に飛んでいるメドーサに

 

「……どこまでついてくるの?」

 

異界を閉じた時点で別れるつもりだったのにまだ着いて来ているメドーサにそう尋ねる。メドーサはん?っと首を傾げてから

 

「方向がこっちなんだよ。私の雇い主のね。もう少しで分かれるからそう邪険にしなくても良いだろう?」

 

方向が一緒とはとんでもない偶然……なのか?ただ着いて来ているだけの様な気もする

 

「しかし横島って言うのはとんでもない才能の持ち主だね。知っていたのかい?」

 

並んで飛んでいるのだし、無視するのも悪いと思い。少しだけ自分の話しをすることにする

 

「……知っていた。あの少年の前世は高島と言う平安時代で指折りの陰陽師。その転生者が弱いわけがない」

 

ただ完全に転生しているわけではないし、まだまだ彼が成長途中と言うことを加味すると……まだまだ成長途中と言う感じだろう。今頃は酷い霊体痛で苦しんでいるはずだ。私が見極める為とは言え、彼には少し悪いことをしたかもしれない。若干の罪悪感を感じている

 

「そうかい。いい話を聞けたよ……じゃあねシズク。またどこかで」

 

大きな街の上空で別れて降下していくメドーサ。確かこの街はあの少年と会った街……どうやらこの平和そうな街にも中々強力な魔族が潜んでいるのかもしれない。

 

「……急ごう」

 

いくら私が八岐大蛇とは言え、あれだけの水神の力をいつまでも押さえ込む事は出来ない。早く霊力を返さないと……流石に若干苦しい。平安時代にもあった神族の駐屯地。妙神山に向かう……私がここに来るのは初めてだが高島に話を聞いていたので場所は覚えていた

 

「止まれい!主は「……うるさい」……がぼばああ!?」

 

門にそれぞれついている鬼の顔が怒鳴るので軽く水を打ちつけて黙らせる。騒がしいのは嫌いだから

 

「……お前達に用はない、それに直ぐ済む」

 

目を閉じて竜気と霊力を同時に解放する。同じ龍族ならば判る筈……私の正体を……引き攣った顔をしている鬼の顔を見ていると

 

「何ようですか!八岐大蛇ッ!!!」

 

臨戦態勢で門を蹴り破る勢いで飛び出してくる赤髪の龍神。竜気も霊力も凄まじい……若干警戒しながら

 

「……敵対の意図はない」

 

万歳して敵対する意図はないと言うのを行動で示す。ここに来たのは奪った霊力を返す為だ

 

「水神の祠を襲って回っていたのはどう言い訳するつもりですか?」

 

いつでも剣を抜けるように準備をしている構えている……竜気は向こうが少しばかり上。元々近接が苦手な私では勝てない相手だ……水もないし……分身体を操るのに大分消耗しているので戦うという考えはない

 

「……その事は大変申し訳ないと思っています。目覚めたばかりで霊力の枯渇と知性が低下していました……そんな事をするつもりはありませんでした。ここに来たのは奪った神通力と霊力を返す為です」

 

両手を掲げ奪った神通力と霊力を球体にして武神に差し出す。若干警戒しながらも受け取る龍神。それと同時に私の身体が元の大きさに戻る。視界が急に低くなったのを感じていると

 

「……なにか?」

 

観察している顔をしている龍神。顔を見上げる形になっているので中々見難い

 

「随分と可愛らしくなりましたね?自分の霊力も差し出したのではないのですか?」

 

まぁそれもないわけではない。お詫びも兼ねて自分の霊力もいくらか差し出した。元々私は水を操るだけの霊力があればそれで充分……ある程度自分の姿を維持できるだけの霊力だけがあれば良い。霊力は徐々に回復するので最低限の霊力で充分

 

「……お前には関係ない。それに元々はこっちが私の姿……」

 

さっきまでは外観年齢は20くらいだったけど、今は本当に姿の10歳前後……こっちほうが動きやすくて便利だ。

 

「……これで私の罪はない。失礼する」

 

私の霊力も上乗せして返した。これで文句を言う水神はいない筈だ

 

「待ちなさい」

 

「……なに?」

 

龍神は私の顔を見て、真剣な顔をしている。私の頭に浮かぶのは平安時代の武家の娘……

 

「……私は心に決めた人間がいるから」

 

「何の話ですか!?」

 

驚いた顔をしている龍神。?もしかして私の勘違い?だから一応聞いてみることにした

 

「……罪を許すから夜伽をしろと言うことじゃ?」

 

「違います!!!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴る龍神。なんだ……違ったのか。ほっと小さな安堵の溜息を吐く

 

「貴方はどこに行くつもりですか?力が弱まったとは言え龍族。下手なところに行かれると困るのですが?」

 

ああ、確かにそれはそうだ……私は水のゲートを作り出しながら

 

「……私は1000年前に加護を授けた男がいる、その転生者の所に行く。敵対する気はない、ただあの少年がどうなるのか見たい。じゃあまた何処かで」

 

若干の好意があるのも認める。九尾と毛玉を助けるために迷いも無く飛び込んだ……それだけで好感を持てる。普通は妖怪を見捨てようとする退魔師が普通だからだ

 

「ちょっ!まさかそれってよこ……」

 

何か龍神が叫んでいた気もするけど……まぁ関係ないだろう。私は水を媒介にしたゲートで妙神山を後にし、高島が作ってくれた神社の御神体である龍神鏡の中に潜り込み眠りに落ちるのだった……なおシズクが眠りに落ちた頃美神達もホテルを借りていたのだが

 

「あがががが」

 

霊体痛で悶絶する横島の治療のために薬品を作っていたのだが

 

「黒焦げのイモリとタマネギ人参。あとマンドラゴラの根」

 

「それにこれですよね。魔鳥の卵」

 

マスクに手袋と言う完全防備の姿で紫色の煙を発生させる怪しい薬品を作っていて。殆ど動けない横島がその光景を見て小さく、ワイは死ぬのか?と呟いていたのだった……

 

 

リポート8 怒れる水神ミズチ! その4

 

 




次回でミズチ回は終了の予定です。とは言えシズクが合流するのはもう少し先の話になると思いますけどね。生真面目な小竜姫がシズクに翻弄されるのは意外と面白いと思うのでやって見ました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。この話でミズチ回は終わりになります。次回は「エミ」の話に入っていこうと思っています

あとはクリスマスの前に1つオリジナルの話を入れてみたいですね。ただこのペースだと話数がかなり心配になってきましたね……とりあえず100話は超えそうなので、どこかで第1部みたいで区切りにしようと思います!それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート8 怒れる水神ミズチ! その5

 

 

持って来ていた霊力回復の薬をとにかく全部煮たんだけど……正直これはやばいんじゃと思い、美神さんの方を見て

 

「これ飲ませて大丈夫でしょうか……」

 

作っているときは気にならなかったけど、こうしてみると劇物にしか見えない。紫色だし、異臭を放っているし……これ飲ませたら横島に止めを刺すんじゃ……

 

「大丈夫よ。これはこういうものだから」

 

美神さんは平気そうな顔をして、大なべに残ったコップ一杯分の薬品を持っていく。あれだけ材料を煮たのに完成品はコップ一杯……

 

(あの中にどれだけ濃縮されているのかしら……)

 

私は絶対飲みたくないと思う。こういう時半分魔族で良かった、霊力の回復量が多いから1日寝れば回復する身体に感謝だ

 

「ホラ横島君!口を開けなさい!」

 

「ムガーッ!」

 

さすがの横島もあれのを飲むのは嫌なのか口を開ける気配がない。うん、それで良いと思う。だけど美神さんは

 

「高い材料を使ったんだから飲みなさい!!!」

 

紫色の薬品を横島の口の中に押し込もうとする。横島は動かない身体で必死に抵抗している

 

「ムガアアアア(イヤーッ!!!)」

 

口を閉じて嫌だ嫌だと首を振る横島。ベッドの上では

 

「みーみー!」

 

横島の真似をしているのかころころ転がっているチビ。最近チビは良く横島の真似をしているわね、タマモはタマモで

 

「フー!」

 

尾を逆立てて美神さんを警戒している。あれだけ毒々しい物を見れば誰だって警戒するとおもう。私だってそうする

 

「美神さん。やっぱりそれ飲ませるの止めましょうよ?」

 

確かに霊力は回復するかもしれないけど、横島に致命傷を与えかねない。タマモのあの反応を見るとそう思う

 

「駄目よ。これを作るのに200万は使ってるんだから、捨てることなんて出来ないわよ!ホラ!タマモも飲む」

 

スプーンで素早く掬い。タマモの口の中に薬品を入れる美神さん……これで反応を見ることが……

 

「ぎぐああ!?」

 

奇妙な声を上げてタマモは痙攣しながら倒れる。7本の尾に8本目が生えてきたけど……手足をピクピクさせて僅かに開いた口からは泡を吹いている。

 

「美神さん。やめましょう。横島が死にます」

 

【わ、私も止めたほうが良いと思います】

 

私とおキヌさんが声を揃える。確かに霊力は回復しそうだが、大妖怪のタマモが耐え切れないのだから横島だと更に危険だ。これはこのまま封印するべきだと意見すると

 

「駄目よ!今は平気かも知れないけど、あれだけの霊力消費を続けてたら早いうちに再起不能になるわ。ここはなんとしてでもこの薬を飲ませないと」

 

なんだ。高いから勿体無いと思っているだけじゃなくてちゃんと横島の……

 

「それに200万よ!200万!!!勿体無くて捨てられないわ!」

 

やっぱり美神さんは美神さんだった。私とおキヌさんが揃って溜息を吐く、記憶の中の美神さんよりかは大分優しいと思うが、それでも美神さんはやっぱり美神さんだった訳だ……だけど横島は横島でタマモの惨劇を見てからは更に口を固く閉じ、首を振り全力抵抗をしている。これでは飲ませるのは不可能に近いだろう……このまま美神さんが諦めてくれればいいわねと思っていると美神さんが切れた

 

「蛍ちゃん!おキヌちゃん!」

 

突然私たちの名前を呼んだ美神さん。なんだろうと思い振り返ると

 

「【きゃあっ!?】」

 

美神さんが素早く私のスカートを捲り。返す手でおキヌちゃんの巫女服の胸元をはだけさせる。慌てて元に戻すがその一瞬で横島は目を充血させて起き上がり

 

「ちちふともも~!「はい!飲みなさい!!!」がもが!?」

 

そう叫んだ瞬間美神さんに薬を全て飲まされ、白目を向いて痙攣している横島。私とおキヌちゃんの非難の視線が自分の背に向けられている事に気づいている美神さんは

 

「あ、あはは……まぁ緊急事態ってことで、犬に噛まれたと思ってね?」

 

「【美神さーんッ!!!】」

 

私とおキヌさんの怒声が重なるのだった。ちなみに横島はかなり危険な感じで痙攣しているのだが、その顔は緩みきっていてだらしないものになっていた……恐るべし横島の煩悩である。しかし薬のダメージはかなり深刻だったようで、横島は丸1日眠り続けるのだった……

 

 

 

俺が回復した翌朝。口の中はとんでもない事になり、何を食べても味がしないのでさっさとお茶漬けで朝食を済ませた所で

 

「今日はあの神社を調べるわよ。なにか判るかも知れないからね」

 

本人の言葉では暴走していたらしいミズチ。あれだけ強力な水神がこの神社に祭られていた理由を調べると言う美神さん。蛍と美神さんで調べてみたらしいんだけどそれらしい物はなかったらしい

 

「俺が行って何か判るとは思わないっすけど?」

 

ミズチと戦うときは使えていた陰陽術。だけど今は札を持ってもうんともすんとも言わない。美神さんの分析ではあの神社に何か秘密があるのでは?と言うことらしいが……

 

「物は試しよ。行くわよ」

 

「うっす」

 

雇い主がそう言うなら俺に文句を言う権利はない。いつものバンダナを頭に巻いて

 

「大人しくしてろよ?タマモ」

 

俺が飲んだ薬と同じ物を飲まされたタマモはまだぐったりしている。小さく返事を返すタマモに布団をかぶせる

 

「みーん」

 

タンスの上から飛び立ったチビが頭の上に乗ったのを確認してから、ホテルの部屋を後にしたのだった……

 

【横島さん……だ、大丈夫ですか!?】

 

「横島。もう……なんで鼻血を出してるのよ!?」

 

車の近くで待っていた蛍とおキヌちゃんを見て。薬を飲む前の2人の艶姿を思い出し思わず鼻血が噴出す、ワイは手で鼻を押さえながら

 

「なんでもにゃい、行こうぜ」

 

暫くは蛍とおキヌちゃんを直視しないようにしよう。絶対にあの白い肌と下着を思い出してしまう……そのたびに鼻血を出していてはさすがの2人も俺に愛想を尽かすかもしれないし……蛍とおキヌちゃんに嫌われるのは耐えられないので気をつけよう。今も難しい顔をしているし……絶対そうに違いない。鼻にティッシュを詰め込んでから車の後部座席に乗り込む。なお横島は気づいていないが、蛍とおキヌが難しい顔をしているのではなく、自分を確実に意識しているという事に対する喜びがあるのだが、顔を緩めるわけにも行かなかっただけである……

 

「まぁここがその神社だけど……見た感じ何もないのよね」

 

美神さんの運転する車でミズチと戦った神社に来る。ぱっと見普通の神社でこれと言って何もない

 

「みー♪」

 

小さな羽根を羽ばたかせ楽しそうに周囲を飛んでいるチビを横目に4人で神社の周囲を調べるがそれらしい物はない。いやあるにはあるのだが

 

「美神さん。この岩は?」

 

神社の脇の伸びた獣道。その先に安置されている大岩を見ながら尋ねる。こんな場所にあるのだから何か特別な物はあるのでは?とい思い尋ねる

 

「岩?なにそれ?って言うか横島君どこにいるのよ?神社の中?」

 

ん?普通にここにいるけど……俺は来た道を引き返し、俺を探しているような素振りを見せている美神さんと蛍に

 

「いや。ここに普通に道があるんですけど……」

 

美神さんと蛍は俺の顔を見て心底驚いた顔をする。なんでそんな顔をしているんだ?理解出来ず首を傾げていると

 

「そこ道ないわよ?横島」

 

「うえ!?」

 

蛍の言葉に振り返るが俺にはちゃんと道が見えている。なんで蛍と美神さんには見えないんだ……

 

「結界ね。横島君、私と蛍ちゃんの手を引いて案内して頂戴」

 

美神さんと蛍の手を引いて、自分の歩いている道の中に2人を引っ張る。美神さんは辺りを見ながら

 

「高位の結界術ね。普通の人間にはこれない場所ね」

 

そんな事を言われても困るんだけどなあ……俺には普通に見えているし

 

「それで横島君?岩って言うのはどっち?」

 

「こっちっす」

 

来た道を引き返していく、少し進むと立派とまでは言わないが祠に祭られた岩とその前に手を合わしている老婆の姿が見える。

 

「こんにちわ」

 

「あんれまあ……若い人がここをお参りに来るとは感心だぁ。ほれ、水神様に祈りなさい」

 

俺たちを見るとニコニコとと笑い岩の前からどいてくれる老婆。とりあえず岩のほうを見て手を合わせる

 

「おばあさん。ここも水神様の神社なの?」

 

美神さんがそう尋ねると老婆は立派な神社のほうを見て

 

「あれは、大分あとに作られた神社だよ。本当の水神様の祠はこっち……わしの婆様に聞いた話じゃが、この山は水神様の家なんじゃと」

 

どうもこの老婆はこの山と神社のことを知っているようだ。なら

 

「なぁ婆ちゃん。俺と蛍と先生は今この神社と山に祭られている水神様について調べてるんや。良かったら教えてくれんか?」

 

「おお!いいともさ!わしの家に来なさい、こっちじゃ」

 

俺達が来た道ではなく整備されている石段を降りていく老婆

 

「行きましょうか?美神さん?どうかしました?」

 

きょとんとした顔で俺を見ている美神さん。何をそんなに驚いているんだろう?

 

「あんた中々やるわね。助かったわ、行きましょう」

 

「はぁ?」

 

美神さんの礼の意味が判らず蛍と並んで石段を降りていると蛍が小声で

 

「あのおばあさん。私達を警戒してたから」

 

【そうそう私も見えてたみたいですし」

 

「ミミー♪」

 

上から声をかけてくるおキヌちゃんと遊び疲れたのか俺の頭の上に着地するチビ。俺はゆっくりと階段を下りている老婆の背中を見ながら

 

「ふーん?俺にはそうは思えなかったけどなあ……」

 

横島は気づいてなかったが、横島は親しみやすい性格をしている。老婆には自分の孫に似た背格好だったので、余計に警戒心を緩めることが出来たのだ

 

「とりあえずあのおばあさんに聞いてみましょう。この神社と水神についてね」

 

そう笑う美神さんに頷き老婆の家に向かう

 

「ささ!こっちにきんしゃい」

 

おいでおいでと俺を手招きする老婆。美神さんと蛍は俺の肩に手を置いて

 

「上手く話を聞いてね?」

 

「頑張ってね」

 

「……うっす」

 

なおその老婆は俺をかなり気に入ってくれたようで、上機嫌で水神とあの山の話しを聞かせてくれた上に

 

「ほれ、これもってけ」

 

「ど、どうも」

 

大量のスイカにとうもろこしなどをくれた。車に乗る俺たちに手を振り返してくれる老婆に手を振り返し、俺達ホテルの荷物を回収し、俺はぐったりしているタマモを抱き抱え、東京へと戻るのだった……

 

 

横島君と蛍ちゃんを家の前で降ろし、事務所に帰ってきた私は、あの山の麓に暮らしていた老婆から聞いた話を纏めていた。

 

「平安時代から存在していた水神の神社。そしてあの祠に安置された龍神鏡と呼ばれるあの岩……」

 

岩にしか見えないが、昔は鏡のように輝いていたらしい……それ所か2日前には光っていたのに、今日になって輝きが損なわれていて水神様が怒っているのじゃと言っていた老婆……

 

「ミズチと関係がある?」

 

真の御神体だと言う岩……そして平安時代には存在していた。そして最後のキーワードは

 

【確か陰陽師の高島とか言う人が作ったって聞いておる、昔話では強すぎる力を持つ水神様は天に帰ることが許されず、それを不憫に思った陰陽師がこの地を水神様の家にしたらしいんじゃ】

 

高島……それは六道のおば様から預かった陰陽師の本の製作者……

 

「……これは絶対何か繋がりがある」

 

横島君には見えていた見えない道。そして使いこなしていた陰陽術……間違いない。横島君は高島と言う平安時代の天才陰陽師となにか関係がある。それを知る為には今手元にある本。これの解読が必要だ

 

「明日にもカオスに依頼しましょう」

 

これは早急にこの本の中身を知る必要がある。横島君と高島の繋がりを知る為には……この内容を知る必要が在る

 

「まずは報告書を仕上げますか」

 

高島の事を調べたいが、まずはGS協会に上げる報告書を仕上げる必要がある。見鬼くんの画像があるので証拠はある、大まかな除霊の流れを書けば良いだろう。だけど今回は

 

「横島君のことも書かないと……」

 

陰陽術を使っている場面が何度も写されている。これを誤魔化す事は出来ない、だけど今の横島君はそれを使えないので、それも含めて書けば良いだろう。問題は1つ

 

「陰陽寮とかよね……それに他のGSも」

 

今は失伝している陰陽術の使い手。しかも歳若く、将来有望……それに妖使いとしての適性もある。引き抜こうとするGSがいてもおかしくはない

 

「時給上げましょう。うん、そうしましょう」

 

蛍ちゃんの時給を3000円から5000円にして、横島君を4000円にしましょう。本当は嫌だけどこのままだと2人とも引き抜かれかねないし

 

「明日また契約をしなおしましょう。

 

正直に言うと蛍ちゃんと横島君が私の事務所に来てから仕事がとてもしやすくなった、横島君は馬鹿はやるけど、親しみやすい性格をしているのでリピーターで依頼してくれる人もいるし……

 

「これは必要経費ね。必要経費……」

 

今あの2人がいなくなると私の事務所は大打撃を受ける。だからあの2人を手放すことは出来ない。まずは時給。次に待遇面を徐々に変えていこうと決める

 

「さてとさくっと仕上げますか」

 

殆どは見鬼くんの情報記録でやればいいし、報告書は完結明瞭に……そうそう忘れる所だった

 

「追加請求1億円っと……」

 

今回のミズチは相当危険だった、それこそ死んでもおかしくないくらいに……それくらい貰わないと割に合わない。請求書を書いてそれを報告書と見鬼くんの記録ロムと一緒にして机の上に置く。今回は郵送ではなく、しっかりGS協会の幹部と交渉しないと無理だろうから

 

「はー疲れた。一杯やって寝ますか」

 

おキヌちゃんは横島君の所に行ってしまっているので自分で冷蔵庫からビールを取り出し、中身を一気に煽って寝室に向かうのだった……

 

だが美神は横島の才能をまだ軽んじていた。失伝した陰陽術・妖使いとしての適性……まだ霊力をまともに使いこなせないが、それでもなお磨けば光輝く事がわかっている横島を引き抜こうとしている存在は六道家だけではなく、他にも存在していたのだった……

 

「歳若い陰陽師の卵……素晴らしい逸材なワケ……」

 

高ランクのGSしか見ることの出来ない、他の事務所の見習いの資料。それを見ていた褐色の女性は美神の所の横島と蛍を見て

 

「……絶対に引き抜くワケ」

 

その笑みを深め、GS協会の資料室を後にしたのだった……勿論。横島と蛍の資料をコピーし2人の住所や通っている学校をしっかりとリストアップしてから夜の街へと消えていくのだった……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その1へ続く

 

 




これにてミズチの話は終了になります。次の登場はエミの後の話になると思います、次回は原作の「上を向いて歩こう」に似た雰囲気でやるつもりですが、基本的にはオリジナルでお送りしようと思います。原作とは少し違う、エミとの遭遇を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話はほのぼのメインでやって行こうと思います、チビとかタマモとか大活躍ですね

最後の最後の方でエミを出して行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その1

 

チビの朝の散歩の前に電話がなり、誰だろうか?と思いながら電話を取ると相手はお袋だった

 

「うん。うん……そうなんや、楽しそうで何よりやな」

 

ナルニアでそれなりに楽しく暮らしているというお袋。あの2人ならどこでも暮らせると思っていたけど、かなり早く適応できたみたいだ

 

『それで?蛍ちゃんには迷惑はかけてない?』

 

「かけてないで~蛍に迷惑なんかかけれんわ」

 

料理をしてくれるし、掃除もしてくれる。GSの勉強に学校の勉強まで見てくれる蛍に迷惑なんかかけれない。

 

『それなら良いけど……GSの勉強の方はどうなの?』

 

うっ……お袋の言葉に少し呻く。ミズチと戦ったときに使えた陰陽術はもう使えないし、まだ霊力を上手く収束も出来ない。今出来る事と言えば破魔札とかの札を使うくらいだ

 

「今は蛍と一緒に美神さんって言うGSの所で勉強してる。なんとかお札は使えるようになったかなぁ?」

 

『少しは進歩があるみたいだね。まぁあんまり蛍ちゃんに迷惑をかけるんじゃないよ』

 

繰り返し迷惑をかけるんじゃないよと言うお袋に判っていると返事を返していると

 

「みーみーみー」

 

チビが早く散歩に行こうよと言いたげに俺の肩の上で鳴く。かれこれ20分は電話しているから我慢できなくなったのだろう

 

『忠夫?今の奇妙な鳴声は何?』

 

あー確かに奇妙な鳴声だよな。なれると可愛いけど

 

「妖怪の赤ちゃん。なんか懐いて付いて来たから美神さんに許可を貰って育ててる」

 

「みみーん!」

 

短い手を振り鳴くチビ。朝から元気一杯である、この姿を見せてあげたいとおもう。本当に可愛いから

 

『ふーん……まぁいいけど……危なくないの?』

 

まぁ妖怪と聞けば普通は危険と考えるのが普通だけど、チビは普通のグレムリンと違ってかなり大人しいし、頭も良い。駄目な事は駄目と言えば1回で覚えてくれる。下手な犬よりもはるかに賢い

 

「危なくない、危なくない。お袋も見たらきっと可愛いというと思うで」

 

ちょっと大きめのハムスターと言う感じだが。つぶらな瞳と羽。更に短い手足が愛敬たっぷりだ

 

【横島さーん?そろそろ散歩に行かないと学校に間に合いませんよ~】

 

そろそろ電話を切ろうと思ったところでおキヌちゃんがそう声をかけてくる。そして電話越しにとんでもない威圧感を感じる

 

『……忠夫?今の声はなんや?女の子みたいやったけど?』

 

怖ええ!!とんでもなく怖ええ!!!

 

「え、えーと。おキヌちゃんって言う幽霊の子で……なんかたまーに家に来る」

 

正直に言うとお袋はドスの聞いた声で

 

『代わりなさい。今すぐに』

 

「は、はひ!!おキヌちゃーん!お袋が電話代わってって!んじゃあ俺は散歩に行くから!行くぞチビ!」

 

「みーん!」

 

俺にはとてもではないがこの雰囲気に耐えることが出来ず、チビのリードを握り逃げるように家を後にしたのだった……

 

 

 

横島さんのお母さんからの電話……これは予想よりも大分早いですね。横島さんから渡された電話を手に大きく深呼吸をしてから

 

【どうも、幽霊のおキヌです。今電話を代わりました】

 

ここが多分私にとって一番最初の勝負。百合子さんとの会話が今後の私に大きく関係しているはずだから

 

『幽霊……本当に?』

 

疑うような言葉。まぁ普通の幽霊は物とかには触れないだろうし、一般人に声をかけるのも難しいから

 

【はい。300年ほど前の幽霊です。ちょっと難しいかもしれませんが、そっちに人魂を送ってみましょうか?】

 

私自身が行くのは難しいが、人魂くらいなら電話線を通して送れるかもしれない

 

『そ、そう?じゃあお願いし……ッきゃあ!?』

 

【すいません。早すぎました?】

 

思ったとおり人魂を送れたようだけど、電話越しに悲鳴が聞こえてくる。少し早かったかもしれない

 

『し、信じるわ。おキヌさんが幽霊って』

 

【ありがとうございます】

 

そのまま暫く百合子さんと話を続ける。横島さんは鬼と言っていたが、優しいし、面倒見も良い。ただ少しばかり厳しいだけだ。

その事を私は知っている……

 

『迷惑をかけているみたいだねえ。ごめんね?』

 

私が横島さんの服の洗濯とか料理をしていると知ってそう謝ってくる百合子さん

 

【いえいえ私が好きでやっていることなので】

 

横島さんが好きで諦め切れなくて、幽霊に戻ると知っても逆行してきたのだ。それくらいはどうって事はない

 

『もしかして蛍さんに聞いたんだけど貴女も前世でうちの忠夫と知り合いだったの?』

 

前世?どういう説明をしたか知らないけど、逆行前を前世とするなら関係があっただろう

 

【はい。私は横島さんの事をとても良く知っています。女好きだけど、優しくて義理人情に厚い人だって】

 

横島さんはきっと女好きを公言してなければきっととてもモテるだろうと私は思っている。顔はそこそこ整っていると言えるし、優しいし……1度掴んだ手は絶対に放さないし……

 

『そうなの……少し話をしただけだと貴女はとても良い子みたいね。幽霊にしておくのが惜しいわ』

 

大分先になるが私は生き返ることが出来る。だけどそれは今は誰にも言えない、言えるとしたら逆行の記憶を持つ人だけだ……今の百合子さんには言えない

 

【そう言ってもらえると嬉しいです】

 

少なくとも好意的に思って貰えているようだし、ファーストコンタクトは悪くないかもしれない。電話越しだけど

 

『もう少し色々話をしたいけど仕事の時間だから失礼するわ。じゃあね』

 

そう言って電話を切ろうとする百合子さん。だけどこれだけは言っておかないと

 

【私は横島さんが大好きです。今回は絶対に何があっても諦めません、百合子さんが何と言おうと、私は今回は自分の想いを遂げますので】

 

捲くし立てるように言う。前は諦めてしまった、そして嫌だったけど祝福してしまった……だけど今回は違う。絶対に諦めないと言う意思をこめて呟く。聞こえたかどうかは判らない、ツーツーっと言う音がするから聞こえてないのかもしれないけど、自分の誓いを再確認できたのでよしとしよう

 

「わあああ!遅刻!遅刻してまううう!!!」

 

散歩から帰ってきて慌てて着替えるために自分の部屋に駆け込む横島さん。時間を見ると確かに遅刻ギリギリの時間だ、ご飯を食べている時間がないだろうからおにぎりを素早く作ってラップで包む。玄関の鞄に横島さんのお弁当を入れていると

 

「じゃあ行ってくる!!!」

 

靴を履いて鞄を抱えて出て行こうとする横島さん。いつものバンダナはポケットに入れてあるらしく、巻いてないのが何か新鮮だった

 

【これおにぎり途中で食べてください】

 

「サンキュー!じゃあ行ってくる」

 

今度こそ家を出て行った横島さん。さてと今度はチビちゃんの……あ、あれ?

 

【チ、チビちゃん!?どこですか!?】

 

玄関に放置されたリードと首輪。しかしチビちゃんの姿はないまさか……

 

【学校?】

 

もしかして鞄に潜り込んで一緒に学校に行った?まさか……そんな。そこまではしないだろう……

 

「みー♪」

 

「のわあああああ!?」

 

おキヌが冷や汗をかいている頃。鞄から元気良く飛び出したチビに絶叫している横島だった……

 

 

 

 

GS協会の頭の固い役人と話し疲れた私はそのまま先生の教会に来ていた。手にしている書類には極めて信憑性が低いという文字が踊っている

 

「……そうかい。GS協会の上役はそんなに腐っているのかい」

 

珍しく怖い顔をしている唐巣先生。私が提出したミズチのレポートは信憑性がないと言うことで不受理。最初の話していた報酬の2億も分割支払い。しかも信用しないと言っておいて見鬼くんの情報記録を寄越せと言うのでコピーを渡してきた。勿論要所要所はカットしてある、行く前にカオスに陰陽術の本を見せて記録を編集してもらったのは正解だったようだ……

 

「最悪私が死んでも良いって思ってたんじゃないですかね」

 

GS協会にしてみればフリーの私は目の上のたんこぶ。しかも最近は良心的と言われ、それなりに評価も上がってきている。それを邪魔に思ったのかもしれない

 

「その可能性はあるね。やれやれ……先代の総会長がいれば」

 

溜息を吐く唐巣先生……前のGS協会の長は六道でも優秀と言われた式神使いだった、今は六道とも何の関係もなく霊能もない一般人が仕切っている。協会の長もその親戚がGS協会の長を務めていると聞く、そのせいで霊能のある普通のGSは動きにくい状況にある。私も唐巣先生も……例外ではない

 

「私の方から六道の家に連絡しておくよ。この件については気になる事もあるしね」

 

「それはミズチのことですか?それもGS協会?」

 

私も裏のネットワークで聞いている噂がある。今前協会の長の娘「神代琉璃」はなくなった父の跡を継ぎGS協会の長になると発表していた。式神使いとはしては平凡より少し上だったらしいが、高い霊力と柔軟な発想で22と歳若いが、冥華おば様に指名された人物だ。それもあって有能な霊能力者だと聞いていた。だけど今は霊能力のレの字もない一般人がGS協会の長となっている。その理由は神代琉璃の病気による代理らしいが……2年間何の反応もないのは気になる

 

「……長期療養と聞いているが、かれこれ2年。これは流石に怪しいと言わざるを得ない」

 

「確かに、しかも見舞いも全て断っている。これは何かありますね」

 

前々から怪しいと思っていたが、今回ので確信した。私がGS協会に行くと同時に目を見開いていた上役連中……私は死ぬと判っている場所に送り出されたのだと……

 

「私と六道家が動く、美神君は目立たず普段通りの仕事を「お断りします。この美神令子……馬鹿にされたまま引き下がれません」

 

利用し、なおかつ殺そうとしていたと知ってはいそうですかと引き下がれるわけがない。

 

「……言い出したら聞かないか。判った2人で動こう。まずは六道の屋敷に行こう。冥華さんが調べてないわけがないからね」

 

確かにあの笑顔の裏で何を考えているのか判らない冥華おば様ならもう調べているかもしれない。1度聞きに行ってみよう、2人で教会を出ようとして

 

「そういえば唐巣先生。横島君と蛍ちゃんのプロフィール見ました?」

 

GS協会に行ったついでに横島君と蛍ちゃんの見習い登録の書類を更新しに行ったんだけど、閲覧記録があったので尋ねてみると

 

「いや?私はここ数年GS協会には顔を出していないが?」

 

唐巣先生じゃない……都内で見習いのプロフィールを見れるフリーのGS……その数はかなり限られる。冥子はまず違うし……

 

「まさかエミの奴!すいません!ちょっと急用を思い出したんで!!!」

 

唐巣先生に謝り。私は乗って来たコブラに乗り込んで横島君の高校に向かった。私の予想が当たっていたら、横島君と蛍ちゃんを引き抜くつもりだ、間違いない

 

「そうはさせないわよ」

 

私はハンドルを握り締め、アクセル全開で走り出したのだった……

 

 

 

横島が帰ってくる時間だから門の近くで待っていると案の定大きな欠伸をしながら、横島が顔を見せるのだが

 

「みー」

 

頭の上にチビが乗っている。家で見ないと思ったら横島についてきてたのね

 

「おかえ……「コーン」えっ?」

 

私の鞄から飛び出して横島の足元に駆け寄るタマモ。全然気がつかなかった、尾が8本になったことでかなり力を取り戻していたようだ。私にも判らない幻術とは……同じ幻術使いとして驚く

 

「おータマモに蛍。迎えに来てくれたんか?ありがとな」

 

タマモを抱き上げながら笑う横島。一瞬タマモの勝ち誇った笑みを見ていらっとするが今はまだ狐。そこまで目くじらを立てるものではないと自分に言い聞かせる。

 

「ええ、いい天気だし散歩しながら帰りましょう?」

 

今日はおキヌさんが料理を作る番なのでゆっくりできる。無論邪魔もないはずなので心休まる時間を過ごせるはずだ

 

「みみー」

 

近くの公園で元気に飛び回っているチビとその後を追いかけているタマモ。チビはまだまだ子供なので何をしでかすか判らないので監視をしてくれているのだろう。横島と並んでその光景を見ていると平和だなあと思う

 

「みーん!」

 

「ココーン!!!!」

 

ジャングルジムのボルトに手を伸ばし解体しようとするチビを引き離すタマモ。基本的に悪戯はしないんだけど偶にこういうことをしてくるから困る

 

「あちゃー、もっと言い聞かせんとなぁ」

 

頬をかく横島。基本的にチビは横島の言う事しか聞かないから、躾をしている横島がまいったと言うのは当然だろう。

 

(あー良い気分)

 

太陽の光も暖かいし、近くに感じる横島の気配もとても心地よい。このまま眠ってしまいたくなる、うとうとしていると

 

「随分探したワケ。おたくらが横島忠夫と芦蛍で良いワケ?」

 

突然聞こえた声とかなりの霊力に驚きながら目を開く、褐色の女性が私と横島を見ていた、私は彼女を見て思わず

 

「小笠原エミ……」

 

私は知っている黒魔術に長けたGSとして、そして美神さんのライバルのような関係として

 

「あたしを知ってるワケ?令子にでも聞いたワケ?まぁそこはどうでも良いか」

 

小笠原さんは私と横島を見てふふっと笑いながら

 

「あたしはおたくらが欲しいワケ?令子の事務所をやめてこっちに移籍しない?」

 

笑顔だけど邪悪な光をその目に宿し、私と横島を見てそう言い切ったのだった……

 

「み?」

 

「コン?」

 

間延びしたチビとタマモの声がむなしく公園に響くのだった……そして横島はぷるぷると震えていた

 

それは横島がエミへと飛び掛る5秒前の出来事だった

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その2へ続く

 

 




エミさんが登場しました。本来は横島が引き抜かれるイベントですが、それは無しにしてGS協会の闇の話を書いていこうと思います。その間にエミさんのスカウトがある予定です、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回からはエミさんが登場するオリジナルの話に入って行きます。原作と違うのは蛍がいるから横島だけをエミの事務所に入れるのが無理だったからです。なのでGS協会で作ってみることにしました。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その2

 

目の前にいる黒髪の少女とバンダナをしている少年を見てあたしは納得し頷いた

 

(これはかなりの逸材なワケ)

 

黒髪の少女のほうは芦蛍。最近勢力を伸ばしている芦グループ総裁「芦優太郎」の娘にして、18歳とは思えないほどの類稀なる霊力コントロールと知識を持ち、少年のほうは感じる霊力は差ほどではないが、霊視を使える人間になら判る

 

(凄まじいワケ……この少年何者なワケ?)

 

潜在霊力がとんでもない。軽く見積もってもB……いやAランクに相当するだけの霊力を持っている。いつ使いこなせるようになるかは判らないが、かなりの逸材なのは間違いない

 

「みー?」

 

「コン?」

 

公園を走り回っていた妖狐とグレムリンが横島忠夫の近くに寄ってくる。回ってきた情報は本当だったようだ

 

(今はもう存在しないと言われている妖使い、しかも妖狐のほうは……)

 

「フーッ!!!」

 

あたしを警戒して尾を逆立てている狐。幻術でカモフラージュされているがその尾は8本……間違いない。この狐は九尾の狐の転生体だ……

 

「どう?令子の出している報酬の2倍は出すし、社宅も提供するワケ。夏と冬にボーナスも出すわ」

 

畳み掛けるように言うと横島忠夫の身体が震えてくる。もしかして怒って

 

「綺麗なお姉様~~~」

 

「きゃあああ!!」

 

急に飛び掛ってきた横島忠夫の頭に踵落としを叩き込み距離をとる。プロフィールにあった無類の女好きって言うのはこういうことだったわけね

 

「横島ッ!!今はそんな事をしている場合じゃないの!!!」

 

「ガブゥッ!!!」

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

芦蛍にスタンピングされ、妖狐には頭をかまれて悶絶している。なんとも凄い面子だ

 

「み」

 

あたしの目の前を飛んでいるグレムリンと目が合う。何度かグレムリンは除霊した事があるけど

 

(全然悪意がない……どういう育て方をしてるの?)

 

人間に育てられたグレムリンと言う例がないわけではない。だけど最初は大人しくても徐々に妖怪の本能に飲まれ凶暴化するのが普通だ。だけどそんな気配は微塵もない……

 

(これが妖使いの能力……ってワケ?)

 

文献でしか見たことはないが、妖使いは妖怪の闘争心を宥める能力があったと聞く、もしかするとその影響で大人しいのかもしれない。それに……

 

(陰陽師の卵……らしいし)

 

今の所それらしい気配はないけど、嘘の記載はない筈だから間違いなく陰陽術を使えるはずだ

 

「すんません!すんません!許してぇ!!!」

 

「ふん!次はないからね!」

 

「ガルルル」

 

芦蛍と妖狐に土下座している横島忠夫を見ると本当かなあ?と若干の不安はあるが、妖使いとこの膨大な潜在霊力だけでも雇う価値はある。

 

「それでどう?移籍するきない?」

 

芦蛍に尋ねる。間違いなく令子の所より破格の条件を出したつもりだが

 

「お断りします。私は美神さんの所が気に入っていますので」

 

「俺もそのちちしりふとももは惜しいけど……げぶう!?……まだ美神さんのところで勉強したいっすから」

 

余計なことを言って芦蛍に拳骨を落とされながらも言い切る横島忠夫

 

(む……意外と人徳があった?)

 

令子は守銭奴だから、きっと高給を出せばあたしの所に来てくれると思っていたんだけど……だけど

 

(それでも諦める事ができる人材じゃないワケ)

 

これだけの逸材を逃すわけなんて出来ないワケ……なんとか説得して

 

「エミ!!!うちの職員を引き抜こうなんていい覚悟してるわね!!!!」

 

凄まじい音を立てて公園に滑り込んでくるコブラ。それと同時に放たれた破魔札を飛んで回避する。投げられた札は200万の札……かなり本気で攻撃してきたのが判る

 

「久しぶりなワケ。令子」

 

どうも今ここで説得するのは難しそうなワケ……とは言え、ここで話を切り上げるのは惜しい

 

「久しぶりに会ったワケだし……そこの見習いと一緒にお茶でもどう?」

 

令子と話をするつもりはないけど、芦蛍と横島忠夫と話をする機会を逃すわけ行かない

 

「……そっちがお金を持ちなさいよ」

 

「それくらい良いワケ……さっ。行きましょ?」

 

令子が頷いてくれた事に若干驚きながら、あたしは近くの喫茶店に足を向けたのだった……

 

 

最近噂で海外に行っていると聞いていたエミが日本に戻ってきているとは思ってなかった。そしていきなり横島君と蛍ちゃんを引き抜こうとしてくるとは思ってもなかった

 

(だけど横島君と蛍ちゃんが断ってくれたのは嬉しかったわ)

 

もしかすると頷かれるかもしれないと思っていたけど……意外と私の事を慕っていてくれているのかもしれない……

 

「横島君と蛍ちゃんを引き抜こうとするのは諦めるのね」

 

私はカプチーノ。エミは紅茶、横島君と蛍ちゃんはオレンジジュースを飲んでいる。エミはふふんと鼻を鳴らしながら

 

「人の気は変るワケ。いつでもあたしの事務所の扉は開けてるから、気が向いたら研修にでも来るワケ。流石にその制度までは邪魔しないわよね?」

 

ぐっ……見習いに与えられた権利。有名な除霊事務所への研修……これは自分の除霊スタイルを確立させるために決められている制度だ……

 

「研修?それはなんっすか?美神さん」

 

首を傾げて尋ねて来る横島君。蛍ちゃんは知ってるみたいだけど横島君は知らない見たいわね……

 

「研修って言うのはそのままよ。自分の行きたい事務所に書類を出して研修にいける制度よ、横島君も望むなら好きな事務所にいけるけど……エミの所で学べることはないと思うわよ。黒魔術師だし」

 

エミは遠距離に長けたGSだ。しかも呪術においては私よりも遥かに上だが、その代わり近接はからっきしだ

 

「まぁそうなるワケ?だけど自分の後ろを護る経験とかを積めるし、あたしは結構GSの資料を持ってるから……陰陽術とか妖使いの資料を見せてあげてもいいわよ?」

 

むう……なんとしても横島君を引き抜こうとしているわね……横島君と蛍ちゃんはペアだから、どっちか引き抜かれるともう片方も連れて行かれてしまう。それだけはなんとしても防がないと……

 

「こんにちわ~令子ちゃん。エミちゃん」

 

突然聞こえてきた間延びした声に背筋を伸ばす。この声は……私とエミが振り返るとそこには

 

「おひさしぶり~」

 

「美神君。小笠原君探したよ」

 

唐巣先生と冥華おば様が並んで立っていた。GS協会についての話し合いをするつもりなのだろう……その目は真剣な光を帯びている

 

「横島君。蛍ちゃん、今日はこれで何かいいものでも食べなさい。あとおキヌちゃんにも今日は事務所に帰らないように伝えて」

 

私の真剣な顔にこわごわと言う感じで頷いた横島君達が出て行くのを見送っていると

 

「それじゃあ~大事なお話をしましょうか~」

 

冥華おば様が懐から出して札を机の上に置くと霊力の膜が発生するのが見える。それを見たエミは

 

「結界?ずいぶんと強力なのを用意しましたね?なにか大きな山ですか?」

 

エミは冥華おば様だけには敬語を使う。冥華おば様が怖いというのもあるけどそれ以上の理由もありそうだ

 

「とても大きい山だよ。失敗すれば私達のGS免許は取り消しの上に社会的死が待っている」

 

唐巣先生の言葉にエミは面白いと言いたげに笑みを深める。私は勿論降りるつもりはない

 

「面白いじゃないですか、あたしはその話に乗りますよ」

 

勝気な性格のエミはこう言われて降りるわけがない。エミと一緒の仕事は嫌だが今回はそうも言ってられない

 

「それじゃあ始めましょう~神代幽夜をGS協会会長の地位から引き摺り下ろすのよ~」

 

口調はいつもとおりだが、その目は滅多に見ないほど真剣な光を帯びていた……

 

 

 

喫茶店に結界を張り、調べた結果を美神君と小笠原君に話して聞かせる。本当は私の教会や美神君の事務所などがいいのだが、どうも監視されているらしく、そこで話す事は出来ないと判断した

 

「まずは調べた結果だけど、神代琉璃は2年前の除霊のときにケガを負ったのは本当のようだけど、全治1ヶ月程度のケガだ。その間に神代幽夜。それと黒坂と言う呪術師が接触している」

 

黒坂信二。呪術師と登録されていたGSだが。小笠原君よりも霊力は低いし、それにその性格上1年でGS免許を取り消された男だ

 

「その黒坂って言うのが神代琉璃に何かしていると?」

 

美神君がそう尋ねてくるが私は首を振り、資料を回し説明を冥華さんに任せることにする。私はあんまり面識はないので書類上しか知らない

 

「琉璃ちゃんは~呪術に凄い耐性のある子なのよ~Dランク程度の呪術師に何かすることなんて出来ないわ~」

 

「となると……何かの薬品と呪術の相乗効果をしている可能性がありますね。あたしに声をかけたのはそう言う理由ですか?」

 

小笠原君の言葉に頷く。強力な呪術師である小笠原君の知識を借りたいと思ったのだ

 

「美神君。今回の山はもしかすると横島君達にも協力して貰うかもしれない、いいね?」

 

私達はあまりに顔を知られすぎている。下手にGS協会に手を出すと私達でも危ない……顔を知られておらず、そこまで脅威ではないと言うのが大事なのだ。そう言うところで見習いの横島君達の力を借りたい……

 

「見習いにさせるのは厳しいと思うけど……仕方ないですね」

 

仕方ないという感じで頷いてくれる美神君。本当は私も子供にこんな危険なことをさせたくないのだが、仕方ない

 

「今の所はどうやって神代琉璃を見つけるところが第一段階だ、そして神代幽夜もだ」

 

この2人は今はGS協会に姿を見せない。まずは神代幽夜を探すのが第一条件なのだ……

 

「横島君達は~もう少し勉強してもらって慎重に話を進めましょう~今回はGSにとってとても大事な事だからね~」

 

にこにこと笑う冥華さん。笑ってはいるがその心中はきっと荒れ狂っているだろう……自分の認めた次のGS協会の長を何らかの方法で監禁している神代幽夜を許せるわけがない……

 

「それじゃあ私と唐巣君は~もう少し調べるから~令子ちゃん達も頑張ってね~」

 

冥華さんと一緒に喫茶店を後にして、冥華さんに運転するように言われていた車に乗り込みながら

 

「どう見ます?冥華さん?」

 

今回の山はとてもではないが人間だけでやっているとは思えない。何かもっと別の存在が関係しているかもしれない

 

「……考えられるわ~魔族とかが関係しているかも~」

 

魔族。ミズチの封印解除をしたのは魔族ではないかと思っている。恐らく冥華さんも同じ結論だろう……車の中で冥華さんと話をしていると美神君と小笠原君が喫茶店から出てくる、私が渡した資料を手に話をしながらコブラに乗り込んでいる。恐らく小笠原君の事務所に向かうのだろう

 

「私達も~っ調べることにしましょう~」

 

「はい。行きましょう」

 

冥華さんの言葉に頷き車を走らせる。周囲を警戒しながら与えられた情報を頭の中で整理する

 

呪術師としては下の下の黒坂信二

 

霊能力を持たない神代幽夜

 

そして姿の見えない神代琉璃

 

(これは普通の事件ではない)

 

もしかすると魔族が関係している山かもしれない。そしてGS協会の息を掛かっているGSの中では信頼できる存在はそうはいない。密告などされようなものなら私達の身が危ない。今回は私と六道冥華さんと冥子君。そして美神君、小笠原君……そして横島君と芦君の7人で解決に持ち込まなければならない……失敗は許されない危険な仕事だ。

 

(なんとしても尻尾を掴まないと……)

 

私は心の中でそう誓い、ゆっくりと遠回りをしながら、合流する予定の六道の暗部と合流する為に走り出したのだった……

しかし唐巣神父は気付かなかった。走っている車の屋根の上から飛び立つ虫のような機械に……何かあると判断した蛍によって喫茶店に放置された盗聴・盗撮用兵鬼は自分の見たこと、聞いたことを主に伝えるために空の中に溶けて行ったのだった……

 

 

「ふむ。ついに動き出したようだね」

 

私は蛍に渡していた兵鬼からの情報を受け取り眉を顰めた。最近GS協会の評判が悪いのは知っていた、しかしまさか協会長が2年間病気で霊力のない一般人がGS協会を纏めているとは思わなかった

 

「なにかある。これは何かあるね」

 

間違いない、この事件の裏には魔族。間違いなく過激派魔族が絡んでいる……

 

「しかしどの魔族が絡んでいる……」

 

私は東京にいるが、それらしい気配を感じる事はなかった。相当隠密性にたけた魔族か、それとも魔族ではないか……

 

「不完全な神降ろし……」

 

魔族の一部だけを自分の身に降ろしている可能性もある。その場合間違いなくその人間は廃人もしくは死体だ……魔族の魂を受け入れる事が出来る人間なんて数える程度しかいない……

 

「今回ばかりは私も動かなければならないかもしれない」

 

話によれば横島君と蛍に危険が及ぶ可能性がある、自分だけ安全な場所に居るというのは親としてどうだろうか?魔力波は完全封印すればいい、あとはある程度の霊力だけ残せばいい。

 

(今回ばかりは仕方ない。嫌な予感がする)

 

不完全な神降ろしを行っているとしたら、本体は魔界だろう。そして過激派魔族ではなく、穏健派の魔族だとしても分霊となると話は変わる……分霊と神霊では霊格も考え方も違う。本体が高潔な存在だとしても、分霊がとんでもない下衆の場合もある。蠅の王ベルゼブルが良い例だ……そして元々過激派なら言われるまでもなく危険だ……

 

「ふーこれは腰を入れなければならないな」

 

今回は人間の力だけで解決できる事件ではないかもしれない、私も表に立って動く事を考慮しながら偵察用兵鬼を東京中に飛ばした、魔族の魔力を探知するように指示してある。まずは魔族の特定……そこから始めなければ……

 

「上手く行けばいいのだが……」

 

私はそう呟き、再び捜索活動を再開した。間違いなく、この東京には私が今把握している魔族「メドーサ」「デミアン」「ベルゼブル」この3魔族が今把握している魔族だが、もしかするとその他に上級魔族がいるのかもしれない

 

(どれだけ魔力を消しても私なら見つけられる)

 

しかしそれだけ私が見つかる可能性も増す危険な勝負だが、やらないわけには行かない……私は全ての兵鬼と視覚をリンクさせ、東京に潜む魔族を探すのだった……

 

東京のどこか……深い闇の中で輝く青い水晶。その中には1人の女性が閉じ込められていた、水色の髪をした巫女服の女性

 

「琉璃……お前が悪いのだからな。この私を役立たずと罵り神代家から追い出そうとした貴様がな」

 

狂った光をその目に宿す男。短く切り揃えられた髪と品の良いスーツを着ているが、その顔は憎悪に歪んでいるせいか。悪魔か何かのように見える

 

「けひゃ!お前は酷いよなー、自分の姪っ子をこんなところに閉じ込めているんだからよぉ」

 

その男の隣に現れた小柄で神経質そうな男はけひゃひゃと笑いながら言う。スーツ姿の男はふんっと鼻を鳴らし

 

「この結界を維持しているお前には言われたくない、黒坂」

 

黒坂信二。かつては呪術師として名を馳せたGSだ、そしてスーツ姿の男は神代幽夜……この男もかつては将来を有望視された霊能力者だったが、禁呪に手を染め霊能力を失った存在だ

 

「ひひひ。俺は権力さ!力さ!それが欲しいんだ!!だから何でもするぜぇ?俺は優れた呪術師なんだからな!!!」

 

けひゃひゃひゃ!!と狂ったように笑う黒坂と幽夜の影は1つになり、その姿は人間ではなくグリフォンに跨った悪魔の姿をしていた……

 

幽夜が行った禁呪は自身に高位の魔族の分霊を憑依させ、自信の霊能力を高める禁呪。確かに幽夜は霊能力を失った、しかしこの禁呪は成功しており、特定の条件下で幽夜の霊能力を爆発的に上昇させる、そして黒坂はそのおこぼれを貰い、自身の霊能力を強化していた。田舎では恐れ、尊敬されたシャーマン「黒坂信二」しかしそれは所詮井の中の蛙……東京では彼程度の霊能力者は腐るほど存在しているのだ。2人が願ったのは自らの復権。そしてそんな2人がそれぞれその身に降ろした魔族の分霊

 

それは30の軍団を率いる公爵であり、死霊使いにして堕ちた天使

 

ソロモン72の序列の54番目……死霊公爵「ムルムル」

 

その力は並みの魔族を越え、召喚者の復権を約束し、屈強なる戦士でもある。恐るべき能力を秘めた魔神だった

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その3へ続く

 

 




今回はここまでとなります。ソロモンの魔神を出す事にしました。しかし分霊なので本来とは違いますよ?アシュ様とも違うのでここは注意です。オリキャラを含めた「GS協会」編は美神やエミと言った大人で格上のGSをメインに書いていこうと思います
それでは次回の更新どうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回も引き続きシリアスで進めて行こうと思います。一部ほのぼので横島とチビとタマモを書こうと思っています、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その3

 

唐巣先生と冥華おば様。そしてエミと一緒に神代幽夜と黒坂信二について調べ始めて3日

 

「まいったわねえ……情報が何もないわ」

 

裏の情報網に……先代神代に仕えてた人間に聞いても、神代幽夜の情報は出てこない。完全に行き詰まっていた

 

(エミでも唐巣先生も何の情報もないって事を考えると魔族が絡んでいるのは本当なのかもしれないわね)

 

何の役にも立たない書類をシュレッダーにかけ、そのまま立ち上がりキッチンに向かう。おキヌちゃんは黒坂が呪術師なのを考慮して横島君の家に居る様に言っているので今は居ない。朝・昼・晩と掃除と食事を作りに来てくれる時に会うだけだ。それに伴い今は除霊の依頼を受けていないので横島君と蛍ちゃんにもあっていない

 

(そうそうこんな危険な話に付き合わせるわけにも行かないしね)

 

2人に協力してもらうのは最終的にだ。もし可能ならば私と唐巣先生達で何とかしたいと思っている

 

ピンポーン

 

「ん?おかしいわね?依頼は受けないって張り紙をしておいたはずだけど」

 

事務所のチャイムに首を傾げながら玄関に向かい、覗き窓を確認する。そこには金髪の背の高い青年が居た

 

「今はちょっと立て込んでるから依頼はお受けできませんわ」

 

今は依頼を受けているような余裕は無いのでそう言うと、玄関の外の青年は

 

「いつも娘が世話になっています。芦優太郎です」

 

蛍ちゃんのお父さん。芦グループ総裁「芦優太郎」滅多に会社の外に出ないと事で有名な……これは追い返すわけにもいかないわね、鍵を開けて

 

「どうぞ。お入りください」

 

少し話をしてかえってもらおう。そう判断し私は芦優太郎を事務所の中に招き入れたのだった……

 

 

 

こうして話をする機会があるとは思ってもなかったな。メフィストの転生者「美神令子」未来の記憶では敵対した記憶しかないが……友好的な関係を築くのも悪くはない、私の目的の為に……出来れば蛍の為に横島君から手を引いて貰えるように上手く誘導できると良いのだが……

 

「宜しければどうぞ」

 

とりあえず無類の酒好きと言うことで買って来たロマネコンティを渡す。私は酒は飲まないのでいい物かどうかは判らないが、一番いい物をと頼み出して貰ったものなので間違いはないだろう

 

「これはご丁寧にどうも。それで本日はどのようなご用件で?」

 

営業スマイルを浮かべている美神令子に私は懐に入れていた書類を取り出して

 

「GS協会の神代幽夜についてのレポートです。私も独自のルートを持っていて調べてみました」

 

美神令子の顔色が変わる、鋭い光をその目に宿し私を警戒する様子を見せながら

 

「どこでその話を?」

 

「娘がGSになろうとするんだ、それなりに調べるのは当然でしょう」

 

本当は偵察用の兵鬼で調べたのだが、そうは言えないのでそう言うと

 

「素人が首を突っ込んで良い件じゃないわよ」

 

さっさと帰れと言わんばかりに態度をしている。私を見定めようとしているのだろう

 

「素人ではありませんよ。これでも霊能力はありますし……仮免許も持っていますので」

 

軽く手に霊力を集める。魔力は封印してきたが、それでもBランク程度のGSくらいの力は出せる。信用を得るために仮免のGS免許を見せると

 

「……そう。それなら別にいいけどね、見てもいいかしら?」

 

「どうぞ。待っていますので」

 

私の今日の目的はGS協会の調査に協力すること、調べてみたが何の魔神を神降ろししているのか判らないので、ここは1度協力し、私も一緒に行動するべきだと判断したのだ。書類を手に真剣な顔をしている、その間にこの事務所内の盗撮・盗聴器に魔力をぶつけて破壊する。これで少しは話しやすくなった

 

「……中々まとまってるわね。これは貰っても良いのかしら?」

 

書類を机の上において尋ねて来る、元々そのつもりだったので構わないが

 

「構いません。その代わり、GS協会に進入する際は私も同行します、構いませんね?」

 

嫌そうな顔をするが、さっきの霊力と芦グループの総裁と言うことも考慮したのか、眉を顰めつつも

 

「いいわ。潜入の際には連絡します」

 

これで横島君と蛍を近くで見守る事ができる、念の為に精霊石とかを買い込んでいた方が良いかも知れない。私ではなく、横島君達に持たせるために

 

「ありがとうございます、それでは今日はこれで失礼します。人に会う用事があるので」

 

とりあえずファーストコンタクトはこれで良いだろう。頭を下げて美神除霊事務所を後にし、近くの喫茶店へ向かう。そこで待ち合わせをしているのだ

 

「待たせてしまったかな?ヨーロッパの魔王?」

 

喫茶店の一番奥の机に腰掛けている大柄の老人を見つけ、その前に座りながら尋ねる

 

「ふん。嫌味を言うな恐怖公。今来たばかりじゃわい」

 

私の今日の目的はドクターカオスと話をすること。今回の事件……そしてこれからの事件を考えると協力者は必要だ、しかし並の頭脳の持ち主では役に立たない。だから悩んでいたが、ドクターカオスが逆行している事を蛍から聞きこうして話をする事にしたのだ

 

(味方になってくれると良いが……)

 

私はそんな不安を感じながらドクターカオスとの話し合いを始めるのだった……

 

 

 

昨晩寝る前にワシの前に跳んできた兵鬼。それにはメッセージが記録されており、翌日14時喫茶店で待つ。アシュタロスと伝え、現れた時と同じように消えていった。マリアを念の為に連れて行こうと思ったが、向こうも1人ならこちらも1人。礼節を重んじる事にした

 

(記憶の姿と同じじゃな)

 

人間に化けて行動していたときの芦優太郎としての姿を見て、記憶と同じだった事に安堵する。姿が変わっていては見つけるのは困難だったからだ

 

「お好きな物をどうぞ、折角ご足労頂いたので奢りますよ」

 

柔和な笑みを浮かべている芦優太郎。その姿は人間そのものでとてもあのアシュタロスとは思えない

 

「魔神は廃業か?」

 

このまま話していても埒が明かないので軽く切り込んでみる。すると

 

「ええ。今は父親です」

 

にこにこと笑いながら告げた。どうも魔神としてよりも蛍のお嬢ちゃんの父親としての方がいいらしいのう……これでワシの警戒心も少し薄れ

 

「それで今日は何故ワシを呼んだのじゃ?」

 

あの恐怖公アシュタロスが態々ワシを呼んだ理由が判らない。今はまだ魔族も大して動いていないようだし……

 

「これからの事を考えると協力者が欲しいのですよ、過激派の神族・魔族を誘き出し平和な時を過ごすには」

 

「……ふむ。それは確かに理想的じゃのう」

 

あの争いはかなり激しいものだった、小僧にもあまりに辛い世界だったと言える。それを変えるというのには賛同できる

 

「そのためにはまずはこの世界での発言力を強くしないといけない。そのために今のGS協会の異変を利用しようと思っています」

 

神代家のことか……元の時代では神代琉璃が代表となりGS協会を纏めていたが、今は神代幽夜という黒い噂の多い男が会長をしている。これも逆行の影響による歴史の修正だとワシは考えている

 

「ふむ。それは確かに確実じゃな、よし判った。ワシも協力しよう」

 

なんせ今のワシと芦優太郎には特に後ろ盾もない、まずは下地作りをするのが第一じゃろう。神代琉璃を助け、彼女の力を借りる事ができれば、それなりの発言力は手に入るだろう

 

「神代幽夜を見つけましょう。恐らくその場所に神代琉璃は居る」

 

彼女に動き回られたらと考えたら自分の手元に置いておくのが普通だ。そして表舞台に出る事のない神代幽夜を考えれば、どこかの山の奥、もしくは

 

「地下になるのう」

 

神代家は神降ろしの技を秘伝として伝えてきた一族。自分ひとりで行う儀式ゆえに誰も入ることが出来ない場所を使うのが普通だ

 

「まずはおいおい探していきましょう。今日はこの辺で」

 

優太郎の視線の先を見ると明らかに一般人とは違う。かといって生者でもない集団がワシ達を見ていた

 

「魔族が関わっているのか?」

 

あれは間違いなくゾンビ。感じる死の気配で判る、こんな街中にと思うが間違いない。周囲の人間が避けるように歩いているのを見る限り、結界を使っているのかもしれない

 

「分霊を無理やり憑依させていると私は考えています。恐らく死霊使いの魂を使っているのではないでしょうか?」

 

死霊使いの魔族。かなりの数が居るので特定は難しいが、探してみる価値はあるじゃろ……

 

「ワシは自前の機械で霊力を隠せるから心配ない。またいずれ」

 

「ええ。またの機会に」

 

こんな場所で話し合ったのが失敗だったかもしれんが、これには意味がある。恐らく神代幽夜に危機感を与えるためのものじゃろう、反抗しようとしている存在が居ると思わせるのが目的と見た。ワシは気配を隠す機械の電源を居れ、喫茶店を後にし早足で借りているアパートへと足を向けたのだった。これから忙しくなる、今日くらいはゆっくりしようと思うのだった……

 

 

 

令子が持ち込んできた神代幽夜のレポートに目を通す。これは神代幽夜が表舞台で動いていた時の数少ない公式記録だ

 

「これどこで手に入れたワケ?」

 

禁呪に手を染めて神代家からGS免許を剥奪され、それに伴い破棄された筈の資料が完全な状態であることに驚きながら尋ねると

 

「蛍ちゃんのお父さん。芦優太郎が自分が同行することを条件に提供してくれたのよ」

 

普段なら帰れといって追い返す所だが、今回は同じ目的のために行動することになる、一応礼儀として出したチョコレートを頬張る令子に

 

「一般人を連れて行くワケ?何を考えてるの?」

 

令子らしくない、自分の現場に一般人を連れていくことなんてなかったはずなのに……

 

「それがただの一般人じゃないみたいなのよ。かなりの霊力を持ってるし、多分GS試験にでても合格できるレベルよ」

 

それはまたとんでもない一般人なワケ……あれだけ優秀なGSの卵の父親と考えれば当然のような気もするけど……

 

【神代幽夜】

 

本来の神代の得意とする神をその身に降ろす。神降ろしの儀ではなく、魔族を降魔させる禁呪を使い。その反動で霊力の大半を失う。さらに神代家の品格を穢したと当時の当主により追放された。その後は日本を後にし、様々な霊力治療の術師の元を訪れ、霊力の回復を考えていたらしいが、彼に接触した霊力治療の術師が行方不明もしくは廃人になっている為。霊力を失っていないのでは?と推測される

 

彼が所持していた本には写本ではあるが、ソロモン王に関係する。ゴエティアなどの書物から、彼が呼び出そうとしていたのはソロモンの魔神の一柱と推測される

 

「この魔神の特定は出来てないワケ?」

 

「次のページ」

 

紅茶を飲みながら言う令子。次のページなわけ……書類をめくりあたしは目を見開いた

 

○月某日

 

東京近隣の山林で何かの獣に食い殺されたような老人の遺体が発見された

 

○月某日

 

今度は砂浜で狼などではなく、人間の歯型がついた女性の遺体が発見

 

○月某日

 

原型もないほどに食い荒らされた少年の遺体が発見された。その少年の家の近くでは不審者が多数目撃されている、青白い肌に異様に伸びた牙が恐ろしかったという証言が多い

 

「まさか……ゾンビ?」

 

こんな都会でと思うけど、かなりの可能性でこの連続した殺人事件はゾンビが行った可能性が高い。令子も同じ結論のようで

 

「その可能性が高いわね」

 

ゾンビの中には人間を食い殺すものも居る。その可能性が極めて高いのだが、今までGSに何の情報もないことを考えると

 

「隠蔽されてた」

 

これが知られればGSが動く。そう判断した何者かがこの情報を隠蔽していた、そしてゾンビを作れるほど黒坂の呪術のレベルは高くない。仮に出来たとしても直ぐに消滅するはずだ……ゾンビを維持するのは並大抵の事ではない

 

「死霊使いの魔神」

 

数は少ないがソロモンの魔神の中には死霊使いは存在する。有名な所ではネビロスがもっとも強力な魔神だが、そんな魔神の分霊を降魔させる事は不可能に近い

 

「これは唐巣神父に報告ね」

 

これは間違いなく手がかりだ。そして東京に紛れているゾンビを見つける事ができればあたしの呪術で逆探知できる。

 

「そろそろ日が落ちるわ、行くわよ」

 

令子があたしの事務所で時間を潰していたのは、夜を待っていたようだ。ゾンビが活発に動くのは夜だから、鞄から破魔札と神通棍を手にする令子。

 

「命令しないで欲しいワケ」

 

あたしも同じように破魔札を手にする。本当なら呪術で攻める所だが、あいにくゾンビに呪術は殆ど効果はない。ここは多少苦手でもオーソドックスな除霊スタイルをとるべきだろう

 

「金を出すなら護ってあげるわよ」

 

「馬鹿にしないでよ。この小笠原エミを舐めないで欲しいワケ」

 

確かに令子と比べればあたしは近接の技術は劣る。それでも並のGS以上の能力を持っていると自負している

 

「それくらいじゃないとね。行くわよ」

 

「言われなくても!」

 

あたしは令子の言葉にそう返事を返し事務所を後にした。ゾンビは気配の淀んでいる場所を好む、となれば山もしくは海……虱潰しに回っていくしかないワケ。あたしは令子のコブラの助手席に乗り込み

 

「気配を探すのはこっちがするワケ。運転よろしく」

 

令子はあたしの言葉に文句を言わずコブラを走り出させた、こう言う所はプロだ、自分の意志を殺して仕事に徹する事ができる。仕事は仕事、プライベートはプライベート。きっちり切り替える……それがプロのGSと言うものだ……暗い夜道を走るコブラの助手席でペンデュラムを使い、ゾンビの気配を探し始めるのだった……

 

 

 

令子とエミが暗い夜道をゾンビを探して移動し回っている頃横島達は

 

「はい。チビバンザーイ」

 

「みーん!」

 

俺の前で万歳をするチビ。俺は手にしていた巻尺でチビの胴体に回し胴の長さを測る

 

「……+7センチっと。大分大きくなったなあ」

 

「みーっ!」

 

机の上の手帳にチビの胴回りを記録する。最初に図った時は5センチ……今は11センチ。大分大きくなっている……身長を物差しを図る、これも+4センチっと……17センチと……

 

「順調に大きくなってるわね。良かったわね、横島」

 

隣でチビを見ていた蛍が笑う。チビが子供だから、どれほど大きくなるのか心配だったけどちゃんと成長している。妖怪だけどしっかり成長している事に安堵する

 

【良かったですね。横島さん】

 

「おう!って言うかおキヌちゃん!?」

 

急に顔を出したおキヌちゃんに驚く、居なかった筈なのに……急に現れるのはいつもの事なのでまぁ仕方ないかと判断する。

 

「今度は体重だな」

 

秤の上にチビを乗せる。グラムは……やっと200か。なにかと色々と食べているけど、あんまり増えないなあ……まぁ元気だからいいか

 

「みーん!みー!」

 

成長記録をつけ終えると同時に翼を羽ばたかせ、部屋の中を飛び始めるチビ。それを見ながら

 

「蛍~飯はまだか?」

 

美神さんが言うにはちょっと危険なことを調べているとの事で俺たちに危害が及ぶ可能性があると言う事で今は俺と蛍とおキヌちゃんで一緒に暮らしている。確か今日の夕食は蛍だったはずなのでそう尋ねると

 

「もう少し待ってて、お風呂でも入ってきたら?」

 

んーまぁそう言うなら風呂にでも入ってくるか……飛び回っているチビを捕まえて一緒に風呂に入る。たまーにタマモも来るが、基本的に風呂嫌いなので入ってくることはない

 

「みー」

 

桶にお湯を張って頭の上にタオルを乗せて湯風呂を満喫しているチビ。なんと言うか人生を謳歌しているって感じだ

 

「あー気持ちいいなあ」

 

「みー」

 

チビと2人でお湯の中でぐだーっとしながら、今日の夕飯が何なのかを考えているのだった

 

「その手を放してもらいましょうか」

 

【明らかな薬物投入を見逃せると思いますか?】

 

チビと横島が風呂を満喫している頃。蛍とおキヌは夕食にゴゴゴっと言う擬音が良く似合う雰囲気の中睨み合っていた。蛍が手にしている薬の瓶には「朝まで起きない睡眠薬 EX」と書かれており

 

「偶にはいいじゃない!寝ている横島を一晩見ていても!」

 

【それで済むとは思えません!これは私が有効活用するんです!!!】

 

横島がいないということで完全に暴走しているおキヌちゃんと蛍。タマモはそんな2人を見て

 

「コン」

 

小さくそう鳴いて畳まれている洗濯物の中からバスタオルを背中に乗せて脱衣所へと歩き出したのだった……そして翌朝

 

「ふぉおおおおおッ!!!」

 

自分の布団にもぐりこんでいる蛍と自分の上を半裸で寝ているおキヌを見て、絶叫と鼻血を噴出する横島。そしてその声で起きたチビとタマモは

 

「み?みーみー」

 

「コフ?」

 

慣れた感じで部屋に置かれているタオルと増血剤をそれぞれ横島の元へ運ぶのだった

 

これが横島忠夫の最近の日常である……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その4へ続く

 

 




次回も引き続きシリアスで進めていこうと思います。戦闘もすこし混ざってくるかもしれないですね。そして横島はエロだけど攻めめられると弱い。このスタンスは絶対に変えないで進めて行こうと思います、これにより蛍とおキヌちゃんが行け行けで攻めて行きます。何時横島が暴走するのか?そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです、今回も引き続きシリアスメインで書いていこうと思います。タイトルのスカウトの意味がないような気もしますが、そこはスルーしてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その4

 

美神さんからお父さんが会いに来たと言うのを聞き、横島の家から久しぶりに自宅になっているビルに戻る。

 

「んじゃあ俺はチビを散歩させてるわ」

 

「みみー!」

 

念の為についてきてくれた横島とチビはそのまま歩いて行こうとするので

 

「タマモ。よろしく」

 

「コン」

 

欠伸をしていたタマモに横島を護るのを頼む。尾が8本、既に街に出るような悪霊に負けるような霊力ではない、タマモが居れば妖怪も近づいて来ない筈だ。タマモの霊格を知れば逃げる筈だから……素早く横島の肩の上に登っていくタマモと

 

「おー?今日のタマモは甘えん坊か。しゃーないなー」

 

「コン♪」

 

すりすりと横島の頬に擦り寄っているタマモに若干の殺意を覚えながら、私は最上階のお父さんの部屋に向かう。そこでは

 

「あーなるほどなるほど、お前の分霊は大丈夫なんだな?」

 

【然り。人間如きが我が分霊を引き寄せる事適わず】

 

お父さんが何かの空間に喋りかけていた……しかしとんでもない威圧感だ。もしかしてお父さんと同じくソロモンの魔神かもしれない

 

【アシュタロスよ。その後ろの小娘がお前の娘か?】

 

空間に浮かぶ鋭い目付きの老人。外見は老人だが……並の存在ではない、思わず身構えると

 

「ああ、そうだ。蛍と言う……蛍紹介しよう。私の配下の大精霊ネビロスだ】

 

はい?ネビロスってソロモンの魔神なんじゃあ

 

【正確には違う。我が分霊のナベリウスが魔神であり、我はアシュタロスの相談役の様な物をやっていた。今は引退しているが】

 

精霊って引退するんだ……初めて知った……

 

「ネビロスじゃないとすると……他の死霊使いで分霊を引きずり出されたのは知らないか?」

 

【ムルムルの小童がぼやいておったぞ。人間がどうとかな】

 

ムルムルってこれもソロモンの魔神じゃない……こんなの相手にどうしろっていうんだろ?

 

【黒おじさーん早く散歩に行こうよー】

 

【ああ、アリス。直ぐに行く】

 

アリス?だれそれ……お父さんも呆然とした顔で

 

「アリスって誰だい?」

 

【神の馬鹿によって生贄になって死んだ少女だ。あまりに不憫なので私とベリアルがゾンビにして育てている。優秀なネクロマンサーになるぞ】

 

にやりと笑い消えるネビロス。私は隣のお父さんに

 

「魔神って子煩悩なの?」

 

「判らん……」

 

ネビロスとベリアルが育てていると言うネクロマンサーの少女のゾンビ……

 

(すっごい嫌な予感がする)

 

人外ホイホイと呼ばれる横島とそのアリスがどこか出会いそうな気がして、少し怖いとおもうのだった

 

「さてと、少し作戦会議をしようか。メドーサが今調べてくれているんだが、神代幽夜は近くに居るかもしれないんだ」

 

近くに居るかもしれない、それなら探すのが大分楽になるかもしれない、私はその言葉に頷き2人で地図と睨めっこを始めるのだった……

 

 

 

アシュ様に言われた居た場所にはかなり念入りな結界が張られていた。恐らくここがアシュ様の言っていた人間が隠れている場所なのだろう……旧・GS協会総本部……既に取り壊しが決定され地表に出ている分は完全に破壊されているが……地下の設備が残っている気配がする……多分そこに神代幽夜が居るのだろう……

 

(さてと戻るか)

 

かなり濃密な魔力を感じる。残念だけど今のあたしでは手が出ない……

 

(この封印のブレスレットって言うのは便利だねえ)

 

魔力を完全に押さえ込んでくれているこのブレスレットのおかげで普通に街を出歩く事が出来る。死霊使いのデミアンとベルゼブブには意味がないが、あたしのように完全な人型にはとても有効だ。何せ神族の目を気にしないで出歩く事が出来るのだから

 

(何のためにこんな物を作ったんだろうね)

 

蛍に渡すためと言えば納得出来るが、アシュ様とあたしの分もある。その事に若干の疑問を抱きながらも折角だから買い物でもしていくかと振り返ると

 

「みー」

 

「ふわあ!?」

 

思わずマヌケな声が出る。顔の目の前に飛んでいた翼ある悪魔「グレムリン」の幼生に

 

(な、何でこんな所に!?)

 

普通は夜行性で昼間は寝ているはずだし、そもそもこんな都会に居たらあちこちの機械を壊しているはずなのに、その気配もない。それ所か「チビ」と刻まれた首輪をしている……まさか飼われている?

 

「こらー!!!チビー!!!勝手に飛んでくなー!!!」

 

頭に妖狐を乗せて走ってくるバンダナの青年……ミズチとの戦いで高レベルの陰陽術を使いこなしていた青年だ。確か横島だったね

見習いとは言えGSだ。魔族であるあたしの顔を見せるわけには行かない、結界を使って姿を消す。これで通り過ぎてくれるだろうと思っていると脳裏で

 

【その程度であいつは止まらないよ】

 

呆れた誰かの声が聞こえたような気がした。だけどいくら力が制限されているとは言え魔族の結界を人間が

 

「吊り目が麗しいおねえさまー!僕と一緒にお茶しませんかー!!」

 

「なにい!?」

 

まさかのあたしの結界を完全無視。それ所かあたしの手を両手で握り締めている

 

(信じられない)

 

どうしてと思うが、それよりも人間に手を掴まれていると言う事に腹立ち足を振り上げようとしたが

 

(ん?)

 

夢で何度か見たあたしの手を伸ばそうとした馬鹿な男の姿を思い出す。横島が成長するとあんな感じになるのかもしれない……

 

(となるとあんまり無碍にするのも……)

 

アシュ様の陣営に来る人間になるのなら、将来的には味方だ。あたしは少し考えてから、横島の頭の上の狐と肩に着地してグルーミングをしているグレムリンを見ながら

 

「まぁ暇だし良いよ」

 

それにこれだけ妖怪と悪魔が懐く人間と言うのも興味があった。1度話してみるのも悪くない

 

「マジで!?うおおお!またナンパに成功した!人類には小さな一歩だが俺には大きな一歩だアアアア!」

 

声も高らかに叫ぶ横島。なんと言うか面白いやつだ、最近は暇をしていたのでこんな馬鹿に付き合うのも面白いかもしれない

 

「ほら!さっさと行くよ」

 

「は、はい!」

 

いつまでもここでじっとしているのもつまらない。気分転換に良いだろうと思い、あたしは横島の手を引いて近くの喫茶店に入るのだった……

 

「ふーん。GS見習いねえ……」

 

「そうなんっす!まだまだ迷惑とかを掛けてるから、もうちょい何か出来るようになりたいっすね」

 

喫茶店の中なので狐とグレムリンは狐の幻術で姿を隠して、ミルクとホットケーキを頬張っている。なんか癒されるような気がする

 

「あーと言ってもわからないっすか?」

 

「いや、判るよ。あたしも霊能力関係者だしね」

 

まぁ本当は魔族なんだけど……そこまで言う必要はないだろう

 

「え?そうなんっすか?どこかで事務所とかを構えてるんですか?それなら研修とかは……」

 

「あーやめときな。あたしはモグリだよ、正規のGSじゃない」

 

えっと言う顔をする横島。多分そう言うのは知らないんだろうなと思いながら

 

「GSって一言で言っても色々ある。正規のGSじゃないのも居るんだよ」

 

「そうなんっすか……所でお姉さんのお名前は?俺は横島っす」

 

心の中で小さく知ってると呟きながら、あたしは伝票を手に立ち上がり

 

「今度会えたら教えてやるよ。それまでにはもう少し何か覚えておきな……これくらいな」

 

ほんの少しだけサービスと言うことで手の平に魔力を集める

 

「それ……サイキックソーサー?」

 

サイキックソーサー。確か蛍が使う、起爆性の霊力の盾だったか……だけどあたしのはそんなものじゃ無い。これは基礎の基礎だ

 

「良く見てな」

 

その霊力を握り潰し右手を覆う篭手を作り出す。だけどこれは霊力の物質化ではない、簡易の魔装術だ

 

「すげえ……」

 

「コン?」

 

怪訝そうな顔をしている狐と目を輝かせている横島を見て

 

「霊力は色々ある、自分に合っている何かを探して見な」

 

これも何かのヒントになるだろう。これくらいはね、しても良いだろう。まだ未熟なGSなのだから、色々な技術を見るのはいい勉強になるはずだから

 

「メドーサ。横島に何かした?」

 

「蛍だったか?」

 

喫茶店の外で腕を組んでいたアシュ様の娘。蛍に睨まれる……小娘の癖に中々の威圧感を放ってるね。自分の物に手を出されたと思ってるのかねと苦笑していると

 

「魔装術なんか教えてないでしょうね?」

 

「そんな事はしてないよ。少しだけ見せただけさ……別にあんたの男を取る気はないよ」

 

まぁそれなりに興味はあるけど……今は別にちょっと面白いかもしれない馬鹿って言う認識だしね……

 

「まぁいいけどね。私の横島を盗ったら許さないから、横島は私のよ」

 

「はいはい。判ってますって」

 

アシュ様も蛍の為に色々としているのだし……アシュ様に睨まれるのはあたしとしても面白くないしね……

 

「じゃあね。あたしはアシュ様に報告があるから」

 

アシュ様に神代幽夜の場所を伝える為にあたしは喫茶店を後にした

 

(横島がどうなるか楽しみだね)

 

今見せた魔装術の篭手。悪魔と契約していないから使えるわけはないが……記憶で見た横島は霊力の圧縮に特化していた……もしかしたらとんでもない何かを思いつくかもしれない。それを見てみるのが楽しみだと思うのだった……ちらりと見た窓から並んで紅茶を飲んで話をしている蛍と横島をみて微笑ましい物を感じながら……

 

 

「唐巣先生。冥華おば様、失礼します、これが昨日の私とエミの成果です」

 

唐巣先生の教会に運び込んだエンブレム。これは昨日エミと捕まえようとしたゾンビが身につけていた物だ、捕獲しようと思ったのだが、エンブレムが輝きその姿を消失させてしまったのでこれだけを回収してきた

 

「これは……まさか」

 

「ちょっと信じたくないわねえ~」

 

青い顔をする唐巣先生と冥華おば様。私とエミも調べて顔を青褪めさせる事になった。何故ならそれは

 

「ソロモン72の序列の54番目……死霊公爵「ムルムル」の紋章です」

 

ムルムルは極めて優秀な死霊使いだ。神代の不完全な神降ろしで操られているとしても危険な相手だ

 

「その通り。ムルムルは極めて優秀な死霊使いであるが、それ以前に中立派とされる魔神だ」

 

芦優太郎が来て歩きながらムルムルの情報を話す

 

「お初にお目にかかります、芦優太郎です。呼び方はお好きなほうで、唐巣和宏神父。六道冥華さん」

 

笑顔の芦優太郎にエミが怪訝そうな顔をして

 

「どうしてムルムルが中立派って知っているワケ?あんたももしかして神代幽夜側なんじゃないの?」

 

確かにその可能性はある。ソロモンの魔神の情報なんて滅多にないのだから

 

「蛇の道は蛇と言うでしょう。私はこれの正統所有者ですよ」

 

芦優太郎が懐から出したのは凄まじい魔力を秘めた一冊の本。それを見た瞬間胸がざわめくのを感じた

 

(なにこの感じ……)

 

懐かしさ。怒り、絶望、喜び。色んな感情がない混ぜになった奇妙な感覚を感じていると

 

「ゴゴゴ……ゴエティア!しかも真作!?どこでそれを!?」

 

「代々受け継いできた物です。危険なので普段は封印していますが、今回は特別に持ってきました」

 

「み、見せて欲しいワケ!」

 

エミが手を伸ばすが芦優太郎はその手を躱して、鞄にしまって札を貼る

 

「これはとても危険なのですよ、発狂しかねない。ムルムルの情報の写しはあるのでこれで我慢してください」

 

差し出された写本。それでも凄まじい魔力を秘めている。両手に霊力を込めてその写本を手にする

 

「今回は同行させていただくということで精霊石をいくつか用意しました。それとダウジングで見つけたのですが」

 

広げてあった地図に丸をつける芦優太郎。そこを覗き込んだ私達は声を揃えて

 

「「「旧・GS本部跡地」」」

 

都心の霊脈の上にあって、なおかつ地下がある。神代幽夜の潜伏場所としてはもっとも適しているだろう

 

「そういえば~Dランクで跡地の調査依頼があったけど行方不明者続出で取り下げに~」

 

もしかして私とエミが倒したゾンビは……

 

「調査をしに行った若手GSの成れの果て……ってワケ。胸糞悪いわけ」

 

顔を歪めるエミの隣で唐巣先生が依頼書を見て

 

「また出ているね、旧GS本部跡地の調査……見習いもしくはDランクGSのみ」

 

最悪の事態になってしまったわけだ、横島君と蛍ちゃんに頼むしかない

 

「色々準備させて~先行してもらいましょう~あとで合流すればいいわ~」

 

「一応仮GS免許を持っている私が同行します。唐巣神父達はその後で合流してください」

 

とんとん拍子に話が進んでいくのを見て

 

「ちょい待ち!あの2人は私の弟子よ!私は反対するからね!」

 

ムルムル相手に横島君と蛍ちゃんを先行させるのは断固反対だと叫ぶ。エミも

 

「あたしも良くないと思うワケ。危険すぎる」

 

スカウトしようとしていたくらいだから私の気持ちが判るのだろう。唐巣神父達を若干睨みながら言うと

 

「私も確かに危険だと思っている。しかし旧本部は特別な封印をされている、美神君も知っているだろう?」

 

あの場所はいろんな魔具が在る場所で封印処理をされているのは知っている。だけど

 

「私の~式神を護身でつけるわ~それに直ぐ合流すれば危険度も減るわ~2人と芦さんを信じて見ましょう~」

 

判ってる。判っていた、2人に協力して貰わないといけないことには

 

「別途で報酬を出してください。横島君と蛍ちゃんにそれが条件です」

 

今回はかなりの難易度の依頼になる。見習いにもしっかりと給金を払う事をお願いするのだった……

 

「もちろん~それなりの報酬は用意するわ~」

 

冥華おば様が即答してくれて心底安心した。万年金欠の唐巣先生がまともな報酬を出してくれるとは思わなかったからだ……

 

 

 

旧GS本部地下。既に廃墟になっているという話だったが、地下の設備は最新式のPCや明らかに場違いと思われる家具で埋め尽くされていた

 

「ほう。いきなり来たか」

 

ソファーに腰掛けワインを手にPCを見ていると、「旧GS本部地下捜索」の志願者に見習い2人と仮免が1人……

 

「私だ。今日申し込みに来た3人を明日にでも旧本部地下によこせ。いいな」

 

GS協会にいる私の部下に電話で指示を出し目を閉じる。何故か10体近くゾンビが滅せられた

 

「また暫くは手駒集めだな」

 

ランクの低いGSと見習いを捕まえてドンドンゾンビにしていけば良い。それでまた手駒が増える

 

「けひゃ。まだ駄目なのかあ?地下の神代琉璃をくれる約束なんじゃあないのかあ?」

 

黒坂が部屋を空けて汚い靴でソファーに座るのを見て眉を顰める。ムルムルの死霊術は黒坂に、剣技や体術は私に分配した。あまり霊力を使えない身体だ。適材適所と言うのがあるが

 

(この男は失敗だったな)

 

呪術師であるがあまりにモラルが低い。私の仲間と呼ぶには醜い……

 

「まだだ。もう少し待て」

 

黒坂が私に協力しているのは、地下に封印されている琉璃を穢す為それだけだ……全く吐き気がする

 

「ちいっつまらんぜ。女が居ないのはつまらない、壊して、穢して、屈服させるのが面白いのによお」

 

けひゃひゃひゃっと笑う黒坂。ムルムルの分霊の影響で既に精神崩壊が始まっているか、まぁ問題ない。ムルムルの分霊がいる限り死にはしないのだから

 

「明日だ。明日好きにしろ」

 

とは言え協力者の望みを叶えないほど私は性悪ではない。正統な労働には正当な報酬をだ

 

「けひゃ?」

 

振り返る黒坂の目に光はない、完全に魂まで浸食されているのだろう

 

「琉璃の力は充分に溜め込むことが出来た。もう必要ない」

 

あの結晶に封印しているのは理由がある。稀代の神卸しの才を持つ琉璃の霊力を結晶化させれば、私でも神卸が使える。しかし神卸は儀式。穢れなき巫女でなければならない、だから2年にわたり封印してきたがもう良いだろう

 

「けひゃひゃ!!!また俺のドレイ女が増える。ひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

楽しそうに笑いながら出て行く黒坂。下卑た男だ……ふん。何十人も女を攫ってきて呪術で廃人同然にして死んだらゾンビにして切り刻んで殺す

 

「もっと良い呪術師を探すんだった」

 

あんな下卑た男ではなく、もっと理知的な男を捜すべきだったと後悔しながらワインを口に含むが……味はしない。分霊を取り込んだせいで身体の作りが変っているせいか人間の食べ物は口に合わない、だがまだ心は人間であるという事を忘れたくはない。そう……

 

「誇りある悪は散り際もまた理解しているのだよ」

 

今度の見習いは格が違う「美神除霊事務所」の所属だ。今までのGSとは比べるまでもないだろう、それに確実に美神令子も出てくる

 

「力を手にして見てもむなしいだけだ」

 

不完全と言うことで神代家から追放され、禁呪に手を染め力と権力を手にして見たが虚しい物だ……地下から外が見れるように改造した窓から月を見つめつつ

 

「良き終焉が訪れる事を」

 

美しき月よ。どうかこの愚かな男を裁いてくれ、そしてこの魂を煉獄へと堕としてくれ……力と権力を手にした今なら判る

 

「私は生まれるべきではなかった」

 

神代家の分家の1つ。神大の家に生まれ、最後の近親相姦により生まれた私は人間として欠陥がありすぎた。神代家の当主に命をつながれたが、そうではなく死ぬべきだったのだ……

 

「最後の一晩。ゆっくりと楽しむとしよう」

 

明日がこの私神代幽夜の最後になるだろう。味はしない、香りも感じない、だがそれでも最後の晩餐としゃれ込むのだった……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その5へ続く

 

 

 




結構シリアス風味で進めて見ました。次回は戦闘回で進めて行こうと思います、神代幽夜は人的欠陥者イメージはマーボー神父だと思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです、今回は「横島」「蛍」「優太郎」の3人で旧GS本部に潜っていく話を書いていこうと思います
戦闘メインになると思います。ただ横島は戦力的に未知数なのでメインは蛍と優太郎ですね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その5

 

既に廃墟になっている旧GS協会本部の前で守衛にカードを渡される。金属製のカードで恐らく、この先のゲートの解放に使われるものなのだろう

 

「探索時間は2時間までだ。それ以上を過ぎたら、こちらからは一切の身の安全は保障しない。素早く目的地に向かいそこに保管されている書類を回収してくるように」

 

その言葉に頷き開かれたゲートから廃墟の中に入る。ちらりと後ろを確認し、飛び出せるように準備している唐巣神父に目配せしてゆっくりと廃墟の中に足を踏み入れる

 

「さてと準備を始めようか」

 

廃墟の中に入り、監視カメラがない場所を選び。鞄から除霊具を取り出していると

 

「優太郎さんはスパイですか?」

 

呆れたような横島君の背負っている鞄からはタマモとチビが顔を出している、索敵に特化しているタマモとチビは念のための備えだ。攻撃力のあるタマモは顔を出してそのまま横島君の頭の上へ移動するが、チビは鞄から出てくる気配がない。周囲の気配で怯えているのだろう……

 

「スパイか。それもいいねえ」

 

本当は魔神だけどねと心の中で付け加え、守衛に渡された役に立たない札と除霊具を破壊する。

 

「あの守衛もグルみたいね。すっかすかだわ」

 

渡された除霊具は外見だけでスカスカだ。間違いなくあの守衛もグルだろう、使えると思っていた道具が実践で使えない。その混乱で一気に全滅と言うのはありえない話ではない。恐らくこのパターンで何十人も死んでいるのだろう。そしてまた依頼を下げて時機を見て依頼を出す。中々考えられている

 

「横島君にはお札を色々持って来た。全部持って行ってくれ。あとおまもりに精霊石を」

 

精霊石は身につけているだけでもある程度の効果はある。横島君を護ってくれるはずだ……本当は霊力を込めて爆弾や結界として使うのがベストなんだけど……横島君の霊力の幅を考えると身につけるのが一番だろう

 

「蛍はどうする?」

 

蛍はサイキックソーサーと霊力パンチがある、後は何を使う?と尋ねると

 

「霊体ボウガンと神通棍がいい」

 

蛍にボウガンと神通棍を渡し、自分もボウガンと破魔札を装備して

 

「横島君。蛍、警戒しながらついてきてくれ、とりあえず最初は目的地の地下3階を目指す」

 

予定では途中で合流してくれるはず。それまではまずは依頼を遂行する事を考える

 

「了解っす。足手纏いにならないように頑張ります」

 

「大丈夫よ。横島なら」

 

「ココーン」

 

「ミミー!」

 

蛍達に励まされ「うん、俺頑張る」と呟いている横島君を見ながら、簡単な霊視を行う

 

(2階までは大丈夫。問題は3階からか)

 

2階までは只の廃墟だが、3階からは瘴気を感じる。若干の霊気を感じるから悪霊程度はいるが、まぁ大丈夫だろう

 

「さあ。行こう私が先頭に立とう」

 

霊力魔力を封印していても魔神の私だ。この程度の悪霊なら近づいてきただけで向こうが消滅するはずだ……渡されていた地図を見ながら地下へ進む階段を探しながら歩き出したのだった……

 

 

 

横島君達が廃墟に入ってから20分後。私達は素早く守衛室に近寄り中を窺う

 

「楽な仕事だよなー。人間送り込んでそれで終わりだぜ?」

 

「そーそー黒坂さんが要らなくなった女もくれるしなー。これで給料も貰えるって最高だよなー」

 

下衆な話をしている守衛2人。やはりこの周辺は神代幽夜の部下か……

 

(美神君と小笠原君と冥華さんはここで待機。逃げてきたらお願いします)

 

頷く美神君達を見ながら守衛室の扉を蹴り空けて

 

「GS唐巣和宏だ!大人しくしろ!」

 

青い顔をして逃げようとする守衛2人の腹に拳と膝蹴りを叩き込んで意識を刈り取ると

 

「流石唐巣先生。昔の喧嘩の腕は健在ですね」

 

笑いながら手を叩く美神君。私はずれた眼鏡を直しながら

 

「茶化さないでくれたまえ。あれは黒歴史なんだ」

 

破門されていた時のことを言う美神君に眉を顰め、気絶した守衛室を調べる

 

「ちょっと急いでね~横島君達が3階に向かっているみたい、ちょっと瘴気が出てるから危険よお~」

 

冥華さんの言葉に焦りながら守衛室を調べる。どこかに鍵があるはずなんだが……

 

「あ、あった!唐巣神父見つけたワケ!」

 

呪印が刻まれた鍵を掲げる小笠原君。良かった、これで追いつける。結界を解除して旧本部に入る

 

「唐巣先生。変な空気ですね」

 

「そうね~これは結構不味いかも~」

 

私もそれを感じている、空気が淀んで瘴気になっている。下手をすると限定的な魔界にもなりかねない、これは一刻も早く合流しないと

 

【【【アアアア……】】】

 

【【【ウボアアアア……】】】

 

うめき声を上げながら次々姿を見せる人魂型の悪霊。この瘴気に引かれてきたのだろう

 

「美神君!ここは私が引き受けた!小笠原君は冥華さんを頼む!」

 

どうもこの調子で沸いてこられると挟み撃ちになる。幸いこのタイプの悪霊は私の得意分野だ、適材適所と言うところだ

 

「判りました!無理だと思ったら逃げてくださいよ!」

 

「そう言うワケ!行きますよ」

 

「唐巣君~気をつけてね~」

 

地下の階段の方に走っていく美神君達を見ながら周囲の悪霊を見つめる。私の霊視には見えている

 

(不憫な……)

 

ここにいる悪霊はここの調査に来たGSの成れの果て。死んだあと瘴気のせいで悪霊とし化してしまった者達

 

《草よ木よ花よ虫よ……我が友たる精霊達よ》

 

せめて私が癒そう。破門されたとは言えこの身は神父。助けを求める者を見捨てることなど出来はしない

 

《邪を砕く力を分け与えまえ!汝らの呪われた魂に救いあれッ!!!アーメンッ!!!!》

 

私の両手から飛び出した破魔の光が悪霊達を浄化させ、昇天させていく……だがこれで終わりではない

 

「今日の私はこの程度では終わらない。さぁどんどん来たまえ、天の国へ導こう」

 

次々姿を見せる大量の悪霊。彼らもまた犠牲者……彼らを救うのが私の宿命なのだから、懐から聖書を取り出し

 

《草よ木よ花よ虫よ……我が友たる精霊達よ》

 

聖書で破魔の力を強化させながら再び聖句を口にするのだった……

 

 

 

優太郎さんの後ろをついて階段を駆け下りて来た。今の階層は地下4階の狭い通路が続くフロアだ

 

「ひいいっ!!まだ来てるううう!!!」

 

【【【アアアアッ!!!】】】

 

追いかけてきているゾンビを見て絶叫する。タマモとチビを抱き抱えて少しスピードが落ちているとはいえ、全力疾走しているのに全然引き離せない、ゾンビ早い!?もっと遅いイメージだったけどかなり早いようだ

 

「もう少しだ!頑張れ横島君!」

 

「は、はひいいい!!!」

 

スプリンター?と尋ねたくなる綺麗なフォームで走りながら叫ぶ優太郎さんに頷く、3階からゾンビに追われているが狭い道と言うことで禄に反撃できず、走り回っているのだ。

 

「グルルル」

 

腕の中で唸るタマモ、確かにタマモの狐火なら攻撃も出来るかもしれないが

 

「止めさせて。ここで使ったら大変な事になる」

 

埃や紙が散乱しているこの部屋で火を使えば火事になる。後から追いかけてくる美神さん達も危険なので

 

「もうちょい我慢や!今は逃げるで!」

 

「クウ……」

 

俺のために頑張ろうとしてくれているのは判るのだが、場所が不味い

 

「光が見えた!行くぞ!」

 

更に走る速度を上げて暗い通路を抜けるとそこは、廃墟の中とは思えない新品のコンクリートつくりのフロアだった

 

「ビンゴッ!!横島君は下がりなさい!蛍!」

 

「了解お父さん!」

 

素早く反転した優太郎さんと蛍が並んでボウガンと拳を構える

 

「す、素手で戦う気っすか!?」

 

軽く素振りをしている優太郎さんに叫ぶと振り返り、ニッと白い歯を見せて

 

「見ていたまえ!!ドラドラドラドラッ!!!!!」

 

両手に霊力の光を宿してゾンビを滅多打ちにする優太郎さん

 

「うえ?」

 

美神さんとも蛍とも全く違う除霊方法だ……しかし強い。ドンドン浄化されていくゾンビの大群

 

「ドラァッ!!!」

 

【うぼおおお】

 

胴体を貫かれ消滅していくゾンビ。そして振り返りニヒルな笑みで

 

「私もやるものだろう?」

 

ドヤアっと自慢げな顔をする優太郎さんの背後からゾンビが手を伸ばすが

 

「お父さん!」

 

「ホワタァ!?」

 

いきなりボウガンの矢が頬を掠めたことで絶叫する優太郎さん。だけど俺も絶叫するとおもう

 

「おお。油断大敵だな!気合を入れよう。無駄無駄無駄ッ!!!!」

 

どこの吸血鬼だ!?と叫びたくなるような気合を入れたラッシュでゾンビを蹴散らしていく優太郎さん

 

「良し!タマモ。ゴーッ!」

 

これだけ広ければタマモの狐火も問題なく使える。タマモもそれが判っているのか、気合の入った様子で

 

「コーン」

 

俺の腕の中から飛び出して尻尾を立てるタマモ。俺も懐から破魔札を取り出して

 

【うぼおお!】

 

コンクリートをぶち抜いて姿を見せるゾンビ目掛けて破魔札を投げる。カッと爆発してそれが優太郎さんを巻き込んで

 

【ギギャアア!!】

 

「ぐああああ!!!」

 

コンクリートの部屋にゾンビの断末魔と優太郎さんの絶叫が重なって

 

「どないしよ」

 

ピクピク痙攣している優太郎さんを見てそう呟く。今の爆発とタマモの狐火のおかげでゾンビが出てくる事は無くなったが……痙攣している優太郎さんをどうしようと動揺していると

 

「仕方ないわ。こういうこともあるわ」

 

ぽんっと俺の肩を叩く蛍と足元にじゃれ付いてくるタマモを見ていると

 

「横島君!蛍ちゃん!大丈夫……何があったの……」

 

「本当に何があったワケ?」

 

「あら~横島君~もうちょっと霊力の調整を覚えないと駄目よ~」

 

式神で見ていたであろう冥華さんの言葉に返事を返し、痙攣している優太郎さんの手当てをする為に蛍から救急セットを取り出すのだった……

 

 

 

横島君達に追いついたのは良いけど、痙攣し意識のない芦優太郎と申し訳なさそうにしている横島君。炸裂したと思われる破魔札を見て。恐らく破魔札の威力が上がりすぎたのだと推測する

 

(良い経験になったのかもしれないわね)

 

ある程度の戦闘経験を積む事が出来たのは大きい。だけどここからは

 

「お疲れ様。ここからは私達が先導するわ。少し身体を休めて」

 

霊力は魂の力だが、肉体的な疲労にも影響している。そろそろ休ませて上げるべきだろう。無論私達も同じだけど……

 

「待たせたね。中々手間取っててね」

 

唐巣先生が追いついてくる。ちょっと疲れているような気配もあるけど、まだまだ元気そうだ

 

「ふ~式神を偵察に出すわ~少し休みましょう」

 

座り込むと同時に札を投げて式神を飛ばす、冥華おば様。ここまで走り続きだったのと、霊力の消耗もあるので少し座り休む事にする

 

「つまりだね。霊力と言うのは魂の力なのだよ?怒りとかの感情も大きく影響する」

 

「はぁ……なるほど」

 

芦優太郎が横島君に霊力についての説明をしているのを見ていると、エミがイラついた様子で足踏みしながら

 

「だけどそんなに休んでいる時間もないワケ。神代琉璃が危ない」

 

その名前に横島君がさっきまでの申し訳なさそうな雰囲気はどこに行ったのか?と尋ねたくなるような期待に満ちた顔で

 

「お嬢様のようなお名前!エミさんその方は「はいはい。静かにしてようね」ドンタコスッ!?」

 

奇声を上げて倒れる横島君。振りぬいた姿勢の蛍ちゃんの拳が恐ろしい

 

「それはあれかい?巫女としての役目は終わったと?」

 

回復してきた芦優太郎が尋ねる。中々詳しいわね……まぁあれだけの情報網を持っているなら納得だけど……

 

「そう言うわけ。今日の夕方に封印が解除されれば彼女は巫女としての力を奪われる。だから急がないと」

 

黒坂信二はかなりの女好きで知られている。その呪術を使い女性を強姦した罪で警察にも追われている。となると神代琉璃の身が危ない

 

「出来れば~早く助けてあげたいの~彼女の才能が消えるのは惜しいわぁ~」

 

巫女である以上純潔でなければ能力を遣うことが出来ない、ここからは時間のロスが痛い。だが……

 

「ここからが問題なのよ」

 

ここから先は神代幽夜が作った施設。普通に進めるとは思えない、罠も悪霊もゾンビいるだろう

 

(時間はないけどここは慎重に進まないと)

 

罠に掛かったりすれば時間をロスする。ここは少し時間を消費してもいいから、体力とかの回復を優先……

 

「!!」

 

突然横島君が起き上がり、きょときょと辺りを見回す。それを見たチビが

 

「みう?」

 

どうかしたの?と言いたげに首を傾げていると横島君は

 

「すんません!先行きます!誰かが呼んでる!!!!」

 

そう叫ぶとチビを蛍ちゃんに投げて走り出す。ちょっと!?何を考えてるのよ!!!

 

「止まりなさい!横島君!」

 

「横島待ちなさい!」

 

私と蛍ちゃんが叫ぶが、横島君の姿はあっと言う間に見えなくなる。こんなときに単独行動って何を考えてるのよ!

 

「いや、美神君……もしかすると横島君の霊能力が研ぎ澄まされているのかもしれない」

 

危機的状況による霊能力の覚醒。それはないわけじゃない……それに前のミズチの事を考えてもその可能性は極めて高い

 

「話している時間があるなら追いましょう!横島が危ない!」

 

蛍ちゃんの言っていることは正しい。横島君が使えるのは破魔札と不安定な陰陽術。神代幽夜でも黒坂信二に会っても危ない

 

「みー!」

 

「こーん」

 

鳴いて走っていくタマモとその上を凄まじい勢いで飛んでいくチビ。そして2匹を追いかけていく蛍ちゃん。私達も少しの休息を済ませ、冥華おば様の式神と蛍ちゃんの姿を追って走り出したのだった……

 

 

 

身体を動かす事が出来ないのに意識がハッキリしている。そんな状態で何年過ごしたか判らない……だけど突如

 

「うっ……」

 

私を押さえ込んでいた水晶が砕けその場に倒れこむ。2年の間に筋肉が鈍っているのか動く事も身体を動かす事もできない

 

「けひゃひゃひゃ!!!よー神代琉璃ィ?お前はもう要らないんだとさ!」

 

耳障りな声が聞こえる。だけど視界はぼんやりして声の主を見つけることが出来ない、だけどこの声には聞き覚えがあった

 

(黒坂信二)

 

私に何かをして意識を奪った張本人。怒りを感じるだけどそれよりも感じるのは生理的な嫌悪感

 

「けひゃひゃ!だから俺様の女にしてやるよぉ?けひゃひゃひゃ!!!」

 

狂ったように笑いながら私の服に手を伸ばす黒坂。逃げようにも身体は動かない

 

(嫌だ!嫌だ嫌だ!!!)

 

こんな下卑た男に素肌を見せるのは嫌だ、それ所かこのままでは犯されては神代の巫女としての力を失う。動かない身体で逃げようとするが

 

「ひい!?」

 

背後から手を伸ばされ胸を触られて、言いようの無い嫌悪感と恐怖で上ずった悲鳴が零れる

 

「ひゃひゃ!!歳の割には言い身体をしてるなーけひゃひゃ!!!さーてじゃあそろそろ脱ぎ脱ぎしましょうねー」

 

私の服に手を伸ばす黒坂。それと同時に強い力で服を引っ張られ破かれる。露になった素肌と、更に楽しそうに笑う黒坂……恐怖のあまり目を閉じて少しでも抵抗と動かない体を動かそうとした瞬間

 

「何やっとるんじゃアア!この性犯罪者がああッ!!!!」

 

「ぐげえ!?」

 

バーンと開かれた扉から勢い良く膝蹴りを放ちながら飛んできた、紅いバンダナにGジャン姿の青年は私を見ると

 

「ぶぼお!?なんて刺激的なお姿を……ええい!これ!これ着てください!!」

 

鼻血を出す。それはまぁ無理もない、今は服の前面を破かれて下着が露出してしまっているから、だけど青年は自分が着ていたジャケットを脱いで私の肩から着させて素早くボタンを締めて

 

「すんません!失礼します!」

 

私にそう声をかけてから私をおんぶした青年は

 

「捕まってて下さい!唐巣神父とか美神さんと合流します!」

 

(助けに来てくれたんだ)

 

唐巣神父は良く知っている。あの人には色々なことを教わったから、ただ美神と言う名前に聞き覚えがない、もしかするとこの青年のGSの師匠なのかもしれない。

 

「ああ!蛍-!タマモー!俺はここだー!!!早く合流してくれええ!!!」

 

そう叫んで走り出す。背後からはおぞましい霊力と不快感を感じさせる黒坂の声が響いてくる

 

「待ちやがれこのクソガキ!そいつは俺のもんだ!返しやがれエエエ」

 

何を勝手な事を言っていると心の中で叫ぶ。残念な事に今は叫ぶ事は出来はしないが……

 

「くそったれ!怖い!くそ怖ええ!だけど女を見捨てるなんて出来るかああ!!!!」

 

涙を流し、鼻水を垂れ流しても私をしっかりを背負い走っていく青年

 

(面白い奴……)

 

あまり男性は得意ではないが、この青年はなんと言うか面白い……私は小さく笑い、辛うじて感覚の戻ってきた腕でしっかりと捕まりなおすと

 

「こ、この柔らかさわああ!!!行ける!俺はいけるぞオオオオオ!!!!」

 

そう叫んで加速する青年。助平だけど嫌悪感はあんまり感じない。なんと言うか面白いと言うのが私の感想だった、それに優しいというのも判る。これが私「神代琉璃」と「横島忠夫」の初めての出会いだった……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その5へ続く

 

 




はい。今回はここまでです。アシュ様がラッシュをしているのはスルーしてくださいね。私の好みなだけですので、最後の登場した「神代琉璃」の容姿はISの「楯無会長」をイメージしてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回は前回よりも激しい戦闘回になると思います。あとはそうですね……他の漫画のネタを使おうと思っています。「自慢の拳」を使いたいんだ。きっと判る人は判ってくれる、私が如何して自慢の拳を連想してしまったのかを……
横島ですが、最終的にはYOKOSIMAになるのでこれはその第一歩と思ってください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その6

 

美しいお姉様を犯そうとしていた変態からお姉様を救出して逃げたのは良いけど、蛍達と合流できない……どこを走ってきたのか判らないのだ

 

(くそっどうする!?)

 

破魔札と殆ど使えない陰陽術……せめてタマモが居れば攻撃できるのだが、本能に従ってきてしまった為。休んでいたタマモを頭の上に乗せるのを忘れていた

 

「ん?なんっすか?」

 

俺の肩を叩くお姉様の指先を見ると扉が見える。なるほどあそこに隠れろと

 

「了解っす!」

 

返事を返してその部屋に飛び込む。書庫なのか大量の本が見える、椅子もあるので丁度いい

 

「降ろしますよ」

 

ゆっくりと椅子の上に座らせる。女性にしては背格好が良いので、俺のGジャンでも破かれた服を完全に隠すことが出来ず白い肌が見えている

 

(あかんあかん!!俺もあいつと一緒になってまう)

 

女性の嫌がることはしてはならない、女性は泣かしてはいけない。これがお袋の教えだ

 

「助けてくれてありがとう。君は?」

 

弱々しい声だがそう尋ねて来る。その目は強い意志の光を宿していて綺麗と言うよりかかっこいいと思える

 

「あ、はい。GS見習いの横島忠夫です」

 

その凛々しい顔に少しだけ胸が高鳴るのを感じながら名乗ると

 

「そう……もう1度言うわ。助けてくれてありがとう。私は琉璃、神代琉璃よ」

 

琉璃……やっぱりこの人が美神さんたちが探していた本当のGS協会長。若いのに凄い人なんだなあと感心する

 

「神代さんっすね!俺の事は横島で良いです」

 

とりあえず自己紹介。こんな綺麗姉ちゃんと知り合いになれるとはなんとついているのだろうか?

 

「横島君ね。よろしく、それよりも早く唐巣神父と合流しましょう。私は霊力使えないし、君もでしょ?」

 

「うっす。見習いだから破魔札しか使えないっす」

 

神代さんは顎の下に手を置いて何かを考える素振りを見せたが

 

「無理ね。逃げましょう。また背負ってくれる?」

 

「もちろん!」

 

こんな綺麗な姉ちゃんを背負うなら何時間だって逃げてられる。じゃあよろしくと言う神代さんを背中に背負った所で

 

「見つけたぞガキィ!「死ねや!この変態ヤロウが!!」ほわああ!?」

 

書庫の本を投げると重力で失速し、変態の股間を貫いた。股間を押さえて蹲る男の横を通り過ぎ

 

「美神さーん!蛍ー!唐巣神父ー!!六道さーん!小笠原さーん!チビ!タマモ!俺はここだあああああ!!!」

 

声のあらん限りの叫び声を上げて再び走り出した。背中の柔らかい感触があれば俺はどこまでだって走っていける!!

 

「ふふ、ちゃんと2人とも助かったらデートしてあげようか?」

 

猫のような笑みを浮かべる神代さん。どうもこれが素のようだが……で、デート

 

「よろしくお願いしまーす!!!!」

 

俺はそう叫び更に走る速度を上げるのだった……一瞬蛍の顔が脳裏に浮かんで罪悪感を感じたが、これだけの美人のお姉様とのデート

 

(すまん蛍ゥ!)

 

俺は心の中で蛍に謝るのだった。これ1回だけ、1回だけなら蛍も許してくれる。そんな淡い期待を抱きながら暗い通路を全力で駆け抜けたのだった……

 

 

今物凄く嫌な予感がした。横島に関する何かだ……絶対なにか色気に迷いかけているに違いない……

 

「唐巣神父。神代琉璃さんってどんな人なんですか?」

 

名前だけでは判らない。唐巣神父にどんな人か?と尋ねると

 

「えーとそうだね。猫みたいに自由気ままで……美神君に少し似てるかな?」

 

それは性格とかではなく外見がと言うことだろう。つまりあの嫌な予感は横島が神代琉璃との間で何かあったということで

 

「早く合流しましょう!」

 

フラグはぶち折る為にある。横島は私の物なのだから私以外のフラグなんて全部消し飛んでしまえばいい……

 

「なんか蛍がどす黒い瘴気を出してるけどどうしたワケ?」

 

「ほっておいて良いわよ。横島君に手を出す奴をつぶすとか考えているだけだから」

 

美神さんと小笠原さんの話を聞きながら暗い通路を歩く

 

「コン」

 

「み!」

 

チビとタマモが横島の匂いを追いかけて移動しているからそのうち合流できると思うんだけど、時折風に乗って聞こえてくる横島の悲鳴が気になって気になって仕方ない

 

「大丈夫だよ。蛍。横島君には精霊石を3個持たせてる、そうそう最悪の事態にはならないよ」

 

私を励ましてくれるお父さんだけど、正直不安だ。今まで除霊現場はずっと一緒だったし、2人で行動するのが当たり前だった。だけど自分の隣に横島が居ないだけで

 

(こんなに不安になってしまうのね)

 

いつも一緒に居る存在がいない。それだけでこんなにも弱気になってしまうとは……と苦笑していると

 

「胸糞が悪いね。美神君達は見ないほうが良い」

 

先を調べに行っていた唐巣神父と冥華さんが戻ってきてそう告げる、一体何があったのか?と思うほどの険しい顔をしている

 

「行方不明~になってた~女性がたくさんいたわ~呪術的な処理で心を砕かれて~完全な生きた人形として~多分黒坂の性奴隷って所かしら~」

 

間延びした口調だがその声には凄まじい怒りが込められているのが判った。唐巣神父は眼鏡を外してポケットにしまい、ぐっぐっとストレッチをしてから握り拳を作り

 

「あの外道を叩き潰す!」

 

「私も行くぞぉッ!!!」

 

雰囲気を一転させ、荒々しい霊力を纏って走っていく唐巣神父とお父さん。美神さんはそれを見て

 

「唐巣先生って眼鏡でON/OFFするのよ、眼鏡を外すとあの時の怖い先生に戻るのよ」

 

お母さんには聞いたことのない話だから、多分この世界特有の事なのね……

 

「ちなみにその女性達は……」

 

小笠原さんが尋ねると冥華さんは目を伏せて

 

「式神の夢の中で終わらせてあげたわ。優しい夢の中で……」

 

そう、有事の際のオカルト犯罪の特例1が適応する状況だったわけね。私は目を閉じて大きく深呼吸をして

 

「女性を女性と扱わない外道を叩き潰しに行きましょう!美神さん」

 

「言われなくても!徹底的に潰してやるわ!」

 

「あたしもやるワケ。もう男として完全に抹殺してやるワケ!」

 

横島の匂いを探して歩いていたチビとタマモを抱き上げて

 

「「「どっち!?」」」

 

「み、みーん」

 

「こ、こーん」

 

怯えた様子で顔を向けるチビとタマモの指差すほうに向かって私達は走り出したのだった……だが忘れてはいけない、動物には生存本能がある。極限まで死を感じたチビとタマモは本来指差す方向を間違えて指差してしまっていたのだ……

 

 

 

横島君に背負われて逃げ回っていたんだけど、呪術師としては3流以下でも降魔術で魔力をブーストさせている黒坂の呪術は強力で広場に追い詰められていた

 

「ちくしょう。しくった」

 

「そう言わないで、思ったより入り組んでいたからね」

 

2人で考えて逃げたが、やはり中を把握している黒坂の方が1枚上手だった

 

「ひゃひゃひゃ!!!中々に楽しかったぜ、ガキ……」

 

下卑た笑い声とにやりと笑い私を見る黒坂。そのせいでさっき犯されかけたことを思い出して身体が震える

 

「神代さん。これ」

 

横島君が私の手に握らせたのは拳大の大きな精霊石と4000万と書かれた破魔札

 

「横島君!?」

 

確かにこれを使えば身を守ることが出来るだろう。呪術師にとって高純度の精霊石は天敵。身を守る事だって出来るだろう

 

「大丈夫っす!ほら」

 

もう1つ精霊石を見せる横島君。その手には破魔札が見える……だけどそれは安い程度の低い破魔札だ

 

「ひゃひゃひゃ!!そんなので俺に勝てると思ってるのかぁ?それよりも捕まえてこっちに連れて来いよ。お前も男だろう?」

 

ひゃひゃひゃっと狂ったように笑う黒坂の背後には生気のない顔をした女性のゾンビが姿を見せていた。その顔には嘆きと悲しみだけが見える

 

「その後ろの人たちは?」

 

抑揚のない声で尋ねる横島君。その肩は怒りのせいなのか激しく震えている

 

「ひゃは!!!攫ってきて飽きるまで犯してゾンビにしたのさあ?悪いかあ?」

 

なんて外道……どうしてこんなのがGSなんかをやってるんだろうか?

 

「それでどうだあ?お前にも「絶対にノゥッ!!!」

 

黒坂の言葉を遮った横島君は黒坂を指差して

 

「てめえ見たいなド外道はこのGS見習い横島忠夫がぶちのめしてやる!!!」

 

「はっ!やってみなあ!出来るもんならなぁ!!!行けゾンビども!!!」

 

黒坂は素早く後ずさり破魔札を構え、ゾンビを横島君に向かわせる

 

「こなくそっ!!」

 

上下左右から振り下ろされる刃を回避し黒坂に向かっていこうとするが

 

「ひゃはあ!!その程度で!」

 

黒坂の投げつけた破魔札が炸裂し、横島君を吹き飛ばす

 

「横島君!?」

 

霊的防御力がない横島君に今の一撃は……血の気が引いたのを感じたが次の瞬間

 

「急急如律令ッ!火精招来ッ!!!」

 

放たれた破魔札から炎が溢れ出し、ゾンビを一体焼き尽くす。解放された魂が天に昇るのが見える

 

「てめえ陰陽師か!?」

 

「急急如律令!雷精招来ッ!!!」

 

黒坂の言葉に返事を返す事無く札を投げつける横島君。その顔にはとんでもない疲労の色が見える……もしかして

 

(コントロールできてない!?)

 

霊力をコントロールできていないから必要以上に霊力を使っているのでは!?見習いのGSには良くあることだ

 

(私が霊力を使えたら)

 

そしたら少しでも手伝えるのに……握り拳を作ろうとして拳を握る事も出来ず、立ち上がることも出来ない自分が情けなくて涙が出るのだった……

 

 

 

くそったれ……俺は心の中でそう舌打ちした。ドクターカオスが翻訳してくれたと美神さんから受け取った陰陽術の本。それでも特別な字で描かれているらしく美神さんには読めなかった。だけどそれは何故か俺には読めた、だが理解が出来なかった。僅かに覚えることが出来たのは基本の基本

 

火精招来

 

雷精招来

 

の2つだけ。他にも水精招来などもあったが、覚える事が出来たのはこれだけだ。

 

(くそ、霊力が無くなる)

 

ほんの僅かしない自分の霊力を遠慮無しに吸い上げていく破魔札。まだ細かいコントロールが出来ないから使うのは止めておきなさいと言われていたが。そんな事を言っている場合ではなかった

 

(あの外道をぶちのめす!)

 

それだけが俺の頭を占めていた。女性を女性として扱わず、あまつさえその死体を道具として扱うあの男を許すことが出来なかった。3体のゾンビを倒して、黒坂にほんの僅かのダメージを与えるだけで霊力が無くなり掛けていた

 

(くそっ!どうすれば良いんだよ!)

 

あのゾンビは出来れば攻撃したくない、あの人たちも被害者なのだ。出来ることならあの外道だけを叩き潰す……

 

(!そうだ)

 

喫茶店であったあの綺麗なお姉様が見せてくれた霊力の篭手。あれならば……だがそんな事が俺に出来るのか?その不安を感じるが、今俺の頭を埋め尽くしていたのは

 

「とっとと死ねよ。ああ、やっぱり無しだ。てめえの目の前で神代琉璃を犯してやるよ!ひゃはははははははは!!!」

 

あのド外道を心底憎む!そしてあの人達を憐れむ!

 

危機的な状況。そして怒りと憐憫と相反する2つの感情……それは横島の中にある膨大な霊力のほんの一部を解放する鍵となった

 

「精霊石よ!我を護りたまえ!!!」

 

何度も見た美神さんがやっていた精霊石を結界にする術。その結界に妨害され進む事の出来ないゾンビとなってしまった女性達

 

(すんません。俺には貴女達を浄霊することが出来ません)

 

この土壇場で霊力に覚醒した横島の目には見えていた。ゾンビとなってしまった身体の上で鎖で縛られている魂を……ただこれは一時的なもので後に見えなくなるだろう。霊力の本流は横島の体を暴れ回り、その激痛で横島の意識は今にも飛んでしまいそうだったからだ

 

「う、うおおおおおおおおッ!!!!」

 

思い出せ。俺は見たはずだ、あの霊力の篭手を……

 

右手に集まってきた霊力の塊……眩いまでに輝く翡翠色の輝き……そして今俺が欲しいのは

 

(あの外道を叩き潰す拳!)

 

人差し指から握りこみ霊力を握り潰す。右手を基本に霊力が集まっていくのを感じる。それと背中に何かの感触

 

「て、てめええええ!?なんだその馬鹿げた霊力はあああああ!?」

 

今俺の腕を覆っているのは不安定な霊力の塊。あの人のものとは全然違うが……これで充分!!!

 

「す、凄い……これだけの霊力をその歳で引き出せるなんて」

 

ド外道と神代さんの言葉がどこか遠くに聞こえる。今俺に見えているのはド外道の姿とそれを叩き潰す事だけ

 

乾いた音を立てて砕け散る精霊石の結界。それと同時に背中の何かが爆発する……

 

「オオオオオッ!!!」

 

全ての景色が一瞬で飛んでいく感覚。地面を削りながら一気に外道の前まで移動して

 

「死にやがれ!このド外道があああああッ!!!!」

 

その加速を全て破壊力に変換させた全力の拳を外道の胴に突き立てた

 

「げぼお!?」

 

無様な呻き声を上げて吹っ飛ぶ外道。だが俺の右腕は何の感触もない

 

(うあ……)

 

一気に遠ざかっていく景色。俺が最後に見たのは心配そうな顔で駆け寄ってくる蛍の姿だった……

 

 

あれは栄光の手じゃ無い……もっと別の何か。私は倒れている横島に駆け寄りながらさっきの光景を思い出していた。翡翠色に輝く不安定な形状をした篭手と信じられない加速。一瞬栄光の手かと思ったけど違う……多分メドーサの見せた魔装術を真似して作り出したのだろう。横島の霊能力は「収束・圧縮」だ。栄光の手と似た理論の魔装術を真似するのはありえない話ではない

 

「美神君。君はとんでもない子を弟子にしたみたいだね」

 

眼鏡をかけなおした唐巣神父の言葉も無理はない。広場の床に残る破壊の後……それは横島が移動した時に出来た傷跡だ……周囲のゾンビは動く事無くその場に止まっている。あの外道が意識を失っているからだろう

 

「信じられないですけどね」

 

美神さんも驚いている、さっきの霊力の篭手と霊力を使った高速移動。今までの横島には無かった事だ……勿論私も知りえない、横島の新しい戦い方だ

 

「大丈夫~琉璃ちゃん~」

 

冥華さんが横島のGジャンを着ている女性に声をかけている。青みが掛かったショートへヤと紅い目をしている女性……多分あれが神代琉璃さんなのだろう

 

「は、はい大丈夫です。横島君のおかげで助かりました」

 

なんか……イラッとする。そう新しい敵が増えたような……

 

「ごばあ」

 

お父さんが噴出すのが見える。手元を見ると「神代瑠璃 7.7倍」の文字。ああ、なるほど

 

(あれは敵なのね!?)

 

敵と認識した、だからあの人に優しくする必要はない、それに横島は渡さない。だから本当はしたいけど女の敵の処分は

 

「美神さん、小笠原さんよろしくお願いします」

 

横島の拳で悶絶している女の敵を指差す。美神さんと小笠原さんは笑顔で握り拳を作り

 

「覚悟は良い?男として生まれた事を後悔させて上げるわ」

 

「死んでも魂を括って何度でも引き戻して殺してあげるわけ。喜びなさい」

 

子供が見たら大泣きするような笑顔で悶絶している外道の襟首を掴んで立たせ

 

~自主規制~

 

見せられないよ!

 

「や、やめえええええ!死ぬ!げぼお!?ごぼおお!!!」

 

「「オラオラオラオラッ!!!!」」

 

外道の絶え間ない悲鳴と吐血する音。それでもなお殴る蹴るの暴行を止めない2人、だが世の中には良い言葉がある「悪人に人権なし」どっちにせよ死刑が確定するだけの罪を犯しているのだから問題ないだろう

 

「とりあえず、まだ先があるんだ。ここで少し休もう」

 

ゾンビを全て浄霊したところでそう笑う唐巣神父。神代さんは冥華さんの治療を受けているし

 

「うう……」

 

「はいはい。大丈夫よ横島」

 

霊力の消耗で呻いている横島。流石に今は動ける状態ではない、夜になってしまうがそれもしかたないだろう

 

「コン」

 

「みー」

 

もぞもぞと私の横を通って、横島のおなかの上で丸くなるタマモとチビに苦笑しながら

 

(良く頑張ったわね。横島)

 

霊力の覚醒に成功した横島の頭を優しく撫でるのだった……

 

「もう。ゆるひてええええ」

 

「「無駄無駄無駄無駄ッ!!!!」」

 

とりあえず美神さん達が落ち着くまでは休憩する事にするのだった……1人だけ離れているお父さんは険しい顔をしている

 

(なにかあったのかしら?)

 

私達では感じ取る事の出来ない何かを感じているのかもしれない……

 

(ムルムル……聞こえるかね?私だ)

 

(アスタロト?久しいな。ここに来たと言うことは私を助けに来てくれたのか?)

 

(成り行き上な。但し助けるのも条件がある)

 

(魔神同士とは言え等価交換は当たり前だ。後に聞こう、早く解放してくれ。ここは好かん)

 

優太郎ことアシュタロスは魔神同士の精神感応を使ってムルムルの場所を調べているのだった……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その7へ続く

 

 

 




自慢の拳。スクライドネタですね。栄光の手とシェルブリットって凄く似ているとおもうのです、栄光の手の進化版として今後出して行くつもりなので楽しみにしていてください。次回で戦闘は終わりの予定です、原作のイベントを全然できてないですが、それはスルーしていただけると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で戦闘回は終わりの予定です、その後は事後処理の話を入れてレポート10に入ろうと思っています。それと横島の前回の攻撃とかの事も解説して行こうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その7

 

神代琉璃ねえ……唐巣先生の応急処置で既に歩けるだけの体力と霊力を回復させている彼女を見て

 

(そんなに大した霊能者には見えないけど……)

 

私よりも2歳年上でGS協会会長……その肩書きは大した物だけど、果たして戦力として数えて良いものなのか?出来れば戦力になってほしいと思っている。本当ならばここは休んで欲しい所だけど、そんな事を言える状況ではなくなってしまった。黒坂のほうは徹底的に叩きのめした上に結界札と縄で縛ってあるから無視しても良い。当面の問題としては

 

「大丈夫横島?」

 

戦力としては未知数の横島君が完全に戦闘不能になってしまっている。横島君も護らないと行けなくなってしまった以上、GS協会会長と言う地位にいるのだから自衛手段があると思いたくなるのは当然の事だろう

 

「あーあんまり大丈夫じゃねえな」

 

ふらつく足元を蛍ちゃんに支えられ、バンダナで左目を隠している横島君。さっきの霊力の篭手の反動なのか、左目が一時的に失明しているようなのだ。

 

(一体誰があんな危険な物を……)

 

あれは霊力を圧縮して自身の身に纏う。防御力や攻撃力は確かに上がるだろう……だけど今の横島君には危険すぎる。霊力をコントロールする事の出来ない横島君には危険すぎる

 

「横島君。さっきの篭手は使ってはいけないよ、今の君では体にどんな障害が出るか判らないからね」

 

唐巣先生がそう言うと横島君は小さくうなずき、手を振りながら

 

「使いたくても使えませんよ。手痛いわ、足痛いわ、目が見えないわ……もう踏んだりけったりですわ」

 

そう笑う横島君。後悔しているように見えるから多分もう使う事はないと思うけど、あの篭手の危険性をしっかりと説明して使わせないようにしないと、今は一時的な失明と手足の麻痺で済んでいるけど、もっと酷くなる可能性も考えないといけない

 

(厄珍に薬を頼んでおきましょう)

 

自然回復を待っていたのではかなりの時間が掛かると思うから無事に帰れたら厄珍から薬を取り寄せよう。何かの副作用が出ても困るし

 

「横島君~冥子の事務所に来ない~日給で2万よ~蛍ちゃんもどうかしら~」

 

「じゃああたしは4万ずつ。これでどう?」

 

さっきの霊能力の篭手を見たせいか、エミと冥華おば様が熱心に横島君と蛍ちゃんをスカウトしているの見て

 

「家の事務所の人間を引き抜こうとしないでください!!!」

 

こんな事をしている場合じゃ無いのにと思いつつも、そう怒鳴らずにはいられなかった……

 

「ミミ!?」

 

「きゅーん!?」

 

美神が怒鳴った時。横島の足元のチビとタマモが尻尾を付き上げて怯える素振りを見せていたりするのだった

 

 

 

 

蛍と横島君達の話を聞きながらも私は脳内でムルムルとの話し合いを続けていた

 

(人間を憎むのは判るが、そうそう行動に出ないで欲しい)

 

ムルムルは中立派の魔神だ。だが今回の事で過激派になられると困る……ソロモンの魔神の中でも有数のネクロマンサーのムルムルが敵に回ると考えただけでも恐ろしい

 

(別に人間などはどうも思っていないさ、憎んでもいないし、復讐しようなんても思っていない)

 

その言葉に一安心しているとムルムルの声が大きくなる。どうやらまた近づいたようだ……

 

(だから我は今まで通りだ、人間には干渉しない。過激派にも協力しない。それが最大の譲歩だ、アスタロト)

 

人間は憎まないが、協力もしない。あくまで中立を貫くというムルムル。出来れば協力して欲しかったが、中立派なのままでも構わない

 

(それで構わない。ただ気が向いたら今来る人間を見てみてくれ、面白いぞ)

 

横島君や美神令子はきっと面白い。ムルムルも気に入るかもしれない

 

(考えておこう。我はあまり人間は好きではないからな)

 

そう言って黙り込むムルムル。珍しく饒舌だと思っていたが、すぐだんまりか……

 

「気配が濃くなりましたね。そろそろ幽夜が近いかもしれないですね」

 

振り返りながら呟く。唐巣神父も気付いているのか険しい顔をしている

 

「蛍君と横島君は下がっていたまえ。ここは私達が先頭に出る。勿論冥華さんもですよ?」

 

良い判断だ、見習いを前に出すような愚行はしないかと安心し、スーツから神通棍を取り出す。

 

「私が行きます」

 

別の部屋においてあった、旧GS協会の制服に身を包んだ神代君が前に出て扉を蹴り開ける。見かけによらず随分とアグレッシブな子の様だね。地下でありながら月の見える場所には青年がいた。全身からは魔力と霊力を同時に発生させている

 

「ようこそ、お待ちしていたよ。GSの皆様、そして琉璃……」

 

穏やかな笑みを浮かべつつ、サーベルを抜き放ち構える。その構えはムルムルのそれと全く同じ

 

「ここまで来たんだ、態々語り合う事もなかろう。私が勝てばGS協会はますます悪くなる、そちらが勝てば浄化できるかも知れんな……」

 

サーベルの切っ先をこちらに向けにやりと笑い

 

「何時の時代も思いを通すは力ある者のみ、私を打ち倒すことが出来なければそちらが悪だ。さぁ始めよう」

 

その瞳は何もかも諦めきったような光を宿していて、私は感じてしまった。

 

(まさか神代幽夜の目的は……)

 

だとしたら全力で当たることが礼儀となる、私は少しだけ魔力の封印を緩め神通棍に霊力と魔力を注ぎ込んだのだった……

 

 

 

くっ!強い!?これが降魔術の一族の力……元々の身体能力・霊能力はそれほど高くないが、降魔させる神によってはとんでもない力を発揮する。それが神代一族と唐巣先生から説明では聞いたけど

 

「その程度か?若手NO1GS?」

 

挑発するかのように笑う神代幽夜を睨み返しながら

 

「うっさいわね!!!」

 

鍔迫り合いをしていると挑発するように言う神代幽夜の胴に蹴りを叩き込み、身体の中に霊力を叩き込もうとするが

 

(つー!?なんて固さよ!?)

 

蹴ったこっちの足が痺れた。しかも叩き込もうとした霊力も完全に霧散してしまった……そのせいで只の蹴りになってしまったせいで、足が完全に痺れている……しかも蹴った感触は生身の人間を蹴ったとは思えない感触に眉を顰めていると

 

「何してるのよ!?馬鹿じゃ無いの!?」

 

「うっさい!」

 

エミが破魔札を投げた隙に離脱する。これはかなり不味いわね……目視出来るほどに圧縮された霊力と魔力の壁を突破する手段がない……しかも物理も殆ど効果がないとなると本当に全滅の危険性が出てきてしまった

 

「唐巣先生。眼鏡外したらいけます?」

 

今の遠距離をメインとする唐巣先生ではなく、眼鏡を外した昔の唐巣先生ならと思って尋ねるが

 

「厳しいね。あの高密度の霊力と魔力……突破するのは難しい」

 

唐巣先生でも難しいとなるとかなり難しいわね。冥華おば様とエミが支援をしてくれているから、ある程度は接近戦を仕掛けることが出来るけど

 

(私の力だと難しいわね)

 

悪霊なら霊力の戦いになるから、腕力は関係ない。だけど相手は生身の人間、ある程度の筋力がないとダメージを与えるのは難しいだろう

 

「くっ!どうしてこんなことをしたのですか!?」

 

神代琉璃が霊刀を構えて幽夜に切りかかる。彼女にとっては叔父に当たる人物だ。家族と戦うのは嫌だろう

 

「何故今になって言葉で語ろうとする?私はお前の敵と言ったはずだ……ならば言葉ではなく!」

 

霊刀を弾き間合いを取る幽夜、その構えに寒気を感じ、ネックレスの精霊石を引きちぎる

 

「力で語れ!!!」

 

霊力と魔力を込めた斬撃を繰り出そうとする幽夜目掛け精霊石を投げつけ

 

「精霊石よ!」

 

印を結んで精霊石に霊力を込めて結界を作り出す。その精霊石の結界で1度は幽夜の刃は止まったが……

 

「この程度ッ!!!」

 

力強く踏み込んで更に刃を深くめり込ませる。するとその場所から結界に皹が入っていく……

 

「嘘!?」

 

買えば2億はする、純度80%の精霊石の結界を力を込めただけで粉砕した!?なんて化け物!?

 

「おおおっ!!!」

 

「!?」

 

芦さんが神通棍で幽夜に殴りかかる。吹っ飛ばされると思った瞬間。両手で握っていたのを片手にもちかえ

 

「ふっ!!」

 

「うぐっ!?」

 

流れるように間合いに入り込み、襟首を掴んで地面に叩きつけ

 

「今の君は霊力も物理も効かない、ならば根競べと行こうじゃ無いか!」

 

殆ど一瞬しか押さえつけることが出来なかった芦さんだが、幽夜の顔色は良くない。何か知られたくない事を知られてしまったようなそんな表情だ

 

「それだけの降魔……どれだけ維持できる?見たところかなり弱ってきているようだし……後30分ほどではないかな?」

 

一瞬整った幽夜の顔が大きく歪む、もしかしてあの強化っていつまでも続かない?良く見ると幽夜の額には汗が浮かび、息も若干乱れている。それは微々たる変化だったが、確かな変化でもあった

 

「耄碌したね。そんな基本的なことを忘れているとは」

 

唐巣先生が眼鏡を外して全身に霊力を込めて向かっていく。時間を稼ぎ幽夜が降魔を続けることが出来なくなればこちらの勝ちだ。あまり綺麗な勝ち方ではないが、これしかないと私も判断し私も手にしていたボウガンを蛍ちゃんに投げ渡す

 

「美神さん!?」

 

慌てている蛍ちゃん。無理もない、私は道具使いだ。道具ありきだが、霊力が効かないのだから素手でいくしかない。サーベル対策は神通棍でなんとかなるはずだ

 

「エミ!冥華おば様!フォローよろしくお願いします!」

 

霊力による遠距離攻撃が出来ないのなら、ボウガンは邪魔。離脱と防御はエミと冥華おば様に任せるしかない……返事を待たず私は幽夜へと向かって走り出したのだった……

 

 

 

強い……美神さん達を相手にしているのに1人で余裕の色を見せている。神代幽夜を見て俺は正直言って恐怖した

 

(あれだけ強い美神さん達が相手にならないなんて)

 

美神さんは強さは良く知っている。その美神さんの師匠の唐巣神父も強いのは当然なのに

 

「くっ!!重い!?」

 

「美神君。下がりたまえ!」

 

手にしているのは片刃の西洋剣1本だけなのに、左右からの挟み撃ちも、前後からの攻撃も完全に対応している……

 

「蛍。何とかならんのか?」

 

左目が見えないので距離感が掴めない。それに安定しない陰陽術と破魔札では美神さん達を巻き込みかねない……同じ理由でタマモも無理……

 

「駄目よ。横島」

 

俺が何をやろうとしたのか気付いた蛍が俺の手を掴む。確かにさっきの一撃で足もふらついているし、左目が見えてないので距離感も掴めない。だけど何もしないと言うのはできない……

 

「そんなに心配しなくても良いわよ!見てなさい!横島君!蛍ちゃん!一流のGSの戦い方っていう物ね!」

 

そう笑ってウィンクする美神さん。その顔は自信満々と言う感じをしていて何とかしてくれるという気がする

 

「何が出来るつもりだ?」

 

余裕の色を崩さない幽夜。身体から溢れている緑と赤の光がバリアになって攻撃が殆ど届いていない……それで一体何をするつもりなのか……目配せをして左右に走る美神さんと唐巣神父。その2人の間をエミさんと冥華さんの霊力の攻撃が走る……

 

(あれ?あれは当てるつもりじゃ無い?)

 

その霊力は地面を走っている。とてもではないが、当てる事を目的にしているようには見えない……

 

「これで準備完了~横島君、蛍ちゃん~離れるわよ」

 

俺と蛍の手を引いて下がる冥華さん。これから何が起こるのか判らず美神さん達を見ていると

 

「美神さん!唐巣神父!下がって!」

 

神代さんが手にしていた刀を地面に突きたて何事か呟くと、幽夜を覆っていた光が消える

 

「これは!?」

 

「神代家当主だけの秘術よ!!今です!」

 

詳しくは判らないけど、あの術で幽夜の降魔術を無効にしたって事なのか?

 

「殺しはしない!だが罪は償ってもらうよ!」

 

「このおっ!!!」

 

唐巣神父の鋭い拳と美神さんの神通棍が一閃され、幽夜の手にした剣が根元から砕け散り、その拳が幽夜の胴を貫いたのだった……

 

「見たぁ~あれが一流のGSの戦い方よ~」

 

冥華さんの言葉に頷く事しかできない、普通に戦うのではなく、地面に魔法陣を描きながら、それを気付かれないようにしつつ戦う……それは相手と周りを完全に把握してなければ出来る戦術ではなくただただ凄いとしか言い様がなかった……

 

 

 

地面に倒れている叔父さんを見る。昔は優しい人でこんな事をする人ではなかった。私が会長になった時に叔父さんに里に帰る様に言った……霊力の使えない叔父さんに少しひどいことを言ったかもしれない。だけど私は

 

(そんなつもりではなかった)

 

叔父さんの身体の調子が悪いのは知っていた。だから里に帰るように頼んだのだ、その時の言葉は今も覚えている

 

【今までありがとう。叔父さん、だけどもう大丈夫。叔父さんもゆっくりして】

 

今までの教えの礼をして、もう働かなくても暮らせるだけの退職金も渡した。叔父さんもその時は判ったと言ってくれた、だけど除霊の帰りに黒坂と一緒に現れて私を水晶の中に封印した……

 

(どうして……)

 

こんな事をしたのかが判らない……叔父さんは私達を見て

 

「これで良い。ありがとう」

 

礼を言われた意味が判らない。何を考えていたのか……それが私には判らない

 

「何が目的だったのこんな事をして?」

 

美神さんの問い掛けに叔父さんは小さく笑い

 

「私の書斎にGS協会の膿を纏めた書類が置いてある。琉璃……それでGS協会を正しい形に導け」

 

「何が!何がしたかったのですか!?私には叔父さんが何をしようとしていたのかが判らない!」

 

今更そんな事を言うなら最初から一緒にGS協会を良くしてくれれば良かった

 

「私は長く生きれない身体だった……だがそれを人並みの寿命に伸ばしてくれた当主には感謝している。だがあの人が作ったGS協会は私利私欲に満ちた屑どもがはびこる場所になった。それが私には耐えられなかった……だからこんな形にはなったが、GS協会を正しい形にしたかった……」

 

叔父さんはもう何もその目に写していない瞳で美神さんと唐巣神父を見て

 

「琉璃をお願いします。この子はまだ弱い……どうか私の姪っ子をよろしくお願いします……」

 

そう言うと同時に叔父さんの身体は灰になり消滅する。限界まで神卸しをしていた影響なのだろう

 

「うっ……」

 

目が熱くなる。叔父さんの真意を理解できなかった、だけどGS協会を良くしようとしていたのは判る……だけどこんな形じゃなくて、もっと私に色々な事を教えて欲しかった……

 

「あー神代さん?良かったらどうぞ」

 

ふらふらと歩いてきた横島君から差し出されたハンカチで目元を拭っていると

 

【ふむ。くだらぬ……人間はやはり下らぬ】

 

背筋が凍るような冷たい声。振り変えるとグリフォンに跨った騎士が私達を見下ろしていた、あれが「ムルムル」ソロモンの魔神の1柱……なんて威圧感……叔父さんをくだらないと言ったあの魔神に文句を言いたいのに口を開くことが出来ない

 

「みみみみ」

 

「くうーん」

 

グレムリンと妖狐は尻尾を高く突き上げて頭を低くして怯えている。美神さん達も顔を青くして喋る事が出来ない中

 

「てめえ!神代さんに謝りやがれ!この馬鹿野郎が!!!」

 

横島君だけが立ち上がりムルムルを指差し、そう怒鳴るのだった……

 

 

 

ほほう……面白い小僧だ。我を前にして立ち上がるだけではなく声をかけるか

 

「よ、横島君!謝りなさい」

 

緋色の髪の女がそう怒鳴るが、バンダナをした小僧は

 

「いやっす!確かにあの人は悪いことをしたかもしれない。だけどな!死んだ人間を悪く言うんじゃねえ!ムルフルだが死霊公爵だが知らないがな!てめえの価値観を俺達に押し付けるんじゃねえ」

 

我の魔力はこの場を支配している。それなのにこれだけ動く事ができ、喋る事が出来る

 

(この男が面白い人間か?)

 

念話でアスタロトに尋ねる。アスタロトは小さく頷き、くっくっと笑っている

 

【ふむ……それは失礼した。我は死を良く知る存在だ、人間とは価値観は違う】

 

「なら少しは考えてから喋り「お前が考えてから喋れ!!!」へぼお!?」

 

緋色の髪の女に頭を掴まれ地面に叩きつけられ痙攣している小僧。くっくっく確かに面白い人間だ

 

【問おう。そこの娘、その人間の魂、本来ならば地獄に運ぶが道理】

 

われを操ろうとしたのだ、それだけでも十分に死罪に値する。元々地獄に連れ去るつもりだったが、気が変わった

 

【汝が望むなら魂を解放しようではないか。返答はいかに?】

 

「お、お願いします!叔父さんの魂を解放してください」

 

我の魔力の中でもしっかりと口を開いた娘に頷き、捕まえていた魂を解放する……

 

【ふふふ、そこの小僧、名は?】

 

この我にこれだけ強気で話しかけてきた小僧は初めてだ、魔界に帰る前に名を聞こうと尋ねる

 

「横島忠夫」

 

邪?変わった名だが……面白い小僧だ。膨大な霊力をその身に宿している。だが今はまだ目覚める気配がない、その霊力が目覚める事はないかもしれんが、今の人間にしては珍しい透明な心を持っている。こんな心を見たのは何時振りだろうか……アスタロトの言うとおり面白い人間だ

 

【この小僧に感謝しろ。人間、本来なら貴様らも殺す所だが、面白い事を見せてもらった礼だ。特別に見逃してやる……ではな】

 

ゲートを作り魔界に帰る。その途中で我は小さく笑いながら

 

(本当に面白い小僧だった……)

 

あんな人間もいるのなら、人間も早々悪いものではないな。あの堅物のアスタロトが人間と一緒にいるくらいなのだから……

 

 

消えていったムルムルに安堵の溜息を吐く、あれだけの魔神に啖呵を切った横島に

 

「おたく、本当にあたしの事務所に来ない?」

 

精神も強い、まだまだだけど伸びる事がわかっているのでスカウトするが

 

「止めろって言ってるでしょうが!」

 

令子がそう怒鳴る。もう少し早く会う事ができればなあと思わず苦笑する

 

「とりあえず、神代幽夜が残した書類を回収して戻ろう」

 

唐巣神父の言葉に頷く、ここまで瘴気に満ちた場所をずっと走り続けていた。体力も霊力の消耗も激しい。不正の情報を探すのは次の捜索の時にするしかない……

 

「横島君!」

 

琉璃がそう叫んで倒れていく横島を抱きとめる。その額には大粒の汗が浮かんでいて、呼吸も荒い……

 

「大丈夫横島!?」

 

倒れた横島に駆け寄る蛍。その顔には心配そうな顔色と不安そうな色を浮かべていた……それだけ横島を想っていると言う事よね……なんか微笑ましいワケ……

 

「クーン、クーン……」

 

「みみ!みみー!!」

 

チビとタマモが心配そうに横島の頬を舐めている。本当に随分懐いているワケ……これは間違いなく、横島の才能なワケ……潜在霊力に陰陽術に妖怪に好かれる才能。とんでもなく恵まれているワケ

 

「霊力の~消費のし過ぎね~早く連れ出して休ませて上げましょう~」

 

さっきの啖呵が火事場のクソ力と言う所だったワケ……まぁあの魔神に啖呵を切った精神力は素直に凄いとしか言えない

 

「そうだね。横島君の状態が心配だ、横島君は私が担いでいこう」

 

唐巣神父が横島を担ぐ、あたしと令子は隣の部屋から幽夜が集めた不正などの証拠を纏めた書類を抱え旧GS本部を後にしたのだった……

 

 

リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その8へ続く

 

 




次回でリポート9は終わりになります。内容としては話のシーンが多くなると思います、一応あともう1回はエミのスカウトを入れたいと思っています。あとは横島がどうなったのか?もかいてみようと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その8

どうも混沌の魔法使いです、今回の話は事後処理の話になります。あとは横島の話をして、次のオリジナルの話に入って行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート9 黒魔術師小笠原エミのスカウト その8

 

神代幽夜の遺品とも言えるGS協会の闇を纏めたレポートと神代琉璃のGS協会への復帰。これにより、今まであくどい事をして私腹を肥やしていたGS協会の上層部は全てオカルト防止法違反と横領などの罪で起訴された。何割かは逃げてしまったようだが、冥華おば様が逃がすわけがないので心配はないだろう。だから私は私で唐巣先生の教会で報酬の受け渡しがあると言う事で唐巣先生の教会で待ちながら、今回の事件の事を唐巣先生と話し合っていた

 

「唐巣先生。結局神代幽夜は何がしたかったんですかね?」

 

思わずそう呟く、本当にGS協会を正したいなら黒坂なんかと組んだりせず、唐巣先生か冥華おば様と協力すればきっともっと良い形でGS協会を正す事が出来ただろう。それに黒坂が女性を殺すこともなかったはずだ。私には神代幽夜が何をしたかったのかが判らない。唐巣先生も珍しく眉を顰めて

 

「私にも良く判らないよ、彼が何を見ていて、何を思っていたかなんてね」

 

深く溜息を吐く唐巣先生。その溜息が神代幽夜だけではなく、黒坂のせいで殺された女性達の遺族の事を思っての物だと思う。精神的に殺され、薬と呪術だけで生かされていた何十人もの若い女性。冥華おば様が式神で楽しい夢を見させて眠りにつかせた。その後は六道グループの女性職員が彼女達を外へと運びだし、身体を綺麗に清め、死に化粧を施して遺族達の元へと送り届けた……でもそれでもやはり

 

(何とかしたかったわね)

 

殺すという形でしか彼女達を救う手段がなかった。あそこまで精神と身体が壊されていると仮に冥子やおば様が精神を治療したとしても黒坂に犯された記憶がなにかの切っ掛けで戻る事もある。だからこそ冥華おば様は眠りの中で殺すという選択をとった……

 

「納得されては居ないんですよね?」

 

「納得できる訳がないよ、美神君……私は人を殺すことは認めて居はいない。オカルト特例の中で廃止するべき物だと思っている」

 

気持ちは判る。私は実際そのばには居なかった。冥華おば様と唐巣先生で奥へと向かい冥華おば様が処理をした。唐巣先生はきっと最後まで反対しただろうが、最終的に殺すことを選んだ……こうして今も悩んでいる唐巣先生を見ているときっとその選択をしたのは唐巣先生にとっても辛いものだったのだろう

 

「今……お時間よろしいですか?」

 

2人で事件の話をしていると教会の扉が開き、スーツ姿の神代琉璃が入ってくる

 

「失礼します。唐巣神父、美神さん」

 

椅子に腰掛けて笑う神代琉璃。良いタイミングで着てくれた、私と唐巣先生だけではいつまでも暗い考えをしていたかもしれない、私は椅子に座りなおし、紅茶のお代わりを注ぎながら

 

「令子で良いわよ。私も琉璃って呼ぶし」

 

戸籍上は22歳だが、2年間結界の中で封印されていたので同い年なので名前で呼べば良いと言うと

 

「そう、じゃあ改めてよろしく。令子さん」

 

「私もよろしく、琉璃」

 

互いに握手を交わした所で琉璃を見て

 

「忙しいんじゃないの?GS協会の再建で」

 

殆どの幹部は後ろめたい事をやっていた。その為に大半以上が逮捕されてしまったので、残っている人員は少ないはず……こんな所にきている余裕はない筈だけど

 

「叔父さんの目的が判ったんですよ。叔父さんは15歳の時に病気で死んだのですが、その当時の神代家の当主によって肉体を魂に括られた。半分くらいはゾンビに近い存在だったんです……その所為で人格とか記憶がおかしくなり始めていたそうです」

 

なるほど、もう人間としては死んでいたからムルムルを憑依させる事が出来たのね……あれだけの霊格を人間が降魔させる事なんてできない筈だし、黒坂も精神的に死んでいて、廃人同様で精神病院に入院している。自分が殺した女性の数々の亡霊の姿を幻覚で見ているらしい、このままだったら数日もせずに発狂するだろうが、それは冥華おば様がさせない、精神崩壊の直前に行ったら式神で正気に戻させてまた発狂直前まで放置と言うのを繰り返している。そして死なせるつもりもない様で、死なない程度に栄養を与え、傷を治療する。死にたくても死ねない事。それが黒坂に与えられた罪なのだと思う。もしかするとムルムルの与えた罰と言う可能性も考えられる。ムルムルはソロモンの魔神の中でも強力な死霊使いだ。それくらいの事はやってのけるとおもう

 

「それで彼がムルムルを呼び出したのではなく……」

 

「最初に呼び出したのは当代の当主だったみたいですね、その後に自分でも降魔させていますが、始まりはその時です」

 

どうして魔神を呼び出してまで幽夜を生かしたかったのかしら?

 

「叔父さんは神大って言う神代家の分家の生まれだったんです。その膨大な霊力が原因だったみたいで神代家に仕える存在として生かされたのですね」

 

こうして聞くと不憫な存在だったのかもしれないけど……それは本題じゃ無い

 

「それで神代幽夜が貴女を幽閉した理由は?」

 

「護るためだったそうです、腐りきったGS協会の上層部から、そして私がGS協会を元に戻してくれる事を信じていたみたいです」

 

恐らく遺書であろう封筒を大事そうに抱える琉璃。彼女にとってはやっぱり神代幽夜は良い叔父さんだったのね。とは言え私はそれを認めることは出来ないけどね

 

「彼のやったことは決して正しくはない、考えていたことは正しかったかもしれない。だがその過程で何人の人間が死んだとおもう?彼がやったのは故人に対して言うことではないが……悪であり。間違いだ」

 

手っ取り早く確実な方法と言うかもしれない、だけどそのやり方は褒められた事ではないし、正しい事ではないと私は思う。遺族の多さもあるし、GS協会が一新されたとしても暫くは琉璃が責められることになるのは仕方ないことだろう。私と唐巣先生の言いたいことは理解しているようで

 

「元より覚悟の上です。神代家現当主として叔父の犯した罪も、その全てを背負う覚悟が私にはあります」

 

強いわね……心が物凄く強い。だけどこれから琉璃の歩く道は茨の道だろう。どこかで倒れてしまわないと良いんだけど、それは私の言うことじゃ無い。琉璃が自分で乗り越えないといけない壁なのだから

 

「……それと今回お伺いしたのは今回の事に対するお礼と言うことで、とりあえずですが、令子さんと唐巣神父にそれぞれ800万ずつ、それと横島君と蛍さんにもそれぞれ100万ずつをお支払いします」

 

机の上に置かれたアタッシュケースを見ながら

 

「時間があるなら一緒に来ない?横島君の家に案内するわよ」

 

どうせなら自分で渡したほうが良いだろうと思って尋ねると琉璃は首を振って

 

「この後冥華さんと話し合いがあるので失礼します。後日時間を見てお伺いします」

 

そう笑って出て行く琉璃を見送りながら、自分の分のアタッシュケースを見て

 

(暫くはこれで時給を払えば良いわね)

 

うんうん、これで少し経済的になったと思いながら、唐巣先生に

 

「生活費これで大丈夫そうですね」

 

「ほ、本当だよ。これで暫くは安心だ」

 

涙を拭っている唐巣先生。そんなに貧窮しているなら少しは除霊費を貰えば良いのに

 

「それじゃあ先生失礼します」

 

とりあえず話したいことは終わったし、ギャラも貰ったし、もうここにいる理由もない

 

「ああ、またいつでも来たまえ。横島君の修行の方針に悩んだときとかにね」

 

そう笑う唐巣先生にありがとうございますと返事を返し、教会の横手に停めてあったコブラに乗り込み事務所へと向かうのだった……

 

 

 

ぷくーっと頬を膨らませている蛍。珍しく不機嫌だね

 

「どうしたんだい蛍?横島君の所に行かないのかね?」

 

横島君はあの不安定な霊力の篭手の使用の反動のせいか、軽い手足の麻痺と左目の視力の低下で学校をいま休んでいる。会いに行かないのかな?と尋ねると

 

「おキヌさんに論破された……」

 

体育座りでしくしく泣いている蛍。おキヌ君かあ……彼女は穏やかな雰囲気をしているけど、もの凄く強かな面もあるからなあ……

 

「危険だからって留守番をさせられたから、暫くは私が横島の家にいるって……美神さんもそれが良いって言うし……」

 

まぁ蛍自身も弱っているからその判断は正しいとは思うんだけど……

 

「まぁ仕方ないじゃ無いか、今後の横島君の訓練の方向性でも考えたらどうだい?」

 

「ううう。ヨコシマア……」

 

駄目だこりゃ……一緒にいるのが当たり前になっているから離れると情緒不安定になっている

 

「後で横島君に届けてほしいものがあるんだけど良いかな?」

 

目を輝かせる蛍。用事があれば横島君の所に行けるからね、私は机の引き出しから薬の瓶を取り出して

 

「霊力を整える薬だ。横島君に届けてやってくれ」

 

「うん!判ったわ!!!」

 

大事な宝物を持つかのように瓶を抱えて走っていく蛍。あまりに微笑ましくて笑ってしまうが、軽く咳払いしてから

 

「すまないね。待たせてしまったかな?」

 

「いえ、大丈夫です。アシュ様」

 

浮き出るように姿を見せるメドーサ。恐らく横島君の話に出てきた、紫色の髪の美人とはメドーサの事だ。どうして魔装術のさわり程度とは言え、横島君にそんな危険なものを教えた理由を尋ねるために呼んだのだ

 

「それでどうして横島君にあんな危険なものを?」

 

「……判りません。ただ教えたいと思っただけです。独断行動をしてすいません」

 

そう頭を下げるメドーサ。彼女にも逆行の記憶の一部があるのかもしれない、横島君の霊能力の代表とも言える「サイキックソーサー」と「栄光の手」はどちらかと言うと、魔装術に近いと私は解釈している

 

「ただ見せただけであそこまでするとは」

 

見せただけ!?それだけで……私は顎の下に手を置いて

 

(信じられん。やはり横島君は天才なのかもしれん)

 

自分ではそんな事はないと思っているようだが、彼は間違いなく天才と呼ばれる人種だろう。それなのになんであんなに自信がないのかは本当に不思議な所だ。

 

「そうか、私の勘違いのようだね。戻ってくれて構わないよ」

 

見せただけと聞いたら、メドーサに失態はない。横島君の天性の霊力が問題だったわけだ……

 

「失礼します」

 

頭を下げて出て行くメドーサを見送っていると電話が音を立てる。はて?

 

「もしもし?」

 

『おおう。芦か?ワシじゃ、カオスじゃ』

 

電話で楽しそうに笑うドクターカオス。同じく学者肌の私と彼はとても気が合う。だが……なにか嫌な予感がする

 

『のう?芦や?ワシの娘のマリアなのじゃが、今のままだと明らかに不利でのう……そこでじゃ、今のボデイを有機ボディに換装してやろうとおもうのじゃが……どうじゃ?』

 

じ、実に興味深い。だがそんな事をすれば蛍の敵が増える事に……だが、あの完璧なアンドロイドをより人間に近づけることが出来る……

 

「直ぐお伺いします」

 

『おう、待っておるぞ』

 

すまない蛍。父さんは科学をより進化させる事が出来るかもしれないこの機会を逃す事が出来ないんだ。トトカルチョのマリアの倍率が変動中になっているのは見ない振りをしてビルを後にしたのだった……

 

「ほほほ、成功じゃわい」

 

「ドクター・カオス?悪い・顔をしていますが・どうかしたのですか?」

 

にやりと笑うカオスにマリアが湯飲みを手に尋ねる。カオスはにこやかに笑いながら

 

「もっと人間に近づきたくはないか?小僧と仲良くするために?」

 

「横島さんと・仲良く」

 

僅かに顔色を紅くするマリアを見て満足げに笑いながらカオスは

 

「その反応見れば充分じゃ、楽しみにしておれ」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

無表情なのに嬉しそうと言うマリアを見ながらカオスは手元の本を開き

 

「今度はお前もわしの娘じゃからな」

 

マリアの設計図を見て小さく微笑む。きっとその時カオスの脳裏にはテレサの姿が浮かんでいたのだろう……カオスの顔は僅かな後悔の色を浮かべていたのだから……

 

 

 

旧GS本部地下で使った霊力の篭手?はかなりの反動があったらしく、1日経っても視力は回復しない、右手の握力は殆どない

 

(まだまだって事かあ……)

 

優太郎さんと蛍の話では霊力を必要以上に使いすぎた後遺症らしい、俺もやっとまともな霊能力を使える様になったと思ったのに

 

「み!」

 

俺の足の上に乗って短い手を振っているチビの頭を撫でていると

 

【横島さーん。ご飯出来ましたよー】

 

おキヌちゃんが土鍋を手にリビングに来る。俺は平気だと言ったんだけど、美神さんも動きにくいはずだからおキヌちゃんに面倒を見てもらいなさいというので俺の家に居て貰っているのだが

 

(本当に良い娘やなあ……掃除洗濯に加えて料理までしてくれる。これで幽霊じゃなかったら最高なのに……いやおキヌちゃんのように可愛くて家庭的な幽霊なら結婚しても幸せだろうに」

 

【も、もう!横島さんったら!何言ってるんですか!】

 

頬を紅く染めているおキヌちゃん。まさか声に出てた……あああ、恥ずかしい!!

 

【はい、横島さんどうぞ。あーん】

 

俺の口元にオジヤを差し出してくるおキヌちゃん。これはまさか伝説のアーン……

 

「あ、あー……!?」

 

口を開こうとした瞬間。強烈な寒気を感じて窓のほうを見ると

 

「…………」

 

蛍が何の光も宿していない目で俺を見ていた。恐ろしい、恐ろしくて身体が震える

 

「いや、おキヌちゃん悪いから。自分で食べるよ」

 

左手は動くし……と言うがおキヌちゃんはにっこりと笑ったまま、俺にレンゲを向けながら

 

【はい、あーん】

 

にやりと笑うのを見て気付いた、おキヌちゃんは蛍の存在に気付いている!?そしてその上でこうしている

 

(な、なんて恐ろしい子!?)

 

近づいてくるオジヤ。窓の外にいる蛍、昨日以上の危機的状況に俺が冷や汗を流していると

 

「いい加減にしなさい!除霊するわよ!」

 

我慢の限界が来たのか、窓を開けてそう怒鳴り込む蛍。レンゲを置いて

 

【不法侵入ですよ!】

 

「うっさい!黙りなさい!」

 

蛍が乱入したことでおキヌちゃんは口論モードになる。動く左手でレンゲを取ろうとすると

 

「みっみー!!」

 

チビが両手でレンゲを掲げるように持っていた……しかもレンゲにはしっかりオジヤが乗せられている

 

「サンキュ、チビ」

 

「みーん!」

 

頑張ってくれているチビを見て、俺は姿勢を低くしてチビの掲げているレンゲを口に運ぶのだった……

 

「それで何をしに来たんだ?蛍」

 

疲れたのかぐったりしているチビを撫でながら尋ねる。蛍は手にした瓶を机の上に置いて

 

「お父さんから霊力を整える薬。これで少しは楽になると思うわよ」

 

「わざわざありがとな。さっそく貰うわ」

 

瓶を開けて錠剤を2つ取り出して口に含む、どうぞとおキヌちゃんに差し出されたグラスの水で飲み込む

 

「早く調子が整うと良いなあ」

 

「そうね。だけどまぁ焦っても仕方ないわよ?」

 

【そうですよ!それに横島さんが動けないほうが、色々と役得ですし……】

 

普段はお淑やかで可愛いのに時折黒いことを言うおキヌちゃん。油断しているとぱっくりいかれそうと思うのは気のせいだろうか?

 

ピンポーン

 

「お客さんみたいね、私が出てくるわ」

 

おキヌちゃんでは幽霊だから驚かせてしまう。蛍が素早く立ち上がって玄関に向かっていく

 

「はーい、元気してる?」

 

褐色の肌をした美しいお姉様「小笠原さん」が何かを持ってリビングに入ってきた。お客さんなので姿勢を正して、昼寝をしているタマモを膝の上に乗せて真向かいに座る小笠原さんを見るのだった……

 

 

 

令子に場所を聞いて横島の家に来たんだけど

 

(普通にいるワケ)

 

タマモにチビに蛍におキヌ。令子の所の事務員が殆ど全部揃っていた。来る途中で買ったジュースとアイスを机の上において

 

「一応お見舞いなワケ、後で食べて」

 

【ありがとうございます、これ冷蔵庫に入れておきますね】

 

おキヌがその袋を持ってキッチンへ飛んでいく、物体に触れる高レベルの幽霊。欲しい人材よね……

 

「それで小笠原さん?「エミで良いワケ」エミさんは何の御用で?」

 

バンダナで左目を隠している横島と怪訝そうな顔をしている蛍に

 

「単刀直入に言うワケ、令子の事務所から移籍して欲しいワケ「「お断りします」」

 

声を揃えて言う横島と蛍。うんうん、判っていた事だけど悔しいワケ

 

「あはは!ありがと、これで良いわ。うん、今は諦めるワケ。だけど気が向いたら来るワケ。小笠原エミ除霊事務所の扉はいつでも開けておくワケ」

 

本当に惜しい、令子がこの2人を雇う前に如何して会えなかったのかと思う。GSと言う商売は人の縁を重視するときもある、きっとあたしとこの2人には縁が無かったのだろう

 

「そうそう、これプレゼントなワケ」

 

懐から出した和綴じの本を二冊横島の前に置く。蛍がそれを見て

 

「妖怪全書と陰陽術の……これって!?」

 

GS見習いとしては破格の知識を持つ蛍はこの文献の価値を正しく理解してくれたようだ

 

「来てもらうつもりだったから呪術師仲間から買った本だけど、来てくれないなら持ってても仕方ないから上げるワケ。んでたまにはあたしの仕事を手伝ってくれるとありがたいわ。じゃ、あたしは依頼があるから帰るワケ、横島は無理しないでゆっくり学びなさい」

 

焦っても仕方のないことだ、霊能力と言うのは魂の霊格が深く影響している。膨大な霊力を持つ横島の霊能力が覚醒するのはもっと先のことだろう

 

「うっす、頑張ります。それと資料どうもありがとうございます」

 

頭を下げる横島に気にしなくて良いワケと返事を返し、外に停めてある愛車のビモータYB-4に跨りヘルメットを被りながら

 

(あたしも弟子を探してみようかな)

 

ヘンリー・ジョー・ボビーの部下はいるけど、弟子はいない。なんか今の満ち足りた令子を見ると弟子を取るのも良いかもしれない……あたしはそんな事を考えながら依頼者と待ち合わせた場所に向かうのだった……

 

 

 

 

暗い山の中を走る小柄な少女の姿。シズクだ……彼女は焦った様子で山を駆け下りながら

 

「……力が回復したと思ったらこれはない」

 

私はそう呟くと同時に地面を蹴って前回り気味に転がる、それと同時に

 

「キュー!!!」

 

地面から飛び出して鋭い爪を振るって来る土竜の爪を転がって回避し

 

「……行け!」

 

手をふるって水の刃を飛ばすが、当たるよりも早く土の中に潜っていく

 

(このままだと不味い)

 

目覚めたばかりだから霊力も竜気も回復していない、それに水も足りない

 

「仕方ない!」

 

予定と大分変わってしまうが仕方ない、土竜の攻撃を交わしながら林を抜ける。見えるのは滝と川……いまの状態で恐らく水の中に戻れば最も動きやすいであろう……

 

(……多分、1回蛇に戻ってしまうけど仕方ない)

 

高島の転生者に会うつもりだったのに……こんな事ならもっと力を残しておけばよかったと後悔しながら私は水の中へ飛びこんだのだった……それと同時に人間の姿から蛇へと変わっていくのを見て、やっぱりと深く溜息を吐いた……

 

「キュ?キュウキュ?」

 

地面から顔を出した猪ほどの大きさの土竜はシズクがいないことに気付き、辺りを見回す。だがその姿がないことに気付き

 

「ミューミュー」

 

悲しそうに鳴きながら地面の中へ潜って行った。土竜が見つめていたのは東京の方角……再び騒動が起きようとしていた

 

リポート10 無垢なる土竜 その1へ続く

 

 




次回もまたオリジナル編です。そして怒れる水神ミズチで登場したシズクがレギュラーになる予定の話でもあります。あと土竜が胴動くのかも楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート10 無垢なる土竜
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回オリジナルの話になります、タイトル通り「土竜」の妖怪がメインになりますね。もぐらだけど竜が名前に入っているんだし、年月を経て竜になってもおかしくないんじゃないか?と言う訳で考えて見ました。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

 

リポート10 無垢なる土竜 その1

 

蛍が持って来てくれた薬のおかげでなんとか視力も回復したので、今日から学校に行く事にしたのだが……

 

「チビ、タマモ。念の為に横島についていくのよ」

 

普段は駄目だと怒るのに今日は蛍がチビとタマモに俺の学校に着いてくるように言っている

 

「みっ!」

 

「コーン!」

 

気合を入れた返事をしているチビとタマモを見ながら、小さく溜息を吐きながら

 

「いや、大丈夫やて、昼までだし」

 

今日は夕方から最近起きている事件があるらしく、それを調べるから来る様に言われている。だから昼が終われば帰れるのだから大丈夫だと言うと

 

「念の為よ。霊力が安定してないんだから護衛として連れて行きなさい」

 

目が本気なのでこれ以上言っても駄目だと判断し

 

「りょーかい」

 

鞄を開けてチビを入れて、頭の上にタマモを乗せる。額にタマモの前足が乗っているけどまぁ良いか

 

「んじゃ行って来る。直接美神さんの事務所に行くから」

 

鍵と財布を持って家を出ようとすると蛍が

 

「はい、忘れ物」

 

差し出された2つの本。1つはエミさんに譲って貰った妖怪の本。もう1つはカオスって言う爺さんに翻訳して貰った陰陽術の本

 

「貴重な本なのに良いのか?」

 

なくしたら駄目だと思い置いておくことにしたんだけどなあと思いながら尋ねると

 

「大丈夫よ。ほら、学校でも時間のある時は勉強してなさい」

 

そう笑う蛍から本を受け取り鞄に詰めて

 

「んじゃ改めて行って来る」

 

「行ってらっしゃい」

 

エプロンで手を拭きながら俺を見送る蛍。俺は玄関の扉を閉めてから

 

(なんかもう夫婦みたいだよなあ……へへへ……)

 

悪い気はしない。蛍は優しいし、料理も上手だし、ちょっと胸は小さいけど

 

「ヨコシマー?」

 

「ごはあ!?」

 

勢い良く開かれた扉に後頭部を殴られ、一瞬目の前に星が見えた。

 

「ハヤクイカナイトチコクスルワヨ」

 

ぞっとするかのような響きを持った蛍の声。多分俺の考えていた事が判ったんだ……

 

「はい!行ってきます!それとごめんなさい!」

 

恐ろしくて振り返ることの出来なかった俺は前を向いたまま謝り、全力で学校へと走り出したのだった……

 

凄い勢いで走っていく横島の背中を見ながら

 

「おキヌさん、悪いけどお願いしても良い?」

 

浮き出るように姿を見せたおキヌさんが笑顔で

 

【良いですよ。私も横島さんが心配ですから】

 

そう笑って横島の後を追いかけていくおキヌさん。本当は私も見に行きたいけど、仕事の打ち合わせもあるし美神さんの所に行かないと……駐輪場に停めて会ったバイクに乗り私は美神さんの事務所へと向かうのだった……

 

 

 

最近東京で起きている事件。霊能力者を襲っては消える妖怪に対する調査を始めたんだけど……

 

「一体なんの妖怪なのかしら?」

 

妖力の残滓があるから妖怪と言うのは特定出来たんだけど……それ以外の情報はないに等しい。それに

 

「怪我も対したことがないのよね」

 

奇襲をしている割には全治2日程度の軽い裂傷だけ、霊力も奪いはしないし……あとが残っていると言えばコンクリートに穴を開けて移動しているって事だけ……

 

「本当に何がしたいのかしら?」

 

コンクリートに穴を空けて移動できる妖怪。それだけの力があるなら、人間を殺す事だって出来る。だけどそれをしない……

 

「横島君の妖怪図鑑があれば特定出来たかもしれないわね……」

 

とは言えまだ調査段階。それにGS協会……いや、琉璃から受けた依頼はその妖怪の特定。必要な場合のみの除霊……

 

(悪い妖怪じゃないのかもしれないわね)

 

琉璃もそれを考えているからか、無理に除霊しろとは言わなかった。なら除霊するのではなく、保護と言う方向性でも良いかもしれないわね……

 

「美神さん。今来ました」

 

事務所に入ってくる蛍ちゃん。もうそんな時間?時計を見ると10時……約束の時間丁度だ

 

「時間ぴったりね、そろそろ行きましょうか」

 

襲撃されたGSの場所は聞いている。まずはその場所の調査からだ、私と蛍ちゃんでは足が違う。車とバイクだからいける範囲も違う

 

「じゃあ蛍ちゃんはこっちね。私はこっちだから」

 

印をつけた地図を渡し、それぞれの担当の範囲を見に行く事にする。殺す気が無いくせにGSばかりを襲撃する妖怪

 

(霊力の残滓を近くで見れば何か判るかしらね)

 

そんな変な妖怪は聞いた事はない、さてどんな妖怪が出てくることやら。私はコブラのハンドルを握り、一番近い現場へと向かうのだった……

 

 

 

学校の授業の合間の休憩時間にエミさんから貰った妖怪図鑑を見ながら

 

(へー面白いなあ)

 

少し読みにくいから読み続けるのは難しいけど、とても面白い。特に俺はある文に完全に興味を引かれていた

 

(妖怪変化かぁ……)

 

長い年月を生きた動物は妖怪へと変化することがあるとの事。そう言う妖怪もいるんだと何度も頷く

 

「みみみみみみ」

 

こくこくこくと俺の真似をして頷いているチビ。何をしているか理解していないだろうに

 

「横島。チビを撫でても良い?」

 

クラスメイトの女子がそう尋ねてくる。一瞬寝ているタマモが目を開くが直ぐに閉じる、相変わらず警戒心が強いなあと苦笑しながら

 

「多分無理やな」

 

別に意地悪しているわけではないのだが、女子が近づいてくるとチビはもぞもぞと立ち上がり

 

「みーん♪」

 

鞄の中に飛び込んで器用に鞄の口を閉じる

 

「あーん。どうしてえ」

 

隠れてしまったチビを見て悲しそうにしている女子

 

「気難しいからなあ。チビは」

 

チビは見た目は愛らしいし、人懐っこく見えるが結構長い事一緒にいる蛍も嫌がる。結構気難しい性格をしている故に、人見知りが激しいのだ

 

「まぁもう少し慣れるまで待っててや、俺でよければ話くらい聞くで?」

 

「別に横島と話したくないし」

 

不貞腐れた様子で離れていく女子。はぁ……まぁ俺なんてチビとタマモのおまけくらいやよなあ

 

「コン」

 

するすると降りてきて膝の上で丸くなるタマモ。そのつぶらな瞳を見て笑いながら

 

「気にしてへんから良いよ」

 

蛍とかおキヌちゃんが傍にいてくれるからか、よっぽどの美少女で無ければ反応しない

 

(タマモも美少女になるしなぁ)

 

前に見たあの可愛らしい少女の姿を思い出せば、クラスメイトと比べるまでも無くタマモの方が美人だ

 

「コン?」

 

「よしよし」

 

不思議そうにしているタマモの顎の下を撫でてやる。目を細めて気持ち良さそうにしているタマモ

 

(そう言えば今日は満月やなぁ)

 

満月が近ければ人の姿になれる時期やなぁ……とは言え時間制限があるけど、タマモと会話できるのは楽しい

 

「また話をするか?」

 

深夜。蛍もおキヌちゃんもいない時間……すべてが眠るその時間だけ、俺とタマモは話をする事が出来る。タマモもそれを知っている

 

「コンコン」

 

嬉しそうに鳴いて頭を擦り付けてくるタマモ。よしよし、じゃあ今日帰ったら昼寝をしておかないとな……ゆっくり話をしたいから

 

「みー」

 

周りに人間がいないのを確認してから鞄から顔を出して、俺の肩の上に座るチビ

 

キーンコーンカーンコーン

 

授業開始のチャイムに溜息を吐きながら、机から教科書とノートを取り出して授業を受けるのだが

 

「み?」

 

「クウ?」

 

俺が真面目にしているのがそんなに不思議なのか首を傾げているチビとタマモ。俺はしーっと口元に指を当てる。教科書に重ねるようにして妖怪図鑑を開いていた。少しでも蛍や美神さんの足手纏いにならないようにGSの勉強をしていたのだった……

 

 

 

 

蛍ちゃんと一通りGSが襲われた場所を調べたんだけど、それらしい妖力の残滓は殆どなく、特定できる物も無かった

 

「うーん。どんな妖怪なんでしょうね」

 

疲れた様子で呟く蛍ちゃん。ずっと移動していたから流石に疲れが出たのだろう。冷蔵庫から麦茶を取り出して蛍ちゃんの前に置きながら

 

「流石に情報が少ないわねえ」

 

妖力は強くもなく、弱くも無く……そして遺留品らしき物はない……

 

「土に関する妖怪っぽいけどねえ……」

 

コンクリートを貫通する爪と縦横無尽に土の中を移動する。ぱっと思いつく妖怪と言えば……

 

「モグラですかね?」

 

蛍ちゃんがそう尋ねてくる。地面の中を移動する動物と聞いて、思い浮かぶのはそれだけど……

 

「モグラの妖怪っていたっけ?」

 

そう言うのはあんまり聞いたことがない……一体何の妖怪なのだろうか?

 

「はぁ仕方ないわね。あんまり気が進まないけど」

 

電話を取り出して番号をコールする。本当なら電話したくない相手だけど、背に腹は帰られない

 

『くひッ!電話してくる頃だと思ったよ。美神令子』

 

電話越しでも眉を顰めたくなる。優秀なGSなんだけど性格に難のあるBランクGS

 

「久しぶりね。夜光院柩。ちょっと頼みたい事があるんだけど?良いわよね?時間あるわよね?」

 

高圧的に話を進める。こいつは少しでも弱みを見せるとうるさいから、反論する隙を与えてはいけない

 

『くひひ、構わないよ、ボクは今暇してるからね』

 

この耳障りな笑い声も癪に障る。前に直接会った事もあるが、会うんじゃなかったと後悔した。普通の人間じゃ理解できないタイプの人種なのだ、柩と言う少女は

 

「今東京内で起こっている、GS連続襲撃事件、その妖怪の特定をお願い。報酬は100万」

 

柩の能力ならば直ぐ判る。「超速思考」に加えて、「完全空間座標知覚」と「時間座標把握」を持つ柩は限りなく正解に近い未来予知が出来る。その代わり自分に興味のあることしか調べてくれない、そのせいで結構お金に困っているのは知っている

 

『くひひ、相変わらず金で何でも解決すると思っているんだね、浅ましいよ』

 

馬鹿にするように笑う柩、これだから電話したくなかったのよ!いっつも馬鹿にされて腹が立つだけだから!!!

 

「うっさい!早く調べなさい!!って言うかもう判ってるんでしょ?早く教えなさいよ」

 

私が今電話する事もきっと判っていたに違いない。だからもう判っているはずだ

 

『くひひ!君の雇っている若いGS見習いの言葉に耳を傾けてみなよ。彼が正解を教えてくれるさ、それと毎度、100万忘れないで振り込んでくれたまえよ』

 

言うだけ言って電話を切る柩。相変わらず癪に障るやつだ……能力の高さは認めるけど、もう少しまともになれないものなのか……受話器を置いて溜息を吐いていると

 

「美神さん?柩って誰ですか?」

 

不思議そうな顔をしている蛍ちゃん。あれ?知らないのかしら?結構有名なGSなんだけどねえ……まぁ滅多に表舞台にでる奴じゃ無いから知らないのかもと思いながら、机の引き出しから写真を取り出す。そこには深い隈を持つ灰色の髪をした若い少女の姿が写されていた。

 

「夜光院柩。BランクGSで主に探偵業をしてるんだけど、限りなく当たるとされる未来予知能力者よ、まぁいっつも脳内麻薬が出ててラリッてる変態だけどね」

 

見た目はそれなりに良いんだけど、あの性格のせいで人の知り合いなんて殆どいない。結構有名なGSだから蛍ちゃんも知ってると思ったんだけど、知らないとは意外だった……

 

「夜光院柩……ですか、それでその柩さんはなんて?」

 

納得行かないという顔をしている蛍ちゃん。なんでそんなに不機嫌そうな顔をしているのか判らない。まぁ柩の事はどうでも良いわ、今は妖怪の捜査が優先だ。だけど柩の言っていた

 

「なんか妖怪の正体については横島君が知ってるって言ってたわね」

 

なんで横島君?っと思っていると事務所の扉が開き、横島君が入ってきて

 

「ちわーす!美神さん!蛍!面白い資料を見つけたんだ」

 

チビとタマモをそれぞれ肩と頭に載せた横島君は妖怪図鑑を広げる。そこには妖怪変化に関する記述で埋め尽くされていた。

 

「なんと長い年月を生きたモグラは竜気を得るんですって!」

 

本当に当たった。もう少し待っていればいらない金を使うこともなかったのにと後悔していると

 

「あ、あれ?なんか怒ってる?」

 

【判んないですね。どうしたんでしょう?】

 

揃って首を傾げる横島君とおキヌちゃん。私は小さく溜息を吐きながら立ち上がり

 

「でかしたわ!横島君!そうよ!モグラの妖怪なのよ!なるほどね、特定できないのは竜気のせい……これは調べなおしね。横島君その本を貸して」

 

横島君から妖怪図鑑を取り上げる。そこには確かにモグラの妖怪変化についての記述があった。私はそれを見ながら今日調べた地図と照らし合わせながら

 

「蛍ちゃんこれとこれ。そっちの資料から調べて。おキヌちゃんは私と蛍ちゃんにコーヒーを、今日は長丁場になるわよ」

 

次々に指示を出していく、これ以上被害者が出る前に特定しないと……ぼーぜんとした顔をしながら私達を見ている横島君が

 

「えーと俺は?」

 

どうすれば良いの?と尋ねる横島君。でかしたと褒めてあげたいけど、ここから横島君が出来ることって殆どないのよね、ここからは専門的な知識が必要になるし

 

「明日また連絡するわ。今日は待機、陰陽術の本を読んで勉強してなさい。それと今回は良い仕事をしたわ、褒めてあげる」

 

もう少し霊能についての事を知っていれば一緒に調べる事も出来たんだけど、正直今横島君がここにいても出来ることは何もない、だから帰る様に言うと

 

「うっす」

 

納得行かない様子で帰り支度を始める横島君。その背中は小さくて寂しそうだ……

 

「横島。もう少ししたらもっと色々出来るようになるわ。だから焦らないでね?」

 

蛍ちゃんがそう声を掛ける、今私が声を掛けるのは逆効果だ。私が帰れと言ったのだから、ここは蛍ちゃんとおキヌちゃんに任せよう

 

【そうですよ。横島さん、横島さんには横島さんにしか出来ない事がありますよ】

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんに励まされた横島君は小さく笑いながら

 

「大丈夫や。チビとタマモと遊んでるから」

 

そう笑って横島君は事務所を後にする。もう少し霊的な知識を教えてあげればよかったなあと後悔していると

 

「焦ったら駄目な時期だから、ゆっくり行きましょう。じゃあ今度はこれね、よろしく」

 

蛍ちゃんが後悔する事じゃ無い、私も殆どそう言うことを教えていなかったのだから同罪だ。今度は実技ばかりじゃなくて、座学も教えてあげようと思いながら、次の資料を蛍ちゃんに手渡したのだった……

 

美神の事務所から家に帰り始めた横島は溜息を吐きながら、ぼそりと呟く

 

「まだまだなんやなぁ」

 

事務所から半ば追い出された事に疎外感を感じていた。確かにまだまだだと自覚しているのだが、こうしてされると悲しくなったのだろう

 

「コン」

 

励ますように甘えた声で鳴いて、頬を擦り付けるタマモに横島はにっと笑いながら

 

「サンキュー」

 

タマモに励まされた横島は帰りにコンビニのカップ麺でも買うかと呟き、ゆっくりと歩いていると

 

「ん?」

 

川から這い出るようにして力尽きて倒れてる少女を見つけて

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

慌てて土手を駆け下りてその少女を揺さぶろうとしたが

 

「えらい冷えてるな。しゃあないな」

 

そう呟くと着ていた学生服の上着を脱いで、少女の身体を包み抱き抱える

 

「フーフー!!!」

 

土手の上で警戒しているタマモ。横島は彼女が見た目通りの少女ではないのは判っていたが

 

「タマモ。弱ってるんだ、そう目くじらを立てないでやってくれ、ホラおいで」

 

不機嫌な理由は判っている様子だが、弱っている少女をそのままにしておけない。横島がそう言うとタマモは立てていた尻尾を下ろしはしたが……それでもそっぽを向き

 

「キューン」

 

不機嫌そうに鳴くタマモを頭の上の乗せた横島は鞄を脇に抱え、慌てて自分の家へと走ったのだった……

 

「ミューウ」

 

そして走り去る横島を見つめる黒いつぶらな瞳。楽しそうに鳴いてそれは再び地面の中へと潜っていくのだった……

 

 

リポート10 無垢なる土竜 その2へ続く

 

 

 




今回は導入回なので短めです。次回は横島が助けた少女とかの話を書いていこうと思います。他の作品の妖怪少女ですね
割と好きなので投入してみます。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は妖怪組み【?】がメインになります。チビとかタマモとか前回横島が助けた少女とかですね
新しい騒乱はもう直ぐ近くまで迫っています。ええ、主に修羅場と言う壮絶な争いが待っていますとも……


それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート2 無垢なる土竜 その2

 

横島が川岸で助けた少女。私はそれを見て直ぐに判った、こいつは蛇だと

 

「みゅーん」

 

チビもそれに気付いているのか頭を低くして怯える素振りを見せている。今は霊力を抑えているが、それでも私よりは霊力は多い

 

「ひゃっ冷たいなあ……えーとタオルタオル」

 

押入れから来客用の布団を取り出し引いて、少女を寝かせタオルを用意している横島

 

(うー!どうして私は今喋れないのよ)

 

喋れたのなら警戒しろって言うのに!あの蛇……私はあいつの事を良く知っている

 

(あいつはミズチなのに!!!)

 

前に横島達を襲った水龍ミズチ。どうしてあいつが倒れていたのかは判らないけど、危険と警戒するのは当然だろう

 

「とりあえずあれで大丈夫かな?」

 

布団に寝かせた所で部屋をでてくる横島。慌てて足元に駆け寄り

 

「コン!コン!!!」

 

危ないから美神達に連絡するべきだと鳴くが、横島はうんうんと頷く、もしかして判ってくれた?

 

「そうかーお腹空いたかぁ、良し良し直ぐきつねうどん用意するからなあ」

 

「コーン♪」

 

って違う!!!!!きつねうどんは確かに魅力的だけど、今はそんな事をしている場合じゃ無いの!危ないのよ

 

「チビはりんごか?」

 

「みー!」

 

横島がそばに来てくれたことで安心したのか、さっきまでの怯えた素振りはどこへやら尻尾を振っているチビ

 

(どどどど、どうしよう!?)

 

私が何とかしないといけないのに、どうすれば良いのか判らない、こういう時にしゃべることができないと言うのは余りに辛い

 

「じゃあ用意しようなあ」

 

私とチビを抱えてキッチンに歩いていく横島。前足で横島の頬を叩き危ないと言うのを伝えようとするのだが……

 

「コーン!ココーン!!!」

 

「良し良し、そんなにお腹空いたんだな、直ぐ用意するからなあ」

 

違うのにー!!!っ言うか横島の中では私ってそんなに食いしん坊ってイメージなの!?その事に軽くショックを覚えながらも

 

「ほれー出来たぞー」

 

「コーン♪」

 

横島が私の目の前に置いてくれたきつねうどんを前に、歓喜の鳴声を出してしまう自分がいて……少しだけ切なくなった……

 

 

 

普段より大分遅いぺースできつねうどんを食べているタマモ。どうしたんだろうか?と思いながら俺もきつねうどんを啜る

 

(あーおキヌちゃんが出汁と揚げを作っていてくれて良かった)

 

うどんを入れて暖めるだけで作れるうどん。これは確かにありがたい、チビもりんごを小さく切った物を小さい手で抱えて

 

「みーぬみー」

 

口の中にりんごを詰め込んで間延びした鳴声を出している。その仕草も愛らしい

 

「ふーごちそうさん」

 

「みーみー」

 

「クウ」

 

夕食を終えたのでちゃっちゃっと洗物を済ませて、美神さんと蛍が厄珍堂から買ってきてくれたお札を手にする

 

「チビとタマモは少し離れてろよ?」

 

判ったと言いたげに鳴いてチビを咥えて離れていくタマモ。なんかチビが狩られたように見えるのは何でだろうな?

 

「よしっとこれでOK」

 

部屋の隅に浄化札。空気を清浄にする事で霊力の効率を上げてくれるらしい……それと5枚の札を机の上において

 

「火精招来」

 

手にした赤い縁取りの札に赤い光が灯る、それと体から少しだけ霊力が出て行くのが判る

 

「雷精招来」

 

緑の縁取りの札に緑の光が灯る。ここまではOKだ……問題はここからだ。大きく深呼吸をしてから

 

「水精招来」

 

水色の縁取りの札が僅かに光りかけるが、直ぐに消える……

 

「土精招来」

 

茶色の札にいたっては何の反応もなし……そして最後の金色の札を見て

 

「止めとくか……」

 

最後の札は金精の札。なんでも金属を意味する札らしく、防御や守りに強い効果があるらしいが、上の4枚と違って見た目が変化しないので自分ではわからない

 

「あーまだ火と雷だけかぁ」

 

札を光らせる事ができれば、その属性の精霊の力を借りる事ができたという証明らしいので、少しでもと思い練習しているのだが……火と雷だけで後はさっぱりだ……

 

(火が使えるのは多分タマモのおかげだよな)

 

タマモが俺に授けてくれたという加護、そのおかげで同じ火に属する精霊が好意的らしい、雷が使えるのは俺の才能らしいが……今一信用できない。水が光りかけているのでもう少ししたらヒーリングとかを使えるかもしれないなあと思いつつ、浄化札を外す

 

「みみ」

 

前回りで転がってきたチビを抱っこする、最近TVを見ているからかほっておくと何か色々な遊びを覚えている。それだけ知能が高いという事なのだろうか?

 

「さてと……迷惑だと思うけど、美神さんに電話するか」

 

川岸で拾った少女。人間にしては異様に体温が低いから人間ではないと思う……多分妖怪だと思うんだけど……一応連絡したほうが良いだろうと思い電話をかける為に廊下に出て、受話器を手にした所で

 

「……連絡はするな」

 

小さな声だがやたら通る声が聞こえたと思った瞬間。俺の腕と首に水が伸ばされていた。ゆっくり振り返るとやっぱりと言うべきなのか、俺の助けた少女。その少女の手から伸びている水の鎖……やっぱり妖怪だったかと思いながら

 

「判った電話しない」

 

ゆっくりと受話器を電話に戻す。すると水も少女の手の中に戻る……なんかこれ見たこと……!

 

「まままままま!!!まさかお前ミズチか!?」

 

あの時のミズチもこんな事をしていた、足元のチビとタマモを抱き抱えて後ずさる。さっきからタマモが何度も鳴いていたのってもしかして危ないって事を俺に伝えようとしていたのか……てっきりお腹が空いているのだと思ってたけど……

 

「……ミズチのシズク。そこの狐とはそれなりに知り合い……」

 

そう呟くと力なく倒れるシズクと名乗った少女を慌てて抱きとめる、そして服越しにも判るその冷たさに驚きながら

 

「つめた!?おいおいどうすれば良いんだよ!?」

 

氷みたいに冷たいシズクをどうすれば良いのか判らずうろたえていると

 

「……水が欲しい。沢山」

 

ぼそりと呟くシズク。水!?えーと俺は慌てながらも財布を掴み

 

「ちょっとでてくる!」

 

近くのスーパーへ走り、2Lのペットボトルの水を3個買ったのだった。なお戻っている途中に蛇口を開ければよかったんじゃ?と思ったのは明らかに遅いだろう……

 

 

 

高島の転生者に拾われたのは幸運だった。心配そうな顔をして差し出された水のペットボトルとか言う物の封を開けて

 

ザバア

 

全部自分の上に掛ける、畳と布団が水浸しになったのを見て

 

「ノオオオオオ!!俺の部屋がって……ってあれ?水が消えた」

 

私が触れている所から私の中に吸収されていく水。本当は飲んでも良いんだけど、弱っているからまずは全部かぶる事にした。2本目は口を切り一気に飲む

 

「すげ……」

 

驚いているようだけど、私にとってはこれは普通の事だ。水に属する妖怪にとって水は命そのもの、体内に大量の水を蓄えておけば、それだけ霊力も使ええるし、再生能力も増す。4Lのも水を飲み干した事で漸く落ち着く事ができた

 

「えーとじゃあ聞くけど、美神さん達と戦ったミズチで良いんだよな?」

 

確認するかのように尋ねてくる少年に頷きつつも、少しだけ眉を顰めて

 

「……ミズチは種族の名前。私はシズク」

 

ミズチではあるが、私の名前はシズクだ、ミズチと呼ばれるのはあまり好きではない

 

「あーそれは悪い。俺は横島、横島忠夫。んで、タマモとチビ」

 

狐と丸っこい悪魔?と私の前に座らせる横島。狐がタマモで丸っこいほうがチビか

 

「……横島」

 

高島の転生者だから名前も良く似ている。それになによりも魂が似ている……観察している間にタマモは横島の頭の上に上り私を見下ろしている

 

「それでなんで東京に?あの神社にいるんじゃないのか?」

 

まぁ確かに私の聖域だけど、あそこにいても横島は来てくれないし、あそこは家だけどじっとしているのは余り好きではない

 

「……私はお前に興味がある。だから来た」

 

横島の顔を見ながら言うと横島はニッコリ笑い、HAHAっと変な風に笑いながら親指を立てて

 

「もう少し育ってからそう言うことは言おうか?ワイはロリやない!」

 

ロリ?……なんの事か判らないので横島の頭の上にいる狐を見て

 

「……狐。どういうこと?」

 

知っていそうな狐に尋ねる。すると脳裏に声が響く、人の姿をしていても私はやはり妖怪。念話が出来るのは当たり前の事だ

 

(お前みたいな絶壁ちびっ子は嫌いって事よ!あと狐言うな!!!)

 

その大きな声に軽い頭痛を覚えつつ、驚く。高島はそう言うのは全然気にしなかったのに……

 

「……本当にロリは駄目?これでも?」

 

着ているワンピースの裾を掴んでめくりあげると

 

「おおっ!ってワイはロリコンでもぺドフィリアでもないんやー!!!」

 

一瞬私の方に目を向けたけど、直ぐに柱にガンガンと頭を叩きつける横島。その反応を見れば判る

 

(これくらいなら大丈夫)

 

魂が物凄く揺れている。これならば頑張らなくても横島の精神に手痛い打撃を与える事が出来る

 

(ロリでも平気そう)

 

(うっさい!満月になれば私の方があんたよりも横島に好かれるんだから!)

 

それはきっと平安時代の姿のことを言っているのだろう、確かにその姿ならと思うが

 

(それまでに横島は私のものになる)

 

(横島は私のなんだからね!!!)

 

人化も出来ないタマモなんて私の敵ではない、その前に横島に取り入る事が出来れば何の問題もない。それに高島には私の加護を授けた、その転生者である横島にも私の加護は僅かながらに残っているのだから、充分私の物と言える

 

「それでなんで怪我をしていたんだ?」

 

今では回復しているけど僅かに怪我をしていた。それもこれもあのモグラのせいだ

 

「……モグラが変化した龍に襲われていた」

 

本来の霊力があれば迎撃する事も不可能ではないのだが、今の私では逃げる事が背一杯だった

 

「モグラってあれか?地面の中の?」

 

不思議そうな顔をしている横島に頷く、長い年月を生きたので竜気を取得していてとても危険で逃げるしかなかったと話していると

 

「キューン!!!」

 

バリーン!!!

 

「ぎゃああああああ!!!窓があああああ!!!」

 

窓を突き破って小型の猪の様な妖怪が飛び込んでくる。黒い毛むくじゃらのモグラだが、その手には鋭い爪が光っている

 

「キュー!」

 

飛び掛ってくるモグラの爪を転がって回避して、ペットボトルを掴むと同時に浮遊感を感じる

 

「ちくしょおおおおお!ワイが何をしたあああああ!!!」

 

私とチビとタマモを抱えて走り出す横島。荷物のように小脇に抱えられているが

 

(……これは悪くない)

 

うん、暖かいし、横島の霊力の波長を感じて安心できる。私はペットボトルの封を開けて

 

「……水を補充すれば戦えるから頑張って」

 

体力は回復したが、攻撃するほどの力は回復していない、それまでは頑張ってくれと言うと

 

「なにを!?ワイに何を頑張れっていうんやあああああ!!!」

 

号泣しながら叫ぶ横島。おかしいな?あの時は随分頼もしく見えたけど……

 

(まだまだこれからゆっくり育てればいい)

 

横島は高島の転生者なのだから陰陽術の才能はある。ゆっくり霊力が覚醒するのを待てば良い

 

「フー!」

 

私の考えている事が判っているのか唸り声を上げているタマモ。繰り返すが人化も出来ないタマモが悪いのだから

 

(悔しいなら人化出来るようになれば良いの)

 

馬鹿にするようにそう返事を返し、ペットボトルの水を飲み始めるのだった……

 

 

 

 

横島の家に設置してあった結界が砕けた。私と美神さんの顔が引き締まる

 

「どうも横島君の方に来た見たいね」

 

東京にいるGSは多いが、ある程度の霊力を持っているGSとして美神さんが自分のところに来るかもしれないと思っていたが、現れたのは横島の所。タマモに惹かれたのかもしれない

 

(こんな事なら待機して貰っていれば良かった)

 

家に返すのではなく、美神さんに頼んで事務所にいさせてあげれば良かったと後悔していると美神さんが素早く指示を出し始める

 

「おキヌちゃん、横島君と合流して私達の所に案内して、私達も準備をして直ぐ行くから」

 

幽霊のおキヌさんが一番早い。おキヌさんは御盆を机の上において

 

【直ぐ見つけます!美神さん達も急いでくださいね!】

 

言うが早く窓から飛んでいくおキヌさん。私も鞄から破魔札とかの準備を済ませ

 

「行きましょう。美神さん」

 

「ええ!うちの助手を怪我させる訳には行かないわ」

 

凛々しい顔で言う美神さん。やっぱり私の知っている美神さんよりも

 

「労災も馬鹿にならないんだから!今柩に電話して場所を聞くから」

 

労災って……いや、まぁ労災であってるんだけど……

 

「ソウデスヨネ……」

 

期待していた言葉と全然違う言葉に深い溜息を吐く、だけどそれも美神さんらしさだと思い。私は除霊具をつめた鞄を肩から提げる

 

「もしもし!柩!?横島君の」

 

未来予知を持つという柩さんに電話していたのだが

 

「あのやろう!どこ行きやがった!!!」

 

憤怒して電話を叩きつける美神さん。怒り心頭と言う感じで

 

「なにがプリテイなボクは急用があるので失礼する!よ!!!私が電話するって知ってるくせに!!!

 

どうやら柩さんはいないようだ、場所の特定は難しくなるけど、きっと騒動が起きているので直ぐ見つけることが出来るだろう

 

「行きましょう!美神さん。横島が危ない!」

 

「ああー!もう!そうね!探せば何とかなるわよね!急ぐわよ!」

 

美神さんと一緒に事務所を後にしたのだった……なおその頃横島は

 

 

 

「キューン!ミューン!!!」

 

「わああああ!!!!」

 

弾丸のような勢いで飛び出してくるモグラの爪を小脇に抱えたシズクと頭の上のタマモと肩の上のチビを落とさないようにしながら全力で走り回っていて

 

「みがみざあああん!ぼだるううう!!!だずげてえええええ!!!」

 

泣いているせいでまともな発音になっていないが、美神と蛍に助けを求めているのだった……だが

 

(なんか楽しそうだよなあ……もしかして)

 

動揺し泣いている部分とは逆に冷静な部分もあった。これは美神や蛍と除霊をしているうちにマルチタスクとは言わないが、それに似たものを身につけていた。だから恐怖を感じつつもある程度考え事が出来るようになっていた……まぁ表面上はとんでもなくみっともないが……

 

(もしかしてあのモグラ赤ちゃんなんじゃ?)

 

今日昼間に見た妖怪変化の事を思い出しながら、美神の事務所の方向へと走っていくのだった……

 

 

小脇にシズクを抱え、頭に狐を載せた横島を見つめる1つの視線

 

「くひひ、やっぱり見に来て良かったよ」

 

精霊石の首飾りと結界札を手にしている柩は楽しそうに笑う。彼女の持つ未来予知の力で彼女は確かにここまでの未来を見ていた。

 

「くひひひ、ここからどう変わってくれるんだろうねぇ……」

 

柩が見た未来ではモグラの妖怪は殺される。だけど今は見えなくなってしまっている。そんな事は今までなかった、だからこそ柩は横島に興味を持った……

 

「くひひ、未熟なGS君……君がボクにどんな未来を見せてくれるのかな?くひひ……楽しみだよ」

 

頭を押さえて楽しそうに笑いながら柩は横島の後を追ってゆっくりと歩き出したのだった……それは散歩していると言えるスピードで、とてもではないが追いつけるとは思えないが

 

「くひひ……ボクには見えてるよ」

 

横島がどういう風に動くのかは判っている。だからこそゆっくりと歩いていくのだった……どこに行けば、良いのか判っているのだから焦る必要などないのだから……

 

 

リポート10 無垢なる土竜 その3へ続く

 

 




次回は若干の戦闘回になるかもしれないです。ただ終わりはほのぼのとした感じにしたいですね、そしてシズク登場です
おまもりひまりのキャラですが、私は個人的に好きなのと、火属性のタマモと相反する属性をと言う事で参戦させて見ました
どういう風に活躍していくのか楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回はモグラの妖怪との対峙の話になりますが、倒すとか除霊するとかの流れにはならないと思います
平和的な解決が出来るように進めて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート10 無垢なる土竜 その3

 

光の無い暗い道を選んでいる小柄な老人。茶色の古い民族衣装のような物を着込んだ老人は顔を少し上げて

 

「手遅れになっていなければ良いが……」

 

老人はそう呟くと闇に溶ける様に消えて行ったのだった……

 

 

小脇にシズクと名乗る、見た目幼女のミズチと頭の上にタマモ、肩の上にチビを乗せたまま俺は全力で美神さんの事務所へと走っていった

 

(蛍の話だと結界を張ってくれているそうだから気付いてくれてるはずだ)

 

俺を護る為にと蛍がそんな話をしていた、だから美神さんも蛍も気付いてくれているはずだ

 

「キューン!キューン♪」

 

コンクリートをぶち破りながら跳ねるように俺達を追いかけてくるモグラ。最初は怖いと思ったが、徐々に冷静になってくると別の側面が見えてくる

 

(敵意がない……逃げてるから追いかけてきているのか?)

 

除霊の現場で何回も経験したが悪意とか敵意とか殺意を感じないのだ。どっちかと言うとチビとか近所の子供と同じで遊んでいるという感じがする

 

「お前なんかしなかったか!?」

 

小脇に抱えているシズクに尋ねる。もしあれが子供だとしたら……もしかするともしかする

 

「……私は何もしてない。向こうが襲ってきただけ」

 

淡々とした声で返事を返すシズク。本当か?と俺が見つめていると

 

「……急に飛び出してきたから驚いて水で攻撃した」

 

しれっと言うシズク。その言葉に俺は激しい頭痛を覚えながら

 

「それだッ!!!馬鹿やろうううううう!!!」

 

多分あのモグラはシズクが自分と同類だと思って顔を出した、ところが攻撃された事でそれが挨拶または遊びだと認識してしまったのだろう。だから敵意も何もない、だけどあのサイズと力で攻撃されれば人間では耐え切れるわけが無い

 

「ちっくしょおお!死ぬ!死んでしまう!!!」

 

俺が走る速度よりも圧倒的にモグラの方が速い!しかも逃げる物を追いかけるのを楽しんでいるのが判る

 

「キューン♪」

 

鳴声自体は可愛いが、ガードレールを粉砕し、コンクリート塀を容易に粉砕するその爪。人間に当たれば死にかねない、今は何とかよけることが出来ているが、その内捕まるのは目に見えている

 

「美神さーん!蛍うううッ!!!早く助けてええええ」

 

破魔札もないので攻撃は出来ないし、あれが赤ちゃんだとしたら攻撃するのも可哀想だ。何とか攻撃が駄目な事なんだって認識させる事が出来れば何とかなるかもしれないが……

 

「ミューン!!」

 

飛び掛ってこないなあと思った瞬間。足元から声が聞こえると同時にモグラが飛び出してくる

 

「ぎゃあああ!!!下から来たアアアア!!?」

 

咄嗟によけるがGジャンが爪で引き裂かれる。脇のシズクが両手に水を溜めて球状に作り変えながら、そう尋ねてくる

 

「……反撃する?」

 

確かに反撃すれば逃げる隙は出来るかもしれない、だけど身体は大きくても赤ちゃんのモグラを見て

 

「駄目だ!」

 

そんな事は出来ない、嫌、してはいけない。美神さんと合流して何とかしてもらおうと思い走っていると

 

【横島さん!大丈夫ですか?探し……】

 

俺を心配して探しに来てくれたであろう、おキヌちゃんだが……俺の脇のシズクを見るとどす黒いオーラを発生させながら

 

【浮気!浮気なんですね!?そんな小さい子を!!横島さんの獣!!!】

 

浮気ってなんだ!?シズクのせいか!?だけどシズクを解放すると絶対モグラを攻撃する。それが駄目だからこうして抱えているのに、そのせいで浮気呼ばわり、そもそもなんでここで浮気って言葉が出て来るのかが判らない

 

「違う!誤解だああ!!!」

 

どす黒い瘴気を放つおキヌちゃん、怒りのせいか周囲の石が浮かび上がり俺に向かって飛んでくる。そして更にモグラも追いかけてきている

 

「ちくしょおおおおおッ!!!!俺が何をしたあああああ!!!!」

 

どうして何にもしてないのにこんな事態になってしまったのか。おキヌちゃんを説得したいのに話を聞いてくれる気配すらない、しかも地面から追いかけてくるモグラ。そして

 

「……これはこれで中々楽しい♪」

 

「コン♪」

 

「みー♪」

 

俺が跳ねたり飛んだりして攻撃を避けているのが楽しいのか楽しそうにしているチビとタマモとシズク

 

「お願いだから早く助けてええええ!!!」

 

このままだと精神的と肉体的疲労で美神さん達と合流する前に力尽きてしまう……

 

「おキヌちゃん!話!話を聞いてくれ!!!!」

 

俺は若干疲れてきたことで上ずる声で何とかおキヌちゃんの説得を試みるのだった……誠心誠意を持って交渉すればきっと俺の声は

おキヌちゃんに届く筈だ!!!ぶつぶつ呟いて全身に黒いオーラを纏っていて、物凄く怖い!はっきり言って交渉が成立するかどうかも怪しいと思うけど、そうだと信じたい!!!俺は妖怪に追われている恐怖よりも、目の前のおキヌちゃんに対する恐怖で泣きながら、おキヌちゃんの説得を試みるのだった……

 

 

 

 

風に乗って聞こえてくる横島君の悲鳴とコンクリートの破壊音……

 

「こっちね!」

 

おキヌちゃんの連絡はないけどきっちこっちの方角だと判断し、コブラを無理やり曲げてその通路に突っ込ませ、ドリフトさせながら駐車場に滑り込む

 

「みみみ、美神さん!もう少し安全運転でお願いします!!!」

 

そう叫ぶ蛍ちゃんだけど、そんな余裕はない。

 

「横島君が危ないんだから急ぐわよ」

 

飛び降りるようにしてコブラを降りて神通棍を手に走る。狭い脇道を抜けると

 

「ウキュ?」

 

猪程度の大きさのモグラがコンクリートから顔を出していた。ひくひくと動く鼻とつぶらな瞳は愛くるしいとも取れるが

 

「キューン!」

 

私を見ると凄まじい勢いでコンクリートから飛び出して爪を振るってくる

 

(やっぱり邪悪な妖怪!)

 

そのモグラの爪に横島君のGジャンのすそが残っているのを見て、邪悪な妖怪だと判断し

 

「GS美神が極楽に送ってやるわ!!」

 

飛び掛ってきたモグラの胴体に神通棍を叩きつける

 

「ぎゃふう!?」

 

ごろごろと転がっていくモグラ。図体はでかいしパワーもあるけど全然対したことない、このまま数発殴れば終わりだろう

 

「キュ、キューンンンンンン!!!!!!」

 

悲しそうに鳴いてコンクリートの中に潜っていくモグラ。思ったよりも速い

 

「美神さん!あれが?」

 

追いついてきた蛍ちゃんの言葉に頷く。このまま力を蓄えられては困る

 

「蛍ちゃん、破魔札をお願い」

 

鞄からボウガンを取り出す、近接でも問題ないが、ここは確実性を取ろう。

 

「了解です。じゃあ行きます!」

 

モグラの潜った穴に破魔札を投げつける蛍ちゃん。穴の中で炸裂音がして

 

「キュキュウウウウウ!!!」

 

地面から飛び出してごろごろ転がっているモグラ。痛みで苦しんでいるのだろう、だけど直ぐに私と蛍ちゃんに気付いて逃げ出す。そうはさせないとボウガンを放つ

 

「クギュウ!?」

 

身体に刺さってさらに悲壮そうな鳴声を上げるモグラ。心が痛むけど仕方ない

 

「蛍ちゃんは良いわ、私に任せて」

 

まだ蛍ちゃんには動物の妖怪を倒すには早い。ボウガンを手渡し神通棍を手にし

 

「さあ!行くわよ!!!」

 

霊力を込めてモグラに振り下ろそうとした時

 

「美神さん!駄目だアアアアッ!!!!」

 

横島君が飛び出してくる。咄嗟の事に神通棍を止めるのが間に合わず

 

「がふっ!?」

 

私の神通棍を喰らって吹っ飛んでいく横島君に

 

「ヨコシマァッ!?」

 

【横島さんッ!?】

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんの悲鳴が重なった。私も慌てて横島君に駆け寄ろうとしたが

 

「大丈夫っす!!!ここは俺に任せて!」

 

口元の血を拭い、足を引きずりながらモグラの前に歩いていった横島君。私は直ぐに止めようとしたが

 

「あなた何者?」

 

いつの間にか現れた少女が私の前に立っていた。姿形は子供だけど……そんな可愛い物じゃ無い……背筋に冷や汗が流れるのが判る。それに逃げろと私の中の霊感が叫んでいる……

 

「……黙って見てろ。横島はただの退魔師に収まる人材じゃ無い」

 

この霊力、この威圧感……私は覚えている。この少女は間違いない……あの山の中の神社で戦った

 

(ミズチ……)

 

私達を異界に引きずり込んだあのミズチだ。どうしてこんな大物が横島君と一緒なのかは判らなかったが

 

「判ったわよ。だけど横島君が危ないと思ったら行くからね」

 

助手を失うわけには行かない。私はいつでも飛び出せる体勢で横島君を見つめるのだった

 

 

「キュウ……キュウ……」

 

つぶらな目から涙を流すモグラ。刺さっているボウガンの矢が痛いんだろうなあ

 

「ちょっと待てよ」

 

シズクがくれた霊水を少しずつ傷跡に掛けながら矢をゆっくりと抜く。掠っているだけだから刺さりが甘くて良かった

 

「な?これで判っただろ?お前のやってるのは駄目な事って」

 

小さい子に言い聞かせる口調で言うとモグラはぷるぷる震えながら頷く

 

「よしよし、怖かったなあ」

 

美神さんの神通棍でしばかれたので正直身体が痛いが、そんな事を言っている場合ではない

 

「キュウウウ」

 

ぽろぽろと泣いているモグラを美神さんに見せて

 

「美神さん、このモグラは子供っす。姿は大きいけど、何が悪いのか良いのか判らない子供っす。怖くて泣いてるんです」

 

キューキューと泣いて擦り寄ってくるモグラの背中を撫でる。思ったよりごわごわしてるなあ……

 

「頼みます。美神さん、この子を逃がしてあげてください」

 

確かにGSを襲ったかもしれない、だけどこの子は今攻撃するのは良くないことって学んでくれたはずだ

 

「そりゃ無理に除霊しろって依頼じゃ無いわ。だけどその妖怪がもっと力をつけて今度こそ人間を殺したら如何するの?」

 

確かにそれは正論だけど!俺は……俺はそんな事はしたくない。そしてこの子もそんな事はしないと信じたい

 

「蛍!妖怪だって悪い妖怪ばかりじゃない!そうだろ!?」

 

この子はきっとまだ間に合う、だから……逃がしてあげて欲しい

 

「ええ、私もそう思う。美神さん私からもお願いします」

 

【私もあの子は悪い子には思えないです】

 

蛍とおキヌちゃんも美神さんに頼む。美神さんは腕を組んで考え事をしているようだ

 

「……殺すな。何も知らぬ無垢な物を殺すんじゃない、人間」

 

シズクがギロリと美神さんを睨む。だけどお前が原因の6割くらいを占めているんだと言いたかったが、話がこじれるので黙っておく

 

「コーン」

 

「みみ」

 

「きゅ?」

 

モグラに近寄ってきて会話をしているタマモとチビ。この2匹が頼りだ。俺達には判らない、動物の言葉で何とかしてくれと思っていると

 

「退魔師の方よ。申し訳ないが、我が一族の幼子。この場は見逃してもらいたい」

 

民族衣装を着込んだ小柄な老人がどこからともなく現れる

 

「……龍族がなんのよう?」

 

龍族!?じゃあこのじいちゃんは人間じゃ無いのか……人の良い笑顔を浮かべてるのになあ……街であったら普通に話をしてもおかしくないと思うほどの人の良さそうな老人だった

 

「我が一族の幼子を迎えに参ったのじゃ、この度は申し訳ないことをした。しかし数が少ない我が一族、殺すのだけは許していただきたい、このこはワシが責任を持って育てるゆえ」

 

あ、良かった……保護者が来てくれたのか……

 

「良かったな、これで大丈夫だぞ」

 

「キュー」

 

擦り寄ってくるモグラの背中をぽんぽんと叩いていると

 

「あーもう!判ったわよ!これじゃあ私がまるで悪者見たいじゃない。今回は何もしないわ」

 

美神さんが頭をかきながら言う、良かったなあ……これで一安心や

 

「ほれ、じーちゃんの所にいきな?」

 

モグラの後ろに回りこんで、背中を押しながら老人のほうに行くように言うが

 

「キュー」

 

俺の後ろに回りこむモグラ、あ、あれ?また後ろに回るが、回り込まれる。ええ、俺どうすれば良いんだよ……

 

「ほほ、随分と懐いたようじゃな。じゃがの?今のおぬしは小さくなる事も、人の姿になる事も出来ぬ。ワシらの所においで」

 

老人が手を鳴らすと名残惜しそうに老人のほうに這って行くモグラ

 

「助かりましたぞ、少年。いずれ礼をしに参る。ではこれにてごめん」

 

最初からいなかったように消えていく老人。良かったと安堵した瞬間、全身に凄まじい激痛が走る

 

「そ、そやったああ……わ、ワイ。神通棍で殴られとったんやぁ……」

 

ゆっくりと倒れていく身体と薄れていく意識。

 

「きゃあああああ!よ、横島あああああ!!!」

 

【横島さーん!!!!】

 

蛍とおキヌちゃんの絶叫を聞きながら、俺の意識は闇の中へと消えていくのだった……

 

 

 

倒れている横島を見て慌てている狐や少女。確かにあれだけの霊力で殴られれば意識を失うのは当然

 

「……なにをぼさっとしているの?速く横島の家に運びましょう」

 

おろおろしている黒髪の女が振り返る

 

「えっとミズチ?」「……シズク」

 

ミズチは種族の名前だから、そうひとくくりにされるのは面白くない

 

「えーと治せるの?」

 

不安そうに尋ねてくる黒髪の女。ゆっくりと横島に近づき触れる

 

(……まだ私の加護は生きてる、回復力が高いのはそのおかげ)

 

だけど長い年月のせいでリンクが途切れかけている、再び加護を授けなおせば、私の能力で回復させることが出来る

 

「コーン!コーン」

 

必死に舐めてヒーリングをしているタマモを掴んでふよふよ浮いている幽霊に投げつける

 

【わわ!?】

 

驚いた様子で宙を舞うタマモを空中で抱っこする幽霊。中々器用な幽霊のようだ

 

「グルルル!!」

 

抗議の唸り声を上げるタマモを無視して横島を抱える、水が満ちているので体格差なんて関係ない

 

「なんで貴女が横島君を助けるの?」

 

訝しげに見ている緋色の髪の女に私は横島を抱き抱え

 

「……横島の先祖に私は加護を授けた、だから横島にも私の加護は残っている。加護を授けた者として、面倒を見るのは当然のこと」

 

ぎょっとしている女達は無視して、半分引きずるようにして歩き出す

 

「判った!今車を回すからまってなさい!横島君の家で話を聞くから」

 

判断が早くて助かる。走っていく緋色の髪の女を見ながら

 

「……これは私のにする、文句ある?」

 

私の言葉を聞いた幽霊と黒髪は鬼の様な顔をして

 

【「あるに決まってるだろうが!!!」】

 

がーっと吼える幽霊と黒髪。どうもこの時代でも高島はとても良くもてるようだ、だけどこれは私の物……絶対に手放さない。

私と幽霊と黒髪とタマモは緋色の髪の女が車を運んでくるまでの間お互いにらみ合っているのだった

 

「うーんうーん」

 

その圧力に魘されている横島を看護していたのは

 

「みーみー!」

 

チビが小さい身体を必死で動かして横島の汗を拭っていたりするのだった……

 

リポート10 無垢なる土竜 その4へ続く

 

 

 




次回でリポート10は終わりですね、柩は次の話で出すつもりです。この修羅場を見て楽しそうにしている柩とかですね。モグラが再登場をするかどうかは楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。無垢なる土竜はこの話で終了になります。リポート11は「日常」と言うことで横島とかの日常を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします




 

 

リポート10 無垢なる土竜 その4

 

コブラに乗って去っていく美神達。横島だけは芦蛍に抱き抱えられているが、あれ警察に見つかれば捕まるなあと思うと更に笑みが零れた。かなりのスピードで遠ざかっていくコブラを見ながらボクは笑っていた。これは予想外にも程がある結末だ

 

「くひひ、驚いた。本当に驚いたよ」

 

ボクの見た未来では美神はモグラを討伐し、さっき現れた土竜の老人に攻撃されGSとしての道を絶たれる筈だったと言うのに、横島のおかげでそれを回避した

 

「……くひ!君は幸運の精霊でも憑いているのかい?」

 

重傷を負っているが、まさかのミズチの加護。これでは死ぬわけがない……ああ、実に面白い

 

「貴重なボクの時間を使っただけはあるよ、横島忠夫」

 

イレギュラーすぎる。ボクには彼の未来がまるで見えない……

 

「ああ、こんな事は初めてだ」

 

このボクが見通すことの出来ない未来を持つ青年。なんて面白い存在なのだろうか

 

「くひひ……今度はボクから会いに行くよ。横島忠夫……」

 

見て観察するだけじゃ無い、一度会って話をしてみよう。そうすれば何か見えるかもしれない

 

(ああ、こんなに面白い人間は初めてだ)

 

このボクがこれだけ興味を持った人間はこれで3人目だ

 

「くひひ♪これから面白くなりそうだ」

 

きっとあいつも興味を持つだろうなあ……そう思うと笑みが零れる。ボクの一番最初に興味を持った存在

 

「黄昏の月も落とすかい?煩悩魔神君?」

 

僅かに見える未来。そこに見えるのは無数の美女・美少女に囲まれている横島忠夫の姿。そしてそこにはなぜかボクの姿まであった

 

「くひひ、本当に興味が尽きないね」

 

確定していた未来を引っ繰り返すその力。

 

未来が見えないその不透明さ……

 

何をとっても面白い。そんな事を考えながら事務所に向かっていると

 

「くひひ!あー惜しいなあ」

 

唐突に見えた映像には、どす黒いオーラを纏っている少女と戦う幼女の姿。世間一般的に修羅場と言われる光景が見えた……

 

「くひ!あー本当に惜しいなあ」

 

近くで見ていたらきっと面白いのに……ボクはそう呟きながらジャケットの前を閉め

 

「くひ、今年のクリスマスは雪が降るのかい」

 

見えた未来に笑みを零し、その場を後にしたのだった……

 

 

美神さんの運転する車で横島の家まで運んできた。そして

 

「それで何をするつもり?」

 

ミズチのシズクと名乗った幼女に尋ねる。外見は幼女だけど、その霊力は私よりも多いし……水神で竜神なのだから治療術を覚えているのかもしれないと思いながら尋ねるとシズクは

 

「……加護を授け直して霊力の同調をしてから治療する、心配ない直ぐ終わる」

 

リビングで横たわっている横島の様子を確認しながらそう告げる。加護ってあれよね?タマモの奴と同じ……

 

「フー!!!」

 

タマモが8本の尾を立ててシズクを威嚇している。それは間違いなく自分のものに手を出すなと言う意思表示に見えた

 

(私も嫌なんだけどなあ……)

 

ただいまの時間では病院も厄珍堂もやってない、横島を心配するならシズクの言うとおりにするしかない

 

「それでどんな効果があるのよ?」

 

美神さんに至ってはその加護に興味があるようで私とかの気持ちはガン無視だ。

 

「……水は命の源、こいつの身体が強いのは私の加護がまだ魂に残っているから……」

 

これは驚愕の新事実かもしれない……まさか横島の驚異的な回復力がシズクの加護だなんて……もしかすると逆行前の世界にもシズクが居たから、横島のあの驚異的な生命力があったのかもしれない……

 

【横島さんはロリじゃ無いから大丈夫、横島さんはロリじゃ無いから大丈夫】

 

体育座りをして繰り返しそう呟いているおキヌさんは結構やばい感じだ

 

「み?」

 

机の上に座ってみかんを食べているチビだけが、大人しくしていた

 

「……それじゃあ直ぐに済むから」

 

シズクが寝ている横島の額に軽く口付けを落とす。額が一番チャクラに近いからだろう。横島とシズクの身体が青く光る

 

「……ん。これで霊力の同調は終わった……じゃあ治療を始める」

 

やっとか……もっと早く……ってえ!?

 

【「「なんで服を脱ぐ!?」」】

 

私と美神さんとおキヌさんの絶叫が重なる。着ていたワンピースを捲り上げて下着姿になったシズクに怒鳴ると

 

「……あんまり見るな、恥ずかしい」

 

「じゃあ服を着なさいよ!!」

 

恥ずかしいって言うなら服を着ればいい。これは間違いではない筈だ。だがシズクは首を振って

 

「……これは必要な事だから」

 

そう言われるとどうしようもない、もっと治療系の術を覚えて置けば良かったと今更ながらに後悔した

 

「……ではよいしょ」

 

【「何で脱がす!?」】

 

「グルゥッ!!!」

 

躊躇う事無く横島の上着を脱がせるシズクにそう叫ぶ。ついでにタマモは吼えた、美神さんはコーヒー飲むわとキッチンに逃げた。

 

「……黙ってろ」

 

凄まじい形相で睨まれうっと呻く事しかできない。見た目は子供だけど、凄まじい霊力を持った竜神だ。その威圧感は半端ではない

 

「……ん」

 

上半身を裸にした横島の背中に水をかけながら、しがみ付くシズク。もう傍目から見たら犯罪にしか思えないのだが、治療だと聞いているから妨害するわけには行かない

 

「……んんッ……あふう……」

 

なんか段々シズクの声に艶が混じってきて、喘いでいる様に見える。

 

(これ本当に治療!?私騙されてない!?)

 

なんか絶対騙されている気がする!でも治療……いや、これ騙されて……止めに入るかどうかと悩んでいるうちに

 

「……ん♪完了」

 

そう笑って立ち上がったシズクの手から光が溢れる、これで治療完了と言うことなのだろうか?シズクがワンピースを着ようとするが、それよりも早く横島が身体を起こして

 

「ううーん、あれ?なんで俺の家?ってどわあ!?」

 

体を起こした横島が目の前の半裸のシズクを鼻血を出して気絶する。これは目覚めに見た所為……だと思いたい。横島はロリコンじゃないって言ってたからシズクに反応したのではなく、目覚めて直ぐの半裸に驚いたのだと思いたい

 

「でも随分あっさりと終わったわね?服を脱ぐ必要はあったのかしら?」

 

騙されていたのは?と思いシズクにそう尋ねるとシズクは

 

「……大有り。だって……私が気持ちいい」

 

シズクの勝ち誇った笑みを見た私とおキヌさんは同時に立ち上がる。もう終わったのだから我慢する必要はない

 

「【表出ろ!コラぁッ!!!!】」

 

もう私も我慢の限界だ。まだ私は横島の頬にも額にもキスしてないのに、あんな光景を目の前で見せ付けられなくてはならない!それも治療と思って我慢したのに自分が気持ちいいから?ふざけるな!!!

 

【ふふふふふふ、悪い蛇にはお仕置きが必要ですよね?ふふふふふふふふふふ】

 

おキヌさんもどす黒いオーラを撒き散らしながらシズクを見下ろしている

 

「なにこの惨劇!?なにがあったの!?」

 

カーペットに飛び散っている鮮血を見て絶叫している美神さん。悪いけど今は説明している時間が無い、このロリを躾けなければならないからだ。シズクはにやりと笑い

 

「……上等。私に勝てると思ってるの?」

 

全身から水を噴出し臨戦態勢になっている。私はソーサーと破魔札を手に庭に出て、おキヌさんはポルターガイストで包丁を浮かべて庭に出た

 

 

~~暫くお待ちください~~非常に危険な事になっているので音声だけでお楽しみください

 

「この!蛇がアアアア!!」

 

「……蛇じゃなくて龍神。このつるぺた」

 

「きっさまああああああああああッ!!!!!」

 

ドゴンッ!!

 

バーンッ!!!

 

ばっしゃああああああんっ!!!!

 

【躾けて上げます。オチビさん】

 

「……やってみれば?ストーカー」

 

【ふふふふふふふふふふふ!!!】

 

ヒュンヒュンッ!!!

 

ドスドスドスッ!!!

 

「……遊びにもならない」

 

バッシャアアアアンッ!!!

 

 

「……ううう、ま、負けた」

 

【勝てないですう】

 

水でびしょびしょになりつつ横島の家に戻る。外見が子供だから油断した。相手は水神ミズチ、封印されている私じゃ勝てない。いや封印がなくても勝てないかもしれない

 

「ワイはロリじゃ無い、ワイはロリじゃ無い」

 

体育座りで繰り返し呟く横島。これはかなり精神的に来ているのかもしれない、とは言え私達もかなり精神的に来ている

 

「……さてこれで納得行ったでしょ?じゃあ横島、私もこの家へ「絶対にノウッ!!!」

 

腕をバツにして叫ぶ横島。発音がなんてたどたどしいの?シズクは少し落ち込んだ様子で

 

「……なんで?」

 

「ワイはロリコンやないからな!「……黙れ」はぐう!?」

 

シズクのボデイブローで沈黙する横島。普段なら怒るタイミングだけど動けない

 

「……お前がなんと言おうが、私はここにいる。良いな?」

 

横島を見下ろすシズク。横島は痙攣しながら「イエス。マム」と呟いた。私とおキヌさんが何も言えないし、と言うか動けない

 

「これでまた戦力が増すわね、良いことだわー」

 

水神ミズチを戦力として換算している美神さんが止めてくれる訳もなく、こうして水神ミズチのシズクが横島の家で暮らすことになったのだった……

 

((な、納得行くものかあ))

 

絶対あのロリを追い出してみせる、私とおキヌさんはそう誓ったのだった……

 

 

 

折角の満月なのに、横島は美神の攻撃と精神的なダメージのせいで早々に寝てしまった

 

「横島の馬鹿」

 

楽しみにしていたのに……これでまた次の満月までしゃべることの出来ない狐のままだ

 

「……あの玉藻前も恋すれば人間と変わらないね」

 

にやりと笑いながら私の隣に現れるシズク。その手には酒の瓶

 

「どこから持って来たのよ、それ」

 

横島の家には酒なんてなかったはずだけど……

 

「……水の幻影で化けて買って来た、久しぶりに再会した旧友との再会を祝って」

 

そう笑うシズクだけどそんな事を思っていないのはその目を見れば判る

 

「謝らないわよ、私は悪くない」

 

横島に加護を授けた時、別の加護があるのは判っていた。それでもだそれでも私の加護を授けた

 

「……悪い訳がない。加護を授けるのはそれだけ大事と言う事。私は高島は好きだったが、横島は良く判らない」

 

そう笑ってコップに酒を注ぐシズク。見た目幼女なのにと思っていると

 

「……ん」

 

差し出されたコップ。少し考えてから中身を一気に飲み干す、妖怪がこの程度で酔うわけがないから

 

「私は横島が好き。高島はどうでも良い」

 

シズクが横島に高島を重ねてみているのなら許す事は出来ない。あのお人よしの横島を別の誰かに重ねて見るなんて許せない

 

「……そう怖い顔をしなくても良いだろう?人間と妖怪は違う。価値観もな」

 

妖怪の中では一夫多妻なんておかしい話ではない、だけどそれはあくまで同じ種族の中での話だ

 

「良いの?他のミズチに呼ばれてるんじゃないの?」

 

「……その言葉そっくりそのまま返す」

 

シズクの言葉に小さく呻く、私も妖狐の頭領として呼ばれているけどここにいるのだから

 

「……妖怪が幅を利かせている時代は終わった、ここからは自分の好きに生きても良いはず」

 

「珍しく良いことを言うわね」

 

昔は妖怪と言うだけで恐れられたし、追われた。だけど今はそんな事も少ない

 

「……高島と横島は良く似ているから、私は直ぐ好きになる」

 

シズクとあったときは既に神社に縛られていた。それをしたのが高島という陰陽師なのだろう

 

「一途過ぎるのも考え物ね」

 

下手をしたら地雷女一歩手前よねと思いながら言うと

 

「……良いじゃ無い、それだけ思いが深いのよ」

 

ぐいーっと酒を煽るシズク。姿が子供だから違和感ありまくりね

 

「そう、そうね。だけど横島は私のだからね」

 

譲らない、これだけは絶対に譲らない。早く人間の姿でずっといれるようになりたい、そうすれば横島を私の物に出来る

 

「……ふふふふ。さぁ?」

 

奪ってやるという意思を感じさせるシズク。これだから蛇は嫌いなのよ

 

「横島には近づけさせないから」

 

明日にはまた獣に戻っているけど、その姿でも横島を護れる

 

「……それもまた面白いかもしれない」

 

酔っているせいか上機嫌のシズク。本当に何を考えているのか判らない奴……

 

「私はもう寝るから。横島の部屋に来ないでよ」

 

「……何故?」

 

不思議そうな顔をしているシズク。こいつ絶対来るつもりだったわね……

 

「横島にシズクの霊力はきついでしょ?押さえれないんだから大人しくしてなさい」

 

シズクの霊力を押さえることは出来ない、それに蛇の姿が嫌いだから戻るとは思えない、だから私は狐の姿に戻り横島の部屋へと向かった……だがこの時私は気付くべきだった

 

「……にや」

 

全て計算通りと言いたげなシズクの邪悪な笑みに……そして朝になって気付いたのだ、私のこの行動自体もシズクの計算のうちだったのだと……

 

 

 

「うお……」

 

目を開けると目の前に飛び込んできたのはふさふさのタマモの尻尾。籠に入った形跡もないので、そのまま俺の上に来たたんだろうなあと苦笑しつつ

 

「なんや寝ぼけてるんか」

 

タマモを起こさないように気をつけ、抱き上げ籠に寝かして部屋を出る。

 

(悪いことをしたなあ)

 

昨日は満月だったからタマモと話せる日だったのに、眠ってしまった。今度何か埋め合わせをしないとなぁと思っているとぐーっと腹が音を鳴らす。

 

「ふああああ……あー腹へった」

 

昨日は結局何も食べないで寝たから腹空いたと呟きリビングに向かい

 

「うおお!?どうした!?なにがあった!?」

 

リビングで蹲っている蛍とおキヌちゃん。物凄く沈鬱した雰囲気で

 

「ま、負けたロリに負けた……」

 

【私のアイデンティティが……】

 

本当に何があったんだ!?俺が混乱していると

 

「……さっさと座れ、ご飯が冷める」

 

シズクがエプロン姿でお玉を装備したシズクが腰に手を当ててこっちを見つめていた。

 

(お、俺は今混乱している!?蛍とおキヌちゃんが自信を失っていて、目の前には幼女・エプロン・お玉……まさかロリおかん!?ロリおかんなのか!?」

 

それは都市伝説の中にしか存在しない、ロリ属性であり、おかん属性と言う究極の存在。そんな存在がまさか目の前に存在するなんて!?俺が混乱しているとシズクは

 

「……馬鹿な事を言ってないで早く座って食べろ」

 

「へぶう!?」

 

シズクの投げたお玉が顔面にめり込んだ、どうやら声に出ていたようだ

 

「……そこのも食べてみればいい、腕の差を思い知れ」

 

にやりと笑うシズクとよろよろと立ち上がる蛍とおキヌちゃんを見ながら机の上を見る

 

(おお、すげえ)

 

味噌汁に大根と揚げの煮物に白菜の浅漬けに魚の干物。しかもチビにはカットされた果物の盛合わせ

 

「料理上手なんだな」

 

こんなに小さいのにと感心しながら言うとシズクは

 

「……当然。世話になるのだから家事をするのは当然」

 

にっこりと笑うシズク。その顔は慈愛に満ちているような気もしたが激しい嫌な予感を感じさせる笑みだった

 

「頂きます」

 

とりあえず飯を食おうと思い、味噌汁へ手を伸ばしたのだった

 

「うーまーいぞー!」

 

なんだこの味噌汁は!?今まで食べたどんな味噌汁よりも美味い!?口から思わず何か出たとおもうほどに

 

「「うう……」」

 

号泣しながら味噌汁を啜っている蛍とおキヌちゃん。間違いなくあの涙は自分のプライドをへし折られた涙なのだろう……

 

(うーむ。しかし本当に美味い)

 

ご飯は甘いし、味噌汁は塩加減が絶妙。妖怪なのに凄いと思わずにはいられなかった

 

「ご馳走様でした」

 

【「……ご馳走様でした」】

 

魂の抜け落ちたかのような顔で手を合わせる蛍とおキヌちゃん、なんてフォローすれば良いのか判らなかったが

 

「いや、蛍とおキヌちゃんの味噌汁も好きだよ?」

 

うん、シズクのも美味いけど、蛍とおキヌちゃんの味噌汁も美味しいとフォローしていると

 

「……寺子屋に遅れる。早く行け」

 

弁当箱を差し出しながら言うシズク。なんか口は悪いけど凄く良い子なのか?俺はシズクと言う少女が何を考えているのか今一理解できないと思いつつ、その弁当を受け取り学校に向かう準備をして出かけて行ったのだった……

 

 

くう……なにこの幼女。スペック高すぎよ……ここまで絶望的な戦力差を感じたのは初めてだ

 

「……ふふふ」

 

勝ち誇ったこの顔が更に腹が立つ。だがここで力で勝負に出るのは頭の悪い証拠……別の方法を考えないと

 

(絶対へこます)

 

もっと料理を勉強しようと決意を固める。そしてそれと同時になんとかしてシズクを横島の家から追い出す事を考えないと

 

「……早く帰れ。横島が家に帰ってくるまでに部屋を掃除するんだから」

 

箒を手にしているシズク。なんでミズチなんて大妖怪なのにここまで家庭的なスキルを装備しているのよ……

 

「おキヌさん、どうしようか?」

 

横島の家を半分追い出されるように後にする。私の記憶ではシズクなんて存在しなかった

 

【取り戻します。あのキッチンは私の聖域なのですから】

 

料理に絶対の自信を持っているおキヌさんが握り拳を作る。自分の得意分野を奪われたそのショックは大きいだろうなあと思う

 

「じゃあ料理の本を買ってきて私の家で作ってみましょう。あの幼女にいつまでも負けてられないわ」

 

【そうですね!そうしましょう】

 

まずはシズクが作れないであろう、洋食から勉強する事を決め、早速近所の本屋へ走ったのだった

 

「みーみー」

 

掃除をしているシズクの手元のはたきに纏わりつくチビ

 

「……」

 

無言で別の所の埃を払うシズクだがチビはチビで

 

「みーん♪」

 

遊んでもらっているのだと思いはたきを追い回す。シズクは無言ではたきを机の上に置く

 

「み?」

 

遊んでくれないの?と見上げてくるチビを抱っこして

 

「……散歩行く?」

 

リードを見て尋ねるとチビはリードを見て嬉しそうに尻尾を振る。シズクはその様子を見て小さく微笑み

 

「……行こう」

 

鍵を持っていないので水の結界を出入り口に張ったシズクは、リードを持って目を輝かせているチビからリードを受け取り

 

「みっみー♪」

 

嬉しそうに鳴くチビの首輪にリードを繋いで散歩に出かけていくのだった……

 

 

別件リポート1トトカルチョ途中経過

 

 

 

 

 




リポート11に入る前に別件リポートとして短い話ですが、横島争奪トトカルチョの途中経過をいれようと思います

今後出るかもしれないキャラもちょろっと出すので楽しみにしていてください


それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート 

どうも混沌の魔法使いです。今回は各陣営(?)が誰に何を賭けているのか?と言うのを書いていこうと思います。全体的には短編になりますが、どれだけの存在が楽しみにしているのか?そこを面白おかしく書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート 横島争奪戦トトカルチョ 途中経過 その1

 

 

 

最高指導者が1度だけ許可した逆行、それに伴い様々な歴史が変わることは上位と呼ばれる天使や神は理解していた。だがあの魔神大戦の首謀者であり、過激派魔族を統括していたアシュタロスが味方……これだけでかなりの対策を取ることが出来る上に、過激派と呼ばれる一派もその大半をそれぞれの陣営が把握しているのでその大半を既に捕縛できているということもあり。今の上位神魔族が気にしているのは「横島争奪トトカルチョ」だ。なんせ現代の英雄であり、文珠を扱う事の出来る上に陰陽術を覚える可能性もある。そのせいもあり、各陣営で自分達の眷属が参加している物達は財産に宝などをじゃんじゃん賭けにつぎ込み。莫大な配当金を狙っていたりする

 

そして今回はその途中経過と新規参加の女性の一覧が発表され、神魔族はまた誰に賭けるのか?を考え始めていたのだった……

 

 

~~天界~~

 

龍神王の宮殿

 

「ふむ……また増えているな」

 

定期的に更新されるトトカルチョの一覧を見て唸る。今度の新規参加者は同じ竜族からの参戦だったからだ

 

(ふーむ、ミズチのシズク……か)

 

オロチの系譜のシズクと言えば天界でもそれなりに有名な竜族だ。大分前に地上界で宮殿と寄り代を手に入れたからと言ってそれっきり天界に戻ってこなかった竜神だ……そう言えば、あの時代は高島とか言う若い陰陽師が独自の陰陽術を作ろうと様々な神族や妖怪に声を掛けていたなあ。確か平安時代だったか?と少しだけ昔の事を思い出しながらシズクの倍率を確認する

 

「倍率は……5.5倍か……」

 

それだけ配当が大きいという事は当たる確率が低いという事……これだけ倍率が高いとなると何か駄目な要因があるのかもしれない

 

(はて?シズクはかなりの美人だったはずだが……)

 

自分よりも大分歳の離れている少女は対象外とは聞いているが……何故シズクが対象外なのか理解できない

 

「何が原因なのだろうか?」

 

私の記憶の中では血の様な紅い瞳と均整の取れた肢体で若い男の竜族に毎日のように求婚されていた筈の美女だったはずだが……まぁその殆どが血祭りに上げられていて、話しかけることですら命懸けだった。触れれば斬られる、それでも求婚せずには居られないほどの美女だった。霊力が足りなくて子供に戻っているのだろうか?もしそうならば不利なのは判るが

 

「……ふむ。とは言え同じ竜族として賭けるのは当然か」

 

懐から小判を2枚取り出してトトカルチョの紙の上に乗せる

 

『竜神王様。シズクへの賭け金をご確認しました。現在小竜姫に小判5枚・シズクに2枚・芦蛍に7枚賭けられております。賭金の増加はどういたしますか?』

 

トトカルチョの紙から聞こえてくる音声に悩む

 

(小竜姫は気立てはいいが頭が固いからなあ)

 

若い竜族の男にはそれなりに注目されているのだが、いかんせん頭が固い。そのせいでそろそろ婚期なのだが浮いた話の1つも無い。しかも呼び出しをしなければ妙神山からも出てこない。しかも最高指導者の言葉によれば逆行の記憶もあるとか……

 

「ふむ。小竜姫に更に2枚だ」

 

きっと逆行してきた記憶を思い出せば一番人気の芦蛍にも負けない筈だ。そう考え更にもう2枚の小判をトトカルチョの紙の上に乗せるのだった……

 

「もう少し神族が増えると良いのだが……」

 

ヒャクメはどうにもトラブルメイカーと言う感じがしてあまり賭ける気がしない。最近は大分落ち着いているらしいがそれでも賭けようと思えないのは今までの行いが悪いからだろう

 

「さてと執務に戻るかな」

 

いつまでも遊んでいるわけには行かない。トトカルチョの紙を丸めて机の引き出しにしまって、机の上で山になっている書類の束に手を伸ばすのだった……そして一番最初の書類には

 

『竜神王様!我等が当主「シズク様」が戻ってきてくれないのです!なんとかしてください! ミズチ一同』

 

「無理だな」

 

私でも怖い者は怖い。シズクを怒らせるのは得策ではないので却下と判子を押し、ミズチの里へ送りつけるのだった……

 

 

 

最高指導者達

 

トトカルチョの紙を見ているのですが、あんまり大きな変動が無い

 

「うーむ。面白くないですねー」

 

まだ全員の名前が出てない上に私の知らない女性の名前も増えているので楽しみはあるのですが、もっとこう……

 

「ドロドロにならないのですかね」

 

もう少しこう殺伐とした感じになるのでは?と思っていたのですが、予想よりも遥かにほのぼのしていてこれでは面白みが足りない

 

「相変わらず黒い顔をしてますね?」

 

「ぶっちゃんではないですか!お久しぶりですねー」

 

同じ上位の神族のぶっちゃんが尋ねてきた。これは珍しい事ですね、滅多に私の部屋には来ないのに……

 

「あ、もしかして賭けに参加する気になりました?」

 

「……いえ。まだそのつもりはないです」

 

手をぶんぶんと振るブッちゃんに溜息を吐く、神族の中で参加してないのはぶっちゃんだけだ

 

「あっちゃんなんかノリノリですよ?」

 

多分今神族の中で一番賭けているのはあっちゃんだと思うのです、なんせ倍率が高い人全員に賭けてますからね

 

(ふっふっふ……これで外れれば暫くはあっちゃんをただ使いできますねー)

 

「何を悪い事を考えているのですか?」

 

「悪いことではありません、悪巧みです」

 

はあっと深い溜息を吐くぶっちゃん。しかし賭けに参加しないなら何故ここに来たのでしょうか?

 

「何をしに来たか?簡単ですよ」

 

ニッコリと怖い顔で笑うぶっちゃん。あれどうしたことでしょうか?とんでもない寒気を感じるのですが……

 

「ここの所賭けの運営ばかりで仕事をしていない貴方の監視に来たのですよ」

 

「悪魔ぁーッ!!!」

 

私がどれだけ頑張っているかも知らないくせになんでそんな事を……そもそも誰ですか!?ぶっちゃんをここに呼んだのは!思わず悪魔と叫ぶと

 

「仏です」

 

即座に切り替えしてくるぶっちゃん。くう……この堅物は……何とかしてこの場を切り抜けなければ

 

「逃げてもいいですが、逃げた場合。きーやん……貴方が賭けている芦蛍への金貨100枚などは全て神界の財源として徴収します」

 

「この悪魔がぁッ!!!」

 

私がどれだけの金額を賭けているのか知らないからそんな事がいえるのです!

 

芦蛍に金貨100枚

 

小竜姫とタマモにも100枚ずつ賭けて、もしかしたらと思ってヒャクメとおキヌさんにも50枚ずつ賭けているというのに!?あとこっそりとメドーサに40枚入れてるのに!?それを取り上げるなんて悪魔の所業だ

 

「ですから仏です。さ、早く仕事を始めてください」

 

ぶっちゃんはやると言ったらどんな手段を使っても私から配当金を奪いに来る……

 

(くう!折角なにかトラブルを起こそうと思ったのに!)

 

このままでは横島さんの賭けがあまりに平坦で面白くない……だからこそこうToLOVEる的何かを神の奇跡として起こそうとしていたのに!!!

 

「早く書類を読んで、サインをしてください」

 

「判ってますよ!!!」

 

私の近くに腰掛けて私を監視しているぶっちゃんが居てはそんなことも出来ない。私は今は何も出来ない事のくやしさと魔界で同じように今の環境を見ているさっちゃんが何とかしてくれることを願って、恐々と机の上に山のように積まれている書類に手を伸ばすのだった

 

 

 

 

~~魔界~~

 

真の蠅の王

 

今日は珍しく古い友人が訪ねてきた。今は人間界で自分の娘を賭けに使っているというまぁある意味とんでもない事をしているのだが……何か考えがあるのだろう

 

「うおおおお……聞いてくれえ!ベルゼ・ビュート」

 

しかしそう思うのだが、今我の目の前で酒を掴んで呻いている姿を見ると何を考えているのか全く判らない。

 

「呑みすぎだ戯け」

 

我だって暇ではないのだ。主に私の分霊の1つが俺こそが真の蠅の王だとか言って暴走している件で悩んでいる。どうしてあんな風になってしまったのか判らない、確かに魔界で隠遁していた我が悪いのだが、まさか分霊如きがあそこまで力をつけるとは思ってなかった。とは言え我の能力とは似ても似つかない自分の分身を増やすだけの弱い能力なのだが、いかんせん数が多いので補足しきれていないのだ。アシュタロスの手の中から杯を奪う

 

「それでどうしたと言うのだ?」

 

過激派魔族のことで悩んでいるのか?かと言っても我はさっちゃんの命令で宮殿から出ることも出来ない。もし出る事が出来るなら、我自ら人間界に赴き、分不相応な野望を持った我が分霊を始末する所だ。それを知っているアシュタロスが尋ねて来たので何か問題があったのかもしれない、もしそうなら我の軍勢を貸し与えることも考えても良いと思っていたのだが、アシュタロスがここに来たのは我の予想を超えるくだらない内容だった

 

「私の未来の息子がどんどん女の子を落としているんだ!このままだと娘がどんどん不利になるぅ!」

 

「よし帰れ!」

 

机の上に突っ伏している馬鹿を屋敷の外に蹴りだそうとするが、酔っているとは思えないほどの素早い動きで椅子から立ち上がり

 

「話を!話を聞いてくれえ!」

 

「我は忙しいんだ!貴様の馬鹿な話に付き合っていられるかあ!」

 

我の足にしがみ付いているアシュタロスを引き離そうとするのだが、全く離れる気配が無い。この馬鹿力がぁ!!!

 

「お前だって賭けてるだろう!大損してもいいのかあ!」

 

「あれは息抜きだ!金貨1枚しか賭けてない!」

 

金貨1枚を馴染みの娘と言うことで蛍に賭けてはやったが、別に当たろうが外れようが関係ない

 

「私は娘の為に何をすればいいんだぁ!教えてくれ!ベルゼ・ビュートォッ!」

 

足を離したと思ったら、今度我の腰にしがみついてきたアシュタロス。目からは涙、鼻からは鼻水とみっともないことこの上ない顔をしている。しかも汚い、なんとか振りほどいてアシュタロスに指を突きつけ

 

「知るかあッ!!!」

 

我に何を期待している!そもそもなんで我だ!と言うか馬鹿かこいつは!なんで我の所に来て自分の娘の事を相談する!?いやそもそもそう言うことを相談するのなら我ではなく、適任が居るだろうに!!

 

「ゴモリーの所にでも行けえ!」

 

大体我は死霊の扱いをしている魔王であり、恋愛なんて判るわけがないだろうがッ!!そう言うのはゴモリーの分担だ。人の愛情に詳しいゴモリーに聞けと叫ぶと

 

「そうか!ゴモリーか!判った!」

 

酒のボトルを掴んで飛び出していくアシュタロス。人の宮殿をここまで荒らして謝りもせずに出て行く……我は足元に転がっている空き瓶を拾い上げて

 

「2度と来るなあ!」

 

高速で回転しながらアシュタロスの後頭部に直撃する酒瓶を見て、少しだけ気が晴れた我は再び自分の執務へと戻るのだった……

 

なおこの後優太郎はゴモリーの宮殿へと向かい

 

「なるほどなるほど、貴方の言いたい事は良く判りますよ。アスタロト」

 

「ゴモリー。私は愛する娘の為に何をすればいいんだい?横島君に薬を盛れば良いのかい?」

 

「それは違いますからね?」

 

半泣きでゴモリーにどうすれば良いのか?と言うのを相談していた

 

「その横島と言う少年の事を知りませんが、きっと彼は貴方の娘の事を思っていますよ。それにまだ動くべき時ではないと思います、今は耐える時ですよ」

 

「そ、そうかなぁ……」

 

「大体ですね。あんまり娘の恋愛に口を出してはいけません、そう言うのは嫌がられますよ」

 

適確なアドバイスを受けた優太郎はとぼとぼと人間界へと戻っていくのだった。そしてその背中を見つめているゴモリーは

 

「ふう、疲れました」

 

暴走しがちな優太郎を落ち着かせるのに疲れたと呟き、自身の引き出しからトトカルチョの紙を取り出して

 

「頑張ってくださいね。メドーサ」

 

にやりと悪い顔で笑うのだった。ゴモリーもまた横島争奪のトトカルチョに参加しており、蛍には賭けていなかった。だからこそアドバイスを適当に切り上げ、優太郎を自身の宮殿から追い出すのだった……

 

なおゴモリーが賭けているのは金貨などではなく、彼女が集めていた宝石を賭け金として使用していたりする

 

メドーサ ダイヤモンド5個とルビー2個

夜光院柩 ダイヤモンド1個

×××××× ダイヤモンド4個とサファイヤ2個

 

なお宝石と言っても、魔界の高純度の結晶体であり、人間界の物とはビー玉とボーリングの球ほどの差のある巨大な宝石だったりする……

 

 

 

さっちゃん

 

執務を終えてから引き出しからトトカルチョの紙を取り出す。つまらない執務の後のこれの確認が、今のワイの癒しやなぁ……よこっちがどうなるか?と考えるだけで楽しめる。なんせよこっちは人外キラーやからな!どんどん賭けの対象が増えて行くのが判り切っているので実に楽しみだ。でも1つだけ不満を言うのならちょっと硬直状態なのが面白くない

 

「そろそろ動きが欲しいなぁ、何か大きく動く事態があると良いんやけど」

 

沢山の魔族や神族が自身の持てる財産や金貨を賭けにつぎ込んでいる。まだまだ決着がつく気配が微塵もなく、そしてまだまだ参加者が増えている今。一気に賭け金をつぎ込むのは得策とはいえないが

 

「やっぱ自分の知り合いには賭けてまうよなあ」

 

知り合いの娘とか家族なら何とかして勝って欲しいと思うのは魔族でも同じ事だ、それに

 

「自分らの陣営に引き込みたいしなぁ」

 

現代の英雄であるよこっちはなんとかして自分達の陣営に引き込みたいと思うのは当然のこと、それなら自分の眷属や娘と結婚して欲しいと思うのは当然の事だろう。

 

「ワイだって娘がおればなあ」

 

残念なことにりっちゃんとりっちゃんの眷属の夢魔しかおらん。夢魔は1人に固執する性格ではないのでエントリー資格が無い、そう言う面ではワイは不利なんよなあ……でも娘がおったら絶対参加させてると思う、よこっちは出来ればこっちの陣営に欲しいわ。あの朗らかな性格と文殊……それに意外と交渉の技術も高いからデタントを進める立役者になってくれると思うから

 

「んー如何するかなあ」

 

きーやんならここらで何かどーんっと仕掛けろって言いそうな気がするけど、そう言うのは参加者が全部揃ってから仕掛けるものやろ

 

「ここはまだ様子見やろ。うんうん」

 

勝負を急ぐときではない、今はまだ様子見の時だ。と言いつつも、ワイは引き出しから大量の金貨の収まった皮袋を取り出し

 

「蛍と小竜姫に金貨200!まだまだいくでー!んーそやなあ!この神代琉璃って言うのも気になるで……金貨40!」

 

さっちゃんが実は今最も賭けている金額が多い魔族だったりする……

 

 

芦蛍 金貨400

小竜姫 金貨280

メドーサ 金貨300

ヒャクメ 金貨10枚

×××××× 金貨250

タマモ 金貨40枚

おキヌ 金貨80枚

×× 金貨35枚

六道冥子 金貨90枚

マリア 金貨110枚

夜光院柩 金貨15枚

シズク 金貨30枚

神代瑠璃 40枚

 

 

リポート11 平和な時間 その1へ続く

 

 




トトカルチョの途中経過ですが、まだまだ動く所ではないので短めとなります。これから登場人物が増えるに連れて話も多くなるし、参加者も増えるので楽しみにしていてください。次回の途中経過は未定になりますが、ある程度キャラが増えればいいタイミングで入れようと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート11 平和な時間
その1


どうも混沌の魔法使いです、今回は日常と言う事で小話集みたいな感じにしようと思います。最初はマスコットをメインにしていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート11 平和な時間 その1

 

蛍もおキヌちゃんも用事で来ることのない昼下がり……課題を終わらせてのんびりとTVを見ていると

 

「みーん」

 

TVの幼児向けの番組を見て、手足を動かしているチビ。これで前回りとかを覚えているんだろうなあと思っていると

 

「……お茶のむ?」

 

お盆の上に急須と2つの湯飲みを持ってリビングに入ってくるシズク。ワンピースにエプロン姿と愛らしさが凄い

 

「ん~ありがと」

 

シズクに差し出された湯飲みを受け取る。中を見ると茶柱が立っている

 

(今日は何か良いことありそうやなぁ……)

 

膝の上で丸まっているタマモを撫でながら、机の上でTVを見て踊っているチビを見ていると

 

「……横島、チビって太ってない?」

 

シズクの言葉にまさかと思ってチビの胴体を掴む。すると非常にもみ応えの良い柔らかな感触がする、なんと言うかむにむにと言う感じだ

 

「み?」

 

物凄くタプタプしている。だけど太っているようではないし……だけどこのままだと太ってしまうかもしれないなあ……飛べなくなるとかわいそうだな……チビは飛ぶのが大好きだし……

 

「んーなんか今度探してくるかなあ」

 

見た感じはハムスターに近いからくるくる回るあれでも買って来るかなあ。ちょっとチビには小さいかもしれないけど、多分大丈夫だろう。なんなら蛍にそれを元に改造してもらえば良いんだし、俺がそんな事を考えているとシズクが俺を見て

 

「……私も何か買いたい」

 

シズクはずっと同じワンピースだし、何か違う服を見てあげないと可哀想かもしれない、いろいろとお世話になっているし

 

(えーっと金はあるんだよな)

 

美神さんが振り込んでくれているので、貯金はあるからなにか買った方が良いかもしれない。もうシズクの部屋も出来ているんだし……家具とかもそれなりに必要なはず

 

「俺はそう言うの判らないから自分で選んでくれるなら良いで?」

 

本当なら選んであげるのが普通だと思うんだけど、俺にはそう言うのは無理だしな

 

「……まぁいい自分で買ってくる。だけど途中までは一緒」

 

まぁデパートに行くわけだし、一緒に出かけてもおかしくはないよな。ただ凄く不機嫌そうなのは何でだ?

 

「タマモも一緒に行こうな」

 

俺の横で丸くなって寝ているタマモに声を掛ける。ぱっと起きて擦り寄ってきて

 

「コン」

 

おきて尻尾を振っているタマモの頭を撫でる。今日は特に用事もないし、朝のうちに買い物に出かけるとしよう

 

「……新しい人間の服って言うのも興味がある」

 

無表情だけど、楽しそうと言う顔をしているシズクを連れてデパートに向かう

 

「……ほお……」

 

興味深そうにデパートを見ているシズク、こうして見ると普通の子どもなんだけどなあ……

 

「みー!みーみー!!!」

 

楽しそうに鳴いて飛んでいこうとするチビを捕まえて抱き抱える。売り物に悪戯されたら困る、美神さんにも迷惑をかけることになるので可哀想だけど、自由にさせることが出来ない

 

「みーん」

 

詰まらなそうにしているチビをしっかりと抱き抱える、ほっておくとどこに飛んで行くか判らないし……こうして抱えておこう

 

「……横島服売り場は?」

 

あーそうか、シズクを1人にすると迷子になるかもしれない

 

「しゃーない、一緒に行くか」

 

はぐれると困るし、俺はチビとタマモを抱えたまま。シズクと一緒に婦人服売り場に向かう

 

「……いらない、これもいらない」

 

シズクはかなりセンスが厳しいらしい、どれもこれもいらないいらないと言って手にも取らない

 

(あんまり高いのは困るんだけどなあ……)

 

財布には諭吉さんが2枚。そんなに高い服は困ると思って見ていると、シズクは悩んだ素振りも見せず素早く服を選んだ

 

「……これで良い」

 

チラシの品と書かれている、青と白のワンピースと緑色ジャケットとズボンを手にするシズク。2つあわせても8000円程度

 

「それで良いのか?」

 

もう少しお洒落で高いのを選ぶと思っていたのに少し予想外だ

 

「……高いものが良い服って訳じゃ無い。安くてもお洒落な物で良い」

 

ふーん、そう言うものなのか……まぁシズクが良いなら、それで良いけど……レジで会計を済ませるとシズクはその包みを抱えて

 

「……だからこれで良いの、ありがとう横島」

 

買った服を大事そうに抱えているシズク。その姿は外見相応で可愛いと思えたが

 

(わ、ワイはロリやない!!!)

 

あかん、最近シズクと一緒にいるせいか、若干ワイの正義が崩れてきているかもしれない

 

(美神さんの溢れる色気を頼るしかないなあ)

 

ロリコンになるのは嫌なので、明日にでも美神さんの傍に行こうと思う。蛍かおキヌちゃんでも良いや……ワイはロリコンじゃ無いのだから……

 

頭を抱えて悶絶している横島を見ているシズクはにやりと計算通りと言う顔をしているのだが、横島がそれに気付くことはなかったのだった……

 

「さてと今度はチビの奴やな」

 

ペットコーナーに向かいチビの運動道具を探す。ちょっと大きめのハムスターの台車ってあるのかな?

 

「これはどうやろか?」

 

目の前にあるのはハムスターの台車。これならチビの運動に丁度良いと思う

 

「……グレムリンをハムスター扱いってどうかと思う」

 

シズクはそう言ってるけど、チビは俺の肩から飛び立って

 

「みーみーみー♪」

 

目を輝かせて台車の箱をぺちぺち叩いている。かなり気に入った様で何よりだ

 

「……悪魔としてのプライドはないの?」

 

シズクがそう尋ねる。確かにチビはグレムリンだけど……もう8割くらい愛玩動物と化している。野生?なにそれ?美味しいの?状態である

 

「み?」

 

シズクの言っている言葉の意味を理解できないで首を傾げている

 

「……まぁ喜んでいるなら良いけど」

 

納得行かないという顔をしているシズク。だけどチビが喜んでいるから問題ない

 

「よーし、チビはこれなー」

 

その箱を持ち上げて籠に入れる。チビは俺の肩の上から箱の上に乗って

 

「みーん♪」

 

これは自分のだと言わんばかりに手を振っている。うんうん、気に入ってくれたみたいで何よりだ

 

「タマモはどうする?」

 

頭の上のタマモにそう尋ねる。タマモは近くの商品だなを見ているが……

 

「クウ」

 

興味ないと言わんばかりに鳴いて目を閉じる。

 

「リボンとか首輪とかいらんのか?」

 

チビにかってタマモに買わないと言うのは不公平だと思い尋ねる。目を閉じているタマモは本当に興味がなさそうだ

 

「……いらないと言ってるなら無理に買う必要はない。代わりに油揚げでも買えば良い」

 

シズクがそう言うと今まで何の興味もなさそうにしていたタマモが目を開いて

 

「コンコン」

 

早く買いに行こうと言わんばかりに前足を振る。その姿に苦笑しながら、俺は3階の食品売り場へと向かって歩き出した。周囲のおばさん達は中の良い兄妹ねえと言って微笑んでいたりするのだった

 

 

 

横島とシズクが買い物をしている頃。遠く離れた妙神山の小竜姫は深く溜息を吐く

 

「ミズチの反応がないと思ってましたが、まさか東京にいるなんて」

 

ミズチを祭る神社から反応が消えていたのは判っていた。だけどまさか東京にいるなんて思ってなかった

 

「はぁ……早く横島さんが来ないかなあ……」

 

ここまでで判っていると思うが、今の小竜姫の意識は未来の小竜姫だ。現代の小竜姫が訓練の後で休んでいるのでその隙に姿を見せたのだ。若干姿が変わっているのは未来の自分が表に出ているからだ、現代の小竜姫よりも2サイズ上の胸がその存在感を見せている。

 

「お久しぶりなの~小竜姫~」

 

えへへと笑いながら姿を見せるヒャクメ。彼女を見て溜息を吐き

 

「貴女も戻ってきていたのですね」

 

ワルキューレとは魔族と神族と言うこと出会う機会はなかったし、ヒャクメは有給であっちこっちに行っていたので全然会う機会がなかった。何時戻ってきたのですか?と尋ねると

 

「そうよ。横島さんに会いたくて~」

 

どうもヒャクメも現代のヒャクメを乗っ取る形で……私がそんな事を考えているとヒャクメは

 

「あ、私は~乗っ取ってないなの~ちゃんとゆっくり時間を掛けて対話したのよ~理解者を求めていた現代のヒャクメは簡単に落ちてくれたなの~」

 

そう笑うヒャクメ。そうまですんなり行ったのですか……私は中々上手く行かない。その理由は判っている

 

(属性が相反してますからね)

 

自分でも自覚しているけど、今の私と現代の私はそのあり方が違う。中々同化出来ない……もう少し時間を掛けないと……

 

「ふっふっふ~小竜姫に面白い物を見せてあげるなのね~」

 

鞄を手にするヒャクメ、一体何を見せてくれるのかしら?と首を傾げていると

 

「みーん♪」

 

「おーよしよし」

 

こ、これは!?思わず目を見開いて鞄の画面を覗き込む、横島さんがグレムリンの幼生とボールで遊んでいるのだが

 

「こ、これは素晴らしいですね」

 

こんなにほのぼのした光景を見たのは初めてかもしれない。と言うか出来るのなら目の前で見たい

 

「横島さんがグレムリンを飼ってるんだけど~物凄く可愛いのね!」

 

た、確かにこれは可愛い。グレムリンではなく、横島さんが!!!

 

「みー」

 

すりすりと頬を寄せるグレムリンにくすぐったそうにしている横島さん

 

「みぎー!」

 

「こらー逃げるなチビー!!」

 

ブラシを手に逃げ回るグレムリンを追いかけている横島さん

 

「よしよし」

 

「みゅー」

 

グレムリンを抱っこして寝かしつけている横島さん

 

「横島さんは凄く面倒見が良いのは知ってるけど、小さい動物にも優しいのね」

 

蛍さんを溺愛していたのは知ってるけど、動物でもこんなに優しい顔をするなんて知らなかった

 

「クーン」

 

そして画面に映る九尾の狐。タマモさんだ……8本目まで尾を取り戻しているのでかなりの力を取り戻しているようだが

 

「クウクウ」

 

大妖怪であるプライドなんて無いようで、完全に子狐でペット同然になっている

 

「横島さんって偶にすごいですよね」

 

「私もそう思うなのね」

 

私とヒャクメの呆れたような言葉が重なる。横島さんの優しさは理解していたけど、あの気の難しい九尾の狐があんなにも懐いているなんて本当に驚く

 

「横島さんらしいのね~」

 

そう笑うヒャクメ。本当に横島さんらしい、そしてそれと同時に

 

「早く会いたいですね」

 

「そうなのね……」

 

老師から会いに行くのは禁止されている。私が表に出ている時間はとても短い。その短い時間をずっと横島さんの事を考えている

 

(もう少し、もう少しなんですよね)

 

私の記憶ではもう少ししたら会える。今会うのは私ではないけれど、それでも私に違いない

 

(会えば今の私も理解できるはず)

 

横島さんの中に隠された才能とその膨大な霊力を……彼を戦わせるのは辛い、だけど自分の元で強くなっていく弟子を見るのは何よりも喜びになる

 

(ああ。早く会いたいです)

 

神族にとって時間を気にすることはない、永劫に近い時間を生きる事が出来る。態々時間を気にする神なんてほとんどいない、だけど私は今は時間が気になって気になって仕方ない。早く横島さんに会いたい、日に日に増して行く会いたいと言う気持ちが強くなる

 

(待ってますよ、横島さん、また会える時を……)

 

現代の私が目覚めていくのが判る。名残惜しいけど……今はここまでのようだ。深い闇に沈んでいく感覚の中……

 

(早く会いたいなあ……)

 

横島さんと会えたらどんな話をしようか?私はそんな事ばかりを考えて眠りに落ちるのだった……ヒャクメは現代の小竜姫に会うわけには行かないと、その場を後にした。恐るべし生存本能である

 

「んん?疲れているのかもしれないですね」

 

日課の修練を終えて少しお茶を飲みながら休憩をしていたはずなのに、気がついたら眠りに落ちていたようで苦笑していると

 

「は!?こ、これは?」

 

机の上の横島の写真を見つける小竜姫。普段ならヒャクメを怒るような物だが……小竜姫は何かを考える素振りを見せてから

 

「さっ」

 

その写真を懐に隠し。その場を後にした。どうも現代の小竜姫にも未来の小竜姫の影響がしっかりとでていた。それを見た老師は

 

「小竜姫にも賭けるかのう……」

 

自分の弟子に更に賭けの資金を上乗せさせるのだった……

 

 

 

 

今日私は横島に会いに行きたいのを我慢して、お父さんのビルで調べ物をしていた。

 

(えーと夜光院柩)

 

私の知らないGSの名前をデータベースで調べる。すると2人のGSがヒットした、1人は探していた柩。そしてもう1人は

 

(神宮寺くえす……)

 

A-ランクのGS。だが表舞台には立っていない、それもそのはず

 

(暗殺・呪殺・破壊工作特化のGS!?)

 

対妖怪ではなく、対人間に特化したGS。しかもその性格は極めて凶暴……柩と同様。GS協会には属しているが基本的にはフリーランス

 

「お父さん。かなり記憶と違う」

 

夜光院柩にしても神宮寺くえすにしても、私はそんなGSを知らない。

 

「ふむ。確かに私も知らない、一体どうしてこんな事に?」

 

存在しないはずのAランクとBランクGS。しかも片方は要注意人物としてリストアップされている。

 

「これも平行世界の影響なのかしら」

 

逆行ではなく並行世界への移動、今回の事で間違いないと確信した

 

「まぁそんなに気にする事もないと思うけどね」

 

お父さんがそう笑う。確かにそう気にする事もないと思うんだけど

 

「なんか凄く嫌な予感がするの」

 

判らないけど、むかむかと嫌な予感がする。敵が増えるような気がしてならないのだ

 

(うーん、警戒しておきましょう。特にこの神宮寺くえすを……)

 

仕事の記録を見る限り。それほど大した事件を解決しているようには思えない、だけど写真の顔を見て

 

(まともな人間じゃ無いのは判る)

 

色素の抜け落ちた髪。これは間違いなく高密度の魔力を身体に取り込んだ影響だろう

 

光のない薄い紫の瞳。これは間違いなく人を殺した目……

 

「お父さん、少し出かけてくる。GS協会に」

 

神代琉璃さんを助けた私達はアポイトメントなしで話に行ける。これは琉璃さんに聞いたほうが良い

 

「……そうだね。そのほうが良いかもしれない」

 

お父さんも神宮寺くえすの写真を見て引き攣った顔をしている。私でも判ったのだからお父さんも気付いたのだろう、神宮寺くえすがその身に宿す闇を……私は急いで階段を駆け下りバイクでGS協会へと向かったのだった……

 

 

 

蛍がGS協会へ向かった頃。東京の外れにある非合法のGSギルドでは

 

「くひひ、待たせたかい?くえす」

 

少し手間取って待たせてしまったくえすにそう尋ねる。胸を強調する黒いドレス姿のくえすの足元には

 

「あが……」

 

「ぐぎゃあ」

 

くえすの魔法によって精神を焼き尽くされたであろう馬鹿な男が2人転がっていた。恐らく再起不能だが、まぁボクに何の関係もないので無視する

 

「私は忙しいの。判りますか?その私の時間を浪費させた事をまず謝りなさい」

 

ギロリと鋭い目付きで睨んでくるくえす。ボクが持っている稀少な魔導書がなければきっとここにも来てくれなかっただろうと思いながら

 

「くひひ、悪いね。探してたんだよ」

 

書斎から持ち出した禁書と呼ばれる魔導書を2冊置く。くえすはそれを手にして暫くしてから

 

「なるほど確かに本物。それで?私に頼みたい事とは?暗殺ですか?」

 

にやりと邪悪な笑みを浮かべるくえす、暗殺・呪殺専門の対人に特化したGS。それが神宮寺くえすと言うGSだ……だが彼女が望んでいるのは只1つ。全ての魔法を極めようとする純然たる知識欲。だが魔法とはすなわち、魔族の術。長い年月の間にくえすを歪め、その性格を変えて行った。今はその美貌に近寄ってくる馬鹿を焼き尽くし、骸の上で笑う狂人。ボクの見た未来では魔族に魂を売り渡し、魔族と化してもなお、魔法を極めようとしていた

 

(だけど今その未来が揺らいでる)

 

何でか判らないが、その未来が見えなくなった。いや、歴史の分岐点とでも言えば良いのだろうか?そこをきっかけにくえすは変われるかも知れない、そう思えば貴重な文献も惜しくはない

 

「殺しなんて必要ないよ、ボクの頼みは1つだけ……次のGS試験で魔族が動く、多分神代琉璃から依頼が来ると思う、だからその依頼を引き受けてくれれば良い」

 

そこでくえすは横島忠夫に会う。それが彼女の人生を変える大きな分岐点だ

 

「はぁ?それだけでよろしいの?まぁ良いですけど……ではその依頼お受けしますわ、ではこれは頂いていきますわ」

 

価値にすれば1千万を越える魔導書を2冊。A-ランクのGSを雇うには相応しい額だ。それにどうせボクは魔法を使えないしね……髪をかきあげて去って行く、くえすの背中に

 

「くえす?もし君が恋をするとしたらどんな人だい?」

 

くえすは振り返り冷徹な光を宿した目でボクを見て

 

「興味ありませんわ、私が求めるのは至高の知性。それ以外ありえませんわ」

 

そう言って不機嫌そうに歩き去っていくくえす、こういう話題は嫌いだからな

 

「マスター。迷惑かけたね」

 

「いやいや。構わんよ、馬鹿が2人いただけだ」

 

そう笑うマスターに小さく礼を言ってギルドを後にする。きっとあの馬鹿2人は裏のネットワークで完全に存在しなかった事にされるのだろう。まぁこの店を利用している以上碌な人間ではないので気にすることもないだろう

 

(くえす……君も見てみると良い、底抜けの優しい馬鹿を……)

 

未来を変える横島忠夫。彼とくえすが出会い、そして彼が正しい選択をすればくえすは光に戻れるかもしれない

 

(ボクの期待を裏切らないでくれよ。横島忠夫)

 

初めてボクの未来予知を超えた結果を出した男。それが横島忠夫……きっと今回も変えてくれるに違いない、ボクはそんな淡い期待を胸に抱き自分の事務所へと戻っていくのだった……

 

 

リポート11 平和な時間 その2へ続く

 

 




次回は学校のくだりを書いて見ようと思います。当然チビタマコンビも一緒です。チビ・横島・タマモは3人セットの方が動かしやすいので、これからもそんな感じで動かして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は学校の話をやっていこうと思います。まぁあれですね「青春の机」のフラグの様な物を立てておきます。その後は「クリスマスの話」に入って行こうと思います。夏ですけどね、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート11 平和な時間 その2

 

冬休みに入る前の最後の登校日。荷物なんて殆どないので鞄を置いていこうと思ったのだが

 

「コーン」

 

いつの間にか鞄の中に潜り込んで顔を出しているタマモ。そしてその後ろから

 

「みー!みー!!」

 

昨日買った台車をずりずりと押してきて、俺の目の前の台車の前で両手を振って

 

「みーん♪」

 

物凄く嬉しそうに鳴いているチビ、これは連れて行かないと駄目そうだ

 

「しゃーないなー」

 

まぁ昼で終わるんだし良いか、と割り切り台車を鞄の中に入れて、ついでにチビも摘んで鞄の中に入れて鞄を背負う

 

「横島。寄り道しないですぐ帰ってくるのよ?」

 

久しぶりに家にいる蛍に判っていると頷く

 

「判ってるって」

 

クリスマスが近いからクリスマスプレゼントや準備の事もある。それに仲の良い友人っと言えるやつもいないし、寄り道する理由はない

 

「……大丈夫。私が迎えに行く」

 

シズクがエプロンで手を拭きながら姿を見せる。寒いほうが調子が出るそうなので半袖で見ているこっちが寒い

 

「「いや。止めてくれ」」

 

俺と蛍が同時に言う。半袖ミニスカートのシズクが学校に来ると何を言われるか判らない

 

「……じゃあお昼を作ってる」

 

ぼそっと呟いてキッチンに戻っていくシズク。悪いことをしたかな?と思ってみていると

 

「あんまり気にしないで良いわ。シズクはあれはあれで強かだから何か企んでいたかもしれないわよ?」

 

そう言われるとますます怖い。俺は鞄を担ぎ

 

「じゃあ行ってくる。あんまり喧嘩とかしないでくれよ」

 

部屋とか水浸しになるからなと付け加え、俺は家を後にしたのだった……なお残されたシズクと蛍は

 

「「……」」

 

互いに互いを睨みあうか、監視するというとんでもなく重い空気を作っていた

 

「……さて、何を思って横島に近づく、魔族」

 

「さぁ?答えるとおもう?蛇」

 

横島がいたら号泣して逃げ出すような殺伐とした空気がそこにはあった……

 

「うーす」

 

「みーん」

 

「ココーン」

 

鞄から顔を出して鳴声を上げるチビとタマモ。

 

「おーう。横島おはよーさん、相変わらず動物には好かれるな」

 

友人Aの言葉にまぁなと返事を返し自分の机に座る

 

「みっみ」

 

もぞもぞと鞄から這い出してくるチビ。タマモは寒いのか俺の膝の上で丸くなっている。どうもチビは寒さには強いようだ

 

「みーむ!」

 

シャーペンを手にぶんぶんっと振っているチャンバラのつもりなのだろうか?

 

「それじゃあーSHRを始めるぞー」

 

教師が入って来たので机の上のチビを鞄に戻す

 

「みーん♪」

 

鞄からひょっこっと顔を出しているチビを見ていると

 

「横島。お前は終業式に参加しなくて良い」

 

なんか嫌な予感がする……これも霊感って奴か……

 

「せんせーなんで横島だけ?」

 

「それはな……横島、備品倉庫の掃除だ。公休を使ってるんだ、それくらいやれ」

 

くう……まさかこんな所でGSのアルバイトの影響があるなんて……体育館に行く同級生に見送られ、頭の上にタマモを乗せたまま備品倉庫に向かったのだった……

 

 

モグラの妖怪との一件のレポートをGS協会に提出する為に私は朝からGS協会に足を運んでいた。元々調査の依頼なんで報酬は少な目の100万だったが

 

(まぁ良いか)

 

横島君の精神的な成長のことを考えれば、それで良い。横島君の妖使いの才能は私の考えているのよりも遥かに上だったわけだ……今後はそう言う才能を伸ばす方向でも良いかもしれない

 

(さーて早く報酬を貰ってゆっくりしましょう)

 

クリスマスも近いし、依頼は受けないで皆で遊ぶのも良いかも?と思っていると

 

「だから早く神代琉璃に繋ぎなさいと言っているのです。この無能」

 

受付の係員を脅している黒いドレスの少女……その手にはどす黒い漆黒の魔力が込められているのが、この距離でも判る。私は溜息を吐きながら

 

「何してるのよ、神宮寺くえす」

 

GSの中では禁忌とまで言われてる彼女の腕を掴む、その腕は細いが信じられない力が込められているのが触れている所から判る……なんで私がこんな事をと思うが、ここで廃人が増えるのを見過ごすことも出来なかった。なんと言うか横島君とかといるようになってから自分が少し甘くなっているような気がする。

 

「誰に断って私に触れているのですか?貴方から消し飛ばしますか?美神令子」

 

どんよりとした目で私を睨み返す神宮寺くえす。私も睨み返しながら

 

「こんな所で馬鹿やってるんじゃないわよ。私も琉璃の所に行くから来なさい」

 

このままおいて行くと受付が死にかねない。今も霊力に当てられて青い顔をしている

 

「ふん、まぁ良いですわ。こんなくだらない用事はさっさと終わらせたいですから」

 

そう言ってドレスのスカートを翻しエレベーターに向かっていくくえす、私は受付に

 

「怖かったわね、少し休むと良いわ」

 

青い顔をしている若い職員にそう声をかけ、くえすの後を追いかけたのだった。

 

「確かに、それでは報酬の方を1階で受け取ってください」

 

琉璃にレポートを渡し、報酬を受領するためのカードを受け取る。これで私の用事は終わりだけど

 

「用が済んだらさっさと帰ったらどうです?」

 

私を見ているくえす。その目には苛立ちが見える……本当に短気ね。もう少し心に余裕が持てないのかしら?

 

「悪いのですが、美神さんには個人的な用事があるので、残って頂きます」

 

琉璃の言葉に整った顔を歪めるくえす。そのままソファーから立ち上がり

 

「早くGS免許を、今日はそれだけのために来たのですから」

 

資格停止処分を受けたって言うのは本当だったんだ、まぁ魔術使いだから色々あくどい事をしてるだろうし、当然かもしれない

 

「条件は今度私が出す依頼を無条件かつ無報酬で引き受ける事、それと合法・非合法関係なしに私が依頼を出すまでGSとしての活動をしないこと……判りましたね?」

 

「判っていますわ」

 

どうして私がと言う顔をしているくえすの前におかれた契約書。それは特別な呪術処理をされた契約書

 

「ずいぶんと念入りな事で」

 

「自分の今までの行動を考えてみたら?」

 

にらみ合うくえすと琉璃だったが、くえすは素早く羽ペンでサインして

 

「これでよろしいんでしょう?それでは御機嫌よう」

 

もう用はない、私の姿も琉璃の姿もその目に入れる事無く、くえすは琉璃の部屋を後にした。扉の外から感じる魔力から転移魔法か何かで自分の家へと転移したのだろう。あの若さで凄まじい才能だとは思うが、相変わらず性格が最低だ

 

「あんなのにGS免許を出して良いの?」

 

私的には永久的に剥奪していれば良いのにと思いながら尋ねる。前に1度だけ仕事を一緒にしたが、人質ごと悪霊を焼き尽くしたその姿を見て、こいつは危険だと思っていた

 

「念のためです。ところでクリスマスパーティの準備のほうは?」

 

GS協会長神代琉璃ではなく、私の友人としての神代琉璃が姿を見せる。私はにっこりと笑いながら

 

「そうですか!楽しみですね」

 

ニコニコと笑う琉璃。ここ数年封印されていたのだから楽しい事なんて無かっただろうし、折角だから誘う事にしたのだ

 

「あー本当に楽しみ!それじゃあ美神さん。明日よろしくお願いしますね」

 

任せておいてと返事を返し部屋を後にする。琉璃がくえすに免許の再発行をした……

 

(なにかきな臭いわね)

 

くえす程の危険人物をGSとして復帰させる、これは何かあるかもしれない

 

(一応道具を揃えておきますか)

 

くえすを復帰させたのだからきっと私にも声が掛かるだろうと判断し、道具を買い足す事を決めながら私はGS協会を後にしたのだった……

 

 

私はずっとこの場所でその時を待っていた、何時だったか忘れたが、私は私の記憶を取り戻した。神隠しを繰り返していた机妖怪「愛子」ではなく、横島除霊事務所職員「愛子」としての記憶を……

 

(まだかなあ……)

 

それを思い出してからは人を攫うのは止めた。無論最低限の人数は残しているが、解放できる人間は解放した。私は只待っているだけ

 

(片思いの相手を待つのも青春よね!)

 

なんで今ここにいるのか?とかそう言うのはどうでも良い。また横島君に会える、美神さんの物になってしまう前の……

 

(楽しみだな)

 

妖怪だからと勝手に負い目を感じて何もしなかった。だけどこうして戻って来れたのだから、もう1度関係をやり直す事だって出来る。

 

(はあー結構長いのね)

 

自分の中の学校世界で時間を潰しているが、まだまだその時が来ない。学校世界もそれはそれで面白いのだが、横島君と過ごした日々の方が面白いからどうしても物足りなさを感じている

 

「うっわあ、汚れてるなあ」

 

この声は!?思わず机から具現化しかけるが、それを耐えて目だけを具現化させて見ると横島君が頭の上にタマモちゃんを乗せていた。

 

(どうして?)

 

どうして今タマモちゃんと一緒なのかが気になったが、こうして会えた……今のうちに飲み込んで……

 

(いやいや、駄目よ愛子)

 

欲望に任せて行動すると碌な事にならない。だからここは大人しく見ているだけにしよう……そんな事を考えていると

 

「よいしょ」

 

私の上にハムスターの台車をおく横島君。何でこんな物を持っているんだろうか?と思ってみていると

 

「みみー!」

 

ハムスターよりも少し大きい何かが私の上に乗って、トチトチと台車にのって

 

「み~~~~~♪」

 

楽しそうに鳴きながらぐるぐると回り始める。え、えーとこれはどういうことなの?何が起きているの?横島君が妖怪に好かれるのは知ってるけど、なにこのハムスター(?)は

 

「みーみーん」

 

楽しそうに鳴いて台車をぐるぐる回しているハムスター(?)

 

「さーてじゃあ掃除をするかあ」

 

はたきを手に備品倉庫の片づけを始める横島君。す、隙だらけね……今なら飲み込めるかも……

 

(は!?)

 

私を見つめている視線に気付く、そちらのほうを見ると

 

(た、タマモちゃん!?)

 

じーっとタマモちゃんが私を見ている。いやハムスター?を見ているのかな?と思っていると

 

(今飲み込もうとしたわよね?愛子?)

 

頭に響く声、いけない……私だと気付いてる……

 

(な、何の事かなぁ)

 

私だと気付いているので念話で返事を返す。タマモちゃんはふーんっと興味なさそうな声で返事を返す

 

(飲み込んでたら燃やしてあげたのに)

 

その尾に青黒い炎を灯しているタマモちゃん。あ、危ない所だった……もし飲み込んでいたら横島君に会う前に死んでいた……

 

(まぁ監視はするけどね。変なことをしたら燃やすわよ)

 

尾を立てて私を警戒しているタマモちゃん。うう……見ていることしか出来ないのかあ……いやそれでも良いと自分を励ます

 

「うーし、こんな感じかな」

 

2時間きっちり備品倉庫を片付ける横島君。け、結局ずっと見ているだけだった……

 

(はぁ……結局何も出来なかったなあ……)

 

溜息を吐きながら出て行こうとする横島君を見ていると

 

「よーし、チビ帰る用意しようかあ?」

 

鞄に台車をしまい、ハムスターを摘みあげる横島君。あーあ……見ることが出来ただけかあ……小さく溜息を吐いていると

 

「ん?あ、ああそうやな。この机も掃除しないとな」

 

(う、うええ!?)

 

えっえ!?私の事!?雑巾を絞っている横島君

 

(や、やややや!!駄目駄目!!駄目だからぁ)

 

当然だが私の言葉は横島君には届かない。タマモちゃんが目を伏せて

 

(ご愁傷様。骨は捨てていくわ)

 

慈悲も何一つない言葉。もしかするとタマモちゃんも被害者なのかも?しかし私も今まさに被害者になろうとしている。近づいてくる横島君が物凄く怖い

 

「よーし♪」

 

鼻歌を歌いながら雑巾を手に私に手を伸ばす横島君。この机は私自身だから

 

(ひひゃあああああ!!!!)

 

想い人の少年に身体を磨かれると言うなんとも言いがたい。羞恥心と何とも言えない高揚感を感じながら

 

(こ、声を出したら駄目ええええ)

 

口を両手で押さえて必死に耐える。私の目の前では

 

(ご愁傷様)

 

哀れと言わんばかりの顔をしているタマモちゃん。私はその視線に必死に耐えるのだった……

 

「さーて帰るかあ」

 

タマモとチビを頭の上と肩の上に乗せた横島が備品倉庫を出て行った後

 

「あ、あひ……あはぁ」

 

机の上でぐったりとする古いセーラー服を着込んだ黒髪の少女の姿が備品倉庫に現れたのだった……

 

 

備品倉庫の掃除を終えてから家に帰ると

 

「……おかえり」

 

玄関掃除をしていたシズクに出迎えられる

 

「ただいま」

 

おかえりと言われるのは嬉しいなあと思い家の中に入ると

 

「おかえり。横島」

 

笑顔の蛍に出迎えられる。俺は鞄をリビングの机の上に置いて

 

「何を作ってるんや?」

 

良い香りがするので何を作っているんだ?と尋ねると蛍はお玉を手に笑顔で

 

「クリームシチューよ。横島は好き?」

 

「俺は何でも好きやで」

 

嫌いな物は殆どない、それに最近和食続きだったから洋食って言うのは嬉しいなあ、手を洗って鞄から台車を机の上に置くと

 

「み!」

 

チビが直ぐ机の上に上って遊び始める。よっぽどあの台車が気に入ってるんだなあと思いながら机の上の雑誌に手を伸ばす

 

(クリスマスに何を買うかなあ)

 

蛍とシズクのプレゼント。それにチビとタマモのプレゼント……色々と入用だなあ

 

(だけど喜んで欲しいしなぁ)

 

その為なら、少し多めに金を使わないとなぁ……お世話になっている美神さんにも何かを買わないとなぁ……

 

(でもおキヌちゃんには何を買えば良いんだろう?)

 

幽霊のおキヌちゃんに何を買えば良いのか判らない。うーん幽霊だからなあ……

 

(厄珍堂に相談するかな)

 

蛍や美神さんには相談できない。自分からおキヌちゃんへのクリスマスプレゼントなのだから、蛍と美神さんには聞けない……俺は雑誌と財布の中身を考えながら何を買うのか必死に考えるのだった……

 

なお横島がおキヌへのプレゼントをどうするか悩んでいる頃。おキヌはと言うと

 

【えへへ。今度は前より張り切っちゃいます♪】

 

逆行してきた事で前よりも編み物の腕が上がっていたおキヌはマフラーだけではなく、セーター、手袋をセットで編んでいた

 

【横島さん喜んでくれるかなぁ♪】

 

うっとりとした顔で編み物を続けるおキヌは、仕上げの段階で自分と横島のイニシャルを入れるかどうか?をとても幸せそうな顔で悩んでいるのだった

 

リポート11 平和な時間 その3へ続く

 

 




次回は原作3巻の「おキヌちゃんのクリスマス」の話に入って行こうと思います。この後は「極楽愚連隊西へ」の話に入って行こうと思います。これもかなりのオリジナルの色を入れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は「おキヌちゃんのクリスマス」に+αを加えてやってみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート11 平和な時間 その3

 

色々と考えておキヌちゃんとタマモへのプレゼントを買いに厄珍に相談する事にしたと蛍に言うと

 

「じゃあ私からアドバイス。織姫を紹介されたら気をつけて」

 

織姫?ん?どういうことだ……なんか名前からすると凄い美人そうだが……

 

「霊糸を編む事が出来る一族なんだけど、まぁ人間に見られないと機織から解放されないらしいのよ」

 

ふむふむ……それでなんなんのだろうか?なぜ気をつけなければならないのだろうか?と首を傾げていると

 

「まぁ多分今は凄いおばあさんなんだと思うから、絶対に顔を見ないで織物だけ貰うと良いわ。顔を見ると付き纏われるから」

 

おおお、これは良い話を聞いた。絶対に気をつけないと

 

「……気をつけていくと良いの。はい、これお弁当」

 

差し出されたおにぎりの包み。本当にシズクは気が利くなあ

 

「ありがとな。クリスマスパーティの始まる前には帰るから」

 

チビもタマモも留守番をさせる。危険な事になったら困るから家に置いていく

 

「うーす、厄珍。ちょっと頼みたい事があるんだが」

 

厄珍堂に向かい厄珍にクリスマスプレゼントを頼みたいというと

 

「ふむふむ幽霊にプレゼントアルか!それなら良い物がアルよ!」

 

任せておけと言わんばかりに差し出されたのは長方形の

 

「超高級のお線香!「舐めとんのか!己は!!」アイだぁ!?」

 

厄珍にチョップを叩き込む、いくらなんでもお線香なんて買えるわけがない

 

「幽霊にも着せてあげる事が出来る服とかないのか?チビとタマモにも服とかさ」

 

織姫の事を言うことは出来ないのでそう尋ねると

 

「エクトプラズムを加工した服を作ってくれる知り合いがいるアルよ。幽霊は基本的に死んだときの格好だから喜ぶアルよ」

 

あーこれが織姫って事だな。蛍に聞いておいて良かった

 

「ただし1着数百万はするあるよ、だからお使いに行って来てくれたら上げるアル」

 

にやにやと笑う厄珍から地図とその場所に行くための道具を借りる

 

「結構ごついなあ」

 

ジャンバーにナップザック……かなりの量の道具が見える

 

「ただし絶対に顔を見てはいけないアルよ。小さい窓から商品を受け取るアル。絶対に顔を見てはいけないアルよ」

 

邪悪な顔をしている厄珍。俺が女好きなのを知ってるから絶対に顔を見ると思ってるんだろうなあ

 

「はいはい、わあーてる!」

 

蛍から聞いてるから顔なんて見る気ねーよと心の中でベロを出す。厄珍から受け取った地図を見て

 

「しゃっ!行くか!!」

 

蛍と美神さんへは安物だけど、ブレスレットとペンダントを買って来た。それなりに綺麗な物を選んだつもりだ。きっと気に入ってくれると思う

 

「さぁここからが本番だな」

 

シズクとタマモとおキヌちゃんとチビへのプレゼントを手にする為に。俺は織姫が待つと言う山へと向かうのだった……

 

 

 

美神さんの主催のクリスマスパーティに向かう途中で

 

「なにか買って行かないとね」

 

招待されているのに何も買わないで行くのは失礼だと思い、近くの洋酒専門店に足を向ける

 

「ふむ。たまには一杯良いかの?マリア?」

 

「あまり・強くないので・気をつけて・ください。ドクター・カオス」

 

大柄な老人と無表情の女性。今の女性の口から聞こえたドクターカオスの名前

 

(本当に日本にいたのね)

 

最近ドクターカオスの名前で売り出されている除霊具。大半が偽者だが、最近売り上げが上がっている除霊具は値段もそこそこで性能が良いと評判になっている

 

(本当なら挨拶する所だけど……)

 

GS協会長として挨拶する所だけど、勝手に連れて行くと美神さんも迷惑がるかな?と思っていると

 

「ほほう?これは珍しい……GS協会長神代琉璃じゃな?ワシはドクターカオス。カオスと呼んでくれれば良い、よろしくのう」

 

にっこりと笑うドクターカオス。私は持っていたワインの瓶を棚に戻し

 

「神代琉璃です。錬金術師と名高いドクターカオスに会えるとは光栄です」

 

差し出された手を握り返す。ドクターカオスはうむうむと頷き

 

「今度必要ならば声をかけておくれ、生きるのに金は必要じゃからのう……美神の知り合いと言うことで割引して売ってやるぞ」

 

そう笑って私の手に電話番号の書いたメモを押し付け

 

「ゆくぞ、マリア」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

マリアと呼ばれた女性が私の前を通りかけた瞬間。凄まじい目で見られた気がした

 

(え、え!?なんで私睨まれたの!?)

 

顔こそは無表情だが、その目は明らかに敵意を剥き出しにして私を睨んでいた。なんで?と私が混乱している間にドクターカオスとマリアは店を後にした

 

「私何かした?」

 

睨まれた理由の判らない私は何か気に触ることをしたのだろうか?と考えるが結局判らない

 

「うーん、後で美神さんに聞いてみよう」

 

今日初めて会ったので当然判るわけもなく、私はウィスキーとワインを2本ずつ購入し、店を後にした

 

「今嫉妬したな?マリア、神代琉璃に?」

 

帰り途中ドクターカオスは上機嫌だった、マリアが琉璃を睨んだ理由、それは嫉妬だ。生身の身体を持たないマリアにとって琉璃や蛍の存在はあまりに羨ましい物だった。なまじ魂が人間と同じだからこその苦しみ

 

「……イエス・ドクターカオス」

 

若干声のトーンが低いマリアにカオスは穏やかに微笑み

 

「もう少しだけ、もう少しだけ待っておくれ。我が娘……あと少しなんだ」

 

「……はい・待ちます・ドクターカオス」

 

その言葉に込められた重さを理解したマリアは小さく頷く、その後はカオスもマリアも無言で借りているマンションへと向かうのだった……

 

「遅れてすいません、美神さん」

 

「いらっしゃい、琉璃」

 

美神さんに出迎えられマンションの中に入る。そこで私を出迎えたのは

 

「みみみみみみみみみみみーーーーーッ!!!!!!!!」

 

物凄い勢いでハムスターの台車を回しているグレムリンだった……なんか見たような気もするけど、あの時はギリギリだったからうろ覚えだったけど……確かに見たような気がしなくもない

 

「えっと……え?」

 

予想外の事態に動揺していると蛍ちゃんが

 

「横島がいないからまだ始まってないんですよ。パーテイ」

 

そう言われるといるはずの横島君の姿がない

 

「どこへ?」

 

いると思っていたのにと思い蛍ちゃんに尋ねると美神さんが

 

「厄珍のお使い、もう少しで帰るんじゃない?」

 

暇そうにしている美神さん。招待状では1時間前が待ち合わせ時間なのに……

 

「……探してくる」

 

ぼそりと聞こえた声に振り返ると冬場なのに半袖ミニスカートの少女がいた、だけど……判る。彼女は人間じゃ無いと

 

「……ミズチのシズク。横島に世話になっている」

 

ミズチ!?なんで水神で龍神が人間の家で!?

 

「なんか横島君を気に入ったんだって」

 

なんでそんなのほほんっと言えるんだろう?これは結構な一大事だと思うけど

 

【そうですね。ちょっと心配になってきたんで見に行きましょうか?】

 

ゆ、幽霊までいる……美神さんってかなり凄いのねっと思っていると

 

「みぎゃ!」

 

台車から飛び出したグレムリンが柱に追突して目を回している

 

「ぷっ!」

 

なにこれ、面白い……肩の力が抜けていくのが判る

 

「まぁもう少しで来ると思うから待ってましょ?トランプでもしませんか?」

 

蛍ちゃんに言われて確かに暇つぶしには良いかと座り込んで

 

「クウ?」

 

寝ていた九尾の狐と目が合う……飼い猫ならぬ飼い狐なのか、首のリボンが愛らしいが……やはりペットとか、家族として存在して良い相手ではない

 

(美神さんって凄い)

 

同年代だけど、幽霊・グレムリン・九尾の狐と普通にいるようなGSはどこにもいないと苦笑しながら、配られたトランプを手にするのだった

 

「みみみみみみみみみみみみみーーーーーーーッ!!!!!」

 

目を覚ましたグレムリンがまた凄まじい勢いで台車を回し始めるのを見て、また思わず笑ってしまうのだった……

 

 

 

織姫の所で大量のエクトプラズムの服を受け取り、更にこんな服を作って欲しいという要望を書いた紙を渡し、チビとタマモのプレゼントも入手した俺は直ぐに山を降りた。扉を開けて!とか聞こえたけどガン無視だ

 

(さーて急いで帰らんとなぁ)

 

まだ時間的な余裕はあるけど、待たせると悪いと思い早足で厄珍の所に向かっていると

 

(うおおおお!?なんて!なんて!!!美少女なんやあ!?)

 

流れるような銀髪にそれを引き立てるかのような黒いドレス。そして完璧なプロポーション

 

「おっじょうさぁん!僕とお茶しませんか!」

 

鞄に荷物を詰め込んでその超が着く美少女に飛びかかった瞬間

 

「死になさいな」

 

無造作に向けられた手の平から飛び出した漆黒の炎。飛び掛っていたせいか直撃で貰ってしまう

 

「ふっぎゃあああああ!?」

 

目の前を漆黒の炎が埋め尽くした……あまりの痛みにその場で蹲る。熱くはないのになんだこの痛みは……

 

「……」

 

俺を見下ろして去っていこうとする美少女。だが俺にはやるべき事がある

 

「ちょっ、ちょっと待ってええ」

 

震える足に活を入れて呼び止める。幸い荷物は無事のような一安心だ

 

「な、なぁ!?な、なぜ動けるんですの!?」

 

なんでやねん、なんで動いたらあかんねん

 

「そりゃ生きてるから動くやろ?」

 

ちょっと痛いけど大丈夫。炎だったから多分タマモのお守りが効いたんだと思う

 

「あ、ありえませんわ……魔界の炎を受けて平気なんて」

 

なんか青い顔をしてぶつぶつ呟いているけど、なんのことだか俺には判らん、ポケットに手を突っ込み目的の物を取り出す

 

「なんですの?」

 

怪訝そうな顔をしている美少女。だけどなんか俺には泣いてる様に見えた……

 

「なにってハンカチ。泣いてるように見えたから」

 

肩を竦めて後ずさる美少女。なんやねん……ワイが何をしたって言うんや……しかもきっちりハンカチは手にしてるし

 

「何を根拠に言っているのですか?」

 

俺を睨む美少女。その鋭い眼光のせいか思わず背筋が伸びる

 

「ん~そう思ったからかな?」

 

なんか判らないが、この子が泣いているように見えた。だから俺はハンカチを差し出したが、こうして見ると泣いていたようには見えない。俺の気のせいやったんかなあ……目の前の美少女はなにかを考え込むような素振りを見せている。ふと顔を上げると

 

「や、やば!!遅れてる!!んじゃあな!!!ハンカチは返してくれなくても良いから!!!」

 

蛍とか美神さんに怒られるううう!!!俺は心の中でそう叫びながら美神さんのマンションへと走ったのだった……

 

「へんな奴」

 

走っていくバンダナの少年。その少年から押し付けられたハンカチを燃やそうと思ったが……

 

「まぁ良いですわ。借りておきましょう」

 

ちらちらと降ってくる雪を見て私は考えを改めた。まぁこんな汚れたハンカチでも無いよりかはまし……そう呟き私が持つには相応しくない、ボロボロのハンカチをポケットに入れその場を後にしたのだった……

 

 

 

「おっくれましたああ!!!」

 

横島君が大慌てで私のマンションに駆け込んでくる。遅いと言おうと思ったが、その背中の大量の荷物を見て

 

「何を買って来たのよ?」

 

それなりの給料は上げているつもりだけど、それを考えてもかなり多い

 

「へへ。はい、おキヌちゃん。クリスマスプレゼント」

 

その荷物から取り出したのはエクトプラズムで編まれた、スカートにジャケットにシャツ。それに帽子と手袋まである

 

「遅いと思ったら織姫の所まで行ってたの?」

 

琉璃がそう尋ねる。織姫の所は東京から離れた山の奥確かに遅くなるのも納得だ

 

【横島さん♪ありがとうございます、これ私から】

 

おキヌちゃんがずっと編んでいたセーターとマフラーを受け取った横島君は

 

「サンキュー。おキヌちゃん、これ大切にするぜ。えーと次は美神さんと蛍にこれ安物だけど結構悩んだっすよ」

 

私と蛍ちゃんにそれぞれブレスレットとペンダントを差し出してくる横島君。確かに安物だけど、まぁお洒落な代物だから

 

「ありがと」

 

「ありがとう。横島大事にするわね」

 

大切な宝物のように胸に抱える蛍ちゃんを見ていると今度は

 

「ほれータマモはこれな」

 

今度取り出したのは紅い衣装。サンタ衣装だ

 

「コン♪」

 

「おーしおし、可愛い可愛い」

 

サンタ衣装を着せたタマモを可愛い可愛いと撫でている横島君。本当に動物が好きなのねと思ってみていると

 

「み?」

 

ボクは?ボクは?と言わんばかりに目を輝かしているチビには

 

「じゃーん♪美神さん、蛍どうよ!」

 

横島君が私達の前に見せたチビは

 

「みみー!!」

 

横島君とお揃いのGジャンと赤いバンダナを巻いていた。チビが横島君のコスプレをしているように見える

 

「ぷっ!なにそれ可愛いじゃない」

 

【本当ですね。可愛いです】

 

「本当ね」

 

みみーっと嬉しそうに手足を振っているチビ。これなら家の事務所のマスコットにしても良いかもしれない、タマモとセットで

 

「んでシズクはこれな」

 

差し出したのはコンパクトと櫛。シズクはそれを受け取りさっさと距離を取ってぼそりと

 

「……ありがとう」

 

その白い顔が若干赤くなっていて微笑ましい物を感じていると

 

「横島君?私には何かないの?」

 

琉璃がそう尋ねると横島君は明らかにうろたえはじめる。あ、琉璃が来るの伝えてなかった……

 

「こんど何か用意するんで今日の所は勘弁してください。琉璃さん」

 

横島君がぺこぺこと頭を下げるのを見た琉璃はふーんっと呟く。明らかに不機嫌そうにしているのが判る

 

「じゃあ待ってあげるけど、横島君。この長い銀髪だれの?」

 

琉璃が横島君の服についている髪を取る。それは長い長い銀髪で

 

「ヨコシマ?ちょっと話をしたいのだけど?」

 

【横島さん?ちょっとこっちに来ましょうね~】

 

「嫌ややー!!!誰か!誰か助けてえええええ!!!」

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんに引きずられていく横島君から目を逸らし、机の上のワインに手を伸ばしコルクをあける

 

「じゃあ待ちに待った乾杯と行きましょうか」

 

「ですね♪」

 

私は琉璃のグラスにワインを注ぎ、次に自分のグラスにもワインを注ぐ。部屋の奥から聞こえてくる横島君の悲鳴を無視するためにオーディオの電源を入れてから乾杯をするのだった……そして横島君の悲鳴はシズクが料理を終え、部屋の奥から聞こえてくる悲鳴を聞いて慌てて奥の部屋まで飛び込むまでの10分間響き続けているのだった……

 

「クーン」

 

「みーん」

 

そしてチビとタマモは恐怖のあまり、ソファーの陰に隠れ、出てくる事はなかったのだった……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その1へ続く

 

 

 




次回から「極楽愚連隊」の話に入って行きますが、これもかなりのオリジナル要素を入れてやっていこうと思います。様々なプラスアルファでどう変わっていくのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート12 吸血鬼の夜
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回からは「極楽愚連隊西へ」の話に入って行こうと思います。まぁ前回からいきなり時間を飛ばしてしまうわけですが、そこはご了承ください。あと様々な+αを加えていきますので面白い事になると思っていますので楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート12 吸血鬼の夜 その1

 

GS協会の上層部の立て直し作業を続けていると壁掛け時計が音を立てる。キーボードから指を放し背伸びをしながら

 

「あーもうこんな時間かあ」

 

日付が変わる前に家に帰ろうと思っていたが、また日付を跨いでしまった。

 

(今日も泊りかなあ)

 

美神さんの所でやったクリスマスパーティから、ずっとこの部屋に泊まっている。流石に疲れてきたのが判るなあ……それに視界の隅にある自慢の髪を見て溜息を吐く

 

(あー髪がごわごわしてきたなあ……)

 

泊まりもこれで5日目。自慢の髪もごわごわして来ているし、枝毛も見える

 

「うん。今日は帰ろう」

 

人員整理も大分出来てきたし、1度家に帰って休もうと思い荷物を片付けていると

 

「ああ、良かった。神代君。まだ居たんだね」

 

「唐巣神父?どうしたんですか?こんな時間に」

 

にっこりと笑いながら私の部屋に入ってきた唐巣神父。その脇には旅行鞄が置かれている

 

「ブラドーが目覚める予兆があるそうでね、弟子のピート君とシルフィー君から連絡があった」

 

吸血鬼ブラドーが……中世の時代を荒らしまわった最も強大な吸血鬼……と言うのは風評で本当は穏健派であり、自身の吸血衝動を抑えることが出来ないのでブラドー島に結界を張り、自分も眠りについている吸血鬼だ。彼が目覚める事は本来はありえない話で、何か特別な理由があるはずだ……例えば魔族の介入とか

 

「そう言うわけで私もブラドー島に向かう事にした」

 

「そんな!?1人で何とかなる相手ではないですよ!?」

 

魔族が動いていたとして、ブラドーが操られているとなるといくら唐巣神父でも1人でどうこうなる相手ではない、唐巣神父は穏やかに微笑み

 

「目覚める前に何とかできる可能性があるからね、私が行くのが一番早い。もし目覚めていたらピート君とシルフィー君を日本に向かわせる」

 

なるほど美神さん達も連れて行くって事ね。でもそれは最悪の場合だ、だけどそれならば態々私の所に来る必要はないはずなんだけど……

 

「そしてそうなった場合は神宮寺君を派遣して欲しい」

 

「な!?ブラドー島のバンパイア達を全滅させるつもりですか!?」

 

妖怪や悪魔を憎む神宮寺を送るのは私は断固拒否だ。魔族だけではなく、ブラドー島の吸血鬼も殺される危険性がある。穏健派のブラドー島の吸血鬼を敵に回すようなことはしたくない、だけど唐巣神父は

 

「そうならないように私達も監視する。だがブラドーの動きにあわせて魔族が本格的動くと不味い、備えは必要だ」

 

そう言われると反対できない。だけどいきなり神宮寺への依頼権を使ってしまうのは惜しい

 

「それについては私に考えがある、ブラドー島には稀少な魔導書があるからね。彼女も来たがるだろう、あくまで提案と言う形で彼女に声をかけてくれないか?」

 

提案。私の依頼ではなく、あくまで提案。そして行くか行かないか?を決めるのは神宮寺にあると見せかけて、その実行くしかないっと……

 

「唐巣神父少し黒くなりました?」

 

「あ、あはは……さてどうだろう?」

 

私の知ってる唐巣神父より少し黒いと告げると乾いた笑い声を上げる唐巣神父。もしかすると案外気にしているのかもしれない

 

「と、言う訳で頼むよ。神代君2~3日様子を見てくれれば良いからね」

 

そう笑って出て行く唐巣神父。どうもめんどくさいことになるかもしれないわね……

 

「早く帰りましょう」

 

きっと精神的にも肉体的にも疲れると思う、だから今日は家に帰って休もう……いや

 

(そうだ、こうしましょう)

 

私が徹夜しているのはGS協会の職員なら皆知っている。そろそろ休んでも良いんですよ?と声をかけてくれる職員も多数いる。机の上に

 

『皆様のお言葉に甘えて明日1日休ませて頂きます 神代琉璃』

 

サインと判子を押した紙を机の上において私は5日ぶりに家へと帰るのだった……

 

 

 

大雨が降る中。GSの勉強をかねて、美神さんの事務所で待機してるんだけど……多分今日は出動はないわね……

 

「みッ!」

 

クリスマスプレゼントの横島の衣装がよっぽど気に入ったのか、ポーズを取っているチビと

 

「キューン♪」

 

まだサンタの衣装を着こんで横島に甘えているタマモ。そして横島も

 

「よしよし、可愛い可愛い」

 

チビとタマモの頭を撫でていて勉強する気配はなさそうだ

 

「……ん」

 

目の前に置かれるマグカップ。匂いからしてコーヒー

 

「ありがとシズク」

 

横島がいるならと事務所に入り浸っているシズク。お茶やコーヒーを入れたり、資料を見て今のGSの事を学んでいたりと結構楽しんでいるように思える

 

「……横島。緑茶」

 

「ん?ありがとな~シズク」

 

ぐりぐりとシズクの頭を撫でている横島。あの外見でも一応神様で龍神なのに

 

「……気にしないで良い」

 

横島の隣にチョコンと座るその姿は妹か何かのようにしか見えなくて、本人もそれで良いような態度をしている。それで良いのか水神……

 

【美神さんは今日は霊的に良くない日だから、依頼は後日ならお受けするそうです】

 

電話対応をしているおキヌさんを見ながら、ソファーで寝転んでいる美神さんに

 

「良いんですか?それなりに良い依頼だったんじゃ?」

 

報酬は500万。墓地の幽霊の除霊で夜の仕事だが数時間で終わりそうな物だったはずだけど……

 

「まぁね。追加報酬でワインとかを出してくれるって気前は良かったけど、こんな雨の日の墓地は嫌よ。他にも変な妖怪が来るかもしれないから」

 

まぁ確かにそれは判らないでもない、雨に関する妖怪も多くいるしね

 

「……私は雨は好き」

 

そりゃ水神だから雨は好きでしょうよ。両手で湯飲みを抱えているシズクを見ながらマグに手を伸ばすと

 

「それになんか私の霊感が囁いてるのよ。何かとんでもなく大きな事件があるってね?」

 

ウィンクをする美神さん。確かに美神さんの霊感なら当たっているかもしれないわね……

 

「よしよし」

 

「み」

 

横島に顎を撫でられて気持ち良さそうにしているチビを見ていると

 

ピンポーン

 

ほらね?何かあるって言ったでしょ?そう笑って雑誌を横に置く美神さん。私は広げていた参考書を片付けながら

 

「横島もダレたら駄目よ」

 

もしかすると大きな依頼があるかもしれないんだからと呟き、私も玄関へと向かった。そこには

 

「美神令子さんですね?唐巣神父の使いで来ました」

 

「よろしくお願いします」

 

ピートさんともう1人、似たような顔つきをした少女の姿があった……こ、こんな所でも逆行の影響が……どんどん私の知らない出来事が増えてくる事に思わず眩暈を感じるのだった……

 

 

 

唐巣神父の使いで来たと言う2人の外国人。片方は超が付く美少女だが……

 

「ちくしょー!!なんだかとってもドチクショオオオオ!!!」

 

どうしてこんなにも俺との差があるんだよ!!思わず涙を流しながらワラ人形に釘を打ち込んでいると

 

【横島さんの方が私は好きですよ?】

 

「……良い男は3日で飽きるが、普通の男は3日で慣れる」

 

笑顔のおキヌちゃんの言葉と励ましているのかそうじゃ無いのかシズクの言葉。そして

 

「キューン?」

 

「みーん」

 

心配そうに俺を見上げているタマモと肩の上のチビ

 

「うう。ありがとなーチビ、タマモ」

 

チビとタマモを抱き上げてソファーに座ると

 

「僕の名前はピエトロ。唐巣先生の弟子をしていますピートと呼んでください」

 

「なにがピートじゃあ!」

 

何でいきなりやろうを渾名で呼ばなければならないのかと思いそう怒鳴ると

 

「同じく唐巣先生の弟子をしているシルフィニアだよ♪シルフィーって呼んでね」

 

「シルフィーちゃんだね。よろしく」

 

伸ばされた手を握り返すと同時に右隣の蛍から

 

「ヨコシマァ!」

 

「はぶう!?」

 

ハリセンで頭をどつかれて机に顔を打ち付けている間に美神さんは

 

「ふーん……なるほどね」

 

ピートから受け取った手紙を見た美神さんはそれを畳みながら

 

「それで?私達はどこへ行けば良いのかしら?」

 

場所が書いてなかったのかそう尋ねる美神さんにシルフィーちゃんが

 

「地中海だよ!そこのブラドー島って言うところ」

 

地中海……それは初めて行くかもしれない海外の旅行地と言える……

 

「僕とシルフィーからはこれ以上は、詳しくは唐巣先生に聞いてもらえますか?」

 

申し訳なさそうに言うピートとシルフィーちゃん。確かに中途半端な情報だ。詳しい情報を伝えるのがGSとして要求され

 

るのにこれはあまりにお粗末ではないだろうか?蛍も同じを事を考えているのか渋い顔をしている

 

「まぁ唐巣先生の頼みだから引き受けたいとも思うけど、唐巣先生貧乏だから報酬払えないでしょ?だから私はパス」

 

そう笑って手を振る美神さんだけど、俺と蛍には判った。報酬を理由にこの依頼を断ろうとしていると

 

「そう言うと思ってこれを持ってきました」

 

「きっと気にいるよ」

 

ピートとシルフィーちゃんが机の上においたのは、金で出来た鷹の像と黄金の首飾り。俺でも判る高価な品だ

 

「こちらの像は時価20億はくだりません、こっちの首飾りは7億ほど」

 

あわせて27億!?なんちゅう代物を持ち込んでくるんや……美神さんはその2つを見て

 

「随分と気前が良いのね?」

 

警戒しているような視線でピートとシルフィーちゃんを見ている

 

「僕には不要な物ですので」

 

「私には大きすぎるしねー」

 

にこにこと笑う2人に美神さんは深い溜息を吐き

 

「判ったわ。この依頼受ける。先生にそう伝えておいて」

 

本当は断りたいと思っているのが判る。だけどこれほどの報酬まで用意されては断れない

 

(案外黒いのか唐巣神父)

 

人が良さそうに見えていたけど、案外黒い人なのかも知れない。俺は少しだけ唐巣神父の評価を改めた

 

「ありがとうございます。では後日ローマ空港で、では僕とシルフィーは他のスイーパーの所を回るので」

 

そう言って立ち上がり、衣装掛けからコートと帽子を手にするシルフィーとピートに

 

【美神さんだけじゃないんですか?】

 

おキヌちゃんがそう尋ねるとシルフィーちゃんが長い金髪をコートの中にしまいながら

 

「そうだよ。とっても手強い相手だからね、準備はちゃんとしてね?」

 

そう笑ってピートと一緒に出て行く、シルフィーちゃん。残された俺達は

 

「大丈夫っすか?」

 

渋い顔をしている美神さんに尋ねる。美神さんはうーんと呻きながら

 

「何とかなると思いたいわね。シズクは手伝ってくれるの?」

 

俺の隣で煎餅をかじっていたシズクは湯飲みを机の上において

 

「……人間も退魔師も嫌い。だけど横島が手伝って欲しいって言うなら考える」

 

じーっと俺を見る美神さんとシズク。少し考えてから

 

「手伝ってくれるか?」

 

「……仕方ないから手伝ってやる」

 

にこっと笑うシズク。美神さんはその言葉に笑みを零し

 

「さてと、準備を始めるわよ。横島君、雨の中悪いけど厄珍堂に行ってくれる?」

 

「うっす」

 

ささっと書かれた美神さんのメモを受け取る、大量に書かれている品物の数々。これはかなり大変やなぁ

 

【横島さん、合羽です】

 

おキヌちゃんが差し出してくれた合羽を受け取り着込むとシズクが傘を手に玄関に向かう

 

「待っててもいいんやで?」

 

「……私はミズチ。水が多いと調子が良くなる、この大雨は私には恵みの雨」

 

なんかよう判らんけど、この雨を吸収するって事なんか?

 

「気をつけてね?横島」

 

心配そうな顔をしている蛍に買い物だけで大げさやと返事を返し、俺とシズクは雨の中厄珍堂へと向かったのだった……

 

 

 

柩から譲り受けた魔導書を読み進める中。紅茶のカップに手を伸ばす

 

(素晴らしい物ですわ)

 

これは私の探していた魔導書ではないが、それでも充分に素晴らしい……

 

「電話?一体誰ですの」

 

本を読み進める邪魔をされた事で眉を顰めながら電話を手に取る

 

「どなたですか?」

 

私は表立ってGS事務所を構えていない、電話をかけてくるのは暗殺か破壊工作を頼む権力者かそれとも柩のどちらかしかいない

 

『神代琉璃だけど?』

 

神代琉璃……まさか電話をしてくるとは……思っても見ない相手に若干驚いた

 

「ご依頼ですか?」

 

『ううん違う提案。今ねブラドー島の吸血鬼が暴れてるんだって、行って見ない?』

 

軽い口調の神代瑠璃に眉を顰めながら

 

「はぁ?なんで私がそんな事をしなければなりませんの?」

 

大体GSとして行動するなといっておいて提案もくそもないと思うのですが……

 

『ブラドー島には稀少な魔導書があるんですって?手伝ってくれるなら閲覧許可を出してくれるって言ってるけど?』

 

吸血鬼ブラドーの所有している魔導書……それは確かに稀少な物だろう……

 

「良いですわ。貴女の思うように動いて差し上げましょう」

 

私を利用しようとするなんて許せるものではないが、その稀少な魔導書を閲覧できるのなら利用されたとしても我慢できる

 

『じゃあよろしくね。ローマ空港で待ち合わせをしてるGSがいるから合流してね』

 

言うだけ言って電話を切った神代琉璃に若干の腹立ちを感じながらも、今は従うしかない。私は読んでいた魔導書を閉じて本棚に戻し

 

「準備をしますか」

 

私は除霊具を使うタイプのGSではない、私は魔導書さえあればそれで充分だ。念の為に拳銃も所持していますが、あんまり殺しすぎるとまたGS免許の剥奪をされても困る、数冊の魔導書を鞄に押し込むだけにするとしますか

 

「……まぁ良いですか」

 

クリスマスの夜に出会ったバンダナの男に押し付けられたハンカチをついでと鞄に押し込む。なんだかんだで洗濯して何度

 

か使ってしまった……

 

(ふん、らしくないですわ)

 

こんなみすぼらしい物を使うとは私らしくないと思う反面手放す事が出来ない。それが自分の弱さだと判っているのに手放すことが出来ない。その弱さに溜息を吐きながらブラドー島に向かうための準備を始めるのだった……

 

(もうどうせ会うことなんてないですしね)

 

あのクリスマスの夜にあったバンダナの青年。きっと彼にもう会うことはないだろう……

 

「興味ないですわ」

 

そう呟いた物の、私の脳裏には能天気に笑うバンダナの青年の姿が浮かび

 

「腹ただしいですわ!」

 

勝手に人の心に入ってきて、そのまま出て行ったあの青年に対する苛立ちばかりが募る……

 

「もう良いですわ。今日は寝ます」

 

明日準備すれば充分に間に合う筈。寝室に向かい、着替える事も無く眠りに落ちるのだった……だが私は知る由もない、ローマ空港であの少年と再会し、そこから私の進む道が少しずつ変わり始めることを……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その2へ続く

 

 




くえすを出すのは大分先の予定だったのですが、予想よりも良く動くのでブラドー島編で出すことにしました。これが+αの1つですね。そしピーとの妹もそのプラスの要素のひとつです。どう動くのかを楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はブラドー島に行くまでの話を書いていこうと思います。くえすとかもここで本格的に絡んでくる予定です。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート12 吸血鬼の夜 その2

 

ピートさんとシルフィーさんが送ってきたローマ空港行きのチケット。今は私達は飛行機に乗ってローマへと向かっている

 

「チビとタマモ大丈夫かな?」

 

特別な許可を貰って乗せる事が出来たが、貨物室にいるタマモとチビを心配している横島に

 

「大丈夫よ。危険な事はないからね」

 

それに妖怪だから大丈夫よと付け加えると

 

「……妖怪蔑視反対」

 

シズクが睨む。別に蔑視してるわけじゃ無いんだけど……

 

「こらシズク。そんな事を言ったらあかん」

 

「……うん」

 

水神としての威厳とか誇りはどうしてしまったんだろう?もう完全に妹ポジを気に入っているシズクをどうすれば良いんだろうか?と思ってみていると

 

【私が見てきて上げますよ。横島さん】

 

おキヌさんが顔を見せてそう言う。横島は嬉しそうに笑いおキヌさんの手を握り

 

「頼むわ。おキヌちゃん」

 

【はい!任せてください】

 

貨物室に向かっていくおキヌさん。私は生身だから行くわけにも行かないしね

 

「さーてこれでスチュワーデスさんを……「横島?」なんでもないですよ?蛍さん」

 

スチュワーデスをナンパしようしていた横島を睨む。どうも横島には今の幸福って言うのをちゃんと教えてあげないといけないみたいだ

 

「ほらこれで良いでしょ?」

 

横島の腕を抱え込む、通路の挟んでいるシズクの目が細くなるがそれは無視する

 

「あうあう……」

 

自分で攻めるのは良いけど攻められると弱くなる横島に笑みを零していると

 

「しかしそれにしても唐巣先生が私達を呼ぶ仕事って何かしら?」

 

本を手にそう呟く美神さん。お父さんと悪霊とゾンビの大群にオラオラをしていたその姿は記憶に新しい

 

「そうですね。確かに気になりますね」

 

唐巣神父は間違いなく、GSの中では10本の指に入る強力なGSだ。しかも数少ないSランクでもある、そんな唐巣神父が苦戦する相手とは?……

 

(ここら辺は知らないのよね)

 

ピートさんは知ってるけど何があったかまでは知らない、知っているであろうおキヌさんに聞くわけにも行かないし

 

(出たとこ勝負で行くしかないわね)

 

恐らくだけど、横島と美神さんとおキヌさんの時よりも戦力は多いはず、だから何とかなるだろうと思い。空港に着くまでの1時間だけでも眠る事にした

 

「あうあう……」

 

横島が何か呻いているけどそれは無視し、私は横島の腕を抱えたまま眠りに落ちるのだった

 

【可愛いですよ】

 

「み!」

 

「コン」

 

その頃おキヌちゃんは貨物室で退屈そうにしていたチビとタマモをケージから出して一緒に遊んでいたりするのだった……

 

 

空港の荷物の所でチビとタマモを抱き抱える

 

「あー良かった良かった」

 

チビとタマモを抱き抱える。貨物室に入れるしかなかったチビとタマモがずっと可哀想だと思っていたから

 

「……横島」

 

くいくいっと俺の服を引くシズク。タマモを頭の上に乗せて、シズクと手を繋ぐ

 

【横島さん、私も頑張ったんですよ?】

 

「はいはい、じゃあ背中に憑いて良いよ」

 

わーいと言って背中に憑くおキヌちゃん、荷物の重さとは別の重さを感じるけどまぁ仕方ない

 

「横島、こっちよー」

 

鞄を手にして俺を呼ぶ蛍に頷き歩き出す。なおこの時の横島はとんでもなく目立っている、馬鹿でかいリュックを背負い。頭の上に狐、肩の上にグレムリン。左手には顔色の悪い幼女、背中には幽霊の巫女……回りの人間が避けているのに気付かず、横島は笑いながら歩くのだった

 

「お待ちしてました、美神さん、横島さん、芦さん」

 

「シニョリータ美神こちらです」

 

スーツ姿のピートとシルフィーちゃんに呼ばれてそちらへ向かう

 

「態々どうも、それでもう全員揃ってるの?」

 

美神さんに尋ねられたピートは手元のメモを見て

 

「あともう2人でそろいますよ。疲れているとは思いますが、このままチャーター機へ向かいますついてきてください」

 

そう笑って俺達を先導するピートとシルフィーちゃん、事務所であった時は何にも感じなかったが

 

(なんか変だなあ)

 

おキヌちゃんとかになんか似てる気がする……だけど人間のはずだし、変なことを尋ねたら駄目だよなと思い案内されるまま滑走路に向かう

 

「これでそのブラドー島までいけるの?」

 

蛍がそう尋ねる。俺達の目の前の飛行機はプロペラ式のそこまで大きな飛行機ではない。長距離飛べるようには思えない

 

「途中で島に降りてそこで船に乗り換えるんだ。ほらこっちだよ」

 

そう笑って乗って乗ってと笑うシルフィーちゃんに背中を押されて飛行機に乗り込むと

 

「ん?あれ?おたく、横島?それに蛍?」

 

一番前の座席に座っていたエミさんが俺達に声を掛ける。確かにエミさんなら呼ばれていても当然だ

 

「どうも、お久しぶりです」

 

「元気そうですね」

 

蛍と一緒に挨拶をする。エミさんは俺と手を繋いでいるシズクを見て

 

「令子。あんたの事務所ドンドン魔窟になってるんじゃない?」

 

「うっさい!横島君のせいよ!」

 

ェ!?俺のせいなの!?だけど下手に何か言うと怒らそうなので黙って自分の席に座る、今度はシズクと蛍には挟まれている。チビとタマモは俺の膝の上とシズクの膝の上でころころ転がっている

 

「まぁ良いんじゃない?個性的じゃないワケ?」

 

「個性的で片付けられる問題じゃ無いわよ。このままだとドンドンうちの事務所の人外率が上がっていくわ」

 

エミさんと話をしている美神さん。いや、でもそれは俺のせいじゃ無いと思うんだけど……

 

「美神さんとエミさんは知り合いなのですか?」

 

ピートにそう尋ねられたエミさんと美神さん。エミさんは少しだけ頬を赤く染めて

 

(なぁ?エミさんって年下趣味なんかな?)

 

ピートを見ている熱視線に気付きそう尋ねる。蛍は見ていた雑誌を閉じて

 

(人それぞれだから)

 

まぁそうだよな……いつもの口調じゃなくて似合わない敬語をしているエミさんを見ていると

 

「おう、小僧、お嬢ちゃん。久しぶりじゃの?」

 

「どうも・横島さん」

 

飛行機の奥から顔を見せたのはドクターカオスとマリア。何度か美神さんに除霊具を売りに来ているので顔見知りだ

 

「カオスのじーさんか。元気そうだな?」

 

小僧と言うので俺はカオスのじーさんと呼んでいる。別に怒ったりしないので心の大きい人物なのだろう

 

「おうワシは元気じゃよ?マリアもな」

 

カオスのじーさんの隣で小さく手を振るマリアに手を振り返し

 

「カオスのじーさん。新しい家族のシズクだ。シズク、錬金術師のカオスのじーさんとマリア」

 

チビを撫でていたシズクにカオスのじーさんとマリアを紹介する

 

「……ミズチのシズク」

 

ぼそっと呟いてチビのお腹を撫でているシズク、人間嫌いと言うけど、俺から見ると人見知りが激しいという感じで微笑ましい

 

「悪いなカオスのじーさん、ちょっと人見知りが激しいから」

 

「がっははは!きにせんぞい!今度水を循環する腕輪でも作るかのう……行くぞマリア」

 

「イエス・ドクターカオス。では横島さん。また後で」

 

頭を下げて奥の座席に向かおうとしたカオスのじーさんだが、思い出したように振り返り

 

「そうじゃお嬢ちゃん、ちょっと用事があるんじゃ。少し時間をくれるか?」

 

蛍を呼ぶカオスのじーさん。蛍は小さく頷き、自分の帽子を座席の上において

 

「少し行って来るわ。この場所渡さないでね?」

 

そう笑う蛍に判ったと返事を返し、膝の上のタマモの背中を撫でていると

 

「あー横島君~久しぶりね~」

 

帽子に白いファーつきのコートを着ている冥子ちゃんが飛行機に乗り込んでくる。これであと1人か

 

「もう~横島君も令子ちゃんも冷たいわ~私もクリスマスパーティに呼んで欲しかったのに~」

 

ぷんぷんっと言う感じで怒っている冥子ちゃん。俺よりも年上のはずなのに、どうしてこうも子供っぽいのだろうか?

 

「いやーすんません。来年は絶対誘いますから」

 

「約束よ~所でここ座っても良い~?」

 

蛍の座席を見る冥子ちゃん、うう……言いにくいけど

 

「ここは蛍の席なんで」

 

「そう~じゃあ諦めるわ~」

 

しょぼーんとしたオーラを纏って奥に行く冥子ちゃん、悪いことをしたかな?と思っていると

 

「みぎゃ!?」

 

「クウ!?」

 

チビとタマモがびくんと身体を竦めて俺に擦り寄ってくる。シズクも

 

「……」

 

青い顔をして荒い呼吸を整えているシズク。これは何かあったのかもしれない

 

「美神さん!シズク……え?」

 

飛行機に乗り込んできた、長い銀髪の黒いドレスの美少女。それはクリスマスの夜にあったその少女なのだが、その冷酷な光を宿した目に思わず俺が震えた瞬間

 

「神宮寺くえす!?どうしてここに!?」

 

「あんたが呼ばれるなんて相当やばい山みたいなワケ」

 

エミさんと美神さんがそう怒鳴る。だが神宮寺と呼ばれた少女はふんっと鼻を鳴らして

 

「仕事だから呼ばれただけですわ。そんな事も判らないですか?」

 

馬鹿にするようにそう笑う少女の姿が俺にはやはり泣いているように見えるのだった……

 

 

 

ドクターカオスに呼ばれて離れた部屋で私とカオスは結界を張って話し合いをしていた

 

「あの吸血鬼の小僧と一緒にいる小娘はワシは知らん。恐らく逆行の影響じゃろうが、警戒したほうがいいじゃろう。それとブラドーが襲撃してくるから小僧が吸血鬼にされんように気をつけるのじゃ」

 

ドクターカオスが覚えている限りの事を教わって今後の事に対する情報を得ていた

 

「まぁタマモのお嬢ちゃんとミズチのお嬢ちゃんが居るから大丈夫じゃろうけどな」

 

がっははと笑うドクターカオス。確かにあの面子がいれば横島は大丈夫だろう

 

「ドクターカオス・ミス蛍・異常な霊力を持つ少女が飛行機に乗り込んできました」

 

マリアの言葉に振り返る。異常な霊力?一体誰が

 

「ミス・美神が・神宮寺くえすと叫んでいます・ですが。私の記憶には存在しません」

 

神宮寺くえす!?どうして!

 

「ごめん!ドクターカオス!横島が心配だから」

 

あの魔女をナンパすると横島の命が危ない。私は咄嗟にその部屋を飛び出したのだった

 

「禁忌の魔法使い「神宮寺くえす」話には聞いておったが、調べてはおらんかったな。この依頼が終わったら調べるか」

 

「それが・よろしいと思います・ドクターカオス」

 

カオスとマリアはそんな話をしながら自分の座席へと向かうのだった……

 

「へえ?貴方GS見習いだったんですの?なんの霊力もないのに?」

 

「ぐっふ……まだまだ発展途上なんす」

 

「どうせ役に立ちませんわ」

 

「げぶう……くう、タマモ。俺は何で苛められてるんや?」

 

横島が神宮寺くえすに苛められていた。私が近づくと

 

「お守りがきたようですわ。では御機嫌よう。へっぽこさん」

 

にやりと笑う神宮寺を睨むが逆に睨み返される。とんでもない威圧感と霊力……下手をすると下位レベルの魔族に匹敵するかもしれない

 

「ううう……蛍う」

 

私がいない間に随分と苛められたのか涙を流している横島。かわいそうに……

 

「大丈夫大丈夫。横島はまだまだこれからよ」

 

よしよしっと背中を撫でる。横島はまだこれから成長するのだ、だから焦る事はない

 

【ごめんなさい横島さん。あの人の力が強すぎて近寄れませんでした】

 

「……悪かった」

 

シズクとおキヌさんが近づけなかったのは神宮寺の力が強すぎたせいなのね、幽霊じゃあ確かに不利だけど、まさか水神のシズクまでが気圧されるとは正直予想外だった……あの若さでどれだけの力を持っているのだろうか……下手をすると下位の神魔族に匹敵するんじゃ……なんにせよ警戒するべきね

 

「それじゃあ全員揃いましたし、出発しましょう」

 

「だねー。皆ベルトしてね?」

 

ピートさんとシルフィーさんの言葉に頷き、シートベルトをつける。横島はチビとタマモを抱えて

 

「やっぱりワイは何をやってもだめなんやああ……」

 

しくしくと泣いている横島。肉体的にはタフだけど精神的にはまだ弱かったようだ、どうやって横島を励まそうかと悩んでいると

 

「「「な。なに!?」」」

 

急に飛行機が大きく揺れる、どうしたのかと窓を見ると大量の蝙蝠が空を飛んでいる。これがドクターカオスの言っていたブラドーの襲撃!?

 

「しまった!?襲撃か!?昼間だから油断していた」

 

窓の外を見てそう怒鳴るピートさん。私も窓の外を見ていて

 

『イッタリアーノ!脱出シマース』

 

『チャーオ』

 

パラシュートを装備してとんでいく2人組み。それはさっき挨拶に来た操縦士と副操縦士で

 

「「げえ!?」」

 

私とピートさんの声が重なる。いくら私でもこんな飛行機の操縦は出来ないし、当然ドクターカオスも無理だし、美神さんだって無理だろう

 

「美神さん?もしかして飛行機操縦とか出来ません?」

 

「む、無理に決まってるでしょ!?」

 

みんなが動揺している中横島だけは

 

「うう……」

 

まだハートブレイクで呻いていた……普段なら一番騒ぐけど今は静かにしてくれているので、ちょっとだけ助かる

 

「やれやれ、ワシの出番じゃな。マリア、E-7を取っておくれ」

 

ドクターカオスが筒状の機械を取り出して飛行機に取り付けていく

 

「何をしているわけ?そんなので何とかなるの?」

 

エミさんの言葉にドクターカオスはふふんと笑いながら

 

「一時的な重力制御じゃ、これで墜落だけは回避できるはずじゃ、あとは……そうじゃな」

 

にかっと笑うドクターカオスの視線につられて、そっちのほうを見ると白いクルーザーが浮かんでいた

 

「なるほど船を奪うのね?」

 

「そうなるのう。緊急事態じゃから仕方ないのう……」

 

仕方ないと言いつつ楽しそうに笑っているドクターカオスと美神さん。

 

「と、とりあえず皆さん座席に座って何かに捕まってください!」

 

シルフィーさんがそう叫んで椅子に座ってシートベルトを締める。墜落はしないが水面着陸の衝撃に備えるのは必要な事だ、私も座席に座り、シートベルトを締め隣でぶつぶつ呟いている横島を見て

 

「シズク。よろしく」

 

「……判ってる」

 

私とシズクで守れば何とかなると判断して頼む。シズクは判ったと返事を返す、そして数秒後水面に胴体着陸し、予想よりも遥かに凄まじい衝撃が私達を襲ったのだった……そして隣で聞こえたぎゃっと言う声を最後に私は意識を失ったのだった……

 

 

胴体着陸した衝撃で意識を失っている人物が多い中、私だけは平気だった。その理由は結界だ、あの程度の衝撃私には何の問題もない

 

(自分だけで動くのはめんどくさいですわね)

 

幸いドクターカオスの発明で飛行機が沈む事はなさそうですし、仮にも高名なGS連中。直ぐにでも目覚めるだろう座席から立ち上がり周囲を確認して

 

「大した力もないのにこんな所にくるからですわ」

 

黒髪の少女と妖怪の間。赤いバンダナの少年の胸にガラスが突き刺さっている。どう見ても即死だ……周囲に満ちている血の匂いと濃厚な死の気配……ある意味私は慣れ親しんだ気配だ

 

(……こんな奴どうでも良いですわ)

 

勝手に人の心に踏み込んで出て行って、そして目の前で死んでいる……力もないのにこんな所に来たから……まぁ死んでいるのなら私に出来ることはない、精々あの2人が嘆き悲しむだけ、だから何のことはない。自分に言い聞かせるように座席に戻ろうとして

 

「……ッ!貸しを返すだけですわ!」

 

クリスマスの時のハンカチの貸しを返すだけそれだけと自分に言い聞かせるように叫び。その胸に手を置き二言三言呟くまだ魂が繋がっているから呼び戻せる。ガラスを引き抜き魔法で傷を回復させ、周囲の血を浄化する。これでこの馬鹿が死んだとおもう奴は居ないだろう……

 

「これで良いですわ、これで何の関係もない」

 

ただの赤の他人。それでいい、私の心を勝手に覗き込んだ、愚か者との関わりはこれで切れた。私は自分の座席に座り魔導書を開いた……私が海賊行為なんて野蛮な事はしない、後は美神とかに任せれば良いのだから……

 

だがくえすは気付かない、自分が与えた魔力が混ざった霊力。神宮寺の家が危険視されるのは、先々代の当主が魔族と契約し、その一族には僅かながらに魔力が混ざってしまうその血筋にあった。その異端とされる家系の中でも取り分け、強力な力を持つくえすの霊力。それが横島の中に隠された、いや目覚めるはずのない力を呼び覚ますきっかけになる事を……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その3へ続く

 

 




ツンデレってこれで良いのだろうか?私はヤンデレをメインにしているからツンデレが良く判らない。だけどツンデレになっていると信じています。横島魔改造のフラグは徐々に揃っています。YOKOSIMAにならないように頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回はブラドー島の件を書いていこうと思います。それと今回はかなり独自解釈・独自設定が多いので、気になるところとかがあると思いますが、こういう解釈もあるんだ位に思っていただけると嬉しいです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート12 吸血鬼の夜 その3

 

(ここはどこだろうか?)

 

酷い衝撃を受けたのは覚えているだが……どうも意識がハッキリしない……生暖かい闇の中不思議な感覚が俺を包んでいた……

 

(これは……)

 

浮かんでは消えていくを繰り返す様々な記憶の数々……

 

(なんだよこれ……)

 

だけどこれは俺の記憶じゃ無い……

 

どこか判らない場所で白い衣装を着て破魔札を手に、悪霊を払っている陰陽師の姿……

 

(これが高島なのか?)

 

俺だけが読むことが出来る陰陽術の本を書いた陰陽師「高島」その記憶を見ているのかもしれない

 

(今度はなんだ!?)

 

今度俺の脳裏に浮かんだのはさっき見ていた景色とは違う、今度は俺も知っている現代風の風景の数々。そして記憶の中心にいるのは青いスーツ姿の青年が破魔札と光り輝く緑の刃で悪霊を退治している姿

 

(この光ってもしかして)

 

あの外道を叩きのめす時に使って、視力を一時的にだが失う原因になった緑色の篭手……

 

(何かが判るような気がする)

 

交互に浮かんでは消えていく。2つの時代……の記憶……

 

(何かが掴めそうな気がする)

 

飛行機で神宮寺さんに言われた、役立たずや無能の言葉をどうしても思い出してしまう……ここで見ている物を覚える事が出来ていれば、少しは役に立てるかもしれない……そう思った瞬間

 

「横島!」

 

急に身体が浮上するのを感じ、目を開けると

 

「横島ぁ!!良かった!良かった!!!」

 

「……良かった、意識が無いからどうすれば良いのかと」

 

【横島さん。良かったぁ……】

 

心配そうな顔で俺を見ている蛍とシズクとおキヌちゃん……それとべったりと肌に張り付いているシャツには赤い血痕の後、だけど傷がないのはなんでなんだろうか?と思いながらゆっくりと身体を起こし

 

「ここは……」

 

周囲を確認するとそこは飛行機ではなく、クルーザーの上だった……揺れる船体が少しばかり気持ち悪い

 

「飛行機が不時着させて、近くのクルーザーを乗っ取ったのよ。大丈夫?横島君。冥子念の為にショウトラで「わふーん♪」みっぐああああああ!!」

 

美神さんの言葉を遮って冥子ちゃんの影から飛び出してきたショウトラに背後から突撃され

 

【「「横島ぁ!?(さぁん!?」」】

 

蛍達の悲鳴を聞きながら再び意識を失ったのだった……

 

ショウトラ頼むから弱っているときは突撃しないでくれ、そして

 

「ショウトラちゃん~駄目よ~そんな事をしたら~」

 

間延びした声でショウトラを注意している冥子ちゃん。飼い主なんだからもう少し厳しくしつけて……俺はそんな事を考えながら意識を失ったのだった……

 

 

飛行機不時着の衝撃のせいか意識を失っていた横島君を何とかクルーザーに引き上げた所までは良いのだが、完全に意識を失っているし、服も出血のせいで赤く染まっていた。今はショウトラがヒーリングをしているけど

 

「わふわふ」

 

嬉しそうに横島君の上に乗って嘗め回しているので、回復よりもダメージのほうが大きそうに見える

 

「それで?いい加減に本当のことを話してくれない?ピート、シルフィー」

 

多分唐巣先生の入れ知恵されたんだろうけど……この2人は人間じゃ無いというのは判っていた。口を紡ぐシルフィーとピートに

 

「どう考えてもあの蝙蝠は誰かに操られて移動していたわ。敵はなんなの?そろそろ教えてくれても良いんじゃないかしら?」

 

私が畳み掛けるように言うとピートがゆっくりと口を開き

 

「敵は……判りません。ただブラドー島で長いこと眠りについていたブラドーが目覚めたのです。自らを封印し、眠っているブラドーが自分から起きるとは考えられない、何かあると思っているんですが……特定は出来てません……」

 

始祖の吸血鬼を操ることが出来る魔族……それだけでもとんでもない話だ。出来れば出発前に話をして欲しかったと思う

 

「ブラドーは穏健派でね?でも吸血衝動を抑えることが出来ないから結界を張って、城で眠っているんだ。出来ればまた眠りに着かせてあげたいんだ。ブラドーは吸血鬼だけど……人間が好きだから。操られて誰かを殺すなんてことはさせたくないの」

 

シルフィーとピートの説明を聞いていた蛍ちゃんが

 

「でも島の外で襲われたわよね?それって結界が弱まっているか、ブラドーの力が増しているって事よね?」

 

確かに蛍ちゃんの言う通りだ、それに飛行機からある程度の道具を持ち出す事は出来たが、それでも万全ではないし……

 

「まぁここまで来たのに引き返すわけにも行かないワケ」

 

飛行機が墜落したせいで船でローマに戻るのは難しいし

 

「まぁ悪いけどそう言うわけで船は徴収するけど良いわよね?」

 

こくこくと壊れたおもちゃのように頷くこのクルーザーの持ち主に頼み、私達はブラドー島に向かったのだった

 

「あいたた」

 

ショウトラのヒーリングが効いて目を覚ました横島君に駆け寄る、蛍ちゃんやタマモを見ながら

 

「念入りに警戒して進みましょう。それなりに対策も必要だし」

 

エミと私とカオスの3人でブラドー島の攻略の準備を進めるのだった……冥子は

 

「良かったわ~横島君が目を覚まして」

 

「心配させて申し訳ないっす」

 

横島君の傍でニコニコ笑っているのを見て

 

(横島君も本当に変わっているのばかりを引き付けるわね)

 

九尾の狐のタマモにグレムリンのチビにミズチのシズクに式神。中々これだけ人外に好かれるGSって言うのも珍しいわねえと苦笑していると

 

「見えてきたよ。あれがブラドー島」

 

シルフィーの指の先を見ると古城が島の中心に鎮座している小さな島が見える

 

「あれがブラドー島ですか。まぁボロイだけの城ですこと」

 

キャビンから出てきて馬鹿にするかのように笑うくえす。彼女はそのままにやりと笑うと船首の方に向かって行った

 

「なんであいつがいるワケ?」

 

私は琉璃とくえすの話し合いは聞いていたけど、いくらなんでもくえすを手駒として使うのは早すぎるような気がする。

 

「さぁね。私も流石にそこまでは知らないわ。なんにせよこれからが本番よ、気をつけて行きましょう」

 

まずは唐巣神父と合流して拠点を決めて、どういう風に攻めるのか?その全てを話し合わないといけない

 

(夜が近いのが不安ね)

 

既に太陽は大分傾いている。この様子だと島につくまでに日が暮れてしまう……夜は吸血鬼の時間だ

 

(これはかなり気を引き締めて行かないとね)

 

油断すると全員吸血鬼になって終わりだ、そうならない様に気をつけないと……不安を感じながら私達はブラドー島に降り立ったのだった……

 

 

 

クルーザーの持ち主は当然ながら、一般人なので全員を降ろすとあっと言う間に見えなくなった。まぁ当然だよな

 

「なぁ?シルフィーちゃん。これ帰りは大丈夫なのか?」

 

見たところ飛行機とかもないしどうやって帰るんだ?と尋ねると

 

「ブラドーを再度封印したら船が出せるよ、だから心配しないで」

 

そう言うことなら大丈夫か。俺はタマモとチビをそれぞれ頭と肩の上に乗せてから

 

「そろそろ上がって来いよ~」

 

海で浮かんでいるシズクに声を掛ける。念の為に水を蓄えていくと言っていたけど、そんなに必要ない筈だ。ただうつ伏せで漂っているので、なんか怖い……

 

「……判った」

 

海から出てきたばかりは水浸しだったが直ぐ乾くシズクを見ながら、近くの丘の上で双眼鏡を手にしている美神さんとエミさんを見て

 

「なにをしてるんや?」

 

直ぐに移動すると思っていたのだが、まだ上陸した場所にいる。段々日が暮れているのに大丈夫なのか?と思い尋ねると冥子ちゃんが

 

「初めてくる所だから~周囲を確認して、結界を張りやすい場所を探してるのよ~」

 

ぽやぽやしている冥子ちゃんだけど、さすがプロのGSだ。知識が多い、これでもう少し落ち着いてくれてたらなぁ……

 

「それに島中に邪悪な霊力が満ちているから吸血鬼の気配を探すのも難しいのよ。美神さん達がどう動くかを決めるまでは待ってましょう?」

 

まぁ蛍の言うとおりか。マリアとおキヌちゃんは吸血鬼に見つかっても平気と言うことで周囲を窺っているから近くには居ない、鞄に腰掛け離れた所で腕組している神宮寺さんを見ていると

 

「方向性が決まったわよ!移動するから全員荷物を持ちなさい」

 

美神さんの指示が海辺に響く、鞄を背負って歩き出すとシズクが

 

「……何故あの魔女を気に掛ける?」

 

魔女?神宮寺さんの事か?何もそんなに怖がる事はないのにと思っていると

 

「私からも言うわよ。横島。あんまりあの人には近づかないほうが良い」

 

蛍にも近づかないほうが良いと言われ、俺は1人で歩いている神宮寺さんを見て

 

「なんでや?普通の人なのになんでそんなに警戒せないかんの?」

 

俺から見ると1人で泣いているように見える。だからほっておけないのだが

 

「あたしが説明するワケ。神宮寺くえす。若いGSだけどAランクに格付けされているGSよ」

 

俺と蛍の話を聞いていたエミさんが、歩くスピードを少し緩めて俺に神宮寺さんの事を教えてくれる

 

「Aランクって凄いじゃ無いですか」

 

俺達と同年代でAランク。それはすごい事だと思う。余計話を聞いた方が良いと思っていると

 

「だけど彼女はそれと同時に危険人物として警戒されてるワケ。あたしも黒魔術を使うけど、あたしよりも強力で破壊力に特化している彼女を危険視するGSは多いわけ。それに妖怪や悪魔撲滅派の人間を至高と考える相手だから、横島との理想とは対極の位置の人間よ」

 

そんな事を言われてもなぁ……あれだけの美少女をなんでそんなに忌み嫌うかなあ。俺にはとても寂しそうにしているようにしか見えないんだけど……

 

「横島が美女・美少女の味方って言うのは判るわ。だけど彼女だけは駄目よ、そんな事をしても絶対に横島には感謝しない。むしろ邪魔をしたって怒るわ。だから彼女に関わるのはやめて。お願いだから」

 

。むしろ邪魔をしたって怒るわ。だから彼女に関わるのはやめて。お願いだから」

 

「……私も反対する。あれは危険すぎる」

 

蛍とシズクにそう言われわかったと小さくうなずくとマリアとおキヌちゃんが姿を見せて

 

「近くに村を見つけましたが・誰も・居ません・襲撃された・後では・ないでしょうか?」

 

【それとこれ多分唐巣神父の眼鏡ですよね?】

 

おキヌちゃんが手にしている眼鏡を見たピートとシルフィーちゃんが

 

「僕だ!おーい!戻ったぞ!!誰か!誰かいないのかー!!!」

 

「兄さんと私が戻ったよ!皆ー!どこー!」

 

シルフィーちゃんとピートが叫ぶが何の反応もない……まさか死

 

「吸血鬼に血を吸われて僕にされてるのよ。それにその状態ならまだ助けれるわ、不安に思うのは早いわよ」

 

そう笑って俺の肩を叩く美神さん。励ましてくれているのだと判りありがとうございますと小さく返事を返す

 

「しかしそれにしても教会がどこにもないわね……それにもしかして……」

 

周囲を見て何かをぶつぶつと呟いている美神さん。蛍も周囲を調べている、何を調べているのか判れば俺も手伝えるんだけど……

 

「令子~それなりに頑丈な建物を見つけたワケ。そこを拠点にするわよ!夜が来る前に準備をするから手伝いなさい」

 

エミさんの声に思案顔を止めた美神さんは俺と蛍を見て

 

「聞こえたわね。夜が来るまでに篭城する準備をするわよ、本格的に動くのは明日の朝からきっちり準備するわよ!」

 

握り拳を作る美神さんに頷き、俺と蛍はエミさんが見つけたという頑丈そうな建物の方へと歩き出したのだった……

 

 

 

その頃ブラドー城では苦悶……そして怨嗟の叫びが木霊していた

 

「ぐああああ、おのれおのれおのれおのれえええええ!!!良くも良くも!余を目覚めさせたなあ!!!」

 

怨嗟の声と苦痛の叫びだけが繰り返し響き渡る。城の王座のある部屋で蹲る黒いマント姿の青年「ブラドー」は全身から魔力を放つ事で自身を覆いつくそうしている黒い霧を弾こうとしているが、闇は纏わりつくようにして離れる気配がない

 

「ぐうおおおおおお!!!」

 

苦悶の悲鳴だけが古城に響き渡る……それはこの世に目覚めたくなかった、ブラドーの嘆きの声だったのかもしれない……そして

 

「ぐうう、貴様の思い通りにはさせない……」

 

魔力を解放する事により、一時的に体の自由を取り戻したブラドーはよろめきながら立ち上がり

 

「油断した。この吸血鬼ブラドーともあろう物が、魔族に身体を奪われかけるとは」

 

永い眠りから強制的に目覚めさせられたブラドー、本来持つその霊的防御力が極端に低下していた……その隙に身体を持たぬ魔族に身体を奪うために寄生されてしまったのだ

 

「全てはあの神父に託した……後は任せるぞ……我が息子、娘よ」

 

倒れかけながらもブラドーは王座の裏に回りこむ。そこは城の防衛装置を稼動させている魔法陣が刻まれていた

 

「貴様の思い通りにはさせぬ」

 

指輪を外し魔法陣に埋め込む、すると城を覆っていた魔力が弾け飛ぶ。それを見て満足げに頷いたブラドーはその場に倒れたが、直ぐに立ち上がり

 

「良くもここまで抵抗してくれたな」

 

起き上がったブラドーの声は冷酷な響きを持ち、そしてその目は真紅に輝いているのだった……そして太陽が沈み月が顔を出した……それは長い吸血鬼の夜が始まると言う証拠だった……

 

 

リポート12 吸血鬼の夜 その4へ続く

 

 




次回は戦闘回を始めていこうと思います。そしてこの作品ではブラドーは悪ではないので覚えておいてください。ピートに妹がいるのもその理由の1つですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回からは少しだけ戦闘回に入って行けると思います。ここからは原作とは違う流れに入っていきます。ブラドーがどうなるか楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


それと活動報告の方にて、GS芦蛍についてのお知らせがありますので、そちらもよろしくお願いします


 

リポート12 吸血鬼の夜 その4

 

他の家から持ち込んできた食料。主に保存の利くソーセージや黒パンがメインだ、少し固い上に味気ないが、除霊の現場に来ていると思えばそれも苦ではない

 

(自家製のワイン……大体読めてきたわね)

 

これはかなり古い時代の食文化と言える。それもかなりの昔……

 

(エミ気付いた?)

 

(まあね?あたしも黒魔術系だし、大体掴めて来てるわよ)

 

この島全体がブラドーの領地。そして教会のない村……導き出される答えは1つだけだ……

 

(とは言え無理に聞き出すわけには行かないか)

 

この村の住人である、ピートとシルフィーちゃんも恐らく……そんな事を考えていると

 

「……出来た。こんな物でもマシになる」

 

シズクが机の上に鍋を置く、ソーセージと拝借した畑から取ってきた葉野菜のスープ。シズクは横島君と自分の分だけを皿に入れて

 

「……あとはセルフ。自分でよそって」

 

そう呟いて横島君の隣でスープとパンを齧るシズク。色々手伝ってくれるのは嬉しいけど、もう少し社交性があると良いなあ……

 

「美味い!このスープ美味いなあ……」

 

横島君が美味い美味いと良いながらスープを飲んで嬉しそうにしているシズク。それに対しいて渋い顔をしている蛍ちゃんとおキヌちゃん

 

「……下手な味付けは必要ない。素材を生かすのがポイント」

 

にやりと笑うシズク。その幼女のような姿からは想像できない黒さだ。

 

「みーん」

 

横島君の前で口を広げるチビ。横島君はスープをすくって冷ましてから

 

「あーん」

 

「みーむ」

 

ぱくんっとスープを咥えているチビ。妖怪だけど完全にペットとかにするノリね

 

「クーン」

 

油揚げが主食のタマモが寂しそうに鳴いているが、流石に油揚げはないので我慢してもらうしかない

 

「タマモごめんな。家に帰ったら油揚げを沢山用意するからなあ」

 

タマモを膝の上に乗せて頭を撫でている横島君……私もある程度食べて体力を蓄えておかないと……横島君達の手前本格的に動くのは明日と言ったが

 

(もしかすると今夜中に動きがある)

 

首筋にピリピリと感じる嫌な予感。これは襲撃があるかもしれない……

 

「ふむ。悪くはない……もう少し熟成していたらなおよし」

 

ワインを吟味しているカオス。私もワインをグラスに注ぎ軽く煽る。本当はもう少し飲みたいところだけど酔いが回っても困るしね、程ほどにしておかないと……私はそんな事を考えながら、少しだけ甘いワインを口に含んだのだった……

 

 

横島と並んで食事をしながら周囲を窺う。月が昇るに連れて周囲の気配が感じにくくなっている……

 

「……」

 

シズクも今までの妹しての雰囲気よりも、水神としての雰囲気が強くなってきている。その力で感じ取っているのだろう敵が近づいてきている事を……

 

「皆さん。念の為に僕が見回りに行くのでここで待っていて……「馬鹿な事を言うな小僧。この気配に気付いてない訳ではあるまい?ここは動かず大人しくしておれ」

 

ドクターカオスがピートさんを押しとめる。ここで単独行動をされると困るし、結界を中から開けては意味がない

 

「そうだよ?兄さん。大人しくしていようよ」

 

妹のシルフィーさんにも言われ大人しく椅子に座り、ワインを手にするピートさん……

 

「ふぁー美味かった」

 

満腹満腹と笑っている横島。もう少し霊的能力が目覚めていたら気付いていたかもしれない……

 

「……」

 

あのほんわかとしている冥子さんでさえ、引き締まった顔をしている。やはりプロのGSと言う所だ……きっちりしてる所はきっちりしてる……だけど今の横島にそこまで期待するのは酷と言うものだ……徐々に高まってい邪悪な気配……そして重々しい鐘の音が響いた瞬間

 

「「「ギシャアアアア!!!!」」」

 

窓を突き破り何かが飛び出してくる。ドクターカオスの話だと吸血鬼って事だったけど

 

(グール!?それに吸血鬼化した狼!?)

 

話が違う。それは吸血鬼よりかは格は劣るが、凶悪な悪魔の姿

 

「なに!?なぜグールが!?ええい!マリア!破魔弾発射!!!」

 

「イエス・ドクターカオス」

 

ドクターカオスも驚いているようで素早くマリアに指示を出す。それと同時に

 

「横島君!撤退準備!!!」

 

机を入り口のほうに蹴って簡易のバリケードを作って叫ぶ美神さん。私も疲れたのか眠っているチビを抱えて

 

「急いで!」

 

周囲の気配がドンドン多くなる。このままでは撤退するのも難しい

 

「おっしゃ!判った!」

 

除霊道具の詰まった鞄を背負い。脇にシズクを抱え頭の上にタマモを乗せて脱出準備をした横島。

 

「うっとうしいですこと、消えなさいな」

 

複数の魔法陣を自身の周りに展開する神宮寺を見てエミさんが

 

「あたし達を巻き込むつもり!?」

 

確かにあの位置なら私達を巻き込みかねない。それに神宮寺はにやりと笑う事で返事を返し

 

「失せなさい」

 

パチンっと指を鳴らすと漆黒の炎が走り。グールと狼を焼き尽くす、私達を器用に避けてだ

 

「この神宮寺くえす、自分の魔法を操る事などわけないですわ」

 

髪をかき上げて笑う神宮寺に私達が眉を顰めていると

 

「こっち!地下室に1回隠れよ!」

 

床を空けて階段を出すシルフィーさん。外に出ると囲まれる可能性があるけど

 

「そんなところに隠れて大丈夫なの!?」

 

逃げ道がない所に隠れるのは危険なのでは?と叫ぶ美神さん。外に出るか、朝まで地下室で応戦するか……その2択と思った瞬間

 

「急ぎたまえ!このままだとドンドン敵が増えるだけだ!」

 

地下室から顔を出した唐巣神父。最初見たときはいなかったのに

 

「唐巣先生!?いままでどこに!?」

 

「良いから早く!このままだと危険だ!」

 

地下室に戻っていく唐巣神父。ここはついて行って見るべきね、荷物を持っている横島を最後尾にして階段を下りると更に隠し通路が見える

 

「なるほどね!探してもいない筈だわ」

 

そう笑って地下に駆け下りていく美神さん達に続いて私達も地下へと駆け下りたのだった……

 

 

 

膨大な魔力と見知った霊力を感じて来たが正解だったようだ、地下通路に転がり落ちてきた美神君達に

 

「大丈夫かい?」

 

ううっと呻いている辺りを見るあたり、結構ダメージを受けているようだ

 

「だ、大丈夫です。それよりお久しぶりです、唐巣先生」

 

腰を摩りながら立ち上がる美神君にそれほどじゃないけどね?と返事を返し全員が立ち上がるのを待っていると

 

「貴方でしょう?唐巣和宏……神代琉璃に私を利用するように手引きしたのは?」

 

魔導書を手にしている神宮寺君の顔は不機嫌極まりない。プライドの高い彼女には誰かに利用されると言うのは我慢ならないのだろう

 

「その通りだよ、だけど君の知識欲を満たす魔導書はここには山ほど眠っている。それを見る機会が出来たんだ、そう悪いものじゃ無いだろう?」

 

ふんっと鼻を鳴らし腕を組んで離れる神宮寺君。本当に気難しい子だ……だけど来てくれてるから正直に感謝したい

 

「まぁなんにせよだ。この通路も安全ではない、更に別の通路に進むよ」

 

ランタンを手に美神君達を先導し、1つだけはなれた岩の頭を回すと重々しい音を立てて岩が開く

 

「凄い……700年住んでるけどこんな通路知らない……」

 

「私もだよ」

 

驚いているピート君とシルフィー君の言葉に横島君が

 

「あーなんやあ!やっぱり普通の人間やなかったんやなぁ?あー良かった良かった」

 

あははと笑う横島君にピート君とシルフィー君の視線が集中すると、横島君はさっと蛍君の後ろに隠れて

 

「わいなにかした?」

 

青い顔をしている横島君に美神君と小笠原君が感心したようで頷く、僕も正直感心していた、霊能者としてはまだまだ未熟だが、その感性の高さには正直驚かされる。きっちり学べば最高峰のGSだって夢ではない

 

「へーちゃんと気付いてたんだ。関心関心」

 

「元々そう言うのに特化しているからね。考えてみれば当然ってワケ」

 

2人にもそう言われたピート君とシルフィー君は

 

「黙っているつもりはありませんでしたが、唐巣先生に会うまでは黙っていたほうが良いとおもいまして、僕の名前はピエトロ=ド=ブラドー。ブラドー伯爵の息子です」

 

「私はシルフェニア=ド=ブラドーって言うんだ」

 

2人がフルネームで名乗ると横島君が首を傾げながら

 

「でもよ?吸血鬼って太陽の光が駄目なんだろ?でも普通に出歩いてなかったか?」

 

良いところに目をつけたね。中々観察眼は悪くないようだ

 

「覚えておけ、小僧。吸血の中にはハーフが存在する。ハーフは普通の吸血鬼と違っていくらかの弱点を克服しているものがいるのだ」

 

ドクターカオスがそう言うとなるほどなーと頷いている横島君。これからどんどんそう言う専門的な知識を身につけていくと良いね

 

「なんで教えてくれなかったのよ?」

 

美神君がそう尋ねる。まだ説明不足だったようだね、敵はブラドーじゃ無いんだと

 

「違います。確かにボケてアホな父親ですが、それなりに尊敬できる父親でした」

 

本当にピート君はブラドーが嫌いだね。僕は少し話をしたけど、そう悪い人物じゃなかったけど……

 

「……でした?何があったの?」

 

小柄な少女がそう尋ねる。だけどその体に満ちている霊力を見る辺り……

 

(彼女がシズクか……神代君が言っていたミズチの)

 

そんな上等な存在が味方をしてくれるとは助かる……水を使いこなす事が出来るシズク君なら吸血鬼にもかなり対抗出来る筈だ

 

「お父さんは今操られているんだ。お父さんは目覚めたくなかったんだ……」

 

シルフィー君がそう呟く。僕もそれは感じていた……ブラドーは目覚めたくなかったんだ

 

「目覚めたくなかった?どう言うワケ?」

 

小笠原君の問い掛けにピート君は首の十字架を握り締めて

 

「ブラドーはいや父は。吸血鬼を特別優れた存在とは思っていませんでした……ただ人間よりも少しだけ長生きして強い力と魔力と霊力を持つ事が出来る存在。だが人間は異質な存在を恐れる……だからこの島で俗世と隔離された世界を作り、そこで暮らす事を考えました。それがこのブラドー島です」

 

吸血鬼が血を吸う。確かにこれは事実だが、なにも血で無ければならないわけじゃ無い。別の方法もある

 

「事実バラの花とかでも充分だしね」

 

そう笑うシルフィー君。この島の住人はバラから生気を分けて貰って暮らしている。だから島の裏側にはバラの畑が大量にある。この島の住人の生きる糧だからそれはとんでもない数が育てられており、中々壮観な光景だった

 

【じゃあなんでブラドー?さんは暴れてるんですか?】

 

「うむ。ワシもそれが気になっている。中世の時代に一度戦っているしな」

 

おキヌ君とドクターカオスの言葉にシルフィー君は

 

「中世の時代にドクターカオスと戦ったのは、私と兄さんの母……その遺体を奪われた父がそれを奪い返すために……この島を後にしたんだ」

 

この話を聞いたドクターカオスが渋い顔をしている……

 

「あの領主の言葉は偽りだったわけか……悪い事をしてしまったなあ……」

 

頬をかいているドクターカオス。あの時代は吸血鬼=悪と言う時代だった。吸血鬼と分かり合おうとする人間なんていなかったんだ

 

「お母さんのいない世界に用はないとお父さんは眠りに付く事でこの島を永久なる結界を張り、吸血鬼の楽園を作ろうとしたんです。だからお父さんは目覚めたくなかった……眠っていたかったんです」

 

その話を聞いたとき僕は人間以上にブラドーは人間らしいと思った。ただ一人愛した女性に対する想いを貫こうとするその姿は同じ男として充分に尊敬できた

 

「何があったの?」

 

そしてそのブラドーが目覚めた理由……ピート君は顔を歪める。僕もその話を聞いたときは顔を歪めた……

 

「まさか……でもそんな……ありえない話じゃ無いけど……」

 

蛍君と美神君がピート君の言葉に眉を顰める。横島君が首を傾げている中、神宮寺君が

 

「地獄に落とさられたわけですね?そしてそこでその記憶を魔族に見られた、これ幸いと身体を奪って利用してやれ……と、そう言うことですわね?」

 

あの時代で吸血鬼と婚約したピート君達の母親は地獄に落とされた……そしてそこで実体を持たない魔族に記憶を見られて……ブラドー島に眠っているブラドーの存在に目をつけた魔族。それが今回の事件の首謀者と言う事だ

 

「なあ!?そんなことがあるのかよ!」

 

横島君がそう怒鳴る。怒鳴りたくなる気持ちは判らない事ではない……だが時代によってそう言う悲劇もありえるのだ

 

「その魔族の支配からのブラドーの救出。それが今回の依頼になる。幸いまだブラドーはその魔族の支配に抗っている……だが時間がない、あと数日持つかどうかと言う状態だ」

 

ブラドーの魔力と霊的防御をもってしてもなお、魔族の支配から完全に脱するのは難しい

 

「ですが唐巣神父。あまりに戦力が足りませんよ」

 

外はグールにレギオンと悪霊とゾンビに満ちている。確かに人数が足りないだろう

 

「それは心配ないよ。蛍君……」

 

通路の先の広間には若いパンパイヤにハーフバンパイヤ達が武装していて

 

「ブラドー伯爵を魔族から解放するぞ!」

 

「偉大なるブラドー伯爵の為に!!!」

 

確かにブラドーは少しボケている。中世時代の知識しか持たないから無理はないが、しかしそれでも

 

「彼は島民に愛されているんだ。偉大な吸血鬼の長として……そして悲恋の吸血鬼としてね」

 

太陽に触れる事ができない、そして人間とは余りに寿命が違う。それでもなお人間を愛し、届かぬ光に手を伸ばしたブラドー……それはなによりも人間らしいといえた

 

「改めてお願いします。私のお父さんを助けてください」

 

「僕からもお願いします。よろしくお願いします」

 

揃って頭を下げるピート君とシルフィー君。僕は近くの岩に腰掛け美神君達の返事を待つのだった……

 

 

 

ピートとシルフィーちゃんから聞いた話はあまりにしんじがたいものだった。だけど……俺はそんな吸血鬼がいても良いんじゃないか?と思った。俺はチビやタマモと一緒に暮らしていて思った。悪魔や妖怪だって人間と共存できるって

 

「コン?」

 

「みー?」

 

起きてきて肩の上でグルーミングをしているチビと頭の上にいるタマモ。それに

 

「……人外と人か……別れがあると知っていてもなお……愛し、愛された」

 

【羨ましいと思ってしまいますね、不謹慎だとは思いますが……】

 

ぼそぼそと呟いているシズクにおキヌちゃん……

 

「美神さん?受けるんですよね?この依頼」

 

俺がそう尋ねると美神さんははぁっと溜息を吐きながら

 

「本当なら断るわよ。魔族相手なんて洒落にならないから……だけどここまできた以上。やるしかないでしょ?」

 

そう笑う美神さんに続いてエミさんも

 

「ま、そう言うワケ。乗りかかった船だし、最後まで付き合うわよ」

 

カオスのじーさんも手伝うと言ってくれる。だが俺には何の力もない、だけど

 

「俺だって出来る限りの事は手伝うぜ!ピート、シルフィーちゃん!2人の父親を取り返そうぜ!」

 

2人の父親を助けたいとおもう。この気持ちだけはきっと美神さんや唐巣神父には負けていないと思う……

 

 

ピートから聞いたブラドーの話。それを聞いた蛍とカオスそしておキヌは揃って渋い顔をしていた、逆行の記憶を持つ蛍達の記憶と今回の事件は全く違う話になっている。少しずつずれていると思っている矢先に起きた全く違う事件。それは逆行の記憶を持つ蛍達の知識が役に立たなくなってきている証拠だった……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その5へ続く

 

 




次回は戦闘回に入って行こうと思います。色々な視点をやってみようと思います。ブラドーが善人と言う事でどういう展開になるのか?そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回からはブラドー編のオリジナルに入って行きます。それとアシュタロスに変わる過激派魔族の事を少し書いていくつもりなので、楽しみにしていてください


 

リポート12 吸血鬼の夜 その5

 

深い闇の中に佇む2体の異形の姿。濃い魔力を放つその存在2体の異形はそれぞれ、赤い甲冑に身を包んだ異形の騎士と蝙蝠の翼を持つ金の体をしたデーモンだった

 

「また回りくどい事をするな、貴様は」

 

腕を組んでいる異形の言葉に問い掛けに蝙蝠の翼を持つ異形は

 

「それが私のやり方だ。文句を言わないで貰おうか?」

 

鼻を鳴らし背を向ける蝙蝠の翼を持つ異形は腕を組んでいる異形に背を向けて歩き去っていく

 

「……まぁ良い。あの方の指示に従うのならばそれでいいがな」

 

甲冑の異形もまた背を向けて、溶ける様に消えて行くのだった……

 

 

 

ブラドー島の地下でブラドーを支配している魔族から、ブラドーを解放する作戦を立てようとしていたのだが

 

「令子ちゃーん……私もう眠いよぉ」

 

日付が変わる頃まで話し合いを続けていたけど、答えは出ない。何せ魔族を相手にする作戦など考えても判るわけがない。この話し合いに参加できない、横島は既に寝ているけど、私達もそろそろ休まないと明日に影響する

 

「はぁ……それもそうね、ここで1回休みましょうか?」

 

美神さんが頭をかきながら呟く、ブラドーの城の構造までは判った。襲撃経路を決める事までは出来たけど、魔族の正体が判らないので攻め手がないのだ

 

「魔族と言うがな?それほどまでに魔力を感じん……下位レベルの魔族。知性とかも少ないタイプなのではないかの?」

 

ドクターカオスがそう呟く、確かにその可能性は充分に考えられる。私は半分は魔族だが、その私が魔族の存在に気付かなかった。極めて存在の薄い魔族の可能性がある……それにブラドーのような霊格の高い吸血鬼に同じく霊格の高い魔族では間違いなく気付かれる。つまりブラドーに取り憑いている魔族は良くて中級クラスの魔族の可能性が高い、だけどそれで考えると

 

「確かにその可能性は考えられるワケ。だけどそうなると、その魔族だけじゃブラドーの障壁は突破できない。その魔族をブラドーに接触させた魔族がいるんじゃない?」

 

エミさんの言う通りかもしれない、隠密能力が高く、そして極めて格の高い魔族が存在しているのかもしれない

 

「あー1つだけ心当たりが、父が目覚める前に金色の蝙蝠を見かけたのですが」

 

ピートさんが手を上げてそう呟く、金色の蝙蝠。それは間違いなく魔族が化けていた姿だろう……

 

「金色の蝙蝠か……それは確かに気になるね。だけど正直言って装備が心もとない」

 

唐巣神父の言う通りだ。除霊具はある程度は無事だったが、魔族相手ではそれでも足りないと思う。私達が呻いていると

 

「馬鹿じゃありませんこと?」

 

私達の話し合いを聞いていた神宮寺が私達を馬鹿にするようにして呟く、私達の視線が神宮寺に集まる中

 

「今この島には魔族が居ない、それで充分ですわ。ブラドーを見つけたら、結界でその周囲の精霊石なり結界札で周辺を隔離してしまえば良いじゃ無いですか?」

 

確かに口で言うのは簡単だが、魔族の侵入を防ぐだけの結界を作るのに、どれだけの精霊石と準備が必要か判っているのだろうか?

 

「それだけの結界を作るのにいくら掛かると思ってるの!?1億や2億じゃきかないわよ!?」

 

「命は買える物ではありませんわ、それでもなおそんなことが言えますの?馬鹿じゃありません?」

 

きつい言い方だが、神宮寺の言っている事は正しい。命あっての物だ。そんな事を言っている場合ではない……そもそもこの状況でなお、お金の事を考えることが出来る美神さんが異常と言える

 

「判った!判ったわよ!!使えば良いんでしょう!これで作戦は決まり!私はもう寝るわ!!」

 

不機嫌そうに言って奥の部屋に向かっていく、変なところで子供っぽいなあと苦笑していると

 

「あたしもそろそろ寝るワケ。蛍も休みなさいよ」

 

奥の部屋に向かっていくエミさん。神宮寺は提案した次点でこの部屋を出て行っている。本当に協調性のない人間だ……私は寝る前にっと周囲に人間が居ないのを確認してから

 

「通信鬼」

 

ぼそりと呟き、手の中に通信鬼を呼び出して

 

「もしもし?お父さん?」

 

『聞こえてるよ蛍。どうかしたかい?』

 

直ぐに返事を返してくれたお父さんに安心し

 

「金色の蝙蝠の魔族の化身っている?」

 

ピートさんの話を聞いた限りではその蝙蝠が魔族の可能性が高い

 

『うーん。流石にそこまであやふやな情報じゃあ判らないね、魔族は夜の眷属を使うのが多い。蝙蝠を使う魔族は結構多いからね』

 

やっぱり特定できないか、判っていた事だけどちょっと残念……

 

『特定は難しいけれど、出来るならその周囲の魔力とかを集めておいてくれるかい?今後魔族の特定に役立つかもしれない」

 

過激派魔族の特定は最優先課題のひとつだ。ここはお父さんの言うとおりにして少しだけ魔力を集めておく事にしよう

 

「判ったわ。じゃあおやすみ、お父さん」

 

明日は朝からブラドーの城に突撃する事になる、少しでも良いから休んでおこう。お父さんにおやすみと言って私も女性の部屋へと向かい眠りに落ちるのだった……

 

 

 

地下の部屋はまぁそれなりに快適だったけど

 

「うあー身体がバキバキ言ってる」

 

土を削って作ったベッドだったからか、身体がバキバキ言ってるなあと苦笑しながら背伸びをしていると

 

「コン」

 

するすると俺の背中を登って、頭の上に伏せるタマモを見て苦笑しながら、部屋を出ると直ぐにおキヌちゃんとシズクに会う、2人も俺に気づいたのかすぐに

 

「……横島おはよう」

 

【横島さん。おはよーございます♪】

 

「おはよう。シズク、おキヌちゃん」

 

シズクとおキヌちゃんにおはようと返事を返す。これで外だったらもう少し気分も良いんだけどなあと思っていると

 

「横島も起きた?」

 

「おう、ばっちりだ。ちょっと身体が痛いけどな」

 

軽くストレッチをしながら蛍に挨拶を返す。今日はブラドーの城に向かうらしいのでしっかりと身体をほぐしておかないと後が怖い

 

「私も少し身体が痛いかな?後で入念にストレッチをするから手伝ってね?」

 

ウィンクをしながら言う蛍。からかわれているのか?と悩んでいると

 

「朝からいちゃつくな、目障りですわ」

 

「ふぐおう!?」

 

後ろから尻を蹴られる。やたら金属質の痛みがぁ!?正直いってめちゃくちゃ痛い

 

「なにするのよ!神宮寺!」

 

「なにを?邪魔をしているのを蹴って悪いのですか?」

 

本当にこの人はかなり怖い、あの皮のブーツ絶対つま先に鉄が入ってるに違いない

 

「……大丈夫?」

 

シズクが水を掛けて治療してくれる。本当にシズクには助けてもらってるなあ……料理もしてくれるし、こうして怪我の治療もしてくれる。本当に助かる

 

「くう、あの女、絶対こんどへこませる!」

 

【私も手伝います。どうして横島さんを目の敵にするんですか!】

 

怒っている蛍とおキヌちゃんに

 

「いや、今のは多分俺が悪かったんだよ」

 

この狭い通路の真ん中にいた俺が悪いんだと思う。

 

「普通に通れたのに横島を蹴ったのよ。私は許せないわよ」

 

【本当です。酷いですよ!】

 

うーん。中々怒りを収めてくれないないなぁ……どうしよと思っているとカオスのじーさんが

 

「がっはは、それはあれじゃな、好きな子に意地悪をしたい……「【余計な事を言うな】」「余計な・事を・言わないでください」がっはあ!?」

 

蛍のローキック・おキヌちゃんのポルターガイスト・マリアのビンタがカオスのじーさんに殺到する

 

「かかか、カオスのじーさぁぁんッ!!!」

 

錐揉み回転をして吹っ飛んでいくカオスのじーさんを見て思わず俺は絶叫してしまった。もしかして俺もいつもこんな風なのか?確かにこれは怖いなあと思わず苦笑してしまうのだった。悶絶しているカオスのじーさんが復活してから広場に向かい、そこで固いパンと野菜スープで朝食を済ませた所で美神さんが

 

「それじゃあ。早速ブラドー城に向かうわ、先鋒は半吸血鬼の皆よ。私達は別の通路からブラドー城に向かうわ。良いわね」

 

美神さんの説明に頷き、振り返る。武器を手にする半吸血鬼の青年達の士気は高いし、そうそう死ぬことはない……らしい。それにこの島は吸血鬼と半吸血鬼が半々ずつ暮らしているらしい、魔族側もそれを理解しているから吸血鬼の皆を操らなかったんじゃないか?と美神さん達が話をしていた

 

(だからこそのレギオンとグールなのか?)

 

蛍に説明してもらったけど、レギオンもグールも昼間でも活動できる悪霊と死霊と言える。両者とも既に死んでいるので、今更太陽の光なんて弱点でもなんでもない、この襲撃を計算した上でレギオンとグールを召喚したと考えれば辻褄が合う。そして半吸血鬼の襲撃における騒動の中に紛れてブラドーの城に突入する……理に適っている訳だ。流石美神さんと言う所だろうか?

 

「隠し通路からの奇襲は私達で行くわよ、横島君は荷物もちになるけど良いわね?」

 

確認と言う感じだが、これは間違いなく決定事項だ。ピートとシルフィーちゃんの親父さんを助けたいという気持ちはある。だけどグールとかは怖い……足が震えて冷や汗が流れるのが判る。これは前のあの旧GS協会地下よりも危険な場所だというのは判る

 

「やります。大丈夫です」

 

GSになると決めたんだ、こんな所で逃げるわけに行かない。それになによりも

 

(いつまでも護られてばかりじゃみっともないだろ!俺)

 

怖いと逃げたいと思う気持ちもある。それでもなおやると決めた

 

「良い返事よ横島君。タマモとおキヌちゃん、それに冥子とシズク一緒に行動しなさい。それなら少しはましのはずよ。それじゃあ行きましょうか!」

 

神通棍を構える美神さんの言葉に頷き、雄叫びを上げて走っていく吸血鬼の後ろをついて、俺達も隠し通路からブラドーの城に向かうのだった……

 

なお出発前に蛍のストレッチを手伝ったのだが、多分俺はあの甘い香りと柔らかい感触を忘れる事は絶対にないと思うのだった

 

 

吸血鬼の作ったという隠し通路を通り、この島の中心の古城に続く長い石階段を上りきった所で

 

「ここで装備を整えるわよ、横島君は精霊石を忘れずに身につけておきなさい」

 

美神が自分の鞄から精霊石を取り出して、バンダナの少年。横島に手渡している……稀少な精霊石を渡す所を見るとよほど大事に育てているのだろう。

 

(ってなんで私はそんなに気にしているのですか)

 

別に他人なんてどうでも良いはずなのに如何してこんなにあの横島と言う馬鹿を気にしてしまうのか。それが自分でも理解出来ず、若干のイラつきを覚える。しかもそれでなんで私がイラつかなければならないのか判らず、それが更に私をイラつかせる

 

「わふ♪」

 

横島の足元をうろついている式神の犬と頭の上から私を見ている妖狐。そして肩の上で

 

「みみみみー!!」

 

手を振って鳴いているグレムリン。GSだというのに如何してこうも自分の傍に妖怪を置いて平気なのだろうか?私には理解できない。それに

 

(美神だって何を考えているのやら)

 

若手NO1と言われ、なおかつ自分でもそれを誇りにしているのにどうしてあんなのを自分の助手にしておけるのかが判りませんわ。1人離れた所で横島を観察していると判る

 

「……水の蓄えは大分あるから大丈夫。だけどそんなには使えない」

 

水神?そんなのがどうして人間に協力しているんですの?と言うか

 

(なんで横島の膝の上に座ってるんですの!?)

 

もうあれは歳の離れた兄妹にしか見えない。神としてのプライドとかはないんですの!?

 

(あの男が傍にいるとどうも落ち着きませんわ)

 

心に勝手に入ってくるわ、馬鹿な事をするわ。私とは全く違うタイプの人種だ。ああいう人間とは係わり合いになりたくないですわ

 

(魔導書に吊られて来たのは失敗でしたわね)

 

稀少な魔導書があるからと聞いてここに来たのは失敗だったかもしれない。少なくともあの馬鹿がいると知っていたら私はこんな場所には来なかったと思う。早く移動してくれないですかね?こんな埃っぽいところにいるのは嫌ですし、何よりもこれ以上横島と一緒にいて自分を乱されるのが嫌だ

 

(魔法使いは冷静で無ければならないというのに)

 

自分の持ちえる力よりもはるかに強大な力を使う事が出来る魔法使いは常に冷静で無ければならない。それが魔法使いとしての鉄則なのに……小さく溜息を吐くと周囲に人の気配がないことに気付く

 

(置いていかれましたか、仕方ないですわね)

 

どうせ私を待ってくれている人間なんていませんわ……ドレスの埃を払って立ち上がり歩き出そうとすると

 

「あ、神宮寺さん。もーどうしたんすっか?遅いから心配しましたよ」

 

「!?」

 

私を待っていた横島の姿に驚く、頭の上の妖狐とGジャンを掴んでいる水神が嫌そうな顔をしているのを見ながら

 

「私を待っていた?馬鹿じゃありませんか?私のことを聞いてないのですか」

 

私を待とうなんて馬鹿にも程がある。大体私は単純な攻撃力で言えば私に勝てるGSなんて殆どいない筈だ

 

「聞きましたよ?凄い魔法が使える魔法使いだって、精霊石とか除霊具を使わなくても強いって」

 

へらへらと笑っている横島。それだけ聞いて何故私を待っていたのかが理解できない

 

「……あんまりはなれると合流が難しくなる」

 

水神が早くと言う感じで服を引くが横島はそれを気にしないで

 

「ほら、神宮寺さん。行きましょう」

 

私に手を伸ばす横島の手を振り払い、横島の目を見て

 

「何をふざけているんです?私が貴方のようなへっぽこの手を何故借りなければならないのですか?一体何を企んでいるのですか」

 

「企んでいるなんて……ワイはただまぁ……ちょっとはその……神宮寺さんと仲良くできたらなんてなぁ?」

 

頬をかいている横島。前まで嫌って程見た私の身体だけを見ている下賎な視線は感じない、不思議と感じるのは純粋な好意……それが判るから、かえって苛立ちを感じてしまう

 

「ふん!これだから男は好きじゃ無いんですわ」

 

横島を無視して歩き出すが横島は私の行動を何も気にしてないように笑いながら

 

「神宮寺さん、待って!俺弱いからグールとかに襲われたら死ぬから!!!」

 

ぎゃーぎゃー騒ぎながら走ってくる横島

 

「うるさいですわ!私は騒がしいのは嫌いなんです!気が向けば助けてあげるから黙ってついて来なさい!このへっぽこ!」

 

うぐうっとか呻く横島を無視して、私は古城の廊下を歩き出すのだった……

 

「いやいや!マジで!マジで置いていかないでええええ!!!」

 

「やかましいですわ!!!」

 

泣きながら追いかけてくる横島の顔面に軽い魔力弾を打ち込むと錐揉み回転しながら飛んでいく

 

「ふぎゃあ!?」

 

「コーン!?」

 

「みみみー!?」

 

「……直ぐ治す」

 

慌てている妖狐とかと痙攣している横島。これで少しは大人しくなると思ったのですが

 

「何をするんやぁ!!!痛いやないかー!!!」

 

即座に立ち上がりそう怒鳴る横島。信じられないですわ……今のは並みの妖怪なら一撃で殺せるだけの一撃だったのですが……

 

「うるさいですわ!また叩き込まれたいんですの!」

 

指先に魔力弾を集めると慌てて土下座して

 

「すんません!すんません!!大人しくしてるんでそれは勘弁してください!!」

 

ぺこぺこと繰り返し謝る横島に気勢を削がれて、指先に集めた魔力弾を霧散させながら

 

「大人しく黙ってついて来なさい。判りましたわね」

 

「はひ」

 

青い顔をしている横島を連れ、私は美神を探してゆっくりと歩き出すのだった……

 

なおその頃。くえすを待つと言って聞かなかった横島のことを心配している蛍達はと言うと

 

「【なんか嫌な予感がする】」

 

シズクとタマモがいるから、不安に感じつつも横島を残してきたのだが、グールや狼に横島が襲われているのでは?と言う不安ではなく、直感的に何か自分達に悪いことが起きたのでは?と言う本能的な不安を感じているのだった……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その6へ続く

 

 




今回は次回への繋ぎの話になってしまったので少し短くなりましたね。次回は最初から戦闘回で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回からは戦闘回になります。若干オリキャラが多くなってくると思います、使いきりの吸血鬼とかね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート12 吸血鬼の夜 その6

 

父さんの古城の中には危惧していたグールの姿は殆ど無かった……そのおかげで体力も霊力も温存したまま進む事ができている、だが外から聞こえてくる怒声から激しい戦いが行われているのだと判る

 

(外に回っているのか?)

 

島の皆が正面から城の中へと突入してくれたおかげか、城内にグールの姿はない。多少姿の見えるのは吸血鬼化した狼程度だが……僕とシルフィーの睨みで逃げていく、すんなりと地下から1階へ上がる事が出来た

 

「敵は全然いないわね。このまま最上階にだっていけるんじゃない?」

 

美神さんがそう言うが、そんなことはないと自分で判っているようで引き締まった顔をしている。

 

「まだまだこれからだよ。魔族が危険な吸血鬼を開放してるから」

 

シルフィーがそう呟く、この古城には思考が危険で危険視されている吸血鬼が何体か封印されていたはずだ。だけど封印されているはずの地下にその姿が無かった。それはつまり封印が解除されているという証拠だ

 

「その吸血鬼って言うのはどんなワケ?知っているなら教えて欲しいんだけど?」

 

エミさんにそう言われるが、僕とシルフィーは首を振りながら

 

「危険な吸血鬼としか聞いて無いので、何とも言えないです」

 

残念ながら危険だからとしか聞いていない。ただ人間撲滅思考の持ち主としか聞いてないのだ

 

「うん。それに地下はあんまり入ったら駄目だって言われたしね」

 

父さんではないが、村の皆にも言われていた。1000年以上前の吸血鬼だそうだが……

 

「まぁ先に進むしかないよ、ここから先は暗くなるからより注意してね」

 

そう笑う唐巣先生。1階はまだ光が入って来ているが、2階は完全に闇に包まれている、つまり吸血鬼の世界と言える。生身の美神さん達が先頭を歩くのは無謀と言えるだろう

 

「マリア。すまないが、前を頼むぞ?」

 

ドクターカオスがマリアさんにそう声を掛ける。彼女はアンドロイドだから吸血鬼にされる事はない筈だ

 

「任せて・ください・銀の弾丸は・装填済みです」

 

銀の弾丸。吸血鬼の弱点の武器だ、さすが1000年の時を生きる錬金術師。備えも完璧のようだ

 

「僕とシルフィーも前に出ます」

 

吸血鬼である僕とシルフィーも前に出て当然だ。噛まれなければ支配されることはないし、仮にもブラドーの血を引いているのだから並の吸血鬼の支配を受けるはずもない

 

「それじゃあ私と唐巣先生は中衛に回るわ、エミは後衛で臨機応変にお願いね。蛍ちゃんも同じく後衛、状況次第で動いて」

 

てきぱきと指示を出す美神さんに頷き。僕達は2階へ続く階段に足を向けたのだった……

 

「所で美神さん。横島君と神宮寺は?」

 

そう言えば姿が見えない、おかしいなもう合流してきてもおかしくないはずなのに……

 

「確かに遅いわね……おキヌちゃん見てきてくれる?」

 

美神さんがおキヌさんに声を掛けると、幽霊のおキヌさんは小さく頷き。壁の中に消えていった……バンパイヤミストで移動できる僕かシルフィーでも良いんだけど、ここは案内の出来る僕とシルフィーが離れるわけには行かない。だからおキヌさんが適役のはずだ

 

「さ、私達は気合を入れて進んでいくわよ、案内よろしく」

 

美神さんの言葉に頷き、僕とシルフィーを先頭に光のない古城の中を進み始めるのだった……

 

 

 

俺と神宮寺さんは偶然見つけた書庫で30分以上留まっていた……シズクは退屈そうに椅子に座って、膝の上のチビと遊んでいるし、タマモは膝の上で丸くなって暇つぶしをしている。俺としては早く蛍や美神さんと合流したいんだけど

 

「神宮寺さん、先に進まなくていいんですか?」

 

本を読んでいる神宮寺さんにそう尋ねる。神宮寺さんは見ていた本を閉じて

 

「少し待ちなさい。私が探しているのは希少な魔導書だけですわ、本を見れば直ぐ判るので少しまってなさい」

 

そう言ってまた本棚を探し始める神宮寺さん。こんな事をしていて良いのかな……俺も少し本を見るかなあと本に手を伸ばすが

 

「止めておきなさい、ここにいるのは程度は低いとは言え魔導書の数々です。貴方みたいに霊力の低い者が見て良い本ではありませんわ」

 

神宮寺さんに脅されて伸ばしかけた手を戻そうとして、ふと気付く

 

「なんかこの本。凄い感じがするんすけど?」

 

「はぁ?貴方みたいなへっぽこに何を感じる事が出来るというのですか」

 

不機嫌そうに俺のほうに来た神宮寺さんは俺の手元を見て

 

「何の本もないじゃないですか」

 

え?どうしてだよ。目の前にあるじゃ無いか、俺は再度その本に手を伸ばし本棚から引き抜いた

 

「……貴方は霊力がないくせに特殊な目を持っているようですわね、全く宝の持ち腐れですわ」

 

なんかひどい事を言われてる気がする。と言うか特殊な目ってなんだよ

 

「……横島。そこには何の本もなかった、だけど横島はその本を見つけることが出来た。それは貴方の目が特別って事」

 

シズクの説明に頷く、そうか俺は陰陽術だけじゃなくて、何か特別な目があったのか。そう言えば前にゾンビの中の魂を見たような気がするな……まぁその時の1回だけだけど

 

「その様子では知らなかったようですわね。まぁ良いですわ、貴方の特別な能力も判りましたし」

 

何か納得した様子で俺の渡した本を懐にしまい神宮寺さん、一瞬見えた黒いレースの下着が眩しい」

 

【横島さん!?】

 

「へぶう!?」

 

本棚から突然顔を出したおキヌちゃんに顔面に拳を叩き込まれる。更に

 

「ふん!」

 

「ぎゃああ!?」

 

強烈な頭部への打撃に絶叫する。なんて重い打撃なんだ……美神さんか蛍のそれに匹敵するぞ……

 

「今度そんな事をすれば頭を握り潰すので覚えていなさい」

 

冷酷な響きを持っている神宮寺さんの言葉に何度も頷いていると、今度は脛に鈍い激痛が走る

 

「……てい」

 

シズクの強烈なローキックの威力。そう言えば初めてシズクに攻撃されたかもしれない……俺は脛を抑えて思わずその場に蹲ってしまうのだった……

 

「みみー!?」

 

「クウ」

 

ピクピク痙攣している俺を心配しているチビの小さい手と、俺の頬を舐めるタマモ。最近俺を心配してくれるのはチビとタマモだけだ……俺はそんな事を考えながら痛みが引くのを待つのだった

 

「まぁ良いですわ。さっさと行きますわよ」

 

俺を見下ろして歩き出す神宮寺さん。背中に憑いたおキヌちゃんに冷たい感触を感じながら、ゆっくりと古城の中を歩き出したのだった……

 

「ひっひゃひゃ……久しぶりに人間の女を見たなあ……」

 

俺達の前に巨大な吸血鬼が姿を見せる。3メートル弱の巨人

 

「ぎゃあああああ!?ば、化け物オオオオ!?!?」

 

「みみみみみーッ!!!!」

 

俺とチビの絶叫が重なる。こんなのと戦うなんて正気の沙汰じゃ無い。チビをGジャンのポケットの中に押し込み、更に結界札でチビが外に出ないようにして、美神さんから預かった防護札を手に取る

 

「ひゃははは!久しぶりに人間の血を頂きだぁ!!!」

 

吸血鬼が笑いながら拳を神宮寺さんに手を伸ばす。役に立たないかもしれないが、女の子が殴られるのを見てる訳には!俺は咄嗟にポケットの中の防護札を手に神宮寺さんの盾になろうとした瞬間

 

「……馬鹿!危ない!」

 

シズクが俺の服を掴んで引き寄せる、タマモも俺の頭の上で怒っているような仕草を見せる

 

「愚かしい判断ですわ、横島忠夫。私の力を知らないにも程がありますわ」

 

神宮寺さんの手が輝いたと思った瞬間。吸血鬼の拳があらぬ方向に捻じ曲がる

 

「っぎゃあ!?」

 

吸血鬼が悲鳴を上げた瞬間。神宮寺さんが素早くバックステップをし

 

「消えなさい、ゴミ屑」

 

青黒い炎が吸血鬼を飲み込んだと思った瞬間、凄まじいまでの悲鳴が古城に響き渡ったのだった

 

「殺したんすっか?」

 

痙攣している吸血鬼を見てそう尋ねる。吸血鬼の全身はボロボロに炭化していてる。これはまさか死んだ……

 

「コン」

 

励ますように俺の頬を舐めるタマモ。結界札の効果が切れた事でチビも顔を出している

 

「別に殺してませんわ、殺しはしないと言う契約ですもの、まぁ2度と目を覚ます事は無いと思いますがね」

 

にやりと笑う神宮寺さん。その姿は蛍や美神さんに聞いた「魔女」と言う名に相応しい笑顔だった……

 

「まぁこんな程度ですわね。ほら行きますわよ、へっぽこ」

 

服の埃を払いながら言う神宮寺さんに頷き、俺はその後ろをついて歩き出すのだった……

 

(あの人怖いなあ……)

 

(……あんまり近づこうなんて思わない事、あれは人間じゃ無い、人の形をした悪魔)

 

シズクの言葉に辛辣な響きがあった。確かに怖いとおもう、だけど……それ以上に

 

(彼女は泣いているんじゃ?)

 

判らない、あれほど強い彼女が泣いているとは思えない、だけど何故か俺は彼女がやはり泣いているように見えてしまうのだった……

 

(横島さん……やっぱりですか)

 

一緒にいるおキヌは気付いてしまった。横島がくえすの内面を感じ取っている事に、誰よりも優しい横島だからこそ感じる事が出来る彼女の弱さ

 

(私はどうすれば)

 

横島がくえすの内面を知ってしまえば、きっと横島は彼女の手を掴む、それを理解しているが、おキヌは思ってしまった。今の彼女のままではいけないと、彼女には横島の存在が必要なのだと

 

(ああ、本当に横島さんには困らせられてしまいます)

 

横島の傍にいると飽きる事はない、だけどその代わり気を揉むことになる、それが嫌なのだが、横島らしいと思いおキヌは横島の好きにさせる事にして

 

【横島さん、怖いですけど頑張りましょうね】

 

今は横島を独占すれば良いやと割り切り、横島の背中から抱きついて首元に腕を回すのだった……

 

 

 

古城を進んでいる突然断末魔の悲鳴が木霊する、若干城の内部の温度が上がったような気もする。間違いなく……

 

「くえすね」

 

横島君が吸血鬼を倒せるとは思えない、恐らく一緒にいるくえすが倒したのだろう……

 

「その危険な吸血鬼と言うのは何体いるんじゃ?」

 

カオスの問いかけにピートは考える素振りを見せ

 

「確か2体か、3体だったと思います」

 

3体となると、残りは2体……それは間違いなく次の階に続くフロアに待ち構えているはずだ。そしてその予想は当たっていた

 

「こっちもお出ましみたいね」

 

3階へ続く階段の続く広間の前で腕組をしている吸血鬼。その身体には甲冑を身に纏い、腰には剣の鞘が見える。さしずめ吸血鬼の騎士様って言うところかしらね

 

「俺はただ戦いたいだけだ、俺を楽しませろ!現代の退魔師ッ!!!!」

 

腰の剣を抜き放ち、唐巣先生に突進する騎士。唐巣先生はそれを見ると眼鏡を投げ捨て

 

「美神君!フォローは任せた!!!」

 

力強く地面を踏み込み、騎士の剣を紙一重で交わしてその顔面に拳を叩き込む唐巣先生。本当眼鏡を外すと好戦的になるわね、唐巣先生は……とは言えこの場合ではそれは得策と言える。こうして前に立って貰えば、私達が戦いやすくなる

 

「ピート!シルフィー!前衛よろしく!蛍ちゃん下がるわよ!」

 

強靭な肉体を持つピートとシルフィーが唐巣先生と一緒に前衛を勤めてくれれば良い。

 

「エミは霊対撃滅波よりブーメランとお札でサポートして!」

 

「言われなくても判ってるワケ!」

 

私の言葉に返事を返すと同時にブーメランを投げるエミ。吸血鬼相手にどれだけ効果があるかわからないし、これならば通常攻撃の方が効果があるかもしれない

 

「しゃらくさいわ!!!」

 

素手でブーメランを弾く吸血鬼。どうもかなりの実戦経験のある騎士みたいね。霊力で加速したブーメランの側面を裏拳で正確にはじくなんて芸当は早々出来るものではない。となると普通に遠距離攻撃をしても避けられるか防がれる可能性が高い

 

「蛍ちゃん、ソーサーで足元を狙う事って出来る?」

 

ここにこれだけの騎士がいるというのは明らかに私達を消耗させるための作戦だろう。まだ魔族とも戦わなければならない可能性がある以上向こうの思惑に乗る必要はない

 

「行けます。だけど唐巣神父が少し問題ですね」

 

間合いを詰めて吸血鬼と激しい接近戦をしている唐巣先生。ソーサーが爆発すれば唐巣先生も危ないかもしれない

 

「問題ない。唐巣が落ち掛けたらマリアのロケットアームで回収する。それでどうじゃ?」

 

私と蛍ちゃんの話し合いに割り込んできたカオス。確かにそれで良さそうね、左手にソーサーを作り出す蛍ちゃんに合わせて

 

「行けッ!!」

 

手にしている破魔札を吸血鬼に投げつける。狙い通り顔面で炸裂したが

 

「この程度で!!」

 

一瞬で爆風を振り払い突進してこようとする吸血鬼の足元目掛け、蛍ちゃんがソーサーを投げつける。狙いは足ではなく、石造りの廊下

 

「先生!」

 

ピートとシルフィーが私の目的に気付いて唐巣先生の腕を掴んで、身体を霧状にする。そして次の瞬間

 

「ぬおお!?」

 

床が抜けて下半身が完全に下の階に落ちた吸血鬼。その腕は自身の身体が落ちないようにしっかりと床の上にある

 

「マリア?あれを持ってる?」

 

「勿論です」

 

マリアに差し出された白い欠片。それは吸血鬼の天敵であるにんにくだ、それを見たピートとシルフィーが顔を逸らす。だけどこれ以上に適した武器はないだろう

 

「待て!き、貴様!?正々堂々戦う気はないのか!?」

 

何とか抜け出そうともがいている吸血鬼を見ながら、手にしているにんにくを振りかぶり

 

「それじゃあ極楽へ逝ってきなさい!!」

 

「----ッ!!!!」

 

吸血鬼の口にストライクで飛び込むにんにく。そして吸血鬼は目を白黒させ、声にならない絶叫を上げ動かなくなった

 

「良し、これで良いわ。進みましょう」

 

渋い顔をしている唐巣先生や、悲壮そうな顔をしているシルフィーとピートを連れ私達は3階へと登って行ったのだった……

 

 

 

あの美神令子がこんな使えないのを助手にしている理由が判らなかったが、こうして一緒に行動していると段々判ってくる

 

(才能の塊ですわ。このへっぽこ)

 

強力な霊視の目に、妖怪と心を通わせる能力、そして私を超える潜在霊力……

 

(今まで優秀なGS候補の名前にあがっていないのが不思議ですわ)

 

GS協会にはスカウトの制度もある、これだけの逸材が何年も放置されていた理由が判らない……

 

(まぁどうでも良いですわ)

 

私はこの城の中の貴重な魔術書を求めてきただけ、このへっぽこがどうなろうと関係ない

 

「チビ、あーん」

 

「みーん♪」

 

だから肩の上のグレムリンの幼生に木の実を与えているへっぽこなんて関係ない

 

「大分歩いたなあ、タマモ水飲むか?」

 

「コン」

 

水筒を床の上において妖狐に水を与えていようが関係ない

 

「……ふう」

 

「疲れたか。おんぶするか?シズク」

 

【横島さんの背中は私のですよ!?】

 

「いや。俺の背中は俺の物なんだけど……」

 

幽霊とミズチの痴話……

 

「いい加減にしなさい!!!ここがどこだか判ってるんですの!?」

 

敵の本拠地のど真ん中で何をしているのですか!と怒鳴ると横島は

 

「すんまへん、でもいつも気張ってたら疲れません?神宮寺さん」

 

にへらと笑う横島にはっとなる。確かにさっきの吸血鬼と戦ってから随分と自分でも緊張していたのが判る

 

(こんな馬鹿に気付かされるなんて)

 

魔法は精神状態が深く影響する。休むときには休むべきなのかもしれない

 

「丁度良いですわ、私にも何か飲み物を用意しなさい」

 

「……自分で用意しろ。魔女」

 

【横島さんは貴方の召使ではありませんよ】

 

不機嫌そうに私を睨むミズチと幽霊。ミズチは私の炎では難しいかもしれないが、幽霊ならその霊体を燃やし尽くす事は不可能ではない。1度力の差を教えるためにもと手に炎を集めようとした瞬間

 

「はい。どうぞ神宮寺さん」

 

丁度良いタイミングで差し出された紅茶のペットボトル。本来ならこんなのは私の飲むべきものではないが、贅沢を言うことは出来ない。近くの瓦礫に腰掛け封を開ける、紅茶とは思えない香りに少しだけ眉を顰めながらもそれを口にする。

 

「あーそれにしても蛍とか美神さんとかシルフィーちゃん大丈夫かなあ」

 

心配そうにしている横島。私を待っていなければ一緒に行動していたはずなのに、なぜ私を待っていたのかが判らない

 

「言おう言おうと思っていたのですが」

 

「何をですか?」

 

幽霊を背中に背負い、左の膝の上にミズチを座らせ、右膝の上で妖狐の背中を撫でている横島に

 

「なんで私を待っていたんですの?芦蛍とまで離れて」

 

待っていたとは聞いていた、だけど本当の事だと思えずもう1度尋ねると

 

「そりゃ決まってるじゃ無いですか、神宮寺さんみたいな美少女をこんな所において……ぎゃああああ!?」

 

待っていたと繰り返し言う横島。直ぐに幽霊に頭を叩かれ、ミズチに脇腹に肘を叩き込まれ、妖狐に噛まれて悶絶している横島。本当に馬鹿な男だ、だけど

 

「くす」

 

面白い男だ。こんな奴と一緒ならもう少し楽しい青春を過ごせたかもしれない、そう言う面ではあの芦蛍が羨ましい……

 

(って私は何を考えているのですか!?)

 

こんな馬鹿を気に掛けるなんて私らしくない、魔法使い神宮寺くえす様の考える事じゃ無い、こんな考えは全く合理的ではない

 

「まぁ良いですわ、急ぎましょう」

 

さっきの爆発の事もある、向こうも間違いなく戦っているはずだ。本当ならどうでも良いことですが、全滅されると私1人ではブラドーと戦うのは不利。早いうちに合流しましょうと呟き歩き出した瞬間。ピシッと言う音が響く

 

「しまっ!?」

 

一瞬で崩れる古城の床。このタイミングでは飛行魔法も間に合わない、落下に備えて魔力と霊力でバリアを作ろうとした瞬間

 

「神宮寺さん!!!」

 

止めようとしている幽霊とミズチを無視して私のほうに飛んで手を伸ばしてくる横島。私は咄嗟にその伸ばされた腕を掴んだ……掴んでしまった。冷静に考えれば、落ちながら浮遊魔法を使うほうが正しいと判っていたのに

 

「このおッ!」

 

空中で無理やり体勢を立て直し、自分の身体で私を護ろうとした横島に身を任せる事を選んでしまった

 

(こんなの私らしくない)

 

こんな博打とも言えないことを選んだ自分の考えが間違っているのが判っているのに、私は横島を振りほどこうとせずほぼ無意識に横島の背中に手を伸ばしていた。そして私と横島は下の階へと落ちて行ったのだった……

 

【横島さんとあの人を2人きりにはできません!!】

 

「……まて、放せ」

 

「みみみみー!!!」

 

「きゅうううううう!!!!」

 

そしておキヌちゃんはシズクを抱え、暴れるタマモとチビを捕まえて同じように下の階へと飛び降りるのだった……

 

リポート12 吸血鬼の夜 その7へ続く

 

 




次回は美神と横島達の合流の話を書いていこうと思います。ブラドー編はあと2~3くらいで終わりにしたいですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

後来週の水曜日か木曜日にもう1度更新しようと思っているので平日更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は前回のあとがき通り「横島達」と「美神達」の合流の話を書いていこうと思います

それとブラドー戦を始めていこうかな?とか思っております。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート12 吸血鬼の夜 その7

 

突然響いた轟音と同時に落ちて来た瓦礫。多分だけど、上でくえすが何かしたんだと思うけど、他にもいるんだからそう言うのは考慮しなさいよ……私はそれを回避する事が出来たけど……

 

「皆大丈夫!?」

 

冥子を除けば全員運動神経の良い連中ばかりだから大丈夫だと思うけど、心配になりそう尋ねると

 

「大丈夫だよ。美神君、冥子君も無事だよ」

 

唐巣先生が冥子の手を引きながら姿を見せる。このタイミングで冥子が暴走したりしたら全滅だから良い判断をしてくれたとおもう

 

「ワシも大丈夫じゃよ。マリアがいるからのう」

 

「イエス・ドクター・カオス」

 

カオスのほうはマリアがフォローして無事。蛍ちゃんとエミの方はと言えば

 

「こっちも大丈夫です。美神さん」

 

「こういう時に吸血鬼って便利って思うね」

 

ピートがエミとシルフィーちゃんが蛍ちゃんを抱えて瓦礫を回避していた。

 

「そう。皆無事ならいいわ……それにしても急にどうしたのかしら?」

 

今まではこんな事はなかったし、仮にくえすだとしても、こんな古い城で馬鹿みたいな威力の魔法を連発するような考え無しじゃ無い……

 

「ピート。ブラドーの力が増してきたって事で良いのかしら?」

 

今まで動きが無かったのが不思議なくらいなのだ。向こうも私達の存在には気付いているはずだ

 

「正確には父に取り憑いている魔族の力が増していると思います」

 

ピートがそう呟く、ブラドーが今まで抵抗していたから妨害が少なかった。だけどそれが無くなったから、本格的にブラドーが動き出したのだろう……

 

「急がないと不味い事になるわ。完全にブラドーの意識が奪われる前に王座の間に向かいましょう」

 

このまま完全にブラドーの意識が完全に無くなってしまえば、間違いなく魔族はブラドーの魔力を使って破壊の限りを尽くすだろう

 

「まだ間に合うと私は思うよ、急ごう。ピート君、シルフィー君、案内を頼むよ」

 

この城に暮らしていたピートとシルフィーちゃんなら近道を知っているはず。2人も真剣な顔で頷き

 

「こっちです、急ぎましょう」

 

「急いで、少し危ないけど……この道しかない」

 

2人が走り出した先は床が抜けていたり、今にも崩壊しそうな通路だ。だけど時間がないからこんな危険な道でも進まなければならない、私は後ろのほうで困った顔をしている冥子。確かに冥子の運動神経じゃ、ここを通るのは難しそうね。無駄に霊力を消耗させるわけには行かなかったから、式神を召喚するなってきつく言ってたけど……これじゃあ仕方ないわね

 

「冥子はインダラを召喚しなさい」

 

「はーい」

 

この通路は冥子に進む事はできないだろう。ここは確実性を取ってインダラに運ばせたほうが安全だ、途中でこけて暴走なんて洒落にならないからだ

 

「じゃあ先に行くワケ」

 

エミがピートの後を追って崩壊した通路の安全な場所を踏んで、軽やかにジャンプしながら先に進んでいく。私は持って来た除霊具を見て

 

「マリア。悪いけどお願い」

 

大量の除霊具を抱えたままではこの通路を進む事はできない。ここはマリアに頼むのが得策だ

 

「任せて・ください」

 

結構な重量があるはずなのに軽々と担ぎ上げるマリア。本当に頼もしいわねと苦笑しているとカオスが

 

「うむ。マリアに任せておけば安心じゃよ」

 

にかっと笑い老人とは思えない動きで崩壊した通路を進んでいくカオス。頭だけじゃなくて運動神経もいいようだ

 

「さ、蛍ちゃん行くわよ」

 

横島君の姿が見えないからか、目に見えて元気のない蛍ちゃんに声を掛ける。だがその顔は不安と言うよりかは怒っているような顔をして

 

「どうかしたの?」

 

思わずそう尋ねると蛍ちゃんは小さく頷き、手の骨を鳴らしながら

 

「横島が浮気をしている気がするんです」

 

ぼそりと呟く蛍ちゃん。どうしてこれだけ器量よしの子がこんなに横島君に拘るのかが、今だ全く判らないけど、私とは好みが違うのだろうと思いながら

 

「おキヌちゃんなら大丈夫でしょ?シズクとタマモがいるし」

 

そもそもあの水神は自分の加護を横島君に授けたのだから自分の物と宣言している。蛍ちゃんも敵視しているようだし、なによりおキヌちゃんも嫌っているようなので心配ないと言うと

 

「違います。神宮寺です」

 

「いや、それはないでしょ?」

 

あのプライドの塊のようなくえすが横島君を気に掛ける要素は何もない、良くてもあの人外の打たれ強さに興味を持って実験材料程度でしょ?と思いながら、崩壊した通路を蛍ちゃんと進んでいると

 

「美神さんは判ってないんです。横島は普通じゃ無い人間にはとても好かれるんです」

 

その言い方だと蛍ちゃん自身も普通じゃ無いって言ってるような物よね。でもあのくえすが横島君に惹かれる訳がないと思いながら崩壊した通路を抜けると

 

「なにしてるのよ?」

 

唐巣先生やエミが通路の真ん中で立ち止まっているし、冥子は冥子で

 

「えうえう……」

 

なんかうろたえてるし……とは言え時間がないので押しのけて先に進もうとして

 

「はぁ?」

 

目の前の光景に思わず絶句した何故ならば……

 

「全く、霊力を使えもしないのにとんだ無茶をするのですね。この馬鹿は」

 

「ううーん」

 

ぶつぶつ文句を言いながら、巨大なたんこぶを作って気絶している横島君にヒーリングをしているくえすの姿。それは私の思考を停止させるのに充分すぎる光景だった、くえすは魔女の中では最高位に位置するだろう、ただし黒魔法の扱いにおいてはだが、そんなくえすがヒーリングをしている。この光景はありえないのだ……

 

(横島君は一体何をしたの……)

 

信じられないにも程がある。横島君は確かに魔の眷属との相性は良いだろう。あの妖怪とかに好かれるところを見ればそれは確実だ。だが魔女と言われ、GSの中でも厄介者とされているくえすにまで好かれるようになるなんて思ってなかった。

 

「ふっふふふふふふ、ヨコシマアあああああッ!!!!」

 

私の後ろにいた蛍ちゃんがそう怒鳴ると横島君が咄嗟に顔を上げる。くえすにヒーリングを掛けられていたのだから、当然その顔はくえすの胸に飛び込む

 

「は、はひいい!?ほ、ほた「沈みなさい!」ふぐあああああああ!?」

 

霊力を込めた肘打ちを叩き込まれ痙攣する横島君。それを見ていたピートが

 

「あ、あの横島さん死んでしまったのでは?」

 

飛び散った血痕と痙攣している素振りを見れば不安になるのは当然だが

 

「心配ないわよ、あの程度じゃ横島君は死なないわ」

 

「あの程度!?」

 

驚いているピートとシルフィーちゃんの目の前で

 

「いやいや!蛍さん!これは浮気とかではなくてですね?」

 

「「生きてた!?」」

 

頭から噴水のように血を噴出しながら蛍ちゃんに言い訳をしようとする横島君だが

 

「あ゛?」

 

ドスの利いた蛍ちゃんの声に即座に土下座して

 

「すんませんっしたーッ!!!」

 

降参の意を示すのだった……しかしそれにしても……心配そうと言う訳ではない、だがちらちらと横島君を見ているくえす。面白くなさそうな顔をしているのがどうも気になった……

 

(なんか凄いのかもしれないわね、横島君)

 

妖使いとか聞いてたけど、もしかすると曰くつきとかそう言う人間に好かれるだけなんじゃ?と私は思うのだった……そしてふと目を振り向いた視線の先に

 

「……」

 

瓦礫の山の下から伸びている腕を見つけた。もしかしてこの腕の主が最後の凶暴な吸血鬼?痙攣しているみたいだから生きてはいるみたいだけど

 

「マリア、ガーリックパウダー頂戴」

 

時間が立って回復されて挟み撃ちになっても面白くないのでここで確実に仕留めて置こうと思い、マリアにガーリックパウダーをくれと頼む

 

「どうぞ」

 

ガーリックパウダーを瓦礫の隙間に突っ込み、中身を全てぶちまける。瓦礫の下からくぐもった悲鳴と激しく痙攣する腕……しかしそれはほんの数秒の事で、最後に大きく手を伸ばして、腕は完全に動かなくなった。これで安心ね

 

哀れ、最後の凶暴な吸血鬼は顔を見せることもなく、ガーリックパウダーによって戦闘不能にされてしまうのだった……

 

 

 

あの人本当に人間なのかな?単独行動をしていたときの話を聞いている美神さんの隣で、私は横島さんを見てそんな事を思っていた

 

(兄さん、あの人、実は吸血鬼とか?)

 

あの体力と回復力を見るとその線も考えられるけど

 

(それはないとおもうよ。同属の気配もしないしね)

 

まぁそうだよね、吸血鬼だから同属の気配には敏感だ。だから横島さんは普通の人間のはず

 

(面白いって言うか凄い人間もいるんだなあ)

 

ブラドー島と言う狭い世界にいた私にとってはこの横島さんと言う人間は本当に興味深かった

 

「……今治してやる」

 

凄まじい霊力を持っている水神のシズクに

 

「クウ」

 

8本の尾を振って横島さんを心配そうにしている九尾の狐のタマモに

 

「みーみー!」

 

肩の上で短い手を振って何かをアピールしているグレムリンのチビ

 

(外の人間ってこんなに面白い人間がいるんだなあ)

 

ブラドー島には人間と吸血鬼と私と兄さんみたいなハーフがいる。ずっと一緒に暮らしていたから普通に思っていたけど、普通は人間は妖怪とかを怖がるはずなのに……外の世界にも横島さんみたいな人がいるんだなあと思っていると

 

「所でなんでくえすと横島君が上から落ちてくるのよ?おかしくない?」

 

横島さんの話を聞いた美神さんがそう呟く。そう言えばそうだ、3階へ続く階段は私達が登ってきた階段だけだ、他の階段は存在しないはずなのに

 

「上の階?おかしいですわね。私もそこのへっぽこも「横島はへっぽこじゃないわ!」……まぁどうでもいいですが、階段なんて登ってないですわ」

 

横島さんの隣の蛍さん。ボロボロなので自分が面倒を見ると言っていたが、横島さんを痛めつけたのは蛍さん自身と言うことを忘れてはならないとおもう

 

「……まさか、マリア。この周辺の空間の把握を始めてくれ」

 

ドクターカオスが何かを感じ取った様子でそう呟く、だけどまだ時計では昼間の筈だ。お父さんと戦ったとしてもかなり有利に戦えるのは間違いないはずなのにどうしてここまで警戒するのだろうか?

 

「確かに妙な感じがするワケ……」

 

エミさんまでもが険しい顔をしている。どうしてそんなに警戒しているのだろうか?私にはそれが判らない

 

【美神さん。外はもう夜です!どうなってるんですか!?】

 

おキヌさんが壁から顔を出してそう叫ぶ。それを聞いた兄さんと私は

 

「そんな馬鹿な!?まだ太陽は出ていますよ!?」

 

「それに時計だってまだ昼間を指しています!」

 

ありえない、まだ夜になっているはずがないのだから、そんなことは絶対にありえない

 

「魔族の仕業と見ていいだろうね。この城の中は既に魔力で迷宮になっていた……つまり」

 

唐巣先生が窓に手を伸ばし、窓ガラスを砕く。するとさっきまで城の中に入ってきた日の光は消え、代わりに闇夜が視界に広がった

 

「うお……信じられん。こんな事も出来るのか?魔族って言うのは」

 

横島さんが信じられないという感じで呟く。だが私も信じたくはなかった、夜は吸血鬼の時間。こんな状態でお父さんと戦うのは危険すぎる。しかし……

 

「引き返せば確実にブラドーの心は魔族に支配される。どうやら覚悟を決めて進むしかないようじゃな」

 

ドクターカオスの言う通りだ。お父さんが完全に魔族に支配される前に倒さなければならない……引き帰えしている時間はない

 

「……私の水は問題なく使える。ある程度は役に立つとおもう」

 

シズクがそう呟く始祖の吸血鬼の弱点に数えられる。流水……水神のシズクが正直言って今の私達の切り札になるだろう

 

「まぁいいわ、進みましょう。もう私達には進むしかないんだから」

 

美神さんの言葉に頷き。私と兄さんは再び先頭に立ち暗い通路を歩き出した、夜……それは吸血鬼の時間。そんな中でお父さんに勝つ事が出来るのだろうか?私はそんな不安を感じながら最上階へと続く階段を目指して歩き出したのだった……

 

 

 

なんか段々空気が重くなってきたなあ、それに身体も痛むし……神宮寺さんの肘打ちと蛍のボディのダメージが思いのほか大きい

 

「……これで良し。横島、水」

 

俺の傷を治してくれたシズクが手を差し出す。俺は手提げ鞄から水のペットボトルを取り出して渡すと凄い勢いで飲んでいく、いや吸収していく

 

(凄いもんだ)

 

シズクは水を蓄えることで力を増す。だから多めに水を持って来ていて正解だったのかも知れない

 

「みー……みー……」

 

チビが何かに怯えるかのように俺のジャケットの中に潜り込んでいく、タマモも

 

「フー!」

 

尾を逆立てて威嚇している……これはもしかして

 

「そうよ、近いわ。横島は下がって」

 

蛍も険しい顔をしている。どうやらブラドーがいる部屋が近いようだ。言われた通り後方に下がる

 

「横島君も気をつけてね~?」

 

インダラの上で心配そうに声を掛けてくれる冥子ちゃんに頷く、正直言って俺に出来ることなんて殆どない。

 

(あの時の拳が使えれば)

 

黒板を叩き潰すときに使ったあの拳。霊力を収束して作り出す拳らしいが、残念ながら使う事はできない。いや使う事は出来るのだが

 

(直ぐ消えるし、後遺症がなぁ……)

 

あの時は左目の失明に手足の麻痺と言う軽くない後遺症が残った。蛍と美神さんから使う事が禁止されているので今俺が出来るのは不安定な陰陽術による支援程度だ。

 

(まだ俺に出来ることはないんだよなあ)

 

いつまでも蛍に護られているのでは余りにみっともない。早く何とかしたいと思っていると

 

「焦るんじゃないぞ、焦る気持ちは判るが、それが後々後悔する事になる」

 

「カオスのじーさん」

 

俺の肩に手を置いて笑うカオスのじーさん。その姿は孫を見る老人のように優しいものだった

 

「時間を掛ければいい。ワシが翻訳してやった陰陽術の本もあるじゃろう?焦らずじっくり力をつけるんじゃ」

 

にかっと笑うカオスのじーさん。カオスのじーさんほど長く生きている人間はいない、だからその言葉には重みがあった

 

「……うん」

 

「うむうむ。それで良いのじゃ」

 

かかかっと笑うカオスのじーさんを見ていると頭に手を置かれた気がして顔を上げると

 

「頑張ってね~横島君」

 

にこりと笑い俺の頭を撫でている冥子ちゃん。この人は本当に年上なのか年下なのか良く判らない人だなと思っていると、大きな扉の前に着く

 

「ここが父さんのいる部屋です」

 

扉越しだが判る、妙に空気が重いと……俺が冷や汗を流しているとおキヌちゃんが傍に来て

 

【ちょっと私にもきついので傍にいさせてください】

 

青い顔をしているおキヌちゃんに頷く、幽霊だからこういう気配の影響をモロに受けてしまうのだろう

 

「じゃあ行くわよ!!!」

 

美神さんが扉を蹴り破り、その後について王座の前に入る。そこで俺が見たのは

 

「ぐうう!ぴ、ピエトロ?……し、シルフィー?な、何故戻ってきた!この愚か者が!!!」

 

ピートと同じ顔をした青年が苦しそうに胸を押さえながらそう一喝する。それは只の声だったのに風となり俺の身体を後方へと押した

 

「……大丈夫」

 

シズクが回り込んで押さえてくれたから大丈夫だったが、そのままでは弾き飛ばされていたかもしれない

 

「もう……無理だ。余にはもうこの魔族を抑えるだけの力がない」

 

胸を押さえてその場に蹲るブラドーにピートとシルフィーちゃんが駆け寄ろうとするが

 

「ダメだ!今は近づいたら駄目だ。君達まで狂わされるぞ!」

 

唐巣神父が険しい顔をして2人の腕を掴む。ブラドーは美神さんやカオスのじーさんを見て

 

「1度は戦った錬金術師カオスよ……歳を取ったなあ……もう余は駄目だ、なんとしてもこの場で余を殺せ!!余は……人間が好きだ……愚かしいが、それゆえに美しい人間が好きだ……」

 

よろよろと立ち上がるブラドーの目が真紅に輝き、どす黒い光がその身体を覆っていく

 

「なんとしてもこの場で余を殺せ!まだ満月ではない……良いか!躊躇うな!父は「うるせえよ」ぐぐあああああああああ!!!」

 

ブラドーの口から飛び出した耳障りな声、それに続くかのように響いたブラドーの苦悶の絶叫と黒い風の嵐

 

「マリア!障壁を!」

 

「イエス・ドクター・カオス」

 

「「「精霊石よ!!!」」」

 

マリアの手足から放たれた光と美神さんと唐巣神父が精霊石を投げて結界を作り出し、その黒い嵐を防ぐ。そしてその嵐が収まったとき俺達の目の前には

 

「くふふふふ、この身体は貰ったぞ!!」

 

悪魔を思わせる姿へと変わり果てたブラドーの姿があった。それを見たエミさんと美神さんがそれぞれブーメランと神通棍を構えるその隣で

 

「「そ、そんな父さん……が」」

 

俺には膝を付いて、泣きそうな顔をしてブラドーを見つめる、2人の震えた小さな声がやけに大きく聞こえたのだった……

 

 

リポート12 吸血鬼の夜 その8へ続く

 

 




次回からは戦闘回で行きたいと思います。大分長く続くと思いますが、よろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その8

どうも混沌の魔法使いです。今回はバリバリの戦闘回で行きたいと思います、上手く書けるかは不安ですけどね。アシュタロスに変わる敵を出して行こうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート12 吸血鬼の夜 その8

 

こんな所にもワシの記憶と違う出来事が……ワシの記憶ではここでは、ピートとブラドーがお互いに噛み合ってそれで決着だったはずなのだが……どうしてこんな事になっているのかが判らない

 

(なぜ魔族がブラドーに取り憑いている?)

 

目の前のブラドーは魔族がブラドーの魔力を使って無理やり魔装術を使っている。本質がお互いに闇である、魔族と吸血鬼。その相性はとんでもなく良い筈だ。それこそ2度と解除出来ないほどに……

 

(あの魔装術を解除する事は不可能だ)

 

ワシの頭脳が理解している。あれは魔装術なんて生易しい物ではない、魔族と吸血鬼が完全に融合しており、もう元に戻すのは不可能だ。このまま倒すしかないと……

 

「……ピート君。シルフィー君。最悪の状況は覚悟してくれたまえ」

 

唐巣がそう告げる。恐らく奴の見立てもワシと同じでブラドーを殺す道しかないのだろう。悲壮そうな顔をしているから判る

 

「……はい。僕も覚悟を決めます」

 

声もないお嬢ちゃんと違い力強く返事を返すピート。ワシもコートの中からお手製の神通棍を取り出して

 

(本当はもう少し後で売りつけたかったじゃがのう……)

 

美神の霊力はこれから上がっていく、そのころあいにあわせて売りつけるつもりだったのだが、そんな事を言っている場合ではないのでそれを美神の投げ渡しながら

 

「新作の神通棍じゃ!使え!」

 

複製の精霊石を柄に埋め込む事で、本来の物よりも遥かに霊力の伝達を上昇させたワシの渾身の自信作。まぁ霊力が高くないと使えないと言う欠点があるが、美神なら何の問題もないはず

 

「ありがと!良い仕上がりだったら買い取らせてもらうわ!!」

 

ワシの記憶よりも丸いの、蛍のお嬢ちゃんのおかげかのうっと小さく思う。少しだけ違和感があるが、この美神も決して悪くはないと思う。そしてワシの予想通り、新作の神通棍を使いこなしている姿に一安心し、まだまだこれからだと気合を入れなおし

 

「小僧はこっちへこい、ワシとお前では足手纏いじゃからの」

 

「……」

 

ワシの言葉に返事を返さない小僧。その視線の先は魔族と戦っている美神達に向けられている

 

「焦るなと言ったじゃろう?今は隠れろ、それを恥じるなら力を得ろ」

 

今の小僧は、GS試験のときに小僧よりかは心構えが出来ている。だがそれでいて自分の無力さを痛感している、この時期が一番危ない。ワシはそう判断して動く気配のない小僧の腕を掴んで自分のほうに引っ張り寄せて結界の中に隠れたのだった

 

 

魔族のお家芸とも言える「魔装術」を展開しているブラドーを睨みながら、魔族の観察をする

 

(多分ランク自体はかなり低い……普通なら美神さん達で楽に除霊出来る程度の力のはず)

 

感じる魔力の大半は魔族のものではなく、ブラドーの物だ。恐らく体内に寄生しているのでそこを付く事が出来れば元に戻せる可能性は充分にあると思うけど……

 

「喰らえッ!!!!」

 

膨大な魔力を刃の形の押し固めて出鱈目に打ち出してくるブラドーに近づく事が出来ない。何かのきっかけがあればそこから攻め込むことが出来るかもしれない。だけどその本来の予定で作るはずだった結界を作ろうにも、広範囲の攻撃を繰り返され結界の基点を作ることができない。少しでもいいから時間を稼ぐ事が出来れば結界を作れる可能性もあるけど

 

(これじゃあ直ぐ壊される)

 

城の床を破壊している魔族の攻撃ですぐ結界の基点を壊されて終わりだ。最初の予定の結界による弱体化は出来ないと見て間違いない。となれば大火力による殲滅なのだが……それもまた難しい、幸いにも魔族は闘う能力のない横島達に眼も向けてないのがせめてもの救いだ

 

「くえす!でかいの撃てないの!?」

 

美神さんが障壁で魔力の刃を弾いている神宮寺さんに尋ねるが、彼女は冷めた目線でふんっと鼻を鳴らし

 

「はぁ?なんで私がそんな事をしなくてはいけないんですの?」

 

チームワークが最悪すぎる!!!こんな状態であの魔族に接近するのは不可能に近い。シズクは大量に水を蓄えていたようだけど

 

「……攻撃が激しすぎる。このままだと水が無くなる」

 

無表情ながら動揺している様子のシズク。魔力の刃を防ぐのに連続して水の壁を作っているから消耗が激しいのだろう……横島が水を持っているけど、今シズクに離れられると守りが薄くなるから水を補給させるわけにも行かない。完全に手詰まりになっている

 

(美神さん。どうしますか!?)

 

なんとか接近しない事には何も出来ない、だがあの攻撃を掻い潜るのは不可能に近い

 

(ピート達でも難しいしね。なんとかしてエミの霊体撃滅波が使えれば突破口が見えてくるかもしれないけど)

 

美神さんの視線の先では魔族の刃を回避するのに手一杯の様子のエミさん……その様子は明らかに警戒しているのが判る

 

(もしかして向こうは私達の事を調べきっている?)

 

ここまで徹底して対策されているのを見るとその可能性が浮かび上がる。唐巣神父は近づく事もできず、かといって詠唱する時間も与えられず、エミさんはブーメランを投げる隙も幽体撃滅波を使う隙も与えない。マリアの銃撃は魔装術に阻まれ届かず、冥子さんはノックバックが間違いなく酷いと言うことで横島と一緒にドクターカオスと隠れているし、私と美神さんは接近する事が出来ず攻撃の間合いに入ることが出来ない……

 

(間違いない、ずっと分析していたんだ)

 

この城での戦いをずっと見ていたのだと確信する。でなければここまで徹底して、私達の動きを封じる事なんてできない筈だ。これは確実にこっちの攻撃を分析した行動だ

 

「にがしはしないぜ!!!オラオラオラァッ!!!!」

 

全身から放たれる魔力の刃の嵐、咄嗟に散会し攻撃を回避するが、これで完全に離されてしまった

 

(これは本当に不味い)

 

1人ずつ倒す目的に間違いない……威力は低いが全身から魔力の刃を打ち出し続けている魔族。これでは近づく事ができず、私達は合流することも出来ず撃退されてしまう

 

(本当にこれどうすれば良いのよ!?)

 

この状況を打破できる手段がない……私は冷たい汗が背中に流れるのを感じるのだった……

 

 

ピートとシルフィーとか言うハーフバンパイヤの父親のブラドーはさすが始祖と呼ばれるだけあり、凄まじい魔力を秘めていた

 

(あれだけの魔導書があったのも納得ですわね)

 

恐らく本来のブラドーとは豊富な魔法の知識を使いこなす。後方タイプの魔法使いだったのだろう、いや吸血鬼でもあるので近接も出来る魔法使い……

 

(ある意味完成形ですわね)

 

本来ならば高位の魔法使い同士のチェスのような高度な魔法戦を楽しめたと思うと残念でならない

 

「さて、私に目をつけたことは褒めて差し上げますわ」

 

美神達ではなく私に向かってくる魔族。私は即座に後ろに下がりながら無詠唱で放つ事の出来る魔法を放つのだが

 

「ひゃははは!!!そんな豆鉄砲が効くか!!!」

 

魔族の全身を覆っている鎧に弾かれる。あれは恐らく魔装術……悪魔と契約する事で人間も使う事が出来ると聞くが

 

(あんなブサイクお断りですわ)

 

醜く、鈍重……たとえ魔力を手に入れる事が出来たとしてもあんなのはお断りですわ、この私の美貌を損ねる力など必要ありません

 

「くえす君!こっちへ!」

 

唐巣神父が私を呼ぶ、普通に考えれば魔法使いである私には前衛が必要……

 

「必要ありませんわ、それよりも結界の準備を急ぎなさい」

 

正直な話この魔族自身は弱い。だがブラドーの魔力が厄介なのだ、足りない質を魔力で補う。全くもって醜い……

 

「お前はここでDeathっちまえッ!!!」

 

魔力の割合を多くした黒い炎を魔族目掛けて打ち出す。無論これで倒せるなんて考えはない、むしろ魔力の鎧を展開している魔族に効果があるなんても思ってはいない

 

「ガぁ!?げえ!?」

 

顔に纏わり憑く黒い炎を弾こうと暴れている魔族。計算通りだ、魔界の炎は早々消えるものではない

 

「魔族には効果はないですが、ブラドーの体にはどうでしょうかね?」

 

恐らく取り付いている魔族は自身の体を持たないタイプの魔族。だから力任せの戦いをしていたのだろう、これが普通の魔族ならばあんな無様な戦い方はしない。恐らく初めて手に入れた身体に舞い上がっているのだろう

 

「父さんに何をするんですか!?「うるさいですわ、出来損ない。あの程度で死ぬほど始祖の吸血鬼が弱いものですか」

 

あんな初歩的な黒魔術で倒せるのならば吸血鬼なんて中世の時代に全滅している。それに呼吸をさせてないだけで、肉体的なダメージは殆ど与えられていない。あの炎は時間稼ぎの為に放ったのだから仕方ないとは言え、ほんの少しはダメージを

 

与える事が出来るかもしれないと思ったのが間違いのようだ

 

「今のうちに結界を完成させますわよ。そうすれば多少はましに戦えるでしょう」

 

美神と唐巣神父と小笠原は私の意図に気付いていた様で素早く結界を書き上げている。まぁ結界の準備をしなさいといったのだからこれ位して貰わなくては

 

「私も手伝いに「お間抜け、魔に属するものが結界を作って如何するのです?そこから突破されるでしょうが」

 

私が結界作りを手伝わないのは私が魔力を持つから、結界は聖なる力を持つ、そこに魔力が混ぜれば壊される可能性が増す

 

「じゃあ僕達は何を……「少しは自分で考えたらどうです?決まってるでしょう?」

 

私の炎を弾き、完全に私を敵として認識している魔族を見て

 

「私の肉の盾になりなさいな。出来損ない」

 

私を睨む出来損ない2人。全く力も何もないのに……プライドばかり高くて困りますわ。

 

「助けたいのでしょう?貴方達の父親を……なら頼りきらず少しは自分で動きなさい」

 

あの魔族の魔力の大半はブラドーの物。つまりブラドーの血を引くこの2人には効果が薄いと見て間違いない、まぁそれでもダメージは受けるでしょうけれど、私達よりも受けるダメージは少ないはずだ。だから盾になるのがこの2人の仕事だ

 

「貴様あああああ!!!」

 

「ほら来ましたわよ?しっかり護って下さいな」

 

魔導書を開き2人の背後に隠れる。舌打ちしながら自分達に向かってくる魔族を見て

 

「貴方は最低ですね!!全く!」

 

「お父さんを取り戻せたら殴りますからね!」

 

牙を生やし、臨戦態勢に入る2人を見ながら私は開いた魔導書を見て

 

(この魔族ではない、これでもない……)

 

肉体を持たない魔族と言うのはそんなに数が多い訳ではない、よほど高位か、よほどの下位か?そのどちらかだ。まずはその魔族の特定をしなければ……

 

(まったくなんで私がこんな事を)

 

無詠唱魔法ではなく詠唱魔法ならあの最初の攻撃で致命傷を与える事だって不可能ではなかった。手足をもげば簡単に倒せるようにだって出来た筈なのに、私はそれをせずに自分に魔族の注意が来るようにし、結界を作る時間を稼ごうとしている

 

(ああ、全く……らしくありませんわ)

 

こんな事を考えるなんて私らしくない、あの馬鹿のせいですわ……結界の中に隠れている横島を見て若干の苛立ちを覚えな

 

がら、向かってくる魔族に指を向け、威力ではなく、連射製と速度に長けた魔法を放つのだった……

 

 

このブラドーの城で横島君とくえすを一緒に行動させたのは間違いではなかったかもしれない

 

(いい影響がでてるわね)

 

くえすは神経質でプライドが高く、チーム戦が出来るような性格ではなかったのだが

 

「ほら!何をしてるんですの!さっさと動きなさい!このノロマ!!」

 

口はかなり悪いが、ピートとシルフィーちゃんのフォローをしている。これは今までのくえすだったら想像できない

 

「横島君の人柄の影響かな?」

 

素早く結界の基点を書き上げながら呟く唐巣先生。横島君は確かにスケベで馬鹿だが、人を思いやれる優しい性格をしている。それに状況把握などにも適している、中々優れた人材と言えるだろう

 

「よっし!こっちはOKよ!エミのほうは!?」

 

くえす達が稼いでくれた時間を無駄にするわけにはいかない、エミのほうはと尋ねると

 

「こっちも大丈夫なワケッ!!!」

 

最後の一角を書き終えたエミが叫ぶ。これで結界の準備は出来た

 

「唐巣先生!エミ!」

 

私の呼びかけを合図にして霊力を込める事で結界が展開される。すると……

 

「がっぎい!?」

 

今までの勢いのよさはどこへやら、見る見る間に動きが鈍くなっていく魔族。だがそれは魔族だけではなく

 

「くっ、これは思ったよりもきついですね」

 

「わ、私は無理かもしれないです」

 

「……ちっ、私達も対象にするとは……とんだプロですこと」

 

私達を思いっきり睨んでいるピート達とくえす。こればっかりは仕方ない、あの魔族の事を考えるとそこまで細かく結界を調整する時間がなかったのだから

 

「美神君。結界が効いているうちに畳み掛けるよ、シズク君とマリア君はフォローを頼むよ」

 

眼鏡を外して両手に霊力を込めて走り出す唐巣神父。なんか最近昔の状態になっていることが多いわねと小さく苦笑しながら

 

「蛍ちゃんもフォローでいいわ。よろしくね!」

 

いくら知識があって、霊力が多いと言ってもそこは見習い。こんな危険な除霊の前線で戦わせるわけにはいかない、辛うじて無事だった霊体ボウガンを投げ渡し、変わりにカオスのお手製の神通棍を構える

 

「……判りました」

 

なんかちょっと息苦しそうに見えるけど、どうかしたのかしら?蛍ちゃんは人間だから、この結界の影響を受けるはずがないんだけど……私は少しだけ首を傾げてから、そんな事を考えている場合ではないと判断し魔族を睨みつけ

 

「さっきまで随分と調子に乗ってくれたわね!!!これはお返しよッ!!!!」

 

「グガア!?」

 

完全に動きが鈍っていた魔族の顔面に全力で叩きつけたのだった、無様に転がっていく魔族と

 

「父さんが……」

 

「お父さんが……」

 

呆然とした口調で呟くピートとシルフィーちゃん。若干良心が痛んだけど、これが1番効果的だと私は思っていた。魔族はプライドが高い、だから人間に顔を殴られれば逆上して冷静さを失うと思ったのだ

 

「容赦ないですわね」

 

結界のせいで思うように動く事の出来てないピート達の攻めるような視線は無視する。そして案の定魔族は

 

「この人間がアアああああッ!!!」

 

怒りのせいで動きが甘く、そして雑になっている。上段からの爪の振り下ろしを回避して、エミと蛍ちゃんに目配せする。2人は私の意図を汲み取ってくれたようで

 

「いけっ!!」

 

「少しだけずれてください!」

 

エミのブーメランと蛍ちゃんの放ったボウガンが魔族に迫る。それ自体は効果はまるでないのだが

 

「沈みたまえッ!!!」

 

「ごぱあっ!?」

 

唐巣先生が間合いに入り込むだけの時間を作るのには充分だった。城の床を踏み抜くほどの震脚から放たれた拳が魔族の体を貫く

 

(神父よりももっと向いてる職業があったんじゃ)

 

思わずそんな事を考えながらも、今が好機だと判断し、私は追撃のために走り出したのだった……

 

 

 

結界の中に閉じ込められた魔族と美神達の戦いを見つめている蝙蝠

 

「三下魔族ではこの程度か、もう少し何とかなると思っていたんだがな」

 

その蝙蝠は饒舌に喋りだす、この蝙蝠もまた魔族であり、ブラドーに魔族を寄生させた最上位魔族である。金色の身体を持った蝙蝠は大きく舌打ちしながら

 

「役に立たぬな。力に溺れ何も見ておらん……やれやれ、我が動くか」

 

蝙蝠が大きく翼を広げるとその姿は人型の異形になる。その異形は両手に魔力を集める、それは人間には耐える事が出来ないほどの高密度の魔力の矢となる

 

「はっ!!」

 

鋭い声と共にそれを矢として放った。それはピンポイントで結界の基点と横島達を護っている結界の基点を破壊した

 

「これで良かろう。さてとこれでどうにも出来ん愚図ならば、取り立てる必要もあるまい」

 

その魔族は翼を振るい、再び蝙蝠へとその姿を変え、美神達が戦う光景を見物し始めるのだった……そしてこの魔族の攻撃がきっかけとなり、魔族と美神達の戦いは思わぬ方向へと転がっていくのだった……

 

 

リポート12 吸血鬼の夜 その9へ続く

 

 




次回は横島の視点をメインに書いていこうと思います。あとはまたまたネタを入れていこうと思っています。自慢の拳系をね!
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その9

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「横島」をメインにしていこうと思っています、私の大好きなアニメの必殺技を使わせていこうと思っています、話数もかなり来ているのでそろそろ魔改造も大きく進めてもいいかな?と思うので、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート12 吸血鬼の夜 その9

 

今の魔力は……俺の動きを拘束していた結界の一部を破壊してくれた魔力を見て、俺は吸血鬼の中で冷や汗を流していた

 

(間違いない、あの方がおられる)

 

俺にこの身体を授けてくださった、あの方がおられる……俺には身体はないが、それでも身体が震える。俺は魔界の中ではそれなりに希少種の魔族だ、とはいえ弱すぎるという事で珍しい魔族だ。自身の身体を持たず、他人に寄生し魔力だけはあるので、その魔力で奪った身体を操り戦う魔族。昔はそれなりに警戒されて、恐れられていた魔族だった

 

(魔界正規軍のやつらのせいで)

 

デタントを進めるために結成された魔界正規軍。奴らは俺の特性を調べ、寄生出来ないように魔族達に薬を配った。そのせいで俺は寄生する対象を失い、しかも賞金までかけられたので逃げてる時にあの方に出会った

 

【お前の力は面白い、その力我の為に使え】

 

魔界の中でも指折りの強者。あの方に仕えているというだけでそれは充分すぎるほどのステータスになった。そして今回は俺の働きを見て素晴らしい身体を提供しようと言う事で人間界の吸血鬼の元へ連れられて来た。そして手に入れたこの身体……それは魔力も素晴らしいだけではなく、身体能力も素晴らしい物だった

 

(無様な真似は見せられない)

 

もしあの方に見捨てられれば、俺はまた無様な敗北者になるだけ……

 

「そんな事を認められるかああああああッ!!!!」

 

俺はもうどんな魔族にも負けない、俺は誰よりも強い!!!

 

「ぶっ潰してやる!!!覚悟しろ!!!人間があああああッ!!!」

 

ここにいる人間を殺せば、更なる高待遇が待っている、俺の力を理解してくれ、そして部下として認めてくれる

 

(俺はもっと高みへいける!!!)

 

俺は強い身体を手にした、だから俺はもう誰にも馬鹿にされない。これからはちゃんとした魔族として俺は認められるんだ!

 

 

 

美神さん達の張った結界が突然砕け散る、それを見たカオスのじーさんが

 

「ありえん!?あの密度の結界を破壊するなんて最上級魔族でなければ不可能じゃ!」

 

良く判らないが、とても不味い事になっているという事だけは判った

 

「このままだと不味いって事っすか!?」

 

「……判らん。結界はまだ生きてはいる……基点のうち1つが破壊されただけじゃ……まだ結界の機能は生きている。じゃが魔族の力が予想よりも遥かに増している……」

 

青い顔をしているカオスのじーさん。それはそれだけ不味い事になっているという事の証明で……

 

(俺にはまた何も出来ない!)

 

いつも見ているだけ、美神さんや蛍の手伝いをするだけ、安全な所で見ている。それしか出来ない……

 

(俺は役立たずなのか……)

 

ほんの僅かの霊能力しか持たない、美神さんや唐巣神父は俺には凄い力が眠っていると……誰にも負けない霊能力者になれるかもしれない。と言ってくれた……

 

だけど今の俺はなんだ!?見ているだけ……徐々に押され始めている美神さん達や、父親と戦う事に歯を食いしばって、悲しそうな顔をしているピートとシルフィーちゃんを見ているだけ

 

(冗談じゃ無い!)

 

もし俺にそんな力があるなら、今欲しい!今直ぐに欲しい!力……力が欲しい……

 

ぺちん

 

「つっ……タマモ?」

 

弱い本当に弱い力だったが、タマモの尻尾で頬を張られた、思わず下を見ると

 

「ふーっ!!!!」

 

普段の可愛らしい素振りはそこにはなく、鋭い目で俺を睨んでいるタマモの姿があった。いやそれだけではなく

 

「みー……みー……」

 

肩の上のチビが何かを言いたげ鳴いているのにも気付かなかった……

 

【良かった。横島さん、やっと声が届いてくれましたね】

 

おキヌちゃんも安心したかのように俺を見ている。なんだ?なにがあったんだ?

 

「小僧。余り力を望むのは止めろ……今この空気は魔界に近い、引かれると危険だ」

 

引かれる?……どういうことなのか?理解出来ないでいると水を補充しに戻ってきたシズクが俺を見て

 

「……力を望む事は悪いことではない、だけど力を得る目的を忘れてはいけない。何のために横島は力を望む?」

 

淡々とした口調で俺の目の前の鞄からペットボトルを3つ取り出し、それを抱えながらシズクは俺の額に手を置いて

 

「……焦らないで、まだ横島は弱いままでも大丈夫。私達がいるから」

 

小さく笑ってペットボトルの水を一気に飲み干し、戦いの中に戻っていくシズク……目の前でどんどん激しさを増していく戦いを見ながら

 

(俺は……俺はどうすれば……)

 

力があれば美神さん達と一緒に戦えるかもしれない……だけど俺はそれでどうなる?目の前のあいつみたいに力に溺れるのか?

 

(判らない。俺はどうすればいいんだ?)

 

さっきまでは力があればいいと思っていた、だけどそれだけでは駄目なんだ……

 

「くーん」

 

「み、みみ」

 

俺の膝の上で心配そうに俺を見ているタマモと肩の上から俺の頬に擦り寄ってくるチビ……

 

【横島さんはそうやって笑っているほうがいいですよ?さっきは凄く怖い顔をしてましたからね。さっきの横島さんは横島さんらしくなかったですよ】

 

「そうよ~さっきの横島くんは~すっごく怖かったわよ~」

 

にこにこと笑うおキヌちゃんといつもの間延びした口調でニコニコと笑う冥子ちゃん……その2人の笑顔を見ながら、俺らしくないかぁ……俺は溜息を吐きながら

 

(俺らしいことってなんだ?)

 

俺らしいこと……俺らしいこと……少し考えているとおキヌちゃんがにっこりと笑いながら、俺の手を握る。何をするんだろうか?と俺と冥子ちゃん達の視線が集まる中、おキヌちゃんはにっこりと笑いながら

 

【えい♪】

 

俺の手を握り締めたまま、それを自分の胸元に誘う。しかもただ触らせるのではなく、巫女服から見えている胸の谷間に抱え込むようにしてだ。幽霊だから冷たいが、女性らしい柔らかさに満ちている。

 

「ぶぼっ!?」

 

女性だけの柔らかい感触……これだけ直に触ったの初めてだ。胸が高鳴り、目の前が赤くなるのを感じる……

 

(やわらけえ)

 

こんな経験は今までにない、この感触は絶対に忘れたくない……頬が緩むのを感じていると

 

「がっぶうううッ!!!」

 

「ヨコシマァッ!!!」

 

「ほぎゃあああああ!?」

 

「横島君の~すけべ~」

 

「こぞーう!?その出血は死ぬぞぉッ!?」

 

タマモの全力の噛み付きと前を向いたまま、器用にボウガンの矢が入っていた矢筒を投げつけてくる蛍。ぽかぽかと俺の頭を叩く冥子ちゃん。それにより頭から噴水のように血が吹き出て、意識が薄れていく……

 

(うん。これでこそ……俺だよな)

 

物凄く痛いけど、ちょっと嬉しい経験も出来たし……多分死なないだろうから、きっと大丈夫……すけべなことをして、蛍とタマモとかに怒られる。これでこそ俺って感じがする……

 

(起きたらなにか凄い力に目覚めているとかないかなあ)

 

漫画とかじゃ無いけど、死に掛けたら強い力に目覚めている可能性もある

 

(さすがに……これじゃあ無理かな?)

 

セクハラしてペットに噛まれて、師匠に額を割られる。どう考えても自業自得。これで新しい力に目覚めていたらとんでもない……なんてくだらない事を考えていたのだが

 

(……案外あったりするんだぞ?そう言うの)

 

薄れ行く意識の中、陰陽師の格好をした誰かを見たような気がするのだった……

 

 

城の外から打ち込まれた霊波砲。それによって結界の基点の一部が壊された、それだけならまだ弱体化は続いている筈なのに……

 

【グアアアアアアッ!?】

 

魔族とブラドーの声が重なった奇声が周囲に響き渡る……

 

(魔力で無理やり自身の身体を強化している)

 

強靭な身体を持つ吸血鬼に取り憑いているからこそできる荒業だ。しかし生身のブラドーの身体には限界がある

 

(とは言えこのままだと不味い)

 

魔族がブラドーを殺すのが先か、私達が先に殺されるか?のどちらかだ

 

「シズク!広範囲攻撃とか出来る!?」

 

横島君の所に戻り、水を受け取ってきたシズクに尋ねる。シズクは3本目のペットボトルを飲み干してから

 

「……2~3回くらいなら、外れれば何も出来なくなる」

 

2~3回……それだけあの魔族の動きが早いってことか……

 

「じゃあ機会を見て行けそうなら頼むわ」

 

小さく頷き離れていくシズク。倒せる機会はシズクの攻撃しかない、ならシズクを後ろに下げて攻撃を受けないようにさせないといけない

 

「ミス・美神……私も援護します」

 

マリアが銃口を向けて魔族に放とうとするが

 

「やめて。また跳弾すると危ないわ」

 

あの魔族の魔装術はかなり強力だ。特殊な弾頭でも突破できるか怪しい

 

「では・私は・どうすれば?」

 

マリアは霊的コーティングを施された装甲をしているから打撃でもダメージを与えれないことはないだろうけど、壊される可能性が余りに高い。こんなに人間味のあるマリアが壊されるのは私としても嫌だ

 

「マリアは蛍ちゃんと一緒に下がって後方支援!くえすは前に出なさい!」

 

ここからは何とかしてシズクに一撃を叩き込んでもらうしかない……とは言え、除霊道具も殆ど使いきっている以上……私はカオス特性の神通棍しか仕える道具がない、あと1個だけ精霊石はあるがあの速さで移動する魔族に当てる自信は正直ない……くえすは私を一瞥して

 

「……まぁ、いいですわ。命令されるのは癪ですが、死ぬわけにもいきませんから」

 

文句を言いながらも呪文の詠唱を始めるくえす。そして即座に詠唱を終えて連続で魔法を放ち始める、それは威力よりも連射性に重点を置いた魔法

 

(口と性格は最低だけど、戦術眼は本当にいいわね)

 

他人をなんとも思わない性格だけど、実力だけはある。この調子なら問題ないだろう

 

「おらああああッ!!!」

 

【キシャアッ!!!】

 

あと。唐巣先生の眼鏡を粉砕した魔族は正直愚かとしか言い様がない、あの頃の戦闘狂の唐巣先生を呼び出してしまったのだから。だけどその反面エミは得物を完全に破壊され、離脱しているから正直戦況はイーブンと言ったところだ

 

「このっ!!いい加減にお父さんの身体を返せ!!!」

 

シルフィーちゃんとピートも敵の攻撃を避けながら、適度に反撃をしくえすの魔法の射程の中に追い込んでいる。この調子ならこの魔族を倒す事は出来るだろう。だがその場合ブラドーは確実に死んでしまう

 

(これも難しい問題よね)

 

出来ればブラドーも助けてやりたい、ピートとシルフィーちゃんの話を聞く限りでは馬鹿ではあるが。いい父親だったようだし……だが魔族がかなり深く寄生しているようだから、助けるのはかなり難しいだろう……

 

(それに不安要素も残っている)

 

私達の結界を破壊した霊波砲。それは目の前の魔族よりも遥かに強力な物だった……

 

(どう考えても最上位クラスの魔族の攻撃)

 

人間が喰らえばそれだけで死にかねない、それほどの魔力を持った攻撃……近くに気配を感じないからいないとは思うが

 

(奇襲とかされない様にしておかないと)

 

敵の攻撃を掻い潜りながら、城の壁に札を張り付け結界を作る準備をする。恐らく、普通に結界を作ろうとしては確実に妨害される。だから普通の結界よりかは数段劣るが、この手段をとるしかない……徐々にだが、魔族の動きが遅くなっていく、ブラドーの魔力と魔族の魔力が尽き掛けているのだろう。いくら膨大な魔力を持っていようが無限ではない。今が魔族を倒すチャンスかもしれない……そう思った瞬間。魔族は魔装術の一部を解除して

 

【俺は負けない!ヒャハハハハハ!!!これでお前らは攻撃できない】

 

ブラドーの顔を露出させて狂ったように笑い出す。確かにこうなれば攻撃できない……魔族らしいといえば魔族らしいが

 

「はぁ?その程度で私が止まると思ってますの?」

 

くえすは躊躇う事無く魔族に魔法を叩き込む。凄まじい爆発と苦悶の声が重なる

 

【ギギャ!?お、お前正気か!?】

 

腹を押さえて後退する魔族にくえすはにやりと笑いながら

 

「どうせ寄生されているブラドーは死ぬのでしょう?ならば速やかに殺すのが情けという物ではありませんか?」

 

くえすがそう笑って黒い炎を作り出そうとした瞬間

 

「待って!神宮寺さん!待って!!」

 

横島君が後ろからくえすの腰元に抱きつく、隠れてろって言ったのに何しに来たのよこの馬鹿は!

 

「ええい!邪魔ですわ!離れなさい!」

 

「すげえくびれ、それに甘い……「ヨコシマ!何しに来たの!?」

 

蛍ちゃんが靴を脱いで横島君の頭を強打している。本当に何をしに来たのだろうか?

 

「ほぎゃあああ!?」

 

頭を押さえて転がりまわっている横島君に私達の呆れた視線が集まる。危険だから結界の中でかくれていなさいと言ったのに、どうして出てきてしまったのだろうか?

 

「馬鹿な事しないで早く戻りなさい!」

 

結界の中に戻るように言うと横島君は小さく首を振って

 

「ブラドーは俺が何とかするっす!魔族のほうはお願いします」

 

自信に満ちた声で言う横島君に唐巣神父とくえすが

 

「横島君。馬鹿な事を言ってはいけない、あれは今の君ではどうにも出来ないはずだ。危険だから早く戻るんだ」

 

「そうよ、へっぽこ。早く結界の中に戻りなさい」

 

魔族のほうも魔力が限界だから動く気配がないが、動き出せば横島君が真っ先に狙われる。だから早く戻るように繰り返し言うと

 

「だーから!大丈夫ですって!!見ててください!!!」

 

横島君が自信満々に言うと、右手を高く掲げ人差し指から握りこんで硬い拳を作り上げる

 

「おらああああああ!!!」

 

その咆哮と共に凄まじい霊力を右手に収束していく、これはあの時の……

 

「馬鹿!横島君!それは止めなさいって言ったでしょうが!!!」

 

確かにそれなら魔族に大ダメージを与えれるだろうが、横島君自身の負担も大きい。だから止めるように言うが

 

「1発!1発叩き込むッ!!全身全霊を込めてッ!!!」

 

自己暗示をかけているのか、私の言葉は横島君には届いていない、右手が硬質化した篭手と背中に霊力で出来た翼が現れる。

 

「前よりも収束できている……いや……だがそうとも言えないね、美神君!蛍君!離れるよ!」

 

唐巣先生がそう叫ぶ、横島君の周囲は収束し切れてない霊力が暴走していてとてもではないが、近づくことが出来ない

 

【させるかよお!!!】

 

魔族が拳を構えて横島君に突っ込んだ瞬間

 

「行け!チビ!」

 

「みむー」

 

横島君のポケットから飛び出したチビはまるで風船のように膨らんでいて

 

「皆耳塞いで!!!」

 

思い出した前に横島君の家のガラスを粉砕したと言うチビの鳴声。それが今放たれようとしている、咄嗟に耳を塞いでしゃがみ込んだ瞬間

 

「みっぎゃあああああああああああああッ!!!!!!!!!」

 

古城全体を震わせるような強烈な咆哮。耳を塞いでいても平衡感覚が乱されているのがわかる

 

【う、うおお!?】

 

至近距離でそれを喰らった魔族が目を白黒させてよろめいているその隙に

 

「ん……で……こうだ!」

 

札を取り出し投げると同時に横島君の背中の霊力で出来た翼が爆発する。圧縮された霊力が暴発し、信じられないスピードで突進していく横島君

 

「ぶちぬけえええええええッ!!!!」

 

空中で投げた札に右拳を叩きつけ、そのままの勢いで魔族に殴りかかる

 

【ヌアアアア!?!?】

 

札からあふれ出した青い光が魔族の身体を包み込む、だがその一撃では魔族は倒れなかった。だがその身体が大きくぶれ始める

 

(強制除霊!?)

 

除霊の中でも最も力技でリスクを伴う方法の1つ。力ずくで霊体に食い込んでいる悪霊や魔族を取り除く方法

 

「とっとと!シルフィーちゃんの親父さんから離れやがれええええッ!!!!」

 

2枚目の翼が炸裂し、その場で無理やり加速させた横島君の右拳が下から魔族の身体を穿つ

 

【ゲギャァ!?】

 

ぶちんっと何かが千切れる音が響いた瞬間。ブラドーの身体から黒い塊が飛び出す

 

「ぜはー!あ、アトお願いします!って来た来た来た!!!ぎゃーすっ!!!腕が!脚がああ!イダダダダダダッ!!!!」

 

ばったりと倒れじたばたと暴れている横島君。前よりもこれは間違いなく後遺症が酷い。だけど……

 

「でかしたわ!横島君!唐巣先生!くえす!」

 

「判っているよ!」

 

「やれやれ、捕縛は私に専門ではないんですけどね」

 

あの魔族には色々聞かないといけないことがある、この場で逃げられては意味がない、私と唐巣先生とくえすの3重結界で逃げようとしていた魔族を捕らえるのだった……

 

 

最終的にあたしは見ているだけか……小さく溜息を吐く、あたしはやはり黒魔術師の中でも呪い専門。くえすと違って自分で戦えるような術は身につけていない

 

(少しばかり出来る事を増やしたほうがいいかもしれないワケ)

 

GSとしても霊能力者としても殆ど素人と言える横島がブラドーに取り憑いていた魔族を無理やり除霊した。その代わりに

 

「ぎゃあああ!まじ!マジ痛いッ!!!ふおおおお!!!」

 

絶叫しながら悶絶している。今の自分の身に余る霊力を使ってしまった反動だろう

 

「……蛍。少し押さえて、治療するにもこの状態じゃあ……無理」

 

「そうは言っても!これは……厳しいわよ!?」

 

蛍とシズクが横島を治療しようとしているが、暴れているようで上手くいっていないようだ。本当は手伝うべきなんだろうけど、今はそれよりも捕獲した魔族の話を聞くべきだろう。だから

 

「おキヌちゃん!冥子!押さえるの手伝ってあげて!」

 

このまま暴れていると間違いなく余計に傷が広がる。素早く手当てをしなければならない。2人にそう頼んで令子の方に歩き出す

 

【横島さん。大丈夫ですからね?落ち着いて】

 

「胸で窒息させようとするな!この色ボケ巫女幽霊!!!」

 

「ショウトラちゃん。おねがーい」

 

「わふーん♪」

 

「ぎゃあああーす!!!!イダダダだ!!!」

 

「みー!みー!!!」

 

「ふうううう!!!」

 

なにか大変な事になってるみたいだけど、あたしは知らない。自分のことなんだから、横島が何とかすると判断し、結界の中に閉じ込められている魔族の下に近寄る

 

「正直に話せば、殺しはしないわよ?魔界送りくらいはするけどね」

 

【……】

 

令子が魔族に話しかけている。この魔族の力はそれほど強くはない……絶対に何か別の存在が関係しているに違いない

 

「あたしも元の場所に戻れるように協力してあげるワケ?なんならあたしの使い魔になるワケ」

 

黒い靄状の魔族がぴくりと動く、呪いを使う以上。魔族との契約と言うのはそんなにおかしい物ではない、ただし自分が有利になるようにアンフェアな契約をするのは当然の事だが……

 

(本気?エミがいいならいいけどさ)

 

(私はあんまりお勧めはしないよ?小笠原君)

 

まぁあたしもあんまり乗り気ではないが、情報を得ることが出来るのならそれも悪くはない。そう思った瞬間

 

「離れなさい!」

 

くえすの言葉に咄嗟に後方に飛んだ瞬間。結界の中の魔族に剣が突き刺さる

 

【ギガァ……そ、そんなああ……ガ……さマア】

 

間違いない、自分の正体を知られるわけに行かないと判断した魔族の妨害工作……ゆっくりと消えていく魔族をを見ていると

 

(あれ?今何か……見えたような)

 

魔族の身体の中に一瞬血の様に紅い宝石が見えたような……瞬きした間に消えていたので、気のせいかもしれないけど……それが妙に気になった。私が首を傾げていると倒れていたブラドーの様子を見ていた唐巣神父が

 

「とりあえず、ブラドーは意識こそないが生きているよ……大分弱っているみたいだけどね……だけどあの魔族の事を考えるとどうもなにか大きな事件が起きるような気がするよ」

 

あたしも霊感に来ている。これは終わりではなく、始まりなのだと……だけど今は

 

「まぁなんにせよ。魔族の妨害は出来たから、これで解決って事で良いワケ」

 

ブラドーは怪我こそしているが無事だし、こっちには横島が怪我をしているくらいで被害は殆どない。今回はこっちの勝ちと言うことで良いだろう……

 

「まぁ、そう言うことにしておきましょうか?ブラドーと横島君の手当てをする為に城を出ましょうか?この場所は良くないわ」

 

魔族の魔力が満ちているこの場所で手当てをするのは、得策とは思えない……あたしも同じ考えだったので荷物をまとめ、気絶している横島とブラドーを連れて城を後にしたのだった

 

 

城から出て行く美神達を見つめる金色の蝙蝠。疲弊した今の美神達なら楽に……いや、万全な状態であったとしてもこの魔族が殺すと決めたならば誰一人この城から無事に出る事は適わなかっただろう……この魔族……いや

 

「お迎えに参上いたしました」

 

突如金色の蝙蝠の目の前に現れる漆黒の馬車を引いた黒馬とその従者席で手綱を引く、漆黒のタキシードを着込んだ魔族。金の蝙蝠は従者へ指定した時刻ちょうどに来た事に小さく笑みを浮かべ、その魔族の名を呼んだ

 

「ご苦労。ビフロンス」

 

ビフロンス……それはソロモン72柱に名を連ねる、強大な魔神。その魔神が付き従う金色の蝙蝠……そう彼もまたソロモン72柱に名を連ねる魔神……

 

「勿体無きお言葉……ガープ様は聖戦に赴いて居られる。ならばこのビフロンス、この身命を賭して貴方に付き従うまで」

 

深く頭を下げるビフロンスを見ながらガープは人の姿に戻り、ゆっくりと馬車の中に乗り込む。ビフロンスはそれを確認してから、ゆっくりと手綱を引く、豪奢な馬車を引く馬はその合図と共にゆっくりと空中を走り出すのだった……

 

魔神ガープ……人の愛憎を操り、人間同士を争わせる能力を持つが、それ以上に自身もまた魔術に長けた強大な魔神……

 

序列33番に記された強大な魔神であり、かつて魔界がサタンに統一される前、同じソロモンの悪魔の4体の魔神と共に魔界を支配していた巨大な魔王なのである……ガープは馬車の窓から城から離れていく美神達を見つめ……いや、その中の1人だけを見つめながら

 

「特異点……あながち嘘ではないな……」

 

エミが一瞬だけ見た紅い宝石をその手の中で転がしながら、小さくそう呟くのだった……

 

 

リポート12 吸血鬼の夜 その10へ続く

 

 




次回で吸血鬼の夜は終わりの予定です。大分長くなってしまいましたね。もう少し短くするつもりだったのですが、段々長くなっていき、10話となってしまいました。もう少しやるテーマを絞らないと駄目ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その10

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で「吸血鬼の夜」は終わりになります。ピートとシルフィーの再登場は未定と言う事で進めていきます、やりたい話が多いので何を入れるのか本当に悩んでいるんですよね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート12 吸血鬼の夜 その10

 

横島君の活躍(?)のおかげでブラドーから魔族をはじき出すのは成功したんだけど

 

「駄目だね、これは当分起きないよ」

 

唐巣先生が様子を見ながら呟く、あの2発の拳は相当な霊力が込められていた、始祖の吸血鬼といえど耐え切れる物じゃなかったか……完全に白目を向いて痙攣しているブラドーはそのまま死んでしまいそうな気がした

 

「こんな有様だけど一応依頼って成功?」

 

確認の為にピートに尋ねると苦笑しながら

 

「父は目覚めたくないと言ってましたからこれで良かったのかも知れません」

 

勿論これは社交辞令だと判る。一応除霊成功だけどこれじゃあなぁ……

 

「そんなに心配しなくてもいいですよ、吸血鬼だから直ぐ元気になりますって」

 

まぁそれはそうだけどあれはやりすぎだったとおもう。魔族をブラドーの身体から追い出した2連打、横島君の踏み込んだ位置は完全に崩壊していた

 

(今はまだ無理だけど使いこなせるようになれば世界有数の攻撃力を持つGSになるかも……)

 

反動で全身が筋肉痛になり、しかも霊体痛で呻いているが、そのうちあの力も使いこなせるようになるかもしれない

 

「さ、それよりも島の皆が宴の準備をしてくれています。広間へ行きましょう」

 

城の奥のほうで呻いている横島君には悪いけど、ここはピートとシルフィーちゃんの好意に甘えさせてもらおう

 

(後で何かもって行って上げようかしら?蛍ちゃんの方がいいかな?)

 

私はそんな事を考えながらピート達に案内されながら王座の間を後にしたのだった……

 

 

 

下の広間から聞こえてくる馬鹿騒ぎに私は眉を顰めながら先ほど自分で淹れた紅茶をカップに注ぐ

 

「もう少し静かに出来ないのですか」

 

折角稀少な魔道書を読んでいると言うのに……この馬鹿騒ぎでは読書に集中できない。読んでいた本に栞を挟んで1度机の上に置いて、思わず左の頬に手を伸ばす

 

(助けられたとは言え……この私の顔に……)

 

床が抜けて落ちた時、私は横島に庇われた。幸いと言うべきか何なのか、固い石造りの床に叩きつけられる前に私の魔法と横島が無意識に発した霊力で着地の衝撃を和らげる事が出来たが、その時の衝撃で横島に頬にキスされた。言いようの無い怒りを感じて、全力で、それこそ殺す気で拳を頭に叩きこんだ。唇じゃなかったと安心した

 

「……」

 

しかしこうして落ち着いてくると、知らずの内にキスされた左頬に手を伸ばしてしまう。不快なのは間違いない、その証拠に風呂で何度も洗った上に消毒した。しかしそれを惜しかったと思う自分もいて……

 

「本当に不愉快ですわ」

 

自分でも理解できない感情。言いようの無い心のざわめき……あの横島と言う男に会ってから自分がどんどんおかしくなるのが判って苛々する。大きく深呼吸して気持ちを切り替えてから

 

「しかしそれにしてもあのへっぽこ……横島忠夫。あれは何者なのですか」

 

魔道書を読んでいる間は気にしてなかったが、こうして今思うとあの男の力は理解できない、霊力を圧縮して物質化する。そんな事が出来る霊能力者は見たことがない。

 

(感じとしては魔装術に近い物を感じますわね)

 

手帳にあの時見たものを思い出しながらメモをしていく、神宮寺の家は代々魔力を持つ者が多い。それは神宮寺の家を興した初代が魔神と契約してから神宮寺の家系には魔力が混じるようになっている。だがその量は本人の才能が大きく影響する。現に私の曽祖父は魔力が少ないので魔族と契約し魔装術を手にしていたと聞いている……私はそんのそこらの魔族に負けないほどの魔力を持って生まれてきたので魔装術なんて醜い物に興味を持つ事がなかった。

 

(あれは本当に何者なのですか)

 

原理としては判る。本来体に纏わせるようにして使う霊力を拳に収束して手甲にする、それ自体は理解できるし、私自身も出来ない事はない。だが

 

「あの翼は理解できませんわ」

 

背中に展開された三日月状の翼。それ自身も高密度の霊力で構成されていた。そしてそれを起爆させる事で爆発的な加速を得る……

 

「……再現は出来そうにありませんわね」

 

手甲と背中に同時に高密度の霊力を収束させ作り上げる甲冑のような物。しかし役割は全く異なる……それを意図的にやろうとしたらドレだけ複雑な制御が必要なのか?考えるだけでも頭痛がする

 

「聞いてもわからなそうですわね」

 

横島自身もあれが何なのか理解していないだろう。でなければ霊体痛で呻く事もないし筋肉痛にもならない

 

(随分とアンバランスな男)

 

潜在霊力は多いがそれを使いこなせず、陰陽術を使い、魔装術に似た霊力圧縮を使い、更に妖怪と心を通わせる

 

(とんだ規格外……これからどうなる事やら)

 

陰陽術は表には出ないが、裏の世界にはそれなりの使い手もいる。だがそれらの多くは自身の家の秘伝を見せるわけには行かないと徹底した秘密主義を貫いている。あのGSの中の大物でもある六道冥華の要請にもうんと言わないのだから恐らくこれからも表に出る事はない、しかし横島は……

 

「なんで私そんなに気にしているんでしょうか」

 

思わずそう呟いてしまう。あんなへっぽこなんてどうでもいいはずなのに横島と言う名前をしっかりと覚えている自分を認識してしまう。あの時落ちた時も私は何故かあいつの手を掴んでしまった。掴んだとしても助かる可能性なんて無いのに……

 

「……不愉快ですわ」

 

あの時の事を思い出すたびに不快感が募る。頬だから良かった物の、キスをされた事にも怒りを感じる。私は読んでいた魔道書から栞を引き抜き、本棚に叩きつけるように収納する。その衝撃で僅かばかりの埃が舞っているのが見えるが私のせいではない

 

(どうしてあんな馬鹿をあんなに気にするというのですか)

 

少し話しただけでも判る。あの底抜けに明るい馬鹿でスケベな男を如何してここまで気にしているのか?そしてどうしてここまで気持ちを乱されなければならないのか?心を揺らさない修行は何年も行った、魔法と言うのは精神状態が極めて影響する。だから心を乱さないようにするのは基本中の基本。それなのに今私の心は揺れている……

 

(まぁいいですわ。もう会うこともないでしょうに)

 

琉璃の依頼を済ませれば私がもう東京にいる必要はない、また以前のように海外に拠点を置いてGS活動をすればいいと思いながら古城の通路を歩いていると

 

「うう……」

 

静かな通路のせいで余計にはっきり聞こえた呻き声……私には関係ない、どうせミズチか芦蛍がついているのだから私には関係ない。はやく自分の部屋に戻って休もう……

 

「うう……っ」

 

聞こえてくる呻き声……私は最初はそれを無視しようと思っていたのだが余りに聞こえてくるせいで

 

「ええい!もう!鬱陶しいですわね!」

 

振り返り、呻き声が聞こえる部屋に向かって走りだしたのだった

 

「何をしているのやら」

 

予想に反して横島の部屋には誰も居なかった。広間の方の顔だけでも出しに行ったのかもしれない

 

「うう……う……」

 

脂汗を流している横島を見て直ぐ原因は判った。過剰な霊力の消費による激しい霊体痛。しかしこの症状は並の人間なら死んでいてもおかしくないほどの重度なものだ。

 

(ドクターカオスを呼びに行ったのですか、なるほど)

 

これはどう考えても専門家でなければ処置できない。だから呼びに行ったという所か

 

「まぁ気休め程度ですがね」

 

軽く治癒魔法をかける事にする。横島は生命力が極めて高い。そう簡単には死なないだろう……

 

(ミズチと九尾の加護。とんでもないですわね)

 

助けた代わりに、軽く胸に手を置いて横島の魂を調べてみて驚いた。横島の魂に纏わりついている2つの霊力……九尾と水神の加護。その2つの加護があるから生きているのかもしれない、徐々に荒い呼吸が整っていくのを見ながらこれで良いと思い部屋を出ようとすると

 

「あ。あれ?……神宮寺……さん?」

 

ぼんやりと目を開ける横島。まだ意識を戻すには早い、人間とは思えない回復力だ

 

「寝なさいな。そして忘れなさい」

 

この私が人間に2回も治癒を施したなんて言うのは自分でも認めたくない事だ。だからそう言って足早に部屋を出ようとすると

 

「ありがとう……やっぱ……優しいっすね」

 

小さい声で私に礼を言う横島、何故か妙に気恥ずかしい気分になり、部屋を出るなり私は早足で自分の部屋に戻り

 

「らしくない、らしくないですわ……」

 

妙に顔が赤い、それに胸も痛い。なんで……なんであんなにもあの男の言葉は私を乱すのか

 

「……苛々しますわ」

 

魔女として揺れる事のない心を身につけたつもりだった。だけどあの馬鹿はやすやすと私の心の脆い部分に入り込んで出て行く……まるで猫か何かのように……たった数回あっただけの存在にここまで心を乱されているのに無性に腹が立ち私はそのまま布団に潜り込んで眠りに落ちるのだった……

 

 

横島の部屋から出て自分の部屋に向かっていく神宮寺くえすの姿を見て、慌てて横島の眠っている部屋に入ると

 

「すーすー」

 

さっきまでの苦しんだ素振りはどこにもなく、穏やかな寝息を立てていた。ドクターカオスに念の為に見てもらうと

 

「実に適切な処置が施されておる、さすが黄昏の月とでも言うべきじゃな。身に余る力の制御はお手の物か」

 

感心したかのように呟くドクターカオス。私でもシズクでも出来なかったのに神宮寺くえすが横島を治療したという事に

 

(まさかね……)

 

あんなプライドの高そうな少女が横島に惹かれる訳がないかと判断し、近くの椅子に腰掛け

 

「それで横島の容態は?」

 

「安定はしておるが、こんな場所では充分な治療は受けさせれんな。早急にどこかの病院に連れて行くべきじゃ」

 

やっぱり……あの手甲の打撃は間違いなく直撃すれば下位の魔族を一撃で消滅させかねない威力を秘めていた、だが今の横島には強すぎる力だったようだ

 

「しかし・栄光の手・ではなく・あの力は・なんなのですか?」

 

不思議そうに尋ねてくるマリア。横島と言えばサイキックソーサーと栄光の手が主な霊能力だが、今の横島は私の知る未来の横島よりもはるかに強くなる素質を見せている

 

「判らないわ。魔装術を見たのが影響しているのかも?」

 

メドーサも余計な事をしてくれる……と溜息を吐いていると

 

【でもここでも私の記憶と違います】

 

シズクがいないので逆行の話をするおキヌさん、確かにこんな闘いだったなんて聞いてないし、魔族がここまで出てきているなんて聞いてもない

 

「芦が味方になった影響じゃろう。歴史の修正力、芦に変わる魔神が過激派を率いているのじゃろう。これも早急に調査が必要じゃな」

 

お父さんが味方だから神魔大戦が起きる訳ないと思っていたけど、どうもそんなに簡単は話ではない見たいね

 

「戻り次第芦と相談をするべきじゃな、魔力の破片は回収できている、芦に心当たりを聞いてみるべきじゃな」

 

魔族に関してはお父さんに聞くしかないか……まぁとりあえず横島の状態が安定しているのでいいかと溜息をはいていると

 

「さてとほれ、でた出た。今の小僧は霊力が安定しておらん。あんまり力のある者はいない方がいい、マリア頼むぞ」

 

ドクターカオスに背中を押されて横島の部屋から追い出される。私とおキヌさんはジト目でドクターカオスを見る。もしかしてマリアの為に追い出したのでは?と思っていると

 

「嘘ではないからな?今の小僧の状態は危険じゃ、霊力を近づけないほうがいいんじゃ」

 

まぁ専門家の言うことだから嘘ではないと思うけど……

 

「心配だなあ」

 

さっきの横島の苦しみようを見ているからこそ心配になる。この近くにイスを持って来て様子を見ていようかと思っていると

 

「起きた時にお嬢ちゃんが疲れた様子を見れば小僧は気を揉むじゃろう?休むときは休め」

 

そう笑うドクターカオス。ボケていたときの姿を知っているおキヌさんは

 

【本当に若い時はいい人だったんですねえ~】

 

「かっかかか!今でもワシは善人のつもりじゃよ。娘思いのな!」

 

上機嫌に笑って広間に方に向かっていくドクターカオス。私も近くで浮いているおキヌさんを見て

 

「私達も行こうか?横島を安静にしないといけないし」

 

【そうですね、心配ですけど仕方ないですね】

 

出来ることならば横島のそばで様子を見ていたいけど、仕方ないと呟き2人で広間へと向かうのだった。翌朝も横島が目覚める事はなく、その状態を危険だと判断した美神さんと唐巣神父が神代琉璃に頼んでくれたおかげで緊急輸送のヘリが来た

 

「横島さんにありがとうございましたと伝えてください」

 

「今度お礼をしに行きますから!」

 

ピートとシルフィーさんに見送られ、美神除霊事務所の面々だけが日本へと先に帰国する事になるのだった

 

「本当。この馬鹿お騒がせだわ」

 

ストレッチャーに縛られている横島を見つめて苦笑している美神さんを見て

 

(【また敵になるとか勘弁してよ】)

 

なんせ美神さんの前世はお父さんが作り出した魔族のメフィスト。そう……おキヌさんでさえ300年熟成されたヤンデレならば美神さんはその3倍以上の年月熟成されたヤンデレと言う事になり……もしかすると一番危険な敵なのかもしれないと私とおキヌさんはありえるかもしれない可能性に背筋に冷たい物が流れるを感じるのだった……

 

 

 

蛍達が日本に帰国してから数日後。優太郎の元には古い客人が訪れていたのだが

 

「どこの宇宙人ハンターだい?ネビロス、ベリアル」

 

黒いスーツ姿で黒人と白人の姿をしている同じソロモンの魔神として行動していた2人に尋ねると

 

「「ハンター?」」

 

「うん。ごめん、例えがわかりにくかったね」

 

ずっと魔界にいた2人が人界の映画を知っているわけがなかった。今のは私の突込みが悪かった

 

「それでどうして人界へ?」

 

魔界の奥で静かに暮らしたいたいと穏健派でも過激派でもない中立地帯に住居を構えていた2人が態々魔界軍と神界軍に監視される事を覚悟で正規ルートで人界に入ってきた。そのせいでどこもかしかもピリピリとした雰囲気になっている。それに人界があまり好きではないこの2人に態々私を尋ねてきた理由を尋ねるとベリアルが肩を震わせて

 

「あ、アリスうううううう!アリスはどこだあああああ!!!「黙れ!」ぐが!?」

 

突然号泣して叫びだしたベリアルの頭を灰皿で強打するネビロス。血を流して倒れているベリアルを見ながら

 

「ね、ネビロス?一体ベリアルはどうしたんだ?」

 

普段は冷静なのにこの取り乱しよう、ただ事ではないと思い尋ねるとネビロスは

 

「先日ムルムルの小童が我らの居城に現れた、内容は自分の分霊のことだったのだが……なんでも邪?とか言う小僧が面白いと聞いたアリスが飛び出して行ってしまったのだ」

 

はい?アリスってネビロスとベリアルに鍛えられたネクロマンサーのゾンビの少女……

 

「なんてことを!?早く探さないと!?」

 

「だからこうして来たのだ。だが「アリスうううう!!!」黙れ!ベリアルが一々暴走するので探すのも進まない」

 

再び灰皿で強打されるベリアル。どうして彼がこんなことになってしまったのか私には理解できない

 

「なので会いにいくという邪と言う人間を探しているのだが」

 

ん?なんか違うような……もしかしてと思いながら

 

「横島君だろ?」

 

「そうだ。邪だ」

 

勘違いしている事を確信した私は紙を取り出して紙に邪と横島と書いて

 

「君達が探しているのはこっちじゃなくて、こっち。青いGジャンとバンダナの青年な?」

 

どうも横島君を邪と思っていたらしい、それは探しても見つからないわけだ

 

「なるほど、勘違いか。人間の名は難しい」

 

まぁ日常的に人界にいる魔神でなければ邪の方を思い浮かべるよなあと思いながら

 

「まぁ連絡先を知ってるから電話してみるよ。見つけたら直ぐ連絡をくれるようにね」

 

電話を手にし美神除霊事務所に電話する。直ぐに出てくれたのだが

 

【斬る斬る斬るうううう!!!】

 

「ぎゃあああ!刀が浮いてるうう!!!」

 

「横島避けて!」

 

ザン、ブツン……ツーツー

 

「すまない向こうもトラブルのようだ。直接出向こう」

 

私がそう言うとネビロスは金属の鎖を取り出して昏倒しているベリアルを縛り上げる

 

「何をしているんだい?」

 

「いまのこいつは役に立たない、監禁しておこう」

 

……相方なのに、それほど迷惑をかけられているのかと思うと私はネビロスが不憫に思えた

 

「さ、早く横島君達の所に行って見よう。近くにいるかもしれないからね」

 

横島君は魔に属する者を集めるからきっと横島君の近くにいると思ってそう言うと

 

「ああ、急ごう。通行人を片っ端からゾンビにされては困る、魔界だからアリスの友達は皆ゾンビか悪霊だから死んでいるのが普通だと思っているからな」

 

さらりと爆弾発現をするネビロス。死んでるのが普通ってそれじゃあ下手をすれば大量虐殺……今人界にいる魔界正規軍と神界軍に目をつけられる→アリス退治→ネビロス&ベリアル暴走→過激派もそれに伴い暴走

 

「走るぞ!ネビロス!」

 

最悪の展開が頭を過ぎった私はのんびりと茶菓子を口にしているネビロスの手から、茶菓子と湯飲みを取り上げて走るぞと叫んだ

 

「む?判った、茶菓子は後でまた頼む」

 

結構な緊急事態なのにのほほんとしているネビロスに若干苛立ちを覚えながら、私達は慌ててビルから飛び出していくのだった……

 

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その1へ続く

 

 




アリス・黒おじさん・赤おじさん。メガテンシリーズをやっているなら判りますよね。魔人アリスとネビロス・ベリアルです、私はアトラスのファンなのですが、アリスはロリ属性だから横島に合わせれば面白いと思いだして見ることにしました。どんな風に絡むのか楽しみにしていてください。ベリアルは残念使用でお送りします、ネビロスは真面目ですね。アリスは出来るだけ原作と同じ風にしてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「燃えよ剣」にオリジナルの要素を加えます。前回のラスト魔神コンビの探している「アリス」を搦め手行きます。メガテンを知ってる人なら判ると思いますが、人外・ロリと2つの属性を持つアリスを上手く書けるか自信がありませんが全力で頑張ります。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その1

 

東京の街に佇む、東京には相応しくない格好をした1人の少女。艶やかな金髪と青いエプロンドレス、そして白いリボンと血のような真紅の瞳……魔性の美しさと言えば良いのだろうか?見るもの全ての注意を引き付けながら少女は東京の街を歩く

 

(変な所……魔界の方が静かでいいなあ)

 

ざわざわがやがやと人の声があちこちから聞こえてくる。黒おじさんと赤おじさんの知り合いのムルムルとか言う伯爵から聞いた人を探して、黒おじさんと赤おじさんの友達の家から出て来たのは良いんだけど

 

「どこにいるんだろ?」

 

会いたいと思ってきたけど、私は名前しか知らないや……えーと確か……

 

「邪って言ってたよね」

 

ムルムルさんに聞いた名前は邪って言う名前だったはず……面白い霊力を持っているって聞いてるから霊力を探せばいいかと思ってゆっくりと歩き出す

 

(面白い霊力ってどんな霊力かな?)

 

黒おじさんと赤おじさんの魔力にはなれているけど、その面白い霊力ってどんな感じなのかな?私は名前だけを頼りに邪と言う人を探し出すのだった……

 

 

 

ブラドー島から帰ってきて1週間この期間はほとんど寝てすごしていた、ブラドーを助けるために使った霊力の篭手。その反動は凄まじく、動く事ができなかったのだ

 

「やーっと散歩に行けるなあ、チビ」

 

「みみー♪」

 

嬉しそうに鳴きながら俺の頭の上を飛んでいるチビに笑みを零す。動けない間はシズクが散歩に連れて行ってくれていたのだが、寂しそうにしていたのを見ていたので早く元気にならないといけないと思った物だ

 

「みっ♪みっ♪みーっ!!!」

 

俺の頭の上で楽しそうに鳴いているチビを見ながら俺はゆっくりと歩きながら事務所へと向かった。何か依頼があるとかで来れそうなら来てもいいわよっと言われた。珍しい除霊を見せてくれるそうなので楽しみにしている

 

(公園の中を通ってバスに乗って、そこから歩けばいいか)

 

電車で行くほうが早いけどチビの散歩もかねているのでゆっくり時間を掛けていこうと思い、態と遠回りしていく事にした

 

「みー」

 

バスの窓の外見ているチビ。楽しそうに揺れている尻尾を見ているとバスが随分と気に入ったようだ

 

(シズクが先に行ってるけど大丈夫かな?)

 

俺の変わりに美神さんの所で働いているシズクの事が心配になる。シズクはあれはあれで好戦的だから心配になるのだ

 

(タマモがいるから大丈夫かなあ?)

 

タマモが一緒だから大丈夫だとは思うけど、事務所に行ったら水浸しとかだったらいやだなあと思いながらバスを降りて

 

「うーし、行くぞチビ」

 

「み♪」

 

リードに繋がれているので離れすぎず、近すぎずの距離を保って飛んでいるチビを見ながら事務所に入る

 

「ちわー……なにやってんの?」

 

挨拶の途中で俺は停止してしまった何故なら

 

【「ふふふふふふ」】

 

シズクとおキヌちゃんが怪しい笑顔を浮かべて包丁を研いでいた。なんと言うか身の危険を感じる

 

「むー」

 

俺の髪の中に隠れているチビ。どうやら本能的に危険だと判断したらしい。俺とチビが驚愕していると包丁を研いでいたおキヌちゃんとシズクが顔を上げる

 

【横島さん、出歩けるようになったんですね。良かったです】

 

「……呼べば迎えに行ったのに、水を通じればどこにも私は行ける。横島専用ミズチタクシー」

 

なんか最近シズクの考えている事が良く判らない。俗世とやらに馴染みすぎているのではないだろうか?それだけ心配してくれてるってことか

 

「ありがとな。でも近くだから心配しなくていいよ」

 

それのそのミズチタクシーとやらが水の中を使って移動するなら、当然の如く俺は窒息してしまうのでやんわりと断る事にする

 

「……そう」

 

シズクの頭を撫でながらふとおもう。シズクは龍神なのにこんな事をして大丈夫なのかな?少し考えてからおキヌちゃんに

 

「それでなんで包丁を研いでるの?」

 

何もこんなところで研がなくてもと思いながら尋ねる。シズクはまぁ本人が怒ってないから別に良いのだろうと判断した。キッチンのほうから蛍が顔を出して

 

「いい機会だから私とかシズクの包丁も研いじゃおうッてことになってね。横島の家に行くのも悪いし、ここでやることにしたのよ」

 

俺を心配してくれたのか……まぁ最近は俺の家が皆の集合場所になってたからな、俺が寝ているのに集まるのは良くないと思ってくれたのか……と少しだけ嬉しい気持ちになっていると

 

「所で美神さんは?」

 

姿の見えない美神さんの事を尋ねるとシズクが包丁を鞄にしまいながら

 

「……難しい除霊をするので散歩に行くと言っていた」

 

難しい除霊?それが言っていた珍しい除霊なのか?と言うかなんで難しい除霊で散歩に行くんだ?

 

【結構難しい除霊みたいですよ?だから精神統一が必要なんですって】

 

小首を傾げながら呟くおキヌちゃんに言葉にふーんっと返事を返しながらソファーに座ろうとした瞬間、ふと机の上の木箱を見た瞬間

 

【さあ!類稀なる霊力を持つ少年よ!拙者を手にしろ!】

 

頭の中に何かの声が響き、操られるかのように木箱に手を伸ばした瞬間

 

「横島駄目よ!」

 

「……この鉄くずが」

 

「コーン!」

 

蛍のサイキックソーサーとシズクの水鉄砲そしてタマモの炎が木箱を吹き飛ばす。なにが起きたんだ……自分がどうなっているのか判らないでいると

 

【カカッ!!!!凄まじい霊力と妖力よ!おかげで拙者一人で動けるようになったぞ!!!】

 

不気味な声が聞こえ顔を上げるとそこには柄のところに顔がある不気味な刀が浮いていて

 

「ぎゃーあ!!!刀が喋ったあああああ!?」

 

しかもその刀が俺を見ているので余計に恐怖を感じ思わずそう叫んでしまうのだった……

 

 

 

今回の依頼はシメサバ丸と言う意思を持つ妖刀の意思の除霊。簡単に済むと思ったんだけど思ったよりもその意思はしつこく中々刀から除霊出来なかった

 

(これは報酬減かなぁ……)

 

意思のみを除霊できた場合は1000万。刀ごとの場合は400万……出来れば意思だけを除霊したかったけど無理かもしれないと思いながら事務所の扉を開けると

 

【カカカッ!貴様の体をよこせええええ!!!】

 

「ぎゃーあ!!!こっちくんな!!!馬鹿やろオオオオッ!!!」

 

1人で宙を舞っているシメサバ丸が横島君を追いかけていた。一瞬どういうことか理解できなかったけど直ぐに我に帰る

 

「横島君!こっち!」

 

「美神さん!?そっち外……ワイを見捨てるんですか!?」

 

そう言うことを言わない!蛍ちゃんとかの圧力が物凄く増すから!!!

 

「違うわよ!除霊の準備をしたいけどそのままじゃ駄目だから、少しの間外に逃げてて!早く!」

 

このまま事務所で暴れられたら除霊の準備をすることも出来ない。何故か私が箱の中に封印するよりも霊力が上昇しているから準備をしなければとてもではないが無理だ

 

「判りましたぁ!タマモ!」

 

出口に向かって走りながら横島君がタマモを呼ぶ、タマモは直ぐに走り出して

 

「コン!」

 

「みぎゃ!?」

 

横島君の頭の上に飛び乗る、チビのつぶれたような声がしたけど多分大丈夫……よね?

 

「それでどうしてああなったの?説明して」

 

まずはどうしてシメサバ丸がああなったのか?それを知らなければならない。準備不足で返り討ちにあったりしたらいい笑いものだから

 

「……なるほどね。横島君の精神に揺さぶりを……」

 

これは私の落ち度ね。横島君を呼びはしたが、多分来ないだろうと思ってそこまでの霊的防御をしなかった……いや

 

(シメサバ丸の力が強かったのね)

 

まさか精神感応で相手を操る力を持っているとは思ってなかった。話では触った相手と聞いていたから

 

「それで横島を護るのに攻撃したら」

 

「……こっちの力を吸収した」

 

蛍ちゃんとシズク……多分タマモの霊力も吸収したみたいね。となると……普通の封印札じゃあ駄目だし、カオスに依頼して作ってもらっている間に横島君が身体を奪われる

 

(そうなったら最悪ね)

 

自分の力で霊力を制御出来ない横島君だが、シメサバ丸が無理やり霊力を引き出すと横島君の命が危ない

 

「シメサバ丸を壊すしかないわね」

 

これしかない。相手を操る力を持つが所詮は日本刀。切れ味は高いが、耐久力は低い……筈だ。ならばその耐久力を超える防御力を持つ防具を用意すれば良い

 

「厄珍ですか?」

 

「ええ。厄珍に確か強化セラミックのボデイアーマーが売ってたはず」

 

厄珍は性格に問題があるが、道具選びとしての才覚は天才だ。少し高いが、そこは我慢しよう

 

(たっく!迷惑ばかりかけて!早く一人前になりなさいよ!)

 

潜在霊力は確かに高いが、今のままでは本当に宝の持ち腐れだ。もう少し霊力を使えるようになりなさいよね

 

「シズクとおキヌちゃんは横島君を探して、私と蛍ちゃんは厄珍でボディアーマーを買ってから行くわ」

 

普段は直ぐに行動に出ないシズクも直ぐに頷き、おキヌちゃんと一緒に事務所を出て行く

 

「急ぐわよ!横島君が危ないからね」

 

「はい!」

 

自ら移動できるようになったシメサバ丸は正直危険だ。急がないと横島君が危ない、私と蛍ちゃんは急いでコブラに乗り込み厄珍堂へと向かうのだった

 

 

 

「こっちだよね」

 

途中で見つけた褐色の人が場所を教えてくれたのでそっちに向かって歩いていると

 

【カカッ!貴様の力もよこせッ!!】

 

「ふえ?」

 

突然上空から飛来した刀に一瞬思考が止まる。黒おじさんと赤おじさんが普段一緒にいるから反応が少し遅れてしまった

 

(まぁ大丈夫かなあ)

 

私は殆ど幽霊みたいなものだし、刀のような物理的な攻撃は殆ど効力がない。多少霊力は持ってるみたいだけどあんな力では私の霊体を傷つけることは出来ない

 

(耐えて反撃。これかなあ)

 

あんな金属なら簡単な炎で焼き尽くせるだから、あえてその刀を身体で受けようとした瞬間。浮遊感を感じる

 

「だっしゃああああ!!!」

 

【ぬう!邪魔するかあ!?】

 

浮遊感と暖かい体温を感じながら顔を上げる。そこには赤いバンダナをした人間の姿

 

(見つけた♪これが邪だ)

 

ムルムルさんに聞いた特徴とぴったり一致する。ぽかぽかと暖かい霊力……

 

(いい気持ち……)

 

魔界では感じたことのない霊力。陽だまりの中に居るようでとても気持ちがいい、頭の上を見ると

 

「み?」

 

「くう?」

 

青年の頭の上にいる狐とグレムリンの姿が見える。凄く可愛い、後で頭を撫でたいなあ……

 

「逃げるぞ!抱えて逃げるけど、後で警察とかに言わないでくれよ!!!」

 

そう叫んで刀から逃げ始める邪。おかしいなあ?ムルムルさんの話では凄い霊力の一撃を打てるって聞いてたんだけど……

 

(まぁ良いか♪良い気持ち……)

 

黒おじさんと赤おじさんに頭を撫でられるのとはまた違った心地よさ……ずっと歩いてきて疲れていた私はそのまま目を閉じて、少しの間眠りにつくことにしたのだった……

 

【身体をよこせエエエ!】

 

「こっち来るな!このおんぼろ刀ッ!!!!」

 

凄まじい妖力を感じながらも、この程度ならば本気になれば退けるのは別けないし……

 

「ちくじょおおおお!なんで動けるようになって直ぐこれなんだよオオオオオ!!!」

 

泣きながら走っている邪が面白いのでこのままでもいいかと思ったのだ。大事なのは1つだけ

 

(アリスのお友達になってくれるのかなあ……)

 

私にとって大事なのはそれだけ……それ以外はどうでも良いのだから……

 

横島に抱えられているアリス。その目にはどんよりとした光が灯り、シメサバ丸よりも危険な魔力を発していたのだが、横島がそれに気付くことはなかったのだった……

 

 

 

 




リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その2へ続く

シメサバ丸に追われている途中に更に危険な魔人を拾ってしまう横島です。シメサバの後は当然魔人アリスが本性を見せます。
人外とロリキラーの属性を持つ横島がどうアリスを戦う(?)のかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は「アリス」と「横島」と「チビ&タマモ」そして「魔人コンビ」でお送りしようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その2

 

電話が突然切れて直ぐに美神君の姿はなく、事務所の中はボロボロになっていた

 

(何があったんだ?)

 

書類棚などにある鋭い切り傷。これを見る限り得物は日本刀かそれに準ずる刀剣類だと推測できる

 

「……アシュタロス。これを見ろ」

 

同じように事務所の中を調べていたネビロスが木箱を差し出してくる。それには濃厚な霊力と怨念が残されていた……普通のものではまずこうはならない、考えられるのは1つ

 

「妖刀の類か……これは厄介な代物だな」

 

妖刀は本当に厄介な部類になる。所有者を操る程度は簡単にやるし、精神感応を使う物も多い。それだけ作った人間の思いが込められ、そしてそれだけ人の血を吸って来た危険な存在だ

 

「横島君が追われてるんだな。間違いない」

 

私は確信した今蛍達が事務所にいないのは横島君を助けるために行動しているのだと

 

「何故そう言える?娘の可能性があるのでは?」

 

怪訝そうな顔をしているネビロス。ムルムルも戦っている所しか見てないから知る由もないが

 

「横島君は人外キラーでロリキラーなのだよ。だから間違いない!」

 

私がそう言うとネビロスは不思議そうな顔をして

 

「なんだそれは?」

 

ああ、そうか。ネビロスは知らないのか横島君の特性を

 

「その言葉のままだよ、横島君は人外で子供に好かれるのさ。物凄くね、九尾の狐にグレムリンにミズチにまで好かれているのだよ」

 

私の将来の義理の息子は凄いだろう?とネビロスに言っていると

 

「アリスは人間で言うと12~14歳くらいだ」

 

それで確かアリス君はゾンビ……あ、人外だ……しかも横島君の基準だとロリだ

 

「まさかのドストライク!?」

 

トトカルチョを見る。頼む違っていてくれ……そう祈りながらスーツの中のトトカルチョの紙を見て

 

【魔人アリス 参戦予定】

 

「ギャース!!!!なんで!?何でなんだ!?横島君!!!!」

 

「なんだそれは?」

 

私の手元のトトカルチョの紙を見ているネビロス。これは説明せざるをえないか……簡単に説明すると

 

「つまり最高指導者のお遊びにして、その横島とやらが誰と結婚するかと言うものか……」

 

流石ネビロス賢い……1を話して10を理解してくれるので本当に頼もしい。普段はベリアルも賢いんだけど、最近暴走気味だから役に立たないんだよなあ……

 

「アリスが決める事だ。私には関係ない、アリスが幸せならばそれで良い」

 

理想の養父だな。ネビロスは……だが譲れない事はある

 

「蛍が横島君の妻になるんだ」

 

そうそこだけは譲れないと強調するとネビロスはさらりと

 

「魔界は一夫多妻。妾でも構わないだろう」

 

私はこの時少しだけネビロスが凄いとおもうのだった……ってこんな事をしている場合ではない

 

「早く横島君とアリス君を探しに行かないと!」

 

「だな、急ごう」

 

ここにはもう手掛かりがないと判断し、私とネビロスは再び東京の街へと走り出したのだった……

 

 

シメサバ丸とか言う妖刀に襲われている女の子を助け、そのまま近くの公園に隠れたのは良いんだけど……

 

(あかん。外人さんや)

 

金髪と紅い目……どこからどう見ても外人さんだ。どうしようか?俺英語喋れないんだけどなあ……エミさんか唐巣神父の所に逃げ込もうかなあと考えていると

 

「お兄ちゃん!そのグレムリン抱っこさせて!」

 

目をキラキラさせて流暢な日本語で話しかけてくる。お兄ちゃんと呼ばれたことに少しだけ驚きながらも

 

「日本語喋れるの?」

 

日本語を喋れるのか?と尋ねると目の前の少女はニコニコと笑いながら

 

「喋れるよ~♪お兄ちゃん早く早く!」

 

チビに手を伸ばしているので頭の上に手を伸ばしてチビを少女の前に持っていくと

 

「み?み」

 

くんくんっと匂いをかいで何かを考えているような素振りを見せるチビだったが

 

「みっ!」

 

「かわいー♪」

 

チビは少女の手の中に飛び乗った。おお、これで冥子ちゃんと2人目だな。チビが家族以外に懐くのは

 

「俺の名前は横島だ。んでこの狐がタマモ、そのグレムリンがチビな?」

 

グレムリンを知っているって事はこの子の親もGSなのかもしれないなと思いながら自己紹介すると

 

「私アリスだよ!よろしくね♪お兄ちゃん」

 

チビを抱き抱えながら笑うアリスちゃん。見たところ12歳位かな?幼女ではなく美少女と言う感じの少女だ

 

「観光に来たの?」

 

こんな小さい子が1人で日本に来ているとは思えない。でもここまで日本語が上手だともとから日本に暮らしている可能性もある。何をしに来たの?と尋ねると

 

「赤おじさんと黒おじさんのお友達に会いに来たんだよ。でも難しい話をしてるから出てきちゃった」

 

あ、赤おじさんと黒おじさん?なんと言うかこの子の感性も独特なんだなあと思いながら

 

「その2人がどこにいるのか判る?」

 

まぁなんにせよ。その黒おじさんと赤おじさんとやらの所に連れて行けばいいかと思い尋ねるが……

 

「わかんない♪」

 

てへっと舌を出すアリスちゃん。どうやらこの子は迷子になってしまっているようだ

 

(うーむ。どうするかなあ)

 

俺自身もシメサバ丸に追われているのでいつまでもこの公園にいるわけには行かないし……かと言ってこの子をこのままここにおいて行くのは余りに不憫だ、それにシメサバ丸に襲われる可能性もあるし……せめて警察官に預けたほうが良いのかもしれない……

 

「お兄ちゃん。今度は狐さんを抱っこしたいなあ」

 

頭の上のタマモを見て目を輝かせているアリスちゃん。俺はタマモを抱っこして

 

(悪いけど少し頼むな)

 

アリスちゃんはその外見通り小さい動物とかが好きなようだ。きっと保護者と離れて寂しい思いをしているだろうから、励ますという意味も込めて頼むと言うと

 

(クウ)

 

小さく返事を返すタマモをアリスちゃんに差し出すと

 

「わーい♪もふもふー♪」

 

「クうううう!?!?」

 

いきなり抱き締められて頬ずりされているタマモが目を白黒させてるけど、すまん我慢してくれ

 

「えーと黒おじさんと赤おじさんのお友達の名前は判るかな?」

 

アリスちゃんの目線にあわせて尋ねるとアリスちゃんは俺の背後を指差して

 

「刀飛んできてるよ?お兄ちゃん」

 

「うえ!?」

 

アリスちゃんの言葉に驚きながら振り返ると、確かにそこにはこっちに向かって飛んできているシメサバ丸の姿が

 

「やべえ!アリスちゃん!」

 

さっきみたいにアリスちゃんを脇に抱えて走っていては間違いなく不審者と見られてしまう。蛍や美神さんに迷惑をかけるわけには行かないのでアリスちゃんの前にしゃがむと

 

「おんぶしてくれるの♪ありがとー♪」

 

軽い重みが背中に乗ってくる。アリスちゃんを落とさないように両腕を後ろに回す、若干柔らかい感触を感じるが

 

【身体をよこせええええエエエ!!!!】

 

凄まじい勢いで突撃してくるシメサバ丸を前にその感触を楽しんでいる時間は勿論ないし

 

(ワイはロリコンじゃ無いからドキドキなんかしてない!)

 

背中に当たるほんの微かな柔らかさに興奮なんかしてないし、するわけがない

 

「あはは♪お兄ちゃんはやーい♪もっとー♪」

 

背中の上で無邪気に笑っているアリスちゃんの声を聞いていると

 

(なんか自分が汚れている気がする)

 

そう思うと何故か目から塩水が溢れて来るのだった……

 

 

おキヌと一緒に横島を探しているんだけど、途中で横島の気配に何か別の気配が混じる

 

【これ……なんの気配ですか、物凄く重くて暗い】

 

顔を青くさせながらおキヌが呟く、公園のベンチの上に残されていた横島の霊力。しかしそれだけではなかった

 

「……怨霊・死霊の類……」

 

どす黒くそして重い霊力。私が高島と出会った時代……平安時代にはこんな霊力はそこかしらにあった。

 

「……早く横島を見つけよう。きっと横島は気づいていない」

 

【そうですね。急ぎましょう】

 

横島の今の霊力では相手を出来る相手ではないし、あの切り札の篭手でも高位の死霊を消し飛ばすだけの能力はないだろう

 

(恨みがある限り生き続ける)

 

魔族とはまた違う厄介さを持つのが死霊。無論その全てが悪と言う訳ではないが……警戒する事に越した事はない、幸いにもこれでもかって霊力が残っているのでそれを辿って探せばいい、公園から出た瞬間

 

「シズク!乗りなさい!」

 

車に乗っている美神が私を呼ぶ。どうやら準備は出来たようだ

 

「……判った」

 

不快ではあるが、今の時代に生きるには金が必要だ。そして美神から金を貰っている以上それなりの対応と言うのは必要だ。車に乗り込み美神と蛍の話を聞きながら、私はぼんやりと考え事をしていた

 

(そのうち契約すると言っていたが、どうなるんだろうか?)

 

今はまだ見習いと言う事で美神の所で働いているけど、蛍とかの話ではそれなりの金がもらえるらしい

 

(圧力鍋と言うものが欲しい)

 

これだけは譲れない、TVと言う箱の中でやっている番組で見た。今の時代の料理法……それは私の知らないものが多いが実に興味深く欲しいと思った

 

(まずは胃を掴む事)

 

食べることはすなわち生きること、幸いにも私は料理とかは好きだったので平安時代の料理は覚えている。まぁ今のものと比べれば雑なのだが、基本は理解しているので直ぐに現代の調味料や料理方法も覚えた

 

(……今度は洋食を覚える)

 

横島は何でも美味いというが、出来る料理は多いほうが良い。そう蛍とおキヌよりも作れる料理の種類を増やさなければ

 

「それで横島君は?」

 

運転しながら尋ねてくる美神に首を振る。探してはいるが見つけてはいない

 

「……霊力を辿って探していた。だけど途中で凄まじいまでの邪悪な霊力が混ざってきた。横島は危険だとおもう」

 

タマモがいれば匂いを辿る事もできたが、今は横島の守りをしているのでいない。霊力を辿る事が唯一横島の元に行く方法なのだ

 

「またなにかトラブル?横島君を一人にしたのは間違いだったかしら?」

 

そう苦笑する美神。確かに横島はトラブルを引き寄せるが、それを差し引いても面白いやつだと思う。とりわけ私が属する魔族や神族は人間の外見ではなく、中身を重要視する。その面では横島はとても面白い存在だ

 

【美神さん!あっちのほうですごい騒ぎになってますよ!シメサバ丸じゃないですか?】

 

空から見ていたおキヌがそう叫ぶ、その指差した方角を見ると何重にも重なった怒声が聞こえてくる

 

「急ぎましょう!凄く嫌な予感がします!」

 

「本当に早く一人前になりなさいよ!ここまでトラブル引き起こすなら自分で対処できるくらいには!!!」

 

そう怒鳴り車を走らせる美神。確かに今の横島は確かに弱い、だけどその才能は間違いなく並の人間を超えている。平安時代でもあれだけの潜在霊力を持っている人間はいなかった

 

(……護れば良い)

 

簡単な話だ。横島の才覚が完全に目覚めるその時まで私が、いや私達が護れば良い。そしてその才能が完全に開花したとき、横島がどうなるのか?陰陽師となるのか、それとも妖使いとなるのか?それとも美神のような退魔師になるのか?

 

(今から楽しみ)

 

今の横島は何も書いてない紙と同じなのだ、そこからどんな絵と色がかかれていくのか?そこをもっとも近くで見ることが出来る……

 

(本当に楽しみ……)

 

そしてその時横島がどの道を選ぶのか?それが楽しみで楽しみで仕方ない。人間を選ぶのか?それとも私達を選ぶのか?それとも全く異なる道を選ぶのか?まだ横島は自分の歩く道のスタートラインにも立っていない……だからこそ傍にいたいとおもう。一番近くで横島がどう変わっていくのか見ることが出来るのだから

 

「ついたわよ!ホラ降りて降りて!!!」

 

大騒ぎをしている建物の近くには警察と言う私の時代で言う検非違使だ。その人間達の間をすり抜けて屋敷の中に足を踏み入れると

 

【カカカッ!!!手に入れたぞ、拙者の身体ああああ!!!】

 

「ちくしょー!おっさんなんて庇うんじゃかったああああ!!!」

 

シメサバ丸から伸びた触手で腕を絡め撮られている横島の後ろで泡を吹いている男と

 

「あはは♪おっもしろーい♪」

 

横島の背中の上で笑う小さな少女。だけどその身体に生気は無く死霊の類だと判る。とりあえずあの後ろの子供はどうでも良い。まずは横島を助ける事が最優先だ

 

「【ヨコシマ……】」

 

背負っている死霊を見て蛍とおキヌの視線が鋭くなる、これでは助けに来たのか止めを刺しに来たのか判らない

 

「いやー!!ワイは悪くない!無実なんやああああ!!!

 

シメサバ丸と蛍とおキヌの両方から横島を守らないといけないので、私は屋敷の中の池に腕を伸ばすのだった……

 

 

なおその頃芦のビルに放置されたベリアルはと言うと血涙を流しながら、自身を縛る戒めの破壊を試みていた

 

「アリス。アリス……アリスアリスアリス!!!今私が行くぞオオオ!!!」

 

流石ソロモンの魔人とでも言うべきだろうか?自身を縛っている戒めを破壊し立ち上がる。その体からは湯気のような魔力があふれ出していた。しかしアリスの名を繰り返し呼ぶその姿は、ロから始まりンで終わる。変態にしか思えなかった

 

「アリス!私のアリスぅ!まだお義父さんの傍から離れないでおくれええええ!!!」

 

魔人と言うカリスマを投げ捨て、涙を流しながら走るベリアルは正直残念すぎる魔人で、監視している魔界正規軍も神界騎士団もそんなベリアルから目を逸らすのだった……

 

横島と親馬鹿ロリコンになりつつあるベリアルと遭遇するまであと30分……

 

 

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その3へ続く

 

 




次回はシメサバ丸戦ともう1つの戦闘の開始を書いていこうと思います。アリスの本領発揮はまだまだ先です、どんなかつやくをするのか楽しみにしていてくださいね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は横島がシメサバ丸を手にしてしまったあたりの話から書いていこうと思います。親分とかですね、それからシメサバの話は1度区切りにして、アリスの話に入って行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その3

 

その日。ある屋敷の前で大量の警察と黒塗りの高級車が並んでいた。その屋敷には木で出来た「関東極悪会」の文字……この日この場所では長年続いていた抗争を収めるために「地獄組」「極悪組」の組長がこの屋敷に訪れていた。

 

「地獄組にも極悪組にもそれぞれの言い分があると思うが、今回はワシの顔に免じて今日限りにしてもらおう」

 

2人の組長の前に座る大親分がそう告げると2人の組長は渋い顔をしながらも

 

「……承知いたしやした」

 

「いたしかたありやせん」

 

2人の言葉に大親分は満足げに頷きながら自身の横の机の上から酒瓶を手にし

 

「では手打ちの杯をかわして……」

 

2人の前の杯に酒を注ごうとした瞬間

 

【カカカカーッ!!!!そんな愚かな事をしてもらっては困る!!!】

 

窓を突き破りシメサバ丸が飛来し大親分と組長を見て、組長を見て

 

【納得しておらんのだろう?従うな、争え、殺しあえ!さぁ拙者を掴め!】

 

シメサバ丸の言葉に2人の組長の内。黒いスーツの組長が立ち上がりその柄を掴み

 

「しねやああああ!!!」

 

シメサバ丸の妖力に完全に操られ、正気を失ったまま刀を大親分に向かって振り下ろした瞬間

 

「おっさん!あぶねえ!」

 

「ぬお!!」

 

横島が飛び出し大親分を突き飛ばすが……それはシメサバ丸の計算のうちだった……

 

【カカカ!!計算通りだ】

 

それよりも早くシメサバ丸は組長の手から飛び出し、柄から触手を放って横島の手に収まる

 

「ちくしょー!おっさんなんて庇うんじゃかったああああ!!!」

 

【カカカッ!!!手に入れたぞ、拙者の身体ああああ!!!】

 

号泣する横島とその後ろで泡を吹く組長2人と親分。そして

 

「あはは♪おっもしろーい♪」

 

号泣する横島をその背中の上から見て楽しそうに笑うアリス

 

「【ヨコシマ……】」

 

そして横島の背中のアリスを見て黒いオーラを撒き散らす蛍とおキヌ。それを見た横島はシメサバ丸を持ったまま

 

「いやー!!ワイは悪くない!無実なんやああああ!!!

 

目から滝のような涙を流しながらそう絶叫するのだった……それを見ていた美神は溜息を吐きながら、横島とシメサバ丸を分離させる方法を考えるのだった……

 

 

 

 

 

横島を助けに来たのに、背中の上の金髪の少女を見て、助けるから横島をぶちのめすに変わりつつある思考を感じていると

 

「はいはい、落ち着きなさい」

 

後ろから美神さんに頭を叩かれ、頭に上っていた血が少し下がるのを感じた。おキヌさんのほうは1円の破魔札で気付けをされていた。美神さんもかなり私達の対処法に慣れてきたようだ

 

「横島君が背負ってるあの幽霊かゾンビの女の子は後回しでいいわ、悪い子じゃ無いみたいだし」

 

美神さんはそうは言うが、横島の首に手を回してしっかりとしがみ付いているその姿を見るとさすがに面白くはない

 

「後にしなさい。まずはシメサバ丸と横島君の切り離し!それが最優先よ」

 

神通棍を手にシメサバ丸と向かい合う美神さんだったけど、2人が鍔迫り合いになる前にシズクが作り出したであろう水の壁が2人を引き離す

 

「……斬りあうのは危険。横島の霊力を吸い上げてる」

 

ぼそぼそと言うシズク。確かに良く見ると刀身に凄まじいまでの霊力が集まっているのが判る

 

「流石にあれと斬りあうのは危険ね。でもそれじゃあ横島君を取り押さえれないし」

 

【カカカっー!!!凄まじい力よ!拙者は無敵になったああああ!!!】

 

「ぜは!ぜは!!!やべえ……力が抜けてきた……」

 

肩で息をしている横島……間違いなく霊力を吸われている事による衰弱……久しぶりに体を手に入れたからか調子に乗ってるみたい。いくら横島の潜在霊力が膨大でも使える霊力はそんなに多くない

 

「急ぐわよ。周りが起きてくると面倒だから」

 

ここまで来る間にいたやくざの皆様はおキヌさんを見るなり気絶した。幽霊に耐性のない人間にはかなり有効な手段だと思うけど、起きたら私達も危ないので急いで決めるとしよう、美神さんと目配せをして同時に破魔札を投げつけるが

 

【甘いわぁ!!】

 

鋭い一撃でお札を空中で両断する、切り裂かれた破魔札から溢れた霊力が花火の様に周囲を照らす、横島の周囲の家具や柱も両断されているのを見る限り、恐らく霊力の刃も同時にはなったのだろう……それにしてもシメサバ丸なんてふざけた名前をしてるけど、その切れ味は間違いなく名刀ね

 

(あの切れ味じゃあ買ったセラミックスでもやばいかも)

 

顔を青褪めさせながら呟く、今私と美神さんは厄珍で買った強化セラミックスのボデイアーマーを着ているけど、あの切れ味では逆に両断されかねない

 

(受け止めて破壊するって言うのは無理ね)

 

日本刀は切れ味はいいが耐久が弱い、セラミックの鎧なら耐えて、シメサバ丸を破壊できると考えていたが、今の切れ味を考えると受け止める事が出来ず両断される可能性が高い

 

【美神さん、蛍ちゃん。私が上手く誘導しますか?】

 

床から顔を出しているおキヌさんがそう提案するが、それは正直止めたほうがいい。高位の妖刀や刀は幽霊さえも切り裂く、いくらなんでも危険すぎる

 

「……少し隙を作ってくれれば私が何とかする」

 

シズクが池の水に手を入れながら私達に声を掛けてくる、その池の水はかなりの量が既に減っている

 

「何か考えがあるの?水で氷でも作るつもり?」

 

シズクが出来る事と言えば氷を作る事だけど、それでもシメサバ丸を破壊できるとは思えないんだけど……

 

「……指先から水を圧縮して刃にする。かなりの水を使うけど、これなら金属でも簡単に両断できる」

 

ウォーターカッターって奴か……シズクは本当に芸が多彩ね。味方になってくれたのは大きい

 

「みーむ」

 

「コン」

 

いつの間にか私達の足元に来ていたチビとタマモがこっちを見上げている。

 

「チビ。普段飛んでるのより早く飛べる?」

 

「みむ!」

 

力強く返事をするチビを見た美神さんは今度はおキヌちゃんを見て

 

「チビと一緒にシメサバ丸の注意を引いて、私と蛍ちゃんとタマモがフォローするから」

 

【はい!頑張ります!後で横島さんに話を聞かないといけないですからね】

 

それは私も思っている。特に背中の幼女については詳しく話を聞かないといけない

 

「良し行って!」

 

「みみー!!!」

 

今まで見たことのない速度で翼を羽ばたかせ飛び立つチビとおキヌさんを見ながら、私もホルスターから破魔札を取り出して援護の準備をするのだった

 

 

 

 

 

シメサバ丸とか言う刀に操られている横島の周りを飛び回るチビ。それは私でも捕まえるのは難しいと思う程の速度だった

 

(あんなスピードで飛べたんだ)

 

「みむううううッ!!!」

 

普段のふよふよと飛んでいる姿からは想像できない素早さで、上下左右に飛び回っているチビ。しかも鳴声までも勇ましい

 

「ぬぬ!こ、このやろおおお」

 

【いい加減に抵抗を止めろオオオ!!】

 

横島もシメサバ丸に頑張って抵抗しているようで思うように動けていない、だからチビとおキヌも危ない所で回避が出来ている

 

「早くしてあげてよ、いつまでも横島君が抵抗できるとは思えないから」

 

美神が焦った様子で牽制にとボウガンを放ちながら私に言う、だけど私はそれほど焦ってはいなかった。横島の精神力はかなり強い、あんなボロ刀がいつまでも横島を操れると思っていない

 

(……とは言えタイミングは重要)

 

水の刃がかすれば間違いなく横島の腕も切り落としてしまう。そんな事をしたくないのでタイミングはとても重要だ

 

「蛍ちゃん!合わせて!1・2の3!!」

 

美神と蛍が同時に放った破魔札それは左右からの挟み撃ちで避けれるタイミングではないが

 

【甘いわぁ!!】

 

銀の閃光が走り再び両断される、私はそれを見てにやりと笑いながら指先をシメサバ丸の刀身に向ける

 

「……甘いのはそっち」

 

破魔札はそれ自体に霊力が込められている。そんなものを両断すれば、内包している霊力が爆発する。その時飛び出した霊力が火花のように炸裂し視界を隠す

 

【てーい!!!】

 

「みーむー!!!」

 

「へぐろお!?」

 

「むきゅ!?」

 

床から飛び出したおキヌが横島の胴体を掴み、チビが思いっきり横島の頭に突撃する、その加速のついた一撃で横島が意識を失い、背中の死霊が横島に押し潰されて変な声を上げる

 

「……行け」

 

横島が意識を失った事で浮遊しているシメサバ丸の刀身目掛け水の刃を飛ばす

 

キンッ……

 

乾いた金属音が響いた瞬間。シメサバ丸の刀身は宙を舞い庭に突き刺さる。少しだけ威力を間違って更に柱を切り裂いたけど大黒柱ではないから大丈夫だろう。そもそもこれは飛ばしたるする技ではないので、これでも大成功だ

 

【ぬかった……わ】

 

シメサバ丸の柄に浮かんだ顔はそう呟くと同時に消える。これで横島は助かった……そう思ったんだけど

 

「どこの組の回し者じゃあ!!」

 

「殺せえ!!」

 

「親分と組長を護れええ!!」

 

ここにくるまでに気絶させていた人間が目を覚まして走ってくる。少しばかり時間を掛けすぎたかもしれない……せっかく人助けをしたのにこれは酷いと思う

 

「私が何とか説得するから何もしないでよ」

 

美神が説得するというが、完全に殺気立っていて説明する余裕もない。そして一番先頭の男が気絶している横島目がけ拳銃を向けた瞬間

 

「「【そっちが死ねえ!!】」」

 

躊躇い事無く私と蛍とおキヌはその男目掛けて拳を繰り出したのだった。霊力で強化されているので面白いようにふっとび意識を失う男と

 

「「「てめえら!ぶっ殺してやらぁ!!!」」」

 

「ちょっとー!?交渉の余地をなくすのは止めてーッ!!!」

 

もうここまで来たら止まる訳がなく、凄まじい乱闘が始まるのだった

 

「み、み、みぎゃああああ!!!」

 

「「「ふぎゃあああああ!!!」

 

気絶している横島に襲い掛かろうとした男達は、横島の頭の上のチビが放った紫電で昏倒している

 

(成長してる)

 

ペットとしての姿ばかりを見ていたけど、やはり悪魔は悪魔。いつのまにかしっかりと攻撃技能を身につけていた。その事に安堵しながら

 

「……沈め」

 

「「「がぼがぼおおおお!!!」」」

 

片っ端から男たちの顔に水を集めて気絶させるのだった。蛍は躊躇う事無く顔面を強打しているし、おキヌはポルターガイストを使って応戦している。そもそも普通の人間が私達に勝てるわけがないのだから、これは当然の結果だ。

 

なお気絶していた親分と組長?が起きるまでの10分間でこの屋敷にいた全員は殆ど昏倒しており、それを見た3人にスカウトされたのだが、それは関係のない話なので割愛しておこうと思う

 

 

 

 

 

俺が助けた親分さんが目を覚まし、俺達を賊として勘違いして襲ってきたヤクザを全員一喝して大人しくさせた後

 

「助かったでボン。ようポン刀の前に飛び出してきたな、いい根性しとるわ」

 

カカカッと笑いながら俺の背中をバンバン叩き上機嫌で助かったと美神さんに礼を言い

 

「ワシらは確かにまぁ人様に褒められるような仕事はしとらん。だけどな筋は通す、それが仁義って言うもんや。しっかり報酬払うさかい話しよか?おい!お前ら!早く客人の座布団とお茶を用意しねえか!!」

 

「「へ、へい!判りやした!!!」」

 

お爺ちゃんって感じなんだけど凄い威圧感だな。親分って言われてるのも判る気がする、強面の連中に物凄く丁寧に屋敷の奥まで案内され、美神さんと親分さん達が話をしているのを別室で待っている時……なんでも俺がいると話がこじれるかもしれないらしので別室で待機するように言われたのだ。最初は俺も美神さんや蛍達と一緒だったんだけど

 

「みーむ!みーむ!!!」

 

ぱちぱちと放電してるチビ。僕はこんな事が出来るようになったんだよ!と自慢しているように見えるし

 

「くーん」

 

擦り寄ってくるタマモは自分を構えと言っているように感じるし

 

「ねー!あそぼーよ!アリス!暇ー!!!」

 

遊べー遊べーと言いながら俺の髪を引っ張るアリスちゃん。とても真面目な話をする雰囲気ではなく、俺達は別室へと案内されたのだ。持って来てもらった煎餅を食べていると

 

「お兄ちゃん!ここは飽きたから遊びに行こう♪」

 

窓を開けて顔を見せるアリスちゃん。まぁ子供だからこういう雰囲気は良くないよな……

 

「ちょっと待ってくれ」

 

机の上の紙にアリスちゃんと散歩に行ってきますと書いて、昼寝をしているチビとタマモにジャケットをかけて

 

「行こうか?」

 

「うん!あっちに公園があるから行こ♪」

 

嬉しそうに笑うアリスちゃんと一緒に俺は公園へと歩き出したのだった

 

「えっへへー♪楽しいねー」

 

ブランコや滑り台で楽しそうに遊んでいるアリスちゃん。もし警察とか来たら俺やばいんじゃないのかな?と思いながら

 

「楽しいのなら良かったよ」

 

その時はその時考えれば良いやと思い、ブランコから笑いながら手を振っているアリスちゃんに返事をすると、アリスちゃんはブランコから軽やかに飛んで俺の前に回転しながら着地して

 

「お兄ちゃん!今日はとっても楽しかったわ♪だからお兄ちゃんにお願いがあるの」

 

両手を組んで俺の顔を見上げながら尋ねてくるアリスちゃん。その仕草自体はとても可愛いのだが

 

(なんだ……この感じ)

 

まるで全身を締め付けるかのような、蛇に睨まれたかのような……表現しがたい感覚が俺を襲う

 

「俺に出来ることなら聞くけど「嬉しい♪」

 

俺の言葉を遮って幸せそうに笑ったアリスちゃんは再び地面を蹴って飛び上がる。だけどそれはとても少女が出来る飛び方ではなく、嫌でも俺はアリスちゃんを警戒してしまった

 

「あのね?お兄ちゃんとっても優しいからアリスのお友達になってほしいの」

 

にこにこと笑いながら友達になって欲しいと言うアリスちゃん。警戒して損したと思った俺は苦笑しながら

 

「いいよ。俺でよかったら友達になってあげるよ」

 

俺がそう言った瞬間。凄まじい寒気を感じた、今まで可愛いと思っていたアリスちゃんが怖いと俺は思った

 

「嬉しい♪でもね?アリスのお友達は皆死んでいるの……」

 

周囲に黒い渦が大量に姿を見せ、そこから悪霊や動物のゾンビが次々に姿を見せアリスちゃんの周りに集まっていく

 

「だからお兄ちゃんも……死・ん・で・く・れ・る?」

 

どこまでも純粋な笑顔で、どこまでも恐ろしい笑顔でアリスちゃんは俺にそう告げた。そしてその言葉を合図に現れた悪霊やゾンビ達が一斉に俺の方に向かってきたのだった……

 

 

 

 

人払いの結界を自身とネビロスに展開した優太郎は街の中を走っていた。彼の勘が告げていたのだ、このままでは大変な事になると

 

「しまった!アリスのやつ結界を!急げ!アシュタロス!このままでは大変な事になる」

 

「どうなるっていうんだ!?」

 

ネビロスの言葉に叫ぶように尋ねる優太郎。ネビロスは眉を顰めながら

 

「魔界から動物のゾンビと悪霊が溢れかえる!アリスはまだ細かい制御が出来ないんだ!」

 

「なんでそんなものを教えた!この大馬鹿ああ!!!」

 

「すまない!アリスが心配だったんだ!!!」

 

絶叫しながら走る優太郎とネビロス……2人は横島が殺される前にと必死で公園へと走るのだった……

 

そして優太郎のビルを抜け出したベリアルもまた

 

「結界!?誰かに襲われているのか!今お義父さんが行くぞオオオオ!!!!」

 

凄まじい雄たけびを上げながら風になっているのだった……

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その4へ続く

 

 




次回でリポート13は終わりの予定です。アリスと言えば死んでくれる?これは外せないですよね。アリスと横島がどんな結末を迎えるのか?そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はアリスと横島の軽い戦闘回になります。メガテンシリーズを知っている方ならアリスの危険性は知っていますよね?でも彼女は可愛いし、幽霊だし、ロリだし、横島と絡めるなら面白いと思ったので出しました。魔人トリオも合流してくるのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その4

 

大親分さんとの話し合いの結果。正規の依頼ではないため報酬はそんなに多くないが、今後いくつかの依頼を回してくれる事となった。無論危険な仕事や、警察に捕まるような黒い仕事ではなく、知り合いの土地の除霊などの依頼だ。これは比較的簡単で高収入なので非常にありがたい

 

「近いうちに正規の依頼を出すさかい。今日はこれで手打ちで頼むなあ?」

 

かかっと笑う大親分さん、今後も良い付き合いが出来ればいいわねと思っていると

 

「「!?」」

 

どこか判らないが非常に強力な魔力を感じて私と蛍ちゃんが同時に顔を青くする。脳裏に浮かぶのは横島君に随分と懐いていた死霊の少女……

 

「どうしたんか?随分と焦っているようじゃが?」

 

心配そうに尋ねてくる大親分さん。折角話が纏まり掛けている時に申し訳ないけど、横島君を助けに行かないと

 

「仕事の話はまた後でお願いします!ちょっと家の助手にトラブルが起きているみたいなので!!」

 

「ちょ!ちょっと待ちい……」

 

大親分さんの返事を聞かず、私達は部屋を飛び出し、

 

「おキヌちゃん!先に様子を見てきて頂戴!」

 

幽霊のおキヌちゃんなら真っ直ぐに横島君の部屋に行ける。私達は少し回り道をしないといけないので先に行ってと頼む。直ぐに壁を抜けて進んで行くおキヌちゃんを見ながら

 

「油断してました。随分大人しいから心配ないと思ってたんですけど」

 

蛍ちゃんがそう呟く、横島君が背負っていたアリスと言う名の死霊はずいぶんと横島君に懐いていた。だから大丈夫だと私も思ってしまった。今までの傾向でもそれは出ていたので、今回も大丈夫だと思ってしまったのだ。横島君の霊力は非常に高い、その霊力と魂を求める悪霊がいるのは当たり前だ。それなのに私は警戒を怠った。おキヌちゃんやシズクって言う前例があったから

 

(唐巣先生に怒られるわね……)

 

師匠としての私の行動は間違いなく落第点。唐巣先生に知られたら間違いなく怒られると思っていると

 

「……横島は霊や動物に好かれる。だから大丈夫と思ってしまった。死霊の類は感情の起伏が激しいのに」

 

シズクがそう呟く、死霊は悪霊の中でも取り分け危険な部類に入る。感情もあり、身体もあるが、危ういほどに感情の起伏が激しい上に魔力も持つ。除霊するのも難しく、感情があるので痛みで泣いたりするので除霊するのも難しい厄介な存在なのだ

 

(せめてタマモかチビがいれば)

 

炎を使えるタマモか電撃を使えるようになったチビがいれば何とか持ちこたえることが出来るはず。横島君の性格では悪霊と判っていても攻撃できるとは思えない

 

【た、大変です!チビちゃんもタマモちゃんもお昼寝しています!】

 

おキヌちゃんの言葉に私と蛍ちゃんは更に顔を歪めた。つまり今の横島君は自分1人で死霊を相手にしないといけない……

 

「急ぐわよ!シズク!判るんでしょ!先導して!」

 

加護を授けた妖怪と言うのはその対象の居場所が判るらしい、だからシズクに案内してと言うと小さく頷き走り出す

 

【私先に行きます!】

 

おキヌちゃんが先に行くと言って姿を消す。操られる可能性があるけど、横島君を1人にするよりかは幾分気がマシだ。死霊相手には多少心もとない霊具の確認をしながら

 

(もう本当に横島君はトラブルばかり起こすわね!!)

 

私は心の中でそう怒鳴り、シズクの案内と感じる莫大な魔力を頼りに走り出すのだった……

 

 

 

 

 

アリスちゃんの周りに次々と姿を見せている悪霊にゾンビの数々……到底俺1人で対処できる数じゃ無い……それに何よりも

 

(俺はアリスちゃんを攻撃したくない)

 

あの子は友達になってくれる?と俺に聞いた。そして自分の友達は皆死んでいるから俺に死んでくれる?と聞いている。そこに悪意はなくて、ただ価値観が少し違うだけなのでは?と思う

 

(説得すれば充分に判ってくれるはずだ)

 

幸いな事にアリスちゃんが呼び出したであろう悪霊やゾンビは人間のものではなく、そのほとんどがとても小さい生き物だった。それも怖い生き物ではなく

 

【二ギャー】

 

【バウー】

 

奇妙な鳴声を発している猫とか犬が大半だ。無論悪霊なので攻撃されれば危険だが、何故かその本能に従っていて

 

【ニギアー♪】

 

【バウー♪バウー】

 

蝶を追いかけたり、砂場でごろごろしている。それを見ているととてもではないが、アリスちゃんが危険だとは思えないのだ

 

「もー!皆!お兄ちゃんをアリスのお友達にしたいんだから頑張ってよー!!!」

 

手足をじたばたさせて動物の悪霊達に声を掛けているが、全くと言って良いほど反応がない

 

【ニギャ?】

 

【バウ?】

 

なーに?と言わんばかりの態度をしている動物の悪霊……って言うか悪霊って言うよりこれはあれだな。ショウトラとかと同じだな。何匹か遊んで遊んでと言わんばかりに擦り寄ってきているし……

 

「なぁ?アリスちゃん?話を「もういい!私がするもん!てや!」

 

なんとか説得を試みようと近づいた瞬間。アリスちゃんが痺れを切らして大きく振りかぶり何かを投げつけてくる、凄まじい勢い迫ってくるそれを見て、即座に当たれば死にかねない、そう判断した俺は

 

「NOOOOOッ!!!」

 

頭を抱えて絶叫しながらしゃがむ。アリスちゃんの投げた光球は近くに木を薙ぎ払い、遊具を木っ端微塵に吹っ飛ばした

 

(なんだあ!?あれは!?)

 

俺が使える陰陽術や拳よりも遥かに威力が高いぞ!?本当に当たったら死ぬ……冷や汗が流れるのを感じる

 

「よーし!出来るだけ痛くないようにするからね!早く死んでアリスのお友達になって♪」

 

もの凄い笑顔で両手に霊力の球を作り出すアリスちゃん。その仕草自体は可愛いのだが

 

(あかん……死ぬ)

 

とてもではないが俺の使える霊能力で防げる威力ではない。だから俺に出来ることは1つだけだった、そう今俺が出来る中で最善かつ最高の一手!!!

 

「みがみさああああん!!!ほたるうううう!!シズクうううう!!!たあすけてえええええッ!!!!」

 

アリスちゃんに背を向けて全力で逃げる!!!アリスちゃんは逃げていく俺を見て

 

「判った!ドッジボールだね!逝くよー♪当たったらお兄ちゃんはアリスのお友達ね♪」

 

「字が違ーう!!!!」

 

風を裂き凄まじい勢いで迫ってくる紫色の球体を必死で避けながら俺はそう叫ぶのだった……

 

 

 

 

 

公園から少し離れたところで奇妙な動きでアリスの攻撃を躱している横島を見ている人影があった

 

「アシュ?良いのか?あのままではあの人間は危ないぞ?」

 

「もう少し様子を見てみよう、霊力の覚醒を促すかもしれない」

 

それは言うまでもなく芦優太郎とアリスの保護者の1人であるネビロスだ。結界を張り魔族を召喚すると最初はネビロスは焦ったが、どうも知らないうちにベリアルに色々と教えられていたようで召喚しているのが低級な動物霊だけだと判ったので様子を見ることにしたのだ

 

(蛍が来るまでもう少し時間があるんだ。様子を見よう)

 

近づいてくる蛍の気配はしっかりと把握している。時間的余裕は10分近くある、だからここで少しでも横島君が霊力を覚醒させる可能性を上げる事を考えたほうがいいだろう

 

「むー!お兄ちゃん!早く死んでよー!!!」

 

「嫌や!ワイはまだ死にたくなーい!!!」

 

号泣している横島君と頬を膨れさせているアリスを見る限りではそれも中々難しいかもしれないが……可能性としてある以上観察も大事だろう

 

「中々に面白い人間だ。あれだけ良くかわせる物だ」

 

関心と言う感じで呟くネビロス。それは私も感じていた動物霊も横島君を追いかけているのだが

 

「ほい!」

 

【ミニャー♪】

 

猫の幽霊には猫じゃらしを差し出して気をそらせ

 

「とってこーい!!」

 

【バウバウバウ!!!】

 

犬の幽霊には木の枝を投げて自分から遠ざけさせている。あれだけ泣いているのに良く周囲を把握できている物だ

 

(これも才能かな?)

 

マルチタスクとまでは言わないが、自分の周囲を良く見ている。蛍が逆行してきた時間の私が負けたのはその視野の広さと適確な支援が出来るからかもしれない。横島君の闘いとは周りを見て仲間を助ける。それこそが彼の真骨頂なのかもしれない

 

「む?そろそろアリスが限界だ」

 

肩で息をしているアリス。確かにネビロスとベリアルに鍛えられているから並の死霊よりかは遥かに強いが、それでも子供限界はある。悪霊達が動き回るのに必要な結界にあれだけ霊波砲を撃っていれば魔力がそこをつくのは自明の理だ。その証拠に動物の悪霊は既に魂だけに戻っている。

 

「アリスちゃーん?お兄ちゃんとお話しようか?」

 

警戒しながら横島君がアリスに近寄る。横島君の性格上少女を殴ることなんて出来ないので説得をするはずだ

 

(まぁ仕方ないかな)

 

まだ横島君が霊力に目覚めるには早すぎたのだろう。もっと早く助けてあげればよかったなあと思っていると

 

「どうしてお兄ちゃんはアリスのお友達になってくれないの?アリスお兄ちゃん大好きなのに」

 

悲しそうに言うアリス、横島君がなんて返事をするのだろうか?とネビロスと見ていると

 

「アリスちゃん?お友達はどうしても死んでないと駄目なの?」

 

「だってアリスのお友達は死んでるのが普通なんだもん……」

 

小さい子供を諭すように横島君はアリスの目を見て

 

「じゃあおにいちゃんがアリスちゃんの生きている友達の最初の1人、これでどうだ?」

 

「生きていてもお友達なの?」

 

初めて知ったと言わんばかりに驚いた顔をしているアリス。これはネビロスの育て方が悪いのでは?と見るが目をそらされている。どうやら自覚はあるようだ

 

「おう、友達だ」

 

にかっと笑う横島君につられて笑うアリス。これで解決かと思いきや

 

「家の義娘になにをするかあああ!!」

 

炎を纏ったベリアルが横島君に突撃して行く、それを見た私とネビロスは声を揃えて

 

「「あ!?忘れてた!?」」

 

ベリアルの存在を完全に忘れていた。とてもではないが魔神の攻撃を横島君が耐えれるわけがない、私とネビロスが同時に飛び出そうとした瞬間

 

【「「私の横島に何する気だああああ!!!!」」】

 

「ふぐおう!?」

 

蛍とおキヌ君とシズクの飛び蹴りがベリアルを撃墜した。我が娘ながらとんでもないと言わざるをえない

 

「お父さん!見てるんでしょ!ダッシュ!走ってここに来て!今すぐ!!!!」

 

物凄く怒っていると判る蛍の言葉に大変な事になっていると気付いた

 

「お前はもう少し考えてから行動しような?」

 

ネビロスの反省しろよ?と言わんばかりの視線を受けながら私は公園へと走ったのだった……

 

 

 

 

 

横島が危ないというのに観察していたお父さんを正座させて

 

「シズク。お願い」

 

シズクは小さく頷く、さっきまで大量のお茶を飲んでいたので水を沢山溜め込んでいたシズクはお父さんの後ろに回り

 

「……判った」

 

シズクが水を掛けて即座に凍結させる。氷の柩に首から下を拘束されたお父さんは

 

「蛍……寒い「黙れ」はい……」

 

言葉だけで駄目ならもう完全に凍結させる。これが一番良い処理方法だ

 

「お兄ちゃんを苛めるお義父さんなんて嫌い」

 

ちなみに横島を攻撃しようとした赤いスーツの方はアリスちゃんが対応していた。それは只の言葉だったが、かなり強力な一撃だったようで

 

「……」

 

赤いスーツの男が白目を向いて倒れる。話を聞く限りではあれがアリスちゃんのお父さんなのだろう

 

「横島君無事だったの?」

 

「うっす!アリスちゃんは話せば判ってくれる良い子でした!」

 

にかっと笑う横島。死霊を言葉で説得するってこれはもう1つの才能よね……って言うかチラチラ横島を見ているアリスちゃんを見ていると判る

 

(相手は子供、相手は子供)

 

間違いなくアリスちゃんは横島に好意を持っている。横島は年下に好かれやすいからね、うんこれは仕方ない。だから目くじらを立てるのはやめよう

 

「あ、あの?蛍さん?俺の肩の骨がきしんでいるんですが?」

 

「あ?」

 

「なんでもないです……」

 

これくらいの嫉妬は我慢して欲しい。シズクが横島に近づこうとするのを目で威嚇しながらちらりと美神さんを見る。黒と赤のスーツの男を見て警戒の色を見せている。お父さんと違って最高指導者が色々しているからばれないけど、2人は違う。美神さんクラスの霊能力者では人間ではないことが判ってしまうようだ

 

「死霊を娘と呼ぶところ、魔族とお見受けしましたが「私と彼は人間にも魔族にも神族にも関わらない一派の者だ。今回は義娘が出てきてしまったので追いかけてきただけ、直ぐに魔界に戻る。そう問題にしないで欲しい」

 

赤い方は体育座りをして反応がないので黒い方が答える。多分ネビロスさんよね?美神さんは納得してない様子だったけど、攻撃されても困るので頷いていた

 

「お姉ちゃんも一緒にアリスの家に来る?」

 

【ごめんね?お姉ちゃんは横島さんと一緒に居たいから一緒にはいけないよ?】

 

アリスちゃんがおキヌさんと話をしている。自分と同類だから一緒に来る?と声を掛けていたようだ、一緒に逝ってくれれば敵が減ったのに……と思っていると

 

「娘さんは家の助手を大分気に入っているようですが、これからはどうすれば?」

 

警戒の色を強めながら美神さんが尋ねる。アリスちゃんは自分でゲートを作れるようだし、これからもこっちに来ることがあるかもしれない。それを危険視している美神さんの言葉にネビロスさんは

 

「アリスには好きなようにさせる。迷惑をかけることもあるがよろしく頼む。有事の際は影ながら協力もする、ここは目を瞑ってくれないか?」

 

高位の魔族にここまで言われたら自分の意見を通すわけにも行かない。美神さんは溜息を吐きながら

 

「判りました。では何とお呼びすれば?」

 

美神さんがそう尋ねるとネビロスさんは笑顔で自分の名前を告げた

 

「黒田黒助。そっちは赤山赤助だ」

 

100%と偽名だと判る上に適当すぎる名前だ。私と美神さんの目が丸くなっていると

 

「そんだけ彫り深くてその名前はないわ!」

 

横島が立ち上がりそう突っ込みを入れる。な、なななななんてことをォ!?私と美神さんが慌てていると

 

「面白い小僧だ。ムルムルの小僧の言ってた通りだな」

 

美神さんが絶句している隣で横島はああっと手を叩きながら

 

「死霊使いの魔神の知り合い?」

 

「そんな所だ。真名は気にするな。良いな」

 

少しだけ威圧感を込められ蒼い顔をしている横島を見てそれで良いと頷いた黒田さんは

 

「赤助。アリス帰ろうか?」

 

ゲートを作り出しながらそう呟く、赤助はよろよろと立ち上がり転がり落ちるようにゲートへと消えていった。豆腐メンタルにも程があるとおもう。もう駄目だ、もう絶望だと繰り返し呟いているのを見ていると豆腐メンタルにも程があると思う

 

「ちょっと待って黒おじさん」

 

アリスちゃんはゲートの前で振り返り横島の方に走って、その服を掴んで

 

「少し屈んで?」

 

そう笑うアリスちゃんに猛烈に嫌な予感がした。おキヌちゃんもそれを感じ取ったのか渋い顔をしている、それに気付いていない横島が腰を屈めるとアリスちゃんは横島の頬に軽く触れるだけのキスをする

 

「ふぇ?」

 

頬を押さえて赤くなっている横島を見て私とおキヌちゃんとシズクが同時に悲鳴を上げる中

 

【「「ああ!?」」】

 

「へへ!お兄ちゃん大好き!また遊びに来るからね!アリスのこと忘れないでね!」

 

ばいばーいと手を振ってゲートの中に消えていくアリスと黒助さん。呆然としている横島に詰め寄ると横島は手を振りながら

 

「ち、ちがう!?わ、ワイはロリじゃ「「じゃあその緩んだ顔はなんだああ!!!」」理不尽!?げぼおお!?

 

横島の弁明を聞くつもりは一切無く、私とおキヌちゃんのアッパーが横島の顎を打ち抜き、その意識を完全に刈り取るのだった……

 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その5へ続く

 

 




次回の話はリポート14ドラゴンへの道へ続く話にしようと思います。あとはシメサバ丸の後日談とかですね。魔神2人の偽名の適当間。これもGSらしさですよね?アリスはこれからたまーに出てくるのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

それと現在活動報告でアンケートをしていますので、どうかそちらもよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話でレポート13は終わりです。レポート14はドラゴンへの道に入っていくつもりです、その前に別件リポートを入れるつもりです、色々と今後の話の伏線があるので楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その5

 

シメサバ丸の除霊は刀の破壊と言う結果で終わった。元々破壊しても良いと言う内容だったから問題ないのだが

 

「これどうしようかしら?」

 

机の上に置かれているシメサバ丸の柄と刀身を見て如何するかなあと悩む。依頼主はそんな刀なもう見たくないと言って回収を拒否した。かなりの妖力を溜め込んでいるので普通の方法では処理できないし、何よりも物を切りたいって言うシメサバ丸の想いが染み付いているので刀とかに打ち直すしかないのだが、恐らく斬ると言う概念が染み付いているので下手な人間に渡すとまた妖刀化しかねない。信用できる人間にしか渡せない物になるだろう

 

(どうしようかな)

 

本当にこれどうしよう?唐巣先生に相談しようかなあっと思っているとふと思い出す

 

(そう言えばおキヌちゃんが新しい包丁を欲しいって言ってたわね)

 

人を切っている所は嫌だけど、柄の方は包丁に打ち直して残りは……

 

「蛍ちゃんと横島君に回そうかしら……琉璃にもいいかもしれないわね」

 

サバイバルナイフ程度の大きさに加工して貰って蛍ちゃんと横島君に持たせれば、多少は霊力の節約になるし、懐刀と言うのは儀式に用いられることもあるので琉璃に渡しておこう。会長とのパイプを作っておけば、今後多少無理な頼みを聞いてくれる可能性もあるし……

 

「さーて、次は依頼の確認でもしましょうかー」

 

今日は蛍ちゃんとおキヌちゃんに横島君は休みにしている。昨日の今日で除霊の依頼をいれるほど私も鬼ではない、休むときは休ませる。これは大事な鉄則だ、なんせGSと言う仕事は身体が第一なのだから

 

「んーこれは微妙。これも微妙ねえ……」

 

大親分さんから回された依頼はかなりの数があるが、どれもこれも難易度の高い物ばかりだ。そのうちの半分くらいは自縛霊となっている元持ち主がいる土地の除霊、もう半分はお化け屋敷とかここを通ると怪我をすると言われている場所の調査

 

(結構大親分さんはしっかりしているのね)

 

自分のシマを大事にするタイプの極道だったらしく、ここは子供の通学路なので優先してくれるとありがたいや、子供が何人も怪我をしているのでここも早く。など直筆で優先して欲しい書類には一言書いてある

 

「これから良い付き合いが出来そうね」

 

地獄組と極悪組の組長も大親分さんを見習いなさいよねと思いながら、明日の除霊のスケジュールを組むのだった……

 

 

 

 

 

その日俺の家は今までにない緊張感に包まれていた。普段はこういう時に俺の傍にきてくれるタマモは現在吊るされている、シズクが横島を護るときにいなかった罪とかで朝から布で包んでから縄で縛って天井から吊るしたのだ

 

「きゅーんきゅーん」

 

助けてと俺を呼んでいる声がするがすまない。今は自分の危機に対応するだけで手いっぱいなんだ。それほどまでに今目の前で起きている光景は衝撃的だった

 

「……お兄ちゃん」

 

にやっと悪い顔をして俺を兄と呼ぶシズク。なんだ突然どうしたんだ?悪戯か?それとも何か考えがあるのか?

 

【動きましたね】

 

「ええ、アリスちゃんとの遭遇で今がチャンスと思ったのかもしれないわ」

 

なにかひそひそ話をしつつ、鋭い眼光で俺を見てくる蛍とおキヌちゃん。俺が何をしたって言うんだ……とりあえず深呼吸してから

 

「なんで急にお兄ちゃん?」

 

シズクにそう尋ねる。俺としてはいつもの横島と呼ばれるほうが良いんだけど……

 

「……アリスに呼ばれて嬉しそうにしていた。だから私もそうしたほうがいいと思った」

 

……シズクの考えている事が俺には判らない。どこをどうやったらそんな結論になるのだろう……それにシズクとアリスちゃんでは致命的に違うことがある。それは

 

「いや、打算的にお兄ちゃんってないやろ?」

 

いや確かにまぁぐっと来ないわけではないけど、シズクの場合その言葉の裏に隠された打算的な考えが見えるようでなにか嫌だ。視界の隅でガッツポーズをしている蛍とおキヌちゃんは気にしない方向で行こう。シズクは手を組んで何かを考えている素振りを見せている

 

「まぁそれは置いといて、遊びに行くんじゃなかったのか?」

 

折角美神さんが休みをくれたので皆で遊びに行こうという話になっていた。だから良い天気ならピクニック、天気が悪かったら映画とかにしようと話をしていた。今日はとても良い天気だったので朝から来ていた蛍やおキヌちゃんにシズクが作った弁当を持ってピクニックに行こうと話をしていたのにシズクの一言のせいで出発時間より大幅に遅れてしまっている。バスケットの上でチビが

 

「みー?みー?」

 

まだ?まだ出かけないの?と言う感じで何度も小首を傾げている。人形用の帽子を被っているその姿が実に可愛い。タマモのお仕置きももう良いだろうと思い縄を解いて抱き抱えていると何かを閃いた様子のシズクが近寄ってきて

 

「……駄目なの?お兄ちゃん?」

 

(なんだこの破壊力は!?)

 

上目遣い&胸の前で手を組んでいる姿に思わずドキンとする。打算的な考えがあるとわかっているのに可愛いと思ってしまった。

 

「かぷ」

 

「あっ!あーサンキュタマモ」

 

軽く俺の指を噛むタマモに我に帰る。シズクはシズクで蛍に梅干をされおキヌちゃんにほっぺたを引っ張られていた……なんで?

 

「今横島を操ろうとしたでしょ!この蛇娘~」

 

【そう言うのは許しませんよ~】

 

「いひゃい!いひゃいいい!たひぃけええ!ひょこひぃまああ!」

 

手足をじたばたさせて助けてと叫んでいるシズク。どうやら俺に何かをしていたようだ、でもシズクに世話になっているのも事実なので

 

「そろそろ行こうぜ?今日は折角の良い天気なんだからさ」

 

遊園地とかは何か違うし、買い物だとお金を使う。だからピクニックが丁度良いのだ、何せ俺の家には料理上手な女の子が3人もいるから

 

「それもそうね、行きましょうか。横島」

 

シズクへの梅干をやめて笑う蛍。やっぱり蛍は怒らせたら駄目だなと思いながらバスケットを持ち

 

「チビ行くぞー」

 

「みー!」

 

嬉しそうに鳴いて頭の上に乗るチビ。落ちないように髪を掴まれているせいか、少しだけ頭が痛い

 

「くーん」

 

弱っているタマモは片手で抱っこする。バスケットはそんなに重くないし、何よりGSのアルバイトで体力も筋力も上がっているのでこの程度の重さは全く気にならない。玄関に鍵をしてピクニックに向かう所で

 

「どした?」

 

俺のGジャンの裾を掴むシズク気になって振り返るが、シズクは目を逸らして答えない。

 

「チビ」

 

頭の上のチビに声を掛けながらGジャンのポケットを広げる。チビは俺が何を言いたいのか即座に理解して

 

「みー」

 

頭の上から飛び降りてGジャンのポケットに滑り込むチビ、抱えていたタマモを頭の上に乗せて

 

「ほい」

 

空いている左手をシズクに向けると笑顔で俺の手を握るシズク。なんだかんだでシズクも甘えたいんだなあと思いながら先にあるいていた蛍達に合流すると眉を顰めて俺と手を繋いでるシズクを見て

 

「【やられた】」

 

ぼそりと呟く蛍とおキヌちゃんに首を傾げながら、俺達は近くの自然公園へと向かうバス停へと足を向けたのだった……なお横島は気付いてないが、シズクは後ろから蛍とおキヌを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべているのだった……

 

 

 

 

横島達がピクニックをしている頃妙神山では……徐々に今の自分と同化している小竜姫とヒャクメが会議をしていた

 

「もう少しのはずなのねー?もう少し落ち着いたらどう?」

 

私の前でのんびりとお茶を啜っているヒャクメがぽわぽわと笑いながら話しかけてくる。目の前のカレンダーのは2日後に二重丸がついている。これは私が隠している未来の私とヒャクメ専用のカレンダーだ

 

「だ、だってどんどん横島さんの近くに人が増えてるし、ミズチも行ってるし焦ってくるじゃ無いですか!アシュタロス陣営のメドーサだって絶対敵になっているんですよ!?」

 

私もある程度記憶を戻しているのだから向こうだってきっとそうに違いない。大体私はここから動けないのだから明らかに分が悪い勝負になっている

 

(早く妙神山に来てもらわないとどんどん不利になる)

 

それが判っているからどうしても焦ってしまうのだ。私の焦りに対してヒャクメは冷静な素振りで

 

「そうやってがっつくと余計自分が不利になるのね~どっしり構えているくらいの心構えが大事なのね~」

 

にこにこと笑うヒャクメその目はうろたえている私を見て楽しんでいるようで非常に不快だった。そして気付く

 

「そうですよね~ヒャクメはその目で横島さんをずっと見てるんですよね?」

 

私がそう呟くとビクンと肩を竦めるヒャクメ。ずっと見ていることが出来ているからこそある余裕……それが私とヒャクメの違いだ

 

「そ、そんなことはないのね~」

 

ぶんぶんと手を振るヒャクメ。実に怪しい……疑ってくださいといっているようにしか思えない

 

「そうですか、疑ってすいませんでした」

 

私が謝るとほっとした顔をしているヒャクメ。ここで安心させて

 

「横島さんの寝起きは可愛いですか?」

 

「もうとっても可愛いのね~グレムリンと……」

 

だらだらと汗を流すヒャクメ。語るに落ちたとはこの事だろう、私は拳を鳴らしながら立ち上がり

 

「なにか言いたい事はありますか?」

 

自分だけずっと横島さんを見ていて、私をこうして馬鹿にする。それは間違いなく、私との気持の余裕の差があるのは当然。そしてそれでからかうって事は死にたいって事なんですよね。友人のよしみってことで手加減くらいはしてあげましょうか?ヒャクメを処刑しようとした所で

 

「あ、あら?」

 

ふらっと立ちくらみがする。いやこれは立ちくらみじゃ無い、今の私が目覚めようとしているんだ

 

(ふ、不覚)

 

絶対ヒャクメをとっちめると決めていたのに……とは言えヒャクメの方も頭を抱えているので彼女の方も限界なのだろう……

 

(戻りましょう)

 

もう少し表に出ていたかったですが、あまり無理をして今の時代の私に拒絶されても困る。だから大人しく心の中に戻ることにしよう……それに心の中でも横島さんの事を考えることは出来ますからね

 

(ああ、早く会いたいなあ)

 

今の私がきょときょととしているのを見ながらそんな事を考える。横島さんと会った日それは私にとってとても大切で大きな出来事の会った日

 

(きっと今の私も直ぐに気に入ってくれる)

 

横島さんは確かにスケベで馬鹿をするけれど真摯でどこまでも真っ直ぐな人だ。実際には覗きとかはするかもしれないけど、そこから先に進むことが出来ないし、何よりも逆に攻められると弱いという可愛い所がたくさんある

 

(早く会いたいなー)

 

ずーとこの日を待っていた。会いたいと願う気持ちがどんどん強くなる、会えたらどんな話をしよう?また横島さんは私を師匠として受け入れてくれるだろうか?期待と不安が入り混じるこの気持ちがとても嬉しく思える。横島さんを思っている間は神族・小竜姫ではなくて本当の自分で居ることが出来るから……

 

(今回は私の本当の名前を教えてあげますからね)

 

小竜姫と言うのは役職としての名前だ。自分の本当の名前を教えると言うことは龍族にとってとても深い意味を持つ。未来では私は横島さんに本当の名前を教えることが出来なかったけど、今回は絶対に伝えたいと思う……

 

(早く明後日にならないないかあ)

 

早く横島さんに会いたいなあと思いながら、私は今の小竜姫の中で眠りに落ちるのだった……

 

 

 

 

 

自然公園の中を楽しそうに飛び回っているチビを見ながらのんびりと山の中を歩く

 

「みー!みー!!」

 

空中で旋回したり、時々放電しているチビを見ていると何か穏やかな気持ちになってくる

 

(これでもう少し懐いてくれると言うこと無いんだけどね)

 

今のところ横島を除くとシズクにしか懐いていない。私にも懐いてくれればもう少し共通の話題が出来るんだけどなあ……

 

「くーん♪」

 

元気を取り戻したタマモがとととっと走っていく。やはり今の姿のままだと野生の本能の方が強いのかもしれない

 

「さっきの案内板だともう少しで広場があるみたいだからそこで休憩にしましょうか?」

 

案内板の内容を思い出しながら横島に尋ねる。手を繋いでいるシズクの姿は見ないことにする、あの勝ち誇った顔を見ると苛々してくるから

 

「そやなー、近くに公園とかもあるからそれがいいかもなー」

 

横島も久しぶりに穏やかな気持ちなのか表情がかなり柔らかい。見ているだけで楽しい気分になってくる、しかし気がかりなのはおキヌさんだ。さっきから一言も喋らないので

 

(どうかしたの?)

 

小さい声でどうかしたのか?と尋ねるとおキヌさんは渋い顔をしながら

 

【横島さんが妙神山に行ったのってシメサバ丸の時からそんなに時間が経ってないんですよ。大分起きている時間とかは違いますけど、もしかしたらって思って】

 

その言葉に私も眉を顰める。妙神山と言えば小竜姫さん、横島の才能を見出した女性で横島自身もかなり好意的に見ていた人だ。

間違いなくその人の魂も逆行してきている。その事を考えると確かに不安になる

 

【まだ違うと思うんですけど、もしかしてって思うじゃ無いですか】

 

「確かにね」

 

龍族と言うのは情が深いことで有名だ。小竜姫もきっとそのタイプに違いない……隣を浮いているおキヌさんのようなタイプになっているかもしれないと思うと少し怖くなってくる

 

(でも妙神山に行くのは確実だし……)

 

横島の霊力が完全に覚醒するきっかけになるのは小竜姫さんから授けられる心眼だ。つまり横島の霊力が完全に覚醒するには妙神山に行くのは確定だ。確実に敵になると判っている人間の傍に行くのはいやだなあ……まぁ人間じゃなくて神様だけど……

 

(まぁ警戒しておけばいいでしょう)

 

【ですね】

 

神様だからそんなに危険じゃ無いでしょうと思いながら広場に向かって歩き出した。だけど私もおキヌさんも余りに甘く見ていた……神様でも思い詰めるととても危険な存在になるのだと……妙神山で私達を待っていたのは予想を遥かに超える黒さを持っている小竜姫さんだったのだった……

 

別件リポート 横島争奪トトカルチョ 途中経過その2へ続く

 

 




登場キャラも増えてきたので、ここでもう1度途中経過を入れます。アリスとかも参戦しているので魔族側が大きく盛り上がる感じですかね。可愛いは正義の図式です。それとじかいは平日更新を水曜日に予定しています。なので平日更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート 

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は横島争奪戦トトカルチョその2になります、新しい賭けの対象者の説明と今後の話に大きく関係する話をして行こうと思います。全体的にはトトカルチョの動きはあんまり無い感じになると思いますが、トトカルチョに関係するキャラが多くでているので、そこを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート 横島争奪戦トトカルチョ 途中経過 その2

 

 

 

横島のトトカルチョが始まってから早2年……暫く動きがなかった時期もあったが、最近はとても大きな動きが続いている

前回の参加者増加からの知らせからたった2ヶ月で3人の増加者の増加

 

動きがますます読めなくなってきた事で、参加している神魔族はその予想に頭を抱えていた。それなのに今回発表された新システム導入で更に頭を抱える事態に陥ってしまったのだ

 

1ヶ月に1度の賭けの対象の増加日。この日は賭けに参加している魔族・神族の全員がトトカルチョの一覧に目を通す

横島が1ヶ月の間にどんな出会いをしたのかや?それに伴う倍率の変化。それを参考にし更に賭金の増減を行う大事な日だ。そして様々な神魔族が興味を持つ中、最高指導部による賭けの対象者の発表とそれに伴う新システムの導入が発表されたのだった

 

『最高指導者よりトトカルチョに対する重大な連絡』

 

横島争奪戦トトカルチョに参加してくれている全ての方にご連絡します。今回より、連単式の賭けシステムを導入いたします。複数人が横島忠夫を入手する可能性が高く、そして参加者同士が目的の一致などで結託する可能性も出て来たため導入します。この人とあの人が組むなどの特定がまだ出来ていない為。運営本部からの連単式の賭けのテンプレートの発表は未定ですが、皆様の勘を信じて賭けてみる事も可能です。それでは今回のトトカルチョの新規参加者の連絡を致します。それでは今後も皆様の多数の参加を期待しております

 

 

 

新規トトカルチョ参加者

 

 

シルフェニア・ド・ブラドー 倍率7.8

 

あの始祖の吸血鬼ブラドーの娘。双子の兄であるピートと違い、吸血鬼としての面が強く。若干吸血鬼としての弱点が残っている。自分の父を助けてくれた横島さんに若干の好意を持っていると思われる。性格は押しがかなり強いようだ。但し今の段階では判断が難しいので倍率はかなり高めとなっている。今後の活躍に期待が持てる

 

アリス 倍率6.5倍

 

最近魔界で有名になりつつある死霊の少女。ベリアルとネビロスに育てられている少女、非常に純粋で無邪気な性格をしており、ゾンビとなった犬や猫を友達として大事に育てている。横島をアリスの初めての生きたお友達と呼んでとても気に入っている。だが魔界の諸君は知っているとおもうが、ベリアルは最近駄目魔神となってきているのがアリス嬢の所為であり、かなり駄目な親馬鹿となっている為アリス嬢の恋路はとても厳しいと思われる、あと横島さんよりも外見が幼い為。更に厳しいと予測されているが、横島が子供に優しい為この不利を弾き飛ばせる可能性もある為、倍率はやや低め

 

神宮寺くえす 倍率124.9倍

 

これも魔族の方々ならば名前を知っている方が居られるかも知れないですね。今人間の中で最も魔術や魔法を扱う技量が魔族に近い魔女。ただしその反面魔力により精神異常が見られ非常に凶暴な性格をしているのですが、何故か横島さんには優しさを見せている為今回特別に参加者としてエントリーしましたが、倍率を見るとおり現在彼女が勝つ可能性は0であり、今後の横島さんの動きに期待が持てると言う所でしょう。勝負師の方は掛けて見るといいかもしれませんが、倍率が変動する可能性もあるためご注意ください

 

今回の新規参加者はこの3名です。では今後の動向をお楽しみに 最高指導者きーやん&さっちゃんより

 

 

 

~神界~

竜神王の宮殿

 

最高指導者達から回されてきた新規のトトカルチョの参加者を見ながらお茶を口にする

 

「連単式か……うーむ。これはまだ手を出すか悩む所だな」

 

連単と言う事で複数の人の組み合わせが出来るのはかなりの利点があると言えるが……これと言う組み合わせが発表されて無い以上手を出すのは中々厳しいものがある……もし今強いて賭けるとすれば

 

「小竜姫とシズクの組み合わせか……」

 

とは言え、今の段階では小竜姫とシズクはそれほど仲が良いとは言えんしな……

 

「まだ今は見送るとするか……」

 

新システムが導入されたからと言って、直ぐに使う必要も無いからな……

 

「追加で賭ける必要も無いだろう」

 

私が賭けているのは同じ竜族のよしみと言う事と、芦蛍の悲恋を知っているからで、別に金を増やそうという意図はないのだから……

 

「さてと……では書類整理をするか」

 

机の上に山となっている書類に手を伸ばし、私は思わずまたかと呟いた

 

【シズク様が戻ってくるように説得してください】

 

【我らの指導者を!】

 

【どうかよろしくお願いします!】

 

ミズチからの嘆願書の数々。出来ればなんとかしてやりたいとは思うが……これは無理な話だ。今のシズクは横島少年の傍にいることを望んでいる。それを無理に引き離せばどうなるか判らない、それこそ私の身も危ないので

 

【却下。どうしてもと言うのなら自分達で交渉に向かうが良い】

 

返答文を書いて送り返す。そもそもシズクはミズチの中では今最も霊格が高い存在ではあるが、別に仲間意識が強いと言う訳でもなく、むしろそうやって祭り上げられることを嫌っている。だからこそ私に説得を頼んでいるのだろう

 

(そんなに自分達を纏めて欲しいと言うのなら自分達で交渉に行くのが筋と言うものだ)

 

大方私の言うことなら聞いてくれるだろうとか思っているんだろうが、シズクは私の言うことも録に聞いてくれた事が無い

のだから

 

「さてと……次はっと……」

 

ミズチ達の嘆願書の枚数がとんでもない物で、書類の大半がそれだった。それを全て処分してから次の書類を見つめる

 

「ふむぅ?これは中々気になる件だな」

 

次の書類は天界のブラックリストに載っている竜神族2人に関する書類だった

 

「メドーサか……彼女には悪い事をしてしまった……」

 

メドーサはかなり前に天界の要人暗殺の首謀者として指名手配となっているが、それが実は冤罪だったのではないか?と言う話が最近出てきている。証拠も多数出ており、その件については正式に冤罪が確定しそうなのだ。それについて反対意見を出している竜神族からの嘆願書

 

(馬鹿馬鹿しい、誰がお前らの意見を聞くものか)

 

その嘆願書を破り捨てる。あの一族がメドーサを嵌めたのは判っている、メドーサがもしも冤罪になれば自分達の罪が全て明かされることを恐れての行動だろうが、もう遅い。既にヒャクメが動いているので近いうちに証拠が見つかるだろう。冤罪事件に対してはだが

 

「……その後が……な」

 

堕天させられたことに対する復讐としてテロ等に関わっていてブラックリストに載ってしまった。そしてそのメドーサの神界追放を決めたのが私なのでそれに対する責任を感じてしまう

 

「なんとか出来ればいいが……」

 

今の段階では私には何も出来ない。メドーサが改心し、出頭してきてくれることを願うしかない。書類にメドーサに対する対応の指示を書く

 

【交渉する余地がある場合戦闘行為に突入することを禁ずる。また本人に自首する気があるのならその気持ちを考慮せよ】

 

そしてブラックリストではなく、警戒者リストへとメドーサの名前を移動させる。最近は犯罪行為に手を出してないことを考慮して、本人に自首の考えがあるかもしれないと考えたからだ。甘い考えと言うのは判っているが、最近魔族の動きが活発な事を考えると、下手に刺激して敵を増やすような真似をしたくないからだ

 

「もう1人は……」

 

書類を見て眉を顰める。その書類には現在保護観察中の竜族に対する監視役の報告が纏められていた

 

「極めて従順で大人しく、暇な時は裁縫をして時間を潰すなど非常に大人しい性格をしており……か」

 

あの竜族は確かに大人しいのだ、そして性格も穏やかだ。だがとある切っ掛けで竜族の中でも有数の気性の荒さを見せる

 

【警戒を怠らず、しっかりと監視をしておくこと、間違っても牢の外に出したりするな】

 

監視役の報告書を途中で読むのを止め、対応を書き牢獄へと送り返し、残りの書類に処理を始めるのだった……最近はぶっちゃんがきーやんを監視してくれているから書類がスムーズに処理されるから楽だなあと思いつつ、ぶっちゃんはかなり厳しいのでキーやんがどんな扱いを受けているのかを想像し、心の中でご愁傷様と手を合わし、地上の竜族との会談に向けての書類を纏め始めるのだった……

 

 

 

~魔界~

 

神界が今回は魔族に近い存在が多くトトカルチョに追加されたということもあり、あまり大きな動きがなかったのだが、それに対して魔界側は凄まじいまでの大騒ぎになっていた……それは顔見知りの娘だからや、同じ吸血鬼だからとかと言った理由からだ……それでは今回の魔界側の動きを見てみよう……

 

 

恋愛の魔神

 

今回のトトカルチョの発表があってから、俺の宮殿に突っ込んでくる馬鹿野郎が増えやがった。

 

「「「ビュレト!トトカルチョで「黙れ!とっとと帰りやがれ!」ふぎゃあああッ!!!」

 

凄まじい勢いで突進してくる知り合いの魔神や悪魔共を手にした剣から放った魔力刃で纏めて吹き飛ばす

 

「ふん!くだらねえ。大体だな……恋愛っつうのはもっと神聖でだな。賭けとかにするようなもんじゃねえんだよ」

 

サタンのクソ野郎が魔界を総べ始めてから、俺は無理に魔界の軍勢を率いることも無く、自由に暮らす事が出来ているのはいいんだが、たまにこうしてトンでもねぇ事を始めやがる。その所為でこうも馬鹿どもが集まってくるのは面白くねえ

 

(あいつらもどっか行っちまったしなぁ)

 

まだ魔界が統一される前、俺と一緒に魔界を荒らしまわっていた仲間の魔神2人はどっかに行っちまった……まだ1人同じく俺と同じで魔界の宮殿で楽隠居するって事を選んだ奴はいるがそいつも滅多に遊びに来ねぇしな……

 

(たっく……何してるんだが、あいつらは……)

 

馬鹿共が押し寄せてくる所為で昔の事を思い出しちまった。執事に酒を持ってくるように指示を出し

 

「これが良くねぇ。なんだ誰と誰がくっつくトトカルチョだぁ?恋愛をなんだと思ってやがる」

 

恋愛っつうのはもっと神聖で誰も邪魔をしたり、介入していいもんじゃねぇ。その当人同士が頑張るもんだ……

 

「ったく、大体人間と神魔族って……どういうつなが……んなあ!?」

 

暇つぶしのつもりでトトカルチョの一覧を見て思わず噴出す

 

「おいおい……なんの冗談だよ……アリスってあれじゃねえか、ベリアルの馬鹿野郎の娘じゃねえかよ」

 

前に私の娘だ!とか行って連れて来た金髪のガキが居たな。俺の馬をくれとか言って騒いでたっけなあ……しかもベリアルの野郎も持って行こうとするから思わず魔界の炎を打ち込んじまった……まぁあいつも炎の扱いには長けてるから大したダメージは無かったがな……

 

(大事に育ててるのかねぇ?)

 

俺の愛馬は当然俺しかその背中に乗せねぇ。だから生まれたばかりの子馬をやったんだが、大事に育ててるのかが気になる

 

(今度行って見るかあ)

 

こうして宮殿で楽隠居しているのも飽きたし、偶には顔を出しに行くか。確かネビロスの野郎と一緒にいるらしいしな

 

(なんか土産でも持ってくかな)

 

顔を出すって言うのに土産の何もないっつうのは礼儀に反するよなあ。俺が頬をかいていると

 

「ビュレト様。お待たせいたしました」

 

「おう。ご苦労」

 

執事として雇っている魔族がワインを運んでくる。トトカルチョの一覧を見ながら、グラスを手にワインを口に含む

 

「む?これは普段俺が飲んでいる物じゃ無いな?」

 

俺が飲んでいるワインよりも大分甘口だ。それに果実の香りが強い

 

「も、申し訳ありません!先日いい物を見つけた物で!直ぐにお取替え致します」

 

青い顔をしている魔族の青年。どうやら勘違いしているようだな

 

「いや、構わん。これは良い物だ、どうも貴様は随分と酒に詳しいようだ。今後俺のワインの買い込みはお前に任せよう」

 

「は、はい!ありがたき幸せ」

 

深く頭を下げる執事。俺は確かに魔王と呼ばれる存在ではあるが、既に楽隠居している身だ。そこまで恐れ敬う必要は無いのだがな

 

「これに合うつまみを持ってこい。何かあるのだろう?」

 

「は、はい!お任せください!」

 

そう叫んで俺の部屋を出て行く執事の背中を見ながらトトカルチョを見る。神族に魔族に人間に巫女……なんとまぁ随分と節操がないな

 

「ん?神宮寺?」

 

一覧の一番下に書いてあった名前に目が止まる。神宮寺?どっかで聞いたような……

 

「あーどこだった?つうか何時だ?あー思い出せん」

 

どっかで聞いたような……どこだったかなあ?と俺は首を傾げながらワインを口へ含む。もう少しで思い出せそうなんだが、そのもう少しが思い出せん

 

「まぁそのうち思い出すだろうよ。それよりも今やらねえと行けねえのは……」

 

机の上に乱雑に撒き散らしてある書類に手を伸ばす。それに記されているのは最近アスモデウスとガープを見かけた魔族や神族の目撃情報だ。今あいつらが何をしようとしているのか?それは俺は知らない、そもそも俺自身過激派魔族として行動しているアスモデウスとガープにあわなかったか?と魔界正規軍に聞かれて初めてあいつらが今過激派として行動しているのを知ったくらいだ

 

「何をする気か知らねえが……止めさせて貰うぜ」

 

今の世界はこれで良いんだ。神も魔族も争いをせずに平和を求める。騒乱の時代は終わったんだ……だから再び争いを起こそうと言うのなら、俺が止める。それがかつてデタントが成立した時に、真っ先に剣を置き宮殿に戻った俺が償わなければならない罪。最後まで神との停戦に反対していたアスモデウスとガープも、時が来れば落ち着くだろうと思い込んだ俺の浅はかな行動の結果だ。それがあの2人を過激派に身を落としてまで、まだ戦うことを選ばせてしまった……

 

「止めてやるよ。お前らは……俺のダチだからな」

 

まだ魔界がサタンの馬鹿野郎に治められる前、俺達は最後までデタントに反対すると誓ってサタンの軍勢と戦った。その誓いを裏切って俺はデタントを認めた。ベリアルは怪我で宮殿に戻り、休養中にデタントが成立したので仕方なく剣を置いた。だが自分の意志で剣を置いた俺はあの2人からすれば裏切り者だ。だから……だからこそ俺が止める。2人がああなってしまったのはきっと俺の責任なのだから……

 

 

 

魔界正規軍指令は不安です

 

魔界の中でも取り分け力のある魔神が住むエリアの中でも取り分け目立つ宮殿。魔界正規軍指令「オーディン」の居城だ

本来は神に属するオーディンだが、娘と息子が魔界正規軍に入ると言う事で、デタント促進の為神界から魔界へと居を移したのだ。そしてそんなオーディンの城では

 

「うおおおおお!聞いてくれえ!アリスが!アリスがああああ」

 

「ああ。聞いてる、聞いているから少し離れろベリアル」

 

この世の終わりだと言わんばかりの顔をして私を訪ねてきたベリアル。私の酒蔵から黄金の蜂蜜酒を持って来て煽り続けている

 

(とんだ駄目親父だな。こいつは)

 

ベリアルが荒れているのは自分の娘がきーやんとさっちゃんが進めている、横島と言う人間の男に対する恋愛トトカルチョに名前が記されたのが原因だ

 

「何度も言うが、喜ぶべきなのだぞ?ベリアル」

 

「何故だぁ!何故喜べる!?娘!私のアリスゥがぁ!」

 

頭が痛くなってきた。早くネビロスに迎えに来て貰いたい物だな。先ほど連絡したからもう少し出来てくれるとは思うのだが……まぁとりあえずベリアルの説得を進めるか

 

「いいか?娘と言う物はだな、いずれ手元から離れ、自分の愛する者を見つけ次代へと命を繋ぐのだ。判るか?」

 

娘が可愛いのは判るが、いつまでも子供。しかも女の子は自分のそばには居てくれないのだぞ?と言うとベリアルは一気にグラスの中の蜂蜜酒を煽り

 

「アリスにはまだ早い!」

 

この駄目親をなんとかしてくれ、私にどうしろと言うのだ……偶に酒を飲む仲だが、話を聞かないで愚痴り続けるので正直疲れた……いつの間にか空になっていたグラスに追加の酒を注ごうとして

 

「どうぞ、お父様」

 

脇から差し出された瓶と娘の声。ベリアルの話を聞いていて、帰って来たのに気付かなかったようだ

 

「ん?すまないな、ブリュンヒルデ」

 

長い銀髪とそれに映える黒いドレスを着込んだブリュンヒルデがグラスに酒を注いでくれる。こうして娘に酒を注いでもらうのもまた良い物だ

 

「また荒れておられるのですか?ベリアル様」

 

「んおう!ブリュンヒルデかあ」

 

酔っているベリアルに丁寧な口調で問い掛けるブリュンヒルデ。長女と言う事で厳しく躾けたが、今見るとどこに出しても恥ずかしくない淑女として育ってくれたとおもう

 

(あれは気にしない事にしよう)

 

広間の入り口の近くに立てかけているブリュンヒルデ愛用の大型の槍に鮮血がついているのは見間違いだと思いたい。そもそも今日はパーテイに出かけたのだから、あんなものを使う必要はなかったはずなのだから

 

「私はアリスがとても大切なのだ」

 

「判りますわ、アリスちゃんはとても可愛らしいですから」

 

酔っているベリアルの話を聞いているブリュンヒルデ。私だと感情的になってしまうから、ブリュンヒルデが適任……

 

「お前は好きな相手はいたり「……困ってしまいますわ」へがあっ!?」

 

手にしていた大瓶でベリアルの頭をごすごすと強打しながら困ってしまいますわと繰り返し呟いている、見ているこっちがよっぽど困ると言いたい。瓶が砕けてざくざくと頭をえぐっているのが見える。かなりスプラッタな光景だ

 

「すまない、うちの馬鹿が迷惑をかけた」

 

そしてネビロスが迎えに来たことで鮮血まみれのベリアルは引きずられながら去って行った。出来れば今日の記憶は忘れて貰いたい者だな……

 

「それで今日のパーテイはどうだった?」

 

「はい、とても楽しい物でしたが、いきなり手を握って、ドレスの中に手を入れようとした馬鹿な貴族を思わず槍でぶすりと……」

 

……ワルキューレを見張りにつけるべきだったな。御淑やかなのだが、突然暴力的なことをすることもあるから警戒するべきだった。だがまぁセクハラをしたのだから自業自得と諦めてもらおう

 

「あら?お父様これは?」

 

机の上のトトカルチョの紙を見つけたブリュンヒルデはそれを見て

 

「あら?あらあら……横島忠夫……ですか?」

 

名前を見て雰囲気ががらりと変わる、これは不味い事になったか?

 

「この英雄。私が見てきても構いませんか?」

 

始まった……ブリュンヒルデは英雄を好む、英雄の定義は難しいが気高い魂を持つ者や、強い者を好むと言える。

 

「それは駄目だ」

 

料理に始まり、武芸にも秀でたブリュンヒルデの悪い癖だ。英雄を好み、そして英雄を育てることを好む。もしここで良いと言えば、今にでも人間界に行って横島を自分好みの英雄の育てようとするだろう。それはとてもではないが、許可出来る事ではない。それに以前ジークを徹底的に鍛えて、英雄にしようとして廃人寸前まで追い込んだと前科がある。とてもではないが人間では耐え切れないと思いそう言うと

 

「何故でしょうか?」

 

首を傾げながら尋ねてくるブリュンヒルデ。穏やかな表情をしているが、その表情から納得行ってないと言うのが良く判る。私は溜息を吐きながら

 

「ワルキューレが想いを寄せている相手だからだ」

 

私は知っている、娘のワルキューレが逆行の記憶を持ち、再会出来る時を楽しみにしていることを……だから会いに行くことは許可できないと言うと

 

「そうですか……残念です。名前から感じたのですが、英雄の気配を」

 

どんな気配だ……と言いたくなったが、下手に言うとブリュンヒルデの価値観を聞く事になるので尋ねない事にした。

 

「ではお父様。失礼致します」

 

愛用のミスリルの槍を手に広間を出て行くブリュンヒルデ。今は納得してくれたようだが、今後どうなるのか判らない

 

「とりあえずジークに頼んでおくか」

 

それとなくブリュンヒルデを警戒してくれと息子に頼む事にし、ふとトトカルチョを見る、ワルキューレの下にうっすらと文字が浮かんでくる

 

【ブリュンヒルデ 参戦予定?】

 

「大変なことになるから止めろ!」

 

ブリュンヒルデまでトトカルチョに参加することになったら、間違いなく大変なことになる。どうかブリュンヒルデと横島忠夫が遭遇することがありませんようにと私は心の底から祈るのだった……

 

 

 

 

 

 

 

最高指導者の不安

 

最近横島さんのトトカルチョに参加する人物がかなり増えて来ている。それに伴ってから参加している神族・魔族からのたくさんの嘆願書が私ときーやんの元に届いていた。1人に賭けるシステムはそのままで、2人や3人が纏めて横島さんと結ばれることに対しても賭けさせて欲しいという物だ

 

「これは正直予想外やったな」

 

机の上ノ山の上の嘆願書を見て呟くさっちゃん。だけどこれにしては私としては当たり前の結果と言える。なんせ賭けの対象がかなり増えていますからね。しかし私が気にしているのはそこではないのですよ。むしろ連単システムの導入は賛成だ、それがあればもっと賭けの幅が広がりますからね。だからこそ導入を即了承した。だけど今回さっちゃんを呼んだのはそれが理由ではない

 

「おかしいと思いませんか?さっちゃん。この世界は逆行前の世界を複製して逆行した。それなのにこんなにもイレギュラーが多い」

 

あの世界と同じ歴史を歩むはずだったのに蓋を開けてみれば、この有様。これは明らかにおかしい

 

「そやなあ……それに過激派も全然減らないしなぁ」

 

私とさっちゃんの知っている過激派魔族・神族はほぼ監視下に置いた筈なのに、どこも代わっているとは言えない

 

「なにか起きているのかもしれんな、元の世界に」

 

私と同じ結論を出したさっちゃん。ここまで世界が乱れると言う事は逆行前の世界、もしくは宇宙卵になんらかの異常が起きているのかもしれない

 

「とはいえ調べる方法も無い。こればっかりはどうしようもないで?」

 

すでにこの世界はあの世界とは別の世界になっている。つまり今のこの段階ではもう調べようが無い

 

「また後手に回るしかないのですかね」

 

アシュタロスが味方だから神魔大戦は起きないと思っていた。だけどそうではないようだ……だがなんとしてもあの神魔大戦の悲劇だけは避けなければならない

 

「さっちゃんの方も気をつけてくださいね」

 

「わーってる。きいつけるわ」

 

可能性としては魔界の魔神が関わっている可能性が高い。まずは何としても過激派の先導者を見つけることだ。お互いに筒状の職務だけではなく、この世界の異変の原因を調べる打ち合わせをし、お互いの世界へと戻ることにしたのだった……

 

 

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その1

 

 




今回の話は伏線大目でした。何故こんなにもイレギュラーが起きているのか?その理由がどんなものなのか?を楽しみにしていてください。それとオーディンの娘のブリュンヒルデは「Fate」のブリュンヒルデで行こうと思っています。伽羅として面白いのが多いので、これからもしかすると少しだけ「Fate」のキャラが出るかもしれないと思っていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回はドラゴンへの道の導入回にしていこうと思います。ちょっぴり黒い小竜姫を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その1

 

大親分さんとの依頼がたくさん来ていたのでそれをメインに最近は蛍ちゃんと横島君の除霊訓練をしていたんだけど……

 

【ギッシャアアアア!!!】

 

「ほぎゃああああ!?」

 

予定よりも遥かに悪霊が強いというパターンが多かった。偶々だろうと思っていたけど、今回はCランクの依頼なのにAランク相当の悪霊が出てきてしまった。悪霊の拳を喰らって悲鳴を上げながら倒れる横島君を見て眉を顰める。今回はDランクに近い、Cランクの依頼。横島君でも充分対処できると思っていたのに……

 

(最近おかしいわ!)

 

念入りに事前調査をしているのにこんなことになるなんてことは普通はありえない。破魔札を取り出して

 

「シズク!チビ!」

 

自分の名前を呼ばれたシズクとチビは即座に水の壁と電撃を走らせる。その間に悪霊に殴られて意識を失っている横島君の前に立ち

 

「蛍ちゃんとおキヌちゃんは手当て!ここは私に任せない!」

 

目で頷き即座に応急処置を始める、2人のほうに行かせないように気をつけながら

 

【ギギャギャギャ!!!】

 

「くらいなさいッ!!」

 

奇声を上げながら突っ込んできた悪霊の牙を回避して、そのまま額に破魔札を貼り付けて上半身を吹き飛ばす

 

「ふーこれで終わりかしらね」

 

早く横島君をちゃんと手当てできる所に連れて行かないと、車を近くに停めてよかったわねと思いながら振り返った所で

 

「美神さん!まだです!」

 

蛍ちゃんの怒声に振り返ると上半身を消し飛ばされた悪霊が下半身だけで走ってきていて

 

(しくじった!?)

 

良く見ると下半身にも目と口が現れている、元々あの悪霊は2体で1体の悪霊だったのだ。だから調べた書類と目の前の悪霊の霊力が合致しなかったのだ。腕をクロスして防御の姿勢に入るが

 

「……反撃の準備を」

 

「コーンッ!!!」

 

【ギギャア!?】

 

シズクの水鉄砲とタマモの狐火が悪霊の体勢を大きく崩す、その隙に神通棍を取り出し

 

「こっのおお!!!」

 

渾身の霊力を込めた一撃を悪霊へと叩き込み消滅させる。思わずその場にへたり込みながら

 

(1度唐巣先生に相談しよう……)

 

最近こんな事ばかり……ブラドー島での魔族の事もある。なにか私の知らない所で何か動いているのかもしれない……もしもなにか起きているとしたら、私は行かないといけない。霊能力者の修行場「妙神山」へと……

 

 

 

 

 

相談したいことがあると言う美神君からの電話。丁度私も美神君に電話しようと思っていたタイミングなので丁度良かった

 

「唐巣先生。はい、お湯です」

 

「あ、ああ。ありがとうシルフィー君」

 

ブラドー島に残ったピート君の代わりに私の助手をしてくれているシルフィー君。世襲制と言うこともあり、しばらくはピート君がブラドー島に戻り島民を導くという形でまとまった。掃除に洗濯に料理などはピート君よりも遥かに上手いし手際もいい、さすがは女の子と言った所だ。掃除をしてきますねーと箒を手に出て行くシルフィー君の背中を見ながら、私はブラドー島での横島君の戦いの事を思い出していた……

 

(あの横島君の一撃は凄まじかったからなあ)

 

今思い出しても横島君のあの一撃は凄まじかった。魔族を強制除霊する、口で言うのは簡単だがそれを実行できる人間がどれだけいるだろうか?そんな事が出来る人間は私は知らない

 

(あんな力技でブラドーが生きているということ自体が信じられない)

 

あれだけ魂に深く寄生していた魔族を力尽くで除霊すれば間違いなく、その反動でブラドーは死んでいるはずだ。だが横島君の攻撃で全身打撲程度の怪我はしているが、休んでいれば回復する傷だ。これは普通はありえないことだ、強制除霊は廃人となる危険性が極めて高い除霊方法の1つなのだから……

 

(間違いなく世界有数のGSになるだけの才能を横島君は持っている……いやそれだけじゃない)

 

妖怪と心を通わせる才能に、陰陽術の才、それに霊力を圧縮する技能もある。どれもが一流レベルの物だが、同時に鍛えることが出来ない物でもある

 

(そろそろ本格的に考えさせた方がいいかもしれないね)

 

美神君も感じているだろう。横島君をどの方向性で育てるのか?これはもしかすると最近の悪霊の増加現象よりも重大な事だ。今日態々ここに美神君が尋ねてくるのもそれが大きいのかもしれないね

 

「唐巣先生。美神さん達が尋ねてきましたよ?」

 

教会の外を掃除していたシルフィー君が戻ってくる。どうやら大分考え事をしていたようだ

 

「唐巣先生も苦戦しているみたいですね」

 

「はは。判るかい?」

 

私を見てそう尋ねてくる美神君。腕の所に包帯を巻いているのを見る限り、美神君も大分苦戦しているようだ

 

「唐巣神父。お茶とお菓子を買って来たので、これを食べながら話をしましょうか?」

 

蛍君の言葉に頷き、机の引き出しから琉璃君から回ってきた最近の除霊現場で起きている悪霊の増加現象の書類を取り出したのだった……

 

「やっぱり私の所だけじゃなかったんですね」

 

饅頭を頬張りながら呟く美神君に頷き返しながら、急須を手にして緑茶を湯飲みに注ぐ

 

「ああ、Cランクの所でAランク相当の悪霊が出て若手が負傷する事件が多発している」

 

私や美神君だから何とか乗り切ることが出来ているが、良くて大怪我、最悪の場合死の可能性がでてくるほどに危険な状態だ

 

「シズクちゃんは本当にお水で良いの?」

 

「……構わない」

 

難しい話についてこれない横島君達はのんびりしている。まぁまだ見習いだから仕方ないと言えば仕方ないが

 

(もう少し知識をつけて欲しいかな)

 

攻撃力だけならGSの中でも有数なのだから、もう少し専門的な知識を身に付けてくれれば次のGS試験に出ることも視野に入れることが出来る。だけどそれは美神君の考える事だから口にはしない

 

「唐巣神父はどうなってると考えていますか?」

 

蛍君の問い掛け。恐らく美神君と蛍君も既に私と同じ答えを出していると思う

 

「へーピートはブラドー島に残ったんだ?」

 

「はい、お兄ちゃんの方がお父さんも安心すると思いますし、唐巣先生は生活力0だから心配になってしまうじゃ無いですか」

 

笑顔で毒を吐いているシルフィー君の言葉に胸が痛かった。別に生活力0って訳じゃ無いと思うんだけどなあ

 

【良い人過ぎるんですよね、唐巣神父は】

 

「……騙されて痛い目を見るか、利用されて捨てられるタイプ」

 

「あ、あのな?皆、あんまり唐巣神父を苛めないでくれるか?泣きそうな顔をしてるから」

 

「「「豆腐メンタル?」」」

 

………どうして私はこんなに精神的に追い詰められているのだろうか?私が何をしたって言うんだ……精神的に大ダメージを受けながら

 

「ムルムルの出現にブラドーに寄生していた魔族。どうも魔族が動いているのが原因だろうね、しかも高位の魔族がね」

 

どうも美神君と蛍君も同じ答えのようで渋い顔をしている。高位の魔族が動けばそれだけで悪霊のランクは上がる、魔族の魔力を取り込むことで変質する悪霊がいてもおかしくない

 

「所で横島君。私あんまりここら辺に詳しくないんですよ?良かったら案内「……散れ」つ、冷たいいい!!!!」

 

シルフィー君が横島君に声を掛けているとシズク君の氷水が炸裂して悶絶している。シルフィー君はピート君よりも吸血鬼の血が濃いから流水とかは苦手なんだよなあ……シルフィー君にとっては自分が吸血鬼と人間のハーフだから必要以上に人間に関わるような性格じゃなかったけど

 

(横島君を見ていると近づきたくなるのかな?)

 

横島君の傍には妖怪に幽霊が集まる。シルフィー君もそれに魅かれているのかもしれない……でもこれでもう少し明るくなってくれるかもしれないのでそのままにしておこう

 

「それで唐巣先生にお願いがあるんですが」

 

言いにくそうにしている美神君に苦笑しながらもう1つの引き出しから2つの封筒を取り出して

 

「片方は美神君と蛍君への紹介状。もう1つは横島君に対する手紙だ、妙神山に行きたいのだろう?」

 

驚いた顔をしている美神君。だがこれでも私は彼女の師匠として何年も一緒にいた、だから彼女の考えていることは全部判っているつもりだ

 

「唐巣先生……ありがとうございます」

 

笑顔で礼を言う美神君。確かに妙神山は霊能力者にとっては最高の修行場だが、それ以上に危険な場所でもある。そこに行くには異界を通る必要があり、そのまま迷い込んでしまえば脱出出来る可能性は限りなく0だ。それに修行自体も危険だ

 

「正直言うとまだ早いと思っている、だから無理をしないでくれよ?」

 

「ありがとうございます。弟子を2人も連れて行くんだから無茶はしません」

 

そう笑う美神君を見ながら紹介状を用意したのは間違いだったかな?と少しだけ後悔するのだった……だが美神君なら大丈夫と言う妙な安心感もあり、そして何よりも

 

(小竜姫様なら横島君の正しい道を示すことが出来るかもしれない)

 

武神として名を馳せた小竜姫様なら横島君のこれからの進路を示してくれるかもしれない。そんな事を考えながら横島君のほうを見るそこでは

 

「……ん」

 

「え?なに?抱っこしろとか?」

 

「……うん」

 

「フー!!!」

 

「みー♪」

 

【横島さん!?】

 

「なに!?わいがなにをしたっていうんやああ!?」

 

シズク君やタマモやチビに囲まれている横島君の絶叫が聞こえて、妙神山は沢山の妖怪がいるから大丈夫かなあと更に不安を感じつつ、お土産の饅頭を頬張るのだった……

 

 

 

 

 

妙神山と言う修行場に向かうという美神さんと蛍について俺もその場所に行くことにした。本当なら死ぬかもしれない場所に行くのは嫌だったが、そこならば俺のこれからの霊力の修行の方向性が決まるかもしれないと聞いて怖いとは思ったが、一緒に行くことにしたのだ、少しでも強くなる可能性があるならそれに賭けてみたいというのは間違いではない筈だ

 

「本当にこれを登るんすか?」

 

電車とバスを乗り継いできたとんでもなく切り立った山の入り口を見ながら美神さんに訪ねる。しっかりとした防寒具と登山用の装備をしているが、それでも危険な雰囲気を感じる。

 

「……大丈夫。私がいれば並みの妖怪は近寄れない」

 

胸を張るような仕草を見せるシズク、そして頭の上のタマモに肩の上のチビ、両手に鞄を持っている俺はタマモ達を頼るしかないので

 

「頼むで」

 

小さく呟くと任せろと言わんばかりに鳴くチビとタマモ。妙神山で少しは霊力の覚醒があればなあと思う

 

「行くわよ。横島気をつけてね?」

 

「そうよ、落ちたら死ぬわよ」

 

美神さんと蛍の言葉に頷き、2人の後をついて妙神山に続く山へと足を踏み入れるのだった……

 

「……ぜーぜー……だいぶきついっすね」

 

登山を始めて1時間と少し……かなりの急勾配でかなり息苦しい……だが美神さんは険しい顔をして俺を見て

 

「まだまだこれからよ、ここはまだ大分なだらかなほうなのよ?」

 

これで!?じゃあ山頂まではどれほどあるのだろうか?考えるだけでも恐ろしい。もしかしてこれだけ重装備なのはそこに行くのに2~3日掛かるからじゃ?と俺が不安を感じていると蛍が

 

「まぁ1日はキャンプになるわね。それも中々楽しいんじゃないかしら?」

 

キャンプかあ。そう言うのはもっとほのぼのした環境がいいなあ。こんな如何にも何か出ますなんて場所じゃなくて

 

「みー?」

 

「コン」

 

チビとタマモは野生が刺激されたのか、凄く元気で走っている。お願いだからあんまり遠く行かないで欲しい、こんな山の中ではぐれたら合流するのに一苦労しそうだし……そんな不安を感じてチビとタマモを呼び寄せているとおキヌちゃんがゆっくりと降りてきて

 

【美神さん。地図の通りもう少し先に開けた場所があるみたいですよ?】

 

「じゃあ今夜はそこでキャンプね。ほら頑張りなさいよ?横島君?」

 

からかうように笑う美神さんに大丈夫っすと返事を返す。自分で思うよりも体力はついているのであと少しくらいは問題ないだろう……むしろ大変な状態になっているのは

 

「……み、水……」

 

山の中と言うことで水分が足りなくなってへばっているシズクの方だろう。とは言え背中に鞄を背負っているのでシズクをおんぶする事は出来ない……

 

「ほら、頑張れ」

 

「……う、うん」

 

弱っているシズクの手を握り、頭の上にタマモ、肩の上にチビを乗せて俺はゆっくりと美神さんと蛍の後を追って歩き出したのだった……

 

 

横島達が必死で妙神山を登っている頃……異界の森を歩む青年の姿があった。その姿は時代錯誤と言われてもおかしくない着物姿に加え、その頭には犬の耳と尻尾があった……彼は人間ではなく人狼と呼ばれる種族だった

 

「待っていろよ、シロ。なんとしても薬を持ち帰るぞ」

 

彼の脳裏に浮かぶのは人狼の里で高熱を出して寝込んでいるまだ幼い娘の姿……突然激しい頭痛を訴えた彼の娘はとんでもない高熱を出して床に伏せている。このままでは死の危険があると悟った彼は村長の制止の声も聞かず、異界の住む天狗から薬を授かるために妙神山の近くの異界に足を踏み入れていた

 

「……かならず助ける。お前は拙者の宝なのだ」

 

彼の妻は娘を生むと同時に死んでしまい、残された彼の家族は娘であるシロだけだった。だからこそ勝ち目がないと判っていてもなお天狗を探しているのだ。残された自分の家族を失うわけには行かないと、そして妻と約束していた娘を護るという誓いを護るために……強い意志を宿し彼は霧で視界の悪い森の中を進んでいくのだった……

 

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その2へ続く

 

 




名前だけですが、シロが出て来ましたね。原作ではでないシロの父親も出して行くつもりです。親馬鹿キャラは書いていて楽しいですからね、シロが熱を出していた時期が詳しく明記されてなかったので美神達が妙神山に行くタイミングにして見ました。次回は父親をメインに書いて行こうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はシロの父親をメインに書いて行こうと思っています、後々のシロのフラグに繋がる感じの話にしていきたいですね。妙神山には今回の話の最後の方で到着させて鬼門の話からは次回から入っていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その2

 

唐巣先生に貰った妙神山の地図を見ながらテントの中で寝転ぶ。寝心地は最悪だけど、少しは身体を休めないとこれから更に険しくなるから体力が持たない

 

(明日の夜までには到着するかな)

 

今のペースで登山をしていれば、恐らく明日の夜には到着するはずだ。唐巣先生が来た時は昼前にはついていたらしいけど、横島君と蛍ちゃんのことを考えるとペースよりも安全性を考えないといけないから無理は出来ない。時間を掛けてもいいから確実に進んでいこう

 

「美神さん~もう直ぐカレーが出来ますよ」

 

蛍ちゃんの言葉に思考の海から引き上げられる、腕時計を見ると随分と時間が経っていることに気付いた、それにテントの外からカレーの良い匂いが漂ってくる。ここまでの登山で大分身体を動かしたので空腹だという事に気づく

 

「今行くわー」

 

蛍ちゃんの呼び声に返事を返しテントを出る。蛍ちゃんとシズクとおキヌちゃんがカレーの準備をしていた

 

「おー良い匂いやなぁ……やっぱキャンプならカレーだよなあ」

 

「みー♪」

 

「コーン♪」

 

切り株の上に座り膝の上にチビとタマモを乗せて楽しそうに笑っている横島君。これくらいリラックス出来ている方が良いのかもしれない……

 

【美神さんも座っていてくださいね、もう少しで出来ますから】

 

笑顔で飯盒でご飯を炊いているおキヌちゃん。こういう場所で食べるカレーとかって凄く美味しいのよね……雰囲気って言えば良いのかしら?

 

「「「頂きます」」」

 

それから数分で出来たカレーを紙皿に盛り付け、焚き火を囲んで夕食にする事にする

 

「……美味しい。これは私の知らない味」

 

シズクは和食はかなり詳しいが、洋食とかは全く知らないので興味深そうな顔をしてカレーを食べている。ちょっぴり甘口のカレー……正直あんまり好みの味ではないけど、こういう場所で食べると美味しく感じるわね

 

「さてと食べ終わったところで明日の予定だけど、ここからは今までの道よりも遥かに厳しい道になるわ」

 

唐巣先生から貰った地図を見る限り、ここからは狭い上に岩肌に張り付くようにして進まないといけない

 

「危険って事っすね?」

 

「ええ、とは言えまだ大分歩くけどね」

 

今日はここに泊まって明日の朝出発という打ち合わせを済ませ、テントに分かれることになったんだけど……

 

「なにしれっと横島のテントに入ろうとしてるわけ?」

 

「……蛍と美神は一緒のテントなら、必然的に私は横島のテントに行くのは当然」

 

【そんなの認めませんからねえ!】

 

シズクと蛍ちゃんとおキヌちゃんが口論している脇を横島君は

 

「寝ような~チビ、タマモ~」

 

欠伸をしながらチビとタマモを抱えて自分のテントの中に潜り込んでいるのだった、少しは止めるとか考えないのかしら?それとも自分に飛び火する可能性を考えて逃げた?そんな事を考えながら私は口論をしている3人に

 

「どうでもいいけど早く休みなさいよ?明日はもっとしんどいんだからね?」

 

【「「判ってます!!!」」】

 

互いに睨み合いながら返事を返す蛍ちゃん達に苦笑しながらテントの中にもぐりこむのだった……

 

「さーて、ここから少し山を登って岩山の方に向かうわよ」

 

翌朝今日の進む方向を話し合いながら、昨晩のカレーで朝食を済ませ登山を再開する。特に問題がなければ夜になる前には到着できる……その筈だった。だけどトラブルはいつも横島君が起こしていた、今回もそうだった。もう少しで岩山なので横島君からロープを受け取ろうと振り返った時

 

【「「横島(君)(さん)?」」】

 

私と蛍ちゃんとおキヌちゃんのマヌケな声が重なった。そこにいるはずの横島君の姿が無かったからだ……脳裏に浮かぶのはこの場所は既に異界であり、そこに棲む妖怪に攫われた可能性だ

 

「おキヌちゃん!上から横島君を探して!蛍ちゃんは除霊具の準備!」

 

私達は慌てて横島君を探し始めるのだった……異界の妖怪に攫われる。それは神隠しに近い、時間が経てば経つほど見つけることは難しくなる……その事実に私は激しく焦るのだった

 

 

 

 

 

蛍や美神が横島を探している頃横島はと言うと……額に大粒の汗を流しながら茂みを掻き分け、森の奥へと進んでいた……勝手な行動は危険だと判っていたが、それでも横島は単独行動をしなければならない理由があった

 

「みー♪」

 

「みゅー♪」

 

「あー良かった。チビ!勝手に飛んで行ったら駄目だろ!」

 

何かを見つけて飛んで行ってしまったチビを捜して森の中に足を踏み入れていたのだ。チビの前には細長い生き物……鼬がいてなにか会話をしていた

 

「ん?友達か?」

 

「みー!」

 

友達だよ!と言わんばかりに手を振るチビに苦笑しながら振り返る。森しかない、左を見る森しかない、右を見る森しかない……一瞬遭難したかと思ったが、シズクが一緒だから大丈夫だと思い

 

「シズクさん?来た道は?」

 

そう尋ねるとシズクは小さく首を傾げながら

 

「……判らない」

 

「遭難したああああ!!!!」

 

俺も勝手に行動するなって言われてたの!!!なんてこった……頭の上のタマモを見るが

 

「くう」

 

判らないという様子で首を振るタマモ……完全に遭難している。こういう時は動き回らない方がいいんだろうけど

 

「みゅー!」

 

「みー!!!」

 

鼬とチビはどんどん先に進んでいってしまう。これ以上はぐれるわけにも行かないので

 

「だから勝手に飛んでいくなって言ってるだろ!!!」

 

「……野生が目覚めた?」

 

シズクは強いからマイペースだが、俺からすればここは何時死んでもおかしくない場所だ。早くチビを回収して美神さんと合流しないとと思い荷物とシズクを抱えて森の中を進んでいると

 

「む?こんな所に人間でござるか?」

 

「サムライ?」

 

焚き火をしている着物姿のおっさんと遭遇した。ぴこぴこ揺れている耳と尻尾……そして木の枝に刺さっている肉

 

(どういうこと?)

 

俺は今どこにいるのか判らず混乱しているとおっさんは笑いながら

 

「ここであったのも何かの縁。坊お前も食うか?」

 

差し出された肉を見て俺はご馳走になりますと言っておっさんの前に座ったのだった

 

「ほう。妙神山に向かっている途中で連れとはぐれたのか」

 

「そうなんす。チビが勝手に飛んでいくから」

 

今は俺の頭の上で大人しくしているチビ。シズクの言うとおりじゃ無いけど、森の中に来た事でその野生が目覚めたのかもしれない

 

「それでおっさんは「犬塚クロだ。クロで構わぬ」じゃあクロさんは……えーと狼人間?」

 

揺れている尻尾と耳を見ながら尋ねるとクロさんは豪快に笑いながら

 

「拙者は人狼だ。まぁ人間からすれば狼人間と変わらんがな!」

 

かっかかっと笑うクロさん。少し怖い人かもしれないと思ったが案が良い人なのかも知れない

 

「それにしても妖狐とミズチを連れているとは随分変わった退魔師だな」

 

妖怪だから判るんだ。俺は膝の上で丸くなっているタマモを撫でながら

 

「家族だからそう言うのはあんまり気にしないかな?」

 

妖怪とかそう言うのはあんまり関係ない。俺にとっては家族だから大切……それだけ良い

 

「家族……我ら人狼族も家族を大事にする。その言葉努々忘れるなよ」

 

自分の横に立てかけてあった刀を見て険しい顔をするクロさん、その目には強い決意の色が浮かんでいて、クロさんにも何か事情があるのが一目で判った

 

「……では逆に聞く人狼の武士よ。お前は何故ここにいる?」

 

シズクの問い掛けにクロさんは小さく溜息を吐きながら

 

「拙者の娘が酷い熱で生死の境を彷徨っておる。この異界にすむ天狗殿から妖怪の薬を授かる為だ」

 

その言葉に膝の上のタマモが顔を上げる。なにやら心配そうな素振りを見せている

 

(どうしたんやろ?)

 

タマモがこんなに焦っている素振りを見せるの初めてかもしれない……

 

「まぁ良いわ、この道をずっと行けば元の世界に戻れるだろう。早く行って安心させてやると良い」

 

焚き火を消して、頭に鉢巻を巻いて更に森の中に進んでいくクロさん。普通に考えればこのまま戻るのが正しいことなんだろうけど……思わずその場に立ち止まり、森の奥へと進んでいくクロさんの背中を見つめていると

 

「……横島は自分が正しいと思ったことをすれば良い」

 

シズクが俺の顔を見上げながらそう呟く、今のクロさんはなにか危うい感じがした。娘さんの事だけを考えていて周りが見えてない……そんな気がした

 

「鼬ちゃん?それとも君?」

 

クロさんに貰った肉を齧っていた鼬に声をかける。少し霊力を感じるのでこの子も多分妖怪だろう、もしかするとタマモみたいに成長すると人に変化する術を覚えるのかもしれない。だから君なのか?ちゃんなのか?判らず両方付けて呼んでみる

 

「みゅい?」

 

なーに?と言う感じで首を傾げている鼬の目線にあわせて尋ねる。これって絶対変人とかに見えるよなと小さく苦笑しながら

 

「なぁ天狗のいる場所って知ってる?」

 

クロさんの気配はもう感じない、多分凄まじいスピードで森の中を走っているのだろう。人狼と言うのが何なのかは知らないが、狼人間の一種なら森の中こそがクロさんが自分の力を最大に発揮できる場所のはずだ

 

「みゅ!」

 

知ってるよ!と尻尾を振る鼬、これで何とかなるかもしれない……

 

「俺達も天狗の所に案内してくれ」

 

「みゅ!!!」

 

勇ましく鳴いて茂みの中に飛び込む鼬の後を追って俺達も茂みの中へと飛び込むのだった……

 

 

 

 

 

あの横島と言う面白い少年との出会ってから数刻ほどで拙者は探していた天狗殿を見つけることが出来た

 

「拙僧に何ようか?人狼よ」

 

拙者を見るなり獰猛とも取れる笑みを浮かべる天狗殿。拙者が何の為にここに来たのか?その全てを理解している顔だ

 

「拙者の娘が生死の境を彷徨っておる。貴方様が持ちえる秘薬を譲り戴きたい」

 

目を逸らすな、その一瞬で拙者は死ぬ……それほどまでの威圧感を天狗殿は放っていた

 

「そうかならばどうすればいいか、お主は知っておるな?」

 

刀を抜き放ちながら尋ねてくる天狗殿。拙者も刀を抜き放ち

 

「存じております。天狗殿に勝つ事……それが条件ですな」

 

天狗殿は修験者であり、今も修行をしておられる。故に天狗殿に勝つ事が出来なければ薬を得ることは出来ないのだ

 

「話が早い、では参る!!!」

 

目の前の天狗殿が消える。信じられない速さだが目で追えない事はない

 

(シロ待っていろ!必ず薬を持ち帰る!!!)

 

今も里で高熱と戦っている娘の姿を思い出す、何としても拙者は天狗殿に勝ち薬を持ち帰える!その為ならば腕の1本や2本は惜しくない……シロこそが今拙者が生きる最大の理由なのだから

 

「ハッ!!!」

 

左からの突撃を横薙ぎの一撃で受け止める。重さはそれほどでもないが……

 

「甘いぞ!人狼よ!!」

 

そのままの勢いで回し蹴りが叩き込まれる。天狗殿の武器はその速さ……何とか目で追う事は出来ているがその速さに着いて行くことが出来ない

 

(く!時間が無いと言うのに!!!)

 

里を出てから1日と少し……里の中でも指折りのヒーリングの使い手が見てくれているがそれほど時間はない

 

「焦りが見えておるぞ?」

 

「抜かせ!」

 

残像を伴い何度も切り込んでくる天狗殿の動きに完全に翻弄され始めている。人狼族では最高の剣士など言われていたが上には上がいた……このままでは追い込まれて負ける。そうなればシロの病を治す薬は手に入らん……

 

(これしかない)

 

腕一本捨てる……相打ち覚悟だ。天狗殿はそれを見て更に笑みを深くし

 

「腕一本で拙僧を討ち取れるかな?」

 

拙者の考えている事はお見通しか……だが拙者に出来るのはこれしかない……娘の為……剣士としての己は捨てる!大きく足を踏み出そうとした瞬間

 

「なにやっとるんじゃ!この人でなしが!!!」

 

「げぼお!?」

 

先ほど会った横島と言う少年が天狗殿の顔面に蹴りを叩き込んでいた

 

「なにをしよるか人間「黙れ!娘の為に態々こんな所まで来たクロさんと斬りあってなにやってるんや!クロさんも正座!」

 

その凄まじい威圧感に思わず天狗殿と並んで正座する。人間だというのに何なんだこの威圧感は

 

「……ぷっ!」

 

ミズチ殿が拙者と天狗殿を見て笑っている。これは一体どういうことなんだ……その威圧感に負けて思わず正座してしまったが、これは本当にどういう事態なのか理解できない……

 

「あんなあ?娘の事しか考えてない親父さんがまともに戦えると思うのか?」

 

「い、いや……それは難しいとおもうが「なら今薬を渡して再戦すれば良いやろが!焦って本当の力を出せない相手と戦って何が楽しいんじゃ?ええ?おい」

 

天狗殿の頭をぺちぺち叩いている坊……なんだ。この逆らってはいけないという気配は……

 

「んでクロさんもクロさんや!娘の為ってなあ!自分のために親父が怪我して子供が平気だと思うんか!!!」

 

そして今度は拙者を向いて怒り始める。天狗殿との戦いで腕の1本は覚悟していたが、まさか人間に説教をされ、死を覚悟することになるとは……この長い人生なにがあるのか判らんものだな……

 

「聞いてるんか!このアホ共!!!」

 

「「聞いております!!!」」

 

人間とは思えないその圧力と威圧感に拙者と天狗殿は思わず敬語で返事を返してしまうのだった……

 

 

 

横島は本当に面白い。天狗と人狼に説教をする人間なんて早々いない

 

(でもその気持ちは判る)

 

娘の為にと焦る親の気持ちに共感しているのだろう。だから横島の怒りは充分理解できる

 

「では後日再戦と言うことでよろしいか?天狗殿」

 

「うむ、娘が良くなってから再び参られよ」

 

横島が間に入ることにより後日再戦の約束をしているクロと天狗……横島は交渉とかに向いているのかもしれない

 

(それで?タマモは何を心配していたの?)

 

横島を見て安心している様子のタマモに訪ねるがそっぽを向くだけ、私の予想ではクロの娘とタマモはもしかすると知り合いなのかもしれない

 

(どこで出会ったんだろうか?)

 

人狼は隠れ里で暮らす、接点なんかあるわけがないんだけど……

 

「構わぬ。親の気持ちを理解出来ず申し訳ない、薬は持って行ってくれ。後日の再戦を心待ちにしておるゆえ」

 

クロに薬を渡して森の中に消えていく天狗。修験者と言うのは総じて堅物が多いけど、あの天狗はまだ良心的だった様だ

 

「坊……ヌシのおかげで無事に薬を手にすることが出来た、礼を言う」

 

「クロさん。そう言うのいいから、早く娘さんの所に帰って一緒にいてあげなよ」

 

横島がそう言うがクロは引き下がらない。人狼は義理堅い一族だ、恩を受けたのならそれを返そうとする

 

「仲間とはぐれておるのだろう?仲間の所まで案内しよう。そのついでに妙神山への近道もな」

 

クロは横島の返答を聞かず、横島と私とチビとタマモを抱え凄まじい速度で走り出したのだった……

 

「む?ミズチ殿?あれが探しておられる者か?」

 

人狼の加速に耐え切れず横島は意識を失ってる。私はクロが指を向ける方向を見ると美神達がいるのが見える

 

「……そう」

 

さすが成人した人狼だ。この速度が出せる妖怪は早々いないので正直に感心する。クロは私達をしっかり抱えなおしながら

 

「あい判った。一気に跳ぶゆえ気をつけられよ」

 

クロはそう言うと力強く地面を蹴り一気に美神達の方へと跳んだ

 

「人狼!?それにシズク!?なんでそんなのと一緒なの!?」

 

警戒の色を見せる美神。恐らく異界の神隠しだと考えていたから驚くのは当然かもしれない

 

「拙者は犬塚クロと申す。坊……いや横島殿に助けられたのでその恩返しに参った」

 

はぁ!?っと驚いている美神達を無視してクロは横島を担いだまま

 

「さぁ妙神山に向かわれるのでござろう?拙者が案内仕る」

 

そう言って歩き出すクロ。状況説明が何も出来ていないから明らかに美神達は警戒している。仕方ないので私がフォローする事にした

 

「……人狼の剣士も妙神山で修行するらしい、安全な近道を知っているって」

 

安全な近道と聞いて警戒したままだが後ろをついてくる美神達。私は背負われたままなんで非常に楽だ

 

「みーみーみみー♪」

 

気絶している横島の上で鳴いているチビも楽しそうだし、言うことはないだろう

 

「それで横島君がなにをしたの?」

 

「うむ。天狗殿と話を付けて娘の薬を譲ってくれるように説得してくれたのだ。良い弟子を持ったな」

 

かかっと笑うクロと横島の話を聞いている美神。腕を組みながらまた勝手な事をしてとぶつぶつ呟いている美神を見る、まだ離れているけど間違いない

 

(近づいてきた)

 

同じ龍族ということで私には小竜姫の気配が判る。恐らく向こうも感づいているだろう……他の水神を襲ったときの事はもう解決しているけど、若干の不安が残る中私達はクロの案内で妙神山へと向かうのだった

 

「ここら辺でいいでござろう、後はこの道を進めば妙神山につくでござる。ではこれにてごめん」

 

横島と荷物を降ろして凄まじい勢いで山を降りていくクロ、視線の先には巨大な建物が見えている……目的地だった妙神山の修行場だ、ここでなら横島の才覚を完全に解放できるかもしれない……

 

(楽しみ)

 

潜在能力は今まで何度も見せてくれた。ここで横島がどんな力を見せてくれるのか?私はそれが楽しみで仕方なかったのだった……

 

 

その頃人狼の里に戻ったクロはシロに薬を与え、目を覚ました事に涙ながらに喜び、横島の事をシロに話していた

 

「ち、父上?今何と?」

 

「うむ。横島忠夫という坊が拙者の手助けをしてくれたおかげで無事に薬を得ることが出来たのだ。それに中々の才覚を示しておった。それに家族思いの良い坊だったなあのような若者ならば、特例として人狼の一族に迎え入れても良いと思える人間だった」

 

さ、もう少し寝なさいと言われたシロは大人しく布団の中に入ったのだが、その顔はだらしなく緩んでいた

 

(せんせーでござる♪せんせーが父上を助けてくれただけではなく、拙者までも♪)

 

シロの高熱の原因は逆行してきた事による、莫大な情報を処理できなかった為であり。一言で言えば「知恵熱」だったりするのだった……そしてその高熱に耐えることで知る事が出来た横島の事を思い出し幸せそうに笑うのだった……

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その3へ続く

 

 




シロの父親の生存フラグです。いたらきっと面白いと思ったので死なせません、そして間接的ですがシロの高感度を上げる横島です。何時シロをレギュラーにすることが出来るのは判りませんが、ここで出したのだから予定よりも早くしていきたいと思っています、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです、今回の話は小竜姫がやっと横島と会うことが出来る話です。ただいま出ている小竜姫は逆行してきた小竜姫ではなく、この時代の小竜姫です。まぁ逆行してきた自分の影響をかなり受けていますけどね、あと鬼門の扱いはかなり酷いのでご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その3

 

どんどん近づいている龍族の気配……この感じは間違いない、ミズチのシズクの物だ。それに人間の気配が2つに幽霊と魔族が1人ずつ……

 

(ほう。九尾の狐の転生体まで連れておるか)

 

妙神山の奥の部屋の中で目を閉じていた老人……いや年老いた猿が楽しそうに笑いながら目を開く

 

「この時を大分待ったのう……」

 

この老猿の妙神山の最高責任者である猿神……その名を斉天大聖老師と言う。日本人には「孫悟空」の名が聞きなれているかもしれない

 

「漸く動き出しそうじゃな」

 

神族や魔族が関わっている横島に関するトトカルチョ……ではなく、過激派魔族と神族を探し出す為に最高指導者により、特別に逆行を許されたのである。つまり仕事であるが……

 

「これでトトカルチョが大きく動くのう……特にあの頭の固い小竜姫がどうなるか見ものじゃい」

 

……どうも娯楽として考えているような素振りを見せているのが極めて不安である

 

「さてどうなるか楽しみじゃのう」

 

楽しそうに笑いながら老師はキセルをくわえ、窓から門の所にたどり着いた横島達と、門の近くで待機している小竜姫を見て更にその笑みを深めたのだった……

 

 

クロと言う人狼に妙神山への近くまで案内してもらったが、横島が気絶していたので起きるまで近くで体を休めることにしたのだ。

 

「なるほどね、チビが勝手に森の中に行って追いかけて行ったのね」

 

シズクからどうして横島が単独行動をしたのか?と言うのをシズクから聞いていた美神さんが頷く

 

【ちびちゃん、あんまり好き勝手していると駄目ですよ】

 

「みむう……」

 

両手で頭を抱えてごめんなさいと言いたげな素振りを見せているチビ。今回は自分も悪いことをしたという自覚があるのか、おキヌさんの説教をも素直に聞いている

 

「……横島が天狗と人狼の一騎打ちに乱入して、2人を正座させてて面白かった」

 

若干黒い笑みで笑うシズク。面白いというのはどうかと思うけど、確かに霊格の高い人狼と天狗が正座している光景を見るのは面白いかもしれない……滅多に見れる光景ではないし……

 

「ふーん……娘さんの為に天狗と一騎打ちしようとしてたクロさんと天狗の争いに乱入……横島逃げるな、ちょっと横島そこに正座「はひい!?」

 

こっそりと隠れようとしていた横島を睨む、天狗と人狼と言えば妖怪の中でも、かなり強力な種族だ。それを相手にロクに霊力も使えない横島が割り込む?そんなのは自殺行為としか言い様がない

 

「ひ、人助けでして……」

 

確かに横島のいい所は優しさだけど、自分が大怪我をしては意味がない

 

【横島さん、私達凄く心配したんですよ?】

 

「本当よ、妖怪に攫われたと思って」

 

私達の傍に居れば護ってあげる事は出来るが、自分で危険な場所に行かれてはどうしようもない

 

「本当にすいませんでしたぁ!!!」

 

土下座しかねない勢いで謝る横島だけど、正直今回はそれだけで終わらせることは出来ない

 

「【ちょっと本気で反省しましょうか?】」

 

私とおキヌさんが握り拳を作り、そのまま振りかぶり全力で横島の頭へと振り下ろしたのだった……

 

「ううう……頭痛い」

 

「くう」

 

大きなたんこぶを作って泣きながら私達の後ろを歩いてくる横島。そのたんこぶを舐めて痛みを和らげようとしているタマモ

 

「……そんなに怒らなくても良いのに」

 

普段は私達も横島の味方をするけど、今回はそうも言ってられないだけの事を横島はしている。やはり、あんまり甘やかしすぎてはいけないと今回はそれを痛感した

 

(今回ばかりはね、私も心配したし)

 

妙神山はかなりの数の妖怪が住む場所でもある、本当に下手をすれば骨も残さず食い殺された可能性もあるのだから

 

(ここで少しは霊力が覚醒すれば良いんだけど……)

 

横島の霊力の覚醒には小竜姫さんが関わっていたとは聞いている、だけどそれが今かは判らない。もしここで横島がもう少し霊力に覚醒してくれれば少しは安心できるんだけど……なんせ横島は妖怪を惹きつけるから何かあってからでは遅いからだ。だから自衛の手段は出来れば身に着けてほしいと思っている。

 

「そろそろ無駄話は終わりよ、見えて来たわよ」

 

美神さんの声に顔を上げると巨大な門が目の前に来ていた。妙神山の入り口だ……しかしこうしてみると本当に大きいわね。結界の基点も兼ねているから大きくなるのは判るけど、威圧感が凄まじい

 

(鬼門は気づいているわね)

 

門についている2つの鬼の顔がこっちを見ているのが判る。まぁそんなに強くないと聞いているので全く問題はないと思うけど……

 

【この門を潜る者、汝一切の望みを捨てよ 管理人】

 

門の前に立てられた看板を見た横島が眉を顰めながら

 

「管理人って言うのがなんか胡散臭いですけど、何かいやな予感がしますね。それにあちこちから見られている気配がするし……」

 

さすが横島と言うべきなのかもしれない、自分を見ている鬼門の視線に気付いている

 

「こんなのはハッタリよ、ハッタリ!」

 

美神さんがふんっと鼻を鳴らしながら門を軽く叩く、美神さんは凄く優秀なGSなんだけど、どうも基礎を疎かにするような気がする。今も霊視は全く使ってないし……そして叩かれた鬼門は

 

「「何をするかぁ!この無礼者がぁ!!!!」」

 

凄まじい怒鳴り声を上げた思わず耳を塞いでしまうほどの大声だった

 

「「しゃ、喋った!?」」

 

驚いている美神さんと横島を見ながら私はおキヌさんとシズクに近寄って

 

(気付いている?)

 

鬼門は確かに私達を見ていた、だけどそれとは全く異なる視線が私達を今も観察している

 

(はい、とっても嫌な気配ですね。でも懐かしいです)

 

(それはお前に似ているからだ)

 

そうなのだ。私達を見ている視線は何故かおキヌさんにとても似ている。でもそれは友好的なものではなく、嫉妬とか恨みとかの負の念が込められた物だ

 

(心当たりある?)

 

勿論私には心当たりなんてない、そもそも妙神山の記憶はあんまりないし、老師とパピリオと遊んでいた記憶しかない。だから妙神山のことは殆ど判らない

 

(ここまで来ているんですけど、えーとえーと)

 

何かを必死に思い出そうとしているおキヌさんを見ていると鬼門が

 

「我らはこの門を護る鬼!許可無き者は我らを潜る事まかりならん!!」

 

「この右の鬼門!」

 

「そしてこの左の鬼門ある限り!おぬしのような未熟者ににこの門は開きはせん!!」

 

声を揃えて勇ましくそう叫んだ瞬間

 

「あら?お客様ですか?」

 

のほほんとした声が響き門が開く。そこから顔を出している赤毛の女性を見た瞬間理解した。あの視線の主はこの人なのだと、その可能性は充分に考えていた。だけどそれはあんまり考えたくない可能性の1つだった……

 

「「しょ、小竜姫様ぁ!!!わ、我らにも役割と言うものがああああ!!!」」

 

号泣しながら叫ぶ鬼門の声も今の私には気にならない、もっと警戒しなければいけないのは目の前で穏やかに微笑んでいる小竜姫さんだ……

 

「そう硬い事を言わないでください、私も暇なのですよ?」

 

雰囲気も喋り方も私の記憶に僅かに残っている小竜姫さんと同じなのだが……その目に映されている黒い光に私は完全に圧倒されてしまうのだった……

 

 

 

 

 

門から出てきた赤毛の少女が美神さんを見て穏やかに微笑みながら

 

「それで貴方達は?ここに来たという事は紹介状を持っているのですね?」

 

確かに唐巣神父は紹介状がないと修行は無理だと言っていた。だからこの山の関係者ならそれを訪ねるのは当然なのだが

 

(なんか変だなあ?)

 

なにが変と言うとそれが何かは判らないのだが、妙な違和感を感じる。それ何か判らないので余計にもやもやする

 

「私は美神令子。唐巣先生の紹介で弟子の芦蛍と一緒に修行に来たの、あっちのも一応助手だけど、まだどういう修行をすれば良いのか?って言う方向性も見えないからなにかアドバイスを貰えると嬉しいわ」

 

美神さんが俺を見ながら目の前の女性にそう言う。鬼門とか言うのの言葉を信じるなら小竜姫って言う名前なんだろうけど……

 

(んーむ。なんかシズクに似た気配を感じる)

 

名前の通り竜に関係する神様なのだろうか?しかしそれにしても……

 

(美人だなあ)

 

凛とした雰囲気を纏っていて、どうも今まで俺の知り合いにはいなかった美人だ……

 

「唐巣……ああ、あの方ですね。人間としてはとても筋が良かったですよ、人間にしては上出来の部類ですよ」

 

唐巣神父って俺からすれば凄い人なんだけど……それになんかこうぱっと見は美人なお姉さんなんだけど……こう、なんと言うか観察されているような気がして……

 

(なんか怖いなあ……)

 

初めてシズクに会った時に感じた。こうなんとも言えない嫌な予感……美人なお姉さんと思い込むのは危険なのかもしれない……とは言えこんな美人なお姉さんに何もし無いという事は出来ないので

 

「初めまして、俺は横島忠夫です。お名前を教えていただけませんか?綺麗なお姉様」

 

両手を握りながら尋ねる。一瞬背筋に氷柱を突っ込まれたような寒気を感じたが、気のせいだと信じたい

 

「あらら、お上手ですね」

 

おろ?案外好感触?こういう所にいる人だったらもっとお堅い人だと思ってたのに……もしかしたら行けるかも知れないと思った瞬間

 

「小竜姫様に何をするか!この無礼者!!」

 

「げふう!?」

 

突然動いた門に殴られる。自分で動く事が出来るのか……これは正直予想外だ

 

「うぐぐ……はっ!?」

 

頭を押さえながら立ち上がろうとすると目の前に影が落ちる……だらだらと冷や汗を流しながら顔を上げると、そこには

 

【「「横島?」」】

 

前髪で視線を隠している蛍と赤い人魂を周囲に浮かべているおキヌちゃんに、底冷えするような冷たい笑顔を浮かべているシズク

 

【「「反省しようね?」」】

 

「い、いやああああああああ!!!!!」

 

~~~暫くお待ちください~~~

 

「し、死ぬうう……」

 

大量の水。容赦のない打撃、そして人魂による精神的なダメージにより俺は本気で死ぬと思った

 

「みー!みー!!!」

 

「コーン!コン!!!」

 

必死に鳴きながら俺の頬を叩くチビと舐めて傷を癒そうとしてくれるタマモ……暫く動けずにその場で蹲っていたが、徐々に身体の感覚が戻ってくる。蛍が言うには潜在霊力が俺の治癒力を高めてくれているらしいが、シズクが言うには自分の加護だ。と言う俺には正直どっちでも良いのだが、回復力が高いと言うのは良いと思える、除霊の時とかにはきっと役立つとおもう

 

「よっと!サンキュー、チビ、タマモ」

 

「み♪」

 

「コン♪」

 

俺を心配してくれたチビとタマモに礼を言っていると、鬼門達が小竜姫さんに

 

「規則通り、この者達に試練を与えるべきです!」

 

試練?そういえば唐巣神父がそんな事を言っていたような気がする

 

「そうですか、ではやりたいようにしてください。私は待っているので」

 

そう笑って近くの岩場に腰掛けた小竜姫さんは俺達を見つめている。何か落ち着かないものを感じていると

 

「さぁ!この門を潜りたければ我らと戦ってもらおうか!!!」

 

「でか!?」

 

近くの岩が変化して巨大な鬼の身体になる。思わずそう叫んでしまうとシズクが

 

「……見かけだけだから心配ない。鬼はそんなに強くない」

 

「それはシズクが龍族だからでしょうが」

 

呆れたように呟く蛍。俺には良く判らない話だ、エミさんから貰った本には龍族は妖怪・神・魔族。どの種族の中でも強い力を持つ者が多いということだけだ、しかし俺からすれば鬼も妖怪も自分よりも強いわけで、結局隠れるしかないわけで……

 

「お、俺は「みーむ!!!」チビ?」

 

チビとタマモを抱えておキヌちゃんの近くに隠れようとしているとチビが力強く鳴いて俺達の前に立つ

 

「無理無理!怪我!怪我するぞチビ!」

 

チビはハムスターより少し大きい程度、あの巨体の鬼に勝てるわけがない

 

「みむむッ!!!」

 

チビは力強くもう1度鳴くとバチバチと放電を始める

 

「みみみみー!!みみみみー!!!みみみー!!!」

 

「「ほほう?面白そうだ、待ってやろうではないか」」

 

鬼門がそうは言うが、俺としては気が気ではない、ここまで大事に大事に面倒を見て、育ててきたチビが怪我をする光景なんて見たくないのだ

 

「み、美神さん!チビが!チビがぁ!?」

 

「落ち着きなさい、何か考えがあるのかもしれないんだから黙ってみてる」

 

そんなぁ!チビがあんなのに勝てるわけがない!蛍とシズクを見ると

 

「大丈夫よ。いざとなったら直ぐに助けるから」

 

「……心配は必要ない、私なら鬼なんて瞬殺」

 

ぶいっとピースするシズクと破魔札を準備している蛍。俺も最悪あの霊力の篭手を使う覚悟を決めていると

 

「みみ!みむむみみみみ!!みみみみみいいいいいッ!!!!!」

 

チビの放電音が段々大きくなっていく、そして4つ這いになったチビは翼を羽ばたかせ、尻尾を高く掲げる

 

「みみみみみみみみーーーーッ!!!!」

 

チビの身体を電撃の光が包んだ瞬間チビは力強く吼えながら口を開く

 

ゴウッ!!!!!

 

バッキャアアアアンッ!!!!

 

「「「はい?」」」

 

チビが放ったとは思えない巨大な光線が門の近くの岩を砕く、それは鬼門を狙っていたが外れたと言う感じだ。チビは再び翼を羽ばたかせ電撃を溜め始める

 

「「待て待て待て!!!」」

 

鬼門が慌てて止めに入るがもう遅い……何故ならば既にチビは電撃の充電を終えていた

 

「みっぎゃああああああああ!!!!」

 

「ふぐおおおおおおう!!!!」

 

「ひ、左のオオオオオ!!!!!!!」

 

チビの電撃砲の直撃を喰らった左の鬼門が吹き飛ばされ山の下へと落ちていく。凄まじい破壊力だ

 

「けぷ」

 

口の中から煙を吐き出しているチビはそのまま地面を歩いてきて

 

「み……」

 

飛ぶ力もないのか俺のズボンを引く抱き上げて頭の上に乗せると

 

「みーむ」

 

もぞもぞと髪の間に潜り込んで眠ってしまう。しかしさっきの電撃は凄まじかった……いつのまに『はかいこうせん』を覚えたのだろうか?

 

「……じゃあお前も落ちとけ」

 

「え?うおおおおおおお!?」

 

そして残っていた右の鬼門もシズクの超水鉄砲で谷のそこへと落とされてしまった。真っ黒い笑みで笑っているシズクが中々恐ろしい

 

「私がやらなかったら駄目とか言わないわよね?」

 

「いえ?別にそんな事は言いませんよ?」

 

にこにこと笑っている小竜姫さんに美神さんが

 

「ほら、早くここの管理人とやらに会わせてよ、あの鬼とか貴女じゃ話にならないから」

 

その瞬間穏やかに笑っていた小竜姫さんの気配が代わる。俺は咄嗟にチビとタマモを胸に抱え

 

「蛍!」

 

「え!?な、なに急にどうしたの!?」

 

突然手を握られた事に驚いている蛍の手を掴んで近くの岩場に隠れながら、近くに浮いていたおキヌちゃんに

 

「おキヌちゃんも早く!こっちに!」

 

【は、はい!でもどうしたんですか?】

 

納得はしてないと言う感じでも俺の傍に来るおキヌちゃん、そして次の瞬間凄まじいまでの暴風が小竜姫さんから放たれる

 

「シズク!」

 

その爆風に飛ばされてきたシズクを岩から身を乗り出して捕まえる

 

「……最初から私も助けろ」

 

ジト目で見てくるシズクから目を逸らす。正直シズクは強いから大丈夫とか思っていたが、やはりシズクも助けるべきだったのかもしれない

 

「な、なななな!?」

 

驚いている美神さんに小竜姫さんは穏やかに笑いながら

 

「美神令子さん?貴女は霊能力者の癖に目と頭で考えすぎですよ?お弟子さん達は私に気付いていたみたいですよ?特に横島さん……でしたか?」

 

急に名指しされておどおどして、思わず腕の中のシズクを見ていると、小竜姫さんはちょっとだけ睨むような素振りを見せてから

 

「まぁそれはおいおい話すとしましょうか。どうも貴女は大技を好んでいるみたいですしね、しかし基礎を疎かにするのは褒められたことではないですよ?もっと初心を大事にするべきで。特に弟子を育てると言う意思があるのならなおの事です」

 

声こそは穏やかだが、それは若干攻めているように俺には感じられた。師匠としての心構えが足りないと言うことを指摘された美神さんは面白くなさそうに近くの石を蹴って

 

「横島君。蛍ちゃん、私は荷物を拾ってから行くから先に入ってなさい、良いわね?」

 

有無を言わさない口調に頷き、蛍達と一緒に門の中に入った瞬間

 

「きゅーん♪♪」

 

どこかで聞いたような可愛らしい声と凄まじく巨大な影。咄嗟に顔を上げるとそこには俺に向かって飛び掛ってくる巨大な動物の姿

 

「は?「きゅー!!!!」おんぎゃああああああ!?」

 

受け止める事もできずその巨体に押し潰された俺の意識は簡単に闇の中へと沈んでいくのだった……慌てた様子の蛍とか小竜姫様の俺の呼ぶ声が聞こえたような気もしたが、俺はその言葉に返事を返すことは出来なかったのだった……

 

そして闇の中で俺の耳の中に飛び込んできていたのは

 

「やっと会えました、ずっとずっと待っていたんですよ?」

 

楽しそうに笑う女性の声。その声自体はとても優しい物で、安心できる物だったのだが……何故か、そう何故か理解できない恐怖を俺は感じているのだった……

 

 

「ふーむ。未来の小竜姫が大きく干渉しておるのう……」

 

ワシはキセルをくわえながら、小僧たちを招き入れている小竜姫を見て眉を顰めた。本人は自覚していないが、かなり精神的に未来の自分に引きずられている

 

「ワシが見に行こう」

 

昔なじみの竜の老人がワシに声をかける。小僧を押し潰しているモグラの保護者として妙神山に滞在してもらっている。ワシはまだそう表に出るわけにもいかんので

 

「頼む。それにあのままでは小僧が死んでしまうからの」

 

本当は名前を知っているが、その名で呼ぶわけには行かないので苦笑しながら窓の外を見る。そこには

 

「きゅ?」

 

小僧を押し潰しているモグラの姿。子供ゆえに力加減が全く判っていないのだ、そして自分の巨大さも

 

「あい判った。ではの」

 

階段を下りていくその友人の姿を見つめながら、キセルを蒸かす

 

「今度はワシにどんなものを見せてくれるのか?楽しみにしておるぞ、横島」

 

未来の世界の弟子にして、この世界では数多の可能性を見せている横島の姿にワシは笑みを抑えることが出来なかったのだった……今度はあんな未来にならぬよう、しっかりと道を示してやろう。それがワシにとっての贖罪になるのだから……

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その4へ続く

 

 




次回は美神の視点と小竜姫様の視点で進めて以降と思います。そして再登場のモグラちゃんです、マスコットの存在はやはり心癒されるものがありますよね。チビが電気ネズミになりつつあるのはスルーしてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです、今回の話は美神と小竜姫様の視点で進めて行こうと思っています。あとマスコット枠のモグラちゃん……覚えていますかね?「無垢なる土竜」で出てきたあのモグラちゃんの再登場です。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その4

 

妙神山に入るなり門から飛び出してきた巨大な影。私はその影に見覚えがあった、老師の古い知り合いだというロンっと言う龍族の孫に当たる子供の土竜だ。人見知りが激しくて来た時にしか姿を見なかったそのモグラが嬉しそうに鳴きながら

 

「きゅーん♪」

 

「おんんぎゃああああ!!!!」

 

……横島さんを押し潰した。その衝撃的な光景に一瞬目が点になる、子供ではあるがその体格は猪よりも少し大きくて、人間に圧し掛かったらそれだけでも致命傷になりかねない

 

「よ、ヨコシマァ!?!?」

 

「よ、横島!早くどくの!モグラ!!!」

 

【よ、横島さん!死んじゃったら駄目ですからね!どいて!どいてあげてください!!!】

 

「コーン!コーン!!!」

 

蛍さん達がどくように言うがモグラは小さく首を傾げながら

 

「きゅ?」

 

なんで怒られているのか判らないようでクリクリとした目で私達を見つめている

 

「どいてあげてください、横島さんが危ないですからね?」

 

完全に白目を向いている横島さん。折角才能に溢れた人が来てくれたのに何もしないうちに死んでしまうのは余りに勿体無い

 

【彼はその程度では死なないですけどね】

 

(!痛)

 

一瞬頭に走ったノイズと痛みに顔を顰める。さっきもその感じがして私らしくないことを美神さんに言ってしまった……頭を数回振ってから

 

「ほら、どいてあげてください、会えて嬉しいのは判りますけどね?」

 

繰り返しどいてあげてくださいと言うとモグラは

 

「きゅー」

 

小さく鳴きながら横島さんの上から離れて、痙攣している横島さんを突いている。起きて、起きてと言っているように見える素振りだがサイズがかなり大きいので横島さんがごろごろ転がっている

 

「のわあああ」

 

「みむううう!!」

 

横島さんとチビの鳴声が重なる、慌てて走って横島さんを転がしているモグラを止めるのだった……

 

「あー死ぬかと思った」

 

「みーみみうむう」

 

身体を起こして砂を払いながら横島さんが呟く、そしてその肩の上でチビもそんな感じの鳴き声を上げていて思わず微笑んでしまう。

 

「大丈夫?痛い所とかはない?」

 

「おう!全然平気だ!」

 

あれだけの巨体に押し潰されて、しかもあれだけの勢いで転がされていたのに全然平気って凄いですね……

 

「……モグラ。自分の体格を考え「きゅー!きゅー!!」お、重い……離れなさい」

 

シズクさんにも圧し掛かろうとしているモグラ。あれは私も経験している、龍族の気配を感じて懐いてきているのだ。私も最初に会ったときは押し潰されそうになって正直焦った……

 

「これこれ、迷惑をかけてはいかんぞ?」

 

朗らかな老人の声にモグラはぴたっと止まってきゅーっと返事を返す

 

【あれ?おじいさんでしたっけ?】

 

「うむ。久しいのう、幽霊の娘。土竜族当主ロンと言う。主の名は?」

 

【おキヌです。よろしくお願いしますね、ロンさん】

 

おキヌさんと挨拶を交わしているロンさんを見ていると、ロンさんはシズクさんのほうに向かい

 

「蛟のシズク殿でしたな。先日は我が孫が迷惑をかけて申し訳ない」

 

拳を作りそれを左手の手の平に押し付け頭を下げるロンさん。シズクさんは別に気にしてないと呟いて興味なさそうにしている

 

「じいさんじゃないか!なんで爺さんもここにいるんだ?」

 

「ほっほ。元気でよろしい、なにこの場は竜気に満ちているのでな。我が孫が育つのに適した環境なのじゃよ」

 

楽しそうに笑いながら話をしている横島さんとロンさん。だけどいつまでもこうしているわけにも行かない、何故ならここは修行場なのだから、とは言え美神さんが来ないうちに修行を始めるわけにも行かない

 

「きゅーきゅー♪」

 

「おー良し良し、良い子だなあ」

 

モグラが横島さんに擦り寄って嬉しそうに鳴いている。横島さんも穏やかに笑いながらその毛並みを撫でている

 

「みーむ!」

 

「コン♪」

 

チビとタマモがモグラの前に鳴いて一鳴きする。モグラは円らな瞳で2匹を見つめて

 

「きゅう!きゅきゅー♪」

 

「みむむーみみー♪」

 

「ココーン♪」

 

なにか意気投合しているみたいですが、私にはどんな会話をしているのか判らないので見つめることしか出来ない。ただそのほのぼのとした光景を見ていると自然に笑みが零れて来るのが判る

 

「まぁ美神さんが来るまで軽く使える霊能力を聞かせてもらいましょうか。ええっと蛍さんでいいんですよね?」

 

紹介状に書かれた名前を確認しながら尋ねる。若干蛍さんの目が鋭い気がするけど気にしないことにした

 

「はい、芦蛍です。今回はよろしくお願いします」

 

小さく頭を下げる蛍さん。こうして向かい合っているだけでも判る。彼女も霊力が多く才能に溢れた少女だと……久しぶりの修行者に加えて才能溢れるその姿に私は小さく笑みを零しながら

 

「はい、よろしくお願いしますね。蛍さん」

 

そう返事を返し、美神さんが来るのを待つのだった……彼女も弟子をとるという立場にいるのだから、私の言葉をちゃんと受け止めてくれる筈だと思いながら……

 

 

 

 

 

足元に転がる石を蹴飛ばしながら私は先ほど言われた言葉を思い返していた

 

【しかし基礎を疎かにするのは褒められたことではないですよ?もっと初心を大事にするべきで。特に弟子を育てると言う意思があるのならなおの事です】

 

確かに私は横島君や蛍ちゃんにGSの基礎をあんまり教えてなかったかもしれない……蛍ちゃんは知識が豊富だし、横島君の潜在能力も非常に高かった。態々教える必要がないと思ってしまったのだ

 

(でも私も唐巣先生に教わった時はきっちりと基礎を教えてもらった……)

 

その基礎があるから今のGSとしての私があるのかもしれない……

 

「あーっもう!」

 

髪をかきむしりながら立ち上がる。今回の事は私の落ち度だ。だから非常に腹ただしいけど我慢して受け入れる、それにいつまでもここでうじうじしていても意味がない、私はここに修行をしに来たのだから……落ちていた除霊道具を拾って妙神山の門を潜ると

 

「きゅきゅううううううううう!?」

 

悲壮そうな鳴声に思わず目を閉じて眉を顰める。今の鳴声どこかで……ゆっくりと目を開くと

 

「きゅう、きゅううう」

 

横島君の後ろに隠れようとして全然隠れることができてない、モグラがいた……なんでここにいるのかしら

 

「あ、漸く来られたのですね。では早速修行を始めましょうか?ロンさん、モグラは連れて行ってくださいね?」

 

小竜姫様が笑いながら言うその視線の先には老人が微笑んでいた。

 

「退魔師殿。久しぶりと言いましょうかのう?まぁ積もる話もありますが、今は自身の修行を頑張ってくだされ。ほら行くぞ」

 

「きゅ!」

 

老人の後ろを着いて行くモグラ。どうしてあのモグラと老人がここにいるのだろうか?

 

「……竜気に満ちているから龍族には心地良い場所。だからここで育てている」

 

シズクの説明にふーんっと返事を返す。育ちやすい環境で育てるのは大事だろうし……まぁ判らないわけではないし……もしかすると龍族って繋がりで知り合いなのかもしれないしね

 

「では修行を始めましょう。こちらです」

 

小竜姫様に案内されて奥の建物の中に入るとそこは

 

「……あんた達のセンスってどうなってるの?」

 

どこからどう見ても銭湯としか思えない光景が広がっていた。目の前の暖簾には「男」と「女」の文字がかかっているのが余計にそう思わせる

 

「まぁそれは気にしないでください。老師の趣味ですから、ここで俗世の服を脱いで着替えてください。勿論横島さんもですよ?」

 

ええ?っと驚く素振りを見せる横島君は

 

「いや、俺はまだ修行出来るくらいの霊能力ないんすけど?」

 

霊能力者の最高峰の修行場と言われる妙神山で修行出来るほどの経験を横島君はまだ積んでいない。いきなりここで修行をするのは酷なのではないだろうか?

 

「小竜姫様。それは少し無謀だと思うんですけど?」

 

「……私も賛成できない」

 

蛍ちゃんとシズクにそう言われた小竜姫は苦笑しながら

 

「違いますよ。横島さんは修行じゃなくてその潜在霊力を見て見ようと思いますので、一応着替えてくださいね」

 

「はぁ……判りました」

 

チビを頭の上に乗せて男の暖簾を潜る横島君。そして自然な流れでついていこうとするシズクとおキヌちゃんを蛍ちゃんが捕まえて

 

「じゃあ着替えましょうか」

 

「……駄目だったか」

 

【……無念です】

 

にっこりと怖い笑顔で笑う蛍ちゃんにそうねと返事を返し、私は女と書かれた暖簾を潜るのだった

 

「それでどんな修行にします?」

 

番台に座りながら尋ねてくる小竜姫様。私は置いてあった服に着替えながら

 

「そうね。手っ取り早く短時間でパワーアップできる修行がいいわ。私はね?蛍ちゃんと横島君は出来れば数日時間を掛けて見て欲しいわね」

 

年齢的にもまだ霊的成長期に入っていない蛍ちゃんと横島君と違って私はもう霊力が成長と共に増大するとは思えない、となればこういう場所で魂に負荷を掛けて成長させるしかない

 

「いいでしょう。今日1日で貴女の修行を終わらせましょう、そのかわり、生きるか死ぬかになりますがよろしいですね」

 

その言葉は脅しではないと判る。なんせここはあの有名な妙神山なのだ……並の修行ではないと言うことは判っている。それこそ本当に死んでしまう可能性がある事だって判っている

 

「上等。それでこそよ」

 

並みの修行では私の霊力は上昇しないと言うことは理解している。それこそ生きるか死ぬかの瀬戸際で無ければ駄目だろう

 

「大丈夫なんですか?美神さん」

 

心配そうに尋ねてくる蛍ちゃんの頭を軽く撫でて

 

「大丈夫♪心配要らないわ、私は美神令子なんだからね!」

 

蛍ちゃんはおかしそうに笑いながらそうでしたねと呟く、着替えを始める。私は少し早く着替えを終えて

 

「じゃあ小竜姫様お願いします」

 

「よろしい、では奥へ……」

 

番台から軽やかに飛び降りて私の前に立つ小竜姫様に連れられて、私は修行場の奥へと足を踏み入れたのだった……

 

 

「なんじゃこりゃ……」

 

着替え終わり奥の扉を潜った先は奇妙な世界だった。ストーンサークルとか言うのが沢山あってなんか不気味な雰囲気だった

 

「みむ」

 

胴着のポケットから顔を出しているチビも何かに怯えているような素振りを見せている。ここはどこなんだろうかと思い、辺りを見回していると

 

「なるほど。異空間で稽古をつけてくれるって訳ね」

 

「それに霊力の密度が高いですね……慣れるまでは辛いかも……」

 

「……私は居心地がいい、霊力がどんどん回復する」

 

同じように着替え終わった美神さん達が姿を見せる。じゃあおキヌちゃんはっと

 

「なにしてるのさ?」

 

【え?ええーと……えへ♪】

 

俺の頭の上に浮いているおキヌちゃんがぺろりと舌を出す。どうせ驚かせようとしたんだろうなあと苦笑していると

 

「コン」

 

構えと言わんばかりに頭の上に乗るタマモ。はいはいっと言いながらタマモを抱っこしていると

 

「人間界では肉体を通してでしか、魂と霊力を鍛えることは出来ません、ですがここでは魂と霊力を直接鍛えることが出来ます」

 

小竜姫様の説明を聞いて納得する。さっきから感じている身体の重さはもしかすると魂にかけられている負荷なのかもしれない

 

「ではそこの法円を踏んでください。美神さんだけで良いですよ」

 

俺と蛍を見ながら言う小竜姫様。思わず前に歩きかけていたので良いタイミングで声をかけてくれた

 

「これを踏むとどうなるわけ?」

 

首を傾げながら美神さんがその円の中に足を踏み入れるとバシュウと凄まじい音を立てて女性の姿をした何かが姿を見せる

 

(どこと無く美神さんに似ている)

 

髪型や姿がとても良く美神さんに似ていると思った。ナイスボディの所もそっくりだ

 

「な……なにこれは……!?」

 

驚いている美神さんに小竜姫様が笑いながら

 

「貴女の影法師(シャドウ)です。霊格・霊力・その他貴女の力や経験を取り出して形にしたものです。影法師はその名の通り、貴女の分身です。彼女が強くなる事がすなわち、貴女の霊能力のパワーアップな訳です。そしてこれから貴女は3つの敵と戦ってもらいます」

 

そこで言葉を切った小竜姫様は少しだけ、鋭い光をその目に宿し

 

「1つ勝つごとに1つパワーを授けます。全部勝てば3つのパワーが手にはいるのです……正し1度でも負けたら命はないものと覚悟してください」

 

え……負けたら死ぬ?その言葉に俺が絶句していると美神さんは

 

「心配ないわ。黙ってみてなさい……そうと決まれば早い所始めましょうか!」

 

いつも通りの強気の笑みを浮かべて影法師に構えを取らせる。だけど本当に大丈夫なのだろうかと不安になりながらその背中を見つめていると

 

「大丈夫よ。横島、美神さんは強いわ。だから見てましょう」

 

「……いざとなれば私が乱入するから心配ない」

 

蛍とシズクに言われて、俺は不安に感じつつも美神さんが決めたのだから、俺が言える事はないと思い近くに座り込んだ

 

「剛錬武!」

 

小竜姫様が鋭い声で呼ぶと美神さんの前に1つ目の岩で出来た巨人が姿を見せる。はっきり言ってかなり強そうだ……

 

「では始め!!!」

 

小竜姫様の声と同時に巨人が咆哮をあげて美神さんの影法師に突進する

 

「行けーッ!!!」

 

美神さんはそれに応戦するために影法師を見てそう叫ぶ、影法師は凄まじいスピードで突進しながらその手にした槍を巨人に突き刺すが

 

ガギンッ!!!

 

凄まじく硬い音が響き渡る。影法師の槍は巨人の肌を貫く事無く完全に弾き返していた。凄まじい防御力だ……

 

「剛錬武の甲羅はそう簡単には貫けませんよ?力も強いので充分に気をつけてください」

 

くすくす笑いながら言う小竜姫様だけど、笑いながら言えることじゃ無い

 

【美神さん!冷静に冷静になってください!】

 

「そうですよ!少し考えたら弱点は判りますよ!」

 

蛍とおキヌちゃんが同時にそう叫ぶ、もしかして2人ともあの巨人の弱点に気付いた?でも弱点なんかないように思えるけど……

 

「……良く考えて、横島なら判る」

 

シズクにそう言われてじーっと巨人を観察する。甲羅は硬い……でもその甲羅が全身を覆っているんだから弱点は……あれ?あるじゃないか、甲羅に覆われてない部分が

 

「甲羅が硬い、なら甲羅がない部分を攻撃すれば良いのよ!」

 

美神さんが影法師に指示を出す、影法師は巨人の拳を紙一重で回避し、その手にしている槍で巨人の目を貫いた

 

「ギガアアアア!?」

 

断末魔の雄叫びを上げながら消えていく巨人を見ながら額の汗を拭っている美神さん

 

(これが経験なのか)

 

あんな短時間で弱点を見抜き、それを攻撃する……はっきり言って今の俺に同じ事が出来るか?と考えるが、その光景を俺には想像できない

 

「修行のために来ているんだからちゃんと見てなさい、いいわね」

 

俺を見てそう笑う美神さんにうっすっと返事を返し拳を握るのだった……

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その5へ続く

 

 




次回も戦闘回がメインになります。小竜姫様との戦いは少しはしょってみようと思います。横島と蛍の事もありますしね、徐々に魔改造が始まっている横島ですけど、横島らしさって本当に難しいですね。もっと頑張らないとと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で美神の修行は終わりの予定です、後は横島の霊能力の修行の方向性とか、モグラちゃんとかチビとかタマモの話を書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その5

 

あの石の巨人を倒した事で美神さんの影法師に鎧が装着された。これはあれだろうか?霊的な防御力が上がったという事なのだろうか?

 

【小竜姫さん。これは防御力が上がったってことなんですか?】

 

おキヌさんがそう尋ねると小竜姫様は穏やかに笑いながら

 

「ええ、そのとおりです。霊の攻撃に対しての防御力と耐久力が上昇したのです。並みの悪霊の攻撃なら全然平気ですよ」

 

そこまで防御力が上がるんだ……そこまでの効果があるとは正直予想外だ

 

「とは言え、ここの修行場での攻撃は軽減することが出来ないので慢心せずに立ち向かうことをお勧めしますよ。なんせ次の試練で何人か死んでいるのですからね」

 

その言葉を聞いた横島が青い顔をしながら美神さんに近寄って

 

「ここでリタイアして帰るって言うのはどうですかね?死んでしまったらどうにもならないですよ?」

 

まぁ確かにその気持ちは判る。だけどそれにうんと言う美神さんではないし、小竜姫様でもないだろう

 

「いやよ、私は最後までやるわよ」

 

ほらね、美神さんが帰るなんて言う訳ないじゃ無い。横島が心配しているのは理解しているようで

 

「心配ないわよ。さくっと勝つから黙ってみてなさい」

 

ウィンクしながら言う美神さん。こういう強気のところが美神さんらしくて良いのよね。これでこそって感じがする

 

「途中棄権は認めません。パワーアップするか、死ぬかがここでの決まりです」

 

小竜姫様がそう言うと潜ってきた門が消えたように見える。

 

(へえ……小竜姫様って幻術も出来たんだ)

 

門を消したかのように見せているのだ、幻術が得意な私にはちゃんと見えている。小竜姫様って真っ向勝負だけかと思っていたけど、こういう搦め手も出来たんだと感心している中

 

「元々途中棄権をするつもりなんてないわ。ほら、次の試練を始めましょう?」

 

美神さんの言葉に頷き小竜姫様が法円に指を向けて

 

「禍刀羅守!出ませい!!!」

 

法円が光り輝きそこから4本の刃を持つ昆虫のような異形が姿を見せる

 

「随分と悪趣味ねー」

 

「刺々しいデザインですね」

 

「……見た目で威圧するタイプ?」

 

私達が口々に現れた禍刀羅守の評価をしていると

 

「グケケケケー!!!」

 

おぞましい雄叫びを上げてストーンサークルの切り上げて、その巨岩を両断しその刃をべろりと舐めている禍刀羅守

 

「本当に悪趣味ねー」

 

美神さんが頭を抱えて苦笑する。私も同じように苦笑しかけて

 

「美神さん!危ない!」

 

横島がそう叫んだ瞬間禍刀羅守が一瞬で間合いを詰めてその刃を振るう

 

「ぐっくう!?」

 

影法師がダメージを受けたので美神さんが苦しそうに呻き声を上げる

 

「こらッ禍刀羅守ッ!!!私はまだ開始の合図をしてませんよ!!!」

 

小竜姫様がそう怒鳴るが禍刀羅守は馬鹿にしたような表情で

 

「グケッ!グケ!!!」

 

そんな事は関係ないと言わんばかりに笑う禍刀羅守を見た小竜姫様が

 

「私の言うことが聞けないと言うのですね!!!なら試合は止めです!私が……「待って!」

 

小竜姫様が刀を抜こうとしたが、美神さんがそれを止め前に出ながら

 

「あんたがやっつけたら私のパワーアップにはならないんでしょ!なら私が倒すわ!!」

 

「それはそうですけど……それでは公平な戦いには……」

 

小竜姫様が考え直すように言うが美神さんはその言葉を遮って

 

「大丈夫よ!この程度のダメージなんて!行くわよ!影法師!!」

 

美神さんがそう叫ぶ、影法師はその言葉に呼応すかのように禍刀羅守に向かうが

 

「グケケ」

 

馬鹿にするかのように笑うと一瞬で影法師の背後に回りこみその背中に一撃を叩き込む

 

「くっ!」

 

胸を押さえて蹲る美神さん。どう考えても最初の一撃のダメージが大きすぎる。小竜姫様もそれを理解したのか

 

「やはり最初のダメージが大きすぎたようですね、仕方ありません特例として助太刀を認めます」

 

そう言って私の方に歩いてきて私の頭に触れ

 

「貴女の影法師を抜き出します。気を楽にしてください」

 

その言葉に頷き深呼吸してリラックスすると私の背中から何かが抜け出してくる感じがした。

 

(あ、やっぱりなんだ……)

 

私の影法師はバイザーを身に付けた女性の姿。それは私……芦蛍ではなく、ルシオラとしての姿。もしかしたらと思っていたけど……こうして見ると納得してしまう

 

「さあ!行きましょうか!影法師!」

 

私の言葉に頷き、美神さんの影法師の助けに向かう影法師の背中を見つめていると背後で

 

「……ルシオラさん……ああ、そうだったんですね」

 

ぼそりと呟かれた小竜姫様の言葉にはどこか暗い何かが混じった重い物で少しだけ恐怖を感じるのだった……だけど今は美神さんを助ける事を考え、自らの影法師を美神さんの救助に向かわせるのだった……

 

 

 

 

 

ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしてくる。現在の私の意識が消えて、未来の私の意識が浮上してくる

 

(ルシオラさんの影法師を呼び出したからでしょうか)

 

ルシオラさん……いや、今は芦蛍さんですね。その影法師は私も知っている蛍魔ルシオラの姿、その姿を見て私の意識が浮上してきたのだろう……

 

「はー蛍の影法師も美人……あいたたたた!!シズク!シズクぅ!無言で爪を立てるなあ!痛い!痛いからああ!!」

 

横島さんの隣はミズチの姿、やっぱり横島さんの所に向かったんですね、なんて羨ましい

 

(もうタマモもいるんですね)

 

横島さんの膝の上で丸くなっているタマモさん。それ自体は知っていたけど、こうして見ると随分と自然な感じがして少しだけ羨ましいと思ってしまった。まぁそれは今は置いておいてもいい、他の問題があるからだ

 

(さて、どうしますかね)

 

禍刀羅守と戦っている美神さんと蛍さんの影法師を見る。私の記憶では横島さんの影法師だったけど、蛍さんの影法師になっている……まぁそれはそれでも構わない、懐の中の手紙には横島さんの進むべき霊能力の道に対する助言を求める旨の文が書かれていたから……それに暫く滞在してくれるつもりらしいし……

 

(でもこのままだとどうなるのかしら?)

 

あの時は私は横島さんの影法師に逆鱗を触られて竜になって妙神山を破壊してしまった。一応老師もいらっしゃいますが、そんな事をしたら絶対に如意棒で殴られて横島さん達が帰るまで確実に説教です

 

(ここは上手く切り上げるべきですかね)

 

禍刀羅守の奇襲の件もありますし、それを理由に稽古を切り上げても……

 

【そんな事をすれば説教じゃ、小竜姫】

 

頭の中に響く老師の声……ううっ……私の考えていることがばれてる……うーん適度な所で切り上げれば大丈夫かなあ……どうしよう?どうしようと考えているうちに

 

「美神さん!今です!」

 

「OK!蛍ちゃん!」

 

蛍さんの影法師が禍刀羅守の視界を一瞬幻術で惑わし、その一瞬で美神さんの影法師の切り上げの一撃に引っ繰り返される禍刀羅守……これで勝負有ですね

 

「その子はひっくり返ると自分で起き上がれないんですよ。ですから、この勝負も美神さんの勝ちですね」

 

禍刀羅守が消滅し、美神さんの影法師の手にする槍の中に吸い込まれ、槍の形状が薙刀に変化する

 

(凄まじいコンビネーションですね)

 

蛍さんはやはり美神さんのことを良く知っている。もしかすると横島さんと美神さんが組んでいる時よりも強いかもしれない……そう考えると少しだけ本気で戦ってみたい気もするけど

 

(駄目駄目、暴走する危険性を考えないと)

 

あの時とは状況は違うけど、世界の修正力の事もある。なにをきっかけに暴走するかもしれないのだから、ここは試練のみに集中するべきだろう

 

「では最後の試練は私との組稽古になります」

 

げっと呻く美神さん、まぁ確かに龍族相手に影法師を使ったとしても勝てるわけがないのだから不味いと思うのは当然ですね

 

「……お前弱い物虐めが好きだったのか?」

 

シズクさんがそんな事を呟く、ええっと驚いた横島さんの責めるような視線を向けられて

 

「違いますからね!ちゃんとした稽古です。私との戦いの中で霊力の引き出し方を掴んで貰うんです!」

 

霊力と言うのは強い霊力に引かれて上昇することが多い。だからそれを目的とした稽古です!と怒鳴ると

 

「ああー安心した。シズク、あんまり酷いことを言うのは駄目だぞ?」

 

「……竜族は凶暴だからありえない話じゃ無い」

 

なんでそう私を敵視するんですかね……いえ、私も敵だとは思っていますが、それはそれ、これはこれと言う物でこういう時にそう言うことを言うのは止めてほしい

 

「では10分ほど休憩してから最後の稽古を始めます、霊力の集中と身体を休めていてくださいね」

 

そう声をかけて修錬場を出て、姿見の前に立つ……まだ幼い私の姿がそこにはあった

 

(竜珠が戻るのは大分先ですね……はぁ……)

 

竜族は角の生え変わりと竜珠をえる事で成人と扱われ、私は角生え変わりはしたけどまだ竜珠は手にすることが出来ていない。

 

(大分成長したのになあ……)

 

背はあんまり伸びなかったけど体型はかなり女性らしくなっていたのになあと思うと、思わず溜息が出る……

 

(横島さんが帰ったら私も修行しよう。少しでも早く竜珠を手にするために)

 

あの時の私は今の妙神山の管理人と言う立場に納得していた。だけど今は違う、早く竜珠を手にし自身の霊格を上げたいと思っている。竜族の結婚が許されるのは竜珠を手にすることが条件なのだから……

 

「私は頑張りますから」

 

自分に言い聞かせるように握り拳を作る。竜珠を手にして、私は横島さんに私の本当の名前を教えて、その名で呼んで欲しいのだ。小竜姫と言うのは役職としての名前なのだから……自分の名前を呼んで貰う為に修行を頑張ろうと心に誓い、気合を入れてから私は修錬場へと戻るのだった……

 

 

 

チャポーン……貸切の湯船の中に落ちてくる雫の音が響き渡る

 

「ふはあ……」

 

肩までしっかりと漬かりながら深い溜息を吐く、登山で疲れ切った身体に染み込んで来る温泉が実に気持ちいい

 

「みーむ……」

 

風呂桶の中で温泉を楽しんでいるチビと湯船に入ろうかと悩んでいる様子のタマモを見ながら

 

(それにしても凄かったなあ……)

 

頭の上の手ぬぐいで顔を拭いながら思い出すのは美神さんと蛍の最後の訓練だ。霊力の相乗効果とかで美神さんと蛍の霊力を引き上げるために小竜姫様と組み手をしていたのだが俺には殆ど見えなくてシズクに解説してもらってたんだが……周囲から聞こえてくる音だけでも激しい戦いをしているのだと判った

 

(はー俺も明日はほんの少しでも霊力が覚醒するんかなあ……)

 

明日は俺の影法師を出して霊力の方向性を見極めるらしいんだけど……

 

(俺の霊力の方向性ってなんなんだろうなあ……)

 

陰陽術とか妖使いの才能があるとは聞いているけど、自分ではそんな実感もないしなぁ……

 

「こ、コン!ココン……」

 

犬かきで風呂に入ってくるタマモを抱える。あのままだとなんか溺れそうでかなり不安だし……

 

「桶に入るか?」

 

チビに桶風呂を作る時は嫌だと言っていたが、今の溺れかけたので判ったのか

 

「くう……」

 

弱々しく鳴くタマモの為に桶にお湯を張ってその中に入れてやると

 

「クウ……」

 

桶の縁に顎を乗せて気持ち良さそうに鳴いているタマモ。後でドライヤーで乾かしてやらんとなあ……

 

(はー夕飯が楽しみだなあ……)

 

なんでも霊力の回復に適した食材で料理を小竜姫様が作ってくれるらしいので楽しみだなと思っていると

 

「ん?」

 

突然目の前に影が落ちる……ま、まさかぁ……顔を上げると飛び掛ってくる巨大な影……モグラちゃんだ

 

「きゅーん♪♪」

 

「どわあああああ!!!!」

 

ザッパーンッと凄まじい音が響き渡る。咄嗟に回避することが出来たけどむちゃくちゃ驚いた

 

「コーン!!!!」

 

「み!むむうううう!!」

 

「ああ!!チビ!タマモ!!!」

 

モグラちゃんが飛び込んできた衝撃でタマモとチビの風呂桶がひっくり返って、湯船で溺れているチビとタマモを救助して桶の中に戻す

 

「うきゅ?」

 

何か悪い事した?と言う感じで首を傾げているモグラちゃんに苦笑していると、モグラちゃんは

 

「きゅっ!きゅー」

 

楽しそうに鳴きながら泳ぎ始める。モグラって泳げるんだ……こうしてみるのは初めてだけど、モグラが泳げるって事を始めて知るのだった……

 

「暴れるなよー」

 

「みー♪」

 

「くう」

 

鞄からドライヤーを出してチビとタマモを乾かす。いつもの毛玉フォームへと変化したチビとタマモに軽くブラッシングをしているとモグラちゃんが

 

「きゅ?」

 

俺のズボンの裾をくわえてこっちを見ている。いや良く見ると台の上のドライヤーを見つめている

 

「ん?モグラちゃんもして欲しいのか?」

 

ドライヤーとブラシを手にしてモグラちゃんに尋ねると、そのつぶらな目をキラキラとさせながら

 

「うきゅ!」

 

こくこくと頷くモグラちゃんに苦笑しながらドライヤーで乾かしてブラシを通す。ただモグラちゃんは物凄く大きいのでドライヤーをかけるのもかなりの重労働だったが

 

「きゅー♪」

 

「おお、もふもふ……」

 

ふかふかと身体が膨らんでいるモグラちゃん。これは抱き枕みたいな感じでいいかもしれないなぁ……思わず座ってもふもふしていると

 

【横島さーん?もう直ぐご飯ですよ?まだお風呂に入っているんですか?】

 

暖簾の外から聞こえてくるおキヌちゃんの声。どうもモグラちゃんを乾かすのに大分時間が掛かってしまったようだ……いやもしかするともふっていて時間に気付かなかった可能性もある。

 

「おーう、今出たから直ぐ行く~!」

 

頭の上にタマモ、肩の上にチビを乗せたところで足元のモグラちゃんに

 

「一緒に来るか?」

 

「きゅ!」

 

前足を上げて自分も自分もと言いたげな素振りを見せているモグラちゃんの頭を撫でて、モグラちゃんを連れて食事に向かうのだった

 

「あー変わった味だけど美味かったな」

 

初めて食べる味だったけど、なんか体の中から綺麗になっていく感じがして気分爽快って感じだ。精進料理らしく肉と魚は全く使われてないが、肉と魚の食感に近いように野菜や豆腐が料理されていて食いでがあって美味かった。シズクと蛍とおキヌちゃんが1口食べるごとに何かを考え込むような素振りを見せていた、何が使われているのか?を考えていたのかもしれない。

 

「くうくう」

 

「みーむむ」

 

既に丸くなって眠る体勢になっている。今日は籠はないのでタオルを掛けて、俺も欠伸をしながら布団に潜り込んで眠りに落ちるのだった……

 

 

翌朝俺は信じられない光景を見ることになる。障子から差し込む光が顔に当たり目を覚ます……多分普段起きる時間より早いと思うが、寝る時間も早かったので2度寝しようとも思わず、そのまま起きる事にした

 

「ふあああ……良く寝た……」

 

布団から身体を起こして座ったまま背伸びをする。筋肉痛になっていると思っていたけど、全然平気だ。これもシズクのおかげなのかもしれないな、霊力で回復力を高めるだったかな?と思いながら振り返る

 

「すぷーすぷー」

 

部屋の隅では小山のようなモグラちゃんが眠っている。鼻提灯が出ているのが可愛いとおもうのと同時に

 

(潰されなくて良かった……)

 

何度も何度も押し潰されているので、寝ている間に押し潰されなくて良かったと安堵しながら軽くストレッチをしながら

 

「じゃチビ散歩行くか?」

 

「みむ!」

 

リードをくわえてそわそわしているチビにそう声をかけ、まだ寝ているモグラちゃんとタマモを起こさないように気をつけながら部屋を後にしたのだった……

 

 




リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その6へ続く

次回は横島の霊能力の方向性の話をしていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は増えてしまったタマモと横島の修行の方針の話をしていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その6

 

チュンチュンと雀が鳴く声で目を覚ます。霊山と呼ばれる妙神山あって霊力の回復量が桁違いね

 

(んーいい気持ち)

 

魔力を封印しているブレスレットのおかげで魔力を封じているせいか、霊力もそれに伴った量しか回復してなかったけど周囲の霊力が濃いからか、かなりの量が回復していて身体がすごく軽い。やっぱり霊力はしっかり回復している方が良いわね……とは言え、お父さんのビルはお父さんの霊力と魔力の回復用に調整されているから私には対応してないし……

 

「あれ?もしかして私が一番起きるの遅い?」

 

暫く考え事をしていたが、ふと顔を上げるとシズクも美神さんの姿もないことに気付き……慌てて布団を畳んで、寝巻きから私服に着替えて、ぼさぼさの髪を整えて部屋を出る

 

(横島にだらしないって思われるのは嫌よ)

 

普段は横島の家に行くことを考えているので早く起きることが出来るが、どうも今日は普段回復していない霊力を回復させるために普段よりも数段深い眠りに落ちてしまったようだ。井戸の冷たい水で手早く顔を洗って居間に移動する

 

「すいません、寝過ごしました!」

 

居間では既に美神さん達が朝食を食べていた、美神さんは味噌汁を机の上において

 

「おはよう蛍ちゃん。小竜姫様が朝食の用意をしてくれてるから早く座りなさいよ」

 

はいっと小さく返事を返して美神さんの隣に座る。シズクとおキヌさんの姿がないけど……どこへ行ったんだろう?

 

「近くの山に霊力に満ちた水があるとかで汲みに行ったわよ。おキヌちゃんはシズクの荷物持ちを手伝いに行ったわ」

 

絶対あれだ、ここまで来るのに飲みまくっていた2Lのペットボトルに水を詰め込むつもりなんだ……ミズチだから水が生命線って知っているけど、2人係で水を汲むって本当にどれだけ汲んで帰るつもりなんだろうか……

 

「蛍さんも起きたんですね?今味噌汁を温めますから待っててくださいね」

 

私と美神さんの話を聞いていたのか小竜姫様が顔を出して小さく笑う。昨日の最後の修行の前に感じた威圧感はない

 

(うーん……どういうことなんだろう?)

 

二重人格とまでは言わないけれど、どうしてこんなに雰囲気が違うんだろ?後でおキヌさんと話し合ったほうがいいかもしれない

 

「はいどうぞ。口にあえばいいんですけどね」

 

穏やかに笑う小竜姫様にお礼を言ってから用意して貰った朝食を食べていると

 

「おはよーございまーす」

 

襖が開いて横島が姿を見せる。その後ろにはモグラちゃんがぴったりとついている

 

「随分と懐いているのね?」

 

美神さんがからかうような口調で言うと横島は座り込んで

 

「だってモグラちゃん、可愛いっすよ~」

 

「うきゅ!」

 

すりすりと擦り寄ってくるモグラちゃんを抱きしめて頬ずりしている横島

 

(あーなんか朝からいい物を見たような)

 

嬉しそうに笑っている横島の笑顔は子供みたいに可愛い、気持ちが和らぐのを感じながら朝食を食べ進めるのだった

 

 

 

 

 

小竜姫様の用意してくれた朝食を食べながら机の上のチビを見る

 

「はい、どうぞ。チビさん」

 

「みーむ!」

 

小竜姫様にチビは果物が好きだと言っておいたのでちゃんと切り分けた果物を受け取っているチビ。嬉しそうに果物を食べているチビを見ていると

 

「うきゅ」

 

遊んで遊んで!と鼻を摺り寄せてくるモグラちゃん。遊んであげたい所だけど

 

「今から朝ご飯だから待っててな?」

 

「……きゅー」

 

詰まらなそうに鳴いているモグラちゃんの頭を撫でていると

 

「……いつまでも遊んでないで食べろ。今日は忙しくなるぞ」

 

【そうですよ?横島さんの修行の事もあるんですからね?】

 

シズクとおキヌちゃんに注意され、俺はまだ少ししか食べてない朝食を慌ててかき込んで

 

「ふっぐう!?」

 

「バカ!慌てて食べるからよ!」

 

案の定喉に詰まらせ、蛍から差し出された水を一気に飲むのだった……

 

「では横島さん。修行の方向性をお知りになりたいのですよね?」

 

朝食を食べ終えた所で小竜姫様が確認と言う感じで尋ねてくる。俺に実感はないが、陰陽術や妖怪と心を通わせる才能などかなり多才らしい。その所為で修行の方向性が判らないと言うのが唐巣神父と美神さんの言葉だ。いつまでも見習いでは意味がないのでここいらで専門家に話を聞きたいと思っている。その点小竜姫様なら間違いはないだろう、昨日の美神さんと蛍の修行風景を見て俺はそう確信していた。きっと俺にも適切なアドバイスをしてくれると……なんせシズク達は好き勝手な事を言うのでどうすれば良いのか判らなくなってしまうのだ。

 

「……私的には陰陽師を押している」

 

【私は普通にGSの修行が良いとおもうんですけどね】

 

「んー私はやっぱりあれじゃないかしら?稀有な妖使いの才能を伸ばすべきだと思うわね。無理に除霊しなくても交渉って言う選択肢が生まれるのはやっぱり良いとおもうのよね」

 

シズクやおキヌちゃん、それに美神さんも皆言っている事がバラバラなんで困ってるんだよなあと言う視線を小竜姫様に向けると

 

「……まぁそれだけの才能があれば色々と道があるのも判ります。とりあえずまずは影法師を抜き出して見ましょう。それで横島さんの霊力の方向性が見えると思いますし」

 

影法師……昨日の美神さんと蛍のか……それで判るなら1度見てみたほうがいいかもしれないと思い頷くと

 

「ではこちらへ」

 

そう笑って昨日の修錬場へと案内してくれる小竜姫様だったが

 

「うきゅ!うきゅうう!」

 

「コン!コーン!!」

 

「みむう!みみみーッ!!!」

 

「判った!判ったから!」

 

モグラちゃんを筆頭に構え、抱っこしろと言わんばかりに擦り寄ってくるタマモたちに四苦八苦しながら俺は修錬場へと向かうのだった。美神さんと蛍?頑張ってねって笑って先に行っちまったよこんちくしょう

 

「……早く歩け」

 

「お前もしれっと背中にしがみ付くな!」

 

文句を言っても無駄だと判っているが一応シズクに文句を言って、背中にシズク、頭の上にチビ。肩にタマモを乗せた所でそしてモグラちゃんは

 

「うきゅ♪」

 

後ろから軽く突進してきて、俺のバランスを崩すと器用に俺をその背中に乗せて楽しそうに鳴いている

 

「……なんか複雑だなあ」

 

俺をその背中に乗せて楽しそうに歩き出すモグラちゃん、しかも以外に速い上に安定性も抜群。モグラってすげえと思わず思ってしまうのだった……

 

 

 

 

 

こんな影法師初めて見ました……修錬場の中で横島さんの影法師を抜き出して見たのだが、こんな影法師を見たことがない

 

「はーなんか凄いのが出てきたなあ」

 

横島さんも驚いた様子で顔を上げている。その視線の先には着物の様な物を着込み、更にその上に赤色の羽織。頭には黒い烏帽子。腰に差している短い脇差に、そして左手には水色の扇子、右手には無骨な手甲と余りにバランスが取れてないにも程がある異形の人型の姿があった

 

(これは横島さんの魂に影響しているという事でしょうか?)

 

こうして影法師を抜き出したら判った。影法師から細い霊力の糸が出ており、それがタマモとシズクに繋がっている。恐らく加護を受けているのであの2人の霊力の特性が出ているのだろう

 

「……あの扇子は私の霊力を感じる。加護が影法師に影響しているみたい」

 

シズクさんがぼそりと呟く、自身の加護を授けているのだからシズクさんが判るのは当たり前か

 

「へえ?じゃあ……あの赤い羽織はタマモの加護ってことかしら?」

 

「コン!」

 

その通りと言わんばかりになくタマモさん。頬を摺り寄せている所を見ていると本当に懐いているのが良く判る

 

【それで小竜姫様?横島さんの霊力の方向性ってどうなっているんですか?】

 

おキヌさんに尋ねられる。私は少し悩んでから横島さんの霊能力の方向性を口にした

 

「正直に言います。陰陽術も、妖使いも、退魔師としてもその才能は秀でています。これは難しいですが、全部同時に修行した方がいいかもしれないですね」

 

着物と烏帽子は陰陽術、腰に差している刀は退魔師、扇子は多分妖使いの才能を示していると思うんですよね、美神さんの影法師は薙刀でしたし、蛍さんの影法師は特に武器を持っていなかった。影法師の持つ武器はその人の霊能を示すんですが、ここまで装飾品を身につけていると言う事はそれだけの数の才能を持っていると言うこと……どれかだけを伸ばすというのは正直に言うとかなり惜しいと思ってしまう

 

「へ?」

 

間抜けな声を出している横島さんの肩を掴む。こんなに才能に溢れた人材を見たのは初めてだ。しかもそのどれもが稀少な霊能と来ていれば、私としても気合を入れて修行を付けてあげないといけない

 

「頑張って修行しましょう。ええ、ここにいる間に少しでも霊力の使い方を覚えてください!さぁ!早速修行を始めましょう!とりあえず霊力のコントロールを覚えましょうか。あ、美神さん達は自分で霊力の流れのコントロールの修行をしていてくださいね」

 

「え。え?待って!俺そんなに一気に覚えれないイイイ!!!」

 

横島さんの影法師を横島さんの中に戻して、私は妙神山で一番優しいと言われる修行場へと横島さんを引きずっていくのだった……

 

「あーご愁傷様」

 

涙目で引きずられていく横島を見て美神と蛍は手を合わせて、それを見送り

 

「一応おキヌちゃん着いてってくれる?」

 

【はい!チビちゃんも行きましょうね】

 

「みむ!」

 

おキヌとチビが横島と小竜姫の後を追って行くのを確認しながら残された美神と蛍もその場に座禅を組み、上昇した霊力のコントロールの為の精神集中を始めるのだった……

 

「それにしても不思議ですねー」

 

私は湯船で汗を流しながら横島さんの事を考えていた。膨大な潜在霊力に様々な霊能の才能を持ち合わせているのにも拘らず、横島さんにはその霊能を使うだけの才能がなかった……いやあれはどちらかと言うと

 

(魂の防衛本能?)

 

その膨大な霊力を扱う事が今の身体では無理だと判断しているのか、霊力を引き出すことが出来ないのでいるのだ。これは時間が経って横島さんの身体が出来上がらないと本格的な霊能力の覚醒は難しいかもしれない

 

(それか……竜気を分ければ……)

 

私の竜気を貸し与えれば、それを切っ掛けに横島さんの霊力が開放される可能性もありますが……私はここの管理人として特定の誰かに贔屓をする訳にはいかない……そう何か特別な理由でも無ければ竜気を与えることは許されていない

 

(割と好感を持てる人なんですけどね)

 

女好きみたいな事を言っていたけど、その癖どうも女性からは一歩引いて対応しているように思える。おキヌさんに汗を拭われたりするときに動揺している素振りを見せていて、それを見て思わず微笑ましい気持ちになってしまった

 

「横島さん……か」

 

ここまで修行者の事を考えることは今まで無かった。それになんでかあの人を見ているととても懐かしく、幸せな気分に……

 

「あ。あら?……今日は少し修行を頑張りすぎましたかね……」

 

急に眠気が襲ってきた、朝の稽古に、横島さんの修行にと少し頑張りすぎたかもしれない。湯船で眠るわけにも行かないので身体を拭いて着物に着替えた所で

 

「も、もう駄目……」

 

浴場の椅子に腰掛けると同時に私は意識を失ってしまったのだった……

 

しかし眠りに落ちたはずの小竜姫は直ぐに目を覚まし、手早く髪を整えて

 

「横島さん。今日は私と話をしましょうね」

 

さっきまでの呼び方と違い、親しみを込めた声色で横島の名前を呼び、嬉しそうに笑いながら浴場を後にするのだった……

 

 

なお横島が覗きをしなかった理由はと言うと

 

「あいたたた……身体が痛い」

 

瀕死の状態になっており、シズクの手当てを受けていたからである

 

「……あの馬鹿、もう少し手加減しろ」

 

朝から身体と霊力を使いすぎたことよる霊体痛と筋肉痛にくわえ、更に

 

「モグラちゃん?横島に遊んで欲しいのはわかるけど、もう少し手加減って物を覚えなさい。いいわね?」

 

「きゅー」

 

横島が訓練している間は遊んでもらえなかったモグラちゃんが訓練が終わると同時に横島へと突進した。モグラちゃんは止まろうとしたのだが止まる事が出来ずそのまま横島の背中に激突。横島はそのままの勢いで吹き飛ばされたのだ。その瞬間横島の脳裏には「モグラは急に止まれない」と言うワケの判らない言葉が浮かんでいたりする

 

「あー少し楽になった。ありがとなー」

 

さっきまで動く事が出来ないほどに身体が軋んでいたけど、シズクの手当てのおかげで大分動きやすくなった気がする。それに小竜姫様の稽古はすごく厳しかったが、今まで美神さんが教えてくれなかった、霊力の循環を良くするための座禅とかとか、家でも出来る基礎稽古を色々と教えて貰ったのは本当に良かったと思う

 

「……心配だから見ていて「はいはい。帰るわよー、シズク」

 

さりげなく残ろうとしたシズクは蛍に抱えられ強制退去。モグラちゃんは部屋の隅で丸くなり眠る準備。タマモは俺の枕元に自分の籠を引きずってきて寝る準備をして、チビは机の上で丸くなっていた……

 

「俺も寝るかあ」

 

横島もまた今日の稽古のハードさもあり、直ぐに布団に潜り込み眠りに落ちるのだった……

 

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その7へ続く

 

 




次回でやっとタイトルの危険な龍神様に触れていこうと思います。長かったですが、出すタイミングを間違えると大変なことになるので慎重になっていましたが、ちょっと慎重になりすぎたかもしれないですね。それでは次回の少し黒い小竜姫様を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです、今回は小竜姫様に視点を向けて書いて行こうと思っています。後少し老師も出してみようかなあっと思っています。そして可愛いモグラちゃんで〆にしようと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その7

 

「うう……重い……」

 

夕ご飯を食べて修行の疲れもあり、直ぐに眠ってしまったのだが妙に息苦しく、そして身体に掛かる鈍痛にも似た重さに目を覚まし、何が俺の上に乗っているのかを確認して思わず溜息を吐きながら

 

「モグラちゃん……」

 

完全に圧し掛かってはいないが、その前足が俺の腹に乗っている。それがこの圧迫感の原因だ……全身で圧し掛かってないだけ、まだ気を使ってくれたのかもしれないが充分重い。何とかもがいてモグラちゃんの前足から逃れる

 

「スプー……スプー」

 

気持ち良さそうに眠っているモグラちゃん。なんか随分と俺に懐いてくれてるけど……寝ている間に圧し掛かってくるのは止めて欲しい、下手したら内臓破裂しかねないから

 

(爺ちゃんは良いのか?モグラちゃん)

 

保護者である爺ちゃんの部屋に行かなくて良いのか?と苦笑しながら立ち上がる。変な時間に目が覚めてしまったのでこれから眠ろうと思えない……少し散歩してみるか、山の上だから空気が綺麗だから星とかが見えるかも

 

「っとその前にと……」

 

眠っているチビやタマモがしっかりと毛布を被っているか確認する。チビとタマモはちゃんと毛布に包まっていた……これなら心配ないな、後は襖を開けたときに風が吹き込まないように注意するだけだ。タマモはかなり神経質だから直ぐに起きてしまうのは今までのことで判っている

 

「うーさむっ!」

 

襖を開けると夜の山だから思ったよりも寒い。これならGジャンを着て来れば良かったなあと思いながら廊下を歩いていると

 

「あら?横島さん?どうしたんですか?」

 

着物の上に羽織を着ている小竜姫様にばったり会う。寝巻きなのか少し薄着で肌が見えていて思わずそこに目が行くと

 

「私に無礼を働くと仏罰が下りますよッ!」

 

「うひゃあ!?」

 

何か来ると思って咄嗟に前に踏み出してしまった。後ろに下がったら当たると思ったからだ……だけどそれは間違いだった

 

「ふおお♪」

 

前に踏み出した事で小竜姫様の胸元に手が向かってしまった。予想外の柔らかさに俺が顔を緩めていると

 

「仏罰が下るといったでしょう?」

 

穏やかな声なのに非常に重い声色に顔を上げると固く握られた拳が

 

「ふぎゃあ!?」

 

顔面を適確に打ち抜かれ、俺は顔を押さえて思わずその場でのた打ち回るのだった……

 

「いや、本当すいません。悪気はなかったっす」

 

「若いのだから色に気を取られるのも判りますが、そう言うのは抑えるべきですよ?横島さん。今回は許しますが……次はないですよ」

 

何度も何度も小竜姫様に謝ると小竜姫様は案外にも直ぐ許してくれて安堵する。その手には酒瓶が……えーと小竜姫様って案外酒好き?2本のからの一升瓶を見てなんて反応すれば良いのか判らず困惑していると

 

「あ、違いますからね?ロンさんと老師が月見酒をするからって言ってさっきまで飲んでたんですよ。2人とも酔いつぶれてしまいましたけどね。だからこれは後片付けなんですよ」

 

あーそっか。良かった良かった……いや、別に酒を飲んでいる人とかが嫌いとかの偏見はないけど……

 

「どうしてそんなに安心したような顔をしているんですか?」

 

小竜姫様の問い掛けに俺は少し考えてから

 

「いやー美神さんがかなり飲んで酔ってる姿を見たことありますし、それに親父もですしね」

 

酒は飲んでも呑まれるなとはよく言うけど、あんなによっている姿を見るのは正直なぁ……複雑な物がある

 

「そうですか。まぁ色々と悩み事もあるのでしょう。それで横島さんは何をしているのですか?蛍さん達の部屋に行くと言うなら私の神剣が黙っていませんよ。男女七歳にして席を同じにせずです」

 

俺ってどんな目で見られているんだろ?チビとかがいるからあんまり馬鹿なこととかしてないし、最近は覗きとかもしてないのになあ……もしかしておキヌちゃんとかが何か言ったのかな?と思いながら

 

「散歩っす。モグラちゃんの前足が腹に圧し掛かってきて、目が覚めちゃったもんで」

 

頬をかきながら言うと小竜姫様はそれでしたらと前置きしてから

 

「それでしたら私と話でもしますか?眠れないのならですけどね?」

 

その言葉に少しドキンとした。女性の部屋に入ったことなんてないし……むしろ夜に誘われるとかは

 

「いや、そう言うのは駄目だとおもうんですよね、うん。さっきの小竜姫様の言葉ですけど、男女七歳にして席を同じにせずじゃないんですかね?」

 

俺がそう言うと小竜姫様はおかしそうに笑いながら

 

「それもそうですね。では私の部屋の火鉢を廊下に出してそこで話をしましょうか?それならどうです?」

 

それなら良いかと思いじゃあ行きますと俺は小竜姫様に返事を返し、妙神山の長い廊下を小竜姫様と並んで歩き出すのだった

 

「ほっほーう?小竜姫が動いたぞ?」

 

「かっかか!漸くか!あの堅物がどう動くか楽しみじゃのう!」

 

なお老師とロンは酔いつぶれてなどおらず、小竜姫に新しい酒をと頼んだが、それよりも自分の感情を優先した姿を見ておかしそうに笑いながら

 

「「じゃんけんぽん!」」

 

「ぬあ!?

 

「カかカーッ!ワシの勝ちじゃ!ほれほれ!早く酒瓶を取って来い!」

 

「ぬう!つまみを全部食うでないぞ!小竜姫に新しく作らせることはできないのだからな!」

 

そしてジャンケンで負けたロンは慌てて岩を降りて酒蔵へと走るのだった。残された老師は

 

「未来の意志か。どうなるか楽しみじゃなあ」

 

若干酔いが回っているのか、その顔を赤くしながら徳利に注いだ日本酒を煽るのだった……

 

 

 

 

 

私の知っている横島さんよりもかなり真面目な返答をしたことに少しだけ驚き、直ぐに納得した。横島さんはああ見えて、とても誠実で真面目な人だ。来ても良いと言っても女性の部屋に足を踏み入れるようなことはしない……

 

(あれ?昔美神さんが部屋に侵入されたって言ってたような……それにお風呂の覗きも……)

 

少し考え込んでいると、思い浮かぶのはシズクとかチビなどのあの時には居なかった存在の事。彼らが何か横島さんに影響を与えているのかな?と思っていると

 

「この火鉢って言うのはいいですねー。暖かいです」

 

火鉢に手を伸ばしてほにゃらと笑う横島さん。私も火鉢に手を伸ばしながら

 

「そうですよね。暖かくて気持ちいいですよね」

 

こうして暖を取るには火鉢と言うのは凄く便利なんですよねと言いながら

 

「今日の修行はつい熱が入りすぎてしまって、すいませんでした」

 

「?なんで謝るんですか?」

 

不思議そうに首を傾げている横島さん。私は知っているのだ、横島さんが霊力に目覚めるにはまだ足りないのだ。韋駄天「ハチベエ」と私が竜気を授ける事、それが横島さんの霊能力の始まり。つまりそれがおきるまでは横島さんの膨大な潜在霊力が解放されることはないのだ。どうして謝られたのか判ってない様子の横島さんに

 

「焦りすぎた事ですね。横島さんの潜在霊力は美神さんよりも強大です。それを直ぐに引き出すことが出来ないと判っているのに……焦って無理な訓練をさせてしまったことを謝りたいと思っていたのです。明日の昼間には横島さんも俗世に帰られますから」

 

そうあの時は私が暴走して妙神山を破壊してしまった。でもそれがなかったからこうしてゆっくり話す時間があった。とは言えまだ今の私に長時間の干渉は出来ないのでこんな時間になってしまった。出来ればもっと早くに話をしたかったのに……

 

「いやいや?小竜姫様が謝ることじゃ無いと思いますよ。俺としては早く霊力を使えるようになりたいって言うので無理にお願いした所もありますしね」

 

頭をかきながら笑う横島さん。その笑顔は私の知っている横島さんと同じで安心する、だけどそれと同時に少しだけ自己嫌悪に陥る。私が私の知って居る横島さんの姿を今の横島さんに重ねて見ているようで……それでは今の横島さんを蔑ろにしているのでは?と思ってしまう時がある

 

「なんか考え事ですか?まぁ俺に相談しても何にもならないと思うっすけど話くらいは聞きますよ?」

 

そう笑ってくれる横島さんにいっそ全てを話してしまいたいと思ってしまった。だけどそれは最高指導者から禁止されていることの1つなので話す事は出来ない

 

「いえいえ。最近修行者が少ないなあって思っているんですよ」

 

咄嗟にそう嘘を言うと横島さんは大変なんですねー神様もって笑う。その笑顔につられて大変なんですよ、神様もって言って笑う。

寒い夜だけど穏やかな時間が流れているのを感じてとても心が休まる時間だ

 

(でも見られてますよね)

 

人の気配を感じる。老師とロンさんは仕方ないと割り切りますが、更にもう1つの視線を感じる……多分蛍さんかおキヌさんだと思う。誰も居ない時間にこうしてくるということはその2人の事しか思いつかない

 

「しっかし折角修行をつけてくれたのに全然上達しないっすねー俺。才能ないのかなあ……」

 

はぁっと深い溜息を吐く横島さん。前の時よりも向上心が強いからそう言うことを気にしてしまっているのかもしれない、だけど横島さんの潜在霊力は何度も言うが膨大だ。それこそ下級の神魔族に匹敵するほどには……

 

「大丈夫ですよ、横島さん。焦らないでください、霊能力の覚醒には時間が掛かることが多いのですから」

 

これは嘘ではない、潜在的に霊能力を持っていたとしてもそれが覚醒する事無く死ぬ人だって居るのですから

 

「そう言う物っすかねー……でもまぁ少し楽になりました。ありがとうございます。小竜姫様」

 

そう笑う横島さん。本当はもう少し話をして居たいですが、私を見つめている視線がどんどん強くなっているので名残惜しいですがここで終わりにしましょうか

 

「明日下山するのですから、もう休んだ方がいいですよ。疲れてしまいますからね」

 

「うっす!じゃあお休みなさい!」

 

自分の部屋に向かって歩いていく横島さんの姿が見えなくなってから、火鉢に新しい炭を入れながら

 

「そんな所に居ては身体が冷えますよ?話があるならこっちへ来てください……蛍さん」

 

ゆっくりと姿を見せる蛍さんはそのまま私の隣に座って、火鉢に手を伸ばす

 

「それで何の用ですか?」

 

話の内容は判っている。だけど業ととぼけながら尋ねると蛍さんは

 

「魂が安定してないんでしょう?大丈夫なの?」

 

その単刀直入の話の切り出し方は美神さんに似ているなあと苦笑する。ルシオラさんでもなく、蛍ちゃんでもなく、蛍さんなんですねと納得しながら火鉢を掴んで

 

「どうぞ中へ、美神さん達に聞かれては困るでしょうからお互いに」

 

部屋の中に蛍さんを招き入れ、誰にも話を聞かれないように結界を張ったのだった……そして私と蛍さんはお互いの今の状況の話をしたのだった……

 

 

 

「短い時間だったけどありがとね。小竜姫様」

 

門の前まで態々見送りに来てくれた小竜姫様にお礼を言う。目的としていた横島君の霊能力の開眼は無理だったけど、神族からしても横島君の潜在霊力が膨大と言うのが判った。それなら横島君の霊力が目覚めない理由としても納得できる、焦らず時を待つしかないのだと

 

「あまりお力になれなくて申し訳ないです。しかし美神さん。貴女の弟子はきっとそのうち世界有数の霊能力者になるでしょう」

 

神族からここまで言われるなんてね……これは本腰を入れて面倒を見たほうがいいかも

 

「うきゅー!うきゅうううう!!!」

 

「だあああ!モグラちゃん!駄目だって!俺帰らないと!」

 

「うきゅうう!うきゅうう!!!」

 

横島君はモグラちゃんに服をつかまれて動けないで居る。物凄く懐かれているのね……

 

「モグラちゃん。また来るからね?横島を放してあげて?」

 

蛍ちゃんが優しくモグラちゃんに言うがモグラちゃんは嫌々と言う感じで首を振っている。図体は大きいけど子供らしいその素振りに笑みが零れる

 

「これこれ。困らせては行かんぞ?小さくなれるようになればついていっても構わぬが、今はそれが出来ぬのだから」

 

ロンに諭されて横島君の服を放すけど寂しそうに横島君を見つめている

 

【モグラちゃん、随分と横島さんに懐いていますね】

 

「まぁ小さくなれるならついてきても良いんだけどね。私としては」

 

竜気を持つモグラちゃんは妖怪としては破格の能力を持っていると言えるだろう。それに横島君を乗せて走り回っていた所から体力と機動力も充分。だけどあんな巨体を街に連れて行くことは出来ない

 

「んー良し!モグラちゃんおいで」

 

その寂しそうな視線に耐えかねたのか横島君がモグラちゃんを呼び寄せる。嬉しそうに尻尾を振りながら横島君のところに駆け寄るモグラちゃん。連れて帰るとか言ったらとりあえずしばきましょう。本当にこれ以上保護妖怪が増えると私も大変だから……今ばたついている琉璃に頼み込むのも限界があるし

 

「ほら、これをあげるからな?また今度会いに来るまではこれを大事にしていてくれよ?それか会いにきてくれる時にちゃんとつけて来てくれよ」

 

自分の髪を縛っていたバンダナを外してモグラちゃんの頭の辺りに結んでいる。リボンのように器用に結ばれたバンダナを見て

 

「うきゅ!うきゅきゅー♪」

 

前足を振って喜んでいるモグラちゃんの頭を撫でた横島君はしゃがみ込んで

 

「じゃあまたな、モグラちゃん」

 

横島君の言葉に別れを言われているのだと理解したモグラちゃんは寂しそうに俯いてから

 

「むきゅ」

 

寂しそうな鳴声で一言鳴くとその前足で地面を掘って地面の中へと潜って行った。それを見たロンは

 

「あの子はまだ幼いのでな、また時間があれば会いに来てくれると助かる」

 

「うっす!何時これるか判りませんが、今度また会いに来ますね」

 

そう笑って私の方に歩いてくる横島君にシズクが

 

「……あれは絶対修行して小さくなって会いに来ると思う」

 

シズクの言ってる事は私も判る。竜族は力も強いが、それ以上に情が深い。何が合っても会いに来ると思う

 

「まぁそれならそれでもいいっすけどね。今更増えても気にならないですし」

 

タマモとチビを見て笑う、いやまぁ良いけど……あんまり妖怪を増やし過ぎないように注意しないと保護妖怪の制度と言っても限界があるので、これ以上増やしすぎると流石に私でも擁護できない

 

「じゃあ、また来てくださいね。皆さん」

 

そう笑って手を振る小竜姫様に手を振り返し、私達は妙神山を後にしたのだった……

 

「ワン!」

 

「キュウ!」

 

「クウ!」

 

「ガウガウ!」

 

なお帰り道で大量の妖怪の子供などが出てきて鳴いている。横島君はその動物の一団の中に何かを見つけたのか

 

「ちょっと待っててください」

 

そう言って離れていく横島君を見ていると、横島君は1匹のイタチの前に座り込む

 

「ありがとなーイタチちゃん。イタチちゃんが居たからクロさんを助けれたよ」

 

「みゅー♪」

 

嬉しそうに尻尾を振っているイタチちゃんの頭を撫でる横島君は穏やかな笑みを浮かべながら

 

「またあいに来るな?」

 

「みゅ!」

 

もう1度イタチの頭を撫でて戻って来た横島君に

 

「あのイタチは?」

 

「美神さんとはぐれている時にあったんですよ。あの子が天狗の所まで案内してくれたんですよ」

 

天狗の所まで……と言う事はあのイタチも普通のイタチではなく、何かの妖怪なのかもしれないわね

 

「所で美神さん……何か連れて帰ってもいいっすか?」

 

「ワン!」

 

「キュウ!」

 

「クウ!」

 

「ガウガウ!」

 

連れてって、連れてってと鳴く妖怪の一団を見てそう尋ねてくる横島君。悪いけど、これ以上私の事務所を妖怪とかのたまり場にするわけには行かないので

 

「「「駄目!」」」

 

私と蛍ちゃんとシズクとおキヌちゃんの声が重なるのだった。なおその妖怪達は霊山の終わりまでついてきて、何度も何度も振り返る横島君に怒るのに精神的に疲れ果ててしまうのだった……なお白い毛の一部に赤い毛が混じった子犬の様な姿をした狼がずっと追いかけてきて鳴き続けていたのがどうも私の記憶に残るのだった……

 

なおその白い犬はシロで鳴きまくっていたのはタマモに文句を言っていたからで

 

「ワオーン(裏切り者ーーー!!)ワンワン!!(拙者も先生と一緒にイイイ!)」

 

「コン……(ごめん、シロ)」

 

その悲壮そうな鳴声にタマモは申し訳なさそうに小さくそう鳴き。結局シロは連れて帰られることは無く、とぼとぼと人狼の里へと帰っていくのだった……

 

「シロ!まだ病み上がりと言うのにどこに行っておったのだ!父は心配したぞ!!!」

 

「きゃうーん(申し訳ありませぬ!父上ーッ!!!)」

 

戻ると同時にクロに説教をされて犬の姿のまま涙を流すシロだったりする……

 

 

 

 

 

 

 

横島が妖怪の子供に纏わりつかれている頃東京では

 

「くひ♪面白い、面白いなあ」

 

閉じていた目を開く、ボクの脳裏には妙神山の件がしっかりと映っていた。まさかあのお堅い竜神までも横島を気に掛けるなんて思ってなかった

 

「あー♪実に面白いネエ」

 

引き出しからいくつもの錠剤を取り出してそれを噛み砕きながら笑う。楽しくて楽しくて仕方ない、こんなにも見ていて飽きない存在をボクは知らない

 

「くえすも何回も美神除霊事務所に足を向けてたみたいだし……くひ♪」

 

GSの研修制度を使って自分の事務所に横島を呼ぼうとしていた。その為だけに初めて自分の事務所を開いた、結局横島も美神も修行でいなくてがっくりした様子で帰り。そして何で自分ががっかりしているのか理解出来ず、不機嫌その物で歩いているのも見てそこで更に笑ってしまった……こんなにもボクが1人の人間に興味を持ったのは初めてだ

 

「くふ?」

 

また別の映像が頭を過ぎる、それは横島の学校にボクと横島が向かっている映像だった……ただしそこまででそこから先の映像を見ることは出来なかった。ボクと横島の接点なんかないのに……

 

「面白そうだねえ……うん。たまには出掛けて見ようかなあ……」

 

こうして1日未来予知を見て暇つぶしをしているのも楽しいけど、ボクと横島の接点が生まれる機会だとすれば、折角なのだから干渉してみても面白いかもしれない

 

「うん、決めた。会って見よう」

 

こうして見ているのも面白いけど、やっぱり生で見たほうがもっと面白い。丁度なにか依頼が来そうな気がしているし、それに最近ちょっと手持ちの資金が減ってきている事だし、ボクも依頼を受ける事にした。どうせ簡単な依頼だし、それが横島との接点になるのだから

 

「くひ♪ボクを飽きさせないでおくれよ。横島忠夫……」

 

またぽわぽわと頭の中がぼんやりしてくる心地よさに身をゆだね、今度の依頼の連絡が来るのを楽しみに待つのだった……だけど依頼などは無く、全く予想だにしない事でボクと横島の接点が生まれるのだった……

 

 

 

「もう嫌だ……もうおしまいだ」

 

「お気を確かに!アシュタロス様!!!」

 

なおそのころアシュタロスはどんどん増えていくトトカルチョの参加者の名前の数々に完全に追い詰められていた

 

「もう駄目だ……早く逃げるんだぁ……」

 

どこかの野菜の王子のようなことを呟き、魂がどこかに飛んでしまったようなアシュタロスを見て、土偶羅魔具羅は

 

「ワシが何とかいたします」

 

覚悟を決めた表情で、玄関ホールで蛍を待ち構えるのだった

 

土偶羅魔具羅 1度目のボデイ消滅まで、あと……49分……

 

 

別件リポート 芦優太郎の捜査録 その1へ続く

 

 




次回は別件リポート「芦優太郎の捜査録」です。過激派魔族・神族の捜査に吸血鬼の夜で謎のままになっている事をメインに書いていこうと思います。アシュタロスがどんな事を考えて行動しているのか?そこを上手く表現出来たらなあと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート 

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「芦優太郎の捜査録」って事で優太郎がリポートの間にある事件の裏を調べていくのを書いていこうと思います。これは大きな物語の後にその補足として入れて行こうと思います。かなりの独自解釈などを含む「世界線」や「修正力」の話もありますが、こういう考察も出来るな程度に思っていただければ幸いです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート 芦優太郎の捜査録

 

~何故知らない人間ばかりが増えるのか?~

 

薄暗い部屋の中でキーボードを叩き続ける……一息入れる為にマグカップに手を伸ばしコーヒーを1口含む。普段は砂糖1つとミルクを入れるのだが、今は眠気醒ましと集中力を高めるためにブラックコーヒーだ。

 

(ふう……大分確証が掴めて来たね)

 

砂糖の入っていないコーヒーの苦味に少しだけ眉を顰めて、背もたれに深く腰掛け溜息を吐く……長い事調べ続けて漸く確信が持てた。私が調べていたのは「神宮寺くえす」「夜光院柩」「神代琉璃」前回の歴史に存在しなかった人物が何故この世界に存在しているのか?である。少しの変化なら多少の差異と割り切れるが、ここまでイレギュラーが続くとなにか別の理由があるのでは?と考えたのだ。そして私の考えは当たっていた、しかも最悪の結果として

 

「世界線が揺らいでいる……か……これは不味いね」

 

この世界は魔神大戦……いや、私芦優太郎事アシュタロスが自分が死ぬ為に起こした「神界」「魔界」「人間界」を巻き込んだ。壮大な自殺劇だった……まぁそれはどうでも良い、今私は救いを得ているのだから魔神大戦を起こそうなんて考えてはいない。今私が考えているのは蛍の幸せそれだけだ……その為には何としても横島君の女難体質をなんとかしないといけない、一体どうすれば良いのだろうか?っと話が逸れたな……世界線。それは言葉にすれば陳腐な物だが、魔神や神と呼ばれる者にとっては最も警戒しなければならない物の1つだ。世界の修正力と同格かそれ以上に厄介な物が世界線……

 

そう、例えばの話だが……

 

神宮寺くえすの先祖がその血に流れる魔力に負けて、魔族として先祖返りすれば神宮寺くえすは当然生まれない

 

夜光院の一族が持つ「未来視」等の特殊能力。しかしそれは人間の脳を圧迫する。その一族の誰かが狂えば「夜光院」の一族はその能力を危険視されて時の権力者に殺害されるだろう

 

神代幽夜が神代琉璃を幽閉するという道ではなく、殺害すると言う道を選らば当然神代琉璃は存在しない

 

例を上げれば切が無い様々なIF。平行世界とはそう言うものだ。私の本願が叶い死ぬことが出来た世界もあれば、もう1つの目的である「神族」と「魔族」の立場の逆転……世界とは木の枝とその葉に例えられる事がある、つまりある大本の世界が幹であり、その葉が無数の分岐で生まれた世界。では枝が何か?それは「世界線」と呼ばれる物だ。世界線とはすなわち「平行世界」同士を繋ぐ物……世界を木に例えるなら木の枝に当たる部分だ。つまり極論を言えば、だが魔神大戦のあった世界でも「神宮寺くえす」や「神代琉璃」が存在した可能性はあるのだ、ただそう……奇跡的な確率でその存在した・しないに分かれる。恐らく魔神大戦のあった世界では「存在しない」と言うことになり、それに伴い「神宮寺」の家系や「神代家」が修正力によって消去された。修正力は世界の矛盾を認めないからだ、では何故この世界ではその矛盾が認められているのか?それは

 

「修正力が修正しきれないほどの矛盾が生まれているから」

 

その可能性に思い当たった時。何かがきっちりと嵌まったような感じがした。修正力でも修正しきれないほどの矛盾……そうなれば答えは1つ。この世界は1つの世界ではなく、複数の世界が繋がっている可能性だ。しかもそれは互いが行き来できるような繋がりではなく、ほんの少しの情報同士が行き来する程度の小さな穴だ。それでもその穴は存在している、そしてその穴から異なる世界の情報がこの世界に入り続けているからこそ、世界はこの矛盾を認めている……

 

「世界線の歪みの修正は……恐らく不可能」

 

どのレベルで歪んでいるかは判らないが、恐らく修正力が修正しきれないと考えると1つや2つではないはずだ……しかしそれだけの世界を歪めることが出来る存在となると神族・魔族でもその数は限られる……

 

「誰だ。誰が世界を歪めている……かつての同胞達よ……」

 

脳裏に浮かぶのは71人の魔神達の姿。かつて同胞とし、共にソロモン王に従っていた者達……世界線を歪めるような真似が出来るのは私の同胞たる「ソロモン72柱」しか無いと確信していた。ムルムルやネビロスに聞いたが、今は互いに連絡を取るような真似をしておらず、誰がどこにいるかも判らない、72の中から特定の魔神だけを絞り込むには情報が足りない……

 

「今出来るのは最高指導者に連絡する事だけか……」

 

コスモプロセッサも宇宙卵も蛍が来る前に既に製作が完了しており、今は封印処理をしているが、それが破られないと言い切ることが出来ない。現に過激派魔族が渡せと来た事もある、まぁその魔族は丁寧に魔界にお帰り願ったが……

 

「今思うとどうしてあんなものを作ってしまったのやら……」

 

私は未だに過激派魔族として思われている。だからこそ魔界の情報を得ることが出来るのだが、やはり手に出来る情報は限られる。むしろどんな風に世界を破壊するつもりだ?と聞かれる始末でほかの魔族の動向を知ることが出来ない

 

「やはり部下が欲しい……」

 

作り上げた「世界線の歪み」に対するリポートを直接最高指導者の元に送りながらそう呟く。適度な力を持ち、魔族の中でも顔が広く、私の目的に賛同してくれる魔族。そんな条件を満たすのは1人しかいない

 

「メドーサ……早く記憶を取り戻してくれ……手遅れになる前に」

 

今ならまだ何とかなる。メドーサが記憶を取り戻して、他の魔族の作戦を調べてくれれば……まだなんとか出来る可能性がある。最近は逆行記憶の影響が大きいのか、録に行動できず、私の宮殿で休んでいることが多い。それが記憶の蘇る前兆だと考えると、もう少しで記憶を取り戻すはずだ。今は悔しいが後手後手に回ってしまっている。このままではかつての魔神大戦と同じ結末……いや、もっと酷い事になりかねない。だが今なら何とか出来るかもしれない……だからこそメドーサが記憶を取り戻す事を祈らずには居られないのだった……

 

 

 

~ブラドーに取り憑いた悪魔の謎~

 

私はその日ある場所に訪れていた。そこは唐巣神父の教会……先日ブラドー島で戦った魔族の魔力の分析をしていて、その魔族の特性と魔力のパターンを調べある一体の魔族にたどり着いたのだ。そしてその当事者の1人に会って話を聞こうと思い私はこうして唐巣神父の教会を訪れたのだ

 

「良くいらっしゃってくれました。芦さん」

 

笑顔で私を出迎えてくれた唐巣さんに小さく頭を下げる。今日の午前中にも除霊をして疲れているはずなのに笑顔で出迎えてくれたことに感謝し、少しの間世間話をしてから本題を切り出す事した

 

「ブラドー島の魔族の事を蛍に聞きました。唐巣さん……貴方はその魔族の事を知っているのではないですか?」

 

ピクリと眉を動かした唐巣さん。やはり知っていたか……でも敢えてそれを口にしなかったのはきっと美神君を考慮したからだと推測している

 

「正式な除霊記録にはありませんでしたから調べるのに苦労しました、美神君の母親に取り憑いていた魔族ではないのですか?」

 

私が畳み掛けるように言うと唐巣さんは溜息を吐きながら、美神君には秘密でお願いしますと前置きしてから

 

「……確かにその通りです。美神君の母親「美智恵」君に取り憑いていた魔族チューブラーベルがブラドーに憑依していたと思います。ですがそれはおかしいのです」

 

きっぱりと言い切った唐巣さん。ここまで言い切ることが出来るのは何か理由があると思い、その確信の理由を尋ねることにした

 

「おかしい……とは?」

 

私がそう尋ねると唐巣さんはそのときの事件のあらましを教えてくれた。

 

美神君の母親である美神美智恵に取り憑いていた魔族は父親の「公彦氏」の力を奪い、実体化するほどの力を得たが、それが災いし美神美智恵によって除霊。魔力の大半と霊核の半分を失い魔界に強制的に送り返された、唐巣さんの説明を聞いて私は眉を顰めた

 

「悪魔学に詳しい芦さんならば判ると思いますが、霊核を損傷しているチューブラーベルには人間は愚か、動物にすら憑依出来る力は残ってないはずなんですよ。とてもではないですが、ブラドーに憑依出来るとは思えないのです」

 

確かにその通りだろう。霊核を損傷したとなればよほどの高位の神魔族で無ければ、2度と元の力を手にすることは無いだろう……チューブラーベルは良くて中級の魔族だ。霊核を損傷して回復出来る様な魔族ではない……

 

(それに確かチューブラーベルは魔界正規軍でその寄生に対抗する手段を解析されたはずだ)

 

元々チューブラーベルは希少種に分類される魔族だ。自分の身体を持たず、精神寄生と言う極めて珍しい魔族だ。魔族と言えば強靭な身体と魔力を持つことが特徴だ。自分の身体を持たない魔族自体極めて稀少だ……チューブラーベルは精神寄生と言う能力を最大限に利用して、他の魔族に寄生し、犯罪を犯し自分は逃げるということを繰り返していた。だからこそ魔界正規軍がその寄生能力について解析し、チューブラーベルが魔族に寄生出来ないように対策を取った。だから人間界に逃げ、そこで美神美智恵に取り憑いたのだろう……結局それで自分の能力の大半を失っているのだから何の意味もないが……

 

「考えられるのは霊核の損傷を補うことが出来る何かを手にしたと言う可能性なんですが……」

 

「その可能性も窮めて低いですね」

 

霊核の損傷を補えるような物質は殆ど無い。もしあったとしてもよほど高位の神魔族の所有物であることが多い……チューブラーベルが持てるような物ではない筈だ。そもそもこの私でも持っていない稀少な物だ……最上位に数えられる魔神でも持つことの出来ない稀少な物を中位魔族程度のチューブラーベルに分け与えるような魔族はいないだろう……

 

「ではブラドー島で言わなかったのはやはり美神さんの事を考えて?」

 

私がそう尋ねると唐巣さんは首を振りながら

 

「彼女はまだチューブラーベルの事を知りませんから……特殊な魔族が取り憑いたとは話しましたが、その情報だけでチューブラーベルにはたどり着けないでしょう」

 

では唐巣さんがブラドー島に向かったのは、ピート君から話を聞いてもしやと思ったからですか?と尋ねると

 

「その通りです、チューブラーベルではありえないと判断したからです。そもそも私がブラドー島に向かったのは、万に一つの可能性を考えての事でしたしね。まさかチューブラーベルとは思っても居ませんでしたが……しかし向こうが気づかなかったのはやはり髪なのかな?」

 

酷く落ち込んだ様子で自分の髪を撫でる唐巣さん。こればっかりは私では何も出来ないので何も言うことは出来ない。しかし若い時はもっとふさふさだったのだろうか?もしそうなら毛生え薬でも開発することを真剣に考えるのだった……

 

「お忙しい中どうもありがとうございました」

 

「いえいえ。またいつでもいらっしゃってください」

 

午後からも除霊があると言う唐巣さんに礼を言って教会を後にする。そしてビルへと向かいながら

 

(霊核を失った中位の悪魔が始祖の吸血鬼を操る……これはどう考えても不可能だ)

 

始祖の吸血鬼。それは既に上位の神魔族と同格かそれ以上だ。いくら自己封印で眠っていたとは言え防衛本能は生きている、つまりチューブラーベルが取り憑ける可能性は0%だ。仮に取り憑く事が出来たとしてもその魔力で吹き飛ばされて終わりのはずだ……何か魔族の力を上昇させる何かが出回っている?ゆっくりと歩きながらチューブラーベルがどうやってブラドーに取り憑けたのか?を考えていると

 

「こんにちわ。芦優太郎さん?いえ……こう呼びましょうか?アシュタロス」

 

突然背後から聞こえてきた声。この声は……どうしてここに?様々な疑問が頭の中を過ぎる中。向こうに敵意が無いのは判っているので私も笑いながら振り返り

 

「どうも美神美智恵さん、それとアシュタロスと呼ばれるのは好きではないので、芦か優太郎とでも呼んでください」

 

トレンチコートを着込んでいる女性……いや、美神美智恵に表面上は笑いながら、心の中でお互いの事を警戒しながらそう呟くのだった……

 

 

 

~美神美智恵との出会い~

 

駅前の喫茶店でお互いに向かい合いながら、話を切り出すタイミングを窺う。その表情は柔らかい物で、かつて私が対峙した時の表情よりも更に柔らかい……美神の家は時間跳躍の能力を持つ者が生まれる。ではこの美神美智恵は何処かの時間軸からこの時間軸へ移動してきたのか?ではもしそうなるならどうやって?最高指導者が逆行は禁止しているはずなのに……

 

「娘さんはお元気?それとも私の孫が?って聞くべき?」

 

笑顔を浮かべながら尋ねてくる美神美智恵。その言葉にこの美神美智恵は蛍が逆行してきた時間軸の美神美智恵だと確信する。

 

「どうやってこの世界へ?」

 

私がそう尋ねると美神美智恵は小さく首を傾げながら

 

「んー事故に近いかも?と言うか私もあんまり理解してないんだけど……」

 

そう前置きしてから逆行してきた時の話をし始める。オカルトGメンに新しい霊能シュミレーターを起動させた時に偶然そのシュミレーターがショートして膨大な電力が逆流してきて、気がつけばこの時間軸に居たと……

 

「故意ではなかったっと……」

 

「私自身は逆行するつもりは無かったんだけどね。こうして逆行してきたのは何か意味があるのかなあって……だから貴方を探してたのよ」

 

そう笑う美神美智恵。逆行してきた意味……確かにこのタイミングでの逆行には何か意味があるのかもしれない……それこそ最高指導者がこの逆行に関与した可能性もある

 

(もしそうならば……彼女は頼もしい味方になる)

 

私と同じ結末を知っていて、彼女は人間社会に強いパイプを持っている……もしも、チューブラーベルに霊核を修復する力を持った何かを与えた魔族が人間が操ろうとしているとしたら……?その情報は当然私が手にすることが出来ない情報だ

 

「……かなりの数のイレギュラーが起きています。もしかすると前の物よりも酷い魔神大戦が起きるかもしれません」

 

今の段階でもかなりの数のイレギュラーが起きている。それに私以外のソロモンの魔神がかなりの数動いている可能性があると言うと

 

「へえ?」

 

穏やかな表情だった美神美智恵の瞳に鋭い光が宿る。人間など恐れるに足りない魔神たる私だが、若干の恐怖を感じる。この美神美智恵と言う女性は目的のためなら何でもする。それは前の歴史でも知っている、敵にするには恐ろしいが味方に出来るのならこれ以上頼もしい相手はいないだろう

 

「詳しく話を聞きましょうか」

 

「そう言って貰えると思ってましたよ」

 

私は直ぐに返事が貰えると判っていた。魔神大戦のキーとなるのは「横島君」「美神さん」の2人だ。これは恐らくどれだけ歴史が変わっても変わる事が無い事だ。それは美神美智恵も知っている事だ、だからこそ直ぐに協力を得れると確信していた。会計を済ませ、私の拠点に案内すると

 

「こんな近くだったの?」

 

信じられないという感じで呟く、美神美智恵に笑いながら

 

「ええ。灯台下暗しって言うでしょう?」

 

まさか魔神アシュタロスの拠点が東京の立地の良いビルの中にあるとは誰も思うまい。驚いている美神美智恵をビルの中に案内し、私が調べた前回と今の差異を纏めたリポートを手渡すと直ぐに目を通し始め

 

「チューブラーベルがね……これは確かにおかしいわね。私はちゃんとあいつの霊核を砕いたはずだもの……」

 

凄まじいスピードでリポートを読んでいる美神美智恵はリポートを読む姿勢のまま

 

「私がやるのは人間側ね?」

 

私ではどうやっても調べる事が出来ない人間側の情報。それを入手出来るのは、人脈があり、各国の権力者とも交流の深い人物でなければならない。その条件を満たすのは目の前に居る美神美智恵意外ありえない

 

「ええ、お願いします。魔族の力を強化する何か……人間なら確実にその傀儡になる」

 

仮に魔族を強化する何かがあるなら、それを人間に持たせるだけで正気を失い。その物質に操られるだろう、そうなれば私達はますます後手に回らずを得ない。それを回避するには操られている可能性のある人間の特定をしなければならないならない。美神美智恵はそのリポートを鞄の中にしまい

 

「じゃあ、早速調べてくるわ」

 

私の返事も聞かず出て行くその後姿に思わず苦笑する。こういう行動の早い所はやはり親子と言うところだろうか?とりあえず頼りに成る仲間が増えた事に笑みを零し、私は魔族の魔力を増幅させる何かが魔界で流通していないかを調べ始めるのだった……

 

 

 




リポート15 予知探偵と見習いGS その1へ続く

次回は愛子を出して行こうと思っています。それと柩と横島の顔合わせとかも書いていこうと思っています、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話は愛子の登場する教室漂流を含めて、少し小話集みたいな感じにしたいと思っています

おまひまの柩も搦め手行こうと思っています。


リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その1

 

「あー今日も家に帰れないのかなあ」

 

深く溜息を吐きながら机の上の書類の山を見る。毎日協会の仮眠室に泊り込んでずっと書類整理をしているが、GS協会の再建や、叔父さんのリストにはあったが、社会的に地位があり上手く逃げられてしまった大物の政治家達の犯罪を証明する方法など考えることは山ほどある。しかも毎日増え続けるから終わる気配がない、そしてまた仮眠室に泊り込み疲れるという悪循環に完全に私は捕まっていた

 

(横島君の所の保護妖怪のこともあるしなぁ)

 

安全だというのは判っているけど、それでも一応制度的な問題で1度視察に行かないといけないなあと考え事をしていると、こんこんと扉を叩く音が聞こえる。また書類の追加かなあと思いながらどうぞと言う。扉が開き姿を見せたのは職員ではなく

 

「どう?捗っている?」

 

仕事の帰りなのか少しだけ汚れた服装で姿を見せた美神さんに少しだけ驚きながらも、仕事の帰りだから直接報酬を貰いに来たのかな?と思いながら

 

「どうも美神さん、お久しぶりです。今日は仕事帰りですか?」

 

「まぁそんな所ね?割と簡単な仕事だけど蛍ちゃんに経験を積ませる為にとった仕事よ」

 

そう笑う美神さん。確かに蛍ちゃんは若いけどかなり才能のあるGSだと思う、勿論横島君もそうだけど……まだまだGSと呼ぶレベルではないので早く霊力が覚醒すると良いわね

 

「それで今日は何の御用ですか?」

 

アポも無しに私の部屋に尋ねてきた美神さん、何か特別な用事でもあるのかな?と思いながら尋ねると

 

「いつまでも缶詰じゃ気がめいるかなと思ってね?話を聞きに来たのよ」

 

そう笑って私の椅子の前に座る美神さん。最近は気の休まることも無かったし、こうして態々尋ねてきてくれたのは嬉しい。

 

「気遣いどうもありがとうございます。お茶で良いですか?」

 

私が用意するわよ?と言う美神さんに気分転換に良いんですよと呟き、私は椅子から立ち上がるのだった。書類整理を手伝ってくれるという美神さんに簡単な書類だけを渡して、私だけじゃ無いと無理な書類の山を見ていると……思わず深い溜息を吐いてしまう。黒坂の事件の遺族との話し合いとかもあるし、GS試験のこともあるし……また絶対徹夜コースだ

 

「随分と疲れてるみたいね?今度の休みに家に来なさいよ?街で何か奢って上げるわよ?」

 

「……何時になるか判りませんけどね」

 

その気遣いは嬉しいけど、休みが何時になるのか判らないんですよ?と呟きながら、あははっと私が乾いた笑い声を上げていると美神さんが

 

「琉璃。そんなに厳しいの?今のGS協会」

 

私は紅茶のお代わりをカップに注ぎながら背もたれに背中を預けて

 

「唐巣神父と冥華おば様が手伝ってくれてるけど厳しいですよ……本当に」

 

幽夜叔父さんの残してくれた資料のおかげで上層部は一掃し、新しい体勢になろうとしているが、天下りってやつで別の場所で再起しようとしている連中が多すぎる。しかもその大半が除霊具の販売に関係する会社なので今のGS協会には備蓄されていた除霊具しかなく、満足に若手を育てることも出来ていない……そしてそこを若い私のせいにしてたたきに来ているのだと説明すると

 

「ふーん。じゃあ琉璃、いくら出せる?」

 

「はい?」

 

何を言われたのか理解出来ず思わず訪ね返すと美神さんは悪い顔をして

 

「あいつらのせいで何人死んだ?10や20じゃ聞かないわよ?それを幽夜と黒坂の所為にして罪を逃れた連中。そんなのが我が物顔でいるの間違ってない?」

 

「エミさんですか?」

 

正解と笑う美神さん、バレれば私も美神さんも危ない。だけどこれが一番良い道なのかもしれない

 

「それにタマモは幻術得意よ?ええ、なんせあの九尾の狐ですもの」

 

私は無言で指を2本美神さんに向ける。個人的な資産の問題で出せるのは指2本だというと

 

「20万ね。OK」

 

あ、あれ?200万のつもりだったのに?私が驚いていると美神さんはその長い髪を翻しながら

 

「私に任せておきなさい。全部解決してあげるわ、その代わり……今度のGS試験の時はよろしく♪」

 

ウィンクをして部屋を出て行く美神さんの背中を見ながら

 

「あーあの人には勝てないなあ……」

 

どうも腹の探りあいでは私はあの人には勝てないとおもう。だからずっと美神さんには味方でいて欲しいなあと思いながら、保護妖怪の書類を用意しながら

 

(今度は視察もしないとなぁ)

 

九尾の狐と言う名前だけで危険視するものが多いから1度は視察に行くべきだなあと思いながら書類に必要な部分を記載していくのだった……なお後日私に迷惑をかけていた元上層部の連中は、数日の間に全員警察へ自首し、私は1週間と2日ぶりに家に帰ることができ、自慢の髪に綺麗に櫛を通し洗う事が出来さらに自分のベッドで眠れて私は心から休むことが出来たのだった……

 

「はーやっぱり我が家はいいなあ」

 

手早くトーストと目玉焼きを用意しながら今日の予定を考える。2、3日なら私が代行するから休みなさいと言ってくれた唐巣神父に甘えてゆっくり休むことにした。今のうちに視察を終えてもいいかもと考えながらリビングに向かうと

 

「やあ?会長殿。ボクにもトーストをくれないか?」

 

「柩?どうやって入ったの?」

 

顔見知りと言う訳ではないが、私は彼女の名前を知っている。夜光院柩だ……神出鬼没なのは知ってるけど、なんで私の家に

 

「くひひ♪横島忠夫の所の保護妖怪の観察に行くんだろ?ボクに行かせて貰ってもいいかい?行かせてくれるなら代わりにこれを上げよう」

 

大量の商品券を見せてくる柩に溜息を吐きながらもう1つトーストを用意しながら

 

「それはいらないわよ、それと柩だけは行かせないから。私も行くわよ?」

 

「くひ!その返答は予想通りだよ。会長殿」

 

もうこの子苦手だわ……未来予知の能力を持っているからこの結末も判っている癖にと苦笑しながら、柩の分の朝食を用意するのだった……

 

 

 

 

妙神山から戻ってから数日がたった。なんせ酷い筋肉痛で動くことも出来なかったので、体調が整うのを待っていたのだ。その間にはタマモは美神さんが連れて行っていて、昨晩やっと帰ってきたのだ。やけに疲れていたけど、何をさせていたのかが気になるが、きっと除霊とかの手伝いなんだろうなあと割り切ることにした。俺にはまだ霊能力の知識が足りないのだから、判らないことの方が多いのだから

 

「くう……」

 

「おーおいでおいで」

 

久しぶりに家に帰ってきて、しかもかなり疲れている様子で足元に擦り寄ってきたタマモを膝の上に乗せてブラシで尻尾の毛を整えてやっていると

 

「……机の上を片付けろ。朝食の時間」

 

今日は蛍もおキヌちゃんもいないので頼りになる我らのロリおかん。シズク様のお通りだ

 

「……ロリおかん言うな」

 

「へぶう!?」

 

タイムラグなしで放たれた水鉄砲に吹っ飛ばされる、ま、また口に出てたかあ

 

「みーむ!?」

 

慌てて飛んでくるチビに大丈夫と言いながら机の方に戻り、机の上の本やブラシを片付けながら

 

「朝飯は?「……アジの開きと大根の白味噌、あと漬物と卵焼きと海苔」

 

完璧すぎる和食。流石は俺達のロリおかんだ。頼りになる、しかも裁縫や掃除も得意と来た。実にハイスペックな幼女様だ

 

「……チビにはみかんとりんご。狐には油揚げ」

 

「名前で呼んでやって欲しいんだけど?」

 

タマモはプライドが高いので狐呼びを怒る。シズクはそれを見て楽しんでいるような素振りを見せているので困っているので、そう尋ねると

 

「……人になれるようになったら考える」

 

うわぁ……悪い顔をしてるなあ……とは言え外見は子供でもシズクは竜神で水神様なのだからあまり無茶を言うことも出来ず、それでいいですと呟き俺は箸を手にしたのだった

 

「みーむむ♪みーみみ♪」

 

歌いながらみかんの皮をむいているチビ。最近どんどん器用になってるなあ、なんか電撃砲見たいのも使ってたし……確実に成長してるってことなのか?アジの身を解しながらそんな事を考えていると

 

「みむ!」

 

「乾電池?どうしたんだ?」

 

果物を食べたところでチビが電池を引きずってくる。何がしたいんだろう?と思って見ているとキラキラとした目で俺を見ている

 

「えーと好きにしてもいいぞ?」

 

何を言いたいのか判らないけど、多分乾電池が欲しいのだと思って好きにしていいぞ?と言うと

 

「みみむ」

 

「充電してるのか!?」

 

電池から電気を充電しているのかぱちぱちと放電するチビを見て、思わず味噌汁を噴出しかけてしまうのだった……

 

 

 

 

昨日の除霊のレポートをお父さんに確認してもらう、使い魔で見ていたからどういう除霊だったか判っている筈だし、自分では良い仕上がりだと思うけど一応確認してもらった方がいいと思ったのだ

 

「うん。今回も良い仕上がりだよ!流石私の娘だ!」

 

サムズアップをするお父さん。最近ますます魔神らしさが消えてただのお父さんになりつつあるけど、頼もしいからいいか。出来れば変なことをするのは止めて欲しいけどね

 

「ありがと、じゃあこれを後で美神さんに提出してくるね」

 

今度のGS試験に出てみないか?と美神さんに声をかけて貰った。1つ気がかりなのはそこでメドーサの配下の人間が動くと聞いていたのでそれがどうなるかだ。でもその前に天龍童子のこともあるし、それから考えてもいいかもしれない。それに今は何時起きるか判らない出来事よりも気になっている事がある

 

「所でべスパとかはどうなるの?」

 

私の記憶を見ているから知っている筈、私の姉妹はどうなるのか?と尋ねると

 

「ああ、それは心配ないよ。近いうちにべスパ……いや、蓮華と会わせてあげるから楽しみにしていると良い」

 

蓮華?なんでべスパで蓮華なんだろう?と首を傾げていると

 

「蜂の好きな花から名前を貰うことにしたんだ。さすがに蜂を名前に付けるのは可哀想だからね」

 

確かに名前に蜂が入っていると怖い印象になってしまうかもしれない、前は喧嘩する事が多かったけど、今回は仲の良い姉妹として過ごせる。それは私にとって何よりも嬉しい

 

「花の名前って言うのはすごく良いセンスだと思うわよ。お父さん」

 

「そうかい?はは、命名図鑑と睨めっこした甲斐があるよ」

 

そう笑うお父さんにつられて笑う。こうして笑い合えることって本当にいいなあと思う

 

「じゃ、お父さん。私美神さんにレポートを渡したら、横島の家に行くから」

 

「判ったよ。気をつけていっておいで」

 

笑顔で見送ってくれるお父さんに手を振り返し、愛車になっているバイクに跨り横島の家へと向かうのだった

 

「よこしまー?ってあれ?」

 

合鍵で横島の家に入ると見覚えのない靴が2足。それと話し声が3つ……何か嫌な予感を感じつつ横島の名前を呼びながらリビングに向かうと

 

「おお!?すげえ!柩ちゃんの言う通りだ!時間ぴったりに蛍が来た!?」

 

「くひ!そうだろ?ボクはすごいんだよ。横島忠夫」

 

横島の真向かいに座る目の色がおかしい少女とその隣で

 

「はーい、お久しぶりね?蛍ちゃん」

 

神代瑠璃が座っていて、笑顔で私に手を振ってくる、私は目の前の光景を理解出来ず、湯飲みを手にしている横島を見つめながら

 

「どういうこと?」

 

なんでGS協会の再建で忙しい神代琉璃と横島と面識の無い筈の夜光院柩がいるのか理解出来ず尋ねると

 

「んーなんか保護妖怪が増えすぎたから視察だって、危なくないかの確認だそうだ」

 

ああ、確かに保護妖怪といっても妖怪は妖怪。危険視される可能性を考慮してこうして尋ねてきてくれたのね。GS協会の長の言葉に逆らってまでこっちの妖怪を除霊にしに来る様な馬鹿はいない。それに美神さんを敵に回す危険性も理解しているはずだし……これは琉璃さんの判断に助けられたと言ってもいいだろう

 

「まぁそう言うわけ。と言っても皆大人しいから視察は全然OKだけどね」

 

そう笑う琉璃さんの視線の先をつられて見ると

 

「……こっち、こっち」

 

「みー!みむむー!みーむ!!」

 

シズクが振るはたきを追い回しているチビ、最近こういう光景を良く見るけど、妖怪としての本能が目覚めてきているのかな?狩猟本能的な……何かが目覚めかけているのかもしれない

 

「ああ、それは心配ないよ。芦蛍……くひひ♪あのグレムリンは凶暴化することなんてありえない、あれはああして遊んでいるだけさ」

 

「……私の考えを読んだの?」

 

さぁ?どうだろうねえ?と笑う柩。こいつはなんか苦手だわ……何を見ているのか知らないけど信用してはいけないタイプの人種だと思う

 

「ああ。その判断でいいよ?くひ、ボクはそう言う立ち位置の方が楽で良い」

 

本当苦手だわ、私の思考を今も読んでいるし……はぁっと溜息を吐いてしまう。横島は私の気持ちを知る由もなく

 

「よーしよーし!可愛い可愛い♪」

 

タマモを抱っこして満足げに撫で回していた。タマモの目が若干鋭いように見えるのが不機嫌だからかもしれない

 

「ん。横島君の保護妖怪は安全と私神代琉璃と夜光院柩が確認しました。これ証書だから無くさない様に、あとエンブレムね?忘れずに身に付けさせて」

 

「うっす!ありがとうございます」

 

書類横島に渡すと立ち上がる琉璃さんと柩を見ていると思い出したように

 

「くひ♪このボクの貴重な時間を使ったんだから、今度ボクの依頼を手伝っておくれよ?横島忠夫」

 

私と琉璃さんが止めることの出来ないタイミングで柩が横島にそう頼み込む

 

「え?うっす!了解しました」

 

ってなんでこのタイミングで返事するかなあ!?にやりと笑って出て行く柩と琉璃さんを見送ることしか出来なかった私は

 

(家に帰ったらトトカルチョを確認しよう。絶対確認しよう)

 

確実に柩の名前が追加されていると確信し、家に帰ったらすぐにトトカルチョを確認することを心に誓った

 

「今日何作るの?手伝うわよ?」

 

とりあえず今は夕食の準備を手伝おうと思いシズクに尋ねる。今判らない事は後回しにしても問題がない。特に柩と琉璃さんの事は今の私ではどうすれば良いのか判らないのでお父さんに相談しようと思うから

 

「……今日は洋食を作ってみようと思っていた」

 

そう、じゃあ今日は私が先生ってことね。中々気難しいシズクと仲良くなるのは難しかったが、ここ最近は一緒に料理を作ることもあったので少しは仲良く慣れたのかな?と思いながら2人でキッチンへと向かうのだった……

なおその頃アシュタロスはと言うと

 

「増えてる!?なんで!?何故どんどん増えるんだぁ!?横島君!君は本当に何者なんだアア!?」

 

『夜光院柩 4.7』

 

の文字に絶叫しているのだった……そして手元の紙を見ながら

 

「もう普通にやっていては駄目かもしれない、そう画期的な一手が必要だ!ええい!こうしてはいられない!」

 

このままでは蛍が不利だということを悟ったアシュタロスは慌てて階段を駆け下り、地下の研究室へと向かうのだった……そしてこの時作られた薬が新たな騒動を起こすことになるのを誰も知る良しがなかったのだった……

 

 

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その2へ続く

 

 




次回は愛子を出して行こうと思っています。ただこの愛子には逆行の記憶があるので流れは大分変わると思います

出来ればほのぼの見たいな感じにしたいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2


どうも混沌の魔法使いです。今回は愛子と柩をメインに書いていこうと思っています。その後は少し日常とかほのぼのを書いて見ようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その2

 

学校を暫く休んでしまった為特別に出された課題を机の上に置いてから1時間。俺は何をしていたかと言うと

 

「よーし、可愛くなったぞー♪」

 

「みーむ♪」

 

「クーン♪」

 

参考書を見ても判らんし、蛍が来てくれるまでまだ大分時間もある。それに俺1人で考えていても問題が解けると思えないので早々に課題を諦め、チビとタマモの毛並みを整えていた。桶に入れた熱いお湯で綺麗に洗ってやった上に、ドライヤーとブラシでもこもこモードのチビとタマモの完成だ。実に可愛らしい

 

「……勉強しなくて良いのか?」

 

部屋の掃除をしているシズクが桶を持ち上げながらそう尋ねてくる。俺は新しく買ったリボンをタマモの首に結んでやりながら

 

「難しくて理解できん。蛍に電話したけど用事が終わるまで無理って言ってたし」

 

そもそも授業に出てない時間が多いので、難しい課題をやれと言っても無理と言うものだ

 

「……あまり他人に頼るのはどうかとおもう」

 

「それを言われると辛いんだけどなあ……判らない物は判らないんだよなあ」

 

数式とかは判るわけもないし、科学の実験だって学校に行ってないのに判る訳がない。それなのにリポート提出とかって鬼だよな。そんな事を考えながら机の上で前回りをしているチビを見つめているとバランスを崩したのか、斜めに転がってくる

 

「みむ!?」

 

積み上げていた課題にぶつかり驚いたような声を上げるチビ

 

「あーもう何やってるんだよ」

 

机の上にへたり込んで目を回しているチビに苦笑しているとチャイムの音が鳴る

 

「……蛍かもしれない、見てくるからお前は勉強の準備をしていろ。学生なのだから」

 

見た目ロリのシズクにこうやって注意されている俺って正直どうなんだろう?かなりの駄目人間なのか?

 

「クウ?」

 

どうかした?と言う顔で俺を見ているタマモになんでもないと返事を返し

 

「いいよ、自分で見てくるよ」

 

シズクの申し出をやんわりと断り玄関に向かうが

 

(あれ?蛍って合鍵持ってるよな?)

 

うん、確かに俺は合鍵を渡した。どうしても欲しいって言うから、じゃあ何でチャイム?何か荷物があるのか?それともチャイムを押しているのは誰なんだろうか?と思いながら玄関を開けると

 

「やあ?」

 

緑のスカートに赤のチェックのジャケットに黒い帽子と非常に可愛らしい格好をした、夜光院柩ちゃんが居た。昨日琉璃さんに紹介してもらったけど、俺よりも年下だけどもうGSとして活動しているんだよなあ。ちゃんづけって失礼なのかな?と考えていると

 

「ちゃん付けで構わないよ、あんまり子供として見て貰う事がないんでね。たまには悪くないと思うからね」

 

俺の考えている事が判る?未来予知が出来ると聞いてたけどこんなにさっと出来るんだなあと感心しながら

 

「じゃあ柩ちゃん、なんの用?暇だから遊びに来た?」

 

昨日は依頼を手伝えと聞いていたけどまさか昨日の今日で呼ばれるとは思わない。なので何の用事?と尋ねると

 

「ボクの依頼を手伝ってくれる約束じゃ無いか。それとも今日は都合が悪いかい?」

 

まさかの依頼の手伝いをしろと言う話だった。うーむ……手伝うといった以上断るわけには行かない、だけど課題が……

 

「課題の方はボクの依頼を手伝ってくれたら教えてあげようじゃ無いか、ボクは賢いよ?」

 

くひひっと笑って明後日の方向を見ている柩ちゃんは正直少し怖いけど、悪い子には思えないし……美神さんに相談したらそれも経験っていって許可くれたし

 

「じゃあ準備をしてくるから待っててくれる?柩ちゃん」

 

少し屈みこんで目線を合わせて言うと柩ちゃんは

 

「くひ♪ああ、いいともさ、待ってて上げるから準備をしてくると良い。タマモとかも忘れたら駄目だよ?」

 

小さく笑う柩ちゃんに玄関で待っててくれよと声をかけリビングに戻り

 

「シズク、依頼の手伝いに行くから準備してくれ」

 

「……それは構わないけど、蛍?」

 

はたきを机の上において訪ねてくるシズク。俺はノートを破いて蛍への伝言を書く、折角来てくれると言ってたけど、少しは除霊の勉強をしたいと思うから、今回は柩ちゃんの依頼を手伝ってみよう。これも勉強の1つだ

 

「柩ちゃんの手伝い。チビとタマモも連れて行くよ」

 

柩ちゃんの名前を出すと少しだけ睨むような素振りを見せたシズクだったが

 

「……お前が除霊の経験を積むことを考えるなら、甘やかす蛍と美神から離れたほうが良い。良い勉強にすると良い」

 

シズクがOKと言ってくれたので鞄の中に破魔札とシズク用のペットボトル2本を詰め込んで

 

「行くぞー、チビ、タマモ」

 

Gジャンのポケットにチビを入れ、頭の上にタマモを乗せる。その間にシズクは準備を終えているので一緒に玄関へと向かう

 

「準備できたかい?では行こうか?」

 

にやっと笑う柩ちゃんによろしくと頼み込み、玄関に手紙を張って俺達は柩ちゃんに案内され除霊の現場へと向かうのだった

 

~~10分後~~

 

「ヨコシマァッ!!!なんで勝手に行動するの!しかもどこに行ったのよぉッ!!!」

 

横島に勉強を教えるために来た蛍は扉の前に張られた置手紙を見て絶叫していた。もしここに土偶羅魔具羅が居たのなら神妙な顔をして、やはりアシュ様と蛍様は親子なのだなと納得しているほどにその叫びはアシュタロスと酷似した物だったりする……

 

 

 

 

 

 

「それで依頼って何をするんだ?俺は正直言って何も出来んぞ?」

 

歩きながらそう尋ねてくる横島の立ち位置を見てボクは小さく笑みを零す。昨日話の中でさりげなくボクの能力の一部とその影響で身体が弱いと言う話をした。それは本当に数秒にも満たない会話だったが

 

(ちゃんと覚えているんだね)

 

今日は晴天で日の光が道路を照らしている。普通の人間なら何の問題もないが、ボクだとしっかり対策をしないといけない天気だ。横島は無意識なのか、それとも意識をしているのかは判らないが自分の身体で日陰を作る位置に立ち、そして歩調もしっかりと合わせてくれている。

 

(言動ではスケベなことを言っているけど、やはり君はフェミニストだよ。実に紳士的だ)

 

横島が女性に飛び掛るときは確実に失敗する時だけだし、蛍や美神が邪魔に入る時だけだ。女好きではあるが、その癖手を出すような勇気がないのは何故なんだろうねえ

 

「そうだね、面白そうな事が起きるかも知れないから行くのさ。くひ!いや起きるから行くのさ」

 

へっと?驚いた顔をしている横島にボクはにやっと笑いながら

 

「前にも話をした通り、ボクには未来予知のような能力がある、だけどね……見えない所があるからそこに行くのさ」

 

きっとそこでなにか面白い事が起きる。だけど横島がいないと未来が見え続けているので横島が鍵だと思い連れて行くことにしたのだ

 

「……お前は暇を持て余しているのか?」

 

「くひ!その通りだよ、水神様。ボクは暇で退屈なんだ。なまじ判ってしまうからねえ、何が起きるか」

 

だからこそボクには横島が興味深い、彼が関わると何もかも変わってしまうからね。あのくえすでさえ変わるのだから、ボクにも何か起き立っておかしくないのだから

 

「俺にはよう判らないっすけど、柩ちゃんは暇って事だから俺を連れ出したって事っすか?」

 

「んーまぁそうなるかもねえ?怒るかい?」

 

横島にとっては蛍と過ごす時間を奪われたことになるうえに、除霊研修の評価ももらえない。怒っても当然だ、だけどボクには横島がどんな反応をするのかが見えない。だからそう尋ねると

 

「んじゃこれ」

 

横島は脇に抱えていた鞄からノートを取り出して何かをメモしていた。そしてさも当然のように差し出されたノートの一部を受け取りながら

 

「なんだい?」

 

思わず受け取ってしまったのは紙の切れ端、そこには電話番号が書かれている。これは正直予想外すぎるね、これで何をしろって言うんだい?

 

「暇だったら電話くれたら話し相手程度になるし、遊びにも付き合うからさ。また電話してくれよな!」

 

にかっと笑う横島。そこには邪な感情など無く純粋な好意から来ているのが判る。こんなことは初めてだよ、ボクは気味悪がられたり、距離を置かれるのが普通だった。それなのにこうして踏み込んでくる人間は始めてだ。図々しいとも思うが、少しだけ嬉しいと思った

 

「やはり君は年下趣味の変態なんだね。ボクを遊びに連れて行って何をするつもりさ?このロリコン」

 

ちょっとボクらしくないけど、頬が熱いのが判る。だからあえて横島がダメージを受ける言葉を口にした。ちなみに歳は2歳しか違わないけど、背も低い上に女性らしさがまるでないボクは幼く見える。それに年齢は口にしていないので見た目で判断している横島は

 

「なんでそうなるんやああ!?」

 

蹲って涙する横島を見ながら渡されたメモをポケットの中にしまうと

 

「……お前とは仲良く出来るかもしれない」

 

シズクの視線はボクの身体の一部に注がれている。そしてシズクが考えているのは強烈なまでの仲間意識

 

「なんでボクにそんなに仲間意識を持つのさ。ボクにはまだ成長の要素があるからね?」

 

「……違う。お前は私の仲間」

 

にやーっと笑うシズク。いやいや、待て待てボクはまだ15歳だ、もっと女性らしく……

 

(なれるのか……)

 

そう言えば僕の母親もどちらかと言うと絶壁だったような……そう言えばボクの未来って

 

(そんなに変わってなかった……)

 

意識しないようにしていた絶望の未来を思い出し、ボクは横島と揃って思わずその場に蹲ってしまうのだった……

 

「みむ?」

 

グレムリンが頭を抱えてボクと同じような格好をしていて、それがバカにされているのか、それともただ単に真似をしているのか?それとも励まそうとしているのか?それがボクには判らないのだった……

 

 

 

何か酷く落ち込んでいた柩ちゃんを何とか励まして柩ちゃんの案内で歩いていると

 

「あれ?なんで俺の学校?」

 

途中からもしかして?と思っていたけど柩ちゃんの目的地は俺の学校だった

 

「くひ♪ここで面白いことが起きるのさ」

 

なんだろう。俺が怒られるとかじゃ無いだろうな?それか変な妖怪に襲われるとかか?と内心怯えていると

 

「ん?横島か?」

 

「あ、どうも「貴様!美少女2人もつれて何をしている!」理不尽ッ!?」

 

突然顔面を教師に強打された。チクショウ、俺が何をしたって言うんだ。そんなに俺が女の子と一緒だと駄目だとでも言うのか!?

 

「みむ」

 

「コン」

 

痛いの痛いのとんでけーと言う感じで俺の頬を撫でるチビと舐めてくれるタマモ。そのおかげか若干痛みが引いてきた。ちなみに俺を殴った教師はと言うと

 

「よ、横島君?この顔色の悪いお嬢さんは何者かな?」

 

「……貴様。いきなり何をする?窒息するか?」

 

シズクの手から飛び出した水の鎖に締め上げられていた。ナイスだシズク。流石俺達の頼りになるロリおかんだ

 

【やっぱりシズクちゃんってすごいですね~】

 

「そうだなーってうおお!?おキヌちゃん!?何時の間に!?」

 

聞こえてきた声に返事を返したところで気付いた、いつの間にかおキヌちゃんが俺の背中に憑いていた。道理で肩が重いはずだ……

 

【横島さんが歩いているのを見かけたので追いかけてきたんですよ。それにしても横島さん?】

 

あ、これ駄目な奴だ……おキヌちゃんの目に光がない上に声が異常なほど冷たい

 

【また女の子を、しかもこんな小さい子を……やっぱり横島さんはロリコンなんですか?】

 

「がふっ!?」

 

ボデイブローにくわえて、おキヌちゃんの絶対零度の視線に晒され俺は体力と精神的なHPがゼロになり、その場に蹲り

 

「ぷかー」

 

「……ふん」

 

俺を殴った教師はシズクの水の牢屋に取り込まれ水死体のように浮いていた。あれ死んでないよな?

 

「くひ♪面白ッ!面白すぎる!!!」

 

おなかを押さえてくひひひっと笑っている柩ちゃん。楽しそうで何よりだけど、もし判っていてここに連れて来たのならせめて何か言って欲しかった……まぁ悪戯っ子とでも思えば良いのか?と思いながら俺は

 

「いえいえ、俺はロリコンと言うワケではなくてですね?」

 

俺を見下しているおキヌちゃんの説得を試みるのだった。なんか最近こんな事ばかりしているような気がするけど気のせいか?いや、気のせいであって欲しいなあと思いながらなんですか?と不機嫌そうに俺を見ているおキヌちゃんに誠心誠意を込めた土下座+説得を試みるのだった

 

~暫くお待ちください~

 

「ほー夜光院柩さんはGSで、シズクさんは水神様でしたか、これは失礼しました」

 

シズクの水の牢屋に閉じ込められて意識を失っていた教師は信じられないスタミナで復活し、柩ちゃんの話を聞いている。この人も普通じゃねえな、俺が言えることじゃ無いけどさ

 

【横島さん。年下趣味は駄目ですよ、同年代が一番いいんですからね?】

 

奇妙な説教を始めたおキヌちゃんに相槌を打ちながら俺のクラスに向かうと

 

「「「「馬鹿な!?横島が美少女3人と一緒にきやがった!?天変地異の前触れか」」」」

 

「よし、てめえら、表に出ろ。俺の陰陽術の実験台にしてやる!」

 

俺が失礼な事を言った馬鹿を攻撃するために札を取り出そうとすると

 

「……やめろ馬鹿「がぼお!?」

 

シズクの水が顔面に纏わりつき、陸上で窒息死しかけるというあまりに貴重な体験をする羽目になった……

 

「あれ?俺の机ボロッ!?なんだよいじめかよ!?」

 

シズクと柩ちゃんの紹介が終わった所で自分の机の中のプリントを取りに行こうとしたら俺の机がボロボロの机になっていた。その事に対する文句を言っていると

 

【横島さん!危ない!】

 

「ふえ?」

 

おキヌちゃんの声に振り返ると机の間から舌が伸びてくる、そのあまりに衝撃的な光景に思わず停止してしまう

 

「うわあ!?」

 

「これは本当に予想外だ。くひ!本当に君と居ると飽きないね、横島」

 

「コーン!?」

 

俺と柩ちゃんとタマモを絡めとった舌に引きずられ、俺達は机の中へと飲み込まれてしまったのだった……

 

【た、たたたたた!大変ですう!早く美神さんと蛍ちゃんに連絡を!】

 

「……お前は何で私を小脇に抱える!?」

 

横島達が机の中に呑み込まれる光景を見たおキヌは混乱しきり、シズクを脇に抱えて教室の窓から飛び出していくのだった……なおシズクは心底迷惑と言う感じの嫌そうな顔をしたままなのが妙に印象的だったと残された横島のクラスメイトは口々にそう告げるのだった……

 

 

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その3へ続く

 

 




愛子世界に突入です。タマモと柩も投入して更に面白いことにしようと思います。青春空間でタマモが一時的に人の姿になるとか面白いですよね。あと変人じゃ無い柩とかも面白いと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は愛子の世界ですが、原作とは違う流れにしています。逆行の記憶があるので、前のように閉じ込めていると言う訳ではないんです。しかし生徒は居ます、でも閉じ込められた生徒は居ないんですよ。それがどういうことなのか?そこを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その3

 

シズクを脇に抱えて事務所に飛び込んできたおキヌちゃんの話を聞いて、私は深く溜息を吐いた

 

「絶対あいつ判ってたわね」

 

柩はこうなる事を判っていて横島君を連れて行った。しかも今回は学校で古い机となると考えるまでも無く、妖怪の特定が出来た。蛍ちゃんに視線を向けると蛍ちゃんは直ぐに頷いて

 

「九十九神ですか?」

 

「正解。良く勉強してるわね」

 

古い机と言う事はもしかすると九十九神化している可能性がある。霊力は普通の妖怪よりも高くなる事が多いし、特殊能力を持っていることも考えられる

 

「横島……また女の子の妖怪に好かれそう」

 

「……考えられる」

 

横島君は妖怪に好かれる性格をしているみたいだし、学校の九十九神と考えると女の子の可能性が高いわね

 

「はー仕方ない、準備していくわよ。おキヌちゃんは先に学校に行って、これを学校の先生に渡しておいて」

 

私の名刺と除霊に関する書類一式をおキヌちゃんに預け、私達は除霊の準備を整えて横島君の学校に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

ど、どうしようかなぁ……私は思わず取り込んでしまった横島君と見知らぬ少女を前に焦っていた。私の中には今生徒は1人もいない……詳しく言うと生きた人間は閉じ込めていないのだ。逆行した記憶があるから、ちゃんと謝って全員解放した……だから

 

(どうしよう。私の記憶の中にあることは出来ないわ)

 

一応生徒の幻影見たいのは用意できるけど……こうして取り込んでしまった以上妖怪として横島君になにか言われるかもしれない

 

「あううう……ど、どーしよ」

 

今更吐き出すことも出来ないし、何とか友好的な横島君との出会いをするにはどうすれば……

 

「ちょっと愛子。いつまで頭抱えて呻いてるのよ」

 

私の目の前に来て喋る狐の姿のタマモちゃん。彼女の方が妖力が強いので私の中で眠ってくれてはない

 

「ううう……だ、だってえ……わ、私どうすれば良いのか判らないよ」

 

思わず飲み込んで眠らせている横島君達をどうすれば良いのか判らず半分泣いていると

 

「まずこの世界だけでも良いから、私の人の姿にして」

 

「う、うん」

 

指を鳴らして私の記憶の中にあるタマモちゃんの姿に変える。とは言え外見だけだけど……彼女の姿を知っているので、これ位は簡単に出来る

 

「うん。やっぱりこっちの方がいいわね。ありがと愛子」

 

自分の今の状態を確認してから嬉しそうに笑ったタマモちゃんは

 

「じゃあ私も手伝ってあげるから。ほら早く教室を考えるわよ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

多分私だけだと絶対混乱して教室とか幻の設定がおかしくなる。私はタマモちゃんに言われるまま、私の世界の書き換えを始めるのだった……そして8割ほど終わった所でタマモちゃんが

 

「よし、じゃあ後は頑張ってね」

 

「なにを!?」

 

私に何を頑張れって言うの!?タマモちゃんの言うとおりにしただけで、私これからどうすれば良いかなんて判らないわよ

 

「だから~愛子の世界なんでしょ?愛子が楽しいと思った学校。そこに横島と柩を入れれば良いの、きっと横島と柩は気付くと思うけど、大丈夫よ」

 

何を根拠にそんな事を言うのだろうか……私が不安に思っていると

 

「私もさりげなくフォローするから、令子と蛍が来たらそれと無く自供して、自分が悪い妖怪じゃ無いって事を説明すればいいわ。それに横島もきっと助けてくれる。愛子なら判るでしょ?」

 

タマモちゃんの言いたいことは判った……タマモちゃんはにっこり笑いながら

 

「「だって横島は美女・美少女の味方なんだから」」

 

私とタマモちゃんの声が重なる。タマモちゃんはそう言う事と笑って

 

「じゃあね。後は頑張って」

 

手を振って横島君のほうに歩いていくタマモちゃんを見ながら、私はもう1度横島君と楽しい学生生活が出来るかな?と言う小さい不安を感じながら私の世界の最後の調整を始めるのだった……だけど今の私の中にさっきまでの不安は無かった。きっと今の横島君も私を受け入れてくれるという確信があったから……それだけで私の中の不安は綺麗さっぱりと消えてしまうのだった……

 

 

 

 

 

「あいたたた……」

 

なんか机から舌見たいのが飛び出して、避けるとか破魔札を取り出そうとか思う間もなく俺達は飲み込まれてしまった

 

「って!柩ちゃんとタマモは……」

 

一緒に飲まれたはずのタマモと柩ちゃんを探さないと思い立ち上がった俺が見たのは……俺の精神を破壊しかねない光景だった

 

「チガウ、チガウ、オレハロリジャナイ」

 

着地に失敗したのか放置されたのか判らないが、頭を下にしてお尻を突き出す形で気絶している柩ちゃん。その所為で下着が丸見えになっている。案外可愛い猫のプリントがされたものだった

 

(ドウスレバイインダ……)

 

めくれているスカートを戻せば良いのか?それとも着ている上着を掛けてあげればいいのか、それともこのまま見ていれば……

 

「ってチガーウ!!!」

 

俺はロリじゃ無いからドキドキなんかしてない。あ、でも最近妙に甘えてくるシズクが可愛いって

 

「って違うんだああ!!!」

 

駄目だ。俺は間違いなくシズクの策略に掛かっている。いけない、このままではいけないんだ。俺はロリコンじゃ無い、うん。俺はバインバインのお姉様が好き、うん。それは間違いない

 

「とりあえずスカートを戻してあげよう」

 

あの格好は余りに憐れなのと俺の正義を破壊しに来るのでめくれているスカートを戻してあげようとしていると

 

ガラッ!

 

「ヨコシマアッ!!!」

 

怒声にも似た声に振り返ると目の前に飛び込んできた光景は、勢いをつけてこっちに飛んでくる人の姿をしたタマモの姿。

 

(白と水のストライプ!?)

 

一瞬見えた可愛らしい下着に目を奪われてしまった。しかしそれが良くなかった

 

「膝ぁッ!?」

 

怒っている様子で放たれた凄まじい威力のとび膝蹴りの直撃を顔面に喰らい、俺の意識は吹き飛ばされるのだった……って言うか……

 

……満月じゃ無いのに何で人になれているんだろうか?そんな事を考えながら、俺の意識は闇に沈むのだった……

 

「くひ、いくらボクがプリティーでも寝ている間に悪戯しようとするなんてとんでもない変態だね。君は」

 

俺が気絶している間にタマモが柩ちゃんにとんでもない誤解を植え付けている。これはとんでもない冤罪だ……

 

「違います。本当違いますからぁ……もう許してぇ」

 

なんでか人になっているタマモにビンタされ、柩ちゃんに見下されてもう俺の体力も精神力も0だ。お願いだからもうこれ以上苛めないでほしい

 

「まぁもう良いか、言ってることが本当だって判っているし」

 

「そうね。貴女良い性格してるわ、男を手玉に取る悪女になれるわ。この私が保証する」

 

なんかタマモがとんでもない事を言っている。お願いだから俺の中にある可愛い子狐のタマモのイメージを破壊しないで欲しい、勿論今のタマモも充分に可愛いのだが……なんか今の怖い会話をしているタマモが子狐のタマモとは思いたくないのだ。心情的に

 

「くひ♪嬉しいねえ、傾国の美女に褒められるなら、そんな風になっても面白いかも」

 

タマモと柩ちゃんが声を揃えて笑う。えーとまさか

 

「知ってたの?」

 

2人に尋ねると実にイイエガオをしながら頷く

 

「なんでこんな事をするんやあ!?」

 

どうして知っているのに俺を責めていたのかと言う気持ちを込めてそう絶叫すると、タマモと柩ちゃんは声を揃えて

 

「「面白いから」」

 

物凄い美少女なのは認めるけど、なんでこんなに性格が悪いんだぁと俺が絶叫していると

 

「あの?もういいかしら?」

 

おっかなびっくりと言う感じで話しかけてくる黒髪の美しい美少女が俺を見ていた」

 

「横島は本当に女好きねえ!」

 

「節操という物を知らないのかい?」

 

「イヒャィ!いひゃいいいい!!!」

 

どうやら声に出てしまっていたようで赤面している少女を前にタマモと柩ちゃんに頬を抓り上げられ、俺は涙目で絶叫しながら2人に許しを請うのだった……

 

 

 

 

 

横島の頬を抓り上げながらボクの中の冷静な部分が告げる、こんな事は夜光院柩らしくないと……だがそれに対してボクの幼い部分が告げるもっとこの人を困らせようと……困らせて迷惑をかけて、それでもまだボクに優しくしてくれるのか?それを確かめたいと思っている

 

(なんて子供っぽいんだ)

 

こんな事は僕らしくないと判っているのに止める事が出来ない。ボクはサディストではないと言うのに……

 

「全く君がロリコンなんて知らなかった。これからの付き合いは考えさせてもらうよ、劣情を向けられるのは困るからね」

 

自分で言っていて悲しくなるが、ほぼ平らに近い胸を押さえて逃げるように距離を取る。その時に横島に冷たい視線を向けるのも忘れない

 

「違うって!本当に違うから!!!お願いだからそんな目で見ないでぇ!」

 

顔を押さえて泣いている横島。なんて面白いのだろうか……

 

「冗談だよ。さていつまでも泣いてないで状況整理をしようか」

 

このままだとボクが自覚してなかったサディストとしての面が目覚めてしまいそうなので、話を切り上げて状況を確認する事にする

 

(多分この女が妖怪なんだろうケドね)

 

この長い黒髪の女が妖怪なんだろうなあ……妖力も感じるし、とは言えボクは直接除霊が出来るタイプではないので手を出すことができない

 

(上手く誘導してみるかなあ)

 

横島の手腕を確かめる意味も込めてここはあえて何もしないで横島の判断に任せてみよう。

 

「タマモか、うんうん俺の選んだリボンが良く似合ってる」

 

ちらりと横島の方を見ると横島は自分の前に居るタマモを見て嬉しそうに笑いながら、リボンを見て微笑んでいる

 

「え♪そう?これ似合う?」

 

タマモが九尾の狐と言うのは知っているけど、なんでそんなに普通の少女みたいな顔をするのだろうか?傾国の乙女と呼ばれる九尾の狐がなんとも少女らしい顔をしているのは正直少しだけ違和感がある

 

「おお、似合う似合う。すっごい可愛いぞ」

 

……横島は何を考えているのだろうか?妖怪の腹の中で人間になっているタマモの頭を撫でて可愛い可愛いと連呼している。ボクから見ても頬が赤くなっているタマモ……誰がそんな事をしろと言った?と腕を組んで横島を見つめていると

 

「じゃあえーと……「愛子って皆に呼ばれてるわ」そっか、じゃあ愛子。ここは埃っぽいし、椅子も何もないからタマモと柩ちゃん。それに愛子にも良くないと思うから場所を移動しよう。できれば椅子と机のある部屋に案内してくれないか?」

 

「ええ、いいわ。ほらこっちよ」

 

横島に頼まれた愛子はボク達を案内するために先に教室を出る

 

「じゃあ行こうか?柩ちゃん」

 

そう笑いながらボクに手を向けてくる横島。こういうフェミニストの部分もあるのだから、もっと落ち着いた性格になればもっと女性に好かれるのではないだろうか?……少し考えてみて面白くないと思ったので言わないことにして黙り込む

 

「じゃあ早く行きましょうよ。横島」

 

「おう!行くかタマモ」

 

なんかなぁ……面白くない。それに妙に頭がぼーっとしてくる……どうも思考が纏まらないのを感じながら横島に手を引かれ、ボクはその部屋を後にしたのだった……

 

 

 

 

私は美神さんと横島の学校に向かいながら今回の妖怪の事を考えていた。まず間違いなく

 

(愛子さんね)

 

机妖怪の愛子さん。青春大好きのちょっと変わっている妖怪だけど、悪い人ではない。しかし問題は……

 

(逆行しているかどうなのよね)

 

横島蛍としての記憶の中に愛子さんの姿がある。妖怪でありながら教員免許を取って、六道で教鞭をとっていた。現に私も愛子さんの生徒として色々勉強を教えてもらったのを覚えている。だけどそこは問題ではない、もう忘れかけている記憶だけどこれだけはしっかり覚えている

 

(私ね、昔蛍ちゃんのお父さんの事好きだったのよ?ふふ、これは秘密にしていてね?)

 

その時は確か小学校6年のときだったと思う。中々衝撃的な言葉でお母さんに言ったら、あの机まだ諦めてなかったのねと言って怖い顔をして出かけていき、それから半年愛子さんの姿を見なかったので覚えていた

 

(また敵が増える。しかもかなりヤバイのが!?)

 

助手席で除霊道具の確認をしながら私は内心穏やかではなかった。逆行してきた事で真っ黒くなっているおキヌさんはまあいいだろう。普段は優しいけど何かをトリガーにすぐ黒くなって暴走するから、それに小竜姫様も良い。まず会う機会がそうそうないからだけど愛子さんだけでは駄目だ。学校に行く以上必ず遭遇するし、それにあの面倒見の良い性格……そして何よりも優しい

 

(あの人は駄目。一番危険だわ)

 

今の横島のそばにはいない清純派の乙女である愛子さんはとても危険だ。もしかすると私では太刀打ちできないかもしれないほどに強力な敵になるかもしれない

 

「……急ごう。机妖怪が女だったらまた大変なことになる」

 

【そうですよ!急ぎましょう!】

 

「判ってるからそう騒がないで!運転の邪魔!!!」

 

車を運転しているのにシズクとおキヌさんに焦らされて怒っている美神さんを見ながら、私はまだ遠くに見えているだけの横島の学校を見て

 

(柩もいるらしいし不安だわ……)

 

最近判った事だけど、横島が人外に好かれるだけではなく、訳ありや心に何かを抱えている人間にも好かれるような気がする。その点で言うと柩は間違いなく訳あり+心に闇を抱えているで横島に引かれる可能性が極めて高いと言える人間だ

 

(どうかこれ以上敵が増えませんように!)

 

両手を合わせてきーやんに祈る。今でさえ敵が多いのに更に増えたらどうしようもない。だから神であるきーやんに祈ったのだが

 

【それは無理だと思いますねえ。もっと増えないと面白くないじゃ無いですか】

 

「面白くないってどういう事よッ!?」

 

「ほ、蛍ちゃん?」

 

「……ど、どうかしたのか?疲れている?」

 

【蛍ちゃん……少し落ち着きましょう?私もまだ落ち着いていますし】

 

脳裏に響いてきたキーやんの声に思わず絶叫してしまうのだ……そして心配そうにこっちを見てくる美神さんたちに小さくなりながら

 

「なんでもないです」

 

と小さく泣きそうな声で呟くことしかできなかった。これもあれも全部きーやんの所為よ。絶対何とかして逆襲してやると心の中で固く誓うのだった……

 

 

リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その4

 

 




次回は青春空間に飲まれてしまった柩とかの話を書きたいと思っています、しかし厳密には青春空間ではなく更にランクアップしているんですけどね!スイーツ空間?とでも言うのかな?まぁとにかくそんな感じで進めたいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回は青春空間が別の何かにランクアップしてしまったことに混乱する愛子と言うのを書いて見たいと思います。愛子の乙女な部分とかが進化してしまったと言う感じにしたいと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート15 予知探偵と見習いGSと机妖怪 その4

 

私は目の前の光景を見て、心の底から動揺していた。逆行してきてから机の中に人間を閉じ込めたことは無かった。だから記憶の中の青春空間と同じ効果があると思っていた……だけど実際は違っていた

 

「お兄ちゃん」

 

眩い笑顔で横島君に抱きつきながら笑っている柩ちゃん。確かに可愛らしいと思うけど、さっきまでの反応と余りに違いすぎて違和感を感じる、少なくとも柩ちゃんは横島君の事をお兄ちゃんなんて呼んでなかった。横島君も横島君で

 

「うええ!?どういう事!?柩ちゃんがなんかおかしい」

 

そう青春空間だったはずの私の世界は致命的にどこか狂ってしまっていた。さっきまでどんよりとした目をしていた柩ちゃんの目が妙に輝き始めている

 

「私はおかしくないよ?変なお兄ちゃん」

 

口元を隠してくすくす笑っている柩ちゃん。少ししか話をしてないけどこの反応は明らかにおかしいと判る

 

「やばいって!?このリアクションおかしいってええッ!!!これも妖怪の仕業なのかぁ!?」

 

ごめん横島君。私もどうなっているのか知りたいの……これどうなってるのかな、本当に

 

(愛子……私も頭痛くなってきたんだけど)

 

小声で呟くタマモちゃんのほうを見ると、確かに頭痛が酷いのか顔を歪めているのが判る。横島君には影響出てないのにどうなってるの!?

 

(あんたさあ……もしかしてずっと横島の事考えてなかった)

 

(え。あーうん)

 

記憶を取り戻してからはずっと横島君の事を考えていたかもしれない……何時会えるのかなとか今度はもっと仲良くしたいなあとか考えていたし、あと出来たら前に私の机の掃除をした時についての責任を問い詰めたいとも思っていた……あれが私の身体だ。知らないとは言え、あれだけ遠慮無しに撫で回されたことについての責任を取ってもらわないと

 

(それよそれよ……絶対それ……あんたの恋愛感が……私にも影響を……)

 

かくんっと首が落ちたタマモちゃんだったが、首を振って自分の頬に叩いて気合を入れている。えーとどうなっているのか私には全く理解できないんだけど

 

「本当まずいわね。何今の横島が先輩でお弁当を持っていくとか何?愛子の理想?」

 

「知らないわよ!?」

 

私もそんな事を言われても困るので思わず叫びながら柩ちゃんを見ると頭の上に何かの文字が浮かんでいるのが見えた。目を細めてその文字を見ると

 

【幼馴染のお兄さんに憧れる下級生】

 

「なんでええ!?」

 

私の世界は本当はどうなってしまったのだろうか?まさかそんな属性を付与してしまって、しかも性格までを変えてしまう世界になっているなんて思っても見なかった。タマモちゃんの頭の上を見ると

 

【先輩にお弁当を差し入れしたい下級生】

 

「違うのぉッ!!!」

 

タマモちゃんはその文字に抵抗しているみたいだけど、少しだけその文字の効果が出始めているかのように見えて、どうして私の青春空間がこんな風になってしまったのかを必死に考えるのだった……

 

 

 

 

 

横島君の学校に着くと同時に職員室に向かう、九十九神は危険な者から、そうじゃ無い者まで色々ある。大事に使われた道具の九十九神は温厚で友好的だ。酷い扱いをされた道具から、変化した九十九神は人間を恨んでいる可能性が高い。その手の九十九神は判らない、だからしっかりと準備をする必要がある

 

「危険な妖怪の可能性もあるので生徒は全員横島君の教室から別の教室へ移動させてください。なにかあったら責任が取れないので」

 

「は、はい!判りました。直ぐに生徒を移動させます」

 

状況を説明してくれる教師だけを残して、他の教師は横島君のクラスの生徒に事情を説明する為に職員室を出て行く

 

「さてとじゃあ、横島君達が飲み込まれたって言う机の所まで案内してもらえる?」

 

「は、はい!こっちです」

 

少し怯えた様子で私達を案内してくれる教師の背中を見ながら、蛍ちゃんとシズクに

 

(シズクはどっちだと思う?)

 

車の中で簡単に九十九神については蛍ちゃんに説明して、それを聞いていた筈のシズクに尋ねると

 

(まずは九十九神については危険は少ないと思う。敵意があるなら私が気付いている)

 

確かにその通りかもしれない、敵意を向けられてシズクが反撃しないわけが無い。見た目は少女だけど結構好戦的だから

 

「となると横島自身が好かれているってことですかね?」

 

渋い顔をしている蛍ちゃん。また女の子の妖怪かなぁっと警戒しているように思える

 

【とりあえずまずは行って見ましょう?その机を見ながら考えると良いとおもいます】

 

まぁ、おキヌちゃんの言う通りよね。ここであーだこーだと話していても何にもならないから、まずは九十九神を確認するべきだと判断し、横島君の教室へと向かうのだった……

 

「これ……よね?」

 

「そうだと思いますけど……」

 

教室の真ん中に置かれている古い机。それは良いんだけど……

 

「……なに?この妙な威圧感は」

 

【と言うか泣いてるんですかね?】

 

机は妙なオーラを纏い、しかもなんか濡れている……これが何を示しているのか私には理解できない。えーと

 

「横島君が机の中で暴れてる?」

 

「タマモじゃ無いですかね?」

 

あーその可能性はあるわね。タマモはかなり好戦的だし、横島君を護るためなら自分の少ない妖力も攻撃に回すくらいだし……

 

「……対処法がわからない。どうする?」

 

そんな事を言われてもねえ……妖力は確かに感じるけど、攻撃的な物ではなく、どちらかと友好的な気配なようにも感じる

 

「とりあえず結界で束縛してみますか?急に暴れられても困りますし」

 

除霊道具の入った鞄から簡易結界を取り出す蛍ちゃんに頷き、その机の周囲に結界を張ってから椅子に腰掛けて

 

「なにかリアクションが出るまで監視。もしかすると横島君が何とかするかもしれないし、柩もいるから何とかするかもしれないしね」

 

机が纏っている妖力のせいでこちらからでは干渉できない。だから飲み込まれた横島君が何とかするのを待つしかない……除霊するなり、説得するなり横島君がどう対処するのか?それを見てみるのも面白いと思い、結界の中の机を見つめるのだった……

 

 

 

 

 

これどうしよ……不気味な笑い方ではなく、外見相応の可愛らしい笑みを浮かべている柩ちゃんは

 

「お兄ちゃん。今日帰りに駅前でクレープ食べよう?」

 

なにこの可愛い生き物。いや普段の柩ちゃんも可愛いけど、今の柩ちゃんにはなんと言うか……神秘的と言えば良いのだろうか?説明しにくい妙な可愛らしさがあった

 

「うーヨコシマア。私も構えー」

 

俺の制服をつかんで構えー構えーと呻くタマモ。物凄く可愛いのは認める。うん、満月の時にいつも話している可愛いタマモなんだけど……

 

「なんでそんなに涙目?」

 

その目に涙を浮かべて何かに耐えているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見える。それにいつものタマモって感じがしない……柩ちゃんほどではないが、どこかおかしいと思える

 

「ううー横島には関係ないのー。まず私を構いなさいー」

 

「お兄ちゃん♪私も♪」

 

楽しそうな柩ちゃんと何かに耐えているって感じのタマモ。擦り寄ってくる飛び切りの美少女に頬が緩むのを感じながらも、必死に奥歯を噛み締めて頬が緩みかけるのを耐える

 

(なんでロリ何やあ)

 

せめて同年代だったのならば、これは間違いなく天国。女性らしい身体をしているタマモと神秘的な魅力に満ちた柩ちゃん……だが残念なことに2人とも年下で

 

「よ、横島君?血涙でてるわよ?」

 

愛子がおっかなびっくりと言う感じでハンカチを差し出してくれる。この天国のような地獄から俺は何とか脱出したい、このままでは俺の正義が完全に破壊されかねないので

 

「とりあえず2人とも離れようか?」

 

「横島は私が嫌いなの?」

 

「お兄ちゃんは私が嫌い?」

 

涙目+上目遣いのタマモと柩ちゃん、それに制服越しでも感じる柔らかい感触を自覚してしまった瞬間……俺の中の何かが切れた音がして、視界が真紅に染まった……そして意識を失う前に聞いたのは

 

「血!?はっ!?なにを言って居たんだボクはぁ!?お兄ちゃんって!あの甘えた声はなんだ!?あんなのはボクじゃないぃぃッ!」

 

「きゃあ!?うー!服が鼻血でべちょべちょ……あ、でもこれ横島の霊力が……って駄目え!獣の本能が!私の中の獣がぁ!この血を舐め様としてるぅぅッ!!!駄目!それだけは本当に駄目ぇッ!!!」

 

「横島くぅん!?その血の量は駄目よ!死ぬわよ!?

 

柩ちゃんとタマモの凄まじい絶叫と愛子の心配する声を聞きながら俺の意識は闇に沈むのだった……

 

~~暫くお待ちください~~

 

「良いかい?忘れるんだ。ボクのさっきまでの醜態は忘れるんだ!!いいね!!」

 

「はぁーはぁー……危ない所だった。本当に危ない所だった……」

 

赤面して俺に怒鳴る柩ちゃんと疲れたように溜息を吐いているタマモ。そして俺は大量の鼻血のせいで貧血気味ととんでもない事態になりながらも、何とか全員が1度冷静になった。

 

「いいね!絶対に誰にも言うんじゃないよ!喋ったら殺すからね!!!」

 

俺に指を突きつけて怒鳴る柩ちゃんに何度も頷く。あの目はヤバイ、本当に殺される。それほどまでの凄まじい殺気に満ちていた……でもあれは物凄く可愛かったけどなあ……

 

「んで?横島どうやって脱出するつもりなの?」

 

「そうだね。横島……君の意見を聞こう。この世界を作っている妖怪を見つけて、どうやって脱出するつもりなんだい?」

 

んーこの世界を作っている妖怪かあ……俺は思わず愛子を見つめる

 

「な、何かしら?」

 

うっすらと感じる妖力……それにさっきのことから考えたとしても、多分だけど……

 

「お前だろ?この世界作ってる妖怪」

 

「ふぁ!?」

 

奇声を発している愛子。いや、これは俺の直感なんだけどさあ……タマモと柩ちゃんが変になっていたのは女子って言う共通点があるからだと思う、俺が平気だったのは男だったから……かな?

 

「そうか……オマエが……オマエがああ!」

 

「ひう!?」

 

殺すという殺意に満ちた表情の柩ちゃんが愛子に詰め寄ろうとしたが、慌てて俺の後ろに隠れる愛子。

 

「横島、それをボクに渡すんだ。ボクだってGSの端くれさ、その気でやれば除霊の1つや2つ出来るんだよ」

 

殺意に満ちている柩ちゃんは確かに怖い、だけど俺のズボンを掴んで助けて、助けてと震えている愛子を見ていると気の毒に思えるし、何よりも

 

「そんなに怖い顔をしていると折角可愛いのに台無しだぞ?」

 

か、可愛っ!?と呻いて赤面する柩ちゃんは俺を睨んで

 

「そんな社交辞令でボクが「いや、本当に可愛いって!柩ちゃんは美少女だぞ」

 

あうっと呻いて俯く柩ちゃん、その目はまたキラキラとした輝きが戻ってきている

 

「あのさ?これどういうこと?」

 

「わかんない。私でも判らないの」

 

あーつまり愛子の意思でこうなっているって訳じゃ無いのか。んーじゃあどうすればいいだろう?

 

「まずさ、私達をここから出してくれない?また頭が変になりそうなんだけど」

 

変って言うのはさっきの状態の事だよな。まぁ確かに変だけど可愛かったと……

 

「余計な事を考えるな!思い出すな!ボクの事を可愛いって言うなあ!!」

 

耳元で怒鳴る柩ちゃん。耳を押さえながらまだ蹲っている愛子に

 

「えーと……じゃあなんでこんなことをしたのか教えてくれないか?」

 

愛子は話せば判る妖怪の筈だ。だからどうしてこんな事をしたのか?と尋ねると

 

「私はただ学校が楽しくて、学校でずっといたいって思ってて「で学園恋愛に憧れてるのよね?」ううっ!?」

 

タマモがニヤニヤ笑いながら愛子に言うと赤面して蹲る。この反応は可愛いなあ……

 

「じゃあ愛子は生徒になりたいってことで良いのか?」

 

「う、うん」

 

そうか。生徒になりたいのか……これは美神さんと話し合えば何とかなるかな

 

「じゃあ1回俺達を外に出してくれないか?俺の上司に相談してこの学校の生徒になれるように相談して貰うから」

 

愛子はゆっくりと顔を上げて俺を見つめる。その目は少し紅くなっていて泣いているように見えた

 

「ほんと?じゃあ出してあげる、約束破らないでね?」

 

「おう!俺は美女、美少女の味方だからな!約束は絶対護る!」

 

俺がそう返事を返すと目の前が白く染まり、浮かび上がるような奇妙な感覚を感じるのだった……

 

 

 

 

 

結界の中の机が光り輝くと横島達が教室に現れていた。咄嗟に立ち上がって

 

「横島!怪我は無い!大丈夫?」

 

「おう!全然大丈夫だ!」

 

にかっと笑う横島の姿に安心して思わずその場にへたり込む。危険は無いって判っていたのに、どうも横島のそばにいるようになってから私は少し弱くなってしまったのかもしれない。タマモは疲れたように床の上で丸くなっている、机の中で何が起きたのだろうか?それに柩も柩でなんか雰囲気がおかしいような……

 

「柩。あんた一応プロのGSでしょ?なに……ってどうしたのよ?その顔?」

 

耳まで真っ赤の柩がそこに居た。あの普段の胡散臭い雰囲気と怪しい気配がどこにも無い、なんと言うか歳相応の本当に可愛い女の子って言う感じがしている。まさか机の中で横島が何かしたんじゃないでしょうね?

 

「う、ううう!うるさい!!!ボクは疲れたんだ!だからもう帰る!後日レポートは送付する!!」

 

そう叫ぶと走っていってしまった。そのあまりの乙女な反応を見た私が感じたのは、嫉妬だ。横島がまた何かしたのだと思い

 

「あんな年下の子に何をしているのかしらぁ?」

 

あの反応で確信した。横島は机の中で柩に何かした、あんな見た目が子供の子になにをしているのかと思うと怒りを感じて

 

「あいだだ!いひゃい!いひゃい!俺は何もしヒャないッ!!!」

 

頬を抓ると涙目で叫ぶ横島。でも横島の何もしてないは正直信用できない……大体あの柩の乙女な反応ってだけで怪しいのにその言葉を信じることは出来ない……それになによりも

 

「腰にしがみついている女の子は誰かしらー?」

 

「いぎゃあああ!千切れりゅ!頬がちぎゅれりゅうううう」

 

更に横島の頬を抓りながら横島の腰にしがみついている女性を見る。それはやはり予想通り愛子さんだった

 

「……お前。名前を名乗れ、それと横島から離れろ」

 

シズクが指先から水を滴らせ愛子さんを睨む。こんなに好戦的なのにどうしてあんなに料理が上手なんだろう?そこだけが納得行かない

 

【えーとシズクさんは怖くないですよ?名前を教えてください】

 

おキヌさんがそう尋ねると愛子さんは怯えながらも横島から離れて

 

「机妖怪の愛子です。えーと……その本当にごめんなさい、ただ私は寂しくて、横島君とかに迷惑とか怪我をさせようとかはなかったんです」

 

深く頭を下げる愛子さん。その姿に悪意はなく、本当に心から謝っているのが判る

 

「みひゃみさん!えっひょでふゅねー」

 

私に頬を抓られたまま何かを言おうとする横島。美神さんは深く溜息を吐きながら

 

「はなしてあげて何を言っているか判らないから」

 

美神さんの言葉に頷き、横島の頬から手をはなす。横島は涙目でタマモを抱きかかえて

 

「えーと愛子は学校が大好きで寂しいのがいやなんだそうです。何とか生徒として受け入れてもらえるようにして貰えないですか?」

 

美神さんはうーんっと唸りながら頬をかいて、愛子さんを見つめて

 

「もう机に飲み込んだりしない?」

 

「しません!」

 

「人に危害を加えない?」

 

「くわえません!私はただ学校が好きなんです!」

 

愛子さんは人に危害を加えるような妖怪ではない、美神さんも話を聞いて判ったのか

 

「判ったわ。学校側と交渉してあげる」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし駄目だったら諦めなさいよ?いいわね?」

 

「はい!」

 

嬉しそうに返事を返す愛子さん。なんとかこれで無事解決ってことで良いのかな?除霊具も使わなかったし、平和的な解決が出来たから良いとおもう

 

「みーむ!」

 

「おう。心配してくれてありがとな?」

 

床の上に座り込んでタマモとチビを抱き抱えて笑っている横島。まぁとりあえず今やるべきことは……

 

「じゃあ横島?家に帰って話をしましょうね?」

 

「……そうだな。柩に何をしたのかしっかりと話を聞かせてもらう」

 

【本当です。横島さんが性犯罪者になるのは嫌ですから、今回はちゃんと反省して貰いますよ】

 

「い、いやあああ!!!放して!俺は無実だああ!!」

 

……無実って言ってるけど、あの柩の反応を見ると何かをしていたと思うのは当然の事だ。横島が年下に甘いのは知ってるけど、そんなにフラグばかりを立てられても困る。横島からどうやって話を聞きだそうかなあと思いながら、泣き喚く横島の足を掴んで引きずっていると愛子さんが

 

「よ、横島君!えっと……あれ!私の体を撫で回しひゃてやしゃきにゃんはとって!」

 

噛み噛みだったけど言いたいことは理解した。机の中に引っ込んでしまった愛子さんと青い顔をして知らない!俺は知らない!って手を振っている横島。でも愛子さんが嘘でそんな事は言わないって判っている、愛子さんは真面目でいい人だから

 

「シズク。判決は?」

 

私の判決は決まっている。柩だけでも許せないのに同年代の愛子さん。私の中の判決は決まっているし、おキヌさんにいたっては黒い霊力を全身からはなっている。それを見れば判決は決まっているようなものだ

 

「……有罪」

 

躊躇う事無く有罪判決を下し、親指を下に向けるシズク。あの仕草が平安時代にあったのか?それとも最近覚えたのか?は気になるけど、有罪判決が下された。その事実だけが重要だ

 

「いやああああ!本当に知らない!俺本当に知らないいいいいい!!!」

 

滝のような涙を流し、鼻水で顔をぐしゃぐしゃに汚しながらも、暴れて逃げようとする横島。だけど私が全力で掴んでいるので当然逃げる事が出来ず、そのまま外の車まで引きずって行くのだった……

 

なお水牢屋の中に閉じ込めて横島を如何するか?と話し合っている時に愛子さんから詳しく事情を聞いた美神さんが慌ててやってきて、横島が撫で回した(?)のは机であり本当に知らなかったという事が判明し、逆転無罪となったのだが、私達に信じてもらえなかった横島はチビとタマモを抱えて自分の部屋に篭城してしまった。本棚とかでガッチリ扉を塞ぎ、結界札でおキヌさんの侵入路も封じた、横島を説得するのにかなり苦労する事になったりするのだった……

 

 

 

自分の事務所まで走って戻ってきた柩は林檎のように紅い顔をして

 

「ううう!あんなのはボクじゃ無い。横島にお兄ちゃんなんて言って甘えていたのはボクじゃ無い……ああ、それに下着も見られて……うううッ!面白いことを見に行ったのに、どうしてこんなことになるんだよぉ」

 

歳の近い異性に下着を見られ、しかもその愛子の所為とは言え、あんな風に甘えていた自分を思い出した柩は布団の中に潜り込み、違う違うっと繰り返し呟いていた。だがその表情は少しだけ柔らかい物で、怒っているというよりも照れているという感じの可愛らしい、歳相応の表情をしているのだった……柩が自分の気持ちを自覚出来るのはもう少し先の事になりそうだ……

 

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その1へ続く

 

 




愛子の件は大幅に改造しました。青春恋愛空間へと進化し、取り込んだ相手が夢見る恋愛属性を無理やり附加し、甘酸っぱい青春恋愛をさせるって者にして見ました。これは逆行愛子の影響が出ていると思ってください。次回はマリアとテレサの話を書こうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕
その1



どうも混沌の魔法使いです。今回の話は鋼鉄の姉妹……つまりマリアとテレサの話にしようと思います。本来はバイパーの後の話ですが、流れの都合上早くすることにしました。厄珍ではなく、アシュタロスとコンビを組んでいるのでテレサは暴走しないので普通にマリアの妹として誕生します。そしてマリアの方もパワーアップさせる予定です、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その1

 

薄暗い研究室の中にふっふっふと言う、不気味な笑い声が響き渡る。声の主は1000の時を生きた錬金術師「ドクターカオス」と恐怖公・水曜日の魔王の2つ名を持つアシュタロスもとい「芦優太郎」だ。2人の視線の先には目を閉じて眠る2人の女性の姿がある

 

「はーはっは!!!やはりお前の力を借りたのは正解だった!これでマリアに限りなく人間に近い身体を与えることが出来る!」

 

上機嫌に笑うカオス。その理由はやはり自身の娘として大事にしていたマリアに人間に近い身体を与えることが出来る喜びからだろう。優太郎は優太郎で

 

「実に楽しみだ!私の持てる技術全てを注ぎ込んだ。有機ボデイとメタソウルの親和性を知ることが出来る」

 

優太郎は蛍の敵が増える事を自覚しながらも、自身の好奇心を満たすことを選んだ。その先に蛍による処刑が待っていても止まる事ができない。それがマッドサイエンティストと言うものだ

 

「では最後の仕上げだ。はじめようか」

 

「うむ!テレサの魂を作る詠唱と有機ボデイを稼動させるのに必要な電力の準備は出来ている!早速始めようぞ!」

 

ふっはははっと笑うカオスと優太郎は最後の調整を終え

 

「ではカオス最後の仕上げだ。電力を霊力へとは私が変化させる、お前は人工魂の詠唱を頼む」

 

「うむ!任された!では」

 

軽く咳き込んでからカオスは着ているマントを大きく翻しテレサへと手を向けて

 

「万物は流転し、生は死、有は無に帰す者なり!ならば死は生、無は有に流転するもまた真たらんや!!!」

 

カオスの詠唱に伴い電力が紫電を放ちながら霊力へと変化しテレサの中に吸い込まれていく

 

「この者、土より生まれし人の影なれど、わが祈りと魔の力より生命と魂を宿らせん!!生命に形あれば形にもまた生命のあらん事を!!!」

 

その詠唱と共に凄まじい雷鳴が周囲へと響き渡るのだった……

 

 

 

柩から送られてきた手紙を見ながら額を揉む、緊張した様子で私を見ている横島君に

 

「残念だけどこれは除霊実習としては認められないわ」

 

柩が私に頼み込んできたのは、愛子の件に自分が関わってないと言う事だ。Bランクとは言えプロのGSが九十九神に囚われた……それは自分の信用が無くなる事になりかねない、特に柩のような前線ではなく裏手に回ることの多いGSにとっては致命的だ。その事実を公表したくないと言う柩の言うことは判る

 

「そうっすか……いやまぁ……そんな事だと思ってましたけど……」

 

はぁっと溜息を吐く横島君、まぁ少しでも自分でGSの経験を積もうと考えたのは中々評価できるけど……正直横島君が1人でそうやって経験を積むために1人で別のGSの所に行くのは早かったと思う……だけど自分で学びたいって思っているのを止めるのは良くない

 

「また今度何か簡単な依頼をする時に連絡してくれるらしいわ。まッ!もう少しGSとしての勉強をしてからにしなさい」

 

「はーい」

 

はぁっとまた溜息を吐く横島君。最近は除霊にもあんまり連れて行ってなかったし、本人にやる気があるなら横島君を連れて行っても良いかも知れない。蛍ちゃんと横島君を連れていっても大丈夫な依頼は何かなかったかなあと依頼の束を確認する事にする

 

「ほら、横島そんなに落ち込まないで、次があるから」

 

「そうやな……もっと勉強して何か出来る事を増やさんとなぁ」

 

蛍ちゃんが横島君のフォローをしているのを見て笑みを零していると事務所の扉がノックされる

 

「横島君、蛍ちゃん。もしかすると依頼者かもしれないからチビとタマモを別の部屋に、シズクは出迎えに、おキヌちゃんはお茶の用意をしてくれる?」

 

横島君達に指示を出して机の上を片付けているとシズクが溜息を吐きながら戻ってきて

 

「……美神。カオスだった」

 

カオス?また何か除霊道具の試作品のテストにでも来たのかな?と思っていると

 

「こんにちわ、美神さん」

 

「ふーん?これが美神?」

 

真っ先に姿を見せたのはマリアに良く似た女性と長髪で好戦的な目をした女性の2人組み……まさか

 

「ふふっふ!我が科学の結晶!有機ボディへとコンバートしたマリアとそしてその妹のテレサじゃ!我が愛しい娘を連れてきたのじゃ!!」

 

マントを広げて楽しそうに笑うカオスと柔らかく微笑むマリアと片手を上げるテレサ

 

「何しにきたの?」

 

態々マリアとテレサを見せる為に来たとは思えず、私はまた面倒ごと?と思いながらカオスにそう尋ねるのだった……

 

 

 

ドクターカオスの後ろで微笑んでいるマリアさんはどこからどう見ても人間だ。柔らかそうなピンク色の髪とその浮かべている表情を見て彼女が人造人間なんて思う人間はいないだろう……そして私には判っている。ドクターカオスだけではここまで完璧な有機ボデイを作ることが出来るわけが無い……主に資金とか設備とか、資金とか資金とかの問題で

 

(家に帰ったらぶちのめす)

 

これは絶対お父さんの仕業だ。最近なんかこそこそしていると思ってたけど、まさかこんな事をしているなんて……私に協力してくれると言っておいてまさか敵を増やしてくれるなんて思ってなかった

 

「マリアなのか?」

 

横島が信じられないという感じでマリアさんに尋ねる。確かにロボットだった知り合いが急に生身の人間になっていれば驚くのは当然の事だ。マリアさんもそれが判っているのか

 

「はい横島さん。どうでしょうか?前のボディの方が良かったでしょうか?」

 

横島に優しく微笑みかけるマリアさん。ロボットの時の表情の固さが無く、非常に優しそうなお姉さんと言う感じがしていて横島の顔が紅いのが判る

 

「いやいや!?今のマリアはすごく綺「横島?」はひい!?」

 

なんで名前を呼んだだけでそんなに怯えるのか理解できない。私は笑顔を浮かべているはずなのに

 

「……悪魔の顔をしている」

 

【怒っているんですね】

 

そこ!余計な事を言わない!私は確かに怒っているけれどお父さんに対してで、横島ではないのだから

 

「私は別に怒ってないわ。怒っているとすればお父さんに対してね」

 

「優太郎さんに?なんで?」

 

「まぁ私の都合って事よ。あんまり気にしないでいいわ」

 

不思議そうな顔をしている横島としまったという顔をしているドクターカオス。本当ならドクターカオスも同罪で叩きのめしたいと思っているが、マリアさんとテレサさんが居る状況では危険だ。もしも戦闘になったら今の私では勝てない可能性が高い、生身の身体ということはもしかすると擬似霊力を取得している可能性があるからだ。それにマリアさんが良い人なのは知っているから、出来れば敵対したくないって言うのもある

 

「それで見せびらかせに来たって事じゃないのよね?何しに来たの?」

 

私を見て怯えているドクターカオスを見ながら美神さんが尋ねる。ドクターカオスはマリアさんとテレサさんの後ろに隠れながら

 

「マリアとテレサを暫く美神でも小僧の所でも良いから預かって欲しいんじゃ、メタソウルの定着や精神面の安定のためには一時的にでもどこかで暮らす方がいいと思っての?依頼料は払うから考えてくれんか?」

 

……すごく嫌な予感がする。マリアさんは横島に対して好意的だ、しかもこうして人間に近い身体をえた事で積極的になるかもしれない、テレサさんについては知らないけど、あの好戦的な目を見ているとどうにも嫌な予感しかしない

 

「まぁそれは良いけどね。お手伝いさんが増えるのはありがたいから」

 

「そう言ってもらえると助かるわい。マリアとテレサがどっちに行くかはお前達で話し合って決めてくれ!できれば情操教育の為にテレサは小僧の所が良いと思っておるが、そこは任せる!ではの!!」

 

強引に話を打ち切って走っていくドクターカオス。それはどう見ても自分の身の危険を感じ取っているからとしか思えず

 

「よいしょ」

 

窓を開けて走っているドクターカオスを見つける。中々のスピードだけどやはり老人だ、思ったより離れてない

 

「おキヌさん【はいどうぞ】

 

おキヌさんから受け取った捨てる予定だった目覚まし時計を握り締め、私は逃げているドクターカオス目掛けて全力で投げるのだった……数秒後スコーンッ!と小気味良い音が周囲に響き渡るのだった……

 

 

 

蛍が壊れた目覚まし時計を窓の外に投げるの見て、俺は安堵の溜息を吐いた。さっきの顔を見ると俺に怒っているかのように思えてからだ

 

「みむ」

 

「コン」

 

依頼者じゃ無いと言う事が判ったので隣の部屋から戻ってきたチビとタマモを膝の上に乗せ頭を撫でていると、視線を感じる。誰がこっちを見ているんだろ?と思って振り返ると

 

「サッ」

 

素早く俺から目を逸らすテレサの姿が見える。正確には俺ではなく、膝の上のチビとタマモを見ているようだ

 

(アンドロイドらしいけど、こう言う所は女の子なんだなあ)

 

チビもタマモも可愛い小動物なので気になって仕方ないのだろう。膝の上でグルーミングしているチビを抱っこして

 

「撫でてみるか?」

 

テレサの方に差し出しながら尋ねるとすごい勢いでこっちを見て

 

「良いの!?」

 

「お、おう」

 

そのすごい剣幕に驚きながらこっちに近寄ってきたテレサにチビを差し出すと

 

「可愛い」

 

「みむう」

 

指で撫でられてくすぐったそうにしているチビ。だけど逃げる素振りも隠れる素振りも見せないので

 

「抱っこしてみるか?」

 

「ほんと!?良いの?」

 

嬉しそうなテレサにチビを渡すと、テレサはチビを抱えてソファーに座り込んでチビを撫でたり、抱っこしたりしている。

 

(こうして見ると普通の女の子だよなあ)

 

あんまりじろじろ見るのも悪いと思い、頭の上にタマモを乗せ、何かを話し合っている美神さんと蛍の傍に向かう

 

【むう……私にはまだ懐いてくれないのに何で】

 

宙に浮かびながら頬を膨らませているおキヌちゃん。最近大分慣れてきたみたいだけど、頭を撫でるのが手一杯で面白くなさそうにしている

 

「まぁチビは気難しいからなあ」

 

【それでも納得行きません】

 

ぷくうっと頬を膨らませているおキヌちゃん。チビの懐く人と懐かない人の基準が判らないんだよなあ……冥子ちゃんとかには割かし直ぐ懐いていたんだけど……何が基準になっているんだろう?

 

「まぁまぁ、そんなに膨れないで折角可愛いのに台無しになるでー?」

 

膨れているおキヌちゃんの頬を突きながら言うと、一瞬驚いたような表情をしたおキヌちゃんだったが、次の瞬間顔を真っ赤にして

 

【うえあ!?】

 

理解不能な奇声を発して壁の中へと消えてしまった。おおう!?なんだこの反応は……俺が何か悪い事をしたのかと首を傾げていると

 

「……むやみに可愛いとか言うな」

 

「あいだ!?」

 

シズクのローキックが脛に炸裂し、そのあまりの激痛に思わず蹲る。最近シズクが攻撃的になっている気がする……なんでだろう?

 

「大丈夫ですか?横島さん?」

 

俺に手を差し出してくるマリアの手を握って立ち上がる。こうして触れても判らない、肌の柔らかさとかどう考えても人間としか思えない

 

「ミス・美神の所にマリアは行きます、横島さんは私の妹のテレサをよろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げるマリアに咄嗟にうんって言ってしまったけど、どうしよう……俺情操教育なんで判らない

 

「……心配ない。テレサに料理や裁縫は私が教える」

 

おおう……流石頼れるロリおかんだ……シズクが居て本当に助かった

 

「判ったわ。じゃあ今日はよろしくね?マリア」

 

「はい。では夕食の準備を始めます」

 

そう笑ってキッチンに向かっていくマリアを見ていると蛍が俺の肩に手を置いてにっこりと笑いながら

 

「じゃあ横島はテレサさんを家まで案内して?私も後で行くからね?」

 

その笑顔には有無を言わさないとんでもない威圧感があり、俺は難度も何度も頷いてから

 

「じゃあテレサ、家に案内するからついてきてくれるか?」

 

「ん?了解。それにしてもこのチビは可愛いなあ♪」

 

チビに頬ずりしてご機嫌のテレサとタイムサービスの時間帯が近づいているから急げと言うシズクを連れて俺は事務所を後にしたのだった……なおタイムサービスの豚肉の切り落としと卵などの大量の戦利品を抱えながら、足りない食材を買い足す為に商店街に寄ったのだが

 

「おっ!シズクちゃん!今日もお買い物かい!」

 

「シズクちゃん!今コロッケが揚がったから持ってお行き」

 

シズクがいつ間にか商店街の人気者になっていたことに、俺は心底驚愕したのだった……

 

 

 

逃げなければならない。私はそれだけを考えて荷物を纏めていた……ついにマリアとテレサが蛍に出会ってしまった。私がやったのは自分の好奇心を満たすために蛍の敵を増やしてしまった

 

(殺される)

 

魔神だから死にはしないが、痛い物は痛い。それに蛍は私と同質の魔力を持つ為私のバリアは意味を成さない

 

「戻ったら最後の仕上げをするからな、蓮華」

 

培養液の中で眠っている蓮華に声をかける。後は性格の設定とかで終わるのだが、そんな事をしている時間が無い。それに蓮華をボデイガードにすれば余計に蛍の怒りを買いかねない、だから今はこのまま逃げるしかないのだ

 

ガツガツ……

 

「オトーサーン?ドコニイルノー?」

 

ついに来た……私は額から汗を流しながら、廊下から聞こえてくる何かを引きずる音と蛍の抑揚の無い声に心底恐怖した

 

(恐怖公たるこの私が恐怖するなんてありえない……なんていえないんだよなあ)

 

最近トトカルチョの一覧にエントリー予定と刻まれた空欄が増えている。それを見る度に蛍が荒れている、それを知っているのに敵を増やした私を許してくれるはずは無い……

 

(とりあえず逃げよう。落ち着いた頃に謝ろう)

 

向こうの方から聞こえてくる音と逆の方向に逃げれば、間違いなく逃げ切る事が出来る。外に出れば移動用の兵鬼で逃げればいい……私はそんな事を考えながら隠し通路を通り外に出ると

 

「マッテタワヨ?オトウサン?」

 

ハンマーを肩に担いだ蛍が仁王立ちしていた。馬鹿な……どうやって回り込むことが出来たと言うんだ!?

 

「ワスレタノカシラ?ワタシがトクイニシテイルノはゲンジュツヨ?」

 

忘れてたああああ!!!私の馬鹿アアアア!!!なんでこんな大事なことを忘れたんだ!本当に私の馬鹿ぁッ!!!

 

「それにイイコトヲオシエテアゲルワ?オトウサン?マオウノムスメカラハニゲラレナイ」

 

イイエガオでハンマーを振りかぶる蛍に逃げる事も説得することも出来ないと悟った私はもう2度とこんな事はしないと心に誓うのだった……

 

「なんで!なんでなんで!私の知らない人ばかり増えてくのよおおおおおッ!!!!」

 

「あーッ!!!!!!駄目だ!死ぬ!マジで死ぬ!駄目だあああああああ!!!ぎゃああああああッ!!!!!」

 

外から聞こえてくる蛍と優太郎の悲鳴を聞いた土偶羅魔具羅は

 

「では今日はワシが夕食の準備をするかのう……」

 

自分では主を救う事が出来ない事を悟り、その目に涙を浮かべながら厨房へと逃げるのだった……なお優太郎の悲鳴が途絶えたのは、土偶羅魔具羅が調理を始めてから20分後の事だった……




リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その2へ続く

次回はテレサをメインにした話を書いていこうと思います。テレサは天然キャラって感じで行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はマリアとテレサの話をしていこうと思います。マリアの場合は有機ボディに対しての感想とかと、テレサがマスコットに和んでいる姿を書いてみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その2

 

ミス・おキヌが姿を見せないので彼女の変わりに夕食の準備をする。鍋から漂ってくる匂いや炒め物をする音

 

(何もかもが驚きに満ちています)

 

これは今まで何度もやってきたことだ。だから慣れた作業のはずなのにそれでさえ楽しく思える……これもなにもかもこの新しい身体のおかげなのでしょうか……ドクターカオスとミスタ・優太郎によって新しく用意されたこの有機ボデイの身体

 

(欲しいと思っていた物を手にすることが出来ました)

 

私はドクターカオスに作られた人造人間だから、人間になる事は出来ない。心が有っても私は機械なのだと思っていた……それは逆行してきた記憶を持つ私にはとても辛い物でした。でもこうして人間に近い身体を手にすることが出来た……これでもっと横島さんと仲良くなる事が

 

【横島さんと仲良くなれるとか考えてませんか?】

 

「み、ミス・おキヌ!?」

 

壁から手だけを出して私の肩を掴んでくる。ミス・おキヌ、ひんやりとした手の感触と何の感情もこめられてない言葉に恐怖を感じた。凄まじい気配です……私が完全に硬直していると

 

【まぁ良いですけど?早く料理の準備を続けましょう】

 

笑っているのに目が笑ってない。これは以前の身体では感じなかった事だ……これが恐怖……

 

「そうですね。早く料理を仕上げてしまいましょう」

 

ミス・美神の家で横島さんの事を考えていたのが良く無かった。ドクターカオスが迎えに来るまでは今出来ることに集中しよう

 

【そうそうマリアさん?】

 

私が作っていたシチューの味見をして、調味料を足していたミス・おキヌさんが声をかけてくる。何か間違えてしまったのでしょうか、有機ボデイに変わったばかりでまだ思うように動けないと言うのは自覚していますが……

 

【そのミスって言うの止めた方がいいですよ?】

 

そう言われてほっとする。おキヌさんが少し怖いと思いながら冷蔵庫から野菜を取り出そうとすると

 

【だって横島さんだけさんづけって明らかに特別って言ってるような物ですからね】

 

うふふっと笑うミス・おキヌ。その笑顔に凄まじい寒気を感じながら

 

「判りました。助言ありがとうございます、ミス……いいえ。おキヌさん」

 

にっこと笑い返すおキヌさんに底知れぬ恐怖を感じながら、私は自分の判断が間違ってなかったことに安堵していた

 

(テレサがいなくて良かった)

 

テレサはまだ起動したばかりだから、きっと周囲の人の性格などを分析し、組み替えて自分の人格を形成していくことだろう。そんな無垢な状態でおキヌさんと遭遇していたらどうなってしまうか?想像するだけでも恐ろしい

 

(テレサ。姉さんは頑張ります)

 

きっと横島さんの家で楽しく過ごしているであろうテレサに心の中で頑張りますと呟き、私は料理の準備を進めるのだった……

 

(ふふふ……マリアさんは私の味方にふふふふふ)

 

そしてその背後でおキヌちゃんが真っ黒い笑みを浮かべているのだが、不幸か幸いか、マリアはその笑顔に気付くことはなかったのだった……カオスが迎えに来るまで悪影響が出ないか?そこだけが心配になりそうである……

 

 

 

 

 

 

なお横島の家で預かられることになったテレサと言うと……マリアの予想通りとまでは行かないが、楽しく過ごしていたりする

 

「可愛いなぁ、本当に」

 

ハムスターの台車を回転させているチビを見つめているテレサ。表情は少し固いけど微笑んでいるのが判る

 

「横島だっけ?」

 

「ん?そうだけど?」

 

急に話し掛けられて驚きながら返事を返すとテレサは俺の膝の上のタマモを見て

 

「タマモって抱っことか出来る?」

 

よっぽど小動物が好きなのかそう尋ねてくるテレサ。だけどタマモは嫌そうな感じでそっぽを向いてしまう

 

「無理やな。タマモはチビよりも警戒心が強いから」

 

そもそも俺以外にタマモが懐いているのを見たことが無いと言うとテレサは残念そうにタマモを見ている。その姿を見るとかわいそうなのでなんとかタマモを説得してみようかと考えていると

 

「ああ。別にいいよ、大体私はあんたの家で人間って言うのが何なのかを勉強しに来たんであって、遊びに来たんじゃないし」

 

テレサはそう言うとゆっくりと立ち上がって、大きく背伸びをする。するとその身体にフィットする黒い服の胸の部分が強調され、思わず視線が胸に集中する

 

(で、でかい……)

 

美神さんにも劣らないそのナイスバディだ……思わずガン見していると

 

「グルゥ!」

 

「ぎゃあ!?」

 

タマモに思いっきり脇腹を噛まれて悲鳴を上げてしまう。ぐう……痛い、しかも脇腹だから余計に痛い。テレサもテレサで

 

「そんなに見てどうしたの?私どこかおかしい?それとも服が汚れてる?」

 

不思議そうな顔をして自分の身体の確認をするテレサ。その様子は俺の邪な視線に気づいていないという感じで

 

(自分が汚れているように思える!?)

 

テレサは外見こそ大人の女性だが、その心はまだ子供とでも言うべき物で今も不思議そうに自分の服装を確認しているのを見ると、自分が酷く汚れているように思えてくる

 

「……テレサ。こっちへ、今から夕食を作るから勉強しに来い」

 

「判ったよ。今行く」

 

キッチンから顔を出したシズクに呼ばれてキッチンに向かっていくテレサの背中を見つめながら、脇腹を噛むのを止めたタマモを抱き上げて視線を合わせて

 

「俺が酷く汚れた人間に思えるんだ。タマモ~」

 

思わず泣きながらタマモに言うとタマモは小さく鳴いてから前足でぽんぽんと俺の頭を撫でるのだった……なおチビは

 

「みむ?」

 

台車回しの運動を終えた後にシズクが用意してくれた。リンゴのカケラを頬張っていたりする

 

 

 

 

 

 

シズクと名乗る子供……いや竜神かな?竜気を少し感じるから竜神だと思うんだけど……良く判らない。

 

「……卵を溶いて、出汁を混ぜる。ここで醤油か、砂糖を入れる。横島は塩辛い方が好きだから醤油をいれるけど、私は甘い方が好きだから砂糖を入れる」

 

夕食の料理として卵焼きを作っているシズク。その手際は実に良くて、データとして知っているだけの私とは全然違う

 

「……良く熱したフライパンに油を引いて焼く、焦げ付かないように気をつけること」

 

私に料理の順番を説明しながらも、流れるように料理をしていく。器用に卵を巻いて焦げの無い美しい卵焼きを焼き上げたシズクは

 

「……じゃあ今度はテレサやってみろ」

 

私は味噌汁を用意するからと言って冷蔵庫の方に向かうシズクの方を見ながら、握り締めているフライパンと脇に置かれた卵を見る

 

(ふ、不安だ)

 

データとしては知っているし、今もこうしてシズクが実演してくれたのもちゃんと見た。それなのに私が自分で卵焼きを作るとなると激しく不安になってくる

 

「私は誰の分を作ればいいの?」

 

横島の分なら醤油。シズクなら砂糖だったはずと思いながら尋ねるとシズクは何を言っているんだ?と言う表情で野菜を切りながら

 

「……それはテレサの分。自分で自分の分を作ってみればいい」

 

いやいや、それはおかしい。外見は私は確かに人間だけど、私は人造人間で食事は一応食べれないことはないけど、食べる必要はない訳で……

 

「……ここは妖怪とか神様とか関係ない。個人として過ごせばいい、だから自分が人間じゃ無いとかくだらないことは考えるな」

 

豚肉を切りながらシズクがそう呟く。そうは言われても……私は完全に混乱してしまっていた……シズクは私のその様子に気付いたのか、フライパンで豚肉と野菜を炒めながら

 

「……テレサはここがどう思う?」

 

ここって横島の家ってことだよね。グレムリンの赤ちゃんがいて、妖狐がいて……水神がいる

 

「おかしな所?」

 

普通は人間は妖怪を恐れるし、神を敬う。それが一つ屋根の下で仲良く暮らしているのは、私の中にある情報の中ではありえないことだと認識し、思わずそう呟くと

 

「……そう、ここはおかしな所……いや違う。横島がおかしい、妖怪も、神も何もかも受け入れて、今度はカラクリ人形を受け入れた。ここはそう言うところ、自分が何か?とか種族が違うとか関係ない」

 

野菜を炒め終わったシズクが鍋の中に水と出汁の元を加えながら、私のほうを見て小さく笑って

 

「……私はここでは水神でも、竜神のシズクでもない。ただのシズク……私はただのシズクで良い。だからテレサもカラクリ人形のテレサじゃなくて、只のテレサとしてここにいれば良い」

 

その言葉は驚くほどにすとんっと私の心の中に入り込んできた。私は私でも良い?作り物の身体と心なのに?

 

「……そう。テレサはただのテレサでいれば良い、ここはそう言う場所。人に属することが出来ない物にとって横島の傍は心地良い場所、拒絶されることがないから」

 

人間は自分と違うものを恐れ拒絶する。これは私の中の情報の中にもしっかりと記録されている、そしてそれは人間の常識だと判っている

 

「それだと横島が変って事になるんじゃないかな?」

 

人間は自分と違う物を恐れ迫害する、でもそれをしない横島は普通の人間じゃ無いってことになるのでは?

 

「……それが横島らしさと言える、それに大体テレサは小難しく考えすぎる。もっと気楽になれば良い」

 

鍋の中に味噌を溶かしいれているシズク。なんともおかしな場所だ……でも嫌いじゃ無いと思える

 

「じゃあ私はまず何からすれば良いとおもう?」

 

「……自分の好きな卵焼きの味を考えれば良いと思う」

 

なるほど、それは確かに大事な事かもしれない。まだこの家で暮らすのだから、自分の好きな味を知ることは大事かもしれない

 

「判ったよ、じゃあやってみる」

 

「……それで良い、判らなかったら尋ねればいい。私が教えてあげる」

 

味噌汁の鍋に蓋をしながら笑うシズク。私は卵を掴んで割ろうとしてふと気になったことを尋ねてみる事にした

 

「どうして私にこんなに助言をしてくれたの?」

 

私は今日起動したばかりだ、姉さんと違ってデータとして知っていても知らないことが多い、自分と言うのもちゃんと把握しているとは言えない。そんな私に自分を知る事が出来るような助言をしてくれたシズクにその理由を尋ねると

 

「……神は生まれた者を祝福する。それが人間であろうとなかろうと、生まれたばかりの何も知らない無垢な物が悩んでいるのならば、助言するのは当然のこと」

 

さっき自分はただのシズクが良いと言っていたのにと思っているとシズクは

 

「……話は終わり、早く料理を進めろ。食事の時間が遅れる」

 

目を逸らしながら言うその姿にもしかして照れている?と思ったが、あえて私はそれを口にせず、シズクに教わった通りの順番で卵焼きを焼く為の準備を始めたのだった……ここでなら、もしかすると私も姉さんのように自分という者を見つけられるかもしれないから……だからまずは自分と言うものを知るための第一歩として甘い卵焼きと塩辛い卵焼きの2つを焼いてみようと思うのだった……

 

 

 

 

 

お父さんの粛清を終えて、折角だからお父さんの作った名前も知らない変な薬品をかけてきた、熱いとか冷たいとか叫んでのた打ち回っていたけど、まぁ死にはしないと思うので放置して、横島の家に来た

 

「蛍丁度いい所に来たなあ!もう直ぐ夕ご飯だから一緒に食おうぜ」

 

膝の上にタマモを乗せて笑う横島。きっと横島ならそう言ってくれると思って真っ直ぐここに来たのは正解だった

 

「……ちっ」

 

不機嫌そうに舌打ちしているシズクは無視してリビングに入ると

 

「今度は上手く焼けたよ!」

 

テレサが卵焼きを載せた皿を嬉しそうにキッチンから顔を出す。私を見て少し驚いた表情をしてから

 

「いらっしゃい……で良いのかな?この場合?}

 

顎の下に手を置いて首を傾げているテレサにそれでいいと返事をすると

 

「芦蛍だったよね?あんたは甘い卵焼きと塩辛い卵焼きどっちが良い?」

 

これは焼いてくれるってことで良いのかしら?机の上で湯気を立てている豚汁を見て

 

「甘い卵焼きで」

 

「了解。ちょっと待っててね」

 

キッチンの中に戻っていくテレサ。太ってしまうからそんなに甘い物を食べるは控えているけど、やっぱり甘い物は大好きなのよね……こればっかりは我慢出来るものではないし、横島の正面に座ろうとするがそこにはシズク用と書かれた座布団が置かれており、それをどけるわけにも行かず、左側の方に座ると直ぐにテレサがご飯と味噌汁と卵焼きを持って来てくれる

 

「上手く出来ていると良いんだけどね」

 

そう小さく笑うテレサ。だけどこうしてみても焦げもないし、綺麗に焼きあがっていると思う。私の正面に座るテレサの前にはちゃんとご飯が用意されている。有機ボデイだから普通に食事が出来るのかな?と思いながら手を合わせてからみんなで夕食を食べ始める

 

「みーみ」

 

「コン」

 

横島は自分の前で口を開くタマモとチビに切り分けた果物と油揚げを与えている為。食べるペースが非常に遅い、だけど横島自身が楽しんでいるようなので何も言えない。どうもうすうすそうだと思っていたけど、横島は相当小動物が好きなようだ

 

(うっ、やっぱり美味しい)

 

豚汁を口にして眉を顰める。シズクが和食が得意なのは知っているけど、どうしてこんなに美味しいのだろうか?こんにゃくやじゃが芋にごぼうと大量の野菜とたっぷりの豚肉が入っていてこれだけでおかずになる。横島にいたっては

 

「もひゃわり!」

 

「……飲み込んでから喋ろ」

 

チビの食事が終わったからか、一気に食べ始め味噌汁のおわんと茶碗をシズクに差し出しお代わりを要求している。私はテレサが焼いてくれた卵焼きを頬張ってから再び味噌汁を口にする

 

(んー何が入っているのか全然判らない)

 

料理の勉強はしているけど、和食ではどう足掻いてもシズクには勝てない気がする。今度一緒に料理をする機会があればシズクの和食のコツをなんとかして盗みたいと思う。シズク自身は洋食が苦手だから、それを教えれば教えてくれる可能性がある……私はそんな事を考えながら夕食を食べ進めるのだった……

 

「それで?横島学校から出されてる課題は?」

 

夕食が終わった所でそう尋ねる。本来教えてあげる予定の日に柩と出かけてしまったのだから、終わっているはずが無い

 

「……教えていただけるでしょうか?蛍様」

 

やっぱり予想通りね。私は苦笑しながら横島を見て笑い返しながら

 

「仕方ないわね。この蛍様が教えて上げるから持ってきなさい」

 

あざーすっ!と叫んで自分の部屋に向かっていく横島。私は今のうちに机の上のチビを見て

 

「チビー、おいで?」

 

「みむぅ?」

 

机の上でグルーミングをしているチビを呼んでいる。チビに懐いて貰うのは何よりも優先しないといけないことなんだけど

 

「……チビ」

 

「みむ!」

 

シズクが呼ぶと直ぐに机の上を走ってシズクの手の中に飛び込むチビ。にやりと勝ち誇った顔をしているシズク……なんで私には全然懐いてくれないの……と思わずがっくりと肩を落としてしまう。チビの懐くと懐かない基準って本当に何なんだろう?

 

「蛍様ー!よろしくお願いします!」

 

課題を持って来た横島。チビに懐いて貰うのはまた後でも良いと思い、横島の課題を教え始めるのだった。なおテレサは

 

「うわっとと!?」

 

「……洗剤をつけ過ぎ」

 

「みむ!」

 

頭の上にチビを乗せたシズクに家事の事を教わっていた。見た目ロリなのに何であんなに家事のスキルが高いんだろう?それに神様があれだけ家事が出来るって言うのもなんかなあって思う

 

「そこはYを代入すればいいの」

 

横島が悩んでいる課題を見る。どうも今は数学のようだ、数式を導き出すことが出来なくて唸っている横島にそうアドバイスすると

 

「Y?なんで?」

 

数学の課題に頭を抱えている横島。前をも教えてあげたんだけど、どうも完全に忘れてるみたいね

 

「じゃあもう1回説明するからね?ここの数式は……」

 

横島の隣に座り、勉強を教えてあげるのは1つの私の楽しみになっていた。

 

「あうあう……」

 

課題が判らないのと、私が近くにいる事で顔が赤くなったり、青くなったりする横島の反応を見るのがとても楽しいからだ……

 

「グルゥ」

 

私を威嚇するように見ているタマモだけど、タマモは当然数学なんて判らない。しかも横島にも構って貰えないため、威嚇するのを止めて横島の膝の上に潜り込んで丸くなるのだった……

 

 

 

 

 

「あいたたた、死ぬかと思ったわ」

 

事務所の窓から飛んで来た目覚まし時計で出来た大きなたんこぶを摩りながら、コートの中から丸い機械を取り出してボタンを押す

 

『助けて!』

 

もしかするとこうなるかもしれない。と予測していたワシと優太郎のお互いが所持している通信兵鬼には大きく助けて!と文字が浮かんでいた

 

「やはりか……」

 

恐らくお嬢ちゃんにやられたのだろうと推測し、ワシはその兵鬼に浮かんできた地図を頼りに優太郎を探し始めた、優太郎のビルから離れた廃墟となった雑居ビルの地下でワシを待っていたのは

 

「これはなんとまあ……」

 

優太郎はボコボコに殴られたうえに氷の棺の中に完全に閉じ込められていた。どうやってこの棺を用意したんじゃ?と思いながら優太郎の助けようとしたのじゃが

 

「カチ」

 

「うむ?」

 

足元から聞こえた不吉な音。まさか……ワシが助けに来ることを予測していた!?足元と頭の上から落ちてきたドロリとした水が掛かった瞬間。ワシもまた優太郎と同じく全身を氷の棺の中に閉じ込められてしまうのだった……

 

なおカオスと優太郎が救出されたのは、土偶羅魔具羅がいつまでも帰ってこない自分の主を探し始めてから5日後のことだった……

 

 

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その3へ続く

 

 




次回で鋼鉄の姉妹の再誕は終わりにして、バイパーの話にはいっていこうと思います。これは吸血鬼の夜みたいに長い話になるかもしれないですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話でマリアとテレサの話は終わりになります、話としては少し短めになるかな?
次回からは前の吸血鬼の夜みたいな感じで長いレポートにしてみようと思っています。バイパーの話ですからね、多分長くなると思うんです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その3

 

ガチガチ……静かな部屋に響く、歯と歯を打ち合わせる音……優太郎とカオスだ。部下である、土偶羅魔具羅に救助され、5日ぶりに氷の棺から解放された。なお氷の棺はまだ健在だったので、出力に気をつけ土偶羅魔具羅が火炎放射で解凍した。若干髪が焦げた程度で済んだのは、流石は魔神と言うべきなのだろうが、いかに魔神と不老不死と言えど、5日も氷の中に閉じ込められれば体力も魔力も消耗する。つまり今の2人はお互いに魔神と魔人と言うべき人間よりも上位の存在でありながら弱りきっていた。今ならそこらへんの子供に殴られただけでもKOされかねい程に体力と魔力を消耗していた

 

「「ぶえーくしょんっ!!!」」

 

本来ならここまで弱る事が無いのだが、優太郎は徹底的に殴られダメージが蓄積した後に、カオスは完全に無防備な状態で……つまり防御するという考えがないときに飲み込まれたので、かなりのダメージを受けてしまったのだ

 

「どうぞ」

 

体を温める魔法薬を差し出してきた土偶。コップの中に入っている薬を一気に飲み干す

 

「「おお……温まる」」

 

飲んだ時は温い水と言う感じだったのだが、飲んだ瞬間身体の中から一気に暖かくなった。確か……土偶羅魔具羅だったか。短時間でこれだけの効力を持つ薬を練成するとは

 

「いい部下がいるなあ、優太郎よ」

 

蛍のお嬢ちゃんはしっかりとジャミングを掛けて、直ぐに見つけることが出来ないようにするなどして、色々と工作をしてからこの廃ビルを後にした。正直解凍しに来てくれるまでこのままだと思っていたのに、見つけ出してくれた土偶羅魔具羅には正直感謝しているし、素晴らしいと思う。マリアにはワシの生命の危機を察知したら助けに来てくれるように頼んでいたのだが、マリアがこなかったことを考えると相当なジャミングが掛けられていた筈だからだ

 

「うむ!土偶羅魔具羅は私の頼もしい助手さ!家事から料理まで何でもしてくれるぞ!」

 

それは何か違うのではないだろうか?お嬢ちゃんに殴られたり、怒られたりして料理を作ってもらえないことが多いのだろうか?

 

「……私は良かれと思っているんだけどねえ」

 

「完全に空回りしておるな。馬鹿親」

 

ワシは逆行の記憶があるから知っておるが、自分の娘として作り、そして小僧の娘として蘇り。そしてその2つの存在が1つになり生まれた芦蛍。惜しみない愛を注ぐことが出来るのは何故か?それは逆行する前の小僧の記憶

 

「なんとも魔神ともあろうものがのう」

 

優太郎はそんな自分を自覚している。自分じゃ無い感情が自分の中にあることを悟り、そしてそれを是とした。この気持ちは間違いではないと……優太郎はワシの考えている事を感じ取ったのか小さく微笑んでから

 

「今日はとりあえず休みましょうか?」

 

何も言わないでくれとその目が語っている。それに本人が良いと言っているのならワシが言う事は何も無い、それにワシも似たような者じゃしな

 

「そうじゃな。まずは風呂、それから晩酌と行くかのう。流石に腹が減った」

 

5日間も氷の棺に閉じ込められたので身体も痛いしのうと笑うと優太郎もつられて笑いながら

 

「檜の風呂があるのでそこへ」

 

「やれやれ。魔科学の悪用じゃなあ?」

 

こんな所に魔法でゲートを作って温泉を引くとは何を考えておるんじゃ?と言うとあははっと乾いた笑い声を上げる優太郎に苦笑しながら、明日にもマリアとテレサを迎えに行くかの?予定よりもずれてしまっているし、怒ってはいないと思うが、そこだけが不安じゃなあ。小僧と美神に大事に扱って貰っておれば良いんじゃが……そんな不安を抱きながら優太郎に案内されその檜風呂へと向かうのだった。その後は魔界の酒と久しぶりの食事を楽しんだのじゃが

 

「「頭痛い」」

 

2人して飲みすぎてしまい、二日酔いで布団に転がったまま動く事が出来ないのであった……あ、明日こそは迎えに行くぞ……マリア、テレサぁ……

 

 

 

テレサが家でシズクに家事を習ってから6日が経った。最初はおっかなびっくりと言う感じでやっていたのだが、今では堂々とした物である

 

「なー?タマモー?なんで俺の家に蛍の着替えが普通にあるんだろうなー?」

 

「クウ?」

 

横島がちょっと壊れてきてるけど、まぁ大丈夫だと思う。横島は女好きではあるが、攻められると弱い純情な部分がある。だからさも当然のように私が寝泊りしている事に精神が耐え切れなくなってきたのだろう

 

(いや、私も確かに恥ずかしいんだけどね)

 

予定では3日の筈だったから……一泊二日のつもりだったんだけど、気がつけばかなりの日数を横島の家で過ごしている。

 

(同棲とは言いがたいなあ)

 

最終的な目的地と言えばそこなんだけど……今は邪魔者が多すぎる

 

「……大分良くなっている。後は応用力を身につければ良い」

 

「そ、そうかな?」

 

テレサに裁縫を教えているシズク。せめてシズクがいなければもう少し過ごしやすかったしと思うんだけどなあ……そもそも私が家に帰らないのはお父さんが馬鹿な事をしたからだ、なんで私の敵になるって判っているマリアさんとテレサに人間と同じ身体を与えたのかわからない……それにお父さんとドクターカオスの事だから。人間に出来ることは、間違いなくすべて出来るようにしているはず、それこそ子供だって……そう考えるとマリアさんはとんでもない強敵になる、性格も良いし、スタイルも良いし……良し決めた。

 

(うん、今日は家に帰ろう。んで叩きのめそう)

 

お父さんとドクターカオスを閉じ込めた氷の棺が破壊されたのは判っているから、寄り道をせずに家に帰ろう。そしてお父さんを叩きのめそう……これは決まりだ

 

「さてと、じゃあ横島。今日の勉強を始めましょうか?」

 

「あー。うん。判った」

 

GSの勉強を始めると言うと抱えていたタマモを膝の上に乗せて、筆記用具を用意する横島。やはり書いたほうがしっかりと覚えることが出来ると思うのでこうしてノートに書かせている

 

(でもやっぱり大分基礎が出来て来てるわよね)

 

今の横島は私の知っている横島よりもはるかに基礎が出来ている。それに陰陽術に栄光の手よりも更に強力な霊力の篭手……しかもまだまだ伸び代がある……これで横島がしっかりと霊力を覚えたらどうなるのか?それが楽しみになってきた

 

「んーあーえーと」

 

何かを考え込んでいる様子の横島。また何か思いついたのかしら?横島は突拍子もないことを思いつく、それがしっかりと私でも知らない応用だったりするので面白い

 

「どうかした?」

 

「ん、いやあ。陰陽術で行くとタマモは火でシズクは水だろ?」

 

確かにその通りだ。タマモは妖狐の中でも最上位の九尾の狐。そしてシズクはミズチの中でも取り分け強力なオロチの系譜に属する。恐らく火の妖怪の中でタマモより強力な妖怪は存在せず、また竜神にして水神のシズクよりも強力な水と龍に属する神は存在しないだろう。タマモとシズクの加護を受けている横島は今の段階でも十分に強いGSと言えるだけの能力を持っている

 

「んで、俺が使えるのは火と雷の陰陽術と少しの水だろ?じゃあ雷ってどこから来たんだ?タマモとシズクの加護があるからって考えると雷ってどこから来たんだろ?元々俺の属性なのか?」

 

その言葉を聞いて、私はハッとした。私には横島の霊的な属性なんて判らない、だけど雷を使えるのは心当たりがある。それは美神さんの前世であり、私達の姉に当たる人造魔族

 

(メフィストフェレスの加護……?)

 

ありえない話ではない、シズクの加護でさえ同じ平安時代から現代まで残っていた。そして美神さんにあった事で加護が復活した。その可能性は充分に考えられる……だけどそんな話を横島にするわけには行かない。どうしよう、なんて言おうか……それを必死に考えていると視界の隅で

 

「みむー!」

 

電池を持ってぱちぱちと放電しているチビを見て、これだ!と思った

 

「チビじゃ無いかしら?ほら、あれ見てよ」

 

部屋の隅で電池を抱えて放電しているチビの方を指差す。横島もそれを見ておおっと手を叩いて

 

「そっか!チビかー!納得した」

 

「みむう?」

 

名前を呼ばれて不思議そうにしているチビ。本当にいいタイミングだったわ……正直なんて言おうか困ったし……それに本当にチビの加護で雷を使えている可能性もあるのだから、嘘はついていない。

 

(お父さんに相談はしておきましょう)

 

私では判らないのでお父さんに相談する事にしよう。魔神だから一時的に戦闘不能になっても直ぐ回復するだろうし

 

「ミー!」

 

元気良く鳴いて横島に擦り寄るチビ、ちなみに放電していたので毛が逆立って何の生き物なのかますます判らなくなっている

 

「じゃあ。横島少し休憩してて良いわ」

 

チビが来て構って構ってっと擦り寄っているからか、タマモも顔を上げている。そんな状態では勉強にならないのでここで休憩にする。それに家に帰るから荷物も纏めておきたいしね、部屋の隅においてある着替えとか私物を鞄の中にしまっていると

 

ピンポーン

 

チャイムの音が鳴る。その音に顔を上げたテレサは少しだけ残念そうな顔をして

 

「カオスと姉さんが迎えに来たみたいだね」

 

「……また来れば良い。私は暇をしているから」

 

この6日の間に随分と仲良くなったみたいね。まぁいいことなのかもしれない、テレサの人格形成には人との触れ合いが必要だと思うし、まぁシズクみたいに腹黒になられても困るけど

 

「そっか、じゃあ玄関まで見送りに行くよテレサ」

 

テレサと暮らしたのは中々に楽しかったし、私も見送りに行くと言うとテレサは少し驚いた顔をしてから、柔らかく微笑んで

 

「ありがと、また遊びに来るよ。横島も蛍も、シズクも優しいし、チビとタマモは可愛いしね」

 

そう笑うテレサと一緒に玄関まで見送りに行ったんだけど、玄関では予想外の光景が広がっていた

 

「ドクターカオス。わ、私は頑張りました。おキヌさんの……お、おおおおお、キヌキヌ!?」

 

「テレサァ!早くマリアを担いでくれえ!精神に過負荷が!このままではマリアの人格がおかしくなる!」

 

「「「何があったの!?」」」

 

美神さんの家でマリアが何を見たのか?そしてどんな過酷な生活をしていたのか?それが激しく気になったが、ドクターカオスの適切な処置でなんとかなったらしい。横島がおキヌさんを恐れて、なんか壊れかけていたのでシズクに横島を預け、私は家へ帰るのだった。そして家で私はハンマーはハンマーでもネイルハンマーを2振り装備し、お父さんの部屋を蹴り開ける。突然の事に驚いているお父さんは動揺しきっているのか敬語で

 

「ほ、蛍さん?何事ですか!?」

 

混乱していて敬語なのはどうでも良い、それに青い顔をしているのは、身体が冷えているのか、それとも恐怖なのかは判らないけど、まぁそんな事はどうでも良いので無視する。まずは私を裏切ったことに対する制裁を与えなければ

 

「さて?お父さん?部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする心の準備はOK?」

 

「いやいや!?無理!その形状は「じゃあ?逝っときましょうか?」ッま!駄目ッ!ぎゃあああああああッ!!!」

 

ベッドに寝転んでいて録に動くことの出来ない、お父さんの頭目掛けて本気でネイルハンマーを振り下ろした。最近増え続ける知らない女性とか、その他もろもろの怒りを全てお父さんに文字通り叩きつけるのだった……

 

 

 

東京の外れの森の中に響き渡る絶叫と爆発音。そして月の光を浴びて美しく輝く銀髪を翻す少女……くえすだ。彼女は長い髪をかき上げながら、自身の服についた砂埃を払って今倒したばかりの魔族を分析していた……

 

最近魔族の動きが活発になっていますわね。私は手にしていた魔道書を閉じ、消滅していく魔族の分身体を見つめる。この魔族は本体からの魔力を受け、同じ知性を持ち合わせている高レベルの分身体。本体よりは弱いがと、それでも並のGSが倒せる相手ではない

 

(やれやれ、随分とこき使ってくれますこと)

 

神代琉璃が私に与えた依頼。それは今日本国内で目撃情報の多い魔族の調査……これは1回や2回で終わる仕事ではなく、しかも依頼の期間が設定されていない。魔族の目撃情報が無くなるまでは、私は神代琉璃の指示に従わなければならない

 

「この依頼が終わったら呪いでも掛けてやりますかね?」

 

この神宮寺くえすをなんだと思っているのか、それを徹底的に問い詰めたい。その上で魔炎で神代琉璃を焼き尽くしたいと思う……なんせこれで4回目の魔族との戦闘だ。いくら下位でも強力な相手だ……こうも連戦だと精神的な疲労が大きい

 

「ふう……まぁ良いですわ。帰るとしましょうか」

 

とりあえず私の事務所に戻って、ヨーロッパから取り寄せる予定の魔具の事も考えないといけない

 

「探したわよ。くえす」

 

聞こえてきた声に眉を顰める、この声を聞き違えるわけが無い

 

「何の用ですか?美神令子」

 

「そう睨まなくてもいいでしょ?私も琉璃に頼まれて魔族の調査をしてるんだから……」

 

私だけではなかった……しかしそれにしてもとんでもない高額を要求する美神令子にまで依頼をするとは、よっぽど焦っているのですね

 

「……貴女の助手は?」

 

ブラドー島で出会った芦蛍と横島忠夫の事を思い出しながら尋ねる。いくらなんでも1人で行動するのは危険だ、私は元々単独行動を得意としているし、魔族に効果的な魔法も知っている。でも道具使いである美神令子が何の道具も持たず、しかも1人で行動してることに違和感を感じていると

 

「くえすが取り寄せれなかった魔具の事で話があってね」

 

その言葉に理解する。私が取り寄せるつもりだった、とある魔具……だが私が出した以上の価格で無理やり買い取った相手がいるのは知っていた。あの道具の価値を知っている人間は少ない、少なくともAランクかSランクGSだとは思っていましたが……やはり美神令子でしたか……

 

「……なるほど、私の邪魔をしてくれたのは貴女でしたか……」

 

最近日本に流れ込んできて居る魔族。それにはある特徴があった……動物を媒介にし、自身の分身を作り出す悪魔。そしてこれだけの事が出来る魔族となると特定は容易い。

 

「時間貰えるかしら?」

 

にやりと笑う美神令子。やれやれ……面倒ですが、仕方ないですね

 

「本来なら時間なんてありませんが、仕方ありませんわ」

 

「話が早くて助かるわ。近くに車を停めてあるから行きましょう」

 

そう笑う美神令子と共に私は森を抜け、美神令子の事務所へと向かうのだった……しかし私も美神令子も気付いて居なかった、私たちを見つめる不気味な道化の姿をした悪魔の姿に……

 

 

別件リポート 未熟なGSと錬金術師へ続く

 

 




次回は別件リポートで横島とドクターカオスが仲良くなった話を書いて見ようと思います。やはりこういう話も必要だと書いてもらった感想で思った物で、少し短い話になるかもしれないですが、どうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は横島とドクターカオスの話にしようと思います。時間としては平和な時間の中にあった1幕だと思ってください。横島がドクターカオスをカオスのじーさんと呼ぶほどに仲良くなった理由をメインにしたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

別件リポート 未熟なGSと錬金術師

 

「ふむ。ゆっくり出来ると言うのは悪くないのう」

 

逆行前のあの狭いアパート。あれも悪くなかったが、今こうしてゆっくりと過ごせる今の家も悪くない

 

(あのばーさんは元気かのう?)

 

散々怒鳴られたりしたが、あれはあれで楽しかったと思う。なんせワシはマリアと2人で暮らしていた時間が長かったからの。ああやって怒鳴られると言うのはなかなかない経験で面白かったと思う。

 

「カオスー?今いい?」

 

ひょこっと顔を出したテレサ。前の時はもっと険しいし人間を見下した顔をしていた、でも今の柔らかい表情を見るのはなんと言えば良いのか判らないが楽しい

 

(これが親心か)

 

血の繋がった娘ではないが、やはりテレサもマリアもワシの娘だ。その成長を見るのが喜ばしいと思うのはどう考えても親心だろうと1人で納得していると

 

「1つ聞きたいことがあるんだ」

 

ワシに?珍しいな、普段はマリアに尋ねるのに……まぁ頼ってもらえるのは嬉しいので嫌な気はしないが……

 

「何を聞きたいんじゃ?」

 

「うん、横島は美神のことをさんってつけて呼ぶじゃないか?」

 

うん?呼び方?予想外の問いかけに思わず困惑しているとテレサは首を傾げながら

 

「でもカオスはカオスのじーさん、でも横島はカオスの孫じゃないからじーさんって言うのはおかしいんじゃないのか?カオスさんじゃないのかな?」

 

そう尋ねてくるテレサ。こういうところはまだ精神面が未熟だから気になってしまったということなんじゃろうな

 

「うむ、最初はカオスさんじゃったんじゃがな、仲良くなったからのう。カオスのじーさんになったんじゃ」

 

「仲良くなるとじーさんになるの?じゃあ美神も美神のばーさんになるの?」

 

「それは絶対に本人の前で言ってはいかんぞ?」

 

もしそんなことを言えばテレサが壊されてしまうからのと心の中で思いながら言うと、うん、判ったと返事を返すテレサ。

でも何かの拍子で言いかねないので、マリアに警戒するように伝えておこうと思う

 

「うむ、良い機会じゃから、ワシと横島が仲良くなったきっかけを話してやろうかの」

 

今のテレサには経験が足りない、特に人間関係と言うのはとても難しい物だ。話をするだけで判るとは思わないが、こういうこともあるんだと教えてやるのは良い事だと思う。テレサも興味があるようだし、丁度良い

 

「あれはのー。美神の事務所に除霊具を搬入した後じゃったなあ……」

 

ワシもあのときの事を思い出しながら、ゆっくりと口を開くのだった……

 

 

 

 

「うむ、今回も良く買ってくれたの……ひーふーみーよー」

 

美神の事務所を出て、受け取った札束を軽く数える。逆行前と違って呆けてない分ちゃんとした除霊具を作ることが出来る。美神もそれを知っているから若干値切り交渉をしてくるが、十分な料金を支払ってくれている。暮らすには十分すぎる金額だが……

 

(うーむ、それでもまだ足りんの……)

 

マリアのボデイを有機に交換し、テレサを作るにはまだ資金が足りない。美神1人に売るだけでは目的の金額に到達するまで時間がかかりすぎる

 

(六道……それに神代……神宮寺と夜光院……)

 

色々と候補はあるが、正直言ってどこも信用できる相手ではない。六道冥華は人当たりはいいが、その裏で何を考えているか判らないし、神代と神宮寺と夜光院はワシの記憶に存在しない人間であったり、名家だったりするので今の段階ではなんとも言えない……

 

(芦に連絡を取ってみるかのう……)

 

しかしなあ、マリアとテレサに人間と同じ機能を持つ有機ボデイを与えると言うことはお嬢ちゃんの敵を増やす事になるからうんと言わんかも知れんなあ……溜息を吐きながら歩いていると

 

「どわあー!チビ!タマモ!逃げるぞーッ!!!」

 

公園から聞こえてきた大声に思わず顔を上げると

 

「うっひいいいい!?」

 

「みむうううーッ!?」

 

「コーン!?」

 

小僧がグレムリンと九尾の狐を抱えて走っているのが見えた、その後ろからはぽんぽんっと言う乾いた音とバン!バンッ!!と鋭い音が交互に響いて来ている。しかし周囲の人間はこの音に気付いていない……

 

(ふむ、破魔札の制御に失敗したか?それとも霊力のコントロールに失敗したのか?)

 

どちらにせよ霊力に関するトラブルだろう。頭の上に狐を乗せて、グレムリンを手の上に乗せてズシャーっと滑ってきた小僧に苦笑しながら

 

「何をしてるんじゃ?」

 

良く顔を合わせているが、それは美神やお嬢ちゃんがいる時だけだ。こうして顔を見合わせて話すのははじめてかも知れんなと思いながらそう声を掛けるのだった……

 

 

 

 

 

あ、危なかった……破魔札の練習をしているときにうっかりくしゃみをして、買ってきた破魔札が全部誘爆した。タマモやチビが危ないと思い必死で逃げてきたが、俺も巻き込まれたら危なかったかもしれない

 

「何をしてるんじゃ?」

 

地面に倒れながら安堵の溜息を吐いていたら突然そう声を掛けられる。この声は……

 

「カオス……さん?」

 

黒いコートを纏った長身の老人。なんでも1000年の時を生きる凄い錬金術師らしく、よく美神さんに色々な除霊具とかを売りに来ている。こうして街で会うのは初めてかもしれないと思いながら、尋ねられた事について答える

 

「いやあ、破魔札の練習をしてて」

 

地面に寝転がっているので座りなおしながらそう言うとかオスさんは険しい顔をして

 

「なんじゃ?制御の失敗か?いかんぞ、霊力の扱いは難しいからの1人での練習は勧められんぞ?」

 

俺に手を伸ばしてくるカオスさん。俺が手を伸ばそうか悩んでいると

 

「ほれ、さっさと立たんか」

 

「ば、馬鹿な!?」

 

俺のGジャンの襟を掴んで猫のように持ち上げる。爺さんなのになんでこんなに力があるんだ!?と俺が驚いていると

 

「これも霊力の応用じゃな」

 

身体能力を強化できるとは聞いていたけどこんなことまできるのか……

 

「とりあえず……おろしてくれません?」

 

頭の上にタマモを乗せて、腕の中にチビ。そして俺はカオスさんに吊り上げられていると言う訳の判らない事になっているのでそう言うと

 

「ワシは今暇なんじゃ。少し話し相手にでもなってくれると嬉しいじゃが?」

 

これはあれだ。拒否できないパターンだと理解して俺は襟元を持たれたまま

 

「どうせ暇だし、話に付き合うっすよ」

 

だから降ろしてくれと言うとやっと地面に足がついた。持ち上げられるって落ち着かないんだなあと初めて知った

 

「ほれ、丁度近くにベンチもあるからそこで話をするか?」

 

そう笑うカオスさん。本当なら爺さんと話なんて御免だが、美神さんや蛍に聞けないことを聞けると思い、俺はチビとタマモを抱えてカオスさんの後ろをついてベンチへ向かうのだった……

 

 

 

 

案外素直についてきたの……ワシは小僧の性格を理解しているつもりじゃが、女好きである小僧が素直にワシと話をしようと言ってもついて来るとは思ってなかった

 

(未来よりも向上心があるということかの?)

 

ワシの記憶に今には存在しなかったタマモにチビと言うグレムリン。それにお嬢ちゃん……考えれば考えるほど小僧が前向きに霊能力に修行に取り組む理由が浮かんでいく

 

(うむ。いい傾向じゃな)

 

アシュタロスが味方だから神魔大戦が起きないと言う事ではない、アシュタロスの代わりの敵が出てくる可能性がある以上。あの時の神魔大戦の事を考えれば小僧が強くなる事は良い事だ

 

「さて、小僧。なんでそんなに慌てて強くなろうとするんじゃ?美神もお嬢ちゃんも1人での霊能力の修行を許可していないはずじゃが?」

 

うぐっと呻く小僧。霊能力の修行は精神的にも肉体的にも疲弊し、周囲にいる雑霊や浮遊霊にも影響を与える可能性が高い。美神達がその危険性を理解していないわけがない

 

「うーいやーあのー」

 

「はっきり喋れ」

 

口をもごもごさせている小僧にきっぱりと言うと

 

「霊能力を使えるようになりたくて」

 

ぼそっと言う小僧。向上心があるのはいいが、どうも焦りすぎているようじゃな……まぁ無理もないが……

 

(ここであったのも何かの縁か……)

 

ここにワシが訪れたのも偶然ではないかと思う。ここできっと小僧を諭すのがわしの仕事なんだろう

 

「俺なんにも出来ない、弱いし……いっつも蛍や美神さんに助けられて……足手まといにしかならない自分が嫌で……」

 

周りにいる人間が強すぎるから自分の弱さばかりに目立ってしまうんじゃな。まだ年若い小僧だからこそ仕方ないことじゃが……その焦りはどうやっても小僧にとってマイナスにしかならない

 

「お前はのう……焦りすぎじゃな。最初から美神やお嬢ちゃんが強かったとでも思っておるのか?」

 

霊能力と言うのは長い時間をかけて身に付ける物。無論才能や環境も大事じゃが、何よりも大事なのは心。すなわちその精神力にもっとも重きを置く

 

「言っては悪いが、今のお主では霊力の覚醒は絶望的じゃな」

 

「な、なんで!?」

 

訳が判らないという感じで叫び詰め寄ろうとする小僧を手で制し

 

「本当は美神と言う師がいるのだから他人が口を出していい物ではないが、特別じゃ。このドクターカオスが判りやすく霊力について解説してやろう。こんなこと滅多にないのだから心して聞け」

 

教えているとは思うだろうが、今の小僧の焦りを考えるとまた無茶な訓練でもして、本当に霊力の覚醒が遅れそうだ。

後で美神に話した内容を伝えるとして、軽く触り程度だけでも霊力ついて教えてやるとするか……

 

 

 

 

よいか?と前置きしてからカオスさんは俺に霊力について色々教えてくれた

 

「霊力とは精神の力じゃ、肉体的な力である腕力や体力とは根本的に違う」

 

まぁ霊力を十全に使うにも体力や腕力が必要じゃが……健全な精神は健全な肉体に宿るというじゃろ?と笑う

 

(そう言えば蛍の訓練もそういう基礎訓練が多い気がする)

 

カオスさんの話がつまらないのか、チビとタマモはベンチの上で寝転がって眠っている

 

「つまりじゃ焦りや動揺は霊力を引き出す上では邪魔にしかならぬ。それにそもそも霊力を扱うというのは口で言う以上にはるかに難しいものじゃ。気ばかり焦ってもいい結果は出ない、判るか?」

 

それでも焦る物はあせ……

 

「あいだ!?」

 

バシッとデコピンをされる。老人とは思えない威力で思わず額を押さえると

 

「焦るな時を待て、焦る気持ちは分かるし早く1人前になりたいと思うのも判る。じゃがな?ワシが錬金術師になるのに何年掛かったと思う?霊力を扱えるようになるのに何年掛かったと思う?」

 

そう問いかけられる。だってドクターカオスは天才錬金術師なんだろ?だから

 

「10代くらいで両方出来たんじゃないのか?」

 

俺がそう言うとカオスさんはがっはははっと笑い出し

 

「ワシが錬金術を使いこなせるようになったのはもう30歳くらいのときじゃ、そして霊力を使えるようになったのは100歳を過ぎた頃じゃ」

 

「嘘だろ!?」

 

とても本当のことだとは思えずそう言うとカオスさんは本当じゃと笑い

 

「錬金術師としても霊能力者としてもワシは才能は殆どない。ただ一瞬のひらめきとそのひらめきを生かすだけの資金が偶然手元にあった。だから様々な研究を行い、錬金術を霊力に転用する方法を導き、そのときのノウハウを生かし今は除霊具開発などしておるが、運がよかっただけじゃ。今思えばあの時……」

 

ここで口篭るカオスさんは首を振る。その表情は少しだけ寂しそうに見えた

 

「いい出会いが出来た、親友と呼べる相手が居た。1人で出来る事など高が知れている、だが仲間が親友がいれば……1人では出来ない事だって出来るようになる!今は弱くていい、護られてもいいんじゃよ」

 

そう笑って立ち上がるカオスさんは

 

「長話に付き合わせたな、じゃが焦るな。時を待て、良いな?」

 

俺の頭をくしゃくしゃと撫でるカオスさんに

 

「カオスさん……えっとありがとう。なんか気が楽になった」

 

蛍や美神さんには話せない内容だったから、こうして話すことが出来てとても気が楽になった

 

「気にするな。後な、1個だけ言いたい事がある」

 

俺に背を向けながらカオスさんは苦笑しながら

 

「カオスさんって言うのは落ち着かん。どうせならじーさんとでも呼んでくれ、見ての通り爺じゃから」

 

そう笑うカオスさんに吊られて笑いながら

 

「判った。ありがとな!カオスのじーさん!」

 

「うむ!またな。焦らずゆっくりと力をつけるんじゃぞ!」

 

そう笑うカオスのじーさんと判れた俺は、眠っているチビとタマモを起こさないように抱えて家に向かって歩き出すのだった……

 

 

 

「んー」

話し終えるとテレサは腕組してんーと唸っている。この反応は予想の範囲内だった、まだ稼動したばかりのテレサが細かい人間の心の機微を理解できるとは思ってはいない。だがテレサには必要だと思いこの話をしたのだから

 

「良く判らんか?」

 

ワシがそう尋ねるとテレサは少しだけ申し訳なさそうな顔をしてから

 

「うん。全然判らない」

 

ははは、まだテレサにはそういう気持ちが判らないか、これがマリアだったのならば理解していたのかも知れんな

 

「いつか判るようになる、テレサも焦らずゆっくりと育って行けば良いんじゃ」

 

テレサもまだ生まれたばかりなのだ、人の心の機微なんて判るわけがないのだから

 

「そうなのかな?もっと勉強したら今のカオスの話もわかるようになる?」

 

小首を傾げるテレサの頭を撫でながらなると断言すると

 

「そっか、じゃあもっと勉強する。判らないことも判るようになる」

 

にこっと笑いありがと!っと言って部屋を出て行くテレサの背中を見て

 

「何じゃろうなぁ……この気持ちは……」

 

テレサが頑張るというのが嬉しいような、寂しいような……それでいて安心するような……いままで感じたことのない気持ちは……

 

「うーむ……これが親の気持ちなのかのう……」

 

マリアが置いてくれた急須に手を伸ばし、少し温くなった緑茶を啜りながらそう呟くのだった……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その1へ続く

 

 




マリアがおキヌとどんな生活をしていたのか?は秘密です。正し精神的なダメージが大きかったと言うことだけ悟ってあげてください。ハメルーンの悪魔では、くえすも登場させるので更に面白い感じにして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート17 ハメルーンの悪魔 
その1



どうも混沌の魔法使いです。今回の話からは悪魔パイパーの話に入っていこうと思います、くえすとかマリアとテレサとかも入れてやっていこうと思うので、少し長い話になると思いますがどうかよろしくお願いします


 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その1

 

事務所の中にくえすを招き入れる。私はまだ調査段階だけどくえすは何回か遭遇しているはずだ……もしくはその魔法を使って姿を確認しているはず

 

「今日本に紛れ込んでいる悪魔……くえすはなんだと思う?」

 

一番上等な茶葉を使って紅茶を用意し、くえすの前に置きながら尋ねる。くえすはカップを手にして、眉を顰めながら

 

「お湯の温度が足りてないですね。それに蒸らしも足りない……お粗末です事」

 

この女は本当に嫌味しか言えないのか……とは言え、くえすが来ると言う事でおキヌちゃんを事務所に置いて置くわけにも行かないので横島君の家に行かせている。

 

(流石にくえすの霊力は危険だからね)

 

くえすの霊力には魔力が混じっている。だからこそ幽霊である、おキヌちゃんにくえすを近づけることが出来ないと判断して横島君の家に向かわせた……雇い主として従業員に危害が出る可能性を考慮しないといけない

 

「悪いわね、私はあんまり得意じゃ無いから我慢して飲みなさい、嫌なら飲まなくても良いわよ」

 

くえすは眉を顰めながら紅茶を口にする。どうせ飲むなら文句なんか言わないで欲しいわね……

 

「では話を戻しましょうか。美神令子……私は既に悪魔の特定をしています。そして貴女も……ではその名前は?」

 

ここから先は腹の探りあいになる。どちらが有利な条件で今回の事件の主導権を取るか……それを決めるための話し合いだ

 

「……ハメルーンの悪魔パイパーよ。そして私とくえすが取ろうとした魔具は……金の針」

 

悪魔パイパーの力の源であり、そして弱点でもある金の針……かなりの高額出費だったが、それが無ければパイパーを倒すことが出来ない。討伐できればかなりの賞金が出るので、我慢して取り寄せたのだ。

 

「確かにその通りですわね。調査だけでそれだけ調べた……いえ?私の戦いを見てましたわね?」

 

じろりと私を睨みつけてくるくえす。私は小さく溜息を吐いてから

 

「ええ、その通りよ?悪いかしら?」

 

くえすの馬鹿みたいな霊力……それを見鬼君で見つけて追いかけてきた。それは事実だから認めると

 

「相変わらず強かですこと……それで?貴女は私に何をさせるつもりなのですか?」

 

「まぁ協力して欲しいって所ね、くえすも1人で対処出来ると思ってないでしょ?」

 

私が金の針を持っているのだから、普通の魔法ではパイパーにはダメージを与えることが出来ない。無論くえすの戦闘経験と魔法の知識を考えると普通じゃない魔法を使えば撃破も可能だろうが、それをすればただでさえ危うい自分の立ち位置をさらに悪くするそれが判っているから金の針を取り寄せようとしていたのだろう

 

「貴女から奪うっと言う選択肢もありますわ」

 

「またGS免許が剥奪されるてもいいならどうぞ。隠し場所が判るの?」

 

くえすにとってGS免許はそこまで必要な物ではない。だがあればあれで色々な援助もある……それを無くすのはくえすにとっては得策ではないと判っている筈だ……

 

「……いくつか条件を飲んでくださるのならば考えましょうか」

 

やっぱりそう来たか……とは言えくえすの協力があれば心強い。今回ばかりは自分が不利だとは判っているけど

 

「良いわ。その条件を聞かせてもらいましょうか」

 

「賢明な判断ですわね。では……」

 

くえすが協力する条件を話そうとした瞬間。何処かから間の抜けたラッパの音が響いてくる……まさか!?

 

「へっへっへ!お前達が危険だって判ってるからね!さっさと子供になっちゃいな!ヘイッ!!」

 

「「しまっ!?」」

 

咄嗟に私は精霊石を、くえすは結界を張ったが既にもう遅い。視界が低くなっていくのを感じながら、私は意識を失うのだった……

 

 

 

 

 

美神さんが神宮寺くえすと話をするからと言う理由で横島さんの家に行くように言われて半日

 

(連絡が無い……もしかすると……)

 

最初は時期が違うからって確信は無かった。だけど私の中で1つだけ心当たりがあった

 

【蛍ちゃん。少し良いですか?】

 

私が真剣な顔をしているのでなにかの事件を思い出したのだと気付いた蛍ちゃんは

 

「いいわよ。横島はチビとかと遊んでるしね」

 

蛍ちゃんの視線の先を見ると机の上でハムスターの台車を回しているチビちゃんを見て笑っている。確かに可愛い光景ですね……ずっと見ていたですが、今はそんな事をしている場合ではないので奥の部屋で思い出した話をすることにする

 

【ハメルーンの悪魔……パイパーの襲撃事件の時期かもしれないですんです。神宮寺さんとの話が終わったら電話するって言ってましたけど……連絡も無いですし】

 

あの時は確か美神さんが子供になってしまって、横島さんと一緒に子供になってしまった美神さんの面倒を見ながらパイパーの本体を探したのを覚えている

 

「……なるほどね。とは言え悪魔パイパーはかなり強力な悪魔だし……」

 

顎の下に手を置いて考え事をしている蛍ちゃんは仕方ないかと呟いてから

 

「ドクターカオスとマリアとテレサに連絡してみましょう。マリアとテレサなら若返ることは無いし……それにカオスが若返ったら強くなると思うし」

 

前の時は運が良かった、今回は色々と判らないことが起きているので対策を取った方がいい。私も蛍ちゃんのマリアさんとテレサさんと呼ぶのは賛成だ

 

「じゃあ警戒しながら事務所に行って見ましょう。おキヌさんはドクターカオス達の所に行って……言っておくけど、マリアさんにあんまりちょっかいをかけたら駄目よ」

 

私に指を突きつけながら言う蛍ちゃん。一緒に暮らしている間に私の味方にしようと思っていろいろしてしまったのは自覚している。だけどまだ精神的に幼いマリアさんには私の考えを理解出来なかった……それだけが無念であり、残念だ

 

(まだ早すぎたんですよね)

 

もう少し精神が出来てからまたアプローチをしよう。下手に焦って敵に回られたら困るし

 

「だから悪い顔をしたら駄目って言ってるでしょう!」

 

軽く霊力を込めた平手で頭を叩かれ、我に帰る。どうも考え事をしてしまっていたようだ

 

【じゃあマリアさんとテレサさんを迎えに行ってきますね。えーともし美神さんが子供になっていたら、唐巣神父の教会に行ってください。そこで落ち合いましょう】

 

知っていると言うのはおかしな話になってしまう。だから唐巣神父の教会を待ち合わせの場所にする事にして、私はドクターカオスの家に向かって飛んでいくのだった……

 

 

 

 

 

蛍に言われて何かトラブルがあるかもしれないから、美神さんの事務所に行こうと言われシズクを連れて美神さんの事務所に来た俺に待っていたのは

 

「あーよこちまだ!」

 

「……」

 

幼稚園児くらいだろうか?それくらいの子供になった、美神さんと神宮寺さんがそこにはいた……事務所に来たら雇い主が子供になっていた……どういうことなんだ、これは……俺が混乱していると様子を見ていたシズクが美神さんと神宮寺さんを見つめながら

 

「……これは……呪いかもしれない。魂に何かまとわりついているのが判る」

 

シズクがぼそりと呟く、呪い……?呪いで子供になるの!?俺が驚いていると蛍が

 

「そう言うことが出来る魔族も居るわ。とは言え……どうしようかしら?」

 

遊園地に行くっと叫んでいる美神さんとジト目で俺を見つめている神宮寺さん。いや……俺に聞かれても判らんし……

 

「……ぐいっ!」

 

「え?なに?どうかした?」

 

俺のズボンを引っ張る神宮寺さん。俺の知っている神宮寺さんは綺麗な銀髪をしていたけど、今目の前にいる神宮寺さんは黒い髪をしているし、眼の色も黒だ……なんと言うか人形のような愛らしさがあるけど……

 

「私……くえす。お兄さんは誰?」

 

か、可愛い!?俺の中の神宮寺さんは怖いと言う印象だったんだけど、この一言で完全に印象が変わった

 

「横島。横島忠夫だよ?」

 

しゃがみ込んで視線を合わせて名乗ると神宮寺さんはにぱっと華の咲くような笑みで笑って

 

「よろしくね」

 

神宮寺さんは綺麗って感じだったけど、くえすちゃんは可愛い。思わず頭を撫でていると

 

「……横島?」

 

ぞっとするような蛍の声に振り返る。そこには笑っているけど、目が全く笑っていない蛍がいて心底怖かった。それに

 

「……横島はやっぱり子供が好き?」

 

シズクがふふっと笑いながら尋ねてくる。いや、確かに子供は好きだけど、そう言う好きじゃ無いから!俺がロリコンじゃ無いと叫んでいると令子ちゃんが奥の部屋から

 

「こえ持って!行くよ!」

 

俺に鞄を差し出してそう叫ぶ。行く?どこに行くって言うんだ?俺が首を傾げていると

 

「遊園地へ行くの!」

 

「そうですわ!遊園地に行く!」

 

声を揃えて遊園地に行くって叫ぶ令子ちゃんとくえすちゃん。いや、今はそんな事を言っている場合じゃ無いと思うんだけど……

 

「まずは唐巣神父の所に行きましょう?私と横島じゃ判らないことが多いから」

 

蛍の言葉に頷き、唐巣神父の所に行くことになったのだが

 

「おんぶー!」

 

俺のズボンを掴んでおんぶと叫ぶくえすちゃん。さっきはなんか知性的な響きを伴った声をしていたけど、今はまた無邪気な子供と言う感じのくえすちゃん。確かに幼稚園児くらいの令子ちゃんとくえすちゃんを歩かせるのは可哀想だと思い

 

「蛍鞄頼むな?」

 

結構大きい鞄だけど、令子ちゃんとくえすちゃんよりかは軽いと思い、蛍に申し訳ないと思いながら鞄を渡す

 

「まぁ仕方ないわね。でも移動している間に襲われると困るから……チビとタマモ。それにシズクは周囲を警戒してね」

 

元気良く鳴いて返事を返すチビとタマモ。それと仕方ないと言って笑うシズクを見ながら俺は令子ちゃんとくえすちゃんを背中に背負い、念の為にチビを頭の上に乗せて唐巣神父の教会へと走るのだった……なお背中に美幼女?と言うべき令子ちゃんとくえすちゃんを背負っているからか、周囲の人の視線が死ぬほど冷たいものだったのは気のせいだと思いたかった……

 

 

 

 

 

シルフィー君と教会の掃除をしていると凄まじい勢いで扉が開かれる。何事かと思い振り返るとそこには蛍君と横島君が居たんだが……横島君の背中から顔を出している2人の幼女を見て

 

「美神君と神宮寺君?一体何事だい?」

 

恐らくだが、あの2人は間違いなく美神君と神宮寺君だろう……神代君には聞いていたが、魔族の襲撃が始まったのかもしれない

 

「シルフィー君!教会の4隅に結界札を!それと精霊石を持って来てくれ!」

 

準備が出来るまではこの教会で篭城する必要があるかもしれない、魔族が侵入できないように結界札と精霊石を併用して結界を作る

 

「わ、判りました!」

 

地下の除霊具を纏めてある部屋に走っていくシルフィー君を見送り、荒い呼吸を整えている横島君と蛍君に何があったのか?を尋ねるのだった……

 

「事務所に行ったら美神君と神宮寺君が子供になっていたと……おキヌ君は?」

 

おキヌ君は事務所にいた筈だ。もしかすると魔族に襲われた可能性が思い浮かび、おキヌ君の事を尋ねると

 

「念の為にドクターカオスを呼びに行って貰っています。美神さんと神宮寺さんが子供になっている事を考えると、2人を襲った魔族は恐らく……ハメルーンの悪魔パイパーだと思うのですが、唐巣神父はどう思いますか?」

 

なるほど、蛍君らしい冷静な分析だ……そしてドクターカオスを呼びに行ったその判断は正解だ

 

「なるほど、マリアなら若返ることは無いだろうし、ドクターカオスは若返れば頼もしい味方になるからね」

 

ハメルーンの悪魔パイパーと言えば、その笛の音色を使い大人を子供とするという魔術を得意とする強力な魔族だ。しかし若返させることが出来るのは人間だけであり、そして人間よりも長い時間を生きているカオスなら若返るはむしろメリットと言える

 

「悪魔パイパーって何なんですか?俺全然判らないっすけど?」

 

膝の上に神宮寺君を乗せた横島君がそう尋ねてくる。確かにパイパーは有名だが、それはあくまでGSの中での話。それにまだ見習いの横島君じゃ判らないか

 

「判った。私が説明するよ、横島君」

 

簡単にだがパイパーについて説明する。ヨーロッパを中心に暴れ回った悪魔族であり、国連も賞金を掛けているほどの有名な魔族だと説明すると

 

「うげえ……そんなやばい魔族なんっすか?美神さんも神宮寺さんも無しで何とかなるんですか?」

 

確かに戦力的な不安はある……それにパイパーは金の針が無ければ倒すことが出来ない。美神君と神宮寺君の事だから、金の針は確保していると思うが……パイパーがどこに潜んでいるか判らない以上その話をすることは出来ない。奪われたら、そこで終わりなのだから、金の針を話は横島君にはしない方が良いだろうと判断した

 

「まずはドクターカオスとマリアの合流を待つべきだと思う、それと……シルフィー君!持って来てくれたかい?」

 

地下から戻ってきたシルフィー君を呼ぶ、彼女の手には貴重な精霊石を収めた鞄がある。

 

「……お守りか?」

 

「ああ。そうなるね、水神の君には必要無いかな?」

 

シズク君の話は美神君から聞いている。あの水神ミズチが横島君を気に入って居候している、それはそれでとんでもない事だと思うが、横島君の妖使いの特性の1つだと思っている……

 

「……必要ない。私の分は横島に回してくれ」

 

シズク君の言葉に頷き、横島君に精霊石を2個渡す。シルフィー君が横島君の膝の上の神宮寺君を見て

 

「横島君が重いでしょ?どき……「触るなッ!」

 

さっきまで笑っていたのが嘘のような恐ろしい顔をしてシルフィー君の手を弾く、こういう気性の激しい所は子供の時でも変わらないんだなあと思っていると

 

「ワシじゃ!教会の扉を開けてくれ!」

 

どんどんと扉を叩く音が聞こえる。ドクターカオスが来たのか……思ったよりも早い到着だったね。立ち上がって教会の扉を開いて、ドクターカオスとマリアを招き入れ、直ぐに扉を閉める

 

「お疲れ様。おキヌさん」

 

【大分疲れました……こういうのは辛いですね】

 

パイパーに見つからないように気を使ってここまで来たのか、疲れた様子のおキヌ君にそう声をかける蛍君。宙に浮きながら汗を拭う素振りを見せながら横島君に近づいてくおキヌ君。それに対して横島君は教会に入ってきた、ドクターカオスとマリアを見て

 

「あれ?カオスのじーさん。テレサは?」

 

横島君がそう尋ねる。テレサ?私は知らないなあ……誰だろうか?と首を傾げていると

 

「私の妹になります。今は別行動で隠れる場所の確保をしてもらっています」

 

妹……何時の間にと思ったが、ドクターカオスはマリア君の事を大事に思っているのは私も知っている。妹を作ってあげようとしたのかと納得していると横島君は

 

「おキヌちゃんもお疲れ様」

 

【ちょっと失礼します】

 

疲れた様子で自分の背中にしがみ付いてくるおキヌ君に苦笑しながら、横島君は手を押さえているシルフィー君のほうを見て

 

「シルフィーちゃん?大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」

 

神宮寺君は横島君の膝の上で私は悪くないと言いたげに顔を背けている。こう言う所は子供っぽいんだけどなあと苦笑していると

 

「ではドクターカオスも来たので、これからどうするか……」

 

蛍君がそう話を切り出して悪魔パイパー対策の話し合いが出来る、そう思った瞬間

 

バシュッ!!!

 

教会の隅から鋭い風切り音が響く、そしてそれと同時に響く間の抜けた笛の音色……

 

「いかん!皆逃げろッ!!!」

 

そう叫んだ瞬間。私の意識は闇に飲まれるのだった……

 

 

 

 

 

ま、マジかよ!?これが魔族の攻撃!?目の前で子供になってしまった唐巣神父に驚いていると、目の前の空間が歪んで

 

「ホッホッホー!気付くのが遅かった……「……失せろ、ハゲ」ぼばあああああ!?」

 

ナイスシズク!あわせた両手から大量の水を打ち出してパイパーの身体を隠す

 

「……今のうちに逃げる!急げ、横島!」

 

シズクが逃げることを選んだことに驚いた。シズクはかなり好戦的だし、それに水神であるシズクは自分の力にも自信を持っている。そのシズクが逃げることに驚いていると

 

「コン!」

 

「ミム!」

 

頭の上のチビと肩の上のチビが早く逃げろと言わんばかりに俺の髪を引っ張る。俺は膝の上のくえすちゃんを背中に背負い、令子ちゃんとシズクを両脇に抱える

 

「横島早く!」

 

教会の出入り口で俺を呼ぶ蛍に頷き、走り出そうとするがそれよりも早くパイパーが態勢を立て直し

 

「逃がすかよ!!」

 

パイパーの腕が俺に伸びる。蛍もおキヌちゃんも既に教会の出口に近いし、マリアはカオスのじーさんを運んでいる。自分で何とかするしかないと思い、懐の札に手を伸ばそうとした瞬間

 

「よいしょっと!」

 

「げぼお!?」

 

シルフィーちゃんがスカートを翻しながら跳躍し、パイパーの顔面に蹴りを叩き込む。ちなみにレースつき白だった。お嬢様みたいな可憐な下着だと思う……

 

「……こんなときに何を見ている?」

 

「バカ!よこちま!」

 

「ふんっ!!」

 

シズクに脇腹を抓られ、令子ちゃんに頬を抓られ、くえすちゃんに左頬を張られた

 

【横島さん!私も怒りますよ!今はそんな事をしている場合じゃ無いんですからね!】

 

おキヌちゃんに怒鳴られるけど、シルフィーちゃんを残しては……俺が躊躇っているとシルフィーちゃんが笑いながら

 

「良いから良いから。ここは私に任せて早く行って、これでもハーフヴァンパイヤだからね。少しは魔力に抵抗があるんだから」

 

そうウィンクするシルフィーちゃん。だけど見捨てて逃げることが出来ない

 

「もし私に助けてもらったとか思うんなら、今度買い物に付き合ってよ。それで手を打つからさ!早く行って!!」

 

パイパーが椅子を蹴散らしながら姿を見せるのを見て、そう怒鳴るシルフィーちゃんの剣幕に押されて、俺はパイパーと戦うシルフィーちゃんに背を向けて教会から逃げ出すのだった……

 

(ちくしょう!俺はやっぱりまだ役立たずなのかよ!)

 

逃げることしか出来ない自分自身に怒りを感じ、歯を食いしばり、悔しさでどうにかなりそうになりながら、先に教会から飛び出した蛍達の後を追って走り出すのだった……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その2へ続く

 

 




ピートよりも、妹のシルフィーの方が使いやすいのでシルフィーをメインにしてみました。戦えるヒロインとその背中を見ることしか出来ない横島。強くなりたいと思う横島の心境は複雑ですね、しかし闇落ちするルートではないですので安心してください。次回は遊園地とかに加えて更に味方の増加をやっていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はパイパー編その2となります。あんまりメインで登場してなかった「神代琉璃」さんも参加させようと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート17 ハメルーンの悪魔 その2

 

横島達が教会から脱出してから1時間。シルフィーは格上と言えるパイパー相手に善戦した……だがそれはあくまで善戦止まりであり、しかし横島達が逃げるには充分すぎる時間……1時間を稼ぐ事が出来た

 

ちゅら♪ちゅら♪ちゅらー♪らー♪

 

「へいっ!」

 

「やっぱ……無理かぁ……」

 

パイパーとシルフィーの戦いでボロボロになった教会の中に響く、間抜けな笛の音色と無念そうなシルフィーの声。

 

「ふー随分と手間取らせてくれたな」

 

パイパーは額の汗を拭いながら、涙を目に浮かべながらも自身を睨んでいるシルフィーに背を向けて、宙へと浮かび上がった。本当なら子供になった唐巣とシルフィーを人質として、連れて行きたい所だが、予想以上に体力と魔力を消費してしまった為。この場は引くことを選んだ……全てはハーフヴァンパイヤと侮ったパイパーのミスだ、確かにシルフィーはハーフではあるが、ピートと違い吸血鬼としての力を大きく引き継いでおり、更に自身の力を使うことに躊躇いが無い。ピートは人間よりであるが、シルフィーはどちらかと言うと吸血鬼よりなのだ。だからこそパイパーの笛に対する抵抗力も高く、そして自身の運動神経も高く、パイパーはシルフィーを子供にするのに、相当な量な魔力を消費することになったのだ

 

「くそ……出来損ないと油断した。まさかこのオイラがここまで苦戦するなんて……」

 

パイパーの身体はうっすらと透けている。そう……このパイパーは本体ではなく分身だった、消えかけている身体に舌打ちしながら

 

「にしても、今の悪魔祓いは相当強力なのが揃っているみたいだね……急いで金の針を手に入れないと」

 

パイパーは今もまだ自分を睨んでいるシルフィーを睨み返し、空中に溶ける様に消えていくのだった……

 

 

 

そしてシルフィーが捨て身の覚悟で1時間の時間を手にした横島達はと言うと……

 

「きゃっきゃっ♪」

 

「……」

 

楽しそうに笑う令子ちゃんと大事そうにぬいぐるみを抱えているくえすちゃんを連れて遊園地を歩いていた

 

「なぁ?こんな事をしてて良いのか?」

 

俺の手を小さい手で握り締めているくえすちゃんと、今度はねー?今度はねー?と言いながらアトラクションを見ている令子ちゃんを見ながら蛍に尋ねる。今遊園地に来ているのは俺と蛍。それにシズクとおキヌちゃんだ。ドクターカオスとマリアはテレサと合流して、パイパーに対する対策と隠れ場所を探している。チビがグレムリンなので機械がたくさんある遊園地に連れて来る事が出来ず、同じ理由でタマモもドクターカオスに連れて行って貰っている

 

「……美神と神宮寺が遊園地、遊園地と叫んでいる以上。遊園地に何かあると思う、だから問題は無い」

 

いつもの平坦な口調のシズクだが、その頭には動物の耳を模したヘアバンドと風船を手にしている

 

「楽しいか?」

 

表情が無表情だから、楽しんでいるか判らず尋ねるとシズクはそっぽを向いて

 

「……少し」

 

照れているように思えるから、もしかしたら図星なのかもしれない……でもまぁ、こうして楽しそう?にしているシズクを見るのは斬新でなんか微笑ましい気持ちで居ると

 

【うーん。でもシルフィーさんとかも心配だし、いつまでも遊んでいるわけにも行かないですからね。どうしましょうか?】

 

俺の隣を浮きながら訪ねてくるおキヌちゃん。俺自身もどうすれば良いのか判らない……

 

「横島?あのぬいぐるみを取りなさい」

 

俺のズボンを引いてUFOキャッチャーを見つめるくえすちゃん。それに気付いた、令子ちゃんも俺にぬいぐるみを取れと言う……こんな事をしてる場合じゃ無いのになぁ……

 

「私とおキヌさんでどうするか話し合うから、ぬいぐるみを取って来てあげて?」

 

蛍に言われてぬいぐるみを取れと言うくえすちゃんと令子ちゃんに引っ張られながら、UFOキャッチャーの機械の前に向かうのだった……

 

「あれがいいですわ。あれを取るのです」

 

「令子あれがいい!」

 

UFOキャッチャーの台の上に登ってあれが良いと言う令子ちゃんとくえすちゃん。2人が指差すのは猫のぬいぐるみ……2人とも猫が好きなんだなあと苦笑していると

 

「……私はあれ」

 

そして以外にも自分も欲しいと言うシズク。はぁっと溜息を吐きながら3人が欲しいと言うぬいぐるみを取るのに集中するのだった……

 

 

 

 

 

小さくなった美神さんと神宮寺、それとシズクの欲しいと言っているぬいぐるみを取ろうとしている横島の背中を見ながら

 

(これからどうする?おキヌさん)

 

私は当然。このパイパーの事件の話は知らない、この事件を知っているのはおキヌさんだけだ。これからどうする?と尋ねると

 

(確か……冥子さんに電話して助けに来てもらうように電話するんですけど、パイパーが割り込んできて連絡出来なかった筈です。えーとそれでそれで……本体は……どこでしたっけ?)

 

この後どうなっているのか?思い出そうと頭を抱えているおキヌさんを見ながら、近くの公衆電話を見つめる。電話かぁ……電波を利用してこっちを探しに来るって訳ね……でも電話をしようがしまいが、これだけ霊力の集まっている集団を探すのならば、パイパーなら楽勝だ。それなら多少のリスクは覚悟をして、電話をするべきだ

 

「判ったわ。電話しましょう。但し電話をするのは冥子さんじゃないけどね……」

 

この場合で冥子さんを呼ぶのは得策ではない、だって冥子さんは霊的な防御力はそれほど高くないし、性格も子供っぽいからこの場合は頼りにならない。

 

【じゃあ誰を呼ぶんですか?】

 

不思議そうな顔をしているおキヌさん。ドクターカオスとマリアさんとテレサを呼んでいる、だから仲間を増やしすぎるのは得策ではない、数が増えればそれだけパイパーに見つかる可能性が増す。だからこのまま行動するのが得策だろうけど

 

「もし私とか横島が子供になっちゃったら、それこそ大変だからね。来てくれるか、怪しいけど……神代さんを呼ぶわ」

 

GS協会長として霊的な事件には詳しい筈だし、それに巫女でもあるからある程度はパイパーに対する耐性があるはずだし、しかしその代わりGS協会会長と言う自由に動ける立場ではない。……来てくれるか?と言うに不安を感じながら、近くの公衆電話に向かうのだった……

 

『もしもし?誰かしら?美神さん?それとも唐巣神父?』

 

この番号を知っている人数が少ないのか、掛けて来たであろう人物の名前を言う神代さんに

 

「いきなりごめんなさい。神代さん。私です、芦蛍です」

 

『蛍ちゃん?どうかしたの?』

 

怪訝そうに尋ね返してくる神代さん。今の所パイパーの妨害があっては困る、口早に今の私達が巻き込まれている事態を説明する

 

「悪魔パイパーに襲われて美神さんと神宮寺が子供になってしまいました。今はドクターカオスとマリアとテレサに協力を頼んでますが……」

 

私の言いたい事を理解したのか神代さんは

 

『判ったわ。後で合流するわ、協会に保管してある精霊石も持って行くから。後でおキヌちゃんを迎えに回して、パイパーが来るといけないから電話を切るわ』

 

プツっと言う音を立てる電話。パイパーの乱入があるのは考えていたけど、なんとか電話が出来た事に安心していると

 

「ふーなんとかぬいぐるみは取れたわ。それで如何する?これからの方向性が決まったのか?」

 

大事そうにぬいぐるみを抱えている小さくなった美神さん達を連れて来た横島。電話を元に戻そうとすると

 

『へっへー!見つけたよーッ!!!』

 

電話から聞こえてきたパイパーの声。しまった!電話をあえて妨害しなかったのは油断させる為に

 

「蛍!?パイパーか!?」

 

険しい顔をする横島に頷き、少しでも時間を稼げるようにと電話に札を貼り付ける。これで電話を利用した移動は出来ないはず

 

「危ないから逃げるよ。令子ちゃん!くえすちゃん!」

 

足元の2人を抱えようとする横島だったけど、美神さんはその手を回避して

 

「いやだぁ!ジェットコースターに乗るのー!!!」

 

大泣きしてジェットコースターを叫ぶ美神さん。ああっ!もう!こんな事をしている場合じゃ無いのに

 

【パイパーが来て危ないんですよ!ジェットコースターはまた今度にしましょう?】

 

おキヌさんが美神さんの目線に合わせて言うと、大人しく横島に抱き上げられていた神宮寺が

 

「遊園地です。遊園地に行きましょう」

 

だから今遊園地に居るじゃ無い!散々遊んでおいて何を言うのよ

 

「今まで遊んでたしょうが!ほら早く逃げますよ!!」

 

横島が逃げ回る美神さんを抱き抱えようとすると美神さんの目に知性の色が戻ってくる

 

「ちぎゃうの!れっしゃの乗ってゆくの!!んでパイパーをやっつけるの!」

 

パイパーをやっつける?もしかしてパイパーを倒す手段を知っているの?美神さんは鞄から何かを取り出す、それは金色の小さな針……これがパイパーの弱点の金の針!

 

「落としたら危ないからそれは戻しておいて?」

 

それが無ければ、私達はパイパーに勝つことが出来ない。だからこそ鞄の中に戻してくれる?と言うと美神さんはにぱっと笑って

 

「あーい!」

 

笑って鞄の中に金の針を戻す美神さん。これがあればなんとかなるかもしれないけど……今の状態でパイパーと戦うわけには……如何するか私が考えると背筋に悪寒が走る

 

「おーほっほ!!!見つけたよー!!!」

 

空中からパイパーが姿を見せる。くっ……思ったよりも早い……

 

「……くらえ」

 

シズクが先制攻撃と水鉄砲を放つが、パイパーは手にしている笛で水をシズクに弾き返す

 

「っぐう!?」

 

水神であるシズクでも、自分が放った攻撃をそのまま弾き返されて吹っ飛ばされる。

 

「さーてお嬢ちゃん?おいらの大事な金の針を返して貰おうか?」

 

横島が懐に手を伸ばして、札を取ろうとしているのをその手を掴んで推し留める、今下手に攻撃して横島まで子供になってしまうと不利なんて話ではない。その最悪の事態だけは防がないといけない

 

(なんでだよ!?少しでも攻撃をすれば逃げるチャンスが!?)

 

(駄目よ!いくらなんでもパイパーには効果が薄いわ!)

 

陰陽術は確かに魔族には効果のある物が多い。だけど中級とは言えパイパークラスの魔族に今の横島の陰陽術が効果を出してくれるとは思えない

 

(今は霊力を温存して、逃げる事を考えて!)

 

向こうは美神さんか神宮寺が持っている金の針を奪おうとしている。だから私と横島に対する警戒は薄い……今ならなんとかして逃げれるかもしれない……それにしてもおキヌさんは役に立たないわね、折角事件を経験しているんだから、もっと早く思い出して欲しいわね……なんとかして逃げる方法を考えていると、美神さんが

 

「べーだっ!!!」

 

舌を出してパイパーを挑発する美神さん。パイパーはその額に青筋を浮かべる……判りやすいほどに怒っているのが判る

 

「くっくっく……おいらは素直で可愛い子供が大好きなんだよ!だから世界中の大人を皆子供にして楽しい世の中にしたいのさ!」

 

自分に対抗出来る人間がいなくなってから自分の世界を作るってことね……なんとも趣味の悪い魔族だ

 

「だからその為にはその金の針が「くらいなさいな」

 

パイパーが演説している隙に神宮寺と美神さんが同時に抱えていた猫のぬいぐるみをパイパーに投げつける

 

「んんぎゃあああ!?」

 

その猫が顔面に当たり、悶絶しているパイパー。今がチャンス!美神さんと神宮寺を連れて逃げようとするが

 

「このおっ!!!」

 

パイパーが怯んだ隙に逃げようとしたのだが、横島が拳を握り締めてパイパーに突っ込んでいく

 

「横島!?」

 

【横島さん!?】

 

あの臆病な横島がパイパーに突っ込んでいくなんて思ってなかったから、私もおキヌさんも反応が一瞬遅れた

 

「くっこの!へいっ!!!」

 

一瞬だけパイパーが笛を吹いて、笛から放たれた光が横島を弾き飛ばす。地面に叩きつけられる前に抱き抱えるが、私の腕の中で小さくなっていく横島。くっ!まさか横島まで……これは正直予想外だ

 

「……頭を下げろ!」

 

シズクの声に振り返ると噴水の手を入れて、大量の水を吸収しているシズクの姿が見える。私は気絶したまま、小さくなっていく横島を抱き抱え、背中に美神さんと神宮寺を背負い走り出す

 

「くっこのお!舐めやがって「吹っ飛べ!このはげッ!!!」ぶぼおいおおおおおお!?」

 

シズクが放った消防車の放水に匹敵するであろう、凄まじい水鉄砲がパイパーを飲み込んだ隙に私とおキヌさんはパイパーに背を向けて、遊園地の出口に向かって走るのだった……

 

 

 

 

 

蛍ちゃんから電話があった時。私はGS協会ではなく、久しぶりに帰ってきた自宅に居た。秘書の善意で家に戻っていたのだ、では何でGS協会の会長室にかけた電話が自宅に来たかと言うと、特別な事例に備えて美神さんや唐巣神父に伝えておいた番号は転送電話になっており、会長室で20秒コールされると私の家に繋がるように設定してある

 

「それにしても悪魔パイパーかあ……GSとしての復帰戦の相手にしてはかなりの難敵ね」

 

自宅の除霊道具を収めてある部屋から、6個の精霊石と私が見習いのときに使っていた霊刀を取り出す。今家宝の刀は神代家お抱えの鍛冶師に預けて、私用に打ち直している。本当ならあっちの方が良いんだけど……贅沢は言ってられないので我慢する

 

「後は……」

 

持っていく除霊道具の準備を終え、部屋の一番奥のクローゼットに向かう。そこに収めてある巫女服を取り出す……

 

「これを着るのも久しぶりかしら……」

 

最近はGS協会長としての行動をしていたから、スーツを着ていたけど……除霊現場に出るのだからスーツではなく、巫女服を着ていくべきだ。これは霊糸で編んでいる上に、神代家の霊術を合わせた物で、霊的な防御力もすごく高い上に非常に高価な巫女服だ……

 

「ふー……」

 

身体を清めてから巫女服に袖を通す。気持ちが昂ぶって行くのが判る……大きく深呼吸をしてから霊刀を腰に携え、

 

「さーて!行きますかッ!」

 

つま先に金属を仕込んだ特性のブーツを履いて、私は家を後にした。美神さん達がどこにいるかは判らないけど……なんとかする手段がある

 

「お願い、上手く行ってよ!」

 

鳥の形をした紙型を投げる。冥華さんから教わった簡易式神は霊力を伴って鳥の形へと変化する

 

「美神さんを探して!」

 

「キュイッ!」

 

私の指示を聞いて翼を羽ばたかせる式神の後を追って、私は美神さん達を探して走り出すのだった……

 

 

 

 

 

横島達がパイパーに襲われている頃。妙神山でも一つのトラブルが起きていた

 

「うきゅッ!うきゅうッ!!うきゅうううううッ!!!!」

 

「困ったのー……」

 

妙神山の一室の中で困り果てた老人の声が響く、その視線の先には小さな生き物が居た……

 

「そんなに会いに行きたいのか?あの横島って言う退魔師の卵に」

 

ロンの言葉に暴れていた生き物は暴れるのを止めて、ロンを見つめて尻尾を振りながら

 

「うきゅッ♪」

 

机の上で顔を上げる生き物。それは黒く毛に覆われた小柄な動物……そう、モグラだ。判っただろうか?妙神山で暮らしている土竜のモグラちゃんだ。修行の末小さくなる事を覚えたモグラちゃんは、ハムスターと同じ程度の大きさに変化することを覚えたのだ

 

「はぁ。仕方ないのう……行くかのう?」

 

竜族に属するロンとモグラちゃんは自由に行動するわけには行かないのだが、こうも鳴いて暴れると仕方ない、ロンはやれやれと深い溜息を吐いて、机の上に手を伸ばす。モグラちゃんはそれを見て嬉しそうに鳴きながら

 

「きゅッ!」

 

嬉しそうに鳴いてロンの手の中に乗るモグラちゃんの頭を撫でて、ロンはそのまま妙神山を後にし、東京へと向かうのだった……

 

 

 

 




リポート17 ハメルーンの悪魔 その3へ続く

神代さんに加えて、モグラちゃんとおじいちゃんも参戦です。モグラちゃんは子供になってしまった、横島達の遊び道具になる可能性が高いですね。本格登場をする琉璃さんがどんなかつやくをするのか楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は状況整理とパイパー対策の話……ではなくショタになってしまった横島を見ている蛍とかの話をしようと思います。ヒロインがやってはいけないことをするかもしれないですね、鼻血とかね?とりあえず、今回はそんな感じで進めて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート17 ハメルーンの悪魔 その3

 

美神さん達の霊力を探して飛んでいる式神を見失わないように走る

 

(どんどん場所を移動してる……しかも結構な早さで)

 

スピードを緩めかけては加速する式神。徐々にその姿がブレ始めて居る事に少しだけ焦り始める。私は元々降霊術や神卸しに特化している。つまりそれ以外の霊能はあまり得意ではないのだ

 

(やっぱり少しは修行しておくべきだった……)

 

2年間の結界の中での封印。霊力と体力はあの時と比べて大分落ちている……ここの所GS協会の再建の事ばかり考えていて修行をしている時間が無かった……それに身体も鈍り切っている……

 

(今度は修行を始めないと……)

 

若い私がGS協会の長を務めることが出来ているのは、神代家の現当主と言う事と神代家の中でも膨大と言われる霊力があるからだ。だけど修行をしなければ霊力は低下するし、霊力のコントロールも甘くなる……GS協会の再建がある程度出来たら、私も妙神山で鍛えなおした方が良いと思いながら走っていると

 

(この霊力は!?)

 

美神さん達の霊力よりも強力な霊力が街の中に現れる。まさか……パイパー……私の頭の上で旋回している式神を紙型に戻して懐に収め、腰に挿した霊刀の柄に手を伸ばしその霊力の元へ向かうと

 

「うきゅ?」

 

「うむ?退魔師殿か?お騒がせて申し訳ない。ワシはロン。竜神族の末席に属する竜族じゃ、しかし敵対する意思は無いのでご安心召されよ」

 

小山のような動物と導師服に身を包んだ老人が居た。パイパーじゃなかった……だけど竜族がどうしてこんな所に

 

「神代琉璃と申します。竜族の方が何用でしょうか?」

 

抜きかけた刀を鞘の中に戻しながら尋ねるとロンと名乗った竜族は頭をかきながら

 

「我が孫が会いたい人間がいると泣くので連れて来たのじゃ」

 

「うきゅ!」

 

前足を上げるモグラ……もしかして美神さんのレポートにあったモグラの妖怪

 

「それはもしかして横島君でしょうか?」

 

私がそう尋ねるとロンさんはその通りですと微笑みながら

 

「お恥ずかしい事ですが、ワシはその者の住んでいる所を知りませぬ。よろしければ案内していただけないでしょうか?」

 

ここまで丁寧に頼まれたのなら、私としても案内してあげたい所なんだけど

 

「何か問題ごとのようですな……それならば我が孫を助けて頂いた恩もあります、この老体でよければご協力いたしましょう。事情を聞かせてはいただけませんか?」

 

私は少し考えてからロンさんに今の状況を話すことにした。自分でも思う以上に鈍っている事、そしてパイパーの強大さを考え、私だけでは駄目かもしれないと判断したからだ

 

「ご助力よろしくお願いします」

 

「うむ。任された。とは言え、ワシもどれほど力を貸せるか判りませぬが……よろしくお頼み申す」

 

ロンさんの協力を得ることが出来た所で

 

【琉璃さん探しましたよ!あれ?それにロンさんと……モグラちゃん?】

 

紙袋を抱えたおキヌちゃんが空から降りてくる。いいタイミングで合流できた

 

「おキヌちゃん。案内してくれる?それと今の状況を説明して欲しいわ」

 

私の言葉に頷いて美神さん達が隠れている場所に案内してくれると言う。おキヌちゃんについて暗い路地を歩き出すのだった……なおモグラちゃんはハムスター程度の大きさになってロンさんの頭の上でピイピイと鳴いているのだった……

 

 

 

パイパーに見つからないように大量の結界札と霊力を消す札をホテルの一室に用意して、美神達が来るのを待っておったんじゃが

 

「?じいちゃんどうかしたか?」

 

横島の小僧が子供になっていた。美神と神宮寺の手を引いて歩いて来て不思議そうに首を傾げている

 

「どういうことじゃ?」

 

ワシはこの事件には絡んでいなかったから、どういう風になるのかを知らない。でもまさか小僧までが子供になっているとは……お嬢ちゃんを困ったように首を傾げながら

 

「横島がパイパーに突っかかって行ってね……完全ではなかったみたいだけど、子供になっちゃったのよ」

 

美神達が幼稚園児くらいとすれば小僧は小学校低学年……しかしその程度の差は何の意味もなさない

 

「よこちまー!絵本!絵本読んで!」

 

「それよりもTVを見ましょう?絵本より面白いですわ」

 

「んー判ったでー。向こうであそぼーなー」

 

子供になった美神と神宮寺を連れて別の部屋に向かっていく小僧。歳が近いと言う事で美神達も警戒心が少しだけ薄いみたいじゃな、子供だから2人の面倒を見るのは大変だと思うが、小僧に頑張って貰おうと思っていると

 

「ね、姉さん。ちっちゃくなった横島を見ているとドキドキするんだ、この気持ちは何なんだろうか」

 

「わ、判りません。しかし不快な気分でありません……も、もしやこれが萌え!?」

 

「こ、これが萌えって言う気持ちなの!?姉さん」

 

「判りませんが、そんな気がします。テレサ」

 

……ま、マリアとテレサが少し壊れてきている。ものすごく真面目な顔をして萌えとは何かとかを話している。そもそも萌えってなんじゃ、ワシはそんな言葉をプログラムした覚えはないぞ……

 

「仕方ないわ。今の横島は天使だから」

 

「お前もか……」

 

目がグルグルと回転しているお嬢ちゃんに深い溜息を吐く、小僧の事が好きなのは判るが、今はそんな事をしている場合ではない。パイパーの対策をしないといけないのだから

 

「小僧が天使とかそうじゃないとかは今はどうでも良いから「どうでも良くないわ!?あれは永久保存するべきよ!」

 

ワシの言葉を遮って叫ぶ、お嬢ちゃん……マリアとテレサも子供になった小僧を見ていて、ワシの方は気にしても居ない

 

(ワシにどうしろって言うんじゃ)

 

ボケては無い、ボケてはないが。こんな状態でワシに何をしろと言うんじゃ……ワシが頭を抱えていると

 

【今戻りました。琉璃さんのほかに頼もしい味方が来てくれましたよ】

 

おキヌが戻って来てそう告げる。ふうこれでなんとか……

 

「うっきゅー!!!」

 

「へぼあ!?」

 

今まで聞いたことの無い謎の動物の叫び声と同時に扉が勢い良く開き、何かに突進されたワシはそのままホテルの天井に衝突した、薄れ行く意識の中

 

(ワ、ワシが何をしたああ……)

 

自分は何も悪い事をしていないのに……ワシは全身に走る激痛に顔を歪めながら意識を失ったのだった……

 

 

 

 

 

おキヌさんが戻ってくるなり扉が凄まじい勢いで開き何かが飛び込んできて、ドクターカオスを跳ね飛ばした。そしてドクターカオスを弾き飛ばしたのは

 

「うきゅ!」

 

「も、モグラちゃん?」

 

妙神山にいるはずのモグラちゃんだった。もしかしておキヌさんの言っている頼もしい味方って

 

「久しぶりじゃの、この度は非力ながらご協力いたす。よろしく頼みますぞ」

 

「ロンさん!ありがとうございます!本当に助かります」

 

横島まで子供になってしまったので戦力的な不安を感じていた、ここで竜族であるロンさんが助けてくれるのはありがたい

 

「お待たせ、私は少し鈍っているけど……足手纏いにはならないつもりよ」

 

巫女装束に身を包み、腰に刀を下げている神代さんが部屋の中に入ってくる。これでマリアとテレサにロンさんと神代さん……戦力的には充分すぎるだろう

 

「う、うきゅ?」

 

モグラちゃんは大好きな横島を探していたみたいだけど、子供になっている横島を見て目を白黒させている。

 

「あーモグラちゃんだー!」

 

頭の上にチビを乗せて、タマモを抱えてモグラちゃんに抱きつく横島。そしておっかなびっくりって言う感じでモグラちゃんに触ろうとしている美神さんと神宮寺を見ていると

 

「……じゃあ、あのハゲに対する話し合いを始めよう」

 

「お疲れ様」

 

子供になった横島や美神さんに振り回されて、疲れ切っている感じのシズクにそう声をかけ、おキヌさんが持って来てくれた事務所に置いてあった資料を机の上に広げるのだった

 

「……なるほどね、今のパイパーは分身ってことなのね。となると……本体を探すのが今の目的みたいね」

 

肝心な所はパイパーに持ち去られたのか、どこにパイパーの本体が隠れているかは判らない物のどこかに本体がいると言うことは判った

 

「そうなると遊園地……これがヒントになりそうじゃの」

 

美神さんと神宮寺が繰り返し、繰り返し遊園地と言っているので間違いなく何処かの遊園地に隠れているのだろう

 

「すまぬ。遊園地とはなんじゃ?」

 

……ロンさんが首を傾げながら尋ねてくる。基本的に妙神山にいるロンさんじゃ判らないかと思い、簡単に説明すると

 

「ほほう……カラクリで動く機械仕掛けの物とは中々面妖じゃな。してそうなるとそのパイパーとやらが隠れているのは人がいない遊園地になるのではないかな?戦術としては人がいる所に隠れ、時に人質をとり、時に建物を壊しこちらの動きを束縛するのが基本じゃが、その悪魔はどうも頭が良くないようじゃからな」

 

……な、中々きつい事を言うわね。でもその通りかもしれない、美神さん達を子供にするのならそのまま連れ去って人質にするのが一番いいはずだ。しかしそれをしていないことを考えるとそこまで頭が回らないのか、それとも金の針を手にする事だけを考えていたのか?のどちらかだと思う

 

「……頭の毛が薄いから、きっと頭も弱い」

 

「それはどうかと思うけどね」

 

シズクがさりげなく毒を吐いているのは気にしない方向で行こう。自分が逃げることを選んだのがプライド的に面白くないと思っているのかもしれない、だから不機嫌そうなシズクには触れないようにしないとね

 

「シズクもあそぼー」

 

「……仕方ない。私が遊んでやろう」

 

横島に呼ばれて直ぐに笑って横島の方へ行くシズク。くっ……私も行きたいけど、今はパイパーの対策を取らないと……我慢我慢……

 

「廃墟になった遊園地で霊的磁場が良い場所……これだけで特定するのは難しいわね」

 

美神さんが目星をつけた場所は地図の中に10箇所……その10箇所を探し回るというのは余りに効率が悪い……

 

「かと行って向こうが仕掛けてくるのを待つのは愚策じゃな……明日にでも小型の偵察機を作るからそれで偵察するのはどうじゃ?」

 

ドクターカオスがそう提案する。それなら体力を使うこともないし、場所の特定もしやすいわね

 

「じゃあそれで行きましょうか?そうと決まれば……横島くーん!」

 

話し合いは終わりと言って横島を抱きあげる神代さん、ああ!私が抱っこしようと思ってたのに

 

「うわあ、ほっぺすべすべ……可愛い~♪」

 

「や、やめえ!くすぐったい!」

 

抱き締められている横島がじたばたと暴れているのを無視して、抱き締めて頭を撫でている神代さん

 

「こらー!よこちまと遊んでいるんだからじゃまするなぁ!」

 

「そうですわ!早く返しなさい!」

 

美神さんと神宮寺が横島を取り返そうとしているが、神代さんはそれを回避して横島を更に抱き締める

 

「んー可愛い~もう子供は何時見ても可愛いわぁ」

 

「むがー!!!」

 

自身の胸の谷間に横島を押し込んでいる神代さん。それは私には出来ないことであり……

 

「その行動宣戦布告とみなします」

 

今の行動は、世の中全て私の仲間である小さい胸を持つ女性を全て敵に回した、その事を後悔させて上げるわ!

 

「……私も手伝う」

 

シズクの協力もあったからか、なんとかして神代さんから横島を取り返すことは出来たんだけど

 

「ううー怖かった」

 

私に抱きついて涙する横島に思わず、暴走し掛けてしまうのを抑えるのに私は酷く精神力を振り絞ることになるのだった……夕食を終えて、明日に備えて早めに眠りに着く。正直今日はかなり予想外の事が多くて疲れた。一応さっきお父さんには過激派魔族が動いているかもしれないという連絡はしてある。とは言え過激派魔族に自分の居場所を特定されるわけには行かないから、出来る支援は少しだけと言われた。出来ればなにかの兵鬼を送って欲しかったけど、こればかりは仕方ないので我慢する事にし、明日備えて早く眠ろうと思い布団にもぐりこむ。精神的な疲労と肉体的な疲労で私は直ぐに眠りに落ちるのだった……

 

「早く起きなさい。このノロマ」

 

眠りについてから直ぐに喧嘩腰の声が突然聞こえてくる。この声は……!?

 

「神宮寺!」

 

元に戻ったのかと思い、ばっと飛び起きるが、私はまだ眠ったまま……私の体から魂だけが出ているのが見える……これはテレパシー?

 

「そう言う事。ごめんね?蛍ちゃん、面倒をかけるわ」

 

神宮寺の隣に美神さんが居て手を合わせて謝ってくる。所長として、雇い主として今回の失態に対して責任を感じているようだ

 

「大丈夫です、ドクターカオスとかマリアさんとかテレサに協力して貰ってますから」

 

ベッドの上で丸くなっているモグラちゃんを枕代わりにしている横島と、その近くで腕を組んでいるマリアさんとテレサを見ながら言うと

 

「まぁそれはどうでも良いですわ。良いですか、1度しか言わないのでしっかりを聞いてください。パイパーの本体はN県のバブルランド遊園地と言う場所に隠れています。これは私と美神令子の調査で断定出来ています」

 

N県のバブルアイランド遊園地ね。これなら態々偵察機を作って調べる必要も無い、明日の朝一番でバブルアイランド遊園地に向かえば良い。しかし自分も敵の攻撃を受けて子供になっているのにどうしてこうも高圧的なのかしら

 

「しかしあの神宮寺くえすともあろうものが敵の攻撃をまんまと受けるなんてね」

 

若干嫌味で言う。恐らく直ぐ反論してくると思っていたのだが腕を組んだまま

 

「……ここの所調子が出ないときがありまして、自分の不覚は自覚していますわ」

 

まさかの返答に驚く、神宮寺と言えばかなり凶暴で自分の失態は認めないと聞いていたのに……これは正直予想外だ

 

「まぁあんまり言ってあげないで、私も同じだしね。良い?明日なんとかしてバブルアイランド遊園地に向かって」

 

「そこに行って何をすればいいんですか?」

 

ここまで繰り返して向かえと言うならそこに何かあるのかもしれない、もしそこでやらないといけないことがあるなら聞いておこうと思い尋ねると

 

「確証はないけど、そこに私の記憶とか力を封じた何かがあるはず。そうすれば後はなんとかして記憶と力を取り戻すわ、だからお願い。私とくえすとバブルランド遊園地に連れて行って」

 

「任せましたわよ。芦蛍」

 

そう言って消えていく美神さんと神宮寺の姿を見ながら、私の意識はまた深い闇の中へと沈んでいくのだった……

 

「おはよー!」

 

朝起きた私を待っていたのは昨日よりも幼くなった横島だった。タマモを頭に乗せることも出来ないのか、しっかりと抱っこしてタマモと一緒に手を振っている

 

「はう!?」

 

これはいけない、可愛すぎる。一瞬目の前に天使がいるのかと思ってしまった

 

「よこちまー。ごはんだよー」

 

「ほら、早く来なさいな」

 

「はーい!」

 

一晩で立場が完全に変わっている。昨日は面倒を見られていた側が今は横島の面倒を見ている……しかしこのまま横島が子供になり続けてしまうと横島の身が危ない。昨日のうちにパイパーの隠れ場所を聞くことが出来たのはプラスだった、早速準備して出発する準備をしていると

 

「ねーちゃー、あそぼー」

 

【「ぶほお」】

 

だが予想外の伏兵……子供になった横島の弾ける笑顔を見て、私とおキヌさんの大事な何かが弾ける。鼻から大量の鼻血が出るのを感じながら意識を失うのだった……

 

「っ!きゃあああ!?朝から何!?これ何!?」

 

「出血多量。危険です!早く応急処置を!?」

 

ホテルの壁を紅く染める私の鼻血を見て絶叫する神代さんと、慌てて私に駆け寄ってくるマリアさんの声が私が最後に聞いたものだった

 

 

 

 

 

「ねーちゃー?」

 

気絶している蛍ちゃんの頬をぺちぺちと叩いている横島君。昨日見た時よりも更に幼くなっている、昨日のうちに一体何があったのだろうか

 

(これは女の子がしたら駄目な顔だわ)

 

子供になっている横島君を見て満足げな顔をしている蛍ちゃん。私も小さい子供は好きだ、だけどこの顔は駄目だと思う

 

「まぁ何か色々と大事な物を振り切ってしまったんじゃろうな……とりあえず当面の目的地はバブルランド遊園地じゃ」

 

ドクターカオスの目的地から聞きながら、蛍ちゃんの頬を叩いている横島君を見ていると反応が無い。蛍ちゃんに飽きたのかチビを抱き抱えて

 

「くえすちゃん。あそぼー」

 

「え。ええ。よろしいですわ?仕方ありませんから」

 

今度はくえすに遊ぼうと笑いかけている横島君……今でも鋭い気配を持っているくえすに近づくことが出来るのは、横島君だからこそかもしれない

 

「神代さん、ホテルのビュッフェで食事をしてきてください、私とテレサで部屋を掃除して出発する準備をしておきますので、横島さん達はさっきお腹が空いたと言うので既に食事を食べさせてあげてますので」

 

そう笑うマリアさんに背中を押され、ドクターカオスとロンさんと一緒に1階のレストランに足を向けるのだった……なお部屋を出る寸前に私が見たのは

 

「ぎゅー」

 

「「あうあう……」」

 

楽しそうにくえすとシズクを抱き締めて笑っている横島君の姿。子供の時から女の子が好きだったのかな?と私は思わず首を傾げるのだった……

 

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その4へ続く

 

 




今回は少し短めでしたね。バブルランド遊園地の名前を出すのと、琉璃さんとロンさんとモグラちゃんを出すのを目的にしていたので、あんまり話は進みませんでしたね。次回は大きく話を動かして行こうと思っているので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はバブルアイランドに到着して、記憶の風船を見る辺りまでは進めて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その4

 

目的地であるバブルランド遊園地と言う所はかなり遠いらしく、今は電車と言う車より大きい機械の箱を使って移動している。正直こんなものが動くのか?と思ったが、今の人間の科学力と言うのは中々凄まじい物だと感心する。横島の家にある、コンロとか炊飯機とかいう物も便利だ。霊的な力を失った代わりに、それよりも便利な力を手にしている人間には正直驚かされる……

 

「ひゃー……」

 

椅子の上に立って窓の外眺めている横島。その隣で詰まらなそうに横島の服を掴んでいる神宮寺、その行動は子供その物で、私の加護である程度の抵抗力があるはずだが、それでもここまで幼くなっている姿を見るのは複雑な気分だった

 

(狐、あのハゲは許せないと思う。お前はどうだ?)

 

私の向かい側で、子供になった美神に撫で回され、若干不機嫌そうに目を細めながらも、心配そうに横島を見つめているタマモにそう問い掛ける。タマモは窓の外を見てはしゃいでいる横島を見て

 

(許さない。私は潰す、燃やし尽くす)

 

鋭い気配を放つタマモ。それは私の知っている時のタマモの気配……妖狐の頂点。九尾の狐たるタマモの姿……今でこそこうして愛らしい子狐の姿をしているが、そこはやはり九尾の妖狐。神族に近いと言われただけはある、ただ美神に抱き締められてもふもふされて無ければきっともっと迫力が合ったと思う

 

「かわいー狐ちゃーん。えへへー♪」

 

子供の抱き枕にされても、反撃せずに我慢しているが、私の知っているタマモと言えば、その膨大な妖力と凄まじいまでの知識を武器にしていたもっとも神に近い妖怪。その時の鋭い気配をまだ纏うことが出来たのかと感心しながら、頭の中でタマモに返事を返す

 

(気が合うな。私も同じ意見だ)

 

このままでは横島は幼くなりすぎて命の危機を迎えるだろう。一瞬だったから、一気に子供になる事はなかったが、時間でどんどん子供になっている。今は私とタマモの霊力を与えて幼くなるのを抑えているがいつまでも持つ物ではない、早急にあのハゲを潰さないと……

 

「シズク殿。気を静められよ、幼子が怖がっておるぞ」

 

ロンにペットボトルの水を向けられ我に帰る、さっきまで楽しそうな顔をしていた横島が泣きそうな顔で私を見ている。良く見るとさっきよりもまた幼くなっている

 

「おこてるの?それともどこか痛いの?」

 

舌足らずと言う感じでチビを抱き抱えながら尋ねてくる横島の頭を撫でながら

 

「……怒ってないから大丈夫」

 

優しく頭を撫でると横島はにこっと笑いながら、私に抱きついてくる。その背中に手を回して

 

(大丈夫。お前は直ぐに元に戻れる……私が助けてあげる)

 

今回は私の落ち度だ。横島が成長するまで私が護れば良いと思っていた……横島は強くなる、きっと誰よりも……それが判っていたから弱い内は私が護ると決めていたのに、それなのにあんなハゲに出し抜かれ、横島を危険に晒してしまった……その事に苛立ちを感じていると、腕の中の横島が顔を上げて

 

「シズクねーちゃー……痛い……」

 

知らないうちに力を込めてしまっていたようだ。苦しそうに痛いと言う横島に謝り、椅子の上に座らせると

 

「みむ!」

 

「ぴい!」

 

チビとチビと同じ程度の大きさになったモグラが横島の膝の上に乗る。モグラは最初混乱していたが、横島と言う事でとても懐いて、横島の腕を登って肩の上に移動したり甘えるようにしている。子供の時から妖怪に好かれるとは、さすが横島っだ

 

「モグラ~チビ~」

 

嬉しそうに笑いながら二匹を抱っこしている横島。それを見て更に不機嫌そうにしている神宮寺、何か言いたそうにしているけど、それを言えずにもごもごと口を動かしている。自分に構えとか何かを言いたいんだろうけど、それを口にすることが出来ないと言う感じだ、まぁ神宮寺はどうでも良いチビとモグラを抱き締め幸せそうに笑っている横島を見ながら、窓の外を睨む。今僅かだけど、あのハゲの魔力を感じた……今度はあんな不覚を取りはしない……先ほど買った水のペットボトルに手を伸ばし、戦闘に備えその中身を一気に飲み干すのだった……

 

 

 

 

 

後ろの席から聞こえてくる横島の楽しそうな声に笑みを零しながらも、周囲を警戒するのを緩めない。おキヌさんの話ではパイパーの使い魔の鼠の襲撃で電車が停まってしまうらしい。そうなるとバブルアイランド遊園地に向かうのが難しくなる

 

(この大人数だもんね)

 

飛ぶことが出来るマリアさんとテレサが運べるのは精々2人だろうし……そうなるとあぶれる人数が多くなる……

 

(戦力が増えたのはいいけど……移動が問題になるわね……)

 

パイパーの妨害があってからどうやって移動するかを考えていると、私の前の席に座っているロンさんが

 

「余り考えすぎるのは良くないぞ、肩の力を抜くが良い。1人で出来ない事も仲間が居れば出来ることもあるのじゃからな」

 

にこにこと笑っているロンさん。確かに判っていると言ってもそれは逆行前の世界の話だ……確実な事と思って行動すると痛い目を見るかもしれない……

 

「そうですね。アドバイスどうもありがとうございます」

 

うむと頷いて微笑んでいるロンさん。本当に優しいおじいちゃんって感じよね……

 

「うーん……」

 

私の隣で腕を組んで悩んでいる素振りを見せるマリアさんとテレサ。もしかしてもうパイパーの襲撃が……

 

「どうかしたの?」

 

念の為に破魔札のホルダーに手を伸ばしながら尋ねると、テレサが窓の外を見つめながら

 

「どうもこの列車の近くに生き物の気配が集まって来ているんだ……」

 

小さい生き物……パイパーの使い魔は鼠と聞いている……やはり仕掛けてきたようだ

 

「蛍ちゃん、荷物を纏めて多分来るわ」

 

神代さんの言葉に頷き、荷物棚の上に手を伸ばして荷物を取った瞬間

 

キキキイイイイッ!!!!

 

「うわとととと!?」

 

凄まじい音を立てて電車が停車する。荷物を取ろうとしていたドクターカオスが倒れてかけるが、マリアさんが立ち上がって受け止める

 

【ひう!?ほ、蛍ちゃん……そ、そとそとを見てください!】

 

窓の外を見ていたおキヌさんがそう叫ぶ、何が居るのだろうかと窓の外を神代さんと一緒に見て

 

「「ひい!?」」

 

私と神代さんの引き攣った悲鳴が重なる。窓の外にはおぞましい数の溝鼠がいて気持ち悪くなってくる

 

「これはまたとんでもないな。子供にさせる能力を持つ魔族とやらに操られているようじゃな」

 

窓の外を見つめながらロンさんが呟く、しかしこのまま電車の中に居るわけには行かないし……

 

「危険だけど突っ切るしかないわね。魔力で操られているのなら破魔札で効果が出るはずよ」

 

「それはその通りじゃが、子供になっている美神達は如何するつもりじゃ?歩きで行くとなると小僧達が危ないぞ」

 

確かに子供になっている美神さんや横島が噛まれたり、操られているのなら攫われる可能性もある。

 

「どうしますか?ドクターカオス。私とテレサの装備ではあれだけの数の鼠を撃退することは出来ません」

 

「確かにね。火炎放射機をアタッチメントにするべきだったね、姉さん」

 

火炎放射機か……もしそれをマリアさんとテレサが装備していたら、あの鼠を蹴散らすのも楽なんだけどなあ……

 

「じゃあ試しに聞くけど、マリアさんとテレサは今何を装備してるの?有機ボディなら武器を身体の中に搭載するのは無理でしょ?」

 

私がそう尋ねるとマリアさんとテレサは自分の持っていた鞄から重火器を取り出して

 

「この装備を腕に装着する事で以前と同じように使用できます」

 

はーなるほどねえ。有機ボディに換装してから武器をどうするのか?と思っていたけど、鎧みたいに身に着けるこういう形にしたのか……

 

「まぁ今後はバイクとか車に搭載して持ち運ぶ形にしようと思っているぞ、今の鞄とかに入れて運ぶのは辛いし目立つからの……」

 

まぁそれはそれで面白いかもしれないわね。今度機会があれば私のバイクにも除霊具を搭載出来る武器って言うのを考えてみてもいいかもしれないわね

 

「……蛍。如何するつもりだ?そとのあの鼠を蹴散らすのは可能だけど……それをすると私が蓄えている水が殆ど無くなる」

 

シズクの水鉄砲は確かに強力で鼠を蹴散らす位は楽勝だろうけど、そうするとパイパーに対する備えが無くなる、しかし破魔札で吹き飛ばすにしても手持ちが足りないし……チビとタマモの電撃と火炎を使うとしても、妖力が底を突く可能性の方が高いし……ここからどうやってバブルアイランド遊園地に向かうかを考えていると

 

「ふむ……ここはワシがなんとかしよう」

 

ロンさんがそう言って電車の出口に向かっていく、何をするつもりなのか見ていると

 

「では行くとするかの」

 

右腕だけを竜の爪にし電車の扉を粉砕したロンさん。見た目は老人なのに流石は竜族と言う所だが、ここからどうするつもりなのだろうか

 

「「「「チュー!チュー!!!!」」」

 

出てくるなら来いと言わんばかりに鳴いている鼠の集団を見て

 

「う……こわい」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶやで」

 

神宮寺が怖いと言って身体を震わせる。生理的嫌悪感が凄まじいから、この反応はおかしくない。横島が抱きしめてその背中を撫でているのを見て、子供の時から女性に優しかったんだなあと思う反面。ほんの僅かだけ嫉妬してしまう……

 

「直ぐに飛び乗ってくれ、その後は一気に走りぬける。道案内は頼むぞ」

 

そう言って電車の外へ飛び出したロンさんの身体が光り輝くと、モグラちゃんの数倍の大きさを持つ、巨大なモグラの姿になる。だがモグラちゃんと違って、鱗を伴った尾に頭部に生えている角のせいか、巨大な4足歩行のドラゴンに見える

 

「さぁ!乗るんじゃ」

 

声のトーンが大分低いがロンさんの声が竜の口から聞こえてくる……着地の衝撃か、凄まじい竜気のせいか、一瞬鼠の群れの姿が散って見えなくなる。今がチャンスだ

 

「さ、行くわよ。横島」

 

しゃがみ込んで横島に来るように呼びかける、パイパーの狙いは金の針。そして子供になった美神さんや横島を人質にして、交換するように言って来る可能性がある。だから今護るべきなのは横島達になる

 

「う、うん……ほら、いこう?くえすちゃん」

 

「はい」

 

横島と神宮寺を抱き抱えてロンさんの背中の上に飛び乗る。それに続いて神代さんと美神さんとシズク、最後にドクターカオスとマリアさん、テレサがロンさんの上に飛び乗る。結構な重量な筈だけど、流石は竜族ね。全然平気そう

 

「みむ!」

 

「ピィ!」

 

モグラちゃんはチビが抱えて、その翼で横島の上へと移動して頭の上に着地し、最後にタマモがロンさんの頭の上に飛び乗って

 

「コーン!」

 

力強く鳴くとロンさんの周囲に青黒い狐火が展開される。如何にパイパーに操られていても、所詮は鼠。動物が本能的に怖がる、火の恐怖には勝てないと判断したのだろう。その証拠に鼠は近づくことが出来ず、鳴きながらこちらを睨んでいる

 

【ロンさん!バブルアイランド遊園地には私が先導します。ついて来てください】

 

「心得た。ではしっかりと掴まるのじゃぞ」

 

おキヌさんに先導され、道路を凄まじい勢いで駆けて行くロンさん。毛を掴んでいるだけで安定感もなく、しかもかなり揺れるので怖い!マリアさんとテレサが私や美神さんを掴んでくれているけど、これはかなり怖い。シズクは全然平気そうにしているのは、やはり人間と神族の違いだと思いたい……美神さん達も私達の腕の中で完全に硬直している中横島だけは

 

「うおおお!早い!はやいぞ!でっかいモグラ!」

 

「うきゅー!」

 

「みむうううう!!!」

 

ロンさんの頭の近くにしがみ付いて、モグラちゃんとチビと一緒に何かを叫んでいて、私は子供って凄いと思わずにはいられないのだった……

 

 

 

 

 

道路を凄まじい勢いで走っていく巨大なモグラ。途中までその姿を追いかけていたが、オイラの飛ぶスピードよりも早い……目の前に転移する……駄目だ。あのモグラの前に浮いている炎……転移してもあの炎に焼かれる可能性の方が高い。

 

「くっ!これ以上は無理だ」

 

使い魔の鼠に列車を止めさせたのに、まさかあの爺が竜族だったとは予想外にも程がある。下手に若返らせてより力をつけられると危険だ……だから笛を使うわけには行かない……

 

(どうする……どうやって金の針を取り戻す)

 

笛の効果で幼くなって行ってる美神令子達だが、モグラに乗っている子供……いや、あの力は神族か。あの神族がそれを抑えているから思ったよりも効果が出ていない、それに何よりあのスピードでは追いかけるのも辛い……

 

「くっ!仕方ない!」

 

くやしさでどうにかなりそうにながら、オイラは分身に回していた魔力を解除した。その瞬間意識が薄暗い洞窟の中に戻って来る

 

「くそくそ!!ここまで来たのに!500年耐えてきたと言うのに!!!」

 

500年前。ほんの僅かな油断……その油断のせいでオイラの魔力の源の金の針を奪われ、残った魔力をやりくりして復讐する機会を窺っていたのに……どうして!どうしてこんな事になるんだ!

 

「オノレェ!人間共メッ!!!」

 

もうこうなったらこの遊園地におびき寄せて、何としても金の針を奪い返すしかない、この周囲に浮いている記憶の風船を奪いに来るのは判っている。だからここで待ち伏せするのが、今のオイラに出来る最善の手段だ

 

「あっははは!!!誇り高き魔族ともあろう者がそんなことしか出来ないのかい?」

 

突然聞こえてきた声に顔をあげ、オイラは恐怖に震えた。オイラの頭上に浮いていたのはペガサスに跨った仮面をつけた若い子供……

 

(な、なんだよ!?なんだよこいつはあ!?)

 

姿こそ子供だけど、オイラなんかより遥かに魔力が高い。高位の魔族がどうしてこんな所に……まさか粛清に……今神族と魔族はデタントに向けて動いている。そんな中で人間に復讐しようとしているオイラは魔族の中でも指名手配になっている……表立って動いていたから粛清部隊に見つかったかと恐怖していると

 

「そんなに怯えなくても良いだろう?僕は君の味方さ。僕はスカウトしに来たのさ。ハメルーンの悪魔パイパー君」

 

柔らかい笑みを浮かべて、優しくオイラの名前を呼ぶ魔族に驚く、オイラは魔族の中でも嫌われ者だ。そんなオイラをスカウト?その信じられない言葉に

 

「へ?」

 

間抜けな返事をしてしまう。お、オイラをスカウト?こんな高位の魔族様が?正直言って、信じられない……

 

「とは言っても、この程度の危機を切り抜けることが出来ないと仲間にする事は出来ないね。他の仲間に見る目が無いと怒られてしまうからね、だから試験を行わせてもらうよ。この窮地……君の力で乗り超えて見せておくれ」

 

その言葉に一瞬助かったと思ったが、再び絶望する。今のオイラには金の針も魔力も足りない……こんな状態であれだけの人数の退魔師を退けることは出来ない

 

(ちくしょう!金の針が!金の針さえあれば!!!)

 

あれさえあれば、オイラはあの魔族様の庇護を得ることが出来るかもしれない、そうすればもっと力の強い魔族へと進化することだって出来るかもしれないのに……

 

「魔力が足りないのかい?なら君にこれをあげようじゃ無いか」

 

ペガサスの上から放り投げられた何かを両手で掴む。それを見てオイラは目を見開いた、それは信じられないほどの魔力を秘めた宝石。これを取り込めばオイラの魔力は、今までの限界を超えて回復するだろう、金の針が無くても全盛期に戻れる……

 

「ど、どうしてオイラにこんな物を……」

 

これだけの宝石。高位の魔族でも手にするのは難しいはずだ、それをどうしてくれたのか?と尋ねると

 

「仲間を探しているのさ、僕は君の能力に目をつけた。だからだよ、さぁ?君の力を見せておくれ、僕を落胆させてくれるなよ」

 

そう笑って消えていく魔族とペガサスを見つめながら、オイラは手の中で脈打つルビーを見て、躊躇う事無くルビーを飲み込むのだった……

 

 

遊園地の地下に雨水が溜まって出来た巨大な湖……その中心で吼える巨大な鼠。この鼠こそが悪魔パイパーの正体なのだった……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その5へ続く

 

 




パイパーに力を与えた魔族の特徴はペガサスですね。この魔族知っている人居るかなあ……オカルトに詳しい人なら知っているかもしれないですね。次回は戦闘開始まで進めていこうと思っています、これもオリジナル展開を多くしていきたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は遊園地に到着するまでの話と到着した後とパイパーを探しての捜索と記憶の風船を割って、戦闘に入る所まで書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その5

 

ズズン……っと重い音を立ててロンさんが変化したモグラが止まる、止まった時の思いっきり地面が削れているけど気にしない事にしよう。

 

「ここじゃな。ふー老体には疲れるのう」

 

モグラの口から聞こえるロンさんの声。腕時計で確認するけど電車が停まってから1時間と少し……電車では3時間近く掛かる予定だったことを考えると、信じられないことだが、ロンさんは電車よりも早かったのだ……これには正直驚かされる

 

(まぁ乗り心地はお世辞にも良いとは言えないけど)

 

なんせ走っているのだから上下に揺れる。乗り物酔いはしない性質だけどこれは少し厳しい物があったなぁと思いながらロンさんの上から降りる。フェンスで囲われた古びた遊園地……ここがバブルアイランド遊園地

 

(魔力は少しだけ感じるわね……でもこれは……)

 

周囲から感じる魔力。でもそれはパイパーの物ではない、恐らく使い魔の鼠。追いつけないと判断して、使い魔も全て遊園地に集合させたのだろう

 

「でっかいもぐら、すごいなー!」

 

蛍ちゃんに抱き降ろされた横島君がロンさんの顔の近くに抱きついてそう叫ぶ。その姿自体は可愛らしいのだが

 

(また子供になって行ってる……)

 

美神さんとくえすは霊力をコントロールすることで、1日掛けて幼くなって行っているが、横島君はまだ霊力をコントロール出来てない。そのせいか子供になっていく間隔が早すぎる

 

「軽く計算したが、後2時間がタイムリミットじゃな。それを過ぎれば命の保障が出来ないぞ」

 

ドクターカオスの言葉に頷く、今が4~6歳位だ。昨日はまだ10歳前後だったし、今朝でも8歳くらいでまだ言葉の中に今の横島君の気配があったけど……地面に座り込んでいる横島君を見ると、頭の上にチビを乗せて

 

「ぎゅー♪」

 

モグラちゃんとタマモを抱き締めて嬉しそうに笑っている。もう精神までも見た目通りの年齢になってしまっているのだろう

 

「みむ……」

 

「うきゅ……」

 

モグラちゃんとチビもそれを理解しているのか、心配そうに横島君の頬を舐めたり、鼻を押し付けている。一刻も早くパイパーを見つけて、元の姿に戻してあげないと……

 

「じゃが、この遊園地とやらは広い。探す当てはあるのかの?」

 

モグラから人の姿に戻ったロンさんがそう尋ねる。私には心当たりは無いし、蛍ちゃんのほうを見るが首を振る。ここに隠れているのは判るんだけど、パイパーを見つける手段が無い

 

「マリアさん。センサーとかは?」

 

蛍ちゃんがそう尋ねるが、マリアさんは申し訳なさそうに首を振って

 

「残念ながら、ここには魔力を発生させているものが多く、場所の特定が出来ません」

 

マリアさんでも駄目か……しかしがむしゃらに歩き回る訳にも行かないし……どうするか考えていると袴が引かれる

 

「令子ちゃん?どうしたの?」

 

私の袴の裾を引いていた令子ちゃんの前にしゃがみ込む、すると令子ちゃんは肩から提げていた鞄を開いて何かを取り出す

 

「こえ!」

 

差し出された手の中にあったのは金色に輝く小さな針。パイパーが探している金の針……令子ちゃんはそれを私に差し出しながら

 

「こえで見つけて!」

 

これでパイパーを?渡された金の針を見つめているとシズクが私の手の中から金の針を取り上げて

 

「……あのハゲの場所を示せ」

 

人差し指を立てて、金の針をその上に乗せてそう呟く。すると金の針は回転を始める

 

「なるほど、金の針に残っているパイパーの魔力と隠れているパイパーの魔力を同調させるんじゃな?」

 

「……その通り。ん?これは」

 

自慢げなシズク。あーそう言えば、そんな事を習ったような……2年の間に忘れていた。これは本格的に修行をやり直さないと駄目かもしれない。そんな事を考えている間に金の針が止まる

 

【あれは……なんだと思います?】

 

金の針が示した先は巨大な造りでその中に通じるジェットコースターのレール……なにかのアトラクションだとは思うけど、かなり嫌な予感がするわね

 

「うーん。何だろうね……ちょっと判らないかな?まぁ取りあえず。金の針が示したんだから見に行って見ましょう?」

 

取りあえずあそこから調べましょう?と言うが、私の見ている前で更に金の針が回転を始める

 

「え?どういうこと?」

 

なんでまた回転しているのか?それが判らず、思わずそう呟く中金の針は今度は観覧車を指し示す。そしてまた回転を始めるのを見たシズクは金の針を握りこんで

 

「……あのハゲの魔力が上昇している。使い魔の数も増えてきているみたいだし……これ以上は役に立たない」

 

魔力が上昇……金の針が無いのにどうやって……この場所には霊力の通り道の霊脈でもあるのだろうか?

 

「取りあえず行って見ましょう?神代さん、ドクターカオス」

 

蛍ちゃんの言う通りだ。ここでいつまでも考え込んでいても、横島君や美神さんが子供になって行くのが止まるわけじゃ無い……この遊園地自体がパイパーの居城と考えると、罠が仕掛けられている可能性が高い。それでも進まないわけには行かない……

 

「行きましょう。おキヌちゃんと蛍ちゃんは横島君達をお願い。マリアさんとテレサさんは蛍ちゃんとおキヌちゃんの前と後ろに、ロンさんとシズクは私と一緒に前衛をお願い出来ますか?」

 

ロンさんは竜族だから間違いなくこの中で一番強い、私はブランクはあるけど、対魔力にはかなりの自信がある。パイパーの笛を喰らっても耐える事が出来ると思う……

 

「正論じゃな、任されよう」

 

両手が振るわれたと思った瞬間。ロンさんの両腕が竜の物へと変化する。

 

「部分龍化の術じゃ。全身を竜にしてしまっては動きにくいからの」

 

ほっほっほと笑うロンさん。優しい老人って感じなんだけど、あの竜の爪のせいでかなり怖く見えるわね。

 

「……まぁ仕方ない。手伝う」

 

ペットボトルを脇に抱えているシズク、水神だから水が無いと力が出ないのは判るけど……ロンさんのように部分龍化すれば良いんじゃないかな?と思っているとシズクは

 

「……折角横島が買ってくれた服が破ける。それに不気味だから嫌だ」

 

私の考えている事が判ったのかそう呟くシズク。同性としてその気持ちは判らない事も無い、折角買って貰った服が破けるのは誰だって嫌だしね。

 

「ふむ。ではワシは……魔力センサーを用意して奇襲に備えるかの」

 

そしてドクターカオスは笑いながら、コートの中から何かの機械を取り出す。これで準備完了ね……

 

「じゃあ行くわよ」

 

私はそう言うと、出入り口を縛っている鎖を手にした刀で両断し、私達はバブルアイランド遊園地に足を踏み入れるのだった……

 

 

 

横島と美神さんをおキヌさんと一緒に護りながら私は言いようの無い不快感を感じていた。

 

(これ……なに……誰か見てる)

 

神代さんやマリアさんやテレサが気付かないと言う事は私だけを見ている?しかもこの感じはパイパーじゃ無い……まさか他の魔族も居るの?その視線の主を探して周囲を見回すがその気配はどこにもない

 

【蛍ちゃん?どうしたんですか?】

 

子供になっている横島の頭を撫でているおキヌさんがそう尋ねてくる。それと同時に感じていた不快感が消える

 

「ううん。なんでもないわ……」

 

さっきの感覚は何だったんだろうか?……でも凄く嫌な感じだった……身体に纏わりつくような執念深い蛇のような……

 

「蛍ねーちゃ?どうしたの?」

 

心配そうに顔を見上げてくる横島に大丈夫よと笑いかける。さっきの視線も気になるけど、今は横島達を元に戻すことが最優先であり、必須事項だ

 

「さ、行きましょう」

 

横島の柔らかい手を握りながら言うと、にこっと笑い返してくれる横島。この横島もすごく可愛くて良い、惜しむのはカメラが無い事。カメラがあれば写真を撮れるのになぁ……もしかしてマリアさんとかが内臓カメラとかで写真を撮ってないかな?と若干邪な考えが混じるが、ここは敵地なのだからと思い返し、しっかりと意識を切り替える

 

「うん!」

 

横島の手を引いて歩き出す、間違いなくパイパーは横島達を人質にする事を考えている筈だ。となると横島達を護るのが最優先だ、その上でパイパーが隠れている場所を見つけ、記憶と力を取り戻す……かなり厳しい条件だけど、何とか頑張るしかない

 

「タマモ、チビ頑張ってね」

 

横島の頭の上のチビとその前を歩いているタマモにそう声を掛ける。私も勿論横島を護るつもりだけど、パイパーの使い魔は鼠だ。どこから襲って来るか判らないから、タマモとチビにも声を掛ける

 

「コン!」

 

「みむぅ!」

 

気合満点と言う感じで鳴くタマモと放電しているチビ。これで鼠の奇襲は防げると思う

 

「うきゅ!」

 

モグラちゃんが自分も頑張るよ!と言わんばかりに前足を上げて鳴いている。ええっと……ふんすっ!と気合満点のモグラちゃん……だけどどうやって戦うつもりなのだろうか……正直不安ではあるが

 

「うん。頑張ってね?」

 

モグラちゃんがどうこう出来るとは思わないけど、本人のやる気を買ってそう声を掛けると

 

「うきゅーっ!!!」

 

頑張るぞーっと鳴くモグラちゃんに思わず苦笑していると

 

「もうちょっと?はやく元にもどらないと……」

 

「そうですわね……だんだん……頭がぼーっとしてきましたわ」

 

霊力を使ってある程度は抵抗していたみたいだけど、それも限界になって来たのか苦しそうに言う美神さんと神宮寺……

 

「急ぎましょうか」

 

先頭を歩いている神代さんも今の美神さん達の状態を見て、不味いと思ったのかそう声を掛けてくる。私はその言葉に頷き、最初に金の針が指し示したアトラクションの元へ向かうのだった……

 

「ここやわ!ここにパイパーがいゆ!」

 

「そうですわね……ここにいますわ」

 

アトラクション乗り場で美神さんと神宮寺が声を揃えて叫ぶ。私にも判る、アトラクションの奥から漂ってくる魔力の波長にパイパーの物が混じっているのだが

 

(なに、この魔力……!?)

 

さっきまでのパイパーよりも遥かに魔力量が多い。この短時間で何があったのかと思わずには居られない

 

「ふむ……電気系統は生きておるな、それにレールも完成しておるようじゃな……」

 

ドクターカオスがアトラクションの設備を調べている。恐らくパイパーが居るのは地下……このアトラクションを利用すればパイパーの所に行けるだろうけど

 

「全員は乗れないね。どうする?」

 

美神さん達は連れて行かないといけない。地下で何かをして、記憶と力を取り戻すことが出来れば一番戦力になるはずだから、そうなると地下に行けるのは3人だ。重量的な問題でマリアさんとテレサは無理だから人数はかなり限られる

 

「……私が行く、下から水の気配がする。きっと私が一番適任」

 

シズクがそう言うなら間違いないだろう。水脈があるなら、パイパーの棲家であってもシズクの方が有利だ

 

「おキヌさんもお願いね」

 

幽霊であり、壁をすり抜けて行動できるおキヌさんはこういう地下では最適な筈だ。待ち伏せや罠が無いか調べることが出来るから

 

【判ってます。頑張りますね】

 

力こぶを見せるようなポーズをしてからコースターの上に浮かぶおキヌさん。魔族相手だから本当は止めた方が良いんだけど、そんな事を言ってられる状況じゃ無い。ここはおキヌさんにも頑張って貰おう

 

「ではワシもいくかの」

 

ロンさんもコースターに乗り込む、私は少し考えてから神代さんの目を見て

 

「横島を頼みますね」

 

本当なら地下に向かうのを神代さんに任せたいけど、地下の水を少し回収して調査をしておきたい。パイパーの異常なパワーアップには魔族が絡んでいる可能性が高い、それも過激派魔族の……地下の水を回収して来て、なんて頼む事は出来ないから自分で行くしかない

 

「任せて。そっちも気をつけてね」

 

そう笑う神代さんに横島を預けて、コースターに乗り込んで、美神さんと神宮寺を抱き抱える。パイパーが何かを仕掛けている可能性があるから、そのまま椅子に座らせる事は危険だと思うから、そして制御室から顔を出しているドクターカオスが全員が乗り込んだことを確認してから

 

「行くぞ。気をつけてな!」

 

制御版を操作するドクターカオスに頷くとゴトンゴトンと音を立ててコースターが動き始める

 

「ねーちゃ!れいこちゃん!くえすちゃん!きをつけてー!」

 

「横島さんはちゃんと護ります。蛍さん、シズクさん、ロンさん。お気をつけて」

 

横島達に見送られながら、私達はパイパーが待つ地下へと向かうのだった……

 

 

 

コースターが完全に見えなくなった。これで蛍ちゃん達がどうなるかはここからじゃ判らない……

 

(頑張ってね。蛍ちゃん)

 

どうするか判らないけど、上手く美神さんとくえすの記憶と力を取り返してくれれば反撃のチャンスはある。さてと私達がやるべき事は蛍ちゃん達が戻ってくる場所の確保と、横島君を護る事ね。取りあえずは結界を作っておけばいいかしら……

 

「マリアさん。鞄から簡易結界を用意してください。テレサは精霊石の粉末を」

 

簡易結界と精霊石の粉末で結界を作って、蛍ちゃん達が戻るまで篭城しようと思っていると背後に強烈な殺気を伴った魔力が発生する

 

「残念ですが、結界を作っている時間はなさそうです」

 

ガチャンっと音を立てて特性のガトリングを構えるマリアさんとテレサ。私は首から下げていた精霊石のペンダントを引き千切り

 

「横島君。これを持ってて、絶対に手放したら駄目よ」

 

「う、うん!わかった!」

 

精霊石を握り締めた横島君を護るようにチビとタマモが並ぶ、これで使い魔の鼠の攻撃はある程度防げるはずだ

 

「ヒッヒッヒ!!もーいーかーい?」

 

笛を手に高笑いするパイパー。さっきよりも魔力が増えているし、存在感が濃くなっているような気がする

 

「態々待ってくれてありがと、さーて……さっさと倒させて貰うわよ」

 

刀を抜き放つと同時に霊力を纏わせて刀身を巨大化させる。本当なら刀身を巨大化させないで使うのが正しい使い方なんだけど……それではパイパーに有効打を与えれないと思うから、威力重視で刀身を巨大化させる

 

「ヒッヒッヒ!そんな玩具で今のオイラに勝つつもりかーい?おかしくて腹痛いわー♪」

 

宙に浮いてけらけら笑っているパイパー、地下にも魔力が存在することから分身だと思う

 

「そっちこそ分身で私達に勝つつもり?鼠の分際で舐めるんじゃないよ」

 

テレサが両手にマシンガンを持ってそう挑発する。好戦的だと思っていたけど、ここまで好戦的とはね……でもこの状態ならこれくらい強気の方が頼もしいかもしれない

 

「ヒヒ♪勝てるさ!だってオイラは1人じゃ無いからねー♪」

 

パイパーが手にしている笛を吹いた瞬間。物陰に隠れていた鼠達が2頭身のパイパーへと変化する……その数約20……

 

「くうん」

 

「みみ!?」

 

放電していたチビと狐火を展開していたタマモが弱い鳴声を出す。鼠相手ならまだしも、しっかりと2足歩行して、両手を使える小型パイパー相手ではチビとタマモでは正直不利だ

 

「ぬう!?これは計算外じゃ!ええい!!」

 

制御室に居たドクターカオスが飛び出して、鞄から何かを取り出して構える。それは球体で鉛色をした……あれってまさか!?

 

「手榴弾!?」

 

まさかの兵器の登場に思わずそう叫ぶとドクターカオスは焦った様子で

 

「新開発の霊波を放つ物じゃ!多少は効果があるじゃろ!?これはこんな所で使う予定じゃなかったんじゃが……そんな事を言ってられん!」

 

ドクターカオスも焦っているのが判る。まさか分身に加えて、鼠まで自分の分身に変化させるなんて思ってなかった

 

「さーて?遊ぼうか?ヒッヒッヒッーッ!!!!」

 

そう笑うと同時に小型のパイパー達が突進してくる。私は致し方なく刀身を覆っていた霊力の量を調整し、同時に飛び掛ってきた小型のパイパー4匹を両断しながら

 

「神代家当主ッ!神代琉璃ッ!参るッ!!」

 

「さぁ!おいでよ!オイラが遊んであげるからさあ!」

 

馬鹿にするように両手を叩くパイパーに向かって、私は刀を構えて駆け出すのだった……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その6へ続く

 

 




魔族の強化でパイパーはパワーアップしています。金の針がなくても鼠をパイパー化出来るとかですね。次回は美神サイドと琉璃サイドを書いていって……その8くらいで終わりにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は戦闘開始の話になると思います。後2~3くらいでハメルーンの悪魔は終わらせる予定です。和数が多くなってきていますが、頑張って書いていくのでどうかこれからもよろしくお願いします


 

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その6

 

ガタンガタンと音を立てて進んでいくコースター、進むに連れて魔力がどんどん強くなっているのが判る

 

「これはもう殆ど瘴気じゃな。大丈夫かの?」

 

心配そうに尋ねてくるロンさん。正直言って私は全然問題が無い、だって半分は魔族だしね。魔界の瘴気にはある程度耐性がある、だけどその話をするわけには行かないので

 

「精霊石で周りの空気を浄化しているんで大丈夫です」

 

美神さんと神宮寺に持たせている精霊石で空気を浄化しているので大丈夫だと言うとシズクが

 

「……無理はするな。戦闘は私とロンに任せて、お前は美神と神宮寺を元に戻す事を考えろ」

 

一応心配はしてくれているみたいね。私は苦笑しながら

 

「ええ、お願いするわ」

 

ここは素直にシズクの善意を受けることにしてそう返事を返した。それに気になる事もある、パイパーの魔力がここまで上昇しているのは何か理由があるはずだ。そうで無ければこれほど急に魔力が上昇したことに説明がつかない

 

【蛍ちゃん。先のほうには何も罠がなくて、レールの先には地下水で出来た湖がありました】

 

偵察に行って来てくれていたおキヌさんが戻ってきて、偵察の結果を教えてくれる

 

「罠がないか……それほど自分の力に自信を持っているか、只の馬鹿か……どっちじゃろうな?」

 

ロンさんがレールの先を見つめながら呟く。確かにここで待ち伏せしているのだから、何か罠を仕掛けるのが普通なんだけど……その気配が無い

 

「……ただの馬鹿。ハゲだから頭が弱い」

 

パイパーの事を繰り返しハゲと言うシズク。その表情は普段と同じだから判らないけど

 

「もしかして怒っている?」

 

私がそう尋ねるとシズクはゆっくりと振り返る、その目がどんよりと雲っているのを見て、怒っているとかそう言う問題じゃ無いという事を悟った。シズクはニヤリと笑いながら

 

「……どうだろね?自分で考えてみたらどう?」

 

くっくっと笑うシズク、目に光がないし、口調も違うから正直言ってかなり怖い。だけど正直言って今のパイパーの魔力はとても大きい。シズクの能力を疑うわけではないけど

 

「勝算はあるの?私とすれば美神さんと神宮寺の霊力と記憶を取り戻せば、1度撤退するつもりだけど」

 

パイパーの魔力の上昇がどれほどの物か判らない以上。1度撤退するべきだ、何か勝算があるのなら別だけど……

 

「ふむ……残念ながらワシにはこれと言う武器はないのぉ……若い時は火炎放射とか電撃も使えたんじゃが……」

 

何それ怖い……え?土竜族ってそんなに強力な竜族なの?私が驚いているとロンさんは苦笑しながら

 

「なーに、妙神山に閉じ篭っておる腐れ縁とあれやこれやとしておったのでな。その時に覚えたんじゃ」

 

それってもしかして老師?え?若い時ってもしかしてロンさんって西遊記に出てたりするの?朗らかに笑っているロンさんが少し判らなくなった……

 

「……私に勝機はある。あのハゲの力を利用させて貰う」

 

にやりと笑うシズク。パイパーの力を利用する?どうするつもりなんだろうか?と思っていると

 

ガコンッ!!!

 

乗っていたコースターが凄まじい音を立てる。このタイミングで仕掛けて来た!?急加速するコースターから美神さんや神宮寺が吹き飛ばされないようにしっかりと抱き抱える

 

【ここから先は急に落ち込んでいます!落とされないように気をつけてください!】

 

おキヌさんの警告の言葉に頷き、コースターのバーをしっかりと掴む、風切り音がうるさいが飛ばされないようにしっかりとバーを掴む。そして数秒後

 

ザッバアアアアンッ!!!!

 

凄まじい音を立ててコースターが何かに着水する音が響く、その衝撃に顔を歪める

 

(くう!?これはかなりきついわね)

 

身体の中が揺らされる感覚に顔を歪めながら、ゆっくりと停車するコースター。頭を振りながら身体を起こす

 

「風船?」

 

澄んだ地下水の湖の上に浮いている色とりどりの風船の数々。そして腕の中の美神さんと神宮寺が声を揃えて

 

「蛍ちゃん!あれ!」

 

「早くあの風船を割ってください!」

 

美神さんと神宮寺が指差す先には紅い風船と黒い風船が浮かんでおり、その中に美神さんと神宮寺の顔が浮かんでいるのが見える

 

「あ、あれは」

 

美神さんと神宮寺の風船の近くには唐巣神父の風船とかなりの大きさのシルフィーさんの風船が浮かんでいるのが見える。この風船自体が記憶だと考えると、その記憶の量によって大きさが変わると言うならシルフィーさんの風船の巨大さに驚かされる

 

(どんな人生を送ってきたんだろ)

 

思わずそんな事を考えてしまう。それと同時に私が子供化していない事に安心した。私の記憶の風船が出てきてしまったら、芦蛍としての記憶に横島蛍としての記憶、そしてルシオラとしての記憶……単純に考えてもかなりの年数を生きている。私だけの記憶ならそれほど大きくならないだろうけど、他の私としての記憶も風船になってしまったら、いくらなんでもシズクやロンさんに疑われる可能性がある。そうでなくて本当に良かったと安心していると

 

「……見つけた!横島の風船」

 

シズクの指差す方向を見ると、大分奥の方に横島の顔が描かれている風船を見つけた。

 

「じゃああれをこえで」

 

美神さんが首から下げた鞄に手を伸ばした瞬間

 

「ヒヒッ!!!」

 

不気味な笑い声を上げたパイパーが上空から突っ込んでくる。

 

「ぬうっ!喰らえッ!!!」

 

一番最初に気付いたロンさんが口から火炎弾を吐き出す。炎吐けてるじゃん!?さっき無理とか言ってたの何!?

 

「ヒヒッ!舐めるな!」

 

だがパイパーはその火炎弾を手にした笛で打ち返してくる。その狙いは私達の乗っているコースター

 

「くっ!?」

 

火炎弾がコースターを吹き飛ばす。その衝撃で湖に投げ出される

 

「ハッハー!頂き!!!」

 

「「きゃあ!?」」

 

美神さんと神宮寺が宙に投げ出された瞬間。パイパーが2人を抱き抱える

 

(やられた!?)

 

まさかこんな方法で美神さんと神宮寺を奪われるとは思ってなかった。慌てて湖面から顔を出すと

 

「蛍ちゃん!」

 

美神さんが首から下げた鞄を何とか外して、私に投げてくる。それを何とか受け止めると

 

「おい!この2人がどうなっても良いのか!金の針を寄こせ!じゃないとこの2人を殺すぜ!」

 

パイパーが鋭く伸びた爪を美神さんと神宮寺に突き付ける……私は美神さんから渡された鞄と美神さんを見ていると

 

「はっはー!!!」

 

湖の湖面が爆発して黒い巨大な鼠が突っ込んでくる。ロンさんが咄嗟に突進してくる巨大鼠を受け止めるが

 

「ぬっぐう!?この馬鹿力がッ!!!」

 

ロンさんが何とかその鼠を退けるが、分身には美神さんと神宮寺が捕まって、本体の鼠は私達を狙っている。おキヌさんは霊体だから、パイパーの攻撃を受ければ消滅しかねないし……奇襲をさせるわけに行かない

 

(これは不味いわね……どうすれば)

 

逃げようにも本体の鼠が私達を狙っているし、分身には人質を取られている……この状態をどう切り抜ける……私は殆ど無意識に私の魔力を封じているブレスレットに手を伸ばしかけて……

 

(シズクは?)

 

コースターがひっくり返ってから姿の見えないシズク。何か考えが合って姿を隠しているのかもしれない……今はなんとかして捕まっている美神さんと神宮寺を救出しないと……上空から私達を見つめている分身と鋭い牙と爪を向けている本体の鼠をどうやって切り抜けるかを考えるのだった……

 

 

 

キンっと乾いた音を立てて私の手にしていた刀の刀身が折れて宙を舞う

 

「はっはは!こんなんでオイラを倒そうって言うの?ひゃはははっ!!!おかしくて腹が痛いわぁ!」

 

笛を小脇に抱えて高笑いしているパイパー。量産品とは言え、しっかりと霊力で強化されている霊刀をこうも簡単に破壊するなんて

 

(分身だからって油断した……)

 

小型の分身に魔力を消耗しているはずだから、勝てないにしても互角には持っていけると思っていたのが全ての間違いだ

 

「くっ!数が多すぎます」

 

「姉さん!弾薬!」

 

マリアとテレサも小型パイパー相手に奮闘しているみたいだけど、数が多すぎる倒しても倒しても、周囲の鼠がどんどん変化して元に戻っていく

 

(どうしよう……どうすれば良いの……)

 

分身のパイパーと小型パイパーの波状攻撃はとても激しい……この状態だと押し切られる……

 

「みむうう!!!」

 

「コーン!!」

 

「「「あああー!?」」」

 

チビの電撃とタマモの狐火が小型パイパーを吹っ飛ばしていく、だけど倒した数以上の小型パイパーが横島君に殺到する

 

「ぬうう!喰らえッ!!!」

 

ドクターカオスが手榴弾を小型パイパーに投げつけ、その集団を吹き飛ばすがその数以上の小型パイパーが姿を見せる

 

(本当にこれは不味い……)

 

パイパーに勝てないにしても、引き分けには持ち込めると思っていたのに……これは本当に不味い

 

「ひゃひゃひゃっ!!今のオイラは無敵さあ?だって高位の魔神様にこれを貰ったんだからねえ?」

 

パイパーが服の中に手を突っ込んで何かを取り出す、それは拳大の真紅の宝石……それは凄まじい魔力を放っている

 

(なに……あの宝石は……)

 

これだけ離れていても判る。あの宝石には桁違いの魔力が秘められている……あんな宝石を渡すことが出来る魔族?それはどう考えても人間界で活動することを許可されている魔族ではないだろう

 

(まさか……過激派魔族!?)

 

神と悪魔のデタント……それを妨害する事を目的にしている過激派魔族。まだ日本ではそんなに活動していると聞いた事は無かったけど……まさかこんな所で過激派魔族に関わりを持つ魔族に遭遇するなんて思ってなかった

 

(どうする……どうすれば良いの……)

 

必死に如何するか?と考えるけど考えが纏まらない。私が硬直していると

 

「うわああああ!?」

 

横島君の悲鳴が聞こえて振り返ると、地面から顔を出した半透明のパイパーが横島君の首を掴んでいた。馬鹿な!?精霊石を横島君に持たせていたのに何で!?魔族は精霊石の結界に触れることが出来ない筈なのに

 

「ヒヒ!バーカ、ヴァーカッ!!!言っただろ?今のオイラは無敵なんだよ!!!」

 

狂ったように笑うパイパーとその分身。二重に聞こえる馬鹿笑い、だがそれは自分が有利であることを確信しているからこその笑い

 

(くっ……どうすれば……)

 

横島君が人質に取られた以上。思うように動けない……私は折れてしまった刀を手放し、代わりに破魔札を構えようとしたが

 

「おーっと!動くなよ?動けばこいつの頭が弾けるぜ!」

 

パイパーが横島君の頭を掴む。魔族の力を持ってすれば人間の子供の頭を砕くなんてわけない

 

「さーて、じゃあどうするかなあ……」

 

パイパーがニヤニヤと笑う。これは不味い……下手に反撃すれば横島君が殺される……どうすれば

 

「うぐぐ……」

 

パイパーに捕まっている横島君が何かを言おうとしている、それに気付いたパイパーが

 

「そうだ!このガキが呼んだ奴を殺す!抵抗するなよ?おい!ガキ!ほら!誰に助けてもらいたいんだ?」

 

パイパーが顔を近づけて横島君に怒鳴る。横島君は苦しそうに目を開き、その握りこんでいた手を開いて

 

「くらえええ!このハゲアタマア!!!」

 

「っぎゃああああ!?」

 

パイパーの分身の顔面に精霊石を叩きつける、横島君まさか自分が狙われているのに気付いて、業と精霊石を使わなかった?だが霊力も無い横島君が使った精霊石は充分な効果を発揮せず、分身のパイパーの顔に酷い火傷を与えるのが手一杯だった

 

「このクソガキがあああああッ!!!!」

 

「う、うわああああああ!?」

 

顔面が焼かれた分身のパイパーが横島君を地面に向かって投げつける。咄嗟に走り出すが

 

「「「ケラケラケラ♪」」」

 

分身のパイパーが肩を組んでスクラムを組んで邪魔をする

 

「邪魔っ!!」

 

破魔札を叩きつけるが、即座にまた肩を組んだ小型パイパーが姿を見せる。これじゃあ間に合わない!

 

「みむううううっ!!!!」

 

「コーンッ!!!!」

 

チビとタマモが落下地点に回り込もうとするがチビとタマモも小型のパイパーに妨害され、前に進むことが出来ない

 

「くっ!横島さん!」

 

「横島ッ!」

 

マリアさんとテレサが必死に手を伸ばすがそれも届かない。ドクターカオスにはマークが無かったので走り出すが

 

「だ、駄目じゃ!間に合わん!?」

 

老いたドクターカオスでは距離がありすぎる。それが判っているから、パイパーはドクターカオスに自分の分身を向けなかったのだ

 

「ひゃーははははは!!!死ねぇッ!!!」

 

パイパーの高笑いが響く、届かないのは判っている。それでも手を伸ばした瞬間

 

「うきゅきゅーっ!!!!」

 

小型パイパーのスキマを通り抜けたモグラちゃんが横島君の下に回りこんでから巨大化し、その背中で横島君を受け止める。よ、良かった……安心したのは一瞬で小型パイパーの群れに持っていた精霊石を叩きつけ蹴散らし、横島君の元に走る

 

「モグラちゃん。ありがと」

 

「うきゅ♪」

 

モグラちゃんの背中から横島君を抱き降ろす。震えている横島君の背中を撫でる

 

「怖かったよね。ごめんね」

 

私の油断だった。まさかあんな事にまで分身を使えるなんて思ってなかった……もっと警戒するべきだったのだ。それこそ私の切り札を使う心構えくらいはしておくべきだった

 

「ドクターカオス。横島君を」

 

「うむ。ほれこっちに来い」

 

ドクターカオスに横島君を預けパイパーの方を見る。人質を奪い返されたのにまだまだ余裕そうな顔をしている

 

「ヒッヒ。遊びは終わりだよ、そろそろ殺そっか」

 

ひゃひゃっと笑うパイパー。その耳障りな笑い声に眉を顰める、仕方ない……神卸を使う、今の鈍りきった私では危険だけどこれじゃ無いとパイパーを退けることが出来ない。覚悟を決めて親指を噛み切ろうとした瞬間

 

「うぎゅううううッ!!!」

 

毛を逆立てたモグラちゃんがジャンプした瞬間。凄まじい光を放つ、その眩しさに目を閉じた次の瞬間

 

「ギャオオオオッ!」

 

「モ、モグラちゃ……ん?」

 

思わずそう尋ねてしまった。毛むくじゃらなのは変わってないけど、二足歩行になり鋭い爪と長い尻尾を持つ竜がパイパーに向かい合って吼えていた

 

「な、ななななななあ!?なんだお前!?」

 

パイパーが動揺するのは判る。私達だって驚いている、あれだけ可愛かったモグラちゃんがあんな姿になるなんて思ってなかった

 

「モグラちゃん!頑張って!」

 

「コーンッ!!!」

 

「みむうッ!!

 

横島君とチビとタマモの声援が重なる、モグラちゃんはその声援に答えるようにパイパーに突進していく

 

「このおっ!!!」

 

パイパーと竜が掴み合いになるが、一瞬均衡したと思ったがそれは本当に一瞬で

 

「いっけええ!モグラちゃん!!」

 

「グオオオオッ!!!」

 

横島君の声援に答える様にパイパーを一気に押し潰す。凄まじい力だ……流石は竜族と言う所だろうか?

 

「し、信じられません。あの竜の力はパイパーを完全に上回っています」

 

マリアさんが驚いたと言う感じの声で呟く、私も正直驚いている。竜族なのは知っていたけど、まさかあれほどの力を持っているなんて思ってなかった

 

「くそがあ!お、オイラは最強になった……「ギャオオオオオオンッ!!!」

 

モグラちゃんが咆哮と共にパイパーを上空に投げ飛ばし、大きく口を開き

 

「ゴガアアアアッ!!!」

 

凄まじい音を立ててモグラちゃんの口から放たれた火炎弾がパイパーの身体を貫き焼き尽くす。それと共に私達を囲んでいた小型パイパーも元の鼠の姿に戻って行く……はーなんとか切り抜けることが出来たみたい

 

「ありがと。モグラちゃん」

 

横島君が近寄ってモグラちゃんの身体を撫でながらお礼を言うと

 

「グルォ」

 

コクンっと頷くモグラちゃんだったが、次の瞬間には小さなモグラの姿に戻って横島君の腕の中に納まる

 

「うきゅう」

 

目を回しているモグラちゃんを抱きしめながら横島君が

 

「おつかれ、モグラちゃん」

 

「きゅ……」

 

横島君の腕の中で弱々しい鳴声を上げるモグラちゃん。多分霊力を使いすぎて弱っているのだろう

 

「今度はしっかりと防護陣を作りましょう!マリアさん!テレサ!急いで!」

 

あれだけ強力な分身をそうそう作ることが出来るとは思えないけど、またあれだけの能力を持つ分身が現れたら、今度は対処しきれない

 

「ワシに任せろ!!テレサ!鞄から精霊石の粉末を!マリアは聖水を!東洋・西洋複合結界を作る!」

 

素早く結界を作る準備を整えるドクターカオスとマリアさんとテレサを見ながら、地下に続くコースターのレールを見つめて

 

(蛍ちゃん達は大丈夫かしら)

 

これだけ離れているのにも拘らず、あの分身の力は凄まじかった。きっと本体の力もかなり上昇しているのだろう……私は地下に向かった蛍ちゃん達の無事を祈らずにはいられなかった

 

 

 

ん?今……やられたのか……外で待っている連中を殺すために送った分身が消えたのを感じた。かなりの分の魔力を注いで作った分身だが、まさかやられるとは

 

(これは遊んでいる時間は無いな)

 

金の針を奪い返し、早く力を取り戻さないとこちらがやられてしまうかもしれない……竜族の爺が1人に、幽霊と何かの妖怪のガキと黒髪の小娘

 

(あの爺を若返らせたら終わりだ)

 

今は年老いているから力が弱まっているが、それでもかなり強いのは判る。だからあの爺を若返らせない為に笛を使うことは出来ない、あの妖怪は確かに強い力を持っているが、今のオイラの敵じゃ無い。金の針を取り返してから若返らせて叩きのめせばいい……どうやって殺すかを決めてから

 

「さぁ。金の針を寄こせ、そうすればこの2人は無事に返してやる」

 

人質である美神令子と神宮寺くえすを捕まえながら、手を伸ばす。これがあればもっと大規模で分身を作り出して大人を子供にすることが出来る。それを考えれば、今この2人を逃がしてもオイラには何の痛手もない

 

「さ、金の針を寄こすんだ」

 

手を伸ばしながら黒髪の女に繰り返し言う、竜の爪を出している爺には何もするなよと声を掛け睨みつける。爺の癖にかなりの力を持っている、あの爪の直撃を喰らえば今のオイラでも致命傷を受けかねない。だからあの爺だけは絶対に自由に動かさせるわけには行かない

 

「先に美神さんと神宮寺を返して、それが条件よ」

 

「駄目だ、先に金の針を寄こせ」

 

お互いに平行線だ、仕方ない、オイラは爪で軽く神宮寺の頬に傷をつける

 

「ひう!?」

 

「別にオイラはいいんだよ?ここでこいつを殺しても、それを返してやるって言ってるんだ。妥協しなよ」

 

オイラの言葉にこれ以上は交渉出来ないと判断したのか金の針を投げてくる、それを受け取ると同時に2人を手放す。これでオイラの力が戻って……来ない!?馬鹿なこれは間違いなく金の針だというのに何故!?

 

「……馬鹿はお前だ。ハゲ頭」

 

【シズクさん!今度はこっちに!】

 

頭の上から聞こえた声に顔を上げると、オイラの前にいた幽霊と妖怪の姿が水になって消える。それよりも不味い!?乾いた音を立てて破裂する風船。オイラは咄嗟に捕まえていたガキ2人を投げ捨て距離を取ろうとするが

 

「この私の美貌に傷をつけた罪……ただではすませませんわ!」

 

「ナイス!おキヌちゃん!シズク!」

 

投げ捨てた瞬間元の姿に戻り、黒い炎と精霊石を投げつけてくる。黒い炎は必死で回避したが、かわりに精霊石を直撃で貰ってしまう。ぐううう!馬鹿な、どうして!?手にしている金の針を見つめると、ドロリと溶けて消える。これは水!?まさか!

 

「……水はどんな形にも変化する……はげ頭の馬鹿」

 

にやっと笑うガキを見てオイラはカッとなり笛を口に当てて

 

ちゅら♪ちゅら♪ちゅらー♪らー♪

 

渾身の魔力を全てあのガキに向けて笛を吹く、これだけ魔力を込めれば例え妖怪であっても、存在を維持出来ないほどに若返らせることが出来る筈だ

 

「へいっ!」

 

眩いまでの光がガキを包み込む。へへ……これで終わり……ンなぁ!?光の中でどんどんガキの力が増していく

 

「……これだから馬鹿は御しやすい」

 

光が弾けた瞬間。ガキが居た場所には腰まで伸びた緑色の髪を翻し、凄まじいまでの竜気を放つ女が居た。血のように紅い瞳をオイラに向けて

 

「……横島に牙を向けた罪。その身を持って償えッ!下等魔族がっ!!!」

 

指がなった瞬間。地下湖の水が巨大な槍となってオイラに殺到して来た、この瞬間オイラは初めて自分がミスを犯したことに気付いたのだった……遊んだりせずに、とっととここにも小型パイパーを呼び出して、金の針を奪えば良かったのだ。

 

「ち、ちくしょおおおおおッ!!!」

 

咄嗟に本体の中に戻り、増幅した魔力で障壁を作るが、それを簡単に貫きオイラの身体を貫く水の槍。その凄まじいまでの激痛にオイラは意識を簡単に吹き飛ばされてしまうのだった……薄れていく意識の中

 

「まだだよ、まだこんなところで死んでくれるなよ?もっと僕を楽しませるんだ道化」

 

オイラに魔力の詰まった宝石を譲ってくれた魔族様の楽しそうな声を聞いたような気がした……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その7へ続く

 

 




モグラちゃんの進化とシズク大人フォーム獲得(?)です。しかしまだパイパー編は終わりませんよ。まだ続きます、次回はもっと激しい戦闘にしていこうと思っているので大人モードシズクとかの活躍を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです。今回で戦闘の話は終わりに持っていけると思います。今回は前回の最後に書いた魔族が大きく関わってきます、結構激しい戦いになると思いますね、では今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その7

 

水の槍で貫かれ湖の中に沈んでいく巨大な鼠。それを冷たい視線で見下している黒髪の女性……先ほどバイパーの笛を喰らったのはシズク……だから今目の前にいるのはシズクの筈なんだけど

 

(なんで大人に……と言うか……)

 

子供になるはずの笛で何で大人になっているのか?とか色々気になる事はあるけど、何よりも今私が納得していないのは

 

(なにあの抜群のプロポーションは!?なんであのロリがあんなのになるの!?)

 

美神さんに匹敵する抜群のプロポーションに進化しているシズク。なんでどうして!?と私が混乱していると

 

「若返って全盛期に戻った……と言う事ですか。水神ミズチ」

 

神宮寺がそう呟くとシズクは振り返り、答える義理は無いと返事を返してから、私達を見つめてくる。血の様に紅い瞳に思わず気圧されてしまう……シズクとは随分一緒にいたけど、あんな冷たい目をしているのを見たのは初めてかもしれない。シズクは神宮寺の言葉を完全に無視して指を鳴らす。するとパイパーの身体が沈んで行った場所のみが凍り、一瞬で巨大な氷柱が現れる

 

「……これで終わり、あの下等魔族は永遠に氷の柩の中……魂までも凍り付いて湖の中で死に絶えろ」

 

小さく笑ったシズクが小さく湖面を蹴るとその身体は凄まじい勢いで舞い上がり、私達の前にゆっくりと降りてくる

 

「助かったわ、シズ……「パンッ!」な、なにするのよ!」

 

美神さんの言葉を遮ってその頬に平手打ちを叩き込んだシズクは

 

「……これで許そう、横島を危険な目に合わせたのはこれでチャラだ」

 

シズクの言葉にはっとなった美神さん。振り上げた拳をゆっくりと開きながら

 

「ごめん。今回のは私のミスだわ」

 

本来なら一番パイパーの攻撃を喰らってはいけない美神さんが一番最初に子供になり、私達だけで対処しないと行けなくなってしまった。そしてその結果横島も子供になり危険な目に合ってしまった、それがシズクには据えかねているのだ。身体から滲み出るような霊力の凄まじさがそれを物語っている

 

「まぁまぁ、落ち着かれよ。シズク殿」

 

重い空気が満ちてきた所でロンさんがそう声をかける、シズクは不機嫌そうに美神さんから視線を逸らして

 

「……1度は許す。次は無い……」

 

そう言うと手にしている金の針を手に再び湖面を蹴って、舞い上がり横島の風船の元に向かっていくシズクの背中を見つめている美神さんに近づくと

 

「とりあえずここから出て話をしましょう。それと今回の件はごめんね、全部私のミスよ」

 

珍しく弱っている美神さんの姿。今回の事件はパイパーの能力が予想よりも高かった、その一言で尽きる。いくら美神さんクラスのGSとは言え、相手能力が想定よりも遥かに上だったのなら出し抜かれる事だってある

 

「気にしてるなら、これが終わって無事に帰れたら何か奢ってくださいね」

 

私があえて軽い口調で言うと美神さんが小さく笑い返しながら

 

「もう今日はあれだわ。思いっきり奮発するわ!終わったら寿司でも食べに行きましょうか!皆で」

 

そう笑う美神さんを見ていると、パイパーが凍っている柱を見つめていた神宮寺が

 

「幽霊!早く出口に案内しなさい!」

 

顔色を変えておキヌさんにそう叫ぶ。突然怒鳴られたおキヌさんがパイパーの氷付けを見て

 

【もうパイパーは死んだんじゃ?】

 

あれだけの氷の中に閉じ込められれば、いくら魔族と言えど致命傷の筈だけど……私も氷の柱を見て、驚愕に顔を歪める。私の中に僅かだけある魔族としての本能がその危険性を感じ取っていた

 

(な、なにあれ……!?)

 

神宮寺が何を慌てているのかを理解した。氷の柱の周りにはとんでもない魔力が集まり始めている、いやそれだけじゃ無い、徐々に集まってきている悪霊の姿も見える。美神さんとおキヌさんもそれに気付いたのか

 

「ロンさん!」

 

「心得た」

 

そう声を掛けられたロンさんが即座に巨大なモグラの姿へと変化する。直ぐにロンさんのその巨体に乗り込む。空中のシズクに視線を向けると

 

「……先に行け。少し時間を稼ぐ」

 

再び自身の周囲に巨大な水の槍を作り出しているシズク。シズクもパイパーの魔力が異常なまでに増大しているのに気付いてたようだ

 

「金の針は渡さないでよ!あれはパイパーの力の源だからね!」

 

ロンさんの背中の上でそう叫ぶ美神さんに判っていると返事を返し、無数の皹が入り始めている氷柱に視線を向ける。

 

「しっかり捉まっておられよ。壁を掘り進むのでの!!!」

 

魔力の発生と悪霊によりコースターの進む道が崩れた土砂で塞がれてしまった。だけどロンさんなら何の問題も無い、その鋭い爪を岩と土に向け走り出す。

 

【こっちです!】

 

おキヌさんに先導され、その爪を壁に突き立て凄まじい勢いで掘り始めるロンさん。その凄まじい衝撃に眉を顰めながら、私はロンさんの毛を掴んでその衝撃と振動に耐えながら

 

(どうなってるのよ、これは!?)

 

今もまだ増大しているパイパーの魔力と集まっていく悪霊の姿を見て、何が起こっているのか、そしてこれから何が起こるのか?が判らず心の中でそう叫ぶのだった……

 

 

 

凄まじい勢いで私の作り出した氷柱に集まっていく魔力と悪霊を見て私は眉を顰めた

 

(どうなっている)

 

いくらあのハゲが魔族とは言え、あれだけの魔力を取り込んで無事で居られるはずが無い。下手をすれば自身の霊核を損傷し、自分を失うだろう……そんな事すら判らない馬鹿なのか、それとも自分を失ってまで私を倒したいのか?

 

(……まだ持つ……か)

 

あのハゲの笛で全盛期の力を取り戻したのは良いが、今の私では長時間の維持は出来ないだろう……額に浮かんできた汗を着物の裾で拭う

 

(……鈍り過ぎた……これじゃあ、あの狐を馬鹿に出来ない)

 

霊力を小竜姫に渡し、自身の存在を維持できるだけの霊力しか残さなかったから、急に莫大な霊力を手にした事に身体がついていかない……これが終わったら少し鍛錬をするべきかもしれないと思っていると音を立てて氷柱が砕け散り、巨大な鼠が姿を見せたのだが

 

「ギ!グアアアアアアッ!イダイ!?イダアアアアイイイイッ!!!!クルナアア!これ、これイジョウオイラの中にハイッテクルナアアアアアッ!!!」

 

その過剰な魔力と同化していく悪霊達にそう叫ぶ鼠だった物……その身体は異常に肥大しており、胴体には取り込まれた悪霊達の顔が浮かんでいる。全身から血を流し、苦悶の叫びを上げている鼠。それでも魔力は上昇し、悪霊を取り込み続けている。

 

「……とっとと逝け。耳障りだ」

 

ここまで来た以上恐らくもうパイパーと言う魔族の消滅は確定している。あそこまで霊核が損傷してしまえば、いくら魔族と言えど消滅をま逃れることは出来ない。腕を振るい作り出した水の槍を打ち込むが

 

「……ば、馬鹿な」

 

私の水の槍さえも取り込んで巨大化していく姿。そして一瞬だけ見えた心臓のように脈打つ紅い宝石を見て

 

(……あれか!)

 

あれに魔力と悪霊が吸い寄せられているのだと判断して、水では無く氷の槍を作り出しその宝石目掛けて打ち出す。ピシッと言う乾いた音を立てて皹が入る宝石。やっと魔力の収束と悪霊の発生は止まったのだが全ては遅すぎた……

 

『【ァッ!アガアアアアアアアアアアアッ!』】

 

何重にも重なる苦悶の悲鳴と肉が裂ける不気味な音を立てて、その姿を変えて行く鼠を見て自分1人では対処できないと判断し、私もこの地下空間から急いで脱出する事を選んだ

 

「戻ってきた!シズク……なのか?」

 

出口の所で私を待っていた横島。元の姿に戻っている事に安堵しながら、横島の腕を掴んで

 

「……放すな!早くこの場から離れるんだ!」

 

「うええ!?なに!?どういう事だ!?って言うかなんで大人!?」

 

混乱しきっている横島に黙れと言って黙らせ空中で横島の胴に腕を回し、落とさないように抱き抱える。腕の中で甘い香りがァ!?とか柔らかい感触が!?とか叫んでいる横島を見て、この姿を維持できるように頑張ろうと思いながら外で待っていた美神達に

 

「……早く離れろ!化け物が来る!!!!」

 

何かを感じ取っていたのか即座に走り出す美神達。それと全く同じタイミングで地面をぶち抜いて

 

『オ。オゴアあああああアア!?!?』

 

胴体には僅かにあの鼠の名残があるが、その腕は巨大な鋏へと変化し、8本の足を持つ蜘蛛の様な異形が姿を見せる

 

「ギャーアアアアア!?ば、化け物おおおおお!?!?」

 

「……うるさいから耳元で叫ぶな!」

 

あの化け物を見てそう叫ぶ横島にそう怒鳴りながら、美神達の方へと向かうのだった……横島を抱えていては戦うことは出来ないし、それにあれほどの魔力を持っている相手ではいくら全盛期の私でも分が悪い。

 

(なにがどうなっている)

 

あのハゲがどうしてあんな化け物になったのか?それは理解出来ないが、今もてる戦力でどうやってあの異形を倒すのか?私はそれを必死に考えるのだった……

 

 

 

 

地面をぶち抜いて現れたパイパーだった物を見て、私は強烈な吐き気と頭痛を感じて、思わずその場に蹲ってしまった……あれはただの魔族なんかじゃ無い。ここら辺で死んでしまった人達の魂を吸収して変化した化け物だ……

 

「大丈夫!?琉璃」

 

慌てた様子で近寄ってくる美神さん。吐き気と頭痛に耐えながらゆっくりと大穴から這い出してくる化け物を見て

 

「あ、あれに近づいたら駄目です!飲み込まれる……あれは……「合成獣【キメラ】ですわね。しかもかなり悪質なのを核にしている」

 

私の言葉を遮って言う神宮寺。少しむっとしたが、神宮寺の言っていることは正しい。流石が魔女として名高い神宮寺家の当主だけはある……私は小さく笑いながら

 

「その通りよ。流石ね……今のあれは周囲の魔力や霊力を吸収して自分の身体を作っている……下手に近づいたら駄目です……私達も取り込まれてしまいますわ」

 

まだ悪霊が集まって来ているのか私を襲う頭痛が治まる気配は無い。神卸しに特化した神代家の人間はこの手の生物に弱いのだ。その中に閉じ込められた悪霊の思念に感化され、体調を崩しやすいからだ。今にも意識を失いそうだが、歯を食いしばって意識を保つ……対処法だけは言っておかないと

 

「出来る限り物理で……それと核だけを砕くことを考えてください」

 

今霊力と魔力で攻撃すれば、あのキメラの成長を助けるだけだ。出来る限り物理で核を砕くことを考えてくれと言うが

 

「随分と難しい注文ね」

 

美神さんが苦笑しながら言う、あのキメラの8本の足を掻い潜って近づくのは至難の技所か自殺行為だ。しかもどんどん再生し、周囲の物を取り込んで別の生き物へと変化している。近づけば自分達も取り込まれる可能性が高い、しかしそれしかないのだ。美神さんが溜息を吐きながら

 

「まぁ、良いわ。何とかしてみる。琉璃は少し休んでなさい。蛍ちゃんも大変だと思うけど手伝って!霊体ボウガンの矢ならある程度効果があると思うから!くえすは銀の弾丸持ってるでしょ!ここまで来たんだから手伝いなさい!」

 

そう言って私に背を向け、蛍ちゃんと神宮寺に指示を出している美神さん。本当なら私も手伝わないといけないんだけど、もう立っているのも限界な程に頭痛が激しくなって来ている……ついに頭痛に耐えかねて倒れかけると

 

「大丈夫っすか!?琉璃さん!」

 

横島君に抱き止められる。本当……気が利くというか……なんと言うか。ここまで女性に優しい面もあるのでなんでモテないのかなあと思っていると横島君は

 

「離れますよ!えーとそれと先に言っておきます!すんません!」

 

私にそう謝ってから背中から腕を回して、私を引きずる横島君。一応戦況を見れるように考慮してくれたと思うんだけど、その腕は当然胸元に来ていて、胸に触れてないとは言え……私はこう言わずにはいられなかった

 

「スケベ」

 

先に謝ってくれたし、動けない私が悪いんだけど……うん。これは言っても良いと思う。女の子の肌や胸はそう触れていいほど、安い物じゃないのよ?と横島君に言うと

 

「げは!?わ、ワイは助けようとしているだけなのに!!!おキヌちゃんからも何か言ってくれよ」

 

【横島さんのエッチ】

 

浮いていたおキヌちゃんもジト目で横島君を見てそう呟く。助けてくれると思っていたのに、まさかの追撃を受けた横島君は

 

「まさかの追撃!?ほんと、普段ならまだしも、今こんな状況で煩悩なんか沸くかい!これが普段の行いの悪さなんかー!?」

 

泣きながらも私を丁寧に運んでいる横島君。しかも胸に触らないように考えたのか、その腕は更に下へと移動している。変な所でフェミニストよね。横島君って……少しだけ顔を上げて泣いている横島君を見て

 

(横島君って苛めると面白いわね)

 

私は不謹慎だと判っているが、そう思わずにはいられなかったのだった……だけど直ぐに考えを切り替えて、どうやってあの化け物を倒すのか?それを考え始めるのだった。物理ならある程度効力があると思うけど、あのキメラは只のキメラじゃ無い……絶対何かまだ何かある……私は目を細め、あのキメラの核がどこに隠されているのか?それを必死に探し始めるのだった。まだ完全に姿が整形されていない今なら、きっと核はまだ外に露出しているはずなのだから……

 

 

 

「マリア!テレサ!距離を取って銃撃ッ!一定の距離に近づくな!飲み込まれるぞ!」

 

「了解っと!姉さん!フォローよろしく!」

 

「任せてください、テレサ」

 

カオスの指示で距離を取りながら、パイパーが変化キメラに銃弾を打ち込んでいるアンドロイド。私はそれを見ながら洗礼を済ませた特殊な銀の弾丸を懐から取り出そうとして

 

(止めておきましょう。勿体無いですわ)

 

確かに今の銃撃でダメージを与えられているようですが、そのダメージよりも周囲の霊力を吸収して回復しているほうが早い、これでは焼け石に水。なんの効果を見出すことも出来ない

 

【『グガアアアアッ!!!』】

 

目の前でどんどん変化を続けているキメラ。最初は蜘蛛のような姿をしていたが、今では巨大な蜥蜴の化け物と言ってもいいだろう……このままほっておけば、更なる進化を遂げる可能性もある。まさかこんな所でこんなキメラをお目にかかることが出来るとは思って無かったですわね……

 

『ぬう!この化け物がッ!』

 

【『グギャアアッ!!!』】

 

ロンと言う竜族が竜へと変化して戦っているからか、それに適応して進化したと考えれば恐るべき成長速度だ

 

「シズク。貴女が一番近くで変化している場所を見ていたのでしょう?核を見なかったのですの?」

 

空中に浮いて、水の壁や水の弓矢を用いて私達のフォローをしているシズクに問い掛けると

 

「……一瞬だけ見えた。紅い拳大の宝石……だけど身体の中に取り込まれている」

 

紅い拳大の宝石と聞いて一瞬私の頭を過ぎったのは「賢者の石」だが、そんな上等な代物をパイパーが持っているとは思えない……恐らく粗悪な複製品。しかしこれだけの効力を持つとは正直驚きだ。もし上手く倒せて、その石を手にする機会があるのなら持ち帰って研究したい所ですわね……

 

「くえす!あんたの魔界の炎でなんとかならないの!?これ!」

 

巨大化されたことで近づくことも出来なくなったので美神令子が私にそう怒鳴る。その怒声に眉を顰めながら

 

「無論私なら可能でしょうね。あの程度の下等な魔族の精神を焼き尽くすくらいわ」

 

それならっと笑みを深める美神令子。だけど今すぐ使うつもりは一切無い

 

「さて、どうしましょうか?私だけなら転移で逃げることも可能ですし?貴女達を見捨てるという選択肢が私にはあるのですからね」

 

シズクが氷の槍を打ち出しているのを見ながらそう言うと、眉を顰めながら美神令子は

 

「何が望みよ」

 

流石美神令子。話が早くて助かる、私は手にしている魔道書を開き、複数の術式を同時に展開しながら、指を2本立てて

 

「今回の件は私と貴女の共同と言うのを公表しないこと、私の経歴に傷がつくのは不愉快ですので」

 

まさかあんな下等魔族の攻撃で子供にさせられるとは……正直これは屈辱だ。故に今回の事件の事を公表しないのが第一の条件。神代琉璃にはもう少しそちらに従うと言う事で公表しないで貰う事にしましょうか……

 

「……判ったわ。公表しない、ちょうどロンさんもいるし、カオスもいる。魔界の炎はあの2人がなんとかしたって事にするわ。それでもう1つは?」

 

私はニヤリと笑いながら、手にした魔道書に更に魔力を込めながら

 

「いつか私の頼みを1つ聞いていただきましょうか?」

 

ぐっと顔を歪める美神令子。私としてはどちらでも良いですけどね?と付け加える。アンドロイドと竜族が善戦しているようですが、周囲の魔力を吸収して無限に進化しているキメラ相手では分が悪い。

 

「くっ!弾切れか!マリア!テレサ!下がれ!ええい!美神!まだ神宮寺との交渉はできんのかぁ!?」

 

「くうっ!歳を取った……これしきしか戦えないとは!?」

 

キメラの4本の腕から放たれた豪腕を回避しながら、美神令子にそう叫ぶ

 

「判った!その条件飲んだわ!」

 

このままでは駄目だと判断したのか、顔を歪めながらそう叫ぶ美神令子。ちょうど魔法の術式が完成した

 

「良い取引でしたわ。では私に任せて頂きましょうか……ここからは私に任せて貰いましょうか」

 

魔道書を開きながらゆっくりと歩き出すと同時に詠唱に入る……その魔力に反応してキメラが私にその拳を私に向けてくる……しかしそんなゆっくりとした動きなら、態々避ける必要も無い。それにその拳が振り下ろされる前に

 

「今冥界の門を開かれた……我に刃向かいし愚かなる愚者に死と言う名の裁きをッ!こいつでDeathっちまえッ!!」

 

目の前に3つ展開された魔法陣から漆黒の炎が溢れ出す……もうチェックメイトですわ

 

「ケイオスフレアァッ!!!」

 

私の正面に展開された魔法陣から凄まじい勢いで漆黒の炎の奔流が放たれる

 

「グ、グギギャアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」

 

凄まじい断末魔の悲鳴を上げながら消えていくキメラ。その胴体から飛び出してきた紅い宝石を空中で掴むが

 

(ちっ……やっぱりですか……)

 

折角手にした何かの魔法石でしたが、手の中で砂となって消えていく。判っていた事ですが、やはり消えるような細工がしてありましたか……私は溜息を吐きながら振り返り、

 

「約束は守って頂きますわよ。美神令子……ではこれにて御機嫌よう……」

 

これ以上この場所にいる必要はありませんから、私はその場で転移魔法を発動させ、自分の家へと転移するのだった……

 

 

 

転移魔法を発動させて消えて行くくえす。まぁ元々人の話を聞く様な性格をしていないのでここまで協力してくれただけでもありがたいと思わないと……

 

(何を要求されるのか判らないけどね)

 

今は何も言わないと言うのがどうにも気になる。くえすは魔女だから何かとんでもない要求をされそうで怖いわね……

 

「さてとじゃあ皆帰りましょうか?……所でどうやって帰るの?」

 

ここまで来るにはロンさんに乗って来たわけで……振り返りロンさんに視線を向けると

 

「ううーむ。腰が……年甲斐もなく張り切りすぎたようじゃな」

 

腰を抑えて蹲っている。これではとてもではないが、再び竜に変化して私達を乗せて走るなんて事は出来ないだろう

 

「マリアとテレサもなあ、有機ボディに換装したからの……オプションが無いと空を飛ぶことは出来ないしなぁ」

 

カオスが困ったなあと言う感じで呟く……あれ?もしかして私達帰れない?……一番近くの駅まで歩くにしても距離があり過ぎる……そうだ瑠璃に何とかしてもらおうと振り返ると

 

「だから蛍ちゃん。少し落ち着きなさいよ。横島君は私を助けてくれたのであってね?邪な気持ちがあったわけじゃないのよ?」

 

琉璃が手を振りながら横島君に悪意は無かったと説明している。まぁあの場合は横島君に運んで貰うしかなかったから仕方ないことなんだけど……蛍ちゃんもそれが判っているからか実力行使に出ていない。

 

「うう……それでも!納得できない事って言うのはあるんです!!!」

 

さっき琉璃を運んでいるのを見ていた蛍ちゃんが琉璃の後ろに隠れている横島君に詰め寄ろうとしているのを見て溜息を吐く。今はそんな事をしている場合じゃ無いのに……どうやってここから事務所に帰るかが問題なのに……

 

「みむう!」

 

「うきゅう!」

 

「コン!」

 

「う、うん!遊びたいのは判るから少し待ってくれな?」

 

額に青筋を浮かべて横島君を睨んでいる蛍ちゃん。そんな状況でも遊んで、遊んでと擦り寄ってくるチビ達に困ってような表情を浮かべている横島君。なんと言うか、いつもどおりのやり取りで思わず脱力して笑みが零れてしまう

 

【横島さんは助平ですから、大きい胸が好きですもんねー?】

 

「止めて!?おキヌちゃんまで俺を苛めないで!」

 

頭を抱えて絶叫している横島君。本当いつも通りなのは良いんだけど、もう少し今の状況を考えて欲しいわね

 

「横島さん。私はどうでしょうか?」

 

「え?私もなんか言うべきなのかい?姉さん?」

 

少し屈み込んで胸を強調するような姿勢をしているマリアとその隣で頭をかいているテレサ。横島君の頬は紅くなるを通り越して、青くなっている。ここで胸を意識してしまえば、蛍ちゃんに折檻されるのが判っている。だけど反応せずにいられないから困っているんだろう

 

「カカカ!本当に小僧は面白いのう」

 

「ですねー。横島君が困っているのを見ているのは面白いですよね」

 

カオスと琉璃が黒い話をしている。琉璃って案外黒い所があるのねと思っていると

 

「……仕方ない。私がなんとかする」

 

このやり取りを見ていて、このままではどうにもならないと判断したのか、まだ大人の姿を保っているシズクが疲れたように呟く。私と同格かそれ以上のプロポーションをしている。昔のシズクって凄かったのねと思ったが、1つ気になったことが

 

「シズクってもしかしてずっとその姿でいられる?」

 

もしそうなら、シズクにもGS免許を取ってもらって事務所を開いて貰えば、儲けが増すかも……私がそんな事を考えていると

 

「……無理。今の私にはこの全盛期の力に耐えれないから、今も辛いけど、まぁ何とか戻るくらいは持たせて見せる」

 

小さく笑ったシズクは蛍ちゃん達に傍に来るように言うと、着物の胸の部分に手を入れて扇子を取り出して

 

「……ミズチタクシーの出番」

 

ミズチタクシーって……何よそれ?私が首を傾げているとシズクは扇子を振りながら

 

「……ちょっと息苦しいと思うけど我慢しろ」

 

息苦しい?何をする気なのか?と思いシズクを見ると、手にした扇子が振られる度に凄まじい水が溢れ出して、私達を包み始める

 

「ちょっとおおお!?何するつもりよ!?」

 

「大変ですッ!ドクターカオス。私とテレサには泳いだ経験がありません」

 

「そ、そうだよ!?私泳げるの!?どうなの!?

 

「そうじゃったあ!?ヤバイ!これはやばいぞぉ!?水泳は想定したことは無いぞおお!?」

 

「み、水かあ……ワシはあんまり水は得意ではないんじゃがのう……」

 

「チビ!モグラちゃん!タマモこっち!こっちに!!」

 

「みむう!」

 

「コン!

 

「う、うきゅうう!?」

 

「ど、どどどど!?どうしよう横島!私泳げない!!!」

 

「こっこっち!蛍もこっちに来い!!」

 

私達が慌てている間も私達の回りに水が溢れてきて。もう胸元まで水が来ている。と言うか蛍ちゃん金槌だったの!?涙目で叫ぶ蛍ちゃんを横島君が手を伸ばして抱き占める

 

「……少し息を止めていろ」

 

大きく息を吸い込んだ瞬間。私達は頭まで完全に水の中に飲み込まれたのだった……上下左右から凄まじい衝撃を受けながら、必死に息を止めていると、目の前を巨大な黒い影が過ぎる。それは……

 

【プカア】

 

「「「がぼぼおおお!?」」」

 

思わず水中の中で絶叫する。ロンさんが水の中で気絶して、瞬きする間にモグラの姿になって力なく水中に浮かび上がったからだ。その絶叫のせいで全員固まっていたのに、水の中でまるで洗濯物のように水の中で回されていると

 

「……到着」

 

永遠にも思える時間。そしてシズクの声が聞こえた瞬間。ザバアっと凄まじい音を立てて水の中から吐き出される。周りを見ると見慣れた私の事務所だ

 

「え?瞬間移動したの?」

 

「……水を媒介に移動しただけ」

 

シズクはそう呟くと事務所に満ちた水を吸収し始める。シズクが多才なのは知ってたけど、まさかこんな事まで出来るなんてね……私が感心していると

 

「ブバアア!?」

 

「「「ッきゃああ!?」」」

 

何かが爆発したような音と同時に部屋の中に生暖かい雨が振る……手の平を見るとそれは水ではなくて鮮血で……ま、まさか!?振り返ると

 

「た、たえれんです……色っぽ過ぎる……」

 

その言葉を最後に倒れる横島君。色っぽ過ぎる?その言葉に自分達の身体を見ると、水の中を使って移動したせいか、下着が完全に透けている、咄嗟に両手で身体を隠す。そりゃ水の中を使って移動するんだから、こうなるかも?って思ったけど、シズクがなんとかしてくれると思ったのに……シズクは鼻血を出してひっくり返った横島君を見て

 

「……横島は意識した。ならこの姿を維持できるように頑張ろう」

 

着物の前が完全に肌蹴て、胸が見えているのにも関わらず直す素振りを見せないシズクだったが、

 

「……あーうー」

 

突然そんな呻き声を上げると、急に小さくなって子供の姿になってへたり込んで目を回して気絶する……

 

「っきゃあ!?もうなんでこんなことになるのよぉ!?」

 

「あうあう……最後の最後でこれは無いわ……」

 

琉璃に至っては巫女服の上が肌蹴て素肌が見えている、蛍ちゃんは下着と身体のラインが完全に浮かび上がっているし、私も下着が水の所為で服の下から透けている。

 

「こ、これは流石に恥ずかしいです」

 

マリアはスカートが完全に捲くれ上がっていて、戻そうと苦戦しているし

 

「恥ずかしい物なの?姉さん?」

 

完全にスカートが捲れ上がって、しかも服が濡れた所為で身体のラインが浮かび上がっているんだけど、まだ生まれたばかりだから羞恥心が無いのか不思議そうに首を傾げている

 

「むほう!?「「「見るな!このスケベ爺ッ!!「げぼああ!?」」

 

最悪のタイミングで身体を起こしたカオスが顔を寄せてくるのを見て、私達は全力でカオスの顔面に拳を叩きこんで意識を刈り取ってから

 

「は、早く着替えましょうか!?」

 

今このタイミングで依頼者が来られたらうちの事務所は痴女だらけとか言われそうだ。もしそんな事になったら、仕事が無くなりかねない。私の言葉に何度も何度も頷く蛍ちゃん達を私の着替えが置いてある部屋に案内し、私達は着替える為に部屋の奥へと向かうのだった……なお事務所の床の上でロンさんはモグラの姿のまま白目を向いて気絶しており

 

「うきゅ!うきゅうう!」

 

「みむう!ミミー!」

 

「コーン!コーン!!」

 

チビ達が必死でロンさんを目覚めさせようと頬を叩いたり、揺すったりしていた。それが功を制したのか、ロンさんは目を覚ましたが、憔悴しきった表情で再び倒れこんで眠りに落ちるのだった……

 

 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その8へ続く

 

 




次回でハメルーンの悪魔編は終わりですね。その次はほのぼのメインで魔法の箒の話をメインに色々な話の詰め合わせをやってみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その8

どうも混沌の魔法使いです。今回でハメルーンの悪魔は終わりになります。次回からは魔法の箒を含む短編の話を詰め込んだリポートにするつもりです、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート17 ハメルーンの悪魔 その8

 

「ひ、酷い目にあったわ……」

 

偶にシズクが言うミズチタクシー。あれはタクシーではなく、何かの拷問に近いと思う。特に私は金槌なので死ぬほど恐ろしかった……しかも最終的には服が濡れて下着と身体のラインが浮かぶとか、本当一体何の罰ゲームなのかと思ってしまったほどだ。しかも今は美神さんの服を借りているんだけど、当然の事ながら胸のサイズがブカブカで精神的なダメージまで受けている。こんな事をしてくれたシズクはと言うと……

 

「……疲れた」

 

タオルに包まって、椅子に深く腰掛け疲れた表情をしているシズク。どうもあの大人の姿はかなりの霊力を消耗したらしく、全く動く気配が無い。パイパーとの戦い一番頑張ってくれたのはシズクだ、弱りきっているあんな状態のシズクを責める事が出来るわけも無く……やるせない気持ちを感じながら深く溜息を吐きながら、自分の弱点でもある金槌をどうしようかと悩む

 

(うーん。でも金槌って言うのは良くないわね)

 

今まではプールとか海とか行こうとか思わなかったけど、今後の事を考えると泳げる方が絶対に良い。今まで横島と出かけたのは買い物とか公園にピクニックとかだったから……プールで横島に泳ぎを教えて貰うとかなんか良いわよねえ

 

(それに2人で夕日を見るのもロマンチックよねえ)

 

私が何度も夕日を見るのに誘っているからか、横島は今では夕日が見える時間になると散歩に行こうか?と誘ってくれる。これはチビとタマモもおキヌさんもついてこない、本当に横島と私だけの時間だ。私の知らない女性が増えているけど、それでも私のこともちゃんと考えてくれている横島の優しさ……本当はもう少し関係を進めたいけど、横島はフェミニストだし、それに意外と言うかかなりの奥手だからなぁ……自分の気持ちを優先するのは良くないわね……

 

「ほーたーるちゃーん?顔緩んでるわよ?なに想像しているの?」

 

これからの横島との関係を考えていると、後ろから神代さんに抱き付かれる

 

「うひゃあ!?ななな、何するんですか!?神代さん!と言うかどこを触っているんですか!?」

 

しかも胸に手を回してきた神代さんに怒鳴ると、神代さんは不満そうな顔をして

 

「もー神代さんなんて言わないでよ?琉璃で良いわよ、琉璃で」

 

なんか性格が違う……?GS協会の会長室で会った時はもっと真面目な人だと思ったのに……

 

「人間公私のON/OFFって大事って思わない?」

 

な、なるほど……こっちが素って事なのね。まぁそれはどうでも良いけど

 

「離れてくれません?」

 

「えー?なんでー?」

 

わ、判っている癖に……私のよりも遥かに大きい胸が背中に当たっているのが無性に腹が立つ。なんで私の周りにはこんなにプロポーションのいい女性ばかりいるのだろうか。ちらりと部屋の隅を見ると

 

「んー?このジーンズって言うのは落ち着かないよ、姉さん」

 

テレサが美神さんに借りたジーンズを触りながら落ち着かない様子でマリアさんに愚痴っている。私と違って美神さんの服のサイズと殆ど同じらしく、しかもそれはマリアさんも同じようだけど……

 

「我侭を言わないでください、テレサ。貴女がタイトスカートは嫌だと言ったのですよ?」

 

元々美神さんの服なのだから、当然ながら露出の激しい服が多い。それを完璧に着こなしているマリアさん、マリアさんのような御淑やかな人が着ていると若干の違和感がある物のギャップがあってなんと言うか、これはこれでありっていう風に思える。私は小さく溜息を吐きながら自分の胸元を見て

 

(相変わらずなのよねえ……)

 

全然胸が成長する気配が無い……なんで、お父さんに調べて貰って色々と豊胸体操とかしているのに何で何の変化もないのだろうか……思わず胸元に手を置いて溜息を吐いていると

 

「横島君にでも揉んで貰ったら?」

 

「ばぶうっ!?」

 

耳元でそう言う神代さん。思わず噴出してしまうが、一瞬横島に胸を揉まれているのを想像して赤面していると

 

「蛍ちゃんたら……やーらしいなあ?」

 

からかうように私の頬を突く神代さんに怒鳴ろうとした瞬間。壁からおキヌさんが顔を出して

 

【蛍ちゃん。その気持ち……私も判ります。横島さんに触られるのは私も想像します】

 

私の肩に手を置いて励ますように言うおキヌさんだけど、私の考えている事を全く理解していない……

 

【横島さんに触られるって考えただけで】

 

両手を頬に添えて空中で身悶えしているおキヌさん。一応巫女なのよね?なんでこんな風になってしまったのだろうか?恋をすれば人が変わるって言うけど、正直言ってこれは変わり過ぎだし、なんか憐れさも誘う。琉璃さんもおキヌさんを見ながら

 

「なんかごめんね?軽はずみな言動は避けるわ」

 

「今後気をつけてください」

 

今もまだ空中で身悶えしているおキヌさんを見て、若干引いた表情をしてる琉璃さんが呟く。最近ますます暴走しやすくなってるのよね……はぁっと深い溜息を吐いていると

 

「皆ー?横島君も起きたみたいだし、お寿司食べに行きましょうか?」

 

その言葉に頷き部屋を出た私達を待っていたのは、想像を超えるものだった……

 

「死ーん……」

 

頭に物凄い数のたんこぶを作ったドクターカオスが逆さ吊りにされていた……これってもしかしてさっきの下着とか、肌を見たことに対する制裁よね……これはマリアさんとテレサも怒るかな?と思い後ろを見ると

 

「ま、まぁ……これは仕方ないですね」

 

「良いのかい?姉さん?」

 

どうもいくら父親とは言えさっきのは許せなかったようで、助ける素振りを見せない。まぁ女の子の下着とかを見て、そうそう許せる物ではないのでこの反応は当然かもしれない

 

「これだけ殴れば記憶を失うでしょ?」

 

笑顔で言う美神さんが恐ろしいと思った。しかも明らかに素手で殴ってはいないと思う、机の上の血のついたトンカチを見てそれを確信すると同時に

 

「まさか横島も?」

 

まかさ横島もドクターカオスと同じ風になっているんじゃ?と思い尋ねると美神さんは苦笑しながら

 

「あれ見て、あれ」

 

その指差した先を見ると横島はモグラちゃんとチビとタマモを抱き抱えて

 

「無心。無心だ……大事な家族を見てさっきの光景を忘れるんだ……」

 

「うきゅう……」

 

「みむ……」

 

「コン……」

 

ぶつぶつと繰り返し呟いているその目には何の光も無い。私達はかなり恥ずかしかったけど、横島の精神にかなりのダメージを与えてしまったようだ。女好きだけど、純真な横島には刺激が強すぎたみたいだ。チビ達が心配そうに横島の頬を撫でたり、舐めたりしている。その姿を見た琉璃さんは楽しそうにくすくすと笑いながら

 

「くすっ、本当に横島君って面白いわね」

 

予想以上に琉璃さんの評価が横島への好感度が高すぎる。これは家に帰ったら1度お父さんに横島のトトカルチョの途中経過を見せて貰おうと思いながら

 

「ほら横島。お寿司を食べに行きましょう?」

 

【横島さんも頑張ったんですから、美神さんもご褒美で高級な所に連れて行ってくれるって行ってますよ】

 

「……早く行こう。私も疲れた」

 

私とおキヌさんとシズクで声をかけると横島はうんっと小さく返事を返して

 

「行こ。チビ、モグラちゃん、タマモ」

 

モグラちゃん達を抱えて歩いていく横島を見ながら、ふと思い出した。今回シズクの次くらいに頑張ってくれていたロンさんの姿が無い事に

 

「美神さん。ロンさんは?」

 

「溺れた所為で完全にダウンしてるわね」

 

そうなんだ……私はぐったりしている横島を見ながら

 

「お土産買ってきて上げましょうか?」

 

「そうね、魚より肉かしら?」

 

まぁモグラちゃんと同じものが好きだろうから、寿司屋でのモグラちゃんの反応を見て決めましょうか?と話しながら私達は美神さんの行きつけの寿司屋へと向かうのだった……

 

 

 

 

 

「ふむ……これはなんとも珍しい性質ですわね」

 

私は一足先に自分の家へと帰り、パイパーの中から飛び出てきた紅い宝石の粉を分析していた

 

(良くて中級のパイパーがあそこまでの力を身につけた理由……それは間違いなくこれのはず)

 

紅い宝石と言われて思い浮かぶのは「賢者の石」これがもし賢者の石ならば……戸棚の中から銀色の液体を取り出す。賢者の石は石と言われているが、液体であったり、固形物であったりとこれと言った特定の姿を持たないのが特徴だ。これは賢者の石を作る過程で生まれる霊薬……無論私は魔術師であり、錬金術師ではないのでここから先に進めることは出来なかったが、これも賢者の石と言えるだけの能力は持っているはず。ならばこれを取り込んで自己再生する可能性がある、その可能性を考えて霊薬を注ぎ込むが……

 

「反応しませんわね……むしろ反発している?」

 

霊薬は灰に染み込もうとしているが、灰がそれを弾いている……と言うことはこの灰と霊薬は全く異なる物質?

 

「賢者の石ではない?ではこれは一体……」

 

私の予想が外れていた事に若干の落胆を感じながら、ビーカーを傾けて霊薬を瓶に戻す。今の段階で判ったのは、これが賢者の石ではない謎の物質と言うことだけ……ビーカーに直接魔法陣を刻み

 

「……一応封印処理だけはしておきますか」

 

私の魔力で厳重に封印を掛けておく、魔族の力を上げる宝石。この灰でもある程度の効力があるかもしれない

 

「くひっ♪やあくえす」

 

突然背後から声を掛けられ溜息を吐きながら、そのビーカーを机の隅に置き

 

「不法侵入ですわよ?柩」

 

振り返りながら言うとやはりそこには柩がいる。いつもの事なので別に文句はないのですが、来る前に電話の1つでも入れるのがマナーではないのでしょうか?私がジト目で睨んでいると、柩は楽しそうに笑いながら

 

「子供の時は随分と「それ以上言うなら焼き殺しますわよ」おおっ!怖い怖い」

 

何故それをと思ったが、柩の能力を考えれば私が子供になる事を知っていて美神の居場所を教えたのだと判り。思わず右手に魔力を込めると肩を竦めて逃げる素振りを見せる。その余りに業とらしい素振りにこうして怒るのも馬鹿らしいと思い、その魔力を霧散させながら

 

「それで何の御用ですか?用が無いのなら帰って頂けます?疲れているのですよ」

 

パイパーが変化したキメラを倒すのに魔力を使いすぎた。出来ることなら早く休みたいのですが?と言うと柩はにやりと笑い、私に背を向けて、これだけ伝えに来たんだと呟いて

 

「33番目・32番目。恐ろしき魔神が動くよ」

 

「待ちなさい!」

 

33番・32番……そして恐ろしき魔神……まさかソロモンの!?柩に駆け寄りながらそう怒鳴ると

 

「くひひ!ボクが教えてあげるのはここまでさ、でもね?その魔神が動けば横島は死ぬかもしれないねー?」

 

柩のその言葉に一瞬硬直し、直ぐに手を伸ばす。ここで柩を返すわけには行かない、もっと話を聞かせてもらわないと

 

「甘い甘い」

 

未来予知を持つ柩は私の手を避けて、そのまま軽くジャンプして私から距離を取りながら

 

「GS試験。ボクは呼ばれてないから行かないけど……君はきっと呼ばれる。だから行ったほうが良いよ?じゃーねー」

 

言うだけ言って私の屋敷から逃げるように去っていく柩。私はビーカーに厳重に封印を施してから自分の部屋に向かって歩き出しながら柩の言葉を思い返していた

 

(横島が死ぬかも……ですか……)

 

それならそれで良い、私の心を掻き乱す馬鹿が居なくなって清々する。やっと普段の私に戻れる……大体なんで私にそんな事を言いに来たのか判らない。芦蛍か美神令子に言えば良いものを……まぁ私が動く必要もありませんし……さっさと寝るとしましょうか……

 

【神宮寺さん】

 

その瞬間脳裏に浮かんだのは能天気に笑いながら、私の名前を呼ぶ横島の顔。そう言えばあんな顔で私の名前を呼んでくれた人は居なかった……私は神宮寺の娘。その霊力に魔を宿す魔女……災厄の一族……蔑まれ、拒絶された記憶しか私には無い

 

【神宮寺さん】

 

……あの馬鹿はそんな事も気にせずに私に手を伸ばした……神宮寺の娘でも、災厄の魔女でもなく……只の私として……

 

「死なせません……」

 

思わず私はそう呟いていた。横島は死なせない、あの馬鹿が傍に居ると心が乱れる。それでもその感覚は……なんと言うか嫌じゃ無い……

 

「勝手に人の心に入ってきて、死ぬなんて許しませんわ」

 

良いでしょう柩。貴女の思い通りに動いて差し上げますとも……あの馬鹿にはもっと生きてもらわないと困る。私の心がここまで乱れたその理由を知りたい……魔神と戦うことになるのなら、1度本家に戻って魔術書を調べる必要がありますわね……GS試験までの間のスケジュールを考えながら私は自室へと戻るのだった……

 

「くえすぅ……ここが君の分岐点さ」

 

くえすの屋敷から離れながら呟く柩。彼女が見ていた未来ではGS試験でくえすはアスモデウス・ガープにその魔力を見初められ魔族へと転生させられ、そのまま過激派魔族の一派へと身を落とした。だがその未来が最近見えなくなってきている……

 

「期待しているよ。横島……くえすを助けておくれよ……」

 

くえすは横島との出会いで確実に変わって来ている、それによりくえすの未来も変わる筈だ。だがまだその代わりの未来は見えていない、だから横島との出会いが大きな分岐となっていると柩は確信していた。まだ見えない未来に小さな不安を感じながら柩は夜の闇の中へと消えていくのだった……

 

 

 

 

深い水の中から意識が引き上げられる感覚がする。私は首に手を置いて首の骨を鳴らしながら椅子から立ち上がる

 

(興味深い結果だったな)

 

ポケットの中の紅い石を取り出す。意識体で見ていただけだが、中級の魔族をあれだけの魔力を吸収して、無限進化するキメラへと進化させるとは……

 

「まだまだ完成とは言いがたいが、良いデータが取れた」

 

まぁあれは意識がまるで無いので只の失敗作だが、あの研究結果があれば更にこれは進化する……コンコンっと扉を叩く音がする。手の中の紅い石をポケットの中に戻し

 

「もう時間でしょうか?」

 

扉を開きながら尋ねると、魔界正規軍の制服に身を包んだ若い魔族が敬礼の姿勢のまま

 

「はっ!セーレ様!会議の時間でございます」

 

やれやれ。もう少し時間があると思ったんだけどな……これではガープに直ぐにこのデータを送ることが出来ないじゃ無いか……

 

「判りました。案内を頼めますか?」

 

「了解です!ではこちらへ」

 

私を案内してくれる若い魔族の背中を見ながら会議室へ向かいながら、緩めていたネクタイを締めなおす

 

(全く穏健派も最高指導者の愚かさには苦笑しか出ませんね)

 

魔神セーレ。ソロモンの序列70番目に数えられる君主……そして何処へでも移動し、どんな物でも手にする能力を持つ。その能力に目をつけた穏健派によって過激派魔族の討伐隊に選ばれたのだが……こうして正規軍に協力しているセーレは実は分霊であり、偽者なのだ

 

(こうして情報を横流しされているとは思いにもしないでしょうね)

 

私の本体が子供であるということを知っている魔族は極少数しかいない、そしてそれを知っている魔族は全て過激派に属する魔族達だけだ。魔神ではあるが、子供の姿だと馬鹿にされることが多いので常時から大人の分霊を使って行動している。そのおかげで分霊と本体の2つの身体を使い分けることで、自分のアリバイを確保しながら行動している私を立件できる相手なんて存在しない。あの魔界正規軍総司令のオーディンでさえ見抜くことが出来ないのだから、誰も私を過激派と見抜くことなど出来ない。ゆっくりと通路を歩いていると目の前に紅い髪の魔族が姿を見せる

 

「こ、これは!アマイモン閣下!」

 

黒の軍服に白のマント。そして炎のような紅い髪……こうして対峙しているだけでも冷や汗が流れるのが判る

 

「良い楽にしろ」

 

目の前に現れた魔神に目を細める。どうしてこんな所に……私の案内をしていた魔族の青年も顔を青くしている

 

「これはお久しぶりです、アマイモン閣下」

 

アマイモン。かつて、私とアスモデウスとガープの直属の上司であり、同じソロモンの魔神に属する

 

「ああ。本当に久しぶりだな、こうしてお前の顔を見るのはアスモデウスとガープが我の元を去る前だったな……」

 

アスモデウスとガープは今の魔界のあり方を認める事が出来ず、過激派へとなり、今もっとも警戒されている魔神だ。私も本当ならアスモデウスとガープと共に過激派へと合流しようと思っていたが、アスモデウスとガープの頼みによってこうして分霊を穏健派に属させ、得た情報をアスモデウス達へ流している

 

「こうしてお会い出来たのですからゆっくり話をしたいのですが、会議もあるので今日は失礼します。また後日貴方の宮殿へとお伺いさせていただきます」

 

「……そうか、なら楽しみにしていよう。久しぶりの部下と酒を酌み交わすのも悪くない」

 

そう言って背を向けて歩いていくアマイモン。なんとか誤魔化す事が出来ましたか……

 

「そうだ、言い忘れていた」

 

「なんでしょうか?」

 

アマイモンの言葉に振り返り、そのまま後ずさった。その目に凄まじいまでの怒りを込められていた。隣の青年に至っては完全に硬直している。私も慣れてなければ同じ事になっていただろう

 

「仮にもかつての配下だ。疑いたくは無い、疑いたくはないが……アスモデウスとガープの事もある。我の信頼を裏切ればどうなるか判っているな?」

 

最近は落ち着いたと思っていましたが、流石はアマイモン……その猛烈なまでの気性の荒さはいまだ健在か……

 

「仰られている意味が判りませんが?」

 

まさかバレている?いえそんな筈は……私とガープ達が完全に袂を分かつと思わせる為にアスモデウスとガープによって襲撃され、本当に瀕死になりながら魔界正規軍の元へと戻ったのだ。私が疑われる要素はないはず……

 

「ふん、まぁ良いがな……」

 

紅い髪を翻し去っていくアマイモンの姿に小さく溜息を吐き、完全に硬直している青年に

 

「私も貴方も不運でしたね。まぁ犬に噛まれたと思って忘れましょうか?」

 

「は、はっ!そうですね。ではこちらです」

 

再び私の案内を初めてくれた青年の姿を見ながら会議室へと足を向けたのだった……

 

(アマイモンが私を警戒しているようですね……これは暫く行動を控えるべきですかね……)

 

下手に動いて穏健派に追われるようになるのは控えたいですね、折角一芝居打って今の地位と立場を手にしたのに、それをみすみす手放すほど馬鹿ではない。疑われている間は動かないほうが良いですね……会議が終わったら暫く動けないと言う旨の連絡をアスモデウス達にするとしますか……

 

別件リポート 竜の姫と未来視の魔王へ続く

 

 




次回は別件リポートになります、今回の話の最後のアマイモンやセーレが気になっていると思いますが、本格的に話に絡んでくるのはまだ先なので楽しみにしていてください。そして次回はチビなどが普段何をしているか?そこを書いてみようと思っています。少し短めの話になると思いますが、チビとかの可愛らしさ?を書けたらぁと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の別件リポートは竜の姫と未来視の魔王と言う事で「小竜姫」と「アシュ様」の話になります、妙神山での蛍と未来小竜姫の話し合いで1度アシュ様に自分の調子を見てもらう小竜姫って感じの話になりますね

今の小竜姫は出ないで全部未来の小竜姫なので少し喋り方が違ったり、黒い所もあると思いますが、ご理解の方をよろしくお願いします

話も長くなってきているので、こういう補足とかもあっても良いかなあと思ったので、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

別件リポート 竜の姫と未来視の魔王

 

 

私は老師に頼み込んで仙術で一時的に現在の身体を借りて人間界に来ていたのですが……

 

(う、動きにくい……)

 

自分の身体なのに違和感ばかりを感じる。老師にも言われたが、まさかこんなに動き難くなるとは思ってもなかった……まるで身体に重りをつけているかのような違和感を感じながら蛍さんから貰った地図と睨めっこしながら目的地を探す

 

「ここですか……確かに見つけるのは難しいですね」

 

東京の街の一等地に立てられている巨大なビル。だがそのビルを見ている人間は誰も居ない、それも当然だ。このビルには強力な認識阻害の術が掛けられているのか私でも薄らとしか認識できない。多分場所を聞いた上で地図が無かったら

見つけることが出来なかったかもしれない……

 

(流石はアシュタロスと言う所でしょうか……)

 

今のアシュタロスは神魔大戦を起こす気が無いと言うか、起こす理由が無い。恐らく前の時もこうして東京の拠点を置いてたんでしょうが、私もヒャクメも見つける事が出来なかった。索敵に特化したヒャクメが見つける事が出来ないのだから、アシュタロスの凄まじさが良く判りますね……そんな事を考えながらビルの中に足を踏み入れると

 

「待ってましたよ。小竜姫さん」

 

エントランスで本を見て待っていた蛍さんがそう声を掛けてくる

 

「蛍さん……今日は態々どうもありがとうございます」

 

私の不調……その理由事態は判っている。未来の存在である私が、現在の私の中に居る事による反発現象……認めるのは嫌だが、多分今の私は魔族よりの考えを持っている。だからこそ現在の私が受け入れることが出来ず、こうして体調不良という形で出ている……だけどこのまま現在と未来の私の魂が馴染む事が無ければもっと酷い症状になりかねない。だが神族の治療を受ければ魔族に近い私の魂が反応してしまい、私がスパイと思われかねない。ならば事情を知っていて霊的なことにも詳しい相手に頼むしかない。その点ではアシュタロスはこれ以上に無い適任と言えるでしょう

 

「どうぞ。お父さんも待っていますのでこちらへ」

 

いくら老師の仙術でもいつまでも効果を発揮できるわけでは無いですからね。話をするのは診察が終わってからですね、私は蛍さんに案内され、ビルの地下へと降りていくのだった……

 

「待っていたよ小竜姫君。さっそくで悪いがそこに座って楽にしてくれたまえ」

 

白衣に眼鏡姿のアシュタロス。こんな人だったけ?もっと真面目な人だったような……いやまあ、あの時とは事情が違うし、こっちが本性なんでしょうか?私の記憶の中のアシュタロスと全然違うことに違和感を感じながら言われた通り椅子に腰掛ける

 

「では診察を始めるよ。と言っても直ぐに終わるから心配ないし、身体に触れることもないから身構えるのは止めてくれたまえ」

 

……あ、無意識に神剣の柄に手を伸ばしていた事にそう言われて初めて気付いた。いけませんね、身体を見てもらうというのにこの態度は良くないですね。あ、でもこれが横島さんなら……

 

(うん。多分抵抗しないですね)

 

やはりそれは女性として当然の反応ですね。好意を持っている男性ならまだしもそうじゃ無い相手では警戒するのは当然と言うものでしょう

 

「大丈夫ですよ小竜姫さん。お父さんが何か変な事をしようすれば私が頭を叩き割ります」

 

巨大なハンマーを装備している蛍さんが笑顔で言ってくれる。あれなら大丈夫そうですね

 

「君達は私をなんだと思っているんだ!?」

 

悲しそうな顔でそう叫ぶアシュタロスに私も蛍さんも無言で返事を返すと

 

「……まぁ良いさ。所詮私なんて刺身の横についているつまかタンポポ程度の扱いさ……」

 

メンタルが弱すぎる……これはもしかすると蛍さんのせいなのでしょうか?もとからメンタルが弱かった可能性もありますが、それにしてもこれは酷いですね……

 

「目を閉じて楽にしてくれ。10分程で済むから……身の危険を感じたとかで殴らないでくれよ?」

 

「善処します」

 

善処どまりなのか……と呟くアシュタロスの声を聞きながら私は言われた通り目を閉じるのだった……

 

 

 

 

「うーむむむ……」

 

私は氷嚢を頭に当てながら小竜姫君の診察結果を調べていた。なんで氷嚢を頭に当てているかって?なんか邪な気配がしたとかで診察後に神剣の柄で頭を強打され蛍のハンマーのフルスイングを喰らったからだ

 

(なにかするつもりなんて無いのに……)

 

ただ私はちょっとした興味心で小竜姫君の角に手を伸ばしたが、いくらなんでもこれは酷い……いやまあ竜神族の誇りとも言える角を勝手に触ろうとしたのは悪いけど、せめて口で言って欲しかったなあ……深い溜息を吐きながら診察結果に目を通す……まぁこれは格好だけで、私としては判っていた事なんだがね

 

「それでお父さん。小竜姫さんの体調不良の原因は?」

 

ハンマーをソファーの上に置いたまま尋ねてくる蛍。口で注意してくれれば良いんだから、殴りに来ないで欲しいんだけどなあ……

 

(蓮華やあげはは大丈夫なんだろうか……)

 

今ビルの最深部で眠っている二人の娘も蛍みたいだったらと思うと若干怖い……いやそんな筈は無いだろう。うん、きっと無いと思う、と言うかそうであって欲しいと思いながら真剣な顔で私を見ている

 

「まぁ小竜姫君も判っていると思うけど、これは未来の君がどちらかと言うと魔族よりに近づいているから、現在の純粋な神族の自分と同化が上手く行ってないのが原因だね」

 

「やっぱりですか……」

 

人は恋すれば変るというが、それは神族も変わらない。しかし小竜姫君の場合は竜族特有の気質である情の深さもあって霊核にも影響が出てきている

 

「もう魔族に転生した方が早いかも?むしろその方が「ハイ、ドーン」あいだあ!?」

 

私としてはもう魔族に転生した方が色々と早いし、小竜姫君もその方が自分に正直に成れるので良いとおもうんだけどなあ、ここまで魔族よりになっているのだから、ここから神族に戻すよりも、魔族のほうに行った方が早いし負担も小さいし……私は善意でそう勧めたのだが……

 

「正座」

 

「いや?蛍さん?これは難しい」

 

「正座」

 

「ですからね?」

 

「正座」

 

「……はい」

 

どうも蛍には私の考えを理解してもらえなかったようだ。ハンマーの素振りを始めてしまったので大人しく正座する。最近こんな事ばかりしている気がするなあ……

 

「小竜姫さんが魔族になったら追われちゃうじゃないの!なにを考えているのよ!この馬鹿親はッ!!!」

 

「そうだったぁ!?」

 

蛍のハンマーのフルスイングを喰らいながら大事なことを思い出すのだった……しかし蛍繰り返すが、私は言葉が判るので、こんな実力行使にでなくても良いし

 

「本当に!お父さんは!馬鹿!なんだから!!!」

 

そして!ごとにハンマーを全力で振り下ろさないで欲しい。魔神だからそりゃ並の人間よりかは頑丈だが、痛い物は痛いのだから……その凄まじいハンマーの威力に意識を吹き飛ばされながら、声にならない声で蛍にそうお願いするのだった……

 

 

 

 

「はー……はー……」

 

私はハンマーに寄りかかり、荒い呼吸を整えていた。馬鹿お父さんが小竜姫さんにとんでもない事をアドバイスしたからだ。紫色の血の中に沈んでいるが数分で回復するだろう。魔神の回復力は本当に凄まじい

 

(小竜姫さんが魔族になったら駄目でしょうが……)

 

横島が霊力に覚醒するには小竜姫さんの存在が必要だ。これはきっと変え様がない事実、心眼を授けることが出来るのは小竜姫さんだけなのだから……心眼が無ければ横島は霊力には覚醒しない。その為には小竜姫さんには神族で居てもらわないと困るのだ。それに

 

(小竜姫さんが魔族になったらなんて考えるだけで怖いし……)

 

魔族なってしまって自分に正直になられすぎたら困る。横島は年上の女性が好きだ、そして小竜姫さんの事はかなり好意的に見ているのを知っているから、最悪の展開だけはどうしても避けたい

 

「魔族……は流石に……いや、しかし……それも1つの」

 

ぼそぼそとやばいことを言っている小竜姫さん。恋する乙女は暴走しガチと言うのは私も知っているけど、小竜姫さんは更に暴走しがちだから本当にヤバイ

 

「でも魔族になったらスパイ容疑立つんじゃないんですか?」

 

私がそう呟くと、むうっと呻く小竜姫さん。過激派魔族と協力している神族が居るという話は最近良く聞く、そんな中で魔族に転生するのはいらない疑いを受けるだけですよ?と言うと

 

「むーでもこのままだとそのうち私消えちゃいますし……」

 

それが問題ね。神族の中に魔族に近い魂があれば、魂の防衛本能で排除される……

 

(あれ?それって好都合?)

 

うん。それは私的には実に好都合だ。未来を知っている小竜姫さんよりも、現在の小竜姫さんの方が対処しやすいと思う……そう思えばむしろ消えて欲しいかも……

 

「あーそれなら心配ないよ。現在の小竜姫も随分と横島君に好意を持っているからね、今は反発しているけどそのうち馴染むよ。薬を処方したから持って帰ると良い、それと寝ているときに精神干渉をするとかすればもっと同化が早くなるかも?」

 

いつの間にか復活したお父さんが薬の包みを小竜姫さんに投げ渡し、対処法を伝える

 

「ありがとうございました、では失礼します」

 

薬の包みを持ってビルを出て行ってしまう小竜姫さん。私がお父さんを睨むと

 

「仕方ないんだよ。これ明確な妨害行為だぞ?」

 

え?……あ……そう言えばあんまり妨害すると恋愛とかを司る神から私が絶対横島と結婚できなくなるって……記憶を持っているというのは絶対に有利では無い……それが私が逆行する

 

「で、でもそれは現在の小竜姫……「そうでもないんだ。はい」

 

お父さんに差し出されたトトカルチョの紙を見ると

 

芦蛍 1.3倍

 

美神令子 1.0倍

 

メドーサ 2.6倍

 

ヒャクメ 3.5倍

 

×××××× 2.2倍

 

タマモ 5.7倍

 

小竜姫 4.1倍(現在)

 

小竜姫 1.4倍(未来)

 

おキヌ 2.4倍

 

×× 2.0倍

 

六道冥子 2.7倍

 

マリア 3.4倍

 

夜光院柩 4.7倍

 

シズク 5.5倍

 

神代瑠璃 7.7倍

 

シルフィー 7.8倍

 

アリス 6.5倍

 

神宮寺くえす 124.9倍

 

愛子 7.8倍

 

テレサ 6.9倍

 

 

「まさかのダブルエントリーに!?しかもまた増えている!?」

 

しっかりと現在と未来の小竜姫さんの名前が刻まれていた。しかも未来の方は私と倍率が0.1しか違わない!?そしてやっぱり愛子さんもエントリーしているし、しかもしれっとテレサの名前まである!?

 

「そう言うわけだ。判ってくれたか?」

 

「……うん。それとごめん、ちょっと……いや大分ショックだから少し寝るわ。おやすみなさい」

 

予想外の自体が起きていた事に精神的なショックを受けて、私はふらふらと自分の部屋に戻りそのまま眠る事にしたのだった……

 

 

ふらふらで歩き去っていく蛍を見つめていたアシュタロスもまた深い溜息を吐きながら

 

「本当横島君は女難の相でもあるのかな……このままどれだけ増えるんだ?」

 

蛍に聞いた話よりも遥かに増えている女性の名前に頭痛を感じずに入られないのだった……

 

 

 

なお妙神山に戻った未来の小竜姫はと言うと……

 

「夢で今の私に干渉……んーどうすればいいのでしょうか?それに干渉すると言ってもどう干渉すれば?」

 

卓袱台の上に貰った薬を置いて、現在の自分にどうやって干渉するか?を必死に考えていた。元が真面目な小竜姫なのでどうすれば良いのか?なんて直ぐ判るはずも無く。大分悩んだ結果……ぽんっと手を叩き

 

「私が知っている横島さんの成長した姿を見せましょう」

 

弟子が成長するのを見るのは師の喜び。しかもあれほど急激に成長する弟子を見ればきっと現在の小竜姫も喜ぶと判断し、小竜姫は自分の記憶の中にある横島の姿。それも文珠に覚醒した後の横島の姿を夢の中で見せることにしたのだった……勿論文珠は見せないでだが……

 

「横島さん……才能はあるのは判ってましたけど……まさかですよね?なんでこんな夢を見たんでしょうか?」

 

現在の小竜姫は夢の中の横島の姿を見てありえないですねと呟いた物の……

 

「あそこまで成長してくれるなら……本当に将来有望なんですけどね……」

 

小さく微笑んだ小竜姫は寝室を後にして朝食の準備に向かうのだった……なお何度もこの夢を見た小竜姫はもしかして正夢?と思い始める。そして考えが変わった頃はちょうど竜神王と地上の竜族の会談の時期だった……

 

そしてそこで小竜姫は横島の才能の発現を見ることになるのだが、今の小竜姫はそれを知る由も無いのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その1へ続く

 

 




次回は魔法の箒の話に前に出したアリスなどを出して行こうと思います。他のキャラがメインになる話もありますし、意外なキャラも出そうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「魔法の箒」の話に+αとして「アリス」とその他のキャラも出して、短編の話をやって見たいと思います。バイパーの話の前で頑張った「シルフィー」とかも出して行こうと思います、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その1

 

ジリリリリっと目覚ましが鳴る音が部屋の中に響き渡る。

 

「うあーっ」

 

布団から顔を出して目覚ましを止めてもう1度布団の中に潜り込み、布団の中に潜り込んでいたタマモを抱き抱える

 

「くう……」

 

布団の中が毛だらけになるから、シズクが嫌がるが……このまどろみタイムの中のこの暖かさは実に気持ちが良い……

 

「横島?そろそろ起きなさいよ?学校に遅れるわよ?」

 

んあ?……蛍う?ゆっくりと目を開けるとエプロンを着こんで腰に手を当てている蛍の姿が見える

 

「いまなんじい?」

 

布団から顔を出して欠伸をしながら尋ねると、蛍は仕方ないわねと呟きながら俺の頬を突きながら

 

「7時20分。早く起きないと遅刻するわよ?」

 

その言葉に一気に意識が覚醒する。がばっと布団を跳ね除けて

 

「うお!?それはやべえ!」

 

提出するリポートを折角仕上げたのに、今日学校に行かなかったら意味が無い

 

「ほら、早く着替えて降りてきなさいよ?朝ご飯の準備をしておくから」

 

そう言って部屋を出て行く蛍の背中を見ながらベッドから立ち上がり大きく背伸びをする

 

「うあーボキボキ行ってるなあ……」

 

若干身体が痛いけどまぁ仕方ない。明日は半日で学校が終わりだから今日だけ頑張るか……

 

「スプー……スプー」

 

部屋の隅で鼻提灯を作って眠っているモグラちゃん、昨日寿司屋で刺身をもりもり食べてたな……しかも俺の倍以上は食べていた。若干美神さんの顔が引き攣っていたのはきっと見間違いではないと思う

 

(モグラちゃんって意外と大食いなんだなあ……小竜姫様も大変だろうに……)

 

普段は妙神山で暮らしているのだから、きっと食事の用意だけでも大変なんだろうなあっと思いながら制服に着替え、俺はリビングに向かうのだった……

 

「おはよう。体の調子はどうだ?」

 

ソファーに座っているシズクにそう尋ねる。昨日の大人の姿になった事でかなり体調を崩しているらしいシズクは顔だけを俺に向けて

 

「……少し休めば良くなる。私の心配よりも自分の心配をしろ」

 

そうは言うけどなぁ……やっぱり心配になるよな。帰りに何かシズクが喜びそうな水を探しに行くかなあ……

 

【横島さん?シズクちゃんは美神さんが何か薬を用意してくれるって言ってましたから心配ないですよ?それより早くご飯を食べないと遅刻しますよ?】

 

朝食を持って来てくれたおキヌちゃん。確かに急いで食べないと間に合わない

 

「いただきまーす!」

 

座ると同時に手を合わせて味噌汁に手を伸ばす。豚肉と豆腐か……んん?これは

 

「今日は蛍?」

 

「そうよ?口に合わない?」

 

少しだけ不安そうに尋ねてくる蛍に首を横に振りながら

 

「いや?やっぱ白味噌が一番好きだなあ」

 

おキヌちゃんもシズクも赤味噌が多いのだが、俺はやはり大阪人だから白味噌の味噌汁が一番口に合う

 

「そう、良かった」

 

嬉しそうに笑う蛍に赤面しながら、本当は味わって食べたいのだがそんな時間も無いので豚肉で一気にご飯をかき込み。汁も同じように一気飲みして

 

「ごっそーさん!じゃあ行って来るわ!」

 

今ならまだ走らなくても間に合う!俺は玄関に置いてある鞄を拾い上げ、行ってきまーすと叫んで家を出た。後ろから聞こえてきたおキヌちゃんと蛍の「行ってらっしゃい」の言葉がなんかとても嬉しかった……

 

「はよーっす!」

 

SHRの前に何とか到着し、教室の扉を開きながら言うと

 

「おはよう。横島君」

 

俺に気づいていた愛子が振り返り手を振りながら声を掛けてくる

 

「おう!愛子おはよう」

 

机妖怪の愛子は既にこの学校の生徒として登録されており、しかも俺のクラスになっていた。最近GSの事ばっかりしてるからなぁ……もう少し学校に顔を出すようにしないと……知らない内になんか色々変わってるし

 

「課題は出来たの?出来てないなら見てあげるけど?」

 

心配そうに尋ねてくる愛子に大丈夫大丈夫と返事をしながら

 

「ちゃんと蛍に教えてもらってるから大丈夫だよ」

 

自分の席に座り鞄を開けると元気良く鞄の中から黒い影が2つ飛び出してくる

 

「うきゅ!」

 

「みむう!」

 

いつの間に鞄の中に潜り込んでいたのか、チビとモグラちゃんが姿を見せる。愛子はモグラちゃんを見て

 

「えーと……モグラ?」

 

「そうそう、モグラちゃんだ。はい、ご挨拶」

 

「うきゅ!」

 

俺の手の中で愛子の方を見て一鳴きしたモグラちゃんはそのまま、俺の腕を登って肩の上で丸くなる。チビは頭の上で丸くなっている。眠いなら家で寝てろよ……っと俺が溜息を吐いているとちょうどチャイムが鳴り

 

「皆揃ってるなー?HRを……横島。その肩の上のはなんだ?」

 

「モグラちゃんです」

 

「うきゅう!」

 

俺の肩の上で前足を振るモグラちゃん。その仕草に周囲の女子からかわいーと言う言葉が飛び交う。モグラちゃんは可愛いからこれは当然の事だ、無論もチビも可愛いが

 

「また妖怪か……あんまり連れて来るなよ?」

 

「ういっす」

 

呆れたように言う教師にそう頷きながら肩の上で前足を振っているモグラちゃんを摘みあげる

 

「うきゅ?」

 

「ちょっと大人しくしてような」

 

机の上に乗せるとうきゅっと鳴いて筆箱の近くで丸くなるモグラちゃん。俺は溜息を吐きながら鞄から教科書を取り出して授業の準備をするのだった……後頭の上で寝ているチビはよだれを垂らしているのか、少しだけ頭が冷たくて少し泣きたい気分になるのだった……

 

 

 

 

 

横島が嫌々授業を受けている頃。魔界のベリアルの宮殿では……

 

「よしよし♪」

 

「ブルルルル……」

 

ビュレトの小童から半ば無理やり奪い取ったあいつの愛馬の子供の世話をしているアリスに笑みを零す。やはりゾンビばかりではと思って生きた動物を与えたのは正解だった

 

(今度お礼に何か持って行くか)

 

ビュレトの小童は最近なにか困りごとが多いらしいので、ベリアルの酒蔵から何か持って行くかと考えながら

 

「アリス?」

 

小さく声をかけるとアリスは直ぐに私だと気付いたのか笑顔で振り返り

 

「黒おじさん!見てみて!可愛いでしょ♪」

 

毛並みが整えられた馬の頭に赤い大きなリボン……少し悩んでから

 

「ああ。可愛いな」

 

「ブルウ!?」

 

嘘だと言ってくれと言わんばかりに鼻を鳴らす馬は無視する。正直かなり似合ってないのだが、アリスが喜んでいるならそれを優先する。馬の意思は無視だ

 

「よーし!これでOK。お兄ちゃんにも見せてあげたいなー、お馬さん」

 

馬の背中を撫でながら呟くアリス。よほど横島の事を気に入っているのだな……しかし

 

(ベリアルのやつがうるさいからなあ……)

 

アリスは絶対に嫁にやらんとかかなり気の早い事を言い出しているあの馬鹿。ただ横島に会いに行くでは駄目だろうな……

 

「ふむ。アリス。私のお願いを聞いてはくれないだろうか?」

 

「なーに?黒おじさん?」

 

不思議そうに首を傾げるアリス。いつか役に立つと思い取り寄せた人間界のお金とメモを渡す

 

「そこに書いてある人間界の酒を買って来て欲しい、だがアリス1人では買えない筈だ。だから横島を探して一緒に買って

来て欲しい。お願い出来るだろうか?」

 

私の意図に気付いたアリスの口に指を当てて静かにと呟く、アリスは私の渡したお金とメモをポシェットに入れて

 

「判った!お使いだね!頑張って行ってくる!良い子でお留守番しててね?」

 

「ブルル」

 

馬の鬣を撫でてからアリスの前にゲートを作り人間界に送り出す。さてと……後は……私はマントの中から愛用の杖を取り出し、軽くストレッチして身体を解し、杖を数回振るって構えた所で

 

「アリスをまた人間界に送ったな!ネビロースッ!」

 

「子供の成長において束縛するのは愚策。その事を教えてやろうベリアル」

 

全身から炎を吹き出し、得物の三つ槍の槍を手に馬舎に飛び込んできたベリアル。第117回目のアリスの育成方針における物理的会話を始めるのだった

 

~2時間後~

 

「すいませんでした」

 

目の前で土下座しているベリアルを見下ろしながら、私とベリアルの激突で吹き飛んできた宮殿の壁の一部に腰掛ける。そもそも私とベリアルでは相性的に私の方が圧倒的に有利なのだ、火炎を得意とするベリアル。だが私には火炎は効かない、更に力任せの槍術と炎で広域攻撃を得意とするベリアルと、魔術とネクロマンシーに加え、杖を剣に見立てた接近戦も出来る私。純粋な攻撃力と魔神としての格はベリアルの方が上だが、ベリアル本人と私では私の方が有利なのだ

 

「アリスが可愛いのは判るが、もう少し常識の範囲内で行動してくれ、さもなければ……」

 

マントの中から木箱を取り出す。するとベリアルの顔が青くなってぶるぶると震え始める

 

「壷を出すぞ?」

 

木箱を少しだけ開けて、その口をベリアルに向ける。するとベリアルは頭を抱えて

 

「い、いやだあああああ!!!」

 

絶叫しながら走り出す、あの方向はビュレトの小童の宮殿の方角だな。昔なじみに助けを求めたか……ベリアルのトラウマ「脇見の壷」これはベリアルを封印するために作られた壷で昔これに人間に封じ込められてから、あいつは暗所恐怖症に加え、壷恐怖性を発症した。あまり苛めるのも可哀想だから持ち出すことは無かったが、最近のあいつは眼に余るのでこうして脇見の壷を持ち出したのだ

 

「さてとアリスはちゃんとお使いを出来るかな?」

 

今まで殆ど魔界から出る事の無かったアリスがちゃんとお使いを出来るのか?少しばかり不安になり私は使い魔を飛ばして、宮殿の中へと戻ることにしたのだった……

 

 

 

パイパーのリポートを纏め終え椅子に背中を預け大きく伸びをする

 

「あーやっと終わったぁ……」

 

くえすの事を書けないのでリポートの流れを考えるのに少しばかり疲れた。後はこれを琉璃に渡せば終わりね

 

「……退魔師どの……」

 

のそっと顔を出したロンさんの顔を見て絶句する。魂が抜け落ちたかのような青白い顔をしている

 

「大丈夫?」

 

「……あまり大丈夫ではないのう……」

 

今にも倒れそうなロンさん。さっきまでモグラの姿をしていて今やっと人の姿になる事が出来たみたいだけど、絶対まだモグラの姿で寝ていたほうが良いと思う

 

「おはようございます」

 

【おはようございます。美神さん】

 

ソファーに座り込んでぐったりしているロンさんを見ていると蛍ちゃんとおキヌちゃんが出社してくる。蛍ちゃんとおキヌちゃんもぐったりしているロンさんを見て

 

「大丈夫ですか?」

 

「……うむ。寝ていればなんとか……あのボケ猿に川に落とされてからな、水は苦手なんじゃ」

 

ボケ猿?もしかして同じ中国の妖怪に知り合いでも居るのかしら?なんか蛍ちゃんとおキヌちゃんの顔が引き攣っているように見えるけど、気のせいかしら?

 

【ロンさん。おじやでも用意しましょうか?】

 

「気遣い感謝します。じゃが今は食欲が無いので大丈夫じゃ」

 

そう言うとソファーに深く腰掛けて動かなくなるロンさん。相当弱っているみたいね……自分の孫のモグラちゃんの姿がないのも聞かない当たりかなり弱っているのが良く判る

 

「折角来て貰って悪いけど、今日は特に依頼は……ジリリリリ……あるかもね?」

 

依頼はないわよ?と言おうとしたら急に鳴り出す電話に苦笑しながら電話を取る

 

「はい、美神除霊事務所です」

 

折角の依頼だけど、除霊だったら時間を空けて貰わないと身体が持たないし……

 

『スペイン秘法展を開催している者なのですが、貴重な道具を損失してしまったのです。捜索をご依頼お願いしたいのですが?』

 

霊具の捜索か……窃盗とかだと面倒だけど……なんか窃盗とかじゃないと思うのよね

 

「判りました。お伺いして詳しく話を聞きます、場所は……はいっ……はい。直ぐに伺います」

 

受話器を元に戻して電話で聞いた地図を見ながら

 

「そう言う訳だから、疲れていると思うけどお願い出来る?」

 

「良いですよ。なにか依頼があるかもと思って出て来たんですから」

 

【私もお手伝いしますよ。美神さん!】

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんが快く手伝ってくれる事になり、私は除霊具を纏めてロンさんの前に出かける旨の手紙を置いて、スペイン秘法展が開催されている場所へと向かうのだった……

 

「お待ちしておりました。美神令子さん」

 

秘法展の前で待っていた初老に入りかけと言う感じの役員に案内され、スペイン秘法展の中を見て

 

(これはまた随分色々集めたわね)

 

念入りに札を貼って封印している骨董品の数々に正直呆れる。恐らくこの中の何品かは曰くつきの物が混じっているだろうな……

 

(美神さん、指摘しなくていいんですか?)

 

蛍ちゃんもそれに気付いたのかそう尋ねてくる。本当なら指摘する所だけど、今は疲れているからまた今度機会があれば指摘することにしよう……まぁあれだけしっかり封印しているだからよっぽどじゃなければ何の問題も無いだろう

 

「美神さんならご存知だと思いますが、中世の魔女狩りなどの暗黒時代に存在していた道具の大半は既に壊滅しております」

 

まぁそれはオカルトビジネスに関わる人間なら皆知っている。だからその時代の道具は稀少な道具であり、現存している道具もその数は100にも満たない数しか存在しない

 

(カオスなら作れそうだけどね)

 

ちょうどその時代を生きていたカオスなら中世の時代の道具を作ることが出来るかもね。道具を探すならカオスに協力要請すれば大分楽になるかも……

 

(7-3くらいで引き受けてくれないかしら……)

 

昨日の寿司屋のモグラちゃんの食費が思ったよりも高かったから、なんとかそれくらいで引き受けてくれないかしら?と考えていると

 

【美神さん?蛍ちゃんと案内してくれてる人先に行っちゃいましたよ?】

 

おキヌちゃんに声を掛けられて、正面を見るとその2人の姿は無い。慌てて2人の後を追って歩き出すと

 

「何か変な道具がありましたか?」

 

心配そうに尋ねてくる役員さんにいえいえと手を振りながら

 

「余りに見事な除霊具がありまして、つい」

 

私らしくないミスだったと内心苦笑しながら大広間に展示されている魔具に目を向ける

 

「その稀少な道具の中でも魔法の箒に至っては2本しか存在しない極めて貴重な物です」

 

目の前に飾られている青き稲妻に目を向ける。ガラスケースの中に収められているけど、それがその身に秘めた魔力をひしひしと感じる……流石2本しか現存しない魔法の箒って所ね

 

「青き稲妻ですか……凄い一品ですね。美神さん、青い稲妻でこれなら炎の狐はどんな物なんでしょうね?」

 

飾られている箒を見てそう呟く蛍ちゃん。2本しか存在しない魔法の箒……炎の狐きっとさぞ見事な魔法の箒なんでしょうね?

 

「それで?その炎の狐は?」

 

「……炎の狐は青い稲妻と違って意思のある箒です。中世の中でもこれと同格の箒は3本と存在しない一品でしょう……文字通り魂を持った芸術品と言えるものでしょう」

 

そんな事は私も知っている。私が聞きたいのはそうじゃなくて……

 

【その炎の狐はどこにあるんですか?役員さん?】

 

おキヌちゃんが首を傾げながら尋ねる。そう本来飾られていた炎の狐はその台座に存在せず、破壊されたガラスケースの破片を見て

 

「逃げられたんですか?」

 

蛍ちゃんが溜息を吐きながら尋ねると2人の役員は号泣しながら

 

「は、はい……その通りです!秘法展の開催まで後2日なんです!どうにかよろしくお願いします!!!」

 

「まー最善は尽くしますよ……」

 

号泣しながら私の手を握りに来る役員2人に後ずさりしながら、捜査依頼を引き受けることにしたのだった……

 

「おキヌちゃん先に行って探してくれる?多分空の上だと思うから」

 

おキヌちゃんに見鬼くんとインカムを渡して炎の狐を探すように頼み。ガラスケースの中に眠っているもう1つの魔法の箒に視線を向ける

 

(使うんですね?)

 

(まあね?あれじゃ無いと無理だから)

 

恐らく炎の狐を捕まえるには同じ魔法の箒が必要だ。まぁなんとかしてあれを借りるとして……後はアフターフォローの準備かしら

 

「蛍ちゃん。悪いけどドクターカオスを呼んで来てくれる?この2人に正しい魔法の箒の保管方法を教えるから」

 

「判りました。直ぐに戻りますね」

 

そう言って走っていく蛍ちゃんの背中を見ながら、ガラスの破片を片付けている役員2人に

 

(これだから素人は……)

 

意思のある箒を閉じ込めるなんて正気じゃない。閉じ込められるのが嫌だから逃げ出したって事を理解してない、それは全部カオスに説教して貰おうと思い。おキヌちゃんからの連絡を待つために近くの椅子に腰掛けて待つことにしたのだった……

 

 

 

 

キーんコーンカーンコーン……

 

「あー終わったぁ……」

 

校舎の中に響くチャイムの音を聞きながらそう呟く、やっと長い授業が終わったなあ……

 

「みむ?」

 

「うきゅ?」

 

どーしたのー?と言わんばかりに擦り寄ってくるチビとモグラちゃんを膝の上に乗せて撫でていると

 

「和んでいる所悪いけど横島君。今日掃除当番よ?」

 

「うげ!?マジで!?」

 

愛子が箒を俺に向けながらそう言う……うそーん……もう帰れると思ったのに……

 

「私も掃除当番だから手伝ってあげるから早く掃除しましょう?」

 

う、うーん……今日はアルバイトも無いし……掃除をサボれる理由が無いなあ……なんとかして帰ろうと思うが、愛子に迷惑を掛けるのもなぁ……

 

「しゃーない。掃除を「横島ッ!」うお!?なんだ!?」

 

突然殴ってきた男子生徒の拳を咄嗟によける。何で急に殴られなあかんねん!

 

「みむーッ!」

 

「ほぎゃああああ!?」

 

俺に殴りかかった生徒はチビの電気ショックで黒焦げになっている。ナイスチビ、だが少しやりすぎか……まぁピクピクと痙攣しているから生きている筈だから問題ないだろう

 

「うきゅー」

 

「「「で、……でかっ!?」」」

 

ずもももっと言う感じで大きくなって前足を俺を囲んでいる男子生徒に向けて威嚇しているモグラちゃん。チビもモグラちゃんもなんて良い子なんだと俺が感動していると

 

「やっほー!おにいちゃーんっ!」

 

「がばあ!?」

 

男子生徒の中から金色の影が飛び出してきて、しかもお兄ちゃんと呼ばれ。完全に混乱してしまった俺はその何者かの体当たりを直撃で貰ってしまう

 

「う、うう……あいだだ……「遊びに来たよ!」あ、アリスちゃん?どうしたの?」

 

痛む腹を擦りながら身体を起こすと、アリスちゃんが笑いながらこっちを見ていた。どうしてここに?と思いながら立ち上がると

 

「よ、横島君?その子は?」

 

なんか引き攣った顔をしている愛子。どうしたんだろ?あ、もしかしてアリスちゃんが人間じゃ無いって気付いたのかな?

なお横島はかなり見当違いの事を考えているが、愛子は突然現れた横島をお兄ちゃんと呼ぶ少女に完全に混乱しているだけである。

 

「横島てめえ!そんな美少女にお兄ちゃんやばわりだと!死ね!いや!殺してやる!」

 

「横島ってサイテー。ロリコンじゃない」

 

……なんでやねん、俺はロリじゃ無いって!しかしここで説明してもきっと誤解が深まるだけだ。なので

 

「アリスちゃん。お願いがあるんだけど?」

 

アリスちゃんが普通の人間ではなく、こういう言い方をすると嫌だが幽霊なのだと説明したほうが早いと思い、しゃがみ込んでアリスちゃんの視線に合わせながらそう言うと

 

「なに?」

 

アリスちゃんに耳打ちでお願いをするとアリスちゃんは良いよっと笑いながら

 

「あのねー?アリスはねー?……幽霊なんだよ?ねー皆ー?」

 

【ニギャー】

 

【ガルルル】

 

「「「「で、出たあああああ!?!?」」」」

 

アリスちゃんの背後に無数の動物のゾンビ達が姿を見せ教室の中に絶叫が木霊するのだった……

 

「そうなんだ。アリスちゃんは幽霊なんだ?」

 

「そうだよ?愛子お姉ちゃん。アリスは幽霊なんだよ?」

 

ゾンビを見て誰独り居なくなった教室で会話しているアリスちゃんと愛子。愛子は人間じゃ無いって言うのに気付いていたのか、ゾンビを見て驚いてはいたがやっぱりと言う感じで納得していた

 

「うきゅう!」

 

「えへへー可愛いねー」

 

モグラちゃんの頭を撫でているアリスちゃん。とりあえずなんでここに来たのかは後で説明を聞くとして、まずは掃除をしないと……廊下で待ってて貰おうかな?と思っていると

 

バリーンッ!

 

「どわああ!?」

 

突然窓ガラスが割れて箒が飛び込んでくる。なんじゃこら……思わず拾い上げようとすると愛子が

 

「横島君!駄目!」

 

「え?」

 

そう叫ばれるが俺は既に箒を手にしている。何が駄目なんだ?と首を傾げると箒が回転して俺の下に潜り込む

 

「わー!魔法の箒だ!久しぶりに見たよ!」

 

「ま、魔法の箒!?」

 

それってあれか!?魔女とかの奴か!?俺を乗せたまま浮き上がる箒にアリスちゃんが飛び乗りながら教えてくれる

 

「箒さーん?レッツゴー!」

 

俺の手の中で震えて開いている窓から飛び出していく箒、凄まじい風圧が顔面に当たるのを感じながら

 

(な、なんでこんなことに……)

 

その凄まじい衝撃で全身に走る痛みに泣きそうになりながら、教室の窓のところで鳴いているチビとモグラちゃん。そして

 

「横島くーん!?」

 

窓の所で俺の名前を叫んでいる愛子にすまない、掃除を押し付けるなどと考えながら、背中にしがみ付いて

 

「あははー♪空中散歩だー」

 

楽しそうに笑っているアリスちゃんの声を聞いて、もうどうにでもなれと諦めの境地に達するのだった……

 

 

 

 

 

凄まじい勢いで飛び去っていく箒その上で泣きそうな顔をしている横島君と対照的に嬉しそうに笑っているアリスちゃん

 

「ど、どうしよう……」

 

今日が横島君と私の掃除当番の日だから、他の女の子にお願いして2人きりにして貰ったのに……どうしてこんな事に……生身の横島君ではあのスピードは危険だ。かと言って私では何も出来ない、しかも私は机の九十九神なので助けを呼びに行くことも出来ない

 

「みむう……」

 

「うきゅう……」

 

窓際に座り込んでめそめそと泣いているチビとモグラちゃんを見て

 

「チビちゃん!モグラちゃん!美神さん達は判る?」

 

ぽろぽろと涙を流しながら頷くチビちゃんの涙をハンカチで拭って上げてから

 

「ちょっと待ってて!」

 

横島君の机から大学ノートとシャーペンを取り出して、今起こった事態を慌てて書いて小さく畳んで

 

「これを美神さんに届けて!貴方達が横島君を助けるのよ!」

 

私の渡した手紙と私の顔を交互に見たチビちゃん。自分の隣でプルプルと震えているモグラちゃんを見て

 

「みむう!みむむうう!」

 

「う?うきゅ?」

 

「みむう!みむむ!みみー!」

 

何を言っているか判らないけど、多分横島君を助ける為に美神さんを探しに行くと言う話をしているのだと思う

 

「みむ!みむうー!」

 

「うっきゅ!」

 

気合を入れて鳴いて私の渡した手紙を大事そうに抱えて教室を出て行くチビちゃんとモグラちゃん。これで多分大丈夫……後は……箒の突撃で荒れに荒れている教室を見て溜息を1つ吐いて

 

「貸し1なんだから……」

 

仕方ないから掃除は1人でするけど、今度の休みとかに絶対買い物とかそう言うのに付き合ってもらうんだから……私は心の中でそう呟き、教室の掃除を始めるのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その2へ続く

 

 




今回は少し長めでしたね。色々とはなしの展開を考えると長くなってしまいました。次回で魔法の箒の話は終わりまで持っていって、短めの短編を組み合わせた話を書いていこうと思います。本当に話数が多くなって来ましたが、どうか第1部の完結までお付き合いしてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は魔法の箒の話を最後まで書いていこうと思います。無邪気に楽しんでいるアリスとか、前回の最後で美神達を探しに行ったチビとモグラちゃんの組み合わせも書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その2

 

愛子に手紙を託され、蛍と美神を探していてチビだが、まだ子供のチビはそれほど長時間飛んでいることが出来ず

 

「みむう……」

 

手紙を落とさないように気をつけてはいるが、目に見えて失速している。それでも蛍と美神を探し飛ぶのを諦めないチビだったが……

 

「み……むう」

 

モグラちゃんが進めない所を持ち上げて運んでいた事もあり、今ちょうど川を飛び越えた所で力尽きてふらふらと地面に向かって落ちていく

 

「うきゅ!」

 

チビが地面に叩きつけられる前、モグラちゃんがその下に割り込んでチビを受け止める

 

「み……むう」

 

「うきゅ!うー!きゅ!」

 

モグラちゃんの言葉に小さく頷いたチビは手紙を大事そうに抱え、空いている手でモグラちゃんの毛を掴む

 

「うきゅう!」

 

モグラちゃんは勇ましくそう一鳴きするとチビを乗せたまま。美神達を探して走り出すのだった……

 

なお全く関係の無い話だが、この日モグラに乗る小人と言う奇妙な都市伝説が生まれたりするのだが、当事者(?)のモグラちゃんとチビが気付くことは当然ながら無いのだった……

 

 

 

秘法展の近くがドクターカオスの家だったので直ぐに呼びに行くことが出来た。マリアさんとテレサは家の掃除があるとかで留守番だ、あくまで今回は魔法の箒の捜索だ。だからマリアさんとテレサは必要ないとドクターカオスは判断したのだろう

 

「ふむ。魔法の箒か……懐かしいのう……」

 

ゆっくりと歩きながら何かを懐かしむように言うドクターカオス。未来ではカオスフライヤー4号とか在ったけど、もしかしてドクターカオスも魔法の箒を作ったことがあるのかしら?私の思案顔を見てドクターカオスは笑いながら

 

「ワシの作ったカオスフライヤー1号を見て、魔女達が作ったのが魔法の箒の始まりじゃ!つまりワシが魔法の箒の開祖なのじゃよ」

 

自慢げに言うドクターカオス。それなら……1個頼んでみようかなあ……

 

「今度私のバイク改造してくれません?」

 

エンジン周りとかは改造しているけど、出来れば除霊に使えるバイクにしたいと思っていたのでそう頼むと

 

「ふむう……まぁ考えておくかの、小僧と一緒のバイクを作る方が良いんじゃないのか?

 

からかうように言うドクターカオス。一瞬何を言われたか判らなかったが直ぐに耳まで熱くなるのが判る

 

「な、なななんあ、なにおを?」

 

「ふっははは。その反応で丸わかりじゃの!」

 

くっ、完全にからかわれている。今本気で殴りたいけど、どうしよう。感情に任せて拳を振るうことを真剣に考えていると

 

「う、うきゅう……」

 

足元から聞こえてくるモグラちゃんの声、足元を見ると

 

「モグラちゃん!?チビ!?」

 

ぐったりとしているチビをその背中に乗せたモグラちゃんが居た。慌ててしゃがみ込むとチビが大事そうに抱えている何かを見つける

 

「み……みむう……」

 

苦しそうに鳴きながら差し出された何かを受け取る。それは小さく畳まれた大学ノートのページだった

 

『横島君が魔法の箒?とか言うのに拉致されました。アリスちゃんって言う幽霊の女の子も一緒ですが、人間がいつまでも何の装備もなく空中に居れるとは思いません!美神さん!蛍ちゃん!早く助けてあげてください 机妖怪愛子より』

 

それは愛子さんからの手紙だった。学校からここまで大分離れている、それなのにここまで頑張って……

 

「みーむ……」

 

「うきゆう……」

 

ぐったりとアスファルトの上に伏せているチビとモグラちゃんを抱き抱えて

 

「ドクターカオス。時間がありません、急ぎましょう」

 

「うむ!判っておる!」

 

肩越しに手紙を見ていたドクターカオスも状況が危険だと判っている。真剣な表情をして頷いてくれる、私はここまで手紙を運んできてくれたチビとモグラちゃんに小さくありがとうと呟いて秘法展へと走るのだった……

 

 

 

 

ピコピコッ!こっち!こっち!

 

(うーん?こっちの方角でしたっけ?)

 

見鬼くんで魔法の箒と横島さんを探しているのですが、私の中の記憶と指している方角が違うような……これも何かのイレギュラーですかね?とりあえず美神さんに連絡しますか……手渡されていたインカムの電源を入れて

 

【西の方角に反応がありました!】

 

『早かったわね、流石おキヌちゃん。炎の狐で間違いない?』

 

多分私の記憶の通りなら炎の狐と横島さんだと思うんですが……記憶と違うので自信が持てない

 

【多分そうだと思うんですが……とりあえず行って確認して見ます】

 

まずは自分の目で確認してみないとなんとも言えないのでそう言うと

 

『了解。私も直ぐ行くわ……「美神さん!」……おキヌちゃん、ちょっと待って。なんか蛍ちゃんが言いたいことがあるらしいわ』

 

蛍ちゃんがですか?西の方角へ向かいながら

 

【何の用ですか?】

 

『今チビとモグラちゃんが必死で愛子さんからの手紙を運んできてくれたわ』

 

チビちゃんとモグラちゃんが必死で!?何かあったのかもしれないと思い顔を引き締め、蛍ちゃんの次の言葉を待つ

 

『アリスちゃんが一緒にいるみたいなの、多分大丈夫だと思うけど早く合流して』

 

アリスちゃんってあの幽霊の女の子!?それは不味い、空中で2人きりなんて羨ましい事この私が認めません!

 

【判りました!直ぐに合流します!では1度連絡を切りますね】

 

インカムの電源を切って私は西の方角へと急いで向かうのだった……

 

「お兄ちゃん。ゆっくりね?魔法の箒は念力で動くから怖がらなくて良いからね?」

 

「お、おう……こうか?」

 

アリスちゃんが後ろから横島さんの手に腕を回して、魔法の箒の操作を教えていた

 

(あああ……なんて羨ましい……)

 

私だってあんなに密着したこと無いのに……なんとしても引き放さないと!!!

 

【横島さん!】

 

「お、おキヌちゃんじゃないか!見てくれよ!魔法の箒だってよ!これなら一緒に空中散歩出来るぜ!」

 

え?空中散歩?でもこの高度じゃ横島さんが寒いんじゃ

 

「えへへ。大丈夫だよ、幽霊のお姉ちゃん。私がお兄ちゃんの周りの温度を調整してるから、お兄ちゃんは凍えたりしないよ?一緒にお散歩しよう?」

 

邪気の無い笑顔で笑うアリスちゃんに怒気が完全にどこかに行ってしまった。それ所か横島さんと一緒に空中散歩……なんて魅力的なお誘いなんでしょうか……私は一切悩む事無く

 

【はい!一緒にお散歩しましょう♪】

 

アリスちゃんが横島さんを護ってくれているなら心配ない。このまま美神さん達が来るまでのんびりと空中散歩をしようと思い、インカムの電源をまた入れて

 

【こちらおキヌ。美神さん?聞こえますか?】

 

『おキヌちゃん?今青き稲妻で蛍ちゃんとそっちに向かっているんだけど、横島君は見つけた?』

 

あちゃー連絡するのが遅かったみたいですね。まぁ私には関係ないことなのでどうでも良いですが……

 

【見つけました。アリスちゃんが魔力で横島さんを護ってくれているみたいなので凍傷とかは大丈夫そうです】

 

私が今の横島さんの状態を説明すると美神さんは

 

『それなら大丈夫そうね。出てくる前にカオスが来て魔法の箒の扱いについて説教してたみたいだから、それが終わる位まで散歩しましょうか?』

 

【それが良いですね。ゆっくり飛んでいるので焦らないで合流してくださいね、では通信終わります】

 

インカムの電源を切って隣をゆっくり飛んでいる横島さんに視線を向ける。そう言えばこんな風に空中散歩なんかしたことないですね……これは新しい大事な思い出ですね

 

【楽しいですね。横島さん】

 

私が笑いながらそう言うと横島さんも穏やかに笑いながら

 

「そうだなあ……風もあんまり冷たくないし、空を飛ぶのは気持ち良いものだなあ……」

 

楽しそうな口調でそう言うのだった……それから10分程。私と横島さんとアリスちゃんはのんびりと魔法の箒で空を飛ぶのだった……

 

「横島ー!」

 

「横島くーん」

 

背後から聞こえてくる美神さんと蛍ちゃんの声。私と横島さんはここだよーと言いながら手を振り返し、それからは運営さん達の説教が終わるであろう時間までゆっくりと空中散歩を楽しむのだった……

 

 

 

 

炎の狐と青き稲妻を秘法展に預け、報酬を鞄の中にしまい1度事務所に戻る事にした。コブラにはこの大人数は乗れないから、面倒だけど1度事務所に帰ってから蛍ちゃんのバイクで近くまで送って貰うしかないわね……少しめんどくさいけど、偶にはコブラも運転しないと調子が悪くなるから仕方ないかと割り切り

 

「中々楽しかったわね。横島君はどうだった?」

 

私がそう尋ねると横島君は子供のような笑みを浮かべて

 

「すっげえ楽しかったっす!!空を飛ぶってあんなに気持ち良いものなんですね!」

 

確かに私もあんなに気持ちの良いものだとは知らなかったなあ……多少値段が高くても良いからカオスに現代風の魔法の箒でも作って貰おうかしら?

 

「みむう?」

 

「うきゅう?」

 

横島君の腕の中でモグラちゃんとチビが小さな鳴声を上げる。手紙を届けてくれたのだが、秘法展に来るまでに相当疲れたのか声に普段の元気が無い

 

「モグラちゃんとチビありがとな。俺を助けてくれようとしたんだよな?本当にありがとな?」

 

繰り返しありがとうと言う横島君。まさかあんなに小さい身体で自分を助けようとしてくれるなんて想像もしてなかっただろう、私も蛍ちゃんから聞いて驚いた。そしてそれと同時にそれも横島君の才能の1つなのかもしれないと思った、グレムリンも土竜も本来は人間に懐くような種族ではない、それなのにこうして一緒にいるのは横島君の人徳なのか?それとも妖使いの才能の1つなのだろうか?と考えていた。だけど目の前の光景を見て

 

(そんなんじゃないわね)

 

モグラちゃんとチビは横島君を心から信用している。人間と妖怪、種族は違うけど確かな絆がそこにはあるのだ。だからこそあの2匹は自分達の体力では無事にたどり着くことが出来ないと言うことを知りつつも、横島君を助けるために走って来たのだ……GSの中でも異質な才能を見せ付けてくれる横島君に苦笑していると蛍ちゃんが

 

「炎の狐と青き稲妻の扱いが変わりそうで良かったですよね」

 

炎の狐と青き稲妻は現存する魔法の箒の中でも至高と言われるほどの一品だ。それを碌な手入れもせず、ガラスケースの中に閉じ込めるとは何事じゃ!と凄い剣幕で怒っていたカオスの姿が脳裏に浮かぶ。その一喝で完全に縮み上がっていた素人の運営2人の姿を思い出して思わず笑ってしまいながら

 

「なるんじゃない?もし今度同じ事をすればカオス絶対回収するわよ?炎の狐」

 

本人も忘れていたようだが、炎の狐はカオスの製作した箒だったらしく、箒の柄の部分にドクターカオスの名前が刻まれていた、これにより正式な所有権がスペインではなく、ドクターカオスのあることが判り。スペイン政府との交渉をするつもりじゃと言って、長い間碌な手入れもされず閉じ込められていた炎の狐と青き稲妻は一時ドクターカオスの家に持ち帰られ、長い間なんの整備も受けてなかった2本の魔法箒は念入りにメンテナンスされることになった

 

「後は意思疎通できる何かを用意して空を飛びたいときに飛べるようになるんじゃない?」

 

青き稲妻は若干の意思はある物の、空を飛ぶことは余り好きではないようでガラスケースの中でもかまわないらしいのだが、炎の狐は空を飛ぶことが好きなので時折空を飛ぶことを認めさせるつもりだと言っていた。それで炎の狐のストレスを発散させれば、今回のような脱走騒動は無くなるだろう

 

「素人が良い魔術の道具を持つって怖いことなんですね」

 

しみじみと呟く蛍ちゃんにその通りよと呟く。今回の魔法の箒の脱走騒動は魔法の箒の意思を無視した保管が原因だったのだから……

 

「ねーお兄ちゃん、アリスお腹減った」

 

気にしない事にしていたけど、なんでここにアリスちゃんが居るのかしら?言っちゃ悪いけど、アリスちゃんの保護者は高位の魔族だと判っているから積極的に私は関わりたくないんだけど……

 

「お腹空いた?じゃあアイスクリームでも食べる?」

 

「アイス?なにそれ?」

 

蛍ちゃんがしゃがみ込んで尋ねるとアリスちゃんは首を傾げる。魔界で暮らしているからアイスとか知らないんだ……ちょうど近くの公園にアイスクリーム屋があるのを知っていたので

 

「折角だからよって行きましょうか?」

 

そこでどうして人間界に来たのかを聞けば良いかと思い、私は横島君達を連れて近くの公園へと足を向けるのだった……

 

「おいしー♪アリスこんなの食べたの初めて♪お姉ちゃんありがとう♪」

 

嬉しそうに苺味のアイスクリームを食べているアリスちゃんに

 

「どうして人間界に来たの?黒介さん達は?」

 

私がそう尋ねるとアリスちゃんはアイスをほっぺにつけて楽しそうに笑いながら

 

「お使いだよ!えーとね人間のお酒を買いに来たの!それでね?お兄ちゃんを探して一緒に買いに行くと良いって黒おじさんが言ってたんだ!」

 

お、おつかいって……アリスちゃんの言葉に激しい頭痛を感じる。未成年同士なんだから横島君を見つけてもお酒を買うことなんて出来ないだろうに……そう言えばさっきからあそこに止まっている鳥、なんか魔力を感じるって思ったけど、もしかして使い魔?あんなので監視するくらい心配ならついてくれば良いのに……

 

「お酒か……じゃあアイスを食べたら、美神さんと一緒に買いに行こうか?」

 

横島君がアリスちゃんのほっぺのアイスをハンカチで拭いてあげながら言うと、アリスちゃんは嬉しそうに笑いながら

 

「うん♪よろしくねお兄ちゃん♪お姉さん」

 

おう、任せとけと笑う横島君とその隣でニコニコと笑っているアリスちゃん。子供にお酒を買いに行かせるって……はぁ……なんか頭痛いわ……しかもこの流れだと私が買うのよね……もう少し人間界の常識を覚えて欲しい……私が居なかったら横島君とアリスちゃんでお酒なんて買えないんだから……もうちょっと普通のお使いを頼んで欲しいわよ……

 

【どこか調子でも悪いんですか?】

 

心配そうに尋ねてくるおキヌちゃんになんでもないと返事を返し、横島君を助手として雇っている限り、こういうトラブルの頻度は確実に多くなるだろう。だけど今後良いGSになる可能性が高い横島君をリリースするわけにも行かない。

 

(まぁこれは仕方ないと割り切るしかないわね)

 

私は小さく溜息を吐きながら、手にしているバニラアイスを頬張りながら、この公園から近い酒屋ってどこだったかしら?と考えるのだった……

 

 

 

 

 

 

「モグラちゃん。おいでー♪」

 

「うきゅ♪」

 

リビングに座り込んで、モグラちゃんを抱き抱えているアリスちゃんを見て小さく溜息を吐く、お使いのメモの一番下にネビロスさんからの頼みで

 

『申し訳ないが今晩だけアリスを預かって欲しい。恐らく赤介との話し合いで家の一部が破損する可能性が高い、そんな状態でアリスを家に戻して怪我をさせるのは可哀想だ。一晩でなんとかして見せるので申し訳ないがよろしく頼む 黒山黒助』

 

余りに適当すぎる偽名に若干の殺意を感じながらも、アリスちゃんを魔界に帰すことも出来ないので今日横島の家に泊めることになった

 

「お兄ちゃんのペットは凄く可愛いね♪モグラちゃんもチビもタマモも凄く可愛い♪」

 

「ペットじゃないぞ?家族だよ。ペットって呼んだらタマモ達が可哀想だ」

 

タマモを膝の上に乗せながらアリスちゃんにモグラちゃん達はペットじゃ無いぞ?と説明している横島。確かにペット呼ばわりは可哀想よね……横島に注意されたアリスちゃんは

 

「はーい、もうペットなんて言わないよ。ごめんね?チビ、モグラちゃん。タマモ」

 

「良し良し、偉い偉いちゃんと謝れたなー」

 

横島に頭を撫でられて嬉しそうに笑っているアリスちゃん。そしてそれを見ていたシズクが

 

「……横島は子供のしつけが上手だな。きっと良い父親になる」

 

「そうかあ?そんな事を言われても判らんぞ?」

 

にやりと悪い顔をしながら突然横島が良い父親になるとか言い出すシズクに若干嫌な予感を感じつつ、横島達を見ていると

隣で料理をしていたおキヌさんに

 

【蛍ちゃん。お野菜こげちゃいますよ?】

 

「ああ、いけない!ありがとおキヌさん」

 

やっぱり料理している間に余所見をしちゃ駄目よね。危うく野菜を焦がすところだった……火を少し弱めて、ヘラでタマネギと人参を炒める。今日の夕ご飯はカレーライスだ、野菜を焦がしてしまっては風味が台無しになってしまう

 

【いえいえ、私もやっぱり気にしちゃいますもん。だから気持ちは判りますよ】

 

サラダ用の野菜を切りながらそう呟くおキヌさん。横島が子供に優しいのは私もおキヌさんも良く知っている。優しいと言ってもそこに邪な気持ちなど一切無く純粋な優しさで横島は子供に優しいのだ、だから子供に好かれる。それに横島も年下が好きって訳ではないので……そう言えば私がルシオラだった時は私0歳だったわよね?それで行くと横島はロリコンって事に……

 

(ううん、違う違う。外見的がロリじゃ無いって事が大事なのよ。うん、きっとそう)

 

横島はロリコンじゃ無い、うん。だからきっと大丈夫。自分にそう言い聞かせるようにそう呟き、冷蔵庫から牛肉を取り出してカレーの準備を進めるのだった……ただキッチンからも見えていたんだけど、横島がアリスちゃんを膝の上に乗せて髪を梳いてあげているのを見たり、お兄ちゃん大好きー♪と言われて抱きつかれて赤面している姿を見たりして

 

(横島って実はロリコンなのかしら?)

 

違うと信じたいんだけど、目の前の光景を見て思わず私は横島がロリコンなんじゃ?と言う疑いを抱かずには居られないのだった……そして翌朝、ちゃんと自分の部屋に寝ていたのシズクと私と一緒に寝ていた筈のアリスちゃんが横島の布団の中に潜り込んでいるのを見て、横島を注意すれば良いのか、それともシズクやアリスちゃんに注意するべきなのか?

 

「ねえ?どっちを注意すれば良いと思う?おキヌさん」

 

【む、難しい所だと思います……横島さんは悪くないと思いますし……】

 

この光景を一緒に見たおキヌさんと真剣に私は悩んでしまうのだった……

 

 

 

 

 

蛍とおキヌちゃんが横島がロリコンなのか、横島が異常にロリに好かれるのか?を悩んでいる頃。美神はと言うと

 

「では暫くの間。お孫さんをお預かりすれば良いのですね?」

 

目の前の小判はロンさんからの依頼料とモグラちゃんの食費を兼ねた物であり、その枚数を確認しながらロンさんにそう尋ねる美神。ロンさんは若干疲れた様子で

 

「うむ。あの子の成長には、横島殿と一緒にいるのが最善だと判断したのでな。それにワシも少しばかり調子が悪い、湯治をする間よろしく頼みますぞ」

 

モグラちゃんのお祖父ちゃんであるロンさんから、モグラちゃんを横島の家で預かるように頼まれていたりするのだった……

 

「とりあえずモグラちゃんの食費は協力してあげましょう……」

 

ロンさんが居なくなってから、美神は引き攣った顔でそう呟くのだった……なんせモグラちゃんの食事量は平均的な成人男性の2倍近い量だ。横島達の給料だけでは賄えないと判断し、ロンさんから預かった小判を換金するために事務所を後にしたのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その3へ続く

 

 




次回はほのぼのメインとしつつ、琉璃さんとシルフィーと愛子の話をしていこうと思います。ちょっぴり恋愛風味を出せたら良いなあと思いつつ執筆してみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は前回のあとがきの通り、「琉璃さん」「シルフィー」「愛子」それに「アリス」の話をやって行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その3

 

~アリス~

 

黒おじさんの頼みで人間界にお使いに来るついでにお兄ちゃんの所に遊びに来て、本当に楽しかった……でも

 

『アリス?そろそろ帰っておいで?あの馬鹿はちゃんと反省させてあるから大丈夫だから安心して帰っておいで』

 

黒おじさんの使い魔の黒い鳥がお兄ちゃんの家の窓枠に止まって、そう語りかけてくる。う……思ったより早かった……

 

(もう少しゆっくり遊んでたかったなあ……)

 

黒おじさんは私に人間界に遊びに行っても良いって言ってくれるけど、赤おじさんは絶対に駄目だって言って人間界に行かせてくれない……私だって本当はもっと早くお兄ちゃんの所に遊びに来たかったのに……それに今日みたいにお兄ちゃんと一緒に寝たかったなあ……お兄ちゃんの傍は暖かくて凄く寝やすいのに……私が浮かない顔をしているのに気付いたのか黒おじさんの使い魔が

 

『心配しないで良いよアリス。また今度アリスが人間界に遊びに行けるように私が手回しをしよう。だから今日は帰っておいで』

 

「はーい……直ぐに帰るね……」

 

本当はもう少しお兄ちゃんと遊びたいけど、黒おじさんがそこまで言うなら帰らない訳には行かない

 

「と言う訳だからお兄ちゃん。帰って来てから遊びに連れて行ってくれるって言ってくれて嬉しいけど黒おじさんが呼んでいるから帰るね?」

 

私が振り返りながら言うと朝ご飯を食べていたお兄ちゃん達は

 

「えーと?どういうこと?」

 

あ、そうかお兄ちゃんは使い魔の言葉が判らないんだ。私は手をぽんっと叩いて

 

「黒おじさんが帰っておいでって、赤おじさんは黒おじさんが話をしてくれたんだって」

 

へーと頷きながら味噌汁を啜っているお兄ちゃんは

 

「じゃあ遊びに行くのはまた今度だな」

 

また今度……?私がきょとんとしていると蛍お姉ちゃんが

 

「また遊びに来れば良いわ。ね?モグラちゃん?チビ?」

 

「うきゅ♪」

 

「みーむ!」

 

擦り寄って来たモグラちゃんとチビを抱っこする。ぽかぽかと暖かい……お兄ちゃんの次のアリスの生きているお友達だ……

 

「また来ても良いの?迷惑じゃ無い?」

 

アリスは幽霊だし、今回来たのももしかしたらお兄ちゃんの迷惑になっていたかもしれない、若干不安に思ってそう尋ねると

 

「そんなこと無いぞ?またいつでもおいで」

 

お箸をおいて頭を撫でてくれるお兄ちゃんに嬉しくなって、抱き着きながら

 

「うん♪また来るよ」

 

今度来るときはちゃんと着替えとか持って来ないと、昨日服を貸してくれたシズクにも悪いし、それにちょっと胸の所が苦しかったしね……そう言ったらシズクは死んだような顔をして部屋を出て行ってしまったけど、何か悪い事を言っちゃったのかな?今朝リビングに姿の居ないシズク。もしかしたら調子が悪いのかな?

 

「……殆ど背丈も同じなのに何故……お、大人になれれば負けてないのに……」

 

なおシズクがリビングに現れなかったのは、身長も体格も殆ど同じのアリスに胸のサイズで敗北していることによる精神的なショックによるものだったりする

 

「クフ♪」

 

「……笑うなあ!狐ぇッ!!!」

 

そしてそんな精神的なショックで弱っているシズクをこれでもかとタマモが馬鹿にしていたりする……

 

「じゃあなーアリスちゃん。また今度ゆっくり遊びにおいで」

 

お兄ちゃんは学校に行かないといけないので玄関の前でお兄ちゃんと別れ、私は黒おじさんの使い魔と一緒に魔界へと帰るのだった……

 

「おかえり、アリス」

 

「ただいま!黒おじさん!」

 

宮殿の出口の所で待っていた黒おじさんに抱き着きながら

 

「お兄ちゃんの所のお泊り凄く楽しかったよ!それとお使いもちゃんと出来たよ」

 

頼まれていた人間界のお酒を黒おじさんに渡すと、黒おじさんはお酒を確認してから

 

「良く出来た。偉いぞアリス」

 

頭を撫でながら褒めてくれた黒おじさん。あ……そう言えば

 

「黒おじさん、赤おじさんは?」

 

絶対居ると思っていたのに姿の見えない赤おじさんの事を尋ねる。すると黒おじさんはニヤリと笑いながら

 

「今は反省させているよ。また暴れたからね?それじゃあアリス。このまま私とビュレトの小童の所にでも散歩に行こうか?」

 

ビュレトのおじさんの所に行くならお馬も連れて来ないと!私は黒おじさんにちょっと待っててとお願いして馬舎からお馬を連れて来た

 

「それじゃあ行こうか?アリス」

 

「うん♪」

 

「ブルル♪」

 

久しぶりにお母さんに会えるのが嬉しいのか、楽しそうに鳴くお馬さんと黒おじさんと一緒にビュレトおじさんの家へと向かってゆっくりと歩き出したのだった……

 

なおアリスがネビロスと一緒にビュレトの宮殿に向かっている頃。ベリアルはと言うと

 

「しくしくしくしく……」

 

また暴れたと言う事でネビロスによって脇見の壷の中に封印され、その中で号泣していたりする……

 

 

 

~愛子~

 

昨日私が頼んで私と横島君が2人きりで掃除できるように頼んだクラスメイトが昨日どうだった?と尋ねてくるので私は溜息を吐きながら昨日の事を説明した

 

「え?昨日横島君と一緒に掃除できなかったの?」

 

「うん……なんか魔法の箒?とかが急に教室に飛び込んできて横島君を連れて行っちゃった……横島君大丈夫だったかな?」

 

チビちゃんとモグラちゃんに手紙を渡して美神さん達の所に向かうように行ったけど、どうなったんだろう?怪我とかしてないかな?今日はちゃんと学校に出てきてくれるかな?私がそう心配しているとクラスメイト達が

 

「本当愛子ちゃんは横島が好きなのね?」

 

「うーん。最近マシになってきたけど、横島だしね……」

 

「私はもっと別な人を好きになったほうが良いと思うよ?」

 

口々にそう言うクラスメイトの皆。だけど私には横島君以外は正直考えられない……

 

「みんなは横島君の事を良く判ってないのよ。私には横島君しか考えられないから……」

 

横島君は誤解されやすい人だけど、とっても優しいし、フェミニストなのよ?と説明するけど

 

「うーん。正直信じられないわ」

 

「うん。私も、1年のときに女子更衣室覗かれたし」

 

「私も、最近は少ないみたいだけど、今でも偶に覗きをしているみたいだし……」

 

なるほど、まだ横島君は覗きをしていると……私は今手にした情報を手帳にメモしながら

 

(蛍ちゃんに教えてあげよう)

 

私が態々しなくても、蛍ちゃんが横島君に制裁を加えてくれるだろう

 

「はよーっす」

 

そんな事を考えていると横島君が教室の中に入ってくる。見た所怪我とか風邪を引いているとか、そう言う素振りが無いので安堵していると

 

「愛子。昨日は悪かったな、掃除1人で大変だったろ?」

 

「ううん、私は大丈夫よ?掃除は嫌いじゃ無いし……横島君の方こそ大丈夫?」

 

「俺の事はどうでも良いんだよ。今大事なのは愛子の方。本当悪かったな、掃除を押し付けて」

 

繰り返し謝ってくる横島君。昨日のは事故なんだから、ここまで謝られると私としては気まずくなる

 

「んーじゃあ、今度なにか埋め合わせをしてくれる?買い物とか行きたいなー?」

 

横島君の顔を見上げるようにして言う。私の言葉に嘘?とか言う顔をしている皆。皆は知っていると思うけど私の本体は机で移動するには机ごと動かないといけない……今まで私にデートとかを誘いに来た生徒は沢山居たけど、私の机を運んでくれるなら?と言うと皆いなくなってしまった、街中を机を担いで運んでいる姿を好んで見られたいなんて人物はそうはいないだろう……だけど私は敢えてそれを口にした。横島君ならなんて返事を返してくれるか?私はそれを知っているから

 

「オッケー♪今度の休みとかで大丈夫か?」

 

ほらね、迷う事無く即答する横島にクラスメイトの女子達が

 

「横島?判っているの?愛子ちゃんと出かけるって事は机を運ぶってことなのよ?」

 

「おう。そんな事知ってるに決まってるだろ?」

 

GSとしての勉強をして居る横島君だ。そんな当たり前の事は知っていて当然だ

 

「机を運んで買い物する気なの!?」

 

まさか横島君がOKすると思って無かったのか驚きながら尋ねる生徒。横島君はにかっと笑いながら

 

「愛子みたいな美少女とデートできるんやぞ?それなら机くらい運んで当たり前やろ?」

 

口をあけて唖然としている女子生徒達。うんうん、これでこそ横島君って感じよね……と言うかデート!?2人だけで出かけるとやっぱりデートになるんだよね……えとえと……ふ、2人きりって言うのは私にはいきなりハードルが高すぎる。それにデートをするなら机をなんとかしてからにしたい

 

「えーと!そうだ!蛍ちゃんとか、おキヌちゃんを呼んでくれると嬉しいな!?」

 

ううう……私のへタレ……学校とかだと平気なのに……外で横島君と2人だと思うと怖くて、思わずそう叫んでしまっていた。横島君はびっくりしたような表情で

 

「お、おう。判った、蛍とかおキヌちゃんに聞いて見る、じゃあ、明日にするか、学校まで迎えに来るからな?「横島ー!新しいリポートを出すから取りに来い」うええ!?ううう……最悪。じゃあまた後で」

 

先生に呼ばれて肩を落としながら教室を出て行く横島君。そして私を見ているクラスメイトの皆は

 

「愛子ちゃん」

 

「……はい」

 

「へタレ過ぎる。なんで自分から2人きりのチャンスを潰すの?」

 

自分でも判っていることを言われて、私はごめんなさいと呟いて机の中へと隠れるのだった……しかも出かけるのは明日……心構えをするには短すぎる時間だ。うるさいくらいに脈打つ心臓の音に私はもう1度溜息を吐くのだった……

 

 

~琉璃~

 

「あー疲れたぁ……」

 

バイパー討伐をEUに伝えて報酬の話し合いをしていたんだけど、あの守銭奴証拠は!とか言い出して中々話し合いは難航してしまった。

 

(ドクターカオスが居てくれて助かったわ……)

 

マリアさんとテレサがちゃんと討伐の所を録画していてくれていた。ただしEUの方では特Aの危険人物として警戒されているくえすが写っているので、そこは合成して、美神さんが討伐したようにした。ドクターカオスが合成してくれたのだから多分見破られる可能性は無いだろう……

 

(討伐金は20億円かあ……んーどう使おうかなあ……)

 

美神さんとくえすに4億円ずつで残りは12億……GS協会の設備とかの向上とかに使ってもまだ余る……若手GSの育成とかに回すのも良いわねえ……

 

「あれ?横島君?」

 

川原の所に横島君を見つける。んーなんであんな所で隠れるように身体を動かしているんだろ?気になって川原の方へ向かう

 

「てやっ!」

 

どうも横島君は1円の練習用の破魔札を使って投擲練習をしていたようだ。山のように積んである破魔札を見ながら、足音を立てずに近寄って

 

「よーこーしま君?」

 

背中に抱き付いてみると背後からでも判る位耳を真っ赤にして

 

「る、ルルルル!?琉璃さん!?」

 

慌てて私から離れる横島君。本当良い反応してくれるわ……橋の影の中でも判る赤い顔を見て笑いながら

 

「はーい♪こんな所で何してるの?」

 

「うっ……えーとですね。練習ですよ……破魔札位はまともに投げれるようにならないと」

 

そう言って1円の山からまた10枚ほど取る横島君。面白そうだから横島君の鞄の上に座り込んでみていると

 

「あの琉璃さん?」

 

「なに?私の事は気にしないで練習すると良いわ」

 

「俺の練習見ても何にもならないっすよ?」

 

「それを決めるのは私。それとも私邪魔かしら?」

 

何を言っても無駄だと判断したのか、再び破魔札の的当てを始める横島君。私はその背中を見つめながら

 

(良い集中力ね……んーでも焦りすぎかしら?)

 

私に見られているのに、それに左右されない集中力。あの集中力は買うけど……今の横島君じゃあとてもじゃないけど、悪霊に当てるのは無理ね。その理由は判っている焦りから来る物だ……その背中に妹の姿がダブって見えた……

 

(元気にしているかしら……)

 

神卸の神代家の人間だが、神卸の才が低く、その代わりに除霊や神霊を鎮める神楽舞を得意にしていた妹は、私が幽閉されている間に養子に出され、遠縁の神社で暮らしていると聞く。手紙を送っては見たが、まだ返事が返ってこないのでどうしているのかが心配になる。あの子もまた自分の周りに自分よりも優秀な人間がいて、焦りそして必要以上に訓練をして失敗をして、また焦りの繰り返しをしていた……私は時期当主としての仕事があり、録に話す時間がなかったのでフォロー出来なかった……そして今妹と同じ過ちをしようとしている横島君に

 

「ねえ?横島君。おねーさんとデートしましょうか?」

 

「は、はい?ってやべえ!」

 

私の問い掛けに集中が途切れたのか手にしていた札を落とす横島君。それは当然1円の破魔札の上で花火の様に連続で炸裂する札から必死に逃げて来た横島君に

 

「おねーさんとデートするのいや?」

 

「……どっきりですか?」

 

……なんでそうなるのかしら?私は横島君の考えていることが判らなかった

 

「私はどうすれば横島君がもっと霊能力に目覚めるかを教えてあげれるわ」

 

面白いように顔色が変わる横島君。まぁこれは嘘だけど、嘘じゃ無い。今の横島君では絶対に霊能力の覚醒なんてありえないと私は確信しているのだから

 

「お、教えて「教えてあげても良いけど、明日1日私に付き合いなさい。それが嫌なら教えてあげないわよ?」

 

教えてくれと凄い勢いで近づいて来た横島君の顔に手を向けながらそう言うと、うっと呻く横島君。あ、そうそう忘れてた

 

「言っておくけど蛍ちゃんとかおキヌちゃんを呼んでも教えてあげないわよ?」

 

おっと更に顔色が変わったわね……こうころころ顔色が変わると面白いわ。口を開いたり閉じたりしていた横島君……さてなんて返事をしてくるかな?

 

「……えっと明日机妖怪の愛子と出かける約束をしているのですが……」

 

……机妖怪?……ああ、そう言えば横島君の学校からそんな連絡があったわね。1度会って話をしておきたいって思っていたし

 

「良いわ。じゃあその愛子ちゃんにも用があるから2人で駅前の広場……そうね、8時30分に来なさい、良いわね?それじゃあ明日を楽しみにしているわねー♪」

 

横島君の返事を聞かずにさっさと河川敷を後にする。横島君が焦るのも判る、なんせ若手NO1と言われる美神さんの事務所の助手で、しかも蛍ちゃんも傍にいる。これで焦るなと言う方が無理と言う物だ

 

(まぁ私もなんだかんだで横島君は気に入ってるしね……)

 

このまま潰れてしまうなんて事は避けたい。彼は充分優秀なGSになるだけの素質を秘めている、でも回りが凄すぎるから、自分が駄目なんじゃないか?と言う不安から焦り、そして無理な訓練をする。それは完全な悪循環だ……今日横島君に会ったのも偶然じゃ無いと私は思う

 

「さーて、明日が楽しみねー♪」

 

大きな仕事が済んだことで休みを取ってくださいと部下の皆に言われて、明日は休んでも良い事になった……家でのんびりしているのも良いけど、迷える少年を導くのも大事なことだ。そんな事を考えながら家に戻ると、郵便ポストに手紙が入っていることに気付いた

 

「誰だろ?」

 

手紙の差出人は……「氷室舞」。一瞬誰?と思ったが、直ぐに判った

 

「舞ちゃんだ!あーやっと手紙の返事が来た♪」

 

養子に行ってしまった私の妹からの手紙で、良い事は続く物なのねと笑いながら私は部屋の中に入るのだった……そして手紙には「シズ」と言う友達と義姉が居てとても楽しいけど、早くお姉ちゃんにも会いたいと言う一文があった。だけど今はバタついているから、もう少し待っていてねと返事を返すのだった……

 

 

~シルフィー~

 

私鼻歌を歌いながら夕暮れの中を歩いていた。

 

(えへへ、頑張って隣町まで行った甲斐があったなあ♪)

 

唐巣先生はあんまりお金を貰ってくれないので、正直いつも教会は火の車だ。でも今回はパイパーが来た時に私が頑張って時間稼ぎをしてくれたと言う事で美神さんがお礼として400万を私にくれた。唐巣先生に上げないのは困っている人に分けてしまう危険性が高いからだと推測している。そして私はその400万を自室の金庫に仕舞って使う分だけ持って隣街の安いスーパーに向かったのだ。肉に野菜に生活必需品がこれでもかと詰まった鞄と両手に持っているスーパーの袋。普通の人間ではとても運ぶ事は出来ないだろうけど、私はハーフヴァンパイヤだから全然楽勝だ。鼻歌交じりに今日の夕ご飯は何を作ろうかなあっと考えていると赤いバンダナを巻いた学生服の青年の姿を見つける

 

(ラッキー♪)

 

私は嬉しくなって思わず指を鳴らしたくなったけど、残念なことに荷物で一杯なのでそれは諦めて横島君に近寄る

 

「お?シルフィーちゃん?奇遇だな」

 

「そうだね~横島君は学校帰り?」

 

学生服と鞄を手にしているのでそう尋ねる。ブラドー島に学校は無かったから、学校に行って見たいという気持ちはあるけど……今の協会の財政では無理なので諦めるしかない

 

「昼で終わったんだけどな、ちょっと修行を……」

 

ぽりぽりと頬を掻きながら言う横島君。修行ってGSのだよね……んー……でもそう言うのは1人では上手く行かないし、なによりも横島君の顔が非常に暗いので、何か失敗したのか、行き詰っているのだと判断して

 

「ちょっとそこの公園で話出来る?」

 

こういう時に出会えたのはきっと意味があると思い近くの公園に誘う

 

「そやな……うん。良いで」

 

あんまり聞いたことの無い大阪弁が出るほど今の横島君は弱っているんだ……人間本当に弱っている時は自分の本当の言葉が出るって本当なんだなと思いながら、私は横島君と一緒に近くの公園に向かうのだった

 

「よいっしょっと」

 

背負っていた鞄と両手の袋をベンチの前に置く。それを見た横島君は驚いた様子で

 

「何を買ってきたんや?」

 

「んー色々、ご飯の材料とか、歯ブラシとか……後は私の下着とか?見る?」

 

「あ、アホ言うなあ!」

 

顔を真っ赤にして手をぶんぶんと振る横島君。こういう反応を見ると女の人は好きなんだけど、初心で可愛いって思えるよね……

 

「それでどうしてそんなに落ち込んでいるの?」

 

目に見えて落ち込んでいる横島君にそう尋ねると横島君は

 

「ワイなぁ……本当にGSになれるのかなあって思ってなぁ……パイパーの時はシルフィーちゃんだけに押し付けちゃったし……」

 

溜息を吐きながら言う横島君。前のパイパーのことをそんなに気にしているんだね……私としてはあの時最善の一手を打ったつもりだ、死ななかったし、後遺症も無い。正直捨て駒の時間稼ぎ役を買って出たんだから、そんなことは気にしなくてもいいのに

 

「私は横島君は良いGSに成れると思うよ?」

 

お父さんを助けてくれたし、それに妖怪や私にも偏見がない。きっと横島君は人間の気持ちも人外の気持ちも判る。もしかすると今まで人間に対立していた妖怪との和睦の架け橋になるかもしれないと唐巣先生は言っていた

 

「でもよ……ワイはなんにも出来ないんやで?足手纏いで碌な霊力も無いし……良いGSになれる、なれるって皆言うてくれるけど……ワイはとてもじゃないけど、そんな風に成れるなんて思えないんや」

 

酷く落ち込んだ様子の横島君。私は立ち上がって横島君の正面に立つ

 

「シルフィーちゃん?」

 

私の名前を呼ぶ横島君に微笑み返して、その頭を撫でながら

 

「大丈夫、大丈夫だよ。私も最初から力を全部使えたわけじゃ無いんだよ?最初から皆上手く行く訳が無いんだよ」

 

私は吸血鬼の力の方が強くて録に物を触る事も出来なかった。お兄ちゃんはどちらかと言うと人間の方が強いから吸血鬼の力をコントロールするのは簡単だった見たいだけど、私は何年もかかって力を使いこなせるようになった

 

「シルフィーちゃんも?」

 

「そ、私は吸血鬼として落ち零れ、本当に凄く苦労したんだ。んー100年位かなあ?」

 

笑いながら言う半分とは言え吸血鬼の私は人間よりも遥かに長生きだ。だからこそ言える

 

「1年や2年でそんなに落ち込まないの、それで言ったら100年駄目だって私は何?」

 

周りが凄いから自分のことを必要以上に下に見てしまう。これは私も経験した、お父さんもお兄ちゃんも私よりも遥かに凄い吸血鬼と半吸血鬼だった。だからその2人に認めてもらおうと私も頑張った、それでも全然駄目で何度も泣いたし、不貞腐れたりもした。だけど私は最終的には自分の力を使えるようになった

 

「だから横島君も頑張ろう?まだ始まったばっかりなんだから」

 

「始まった……ばっかり」

 

私の言葉に続いてそう呟く横島君にそうだよと言って励ます。まだ諦めるにも、不貞腐れるのも早い。焦っては駄目なんだよ?と言うと

 

「そっか……うん。ありがと、少し元気でた」

 

にかっと笑う横島君。それはいつも通りの明るい横島君の笑顔でつられて私も笑いながら

 

「良かった。ゆっくりで良いから頑張って行こうね♪私も応援してるから」

 

そろそろ帰らないといけないので荷物を背負いながらそう笑う。若干横島君の笑顔が引き攣ったのは気のせいだと思うことにする。怪力女とは思われたくないけど、下手に言うと自爆しそうだからそれは言わない

 

「あ、そうだ。前のパイパーの時の貸しちゃんと返してね?」

 

「へ?」

 

驚いている横島君の前から離れながらにこりと笑い

 

「日曜日にこの公園で待ってるからね?忘れたり、遅れたら許さないんだから。じゃ、楽しみにしてるよー♪」

 

「え、ま、待って!シルフィーちゃん」

 

私を呼び止める横島君の声を無視して教会まで走る。今時分の顔が赤いのが判っているから、その顔は見られたくなかった

 

「おや?おかえりシルフィー君。随分と嬉しそうだけどどうかしたのかい?」

 

掃除をしながら尋ねてくる唐巣先生になんでもありません!と言って唐巣先生に投げつけるように荷物を置いて自分の部屋に走った。背後からうおおおお!?と言う唐巣先生の絶叫が聞こえたような気がするけど気のせいだと思うことにする

 

「良し、良し♪」

 

横島君の事は大分前から気になっていたけど、こうしてデートの約束を取り付けることが出来た。私は自分のベッドに腰掛けて、何度もガッツポーズを取るのだった……

 

 

~メドーサ~

 

最近頭痛が酷い、寝ていても、起きていても頭痛が治まる事は無い……

 

(くっ……これはどうなっているんだい……)

 

アシュ様の宮殿で治療を受けているのに、一向に回復する兆しがない……しかも眠れば眠ればで夢を見るのだが、その夢を見るたびに自分が自分で無くなる様な気がして眠ることが出来ない……とは言え眠らない訳には行かず頭痛に耐えながらベッドに横たわる……

 

(横島……か……)

 

アシュ様と蛍が気に掛けている横島と言う少年。私も夢で何度も何度も見る度に横島の事が気になって仕方ない

(また眠ればあいつの夢を見るのか……)

 

不思議とそれは嫌だとは思わない、むしろその夢を見たいと思う自分も居て……私は自分でも持て余す複雑な気持ちを感じながら目を閉じ眠りに落ちるのだった……

 

『よう?待っていたよ、私』

 

「お、お前は誰だ!?」

 

眠りに落ちたと同時に私の前に現れるもう1人の私。だけど私よりも若い姿をしていて、それは夢で見た。横島の霊力を分けて貰って若返った私の姿……

 

『そんなに身構えなくても良いだろ?同じ私だ。こうして呼んだのは話をしたくてね、ほらそこに座りなよ」

 

突然現れた椅子に驚き、距離を取ろうとするが、若い私が手を振ると私はいつの間にか椅子に座っていた……

 

「ここはどこなんだい?」

 

『私とお前の心層世界さ、同じ存在だから同じ世界なのは当然だろ?さ、ゆっくり話をしようじゃ無いか』

 

そう笑う私。話すことなんか無いと言おうとも思ったが……不思議と話したいと思って

 

「ふん、仕方ない。つまらない話なら許さないよ」

 

『それは無いって言えるよ。絶対にね……』

 

そう笑う私が話し始めたのは死にたいと願った魔神とそれに立ち向かった人間。そしてその人間に協力した1人の魔族の悲しい恋の物語だった……その永遠とも思える長い話に私はずっと耳を傾けるのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その4へ続く

 

 




今回は女性視点ばかりになってしまいましたね。偶にはこういう話も悪くないと思うのですが、どうでしょうか?
次回は「愛子」と「琉璃」の話をして、その次はシルフィーとメドーサの話をしていこうと思います。その次はまた長いリポートに入っていくので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「愛子」と「琉璃」と横島とのデート(?)の話になります。デートと言うかお悩み相談って感じになりそうですが、上手く表現出来たらなぁと思います。では今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その4

 

壁に立てかけてある時計を見る、時刻は既に17時45分……おかしいわね……もうとっくに帰っている時間なんだけど……

 

「……今日は昼までだった筈じゃ無いのか?」

 

チビを膝の上の乗せて毛並みを整えているシズクがそう呟く。すぐ帰ってくるって言ってたのに……

 

「確かにね……どうしたのかしら?」

 

また何かトラブルに巻き込まれた可能性が高いわね……こういう時におキヌさんが居てくれれば直ぐ様子を見に言って貰えるのに……今日は美神さんの家の掃除があるからってお昼から出かけて行ってしまっているし……

 

(私も時間が無いのになあ……)

 

なんでもお父さんが何か思いついたらしく、それの研究を手伝って欲しいと言われている。なんでも横島の霊力の覚醒に関係があるとは聞いているけど……1人でやらせると絶対何かやらかすので監視してないと不安で仕方ない

 

(伝言を残して帰ろうかしら……)

 

あんなのでも一応魔神だから調子が出るのは深夜になる。だからそろそろ戻らないと絶対何かやらかす……私が焦り始めていると

 

「ただいまー」

 

横島がやっと帰ってくる。そろそろ帰ろうと思っていたから良いタイミングで帰って来てくれた……横島の声が聞こえた瞬間。リビングからチビ達の姿が消えている、この早さには正直驚かされるわねと苦笑しながら立ち上がると

 

「うきゅ♪」

 

「コン♪」

 

「みむう♪」

 

「おーう♪ただいまー」

 

玄関まで横島を迎えに行くチビ達の鳴声と嬉しそうな横島の声が聞こえてくる。私は帰るために纏めてあった荷物を肩に担いで玄関に向かう

 

「あれ?蛍今日は帰るのか?」

 

チビとタマモを抱っこしながら尋ねてくる横島。この言葉が出てくると言う事はもう横島の中では私が家に居るのが当然になっているって事よね……

 

(これは良い傾向かもしれないわ)

 

今はまだ通い妻って感じになっているけど、そのうち同棲出来れば……私はもっと有利になる。

 

(ふふふふ……全て私の計算通り)

 

心の中でガッツポーズを取りながら、ええっと横島に返事を返す。

 

「うん、お父さんがなにか研究をするみたいだからそれの手伝いでね。明日は多分家に来れないと思うから、シズクかおキヌさんにご飯用意してもらってね?それとちゃんと課題もやっておくのよ?偶には自分で最後までやってみなさい」

 

いつも教えてあげてるけど、横島は自分は馬鹿だと言っているが、中々頭の回りが良い。しっかりやる気になって勉強すれば平均点数は楽に取れるはずなのだから

 

「うっ……判った。頑張って見る」

 

「うん。よろしい、じゃあまたね?」

 

顔を顰めて頷く横島の肩を軽く叩いて、私は横島の家の外に停めてあるバイクに跨り、ヘルメットを被りながら

 

(お父さんにも相談してみよ)

 

やっぱり横島にもバイクの免許を取って貰おう。そうすれば一緒にツーリング出来るし、その間は横島を独占できる……

横島もバイクは格好良いよなあと乗り気だったので多分大丈夫だ。私は横島にもバイクの免許を取って貰うように誘導しようと心に決め、3日ぶりに家であるビルに向かってバイクを走らせるのだった……

 

 

 

 

怖いなあ……俺はシズクの用意してくれた朝食を食べながらどうやって話を切り出そうか?と悩んでいた。愛子を迎えに行って、琉璃さんに会うことを考えると、そろそろ出かける準備をしないと不味い

 

「……今日の味噌汁はどうだ?」

 

「いつも通り美味いぞ?」

 

うんうんと1人で頷いているシズク。やっと体調が良くなったらしく、今日は家全体を掃除すると張り切っている……掃除なら俺は邪魔になると思うから出かける……なんかなあ……シズクにどうやって説明すれば良いのだろうか?と悩んでいると

 

「……ん」

 

机の上に置かれたのは諭吉さんが2枚。シズクの方を見ると小さく笑いながら

 

「……なにか出かける用事があるのだろう?それなら今日はチビとモグラちゃんの面倒は私が見よう。それで誰と出かけるんだ?相手によっては……溺死」

 

水の塊を俺の頭の後ろに浮かべるシズク。ここで嘘を言うと確実にヤラれる……俺は冷や汗を流しながら

 

「学校の九十九神の愛子だ。前の魔法の箒で迷惑を掛けたからそのお詫びに出かけようって話になった」

 

「……神宮寺じゃ無いなら良い、気をつけて行って来い」

 

笑顔でそう言うシズク。うーん、どうしてシズクもおキヌちゃんも蛍も神宮寺さんをそこまで警戒するかなあ……

 

(良い人だと思うんだけどなあ……)

 

2回も俺の怪我を治してくれた凄く良い人だと思うんだけど……とは言え神宮寺さんの事を話していると確実に待ち合わせの時間に遅れるので

 

「じゃあちゃっと着替えて行って来る!夕方には戻るな!」

 

慌てて自分の部屋に戻って服を着替え、俺は学校まで走るのだった……

 

残されたシズクとチビとモグラちゃんとタマモはと言うと

 

「うきゅ……」

 

寂しそうに鳴いているモグラちゃんの背中を撫でながら、シズクは優しく笑い

 

「……横島だって出かけたい時もある、私達の気持ちばかりを優先しては駄目」

 

「みむ……」

 

「きゅー……」

 

シズクにそう諭されたチビとモグラちゃんはそのまま部屋の隅に置いてあるボールの元へと歩いていく、そしてそのまま2匹でボールを転がして遊び始める姿を見ながらシズクは横島と自分の食器をトレイに乗せ始める。

 

「クウ」

 

そんなシズクをタマモが警戒した様子で見つめる。タマモはシズクの性格を知っているから、こんなに理解が良い筈がないと判っているからだ、何か裏がある。そう思いシズクを警戒していたのだ……

 

「……そんなに睨まなくても良い。横島だって横島の付き合いがある、それを束縛すれば嫌われるのはこっちと言うことだけ……それに……水があれば私はどこでも見れる」

 

にやっと悪い顔で笑うシズクにタマモはやっぱりこいつはろくでもないと小さく呟き、そのままソファーの上で丸くなり、ボールで遊んでいるチビとモグラちゃんを見つめるのだった……

 

 

 

 

 

駅前の広場のベンチの腰掛けて、横島君と愛子ちゃん?と言う妖怪が来るのを待つ

 

(んー良い天気ねえ……)

 

暑くも無く、寒くもない。出かけるにはちょうど良い天気だ……それに何より久しぶりに自分と歳の近い子と出かける事が出来る。それが何よりも楽しみだ……

 

(最近は一回りも二回りも上の人達ばっかだったしね……しかも人の身体をじろじろと見るスケベ爺ばっかりだった……う

やっぱり同年代と遊ぶのが大事よねと腕を組んで頷いていると

 

「琉璃さーん!」

 

横島君の声が聞こえてきたので顔を上げて驚いた……何故なら横島君はその背中に古びた机を背負っていたからだ。しかも横島君の隣には

 

「大丈夫?重くない?ごめんね?」

 

長い黒髪をしたセーラー服姿の少女の姿があった。机の九十九神って聞いてたけど……机を運ばないと来れないのね……

 

(良く2人で出かける約束が出来たわね……)

 

見た感じかなり古い机なので結構な重量があるはず……忘れていたのか?それとも知っていて出掛ける約束をしたのか?そこが気になる所ね……かなり重いはずの机を持っている横島君の表情を見ると、平気そうな顔をしている感じを見ると、やせ我慢しているのか、それとも本当に平気なのか?と考えていると

 

「お待たせしました!どうかしましたか?」

 

私が頭を抱えているのを見て、心配そうに尋ねてくる横島君。私は手を軽く振りながら

 

(予定は変更しないと駄目ね)

 

肩から提げている鞄の中の遊園地のチケットと映画のチケットは使えそうに無いわねと思いながら、私の顔を見て首を傾げている少女に

 

「初めまして、GS協会会長の神代瑠璃です。九十九妖怪の愛子ちゃんでよかったかしら?」

 

私がそう尋ねると目の前の少女はぺこりと頭を下げながら

 

「机妖怪の愛子です。よろしくお願いします琉璃さん」

 

礼儀正しい子みたいね……うんうん。おねーさんとしては割りと好感触ね……こう蛍ちゃんとか、横島君みたいにからかうと面白い子って気がする。大分緊張しているみたいだから、ちょっと冗談でも言って見ましょうか

 

「ごめんね?2人のデートに割り込んで……私お邪魔虫かしら?」

 

「いえいえ!?デートなんてそんな大層な物じゃなくてですね!?」

 

あら?予想よりも良い反応過ぎて私が笑い出すと、からかわれていると理解したのか

 

「からかったんですね!?琉璃さん酷いです!」

 

「あっははは!ごめんね?でも肩の力は抜けたでしょ?横島君も、愛子ちゃんも」

 

私がそう言うと確かにと呟く愛子ちゃんと横島君。このぐらいの年代って異性と出かけるって思うと必要以上に緊張しちゃうのよね……そんな状態で遊んでも面白くないので、まずはリラックスっと

 

「じゃ横島君って何か考えているのとかあるの?」

 

机を担いでいる横島君に何か予定はあるのか?と尋ねると横島君は、背負っていた机を自分の隣に降ろして

 

「えーと、駅前のデパートで小物市と洋服のセールがあるらしいんで、それを見に行くつもりですけど……」

 

小物ね。うん、まぁまぁの選択かな?初デートとかで何も考えて無いかな?とか思っていたので、ちゃんと考えていたみたいだ

 

「じゃ、横島君エスコートよろしく?」

 

「なんで疑問系なんすかね?」

 

いや……だってねえ?机を背負っているから私と愛子ちゃんより後ろを歩いているし……疑問形がつくのは仕方ないと思うんだけど……

 

「ごめんね?私の身体を運ばせちゃって……やっぱり私来なかった方が……」

 

愛子ちゃんが横島君に申し訳なさそうに言うと、横島君は馬鹿言うなと笑いながら言って

 

「愛子と琉璃さんみたいな美少女、美女と出掛ける事が出来るんやぞ?この位の苦労は全然問題ないって!ほら行こうぜ?」

 

にかっと人の良い笑顔で笑う横島君につられて笑ってしまう。こういう朗らかな所が横島君の良いところなのかもしれない……私は隣でどうすれば良いのか?と困ったような表情をしている愛子ちゃんの手を取って

 

「横島君が良いって言ってくれてくれているんだから行きましょ?愛子ちゃん」

 

「え?で、でも……」

 

困ったような顔をしている愛子ちゃん。本当に良い子ね……でも横島君の善意を無駄にするのは良くないわ

 

「俺の事は気にしないで良いから行こうぜ?琉璃さん、愛子の服とか見てやってください。俺直ぐに追いつきますんで」

 

横島君に繰り返し言われて愛子ちゃんはやっと頷いて

 

「じゃ、行くね?」

 

「おう!行った行った」

 

机を背負う為にしゃがみ込む横島君を見ながら、愛子ちゃんと一緒に駅前のデパートに歩き出すのだった……

 

 

 

 

 

てっきりおキヌちゃんか蛍ちゃんを連れてくると思っていたんだけど……私の隣で服を選んでいる女性……神代琉璃さんを見る。神秘的な紅い目と蒼い髪をした見たことの無い女性を連れてきた……琉璃さんと一緒だと、どうも私の方が劣っているような気がする……身長も琉璃さんの方が高いし、スタイルも良い……なんか一緒にいるのが落ち着かない……それにどうしても気になる事が1つ……

 

(……こんな人居たかなあ?)

 

私の記憶の中ではこんな人居なかったと思うんだけど……それにGS協会の会長さんっておじさんだったような……

 

「……子ちゃん?愛子ちゃん?」

 

「あっ……すいません。考え事をしてて」

 

どうも深く考え込んでいたようで、琉璃さんに声を掛けられて思考の海から引き上げられる。私だけじゃ判らないから、機会があれば蛍ちゃんとかに話を聞こう。琉璃さんはくすりと笑いながら

 

「その服で横島君を悩殺することでも考えていたのかしら?」

 

はい……悩殺?そう言われて自分の手元を見ると、胸元の大きく開いた少しサイズの小さい服を手にしていて……

 

「ち、違います!!」

 

そう怒鳴って服を元に戻す。考え事をしながら服を選んでいたから全然見てなかった……あんな服恥ずかしくて着れないわ……それに私の体格じゃ似合わないと思うし……

 

「えーそうかな?横島君。愛子ちゃんがこの服を着ているのみたくない?」

 

私が戻した服を手にとって、婦人服売り場の外で私の本体の机に立っている横島君の方に向ける。慌てて奪おうとするがそれよりも早く横島君は

 

「あー確かに見てみたいかもしれないっすね……愛子ずっとセーラー服だから、偶には違う服を着ているの見ると斬新で可愛いって思うと思うっす」

 

か、可愛い……横島君にそう言われた瞬間思わず両手を頬に当ててしまっていた。自分でも判る、顔が熱い……多分面白いくらい真っ赤になっているのだと思う。そもそも横島君に可愛いなんて言われたの……これが初めてかもしれない。美少女とかは良く言われたけど、可愛いなんて言われた事が無い

 

(か、買ってみようかなあ……で、でもお金ないしなぁ……)

 

そんなに高い服では無いけれど、今の私には所持金が無い。うう……机からもっと離れることが出来ればどこかでアルバイトとかするのに……買いたいけど、買えない……私が悩んでいると

 

「横島くーん?お買い上げだってー」

 

琉璃さんがその服を横島君に渡してしまう。横島君も横島君で

 

「了解っす。ほい、じゃ会計を済ませてくるなー」

 

迷う素振りも見せず、レジへと向かっていってしまう。

 

「ななな!!!なんでそんな事を言うんですかー!!」

 

私は思わず琉璃さんに掴みかかっていた。こうして一緒に出掛ける事が出来ただけでも嬉しかったのに横島君に何かを買ってもらうなんてとんでもない事だ。だけど琉璃さんは猫のような笑みを浮かべて

 

「元からそう言うつもりで横島君は愛子ちゃんを誘っているのよ?それを断るのはもっとどうかと思うわよ?」

 

「え?」

 

そう言われて私は冷静に考え直して、直ぐに琉璃さんが何を言いたいのか理解した。そうだ、横島君は私が学校から離れる事が出来ないのを知っているんだから、最初から出掛ける時の費用は全部自分で持つつもりだった?

 

「本当横島君がモテない理由が判らないわよね?表面上ばかり見すぎなんじゃないかしら?」

 

会計をするためにレジに並んでいる横島君を見ながら呟く琉璃さん。確かに琉璃さんの言っている事は判る、確かに横島君はスケベだけど、それを補って余りある魅力を兼ね備えていると思う。優しいし、妖怪とかに偏見も無いし……それに私は知っているけど、子供をとても大事にする良い父親になる事も知っている……ちらりと横島君を見つめている琉璃さんの眼を見ると出来の悪い弟を見つめているような優しい目をしていて……その目は美神さんの目に良く似ていて、私は思わず

 

「琉璃さんは横島君が……」

 

好きなんですか?と尋ねようとしたが、それよりも早く琉璃さんは私の口を人差し指で塞いで

 

「ふふ、どうかしら?まだなんとも言えないのよね。割と好感が持てるって言うのは認めるんだけどね」

 

小さく笑う琉璃さんを見ていると会計を終えた横島君が歩いてきて

 

「会計終わったぞ、ほら、愛子」

 

デパートの袋に入った服を差し出され、それを受け取ると胸が急に高鳴るのを感じた……うるさいくらいに響く自分の心音がうるさい、机妖怪なのに心臓の音がするんだとどこか冷静な部分の私が告げるが、今の私はそれ所ではなかった

 

(好きな人に貰うプレゼントってこんなに嬉しいんだ……)

 

横島君に初めて貰ったプレゼント……同じクラスの友達とかに貰った物とは全然違う……不思議そうな顔をしている横島君と私の今の心境が判っているのか、にやにやと笑っている琉璃さん。私はプレゼントの袋を胸に抱き締めながら

 

「ありがとう……横島君」

 

「おう!今度またそれ着ているところ見せてくれよ」

 

「う、うん……」

 

今度出掛けるときは机をなんとかして、横島君と並んで歩きたい……どうすれば良いのか判らないけど、なんとかしたいって思う

 

「良い雰囲気のところ悪いんだけど、おねーさん無視されると悲しいなあ?」

 

琉璃さんが業とらしくそう言う、でも良いタイミングで声を掛けてくれたと思う。このままだとお互いに気まずい感じのままだから

 

「いやいや!無視してたわけじゃ無いですからね!?」

 

「えー?本当かなあ?じゃあ横島君。おねーさんの服も選んでくれる?そうねー最近胸が苦しいと思ってたからブラジャーを……「さいならー!!!」

 

ぴゅーっと逃げていってしまう横島君。スケベだけど、変なところで初心なのも全然変わってないのねと苦笑しながら

 

「横島君をからかいましたね?」

 

「さー?どうかなー?」

 

にやにやと笑う琉璃さんは絶対横島君をからかっているのだと判る。大人っぽいと思ったら変な所で子供っぽい人で掴み所がない人だ

 

「それよりも横島君を探しに行きましょうか?」

 

「ですね、どこに行っちゃったんでしょうね?」

 

婦人服売り場の近くには居ない、ちゃんと私の机も運んでくれているみたいだから、見つけるのはそんなに難しくないと思う

 

「じゃ、横島君を見つけたら小物売り場を見に行って見ましょうか?なんかデパートのイベントみたいだし、良いものあるかも?」

 

そう笑う琉璃さんに頷き、私達は横島君を探してデパートの中をゆっくりと歩き出すのだった……なおその後直ぐ横島君を見つける事が出来て、そのままデパートが開催している小物の露天商を見て歩き、琉璃さんと一緒だったけど、私の初デートは大満足の結果で終わり。私は学校の前で横島君と琉璃さんと別れ

 

「今日は本当に楽しかったなあ」

 

横島君に買って貰った服とリボンやブローチなどの小物が入った袋を抱えて、私は自分の教室に向かって歩き出すのだった……今度は2人きりでデートしたいなあ。その為にはどうすれば良いんだろうか?と考えて思い浮かんだのはドクターカオスとマリアさんの姿

 

「ドクターカオスならなんとかしてくれるかなあ……」

 

黒魔術と錬金術を扱えるドクターカオスなら、私の身体もなんとかしてくれるかもしれない。横島君に頼んで今度ドクターカオスを紹介して貰おうと思うのだった……

 

 

 

 

 

愛子を学校まで送り届けて、琉璃さんを家の近くまで送ることにしたんだけど……

 

(ぐう……さすがに限界が……)

 

ずっと我慢してきたが、手足が震えているのが判る。愛子の机に琉璃さんと愛子の荷物……除霊の道具よりかは軽いのだが、琉璃さんが悪戯なのか、それとも無意識なのか、下着がチラチラと視界の隅に入るように渡されて、集中出来ず。普段よりも軽い荷物の筈なのに、俺は普段以上に疲れていた。そしてなによりも気になっているのが、琉璃さんの言っていた俺の霊力を覚醒させる方法についてなにも話してくれない事が、今一番気になっていた

 

「ん、ここまでで良いわ。ありがとね?」

 

そう言って立ち止まる琉璃さん。ふっと顔を上げるとそこには何も無い道が広がっているだけで

 

「えーと大丈夫っすか?」

 

結構な量があるから家まで送ろうと思っていたんすけどね?と琉璃さんに尋ねると

 

「送り狼になられても困るし、それにほら、おねーさんもやっぱり女の子だから、自分の家とか部屋に男の子を招待するのは恥ずかしいのよ?」

 

「す、すいません!」

 

くうー俺の馬鹿。蛍とかおキヌちゃんに女性に優しいのは良いけど、状況とかを良く考えろって言われてるのに……

 

「ま、横島君がおねーさんとお付き合いするって言うなら考えてあげても良いけど♪」

 

「えう?」

 

からかわれているって判っているのに緊張してしまう。少しだけ屈んで見上げるような感じで俺を見ている琉璃さんに赤面していると

 

「あは♪本当横島君って可愛いわね~♪」

 

……一瞬でもドキドキした自分がなんか恥ずかしい……これが琉璃さんの性格だと判ってるのに……俺が小さく溜息を吐いていると琉璃さんは

 

「じゃーそろそろ教えてあげましょうかねー、横島君の霊力を覚醒させる方法」

 

思わず顔を上げて琉璃さんを見ると、琉璃さんは穏やかに笑いながら

 

「今日は楽しかった?」

 

「え?ええ……楽しかったです」

 

霊力の覚醒と今日の買い物に何の関係があるのか?と思いながら頷く、琉璃さんはうんうんと頷きながら笑い

 

「横島君に足りないのは気持ちの余裕よ。焦り・不安は霊力の覚醒には邪魔になるわ、焦りがミスを呼んで、ミスが不安を呼ぶ、今の横島君はその悪循環に完全に捕まっているのよ」

 

それに蛍ちゃんとか美神さんとかが近くに居るから余計に焦る気持ちも判るけどね。と笑う琉璃さん

 

「正直に言うけど、私にだって横島君の霊力が何時覚醒するなんか判らないわ。こういうのは個人差が大きいからね、特に横島君みたいな稀有な才能を持っているGSなら余計その時期なんて判らない。でもね、がむしゃらに訓練していたら才能が目覚める前に潰れてしまうわ。だから今日は遊びに連れて行ったのよ?」

 

えーとじゃあ俺の霊力の覚醒の邪魔をしていたのは俺自身?琉璃さんに言われて初めて気がついた可能性……昨日シルフィーちゃんにも言われたけど、そんなに俺は焦っていたのか……

 

「でも大丈夫。おねーさんが保障してあげるわ、きっと君は良いGSになれる。だからいまは地道に頑張りなさい、焦らずに、不安にならずにね。蛍ちゃんや美神さんって言う良い師匠が居るんだからね、自分で無理な修行をしないこと」

 

「は、うっす。判りました」

 

判れば良いのよ?と笑う琉璃さんは俺から背を向けて、足元の荷物を軽々と言う感じで持ち上げる。良く見るとその身体にうっすらと光る何かが見える。もしかして霊力で身体能力を強化している?俺の視線に気づいたのか琉璃さんはいやんと言って離れて

 

「もう、何処を見ているのよ?若いのは判るけど、女性をそんなに凝視しちゃ駄目よ」

 

「ち、違います!!!」

 

そんな事をしているつもりなんかなかったのに……慌てたせいか、今は琉璃さんを覆っている光も見えなくなってしまった……

 

「ふふ♪冗談よ。じゃあね、横島君。今日は楽しかったわ、今度は2人で遊びに行きましょう?」

 

ウィンクして歩いていく琉璃さんを見ながら、財布を確認する。まだ少し残ってるな

 

「帰りにチビとかモグラちゃんにもお土産買っていこう」

 

明日も出かける用事があるからチビやモグラちゃんと一緒に居てあげることが出来ないから、何かお土産を買って行ってあげようと思い、俺は商店街へと足を向け、琉璃さんに言われた事を思い返していた

 

(ゆっくり頑張ろう)

 

琉璃さんやシルフィーちゃんが気付いているならきっと蛍や美神さんも気付いているはず、俺だけ焦って空回りしてなんか馬鹿みたいだ、いや、実際馬鹿だけど周りの皆が心配してくれているのにそれに気付かないようでは駄目だ。琉璃さんとシルフィーちゃんには大事なことを教えてもらったなあと思いながら、チビ達が喜びそうな物を探して、ゆっくりと商店街の中を歩くのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その5へ続く

 

 




デートの話って難しいですね。上手くかけたか、不安で一杯です。そして琉璃さんのキャラが良いように動き始めてくれました、自分では結構良いキャラしていると思うのですが、どうでしょうか?

次回はシルフィーの話になりますが、さすがに今回はシズクとかおキヌちゃんがついてくる感じにしたいと思っています。それとシルフィーの属性に面白い物をつけようと思っているので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はシルフィーの話になりますが、前回と違って蛍とかおキヌちゃんを絡めて以降と思っているので、ちょっとギャグ要素を強くなるかな?と思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その5

 

日曜日の朝。蛍とおキヌちゃんとシズクと一緒に朝食を食べながら

 

「今日ちょっと出かけるな?夕方には戻るよ」

 

さりげなく流れの中で呟く、俺の後ろでボールを抱えていたチビとモグラちゃんがガボーン!?って感じで落ち込んでいるけど、今度たくさん遊んでやるからなと心の中で呟く

 

「そう、判ったわ。暗くなる前に帰るのよ」

 

【あんまり無駄遣いをしたら駄目ですよ】

 

「……今日は金は無いぞ」

 

お?案外普通の反応。まぁ蛍とかも良く1人で出かけているみたいだし、俺が1人で出かけても問題ないってことかと無駄に緊張して損したなと思っていると

 

「コーン!コーン!!」

 

「なんだ?どうしたんだ?タマモ」

 

タマモが何か焦った様子で俺の膝の上に乗って鳴いている。タマモのこんな反応を見たの初めてだ、どうしたのだろうか?と首を傾げていると

 

「タマモー?大人しくしてましょうね」

 

「クウ!?」

 

蛍に睨まれて部屋の隅へと下がっていく。今の眼光凄まじかったな……自分に向けられて無いと判っていても恐ろしかったぞ……俺は冷や汗を流しながら朝食を食べ終えて

 

「んじゃ行ってくるなー」

 

リビングの椅子に掛けてあったGジャンを羽織り、シルフィーちゃんと待ち合わせした公園に向かって歩き出したのだった……

 

 

 

「さてと。じゃあ私達も行きましょうか」

 

横島が出掛けてから5分ほど経った所で蛍がワライながら言う。笑いではなくワラッテいるのは昨日の愛子と琉璃とのデートしていたのをシズクに聞き。そして今日もまたシルフィーと出掛けることになっている横島への怒り……ではなく

 

【ぽっと出には渡しません!】

 

自分達から横島を奪おうとする琉璃やシルフィーに対する怒りだった。横島は女好きと言うことを知っているので、下手に怒って別の人を好きになられても困るので、そこの所に対しては蛍もおキヌちゃんも寛容さがあった。勿論嫉妬はするけれどもだ

 

「……横島を確認した。相手はあの吸血鬼の女」

 

目を閉じていたシズクがゆっくりと目を開きながら呟く。シズクはミズチなので水を媒介にして全てを見ていた、横島がシルフィーと出かけている姿もちゃんと見ていたのだ

 

「チビ、モグラちゃん来る?」

 

「みむ♪」

 

「うきゅ♪」

 

横島を探しに行くのだと判ったチビとモグラちゃんが嬉しそうに返事を返す、了承を得た蛍はチビとモグラちゃんを抱き抱えた蛍は帽子とサングラスを身につけるという極めて古い変装をして

 

「さてとあの吸血鬼どうしてくれようか?」

 

【私が侵入してにんにくを食べさせましょうか?】

 

「……水で流す。あいつは吸血鬼としての面が強いから泳げない」

 

「【それだ!】」

 

どす黒い笑みを浮かべて家を出ていく蛍達とチビとモグラちゃんを見送ったタマモは

 

「コン」

 

どうしようもないやつらと言う感じで呟き、いつものソファーの上で丸くなり目を閉じたのだった……

 

 

 

 

 

「まだかなぁ……」

 

私は公園のベンチに腰掛けて手鏡で何度も何度も自分の髪がおかしくないか?服が変じゃ無いか?を確認していた。服装だけでは仕方なしに修道服を改造した服だけど……これなら普通に歩いていてもおかしくないはず……

 

(横島君はどうしても気になるんだよなあ……)

 

どう説明すれば良いのか判らないけど、横島君の近くは暖かくて居心地が良い……これも妖使いの才能なのかな?でもそれで行くと私はチビとタマモと同じって事に……

 

「おーい!シルフィーちゃーん」

 

横島君の声が聞こえて顔を上げると横島君が走ってくるのが見える。もうこんなくだらない事を考えてないで、今は横島君と一緒に出掛けることが出来ることだけ考えよう

 

「横島くーん!待ってたよー♪」

 

手を振りながら横島君の元へと走る。人生初めてのデートだ、嫌な事を考え無いで楽しい事だけを考える。ネガティブになっても碌な事は無い、やはりポジティブ思考が大事だ

 

「待った?」

 

「全然待ってないよ♪ほら、早く行こう。この日をずっと楽しみにしてたんだから時間が惜しいからね!」

 

もしかしたらチビとかタマモとかもついてくるかもしれないと思っていたけど、横島君だけって言うのは凄く嬉しい。私は横島君の手を握り、公園を出て街中へと歩き出すのだった……

 

「そう言えば蛍さんとかは?今日横島君が出掛けるって知らないの?」

 

無駄遣いをするわけにも行かないのでウィンドウショッピングをしながら横島君に尋ねる。蛍さんにしてもおキヌさんにしても横島君に近づく女性を相当敵視している。絶対邪魔されると思っていたのに、その妨害が無いことに若干の不安を感じながら尋ねると

 

「ん?蛍もおキヌちゃんも知ってるぞ?ちゃんと話をしたからな」

 

楽しそうに笑いながらどうかしたのか?と尋ねてくる横島君。なんでもないよと返事を返しながら、私は内心頭を抱えていた。うーむ、出掛ける事を知られているとなると……

 

(間違いなく着いて来ているよね……はー仕方ないかあ……)

 

少しだけ身体の中に魔力を通し、私の中の吸血鬼の面を少しだけ表に出して周囲の霊力を探る

 

(うわーお……ビンゴぉ……)

 

蛍さんやおキヌさんの霊力は独特だし、それに水神ミズチの霊力はやはり膨大だ。探し始めて数秒で蛍さん達の居る方角とを特定できた

 

(全く、折角のデートなのに台無しだよ)

 

どうして着いて来るかな……横島君のプライベートにそこまで踏み込んで良いと思っているのかな?

 

「シルフィーちゃん?本当にどうかした?それともやっぱ俺と出掛けるのつまらない?」

 

しまった!デートの最中に考え事をするなんて……もしかしたら私が探すのを想定して、わざと霊力を隠さなかったのかも……そう考えると罠に掛かった自分が間抜けに思えてくる

 

「ううん!そうじゃなくてそろそろお昼だから何処で食べようかなあってね。折角街に出てきたんだからパスタとかピザを食べたいなあって思ってね」

 

唐巣先生の所じゃああんまりピザとかパスタとか食べれないんだ。唐巣先生和食の方が好きだからっと冗談を交えて言うと横島君は顎の下で手を組んで

 

「そういやあ、最近愛子が駅前に美味しいパスタとピザを出す店があるとかどうとか言ってたな……」

 

あ、愛子?また知らない女性の名前だ。本当に横島君はモテるんだなあと実感する。やっぱり横島君って競争率高いよね……と若干落ち込みながら

 

「それじゃあそこに行って見ようか?」

 

日本のピザやパスタがどこまで本場に近づいているか気になるし、久しぶりに食べることが出来そうだから行ってみようと横島君に言うと横島君が笑い返してくれながら

 

「おう!俺もあんまりピザとか食べないけど、どんなのかは気になるしな」

 

そう笑う横島君の腕を抱き抱える。さっきまでは恥ずかしいと思っていたけど、見られているとわかっているならそれを利用して攻撃してやれと思ったのだ。突然腕を抱き抱えられて赤面している横島君に

 

「さ、行こ♪ご飯食べたら今度は何を見に行こうか?」

 

「あうあう……」

 

腕を抱き抱えられて完全に思考が停止している横島君の姿に小さく笑って、私は駅前に向かって歩き出すのだった……

 

 

 

 

私達は横島に見つからないように距離を取ってシルフィーさんを警戒していたんだけど……少しばかり吸血鬼の索敵能力を侮っていた、シルフィーさんは私達に気付きそして邪魔出来ないのを判っているから見せびらかすように横島の腕を抱き抱えた。

 

ブシュウッ!!!

 

「……冷たい。それに炭酸は吸収しにくいから止めてくれ」

 

思わず手にしていたコーラの缶を握りつぶしてしまい、中身が全部シズクに掛かってしまう。文句を言いながらコーラを吸収しているシズクに

 

「ごめんなさい、少しばかり頭の血が上っちゃって」

 

【普通はそれでもジュースの缶は握り潰せないと思うんですけど……】

 

おキヌさんがぼそりと呟くけど自分だって周囲の物をポルターガイストで持ち上げているし、シズクだって周囲のペットボトルとかの水を炸裂させているんだから私のことは言えないと思う

 

「うきゅ?」

 

「みむ」

 

横島を見つめているモグラちゃんの面倒を見ているチビ。時々横島の方に這って行こうとするのを止めてくれているチビ。どうも私達が思っている以上にチビは成長していたようだ

 

(それにしてもシルフィーさんって積極的ね……)

 

こうして見て居るだけでも判るけど、かなり積極的に横島にアプローチを掛けている。ぐいぐいと押されて横島がうろたえているのが判る。私もあれくらい積極的になるべきなのだろうか?それともあれは外人特有の押しの強さなのだろうか……今後の横島に対するアプローチを考えていると

 

「うわあ!?なん、なんだぁ!?急に椅子がぁ!?」

 

「こっちは料理のお皿が!?」

 

あちこちから聞こえてくる悲鳴に思考の海から引き上げられて顔を上げると

 

【ふ、ふふふふふ……あははは……すっごく……むかつきます】

 

ブラックモード全開のおキヌさんが宙に浮いていた。一体何がと思い横島の方に視線を向けると、シルフィーさんが横島にあーんをしていて……

 

「潰そう、あの吸血鬼。白樺の杭を用意しない?」

 

あの吸血鬼は生かしておく価値がないと判断した。もう消したほうが良いんじゃないかな?うん、元々居なかったんだし、消してしまっても問題ないよね?

 

「……氷の杭なら直ぐ用意出来るけど……?」

 

氷の杭か……白樺の杭ほどじゃないけど、効果はあるかしら?吸血鬼の生命力って半端じゃ無いから、もしかすると再生するかもしれないし……

 

【また移動するみたいですよ?】

 

どうやら食事が終わったようでまた腕を組んで歩き始める横島とシルフィーさん。その時わずかばかりにシルフィーさんから魔力が零れているのに気づく

 

「……なにか嫌な予感がする。蛍、水のペットボトルを6Lほど買ってくれ」

 

シズクもそれに気付いたのか、ペットボトルで水を買ってくれと言う。私もどうせ買って渡すつもりだったので頷きながらシルフィーさんに視線を向ける

 

(あっちは街外れ……すっごい嫌な予感がするわ)

 

人が居ない所に横島を連れて行こうとしている、これは絶対まずいことになる……

 

「チビ、モグラちゃん。先に行って追いかけて?」

 

机の上でリンゴを食べていた2匹にそう頼むと

 

「みむう!」

 

「うきゅう!」

 

チビがモグラちゃんの背中に乗ると、モグラちゃんは凄まじい勢いで走り出す。なんと言うか世界の中で一番ファンシーな騎乗兵を見たような気がする……

 

【急ぎましょうか。凄く嫌な予感がするので】

 

おキヌさんの言葉に頷き、近くのコンビニで2Lのペットボトルを3本買って、モグラちゃんの竜気とチビの魔力を辿って私達は街の中を走り出すのだった……

 

なおモグラちゃんとチビはと言うと

 

「み、むうううう!!!」

 

「うきゅう……」

 

モグラちゃんが渡れない所をチビが抱えて一生懸命飛んでいたのだが、どうやら果物を食べ過ぎたようで、相当重くなっていたモグラちゃんを苦悶の表情で運んでいたりする……

 

 

 

 

 

最後に海が見たいと言うので、シルフィーちゃんと海が見える公園にやってきた。夕暮れ時だから、オレンジ色に染まっている海が美しい

 

「あー楽しかったねー」

 

シルフィーちゃんがにこりと笑いながらそう言う。殆どウィンドウショッピングだけで特に何を買ったわけでもないし、映画や遊園地に行った訳でも無いのに楽しかったと言って貰えて一安心していると

 

(あれえ?)

 

急に周囲の温度が下がったような気がする。そう言えばそろそろ夜か……

 

「暗くなると危ないからそろそろ「暗いと危ない?もう、変な事を言うなあ私は吸血鬼なんだから夜の方が調子が良いんだよ?」

 

ニコニコと笑うシルフィーさんの目が紅く輝いている。それに鋭い犬歯も口から見えている

 

「今日は本当に楽しかったよ。横島君……かなり長い時を生きてるけど、こんなに楽しくて、面白いと思ったのは初めてだよ」

 

シルフィーちゃんの口調が変わっているのにこの時気付いた。それに身体が震えるほど寒さを感じている……これもしかしてヤヴァイ?逃げようと思ってるのに身体が動かないんですが……

 

「なにをするつもりなんでしょう?」

 

思わず敬語で尋ねるとシルフィーちゃんは犬歯を俺に見せ付けるようにして笑いながら

 

「横島君ってすっごい良い匂いがするんだ」

 

良い匂い?おかしいな香水的な何かはつけてないはずなんだけど……

 

「香水とかじゃ無いよ。なんて言うのかなあ……魔族とか、そう言うのを惹きつける香り?んー魔族とかじゃなくて天使とか妖怪にも効くかも知れないけど、居心地の良い場所なんだよ」

 

……もしかして妖使いの才能が変な所で発現した?え?つうか匂いってなに?なんでそんな獲物を見るような眼をしてるのでしょうか?

 

「だからきっと横島君の血も凄く美味しいと思う。だから私に横島君の血を頂戴。10Lほど」

 

「死ぬわぁ!!!」

 

10Lも血を取られたら間違いなく死ぬわ!!そもそも10Lも人間の中にあるのか!?1Lでもヤバイんだよな!確か!!!

 

「まぁ嫌だといっても貰うけどね♪いただきまーす♪」

 

「ふぁああああああ!?」

 

がばっと口をあけて俺の首筋に噛み付こうとして来るシルフィーちゃん。あまりの恐怖に絶叫した瞬間

 

「みむう!」

 

紫電を纏ったチビが空中からモグラちゃんを抱えて降下して来る

 

「うきゅーッ!」

 

その勢いでモグラちゃんを爆弾のように投下する。そしてモグラちゃんは空中で爪を出して回転しながら振るった

 

「目がぁ目がああ!!!」

 

どうやらモグラちゃんの一撃は目を抉ったようだ、業となのか?それとも事故なのか?そこが重要だ

 

「くっ!目が見えない程度で諦める「横島に何をするつもりかしら?」あ。あはははは……」

 

蛍が俺の前に立ってそう呟く、おおう……今の蛍の背後に後光が見える気がする。と言うかなんでここに居るんだろ?

 

「チビとモグラちゃんが飛び出していったから追いかけてきたの」

 

お、俺の危機を感じ取って助けに来てくれのか!モグラちゃんとチビ!明日は奮発してメロンと生ハムだ!!!シズクに交渉してみよう

 

「くっ!ここは不利!ならば逃げる!月の隠れた夜道は気をつけると良い!私は横島君の【はい、ドーン!】「……沈め」ああああああーーーーッ!!お、溺れる!わ、私泳げない!いやああああああ!!!!」

 

おキヌちゃんの放った大量のポルターガイストとシズクの水キャノンで押し流されていくシルフィーちゃん。その姿が見えなくなった所でようやく体の自由が戻り

 

「うわああああん!!!怖かったよーおおおお!!!」

 

血を吸われて殺されるかもしれないと言う恐怖を感じた俺は号泣しながら蛍に抱きつくのだった……

 

「よしよし、もう大丈夫だからね。それと今後はシルフィーさんと一緒に出かけたら駄目よ?」

 

「判った……」

 

あんな怖い目に合うなら、いくら美少女と出掛ける事が出来ると言ってもお断りだ。今後はシルフィーちゃんとはあんまり係わり合いを持たないようにしよう俺は心に誓うのだった……

 

【じゃあ帰りましょう?横島さん】

 

「……時間も遅いから、どこかで何かを食べていくか?」

 

優しく声を掛けてくれるおキヌちゃんとシズクに頷き、足元で鳴いているチビとモグラちゃんを抱き抱え、俺は蛍達に連れられて、夕食を食べる店を探して歩き出したのだった……

 

「……コ……ン(お腹減った……)」

 

そして家で留守番をしていたタマモが空腹で倒れており、それを見た俺は更に絶叫することになるのだった……

 

 

 

 

そして海へと流されたシルフィーはと言うと……東京湾の三角テトラに引っかかっていた……そしてその上空をまるで意思を持つかのように飛ぶ黒い霧……微弱な魔力を放つそれは吸血鬼の移動手段でもあるバンパイアミストだ……黒い霧はゆっくりと堤防の近くへと向かって行き……

 

「ふう……やっと着いた」

 

黒い霧が突然若い青年へと姿を変える、ピートだ。ブラドーの体調もやっと回復したので、日本にこうして戻ってきたのだ。バンパイヤミストで来たのは、もちろん旅費を浮かすためだ。不法入国?しっかりとGS協会に連絡を入れているのでこれも何の問題も無い。さてと唐巣先生の所にでもと呟き歩き出したピートだが、視界の隅に闇夜でも輝く金髪を見て

 

「し、シルフィー!?どうしたんだ!?」

 

慌てて三角テトラに駆け寄り、その隙間に引っかかっていた双子の妹のシルフィーを陸へと引き上げる

 

「わ、私は諦めない……ぜ、絶対に……横島君の……血を……がくっ」

 

そう言い残し気絶した自分の妹を見て、ピートは深く溜息を吐き

 

「横島さんと蛍さんに後日謝罪に伺わなくてはなりませんね」

 

自分の妹が横島達に迷惑をかけたことに気付き、暗い表情でそう呟き、気絶しているシルフィーを背負って唐巣神父の教会へと歩き出したのだった……

 

なおシルフィーはこの宣言の通り、横島の血を吸うことを決して諦めず、ストーキングや、ピートと違い、邪な目的で高校へと入学し、横島を恐怖のどん底に陥れることになるのだが、当然それを知る者は今は居ないのだった……

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その6へ続く

 

 




次回でリポート18は終わりになり、また長編の戦闘メインの話に入っていきます。なんのリポートになるかはお楽しみで
次回はリポート19へ繋ぐ話にしようと思いますので少し短い話になるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。



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その6

どうも混沌の魔法使いです、今回でリポート18は終わりで、次回からは戦闘メインのリポート19に入ります。これも少し長くなるかもしれないですが、どうかよろしくお願いします。そして今回は横島達以外の視点の話になります。今後の話に大きく関わってくる話になります。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その6

 

永遠に続く夢が終わった。永遠なんて物は存在しないと言うのは判っているが、私にはあの夢は永遠に思えた……

 

『長い夢を見終わった気分はどうだい?』

 

にやにやと笑いながら尋ねてくる私……いや……

 

「最悪とは言えないね……でも良い気分とは言えないよ。未来の私」

 

私の返答を聞いた未来の私は満足げに笑いながら立ち上がり

 

『ただの人間が神界・魔界・人間界を救い、そして得た物は恋人の死……なんとも無常じゃ無いか。そして愛した女は自分

の子供。英雄には悲劇がつきものだ。だがただの人間がどうしてこんな悲劇が訪れる?』

 

ああ。そうだ、これには私も納得が行かない。確かに幸せだったかもしれない、だがそれはあの馬鹿が求めたものでは無い……だからこそ

 

「逆行とは良くやるな、そんなに気に入ったのか?あの横島が」

 

未来の私に尋ねると嬉しそうに笑いながら

 

『だって私はあいつのせいで死んだけど、あいつのおかげで生き返った。神族と魔族に掛け合って居場所をくれたのもあいつだ。憎みはしたが、それでも私はあいつを……横島忠夫を愛している』

 

この私が、魔族のこのメドーサ様が人間を愛しているなんていうなんてね……未来を夢で見た。だがそれは見ただけだ、未来の私がどんな思いを抱いたのか?そこまでは私には判らない

 

『さて、今の私には選択肢がある』

 

指を2本立てた未来の私がしっかりと私を見据えて

 

『1つは私を受け入れ。そして未来を変える。そしてもう1つは私を拒絶しあの未来へ続くかもしれない世界を生きるか?』

 

お前は如何する?と尋ねてくる未来の私。でも尋ねられるまでも無い、私の答えはすでに決まっていたのだから……あのどこまでも優しいあの馬鹿を敵としてじゃ無い、今度は味方として助けてやるってね……

 

「うっ……」

 

ゆっくりと目を開けると激しい頭痛と共に知らない数々の出来事が私の頭の中に流れ込んでくる……

 

「……やることが多すぎるね」

 

その痛みは一瞬で治まるが、その代わりにこれから私がやらなければならない数々の出来事に頭が痛くなる

 

「まずはアシュ様に記憶を取り戻した報告……それと……勘九郎達も何とかしてやら無いと……」

 

雪之丞はまぁなんとかなると思う。あいつは只のバトルジャンキーだから、勘九朗も問題ない。あいつは強くなりたいってだけで私についてきた奴だ、多少本当の話をしなければならないだろうけど……私についてくるだろう。より強くなるために……そして陰念は……

 

「まぁどうでも良いか」

 

GS試験の後は気を静めるために坊主の修行をしていたらしいし、横島には魔装術の暴走例と戦わせて経験を積ませたいって言うのもあるから、倒された後に完全に魔族にならない程度の応急処置をしてやれば良いだろう

 

「さてと……じゃあ行くか……」

 

早くアシュ様に記憶を取り戻したと報告して指示を仰がないとね。これからどうすれば良いのか?その方向性は決まっているけど、アシュ様の作戦を妨害したら意味が無い。私はそんな事を考えながらアシュ様の宮殿を後にし人間界へと向かうのだった……

 

 

 

 

 

メドーサが記憶を取り戻し、アシュタロスの元へ向かっている頃。アシュタロスはと言うと……

 

「「ふっははっはー!で、出来たー!出来たぞーッ!!!」」

 

ドクターカオスと並んで楽しそうに高笑いしていた。2人の視線の先には玩具のような装置がついたベルト

 

「変神ベルト完成じゃな!アシュ!」

 

「ええ、結構難しかったですね!ドクターカオス」

 

かなりの日数徹夜していたのでお互いにハイになりながら笑い合う。おキヌ君や蛍から聞いた話を元に横島君に今必要な兵装を……それがこのベルトだ

 

「神族の韋駄天との融合。これが坊主の霊力の覚醒の始まりじゃ、そして融合度が高かったからこそ坊主の霊力の上限が大幅に上昇した筈じゃ」

 

ドクターカオスの言葉に頷く、横島君の潜在霊力は高いが、使える霊力は少ない。それは己の身体を護ろうとする人間として当たり前の防衛本能。だがここで韋駄天で融合したことにより、一時的にだが横島君の身体は人間の身体と言う枷が外れ、そして身体を癒す為に韋駄天の神通力を取り込んだ。これにより横島君の霊力の上限が上がり、後に心眼の竜気を取り込むことで、更に霊力の上限が上がった。そして奇跡の体現「文殊」へと至った

 

「全てにおいて横島君は恵まれていたのだろう。いや、宇宙意思に好かれていたのか?」

 

これだけの幸運が続くという事はありえない、横島君は私と言う存在に対する抑止力に宇宙意思に選ばれた……選ばれてしまったのかもしれない

 

「英雄の器か。宇宙意思も厄介なことをしてくれるわ」

 

忌々しそうに眉を顰めるドクターカオス。永い時を生きているのだからドクターカオスも宇宙意思に選ばれてしまった英雄を見てきたのかもしれない。その先にある悲劇も含めて……

 

「まぁ私達に出来るのはその悲劇を回避するだけの力を横島君につけさせる事ですからね」

 

「うむ。これでより韋駄天との融合係数があがるじゃろうな。使いこなせるかどうかは小僧次第じゃが」

 

このベルトは韋駄天の神通力を横島君の霊力と似た波長に整え、横島君の身体が取り込みやすいようにするため物だ。そして

 

「神族って意外と子供っぽいんですよね。ドクターカオス」

 

韋駄天八兵衛は英雄が好きだ、それも子供っぽい人間界のTVで出て来る様な者を特に好んでいる。だからそれを真似したベルトを作ったのだ、ちゃんとスーツの転送機能も準備してあるから本当に変身できるだろう

 

「ひまなんじゃろ?神界も」

 

「魔界も似たようなものですかねえ」

 

永い時を生きるというのは人間が羨むが、実際はそんなに良いものでは無い。なんせ暇を持て余すのだから、斉天大聖ことハヌマンがゲームを好むのも同じ理由かもしれない

 

「まぁ後は韋駄天八兵衛が来るタイミングをしっかり計ることじゃ、ワシの方じゃ接触は出来んからの、後は任せるぞ。家においてきたマリアとテレサが心配なんでの」

 

荷物を纏めているドクターカオス。マリア君だけなら連れてくることも出来たが、まだ精神的に幼いテレサ君を連れてきて、余計なことを覚えられては困ると言うドクターカオスの配慮で2人は家に残っている

 

「また今度よろしくお願いします」

 

「うむ。ではの」

 

背を向けて去っていくドクターカオス。私は目の前に置かれたベルトを見つめて

 

(本当は横島君に文珠なんて目覚めて欲しくない)

 

人並み程度の霊能力に目覚めて、人並み程度のGSになってくれれば私としてはそれが一番嬉しい。だが私以外のソロモンの魔神。しかもそれが複数動いている可能性が出てきてしまった以上人間側に「文珠使い」の存在は必要不可欠になる。

 

「……許してくれ、蛍。横島君」

 

仮に動いている魔神が1柱だけならば……私だけでも何とかなったかもしれない、だけど情報ではソロモンの魔神に加え、東洋やインドに関わる魔神までも行動している可能性があると聞いてしまった以上。横島君には前の歴史以上の力を身につけてもらわなくてはいけない……あんな悲劇が起きないようにと行動していたが、あの悲劇を上回る惨劇が起きる可能性が高い……本当に魔界側の情勢を知ることが出来る部下が必要だ……どうすればいいのか?と頭を抱えながら自分の部屋に戻ると

 

「メドーサ?体調はもう良いのかい?」

 

私の宮殿で休んでいるはずのメドーサがソファーに座って待っていたので体調はどうだ?と尋ねるとメドーサは私の前で片膝立ちになり

 

「アシュ様。大変お久しぶりです、こうしてまた出会うことが出来た事を大変喜ばしく思います」

 

まさか……私が驚いてメドーサの顔を見るとメドーサは悪戯っぽく笑いながら

 

「私は全てを思い出しました。これからはアシュ様の本当の願いを叶える為にご協力いたします」

 

このタイミングで……欲しいと待ち望んでいた手駒を手にすることが出来た

 

「助かる!メドーサ早速で悪いが魔界に飛んでくれ!魔界側の情勢を調べてきて欲しい!」

 

どの魔神が動いているのか、その手がかりだけでも良いとメドーサに頼むと

 

「判りました。早速行ってまいります」

 

二つ返事で魔界へと飛んでくれたメドーサ。これでほんの少しだけ光明が見えてきた……後はこの周囲に神通力に反応する結界を用意して、韋駄天が来たら直ぐに交渉出来るように準備をするだけだ

 

「頼んだよ。使い魔の諸君」

 

「「「キイ!」」」

 

蝙蝠の使い魔に私が作った結界を発生させる石を持たせ、街へと放つ。後は使い魔の皆が上手くやってくれるだろう……そう思った瞬間魔界へと続くゲートが開く、直接こんなことが出来るのは私と同じ魔神級だけだ。私が冷や汗を流していると

 

「ネビロスの爺さんに聞いてきたぜ。アシュタロス、久しぶりだな」

 

ファーの付いたジャケットを着込んだ若い青年がにやりと笑いながら私の前に立つ。こ、この魔力は……

 

「もしかして……ビュレトか?」

 

「おう。ビュレト様だ、お前に頼みがあって来てやったぜ」

 

にやっと笑うビュレトの顔を見て私は思わず頭を抱えた。その浮かべた笑みを見て絶対にろくな事にならないと直感で感じ取ってしまったから……

 

 

 

 

そしてアシュタロスが感じ取った嫌な予感。それはビュレトが人間界に来た理由に関係していた……ビュレトは知人の話で聞いていたのだ、ガープ達が最近神魔を誘拐して回っていると……そしてその絡みで必ず人間界に来ると確信していたからだ、そしてビュレトが人間界に訪れた頃神界では……

 

カツカツっと軽快な音を立てて歩く音が後ろから響く、全力で走っているのにまるで引き離せないことに焦りだけが募っていく……

 

「そんなに逃げなくても良いじゃ無いか、私は君と話をしたいだけなのだよ!韋駄天よ!!」

 

背後から聞こえてくる声に返事を返さず全力で走り続ける。視界に収まるだけでも駄目だ、それだけでも自分の動きが完全に束縛されることを逃げている韋駄天……いや九兵衛は悟っていた

 

(うかつだった!最近の神族と魔族の失踪にはあいつらが関わっていたのか!)

 

なんとしてもこの事を伝えなければ……そうで無ければ

 

(あいつに顔向け出来ん!!)

 

友人であり、好敵手でもある八兵衛に今は動かないほうがいいと言われてもなお、神界の連絡役としての使命を果たす為に仕事の依頼を受け、そして待っていたのは本来居るはずの無い魔神が3柱……動いていたと聞いていた魔神に加えてもう1柱が其処に存在していたのだ。ならば伝えなければならない、見た全てを、そしてあいつらが何をしようとしているのかを……

 

「そこまでだ。小ざかしい鼠」

 

「な……がぐああ!?」

 

突如目の前に現れた巨大な大岩……いや魔神の拳が俺を穿つ。そのあまりの激痛に上半身が消し飛んだかと思った

 

「しま……「そこまでと言ったはずだ」ぐあああああああ!?」

 

なんとか体勢を立て直し再び走り出そうとするが、それよりも早く俺の身体を踏みつける巨大な三面六臂の魔神……

 

「ぐううう!何故貴様がここに!アスラアア!!!」

 

東洋に関係する神族ならば知っている。この魔神を……デタント成立と共に幽閉されたはずの魔神アスラを

 

「答える理由は無い」

 

やはり取り付く島も無い、だがそれでも俺は諦めない

 

「外道焼身霊波光線ーーーーッ!!!」

 

神通力を暴走させ、爆発を起こしアスラを吹き飛ばそうとするが

 

「……猪口才な真似を……よほど死にたいようだなぁ!」

 

やはり力の差は歴然で吹き飛ばす所か、軽いダメージを与えるのがやっとだった

 

「ぐああああ!?くっふはははは!殺すなら殺すが良い!!!覚悟は決めたさッ!!!だが俺には判っている!貴様達の思い通りになる事など何も無い!!!所詮は今の神魔の世界に馴染めなかった只の敗北者なのだからな!!」

 

出来ることならば八兵衛と決着を付けたかったが、どうも俺はここで死ぬらしい

 

「なるほどならば死ねえ!!!「待て。誰が殺せと言った。貴重な実験体を勝手に処分するな」ガープ」

 

ゆっくりと姿を見せた魔神に眉を顰める。ここでアスラを挑発して殺されるつもりだったというのに!

 

「流石鬼族でありながら神族に至った者よ。その誇り高き魂賞賛に値する」

 

「黙れよ。戦争……がっぐうううう!?」

 

アスラが指先に力を込めたことにより身体が締め上げられ苦悶の悲鳴を上げる

 

「ふっふふ。この状況でもこれだけの口を聞けるとは、やはり良いぞ。貴様は良い素材になる。アスラ、連れ帰るぞ」

 

「……ちっ!ああ、判ったよ。だが……我に働いた無礼の報いは受けてもらう!!!」

 

「がはあ!?」

 

アスラに全力で地面に叩きつけられ、その衝撃と激痛で薄れていく意識の中

 

(す、すまん……八兵衛)

 

俺の心配をしてくれた八兵衛の忠告を無視した結果がこれだ。きっとこれから俺は魔族へと堕とされるだろう……そして俺は俺で無くなる……その事に対する恐怖と俺を心配してくれた八兵衛に申し訳ないことをした……俺は薄れゆく意識の中ずっと八兵衛へと謝り続けるのだった……

 

 

 

天界でそんな騒動が起きているなどと当然ながら知らない横島はと言うと

 

「ほーら、チビーメロンだぞー」

 

「みーむう♪♪」

 

「うーきゅ?」

 

「モグラちゃんも待っててなー?今生ハムだすから」

 

「うーきゅー♪」

 

先日シルフィーに襲われかけたとき助けてくれたチビとモグラちゃんに豪華な食事を与え、飢えて倒れていたタマモを膝の上に乗せてその尻尾に丁寧にブラシをかけていた

 

「クーン♪」

 

丁寧にブラシをかけられ、膝の上で丸くなっているタマモはご機嫌な様子で横島に身体を預けているのだった……

 

なおシズクが何故居ないかと言うと

 

「……お前は兄だ。妹をしっかりと監視するべきではないのか?」

 

「いえ、本当その通りです。申し訳ありませんでした」

 

横島を襲撃したシルフィーの代わりに謝りに来たピートにかれこれ2時間以上説教をしている為だったりする……

 

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その1へ続く

 

 




はい!次回は順番を変えて天龍童子の前に韋駄天を入れます、そして九兵衛が闇落ちしたのは過激派の仕業ってことにしようと思います。色々とイベントをやるつもりなので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート19 開眼!疾走する魂!
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話からは韋駄天編の話に入っていきます。正しほぼオリジナルの話になります、ブラドー編でも出てきた魔神の一派が関わるので全く違う展開になります。面白と思っていただけるように頑張りますので、どうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その1

 

魔界の中でも更にその奥……魔神と呼ばれる存在でも限られた僅かな存在しか足を踏み入れることが出来ない魔界の最深部

 

「さて、上手く行ってくれたのなら良いのだが」

 

机の上に置かれた紅い石を見てそう呟く。これはブラドーにも埋め込み、そしてバイパーにも与えた物を更に調整し、純度を高めた物。私の予想では限りなく求めるレベルに近づいた物だと言える。それを韋駄天に埋め込み、神界へと放ったが、我の計画通りに動いてくれるか?それが僅かばかりの不安要素だった……

 

「良くその形に圧縮できる物だな」

 

のそりと我の研究室に入ってきたアスラは大分落ち着いたようで知性の色が見える。さっきまでの怒り狂った表情を知っている事もあるので冗談交じりに

 

「よほど韋駄天に馬鹿にされたのが据えかねたか?」

 

さっきまで暴れていたアスラにそう尋ねるとアスラは眉を顰め

 

「まぁな……それと久しぶりの外と言うのも関係しているのかもしれん」

 

アスラは魔神の中でも稀少な能力を持つ魔神だ。その稀少能力ゆえにデタント成立の際に幽閉された、しかし我の目的のためにはアスラの力が必要でありセーレの力を借りて救い出したのだ

 

「まぁ良いではないか、既にあの韋駄天は私達の操り人形。録に喋ることも出来んさ、それもこれもお前のおかげだアスラ。この狂神石を作り上げることが出来たのはお前のおかげだよ」

 

アスラの能力は神族・魔族を狂わせる事が出来る特殊な神通力だ。その神通力を物質上に形成したのが、この狂神石。魔族に力を与え、神族を狂わせる。無論まだ改良の余地はあるが、今の段階では充分すぎる

 

「そうか、それならば良いが……1つ聞かせてくれガープ」

 

「ん?なんだ?今は気分が良いなんでも答えよう」

 

漸く完成の目処が立ったのだ、まだ研究は続けるがそれでも気分が良いのは事実。だからなんでも訪ねるが良いと言うとアスラは

 

「お前達の目的はなんだ?何の為に禁書をあの韋駄天に盗ませた?態々そんな事をしなくても盗み出すことも出来ただろうに」

 

ふむ、流石に気になるか……まぁ無理もない、アスラ自身もセーレの能力で幽閉から解放されたのだから、こんな回りくどい事をした理由が気になるのは仕方の無い話だ

 

「……ふふふ、ああ。それか、なに簡単な話だ」

 

韋駄天を操ったのは、神族の中に反乱分子が存在する可能性を示すため、そして韋駄天を選んだのはその能力を利用するため。そして盗ませたのはもっとも厳重に封印された書物だ

 

「神族・魔族の最高指導者達が封印した存在の事は知っているな?」

 

「ああ。魔人だろう?っまさか!?」

 

魔人。それは数千年前に現れた極少数の存在。神族・魔族の両方を相手取り騒乱を起こした者達。だがそれも最高指導者たちが動いたことで封印され、今では人界・魔界・神界の3界の狭間に封印されている

 

「そうその魔人を解放するのが1つ目の目的。無論御せる相手では無いのは重々承知しているが、勝手に暴れてくれればその分動きやすくなる」

 

過激派の弾圧が続いている以上隠れ蓑は必要だ。その面では魔人の存在はこれ以上ないほどに相応しい、神も悪魔も関係なく殺すやつらの存在は非常に役立つ。まだやらなければならないことがあるのだから、我達の動きを掴ませない為にも、好き勝手に暴れてもらわなくては困る

 

「さて、では始まるぞアスラ、最高のショーが……お前も楽しめ。全ての終焉の幕開けだ!」

 

指を鳴らし空中に画像を映し出す、そこには狂神石によって魔族に落ちた韋駄天が神界へと突っ込んでいく姿が映されていた……さぁ始まりだ。韋駄天よ全てを荒らすが良い、その力を使ってな……無数の天使達を薙ぎ払い、奥へと駆けていく韋駄天の姿を見て、我は深く笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

 

荒れ果てた神界の書庫を映した写真を見て深く溜息を吐く、この惨劇を起こしたのが九兵衛と聞いて某(それがし)は正規の討伐部隊が組まれる前にこうして人間界に降りてきた

 

(何か事情があるはずだ)

 

九兵衛は何かを運ぶ依頼を受けた、しかしそこは神族・魔族の失踪事件が多発している場所。そこで何かあったに違いない……

 

(某も付き添えば……)

 

あの時某もまた依頼を受けていた、竜神王様より人界の竜族に対する会議の為の親書を届けよと指名があった。九兵衛に少し待つようにと言ったのに、あいつは大丈夫だと言って1人で出かけ何かに巻き込まれたのだ……

 

(殺させるわけにはいかん)

 

デタントに向けて動いている今。こんな罪を犯した九兵衛が無罪放免で済むとは思えない、ならば正規軍が召集される前に九兵衛を捕え、正気に戻す。それだけを考えてここまで来た

 

「どこだ、どこにいる九兵衛」

 

禁書を強奪した九兵衛は人界へ逃亡した聞く。誰かに操られているのなら既に禁書は九兵衛が所有してはいないだろう……

この街のどこかに九兵衛は居る!そう確信し高い塔の上に立ち九兵衛の気配を探していると

 

「見つけた……!」

 

九兵衛の神力の若干の魔力が混じって淀んでいるが、間違えるはずが無い。この気配は九兵衛の物だ

 

「今行くぞ!九兵衛」

 

塔の上から飛び降り、地面に着地すると同時に地面を蹴り最高加速に入り九兵衛の元へと走るのだった……なんとしても某がお前を元に戻すぞ!九兵衛!友として宿敵としてお互いに切磋琢磨しここまで来た。それはこんな所で終わって良いものでは無い!なんとしても某が元に戻すと決意を新たに九兵衛の姿を探して走り出すのだった……

 

凄まじい速度で走り去っていく八兵衛を見つめる若い青年……に化けたビュレトは欠伸をしながら

 

「やれやれ……アシュの野郎も人使いが荒い。韋駄天を探せとはな……まぁ見つけたから良いが……」

 

俺に人界での活動を黙認する代わりに手伝えと言うアシュタロスの要求は、韋駄天を見つけると言うことだった

 

「もしもし?俺だ。ビュレトだ。韋駄天を補足した、これから俺はどうすれば良い?」

 

『早いな、流石ビュレト。そのまま韋駄天を追走してくれ、何か起きる筈だ。そこに私の娘も居るはずだ、娘の話を聞いて行動してくれ頼んだぞ』

 

娘?ああ、あの写真で見た黒髪の女か……判ったと返事を返し

 

「不自由だと思うが頼むぞ?」

 

バイクの姿に姿を変えている愛馬の背を撫で、俺はバイクに跨り韋駄天の後を追って走り出したのだった……

 

 

 

 

 

赤黒い光を放って走る何かを見つける。おキヌさんの話ならあれは韋駄天のはずだ……だけど前回とは決定的に違う者がある、それは……過激派魔族による神魔族の誘拐事件。お父さんに聞いただけだが、あの韋駄天もまたその被害者……

 

「美神さん。首都高荒しを補足、高速道路を疾走中です」

 

バイクのヘルメットを小脇に抱えながら、双眼鏡で韋駄天の進行方向を確認して舌打ちする

 

『どうかした?』

 

「最悪です。通行禁止を無視したと思うんですが、首都高荒しの進行方向にポルシェに乗った一般人を見つけました」

 

今回の依頼は首都高荒しの逮捕。ポルシェ5台とフェラーリ8台。それとパトカー3台を大破させた、だが殺しはしていない、それはまだあの韋駄天の意識が少しでも残っている可能性があるからだ

 

『自業自得で諦めてもらうわ。じゃ、蛍ちゃん打ち合わせ通りにお願い』

 

「了解です、では先行します」

 

トランシーバーの電源を切り、ヘルメットを被り深く溜息を吐く。おキヌさんの話ではここで横島が死に掛けて韋駄天と融合する事で霊力の覚醒が始まると聞いている。本当なら横島に危険な目に会わせたくない、だけど前よりも激しい戦いになる可能性がある以上そうも言ってられない……

 

(ごめんね、横島)

 

横島が危険な目に合うと知っているのに、助けることが出来ない私を許して……私は心の中で横島に謝り。韋駄天を捕縛結界に追い込むためにバイクを走らせるのだった……

 

作戦では美神さんが後ろから追いかけて、私が高速道路の入り口付近から走り出して韋駄天を工事中の道路へと追い込み、そこに仕込んだ精霊石を利用した結界とシズクの水の檻で捕縛する……計画自体は完璧だが失敗することが判り切っている分若干複雑な気持ちになる

 

(そもそもパイパーにしてもそう、判らないことが多すぎる)

 

まだ近づいてくる気配が無いので、パイパーの事。韋駄天の事を考える。お父さんの話では別のソロモンの魔神が動いている可能性があると、しかも1人ではなくもっと複数の魔神が動いていると聞く。だからこそ横島の霊力の強化が必要だと説明された……でもそれでも……私は横島には文殊なんて覚醒して欲しくないと思っている

 

(あんな思いを横島にはさせたくない)

 

ルシオラとしての私は横島を救う為に命を捨てた。そして横島は世界を救ったが、その対価に心に深い傷を残した……お父さんが神魔大戦を起こさないのならば、横島がそんな傷を負う事は無いと思っていた。だけど……前よりも激しい神魔大戦が起きるかもしれないと聞いた時私は決めた……

 

(今度は私も横島も絶対生き残る。皆で笑って終われる世界を目指す)

 

決意を新たにしていると遠くに赤黒い光が走るのが見える。どうやら来たようだ、私はバイクのエンジンを掛けると同時にいきなりフルスロットルに入れて韋駄天を追いかけて走り出すのだった……

 

 

 

 

早いわね……コブラのハンドルに汗が滲むのが判る。赤黒い光を放つ高密度の霊体を追い続ける

 

「み、美神さん!滑ってます!タイヤ!滑ってます!!!」

 

助手席で涙目で叫ぶ横島君。今回は蛍ちゃんが側面から襲撃する手筈になっている。では何故横島君を助手席に乗せているかと言うと、賭けに近いが横島君の陰陽術に期待をしていたからだ。首都高荒しが破壊した車に僅かに残っていた神通力から、神族の可能性があった。そうなると普通の結界では捕縛できないかもしれないからだ

 

「大丈夫だから掴まってなさい!後喋らないこと!舌を噛むわよ!」

 

「うっ!うっす!」

 

シートベルトを掴んで返事を返す横島君に正直感心する。今のコブラのスピードメーターは270キロを指している

 

(普通なら気絶してもおかしく無いのにね)

 

私は慣れているけど、普通の高校生ならこのGに耐えかねて気絶している筈なのに、泣きながらもしっかりと意識を保っている横島君。これも成長の証なのかも知れないと思っていると蛍ちゃんとの合流ポイントが見えてくる。

 

「このおッ!!」

 

バイクの前輪を跳ね上げて蛍ちゃんが高速道路の入り口から飛び出してくる

 

『!!!』

 

「蛍ちゃん!ナイスッ!!!」

 

一直線に加速していた霊体が蛇行して減速する。赤黒い加速の光が消えてその霊体が姿を見せる。加速して霊体と並んで私は舌打ちした

 

(鬼……このスピードで走ることが出来る鬼となると……数はかなり限られるわね)

 

4つの眼と鋭い2本の角があるから鬼である事は間違いないと思うけど……まずはあの霊体を捕まえてから考えましょう

 

『ヒャ!ヒャハハハはハハハハハハーッ!!!』

 

突然狂ったように笑い出す鬼、その手をこちらに向けたのを見て

 

「やばッ!」

 

直感的にハンドルを左に切る。その瞬間高速道路の一部が弾け飛ぶのが見える、霊力を圧縮して打ち出してきたのね

 

「きゃあっ!くうっ!!!」

 

鬼は蛍ちゃんにも霊破弾を打ち出して距離を取ろうとする。これは不味いわね、私は運転に集中しているから攻撃できないし、バイクに乗っている蛍ちゃんも当然攻撃できない

 

「おキヌちゃん!横島君!」

 

助手席の横島君とコブラの上で浮いているおキヌちゃんに期待するしかない、咄嗟にそう怒鳴ると

 

【はい!このおっ!】

 

「どうとでもなれ!いけえッ!」

 

おキヌちゃんは近くの小石を浮かべて鬼へと放ち、横島君が懐から破魔札を投げる。横島君が投じた札は空中で炎の矢となり鬼の足に突き刺さる。だんだん陰陽術の扱いに慣れてきたのか、それとも偶然なのか?それは判断に悩む所だが

 

『!?ぎいいッ!?』

 

足に炎の矢が刺さったので苦しそうな声を上げて鬼のスピードが下がる。それでもまだ充分な速さを保っているが、さっきまでの追うので精一杯と言うスピードでは無い……それを見て私は今が好機だと判断した、それも蛍ちゃんも同じだったようで

 

「呪縛ロープで捕えます!」

 

バイクのハンドルの部分を操作して、バイクの後方から呪縛ロープが放たれた瞬間

 

「「え?」」

 

私と蛍ちゃんの間抜けな声が重なった。鬼はその場で立ち止まる。私のコブラと蛍ちゃんのバイクが鬼の横を通り過ぎた瞬間

 

『キヒッ!!!』

 

コンクリートを破壊し、再び爆発的な加速に入る。集中力が完全に途切れてしまった私も蛍ちゃんもその突撃に反応出来ず

 

「う、うわああああ!?」

 

【よ、横島さーん!?】

 

『キキ!ヒャーハハハッ!!!』

 

横島君とおキヌちゃんの悲鳴、そして勝ち誇った笑い声を上げて天へと消えていく鬼……私は即座にコブラを停めて横島君の元へと走るのだった……

 

 

 

 

 

やっとおいついたか……やれやれ、俺は目の前の光景を見て思わず溜息を吐いた

 

「……」

 

頭から血を流し全く動く気配の無い少年とその少年の前に座り込んで放心状態の黒髪の女とその上で泣いている幽霊。そしてその少年を車に乗せようとしている女……

 

(さすがの韋駄天も即座に回復は無理だったか……)

 

今あの少年。アシュタロスとネビロスの爺さんの話では横島とか言うらしいが……横島の身体の中には明らかに異質な霊力が見える。恐らく地面に叩きつけられる寸前に韋駄天がなんとかしたんだと思うが、完全に死んでいる。恐らく一体化して蘇生を試みているのだろう……俺は胸糞悪くなる光景に眉を顰めながら

 

「おい!女!」

 

横島を車に乗せようとしていた女に声をかける。このまま連れて行かれたんじゃ困る。アシュタロスにつれて来いって言われてるしな……

 

「何よ!今うちの助手が死に掛けてるのよ!ほっといてよ!」

 

ヒステリックに叫ぶ女に更に頭痛を感じる。どうも俺はこういう人の生き死にの光景を見るのは好きではない、俺自身が恋愛を司る面もあり、こういう死に別れとなるかもしれない光景を見るのは嫌いなのだ

 

「そう心配するな、まだそこの小僧は生きているし、何よりも……俺は芦優太郎の使いだ。もしも万が一の事態になったらつれて来いと言われている。だからその小僧を預かろうか」

 

警戒の色を目に浮かべる女。まぁ確かにポッと出に弟子を渡すという選択をする人間はいないだろう。さてどうしたものか……

 

(お父さんの使い?誰ですか?)

 

頭に語りかけてくる声。アシュタロスの娘か……俺はへたり込んでいる黒髪の女に目を向けて

 

(魔神ビュレト。アシュタロスには世話になる予定だ、それよりもだ。説得してくれ、あの状態人間の病院では治癒は不可能だ)

 

ただの肉体的なダメージなら良いが、あの韋駄天は掴んだ瞬間にあの小僧の中に無理やり神通力を通した、恐らくだがチャクラにダメージを受けている……身体の傷は治せても、霊的な治療が出来る場所でなければ意味が無い

 

(人間としての名前は?美神さんは私が説得します)

 

人間としての名前……あー……うん。これだな、悪いな名前を借りるぞ

 

(カズマだ)

 

ずっと昔に俺を呼んだ人間の名前を借りることにした、俺が短く名乗ると

 

「美神さん。カズマさんはこんな格好をしてますが、霊的治療に長けた人です、任せても良いかもしれません」

 

こんな格好ってなんだ。おい……これそんなにおかしいのか?手袋に毛皮つきのジャンバー……おかしくは……無いと思うんだが……

 

「……判ったわ。蛍ちゃんがそこまで言うなら、うちの助手をお願いします」

 

気絶している横島を受け取りバイクに変化した愛馬のほうに歩きながら

 

「任せとけ、何の心配も無いからな、お前も家に帰って休め……あの鬼……多分だが韋駄天だ……調べておけよ」

 

俺はそう言い残し、サイドカーとやらに横島を乗せ、俺はアシュタロスのビルへと向かってバイクを再び走らせるのだった……

 

(何故こいつを狙った……)

 

韋駄天が魔族に落ちたのは間違いなくガープが絡んでいる。あいつはこういうことに詳しかったからな、だがあそこまで完全に魔族にする事は不可能だったはずだ。それに態々横島を狙わせた理由も判らない……何か秘密があるのかもしれないな……

 

「ビュレトさん。こっちの方が早いです」

 

いつのまにか併走していたアシュタロスの娘が道を示す。魔界にいた俺が人間の街に詳しいわけもない、ここは任せたほうが良さそうだな

 

「……アシュタロスの娘か……頼む」

 

「蛍です。覚えておいてください」

 

名前を名乗るとバイクを加速させていく蛍、よっぽど横島とやらが大切なんだろうな……となれば

 

「トロトロしている時間はねえな!!」

 

ガープの事を考えるのは後でも出来る。まずはこいつをアシュタロスの所に届けるのが最優先だ。俺はバイクのアクセルをフルスロットルに入れ、蛍の後を追って走り出すのだった……

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その2へ続く

 

 




次回は八兵衛とアシュタロスの話し合いをして、新ヨコシマンを出そうと思います。ビュレトなども絡んでくるので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです、今回の話は八兵衛とアシュ様とビュレトの会談と、新ヨコシマンの登場を書いていこうと思います。色々とやりたいことがあるので面白いことになると思うので楽しみにしていてください



 

それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その2

 

横島君を芦さんの所に連れて行った蛍ちゃんとその知り合いのカズマと言う青年を見送ってから、捕縛するはずの場所で待機していたシズクを迎えに行くと

 

「……お前は何度私を怒らせる?」

 

「ごめん……」

 

事の顛末を聞いたシズクが凄まじい眼光を放ちながら私を睨みつける。姿は子供でも、その本質は神……その威圧感は凄まじい。それに今回の事は私も悪い、付き添うと言ったシズクを捕縛に回したのは私の作戦だ。

 

【あのシズクちゃん?今回のは……】

 

「……黙れ」

 

おキヌちゃんが弁解しようとするが、シズクの一睨みで黙らせてしまう。シズクは小さく溜息を吐いて

 

「……もう1度だけ見逃す。次は無い」

 

そう言い放って水の中に溶けるように消えていくシズク。あの時の水を使った転移術なのかもしれない……

 

【あ、あの……美神さん?大丈夫ですか?】

 

私を気遣ってくれるおキヌちゃんに無理に笑いながら

 

「私は大丈夫だから、横島君の家で待機してあげて。シズクもいると思うけど、おキヌちゃんなら大丈夫だと思うから」

 

家に無理やり置いてきたチビとかとモグラちゃんの事もあるから、横島君の家で待っていて上げてと言うと

 

【判りました。美神さんもあんまり落ち込まないでくださいね?】

 

そう言って飛んで行くおキヌちゃんを見送り、コブラに乗り込んで事務所に向かうのだった……

 

「はぁ……」

 

オフィスの椅子に座ってもう1度溜息を吐く、今回もまたくだらないミスで横島君に怪我をさせてしまった……

 

「どうしてこんな事になるんだろ……」

 

今回の依頼の危険性も理解していた。だけど今回は大丈夫だと思って捕縛作戦を考えた、でもそれも失敗した……これは私の慢心のせいかもしれない、若手GSNO1と言われ、そして優秀な助手の蛍ちゃんに、水神のシズク……戦力的には充分だった……いや充分だと思っていたのかもしれない……

 

「これは1度気持ちを引き締めなおさないと駄目かもね……良しっ!」

 

今夜考えて作戦は駄目だから。今回見ることの出来た鬼の事もあるし……もう1度しっかり作戦を組みなおそう!私は気合を入れるために自分の頬を叩いて気合を入れ、もう1度1から捕縛作戦と韋駄天に対する詳細を調べ始めるのだった……

 

 

 

 

 

ビュレトに連れて来て貰った横島君の手当てを済ませ、心配そうにしている蛍に

 

「大丈夫だよ。大事無い、もう暫くしたら目を覚ますと思うよ」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

横島君の事が心配で仕方ないのかそう尋ねてくる蛍に今の横島君の状況を説明する、蛍は頭が良いからちゃんと説明してあげれば納得すると思ったからだ。手当てと言っても血を拭いて、少し切れている額の傷を縫って魔力でその痕を消すといった簡単な手術だった。

 

「はぁ……良かった。ちょっと汗だけ流してくるね」

 

横島君が心配でずっと除霊に行ったままの格好で待っていた蛍がそう言うので、後で私の部屋に来てくれとだけ伝えて自分の部屋に向かっていく蛍を見送り、ベッドの上で眠っている横島君に視線を向ける。蛍に説明した程度の手術ですんだのは横島君の身体の中から治療をしてくれている韋駄天の存在があるからだろう

 

「さて、いつまでもだんまりを決め込んでないで話をしてくれないかな?韋駄天君?」

 

眠っている横島君に声を掛けると、ぱちっと目を開き

 

『何ゆえ魔神が人間を治す?お前が九兵衛を操っているのでは無いのか?』

 

怪訝そうな顔をして尋ねてくる韋駄天。まぁ当然だな……神族だから魔力には敏感だ。いくら人間に化けているとは言え、私の魔力を感じ取っているのだろう

 

「この場所では少々話難い。着いてきてくれ」

 

ここはあくまで医療所でそんな話をするところではない。韋駄天もそう気付いたのか

 

『心得た。そして礼を言う。この少年の傷を治してくれて』

 

頭を下げる韋駄天に私は笑いながら

 

「その少年は私の娘の夫になる少年だ。死なれたら困るんだよ、娘が悲しむ」

 

横島君が死んだと聞けば後を追って自殺しかねないからなあ……逆行してまでこうして恋をやり直す機会を得たのにその横島君が死んでしまったら。蛍が狂いかねないし……私としてもそんな結末は望んでいない。横島君と蛍の幸せ。それが今私が何より求める物だと言える

 

『人間を夫に?何を考えている?』

 

更に眉を顰める韋駄天にそれも上で話すと言って、私は韋駄天を案内し最上階の私の部屋へと向かうのだった……

 

「さて、では改めて名乗らせて貰おうか。私は……アシュタロスだ」

 

こういう話し合いの場で嘘を言う事は今後の交渉に支障が出る。敢えて自分の真名を口にすると

 

『やはり貴様か!過激派魔族の頭領!この場で仕留めて「止めろ。下級神族如きが俺とこいつの2人を相手にして生き残れると思っているのか?」

 

韋駄天が両手に神通力を溜めてそれを打ち出そうとした瞬間。ビュレトが暗闇から姿を見せる、それは魔神としての姿である漆黒の甲冑に身を包んだ姿だ。暴れられては困ると思って出て来てくれたと思うんだが、この場合は完全に悪手だった

 

『ぬぐう!?その姿……ビュレトだな!やはり魔神同士手を組んで居ったか!』

 

横島君の声でそう叫ぶ韋駄天。いかんな話がこじれて行くぞ……

 

「落ち着いてください韋駄天さん。疑いはいらぬ争いの原因になりますよ?」

 

着替えて戻って来た蛍が落ち着くように韋駄天に声を掛ける。実に良いタイミングで来てくれた。女と言う事もあるのか、韋駄天はむ、むうっと唸る韋駄天。私は机の中から1枚の書類を取り出す

 

「確かに表では私は過激派魔族と言うことになっているが、それは真実では無い。私は最高指導者から直接依頼を受けて過激派の捜査を行っているんだ」

 

最高指導者同士のサインと紋章が記された書類を見せると

 

『なんと……』

 

「ほう?サタンのクソ野郎め……こんな裏工作をしておったか……」

 

驚いた表情をしている韋駄天と口調とは裏腹に楽しそうな顔をしているビュレト。まぁまさか神魔の最高指導者からの直筆の書状。これ以上信用を得れるものは無いだろう

 

「これで信じて貰えたかな?」

 

私がそう尋ねると韋駄天は少し距離を取って深く頭を下げながら

 

『失礼した。私もまた過激派の頭領はアシュタロスと聞いておりましたゆえ。この度のご無礼お許し願いたい』

 

堅苦しい言葉で謝罪の言葉を口にする韋駄天に気にしてないと返事を返す。まぁ魔族のアシュタロスと聞けば警戒するのは当然だから、これは仕方ないだろう

 

「さて、韋駄天の……えーと?『八兵衛と申す』八兵衛君だね。君が憑依している横島君の調子は?」

 

私がそう尋ねると八兵衛君は首を傾げながら

 

『容態はあまり良いとは言えぬ。今は某が横島殿の中から治療しておりますが……思うように神通力が巡回せず、今憑依を

解除すればその場で死んでしまう状況です』

 

予想通りか……私は机の中からアタッシュケースを取り出して

 

「それならこれを身につけていてくれるかな?」

 

ベルトを見せながら言うと八兵衛君は怪訝そうな顔をして

 

『それは?』

 

「まぁ簡単に言うと霊力などを巡回させるための道具だよ。後は……霊的な防御を持つ甲冑を展開するための装置かな?」

 

私の言葉に目を輝かせる八兵衛君。その余りに予想通りの反応に思わず苦笑しながら

 

「蛍。私はこのベルトの使い方を八兵衛君に説明するから、ビュレトを部屋に案内してくれ」

 

判ったわと返事を返してビュレトを案内する蛍。その後をついて歩き出そうとするビュレトに

 

「ああ、そうそうビュレト」

 

「なんだ?」

 

これだけは言っておかないと……私は口元は笑いながら、目は全く笑わないで

 

「蛍に手を出したら殺してやるからな?」

 

「……俺は年下趣味は無い」

 

「それでもだ。覚えておいてくれたまえ」

 

私の殺気が本気だと気付いたのか両手を挙げて降参の意を示してから部屋を出て行くビュレトを見送り、私は

 

『それでこれはどうやって使うんだ!?』

 

ベルトを見て目を輝かせている八兵衛にベルトの説明を始めるのだった……

 

 

 

 

 

昨日の夜は酷い目にあったなぁ……あの鬼に車の上から投げられたのは本当に死ぬかと思ったなあ

 

「……今日の除霊にお前は参加しないほうが良い」

 

朝食を机の上に並べながらそう言うシズク。その顔色は普段よりも悪くて、昨日よっぽど心配させてしまったのだと判って申し訳ない気持ちで一杯になりながら

 

「そうも行かないって、もう学校には申請出してるんだから」

 

昨日と今日は除霊実習って事で休みにして貰っているのだから、除霊に行かないって事は出来ないと言うと

 

「……それなら私も着いて行く」

 

【でも美神さんシズクちゃんにギャラくれないと思いますよ?】

 

味噌汁を運んできたおキヌちゃんの言葉にシズクは

 

「……金はいらない。横島が心配だから着いて行く、それだけ」

 

うーむ見た目子供のシズクに心配されるって……俺が駄目人間って思えてきたなあ

 

「みーむう!」

 

「うきゅ!」

 

「コン!」

 

自分達も着いて行くと意思表示しているチビ達。これは連れて行かないと暴れそうだなあ……

 

「判った判った。頼むな、チビ、タマモ、モグラちゃん」

 

チビ達を撫でると任せておけ!と言わんばかりに力強い返事をしてくれる。その姿に愛らしさと頼もしさを感じながらシズクとおキヌちゃんの用意してくれた朝食を食べながら

 

「それでさ?このベルトなんだ?誰か知ってる?」

 

蛍の家のビルで起きて、1回家まで送って貰った時は気付かなかったが、やたらバックルが大きいベルトを身につけていてその事を尋ねると

 

「……しらない」

 

【私も判らないですね】

 

シズクもおキヌちゃんも判らないと言う事は、蛍か優太郎さんに聞いたほうが良いかもしれないな。俺はそんな事を考えながら豚汁で白米をかき込み、除霊の準備をして美神さんの事務所に向かった

 

「おはよう。横島君……今日は皆一緒なの?」

 

バンに除霊具を積み込んでいた美神さんが頭の上のチビと肩の上のモグラちゃんと片手で抱っこされているタマモと俺と手を繋いでいるシズクを見て尋ねてくる

 

「いや。昨日のでなんかみんなに心配かけちゃったみたいで着いて来るって言って聞かなくて」

 

俺がそう言うと美神さんの顔に一瞬影が落ちるが、直ぐにいつものような笑みを浮かべて

 

「まぁ昨日の事を考えれば仕方ないわね。早く車に乗りなさい、今回の除霊は簡単だから早く除霊を済ませて皆で何か食べに行きましょう」

 

そう笑う美神さんに頷き車に蛍と一緒にバンの後ろに乗り込むと

 

「今日はあんまり前に出ないでね?昨日の事もあるから」

 

【そうですよ?今日は大人しくしていてくださいね?】

 

心配そうに言う蛍とおキヌちゃん、もしかして昨日はよっぽど不味い状況になっていたのか?と思い

 

「判った。今日は無理しないようにするよ」

 

皆を心配させるのは俺としても嫌なので今日は大人しくしている事に決めた。

 

「じゃあ行くわよー」

 

ゆっくりと走り出すバンに揺られながら、今日の除霊現場のビルへ向かうのだった……

 

「今日の除霊は元オーナーの自殺霊の除霊だから簡単よ。私だけでも充分だけど、蛍ちゃんと横島君の勉強も兼ねているから良く見学していてね?」

 

美神さんの言葉に頷き規制テープで周囲を囲まれているビルに入ると

 

「うきゅう!」

 

ずもももっと巨大化して俺の前に立つモグラちゃん。ギラリと光る爪を向ける

 

「……モグラ小さくても大丈夫だ」

 

「うきゅ?」

 

シズクに言われてチビと同じ大きさに小さくなったモグラちゃんを抱き上げて

 

「所で昨日の鬼って特定出来たんですか?」

 

エレベーターに乗り込みながら尋ねると美神さんは

 

「韋駄天だと思うわね。判る?」

 

韋駄天?そんな妖怪いたかな?と俺が首を傾げると蛍が

 

「仏教の神様の1種よ。天界の郵便屋さんと思ってくれたら良いわ」

 

天界の郵便……そんな神様もいるのか。俺が頷いているとシズクが補足で

 

「……元鬼族って言う種族で、神族だけど魔族にも近いって言う神」

 

へーそんな神様もいるのかあと頷いていると、突然視界が歪んだと思った瞬間。俺の意思に反して言葉が

 

『韋駄天は善い神です!今回のは何か特別な事情があったのですよ!大丈夫必ず責任を持って解決します!』

 

自分が思ってもない言葉が自然と口から零れる。

 

「どうしたの?横島君?」

 

「え?えーと?なにか言いました?」

 

美神さんにそう尋ねられる。でも俺も全然判らないから尋ねられても困る

 

「……一瞬横島の中に神力が……」

 

【今絶対横島さんじゃなかったですよね?】

 

ひそひそと話をしているシズクとおキヌちゃん、そんなに強く頭を打ったのかなあ。頭にでっかいたんこぶもあるし……1回病院で精密検査……でも優太郎さんが診察してくれて異常はなかったって言ってたし……どうしようかなあ?

 

「美神さん。今の……」

 

「……多分なんかが横島君に憑依して……」

 

美神さんと蛍が何か難しい話をしているのを聞きながら、病院に行くかなあ?と悩みながらエレベーターに乗り込もうとした瞬間

 

【除霊されてたまるかあ!ここはわしの会社だあああ!!!】

 

エレベーターの中から巨大な禿た老人の幽霊が飛び出してきて、美神さんの胴を掴んで

 

【消えうせろぉ!!】

 

「しま!?」

 

そのまま美神さんをビルの外へ投げ飛ばそうとする……その光景を見た瞬間。強烈な頭痛と

 

『ここは某に任せろ!変身ッ!』

 

頭の中に響いた声を聞いた瞬間。俺の意識は闇の中に沈むのだった……

 

 

 

 

 

 

奇襲はあるかもしれないと警戒していたけど、まさかエレベーターの中に隠れているんて!ビルの10階から外に投げ出される。咄嗟に懐に手を伸ばし神通棍を取りだそうとすると

 

【美神さん!】

 

「……世話が焼ける!!!」

 

私が投げ出されたのを見た、おキヌちゃんとシズクが私を助けようと窓の近くに走って来ようとするのが見えるがそれを手で制して

 

「私よりも横島君を!!!」

 

霊が奇襲してくることは多い。だからこういう時の対処法は充分に把握しているつもりだ

 

(ビルまでの距離は……行ける!)

 

窓の外にこそ放り出されてしまったが、ビルまでとの距離はそんなに離れていない、神通棍で充分の距離だ

 

(服はボロボロになるけど仕方ない!)

 

ビルの壁に神通棍を突き立てて、破魔札で窓ガラスを破壊して中に転がり込む。私のイメージには合わないけど、しのごの言ってられる状況じゃ無い神通棍をビルの壁に突き刺して落下を防ごうとした瞬間

 

「危ない!」

 

何かがビルから飛び出してきて私を抱き止める。それはなんというか……特撮?銀色っぽいスーツにプロテクター。そして首元マフラーで、手にはグローブ、そして足にはブーツ。そして顔を覆い隠すごっついフルフェイスのヘルメットみたいなの……そしてそこまでしているのに、その声は横島君のままで

 

「あんたやっぱり何かに取り憑かれて!と言うかそのダサいカッコはなによ!!!」

 

どうもさっきから横島君の気配がおかしいと思ったら、なんかが憑依してたのね!!!その余りに安っぽい特撮のヒーローのような格好をしている横島君に怒鳴ると

 

「ち、違う!それがしは!横島君でも横島君に取り憑いている者でもない!まったくの別人だ!」

 

顔を隠しているけど声が横島君その物でとても誤魔化されなどしない。それにこのダサいカッコの中身が横島君の身体と言うのは判り切っている

 

「みむー!」

 

「うきゅー!!」

 

窓ガラスの所から怒った様子で鳴いているモグラちゃんとチビ。あれはどう考えても横島君を返せと言っているようにしか思えないし

 

「グルルッルル!」

 

8本の尾を立てて今にも狐火を発射しそうな姿を見れば。100%の確信を持って言える。このマスクの下は横島君の顔だと

 

「なに馬鹿なこと言ってるのよ!どっからどうみても横島君じゃないの!と言うか早く降ろしなさいよ!!!」

 

こんな馬鹿にしたような方法でこの私を誤魔化せると思っている。横島君に憑依しているなにかに激しい怒りを感じる。

 

「大体こんな事をしているなら早く私をビルに戻しなさい。あの馬鹿を除霊したら問い詰めてあげるから!」

 

空中で抱き止めることが出来ている事から、横島君に取り憑いている者の能力なのか、それともあのダサいスーツの効果なのかは判らないけど、お姫様抱っこで抱きとめられているのが落ち着かない、それにこんな事をしている状況じゃないのよ

 

「シズク!フォローよろしく!」

 

「……判ってる!」

 

【出てけええ!!】

 

中々強力な悪霊だったようで、蛍ちゃんとシズクの攻撃を防いでいる。こんな馬鹿な事をやっているなら早くビルの中に戻して欲しい。しかし横島君に取り憑いている何かはこの緊迫した状況を何も理解していなかったようで

 

「そ、それがしは!それがしは横島君に似ている物が住む横島星からやってきた宇宙人!ヨコシマンダッシュだぁ!!」

 

声も高らかに私を抱えたままそう叫ぶ横島君に取り憑いている何か。その余りに馬鹿馬鹿しい言葉に完全に時間が止まってしまうのを私は感じるのだった……

 

「……こんな馬鹿が神とは、神界ももう終わりだな」

 

呆れたように呟くシズクだけの声が虚しくこのビルの周囲に響き渡るのだった……

 

 

「くははっは!あははははッ!げほ!ぶほお!?ヨコシマンダッシュって!ダッシュってなんだぁ!?馬鹿なのか!?はははああ!げほ!!ごほごほ!!!」

 

念の為に横島達についていて欲しいと言われたビュレトはその光景を見て咽るほど爆笑していたりする。なお完全に滑っていた八兵衛は美神をお姫様だっこしたまま

 

(完全に決まった……)

 

自分の登場シーンは完璧だったと余韻に浸っていたりする……なんと言うかとても残念な韋駄天だったようだ……

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その3へ続く

 

 




ヨコシマンダッシュはヨコシマンとは全然違います。まずヘルメットは宇宙刑事シリーズのあのごっついフルフェイス。身体はウルトラマンっぽい銀色の身体にプロテクター。手足にはグローブとブーツに首元にはマフラー。宇宙刑事と光の巨人と始まりの仮面ライダーがミックスされたわけのわからない格好となっております。トランクスはなぁはちょっとと思ったのでこんな形になりました。ヨコシマンの原作が好きな人には申し訳ないですが、暫くはこのわけの判らない感じのヨコシマンにお付き合いください。そしてこれから進化してライダー風に持っていこうと思っているので、どういう風に進化するのかを楽しみにしていていただければ嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話はヨコシマンダッシュの戦闘と、韋駄天に憑依された横島の視点。九兵衛を操っている魔族。そして九兵衛とのリベンジに向けての話と神界の話にして行こうと思います、色々イベントが多いので少し長くなるかもしれないですが、どうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その3

 

(あれは無いわー……)

 

私はお父さんの作った謎の変身アイテムを見て心の中でそう呟いた。フルフェイスのヘルメットに、銀色のスーツにプロテクター。両手には赤っぽいグローブ、足にはブーツで首元にはマフラー……

 

(絶対徹夜のノリだわ。あれは……)

 

徹夜をしていると人間おかしくなる。それは魔神でも同じだったようだけど……どうせあそこまでするなら声まで変えてあげて欲しかった……あの立派なフルフェイスは何の為にあるとお父さんに問い詰めたい

 

「……蛍。横島はどうなった?私はこんなときどうすれば良い?」

 

ごめん私も判らないから答えられないわ……おキヌさんが韋駄天が憑依するのは知っていたみたいだけど

 

【どうしてこんなことになって……いえ、前のトランクスにランニング姿も酷かったですけど、これは更に酷いです】

 

トランクスにランニング!?初めて聞いた横島のトラウマになっている韋駄天憑依時の姿を聞いて私は思わず絶句した。いくらなんでもそれは酷いと思う

 

「とーう!!!」

 

そしてノリノリで悪霊を叩きのめしている韋駄天。きっと本人的にはこのスーツで完全に誤魔化せていると思っているんだと思うんだけど……声が横島のままだから当然バレバレで

 

「みーむ!みみみー!みむう!」

 

「うきゅ!うきゅー!!!」

 

横島を元に戻してと言いたげに擦り寄ってくるチビとモグラちゃん。私も出来れば元に戻したいんだけど、今韋駄天の憑依を解くと横島が死んじゃうからそれが出来ないのが辛い

 

(あんなので本当に横島の霊力の上限が上がるのかしら?)

 

お父さんとドクターカオスの見解を聞いたけど、本当にあんなちぐはぐなスーツにそんな効果があるのか?と思ってしまう。ただ横島の恥が増えているような気がしてならない

 

「この感じ……シズク。横島君に憑依しているのは神族かしら?」

 

「……あまり上級じゃないけど神族。良い度胸をしている」

 

不機嫌そうに言うシズク。最近知ったけど、シズクってかなり独占欲が強いようだ。しかし横島は私のなのだから、その独占欲は迷惑としか言いようがない

 

【なぜ当らないいいィ!!!私には足りない物など無い!!私は完璧な社長だったああッ!!!】

 

あんな変な格好をしているが、流石韋駄天。中々強力な悪霊なのだが、全て攻撃を回避し、拳を叩き込んでいる

 

「力はあるが、それだけ!お前には決定的に足りない物があるッ!!」

 

ビルの中だというのに、鋭角な機動を描きおぼろげに姿を見るのがやっとだ。悪霊の周りを高速で走りながら何かを叫んでいるのが聞こえてくる

 

「お前に足りないものは、それは!情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!」

 

……あんな変な格好で何を叫んでいるのだろうか?どう考えても、あっちの方が思想も理念も頭脳も気品も優雅さも何もかもないようにしか思えない

 

「……馬鹿か」

 

呆れたように呟くシズクの声がやたら大きく聞こえる。私も馬鹿としか思えない

 

【けひゃっ!?】

 

突然悪霊の目の前に現れ、アッパーで悪霊を殴り飛ばすと同時にクラウチングスタートの姿勢を取り

 

「速さが足りない!!ヨコシマン外道焼身霊波キィーックッ!!!」

 

【ぎゃああああ!?】

 

凄まじい勢いで殴り飛ばした悪霊を追い抜いて、回り込み後ろ回し蹴りを叩き込んで悪霊を消滅させ、人差し指を天井に突きつけている韋駄天。外見は変態だし、言動も怪しいけど

 

(実力は本物なのよね)

 

これでもう少し真面目で普通だったのならば言う事が無いんだけど……人差し指を天井に突きつけていた韋駄天が拳をぐっと握り締め

 

「たかが悪霊の分際でこの韋駄天八兵衛に勝てると思っているのか」

 

あの馬鹿神!!!ボロをなんで出すかなあ!!!

 

「韋駄天!?ちょっと詳しく話を」

 

韋駄天の名前を聞いて美神さんがそう怒鳴ると韋駄天は明らかに狼狽して飛び去っていき

 

「美神さーん」

 

ビルの奥から走ってくる横島。今は韋駄天の気配はまったくしない、どうやら横島の魂の中に完全に紛れ込んでいるようだ

 

「……横島?どこかおかしいところは無いか?」

 

「うきゅー!うきゅきゅー!」

 

「みむう!みみみみー!」

 

「クウン……」

 

「ん?どうしたんだ?シズクにチビにタマモにモグラちゃんもそんなに心配そうにして?」

 

不思議そうに首を傾げる横島。どうやら記憶のほうは完全に残ってないみたいね……

 

「なんにも覚えてないの?」

 

「なにがっすか?」

 

美神さんが念のためと言うことでそう尋ねるが、横島は訳が判らないという感じで首を傾げるだけ。

 

「はぁまあ良いわ。じゃあご飯でも食べに行きましょうか?」

 

そう笑う美神さんに連れられ昼食を終えた後。横島達を家の前で降ろしてから

 

「あの首都高荒しの除霊の打ち合わせをするからシズクは借りていくわ。横島君は家でおとなしくしていること、良いわね?」

 

「うっす」

 

チビとタマモ。それにモグラちゃんを抱きかかえる横島が家の中に入ったのを確認してから事務所に戻る

 

「首都高荒らしも横島君に憑依しているのも韋駄天。この2体に何か関係性があると思う?」

 

書類を纏めながら尋ねてくる美神さん。私は横島に憑依している韋駄天「八兵衛」が魔族に操られている「九兵衛」を助けに来たということを知っているが、当然その話をするわけにはいかない。どうやって話をいい方向に持っていくか?と考えていると

 

「……話を聞く限りでは首都高荒らし?とやらをしている韋駄天は正気じゃない。だから横島に憑依している韋駄天はその韋駄天を退治、もしくは捕縛しに来たのだと思う。神族のなかで最近まずいことになったという話をよく聞く」

 

シズクがぼそりとそう呟く。その話を聞いて私は思わず

 

「連絡取ってるの?」

 

一応シズクも神族だし、竜神だからそういう繋がりがあるのは知っているけど、連絡しているような素振りは無かったし……どうやって連絡を取っているのだろうか?と思って尋ねると

 

「……馬鹿なミズチが私を指導者にとか言ってたまに降りてくる。あとは叩きのめして話を聞きだす。簡単なこと」

 

にやあと黒い顔で笑うシズク。こういう笑顔を見ると腹黒にしか見えないのよね……っていうか叩きのめすって何しているのよ

 

【お仲間なんですよね?なんで叩きのめすんですか?】

 

おキヌさんがそう尋ねるとシズクは面白くないという感じの顔をして

 

「……私が竜神界に来ないのは横島がいるからだとか言って、ちょっかいをかけようとしていたから叩きのめした」

 

このちょっかいは明らかに暴力を振るうという感じのニュアンスが含まれていた。

 

「仕方ないわね、それはミズチが悪い」

 

【ですね】

 

横島に危害を加えようとする存在を生かしておく必要は無い、だからシズクの対応は正しいと思う

 

「なんか頭痛くなってきたわ……それでシズク。神界の問題って?」

 

美神さんがそう尋ねるとシズクは真剣な顔をして

 

「……神魔族の失踪事件が多発している。神族からも魔族からも……吸血鬼とかあのハゲの事もある。なにか大きな事件の前触れなのかもしれない」

 

その言葉に重い空気が事務所に満ちる。神族だけや魔族だけならまだ分かる。だけど両方から失踪していると言うのはどう考えても異常事態だ。私もお父さんに聞いてなければ美神さんと同じ反応をしていたと思う

 

「……この話はあまり広げるな。まだ調査段階だからな」

 

「ええ、分かっているわ。下手に話をして混乱が広がっても困るしね、いい話をありがとう。じゃあ昨日の首都高荒らしの情報を纏めなおすわよ。近い内にまた現れるのは判っているんだから」

 

美神さんの言葉に頷き、机の上に広げられている昨日の首都高荒らしの出現場所などが纏められたリポートに全員で目を通すのだった……どうも今回の事件もきな臭いし……しっかり対策を取っておかなければならないようだから……

 

 

 

 

美神さんと蛍に日記をつける事は大事だと勧められ、日記をつけ始めて約二ヶ月。なんでもこうして記録に残しておく癖をつける事で、除霊のリポートを書く練習をしたり、見たことを文で書ける表現力を身につけるということらしい、これもGSでは必要な技能らしいので毎日日記をつけるようにしている。今日も陰陽術などの練習をしていたんだが……どうも出力が増しているような気がする。かなり長い事掛かったが、やっと俺の霊力の覚醒が始まったのかもしれないわね?と言う美神さんと蛍の言葉が非常に嬉しかった。これからも頑張って修行をして、2人の足手まといにならないようになりたいと思う

 

 

最近時々記憶がなくなることがあって非常に怖い、特に除霊の際にそれが激しいのだ。日記の間隔が空いてしまうのはこの記憶の無い時が多いからだ。最初は気絶していたんだろうと思っていたんだけど、あまりに頻度が多すぎる。シズクにタマモが護ってくれるのだから滅多に気絶することは無いはず……それにチビは電撃の出力が上がっているし、モグラちゃんも大きくなって爪や体当たりをして護ろうと頑張って……なんだろう、見た目幼女と動物に護られているって……こうして改めて文に書くと切ない……早く霊能力を使えるようになるといいと改めて思うのだった……

 

 

あまりに記憶の無くなる頻度が多いので美神さんと蛍に相談してみる事にした。それに最近は近所の子供に「ダッシュ」と言われた。ダッシュとは何なのか?それと何故か最近やけに疲れているし、筋肉痛も酷い。これは俺が意識を失っている間に何か起きている、絶対起きていると確信て尋ねると

 

「横島君。疲れているのね?今日はゆっくり休みなさい」

 

「そうよ?大丈夫。何の心配も無いから」

 

とてつもなく慈愛に満ちた表情でそう言われた。蛍ならまだ分かる、だが美神さんにされるとなんか不安になってくる

 

【今日は横島さんの好きな料理を作ってあげますから、今日はもう帰りませんか?】

 

そういうおキヌちゃんに金縛りで縛られ、強制的に家に連れて帰る事になった。なんと言うか、すごく怖い経験をした……

 

「あーやっぱ何も教えてくれないかー」

 

日記を書き終えて寝転びながらそう呟く、何か触り程度だけでも教えてくれたら良いのに……記憶が無くなるのは俺自身なのだから俺には知る権利があると思うんだけどなあ

 

「俺も寝るか……」

 

箪笥の上の籠で眠っているチビと布団の近くの籠で寝ているタマモ。そして部屋の隅で眠っているモグラちゃん。重なって聞こえてくる寝息に俺も眠くなって布団に潜り込み、眠りに落ちるのだった……

 

『すまぬな。まだしばらく身体を借りるぞ……』

 

……横島の記憶が途絶えているのは、当然憑依している韋駄天の原因だった……とは言え、除霊をしているのではない、暴走している九兵衛の痕跡を探していたのだ。アシュタロスの作ったベルトに自身の神通力の大半を残し、横島の身体から抜け出した八兵衛はそのまま合流地点へと向かう

 

「遅いぞ。八兵衛」

 

「グルルル」

 

満月の光を浴びながらビュレトが眉を顰めながら八兵衛に話しかける。ビュレトが跨っているのは美しい漆黒の毛並みと金色に輝く2本の角を持つ魔獣「バイコーン」だ。本来はその背を誰にも許すことの無い、誇り高い魔獣だ

 

「すまぬ、横島君もさすがに違和感を覚え始めていてな」

 

「ならば、今日こそ見つけるぞ。行くぞ、これ以上大事になる前にな……」

 

「ああ。人間に迷惑をかけるのも申し訳ない、それに……いつまでも横島君に迷惑をかけるわけにはいかないからな」

 

今日こそ手がかりを見つける。そんな強い意志を込めた言葉を交わし、ビュレトと横島の身体を抜け出した八兵衛は夜道を走り抜けるのだった……

 

 

 

 

夜道を駆けるバイコーンに跨ったビュレトと霊体のまま駆ける八兵衛を見つめる金色の蝙蝠……ガープの使い魔だ。使い魔の目を通してビュレトを見つめているガープはゆっくりと目を閉じてそのリンクを断ち切る

 

「ビュレト……やはりお前だったか……」

 

魔界から抜け出る高密度の魔力を探知して人界へ使い魔を放ったが、やはりビュレトだった……そんな気はしていた。あいつは口は悪いが友想いの良い奴だった……

 

「大方我とお前を止めにきた……と言う所か?」

 

「アスモデウス、勝手に入ってくるな。それと下手に触ってどうにかなっても知らんぞ」

 

フラスコを掴み上げているアスモデウスにそう警告する。それはあの韋駄天に使った狂神石の残りだ。無論ソロモンである私達には効果がないと思うが、試作型と言うことで色々改良しているので100%ないとも言い切れない。まだ始まったばかりでアスモデウスに倒れられても困る。アスモデウスは私の警告を聞いてフラスコを元に場所に戻しながら

 

「あの韋駄天。完全に魔族に堕ちていないが、それも計算のうちか?」

 

「ああ。あれでいいんだ……不信感と言う種は蒔いたからな」

 

神族が魔族に堕ちる……それはつまり裏切り者が存在するかもしれないという不信感を神族に与えるための物だ。それに……

 

「狂神石は韋駄天の存在を十分に学習している。それで良いんだ」

 

学習?と呟くアスモデウス。今ここで話してもいいが、それでは面白みが足りない。楽しみに待っていれば良いと言うとアスモデウスが

 

「最近我々を嗅ぎ回っている魔族がいるようだが……特定は出来たのか?」

 

「探してはいるが、特定は出来てないな。まぁうっとうしいのなら誘き出して捕らえれば良いだろう?」

 

わざわざ探すのではなく、向こうから出てくるようにすればいいのさと言いながら禁書を開く、アスモデウスもこれ以上は邪魔になると判断したのか研究室から出て行こうとして

 

「ガープ」

 

「なんだ?」

 

私の名前を呼ぶ響きの中に真剣な響きを感じて、禁書から顔を上げると

 

「ビュレトは仲間になってくれると思うか?」

 

魔界の奥から出てくることの無かったビュレトが人界にいる。それがアスモデウスを悩ませているのだろう……ビュレト・私・アスモデウス・ベリアル……魔界の4大公爵として、そして私達は親友同士だった……

 

「忘れるな。ビュレトは私達を裏切ったんだ、あいつとは違う」

 

「……分かっている。分かっては……いる。だがあの時は仕方なかった」

 

私は腕を切り落とされ、魔術の行使が出来ず。アスモデウスはその翼と自慢の槍と盾を失った……ベリアルは負傷が酷く、渋々槍を置き療養に入った。あのまま続けていたら確かに私達は死んで封印されていただろう……だが戦うことが出来たのに、その剣を置いたビュレトを私は許す事が出来ない

 

「……我はあいつと話がしたい」

 

「好きにすればいい。だが……」

 

私に向かって手を向けるアスモデウス、あいつだって馬鹿じゃない。分かっているんだ、ビュレトと私達の道が繋がる事はない、かつて手を取り合ったこの手はお互いの命を奪う為だけにある……

 

「ならば行け。迷いは捨てて来いアスモデウス……お前は私達の頭領だ。それが悩んでいては示しがつかない、そこの馬鹿を連れて来ているのならさっさと行け」

 

「……すまん」

 

溶けるように消えていくアスモデウス。入れ替わりで姿を見せたセーレは

 

「馬鹿って酷くない?」

 

本体でくることが出来なかったので分霊で来ているセーレを睨む。この子供っぽいしゃべり方は聞いていて腹が立つ。こんんなのが仮にも私と同じソロモンの魔神だと思うと涙が出る

 

「黙れ馬鹿」

 

どこへでも移動できる能力を持ちながら早速穏健派に目をつけられたこいつは馬鹿でいい

 

「いや、それは悪かったと思っているんだよ」

 

「それなら仕事だ。こことここに行って来てくれ」

 

げえっと呻くセーレに紙を渡して部屋から追い出す、指示のとおりやるだけだから頭の足りない分霊でも十分に達成できるだろう……

 

「最初の封印の地は……ほう、これはまた好都合だな……」

 

魔人封印の地の要は香港。かつてアシュタロスが原始風水盤を作る土地として選んだ地……無論ガープがそれを知るはずも無いが、あの場所は龍脈の上であり、これ以上ないと言うほどに極上な霊力の通り道だった。その余りに好都合な場所に魔人の1体が封印されていることを知り、私は思わず笑みを零すのだった……

 

 

 

 

 

『韋駄天の目撃場所ですけど、徐々に市街地の中心部に向かっているみたいですよ?だからたぶん今夜の出現場所は……新幹線の線路の近くだと思います』

 

「ありがと、この山は私に任せてね」

 

琉璃から電話で韋駄天の出現場所の予想をすることが出来た。前回は失敗したけど今回は絶対に失敗しない

 

『気をつけてくださいね。なんかどんどん凶暴になっているみたいですから』

 

確かに最近の韋駄天の暴れ具合はすごい。車やパトカーを破壊しまくっていると聞いている。それなのに死者が出ていないのは韋駄天が完全に操られている訳ではないという証拠だと思う

 

「気をつけるわ。じゃあ琉璃も仕事頑張りなさいよ」

 

自分の考えに確信が持てた、仕事の最中でもこうして私の話を聞いてくれた琉璃に感謝し、電話を切り正面を向きなおす

 

「……新幹線……あの長細い箱のことか?」

 

話を聞いていたシズクがそう尋ねてくる。だいぶ現代に馴染んで来たとは言え、知らないことも多いのねと小さく苦笑しながら

 

「ええ、シズクから見ればそうなるわね」

 

そう返事を返すとシズクは眉を顰めて

 

「……あの新幹線が走ってくる場所で戦うとなると足場が悪い。かと言って走らせないと韋駄天は掛かってこない、どうする?」

 

調べた調査結果によると韋駄天は走っている物が無いと現れない。これはたぶん本能的な問題だろう、もしくは個人の目指す物の問題だと思う

 

「新幹線……修理代っていくらくらいだと思います?」

 

「考えたくないわ。蛍ちゃん」

 

新幹線の所に誘き出すことは出来るが、確実に新幹線が壊れる……政府とかの支援ってこの場合出るのかしら?私がそんなことを考えているとおキヌちゃんが

 

【私がこっそり忍び込んで結界とか仕掛けてきましょうか?それで見つけたから乗り込んだってことにすれば大丈夫なんじゃ?】

 

それは確かにいい考えだと思うけど、考え方が黒いわね……でもまぁ最初から囮に使うって前提で借りるより、韋駄天が向かって来ているから乗客を降ろしてって言う方が良いわよね。まぁ一番ベストなのは走り出す時間の前に韋駄天が現れてくれることだけど、そこまで上手くいく保証はないし……最悪のケースも考えておく必要があるわね

 

「それで行きましょう。韋駄天が抵抗できている今がチャンスだから」

 

「はい。今日あたりが最後のチャンスですよね……たぶん」

 

蛍ちゃんが手にしている書類を見ながら尋ねてくる。どうもあの韋駄天が操られているのは間違いない、しかし僅かにまだ操られている韋駄天の意識はあるらしく完全に暴れる前にかるい警告のような襲撃を繰り返すというのが調査で分かっている。だがそれもだんだん容赦が無くなって来ている所から考えると今日が最後のチャンスだろう

 

「横島君……ううん、憑依している韋駄天が出てくると思うけど……そこは悪いけどシズクに任せるわ」

 

横島君に憑依している韋駄天。何度も何度もヨコシマンダッシュと言う冗談か悪い悪夢としか思えない姿で出てくるが、実力は本物だ。しかしその身体は横島君の物で生身だ……戦い始めれば横島君を見ていることは私達には出来ないのでシズクに任せると言うと

 

「……言われなくてもだ。横島は私が護る……」

 

おキヌちゃんと蛍ちゃんが物凄く嫌そうな顔をしているけど、こればっかりは当人達の問題なので私から言うことは何も無い。強いて言えば横島君が早く誰と付き合うか決めるのが一番……

 

(よくないわね……うん)

 

そうなったらそうなったで色々と大変なことになりそうな気がする。触らぬ神に祟りなしって言うし私からは何も言わないことにしよう

 

「じゃあ蛍ちゃんとシズクは横島君を迎えに行って戻ってきて頂戴。私はその間におキヌちゃんと一緒に捕縛の準備をするから」

 

分かったと返事を返し事務所を出て行く2人を見送り、私は除霊道具を保管している部屋におキヌちゃんと一緒に向かって

 

「じゃあこれとこれとこれ、使い方はこっちに書いておいたから、頑張ってね」

 

【はい!任せてください!】

 

こっそりと新幹線に韋駄天を捕縛する為の仕掛けをおキヌちゃんに持たせてから送り出し、私も捕縛の準備を始めた、普段はボディコンだけど、今回は新幹線の上か線路の上の除霊になる。しかも除霊ではなく、韋駄天を捕獲し、正気に戻すと言う事を目的にしている。ちゃんと準備をしておかないと怪我じゃすまない

 

「さーて、今回はきっちり決めさせてもらうわ」

 

自分に言い聞かせるようにそう呟き、特注品のジャケットを羽織り精霊石や破魔札を用意し、事務所の外で横島君達が来るのを待つのだった……

 

 

 

 

美神達が韋駄天の捕縛作戦の準備をしている頃神界では……

 

「奪われたのは魔人に関する書物ですか……斉天大聖殿」

 

「うむ……少々……いやかなりまずい代物じゃな」

 

竜神王と老師が奪われた書物に関しての話し合いをしていた。無論他の神族に聞かせるわけにはいかないので、竜神王の執務室ではなく、結界に覆われた妙神山でだ

 

「……どう見ますか?斉天大聖殿」

 

「魔人の復活は過激派から見ても良い物ではないじゃろうな、あれは制御などできん天災じゃ」

 

魔人……神魔族の中では触れてはならないとされている存在だ。その数は10ほどしか存在しないが、その1体1体が最上級神魔に匹敵するほどの強大な力を持つ存在だからだ

 

「対策も取れぬ……監視体制を強めるしかないのう……」

 

「せめて封印の場所が分かれば……」

 

魔人は数多の最上級神魔の犠牲を持って封印され、その封印の場所を記した書物は神界と魔界に分けて保管されていたが、おそらく両者とも過激派の手に落ちていると考えて間違いないだろう

 

「私のほうでも探ってみます」

 

「うむ、だが会議の時に魔族が動く可能性もある、そちらの警戒もしっかりするのじゃぞ」

 

心得ておりますと頭を下げて部屋を出て行く竜神王を見送りながら、ワシはキセルの灰を落とし

 

「魔人……か……知らんなあ……」

 

ワシの記憶の中に魔人なんて存在しない。だが神界と魔界にはその脅威が伝わっている……

 

「平行世界……一度アシュタロスも呼んで最高指導者と話をするべきじゃな」

 

ワシはそう呟き消えてしまったキセルに再びタバコの葉を詰め、火をつけてゆっくりとキセルを吸い

 

「これからどうなることやら……」

 

横島が幸せになる為の逆行で、全て対策が出来ていた筈なのに、それを上回るイレギュラーの数々に……いや、正しくは

 

「老師!横島さんの所に行かせてください!」

 

「修行をしとれ!この馬鹿弟子がぁ!!!」

 

今の小竜姫をかなりの時間のっとることに成功し始めた未来の小竜姫に頭を抱えるのだった……

 

 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その4へ続く

 

 

 




次回は私の考えたオリジナルのライダーが出てきます。とは言え、そこまでガッツリと登場させるつもりは無くてですね。
どうしても必要な時だけとか出して、あくまで続編とかで使用することを前提にしているライダーです。あくまで今作では霊力とかをメインにしたいと思いますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです、今回は私のオリジナルのライダーが出る話です、ゴースト系のライダーなので、GSの世界観とも違和感が無いと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート19 開眼!疾走する魂! その4

 

カチッ……カチッ……時計が時間を刻む音がやけに大きく聞こえる。そろそろだろうか?

 

(蛍……それに横島君は大丈夫だろうか?)

 

今日暴走している韋駄天を捕える作戦を決行すると蛍には聞いている、出来ればビュレトに見ていてほしかったが、何かを感じ取ったらしく、さっきビルを出て行ってしまった……

 

「近づいて来ているな……しかもこの感じは……」

 

街全体に張ってあった探査結界。これは私の魔力で作ったものだから手に取るように分かる。蛍達の方に凄まじい速度で向かっていく魔族の気配。こっちは韋駄天だ、辛い戦いになると思うが……八兵衛もいるし、私とドクターカオスで作った変神ベルトもある、きっと何とかしてくれるはずだ。それよりも不味いのがこの上空に現れた魔力の方だ……

 

(この感じ……間違いない、ソロモンだ)

 

何十にも魔力遮断壁を使って魔力を隠しているが、間違いない。あの魔力の持ち主はソロモンの魔神だ……だが誰だ?ソロモンの魔神と言う事は分かるが、それが誰なのかが分からない……

 

(ガープ……いや違うな、あいつは自分じゃ戦場には立たない)

 

ガープは生粋の魔術師だ。自分1人で戦場に立つと言う事は少ない、仮に立ったとしても必ず仲間もしくは自身の作り上げたゴーレムなり、キメラなりを連れているだろう。あいつは研究者でもあったから……ビュレトの魔力の下に向かっていることを考えるとかつてのビュレトの仲間である可能性が高い。ガープではないとすると……

 

(となると……アスモデウスか?)

 

しかしアスモデウス一派の頭領とされているあいつが動くだろうか?あいつは策略家としても、指揮官としても優秀な奴だった……韋駄天の事もあり監視されている状態で動くだろうか

 

「しかしそれさえも罠か?」

 

動くわけが無いと思わせて暗躍する。それもまた兵法の1つ……かと言って今私が動いて私の事を聞いてない神魔族に見つかるリスクを考えると私が動く訳には行かない。メドーサもまだ戻っていないし、ベルゼブブやデミアンは当然論外……今私に出来ることはここでこうしてこれ以上魔族が侵入してこないように結界を維持するだけ……力があってもそれを振るうことが出来ないもどかしさ……

 

「なんとも辛いものだな……」

 

新幹線の近くで激しい神通力と魔力のぶつかり合いと、上空で今にも爆発しそうな勢いで高まっていく魔力の波長を感じ取りながら、私は自分の無力さを思い知らされているような気がして……結局私には何も出来ないのだと

 

(なんとか頑張ってくれ……蛍、横島君)

 

今の私は表立って動くことが出来ない、娘を護りたいと思っても、横島君を助けたいと思っても、今の私に出来る事はないのだ……唯一いま私が出来る事と言えば、こうしてこの場所から蛍達の無事を祈る事だけだ。しかも祈った所で何も変わらないと分かっている。それでも私は蛍達の無事をこの場所から祈り続けるのだった……

 

 

 

 

 

『キッヒャハハハハハハーッ!!!』

 

狂ったように笑いながら暴走している韋駄天が横島君にその爪を何度も繰り出す

 

『くっ……ヨコシマンソードが折れた!……力の差が……がはあっ!?』

 

インカムを通じて聞こえてくる横島君と韋駄天様の声が重なった苦悶の声。ヨコシマンソードとかなんか馬鹿なことを言っているので若干力が抜けるが、不味い状況なのは判った

 

(計算が狂った……まさかこんなに差があるなんて……)

 

韋駄天は新幹線の発射時間の前に現れ、周囲の建物を破壊し始めた。これで新幹線に乗っているのは私と蛍ちゃんとシズクそしておキヌちゃんだ。チビ達は暴走している韋駄天の魔力に引かれて凶暴化しかねないので事務所に置いてきた……最初こそ実力は均衡していたが、月が出てきてから操られている韋駄天の魔力が上昇し押され始めている

 

「やっぱり新幹線を止めたほうが良いんじゃないですか!?このままだと横島が危ないです!」

 

蛍ちゃんがあせった様子でそう提案するが、このスピードで停車するのは余計に危険だし、それに周囲の被害も考えると……新幹線を止めることは出来ない……となれば……顔を上げると当然見えるのは新幹線の天井。その上は既に足型がくっきりと浮かんでいる

 

『ヨコシマンビームッ!!』

 

『ヒャハーアアッ!!!』

 

目の前を凄まじい霊力の光が通過して、新幹線に風穴が開く。これ少しずれてたら死んでたわね……私が冷や汗を流していると

 

【美神さん!天井に穴が開きました!】

 

おキヌちゃん、私も見ていたから言われなくても分かっているわ。それとそれで決断した

 

「シズク。やっちゃって」

 

「……分かった」

 

もうこれは出来ればやりたくなかったが、これしかない。シズクにお願いするとシズクは両手から水を滴らせそれを振るった

 

『ぬおう!?あ、足場ああ!?』

 

『ヒャハア!?』

 

シズクの放った水の刃で新幹線の天井だけが綺麗に吹っ飛ぶ。足場が消えて体制を崩したまま落下してきた韋駄天様と韋駄天を見ながら

 

「蛍ちゃん!」

 

「はいッ!」

 

韋駄天の方に2人同時に精霊石を投げつける。しかし狙いは韋駄天ではなく、この新幹線全体に張り巡らせた捕縛結界の起動だ。本当は横島君に憑依している韋駄天に捕らえて貰って、ここに引きずり込んで使うつもりだったけど、あのままでは駄目だと判断したから天井を破壊するという手段になってしまったが、おおむね計画通りである

 

(カオス特製の精霊石粉末と聖水を応用した特製の捕縛結界、これなら)

 

韋駄天は鬼ではあるが神である、しかし逆を言えば神であると同時に鬼なのである。つまり神の中にまれに存在する善悪合一型の神である、本来ならば精霊石の効果は神の力に阻害され、その効力を失うが、鬼と化している今ならば……捕獲出来る。そう確信していたのだが……

 

『い、いかん!美神殿ッ!離れるんだ!』

 

警告の声が聞こえたと思った瞬間。私と蛍ちゃんは同時に宙を舞っていた

 

「ぐっうっ!?」

 

「いっつう……なにこれ……」

 

いきなり吹っ飛ばされ、気がついたら全身に激しい痛み……何が起こったのか判らない。鈍い痛みの走る腹部に顔をゆがめていると

 

『某が何とか食い止めてみせる!早く逃げるんだ!行くぞ!ヨコシマンソードだっ!!』

 

あわてた様子で叫び左手から光の刃を作り出し駆け出す韋駄天様。私が混乱しているとシズクが水の障壁を作りながら

 

「……超加速。韋駄天と一部の竜神が使える秘術。時を歪める術……あれを使われたら打てる手が何も無い」

 

いつもポーカーフェイスのシズクの顔が歪んでいるのが判る、それだけ不味い状況って事……どうする?どうやってこの場を切り抜ける?捕縛は出来ない……どうしてそれを教えなかったのかと尋ねると

 

「……超加速は韋駄天でも使える者の少ない秘術……まさか使えるなんて思ってなかった」

 

シズクは使えるの?と尋ねると、この姿では無理だと呟く。大人なら使えるかもしれない……でも確実ではないと呟く、どっちにせよ作戦を考え直さないと

 

【きゃあ!?よ、横島さんが!】

 

おキヌちゃんの声に顔を上げると

 

「ぬっぐう……」

 

左手から伸びていた霊力の剣が砕け、点滅しながら消えて行き、更にフルフェイスのヘルメットが砕け、そこから横島君の顔が見えている。ちらっと見ただけだが、血が流れているのが見えた……

 

「シズク」

 

「……やるだけやってみる」

 

私の言いたいことを理解したのか小さく頷くシズク。このまま護っていてもジリ貧だ。超加速が切れた瞬間を狙うしかないと……だがこの時。まだ私は侮っていたのだ、超加速の秘術の脅威を……

 

『ヒャッハハハハハッ!!!!!』

 

狂った笑い声が響いたと思った瞬間。周囲の椅子も、シズクの水の障壁が弾け飛び、私達も新幹線の壁に叩きつけられていた……その凄まじいまでの衝撃に抵抗する機会も与えられず、私は意識を失うのだった……

 

 

 

 

 

「行かないでいいのか?ビュレト」

 

「今お前に背を向けるほど俺は馬鹿じゃない」

 

下の方で爆発的に韋駄天の魔力が上がったのは感じている。だが目の前で人間に擬態して俺を見つめているアスモデウスに背を向けるほど俺は愚かではない、確かにアシュには気にかけてくれと言われたが、この場面ではそんなことを言える余裕は無い

 

「ガープか?相変わらず危ねえ物を作っているな」

 

おそらく時限式の何かを韋駄天の中に仕込んでいたのだろう。まったく今も昔も変わらないな……

 

「否定はしない。あいつの探究心は今も昔も変わらないからな」

 

小さく苦笑するアスモデウスを見つめながら、俺は本題を切り出すことにした。どうせ俺とあいつの道が重なることは無いとわかっている。だからこそ早く割り切りたかった……

 

「何をしに来たんだ?アスモデウス?」

 

俺がそう尋ねるとアスモデウスは俺に手を向けて

 

「一緒に来い。今の秩序を破壊するんだ」

 

「断る」

 

迷う事無くそう告げる。確かにアスモデウスとまた手を組むのもいいだろう、だがそれならば

 

「お前がこっちに来い」

 

「お断りだ」

 

アスモデウスも即座に俺の誘いを断る。お互いに判っているのだ、つまりこの会話には何の意味も無い

 

「やるか?」

 

剣を取り出してアスモデウスを睨むとアスモデウスは肩をすくめて

 

「……無粋だな、旧友と再会し、決別した……その様な場で剣を交わすほど、我は好戦的ではない」

 

「相変わらず気障な言い振りだ」

 

苦笑しながら剣を魔力へと戻す……俺自身もこの場で戦おうなんて思っていない。ただこれはお互いにとっての確認だった……

 

「お前も変わらない、いつだってな」

 

「当たり前だ。俺は俺だからな」

 

昔と何も変わっていない、だけどお互いの道は決して交わる事が無いほどに離れてしまった……

 

「さらばだビュレト。我が友よ……」

 

「ああ。じゃあな、アスモデウス。それと俺はお前を……いや、お前達を止めてやる」

 

俺がそう言い放つとアスモデウスは本当に小さく笑いながら

 

「そうか……なら止めに来るがいいさ、我達を止めれると思っているのならな」

 

そう笑って消えていくアスモデウス、俺は溜息を吐きながら新幹線とやらのほうに向かおうとして

 

「ん?これは……」

 

新幹線の中で爆発的に高まっていく霊力を感じ取って降下するのを踏み止まる

 

「なるほど……アシュが言っていたのはこの事か……ならば見させて貰おうか」

 

アシュの野郎が言っていた。横島と言う男は英雄の器だと、しかし俺にはそんな風には思えなかった。だが今この瞬間……その考えが少しだけ変わった

 

「見届けてやるぜ、横島忠夫。俺の期待を裏切るなよ」

 

俺は小さくそう呟き、天井の無い新幹線の方へと視線を向けた所で、思わず呟いてしまった

 

「あー酒が欲しい……」

 

きっとこれはいい見世物になる。最悪自分が助ければいいと思った瞬間思わずそう呟くと

 

「どうぞ」

 

「お?どう……誰だ?」

 

差し出された杯を思わず受け取ってしまったが、おかしいと思いながら振り返ると

 

「げ……ブリュンヒルデ……」

 

黒いドレス姿の女がにこやかに微笑んでいた、ブリュンヒルデ……魔界正規軍司令オーディンの娘。何度か顔を合わせたことはあるが、正直こいつは苦手だ

 

「どうもビュレト様。お久しぶりですね、確か……前のパーティの時にお会いしましたわね?」

 

「ああ、あの流血騒動は忘れたくても忘れられん」

 

パーティの筈が処刑場になっていたあの惨劇を忘れることは当分出来そうにない。

 

「なんでお前がここに?」

 

「英雄の気配がしました」

 

にこっと笑いながら言うブリュンヒルデ、その視線の先は横島の姿……

 

(俺しーらね)

 

アシュの野郎の娘が横島を好いているのを知っているが、こいつは人の話を聞かないし、そもそも俺がそこまでしてやる理由も無い。俺はとなりで嬉しそうに横島を見つめているブリュンヒルデに邪魔はするなよ?と警告し、彼女から受け取った杯の中身を煽るのだった……

 

 

 

 

 

 

(すまない、横島君。君の身体をこんなに傷つけてしまった……)

 

頭の中に響く声、韋駄天の八兵衛と名乗った神様に何が起こったのかを話してもらい、全てを理解した。ダッシュとはこの

八兵衛が名乗った名前らしい、さっきまで自分の身体を包んでいた衣装の事は出来れば忘れたい……が

 

(くそ……俺はぁ……何も出来ない)

 

さっきまで蛍達の所に操られている韋駄天を行かせない様にしていたが、超加速とやらで動く事も出来ず、徹底的に叩きのめされ動く事も出来ず、こうして地面に倒れるだけ……しかもさっきまでは八兵衛が戦っていたんであり、俺は何もしていない……自分の無力さばかりが突きつけられる

 

『キヒャヒャッ!!』

 

狂ったように笑いながら倒れている蛍の方に歩き出す韋駄天。意識はあるようだが、動く事が出来ないのだろう。身動ぎするだけで逃げる気配が無い

 

『ヒャヒャ』

 

(止めろ……)

 

その爪を蛍に振り下ろそうとする韋駄天。拳を握り締めて無理やり身体を起こそうとすると

 

(止めるんだ!今動けば!治療はまだ)

 

(うるさい!!!)

 

頭の中に響いた八兵衛の声にそう怒鳴る。自分の身体がどうなっているかなんて自分が一番良く判っている、切れた額から流れた血で視界の半分が塞がっているし、手足の感覚もまるで無い……立ち上がることが出来ないって事も自分が一番良く判っている……それでも!それでも……

 

「蛍に手を出すんじゃねえええええッ!!!!」

 

何にも出来ない俺を認めてくれた蛍が傷つく所を黙って見ている事なんて出来はしない

 

『キヒ!』

 

俺が立ち上がると同時に韋駄天が地面を蹴った勢いで近づいてきて、俺に蹴りを叩き込んでくる

 

ボキボキ……

 

「がっはあ……」

 

身体の中で骨が砕ける音と肺から強制的に吐き出された空気がうめき声となって、俺の口から零れる

 

「横島ぁッ!!!」

 

蛍の悲鳴にも似た俺を呼ぶ声がする。倒れかけたが、足を新幹線の床に叩きつけるようにして踏み止まる。

 

「ぜー……ぜー……全然……平気だ」

 

(無理だ!それ以上動くな死ぬぞ!)

 

うるさい……どうせ俺に出来ることなんて無い……だけど、それなら……蛍達が動けるようになるまで……サンドバッグにはなれる……口から流れた血を拳で拭いながら

 

「ま……まだだああッ!!!げほおッ!」

 

立ち上がった瞬間腹に突き立てられる拳。そのあまりの激痛に意識を失ったほうが楽だと思った……それでも

 

「はーはー……神様もあれだな……人間1人も……倒せないんだなぁ?」

 

『キヒャアアッ!!!』

 

俺の挑発が聞こえたのか何度も拳を振るってくる韋駄天の拳を歯を食いしばって耐える。蛍やおキヌちゃんの悲鳴が聞こえる……もう痛いのか、苦しいのかそれさえも判らないけど……それでも倒れることはせず、視線だけで抵抗の意思を伝える

 

(もう止めるんだ……死んでしまうぞ!?)

 

八兵衛の声が聞こえるけど、もうその言葉に返事をする気力も無い

 

『ヒャッハ!!!』

 

韋駄天が放った閃光が迫ってくるのが見える。自分でも驚くほど冷静に死んだなあと思った瞬間……

 

【「横島ぁ!横島さん」】

 

蛍とおキヌちゃんとシズクの俺の呼ぶ声が聞こえた……

 

(死にたくない……)

 

まだ死にたくない……まだ俺は何も成し遂げてない、まだ死にたくない……そう思った瞬間

 

『ケヒャア!?』

 

韋駄天の困惑した声が聞こえる、俺自身も混乱していた、俺の身体を焼き尽くすはずだった閃光はベルトに吸い込まれ消えたからだ……しかもそれだけではない

 

【イヒヒー♪】

 

楽しそうな笑い声を上げてベルトから何かが飛び出して、韋駄天と俺の前に浮かんでいたのだった……

 

 

 

 

 

あれは……なんだ?私は横島の前に現れた黄色い何かを見て困惑していた

 

【イヒヒー♪ヒヒー♪】

 

楽しそうな笑い声を上げながら横島の前をくるくると飛び回っている、韋駄天も混乱しているようで動く気配が無い、今のうちに……遠くに落ちているペットボトルの水を操って自分の近くまで引き寄せて、一気にその水を飲み干す……

 

(これで動ける……)

 

韋駄天の攻撃で失っていた水分を取り戻した所で、横島の治療をと思い立ち上がろうとした瞬間

 

【イヒヒー♪】

 

「う……これは……」

 

その黄色い何かはベルトの中に吸い込まれるように消えて行き、代わりに黄色い球体な様なものがベルトから吐き出され、その姿を変えていた

 

(あれはなんだ……凄まじい霊力を放っている……)

 

横島の腰のベルトと手の中の球体からは凄まじい霊力が放たれている。その波長は横島の物と同じで……まさか横島の霊力の一部が開放された?

 

『ヒャハハハハッ!!!』

 

「うわあ!?」

 

韋駄天が横島に向かって拳を振るう。しかし怪我をしていた筈の横島はスムーズに動いてその拳を躱し

 

「なんか知らんけど……頼むぞ!」

 

ベルトのバックルを開いて、そこに黄色い球体を押し込む

 

【イヒヒー♪】

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

ベルトの中から先ほどの黄色い何かが飛び出して、ベルトから響く歌にあわせてくるくると回転している

 

【どうなっているんですか……】

 

おキヌが目を丸くしながらそう呟く、私もどうなっているのか判らない

 

「お父さんが何かを仕掛けてた……いや、でもそんな話聞いてないし……あいたたた……」

 

「ちょっとシズク……早く治療……本当に痛いから……」

 

怪我が響くのか顔を歪めながらそう言う蛍と美神。横島は大丈夫そうだから2人の治療に向かう

 

「えーとこうか!?」

 

【イヒヒー♪】

 

自身の周りを飛び回る何かに言われるがまま横島はベルトに付けられていたレバーを引っ張る

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】

 

【イヒヒー♪】

 

「うわっ!」

 

黄色い何かがいきなり突っ込んできたので横島は身をそらす。伸ばされた手に黄色い何かの手が当たると

 

【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

横島の姿がアーマーに包まれ、その上から踊っていた黄色い何かが覆いかぶさりその姿を変える

 

「「「は?」」」

 

「んじゃこりゃあ!?」

 

『ヒャハア!?』

 

一瞬で姿が変わった横島に横島含め全員の驚愕の声が重なる。黒いアーマーには奇妙な模様が浮かび、腰には多きなベルト。黄色いパーカーとか言う服を着込み、顔にはギザギザの輪郭を持った目や口のマークが浮かび、額には1本角……見ているこっちも驚いているが、横島自身も……

 

「どどど……どうなっているんだよ!これえ!?」

 

自身の身体を見て驚愕の悲鳴を上げている。いきなり自分の姿が変わればそれは驚くと言うものだろう……

 

『ヒャハア!?』

 

「どわあ!?……あ、あれ?」

 

「「「新幹線の中に埋まったア!?」」」

 

韋駄天の拳を躱した横島だったが、そのまま新幹線の床の中に下半身が吸い込まれるように消える

 

『ヒャハ!?』

 

「なんか知らんがチャーンスッ!!!」

 

困惑している韋駄天の顔面に拳を叩きつける横島。韋駄天が面白いように飛んでいくのを見て

 

「これなら行ける!行くぞぉッ!!!」

 

自分に気合を入れる為なのか、頬を叩いてから韋駄天へと向かっていく横島

 

『ケヒャ!』

 

「のひゃ!?」

 

韋駄天の奇声と横島の奇声が重なる。横島は逃げてはいる様子なんだけど、新幹線の床や壁の中に潜り込んでその攻撃をかわして、困惑している韋駄天の背後に姿を見せて殴りつけている。

 

(卑怯……いや、でもこれでいいのかもしれない)

 

実力に差があるのだから、不意打ちでも卑怯でも勝てば良い……だから横島の戦術は間違いではない

 

『キヒャアアッ!!!』

 

現れては消えるを繰り返す、横島に痺れを切らしたのか韋駄天が私達を狙い始める

 

「……くっ!強い」

 

咄嗟に氷の障壁を作るが、蛍を治すのに水を使いすぎた……防御に回す水が足りない

 

「大丈夫なのシズク!?」

 

「……あんまり大丈夫じゃない」

 

心配そうに尋ねてくる蛍にそう返事を返す、今のは耐えることが出来たけど……連続で耐える事は出来ないかもしれない……私の表情が歪んでいるのに気づいた横島は

 

「このおっ!」

 

『ケヒャ!?』

 

韋駄天の腰の所に抱きついて美神の方を見て

 

「後で拾いに来てください!頼んます!!」

 

「ちょっ!?横島君!?」

 

そう叫ぶと韋駄天に抱き着いたまま、さっきの攻撃で穴の開いた新幹線の車体から飛び出していく

 

「おキヌさん!追いかけて!」

 

【判ってます!早く追いついて来てくださいね!】

 

おキヌに横島を追いかける様に頼んだ蛍と美神はそのまま運転席の方に走り出す。私はその背中を見て

 

「……私も追いかける。早く合流しに来い」

 

ちょうど川が見えたので私も穴の開いた車体から飛び出し、川の中に飛び込むのだった……

 

 

 

 

霊力が充実している……横島君と某の神通力が完全に同調しているおかげか、横島君の身体能力が大幅に上がっている……

 

『キヒャ……』

 

「おらあ!!」

 

超加速を連続で使用しすぎたせいか、肩で息をしている九兵衛……

 

(横島君!今だ)

 

【イヒヒー♪】

 

某と謎の黄色い幽霊の声が重なる。某にはいヒヒっとしか聞こえないが、どうも横島君にはちゃんと声が聞こえているようで、

 

「こうだな!」

 

ベルトのレバーを勢いよく引く横島君。それと同時に

 

【ダイカイガン!ウィスプ!オメガドライブッ!!!】

 

某の神通力と横島君の霊力が混じった巨大な魔法陣のような物が目の前に展開され

 

「いっけええ!!!」

 

その魔方陣目掛けて蹴りを叩き込む、その魔法陣のエネルギーを全身に纏った横島君の蹴りが九兵衛に叩き込まれた

 

「げはッ!」

 

大きく咳き込むと九兵衛の口から赤い宝石が飛び出す、それは凄まじい魔力を帯びていてあれが原因で九兵衛がおかしくなっていたのだと判る。だがこれで終わった……

 

(お疲れ様横島君、君のおかげ……なんだ!?)

 

横島君に労いの言葉と感謝の言葉を口にした瞬間。九兵衛の口から飛び出した宝石に満ちた魔力が異常に増大し

 

【ギャオオオオッ!!!】

 

宝石は一瞬で化け物姿へと変化する。血のような真紅の瞳を輝かせ、凄まじい咆哮を上げるのだった……それは生まれ出たことを喜ぶような、それとも目の前の横島君と九兵衛を殺すことが出来る歓喜の喜びのように某には聞こえるのだった……

 

 

 

 




リポート19 開眼!疾走する魂! その5へ続く

横島がゴースト系ライダーに変身しました~次回は九兵衛を暴走させていた元凶との対戦です、ゴースト系だからフォームチェンジもありますよ?詳しい解説はリポート19完結後にご紹介したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で戦闘回は終わりにしようと思います、あんまり長引いても良くないですからね。
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート19 開眼!疾走する魂! その5

 

突然目の前に現れた化け物に思わず俺は身震いし、恐怖で絶叫しながら

 

「無理や!?あれは無理だ!!!でかいし!?」

 

俺の倍近い背丈をしてるし、爪も鉄とかも切り裂きそうなくらい鋭いし……どこからどう見ても勝てる要素が見当たらない、さっきの人間と同じ大きさならまだしも、なんでこんなに巨大化しているんだ!?

 

(だ、だいじょうぶ!いまのよこしまくんのれいりょくなら)

 

八兵衛も目の前の化け物に動揺しているのか言葉がおかしい気がする、神様がこんなにうろたえるなんて、とてもじゃないけど、俺が勝てる相手じゃないんじゃ……

 

「うう……ここは……なんだ!?あの化け物は!?」

 

気を失っていたもう一人の韋駄天が目を覚まして絶叫する。なんと言うか収集が着かなくなっている気がする……とりあえず今出来ること……今出来ること……どうするかを必死に考える。この謎のスーツで大分強くなっているとは言え、あんな巨体を相手に戦って勝てるとは思えないし……つうか怖いから逃げたい

 

【イヒヒー♪】

 

(とりあえず戦うしかなさそうだぞ!?横島君)

 

頭の中に響く笑い声と八兵衛の声。いや、無理!無理だってあれと戦うってどう考えてもアグレッシブな自殺だぞ!?

 

【ウォオオオオンッ!!!】

 

突然狼のような咆哮を上げて突進してくる化け物。あの巨体が凄まじいスピードで突進してくるのを見て

 

「ぎゃあああ!?来たああああ!?」

 

咄嗟に地面を蹴って後ずさろうとすると浮遊感を感じて

 

「と、飛んでいる!?いや、浮いてるのか?」

 

ふわっという感じで身体が浮かぶのが分かる。さっき新幹線の中に潜り込んだのも思い出して

 

(幽霊みたいになってるって事なのか?)

 

おキヌちゃんを見ているから思ったんだけど、この姿になっている間は幽霊に近くなるのか?と考えていると

 

【グオオッ!】

 

「がはあっ!?」

 

咆哮と共にあの化け物の巨体がぶれる。そして次の瞬間には思いっきり背中を殴りつけられ地面に叩きつけられていた

 

(これは超加速!?馬鹿な!何故あの化け物が使える!?)

 

八兵衛の驚愕の声が脳裏に響く、新幹線の中で何度も見たが、これだけ広い場所だと本当に何が起こっているのか判らない

 

【シャアアッ!】

 

さらにその化け物は倒れている韋駄天のほうに突進していく、さっきまで戦っていたダメージが大きいのか呻くだけで動く気配が無い

 

(横島君頼む!九兵衛は某の友なのだ)

 

そう言われては助けないわけには行かない、怖くて本当は逃げ出したいが歯を食いしばって拳を握り締める

 

「でやあッ!」

 

大口を開けて韋駄天の噛み付こうとする化け物の前に回りこんで拳を繰り出すが、まるで鉄を殴りつけたように、俺の手が痺れる

 

【ギロッ!】

 

真紅に輝く瞳に睨みつけられる。しかも全然効いているとも思えない……

 

【ギャオオオオッ!!!】

 

俺を敵と認識したのか凄まじい雄たけびを上げる化け物。その凄まじい咆哮に後ろに弾き飛ばされながら

 

(ハ兵衛!あの倒れている韋駄天の方に!)

 

(しかし!某の補助が無ければ!?)

 

そうは言うがまたあの倒れている韋駄天を狙われてはどうしようもない。反対する八兵衛にもう一度行ってやってくれと言うと体から何かが抜け出す感覚がして身体が少し重くなる。でも動けないわけじゃない……それにこのスーツ?見たいなののおかげで防御力とかも上がっているのは、さっきの攻撃を受けたときに理解している

 

(美神さん達が来るまで耐えれば良いんだ……それならきっとなんとかなる!)

 

ぎろりと俺を睨む化け物。俺は震えながら拳を握り締め

 

「来るなら来い!この犬の化け物が!!!」

 

なけなしの勇気を振り絞ってそう叫ぶのだった……あーくそ!これが美女・美少女なら!と叫ぶ余裕が無いほどに、俺は追い詰められているのだった……

 

 

 

 

 

横島と化け物の戦いを見つめている金色の蝙蝠。ガープの使い魔だ、その視界を通して戦いを見ていたガープはにやりと笑いながら

 

「実験は成功だな……あのパイパーとか言う悪魔はいい研究データを残してくれた」

 

机の上の書類を見ながらくっくっと笑うガープ。パイパーに渡されたのは試作型の狂神石。それはパイパーの体が持たないと判断するや、周囲の悪霊などを食らって別のなにかへと変化した。それを周囲の悪霊を取り込むのではなく、所有している存在の神通力や魔力を喰らい、ある程度力を蓄積したらその力をベースに身体を構築するキメラ。それが今横島の戦っている化け物の正体だ。この能力を引き出すために、自分達を捕らえようとした、魔界と天界の部隊を拉致し、何度も何度も実験を繰り返したおかげでやっと想定した能力を満たした。1つ計算外の事があったが

 

「まぁ、それも仕方ない、実験に想定外の事が起きるのは当然の事だ」

 

あの韋駄天……九兵衛の身体ごと狂神石に取り込ませて、証拠隠滅と神族の気を完全に取り込ませたキメラを作り上げるのが目的だったが、まさか蹴りを腹に叩き込んで石を吐き出させるとは……おかげで少しばかり想定していた能力を下回ってしまったが、映像を見る限りでは戦闘力には何の問題も無い様に見えるので、一安心だ

 

(これが上手くいけばかなりの兵力を得ることが出来る)

 

魔族は我が強い物が多い、いつ反乱が起きるかもしれないという状況で戦争は出来ない、それは魔界統一を賭けた戦争に参加していたガープがその身を持って学んだことだ。故に自身の指示に忠実で、しかも戦力が高い手下を作る、それがガープが計画していたことだ。しかし通常のキメラでは限界がある、その限界を超える為に封印されていたアスラを開放し、彼の狂気の波長を利用することを考えたのだ。実験し殺し尽くした軍の者達も本当にいい実験材料になってくれた

 

「それがお前の考えていた面白いことか?」

 

「アスモデウスか、ビュレトはどうだった?」

 

聞こえてきたアスモデウスの声に振り返ることなく尋ねると、アスモデウスは

 

「駄目だった……当然の結末だ。あの時より我らの道は遠く離れている」

 

ビュレトに会いに行ったのは迷いを振り切るためだった。そのおかげか今のアスモデウスは晴れ晴れとした顔をしている

 

「それでガープ。あの人間はどうなっているんだ?」

 

魔法陣の中に浮かぶ戦いの光景を見て尋ねてくるアスモデウス

 

『どひいいっ!くっ!このこのこのッ!!!』

 

『シャアアッ!!!』

 

みっともなく泣き叫びながらキメラと戦っている人間。その身体は奇妙な装甲で覆われている。物質をすり抜ける……おそらく一時的に幽霊と同じ存在になっていると思うのだが、そんなことが出来る人間が居るとは実に興味深い

 

「判らんが、何かの特殊能力を身につけたのかもしれない。いい機会だ、回収させよう。実験材料として悪くないからな」

 

キメラに目の前の人間を捕獲するように指示を出し、私は再び戦いを映している魔法陣に視線を向けるのだった……

 

 

 

 

俺は動かない身体を八兵衛に支えられて何とか座ることが出来ている状態だった。立ち上がることも、韋駄天の足の速さも全く発揮できない……

 

【シャアッ!!】

 

「うわあ!?」

 

俺に埋め込まれた赤い石が変化した化け物が振るった爪に吹き飛ばされる人間。あの人間が俺を助けてくれたのは理解している……だがあれを倒すのは不可能だ。俺の神通力を吸収して超加速を覚えてしまったあの化け物を人間が討伐できるとは思えない

 

「くっ!?うっくそッ!」

 

その瞬発力を生かして一撃当てるごとに離れて、人間をいたぶっている化け物……あの鎧のような物のおかげで耐えることが出来ているが、それも限界が近いだろう

 

「は、八兵衛……あの人間を逃げさせろ……あのままだと死ぬぞ」

 

俺を支えている八兵衛は俺の言葉を聞いて、小さく首を振る

 

「横島君は臆病だ。それでもこうして踏み止まって戦っている……もし逃げるならとうの昔に逃げている」

 

「だが、あのままでは死ぬぞ!?」

 

俺が動く事が出来るならば、あの人間を逃がそうとしただろう。俺は鬼でもあるが、それでも神だ。人間にずっとかばわれるような存在ではない

 

【ギシャアア!】

 

「がっがふっ!?」

 

化け物の回し蹴りが完全に命中し、吹っ飛ばされる人間。地面に手を着いて無理やり立ち上がろうとしているのが見える

 

「うっ……くっ……くそ……」

 

ふらふらで立ち上がり。まだ拳を構える人間に俺は訳がわから無くなった、力の差は歴然。それなのにまだなぜ立ち上がる……

 

「彼は臆病だ。戦うことだって怖い……それでも勇敢なんだ。戦わないといけない時、立ち上がらないといけないとき……彼はそれを知っている。九兵衛……お前だってそうだったはずだ……何故そんなに逃げようとする」

 

脳裏に過ぎったのはガープに無理やり石を埋め込まれた瞬間の恐怖と苦痛……

 

「……お前は横島を逃がしたいんじゃない。お前が逃げたいんだ」

 

突然聞こえてきた声に振り返るとそこには小柄な少女がいた。だが外見は少女だが、彼女が放っているのは紛れも無い竜気だ……

 

「ミズチ殿。力を貸して「……馬鹿を言え、お前達なんか死のうが生きようが私には関係ない」

 

その目に冷酷な光を宿して言い放つミズチ、その威圧感に思わず動かない身体を引きずって逃げようとしてしまう……

 

「……神たる者が恐怖に負け、人間に全てを押し付け逃げようとする。なんと無様なことか……」

 

ゆっくりと歩き出しながらミズチがそう告げる。歩く事にミズチの周囲を大量の水が浮かび上がる……

 

「……横島は私が助ける。臆病者はそこで震えていろ、お前はもう韋駄天でも、鬼でも、神でもない。ただの戦いから逃げた無様な敗北者だ」

 

手が振るわれた瞬間大量の水が氷の矢となり化け物に降り注ぐ。その背中を見て、自分の手を見て

 

(情けない……いつから俺はこんなに臆病者になったんだ……)

 

ぶるぶると震える自身の手を見て、怒りと情けなさがない交ぜになった複雑な感情が胸を過ぎる。地面に叩きつけて震えを止めようとするが、叩きつける度に震えが大きくなっていく……それが更に俺を惨めにさせる

 

「止めろ。九兵衛……お前の気持ちは痛いほど分かる」

 

八兵衛が俺の手を握り締めながら言う。だがその同情が更に俺を惨めにさせる

 

「俺は!俺は誇り高い韋駄天だ!それがなんだ!なんと見っとも無い事か!情けない!俺は俺が情けなくて堪らない!」

 

俺達韋駄天の技を真似し、それが自分の力のように振るっているあの化け物が気に入らない、自分の代わりに人間に戦わせていると言う事が自分の惨めさを知らしめる……

 

「俺だって……俺だって戦いたい……俺が……俺が……」

 

あの化け物は俺のせいで生まれた……ならば俺が倒すのが道理だというのに、俺の意思に反して俺の身体は震え戦うことも出来ない……それが悔しくて堪らない。

 

「うわあっ!?」

 

人間の悲鳴が聞こえた瞬間。その方角から何かが飛んで来て……俺と八兵衛の間に転がり落ちてくる……

 

「これは……さっき横島君が……うぐっ!?」

 

八兵衛がそれを拾い上げた瞬間。八兵衛が苦しそうに呻き、手にした何かを落とす

 

「これは力が吸い取られた……」

 

八兵衛の足元に落ちている球体が淡い光を放つ。それを見て、俺はその球体を拾い上げる

 

(こ、これは……)

 

俺の力を凄まじい勢いで吸い取っていく球体……俺の力を吸い取る度に輝きを増していくその球体を見て

 

「八兵衛!お前の力も貸せッ!」

 

凄まじい勢いで力が吸い取られていくが、それに伴い輝きを増していく球体。それはさっき人間の姿が変わった時に見た球体と同じだった。ならば俺達の力を吸い取ればあの球体と同じ存在になるのでは?と説明すると

 

「判った。その可能性に賭ける!」

 

どうせ俺も八兵衛も録に戦う体力も力も残っていない、ならばそれに賭けるしかない……俺と八兵衛の力を吸い取って眩い光を放つ球体を握り締め

 

「人間!これを……使えッ!!!」

 

俺と八兵衛の神通力を限界まで込めたその球体を人間へと投げる。その瞬間俺と八兵衛はその球体の中に吸い込まれ消えて行くのだった……

 

 

 

 

 

【美神さんこっちです!】

 

おキヌちゃんに案内されて横島君の所まで向かうと其処には

 

【ウォオオオオッ!】

 

鋭い爪と牙を持つ鬼のような異形が月を見上げて雄たけびを上げていた

 

「な、なによあれ!?」

 

「お、鬼ですか……」

 

蛍ちゃんがぼそりと呟くが、外見は鬼だが、それ以上に禍々しい何かを感じる……

 

「……来たなら手伝え!こいつ……強い!」

 

シズクが水の槍を放ちながらそう叫ぶ。その全てが命中しているのに、鬼は全く効いている素振りを見せない、いや……あれは

 

(これは……回復してる!?)

 

ダメージは受けている、だがそれ以上のスピードで回復しているのだ……これはもしかすると勝てないかもしれない……精霊石などはあるが、それでもどれだけのダメージを与えることが出来るのか?それが判らない。かと言って逃げてあの異形を暴れさせるわけには行かない……どうやってあの異形を倒すか?そして撤退するとして、どうやって撤退するのか?それを必死に考えていると

 

「人間!これを……使えッ!!!」

 

倒れていた韋駄天が何かを横島君に投げつける。なにか強力な霊具を横島君に渡したのかと思っていると

 

「これ……もしかして」

 

渡された何かを受け取った横島君は自分の手の中のそれを握り締める

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!!】

 

横島君の上半身を覆っていたパーカーが消え去り、のっぺらぼうのような顔をしたスーツ姿に変わり、そんな横島君の周りを白いパーカーが踊りながら回転する。どうなっているのか判らず呆然として見つめていると

 

「こうだよな!」

 

【カイガン!韋駄天!疾走!神速!天の飛脚!!】

 

横島君がそのパーカーを着込むと背中には赤字で八の文字が浮かび、顔には赤い棒のような物で八の模様が描かれている

 

「うお!?」

 

腰のベルトから剣が飛び出てきて、それが分裂し両足に装着される。横島君はそれを見ていたと思ったら

 

「あ、うん、そっか……」

 

誰かと話しているような素振りを見せる。どうしたのかと思って見つめていると横島君は異形のほうを向いて、気合を入れるかのように自分の頬を叩いて

 

「しゃあ!行くぜ!俺達韋駄天を舐めるなッ!!!」

 

そうして発せられた声は横島君のものではなく、3重に重なった奇妙な男性の声だった……

 

「……憑依……降魔させた……のか?」

 

降魔……それは自身の身体を器とし、高位の存在を呼び寄せる神卸しの一種……

 

【じゃあ。まさか今の横島さんは……韋駄天様なんですか?】

 

シズクの言葉を聞いたおキヌちゃんがそう呟く。私としても信じられないが、今の横島君は横島君であって、横島君ではない……

 

「どうして……未来の横島はこんなこと出来なかったのに……」

 

呆然と呟く蛍ちゃんの言葉が聞こえたような気がしたが、私は目の前の戦いに完全に気を取られその呟きを完全に聞き取ることは無かった……

 

 

 

 

へんな感覚だ……自分の身体なのに自分で動かせない……まるでTVを見ているかのような奇妙な感覚がする。身体を貸してくれと叫ぶ八兵衛と九兵衛に身体を貸すと言った瞬間。俺の身体は自分で動かせなくなった……たぶん2人が使っているのが理由なんだろうと思う

 

「はっ!でやああッ!!!」

 

【ガッ!?うぎい!?】

 

目の前の化け物を凄まじいスピードで殴りつけ、脚に装着されたブレードで切り裂いていく……だがその動きは当然俺に出来る動きではなく、八兵衛と九兵衛の物だと判る……

 

【ギイイイイッ!!!】

 

雄たけびと共に異形の姿が消える、その瞬間脳裏に八兵衛と九兵衛の声が響く

 

(行くぞ!八兵衛ッ!)

 

(応!某と九兵衛の力を合わせればッ!)

 

勝手に俺の腕が動き、腰のベルトのレバーを4回引く……その瞬間世界が止まった……

 

【超加速ッ!!!】

 

【ギイッ!?】

 

化け物が驚愕する声が聞こえる。この発動すれば絶対に勝てると思っていたんだろうから、この反応は当然だ

 

『貴様の紛い物の』

 

九兵衛のその一言の間に、何十発と言う拳が化け物を貫き……

 

『超加速で某達を捉える事が出来ると思っていたかッ!!!』

 

化け物がその腕を振るってくるが遅い……拳を一回放つ間に俺の拳が4発化け物の顔面を捉える

 

「『はあああああああッ!!!』」

 

凄まじいスピードで叩き込まれる連続蹴りが化け物の身体をずたずたに切り裂いていく……

 

【シャアアッ!?!?】

 

悲鳴を上げながら連続蹴りから逃れ、力強く地面を蹴って背を向けて走り出す、その方向には美神さん達が見えた。俺が慌てているのを八兵衛と九兵衛も感じている筈なのに、2人は全く動揺した気配が無い

 

『確かに貴様の走りは速い』

 

『ああ。きっと俺や八兵衛よりも速いだろう、だがッ!!!』

 

軽く跳躍したと思った瞬間。景色が凄まじい勢いで吹っ飛んで行く

 

【ケヒャッ!】

 

目の前に回りこまれたことに気付いた化け物の驚愕の声が聞こえる

 

『貴様の走りは速いだけだ!』

 

『お前には何もかも足りていない!!それは!!!』

 

反撃にと拳を素早い動きで交わしながら、頭の中で八兵衛と九兵衛の声が重なる

 

『『お前に足りないものは、それは!情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!』』

 

腰のベルトのレバーを力強く引きながら八兵衛と九兵衛の叫びが重なった

 

『『正義の心が足りないッ!!!』』

 

【韋駄天!オメガソニックッ!!】

 

化け物に叩き込まれていた蹴りのスピードがどんどん上がっていく

 

【グッ!ガッ!ギギギイイイイイイイッ!!!】

 

蹴りが叩き込まれる事に上へ上へと蹴り上げられていき

 

「『はあああああッ!!!』」

 

力強く地面を踏み込んだ一撃が化け物を更に上空に蹴り上げ、それと同時に跳躍し

 

「『消えろおおおおッ!!!』」

 

両足のブレードが展開され、高速回転しながら蹴りを叩き込み、その化け物の身体に風穴を開ける

 

【ギャアアアアッ!!!!】

 

断末魔の雄たけびを上げて爆発する化け物を見ながら地面に着地する。そして

 

【オヤスミー】

 

ベルトからそんな声が聞こえたと思った瞬間。凄まじい激痛が俺を襲う

 

「あ、あががががあああ!?」

 

痛いとか、苦しいとかそういうのを超えて、もう何がなんだか判らない。このまま死んでしまうんじゃないか?と思うほどの激痛に襲われ、俺はそのまま地面に倒れこみ意識を失うのだった……

 

 

 

 

突然現れた白い衣装に身を包んだ横島と空中で爆発した異形……

 

(これはお父さんの?それとも横島の力?)

 

とりあえず今は横島を労わないと……そう思って近づいた瞬間

 

【オヤスミー】

 

ベルトからそんな間の抜けた声が聞こえたと思った瞬間

 

「あ、あががががあああ!?」

 

横島が苦悶の絶叫を上げて倒れのた打ち回る。咄嗟に駆け寄り

 

「横島!?どうしたの!?大丈夫!?」

 

抱き上げながら尋ねるが、横島から反応が無い……腕の中で痙攣している横島を見てどうすればいいのか判らず、それでも大丈夫だと言う事を伝えるように横島を抱きしめる

 

「あ……ぐう……」

 

小さくそう呻くと気絶した横島。このままだと危険だ……

 

「シズク!お願い!あのミズチタクシーって奴を!」

 

「……判ってる!だけど場所が判らない、蛍。お前がしっかりイメージしろ」

 

美神さんもただ事ではないと判断したのか険しい声でそう叫ぶ。シズクに言われた通りお父さんのビルをイメージした瞬間。私達は水に包まれ、一瞬でお父さんのビルへと移動していた。周囲が水浸しになっているけど、そんなことを気にしている時間は無い

 

「どうした!?なにがあった!」

 

ただ事ではないと思ったのかお父さんが階段を駆け下りてくる。私は抱きしめている横島をお父さんに見せて

 

「お父さん!横島が!横島がぁ……」

 

普段は何事も無いように立ち上がってくる横島がぴくりとも動かない事に不安と恐怖ばかりが胸を締め付ける

 

「判った。横島君は私に任せろ!」

 

横島を担いで地下へと走っていくお父さんの背中を私は呆然と見つめていることしか出来なかった……あんな力は横島は持ってなかったし、あれが原因で横島が傷ついたのがわかっている。判らないことばかりが重なって、どんどん不安が大きくなっていく……

 

「蛍ちゃん。私達も休みましょう?横島君は芦さんに任せて……ね?」

 

【蛍ちゃんのお父さんを信じましょう?】

 

美神さんとおキヌさんの言葉に頷き、目に浮かんでいた涙を拭い

 

「そうですね……お風呂はこっちです……ついて来てください」

 

ミズチタクシーって奴でびしょ濡れになっているので私は美神さんを浴場へと案内する為にビルの中を歩き出すのだった……

 

だが蛍は気づかなった、横島の事が心配すぎて注意力が下がっていた事もあるが、シズクだけは蛍のあとをついて行かず、1人だけ地下へと向かっていることに……

 

なお八兵衛と九兵衛はと言うと

 

「引っかかったぁ!」

 

「馬鹿か貴様は!?細い俺が先に出るというのに無理やり突っ込んできた挙句がこれだ!」

 

「すまぬ!誰かー!誰かー!?某たちを引っ張ってくれぬかー!?」

 

「来るわけ無いだろう!?横島の治療に向かっているんだから!!」

 

韋駄天眼魂の中に引っかかって、誰も居ないエントランスの中で助けを求めていたりする……

 

 

 

 

 




リポート19 開眼!疾走する魂! その6へ続く

変身後のデメリットはあれです、両手両足の骨がポキッと折れて、ちょっと苦しくなってうずくまったところに小錦がドスンと乗ってきた~って言う。八兵衛のあれに加えて、酷い霊体痛による。肉体と霊体に酷いダメージを受けているって感じですね。次回は横島の治療の話とシズクが優太郎の正体を探り始めるとかのイベントをやっていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で韋駄天の話は終わりになり、そのまま順番を変えた天竜の話に入っていきます、ちょっと+αもありますけどね、メインは「天竜」の話にして行こうと思います。あ、ここで言っておきますが、童子じゃないですよ?うん、童子じゃないです。ここがとても重要なので2回言っておきます。天竜童子じゃありませんのであしからず、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート19 開眼!疾走する魂! その6

 

水に包まれて消えていく横島達を見送り大きく背伸びをする。なかなかに面白い見世物だったな韋駄天の力をその身体に纏う……これは破格の能力かもしれない。そんなことが出来るなら

 

(俺とかも出来たりするんだろうか?)

 

もしそんな事が出来るなら、横島を鍛えておけば、ガープ達が本格的に動き始めた時に頼りになるかも知れんな……まぁアシュの野郎が反対すると思うが……杯に残ったワインを一気に呷り

 

「俺は帰るけど、お前は?」

 

ブリュンヒルデに差し出された杯を返しながら尋ねる。だがブリュンヒルデは両手を頬に当てて

 

「素晴らしい、本当に素晴らしい英雄でしたわ……」

 

……駄目だなこいつは、もう横島を完全に自分の英雄だと思い込んでいる

 

(まぁ、俺には関係ないか)

 

うん、ブリュンヒルデもいきなり突撃することは無いだろうし、アシュの野郎に伝えておけば良いだろう

 

「お前もいつまでも人間界に居るなよ?」

 

返事はないと思っていたが、ブリュンヒルデは頬に手を当てながらも

 

「はい、ご忠告どうもありがとうございます」

 

……本当にこいつが何を考えているか、判らんな……俺は小さく溜息を吐きながら、アシュの野郎のビルへと戻るのだった……

 

 

 

 

 

コツ……コツ……

 

私が歩く足音だけが暗い通路に響く、蛍の家と聞いてきたが……足を踏み入れて理解した

 

(ここには魔族が居る……しかもかなり上位の)

 

結界で誤魔化しているようだが、その中に入り込めば当然封じられている魔力を探知することは容易い

 

(蛍が親だと思い込んでいるのか、それとも本当に親なのか……)

 

前者なら蛍は人間なのだが、後者なら蛍もまた魔族と言うことになる

 

(もしそうならば、蛍を横島に近づけるのは得策じゃない)

 

横島が利用され、傷つく可能性があるのならば私はそれを排除する。横島が強くなるまでは私が護ると決めたのだから、心も身体も私が護る

 

「ふう……なんとかなったか……酷い霊体痛だ、良く生きていてくれた……」

 

通路の奥から聞こえてくる声。確かこれは芦優太郎と名乗った男の声だ、だが今その気配には魔族特有の物が混じっている……私はその魔力を頼りに迷路のようになっている通路を進み

 

「誰……いや、君は……シズク君だったかな?」

 

明るい光に満ちた部屋で眠っている横島の前に立っている優太郎が振り返り尋ねてくる

 

「……そういうお前は魔族だな?横島をどうするつもりだ」

 

こうして向かい合うと判る。今まで感じなかった魔力を放っている優太郎を睨みながら、いつでも氷の刃を作れる準備をしていると

 

「横島君は今は絶対安静だ。それが判らないわけではないだろう?」

 

その言葉に眉を顰める。私は横島に加護を授けている、その反応が弱くなっているのは判っていた……私はそれでも警戒を止めることは無く

 

「……お前が横島に危害を加えないとは言えない」

 

「判った判った。我が真名「アシュタロス」の名に置いて誓う。私は横島君に危害を加えるつもりは無い、心のそこから彼を救いたいと思っている」

 

アシュタロス……だがその名前は過激派魔族の頭領だと他のミズチに聞いている。だが自身の真名を賭けて誓うということは高位の神魔族には何よりも強い契約だ

 

「……判った。今は信じよう」

 

「助かるよ。さ、ついてくるといい、君の質問に答えよう」

 

そう言って横島に布団をかけて歩き出す優太郎。さっきまでの苦しそうな顔と違い安らかな顔で眠っている横島を見て、あの言葉に嘘はないと判断し私は優太郎の後を追って歩き出すのだった……

 

 

 

 

 

まいったねえ。私は自分の部屋に招きいれた少女を見て、内心溜息を吐いていた。視線だけで人を殺すことが出来るならとっくに私は死んでいるだろうなあ……それほどまでに凄まじい殺気を放っている。少女の姿をした竜神シズクに

 

「改めて名乗るよ。アシュタロスだ」

 

礼儀と言うことで名乗ると更にシズクから向けられる圧力が増す。

 

「……過激派の頭領が何をしている?」

 

はぁ……やっぱり私ってそういう認識なんだなあと軽くショックを受けながら

 

「最高指導者の指示で魔界の捜査をしてるんだよ。はい、これが証拠」

 

机の中から取り出した最高指導者からの指示書を見せると

 

「……なるほど、敵を騙すなら味方からか」

 

「まー本当に追われてるから実際はかなり辛いけどね」

 

最上位神魔族の一部は私のことを知っているが、下っ端は私の事を本当に敵だと思っているので狙われている。自由に外を出歩くのも大変なのだよ?と苦笑しながら言うと

 

「……お前のことはどうでもいい」

 

ばっさりと切られる。蛍には毒舌だと聞いていたけど、まさかここまでとは……最近めっきりメンタルが弱くなってしまった

 

「……何故泣く?」

 

「いや、悪いねえ……年だから最近心のほうが弱くなってしまってね」

 

お前それでも魔神か?と呆れているシズク君。まぁ魔神であるのは本当なんだけど、メンタルが人間に近くなっているのが原因なのかもしれない

 

「……まぁそれはどうでも良い、蛍も魔族なのか?」

 

シズク君からすればこっちが本題か……私は真剣な顔をして

 

「彼女は人間だよ。ちょっと先祖返りをしているようだけどね?」

 

少しの真実と嘘を混ぜる。シズク君は何かを考える素振りを見せながら

 

「……蛍は自分が先祖返りだと知っているのか?」

 

「いや知らないね。無意識でここに来たから、その時に魔力を封印して、記憶を少しばかり改ざんしたくらいだ「……最低だな、お前は」……自覚はしているから言わないでくれるか?」

 

本当はそんなことはしていないが、信じさせるためには仕方ない。もともと悪役を演じるのに慣れているし、うん、これくらいで私の鉄壁のメンタルは……

 

「……だから泣くな」

 

どうやらいつの間にか、私のメンタルは豆腐と言われるレベルにまで落ちていたようだ。

 

「……それなら良い。では何で横島を「蛍の婿に!」……駄目魔神か」

 

酷い言われようだ。だが娘の幸せを祈るのは親として当然のことだと思うのだが……

 

「……聞きたい事は聞けた。いつまでもこうしている訳にも行かないから美神の所に帰る……」

 

そう言ってソファーから立ち上がったシズク君は思い出したように振り返り

 

「……横島を利用するなら貴様を殺す」

 

その迫力は竜神の名に偽りの無いほどに鋭い物だった。魔神である私でさえも威圧されるほどに……

 

「肝に免じておくよ」

 

私がそう返事を返すとシズク君はその身体を水に変えて消えていく

 

「蛍にどうやって説明するかなあ」

 

自分の正体がシズク君にばれてしまったことをどうやって蛍に説明するのか?それにもう1つ

 

「どうしてあんな姿に……」

 

八兵衛と横島君の融合率を高めて霊力を覚醒させるためのベルトが、どうしてあんな形状に変化したのか?更に韋駄天の力をその身に纏うことに成功した。しかし当然ながらその反動が今の横島君の状態だ。ありえない過負荷が魂に掛かり、更に酷い霊体痛を起こしている……

 

「あの力は使わせないようにしないとな……」

 

あの霊力の篭手よりもはるかに酷い症状を起こしている。これは絶対に今の横島君に使わせていい能力ではないと判断し、気絶した横島君が持っていた2つの球体をポケットから取り出し、机の中に収めて厳重に封印するのだった……本当ならあのベルトも取り上げたかったが、横島君は身につけておらず、忽然と消えてしまった

 

「ドクターカオスに相談してみるか……」

 

使い魔の目を通して記録してある。流石の私も1人で調べて結論を得れるとは思えず、ドクターカオスの協力を得ることにしたのだった……

 

「おう、戻ったぞ、アシュ。なんかブリュンヒルデが横島の奴を英雄とか言ってたぞ?」

 

戻ってきたビュレトの言葉にまさか?と思いトトカルチョを見ると

 

【ブリュンヒルデ 7.4倍】

 

「また増えてるウウウウウウウウッ!!!!!」

 

「うお!?急に叫びだしてどうした!?」

 

さも当然のように増えていた名前に思わず私は頭を抱えて絶叫してしまうのだった……

 

 

 

 

あの謎のスーツの反動でロクに動けない俺はここ1週間。蛍とシズクとおキヌちゃんの3人に完全に介護されていた、流石に風呂やトイレは断ったが、と言うかそれをされると俺の中で色々何かが終わる。老人ってこんな気分なのかと言うのを10代で味わう事になるとは思っても見なかった。ようやく歩けるようになったので蛍と一緒に美神さんの事務所に行く事にした。一応あのスーツのことを調べたカオスのじーさんと優太郎さんの見解が出たらしいので、俺の体調が悪いということもあり、チビ達は留守番だ。玄関でさびしそうにしていたから出来れば早く帰ってやりたいと思いながら、事務所の中に足を踏み入れると

 

「横島君。そうか、やっと歩けるようになったのか!良かったな!」

 

「横島か。あの時は助かった」

 

俺と蛍が出勤できない間。美神さんの除霊を手伝っていた、八兵衛と九兵衛がそう声をかけてくる。俺は頬をかきながら

 

「いやまぁ。何とかってつくけどな?」

 

今も蛍とおキヌちゃんに手を引かれているからなあ、まだ全快とは言いがたいだろう

 

【ゆっくり座ってくださいねー?】

 

今もおキヌちゃんのポルターガイストでゆっくりと椅子に座らせて貰っている。なんか恥ずかしい

 

「天界に戻るのね?今までありがとう」

 

美神さんが八兵衛と九兵衛にそう声をかける。八兵衛はうむと頷きながら緑茶を口にし

 

「なんとか天界のほうで話を聞いてもらえるだけの準備が整った、後は……」

 

「俺の裁判だ。一応重罪を犯しているからな、操られていたことを考慮しても何らかの刑が言い渡されるだろう」

 

でも操られていたんだから仕方ないんじゃ……俺の考えている事に気付いたのか、シズクがのんびりと煎餅を齧りながら

 

「……神と言うのは色々と規則が多い、私もそれが嫌だから横島の家に居るんだ。めんどくさいから」

 

そ、そういうものなのか……神様も大変なんだなと思っていると

 

「横島君。本当にありがとう、君のおかげで某は九兵衛を助けることが出来た。感謝している」

 

俺の手を握って笑う八兵衛。でも俺は何も出来なかったと思うんだけど……

 

「素直にお礼を受け取っておきなさい。横島君が頑張った結果よ」

 

美神さんにそう言われるけど、本当に俺は何もしていないわけで……

 

「ゆっくりあせらず地力を付けろ。お前はきっといい霊能力者になる、俺と八兵衛が保障する」

 

九兵衛にまでそう言われて、なんで俺こんなに褒められているんだろう?と思わず首を傾げてしまう

 

「実感は無いと思うけど、横島が頑張ったのよ。この調子で頑張りましょう?」

 

蛍までそう言われて、本当に俺が何かしたとは思えないんだけどなあと苦笑していると

 

「では美神殿。我らは天界に戻るゆえ、ほんのわずかの謝礼で申し訳ないが、収めて頂きたい」

 

「俺からは金は無い、これで我慢しろ」

 

八兵衛が小判。九兵衛が身に着けていた黄金の腕輪を美神さんに手渡す、それを見た美神さんはそれを調べながら

 

「まぁ受け取っておくわ。全然足りないけどね、これは横島君への慰謝料として受け取っておくわ。ヨコシマンダッシュ?」

 

からかうように言うと御免と言って消える八兵衛。残された九兵衛も小さく頭を下げて消えていく……美神さんの言葉で思い出したけど、ヨコシマンダッシュ。ってどういうネーミングセンスをしてたんだろ?と改めて疑問を抱かずに入られなかった……

 

「さてと横島君」

 

「はい?なんっすか?」

 

机の上のせんべいに手を伸ばしたのがいけなかったのだろうか?と思いながら返事を返すと

 

「あのベルト。金輪際使用禁止ね?」

 

あのベルト?使用禁止って言われてもなぁ……俺は頬をかきながら……

 

「あれ美神さんが回収したんじゃないですか?俺持ってないですよ?」

 

は?っと言う美神さん。だって俺持ってないし……ちらりと隣の蛍を見るけど

 

「私も知らないわよ?」

 

じゃあ優太郎さんとか?とお互いに首を傾げていると

 

「まぁどこにあるのか判らないなら良いけど、仮に見つけても使用禁止だからね」

 

使用禁止……美神さんがそう言うのならベルトが危険だからと思うんだけど……

 

「ちなみに理由は?」

 

俺がそう尋ねると美神さんは眉を顰めて

 

「横島君が使った篭手の数倍の負荷が魂に掛かるわ、下手をすれば死にかねない物に使用許可を出せると思う?」

 

その言葉を聞いて俺が顔を青くしていると美神さんが追加で説明してくれた

 

1 あのスーツは着ている間幽霊に近い存在へと変化するため物質などを通過できる

 

2 あの球体は神魔族の魔力などを吸収して変化する特性がある(眼球に似ているので眼魂と呼ぶことにしたらしい)無論これも無意味に放置していいものではない

 

3 眼魂の力を自分にプラスできるが、その反動が極めて大きい

 

「判った?見つけても使用禁止、それを使うくらいならあの篭手にしておきなさい」

 

あれでも滅多に使うなって言われている、それを使えって言うくらいなら、それほど危険なんだろうと思い

 

「判りました、見つけても使いません」

 

まだ美人の嫁さんも貰ってないし、家でおとなしく留守番しているチビ達を残して死ぬ事も出来ないので頷くと

 

「判ればよろしい、じゃあ行くわよ?」

 

え?いきなり除霊?と俺が困惑していると

 

「せっかく小判貰ったんだし、これ換金してご飯にでも行きましょう?だから昼前に呼んだんだしね?」

 

そう笑ってウィンクする美神さん。俺は安心し小さく溜息を吐いてから

 

「1回。家に寄って貰えます?」

 

家で留守番しているチビ達を置いて食事に行くわけにも行かないのでそうお願いすると

 

「大丈夫、大丈夫ちゃんと迎えに行くから」

 

これで安心した。じゃあ立ち上がろうとすると

 

「……ん」

 

「うん。ありがとな?シズク」

 

俺に手を伸ばしているシズクの手を借りてソファーから立ち上がりながら、早く体が治るといいなあと心の底から思うのだった……

 

 

 

 

目の前で深く頭を下げている2人の韋駄天。私はその2人から回されてきた報告書を見ながら

 

「ソロモンのガープ、そしてアスラに遭遇したと?」

 

「はっ、その通りでございます。竜神王閣下」

 

ソロモンの魔神ガープ。魔界統一の騒乱の際にサタンと争っていた魔神。さらにアスラは天界に封印されているはずの魔神だ……

 

(これは不味いことになったかもしれないな)

 

ガープは魔界1と歌われた頭脳の持ち主だ。奪い去られた禁書の事と封印されているはずのアスラに出会ったと言う事をも考えると

 

(本当に魔人が解放されかねない……)

 

先代竜神王と名のある天使・竜神、そして魔界の勢力が協力する事でようやく封印することの出来た魔人。それを開放されるとなると、魔族と対立している今、確実にあの時よりも苦しい戦いになるだろう

 

「竜神王閣下。九兵衛の処罰は……」

 

八兵衛が心配そうに尋ねてくるが、九兵衛は確かに敵に操られ禁書を持ち出し、神界の兵士に手痛いダメージを与えたが

 

「九兵衛に裁きを申し付ける」

 

「はっ!」

 

深く頭を下げる九兵衛を見下ろしながら、九兵衛が持ってきた情報と受けたダメージを考えれば

 

「半月の謹慎処分に処す」

 

「は……は?」

 

「聞こえなかったのか?半月の謹慎処分だ。その後は神界正規軍に入り、ガープの追走に当たれ。良いな?」

 

「はっ!確かに」

 

「ならば下がれ」

 

2人して執務室を出て行く八兵衛と九兵衛を見つめながら

 

(謎の赤い石か……これは報告しておくべきだな)

 

九兵衛を狂わせたのはガープが所有していた赤い石が原因だろう。この赤い石を手にすることが出来れば、対策を練ることが出来るかもしれないが、魔界に出回っている物を天界が入手するのは難しいだろう……

 

(本格的に動き始めている。これは地上の竜族との会議の時も何かあると思うべきか……)

 

これだけ活発に動いているのだから、確実にこの時に動いてくるだろう……かと言ってここで会議を中断すれば、地上の竜族にいらない不信感を抱かせかねない……

 

(嫌な一手を打ってくれる……)

 

頭脳派のガープらしい嫌らしい一手だ。ここでガープ達の横槍を恐れて会議を見送れば、地上の竜族が天界の竜族に不信感を抱き、会議を行えばそれを妨害する一手を打ってくるだろう

 

「父上ー?」

 

考え事をしていると執務室の扉が開き、そこから少女が姿を見せる

 

「おお、天竜どうした?」

 

私の娘天竜姫が執務室に入ってくるのを見て、私は一抹の不安を抱いた、私が居ない間にまたガープに操られた神界の人間が娘を攫ってしまうのでは?と

 

「天竜よ」

 

「はい?なんですか?父上?」

 

人見知りが激しい天竜姫は前髪を伸ばして、目を隠している天竜姫の頭を撫でながら

 

「もうじき天界と地上の竜族の和平会談があるのは知っているな?」

 

「はい、存じております」

 

よしよしっと天竜姫の頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「しかし最近魔族が活発に動いていることも知っているな?」

 

小さく頷く天竜姫。地上に連れて行くのは危険だな……かと言って天界に残しておくのも不安だ

 

「会議の時だが、妙神山に行くか?」

 

私がそう尋ねると天竜姫は小さく笑いながら

 

「はい、老師様と小竜姫に会いたいと思います」

 

斉天大聖殿と小竜姫がいる妙神山ならば、きっとここに残しておくよりも安全だと思う。本人も妙神山に行きたいと思っているのなら丁度いい、私は会議の時に天竜姫を妙神山に連れて行くことに決めるのだった……

 

「所でなんのようだったのだ?」

 

執務中に尋ねてくることのない天竜姫が尋ねてきたことが気になり尋ねると天竜姫は

 

「地上は面白いところがいっぱいあると聞きました。お土産をお願いしたいのです」

 

にこにこと笑う天竜姫の言葉に小さく笑いながら、判ったと私は返事を返し、天竜姫に自分の部屋に帰るように言い聞かせ

会議に向けての準備を進めるのだった……

 

 

 

 

「さてと、これでいいか」

 

「き、貴様!?な、何者「うるさいよ。がふっ!?」

 

厳重に警戒されていた天界の牢屋の中に突如現れる少年。バイパーに赤い石を授けたあの魔族だ。彼は周囲の展開の兵士を次々となぎ払い牢の奥へと進んでいく

 

「あら?どちらさまでしょうか?」

 

一番奥の牢に腰掛けている黒い着物に身を包んだ竜族の娘を見つけた少年は

 

「君の力を貸してほしい、そうすればここから出して上げるよ。そのあと手伝ってくれれば君は自由だ」

 

そう声を掛けられた少女はきょとんっとした後にくすくすと笑いながら

 

「自由ですか……ふふふ、それも面白いですわ。でも私はここで構いませんの、どうせ時間がくれば自由になるのですから」

 

ですのでお帰りくださいと少女に告げられた少年は

 

「じゃあこうしよう。君が手伝ってくれれば、君の思い人を探すのを手伝ってあげる」

 

「……いいえ、お断りしますわ。あの方は……もうずっと前に亡くなってしまったんですもの「生まれ変わっているとしたら?僕なら見つけることが出来る。望みの者を手にすることが出来る……僕。セーレなら」

 

その言葉に迷いを見せる少女にセーレはにやりと邪悪な笑みを浮かべながら

 

「さぁ、もう一度聞くよ。清姫、僕と一緒に来るんだ」

 

再度伸ばされた手を見て、清姫と呼ばれた竜族の少女は

 

「お会いできるのですか?また?高島様に」

 

少女もまた平安時代のときを生きた竜族の娘。高島が殺されたと知り、怒り狂い暴れた牢に封印された竜族の娘……それから1000年の時を待ち続けたのだ

 

「ああ。約束するよ、きっともうその高島も転生していると思わないかい?」

 

きっぱりと断言するセーレ。その言葉に嘘はないと判断したのか清姫は立ち上がると同時に腕を振るい、牢を破壊する

 

「ひゅー♪自分で出来たんだ」

 

「おとなしくしている方が開放されるのが早いと思って大人しくしていただけですわ」

 

望みどおりの力を見せた清姫にセーレは更に笑みを深め、牢屋から出てきた清姫の手を取り、溶けるように消えていくのだった……だがこのとき清姫は気付かなかった。セーレが手にした左腕に小さな魔法陣が浮かび上がっていることに……

 

 

 

 

 

 




別件リポート 芦優太郎の捜査録 その2へ続く

次回は残念ですが、別件リポートになります。今回の話の補足をやろうと思っています、ですのでまた前世の仕業は別件のあとを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の別件リポートは「芦優太郎の捜査録」と言うことで、リポート19の補足になります。
横島が変身したライダーのスペックを調べるとか、そういう感じの話になります。それでは今回の別件リポートもどうかよろしくお願いします


 

別件リポート 芦優太郎の捜査録 その2

 

「……これはどういうことなのだろうか……」

 

使い魔の目を通して記録していた韋駄天と横島君の戦いを見て私は頭を抱えた

 

(こんな能力は与えてなかった筈だ)

 

八兵衛に渡したベルトはあくまで横島君との融合レベルを上げる為の物で、横島君の霊力のキャパシティを上げる為の物だ

。神霊の力を自分の身体に纏うような機能は与えていない

 

「これも横島君の才能の発現なのか?」

 

私やドクターカオスが認識してないだけで、横島君には陰陽術や霊力の物質化のほかに何か特別な霊能力があった?だから八兵衛との融合レベルが上昇したことでその能力が発現した……

 

「なんにせよ、調べて見なければ……」

 

あの戦いのあとの横島君の状態は酷い物だった。並の人間なら確実に死んでいるか、最悪霊能力を失っていた可能性もある。それほどまでに酷い霊体へのダメージを受けている。正直あとほんの数分処置が遅れていれば致命的な傷害が残った危険性もあった

 

「すまないが、これをドクターカオスのところへ頼む」

 

「キイ!」

 

軽く調査した結果と戦闘記録を写したデータを使い魔に渡し、ドクターカオスを呼んで来てくれるように頼む。流石に今回のことは私の手に余るからだ……

 

「これを含めてな……」

 

机の上に並んで置いてある白と黄色の球体を見つめて眉を顰める。見た目はおもちゃのようなのだが、白の方は韋駄天の神通力を、黄色は横島君の霊力に良く似た波長を放っている、しかも材質も地上にあるどんな物質にも該当しない、魔神である私でも解析できないこの球体を見て、私は深く溜息を吐くのだった……

 

 

 

 

 

「アシュ?いるかー?来たぞ」

 

昨晩アシュの使い間から受け取った画像データを見て、ワシなりに分析と予測をしてからアシュのビルを訪れる。マリアやテレサにはアシュの魔力の影響が大きいと判断して、家に残してきた。メタソウルに悪影響があって困るしの、声を掛けながらアシュの研究室に入ると部屋の奥からワシを呼ぶ声が聞こえてくる

 

「ふー少しは片付けたらどうじゃ?」

 

マントがあちこちの機械に引っかかるのでそれを脇に抱え、四苦八苦しながらアシュの前に行くと

 

「すいません、どうしてもこの球体の材質が知りたくて」

 

丸い球体のような何かを機械にセットして、あーでもない、こーでもないと呟いているアシュ。その球体は画像の中にも収められていたが、小僧の身体を覆った強化スーツを呼び出す召喚用の道具だとワシは推測している

 

「まぁ少し休め、お互いの見解を交換し合うのも大事なことじゃぞ?」

 

「む……それもそうですね」

 

1人の天才の知識には限界がある、だが2人の天才の知識が合わさればきっと解決できる。ワシとアシュはお互いに向かい合うように座り、その間に謎の球体を置く

 

「ふむ……これはまた……珍しい材質じゃな」

 

「判るのですか!?」

 

ワシの呟いた言葉に反応するアシュ。自分が知らない材質をワシが知っていればそれは気になるというものじゃな

 

「半分正解で半分外れじゃ、材質はわからんが……性質はメタソウルに似ておるな」

 

この球体の中には一部じゃが、小僧の魂と韋駄天の魂が収められておる。変な話じゃが、神社の分社と言う感じに近いかもしれない

 

「メタソウル……どうりで私が判らないわけですね」

 

「うむ。メタソウルはワシが開発した材質じゃからの……お前さんと言えど判らんじゃろうよ」

 

球体を手に取り調べて見ると横にボタンのような物が見えるの

 

「ほっ!?これはこれは……面白いの」

 

ボタンを押すと球体の真ん中が開き、奇妙なマークが浮かぶ。これは襷かの?

 

「まるで瞬きしているみたいですね」

 

「じゃな。眼球を模しているのかも知れん」

 

ふむ……眼を模した魂を収めた物か……

 

「眼魂(アイコン)じゃな!」

 

「アイコン?」

 

首を傾げるアシュに紙に書いた眼魂と見せると、ぽんっと手を叩いて

 

「おお、しっくり来ますね!」

 

「そうじゃろ!そうじゃろ!この球体は眼魂と呼ぶぞ!」

 

いつまでも球体球体じゃ、訳が判らない。これで呼びやすくなったのとお互いに笑いながら

 

「それでは解析を進めるかの」

 

どこかに消えてしまったベルトも出来れば解析したかったんじゃが、それが無い以上映像と眼魂で憶測になるが、それで調べるしかない。何度も何度も映像を繰り返し再生する

 

「ふむ、これは霊的な装甲のようですね」

 

「うむ、お主もそう思うか?物質でありながら非物質……実に面白い性質じゃな」

 

物理的な防御もあり、更にその身体を半実体化へと変換し、敵の攻撃を回避したり、宙に飛ぶことが出来る。実に素晴らしい性質を秘めておるな……

 

「ですが……これは危険です」

 

「うむ、今の小僧には使わせてはいかんの……」

 

普通で見ている分には判らないが、霊的な視点で見て見ると良く判る。小僧の身体の中に眠る膨大な潜在霊力を腰のベルトが強引に引き出している、今のその霊力に耐えることが出来ない小僧のチャクラをズタズタに破壊している。

 

「もっと霊力を引き出せるようになったのならばまだしも、今の横島君には使わせるわけには行かないのですが……出来れば封印したかったんですけどね……」

 

「うむ、どこに消えてしまったんじゃろうな……」

 

気絶してここに運ばれて来るまでの間に消えてしまったベルト。そのベルト自身も霊体になる事が出来ると考えれば

 

「小僧の霊体と一体化している可能性があるの」

 

「そうなると摘出も出来ないですね……」

 

下手をすれば横島の霊体に手痛いダメージを与えることになる。下手をすれば霊能力者としても、普通に生きるとしても横島君を廃人にしかねない……

 

「とりあえず眼魂の封印と小僧にベルトを使わせないように伝えておくんじゃな。下手をすれば再起不能になるぞ?」

 

ドクターカオスの顔は非常に険しい、私もその危険性は十分に把握しているつもりだ

 

「美神君と蛍にもちゃんと伝えておきますよ、それとこれは……少し勿体無いですが……封印します」

 

「うむ、それが良いじゃろうな」

 

映像を見ていて判ったが、あのスーツを呼び出すにはこの眼魂とベルトが同時に必要なようだ、ベルトを封印できないなら、こっちを封印すれば良い、ワシとアシュは同じ結論に至り、アタッシュケースにワシの特性の結界術をアシュの魔力で強化し、更にそのアタッシュケースに封印札を張ると言う形で3重の封印を施し、使用できないようにするのだった……

 

 

 

 

アシュタロスとドクターカオスが眼魂を封印している頃、魔界に戻っていたメドーサはと言うと

 

「最近勢力を上げている過激派勢力の一派がおかしい?」

 

「そうだ、少しばかり面子がな……」

 

魔界の酒場でお互いに背を向けながら話をする、これはもう何年も変わっていないやりとりだ。この男は魔族ではなく、魔界に追放された百目一族の1人、その100個の眼のうち、97個を罰として潰されたが、残りの3個でなかなか手にすることが出来ない情報を集めてくる凄腕の情報屋でもある

 

「それでその面子って言うのは?」

 

その男のポケットに金貨を4枚入れて尋ねるが、男は手にしているグラスを煽るだけ……どうも足りないようだね

 

「マスター、こっちの良い男に酒とつまみの追加!一番良いのをだよ!」

 

マスターにそう声を掛けると背を向けている男はごっそさん、と前置きしてから

 

「前の大戦。お前さんは覚えているか?」

 

「魔界統一の時かい?まぁ話だけは……」

 

サタンが魔界を統一するまえの騒乱の話は聞いているけど、その時は私はまだ天界から魔界に追放されアシュ様に拾われたばかりで、アシュ様の宮殿に匿われていたから詳しい話は知らない

 

「その時没落した元魔界の貴族とかが、主な戦力になっているって話だ。おかしいだろ?腕や足を失っている奴らばかりだって言うのに」

 

確かにそんな奴らを戦力として使うなら、魔界の魔獣でも戦力にしたほうがよっぽど強力だろう……

 

「ま、俺も詳しくは知らないが、向こうの頭領はお前さんの頭領のアシュタロスと同じくソロモンのアスモデウスって聞いてるぜ?」

 

アスモデウス……アシュ様から調べるように言われていた魔神だね……

 

「ん、ありがと」

 

男のポケットに更に追加の金貨を5枚入れて、自分のグラスの酒を煽って立ち上がろうとすると

 

「止めとけ、悪いことは言わない、この山からは手を引きな、メドーサ」

 

私の手を掴んでそういう男は私の目を見て

 

「魔界正規軍と天界正規軍がかなりの数アスモデウス一派に関わって消えてる、お前さんも死ぬぜ?」

 

顔なじみって事で忠告してくれているんだろうけど……

 

「悪いね、そう知っていても私は引けないんだよ」

 

私がそう言うと私の手をつかんでいた男はきょとんっとした顔になって急に笑いながら

 

「男か、良い顔で笑うな。そんなにアシュタロスは良い男か?」

 

からかうように言う男の額に軽くでこぴんを叩き込みながら

 

「違うよ、アシュ様じゃないさ。ま、あんたに話す理由も無いけど、とんでもない良い男がいたんだよ」

 

それこそ、死んでもいいくらいねと言うと

 

「そっか、そんなに良い男か。じゃあ俺に勝ち目は無いか……」

 

「馬鹿言うな、そんな素振りを見せなかったくせに」

 

違いないとお互いに笑い合い、私は手を振って男に背を向けて、いつの間にかポケットにねじ込まれていた地図を見て、アスモデウス一派のアジトを探して魔界の荒野を歩き出すのだった……

 

 

 

 

魔族や神族を狂わせる何か、それを使って戦力を増強していると言う過激派魔族。それに人間の権力者が操られている可能性を考慮して、各国を回っていた

 

「ええ、ええ……判ったわ。ん、ありがとう」

 

手帳にアシュタロスから伝えられた情報をメモし受話器を元に戻す

 

(今のところアメリカは大丈夫っと……)

 

手帳のアメリカの所に丸をつける、これでヨーロッパとアメリカ、それにザンスと言った霊能力にも力を入れている国は大丈夫……

 

「次は……どこに行こうかしら」

 

今私が滞在しているのはアメリカのニューヨーク。ここからどこに移動するか?

 

(アシュタロスのほうも特に手がかりはないみたいだし……)

 

アシュタロスに優先的に回ってほしいと言われていた場所は今日で回り終わったし……

 

(今度は私の感で回って見ようかしら?)

 

手がかりがまるで無い状態で捜索しているのだから、自分の感を信じて見るのも良いかも知れない……

 

「確か香港で原始風水盤だったかしら……」

 

アシュタロスがかなり本格的動き始めたのが確か香港で原始風水盤だったはず……

 

「良し、決めた。香港に行きましょう」

 

困ったときは自分の霊感を信じる。それは霊能力者に共通する事だ、私の霊感は香港に行けと言っている。だから香港に向かおう……

 

(絶対何かそこにある)

 

私の感が告げている。そこに何かあると……思い立ったが吉日。私は滞在する予定だったホテルをキャンセルし、そのまま香港へと向かうのだった。そこで私は思いがけない人物と再会する事になるのだが、今の私は当然ながらそれを知らないのだった……

 

 

 

 




リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄へ続く

次回でリポート20!目標の8割はできましたね。早くGS試験片に入れるといいのですが、まだやるイベントがあるのでもうしばらく第一部にお付き合いください、次回は竜の姫と清い乙女と操られし英雄と色々と大きく話を動かすつもりです。その1はほのぼので行くつもりですけどね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします




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リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回は竜の姫と清い乙女と操られし英雄と天竜童子の話になりますが、表立って動くのはメドーサではなく、アスモデウス一派になります。どういう展開になるのか、楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その1

 

「ふう、久しぶりに日本に戻って来たけど……なんかごみごみしてるような気がするねえ」

 

私は久しぶりに戻って来た日本の街並みを見てそう呟いた。ナルニアは自然しかないけど、東京みたいにビルばかりって言うのもなんか落ち着かないね……

 

(急に来たら忠夫も驚くだろうね)

 

蛍ちゃんとかからは忠夫の近況は聞いてるけど、やっぱり心配になるしね……

 

「さーて!ケンちゃんに書類を渡して忠夫の様子を見に行くとしましょうか!」

 

久しぶりの息子との再会を楽しみに来たんだから、めんどくさい仕事は早く終わらせようと思い、私はそのままキャリーケースを引っ張って村枝商事に向かって歩き出すのだった……

 

なおその頃ナルニアに残った大樹はと言うと

 

「はなせー!はなしてくれー!!」

 

「NO、ボスがお前を監視しろと言っていった」

 

「ガチムキ集団に囲まれるのは嫌だーッ!!!」

 

自分が居ないと大樹が何をするのか判らないと判断した百合子によって、ガチムキの現地スタッフに囲まれて絶叫しているのだった……

 

 

 

 

 

除霊のリポートの練習として美神さんから受け取った用紙を見て、俺は頭を抱えていた

 

「うーむ……むむむ」

 

GS協会から若手のGSの教育用教材として出されている物で、実際の除霊現場の写真とプロのGSの簡易リポート。この2つを見て適切なリポートにすると言う課題なんだけど

 

(さっぱり判らん)

 

自分で見ているのなら書くのは簡単だが、写真と要所要所をボカされたリポートでは見ていても混乱してくるだけだ

 

「みーむ……みみみ」

 

「うきゅーうううう」

 

「うん。別に真似しなくてもいいからな?」

 

みむう?うきゅう?とこっちを見つめてくるチビとモグラちゃん。俺の真似をしているのは判るけど、反応しづらいんだよなあ……でも可愛いから良いかと苦笑していると

 

「……横島。お客」

 

シズクが箒と塵取りを持ったままリビングに顔を出す。お客さん?誰……振り返って俺は絶句した

 

「忠夫元気にしてたかい?まぁ積もる話はあとにして、この女の子はなんだい?事としだいによっては……〆るよ?」

 

顔は笑顔だが、目が全く笑っていないおふくろの凄まじい殺気に俺は背筋に氷を突っ込まれたような寒気を感じるのだった……

 

「えーとシズクは……竜神様です」

 

「竜神?この子が?」

 

いかん、明らかに俺の話を信じていない……俺が助けてくれとシズクに視線を向けると

 

「……証拠」

 

「へ?わわ!?」

 

シズクがそう呟くとその身体を水に変えて姿を消す。女の子だと思っていたシズクが水に変わって驚いているおふくろ

 

「信じてくれた?」

 

「そりゃこれを見れば……」

 

おふくろは机の上のチビとモグラちゃんを見て、少し考えてから

 

「忠夫?あんたいつからお化け屋敷をやることにしたんだい?」

 

「いや、違うから」

 

とりあえずチビとモグラちゃんの説明もしないとな、課題のリポートを鞄の中に戻していると

 

【横島さーん、お昼の準備を……へ?】

 

「は?」

 

壁から顔を出したおキヌちゃんとおふくろが顔を見合わせる。あちゃー……なんてタイミングが悪い

 

「えーとおキヌちゃん?」

 

【は、はい!そうです!前にお電話しましたよね!】

 

おふくろとおキヌちゃんは知り合いだったのか、電話だけとは言えお互いに声を知っているわけで、俺が懸念したおふくろがお化けと言って絶叫する未来を回避できたことに安堵しながら

 

「まぁとりあえず、座りなよ、おふくろ。シズクお茶お願いできるか?」

 

「……判った」

 

いつの間にか水の状態からいつもの人の姿に戻ったシズクがキッチンに向かっていくのを見ていたおふくろが

 

「あんな小さい子で大丈夫なのかい?」

 

心配そうにしているおふくろに俺は笑いながら

 

「頼れるロリおかんシズクさんは「……ロリおかん言うな」へぐろ!?」

 

キッチンから投げられたオタマが顔面に命中し、俺はゆっくりとひっくり返るのだった……

 

 

 

 

GSになると言っていた忠夫の家がいつの間にかお化け屋敷みたいになっているのは正直驚いたけど、仲良く暮らしているみたいだからこれでいいのかも……忠夫は妖怪に好かれるって蛍ちゃんにも聞いていたし……

 

「……どうぞ」

 

「あら、ありがとう」

 

若干顔色の悪い少女。忠夫の話では水神で竜神って言うかなり強大な存在らしいシズクちゃんから湯呑みと煎餅を受け取る

 

「……改めて、水神シズク。横島の家で世話になっている、よろしく」

 

ぺこりと頭を下げるシズクちゃん。見た目はこんなに可愛いのに、水神様なんだ……それにしてもどうしてそんな神様が忠夫の家に居候をしているんだろう?当然と言わんばかりにソファーに座り込んで煎餅を齧っているシズクちゃんを見ていると、机の縁に手を掛けて小動物が二匹机の上に上がって来て、私に気付くとそのまま私の前に歩いてきて

 

「みーむ!」

 

「うきゅ!」

 

私の前で手を振っているハムスター位の大きさの小動物。片方は翼もあるから普通の動物じゃないって言うのは判るけど……なんの生き物か判らず尋ねると

 

「可愛いけど、忠夫。この生き物なに?」

 

愛嬌たっぷりで可愛いけど、何の生き物?と尋ねると忠夫は煎餅を齧りながら

 

「グレムリンのチビと竜のモグラちゃん」

 

グレムリン?話には聞いたことがあるけど、ずいぶんと愛らしいのね……それにモグラちゃんも可愛いし

 

(忠夫は小動物好きだったからなあ……)

 

昔から犬とか猫とか好きだったし……あれ?そう言えば

 

「タマモは?」

 

子狐のタマモが姿を見せないことが気になり尋ねると、忠夫はソファーのほうを指差して

 

「ソファーの影で昼寝している。最近良く寝てるんだ」

 

そう言われて立ち上がってソファーの後ろを見ると籠の中で丸まって寝ているのが見える

 

「だんだん大きくなってるから成長期だと思う」

 

のほほんと言う忠夫になんか力が抜けてくる。忠夫の周りで鳴いているチビちゃんとモグラちゃんを見て

 

「忠夫?あんたGSになるんじゃなかったの?」

 

蛍ちゃんと一緒にGSになると聞いていた、それなのにこんなに自分の側に妖怪をおいてどうするの?と尋ねると忠夫は

 

「んー人間にだって良い奴と悪い奴が居るだろ?おふ……ごほん。母さん」

 

お袋と言い掛けて母さんと言いなおした忠夫はチビちゃんとモグラちゃんを撫でながら

 

「だから妖怪にも良い奴と悪い奴が居る。んで、チビにモグラちゃんにタマモにシズク、それにおキヌちゃん」

 

自分の上を浮いている幽霊のおキヌちゃんを見て笑いながら

 

「皆良い妖怪に幽霊だと思う、シズクは神様だけど……俺は妖怪とも、神様とも仲良くなれるそんなGSになって……妖怪とか幽霊が悪いって言う今の常識を変えたいって思う」

 

私はその言葉を聞いて少しだけ安心した。ちゃんと目標を持って生活をしていると……でも言わないといけないことがある

 

「忠夫。その理想はきっと叶わないわよ?」

 

妖怪に家族を殺された人間が居る、幽霊に取り憑かれて人生が狂った人間がいる。忠夫の理想は確かに素晴らしいだろう、だけどそれはきっと只の理想で終わる

 

「難しいってのは判ってるよ。でもきっと何時か……叶うと思う。ほら夢は諦めなかったら叶うって言うだろ?」

 

ちょっと見ない間にずいぶんと逞しくなったわね……これも蛍ちゃんのおかげかしら?

 

【横島さーん!そう言ってもらえて嬉しい……「……寄るな」きゃふ!?なななな!何をするんですかぁ!!!】

 

おキヌちゃんが忠夫に抱きつこうとして、その前にシズクちゃんに迎撃される。そしてそのままポルターガイストと水鉄砲に氷の矢が飛び交い始める

 

「……忠夫?これでも出来ると思う?」

 

目の前で吹き飛ぶ花瓶や衣装棚を見て、頭痛を感じながら忠夫に尋ねると

 

「……たぶん、きっと何時かは出来ると思う」

 

チビちゃんとモグラちゃんを抱えて机の下に潜り込んで答える忠夫。これがいつものやり取りだと判断した私は

 

「いい加減にせんかいッ!!!この馬鹿共がぁッ!!!」

 

うちの息子と同棲しているのはぎりぎり認めよう。だが、忠夫に迷惑を掛けるのは許せる物ではないし、それに借りている家を壊されては困るのでそう怒鳴ると

 

【うひい!?】

 

「……す、すごい威圧感」

 

耳を押さえて蹲る2人の頭を軽きながら、ここには居ない蛍ちゃんの事を思い出して

 

(やっぱり蛍ちゃんのほうが良い子やなあ)

 

ちゃんと顔を見ているし、忠夫の面倒も見てくれて、それに忠夫がきちんと将来の事を考えさせてくれてあげているみたいだし……義娘として迎え入れるなら断然蛍ちゃんやなぁと思いながら、私は目の前で頭を抱えて蹲っている2人を軽く睨みながら

 

「説教や、行くで」

 

今日の夕方にはまたナルニアに向かわないといけないので、時間的にはもうあまり余裕はないけど、もう少し常識ってもんを叩き込まないと行けないようだ

 

【「……はい」】

 

俯いて頷く2人を隣の部屋に連れて行き、1時間の間正座をさせてみっちりと説教をするのだった……

 

 

 

 

 

「なんか百合子さんの評価が上がった気がする」

 

べスパとパピリオの調整が終わり、近い内に目覚めさせる事が決まったので横島の家に行かず2人を目覚めさせる準備をしている中急に褒められて感じがしてそう呟くと

 

「ああ、それはきっと今百合子さんが日本に居るからだね」

 

はい?私の知らないことをサラッと言うお父さんを見ると、お父さんはキラリと光る歯を見せながら

 

「今日早朝に百合子さんが日本に戻ってきたからね!きっと横島君の様子を「なんでそれを言わない!この馬鹿親がぁ!!」へぐろお!?」

 

私は思わず机の上に転がっていたスパナを掴んで全力で投げつける。部屋の隅で手伝ってくれていた土偶羅魔具羅がアシュサマーとか叫んでいるけどそれを無視して、私の足元に転がってきたスパナを拾いながら

 

「何で教えてくれなかったの?」

 

百合子さんがいるなら挨拶にいくのは当然の事だ。それなのにこの馬鹿親はそんな大事な事を伝えなかった……しかもなんであんな良い笑顔でそんなことを言えたのかが理解できない

 

「いや、百合子さんが居る間までにパピリオとかの調整を手伝って貰おうと思って、ほら姉妹が揃うのは大事じゃないか」

 

それは確かに判る、判るけど……私は手の中のスパナを軽く振るいながら

 

「調整って2時間前に終わってるよね?」

 

調整と言ってもとくにすることはなく、魔族としてではなく、あくまで人間としての認識を強くし、魔力とかの制御に制限を掛ける程度の物。昼少し過ぎには終わっていた、それではここまでの時間私を拘束するのはおかしいんじゃない?っとお父さんに尋ねるとだらだらと冷や汗を流しながら

 

「わ、忘れて「懺悔の準備は出来てる?」いいぇ!いやいや!?ま、待って!は、話を!!!」

 

この期に及んで命乞いをするお父さんを見下ろして、私はニコリとワライながら手にしていたスパナを遠慮なく!全力で!更に魔力と霊力で自身の身体能力を強化してから、その顔面に向かってスパナを振り下ろすのだった……

 

「もう!最悪!まだ日本に居るかなあ!」

 

もう完全にスパナとしての機能を失った鉄くずを投げ捨て、白衣から出かけるようの見栄えの良い服に着替えようと思ったが、壁掛けの時計を見て

 

(ギ、ギリギリ過ぎる!?)

 

ナルニアに発つ飛行機は午後4時。それに対して今の時間は午後2時45分……搭乗時間などを考えると着替えている時間はない、仕方ないので白衣だけ脱いで、ジーンズとシャツと言うとてもではないが、意中の相手の親に会う格好と言えない姿でビルを出てバイクで空港へと向かうのだった……

 

「百合子さん!」

 

何とか3時15分に空港が着く事が出来た。そのままナルニア行きの搭乗口の所で座っている百合子さんを見つけて声を掛ける

 

「あら!蛍ちゃん。忠夫に聞いて見送りに来てくれたの?」

 

あ……な、なんて言おう……お父さんに聞いてじゃおかしいかな?私が返事に困っていると

 

「優太郎さんに聞いたの?昨日ナルニアを出る前にちゃんと連絡しておいたけど……こんな時間にくるなんて何か用事があったの?」

 

……家に帰ったらもう100発ほどハンマーで殴ろう。ちゃんと聞いてるじゃない!お父さん

 

「ちょっと妹を迎えに行っていたので」

 

私がそう言うと百合子さんはそうっと小さく笑って自分の隣の椅子を叩いて

 

「あんまり時間はないけど話をしましょう?」

 

「はい!」

 

直ぐに搭乗口に向かわないといけない時間だから話を出来る時間はもう10分もない、本当ならこのまま見送ってお別れだと思っていたのに話をしましょう?と言ってくれる百合子さんの隣に座って話をするのだった

 

「あーあ……もう少し話をしたかったなあ……」

 

夕暮れの中飛んでいく飛行機を見送りながら思わずそう呟く、あと1時間でも早くビルを出ていればもっと話が出来たと思うと残念でならない……やっぱり100発じゃなくて1000発くらい行っておこう……

 

「えへへ……これからも頑張ろう」

 

最後に百合子さんに言われた言葉に頬が緩むのが判る。なんか急に横島に会いたくなったし……私は百合子さんに言われた言葉を思い出して、自分でも判るほどにだらしない笑みを浮かべて居ることに気付き、ヘルメットをかぶって顔を隠した

 

【色々ライバル見たいの増えちゃってるみたいだけど、私は蛍ちゃんが義娘になってくれるとすごく嬉しいわ。だから頑張ってね?】

 

これはもう親公認って事よね!この時点で私は誰よりも有利にたったも同然!これからはもう少し積極的にアピールしても良いし……前々から考えていた横島にバイクの免許を取って貰って2人でツーリングとかも良いわよね。これからもっと横島と仲良くなることを考えながら私は夕暮れの道を横島の家へ向かってバイクを走らせるのだった……

 

 

 

 

 

 

「……小竜姫。この写真の人誰?」

 

うかつでした……私は目の前の少女が手にしている写真を見て、己の不覚を深く反省していた。今の小竜姫が昼寝をしていたので少し身体を借りて横島さんの写真を見ている時に竜神王様が訪れて自分の娘を預けていった。息子ではなく、娘だ

 

(なんで女の子に……)

 

私の記憶では天竜童子。つまり男児だったのに……目の前に居るのは天竜姫。名前の通り女の子だ……これも逆行の影響なんでしょうか?と頭を抱えながら

 

「その人は横島さんと言うんですよ?」

 

「邪?」

 

「違いますよ?横島さんです」

 

名前の響きから邪と勘違いしていると理解し繰り返しそう言うと天竜姫様は私の写真を私に返してくれながら

 

「お話聞かせて」

 

にこっと笑う天竜姫様。前の時は妙神山を飛び出して下界に行ってしまったけど、TVを見ていないからデジャブーアイランドに行きたいとも言い出さなさそうですし……横島さんの話を聞いて大人しくしていてくれるならと思い

 

「良いですよ、良い天気ですし、縁側で話をしましょうか?」

 

「うん!行こう。小竜姫!」

 

楽しそうに笑う天竜姫様と一緒に縁側に向かいながら、私が思い出したのはメドーサの事。彼女も逆行しているなら天竜姫様を攫う事もないだろうし……それに……庭の掃除をしている2人の竜族に視線を向ける

 

「姫様!掃除終わりやした!」

 

「お、お……終わったんだな!」

 

「御苦労。下がっていいよ?」

 

「「はっ!」」

 

メドーサの手下として動いていたイームとヤームが既に天竜姫様の護衛として妙神山に訪れている。なんでもずっと前の地上の視察の時に見つけて、可哀想だからと言う理由でペットと同じ感覚で拾われてから天竜姫様直属として働いているらしい

 

「小竜姫姉さん!夕食の準備はお任せを!」

 

「お、美味しい!山菜を探してくるんだな!」

 

籠を持って裏山に突撃していくイームとヤーム。働き者なのでとても助かりますねと思いながら、天竜姫様と一緒に縁側に腰掛けて

 

「じゃあお話を始めますね?」

 

「うん!」

 

嬉しそうに笑う天竜姫様に私は横島さんの話をするのだった。ちょっとスケベだけど優しい良い人だと……そして翌朝

 

【よこしまに会いに行ってきます てんりゅー】

 

【天竜姫様が心配なので着いていきます ヤーム】

 

【し、心配しなくてもいいんだな!直ぐに戻るんだなあ イーム】

 

「わ、私の馬鹿ぁッ!!!」

 

メドーサが居なくても、イームとヤームが竜神として迎えられていても、天竜姫様が下界に行くという結末を変えることは出来ない、そしてまさか天竜姫様が外界に興味を持つきっかけが私だとは予想外すぎる。無理やり今の小竜姫の意志を乗っ取り身体のコントロールを得る。そしてそのまま荷物を纏めて

 

「鬼門!早く下界に行きますよ!天竜姫様が何かあっては遅いですから!」

 

「「はっ!!」」

 

なんとしても横島さんに会う前に天竜姫様を見つけないと……

 

(横島さんが危ない!)

 

横島さんは年下に加えて、人外に好かれる。天竜姫様は両方の条件を満たしている!これは急がないと私の恋が始まって直ぐ終わる!!!私は天竜姫様の身の安全よりも自分の恋愛が何も始まる前に終わってしまうことを恐れ、私は慌てて下界へと向かうのだった……

 

 

 

小竜姫が下界に向かっている頃魔界では……

 

「見つけた……魔人復活に……狂神石……」

 

メドーサはなんとか潜り込めたアスモデウス一派のアジトの最深部の書庫から、アスモデウス一派の計画を裏付ける資料を回収していた……だが

 

ギイ……

 

ゆっくりと扉が閉じる音がし、メドーサは手にしていた資料を落とす。普段飄々としている彼女の額には凄まじいまでの汗

 

が浮かんでいた。振り返らなくても判ってしまったのだ、背後に居るのがアシュタロスと同格の魔神だと

 

「死ぬ前に目的の物は見れたか?小うるさい鼠」

 

「そうかい、最初からいぶりだすつもりで」

 

メドーサはこのとき自分の失態に舌打ち仕掛けたが、自分の主が誰かばれてない事に安堵した、だが……自分が今どうやっ

 

ても逃れることが出来ない死地に誘い込まれていることも理解した

 

「さて、得れた物を持っていくが良い。主にでも差し出せるのならな」

 

「趣味悪いね」

 

メドーサは自分をこの場で見逃し、狩りだして殺すことを企んでいると

 

「ゲームだよ。さ、逃げるが良い鼠。この場は見逃してやろう」

 

そう言って去っていく魔神の気配に深く溜息を吐いたメドーサはそのまま超加速に入り、魔界から脱出しようしたが……その超加速の中に乱入してきた何者かの気配に振り返り、自身を追っている何かを確認したメドーサは驚愕の悲鳴を上げた

 

「なんて化け物だい!?そもそもなんで!?え……「失せい」う……あ」

 

すれ違い様に一閃……その一閃でメドーサは両断され、更に手にしていた資料までも奪われた……たがメドーサを一閃した何者かの表情は暗かった

 

「なるほど、蛇を侮ったか……」

 

メドーサを両断した何者かは自身の刀についている血を見て、小さく笑みを零した。両断された瞬間にアシュタロスに施さ

 

れた緊急離脱用の転移陣が発動しメドーサは人間界に飛んだのだ、だがその傷は浅くない、数分で死に絶えることが判っている襲撃者はメドーサを両断する前に奪い取った資料を手にした刀で引き裂き、アジトへと引き返していくのだった……

 

「く……なんで……あんな化け物が……」

 

アシュタロスに施された転移魔法。それは確かに効果を発揮しメドーサを人界まで連れ戻したが、それだけだった。空を飛ぶ体力も魔力も残されていない上に、深い刀傷を受けていたメドーサは意識を保つことが出来ず、そのまま川へと落下しその姿を消すのだった……

 

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その2へ続く

 

 




グレートマザー一時帰国、何にもしてないのに蛍の好感度が上昇しました。イームとヤームは味方ルートですが、その代わり強大な敵がメドーサの代わりに登場します。最後にメドーサを両断した何者かがその1人ですね。次回はパピリオが登場しますので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回から本格的に天竜童子……もとい天竜姫の話に入っていきます。メドーサの代わりに出てくる敵キャラを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その2

 

「ずいぶんと見ない間に人界も変わりましたわね」

 

ずいぶんと長い間幽閉されていたので知らなかったのですが、少し見ない間にずいぶんと人界の様子は変わりましたね……遠くから私を見てひそひそと話をしている人間に、1000年前は着物が普通でしたが今は違うようですね、着物姿が目立ってしまうのでしょう。機会があれば現代風の服に着替えたほうがいいかもしれないですね……

 

(天竜姫……竜神王の娘を攫う……少しばかり心が痛みますが、これは仕方ないこと)

 

竜神王の温情で私は処刑されず幽閉と言う形で1000年過ごした。あと100年と少しで完全に開放される所でしたが…

 

…今高島様の転生者が居るのならば、100年後ではいつ再会できるか判らない。それならばセーレの甘言に乗って脱獄した

 

(天竜姫を見つけ出せばいいのですから早く済ませてしまいましょう)

 

ゆっくりと歩き出す。天竜姫の竜気はかなり高い、その気配を探っていけば良い……見つけてセーレに引き渡して高島様の転生者の場所を聞く……その後は

 

(どうしましょうか……)

 

きっとまたお尋ね者になってしまいますし……それでは高島様の転生者を見つけても意味がない

 

(少しばかり考慮が足りませんでしたわね……)

 

とは言え動いてしまった以上仕方ない。とりあえず天竜姫を見つけてから考えましょう……私はそう考えてゆっくりと変わってしまった人界を見ながら歩き出すのだった。

 

 

 

 

昨日の夜蛍と一緒に夕食を食べて、その帰りに渡された課題をやっているとピンポーンとチャイムの音が響く

 

「みむう?」

 

「うくー?」

 

昼寝ならぬ朝寝をしていたチビとモグラちゃんが顔を上げたので、とんとんっと軽く撫でるとまた丸くなって眠り始める。俺は手にしていたシャーペンを机の上において

 

「はーい?どちら様ですか?」

 

蛍とかなら勝手に入ってくるし、郵便かな?と思い玄関を開けると

 

「どちら様?」

 

緑色の髪をしたアリスちゃんと同じくらい……いやもう少し低いかな?小柄な少女がこっちを見つめていた。誰だろう?俺の知り合いじゃないし……誰かの家と間違えているのかな?俺がどう反応すればいいのか悩んでいると

 

「はい、あげはご挨拶」

 

扉の影から蛍が姿を見せて少女の背中を押すと

 

「こ、こんにちわでちゅ!あ、あげはでちゅ!」

 

舌足らずと言うのか、なんと言うのか雰囲気以上に幼い口調で挨拶をし、ぺこりと頭を下げた女の子に視線を合わせながら

 

「こんにちわ、俺は横島だよ。あげはちゃん」

 

緊張している様子のあげはちゃんの頭を撫でながら、蛍のほうを見ると蛍は手を合わせて

 

「お願い横島!私今から美神さんの事務所に行かないといけないの!少しの間でいいから、妹のあげはを預かって」

 

蛍に姉妹がいるって言うのは聞いていたけど……海外にいるんじゃなかったっけ?蛍の後ろのバイクを見ると荷物とかが括り付けてあるのが見えるので、もしかすると迎えに行って家に戻る前に美神さんに呼ばれたのかもしれないな

 

「いや、別に俺はいいけど……」

 

別に子供は嫌いじゃないけど……俺の目の前にいるあげはちゃんを見ながら

 

「俺でいいのか?」

 

あげはちゃんの気持ちが大事だ。あって間もない人間に預けられるのはいくらなんでも嫌なんじゃ?と俺が言うと

 

「……ヨコチマ」

 

ぎゅっと俺の服のすそを掴むあげはちゃん。あ、あれ?……なんか俺の予想していた反応と違う

 

「横島なら大丈夫よ!じゃ!お願いね!」

 

そう言うと玄関の先に停めてあったバイクに跨り走っていく蛍。俺の服を掴んでいるあげはちゃんを見て

 

「とりあえず、家の中に入ろっか?」

 

「うん!」

 

いつまでも玄関に居させるわけには行かないので、あげはちゃんの手を握り家の中に戻る

 

「……誰だ?」

 

リビングで洗濯物を畳んでいたシズクがあげはちゃんを睨みながら呟く、まぁ目つきが悪いだけで睨んでいるわけじゃないって判っているんだけど、あげはちゃんは完全に怖がってしまっていた

 

「蛍の妹だって、ちょっと預かって欲しいんだってさ。んで、あげはちゃん、シズクは目つきは怖いけど優しいから大丈夫」

 

お前それでフォローしているつもりなのか?と言うシズクの言葉を無視する。そういうのは苦手なんだから勘弁して欲しい

 

「あげはでちゅ」

 

俺の服を掴んだまま挨拶するあげはちゃん、会ってばかりだけどこれは若干懐いてくれていると思っていいのだろうか?蛍の妹なのだから、懐いてもらえるのは正直言ってありがたい

 

「……シズク」

 

「シズクちゃん?」

 

ちゃんづけされて困惑してるなシズクの奴。でも見た目の年が近いからシズクの友達になってくれるかもしれないし

 

「みむう?」

 

「うきゃーう?」

 

騒がしいの気付いたのかモグラちゃんとチビが起き出してくる。それを見たあげはちゃんはぱあっと花の咲くような顔で笑い

 

「か、かわいいでちゅー♪」

 

「みむううう!?」

 

「うきゅうう!?」

 

見た事のないあげはちゃんに急に抱きしめられて目を白黒させているモグラちゃんとチビ。すまないが、馴染むまでの間頑張ってくれ。両手を合わせて南無と呟いていると

 

「コン」

 

どうも事前に危険を察知して逃げてきていたタマモが俺の頭の上に上ってきた。これが野生動物の感なのだろうか?チビ達と同じように昼寝をしていたのに……

 

「クウ?」

 

ぺろっと俺の頬を舐めるタマモの頭を撫でながら、もう課題所じゃないと判断し資料やノートを鞄の中に片付けるのだった

 

……

 

「ヨコチマー?動かなくなったー」

 

「いやああああ!?チビ!モグラチャンンンン!!!」

 

あげはちゃんの容赦のない抱擁でぐったりして動かないチビとモグラちゃんを見て、思わず俺は女性のような悲鳴を上げてしまうのだった……

 

 

 

 

 

あげはを横島に紹介しようと思って向かっている途中におキヌさんに会って事務所に来るようにと言われて、仕方ないので横島にあげはを預けて事務所に向かうと

 

「だから!早く探さないと大変な事になるんですよ!私が!」

 

「あああ!?や、やめえ!?」

 

美神さんが小竜姫さんに肩を掴まれてがくんがくん振り回されていた。その衝撃的な光景に思わず停止してしまう、あの小竜姫様がこんなことをするなんて思えないし、もしかして今身体のコントロールを持っているのは逆行してきた小竜姫様?

 

【ほ、蛍ちゃん!は、早く助けてあげてください!私じゃ止めれないんです!】

 

おキヌさんの言葉に我に返り、美神さんを振り回している小竜姫様を止めに入るのだった……

 

「す、すいません、少し取り乱しました」

 

あれはどう見ても少し所ではないと思う。机の上でぐったりしている美神さんはどう見ても重傷だ

 

「そ、それで?わ、私に依頼って何?」

 

依頼?小竜姫様が?私が首を傾げていると小竜姫様は懐から1枚の写真を机の上におく

 

(あ……あれ?)

 

その写真を見て、私はおキヌさんと一緒に小さく首を傾げた。私の記憶では竜神王様の子供は息子であり、娘ではなかったはずなんだけど……写真に写っているのは長い前髪で目を隠した大人しそうな少女の姿

 

「竜神王様のご息女。天竜姫様です」

 

「ふうん……それでその天竜姫?がどうかしたの?」

 

写真を見ながら尋ねる美神さんに小竜姫様は青い顔をして

 

「じ、実はですね。今竜神王様は地上の竜族と会議を行うために下界に訪れているのですが、最近天界も安全とは言えなくなってきてまして」

 

その言葉を聞いた美神さんは真剣な顔をして

 

「韋駄天の暴走事件ね?」

 

「あ、そうでしたね。韋駄天九兵衛を正気に戻すのを手伝ってくれたんですから知ってますね……どうも神族を狂わせる何かが魔界に出回っているようで、近衛兵すら信用できない状況です」

 

お、思ったより天界の情勢が悪くなっている……お父さんが動かないから平和的にデタントになると思っていたんだけど、その可能性は限りなく低そうだ……小竜姫様はものすごく気まずそうな顔をしながら

 

「それで妙神山で預かっていたんですけど、つい横島さんの話をしてしまって」

 

はい?私と美神さんとおキヌさんの間抜けな声が重なる。なんで横島の話をする必要性が……

 

「そしたら横島さんに会いに行くってお供を連れて妙神山を出て行ってしまいまして」

 

な、何をやっているんだ……この馬鹿竜神は……私は酷い頭痛を覚えた。小竜姫様はそういうことをするんじゃなくて、そう言うのを止める側で、むしろそういうミスをするのは駄女神の筈だ

 

(ひ、ひどいのねー!?)

 

どこかから駄女神の声が聞こえた気がするけどきっと気のせいだ。気のせいじゃないなら、それで横島を観察している可能性があるので排除しなければ……

 

「あんたのせいじゃない!?なにやってんの!?」

 

「だから助けてくださいって言ってるんですよー!?下手をしたら神格剥奪に、角を切られて竜族からも追放されるかもしれないんですからああああ!」

 

号泣しかけている小竜姫様。確かに今の小竜姫の置かれている状況は最悪としか言いようがない、なんせ警護の任務に当たっているはずの人間の話で下界に行かれてしまっては、確実に責任は小竜姫様にあるのだから……

 

「はぁ……とりあえず横島君に連絡を取って見ましょう」

 

そう言って電話を取ろうとする美神さん。確かにそれが一番早いと思うんだけど……

 

「待ってください美神さん」

 

「どうかした?」

 

不思議そうな顔をする美神さんに私は真剣な顔をして

 

「横島の人外との遭遇率は200%です」

 

「……もう家に居ないかもしれないわね」

 

あげはがいるから散歩とかで家を出ているかもしれない。そうなればどこかで天竜姫と遭遇している可能性がある

 

「念のためにおキヌちゃん、横島君の家を見てきて、私達は横島君を探すから……あ、もしシズクが家に居たら協力してくれるように頼んで」

 

【判りました!じゃ、行って来ます!】

 

窓から飛び出していくおキヌさんを見送った美神さんは笑顔で振り返り

 

「うちの助手に掛けた迷惑料きっちり支払ってもらうわよ?」

 

とってもいい笑顔で小竜姫様に向かってそう言い放ったのだった……頷いた小竜姫様が涙目だったのはたぶん気のせいじゃないと思ったのだった……

 

なお美神達が天竜姫の捜索を始めた頃。横島はと言うと

 

「いい天気だねー、あげはちゃん」

 

「うん!そうでちゅね!」

 

蛍の予想とおりあげはと一緒に散歩に出かけていた……そしてやはりと言うかなんと言うか

 

「イーム?ヤーム?どうしましょう、はぐれてしまいました」

 

「ん?どうかしたのか?」

 

付き人のイームとヤームとはぐれ困り果てていた天竜姫とばっちり遭遇していた。流石人外遭遇率200%を誇るだけはある……

 

 

 

 

「ふーん?お供の人とはぐれちゃったのか?」

 

あげはちゃんと一緒に散歩をしているときに見つけた見慣れない格好をした女の子。どこと無く小竜姫様の着ていた服に似てるなあと思う、それになんでか向こうは俺を知っていたので公園で話を聞くことにする。

 

「わーい!」

 

「みむうー♪」

 

あげはちゃんは頭の上にチビを乗せて滑り台とかで遊んでいる、危なくないようにそれを見ながら少女の話を聞くことにする

 

「小竜姫が写真を持っていて、興味があって会いに来たのです」

 

「俺に?はは、そりゃ光栄だな。それで君の名前は?」

 

なんで小竜姫様が俺の写真を持っているんだろ?写真なんか撮らなかった筈なのになあと思いながら尋ねると

 

「竜神王が第一子。天竜姫と申します」

 

竜神王?なんか凄い名前が出てきた気がするぞ?明らかに普通の竜神様じゃないって判る。

 

(モグラちゃん判る?)

 

一応肩の上のモグラちゃんに尋ねて見るが、うきゅ?と言って首を振るだけ、ロンさんなら何か判るのかなあ?美神さんとかと合流したほうがいいのかな?と考えていると

 

「どうかした?」

 

じっと俺を見つめている天竜姫ちゃんに尋ねると、天竜姫ちゃんは肩の上のタマモを見て

 

「そ、その狐を……」

 

ああ、タマモを撫でたいのか、でもなあタマモは絶対に俺以外には懐かないしなぁ。一応肩の上を見るがツンっと顔を反らしているとても撫でたり抱っこできる状況じゃない

 

「えーと、タマモは凄い気難しいから……「えい」コーン!?」うそお!?」

 

普段だったら手を伸ばされた瞬間に逃げるタマモが簡単に捕縛され、もふもふされている

 

(さ、流石竜神やあ……)

 

全然見えなかった……こんな子供でも流石は竜神様何やなあと感心していると

 

「ヨコチマー!あげはお腹空いたー♪」

 

「みーむうー」

 

チビを頭の上に乗せたままお腹空いたと言うあげはちゃん。それに続くようにぐぐうっとお腹のなる音がする

 

「あう……」

 

「クーゥ!?」

 

どうやら天竜姫ちゃんもお腹が空いているようだ、タマモを抱き抱えたまま顔を隠している天竜姫ちゃんを見てほほえましい気持ちになりながら

 

(流石俺達のロリおかんだ)

 

散歩の前に使うかもしれないと言ってシズクが渡してくれた諭吉さん。財布の中には当然余裕がある、全員で昼食を食べてもまだ余ると思う。まぁ問題は1つ

 

(ほどほどにしてくれな?モグラちゃん)

 

たぶん大食いしている人の倍は食べるであろうモグラちゃんに小声でそうお願いし

 

「じゃあお昼を食べに行こうか?デパートでいいよな?」

 

いいよーと返事を返すあげはちゃんと、デパート?と首を傾げている天竜姫ちゃんに手を差し伸べて

 

「はぐれないようにな、じゃあ行こうか?」

 

「うん♪」

 

「はい」

 

俺はあげはちゃんと天竜姫ちゃんと手を繋ぎ、近くのデパートに足を向けるのだった……

 

 

 

 

美神達が天竜姫を探している頃アシュタロスはと言うと……

 

「ビュレト!頼みがある!」

 

アシュの野郎に与えられた部屋で酒を飲んでいると血相を変えてアシュの野郎が部屋の中に飛び込んでくる

 

「んだあ?また娘が心配だから「違う!確かに蛍は心配だがそうじゃない!」

 

俺の言葉を遮って叫ぶアシュタロスに何か不味いことになったのだと判断し、身体を起こして

 

「どうした?何があった?」

 

俺がそう尋ねるとアシュタロスは疲れ切った表情で机の上に焼き切れた札を置く。それは俺達ソロモンが扱う転移魔法の陣が刻まれた転移札だった。だがそれには大量の血痕があり、これを所有していた者が重要を負っていることが容易に想像がつく

 

「魔界を調べに行っていた部下が1人昨晩から行方不明なんだ。頼む探してくれ」

 

自分で動く事が出来ない分。使い魔を飛ばせるだけ飛ばして探していたからか、ずいぶんと弱っているのが判る。俺はボトルに残っていたワインを一気に飲み干し

 

「任せとけ、直ぐに向かう。探す相手の特徴は?」

 

ライダースーツに袖を通しながら尋ねる。魔界に向かっていたのはおそらくアスモデウス達の動向を探る為だろう、ならば俺にもその人物を探す義務がある。俺はアスモデウスの情報を得るためにアシュの所に来た。ならその中で襲われたと考えるべきだから、言いかえれば俺にも責任がある

 

「紫の髪をした竜族。たぶん知っていると思うが、メドーサだ」

 

大分前にアシュの奴に部下だと紹介されたあいつか、あいつなら顔は知っているし魔力も覚えている

 

「わかったすぐに探しに行く、それと……判ってるな?」

 

今この街にはかなりの数の竜族の気配が混じっている。それに何者かは判らないが膨大な霊力をもつ何かの存在も感知している

 

「判ってる。蛍達の方も何かあったら連絡する。ビュレトはメドーサを頼む、面倒事ばかりを押し付けるが頼む」

 

そう言って頭を下げるアシュに任せろと返事を返し、俺はアシュのビルを後にし記憶の中にあるメドーサの魔力の波長を頼りにバイクを走らせるのだった……

 

だがビュレトがメドーサを探す為にビルを出た時には既にメドーサはある人物に発見されていた

 

「くひ♪見つけたよ蛇神……君には聞きたいことが色々あるんだ」

 

川岸に這い上がって気絶したメドーサを発見した何者かが、楽しそうに笑いながら、気絶しているメドーサに軽く応急処置を施してから、ここに来る為に雇ったドライバーに

 

「彼女を車まで運んでくれたまえ、報酬はきっちり払うけど、他言無用だ。いいね?」

 

殆ど死人と同じ顔色をしているメドーサを見て引きつった顔をしているドライバーにそう指示を出し、自身は一足先に車へと戻っていくのだった……

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その3へ続く

 

 




次回からは大きく話を動かして行こうと思っています。きよひーとかの襲撃をメインにして行こうと思っています。そして最後にメドーサを回収した何者か……一体何者ナンダー?……もう判ってますよね?あの予知探偵さんです。そしてロリには好かれやすい横島は平常運転をしております。あげはと天竜姫がどうなるかは楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話から本格的に話を動かして行こうと思います。きよひーとかも出して行こうと思っています。メドーサは退場しているので代わりの敵がどう動くのかを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その3

 

「……竜神王の娘が下界に?」

 

散歩に行った横島が帰ってくるのを待っているとおキヌがまた面倒事を持ってきた。私は溜息を吐きながら

 

「……あまり竜神には関わりたくない、横島は心配だが、小竜姫がいるなら問題ない」

 

【で、でも!横島さんが危険な目に合うかも知れないんですよ!?良いんですか!?】

 

声を荒げるおキヌ。横島が危険な目に合う、それは確かに許容できる物ではないが……竜神の中でも指折りの強者の小竜姫がいるなら最悪の展開にはならないはずだ

 

「……そういう訳だ。私は天界の竜神には関わりたくない」

 

悪いが帰ってくれと言おうとした瞬間……私の探知結界の中に入り込んできた竜の気配を感じた……

 

(あいつがいるのか……)

 

魔族が動いていることは知っていた。だがまさか天界で幽閉されているはずのあいつを持ち出してくるとは思っても無かった

 

「……気が変わった。横島が危ない、やばい奴が来ている」

 

【え?】

 

驚いた顔をしているおキヌを見ながら、出かける準備をしながら、私は昔の事を思い出していた。私がいて、高島がいて……様々な妖怪が居た1000年前……その中でもとりわけ高島を慕っていた竜族。そして……高島の死を知り、暴れ回り天界の竜神に捕らえられた……

 

(清姫と横島を会わせてはいけない)

 

清姫はきっと横島ではなく高島を見ることしか出来ないだろう。だから高島と違う横島を受け入れることが出来るとは思えない

 

「……急ごう。横島が殺される前に合流しないと」

 

清姫は見た目は大人しい、だがその実気性の荒さは竜族の中でも随一であり……

 

(私を憎んでいる……)

 

高島が生きている時は仲良く喧嘩すると言う感じだった。だがきっと高島の処刑の時にいなかった私を憎んでいるに違いない……なら私が止めないといけない、あいつを……きっと高島をそれを望んでいるだろうし

 

(あの時封印されていた私が出来ることだ)

 

【こ、殺されるって!?そんなに危ない人が来ているんですか!?】

 

驚いているおキヌに説明している時間は無いと呟いて、私は横島の家を飛び出し横島の気配を探して街へと向かって走り出すのだった……

 

 

 

 

「ア、アニキ……オイラ達大丈夫かなあ?」

 

不安そうに話しかけてくるイームに俺は

 

「だ、大丈夫だ!天竜姫様を見つければまだなんとでもなる!」

 

俺とイームは1度竜族を追放され、そして天竜姫様に運よく目を掛けて貰い、再び竜族に戻る事が出来た。今はまだ会談中だから大丈夫だが、終わる前に見つけることが出来なければ

 

(こ、殺される……)

 

竜神王様は天竜姫様を溺愛している。もしも何かあれば確実に処刑だ!

 

「イーム!天竜姫様の匂いは?」

 

「い、今探してるんだな!」

 

人間の姿に化けているからイームの鼻の利きがよくない……このままだと本当に俺達の命が

 

「イーム!ヤーム!」

 

人混みの中から俺達を呼ぶ声が聞こえてきて振り替えり、俺は顔を青ざめさせた

 

(しょ、小竜姫姉さん!?)

 

や、やべえ……もう追いついてきた……こ、殺される……俺とイームが逃げようと思って振り返ろうとした瞬間

 

「同僚として言う逃げるな」

 

「うむ、今の小竜姫様は……本気で殺しに来るぞ」

 

鬼門の余りに悲壮感に満ちた顔を見て俺達はその場に正座し、小竜姫姉さんの裁きを受け入れることにしたのだった……

 

「見失ったと?何をしているのですか!?」

 

「す、すんません!天竜姫様めちゃくちゃ速くて!?」

 

「そ、そうなんだな!超加速を使われたら追いつけないんだな!!」

 

握り拳を作り、今にもそれを俺達に叩き込もうとしている小竜姫姉さんに必死に命乞いをする。これは殺られる、確実に殺られる……俺とイームが死を覚悟していると

 

「……超加速?小竜姫、天竜姫はまだ角も生え変わっていないんじゃないのか?」

 

小竜姫姉さんに話しかける童女。だが俺には判る、この童女も竜神だと……しかもこの威圧感からして小竜姫姉さんに匹敵する竜族の筈だ、イームに至っては顔を青くして今にも気絶しそうだ

 

「天竜姫様は竜族の中でも1000年に1度と言われるほどの天才です。さわり程度ですが超加速の秘儀にも到達しています」

 

小柄な竜神にそう説明している小竜姫姉さんの後ろにいる人間の姿を見て

 

「あ、あの小竜姫姉さん」

 

「なんですか?ヤーム」

 

うっ……やべえ、下手すると本当に殺される。俺達よりも竜神王様に直接面倒を見るように言われていた小竜姫姉さんの方が追い込まれているのは判るけど、もう少し殺気を抑えて欲しい

 

「後ろの人間はどういった関係で?」

 

俺がそう尋ねると小竜姫姉さんはああっと小さく頷いて

 

「今人間界で一番有名な退魔師である美神令子さんとその助手の芦蛍さんです。それと幽霊のおキヌさんです。私もあまり外界に詳しくないので協力をお願いしたのです」

 

あ、なるほど、俺もイームも下界には詳しくないしなぁ……だから鬼門も黒い服を着ているのかと納得していると

 

「それで何か手かがりみたいなのはあるの?えーと「ヤームだ、小竜姫姉さんの協力者なら気軽にヤームと呼んでくれ」

 

あまり人間は好きではないが、小竜姫姉さんが選んだ協力者ならさぞ凄腕なのだろうと判断しそう言うと

 

「じゃあヤームさん。天竜姫様の手がかりはあるんですか?」

 

黒髪のえーと蛍だな、それに尋ねられた俺は隣で泡を吹いているイームの頭を引っぱたき

 

「な、ななんだな!?お味噌汁のおかわりはこっちなんだな!?」

 

「お前は何を言ってるんだ」

 

イームが混乱すると訳の判らないことを言い出すのは知っていたが。これは酷い、なんで急に味噌汁なんだ……

 

「こいつはイーム、土竜族のイームだ。こいつは鼻が良くてな、それで天竜姫様を探しているんだ」

 

俺がそう言うと露骨に嫌そうな顔をする小竜姫姉さん達。どうしたんだ?と思っていると

 

「そういうのは今の下界では変態と言って差別される対象なんだ」

 

な……なんだと!?俺とイームが驚いていると美神が

 

「ま、まあ手がかりが無いからお願いするわ。それでどっちの方向にいるの?」

 

釈然としないが、今は天竜姫様を見つけることが最優先だ。隣のイームに視線を向けると

 

「こ、こっちなんだな!」

 

天竜姫様の匂いを見つけたのか歩き出すイームの後を追ってデパートとか言う建物へ足を向けたのだった

 

 

 

 

 

イームと言う長身の人間に化けた竜族に案内されながら、エスカレーターで上の階に向かいながら、デパートの中に目を通す。平日だが案外親子連れの家族が多い……

 

(デパートかぁ……こういう所で戦闘はいやね)

 

竜神王の娘が下界にいると知れれば、それを利用してやろうと動く魔族がいるだろう。ただでさえ韋駄天が操られてたりしているのだから、その可能性はかなり高い。その証拠に

 

「やばいやばい……は、早く天竜姫様を見つけて保護しないと、わ、私のくびが飛ぶ」

 

ぶつぶつ呟いている小竜姫様を見れば判る。かなり追い詰められているようだ……神界で竜族となればかなりそう言うのに厳しいのかもしれない

 

【あれー?美神さん、あれ横島さんじゃないですか?】

 

考え事をしていると上からおキヌちゃんの声が聞こえてくる。顔を上げるがまだ私には見えない、もう少しで3階だから、そこで見れば良いと判断し、周囲に魔族の気配が無いか?敵意を向けている相手が居ないか?と言うのを探るほうに意識を向けるのだった

 

「あれー?美神さんに蛍?それに小竜姫様?なんでこんなところに居るんすか?」

 

「イーム?ヤーム?どうしたのですか?」

 

「あー蛍ちゃ-ん」

 

……なんか警戒していた私が馬鹿に思えてきたわ。デパートの中のファミレスで幼女2人の面倒を見ている横島君を見て肩の力ががくっと抜けた

 

「何ってその子を探してたのよ」

 

横島君達の座っている席の近くに座りながら言うと横島君は2人を見て、どっちですか?と呟く。私としては普通に竜族と当たり前のように遭遇している横島君に頭痛を感じずに入られなかった。訳が判らないという表情をしている横島君に蛍ちゃんとおキヌちゃんが

 

【横島さん、その女の子。竜神王様の娘さんなんですって】

 

「もし怪我でもしてたらそれはそれは大変なことになってたのよ」

 

2人にそう言われた横島君が目の前でオムライスを頬張っている少女の口元をナプキンで拭ってあげながら

 

「知ってるよ?あった時に名乗ってたし」

 

のほほんと笑う横島君。はぁ……まぁ良いわ。後は会議が終わるまで事務所で保護すれば良いんだし

 

「良かった、本当に良かった」

 

心底ほっとした表情をしている小竜姫様。まぁ自分の首が飛ぶかもしれないと思っていたら気が気じゃないわよね

 

「姫様。お願いだから超加速で走るのは止めてください」

 

「お、おいつけないんだな!」

 

イームとヤームが天竜姫様にそうお願いしているがガン無視してオムライスを頬張っている。話し方は丁寧だけど、性格はあんまりよろしくないのかもしれない……っと思ったら

 

「んく。イーム、ヤーム。食事中ですので少し待っていてください、後でちゃんと話を聞きますので」

 

どうやら口の中に物が入っているので喋らなかっただけのようだ。かなりそういう礼儀には厳しく躾けられているようだ

 

「むぐ、むぐ。ヨコチマ!美味しい!」

 

「そっかー良かったなあ。あげはちゃん」

 

横島君は横島君で見慣れない女の子の頭を撫でているし……この子も竜族なのかしら?

 

「あ、あのこ私の妹です。急に呼ばれたんで横島に預けてきたんです」

 

小さく手を上げて言う蛍ちゃん。小竜姫様が来てからすぐおキヌちゃんに呼びに行って貰ったから、どうも蛍ちゃんには都合の悪いタイミングだったみたいね

 

「まぁ丁度良い時間だし、何か食べる?おごるわよ?」

 

「ありがとうございます」

 

どうもさっきから私の霊感が疼いている、これから何かあるかもしれないからしっかり備えておこう。丁度いいのでここで昼食をとることにしたのだった……

 

「小竜姫姉さん……これどうすればいいんっすか?」

 

「わ、判らないんだなあ」

 

「えっと私も判りません」

 

どうやって注文すればいいのか判らず困惑しているイームとヤームに小竜姫様を尻目に鬼門コンビはさらっと注文していた……適応力が違うのかしら?と考えながら私は小竜姫様達が何を食べたいのか?を聞いてウェイトレスに注文を告げるのだった……

 

 

 

 

 

 

(うーん、これからどうなるんでしょう?)

 

昼食を摂っている横島さん達を見ながら私は腕を組んで考え事をしていた。イームさんとヤームさんは敵で襲ってきたけど、ここでは既に味方だし、天竜童子君は天竜姫ちゃんになっているし……

 

(メドーサさんはどうなったんでしょう?)

 

イームさんとヤームさんを部下にして襲ってきて、美神さんの事務所を破壊したけど、たぶんメドーサさんも逆行しているから味方……

 

(まだ思い出してないんでしょうか?)

 

それなら敵として襲ってくる可能性もあるし……うーん。どうしましょう?どうなっているのか全然判りません。こればっかりはこのとき一緒に居なかった蛍ちゃんに聞くわけにも行かないですし、小竜姫様も記憶を取り戻していると言う確信が持てないので相談するわけにも行きません。うーん記憶があるって言うのもそういい物ではないですね

 

「それにしてもシズク。貴女が協力してくれるとは思ってませんでした」

 

昼食終えた所で小竜姫様がシズクちゃんにそう声を掛けます。最初は断られたんですが、急にOKを出してくれたんですよね

 

「……私の結界に清姫の反応があったから来た。そうじゃなかったら来ない」

 

シズクちゃんが呟いた清姫の名前に小竜姫様やイームとヤームの顔色が変わる

 

「清姫!?んな馬鹿な、あいつは天界で幽閉されてるはずじゃ」

 

「そ、そうなんだな!後100年で開放されるのに、1000年経ったこのタイミングで脱獄するなんてありえないんだな!」

 

「確かにその通りだと思うんですが……そもそもシズクさんはどうして清姫を知っているのですか?」

 

確かに天界に幽閉されているはずの事を知っているのですか?と尋ねられたシズクちゃんは

 

「……1000年前に会っている、私の祠を高島が作ってくれるより少し前に一緒に高島の屋敷で世話になっていて……」

 

高島って……横島さんの前世……昔から妖怪に好かれていたんですね。でも一緒に居たなら……話し合う余地が……

 

「……良く焼かれかけた」

 

仲悪い!?しかも殺意に満ちている!?美神さん達も顔が若干ヒクついている。まぁ私は氷付けにしてやったがなとドヤ顔するシズクさんに皆ドン引きである

 

「……危険な奴だから横島が危ないと思って出てきただけ」

 

高島=横島さん。確かに横島さんに危険が及ぶ可能性はあるから備えるのは大事だと思う

 

「みーむ」

 

「うーきゅー」

 

「はいあーん」

 

横島さんはマイペースにチビちゃんとモグラちゃんに果物を与えていた。自分が高島の転生者であるということ知らないからのこの対応だと思うけどもう少し危機感を持って欲しいと思った

 

「危険な竜神って事は判ったわ。とりあえず一回事務所に戻って準備を整えましょう。今は殆ど手ぶらだから」

 

軽い護身用の装備しか持って来てないので1度事務所に戻ろうと言う美神さん。どうなるのか判らないから準備は万全にしておいたほうがいいだろう

 

「俺はどうすればいいっすか?あとあげはちゃんと天竜姫ちゃんは?」

 

お腹がいっぱいになったのか、うつらうつらと舟を漕いでいるあげはちゃんと天竜姫ちゃんを見て尋ねてくる横島さん

 

(私は横島さんを連れていくべきだと思います。清姫って言うのが来るなら横島さんが危ないです)

 

(……それが良い、清姫は高島と結ばれたいと願っていた。今何をするか判らない、食われるかもしれない、いろんな意味で)

 

シズクちゃんのその呟きを聞いて私達の答えは決まりました、きっと蛍ちゃんも同じ考えのはず

 

「何かあってはいけないので横島さんも一緒に来てください。イーム、ヤーム、それに鬼門。横島さんを護る様に」

 

横島さんが2重の意味で食べられる可能性があると聞いた小竜姫様は即決で横島さんを連れて行くことを決め、イームさんたちに護るように指示を出した。これである程度は安心できるかもしれない

 

「じゃあ、横島君行くわよ?本当に大丈夫?」

 

美神さんが引きつった顔で尋ねる。それは仕方ないかもしれない、頭の上にタマモ、肩の上にチビとモグラちゃん。そして背中に満腹で眠ってしまっているあげはちゃんと天竜姫ちゃんを背負っている。いくら横島さんでも重いと思ったんですが

 

「全然平気っす!行きましょう」

 

にかっと笑う横島さんの姿を見て、私は思わず横島さんの天職はGSじゃなくて保育士さんなんじゃ?と思うのだった。なお周囲を警戒しているイーム達は

 

「あ、兄貴。天竜姫様があんなに穏やかな顔をしているんだなぁ!」

 

「あ、あああ……見てる。見てるぜ……」

 

基本気難しい顔をしている天竜姫がとても穏やかな顔をしているのを見て、涙していたりする。なおその反対側で

 

「おまけ扱いか」

 

「耐えるんだ、右の」

 

自分達の扱いがひどい事に鬼門達が涙しているのだった……

 

 

 

 

 

 

「それでここで待って居ればいいのですか?」

 

私をここに連れてきた何かにそう尋ねる。赤い甲冑姿の人は腕を組んだままこくりと頷く

 

(何者なんでしょうね?いえ何なんでしょうか?)

 

魔力も感じない、妖力も感じない……かと言って竜気や神気も感じない。全くの無……死んでいるのか、生きているのか、それとも人形なのか?それさえも判らない……だからこそ気を許すことが出来ない。いつ攻撃されるか判らないからだ……手にしている扇子を開いて見つめる……私の宝……

 

(高島様……)

 

この扇子は高島様に作っていただいた特別な物……只の扇子ではなく、あの方が用いることが出来る術を使って強化された特別な品……私の竜気を高め、竜にならずとも竜の強靭な鱗と炎を扱えるようになる至宝……これだけは手放さなかった……渡す様に何度も言われたがこれだけは……手放すことが出来ない

 

「来ましたか」

 

私の探知範囲に複数の竜族の気配が入った、私は手にしていた扇子を閉じて大きく息を吐く……その中の竜族の気配に私は覚えがあった……きっと向こうも気付いているだろう

 

(お前が憎かった……シズク)

 

高島様が処刑される時、お前はそこに居なかった……高島様の処刑に反対して処刑場に向かったのは全て高島様の世話になった妖怪や竜族。だがその中でシズクだけはそこに居なかった……私達の中で一番世話になっていたと言うのに!1000年我慢した憎悪が私の中で膨れ上がっていく……高島様がこんな事を望まないことは判っている。だけど私は……シズクを許すことが出来ない

 

(お前だけは殺す……)

 

殺意が膨れ上がっていく……この怒りをこれ以上抑えることなど出来るわけが無い……ガチャリと音を立てて扉が開く。姿を見せたのは神剣を構えた小竜姫と指をこちらに向けているシズクの姿

 

「シャアアアアアッ!!!」

 

あの時と何も変わらないその姿を見た瞬間。私の中で何かが切れて咄嗟に扇子を振うと同時に火炎を打ち出す

 

「!くうっ!?」

 

私の先制攻撃に反応して水の壁を作り出すが遅い、本来私は火の竜。水のシズクには勝てない……だけど

 

「苦しいでしょう、痛いでしょう。今の私の炎……今の貴女の力で押さえれるものではありませんわ」

 

最後の朝。高島様が私に渡してくれた扇子……これが私の炎を増加させている。たとえミズチのシズクといえど耐えることなど不可能

 

「排除する」

 

赤い甲冑の何かが小竜姫へと突進し、腰から抜き放った2振りの刀を小竜姫に振り下ろす

 

「は、速い!?」

 

「違う。お前が遅いんだ!」

 

この狭い建物中でよく刀が振れる物だと感心しながら火炎を打ち出す

 

「……そう何度も!」

 

今度の火炎はシズクの水鉄砲に迎撃されるが、その顔色は悪い。如何にシズクと言えどこんな水も何も無い場所で私の炎を迎撃し続けるのは不可能。なんでか知らないが、神通力が相当減退しているので昔のような水の竜を操るような真似は出来ないはずだ。

 

「……やはり私を憎むか。清姫」

 

部屋の外から渡された水を飲み干すシズク、どうも建物の後ろに味方が居るようですね……気配からして人間。高島様との約束なのですから、私は人間は傷つけません……高島様の命を奪った愚か者は殺しましたがね。それ以外で私は人間を傷つけない、それが高島様との約束の1つ。これを破るつもりは無い、だが問いかけるようなシズクの一言が私の中の憎悪を更に滾らせる

 

「それをお前が言うかぁ!あの時に居なかったお前がぁッ!!!」

 

怒りのまま憎悪のまま扇子を何度も振るい火炎を飛ばし続ける。ここで殺す!燃やして、骨を砕いて、魂さえも焼き尽くす!再生など許さない、今ここで!殺してやる

 

「高島様の墓標にその首を捧げてやる!!」

 

このまま距離をいてもシズクを殺すことなんて出来ない。それにその程度では私の怒りが収まることは無い……左手を竜の手へと作り変え飛びかかろうとした瞬間

 

(え?)

 

シズクの近くに近づいて一瞬感じた。懐かしい高島様の気配……振り下ろそうとした爪がシズクの顔の前で止まる

 

「清姫!散るぞ!」

 

小竜姫と切り結んでいた何かがそう叫んだ瞬間、シズクが一歩後ずさり

 

「……すまない美神。ここを破壊する」

 

「ま!?待ちなさいシズク!!!」

 

女の金切り声が聞こえたと思った瞬間。強烈に嫌な予感がし自身を巻き込みかねない威力で炎を打ち出した瞬間

 

「……現代の術も役立つな!!」

 

シズクが両手を広げて水を放つ、次の瞬間凄まじい暴風が私の炎とシズクの水がぶつかった場所から発生し

 

「な!?きゃあああああ!」

 

「……くっ!?流石にこの距離は……」

 

その爆発に吹き飛ばされ、全身に凄まじい激痛が走る。シズクも同じように吹き飛ばされ、その爆発が凄まじかったのか崩れていく建物……その瓦礫の中私は確かに見た……

 

(高島様……なぜシズクと一緒に……)

 

吹き飛ばされたシズクを受け止めた懐かしい気配を放つ青年の姿……心配そうにシズクを抱き止める姿を見ながら私は意識を失うのだった……

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その4へ続く

 

 




清姫ってこんな感じかなあってのが若干不安です、1000年想っていたからおキヌを超えるヤンデレになるのは確実なんですが、現在シズクへの憎悪がつよいので黒い着物モードですね。その内白くなりますがしばらくは黒いままです。次回であの赤い甲冑のほうの正体も明かして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は戦闘開始まで持って行こうと思っています、メインはやはりシズクVS清姫と謎の赤い甲冑の武者ですね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします

それと今回は特別企画と言う事でキャラ設定の上に外伝リポートとしてもう1つ作品を更新しています

そちらもどうかよろしくお願いします



リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その4

 

高島様……どうして死んでしまったのですか……何度も何度もそれこそこの1000年の間何度も見た夢を私は見ていた……高島様の世話になっていた妖怪や皆の力を借りて高島様を助けようとした。だけど何十人といた陰陽師に弱い仲間は死んで、結局処刑場にたどり着けたのは私含めてたった5人だけ……しかもその時は既に処刑が完了していて、私達が見たのは

無残にも首を切り落とされた高島様の死体。そしてそんな高島様を見て嘲笑う下衆な陰陽師達の言葉は今でも忘れない

 

【こいつは力を付けすぎた】

 

【分不相応の力をつけるからこうなるんだ、平民の出の癖に】

 

分不相応の力。違う、それは正しい修練の結果だ。お前達のように貴族だからと力も無いのに威張っているだけの人間と違う

 

【全く藤原の姫に取り入って自分の立場を上げようなどと。全く屑ですな】

 

【全くだ、藤原様もさぞ喜ばれるだろう。自分の娘を誑かした高島が死んだのだから】

 

もう動く事の無い高島様の身体、その身体には首が無い……私を優しく見つめてくれた目も、私の名前も二度と呼んでくれることは無い……藤原の姫、彼女は悪くない、大体藤原の姫に手を出したということ自体が間違いなのだ。高島様は屋敷でも居場所の無かった彼女の話し相手になってあげただけだ……

 

【あれは高島の所の式神では?】

 

【おお、そうだな。はは、主が居ない式神だ、私達が引き取って面倒を見てやろうじゃないか】

 

私に手を伸ばす下衆な陰陽師……その腕を高島様から頂いた扇子で切り落とし

 

【シャアアアアアアアッ!!!】

 

怒りのまま、絶望のままその陰陽師達を焼き尽くした……そして天界の竜族に捕らえられるまで私は京の街を荒らした……天界の牢獄に囚われた私が考えていたのは

 

(シズク……どうして)

 

元天界の竜族であり、高島様の世話になっていたシズク……だが処刑の妨害には来てくれなかった……彼女が居れば……助けることも出来たかもしれない……

 

(憎い憎い憎い憎い!お前が憎い!!!!)

 

私達の中で一番高島様の世話になっていたのに……その場に来ることの無かったシズクへの憎悪が私を埋め尽くして……

 

「殺してやる!シズク!っつう……」

 

夢の中でシズクを見てその首に手を掛けたところで私は目を覚ました

 

「目覚めたか、清姫」

 

私は瓦礫に埋められた筈なのに……私はゆっくり身体を起こして

 

(これは……手当てされている)

 

簡単とは言え手当てされているのを見て、周囲を警戒している赤い甲冑の武者に

 

「ありがとうございます」

 

「……気にするな、今は仲間だ。仲間は助ける」

 

ぶっきらぼうに答える武者の背中を見ながら立ち上がり、眼下を見て

 

(シズクは一体何を……)

 

完全に崩壊している建物を見て、シズクが何をしたのか考えていると

 

「あいつらが移動を始めた、追いかけるぞ清姫」

 

「判りました。ところで……あなたの名前は?」

 

凄まじい勢いで離れていくシズクの気配を感じながら尋ねる、命の恩人くらいの名前は知りたいと思ったのだ

 

「……義経」

 

ぼそりと呟き建物の上から上へと移動していく武者……義経の姿を見ながら

 

(見極めないと……)

 

あの建物が崩れる瞬間私は確かに見た。高島様と同じ魂を持つ青年の姿を……他人の空似で終わらせるには余りに似過ぎている……もしかするとあの青年が高島様の転生者なのかもしれない……私はそんな事を考えながら義経の後を追って建物の上を走り出すのだった……

 

 

 

 

「つうっ……私は生きてるのか?」

 

全身に走る鈍い鈍痛に顔を歪めながら身体を起こそうとしたが、斬られた箇所が激しく痛みそのままベッドに横たわり呻くだけで終わる

 

(ベッド?……それにここはどこだ)

 

魔界で斬られたのだから私は当然魔界に居るはずだ、それなのにここには魔力が無い、それに魔族の気配も無い……ここがどこかわからず混乱していると

 

「くひ♪目が覚めたかい?」

 

(誰だお前は?)

 

見たことが無い銀髪の少女に話しかけられ目を細めると少女は不気味な表情で笑いながら

 

「ボクは柩。夜光院柩……くひひ」

 

けらけらと笑いながら私見て笑っている柩。その異様な雰囲気に思わず眉を歪めると

 

「あー酷い酷い、川から這い出て気絶している君を助けたのはボクなのに……魔族なんて助ければ自分の立場が危ないってのに人道的に助けたのになあ」

 

くひひっと笑いながら平坦な口調で言う柩……柩?どこかで聞いたような……

 

(確か……未来予知に相手の考えを!?)

 

そこまで思い出した所で咄嗟に指で印を結び自分の思考に鍵を掛ける。すると目の前で笑っていた柩は眉を顰めて

 

「くひ……高位の神魔は自分の思考に鍵を掛けることが出来るって聞くけど……実際にされると驚くね」

 

くひひっと笑い声を出しているが、その目は全く笑っていない。どれだけ人の闇を見て来たのかが気になるが

 

(私は何日意識を失っていた……それとここはどこなんだ)

 

私が魔界で見たことを早くアシュ様に伝えなければ、私の記憶の中に魔人とか言う存在の記憶は無いが、神魔の封印を施された文献を見る限りでは相当危険な相手のはずだ。どうやって柩を出し抜いて、この身体で逃げるかと考えていると

 

「少しTVでも見ようか?くひ、暇だろうしね?」

 

にやにや笑いながらTVのスイッチを入れる柩。そしてそこから流れた声に私は驚きに目を見開くのだった

 

『こちらは突然大爆発を起こしたシャングリラビル前です、ごらんのようにビルは跡形も無く消滅しております』

 

シャングリラビルって!?私が前に破壊した美神の事務所があるビルの名前じゃ!?痛む体に顔を顰めながら身体を起こしてニュースに視線を向ける

 

『爆発当時ビル内と周囲に通行人の姿は無く、負傷者などは居ないようですが、このビルに事務所を構えていた美神令子さん。そしてその助手の横島忠夫さん、芦蛍さんの安否は確認されておりません。警察は除霊中のトラブル、もしくは怨恨の線で捜査しております』

 

そのニュースを聞いていた柩はやっぱりねっと言って笑いながら

 

「寝ている間に少し記憶を見せてもらったけど、君は横島忠夫……それに芦蛍の関係者。くひひ……魔族なのに人間を知っている……ボクの質問は1つだけだ。それに答えてくれればこの質の良い治癒札を提供するし、しばらくの間ボクの手伝いをしてくれるだけで君を解放しよう」

 

柩が手にしていたリモコンを操作するとガチャンっと言う音が響く、どうやら今のニュースは録画していた物だったようだ……私の記憶を見て横島の名前を出すことで私と取引をしやすい状況に持ってきたのだろう

 

「良い趣味をしてるよ、あんた」

 

あの駄女神と似たような能力を持っているが、あいつよりも取引って物を熟知している

 

「くひひ♪魔族に褒められるとはボクも捨てたものじゃないね……さてと、じゃあ質問だ。魔族……いや神族もか……なぜ君達は横島忠夫を気に掛ける?なにか理由があるのか?」

 

その目に宿っている暗い光……いやそれだけじゃない、その目に見えるのはやっと見つけたかもしれない希望を手放したくない……そう私に訴えかけている

 

(……この目は……私と同じだ)

 

横島に助けられた私と同じ目……そう思うと無碍にも出来ない、だが答えることも出来ない質問だ。これから起きるかも知れない神魔大戦の事を話すわけにはいかない

 

「すまないが私も詳しくは知らない」

 

「へえ?君はずいぶんと上位の魔族に思えるけどね?そんな君でも知らないのかい?」

 

柩の挑発めいた言葉にそうだと呟く、それにこのベッドの柱には精霊石が埋め込まれている。身の危険を感じたのなら、それで結界を作って私を閉じ込めるつもりだろう

 

(末恐ろしいね)

 

まだ自分の能力を制御出来ていないみたいだけど、これを完全に制御できるようになればヒャクメより優秀な捜査官になるかもしれないね……

 

「ああ私が知っているのは上層部に未来視が出来る魔族が居て、その方に横島の監視と護衛をするように言われているだけだよ」

 

嘘と少しの真実を混ぜて話をする。柩は私の考えを読めるが、私が心に鍵を掛けているので考えを読むことが出来ない、かといって力で私を屈服させることも出来ない。私の言葉を信じるしかないのだ

 

「まぁ今はそれでいいよ。横島に神魔さえも気に掛ける何かがある。それが判っただけで十分。さてとじゃあとりあえずこれにサインして」

 

契約書を私に差し出す柩。本当ならこんなの無視するところだが、怪我の治療をしなくてはならないし、私も過激派に追われる立場になった。そうやすやすとアシュ様には接触出来なくなってしまった。しばらくの隠れ蓑は必要だと判断し、柩の差し出した契約書にサインをする、きっちりと呪術契約を施されているのを見る限り、私の危険性も十分理解している。

 

「ほらこれでいいだろ?」

 

幸いそこまで悪い条件ではなかったのでサインする。内容としては柩の護衛だけだし、自由も約束されているみたいだしね

 

「うん、これでいいよ。じゃあ早速行こうか?」

 

私に治癒札を差し出しながら笑う柩。なんかとてつもなく嫌な予感がするんだけど……

 

「埠頭で横島が襲われている、護衛なら行かないといけないよね?」

 

「お前本当に良い性格をしてるな?」

 

横島が襲われている可能性があるのなら私は行かなくてはいけない、しかも契約してから自分も連れて行かせるようにに仕向ける……

 

(もしかしてとんでもない相手と契約したかも)

 

美神並みにあくどい相手と契約してしまったかもしれない……私は深く溜息を吐きながら傷跡に治癒札を張り怪我を回復させながらとんでもない事になってしまったかも……と後悔するのだった……

 

 

 

 

気絶している横島を地下トンネルの壁に預けて、ここから脱出する準備をしている美神さんに

 

「凄いですね、いつの間に準備したんですか?」

 

まさか事務所のワインセラーの裏にシューターがあって、そこから地下へ逃げるなんて思ってなかった

 

「楽しかったでちゅね!天竜ちゃん!」

 

「はい!シュバぁってしてとても楽しかったです」

 

あげはと天竜姫様が楽しそうに笑っている。でも私は正直怖かった、あれだけの角度で落ちると流石に怖い

 

「あいたた……腰を打ちました」

 

「だ、大丈夫ですか?小竜姫様」

 

あの小竜姫様も反応し切れなくて腰を打ち付けて呻いている、かろうじて受身が取れただけ良かったのかもしれない

 

「それで?あんたはなんて事をしてくれたのよ?」

 

「……ごめんなさい」

 

シズクがやったのは清姫と言う竜族の炎と自分の水で水蒸気爆発を起こすと言う、正直言ってよく死んでなかったと言わざるをえない行動だった。こちら側にイームさんや鬼門達が居るからこそ出来た捨て身とも言える術だ

 

「んで?話を変えるけどなんであんたあんなに恨まれてるのよ」

 

下水道に浮かんだボートの準備をしながら美神さんがシズクに尋ねる。確かにあの清姫とか言う竜族の憎悪はとんでもなかった、もしあれが人間に向けられていたらショック死しかねないレベルだった

 

「……清姫も私と同じで高島に世話になった竜族。でも私は高島の処刑の前日に高島に祠に封印されて……清姫が高島を殺した人間を皆殺しにして天界につかまったと部下のミズチに聞いた……清姫からすれば私は裏切り者だろうな……私も高島が処刑されると知っていたら封印されることは選ばなかった」

 

でもこれは高島のいい判断だったと思う、八岐大蛇の系譜のシズクが暴れたら日本が壊滅しかねない、それを考慮して封印し、自身が処刑されることを伝えなかったのだろう……

 

「説得は無理そうなの?」

 

「……無理だ。元から清姫と私は仲が良いとは言えないから」

 

それにあれだけの憎悪を抱いている清姫に言葉が届くとは思えない

 

【横島さんに説得してもらうのはどうですか?】

 

おキヌさんがそう提案するがシズクは首を横に振って

 

「……清姫は高島を妄信していた、あれは狂信とも言えるかもしれない……横島を見れば自分の気持ちだけを優先して、それこそ私だけじゃなくて、お前達も攻撃対象になりかねない」

 

……それは危ないわね。あれだけの炎を生身で受ければ骨だけじゃなくて、魂さえも燃えつくされかねない

 

「……なんとか戦闘不能にしてから説得を試みる。清姫もそうだけど……あの武者の対策も大事だぞ?」

 

シズクに言われて思い出す、あの狭い部屋の中で刀を振るい、小竜姫様を追い詰めていた鎧武者のことを……

 

「美神さん。あの武者……なんだと思います?」

 

「判らないわ」

 

私の問いかけに判らないという美神さん。あの武者は妖力も魔力も何も感じなかった。そして生者とも思えなかった……全くの正体不明の敵の事を思い出していると小竜姫様が腰をさすりながら立ち上がり

 

「あれは英霊ですね。人間の魂が昇華した存在だと思います」

 

英霊?聞き覚えの無い名前に私と美神さんが首を傾げていると小竜姫様は

 

「英霊とはかつての戦争などで活躍した英雄が人々によって祀り上げられ神格化した存在です。おそらくあの武者も名のある武人の英霊なのでしょう」

 

赤い甲冑に2振りの刀……少し考えて見て、思い浮かんだのは宮本武蔵だが、武蔵が赤い甲冑を着ていたなんて話は聞いたことが無い、となると当然の事ながら正体は判らない

 

「でも英霊なんて存在が何で……っまさか!?」

 

「はい、韋駄天の時と同じ可能性があります」

 

操られて敵の手下になっているのが英霊……しかも二刀使いの鎧武者

 

「笑えないわ。私と蛍ちゃんじゃ完全に足手まといじゃない」

 

私も美神さんもある程度は戦えるが、いつの時代かわからないが、騒乱の時代で英雄として称えられたそんな存在と戦えるような技能は無い

 

「あの英霊は私と鬼門で何とか対応して見ます。美神さん達はこのトンネルを抜けたら天竜姫様を連れて逃げてください、天竜姫様……ある程度逃げたら」

 

「判っている、父上を呼びます」

 

こくりと頷く天竜姫様。正直言って勝ち目が無いのだから仲間を呼ぶしかない、でも……

 

「もし英霊を操っているのが来たら?」

 

「全滅です」

 

英霊を操ることが出来るほどの魔神。正直言ってそんな相手と戦う装備も仲間も足りない、可能性としてはお父さんとビュレトさんだけど……お父さんは過激派と思われているから動けない、ビュレトさんと連絡する手段も無いので呼ぶ事も出来ない。戦っているときの気配で来てくれる事を願うしかない

 

「うー、うーん?」

 

「うきゅううー!!!」

 

「みむううう!!」

 

「コーン!!!」

 

「のわあああああ!?」

 

横島が目覚めると同時に突撃するモグラちゃん達。特にモグラちゃんは少し巨大化して居たので完全に横島の姿が埋もれてしまった助けてーと叫んでいる横島の声に思わず苦笑してしまいながら、モグラちゃん達に埋もれている横島を助けるためにそちらに向かうのだった……

 

なお離れたところでボートの準備を進めていたイーム達はと言うと……

 

「あ、あにき!この人間回復力が凄いんだな!」

 

「おう。半端ねえな……」

 

イームとヤームは明らかに致命傷と思われるレベルの突進を受けてもよしよしと言ってモグラちゃんを撫でている横島に驚愕し

 

「のう左の、ワシら死ぬかの?」

 

「……たぶん大丈夫だと思いたい」

 

英霊と戦うことになりそうな鬼門達が青ざめた表情で俯いているのだった……

 

 

 

 

 

「それじゃあ行くわよ。しっかりつかまってなさい」

 

英霊が来たら小竜姫様が、清姫が来たらシズクが対処し、私達は逃げることを第一に考える。打ち合わせを終えた所でボートのエンジンを掛ける

 

「おふねー!たのしみでちゅねー!」

 

「そうですね。楽しみです」

 

「はいはい、あげはちゃんも天竜姫ちゃんも危ないから乗り出したら駄目だぞー」

 

……横島君の天職ってもしかしたら保育士なのかも。なんか一瞬エプロンを身につけている姿が見えたような気がする

 

「ではイーム達は中空の警護を頼みましたよ」

 

「「うっす!」」

 

空を飛べるイーム達と鬼門に空中からの奇襲に備えて貰い、海の上と言うことでシズクを船首付近に座らせた。最悪海の水を取り込めば清姫とやらと互角に戦えるだろう

 

「私は運転に集中するから護りはよろしく」

 

「はい」

 

私の持っていた精霊石を全部蛍ちゃんに渡す、英霊相手にどこまで効果があるかは判らないが、幽霊ならある程度は効果があるはずだ。小竜姫様に目配せしてからボートを走らせる

 

「うきゅ♪」

 

「みむー♪」

 

「はやーい♪」

 

「ああ、もう危ないから大人しくしてて!?」

 

ボートの後ろから聞こえてくる楽しそうな声と横島君の焦った声。子供だから仕方ないけどもう少し危機感を持ってほしい

 

「グルウウ」

 

タマモはその8本の尾を立てて、警戒するような唸り声を上げている。近くに敵が居るのを察知しているようだ

 

【美神さん!向こうから何か近づいてきます!】

 

「は、はええ!?しかもやばい!」

 

おキヌちゃんとヤームがそう叫ぶ。でも近くに凄い霊力は感じないけど……そう思った瞬間。イームと鬼門達の姿が吹き飛ぶ

 

「……え?」

 

私のボートのほうに向かってくる赤い閃光。咄嗟にボートの舵を切るが、目の前の武者は水面を蹴り、舵を切った方向にすばやく方向転換し突っ込んでくる

 

「遅い……八艘飛び」

 

ザンっと鋭い音が響きボートの左側が切り裂かれる。脅しの意味があるのか、軽くボートを切り裂くだけだったが、あの武者の一言に顔をゆがめる……今八艘飛びって!?

 

「まさか義経!?」

 

源義経……英霊としてこれ以上に無い知名度を持つ義経がまさか敵に回っているなんて思ってなかった

 

「今のは警告だ。ボートを岸に寄せろ。さもなくば……この場の全員の首が飛ぶと思え」

 

右腰の刀の柄に手を伸ばす義経。鬼門達の警戒を一瞬ですり抜け、攻撃してきた……

 

「ごめん、小竜姫様。ボートを岸に寄せるわ」

 

その気なら今の一瞬で私達の首を切り落とすことも出来た……そう考えればここで逃げれば殺される……

 

「仕方ありません」

 

あのスピードから逃げ切れるとは思えないし、私は雇い主として横島君と蛍ちゃんを守る義務がある……私は小竜姫様に謝罪してからボートを岸に寄せるのだった

 

「陸で待つ、武神の竜よ……」

 

義経はそう言うと軽業師のようにボートの上から陸の上に飛び移る

 

「美神さん……義経ってあの?源義経?」

 

震えているモグラちゃんやあげはちゃんを抱きしめながら尋ねてくる横島君に頷く、あの剣の腕とあの身のこなしを見れば判る

 

「間違いないわ。英霊として昇格される条件を満たしているし……あの動きを見れば信じるしかないわ」

 

陸の上で刀を鞘に納めこちらを見つめている義経と扇子を握り締めシズクを睨んでいる清姫……

 

(今度こそ駄目かもしれないわね……)

 

英霊義経と竜族清姫そんな化け物みたいな相手と戦うには装備も何もか足りない……最悪過ぎる状況に溜息を吐きながら私はボートを岸に向け、ゆっくりと走らせるのだった……

 

 

 

 

陸で腕を組んでいた義経はその目に確かに迷いを浮かべていた、武人であるがゆえに幼子に刀を向けることをよしとしなかった、だが……その色は徐々に薄れて行き凄まじいまでの殺意の色がその目に映し出される……

 

 

確かに義経は英雄だ。だが今は英霊義経ではなく、ガープ達によって憎悪の感情を増幅され、徐々にその高潔な魂は黒く染まり……ガープの操り人形となりつつあった……自らの体内で脈打つ高密度の魔力の結晶に全身を蝕まれ、自らの存在が無理やり変えられていく激痛に歯を食いしばり耐えながら

 

(私をここで殺してくれ……武神よ……)

 

ボートから飛び立ち、自分の前に立った小竜姫を見て、もはや自分の意思で動かなくなりつつある身体に……膨れ上がっていく自分を殺した兄への憎悪に呑まれそうになりながら、まだ武人としての自分の意思があるうちに消えたいと願いながら、その腰に収めた2振りの刀に手を伸ばすのだった……

 

 

 

 

 

美神達がボートを陸につけるよりも早く、ボートの上から飛んで清姫の前に立つ

 

「……趣味の悪い着物だな」

 

漆黒の着物に身を包んでいる清姫にそう問いかけると、清姫は感情の無い目で私を見据えて

 

「喪に伏しているのですわ。高島様を裏切ったお前には関係の無い話でしょうけど」

 

裏切った……そうだな。清姫からすればそうだろうな……横島に買って貰った服の中に収めている巾着袋に手を伸ばしかけて……止めた。清姫は自分の中に怒りを溜め込んでいる、その怒りを爆発させた方が良い。清姫の性格はわかっているつもりだから

 

「……高島が復讐を望んだと思っているのか?」

 

「お前がそれを言うか!!!あの時、あの場所にいなかったお前が!!!」

 

さっきまでの穏やかな顔が消え、般若のような怒りと憎悪に満ちた表情が清姫の顔に浮かび上がる

 

(……距離は十分とは言えないか……)

 

出来ればもう少し距離を取る事が出来れば良かったのだが、清姫に動く気配が無い以上。この場に足を止めて清姫と戦うしかない。条件は不利だが、なんとかするしかない

 

(お前がいてもそうしただろ?高島)

 

今の横島のように、妖を家族として迎え入れていたお前なら、きっと清姫を止めただろう。私は両手をだらりと垂らしてそこから水を大量に放出しながら

 

「……居なかったからこそ言う、復讐など高島は望まない、そしてお前もいつまでも高島に縛られるな」

 

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!!私の前から消えろシズクッ!!!」

 

子供のように癇癪を起して、怒鳴りながら炎を周囲に撒き散らす清姫に対抗するべく、私も大量の水で埠頭を覆う。これは勝つ戦いじゃない、清姫が1000年溜め続けた憎悪と悲しみを少しでも晴らす戦いだ

 

(……本当面倒だな)

 

面倒だとは思う。だけど私がやらなければならない、大嫌いでそこそこ好きな友人を縛っている過去から解き放ち、未来を見させる為にも……私は負ける訳には行かないのだから……

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その5へ続く

 

 




清姫は憎悪MAX.義経は操られ自分の意思が消えつつあります。暗躍ガープ大活躍中ですね、柩?柩はメドーサを捕獲して護衛を入手できてニコニコって感じですね。次回は戦闘回です、清姫VSシズク。小竜姫VS義経。もちろん蛍達にも敵を用意しています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回は「清姫」VS「シズク」「小竜姫」VS「義経」をメインに書いていこうと思います。
今回はあんまり美神達の出番は無いかもしれないですが、それなりの役割はあるのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その5

 

埠頭の真ん中で大量の水と炎がぶつかり、凄まじい爆風が俺達を襲う

 

「うきゃあ!?」

 

「っとと!!大丈夫か?あげはちゃん!」

 

俺でさえ吹き飛ばされてしまうような爆風だ。あげはちゃんの小柄な身体が浮かび上がるので咄嗟に腕を掴んで抱き寄せる。チビとモグラちゃんも吹き飛ばされては危ないので、服の中に入れているけど服の中でもぶるぶる震えているので怖がっているのが良く判る、

 

「う、うん。大丈夫でちゅ」

 

怖いのか震えているあげはちゃんの背中を撫でてあやしながら

 

「美神さん。俺達には何も出来ないんですか?」

 

飛んでくる炎や水を札で防いでいる美神さんに尋ねると

 

「無理よ、死に行くような物だからなんとかしようなんて考えるのは止めなさい」

 

鋭い口調で告げる美神さん。それは今まで聞いた事のない重い響きを伴っていて……それだけ今が危ない状況なのだと理解した

 

「大丈夫よ。小竜姫様もシズクもそうそう負けるわけ無いんだから」

 

俺を安心させるように笑う蛍。だけど俺はどうしても不安が消えることは無かった……さっきから首筋がちりちりと静電気が溜まっているかのように痛む……それに……

 

(なんだ、これ……)

 

なんと説明すれば良いのか判らないがさっきから身体が熱い……それにやけに心臓の音がうるさい。

 

(もしかして小竜姫様とシズクの本気を見て怖いって思ってるのかな)

 

身体が震えるほどの寒気を感じるからそれかもしれない……俺でさえこれなのだからあげはちゃんと天竜姫ちゃんはもっと怖いと思い、大丈夫だよと2人に声を掛け俺は小竜姫様達の戦いに目を向けるのだった……

 

【今……横島さんの身体が光ったような……】

 

「ゆ、幽霊の姉さん!は、早く助けれえ!?」

 

「お、オイラもアニキも泳げないんだなあ!!」

 

「しっかりしろー!右の!」

 

「がぼがぼ……」

 

義経の一撃で海に叩き落された鬼門とイームヤームを救出していたおキヌちゃんにははっきりと見えていた。横島の身体から僅かに鮮やかな翡翠色の光がこぼれ始めている事に……

 

 

 

 

 

目の前の真紅の甲冑を纏った武者……英霊義経の構えを見て背中に冷たい汗が流れるのを感じた

 

(隙がまるでない……それにこの感じ……魔族になりかけている?)

 

人間霊から信仰などで神格化した英霊の筈なのにその気配に魔族の物を感じる……もしかすると九兵衛の時の様にガープ達が動いているのかもしれない……

 

「義経参る!」

 

「!(は、速い!?)」

 

一瞬で間合いを詰め脇差を振るってくる、それを咄嗟に後ろに跳躍して躱すが

 

「てえいっ!!」

 

振り切った姿勢のまま、素早く刀を持ち直し、その場で回転し薙ぎ払いが放たれる

 

「うっ!?」

 

咄嗟にしゃがみ込みそれを避けるが、切られた前髪が宙に舞うのが見える。

 

(厄介な……)

 

正道と邪道の剣が組み合わさった非常に太刀筋が読みにくい剣術。力は僅かに私の方が上ですが……速さでは完全にあちらが上だ……獲物の数も向こうが1つ多い……となると速さで翻弄されてはジリ貧に追い込まれてしまうだろう

 

「どうした?攻めてこないのか?」

 

日本刀を肩に担ぎ好戦的な口調で手招きする義経。その顔には余裕の色が浮かんでいる、私の武器は神剣が1つ。大太刀と小太刀……普通に考えればここで突っ込む訳が無い。そう判っているからこその挑発……確かに現在の私では無理でしょうが……未来の私ならば!

 

「はっ!」

 

一気に地面を蹴り間合いを詰め義経の刀を砕くつもりで全力で振り下ろす

 

「ぬうッ!はっ!馬鹿が!!」

 

大太刀で神剣を受け止め、空いている左手に握っている小太刀を突き出してくる。暗い港に紅い血の華が咲く

 

「その言葉そのままお返ししましょうか?」

 

「ぬぐう……聞いてないぞ……そんな物……」

 

小太刀を地面に落とし顔を押さえている義経。私は右手に逆さに握っていた小さな小太刀を回転させ正眼に構えながら

 

「言ってないですから」

 

左手に使い慣れた大振りの神剣。右手に新しく作った抜け落ちた私の牙を加工した小太刀を握り構える

 

「正道の剣しか使わないと聞いていたんだがな」

 

顔を覆っていた仮面の一部が砕けそこから刀傷のある目が見えている。完全に不意打ちだったのにかすり傷程度ですか……だが相手の力量を考えればそれも仕方のないことなのかもしれない

 

「はっ!これで楽しくなってきた!」

 

邪魔だと言わんばかりに顔を覆っている仮面を捨てる義経、そしてその顔を見て私は驚いた

 

(女性!?)

 

甲冑のせいで屈強な男だと思っていた、だけどその顔は女性そのもので……私の驚愕に気付いたのか義経は楽しそうに笑いながら足元の小太刀を拾い上げ

 

「私は兄の為に剣を取り、性別を偽り戦い続けた。全ては敬愛する兄の為」

 

穏やかな口調で告げる義経は刀を振るい独特な構えを取る。だがその眼には私は既に映っていない、私ではない何かを見てそしてその何かに向けての怒りを映し出している

 

「だが兄は私を捨て殺した、憎い、愛していたがゆえに……兄があの方が憎いッ!!!この憎悪!この怒り!!!私はどうすればいいッ!!!」

 

その穏やかな口調が徐々に激しい物に変わって行き、そして義経の霊力に魔力が混じっていく……

 

「ううううッ!!!」

 

体勢を低くし、獣のような唸り声を上げる義経。その姿に英霊としての姿はなく、ただ怒りと憎悪に突き動かされる獣としての姿……

 

「私が介錯します。義経」

 

英霊として祭られる存在がこんな姿になってしまった。その姿を見せるのはきっと耐え難い屈辱のはずだ……だから私がこの場で介錯すると宣言する、そして獣のような前傾姿勢になり真紅の瞳を輝かせる義経だった者は

 

「ウオオオオッ!!!!」

 

私の言葉に返事をするかのように獣の雄たけびを上げ、一気に飛び掛ってくるのだった……その余りに踏み込みの速さに咄嗟に超加速に入るが

 

(なっ!?)

 

時の流れが緩やかになり、義経の動きが一瞬……一瞬だけ緩やかになったが

 

「シャアアッ!!!」

 

雄たけびと共に、拳を地面に叩き付け強引に体の向きを変えて突っ込んでくる

 

「くっうっ!?」

 

大太刀と小太刀をクロスさせ、その一撃を受け止めるが、その余りに衝撃に手が痺れる

 

(超加速に割り込んできた……しかも私より速い……)

 

超加速に割り込んでくる。そんなありえない光景と、その驚異的な膂力に私は背中につめたい汗が流れるのだった……

 

 

 

 

 

「チッ、どこに居やがるガープ」

 

俺は今しがた捕まえた蝙蝠を踏み潰しながらそう呟いた。街の中に突如現れたガープの魔力。その数約15……おそらく使い魔だと判断したのだが、魔力量で識別出来ない。なぜなら全てがすべて同じ魔力を放っていたからだ

 

(また厄介なもんを開発したな)

 

蝙蝠の胴体に装着されている鎧。それがどうやら魔力を増幅させているようだ、回収したかったが蝙蝠が死ぬと爆発し回収不可能だ。こういう所は本当に徹底してやがる

 

「これで7つ、あと8個……しらみつぶしに潰してたんじゃ拉致があかねえな」

 

さっきから海のほうで派手などんぱちをしているみたいだしよ。そっちの方に行って……いや待てよ、ガープの事だからそれも囮か?あいつの魔術の腕を考えれば、遠隔操作で魔術を起動する事だって……なまじガープの戦術を知っているから、その全てが囮に見えてくる。どうするか、罠だとわかっていても突っ込むべきか?ただ俺を捕縛、もしくは消滅させる罠を仕掛けていると考えると動く事が出来ない。どうするべきかと悩んでいると

 

「あん?」

 

俺の索敵範囲に入り込んできた魔力を探知して思わず間抜けな声が出る。それは行方不明になっていたメドーサの魔力だ

 

「あいつ生きてたんなら連絡に来いよ」

 

バイコーンが化けているバイクに乗り込み、俺はメドーサの魔力のほうに向かうのだった

 

「くひ?君がここに来たらすぐやってきた、彼も魔族なのかい?」

 

メドーサは1人ではなく、不気味な笑い声を上げる少女と一緒だった。確か……こいつはあの駄女神と同じ能力だったか?アシュの野郎がそんなことを言っていたような気がする。思考にプロテクトをかけてから

 

(どういうこった?)

 

(申し訳ありません、ビュレト様。成り行き上この小娘と契約してしまって……しばらくは思うように動けません)

 

なにやってんだか……俺は軽い頭痛を感じながらくひひっと笑っている少女を見て

 

「おう俺も魔族だ。だが……「判ってるよ。くひ♪他言無用。喋れば殺すんだろ?」

 

俺の殺気を受けても笑ってやがる。ずいぶん肝の据わった奴だ、ま、そうじゃなければ

 

(未来や人の思考を見ても平気じゃいられないわな)

 

人間が処理できる以上の情報を得ている。それは常人なら狂っていてもおかしくない事だ、それでもまだ狂っていない。それだけでこの少女の精神力の高さが判る

 

「お前名前は?」

 

誇り高い人間には敬意を払う。それは俺の変わらないルール、目の前の少女に名前を尋ねると

 

「夜光院柩。くひひ♪」

 

柩か……はっ!面白い人間だから覚えておいてやるか……

 

「俺は……13番だ。気が向けば探ってみな」

 

驚いている表情をしているメドーサ、13の言葉だけで俺にたどり着くとは思えないないが、柩の高い精神力と俺を見て震えているにも関わらず、まっすぐに俺を見ているその精神力を見て偽名を名乗りたくなかった

 

「13番?何かの暗号かい?」

 

「さぁな。まぁ俺の正体のヒントっつう所だな、それよりもだ。今はずいぶんと危ねえ。あんまりうろちょろすんじゃねえぞ」

 

あれだけ派手にドンパチしているんだ。巻き込まれる可能性も考えてそう警告し、メドーサと柩に背を向け港と反対方向に視線を向ける。俺の勘が囁いている、あそこだと……

 

(罠の可能性もあるが……行ってみるか……)

 

街の中でひときわ目立つビルにガープが居ると考え、ビルに向かってバイクを走らせるのだった……

 

 

 

 

 

「どうしたのですか?反撃をしないとは?大人しく焼き殺されるつもりですか?」

 

「……黙ってろ馬鹿」

 

扇子を私に向けたまま挑発するような口調の清姫にそう呟く。戦闘不能に持ち込んでから大人しくさせようと思っていたんだが思ったよりも清姫の力が大きくて思うように攻撃できない。当てようとしていないのは判っているが、横島の近くにあえて炎の龍を作り出し、その熱で横島を攻撃しようとしているのを見ると後先考えずに水を使ってしまった……状況的には私の方が徐々に追い詰められている

 

【なにやってるの!速く避けなさい!】

 

「……判ってる!」

 

今回ばかりは私だけでは対処できないと思い、タマモを連れてきた。その理由は

 

「どんどん行きますわよ」

 

炎の竜が左右上下、ありとあらゆる方向から襲ってくるからだ、これは正直私1人では躱すことが出来る代物ではなかった

 

(このままだと不味い!)

 

港の中なのだから海の中に入れば水は十分に補給できる。だが清姫もそれが判らないわけではない、徐々に徐々に海から私を遠ざけている。激昂していると思っていたが、予想以上に冷静だ

 

「高島様を見捨てたのに、貴女はまた高島様の側に居る。なんと面の皮が厚いのでしょうか?シズク」

 

結界の中に居る横島を見てそう呟く清姫、私はむっとしながら

 

「……あれは高島じゃない、横島だ」

 

高島の転生者だが、あれは高島とは違う。高島よりも優しい馬鹿だ、高島と一緒にするなと言うと

 

「転生者なのですから高島様で十分ですわ、私の愛したあのお方です」

 

ふふっと小さく笑う清姫。その視線の先には結界の中に居る横島の姿……だけど清姫のその目に横島は映っておらず死んだ高島だけを見ている

 

「……横島を高島と言うな!!!」

 

横島と高島は別の存在だ。横島の中に確かに高島の面影はある、だが高島じゃない……あいつは横島忠夫なんだ。私と清姫の知っている高島ではない。圧縮した水を清姫に放つが

 

「いいえ。あの方は高島様。ええ、そうですとも1000年経った今。やっと再会できたのですもの、高島様ですわ」

 

扇子を振るい私の水を弾き飛ばす。これだけ圧縮しても清姫には届かない……どれだけあの扇子で霊力を……そして自身の炎を強化しているのだろうか?自身に向かってくる炎を水で迎撃しているとどうしても清姫の事を考えてしまう……

 

(こいつはどれだけ高島を想っていたんだ……)

 

同じ1000年のときを生きた清姫。だが封印され眠っていた私と、1000年の間高島を救えなかった後悔と嘆きを抱えて生きてきた清姫……その胸の中を完全に知ることは私には出来ない、かりに逆の立場だとしたら私も清姫と同じになっていたかもしれない……そう思うとどうしても清姫を本気で攻撃できない。喧嘩ばかりしていた、だけど私は清姫の事は嫌いじゃなかった……

 

【馬鹿!】

 

タマモに頭を噛まれ思考の海から引き上げられる。頭の上のタマモは

 

【同情するならまずはあの馬鹿を止めなさい!】

 

爪を頭に突き立ててそう言うタマモ。目の前の清姫を見るとその額には大粒の汗が浮かんでいるのが見える

 

「私はお前が……許せないシズク。なんで、なんであの時……高島様を見捨てた」

 

ぶつぶつと呟いている清姫。もしかしてもう正気じゃない?

 

【もうずいぶんと前からあんな状態よ。早く気絶でも何でもさせないと……あいつ死ぬわよ】

 

清姫から感じる霊力も竜気も相当弱くなっている、それなのに清姫は今も炎の竜を作り出し続けている……

 

「……判った……」

 

懐に手を伸ばし袋に収められた扇子を取り出す、それを見て清姫が僅かに反応を見せる

 

「それはどうして」

 

信じられないという顔をしている清姫。私が取り出した扇子は清姫と同じ形をした物。私だって高島からお守りとして清姫と同じ物を受け取っている。もちろん水を強化する術式が刻まれた物を

 

「……いがみ合うのは終わりだ。後で話をしよう清姫」

 

こんな戦いの中じゃなくて、もっと穏やかな場所でお互いに話をしよう……

 

「そんな戯言を!私!私はぁ!!」

 

もう残っている霊力も少ないのか、さっきまで周囲を飛び交っていた炎の竜はその数を減らしている。私は手にしている扇子を開く、もう私が蓄えている水は少ない、護りに使いすぎたからだ。だけど……扇子に刻まれた術式がその残り少ない水を強化する

 

「……いつも私達はそうだった」

 

くだらない喧嘩をして、もめて、お互いに罵り合って……そしてその度に高島に窘められていやいや仲直りして……

 

「……また仲直りをしよう。お互いにお互いが嫌いでいい」

 

扇子を振るいあえて水の竜を作り上げる。清姫も同じように竜を作り出すが、その勢いは私の竜よりもはるかに弱い

 

「……だけどまた笑って喧嘩出来る……お前も……きっと横島を気に入ると思う」

 

扇子を振るって水の竜を清姫に向かわせる、清姫も炎の竜を放つが一瞬で炎の竜は消える。自身に迫る水の竜の牙を見て

 

「ふふ、ちゃんと紹介してくださいね?」

 

小さくそう笑って清姫の姿は水の中に飲み込まれ、そして即座に凍結した氷の結界の中へと閉じ込められたのだった……

 

【お前、性格捻じ曲がってる】

 

「……知らない」

 

私自身も霊力と水を使い切りその場に座り込む。仲がいいのか悪いのか、そんな事はどうでもいい、お互いに憎み合うのは辛いことだし、誤解されるのもあんまり面白い物じゃない……

 

【本当。蛇って良く判らないわ】

 

呆れたように呟くタマモの声を聞きながら、私はその場にゆっくりと倒れるのだった……

 

【どうしろって言うのよ】

 

満月ではないので人化も出来ず、かと言って横島達を呼びに行くことも出来ないタマモは氷の中に閉じ込められている清姫と倒れているシズクを見て疲れたように小さく鳴くのだった

 

 

 

 

 

「ふむ、やはり清姫は駄目だったか」

 

しかし清姫の敗北は予想通り。清姫を脱獄させたのは天界側に内通者がいると思わせるため、そもそもセーレで無ければ清姫を幽閉されている場所を探ることは出来なかった

 

(義経は想定通りの能力を発揮しているな)

 

祭られている魂に狂神石を埋め込み、無理やり現世に呼び戻し操る。そのテストして義経を選んだが、十分な戦闘結果を出している

 

(後は回収して、義経の霊核をベースにした人造魔族を量産すれば……正規軍にも負けん)

 

義経を選んだのは軍略に長け自身もまた高い戦闘能力を持つからだ。最初は狂神石に抵抗していたが、今は完全に私の支配に落ちている。後はある程度戦わせて回収すれば最低ラインの目的は達成した。

 

(天竜姫の捕獲までは欲張りすぎだな)

 

どうも小竜姫にもいくつか奥の手があったようだ。まさか二刀流になっているとは予想外だった

 

「よう、ガープ」

 

(ちっ、しくじった)

 

背後から声を掛けられ舌打ちしながら振り返る。魔力探知の結界を張っていたが、それをすり抜けてくるとは、昔ビュレトに教えた魔術破りをどうも独自に昇華させていたようだ

 

「久しぶりと言っておくべきか?ビュレト」

 

「だろうな、さて積もる話もある、魔界で奢るぜ?」

 

「ふっ、お前の勧める食事など私の口には合わん」

 

言ってろと笑うビュレト。だがその眼は笑っていない、その気になれば一気に私を捉えに来るだろう

 

「さてビュレト。これがなんだか判るか?」

 

手にしている機械をビュレトに見せ付けるようにして掲げる。

 

「……ったく、相変わらず変な発明をしてるんだな」

 

頭をかきながら呟くビュレト。私が何を持っているか判らないから、動くに動けない

 

「では御機嫌ようビュレト。良き夜を」

 

手にしていた何かをビュレトのほうに投げると同時に転移魔術を発動させる

 

「てめえブラフか!」

 

「ふふふ、警戒しすぎだよ。ビュレト」

 

私が投げたのはただの金属片。なんの効果もない只の物体だ。だがビュレトは私のことを良く知っているので警戒して動けない

 

(義経を回収できなかったのは惜しいが、ここで下手に暴れるわけにもいかん)

 

それに魔術タイプの私と剣士タイプのビュレトでは相性が悪い、だがせっかく操った義経をそう簡単に手放すことも出来ない、ならばもう1つの計画を進めるまで

 

「土産だ。どうなるか楽しみにしているがいい、天竜姫の死を持って闘争は加速する!」

 

竜神族の天才児天竜姫。それを護る事が出来なかった神族と魔族の暗躍。それはお互いにお互いを疑い始めている今の神魔族の緊張感を高め、戦争へとその舵を向けさせるだろう。

 

「てめ!待ちやがれ!」

 

ビュレトが飛び掛ってくるが遅い、私の転移魔術は完全に発動し、そして最後に結んだ印で義経の中の狂神石の力を完全に解放し暴走させた。英雄義経ではなく、獣と化した義経。この場から向かって間に合うかな?ビュレト。こっちに向かって手を伸ばしているビュレトを見て小さく笑い、私は下界を後にしたのだった……

 

 

 

 

小竜姫様と切りあっていた鎧武者が突然頭を抱えて

 

「ガ!グガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

 

港全体に響き渡るような絶叫を上げる、それと同時に身体が異常に肥大し、その背中から更に4本の腕が飛び出してくる

 

(これ!まさかあの時の)

 

俺にはその姿に見覚えがあった。九兵衛に埋め込まれていた紅い石が急に化け物になった時……その時と同じだ

 

「シャアアアアアアア!!!」

 

「な!?きゃああ!?」

 

急に増えた腕に対応しきれなかった小竜姫様がその2本の腕で殴り飛ばされ、海まで吹っ飛ばされる。そして残りの4本の腕全てが俺達に伸ばされる

 

「なんて化け物!?精霊石よ!」

 

美神さんが咄嗟に精霊石で結界を作り出すが

 

「ウゴオオ!!ウガアア!!!」

 

その6本の腕で結界を殴りつける化け物。一発一発が非常に重いのか精霊石の結界に一瞬にして皹が入り

 

「!みんな逃げなさい!!」

 

美神さんがそう怒鳴ると同時に結界が砕け、返す拳で美神さんが殴り飛ばされる

 

「横島!早く逃げ!っきゃああ!?」

 

蛍も俺に逃げるように叫んで霊力の盾でその拳を受け止めようとするが、一瞬も持ちこたえることが出来ず殴り飛ばされる

 

「グルオオオオオオオオッ!!!!」

 

そしてその化け物は俺達にその6本の拳を振り下ろしてくる、足にしがみついて震えている天竜姫ちゃんとあげはちゃん……2人が殴られたらきっと死んで……

 

(死ぬ?2人が?)

 

こんなに小さい子供が?

 

まだ自分の夢も何も知らないのに?

 

まだこれから明るい未来があるかもしれないのに?

 

最悪の未来を想像したとき、俺の中で何かの歯車がかみ合ったような……そんな奇妙な感じがした

 

「、あ、や、止めろおオオオオオオオオッ!!!」

 

させない!そんなことはさせない!!!自分に出来ることなんてない、それでも何もしないなんて事は出来ず大きく手を突き出す。そのとき脳裏に浮かんだのは蛍の言葉

 

『いい?ソーサーは相手に来るなーって思って使うのよ』

 

『後は霊力が上手く放出できれば盾になるわ』

 

『後はイメージよ、硬い壁とかをイメージすればきっと出来るわ』

 

蛍が最近教えてくれているサイキックソーサー。霊力の盾の作り方……

 

あげはちゃんも天竜姫ちゃんも俺が助ける

 

絶対にこんな所で死なせない!!!

 

「アアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

身体の中から何かが抜け出ていく疲労感。そして目の前に広がる巨大な翡翠色の壁……その壁に遮られてもなお、こっちを睨みつけている化け物に足が震えながらも、気力を振り絞り霊力の壁を維持したまま……

 

「あっちに行けええええええええ!!!!!」

 

しっかりと意志を込めた言葉で拒絶の言葉を叫ぶ、その瞬間交通事故のような凄まじい爆音が響き渡り、化け物の姿が吹っ飛んでいく。遠くで上がった水柱を見て

 

「は……はっは!や、やっぱ俺って……時々……すげえ……」

 

俺は凄まじい脱力感を感じながらその場にゆっくりと倒れこむのだった、その目に涙を浮かべているあげはちゃんと天竜姫ちゃんに怪我が無いことに安堵し……そのまま俺の意識は闇の中に沈んでいくのだった……

 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その6へ続く

 

 




サイキックソーサーの習得を少しだけ早くしてみました。GS試験では別の霊能力に焦点を当てたいので、そして暴走した義経はここで退場ではないので、まだ出てくるのでどうなるのか楽しみにしていてください

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回でリポート20は終了になります、次は別件を入れて、その次からのリポート21は「カモナ・マイ・ヘルハウス」「チョコレート人間誕生」の二つとオリジナルの日常の話を加えた話になります。その後は「虎よ・虎よ」と「フィルムは生きている」と続けてGS試験の話につなげて第一部完と言う感じに持って行きたいと思っています。恐らくですが150前後になると思います。大分長くなりますが、どうか最後までよろしくお願いします


 

 

リポート20 竜の姫と清い乙女と操られし英雄 その6

 

「ぷはあっ!」

 

海面から顔を出して大きく深呼吸する。突然義経が変化した異形の拳に殴り飛ばされ、咄嗟に剣で防いだ物の海まで弾き飛ばされてしまった

 

「そうだ!?横島さんは!?」

 

あの異形とかした義経を相手では横島さん達が危ない、慌てて埠頭のほうに視線を向ける、するとその瞬間凄まじい轟音と暗い埠頭をまるで昼間のように照らした翡翠色の輝き。私はそれを見て思わず

 

「早すぎる……」

 

巨大な翡翠色の霊力の壁……あれは恐らく横島さんのサイキックソーサー……だけどあれだけの出力を伴ったサイキックソーサーを今の横島さんが使えるとは思えない

 

「早く合流しないと……」

 

それに何か嫌な予感がする。私は浮かび上がり横島さん達の方に向かうのだった……

 

 

 

 

 

(これ……は……サイキックソーサー?)

 

目の前に展開されている翡翠色の壁……その形を見る限りサイキックソーサーなんだろうけど……その圧倒的なまでの密度のせいか中を見ることも出来ない、これはもう壁としか言いようがない

 

「これ蛍ちゃんのサイキックソーサーよね?教えたの?」

 

義経に殴られた美神さんが頭を振りながら尋ねてくる。私のと言うのは間違っている、元は横島の霊能力なので私がそれを使い、今の横島に教えている。元を正せば横島の霊能力そして……

 

(これはお父さんのサイキックソーサー)

 

私の父親だった横島が使っていたサイキックソーサーだ。仲間を護るためにソーサーを発展させ周囲を護るように展開できるようになった……サイキックソーサーの発展型……いうなればサイキックウォール。当然のことながら今の横島が使える能力ではない、霊力も経験も何もかも足りない。だからこそ判らない、なんで横島がこれを使うことが出来るのか

 

「うっ……」

 

突然聞こえてきた横島の呻き声。そしてそれと同時に点滅し消えていく霊力の壁……

 

「ヨコチマー!しっかり!しっかりするでちゅよー!」

 

「うわあああん!よこしまー!!」

 

壁が消えた瞬間聞こえてきたのは泣きじゃくるあげはと天竜姫の声。美神さんと一緒に声のほうに走る、探していた横島達はすぐ見つけることが出来たけど

 

「蛍ちゃーん!よこちまが!よこしまが起きないの!」

 

「うえええん!よこしまがしんじゃう」

 

コンクリートで出来た地面に横たわり青い顔をしている横島を見て血の気が引くのが判る

 

「横島君!?横島君しっかりしなさい」

 

一瞬だけ、そう一瞬だけあの東京タワーでのべスパとの戦いで私を庇った横島の姿を思い出してしまった

 

「美神さん、動かさないで!!」

 

上から聞こえてきた小竜姫様の声で我に返る。小竜姫様は倒れている横島の近くにしゃがんで

 

「霊力が枯渇しかかっています。霊力を極端に消耗した事による意識の喪失ですね、どこか休ませる所は?」

 

お父さんのビルは遠いし、事務所は爆破しちゃったし……えーとえーとどこか横島を休ませることが出来る場所は……

 

「ここからだと唐巣先生の教会が近いけど、それでも大分時間が……」

 

場所が悪すぎる。病院も厄珍堂も何もかも遠すぎる……ボートで移動してもそれは同じだし……

 

「美神君!」

 

ぎゃぎゃぎゃっ!!!とコンクリートを削る音と唐巣神父の声が聞こえて振り返るとバンから唐巣神父が降りてくるのが見えたがどうして唐巣神父が……

 

「ついさっき夜光院君から連絡があってね、君達が埠頭で派手に戦っているから応援に行くべきだとね」

 

まぁ足がないからそのまま琉璃君に連絡してバンを貸して貰ってから来たんだ。と苦笑する唐巣神父、それに続いて

 

【美神さーん!向こうの方でシズクと清姫が相打ちになっていたんですけどー!】

 

姿の見えなかったおキヌさんが慌てた様子で飛んできて倒れている横島を見て

 

【横島さん!?どうして!?どこか怪我をしているんですか!?】

 

ただでさえ青白い顔をさらに白くして尋ねてくる、本当は私が答えてあげたいところだけど

 

「ぐすっ!ぐす!蛍ちゃん、ヨコチマはだいじょうぶなんでちゅか?」

 

「しんだりしないですか?」

 

泣きぐずっているあげはと天竜姫様を宥めるので忙しくて説明している時間がない。美神さんに視線を向けると

 

「大丈夫、霊力の枯渇で気絶しているだけだから、それよりおキヌちゃん。シズク達の方は?」

 

美神さんがそう尋ねると暗闇のほうから

 

「あ、あにきいい!つ、冷たいんだなあ!?」

 

「ばっきゃろお!気合だ!気合!!!」

 

「ぬおおお!ひ、左の流石にこれは厳しいものが!?」

 

「た、耐えろ!右の!このままではワシらはただの役立たずだぞ!」

 

氷の塊に閉じ込められている清姫をイームとヤーム。そして鬼門で引っ張ってくるのが見える。そしてその隣を

 

「くうううううう!」

 

タマモがシズクの襟首をかんで引きずって来ている。普通こんな扱いをされればシズクも怒って起きそうな物だけど、そんな気配がない所を見ると相当弱っているのだろう

 

「チビ?モグラちゃん?」

 

横島の服から這い出してきて頭を振っている2匹に声を掛けて、タマモのほうを指差して

 

「お手伝い」

 

「うきゅ!」

 

「みーむ!」

 

私の言いたいことを理解したのかシズクの方に向かっていくチビとモグラちゃんを見ながら、私は泣いているあげはと天竜姫様をあやしながら、美神さんと唐巣神父と小竜姫様の話し合いに耳を傾けるのだった……

 

その内容は

 

横島をどこで休ませるか、それと清姫の扱いをどうするか?そして海の中に吹っ飛ばされ姿を見失った義経をどうするのか?のどれもこれも頭を悩ませる難しい難題だけが私達に残されたのだった……

 

「くひひ♪あー面白かった」

 

意識のない横島をバンに乗せ埠頭を去っていくバンを見ながら笑う少女……柩だ。笑っているのは期待していた以上の物が見れた事と

 

「あ、あにきー!てがあああ!」

 

「たえろ!これは俺達の仕事だ!」

 

「つ、辛い、寒い、冷たい」

 

「ぬう。小竜姫様も我らの扱いが酷い……」

 

氷付けの清姫を運んでいるイームとヤーム。そして鬼門が面白くて仕方なかったのだ

 

「趣味悪いな」

 

「くひひ♪仕方ないだろぉ?ボクは未来が見えるんだ、だから暇で暇で仕方ないのさ」

 

自分の見ていた未来と違う未来が見れたことに柩は満足していた。自分の見ていた未来では天竜姫は異形と化した義経に殺されていたのだから

 

「しかし横島は本当に凄い、未来がここまで乱れるのは初めてだよ」

 

だが今回のことで柩は確信した。横島がいれば自分の見ていた未来は確実な未来では無くなると……

 

「さー?帰ろうか?魔族だから飛べるだろ?ボクを運んでくれ」

 

「はいはい。あーもうなんでこうなるかな」

 

無理やり柩と契約する事になったメドーサは深く溜息を吐きながら、柩を抱えて埠頭を後にするのだった……

 

 

 

 

夜光院君ももう少し早く連絡してくれれば良かった物を……私は小さく溜息を吐きながらバンを教会の裏手に停めた。後で返しに行かないといけないが、まずは情報整理をするほうが先だ。それに横島君の容態も気になるし……

 

「「「「さ、さむい……」」」」

 

教会の前に向かうと入り口の前で震えている鬼門と竜族を見つける。氷付けにされた竜族の少女を運んでいたから身体が冷えてしまったのだろう

 

「近くに銭湯があるから、温まって来てください」

 

今教会の資金は全てシルフィー君が管理している。元々私の教会は常に火の車だったが、それにより僅かに改善されてきている。それのおかげか私も少しはお金を持つようになった、財布からお金を取り出して鬼門に渡し銭湯への道を教え教会の中に入ると

 

「こにぃひゃびいいいい!!!(この蛇ッ!!)」

 

「……いにんひしゃおんにゃあああ!?(陰湿女ッ!)

 

シズク君とさっきまで氷付けにされていた少女がつかみ合いの喧嘩をしていた。美神君も小竜姫様も頭を抱えているし……

 

「これ、どういうことなんだい?」

 

私が目を放したたった数分の間に一体何があったのか?それが気になり頭を抱えている美神君にそう尋ねると

 

「話が聞きたくて解凍したら、すぐ喧嘩を始めて……見た目は子供ですけど、竜族だから下手に止めに入るのも危険ですし……」

 

それは確かにその通りだ。竜族と言うのは非常に気性が荒く、そして霊力も非常に高いのだから巻き込まれることを恐れるのは当然のことだ。まぁこんな感じの喧嘩なら別に止めなくても……

 

「やっぱり私は!お前が嫌いですわ!!」

 

「……それはこっちが言うことだ!!」

 

炎と氷の塊をお互いに打ち出そうとしているのを見て、私は慌てて小竜姫様に2人を止める様に頼むのだった……

 

「これはこれはお見苦しい所をお見せしましたわ」

 

「……お前の存在自体が見苦しい」

 

「あらあら1000年経っているのに全く成長の兆しが見えていない蛇の方がよほど見苦しいと思いますが?」

 

再び無言でお互いに炎と氷を手の中に作り出そうとするシズク君と竜族の少女。な、仲が悪すぎる!?

 

「清姫。これ以上暴れるのなら取引の件は取りやめにし、再び1000年幽閉……「大人しくしますわ」

 

小竜姫様の言葉で炎を消して上品な素振りで笑う竜族清姫……凄まじいまでの猫かぶりだ

 

(まさか清姫伝説のあの清姫ではない……よな)

 

たしかあれは、延長6年だったはず……1000年所じゃないからきっと違うと思う……

 

「こほん。では清姫。どうして脱獄をしたのですか?そして脱獄を手引きしたのは誰ですか?」

 

小竜姫様がそう尋ねると清姫は穏やかに笑いながら

 

「申し訳ないですが、私の脱獄を手伝った魔族については判りません。さっきまで覚えていたのですが、今はどうしても思い出せないのです……この腕の火傷……恐らくこれが原因だと思うのですが……」

 

さっきまで覚えていたのに、今はどうしても思い出せない……そして腕に残された火傷の跡……ここまで情報が揃っていれば答えが出ているのも同然だ

 

「美神さん、これって」

 

「強力な暗示ね、しかも竜族に干渉できるとなると相当強力な魔族……たぶんパイパーに力を与えた魔族」

 

今回の事件にも謎の魔族……本当にどうなってるのかしら……それにここまで派手に暴れているのに、どうして尻尾がつかめないのだろうか?よほど暗躍に長けた魔族なのだろうか?

 

「ではどうして脱獄を?後100年で開放されたというのに?」

 

小竜姫様の問いかけに清姫はぱぁっと可憐な笑みを浮かべ

 

「高島様の転生者に会いに参りました。確か……今生では横島っと呼ばれているそうですね?」

 

その言葉を聞いてシズク君のほうに視線を向ける

 

「……これの言っていることは本当のこと」

 

高島……横島君に預けた陰陽術の本を書き残した陰陽師。性格に問題はあったそうだが、かなり優秀な陰陽術師だったらしい。らしいというのは高島と言う陰陽師に関しては情報がかなり少ないのだ、独自の陰陽術を開発し、泰山夫君の祭と言われる陰陽師の最大の試練にも挑戦したらしいが、死んだ時期やどうして死んだのか?が判っていない。一説では藤原の姫に手を出したことによる処刑だったらしいが、その後にも目撃されたという説もある。

 

「シズク。私はそんな話は聞いてないわよ?」

 

「……高島に子供は居なかった。陰陽師のような高い霊力を持つ人間が転生するならば……」

 

シズク君の言葉を遮って清姫君がゆったりと扇子で自身を仰ぎながら

 

「しかし高島様にご子息はおらず、本来なら高島様が転生する可能性は限りなく0。しかして生前の高島様と私とシズクは

加護による契約を結んでおりました。私は今もその魂の形を覚えていますので断言できます。高島様は不完全な形で横島として転生し、生を受けていますわ」

 

GSでも魂や輪廻に事に関しては知らないことが多い、こういう事は神族や魔族の領域だ。小竜姫様の方に視線を向けると

 

「すいません、魂に関しては私は専門ではないのでなんとも」

 

横島君と高島の関係。転生者……か……なかなか難しい問題だね

 

「美神君はどう思う?……美神君?」

 

腕を組んで考え込んでいる美神君に声を掛けるが反応がない、もう1度呼びかけても同じだ

 

「美神君?本当にどうかしたのかい?」

 

肩に手を置いて軽く揺さぶって見ると我に返ったのか

 

「唐巣先生?どうかした?」

 

きょとんとしているその表情を見て疲れのせいかな?と思う。あれだけ霊力を消耗しているのだからぼーっとしてしまうのは無理もないか……

 

「所で横島君は?」

 

つれてきた段階で意識不明だった横島君の事を尋ねると、タイミングが良かったのかシルフィー君が奥の部屋から出てきて

 

「天竜姫ちゃんとあげはちゃんと一緒に奥の部屋に眠れるところを用意しました、今蛍さんとおキヌさんが様子を見ています。お兄ちゃんは厄珍に薬を買いに行ってくれています」

 

誰か付き添ってくれているなら心配ないか、明日の朝にでも霊能力者専門の病院にでも連れて行けばいいだろう

 

「色々と聞きたい事もありますし、話し合いたいこともありますが、時間も時間です。唐巣さんも美神さんも少し休んでください。清姫は私が監視しますので」

 

「監視されなくても暴れませんわ。そんな事をしたら横島でしたか?彼を怪我させてしまうではないですか?」

 

本人に暴れるつもりはないから安心……かな?でもなんか目に光がないからそこがなんか不安

 

「……一番簡単で皆安全な処理を私は知っている」

 

シズク君が清姫さんの肩に手を置いた瞬間。一気に教会の温度が下がり清姫さんが再び氷の中に閉じ込められた

 

「カキーン」

 

「……これでOK」

 

……うん。まぁそれなら監視とか色々必要ないと思うけど……なんかこう

 

「シズク。実力行使過ぎない?」

 

私の言いたかった事を美神君が言ってくれる。シズク君はにやっと好戦的な笑みを浮かべて

 

「……昔から私と清姫はこんな感じだから問題ない、じゃあ私も寝る……おやすみ」

 

足音を立てずに奥の部屋に向かっていくシズク君を見ながら、思わず全員が苦笑する。喧嘩するほど仲が良いと言うが、シズク君と清姫の関係が良く判らない

 

「美神君も小竜姫様も休んでください、こっちです」

 

長期の除霊を必要とする人が休んでいる部屋で申し訳ないが、そこまで広いわけではないので我慢して貰うしかない。なんせ昔美神君が弟子として来ていた時の部屋はピート君とシルフィー君が使っているしね……私はそんな事を考えながら2人を教会の奥の部屋へと案内するのだった……

 

 

 

 

 

「呼吸は安定してるわね……」

 

シルフィーさんに案内してもらった比較的部屋で横島の看病を始める。意識は戻る気配が無いが、呼吸が安定しているし、苦悶の声を上げることも無いに少しだけ安心する

 

「うーきゅ!」

 

ちょっと目を放した隙に、ぺちぺちと前足で横島の額を叩いているモグラちゃん。摘み上げようとしたら

 

「みーむぅ!」

 

駄目だよ!と言わんばかりにモグラちゃんの頭を叩いて、みーむむ!と説教をするチビ

 

(何の話をしてるのかしら?)

 

残念なことに私には何を言っているのか全く判らない、しばらく見ているとモグラちゃんとチビは横島の枕元に座り込んで、心配そうに様子を見ているチビとモグラちゃんに

 

「大丈夫よ。私が見ているから、ほらチビもモグラちゃんも休みなさい」

 

私の言葉に振り返り、また横島を見つめるチビとモグラちゃん。やっぱり言うことは聞いてくれないか……チビもモグラちゃんも愛嬌は振りまいているし、若干懐いてきてくれているが、やはり言うことを聞いてくれるのは横島だけだ。

 

「横島が起きた時に心配させちゃうわよ?」

 

チビもモグラちゃんもずいぶんと体力と魔力を消耗している、この調子で起きていたら横島が起きた頃には力尽きるように眠っているはず。それだと心配を掛けるわよ?と言うとしぶしぶと言う感じで横島のバンダナの上で丸くなるチビとモグラちゃん。これで看病に専念できるわね……

 

「ううん……」

 

氷水で冷やしたタオルを絞って、横島の額の上に乗せる。さっきまで寝汗もかいてなかったが、急に酷い汗をかき始めたのだ。その急な容態の変化に若干焦りながら看病をしていると

 

【蛍ちゃんも少し休んだほうがいいんじゃ?】

 

水とタオルの変えを持って来てくれたおキヌさんの言葉に私は首を振った

 

「ううん。私は平気だから」

 

私はあの時何も出来なかっただけではなく、倒れている横島を見て動く事が出来なかった。あの青白い顔をした横島を見て、あの光景を思い出してしまった。足がすくんで、手が震えた

 

(トラウマ……なのかしら)

 

横島の死の光景を連想したせいか、やけにルシオラとしての記憶ばかりが蘇って来る……愛おしさも悲しさも……

 

【いいえ。休んだほうがいいです、今酷い顔をしてますよ?】

 

おキヌさんのポルターガイストで鏡が浮かび上がってくる。それを見て私が思わず苦笑した

 

「そうね……本当に酷い顔」

 

自分でこんな顔をしていたんだと思うほどに、青白い顔……確かにこれは酷い顔だ

 

【私が見てますから、横島さんが心配ならこの部屋に居てもいいですから、蛍ちゃんも休んでください】

 

繰り返し休んでくれと言うおキヌさん、私を心配してくれているのはその表情を顔を見れば判る。でも……それでも

 

「ごめん、それは出来ないわ」

 

横島の手を握りもう1度首を振る。ルシオラとしての記憶を思いだしてしまったせいか、ここで眠ってしまうと横島が居なくなってしまうような……そんな言いようの無い不安が私を襲っている

 

【でも】

 

「横島の様子が安定したら休むから、お願い」

 

霊力の枯渇による消耗。これは霊力がある程度回復すれば収まるはず。だからそれまで様子を見させて欲しいと言うと

 

【……蛍ちゃんは頑固です。仕方ないですね……ちょっとタオルケットとか持ってくるのでそれだけでも羽織ってください】

 

そう言って部屋を出て行くおキヌさん。黒いところとか暴走と化している場所ばかり見ているけど、やっぱり優しいのね。私はそんな事を考えながら、横島の額の汗を拭い、何度もタオルを絞って横島の額に置いて、横島の容態が安定するまで看病を続けるのだった……

 

「う、うん?寝てたのね……」

 

窓から差し込む光で目を覚ます。どうも看病をしているうちに、眠ってしまったようだ。肩から掛けられているタオルケットを見る限り、おキヌさんか誰かが様子を見に来てくれたのみたいね。ゆっくりと背もたれに背中を預けて背伸びをする……椅子に腰掛けて眠っていたからか身体が痛い……ゆっくりと起き上がり横島のほうを見ると

 

(もう起きてたんだ良かった)

 

ベッドに腰掛けている横島の姿が見えて一安心し

 

「おはようよこ……え?」

 

おはようと声を掛けると横島が振り返り、私を見た瞬間ぎゅっと抱きしめられた

 

「うえええ!?あうあうああ!?(なに!?これなに!?私の夢!?まだ寝てるの!?)」

 

自分でも訳の判らない奇声を上げているのが判る。おきたばかりでこれは刺激が強すぎる。あ、でもこれでもいいかもしれない……

 

【変な声が……横島さん!何をしてるんですかーッ!!!】

 

私の奇声に気付いたおキヌさんが部屋に入ってくるなり、そう叫んでポルターガイストを放つ。その衝撃で私と横島は起きて行き成り教会の壁に叩きつけられるのだった……

 

「あいたた……おキヌさん!やりすぎとか思わないの!?」

 

【抜け駆けは許しません!!!】

 

がーっと怒鳴るおキヌさんと睨みあっていると

 

「あいたたた……うーここどこだあ?」

 

横島が頭を振りながら身体を起こす、あれ?もしかして今起きた?じゃあさっきのは寝ぼけてた?なんか凄い惜しい……って!?横島が私を見ると凄まじい勢いで涙を流し始める

 

「ど、どうかした!?どこか痛いの!?おキヌさんのせい!?」

 

あれだけのポルターガイストだ。どこか痛めていてもおかしくないと思い慌てて駆け寄る

 

【ご、ごごご!ごめんなさーい!横島さん。大丈夫ですか!?】

 

おキヌさんも謝りながら横島に近寄る。だけど横島の反応は予想と違っていて

 

「あーいや、どこも痛くないんだ。急に涙が……変な夢を見たからかなぁ?」

 

苦笑しながら立ち上がった横島。変な夢?その言葉が気になって、私も立ち上がりながら

 

「どんな夢を見たの?」

 

私がそう尋ねると横島はうーんっと唸りながら夢の内容を呟いた。そしてその内容を聞いて私は完全に硬直した

 

「東京タワーで蛍と凄くよく似た誰かが倒れている夢だった……それと誰かと2人で凄く綺麗な夕日を見たような……」

 

そ、それって……いえ、そんなはず無いわ。横島には逆行の記憶なんてない、だからそんな夢を見るはずがない……

 

(で、でも……その光景は……)

 

私が死んだ場所で間違いない。でもどうして横島がそんな夢を……おキヌさんも信じられないという顔をしている中

 

「それもう少し詳しく……」

 

違うとは思っている。だけど違うと言い切れないので横島にそう尋ねようとした瞬間

 

「うきゅ?うきゅーうきゅー♪」

 

「みむー!みみむーーーーー!!!」

 

この騒動で起きたのかチビとモグラちゃんが横島に駆け寄っていく。

 

「おーよしよし!2匹とも朝から元気だなあ」

 

よしよしっとチビとモグラちゃんを撫でているのを見てそんな話を聞くわけにも行かず、私は開きかけた口を閉じるのだった……

 

「おはようございます。横島様でよろしいのでしょうか?」

 

部屋を出て唐巣神父の所に向かおうとすると部屋の外で清姫が待っていて、嬉々とした表情で横島にそう尋ねる

 

「お、おう……俺が横島だけど?」

 

行き成り様付けに困惑している横島に畳み掛けるように清姫は

 

「私清姫と申します、この名前どうか覚えていてくださいね?」

 

華の咲くような笑みでそう告げて、着物の裾を翻し歩き去っていく

 

「なんか大分印象が違わない?着物の色も違うし」

 

確かに昨日の着物は黒だったけど、今の着物は白だった。そのせいか、大分昨日と印象が違う

 

「うん、確かにね。でも清姫は昨日の義経と一緒だったし、警戒しておいた方が良いわよ?」

 

あれだけ暴れている姿を見ているのだから、いくら清姫が美少女でも横島も警戒するだろうしね

 

【そうですよ?信用するにはまだ早いと思います】

 

おキヌさんにも言われた横島はうんっと小さく頷いてから、自分の胸に手を置いて

 

「覚えとく……なんかこう胸の辺りがざわざわするんだよなあ?清姫ちゃんを見ていると」

 

まさか恋!?とかふざける横島をじとっと見ると

 

「ごめんなさい」

 

私とおキヌさんの視線に耐えかねて神妙な表情をする横島を見ながら、礼拝堂に向かう。途中でおキヌさんは朝食の準備があるのでと言って別れた。どうも私の奇声が気になって見に来たらしい

 

「あ、よこしまさん、昨日はどうもありがとうございました」

 

天竜姫ちゃんが深く頭を下げて横島に感謝の言葉を口にする。その後ろでは床が光っているので、もしかすると妙神山に転移する何かの道具を小竜姫様が持って来ていたのかもしれない

 

「いやいや、気にしないでいいよ?天竜姫ちゃんが怪我しなくて良かった」

 

若干慌てながら笑う横島。横島ってあんまりお礼とか言われなれてないから混乱しちゃうのよね

 

「天竜姫様。お気持ちは判りますが、竜神王様が心配しております。そろそろ」

 

小竜姫様にそう声を掛けられた天竜姫様は名残惜しそうに

 

「後日、今回のことに対する謝礼をお送り致します。ではよこしまさん、お元気で」

 

そう笑って光る床のほうに歩いて行った天竜姫様の姿が光に包まれて消える

 

「今回の一件へのご協力感謝します。後日天界から何かお礼をお送りするので楽しみにしていてください」

 

姿の見えないイームとヤーム、それに鬼門と清姫は既に妙神山へと転送されたのだろうか?それとも別の方法で妙神山へ帰るのだろうか?と考えていると小竜姫様が穏やかに笑いながらそう告げる

 

「そ、じゃ楽しみにしているわ。でも今回みたいなのはこれで最後にして欲しいわ」

 

美神さんが笑いながら言うと小竜姫様は出来ればそうならないように天界のほうで頑張りますと笑いながら言う。でもきっと私達はまた今回のような騒動に巻き込まれると思う、それもきっと前の世界よりも激しい戦いに巻き込まれていくのだろう……

 

「では私も失礼します。今回は本当にどうもありがとうございました」

 

そう笑って光の床のほうに行く小竜姫様を横島が呼び止め

 

「えっと……その清姫ちゃんはどうなるっすか?また幽閉とかですか?」

 

横島がそう尋ねると小竜姫様は少しだけ険しい顔をして

 

「幸い清姫は天界の役人を殺してはいませんし、こちらの捜査にも協力的です。しばらくは監視下に置かれると思いますが……幽閉などにはならないと思いますよ」

 

小竜姫様の言葉に安心した表情をしている横島。怖がっているようだけど、やはり気にしてしまうあたりが横島らしいなあと思わず苦笑してしまうのだった

 

「では今度こそ失礼します」

 

そう笑って小竜姫様も光る床の上に立って消えて行った……

 

「さてと!話も済んだところだし、横島君」

 

黙って話を聞いていた唐巣神父が横島を呼ぶ

 

「なんっすか?」

 

どうして自分が呼ばれたのか判らないという顔をしている横島に唐巣神父は笑いながら

 

「念の為に霊障専門の病院の予約を取っておいた。さ、早速向かおうか?」

 

「え、でも俺腹……「先に検査のほうが良い。何か異常があってからでは困るからね」

 

腹が減っていると言う横島の言葉を遮って言う唐巣神父。笑っているけど笑ってない唐巣神父の表情を見てはいっと頷いた横島は

 

「蛍。チビとモグラちゃんを頼むわ」

 

病院に連れて行くことが出来ないチビとモグラちゃんを差し出してくる、嫌そうな顔をしているチビ。お願いだからもういい加減に懐いてくれないかしら?チビとは対照的にうきゅうきゅと鳴いて擦り寄ってくるモグラちゃんに思わず微笑んでしまいながら、チビとモグラちゃんを受け取るのだった。横島は唐巣神父に連れられ教会を出て行った、残された私はどうすればいいのかな?と思い美神さんを見ると

 

「しばらくは教会に滞在させてもらうわ。だって事務所シズクに爆破されちゃったし」

 

あ、そう言えばそうだった……新しい事務所ってたぶん旧渋鯖伯爵邸よね?まぁあそこの方が通いやすいから文句はないけどね

 

「蛍さーん、ご飯出来ましたよー」

 

台所から顔を出しているシルフィーさんに今行きまーすと返事を返し、美神さんと一緒に朝食に向かうのだった……

 

 

 

 




別件リポート 竜神王の憂鬱

自壊は別件リポートとなります、今回の話の補足をメインにして、色々な問題を抱えている竜神王の話をしようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は竜神王の憂鬱と言うことで天界の竜神王に色々とトラブルとか、前回の清姫の処分とかの話を書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート 竜神王の憂鬱

 

小竜姫からの報告書に目を通した私はその報告書をきっちりと纏め、机の奥に戻してから深く溜息を吐いた

 

(清姫を脱獄するようにそそのかした魔族の情報はない上に、英霊を傀儡に……か……)

 

人間霊の中にも優れた武勲を挙げた者は、その魂を昇華させ英霊へと至る。無論最上級神魔と比べると劣るが下級や中級に匹敵する能力を持つ者も居る。

 

(源義経……か)

 

武勲に長けた勇敢な剣士。それが魔族によって操られ、自らの意思を失っている……その報告を聞いて私は確信した。今暗躍している魔族は間違いなくガープだと……仮にも英霊と呼ばれる存在を操ることが出来るのは、最上級神魔で無ければ難しいだろう……恐らく九兵衛を操っていた魔族と同一犯……そしてそれは間違いなくガープの仕業、心を操る術に長けたあいつの仕業としか思えない

 

「なんとかして捉えることが出来ればいいのだが……」

 

私は知っている過激派として追われているアシュタロスが味方で情報を集めてくれていることを……だが未来視の魔王と称されたアシュタロスが特定できないとなるとよほど上手く立ち回っているのだろう。アスモデウス一派、その首領アスモデウスは魔力・戦闘技術・戦略どれをとっても1級の将と言える。そしてガープもまた戦術と魔術そして魔科学に秀でた優秀な参謀……なんとかしてガープだけでも捕らえる事が出来ればアスモデウス達の作戦を妨害することも出来るのだろうが……

 

「無理な話か……」

 

ガープは頭が切れる。自分の能力の限界を知り、そしてその限界を超える研究を繰り返している。仮に補足できた所で捕縛するのは不可能に近い。どうあがいても完全に後手に回るしかない今の状況に溜息を吐く事しか出来ない

 

「閣下。清姫をお連れしました」

 

私が溜息を吐いていると執務室の扉を叩く音と部下の声が聞こえる

 

「清姫だけ入れ、お前は執務に戻れ」

 

はっとと言う返事の声と同時にゆっくりと扉が開き清姫がゆっくりと部屋の中に入ってくる

 

「久しいな。清姫」

 

今までずっと着ていた黒の着物ではなく、白と緑の以前着ていた着物を着ている姿を見て少しだけ驚きながら清姫の名を呼ぶと

 

「はい。お久しぶりです閣下」

 

穏やかに笑うその表情は笑顔だけ浮かべていた以前の物と違い、心からの笑顔だった

 

「全く馬鹿なことをしたな。後100年で無罪放免だったというのに」

 

その笑顔に驚きながらそう言うと清姫はまた悲しそうな笑みを浮かべて

 

「だって高島様が転生なさっていたんですもの……100年待ったら今度はいつ会えるか判らないじゃないですか」

 

その言葉を聞いて深く、深く溜息を吐く……

 

「天界で暮らす気は無いのか?」

 

「ありませんわ」

 

即答する清姫にさらに溜息を吐く、私が清姫を1000年幽閉することを選んだのには理由がある。1000年前の平安京で大量虐殺を行った清姫。本来なら処刑なのだが、それが出来ない理由がある

 

「先先代が聞いたらなんと嘆くか」

 

清姫は先先代の竜神王の孫娘に当る。無論今それを知っている竜族は上層部だけだが、それが私が清姫を処刑できず、幽閉と言う裁きを下した理由だ。清姫は天界での暮らしに飽きて、地上におりそこで人間に恋をした。1000年経てばその想いも消えると思ったのだが……どうやら違っていたようだ

 

「また地上に戻りたいのですが?ご挨拶も碌に出来なかったですし、シズクがあの方の側に居るのも嫌ですし……ですので早く地上に戻れる許可をください」

 

「駄目に決まっておるだろうが!!」

 

魔術で忘れているとは言え、清姫はガープ達の一派に接触している。どれだけの魔族が集まっているのか?それに操られていないか?などの様々なことを調べる必要がある

 

「完全に白と言う結果が出るまでは天界で監視処分だ」

 

「そんな!?」

 

悲壮そうな顔で叫ぶが、これでさえも温情審判と言える。丁度そのタイミングで扉が叩かれる。恐らく清姫の監視を頼んでいた神族が到着したのだろう

 

「来たのねー?」

 

ぽやっとした表情で笑うヒャクメ。まだ覗き癖とサボり癖はあるが、最近しっかりしてきて近いうちに正式に天界正規軍に配属が決まっている。それまでの間清姫の監視を兼ねて共同生活して貰うことにしたのだ

 

「では清姫。しばらくの間ヒャクメと暮らすように後、脱走など出来ないように力を封じる腕輪をつけて暮らすように」

 

「う、うそ……あうあう。早くちゃんとご挨拶したいのに……」

 

細い両手首に黒い腕輪が嵌められ、あうあうと呻く清姫を連れて執務室を出て行くヒャクメを見送りながら、私は地上での竜族との話し合いの結果を纏めた書類に目を向けるのだった……

 

 

 

 

 

むすっとした表情で私の家の部屋の隅で座っている清姫ちゃんを見ながらフライパンを振るう

 

(うーむ。知らない子なのねー?)

 

竜神王様からの指示で監視するように言われたけど、私の記憶には存在しない竜族の少女だ……しかも1000年前の高島の知り合い……

 

(んー?これも逆行の影響?)

 

私は既に現代の私と完全に融合しており、今の私は未来のヒャクメであると同時に過去のヒャクメでもある。だから判る清姫は未来の世界には存在しなかったと、まぁ今こうして存在しているのだからそれについては仕方ないんだけど

 

「会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい」

 

エンドレスで会いたいと呟いているその姿がとても恐ろしい……

 

(なんで私ばかりこんな目に……会うのねー)

 

小竜姫にはよく八つ当たりをされて、そしてその上で恐ろしい気配を発している少女の監視役……とても悲しくなってきた

未来の経験を生かして少しだけ自分の立場を良くしようと思っただけなのに……

 

「清姫ちゃん?なにか食べるのねー?」

 

「ぷい」

 

そっぽを向いて話しさえ聞いてくれない、どうすればいいのか全然判らないのね……

 

(精神鑑定とかはもう済んでいるのに……)

 

私は既に清姫ちゃんの精神などを完全に調べて異常が無いことを確信している。それなのに監視しろ……っと言うのはたぶん建前

 

(魔族に協力したというのがあるからそう簡単に開放できないってだけなのねー)

 

そもそも清姫ちゃんは先先代の竜神王様の孫娘。血脈を大事にする竜族にとって処刑できる相手ではないし、清姫ちゃんが結婚すればまた強力な竜族が生まれ、竜族はさらに繁栄するという目論見があるから絶対に処刑されることは無い。だから監視と言うのが建前と言うのは皆判っている。作った野菜炒めを皿の上に乗せて

 

「ご飯にするのねー?」

 

「……会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい」

 

ぶつぶつと繰り返している清姫ちゃんは食事に手をつける気配が無い、うーむ。これは仕方ないのね。奥の手を使うのね

 

「あっと」

 

手が滑った振りをして数枚の写真を清姫ちゃんのほうに落とすと

 

「!?!?」

 

一瞬だけ視線を向けて慌てて写真に手を伸ばそうとするがそれよりも早く写真を拾い上げる

 

「ギロリ」

 

こ、怖いのねえ!?これ目線だけで人を殺せる目をしているのね

 

「どうして横島様の絵がここに?」

 

絵じゃなくて写真なのねーと心の中で呟きながら

 

「面白い人間だから監視しているのね?いっぱい写真があるのねー?」

 

見せびらかすように写真をちらちらと見せると

 

「シャーッ!!!」

 

「危ないのねー!?」

 

左手だけを竜の爪にして飛び掛ってきた清姫ちゃんの攻撃をしゃがんで回避する。力を封印されている筈なのに、信じられない素早さなのねー……

 

「ふー!ふー!!!」

 

ね、猫なのね……私の落とした写真を抱え込んで唸っている清姫ちゃん、少しだけ手を伸ばして見るが

 

「ふしゃー!!!」

 

何度も何度も爪を振るってくる。この子が良く判らなくなったのね……

 

「お手伝いしてくれるなら写真を分けてあげるし、いい子にしていたらそれだけ早く解放されるのねー?」

 

「こほん。ヒャクメさん?私はどうすればいいのですか?

 

ガラッと態度を変えた清姫ちゃんに苦笑しながら私はちゃぶ台の前に座って

 

「まずは美味しいご飯を食べて、身体を休めるのねー」

 

平気そうな顔をしているが、私には判っている清姫ちゃんが弱っていることが……それは当然だ。色々な神族に調査や尋問を受けているのだから疲れていて当然だ。だからまずは休むのねーと笑うと

 

「はい。ではその……頂きます」

 

手を合わせて箸を手にする清姫ちゃんを見ながら、これからどうやって清姫ちゃんと仲良くなるか?私はそれを考えながら自分の作った野菜炒めに箸を伸ばすのだった……

 

 

 

 

 

「ふー疲れた」

 

私は家に帰ってくるなりそう呟いた。地上の竜族の会談の纏めに、今後展開の防衛をどう固めるか?など考えること、やるべき事は山ほどあるのだから

 

「父上。おかえりなさい」

 

ととっと駆け寄ってきた天竜の頭を撫でる。過激派が天竜を攫うことを模索しているのでしばらく外出などさせることが出来ないが、こればかりは仕方ない。娘を殺されるわけには行かないからな

 

「ただいま、天竜」

 

駆け寄ってきた天竜の頭を撫でるとえへへと笑う天竜の姿に笑みがこぼれる。天竜はまだ子供だ、これから起きるかもしれない戦争に天界の権力争いには巻き込みたくないと

 

「父上!てんりゅーは人界で友達が出来たのです!」

 

嬉しそうに言う天竜の言葉に笑みがこぼれる。天竜と同年代の竜族はおらずいつも1人だったから友達が出来たと言うのは喜ばしいことだ

 

「あげはと言うのですが、とても優しくていい子でした。また会いたいです」

 

会いたいかぁ……もう少し天界の情勢が落ち着けばまた人界に連れて行ってやろうか

 

「それによこしまもとても優しかったです」

 

横島……まさか娘の口から出てくると思っても居なかった名前に内心動揺する。天竜は私の動揺に気付かず笑顔のままで

 

「とても良い人でした、あの方にもまたお会いしたいです」

 

……いやいや、まだ天竜は子供だからきっと憧れとかきっとそういうのに違いない

 

「天竜?夕餉の準備をするから手伝いなさい」

 

「はーい!では父上失礼します」

 

妻に呼ばれて走って行く天竜の背中を見つめ

 

「……まさかな。いやいや、それはない」

 

うん。絶対に無いと思うが、念の為に確認を……ああ、絶対にないはずだ……トトカルチョの紙を見て大きく深呼吸してから紙を開くと

 

清姫 5.1倍

 

天竜姫 11.7倍

 

「嘘だ!?」

 

清姫はまだ判る。だが何故私の娘が……思わず私はトトカルチョの紙を落としてその場に蹲るのだった……

 

シルフィー 24.7倍

 

とか訳の判らない上昇をしている者もいたが、それよりも自分の娘の名前……これが受け入れがたい結果と言うのはこういう物のことを言うのか……私は受け入れがたい結果を見てしばらくの間立ち上がることが出来ないのだった……

 

「母上。今度わたしはよこしまとあげはと遊びたいです」

 

「そうね、今度はもっとゆっくり遊べるといいわね」

 

なお天竜の名前がトトカルチョに刻まれたが、それは恋心などではなく、ただ優しいお兄さんに対する憧れだったりする……まぁ恋心にならないとは言い切れない所でもあるが……

 

竜神王が立ち直ったのは外回りに出ていたイームとヤームが戻り、声を掛けられてからだった……

 

 

なお竜神王が精神的ダメージでダウンしている頃アシュタロスはと言うと……

 

「増えてる!?また増えてる!!!」

 

どんどん増えていく名前に驚愕し、そしてガクガク震えながら

 

「や、殺られる……私が悪いんじゃないのに殺られる……」

 

トトカルチョの参加者が増えるたびに危機感を感じ暴走する蛍に恐怖し、逃げることを考えていたのだが

 

「オトーサーン……ナンデシラナイヒトばかりフエルノカナア?」

 

「……ききき、キタアア!?ま、待て待て待て!!!蛍!おち……ッぎゃあああああああああああ!!!!!!!」

 

ハイライトの消えた目でハンマーを引きずりながら現れた蛍、アシュタロスがどうなったかは誰も知らない……ただ1つ言えるのは、蛍の焦りとか暴走する恋心が文字通り叩きつけられた。それだけが判っているただ1つの事だった……

 

 

 

芦蛍 1.3倍

美神令子 1.0倍

メドーサ 2.6倍

ヒャクメ 3.5倍

×××××× 2.2倍

タマモ 5.7倍

小竜姫 4.1倍(現在)

小竜姫 1.4倍(未来)

おキヌ 2.4倍

×× 2.0倍

六道冥子 2.7倍

マリア 3.4倍

夜光院柩 4.7

シズク 5.5倍

神代瑠璃 7.7倍

シルフィー 7.8倍→24.7

アリス 6.5倍

神宮寺くえす 124.9倍

愛子 7.8倍

テレサ 6.9倍

清姫 5.1倍

天竜姫 11.7倍

ブリュンヒルデ 7.4倍

 

 

リポート21 ああ、騒がしき日常

 

 




前回の前書きで書いたとおり、次のリポートは「カモナ・マイ・ヘルハウス」「チョコレート人間誕生」の二つとオリジナルの日常の話を加えた話になります。チョコレート人間誕生は大幅にアレンジして、ただのバレンタインの話になると思いますけどね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート21 ああ、騒がしき日常
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回の話は「カモナ・マイ・ヘルハウス」の話にしようと思います。上手く日常のどたばた具合を表現できるように頑張りたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート21 ああ、騒がしき日常 その1

 

俺は全く覚えてないんだが、どうもあの義経を吹き飛ばしたサイキックソーサーのおかげで僅か、本当に僅かだが霊能力の操作が上手くなった……らしい。病院の検査でも全く異常がなく、念の為に数日療養したが今日やっと霊力を使ってみようと言う話になったのだが……

 

「蛍。本当に上手くなってるのか?」

 

「あ、あははは。うん」

 

霊力を通すなり爆発した破魔札を手に蛍に尋ねる。気まずそうに笑っている蛍……本当に上手くなっているのか?と思わずにはいられない、あと若干こげた髪から嫌な匂いがしているのがとても気になる

 

「……霊力の出力が上がっているからだ。もう少し弱くイメージしろ、今までのままだとまた同じことの繰り返しだ」

 

シズクのアドバイスを聞いて、普段使っている霊力よりも遥かに弱く霊力を込めて札を投げると

 

バンッ!!

 

「おお!?」

 

今までの音と全然違う命中音が響く、今まではパンとかポンの間の抜けた音だったけど、今のはかなり鋭い音だった

 

「流石シズクね。良いアドバイスだわ」

 

「……当然」

 

蛍とシズクの言葉を聞きながら次の札を拾おうとすると

 

「うきゅ」

 

「ありがと、モグラちゃん」

 

札を咥えてこっちを見ているモグラちゃん。俺に渡そうとしてくれていたんだなあと小さく笑みを浮かべて札を受け取り、もう1度破魔札を投げるのだった

 

「みむー」

 

お疲れ様と言う感じでタオルを摘んで飛んでくるチビからタオルを受け取り、汗を拭う。ほんの少しの運動なのに凄い汗だなあ……

 

「霊力がいい具合に循環しているからよ。たぶん今までよりも霊力の扱いが楽になっていると思うわよ」

 

そっか……実感は無いけど、蛍が言うなら間違いないな

 

(これで少しは足手まといにならないですむ……かな?)

 

何も出来ない俺でいるのは嫌だ、少しでもいい蛍や美神さんの力になりたい

 

「さーて、じゃあ横島そろそろ教会に帰って今日の訓練の結果を美神さんに報告するわよ」

 

訓練の後は美神さんへの結果報告だ、俺は蛍の言葉に頷き

 

「クウ?」

 

「さー、そろそろ起きようなー?」

 

ベンチの上で寝ていたタマモを抱き上げ、肩の上にチビとモグラちゃんを乗せて唐巣神父の教会に向かうのだった

 

 

「なぁ?蛍。俺とシズク帰って良い?」

 

教会に着くなり窓ガラスをぶち抜いて転がってきたピートを見て、美神さんが荒れているのだと判り逃げたいと思ったのだが

 

「駄目よ。私でも怖いんだから逃げないで、お願い」

 

俺の腕を掴んでそう言う蛍。俺は心底逃げたいと思ったが蛍にここまで言われたら逃げると言う選択肢は無い

 

(逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……)

 

自分に言い聞かせるように何度も繰り返し心の中で呟き

 

「うっし!いくぜ!」

 

気合を入れて教会の扉を開けると、目の前に広がる白

 

「は?はっ!?」

 

突然のことに困惑しどうすればいいのか判らないうちに、その白い何かとぶつかりその場に倒れこむ、なんか凄い柔らかいし、甘い匂いがするけどこれなんだろうか?

 

「なんでどいつもこいつも私の入居を認めないのよーッ!!」

 

がーっと怒鳴る美神さんの声が聞こえる。ああ、駄目だったんだ……

 

「投げられたのは不幸だけど、これはこれで役得♪いただきまーす」

 

ん?この声は?目を開くと真紅の眼を光らせ、牙を光らせるシルフィーちゃんの姿

 

「ぎゃあああああ!!助けてええええ!!!」

 

美少女は嫌いじゃない、でもいろんな意味で自分の危機を感じるシルフィーちゃんは苦手だ。迫る牙を見て思わずそう叫んだ、俺はきっと悪くない

 

「この馬鹿吸血鬼がー!!!」

 

「ぎゃん!?」

 

蛍の怒声とシルフィーちゃんの悲鳴が聞こえる。覆い被さっていたシルフィーちゃんが離れたことで俺は四つん這いで蛍に近づいて

 

「うう、怖かった。怖かったんだ」

 

「うんうん、大丈夫よ。もうあの馬鹿吸血鬼はいないからね」

 

よしよしと背中を撫でてくれる蛍。その感触に心を落ち着けながら、俺が蛍達の手伝いができるようになるのはかなり先になるんだろうなと俺は思うのだった……

 

 

 

 

し、しまった……どこのビルも入居を断られてつい、ピートとシルフィーちゃんを投げてしまった

 

「ぐう、か、神よ……これが試練だというのですか」

 

「うう。今度こそ横島君の血を飲めると思ったのに……」

 

蹲っている吸血鬼兄妹はどうでもいいんだけど……首筋に当てられているひんやりとした氷の刃に涼しいのに冷や汗が流れているのが判る

 

「……なにか言うことは?」

 

「ごめんなさい」

 

凄まじい威圧感を放っているシズクに私はすぐに降参して謝るのだった……やっぱり感情的になるのは駄目なのだと改めて学ぶのだった……

 

「うーむ、しかし琉璃君を頼っても駄目だったんだろ?都心部で事務所を開くのは難しいんじゃないか?」

 

唐巣先生が渋い顔をして告げる。た、確かにその通りなのよね。一番最初に琉璃に連絡したけど結果はごめんなさいだったし……

 

「でもなんでなんでしょうね?美神さんって有名なGSでしょ?ビルに入居してくれればいい宣伝になるんじゃないんですか?」

 

横島君が首を傾げながら呟く、GSにとって有名って言うのはある意味考え物なんだけど……こういうのは確かに説明してなかったわね

 

「GSって言うのは霊的な仕事に関係するからね、呪いとかそう言うのをオーナーさんは怖がるのよ。それに今回のビル倒壊も私の入居を断る理由ね」

 

しかし正直言うと、あんなことがあってもどこかのビルは入居OKしてくれると思っていた。

 

(うーん。最悪どこかの土地を買って事務所を……でもなぁ)

 

ビルのオーナーに大分お金を払ってしまった上にこれ以上財産を放出するのは出来れば避けたい

 

「横島君の血を吸わせてくれるならお金出すよ?」

 

「頭カチ割るわよ。ボケ吸血鬼」

 

「……氷の棺で封印しよう。それがいい」

 

唐巣先生は入居先が決まるまでいてくれてもいいって言ってくれているけど、いつまでも先生に迷惑をかけるのいやだし、蛍ちゃんとシズクはシルフィーちゃんはよく喧嘩するし

 

「うーきゅー!」

 

「みむう!」

 

「コン」

 

「ブルブルブル」

 

【大丈夫ですよ、横島さん。私が側にいますからねー】

 

巨大化したモグラちゃんの後ろに隠れている横島君とそんな横島君を護ろうとしているチビとタマモ。そして横島君の上で浮遊しているおキヌちゃん……

 

(……何時かこの教会壊しそうで怖いわ……)

 

この教会が唐巣先生の唯一の財産なのだから、これを壊すわけには行かないし。仕事の打ち合わせのたびにこんな状況になっていてはいつか壊してしまう

 

「シルフィーッ!!本当にいい加減に「うるさい!」へぶう!?」

 

同じ吸血鬼と人間のハーフでも、血の濃さが違うピートとシルフィーちゃんでは腕力とか魔力とか体力とか色々違う。吸血鬼の力全開で殴られているピートも色々と危ない、シルフィーちゃんのアッパーで教会の天井に突き刺さっているその姿を見て私はそう確信した

 

(冥華おば様に相談しようかしら……)

 

出来れば頼りたくない相手だけど、この際四の五の言ってられない。明日にでも冥華おば様に相談しようと思った瞬間

 

「「「「!?」」」」

 

「ブルブル」

 

凄まじい霊気を感じて振り返る、横島君は相変わらず震えたままだが……

 

【ごめん……ください……こちらに……事務所を求めている……霊能力者がいる……と聞いて……参りました】

 

コートと帽子で顔を隠した人間でも幽霊でもない気配を放つ何かが、途切れ途切れの声でそう呟くのだった……

 

 

 

 

 

渋鯖 人工幽霊壱号が来たわね。向こうから来たとは聞いていたけどこういうことだったのね

 

【事務所へ……案内します……】

 

私達の返事を聞かずに歩いていく渋鯖 人工幽霊壱号。ちらりと美神さんを見ると

 

「面白そうじゃない、行くわよ。蛍ちゃん、横島君」

 

予想通りの返事だ。やっぱりこれくらい美神さんは勝気じゃないとね、私は床に蹲っている横島に

 

「ほら、行くわよ。横島」

 

「あ、うん。判った……」

 

まだシルフィーさんを見て怯える素振りを見せている横島。この調子でどんどん怖がってくれれば、横島からシルフィーちゃんにちょっかいを掛ける事は無いわねと安堵し、渋鯖 人工幽霊壱号に案内され私達は教会を後にしたのだった

 

「うわーお化け屋敷見たいやなー……「そう?私は島の城を思い出すよ」のおおおおお!?」

 

横島のお化け屋敷みたいなっと言う言葉にかぶせてシルフィーさんが横島に近寄ると、横島は絶叫しながら飛びのいてチビをシルフィーさんのほうに向けている

 

(チビは武器じゃないのに……)

 

寄るな、寄ったら電激するぞと言わんばかりに放電しているチビ。なんかずいぶん勇ましくなったわね……

 

「オンボロだけど……場所は一等地じゃない、これを本当にタダで?」

 

【さよう……しかし条件が……最上階にこの土地の……権利書がおいてあります……それを取って来れたら……です】

 

そう言うと渋鯖 人工幽霊壱号はその姿を消す。器用ねー、自分をコートに憑依させて操る。渋鯖 人工幽霊壱号って人口幽霊だけどかなり強力だった見たいね

 

「うーむ、かなり特殊な幽霊だったみたいだね」

 

地面に落ちているコートと帽子を拾い上げながら唐巣神父が呟く。

 

「確かに霊波が単調で作り物みたいでしたよね」

 

「カオスさんみたいに魂を作り出した人が居るのかな?」

 

渋鯖 人工幽霊壱号について話し合っている唐巣神父とピートとシルフィーさんに対して美神さんは

 

「よし、じゃあ行きましょうか。シズクよろしく」

 

「……私はお前の部下じゃない」

 

むすっとしているシズクを先頭に事務所のほうに向かって歩き出す

 

「美神さーん!?調査とかしないんですか!?」

 

普段アレだけ調査を大事にする美神さんがなんの準備を模せずに向かっていくのを見て、横島がそう叫ぶ

 

「んー普段はね。でも悪意も感じないし……それになにより、向こうが待てないみたいだしね」

 

ゆっくりと開く扉を見て笑う美神さん。まぁ確かに悪意も感じないし……それに話では今渋鯖 人工幽霊壱号は消えてしまいかねない状況らしいし、早く行ってあげよう

 

「皆いるから大丈夫。さ、行きましょう。横島」

 

若干怯えている横島にそう声を掛けると、調査の準備をしていた唐巣神父達が

 

「やれやれぶっつけ本番は出来れば避けたいんだが仕方ないね」

 

「大丈夫ですよ、先生。これだけの人数だから何とかなりますよ」

 

まぁ確かにその通りよね、唐巣神父と美神さんと言う最高峰のGSが居るんだから、何が起きても大丈夫でしょと思い建物中に入るが……

 

「「「うわあ!?」」」

 

一緒に入ってきた唐巣神父達が建物の外に弾き出され、それと同時にバタンと大きく音を立てて扉が閉まる

 

【あの3人は君達の事務所のメンバーではない、これは君達への試練だ。君達だけでやるんだ】

 

本体の中に戻ったからかさっきまでの途切れ途切れの言葉ではなく、すらすらと喋る渋鯖 人工幽霊壱号

「さて、じゃ皆行きましょうか?なーに心配ないわよ。ちゃっちゃっと権利書を貰っちゃいましょ?」

 

勝気な笑みを浮かべる美神さんに頷き、私達は建物の最上階を目指して歩き出すのだった……

 

 

 

 

 

「うわ……やだなあ」

 

ぼろぼろの廃墟と言う感じの建物の中を歩きながら俺は思わずそう呟いた、すると美神さんがこっちを向いてきょとんとした顔をしながら

 

「いっつもこれより酷い中探索してるじゃない?」

 

確かに仕事の時は我慢できる、だけど仕事とか関係なしで、しかもくもの巣や鎧が飾ってあり、しかも妙にひんやりしているこの空気……これは俺の苦手とする……あの雰囲気に良く似ている。不思議そうに尋ねてくる美神さんに頬を掻きながら

 

「いや俺、お化け屋敷とか苦手っす」

 

全くそんなんじゃ先が思いやられるわねと苦笑する美神さんを先頭に最初の扉を開くと

 

「うわ……」

 

これはいかにも動きますって言わんばかりの鎧が置いてあって思わず顔が引きつる

 

「あーこれはいかにも動きますって感じね」

 

蛍もそう思ったのかのほほんとした表情で呟くと鎧の兜がこっちの方を見て

 

「ガチャガチャ!!!」

 

腰の鞘から剣を抜いて突進してくる。動くと思っていたけど、その凄まじい勢いの突進と周囲の雰囲気に呑まれて思わず

 

「ぎゃーっやっぱ来たぁ!?」

 

頭を抱えてしゃがみ込もうとすると、それよりも早く

 

「……くだらない」

 

シズクのぼそりとした呟きと同時にシャッと言う鋭い音が響き鎧はガラクタ同然でその場に転がった

 

「流石シズクね。頼りになる♪」

 

「……お前を助ける気はなかった。横島が危ないから手伝っただけだ」

 

ふんっと腕組するシズク。本当頼りになるロリおかんだ……もう少し愛想が良ければ完璧だと思う

 

【!合格です。どうぞ先に】

 

ぎいっと音を立てて開く扉をくぐりながら、気になった事を尋ねて見ることにした

 

「準備とかしなかった理由ってもしかして?」

 

俺が美神さんに尋ねると美神さんはにこっと笑い

 

「もちろんシズクとかチビとかモグラちゃんに頑張って貰うつもりよ!今おキヌちゃんが先の階を見てきてくれてるから、楽に攻略できると思うわよ」

 

俺は自分の肩の上にいるチビとモグラちゃんを見て

 

「危ないことはさせないでくださいよ」

 

大事な家族なんだからと念を押してから、チビとモグラちゃんに協力してくれな?と呟くのだった

 

「みーむ♪みみみむうー♪」

 

次の部屋の飛んでくる家具の部屋はチビがぱたぱたと飛びながら器用に家具をすり抜けて

 

「みむうッ!!!」

 

その家具を操っているであろう水晶を電撃で粉砕し、その破片の上で

 

「みむう♪」

 

ピースと言わんばかりに短い手をこちらに向けている。電撃の精度も飛ぶ速度も大幅に上がっていたことに今気付き、正直かなり驚いた

 

【はーチビちゃん。いつの間にかずいぶんパワーアップしてますね】

 

俺の横に浮かんでいるおキヌちゃんが呟く。それは俺も感じていた、賢くなっているし、空を飛ぶ早さも上がっている。マスコットみたいに思っていたけど、ずいぶんと成長している

 

【使い魔を操るのもその人の実力。合格です、どうぞ】

 

そして再び扉が開き、新しい道が開かれるとチビは俺の前に飛んできて

 

「みむー♪みみむうー♪」

 

褒めて褒めてと言わんばかりに俺の前の前でくるくる回っているチビの頭を撫でながら、次の階に向かうのだった

 

「んー今度は上からなのよね」

 

部屋の前で美神さんが腕組しながら呟く、上から何かが落ちてきて小さく爆発している

 

「……微弱な霊力だけど、あれだけ降っていると鬱陶しいな」

 

もしかして目の前を待っているアレ全部霊力なのか……?いや、これはあぶな……

 

「うきゅー♪」

 

ずもももっと巨大化したモグラちゃんは平然と霊力の雨の中を進んでいく、毛皮で爆発しているが全くダメージを受けている素振りは無く

 

「うきゅ」

 

前足でそれを制御しているであろう水晶を粉砕したのだった

 

「うきゅ♪」

 

凄いでしょ?と言わんばかりにこっちを見ているモグラちゃんに思わず俺は拍手してしまうのだった……

 

「本当。モグラちゃんもチビも良く懐いてるわよねー?」

 

先頭を歩いている美神さんがそう呟く。肩の上でうきゅー・みむーと鳴いているモグラちゃんとチビ

 

「きっと大事に育てているからっす」

 

お風呂も入れてドライヤーで乾かしながら毛並みを整えて、食事にも気を配っているからだ

 

「うん、まぁきっとそうね」

 

俺なんか間違った事言ったかな?と蛍を見ると

 

「間違ったことは言ってないわよ?」

 

だよな?大事に育てれば答えてくれるのは道理だよな

 

【次は霊圧で動きを束縛してくるみたいですよ?】

 

天井から顔を出しているおキヌちゃんがそう呟く、霊圧……霊圧。これはチビやモグラちゃん。それにタマモじゃ無理だ……となると……シズクのほうを見ると

 

「……任せろ」

 

にやっと笑うシズクはその部屋の水晶を見て指を鳴らすと、氷の矢が水晶を簡単に砕く、セットされていた水晶はその能力を発揮する前に破壊されたのだった

 

「いつまでこの試練って言うのは続くのー?」

 

蛍が天井に向かってそう尋ねる。1階からここまで来るまでかなりの数の試練を潜り抜けてきた。流石に少し疲れてきた

 

【次が最後の試練です。階段を上り、最上階へどうぞ】

 

音を立てて開く扉、これが最後の試練か……なにが待ってるんだろうな……俺は若干の不安を感じながら、最上階へ続く階段を上るのだった……

 

 

 

 

「これが最後の試練?」

 

最上階に来た私は思わず拍子抜けした。今までの試練で待っていたのは多数の罠にそれを制御する水晶。でも最上階はただの部屋だった

 

【その机の上に権利書があります、それを手にすれば私は貴方達の物です】

 

書類を取るだけ?それだけなら試練でもなんでもないじゃない

 

【ただしこの部屋は一歩歩く事に年をとります】

 

はい!?年を取る!?いやいや……いくらなんでもそんな能力をこの幽霊が持っているとは思えない

 

(たぶん魂に負荷をかけて、幻術で年をとったように見せるだけ……でもなあ)

 

幻術とは言え、年をとるのは頂けない……たぶん蛍ちゃんも嫌だと思うし……

 

「これ年をとるって死ぬのか?」

 

「う、うーん……たぶん幻術とかそう言うのだと思うけど……霊力とか生命力は吸い取られるかも……」

 

蛍ちゃんも私と同じ考察をしていた……となると幽霊のおキヌちゃんだけど……

 

【すいません。壁があって入れません……】

 

向こうも馬鹿じゃないわね。幽霊のおキヌちゃんは駄目と……じゃあシズクはと視線を向けると

 

「……私も駄目だな。思ったよりも結界が強い」

 

シズクも部屋の中に入ろうとしているが、壁があるようで前に進むことが出来ないでいる。となると私達だけで何とかするしかないわけか……どうやって部屋の中を進むか考える……

 

(私も霊力で抵抗しながら進む。これしかないかしら……)

 

向こうの幻術と霊力に対抗できればきっと年を取ることはない。でも幻術とは言え年を取るのは……私がどうするか悩んでいると

 

「コン」

 

「あ、タマモ!?」

 

横島君の頭の上のタマモが部屋の中に飛び込み、どんどん机のほうに向かっていく

 

「タマモー!戻れー!危ないぞー」

 

横島君がそう声を掛けるが無視してどんどん進む。部屋の半分ほど進んだところでタマモに変化が始まる

 

「「「え?」」」

 

私達の驚愕の声が重なる。見る見る間にその姿が大きくなり、8尾の尾に最後の9尾めの尾が生え、その身体が大きくなっていく

 

「おお……なんかすげえ」

 

私もそう思う。傾国の大妖怪と言われた九尾の狐の本当の姿……眩いまでの金色の毛皮に9尾。それは妖怪ではなく、既に神と言うべきものになっていた

 

「コン」

 

机の上の書類を咥えて戻ってくるタマモ。受け取れと言わんばかりに書類を差し出してくるタマモにありがとと声を掛けて書類を受け取ると

 

【へ、変則的ですが書類を取ったことに変わりはありません。どうぞ、そこの椅子に座ってください】

 

私が座りやすいように動いた椅子に腰掛けると部屋の中に眩い光が走り、今までの廃墟とした姿は一瞬で消え、まるで新築のような綺麗な壁と家具がその姿を見せる

 

「クウウ……」

 

「元に戻ったか。でも俺はこっちの方のタマモが好き」

 

元の子狐の姿に戻ったタマモを抱きかかえて笑っている横島君を見ていると、再び天井から声が響く

 

【人工霊魂である私は強力な霊能力者の波動を受けなければ消耗してしまうのです。貴女のような強力な霊能力者に所有されることを私は望んでいた。これからは貴女の事務所として忠誠を誓います】

 

まぁ私だけの力じゃないけど、霊防御に長けた良い事務所が手に入ったって喜ぶべきよね?

 

「よし、横島君。蛍ちゃん、外で待ってる唐巣先生とシルフィーちゃん達を呼んできて、無事に良い事務所に入居できましたって報告しないとね」

 

まぁ色々あったけど良い物件みたいだし、これからここでまた皆で頑張るとしますか!窓の外から見える青空を見て、これから幸先の良い未来があるような気がして笑みを零すのだった……

 

リポート21 ああ、騒がしき日常 その2へ続く

 

 




マスコットがとても頑張りました。ちゃんと成長してパワーアップしているでしょう?まだまだどんどん成長して可愛くなっていくので楽しみにしていてください、次回はかなり話を飛ばしてチョコレート人間誕生……ではなく、ただのチョコレートの話にしようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はバレンタインの話にして見ようと思います。チョコレート人間誕生の内容は無理だと思ったので、理由。チビ・モグラちゃん・シズク・タマモが居るから、どう考えてもチョコ爆発の未来は回避できないですからね。と言うわけで普通のバレンタインの話にして見ようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート21 ああ、騒がしき日常 その2

 

2月13日……お菓子企業の策略と言われるバレンタインを控えたその日。仮にお菓子企業の策略だとしても、それは乙女にとってとても大事な日なのだ。それは芦蛍も例外ではなく

 

「うーん、今一。作り直し」

 

出来たチョコを頬張るが納得の行く味ではなく、そのまま冷蔵庫の中に戻す

 

(簡単に出来ると思っていたけど、甘かったわ……)

 

横島が良く食べているチョコレート。砕いたピーナッツを混ぜ込んだそれを作ろうとしているのだが、思うように固まってくれないのは何故だろう?

 

(ピーナッツを混ぜ込んだから?)

 

料理はよく作るけど、お菓子は全然作ったことが無いから失敗する理由が判らない。本を見てもこれで完成とあるだけで何か足りてないわけではないし……

 

「うーん。フリーザーを作りましょう」

 

うん、きっと冷蔵庫が駄目なのね。まだ一日あるし、強力な冷凍庫を作りましょう。我ながら名案と言わんばかりにキッチンを後にする蛍だが、何かが致命的に間違っていたりする。チョコを作るべきなのに、冷凍庫を作るあたりが特に……実に残念である、別の料理の本を見ると言う道は無かったのだろうか?と思わざるを得ない

 

「もぐ、美味しいでちゅ……あ、そうだ。ヨコチマにあげよー♪」

 

なおその後冷蔵庫に入れられて放置されていたチョコはあげはが喜んで食べた後。勝手に横島の家に遊びに行ったあげはによって横島の手に渡っていたりする……

 

 

 

 

 

カチャカチャ……キッチンに金属と金属がぶつかる音が響く

 

「姉さん、これもっとガーって出来ないの?」

 

「駄目ですよテレサ。チョコレートの湯煎は丁寧に行わなければ」

 

私はテレサと並んでチョコレートを作っていた、2月14日。バレンタインデー。本来は男性が女性にプレゼントを送る日ですが、日本では女性が男性にチョコレートと想いを伝える日……でもまだ私には告白する勇気もないし、まだそこまで横島さんと仲良くも無い。だからせめてチョコレートだけでも作ろうと思いこうしてテレサと一緒にチョコレートを作っている

 

「感謝の思いをチョコと一緒に渡すかぁ……面白い風習だよね?」

 

……テレサにはまだ誰が好きとか嫌いとかが理解できないので判りやすく説明する為にそう教えたのですが

 

「んーシズクにはあげないと、いっつも色々教えてくれるから。あとカオスと姉さんと横島と……んーとチビってチョコ食べるかな?」

 

チョコレートを湯煎しながら楽しそうに尋ねて来るテレサ。その邪気の無い笑顔が嬉しいと思うと同時に

 

(ドクターカオス、私は説明を間違えてしまったかもしれません)

 

もう少し私は言葉を選ぶべきだったかもしれませんと心の中で小さく呟いてから

 

「チビは甘い物が好きなのできっと食べると思います」

 

それに1度横島さんからチョコを貰って美味しそうに食べていたのを見ましたし……きっと食べると思いそう返事をすると

 

「だよねー。モグラちゃんはどうかなー?」

 

モグラちゃんですか……モグラちゃんも雑食ですし、食べると思いますが

 

「モグラちゃんにお世話になっているのですか?」

 

私がそう尋ねるとテレサはえへへと笑い

 

「最近良く懐いてくれて、手の上とかに乗って来てくれるから、手乗り文鳥じゃなくて手乗りモグラちゃんになるかなって?」

 

て、手乗りモグラちゃんですか?いやまぁモグラちゃんは確かに人懐っこくて可愛いですが、手乗りモグラちゃんって

 

(ドクターカオス。私はテレサが良く判りません)

 

手乗りモグラちゃんって何なんでしょうか?私はテレサが天然なのか、何かのテレビで手乗り文鳥を見たからそんな事を言い出したのか?なんにせよ、少しだけテレサが判らなくなるのだった……

 

 

 

 

 

 

「おキヌちゃん、楽しそうね?」

 

【はい!とっても楽しいです】

 

キッチンでチョコを作っていると美神さんがキッチンに入ってきてそう尋ねるので笑顔で返事をすると

 

「横島君にあげるの?」

 

冷蔵庫からワインを取り出そうとするので駄目ですよ?と注意してから

 

【もちろんです♪横島さんに喜んで欲しいですから♪】

 

本当はハートの形にしたいけど、流石にそれは恥ずかしいので丸とか四角の形をしたチョコレートを作り冷蔵庫に入れていると

 

「……そうね。横島君が喜んでくれるといいわね」

 

美神さんが少しだけ暗い声色で呟く。今私は幽霊だから私の想いが叶うことが無いとわかっているからこそ少しだけ同情してくれていると思うのですが

 

(大丈夫です、生き返れますから)

 

小さい声でそう呟く。まだ私は生き返ることが出来ないけど、もう少しすれば生き返ることが出来る。だから私の願いが叶う可能性がある

 

(蛍ちゃんには負けないんですから)

 

その為に300年待った、だから後数ヶ月待つくらい全然余裕なんです。それに幽霊って言うのも、中々悪いものじゃないですよと心の中で呟くと

 

ピンポーン

 

「お客かしら?ワイン飲まなくてよかったわね」

 

【ですね、お茶を用意しますね?】

 

電話で連絡してくるお客さんも居ますけど、急な除霊依頼でアポなしで来る人も居るので今回はそれかな?と思いながらお茶を用意していると

 

【紅い目の女性なのですが、もう通してしまいましたが大丈夫ですか?】

 

紅い目……?もしかして神代さんでしょうか?人工幽霊壱号の言葉を聞いて、2人分お茶を用意してから所長室に向かうと

 

「はぁーい♪元気してた?」

 

【まぁ幽霊ですけど元気ですよ】

 

幽霊に元気って尋ねるのはおかしいわねとくすくすと笑う神代さんは美神さんの前に座って

 

「良い事務所ですね。場所を紹介出来なくて気になっていたんで、本当に安心しました」

 

「事務所の方から来てくれたんだけどね」

 

【その通りです、美神さんは良い霊能者なので私のオーナーになって貰いたくて】

 

天井から人工幽霊壱号の声が聞こえると神代さんは

 

「本当美神さんのところ人外増えましたね」

 

お茶を飲みながら呟く神代さんに美神さんは苦笑しながら

 

「大体全部横島君のせいだと思うけどね」

 

「違いないですね。横島君妖怪とか引き寄せますから」

 

そんな世間話をしていた神代さんだけど、飲んでいたお茶を飲み終えてから

 

「最近鎧武者の亡霊が出るって噂知ってます?」

 

鎧武者……それってまさか!?美神さんのほうを見ると美神さんは真剣な表情をしていて

 

「源義経ね?」

 

あの時横島さんが吹き飛ばした鎧武者。源義経……あれで倒せているとは思ってなかったけど、動き出すのが予想より早かった

 

「今のところ被害は無いですが、近い内に依頼を出しますのでよろしくお願いします」

 

「1人じゃ無理だから、エミに連絡しといて、今回は絶対1人じゃ無理だから」

 

判ってますと返事を返し、お茶美味しかったわと笑って事務所を後にする神代さんの背中を見ながら

 

【大丈夫なんですか?】

 

小竜姫様も居ないのに何とかなるんですか?と尋ねると美神さんは

 

「あの義経。まだ完全に操られてないと思うの、完全に操られる前ならなんとかなるかもしれない」

 

でもそれはあまりに分の悪い賭けじゃないでしょうか?説得するといってもこっちの言葉が届く可能性も無いわけですし……

 

「心配ないわ。今エミから手紙が来てね」

 

手紙する位仲良かったでしたっけ?と首を傾げていると

 

「私も良い弟子を見つけたって言う自慢の手紙。凄く強力な精神感応能力の持ち主だってさ、それに身体も大きいから前衛も出来る……名前は……」

 

その人ってもしかして……

 

「タイガー寅吉。上手くいけば、彼の力を借りて義経を説得できるかもね」

 

……ものすっごく不安です。美神さん……私を安心させようとして教えてくれたんだと思うのですが、その人の名前を聞いて余計に不安になってしまうのだった……

 

 

 

 

「お兄ちゃん~黒おじさんと赤おじさんに~」

 

魔界の暗い空に似合わない楽しそうな声が響く、ガチャガチャと少々乱暴な音が響いているのはご愛嬌という物だろう。なんせこれがアリスにとって初めての調理体験なのだから

 

「ぐー?」

 

心配そうに自分を見てくる黒い馬を見て。私はへらを手に

 

「大丈夫!簡単だからってブリュンヒルデおねえちゃんに貰ったから!」

 

そう笑う自身のご主人を見る幼いバイコーンは不安そうにしていた、なぜならば

 

「げぐ……ぐふう……」

 

「ぜェ……ぜえ……」

 

味見をお願いされた魔神2人が痙攣し瀕死になっている姿を見れば不安になるのも当然という物

 

「アリスの好きなお菓子とー。ジュースとも入れよー♪」

 

溶けたチョコレートに自分の好きなお菓子とジュースをどぼどぼ投入する姿を見て

 

「ぐー……」

 

なんでも食べれる自分だけど、あれを食べたら死ぬ。動物の本能に従い、幼いバイコーンのぐーちゃんはそのまま周り右し馬小屋へと逃げていくのだった……

 

「出来たー♪、ふふふ、お兄ちゃん喜ぶかなー♪」

 

なお普通のチョコが出来るようになるまでかなりの時間を有し、その中で

 

「ぴくぴく……」

 

何度かネビロスにチョコを口に突っ込まれたべリアルが灰になりかけ、痙攣していたりするのだった……

 

 

 

 

 

~~2月14日~~

 

「バレンタインかー俺には縁の無い話だなー」

 

仕事があるかもしれないと美神さんに聞いていたので自宅待機をすることになったので、チビやモグラちゃんの毛並みを整えながら呟くと

 

「……バレンタイン?なんだそれは?」

 

煎餅をばりばりと齧っているシズク。なんと説明すればいいのか?

 

(お菓子会社の策略とか……喪男の悲劇の日……うーん)

 

なんと説明すればいいのか?と悩んでいるとチャイムの音が鳴る

 

「見てくるからちょっと待って」

 

これ幸いと考えを纏めるために玄関に向かうと

 

「どうも横島さん」

 

「やっほー」

 

マリアとテレサが揃って尋ねて来ていた。テレサはよく来るけど、マリアは珍しいなと思っていると

 

「どうぞ横島さん。日ごろの感謝の気持ちです」

 

差し出されたラッピングされた小箱……ま、まさかこれはテレサとマリアの顔を見ると

 

「バレンタインのチョコは感謝の気持ちを伝えるんだろ?いつもありがとう」

 

にこっと笑うテレサにチョコを受け取るが、その数が多い、1・2・3・4・5

 

「5つ?」

 

「そ、横島とチビとモグラちゃんとタマモとシズクに」

 

そっかーみんなの分を作ってきてくれたのか、差し出されたチョコを受け取り

 

「ありがとな。マリア、テレサ。凄く嬉しい」

 

たぶん義理チョコだけど初めて貰ったからとても嬉しい

 

「喜んでもらえると嬉しいです。では横島さん失礼します」

 

「今度また遊びに来るね」

 

頭を下げるマリアと手を振るテレサに手を降り返しリビングに戻る

 

「……テレサとマリアだったみたいだが、何のようだった?」

 

何の用事だったのか?と尋ねてくるシズクにテレサから受け取ったチョコを渡す

 

「……なんだこれ?」

 

首をかしげているシズクを見ながらチビとモグラちゃんの小さい包みを開けて、チビとモグラちゃんに差し出すと

 

「うきゅ?」

 

「みむ?」

 

なにこれ?と言わんばかりに首をかしげていたチビとモグラちゃんだけど、匂いを嗅いで危険は無いと判断したのか、ガブッと齧り

 

「みむー♪」

 

「うきゅー♪」

 

美味しかったのか嬉しそうに鳴いてもくもくと食べている姿に笑みを零しながら、シズクにバレンタインを説明すのはこれが一番いいかもしれないと思い

 

「今日は女性が世話になっている男性にチョコを上げる日だから」

 

告白とかされるわけ無いと思いながら、そこの部分をぼかして言うとシズクは

 

「……ん」

 

煎餅をずいっと差し出してくる、シズクの顔を見ると

 

「……知らなかったから今回はこれで」

 

なにこれ可愛い!?普段無表情なシズクが若干赤い顔で煎餅を差し出してくるその姿がなんか可愛いと思うのだった

 

ピンポーン!ピンピンピンポーン!!!!

 

凄まじくチャイムを連打する誰か、うるさいなあと思いながら玄関に向かおうとすると

 

コンコンコン!!!

 

窓を連打させる。もう一体誰……振り返ると

 

「お兄ちゃん開けてー!寒いー!!!」

 

「うおおお!?早く!早く入って!!!」

 

アリスちゃんが青い顔をして窓を連打していたので慌てて窓を開けて部屋の中に招き入れるのだった

 

「うう、人界は寒いよ」

 

コタツに入ってぶるぶる震えているアリスちゃんに

 

「魔界は暖かいの?」

 

疑問に思ったことを尋ねると、ココアをふーふーっと冷ましながら

 

「熱くもないし、寒くも無いよ?幽霊がいつも飛んでるけど」

 

……魔界って怖いところなんだなあ……熱いとか寒いとか無いのはいいけど、そう言うところは怖い

 

「何しに……「はいおにいちゃん!バレンタイン」

 

にぱーっと笑うアリスちゃんに差し出されたチョコレート、今日だけで3つ目……

 

(モテ期が来たか!?)

 

今までくれたのは皆人間じゃないけど、正直嬉しいので受け取ると

 

「美味しいから食べて食べて♪」

 

期待に満ちた表情でこっちを見ているアリスちゃんに頷き、チョコを頬張るが

 

(あ。甘い!?むちゃくちゃ甘い!?)

 

思わず吐き出しそうになるくらいの激甘だ。今までこんなに甘い物を食べたことが無いほどに甘い

 

「美味しいでしょ?」

 

キラキラとした目で見ているアリスちゃんの手前吐き出すことも出来ず、そのまま飲み込む。なんかちゃんと歯を磨かないと虫歯になりそうな気がするな、このチョコ

 

「美味しかったよ?」

 

「やたー!頑張ったから嬉しい」

 

コタツに入ったまま嬉しそうに笑っているアリスちゃんを見ていると

 

「……ん」

 

目の前に湯のみと煎餅が置かれる。本当シズクって気が利くよなーと思いつつ差し出された煎餅を齧るのだった

 

「もーぐもーぐモグラちゃん」

 

「うきゅーううきゅーうきゅきゅー♪」

 

部屋の隅でモグラちゃんと謎の歌を歌っているアリスちゃん。まぁ楽しそうだからいいんだけど

 

「っと?」

 

急に足に何かまとわりついてきた感触がして、コタツの中を見ると

 

「クウ……」

 

寒いのか俺の膝の上で丸くなっているタマモが居て、コタツの中から甘えた視線でこっちを見ている

 

「あーよしよし」

 

丸くなっているその背中を撫でる。狐って寒いのが好きってイメージがあったけど寒いの駄目なんだ……

 

「……ただ甘えているだけ。この呆け狐」

 

「グルルル」

 

「止めて!喧嘩駄目!」

 

なんでこう喧嘩ムードになるかなあ、皆仲良くしてくれるのがいいのに……

 

【横島さーん、こんにちわー】

 

「あ、おキヌちゃんいらっしゃい」

 

壁からスーッと入ってきたおキヌちゃん、最初は驚いていたけど最近はなんか当たり前になってて驚かなくなった自分が居る、おキヌちゃんは俺の目の前で浮いたままもじもじしている

 

「どうかしたんか?」

 

普段のおキヌちゃんらしくない反応に思わず俺がそう尋ねると

 

【これ!横島さんに!じゃあーさよならーですー!】

 

俺に箱を差し出してぴゅーっと飛んで行ってしまうおキヌちゃん。包みを開けるとやっぱりチョコレートで

 

(今年の俺チョコ貰いすぎやな……死なへんかな?)

 

今まで碌にチョコなんて貰ったことが無いのに今年は4個も貰えた。俺はこれが天変地異の前触れなんじゃ?と思わずにはいられないのだった……

 

「あー結局蛍はチョコくれへんかったなあ……」

 

それ所か今日は1回も顔を出してくれなかった。正直少しだけ期待していた分だけ悲しい……

 

コツコツ

 

「ん?」

 

もう寝ようと思い布団に潜り込もうとした時窓ガラスに何かが当る音がする。最初は気のせいかな?と思ったのだが、しばらく時間を置くとまたコツコツと何かが当る音がする。どうしても気になり窓の外を見ると

 

「ほ、蛍!?」

 

首にマフラーを巻いた蛍が小石を俺の部屋の窓にぶつけていた。俺は慌ててGジャンを着込んで皆を起こさないように家の外に出るのだった

 

 

 

 

 

「あ、起きてたんだ。良かった」

 

時間が時間だからもう寝ちゃってるかな?っと不安だったけど、玄関から横島が出てきて安堵の笑みを零すと

 

「こんな時間にどうしたんだ?」

 

うう。午前中にチョコを持って来ようと思ったんだけど、いざ渡すとなるとなると恥ずかしくて、家に逃げ帰ってしまって結局こんな時間になってしまったのだ

 

「ちょっと色々立て込んでてね?でも今日の内に会いに来れて良かった」

 

ポシェットからチョコレートの包みを取り出して

 

「はい、横島。ハッピーバレンタイン」

 

チョコレートを渡すとふえ?っと驚いた顔をしていた横島だったけど

 

「ありがとな!めちゃくちゃ嬉しい!」

 

その包みを抱えて嬉しそうに笑う横島。その笑顔を見ただけでもチョコレートを作った意味があるわね

 

「じゃ、時間も時間だし、そろそろ帰るわね」

 

本当は食べている所とか、味の感想とか聞きたかったけど、これはヘたれていた私が悪いから明日にでも聞きましょう

 

「あ、蛍」

 

バイクのほうに歩いていこうとすると横島に呼び止められる

 

「なーに?」

 

横島の言いたいことは判っている。今日はバレンタインなのだから、チョコレートを渡された意味は横島だって判っている筈

 

「えっと……そのこのチョコレートは……」

 

義理か本命か?それを聞こうとした所で口ごもる横島……きっとここで好きだと言ってしまえば、私が望む関係になる事が出来る……でもまだ早いと思う……だから

 

「そうね。もう少し横島が強くなったら教えてあげる」

 

そうウィンクし私は横島に背を向けて、バイクに跨り家へと向かうのだった……残された横島は蛍から受け取ったチョコレートを抱えたまま、空を見上げ……小さくなっていく蛍の背中を見つめながらチョコレートの包みを開けて頬張り

 

「……ホロ苦ぇ……」

 

甘いはずのチョコレートなのに、横島には少しだけ苦く感じるのだった……

 

 

リポート21 ああ、騒がしき日常 その3に続く

 

 




次回はタマモやモグラちゃんなどのマスコットをメインにした話と前のリポートの横島が見た夢。それについての話をして、リポート22に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです、今回は日常の話の最後にしたいと思います。前半はシリアスですが、後半は日常で頑張りたいと思います。本当はもう少し日常を書きたいのですが、話数の問題もあるので、その分日常らしさを書いていけるように頑張りたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート21 ああ、騒がしき日常 その3

 

横島が義経を吹き飛ばしたときに見たという夢……何度考えても浮かんでくる結論は1つ……それは

 

(ルシオラの最後……)

 

私であり、私じゃない私「蛍魔ルシオラ」の最後の瞬間。どうして横島がこの夢を見たのか?その謎を追求しないといけない……私はそう考えお父さんの部屋に向かうのだった

 

「ふむ……横島君の見た夢か……」

 

若干気まずそうにしているお父さん。お父さんだって私の最後は知っている……出来れば自分だけで解決したかったけど、考えても答えが出ないのでこうして相談に来たのだ

 

「私やおキヌさん、それに小竜姫様達は覚えていてもおかしくないわ、でも横島がそれを知っているのはおかしいの」

 

何故なら横島は逆行していない、だからその記憶を知りえるはずが無いのだ

 

「うーむ、いくつか仮説は立てられるが……一番可能性が高いのは……」

 

そこで言葉を切ったお父さんの顔はとても険しい顔をして、お父さんではなく、アシュ様としての顔が出ていた

 

「平行世界の横島君自身の記憶かもしれない」

 

へ、平行世界?逆行じゃなくて?私の驚いた表情を見ながらお父さんは丁寧に説明してくれた

 

「神代琉璃君。神宮寺くえす。夜光院柩。それにシルフェニア・ド・ブラドー……逆行前の世界に存在しなかった人物がたくさん居る理由は前も説明したが、私以外のソロモンが動き世界の境界を歪めているからだ」

 

本来琉璃さんもくえすも柩もこの世界には存在しない存在。平行世界の住人だと聞いた、世界とはいくつもその姿を持ち、本来なら交わることは無いが、高位の神魔ならその世界同士の境界をあやふやにすることも可能だと聞いた。

 

「それは聞いてるけど……それと横島の夢に何の関係が?」

 

私がそう尋ねるとお父さんはその表情をさらに険しくさせて

 

「世界の中には私が消滅せず勝利した世界もあれば、蛍……いやルシオラが生存した世界もある」

 

お父さんの言葉で理解した、お父さんが何を言いたいのか……

 

「横島君が死んだ世界も存在する。そして本来はその世界で転生を持つ筈の魂が世界の揺らぎに吸い込まれ、この世界の横島君に影響を与えているとすれば?」

 

その言葉を聞いて目の前が暗くなったような気がした……それはある意味最悪の仮説……

 

「横島が消える……?」

 

もしもその別の世界の横島の魂のキャパシティが私の横島よりも上ならば、のっとられる形で今の横島は消えてしまう……

 

「それは最悪の結果だ、でもありえない話じゃない……1度天界のヒャクメ君に連絡を取ろう。魂は流石に私でも難しいからね」

 

励ますように笑うお父さんだけど、その最悪の結果が1度頭に浮かんでしまうと、それはなかなか離れることは無い

 

「大丈夫。そんなことにはさせない、この私が絶対にさせないよ」

 

「う、うん……お父さんなら大丈夫よね」

 

今の横島が使える陰陽術などももしかするとその別の世界の横島の影響なのかもしれない、1度浮かんでしまった最悪の結果。それがどんどん浮かんでは消えていく

 

「蛍!」

 

お父さんの一喝で思わず背筋が伸びる

 

「そんなことにならないように全力を尽くす。だから不安に思うことは無い、それに蛍が不安になっていると横島君も不安になるだろう?」

 

うっ……それは確かにその通りだ。あれで横島は人の不安とかを感じ取るの上手いからきっと私が不安になっているのも感じ取ってしまうと思う

 

「それに最悪の結果と言ったろ?あくまでこの世界の横島君がこの世界の住人だ。世界の修正力もある、だから要らない心配さ。さ、それが判ったら横島君の所にでも行っておいで」

 

あげはは私が面倒を見ておくからと笑うお父さん。確かに無性に横島に会いたかった……

 

「あ、そう言えばお父さん。聞きたいことがあったんだけど……」

 

「うん?なんだい?」

 

不思議そうな顔をしているお父さん。これだけはどうしても聞いておきたかった……

 

「ねえ?どうしてべスパは起きなかったの?」

 

あげはと同時にべスパも目覚める筈だったのに、今もまだ起きてこないその理由は?と尋ねると

 

「あげはと同時に目覚める術式は始まっていた。だが何故か、あげはが目覚めると同時に術式がリセットされた……これは確証は無いが……べスパがまだ目覚めたくないと拒絶したのが原因かもしれない」

 

目覚めるのを拒絶した?……どうして……折角姉妹が揃うと思っていたのに……

 

「眠っていることでべスパは何かを見ているのかもしれない。それが理由かもしれないね、さ、横島君の所に行っておいで。べスパは私が様子を見ておくからね」

 

私はお父さんの言葉に頷き、べスパの事を気にしながらも、横島の家へと向かうのだった……

 

 

 

 

蛍が暗い気持ちで横島の家に向かっている頃。横島はと言うと

 

「もーぐもーぐもぐもぐらちゃーん♪」

 

「うきゅーうきゅーきゅきゅーうー♪」

 

昨日に引き続き謎の歌を歌っているアリスちゃんとモグラちゃんを見ながら、チビの毛並みを整えていたりする

 

「みむー♪」

 

チビの毛は意外とごわごわしてて、結構な頻度でブラシをかけて上げないといけない。自分でも毛並みを整えようとするんだけど、背中とかに届かなくてもごもご動く奇妙な物体になっているのをよく見る、正直言うと夜とか暗い所で見るとビクッっとして少し怖い。自分でも毛並みが綺麗になったのが判るのか、嬉しそうに尻尾を振りながら空を飛ぶチビ

 

「グレーグーレグレグレムリン~♪」

 

「みむ?」

 

そして今度はチビを呼ぶための謎の歌を歌い始める。そしてその歌に吊られてアリスちゃんの方に飛んでいくチビ

 

(何でだろ?)

 

なんであんな適当な歌にチビとモグラちゃんが反応するのか判らない

 

「……アリスの声には力がある」

 

煎餅とお茶を持ってきたシズクが小さく呟く。力?俺が首を傾げていると

 

「……アリス。お前チビとモグラが何を言っているのか判るんだろ?」

 

いやーそれは無いだろ?うきゅとみむしか言わないのに

 

「わかるよー♪」

 

判るの!?え?それって何かの特殊能力だったりするのか?

 

「……アリスはネクロマンサーでもある。だから幽霊や魔獣と会話することが出来る」

 

へーじゃあモグラちゃんとチビと話が出来るのか、それはなんか羨ましいなあ

 

「ちなみにアリスちゃん」

 

「なーに?」

 

「モグラちゃんとチビって俺のことなんて呼んでるんだ?」

 

ちょっと気になって尋ねて見るとアリスちゃんがチビとモグラちゃんを見つめて

 

「お兄ちゃんの事なんて呼んでるの?」

 

「みーむみー」

 

「うきゅきゅー」

 

ふんふんっと頷いたアリスちゃんは笑顔で振り返り

 

「ご主人だって」

 

なんでご主人?俺は少しチビとモグラちゃんが判らなくなるのだった……

 

「そう言えば、シズク。聞きたい事があったんだ」

 

あの時戦った清姫って言う竜族。シズクは知り合いみたいだし、それにあのこの悲しそうな目も気になっている

 

「……清姫の事か?」

 

俺が考えている事が判ったのかそう尋ねてくるシズクに頷くと、シズクは溜息を吐きながら

 

「……1000年前の知り合いだ、私と清姫はある陰陽術師の屋敷で世話になっていた」

 

陰陽術師?それってまさか……冥華さんから譲り受けた陰陽術の本に手を伸ばす

 

「……そう、高島だ。私と清姫は高島の屋敷で暮らしていた」

 

高島……何故か俺だけが読める陰陽術の本にあの子の悲しそうな目……そして俺を見た時のあの嬉しそうな顔……

 

「なぁシズク……俺と高島は似ているのか?」

 

俺が高島と似ているからお前も一緒に居てくれるのか?そんな不安を感じてそう呟くと

 

「……馬鹿」

 

シズクの小さい手でデコピンされる。咄嗟にデコを押さえるとシズクは見た事のない優しい笑みを浮かべて

 

「……高島は関係ない、私は横島が好きだからここに居る。1000年前とかそう言うのは関係ないんだ」

 

その優しいシズクの言葉になんと返事を返せばと悩んでいると

 

「どーん♪」

 

「うきゅー♪」

 

「みむー♪」

 

「コーン♪」

 

「うわっととと!?」

 

背中に重みを感じて振り返るとアリスちゃん、それにチビとタマモとモグラちゃん

 

「暗い顔をしてどうしたの?ほら笑って笑って!アリスと遊ぼうよー♪」

 

「みむーみむみー♪」

 

「うきゅー♪」

 

「クオーン♪」

 

遊ぼう、遊ぼうとじゃれ付いてくるアリスちゃん達を見ていると、シズクが穏やかに笑いながら

 

「……お前の周り集まるのはお前の側が居心地がいいから。それ以外の理由なんて無い」

 

結局また俺が暗くなっていただけか……俺は小さく溜息を吐いてから

 

「そっかーじゃあ何して遊ぼうか」

 

わーいっと両手を挙げて喜ぶアリスちゃんの頭を撫でながら、その笑顔につられて俺も笑ってしまうのだった……

 

 

 

 

横島も流石に気になっていたか……私は煎餅を齧りながらアリスと遊んでいる横島を見つめてそんな事を考えていた

 

(あの馬鹿蛇のせいで……)

 

清姫が来た事により横島の不安を煽ることになってしまった……まだ私は横島と高島の関係を教える気はない、いらぬ話をして横島を迷わせるのは良くないと思っているからだ

 

(やっぱり横島と清姫は会わさない方が良いかも知れない)

 

清姫は横島ではなく、高島しか知らない。だから高島と同じように接するだろう、横島がそれに気付けばまたいらぬ不安と心配をさせる事になる

 

(横島は横島だからいいんだ)

 

横島は高島より人外に対する態度が柔らかいし、優しいし思いやりもある。私的には高島よりも横島の方が良い男だと思う

 

「えいやー!」

 

「みむーみむみーーー」

 

「きゅーきゅー」

 

「クーン」

 

「あっはは!!や、やめえ!くすぐるの駄目ー」

 

アリス達に抱きつかれてくすぐられているのか身悶えしている横島。なんとも平和な光景ではないだろうか……微笑ましい気持ちで見ていると、扉が開く音がする。合鍵を持っているのは蛍だから別に警戒するまでも無いだろうと思い、新しい煎餅を手にする。この煎餅って言うのは本当に美味いな……現代で食べた物で一番美味しいかもしれない

 

「横島」

 

「ん?蛍?いらっしゃい」

 

「おねーちゃーん、いらっしゃーい」

 

にぱっと笑うアリスと横島に迎えられた蛍だけどその表情が硬いのを見て

 

「……さて、チビ、モグラ。散歩に行こうか、横島は蛍と話をしていると良い」

 

蛍は横島だけと何か話したいことがるのだと判断して、チビとモグラに声を掛ける

 

「えー?お兄ちゃんは一緒じゃないの?」

 

不満そうにしているアリス。ここで横島を連れて行っては意味が無い

 

「……美味しいお菓子を買ってやるから我慢してくれ」

 

「お菓子!?何かってくれるの!?」

 

確か美味しいたい焼き屋があったから散歩のコースをそっちにしようと思い、自分から準備をしているチビとモグラを見ながら炬燵の中に隠れようとしているタマモを無理やり抱き上げていると

 

「……ゆっくり話せ」

 

「ありがと」

 

暗い表情をしている蛍に気にするなと声を掛け、私達は散歩に出かけるのだった……

 

 

 

 

アリスちゃん達を連れて散歩に出かけて行ったシズク。蛍と向かい合って炬燵で座っているんだけど

 

(なんか気まずい……)

 

蛍の表情が妙に暗いのに気付いて、何かあったのだと判ったのだが、なんと話せば良いのか判らず困惑していると

 

「へんな夢を見たの……」

 

ぼそりと呟く蛍。へんな夢?それってもしかして前俺が見た東京タワーとかの夢か?

 

「すっごく心細くなって、寂しくて悲しくて横島に会いに来ちゃった」

 

見た事のない弱々しい笑みを浮かべる蛍に

 

「どんな夢を見たんだ?」

 

俺がそう尋ねると蛍はまた小さく弱々しく笑うだけで返事を返してくれない

 

「俺は……側に居るよ?弱いし、出来ることなんて殆ど何も無いけど……俺は蛍の側に居る」

 

俺に出来ることなんて無いって判っているけど、俺は蛍の側に居る。今はまだ弱いけど、出来ることなんて殆ど無いけど……何時か強くなって蛍を助けれるようになる

 

「ふふ、私を護ってくれるとか言ってくれないの?」

 

まだ声は小さいけど笑顔を浮かべてくれた蛍。本当は俺が護るって言いたい……だけど自分の弱さを知っているからそんな事は言えない

 

「じゃあ、待ってるから」

 

「え?」

 

俺が顔を上げると蛍はやっと俺の顔を正面から見て笑顔で

 

「横島が強くなって私を護ってくれるって言うまで待ってるから、約束してね」

 

「ああ、約束する。絶対……俺はもっと強くなる」

 

蛍も皆を護れるように強くなる……だからもっと強くなって自分に自信が持てたら……きっと俺は蛍に自分の想いを告げることが出来るようになると思うから……

 

「そうだ。横島」

 

「ん?」

 

「今度バイクの免許とってみない?」

 

バイクの免許?……う、うーん……確かにバイクは少し欲しいかもしれないけど……俺馬鹿だしな……取れるかなあ……免許。それにバイクも安い買い物じゃないし……

 

「それで一緒にツーリングとか行きましょう?きっと楽しいわよ」

 

「そ、そうかな」

 

「ええ、絶対楽しいわよ」

 

笑顔で勧めて来る蛍に負けて、俺はバイクの免許を取ることを蛍と約束してしまった

 

「楽しみだなー。頑張って免許とってね♪」

 

でもまぁ蛍のこの笑顔が見れるなら、頑張って勉強して見ようかなっと思うのだった……

 

 

 

 

 

あー待ちに待った満月の日ね。早く満月が昇らないかなーと窓の外をじっと見つめる

 

「みむー?」

 

「うきゅ?」

 

寝ないのー?と尋ねてくるチビとモグラちゃんにまだ寝ないと返事を返して

 

「コン」

 

机の上で何かの本を読んでいた横島の膝の上に飛び乗る

 

(これがスケベな本なら燃やそう)

 

そう思って横島の見ている本を覗き込む。机の上に置かれていたのは想像していたのと違う、何か難しい本

 

「んー?どしたー?タマモ」

 

私を見て笑う横島と本を交互に見ていると横島は小さく笑いながら

 

「話せるようになったらな?もう少しだろ?」

 

後少しで私の力が最大限に高まり、人間の姿になることが出来る。だから詳しく聞くのはその時で良いやと思い、横島の膝の上で丸くなり妖力が高まるのを待つのだった……

 

「はー長かったあー」

 

妖力が高まる寸前に横島の膝の上から降りる。膝の上で人間の姿になると横島に迷惑だしね

 

「タマモ。久しぶりだなー。前の満月のときは雨だったからな」

 

私の頭を撫でながら笑う横島。うん、確かに前の満月の時は雨で話せなかったのでとてもつまらなかった

 

「もう。毎日あってるのに久しぶりはおかしいわよ」

 

まぁ普段は子狐だから話せないけどさー、いっつも一緒に居るわよと呟くと

 

「そっか、そうだよなー。いっつもタマモにはお世話になってるもんなー」

 

わしゃわしゃと頭を撫でてくる横島。もう、今は女の子なのに、やっている事は完全に狐の時の私と同じ事で少しだけ落ち込む

 

(早く9本目の尻尾戻って来ないかな……)

 

事務所の影響で尾が戻らないかなっと思ったけど、戻る気配は無い……むしろ私の中の妖力のバランスが崩れて、調子が悪くなってしまった……

 

(うう、計算違いだったわ……)

 

横島と話をする為に色々考えたのに、その結果が体調不良……うう、私はもっと横島と話をしたいだけなのに……

 

「何の本を見てるの?」

 

「バイクの免許の本。バイクの免許を取って蛍とツーリングするんだ」

 

その言葉に少しだけ胸が痛んだ。私だって蛍と同じくらいの時に横島に会ったのに、私は可愛い狐か妹扱い……そうじゃない、そうじゃないのに……

 

「ん?どうした?」

 

「うっさい、こっち向くな」

 

へーへー。お姫様は我侭ですねーと呟く、横島の背中に抱き付く、今は顔を見せたくなかった。きっと自分でも嫌だと思うくらい醜い顔をしていると思うから……横島の前では可愛い私で居たいから、こんな顔は見せたくなかった

 

「じゃあバイクの免許取ったら、私も乗せるって約束して」

 

蛍だけとの約束なんてさせない、私も横島と約束する

 

「ん。判った、約束する」

 

「その時までにはちゃんと人間の姿に居られるようになるから」

 

「はは、そしたらタマモの部屋を用意しないとな」

 

笑い事じゃないのに……でもこれが横島らしいって事なのかな……うっすらと手に毛が生えてくるのが見える。どうも今日はもう時間切れみたいだ……

 

(今は可愛い狐で良いけど、そのままじゃ終わらないんだから……)

 

視線が低くなっていく、声ももう出ない……こんなに近くに居るのに、とても遠くに見える……でも絶対私はこのままじゃ終わらないんだから……

 

「んーそっかもう終わりか」

 

横島が少しだけ残念そうに呟く、横島も私と喋りたいって思ってくれてるなら嬉しいなあ

 

「クウン……」

 

私を抱き上げて呟く横島に小さく鳴いて返事を返す。もっと話をしたかったのになあ……

 

「よし、今日はもう終わり。シズクが怒るけど、寒いから一緒に寝ようなー」

 

「コン♪」

 

横島の言葉に返事を返す様に鳴いて頬に擦り寄る。くすぐったいぞーと笑う横島……まだやっぱりあと少しくらいは……可愛い狐でもいいかもと思うのだった……

 

 

 




別件リポート プチトトカルチョ開幕!その1

次回はトトカルチョの話になります。一応読者の皆様も参加できるような形にしようと思っています。詳しくは次回の更新時の活動報告と別件リポートをよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の別件リポートは読者の皆様にも参加していただけるトトカルチョとなります(参加してくれる方がいるかはとても不安ですが……)ちょっとした小話と色々なステータスで誰が今回のテーマで勝者となるか予想していただけると嬉しいです。参加方法としては活動報告とあとがきの方に書きましたが、お手数ですが活動報告にてよろしくお願いします。アンケートではないので感想でも大丈夫だとは思うのですが、念の為と言う事でお手数だと思いますが、どうかよろしくお願いします

なお的中させた方には……私に出来ることとなりますので、リクエストやオリキャラの受付など、私に出来る範囲で要望に応えたいと思っています。


別件リポート プチトトカルチョ開幕!その1

 

その日神魔の最高指導者は天界にも魔界にも極秘で会談を行っていた……

 

「……キーやん。計画総崩れやんか?」

 

「……言わないでください、サッちゃん……私もここまで動かないとは予想外でした」

 

キーやんことイエ○・キリス○とサッちゃんことサタ○はその表情を暗く曇らせていた……それほどまでに暗躍しているソロモン72柱アスモデウス・ガープの進撃が厳しい……

 

「なんでもっとグッと行かないんですかね!?私なら行きますよ、ええ、行きますとも!ガッツリ襲いに行って既成事実作成でゴールINですよ!?速攻で勝利者になれるのに何故そうしないのですが!?蛍さん!私の金貨2000枚ガアアアアアッ!!!」

 

……ソロモンではなく、横島のトトカルチョについて頭を抱えていたキーやんの絶叫が響き渡る。と言うか、天界の最高指導者が既成事実とか、襲いに行けとか言うのはいかなる物だろうか?

 

「いやいや、おちつきいって、元々時間が掛かるのは想定していたやろ?」

 

のほほんと笑うサッちゃんにキーやんがズビシっと指を向けて

 

「利益が無い!判りますか!胴元なのに利益が無い!払いが無いから参加者が増えない!だから私の懐が潤わない!」

 

「いや、あんさん。神様やろ?金って少し俗物てきすぎんか?」

 

先立つものが無ければ何も出来ない!と叫ぶキーやん。サっちゃんはむうっと呻く、確かに先立つ物がいるのは事実。しかし今はトトカルチョに新しく参加する人物……いや、神魔族の大御所もおらず最初の集金と度々賭けている人物に少し掛け金を増やすという程度しか資金が増えていない……

 

「しゃーないな。キーやん」

 

出来ればやりたい手段ではないけどなーと呟いてからサッちゃんがキーやんを呼ぶ

 

「受胎すればオールオッケーだとなんで判らないんですかね、もう天使を送りますか!?「おう、まてや」げぶうっ!?」

 

流石にその台詞は許容できなかったのかサッちゃんの裏拳がキーやんの顔面を穿つ、ダバダバと鼻血を流しふがふが言ってるキーやんにサッちゃんは

 

「プチトトカルチョやるで、結果が直ぐ出る奴。だから会いに行こうや、あいつに」

 

あいつって誰ですか?と鼻にティッシュを詰めながら尋ねるキーやんにサッちゃんはにやりと笑い

 

「ワイかてめちゃ会いたくないけど……ダンタリアンにな」

 

うげっと呻くキーやん、それに続くように呻いたサッちゃんはさっさと行こっと呟き、その場から溶けるように姿を消したのだった……

 

 

ソロモン72柱ダンタリアン、老若男女のありとあらゆる顔をもち、その顔を使い分ける変装の達人であり、科学と芸術に精通し人の心を映画のようにしてみせると言う能力を持つ、だがキーやんとサッちゃんが必要としているのはそれではなく……ダンタリアンだけがもつ、ありとあらゆる生き物の過去と現在と未来を記録した魔道書のほうだった。それを利用して結果が直ぐ出るトトカルチョを開幕することを考えたのだが……

 

「ソロモンの中でも指折りの変人なんでしょ?交渉できるんですか?」

 

「さぁ?」

 

全てを知るが故に慢性的な退屈に襲われ、更に滅多な事ではその魔道書を開くことも無く、そしてその退屈を紛らわせるためにとんでもないことをさらっと実行するダンタリアンは過激派にも穏健派にも中立派にも属さない、ある意味いつ敵になるか判らないと言う厄介な人物でもあった。そんなダンタリアンに会うと言う事でキーやんとサッちゃんはその表情をはっきりと曇らせているのだった……

 

 

 

 

薄暗い部屋に本をめくる音だけが響く、その部屋は異様な部屋だった、天井の高さと同じ本棚全てに百科事典ほどの厚さの本がこれでもかと詰められ、本棚以外の何も無い静寂に包まれた部屋……そしてその部屋の中心に置かれた椅子に腰掛けている人物もまた異様な雰囲気を持った人物だった……若いのか、年なのか、男なのか、女なのか、きっと正面に座っていたとしてもこの人物が男なのか、女なのか、若いのか、年老いているのか?それが判る人間……いや、神魔も居ないだろう。己を特定させない、それがこの魔神ダンタリアンの能力の1つなのだから……

 

「あのー?ダンタリアン……少しお時間よろしいでしょうか?」

 

「なー?ちょっとでいいんや?ワイらの話聞いてくれへん?」

 

私は読んでいた本に栞を挟み、小さく背中を伸ばしながら

 

「1万と4千17回だ」

 

はい?っと返事を返す神魔の最高指導者を見ながらその本を本棚に戻し

 

「この本を本来なら、1万と4千読んだ頃にお前らが来ると私の本には記録されていた、だがお前達は更に17回読むまで現れなかった。こんな不出来な預言者になんのようだ?」

 

遠まわしに私を避けていたな?と問いかけると更にうぐっと呻く最高指導者を横目に机の上に置かれた冷め切った紅茶のカップに手を伸ばしながら

 

「17回読むまえに来れば暖かい紅茶が飲めたのだがな。ああ、別に貴様らを責めているわけではないさ。私とこうして顔を見合す物などここ数千年全く居なかったのだから喜ばしいことではある。さぁ、冷め切った不味い紅茶を飲むがいい、それとも私の対応が不敬と言うのなら殺すがいい、怠惰と退屈には飽き飽きしていた所だ」

 

冷めた紅茶を差し出しながら呟く、ここで消滅すれば500年は復活しない、そうすれば暫くは退屈を紛らわせることが出来るだろう。500年もあれば下界も大きく変わるだろうしなと思っていると

 

「ダンタリアン。お前さんワイが送った手紙見た?」

 

手紙?そう言えばそんな物も来ていた様な気がするが……

 

「暖炉の薪が無かったから、数百年分の手紙と共に燃やしたかも知れん」

 

はぁーっと深い溜息を吐く最高指導者。そんなに重要な手紙だったのか……ふむ、少し思い当たる節を考えて見て……思い浮かんだのは1つだけだった

 

「安心するがいい、ガープとアスモデウスが訪ねてきたが断ったぞ?」

 

数日前に2人が尋ねて来て協力するように言ってきたが、まだガープとアスモデウスの計画は言っては悪いが青写真と呼べる段階だったので、もう少し考えさせてくれと返事をした。ガープはそれでも説得しようとしていたが、アスモデウスの言葉で渋々と言う様子で帰って行ったのを覚えている。まぁその代わりに私が集めている本を貸してくれと言われたので貸し与えたがと呟くとサタンがその表情を変えて、焦った様子で詰め寄ってくる

 

「ガープとアスモデウス!?いつ!?いつ来たんや!?」

 

む?あの2人の事ではなかったのか?最近魔道書を開いてなかったので何が起きるのか判らない。暇つぶしの一環だったが、それが仇になったのかも知れんな

 

「数日前だ。断ったら私の所蔵している本を数冊持ち帰って行ったぞ?あそことそこだ」

 

ぽっかり本が抜けている本棚を指差すとキリストが真剣な表情をして

 

「ちなみに持っていかれた本は?」

 

「ふむ……くだらない内容の本だぞ?亜空間に関する書物だ」

 

亜空間本来触れることも、侵入することも出来ない虚無の世界。そこを調べることなど自殺行為と同意義だ、私が以前退屈を紛らわす為に亜空間に触れた時は左腕と右足を持っていかれた。侵入者を拒む時空の落とし穴、そこに触れようなどと自殺以外の何者でもない

 

「亜空間か……ん、あんがと、覚えとくわ。んじゃ、ダンタリアン。本題に入ってもええ?」

 

本題?ガープとアスモデウスの事が本題ではなかったのか?わざわざ2人で尋ねて来たのだからそれが本題だと思っていた

 

「詳しく説明する前にダンタリアン。「横島忠夫」について調べて見てください」

 

横島忠夫?名前からして人間か……数百年前は人間にも面白いやつが居たが、現代でそんな人間が居るとは思えんが……まぁ良いだろう。言われた通り私は横島忠夫と呟いてから魔道書を開いた……

 

 

 

静かな部屋にダンタリアンが本を捲る音だけが響く、ワイは隣のキーやんに

 

(なぁ?何時間経った?)

 

(軽く8時間を越えていますね)

 

ダンタリアンは横島の過去・現在・未来を見始めてから、退屈に濁りきっていたその瞳は見る見る間に子供のような輝きを放ち、夢中でその魔道書を読んでいる。興味を持ってくれたのは助かるが、いつまでも座ったままと言うのは正直辛い……

 

(不味いなあ……時間がなくなる)

 

いつまでも自分の執務室を空けている訳にも行かないし、早い内に結果を知ってトトカルチョの紙も配りたいし……そろそろ読むのをやめてくれへんかなあっと思っていると

 

「ふ、ふっふははははははははッ!!!!」

 

突然ダンタリアンが高笑いを始めた。どうしたのかと見つめていると

 

「面白い!ああ、実に面白い!こんな愉快な人間は久方ぶりだ!!!くくッ!はははははははッ!!!!」

 

ついには髪をかき上げて笑い始めたダンタリアンは暫くの間笑い続け、紙に何かを書いてワイに差し出してきた

 

「横島忠夫の近辺で近々起きる女性問題だ。トトカルチョに使えるだろうよ」

 

魔道書を見てワイとキーやんの言いたいことを理解したのか、話を説明する前に応えてくれたダンタリアン。キーやんと一緒に手の中の紙を見ると異常なまでの達筆で4人の名前とその下にキスの言葉

 

「よっしゃー!これでまた集金できるーッ!!」

 

ガッツポーズをして叫ぶキーやん。もうこれどう見てもワイと立場違うよな……普通逆やろ?

 

「さっさと帰れ、私はまだこの続きを見たい。お前らが居ると邪魔だ」

 

シッシっと手を振るダンタリアン。ほんとこういうところはマイペースやな、自分の好奇心を満たすことだけを考えて、もうそれを満たす物が無いと知ったら自分の宮殿に引きこもった。生きているのに死んでいるとのと同じ状況のダンタリアンの顔が生き生きしているのに安堵しながらキーやんをつれて帰ろうとすると

 

「ああ、私が居なければ賭けは成立しなかったのだから当然の権利として集金の5%を渡すように、そうすれば定期的にまだ賭けの対象を提供しようじゃないか」

 

……ほんとちゃっかりしてるとワイは苦笑し、じゃ、またよろしくと頼みキーやんと共に神魔合同の会議室へと戻ったのだった……

 

 

そしてその日の夜。トトカルチョに参加している神魔全てに新しいトトカルチョの詳細が配られた

 

プチトトカルチョ 横島忠夫と1番最初にキスするのは誰でしょう?

 

※結果が出るまで最大2ヶ月!賭け表と共に送付した参加者の詳細で予想し、ガッツリ儲けましょうー♪

 

なおこの謳い文句を噴出して喋っているのはキーやんである。それを見た神界の重鎮が深い溜息を吐いたのは言うまでもない

 

※んで参加者4人なので重複賭けは禁止やでー♪あと参加者の横にステータス?見たいのがあるから参考にしたってやー

 

 

PS1 好感度・焦り度・積極度・乙女度・色の5段階評価やでー 色はまぁ?察してたってや?

 

PS2 ダンタリアンの監修の一口メモも参考にしてやー?

 

と朗らかなサッちゃんの言葉で説明は終わっていて、手紙が配られた神魔はその賭け表と詳細を見て追加の賭けに参加するのだった

 

「ふむ?ほほーう?うむうむ、小竜姫に小判40枚」

 

妙神山の孫悟空こと斉天大聖は迷うことなく、自分の弟子である小竜姫に……

 

「あら♪あらら♪これは面白そうねー♪んー個人的に応援したいから、勝ち目は無いと思うけどおキヌにルビー7個♪」

 

ソロモン72柱であり、穏健派の筆頭ゴモリーはおキヌちゃんに……

 

「ふ、迷う必要などありません。芦蛍に金貨1000枚ッ!!」

 

「早く仕事しなさーい。キーやん」

 

ぶっちゃんに監視されているキーやんは迷うことなく最本命の蛍に自分が持ちうる金貨全てを……

 

「姉上。お許しください、私は姉上も怖いですが、あの大姉上も怖いのです」

 

逆行前の世界では既に結婚していた姉がまだ魔界にいる事に恐怖しているジークフリートは、ワルキューレに睨まれる事を覚悟でブリュンヒルデに自分の給金をほぼ全額つぎ込んだ

 

「うっう……病院にも行かないといけないのに……大姉上の馬鹿ぁーッ!!!」

 

自分に賭ける様にとフルボッコされたジークフリートの絶叫が魔界正規軍の中に響き渡るのだった……

 

 

参加者紹介 

 

小竜姫 5.5倍 好感度20(未来80) 焦り度0(未来100) 積極度5(未来75) 乙女度5(未来15) 色0(未来150)

 

現在の小竜姫の好感度などは全体的に低め、まぁ竜族でも指折りの堅物なのでこの反応はある意味予想通り。しかし逆行してきた精神のみの小竜姫の好感度などは非常に高い、更に色の異常な高さもあり、未来が主導になればバックリ行く可能性が高い。しかし現在が主導なら勝利の目は低めとなるだろう

 

 

芦蛍 1.7倍 好感度200 焦り度100 積極度50 乙女度90 色5

 

トトカルチョの本命だけあり好感度などは非常に高い。今回のプチトトカルチョでも大本命と言えるだろう。しかしそれと同じくらい高い焦り度と乙女度で空回りする可能性も高い、横島本人の好感度も高いので何かのきっかけで本トトカルチョと共に勝利者となる可能性が非常に高い大本命であることは間違いない

 

おキヌ 9.8倍 好感度150 焦り度50 積極度90 乙女度40 色100

 

幽霊としては破格の能力を持っている。あそこまで物体に干渉できる幽霊と言うのはそうはいないと言えるだろう。こちらも本命の芦蛍と同様非常に高い好感度を持っており本来なら本命と言えるだろう。しかし幽霊である点が不利である為倍率は高め。しかしわが道を行く性格と幽霊と言う特性、そして非常に高い色から横島を襲撃する可能性は高く、大穴と言える

 

ブリュンヒルデ 11.7倍 好感度50 焦り度0 積極度10 乙女度40 色10 病み300

 

魔界でも有名な戦乙女。思い込んだら一直線の危険人物。どうも横島を見たことがあるらしく、今のところの自分の英雄として見ている。横島との面識は無いが、何をしでかすか判らないダークホース

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? に続く

 

 




次回からはまた長編リポートになると思います。タイガーと前回のリポートの義経を出して行こうと思っていますからね

タイガーを少し活躍させようと思っているので楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


トトカルチョ参加の方法ですが前書きにも書きましたが、活動報告のほうでご連絡してください。なお勝者のほうは本編でのほうで自然な流れで出てきます、予定ではリポート24か25辺りになります、勿論もう誰が?と言うのは決まっているので予想者が多いからと言う理由で変更したりはしませんのでご安心ください。

情報が今回のダンタリアンの分析と本編の今までの経過なので予想が立てにくいと思いますが、参加していただければ幸いです


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リポート22 英雄の見る夢は?
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回はタイガー寅吉や少し早いですが、ピートとシルフィーを学校に登場させようと思っています。そして今回のリポートを通じての敵は前々回のリポートで出た「義経」となります。今回も長編になると思いますが、どうかよろしくお願いします

なおトトカルチョの受付はこのリポート22終了までになるので、参加してくださる方は活動報告にてご参加よろしくお願いします


リポート22 英雄の見る夢は? その1

 

暗い夜道に響き渡る金属と金属がぶつかる音……それはしかし剣同士が奏でる音ではなく、鎖帷子が擦れ合う音だ……闇夜の中を進む長身の鎧武者……

 

「ぬぐう……わ、私は……」

 

満月の光に照らされたのは紅い鎧に身を包んだ鎧武者……義経だ。横島のサイキックソーサーで弾き飛ばされた衝撃で我を取り戻したが、増大していく破壊衝動と自身を殺した兄への恨み……それは義経の意志を飲み込み、再び破壊だけしか出来ぬ獣へと落とす為にその精神を削る

 

「わ、私は……憎んで……なんか……」

 

歯を食いしばり、その美しい顔に苦悶の表情を浮かべ、義経は足を引きずりながら再び闇夜の中に消えていくのだった……

 

「み、みちゃった……鎧武者のおばけえええ!?!?」

 

そして運悪く、その姿を見た女性の絶叫が周囲に響き渡るのだった……

 

「あーまた目撃情報が増えてきたわね」

 

翌日GS協会に出された紅い鎧武者の亡霊の目撃情報の多さに神代琉璃は

 

「よしっ、そろそろエミさん戻るって聞いてるし、アポを取って置きましょう」

 

呪術師である小笠原エミは公安から依頼を受けることもある、それよりも早くアポを取っておこうと呟き、電話に手を伸ばすのだった……

 

 

 

 

事務所に移転することが決まった次の日。間借りしていた唐巣神父の教会を掃除する為に教会へと訪れていた

 

「ふーん、オカルトGメンねえ?そう言う進路もあるんか?」

 

「ええ。オカルトGメン……正式には国際刑事警察機構の超常現象課に入りたいんです、横島さんもどうです?妖怪とかの保護とかをしている部署もあるそうですよ?」

 

なんであの吸血鬼は余計なことを言うかな?あんまり横島にそう言う話をするのは止めて欲しいんだけど……あーでも横島なら

 

「あーパスパス。俺そういう堅いの嫌だし、そもそもGSになれるのかも怪しいのに、そんなハードル高そうなのは御免だぜ」

 

私の想像通り、ピートさんの提案を断った横島は溜息を吐きながら、教会の隅を指差す。私は見ないようにしていたんだけど、横島の動きにつられてそっちの方向を見てしまう

 

「あれ、なんとかしてくれない?」

 

「すいません。何度も話はしているんですが」

 

ピートさんと横島の視線の先にはかなり衝撃的な光景が広がっていた

 

「みむうううう!!」

 

「しびびび……しびれるううううう」

 

先ほど横島の血を吸おうとしたシルフィーさんがチビの微弱な電撃によって痺れて倒れていた

 

「うきゅ」

 

しかもモグラちゃんも巨大化して、警戒している為とてもじゃないが、動くことなど出来ないだろう。もし動けば、あの鉄さえも引き裂きそうなモグラちゃんの爪の餌食だろうから……しかもシャドーボクシングの様に爪を振るっているのが中々恐ろしい

 

「本当すいません」

 

申し訳なさそうに言うピートさん。本当にお兄さんって言うなら妹をしっかり監視するくらいはやって欲しい物よねと思いながら

 

「オカルトGメンって事はピートさんはどっかの大学とか卒業してるの?」

 

雑巾を絞りに戻ったついでに尋ねると、ピートさんはきょとんっとした顔をしている。ま……まさか

 

「高校くらいは卒業してる?」

 

「いえ。僕はあの島育ちですから、学校とかは行ってないんです。それがどうかしたのですか?」

 

ピートさんの言葉を聞いて、深い溜息を吐く私を見た横島は感づいたようだ

 

「あのさ?それって公務員だよな?」

 

「ええ。そうですが?横島さんも芦さんもどうしたのですか?」

 

……本当島育ちって怖いわ。ここまで何回も聞いているんだから、普通なら何を尋ねているのか判るでしょうに……私はさらにもう1度深い溜息を吐いて

 

「ピートさん。国際刑事警察機構の超常現象課に入る最低条件って……高校卒業ですよ?」

 

「!?!?」

 

今知ったと言わんばかりの顔をしているピートさんを見て、私は再び深い溜息を吐くのだった……

 

 

 

 

その日私は地獄組の組長に霊障について相談を受けていた

 

「やっぱりもう。ワシはやくざを引退するほうが良いんか?」

 

「まぁそうなるかな……私のあげたお札がこの有様だし?」

 

最近うなされると聞くので呪いと幽霊に対するお札をあげたんだけど、真っ黒に染まっていてその効果を完全に失っている

 

「し、しかし……ワシは組長として……」

 

「それで呪い殺されても良いなら続ければ良いと思うわよ?」

 

組長の姿を見ると何人もの幽霊が纏わりついているのが見える。流石にこれを除霊するのは骨だし、除霊してもまた同じ事の繰り返しだと思うし

 

「なんとかならんのか?」

 

「イタチゴッコにしかならないと思うわよ?別に私は何度もお金が貰えるからいいけど」

 

最初はエミが呪いを掛けているのかな?と思っていたが、そういう痕跡は無かった

 

(もう琉璃が連絡してくれたのかな?)

 

エミは1度に1つの依頼しか受けない、オファーを受けた時点で別の依頼を受けることは無い。だから今回の霊障は完全に組長を恨んでいる人間とかの仕業だ

 

「まぁ大親分さんに相談して、そう言う道から足を洗う事を決めたらまたこれば?そうすれば除霊してあげるから」

 

肩を落として出て行く組長を見送っていると

 

【どうして除霊を断ったんですか?何回も来てくれるなら良い儲けになるんじゃ?】

 

壁から顔を出したおキヌちゃんがそう尋ねてくる。確かに何度も除霊に来てくれる相手って言うのはかなり美味しいお客なんだけど

 

「多分だけど除霊の費用よりも除霊に使う道具の方が高額になりそうだからね」

 

1回や2回なら準備してある除霊具でなんとかなると思うけど、何回も来られるとその度に赤字に近づいていく

 

【そんなに厄介な幽霊だったんですか?】

 

「蛇っぽい幽霊だったからね、地上げした土地かなんかに忘れられた神でもいたんじゃないの?」

 

そう言う場合の幽霊って言うのは厄介なパターンが多いから、本当に組長がやくざから足を洗わないと除霊しても除霊しても同じ事。もう組長も足を洗う時期が来たんじゃないの?とおキヌちゃんに説明していると

 

【オーナー。玄関の所に強い霊力を持った女性が訪れていますがどうしますか?】

 

ふーん、思ったよりも早かったわね。義経の実害が出る前にどうするかを話し合いたかったから良いタイミングね

 

「私の知り合いだから通してくれる?」

 

【了解です】

 

さてと、じゃあ後は……っと、私は机の引き出しから今の段階で手にしている義経の情報を用意しながら

 

「おキヌちゃん。お茶を用意してくれる?」

 

【はーい!じゃあ用意してきますねー】

 

キッチンに向かっていくおキヌちゃんと入れ替わりにエミが所長室に入ってきて

 

「令子、ずいぶんと良い場所に新しい事務所を構えたじゃないの」

 

渋鯖 人工幽霊壱号の存在に気付いているエミ。もしかするとこの事務所がエミの物になっていた可能性もあるから、良いタイミングで渋鯖 人工幽霊壱号が尋ねて来てくれたわねと思わず安堵した

 

「それで?琉璃に聞いたけど、今回のヤマは強力な精神感応能力者が必要って聞いてるけど、どんな事件なのよ?」

 

琉璃詳しく話をしてなかったのね。でもこれは良い対処だったかもしれない、義経と聞けばエミでも渋い顔をしていたと思うからね。私がなんと説明しようかしら?と考えていると

 

「まぁ妙神山でパワーアップした私の現場復帰の最初の仕事だから、簡単なのじゃ困るけどね」

 

「ふーん。それなら丁度良かったわ」

 

私は義経の資料をエミの前において、にっこりと笑いながら

 

「魔族に操られて暴走している源義経を正気に戻して、除霊するわよ」

 

あれだけ言ったんだから断らないわよね?と笑いかけるとエミは

 

「……琉璃も令子も碌な死に方しないわよ」

 

「まぁまぁ、報酬はバッチリ出るんだから頑張りましょうよ」

 

はぁぁっと深い溜息を吐きながら資料に目を通し始めたエミに

 

「それで?その精神感応能力者の弟子は?一緒じゃないの?」

 

「学校に行かせてるワケ。まだ未成年だしね」

 

親御さんから預かる条件が、高校に通わせる事だったワケと呟くエミ。学校ねえ……あれ?もしかしてそれって

 

「○○高校?」

 

「……もしかしてオタクの所の横島の学校?」

 

うんっと頷くとエミは少し考える素振りを見せて

 

「まぁ良いか。霊能関係者が居るなら上手く行くでしょ」

 

「なんか訳あり?」

 

こくっと頷くエミ。まぁ霊能力者って案外訳ありが多いから横島君がなんとかしてくれるでしょと思っていると

 

【美神さーん、エミさーん、お茶が入りましたよー】

 

お茶を持って来てくれたおキヌちゃんにお礼を言って、私は義経の目撃情報を纏めた資料に目を通し始めるのだった……

 

 

 

 

 

「ああー久しぶりの学校だなあー」

 

ぐぐーっと背伸びをしながら呟く、前の天竜姫ちゃんの事とか、あの義経の事とかもあってしばらく学校に来てなかったからずいぶんと久しぶりに来た様に思える

 

「みむうー」

 

「うきゅー」

 

机の上に寝転がって真似をしているチビとモグラちゃんに苦笑していると

 

「みんなーニュースよ!ニュース!!!」

 

愛子が机を担いで教室の中に走ってくる、こういう所を見るとやっぱり愛子も妖怪なんだなあと思う

 

「なんだー?どうした?」

 

「よ、横島君!?あら、嫌だ」

 

ほほほっと言う感じで口元に手を置いて机を置く愛子。いや、今更おしとやかに振舞ってももう遅いと思うんだが……

 

「それで?ニュースって何だ?」

 

「え、えーとね。転校生が来るんだって……それより、久しぶりね。元気してた?」

 

そう尋ねてくる愛子に元気に決まってるだろ?と返事を返しながら転校生と聞いて

 

(すぐ動いたのかな?)

 

帰る時に唐巣神父に泣き付いているピートとシルフィーちゃんが居たから、転校生ってその2人何じゃ?と思っていると

 

「あんまり驚いて無い見たいね?」

 

「んー知り合いかもしれないしなー?」

 

そうなの?と呟く愛子と見ているとガラリっと扉が開く音がする。すると愛子の顔が引きつっているのが判る、うん?どうしたんだ?ピートかシルフィーちゃんならそんなに驚くことは無いと思うんだが?

 

「ねえ?あの巨人が横島君の知り合いなの?」

 

巨人?愛子の言葉に首を傾げながら振り返るとそこには……身長2Mは超える巨人がこっちを見ていた

 

「で、でかっ!?」

 

その余りに異様な風貌に俺を含めた全員が停止していると、その巨人は

 

「お、おなご!?……クラスの半分が……おなご!?!?」

 

クラスメイトを見るなりそう呟いて、だらだらと冷や汗を流し始めたと思ったら

 

「わ……わっしは……わっしはまだ、心の準備が出来ておらーんっ!!!!」

 

そう叫ぶなり扉を破壊して廊下へと飛び出していった……

 

「なんやあれ?」

 

「わかんないわよ」

 

俺の呟きに愛子が疲れたように返事を返すのだった……本当、さっきの巨人はなんだったんだろうな?

 

「あれー?先に行かせた転校生はどうした?」

 

あの巨人について考えていると担任が来て不思議そうに尋ねてくる

 

「さっき扉壊して出て行きました」

 

愛子が代表して言うと、後で扉修理しないとなーと呟きながら

 

「まぁ他にも転校生が居るから、そっちを先に紹介するか。おーい、入ってきてくれー」

 

担任が呼ぶと同時に教師に黄色い歓声が響く、予想通り教室の中に入ってきたのはピートで、俺に気付くと

 

「横島さん。良かったです、同じクラスに知り合いが居ると安心しました」

 

「へーへー、それは良かったな」

 

俺としてはクラスメイト全員の視線が集中して、居心地がかなり悪いんだけどな

 

「なんだ?横島知り合いなのか?」

 

クラスメイトのえーと……忘れたからクラスメイトAでいいな、Aが訪ねてくるので

 

「俺のGSの師匠さんの師匠さんの今の弟子」

 

だから顔見知りなんだと説明していると

 

「ふぎゃあ!?目がぁ!?」

 

最近良く聞こえた声が聞こえてくる。ま、まさか……驚きながら振り返ると

 

「うきゅ!」

 

いつの間にか巨大化していたモグラちゃんがその爪を振るっており、その足元を見ると

 

「くう……お、恐るべし……モグラちゃん」

 

目を押さえて蹲っているシルフィーちゃんが居て、俺はピートを見て

 

「ほんといい加減に!お前の妹何とかしろ!!!」

 

「すいません!すいません!!!」

 

学校生活の中でも後ろに警戒しないといけない生活なんて御免だぞ!と俺は思わずそう叫ぶのだった

 

「あーテストケースとして吸血鬼のピエトロ・ド・ブラドー君とシルフェニア・ド・ブラドーさんの編入が決定した。皆仲良くするように」

 

能天気な教師がそんな風にピートとシルフィーちゃんを紹介する中。俺は

 

「少しでいいから、血をーッ!!!」

 

目を紅く光らせて、鋭い牙を向けてくるシルフィーちゃんの腕を掴んで、必死に吸血攻撃を防いでいた

 

「ぬおおおお!!いい加減に諦めろぉ!!」

 

「みむーみむー!!!」

 

「うきゅー!うきゅー!!」

 

俺の血を吸わせまいとチビとモグラちゃんが攻撃しているのにもかかわらず、俺の腕を掴んで首筋に牙を向けてくるシルフィーちゃん。正直言って超怖い、ピート?あの役立たずは

 

「い、息が吸えない……」

 

シルフィーちゃんのボデイブローを喰らって蹲って痙攣している。役に立たないにもほどがあるだろう!?この吸血鬼

 

「てえい!!!」

 

「げふ!?」

 

もう駄目だと思った時。愛子が机の角でシルフィーちゃんを打撃し、意識を刈り取ってくれたことで、俺はこの危機を乗り越えることが出来たのだった……

 

「うう。ありがとう、愛子」

 

「ううん、気にしないで横島君が無事でよかった」

 

この時俺には愛子が聖女に見えてしまうのだった……いや、事実困っている時に結構助けてくれてるから真面目に聖女か女神かと思う時がある。主に課題が多いときに……

 

「あ。横島、さっき逃げた転校生探して来いよ?」

 

「なんで!?」

 

思い出したように手を叩いて言う、担任の指示にそう怒鳴ると担任は

 

「いや、なんか本当に人間なのか怪しいから、ほら、お前が適任。判ったら、さっさと行け」

 

なんと言う理不尽……俺は溜息を吐きながら、肩の上にチビとモグラちゃんを乗せてさっきの巨人の転校生を探して歩き出すのだった……

 

 

 

 

 

 

「うっう……ワシは情けないノー」

 

ワッシの恩人のエミさんの助手になる為に日本に着たのに、こんな有様じゃあみっともなくて話にならない

 

「……頑張って、エミさんの期待に答えんと……」

 

すーはーすーはーっと深呼吸を繰り返していると

 

「おーい、てんこうせー。早く教室に戻るぞー」

 

背後から声を掛けられ振り返ると肩の上にグレムリンと何かの小動物を乗せた、男子生徒がワシを見ていた

 

(グレムリン?それと一緒に居るということは……)

 

もしかしたら勘違いかも知れんのですが……

 

「もしかしてGS関係者ですかノー?」

 

「ん?まぁ一応。GS見習いだな」

 

おお!!まさかまさかの同業者が居るなんて!しかもこの人はさっきの教室に居た人ジャ

 

(し、知り合いがおれば怖くないかも知れん)

 

ワッシは人見知りが激しいから、知り合いが居るとなればそれだけでずいぶん気持ちが楽になる

 

「ワッシは小笠原エミさんの助手をしとる、タイガー寅吉ジャ!名前は?」

 

「俺か?俺は横島忠夫。美神さんの所でGS見習いをしてる」

 

美神……確かなんか依頼があるとかで相談に行くといっていた人の名前がそんなだった気がするノー?しかし

 

「グレムリンなんか肩に乗せて危なくないんですかノー?」

 

ワッシがそう尋ねると横島さんは笑いながら

 

「チビもモグラちゃんも大人しくて可愛いぞー?」

 

肩の上でみむーとうきゅーと鳴いている姿は確かに可愛らしい

 

「まぁチビとモグラちゃんの事は置いといて、タイガー。なんで教室から逃げたんだ?」

 

そう尋ねてくる横島さん。ワッシは少し考えてから

 

「ワッシは女子が怖いんジャー。どうしたらええんですかノー?」

 

しゃーねーなーと呟きながら横島さんはワッシの悩みを聞いてくれるのだった……遠い国に居る両親に初めて友達が出来るかもしれないとワッシは心の中で呟くのだった……

 

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その2へ続く

 

 




た、タイガーの口調がとても難しかったです……次回からは義経についての捜査をメインにしていこうと思っています。

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回からは義経捜索の話にして行こうと思います、かなりオリジナル要素を入れていくので突っ込み所はあると思いますが、どうかよろしくお願いします


 

リポート22 英雄の見る夢は? その2

 

あたしは溜息を吐きながら、横島とタイガーが通っている学校に向かっていた。

 

(騙された……)

 

GS協会からの正規の依頼でしかも報酬が良かったから引き受けたけど、蓋を開けてみれば。怨霊と化した源義経の除霊に、令子と共同の仕事……

 

「もう少し考えてから引き受けるべきだった……」

 

とは言え、もう引き受けている以上断ることも出来ない、何とかして死なないように任務をクリアすることだけ考えよう

 

(洗脳を解除するのにタイガーの精神感応能力を使うかぁ……)

 

魔族の洗脳に抵抗しているから洗脳を解除できる可能性があるとは言え……上手く行くかどうか……

 

(あれと……これと……あと……)

 

除霊道具を集める費用と報酬を考えると、赤字にはならないが、黒字にもならない微妙なラインだ……しかも相手はあの源義経……溜息ばかりが出てしまう。そんな事を考えながら車を運転しているとあっと言う間に高校に着いた

 

「早く横島とタイガーを見つけて、出掛ける準備をするワケ」

 

目撃情報の位置がどんどん移動している。最終的な目的地はきっとあそこだろう

 

(岩手県……)

 

東京から北上している事を考えると、目的地は恐らく岩手県にある自身の死地である衣川館だとあたしも令子も予測した。だから作戦としては先回りして準備すると言う事で話が決まった、向こうから来るなら待ち伏せするほうが勝率が高い。元々低い勝率がほんの僅かに上昇する程度だが、それでも備えておきたい

 

「さてと職員室は……」

 

転校したばかりで悪いが、早速仕事に取り掛かって貰おうと職員室を探していると

 

「女性恐怖症ねえ?俺にはそう言うの判らんわ」

 

「うう……なんでワッシは女性が怖いんジャ?」

 

横島とタイガーが高校の前のベンチでそんな話をしていた

 

「なにしてるのよ?オタクら」

 

今は授業中のはずなのになんでこんな所に居るのよと尋ねると

 

「あれ?エミさん?どーしたっすか?依頼でタイガー迎えに来たんっすか?」

 

のほほんと笑いながら尋ねてくる横島の肩の上には、グレムリンと何かの小動物。竜気を発しているから多分竜族だと思うんだけど

 

(またへんなのを捕まえてきて……)

 

令子の事務所って人外率かなり上がってるわよね、まぁこれも横島の才能だから仕方ないと思うけど

 

「そ、そうなんですかノー?」

 

「まぁそう言うワケ。今回は私と令子の共同の仕事になるから、横島。オタクも来るワケ」

 

まぁ職員室とかに行かなくて済んだから好都合と思いながら言うと

 

「そうっすか。じゃあ担任に説明してくるんでちょっと待っててください。チビ、モグラちゃん行くぞ」

 

みむう!うきゅっと鳴くグレムリンとモグラを肩に乗せて校舎の中に走っていく横島を見ながら

 

「今回の仕事はタイガー、あんたが頼りなんだからね。自覚を持って行動すること」

 

「わ、判りました……えっと……それで女子は?」

 

だらだらを汗を流しながら尋ねてくるタイガー。本当、もう少しこの女性恐怖症を何とかして……

 

(いや、アレを考えればこの程度で済んでるって思うべきね)

 

タイガーの精神感応能力が暴走すると、異常に女性にセクハラするようになる。両極端にもほどがあるのよねと思いながら

 

「4人ね」

 

令子と蛍におキヌとシズクの4人が来るから、4人だと言うとタイガーは凄まじい勢いで汗を流し始め……

 

「4!?4人んんん!?」

 

4人と聞いてひっくり返ったタイガーを見て、こんな調子で義経の除霊が出来るのかと激しく不安になるのだった……

 

 

 

 

 

美神さんの運転する車の中で資料に目を通す、エミさんとの共同依頼ってのは良いと思うんだけど

 

「美神さん。義経の除霊をこの面子でやるの自殺行為だと思うんですけど?」

 

小竜姫様の話によれば、義経は英霊と言って人間霊よりも上位の存在になっている言っていた。どう考えても私・美神さん・エミさん・シズクの4人で対処できる相手とは思えない、横島の能力は未知数だし、チビやタマモもそこまで戦力になるとは思えないし、それに最初から義経と戦うときいていたら、お父さんに何か除霊具を用意して貰ったのに……

 

「化け物になった義経はどう考えても説得が効く相手じゃなかったけど、今目撃されている義経は人間の姿をしているからね。それに抵抗している素振りを見せていたから、何とか言葉で説得して、動きが緩まった所を叩くか。結界の中に閉じ込めて封印するかの2つしかないわ」

 

運転しながら今回の計画を説明してくれる美神さん。でも話を聞いてもどう考えても成功するとは思えない

 

「……お前はまたこんな危険な除霊を横島にさせるつもりか」

 

シズクも怒っているのか髪が逆立っているのが判る。ゆらゆらと動いていて、蛇のように見えて少し怖い

 

「し、シズクが怒ってる……」

 

「うきゅう!?」

 

「みぎゅあ!?」

 

チビとモグラちゃんがその姿を見て怯えて、同じく引きつった顔をしている横島の服の中に隠れようとしているし……流石水神であり、竜神。凄まじい威圧感だ。唯一平気そうにしているのはタマモだけで、膝の上に寝転がって寝息を立てている

 

「今回ばかりは仕方ないわ。前みたいに暴走して暴れまわる前に何とか手を打たないといけないから、本当は唐巣先生とか、くえすにも協力してもらいたかったけど、2人とも連絡が取れなかったみたいだから……私達でなんとかしないといけないの」

 

そうは言っても、今回の除霊はどう考えても無謀としか思えない

 

「一応エミの弟子のタイガー寅吉って言うのが精神感応能力者だから言葉を交わすことは出来ると思うから、それが頼みの綱ね。最悪義経を精霊石の結界で完全に封印して、後で唐巣先生とくえすと4人体制で除霊することになると思うわ」

 

その言葉を聞いて、今回は除霊が目的ではないと言う事が判った。読んでいた資料を閉じて

 

「……今回はあくまで観察および封印が目的と言う事ですか?」

 

「ええ。私は別に義経を舐めているわけじゃないわ。でも前の化け物の姿の事もある、人的被害が出ないとも限らないわ。それでもし義経堂が壊されたら?」

 

そうなれば義経の魂は確実に荒魂となり、確実に人間に甚大な被害をもたらすだろう

 

「言葉が通じるなら、なんとか言葉で除霊か説得を試みる、駄目なら結界で封印する。これは急がないといけないことよ」

確かにあの時の化け物の姿は今も私の脳裏に焼きついている。あんなのが出鱈目に暴れまわったらそれこそ大変なことになる

 

「はぁ……判りました。でも今後はこういうのは無しでお願いします」

 

今回は急ぎだから少数精鋭で動いているとしても、相手が相手だ。もしかすると全滅の可能性があるのだから、今後はこういうのは絶対に無しにしてくださいと言うと美神さんは判っているわと返事を返す

 

(今回のは多分琉璃さんね)

 

多分源義経と遭遇した事を考えて美神さんに依頼を出したんだと思う。

 

「あのさ?蛍。今どこに向かっているんだ?」

 

私と美神さんの話の邪魔をしてはいけないと思っていたのか、今まで黙っていた横島がそう尋ねてくる。私は目的地を聞いてるけど、横島は殆ど制服のまま車に乗せたから、目的地が判ってないか

 

「岩手県の義経堂って所。義経が北上しているらしいから、多分義経の目的地はそこだと思う」

 

壇ノ浦の可能性もあったけどねっと心の中で呟く、でも正直壇ノ浦だと罠とかを張ることも出来なかったので義経堂に向かっているのは正直言って都合が良い。海って言うのは浮遊霊や地縛霊が多いから

 

「岩手かぁ……俺着替え持ってきてないけどなー」

 

どうしよっか?と呟く横島にシズクが

 

「……問題ない。私が全部用意した」

 

シズクが自分の膝の上に鞄をぽんぽんっと叩きながら、ドヤ顔をする

 

「うえ?」

 

間抜けな声を出した横島はえうえうとか訳の判らないことを呟いている。シズクに着替えを用意してもらったと聞いて、気恥ずかしくなったのだろう

 

「美神さん。どこかで休むんですか?」

 

東京から岩手に行くにはスムーズに行っても、6時間は掛かる。まさか一気に行くって事は無いだろうと思い尋ねると

 

「仙台にホテルを取ってるわ。そこで一泊して、準備を整えて岩手に入るわ」

 

ホテルに予約。急な話だった割には準備がいいですねと言うと、美神さんは笑いながら

 

「いやー実はおキヌちゃんに仙台に行って貰ってホテルを予約してもらってるのよ」

 

姿が見えなかったおキヌさん。どうしたんだろ?と思っていたんだけど、まさか1人で仙台に行っているなんて……

 

(大丈夫かしら)

 

仙台の霊媒師とか呼ばれて除霊とかされてないかな?と私はおキヌさんを心配しながら

 

「……トランクスとボクサーの両方を入れておいた」

 

「やめえ!そんなこと言わないで!」

 

クールな口調で横島の下着の種類を告げるシズクに横島は顔を面白いくらいに赤くなって、耳をふさいでいる姿を見て、私は思わず噴出してしまうのだった……なお、その頃おキヌちゃんはと言うと

 

【えーと、東京から美神令子さんと小笠原エミさんが来るのでホテルの部屋をお願いします】

 

「は、はひい!」

 

幽霊のおキヌちゃんに部屋の予約をされているホテルのオーナーが冷や汗を流しながら、返事を返していたりする……

 

 

 

 

 

ホテルの温泉で汗を流し、自分の部屋に戻る途中のベンチに腰掛けて窓の外を見ながら、今日起きたことを思い返していた。高校にエミさんが迎えに来て、即座に車でここまで来たけど……

 

「うーむ、俺は役に立つのかねえ?」

 

タイガーはなんかの特殊能力があるらしいけど、俺に出来ることなんて殆ど無い。どうしてここに連れて来られたのか理解できない……今蛍達は明日の打ち合わせをしている中、風呂に入っていた事もあり、どうも俺がここに居るのが場違いに思えてくる……

 

(あん時の霊力の盾が使えたらなあ……)

 

1度義経を弾き飛ばしたあの霊力の盾。もしかしたら使えるかもっと思い右手に力を込めるが、ジジッと手から音がするだけで霊力の盾が出る気配はない。はぁっと深い溜息を吐いていると

 

「横島さん?何をしてるんですジャー?」

 

タイガーが首からタオルを提げてのっしのっし歩いてくる

 

「んーいや、なんで俺が連れてこられたのかなあーってな」

 

特に出来ることも無いのになあっと言うとタイガーは

 

「そんなことは無いと思うケン。なんでそこまで自分を卑下するんですジャー?」

 

「いや、俺全然出来ること無いじゃないか」

 

蛍みたいに霊の知識があるわけじゃないしと言うと、タイガーは失礼するジャーっと言って

 

「横島さんは凄い人だと思うんジャ」

 

俺には何も出来ないって言っているのにこいつは何を言っているんだ?と思っていると

 

「よく周りを見ているし、イザって言うときの勇気もある。エミさんに聞いたんじゃが、神代琉璃さんを助けた時横島さんが頑張ったと」

 

あんときは夢中でやったから自分で何をやったなんか覚えてないと言うと

 

「ワッシも同じジャー?ワッシの精神感応は強力すぎて、エミさんが制御してくれんとすぐ暴走してしまうんジャ」

 

強力だからいいじゃねえかと言うとタイガーは恥ずかしそうに自分の頬をかきながら

 

「暴走すると、ワッシ女性にセクハラをしてしまうんじゃ」

 

暴走って聞くとよっぽどやばい事になるんじゃ?と思っていたんだが、まさかのセクハラしてしまうという言葉に俺は即座に

 

「なんでやねん」

 

暴走して女性にセクハラするってどんな暴走や……思わず突っ込みを入れると

 

「女性恐怖症の反動だと思うんじゃが、暴走するとセクハラしまくってしまうんじゃ」

 

こいつが能力を使っている時。絶対蛍とシズクを近づけないようにしようと俺は心に誓うのだった。なおタイガーは窓の外を見ながら

 

「何人ものGSがワシの精神感応能力を制御するといって弟子にすると言って来たんじゃが……結局駄目でやっとエミさんのおかげで能力が制御できるようになったんじゃ」

 

それでも時間制限があるケンノーっと笑ったタイガーは

 

「ワッシだって能力が暴走して役立たずになることがあるんじゃ、そんなに深く考えないほうがええと思うんジャ」

 

なんだ、あーだこーだ言いながら、タイガーは俺を励ましてくれてたのか

 

「あんがとよ。ちょっと楽になった」

 

「明日はきっと忙しくなると思うからお互いに頑張るんじゃー」

 

にかっと笑い返すタイガーにおうっと返事を返し、俺は部屋で待っているチビとモグラちゃんの為にお菓子とジュースを買って部屋へと戻るのだった……その日、俺は奇妙な夢を見た。着物を着た少女が泣いて俺に何かを訴えかけてくるのだが、俺にはその言葉が聞き取ることが出来ないのだったが

 

(なんて悲しそうな顔なんだ……)

 

涙を流し、その目に強い悲しみの色を浮かべた少女の顔がどうしても俺は忘れることが出来ないのだった……

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その3へ続く

 

 

 




今回は少し短めの話となりました。次回はその分長くしていこうと思っています、多分戦闘回に入りますしね

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです、今回は戦闘開始まで持って行きたいと思います。かなりオリジナル要素にちょっと強引な話しの進め方になっている部分もありますので、どうか広い心でお願いします、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その3

 

仙台のホテルで一泊した次の日の朝。ホテルのフロントから琉璃から電話があったと教えられ、電話を繋いで貰ったんだけど、正直言ってかなり眠くてそのまま切ろうとしたんだけど、次の一言で一気に目が覚めた

 

『目撃位置が一気に飛びました。昨日の深夜3時頃に福島と宮城の県境で目撃されています』

 

車で移動して、義経よりも先に岩手の義経堂に到着して罠を仕掛けるつもりだったけど、思ったよりも移動スピードが速い

 

「それ以降の目撃情報は?」

 

『県境で目撃されてから情報はありません。ですが、行き成り山林の一部が消えたと言う情報があります』

 

山林が消し飛んだ……これはどう考えても義経の仕業ね。なんで山林を消し飛ばしたのか判らないけれど……

 

『それ以降の目撃情報や、異常現象の目撃情報はないですが、急いだほうがいいと思います』

 

深夜3時に福島と宮城の県境……義経の移動スピードがどれほど上がったか判らないけど、急いで行動しないと不味そうね

 

「情報ありがと!じゃあ切るわよ」

 

『気をつけて』

 

琉璃の言葉に任せておきなさいと返事を返し、ただ事ではない気配を感じ取ったのかおキヌちゃんがホテルの床から顔を出して

 

【どうかしたんですか!?】

 

ナイスタイミング!私は急いで着替えながら

 

「皆を起こして駐車場に集めて!義経の目撃情報の位置が大幅に飛んだわ!急がないと間に合わなくなる!」

 

義経の目撃情報から移動スピードを割り出して余裕を持って行動していたけど、それが仇になった。ここまで一気に目撃情報が飛ぶなんて予想もしてなかった。ここからは休憩も無しで一気に岩手まで行かないと間に合わなくなる

 

【わ、判りました!横島さんと蛍ちゃんを起こしてきます!】

 

急ぐようにおキヌちゃんに頼んで荷物を纏めて部屋を出ると

 

「令子のほうにも電話があったワケ」

 

髪を縛りながら部屋を出てきたエミと鉢合わせる

 

「そうよ、話は後!早く出発するわよ!」

 

「言われなくても!」

 

ホテルの廊下を走り、エレベーターに滑り込むようにして乗り込み、地下駐車向かうのだった

 

「……もう!横島君とシズクは何をしてるのよ!!!横島君は起したんでしょ!?蛍ちゃん!」

 

先ほどエミとタイガーは先に行くと言って出発してしまった。横島君が来てないので出発できない、横島君は起したんでしょと蛍ちゃんに尋ねると

 

「横島は起きてます、横島は起きているんですけど……」

 

言いにくそうにしている蛍ちゃんにどうかした?と尋ねると、疲れた様子のおキヌちゃんが今の状況を説明してくれる

 

【……超低血圧のシズクちゃんが起きないので、横島さんが頑張って起そうとしています】

 

……なにやってんのよシズク……いや、でもミズチだし蛇だから血圧低いのは仕方ないのかしら?とは言え今はそんな事を言っている状況じゃないし起しに行くことを考えていると

 

「すんませーん!!!!」

 

横島君が背中にシズクを背負ったまま車に乗り込んでくる。それを確認してからドアを閉めるように言うと同時にアクセルを踏み込み、先に出発したエミ達を追いかける為に法定速度ギリギリで車を走らせるのだった……

 

 

 

 

 

私はシズクと同じ部屋だったから、おキヌさんに起されてすぐシズクを起こそうとしたんだけど

 

(あ、あの目は反則よ……)

 

眠いのかものすごく不機嫌そうな目で睨んできて、しかも竜気まで出してきて私とおキヌさんでは起すことが出来ないと思い横島に起こすように頼んだが

 

「ふぃー超セーフ」

 

「……」

 

ぐーっとまだ寝息を立てているシズクを膝の上に乗せて、汗を拭っている横島。

 

(ま、まだ寝てる……)

 

横島の背中に背負われた時点でかなりの振動があったはずだし、それに今車の運転でかなりの振動があるのにまだ寝てる

 

(シズクって相当朝弱いのね……)

 

朝横島の家に行った時にはいつも起きているけど、きっとかなり早起きして体調を整えているんだと思うのだった

 

「所で横島。チビ達は?」

 

姿の見えないチビ達のことを尋ねると横島は自分の横のリュックを指差して

 

「寝てて起きる気配が無かったからリュックに詰めて来た」

 

……いや、いくらなんでも対応が雑すぎない?私の視線に気付いた横島がリュックを開けると

 

「スヤスヤ」

 

「プーア……プーア」

 

「みむむむ……みむむうう」

 

丸くなって眠っているタマモの尻尾に埋もれるようにして、眠っているチビとモグラちゃん。起きる気配は全く無い

 

【良く寝てますねー】

 

「おう。だから起すと可哀相だからな、起さないように気をつけてリュックに入れたんだ」

 

気持ち良さそうに寝ているタマモ達を見て笑っている横島を見てつられて笑ってしまう。やばい状況なのに、自然とリラックスできる。

 

(うん、良い感じで力が抜けた)

 

美神さんの話を聞いて、強張っていた筋肉がほぐれるのが判る。やっぱり緊張し、身構えてしまっている状況よりも自然体の方がいいわね

 

「……うー」

 

私達の笑い声が聞こえたのかシズクがうっすらと目を開ける。やっと起きたみたいね、この寝ぼすけ竜神は……

 

「起きたか?シズク」

 

横島がそう尋ねるとシズクは小さく頷いて、目を擦りながら周囲を見て小さく首を傾げながら

 

「……ホテルじゃない?ここは……」

 

右を見て、左を見て、正面を見て自分が横島の膝の上に居ることを理解したシズクは

 

「……横島?」

 

「ん?どうした?」

 

横島の名前を呼んだと思ったら、いつもの無表情の顔が目に見えて動揺した物になり、そして……

 

「……ふんッ!!!」

 

「ぐほおっ!?」

 

拳と拳ほどの隙間しかないのにも関わらず、凄まじい威力のボデイを横島の腹に放ち、横島の膝の上から降りて

 

「……うー」

 

自分に掛けられていた毛布を頭からかぶり、うーっと唸っていた。毛布の隙間から見える恨めしそうなシズクの視線

 

(こういう姿を見ると外見相応って感じで可愛いわね)

 

本当は私よりも年上で、遥かに強い力を持つシズクを見て、私は心の中でそう呟くのだった……

 

「うおおお……ワイが何をしたぁ……」

 

【大丈夫ですか?横島さん】

 

なお強烈過ぎるボデイを喰らった横島は脂汗を流しながら、座席の上で腹を押さえて蹲っていたのだが、その内痛みのせいなのか意識を失っていたので、バンの後ろに横にすることにしたのだった……

 

 

 

 

 

痛い……全身に走る激痛に顔を歪めながら、山の中を進む。いっそ狂ってしまえば……この痛みからも解放されるのでは?と言う考えが頭を過ぎるが

 

(何を馬鹿な……)

 

狂ってしまえばと思った瞬間脳裏に過ぎったのは、あの港での異形としての己の姿……ただ怒りのまま、絶望のまま周囲を破壊していた自身の姿……

 

(あの様な姿に二度となるわけには……)

 

あの時港に居た少年の翡翠色の一撃、それの痛みによって再び我を取り戻し、人の姿に戻る事が出来た。ならば再び魔獣となる事を誰がよしとする事が出来ようか……

 

「やはり……最後はあの場所で……」

 

身体の中で脈動している闇は今は収まっている。今のうちにあの場所へ……私の最後の場所で……自刃し果てたい……

 

【憎いのだろう?】

 

「ぐあっぐうう!?」

 

目的とした山が見えた時。脳裏に私を呼び起こした魔族の声が響く

 

【お前は兄に尽くした】

 

【だが兄はお前を殺した】

 

【憎いのだろう?】

 

繰り返し、繰り返し脳裏に響く魔族の声。その声が脳裏に響く度に、全身に走る痛みが激しくなり、意識が消えかける

 

「うるさい!黙れぇッ!!!」

 

腰の2本の刀を抜き、周囲の木々を出鱈目に切り裂く

 

「はーッ……はーっ……」

 

どれほどそうしていたか判らないが、いつの間にか脳裏に響いていた声が消えている……

 

「ぐ……はーッ……はーっ……」

 

木に背中を預け、右手を持ち上げると手が透けて見えている

 

「……今ので大分霊力を使ったか……」

 

英霊と化した身であれど、その魂の内容量は決まっている。あれだけ霊力を使えば、一時的に自身の存在を保つのが難しくなるのも道理……

 

「くっ……行くか……」

 

刀を杖代わりにして立ち上がる。死ぬのなら……消えるのなら……私にはあそこしかない。自身が死に、兄に裏切られた場所ではあるが……それ以上に……

 

「思い出がある……」

 

再び私が死ぬのならば、あそこしかない……私は全身に走る痛みに耐えながら、再び山の中を歩みだすのだった……

 

 

 

 

 

またこの夢だ、どこかの屋敷で泣いている小柄な少女。夢だというのにやたらそれは鮮明で、周囲の建物や、その少女を見ている周りの人間の声までしっかり聞こえてきた。大勢の人間が泣いている少女を見ているのに、誰も声を掛けない。俺はそれを見ていることしか出来なくて、そして誰かがその少女に近づいた時。俺は目を覚ますのだった……

 

「……うーむ」

 

シズクのボデイブローの痛みで意識を失っている間に見た夢。それがどうしても気になり、到着した義経堂の外で腕を組んで考え込む。もちろん頭の上では

 

「みむう」

 

最近俺の真似が好きなのかチビが短い前足で頑張って腕組して真似をしている。美神さん達が今義経堂の周囲に結界を張る許可と観光客を遠ざけるように打ち合わせをしている。だからその話がまとまるまで、こうして美神さん達を待っているのだ

 

「……そんなに痛かったか?悪かった」

 

「あーいや違う違う」

 

どうも腕を組んでいるのが腹を押さえているように見えたようで、シズクが謝ってくるので違う違うと笑いながら言う。痛いことは痛かったが、いつまでも痛い訳じゃない

 

「……じゃあ何を考えているんだ?」

 

もしかしてシズクならあの夢の事が判るかな?俺は少し考えてから

 

「へんな夢を見るんだよ。でっけえ屋敷で女の子が泣いてるんだ」

 

それもこの場所に近づくにつれて鮮明になって来てと言うと、シズクはふむっと小さく頷き

 

「……誰かと横島の魂の波長が合っているのかもしれない」

 

魂の波長?俺が首を傾げるとシズクは頭の上のチビを指差して

 

「……チビがお前に懐いているのは生まれたときにお前を見ただけじゃない、グレムリンが好む霊的波長をお前の魂が放っているからだ」

 

そーなの?頭の上のチビを抱っこして顔の正面に持ってくると

 

「みむう?」

 

なーに?と言わんばかりに首を傾げている。うーんとてもそんな物を感じ取っているようには思えない

 

「クウン?」

 

俺とシズクが何かの話をしているのを見て、タマモが足元に擦り寄ってきたので抱っこすると

 

「クーン」

 

すりすりと頬を摺り寄せてくるタマモ。ぽかぽかと暖かいから抱っこしていると何か安心するなあ

 

「……もしかするとお前が見た夢はタマモの前世の記憶かもしれないな」

 

そう言われるとなんかそんな気がするなあ……きょとんっとした目で俺を見ているタマモを見ていると

 

【周囲を見てきましたけど、今の所強い霊力の反応は無いです】

 

周囲の警戒をしていたおキヌちゃんが戻ってきて報告してくれる。そっか、今の所近くに義経は居ないのか

 

「ほーっ……やっと安心したのジャー」

 

ベンチに座って結界札を手にして、さっきまで青い顔をして震えていたタイガーが溜息を吐きながら呟くので

 

「お前は警戒しすぎだ。馬鹿」

 

こんな真昼間から幽霊が出るかよ。それにもし現れたのなら、襲撃に備えて残ってくれているシズクが居るのだから、きっと何とかしてくれる筈だ

 

「ううっでも怖い物は「うきゅーっ!!!」ほわたああああ!?」

 

久しぶりの山の中と言う事で、地面を潜って遊んでいたモグラちゃんが地面から飛び出して泡を吹いてひっくり返るタイガー

 

「……こいつこんなので退魔師になれるのか?」

 

【無理だと思いますけどねー。こんなに可愛いモグラちゃんで気絶してたら】

 

うきゅ?地面から顔を出して何かした?と言わんばかりに首を傾げているモグラちゃんを見て、俺もタイガーがGSになれるのか?と思った。溜息を吐きながら腕時計を見る、もう少しで2時間か……

 

「はぁ……そろそろ準備に取り掛かるか」

 

2時間経っても戻って来なかったら、結界などの準備をしていてくれと言われていた

 

「……そうだな。そろそろ始めるか」

 

「よろしく頼むぜ。シズク」

 

俺は正直結界とかの作り方なんて判らないから、シズクの指示に従って俺は結界を作る準備を始めるのだった……

 

 

 

 

 

 

ここら辺の土地を所有している地主達に話をつけて周囲に結界を張る許可を得ることは出来たけど、予想していた時間を遥かに越える時間が掛かってしまった、来た時はまだ昼間だったのに、もう辺りは茜色に染まっている

 

「美神さん。馬鹿って多いんですね」

 

車の方に戻りながら、蛍ちゃんが背伸びをしながら呟く。私も座ったままでずいぶんと疲れたので同じように背伸びをしながら

 

「まぁね。あの源義経の幽霊って聞いたら、金に目がくらむのも判るけどね」

 

源義経が魔族に操られて暴走しているから、観光客達の立ち入り禁止と避難をお願いしたら。何とかして義経を捕縛して観光名所に出来ないか?っと持ちかけてきた

 

「まぁエミのおかげで直ぐ済んで良かったわ」

 

「本当はこういうのはやらないんだけどね」

 

はあっと溜息を吐くエミ。暫くの間観光客を呼ぶことが出来ないのだからとか、プロのGSなのだからそれくらい何とかできるだろう?とか言う馬鹿共を見て、エミが即席で呪いを掛けて馬鹿共を脅かして脅えさせる事でやっとスムーズに交渉が進んだのだ

 

「……嫌な空気ね」

 

横島君達が待っている義経堂の方に戻っている最中。首筋にちりちりっと来た……それに周囲の空気も急激に冷え込んできたのが判る

 

「急いだほうが良いワケ。じゃないと準備が出来ない」

 

エミもどうやら感じ取ったようだ。急激に近づいてくる強い霊力の存在に……

 

「横島とタイガーさんが準備をしてくれている筈だから急ぎましょう」

 

「まぁたぶん半分くらい出来ていればいい所よね」

 

エミの若干いやみの篭った言葉だが、確かに半分出来ていれば御の字だろう。予定ではもっと早く戻って指示を出しながら準備をする予定だったのだから、蛍ちゃんの言葉に頷き、横島君達が待っている場所に向かうと

 

「モグラちゃん。ここからここまで穴を掘ってくれ、タマモは狐火の力を調整して落ち葉を頼む。チビは放電して手元を明るくしてくれ」

 

「うきゅ!」

 

ザックザックっと凄まじい勢いで穴を掘っていくモグラちゃんに

 

「クー」

 

小さな小さな狐火で落ち葉を焼いていくタマモ

 

「みむう!!」

 

そして小さく放電し横島君の手元を照らしているチビ……

 

(連携が凄い取れてるわね)

 

チビもモグラちゃんもタマモも横島君の指示に従って、結界の準備を進めている

 

「おキヌちゃーん。ちゃっと形になってるー?」

 

【大丈夫ですよー、あともう少しで完成しそうですー】

 

忙しく動き回りながら結界の準備をしている横島君。これもう殆ど完成しているんじゃ……

 

「……遅かったな。何かのトラブルか?」

 

シズクが水を操って鉄の柱を運びながら尋ねてくる。ちょっと呆然としていたが

 

「え、ええ。ちょっと地主とかとね揉めてて。まぁ許可は取ったから良いんだけど」

 

まぁそんな物無くても、結界を作るつもりだったけどと心の中で呟く、相手の能力の方が遥かに高いのだから、結界などの準備をして相手の能力を削ぐことを考えるのは当然の戦略だ。無論義経が言葉を聞くだけの自我を保っているのなら、交渉で終わらせるつもりで居るけどね

 

「……そうか。結界は私達だけで準備が終わる。少し休んでいるといい」

 

シズクの指差したほうにはキャンプ用の椅子に机。さらにおにぎりなども用意されていて……

 

「ずいぶん準備がいいのね」

 

蛍ちゃんが引きつった顔で尋ねると、シズクは柱を地面に打ちつけながら

 

「……横島とチビ達が頑張った、あのタイガーとか言うのは気絶していて役に立たなかったからな」

 

えっと私達が顔を見合わせると、最後の結界の柱に精霊石を埋め込んだ横島君が

 

「お疲れ様でーす!どうっすか!ちゃんと出来てますかねー?」

 

指示書をその手に持ちながら尋ねてくる横島君。まだ確認はしてないけど、見ている分には完成しているし、ちゃんと結界として機能をしているのが判る

 

「横島。オタクずいぶんと器用なワケ」

 

気絶しているタイガーを見て額に青筋を出しているエミが横島君に尋ねると

 

「んー手先は器用なほうだと思いますよ?模型作りとかも得意ですしねー」

 

模型作りと結界作りを同じに思われたら困るけど、シズクの補助があったとは言え、結界を作り上げた事を考えると

 

(んー今度機会を見てカオスに預けて見てもいいかも)

 

除霊具の作成が出来るGSになれば、出費が少なくなるし……また意外な横島君の才能が見えた瞬間だった

 

「それでタイガーさんはどうして気絶してるのよ?」

 

そう、それよ。まだ幽霊とかも出てきてないし、なんでタイガーが気絶しているのか?それが気になっていた。尋ねられた横島君とシズクは言い難そうにしている、まさかシズクが何か?

 

【地面からモグラちゃんが出てきて、それを見て驚いて気絶しちゃって】

 

泥まみれのモグラちゃんに水を掛けて、タオルで綺麗に拭いてあげていたおキヌちゃんがタイガーが気絶した理由を教えてくれた。そしてその理由を聞いたエミは

 

「このッ!馬鹿っ!!あんた何しにここに来たの!!あんな小さい妖怪に驚いて気絶って何考えてるの!!!」

 

「う、うひい!?ええ、エミさん!?いやその「問答無用!!!」あんぎゃああああっ!!!」

 

エミにたたき起こされ、ぼこぼこにされて再び気絶したタイガー。まだ話は終わってないわよ!!っと言って再び蹴り起されているタイガー。

 

「南無……さてと、美神さん、蛍。シズクとおキヌちゃんが簡単な食事を用意してくれたから、食べて休憩してください。俺はさっき作業しながら食べましたから」

 

んじゃ、俺は汚れて居るタマモとチビを綺麗にしてくるんでっと言って鞄からタオルを取り出している

 

「……水は私が用意しよう」

 

「サンキュー。じゃ行くぞー、チビ、タマモ」

 

みむうっ!コーンっと鳴く埃まみれのチビとタマモを連れて離れていく横島君

 

【あ、横島さーん、私も手伝いますよー】

 

「うきゅきゅー」

 

その後を楽しそうに鳴いているモグラちゃんを抱きかかえて、飛んでいくおキヌちゃんを見ながら私は思わず

 

「横島君は縁の下の力持ちって感じね」

 

「ですね」

 

思わずそう呟いた私に蛍ちゃんが同意する。横島君自身はまだ何も出来ないと自分を追い詰めている見たいだけど、こうして除霊しやすいように準備をしてくれているので私は十分感謝している。これでまぁもう少し落ち着いてくれれば文句なしで優秀な助手と言えるだろう

 

「さって蛍ちゃん。ちゃっちゃっと腹ごしらえして、結界の確認をしましょうか?」

 

「了解です」

 

見た所結界は完成しているようだけど、一応念の為に確認しておこうと思い。キャンプ用の机の上に置かれているお握りと鍋に入っている味噌汁を紙コップによそうのだった……

 

 

そして太陽が落ちた時……周囲から生き物の気配が消え、周囲に凄まじい霊力が満ち……

 

「貴様ら……ここで……なにをしているぅっ!!!!」

 

その身に纏う真紅の鎧と同じように、その瞳を真紅に光らせた義経がその身に纏う霊力を禍々しいまでの漆黒に染め上げ、私達の前に降り立ったのだった……

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その4へ続く

 

 

 

次回 仮面ライダーウィスプは!?

 

美神達の前に現れた、怨霊義経!狂気に飲まれ自らの憎悪に身を任せ暴れるかつての英雄

 

「悔やむならば……今の私の前に立った自分達の愚かさを悔いろ!」

 

圧倒的な戦力差の前に倒れる美神達。結界の中に隠れていた横島はタイガーやおキヌが止めるのを振り切り、義経の前に立つ!

 

「いつかじゃねえんだ!力が要るのは!!!今!!この瞬間なんだっ!!!!」

 

横島の叫びに応え現れるウィスプ眼魂

 

(変わりたい、守られるだけの俺じゃなくて……誰かを守れる俺になる!)

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】

 

「さあ!行こうぜッ!ウィスプッ!!!」

 

【イヒヒーッ♪】

 

嬉しそうに手を伸ばしてきたウィスプと空中でハイタッチを交わす横島

 

【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

次回仮面ライダーウィスプ! 決意の変身

 

 

 

 




次回からは戦闘回になります、暴走義経をどうやって攻略するのか?そこを楽しみにしていてください。影の薄いタイガーが少しだけ頑張る予定です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は戦闘回になります、どう考えても美神達よりも強い義経をどうやって攻略するのか?そこを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート22 英雄の見る夢は? その4

 

目の前に現れた紅い鎧武者を見て、あたしはこの仕事を受けた事を心底後悔した

 

(こんなの交渉出来るわけが無い!?)

 

目視できるほどに穢れきった霊力と完全に我を失っているその表情。今この場から逃げたいと思っている自分が居る

 

「なんと愚かな事をしたな、人間ッ!!!」

 

その真紅に光る目であたし達を睨みつけながら義経は凄まじい殺気を放ちながら叫ぶ。その殺気だけで足が震えてくる……

 

「誰も居なければ!自刃して果てた物を!貴様らが前に立った!!!よもやこのまま無事で帰れるなどと思うな!」

 

鋭い風切音を立てて2振りの刀を構えた義経を見て

 

「令子、オタクなにしてくれたのよ」

 

話を聞いている限り、自刃し果てるつもりだったらしい義経。無論幽霊なのでそれでは死にはしないが、一時的に弱まるのでそこを封印すれば良かったんじゃ……

 

「エミさん。もうなんとかなる段階じゃないと思います、それにそんな都合よく行くと思いませんよ」

 

蛍が険しい顔でそう呟く、確かに本人がそう思っていても、義経の身体を覆っているどす黒い霊力。それが義経を操つり、被害を拡大する可能性もある。とは言え、あくまで両方とも可能性の話だ。どちらに転んでいたかなんて判りはしない

 

「……今は何とか無力化することを考えれば良い、だが判っているな」

 

「最初の計画は諦めるわ」

 

タイガーの精神感応を使って説得を試みる。それが最初の計画だったが、あの義経と精神をつなげればタイガーが再起不能になる可能性がある。こうして見るだけでもひしひしと伝わってくる憎悪……人間が触れれば即座に発狂してもおかしくないレベルだ。折角スカウトしてきた弟子を再起不能にされては困る

 

「その首!魂ごと刈り取ってくれるッ!!!!」

 

それにこれ以上話している時間も無さそうだしね。あたしは愛用のブーメランを構えながら

 

(帰ったら絶対倍以上に請求してやる)

 

こんな命懸けの仕事を復帰して最初に回してきた琉璃の事を恨みながら、こちらを睨んでいる義経と対峙するのだった……

 

 

 

 

俺とチビ達が頑張って作成した結界は義経を捕らえる為ではなく、俺とタイガーを護る為に使用されてしまった。結界の中から美神さん達の激しい戦いを見る事しか出来ない

 

(また俺は……なにも出来ない……!)

 

韋駄天の時はあの謎のベルトと八兵衛と九兵衛のおかげで何とかなった。でもそれは自分の力とは言えない、いつも、いつもだ。俺は何も出来ない、自分の無力さに苛立ちばかりが募る

 

(どうして今は使えない!)

 

黒坂を殴り飛ばし、シルフィーちゃんとピートの父親であるブラドーに取り付いた魔族を吹き飛ばした。あの拳が……

 

あげはちゃんと天竜姫ちゃんを助けたいと思って、そして一度は義経を退散させた。あの盾が……

 

時々凄い効力を発揮するあの陰陽術が……

 

どれか1つでも自分の意思で使えれば美神さんや蛍の手伝いをする事が出来ると言うのに

 

「……ちいっ!!!電撃は不味い」

 

「ははははッ!どうしたどうした?逃げ回るだけか!」

 

義経が刀を掲げると漆黒の稲妻が周囲の木々を薙ぎ払いながらシズクに迫る。シズクが顔色を変えて逃げ回っているのが見える、水は電気を良く通す、シズクが電気を苦手としているのは聞いていたが、いつものポーカーフェイスを維持することが出来ないほどに動揺しているのは初めて見たかもしれない

 

「……行けッ!!」

 

シズクが氷のクナイを先に飛ばし、それを避雷針として義経に斬りかかって行くが義経はにやりと笑い。シズクの攻撃を全く意に介した素振りも見せず笑いながらその刃を片手で受け止める

 

「はっ!竜神とは驚いたがその程度かッ!!温い!温いぞ!!!」

 

シズクが両手の水の刃と氷の刃を作り出し、義経と切り結んでいるが、水の刃は一瞬でかき消され、氷の刃は1合打ち合わせただけで砕け散る。シズクが地面を蹴って間合いを大きく取る。それに合わせて

 

「精霊石よっ!」

 

美神さんが義経が刀を振り切ったその隙を突いて精霊石を投げつけるが

 

「無駄だッ!!」

 

足の鎧で精霊石を器用に蹴り上げた義経はシズクを見てにやりと笑う

 

「シズクッ!!!」

 

その顔を見て、咄嗟にシズクの名前を叫ぶ、だがそれは余りに遅かった……

 

「ほらよっ!!!」

 

「くううっ!?」

 

シズクに向かって蹴り込まれた精霊石が炸裂し、シズクの小柄な身体を吹き飛ばす。その時に聞こえたシズクの苦悶の声に思わず結界から出ようとするが……

 

「横島さン……堪えて下さい。ワッシらにはなんもできんです」

 

【結界から飛び出したら横島さんが死んでしまいます!お願いだから結界の中に居てください】

 

タイガーに肩を掴まれ、おキヌちゃんがその目に涙を浮かべてそう言う。

 

「みーむう」

 

「うきゅ……」

 

「コン……」

 

足元で俺を見上げているチビやタマモが心配そうに俺を見ている……判ってる。判って……いるんだ。俺に出来ることなんて何にも無いってここで隠れているのが一番正しいんだって!!

 

「令子。あたしはもう二度とあんたとつるんで仕事しない……」

 

「たまにはこういう事だってあるわよ!っつうか諦めないでなんか考えなさい!!!エミ!」

 

神通棍とブーメランを失い、精霊石も持って来ていた高級な破魔札も全て使い切って丸腰の美神さんとエミさんがなんとか義経を倒す手段を考えながら叫ぶ

 

「くっうう……本当洒落にならない強さ……」

 

「……これは流石に勝てない……」

 

刀の一撃は喰らっていないが、それでも強力な蹴りを喰らって動く事が出来ないでいる蛍と精霊石が直撃した事で、水を操ることが出来ず、地面に横たわっているシズク

 

「悔やむならば……私の前に立った自分達の愚かさを悔いろ!」

 

ガチャリッ!ガチャリっと音を立てて一番近くにいるシズクと蛍の方に向かっていく義経……

 

【いつか君は強いGSになれる】

 

何度も蛍や美神さんに言われた……いつか……いつかと……じゃあそのいつかっていつだ!!!

 

もう自分の心に嘘はつけない……

 

いつかいつかと言われて、諦めて見ているだけ……

 

だけどそんな事をしても何も変わるわけがない!

 

そんなんじゃ変われる訳がない!!

 

そんな事じゃ前に進める訳がない!!!!

 

もうただ見ているだけの俺にはうんざりだ

 

自分から前に進まなければ!

 

自分から一歩前に足を踏み出さなければ!!!

 

「前になんか進めるわけねぇだろうがッ!!!!」

 

【横島さん!?】

 

「横島さん!戻ってつかあさい!!」

 

タイガーとおキヌちゃんの結界の中に戻れという声が聞こえる。きっと今ならまだ戻れる、だけど俺は……俺はッ!!!

 

2人の呼び声を無視して、蛍とシズクの前に走りだした……何かを変える為にはきっと自分から変わらなければ何も変える事なんて出来ないのだから……

 

 

 

 

これはかなり不味いわね……私は冷や汗を流しながらどうやってこの場を切り抜ける事が出来るのか?そればかりを考えていた。完全に正気を失っているが、それでも義経の剣術に一切の陰りが見えない。むしろより研ぎ澄まされているように思える

 

(お父さんに頼んでビュレトさんに付き添って貰えば良かった……)

 

魔界で調べ物があると言っていたビュレトさん。お父さんに頼めば、もしかしたら付き添ってきてくれていた可能性がある。結界で封印すれば良いし、もしかしたら交渉が通用するかもしれない。なんて甘いことを考えていた自分の愚かさが判る

 

「覚悟は出来たか。せめてもの情け、一太刀でその命を刈り取ってくれる」

 

ゆったりとした動作で刀を振りかぶる義経。美神さんとエミさんの声がやたら遠くに聞こえる、近くにいるシズクは精霊石のせいで水を操ることが出来ないでいるから、護ってくれるなんて思えない……

 

(こういう危機的状況になると、なんか余裕が出てくるって本当なのね)

 

こんな間の抜けたことを考えることが出来ている自分がいて、思わず苦笑してしまう。だがこく一刻と迫る刀を見て、そんな余裕が無いのも判っている

 

(もうこれを使うしか……)

 

精霊石は炸裂する前に両断される、破魔札も同じで、私のサイキックソーサーではあの一撃を防ぐことは出来ない。もう魔力を使うしかない、ブレスレットに手を伸ばそうとした瞬間

 

「む……う」

 

パンっと乾いた音を立てて、義経の顔に破魔札が命中し、炸裂する。もう美神さんとエミさんは持ってないから……まさか!!血の気が引いていくのが判る、どうか違っててくれと祈りながら振り返るが

 

「はーっ……はーっ!!」

 

肩で大きく息をしている横島がそこにいて

 

「なんで結界から出てきたの!!早く戻りなさいッ!!!」

 

美神さんが横島にそう怒鳴るが、横島はその声が聞こえない筈が無いのに震えながら義経と対峙する

 

「横島!お願いだから戻って!今の横島じゃ何も出来ない!」

 

「……早く……戻れ。今は隠れろ……!」

 

シズクと一緒に結界の中に戻るように言うと、横島は義経を見据えたまま

 

「いつかっていつだ?」

 

驚くほど冷淡な声に思わず、えっと聞き返すと横島は前を見て、破魔札を投げつけながら

 

「いつかっていつも蛍も美神さんもシズクも言ってくれる……でもそのいつかっていつなんだよ。いっつも隠れて!逃げて!見てることしか出来なくて!!!そのいつかを俺はいつまで待てばいいんだッ!?」

 

さっきの声と違ってあまりに激しいその声に思わず息を呑んでしまった

 

「いつかいつかいつか!!!いろんな才能がある!そんなの……そんなの!!!俺は要らないッ!!!」

 

それは横島が溜め込み続けていた感情の爆発だった。がむしゃらに札を投げ続ける。だがそんな物は義経にとってなんの障害にもなりえない

 

「気持ちは判らんでもない、だが戦場に立つには早すぎたな……小童」

 

「ぐうっ!?」

 

刀が振るわれた、それだけで真空の刃が発生して横島を引き裂く

 

「よこしまぁっ!!!」

 

ゆっくり倒れていく横島の姿を見て思わず叫ぶ。もう考えている時間は無い、ブレスレットを力任せに引きちぎろうした瞬間。足を地面に叩きつけるようにして、倒れるのを堪え真っ直ぐに義経を見据え

 

「いつかじゃねえんだ!力が要るのは!!!今!!この瞬間なんだっ!!!!」

 

「叫んだ所で力が手に入る訳も無い。まずは貴様からだッ!!!」

 

義経が地面を蹴ろうとした瞬間、この場には不釣合いなまでの鮮やかな黄色の球体が義経と横島の間に割り込んだのだった……

 

黄色の光が横島と義経の間に割り込む数分前……東京では

 

「ぐっ!ば、馬鹿な!この私が!封じきれないだと!!!!」

 

ガンッ!!!ガンガンッ!!!何度も何度も何かにぶつかるような激しい音が優太郎の部屋に響いていた

 

「アシュ様!これ以上は!」

 

土偶羅魔具羅が叫ぶ中。既に優太郎としての姿ではなく、魔神アシュタロスとしての姿をしているのにも拘らず、暴れているその何かを封じる事が出来ないでいた

 

「駄目だ!これを解放したら!」

 

結界の中に眠っている物。それは韋駄天が暴走した時に横島が手にした球体。カオスと優太郎によって眼魂と名づけられたそれは、今まで沈黙を保っていたのだが、つい先ほど凄まじい勢いで暴れだした

 

「ぬっぐうう……だ、駄目だ!」

 

パンッっと乾いた音が響き、カオスとアシュタロスの2人で作成した結界を砕き、黄色の眼魂はそのまま溶ける様に消えて行った……自身を求める主の元へと向かって

 

 

 

 

 

義経を弾き飛ばし、俺の手の中に飛び込んできた球体を握り締める。それは間違いなく、韋駄天の時のあの球体。そしていつの間にか腰に巻かれていたベルト……

 

「ははっ……ああ、そうだな」

 

判っている。今の俺には何の力も無いって……こうして飛び出して癇癪を起しても何も変わる訳ない。自分1人ではなにも出来ないって……なら俺は……

 

「力貸してくれよ……ウィスプ」

 

きっとこの球体の中にいる幽霊の名前はウィスプ。そんな気がしたんだ、小さく声を掛けるとそれに返事を返すように

 

【イッヒヒーッ♪】

 

手の中でぶるぶると震える球体の側面のボタンを押し込み、ベルトのカバーを開ける

 

「横島君!それは使ったら駄目だって言ったでしょう!!!」

 

美神さんの怒鳴り声が聞こえる。きっと後でまた怒られるだろうけど……それでもいい、今この一瞬だけは……自分の意思を通す!

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

ベルトのカバーを閉じると陽気な歌が流れだす。そのこの場に似合わない音楽に思わず笑ってしまいながら、ベルトの側面に付けられたレバーを握り締める

 

(変わりたい、守られるだけの俺じゃなくて……誰かを守れる俺になる!)

 

「変身ッ!!!」

 

今までの俺から変わってみせる!そう自分に誓ってレバーを引っ張りながら叫ぶ

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】

 

真っ直ぐに突っ込んできた黄色の幽霊に向かって手を伸ばす、あれは俺だ。俺の半身だ……怖がる必要も、拒絶する必要も無い、ただ受け入れれば良い

 

「さあ!行こうぜッ!ウィスプッ!!!」

 

【イヒヒーッ♪】

 

嬉しそうに手を伸ばしてきたウィスプと空中でハイタッチを交わす

 

【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

八兵衛が居た時とは違う、ウィスプと完全に一体化したような感覚が俺を包み込む。パーカーのフードに手を伸ばしフードを取り払い

 

「しゃあっ!!行くぜッ!!!」

 

気合を入れる為に自分の頬を両手で叩く、この鎧のせいかあんまり痛くないけど、気合は入った

 

「面妖な……しかしそんな玩具で私を倒せるものかッ!!!」

 

「うっせえ!そんなのやってみないとわかんないだろうがッ!!!」

 

足が震えるほど怖い、だから自らに気合を入れる為にそう叫び。俺は拳を握り締め、義経のほうに向かって走り出すのだった……

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!!」

 

「のおおおおっ!?」

 

義経の強烈な横薙ぎを上半身を反らすことで回避し、回し蹴りを叩き込んで距離をとる横島君

 

「ぜー……ぜー……やっべえ……」

 

「くっくくっ……今のは中々だった」

 

韋駄天の時の黒い鎧に、黄色のパーカーを纏った奇妙な姿をしている横島君を見て、愉しそうに笑う義経

 

(あれは芦さんが封印したんじゃ)

 

あれは横島君に対する負担が大きいから二度と使わせないと言って、カオスと一緒に封印された筈のあの球体が何故ここに

 

「ちょっと!令子なんなのよあれ!!あんなのあるなら早く出しなさいよ!」

 

エミが耳元で怒鳴る。その大声に眉を顰めながら

 

「あれは使ったらいけないのよ!みりゃ判るでしょうが!!!」

 

霊力を噴出して空中を舞う横島君。普通の人間がそんな事をすれば霊力が枯渇して生死に関わってくる

 

「……確かにね。後で詳しく聞かせてもらうワケ!蛍とシズクを結界の中に引っ張ってからね!」

 

「私も判ってることなんて殆ど無いわよ!」

 

とりあえず今はあれが何なのか?なんて話している場合ではない、横島君がさっきからこっちを何度も見ているのは早く蛍ちゃんとシズクを安全な場所に連れて行ってくれと合図しているに違いない

 

(師匠として情けないけど、今は1度準備を整えないと)

 

結界の中にまだ除霊具を残している。横島君が何とか義経を押さえ込んでいる内に準備を整えないと……

 

「一旦結界の中に退却するわよ!!!」

 

蛍ちゃんを掴んで結界の中に戻ろうとすると

 

「で、でも!よ、横島が!」

 

置いてはいけないと言う蛍ちゃん。気持ちは判る、だけど今はそんな事を言っている場合じゃない

 

「助けたいならまずは装備を整えなおすの!横島君!準備を整えるまで、少し粘ってなさい!!!」

 

なんでか知らないけど、横島君が義経と同等に戦えている、それなら使えないと思って、結界の中に戻した呪縛ロープや結界札が使える。破魔札や精霊石が通用しないなら、補助に徹底すればいい、横島君にそう指示を出して蛍ちゃんの胴に腕を回す

 

「……わ、判りました」

 

納得行かないという顔をしている蛍ちゃんを私が抱え、シズクは

 

「……早く水を……横島だけに任せてられるか」

 

「判った!判ったから大人しくしなさい!!」

 

見かけによらず好戦的なシズクがエミに抱えられて暴れている。それだけ横島君が心配と言うことなのだろう。今は少しでも早く結界の中で準備を整える、それだけを考えて私は蛍ちゃんを連れて結界の中へと退却するのだった

 

【美神さん!?なんで戻って!横島さんが!】

 

結界の中に入るなり、凄い形相で怒鳴り込んでくるおキヌちゃん。それだけじゃなくてチビやモグラちゃんの視線も鋭い

 

「直ぐ準備して出るから!結界札!それと呪縛ロープありったけ用意して!」

 

でもそんな事をしている時間は無い、横島君と義経では圧倒的な戦力の差があるのだから

 

「うっひいっ!!このこのこのっ!!!」

 

どこかから取り出した剣から光線を放つ横島君だがそれはさっきから1つも義経にかすっていない

 

「無駄無駄無駄無駄ッ!!!!」

 

両手に持った刀で的確にはじき返し続けている、距離をとる目的で攻撃しているのに徐々に間合いを詰められている

 

「くっくそっ!こうなりゃ!」

 

射撃が駄目だと思ったのか、再び剣に組み替えるのを見て

 

「馬鹿っ!!そのまま距離を保ってなさい!!!」

 

そう叫ぶがもう遅い。剣を構えて突進していく横島君

 

「その程度の腕で!!」

 

「うわあっ!!」

 

鋭い斬撃音と共に横島君が吹き飛ばされる。あーっもう!!!準備が出来るまで少し粘ってろって言ったのに!!!誰が突っ込めって言ったのよ!

 

「タイガー!4~7の鞄持って来なさい!ダッシュで!!!」

 

「は、はいいい!!!」

 

エミに怒鳴られ鞄を集めに行くタイガーを横目に、ペットボトルに溜めておいた水をどんどんシズクの周りに運ぶ

 

「……もっと!水が足りない!」

 

キャップを外してザバザバ被っているシズク。破魔札や精霊石が使えないなら戦力になるのはシズクがメインになる。

 

「蛍ちゃんは横島君を見てて!なんかあったら教えて」

 

「は、はい!!」

 

ペットボトルに溜めてあった水をどんどん運ぶ。空になったペットボトルはモグラちゃんが回収して

 

「みむう!」

 

きゅっと音を立てて蛇口を回転させて、再び水をペットボトルに補充するチビ。もう賢いとかそう言うレベルで片付けられない、その外見からは想像できない知性だ。

 

「……これでいい」

 

40本近いペットボトルの水を蓄えた所でシズクが小さく呟く。自身の周りに水をヴェールのように展開している姿を見て、準備は万端の様ね。これなら反撃に

 

「タイガーッ!!俺と義経の精神を繋げッ!!!」

 

とんでもないことを叫ぶ横島君。それを聞いた私は結界のギリギリのところに走り

 

「何馬鹿言ってんの!!!狂うわよ!!!」

 

あれだけ魔族の影響を受けている義経と精神を繋げば間違いなく発狂する。だから止めるように叫ぶが

 

「早くしろっ!!」

 

私の言葉が聞こえない訳ではないのに、タイガーに向かって叫ぶ横島君

 

「だ、駄目だからね!そんな事したら駄目よ!タイガーさん!!」

 

【そんな事をしたら呪いますよ!】

 

「えっと!わ、わっしは……」

 

蛍ちゃんとおキヌちゃんに詰め寄られているタイガーが目を白黒させている。だが横島君はそんなのお構いなしで早くしろと叫んでいる

 

「タイガーッ!そんな事したら許さないわよ!」

 

エミが自身の顔に呪術を強化する模様を書き込みながら叫ぶ。師匠の言葉にビクンっと肩を竦めるタイガー

 

「……私が出て止める!」

 

シズクが結界の外に飛び出していく、義経より先にあの馬鹿をなんとかするべきだと判断し私も結界の外に出る

 

「え、あ……ううう!!許してくださいっ!!!」

 

皆に止められていたタイガーはその巨体で蛍ちゃん達を弾き飛ばし

 

「むんっ!!出来た!横島さん早く!」

 

蛍ちゃん達にぼこぼこに殴られながらも印を結ぶのを止めないタイガー。なにがそんなにタイガーを突き動かすのか判らないが、これは不味い

 

「おうっ!!」

 

「止めなさい横島君!っつ!シズク!あの糸を切って!」

 

「……言われなくても!」

 

横島君と義経を霊力の糸が結ぶ、それを見て咄嗟にその糸を切るようにシズクに叫ぶがそれよりも早く、横島君と義経の身体が重なり凄まじい閃光が周囲を照らすのだった……

 

 

 

 

剣を打ち合って、拳をかわして……そして判ったんだ。俺の見ていた夢は義経の夢だって……タイガーのおかげで、俺は義経の心の中に入ることが出来た、一か八かだった。でも結果は俺の予想通りの結果になった

 

【うっ……うっ……】

 

白い着物を着て泣いている少女が俺の目の前にいる、手を伸ばしたいと思っても手を伸ばす事も、声も掛けることが出来なかった少女が今目の前にいる

 

【あ、兄上ぇ……私は……私は……どうすれば良いのですか】

 

ここにはいない兄を呼ぶ少女……どうすればいいのか判らない、何をすれば彼女を助けることが出来るのか?それが俺には判らない

 

【貴方を愛している、貴方を憎んでいる、貴方に会いたい、貴方に会いたくない……】

 

小さな手で顔を覆って泣きながら呟く少女

 

「兄貴が好きなんだろ?」

 

この少女を見ていれば判る。兄貴が好きで尊敬しているのだと

 

【うえ?あ、貴方は!?なんでここに!?唯一護れた私の心に中に何様ですか!】

 

その目に驚きと警戒の色を宿して、俺から離れようとする少女の手を掴む

 

「兄貴が好きなんだろ?憎んでなんかいたくないんだろ?」

 

この真っ白い空間を染め上げていく黒い光を見ながら呟く、きっとあの黒い光は義経を覆っている黒い霊力なんだ

 

【でも私には何も出来ない!この小さい世界で泣いているしかない!私はここから外に出ることが出来ないのだから!】

 

確かに彼女だけではこの世界から抜け出ることなんて出来ないだろう。だからその為に俺が来た、振りほどかれた手に若干

の痺れと痛みを感じながらも目の前の少女の眼をしっかりと見て

 

「一緒に行こう」

 

見慣れたGジャンの姿から、ウィスプの鎧とパーカーの姿に変化していることに驚きながら手を伸ばす

 

「俺が手伝う。兄貴を憎んでいる君を……未来の君を殴りに行こう……」

 

義経のことは少し調べた。幼い時の名前も……本当は少年の筈だが、目の前にいるのは少女。でもそんな事は些細なことだ、助けてくれと言っている人を見捨てたくない

 

「俺に出来ることなんて殆ど無い、だけど君に身体を貸すよ」

 

【そんな事をして只で済むと思っているのですか!?自分の身体に別の魂を入れるなど!】

 

俺にはそれがどれだけ危険なことなんて判らない。でもこのままだとこの少女はずっと泣いていて、蛍達にも危険が及ぶ。今の俺には自分の事よりも、目の前の少女と蛍達の方が大切だ

 

「そんな事はどうでもいいだろ?兄貴を憎んで居たくない、そうだろ?……牛若丸」

 

ビクンっと肩を竦めた少女……牛若丸に

 

「魔族になんか操られている未来に自分を殴りに行こうぜ。んで……兄貴を憎んでなんかいないんだって、あの馬鹿に教えてやろうぜ」

 

もう1度牛若丸に向かって手を伸ばす、牛若丸はその目に迷いの色を浮かべ

 

【本当に?私じゃ勝てないかもしれないです、私は子供ですから】

 

「かもな。俺だって霊力も碌に使えない未熟者だし」

 

でもな?っと前置きしてから両手で牛若丸の手を握って

 

「1人じゃ勝てないかもしれない、なら2人ならきっと勝てるだろ?」

 

きょとんとした牛若丸は小さく微笑みながら

 

【おかしな人ですね……でも、その通りです!私も未熟ですので貴方の力を貸してください!】

 

「おう!行こうぜ!!!」

 

1人で無理でも2人ならきっと出来る。届かない高みにだって……きっとその手は届く

 

 

 

 

 

目の前の光が弾けて横島と義経の姿が再び目の前に現れる。私はタイガーさんを殴りつけていた右拳を振り下ろすか、下に下ろすか悩んで、結局全力でタイガーさんの顔面に全力で叩き付けた

 

「……横島変われ!」

 

シズクがそう言って横島の手を掴むが、横島はそれをやんわりと振りほどいて

 

「駄目なんだ。あいつは……俺が……俺達が倒さないと」

 

「……何を言って?」

 

困惑しているシズクを見ながら横島は美神さんを見て、頭を深く下げて

 

「お願いします!義経を俺に任せてください!」

 

「何馬鹿言ってるのよ!早く結界の中に戻って!」

 

これ以上横島を危険に晒したくなくてそう叫ぶが、横島は深く頭を下げたまま動かない

 

「……勝算は」

 

きっと駄目だと思っていたのに、まさかの美神さんの返事は横島と義経の戦いを認めるような物で、顔から血の気が引くのが判った。どう足掻いたって横島じゃ義経には勝てない

 

「あります」

 

はあっと深い溜息を吐いて美神さんは背を向けて

 

「良いわ。今回だけ勝手を許します。でも次はないわよ」

 

【「美神さん!!」】

 

私とおキヌさんの声が重なる。なんで許可したのか判らない、美神さんが駄目なら私が止める。結界の中から出ようとすると

 

「大丈夫!蛍!おキヌちゃん!俺を信じてくれ!」

 

スーツのせいで顔が見えないが、その声には信じたくなる力強さがあって……

 

「負けたら許さないから……」

 

止めたいと思っているのに、止められないことが判ってしまって俯くことしかできない

 

【絶対死なないで!】

 

おキヌさんの言葉にも大丈夫だ!と叫んで義経の前に立つ横島

 

「ずいぶん待ってくれたな」

 

「ふん、人間に……しかも未熟者のお前に負ける道理は無いからな。最後の言葉くらい待ってやろうと思っただけだ」

 

確かにその通りだ、一流のGSでも勝てないのに未熟な横島じゃ勝てるわけなんか無い

 

「ああ、そうだろうな。俺は確かに未熟者だ、きっと捨て身でもお前に攻撃なんか届かない」

 

それこそ逆立ちしたってなっと笑う横島。そこまで判っているならなんで戦うなんて

 

「愚かだな、勝てぬ相手に立ち向かう。それは勇敢ではなく、蛮勇と言うのだ」

 

義経が刀を構えた瞬間横島のベルトから黄色い球体が飛び出し、のっぺらぼうのような姿になる

 

「ああ、そうだ、俺1人じゃ勝てない。だけど俺には味方がいる」

 

横島はその手の中に新しい球体を握り締めていた。一瞬見えたその色は紫、側面のボタンを押しベルトの中に押し込む

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

ベルトから飛び出してきたのは白と紫の着物のようなパーカーの姿をした何か

 

【カイガン!牛若丸!シュバッと八艘!壇ノ浦ッ!】

 

横島がレバーを引くとベルトからそんな歌が響き、横島の身体をそのパーカーが覆い尽くす。両肩は船の船首を模した飾りがあり、両腕はまるで着物の袖のようになっている

 

「牛若……丸?」

 

それは義経の幼名……目の前の義経も信じられないと言う顔をしている

 

「1人じゃ勝てねえ、なら俺と牛若丸の2人なら!お前を超えれるぜ!行くぜ!牛若丸!!!」

 

【はいっ!】

 

腰のベルトから現れた剣を握り締め、義経と向かっていく横島の声は、八兵衛達の時と同じく、二重に重なった奇妙な声をしているのだった……

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その5へ続く

 

次回仮面ライダーウィスプは!?

 

タイガーの力を借りて義経の中から牛若丸の魂を連れ出し、手にした眼魂……牛若丸眼魂!

 

「せいっ!やっ!とおっ!!!」

 

横島の技術ではなく、牛若丸の技術により一時は義経を追い込んだ。しかし!

 

「【コワレテシマエッ!!!!】」

 

狂気に身を委ね、悪鬼へと変貌する義経!その力は牛若丸と横島を完全に超えていた。横島が思いついた打開策!それは

 

(俺の身体を預ける。牛若丸が戦うんだ)

 

【なぁ!?それがどういうことか判っているのですか!?幽霊に身体を預けてもし身体を乗っ取られたら!】

 

(大丈夫。俺は牛若丸を信じてる)

 

牛若丸を信じ、全てを託すこと!

 

次回仮面ライダーウィスプ! 英霊眼魂!

 

【カイガン!牛若丸!シュバッと八艘!壇ノ浦ッ!】

 

 




かなり長編となりましたね。韋駄天の話以降久しぶりのライダーの登場です。こんな感じで何かの大きいイベントのとき意外は使うつもりが無いのですが、義経攻略にはこれしか思いつかなかったので、なお牛若丸はFGO。義経は仮面を装着しているペルソナシリーズの義経をイメージしていただけると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回で義経との決着までを書いていこうと思います。仮面ライダーが好きなので今回は混ざりましたが、基本的にはあんまり出すつもりではないので、ご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート22 英雄の見る夢は? その5

 

横島と義経の身体が重なったと思った瞬間。凄まじい光で視界が塞がれて、光が晴れたと思ったら横島はまた新しい眼魂を手にしていた

 

(精神感応で義経の中の牛若丸を呼び出した?)

 

眼魂はそれ自体も強力な霊体であり、物質でもあるという特徴を持ち。その中に魂を収納することができ、収められた魂をベルトを仲介することで横島がその力を行使する事が出来る。と言うのがお父さんの分析だった。眼魂に魂を収納する為にタイガーさんに精神感応を使わせた?だとしてもこんなことが出来る保証は当然無かっただろうし……思いっきり殴ったせいで白目をむいているタイガーさんを投げ捨て、目の前の光景の事を考える

 

(悪運が強いってことなのかしら)

 

状況は横島にとって圧倒的に不利だった。でも横島はその不利な状況から逆転出来るかもしれない可能性を引きずり出した……

 

【カイガン!牛若丸!シュバッと八艘!壇ノ浦ッ!】

 

のっぺらぼうのような姿から、着物を纏ったような姿に変化した時はさらに驚いた。これは私だけではなくて

 

「……義経の中から牛若丸の記憶だけを引き出した?」

 

「ありえない話ね。どうなってるのよ、令子。お宅の弟子は?」

 

「知らないわよ!まさか私もこんなことをするなんて思ってなかったんだから!!!」

 

さすがの美神さん達も混乱してるみたいね……今なら大丈夫そうね……。ポケットの中からお父さんから預かっていた小型の通信兵鬼を取り出して

 

(画像の記録をして、お父さんの所へ向かって)

 

【キュイ!】

 

返事を返して私の手の中から飛び立つ通信兵鬼。直ぐにステルスを展開して見えなくなった兵鬼から、横島と義経の戦いに視線を向ける

 

「はっ!!」

 

先ほどまでとは比べられない鋭い一撃を連続で繰り出す義経。それは掠っただけでも、四肢が飛ばされそうな鋭い一撃だ。周囲にはまるで台風のような鋭い風切り音が響き続けている

 

【美神さん、横島さんの手助けをしなくてもいいんですか?】

 

口ではそうは言っているが、おキヌさんだって判っているはず。美神さんは眉を顰めて

 

「あれだけ暴れてたら呪縛ロープも破魔札も狙って当てるなんて不可能よ」

 

集中してやっと動きを見ることが出来るような高速戦闘。いま下手に手助けをすれば、一気に流れが傾く可能性がある

 

「横島にあたる可能性もあるし、あたし達は見ていることしか出来ないワケ」

 

美神さんとエミさんの言葉を聞いてシズクを見るが、シズクも小さく首を振って

 

「……流石にあれだけ交互にお互いの立ち位置が変わっていたら、横島に当るかもしれない」

 

紅と紫の立ち位置が目まぐるしく変わっていく、確かにあれだと横島に当る可能性の方が高い

 

「はっ!」

 

打ち合いから急にリズムを変えて突きを繰り出す義経、あれは当る!そう思ったのだが、横島は

 

「せいっ!!」

 

その場で宙返りをして、その一撃を回避し、そのまま手を突いて連続でバク転をして義経から距離を取る。その凄まじい身のこなしは横島がやったとは信じられない……あんな軽業師の様な事を横島が出来るとは思えない

 

(これがあのベルトの力……)

 

韋駄天の時もそうだった。尋常ではない力を発揮していたけど、それは今回も同じで

 

「今度はこっちの番だっ!!」

 

攻撃を避ける為に腰のベルトにマウントしていた剣を引き抜いて、凄まじいスピードで義経との間合いを詰める横島の姿を見て、私は思わず恐怖を感じてしまった。それは横島が怖いとかではなく

 

(これだけの力が必要になるって事なの?)

 

逆行前の出来事とは違う。それは世界の修正力もあるが、それが無くては、無事に全てを終わらせることが出来ないと言う事もでもあるとお父さんは言っていた。だからもしこの横島の力が修正力によって生まれた物なら、それは逆行前の神魔大戦よりも激しい物になるかもしれないと言う事で

 

【横島さん……】

 

思い出せない所もあるが、私と同じように逆行前の記憶を持つ、おキヌさんの不安そうな顔を見て、私はこの予想が外れて欲しいと心の中から祈るのだった……

 

 

 

 

 

これは!この動きは!!私はバックステップで距離を取りながら、凄まじいスピードで間合いを詰めて来る先ほどの小僧を見て驚愕した。それはまだ稚拙で完成度は低いが……

 

(私の剣術!?)

 

幼い頃の私は小柄で腕力も無かった。それでも戦に出て戦果を上げ続けることが出来たのは、その小柄な身体を十分に生かす術を天狗に教わったからだ

 

「せいっ!やっ!とおっ!!!」

 

素早い動きと小柄な身体を生かした連続攻撃。それは自分よりも大人が多い戦場では非常に有利な戦術だった。相手の懐に飛び込み、一瞬で切り伏せる。成長し、背が伸びてからは使うことが無かったが、その動きは私自身が一番覚えている

 

「せえいっ!!!」

 

私の懐で回転し柄で殴りつけてきたタイミングに合わせて、小太刀の柄でその一撃を防ぎ

 

「貴様何をした」

 

なぜこいつが私の剣術を使える!?あの一瞬。私の中に何か入ってきた気配はしたが、まさかその時に私の記憶を見たとでも言うのか?だがそれだけで私の動きを完全に真似できるとは思えない。2人ならと言っていたが、そんな事はありえない。混乱しきった状態でそう問いかけると

 

【私が力を貸しているからだ!】

 

私の問い掛けに答えたのは小僧ではなく、幼い少女の声。その声に驚き一瞬動きが止まる

 

「がっはっ!?」

 

強烈な回し蹴りが胴に叩き込まれ、吹き飛ばされながら腹を押さえる

 

【同じ私ではあるが、私はお前を認めない!!!】

 

その痛みで歪む視界のせいか、私の目には小僧ではなく、幼い時の私の姿が見えていた

 

「くっ……くっくっくっ!!!」

 

胸の中に埋め込まれた何かが大きく脈動する。視界が真紅に染まり、ある考えだけに支配される

 

「憎い……」

 

そのたった一言。そのたった一言で今まで消えていた怒りが、憎悪が込み上げて来る

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!!!」

 

もう1度思ってしまったら、もうその感情を抑える事などで気はしなかった

 

「お前は!知らないからそんな事が言えるんだッ!!!」

 

地面を蹴ると同時に刀を逆手に持ち替え、全力で振り下ろす

 

【っ!?】

 

私の予想通り後ろに下がって回避する、今度は正眼に構えていた小太刀を真っ直ぐに突き出す

 

「がっ!?」

 

ちっ!堅い!これが生身なら完全に心臓を貫いていただろうが、小太刀の刃は小僧の身体を覆っている奇妙な鎧に弾かれる

 

「あっ!あははははっははああああああッ!!!!!」

 

私が消えていく、視界が真紅に染まり。ただ1つの考えに支配される

 

「憎い!私を裏切った兄上がッ!!!私はあの人の為に戦った!他の道もあったのにッ!!!」

 

ああ。そうだ、私は女だったんだ。想い人と出会い、剣など取らぬ女としての幸福な人生を歩むことだって出来ただろう

 

「兄上が私にくれた物は何だ!!ああ、兄上は私に何もくれはしなかった!!それ所か私を恐怖した!!!!」

 

ただ私は兄上の為に戦った、怖かった。だが兄上のためならばと我慢する事が出来た。そしてほんの少しの言葉を掛けてもらえるだけで、誇らしかった

 

「何も知らない貴様にっ!!!私の何が判る!!!!」

 

子供の時の楽しかった思い出しか持たぬお前に!私の絶望が!怒りが!悲しみが理解出来るわけが無い!!!私は憎悪と怒りに身を委ねた……もういい、もう良い……全て全て!!!!

 

「【コワレテシマエッ!!!!】」

 

そして私は深い闇の中に飲み込まれていくのだった……

 

 

 

 

 

「【ウォアアアアアアッ!!!!】」

 

突然目の前で咆哮した義経の姿が闇に飲み込まれる。それを見て脳裏に過ぎったのは埠頭で見たあの異形の姿……

 

「美神さん!結界を強化してくださいッ!!!」

 

あの時は精霊石で即席の結界を作ったが、一瞬で破壊された。だが今回は違う、ちゃんとした結界が準備出来ているのだから、あの時とは違う。結界を強化すれば耐えれる筈だ……俺は目の前でまるで心臓のように脈動する闇を見て

 

(こりゃ逃げられないなあ)

 

あれはただの闇だ。目も何も感じないのに、見つめられ、手足を掴まれているかような感覚がする

 

【あれは私達を狙ってます、ここで迎え撃つしか……どうか気を緩めないでください】

 

牛若丸も同じ意見のようだ。牛若丸の警告にありがとうと小さく返事を返し、結界の中に入れというシズクと蛍の声もなんか聞こえにくい……

 

(へんな感じ……)

 

聞こえているのに聞こえない、見えているのに見えない。今の俺には目の前の闇の塊しか見えなかった。周囲の木々も寺も見えているのに意識できないのだ……

 

「【ガアアアアアッ!!!】」

 

突然闇が弾けて姿を見せた義経を見て、俺は思わずその場で後ずさってしまった

 

「ち、違う!?」

 

てっきり埠頭の時の姿になると思っていたのに、現れた義経の姿は全く異なる物だった。姿はさっきまでの義経よりも一回り大きく、手にした刀も刀と言うよりかは西洋剣に近い巨大で歪な姿となっており、そしてもっとも変わっていたのはその顔だ。牙が生え、額には角が飛び出しており、その姿は鬼を連想させた

 

「【シャアアッ!!!】」

 

「は、はええ!?」

 

さっきも速かったが今のはそれ以上に速い。咄嗟にしゃがみ込んでその一撃を避けるが

 

【危ない!】

 

「は?がはあっ!?」

 

牛若丸の警告の声が聞こえたと思った瞬間。腹に鎧に包まれた義経の爪先がめり込んでいた。そのあまりの激痛に視界が歪む、気絶出来たら楽だったかもしれないが、その激痛のせいで意識を失う事も出来ない

 

【転がって!早く!!】

 

焦ったような牛若丸の声が脳裏に響く、その声にしたがって咄嗟に転がると地面が爆発したかのような音を立てて、義経が手にしている剣が地面にめり込んでいた

 

【距離を取って!このままではやられる!】

 

あの威力を見れば一撃貰ったら死ぬと言う事は判った。転がった勢いで地面に手を叩きつけその反動を使って義経から距離を取る

 

(なんだあの馬鹿力!?)

 

剣がめり込むだけならまだ判る。だがその一撃は地面を砕き、地割れのようになっていた……その凄まじい力を見て冷や汗が頬を流れる。で、でも牛若丸が勝てるって言ってたから

 

【か、勝てない……】

 

うえ?脳裏に響いた牛若丸の呟きに一瞬目の前が真っ白になる、相手が急にパワーアップして、そしてその相手に勝つ為の頼みの綱が諦めてしまった

 

【うう……勝てる筈だったんです、貴方に力を貸せば勝てる筈だったんですよ……】

 

いやいや!?待って!泣かないで!?泣きたいのこっちだからね!?

 

「【ウルアッ!!!】」

 

「のおおっおおおっ!?」

 

まるで嵐のような連続攻撃をしゃがんだり、転がったり、ジャンプしながら必死に避ける。さっきまでは牛若丸のアドバイス通りに動いていたけど、今はそれがないので見苦しい避け方になっているが、そんな事を言っている場合じゃない

 

(待てよ?)

 

なんとか打開策は無いかと考えていて、ふと思いついたのはさっきの牛若丸の言葉

 

「【シャアアッ!!!】」

 

義経が凄まじい勢いで襲ってくるのでつい数秒前の言葉でさえ思い出すのも命懸けだ……えーとえーと

 

(牛若丸が俺に力を貸してくれている)

 

うんそうだよな?でも九兵衛と戦っていた時は……俺の意思はあったけど、身体を動かしていたのは九兵衛と八兵衛だ

 

(牛若丸)

 

【はい?すいません、私のせいで貴方が死んでしまう】

 

諦めるにはまだ早い。俺も牛若丸も間違っていたんだ、義経を調伏するのは俺では無理だ。もしそれが出来るとしたら俺じゃない……それは牛若丸本人しかいない

 

(俺の身体を預ける。牛若丸が戦うんだ)

 

【なぁ!?それがどういうことか判っているのですか!?幽霊に身体を預けてもし身体を乗っ取られたら!】

 

(大丈夫。俺は牛若丸を信じてる)

 

牛若丸はそんな事をしないと信じている。だから俺は牛若丸に身体を預けることが出来る、使いこなせない霊力も全て牛若丸なら引き出してくれると

 

【私を……信じて?】

 

呆然とした感じで呟く牛若丸。少ししか話をしてないし、しかも今はこんな状況だ。人を信じるなんていえる状況じゃない

 

「【ウガアアッ!!!】」

 

「ぐあっ!!!」

 

振り下ろされた義経の一撃をベルトから飛び出した剣の柄を両手で握り締めて、必死で受け止める

 

(ああ、そうだ!俺は牛若丸を信じる!!!)

 

柄を握っている手が痺れてくる。両足が地面にめり込んでいくのが判る

 

【……あって間もない私をどうしてそこまで信じることが出来るのですか】

 

(君が良い子だって判るから)

 

俺には正直判らない、なんでこんな良い子を兄貴である頼朝が何で信じることが出来なかったのか

 

(ぐぐぐっ!も、もう駄目だ……)

 

俺には剣術の心得なんて無い。ここからどうやってこの攻撃を防げばいいのかなんて判らない、もう駄目だ……そう思ったとき

 

【ならばその信頼!この牛若丸!見事応えて見せましょう!】

 

手が勝手に動き、叩きつけられていた剣を器用に受け流す……ここからは俺に出来ることはない、後は

 

(任せたぜ、牛若丸)

 

牛若丸が義経を倒すことを信じるだけだ……

 

 

 

 

さっきまであやふやだった、手の感覚がしっかりしてくる。柄を握り締め、地面をしっかり踏みつける

 

(おかしな人だ)

 

自分の身体を預けると言って霊である私に身体を預けた。普通なら身体を乗っ取られると考えて、退魔師としての心得があるならそんな愚行をする馬鹿は居ないだろう

 

(でも……悪い気持ちじゃない)

 

私に全幅の信頼を寄せてくれた……ならば私は全力を持ってその信頼に応えるだけだ、慣れた足幅に足を開き剣を握り締める。視界も足の歩幅も私の物と異なる筈なのに不思議なほどにしっくり来る

 

「【ウルルルルッ!!!】」

 

私の気配が変わった事に気付いたのか、警戒するようなそぶりを見せている化け物を見据える。

 

(あれが私の可能性か……)

 

憎悪に濡れ、怒りのみに支配された姿があれか……不思議と浮かんでくる感情は哀れみでも拒絶でもなく共感だった

 

(ああ、そうだな。判る)

 

義経は私に裏切られた記憶が無いといった。だが私は牛若丸ではあるが、義経でもある。むしろ大人になった私よりも深く絶望しただろう。なんせ私はまだ子供だ、大人になるまでに兄上と疎遠になった義経と違い、私には僅かに残っている兄上との思い出が全てだったから、私があの姿になっていたとしてもおかしくは無い

 

(だが私は……兄上を憎んではいない)

 

お互いに姿勢を低くする、成長したとしても私と義経の根本は同じ。天狗殿に師事し教わった、剣術と兵法。それが私の武器だ、それは成長した今も変わりはしない

 

「牛若丸……参るッ!!!」

 

全力で地面を蹴り間合いを一気に詰める、悔しいが力も速力も向こうの方が上だ。だが向こうには致命的なまでに知性が足りていない

 

「【グルオオオオオオオオッ!!!】」

 

咆哮をあげて突進してくる義経に向かっていき、自分に当る直前で地面を蹴りその一撃を跳躍して躱す

 

(見切れる、さっきまでは駄目だったのに)

 

さっきは見えていても反応することが出来なかった。だが今は違う、その攻撃の軌道も、速さもその全てが見えている、鋭い動きで拳を繰り出してきた義経の動きを見て

 

「危ない!!」

 

結界の中に居る少女が心配そうに叫ぶのが聞こえる。それは当然だろう、私は今跳躍しているので通常ならそれをかわす事など出来はしないだろう、だが……

 

「はっ!!」

 

着物の袖になっている部分でその拳を器用に絡めとり、それを起点にし身体をねじってその攻撃を紙一重でかわす

 

(これだ……懐かしい)

 

掴まれば死ぬ、当れば死ぬ……自分よりも大人と戦い続けてきた私にはこの感覚が懐かしくもあり、そして恐ろしくもあった……だがこの恐怖に近づけば近づくほど……自分が研ぎ澄まされて行くのが判る。もっと、もっと精神を研ぎ澄まさなければ……

 

「行くぞっ!!」

 

この身体は私の物ではない、だから本当なら安全に勝利する方法を考えるべきだろう。だがそれでは届かない、もっと前へ!恐怖を飲み干してさらに前に進まなければ私の刃は決して届かない

 

(行きます!恐ろしいと思いますが、どうか私を信じてください!)

 

先ほどまで脳裏に響いていた青年の声は聞こえない。私に身体を預けたときに意識を失っているのかもしれない、だから返事は無いと思っていた。そして事実返事は無かったけど……私の耳にはちゃんと聞こえていた。俺は牛若丸を信じる、発せられた声じゃなかった。でもちゃんと私には聞こえていた……その一言。その一言だけで……満たされる自分が居て、そしてその信頼に応えたいと思うのだった……

 

 

 

 

(ナンダコレハ……?)

 

闇の中に居てもその輝きは私の目に焼きついていた。この力を使えば私は負けないはずだった……なのに私の攻撃は届かない

 

「せやあああッ!!!」

 

肩に刀が突き刺さる。だがこの程度の攻撃ダメージの内に入らない。ただ振りほどいて反撃すればいい……そう判っているのに

 

(アア……ナンデコンナニモマブシイ……)

 

剣を打ち合うたびに……

 

攻撃が叩き込まれるたびに……

 

その輝きが闇の中に居る私へ向けられる……

 

ただ壊したかった筈なのに……

 

ただ■した■だけなのに

 

ただ殺したかった筈なのに……

 

ただまた■い■い■かった

 

ただ復讐したかった筈なのに……

 

ただもう■度■妹として……

 

「はあああああああッ!!!」

 

「【ガアアアアアッ!?】」

 

その輝きに目を奪われたせいか、鋭い斬撃音と共に私の腕が吹き飛んでいくのが判る。その痛みのせいか、意識がはっきりしてくる。目の前の光は拒絶しろ/受け入れろと……相反する思考が浮かんでは消えていく……

 

「鬼一が兵法、受けてみるか!」

 

【ダイカイガンッ!牛若丸!オメガドライブ!!!】

 

どこかから潮騒の音が聞こえてくる……咄嗟に動き出そうとしたが、足が重い……なんだ?と思い足元を見ると

 

(水……いや、これは……海!?)

 

潮の香りと寄せては返す波の音……そして周囲に浮かんでいる船……これはこの光景は……咄嗟に顔を上げると一番奥の船の上に佇む人影が見える

 

(これはオボエテイル……)

 

巨大な剣を構える。迎え撃たなければ……そう考えて構えると同時に人影が船の間を高速で飛び移って向かってくるのが判る

 

「【ガアアアアアッ!!!】」

 

海のせいで思うように動けない、だから飛び移るはずだった船目掛けて剣を投げつけ破壊する

 

「!?」

 

空中に浮かんだ破片を踏んで何とか体制を立て直した所に更に剣を投げつける

 

「ぐあっ!?」

 

身動きの取れない空中での一撃。遠くへ浮かぶ船へ叩きつけられる姿を見て

 

(トドメヲササナイト)

 

あれが居ては私は私で居られない、膝下まで発生している海を掻き分けて崩壊した船へ足を進める

 

「はああああああッ!!!」

 

「【!?】」

 

全く予想だにしなかった方向から聞こえてきた雄たけびに咄嗟に振り返るが、気付いたときはもう遅かった。もう避けることも防ぐことが出来ない距離……そこに私が……かつての私が居た

 

「壇ノ浦・八艘跳ッ!!!」

 

裂帛の気合と共に放たれた一撃……心臓の辺りを貫いている刃を見た。まだ身体は動く、最悪相打ちに持ち込むことが出来る……そう判っていた……だが私の言葉でそんな考えは消えた

 

「私の……私達の勝ちだ……」

 

奇妙な鎧を身に纏っている私の姿が、一本の刀を2人で持っている姿に見えた。ああ、そうか……

 

(私が戦っていたのは1人じゃなかったんだ……)

 

それは判っているはずの事だった……だが私はそれを忘れていた。ゆっくりと海の中に倒れこみながら

 

「ああ……そして……私の負けだ……」

 

今まで私を支配していた憎悪も何もかも消えて……ただとても懐かしい物を見た。そんな穏やかな気持ちを感じながら、私はゆっくりと海の中に倒れこむのだった……

 

 

 

 

 

刀を支えにして倒れる事を耐えている横島に駆け寄る。さっきまで存在していた海と船は跡形も無く消え去り、残っているのは心臓の辺りに大きな穴を開けて地面に倒れている義経と横島の姿だけだ

 

【オヤスミー】

 

私が近づくとベルトが粒子となって消える、咄嗟に横島に手を伸ばし抱きとめる。意識が朦朧としているのか酷く重く感じる

 

「……俺……勝ったんだよな?牛若丸とウィスプの力を借りたけど……俺勝ったんだよな?」

 

朦朧とした意識の中そう呟く横島を抱きしめながら

 

「ええ。見てた、横島が勝つ所をちゃんと見てた」

 

【横島さん!すっごく頑張ってて……凄く格好良かったです!】

 

私とおキヌさんの言葉を聞いて、横島は小さく笑って意識を失った。あのベルトのせいで霊力を消耗しすぎたのだろう、早くシズクの所に連れて行って治療しないと……

 

「貴方を封印することになるけど、良いわね?」

 

「ああ……かまわない、そうしてくれ……」

 

美神さんと義経の会話が聞こえてくる。横島を抱きかかえたまま振り返ると倒れている義経の周りに美神さんとエミさんが結界を書いているのが見える

 

「おたくを操っていた魔族のことは覚えてる?」

 

「……すまないが覚えていない」

 

封印を施す前に少しでも情報を手にしようとしている美神さん達。だが義経は小さく首を振って何も覚えていないと言う

 

「……操るだけ操ったら使い捨てるか……厄介なことをしてくれる」

 

横島を治すために近づいてきたシズクがそう呟く。英霊を操るだけ操ったら記憶を消す、もしも今後もこんな事が続くのなら、お父さんの起した神魔大戦よりも酷い争いが起きるかもしれない

 

「……私を止めてくれた礼だ……」

 

義経は震える手で貫かれた自身の心臓の位置に手を突きいれ、そこから何かを引っ張り出す、それは不気味に脈動する紅い石……それを見た瞬間。言いようの無い恐怖を感じた……まるで心臓をわしづかみされたような……

 

「厳重に封印を施せ……これは神魔……を狂わせる」

 

「これに操られてたってことね。ありがとう、しっかりと封印して……」

 

美神さんがその石に手を伸ばした瞬間。その石は一瞬で風化し、消え去った

 

(情報を渡す気はないって事か……)

 

きっと何者かの手に渡る前に消え去るように仕掛けを施されていたのだろう。実物が無いのは残念だが、私達が目で見て確認しているので口頭でも報告出来るからよしとするべきかもしれない

 

「消えてしまった……か、すまないな……現代の退魔師……よ、あの若武者に伝えてくれ……懐かしい物を見せて……くれて……大事な……事を……思い出させてくれて……ありが……とう……と」

 

穏やかな顔をしてそう告げた義経の身体が風化していく、その中から飛び出した義経の魂を美神さんとエミさんが封印する。また魔族に操られないための処置だが、出来ることならまた天界へ送ってあげたかったと思う

 

「ふーみんなお疲れ様……今回の功労賞は横島君だけど、皆本当に良く頑張ってくれたわ、とりあえず横島君をホテルに運んで、話はそれからにしましょうか」

 

美神さんの言葉に頷く、結界の維持で霊力は極端に消耗しているし、横島は意識を失っているから、どこかで休ませなければならない、気になることは山ほど残っているが、ここで話している内に横島の容態が急変しても困る。私は意識を失っている横島を背中に背負い、車の元へ向かって歩き出すのだった……

 

 

リポート22 英雄の見る夢は? その6へ続く

 

 




久しぶりのライダーでシリアス続きでした、どうしても戦闘回になるとシリアスが多くなりがちですね。次回のリポートは今回の補足などをメインにするので、少し短めになると思います。そしてその次のリポート23はGSらしさを出せるギャグとかの話にしたいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回でリポート22は終了となります、前回の補足と暗躍している魔族のサイドを書いていこうと思っています。この次は日常系の話と「フィルムは生きている」の組み合わせをやって……だいぶ飛ばしている話もあると思いますが、GS試験の話に入っていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート22 英雄の見る夢は? その6

 

「あー疲れたー」

 

暗い通路を歩きながら大きく背伸びをする。ここ最近監視が厳しくて、ずっと分霊で行動していたからか、本体の動きがずいぶんと重い気がする

 

「はーでもまた仕事なんだよなあ」

 

ガリガリと髪の毛を掻く、折角本体のほうに戻ってきたのはいいが、極秘の任務があるとかで神魔合同で動くらしい、その中に選ばれているからまた直ぐ分霊に戻らないといけない

 

(まぁ決行日まではゆっくりすればいいか)

 

呑もう呑もうと思っていた魔界の銘酒の事を思い出し、鼻歌交じりで歩いていると

 

「セーレ。丁度良いとこ……どこへ行く!?」

 

背後から声が聞こえた瞬間。全力で走り出す、今の声はガープだ。また何か面倒毎を押し付けるに違いない

 

(あいつだって休ませてやらんと死んでしまう!)

 

僕の能力である自由自在に移動する能力。それは生身でも使用できるが、魔力の消耗が激しい。だからずっと一緒に育ってきた魔界のペガサスと一緒に能力を行使するのだが、ここ最近能力を使いすぎてへばっている。そろそろ休ませてやらんと……部屋の中に逃げ込んで結界を作ろうと思っていると

 

「すまないな。セーレ」

 

「はなせ!放せ!アスモデーウスッ!!!!!」

 

浮遊感を感じ顔を上げると申し訳無さそうな顔をしているアスモデウス、そんな顔をするなら僕を解放してくれ!!

 

「追いついたぞ、セーレ」

 

あ、これやバイ奴です、声が平坦だけどそれが余計に恐ろしい。僕は溜息を吐きながら

 

「仕事は少し無理だよ。僕の馬が死んでしまう」

 

これは逃げれないと悟り、少しでの抵抗とそう告げると

 

「魔界のペガサスだろ?まだ平気に決まっている」

 

「だまーれー!!!天界・魔界・人間界!!!何度僕達に往復させた!?僕もあいつももう限界なんだよ!少しは休ませろ!!!」

 

そもそも天界の動きを探るのだって、かなり難しいのに、更にここの引きこもって研究ばかりしているガープに研究材料を渡すのでくたくただよ!相棒だって馬小屋で倒れてぴくりとも動かない!と怒鳴ると

 

「む、流石にこき使いすぎたか、どこまで行けるか暇つぶしで実験していたのだが」

 

「僕と相棒を実験材料にするなーッ!!!」

 

こいつぶん殴りたい!!魔術師タイプだから、僕の本気の力には耐えれないはずだ

 

「すまん、セーレ。我の秘蔵の酒と休暇を与えるから許してやってくれ」

 

アスモデウスの酒と休暇!?う、それならいいかなーなんて考えていると

 

「社蓄にお前の酒と休暇!どうせこいつにはそんな上等な酒の味もわかるまい!」

 

「放せ!アスモデウス!こいつを!この馬鹿を殴らせろーッ!!!」

 

「アスラ。すまんが頼む」

 

のそりと現れた巨人を見ながら僕は

 

「牢から出してやっただろ!?開放してくれ!」

 

魔神でありながら情に厚いアスラならきっと僕を解放してくれる。そしてガープを殴らせてくれると思ったのだが

 

「酒と食事を用意しよう。お前の愚痴を聞こうじゃないか」

 

「ちくしょう!僕に味方は居ないのかーッ!!!」

 

アスラに鷲づかみにされ引きずられながら僕はそう絶叫するのだった。しかしそれでもアスモデウス達を裏切ろうと思えないのは……やっぱり仲間だからなのかと思うのだった……

 

アスラに無理やり引きずられているときは、扱いが酷い!とか、もっと丁寧に扱え!と叫んでいたのだが、アスラに与えられた部屋には既にたくさんの酒と料理が並べられていて、アスラと並んで愚痴を言いながら、僕はやけ食いを始めた。ここ最近碌に食事もとってなかったので、無心で食べ進めやっと一息ついたところで

 

「美味いか?」

 

さっきまでのガープへの怒りもあったのだが、アスラが用意してくれた酒と料理を口にし始めれば、食事に没頭し始めてしまう自分が居た。今まで味わったことの無い独特な風味を持つ食材に完全に魅了されていた

 

「んぐ。インド料理?だっけ?なんか独特で美味い」

 

慣れ親しんだ味とはまるで違うが、これはこれで美味い。

 

「そうか、なら食え、もっと食え」

 

アスラに勧められるまま僕は食事と酒を楽しむのだった……

 

「ガープ」

 

「判っている。判っているんだ」

 

アスモデウスに声を掛けられたガープは口元を押さえてくっくっくと楽しそうに笑っている

 

「趣味が悪いぞ?」

 

「ふふん、若輩の身の同胞を気遣ってやったまでだ」

 

付き合いの長いアスモデウスは理解しているのだ。ガープはセーレをからかって遊んでいると言う事に

 

 

「だがまぁ……冗談ではなかった。興味深いことがあって下界に向かって貰いたかった」

 

「何か見つけたのか?」

 

「くっくっく……義経に埋め込んだ狂神石の反応が消えた。一時的に霊的物質になって隠れているようだ、それを回収して何があったのか調べたかったのさ」

 

何事も無いように言うガープにアスモデウスは首を傾げながら

 

「ガープ。尋ねたいことがあるのだが?」

 

「ん?なんだ?今の所は全て計画通りだが?」

 

ガープと付き合いの長いアスモデウスは義経を利用した今回の計画の中でらしくない点がどうしても気になっていたのだ

 

「狂神石を隠す仕掛けを施すのならば、義経を強化することも出来ただろう?なぜそれをしなかったのだ?」

 

合理的に計画を立てるガープらしくない、隠す程度に術を使うなら義経を強化する。何故それをしなかった?と尋ねられたガープはきょとんとした顔をしてから高笑いをしながら

 

「あっははは!!おいおい冗談はよしてくれよ、アスモデウス。どうして私がたかが人間霊にそこまでしなければいけない?実験動物にどうしてそこまで思い入れしなくてはいけない?たかがデータ取り、死のうが生きようがどうでもいい」

 

仮にも英霊と呼ばれる高位霊をたかが実験動物と笑ったガープにアスモデウスは肩を竦める

 

「そう言うのなら計画の全てくらい話しておいて欲しいものだ」

 

「くっくっ!何が起きるかわからないそれも楽しみの一つだろう?まぁ良い気が向いたら話すさ、悪いが別の仕事もある。ここいらで失礼する。義経に埋め込んだ狂神石回収はそのついでにでもやってくるさ」

 

そう笑ったガープが翼を振るうとその姿は人の姿になる。それを見たアスモデウスは

 

「何をするつもりだ?」

 

「何、前に私達を探って来た蛇が居ただろ?あれが面倒を見ていた人間共が魔装術を使うそうでな」

 

くっくっくと楽しそうに笑ったガープは懐から紅い石を取り出して

 

「魔装術を扱う人間と狂神石の相性を調べるついでに使えそうな手駒を見つけてくる」

 

禍々しい笑みを浮かべガープは溶ける様に魔界から消えていくのだった……

 

 

 

 

 

 

小さな金属音を立てて兵鬼が記録していた映像が止まる。私は顎の下に手を置いて

 

(全くどうなっている)

 

火傷の痕が残る右手と、破壊された結界を見て眉を顰める。あの時私とドクターカオスの作った結界を眼魂がぶち抜いていった……そしてそれは遠く離れた岩手の横島君の下へと飛び、そして

 

「義経の中から牛若丸を引っ張り出し、再び眼魂へ……か」

 

あの白い眼魂が何個あるのか判らないし、そして何よりも幼年期の魂だけを呼び出す。そんな事は神魔でも無理だ

 

「あのベルトはなんなんだ」

 

この私が理解できないあの謎のベルト。あれが眼魂を生み出したのは判る。そして眼魂は分析が出来たが、あのベルトの存在が理解できない……いや、理解したくない。あれだけの力が出せるのは間違いなく世界の修正力が原因だろう、逆を言えばあれだけの力がなければかつて私の起した神魔大戦の代わりとなる事件を乗り越えることが出来ないと言う証明で……

 

「どうしろって言うんだ」

 

珍しく苛立ちを感じながら考え事に没頭していると、窓ガラスが叩かれる音がする。

 

「ん?」

 

言っておくがここは高層ビルで窓なんて叩けるわけがない。考え事を中断して振り返ると

 

「シャー」

 

「……ドン引きだよ」

 

無数の眼を持つ白い蛇が窓の外に浮いていた。慌てて窓を開けて部屋の中に招き入れると

 

「シャー」

 

こっちを見つめてくる蛇。その口には封筒が咥えられていて……

 

「ああ、メドーサからの手紙だね?ありがとう」

 

「フシャー」

 

私が手紙を受け取ると白い蛇の使い魔は煙と共に消えて行った。私は手紙の封を切り中身を確認する、夜光院と契約する事になり思うように動けないが、未来視の能力を持つ夜光院を護りながら情報を集めると聞いていた

 

(良い判断だね)

 

ガープは人の心を操る。夜光院がガープに捕まって洗脳されたとなると、未来視の能力を持つ夜光院を護ると言う選択肢は正解だ

 

「ふんふん。なるほどなるほど」

 

白龍寺と言う所に伊達 雪之丞・鎌田 勘九郎・陰念がいるのでその様子を見ておいて欲しい……か

 

(戦力としては……残念ながら伊達君だけなんだよなあ……)

 

蛍に聞いた話では伊達君は魔装術を更に進化させ、その先へと至った。確か鎌田と陰念は魔装術を制御出来ず魔族に……陰念は知らないな、誰だ?

 

(ふむ、だが鍛えようによっては物になるか……)

 

魔装術の適正があるだけで人間としては十分。良い機会だから見に行ってもかもしれない、ついでにドクターカオスの所に兵鬼を渡して、今回の戦闘データの分析を頼めばいいかと思い私は白龍寺へと向かったのだが……

 

「あれは!?」

 

もう少しで白龍寺と言う所で寺の中に入っていくモノクルを身につけた青年の姿を見て、私は咄嗟にその場にしゃがみ込んだ

 

「うん?……今懐かしい魔力を感じたような……気のせいか」

 

遠くから聞こえてきた呟き、そして人間の姿に化けているがあれは間違いない

 

(ガープ!なぜ奴がここに……)

 

どうしてガープが白龍寺に居るんだ!?そもそもなんで私は気付かなかった?

 

(ちっ……これは不味いことになったかもしれないな)

 

芦グループとして白龍寺を傘下に収めることで伊達君達をGSとして鍛えるつもりだったが、ガープが絡んでいる以上それをすれば私にまで辿り着かれる可能性が出てくる

 

(今は接触するわけには行かない……)

 

表だって動いている振りをしているのがガープにばれては私も魔界で思うように動けなくなる。出遅れたことに舌打ちしながら、私はその場を後にした。メドーサが積極的に動かないから、今回のGS試験は平穏無事に終わるかもしれないと思っていたが……

 

(どうもそんな事は言ってられなくなったな……)

 

ガープが絡んでいるとなるとどう考えても、前よりも酷いことになる。恐らく小竜姫だけでは対処しきれないはずだ……

とりあえずこの事を最高指導者に報告して、何人か援軍を送って貰ったほうがいいかもしれないな……それにもしかすると

 

(私にも声が掛かるかもしれないな……)

 

ガープのことだ、私がこの街に拠点を持っているのは既に気付いているだろう。もし声を掛けられたのなら、協力しなければ私が疑われるし、手を抜けばそれで更に疑われる……

 

(ドクターカオスのところに寄ったら胃薬を作って貰おう……)

 

なんか急に胃が痛くなったので、胃薬を作って貰おう。人間用だと効果があるか判らないから……

 

 

 

 

 

 

机の上に転がっている黄色と白と紫の丸い物体。優太郎さんとカオスのじーさんが眼魂と名づけたと聞いたが

 

(これ何なんだろうなー?)

 

あのベルトと使うことで不思議な力を発揮してくれたが、あの後ベルトは消えたし……身体は痛いし……本当これ何なんだろう?

 

「……もう大丈夫なのか?」

 

昼食時だからか鍋を持っているシズクがそう尋ねてくる。んー?少しだけ身体を動かして見て

 

「前よりかは大分ましかな?筋肉痛だけど」

 

机の上に上半身を預けながら呟く、前みたいに動けなくなるほどの激痛ではないけど、それでも身体は痛いし、動きたいとも思えない

 

「……それなら良いが……食欲はあるか?一応肉うどんを作ったが」

 

肉うどん……俺はその言葉を聞いて、眉を顰めながら体を起こし

 

「食べる食べる」

 

丁度腹が減ってたんだよと返事を返し、机の上の眼魂を片付けようとして

 

「あれ?」

 

さっきまで3つあったのに……今は黄色と白しかない。あれ?牛若丸のどこ行った?周囲を見ていると

 

【たぁすけぇてえええええ!】

 

悲壮そうな牛若丸の声が聞こえて振り返ると

 

「みむーみーむ♪」

 

「うきゅうきゅ♪」

 

モグラちゃんとチビが楽しそうに紫色の眼魂を転がしていて、そこから牛若丸の悲鳴が聞こえてくるので

 

「こらー!それで遊んだら駄目ー!!!」

 

痛む身体を引きずりながら、俺はチビとモグラちゃんから牛若丸眼魂を取り返し、そのまま遊び道具入れから

 

「これなら遊んでいいから」

 

毛糸のボールをチビとモグラちゃんの前に置いてやると

 

「みーむー♪」

 

「うきゅー♪」

 

ボールを転がして遊びだすチビとモグラちゃんを見ながら机のほうに戻る

 

【助かりました……恐ろしいですね。あの妖怪】

 

眼をちかちか光らせる牛若丸眼魂を見ながら、うどんを啜る。美味いけど……なんかちょっと大阪の味とは違うな

 

「……お前成仏しなかったのか?」

 

【はい!主殿のおかげで未来の私を解放して貰えました!なのでその恩返しをするまでは成仏いたしません!今はこんな姿ですが、霊力が回復すれば人の姿になれると思います!】

 

元気よく言う牛若丸眼魂。人の姿かぁ……きっと美神さんが戦力が増えるって言って喜びそうだなあ……

 

「と言うか、主殿って何?」

 

俺主殿って呼ばれるほどえらくないんだけど?と思いながら尋ねると牛若丸眼魂はチカチカと光りながら

 

【主殿は主殿です、これでも武士なので己が仕えると決めた主人を主と呼ぶのは当然です】

 

なんかふんって胸を張ってる姿が容易に想像できるな……とは言え、この感じは何を言ってもだめそうなので、好きにさせておくことにする

 

「ふーご馳走様」

 

考え事をしながらも無心でうどんを啜っていたからか、あっと言う間にうどんは空になっていた。どうも自覚はなかったが、空腹だったみたいだ

 

「……ちゃんと全部食べたな。食欲がある用で何より」

 

小さく笑うシズク、目つきは鋭くて普段はちょっと怖いって感じがするけど、こういうふとしたときに見る笑顔とか見ると可愛いよなあ……仮にも神様に抱く感想じゃないと思うけど……

 

【横島さん?鼻の下伸びてますよ?】

 

「ほわああああああ!?」

 

急に机の下から顔を出したおキヌちゃんに、絶叫して後ろにひっくり返る

 

「ぎゃふ!?」

 

「ああー!?た、タマモー!?」

 

後ろで寝ていたタマモを押しつぶしてしまい、痙攣しているタマモを慌てて抱きかかえる。えっと、骨とか折れてないよな?ちょっと手足を触って見るが痛そうな素振りはないし……大丈夫だよな?

 

「……行き成り来るな。それに玄関から入って来い」

 

【あーすいません】

 

シズクに説教されているおキヌちゃん。本当心臓に悪いから、玄関から入ってきて欲しい

 

「それで何か用なのか?」

 

霊体痛の事もあるし、家で療養するように言われてるんだけど……こうして尋ねてきたってことは何かの用事があるのかな?と思い尋ねると

 

【美神さんと蛍ちゃんが眼魂の事で話があるそうですよ?】

 

眼魂の事で?俺は机の上の3つの眼魂を見て、何の話だろうな?と思いながら、不満そうにこっちを見ているタマモを膝の上に乗せて、その8本の尻尾にブラシをかけてやりながらごめんなーと謝るのだった……なおチビとモグラちゃんはと言うと

 

「みーむーッ!」

 

「うきゅ!?」

 

ソファーの壁をゴールに見立てて、PKの様な物をやっていた。なんか最近賢いって言葉で片付けられないくらい成長しているなあと俺は心の中で呟くのだった……

 

 

 

 

 

義経の封印を終えた事でGS協会と岩手のGS支部から報酬が払われた、本当は嫌だけど今回はエミにも大分迷惑をかけたので、その報酬の一部をエミに譲ることにした

 

「これ、一応私からのお礼」

 

私のリポートを琉璃に提出した帰りにエミの事務所によって、小切手を渡す。苦渋の決断だったが0を7個エミの目の前で書き込んだ。まぁ琉璃と岩手のGS支部からあわせて億単位で収入があったからいい物の、今回は本当に失敗したと思う

 

「まぁ良いけどさ、あんまり無理難題を持ち込むの辞めてよね?」

 

「今回見たいなのはそうそう起きないわよ。所で……タイガーは?」

 

姿の見えないエミの助手の事を尋ねると、エミは小切手を金庫の中に隠しながら

 

「今回の独断専行で暫くGSの修行なし、ちょうど編入試験があるらしいから勉強させてるわよ」

 

まぁ今回は上手く行ったから良かった物の、怨霊と精神を繋げるなんて正気の沙汰じゃないからね。とは言え、横島君が命令した所だからあんまりキツク言えないのが辛いところね

 

「それであの石のことと義経の事はどうするつもり?妙神山にでも行くの?」

 

うーん、確かに妙神山に居る小竜姫に話をするのが早いんだけど、そうそう妙神山にはいけないし……

 

「とりあえずは保留ね。それに相談に行っても信じてもらえるか怪しいしね」

 

神魔を操る物質。そんなのがあると言っても証拠が無ければ信じてもらえないかもしれないし

 

「そうよね、神魔を操る者なんて、正直言って信じたくないわよね」

 

私も信じたくない気持ちは一緒だけど、実際何回も見ているから信じるしかない

 

「じゃ、また今度。琉璃と飲みに行く時にでも誘うわ」

 

車でいつまでも蛍ちゃんを待たせるわけにも行かないので、事務所を出ようとすると

 

「令子。オタクの所の横島……ちゃんと見ておきなさいよ」

 

エミの言葉に判ってるわよと返事を返し、車に乗り込むついでに、おキヌちゃんに先に横島君の家に行くようにお願いして、蛍ちゃんと一緒に横島君の家に行くと

 

「みーみー!?」

 

「うっきゅー!!」

 

「「おおー」」

 

毛糸のボールでPKをしているチビとモグラちゃんを熱心に見てる横島君が居て

 

(な、何をしているのかしら)

 

最近チビの賢さがどんどん上がっているのは知ってたけど、まさかPKを出来るレベルまで知性を上げているなんて思ってもなかった

 

「あ、美神さん!見てください!チビとモグラちゃんがサッカーを覚えました!」

 

「そ、そう見たいね」

 

弾ける笑顔の横島君の反応に正直悩む。ハムスターと同じサイズの生き物がPKをしている事に、もう少し驚いて欲しい

 

「あら、可愛いわね?」

 

「だろー?もうチビもモグラちゃんも可愛いよなー」

 

……頭痛が、いや別に良いんだけどね?ちゃんと最近除霊でも活躍してくれるようになってるから、でもこれ以上もっとなんか増えて行きそうな気がするのは気のせいかしら?はぁー……まぁ次の除霊の相談の事もあるし、前の義経の除霊の件もあるからさっさと本題の話をしましょうか

 

「横島君。あの時のベルトってどうしたの?」

 

あの時は間違いなく横島君はあのベルトを持ってなかった。それなのにいつの間にかベルトを身に着けていた、それをどうしても聞きたかったのだ

 

「また消えました」

 

消えたね……嘘はついてないわよね、横島君が嘘を言う理由がないし……じゃああのベルトはどこへ消えたのかしら

 

【あの奇妙な物なら、主殿の魂の中ですよ?】

 

突然聞こえてきた横島君でも、おキヌちゃんでもない声に驚いていると

 

「喋ってる?もしかして牛若丸?」

 

蛍ちゃんがその声の主に気付く、それは机の上の紫色の眼魂から発せられていた。と言うか主殿って何?

 

【はい!牛若丸とお呼びください、主殿に助けられた恩返しをするため、現世に留まっております】

 

眼の部分をちかちかと光らせる眼魂。あの時は調べている時間がなかったけど、まさか眼魂の中に留まっているとは……てっきり成仏しているのかと思った

 

「……魂の中とは?」

 

牛若丸が言うにはあのベルトは横島君の魂の中にあるという、それはどういうことなのか?とシズクが尋ねる

 

【ですから主殿の魂の中に眠っているのですよ。主殿の霊力と意思で出てくると思いますよ?】

 

横島君の霊力と意思か……ちらりと視線を向けるときょとんとした顔をしている横島君。何のことか理解してない見たいね

 

「ま、良いわ。繰り返し言っておくけど、あのベルトはよっぽどじゃないと使用禁止。判ったわね」

 

あれは霊力をかなり消耗させる、まだ霊力を使うことにすら慣れてないのに、あれだけ膨大な霊力を使っているといつかかならず後遺症が出るのでしっかりと釘を刺しておく

 

「う、うっす」

 

「判ればよろしい。それと暫くは療養する事、ここの病院に通いなさい」

 

もう元気なんですけどねー?と言う横島君の頭に拳骨を叩き込む

 

「あいだあ!?な、なななな!?なんで殴るんすか!」

 

頭を押さえて涙目の横島君を睨みながら

 

「肉体が元気でも、霊体が消耗しているからよ!!良いわね、ちゃんと病院に通わないと、今度から除霊には連れて行かないわよ!それに今回の独断専行!それ含めて暫くは大人しくしてなさい!」

 

この脅しは流石に効いたのか、判りましたぁと敬礼する横島君。もう動けるから元気とか思っていたんでしょうね、たぶん

 

「と言うわけだからシズク。暫くの間、横島に霊力を使わせないようにして、それとこれ病院の地図。たぶん嫌がると思うから引きずってでも病院に連れて行って」

 

「……判った。横島の面倒はちゃんと私が見る」

 

俺は子供か!?と叫ぶ横島君は無視する。ちゃんと治療させないと後が怖いからね

 

「おキヌちゃんは横島君が勝手に霊力を使わないか監視しておいて」

 

今霊力を使わせると完治するまで時間が掛かるので、おキヌちゃんも様子を見てあげて?と頼むとおキヌちゃんは

 

【了解です!24時間、お風呂までしっかり監視します】

 

「除霊するわよ!この色ボケ巫女幽霊!!」

 

そこまで監視しなくてもいいのよ?とおキヌちゃんに言うが、頬が赤く染まっているのを見ると絶対なんかしでかしそう……ワイのプライベートは!?と叫んでいる横島君の隣で頬を押さえて身悶えしているおキヌちゃんを見て

 

「シズク。頑張ってね?」

 

シズクは疲れたように溜息を吐きながら判ってると返事を返す。どうもシズクもおキヌちゃんが苦手みたいねと苦笑しながら

 

「それと横島君。除霊の本と妖怪の本、それに練習用の破魔札。それと眼魂も全部出しなさい」

 

使っちゃ駄目と言っても今の焦っている横島君ではいつ使うか判らない、だから全部取り上げておいたほうが安心できる

 

「う……「横島君?早くしてくれる?」……判りました」

 

渋々と言う様子で持ってきた除霊道具を見てから一応蛍ちゃんに確認する

 

「これで全部?」

 

横島君の手持ちの道具の管理をしているのは蛍ちゃんなのでこれで全部か確認する。厄珍には横島君だけで来た場合には売らないようにと釘を刺しているので1人で買うことは無い。購入時は蛍ちゃんが付き添っているので横島君やシズクに尋ねるよりも早い

 

「……はい、全部ですね。ちょっと破魔札の減りが早いですけど」

 

減りが早いねえ……私と蛍ちゃんの視線に判りやすく目を逸らす横島君。どうも独断で練習してるみたいね、これも今後しないようにシズクに監視してもらわないといけないみたいね

 

「さてと、じゃ私達は仕事があるから。いいわね大人しくしているのよ」

 

「うっす……」

 

【薔薇色の生活の始まりですー♪】

 

納得して無い様子の横島君と頬を紅く染めていやんいやんと身を捩っているおキヌちゃん。そしてそんなおキヌちゃんをみて青筋を浮かべている蛍ちゃん。いつもどおりすぎるけど、これを普段と思ってちゃおしまいよねと溜息を吐き

 

「じゃシズク。後は任せたわよ」

 

おキヌちゃんと横島君の問題はシズクに丸投げし、私は蛍ちゃんと一緒に依頼主の元へ向かうのだった

 

「美神さん。あの色ボケ巫女幽霊、本気で除霊したいんですけど?なんかいい方法無いですかね?」

 

なお待ち合わせの場所に移動するまでの間。私はおキヌちゃんを本気で除霊しようとしている蛍ちゃんを説得する事になり、精神的にかなり疲れることになるのだった……

 

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その1へ続く

 

 

 

 




今回はあんまり内容が無かったかな?暗躍サイドとかを書いて見たかったのですが、GS風にしてみたのでかなりコミカルになっていると思いますが、どうでしょうか?後はほのぼのをチビとモグラちゃんを書いて見たかったので、こんな感じになりました。次回はフィルムの中の剣士と言う事で、フィルムは生きているの話になります、その後に別件をやって、GS試験の話に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート23 フィルムの中の剣士 
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回からはフィルムは生きているの話に入っていこうと思っています。この後は一回別件を挟んで、GS試験の話に入っていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート23 フィルムの中の剣士 その1

 

義経の除霊が終わってから5日。俺は暇を持て余していた……まぁたまに風呂場とかに襲撃してくるおキヌちゃんのせいでかなり緊張感のある生活をしているが、それでも暇だと感じる程度にはおキヌちゃんの突撃になれてしまったことを悲しめばいいのか、喜べば良いのか判断に悩む所だ

 

(まさかなあ……学校まで駄目とは……)

 

1週間の自宅療養が病院から出された診察結果だった。GSのアルバイトが出来ないなら1週間でも学校に行こうかなあっと思っていたので正直これは予想外だった、最初は休みだーと思って喜んでいたのだが、それも2日で飽きた。本を読んだり、TVを見たり、軽い筋トレをして見たり……チビとモグラちゃんと遊んだりしていたが、やはり暇だ。陰陽術と妖怪の本も没収されているので、やることが殆ど何も無い……

 

(そう言えば、タイガーの奴は大丈夫なんだろうか……?)

 

昨日宿題やプリントを届けに来てくれたタイガーの事をふと思い出した

 

「お前。大丈夫か?」

 

「ひゃんひゃんひゃいじょうぶ」

 

うん、あれは今思い出しても大丈夫と言える顔じゃなかったと思う。元の形が判らないほどに殴られていたタイガーに本当に申し訳ないことをしたと思う

 

「悪いな、あんなことを頼んだから」

 

義経と俺の精神を繋いだ。それが蛍達の逆鱗に触れ、これだけぼこぼこにされたと判っているので謝るとタイガーは

 

「ひゃにしひゃいでくだひゃい。ワッシはじびゃんのひぃた事はまちひゃってにゃいとおもひゃってるけん」

 

「悪い、何言ってるかわからん」

 

俺がそう言うとタイガーは鞄からノートを取り出して、さらさらと文字を書いて俺に差し出す

 

【友達だから、友達のやりたいと思ってることは……全力で応援したかったんですじゃー】

 

こいつ恥ずかしいことを……でもまあ。うん、俺も友達だって思ってるし

 

「ありがとな。また今度どっか案内するぜ」

 

こっちに越してきたばっかだからなんもわかんないだろ?と言うとお願いしますジャーとノートに書いて、のっしのっしと歩いて行ったタイガーの事を思い出していると

 

「みーむー」

 

小さな翼で飛んできて俺の腹の上に着地するチビ。その目を見るとキラキラを輝いているのが判る

 

「判った判った。遊んでやるからなー」

 

みーむうー!うきゅーっと喜ぶモグラちゃんとチビ。普段は学校とか、アルバイトで家に居る時間の方が短いから、こうして俺が家に居るから全力で甘えに来ているのが判る

 

「タマモも遊ぶか?」

 

ボールとか、猫じゃらしを用意しながら日当りの良い所で寝転がっているタマモに声を掛けるが、反応が無い。日当りが良いから気持ちよくて寝てるのかな?と思いながら

 

「ほーれ」

 

チビとモグラちゃんのお気に入りの毛糸のボールを2匹の前に転がすのだった……

 

「みーみー」

 

「すぷーすぷー」

 

1時間ほど遊んでやったら満足したのか、並んで寝転んで昼寝しているしている姿を見ると、なんか穏やかな気分になってくる

 

「コン」

 

モグラちゃんとチビが寝てからタマモが足元に擦り寄ってくる。膝の上に乗せて

 

「モグラちゃんとチビが居るとあんまり甘えてこないなー?」

 

と呟くと判りやすく目をそらす、まぁ無理は無いか

 

「早く9本目の尻尾が戻ると良いなー」

 

キラキラと日の光を浴びて輝く、タマモの8本の尻尾を撫でながら言うと

 

「クウン!」

 

元気良く返事をするタマモに苦笑する。後最後の一本でタマモの霊力が完全に回復するのだろう、そうすれば狐の姿じゃなくて、満月の時の人間の姿でいる事ができるのだろう

 

(うーむ、可愛い子狐で居てくれるのはもう少しだけか……)

 

なんだかんだでかなり長い間一緒に居るので、正直狐の姿のタマモがあんまり見れなくなるのは寂しい気もするが、人間の姿のタマモも可愛いかったので、早く喋ったり出来る様になるといいなあと思っていると

 

【横島さーん。お昼ごはんですよー】

 

キッチンから聞こえてくるおキヌちゃんの声、普段なら飯だーっと喜んでリビングに向かうのだが

 

(あんまり美味くないんだよなぁ……)

 

霊体の回復に良く効くという食材で作られた料理、それは精進料理に近いものがあり、肉や魚が一切なく。正直言って若干物足りないし、それに何か普通じゃない食材も混じっているからか、食べれはするが、美味くないと言う料理だ。俺がタマモの背中を撫でながら溜息を吐いていると

 

「……しっかり食べて早く治すことを考えろ」

 

いつの間にか背後に居たシズクにそう言われ、早く体調を整える為だもんな。我慢して食べようと呟き、タマモを抱きかかえてリビングへと向かうのだった……

 

 

 

 

 

機械にセットした3つの球体……横島君から借りてきた眼魂だ。機械に表示されているグラフを見て

 

「ふむ、ウィスプの総霊力が小僧よりも少し上、韋駄天はその2倍~3倍。牛若丸が韋駄天より下でウィスプよりも上……まぁ当然といえば当然じゃな」

 

私だけでは分析しきれないと判断してドクターカオスに協力要請をした。科学者と言うのは総じて、考えが偏りやすい。1人よりも2人で分析したほうが良い結果が出るという物だ。そして分析の結果、材質などを知ることが出来たのは大きな進歩といえるだろう

 

「神族の韋駄天に英霊の牛若丸。霊力のキャパが大きいのは当然ですね」

 

英霊と至った義経と比べれば、幼い時の牛若丸のキャパと霊格が下がるのは当たり前だが、それでも牛若丸は人間よりも遥かに上位の存在だ、内包している霊力が大きいのは当然。しかし、それで行くと気がかりな点が1つ

 

「よくそんな規格外の魂を小僧はその身に宿すことが出来たのう……」

 

横島君の潜在霊力は確かに膨大だ、だがそれは神族や魔族と比べれば微々たる物だ。あの謎のベルトと言う媒介があったとしても、横島君の身体に収まる訳が無い……

 

「シャーマンと仮定してもなぁ……頭がパンクして終わりじゃろうなぁ……」

 

いくら協力的だったからと考えても、横島君では完全にキャパシテイオーバー。私とドクターカオスから見れば、酷い霊体痛と筋肉痛で済ませている横島君が正直信じられない

 

「でしょうね、最悪その場で死ぬって言うのが普通でしょうね」

 

仮にこれが神代君ならギリギリで理解できる、元々神卸しの儀式に特化し、それを何代にも渡って磨き続けていた神代家の人間なら可能だろう、しかし前世が陰陽術師……しかも不完全な転生をした横島君がそれだけの霊力を自分の身体に受け入れて無事で居られる理由が判らない……

 

「確認のために聞くが、小僧の家系に強力な霊能力者はいないんじゃったな?」

 

「ええ、これは何回も確認しています」

 

横島君の家系には霊能力者は居ない、しかしその代わりと言ってなんだが

 

「奇妙な事に時の権力者や、有名な武士などの近くに居た人物が祖先に居たらしいですが……」

 

これは調べて見て判ったことだが、横島君の両親の大樹さんに百合子さん。その2人の家系には時の権力者の左腕にまで上り詰めた貴族や、決して有名ではない武将だが、その部下として活躍した剣豪などが居た

 

「ふーむ……それもまた不可思議じゃな、そんな存在が居るなら霊能力者が居てもおかしくないんじゃが」

 

これだけその時代で活躍している人間が居るのにも関わらず、不思議なことに霊能者が1人も居ない……

 

「霊能者が居れば無理やりにでも納得できたんじゃがな」

 

その祖先の霊能者の血が横島君に流れているからで、多少無理やりだが納得できた。だがそれすらも居ないのだから、謎が深まる一方だ

 

「まぁ小僧の謎については、一旦ここで切って……アシュよ。ワシに霊具の発明を抑えろとはどういうことじゃ?ちゃんとした理由を説明して欲しいんじゃが?」

 

今日ドクターカオスを呼んだのは、眼魂の分析だけではない。もう1つ直接あって話して置きたいことがあったからだ

 

「先日街中でガープに遭遇しました。下手に行動すると貴方達の身が危ない」

 

「……なるほどのう……それは確かに発明を抑えろと言う訳じゃ」

 

ガープが下界で行動しているのは、白龍寺でメドーサの変わりにあの3人を手下として操るためと考えて良い。それだけならメドーサの代わりと言う事で理解できる。それだけで済めばいいが、ガープの事だ。役に立つ人間を操って部下にする事だって考えているだろう、だから今のこの時期にドクターカオスに霊具の開発をして目立たれたら困るのだ

 

「しかしな、ワシの名前はかなり今の段階で有名になってしまっている、もう遅いのではないか?」

 

「一応これから最高指導者に連絡して、護衛を何人かよこして貰うつもりです。逆行記憶もちか、出された指示に忠実に従う軍人かのどっちかになると思いますが……」

 

今の段階でも十分ドクターカオスは有名だ。もう遅い可能性もあるが、これ以上開発して目立つことを避けるだけでも効果があるかもしれない

 

「まぁ知り合いが来てくれるとありがたいの……」

 

「そればっかりはなんとも……」

 

恐らくだが、ソロモンと互角に戦えるような最上位の神魔族が来てくれる可能性は0だ。恐らく逃げの一手に特化した神族か魔族が選ばれる可能性がある

 

「まぁワシのほうでも簡単な逃亡用の道具を用意しておくわい」

 

「私のほうでも護衛用の兵鬼を作成するので、ある程度は安心してください」

 

ある程度だけか。と笑ったドクターカオスは立ち上がり

 

「すまんが、まだ用事があるので失礼する。あんまり力になれなくてすまんの」

 

「いえ、こっちも不安にさせるようなことしかいえなくて申し訳ないです」

 

ソロモンが動いていると言って、正規の軍を動かせばその場で戦争になるかもしれない、だから気付いていても思うように動けないもどかしさがずっと私に付きまとっている

 

「ふ、案外何とかなるもんじゃ、人間って言うのは逞しい者じゃからな」

 

ではの。お前も気をつけろよと声を掛けて、部屋を出て行くドクターカオスを見送り、机の上の眼魂を見つめ私は小さく溜息を吐くのだった。これからどうなるのかわからない不安。そして私は今度は娘達を護る事が出来るのか?そして私のせい

で不幸な未来を与えてしまった横島君の人生を変えることが出来るのか?考えても答えの出ない不安を感じるのだった……

 

 

 

 

 

横島君に通わせていた病院の医師から、全快したので私の事務所に向かうように指示を出しましたという電話を貰い

 

「はい、ありがとうございました」

 

これで横島君も復帰か、正直言って、横島君が居ない間はシズクの協力も得れなかったので辛い除霊がそれなりに多かった

 

「はー終わりました。美神さん~少しは掃除しましょうよー?」

 

おキヌちゃんが横島君の所に居るので、正直私の事務所はゴミ屋敷のようになってしまっていた

 

「あ、あはは……ごめんね?」

 

やろうと思えば家事も掃除もできるのだが、どうしても面倒になってしまうのだ

 

「はー別に掃除すること自体は良いんですけど、依頼人帰っちゃいますよ?」

 

溜息を吐きながら掃除道具を片付けている蛍ちゃんを見ていると

 

「美神さーん!無事治療完了しましたー」

 

横島君が頭の上にチビとモグラちゃんを乗せ、タマモを抱きかかえてシズクと一緒に事務所の中に入ってくる

 

「良かったわね、あと、もう1回言っておくけど、あんまり無茶な事をしたら駄目よ。霊力の枯渇は本当に危険なんだから」

 

大体普通の人間が霊力の枯渇に陥れば、そのまま亡くなってしまうのが普通なのに、その状態から復活する横島君の潜在霊力の高さを物語っている。だがそれがあるからと無茶をすれば横島君の今後の霊能者としての活動に支障が出るかもしれないから釘を刺しておく

 

「うっす!病院の先生にも怒られたんで肝に銘じておきます!」

 

びしっと敬礼する横島君、なんか横島君が居るだけでずいぶんと事務所の雰囲気が変わるわね

 

「異常がなくて良かったわ、横島。心配したんだからね」

 

「う、うん。ごめん……今度から気をつけるわ」

 

私が言うよりも、蛍ちゃんが言ったほうが効果がありそうね。こうして見ていると、お互いが両想いなのが判るので見ているとなんか穏やかな気分になるのよねーと思いながら、横島君から取り上げた陰陽術と妖怪の本。それと優太郎さんとドクターカオスが解析した眼魂を3つ引き出しの中から取り出して

 

「じゃ、これ一応返すわね。眼魂の方は使用禁止なのは変わらないけど、なにかのお守りになるかもしれないから持ってなさい」

 

本当は持たせると使ってしまいそうなので、渡したくはないのだが、話によるとこれ自体がかなりの霊力を持っているので、横島君の霊的防御を上げるのに役立つらしいし

 

【横島殿!ご快方おめでとうございます!】

 

「おう。ありがとなー」

 

牛若丸眼魂は自意識があるので、奇襲や牛若丸の兵法を教わることも出来るので、横島君に持たせたほうが良いとの事なのだ。まぁ私達のそんな思惑を横島君が知っている訳も無く、ポケットの中に眼魂を押し込む、あーれーとか言う牛若丸の声が聞こえる、そうねこれも言っておかないと

 

「横島君。大事なことだから言っておくけど、良い?霊能者が簡単に幽霊に体を貸したら駄目よ」

 

私がそう言うと横島君はえっ!?って驚いた顔をする。まだそこまで説明してなかった私と蛍ちゃんが悪いんだけど、またこんなことになっても困るし、ちゃんと釘を刺しておかないと

 

「いい、悪霊の中には身体を求めている幽霊が多いわ、ううん。悪霊だけじゃなくて周囲の雑霊もよ、最初の1回は大丈夫かもしれない。ええ、あの時はああするしかなかった」

 

義経との戦いでは横島君は明らかに力不足。牛若丸に身体を預けたのは間違った判断ではない、でもそれを当たり前だと考えると大変なことになる

 

「そう言うことを繰り返すと生きてる人間が持っている幽霊を弾く抵抗力とかが減っていくわ。幽霊に対して無抵抗になるとも言えるわね。そうなるとどうなると思う?」

 

私の問いかけに首を傾げる横島君にシズクが説明するために近づき

 

「……周囲の悪霊や雑霊が体を求めてお前に殺到する。そしてそれらは交じり合い巨大な霊となる、そうなると私でも除霊する事が出来なくなる。下手をすれば生きてる人間を際限無しに取り込むことにもなりかねん」

 

シズクの説明で青い顔をしている横島君。これで幽霊に体を貸す危険性を理解してくれれば良いんだけど……

 

「でも牛若丸はそんな事をしないと思います。あの時も力を貸してくれたし、今も……」

 

そう反論する横島君の言葉。私とシズクがもう1度口を開く前に蛍ちゃんが横島君に近づいて

 

「牛若丸とか悪いって言ってんじゃないのよ?でもね。悪い幽霊は多いの、そう言うのは人畜無害な顔をして牙を剥くわ。横島が優しいのはよく知ってる、でもね?その優しさが横島を苦しめることになるかもしれない。美神さんも私もシズクもそれを心配しているの、お願いだから私や美神さんの気持ちも理解して?」

 

蛍ちゃんの心配そうな声に横島君も流石にこれ以上何もいえないと思ったのか

 

「判った……幽霊には体を貸さない。蛍やシズク……それに美神さん心配をかけるわけには行かないから」

 

納得してくれたみたいね。良かった良かった……横島君は無意識に自分を霊力で護っているのでそんな事にはならないと思っていたけど、今後もあんな風に幽霊に体を貸していたらその内どこかにほころびが出てもおかしくないからね

 

「所で横島。おキヌさんは?一緒じゃないの?」

 

「ん?昨日の夜美神さんの事務所に行くって言って帰ったぞ?なぁシズク」

 

「……ああ、確か10時くらいに家を出たはずだ」

 

え?でも事務所のほうには来てないし……かと言ってちゃんとGS協会から発行されている保護幽霊のやつを所持しているはずだから除霊されたって訳でもないし……

 

(なんか嫌な予感がする)

 

霊感がささやいている、これは何かの事件の前触れかもしれないと……そしてそんな私の予感を裏づけするかのように電話が鳴る。嫌な予感を感じつつそれを取った

 

『こちら、新極楽シネマ座の者なのですが、おキヌと言う少女が呼んでいるのでお電話しました』

 

新極楽シネマ?なんで映画館から電話が?

 

「新極楽シネマ?そこにおキヌちゃんが居るの?」

 

声に出してメモをするようにと蛍ちゃんに指示を出す。メモ帳に素早くメモをする蛍ちゃんを見ながら話を聞くのだが、口では説明しにくいので映画館に来てくれと言うので

 

「判りました。今から伺わせていただきます。では」

 

電話を切って横島君を見て

 

「行き成りだけど、なんかトラブルみたい。どうする?来る?来ない?」

 

病み上がりと言うことも考慮してそう尋ねると横島君は、行きます!と返事を返した。やる気があるのはいいけど、本当無茶だけはしないで欲しいわねと思いながら

 

「いちおう除霊具を用意して、新極楽シネマに向かうわよ!」

 

はいっと返事を返す横島君と蛍ちゃんを見ながら、私も自分の除霊具の準備を整え、新極楽シネマ座へと向かった

 

「お待ちしてました。こちらです」

 

支配人らしい人物に案内され、上映中と書かれた映画館の中に足を踏み入れる。

 

「へー斬新な新撰組だってよ。どんな映画なんだろうなあ」

 

「斬新って言うだけあるんだから、きっとまさかの展開があるんじゃない?」

 

ポスターを見てそんな話をしている蛍ちゃんと横島君に、もう少し気を引き締めなさいと警告して、周囲を見渡す

 

(あちこちから霊力が……)

 

微弱な霊力をあちこちから感じる。どうも嫌な予感が的中したようだ……

 

【美神さーんっ!助けてくださーい!】

 

「「「いっ!?」」」

 

スクリーンの中から助けを求めるおキヌちゃんの声がして、思わず立ち止まった瞬間。おキヌちゃんの隣から顔を見せた新撰組の羽織を身に纏った男が姿を見せ

 

【すまぬ!致し方なかったのだ!全てはワシの差し金……御免ッ!】

 

映画のスクリーンが凄まじい光を放ち、私達の視界が白一色へ染まったのだった……

 

 

 

 

古風な街並みの中、茶屋の椅子に腰掛け、団子を頬張っていた桜色の着物を身に纏った少女の姿があった。

 

「私も行くとしましょうか。お会計ここに置いておきますねー」

 

茶屋の椅子に立てかけた刀を掴んで歩き出そうとした少女だが

 

「がふっ!?」

 

さっきまでの触れたら切れるような雰囲気はどこへやら、突然血を吐いて倒れるその少女を見て

 

「お、お客さーん!?お客さん!大丈夫ですか!?」

 

店主が慌てて駆け寄り、その少女に呼びかける声が、青い空へと吸い込まれていくのだった……

 

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その2へ続く

 

 




FGOをやってる人ならきっと最後の人が誰か分かるはず。ちなみに私はこの人を持ってません。前回のイベントの時は50連もしたのに出なかった。☆4すら出なかった……まぁ復刻ので召喚することが出来たので登場させる事にしました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回からはフィルムは生きているの話になります。これはシリアスと言うか、GSのギャグのノリをメインにしていこうと思います。沖田とかはGSのノリに似ているので使いやすいと思いますので、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その2

 

突然スクリーンが光ったと思ったら、俺はさっきまでスクリーンに映されていた建物の中に居た

 

(嘘だろぉ……)

 

今までいろんな不思議なことは体験してきたと思っていたが、今回のこれはかなり極め付きだと思う

 

【ううー!横島さーん!心細かったです~!!!】

 

半分泣きながら、しがみついてきたおキヌちゃんに大丈夫っと声を掛けながらその背中を撫でる

 

「美神さん。こんな事があるんですか?」

 

蛍が自分達を見て驚いている観客を見て、小さく呟く。あれ?もしかしてこれリアルタイムなの?外の声も聞こえてくるし……でも既に撮られている映画なんだからリアルタイムって事は無い……よな?

 

「みーむー♪」

 

「うきゅー♪」

 

外から見られているのが気になるのか、スクリーンの前でモグラちゃんを抱えているチビ。そして外から聞こえてくる

 

【【かわいー♪】】

 

可愛いという黄色い歓声。うん、間違いないですね。これリアルタイムですわ……子供の時TVの中に人が居るって思ったことがあったけど、まさか自分がリアルでスクリーンの中の住人になるとは思ってなかった

 

「映画って言うのは大勢の人間の想いの結晶だから魂が宿っても不思議じゃないけど……実際自分が体験して見ると驚くわね」

 

やっぱり美神さんでも驚いているんだ……まぁこんなことはありないよな、普通……

 

「……とりあえずこいつをぶちのめせば良いんだろう?」

 

シズクが右手に氷の刀を作り出して、こっちを見ている羽織を着た男性を睨むと、その男性は腰に挿した刀を足元に置き

 

【待たれよ!これはやむを得ない事情があったのだ!どうか!どうかお許し願いたい!】

 

シズクに向かって土下座してそう叫ぶ。たぶんシズクが見かけ通りの存在じゃないことを悟っての行動だと思うんだけど

 

(なあ?蛍。あれどう思う?)

 

外見は10歳と少しと言う感じの幼女の前で土下座している男性

 

(アウトね。なんか見てて痛々しいわ)

 

だよな。なんか見ていて絶句する光景だと思う……幼女の前で土下座している男性。普通なら即通報のレベルだと思う

 

「……まぁ良い。話は聞こう……」

 

【感謝します】

 

シズクがドン引きした顔をしている!?普段絶対に表情を掛けない鉄面皮のシズクの顔に嫌そうな表情が浮かんでいることに驚く

 

「クフッ♪」

 

そしてそんな顔をしているシズクを鼻で笑っているタマモ……なんかいつも通りの雰囲気と言えば俺達らしいんだけど

 

【なんか凄く笑われてますね】

 

そう、そこだ。スクリーンの外から聞こえてくる楽しそうな笑い声。俺が普通だと思っていた日常はもしかすると第三者から見ると笑い物になる内容なのだろうか?ゆっくりと目の前の男性が立ち上がり口を開こうとした時襖が弾け飛び

 

【土方!奴が来たぞ!】

 

【こ、近藤さん!?】

 

そして開かれた襖から、青い顔をして飛び込んできた近藤を追いかけて来たであろう異形がゆっくりと姿を見せた。

 

【ギッヒヒヒ♪】

 

不気味に笑うシルクハットとタキシード姿をした口だけの妖怪を見た蛍と美神さんが声を揃えて

 

「「モンタージュ……」」

 

不味いことになったと言いたげな口調でそう呟くのだった……

 

 

 

 

タキシードとシルクハットと言う紳士的な姿をしているが、その顔は目も鼻もない口だけの妖怪「モンタージュ」本来ならたいした事のない妖怪なんだけど

 

(不味いわね……今の状況は不味すぎる)

 

モンタージュと言う妖怪は普通の人間には大して害の無い妖怪だ。だがこれはあくまで普通の人間にとっての話だ、これが芸術家や演出家にとっては最悪の妖怪と言える

 

【うっぎゃああああ!?!?】

 

襖を破って転がり込んできた男性がモンタージュに吸い込まれるようにして消えていく

 

【こ、近藤さーんっ!?】

 

土方と近藤……その名前を聞いて、この映画が新撰組に関する物だと判ったのだが、それが判った所で何も変わらない

 

「横島君!おキヌちゃん!こっちへ!早くモンタージュから離れて!」

 

今こうして映画の中に取り込まれてしまっている私達もモンタージュからすれば、餌に過ぎない。しかも喰われたら最後どんな手段を使ったとしても助けることは出来ない、だから早く離れるように叫ぶが……

 

【ギヒッ!】

 

さっきの男性を飲み込んで爪楊枝を加えたモンタージュは自分の近くを見た横島君の方を見て、にやりと笑う

 

「うひい!?こっちみたあ!?」

 

モンタージュが近くに居た横島君の方を見て、その口を開く、さっきの光景を見て足が竦んでいる横島君、咄嗟に神通棍を構えようとしたがそれよりも早く

 

「うぎゅうううっ!!!」

 

横島君の危機を感じ取ったのか、自身を抱きかかえたチビを振りほどきモンタージュの方に飛んだモグラちゃんの身体が一瞬大きく巨大化し、開かれた口から凄まじいまでの炎が吐き出される

 

【ギヒイイイイッ!?!?】

 

モグラちゃんがその身体を震わせて炎を吐き出した。最近マスコット的な姿ばかり見ていたけど、流石は竜種その力は私の予想を遥かに超えてる。モンタージュのほうも、こんな小さい動物があんな炎を吐くと思っていなかったのか、防御も避ける事もせず、直撃でくらい火達磨になって転がっているモンタージュにとどめを刺すべく神通棍を伸ばして殴りかかるが

 

「えっ!?」

 

振り下ろした先にモンタージュの姿は無く、更に言えば、さっきまでどこかの建物の中に居たのに、いつの間にかどこかの河川敷の真ん中に立っていた。これは……もしかして映画のシーンが変わった?

 

「場面が変わったってことですか?」

 

その瞬間移動にも似た状況に変化に驚いた素振りを見せながら、蛍ちゃんが土方さんに尋ねると

 

【うむ。その通りだ】

 

ここは映画の中だ。目まぐるしく光景や場所が変わっていくのは当然のことだ。だが実際に体験して見ると、かなり驚いた。それに……

 

「しくじったわね」

 

神通棍を元の長さに戻す、さっきのは大チャンスだった。あれだけの好機を逃したことに思わず舌打ちする。あと本の数秒時間があれば倒せないにしても致命傷を与えることが出来たのに……恐らくこれで怪我が回復するまでモンタージュが動くことは無いだろう、モンタージュはあの外見に騙されやすいが、非常に知能の高い妖怪でもあるのだから……

 

(早めにけりをつけないと……)

 

モンタージュに吸い込まれれば、私達は当然ながら死んでしまう。これが映画ではなく、美術館などにモンタージュが現れてくれれば楽に退治する事が出来たんだけど……映画の中に吸い込まれてしまった以上状況は圧倒的に不利だ。どれほど追い詰めたとしても、今のように場面が切り替わることでモンタージュは逃げることが出来、更に言えば場面の切り替えを利用して奇襲を仕掛けてくることも可能だ。状況的には圧倒的にこっちの分が悪い

 

「モグラちゃん。凄いなー!いつの間に火炎放射を覚えたんだ?」

 

「けぷっ……」

 

口から煙を吐き出しているモグラちゃんを抱きかかえて褒めている横島君を見ながら

 

「シズク。ここの水って取り込める?」

 

目の前を流れている川を見てシズクにそう尋ねると、シズクは片手を川の中に入れながら

 

「……無理だな。水は水だが、これは映像だ。実態じゃない、だから私には取り込むことが出来ない」

 

となるとシズクに水を吸収させて、大量の氷と水で押さえ込むのは無理か……試しに精霊石を取り出して霊力を込めて見るが……精霊石は何の反応も示さない

 

「美神さん。なんで精霊石が光らないんですか?」

 

私の様子を見ていた蛍ちゃんがそう尋ねてくる。確信は無いけど……

 

「霊力のバランスが外と違うのが原因だと思うわ。そもそも蛍ちゃん、ここが本当に映画の中だと思ってるの?」

 

いまだに煙にを吐き出しているモグラちゃんが心配になって来たのか、水を飲ませたり、シズクの所に連れて行っている横島君を見ながら言葉を続ける。本当は横島君にも話を聞いて欲しかったけど、ぐったりしたモグラちゃんを見て、動揺しているその姿を見ると、今話をしてもきっと頭の中に入らないと判断し、蛍ちゃんだけに話をすることにする

 

【流石と仰るべきでしょうか。この世界が何なのか理解しておられるのですね】

 

感心したという様子の土方を見ながら、私はこの世界が何なのかを理解していないであろう蛍ちゃんにこの世界の説明をすることにした

 

「映画の中に入り込むなんてありえないわ。そもそも映画はフィルムに保存される物でしょ?」

 

フィルムと言う物体に保存されている物の中に人間が入り込むなんて不可能だ。仮に魂だけなら可能かもしれないが、それでもその可能性は極めて低い

 

「でも、こうして実際に私達は映画の中に……「けふっ!けふ!!!」「ああああーッ!?シズク!シズクウ!?モグラちゃんが!モグラちゃんが苦しそうにしてるうう!」「みむううううう!?」「……うるさい!静かにして、連れて来い!今様子を見てやる!」

 

話の途中で横島君の絶叫が聞こえてくる。モグラちゃんが心配なのは判るけど、今真面目な話をしているのだから少し静かにしていて欲しい

 

「そもそもね、映画や鏡の世界なんてありえないのよ。ファンタジーじゃないんだから」

 

そもそもそんな世界があるのなら、モンタージュはもっと力の強い妖怪として警戒される妖怪となっているだろう。何故なら映画を見ている人間を全て映画の中に引きずり込んで魂を喰らえば、必然的にその力は取り込んだ数に応じて強くなっているのだから、でもそうじゃない。あくまでモンタージュは芸術家達に恐れられているだけのそうまで強力な妖怪ではない、まぁ知能の高さはそれなりに厄介だけど、あくまでCランクかDランクを行ったり来たりしている、そんなレベルの妖怪なのだ

 

「ここは映画の中じゃなくて、映画をベースにした一種の異世界、そうね結界に近い何かかしら?。そして貴方達は役を演じた役者の姿を借りた存在って事でしょ?さしずめ……映画の幽霊で映霊かしら?」

 

私が指差しながら言うと土方はその通りですと言って頷く。ある程度は予測だったけど、当ったみたいで何よりね

 

「異世界……こんな事もあるんですね」

 

「かなり珍しい事案だとは思うけどね」

 

そもそも外の世界の人間を自分達の世界に引きずりこむ。それは口で言うほど簡単な話ではない、そもそも映画の中の登場人物の姿を借りて具現化した一種の人造幽霊だ、本来はそこまでの力は無い、では何故今回は私達を自分達の世界の引きずりこむ事が出来たか?その答えは単純だ

 

「それだけ役者と製作サイドの想いが詰まっているってことね」

 

こうして明確な意志を持ち、更に外の世界の人間を自分達の世界に引きずりこむ事が出来る。それだけ作った人達の想いが篭っているからこそできた技だろう。こっちにしたら良い迷惑だけど

 

【流石有名な霊能力者でござるな。左様我らは所詮造られた存在、ですが多くの人間の魂や努力によって生み出され、人々を楽しませる為に存在しております。それをむざむざ妖怪に喰われるなど誰が納得出来ましょうか】

 

ま、気持ちは判るけど、出来れば私達を巻き込まないで欲しかったってのが本音ね

 

(モンタージュの賞金と制作会社からギャラを貰えばいいか)

 

なんとかしてモンタージュを倒さないと、私達も外に出られないのだからなんとかして全員無事で脱出できるように作戦を立てるべきね

 

「じゃ、土方さん。この映画で場面の長いシーンと、その場所を教えて」

 

【うむ、心得た】

 

さっきみたいにトドメをさせる段階でシーンが切り替わってしまってはいつまで経っても倒すことは出来ない。ちゃんと長いシーンの所でモンタージュを見つけて倒す必要がある

 

【長いシーンとなると、少し先の池田屋襲撃のシーンが丁度良いかと……】

 

池田屋襲撃か……新撰組となるとやっぱりそこらへんのシーンに重点を置いているのは当然ね

 

「それで土方さん。新撰組で残っているのはもう土方さんだけなんですか?」

 

一緒に話を聞いていた蛍ちゃんがそう尋ねる。味方は多い方が良いけど、さっき食べられていたことを考えるともう殆ど残ってないんじゃ……

 

【あと1人だけ生き残っています。沖田総司が】

 

「へえ。良いのが生き残ってるじゃない」

 

その言葉に思わず笑みを零す。沖田総司と言えば天才剣士と言われた新撰組1番隊長。味方に居るなら頼もしい味方と言えるだろう

 

【まぁ……その少し問題はあるんですが、ええ、剣の腕は間違いないのですが】

 

もごもごと言いにくそうにしている土方さん。どうしたのかしら?沖田総司なら間違いなく戦力に……

 

【土方さーん!沖田さんが来ました……かふっ!?】

 

聞こえてきた声に振り返ると、鮮やかなピンク色の着物に身を包んだ美少年ではなく……少女が手を振りながら走ってきて、突然吐血してそのままの勢いで原っぱを転がって行く

 

「……え?まさかあれ?」

 

【はい、監督が斬新な新撰組と言う事で、沖田を女子に……】

 

目元を押さえて深い溜息を吐く、うん。色々言いたいことはあるけど

 

「斬新って意味を監督は履き違えてると思うわよ?」

 

【拙者もそう思います】

 

はああっと深い溜息を吐く土方さんを見ていると

 

「って横島あぶなーい!!」

 

「えっ?」

 

【あーれーっ!】

 

「うわあああああ!?なんだああ!?」

 

【横島さーん!?一体何が!?】

 

「……今一瞬何か見えたような?」

 

横島君の背中に沖田(?)が衝突し2人してごろんごろん転がっていく姿を見て、こんなんで大丈夫なのかな?と激しい不安を抱かずには居られないのだった……

 

「横島ぁッ!!!」

 

ダダっと坂を駆け下りていく蛍ちゃんにも若干の頭痛を感じつつ

 

「とりあえず合流しましょうか?」

 

今この段階で場面が切り替わって分断されれば、大変な事になりかねない。だから合流しましょう?と言うと

 

【重ね重ね申し訳ない……】

 

深く頭を下げる土方さんに仕方ないわよと呟き、私もゆっくりと坂を下っていくのだった

 

 

 

 

 

「あたたた……なん……ふぁーっ!?」

 

急に背中に激痛を感じたと思ったら、坂を転げ落ちていた。腰と頭を強か打ちつけ、その痛みに顔を歪めながら目を開くと

美しい顔立ちの美少女が目の前に居て思わず絶叫する

 

(な、なんだあ!?なにが起きて)

 

目の前の美少女とその美少女に押し倒されていることに気付き混乱していると

 

【あいたたた、すいませ……かふっ!?】

 

「いやああああ!?」

 

突然咳き込んで大量の血を吐き出す、押し倒されているので避けることも出来ず全部服に掛かる。ぬるぬるした感触と血なまぐさい匂いに思わず絶叫したが

 

【あう……】

 

「ちょっ!?大丈夫かー!?」

 

力なく倒れてきた少女の肩を掴んで引き離し、原っぱの上に横にする

 

【けほっ!こほ!】

 

咳き込む度に血を吐くその姿に何かの病気なのだと判断する。とは言え俺に医療の知識なんてないので、その病気が何なのか?なんて特定する事など出来るわけも無く

 

「えーとっ!えーと!確か、こう!」

 

GSの勉強をしているときにちらっと見た。負傷時の応急手当の事を思い出し、その少女の身体を横にして血が喉に詰まらないようにしてゆっくりと背中を撫でながら

 

「シズクー!急患!急患だーッ!こっち来てくれー!!!」

 

このままだと死んでしまう。そう判断して叫ぶと

 

「……そんなに怒鳴らなくても聞こえてる」

 

どうやらシズクも坂を下って来ていたようで、直ぐ近くから声が聞こえたことに安堵する

 

「……モグラの様子を見てろ。大分無理をしたようだ」

 

シズクに差し出されたモグラちゃんを受け取る

 

「……う、きゅうー」

 

「も、モグラちゃん……大丈夫か?」

 

さっきの火炎放射を使ったことが無理だったのか……俺を助ける為に……こんなに小さい身体で……弱々しく鳴くその姿に泣きそうになりながら抱きしめると

 

「うきゅーうきゅー」

 

すりすりと頬を摺り寄せてくるモグラちゃん。大丈夫だよと言っている様に思えるが、俺はまた自分の無力さが、あの時咄嗟に逃げることが出来なかった自分に苛立ちを覚えずに入られなかった

 

「みーむぅ」

 

「クウ?」

 

肩の上に着地してそんなに思いつめないでと言いたげに頬を撫でるチビ。そして足元で俺を見ているタマモにモグラちゃんもその円らな目で俺を見上げている。今俺が後悔していても、チビ達に心配をかけるだけだ

 

「大丈夫や、大丈夫やで」

 

こういう時使い慣れた大阪弁が出てしまうほどに、今の自分が弱っていることを理解していたが、ここで弱気になるとチビ達がまた心配するので大丈夫だと笑い

 

「シズク。その子は?」

 

「……問題ない。血は吐き出させたし、でも今は動かさないほうがいい。美神達と合流してからどうするか考えよう」

 

凄まじい勢いで坂を下ってくる蛍とその後ろを飛んでくるおキヌちゃん、そして更にその後ろから慎重に坂を下ってくる美神さんと土方さんの姿を見ながら、俺の手の中でぐったりしているモグラちゃんを落とさないようにその場に座り込み、その小さい身体をゆっくりと撫でながら、蛍達が降りてくるのを待つのだった……

 

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その3へ続く

 

 




次回は沖田さんをメインにしてモンタージュ対策の話を書いていこうと思います。後はモグラちゃんの不調の詳しい話も書いて見ようと思っています。予定では後2話でリポート23を終わらせて、別件を入れて飛ばしている話も多いですが、GS試験の話に入っていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回はモンタージュへの対策とかをメインにした話を書いて行こうと思います。今回は少し短めになると思いますが、どうかよろしくお願いします


 

リポート23 フィルムの中の剣士 その3

 

謎の少女に突き飛ばされた横島が心配になって坂を駆け下りていくと横島の様子がおかしい事に気付いた。普段の明るさがまるでなくて非常に暗い表情をしている、それに服も血まみれなのでどこか大怪我をしているのかと心配になる

 

「横島?どうかした?どこか怪我をしたの?」

 

【大丈夫ですか?横島さん】

 

心配になっておキヌさんと一緒に尋ねると、横島は私達にやっと気付いたのか、その顔に少しだけ明るい表情を浮かべるが、私にはすぐ判った。たぶん、いや確実におキヌさんも気付いただろう。横島が無理をして笑っているのが

 

「俺は大丈夫やで?でもな……モグラちゃんがな……」

 

座り込んだ横島の膝の上のモグラちゃん。普段元気にしているのが嘘のようにぐったりしてぴくりとも動く気配が無い。チビがその隣で心配そうにモグラちゃんを見つめ、タマモは横島が心配だからだろうか、さっきから擦り寄って横島を元気付けようとしているように見える

 

「……無茶をしたから、身体の中の竜気と外の竜気が反発しあってる。治療はしているから大事には至らないと思うが、竜種の回復力があると言っても、状況はあんまり良くない。出来ればどこかで休ませておくべきだ」

 

外と中の竜気が反発してる?その言葉の意味が判らず困惑していると横島がモグラちゃんの背中を撫でながら

 

「俺がモンタージュに喰われそうになった時モグラちゃんが炎を吐いただろ?でも本当はモグラの姿じゃ炎なんて吐けないんだって、無理やり身体の一部を龍に変換して炎を吐いたから、身体の中がずいぶん傷ついているんだってさ」

 

あの時私もシズクも目の前の光景に驚いて反応することが出来なかった。あの時咄嗟に反応し、横島を守ろうとしたモグラちゃん、自分を護ろうとしたせいでモグラちゃんが傷ついた、それが横島を酷く苦しませているのだ。でも私には何も言えない、いや言ってはいけない

 

(私はあの時動けなかった)

 

突然の光景に驚き、動けなかった、だから私が何を言っても、横島は自分を責めるのを止めないだろう

 

(なにやってんのよ私は……)

 

横島を守ろうと思ってここまでやってきたのに、あの一瞬どうして動く事が出来なかったのだろうか……距離的にも近かった破魔札を投げることくらい出来ただろうに

 

「横島君?どうかしたの?」

 

坂を下ってきた美神さんが様子のおかしい横島とモグラちゃんを見て、何か起きたのだと即座に理解し

 

「土方さん。場面が切り替わるまでどれくらい?」

 

【む……5分ほどで……その後にもう少し長いシーンが同じ場所でありますが】

 

それなら都合がいいかもしれない、今モグラちゃんを連れまわすのは得策とは言えないし

 

「それなら丁度良いわね。ところで次のシーンって何?」

 

【あーそのですね。そこで伸びている沖田の家でのシーンに……】

 

横島の近くで口と服に僅かに血痕を残し目を回している少女。これがこの映画での沖田総司らしいけど

 

(なんで女の子にしたのかしら?)

 

沖田総司と言えば私でも知っている薄幸の美少年として有名だったはずだけど、なんで女の子にしたのかしら?まぁ私には関係ないし、映画の住人だから私に敵になるわけじゃないし、そこまで警戒しなくても良いかと心の中で呟き

 

「大丈夫よ。横島。きっとモグラちゃんは元気になるわよ」

 

こうして少し時間が経っただけだけど、モグラちゃんの様子は少しずつ良くなっているように見える。さっきまでぴくりとも動かなかったのが少しずつ動き始めて、辛そうに閉じられていた目がゆっくりと開き始めている

 

【モグラちゃんは竜種だから絶対に元気になりますよ。大丈夫ですよ!絶対】

 

「……うん。だよな」

 

落ち込んでいる横島をそのままにしておけるはずも無く、私は横島の隣に座って落ち込んでいる横島を励ます為におキヌさんと一緒に大丈夫だというと、僅かに普段の横島とおんなじ雰囲気になったことに少しだけ安堵して、横島の膝の上で丸くなっているモグラちゃんに横島を守ってくれてありがとうと小さく呟くのだった……

 

 

 

 

 

周囲の光景が歪んだと思ったら、俺達は河川敷から古い日本家屋の中に座っていた。場面が変われば、一気に場所が変わるとは聞いていたけど、なんか乗り物酔いみたいな感じがして気持ち悪い気がする……それもあるし、血まみれの服が血生臭いのも余計に気持ち悪さを強くしていると思う。

 

【うー頭がふらふらします……】

 

「わ、私も気持ち悪い……」

 

蛍とおキヌちゃんが俺よりも重症で床の上で蹲っている。平気そうにしているのは美神さんだけで、家の壁に立てかけてある刀を手にして何かを調べている

 

(珍しい)

 

美神さんが普通の武器を手にしているのは初めて見たかもしれない。ずっと神通棍を使っているし、他の道具を使っているとしても大概破魔札だし……俺は膝の上に乗っているモグラちゃんを撫でようとすると

 

「……横島。モグラから離れろ、たぶんもう小さい姿を維持し続けるのも難しいはずだ」

 

いつの間にか俺の側に立っていたシズクが頭を振りながら呟く、小さい姿を維持するのが難しい?それってあの巨大な姿になるって事?なんか嫌な予感がしてモグラちゃんを床の上に降ろして、近くに居たチビとタマモを抱きかかえて離れると

 

「うきゅ~」

 

ずもももっと言う音を立てて、モグラちゃんの身体が巨大化して行き、最近あんまり見ることのなかった巨大な姿へと変化した……これ近くに居たら完全に押し潰されていたな……セーフと心の中で思っていると悲痛な叫びが家の中に木霊した

 

【ああああーッ!?わ、私の家がぁ!?】

 

日本家屋の床がその重さに耐え切れず底が抜け、いつの間にか立ち上がった少女が頭を抱えて絶叫するのだった……

 

「すいません、モグラちゃんが家を壊しちゃって」

 

【そうやって言うなら私の家の床をこれ以上壊さないで!?】

 

着物の少女が涙目で叫ぶが、俺はその言葉に首を振って

 

「だって床壊さないとモグラちゃんが……」

 

完全に嵌っていて動けないモグラちゃんが、小さくうきゅーうきゅーと泣いているので、少しでも早く回りの床を取り除かないとモグラちゃんが可愛そうだ

 

【別の方法が!って土方さぁん!?【諦めろ沖田。私が許可します、どうぞモグラを助けてやってください】

 

沖田ちゃんって言うのか、そう言えば美神さんが新撰組の映画とか言ってたなあと思いつつ、俺は腕まくりをして

 

「じゃ、蛍とおキヌちゃんは俺が外した床を外に出してくれる?うーし、一気にやるぞー」

 

止めてーと叫んでいる沖田ちゃんにごめんと呟き、俺はモグラちゃんが嵌っている周囲の床板を掴んで力任せに引っぺがすし

 

「じゃ、ここに積むから」

 

蛍とおキヌちゃんの前に取り外した床板を置く、それに手を伸ばした蛍に

 

「あ、結構尖っている所とかもあるから運ぶ時気をつけてな」

 

蛍の白くて綺麗な手に傷をつけるわけには行かないので、注意するように言うと蛍は少し驚いた顔してから

 

「ありがと、気をつけるわね」

 

にっこりと笑う蛍の顔を至近距離で見てしまって、お、おうっと小さく返事を返し俺は妙な気恥ずかしさを誤魔化すように無心で床板を剥がし始めるのだった……

 

【ああ……どうして私幽霊なんでしょ……私も横島さんに気をつけるように言って欲しい……】

 

頭の上でぶつぶつ言うおキヌちゃんになんか声を掛けたほうがいいのかなと悩んでいると

 

「……そんな事を考えている間に早く床を剥がしてやった方がいいぞ?」

 

床のしたから辛そうにしているモグラちゃんを見て、こんな事を考えている場合じゃないと判断し、急いで床板を剥がし始めるのだった……

 

「うきゅー……」

 

ようやく動けるようになったモグラちゃんが床下から這い出てくる。さっきよりも少し元気そうに見えるな

 

「……身体を小さくするのに回していた竜気を回復に当てているんだろう。暫くは大きいままだと思うが、怪我は治っていくはずだ」

 

シズクの言葉に安堵の溜息を吐きながら、壊れた床から顔を出しているモグラちゃんの頭を撫でながら

 

「もうあんまり無茶しないでくれよ?」

 

「みーむ!」

 

「コーン!」

 

俺の言葉に続いてチビとタマモが鳴く、その鳴き声は普段よりも大きい物で若干怒っている様な響きを伴っていた

 

「うきゅ……」

 

ごめんねと言いたげに頭を下げるモグラちゃんの近くに座り込んで、その巨体を撫でていると

 

「これで少しは横島君も落ち着いたわね、じゃっ早速モンタージュの対策を話し合うわよ。えーと土方さん、そこで泣いてるのも話し合いに参加してくれるように言ってくれます?」

 

破壊された家を見て私の家ー!と泣いている沖田ちゃんを掴んで居間に上がって来る土方さんを見ながら

 

(後でちゃんと謝っておこう)

 

ぐすぐすっと号泣している沖田ちゃんを見て、凄まじい罪悪感を感じてしまうのだった……

 

 

 

 

 

土方さんが応援として連れて来た霊能者。私達だけでは確かに対処出来なかったからそれは当然の事なんですけど

 

【私の家がぁッ!!】

 

でっかいモグラを救出する為に破壊された我が家の無残の姿に涙があふれる。なんだかんだで気に入って暮らしていたのに……

 

【仕方ない事なのだ。沖田】

 

【仕方ないことなんかないですよぉーッ!!!】

 

諭すように言う土方さんに詰め寄りながら怒鳴ると、紅い布を頭に巻いた少年が

 

「本当すいません。その……どうしてもモグラちゃんを助けたかったから……本当に家を壊してすいませんでした!」

 

本当に申し訳ないと思っているのか、私に向かって頭を下げている少年。土方さんが私を見ている、これは私が良いと言うまでこの少年は頭を上げないだろう、それに

 

「みーむう」

 

「コン」

 

狐と見たことのない生き物が少年の真似をして頭を下げている。ちらりと周りを見ると

 

「【ジトーッ……】」

 

【沖田……】

 

幽霊の少女と黒髪の少女の責めるような視線に土方さんもいつまでも家家言っているなと言う感じに呆れられた目で見られているのに気付いて、私も慌てて少年の肩に手を置いて

 

【いえ、その私も家にこだわり過ぎてましたから、頭を上げてください】

 

「でも俺の家族が家を壊したんだし、これはやっぱり俺の責任だと……」

 

本当に申し訳無さそうにしている少年を見て、私は自分が幼稚すぎたと反省しながら

 

【ここは映画の世界ですから、またフィルムが巻き戻れば私の家も元に戻りますから】

 

ほえっ!?っと驚く少年。映画の中なのだから、元の形が決まっている。だからフィルムを巻き戻せば元に戻るんですよ?と言うと

 

「そうっすか!良かったー、このままだとどうしようかと本当に焦ったんですよ」

 

良かった良かったと心底安心した表情で笑う少年。頭の上に飛んで来た謎の生き物と一緒に笑う少年。その明るい笑顔につられて笑ってしまっていると

 

「じゃ家については私達の責任は無いと、んで土方さんはモグラちゃんの治療費と依頼料をちゃんと払うって事で」

 

うえっ!?まさかの条件に振り返ると土方さんは目を閉じて腕組をして

 

【当然のことですね。無理やり映画の中に引きずり込み、更には怪我を負わせた。私達の責任ですからきっちりと払わせていただきます】

 

無理やり……映画の中から出ることも出来たんだからちゃんと交渉してきて下さいよ……思いついたら即行動ってところがあるんだから……やっぱり私が行くべき……

 

【かはっ!?】

 

「っおおおーい!?なんで急に吐血!?横に!横になって!!!」

 

私の隣で慌てながら、自分の着ていた着物を脱いでそれを丸めて枕にして私に寝転ぶように言う少年

 

「えーとハンカチで良いか!」

 

ばたばたと瓶の所に行って布を冷やして絞って私の頭の上に置いて、押入れから布団を引っ張り出して私に被せながら

 

「身体の調子が悪いんだから無理しないでな、えーと喉とか渇いてない?」

 

あ、それかお腹空いてる?と甲斐甲斐しく聞いてくるその姿に私は思わず

 

【ありがとうお母さん】

 

「だれがお母さん!?」

 

びっくりした様子のその姿に吊られて笑いながら私は心配そうにこっちを見ている少年を見て

 

(なんて真っ直ぐな心根の持ち主なんでしょう)

 

真っ直ぐで清らかな心の持ち主だと言うのが判る。みむう?と鳴いている奇妙な生き物を見て、動物に好かれる人間に悪い人は居ないといいますし、きっと信用できる人間だから土方さんが協力を頼んだんだなあと思いながら

 

【少しだけ喉が渇きました】

 

「じゃ水だな!少し待ってて」

 

そう言って井戸に向かっていく少年を見ながら小さく笑って

 

【……土方さん、助けて……】

 

どんよりとした目でこっちを見ている幽霊と少女を見て、背筋が凍る思いをして土方さんに助けを求めるのだった……

 

 

 

 

 

家を壊してしまったお詫びとして調子の悪い沖田ちゃんとモグラちゃんの看病をしている横島君を見て、思わず苦笑してしまう

 

(ずいぶんと落ち着いてきたのね)

 

最初のほうの女の子にむやみに抱きついたり、セクハラ発言をする回数が減っている。それはきっとチビやモグラちゃんなどとの出会いが大きいのだろう、自分よりも幼い(?)二匹をとても可愛がって育てている内に精神面に変化が出てきたのだと思う

 

「ほら。蛍ちゃん、いつまでも沖田ちゃんを睨んでないで作戦会議に戻ってくれない?」

 

横島君の看病を受けている沖田ちゃんを嫉ましそうに見ている蛍ちゃんにそう声を掛ける。おキヌちゃんも蛍ちゃんの上に浮いてジトーっとした目で沖田ちゃんを見つめている

 

(微笑ましい様な……なんと言うか……複雑な感じね)

 

横島君に想いを寄せているから、沖田ちゃんが羨ましくて仕方ないって感じね、でもいつまでもそんな事をしてられると場面が切り替わってしまう。そうなると作戦会議をすることも出来なくなるので

 

「ほら!いい加減にしなさい」

 

嫉ましいと呟いている蛍ちゃんの頭を引っぱたき、モンタージュ対策についての話し合いに参加させたのだった

 

「映画の中じゃ精霊石はろくな効果を発揮しないわ。だから別の方法でモンタージュを倒すわ」

 

さっき土方さんに持って来て貰った物を目の前に並べる。それを見た蛍ちゃんが

 

「美神さん。これで戦うつもりなんですか?」

 

目の前に置かれている刀を見て、本気ですか?と言わんばかりの表情をしている蛍ちゃんに

 

「ええ、これで戦うわ。神通棍もモンタージュを倒せるほど出力が上がらないし、これで仕留めるしかないわ」

 

普通に使用する分には問題ないが、モンタージュを倒すほどの出力は発揮できない、これは精霊石と同じでこの世界の霊力が少ないからだろう。だから神通棍もある程度の攻撃力を持つが、倒すには足りない

 

【これはちゃんとした名刀ですから、モンタージュにも効果があると思いますぞ】

 

名刀と言うのはそれ自身も霊力を通す媒介として優秀だ。とは言っても実態のあるものではなく、映画の中の代物だから霊刀としての性能は期待できないが、霊力を刀身に通せば十分に効果が出ると思う。更に言えば映画の中だからこそ効果を発揮する、モンタージュも映画の登場人物として割り込んでいるのだから、外から持ち込んだ物よりも映画の中の武器を強化したほうが効果が出やすいはず。それに今回で重要なのは攻撃ではなく、護りになる

 

「護りの要はこれ」

 

土方さんに頼んで持って来て貰った誠の文字が染め抜きされた羽織を見た蛍ちゃんは

 

「それ新撰組の羽織ですよね?それどうするんですか?」

 

真面目に話し合いに参加してくれているけど、まだ横目で横島君を見ている。どうもおキヌちゃんも横島君の背中に引っ付いているのが相当気に食わないようだ。まぁ気持ちは判らないでもないけど、今はこっちに集中して貰わないとね

 

「これの中にモンタージュ避けの文字を書き込むわ、これで少なくとも行き成り飲み込まれるって事は無いはず」

 

モンタージュ避けと言うのは既に確立しているのだが、それには高度な霊能力の操作が出来、なおかつ古代文字にも精通していないと駄目なため世間一般には流通していない技法。正直言うと私もうろ覚えだけど、無いよりかはましな筈だ

 

「土方さん。頼んでいた物は?」

 

戻ってきた土方さんに尋ねると、土方さんは額の汗を拭いながら

 

【これでどうでしょうか?】

 

差し出された水と筆と墨を見る。筆と墨は……うん、良さそうね。大分上質な物なのが見るだけも判る、水のほうは……

 

「シズク。これどう?」

 

水の事はシズクに聞くのが一番早く、そして正確だ。シズクは水を一口口に含んで、ぺっと吐き出してから

 

「……上質な水だ。しかもこれは神聖な場所から汲んできた物だな」

 

【はい、唯一残っていた神社に湧いていた湧き水です】

 

そうかと呟き、これが本当の水なら良かったんだがと呟くシズク。水神だけに水にはうるさいシズクが口惜しそうに見ているのを見ると、どうもかなり上質な水のようだ。名残惜しそうに見ているシズクを見てこの事件が無事に終わったら、この撮影に使った神社の場所を聞いて水を汲みに行っても良いかもしれないわねと思った

 

「着物の方は?」

 

【それもこちらに】

 

横島君の服が血まみれなので着替えることが出来る着物を用意して貰ったのだ

 

「横島君、血まみれの服だと邪気が篭りやすいから着替えて、土方さんに着替え方を教えて貰えば良いから」

 

うっすと返事を返し、土方さんと奥の部屋に向かっていく横島君を見送ってから、墨を溶いて文字を書く準備をする

 

「蛍ちゃん。そっち押さえてて、ぴっちり伸ばしてたるまないようにしてて」

 

一発勝負だから失敗は許されない。大きく深呼吸をしてから羽織の中に文字を書き始めるのだった……

 

「ふー……終わり」

 

まずは一着。凄まじい汗が床の上に滴り落ちるのが判る。これは思ったよりもしんどいわね……とは言え、これがないと出会った瞬間飲み込まれる危険性を回避する為だ。準備を怠るわけには行かない

 

「土方さん。あと何分?」

 

横島君の着付けが終わったのか、奥の部屋から出てきた土方さんにあとどれくらい時間があるのか?と尋ねる

 

【後15分ほどです】

 

後15分……ギリギリ、蛍ちゃんと横島君の分が準備できるかどうかね……私はもう1度深呼吸をしていると

 

「どうっすかね?おかしくないですかね?」

 

着物に着替えた横島君が部屋の奥から出てくる

 

「似合うじゃない、良いわよ。横島、かっこいい」

 

「え、ほんま?似合う?」

 

うん、似合う似合うと言いながら横島君を褒めている蛍ちゃん。普通逆だと思うんだけどなあと思いながらも、ほほえましいものを見る気持ちになったが、今は時間が無い

 

「さ、蛍ちゃん。次ぎ行くわよ。蛍ちゃんも集中を切らさないでね、横島君も少し休んでなさい」

 

「はい……」

 

すいませんと言う、蛍ちゃんと横島君。まだちょっと除霊現場にいるって言う心構えが足りないわね、今後そう言う所もちゃんと指導していかないといけないわね。真剣な顔をして頷く蛍ちゃんによろしくと声を掛け、私はもう一着の羽織に文字を書き始めるのだった……

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その4へ続く

 

 




次回でモンタージュ戦を終わりまで書いていこうと思います。その後は映画に関する日常変の話を書いて、別件に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回でモンタージュとの戦闘の話にしようと思います。そして次の話でリポート23は終了で、前々から言っている通り、別件を2つ挟んでGS試験の話に入っていこうと思います。大分長くなりましたが、もう少しで第一部も終了となります。ですので、どうか最後までよろしくお願いします


 

リポート23 フィルムの中の剣士 その4

 

「出来た……」

 

なんとか最後の3着目の羽織にモンタージュ避けの呪文を刻み込んだ所で周囲の景色が歪み始める

 

「横島君!モグラちゃん達の近くに!離れたら駄目よ!蛍ちゃんもモグラちゃんの側に!」

 

場面が切り替わる事で皆少しの間、前後不左右になる、これでもしモグラちゃん達と逸れたら合流するのは難しくなる。私自身も目の前に置いていた刀と羽織を掴んでモグラちゃんの側に駆け寄る

 

【来ます!皆集まってください!】

 

【一番モンタージュと戦うのに適したシーン……池田屋襲撃です!】

 

沖田ちゃんと土方さんの声が聞こえると同時に周囲の景色が歪み、再び映画の場面が切り替わった

 

【火の用心~】

 

満月の浮かぶ夜の街と何処かから聞こえてくる、カチカチっと言う音……若干重い頭を振りながら

 

「皆い……る?」

 

場面の切り替えで逸れてないかと思い確認のために振り返って絶句した……

 

「お、重い……しむう……」

 

【ふぐう……こ、これは……不味い】

 

「うぎゅー」

 

横島君と土方さんが目を回しているモグラちゃんに押しつぶされて白目を向いていた……

 

「し、シズクーッ!!!早く!早くモグラちゃんをどけて!横島が潰れる!」

 

「……判ってる!今やってる!」

 

水でモグラちゃんを動かそうとしているが、シズクの蓄えている水が少ない上にモグラちゃんが気絶している上に身体が大きいので全然動く気配がない

 

【むむむー!!!ぷはあっ!だ、駄目です!重すぎて動きま……がはっ!?】

 

【ああー!?お、沖田さんまで!?】

 

慌ててモグラちゃんの下から横島君達を助け出そうとした沖田ちゃんが吐血して倒れて、横島君と土方さんが泡を吹いて痙攣している姿を見て、モンタージュを除霊出来るのか激しく不安になるのだった……なおチビとタマモはと言うと

 

「みーむ!みみーむ!!」

 

「クオーン!」

 

周囲にモンタージュが居ないかしっかりと監視してくれているのだった……なんかもうチビもタマモも家の職員みたいになってるわねと小さく苦笑しながら、神通棍を伸ばして

 

「てこの原理でひっくり返すわよ!」

 

「は、はい!もう少しだから頑張ってね!」

 

気絶しているモグラちゃんと地面の間に差し込んで、シズクの作ってくれた氷を台にしてモグラちゃんをひっくり返す為にこっちに駆け寄ってくる蛍ちゃんとシズクと協力してなんとかモグラちゃんをひっくり返すことが出来た……しかしその代償として神通棍がくの字に折れてしまい、更に戦力が落ちたことに私は思わず溜息を吐くのだった……

 

 

 

 

 

お、重かった……死ぬかと思ったぞ……ぜーぜーっと蹲り大きく深呼吸を繰り返す

 

「大丈夫?」

 

心配そうに尋ねてくる蛍に大丈夫と返事を返そうと蛍のほうを見ようとして……止めた

 

(あかんやん)

 

思わず心の中で慣れ親しんだ大阪弁の呟きが零れる。スカート姿で目の前に立つのはちょっと……顔上げれねぇし……立ち位置的にスカートの中が見えないのは判っているが、それでも顔を上げることが出来ない

 

「本当に大丈夫?」

 

俺のそんな姿を見て更に近づいてきて尋ねる蛍に

 

「ウン、ゼンゼンダイジョウブデスヨ?」

 

自分でも信じられないくらい固い声が出る。俺ってこんな声出せたんだと自分で感心するレベルの声だ

 

「ほんとう?」

 

お願いだからこれ以上近づかないで欲しい、溢れる若さ(鼻血)とか出そう……

 

【あざといなー、スカートで蹲ってる横島さんに近づくなんて凄くあざといなー】

 

おキヌちゃんの言葉にどうして俺が顔を上げないのか理解した蛍がスカートを抑えて後ずさりながら

 

「見た?」

 

「見てないです」

 

だから顔を上げなかったんだし見てないと言うと、そうと呟き蛍はそのまま数歩更に後ずさりしてから

 

「大丈夫?立てる?」

 

しっかり顔を上げないで、視界の中に蛍の足とか靴が見えないのを確認してから顔を上げて立ち上がる

 

「ちょっと身体は痛いけど、大丈夫」

 

すぐに助けられた事もあり、身体の痛みはそう酷くない。俺の声が聞こえたのかチビが俺の頭の上に着地して

 

「みーむう?」

 

だいじょーぶ?と言いたげに尋ねてくるチビに大丈夫だと繰り返し、返事を返し足元に近寄ってきてたタマモを抱きかかえ

 

「モグラちゃん大丈夫?」

 

「うーきゅー」

 

ちょっと離れた所で地面に伏せているモグラちゃん。若干間延びした返事だが、さっきよりかは若干声に力強さが混じっていて、体調が少し回復してきている様子に安堵の溜息を吐いていると

 

「わぷっ!?」

 

行き成り背後から何かの布を掛けられて驚いていると

 

「……モンタージュ避けの呪文が書かれてる。ちゃんと着込んでおけ、それと私は今回はついていけない。自分の身は自分で守れ」

 

シズクの言葉に驚いて、頭に掛けられた布……良く見ると誠と書かれた羽織だ。それを手にしながら

 

「ついていけないってどういう……」

 

シズクが家に来てから、除霊についてこない事は殆ど無かった。こう言ってはおかしいが、シズクが側に居てくれるのは蛍と一緒に居るのと同じくらい当たり前になっていた。そんなシズクのついて来ないと言う言葉に驚きながら尋ねると

 

「……水が足りない。今の私ではきっと……」

 

きっとなんだ……?突然黙り込んだシズクが心配になり、一歩近づくと

 

「あいだ!?」

 

急に足を蹴られて蹲る、な、何だよ……俺が何をしたって言うんだ……

 

「……足手纏いになる。チビとタマモを連れて行け、私はモグラちゃんを見ている」

 

そう言ってモグラちゃんの側に近寄っていくシズクを見つめていると

 

【うーむ……幼い恋心……「……黙れ」はうあっ!?】

 

何かを呟いた沖田ちゃんの額にシズクの投げた氷手裏剣が突き刺さり頭から血を噴出す沖田ちゃん

 

「ふぁああああ!?」

 

距離が近かったからその噴水のような血を見て、俺は思わず絶叫してしまうのだった……

 

【痛いです……】

 

頭を押さえて涙目の沖田ちゃん……あれは本当に痛いんだよなあ……

 

「こほん。横島君と蛍ちゃんは……ちゃんと羽織を着たわね。じゃあこれお守り代わり」

 

美神さんに差し出された刀を蛍と一緒に見つめる。行き成り刀を差し出された事に2人して困惑していると、美神さんは俺と蛍に刀を押し付けてその理由を説明してくれた

 

「破魔札とかの効果は殆どないからね。今回はこれで戦うしかないけど……行き成り使いこなせるなんて思ってないわ、あくまで護身用。映画の脇役に襲われた時に使いなさい、沖田ちゃんは横島君と蛍ちゃんの護衛。行けるわね?」

 

俺と蛍には当然刀を使う心得なんて無い。襲われてもまともに振り回せるとは思えない

 

【はい。大丈夫です、これでも新撰組ですから!横島君と蛍ちゃんはちゃんと沖田さんが守りますよ!】

 

どんっと胸を叩く沖田ちゃん。頭から血を出しているけど、頼りにしてもいいんだよな

 

【大丈夫です!私もちゃんと護りますから!】

 

自分の周りに刀を浮遊させるおキヌちゃん、なんかすげえ怖いけど味方だから大丈夫だよな

 

「みーむう!」

 

バチバチと放電するチビも居るし、きっとなんとかなると思う

 

「所で沖田ちゃん。羽織は?」

 

【それがどっか行っちゃって……土方さん、知りません?】

 

【知るか、たわけ】

 

……だ、大丈夫かなあ……何で羽織着てないのかなって思ったけど無くしていたと言う驚愕の事実を知って、頼りにしていいのか激しく不安になってしまうのだった……

 

 

 

 

横島君と蛍ちゃんを護るのが私の仕事……大きく深呼吸を繰り返し自分の身体に問いかける。大丈夫、今はまだ大丈夫発作の気配は無い……腰に挿した加州清光の柄を握り

 

【行けるか?】

 

【問題ありません、行けます】

 

自分の中で何かが切り替わる感覚がする。ここからは剣士として……新撰組としての私だ。迷いも躊躇いも無い、敵は斬る。それだけだ……

 

「さて。じゃあ土方さん、行きましょうか。狙いはモンタージュ、私と土方さんで仕留めるわよ」

 

【心得た……では参りましょう!】

 

土方さんのGOサインが出た瞬間。私は一歩前に踏み出し、池田屋の扉を蹴り開き

 

【御用改めである!!】

 

モンタージュとの戦いに土方さんが集中出来るように、そして横島君と蛍ちゃんを護る最善の一手。それは

 

【【幕府の犬め!返り討ちにしてくれる!!!】】

 

派手に暴れて周囲の長州浪士を私の側に集めること、問題は1つ……

 

(最後まで持つかな……)

 

斬新な新撰組と言う事で監督が考えた私は病弱な女性剣士。私はその役に当て嵌められている。剣の腕、そして技術は確かに私は沖田総司だろう。だが更に与えられた……呪いとも言える設定。それがいつ顔を出すか判らないだから

 

【長くは持ちませんよ!急いで!】

 

土方さん達にそう怒鳴り先に行かせ、私は背後の横島君達を見て

 

【お2人はそこで見ていてください。新撰組一番隊長の力って物を見せてあげますよッ!】

 

階段の上から飛び降り、その勢いで上段の一撃を叩き込んできた浪士の一撃を躱し、胴で両断する即座に消える浪士の遺体

 

(まぁこれはこれで良いですかね……)

 

まだ子供の2人に斬殺死体を見せる事が無かった事に安堵し即座に刀を構えなおし

 

【戦場に事の善悪なし……ただひたすらに斬るのみ】

 

ただ斬る。土方さんがモンタージュを倒し、この映画を1度リセットするその時まで斬り続ける。ただそれだけを考え、向かってくる浪士を次々と切り裂くのだった……

 

「つ、強い……」

 

沖田の独擅場を見ていた蛍が信じられないと言う様子で呟く。少しは自分と横島のほうに来ると思っていたのだが、只の1人も横島と蛍の前に立つ敵は居なかった

 

「沖田ちゃんすげえ……」

 

横島もまたその凄まじいまでの力を見て驚愕と言う感じで呟いた、新撰組の存在は知っていたし、沖田総司の名前も当然知っている。だがその強さがまさかここまでの物とは想像もしてなかったのだろう……

 

「この調子ならすぐに終わるんじゃないか?」

 

頭の上で放電していたチビもその放電の勢いを緩め、タマモは既に丸くなって終わるのを待っていた

 

【ですね、美神さんと土方さんもモンタージュを追い詰めているみたいですし】

 

ポルターガイストで刀を浮かべていたおキヌちゃんももう終わると判断し、刀を地面に落とした瞬間

 

【まだまだいけますよ!……コフッ!?】

 

さっきまで絶好調だった沖田が急に吐血し、よろめいたのだ。目の前に刀を振りかぶった浪士の目の前で

 

【貰ったぁッ!】

 

劣勢だった浪士がその隙を見逃す訳も無く、刀を構えなおし上段に構えたその瞬間

 

「沖田ちゃんッ!!」

 

咄嗟に飛び出したのは横島だった。霊感のささやきとでも言うのだろうか?何か嫌な予感を感じていた横島は美神に渡された刀を持ち直していた。タマモもチビも積極的に護ろうとするのは横島だけであり、蛍もおキヌちゃんも完全に気を緩めてしまっていた。本来なら除霊現場で気を緩めるなんて愚策はしない、だがそうしてしまうまでに沖田は強かった。そしてこう考えてしまっていた

 

『映画が最初に戻れば怪我は治る』

 

あくまで沖田も土方もこの映画の人物だ。モンタージュにやられなければ、また生き返るし怪我も治る。だから自分達を護れば良い……そう思ってしまった。その横島と蛍達の考えの違い、そのほんの少しの考えの違いが行動の違いになった

 

「横島!?」

 

【横島さん!?】

 

蛍とおキヌちゃんの制止の声も聞かず、横島は真っ直ぐ走り、手にした刀の柄を握り締め

 

「でやあッ!!!」

 

【えっ!?】

 

真っ直ぐに刀を抜き放ち、それを振るった。それを間近で見た沖田は困惑した、何故ならそれは余りに稚拙、そして未熟だったが……抜刀のタイミング・体重移動・そして刀の握り……その全てが自分の物と同じだったから……だがその困惑も一瞬。横島が作った僅かな時間。その一瞬で体勢を立て直し

 

【シッ!!!】

 

渾身の気合と共に突きを放ち、浪士を吹き飛ばした……そしてその瞬間世界が大きく揺れ、池田屋が消え去ったのだった……

 

 

 

 

モンタージュを両断した瞬間。世界が揺れて、そして気が着いたら私は白い空間に浮いていた

 

「横島!なんて無茶をするの!」

 

「だ、だってさ!沖田ちゃん危なかったし、蛍もおキヌちゃんも動く気配が無かったから、俺が動くしかないだろ!?」

 

ちょっと離れた所で口論している蛍ちゃんと横島君。何かあったのだろうか……

 

【助けて貰っちゃった……なんか、こういうの初めて……】

 

沖田ちゃんもなんか呆然としているし、本当に私が見てない間に何があったのだろうか

 

【本当にありがとうございました。これでモンタージュに喰われた映画も元に戻るでしょう】

 

刀を鞘に納めて笑う土方さんに苦笑しながら

 

「内容が変わっちゃたかもしれないけどね」

 

モンタージュの影響は大きい、もしかするとフィルムに影響があるかも?と言うと土方さんは小さく笑いながら

 

【それもまた良いでしょうな】

 

中々豪胆な人ねと苦笑していると、頭上を大きな影が過ぎる。何だろう?と思って顔を上げると

 

「うきゅーうきゅー♪」

 

元気になったのかモグラちゃんが前足と後ろ足を器用に動かして、まるで泳ぐように横島君の方に向かっていた。その背中にはシズクが腰掛けているのが見える

 

「モグラちゃーん!元気になったのかー!!」

 

「うきゅーん♪」

 

巨大な姿のまま横島君に擦り寄って嬉しそうにしているモグラちゃんと、その巨体に埋もれるようにして笑っている横島君。その和やかな姿に思わず笑みが零れてしまう

 

(なんか平和って感じでいいわね)

 

除霊なんて言う非日常の世界に身を置いているからか、こういう平和な日常を見るととても穏やかな気分に……

 

【貴女は敵……私の……敵ッ!】

 

【なんでえ!?沖田さんが何をしたって言うんですか!?】

 

おキヌちゃんがポルターガイストで沖田ちゃんを追い回しているのを見て

 

(ああ。また横島君か)

 

それで納得してしまうほどに、横島君の人外キラーは強力だ。沖田ちゃんも一応は幽霊の分類だからしっかりと効果が出てしまっていて、それをおキヌちゃんが危惧して襲撃していると言う所だろう

 

「……土方。あの水の場所を」

 

【あ、ああそうでしたな。ここに】

 

土方さんが紙に何かを書いてシズクに手渡す、それを受け取ったシズクはあんまり見たことないような笑顔を浮かべて、その紙を大事そうにポケットの中にしまっていた。きっと神社に湧いていると言う水の場所のメモを貰ってご機嫌なのだろう。年相応と言える笑顔を浮かべているシズクを見て

 

(こんな顔も出来たのね)

 

普段は眉を寄せて顰め面か、無表情でいるシズク。そんなシズクの笑顔を見るのは稀な事だ、まぁ、相手が竜神なのだからこんなことを考えるなんて普通はありえないんだけどね

 

「それで契約の報酬はどうするの?」

 

今ここで報酬を貰うことはできないし、でも報酬はちゃんと貰わないと困るのでそう尋ねると

 

【我らもこの世界から出る事が出来るので、しっかり働いてお支払いします。ただあんまり長い時間外に居ることはできないので、利子などは勘弁してもらえると嬉しいのですが】

 

まぁここは仕方ないか、ちゃんと払う意志があるなら利子をつけて無理やり取り立てる必要もないし

 

(護衛として紹介すればいいしね)

 

土方さんも沖田ちゃんも剣士としては間違いなく一級品だ。冥子とか、エミとか、琉璃に紹介してお金を貰うのもいいかもしれないわね

 

【では外の世界にお戻します。今回は本当にありがとうございました】

 

「依頼だからね。ま、今回見たいのは止めて欲しいけどね」

 

行き成り映画の中に取り込まれるのはもう止めてね?と念を押してから皆に帰るわよ!と声を掛け、私達は映画の世界から外の世界に戻るのだった

 

なお後日

 

「美神さん。可愛い動物が出て、女の子の沖田総司が出て、他にも女性メンバーが居る斬新な新撰組ってすごい評判ですよ」

 

雑誌を持ってきた横島君が苦笑しながらその雑誌を差し出す、どうも私達が映画の中に入ったことで映画の中身が変わってしまったらしい、可愛い動物は間違いなく、チビ達だろうし、女性メンバーは私や蛍ちゃんだろう。後は横島君は気にしてないみたいだけど、もう1つ

 

(本当自分の評価が低いんだから)

 

横島君も動物と心を通わせ、若い割りにいい殺陣(たて)役者として今後注目と雑誌には書かれていた。役者じゃなくてGSなのにねえ……まぁ映画の中身が変わったから仕方ないかと苦笑しながら

 

「まぁ仕方ないんじゃない?」

 

私は机の上に置かれた映画雑誌を置いて、更に新撰組を撮った映画監督からのオファーの依頼の手紙を破りながら返事を返す

 

「良いんですか?映画の件」

 

手紙の内容を知っている蛍ちゃんが花瓶の水を替えながら尋ねてくる。私はその言葉に当然でしょ?と返事を返し

 

「だって私はGSで、映画女優じゃないし、そんなのになるつもりもない。さっ!今日も仕事よ、張り切っていきましょうか!」

 

はいっと返事を返す蛍ちゃんと、出来る限り頑張りますという横島君の声に続いて聞こえる。チビやモグラちゃんの鳴き声に苦笑する、いつの間にか本当私の事務所の人外率がとんでもない事になってるわね……まぁにぎやかでこういうのも楽しいんじゃないか?と思うけど、正直映画の件は確かに報酬も大きかったけど、その代わり何ヶ月も下手したら映画に付き合わされる、そうなったら今度のGS試験には間に合わないし、それに何より私はこのGSと言う仕事が好きだから、あんまり余計な仕事を増やしたくないって言うのもある

 

「今日はCランクの除霊だからね、私はあんまり協力しないから蛍ちゃんと横島君でなんとかするのよ」

 

それに今は弟子を一人前にするのに精一杯だ。それにこの騒がしい日常のままが良いって言うのもある。だから映画になんて出て有名になるのはめんどくさいと思ったのだ。うっすと返事を返す横島君達を連れて、除霊現場へと向かうのだった……

 

リポート23 フィルムの中の剣士 その5へ続く

 

 




次回は少し日常系とかの話にして、別件に入ろうと思っています。沖田とか、唐巣神父の話をやりたいと思います
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回でリポート23は終わりになり、別件を2つ挟んでGS試験の話に入っていこうと思います。今回はほのぼのをメインにして頑張ろうと思います。モグラちゃんとかに重点を置きたいと思っています、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート23 フィルムの中の剣士 その5

 

モンタージュの除霊を終え、研修としてのCランクの除霊を終えてから俺は美神さんに言われて自宅療養していた。俺自身は全然平気なのだが、モグラちゃんに押し潰されたことを考慮して様子見をしろと怒られてしまった。もちろん美神さんだけではなく、蛍とシズクとおキヌちゃんにもこっぴどく怒られたので、こうして炬燵に入ってのんびりとしているのだが

 

「うきゅ」

 

とてとてと部屋の中を歩き回るモグラちゃんをさっきから見ているのだが、時折その姿がぶれて、大きくなったり小さくなったりしている。楽しそうに鳴いているのを見ると調子が悪いのかどうなのかの判断がつかないのでちょっと近くによって来たタイミングで

 

「まだ調子悪い?」

 

大きくなると言っても精々大型犬くらいの大きさなんだけど、見ている間にこうも身体の大きさが変わるのを見ていると心配になってくるのでそう尋ねると

 

「きゃーう」

 

こてんと首を傾げるモグラちゃんだが、さっきから一定の距離を保ったまま近づいてこない

 

(やっぱ気にしてんのかなあ……)

 

映画の中で俺を押しつぶしたのを気にしているのか、前みたいに近寄ってこない

 

「モグラちゃん。おいでー」

 

手を叩いて呼んで見るが、モグラちゃんはやっぱり近寄ってこない……捕まえようと手を伸ばすと

 

「うきゅ」

 

とてとてと離れて行ってしまう……炬燵に足を突っ込みながら溜息を吐きながら

 

「なーチビ。モグラちゃん呼んできてくれる?」

 

「みーむう……」

 

机の上でみかんを頬張っていたチビに頼むが、小さく首を振る。モグラちゃんと仲良しのチビが言っても駄目と言うことは相当気にしているみたいだな……あれは事故だから仕方ないのに……

 

「……あのモグラはモグラでデリケートだからな。まだ子供だから」

 

急須と湯飲みを持ってきて、炬燵の中に入りながら呟くシズク。でもなぁこうして一緒に暮らしているのだから、距離があるのは良くない。それに……

 

(昨日もなぁ……)

 

昨日寝ている時に寒かったのか、チビとタマモが俺の布団の中に潜り込んできたのだが、モグラちゃんは潜り込もうとして、そのまま自分の籠の中に深く潜って行くのを見た

 

(なんとかしてやらんとなあ……)

 

とは言え、どうすればいいのか思いつかない、炬燵の上のチラシを見ながらあーでもない、こーでもないと考えていると

 

「ん?」

 

ふと視界に止まったのはホームセンターのチラシ。【特売】と書かれているそれを見てこれだ!と思い。煎餅を齧っているシズクに

 

「シズクさん、少しお金をくださいな」

 

今我が家の財政を完全に把握しているシズクにそうお願いする。シズクがばきっと煎餅を齧り

 

「……無駄遣いは駄目だ」

 

……流石我が家のロリおかん様やな。その威圧感とこのきっぱりとした口調……お袋を連想してしまう、だがこれは決して無駄遣いなどではない。俺が手を合わせ続けていると、ふうっとシズクの溜息の音が聞こえ。机の上に置かれた4枚の野口さん

 

「……足りるか?」

 

「十分!じゃ、ちょっと行って来る」

 

4枚の野口さんをポケットに入れて立ち上がると、チビがその背中の小さい翼を羽ばたかせ顔の近くまで浮かんでくる

 

「みーむ」

 

一緒に行ってもいい?と言ってきてるような気がするけど、今出掛けるのはちゃんとした店だから

 

「お留守番。タマモとモグラちゃんと一緒」

 

日当りの良い所で丸くなっているタマモと大きくなったり小さくなったりしながら歩いているモグラちゃんを指差して言うと

 

「みーむう……」

 

若干ふてくされた様子で炬燵の上に戻るチビ。元々表情豊かだったけど、最近は更に表情がころころ変わるようになったなあと思いながら、俺は下駄箱の近くに置いてある自転車の鍵を取って家を出るのだった……

 

 

 

 

横島がモグラちゃんに押しつぶされた事を考慮して、横島に自宅療養を言い渡した美神さん。それ自体は当然の事だと思うんだけど……

 

(かなり丸くなっているらしいのよね)

 

前の美神さんだったらそんな事で休ませてあげたりしなかったですけどね。と言うおキヌさんの言葉もある……逆行の影響か、それとも横島が前の時間よりも能力が高いからか……可能性はかなりの数あるけど……優しいってのは悪くないから、別にそこまで深く考えることも無いか

 

【せえいっ!!!】

 

気合の入った沖田さんの声。どうやら最後の悪霊を切り倒したようだ、モンタージュ事件の依頼料と横島とモグラちゃんへの医療費。そして迷惑料……その合計1000万を返済する為に現在沖田さんは私や横島よりも下の見習いとして雇われている。映霊としての特性やたまには映画の中に戻らないと霊力が回復しない為、利子などは無いがその代わり払われる給料も少ない為。返済には相当苦労する事になるだろう……そんな事を考えながら刀を鞘に納めている沖田さんを見ていると

 

【沖田さん!大勝利!身体は……かふっ!?】

 

Vっと大きくピースサインした後に勢い良く吐血して倒れる沖田さん。私は隣で見ていた美神さんに

 

「これ、大丈夫ですか?」

 

依頼人の家に思いっきり吐血の後。これ賠償金とか請求されないですか?と尋ねると

 

「どうせリフォームするでしょ?だから関係ないわ」

 

……優しくなっているのかな?私的には大分判断に悩む美神さんの言葉に思わず小さく苦笑するのだった……

 

【はー……はー……本当監督ってなんで私にこんな呪いを……なんか恨みでもあったんですかね】

 

美神さんが買い与えた安物の霊刀を手に荒い呼吸をしている沖田さん。なんでも加州清光を使っていては除霊見習いとして他のGSの事務所に出すことが出来ないからともっともらしい事を言ってたけど

 

(担保って感じ……)

 

いざとなったらそれを売却してお金に変えそうな気がする……

 

【お疲れ様でーす】

 

【ふぎゃっ!?】

 

そして沖田さんを踏みつけながら姿を見せるおキヌさん。ゼンゼンキヅキマセンデシターと白々しい顔で言っているおキヌさんを見て

 

「……あれ大丈夫ですかね?」

 

おキヌさんが私に見せるよりも数段酷い敵意を沖田さんに見せている。これはきっとあれだ。自分と同じ幽霊だからとか、雰囲気的な物で自分の敵だと感じ取っているのだろう

 

「大丈夫なんじゃないかしら?ま、腕はいいし、これならエミとか冥子にも紹介出来るわね」

 

……大丈夫かなあ……今まで見たことないくらいどす黒い気配を放ってるんだけど

 

【なんで沖田さんを目の敵にするんですかぁーッ!】

 

【シリマセン~♪】

 

がーっと叫ぶ沖田さんを見ながら、白々しい口調で笑うおキヌさん。美神さんは大丈夫と言うけど、私は不安を感じずには居られないのだった……

 

「じゃ、沖田ちゃん。この地図の所に私の知り合いのエミって言うGSが居るから、今日はそこで仕事ね」

 

沖田さんに手紙を渡している美神さん。様子を見て助っ人として送り出しても大丈夫だと判断したんだと思うんだけど

 

(大丈夫かしら?)

 

能力は確かに高いし、長時間の除霊は蓄えている霊力を使い切ってしまうので、駄目だがそれでも霊力を扱う術にも長けている。だが沖田さんは映画の住人だ。そうなると彼女を演じた女優が居るわけで……

 

「騒ぎになるんじゃないんですか?」

 

竹刀袋を背負って走っていく沖田さんを見ながら尋ねる。すると美神さんはくすっと笑いながら

 

「蛍ちゃんの考えている事は判るわよ?でもちゃんと対策は取ってあるから心配ないわ」

 

対策?変装をしているわけじゃないし、着ている服だって映画のポスターにもあった桜色の着物……どこにも対策なんてしてないように思えるんだけど……

 

「なんかカオスが今度売り出す。認識阻害の呪を込めたアクセサリーのテストさせてるから」

 

……いや、それってどう考えても対策って言うか、只の実験台じゃあ……そもそもなんでそんなものを……

 

「最近ね、GSの事務所の近くで待ち構えてる馬鹿共が居るらしいからその対策。素人が除霊現場に来たら危ないでしょ?」

 

あー確かに最近除霊しているとカメラを構えている人をたまに見るっけ

 

「そう言う場合の損害もGSが払わないといけないからね。それって理不尽でしょ?だから認識阻害で私とかエミとかって判らないようにするわけ」

 

まっ今はテストの段階だから、私達が使うのはもう少し先になるけどねと笑う美神さんを見ていると

 

【美神さん。色々貰ってきましたー♪】

 

沖田さんが居なくなったので、いつもの雰囲気に戻ったおキヌさんが紙袋を抱えて姿を見せる

 

「なにそれ?買い物でも行ってたの?」

 

かなり大きい紙袋を抱えているので思わずそう尋ねると美神さんが

 

「ああ、あれね?除霊現場に紛れ込んできた馬鹿の排除をおキヌちゃんに頼もうと思ってカオスと厄珍に道具を用意させたのよ」

 

【はい!まずはこれ!ライオンも気絶する吹き矢です!】

 

……まぶしい笑顔で危険な物を取り出したおキヌさん。思わず美神さんを見ると首をぶんぶんと振っている。厄珍が悪乗りして持たせたのだろうか

 

【ふふふ、これで横島さんを……「はい、没収」ああ!私の希望~~~!!】

 

吹き矢を手に怪しい笑顔で笑っていたおキヌさんからそれを取り上げてへし折る。この人は本当に自分の欲望に忠実すぎて困る

 

「美神さんももうちょっと考えてから頼んでくださいね?」

 

「……うん、ちょっと厄珍に苦情の電話するわ」

 

壊れた吹き矢を見て涙目のおキヌさんを見ながら、私はソファーに腰掛けふと壁に掛けられたカレンダーを見た。

 

(もうそんな時期なのね)

 

GS試験受付開始日と赤い○が付けられた日がもう近くまで来ていたのだった……

 

 

 

 

 

ホームセンターで買ってきた物を庭に並べて準備する。買ってきたのは在庫処分の夏のレジャーグッズのキャンプシートや、簡易寝袋と言った物だ。定価の半額以下で買えたので、お釣りが来たのが正直ありがたい

 

「うーさむッ!?」

 

冬場なのでバリバリ寒いが、それもあと少しの我慢だ。べりべりと包みを剥がして庭に広げていく

 

「みーむ?」

 

何してるの?何してるの?と言いたげに頭の上で鳴いているチビ

 

「もう少しだからなー。ちょっと静かにしててなー」

 

レジャーシートを広げて、防寒用の布団を広げてっと……良し、こんなもんだろ

 

「……何をするつもりだ?」

 

窓を開けて部屋の中に入ってきた俺にそう尋ねてくるシズクに

 

「んー?モグラちゃんとな」

 

部屋の周りを歩いていたモグラちゃんを見つけて、咄嗟にヘッドスライデイングを決めて逃亡しようとしたモグラちゃんを捕まえる

 

「うきゅい!うきゅー!」

 

手の中でじたばたと暴れているモグラちゃんを逃がさないように捕まえたまま、また庭に戻って

 

「モグラちゃん。大きくなってくれるか?」

 

「うきゅ?」

 

レジャーシートの上にモグラちゃんを置いて、大きくなってと言うと不思議そうにしながらも大きくなっていくモグラちゃん

 

「もっともっと」

 

犬くらいの大きさじゃなくて、もっと大きくなってと言うと初めて会った時の小山のような姿になる。よしよし……俺はレジャーシートの上に伏せているモグラちゃんを見ながら靴を脱いでレジャーシートの上に乗って

 

「よいしょ」

 

「うきゅ」

 

その小山のようなモグラちゃんの巨体に背中を預けて寝転がった。大きいだけあって暖かい

 

「モグラちゃんは暖かいなー」

 

寒さ避けの布団はきているが、それでもうちの中よりも全然暖かい。モグラちゃんの毛並みを撫でながら

 

「あったけえなあ……ほんと」

 

ぽかぽかと暖かいモグラちゃんの体温に目を細め、その毛並みをゆっくりと撫でながら

 

「あの映画の中のは事故だからな?モグラちゃんだって俺を押しつぶしたい訳じゃなかったんだろ?」

 

「うきゅ!!」

 

当然と言いたいのか力強い鳴き声で返事を返すモグラちゃん。その毛並みを撫でながら

 

「じゃあ気にすること無いだろ?俺は避けられて寂しいぜ?」

 

前まで膝の上とかに登ってきていたのに、それが無くなって呼んでも近づいて来ないのは正直言って寂しいと思う

 

「……うきゅ……」

 

「怪我してるわけじゃねえし、そんな事で俺はモグラちゃんを嫌いにならないしな?だからもう気にしなくて良いんだよ。チビもタマモもそう言ってる」

 

いつの間にか部屋の中から出てきたタマモと俺の頭の上のチビがモグラちゃんを叱るように

 

「みーむう!みみむー!!」

 

「クオーン!」

 

と鳴いている二匹の鳴き声を聞いたモグラちゃんが初めて俺のほうを向いた

 

「うきゅう……」

 

その余りに弱々しい声。でも俺にはごめんねと謝っているように聞こえて、思わず苦笑しながら

 

「だから良いって、気にすんなよ」

 

良し良しと頭のほうを撫でてやるとうきゅうっと鳴いてぽろぽろと涙を流すモグラちゃんの涙を拭ってやりながら

 

「だから気にしなくて良いんだよ。なっ」

 

その巨体だから抱きしめてやることは出来ない、それでも出来ることとしてモグラちゃんのほうを向いてその頭に抱え込むようにして背中を撫でてやると

 

「うきゅー」

 

すりすりっと擦り寄ってきたモグラちゃん。頭のサイズが大きいから少しだけ痛いけど……モグラちゃんの気の済むようにしてやろうと思って耐えていると

 

「うきゅ……うきゅー……」

 

すぷーすぷーっと寝息を立て始めるモグラちゃん。もしかすると気にするあまり夜も寝てなかったのかなと思っていると

 

「ふわあ……俺も眠くなってきたなあ」

 

どうせモグラちゃんを大きくして一緒に昼寝するつもりだったし、このまま昼寝するかぁ……モグラちゃんが暖かいから風邪をひく事も無いだろうし……そう思って目を閉じようとするとぼすっと重みを感じて驚きながら目を開く

 

「っとと!?シズク?」

 

俺にもたれかかるようにして座っているシズクの背中が見え、若干驚きながらその名を呼ぶと

 

「……たまには良いだろ?それとも私は迷惑か?」

 

いや、別にそう言うんじゃないけど……まぁ良いか。たまに甘えたい気分の時もあるだろうと思い、布団の中にシズクも入れてまたモグラちゃんに背中を預ける

 

「クフ」

 

「むーむう」

 

モグラちゃんの周りが暖かいのか、チビとタマモも丸くなって眠る体勢に入っている。冬だけど、たまには外で昼寝するのもいいなあと思いながら俺は目を閉じて眠りに落ちるのだった……なお蛍が夕方に夕食の準備をするまで俺達は寝ていたのだが、シズクを抱きかかえるようにして寝てたとかで、ロリコンと言われたのがかなりハートブレイクになる一言だったが

 

「うきゅー♪」

 

前みたいにモグラちゃんが甘えて来てくれるようになったので、プラスマイナスなし……だと良いなあ……

 

 

 

 

横島が蛍の機嫌を直そうと必死になっている頃。夜の山中を必死で走る少年の姿があった

 

「はぁッ!はぁっ……」

 

額からは滝のような汗を流し、着ている胴着はあちこちボロボロの上に鮮血が滲んでいる部分もあった。満身創痍そんな言葉で片付けることが出来ないほどボロボロの姿をした少年はそれでも走る事を止めない

 

「うっ!?」

 

だが夜に加えて山中と言う事もあり、木の根っこか何かに足が引っかかりその場に倒れこむ。それは疲弊しきった今の少年にはこれ以上に無い不幸だったが、その不幸が少年を救っていた

 

【【ギギイイイイッ!!!】】

 

倒れた少年の頭上を飛んでいく黒い翼を持った異形。少年はあの異形から逃げる為、そして自分を逃がしてくれた先輩の為。ボロボロになった身体のまま必死に駆け続けていたのだ

 

「はぁ……はぁ……」

 

走らなければ、立ち上がって前に進まなければ。そう思っているのに、少年は倒れたまま立ち上がることが出来なかった。時間にして4時間。4時間の間全力疾走を続けていた少年にはもう立ち上がるだけの体力は残されていなかった

 

「うっ……うっうっ……」

 

倒れたまま涙を流す少年。こんな所で倒れている時間も涙している時間も無い……そう判っているのに、立って走らなければ、伝えなければいけない事がある。それなのにもう立ち上がる事が出来なかった。もうこのまま目を閉じて眠ってしまえば楽になれる……目を閉じようとしたその瞬間

 

「せ……せん……ぱ……い」

 

身体を張って自分を逃がしてくれた先輩の姿が脳裏を過ぎる…遠方から霊力があると言って東京に修行に出てきたが、その修行先として向かった白龍会では落ちこぼれと馬鹿にされ、ろくに霊力の扱いも教えてもらう事が出来なかった……そんな自分を唯一認めて、面倒を見てくれた。口は悪いし、殴られる事もあった。だが決して自分を見捨てることが無く、そして今もまた諦めかけた自分を励ましてくれた

 

「い……陰念……先輩……を……助け……るんだ……」

 

消えかけた瞳に再び色が宿る。強い想いは時に肉体の限界を超える

 

「お……おおおおああああああッ!!!」

 

雄たけびを上げながら少年は……落ちこぼれと馬鹿にされ続けた「東條修二」はさっきまでの弱々しい表情から一転し、闘志に満ちた勇ましい顔つきへと変わっていた。空中から執拗に追いかけてくる異形から必死に逃げ、もはや歩く気力すらない。そんなボロボロの姿だったが、東條はやり遂げた異界となっていた山を降り人が居る街中までたどり着いた……だがそれが彼の限界だった……

 

「絶対……助け……るんだ……」

 

目的地にたどり着くことなく倒れた東條。早朝と言う時間帯もあり、このままでは追っ手に殺されるまでもなく、疲労と出血で死ぬそんな状態の東條だったが

 

「ふむ。唐巣に呼ばれて来て見れば……いやはや、行き成りこのよう場面に出くわすとは……」

 

真っ黒のカソックに身を包んだ男性が倒れている東條を見つけ、にやりと笑い

 

「これは救えと言う神のお告げなのだろう。それならば……」

 

だがその男性は東條の側に近寄らず、代わりにカソックの中に手を入れ、そこから何かを取り出す

 

「これから行う殺戮もまた、神がお許しになられたと言う事だ」

 

【【【ギギイイッ!!!】】】

 

空中から襲撃してきた異形目掛けて腕を振るった瞬間。その手から投じられた何かが変化し、鋭い刀身を持つ剣となり3体の異形のうち2体の頭を貫き、残る一体はその翼を引き裂き地面へと落下させる。そして

 

「ふっ!!」

 

まるで交通事故のような轟音が響き渡り、異形の胴体に穴が開く

 

【ぎ、ギガア……】

 

「脆い……脆すぎるな」

 

異形を貫いていた拳を引き抜いた男性は足元の道路を見て

 

「ふむ。少しばかり力加減を間違えたか……」

 

地面に大きな穴を開けた自身の踏み込みの跡を見て修行が足りんなと呟き

 

「さて、行くとしようか?少年」

 

今にも死にそうな顔色をした東條を肩に担ぎ、堂々とした様子で早朝の街を歩き出すのだった……

 

 

 

 

「シルフィー君。それとピート君、今日の掃除は少しばかり念入りに頼むよ」

 

珍しく先生から掃除をしっかりやってくれと頼まれた。普段はそんな事は絶対に言わないのに……

 

「唐巣先生?誰かお客様でも来るんですか?もしかして先生の彼女さん?」

 

にやにやと笑うシルフィーの頭に拳骨を落とす。先生相手になんて失礼なことを聞くんだ

 

「あはは。いや違うよ、残念なことに私にはそう言う女性の知り合いは居ない。もしかすると近い内に私と同じく破門された神父が尋ねてくるんだ」

 

破門された神父……それってもしかしてたまに先生の昔ばかりに出てくる神父様?

 

「先生に八極拳を教えてくれたって言う……」

 

「その通りだよ。ピート君、彼は神父だが、健全なる精神は健全なる肉体に宿ると言ってね。神父とは思えないほどに筋骨隆々の男だよ」

 

会うのは何年ぶりだろうねえと笑う唐巣先生。だけど僕とシルフィーは小声で

 

(私そんな神父様に懺悔したくない)

 

(僕もだよ)

 

僕とシルフィーの中の神父像が今一良く判らなくなった……まぁ良いや、唐巣先生の友人ならそう酷い人じゃ……そう思った瞬間教会の扉が吹き飛ぶ、何事か!?と振り返ると

 

「すまん。唐巣、急病人だ。至急ベッドを用意してくれ」

 

朝日の光が差し込む中。蹴りを放った姿勢のまま、死んだ目をした無表情な筋骨隆々な大男が気絶した青年を担いで仁王立ちしていて

 

「「人攫いだああッ!?!?」」

 

これはどう見ても人攫いか何かにしか見えず、僕とシルフィーは思わず絶叫してしまうのだった……

 

「ふむ。唐巣。お前の弟子は少しばかり失礼だな」

 

「すまない。言峰……気を悪くしたかい?」

 

「ふっ、別に気にしてはいないさ。少々人相が悪いのは自覚しているのでね」

 

僕とシルフィーは唐巣先生の本気の拳骨を喰らい、涙目で蹲っていた。す、すっごく痛い……

 

「それでその青年は?」

 

「判らない。私が見つけた時は既にこの有様だった。魔族に追われていた所を見る限り、どこかから逃げてきたと思うのだが……胴着の上が破けているのでな……特定できない」

 

教会の椅子で寝かされている青年は黒い胴着のズボンをはいているが、上半身は肌着だけになっている。魔族に追われているうちに破けたか、焼かれたかした可能性がある

 

(それにしても酷い傷だ……)

 

吸血鬼の僕でもこれだけの怪我を負えば動けなくなるレベルの重症だ

 

「ピート君。シルフィー君、悪いが厄珍の所で薬を貰って来てくれ。流石にこの時間では病院にも連れて行けない」

 

時刻は早朝5時。緊急病院に運ぶにしても止血をしなければ、運ぶ前に彼が死んでしまう

 

「最悪代金を置いて薬を持って来てくれても構わない」

 

唐巣先生の言葉に判ってますと返事を返し、僕とシルフィーは教会を後にし、厄珍へと向かうのだった

 

「酷い怪我だな。どこで見つけたんだ?」

 

「寺がある山だ。遠目から見ては判らんが、念入りに結界を張られている。恐らく異界と化しているだろう」

 

シルフィーとピートが居なくなった所で唐巣と言峰が、気絶している青年の手当てをしながら話し合いを始めていた。

本来言峰は霊力による怪我や霊障を治す事に特化した神父であり、除霊および自身の信条として身体を鍛え上げてこそいるが、その本質は神父と呼ばれるに相応しい能力を持った人物だ。

 

「異界……私が気付かないとは……相当上位の魔族か」

 

「間違いないな。恐らく単独で相手をするのは不可能に近いだろう」

 

いつの間にか東京に紛れ込んでいた上級魔族。それにどうやって対応するか?を話し合っている2人の声が聞こえたのか、気絶していた青年が目を覚まし、唐巣と言峰を見て

 

「た……助けてください!……先輩を……皆を……たす……けて」

 

弱々しい声で仲間を助けてくれと懇願する青年に言峰と唐巣は

 

「任せなさい、詳しく話を聞きたいが、今は休みなさい」

 

「その通りだ。出血死寸前だったのだから無茶をするな」

 

今にも死に掛けなのだから大人しくしていろと言われた青年だが、かなり興奮しているようで、言峰が額に手を置いて意識を刈り取って、強制的に眠らせることにしたのだが、青年はもう1度気絶する前に

 

「……が、ガープ……」

 

そう呟き再び眠るように意識を失った……そしてその名前を聞いた言峰と唐巣の顔色は変わり

 

「唐巣。急げ、GS協会。それと神族に連絡だ。この少年は私が見ている」

 

「判った!頼むぞ!」

 

ガープ。ソロモンに名を連ねる強大な魔神。無論そんな存在が本当に動いている確信は無いが、それでもGS試験を間近に控えたこのタイミングでガープの名を名乗る魔族が近くに潜んでいる事が判り、唐巣神父は慌しく電話を手に取り、各所に連絡を取り始めるのだった……

 

 

別件リポート 闇の胎動へ続く

 

 




マーボー神父をログインさせました。これからたまに出てくると思います、外見は第5次ですが、中身は第4次のほうですので愉悦には覚醒してません・愉悦に覚醒させると敵になっちゃうのが確定なので(笑)次回からは視点を変えて3種の別件リポートとなります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート その1

どうも混沌の魔法使いです。今回からは3件続けて別件リポートになります、一つ一つの話は短いですしGS試験とその後の話の繋がりに重点を置いているので若干「ん?こんな設定あったかな?」と思う所があるかもしれないですが、GS試験編で判ると思うので。この場はスルーしていただけると嬉しいです、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

別件リポート 闇の胎動

 

「……ふむう……」

 

窓から入ってきた巨大な白蛇「ビッグイーター」が持ってきた手紙を見て眉を顰める

 

「すまないね。少し待っていてくれるかい?」

 

「シャーッ」

 

足元のビッグイーターにすまないねと呟き、机の上の飴を置いてやるとバリバリと噛み砕き始める

 

(後手に回っているか……)

 

メドーサに頼まれて白竜会を見に行ったが、既にガープの手が入っていた。となると迂闊に手を出せず、そのまま逃げる帰るようにその場を後にした。そしてメドーサに確認の為に手紙を送ったのだ

 

【伊達雪之丞 鎌田 勘九郎 陰念の3人に魔装術を教えたか?】と

 

返事はまだ完全には教えてないとの事だったが、さわり程度と自分との契約は済ませてあると言う内容だった

 

(これは不味いかもしれない)

 

そもそも魔装術と言うのは、憑依・降魔術に近い物であり、強力な魔族が自身の配下に自分の力を貸し与え、その能力を上げる為に作られた物だ。主に神魔大戦の際に数で劣る魔族がその数の差を補う為の術だ。理論上は人間でも使用可能だが、その場合その人間の魂に強い負荷を与え、更にはその身体が魔族に変質する危険性を秘めている。ガープの事だ、さわり程度でも魔装術に触れている人間が居ると知れば、嬉々として実験対象に選ぶだろう……

 

「これしか無いか……」

 

メドーサに返事の手紙書いてビッグイーターに渡しながら

 

「良いかい、急いでそれを君のご主人に渡すんだ。そして読んだ後は処分するように」

 

「シャーッ」

 

良く躾けられてるなと思わず苦笑する。返事を返し、私の机の上の飴を包みごと3個口に咥えて窓から出て行く

 

「躾けられてるのか良く判らんな」

 

躾けられてるなら勝手に飴を持っていくということは無いだろうし……いや、あれはあれで面倒見の良いメドーサの事だ。自分の使い魔にちゃんと躾と指示は出しているだろう

 

「少しやんちゃ者って事かな……」

 

ビッグイーターにも性格と言う物がある。今回来たのはたまたまやんちゃな性格をしたビッグイーターなんだと納得する

 

「さてと……今回は少しばかり危険かな」

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず……だが私が飛び込むのは虎穴所か、地獄の中。戻ってこれる保証もないが……これしかない

 

(恐らく横島君……それに蛍。これもまた試練だ……乗り越えて見せてくれ)

 

使い魔に手紙を持たせ、直接最高指導者の元へと跳ばす。

 

「暫く戻らん。蛍には最高指導者からの指示で動いていると伝えてくれ……あと、ビュレトに後は頼んだと」

 

「……ご武運を……アシュ様」

 

深く頭を下げる土偶羅魔具羅に

 

「ああ、行って来るよ。かつての同胞に会いにね」

 

覚悟を決める時が来た。今までは情報収集として動いていなかったが、ここで初めて過激派魔族としての肩書きが役立つな……目指すは白竜寺

 

 

 

 

階段を上ってくる何者かの気配を感じる。これがただの人間ならば異界と化したこの寺に入ることが叶わず、彷徨い続け元の場所に戻るだろうが

 

(真っ直ぐ来ている?何者だ……)

 

逃亡した人間を追いかけたガーゴイルは全滅。魔界正規軍か……いや、だがそれでは1人と言うのはおかしい……

 

(報告……否)

 

私はこの場を任されている。GSであろうが、神族だろうが、魔族だろうが倒すのみ……愛用の杖に手を伸ばした所で

 

「やれやれ、随分と好戦的だな。ビフロンス」

 

肩を竦めながら姿を見せたのは金髪で長身の男……一瞬誰だ?と思ったが、冷静になって見れば判らない筈が無い

 

「アシュ!アシュタロスか!?」

 

「その通りだよ。ビフロンス」

 

にやっと笑うその顔は私の記憶の中のアシュタロスの顔と合致する。そしてそれと同時に

 

「同胞よ!ガープ様の力になりに来てくれたのだな!」

 

同じく過激派と追われ、魔界から姿を消していたアシュタロスがまさか人間界に居るとは……そしてこうして来てくれた事に素直に喜びを感じる。

 

「ああ。と、言っても今ガープが何をするつもりかわからない。まずは計画を聞きに来ただけだが、状況によっては私も協力しよう。ガープに会わせてくれるか?ビフロンス」

 

「勿論だとも、さぁこっちだ。ガープ様の部屋へ案内しよう」

 

門を離れる前にガーゴイルを5体召喚する。3体に空中を見張るように指示を出し、2体に門を護れと命令し私はアシュタロスを連れて白竜寺の中へと足を踏み入れたのだった

 

「生気がないな。何をしているんだ?」

 

一番奥のガープ様の部屋に案内しているとアシュタロスがそう尋ねてくる

 

「ああ。人間が大勢居るが、魔装術に適合しない物ばかりだ。精々ガーゴイルの餌として霊力と生命力を与える程度しか役に立たんからな。魔術で体の自由を奪ってこの光景を見せている、そのうち適合者になるだろう」

 

魔装術を人間が扱おうと思えば、それに相応しい心の闇が必要だ。憎悪・怒り・絶望・嫉妬・そして闘争を望む心……そういったマイナスの負の念が必要不可欠だ。魔装術に足りる闇を育てる為に、あの絶望の光景を見せるのは最も効率がいい

 

「……適合者は居ないのか?」

 

「居るには居るぞ、3人な。だがその内の2人は駄目だな、役に立たん」

 

ガープ様が直接調整している3人の人間を思いだす、1人はガープ様に忠誠を誓い、もう1人は強くなれるという証明を見せろと言った。本来ならその場で殺してやる所だが、ガープ様が面白いと言って気に入った様子を見せているのでそのままだ。そして最後の1人は本当に不可解だ

 

「心に光を持ちながら、魔装術に高い適正を見せた。全くこれだから、人間と言うのは理解できん」

 

魔装術を扱うだけの心の闇を持ちながら、それで居て心に光を持つ。こんな馬鹿な話があるものかと最初は憤ったものだ、闇と光は相反する物。その両方を持ち合わせる人間など悪い冗談としか思えない

 

「が、がああああああああッ!!!」

 

そんな事を考えながら歩いていると道場の奥から叫び声が響いてくる

 

「この声は?」

 

「最後の1人さ。ガープ様が偉く気に入ったようでな、今2重契約を結ばせているのさ」

 

「2重契約!?そんな事が出来るわけが無い!」

 

アシュタロスが信じられないと叫ぶのも判る。魔装術は本来は1柱の魔族と契約し、その力を借りて擬似的な魔族に至る術。魔界大戦の時は高位の魔族が下位の魔族と契約し、自分の劣化コピーとして戦力にしていた。と言うのは有名な話だ、私自身も配下と契約し自身の力を分け与えた

 

「だが出来るやも知れぬだろう?光と闇を内包する物だ。2重契約出来るかも知れん」

 

元々この場所に居た魔族「メドーサ」との魔装術の契約に加えて、畏れ多くも人間ごときがガープ様と契約出来る。死したとしてもそれは人間にとっては至高の褒美と言えるだろう。魔族として最高峰のお方の力を一時でもその身体に宿すことが出来るのだから

 

「しかしガープにしては珍しい、あいつにしてみれば貴重な実験材料だろうに」

 

「ふふふ、あの人間が言い出したことよ。自分の仲間を1人この場所から逃がす代わりにとな」

 

正直言って逃げ切るとは思わなかったが、逃げ切られた所で問題がある訳でもない。強いて言えば、正規軍の警戒心を強めることになるが、それでいい。万全の警戒の中ガープ様達の会戦の意志をあのサタンの愚か者に知らしめる事が出来るのだから

 

「少し待て」

 

アシュタロスにそう声を掛け、ガープ様の部屋の扉を叩く

 

『ビフロンスか?何様だ』

 

魔術で部屋の中から返事を返すガープ様に同じく魔術を使い返事を返す

 

『古き同胞が尋ねてまいりました。会う価値は十分にあると思います』

 

『古き同胞?ふむ……いいだろう、私が迎えに出る。お前は下がれ』

 

『はっ、それでは失礼いたします』

 

ガープ様との短い話を負え、私はその場を後にしながら

 

「直にガープ様が見えられる。ゆっくり話をすればいい。ではな、アシュタロス。お前と私達の道が重なる事を祈っている」

 

ソロモンの殆どが中立を貫くと声明を出し、自身の宮殿に閉じ篭っている。その大半の考えている事は判っている、私達がどこまで正規軍と戦うことが出来るのか?それを見極める為だろう。そしてこれからの戦いの内容によってはもっと仲間が増える。そうすれば正規軍も最高指導者も敵ではない

 

「む?悲鳴が止まった?死んだか?」

 

さっきまで響いていた絶叫が収まっている。死んだか?と思いその部屋の中に入り

 

「くっ!くはははははっ!信じられん!信じられんぞ!!!人間!!!」

 

そこに居たのは2重の魔装術を展開し、肩で息をしている人間の姿。まさか、まさか!!!

 

「2つの魔族との契約を成立させたか!!」

 

真紅に輝く瞳を光らせることで返事を返した人間を見て、思わず私は笑わずには居られないのだった……

 

 

 

 

 

古き同胞と聞いて、誰が尋ねてきたと思ってみてみれば……

 

「は!ははははははッ!!!ビフロンスの奴め!随分と茶目っけを出した物だ!!」

 

人間の姿をしているが、見間違えるわけが無い。この魔力の波動は

 

「恐怖公アシュタロス!古き同胞よ!良く訪ねてきてくれた!」

 

私らしい態度ではないが、思わずアシュタロスの背中に腕を回して抱きしめる

 

「お前らしい反応じゃないな。ガープ」

 

若干嫌そうな顔をして私の抱擁を片手で振り払うアシュタロスに笑いながら

 

「くっくっ!そうなりもするさ、同じ過激派に属する魔神が尋ねて来てくれ、しかも私と同じ知恵を持つ者なら尚の事!」

 

アスラにしろ、アスモデウスにしろ、考えるよりも行動するタイプだし、元より深く物を考える事が出来ないタイプだ

 

(まぁ無理も無いが……な)

 

アスモデウスもアスラも魔神の中でも特異すぎる存在だ。私の様に訓練し、知識を深め、自身の力の使い方を十全に扱う術を身に着けなくても、最初から自分の力を十全に扱える。訓練も、修行も、知恵を深める必要も無い。それが羨ましいとは言わない、私に出来ることをアスラとアスモデウスは出来ない、だがアスラとアスモデウスに出来ることを私は出来ない。様は適材適所と言う奴だ

 

「さて、アシュタロス。お前が尋ねてきた理由は何だ?」

 

「なに、近くにお前の気配を感じて尋ねて来たのさ。前にお前も感じただろ?」

 

む……あの時か、私がこの白竜会とか言う人間の組織に入り込んだ時に感じた同属の気配……気のせいだと思っていたが、どうやら違っていたのか……私はビフロンスが用意してくれていたワインを口に含んでから

 

「なんだ、その時に声を掛けてくれれば良かったじゃないか」

 

どうせならその時に声を掛けてくれれば、私の研究ももっと進んでいただろうにと思いながら、ワインのグラスをアシュタロスの方に差し出しながら言うとアシュタロスは真剣な顔になって

 

「勘違いしていないか?ガープ。私はまだお前達と協力すると決めたわけではない、私には私のプランがある」

 

私の差し出したグラスを受け取りはしたが、口に含むことは無く、そう問いかけてくる

 

「すまなかったな。ああ、これは私の非だな。申し訳ないことをした」

 

同胞に会えて興奮していたが、冷静になればわかる。アシュタロスは警告に来たのだと、自分の領域に勝手に入ってきて、挨拶も無く、勝手に行動している私に腹を立てて来たのだと

 

「では協力してくれるわけではないのか?」

 

「内容によるさ、私も今の魔界のあり方に納得しているわけではないし、更に言えば神族を好いているわけでもない。だから私が訪ねて来たのは、お前の計画を聞き、そして内容によって協力するか、否かを決めるために来たのだよ。動くのだろう?GS試験に」

 

ニヤッと笑うアシュタロス。そうか……やはりお前もそう言う計算か

 

「その通り、GS試験で仕掛けるさ。確保したい人材も居るしな」

 

神宮寺と言う人間は実に興味深い。人間でありながらあれだけの魔力。恐らく先祖にソロモンクラスの魔族と契約していた者が居るだろう。ならば先祖返りで魔力を解放してやればいい戦力になる

 

「いいだろう。全面的な協力は無理だが、私も手伝おう。何をすればいい?」

 

気合十分と言うところか、ワインを飲み干してから尋ねてくるアシュタロス。それならば早速お願いするとするか

 

「神族の力を押さえる結界と逃亡用の魔法陣そしてGS試験会場を爆破する火角結界をGS試験会場に仕掛ける。お前は何を手がける?」

 

「火角結界を引き受けよう、最高の物を準備する」

 

流石アシュタロス。私が唯一私と同格の知恵を持つと認めた男だ。最も調整の難しい火角結界の方を受け持ってくれるとはありがたい。これで少しは楽になるなと私は小さく笑みを浮かべ、結界の構築を始めるのだった……

 

 

 

 

「ったく、これで何日目だ」

 

メドーサの代わりに白竜会に訪れた魔族は、ニヤニヤと笑うむかつくヤローでしかも同門の下っ端を実験材料にしてやがる。俺は俺でこの部屋に軟禁状態……身体を動かすのは監視付きで許可されているが、このままだと身体が鈍っちまう

 

「うるさいわね、静かにして」

 

口調は女だが、その声は野太い。俺と同じ時期に白竜会に入門したオカマ「鎌田 勘九郎」だ。体格も恵まれているし、何よりも霊力のコントロールが抜群に上手い。認めるのは癪だが、俺よりも数段強い

 

「陰念はどうなったんだろうな」

 

「知らないわ、あの落ちこぼれを逃がすために自ら実験台に志願するなんてね」

 

勘九郎は落ちこぼれと言うが、正直にいうと俺はそうは思っていない。霊力の扱いは今一だが、体力もあるし、根性もある。口だけのやつよりよっぽど見所があると思うぜ

 

「ん?」

 

突然部屋の真ん中に魔法陣が浮かび、其処からぐったりとした意識の無い陰念が姿を見せる

 

「おい!陰念ッ!てめえ生きてるか!?……あっつぅ!?」」

 

慌てて駆け寄って揺さぶろうとしたが触れたが、その凄まじい熱に思わず手を押さえて後ずさる

 

「馬鹿ね、魔装術の契約の後は気絶したでしょうよ」

 

「……それはそうだが……」

 

だがこの熱は命に関わるんじゃなかろうか……口は悪いし、性格も馬が合っていたとは言いがたいが同門の人間が死んでしまうかもしれないのを黙って見ているわけには

 

「だからほっときなさい、あんたは気絶してるから知らないけど、時期に収まるわよ。眠いのよ、静かにしてて」

 

そう言って静かにしろと繰り返し言う勘九郎

 

「お前変わったな」

 

メドーサのやつが居た時は、態度はおかしいが、それでも仲間想いの面もあったのによ

 

「変わったんじゃないの、賢いって言ってくれる?ガープ様なんていうソロモンの大御所に逆らったら死ぬのは目に見えてるでしょ?長い物には巻かれろ。誰だって命は惜しいわ、雪之丞」

 

そうかい、そうかい。そんなにガープが怖いかよ……

 

「はっ!とんだ臆病者だな!あれだけメドーサ、メドーサって言っておいてよ。居なくなったらすぐに別の奴に「黙れって言ってるのが判らないかしら?」がっはっ!?」

 

いつの間にか俺は首を捕まれ道場の壁に叩きつけられていた。ぜ、全然見えなかったぞ

 

「あたしは貴方達と違うの判る?自分の命が大事、確かにメドーサ様はあたしを鍛えてくれたわ、でもガープ様はそれよりも私を強く、そして美しくしてくれる。お前はその誘いを断った、ならもう良いじゃない?死ぬ覚悟でもしてここを出れば?従わないくせに、目を掛けられてるお前はむかつくのよ!」

 

そのまま首を締め上げられ、碌な休息も与えられず、食事も少なかった為、抵抗することが出来ず。俺はあっさりと意識を失うのだった……

 

雪之丞の手がだらりを垂れたのを確認した勘九郎は、雪之丞が息をしてるのを確認してから

 

「ごめんなさいね、あたしも気が立ってるのよ」

 

小さく謝ってから、胴着からハンカチを取り出して荒い呼吸をしている陰念の額の汗を拭い

 

「馬鹿ね、真っ向から逆らうからそうなるのよ」

 

監視されている可能性もあるが、このままでは陰念が死ぬ可能性の方が高い、胴着から取り出した小さい瓶……それは一番最初に魔装術を覚え、雪之丞と陰念が魔装術の契約の際に最悪の事態になりかけたら、飲ませろとメドーサから受け取っていた医療薬だ。ビンの中身を陰念に飲ませた勘九郎はそのまま離れて、壁に背中を預けてその場に座り込み、窓から空に浮かんでいる満月を見つめた……その眼は黒く濁り切っておらず、そして確かな決意の色が浮かんでいるのだった……

 

別件リポート 対抗策会議

 

 

 

 




アシュ様が一時敵サイドに協力することになり、白竜会が乗っ取られました。雪之丞・勘九郎・陰念は性格の変化があります、次回は神界サイドの話になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします



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別件リポート その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は全快の別件リポートの天界サイドの話になります。GS試験は殆ど原形をとどめていないオリジナルベースの話にしていこうと思っているので、その為の準備の話になります。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



別件リポート 対抗策会議

 

その日。神魔の最高指導者の執務室に直接2匹の使い魔が出現した。それは自分達だけが発行できる、特殊な紋章を身につけており、首から手紙を入った袋を下げていた……それを見たキーやんとサッちゃんは即座に信用出来る……正しくは逆行の記憶を持ち、更に絶対に裏切らず、操られていないと確信できる部下を集めるのだった……

 

 

「無茶なことをしましたね。アシュタロスは」

 

「でもそれしかなかったんやろ?」

 

腕を組んで苦しげに呟くキーやんにそう言いながら召集した面子が揃うまで待ちいと諭す。

 

「しかしですね。いくら過激派と行動している事にしたとしても、直接乗り込むのは無謀でしょう?」

 

届けられた手紙に書かれていたのは、簡潔でそして慎重かつ冷静なアシュタロスらしからぬ一言

 

『ガープ陣営に乗り込む、GS試験にて増援求む』

 

その決断をしなければならないほどに、今人間界でガープが動いている。そうなれば、時期的には早いが、動かない訳には行かない

 

「失礼するぞ」

 

空間に扉が現れ、民族衣装に身を包んだ猿が姿を見せる

 

「お!ハヌマンが一番乗りか!早かったなあ?」

 

丁度セーブした所じゃったからの?と返事を返すハヌマン。天界風に言えば斉天大聖やけど、まぁワイ的にはハヌマンの方が言いやすいし……つうかゲームって……キーやんを見るとサッと目をそらす。ま、まぁ良いやろ……ゲームが好きでも能力は高いから問題ない筈……大分前に面会要請が来ていたが、忙しくて今まで先延ばしになってたけど、その事についても話せばいいわなと思っていると

 

「遅れてはいないようだな。失礼する」

 

それから少し送れて姿を見せたのは甲冑に身を包んだ長身の男性だった……ワイが呼んだ魔界側で今一番事情を知っている男……その名は

 

「オーディン。久しぶりですね」

 

オーデイン。北欧神話で主神とされる極めて強大な霊核を持ち、魔神であり、神と言う複合属性を持つ存在だ

 

「ああ。そうだな、お前に魔界に行けと言われて……そうだな。200年ぶりか?」

 

くっくっと笑うオーディン。本来なら神族に属する神だが、その軍略・戦術眼の高さからワイが頼んで魔界に来て貰った非常に優秀な軍神だ。とは言え、世間話のために来て貰ったのではない。それが判っているからか、椅子に座るなり鋭い眼をして

 

「して?緊急招集の内容は何だ?」

 

「うむ。ワシだけではなく、オーディンも居るとなると、ついに本格的に動き始めたかの?」

 

「ええ。ガープが人間界で派手に動いているようです。アシュタロスが今潜り込んで密偵を行っていますが、何もしなければ自分が疑われるので一時的にでもガープに協力することになるでしょう」

 

正直言うと、それが一番不安の種やな。アシュタロスとガープ。魔族の中でも屈指の頭脳を持つ者同士、アシュはスパイやけど、そうあから様な行動をすれば疑われる。今回はこれ以上の情報を送ってくることはないだろう。GS試験の際に何かが起きると思って動いたほうがよさそうや

 

「では会議を始めましょうか……とは言え、打てる手段はそんなに多くないですが……」

 

キーやんの言葉に頷く、正規の軍を動かせば、それだけガープ達の警戒を強め、更なる強攻策に出てくるかもしれない。かと言って下級神魔では役に立たない。誰を派遣するか、非常に難しい問題だ。だからその為に軍神として名高いオーディンを呼んだのだ、そしてハヌマンもまた戦略眼に秀でている。これだけの面子なら何か良いアイデアが浮かぶ筈や

 

(前みたいなことにはさせん。絶対に……)

 

よこっちに何もかも背負い込ませて、苦しめるような真似はしたくない。今回は絶対に誰もが皆笑って終われる、そんな結末を目指す。それはここに居る全員が思っていることだ、そしてワイ達は今打てる最善の一手……そしてガープ達を止めることができる面子をいかにしてGS試験にもぐりこませるかの話し合いを始めるのだった……

 

「そうじゃ、確認しておきたかったんじゃが」

 

会議が終わりかけた所でハヌマンが思い出したようにそう呟く

 

「東京にソロモンが良く出現しておるが、魔界の警備はそんなに甘いのかの?」

 

ギラリっと鋭い光を放つその視線。その目を見て怒っているのが良く判る……本当は言いたくないんやけどしゃーない

 

「ガープの転移を捕らえるのは正直言うわ。不可能なんや」

 

魔族の中で伝わっている転移ではなく、ガープのアレンジがされており、事前に探知することは不可能や。それならばと警戒態勢を張って見たものの……

 

「15の部隊が壊滅。その内2部隊を残し、他の部隊は全員行方不明だ。遺体も見つかっていない点からMIAとして認定しているが……判るだろう?ハヌマン?」

 

オーディンの問いかけにハヌマンはまさかと呟き

 

「ガープの実験材料か?」

 

「その可能性が極めて高い、また残っている2部隊も意識不明に加えて四肢の欠損……意識を取り戻したとしても、2度と戦場に立つことは叶わんだろう」

 

こっちだって警戒している。ちゃんとした上級魔族も派遣しているのにも拘らず、壊滅的な打撃を受けている。正直1度倒した相手と油断していたというのはあるが、予想を遥かに上回る戦力を持っていたのも事実。中立のソロモンに交渉を続けているが、良い返事は貰えず。正直今の段階では打つ手が無いと言うのが現実だ

 

「事情は判りました。ですが、警戒の強化の方は魔界の方でも行ってくださいね」

 

キーやんの言葉にわかっとると返事を返し、今回の会議は終了となった。ワイは自分の執務室に戻りながら

 

「オーディン。なんとかなるー?」

 

「ルーンを試して見る。これで駄目ならば、打てる手段が無い」

 

ほんと……恐ろしい相手やな……ガープの知恵や魔術を侮っていたわけではないが、完全に後手後手に回っている現状にワイは深く溜息を吐くことしか出来ないのだった……

 

 

 

 

濁流のように流れていく、これから起きるであろう様々な可能性。それがまるで鑢のようにボクの精神を削っていくのが判る

 

「がっ……ぐううう……」

 

普段耐えているのよりも数段酷い。その余りの痛みにボクらしからぬ苦悶の声がこぼれる

 

「おい!柩!大丈夫なのか!?薬だぞ!?」

 

「く……くひっ!よ……余計な……お世話……だ」

 

契約書で無理やり契約したメドーサが薬のビンを差し出してくるが、それを振り払う。普段飲んでいる薬ではこの痛みを紛らわすことが出来ない、もし出来るならとっくの昔に飲んでいる

 

「……ぎ、ぎぎっ……」

 

目まぐるしく景色が変わっていく、同じ光景なのに、映っている物が違う、人が違う、時間が違う……だが共通しているのが1つだけある

 

(くえす……)

 

金色の姿をした魔族の手を取り、その背に蝙蝠の翼を持ったくえすの姿。それだけがどの未来でも共通している……

 

(駄目……だったのか……)

 

横島なら、ボクが今まで見てきた未来を全て変えてきた横島が居れば……くえすが魔族になる未来を変えることが出来る。そう思っていたのに……映像が止まっていく、もうこれ以上ボクが見る未来はないと言うことなのか……諦めにも似た感情を覚えた頃。

 

「ぎがあ!?」

 

今までの比ではない痛みがボクを襲い。それと同時に1つの光景が浮かび上がった……それは翡翠色に輝く篭手で金色の魔族を殴り飛ばし、くえすをその手で掴んでいる横島の姿

 

「くひ!くひひっ!!!ああ!やっぱり君は凄い!凄いよ!横島ァッ!!」

 

さっきまでの頭の痛みはもう無い。未来とはあやふやで不確かな物が、くえすが魔族になるのはきっと殆どの確率で決まっている未来なのだろう。それはボクが見たくえすが魔族と化した未来の数々でわかっている。だがその中でも1つしかない、だがくえすが助かる未来があった……それだけでボクは十分だ。どうすればあの未来に通じるのか?それはボクにも判らない、現実にその未来に繋がると言う確信も無い。だが確かに存在するのだ、くえすが助かる未来が!ドレほどその確率が低いとしてもその可能性があるだけで十分だ。あの痛みに耐えた価値もある

 

「何を見たんだ?」

 

笑っているボクに若干引いた表情をしながらたずねてくるメドーサを無視して、契約書を取り出し、自分の指を噛み切り血を皿の上に取り筆をとり、契約に最後の一文を追加しメドーサの顔の前に突き出す

 

「くひ!GS試験が終わるまで君はボクの護衛だ。その後はどこへでも行けばいいさ、そうともさ……それこそ横島の所にだって行けばいい」

 

ビクンと肩を竦めるメドーサににやりと笑い返しながら、窓の外を見つめながら

 

「碌な死に方をしないと判っているけど、さすがのボクも魔族に捕まって、演算機械に組み込まれるなんて未来はごめんだからね」

 

はっ?と言う顔をしたメドーサの背中に飛びつくと同時に窓ガラスが弾け飛び

 

【【【【【ギィィッ!!!!】】】】】

 

石の身体を持った悪魔が雪崩れ込んで来る。ガーゴイル……だが並のガーゴイルではない。それこそメドーサでもこれだけの数を相手にするには不利と言わざるを得ない数

 

「ちいっ!もっと先に言っておきな!!」

 

「くひ!襲ってくるのは判っていたけど、タイミングが悪かった!」

 

まさかあそこまで酷い未来視の影響が出ると思ってなかったし、更に言えば近い内に襲ってくるのは判っていたけど、確実な日にちがわかっていなかったというのもある

 

【【【シャアアーッ!!!】】】

 

雄たけびを上げて襲い掛かってくるガーゴイルを手の中に召喚した、刺又で薙ぎ払い窓を蹴り破って空に逃れるメドーサの背中にしがみつきながら

 

「このまま真っ直ぐ!あっちの方角まで逃げ切れれば助かる」

 

「逃げ切れるか五分五分所か、7・3で捕まるよ!」

 

数が多い、今もどんどん数が増えている。魔族にここまで注目されるのはありがたいが、手足を切り落とされて達磨にされて、機械に組み込まれる訳にはいかない。どうせ20まで生きることが出来れば良い方だとは思っている、夜光院の人間はいつだって短命だ。40まで生きれば長生きしたと言えるような家系なのだから……だからと言ってそんな死に様を受け入れるつもりは微塵も無いが……

 

「ちっ!本当にあそこまで行ければ助かるんだろうね!」

 

縦横無尽に空を飛び交いながら、魔力を打ち込んでくるガーゴイルの攻撃。最初は魔力弾を飛ばして反撃していたが、敵の数の方が多いので焼け石に水と判断したのか、今は逃げることに集中しているメドーサがそう怒鳴る。距離的には後2キロ……それまでに追いつかれる確率が高いが……

 

「くひ!心配ない、もう助かった」

 

【【【ギギャアアッ!?】】】

 

派手にドンパチしたのが功を制した。ボク達の目の前に現れる漆黒の馬に跨った騎士。空中を駆ける馬とメドーサがすれ違い、それと同時に鋭い斬撃音が響き、それから少し遅れてガーゴイル達の断末魔の悲鳴が周囲に響き渡る

 

「おう。メドーサとガキ、また会ったな」

 

大剣を肩に背負って話しかけてくる騎士……いや。魔神ビュレト……

 

「くひひ。魔神ビュレト、君に頼みがあるんだ。ボクとメドーサを匿ってくれないかい?」

 

「俺がお前を匿って得があるって言うのか?ええ?チビガキ」

 

「あるともさ、近い内に動くよ。君のかつての同胞が」

 

ピクリと眉を動かしたビュレト。それから肩に担いでいた大剣を腰の鞘に収め

 

「話だけは聞いてやるか、匿うかどうかはその後だ」

 

付いて来いと合図するビュレト。ボクは背負ってくれているメドーサに

 

「じゃ、付いて行ってくれよ。離れると危ないからね」

 

「……お前。本当知ってる事は教えておいてくれないか?流石の私も心臓に悪い」

 

魔神ビュレト。ボクも恐怖で身体が震えている、魔族の中の最上位。魔神に属する存在だ、本当なら何の準備も無く交渉など出来るわけも無く、見捨てられる筈だ。だがボクは未来視でこの光景を見ていて、そしてこれで助かると確信していた

 

(やれやれ、ここから忙しくなるね)

 

ここから正念場だ。まずは魔族の襲撃者から自分の身を護り、そしてくえすが助かる未来の為に動く、その為に横島がGS試験に出るように仕向ける。やることはたくさんある

 

(まずはビュレトとの交渉からだね)

 

ここで躓いたら何もかもが失敗する。何度も深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻すことに集中するのだった……

 

 

 

 

 

(もう直ぐですかねー)

 

大分現在の小竜姫が横島さんに好意的な感情を持ち始めたこともあり、魂の奥底で眠るのではなく、共存に近い形で私は現在の私と視覚や感情を共有していた

 

「ふー、一休みしますか」

 

妙神山の道場の中で素振りをしていた私が座禅を組んで意識を集中し始める。それを魂の中で見ながら

 

(私も昔はこんな生活をしていたんですね)

 

自分では普通だと思っていたが、こうして見て見るとなんともいえない気持ちになってくる。朝早く起きて訓練して、食事を摂ってまた訓練しての繰り返し、メドーサにお綺麗な剣術と言われた意味も判ってくる

 

(確かに訓練だけでは見えてこないもの多いですね)

 

老師にアドバイスを受けているようですが、やはり型にきっちりと嵌った剣術なのだ。現在の私の剣術は、実践の中に身を置き続けていた者ならば次にこうしてくる、ああしてくると見切ることが出来る剣術……その欠点を私は実践の中で経験した。それをなんとかして現在の私に伝える、もしくは完全に魂が融合してくれればと思っている

 

「それにしても横島さんですか……」

 

座禅が終わったのか目を開きながら今の私が呟く、天竜姫様の時は私が身体を使っていたから、現在の私はそれを知っているけど、どこかおぼろげな物として見ていた筈だ。

 

「良く覚えてないんですけど、あの光は……とても眩しかったですね」

 

あの光……きっとそれはサイキックソーサーの輝きだろう。私の記憶ではGS試験の時に心眼の力を借りてやっと発現できた横島さんの最初の霊能力。しかしあのときよりも心構えが出来ており、更に霊能力の基礎を学んでいたからか、大分早くそして出力も強力だった

 

(この調子ならあの時よりも優れた霊能力者になっているかもしれないですね)

 

美神さんも私の記憶より優しいし、それに蛍さんが居るからか、霊力の勉強にも余念が無い。これは少し面白くないですけど、仕方の無いことだと割り切る

 

「このままだと本当に夢で見た横島さんに近づきそうですね」

 

くすくすと笑う今の私。私が見せた未来の横島さんの事を考えているのかその顔は楽しそうで

 

「少しの間とは言え弟子として面倒を見ていたのですから、大きく成長して欲しいですね」

 

今はまだ弟子としか思ってないけど、この調子なら好意になって私に近づいてくる、そうすれば魂の融合も楽になる

 

(今度はもう少し成長した姿を見せて見ましょう)

 

20歳を過ぎた頃の横島さんの全盛期の姿を見せて見ようと考えていると道場の扉が開き

 

「小竜姫はいるか?」

 

「老師?どうかしたのですか?」

 

老師が険しい顔つきで道場の中に入ってくる。これはただ事ではないと一目で判る

 

「今最高指導者と話し合っていたのだが、魔界正規軍より、ブリュンヒルデ。そして……ソロモン72柱が1柱ビュレトと共同作戦を取り、GS試験の裏の捜査に当れ」

 

「はっ?魔界正規軍とソロモンとですか?」

 

明らかに戦力過剰と思っているのだろう。ブリュンヒルデは私の記憶には無いが、現在の私の記憶の中には存在している。巨大なミスリルの槍と炎を扱うワルキューレの姉にして魔界正規軍の最高幹部の1人……そしてソロモン72柱の1人。魔界の4大公爵と呼ばれ、剣士として、そしてバイコーンを愛馬とし騎乗兵としても、また魔術師としても最高峰能力を持ちながら、今は中立として神魔の両方からの不干渉を貫いているビュレト。明らかに過剰戦力と言えるだろう

 

「それはその……命には従います、ですが過剰戦力なのでは……?」

 

今の私の問いかけに老師は暗い顔をして

 

「ソロモン72柱ガープ。アスモデウスが出張ってくる可能性があるとしても過剰戦力かの?」

 

その言葉に私も硬直した。現在過激派として追われているソロモンの大御所が2柱。その2人が相手となるとビュレトが居るとは言え、こちらが不利になってくる。魔術師として、そして人の心を操る術に長け、魔界科学に精通した軍師ガープ。そして7つの大罪にも名を連ねる。最上級の魔神……それこそ老師が出てくるレベルの相手だ

 

「ガープとアスモデウスが動くという確証があるのですね?」

 

「うむ。ガープの所で実験台として扱われていた若者が命からがらその場から逃亡し、捕まると言う所で運よく東京に訪れていた神父によって救出され、意識を失う前にそう告げたらしい」

 

メドーサと戦うことになるかもしれないと思っていましたが、それよりも遥かに危険な相手と戦うことになりそうですね……しかも勝てる見込みはビュレトが居ることを考えて良くて7分3分と言う所ですね……

 

「早急に魔界正規軍の待機所に向かい、ブリュンヒルデと合流後。下界で待機しているビュレトと合流しろ、そして恐らく援軍を出すことは出来ない。下界の人間とブリュンヒルデ、ビュレトと協力し最悪の場合被害を最小限に抑えることだけを考えろ、良いな。間違えても刺し違えてもなどと言う事を考えるな。神族・魔族の行方不明事件も確実にやつらが関わっている。味方を減らすような事を考えるな」

 

なんども釘を刺す老師の言葉に現在の私は神妙な顔で頷く、私としては自分の宮殿に居るであろうビュレトが下界にいる事に驚きました。中立派を貫き不干渉を宣言しているビュレトが下界にいるなんてきっと誰も想像していなかったと思います

 

「判りました。ではビュレト、ブリュンヒルデの両名と合流後。下界へ向かいます」

 

「気をつけるのじゃぞ」

 

老師の言葉に判っていますと返事を返し、妙神山から出ていく現在の私の中で私は

 

(私の知る歴史と違う。これからどうなるんでしょうか……)

 

メドーサではなく、ソロモンと戦うことになるかもしれない不安を感じつつ、なんとしても横島さんに前回のような悲劇が起こらない様に……そしてその心を傷つけることが無いように護るんだと決意を新たにするのだった……

 

 

 

 

あの夜。柩と名乗るガキから今起きようとしている事態。そしてこれから起きるかもしれないことを聞いた俺は覚悟を決めた。魔界正規軍の総本部に訪れていた……戦いから逃げるのは終わりだ。いつかはあの馬鹿達も諦めると思っていた、だがそれが間違いだったのかもしれない

 

「本当にいいのか?ビュレト」

 

オーディンが最後の確認と言いたげに尋ねてくる。俺は当たり前だと返事を返し

 

「親友だった。親友だったからこそ……俺が止める。サタンのクソ野郎の為じゃねえ、かと言ってキリストの為でもねえし、ましてや人間の為でもねえ……」

 

堅く拳を握り締める。俺がアスモデウス、ガープと戦う決意を決めたのは

 

「俺の為だ。俺が俺である為にな……」

 

友の為に戦う。それが俺だ、そして俺はあいつらを裏切った、もう神魔の戦いは終わりだと、平和を受け入れるべきなのだと……あいつらからすれば俺は裏切り者だしな……

 

「間違ってもベリアルに声を掛けんなよ。あいつはもう休んでいい……」

 

もっとも過激にそして激しく戦ったベリアルの身体はもうボロボロだ。かつての小山のような巨大な身体も今は随分と小さくなったし、魔力も弱くなっている。とてもではないが、今アスモデウスやガープと戦うのは不可能だ。それにあいつには守る者がある。家族が……娘が居るのだから……再び戦場に立たせるような真似はしたくない

 

「判っている。お前も気をつけろ」

 

「はっ!オーディンともあろうものがそんな事を言うとわな!」

 

傑作だと笑う。軍神たる者が部下でもない、ただ自分の過去を清算するために、どこまでも自分勝手な理由で戦おうとしている相手を心配するなんてなと笑いそのまま魔界を後にし、GS協会とやらを目指す、そこで神魔から派遣されたやつと合流する予定だからだ

 

「さーて……行くとするか」

 

覚悟は決めた。後は最後までその道を貫くだけだ、その道が例えどこかで途切れていたとしても、どこにたどり着く事が無いとしても……自分の決めた道は最後まで貫く。それが1度自分の意に反し、くすぶっていた俺が俺に戻るために必要なことなのだから……

 

「ま。約束は守ったよな」

 

俺に情報を与えた柩とメドーサはオーディンにも、神界のやつにも話を通しておいた。未来視の能力者だ、ガープの事を考えればちゃんと護衛が付くだろうしな……後はまさしく

 

「神のみが知るか……」

 

ま、魔神だからどうなるかは知らんがなっと呟き、ゆっくりとGS協会に向かって歩き出すのだった……

 

 

別件リポート 選ばれた者

 

 




次回は人間サイドの別件リポートになります。主に美神や琉璃に唐巣神父とかですね。その後からは、第一部の最終リポートとなるGS試験の話に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします



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別件リポート その3

どうも混沌の魔法使いです。今回も前々回。前回と続き別件リポートとなります。今回は人間側の別件になりますね
今回のは少し短めになりますが、どうかよろしくお願いします。そして横島は今回出ません!



 

別件リポート 選ばれた者

 

緊急でGS協会に来て欲しいという琉璃からの連絡があり、仕事の延期をクライアントに頼み込みGS協会に来たんだけど

 

「ただ事じゃないみたいね」

 

エミが居ることには大して驚かなかったけど、唐巣先生に冥華おば様。それに……1人だけ離れた所に立っているカソックを身に纏った長身の男。唐巣先生と同じような服装をしているが、その雰囲気はまるで異質とでも言うべきほどかけ離れている

 

(言峰綺礼……)

 

話には聞いていた、唐巣先生と同じく教会から追放された神父。GS協会にも教会にも属さず、更に言えばGSですらないが、悪魔狩りとして除霊を行ったり、霊障に悩む人を助ける為に行動している。その行い自体は正しい事なんだろうけど、GS免許を持たぬ上に、破門されているのにも関わらず海外を拠点にし行動している点からGS協会からも、教会からも目を付けられている筈の変わり者が何故ここに……

 

「仕事を延期にしてもらってすいませんでした美神さん。ですが早急に話し合いをしたかったので」

 

琉璃にそう声を掛けられ、考え事を中断する。かなり深刻な表情をしているけど、何があったのだろうか

 

「言峰さん。もう1度説明して貰えますか?」

 

「構わないとも、その為に私はここにいるのだから」

 

にやにやと不吉な笑みを浮かべる言峰。正直言って、かなり胡散臭いと言わざるを得ない

 

「白竜寺の白龍会を知っているかね?」

 

「そりゃ……まぁ名前は知ってるわよ」

 

昔はかなりの勢力のあったGSを育成する寺だったみたいだけど、今はその厳しい修行体系に加え、悪霊などが出現しやすい山に総本山を構えているということもあり、今じゃ入門者はかなり減ってる修行場だ。その代わりそこからGSになった者はかなりの腕を持ち、完全に入門者が途絶えたわけではないが、それでもかなり落ち目になっている場所だ

 

「そこが魔族の手に落ちた。今あの山は異界と化し、高密度の結界で覆われているため侵入すら叶わん、そしてその場所から命を賭けて逃亡してきた若者「東條修二」が告げたのだ、あの山を掌握したのはソロモン72柱ガープ。そして今年のGS試験にガープの手に掛かった者がGS試験に出場すると」

 

……は?ソロモンのガープ?……一瞬何を言われたか判らなかったが、直ぐに気を取り直し

 

「悪いけど、この話は降りるわ」

 

「あたしも。悪いわね」

 

エミと一緒に会長室を出ようとする。言いたいことが判ってしまったから、横島君と蛍ちゃんを今年のGS試験に出場させろと言うのだろう。だがソロモンの手先が動いていると判っている場所にどうして弟子を送り出すことが出来ると言うのだろうか

 

「話は最後まで聞きたまえ。この情報は神族の元にも届けられている、そこで神界から小竜姫様が近いうちに下界に訪れる。さすがの神も人間だけで戦えとは言わん、ガープに操られている若者の捕獲もしくはその戦闘力の測定。それが君達の弟子にやって貰いたい事だ」

 

「それでもお断り。ソロモン相手に喧嘩を売ろうなんて思わないわよ、いくら唐巣先生や、冥華おば様の頼みだとしてもね」

 

それこそ神族と唐巣先生達で対処したほうがいいと思うわよ?と呟くと

 

「くひひ♪そうも行かないんだよねえ」

 

こ、この声は!?聞こえてきた声に振り返るとこっちに背を向けていたソファーの影から柩が姿を見せて

 

「GS試験に君達が関わってくれないと、東京が壊滅するんだよ。それを回避する最低条件が、横島忠夫と芦蛍のGS試験の参加、そして美神……君と小笠原も協力する。これを最低限満たさないと、冗談抜きで東京は壊滅するよ」

 

ぐっ……柩が言っているのだからそれはきっと間違いないことだろう、でも!!

 

「どこの馬鹿が自分の弟子が100%死ぬって判ってる場所に送りだせるって言うのよ!」

 

横島君も蛍ちゃんも良く頑張っている。蛍ちゃんには今年のGS試験を、横島君が霊力を安定して引き出せるようになったら、横島君もGS試験に参加させるつもりだった。でもこの話を聞いて、誰が参加させたいと思うと怒鳴ると

 

「令子ちゃんの気持ちは判るわよ~でもね~柩ちゃんの予知では横島君と蛍ちゃんは死ぬ可能性はかなり低いみたいよ?」

 

「まぁ最悪、隻眼・隻腕になる程度には無事だよ」

 

まだ若い2人が隻眼、隻腕となると聞いて、なおの事私は反対しようとした、だが

 

「お願いします。美神さん」

 

琉璃に深く頭を下げられ、唐巣先生と冥華おば様にも何度も何度も説得され

 

「……判った。判ったわよ!でも危険だと判断したらなんと言おうが2人は棄権させる!それが条件!それとそっちもちで道具を揃えて貰うわ。それも最高の物を」

 

精霊石を埋め込んだプロテクターなどがある。そういった物を用意してもらうと言うと

 

「判ってるわよ~ピート君とシルフィーちゃんは吸血鬼だから~用意出来ないけど、横島君と蛍ちゃん、それにタイガー君の分は六道家が責任を持って用意するわ~」

 

「会場の方も、神代家と六道。それに唐巣神父と言峰神父の協力で仕掛けを用意するつもりです」

 

向こうがわざわざ来るのだから、罠を仕掛ける。それは確かに1つの手段だろうけど

 

「大丈夫なわけ?ソロモンに効くと「ソロモンは動くさ。でもそれは自分の意のままに動く手駒をGS協会に送り出す為、しかも本人達は失敗しようが、どうでも良いと思ってるくせに、始まる前に邪魔されれば東京を破壊するって考えてる。本当迷惑この上ないよね。でもボクの未来予知ではGS試験の前に妨害せずにしかも横島が出れば本格的に動くことは無いよ」

 

柩がここまで断言するなら、GS試験の時にはガープは本格的に動かないというのは確実なのだろう、しかし始まる前に妨害されたら東京を破壊するか……それって確実に柩の能力を知っているからよね?つまり自分達の行動が読まれているのを知っているのに妨害に動かない。失敗しようがどうでもいいって思っているのは本当のことなのかもしれない

 

「そう言えば、くえすとドクターカオスは?2人には頼まないの?」

 

戦力的に言えば、私よりも遥かに高い攻撃力を持っているくえす。そして錬金術に加えて、魔術にも深い知識を持っているドクターカオス。その2人には声を掛けないの?と尋ねると

 

「もう頼んでいるよ美神君。どうも調べたいことがあるとかでこの場には来ていないが、GS試験の時には協力してくれるらしいよ、それにドクターカオスにも既に依頼を出してある。自信がある様子だったから、きっと大丈夫だと思うよ」

 

唐巣先生が穏やかに笑いながら私の質問に答えてくれる。そしてその返事を聞いたエミが意外そうに

 

「あのくえすの事だから随分と無理難題を押し付けてきたんじゃないの?」

 

確かに素直に言うことを聞く性格じゃないし、下手をすれば魔族よりも危険な相手だ。どうやって頼んだの?と尋ねると琉璃は

 

「いや、それが2つ返事でOKで、私もかなり意外でした」

 

何か考えがあるのだろうか?仮にそうだとしても、くえすが2つ返事っていうのは予想外を通り越して、何を考えているか不気味に思えてくる

 

「まぁ神宮寺君の事は良いだろう?今はGS試験をどうするかだよ。きっちり作戦を立てて、待ち構えれる準備をしないといけない」

 

唐巣先生が手をパンパンっと叩きながらそう言うと、言峰と柩が立ち上がり

 

「すまないが唐巣。東條の治療の時間だ。少し席を外す」

 

「くひ、ボクも失礼するよ。ここ最近未来視が暴走気味で疲れているんでね」

 

話し合いをはじめる段階出て行こうとする2人を思わず見てしまうと言峰は肩を竦めて

 

「東條はとても重傷を負っている。彼を見つけた者の責任として彼の調子が良くなるまで面倒を見るのは道理だろう?それとも魔力に冒され苦しんでいる者を見捨てろというのかね?」

 

そうじゃないけどと呟くと、それは結構。人でなしで無いようで安心したと嫌味っぽく呟き、治療が終われば戻ると言って会長室を出て行く言峰。

 

「ま、今のボクは体調も優れないし、ゆっくり休みたいのさ。また何か見えたら連絡するよ?じゃ、頑張ってね~♪」

 

手をひらひらと振って出て行く柩、その顔は飄々としていたけど、妙にぴりぴりしていた

 

「柩ちゃんも大変なのよ~魔族に未来視の能力を狙われて追われてるみたいだから~」

 

のほほんとした口調の冥華おば様でも、それが本当だとしたら柩の保護もしないといけないんじゃ

 

「心配ないよ。ガープが動くかもしれないと聞いた時点で神族が動き始めてる、夜光院君の能力は神族も知っているからね、ちゃんと護衛が付いているよ」

 

それなら大丈夫よね。実際柩が捕まって未来視を悪用されたら勝ち目は無い。なら一箇所に留まるんじゃなくて、あっちこち移動しているほうが捕まりにくいってことね。私は用意されていたGS試験場の見取り図の前に座り、唐巣先生達と話し合いをしながら

 

(シズクになんて説明しよう)

 

これ絶対怒るわ。下手したら殺されるかも……真の敵は身内にいるかもしれないという事実に気付き、思わず震えてしまうのだった……

 

 

 

 

美神がGS試験そしてシズクをどうやって説得するかを必死で考えている頃。蛍はと言うと

 

「お父さんは暫く戻らないって?」

 

「はい。少なくともGS試験が終わるまでは戻れない。そして……頑張ってくれと伝えてくれとおっしゃっていました」

 

土偶羅魔具羅からの伝言を聞いてから自分の部屋に戻る

 

「GS試験まで……か……」

 

それに頑張ってくれって事を考えると答えは必然的に出てくる

 

「お父さんが今回は敵に協力するってことか……」

 

となると白龍寺に居るのはメドーサじゃない?その考えに辿り着いた時脳裏に浮かんだのは

 

「パイパー、韋駄天、それに義経……」

 

逆行前の事件とまるで違う内容になっている事件の数々。その中でもパイパー、韋駄天、義経……この3つの事件がどうしても引っかかった。机の中からリポートの写しを取り出してその中身を改めて確認する

 

「パイパーには紅い石と化け物への変化、韋駄天は身体の中から紅い石が飛び出してそれが化け物へ……義経は……紅い石に憎悪を増大させられて、最終的に化け物に……」

 

義経の残した神魔を狂わせる物質……

 

「狙いは小竜姫様?」

 

GS試験に動いてくる可能性は極めて高いと言えるだろう。そして義経を操っていた紅い石の存在を考えるとGS試験で動く目的は小竜姫様にあの紅い石を埋め込んで手駒にすることだろうか?

 

「人間に使うメリットがあるようには思えないし……」

 

かなり希少な物だと思うから、それを人間に使うメリットがあるようには思えない……GS試験で動く狙いはGS試験の時に動くであろう神魔を手駒として使うこと?

 

「……うーん……でもなあ」

 

神魔の動く数が判らず、そして失敗する可能性もあるのにそれを目的にして動くだろうか?今までの事を考えるとかなり計算高く動いているように思えるから、そんな失敗する可能性のある作戦を考えるだろうか?

 

「他にも何かあるのかしら?」

 

相手が動く可能性が高い、それが判っていて、今までの行動の事を考えるとこれを狙っている?それとも?

 

「あーもう駄目だわ!!」

 

考えても考えても答えは出ない、今までの相手の行動をなまじ知っているからからか、これって思ってもそれがブラフに思えてくる。結局の所私や美神さんに出来ることは1つしかないのだ

 

「出たとこ勝負しかないのか……」

 

それが嫌だからお父さんに相談しようと思ったのになあ、居ないし……暫く帰ってこないみたいだし……うん

 

「横島の所に行きたいけどなあ……」

 

GS試験まであと数日。それまで横島の所にいても良いんだけど……

 

「蛍ちゃん?帰ってきたでちゅか?」

 

私の部屋の扉を叩いてひょこっと顔を出すあげは。逆行前の記憶は無い……私がGSとして勉強しているのであんまり家に居ないことを知っていて、寂しそうな顔をしているのを知っているし……

 

(やっぱり止めた)

 

横島の所には行きたいけど、妹に寂しい思いをさせるのは嫌だしね。おいでっと言って両手を広げると嬉しそうに駆け寄ってきたあげはを抱きしめながら

 

「後で一緒に散歩に行きましょうか?」

 

「うん!行くー♪」

 

にぱっと笑うあげはの頭を撫でていると、さっきまでの沈んだ気持ちが何処かに行くのが判る。

 

(やっぱり家族の存在って偉大ね)

 

家族が居るって言うのはこんなにも心が安らぐ物なのねと私は思わずには居られないのだった……なお結局あげはと散歩中に横島の家に寄ったのは言うまでもないだろう

 

 

 

美神や蛍が緊迫した様子でGS試験に向けて準備をしている頃。別行動をしていたくえすはと言うと……

 

「やれやれ。随分と時間がかかりましたこと……」

 

薄汚れてしまった黒いドレスを見て、小さく溜息を吐く

 

「ですが。やっとここまで来ましたね……」

 

目の前に立つ小さな墓標。だがここに来るまでは神宮寺の屋敷の地下の迷宮を通らなければ来ることが出来ない、では何故墓がこんな所にあるのかと言うと

 

「全くご先祖様の考えることは判りませんわ。死す前に己の研究成果を持って地下迷宮を作れなどと訳の判らない遺言を残すなんて」

 

神宮寺の家は先祖に魔族と契約した事でその血と霊力に魔力を併せ持つ。そしてその魔力を使い、魔術の探求を続けてきた。そして神宮寺の屋敷が立つこの土地は魔族と契約した初代の神宮寺の遺産なのだが、それを私には理解出来なかった

 

「……地下の時空を歪めて新しい迷宮を上に、古いのを地下に……その努力を別の方向に使って欲しいですわ」

 

普通は古い迷宮から新しい迷宮に変わっていくのが普通だろう。それを魔力で歪めて、異界とする事で古いものを地下に地下に送っていくその技術。正直言って使う所が間違っているとしか思えない

 

「さて、初代様のお墓を見るのは、正直初めてですわね」

 

魔術の修行で地下に潜ったことはある。だが最深部と言えるここに来たのは正直初めてだ……本当ならこんなところまで来るつもりは無かった。でも

 

「あの馬鹿に死なれても困りますし……ね」

 

柩がふらっと訪れてきて、GS試験で下手をすれば横島が死ぬよと言い残し、地下の魔道書を取ってきたらどうだい?と告げて消えて行った。それを聞いて私は、直ぐに準備を整えて地下に潜った

 

「らしくない、らしくないですわね……」

 

誰が死のうと関係ない筈なのに、あの明るい馬鹿が死ぬかもしれないと聞いたら、強い焦燥感に駆られたのははっきりと覚えている。この気持ちが何なのか、それが判るまではあの馬鹿に死なれては困る

 

「さて初代様は何を残しておいてくれたんでしょうね」

 

ここに来るまでにあったのは呪文・魔道書・錬金術。まぁ中々優秀でしたが、既に私が独学で同じような物を組み上げていたので、手にすることなくその場に置いてここまで来た……歴代でもっとも優秀とされた初代様ならばきっと役立つ物がある筈でなければここまで来た意味がない。墓標の前の台座に置かれている魔道書に手を伸ばした

 

「っつう!?」

 

咄嗟に手を引っ込める。手のひらを見ると赤くなっているのが見えた……掌を握り締め

 

「流石初代。素晴らしい魔術師ですわ」

 

いつも張っている障壁が無かったら右手が吹き飛んでいたかもしれない、それほどまでに強力な魔道書……面白いですわ

 

「この神宮寺くえす様を舐めるんじゃありませんわ!」

 

魔道書を覆っている結界を睨みつけ、両手で結界の中に手を入れる。それと同時に凄まじい痛みが全身に走る

 

「つっうう……」

 

全力でレジストしているのにその結界の威力が収まる気配が無い。どれだけ強力な術式で作っているというのですか!

 

「こ、このおっ!!!」

 

悔しいが今の私の術式ではこの結界を解除することが出来ない、無様で私らしくない方法ですが……全力で魔力を放出して無理やり結界を破壊する

 

「はー……はー……つ、疲れましたわ……」

 

ここまで来るのに魔力も体力も使っていたので、今の魔力放出は正直疲れた……台座にもたれかかる様にして座り込んで、魔道書に手を伸ばす

 

「神宮寺カズマ……なるほど、それが初代様の名前だったわけですか」

 

初代様初代様としか聞いてなかった、本名が今わかった。それにしてもカズマ……ですか。あの時代に漢字ではなかったということに若干驚きながらその魔道書を開き、一番最初のページを見て私は目を見開いた

 

「そ、そんな……神宮寺と契約した魔族は……!?」

 

そこに描かれていたのは、今もなお黒ずんでいない鮮血で描かれた魔法陣。その魔法陣は魔術に関する人間ならば知らないわけが無い……それは

 

「序列13番……ソロモン72柱……ビュレト!」

 

序列13番。強大なる魔界の公爵……ビュレト。それがまさか初代様と契約しているなんて夢にも思って居なかった

 

「柩の奴……何を考えているんですの」

 

きっと柩は初代様とビュレトに関係のある事を知っていた。そしてそれを知って私に地下に潜るように告げた

 

「駄目ですわ……頭が……動かない……」

 

ここまで来るのに消耗しすぎた……考えるのは後にして……今は少し休むとしましょう……戦利品の魔道書を抱きかかえ、私はそのまま眠りに落ちるのだった……

 

 

各々の思惑が重なり合う中。全ての歴史が変わるGS試験が迫っているのだった……

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その1

 

 




次回から第一部最終リポートのGS試験編に入っていきます。これは大分長いリポートになると思います。その分盛り上がるところも多くしようと思っているので、楽しみにしていてください。それでは最終リポートもどうかよろしくお願いします


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リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回からはGS試験予選に向けての動きになります。この後に本選リポートとなり、第一部は終了となります。戦闘メインで頑張っていこうと思っているので、どうか楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その1

 

その日事務所に出社すると美神さんが真剣な顔をして、手紙を書いていた。私が入ってきたのに気付いて少し顔を上げたが、少し待っててと言ってまた手紙に集中していた。邪魔しても悪いので、キッチンでお茶でも入れようと思ってキッチンに向かうと

 

【んー、ちょっとお塩が足りないですねー、あ、蛍ちゃん。いらっしゃい】

 

キッチンで料理をしていたおキヌさんが笑顔で迎え入れてくれる。美神さんにお茶を入れるわねーと声を掛けて、紅茶の葉が入っている戸棚に手を伸ばし、紅茶の準備をしながら

 

「今日は随分とご機嫌ね。何かあったの?」

 

料理が完成したのか、コンロの火を止めて鍋に蓋をするおキヌさんに尋ねる。するとおキヌさんはうーんっと首を傾げながら

 

【そういうつもりは無かったんですけどね。最近は前の事も殆ど思い出せなくなってきて、もうなるようになれって開き直ったから、気持ちに余裕が出来たんだと思います】

 

それは私も同じだ。昔横島に聞いた事件の話や、逆行前に調べた美神さんの除霊のリポートの資料。その内容をしっかりと覚えて、対処法を考えてから逆行した筈なのに、その記憶は虫食いのように穴だらけになり、そして今ではぼんやりとしか思い出すことが出来ない状況になっている

 

【優太郎さんなら判りますかね?気にしないようにしているんですけど、なんか怖いじゃないですか?】

 

確かに覚えているのに、知っているのに、それを思い返すことが出来ないと言うのは恐怖を感じるだろう。私も正直言うと少し怖いと思っている。芦蛍ではなく、横島蛍だった時の学校の友達や、どんなことをしたのかがどうしても思い出せない。確かに知ってはいる、知ってはいるが思い出せない。まるで本か何かを見て、知識としては知っているが、それはどうしても自分の体験した事だと実感を持つことが出来ないのだ

 

「今は居ないから相談できないけど、これが何なのかは私は知っているわ」

 

もう大分前にお父さんに相談して、この症状が何なのかを聞いている。出来上がった紅茶とカップをトレーの上に載せながら

 

「時間の修正力。徐々にだけど、確実に……逆行前の世界とこの世界の繋がりが断たれて来てる」

 

逆行した時点で逆行前の世界とは平行世界の関係になっている。平行世界であれ、大本は逆行前の世界と同じだから、私もおキヌさんも最初は逆行前の記憶をしっかりと持っていた。

 

【……あの義経さんとかの影響なんですか?】

 

確かにあの事件も私もおキヌさんも知らなかった事件だ、だがそれを言えばブラドー島の事件に、パイパーに、韋駄天の事件の真相。数え切れないほどのイレギュラーが続けて発生している。そのイレギュラーを発生させている何かが修正力の動きを活発にさせているのだろう

 

「もっと大きな何かが原因だと思うわよ」

 

小さく苦笑する。神魔であるお父さんや小竜姫様は修正力に対して対抗がある。ある意味世界の抑止力であり、滅びの原因であるが故に、半分だけ魔族の私やおキヌさんもある程度抵抗力があったから、ここまで持ったが……

 

「たぶんだけど、GS試験。そこで完全に逆行前の世界との繋がりが断たれるかもね」

 

今までが奇跡と言う状態だったとお父さんは言っていた。シズクや琉璃さん、それにシルフィーと言った逆行前の世界では存在しなかった人々。そして起きた事件と起きなかった事件。それだけの矛盾を抱えてこの世界は、頑張った。何とかして逆行前の世界との繋がりを保とうとした。そうすれば、対策を取ることが出来る。きっと横島君は世界にも愛されたのだろうね、でもそれも限界が来たと言う事だ。あと1つ何か大きな事件があれば、完全に逆行前の世界との繋がりは断たれる。そうなれば記憶は記録となり、思い出すことが更に難しくなるだろうとお父さんは言っていた。大きな事件……それが起きるであろう何かと言えばGS試験しかない

 

「私も頑張るけど、おキヌさんも気をつけて、何が起こるか判らないから」

 

【忠告ありがとうございます】

 

ぺこりと頭を下げるおキヌさんにお互いに頑張りましょうと声を掛けてから、私は美神さんに紅茶を届けに行くのだった……

 

 

 

「ふう。こんなものかしら」

 

手紙を書き終え、背もたれに背中を預けて大きく伸びをする。絶対何か起きると判っているGS試験に横島君と蛍ちゃんを参加させる事になった以上。私を信用して横島君と蛍ちゃんを預けてくれている百合子さんと優太郎さんに連絡をするのは当然の事だ。同じ東京に居る優太郎さんには直接出向いたんだけど、用事で海外に出掛けているらしく、祖父を名乗る小柄な老人に説明をして、GS試験に参加させる許可を貰った

 

(横島君の方はどうかしらね)

 

柩の予知では横島君が参加しないと被害が大きくなると言っていた。でも私としては本当は横島君を今回のGS試験には参加させたくなかった……

 

「美神さん?手紙は書き終わりました?」

 

「蛍ちゃん。ええ、終わったわよ?」

 

机の上に置かれた紅茶のカップを受け取り、一息ついた所で

 

「今度のGS試験の事で琉璃や唐巣先生と打ち合わせをしたんだけどね」

 

正直今でも横島君と蛍ちゃんを何とかGS試験に参加させない方法は無いだろうか?と考えているが、柩の未来予知はほぼ完璧だ。どうしても参加させないといけないと判っている。もう私に出来ることは限られている

 

(出来る限り、横島君と蛍ちゃんを無事に家に帰すこと……ううん、出来る限りなんて甘えは許されない。無傷で家に帰すこと)

 

それが上司として、2人を預かっている者としてやらなければならない事だ

 

「柩の予知でパイパーや義経を操っていた魔族が動く可能性が凄く高いの、本当なら今回のGS試験は見送りたい所なんだけど……「柩さんの予知に私と横島が関係してるんですか?」

 

私の言葉を聞いて蛍ちゃんが私の言いたかった事を口にする。私はその言葉に頷き

 

「無事にGS試験を終わらせる為には、横島君と蛍ちゃんの出場が条件の一つらしいの、上司としては本当は参加なんかさせたくないわ、でも今回ばかりはそうも言ってられないの……危険だと判っているけど、GS試験に参加してくれる?安全は琉璃や冥華おば様に掛け合って、最高の防具や札を用意するから」

 

今回ばかりは断られるかもしれない、GS試験まではまだ時間がある何度も何度も説得するしかないと思っていると

 

「判りました。私は参加します」

 

蛍ちゃんの返事に驚いていると、蛍ちゃんは心配そうな顔をして

 

「美神さん、酷い顔をしてるじゃないですか」

 

今回の事を言うのに、相当悩んだ。誰が弟子を死地に送り込みたいと思うだろう?なんとご両親に説明しよう?なんと蛍ちゃんと横島君に言えば良いのだろうか?それをずっと考えて、夜も寝れない日が続いていた。その顔色を隠すために普段しない化粧をしていたのに……どうして判ったのだろう

 

「ずっと一緒に居るんですから判りますよ」

 

顔を見るだけで……蛍ちゃんのその言葉に思わず、ぐっと来た。今思えば、もう2年間横島君と蛍ちゃんと一緒にGSとして行動してたのよね……2人とも人の心の機微に敏感だから私の今の心境を感じ取って……

 

「蛍ちゃん」

 

「はい」

 

目の前の蛍ちゃんの手を握り締め、真剣な顔をして私を見つめ返している蛍ちゃんに

 

「ありがとう。私も全力でサポートするから、GS試験頑張って」

 

もっと色々出来れば良かったんだけど、残念なことに変装してGS試験に潜り込んだりすることが出来ない。完全に蛍ちゃんと横島君に全てを委ねるしかない

 

「大丈夫です!頑張ります!だから美神さんも頑張ってください、これから大変だと思いますけど」

 

これから大変。そうね、GS試験とか準備とか、除霊具とかの準備をしないとねと返事をすると蛍ちゃんは

 

「いや、シズクを説得する事ですけど……」

 

……そうだった。あのモンスターペアレントと化しつつある、水神を説得しなければいけないことを思い出し、私は思わず冷や汗を流すのだった……

 

 

 

 

目の前でボロボロになって崩れ落ちているミズチ達を見下しながら

 

「……いい加減に諦めるんだな。私はお前達の統率者に戻るつもりは無い」

 

凝りもせず、また横島にちょっかいをかけようとしていた……同属とか関係なしに私は殺すつもりで攻撃した。私は横島を傷つける者を決して許しはしない、近くの広場に結界を張って、全員そこに引きずり込み叩きのめし、さて帰ろうとすると、息も絶え絶えと言う様子で顔を上げるミズチの1人が私の足を掴んで

 

「お。お願いします……シズク様……お戻り……ください「……黙れと言っている」

 

戻ってくださいと言って私の足を掴んだミズチの顔を踏みつけ、完全に意識を刈り取ってから

 

「……もう二度と顔を見せるな」

 

倒れているミズチ達からギリギリ存在を保つ事が出来るラインまで、霊力と水を奪ってから横島の家に帰ろうとすると

 

「シズクさん。良かった、丁度会いに行こうと思っていたんです」

 

「……小竜姫?なんのようだ」

 

妙神山に居るはずの小竜姫に……その隣に居る銀髪の長身の女を見て

 

「……魔族と何故一緒に居るんだ?」

 

人間に化けている……いや、元々人間と同じような姿をしているのか?穏やかな笑みを浮かべている女を観察しながら尋ねると

 

「お初にお目にかかります、。八岐大蛇の系譜のミズチ様。私、魔界正規軍副指令ブリュンヒルデと申します」

 

魔界にはあんまり関わりを持ってこなかったから知らないが、魔界正規軍の副指令と聞けば、かなりの大物だと判る。だが何故そんな相手と小竜姫が一緒に居るのかがわからない……しかし嫌な予感がする

 

「……改めて聞こう。なんのようだ」

 

繰り返し尋ねると小竜姫が沈鬱そうな顔をして

 

「GS試験と言うのはご存知ですか?」

 

「……ああ、知ってる。蛍が参加するつもりだと聞いているが?」

 

一人前の対魔師として認められる為の試練らしいが、蛍なら問題ないと私は思っている。横島は正直まだ早いと思うが……土壇場で力を発揮するタイプだからもしかすると合格するかもしれないなと思っていると

 

「そのGS試験に横島さんと蛍さんが出なければ、ソロモンの魔神が動くと言う予知が……「……貴様!何を言っているのか判っているのかッ!!!」

 

小竜姫の言葉を遮って怒鳴りつける、顔をしかめて後ずさる小竜姫とその隣のブリュンヒルデを睨みつけながら

 

「……ソロモンが動くと判っている場所に横島を出せだと?冗談も大概にしろ!私は認めない!参加もさせない!!」

 

一緒に暮らしているから判る。横島はどこまでもまっすぐで優しい人間だ。現代でこんな人間が居たのかと思わずに居られないほどに心が清らかな人間だ。口では色に囚われているようなことを言っているが、そうじゃないことを知っている

 

「判ってます!!判ってますよ!私だって参加させたいわけじゃないんです!!!」

 

私の大声に負けない大声で怒鳴り返した小竜姫ははーっはーっと大きく肩で息を整えながら、その目には涙を浮かべていた

 

「横島さんが妙神山に訪れて、少しの間だけですけど面倒を見て、その本の僅かな教えでどんどん成長して、韋駄天の時だって活躍したと聞いて、私は嬉しかったですよ。弟子の成長は師の喜びですから……」

 

徐々に小さくなっていく小竜姫の声を聞いたせいか、頭に上っていた血が引いていくのが判る。小さく頭を振ってから

 

「……すまない。感情的になった、詳しく話を聞かせてくれないか」

 

ソロモンの存在で一気に頭に血が上ってしまったが、こうして会いに来たという事は何か理由があるはず。小竜姫だって横島や蛍を死なせたいわけじゃないはずだから、ちゃんと話を聞けば納得できるかもしれない

 

「ありがとうございます。ミズチ様」

 

「……シズクでいい。様を付けられるほど私は偉くない」

 

どうせなら小竜姫だけで来れば良かったのに、あのブリュンヒルデと言う女……なにか気に食わないと思いながら、水で椅子を作り出し、2人に座るように促し、小竜姫とブリュンヒルデの話を聞くことにした

 

「……大体判った。仕方ないと割り切れる問題ではないが」

 

横島と蛍がGS試験に出なければ東京が滅び、更には横島と蛍が100%死ぬと聞けば、怪我をする可能性のあるGS試験に出たほうがまだ救いがあるという物だろう。無論、それでも納得できる内容ではないが……死と怪我では比べるまでも無く怪我の方がましだからだ

 

「GS試験の受付が始まるまで後3日。私と小竜姫で少し事前調査を行うつもりです。出来る限りに備えをし、参加してくれる人間の方の被害を下げれるように努力します」

 

「……当たり前だ。中途半端なことをして見ろ、お前を殺す」

 

肝に銘じておきますわと返事を返すブリュンヒルデと、お願いですから魔界正規軍に喧嘩を売るのは止めてくださいと呟く小竜姫。話は終わったのだからこれ以上ここに居る意味も無いと判断し椅子から立ち上がり

 

「……私も私のほうで準備する、横島は傷つけさせない」

 

ソロモンにもお前達にもとだ。長い事一緒に居て大分気持ちも変わってきたと自覚している、最初は手の掛かる弟か何かを見ている気分だったが、今はめきめきと成長していく横島を見ると誇らしくもあり、そして嬉しいと思える

 

(神が人に恋をしたか……)

 

ああ、これは認めないといけないかもしれない。私は横島を愛し始めているのかもしれないと、だからこんなにも怒ったのかもしれないなと心の中で呟きながら

 

「……美神と横島たちにはいつ話をするんだ?」

 

私に先に話に来たと言うことは、まだ美神達には話していないと判断してそう尋ねると小竜姫が懐から手帳を取り出して

 

「会場とその周辺の調査を終え次第、横島さんに話をします。美神さんにはもう話は済んでいますから」

 

それなら良いがと呟き、横島の家に戻りながら横島を守る方法は何があるかと考え……思いついたのは1つだった

 

(……竜気を分け与えるか?……だけどな……)

 

竜気を授ければ、私の加護と合わさって横島を更に護ってくれるだろう。だが問題があるとすれば

 

(……横島が耐えれるだろうか……)

 

竜気と言うのは竜と竜に属する神族が持つ特別な気の事だ。無論人間が扱える力ではない……横島の体に強い負荷をかける可能性もある……

 

(……どうしたものか……)

 

私と一緒に暮らしているから、横島は私の竜気に間違いなく耐性があると思うが、もし無かったらと思うとそうそう竜気を分け与えることも出来ない……

 

「……この身体の血が憎いと思ったのはこれで2回目だな」

 

八岐大蛇は竜は竜でも邪竜に含まれる、その血を引いている私は神族ではあるが魔力も持ち合わせている。1回目は高島が怪我をした時に後悔し、今またその転生者である横島の為に自分の力を分け与えたくともそれが出来ない

 

「……ままならないものだな」

 

私は深く溜息を吐いて、早足に横島の家へと戻るのだった。なにか急に横島の顔が見たくて仕方なかったから……

 

※トトカルチョの倍率が変化しました

 

シズク 5.5倍→ シズク 3.7倍

 

 

 

シズクが小竜姫とブリュンヒルデと話をしている頃、横島の家には客人が訪れていた。もしGS協会に勤めている人間がこの場に居たら驚くと同時に怒鳴っていただろう。何故ならば、今魔族から狙われている夜光院柩。その人がなんの警戒した素振りも見せず、横島の家に訪れていたからである

 

「くひ!やぁやぁ、ありがとう。寒い時はあったかいココア、これに限るね」

 

炬燵に入ってニコニコと笑いながらココアを口にしている柩ちゃんを見ながら

 

「どこか旅行にでも出掛けるの?」

 

柩ちゃんの体には少し大きいと思える旅行鞄と手提げ鞄を持っていたのでそう尋ねると

 

「うーん、当らずも遠からず。ボクはこれでもGSの中でもかなり貴重な存在でね!身辺警護含めて何処かのホテルに泊まるのさ」

 

そうなのかー。柩ちゃんは未来予知とか出来るって聞いたから、きっとその関連なのかなーと思いながら、俺もココアを口にしようとすると

 

「みーみー」

 

「うきゅきゅー」

 

炬燵の上にモグラちゃんとチビが登ってきて、みかんをころころと転がしてくる

 

「なんだー今日は甘えん坊だなー」

 

チビの頭を撫でながら呟くとみーむーと鳴く。みかんを自分で剥けるのにこうして持ってきたって事は俺に剥いてくれと甘えているのだと判り、みかんの皮を剥き半分に割ってチビとモグラちゃんの前に置き、改めてココアを口にしようとすると

 

「横島」

 

「ん?うおっっと!?」

 

向かい合って座っていた柩ちゃんの声が直ぐ近くで聞こえて、振り返ると目と鼻の先に柩ちゃんが居て、思わず後ろに下がろうとすると、それよりも早く柩ちゃんが俺の手を掴んでそれ以上はなれることが出来ないようにされた

 

「ど、どうかしたのか?」

 

真剣な顔をして、俺の眼を見つめている柩ちゃん

 

「これから横島は大変な事になるのをボクは知ってる」

 

「大変な……事?」

 

嘘ではないだろう。で無ければ柩ちゃんはこんな顔をしないだろう。普段余裕の笑みを浮かべている柩ちゃんの顔が今にも泣きそうに見えたから

 

「ボクは嘘をついた。ああ、そうだ。初めて嘘をついたんだ……自分の見た予知と異なることを口にした。それが間違いだと、やってはいけない事だと知っているのに」

 

嘘?その嘘が俺に関係しているのだろうか?柩ちゃんは小さくごめんと数回呟き

 

「でもそうしなければ全ては変わらない、決まっている一つの結末に向かう、ボクはその結末を回避したかった、たとえ1%満たない可能性でもその可能性に縋りたかった。その為に君を利用することを選んだんだ……本当にすまないと思ってる」

 

柩ちゃんが回避したかった結末?それを回避するのに俺を利用したって事なのか?それを謝罪する柩ちゃんに

 

「利用されたとか、そう言うのは俺には判らん。んでもって謝られるのは更に訳が判らん」

 

まだ何も酷い目には合っていないし、これから起きるかもしれないとしても、それが起きない可能性だって十分にある。だからこんなに謝られても困惑することしか出来ない

 

「俺は俺に出来ることを全力でする、何が起きるかなんて知らないし、どうなるかも聞かない」

 

先入観ってのが怖いって言うのはシズクに何度も言われた、だからこれから何が起きるかとは聞かないし、聞きたいとも思えない

 

「謝らなくても良いよ、柩ちゃんじゃ出来ないから俺を使うって決めたんだろ?」

 

こくんっと頷く柩ちゃんに笑い返しながら、俺はニカッと笑いながら

 

「じゃあ柩ちゃんの変わりに頑張るよ。柩ちゃんが回避したい未来?の為にさ……それにほら、もしかしてその何かが起きる場所ってあれだろ?GS試験」

 

蛍に話には聞いていた。今年のGS試験が近いと、もしかすると俺も参加する事になるかもしれないわね?と言われていたので、柩ちゃんが言っていることがもしかするとGS試験に関係することだと判った

 

「……ボクは君を利用するんだよ?それで良いのかい?」

 

「いいよ、約束したじゃん。前に除霊とか勉強とか教えてくれた時に、また手伝ってって。なら今回もそれだろ?俺美少女との約束はやぶらねえよ?」

 

俺がそう笑うと柩ちゃんは、呆気にとられた表情をしてからクスクスと笑い出して

 

「くひひ!ほ、本当に君は、どうしようもない男だ。自分よりも年下の相手にそんなに優しいことを言って何をするつもりなんだい?このロリコン」

 

「ワイはロリコンちゃうわ!!!」

 

どうしようもないって……なんで罵倒されてるんや!?しかもロリコン呼ばわりまでされなあかんの!?ワイとしては落ち込んでいる柩ちゃんを励ましたかっただけなのに!?俺が泣いているのを見て、柩ちゃんは更に楽しそうに笑いながら

 

「あー笑った、励ましてくれてありがとう。そしてもう1度ごめんよ、ボクは君を過酷な未来へと誘ってしまった」

 

過酷な未来って言ってもなぁ、俺にはその未来が何なのか判らないから、本当に何も言えないんだけどな……まぁここまで言われると少し怖いって思えてくるけど

 

「きっと大丈夫や、蛍や美神さんも居るし、唐巣神父とかも居るから、きっと何とかなると思う」

 

1人で駄目でも2人、3人となれば突破できるかもしれない、困難を乗り越えることが出来るかもしれない

 

「くひ♪ああ、そうだ。君はそれで良いんだ。くひひ♪横島」

 

すっと一歩踏み込んできた柩ちゃんに驚いて一瞬硬直した瞬間。柩ちゃんの手が俺の頭に回され視界が低くなったと思った瞬間額に柔らかい物が当った感触がして

 

「ぬわ!?なななんああーッ!?!?」

 

その何かが柩ちゃんの唇だと理解して、自分でも訳の判らない奇声を発していると柩ちゃんは荷物を担ぎ上げて

 

「額のキスは友情。でも男との女に友情は友情と言えるのかな?くひひ♪GS試験頑張っておくれよ?じゃね」

 

ウィンクしてリビングを出て行く柩ちゃんに何も言えず、その場に尻餅をついたままで

 

「みむう?」

 

「うきゅ?」

 

【どうかしました?妙な声が聞こえましたが?】

 

みかんを食べていたチビとモグラちゃん、そして眠ったままだった牛若丸眼魂が眼を開いてそう尋ねてくる。その声で冷静になった俺は頭を抱えて

 

「ぬわああああ!?なんかすっごい甘い匂いしたあー!ああああーッ!!ワイはロリコンじゃない!ロリコンじゃなあぁぁいいいいッ!!!!

 

自分の正義を砕きに来た柩ちゃんの予想以上の色気とか、それに反するような可憐さを思い出した俺は思わず頭をフローリングに何度も何度も叩き付け、さっきの光景を忘れようとしたのだが、打ち付けるたびにあの光景を思い出してしまって……ちょっと赤面してて可愛かったとか、どんどんときめいている自分を自覚してしまって

 

「ちがうううううううううううううう!!!おれはろりこんじゃなああああいッ!!!!」

 

俺が好きなのは同年代!んで蛍でええええ!!と心の中で叫び続ける事しか出来ないのだった

 

「みーむうう!?」

 

「うきゅー!?」

 

【乱心!乱心でござる!おキヌ殿ー!シズク殿ー!どちらでも良いから早く戻ってきてくださーい!!!】

 

死屍累々という光景になりつつあるリビングでタマモだけは冷静……ではなく、狡猾な光をその目に宿し

 

(あれ使えるかも……引き込みたい子ね)

 

人間化を使えるようになっても、自分は横島の基準で言えばロリと言うことをしっかり把握しており、仲間に引き込む1人として家を出て行った柩を観察しているのだった……

 

なおこの騒動は15分後に買い物を終えたシズクが戻るまで続き、中々落ち着かない横島に痺れを切らしたシズクが氷の中に閉じ込めると言う荒業で強引に沈静化させるまで続くのだった

 

 

夜光院柩の倍率が変化しました

 

4.7倍→3.2倍

 

横島の正義に若干のダメージが入りました

 

 

「もう良いのかい?」

 

「ああ、これで良いよ。後は運命のみが知るってね」

 

横島の家の外で待っていたメドーサと合流した柩をメドーサが観察するように見つめながら

 

「良い顔になってるじゃないか?恋の色が浮かんでいるよ」

 

にやにやと笑うメドーサの言葉に柩は動揺する様子もうろたえる事も、声も荒げることも無く淡々と

 

「そうだね、うん。ボクは……彼が好きになってしまったかもね。あれはとんだ人たらしだ、気が付いたら惹きこまれてる」

 

柩の言葉にメドーサは違いないと笑い、柩の荷物を手にして

 

「それじゃあ行こうか。魔界正規軍の本部で護ってくれるそうだ、だからGS試験が終わるまでは魔界暮らしだ」

 

「……正直倒れるとか、そう言う未来しか見えて無いから凄く不安だよ」

 

命があるだけ我慢しなと言うメドーサの言葉に諦めたように溜息を吐いた柩。そして2人の姿は溶ける様に消えていくのだった……

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その2へ続く

 

 




次回は原作での小竜姫と美神達の話し合いの所と手紙を受け取ってきたグレートマザーとかを絡めて行こうと思います
あと今回ので判ると思いますが、私の書く柩はイケイケなのでどんどん攻めるスタイルになりつつ、ヤンデレ特有の超重いボデイで横島を攻めていくので、今後もどうなるのか楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はグレートマザーを交えて、原作の小竜姫が事務所に来て、竜気を授ける所まで行きたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その2

 

「凄まじい殺気でしたね」

 

額から流れ落ちた冷や汗をハンカチで拭いながら隣の小竜姫に話しかける。侮っていたわけではない、見下していたわけでもない……

 

(あれが八岐大蛇の系譜のミズチ……)

 

邪竜の中でも最高位に属し、それとあると同時に火竜と水神の最高峰と言う2重の神性を持ち、更に八岐大蛇の系譜……

 

(お父様が事を構えるなと言った訳ですわ……)

 

負けはしないが、勝てもしない。しかもこれは水が少ないという条件付で互角。大量の水があれば私のルーン魔術でさえも通用しなくなるだろう……それだけの存在が怒りを露にした……

 

(それほどまでに神魔をひきつける存在と言う事ですか……)

 

あの小竜姫でさえも感情を露にした。私は遠くで見ただけですが、それでも感じる何かがあった……やはり横島は英雄の器!と私が1人納得していると

 

「ふう……ですね。ブリュンヒルデ……シズクさんの力は知っていますが、正直私でも怖かったですよ」

 

小竜姫が汗を拭いながら呟く、剣士としては神族でも上位に当る小竜姫がそう言うと言う事は

 

「相性の問題ですね?」

 

「……ええ。私は火ですから……水のシズクさんとは致命的に相性が悪いですよ」

 

それにシズクさんは水に成れますから、私の神剣でも有効打を与えるのは難しいですと付け加える小竜姫。元来竜種とは「火」属する者が大半であり、かの竜神王でさえも火竜である。ミズチは竜族ではあるが、本来ならばもっと力の弱い種族……

 

(シズクがいかに化け物か判りますね)

 

北欧神話では最高神に属するオーディンの血を引いている私でさえも恐怖し、武神としても竜族としても上位の小竜姫が弱気な言葉を口にするほどの実力……敵に回さなくて正直良かったと安堵していると

 

「ブリュンヒルデ、小竜姫。こんな所に居やがったか、さっさと合流しに来いよ」

 

バイクが私と小竜姫の前に止まる。どうもシズクとの話で随分と合流時間から遅れてしまったようですね

 

「すいません。ビュレト様」

 

これは私と小竜姫に非があるので素直に謝るとビュレト様は頭を掻きながら

 

「まぁいいさ、俺も大して情報を手に出来ているわけじゃねぇし……正直よ。ガープの奴は俺の事を知ってるから、俺対策の結界とかをめちゃくちゃ設置してるから思うように動けねぇ」

 

ビュレト様は本来ならば中立として動く事が無いはずですが、アスモデウスが動いているので特例として魔界正規軍の客人として一時的に魔界正規軍に属している。先に調べておいて貰うつもりでしたが、やはり向こうもしっかり対策を取っていたと言う事ですね

 

「となると私も動くのは難しいと言う事ですね?」

 

「ああ、まず間違いないな。魔族は魔族を知る、特にガープの事だ。相当念入りに魔族対策をしてるだろうよ」

 

ソロモンのガープ。サタン様による魔界統一戦のおり最後までアスモデウスと共に徹底抗戦を掲げ、最終的に破れいずこかへ敗走した……それが魔族による共通の認識だ。だが今思えば敗走ではなく、デタントへ動く今を狙って力を蓄えることを選択したのかもしれない……ガープは魔界でも随一の頭脳の持ち主、魔族でありながら神族の扱う光の魔法に対する知識も深い……

 

「設置型の結界に、私やビュレト様の魔力に反応する罠……」

 

思いつく限りのガープの妨害を上げていくが、ビュレト様は深刻そうな顔をしてそれだけじゃすまねえと付け加える

 

「小竜姫だったか?オーディンのやつから聞いたが、神魔を狂わせる何かがあるんだって?」

 

韋駄天の神界の書庫を荒らす事件。事前に防ぐことが出来たので表沙汰にはなっていないが、魔界でも同じ事件が発生した。無論起したのは韋駄天ではないが、事件を起したのはガープ・アスモデウスに警邏中に遭遇し、意識を失っていた魔界正規軍の隊長格。しかも溶けるように苦しんで消えて行った姿は今も記憶に新しい……

 

「はい、竜神王様に報告が上がっていますが、韋駄天九兵衛を操っていた紅い石の存在。それと下界からの情報提供ですが、英霊義経を傀儡としていたのも同じく紅い石と聞いています」

 

英霊さえも操り傀儡とする紅い石……話を聞いているだけでも危険な物だと判る

 

「それがあるから単独行動も難しいな。捕獲されてその紅い石とやらを埋め込まる訳には行かない」

 

私にしろ、ビュレト様にしろ、小竜姫にしろ、誰かが紅い石で操られ敵に回ればますます状況が悪くなる一方……何とかガープが根城を調べたいと思っていましたが、それは控えたほうが良さそうですね

 

「当面の目的としてはGS試験会場に結界などの準備。それと人間界のGS協会に申請して、有望な若いGSをGS試験に出場させて貰うことを「……あー、御託はいい。どうせもう面子は決まってるんだろ?なんっつったけ?邪だったか?」

 

小竜姫の眉が小さく動く、なんで知っているんだろう?と言う顔だ。ビュレト様はカカっと笑いながら

 

「俺も只人間界にいたわけじゃねえ。ちゃんと役に立ちそうな面子には目星をつけてる。さて、無駄話はこれくらいにして本格的に動くとしようぜ?時間が無いんだからよ」

 

確かにGS試験までそう時間が残っているわけではない、早くできる限りの手段を打つべきでしょうね

 

「では小竜姫。GS協会に案内してくれますか?」

 

「判ってます。こっちです」

 

私とビュレト様はGS教会の人間と面識が無い、小竜姫もそれは同じですが、なんでも以前修行を見た人間が一緒に待っているとか?それならば話し合いもしやすい。先にGS協会の前で待っていると言ってバイクで走り出したビュレト様を見送り、折角人間の姿をしていると言う事で小竜姫とゆっくりGS協会に向かって歩きながら

 

「所で小竜姫?」

 

「はい?なんですか?」

 

さっきのシズクとのやりとりでどうしても気になったので、折角なので尋ねて見ることにする

 

「あれほどの反応をするという事は、横島さんでしたか?その方が好きなのですか?」

 

うえっ!?と言う奇妙な声を発して。手を振りあわあわわ!?っと動揺している小竜姫を見て、小竜姫の気持ちを確信した上で

 

「私は話に聞いて、見ただけですが好ましい方だと思っていますよ。ちゃんと顔を見て話をして見たいですね。きっとあって話せばもっと好ましく感じることが出来ると思いますから」

 

「こ、好ましく?ですか?に、人間相手ですよ?」

 

ああ、堅物の小竜姫らしい言葉ですねと小さく苦笑する。身分とか、種族とかそう言うのを気にしているのが判る。でも誰かを愛すると言うのはそう言うもので縛られる物じゃない。ちょっと煽って見ましょうか自分の気持ちを偽っても良い事なんて何も無い。少しだけ自分に素直になれるように、少しだけ焚きつけて見ましょう

 

「な、何をしているのですか?」

 

私が唇に薄く紅をさしているのを見て動揺した様子で尋ねてくる小竜姫を見て薄く笑いながら

 

「いえいえ、少しご挨拶をする訳なのですから、ちゃんとしておかなければいけないじゃないですか?別に魔界の挨拶でキスはそうおかしいものじゃないですよ?」

 

「せ、せせせええ!?接吻があ、ああああああ!?挨拶!?」

 

動揺して上手く喋ることが出来てない小竜姫に心の中で、まぁ頬とかにですけどね?と呟いてから

 

「それに私も婚期が近いですし……行き遅れになるのは流石に……」

 

私の場合オーディンの娘にして、魔界正規軍の重鎮。そして私自身の力量と言う物と、私自身の性格もあり、正直な話。ワルキューレ以上に浮いた話なんて無い。そんな中人間とは言え好ましい殿方を見つける事が出来たのですからアピールしたいとおもうのは当然の事ではないですか?と小竜姫に尋ねると

 

「い、行き遅れ……こ、婚期を逃す……うっ頭が」

 

なんか頭を押さえて呻いていますね。もしかすると忘れようとしていたのを私が思い出させてしまったのでしょうか?とは言え、武神とは言え女。今はまだ若いし、力も衰えていない。だがそれはいつかは陰りが出てくる物……全盛期の内に意中の相手を見つけておかないと後で泣くのは自分自身だ

 

「さ、そろそろ行きましょうか。いつまでも待たせるわけにも行きませんから」

 

「そ、そうですね……し、しかし……接吻があ、挨拶とは……そ、それに行き遅れ……い、嫌ですね……」

 

私の言葉を聞いて深刻そうな顔をしてぶつぶつ呟きながら歩く小竜姫の姿を見て、ちょっと煽りすぎましたかね?なんせワルキューレにはこういう浮いた話が1つも無いので、私としては恋バナとやらをやってみたかっただけなんですけどね……少し選択を間違えてしまったでしょうか?と少しだけ後悔するのだった……

 

 

 

唐巣神父から神族の小竜姫様にGS試験についての話が伝わり、近い内にGS協会に来てくれるって聞いてたけど

 

「あの魔族の方も来るとは聞いていなかったんですけど?」

 

「いや、私も知らなかったんだよ?琉璃君」

 

何か考え込んでいる素振りを見せている小竜姫様とその隣であらあらと上品に笑っている銀髪の女性と、ファー付きのジャケットを来ている逆立った黒髪の青年からは魔力を感じる。こうして向かい合っているだけでも毛が逆立っていくのが判る

 

「今回はソロモンが動く可能性が高いと言う事で魔界正規軍から、副指令のブリュンヒルデ、そして特例として同伴してくれることになった……「ソロモン72柱ビュレトだ」

 

小竜姫様の言葉を遮って黒髪の男が名乗る。ソロモン!?どうしてそんな大御所が人間界に!?私と唐巣神父が動揺していると

 

「なに、人間界で動いているソロモンが俺の知り合いと言うか……昔のダチだからよ。まだ馬鹿やってるあいつらを叩きのめしに来たんだよ。まっ!カズマとでも呼んでくれ」

 

人のいい顔で笑っているが、ソロモンが目の前にいると知って私も唐巣神父も愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。もしこの人が暴れればGS協会なんてほんの数分で更地になってしまうことが判っているから

 

「……神魔のほうでもソロモンの動きは掴んでいたのですか?小竜姫様」

 

唐巣神父がそう尋ねると小竜姫様は深刻そうな顔をして

 

「神魔の行方不明事件が最近天界・魔界の両方で発生しています。厳重な警戒態勢を敷いているのにも拘らずです」

 

「そして今回のソロモンが人間界で動いているという話を聞いて、神魔は一時手を組み協力体制を取る事となりました」

 

小竜姫様の言葉に続いてブリュンヒルデさんが話を続ける。神魔が協力を決めなければならないほどに今起きている事態は

緊迫しているというのか、私も大変な事になったとは思っていたが、どうも私の考えよりも遥かに今起きようとしている事件は厄介な物となっているのかもしれない

 

「しかしこうして神魔が動いてくれたと言うことは、ガープが根城にしている白竜寺の捜査をするのですか?」

 

唐巣神父がそう尋ねると小竜姫様は小さく首を振って

 

「ビュレトさん「カズマ」……こほん、カズマさんが遠くから見てくれたようですが、相当な異界になっている上に神魔に詳しいガープがそこに居るということは罠が大量に仕掛けられている可能性があり、本当ならば今の段階で潰しておきたいのですが……」

 

ここで言葉を切った小竜姫様は苦しそうな顔をして

 

「向こうが動くまでこちらも手出しが出来ない状態です。韋駄天事件の事は聞いていますか?」

 

美神さんからリポートとして受け取っている。韋駄天を操っていたらしき、紅い石の話も聞いているし、何よりも義経が消える際に残した神魔を狂わせる石と言う言葉……

 

「小竜姫様達が操られるわけには行かないと言う事ですね?」

 

「その通りです、今回は申し訳ありませんが人間の皆様に頑張って貰う事となります、なので天界と魔界から物資を持ってまいりました」

 

ブリュンヒルデさんが机の上にアタッシュケースを置いて、中身を改めてくださいと呟く、天界と魔界の物資と聞いてなんだろう?と思いながらケースを開けるとそこには

 

「「精霊石!?」」

 

それは人間界にあるものとは比べ物にならないほどに巨大な精霊石の塊がいくつも収められていた

 

「天界と魔界産の精霊石です。ドクターカオスという錬金術師がいると聞いておりますので、その方に加工を依頼してください」

 

本当はもう少し直接支援したいのですが、あんまり公に動いているのがバレるともっと策を講じてくる可能性があるので、こんな形の支援だけになって申し訳ありませんと言うブリュンヒルデさんだが

 

「いえ、これほどの精霊石の提供。本当に感謝します」

 

これだけの大きさならばドクターカオスならば、参加者全員になにかの護りを付与した、霊具を作成してくれることだろう「それと神族の小竜姫。ソロモンのビュレトの名と顔は知られておりますが、私ブリュンヒルデの顔はあまり魔界や天界でも知られておりません。丁度姿も人間の姿と同じですし」

 

ブリュンヒルデさんが何を言いたいのか理解した……これは正直ほかの参加者には悪いと思ったけど……

 

「参加者としてGS試験にもぐりこむと?」

 

「はい。どうか出場の準備をよろしくお願いします」

 

対戦することになるGSを目指す子には悪いけど、今回の事を考えれば参加してもらうのが一番かもしれない

 

「小竜姫様?このサイコロは?」

 

アタッシュケースの中を見ていた唐巣神父の問いかけにケースの中を見ると、翡翠色のサイコロが2つ収められていた。興味を持って私が摘み上げるとカズマさんが

 

「俺の私物のラプラスのダイスだ。悪魔ラプラスの力が込められたサイコロでな。あらゆる霊的干渉をよせつけず、運命を示す。このサイコロで決められたことは絶対公平かつ宿命となる」

 

ガープのやつが干渉してくる可能性があるのなら、何かの組み合わせの時とかにこれを使えと言われた。これは確かに好都合かもしれない、GS試験では試験者同士の試合がある。事前に白竜会の相手と戦う時に、その相手に霊具を貸しておけば被害を最小に抑えることが出来る

 

「ありがとうございます。とても助かります」

 

無くすなよ?貴重な物なんだからなと言うカズマさんに判りましたと返事をして、ケースの中に戻す。無くしたりしたら大変だからね

 

「あんまり派手に動く事が出来ないとなると、小竜姫様達はGS試験まで何をするつもりなんですか?」

 

本来ならGS試験の開始は明日だが、今回は事情が事情なので2日延期を発表した、柩に連絡を取って安全に延期できるのは最大2日と言われたからだ、出来るならもう少し延期したい所だったけど、これ以上は危険だと言われたら2日で我慢するしかない、それでも時間的余裕は後3日ある。その3日で何をするつもりですか?と尋ねると

 

「俺はガープの情報を渡してくれた人間とやらに会いに行くつもりだ」

 

あいつの事だ、絶対へんなことをしているはずだから情報が欲しいと言うビュレトさん

 

「私は試験会場とやらにルーン魔術を施したいと思います。魔族の中でもルーン魔術の使い手は稀少。ガープすら扱えぬはずですから」

 

ルーン魔術。私は詳しくは知らないが、既に失伝している術、確かにそれならガープと言えど対策を取るのは難しいだろうから有効な手段だろう。残った小竜姫様を見ると

 

「私は1度美神さんに会いに行こうと思いますが、その前にブリュンヒルデと一緒に会場の下見と遠くから、白竜寺を見てみたいと思っています」

 

皆さんしっかり考えてくれているみたいね。私はまだリハビリが完全に終わっている訳じゃないから、実戦に出て足を引っ張るわけにも行かないし、本当美神さん達と小竜姫様に頑張って貰うしかない

 

「じゃあ唐巣神父。ブリュンヒルデさんと小竜姫様を試験会場に案内してください、カズマさんは申し訳ないですが、地図を渡すのでご自分で向かって頂けますか?言峰と言う神父が付き添っているので、近くまで迎えに来るように伝えておきますので」

 

判ったと返事を返して会長室を出て行く唐巣神父達の姿を見送り、背もたれに背中を預けながら

 

「本当これからどうなるのかしら」

 

叔父さんに結界の中に閉じ込められて、GS協会の会長になって……そして今はソロモンが動くかもしれないと聞いて

 

「……本当……どうなっちゃうだろ……」

 

私が背負うには余りに重過ぎる数多の問題に押しつぶされそうになりながら、私はそう呟く事しか出来ないのだった……

 

 

 

 

珍しく学校に来て、授業を2時間受けた辺りで、生活指導室に来るように校内放送が流れる

 

「横島さん?何かしたんですか?」

 

「なんもしてねえよ?強いて言えば……チビが視聴覚室のTVを解体したくらいだ」

 

「みーむう!」

 

凄いでしょ!と言わんばかりに跳ねているチビに褒めてないと言って軽くデコピンする。みぎゃっ!?っと鳴いてクルンっとひっくり返るチビ

 

「とんでもないことしてるじゃないの、どうしてちゃんと見てなかったの?」

 

愛子の言葉に何も言い返すことが出来ない。ちょっとトイレに行った数秒でまさか2階上の視聴覚室に潜り込んでTVを解体しているなんて誰が想像するだろうか?

 

「とりあえず早く行って謝って来ればいいと思うんですノー?」

 

タイガーの言葉に判ってると返事を返し、チビを胸ポケットの中に押し込み、モグラちゃんを頭の上に乗せ、教室を出ようとしたところで

 

「お前、ほんと自分の妹何とかしろよ?いい加減にせんとワイも切れるぞ?」

 

教室に入ると同時に天井から奇襲して吸血しようとしてきたシルフィーちゃんはモグラちゃんに速攻で迎撃され、今は目を押さえてのた打ち回っている。眼を狙っているのは確実だが、あのえぐるような回転をプラスした引っかき攻撃は正直凄いと思う。チビが電撃を使いこなしているのと同じようにモグラちゃんもしっかりと成長していると言うことなのだろう

 

「ほんと、申し訳ありません」

 

ぺこぺこと頭を下げるピートにちゃんと行動を伴ってくれよ?と声を掛け、俺は生活指導室に向かうのだった

 

「どうもー?横島っすけどー?」

 

怒られると思ってびくびくしながら生活指導室の扉を開くと

 

「おおー!よく来たな横島。まぁ座れ」

 

上機嫌な教師に肩透かしを食らった気分になりながら、椅子に座ると

 

「さて、横島。お前今回のGS試験に出るそうだな?」

 

「はい?」

 

言われた言葉に驚き思わず聞き返す、ピートはGS試験に出るって聞いていたし、蛍も出場すると聞いていたが、俺も?美神さんからそんな話は聞いてないと言うと

 

「そうなのか?じゃあ、俺が先に聞いたのかも知れんな。GS協会からお前がGS試験に出場するから、暫くの間学校の授業の免除についての要請と、期末テストの免除をするようにって今朝連絡があったんだ」

 

マジで!?授業と期末テストの免除は正直ありがたい、勉強はしているけど、ギリギリ赤点を回避できるかどうか?って言うレベルだから、テストの免除は正直ありがたい

 

「うちのクラスから3人もGS試験に参加するなんてなー」

 

大変だと思うけど頑張れよ!応援してるぞ!!と笑い喜び続けている教師の言葉を聞いて、GS試験に出ると言う事が、どこか他人事のように思い、でも自分の事なんだと理解し、少し混乱しながら教室に戻り待っていた愛子達に

 

「わりぃ早退する」

 

と言うと愛子が心配したように近寄ってきて

 

「凄く怒られたの?それともどこか調子が悪いの?」

 

心配そうに尋ねてくる愛子に本当に何でもないと言っていると、今度はピートが校内放送で呼ばれる

 

「……シルフィー?お前迷惑かけてるの横島さんだけじゃないのか?」

 

自分が呼ばれた理由をシルフィーちゃんが俺以外の生徒からも血を吸おうとしているのが理由だと思ったのか、ピートがそう尋ねると

 

「横島君だけだよ!横島君の血凄くおいしそうだからね!他の人間の……ふぎゃっ!?」

 

その豊かな胸を張りながら、自慢げに言うシルフィーちゃんの頭にピートの拳骨が落ち、僕もう学校に通えないんですね……っと絶望したと言わんばかりの顔をしているピートに

 

「いや、GS試験出場の激励らしいぞ?俺もそうだった」

 

「え!?横島さんGS試験に出るんですかノー!?応援するケン!頑張ってくださいノー!」

 

他人事のように言うタイガーにお前もだぞ?3人って言ってからと言うとエミさんには聞いてないと動揺しているタイガーに思わず苦笑しながら

 

「悪いけど愛子。帰るわ、授業も免除らしいから暫く休むから」

 

「……そう。頑張ってね!私学校からだけど応援してるから」

 

笑顔で言う愛子にサンキューと返事を返し、鞄を担いで俺は学校を後にした……

 

(俺がなぁ……GS試験になんか出て大丈夫なのか?)

 

陰陽術は不安定、霊力の篭手を使えば動けない、更にあのベルトを使ったら暫く療養……それを除けば俺が使える霊力なんて高が知れてる、GS試験に出場して合格できるとは思えない……

 

(美神さんに何か考えがあるのかなー?)

 

たとえば俺がGS試験に出場することになんかメリットがある?で無ければ、出場して俺が落ちたとなると美神さんの指導力に問題があるって事になりそうだし……俺としては美神さんに恥をかかせるような真似はしたくないし……

 

「うーむ。判らん」

 

「みーむきゃ!」

 

「うーきゅー」

 

俺の真似をして考え込む姿を肩の上でしているチビとモグラちゃんを見て、思わず笑ってしまいながら、とりあえずなるようになるかと思い、家に帰ってGSの勉強か、シズクに霊力の扱いを教わろうと思い家に向かうと

 

「忠夫。あんたこんな時間に何してんのさ?サボりかい?」

 

「お袋!?なんで日本に!?」

 

キャリーケースを引きずっているお袋が家の前にいて、思わず俺は叫んでしまうのだった……なお、家の前で叫ぶな!あとお袋じゃなくて、お母さん!っと叫びながら拳骨を頭に落とされ、目の前に星が見えるのだった……やっぱ、お袋は怖ぇ……

 

「なんで日本に戻ってきたんだ?何か用事でもあったんか?」

 

ナルニアで親父と仕事のはずのお袋が日本にいる。何か用事でもあったのか、緊急事態……たとえば、親父と離婚するとか……そう言う事になったのか?と思いながら急須に入れたお茶をリビングに持ってきて尋ねる

 

(シズク。どこに行ったんだろ?)

 

家にいると思ったシズクだが、珍しく外出していたようで家にはいなかった。俺が知らないだけで結構外に出掛けているのかもしれないなと思っていると

 

「美神さんから手紙が来てね。あんた、GS試験に出るんだって?」

 

ギロリっと鋭い視線で睨まれ、思わず後ずさりそうになりながら

 

「みたい……俺も学校で先生から聞いて始めて知った。昼飯食ってから美神さんの所に行こうと思ってた所なんだ」

 

どういう話に成ってるのか聞かないとあかんやろ?と言うとお袋は眉を顰める

 

「自分で受けるって言った訳やないんやな?」

 

「ああ、だって俺まだ碌に霊力使えないし、知識も足りないって自覚してるんだぜ?とてもじゃないけど、自分が受かるなんて思えないし……」

 

どうして美神さんが俺をGS試験に参加させようと思ったのか判らないと言うと、お袋は

 

「じゃあ出場しないのかい?私としてはそのほうがいいと思うから安心したよ。ちゃんと断ってくるんだよ?」

 

お袋はそのまま、いかにGS試験が危険なのか?と言うのを教えてくれた、除霊は命懸けの仕事になる場合があるので、死んだとしても事故扱いになる受験生同士の試合に、仮に合格したとしても、見習いのままでプロと認められる可能性も低いなど……色々と調べてくれた上で俺に辞退したほうが言いとアドバイスしてくれているのが判る

 

(でもそれでいいのか……)

 

俺は変わりたいと思っていた……だから美神さんや蛍の静止を振り切ってあの時のベルトと眼魂を使った。ちらりとリビングの入り口を見ると、難しい話をしているので邪魔をしていけないと判断したのか、タマモ達がちらちらっと心配そうにこっちを窺っている

 

(俺の夢を……俺は今掴みかけているんじゃないのか?)

 

美神さんの仕事を手伝って、俺は色々見て来たと思う。良い妖怪に、悪い妖怪、それに良い幽霊と悪い幽霊……人間と同じで、幽霊や妖怪にも良いやつと悪い奴がいる。そんな当たり前を今知っている人がどれだけ居るだろうか?美神さんやお袋にも夢だといわれた。叶うわけが無いとも言われた……でも俺はやっぱり……

 

「いや、参加したいと思う。いや参加させてくれって言いたい」

 

「自分で無理って言っておいてか?」

 

お袋の目が怖い、思わず反らしそうになるが歯を食いしばってその目を見つめながら

 

「俺はGS試験に出る。でてGSになる、んで……夢を叶える。妖怪も、幽霊も、神様も悪魔も手を取り合える場所を作る……それで誰かを守れる俺になる」

 

「それは夢やって言うたやろ?断言する絶対に叶わん、諦め」

 

人間同士だって、分かり合えないし、喧嘩もするし、殺し合いになる事だってある。それでも……

 

「やってみなくちゃ判らないだろ?だからまず、俺はGSになる。俺の夢を叶える為に」

 

しっかりとお袋の目を見て、自分の考えを言うとお袋ははぁっと言う感じで深い溜息を吐いて

 

「そっか、じゃあ、オカンからお前に大事な言葉を送る」

 

大事な言葉?俺が首を傾げながらも頷くと、お袋は

 

「忠夫。しっかり拳を握れ」

 

拳?お袋の言いたい事が判らないが拳を握るが……

 

「そんなんやない!そんな事でお前の夢は叶うんか!?そんなんで自分の護りたい物を護れるんか?もっとや!もっと力を込めんかいッ!!!」

 

その凄まじい怒声に驚きながら全力で拳を握る。力を込めすぎて手が震えてくるのが判る、それを見たお袋は満足げに頷きながら

 

「ええか忠夫。よう覚えとき、男が覚悟を持って拳を握った時。その拳がこの世で唯一。お前と自分の護りたい物を護る武器になる……オカンからはこれだけや、さ!さっさと美神さんの所に行って来い!オカンがお昼ご飯用いしといたるから!」

 

にかっと笑うお袋におうっと返事を返し、リビングの外で待っていたチビ達に直ぐ戻るで待っといて!と声を掛け、自転車に乗って駅へと向かうのだった……

 

「はー知らんうちに随分と成長してたんやなあ」

 

百合子は自転車で走っていく横島の姿を見て小さく笑みを零した、確かにGS試験には出て欲しくなかった。だがとめることが出来ないほどの覚悟を持っているのが判ってしまったから、激励した……本当は参加なんかするなと言いに日本に来たのにだ……

 

「クーン?」

 

「タマモか、また一緒におったってな?チビもモグラちゃんも」

 

擦り寄ってきたタマモ達にそう声を掛け、百合子はキッチンで昼食の準備をしながら

 

「がんばりや、忠夫」

 

直ぐにナルニアに戻らなければならない。今日だって無理やり日本に帰国してきたのだ、百合子が纏めるはずだった商談を1つ無かったことにしてまで、GS試験への出場を止めさせようとしていたのだ。だけど知らないうちに自分の息子が成長してる姿を見て、ここで止めてはいけないと思ったのだ

 

「ほんとうちの馬鹿亭主に似なくて良かったよ」

 

今頃ナルニアで浮気の罪として、男色の毛があるガチムキ集団に追われている筈の旦那の大樹に似なくて良かったと安堵し、夕方の飛行機に乗れば明日にはナルニアに帰れるから、商談を纏めなおし間に合うかしら?などと考えながら昼食の準備をし、チビ達にりんごや油揚げを与え、手紙を残し百合子は家を後にしたのだった……

 

 

 

 

 

「……蛍。お前に問いただしたい事がある。少し借りていく」

 

ふらっと事務所に来て、私について来いというシズク。美神さんがここで話せばいいと言ってくれたが

 

「……お前に聞かせるまでも無い、極めて個人的な話だ、そう横島に関するな」

 

【じゃあ私も行きます!】

 

どこで聞いてたのか?と思うおキヌさんと一緒に事務所を出て、出るんじゃなかったと心底後悔した

 

「……まだろっこしいのは嫌いだ。単刀直入に聞く、返答しだいではお前達を殺す……」

 

髪がざわざわと蠢き、私とおキヌさんに水の刃を向けたシズクの本気の殺気が叩きつけられる

 

「……わ、私が何を「……ソロモンがGS試験で動くと小竜姫とブリュンヒルデに聞いた。その上で聞く、アシュタロスの娘芦蛍。貴様は横島の敵か」

 

!?なんでシズクがそれを知っているの!?私とおキヌさんが動揺していると

 

「……韋駄天の時だ。アシュタロスには連絡が付かない所か姿を消しているから真意を問いただすことも出来ない、だからお前に聞く、お前は、敵か?横島を傷つけるのならば私が今ここで殺す」

 

本気で殺す気だ……お父さんもシズクに正体がばれたらのなら、一言くらい声を掛けておいてよと心の中で怒鳴り、私は冷や汗を流しながら

 

「私は横島の敵じゃない、私は横島を……」

 

うーなんでこんな所で言わないといけないんだろ?でも言わないと本気で胴体と首がおさらばしそうだ……

 

「私は横島を愛してる。敵になるなんてありえない、絶対に!それだけはありえない!」

 

私は横島と添い遂げるために逆行してきたのだ、それだけの為に最高指導者を説得したのだから、その私が横島を裏切るなんてことは絶対にありえない

 

「……お前は?幽霊の癖に神気が混じっているお前は?」

 

【え?私神気混じってるんですか?】

 

これに神気?悪い冗談としか思えない。2人で顔を見合わせているとシズクは伸ばしていた髪を元に戻し、水の刃を消し去り

 

「……毒気が抜かれた。まぁ微々たる物だからよほど弱い神がお前の側にいて、霊体にその残滓が残っているだけか……まぁ良い、今は信じる。『今は』な……」

 

今をやたら強調するシズク。ああ、恐れていたことになってしまった。竜族で水神だから人間よりも遥かに長い寿命を持つシズク。だから横島の事を出来の悪い弟か何かを見ていると思っていたんだけど

 

(落ちてる……完全に落としてる……)

 

これはそんな甘い物じゃない、完全に横島に惚れている。だからこそのこの攻撃的な態度……横島の人外キラーは神にも効いてしまったのかと恐れていると

 

「蛍さんそれにおキヌさん!丁度良かった」

 

小竜姫様の声が聞こえて振り返ると、小竜姫様と流れるような銀髪をした長身の女性がそこにいた

 

((誰?))

 

私とおキヌさんの心の声が重なったと思う。見覚えの無い女性に困惑していると

 

「ブリュンヒルデと申します。魔界正規軍副指令を勤めさせております、あ、そうそうこの姿をしている時は「春桐聖奈」とでも呼んで下さい。人間風の名前じゃないと正体がばれてしまうので」

 

魔界正規軍!?この段階で神魔が手を組んでいるの!?驚きながら小竜姫様を見ると

 

「天界も魔界もかなり不味い状況ですから、少しずつ協力体制を取ってその内混合部隊を作る予定です」

 

そ、そうなんだ……韋駄天とかの事もあるし、神魔のほうも相当作戦を考えているのねと納得していると

 

「美神さんはいらっしゃいますか?話し合いに来たのですが」

 

いますよと返事を返し、案内しますと言って私は事務所へと戻るのだった

 

「いらっしゃい、小竜姫様と……誰?」

 

「ブリュンヒルデと申します、魔族です」

 

にこっと魔族と宣言するブリュンヒルデさんに対して、苦虫を噛み潰したような顔をした美神さんは

 

「魔族と協力しているのね」

 

「神魔も不味い状況ですから」

 

それほどまでに動いているソロモンが危険なのかと思いながら、小竜姫様と聖奈と名乗ったブリュンヒルデさんとシズクと共にGS試験についての話し合いをし、どうやって横島にGS試験に参加させるか?どういう対策を取るか?とみんなの意見を聞きながら話し合っていると

 

「美神さん!先公とお袋に聞きました!俺もGS試験に参加させてください!!」

 

横島が事務所に飛び込んできて、そう叫ぶ。一体何があったのか?と思うほどやる気に満ちているその表情。そして絶世の美女と言えるブリュンヒルデさんを見ても飛び掛からないほどに真面目な顔をしている横島を見て

 

(これなら大丈夫かもしれない)

 

シズクや小竜姫様もいるから大丈夫かもしれない、私もフォローするしと思っていると

 

「やる気は買うわ、百合子さんに何か声を掛けてもらったみたいね、でもそれでも足りない。横島君、霊力は気持ちや精神力が大事だわ、でもそれだけじゃどうしても埋める事が出来ない物がある。それは技術と経験、今の横島君にはそれが足りてない。せめて何か……あの篭手やベルトじゃないわよ?なにか武器があれば、私だって安心して出場しなさいって言えるけど」

 

美神さんが渋っているのを見た小竜姫様がにこりと笑いながら

 

「私にいい考えがあります」

 

自信満々と言う表情を見て、小竜姫様なら大丈夫と思った。だけどそれは今思えば会議の間に疲弊していて、正常な考えが出来ていなかったと今なら言える。あれは自信満々ではなく、私やおキヌさんに対する自身の有利さを示すための邪笑だったのだ

 

「では横島さんこちらへ、私と天竜姫様からの贈り物を渡したいと思います」

 

あ、今思い出した、バンダナにキスをして心眼になるのよね?横島の霊力の覚醒を手伝ってくれる。それならこれを邪魔したら駄目よね。横島が近づいてきたのを見た小竜姫様は穏やかに笑いながら

 

「では」

 

あ、あれ?私の目がおかしくなったのかしら?小竜姫様が横島の顎を掴んでいるのが見える。あれだ、顎クイって奴だ……

 

【あ、あれ?でこの筈じゃ?】

 

「……とんでもなく嫌な予感がする」

 

シズクとおキヌちゃさんの動揺した声を聞いて、妨害するべきかどうかと悩んだ。そしてこの一瞬の悩みを私は一生後悔する

 

「私と天竜姫様の竜気を授けます。私達の力が横島さんの救いになりますように」

 

「いや、なんで顎クイ……ふむぐう!?」

 

そして勝ち誇った笑みを一瞬見せ。私達の目の前で横島の唇を奪った……その時何故か「ズキュウウウンッ!!!」と言う奇妙な音が私の脳裏に響くのだった……

 

 

 




別件リポート プチトトカルチョ 結果発表へ続く

結果発表は番外編なので本日21時に更新しようと思います。それでは結果発表もどうかよろしくお願いします


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トトカルチョ 結果発表

どうも混沌の魔法使いです。今回はトトカルチョの結果発表とそして当選した皆様がどうなったのかを書いて行こうと思い

ます。参加してくださった皆様には感謝しております、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



別件リポート プチトトカルチョ開幕!その2

 

美神令子除霊事務所で横島と小竜姫がキスをしたその瞬間。神界と魔界でも大騒動が起きていた、ソロモンが下界で動くという危機的状況に陥っていたのだが、それを塗り替えるだけの大騒動……そうプチトトカルチョの結果が参加者全員の近況に関係なく発生したのだ……会議中であったり、食事中であったり……そういった物を関係なく配当された配当金はそれはそれはとんでもない事態を巻き起こした……その一例を少し見てみよう

 

 

~妙神山~

 

「ううう……老師……老師……助けて欲しいなのねー」

 

「あーもう判った、判ったから少しは泣き止め。ヒャクメ」

 

人間界で買って来たゲームを楽しんでおったのだが、小竜姫と入れ違いで尋ねてきたヒャクメがさっきから号泣しておりゲームに集中できない。やれやれと溜息を吐きながらポーズボタンを押してキセルを咥える

 

「それでどうしたんじゃ?ヒャクメ」

 

清姫と言う先々代の竜神王の孫娘の監視のために同居しているとは聞いておったが、なんでこんなに落ち込んでるんじゃ?

 

「ううう……あの娘怖いの……よ、夜中とかずっと横島さんの写真みてふふふふふって笑ってるのねー!眼だけがぎらぎらしてて!めちゃくちゃ怖いのねー!?」

 

……それはうむ。確かに怖いな……うむ、ワシも経験がある

 

「小竜姫様も良く笑っておるがのー?夜中に」

 

客人と言う事でロンが湯?みを持って部屋に入って来ながらそう呟く

 

「え?小竜姫もなのねー?」

 

信じられないと言う感じのヒャクメを見ながら、ロンから湯呑みを受け取り

 

「結構な頻度で笑っておるの?2日に1回くらい」

 

「夜起きるとビクビクするのー竜は情が深いが……ちと行き過ぎてるような気がしなくも無いの」

 

竜が情に深いのは有名な話じゃが……あれは情が深いとか言う言葉で片付けていい物か……

 

(逆行したほう黒すぎじゃろ……)

 

未来の小竜姫の黒さはとんでもない、それこそ魔族か!?って言いたくなるレベルで黒い。修行修行で暮らし、色恋を知ら

 

なかっただけに初めての恋に完全に暴走しておる。うむ、それこそ……

 

(襲いかねんなぁ……)

 

もうそれはあれである、性的に襲いかねない。竜の情の深さが悪い方面に出るとそれこそ文字通り喰らって一体化しようと

 

したりするのだが、小竜姫の場合は既成事実とかに持っていこうとするだろう。横島の性格を考えると子供とかが出来ると女遊びを控え、そしてなおかつその女性に尽くそうとする。自分で鳥篭に入って出ることの無い鳥と言えばいいのじゃろうか……横島と小竜姫の事を考えているとヒャクメが

 

「でも!でもでもなのねー!?私を爪で脅して横島さんがお風呂とかに入ってる時の写真を念写させようとするのは本当にやめて欲しいのねー!?横島さんはき、きらいじゃないけど……そ、そう言うのは早すぎると思うのねー!?」

 

ま。まずは文通とかからなのねー!?とか叫んでいるヒャクメ。うむ……未来と現在が統合されてもなお乙女……じゃが気になることがあったので尋ねてみることにした

 

「お前さん。横島の事を盗撮しておらんかったか?」

 

よく横島の姿を盗撮した写真を小竜姫の所に持ってきてないか?と尋ねるとヒャクメは頬に手を当てて

 

「それはそれなのねー?私が見てるのは横島さんが笑っている所とかなのねー、で、でもたまに、たまーに魔が差すとき……」

 

……ま、まぁうむ。ロンと顔を見合わせる。恋愛とかの価値観は人それぞれじゃが……ヒャクメはヒャクメで色々とずれて

 

いる。頬に手を当てていやんいやんと身をよじるヒャクメ。恋する乙女は暴走しがちじゃがヒャクメも小竜姫の同類かと苦笑していると

 

「ははは、よくモテるのー、我が孫も大層気に入っておる」

 

ロンが楽しそうに笑う。そう言えば……自分の孫を横島の所に預けておったの……いつまで預けるつもりなんじゃろうか?

 

「所でロン。いつまで孫を預けるつもりなんじゃ?もう療養はすんでおるじゃろうに」

水に溺れ、それで持病のぎっくり腰をやって孫を横島の所に預けて妙神山に帰ってきたロン。いつまで預けるつもりじゃ?と尋ねると

 

「角が生えるまでと考えておる」

 

「むう。それはちと気が長くないか?」

 

竜の角は生えるまで相当時間が掛かる。下手をすると横島が死ぬ時まで角が生えない可能性もある。いや、生えないと考えたほうがいいかも知れん……土竜は竜の中では下位の下位。本来なら竜と呼ぶのもおこがましいほどの低級の竜種だ。ロンの様に長い時間修行を積み、己の霊核を極限まで上げたのなら話は別じゃが、あのモグラが果たして角を得るまでの竜になるとは思えないのじゃが?と言うとロンは煎餅を齧りながら

 

「我が孫を甘く見ないで貰おうかの?竜に転生して直ぐ竜へと変化した。才能があるや無いじゃない……あの子はきっと我が一族最強の竜へ至る。その為には横島殿の側にいるのが1番いいんじゃ、角が生えれば嫌でも連れ戻さなければいかん。その時までは共にいさせてやりたい」

 

本来竜ではない土竜が竜へ変化する、これは珍しいが0ではない。だが角が生えるかどうか、それが正式な竜へと至ったかの判断基準となる。ワシの知る限りではロンの一族でも角もちは僅かに5人……しかもそれが年老い既に全盛期から程遠い時期に角を得た。唯一若い時に角を得たのはロンだけの筈

 

「まぁそうなると良いのー」

 

「なるよ、ワシには確信がある。誰かを思う気持ちは何よりも強いんじゃよ」

 

その思う気持ちが恋なのか慕っているのか?そこが更に重要だと思うんじゃがなと思いながら、まだトリップしているヒャクメの頭に軽くチョップをする

 

「痛い!?な、なにするのねー!?」

 

「お前さん。清姫の監視はいいのかの?」

 

ずっと気になっていたことを尋ねてみるとヒャクメは心配ないのねーと胸を張りながら

 

「今日は竜神王の側近が迎えに来て出掛けているから心配ないのね!」

 

ヒャクメの話を聞いていると突然ファンファーレが部屋の中に響き渡る。その余りの音量に思わず耳をふさぐ

 

「な、なんなのねー!?あ、頭がガンガンするのねー!?」

 

「ぬう!?な、なんじゃこの騒音は!?」

 

身体のあちこちが調査器官のヒャクメと耳が良いロンが耳を押さえる中。ワシは懐に手を伸ばしその音源を取り出す

 

【おめでとーございます!プチトトカルチョの当選おめでとうございます!横島忠夫と1番最初にキスをしたのは小竜姫です!それでは配当金をどうぞー】

 

……ロンとヒャクメの刺す様な視線からそっと目を逸らす。なんと間の悪いタイミングで!?

 

「のお?自分の弟子を遊び道具にするのは正直どうかと思うんじゃが?」

 

「言ってやるなのねー、小竜姫に言ってやるのねー」

 

これは不味いのう……小竜姫にバラされたらトトカルチョに参加しているのもバレてしまう。なんとか口封じを……と考えているとジャラっとやたら重い金属音が上から聞こえた

 

「なん……じゃ!?」

 

顔を上げて驚愕した部屋に黒い穴が開いており、そこからジャラジャラと小判が擦れる音が響いていたのだ

 

「やばいのねー!逃げるのねー!!」

 

ヒャクメがそう叫んで逃げ出すが、もう遅かった……ジャラララララララッ!!!っと凄まじい音を立てて小判が雨のように降り注いだ

 

「「「あいだだだだ!?!?」」」

 

ワシとロンとヒャクメの悲鳴が重なる。1枚や2枚なら平気だが、これだけの枚数が降り注ぐと流石に痛い。小判が降り注いでいたのは数秒だったのだが、それがやけに長く感じた……小判が降り止んだ時、ロンもヒャクメもあっちこちたんこぶやら服も破けているのが見えている

 

「老師……」

 

「悟空……」

 

額に青筋を浮かべながら無言で手を差し出してくる2人にワシは溜息を吐きながら

 

「……これで内密に」

 

山のようになっている小判の一部を2人に譲り渡したのだった……なお後で数えてみたのだが、40枚賭けた小判は、その100倍の4000枚となっており……一体誰がどれだけ賭けそして破産したのか、それが激しく気になるのだった……

 

 

~魔界~

 

「どわああああああ!?!?」

 

「きゃあああああッ!?!?」

 

ドッパーンッ!!!と轟音を立ててワイの執務室の扉が吹き飛び、珍しくワイを訪ねて来ていたゴモリーと一緒に配当金であるとんでもない枚数の金貨の波に攫われてワイとゴモリーは4階のワイの執務室から1階のエントラスまで押し流されていた

 

「う、うわああああああ!?!?な、なんでこんな目にいいいい!?!?」

 

途中でジークが金貨の波に飲み込まれていたような……もし怪我をしていたらこの大量の配当金でお見舞いと治療費を見てやろう……ワイはそう思った

 

「あいたたた……もー痛いじゃない。サッちゃん、貴方何枚賭けたのよ?」

 

腰をさすりながら尋ねてくるゴモリーにワイは頬をかきながら

 

「金貨1万」

 

ワイの直感では小竜姫は超鉄板だった。絶対小竜姫ならやってくれるという確信があった

 

「……外れたらどうするつもりだったのよ?まさか魔界正規軍とかの運用費を使ってないでしょうね?」

 

ゴモリーが怪訝そうな顔で尋ねてくる。まぁ普通はそれを疑うやろな、でも違うんやな!これが!!

 

「大丈夫大丈夫。ワイの資産の黄金の鉱脈と銀の鉱脈の売り上げやから~♪」

 

未来の記憶であったまだ発掘されていない金鉱脈とかをポケットマネーで買収。そしてそれを仕事の無い若い魔族に発掘させる。魔界の雇用問題を解決し、更にたっぷりと資産を得る!完璧すぎるプランや

 

「ふーん。ま、別に私の言うことじゃないしね。で?今日の会談どうするつもりなのよ」

 

うーん……ゴモリーも忙しいところ尋ねて来てくれた。所がこの有様ではとても会談できるような雰囲気ではない

 

「うーむシャーない。オーディンの所行こか?」

 

ワイのところでは確実に会談なんて出来る雰囲気ではない。窓とかからも金貨が滝のように溢れてるし

 

「仕方ないわね。もうそれで行きましょ?」

 

溜息を吐いているゴモリーに悪いなあと謝りながら、近くの部下に金貨の回収を指示し使い魔を出して

 

「横領したら処刑やで?」

 

「はっ!了解しました!」

 

まぁうちの部下でそんな事をするやつはいないと思うけど、一応そう釘を刺してからワイはゴモリーと一緒にオーディンがいる魔界正規軍本部へと向かうのだった……

 

「……と言うわけなんや。どこか会議室貸してくれへん?」

 

事情を説明するとオーディンは眉を顰め溜息を吐きながら

 

「トトカルチョをやるなとは言わん。だがお前を護る場所を破壊してどうする?」

 

「あはははー今後の課題にしとくわー、ワイもまさかこんなことになるなんて思ってなかったし」

 

配当金を受け取るシステムを転移の応用にしたけど、まさかこんなことになるなんて思ってなかった。今後配当金の受け取りシステムの再構築はもっとも優先するべきことやな

 

「3階の会議室が開いている。少し広いが……まぁそこは我慢しろ」

 

オーディンの言葉におおきにと返事を返し、ワイはゴモリーと一緒に3階の会議室へ向かい

 

「くひ?誰だい?」

 

明らかに生活臭の凄い事になっている会議室できょとんとした顔で尋ねてくる少女にワイもゴモリーも声を揃えて

 

「「誰?」」

 

……見知らぬ銀髪の少女が3階会議室で暮らしていてお互いに誰?と尋ねるあうことになった……なおオーディンはと言うと

 

「オーディン様?」

 

「む?なんだ?」

 

「あのお忘れになられているかもしれないですが、未来視の能力を持つ人間を保護してるのが、3階の会議室ですが?」

 

「……大丈夫だ。問題ない」

 

「いやいや!?問題ありますって!?」

 

部下とそんな会話をしていたことをサッちゃんとゴモリーは知る由も無い……

 

「そっかー柩ちゃんって言うのねー♪可愛い可愛い」

 

「むー」

 

ゴモリーがえらい柩と名乗った少女を気に入り、膝の上に乗せて可愛い可愛いと連呼しながら頭を撫でている。柩って言うのは嫌そうにしてるけど、我慢したってやと手を合わせる

 

「それでなんで保護されてるんや?」

 

「未来視とか相手の考えを読めるからさ、未来予知で達磨にされて機械に組み込まれる未来を見たから逃げてるんだよ」

 

くひひっと笑う柩やけど、それは笑える問題ではない。しかしそれにしても未来予知の能力者か……それは稀少やなー

 

「1人で逃げてたの?凄いわねー♪」

 

「くひひ!違うよ。ボクには助けてくれる魔族がいてね「柩ー?そろそろ別の……さ、最高指導者!?う、うーん……」

 

会議室に入ってくるなりワイとゴモリーを見て引っくり返るメドーサ……

 

「あーボクの護衛が……」

 

どうしようか?とくひひっと笑ってる柩。ワイとゴモリーは顔を見合わせる。本当は会議したいところやったけど、彼女を護るのはこれから重要になってくるだろう。

 

「サッちゃん。私がこの子とメドーサを暫くの間預かるわ。私の宮殿なら高位魔族でも手出しできないし」

 

ゴモリーの宮殿は魔界でも特殊な場所にある。許可した者以外は見る事も触れることも出来ない、魔界の中でも稀少な鉱物で作られた宮殿は難攻不落の要塞となる。匿うならあれ以上に相応しい場所は無いわ

 

「そりゃありがたい。後で2人の生活費を部下に届けさせるわ、早いうちに隠れてくれへんかー?」

 

ええ、任せておいてと笑ったゴモリーは魔法陣で気絶しているメドーサを転移させ、自身の膝の上に抱えていた柩を下ろして

 

「直ぐに安全な場所に匿ってあげるわ。だから荷物を持ってきなさい?」

 

「なんか着せ替え人形にされて可愛がられる未来しか見えないけど、背に腹は変えられないかなー」

 

とぼとぼと歩いて行く柩を見ているとゴモリーはとても穏やかな顔で笑いながら

 

「今日会議に来て良かったわー」

 

ホクホク顔で笑っているゴモリーを見て、とぼとぼと荷物を片付けている柩を見てワイはご愁傷様と手を合わせずにはいられないのだった……なおゴモリーの趣味は可愛い服を作ることなのだが、長身美人の自分には似合わないと作ることしか出来ないでいた。そして柩はゴモリーの思う可愛いという要素を全て含んでいた、そんな柩がゴモリーの着せ替え人形にされ、娘のように可愛がられるのはある意味確定した未来だったのだと思う……

 

 

 

~天界~

 

「……破産しました……」

 

蛍さんに賭けたのですが、結果はまさかまさかの小竜姫の勝ち。なぜ……何故攻め込まなかったのか、乙女回路が邪魔をし

 

ているとしか思えない……しかし問題はそこではない

 

(こ、殺される……)

 

天界正規軍の予算を少し使い込んでしまった。私は絶対勝てると思っていたのでほんの少しだけ借りたのだが……まさか負けると思って居なかった……ブっちゃんが来る前に逃げないと……

 

「キーやん?どこに行くのですか?」

 

がっしりと肩を掴まれる。この声は……振り返るとにこにこと笑っているブッちゃん……だが笑っているのはその表情だけで目が全く笑っていない……

 

「怒っていますか?」

 

震えながら尋ねるとブッちゃんはハテ?と呟き首を傾げる。もしかして金貨を着服したのばれていない?と心の中で安堵の溜息を吐いていると

 

「はい。キーやん、これをどうぞ」

 

そう言って差し出されたのは封筒。ああ、今月の給料ですか……今月の給料から使ってしまった金貨を補充しておきましょう……そう思って給料明細をあける

 

「あ、そうそう今月からお金の単位が変わっていますので、まぁ微々たる物ですよ。では私はこれで」

 

そう言って部屋を出て行くブっちゃん。お金の単位が変わってる?はて?金貨なので単位とか変わるはずが無いのですが……首を傾げながら明細を見るといつもどおり0が7個……

 

「あ、あああああああ!?怒ってるじゃないですか!めちゃくちゃ怒ってるじゃないですかー!!!」

 

0は確かにいつも通り、0が7個……しかし最後についていた単位に私は絶望の嘆き声を上げた……何故ならば最後の単位は……

 

「なんで!なんでジンバブエドルなんですかー!?!?」

 

仮に0が7個ついていたとしても、ジンバブエドルではそれは紙くずと同じ単位。しかもご丁寧に

 

【暫く反省しなさい。キーやん。1ヶ月90円で生き延びるのですね。なに、その気になれば、絶食しても生きていけます。なお他の皆様にはお金を貸さないように言ってあるのでお金を貸して貰えると思わない事です】

 

「悪魔ぁーッ!!!!」

 

どうやって90円で生き延びろというのか、その絶望的とも言える1ヶ月と言う時間を想像し私は頭を抱えて絶叫してしまうのだった……だがここで私は諦めない

 

「次は……次こそは!絶対に的中させてみせる!!」

 

次回別件リポート 逆境無頼キーやん 始まりません

 

 

 

 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その3へ続く

 

次回は小竜姫に理由のある悲劇が襲い掛かります。蛍、おキヌちゃんがどう動くのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします




トトカルチョの結果発表はこんな風になっておりました。行き成りの配当金排出による悲劇が起きております

そしてカイジ的な状況になってしまったキーやん。これからざわ……ざわ……的な展開をたまーに入れて行こうと思うので

楽しみにしていてください


ではトトカルチョ参加に参加してくださり、見事的中した方のご紹介をしたいと思います

南風様・鳴神ソラ様・黄昏時様・アラッチ様・アラケン様・ライダーボーイ様・アークス様・春眠暁様・キルア0220様

おめでとうございます!そして参加していただきどうもありがとうございました!!

私に出来ることなんて殆ど無いのですが

今後本作品で出して欲しいキャラ 版権でもオリキャラでも可

こんな話が見たい、このキャラが活躍して欲しいと言うリクエスト

次回トトカルチョでこんなのを見たい

仮面ライダーウィスプで使用して欲しい眼魂。出して欲しい幽霊など

と言ったものをリクエストとしてお聞きしたと思います。活動報告か感想かメッセージにてリクエストを聞こうと思いますので、リクエストがありましたら活動報告か、メッセージにてよろしくお願いします

それでは次回のトトカルチョの開催予定は未定ですが、次の開催があればよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は修羅場っぽくなってしまった美神事務所と、GS試験会場にいるドクターカオス。それと言峰神父とカズマことビュレトとかの話にしていこうと思います。次回からGS試験の話に入っていこうと思います。
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その3

 

美神除霊事務所は異質な空気に満ちていた……その空気の発生源は言うまでも無い

 

「……」

 

「んっ……」

 

目を見開いて完全に硬直している横島と、そんな横島の顎を掴んで顔を上げさせて口付けをしている小竜姫。

 

【「「「……」」」】

 

そして目の前の光景を信じられず、何回も目を擦って天を仰いでいる蛍・おキヌ・シズク。あんぐりと口をあけて停止している美神……この沈黙は起爆するまでのほんの僅かな猶予。なにかきっかけがあれば完全に爆発する

 

【オーナー。この部屋の防御レベルを最大にしておきますね】

 

「あら……あら……少したきつけすぎましたね……」

 

渋鯖人工幽霊壱号とブリュンヒルデの言葉、これが起爆剤となった……なって……しまった

 

【「「何をするだァーッ!!!」」】

 

何故か何処かの田舎訛りが混じった、蛍達の絶叫が事務所の中に響くのだった……なお、おキヌ、蛍よりかは小さいがシズクの声もちゃんと混じっていたりするのだった……

 

 

 

蛍達の絶叫が事務所の中に響き、書類を納めている棚のガラスが粉砕された時。小竜姫もまた混乱の極みに陥っていた

 

(……え?)

 

横島さんの顔がとても近い、こうして見るとまつげが案外長いのと、意外と整った顔をしているなあと思う……しかしいつまでも現実逃避することが出来る人間……いや、小竜姫は神族ではなかった

 

(何故接吻をー!?)

 

どうして私が横島さんと接吻をしているのか判らない、ブリュンヒルデに接吻が挨拶と教わったが、私と横島さんはそんな挨拶をするほど親密な仲ではない、だから横島さんから飛び掛かって来たと一瞬思いたかった……だがッ!!!

 

(私が顎を掴んでるぅ!!)

 

これはどう考えても私が横島さんの顎を掴んで顔を上げさせて接吻したと言う証拠にしかならない

 

(なんでどうして!?えっ!?いやいや!?私そこまで横島さんを気にしてましたっけ!?)

 

声に出すこともできないと言うか、声を出すことが物理的に出来ない。こうして混乱している間も小竜姫と横島はキスを続けているのだから……

 

(最近夢に見ますけど!横島さんなら何とかしてくれるって思いましたけど!!!ってあれえ!?)

 

生真面目な小竜姫では考えれば考えるほどどつぼに嵌まって行く……そしてそれこそが、横島の顎を掴み、その唇を奪うことを選択した未来の小竜姫の作戦だった……

 

【全て私の計算通り……】

 

ニヤアっと悪い顔を浮かべているであろう未来の小竜姫は、混乱しきっている今の小竜姫の中で自分の計画が全て成功していることに笑みを零していた

 

【ブリュンヒルデ。貴女のおかげですよ】

 

くっくっくとまるで悪役のような感じで笑う未来の小竜姫。事実今の状況では100%の悪役である、ブリュンヒルデの言葉で今の小竜姫は僅かに焦ったそして、ほんの僅かだが嫉妬した。自分と同じような立場にあり、まだ会ってもいないと言うのに、自分の想いを押し通そうとするブリュンヒルデに……そして私が横島さんの師匠でもあるんだと言う優越感。そして決定打になったのは婚期と行き遅れの言葉。その結果、小竜姫は頭では認めていないが、横島への恋心の僅かに自覚した。その僅かな自覚で十分だったのだ、未来の小竜姫が今の小竜姫の身体を操るのに……

 

【これもあれも全部私がずっと干渉してきたからですね!】

 

寝ている時にずっと未来の横島の姿を見せ続けてきた。いつかだが、確実に横島が至る英雄としての姿を

 

【もっと自覚を促しましょう。そうすればもっと未来と現在は重なり合っていく】

 

いつか未来と現在の小竜姫が重なる。それは魔族よりになってしまった小竜姫と今の小竜姫を結びつけるが如く、反発しあっているそれを帳消しに出来るほどに強烈な感情。愛であり恋をすれば2人は完全に融合する……それを目的とした未来の小竜姫の策略に現在の小竜姫は完全に嵌ってしまったのだ……

 

【でも行き遅れと行かず後家はダメージ大きいです】

 

現在の小竜姫が少し動揺したブリュンヒルデの言葉は未来の小竜姫に対しての痛恨の一撃となっていたのだが、現在進行形で現在の小竜姫に生命の危機が迫っていたりする

 

【「「何をするだァーッ!!!」」】

 

私の耳に蛍さんたちの絶叫が響き渡る。それを聞いて我に返った私は咄嗟に後ずさり、自らの唇に手を当てる

 

(ああああー!!!か、感触が残ってるぅ!!)

 

こうして離れていてもまだ横島さんの唇の感触が私の唇に残っている、それに……

 

(力が抜けてる……ごっそりと……)

 

天竜姫様から預かった、天竜姫様の竜気を詰めた宝珠は完全に空になっているし、私の竜気も減っているのが判る

 

(横島さんは大丈夫……じゃない!!!)

 

竜気は人間には強すぎる力だ、横島さんが大丈夫かと思い顔を上げると

 

「ごぱあっ!?」

 

【「「横島ぁー!?」」】

 

目と鼻と耳から大量の鮮血をあふれ出しひっくり返る横島さん。そして蛍さん達の絶叫……

 

「あわわわわ!?私はなんて事を!?」

 

横島さんのバンダナに竜気を授けるつもりだったのに……直接。しかも口移しで竜気を授けてしまった……これは不味い……とても不味い……

 

(横島さんの霊体に確実に悪影響を与えてしまう!?)

 

今成長している段階の横島さんの霊体に確実に悪影響を与える。どうしようかと考えていると強烈な殺気を感じて

 

「はっ!?」

 

【クスクスクスクスクスクス……】

 

ギラリと光る包丁の刃。そして前髪で顔を隠し、クスクス笑っているおキヌさん……咄嗟に包丁を掴んだが

 

(こ、怖い!?めちゃくちゃ怖いです!老師!!)

 

武神としての自信が根こそぎ消え去ってしまいそうな恐怖。もういっその事逃げてしまいたいと思った

 

「……ショウリュウキサマ?チョットオハナシシマセンカ?」

 

か、肩が!?肩の骨が悲鳴を上げている!!!蛍さんの何の感情も込められていない平坦な声が死ぬほど恐ろしい

 

「少し焚きつけすぎたことは認めますが。貴女はやると思ってました、小竜姫。これで行き遅れの可能性が減りましたね」

 

にっこりと笑うブリュンヒルデを物凄く殴りたい!でもその前に私が殴られる!もしくは

 

【蛍ちゃん、角切り落としましょう】

 

「そうね、へし折りましょうか?」

 

竜神の命の角が折られる!!がしりと掴まれた左の角が軋んでる!

 

「止めて!止めてえ!角だけは本当に駄目ですって!出来ることならなんでもしますからぁ!」

 

もう竜神とか武神とか言うプライドは捨てた。これは本当に不味い、角が本気で折られかねない

 

【私の要求は処刑】

 

「とりあえず理由の説明を求めます、それで減罪可能か考えます」

 

おキヌさんは駄目だ!完全に正気じゃない!蛍さんは交渉の余地があると思うけど、選択肢を間違えたら終わる!そんな確信が私にあった

 

「……いや、そのですね。ついと言うか、事故と言うか……はい、ええ、私も接吻するつもりは無くてですね?」

 

【「じゃあなんでキスしたの?」】

 

私が知りたいです。いやまぁ横島さんに好意を持ちかけているのは認めますが、そんな行き成り接吻なんて、まずは恋文とかからじゃと言うと

 

【あの人ですね】

 

「ギリギリ減罪できるラインかもしれない」

 

え?あ、なんとか助かり……

 

「……蛍。おキヌ、小竜姫と天竜姫の竜気で横島のチャクラがやばい」

 

…………シズクの一言で蛍さんとおキヌさんの圧力が増した。2人の視線が私の角に集中しているのが判る

 

【「折ろう」】

 

声を揃えて言う2人に今度こそ角を折られると思った私は

 

「美神さん!修理費は払いますので!!」

 

生存本能に従い、私は窓ガラスを破って外へと逃げ出すのだった……

 

 

 

窓ガラスを破って逃げていった小竜姫。さて、残ってしまった私はどうしましょう?完全に帰るタイミングを逃してしまった

 

「……チャクラ云々は嘘なんだけどな」

 

【「「はい?」」】

 

蛍とおキヌと美神の驚愕の声が重なる中、シズク様は淡々と横島の血を拭いながら

 

「……お前ら私が何か忘れてないか?」

 

シズクは最上級の竜神……あ、私は何を言っているのか理解した

 

「既に横島には竜気に対する耐性があると言う事ですか?」

 

「……起きるのも寝るも同じ屋根の下だからな。もうとっくの昔に横島は竜気の耐性を持ってる」

 

ついでにタマモの強烈な妖気にも対応しているなと言って、横島の顔を血を全て拭い終わったシズクに

 

「どうしてあんなことを?」

 

あの一言であの2人が暴走すると判っていたのにそれを口にした理由は何ですか?と尋ねると

 

「……面白くなかった。それだけだ」

 

あらあら……これほど上位の竜族までも魅了するとは……思わず私は

 

「なんと罪深い人でしょうね。きっと他の神魔もまた想いを寄せる事になるでしょうね」

 

私の一言に事務所の中全員の視線が集中する。薮蛇でしたかね?と苦笑しながら

 

「心の美しさ、善も悪も抱え込む度量。ええ、生まれた時代を間違えたとしか思えないですね」

 

これが神代の時代に生まれていたら……ああ、でもそれだと更に大変なことになるかもしれないですねと苦笑しながら

 

「小竜姫の暴走の非礼をお詫びいます、イングズ・ゲーボ・マンナズ」

 

私が言葉を口にすると目の前に複雑な形状を組み合わせた、まるで記号のような炎で出来た文字が浮かび上がる

 

「ルーン魔術ね?何の意味が?」

 

下界で有名な退魔師とだけ有ってそれが直ぐルーン魔術と判ったようですが、それが何かは判らないようですね

 

「横島を想う、蛍、おキヌ、シズクに愛に満たされた、愛し、愛される、素晴らしい人間関係がありますように」

 

私の言葉を聞いてやっと笑顔を浮かべた蛍がにこりと笑いながら

 

「どうもありがとうございます?」

 

疑問系なのは効果が実感できないからでしょうね。まぁ直ぐに効果を発揮するようなルーン魔術ではないので、それは仕方の無いことですが……

 

「良い恋愛をするといいですね。そう、想い人から接吻される幸せを掴めると良いですね」

 

私の言葉にぼっと顔を紅くする蛍とおキヌに笑みを零す。確かに目の前で想い人の接吻を見るのは恋する乙女には辛いでしょう、ですが、想い人からされる接吻は自分からするよりも遥かに喜びが大きいものだ

 

「では美神。GS試験の時よろしくお願いします。私も参加するので、では御機嫌よう」

 

いつまでもここに居るわけには行かない、逃げてしまった小竜姫を捕まえないといけないし、それにGS試験会場の準備……あと

 

(こっそり私も対象に入れたのをばれても困りますしね)

 

事務所を出てからブリュンヒルデは小さく舌を出して笑い、小竜姫の竜気を頼りに街中を歩き出すのだった……

 

 

 

 

神魔から応援が来ると聞いておったが……

 

「のう?小竜姫に何があったんじゃ?それとお前さんは誰じゃ?」

 

GS試験会場に訪れた二人の神魔。1人はワシも知っておる小竜姫じゃが、もう1人は知らん

 

「ええ、ちょっと色々ありまして、小竜姫は少しポンコツになっていますが」

 

違う、違うんです。いえ、確かに横島さんの事は気になっていますけど……とトマトのような赤い顔をして、両手で顔を押さえている小竜姫を見て

 

(なにがあったんじゃろ?)

 

気にはなるが、聞いてしまうと大変な事になるとワシの直感が囁いているので聞かないことにした

 

「それとお忘れでしょうか?ドクターカオス?以前お会いしたと思うのですが?」

 

あった事がある?ハテ?誰じゃ?作業していた手を止めて考え込むと、軽い頭痛と共に小竜姫の隣の魔族の名前を思い出した

 

「ブリュンヒルデ?」

 

「はい。やっぱり覚えていてくれたのですね」

 

にこりと笑うブリュンヒルデに心の中で謝る。ブリュンヒルデの知っているワシと今のワシは違う。ワシは小僧のいた未来から来た存在で、ブリュンヒルデの事は記録として知っているが、それはワシの記憶ではない

 

(やはり逆行ではなく、似て非なる平行世界への転移じゃったか)

 

逆行したと言う印象ばかり強かったが、実は平行世界への転移だったのは?とワシは推察していた。そしてブリュンヒルデとの再会でその考えを強くした所で

 

「卓越したルーン魔術。期待しておるぞ」

 

「はい、任せてください」

 

ワシの記録ではブリュンヒルデは卓越したルーン魔術使いだ。ワシの錬金術で強化し仕掛けを施した会場をより強固な物にできるじゃろう

 

「マリアー!テレサー!少し戻ってくれー」

 

今まではマリアとテレサに指示を出して、会場を作っていた。そのおかげで外観的な物とワシの錬金術による強化は済ませたが、ここからは更に別のアプローチになってくる。1度建築計画の組みなおしと、顔合わせが必要だと思ったからだ

 

(ここでも1つワシの仮説を証明する証拠になるしの)

 

ワシの記録ではブリュンヒルデがワシを訪ねてきたのは、魔界正規軍が組みなおされオーディンがその指揮官になった時。ワシの開発した魔具を魔界正規軍の正式装備にしたいとオファーがあったと記録されている。無論今ではワシの開発した物は全て分析され、更に言えばそれを更に発展させた物が魔界正規軍の装備となっている。なんとも面白い話である。ワシではない、ワシが歩んだ歴史を唐突に教えられる。それはまるで新しい理論を知ったときの気分に似ている

 

「カオスー?どうしたのー?」

 

「ドクターカオス?私とテレサは何か間違えましたか?」

 

両腕に建築用のアタッチメントを装備したマリアとテレサが戻ってきて、マリアがブリュンヒルデを見た瞬間。一瞬目を閉じて

 

「再会できて嬉しいです。ミス・ブリュンヒルデ」

 

「はい、私もです。マリア」

 

ぐっと握手する2人を見て、仮説は確信に変わった。ワシにもマリアとブリュンヒルデが仲良く話をしている映像を唐突に思い出したからだ

 

(ふむ、似て非なる平行世界、そしてその場所で関わりのある存在になると、思い出す記憶……)

 

恐らくそれはお互いの記憶違いを修正する為の世界の修正力なのだろう。となるとやはりこの世界は……ワシやルシオラのお嬢ちゃんが居た世界ではないと言うことになる、アシュは世界線の揺らぎと言っていた。それもあるだろうが、似て非なる平行世界であり、その世界の世界線が乱れている。それがこの世界の正体と……

 

「カオスー!おーいカオス!!」

 

「うお!?なんじゃ!?」

 

耳元でテレサに声を掛けられ、思わず驚きながら立ち上がると

 

「カオス、ここの所働きぱなしだろ?今私が呼んでも反応無かったし」

 

そんなに考え込んでいたんじゃな……別に実感している疲れがあるわけじゃないんだが……

 

「ドクターカオス。ここは私とマリアとテレサに任せて少し休んでください、ここで交代としましょう」

 

うーむ……いや、しかしなあ。まだ仕掛けが全部完成しているわけではないので、ここで休むわけには……

 

「ドクターカオス、今日で4日目の徹夜です。そろそろ休んでください」

 

4日!?早く寝ろ!カオス!とテレサに担ぎ上げられ、休憩所に抵抗することも出来ず、押し込められた。しかも外から鍵を掛けて1日出る事が出来ないと言う徹底ぷり……ここに風呂とトイレとキッチンがあるのでここで暮らすことが出来るという判断なんじゃろうが、いささか過激じゃな……

 

(成長したのう……)

 

ずっと会場の作成をしていたテレサ。時々ワシの様子を見に来ていたマリア。ワシが徹夜している事を初めて知ってからの行動は早かった。父親思いの娘と言う感じでその成長具合がとても嬉しく思う、こんな爺じゃがなと苦笑しながら

 

「さてと……少しばかり話をしようかの?」

 

「ええ、そうですね。ドクターカオス」

 

にこりと笑い椅子に座ったのは護衛として残された小竜姫。だがさっきまでの恥じらいの仕草は無く、勝ち誇ったような笑みを浮かべていて

 

「ワシと同じ時代を知る小竜姫よ。この世界が逆行だけで出来た世界ではないと言うワシの考えを聞いてくれるかの?」

 

「ええ、私も色々考えましたし。1度ここで情報を整理しましょうか」

 

逆行逆行といつまでも思い込んでいては、いつか足を掬われる。それは今回のGS試験でも判っていた……だから1度情報を整理する必要がある。出来ることならばアシュタロスも交えたかったが、贅沢も言ってられない。

 

「ではまずは私から神界の情勢ですが……」

 

こうしてカオスと小竜姫は時間の許す限り、お互いの考えを話し合い、この世界についてのお互いの見解を交換し合うのだった……

 

 

 

 

「止まりたまえ、魔神よ」

 

琉璃と言う人間に教えてもらった病室に入ろうとすると背後から呼び止められた

 

(俺が気付かなかった……か)

 

振り返るとカソックに身を包んだ屈強な体格をした男がこっちを見つめていた。完全に気配を消してこの場所に溶け込んでいた事に少しだけ驚く。人間でここまでやれる男が居るとはと正直賞賛した。そしてその神父としての才能の高さもまた賞賛に値した

 

「驚いたな。人間に完全に化けていると思ったんだが」

 

「教会からは追放されたが、私は今もまだ求道を続けている、人と人なざる物を見分けることなど造作もない」

 

ダンっと鋭い踏み込みの音を立てて拳を構える男は

 

「東條修二は命を賭け、私達に情報を与えた。今もまだ昏睡しているが、私には彼を護る義務がある。名を問おう、魔神よ」

 

こりゃやべえな……真面目に事を構えたら相打ちになりかねん……その身に纏う霊力のなんと澄んだ事か。どれほどの修行を積み、己を律してきたかその全てがその拳から、その構えから伝わってくる

 

「ソロモン72柱ビュレト。かつての友を止める為に神と人と協力することを決めた。俺は敵ではない、構えをどうかといてくれないか?」

 

強き者には礼節を伴った態度を、それが俺の絶対的なルール。その強さは身体の強さではない、心の強さだ。人間は弱い、だがその心のあり方は賞賛に値し、そして礼節を尽くすだけの価値がある

 

「……無礼を謝罪する、ビュレト。小竜姫様とブリュンヒルデに聞いていたが、少しばかり気が立っていたようだ」

 

構えを解き頭を下げる男。だがその目に油断は無く隙あれば、俺が攻撃しようとすれば打ち抜くと言う強い意志を感じさせた

 

「いや、俺こそ1人で来るべきではなかった。いらぬ警戒を持たせたことを謝罪しよう。すまなかった」

 

護衛が付いていることを考え、やはり案内を頼むべきだったと少しだけ後悔する

 

「東條修二に会いに来たのは分かるが、面会謝絶だ。霊力の枯渇、山を駆け下りたことによる手足の筋肉の断裂、更に裂傷が腐敗し始めている、どうも追っていた魔族の呪いだな」

 

「ああ、それなら分かる。ガープの常套手段だ。肉を腐らせるのはあいつがもっとも得意とする呪いだ」

 

あいつは状況次第では逃げることを恥じない、逃げても良い、次に勝てば良いというのがあいつの戦術でもある。無論心を狂わせ、相手の知識を奪い反撃を一切許さず、魔術による制圧戦も得意とするが、それ以上に1度戦い、相手に呪いをかけて逃げるということも平然と行う。負けるのは良い、死ななければ次がある。ならその次に生かすために相手の戦力を奪う

 

(ほんとむかつくぐらい冷静な奴だ)

 

それで居て科学者としても優秀と来た。味方なら頼もしいが、敵に回せばあれほどうっとうしい相手もいないだろう

 

「あいつの呪いは知っている。俺に任せてくれないか?」

 

「私も付き添うがよろしいか?」

 

ああ、それでかまわないと返事を返し、俺は目の前の男と共に病室の中に足を踏み入れた。肉の腐る匂いと苦痛に呻く男の声。様子を見て最悪の段階まで進んでいないことを確認し安堵の溜息を吐く

 

「これなら間に合う。あと1日遅かったらやばかったな」

 

腐敗の次は霊体の破壊を含む壊死になる。本当に不味い状況だったな、と思いながらジャケットの中から薬のビンを取り出して口に含ませる。すると淡い光が男を包み込んだ

 

「あとは霊体の回復をさせれば時間と共に回復するだろう。誰か優秀な霊体治療の知識を持つ者を派遣してくれれば良い」

 

「その必要は無い」

 

カソックの男の手が光り、治療を始めるのを見て驚いた。俺でさえ相打ちになるかもしれないと思う程の徒手空拳の力量に治療までこなすとは……

 

「優秀な男だな、お前は」

 

正直に賞賛する、戦いだけではなく治療も行える。見ているだけでも分かるが、この男の治療はかなりレベルが高い、もしかすると手足の切断も繋ぐことが出来るかもしれない

 

(これだけの男を追放するとはな)

 

この手の男は周りから疎まれ、自分の場所を失ったのだろう。それでもまだ神を信じる、この男の信心深さ……本当に素晴らしい宗教家だったのだろう

 

「これで一先ずいいだろう。呪いの解呪感謝する」

 

病室を出て頭を下げる男にいや、遅くなってすまない、もう少し速ければあそこまで弱ることは無かっただろうと呟き

 

「GS試験の前に会いに来る。意識が戻っていれば少し話を聞かせて欲しい」

 

ガープのやつが何を考えているか、それを知るためにはあの男から、ガープが何をやっているのか?それを直接聞きたかったんだがな

 

「ふむ。では起きたのならば、神代琉璃に連絡し、ビュレトに連絡が行くように頼んでおこう」

 

「そりゃ助かる。えー「言峰綺礼だ」おう、サンキュー綺礼」

 

腕を組んで再び気配を消して護衛に戻る綺礼に苦笑しながら病院を出て、空を見上げるどこまでも青く澄んでいる空……

 

「これからの波乱の予兆か?」

 

最近幽霊の姿が見えない、ガープの魔力を恐れて隠れているのだろう。きっと今の状況は嵐の前の静けさと言う奴だろう

 

「まあ何にせよだ。お前らは止める、んで……その後ろのやつもとっ捕まえてやる」

 

魔界統一戦の時。アスモデウスとガープが単独で行動しているのを何度か見た、それからだ。2人の中で何かが変わったのは……アスモデウスとガープの後ろには誰かいる……それも並じゃない奴が……俺は決意を新たにその場を後にするのだった……

 

 

 

ガープと協力し、その計画を知ろうとしていたアシュタロスだったが、GS試験を前にした今日。ガープからの信じられない言葉を聞いて絶句していた

 

「撤収!?ここまでして撤収するというのか!?」

 

聞き違いだといってくれと言う願いを込めてそう尋ねるが、ガープは平然とした顔で

 

「ああ。もうやることは済んだ。魔装術を教えた人間が3人、1人はもう狂っているが、それでいい」

 

これは正直予想外だった。GS試験の時に何かを考えて動くと思っていたのに撤収するなんて

 

「GS試験に私の手の掛かった者が出るという情報を持った人間を逃がした、これで神魔の動きを見ることが出来る。GS試験自体には興味は無い、ああ、全く持って興味が無い。だが動くかもしれないとなれば神魔は焦る、人間も焦る。その隙を作り出したいだけだったからな、最後の最後の仕上げに少しだけ動くだけだ、あいつらは勝手に動いてくれればいい」

 

もう興味が無いのか、魔術で眠らせていた白竜会の人間を一瞥することも無く、自らの設備を片付けるガープを呆然と見ていると

 

「ああ。お前の助けも実に助かったよ。これで分析が進む、私達の目的を叶える為にな」

 

協力すると行って来たが、私がしたのは魔界と天界の禁書の封印の解除。先日やっと一番強固な結界を解除することが出来、これでガープ達の目的が分かると思っていたのに……正直この展開は予想外にもほどがある

 

「とはいえ、それは日本での話、香港で少し手伝って欲しいことがある」

 

香港と聞いて脳裏に過ぎったのは原始風水盤の事。これはメドーサが実行していたが……まさか

 

「原始風水盤を設置する。とはいえ魔界を呼び出すためじゃない、門を作り出すためだ」

 

私の予想通り原始風水盤を設置すると言うガープだったが、魔界ではなく門を作り出すためと聞いて何を考えているのか判らなくなった。門?何を呼び出す為の門だというのか?

 

「門?何をするつもりなんだ?」

 

天災だということは自覚している、だが私には全くガープの考えを読むことが出来ず、何をするのか?と尋ねるとガープがくっくっと笑いながら

 

「なんせ私の考えている事を実行するには時間が掛かる。目くらましになり、なおかつ神魔に被害を与える隠れ蓑が必要だ。それはお前も同じだろう?アシュタロス。究極の魔体を作るには時間が必要なはずだ」

 

私も本気で動いているという証明の為に究極の魔体のサンプルを見せた。無論本気で完成させるつもりは無いが、信じてもらうには必要な手段だった

 

「ああ。それはそうだが……いい加減何をするつもりなのか教えてくれ、原始風水盤を使うことに何の意味がある?」

 

魔界を呼び出すためじゃない、じゃあ何のために原始風水盤を使うのか?と尋ねるとガープが

 

「香港には原初の魔人と鮮血の魔人が封じられている。その2柱を解放すればおのずと他の魔人の封印も解かれる、あいつらの考えている事は判らんが、人間・神・悪魔その全てに敵対する存在だ。開放するだけで時間稼ぎになる……そしてその間に私の研究は完成するのだよ」

 

くっくっくと笑ったガープはずっと大事に持っていたアタッシュケースを開き、その中身を私に見せた。一見ガラクタに見える数多の道具の中。唯一まだ黄金の輝きを放っている欠片。それを見て私にはそれが何か判った。分かってしまった……

 

「ば、馬鹿な!?なぜそれがここに!?」

 

それはもはや存在するはずも無き物、あってはならない物……私の中で憎悪が脈打つのが分かる。

 

「天舟アマンナの欠片。これを手にするのに相当苦労した、だがそれだけではないぞ?かのジャンヌダルクの旗の一部、一番最初に脱皮した蛇の抜け殻……伝説、神話の中に出てきた数多の聖遺物の数々」

 

アタッシュケースを閉じたガープはそれを魔術で消し去り

 

「これがヒントだ。あとは自分でたどり着け、さ、香港に行くぞ。GS試験本選まで日本に用はない。外でビフロンスが馬車を用意している」

 

言うだけ言って出て行くガープの背中を見て、なんとしてもガープの目的を知ると心に決め、ガープの後を追って歩き出すのだった……

 

(聖遺物……なにをするつもりなんだ……)

 

それ自体は何の力も無い物、神魔としても価値のない物、精々コレクション程度の価値しかない。だがそれをあれだけ集めた以上何か目的があるはず……

 

「一体何を考えているんだ……」

 

ガープの考えが全く読めない。それではここに来た意味が無い、なんとしてもガープの目的を知らなければ……

 

 

そして様々な陣営の考えが入り混じる中、GS試験予選当日を迎えるのだった……

 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その4

 

 

 




次回からGS試験予選となります。キスされた横島の件は次回の持越しです、色々とありますしね

そして最後のガープが持っていた数多の聖遺物まぁね?あれですよね。第二部で使おうとか思ってるキャラの布石ですね

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回からGS試験予選の話に入っていこうと思います。GS試験に参加する面子は少し変わっていますが、おおむね原作通りで行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その4

 

GS試験への出場が決まり、美神さんの事務所から帰った俺はそのまま自分の部屋に戻りベッドに寝転んだ

 

(すげー気まずい)

 

キッチンから聞こえてくる調理する音。一緒に帰ってきたシズクと蛍が料理を用意してくれている……だがそれが更に俺に気まずさを感じさせる

 

(なんでやん……モテ期か?俺にモテ期が来たのか?)

 

小竜姫様の事は嫌いじゃなかった、美人だし、厳しいけど優しいし、俺に霊力の事を教えてくれたし……でもまさか行き成りキスをされると思ってなかった。どうして?何故キスされたのか?そればかりを考えてしまう

 

(小竜姫様が俺を好きって言うのは無いよな。うん、それは間違いない)

 

大体神様が俺みたいな凡人を好きな訳無いよなー。うんうん、ナイナイ……きっとあのキスは俺に竜気を与える儀式かなんかだったんだ。きっとそうに違いない

 

「とは言えなぁ……」

 

天井を見つめてぼんやりと呟く、蛍の前で小竜姫様とキスしてしまった。蛍が俺の事をどう思っているのか?それを思うとなんか怖くなって部屋を出る事が出来ない

 

(蛍に嫌われてたらどうしよう……)

 

そう思うと怖くなって部屋を出る事が出来ない。でもずっと部屋に居るわけには行かないしなぁ……昼飯もまだだから正直腹が減った……うーむ、どうしようか……飯は食いたい、でも蛍と顔を見合わせるのは怖い。

 

(料理してくれてるから、最悪の展開にはならないと思うけど)

 

嫌っていたら俺の家には来ないよな……じゃあそんなに嫌われてない?もしくは気にしていない?普段ならここで前向きになって蛍の前に行く事が出来るが……うーん……どうしようかと悩んでいると

 

「みーむ!みー!」

 

「うーきゅーうきゅきゅ!」

 

コツンコツンと扉を叩く音とチビとモグラちゃんの声が聞こえてくる。

 

【主殿ー主殿ー、蛍殿とシズク殿が昼食だと呼んでますよー】

 

牛若丸の声までも聞こえてきた、いつの間にか主殿ーって呼び方にも慣れてきたなあと苦笑しながら扉を開けて

 

「チビがやったのか?」

 

「みむう♪」

 

モグラちゃんの背中に紐が通っていて、それに括り付けられている牛若丸眼魂。そして凄いでしょ!と言わんばかりに胸を張っているチビ。確かに凄い、確かに凄い。正直感心してしまうほどに見事な……

 

(すげえ見事な蝶結び)

 

リボンのように大きな蝶結びになっていて、あの短い指でどうやって結んだのかがとても気になる。まぁTVを解体するくらいの器用さがあるのは知っているので、これくらいは楽勝なのかもしれないなあ

 

(さて……覚悟を決める時が来たか)

 

もっと心構えをしたかったが、呼びに来たのを無視するわけにもいかない。俺は覚悟を決めてリビングに向かったのだが

 

「あ、来た来た。ほら、早く座って座って、百合子さんがお昼に肉じゃがと味噌汁を用意してくれてたんだけど、すっごく美味しいのよ」

 

「……これには正直負けたな」

 

あれぇ?なんかめちゃくちゃ上機嫌の蛍とシズクに出迎えられ、差し出された茶碗を受け取りながら

 

(そんなに気にしてないみたいで良かった)

 

あの様子を見る限りでは2人とも小竜姫様とキスしたことはそんなに気にしてないのかな?

 

(だよな。うん、やっぱり間違いないよな)

 

小竜姫様が俺を好きでキスしたなんてありえないって判ってるからこそのこの反応なんだよな。うんうん、と1人で頷きながら味噌汁を口にするのだった。懐かしいお袋の味を楽しむのだった……

 

なお横島は全く気付いていないが……笑っている……ように見える蛍とシズクの目は全く笑っておらず

 

((角へし折ってやる))

 

今も逃亡を続けているであろう小竜姫の角を折ってやると言う、どす黒い殺意を胸の中に抱えつつ

 

((そしてなんとしても……次のキスは私が!))

 

ブリュンヒルデに想い人に口付けされる幸せは何にも勝るといわれたが、それでも目の前でキスされたと言う事実を変える事は出来ない。だから次のキスは必ず自分がと言う決意を固めているのだった……それを当然知らない横島は能天気に笑いながら食事を楽しんでいるのだった……

 

 

 

 

GS試験予選当日。ついに待ちに待ったこの日が来た……ネクタイをしっかりと締めて、荷物を纏めた鞄を抱えて部屋を出る

 

「お兄ちゃん。スーツあんまり似合ってないね」

 

教会の中の掃除をしていたシルフィーが笑いながらからかってくる。なので軽く頭にチョップを叩き込む

 

「あいたあ!?なんで殴るかなあ!」

 

ぶつぶつ文句を言うシルフィーはそのまま掃除を再開しながら

 

「落ちろ。すべろ。ついでにはげろ」

 

「シルフィー!!!お前ぼくに何か恨みでもあるのか!?」

 

ぶつぶつと恨み言を口にしているシルフィーにそう怒鳴ると

 

「いっつも!私が横島君の血を吸おうとすると邪魔するじゃない!だから落ちてよ!」

 

「逆恨みにもほどがあるだろう!?横島さんの迷惑を考えろよ!?」

 

なんで今日はGS試験の本番だと言うのに、朝からこんなに疲れないといけないんだ!?

 

「ピート君?もう出発したんじゃなかったのかい?こんなにのんびりしているとGS試験の受付に遅れるよ?」

 

先生が来てそう呟く、慌てて時計を見ると確かにこのままではGS試験の受付に遅れる!?

 

「ああー!!もう時間に余裕を持っていたのに!!時間ギリギリじゃないか!?」

 

これもあれもシルフィーのせいだ!とは言え恨み言を言ってる時間は無い、むしろそれだけの間シルフィーと口論していた僕が悪いのだから

 

「先生!行ってきます!!」

 

「ああ!気をつけて!応援には行けないが、君ならきっと大丈夫だ!全力を出してきたまえ!」

 

「私は後で行けたら応援に行くからねー♪予選敗退とかしてないでよー?お兄ちゃんこういうのに弱いんだから」

 

不吉なことを言うシルフィーにうるさいと叫び、僕は慌ててGS試験会場に向かうのだった……

 

「はぁーはぁ……ぎ、ギリギリ……わき腹痛い……」

 

半吸血鬼の力をフルに使いここまで全力で走ってきた。軽くランニングして身体を温めるつもりだったのに、なんでこんなギリギリの状態になっているんだろうか……

 

「良い?横島君。蛍ちゃん、今回のGS試験の受講生は1852名。合格者枠は37名……普段より少し合格人数は多いけど、そもそも定員割れを毎回当たり前のようにするわ。だから37名合格でも、37人も残れるかって言うのが最初の関門ね」

 

美神さんと横島さん達が話しているのを見つけて安堵の溜息を吐く、なんせ参加者がかなり多いので知り合いと戦う可能性があるとしても、知り合いが居るというのは非常に心強い。出来れば試合で当りたくないなあと思いながら、深呼吸を繰り返して呼吸を整えていると

 

「っとと!!」

 

後ろからドンっとぶつかられ振り返ると、黒い胴着を身に纏った、目に傷を負った悪い男がぶつかって来たようだ

 

「……」

 

「なにか言うことは無いんですか?」

 

無言でこっちを見つめている男にそう尋ねる。周りに誰も居ないのだからわざとぶつかりに来たことは判っている……だがこんな所で乱闘をして出場資格を取り上げられても困る。だから一言何か言ってくれれば良いと思っていたんだけど全く反応が無いところか、僕を見てすらも居ない……その様子を見るとどこか調子が悪いのでは?と心配になってきた。

 

「大丈夫ですか?どこか調子でも……「あら?ごめんなさいね?ちょっとこの子緊張してるみたいなのよ」!?」

 

女口調だがその体格は僕よりも遥かに大きい巨漢が割り込んで、その男を自分の背中で隠し

 

「同じ門下生として謝るわ、ごめんなさい」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。ええ、気にしないでください」

 

ずいっと近寄ってきた巨漢のおかまが恐ろしく、一歩後ずさるとその男は人の良い顔で笑いながら

 

「お互いにGS試験を頑張りましょうね?ほら、行くわよ。陰念」

 

「こくり……」

 

並んで歩き去っていく男。その先には小柄で目付きの悪い男が居た、特に何かされたわけではないので、そのまま見送ったのだが、さっきの無言の男がどうしても気になる。妙な気配を感じたんですが……なんだったんだろう?と首をかしげていると

 

「んー?お!ピート!お前も来たのかー!遅いから受けないのかと思ったぞ」

 

横島さんが僕を見つけて声を掛けてくる。さっきの男の事も気になるが、今は目の前の問題に集中しよう

 

「すいません、ちょっとシルフィーの事で問題がありまして」

 

シルフィーの名前を聞くと露骨に嫌そうな顔をする横島さんにすいませんと謝っていると

 

「横島さーん!ワシじゃアアー!!「……やかましい」のおおおおッ!?」

 

突進してきたタイガーさんに向かってシズクさんの水の鞭が唸りひっくり返す、僕と横島さんの目の前をずしゃーっと滑っていったタイガーさんがゴミ箱と衝突して目を回している

 

「あいつさ?本当不幸だよな」

 

割と高校でも顔を見合せますが……転んだり、教師に面倒毎を押し付けられたり正直中々不幸だと思う。横島さんの言葉に頷きながら

 

「ええ。確かにそう思います。ちょっとひどいですよね」」

 

あそこまで酷い目に合うのは何か理由があるような気がする。横島さんもそう思ったのか

 

「今度唐巣神父に相談してやれよ。なんか見てて不憫だ」

 

このGS試験が終わったら1度先生に紹介してみますね?と返事を返し、目を回しているタイガーさんのほうに向かうのだった……

 

 

 

目を回しているタイガーをピートと横島君が起そうとしているのだが反応が無い。友達が心配なのはわかるけど、いつまでもそうしていたんじゃ話したい事も話せないので

 

「横島君。タイガーが気になるのは判るけど、今は自分の事に集中しなさい。蛍ちゃん。それとピートも話を聞くなら聞いておきなさい、GS試験を受けた先輩の言葉よ。ま、後でタイガーにも伝えておいてくれればいいから」

 

今回はソロモンが動く可能性が高いと聞いている。横島君に話せば動揺するので話してはいないが、それは仕方ない無いことだろう。私だって身体が堅くなるのを実感しているのだから、横島君なら更に硬直してしまうだろう……蛍ちゃんもそうだが、2人には自分達の身は自分達で護らせないといけない。だから出来る限り、私の経験した時のGS試験の話を出来るだけしておこうと思った

 

「いい、午前中の審査で128名まで絞り込まれるわ、今回の参加者が1852名だから残るのは1割ほどね。出来れば皆残って欲しいけど、こればかりはどうなるか判らないから」

 

これは正直嘘だ。出来れば皆落ちてくれたほうが安全だからと思っている、だって今でも今回のGS試験に参加させるのは反対しているのだから

 

「えーと美神さん、最初の審査って何が?」

 

蛍ちゃんが手を上げて尋ねてくる。最初の審査かぁ……これも毎回変わるから確かなことは言えないけど

 

「霊力がある程度放出できるか?ってのが最初の審査になるわね。堅くなると霊力の放出が弱くなるからリラックスすることを心がけなさい」

 

霊力は魂の力だから、自分の精神状態にかなり影響されるからねと付け加える

 

「あ、それと今回は霊具の持込みが最大3つになってるわ。後精霊石は第1試験合格後に1つ支給されるわ、これは霊具の数にカウントされない護身用の物だから、間違っても攻撃に使わないようにしなさい」

 

これは受験生の霊具の扱いを見ると言う名目にしているが、その本当の目的は受験生を護るための物だ。だから試合に参加する受験生には今回は精霊石が貸し出されることになっている。無論それは攻撃用ではなく護身用なので、攻撃に使用することは禁止されている。別口で持ち込めば、持込霊具として数えられるのでそのルールは適応外になるので蛍ちゃんと横島君には貸し出しの物ではなく、私が買って置いたものと琉璃から貸し出される物の2つが支給されるはずだ

 

「えーと美神さん。俺は他の霊具ってどうすれば良いですか?神通棍とかは碌に使えないですし、陰陽術の札を持って行けば良いですか?」

 

横島君がそう質問してくる。確かに今横島君が使える力を考えると一番陰陽術がGS試験に適していると思うけど……

 

「陰陽術はできれば使わないでおきなさい。他に使える人が少ないから目を付けられることになるわ、あ、別に敵対されるって訳じゃないわよ?スカウトとか引き抜きが激しくなるから止めておきなさいって言ってるだけよ?」

 

でも危ないと思ったら使うべきだからそれも持っておいたほうが良いわねと付け加える。スカウトは私が居るから成功するわけが無いし、させるつもりも勿論無い。後は……横島君の耳元に口を寄せて

 

(眼魂は持っておきなさい。お守りとしてね、それなら違反に引っかからないから)

 

牛若丸のアドバイスを受験生同士の試合になったら聞いておきなさい、牛若丸は戦の天才だからね。頼りになるわよとアドバイスする。眼魂は横島君しかもっていないのだから、見た目は本当に玩具みたいなので、それをパッと見で霊具と思うことは難しい、違反すれすれになると思うけど、横島君の経験の無さを考えるとこれくらいの裏技は必要だろう。うっすっと返事を返す横島君に、持って行く霊具として結界札と防御札。それと保険の為の無地のお札にしておきなさいとアドバイスする

 

「さてとじゃあ私は琉璃と打ち合わせがあるから、あとは頑張りなさい」

 

「……頑張れ横島。危険だと思ったら棄権すれば良いからな?」

 

……この態度の差はなんだろうか?どうしてこうもシズクは横島君に異様に優しいのだろう?私には随分と辛辣な反応をしてくるのは、単純に嫌われているだけのような気がしてきた……はいっと力強く返事をする横島君達にもう1度頑張ってねと声を掛けて関係者の入り口から入る。付いてきたチビ達は残念だけど、横島君と一緒にするわけには行かないので

 

【じゃチビちゃん達行きますよー?観客席で応援しましょうねー】

 

おキヌちゃんに面倒を見てもらう事にした。琉璃とかの近くに居れば安全だろうし、私が側に居る時は私が面倒を見てあげれば良いしねと思って通路を歩いてると

 

「あら?美神令子。久しぶりですわね」

 

関係者の部屋の方向からくえすが歩いてきて、いつもと同じ不敵な笑みを浮かべて話しかけてくる

 

「くえす?なんであんたが」

 

無視されると思っていたけど、話しかけられたことに少し驚く。くえすって社交性本当に最悪だから、挨拶されただけでも結構驚いた。それに琉璃には呼ぶとは聞いていたけど、くえすの事だから自分になにかメリットがあるわけじゃないので、多分断るんじゃ?と思っていたので正直少し予想外だ

 

「私には私の目的がある。それだけですわ、では御機嫌よう」

 

髪を翻し歩いて行くくえす。目的がある……くえすが目を付けるような若いGSは居ないだろうし、かと言って自分を危険視しているGS協会の役員が多いここに来るだけの価値がある何かがくえすの目的だと思うけど……何を目的としているのだろうか?なんか霊感が囁いているのよね。何か嫌な事が起きるかもって

 

【美神さん、琉璃さんが呼んでますよ?】

 

おキヌちゃんに声を掛けられ、我に返ると確かに琉璃が私を呼ぶ声が聞こえる

 

「今行くわー」

 

考え事はとりあえず後回し、今は琉璃と打ち合わせに集中するべきだと判断して、早歩きで琉璃が呼ぶ部屋へと向かうのだった……

 

 

 

 

「うー終わったー」

 

私はAグループだったので横島と別口で試験を受けた。まぁ結果は言うまでも無く一発合格だ。もちろん他の受験生の霊力に合わせているのでまだ全然余裕はある。ここで横島の応援をしていようと考えていると目の前にジュースの缶を差し出される。誰だろう?と思い顔を上げると

 

「お疲れ様でした」

 

人間に化けているブリュンヒルデさんが居て、差し出されたジュースを受け取りながら

 

「ブリュ……こほん聖奈さんもお疲れ様でした」

 

ブリュンヒルデと言い掛けて、小さく咳払いして訂正する。聖奈さんはにこりと笑いながら私の隣に腰掛ける。参加すると聞いていたけど、同じグループで正直驚いた。この人も自分の力を完全に隠して楽勝で合格していたけど、魔界正規軍副指令と言う立場を考えれば落ちる訳が無い。むしろ落ちたらよほど手抜きをしているとしか思えない

 

「蛍はまだ余裕そうですね?」

 

笑ってはいるけど明らかに観察するような視線だ。あんまりこういう視線は好きじゃないんだけどなあ

 

「ええ、手の内は隠したいですからね」

 

私は霊力の扱いには当然の事だけど自信がある。もちこむ霊具も神通棍と破魔札にした、まだ1つ空きがあるので状況次第で霊具を追加出来るように2つまで持ち込むことにした、そしてGS試験ではあくまでオーソドックスな除霊スタイルを貫こうと決めていた。だってまだ美神さんにも幻術などが使えるとは話していないので、美神さんと同じスタイルの除霊を得意としていると思わせたほうが良いと思ったからだ。これから何が起きるか判らないのだから、味方にも自分の出来ることは極力伏せたほうが良いと思ったからだ、あの紅い石の存在を知ってからその考えはより強くなっている、味方が敵になる可能性があるのだから、自分の手の内は出来る限り隠しておきたいから……

 

「あ、横島が出てきましたね。蛍、横島の霊力の扱いはどうなんですか?貴方と同じレベルなのですか?」

 

試験会場に出てきた横島を見てそう尋ねてくる聖奈さん

 

「うーん、爆発力はあるんですけどねー。霊力の扱いは今一って所ですね」

 

横島の爆発力はきっと私よりも上だろう、だけどそれを使いこなすには経験も修行も足りていない。なんとか合格する程度の霊力を放出してくれれば良いんだけど……

 

「まぁそれはその通りでしょうね、こうして見ても判ります。素晴らしい潜在霊力の持ち主ですから」

 

神魔には判るみたいね。横島がその身に宿している莫大な霊力の存在に……とは言え、いくら莫大な霊力があったとしてもそれを使うことが出来ないのではあんまり意味は無いけれど……

 

『では審査を開始する、そこのラインの上に立って霊力を放出するように』

 

審査官の声が響いて受験生が霊力の放出を始めるけど横島は

 

「ぬああああああ!!」

 

頑張って霊力を放出しているようだけど、こうして見ていても判る明らかに出力が弱い

 

「うーん。これだと落ちてしまうかもしれないですね」

 

聖奈さんが困りますわと呟く、うーんでもここで落ちたほうが横島の為には良いかもしれないと思っていると、横島の額のバンダナが一瞬光を放ち、その真ん中に眼が現れた

 

「聖奈さん、あれは……」

 

私は見たことが無いから確信は無い、でもきっとあれが……

 

「小竜姫の竜気が形になったと言う事ですね。これならば……!?」

 

のんびりと話していた聖奈さんの顔色が変わる。それは私も同じで

 

「え!?嘘!?」

 

横島の霊力が爆発的に上昇し、風を伴って狭いリングの上を暴れ回る。それは既に物理的な現象となり、他の受験生を襲い始めた……

 

「のああ!?や、やばあ!!なんか大変なことにぃぃッ!!!」

 

うわああーっと吹っ飛んでいく他の受験生を見て慌てている横島。ある程度の霊力を放つ事が出来ていたピートさんとかはそれに耐えることが出来ていたけど大半が吹っ飛ばされたりしている

 

「……小竜姫。どれだけの竜気を分け与えたんでしょうね?」

 

「判らないですね。でもこれは明らかに悪手だと思います」

 

明らかに横島が悪目立ちしている……合格と言う試験官の声が聞こえたが、その声が引き攣っている辺りそれが良く判る

 

(え?私を見てる?)

 

横島のバンダナに現れた目が私を見つめているのに気付いた。その目には親しみや驚愕の色が浮かんでいるのが見えて、私はその視線の意味が判らず困惑することしか出来ないのだった……

 

 

 

私はずっと見ていた……横島の中でずっと見ていた、横島の嘆きを……絶望を……悲しみを……私は確かにあの時消滅した……横島を庇って、だが私の意識はずっと横島の中に居た。声を出すことも、横島に助言することも出来なかったが、横島中でずっと見ていたのだ。神魔大戦の結末を、横島の心が1度砕けた瞬間を一番近くでずっと見ていた……

 

(ああ、すまない、すまない横島)

 

横島の中で私は何度も何度も謝った。私は横島の中で全てを見てきた、だから私は知っている。横島がどれだけルシオラを愛したか、そしてルシオラがどれだけ横島を愛したか?それを見てきた、そして横島が自分の為に死んだルシオラを想い、どれだけ悲しんだか……それを知る度に私は見ていることしか出来ない自分の激しい怒りすら覚えた。私は横島を助ける為に生まれた、なのにそれが出来なくて、なんの為に私は生まれたと言うのか!?何故私は横島を慰めることも、その悲しみを癒すことも出来ないのか、見ている事しか出来ないその事が嫌で嫌で仕方なかった……そして願った。横島を助けたい、救いたいと願った。横島に笑っていて欲しいと願った……叶うはずの無い願いだと判っていた……だがその願いは叶えられた

 

(なのに何故私はまたここに居る?)

 

横島の姿が若い……それにここは……ここを覚えている、私はこれを知っている

 

(GS試験……なら私がするべき事は1つ)

 

横島の手助けをすること。小竜姫様に命じられたからではない、私は自分の意思で横島を助けたいと、その手伝いをしたいと……そしてあのような結末を迎えさせないと……横島が笑っていられるように、全力で横島を助ける。その為には力が必要だ、その第一歩としてGS試験に合格しなくてはならない、これが横島が強くなる最初の第一歩なのだから、本当なら横島を戦いから遠ざけるのが一番横島が幸福になる為に必要なことだろう。だが

 

(横島は強くならなければならない、己を護る為に……)

 

運命は横島を戦いへと導く、それが私が横島の中で見てきて出した1つの結論。だから横島の中から霊力を引き出すことにした……だが力を引き出し始めてたった数秒で私は自らのミスを悟った……

 

(むう!?う?これは!?馬鹿な!?小竜姫様の竜気だけではない!?誰だ!?誰の力なんだ!?)

 

ほんの少し。ほんの少しだけ横島の霊力を解放するつもりだった。横島の霊力は膨大だ、それを少し解放するだけで間違いなく横島は合格する。横島の霊力は小竜姫様の竜気を受けることで完全に覚醒した、そして私が小竜姫様の竜気でその霊力を制御する為に作られた、その力を制御する事が私の役割だ。だが何故か今の横島の中には、小竜姫様だけではない、更に2人の竜気が逆巻き、横島の霊力を増幅していた。その増幅した分は突発的にコントロールするには膨大すぎた、私の制御を離れた霊力が暴走を起し嵐となり試験会場を駆け巡る。それで何人もの人間が吹き飛ばされるのを見た、そしてその先に居るはずの無い者を見た

 

(ルシオラ!?なぜ!?どうして!?)

 

GS試験の時にルシオラはここには居なかった、どうしてここにルシオラが居るのか?それが判らない、だが……その目に浮かんでいる柔らかな光を見て敵ではないと確信した。それは私の記憶の中にある、ルシオラが横島を見ている時と同じ目をしていたから。何故私がここに居るのか?それは判らない、だが……私はもう1度やり直す機会を得た……なら私のやることは決まっている。今度こそ横島が幸せになれるように……横島が悲しまないように……私は私の全てを使う……その為ならば

 

(私は全てを敵に回す……)

 

横島の為ならば……私は全てを敵に回す、それが私を作り上げた小竜姫様だろうと……私は敵対する。全ては……

 

(横島の幸福の為に……)

 

それが私が横島の中でずっと全てを見てきて、決意した全てなのだから……

 

(まぁ運が悪かったと思って諦めてくれ)

 

横島の霊力の解放に飲み込まれ吹き飛ばされ、負傷して動く事が出来ないで居る何人かの人間を見て、私はなにも感じなかった。ほんの少しの罪悪感も感じなかった……今までの自分とは違う、だがその違いが確固とした自分を形成できた証のように思えて……ほんの少しだけ、誇らしく思えた……

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その5へ続く

 

 




次回は美神さんや琉璃さんの視点で進めていこうと思います。カオスや言峰神父の視点もありますけどね。後心眼は逆行記憶ありの心眼です。だから横島にとっては初めましてですが、心眼にとっては再会となりますね。ちょっとヤンデレ感ましましになってるのは、まぁええ、賢明な方なら判ると思いますがちゃんとフラグなので、どうなるのか楽しみにしていてください、心眼先生ブラックとして活躍しますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回は試験を見ていた美神や琉璃の視点をベースに書いていこうと思います。今回は少し短めの話にしようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その5

 

私は試験会場を写しているモニターを見ながら隣で絶句している美神さんに

 

「こ、これどうしてくれるつもりですか?」

 

横島君の身体から噴出した霊力でBグループに参加していた候補生は横島君・ピート君・タイガー君だけになってしまった。殆どが負傷、もしくは棄権してしまった。これじゃあ組み合わせがめちゃくちゃだ、しかもあれだけの破損の修繕費となると相当な額になるから、その金額にも頭を抱えてたくなる……幸いにもドクターカオスが作ってくれた本選用の試験会場じゃ無かったのがせめてもの救いだけど、それでも修繕費は莫大な物になるだろう。ジト目で美神さんを見ると

 

「……わ、私に言われても困るわ!?これ大体全部小竜姫様のせいじゃないの!?」

 

なんでここで小竜姫様の名前が?私が困惑しているとおキヌさんが

 

【私達の目の前で横島さんにキスして直接竜気を授けてまして、ああ……やっぱり角を切り落としてやりたい】

 

……え?なんで小竜姫様。横島君とキスしたの?え?なんで?神様でしょ?驚愕の事実に思わず思考停止してしまった私はきっと悪くない。と言うかそれで責めないで欲しい、こんなの聞けば誰だって思考停止だ

 

「みーむ!みーむ!!」

 

「うきゅー!きゅー♪」

 

「ココーン!」

 

モニターの前で応援していたモグラちゃん達の声で我に返り、大きく溜息を吐きながら

 

「そういうの先に言ってくださいよ……あーっもう。どうしよ」

 

予定人数を大幅に下回ってしまった。もう試験を終わっているAグループから敗者復活……もう半分くらい帰っているし……参加できるほど強い人残ってないわよね。じゃあCグループから……

 

「会長!Cグループも負傷者多数!残ったのは5名です!」

 

報告に飛び込んできた部下の言葉を聞いて、私は思わず机に突っ伏してしまうのだった……

 

 

 

ごとんっと音を立てて机に倒れこむ琉璃。その眼は虚ろでどうして私ばかりこんなに苦労するの?ああ、舞ちゃんに会いたい、ゆっくり有給とって温泉に行きたいとかぶつぶつ呟き始めた

 

(心労すごそうね……)

 

ただでさえGS協会の会長と言う立場で疲れるのに、今回のソロモン騒動に、今の試験の結果。もう完全に琉璃のキャパをオーバーしてしまったのかもしれない

 

「シズク。なんとか出来る?」

 

もしかしたらシズクが回復させられるかもしれないと思い尋ねると、シズクは無言で部屋を後にして

 

「……これだ」

 

数分後戻ってきたシズクの手には饅頭と急須と湯のみ。琉璃の前にそれを置くと琉璃は饅頭に手を伸ばして

 

「ああ、甘い……うん、甘い。私は大丈夫。うん、大丈夫。まだ大丈夫……あ、やっぱ駄目かもしれない」

 

もしゃもしゃと食べながらなんか壊れた感じで呟く琉璃。彼女が再起動するまで15分の時間を有するのだった……

 

「ああ、もうどうしよう。お昼からの試合開始時間を少しずらして、最初からラプラスのダイスを使う?ああ、でもそれだとなあ、なんか凄く嫌な予感がする。美神さんどう思います?」

 

ずずうっと緑茶を啜りながら尋ねてくる琉璃。ラプラスのダイスは運命に干渉する、それを使えば最も適した組み合わせが発表されるだろうが……

 

「リスクが大きいわね、初戦は様子を見たほうがいいかも……」

 

運命の中で横島君達と白竜会が戦うことになるのなら、それが今日に早まってしまう危険性がある。もしそれで組み合わせが早くなって今日になったとしたら、蛍ちゃんならまだしも、予選に合格し浮き足立っている横島君は間違いなく、緊張感などが欠如している。その状態ではあまりに危険と言わざるをえない

 

「一部の参加者を不戦勝にして、悪いと思うけど、白竜会を相手にしてもらう参加者を出すのが一番だと思うわ」

 

それは人道的に認められる作戦ではない、だが敵の事を考え、そしてGS試験までにドクターカオスが用意してくれた霊具を考えれば……ギリギリで認める事が出来る。手元にある参加者の資料を見る限りでは毎年審査は通るけど、予選で落ちている中堅レベルのGSの名前が何人か見られる。師匠の手伝いとして除霊を行っているから、少なくとも今の横島君よりも実戦経験が豊富だ。それに毎年落ちているのなら、今回も駄目だったかと諦めもつくという物だろう。琉璃は私の言葉を聞いて

 

「でもそれは流石に……人道的に考えると賛成できません」

 

まぁそう言うわよね。こればかりは琉璃が若いと言わざるをえない。大きな目的の為に捨て駒を使う、それは戦局しだいでは極めて有効な一手だ。無論人道に反すると言えばそれまでだが

 

「向こうも行き成り奥の手を出すとは思えないし、カオスの造ったプロテクターの能力を考えれば最悪の事態にはならない、それでも反対するの?」

 

向こうも馬鹿じゃない、行き成り全力を出してくるとは思えない。横島君の気を引き締め、警戒させる為にその戦いを見せる。あの子は目が凄く良いから、その戦いの中で1つや2つ戦いのコツを掴むかもしれない。それでも中々頷かない琉璃を見て痺れを切らしたのかシズクが口を開いた

 

「……時に捨て駒を用いることも指揮官としては必要な決断だ。まぁ横島を捨て駒とするのならば、その首を頂くがな」

 

【包丁を凶器として使う時は、斬るんじゃなくて突き刺すイメージで】

 

とんでも無く物騒なことを言っている人外2人組みと

 

「みーむう!みみむー!!!」

 

「うぎゅーッ!!」

 

「グルルルルッ!!」

 

放電しているチビ、口から火の粉を撒き散らしているモグラちゃん、そして狐火を自身の周囲に展開して突進準備OKと言わんばかりのタマモ

 

「アフタフォローするとかで対処すれば良いんじゃない?有名所に研修に行かせて上げるとかさ?」

 

高ランクのGSの元で研修すれば、次のGS試験には受かりやすくなるし、良い勉強になる。捨て駒としたとしても、しっかりアフターフォローすれば良いんじゃない?と言うと

 

「ああ、もう……本当。心労で胃に穴が開きそうです……判りました。そうしましょう」

 

これしか手段が無いのは判ってますからと死んだ目で呟く琉璃。どうも今回の一件で一番貧乏くじを引いているのは琉璃のような気がして

 

「全部終わったら食事に行きましょう。奢るわよ?」

 

「ミシュラン・☆3の●●●でお願いします」

 

うぐう!?流石良家のお嬢様……滅多に予約を取れない店を指名してきたわね……

 

「……なるほど、TVで見たぞ、それは実に楽しみだ。横島への労いになり、更に私は未知の味を知れる」

 

え!?なんでか普通に横島君達も来ることに!?ああ、でも頑張ってくれてるのは一緒だし……知られたら当然バッシング来るだろうし

 

「もう!じゃあ終わったら皆で行きましょう」

 

ああ。散財だ……でもまぁ、頑張ってくれてる皆に何かしてあげないといけない、だから

 

(無事に終わりますように)

 

何かあるということは十分に判ってる。これは未来予知で予言されていたのだから、間違いなく何かとんでもない事が起きるのは判っている。だからせめて横島君と蛍ちゃんが怪我をしませんようにと祈るのだった……

 

 

 

カズマの治療があったからか、東條は恐ろしいスピードで快方に向かっていた。

 

(これが若さという物か……)

 

何を年寄りくさいと一瞬思うが、年が一回り以上離れていることを考えればこの感想は当然の事なのかもしれないと1人苦笑しているとこんこんと病室の扉が叩かれる。

 

「誰だ」

 

拳を握り締めいつでも攻撃できる体勢に入りながら問いかける。すると

 

「あー。私だ、唐巣だ」

 

のんびりとした声が聞こえてきて、少し脱力しながらゆっくり扉を開くと同時に拳を突き出す

 

「っととと!!」

 

顔を狙って放った拳を手の側面で受け止め受け流す。病院の壁を思いっきり貫いた自分の拳と危ないじゃないかと言う唐巣を見て

 

「むっ本物かすまん」

 

悪魔には声も雰囲気も完全に真似をする者が居る。東條を殺す為に唐巣の姿を真似したと思っていたのだ

 

「全く手が痺れて動かないじゃないか」

 

手を振って文句を言う唐巣に修行が足りてないなと呟き、パイプ椅子を作りながら

 

「随分と鈍っているな、昔のお前なら受け流して反撃してくるくらいはして見せたぞ?」

 

眼鏡をかける前のお前はもっとぎらぎらとしていて、勇ましかったぞ?と呟くと唐巣は

 

「私は破門されても神父だ。八極拳を極めるつもりは無いし、どうせ極めるのなら聖句を極めるよ」

 

同じく教会から破門された身だ。だがたどり着く先はどうも遠く離れてるようだ。私は悪魔を倒し、人々に影ながら平穏を与え、唐巣は表に立ち人々の為に力を振るう。それもまた真理だろう

 

「GS試験のほうはどうだ?何か起きているのか?」

 

「んー式神での連絡では、負傷者多数で参加人数が大幅に減少してしまっているようだ」

 

負傷者多数?おかしいな、午前中は霊力の審査で怪我をするような要因は無いはずだが……

 

「小竜姫様に竜気を与えられた子の霊力が暴走してね?」

 

「……なにをやっておられるんだ?小竜姫様は?」

 

おかしいな?あの方は竜神だがそれ以上に武人としても優秀だった筈。竜気を授けるにしても自分の霊力をコントロールできる相手にしなければならないのは判っているだろうに……

 

「なんでも……横島君に想いを寄せているようで」

 

「……神がなにをしておられるのだ?本当に」

 

神であっても、女性であったか等と言うことは出来ない、そのせいで計画がいくつか狂ってしまっているのだから。もう少し自重して貰わなくては……

 

「私は1度白龍寺に向かってから試験会場に向かうつもりだ。なんでも結界の反応が消えたらしくてね。1度様子を見に行って見ようと思っている。その前に様子を見に来たんだ。彼の調子はどうだい?目覚める気配が無いのなら一緒に来てくれないか?」

 

唐巣がそう尋ねると同時にここ数日間意識を取り戻すことなく眠り続けていた東條修二が目を覚ました

 

「うっ……ここは」

 

椅子から立ち上がり、彼の枕元に立ち軽く様子を見る。幸いにも意識ははっきりとしているようだな

 

「目が覚めたかね?気分は……まぁ聞くまでも無いな」

 

どう見ても良いと言える顔色ではない。目覚めはしたが、動けるようになるまでまだ大分時間が掛かりそうだ

 

「あ、貴方はあの時の……そ、そうだ!GS試験!GS試験はどうなっているんですか!?白竜会の皆は!?うっぐう……」

 

急に身体を起して呻きながらベッドに倒れこむ東條。眠り続けていたのだから体力も筋力も落ち込んでいるのでこれは当然の事だ

 

「白竜会はこれから様子を見に行く所だよ。GS試験は残念だがもう始まっている」

 

唐巣の言葉を聞いた東條は震える手でベッドの柵を掴んで身体を起そうとするが、その身体が動く気配は無い

 

「僕は……いかないと……先輩が……」

 

よほど先輩を尊敬しているのだと判るが今動いては後々後遺症が残るのは目に見えていた。だから……

 

「今は休め。今日は幸いにも予選……明日の本選には連れて行くと約束しよう」

 

東條の頭に手を置いて意識を刈り取る。治癒術の応用だが、これはこれで中々便利だ。錯乱している相手とかには特に効果を発揮する

 

「唐巣。東條は私に任せて白竜会に向かってくれ、この男。ほっておくと何をしでかすか判らん」

 

異界を自力で脱出した事を考えると、行動力に加えて、その意志も人並みを超えている。もしかすると自力で目を覚まして向かいかねない、だから1人で向かってくれと言うと唐巣はああっと頷き

 

「生存者が居ればこの病院に運ぶ。その時にどうなっていたのかを話すよ、じゃあ彼は頼んだ」

 

そう言って病室を出て行く唐巣を見送り、連絡用に受け取っていた式神召喚の札を取り出し

 

「六道家当主へ伝えてくれ、東條修二が目覚めた。自力でGS試験会場に向かいそうなので明日東條修二を連れ、GS試験に向かう。結界などの準備をお願いすると」

 

【キュイー♪】

 

甲高い音で鳴いて開いた窓から飛び立つ燕の式神を見送り、ベッドで再び眠っている東條修二を見て

 

「目覚めたのは運命か。なんとも数奇な運命を持つものよ」

 

まだ目覚めるだけの体力が無いのに目を覚ました。それは私が判っている。毎日治療を続けていたが、酷使した筋肉と体力は殆ど回復していない。少なくとも後数日は意識を取り戻すことは無いと予想していただけに、こうして彼が目覚めた事に何か意味があるように思わずには居られないのだった……

 

なお1人で白龍寺に向かっていた唐巣神父だがその途中で

 

「唐巣さん、待ってました」

 

「小竜姫様!ああ。良かった、これで一安心です」

 

さすがの唐巣神父も1人での敵地への襲撃には不安を持っていたらしく、小竜姫と合流できたことを喜び、次に

 

「その帽子は?」

 

似合わないわけではないが、寧ろ似合っていると言えるつばの広い、大きな帽子をかぶっている小竜姫にそう尋ねる唐巣神父。小竜姫は俯きながら

 

「角を隠して無いと切り落とされそうな気がして怖くて怖くて」

 

2人の間に微妙な空気が漂ったのは言うまでも無いだろう……

 

 

 

 

壊れた試験会場を見て俺は呆然とすることしか出来なかった。砕けた電灯に、割れた試験会場の床、まるで台風が過ぎ去ったような有様だ。だがいつまでも受け入れがたい現実から目をそらし続けることはできない

 

「これ俺がやったんだよな?」

 

ピートとタイガーに尋ねるとこくりと頷く。ああ、そっか、やっぱこれ俺がやったんかー……あははっ……

 

「何て日だッ!?これ絶対俺の借金になるだろ!?」

 

何故GSになれるかもしれないって日に借金持ちになるんだよぉっ!?思わず顔を押さえてその場に蹲ってしまった

 

「だ、大丈夫ですよ!きっと美神さんがなんとかしてくれますよ」

 

ピートが励ますように声を掛けてくれるが、間違いなく絶対怒ると思う

 

「ワ、ワッシ!少しは貯金あるんで返済手伝うんじゃー」

 

タイガー……ありがとう。でもな、これだけ立派な試験会場だ。どう見積もっても1千万とか行くだろう。焼け石に水程度の効果しかないと思う

 

(親父とお袋助けてくれるかな……いや、でも俺の責任って言われそう……)

 

あああーどうしよ、どうしよ……チビとかタマモの餌代も洒落にならんし……あああーでも空腹にさせたくない、何が何でもチビ達に貧しい思いをさせてはいけない、しかし借金を返済する当てが無い……

 

「横島さーん?横島さーん?聞こえますかー?」

 

「正気に戻るんじゃー?」

 

ピートとタイガーの声が聞こえるが、今の俺にはそれ所ではない。この確実に借金確定の未来をどうやって回避するか?それを必死に考え、思い浮かんだのは

 

(……六道さんの所か)

 

あれだよな、うん、陰陽術とかので何か助っ人してくれるならお金出してくれるとか言ってたし、うん……それも視野に入れて何とか借金を返済できる手段を考えていると

 

「ワフウッ!!」

 

「ごはあッ!?」

 

突然背後から何かに突進される。すげえいてえ!なんだ!?と振り返ると

 

「ハッハッハ♪」

 

めちゃくちゃ嬉しそうに残像が見えるほどのスピードで尻尾を振っている巨大な犬の姿

 

「ショウトラ!?ショウトラじゃないか!久しぶりだなー」

 

もこもこの大きな犬ショウトラ。久しぶりに会ったなあ、最近冥子ちゃんが忙しいのか散歩の時に会わないしと思っていると

 

「ん?どうかしたのか?」

 

足元にじゃれ付いていたショウトラが急に伏せて、尻尾を降り始めたのでどうかしたのか?と尋ねると

 

「バウッ!」

 

「ぐはあッ!?お、俺が……何を……したぁ」

 

頭を下げたショウトラに腹に頭突きを叩き込まれ、体が宙に浮く。おれ、何かショウトラに恨まれることしたか?薄れ行く意識の中俺は必死でその理由を考えたのだが、当然答えは出ない。何か妙に暖かい物の上に乗ったと感じたのが俺が最後に感じたものだった

 

「横島さはーん!?」

 

「横島さんがでっかい犬に拉致されたんじゃー!?」

 

そのあまりに衝撃的な光景を見て、完全に思考停止していたピートとタイガーだが、数分後に復帰してそう絶叫した。それは奇しくも

 

「ねえ?その話詳しく聞かせて?」

 

横島の労いに来た蛍がBグループの控え室に到着した時だったりする……

 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その6へ続く

 

 




次回で予選終了となり、リポート25。つまりは第一部の最終リポートとなります。これは結構長めにしたいと思っています。戦闘が多い話なので激しいのを書いてみたいと思うので、次回はショウトラに拉致された横島がどこに運ばれたか?と言うのを書いていこうと思います。まぁどこに拉致されたかなんていうまでも無いと思いますけどね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回の話で予選の話は終了になり、本線の話に入っていきます。今回は横島が拉致された場所から始めていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート24 GS試験予選 ~渦巻く悪魔の思惑~ その6

 

目を開くとそこには見覚えのない真っ白い天井……

 

「知らない天井だ」

 

何となくそう言わなければと思いそう呟く……ここはどこだ?ショウトラに突進されたのは覚えているんだけど……俺どこに運ばれたんだ?そしてショウトラは何故俺に突進してきたんだ?ショウトラの突進のダメージが残っているのか、まだ痛む背中に顔を顰めながら身体を起すと

 

「あ~まだ駄目よ~横島君~ちゃんと寝てないと~」

 

メイド服?いや、何か違うな……なんだろう?あの格好……フリルの付いたエプロンと赤い十字の付いた帽子……ナースさん?そんな格好をした冥子ちゃんが俺の前に来て、まだ寝てないと駄目よと言ってベッドに向かって軽く押す

 

「おわっととと……」

 

俺を押した力は本当に弱い物だったが、バランスを崩してベッドに倒れてしまう。結構ショウトラの突進のダメージは大きかったようだ

 

「ショウトラちゃんが~迷惑をかけてごめんね~?久しぶりに横島君にあえて嬉しかったみたいなの~私も~久しぶりに会えてすっごく嬉しいし~♪」

 

嬉しかったのか、あれ……じゃあ俺に体当たりをしてきたのって俺を冥子ちゃんの所に連れて来ようとしたから?

 

「クウーン……」

 

ベッドの近くで伏せているショウトラ。どうも冥子ちゃんに怒られたのか、元気がない

 

「本当にごめんね~」

 

手を合わせてごめんねと言う冥子ちゃん。そう言われても俺自身はそんなに気にしてないしなーそれに俺もモグラちゃんとチビの散歩の時に最近ショウトラと冥子ちゃんに会わないなーって思ってたし……ショウトラも式神だけど犬だし、懐いてくれているのは正直言って悪い気はしないし……

 

「じゃ、また今度散歩する時にジュースでも奢って貰おうか」

 

ついでにチビとモグラちゃんのお菓子もと付け加えると冥子ちゃんは一瞬きょとんとした顔をしてから

 

「ええ~約束するわ~♪また一緒にお散歩しましょ~♪」

 

にこっと笑う冥子ちゃん。俺よりも年上なのに本当に可愛い人だよなー……

 

(美神さんやエミさんとは全然違うなぁ)

 

あの2人はどっちかと言うと格好良い美人だ。冥子ちゃんは本当にぽわぽわしてて、なんか一緒にいると和むというか……心が穏やかになるような気がする

 

「バウ」

 

ベッドの縁からひょこっと顔を出したショウトラ。ちらちらとこっちを窺っているのを見て苦笑しながら

 

「もう突進は止めてくれなー?痛いから」

 

そう笑って頭を撫でるとバウッ!と元気よく鳴いて尻尾をぶんぶん振るのを見て本当犬だよなあと思わず笑ってしまう

 

「そうそう~横島君。凄い霊力出して試験合格したんだってね~凄いね~私のときと同じ~」

 

にぱっと笑う冥子ちゃん。え、もしかして毎回こういう試験合格者っているのか?と首を傾げていると冥子ちゃんが詳しく説明してくれた

 

「式神の皆が大暴れして大変だったのよ~今思うと良く合格できたわ~」

 

それはきっと冥華さんが頑張った結果だと思う。きっと当時のGS協会の人と話をしたのだと思う

 

「ショウトラちゃんなんて~100キロはある巨漢を体当たりでふっ飛ばしてたし~」

 

「バウバウッ!」

 

ショウトラそんな力強かったのか……流石式神……

 

「前なんて~私が車に轢かれそうになった時~トラックを体当たりで~ふっ飛ばしてくれたわ~ショウトラちゃんは~本当に優しいでしょ~?」

 

……トラックを吹っ飛ばせるほどの体当たりを食らって良く俺の背骨は砕けなかったな……人体の神秘か?それとも手加減してくれたのか?

 

「バウ♪」

 

凄いでしょ?と言わんばかりに尻尾を振っているショウトラの頭を撫でながら

 

「もうお願いだから突進して来ないでくれよ?」

 

「バウ?」

 

きょとんと首を傾げているショウトラに本当お願いだから頼むぜ?と呟くのだった……

 

 

 

 

 

ピートさんとタイガーさんに横島がショウトラに拉致されたと聞いて、早足で医務室に向かっていると

 

「あ、蛍ちゃん。横島君は?」

 

関係者以外立ち入り禁止のエリアから美神さんが出てきて横島の事を尋ねてくる

 

「ショウトラに拉致されてらしくて……多分医務室にいると思うんですけど……確か冥子さんが救護係で待機しているんですよね?」

 

確認の為に尋ねると美神さんははぁっと溜息を吐きながら

 

「本当横島君は人外に好かれすぎでしょ?」

 

「あ、あははは……私にはなんとも言えないですね」

 

ショウトラが横島に懐いているのは知っていたけど、まさか横島を拉致していくまでとは思ってなかった

 

「みーむう!」

 

「うきゅきゅーっ!!」

 

「ココーン!!」

 

横島が拉致されたと聞いてタマモとモグラちゃんの上に乗って走っていくチビ。場所判ってるのかしら……?匂いか何かで横島を探すのかな?と思っていると

 

「……横島はどこにいる?」

 

【冥子さんと一緒……何か、嫌な予感がします!早く医務室に行きましょう】

 

シズクとおキヌさんも関係者の通路から歩いて来て横島の所に行こうと言う。私も少し心配なので

 

「私達は医務室にいきますけど、美神さんは?」

 

何か用事があるのかもしれないと思って一緒に来るのか?と尋ねると美神さんは

 

「ちょっとエミとかカオスと話があるから、後で観客席に来るように伝えてくれる?横島君とCグループの事で参加者が減ったから、今日横島君とかの試合はないの、勉強の為に試合を見ておいた方が良いし」

 

判りました。横島にちゃんと伝えますと言って美神さんと判れて医務室に向かう

 

「みーむ!みみむー!!!」

 

「うきゅきゅきゅ!!」

 

「クウーン」

 

ベッドの上に乗ったチビとモグラちゃんが小さい手を振るってショウトラの鼻をぺちぺちと叩いている。ショウトラはショウトラで自分が悪いと思っているのか、2匹のしたいようにさせているのだが、あの短い手足の割りに破壊力があるのか、若干ふらついているように見える

 

「コーン」

 

タマモはタマモで横島の膝の上で丸くなって甘えているし、横島は横島で

 

「あ、蛍!おキヌちゃん!シズク!審査通ったぞ!!」

 

イエーィって嬉しそうに笑う横島だったが、次の瞬間にどんよりとした空気を纏って

 

「破壊した試験会場って俺の借金になるのかな?」

 

……それどうなんだろ?確かにあれって横島の責任よね?……借金になるのかしら?言われてみると判る。とんでもない破壊の跡が今も残っていて、今日の試合が削られたのは間違いなく横島の霊力の暴走のせいだろう。となるともしかすると横島の責任として借金が発生する可能性が出てきた

 

「……私が何とかするか?竜の牙は稀少品だから、お前の為なら牙抜くぞ?」

 

借金と聞いてシズクが牙を抜くか?と横島に尋ねている。確かにシズクの牙なら竜の牙として最上級の素材だ。間違い無く高額で取引されるだろう、だけどそれは横島がストップを掛けた

 

「いやいや、あかんあかん。これはワイの責任になるから自分でなんとかせんと……いくらくらいになると思う?」

 

その責任感は大事だと思うけど、アレだけの破壊の損害賠償となると相当な金額になるかもしれない……

 

【美神さんが手伝ってくれれば何とかなりますかね?】

 

おキヌさんがそう呟く。確かに今の美神さんは大分優しいけど、流石にそこまで手伝ってくれるだろうか?私達がうーんと唸っていると冥子さんが

 

「大丈夫よ~GS試験で出た損害賠償って全部GS協会持ちだから~♪」

 

「本当っすか!?」

 

「コン!?」

 

がばっと横島が顔を上げて冥子さんに詰め寄りながら尋ねる、タマモは膝の上から落とされて不満そうな鳴き声を上げて

 

「……ニヤア」

 

そんなタマモを見てにやりと悪い顔で笑っているシズク。本当シズクは横島以外には反応がドライよね……そんなこんなでバタバタしている中冥子さんは横島を見て、穏やかに笑いながら大丈夫~と笑って横島の頭を撫でながら

 

「本当よ~だから何の不安も心配もなく~GS試験頑張ってね~♪」

 

にこにこと笑う冥子さんに教えてくれて本当にありがとうございますっと頭を下げている横島

 

(あれ?冥子さんって包容力高い?)

 

冥子さんは私の中では子供っぽくて、包容力とか、母性とか皆無だと思っていたんだけど、今こうして優しい顔をして横島の頭を撫でている姿を見ると母性とか包容力がとんでもなく高いように見えてくる

 

【くっ!?こんな所に意外すぎる伏兵が……】

 

「……むう。これは不味い……」

 

どうもシズクとおキヌさんも冥子さんの溢れる母性を感じ取ったのか、面白く無さそうな顔をしている。意外すぎる強大な伏兵の存在を始めて認識するのだった……

 

「みむきゃーっ!!」

 

「うきゅーッ!!!」

 

「きゃいんッ!?」

 

バシィっと言う強烈な打撃音に振り返るとショウトラが目を回して倒れており、チビとモグラちゃんが勝鬨を上げていて

 

「え?チビとモグラちゃん……つよ……」

 

ショウトラをKOしたのが信じれなくて思わずそう呟くのだった……

 

 

 

 

チビとモグラちゃんがショウトラをKOした頃くえすはと言うと

 

(合格しましたか……まぁそれくらいはして貰わなければ困りますわね)

 

神代琉璃の要請でGS試験会場に待機こそしている物の、警護に加わる事も、周囲の警戒もせず私は予選を見ていた。無論それにはちゃんとした理由もある。

 

(何がしたくて私に声を掛けたのやら)

 

今日の早朝会場入りし、本選の試験会場とやらの仕掛けの手伝いをした後は一次審査が終わるまでは帰る事は許さないと言われたが、それ以外は自由にして良いと言われ、本当に何の為に私を呼んだのか?と言う疑問を感じながらも帰る事が出来ないのでこうしてGS試験の予選を見ていた

 

「横島忠夫……随分と力をつけましたわね」

 

あれだけの霊力の放出。しっかりとコントロールすることが出来れば見習いの枠を超えた攻撃力を手にすることになるだろう。コントロールすることが出来ればですけどね……

 

(竜気が霊力に混ざっている……それにあのバンダナ……使い魔の一種でしょうか?)

 

膨大な霊力に混じって存在感を発揮していた竜気に、バンダナに具現化した目……アレだけの竜気となるとシズクだけではないでしょうね……

 

(小竜姫辺りですかね……)

 

あの武神は人間に随分と肩入れしているから、きっとその辺りでしょう。ま、あの男の潜在霊力は膨大ですから力の解放の手助けにでもなればいいですけど……古今東西女神の加護を受けるというのは一種の呪いに近い物。横島の今後を大きく左右するかもしれないですね……

 

(ってなんで私はここまであの凡人を気に掛けているのですか)

 

理解できない不快感を理解するには、あの馬鹿が大きく関係していると思う。だから生きていて欲しいと、私がその何かを理解するまで死なれては困るからこうして神代琉璃の要請を受けてここに居る。ええ、それは良い。でもなんで私がそこまであの馬鹿を気に掛ける必要が……

 

(もやもやしますわ……)

 

形にならない何かが胸の中にあるような気がする。魔法使いとは深い理性で感情さえも支配してこその物、その魔法使いの私が自分の中に訳の判らない感情を抱いている……それが不快で不快で仕方ない……

 

「もう帰りましょうか」

 

つまらない審査を見て、おままごとに近い試合を見ているのだから不快なのだと判断する、丁度一次審査も終わり、今日の最後の試合になっているんでもう帰っても問題ないと判断し、階段を下りていると、途中で芦蛍達とすれ違うが、お互いに挨拶をするような仲でもないので、無視してすれ違い通路を歩いていると

 

「あれー?神宮寺さんじゃ無いですか」

 

この声は……!?振り返ると頭の上にグレムリンを乗せ、モグラと狐を抱えた横島がゆっくりと姿を見せる。芦蛍が居るのだから、この男が来るのは判り切った事なのに何故か驚いている自分が居て、それが更に不快感を強くさせる

 

「どうも御機嫌よう。中々面白い見世物を見せて頂きましたわ」

 

霊力の暴走なんてした割には元気そうですわね?と付け加えると

 

「んーあはは……一瞬マジで借金背負うことになるかと思って怖かったっす」

 

借金?ああ、試験会場を破壊したからですわね。でもアレは毎年GS協会が補修する決まりになっているので、参加者が借金を背負うことなんてありえない。まぁ参加者が試験会場を破壊することの方がありえないことですが……

 

「それで神宮寺さんは?神宮寺さんはGS免許を持ってるから会場にくる必要が無いんじゃ?」

 

横島は今回のGS試験にソロモンが関係していることを知らないのですか、まぁその判断は正しいでしょうね。この能天気な男ではどこで口を滑らせるか判らないですし

 

「まぁ役に立つかもしれない助手を探しにきたと言う所ですわね。役立たずばかりですけどね」

 

ふーん?そう言うものなんっすかね?と笑う横島は私が降りてきた階段を見て

 

「観客席ってこっちっすか?モグラちゃんとチビが逃げて蛍と別行動になっちゃって、俺初めてここに来るから随分うろうろしてるんですけど、こっちで合ってます?」

 

迷子……何をやっているんだか……軽い頭痛を覚えながら

 

「ええ、合ってますわよ」

 

「そっかー良かったー、じゃあ神宮寺さん。また」

 

そう笑って私の隣を通っていこうとする横島……その肩を無意識に私は掴んでしまっていた

 

「え?えーとなんっすか?何か美神さんに伝える事でも?」

 

……美神令子になんか伝えることなんて無いですし、かと言って何もないと言える状況でもない。私は小さく溜息を吐いてから

 

「疑うは揺らぎですわ」

 

「疑うは揺らぎ?」

 

不思議そうに首を傾げる横島。そしてその腕の中でこっちを睨んでいる狐を睨み返しながら

 

「霊力は魂の力。疑うな、揺らぐな、信じた1つを持ちなさい。一度弱気になれば霊力は弱くなる」

 

なんでこんなことを言っているのでしょう?アドバイスするような仲でもないと言うのに……

 

「恐ろしくても、逃げ出したくとも。前を見なさい、後ろには道はありませんわ」

 

それだけですわと言って試験会場を出ようとすると

 

「やっぱ神宮寺さんは優しいっすね!アドバイスありがとうございました!」

 

その明るい声に返事を返すことなく、私は試験会場を後にし、空を見上げた

 

「不快感が……消えましたわ」

 

さっきまで感じしていた不快感が消えている事に気付き、その不快感を消したのが横島だということに気付き、苛々を感じていると、ファー付きのジャケットを着た青年が試験会場に近づいてくるのが見え、私もすれ違おうとした瞬間

 

「!?」

 

胸……そこに激しい痛みが走り、思わず振り返る。歩き去ろうとしている青年の姿がぶれて、甲冑を纏った魔族の姿が私には見えた……間違いない。胸の中に抱えている魔道書も共鳴しているから間違いない……あの青年は……いや、あの方は……

 

「ソロモン72柱ビュレト様とお見受けしましたが?」

 

ゆっくりと振り返った男の眼が私を射抜く、まるで心臓を鷲づかみにされたかのような息苦しさを感じながら

 

「神宮寺カズマの子孫。神宮寺くえすと申します。少しお時間を頂けませんか?」

 

「……ちっ、確かにカズマの面影があるな。良いぜ、着いて来いよ」

 

試験会場から背を向けて歩き出すビュレト様の背中を追って、私はゆっくりと歩き出すのだった……

 

なおくえすは気付くはずも無いが、横島と話をしていなければくえすはビュレトと会う事も無く、そのまま試験会場を後にしていただろう。そしてこの出会いがあったからこそ、くえすの運命が大きく変わることになるのだが、当然くえすはその事を知るはずも無いのだった……

 

 

 

 

 

なかなかえぐい試合をやってくれるわね……琉璃を説得し、白竜会の3人を今日の予選の試合に出場させたんだけど……

 

「やばいですね。白竜会の3人……レベルが高すぎる、私でも勝てるかどうか……」

 

鋭い視線で観察していた蛍ちゃんの言葉に頷く、蛍ちゃんは例年なら楽勝で合格するだけの知識と能力を持っているけど、今出場している伊達雪之丞、鎌田勘九郎、そして陰念……ソロモンの手下と疑われる3人は蛍ちゃんよりも更に能力が高かった

 

「はっ!ウォーミングアップにもならねえな」

 

伊達雪之丞は霊力を拳に集めた打撃であっさりと撃破し

 

「ふふ。ま、苦しまないように一撃でね」

 

「う、うわあああああ!?」

 

特大の霊波砲で一撃で気絶させる鎌田勘九郎……どちらもGS試験の参加者と言うには余りにレベルが高すぎる、そしてその中でもあの陰念とか言う青年はとても正気とは思えなかった。

 

「がっ!?ぐうっ!?げっはっ!?」

 

「……」

 

どこまでも機械的に対戦相手を徹底的に叩き潰す。その目には対戦相手の姿は映っておらず、ただ自分の前に立っているから叩き潰す。そんな感じに感じ取られた……隣で見ていたブリュンヒルデに

 

「あいつは?どう思う?」

 

魔族と言う事で本当は隣になんか座りたくないけど、今は協力者。ポーカーフェイスを貫きながら尋ねると

 

「重度の魔装術の弊害ですね。もはや魂は残っていないでしょうね」

 

魔装術……魔族と契約し、霊的防御力は勿論。その戦闘力を大幅に上げる禁呪……それは制御に失敗すれば魔族になるという危険性もさることながら、寿命を大幅に削るというのも禁呪になっている理由だ

 

「……つまりあの陰念って言うのは?」

 

シズクがそう尋ねるとブリュンヒルデは目を閉じて、小さく首を振りながら

 

「既に生きた屍でしょうね。となるともう殺してやるが救いでしょう」

 

生きた屍……殺すことが救いか……とは言え、そんな事を横島君や蛍ちゃんにやらせるわけにいかないので

 

「もしそうなったらブリュンヒルデが何とかして」

 

「ええ。判っています。まだ人の命をやり取りさせる訳にはいかないですから」

 

ええ、そうしてくれるとありがたいわ。横島君と蛍ちゃんには人の命を背負うには早すぎる

 

「所で横島君随分遅いわね?どうしたの?」

 

一緒に来る様に言っていた横島君が居ない理由を尋ねるとおキヌちゃんが

 

【チビとモグラちゃんを追いかけて行きました。直ぐ捕まえて戻るって言ってましたけど……】

 

何やってるのよ……1番見せたかった白竜会の3人の試合は今終わってしまった……

 

「すいませーん。ちょっと迷子になってて」

 

間が悪い……もう少し早ければ、あの試合を見せることが出来たのに……

 

「もう試合全部終わっちゃいました?」

 

椅子に座りながら尋ねてくる横島君。まだ試合は2つ残っているけど、正直勉強になるとは思えないし……

 

「……まだ少し残ってる。ちゃんと見ておけ」

 

まぁ格は落ちると言ってもある程度の能力を持っている、それでも勉強になるか

 

「ちゃんと見るのよ。明日は横島君が試合をするんだからね?気を緩めないで集中しなさい」

 

うっすと返事を返す横島君を横目に見ながら、明日の試合の組み合わせをどうするかを考える、参加すれば東京壊滅の未来は回避できると柩は言っていた。そう考えれば、既に横島君はその役目を終えたと言える。

 

(悪いけど、横島君はここまでね)

 

明日の試合に2回勝てばGS免許だけど、正直横島君には白竜会の相手と戦うには圧倒的に経験が足りない。少しでも勝機があるなら横島君に試合に出しても良いと思っていたけど、白竜会の相手は今の横島君ではどう足掻いても勝つことが出来ない

 

(明日の初戦で負けてもらうわ。横島君)

 

横島君のやる気は認めるけど、やる気だけではどうしようもならない事がある。明日の一番最初の試合で聖奈と戦って貰って脱落して貰おう。そもそも横島君が出場すればソロモンの襲撃を回避できるのだからもう役割は済んだといえる。後残っているのは……

 

(自分で協力してるのか、操られているのかよね)

 

ソロモンの手下と思われる3人だが、自ら協力しているのか?それとも操られているのか?それを断定するのが難しかったが、今日の試合を見て確信した。ソロモンにとってあの3人は実験材料程度の認識だと

 

(陰念って奴は自我崩壊。伊達は自分じゃ気付いてないけど……って所ね)

 

ブリュンヒルデの言うとおり陰念ってやつはもう自分の魂なんて残っていないだろう。ただそこに存在しているだけ、なにかのきっかけで霊気が崩れればそのまま死ぬだろう。伊達のほうは回りに変な霊力が漂っていることを見ると恐らく直接操られているか、洗脳されているという所だろう。鎌田はちょっと判らないわね、あんまりに自然体すぎて自発的に協力しているのか、従う振りをして保身をしているのかが判らない

 

(ここまで判ってても手を出せないのよね)

 

ソロモンに操られていると断定したけど、今手を出すと返り討ちにあう可能性がある。もう少し試合を進めて向こうの手札を全部切らせてから確保するのが1番安全だろう。カオスが試合会場に設置した結界も相手の体力が万全では破壊される可能性もあるしね……

 

「頑張りは認めてあげるわ。でも今回は諦めてね」

 

試合で勝てない相手をぶつける、それは決して褒められた事ではないだろう、でもこれは横島君を護るためだから仕方ない、来年にはちゃんと安心して試験に出すことが出来るから今年は諦めてと貰おう……私はそう判断し、試合を真剣な表情で見ている横島君に心の中でごめんねと呟くのだった……

 

「うっは……めちゃ厳しそうやな……俺大丈夫かな」

 

試合を見て不安そうに呟く横島君にシズクとおキヌちゃんが

 

「……大丈夫だ。お前だってそう悪いものじゃない、良い成績を出せると思う」

 

【もし落ちても来年がありますよ。だから今出来る全力で頑張りましょ?】

 

横島君を励ましているのを見ながら、私は隣のブリュンヒルデと蛍ちゃんに明日の初戦で横島君を脱落させる事を決めたということを伝えるのだった……

 

別件リポート 崩壊の序曲 

 

 




予選は大幅にカットしているので内容が少し薄いかもしれないですね。あくまで本選への繋ぎなので全体的に繋ぐ感じの話が多くなったのが原因かもしれないですね。次回は別件リポートです、勘九朗達とガープの動きを書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は別件リポートです。崩壊の序曲と言う事で、魔族サイドと勘九朗サイドの話になります。時間軸は一応、GS試験開始前夜とGS試験開始中になります。メインは魔族のガープサイドなので、勘九朗とかのサイドは短くなると思いますが、何とか各々の心境を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


別件リポート 崩壊の序曲

 

目の前で片膝を着いて私の言葉を持つ男。名は鎌田勘九朗……若干言動がおかしいが、その能力。魂の本質は間違いなく一級品だ。今の人間界にこれだけの闇を抱えた人間が居るとは、正直驚いた

 

(世が世ならば、これ以上に無い魔装術の会得者となっただろうに……)

 

正直現代の人間界の魔力の質はかなり落ちている。高位の魔族が具現化するに足りえるだけの魔力が存在していないのだ、短時間の顕現ならば問題は無いが、長時間行動するには自身の格を意識的に落とさなければならない、こうして人間の姿を真似ているのは私の魔神としての格を落とす為だ。本来はとるに足らぬ人間の真似をするなど私のプライドが許さないのだが、目的の為ならば泥を啜るのも必要なことだ、そう思えば我慢することも出来るという物……

 

「さて人間よ。お前に1つだけ指示を出す、それだけ達成することが出来れば我が配下として迎えよう」

 

優秀な人材には褒章を、それはアスモデウスが口癖としている言葉だ。私達は1度破れ、敗走した。それはどれほど力をつけようが変える事の出来ない事実。事実最初のほうは仲間もおらず、私とアスモデウス、再生したばかりのセーレの3人で少しずつ仲間を増やし、力をつけ、魔界正規軍にも劣らぬ戦力を手にすることが出来た。優秀な人材をスカウトする、それは私達の方針の1つだ。

 

「ありがたきお言葉でございます。しかし1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

顔を上げないで尋ねてくる。ふむ……正直時間はそれほどあるわけではないが……

 

「良いだろう。何を疑問とする」

 

近くで控えているビフロンスが眉を顰めているのが判る。コイツは人間嫌いだからな……

 

「あたしは貴方達よりも劣る人間です、何ゆえ配下に加えてくださると言うのですか?」

 

ふむ……確かにそれは全うな質問だな。自分の身が大事な人間らしい問いかけだ……

 

「高位の魔族には人間を魔族にする術がある。そしてお前は魔装術に強い適正がある、故に人の身を捨て魔族となるだけの素質がな。強き者は人間であれ有効に扱う。それだけだ」

 

これだけの魔装術の適正を見せたのだから、きっと魔族へと転生しても十分な能力を発揮するだろう。私にはビフロンスと言う優秀な配下が居るが、セーレやアスモデウスには直属と言える部下が居ない。この男は中々に頭が切れる、それに能力も高い。アスモデウスやセーレの部下にしても十分に能力を発揮するだろう

 

「ガープ様。お時間が迫っております」

 

「む?もうそんな時間か?」

 

ビフロンスの言葉に顔を上げると満月が天に向かっていた。もう少しで下界で最大の魔力を発揮する時間が来る……

 

「では命ずる。GS試験等と言う児戯は正直どうでも良い」

 

神魔が必要以上に警戒し、魔界や人間界の要所の警護を甘くした。それだけが目的だったような物だ……だから正直GS試験がどうなろうと私には何の興味も無い。だが命じる事はGS試験の中でなければデータを取ることが出来ない事だ

 

「あの人間の戦闘データの記録。必要ならば、これを使え。どうせなら完全に狂ってしまったほうが良いデータになる。相手次第では最初から使え、良いな」

 

人差し指の爪程度の大きさの狂神石を渡す、ある魔神とメドーサとの2重契約で通常の倍以上のスピードで魂を磨耗している陰念とか言う人間。まさか2重契約を成功させるとは思って居なかったが、もう魂が劣化と言うレベルではなく、完全に消失してしまっている

 

(あの有様では転生は愚か、魂の輪廻からも省かれるな)

 

既に転生するだけの魂の容量も持たず、このまま死んで完全に消えてしまうくらいなら狂神石でキメラとなった方があの男も幸せという物だろう。キメラにしてしまえば、研究しだいで量産する事だって出来る

 

「まぁそれはあくまでおまけ程度。機会があれば程度でかまわん、どうせGS試験が終われば死ぬ。死体でも構わないからしっかりと回収さえしてくれれば構わない」

 

死体でも解剖や、実験素材程度になるからなと付け加え、男の反応を見るが眉1つ動かさない。この動じない態度、素晴らしい、人間にしておくのが実に惜しい。魔族に生まれていれば上級に限りなく近い中級魔族にはなったと思えば生まれる種族を間違えたとしか……

 

「ガープ様。本当に間に合わなくなります」

 

むっ、1度考え始めると他の事が見えなくなるのが私の悪い癖だが、今日は遅れるわけには行かない、何日にも渡り準備を続けてきた。それを無に帰すわけにはいかない、だからこそ最後の命令だけを出す

 

「特異点の監視をせよ。良いな?その名は……」

 

早口で特異点の名を告げ、私はビフロンスが用意していた馬車に乗り込み、その場を後にするのだった……

 

「素晴らしい、実に素晴らしい……なんと美しいことか……」

 

香港の地下の霊脈の前で私は感動に震えていた……何日にも渡り、少しずつ術式を作り。満月が最大になった時、ようやく私の術式が完成した……今なら言える、あれだけの苦労をした価値があったと……

 

「ガープ様。あまりお時間はありません、どうか長考するのは無事に戻る事が出来てからに」

 

遠くから響いてくるビフロンスの言葉。ここは異界であり、ソロモンに名を連ねる私でさえ自力の脱出が不可能だと言わざるをえない程に複雑に魔力と神通力が入り混じった場所。ビフロンスに入り口を確保して貰っているが、それも長くは持たないと判っているのだろう。ビフロンスの声に焦りが混じっているのが良く判る

 

「判っている。判っているさ……っちい。この美しさを損ねる悪霊共め……」

 

ビフロンスの言葉に頷き、纏わり着いてきた悪霊の頭を砕く

 

「旧世紀の敗者共が……目障りにも程がある」

 

ここはかつての神魔大戦の際最も激戦区だった魔界と天界と位相が同じ。つまり下界でありながら魔界であり、天界と言う奇妙な場所だ。そしてその理由は判っている……魔力と神通力が反射する空洞の中。結晶の中に佇む巨大な影……この異空間に来る為に使った資材、魔力、生贄……それら全てがどうでも良いと思えてきた……

 

「漸くま見えることが出来たな。美しき災厄の魔人……」

 

巨大な7つの頭を持つ魔獣とその近くで死んだように眠る美しき魔人……禍々しくもあり、それでいて神々しくもある……

 

「「「「シャアアッ!!!」」」」

 

結晶越しにその顔に触れようとした瞬間。影から4頭の獣が顔を出し、その鋭い牙をこちらに向けてくる

 

「っ!?驚いた……目覚めている……のか?」

 

咄嗟に飛びのきその噛み付きを交わしたが、どうもあの獣は私を狙っていたようではなかった

 

「「「「グッチャグッチャ……」」」」

 

「「「「アアアアアアアアーッ!?!?」」」」

 

「なるほど理解した、あの悪霊は貴様らの餌と言うことか」

 

周囲の悪霊を貪る様にして噛み砕き始める。魔人のほうは眠っているが、その配下の魔獣は半覚醒状態にあるのだろう。魔力か神気を感じ取り、ある程度近づいてくれば捕食し、自らの糧とする……

 

「となれば目覚めさせることも不可能ではないと言うことか……」

 

本体を目覚めさせるには原初の魔人の解放が必要だろうが、それでも目覚める可能性があると言う事が判っただけでも十分だ。そしてあの美しい姿を見ることが出来たので、もう何も言うことは無い

 

「今はさらば、美しき災厄の魔人よ」

 

水晶の中でもまだ美しく輝く金の髪。伝聞では翡翠色の瞳を持ち、全ての魔人の始まりであり、終焉の皇女……数多の異名を持つ女神……バビロンの大淫婦、666の悪魔と呼ばれる人類・神・悪魔の天敵。ありとあらゆる神魔をその魔人が眠る場所を探す中。その魔人が眠る地が香港である事を知るのは、ガープただ1人だけなのだった……

 

 

 

ガープ様との話し合いを終え、眠る為に部屋に戻ると

 

「あら?雪之丞。まだ起きてたの」

 

目を閉じているが、気配で判る。まだ雪之丞は起きていると、一歩近づき……そのまま後ずさった

 

「何者かしら?」

 

雪之丞だと思ったが、雪之丞じゃない。この気配は全く別の存在……まさか私の考えている事がバレた……冷や汗を流しながら問いかけると、雪之丞の身体がぐらりと傾き、その影から巨大な大蛇が姿を見せる

 

「ビッグイーター!?まさか……」

 

何度か見た事がある巨大な白蛇。それを私は知っているビッグイーターだ。ビッグイーターはメドーサ様の使い魔。慌てて駆け寄ると、ビッグイーターは咥えていた何かをその場に置き、溶ける様に消えていった……

 

「ま、待って……」

 

思わず待ってと叫びたかった。あたしではもうどうしようもない、出来る事も無い。だから出来る範囲で自分に出来る最善の手を打とうとここまで頑張ってきた。メドーサ様はもう死んだと聞いていたから……でも生きているのなら、生きているのなら助けを求めたかった……

 

(駄目。駄目よ……まだ、まだあたしにはやることがある)

 

弱気になったら駄目だ。自らに気合を入れるために頬を叩き、ビッグイーターが置いて行った何かを拾い上げる

 

「封筒?……中身は重いけど……」

 

封を切り中身を出して見る、中身はイヤリングが1つ。そして一言だけ書かれた手紙

 

【身につけてろ メドーサ】

 

簡潔な言葉だけど、その言葉にはあたしを心配しているような響きが感じ取れた……

 

「あ、ありがとうございます。メドーサ様」

 

メドーサ様から渡されたイヤリングを両手で握り締める。そのデザインはメドーサ様の物と同じで、あたしが何度か欲しいと頼んで怒られ続けていたあのイヤリング……

 

(これであたしはまだ……頑張れます)

 

白竜会の中の最年長として、そして雪之丞や陰念の姉弟子として(?)あたしにはあの2人を護る義務がある、その為なら人間の身体を捨てたとしても後悔は無い……

 

(どうかメドーサ様。この臆病で弱いあたしに最後まで頑張る勇気を……)

 

本当ならもうこの場から逃げ出してしまいたい、でもあたしはそれが出来る立場では無い、最後まで自分の出来る最善の一手を打つ……メドーサ様から託されたイヤリングを左耳に着ける。それだけで震えていた手が止まった……これであたしはきっと最後まで頑張れる……きっとその先に何も無いことは判ってる、あたしの進む先はここで終わりだと判っている。だから……多少の無理も無茶も出来る……それをする勇気が私には足りなかったけど、メドーサ様から貰ったイヤリングで勇気を得ることが出来た……だから私は頑張れる。自分に言い聞かせるように呟き、窓の外を見上げた、そこには美しい満月が浮かんでいた……

 

 

 

 

目の前で叩き潰した参加者を見ながら小さく呟く

 

「ま、こんなもんだわな……」

 

GS試験予選の参加者と聞いていたからもう少しやると思っていたが、まぁ初戦は見習いレベル。俺の敵じゃなかった……

 

「あら。早かったわね、雪之丞」

 

次の試合が勘九朗なのか、ゆっくりと控え室から出てくる

 

「まぁな。大したことない相手だったしな」

 

雪之丞が大したこと無いと言っているのは、実はGS試験の前予想で合格確実と言われていた若手なのだが、当然それを知らない雪之丞も勘九朗も楽な相手に当ったな程度の認識だ

 

「そ、じゃ試合が終わったら情報交換をするわよ。ちゃんと試験は見てなさいよ」

 

陰念はもうそう言うの無理だから。勘九朗の付け加えた言葉に眉を顰める、先日まではまだ意識が残っていたが、今の陰念はまるっきり人形だ。話しかけても何の反応も無い。それ所か拳を繰り出してくる始末

 

「おい、試合の前に聞きたい」

 

「何を?私のスリーサイズ?」

 

しなを作る勘九朗に男のスリーサイズなんて興味ねえよと呟き

 

「陰念のあれが魔装術の弊害なのか?」

 

ずっと気になっていた、魔装術は使えば使うほどに魔族に近くなると聞いていた、だが陰念のあの状態は魔族と言うよりかは何も無い人形のように思えた。もしかするとあれがもう1つの魔装術の弊害。魂を喰われると言う状態なのか?と尋ねると勘九朗は小さく頷きながら

 

「……そうなるわね。魂を全部喰われるとああなるわ。使うなら制御できる範囲にしておきなさい」

 

できるだけ使わないほうがいいけどねと呟き試合会場に向かっていく勘九朗。一瞬控え室に戻ろうかとも思ったが

 

(止めとくか……)

 

今の陰念は見ていて余りに痛々しい。なまじ昔の陰念を知っているだけに余計にそう思う

 

(あいつらが見たらどう思うんだろうな……)

 

門下生の連中に陰念は人気があった。厳しいは厳しいが面倒見が良く、そして行き詰っているとなんだかんだで指導していた陰念は門下生の連中に人気があった。そんな陰念の今の有様を見たらあいつらどう思うんだろうな……とは言え、俺に何か出来ると言う事でもない。結局は自分に出来ることを全力でやるしかない……

 

(横島忠夫だったか)

 

霊力測定まで暇だったから観戦していたが、Bグループの横島忠夫。霊力を解放するだけで周りの人間を吹き飛ばしたことを考えると、かなりの霊力量を持っていることが予想できる

 

(あいつと戦ったらきっと面白いんだろうよ……)

 

思わず手に力が入る、俺は誰よりも強くなりたい。俺が子供の時に死んじまったママとの約束だから、白竜会に入ったのも、魔族が来ても脱走しなかったのも、強くなる為ただそれだけの為だ

 

(勝ち上がって来いよ。横島)

 

幸いにもあいつと陰念の暴走で出場人数は大幅に減っている。きっと俺と横島は近い内に対戦で当る……そうすれば俺は今よりももっと強くなれる……思わず笑みが零れるを感じながら、俺は観客席へ向かって歩き出すのだった……この時雪之丞は気付いていなかったが、その左目が真紅に発光し悪魔のような笑みを浮かべて居ることに……雪之丞もまた己の知らない所で、ガープによる呪術により、その闘争本能を肥大化されていた。本来雪之丞は情に厚く、仲間想いな男だ。自分では何も出来ないからと言う理由で仲間を見捨てるような性格ではなく、出来る、出来ないにしろ、自分に出来る限りの全力を尽くすそう言う男だった。もしも陰念が元の性格ならば、その違いを指摘しただろうが。その陰念は己を失い、勘九朗には雪之丞に声を掛ける精神的余裕も無かった。故に彼は気付かない、自分の理想が少しずつ歪んでいることに……

 

己の知らない所で闘争本能を強化され、自らの性格が歪み始めている事に気付かない雪之丞。

 

己の本性を隠し、何か大きな目的のためにガープに従う勘九朗。

 

仲間のために行った魔族との2重契約により、魂を失った陰念。

 

運命のGS試験本戦はもう直ぐそこまで迫っていた……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~

 

 




次回から第一部の最終リポートとなります、ここまで大分長くなりましたがもう少しで一区切りが付きそうです。原作とは大分違う流れになる予定なので、GS試験本戦がどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回から本戦開始と第一部の最終リポートとなります。一部めちゃくちゃ激しい戦闘を交えて、最終リポートを盛り上げていこうと思うので楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~ その1

 

恐ろしい結果じゃったなあ……ワシは机の上のPCの機械の電源を切り天井を見上げながら呟いた

 

「マリア、テレサ。そっちの分析の結果は?」

 

多分ワシと同じ結果だと思うが、一応念の為に尋ねて見る。マリアの顔色は悪いが、テレサは良く判らないという顔をしながら

 

「伊達雪之丞が67マイト。鎌田勘九朗が89マイト。陰念が72マイトだって」

 

むう……やはり同じ結果か……美神とかの優秀所が90マイト……それで考えると最早GS試験に参加していいレベルの能力ではない。少なくともB級……最悪A級クラスのGS並みの霊力を保有している

 

(むう、こんな所にも逆行の弊害か……?)

 

あの時は呆けておったからマイト数の分析などしておらんかったが、マリアはちゃんと逆行前の3人のマイト数を記録していた。逆行前のマイト数は、伊達雪之丞44マイト。鎌田勘九朗81マイト、陰念27マイト……鎌田のほうは正直誤差の範囲じゃが、伊達・陰念の両名は既に別人と言わざるを得ないほどの霊力を溜め込んでいる

 

(これがガープの力と言う奴か……末恐ろしい)

 

ソロモンの魔神の恐ろしさは知っているつもりじゃったが、それはあくまで個人の力の脅威度だ。まさか人間の力をここまで強化するなんて想定外にも程がある

 

「ドクターカオス。私は今すぐにでも横島さんに棄権させることを提案します」

 

マリアの意見には賛成じゃ、小僧がGS試験に参加すれば東京壊滅は回避出来るとの予言なのだから、この段階でもう十分にその役割は果たしたと言えるだろう。ワシとマリアがそんな話をしているとテレサが

 

「でもさ?横島のマイトも一瞬だけど75~100って出てるから大丈夫じゃないの?」

 

確かにそれだけの膨大なマイト数を小僧は一瞬とは言え叩き出している。それは通常時が30マイト前後の事を考えれば破格のマイト数と言えるが……恐らくそのマイト数の大半は心眼のものじゃろう。仮にそれだけの霊力をもっていたとしてもそれを制御できるか?となるとそれは別問題。やはり1回戦でこちら側の事情をしる蛍のお嬢ちゃんか、ブリュンヒルデと対戦させて敗退させるのがベストじゃろう。これは琉璃や美神にも相談しておいたほうがいいじゃろう

 

「テレサ?貴女は横島さんが怪我をする所を見たいですか?」

 

「見たくない。姉さんが横島を棄権させろって言うのはそう言うこと?」

 

「そうです。あの人はとても優しいいい人です、そんな人が絶対怪我をすると判っている戦いに出るというのは嫌でしょう?」

 

「うん、嫌」

 

「もしもの可能性を私は危惧しているのです、テレサ。私は横島さんに怪我をして欲しくないですから」

 

マリアがテレサに感情の教育をしているのを見て、このまま少し怪我等に関する知識と人を心配する心を学ばせた方が良いとと判断し

 

「少し打ち合わせに行って来る。ここで待っておるんじゃぞ?」

 

はーいっと返事を返すテレサと判りましたと返事を返すマリアに小さく手を振り、ワシは琉璃達が待機しているモニタールームへと向かうのだった……

 

 

 

負傷者に棄権者を含めて予定人数よりも大分参加人数が減ってしまった今年のGS試験

 

(こうなると残った面子が不幸に見えてくるから不思議だわ……)

 

毎年GS試験に参加しているが、大体2試合目で落ちる「蛮・玄人」基礎霊力も体力も悪くないんだけど、相手を見下すその性格が災いしていつも不合格になっているらしい。それともう2人

 

(なんとも不気味な参加者ね……本当なら出場取り消しにしたい人物だわ)

 

都津根毬夫(とつね・まりお)。これなんか確実に偽名を堂々と名乗ってる。GSと言うよりかは呪術師に近いのか、死んだ動物を自らの除霊道具としてエントリーしている。しかも顔もゴムマスクで隠し、身体には漆黒のマントと怪しい所の人間ではない。そもそも使っているのがキョンシーなどの札で操作するのではなく、自身の霊力を糸の様にしマリオネットのようにして操っているのが余計に反感を抱く理由になっていると思う

 

「どう思います?美神さん。この都津根毬夫って」

 

私の霊感ではろくでもない人物だと思う。特に動物の死体を自分の武器として使っているあたりどうしても好きになれない、きっと横島君なら速攻で殴りかかるタイプだ。

 

「横島君と絶対に気が合わないタイプの人種よね」

 

「そうですよ……ってそうじゃないですよ。私が聞いてるのは別派閥の魔族からのアプローチじゃないかって事ですよ」

 

美神さんはうーんと腕組みをしながら、書類を見て

 

「見た目も怪しい、使う術も怪しい。でもなんか違うのよね……」

 

違う?違うってどういうことですか?と尋ねると美神さんは

 

「説明しにくいんだけど……今は何もしないと思う。今は……」

 

今は……って事は後で行動を起すかもしれないって事じゃないんですか?と尋ねると私と美神さんの話を聞いていたブリュンヒルデさん……いや聖奈さんが

 

「私も同意見ですね。ソロモンや魔族にしたとしてもここまで魔力の残滓を残していないと考えると、魔族ではないと言う線が濃いかと」

 

聖奈さんの説明では人間に化けたとしても魔族は魔族。僅かながらにも魔力の波動が残る、しかし都津根毬夫には一切の魔力の残滓がない。つまり魔族やそれに関係する人物ではないと断言できますとまで言われた。まぁあの術は魔術に似てますが、人間の作り出した邪法ではないでしょうか?と自らの考えを教えてくれた。それに付け加えるように美神さんが

 

「でも何もして無いんじゃ捕らえることも出来ないでしょ?せめて柩がここに居れば予言って言い張れるけど」

 

柩は今魔界の隔離結界の中で護られている。連絡を取ることは出来ないし、怪しいからっていう理由で逮捕出来る訳じゃない。あれだけ悪辣な術を使うから魔族関係だと思ったんだけど、違うみたいね……

 

「要警戒って事でGS協会でリストアップしておけば?」

 

美神さんの言うとおりだ、今出来る対策とすればこれくらいだろう。殺人などを犯していれば参加資格の剥奪とかも出来たのだが、そう言う事もせず自分と対戦した相手の治療をするなど驚くほどに紳士的だった。格好さえ除けばだが

 

「それとこのもう1人どう思います?」

 

「馬鹿じゃないかしら?」

 

美神さんの即答に苦笑する兵部幽介。衰退しつつある霊媒師の一族兵部家の現当主。霊力はやはり衰えているが、それを補って余りある神通棍・破魔札の扱いはGS試験に参加するに十分な素質を言えるだろうが

 

「ナルシストってのは駄目ですよね」

 

恐ろしいまでの自意識過剰、しかも口調もまるで俳優のような言い回しをするなど正直言って除霊を舐めているとしか思えない。丁度いいので2回戦で白竜会の相手とぶつけて様子を見ましょうか?と美神さんと話し合っていると

 

「失礼するぞ」

 

扉を叩いてからドクターカオスがモニタールームに入ってくる。その手には何かの情報を纏めたと思われる書類の束……

 

「マイト数の測定が終わったんですか?」

 

霊力測定を頼んでいたのでその結果が出たのですか?と尋ねるとうむっと頷きながら、私と美神さんの前にその書類を置く

 

「……これ間違いじゃないの?」

 

一通り目を通してから美神さんが呟く、その意見には私も同意だ。白竜会の面子の殆どが60マイトを超えている。一般的なGSのマイトが40~50と考えると既に通常のGSを超えているという試算になる

 

「何度も測定したから間違いないの、ちなみにこっちが味方のマイト数じゃ」

 

次に差し出された紙には横島君達のマイト数が記録されていた

 

横島忠夫 30マイト(暴走時110マイト 恐らく小竜姫の竜気が暴走していると推測。小僧の体に強い負荷をかける危険性高し)

 

芦蛍 61マイト

 

タイガー・寅吉 33マイト(自身に精神感応を行った場合47マイト)

 

ピエトロ・ド・ブラドー 50マイト

 

ブリュンヒルデ 97マイト(ただし自らのマイトを大幅に封印している為。正しくは1950マイト)

 

「普段なら間違いなく合格なんだけどね」

 

GS試験では40マイトを超えればまず合格間違いなしだ。無論技術などの基本能力の問題もあるがボーダーとしてはそれくらいだろう。それを完全に上回っている白竜会の面子がどれだけ規格外なのだろうか?

 

「恐らくガープでしょう。呪術的な強化をしているのだと思います。多分神魔に対する挑発と人間を攻撃するのか?と言う意味も込めているでしょうね」

 

ほんと悪辣な手を打ってくるわね……いやまぁ魔神だからそれ位してくるとは思っていたけど……

 

「さて。ワシとマリア達からの提案じゃが、明日の第一試合に小僧とブリュンヒルデの試合を組んでもらおうかの?」

 

その言葉を聞いて美神さんも私の方を見て、真剣な顔をして

 

「GS試験に出場すれば東京壊滅の未来は変わるんでしょ?じゃ、横島君はその仕事を十分に果たしたわ。明日の第一試合でブリュン……んんっ、聖奈と戦って貰って敗退してもらいましょう」

 

ドクターカオスと美神さんの迫力に頷きながら、私も同じ考えだと告げる。他の皆はギリギリ50だったり40以上だけど、横島君の霊力はそれと比べて低すぎるし、最近漸く霊力のコントロールを覚えてきたということも考えるとやはりここまでと考えたほうがいいだろう

 

「じゃあピート君・蛍ちゃんのフォローを重点的にして行く方向性で会議をしましょう」

 

明日の10時から始まる第一試合。時間は十分にある、それまでにどうやって白竜会の面子を倒すか?と言う議題で会議を始めるのだった。魔族と繋がっている……いや操られている事は判っているが、何の証拠もなしにGS試験に参加している参加者の出場資格を取り消し、他の参加者に被害を出させずに、魔族と繋がっている証拠を引きずり出し、なおかつソロモンの干渉を受けてもこちらに被害が出ないように束縛する……。考えて見ればかなり難しい条件だが、それを何とかして満たす方法を4人で話し合うのだった……だが話し合いに参加している聖奈ことブリュンヒルデだけは相槌こそ打っていたが、自らの考えを口にすることはなく、何かを考え込んでいるような素振りを見せているのだった……

 

 

 

カズマの子孫か……目の前で緊張した面持ちの少女……神宮寺くえすを見て感慨深い物を感じていた

 

(何年前だったか……)

 

少なくとも魔界統一戦が行われる前だから1000年以上前の話だ……この俺を呼び出したあの馬鹿の事をどうしても思い出す

 

【愛は俺には判らない、何れ判るとしても今は必要ない。今は……だ、俺は強さを、この俺神宮寺カズマが魔術の頂点に立つ。そのための知恵と力を俺に寄越せ】

 

傲慢ではなかった、誇り高く、強さと知識を兼ね備えていた。人間にしては最高レベルと言わざるをえない程の力を秘めていた。だが俺は最初力を貸すつもりなんて全くなかった、カズマは用意周到にこちらの力をそぐ準備をしていた、それもあったという事で、俺は不覚にも結界の中に封じられたから人間界に暫く留まっていたがいつでもこいつを殺せるという気持ちがあったからだ。確かに強力な結界だったが、時間をかければ解析出来ない物では無かった。

 

【聞いてくれビュレト、契約は取り消しだ。ここまで人間界に留めて悪かった、謝罪で足りぬのならば、死後俺の魂を渡そう】

 

突如俺の契約を解除したカズマ。その理由が判らずどうして解放したのか?それを尋ねカズマは

 

【俺は愛を理解した、魔術師として頂点に立つよりも、俺は彼女を守りたい。名声も力も必要ない、ただ彼女を守れるだけの力があればそれでいい】

 

愛は何よりも強い力となる。人として1回りも2回りも成長したカズマを気に入って力を貸したことが昨日の事のように思い出せる

 

「まずはご無礼をお許しください」

 

向かい合って座った喫茶店で深く頭を下げるくえす。まぁ確かに行き成り名前を呼ばれたのは不快だったが、カズマの子孫となれば話は変わる

 

「良い、気にするな。それで聞きたい事ってのは何だ?」

 

周りの人間の視線も痛いので顔を上げるようにして話の内容は何だ?と問いかける。するとくえすは

 

「GS試験にソロモンが動くと神代琉璃に聞きました。それは真実でしょうか?」

 

まぁそれは疑う所だよな。ソロモンの魔神が人間界で動くなんて魔法に関する人間なら、そんな馬鹿なと思う所だろう

 

「言いにくいが真実だな。過激派に属してる魔神が動き出している」

 

周囲の人間に聞き取れないように結界を張ってから返事を返す

 

「そう……なのですか……出来れば信じたくない内容でしたが……同じビュレト様が仰られるのなら真実なのですね」

 

沈鬱そうに呟くくえす。しかしこうして見て見るとカズマと本当に良く似ている……

 

(転生……どちらかと言うと隔世遺伝とでも言うのか?)

 

どこか冷めた目に、溢れんばかりの魔法の才。そして……危ういほどに魔族に近いその考え……

 

(もしかすると……あいつの目的は……)

 

ガープの事だ。GS試験という大きな舞台の影で暗躍していると見て間違いない。アシュの野郎が協力して情報を流そうとしているが、それも来ないと言うことはよほど隙が無いのだろう。ではあいつの目的は何だ?と考え思い浮かんだのは戦力の強化……人間界でガープの目に付くとしたら神宮寺くえすしか居ないだろう

 

「おい。神宮寺くえす」

 

外れても良いと思いながらくえすの名前を呼ぶ。こちらに顔を向けた瞬間額に人差し指を押し付ける

 

「なにか?」

 

急に額を触られて困惑している仕草のくえす。まぁ当然だよなと苦笑しながら

 

「俺との契約は神宮寺の家全てに今もなお続いている。だから改めて契約することは出来ない」

 

神宮寺の血に既に俺の魔力は浸透している。だから改めて契約することは出来ない、だからくえすの額から指を離しながら

 

「俺の加護をくれてやる。神宮寺カズマに最も似るお前にな」

 

額に浮かんだ三日月の形をした魔力刻印。それが吸い込まれるようにしてくえすの中に消えていく。これでガープからの干渉もある程度は耐えることが出来るだろう、その後はくえすの精神力次第

 

「私は初代様に似ているのですか?」

 

席を立った俺にそう問いかけてくるくえす。俺は少し考えてから

 

「ああ良く似ている。性別の違いこそあれど、お前はカズマとそっくりだ。だから俺から1つだけ助言をしてやろう」

 

きっと今こいつは行き詰っている。カズマと同じ状態だ、自分1人で力を磨くことの出来る限界に達している。ここから先は1人では決してたどり着くことの出来ない境地……

 

「魔族は1人でも生きていける、何故なら既に完成しているからだ」

 

その種族の中で魔族にしろ神族にしろ、伸びしろと言うのは決まっている。自分の限界を自分で知っているのだ

 

「だが人間にはそれが無い、良いか。良く考えろ、人間だけが持ちえる最大の武器を知れ。そうすればお前はもっと優秀な魔術師になれるだろうよ」

 

それこそ人間のまま魔神の領域に辿り着ける程にな……と呟き。今度こそ背を向ける、俺がこれ以上何も言うことは無いと判断したのかくえすは頭を下げ

 

「ご助言大変感謝いたします。魔神ビュレト様と契約した神宮寺の現当主として、その名に恥じないよう己を磨きます」

 

振り返ることなく俺はその場を後にした、人間だけが持つ最大の武器……それにくえすは辿り着けるだろうか?カズマも時間をかけてその答えを得た。だがくえすには時間を掛けるだけの時間がない、もうガープが動いている以上短時間でその答えに辿り着かなければならない

 

(答えにもうお前は手を掛けているぜ)

 

後ほんの少しのきっかけで、くえすは答えを得るだろう。ま、そうなれば色々と問題が起きるだろうが、正直俺には関係のない話。

 

「頑張れよ。くえす」

 

きっとくえすは神宮寺の血を引く者で最高の魔法使いになる。そんな確信を感じながら、俺はその場を後にするのだった……まぁ頑張ったら頑張ったできっと大変なことになるんだろうがなと苦笑したのは、くえすが答えを得た後どんな行動に出るのか全て判っていたからだった……

 

 

 

 

「うーむ……大丈夫かなあ」

 

GS試験の予選を終えたその日の夜。俺は寝る前に思わず不安を口にしていた、明日は参加者同士の試合になる。正直俺はきっと今年のGS試験の参加者の中で一番劣っているだろう。どうせ敗退するにしろ、1回くらいは勝ちたいなと思っていると

 

「……横島」

 

「ん?シズク。なん……だぁ!?」

 

小さく開いた俺の部屋の扉の隙間から、シズクが手を入れて何かを投げ渡してくる。咄嗟にそれを受け止める

 

「お守り?」

 

それは紫色の袋に入ったやけにごつごつした何かが収められたお守りだった。

 

「……明日はGS試験の参加者同士の試合なのだろう?」

 

普段なら話をする時に部屋に入ってくるのに、部屋に入ってくることなく尋ねてくるシズクに少しだけ疑問を感じながら返事を返す。GS試験の会場から帰る時にシズクも蛍と美神さんから一緒に聞いていたはずだけどな……なんでそんな事を聞くんだろ?それにこういうのを聞くのはシズクじゃなくて、俺が聞く側だと思うんだけどなあ

 

「……丁度抜けた牙が2本あった。それとタマモの尻尾の毛を少し頂いて、後モグラの牙とチビの牙を霊水で磨いたものを入れておいた」

 

あーなんか最近チビとモグラちゃんの牙が生え変わりの時期なのか、抜けた牙を掲げるようにして持ってきてたけど……え、まさか……これってあの時の牙?

 

「……竜の牙は古来より強い霊力を発し、更には魔避けに、九尾の毛は当然強い霊力に対する抵抗を持つ、チビとモグラの牙は未知数だが……恐らく私の牙と同じような効果があるだろう。きっと横島を守ってくれる」

 

……そっか……皆俺の事を心配してくれてるのか……蛍やピートと比べれば俺は弱い、俺が怪我をしないようにシズク達なりに考えてこのお守りを作ってくれたのか……なんか、嬉しくて思わずジーンっと来ていると

 

「……無理だと思ったら棄権しろ。GS試験は今年だけじゃない、もっと力を蓄えてからでも遅くはない。頼むから無理をしないでくれ」

 

蛍と美神さんの話の中にあった、規格外の3人組の事がある。どうも俺は見ることがなかったけど、相当ヤバイ3人組がいると……

 

「おう、判ってる。無理しないし、危ないと思ったら棄権もする。約束する」

 

なんだかんだで俺も色々と無茶をした。だから今回も無茶をすることをシズクは心配しているのだろう……美神さんや蛍にも口を酸っぱくして危ないと思ったら棄権しろと言われていたので絶対無理をしないと約束する

 

「……判った。明日頑張れよ……私もタマモ達も応援してる」

 

扉がゆっくりと閉まる中シズクの応援の言葉にありがとうと返事を返し、俺はベッドに横になりシズクがくれたお守りを見つめながら

 

「……頑張ろう」

 

正直俺自身も合格できるなんて思っていない、でも自分でやる気を出して、自分の夢を叶える第一歩として挑戦したGS試験……何もしないで諦めることなんて出来ない……だからやれるだけやる。出来る所までやって……どうしても無理だと思ったら棄権する……でも頑張れば……無理すれば届くかもしれないなら……

 

(挑戦してみるかもな……)

 

あのベルトに眼魂。それに制御できるわけじゃないが、最近やっと出来るようになった事がある。右手を天井に向けて、人差し指から握りこんで行くとジジッ!と放電するような音が響き、うっすらとした翡翠色の輝きに右手が包まれる

 

「あん時ほどじゃないけど、こんでも使えるよな」

 

ブラドーから魔族を無理やり殴り飛ばした時ほどの破壊力は残念ながら無いが、これでもある程度の攻撃力は在る筈だ。握り拳を解くと翡翠色の輝きはあっさりと消える。そして枕元に置いてある紫の眼魂に手を伸ばし

 

「なあ、牛若。多少無理しても頑張れば前に進めるとしたらどうする?お前は俺を止めるか?」

 

手の中の牛若丸眼魂の眼が勝手に開き、チカチカを光りながら

 

【私は止めませぬ。私も初陣は無茶をした物です、前に進むと、挑戦する気概があるのなら……この牛若止めは致しません。どうか全力で立ち向かいください。いまだ具現化出来ぬ未熟な身ですが、全力で御手伝いさせていただきます】

 

俺の意見に同意してくれた牛若にサンキュっと呟き、枕元に戻し、空の3つの籠を見る。本当ならチビやモグラちゃんにタマモが寝る所なのだが、明日の事もあるからとシズクが自分の部屋に連れて行ってしまった。だから妙に部屋が静かだなあと思いながら部屋の電気を消し布団をかぶった

 

「明日だな……俺が成長したか、そうじゃないかが判るのは……」

 

GS試験に合格し、GSになる。そうすれば少しは自分の成長を実感できる……ほんの少しは蛍や美神さんの役に立てると思う……なんにせよ。全ては明日……だから今日は霊力と体力を回復させ万全の体制でGS試験に挑めるように早めに眠ることにするのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その2へ続く

 

 




今回はGS試験本戦に向けての話となりました。次回からは戦闘がメインになってくると思います、なおGS試験参加者の都津根毬夫(とつね・まりお)は金田一少年の事件簿より地獄の傀儡子こと高遠遙一の偽名です、兵部幽介は絶対可憐チルドレンの兵部から苗字を借りました。モブとなるか、メインキャラクターになるかモブで終わるかは秘密です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回はブリュンヒルデ事聖奈と横島の試合をメインに書いていこうと思います。どういう結果になるのか楽しみにしていてください、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その2

 

いつもの時間に目覚まし時計の音が鳴る。早く寝たおかげかすんなりと起きることが出来目覚まし時計を止める

 

「う、うーん……」

 

いつもどおりの時間なので朝5時に起きてしまった。もう少しゆっくり休んだほうが良かったかな?とも思うが

 

「いや、何時も通りが1番だろ」

 

変な風に生活リズムを変えるとそこから全部崩れてしまいそうに思える。ベッドから抜け出してジャージ上下に着替え

 

「うっし、行くか。牛若」

 

ウィスプや韋駄天ではなく、牛若丸眼魂を選んだのはちゃんと意思疎通が出来て、なおかつ兵法(?)を教えてくれるので、散歩のついでに軽く体を動かす時のアドバイザーとしてとても助かっている

 

【はい、お供します】

 

牛若丸眼魂をジャージのポケットに押し込み部屋を出ると

 

「みーむう?」

 

「うきゅ?」

 

リードを持って待機していたチビとモグラちゃんがいた。普段なら部屋に入ってくるがシズクに注意されていたのか部屋の外で待っていたようだ。チラチラっとこっちを見ているのは散歩に連れてってくれる?と尋ねているように見えて

 

「散歩行こか?」

 

どうせランニングに行くつもりだったので散歩に行くか?と尋ねるとガバっと顔を上げて

 

「みーむう♪」

 

「うきゅー♪」

 

嬉しそうに返事をするチビとモグラちゃんの首輪にリードの紐を繋ぎリビングの前を通ると

 

「……散歩に行くのか?」

 

驚いた表情で尋ねてくるシズク。まぁGS試験当日に朝早く起きてランニングに行く馬鹿は居ないよなあと苦笑しながら

 

「いつも通りが1番力が出ると思ってさ、7時までには戻るから」

 

結局の所普段通りが1番リラックス出来ると思う。シズクは納得して無さそうな感じだったけど頷いて

 

「……一通り身体を動かしたほうが本番で力が出せるな。気をつけて行って来い、だが7時30分までには戻れよ?美神達が迎えに来る」

 

判ってると返事を返す、普段の散歩のコースなら今の時間で往復してもまだ時間が余るから全然余裕の筈だ。俺はそう考えチビとモグラちゃんのリードを持ち、いつも通りの散歩のコースを走り始めるのだった

 

「うきゅーうきゅきゅーッ!!!」

 

「みみむううーッ!!!!」

 

土手に座り込んでタオルで汗を拭う。蛍の決めてくれた散歩のコースだが、坂が多くあり歩いているだけでも汗が出てくるが、今日は軽く走ってきたのでかなり汗をかいてしまった。土手で並んで競争しているチビとモグラちゃんを見ながら呼吸を整えていると

 

【あれー?横島君じゃないですか?こんな朝から何してるんです?】

 

少し能天気な声で俺を呼ぶ声……この声って……もしかして振り返るとそこにはやはり予想通りの人物が居た

 

「沖田ちゃん。おはよう」

 

【はい。おはようございます、横島君】

 

竹刀袋って言うのかな?それを背中に背負って、ニコニコと笑う沖田ちゃんがゆっくりとこっちに降りてきながら手を振っていた。着物姿なのが実に惜しい、スカートなら見えたかもなぁと思わず思ってしまうのだった……

 

【ほえーGS試験ですかー、沖田さんは良く判りませんが、新撰組の入隊試験みたいな物ですかね?】

 

隣に座った沖田ちゃんにGS試験の話をすると、予想通りと言うか、案の定と言うか反応があんまり良くない。元々は映画の登場人物が魂を得て具現化した映霊と言う存在だから、現代の知識はやはり乏しいのかもしれない。その代わり映画の年代の知識は恐ろしいまでの博識らしいけどな

 

「ああ、なんか受験生同士の組み手があるらしいから、試験の前に身体を暖めておこうかなあってさ」

 

軽く走りこんだおかげか身体が良い感じにほぐれていると笑う。だけど沖田ちゃんは真剣な顔をして何かを考え込む素振りを見せている。どうしたんだろうか?

 

「みむーッ!」

 

「うきゅ!?」

 

ぺいっとチビにコロンと転がされるモグラちゃん。シズク曰くトレーニングらしいけど、見ている分には可愛いだけだよなーと思って笑いながらその光景を見ていると

 

【判りました横島君。ここであったのも何かの縁。少しばかり私が稽古を付けてあげましょう】

 

はい?どうしてそうなるの?俺は膝の上におかれた木刀を見て間抜けな声で返事を返すのだった……

 

【握りは適当でいいです、横島君はそう言うの判らないと思いますから】

 

なんでえ……?なんで俺は木刀を持って沖田ちゃんと向かい合っているのだろうか?

 

「みーみー♪」

 

「うきゃー♪」

 

俺の真似をしているのか、チビが木の棒を持って振り回し、モグラちゃんが前足で軽くそれを弾いて遊んでいるのを見て、どうしてこうなったんだろう?と思っていると

 

【良いですか横島君。そこから動かず、木刀を私に向けたまま立っててください。良いですね?】

 

立ってるだけ?まぁそれくらいならと頷いた直後。周囲の空気が一気に冷えた感じがして

 

「う……あっ……」

 

そのままよろよろと後ずさりして尻餅をついてしまう。チビとモグラちゃんが毛を逆立てて唸っている、い、今何が起きたんだ?

 

【これが殺気です。GS試験というのは私には判りません。ですが、悪霊と戦うという職業上こういう機会は多くあるでしょう。悪霊のようなおぼろげな殺意ではなく、人間の殺意と言うのはこうも強烈な物です。横島君立てますか?】

 

地面に手を着いて立ち上がろうとするが、手にも足にも力が入らず立ち上がることが出来ずにいると

 

【どうぞ】

 

手を差し出される。少し気恥ずかしい気持ちになったが、沖田ちゃんの手を取って立ち上がる。すると沖田ちゃんはまた元の場所に戻って

 

【ではもう1度。下がっても良いですが、決して尻餅など着かぬ様に】

 

「ま、待ってってうお……」

 

再び強烈な寒気を感じ、俺は今度は木刀を落としてしゃがみ込んでしまった。こええ……なんか、説明しにくいんだけど今めちゃくちゃ怖かった

 

【主殿。牛若をお出しください】

 

ジャージの中から聞こえてきた牛若丸の声に頷き、眼魂を取り出すとそのまま肩の上に乗せてくださいと言われ、落ちないのか?と思いながら肩の上に置くと吸い付くようにして肩にくっつく。すげ……こんな事が出来るのかと感心していると

 

【では次です、行きますよ】

 

再び凄まじいまでの沖田ちゃんの眼光が俺を貫く、息が出来ない、目の前がチカチカする……再び倒れそうになった時

 

【主殿。大きく深呼吸をしてください、貴方もまた修羅場を通って来ている。殺気に気圧される必要などありません】

 

牛若丸の助言で一瞬だけ我に返る。大きく深呼吸と言われたが、本当に小さい……それこそ溜息程度だが呼吸をすると身体の強張りが緩んだ気がした

 

【助言のおかげとは言えお見事。良く私の殺気に耐えましたね】

 

【人斬りめ。貴様何をするか、今の殺気。心臓の弱いものなら死んでいたぞ】

 

え……そんなにやばかったの……沖田ちゃんを見るとあははっと笑っているが、明後日の方向を向いて、吹けもしない口笛を吹こうとしているのが見えて

 

「沖田ちゃん……」

 

俺がジト目で見つめていると沖田ちゃんの良心が耐えられなくなったのか

 

【すいませんでした】

 

ちょっと調子に乗ってましたと謝ってくる沖田ちゃん。思わず苦笑していると

 

【お詫びと言っては何ですが……横島君。貴方にしか出来ない必勝の策をお教えしましょう。これなら格上が相手でも決まれば勝つ事が出来ると思いますよ】

 

必勝の策?……なんだろう。気になるな……俺はどう考えても他の参加者よりも数段劣っている。何か一手欲しいと思っていた所だ

 

【私は信用できないと思いますけどね】

 

牛若丸の意見を聞いて少し悩んだが、俺は沖田ちゃんの言う必勝の策とやらを聞くことにした

 

【っとまあこんな感じです。多少危険ですがやってみる価値はあると思いますよ、じゃ、GS試験とやら頑張ってくださいね】

 

そう笑って次の仕事があるのでーと言って歩いて行く沖田ちゃんを見送り、俺も家へ戻るのだった……

 

「どこ行ってたの!早く準備しなさい!」

 

どうも沖田ちゃんとの稽古で思ったより時間が経ってしまったようだ。家の前で腕を組んで怒ってる美神さんと

 

「横島。シズクがおにぎりを用意してくれてるから車の中で食べて、とりあえず着替えてきて」

 

蛍からジャージから着替えてくるように言われ、判ったと返事を返し自分の部屋に駆け込むと

 

【あ。横島さん。お着替え用意しましたよー?】

 

おキヌちゃんが部屋で俺の着替えを用意してくれていて、これも美神さんの指示なのか?と思って服を受け取ったけど、車の中で聞いたらおキヌちゃんの不法侵入だという事が判り車の中が一時騒然としたのだが、あまり関係のないことなのでここは割愛しておこうと思う……とりあえずおキヌちゃんの不法侵入を防いで、なおかつチビ達に悪影響に無い何かがないか?今度カオスのじーさんに相談してみようと思うのだった……

 

 

 

 

さて……そろそろですね。先ほど抽選で私と横島忠夫の試合が決定した。と言ってもこれは最初から決まっていたので、殆ど八百長に近い物がありますが……未熟なGS見習いと聞いているので安全に敗退させるには事情を知る私が1番好都合と言うことなのでしょうね

 

「良いですかブリュンヒルデ、お願いですから横島さんに怪我だけはさせないでください。彼はこれから伸びる逸材なのですから、自信をへし折るのも駄目ですからね」

 

小竜姫がうるさいくらい注意してくるので、明後日の方向を指差して

 

「蛍が……速いですね……」

 

蛍と聞いた瞬間帽子をかぶって逃亡する小竜姫。よほどトラウマになっているんでしょうね……竜族にとって角は誇り、それをへし折られる恐怖はきっと凄まじい物があるんでしょうね。まぁ来ていると言うのは嘘なのですが……

 

「あら?」

 

よく見ると私の目の前に手紙が……相当慌てていたのか字がかなり崩れていますが、小竜姫の文字と言うことは判りました

 

【唐巣さんと再び白竜寺の周辺を調査してきます。緊急事態なら使い魔で連絡してください】

 

超加速を使ったのか紙がプスプスと焦げている。正直使うところが間違っていると思いましたが、そこは混乱していると言う事で無理やり納得し

 

「さてと……行きましょうか」

 

丁度リングに呼び出しのコールが掛かったのでゆっくりと立ち上がり、壁に立てかけてあった槍を手にする

 

「うーん。やはり軽いですね……」

 

普段愛用しているミスリル銀の大槍を使うわけには行かないので、急遽ドクターカオスに作成してもらった鉄の槍。形は私の愛用している槍と同じなのですがやはり軽い。片手で掴んで軽く振り回しますが、やはり軽くて感覚が心もと無い

 

「さてと……確かめさせて貰いましょうか……私の英雄……」

 

無論私とて魔族、人間が勝てる相手ではない。まず勝つことは間違いないだろう……だから私はこの戦いで横島忠夫が私の英雄足りえる存在なのか?それを確かめて見ることにした。私の見立てでは横島忠夫は窮地の中で己の力を解放するタイプ……適度に追い詰めればその才能を開花させる筈だ

 

「楽しみですね」

 

小竜姫からも才能に溢れると聞き、韋駄天の時の勇敢な姿……実際手合わせするのが楽しみですと呟き、私はリングの上に上るのだった……

 

「あー緊張するー」

 

ふーっと溜息を吐きながら屈伸運動をしている横島に

 

「春桐聖奈です。どうかよろしくお願いしますね」

 

「あ、横島忠夫っす。よろしくお願いします」

 

軽くお互いに挨拶をしてから距離を取り、槍を手にして霊力で刀身を覆う。これで結界の中でも打撃として認められる。

 

「うっは……コワ……」

 

距離を取って拳を構える姿を見て、まさか素手で戦うつもりなのですか?と問いかけると

 

「いや。俺神通棍使えないし、破魔札のコントロールも大して出来るわけじゃないんで」

 

……丸腰相手ですか……一応除霊道具は3つまで持ち込めるので何か持っているかもしれないですが、武器ではなく、護りを固める系の除霊道具ですかね?

 

(少し気勢を削がれた気分ですね)

 

何か武器を持ってきていると思ったんですが……丸腰相手だと少しばかり……っとここまで考えたところで思い出す。あのバンダナには小竜姫と天竜姫様の竜気が込められている。生半可な攻撃なら有効打になりませんね、それを思い出した所で試合開始!の合図があったのでまずは様子見と言う意味も込めて

 

「はっ!」

 

強く踏み込むと同時に槍を足元目掛けて突き出すと

 

「のわっ!?トトトッ!?」

 

足に当る直前に飛びのいてかわされたのでそのまま連続で足を狙って突いてみる

 

「あぶな!?ああばばばっ!?」

 

ぴょんぴょん跳ねて私の攻撃をかわす、その姿はみっともない姿と言えるがその動きに対してその目は真剣その物

 

(見切っているのですね)

 

私の一撃は決して遅いものではない、それは人間に化けている今もそれは変わらない。見てからかわすそんな不可能なコトを平然とやってのけている

 

(素晴らしい動体視力ですね)

 

心眼のサポートがあると考えても、その声を聞いてから避ける。それは普通の人間の反射神経では不可能だ、そう考えると横島は目で見て、耳で聞いてから避けると言う事を平然とやっている。それは神懸り的な動体視力とそれに反応できるだけの身体能力を持っているという証拠

 

(少しばかり試して見ますか……)

 

心眼がサポートしているか、それとも自前の反射神経で避けているのか?それを試す為に1度本気で攻撃して見る

 

「シッ!!!」

 

一息に4連続の突き。これは人間なら回避できる一撃じゃない、必中を確信した一撃だったが

 

「うっひい!?どひゃっ!?のおおおっ!?!?」

 

情けない声を上げながら3つの突きを回避した。だが胸への一撃は当る!そう思った瞬間

 

【させん!】

 

バンダナから目が浮かび、そこから放たれた霊波が槍の穂先を弾く。やはり心眼の補助を受けて……

 

「バンダナが喋ったあああああああ!?!?」

 

横島の動揺しきった悲鳴が周囲に響き、私はさっきまでの攻撃を横島が自分の実力で回避していたのを知って、横島の評価を上昇気味に修正するのだった……

 

 

 

情けなく逃げ回っていた横島だけど、ちゃんと聖奈さんの攻撃を見て回避していたのか、ただの一撃も有効打を喰らってはいない。これは正直予想外だった、いや私が横島の能力を低く見すぎていたのかもしれない

 

「美神さん。ちょっとこれは想定外ですね」

 

仮にも魔族。早い段階で横島をダウンさせて敗退させてくれると思っていたんだけど……試合開始から10分。ただの一撃の有効打が無い事に聖奈さんの雰囲気が鋭くなっていっているのが判る。このままだと横島を本気で攻撃しそうで怖い

 

「……そうね。横島君の反射神経を少し甘く見てたわね」

 

でもこのままなら判定で横島君の負けになるわと呟く美神さん。私もその意見に賛成だ。攻撃するという意志が見えないからか、審判が鋭い視線を向けている。このままなら減点されて横島の負けになる

 

(出来れば怪我をする前に負けて欲しいわ)

 

横島には怪我をして欲しくない。だから今の内に敗退してくれたら後はシズクとかに護って貰えば、安全にGS試験を終わることが出来る。そう思って試合を見ていると

 

「……あの馬鹿!本気になったぞ」

 

シズクの言葉にリングを見ると、聖奈さんの目付きが変わり、4つの閃光が横島に向かって放たれた……そのスピード、一撃でも当れば致命傷になりかねない一撃に思わず

 

「聖奈さん!?」

 

観客席から聖奈さんの名前を呼んでしまう。当る、横島が吹き飛ばされる光景を想像した瞬間

 

【させん!】

 

バンダナから目が浮かび、そこから放たれた霊波が槍の穂先を弾く。心眼が横島を助けてくれた……そのことにホッとしていると

 

「バンダナが喋ったあああああああ!?!?」

 

横島の絶叫が試験会場に響く、普段は怪生物とかとか気にしないのに、ああいうのは本当に駄目なのね。っと言うか予選の段階で出現していたのに、横島と話をしてなかったのね……あのバンダナ……バンダナが喋ったことに動揺している横島に聖奈さんの攻撃が迫る

 

「みーむうー!!!」

 

「うきゃーう!!」

 

「コーン!」

 

【横島さん!避けてぇーッ!!!】

 

チビ達の鳴き声とおキヌさんの声が聞こえたのか、横島はしゃがむでも、防御するでもなく、上半身を反らすという方法でその一撃を避けた

 

「とあああああ!?あぶねーええええ!?ふがっ!?」

 

上半身をそらして穂先を回避し、そのままの勢いで地面に頭を叩きつけて頭を抱えて転がり回っている。試合を見ていた同じ関係者から失笑の声が聞こえてくる。でもそれは表面上しか見てないから笑う事が出来ているのだろう

 

「令子。あんた弟子にどういう指導してるワケ?格闘家にでもするの?」

 

エミさんが私と美神さんを見つけて隣に座りながら尋ねる。横島はあの神速の槍を見て避けている。臆病なのと怖いのが合わさって情けない悲鳴を上げているが、本来なら楽勝で避け続けることが出来ている

 

「普通の霊能力の指導しかしてないわよ」

 

「じゃあなに?あの反射神経と動体視力は素なワケ?」

 

エミさんのまさかと言う言葉に頷くとエミさんは溜息を吐きながら。令子より先に会ってスカウトしたかったワケと呟いている。膨大な潜在霊力に恐ろしいまでの運動神経……スカウトしたいと考えているGSはエミさんだけじゃなくて、一部のGSは食い入るようにして横島を見ている。そう才覚に気付いたほんの一部の優秀なGSだけが横島の本質を見極めんとしている

 

「はっ!」

 

「ぐっ!?」

 

横島の苦悶の声に思考の海から引き上げられる。リングを見ると聖奈さんの横薙ぎの一撃が横島の胴を捕らえ弾き飛ばしているのが見えた。でもこれで決まった、横島が安全にGS試験を終われる……そう思った

 

「ふーこれで1つ不安が……」

 

美神さんも安心しきっていた。魔族の一撃を受けて横島が耐えることが出来ないと……それは聖奈さんも同じだった。ゆっくりと近づき石突で横島に止めを刺そうとした瞬間

 

「っしゃあッ!!」

 

吹っ飛ばされた横島が素早く立ち上がり走り出す。よく見るとGジャンの内側に翡翠色の光が見えていた……

 

(部分展開!?)

 

サイキックソーサーを攻撃が当る場所だけに展開していた。だから横島はあの一撃を受けていない

 

「クッ!?」

 

槍を反転させて穂先を横島に向ける聖奈さんだったが、もう遅かった……横島の右手はうっすらと輝く翡翠色の光に包まれていて……横島が最初からこの一撃だけに全てを賭けているのが判った

 

「いって……このおっ!!!」

 

穂先が横島の肩を掠るが、横島は既に聖奈さんの懐に飛び込んでいて……今まで攻撃しなかったのも、避け続けていたのも……この一瞬のチャンスを確実に掴むため

 

「すんませんッ!!!」

 

謝ってからうっすらと光る翡翠色の拳で聖奈さんの顎を打ち抜いた……ここから見ていても判る最高の角度とスピードだった……いかに魔族と言っても身体の作りは人間と同じ。顎を打ち抜かれ脳を揺らされた聖奈さんの手から槍が零れ落ち……

 

「……刹那の一撃……お見事……です」

 

顎を打ち抜かれ意識を失ったのか、ぐらりとその長身が崩れ落ちる。横島はそれを抱きとめて、リングの上に横にして審判の方を見る。劣勢だった横島が勝った事が信じられないのか呆然としている審判に

 

「おい。ワイの勝ちやろ?」

 

確認と言う感じで問いかけると、審判はその一言で我に返ったのか気絶している聖奈さんを確認してから

 

「横島忠夫選手の勝ち!!」

 

横島の手を掴んで。今漸く横島の勝利宣言が試験会場に響いた

 

「美神さん……どうしましょう?」

 

「……最悪の展開だわ」

 

ここで横島が負けて聖奈さんが勝ち進む物だと思っていた。横島じゃ勝てないし、向こうも負ける訳ないと思っていた。それが行き成りひっくり返ってしまった事に私も美神さんも頭を抱えるのだった……

 

「……良し、横島よく頑張った」

 

「みーむー♪みーむー♪」

 

「うきゅうー♪うきゅー♪」

 

「ココーン♪」

 

【横島さんが勝ちました!やったやった♪】

 

横島が勝ったら駄目だって説明していたのに、いざ勝つ所を見たら喜んでいるシズクやおキヌさんを見ながら、計画が行き成り狂ってしまった私達はどうやって狂った計画を修正するかで頭を悩ませることになるのだった……

 

 

 

 

「へ、へへ……やった。俺もやれば出来るもんだな……」

 

沖田ちゃんに朝言われたこと。それはシンプルな言葉だった

 

【相手が圧倒的格上なら勝機は一瞬にも満たない刹那です。死んだ振りをしてもいい、逃げ回っても良い。相手の気が緩んだその瞬間……もしくはトドメを刺す為に近づいたその一瞬。その数秒にも満たない時間に全てを賭け、渾身の一撃を全力で叩き込めばいいんです。相手の懐に飛び込んで、全力の一撃を叩き込むのです。自分も危険ですが、それしか横島君に勝つ手段はないです】

 

様は捨て身で突っ込めという話だった。痛いのは嫌だけど、その一瞬に勝機があるならその一瞬に賭けて見たかった。流石に相手が女性だったので全力で攻撃するということが出来ず、かと言って一撃で倒すことを考えると意識を刈り取るしかない。悩んだ結果顎を打ち抜いたけど……やっぱり女性の顔を殴るのは良くなかったと少しだけ反省しているとドッと疲れが出てきて立っていることが出来ず

 

「も、もうこんな綱渡りはごめんだな……」

 

通路の壁に背中を預けてそのまま座り込む、聖奈さんの槍は速くて恐ろしかった。朝沖田ちゃんの本気の殺気を受けてなかったら、足が竦んで動く事が出来なかっただろう。

 

「んで……えっと……なんて呼んだら良い?」

 

視線を上に上げて尋ねる。試合中急に喋りだしたバンダナには驚いたが、そのバンダナが霊力を制御してくれたことで聖奈さんの薙ぎ払いの一撃を耐えることが出来た。もしあれが無かったら反撃するまでもなく、あの一撃で終わっていた可能性が高い。それほどまでにあれは強烈な一撃だった……急に喋りだして我が防ぐと言ったバンダナに問いかける

 

【そうだな。自己紹介がまだだったな、我は小竜姫様と天竜姫様の竜気によって生まれた、お2人の命により、お前を護り導く者……心眼とでも呼んで貰おうか?】

 

言葉は硬い感じだけど、その口調は柔らかい物でなんか不思議と安心できた。最初は無機物が喋ったと言う事で大分動揺したけど、あんがい落ち着いてくると怖いとか不気味とか思わなかった。やっぱり妖怪とかに慣れてるからかなあと思いながら、心眼の言葉で気になったことをたずね返す

 

「竜気?……え?小竜姫様にキスされた時?」

 

あのキスで心眼が生まれたのか?じゃあ。やっぱりあれは儀式だったんだな、なんかがっかりした気分だけど……うん。まぁそうだよなーあの小竜姫様が俺なんか好きな訳ないよなー……いやまぁ大分がっかりしたけど、なんか安心した自分もいてなんか複雑な気分を味わっているとふと気になった

 

「なんで天竜姫ちゃんの竜気が?」

 

小竜姫様はとはキスしたけど、天竜姫ちゃんとはキスなんてして……え?じゃあ、まさか小竜姫様と天竜姫ちゃんがキスしたのか?と考えていると

 

【竜族同士の竜気の受け渡しはそんなに難しい物じゃない、決してお前の想像しているようなことはしていない】

 

心眼の鋭い突っ込みにそりゃそうだよなと納得する。うんうん、そうだよな……なんかものすごく安心した

 

「じゃ心眼は俺を護ってくれるのか?」

 

【出来る限りの範囲だがな。そしてお前の霊力の導きを行おう。お前が真の霊能者となる為に】

 

真の霊能者か……今の俺にはその真の霊能者がなんなのかは判らないが、頼もしい味方が出来たと思えばいいんだよな。俺はバンダナに手を伸ばし紐を解く

 

【む?どうした?】

 

紅いバンダナの中心に浮かぶ眼。この絵を見ると少し怖いけど、でもこういうのは大事だよな

 

「じゃ、改めて、俺は横島忠夫。これからよろしく頼むな、心眼」

 

【……ああ。よろしく横島。我は心眼。お前を護り導く者……我が存在する限り、お前を護り導く事を誓おう】

 

ああ。よろしくなともう1度返事を返し、バンダナを頭に縛りなおして俺は美神さん達がいるであろう観客席に向かって歩き出すのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その3へ続く

 

 




ブリュンヒルデ事聖奈さん敗退しました。朝の沖田ちゃんとの出会いと、心眼の覚醒によりブリュンヒルデを撃破することに成功【?】しました。ですが本来は上位魔族のブリュンヒルデがあんな一発で撃破されるわけがないですよね?ブリュンヒルデにはブリュンヒルデの目的があり、わざとKOされた感じですね。それについては次回の話で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は蛍やタイガーの試合をメインに書いて行こうと思います。と言ってもそんなに出番があるわけではないので短い感じになると思いますが、出来る限り肉付けして行こうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その3

 

暗い通路を歩きながら私はさっきの試合の内容を思い出し小さく苦笑した

 

(ワルキューレがいたら怒られますね)

 

私と違って生粋の軍人として育った妹のワルキューレが私のさっきの試合を見ていたら、何を遊んでいるのですか!と怒鳴る姿が容易に想像できる。正直に言おう、私はあの時のカウンターで気絶などしていない、気絶した振りをしたのだ。確かに角度は良かった、でも命中の瞬間にスピードが弱まった、力が弱まった。本来なら手抜きだと怒る所だが……私は見てしまった、そして魅せられてしまった……

 

(強いですね、横島忠夫は……)

 

あの窮地を演出し、そして突っ込んできた時反撃しようと思えば反撃することは出来た。更に言えば私は横島が無傷なのも判っていた……それでも近づいた、近づいてしまったのだ……

 

「ああああ……私……困ってしまいます」

 

顔が熱くなって行くのが判る。思わず両手で頬を押さえているのに気付いて、更に頬が熱くなって行く

 

「これは本当に……困ってしまいます……」

 

霊力を拳に込めて突っ込んできた時のあの強い意志の込められた眼を思い出すだけで、頬が熱くなる……そして思ったのだ

 

彼は戦いの中で自身を高めていくタイプだ。だから更なる戦いに行くべきだと思ったのだ……

 

「頑張ってくださいね……小竜姫と合流するので試合を見ることは出来ないですが……応援しています」

 

観客席の方に姿を見せた横島の姿を見て、小さく微笑む。きっと彼は世界有数の霊能力者になるだろう、小竜姫が気に掛けるのも当然と言えるだけの素質を見せてくれた……だから私から贈り物を

 

「テイワズ・ベルカナ……」

 

目の前に浮かんだ2つのルーン文字。テイワズは戦士、導きの星を意味し、ベルカナは成長と解放を意味するルーン文字を残して行こうと思う

 

「どうか貴方の中に眠れる力が少しでも解放されますように」

 

少し気恥ずかしいと思ったが指先を唇に触れてからその文字を横島に向かって飛ばす。投げキッスのような形になってしまいましたねと小さく呟いてから

 

「さてと仕事に戻りましょうか……あっ、その前に」

 

懐から出した紙にさっさと文字を書いてそれを折りたたみ、ルーン文字を刻むと紙は独りでに動き出し、小さな鳥の姿を取った。一応言い訳の手紙くらいは送っておかないといけないですからねと苦笑する。行き成り予定を崩したのは私なのだから謝罪は一応しておくべきだと判断したのだ

 

「美神達の所へお願いしますね」

 

返事を返し飛び立つ簡易の使い魔を見送り、私は小竜姫と合流する為にGS試験会場を後にしたのだった……

 

 

 

 

横島さんが勝ちましたか……僕は次の次の試合ですが正直言ってさっきの横島さんの戦いを見て自信を無くしてしまった

 

(あんなに格上の人に……)

 

僕は正直言うと横島さんが勝てるなんて思ってなかった。槍の技術も霊力の扱いもはっきり言って桁が違っていた……きっと観戦していた全員が思っただろう。横島さんが負けると……だが横島さんは勝った……僕は正直横島さんが落ちるから気が楽だなんて考えていた……

 

(僕はうぬぼれていたんだ……)

 

吸血鬼のハーフと言う自身の基礎能力の高さ、そして長い間生きたという自負。GS試験に参加する参加者だとしたら蛍さんにしか負けないと思っていた。だが横島さんはそんな僕の予想を裏切る力を見せた……近くで待機している参加者も横島さんの評価を改めているような囁きが聞こえてくる

 

「横島忠夫か、面白そうなやつだな。あいつと当るのが楽しみだぜ」

 

「そうね……あれは正直言って予想外ね、ああいうタイプが意外と大物食いをするのよね」

 

入場前にあった黒い胴着の3人組も横島さんの評価を改めている……知り合いなのに軽薄なことを考えていた自分が嫌になる

 

「なに呻いてるのよ?ピートさん」

 

「蛍さん……いえ、その大したことじゃないんですよ」

 

次の試合に出る蛍さんが試験会場に向かう為に階段から降りて来たのにも気づかないくらい、動揺している自分に初めて気付いた

 

(こんな有様じゃ絶対負ける……)

 

霊力とは魂の力。そして何よりも精神に大きく影響される。今の自分の精神状態では碌に霊力を扱うことなんて出来ないだろう

 

「んー?おいおい、ピート。どうしたんだよ?めちゃ暗いぞ?」

 

横島さんが蛍さんの後から階段を下りてきた。多分蛍さんの激励とか応援でここまで着いて来たのだろう……横島さんが現れたことで周囲で待機していた参加者の視線が鋭くなるが、横島さんはそれに気付いてないのか普段どおりの表情で

 

「なんでもないって顔じゃないだろ?どうしたんだよ?」

 

そんなに顔に出てましたかねと苦笑しながら、僕は今感じている不安を口にするのだった……

 

 

 

 

横島にどうしたんだ?と尋ねられたピートさんが小さく首を振ってから

 

「駄目なんです。勝てる気が全然しないんです……僕はやはり半人前以下の吸血鬼なんですよ」

 

ハーフヴァンパイヤの双子は許されない存在なんですと自分の生い立ちを語り始めるピートさん。双子となった場合どちらかは吸血鬼の力が、どちらかは人間の力が強くなる。それはただでさえ不完全なハーフの力を更に不安定にさせる原因となる。だから僕は不完全で半人前以下の吸血鬼なんですと語るピートさん

 

(メンタル弱すぎ……)

 

おキヌさんから聞いていたが、ピートさんのメンタルは余りに弱すぎる。こんな状態では勝てる物も勝てなくなるという物だろう……

 

「ふーん、そっかーそっかー」

 

ピートさんの話を聞いた横島は何度も頷きながらピートさんの肩を掴んで

 

「おらあッ!!!」

 

ガツンッ!!と鈍い音が通路に響き渡った。横島が全力で頭突きを叩き込んだ音だ、これは流石の私も予想外で驚いてしまった

 

「な、なななな!?なにをするんですか!?」

 

ピートさんが怒って詰め寄ると横島は近づいてきたピートの頬に平手を叩き込み

 

「ちったあ気合入れろよ。そんな有様じゃ対戦相手にも失礼だろ?」

 

……なんかこれは横島らしくないわね?どうしたんだろ?と見つめていると

 

「っと心眼が怒っている」

 

心眼?横島のバンダナから眼が現れて、ピートさんを睨みつけながら

 

【自身の不安を生まれや、自身の妹のせいにするな。情けない!ハーフである事を生かそうとは思わないのか!】

 

心眼の一喝が通路に響く、これで横島が持ち込める3つの霊具の1つがこのバンダナになっちゃったわね。これだけ参加者がいる中で喋ってしまったのだから霊具じゃないと言い訳するのは無理だろうしね……あ、でも使い魔ってことでごり押ししたら大丈夫かしら?使い魔はその人の霊能だから、霊具じゃないって言い張ることも出来るわよね

 

【自分の力を使い方を良く考えて見るんだな、妹では辿り着くことができない場所にお前は立つことが出来ている。その幸運の意味を知れ】

 

幸運?ハーフである幸運?私も考えて見たがデメリットしか思いつかない、ピートさんもそうだったのか詳しく聞こうとしたところで

 

『芦蛍選手、蛮玄人選手!会場へ!』

 

選手の呼び出しコールが聞こえてくると横島はピートさんから視線を外して私を見て

 

「蛍!頑張ってな!俺応援してるから!」

 

私の手を握って笑う横島。もう完全にピートさんとかから興味をなくしているのが判る。基本的には横島はイケメンが嫌いだから、さっきのようにピートさんに助言するほうがおかしい

 

「うん、ありがと。頑張ってくるわね」

 

正直言って負けるなんて微塵も思っていないが、油断だけはしないように注意しよう。それに横島が見ているところで無様な所は見せたくないしね。じゃっ、観客席で応援してるからなーと言って階段を駆け上がっていく横島

 

「あ……詳しく聞きたかったのに」

 

心眼のアドバイスを聞きたかったのか気落ちした様子で呟くピートさん。んーあんまり時間は無いけど、一言くらいなら大丈夫かな?

 

「あんまり難しく考えないで、目の前の事に全力を尽くして見れば?」

 

ごちゃごちゃ考えると碌な事にならない。それにこれからどうなるかなんて誰にも判らないのだから、いま自分に出来ることを全力でやってみれば?とアドバイスし、私は試験会場に向かった

 

『さて、第二試合で再び美神令子除霊事務所からの参加者、芦蛍さんの登場です!本日第一試合で終始劣勢だと思っていた横島忠夫選手の逆転勝利の勢いで彼女も勝利するのでしょうか?なお今回の第2試合よりヨーロッパの錬金術師ことドクターカオスに解説をご依頼しております。ドクターカオスよろしくお願いします』

 

『うむ。解説は任された』

 

解説なんて言っちゃって、本当は白竜会の面子を自分の目で見る為に出て来たのに……ドクターカオスのほうを見ると茶目っ気のある顔で笑い手を小さく振っているのが見えた。本当好好爺って感じよねと思わず苦笑してしまった

 

『対するは前回惜しくも準決勝で敗退した蛮玄人選手!前回の試験でも見せてくれたパワフルな戦闘スタイルに更に磨きが掛かっていることでしょう!ドクターカオス。この勝負若干芦蛍選手が不利でしょうか?』

 

『除霊は筋肉でするもんじゃないわ。知恵と霊力の勝負、腕力など何の役にも立たんわ。それに前回準決勝で落ちたというのもシードで落ちたのだから実力など大したことないんじゃろ?』

 

おっとめちゃくちゃ毒舌な解説……目の前のサングラスをした大男の目付きが鋭くなる。こうして対峙した感じではそんなに強敵とは思えないけど……油断は禁物よね、小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける

 

「ふん、俺は女、子供には優しいからな、感謝しろよ。せめてものハンデだ10%……10%の力で勝負してやろう!!はああああああッ!!!!」

 

全身から霊力を放出させる蛮玄人だが、10%所じゃなくて全力だと思う。顔も真っ赤だし手足もプルプルしてる、完全にハッタリね

 

『おお、っとこれは凄まじい霊力だ!これで10%とは驚きですね!』

 

『馬鹿か貴様は?どう見ても全力だろうに、ハッタリじゃハッタリ』

 

ドクターカオスがばっさり切っているのを見て小さく苦笑してから拳を握る。こんな相手に手の内を見せることも無いしね……

 

「行くぞぉッ!!!」

 

馬鹿みたいに真正面から突っ込んで来たので、軽く横に飛んで蛮玄人が振り返った所にカウンターで霊力を込めた拳で顔面を打ち抜く。鼻血を出しながら引っくり返る蛮玄人を見ながら審判を見ると

 

「芦蛍選手の勝ち!!」

 

ま、こんな物よね。これくらいの相手なら霊具を使うでもないし……それに……ちらりと通路を方を見ると黒い胴着を着た男が私を見つめていた。確か名前は鎌田勘九朗……次の試合で戦う相手だ。そんな相手が見ている前で自分の手の内を晒すような真似する訳には行かないしね。ま、まだ俺には更なる力がぁとか呻いている蛮玄人を無視して、私は観客席で手を振っている横島に手を振り返し試験会場を後にするのだった……

 

 

 

白竜会の調査に小竜姫様と訪れていたのだが、その中を見て私は絶句してしまった

 

「これは……酷い……」

 

ソロモンは既に撤退していたのかそれらしい痕跡は何も残されていないが。もう用済みと言わんばかりに投げ捨てられた白竜会の面子の顔には生気が無く、倒れている全員が死んでいるように見えた

 

「小竜姫様。白竜会の方は……助かりますか?」

 

小竜姫様は倒れている白竜会の弟子に手を触れて、小さく溜息を吐き

 

「大丈夫です、まだ生きています……回復するかは断言できませんが」

 

回復するかわからないが、生きているだけでも十分と言える。私は安堵の溜息を吐きかけて咄嗟にハンカチで口を押さえた

 

「小竜姫様、これは……瘴気では?」

 

魔界の瘴気が溢れ出ている……さっきまでそんな気配は何も無かったと言うのに……

 

「時限式の罠だったのかもしれないですね……調査をさせない為か、それとも残した人間を見捨てたと言う事を突くつもりか……」

 

今ならまだ何か手がかりがあるかもしれない、だが調査をするということは倒れている白竜会の人間を見捨てるということになる……どうする私1人ではこれだけの人数を連れ出すことは出来ない。小竜姫様が外に運び出せばその間に白竜寺は魔界の瘴気に呑まれ魔界の獣を放出し続ける異界になるだろう

 

(くっ、なんて強かな……)

 

私と小竜姫様ではどちらか1つにしか対応できない……小竜姫様に視線を向けると唇を噛み締め、その肩を震わせていた……多分……私と出した結論は同じなのだろう。出来ることなら助けたい、だが魔界の瘴気が溢れている以上そちらを封じなければ周囲の民家や学校に被害が出る……それならば白竜会の面子を見捨てると言う選択肢しか私と小竜姫様には存在しなかった……

 

「……魔界の瘴気を封じます。白竜会の方は……「その決断を下すに早いですよ。小竜姫」

 

小竜姫様が苦渋の決断を下そうとした瞬間。まるで爆発しかたのような音が響き、目の前の壁が吹き飛ぶ。そこから姿を見せたのは鎧を身に纏ったブリュンヒルデ、彼女はそのまま私と小竜姫様の前に立って、そのまま素早く空中にルーン文字を刻む

 

「長くは持ちませんが暫くなら魔界の瘴気を抑えることが出来ます、急いで大元を断ってください」

 

ルーン文字が瘴気を押さえ込んでいるのを見て、私と小竜姫様はブリュンヒルデの言葉に頷き瘴気が流れ込んでいる道場の奥へと向かって走り出した……そしてそこで見たのは人智で理解できない、神代の存在の姿だった……

 

「な、なん……なんだ!!これはぁ!!!」

 

道場の奥に辿り着いた私は目の前に広がる光景を見て思わず叫んでしまった……巨大な水晶の様な何かの中に閉じ込められている巨大な紅い獣……なんだ、なんなんだ……これは!?その獣を見てから息が出来ない……異常な息苦しさを感じてその場に蹲る。まさかこの獣が魔界の瘴気を生み出しているのか?そうだとしたら私にも小竜姫様にも瘴気を封じる手段がない……だが小竜姫様は鋭い視線で周囲を見渡し何かを感じ取ったのか

 

「……これは違う、これが魔界の瘴気を発しているんじゃない!!」

 

小竜姫様が力強い口調で断言し、腰から抜いた神剣を抜き放ち道場の床に突き立てる。するとパリンっと言う乾いた音が響き噴出していた瘴気が収まっていく……そしてそれと同時に目の前に現れていた巨大な獣の姿が霞のように消えていく……

 

「は……はっ……何だったんだ……あれは」

 

その姿が消えた事でやっと呼吸が出来るようになった……荒い呼吸を整えていると小竜姫様は険しい顔で振り返り

 

「直ぐに試験会場に戻りましょう!嫌な予感がします!」

 

小竜姫様の言葉に頷き、私は来た道を引き返しGS試験会場へと引き返すのだった……

 

「ブリュンヒルデ!治療を頼みます!私は唐巣さんと一緒にGS試験会場に戻りますッ!」

 

判りましたと返事を返すブリュンヒルデに見送られ、私は来た時と同じように小竜姫様に抱えられ空を飛んでいたのだがふと気になった

 

「小竜姫様、あの獣はなんだったのですか?」

 

圧倒的な威圧感、私はあの獣を見た瞬間死ぬと思い、悟った……あれは人間は愚か神でさえ抗うことの出来ない災厄だと、目覚めれば何者も倒すことの出来ない絶対の災厄だと本能的に悟った……小竜姫様もきっとそれを感じ取ったと思い尋ねて見ると小竜姫様は深刻そうな顔をして

 

「判りません。ですが白竜寺のある山は霊脈の上でしたから、もしかするとそれが原因でどこか別の場所を映していたのかもしれないですね」

 

別の場所……そうだとしても安心することは出来ない、もしあれがソロモンの作り出した生物兵器だとしたら東京はおろか世界中で大騒動になるだろう……あれだけの存在を倒すことはまず不可能だと思う

 

(なんとしてもそれだけは阻止しなければ……)

 

白竜会での惨事にあの獣、どちらもソロモンが関与していると見て間違いない。だからなんとしてもソロモンの企みを阻止すると私は決意を新たにするのだった……

 

 

 

小竜姫と唐巣神父がGS試験会場に戻っている頃。GS試験会場では凄惨な試合が繰り広げられていた、こういう現場に慣れている私や現役のGSですら思わず目を逸らしてしまうほどの……試合と呼べない凄惨な処刑と言うべき光景が続いていた……

 

「かっ……かはっ……」

 

エミの弟子のタイガーの巨体が音を立てて崩れ落ちる。その身体はボロボロで試験会場を鮮血で染めている……対戦相手は白竜会の陰念と言う青年……タイガーと陰念の力の差は凄まじい物だった……それこそ私でも勝てるかどうかといわざるをえない程の力を見せていた……

 

「……」

 

終始無言で徹底的にタイガーを痛めつけている。最初のほうこそ隣で何をしていると叫んでいたエミだが

 

「タイガー!もう良い!もう立たなくて良いワケッ!!そのまま倒れてなさい!!!」

 

何度も倒れても立ち上がり陰念に立ち向かっていくタイガーの姿を見てもう立つなと叫ぶ

 

「……大丈夫!大丈夫だ!タイガーは私が治す!だからそれ以上身を乗り出すな」

 

観客席から身を乗り出している横島君を必死に止めているシズク。

 

「はあ……はぁ……わ、ワッシはまだ……ワッシはまだ!!負けとらんッ!!!」

 

審判を押しのけて立ち上がるタイガーの左目は額から流れた血で塞がれていて、既に視界が塞がれているのが判る

 

「タイガー!!!もう立つな!!立つんじゃない!!!死ぬぞッ!!!」

 

タイガーを応援していた横島君が立つなと叫ぶ、タイガーはその声を聞いて小さく笑みを浮かべたのが私の角度から見えた

 

「蛍ちゃん!試合表を見せて!」

 

横島君の隣で試合を諦めるように叫んでいる蛍ちゃんに怒鳴る。GS試験は試合中に死んだとしても事故として済まさせる。だから乱入して止めるわけにも行かない。それに仮に乱入したとしても私で抑えることが出来るかどうか……

 

(なんて間が悪い……)

 

今試験会場にブリュンヒルデが居るのなら止めに入ってもらえば、確実にタイガーは無事だろう。だが小竜姫様の応援でGS試験会場を後にすると先ほど使い魔が手紙を持ってきた……なんて間が悪い……最悪のタイミングだ。審判も止めようと何度かタイガーの前に立つのだが

 

「ま……まだまだああ……」

 

強い口調で審判を押しのけて拳を構え続けているタイガー。本人が立ち上がっている限り審判も強制的に試合を止めることが出来ず……タイガーが叩きのめされているのを目の前で見続けている。なにがそこまでタイガーを駆り立てるのか、それはきっと試合の組み合わせにあると思った

 

「美神さん!これです!」

 

蛍ちゃんから渡された試合表を見て私の予想は確信に変わった。横島君の次の試合相手は陰念……

 

(タイガー……あんた……)

 

タイガーはもう自分が勝てないことを悟っている。だから、次に陰念と戦う横島君の為に少しでも陰念の情報を残そうとしてまだ立ち上がり続けていたのだ……

 

(その気持ちは買うわ、でもッ!!)

 

友人の為に自身がボロボロになっても情報を残そうとするその意志は買う……でも!それでも死んでしまっては意味が無い

 

(早く戻っておキヌちゃん!)

 

試合終了の判断を出せるのは審判の他にはGS協会長の琉璃しかいない、琉璃を呼びに行くように頼んだおキヌちゃんに早く戻ってくれる事を祈った時

 

「審判!試合終了よ!!!早く止めなさい!!!」

 

「う、ウォオオオオオオオオオオッ!!!」

 

琉璃が試合会場に見てそう叫ぶのと、タイガーが咆哮を上げて最後の力を振り絞り虎人間になり突っ込んだはほぼ同時で……

 

「……死ね」

 

一瞬。一瞬だけ陰念の姿が黒い鎧のような物に包まれ、決死の覚悟で突っ込んだタイガーに向かって無造作に腕を振るった

 

「が、があああああああああああああッ!?!?」

 

目の前に炎の柱が立ち上がり、その中からタイガーの絶叫が響くのを聞いた横島君が落ちるからと言って自身を止めていたシズクの方を見て

 

「シズク!!」

 

「……判ってる!」

 

横島君の声を聞いてシズクが両手から強力な水鉄砲を打ち出す。凄まじい音が響き炎の柱が鎮火したが……既に手遅れだった……

 

「……が……がはっ……エミさん……横島……さん……役立たず……で……すまん……です」

 

全身大火傷をしたタイガーがそう呻きゆっくりと倒れこんだ……

 

「勝者!陰念選手!」

 

審判の勝利者の名乗りを聞くと同時に横島君とエミが階段を駆け下りていく。私も2人の後に続いて医療室に運び込まれたであろうタイガーの元へ向かいながら、横島君を棄権させる事を決めるのだった……どう考えてもあの相手には勝てない、横島君も最悪タイガーと同じ結末になると思ったらとてもじゃないけど参加させることなんて出来ない……

 

(ごめんタイガー、エミ)

 

私のやろうとしていることはタイガーの想いを踏みにじり、エミの弟子を犠牲にしたと同意義だ……酷い裏切りだと理解している、私は心の中でそう謝り医務室へと走るのだった……

 

 

美神が医務室へ走り出した頃。先ほどの試合を見ていた車椅子の少年とその車椅子を押すカソック姿の男性の姿が合った、言うまでも無く東條修二と言峰綺礼だ。ビュレトの治療で動けるようになったので無理をしてGS試験会場に訪れていたのだ

 

「陰念先輩……」

 

「東條やはり来るべきではなかったのではないか?」

 

言峰に頼み無理にGS試験会場に来ていた東條は変わり果てた陰念の姿を見てショックを受けた表情をしていたが

 

「お願いします。言峰神父……僕を医務室へ連れてってください」

 

「それは構わないが、お前が謝っても何も変わらんぞ?」

 

それでも行きたいんですと言峰の言葉を遮った東條に言峰は仕方ないなと呟き、医務室へと歩き出すのだった……

 

そして横島は東條は出会う、この出会いが横島自身と東條そして陰念の運命を大きく変える事になる……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その4へ続く

 

 




タイガーがかなり頑張りました。しかしガープに魔改造された陰念の方が上だったわけです。次回は横島と陰念の試合をメインで書いていこうと思っています。第一部の横島の見せ場の1つなので全力で頑張っていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします



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その4

どうも混沌の魔法使いです。今回は魔改造陰念と横島戦の開始となります、蛍の試合があっさりしてたとか、タイガーがエアーマンじゃない!?とか言う突っ込みは出来ればスルーでよろしくお願いします。それでは今回はバリバリの戦闘回で頑張ろうと思うので、今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その4

 

医務室に運び込まれたタイガーの後を追ってエミさんと一緒に医務室に来たんだが、そこでは普段のんびりとしている冥子ちゃんが珍しくばたばたと動き回りながらショウトラに指示を出していて、それだけタイガーの容態が良くないのだと言うのが一目で判り、思わず顔が強張るのを感じた。友達と言うほど付き合いが長いわけじゃないが、それでも顔見知りが死ぬかもしれないと思うと心配せずにはいられなかった

 

「ショウトラちゃ~ん!頑張って~!」

 

「ワフ!ワン!!」

 

ショウトラが一生懸命ベッドの上で呻いているタイガーの火傷を舐めているが、全然治療が間に合ってないとエミさんが気付いたのか、慌てた様子で冥子ちゃんに近寄りながら

 

「冥子!必要な物は!すぐあたしが用意するから言うワケ!」

 

エミさんも美神さんと同じく最高ランクのGSだ。伝手もあるしお金もある、それを生かして必要な道具を集めると言ったのだが、冥子ちゃんは小さく首を振って

 

「正直に言うと~治療に使う道具自体は~全部六道で集めたわ~でも……駄目なのよ~どんな高価な霊薬もお札も効果を発揮しないの~もう人間が用意できる物じゃあ~タイガー君の治療には~役立たないわ~」

 

人間が用意できる物じゃ駄目……じゃあ人間じゃなければ良いんだよな?

 

「横島!シズクは!?」

 

エミさんも同じ考えに辿り着いたのかそう怒鳴る。水神で竜神のシズクなら何とかしてくれると思い振り返るが、そこにシズクの姿は無い……そしてそこで思い出した

 

「……置いてきちゃいました」

 

咄嗟にここまで走ってきたのでシズクが追いついてない、確かに竜神で水神だけど走ったりするのはやはり子供の姿をしているので遅いのだ。エミさんは俺の言葉を聞いて一瞬何を言われたのか理解できないと言う感じだったが、直ぐに我に返ったのだ

 

「横島ぁ!?お、オタクねえ!こんな状況で何やってるワケ!?普通連れて来るでしょうが!?」

 

まぁ事実山の中や、急ぎの時は俺が背負って移動していることもあるんだけど、正直そこまで頭が回らなかったと言うのが本音だ。自分と同じ見習いGSが生死の境目を彷徨うような状態になったのを見て冷静で居られるほど、俺は場数を踏んでいるわけではないし……多分俺の考えている事は正論だと思うのだが、その凄まじい剣幕に思わず

 

「すんませーんッ!!!

 

腰を90度曲げたお辞儀をしながら謝る。もう殆ど反射的だったけど、これオトンが浮気とか朝帰りした時にお袋によくしているアレだよな。変な所で親子なんだなあと実感していると医務室の扉が荒々しく開き、まずは蛍が医務室の中に入ってきて、それに続くようにモグラちゃんの上に座ったチビとタマモ、そしてそれから遅れる事数分後……

 

「……退け、後は私が何とかする」

 

頼れる我らのロリオカンシズク様が現れたのだった……なお若干不貞腐れたような表情をしているのは、きっと俺が運び忘れたことを怒っている様な気がした……

 

 

 

よほど慌てていたのか、普段はこういう異常事態の時は横島が私を運ぶのだが、それが無かったので自分で走って来たのだが

 

「シズクやっぱり足遅いのね?」

 

……後から来た蛍に追い抜かれ、更にはチビとモグラにも追い抜かれ、あの馬鹿狐に追い抜かれた時に鼻で笑われたのは正直かなりイラっと来た。大人の姿に戻れば負ける事は無いのだが、今はそれを長時間維持できるほどの霊力も体力もないし、ソロモンが動く可能性があるのなら無駄に霊力と体力を使うわけには行かない。更に言えばそんなくだらない事で霊力と体力を使っている場合ではないのだ……まぁ全ては私を運び忘れた横島が悪いと思うことにした。とりあえず当面の反撃手段としては

 

(……おかずに唐辛子か)

 

何個かに1個辛いのを混ぜて見ようと思う。前にテレビで見たロシアンルーレットとか言う奴だ……食べ物を粗末にするのは良くないが、ちゃんと食べれるようにすればなんの問題も無いはずだ

 

「ぬお!?なんかすげえ嫌な予感がする!?」

 

急に叫び出した横島に蛍とおキヌが不思議そうな顔をしているのを見ながらも、タイガーの治療を進める。チビとタマモとモグラは動物と言うこともあり、医務室から追い出されている。なお扉越しに

 

「みーむーみみむー」

 

「うきゅーうきゅー」

 

カリカリと前足で扉を引っかくような音と寂しそうな声が聞こえているので、横島がそわそわしている。チビ達を外には置いて置けないが、タイガーも心配と言う事でどうすればいいのか判らないという感じだ。ある程度治療を進めた所で気付いたのだが……

 

(むう、これは危険なところだった……か?)

 

表面上は完全に炭化しているように見えるが、水を通して見て見ると驚くほどに軽症だ。ここの治療を任せていた式神使いがえらく動揺していたので手遅れの可能性を考えたが、十分に治療出来る範囲だ。きっとこれはあの式神使いも冷静になれば気付いたはず……

 

「シズク?もしかしてタイガーはそんなに重症なのか?」

 

私が難しい顔をしているのが気になったのか横島がそう尋ねてくる。治療してから話すべきだったなと小さく溜息を吐き

 

「……問題ない、表面は酷いが中身は殆ど無事だ。意識を失っているのも強い霊力をぶつけられた事が原因みたいだな……」

 

私の診察結果を聞いて安堵の溜息を吐いた横島とエミ。とりあえず治療が難しいと思う所だけを選んで治療する、しかし治療を進めて確信したのだが、やはり見た目より遥かに軽症だ。多少の後遺症が残る可能性こそあったが、命に関わるような怪我ではない……意図的に手加減したような形跡が見られる……な。これについては後で話し合ってみる必要がありそうだ

 

「横島君?少し良い?」

 

医務室に遅れて美神が姿を見せて横島と何かを話をしようとしているが、横島は美神のほうを見ずに

 

「すんません、タイガーの治療の後にしてください」

 

美神はそう言われると強く出る事が出来ないのか、じゃ後でと言って離れる。ちらりと横目で見てみたが、相当真剣な目をしていたので何か大事な話をしようとしていたのが判る。何の話をするつもりだったんだろうな?と思いながらも治療を進める。何とか後遺症が残る可能性のある部分の治療は終わった……な

 

「……後は、こことここ、それとここにだな」

 

治療を任されていたのは式神使いなのだから、あまり私がでしゃばる訳には行かないと判断し、適度な所で治療を終えて

 

「……後は任せよう」

 

ここからならあの式神使いにも治療できると判断し、治療を止める。大分複雑な霊力の操作を要求されたので正直少し疲れた……

 

「あたしの弟子を助けてくれてありがとう」

 

エミが頭を下げてくるので気にするなと返事を返す。でも正直大分疲れたなと思っていると

 

「横島君。次の試合の事だけど……」

 

美神が再び横島に話しかけようとしたが、横島は心配そうな顔をして私の方に歩いてきながら尋ねてきた

 

「大丈夫か?疲れたんだろ?」

 

えっ?と驚いた顔をする蛍達。普段と同じ表情だが、流石は横島だな……私の疲労を感じ取ったか……横島の言葉に頷くと

 

「とりあえず医務室で寝たら悪いから、どこか別の部屋で休ませてもらお?」

 

私の前にしゃがみ込んだ横島の背中におぶさり、そのまま目を閉じる。少し霊力を消耗しすぎたな……やれやれ、これが横島相手ならこんなに疲れることは無かったのになと思いながら、横島の背中で私は少し眠ることにするのだった……

 

 

 

 

弟子と言うこともあり、エミがタイガーの様子を見ると言うことなのでエミを医務室に残し、タイガーの治療で疲れたシズクを背負った横島君を連れて医務室を後にし、琉璃の部屋に戻った所で間の悪い事に

 

『横島忠夫選手。陰念選手。会場へ!』

 

試合会場に来るようにアナウンスが響く、横島君は丁度シズクを椅子の上に下ろした所でそのアナウンスを聞くと

 

「あー、次は俺か……めちゃ不安だけど行ってきます!じゃ、チビ達も行って来るなー」

 

不安そうな事を言いながらも笑顔を浮かべ、チビ達に小さく手を振って部屋を出て行く横島君。咄嗟に手を掴んで止めようとするが完全に間を逃していたからか私の手は横島君の腕を掴むことなく、横島君の姿はあっと言うに見えなくなった

 

「あ、こら待ちなさい!!」

 

呼び止めては見た物の横島君は立ち止まることなく走って行ってしまった……完全にGS試験を棄権させるタイミングを逃したわね……絶妙すぎるほどにタイミングが悪かった……まるで運命か、何かが横島君と陰念を戦わせようとしているかのような……思わずそんな馬鹿なことを考えてしまうほどにタイミングが悪かった。

 

「美神さん、最悪乱入してでも止めましょうか?」

 

私が何度も止めに入ろうとしたのを見て、さっきの試合の事を考えて棄権させようとしているのだと理解した蛍ちゃんの言葉に頷く、タイガーほどの体力と体格を持たない横島君ではどう考えても死ぬ。陰念にも自意識が無いだからその可能性は極めて高いと言うとシズクがうっすらと目を開けて

 

「……横島は今成長しようとしている、それを妨害するな。そんな権利はお前達には存在しない」

 

それは確かに判るけど、それで死んでしまったら意味が無いじゃない。生きていれば次があるけど、死んだらそこでお終いなのだから

 

「……そこまで心配することも無い、あいつも抵抗しているぞ?」

 

え?シズクの言葉に思わず振り返るとシズクは非常にだるそうな素振りを見せながら治療段階の説明をしてくれた

 

表面こそ重症だが、中身は殆ど無傷。無論適切な治療を行わなければ死ぬが、あのまま直ぐ死ぬという可能性は0

 

更に意図的に炎の火力を抑えた可能性も高く、被害を最小限に抑えようとしていた

 

恐らくぼんやりとした意識だが、陰念はまだ完全に魔装術に取り込まれているわけではなく、救出できる可能性が僅かに残っている

 

「つまり行き成り横島君を殺しに行く可能性は低いと?」

 

話を聞いた琉璃がシズクに尋ねると、シズクはああっと小さく返事を返し喋るのも辛いと言う様子で

 

「……戦いの中でどうなるか判らんが、行き成り殺しに行くということは無いだろうな。もしそんな気配を感じていたら止めてる」

 

その止めてるの響きを聞く限りでは、口で止めるのではなく、凍らせる的なニュアンスを感じてしまい蛍ちゃんと顔を見合わせていると

 

「失礼します」

 

マリアが部屋の中に入ってきて私達に気付いて少し驚いた顔をしてから

 

「ドクターカオスから伝言です、有事の際には独断で結界を展開し横島さんの保護を行います」

 

……うん、これ絶対ドクターカオスの指示じゃないわね。マリアとテレサで話し合った結果っぽい……私に若干敵意の色を込めた視線を向けているのを見る限りどうして陰念との試合を許可したんですか?と訴えかけている気がする。

 

「うん、それについては問題ないわ。私もお願いするつもりだったし、こっちからも前回の試合の事を考えて審判に異常事態になれば止めるように指示を出しているしね。ま、今回は私も観客席の近くで止めに入れるように準備しますけど」

 

琉璃はそう言うと机の上の書類を纏めて気合を入れる様の自分の頬を叩いて、涙目になっていた

 

【美神さん?琉璃さんって案外天然なんですか?】

 

ふよふよ浮いているおキヌちゃんの問いかけに私はなんと返事を返そうか悩んだ。付き合いが長いわけじゃないし、琉璃の立場を考えれば相当苦労しているのも判るわけで……

 

「さあ?ま、今は琉璃が天然とか、そうじゃないとかは別の問題よ。まずは横島君と陰念の試合。最悪、割り込むことも考えて準備しましょう」

 

陰念の危険性は十分に理解している。横島君だけを危険に晒すわけには行かない、最悪を試合を止めて乱入することも考え、神通棍や破魔札に精霊石などの装備を整え、試合に割り込むのに1番都合のいい1階の観客席へと向かうのだった……無論そのまま伊達や鎌田と戦う危険性もあるので

 

「おキヌちゃんは小竜姫様と唐巣先生を呼びに行ってくれる?多分こっちに向かってると思うけど……緊急事態だって伝えて欲しいの」

 

私達だけで対応できない可能性が高いので、味方は多い方がいい。そして今の段階で1番機動力があるのがおキヌちゃんなのでそうお願いすると、おキヌちゃんはとても暗い顔をしながらも何とか頷いてくれた

 

【判りました。横島さんを応援できないのはとても、とても、とてもとてもとても!!!辛いですが……これも横島さんのためですから!】

 

どす黒い瘴気を放つその姿を見て、おキヌちゃんが幽霊でよかったと私は思った。あの子の愛重すぎだわ……私は随分一緒に居るはずのおキヌちゃんの危険性を改めて実感しつつ、除霊具を込めた鞄を持って観客席へと走るのだった……

 

 

 

目の前で鋭い風切音が何度も何度も響く、絶対確実に俺では対応できないと断言できる高速の一撃だ。それをみっともないにしろなんとか回避することが出来ているのは……100%心眼のおかげだ。聖奈さんのは槍だったので早いことは早かったが距離があったので何とか自分でも反応出来たが、目の前1メートルで何度も振るわれる拳は近すぎて反応しきれない

 

【横島!しゃがめ!転がれ!飛べえッ!!】

 

心眼の必死の声に反応し、言われた通りに動く、その度に目の前を過ぎる一撃に肝が冷える

 

「う、ひいいい!!!やべえ!これはめちゃやべえ!!!」

 

なんとか回避を続けることが出来ているが、その内絶対直撃する!試合前に係員が防具を貸してくれたけど、試合の前はめちゃ頼りになると思っていたけど、今陰念と対峙していると紙で出来た脆い何かにしか思えない

 

「……」

 

だが俺には集中を更に乱すものが見えていた……命の危機に瀕しているから見えている幻では無いと断言できる。これは……ああ、そうだ……間違いない。黒坂が操っていた女性のゾンビが成仏する時に見えた……おキヌちゃんや普通の幽霊とは違う……魂とでも言うのだろうか?それが俺の目にははっきりと映し出されていた

 

(くそ……なんでまた見えるんだよ!!)

 

黒い異形の鬼を必死の形相で押しとめている目の前の男と同じ顔をした男の姿。違うのはその目だ、強い決意の光を宿した目……凄まじいまでの決意の光が見える

 

(なあ?本当に心眼には見えてないのか?)

 

俺に見えているのだから心眼にも見えているはず。そう思いもう1度尋ねるが、心眼の返事はNO

 

【私には何も見えんぞ!?それよりも受け流せ!押しつぶされるぞ!】

 

心眼の声に顔を上げると空中で回転しつつ踵落としを叩き込んでくる陰念の姿が見える。咄嗟に腕をクロスして受け止め、そのまま回転し受け流すが

 

「っつううう!!!いってええ!!」

 

霊力以外を無効化する結界の中でもこのダメージと言うことは相当な霊力が込められているのだろう。こんなの何発も喰らっていたら間違いなく死ぬ。今も手が痺れて動かないことを考えると受け止めるのも相当危険だ

 

(くそお……集中できねえ……)

 

何度かサイキックソーサーと霊力の篭手を作り出そうとするが、霊力が上手く集まらない……

 

【落ち着け横島!さっきの男の言葉を今は忘れろ!】

 

心眼の助言が聞こえるが、忘れようと思っても忘れることが出来ない。本当なら男の頼みなんか聞くかで終わるのだが、そんな事を言えないほどにその男の言葉は真摯で無碍にすることが出来なかった

 

(くっそお……あれさえなければなぁ……)

 

試合会場に向かうまでのたった数分。話した時間も3分に満たない時間だったがその数分が俺の心に迷いを生むきっかけになった……思わず俺はそれを思い返していた……

 

「横島さんですか?次の試合の?」

 

「んあ?」

 

試合会場に走っている時に通路の脇から急に声を掛けられ立ち止まった。

 

「白竜会の東條修二と言います」

 

白竜会と聞いて俺は思わず怪訝そうな顔を浮かべた。白竜会と言えばタイガーを叩きのめした陰念の所属するGS育成施設、その施設の人間が俺に何のようだ?と思うのは当然だろう。しかも車椅子に乗っているのは良いんだが、その車椅子を押している人間が怖すぎる。身体でかいし、目が死んでるし、不審者ーっと思わず叫びたくなった。そしてそのせいで足を止めてしまったのが今思えば失敗だったと思う

 

「お願いします。陰念先輩を助けてください」

 

はい?助けて?なんのこっちゃと俺が首を傾げていると東條は聞いても無いのに喋りだした。強力な魔族が来て白竜会がおかしくなった事。あの陰念と言うのが自分を助けて魔族の実験台になった事等を

 

「乱暴だけど優しくて良い先輩だったんです。お願いします、どうか、陰念先輩を助けてください」

 

繰り返し助けてくれと言われても俺じゃあ正直どうも出来んぞ……つうか、そんな化け物に俺が勝てるわけが無い。それこそ美神さんかエミさんクラスじゃないと無理だろ?つうかなんでそんな相手がGS試験に参加してるんだよ?美神さんとかは知ってるのか?俺がそんな事を考えていると

 

「少年?呼び出しが響いているぞ?」

 

『横島選手!試合会場へ!このままだと棄権と見なします』

 

げえ!不味いと叫び返事も返さず、試験会場に来たのだが……やはりその時の会話と目の前の異形の鬼を押さえ込もうとしている男の姿が重なってどうしても集中が乱れてしまう。自分でも判っているが、俺は未熟だ。心眼の補助があるとしてもそんな精神状態で霊力を扱うことなど出来るわけもない

 

「……」

 

「くっ、どわあ!?っととと」

 

正拳・裏拳・回し蹴りと連続で叩き込まれる攻撃を何とか回避するのが手一杯だ、しかもただの攻撃なのに霊力が十分に篭っているので霊力的にも物理的にも数発喰らえば確実にK・Oされる。霊力を上手く使えない今、直撃を貰う訳にはいかない攻撃を避けることに集中していると、異形の鬼と男のほうに変化が起きた

 

【シャアアアアアア!!】

 

【がっぐうううううああああああああああああああッ!?!?】

 

今まで聞こえなかった鬼と男の声が明確に聞こえた……その余りの苦悶の叫びに思わず足が止まる。まるで魂までも削られているかのような叫びだったが、俺以外には聞こえてなかったのか観客も美神さん達の反応も無い

 

『おっと!?いままで試合会場をサークリングしながら反撃の機会を窺っていた横島選手の足が止まったー流石に疲労で足が止まったかー?』

 

ええい!うるさいぞ!!カオスのじーさんの隣で叫んでいる雇われの司会者の声がうるさい

 

『集中しろ小僧!来るぞ!』

 

【来る!下がれ!】

 

カオスのじーさんと心眼の警告の声が重なって聞こえる。しかしそれよりも俺は目の前の男の今にも消えそうな声の方がはっきりと聞こえた……

 

【た……たす……け……ぐう……に、逃げろぉッ!!!!】

 

助けてと言い掛けたのを逃げろと叫んだ男が鬼に呑み込まれたと思った瞬間

 

「う、うおおおおおおおおッ!!!!」

 

咆哮と共に目の前の男の姿が闇に包まれ、一瞬でその闇が消し飛ぶ

 

「グルル……ガアアアアアアアッ!!!」

 

獣や悪魔を連想させる鋭角な鎧に身を包んだ異形が吼えたと思った瞬間。俺はタイガーを飲み込んだのと同じ漆黒の炎に飲み込まれたのだった……

 

 

 

「終わったな」

 

俺は目の前の光景を見てそう呟いた。横島と陰念の試合、出来れば横島と戦いたいと思っていたが恐らくあの炎に呑まれては骨も残るまい。残念だ、あいつと戦えば俺はきっと更に強く慣れると確信していただけに残念でならない。どうして俺と陰念の試合の順番が逆じゃなかったのかと思わずにはいられない

 

「棄権させてあげれば良かったのにね、力の差は明確だったわ」

 

勘九朗が残念そうに呟く、視界の隅で観客席から試合会場に向かおうとしている美神令子の姿を見て

 

(ああ、そう言えば横島はあいつの弟子だったな……それにしても……似てるな……うん?誰に似てるんだ?)

 

美神令子の姿が誰かに似ていると思った、だが誰に似ているのか判らない。なんだ?なにか大事な何かを忘れているような……

 

【アーイッ!!シッカリミナーッ!!シッカリミナーッ!!!】

 

その時だ。炎の中からやけに陽気な音楽と声が聞こえてきたのは……その場に余りに似つかわしくない音に思わず全員の目が点になる

 

【イヒヒーッ!!!】

 

炎の渦の頂点から黄色のパーカー……か?それが飛び出し笑いながら炎の周りを回転しながら飛んでいる。なんだあれ……霊力を感じるが、幽霊とかじゃないよな?見たこともない何かに思わず困惑していると

 

「変身ッ!!」

 

そして炎の中から力強い横島の声が響いたと思った瞬間。黄色のパーカーのような何かが炎の中に飛び込んでいく

 

「な、何が起こってるの?」

 

目の前で起きている現象が何なのか判らないのか、困惑した様子の勘九朗の声が聞こえる。俺も正直言って混乱している、一体何が起きるというんだ?

 

【開眼ウィスプ!アーユーレデイ?OKッ!!レッツゴー!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

試合会場の天井近くまで伸びていた炎の柱が中から吹き飛び、試合会場の中に火の粉を撒き散らす……結界で観客席に届くことは無かったが、不思議な光景だったと思う。そして横島が立っていた場所に横島の姿は無く、黄色いパーカーを着込んだ、漆黒の身体を持つ何かがそこに居た……

 

「しゃあッ!!行くぜえッ!!!」

 

パーカーのフードを取り払い、手のひらに拳を打ち付ける動作をした何から発せられた声は紛れも無く横島の物で……

 

(ま、魔装術なのか……?)

 

一瞬そう思ったが違う、横島が使っているのは魔装術とは異なる物だと直感的に悟る。魔装術を使っていると使用者同士をお互いに感知できる。陰念からはそれを感じるが、横島からは何も感じない。だから違うと確信し、そして

 

「面白くなってきた」

 

あれで終わりかと思ったが、そんな事は無かった。これから始まるのだ、俺は目の前で起きる戦いを間近で見たいと思い2階の観客席から1階の観客席へ向かって飛び降りるのだった……

 

 

次回仮面ライダーウィスプは!?

 

魔装術に取り込まれ完全に鬼と化した陰念と戦う為に変身した横島だが

 

「シャアアアアッ!!!」

 

戦いの中でどんどん進化していく鬼。最初こそ優勢だったが、徐々に劣勢に押し込まれていく

 

「くそっ!これならどうだ!?」

 

【シュバッと!八艘!壇ノ浦ッ!!】

 

ウィスプ魂では駄目だと判断し牛若丸魂に変身するが、その戦いの中で更なる力を発現させ、牛若丸魂へ変身したウィスプすらも圧倒する鬼。

 

「え、な、なんで!?」

 

パーカーゴーストが消え去りトライジェントへ戻る横島。そして勝手にベルトから飛び出し、ウィスプパーカーゴーストの姿が!?

 

【開眼ジャック・オー・ランターンッ!トリック・オア・トリートッ!ハ・ロ・ウ・ィ・ン!ゴ・ゴ・ゴースト】

 

次回仮面ライダーウィスプ「悪戯幽霊の真の姿!」

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その5へ続く

 




陰念が鬼へと変身し、横島も変身しました。次回はバリバリの戦闘回で行こうと思います。もちろん他の視点も多く混ぜていこうと思っていますけどね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回はライダーと怪人【?】との戦いになります。新しいゴーストチェンジも出して行こうと思っています。前回のあとがきで書いた次回予告みたいな奴ですね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その5

 

陰念の姿が鎧の異形に包まれたと思った瞬間。俺は黒い炎の中に呑み込まれていた……避けるとか、護るとか考えている暇もない本当に一瞬の出来事だった……

 

「くっぐう……これは……ちょっと……不味いか……」

 

実際にはちょっと所かかなりの大ピンチだ。これだけの炎だと俺の陰陽術で消火出来るとは思えないし、かといって強行突破できるほど薄い炎の壁ではない。訂正しよう、これは絶体絶命の大ピンチと言える

 

【な、何故!?平気なんだ!?普通なら死んでいるぞ!?】

 

心眼の驚いている声に平気じゃねえと返事を返そうとしたが止めた。口を開いた瞬間炎の熱で喉が焼かれたように痛んだから……実際行き成り死ぬという事態は回避できたが状況はとてつもなく不味いと言わざるをえない。試合の前に係員に貰った精霊石とプロテクターはもうその機能を失いかけている。俺がそれなのに耐えることができている理由……それは1つしかない

 

(タマモとシズクか……)

 

俺に実感は無いが、シズクの言葉を信じるなら俺にはタマモとシズクの加護がある。タマモは九尾の狐であり炎の扱いに長け、更にシズクは水神で竜神言うまでもなく炎に強い。そんな2人の加護があるから耐えることが出来ている……だがそれにも恐らく限界がある……横島は気付いていないが、昨晩シズクから貰ったチビ達の牙入りのお守りが淡い光を放っており、シズクとタマモの加護に加えて、このお守りが横島を守っていたのだ

 

「うわっちちち!や、やばあ!?」

 

GジャンとGパンの裾が焦げて来てる。それにさっきまでよりも周りの熱を感じて来てる……もうそんなに持たない

 

【どう考えても自力での脱出は無理だ。横島、悔しいと思うがここは降参しよう。私が全力でお前の霊力を放出する、そうすればこの火炎を弾き飛ばせるはずだ】

 

心眼が俺を心配しているのかそう言う。確かに諦めるのが正しい選択だろう、でも……

 

(あーくそ!なんでやねん)

 

髪の毛をがしがしと掻き毟る。男なんて見捨てればいい、これが姉ちゃんなら美神さんに使うなと言われていた切り札だって使おうと思う。寧ろ迷わず即断で使用しただろう、後で激しく後悔したとしても……でも男を助ける為に自分の身体を痛めつける切り札なんて本当は死んでも使いたくない。でも……

 

「あーッ!くそ!俺の馬鹿たれ!!!」

 

Gジャンの上着に手を突っ込みウィスプ眼魂を取り出し、少し考える。きっとこのまま待っていればシズクや美神さんが俺を助けてくれるだろう……でもそれじゃ今までと何も変わらない……

 

「力を貸してくれよ、ウィスプ」

 

正直言ってまだあのベルトの出し方はまだ知らない。俺の感じではウィスプが力を貸してくれる時だけベルトは姿を見せてくれる。だから手の中のウィスプに声を掛ける

 

【横島?何を言って?【イッヒヒー!!】しゃ、喋ったぁ!?】

 

お前も似たような物だろうと思わず苦笑していると、いつの間にか腰にベルトが現れていて

 

「しゃッ!行くぜウィスプ!」

 

【イッヒヒーッ♪】

 

【どういうことか説明しろーッ!!】

 

混乱してる心眼を無視して、俺はベルトのカバーを開き、ウィスプ眼魂を押し込む。すると聞きなれた陽気な音楽が流れ始める

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナーッ!!】

 

本当男なんて死んでも助けたいなんて思わない、思わないけれど……

 

(助けてっていってたよな……)

 

それでも助けてっと言われて……見捨てることが出来るほど、俺は薄情な人間じゃない……

 

「行くぜ!変身ッ!」

 

【なんだあ!?私が消える!?】

 

全力でレバーを引く。なんかその瞬間頭に巻いていたバンダナが消えて、心眼の驚愕の悲鳴が聞こえた気がするけど、うん。多分気のせい、っと言うかそう思いたい

 

【開眼ウィスプ!アーユーレデイ?】

 

炎の壁を突き抜けて姿を見せたウィスプをハイタッチを交わす

 

【OKッ!!レッツゴー!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

パーカーを着込んだと同時に霊力が嵐のように吹き出し、俺を囲んでいた炎を中から打ち消す。心眼がどっかに消えた気がするけど……うん。多分大丈夫、うん、問題ないと思う。

 

【どうなってるんだ!?私はどうなった!?っと言うか!?なんだこのかぼちゃ頭は!?】

 

【イヒヒー!】

 

頭の中でガンガンと心眼とウィスプの声が響いているので無事だというのは判るので、今は何の問題も無い。だから今俺が何とかしないといけない問題はただ1つ

 

「ウルルルッ!!!」

 

全身をとげとげしい鎧に包み、僅かに見えた口元から吸血鬼のような牙を向けて威嚇の唸り声を上げている陰念。それをなんとか正気に戻す……と言うか、殺されないように相手を倒す。それはかなり難しいことだと思うが……やるしかない

 

「しゃあッ!行くぜッ!!」

 

気合を入れる為に掌に拳を打ちつけ、フードを取り払い目の前の異形に向かって走り出すのだった……

 

 

 

 

よ、良かったぁ……炎の中からウィスプへと変身した横島が姿を見せた事に私は深く溜息を吐いて観客席に向かって倒れるように腰掛けた……

 

「し、心臓に悪すぎるわね……」

 

美神さんも同じように心臓を押さえて大きく深呼吸をしていた。タイガーさんが一撃で戦闘不能になった漆黒の炎……横島がそれに呑み込まれた瞬間。冗談抜きで心臓が止まるかと思った……

 

「……今回ばかりはこの駄狐に感謝だな……私の加護だけじゃ駄目だった」

 

「くー」

 

シズクとタマモも大きく深呼吸しているのが見える。シズクの額に珍しく大粒の汗が浮かんでいるのが見えた……

 

【あのーでも美神さん、それに蛍ちゃん。こんな大勢人の居る所であれ使っても大丈夫なんですか?】

 

……おキヌさんの言葉に一瞬何を言われたか判らなかったが、近くで観戦していた琉璃さんを見ると口をぱくぱくとさせていて……周りの人も同じようで何度か目を擦って会場を見てから

 

「「「なんじゃありゃああああッ!?」」」

 

驚愕の悲鳴が会場全体に響き渡った。出来ればその何かは横島じゃなくて、陰念の方が良いなあと現実逃避気味に考えていると

 

「み、美神さん!?あれなんですか!?あんなの報告書に無かったですよ!?」

 

琉璃さんが美神さんに詰め寄っているのが見える。あ、美神さん、横島のあの姿の事報告してなかったんだ……でもそれは無理ないかもしれない、神魔に英霊の力を宿すなんて能力を持っていると知られたらやばいと判断した美神さんのいい判断だ。

 

「説明は後!と、とりあえず琉璃!試合中止!魔装術の現行犯で……「ふむ?止めてしまうのですか?折角面白くなって来たのに?」

 

突然聞こえてきた第三者の声に振り返る。だけどそこには誰の姿も無い……だが私達を見下ろしている奇妙な生物の姿を見つけた……金色の身体をした蝙蝠。その姿を確認した瞬間、私も美神さんも琉璃さんも完全に動きが止まった……この蝙蝠がなんなのか本能的に理解してしまったから……身体がとんでもなく重い、それに凄まじく息苦しいし……頭も痛い……

 

「……ッ!!」

 

「フーッ!!」

 

【え?な、なにこれ……!?】

 

シズクの髪が逆立ち、タマモが威嚇の唸り声を上げる。チビとモグラちゃんは目を回してその場で倒れこみ、おキヌさんは溶けるように消えてしまった……私達よりも先にこの蝙蝠が何か理解したのだろう、故に圧倒的強者を見た事で自分の死を感じ取ったのか、チビとモグラちゃんは意識を失うと言う事でその恐怖から逃れ、おキヌさんは周囲の霊力のバランスが崩れたことで姿を維持できなくて消えてしまったのだ……それは存在するだけで周囲のバランスを崩す公爵級……魔神と呼ばれるクラスの魔族が蝙蝠に化けているのか、それとも蝙蝠を通じて見ているのか?その2つに絞られてくる。だが私はそれとは異なる恐怖を感じていた……

 

(不味い不味い不味い不味い……)

 

自分の正体がばれてしまう、お父さんと同じソロモンならば私が何者か判るはずだ。ここでそれがばれてしまえば、私は横島の側に居れなくなってしまう……どうやってこの場を切り抜けるか?それを必死に考えていると

 

「おう、なにやってやがる。この陰湿ヤロー」

 

まるで氷が割れたような音が響いたと思うと、感じていた身体の重さや息苦しさがほんの少しだけ和らいだ……

 

「おやおや、古き友よ。人間にそこまで肩入れするのか?」

 

「うるせえ、研究馬鹿。とっとと失せろ、蝙蝠に憑依してくるんじゃねえ」

 

カズマさんが腕を振ると私達を見つめていた蝙蝠が両断され、魔力となって霧散していく。それを見た美神さんが信じられないと言う様子で呟いた

 

「ま、魔力だけで完全に具現化した使い魔を?」

 

使い魔と言うのは本来なんらかの生き物や媒介を基に作成されるとお父さんが言っていた。魔力だけでも用意できるが、それだと活動時間に制限が掛かるし、知能にも問題があると言っていた。正直作るだけ魔力の無駄だとも……

 

「ははははは!!それは失礼した、ああ、そうだな。淑女の前に現れるのに使い魔と言うのはいささか無礼だったな!!これは私としたことがとんでもない非礼だった」

 

両断された蝙蝠が楽しそうに喋りながら消えて行く……その口調は穏やかな物だが、どこまでも冷酷な響きを伴っていた……もしこれが使い魔じゃなくて、本人だったのならと思うと怖くて仕方ない……

 

「GS試験の中断。それ即ちこの場にいる人間全ての死と知れ!ははは!!この余興そうそ……「いいから消えとけ」

 

蝙蝠の身体が更に両断さればらばらに切り刻まれる。ま、全く見えなかった。これがソロモンの実力……蝙蝠の姿が完全に消えたことで漸く身体の重さや息苦しさが消えた……観客席の椅子にもたれかかりながら

 

「た、助かったわ……カズマ」

 

美神さんがやっとと言う感じでそう呟く、私と琉璃さんも感謝の言葉を口にしたかったが、喋るだけの気力が残ってなかった……それほどまでに公爵級との邂逅は私達の精神力を削っていた……

 

「いや遅れて悪い。あっちこっちに起爆の術式を刻んだ蝙蝠が飛んでやがってな、あらかた潰してきたがまた定期的に送り込んでくるだろう」

 

試験会場の中にいたから気付かなかったけど、どうもガープが本格的に動き出していたようだ。でも結界が張ってあるのになんで使い魔が潜り込めたのだろうか?

 

「試合会場はルーン魔術で強化してますけど、敷地内は通常の結界だからですか?」

 

「まぁそんな所だ、あいつにとって人間の結界なんて紙にも劣る。潜り込ませる位わけない、それよりもだ。試合中止は絶対するな、起爆の術式を持った蝙蝠が自爆する」

 

そうなれば試験会場にいる全員が死ぬ。試験中止で終わらせるということは無理になった……

 

「判りました。今私に何か出来ることは?」

 

琉璃さんがそう尋ねるとカズマさんは少し考える素振りを見せてから首を振り

 

「下手に動くな、あれだけ精密な動きが出来る使い魔がいると言う事を考えれば、あいつは近くに居る、間違いなく試験会場の中にいる。下手に動いてなにか仕掛けられると面倒だ。動くなら小竜姫とブリュンヒルデが合流してからだな。言いにくいが、俺1人では分が悪い……相性的には最悪なんだ。1対1なら……俺は負ける。確実にだ……」

 

カズマさん……いやビュレトさんがそこまで言うなんて……同じソロモンでもそんなに力の差があるというの……?

 

「まぁ単純に相性の問題なんだが……まぁそれを詳しく説明するまでも無いだろう……今問題なのは……横島の方が問題だな」

 

カズマさんの視線につられて試験会場を見ると、そこには次々と打ち出される火炎に徐々に追い詰められている横島の姿があった……

 

 

 

やべえ……めちゃっやべえッ!!!俺は心の中でそう叫んでいた……韋駄天の時も、義経の時も何とかなった。だから今回も何とかなると思っていたのだが……それがとんでもなく甘い考えだと思い知らされた

 

「シャアアアアッ!!!」

 

背中に巨大な黒い炎を展開し、そこから無数の火球を打ち込み続けている。距離が詰められない、ベルトから出した剣を銃に変形させても届かない……圧倒的までの技術の差

 

『これは面白い展開になってまいりました!なんらかの霊具を使い、お互い鎧を装着しての射撃戦!!今年のGS試験はいつから特撮番組になったのかーッ!!』

 

「うっせえ!馬鹿解説者!!!黙ってろ!!」

 

こいつの声で何度も集中が途切れる。いい加減に黙ってろと叫び銃を向けてトリガーを引く。結界のせいでそれたが、馬鹿解説者の頬を掠め壁に命中した。白目を剥いて倒れる馬鹿解説者……これでやっと集中できる。そう思った瞬間

 

【横島!飛べッ!】

 

心眼の焦った声が脳裏に響く、咄嗟に地面に蹴り、宙に浮かぶと同時に足元からとんでもない粉砕音が響く、おそるおそる足元を見るととんでもないことになっていて、思わず俺は汗なんてかいてないが、汗を拭う仕草をしながら

 

「セーフ!超セーフッ!!!」

 

炎を纏った両拳を振り下ろした陰念の姿があった。試験会場の床を完全に破壊しマグマのような地形にしている……あそここもう歩けないな……つうかとんでもない攻撃力だな……義経とかより上なんじゃないか……?しかし一気に踏み込みのスピードが増したような気がする、さっきまで近づこう近づこうとしていたのに、それが出来ないから射撃戦になっていたのになんで急に近接を仕掛けてきたんだ?

 

【あの魔物……成長してる。時間を掛ければ不利になるぞ?】

 

心眼の忠告を聞いて陰念の姿を見ると、最初の時よりも身体が大きくなって全体的に鋭利な突起が増えているのが見える……あれが出来るようになったから踏み込んできたのか……となると俺の技量じゃ間違いなく捕まる……

 

「牛若丸……頼めるか?」

 

韋駄天は確かに強いが、反動も凄まじく大きいし、牛若丸のように意志があるわけでもないので控え室に置いてきた。とんなると今頼りになるのは牛若丸だけだ。手の中の牛若丸眼魂に声を掛ける

 

【はい!この牛若丸にお任せください!】

 

その言葉に頷きベルトのカバーを開きウィスプを取り出し、牛若丸眼魂を押し込む

 

「これならどうだ!?」

 

俺だと駄目だが、牛若丸の剣術と身のこなしなら行ける!そう思いながら腰のベルトのレバーを引く

 

【アーイッ!開眼!牛若丸!シュバっと!八艘ッ!壇ノ浦ッ!!】

 

手に持っていた剣が変形してより細身の刀を思わせる形状に変化する

 

【ぬお!?お前が牛若丸か!?お、おんなだったのか……!?】

 

【主殿ーッ!目の前に巨大な目玉の化け物が!?】

 

……これまじでどうなってるんだ?頭の中でガンガン声がする。ウィスプが笑ってるだけだったが、牛若丸と心眼だと至近距離で叫ばれてるみたいで頭がガンガンする……

 

「それは後!とりあえず目の前に集中!」

 

周りから何言ってんだ?って言う感じの声がする。頭の中で会話したっなんて言ったら可哀相な子扱いだよなーと思わず苦笑する。暫くすると冷静になった牛若丸の声が脳裏に響く

 

【失礼しました、面妖な光景に動じてしまいましたが……もう大丈夫です。参りましょう、主殿】

 

身体が軽くなったような気がする。これは義経と戦った時と同じ……いや少し鈍いかな?と俺が首を傾げていると……

 

【これくらいの憑依に抑えておきましょう。美神殿から聞いているでしょう?】

 

あーそうだよな……あんまり身体を貸すと危ないと言われていたから、完全に俺の身体を乗っ取る事は止めたのか……あの時ほどの高揚感と身体の軽さは無いけど……多分大丈夫だよなと考えていると

 

「グルオアアアアアアッ!!!」

 

咆哮を上げて襲ってくる陰念、っとと考え事をしている場合じゃない。小さく深呼吸して気持ちを切り替える

 

【私も補助する気持ちで負けるな!】

 

【この牛若丸も全力でお手伝いしますので!頑張ってください!】

 

咆哮を上げて飛び掛ってくる陰念と頭の中で響く牛若丸と心眼の激励……や、やるしかねえな……タイガーだってあれだけ頑張ったんだ。俺だって怖いからって理由で逃げたくねぇ

 

「くっそおおお!やったるわああ!!掛かって来いやぁぁッ!!!」

 

「ガアアアアアアアッ!!!」

 

返事とばかりに咆哮が放たれ、俺はやっぱ怖えぇーッ!!と仮面の下で泣きながら走り出したのだった……

 

 

 

 

「くっくく……はは……はーははははッ!!!だ、駄目だこれは!面白すぎる!素晴らしい!なんと素晴らしい余興か!!!」

 

ビュレトの予想通りガープは試験会場の中に居たが、中に居なかった。存在しているが、存在していない。

 

「全く恐ろしい技術だ。ガープ」

 

私は目の前で上機嫌に笑っているガープにそう声を掛けた。昨日急に日本に帰って来たと思えば直ぐこれだ……私も相当な偏屈だし、天才と自覚しているが、ガープは間違いなくその上を行っている。あるいは小さな閃きの差がここまでの差となってしまったのか……しかしそれにしても横島君はよく戦っている

 

「こ、このおッ!!!」

 

「グルアアアア!?」

 

素早い身のこなしで間合いを詰めて、深いダメージとは言い難いが、ヒット&アウェイで確実にダメージを積み重ねている

 

(このまま行けば、その内調伏できるな……流石私の義息子)

 

少し見ない間に随分と成長しているじゃないか?と心の中で喜んでいるとガープが笑いながら話しかけてくる

 

「そうだろう?アシュタロス。亜空間を応用した封鎖結界……中にいる者は何者にも探知できない」

 

あっと、ちゃんと話をしないと疑われるな、横島君の成長を喜んでいる場合じゃないなと小さく苦笑してから

 

「ああ、実に素晴らしいと思うよ。よく実用できる段階で持ってきた物だ」

 

今まで何者にも解明することが出来なかった亜空間を応用した結界。これは恐ろしい技術と言わざるを得ない、そして亜空間を解析するのに成功したガープの恐ろしい頭脳と科学力の高さにも正直驚愕していた……同じくらいだと思っていた、私とガープの科学力だが、ガープの方が数段上を行っている事をこの数日で嫌って言うほどに思い知らされた……まさか亜空間の解析に成功しているなんて夢にも思っていなかった……

 

(下手をすれば最高指導者も無力化される)

 

如何に最高指導者とは言え、亜空間に封じられては無力化されてしまう。今は自分の姿を隠すために使用しているが、これを攻撃に利用されると考えるとほぼ全ての神魔を無力化出来る。なんと恐ろしい技術なのだろうか……

 

「まぁ膨大な魔力消費に、陣地の作成に、小型化出来ない事と高価な魔具を使い捨てしなければならない欠点もあるのだが、亜空間を理解したのは神魔でもこの私が初めてだろうな」

 

今はその欠点があるからこそ何とかなっているが、ガープの事だ。その内この技術を攻撃に応用するようになるだろう……

 

(一緒に行動していて良かった……)

 

亜空間を制御するいくつかの素材は魔界でも稀少とされる鉱物と液体で、入手できる場所は魔界正規軍によって厳重に管理されている。その場所の強化をするように最高指導者に伝えておこう……これである程度はガープが攻撃に転化する方法を見つける為の時間稼ぎとなるだろう……

 

「それにしてもだ。横島忠夫……邪なただの男と言うのは、聊か愚かしいと言わざるを得ない」

 

むう?また訳の判らないことを言い出したぞ?私が首を傾げているとガープは

 

「名は体を現す。それは神魔に置いても人間に置いても同じ事……しかし横島忠夫は全く異なる。優秀だ、飛びぬけて優秀な男だ。時代が異なれば英雄として、それこそ神の末席に迎えられるほどの才を秘めている。これはありえない、ありえないのだよ。今の時代これだけの素質を持った人間が生まれるなどありえないことだ」

 

それは私も感じ取っていた、逆行された世界と言うことを知っている私だから言える、今の横島君は異常だと……

 

「ありえない能力に恐ろしいまでの勝負度胸、それに神魔の魂を憑依させても死なないその身体。ありえない、ああ、言い直そうありえてはならない……今の神魔が数を減らし、そして自然の神が下界を見捨て天界に帰っている中……これだけの能力を持つ人間が生まれるなど、ありえない話なのだよ。神魔がもっとも力を効かせていた神代の時代にいた巫女でさえ、これだけ破格の能力を持つものはいなかった……だから私はある推測をした……」

 

ガープは上機嫌にワインを煽りながら横島君の戦いを見ながら

 

「横島忠夫は時の特異点。そして星から支援……いや支援などとは生ぬるい……愛された男だ。ああ、それこそ宇宙意志にすら愛されているのかもしれない」

 

特異……点?聞いた事の無い言葉だ……だがガープの瞳に宿る光に危険な物を感じ

 

「ガープ。特異点とはなんだ?」

 

私がそう訪ねるとガープはやれやれと首を振り、勉強が足りないぞと呟いてから

 

「時間は巨大な大樹に例える事が出来る。一本の大きな道筋を持ち、そこから数多の分岐をしていく、それが平行世界の理論だ。それは判るな?」

 

「ああ。それは知っている、1度平行世界に干渉して、私達が神と言う世界があるかどうか調べた事もある」

 

とは言え、それはコスモプロセッサを利用した物……逆行前の世界で見たものだ

 

「ほう?そんな技術が?ぜひ見たいものだが?」

 

「実験中の事故だ。恐らく再現は出来ないし、私以外では無理だ。固有能力だからな」

 

固有能力。私やダンタリアンと言ったソロモンの中でも特殊な固体のみが持つ能力。ガープなら人間の記憶の操作や技能の喪失……72存在するソロモンの中でも所有するのは極僅かと言う極めて特殊な能力だ。

 

「ふむ、それならば仕方あるまい。固有能力の再現。それは確かに研究しているが、今の段階では机上の空論だからな」

 

固有能力の再現か……そんな事をされたらますます神側に勝機はないな。本当に恐ろしい男だよ、ガープは

 

「まぁそれについては今後聞こう。特異点についてだが、簡単に言えば時間の修正力を受けない存在。そう、一言で言おう……歴史改変を許された存在。それが特異点だと私は考えている」

 

「歴史改変?そんな事はありえないだろう?」

 

歴史改変は間違いなく宇宙意志や最高指導者に阻まれる。それこそ机上の空論だ

 

「まぁ確証は無いさ、今後実験して調べていく段階だがな……さてとこのままでは不味いな、データが取れない」

 

私とガープが話している間も横島君は魔装術に取り込まれていた陰念君を少しずつだが押し込んでいた。それは牛若丸眼魂のスピードに魔装術に取り付いている悪魔が対応できていないから。このまま行けば押し切れると私は考えていた……

 

「アシュタロス。良いことを教えてやろう。私が開発した狂神石は生き物だ、石だが生き物なのだ、そして取り込んだ物の遺伝子情報や、魔力情報を取り込みその性質をコピーする」

 

それは聞いている、ガープ達の切り札なのだから。どうして今その話を……?私が首を傾げているとガープはニヤニヤと笑いながら

 

「そしてあの男には、消滅したあるソロモンの魔神の魔力情報を定期的に狂神石を摂取させ、それを取り込ませた」

 

ガープが指を鳴らすと同時に陰念君が苦しみ始める

 

「魔族を模倣する魔装術。そして取り付いた者の力を吸収して変化する狂神石……その2つの実験だ。アスモデウスの炎、メドーサの石化……そしてそれに加えて消滅し、眠っているソロモンの力を狂神石に取り込ませ、情報取り込ませた。さてさてその3つの要素が統合されるのか?どれか1つに特化するのか、それとも3つの能力がバラバラに効力を発揮するのか?楽しみだとは思わないか?」

 

狂気的な笑みを浮かべるガープを見て、私は思わず横島君の無事を祈らずには居られないのだった……

 

 

 

いける、なんとか押さえ込める。俺は数秒前まではそんな風に思っていた……だが

 

「う、嘘……だろ?」

 

肉を裂く不気味な音が響き、苦悶の叫びが響き続ける。陰念の背中が裂けそこから7本の竜を思わせる首が現れ、全身をずんぐりとした丸みを帯びた装甲に覆われる

 

「ウルルルウォオオオオオンッ!!!」

 

狼のような咆哮と共に両手が真紅に染まり、漆黒の炎を吹き出し始める。その余りの熱で周囲の風景が歪んでいるのが見える……あんなの掠っただけでも死ぬぞ……

 

「魔族!?魔族だったのか!?」

 

「精霊石を!ありたっけの精霊石を持って来い!」

 

周囲の人間が陰念の姿を見て魔族と決め付け道具を集め始める。だがそれは不味い!それはしてはいけない!竜の首が動き出した関係者を見つめその口を開いた。そこから涎が垂れているのを見て、餌と認識したのだと本当的に理解した。このままではあの人達が喰われる。そう思った瞬間

 

『止めなさい!全員その場を動くな!!』

 

琉璃さんの怒声が試験会場全体に響き渡る。全員の視線が解説席の琉璃さんに集中する、このタイミングで何を言うというのだろうか

 

『陰念選手はとある術の制御の失敗で暴走状態になっています。これはドクターカオスの分析で断定出来ています。そうですよね?ドクターカオス』

 

『うむ、決して魔族などではないとワシが証明する。何よりもだ、今下手に動くと襲われる危険性がある、良いか。絶対に動くなよ』

 

あのー俺はどうしたらいいんですかね?審判はとっくの昔に逃げているけど、俺逃げたら絶対に失格ですよね?俺の視線に気付いた琉璃さんとカオスのジーさんは露骨に目を逸らして

 

『『頑張れ』』

 

何を!?何を頑張って言うんだ!?あの見るからに化け物を何とかして倒せと!?最初はいやいや助けたいと思ったけど、ここまで化け物になっちまうと絶対俺だと無理だと思うんだけど!

 

「横島ー!頑張って!なんとか出来るわよー!」

 

「……落ち着いて、よく見ろ!大丈夫!きっと何とかなる!」

 

【死んでも生きれますからー!死ぬほど痛いですけどー!】

 

蛍とシズクの応援?すっごい頼りない声援と、おキヌちゃんの応援なのか良く判らない声……と、とりあえず……どうするか?ちらりと横目で確認すると向こうもこっちを見てて……

 

「ニタアッ!」

 

「ぎゃー!来たぁッー!?」

 

変身してるけど、向こうも変身している。だから条件はイーブン、更に言えば向こうの方が遥かに好戦的だ。なんで判るかって?だっ俺てを見て僅かに見えている口元が大きく歪んだ。酷く好戦的で邪悪な笑顔……そしてそれと同時に7本の竜の首のうち、2本が口を開き炎を吐き出してくる。咄嗟に飛んで避けようとした瞬間

 

【横島駄目だ!その場に留まって護りを固めろ!】

 

【主殿!早く!】

 

心眼と牛若丸の警告の声によく反応できたと思う。腕をクロスして護りを固めた瞬間

 

「がっはああ!?」

 

試験会場を覆っている結界に背中から叩きつけられていた。な、なんだ何が起きたんだ?頭を振りながら目の前を見ると

 

「うっそお!?」

 

『わ、ワシの作った試験会場の床をぶち抜いたじゃと!?』

 

床をぶち抜いて竜の首が2本俺の背後から奇襲を仕掛けてきていたのだ。やばあ……これ絶対やばい……距離を取っても駄目。近づいたら……絶対あの炎の拳で殴られる……牛若丸の身のこなしがあったとしても……

 

【横島ぁ!止まるな!動けーッ!!】

 

【主殿!戦闘の中で考え事をしていたら駄目です!】

 

「横島避けなさい!早く!立って逃げるのよ!」

 

【横島さーん!立って!早く!前を見てぇーッ!!】

 

心眼と牛若丸、それに蛍とおキヌちゃんの悲鳴にも似た声が聞こえて、顔を上げるが……それはあまりにも遅かった……

 

「シアアアアアアッ!!!」

 

目の前に迫る炎を纏った豪腕……もうそれはどう考えても回避できるタイミングではなくて

 

「う、うわああああッ!?」

 

反射的に腕をクロスして、直撃だけは防いだがアッパーのように降りぬかれたその衝撃で、腰のベルトから牛若丸眼魂が飛び出して試験会場の外に転がっていく

 

「うっぐう……ほ、本格的に不味い……」

 

牛若丸眼魂が弾き飛ばされた事でウィスプに戻ってしまった……ウィスプではあの攻撃に対応しきれない……韋駄天眼魂を持って来なかったことを後悔していると

 

「あ、あれ!?な、なんで!?」

 

パーカーがいつの間にか脱げて最初のノッペラボウのような姿に戻っていた。それにベルトから勝手にウィスプ眼魂も飛び出している……も、もしかして時間切れ?ここまで長く変身してた事なんてないし……このままだと確実に死ぬ?俺がそんな不安を感じているとウィスプ眼魂が俺の左腕の周りを回転する

 

「う、え?な、なんだ!?」

 

いつの間にか腕にランタンか?それを思わせる篭手が装着されていて……

 

【イヒヒー!!】

 

ウィスプ眼魂がランタンの真ん中に飛び込むと同時に篭手から音楽が響き始める。だがその音楽はベルトの物よりも激しいものでエレキギターのような音だと思った、それに言ってることも微妙に違う……

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

うーん。これどこ引けばいいんだ?ベルトみたいにレバーないんだけど……って!考えてる場合じゃねえ!

 

「ガアッ!!」

 

咆哮と共に放たれる火炎を転がりながら回避する。えーと、どこだどこだ?レバーはないし……ん?開いてる?眼魂が嵌っている窪みの上と下が開いていて、もしかしてこれを閉じるのか?直感を信じてカバーを閉じると

 

【アーイ!開眼!ジャック・オー・ランターンッ!トリック・オア・トリートッ!ハ・ロ・ウ・ィ・ン!ゴ・ゴ・ゴースト】

 

ランタンから黄色いパーカーが飛び出したと思ったら、目の前で反転する。すると黄色いパーカーは黒いパーカーへと変化する、それを身に纏うと顔の上半分が何かに覆われる

 

「んん?なんだ?」

 

視界が狭くなったという感じはしない、何だこれ?バイザーか?でもこれで何とかなるのか?いや、ウィスプがこの姿になったということは何か意味があるのだと判断する

 

「ええい!出たとこ勝負だ!行くぜ!ウィスプ!】

 

【イッヒヒー!】

 

この眼魂の能力が何か判らないが牛若丸眼魂は無いし、韋駄天も手元に無い。なら今はこれに賭けるしかない、自分がどんな姿をしているのか判らないが、とりあえずこれにも何か特別な力があるに違いないと思い。俺はウィスプにそう声を掛け陰念と再び対峙するのだった……

 

 

 

次回仮面ライダーウィスプは!?

 

 

戦いの中更なる変化を遂げた陰念と対峙する横島。無数に放たれる火球それはさっきまでの横島には回避することの出来ない攻撃だったが……

 

「み、見える!?見えるぞ!?」

 

ジャック・オー・ランタン魂の持つ能力のおかげか、その攻撃を避けることが出来た!ジャック・オー・ランタン魂の未知なる能力とは

 

【ダイカイガン!ジャック・オー・ランタン!オメガバースト!!】

 

そして長い戦いの末。漸く陰念を倒すことが出来たが……

 

【ギャハハハーッ!!!】

 

陰念の身体から離れた何かはそのまま横島の体を奪おうと迫るッ!!

 

 

次回仮面ライダーウィスプ「呪いの眼魂」

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その6へ続く

 

 




戦闘の予定だったのですが、全然戦闘がありませんでしたね。反省です……やはり戦闘シーンは難しい、特に仮面ライダーとなると更に難しいですね。ガープとアシュタロスの話で枠を使いすぎたかな?と反省しております。その分。次回こそは戦闘メインで行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回は戦闘メインで頑張っていこうと思います。基本的に横島の視点がメインとなると思いますが。そこのところはご了承ください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その6

 

「すげえ……こいつはすげえ……」

 

あたしの目の前で興奮した様子で試合を見ている雪之丞。あたしはそんな雪之丞とは反対に冷静になっていた

 

(あれだけの力……対価が無いとは思えないわね)

 

あたしや雪之丞が使う魔装術。あれも莫大な力を得るが、その反面制御に失敗すれば、魔族になるというリスクがついて回る……あたしは目の前の試合を見ながら

 

「雪之丞。陰念を見てどう思う?」

 

魔装術に取り込まれ、外見も既に人間とは思えない姿になっている陰念を見てどう思う?と雪之丞に尋ねる。雪之丞の反応はドライな物で

 

「魔装術の制御に失敗した出来そこ無いだろ?なんでそんな事を聞くんだよ?」

 

……違う、これはあたしの知っている雪之丞じゃない。雪之丞は口こそ悪いが仲間想いで間違ってもこんなことを口にする性格じゃなかった……

 

「じゃあもう1つ聞いていい?」

 

「んだよ?俺は試合を見て居たいんだ」

 

不機嫌そうな雪之丞。これを聞くのは本当に本当の最終手段だと思っていた……でも今聞かないとあたしも次の試合だから、雪之丞と話している時間がない。あたしは小さく深呼吸をしてから

 

「雪之丞。あんた何の為に強くなろうと思ったの?」

 

この質問に雪之丞がどんな反応をするのか?そう考えるだけで怖かった。あたしは雪之丞が強さを求めた理由を知っている、雪之丞が子供の時に死んだ母親との約束の為に強い男になるという約束の為に雪之丞は己を鍛え続けてきた……でもガープに何かをされたおかげで凶暴化している雪之丞がそれを憶えているだろうか?

 

「なんの為に?……それは……あれ?なんの為だ……?なんか……あるんだ。なんだ……なんだったんだ……」

 

あたしの危惧していた通り雪之丞は自身の母親との約束を忘れていた。それを思い出させようにも

 

(あたしもね……信用されてるわけじゃないのよね)

 

さっきからあたしを見つめている金色の蝙蝠。それはガープの使い魔である蝙蝠だ。もしあたしが裏切る素振りを見せれば躊躇うことなくあたしを殺しに来るだろう……結局のところあたしに出来ることなんて何にも無いのだ……もしあたしが何かをすることがあれば……それは今ではない、たった一瞬……数秒にも満たない好機……それをあたしの命を引き換えに掴むため……だから今は何もしない……

 

(陰念……あんたがそうなったのはきっと横島に何かを見たからよね?)

 

あそこまで暴走する。それはきっと陰念の意志が関係しているだろう。本当に暴走しているなら観客席の人間にも襲い掛かっているはず……それをしないと言うことはまだ陰念の意識は少しとは言え残っている筈だ……

 

(あたしが言えた事じゃないけど、陰念を頼んだわよ)

 

あたしは頭を抱えて悩んでいる雪之丞に試合の準備があるからと声を掛け、観客席を後にしたのだった……

 

 

 

身体は……やっぱちょっと重いか……ジャック・オー・ランタンって言ってたけど、なんだろな?妖怪かな……?

 

ウィスプが変化した姿の動きを陰念の攻撃をかわしながら確認する。牛若丸魂と比べると身体が重く感じるがウィスプと比べると軽く感じるな……それに何よりも

 

「シアァッ!!」

 

地面と上空から同時に吐き出された炎。これは牛若丸と心眼の補助があってもさっきは避けれなかったのだが

 

【イヒヒー!】

 

【その場で反転!そのまま跳べ!】

 

今も心眼とウィスプの補助は続いている。それでも……今は必要ない……何故なら全て見えているから

 

「見える!……見えるぞ!」

 

上下左右から俺を追い込むように放たれた炎。それが迫って来ているのだが、最後の装着されたバイザー……あれの能力なのか正面は勿論。上下左右その全てが同時に見え、更にどうすれば逃げれるのか?と言う逃走経路が見える

 

(これすげえ!)

 

陰念のほうに走りながら数秒間だけ見える安全な逃走経路を走り、スライディングで滑りぬけ間合いを詰める。攻撃が見えるんだから近距離でも戦える筈だ、いつまでも遠距離攻撃では埒が明かないし……そもそもこの姿になったら持っていた剣が消えてしまったので銃に変形させての銃撃と言うのも出来やしない……心眼の危惧している通り更に化け物になられても困る。となると俺が出来るのは危険だと判っているが前に出て殴りあうしかないのだ

 

【その判断は間違っていないが、調子に乗るなよ横島。向こうの方が攻撃力も手数も上だ、下手に捕まればそのまま殴り殺される。絶えず動け、決して立ち止まるな】

 

心眼の助言に小さく呻く。向こうの攻撃力が桁違いなのは身体で体験してる……アッパーの一撃で真面目に意識が数秒飛んだ……心眼の声が無ければそのまま気絶して終わりだっただろう……その破壊力を知っているのに近接を挑む……普通に考えたら自殺行為だが遠距離攻撃でまともにダメージが入らないなら前に出るしかない

 

(きっと何か理由があるんだ)

 

美神さんも蛍もシズクも助けてくれないのは何か理由がある。俺には理解出来ない何か特別な理由があるに違いない、無論試合だから助けてくれないと言うのも判るが……正直言って目の前の陰念は化け物としか言いようが無い。琉璃さんとカオスのジーさんが試合を続行させているのもきっと何か理由があるはずだ……

 

(とにかく今俺が出来る事を全力でやるしかねえだろッ!)

 

とりあえずなんとかして陰念を元に戻す!もしくはここに足止めする!それが今俺が出来ることだと判断し、連続で放たれる火球や首の体当たりをかわしやっと手の届く間合いの近くまで近づけた

 

「おらあ!」

 

走ってきた勢いのまま陰念の顔面に拳を叩き込む。これだけの助走がついているのだから少しはダメージが……

 

「ギロリッ!!」

 

真紅に輝く瞳に睨みつけられる。全然効いてない!?なら!地面を踏みしめて連続で拳を繰り出すが……全くダメージを受けている素振りを見せない……こ、これはまさか……

 

「ぱ、パンチ力が下がってる!?」

 

向こうの防御力が高いのではない、こっちの攻撃力が下がっている!?あの回避力の上昇の代わりにこっちの攻撃力が落ちている……その事実に気が付き足を止めてしまった……心眼が決して足を止めるなと何度も言って居たのにも拘らずだ

 

【横島ぁ!止まるな!動け!動き続けろ!】

 

心眼の焦った言葉が聞こえたが、もう遅かった

 

「がっ……ぐうう!?」

 

7本の首のうち一本が俺の身体を締め付け、そのまま天高く持ち上げたと思った瞬間。凄まじいまでの衝撃を感じたと思った瞬間には俺は試験会場の床に叩きつけられ、ボールのように跳ね結界に背中から叩きつけられていた

 

「う……うぐぐ……ま、まずう……」

 

なんとか立ち上がったが、足が動かない。目の前が揺れる……手に力が入らない……あの高さから叩きつけられてその程度で済んでいるが……この状況は不味い……さっきまでの動きは間違いなく出来ない。出来るようになるにしても平衡感覚が元に戻るまではまともに動く事が出来ない……観客席から聞こえる蛍やシズクの声も良く聞こえないが、遠くからゆっくり近づいてくる竜の首の不気味な吐息だけが妙にはっきり聞こえる……

 

(どうするどうするどうする……!?)

 

逃げないといけないそれは判っているのだが、逃げた所でどうなる?避ける事が出来たとしても俺には向こうにダメージを与える術がない……何かこの状況を打破できる何かが必要だ……

 

【横島!?どうした!何故動かない!脳震盪でも起しているのか!?横島!横島!返事をしろ!!】

 

心眼の声が聞こえるが、それすらも遠くに感じる……考えろ……考えろ……八兵衛の時は……牛若丸の時はどうだった?あの時は2人の力……いや、それだけじゃないはずだ……他に何か……思い出せ、思い出せ……八兵衛の時は足に剣が……牛若丸の時は剣が刀みたいに細く……そこまで考えた所で左腕を見た。ランタンのような形状の篭手……

 

(そうだ……)

 

どうして気が付かなかったんだ?姿が変わった時その姿の時に最も適した武器が出る。今回は先に出ていたから気付くのが遅れたが……これだ。この篭手が武器なんだ……だがこれは殴る武器ではないはず。それなら、さっき殴りつけた時に効果が出ているはずだから……

 

(なぁ?ウィスプ?これの使い方はどうするんだ?)

 

返事があるか判らない、だけどきっとこれの使い方を知っているのはウィスプしかいない。だから声に出さずそう問いかけると

 

【イッヒッヒー♪】

 

頭の中でウィスプの返事が聞こえ……俺はその声に従うように迫ってくる竜の首に左腕を向けるのだった……

 

 

 

「ギッシャアアアアアア!?!?」

 

聞くに堪えない竜の断末魔が試合会場に響き渡る。その竜の首は青い炎に包まれていてその内完全に炎に頭を焼かれ、7本の首のうち1本が消えた……それを見て私は思わず手にしていた魔道書を膝の上に戻し

 

「なんとも……言えないですわ」

 

横島忠夫の変化を見ていたが、あれはおかしいとしかいえない。霊格や霊力が大幅に上昇するなんて本当はありえない……最初は何らかの手を加えた魔装術かと思ったが、あれからは魔力を感じなかったので魔装術ではない

 

(本当に面白い男……)

 

思わず反射的に魔法を使いそうになってしまったが……もうその心配も無さそうだ……そこまで考えた所で一瞬思考が停止する

 

(心配?私が心配していた?あの馬鹿を?)

 

他人なんてどうでもいいはずなのに……なんで私はあの男を心配した……ああっもう……!!

 

(あの男に関わってから調子が崩されっぱなしですわ……)

 

このままでは魔術の最奥になんて辿り着くことなんてできはしないだろう……ビュレト様のおっしゃっていた私に足りない何かがなんなのかもまだ判らないままですし……

 

「はあッ!!!」

 

気合の篭った声と共に明後日の方向に打ち出される青い炎。まぁ考え事はこれ位にしておきますか……今は調べたい事もありますし……

 

(あちこちに魔族の反応……神代琉璃が試合を中止しないのはこれが理由ですか……)

 

ビュレト様の言うとおりならこの魔力の持ち主は魔神となる。となるとあちこちの魔力の反応と試合の中止をしない理由が何かと考えると答えは1つ

 

(ここにいる全員が人質になっている……と言った所でしょうか)

 

使い魔に魔術の術式を刻み、あちこちに飛ばす。その後はそれを見せ札にしてこちらの要求を飲ませる。堅実でしかも悪辣な一手……ビュレト様1人でどうこう出来る問題ではないでしょう……かと言って私に出来ることがある訳でもない……

 

(魔装術の1つの到達点を見ておくのも良いですわね)

 

私も魔装術を使おうと思えば使うことは出来る。だが美しくない、私の美を汚してまで手に入れる力ではない。しかし……私以外が使うとなれば話は別だ……興味深い研究データとして記録しておくことは出来る

 

「見た所……2柱もしくは3柱の魔族と言う所でしょうか」

 

恐らくあの炎の腕と身体。そして背中から現れている7本の首は全く異なる魔族の特徴だろう。それが1人に現れているということは2体もしくは3体の魔族と契約していると考えて間違いない。しかしとんでもない事をした……魔装術は契約した魔族の特徴の一部をトレースすることが出来る術。人間ではそれが出来ないので身体能力の強化や霊力の強化として使うのが手一杯だ。本来なら魔族が扱う術なのだから人間が使う前提では弱体化するのは当然……しかしあの陰念とか言う男は魔装術の使い手としては私を超えているかもしれない……そんな事を考えていると試合会場に苦悶の声が響く

 

「グガア!?」

 

「はっはー!やれば出来るもんだな!!おらおらおらッ!!」

 

先ほど明後日の方向に飛んで行った炎が弧を描いて回り込み陰念の背中を貫いていた。横島忠夫は走りながら炎をいくつも打ち出し、それ全てが弧を描いたり、鋭角に曲がって陰念を追い詰めている

 

「……恐ろしいですわね」

 

あれは炎の形状をしているが炎ではない、もし炎ならば竜の首が倒せるわけが無い、だがそれが出来ると言うことは炎のほかになんらかの追加要素があると考えて間違いない。もしも……もしも対峙したとなると私には魔力が混じっているから大ダメージを受ける可能性が極めて高い。しかもそれを考えて制御しているのではなく、自然体で制御している。そう考えると魔法使いとしては馬鹿にされているような気がしてくる……しかし……あの炎を受けての苦しみようを考えると魔族または魔力に対し強い効果を発揮していると考えるのが妥当だろう

 

(完全に魔族の能力をトレースし、具現化する……よっぽど魔族と魂の波長が似ていたか……それとも霊力か……まぁなんにせよ、横島忠夫には絶望的に相性が悪いと言う事ですね)

 

普通なら完全に死んでいる状態でも動いている。しかも私の探知ではまだ生きている……人間の姿をしているかどうかは別だが……あれだけ異形と化していてもまだ生きているのだ……それは魔装術に高い適正があったという証拠……それが災いしてか死ぬに死ねないと考えるとなんとも不運なことだ。あの炎を防御してもそこから焼いてくる、避けるしかないのがあれだけ拡散して追い詰めてくる炎はいつまでも避ける事が出来る物ではない、もう勝負は決まったようなものだろう……

 

(助けに入らない……?)

 

試合会場にあれだけの使い魔を出しているのを考えると、あの使い魔は陰念を回収する目的の為と試合会場の人間を人質とする為に送り込んでいると考えていたのにその素振りは見えない……

 

(使い潰すには惜しいはず……では何を考えているのでしょうか)

 

あそこまで行くには相当な魔術的な強化や、薬物などの投薬により身体能力の強化……私が思いつくだけでも10個以上……それだけの素体を使い潰すようなまねはしないはず……もしそれをすると考えれば考えれるのは1つだけ

 

(魔神も横島忠夫を気に掛けている?)

 

戦いの中で力を得ていくタイプという者はいる。天性の才を持っていたり、恐ろしいまでの勝負度胸を持っていたり……そういった要因を持つ者は戦いの中で追い詰めるのが1番効率が良い……ではあの陰念と言う男に魔装術を与えたのは横島忠夫の当て馬にする為?そう考えるといくつか腑に落ちる点がある。あの道着を着てる3人組のうち2人は横島忠夫とトーナメント上で戦うことになっている。それらと戦わせる事で横島忠夫の力を見極めようとしているとしたら?

 

(間違いない、捨て駒ですわ)

 

優秀な素体には違いない。だがそれ以上に横島忠夫の方が魔神が戦力として考えるのに相応しい?そう考えるとあまり力を見せすぎるのは危険すぎる……

 

「不味い……ですわね……」

 

私は試合会場を見てそう呟いた。それは陰念が追い詰められ、横島忠夫から凄まじい霊力が噴出すのが見えていたから……もしもこれがガープの計画通りならと考えると背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……

 

 

 

7本の首のうち4本を何とかして炎で打ち抜くことが出来ていた。なんでか判らないが、この左腕の篭手から打ち出される炎は竜、そして陰念にもダメージを与える事が出来ていた

 

【横島!あまり時間を掛けるな、向こうもいつまでも良い様にやられているほど甘くないぞ、それにお前自身も危険だ】

 

心眼の警告に頷く、篭手から炎を打ち出すことがこの姿の特徴のようだが……

 

(くうっ……きっつう……)

 

身体が重く感じてきた……かなりの霊力を消耗して炎を打ち出すようで、さっきからバカスカ連射していたのが影響しているのか段々身体が重くなってきた……だからと言って攻撃の勢いを緩めることは出来ない

 

「なろおっ!!!」

 

さっきと比べると炎の威力も勢いも弱くなって来てる。それを補う為に勢いよく腕を振るい炎を飛ばす

 

「ガアァ!?」

 

腕の振りが影響したのか三日月のような形状になって竜の首を根元から切り落とす。炎の刃か……なんとも面白い能力だが……

 

(ぜは……ぜはっ……き、きつう……)

 

今の刃を作り出したので打ち止めだ……さっきまで燃え盛っていたランタンの炎も随分と小さくなってしまった……でもこれで7本あった竜の首も残り2本……さっきほど炎の勢いも弱くなってきてるし……これなら何とか……

 

「ウルオアアアアアアアアアア!!!」

 

……っおい!!どういうことだ!?竜の首が腕に装着され、鋭利だった鎧の形状が丸みを帯びた鎧へと変化している。それに両腕の竜の首からは炎の刃みたいのを吐き出している……これならさっきまでの炎の弾を打ち出されているほうが避けやすかったんじゃ……

 

「ガアアアアアッ!!!」

 

凄まじい咆哮と共に走ってきて炎の刃を振り回してくる。咄嗟にしゃがんで回避し、そのまま地面を蹴って後ろに跳んで間合いを離す

 

「どう見る心眼……あれは今どうなってるんだ?」

 

炎の刃を振り下ろした体制で動かない陰念を見て心眼に尋ねる。徐々に化け物になっていると聞いていたが、今あの状況は相当不味い状態なんじゃ?

 

【……かなり不味い段階だ。あの竜の首が腕と一体化しているのは相当不味い……後、数分も立たない内に完全に異形と化すだろう】

 

後数分……か、ここまで頑張ったのに化け物になられてしまうのは余りに気分が悪い……だが

 

(あれを一撃で倒すだけの攻撃力が無い……)

 

時間はもうそれほど残っていない……恐らく次の攻撃が最後になる。だが攻撃力が足りなければ、ここまでの苦労も全て水の泡であり、更に完全に化け物なってしまえば試合会場の全員が危険に晒される……

 

(隙が無い……)

 

もしあれを一撃で倒す攻撃力があるとすれば、それはベルトのレバーを引いて使う技しかない。だが向こうは野生の獣そのものだ、ベルトに手を伸ばそうとすると距離を取ってしまう……決め手はあるが、それを使うチャンスが無い。外れる危険性もあるがこの距離で使うしかないのか……決断を迫られた瞬間

 

「陰念先輩!元に!元に戻ってくださーい!!!」

 

試合会場に東條の声が響く、その瞬間陰念の動きが止まった……まだあいつに意識は残ってる!ならこれが最後のチャンスだ!

 

「うおおおッ!!!」

 

【イッヒヒーッ!!!!】

 

走りながらベルトのレバーを引くと、消えかけていたランタンの炎がもう1度燃え盛る。ウィスプも残り少ない力を振り絞っているのか勇ましい声で笑う

 

【ダイカイガン!ジャック・オー・ランターンッ!オメガバーストッ!!!】

 

「いっけえええええッ!!!」

 

走りながら左腕を突き出すと今までと比べられない青い炎がランタンから打ち出される……それと同時にごっそり力が抜けたが……まだ止まらない。走りながら間合いを詰め続けていると

 

「ウルオアアアアッ!!」

 

丸みを帯びていた鎧が弾かれるように更に変化を始めた。最初と同じ……いやそれよりも鋭く、禍々しさを感じる鋭利な鎧に……更には弾かれた鎧が十字架を思わせる形状に変化し、背中に装着されたと思ったらそこから更に巨大な斧を手にした2本の腕が姿を見せる

 

(くそっ!こうなったらやるだけやってやる!)

 

隙を突いたと思った、だが向こうにはまだ更に切れる手札が残っていた。完全に分が悪くなったが、ここまで来たらもう進むしかない

 

「うおおおおおッ!!!」

 

【イッヒッヒーッ!!】

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

俺とウィスプの声と陰念の声が重なり、青い炎と赤黒い炎がぶつかり合う。徐々に徐々にだが青い炎が赤黒い炎を飲み込んで行き遂には俺の炎が完全に陰念を飲み込んだ

 

「ギガアアアアアッ!?!?」

 

青い炎に呑まれ苦悶の悲鳴を上げる陰念。それを見て腰のベルトに手を伸ばし、レバーを握り締める

 

(集中しろ!見えるはずだ!)

 

耳鳴りのような音が響いたと思った瞬間。目の前が揺らぐ、そして俺の視界に入ってきたのは、青い炎に呑まれながらも陰念の身体に手を伸ばしその身体に戻ろうとしている悪魔の姿。今この瞬間を逃せば、もう陰念を元に戻すチャンスは無いと本能的に感じ取った。これが正真正銘最後のチャンスだと、東條の声を聞いて陰念の意識が強くなっている今が最初にして最後のチャンスだと……

 

「これでしまいだああ!」

 

【マバタキーッ!!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

なんでか判らないが出来ると確証があった。パーカーが弾かれるように外れ、空中で回転し黄色いパーカーに戻る

 

「いっけええ!!!」

 

地面を蹴り飛び上がると同時に目の前に現れた目を模した紋章に全力で飛び蹴りを叩き込み、そのままの勢いで陰念に突っ込む

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

最後の抵抗と言わんばかりに背中の腕が握っている斧を正面でクロスして、防御に入ったがそれは余りに遅かった。万全の防御とはいえないその守りを俺の蹴りは簡単に貫き陰念の胸に突き刺さる

 

【ガアアアアアアア!?】

 

断末魔の咆哮を残し陰念から離れる悪魔の姿……これで……これで終わったと思った。そしてその一瞬の気の緩みが最悪の状況を生み出した

 

【ギャハハハーッ!!!】

 

「なっ!うああああああ!?」

 

陰念の身体から弾き飛ばされた黒い悪魔が空中でパーカーのような姿を取り、俺に襲い掛かってくるのだった……

 

 

 

陰念の姿が現れたと思ったらそのまま倒れた。横島の頑張りで陰念は元に戻る事が出来たようだ。

 

「終わったわね……良かった」

 

美神さんもこれで終わったと思ったのか安堵の溜息を吐く、今まで長かったがこれで終わりだ……横島は本当に頑張ってくれた。私も安堵の溜息を吐いた瞬間

 

「……横島!逃げろッ!」

 

シズクの怒声が試合会場に響き渡る。突然試合会場の上空に黒いパーカーのような影が現われ横島に襲い掛かっていて

 

「不味い!琉璃!結界の解除!」

 

美神さんがそう叫んで観客席を飛び出す。一瞬私は何が不味いのか理解できなかったが琉璃さんが

 

「試合終了!審査団は両選手の保護に走りなさい!」

 

琉璃さんの凛々しい号令を聞いて理解した。とてつもなく不味い状態になっているということに

 

(そうか!)

 

あのパーカーが眼魂と同じなら、ベルトに取り付かれると今度は横島が操られる!?そうなると打つ手が無い。シズクも観客席を飛び出して試合会場に走り出す。正直間に合うかどうかギリギリのタイミング……まさかこんなことになるなんて思っても無かった

 

「くっ!ふざけんな!!!」

 

【ギャハハハッ!!】

 

横島が組み付こうとしてくるパーカーに必死に抵抗しているが、霊力が殆ど残っていないのか、どれも有効な打撃にはなっていない

 

(くっ、仕方ない!)

 

出来ればまだここで使いたい能力ではない。だが少しでもあのパーカーの攻撃を防ぐ必要がある……距離ギリギリ、向こうの魔力の防御を貫けるかは賭けだが……

 

(お願い。上手く行って)

 

祈りながらここ数年使ってなかった光学幻惑を使う、どうだ……?暫く見つめていると黒いパーカーは横島から離れて

 

【ギャハ?ハハ?】

 

突然空中に手を伸ばし始めた黒いパーカー。良かった、効果ははっきりと出てくれたみたいだ、これで時間を稼いでいるうちに美神さんがあのパーカーを何とかしてくれる、そう思っていたら

 

「この野郎!覚悟しやがれ!」

 

横島が剣指で空中に何かのマークを描くと、そこから白い球体が落ちてきた。横島はそれを片手で掴むと腰のレバーを勢いよく引く

 

【ダイカイガン!ウィスプ!オメガドライブッ!!】

 

「おらあッ!!」

 

空中に浮かんだ紋章に向かって白い球体を蹴りこむ。それは真っ直ぐに黒いパーカーを貫き

 

【ギアアアアアアッ!?!?】

 

白い球体から伸びた鎖が黒いパーカーを縛り上げ、そのまま球体の中に引きずり込んだ。その瞬間白い球体は黒味が掛かった青い球体に変化し横島の目の前に落ちた。あれ……まさか封印したの?眼魂の中に!?

 

「くっ……も、限界……」

 

【オヤスミー】

 

その球体を掴んだ横島がそう呟くと、パーカーと鎧が消え去り見慣れた紅いバンダナと青いGジャン姿に戻った横島がゆっくりと試合会場に倒れたのを見た瞬間。私はこんなことを考えている場合じゃないと叫んで、階段を駆け下り倒れている横島の元へ走るのだった……途中でタマモとおキヌさんに追い抜かれてなんとも言えない気分になったのは言うまでもない……

 

なお最終的に横島がどうなったのかと言うと、美神達よりも早く試合会場に到着したチビ達によって運搬されたのだが……

 

「うきゅーきゅうー!」

 

「みむーみむー」

 

巨大化したモグラちゃんの頭の上で放電を繰り返しているチビによって医務室へと運ばれていくのだった……放電を繰り返しているのはもしかしてTVか何かで見た救急車の真似をしているのだろうか?と思わずには居られないのだった

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その7へ続く

 

 




仮面ライダー編終了!ウィスプとジャックランタンは同一存在なのでマバタキー【瞬き】で一瞬で変化できるということにしてみました。次回はピートとかタイガーの視点をメインにしてみたいと思います。そしてこの黒い眼魂が前回のあとがきの呪いの眼魂となります。それについても次回ちゃんと書こうと思っていますのでどうなるか楽しみにしていてください。

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです。今回の話は横島の戦いを見たGS関係者と蛍とピートと雪之丞の試合開始のシーンを書いていこうと思っています。基本的に横島をメインで考えているので他の試合さっぱりとした試合になるかもしれないですが、内容が薄くなりすぎないように頑張りたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その7

 

横島と陰念の試合の後。試験会場は凄まじいまでの騒動を見せていた。間違いなく殺されると思っていた横島が勝利、しかも謎の全身を覆う鎧を使い見事な試合をして見せたのだ。運よく合格しただろう?と思っていたGS関係者がその評価を反転させなんとしてもヘッドハンティングしたいと動き出していたのだが

 

「美神除霊事務所所属だと!?」

 

「くそ!あの女が助手を手放すとは思えない!」

 

GS協会の中でも美神令子の名前はやはり有名なのか、どう考えても引き抜くことなど不可能だと考え諦める者……

 

「美神令子なら金で何とかなるかも知れんな!」

 

「いやしかし、あれだけの能力を持つ若いGS相当ふっかけられるのではないか?」

 

美神令子の性格を知っているので金で何とか引き抜くことが出来ないか?と話し合っているGS関係者の中を進む1人の男……

 

「ふむふむ、白いのの予言の意味が判ったな」

 

白いゴムマスクに全身を覆う黒いマントと言う異様な格好をしたこの男の名は「都津根毬夫(とつね・まりお)」ネクロマンサー見習いとしてGS試験に参加していたこの男は、何かを考えるような素振りを見せながら、腕時計のような何かを見てから試合の組み合わせを確認した都津根は

 

「後数刻が許された時間か……ならば少しばかり遊ぶのも悪くあるまい」

 

マスク越しににやりと笑いマントを翻しその場を後にした。都津根が見ていた組み合わせ表には「芦蛍」VS「都津根毬夫」と書かれているのだった……

 

 

 

 

一通り役員達に指示を出し終えた所で私は医務室に訪れていた

 

「うー……身体痛い……泣きそう……あいだ!?ううう……喋るだけでも辛い……」

 

「うきゅー?」

 

何故か医務室のベッドではなく、巨大化したモグラちゃんの上で呻いていたのには思わず首を傾げてしまった

 

「横島君。なんでモグラちゃんの上で寝てるの?」

 

顔を上げる元気も無いのかモグラちゃんの上で寝転んだまま

 

「ベッドだと……寝返り打っても痛いし……モグラちゃんもこもこしてるから」

 

一応竜種をベッド扱いって……いやまあ良いんだけどね?別に私がどうこう言うことじゃないし……それに今はそれよりも優先するべきことがある

 

「令子ちゃん~心配しなくてもいいわ~そんなに酷い状態じゃないから」

 

「わふわふ!」

 

ショウトラがモグラちゃんに寄り添って光を放っている。その光を横島君が吸い込んでいるので治療は進んでいると判断しながら横島君を心配そうに見つめている美神さんに

 

「美神さん?報告書かなり誤魔化してましたよね?」

 

あんなベルトの力とか聞いて無いですよ?と尋ねると美神さんは判りやすく目を逸らして

 

「でもさ?琉璃あの力を見て報告書だけで納得できる?というか怒らない?」

 

そう逆に問いかけられ言葉に詰まる。何百年も神代家が受け継いできた神卸し……それと良く似ていて、そしてこちらよりも強力な力を発揮していた横島君

 

「……怒ってたかもしれないですね」

 

うええ!?っと嘆く横島君にごめんねと呟く。正直信じることが出来ないと思うし、信じたくないと思う。それに……多分嫉妬する。神代家が何代も積み重ねてもなおまだ不完全と言わざるを得ない神卸しの技。それと似た技を使う横島君を好意的には思うことは出来なかったと思う

 

「そういう訳だから報告しなかったの。でもまあ、それが役立ったんじゃない?」

 

美神さんの言葉にそうかもしれないですねと小さく返事を返す。GS協会にもガープの手が伸びていたかもしれない、その可能性を考えると情報が全てGS協会に来てなかったのが良かったかもしれない、特に横島君のあのベルトの事を隠すことが出来たのはプラスだと思う

 

「……大丈夫か?これを飲めば少し楽になると思うぞ」

 

「うーありがとー」

 

シズクに水を飲ませて貰っている横島君を見て、こんなになるほどにダメージを受けていたのだろうか?と首を傾げていると蛍ちゃんが私の考えている事に気付いたのか説明してくれた

 

「横島の潜在霊力を無理やり引き出しているから酷い霊体痛になるんですよ、それに今回は2つも眼魂を使ったから余計にダメージが大きかったみたいです」

 

眼魂?なにそれ?と私が首を傾げていると蛍ちゃんがモグラちゃんの近くを指差す。何があるんだろ?と視線を向けると

 

【ううー申し訳ありません主殿ー!全くお役に立てませんでしたー!】

 

【イッヒヒーッ!!!】

 

……紫色と黄色の球体がチカチカ光りながら喋っていた。多分この時私は油の切れたロボットのような動きをしていたと思う。ゆっくりと振り返り紫色のほうの球体を指差して

 

「……あれもしかして本人?」

 

牛若丸って言ってたけど、え?義経の時になにかあって牛若丸だけ現世に残った?また報告されてない事だけど、それに怒る前に目の前の現象に私は思考停止気味になっていた。美神さんはこくりと頷く

 

「横島君?君一回神代家に来てみない?美人の巫女さんいっぱいいるわよ?」

 

これはもう才能って言葉で思考停止していい問題じゃない。完璧な神卸しに現世に残し使役する。どれも神代家が最終目標としている技術だ、現当主としてその技術を少しでも知りたい。出来ることならば神代家に横島君の血を入れたい……もうそれこそ私の夫として迎え入れることも十分に視野に入ってくる

 

「帰れーッ!寄るなーッ!」

 

横島君が反応する前に蛍ちゃんが横島君の頭を抱え込んで髪の毛を逆立てて怒鳴る。ふしゃーっと言う猫のようなうなり声まで聞こえたような気がする

 

「……おい。蛍……人間の首はそっちには曲がらない!早く放せ!」

 

【……あう。羨ましい……】

 

額に青筋を浮かべているシズクと指をくわえて羨ましいと呟いているおキヌちゃん。横島君って実は人たらしなんじゃ?と思えてくる。しかしその当の横島君は胸に抱え込まれて喜んで……は居なかった

 

「あ……あの……蛍さん?……首……首……もげます……」

 

思いっきり首をねじられている横島君の顔が赤くそして青いというとても面白い事になっている。人間ってこんな顔色になるんだと思わず感心してしまう

 

「あ……も……だ……め」

 

蛍ちゃんの腕を力なくタップしていた横島君の腕が地面に落ちる。蛍ちゃんが自分の胸で横島君が泡を吹いているのを見て

 

「ッきゃああーッ!!横島!ごめん!横島ぁッ!!!」

 

「……お前は馬鹿かーッ!!」

 

「ごめんなさーいっ!!!」

 

シズクに怒鳴られて謝っている蛍ちゃんをみて思わず笑いながら

 

「なんか個性的だけど皆良い子ですよね」

 

「まぁ……ね」

 

横島君や蛍ちゃんが美神さんの事務所に入ってから美神さんも大分優しくなったと評判だ。私は前の美神さんを知らないけど、唐巣神父などに聞くと別人かと思うくらい変わってるよと聞いた。少し前の美神さんが気になる所よねと笑っていると

 

「それで琉璃。陰念はどうなったの?」

 

この医務室に居ない陰念の事を訪ねてくる美神さん。ここで話すには少し重い問題だ、特に横島君には聞かせたくない。廊下のほうに目を向けると美神さんは私の言いたいことを理解してくれ

 

「ちょっと琉璃と今後の打ち合わせをするから。とりあえず蛍ちゃんは次試合なんだから少しは集中してなさいよ」

 

「う。判りました」

 

蛍ちゃんにそう注意してから医務室を出てきた美神さんと一緒に少し歩いて医務室の前から離れたところで

 

「まず陰念ですが、命には別状はありません。命には……」

 

ドクターカオスと神代家のお抱え医師に言峰神父見て貰ったからそれは間違いない。

 

「命以外に問題があると?」

 

「ええ。チャクラが全てズタズタになっています……確実に霊力を使うことは出来ないです」

 

命は助かった、だがGSとしての進路は完全に断たれたさらに

 

「過剰な霊力を手足に供給したことによる手足の腱の断裂。それに酷い霊力の枯渇……正直言って生きてることが信じられないほどの重症です」

 

リハビリをしても元通り歩ける保証もなければ、物を掴んだりすることも出来ないかもしれない……こんな言い方は酷だと思うが……死んでいたほうが良かったかもしれないとまで言われています

 

「……そう、じゃあ陰念の事は横島君には内緒で……あれで結構気にしてるみたいだから」

 

「そうですよね……本人は助けるつもりで行動したみたいですし……」

 

助けはしたが植物人間の可能性ある。それじゃあ余りに横島君の頑張りが報われない

 

「タイガー君の方は心配しなくても大丈夫ですよ。当面は入院生活になると思いますけど、深刻な後遺症も無さそうですし……唯一問題にすると言うのなら「GSを怖がらないかね?」ええ、でもきっと大丈夫だと思いますよ」

 

死に掛けてGSを辞める人は案外多い。だが友人の為に命を賭けたタイガー君だ。間違いなく復帰しGSを目指すだろう……それよりも、今はもっと近くで深刻な問題が控えている

 

「それと敷地内の蝙蝠ですが、時間ごとに増えています。GS試験の中止はまず不可能。何があっても最後までやらないと」

 

「それこそ死人が出たとしてもね。それにただで終わるとも思えない、そこから何かあるって考えているんでしょ?」

 

美神さんの言葉に頷く、ソロモンならここに居る全員を殺す事だって簡単に出来る。それをしないのは私達を追い詰めて遊んでいる、もしくは神魔に対するあてつけの可能性もある。GS試験が終わった段階で全員を殺しに来る可能性だってある

 

「小竜姫様と唐巣神父、それにブリュンヒルデさんの合流があってから漸く何か出来るという段階です。今は何も出来ないですから」

 

下手に動いて会場に居る全員を危険に晒すわけには行かない。なら今は思惑通りに動くしかない

 

【芦蛍選手。都津根毬夫選手、試合を開始します。試験会場へ!】

 

係員のアナウンスが試験会場に流れる。私もそろそろいかないといけない

 

「美神さんも無理はしないでくださいね」

 

「判ってるわよ。琉璃も全部1人で抱え込むんじゃないわよ」

 

美神さんの言葉に判ってますと返事を返し、私は役員室へと足を向けるのだった……

 

 

 

失敗したわねー……私は試合会場で対戦相手を待ちながらさっきの失敗を反省していた

 

(殆ど反射的だったからなあ……)

 

神代家に引っ張ろうとしている琉璃さんの言葉を聞いて反射的に横島の頭を抱き抱えてしまった。おもいっきり首をねじって……横島だったから大丈夫だった物の普通の人間なら死んでいたかもしれない。これは反省しないといけない

 

(でもまぁ……うん、1個確かめることも出来たし別にいいかな)

 

胸が小さいのを随分気にしていたけど、気絶している横島の顔が緩んでいたのを思い出し良かったと思う反面。横島を気絶させてしまったことを後悔していると対戦相手が試合会場に上がって来る

 

「遅れてすまない。少しばかり準備に手間取ってね」

 

口調は丁寧で紳士的だが……格好が異様すぎる。180近い長身を足元まで隠す黒いマントに顔を覆っている白いゴムマスク。夜に見たら悲鳴を上げてしまいそうだ。審判も若干引き攣った顔をしているのが良く判る

 

『あー解説のドクターカオス。あの格好にはなにか意味があるのでしょうか?』

 

『ふーむ。正解とは言い切れんが、なんらかの術を行使する為に自分の身体を護っている可能性があるの。俗に言う邪法と呼ばれる術じゃな。それに都津根毬夫はネクロマンサーとして登録しておる。そういった術を得意としている可能性が高いの』

 

ドクターカオスの解説を聞いて眉を顰める。ネクロマンシーも立派な霊能だ。もしネクロマンシーを使われると一気に不利になるわね……

 

「では!試合開始ーッ!!」

 

審判がそう叫ぶと同時に都津根が突進してくる。行き成り間合いを詰めて来るとは思ってなくて一瞬動きが硬直する、直ぐに気持ちを切り替えて咄嗟に飛びのくが

 

「甘いな」

 

マントの下から左腕が伸びてくる。掌に破魔札が貼り付けられているのが見え、咄嗟に右ひじで掌底を受け止める

 

「くっ!?」

 

打撃のダメージは減らすことが出来ても霊力のダメージまで防ぐことは出来ない。至近距離で炸裂した破魔札の衝撃で大きく弾き飛ばされる

 

(不味い!)

 

距離を大きく開けてしまった。ネクロマンシーを使われないように間合いを詰め続けようと思っていたのに!地面に手を付いて受身を取り再び間合いをつめようと顔を上げて

 

「嘘ッ!?」

 

思わずそんな声が出てしまう。再び間合いを詰めようと突進してくる都津根……ネクロマンサーじゃないの!?これじゃあ完全に近接タイプじゃないの!?

 

「はっ!」

 

「っとと!?」

 

突き出された左腕を頭を下げて避ける。前髪が宙を舞っているのが見えて目を見開く

 

(完全に避けたはずなのに!?)

 

余裕を持って避けたはず。それなのに今の攻撃は掠っていた……何か仕掛けがある?

 

(なんにせよ……素手じゃ負ける!)

 

あんまり使い慣れていないが、神通棍を取り出し霊力を流す。丁度いい長さになった神通棍の先を都津根に向けるようにして構える

 

「ふむ……馬鹿ではないか」

 

感心したように呟く都津根。何か仕掛けを施しているのは判っている、それを隠すための黒いマントと今までのネクロマンサーとしての戦闘スタイル。つまり今の戦いかたが都津根の本来の戦闘スタイル……霊力を込めた打撃で相手を制圧する近接タイプと見た

 

(集中して……相手の挙動を見逃さないように……)

 

マントの中に隠している両腕。間違いなくそこに何か仕掛けがあると見て間違いない……なら神通棍で私の間合いに入れないことが1番安全で確実な戦術のはずだ。それに……

 

(持込の霊具の事もあるし)

 

ルール上霊具を3つまで持ち込むことが許可されている。私は精霊石のペンダント・神通棍に破魔札。都津根は破魔札を使用しているが、まだ2つ何かを持ち込んでいると考えたほうがいいだろう。ならばどんな霊具を使ってくるにしろ反応できる距離を保つのが最善策だ。無論向こうから攻めてこないのならこちらから仕掛けるつもりで踏み込むタイミングを計っていると

 

「えっ!?」

 

背後から何かに押されるようにして都津根のほうに引き込まれる。何が起きているのか判らず混乱していると観客席のほうから

 

「蛍ちゃん!素早くしゃがみ込んで転がりなさい!」

 

美神さんのアドバイスが聞こえてくる。言われた通り素早くしゃがみ込んで転がると目の前を何かが通過していく

 

「ふむ……観客席からの助言が卑怯とは言わぬが……少しばかりフェアではないな」

 

都津根の手にはいつの間にか獲物だろうか、都津根の身長よりも更に長い死神の鎌を思わせる巨大な鎌が握られていた。

 

(今のどうやったの!?)

 

あれだけ巨大な鎌だ。さっきのように引き込むような使い方が出来るとは思えない、さっきのような状態になればそのまま両断されるのが当たり前だ。じゃあどうやって私を自分のほうに引き寄せたのか、あれのほかに何か霊具を使っていたのだろうか?得体の知れない都津根に背筋に冷たい汗が流れるのを感じていると

 

「審判!降参だ!」

 

突如その鎌をどこかへと消し去り降参だと叫ぶ。そのあまりに突然の事に目を丸くしていると終始マントの右腕を差し出してきた

 

「その腕は……」

 

思わず息を呑む。都津根の右腕は酷い火傷を負っていて大分離れているがケロイド状になっているのが見える、正直よくそんな状態で戦っていたなと思うレベルの重症に見える……

 

「ここまで来たのだからGS免許を貰おうと思いはしたが、君は強い。負傷を隠して戦って勝てる相手ではないというのはいままでの攻防でよく判った」

 

都津根はそう言うと私の行動を1つずつ評価しながら肩を竦め

 

「先ほどの陰念と横島の試合で使役するはずの動物の死体も消失してしまったし、何よりこの負傷。今の奇襲が失敗した次点で私の勝利は無い。降参するのは当たり前だ」

 

嘘だ……あの火傷は確かに痛々しいが、都津根はまだ力に満ちている……あの鎌を見てから私の中の魔族の因子がしきりに警告の声を上げている。逃げろと戦うなと……さもなくば死ぬぞと訴えかけている

 

「と言うわけだ。降参させていただく、では失礼」

 

言うだけ言ってさっさと試合会場を出て行く都津根を私は呆然と見送ることしか出来ないのだった……

 

試合会場を出た都津根は上機嫌な素振りでいつの間にか手にしていた杖で地面を突きながら歩いていた

 

「中々に楽しかった。しかし時間は時間、切り上げねばならぬのが辛いところだ」

 

腕に巻かれていた時計を見て肩を竦める都津根は空を見上げながら

 

『千の顔を持つ者と邪悪に見初められし者。その戦いが始まりを告げ、翡翠の拳と魔の拳が目覚めの旋律を奏でる』

 

何を言っているのか理解できないが上機嫌で呟いた都津根はやれやれという素振りで肩を竦め

 

「全く白いの言葉はいつも理解に苦しむ、しかも800年近く……うむ?1000年だったかな?まぁどうでも良いか、長い月日が経ったのは間違いないのだから」

 

800年にしろ1000年にしろ人間の生きれる時ではない。都津根と名乗った男は人間ではなく、蛍の中の魔族の因子が警告の声を上げていたのも本能的に都津根が自身の天敵と言うことを悟ったのだ

 

「さてと……ではもう少しばかり楽しませてもらうかな」

 

ゴムマスク越しににやりと笑った都津根はそのまま鼻歌を歌いながらUターンし、試合会場に入ろうとする列の中に紛れ込み……瞬きするほどの一瞬でその姿を消すのだった……

 

 

 

次が僕の試合だ……持って来ていた空手着の帯を何度も何度もしめ直す……だが何度やっても上手く行かない

 

(なにをこんなに動揺しているんだ)

 

さっきの横島さんと陰念と言う白竜会の人の試合を見てから落ち着かない。激しいという言葉で片付けることなど到底出来ない試合……いや……あれは戦闘だった。下手をすれば横島さんが死にかねない。生死にかかわる物だった……それにタイガーさんも横島さんに少しでも情報を残そうと必死に戦った……それなのに僕は今すぐにでも棄権して逃げたいと思っている

 

(情けない、ああ、なんて情けないんだ)

 

同じ胴着を着ている。それだけで恐怖を覚える……もしも僕の対戦相手も同じように変化したとして僕は勝てるだろうか?いや……生きることが出来るだろうか

 

(くそ!落ち着け!落ち着くんだ!ピエトロ!)

 

頭をたたき気を落ち着けようとするが、寧ろ焦りと不安が増していく。横島さんのバンダナに言われた言葉もずっと胸の中に引っかかっている。こんな精神状態ではまともな試合になんてなるはずがない……それでも必死に落ち着こうとしていると

 

「おい!ピートッ!!」

 

耳元で怒鳴られて思わず耳をふさいで誰が!と振り返り驚いた

 

「よ、横島さん!?もう大丈夫なんですか!?」

 

試合の後倒れてモグラちゃんに運ばれて行った横島さんがモグラちゃんの上に座ったまま僕を見ていたから

 

「んー大丈夫かって言われると大丈夫じゃねえな……身体は痛いしなーでも韋駄天の時よりかは大分まし。シズクに治療もしてもらったしなー」

 

頭の上にチビを乗せてのほほんと笑う横島さんを見て力が抜ける。そ、そっか……無事だったんだ……

 

「じゃあタイガーさんも?」

 

炎の中に呑まれたタイガーさんも無事なのか?と尋ねると横島さんはニカっと笑いながら

 

「おう全然問題ないぜ。元々タイガーは身体が強いからな。多少リハビリが必要だけど命に別条はないってさ」

 

そ……そうなんだ……ずっと気がかりになっていたことが消えて思わず安堵の溜息を吐く

 

「それよりもだ!ピート、次お前が勝てば俺と試合だなー」

 

世間話のように切り出した横島さん。ああ、その事か

 

「判っています。怪我人の横島さんに無理は「ドアホ」あいたあ!?何するんですか」

 

横島さんに無理をさせないために棄権すると言おうとすると横島さんに頭を殴られる。

 

「そんな事考えてるから駄目なんだ、先の事なんて考えてないで!今自分に出来ることを全力でやれよ」

 

ったく身体がいてえのになんでヤローの激励に来なくちゃいけねぇんだ。どうせなら蛍の激励に行きたかったと呟いている横島さんを見ていると

 

「横島君の言うとおりだよ。ピート君」

 

「唐巣先生!」

 

少し疲れた様子の唐巣先生がやって来て僕の両肩に手を置いて

 

「今出来ることを全力でやってきなさい。勝ち負けは重要じゃないんだ、今君の出せる全力を出してきなさい」

 

唐巣先生の激励を聞いてさっきまで感じていた恐怖心が少し弱まった気がした。それに加えて横島さんが僕の胸に軽く拳を当てながら

 

「次の試合楽しみにしてるぜ。頑張れよ」

 

拳を当てられたことで気付いた。横島さんが随分弱っている事に……今も僕の激励の為に無理して来てくれたのだと判った。調子の悪い横島さんに心配させている事が情けなくなってきて、それでもそれを顔に出すことは出来なくて

 

「横島さん……はい!次の試合で!」

 

僕は横島さんの言葉に返事を返すことしか出来なかった。他に何か言いたいことがあったのだが、心配させている僕が言える事じゃないと思ったのだ

 

『ピエトロ・ド・ブラドー選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!!』

 

丁度僕の呼び出しの声が掛かる。気合を入れるために頬を叩き

 

「唐巣先生!横島さん行ってきます!」

 

2人にそう声を掛け、僕は試合会場へと向かうのだった……

 

ピートの姿が見えなくなってから横島はさっきまでの笑顔を消して、青い顔でモグラちゃんの上に横たわる

 

「みーむうー!!」

 

「大丈夫……大丈夫やで……」

 

心配するチビに大丈夫と声を掛ける横島だが、その顔色は悪くとても大丈夫そうには見えない

 

「君も無茶をするな。横島君」

 

「は……いやあ……ピートにも頑張って欲しいっすから」

 

ピートの事だから不安に思っていると思って横島は無理をしてピートの激励に来ていたのだ。ピートの夢の話を聞いていたから、頑張れとだけでも言いたいと思ったのだろう

 

「さ、無理をしないで医務室に戻りなさい。私の方から聖奈さんと小竜姫様に声を掛けておくから」

 

唐巣神父の言葉に横島の代わりに返事を返したのはモグラちゃんで、横島を落とさないように医務室に戻っていくモグラちゃんを見送った唐巣神父は鋭い視線でピートの対戦相手の雪之丞を見つめ

 

「先に横島君だな……急ごう」

 

何か思う所があるようだったが、今は横島君の方が先だと呟き役員室へと向かうのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その8へ続く

 

 

 




次回はピートと雪之丞の試合を1話全部使って書いて行こうと思います。気合を入れるところはしっかり気合を入れないといけないですからね。そして蛍と戦った都津根となのる人外。ヒントは鎌と白いのの2つ。判る人は判るかもしれないけど、知ってる人も気づかないかもしれないですね。割とすぐ再登場するので彼の正体を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その8


どうも混沌の魔法使いです。今回は雪之丞とピートの戦いを1話全て使って書いていこうと思っています
最初のほうは少しだけ横島を出しますけどね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その8

 

シズクや私が止めたんだけど、どうしてもピートさんの激励に行くと言ってモグラちゃんに乗って医務室を出て行った横島だったけど、戻ってきた段階で顔色は青を通り越して白。思わずおキヌさんと一緒に悲鳴を上げてしまった。その後はシズクとショウトラの治療で顔色は僅かに赤みを帯びてきたけど、まだ青白く見ているだけで心配になる。チビは横島の顔の近くにちょこんと座り込んで

 

「みーむ?」

 

大丈夫?大丈夫?とでも言いたいのか、自分の餌のりんごやみかんを横島の近くに置いている。お見舞いをしているつもりなのだろうか?それとも食べて元気を出して?と言うことなのだろうか?まぁなんにせよとても賢いと言うのは判った

 

「……全くこの馬鹿はどうしてこうも無計画なんだ」

 

「うう……」

 

シズクが特別に調合したと言う霊水を飲ませた事で、先ほどより血の気のよくなった横島の頬を抓っているシズク。

 

(……なんなのよ、この圧倒的な年上感は……)

 

それは確かにシズクは水神で竜神だから事実圧倒的に年上だけど、今は小学校低学年程度の外見でどう見てもお姉さんと言う雰囲気はないはずなのに……圧倒的なまでの敗北感を感じる。正直言ってとても面白くない

 

「失礼しま……【キシャアアッ!!】きゃっ!?あ、あああああ!!危ないじゃないですか!!!」

 

小竜姫様が姿を見せた瞬間奇声を上げて包丁を持って突進するおキヌさん。傍から見ていると悪霊にしか見えない

 

【フーッ!】

 

「落ち着いて、落ち着いてください!ね?まずは横島さんの治療。そうでしょう?」

 

両手を上げて降参の意図を見せながら説得を試みている小竜姫様。あの狂戦士がおちつくかどうかそこが最大の問題だ。でも横島の名前が出ると流石に落ち着いたのかへんな事をしたら刺しますと宣言して離れる

 

「どうするつもりなんですか?」

 

シズクが治療と言うのは判るけど、正直小竜姫様に治療と言うイメージはなくてどうするつもりなんですか?と尋ねると小竜姫様は苦笑しながら

 

「これでも老師の弟子ですから。簡易的な陰陽術や仙道も修めているんですよ?まぁ今回は使いませんが」

 

小竜姫様って脳筋じゃなかったんだ……失礼だと思うけど小竜姫様にそう言う術を使うイメージをどうしても持つことは出来なかった。私がそんな事を考えていると小竜姫様が横島の右手を取り目を閉じる

 

「……なにをするつもりだ?」

 

シズクがそう尋ねると小竜姫様は目を閉じたまま

 

「天竜姫様と私の竜気が今横島さんの中にあります。天竜姫様は竜の頂点その回復力や治癒力は竜の中でも最高です、私の竜気を通して横島さんの中の天竜姫様の竜気を活性化させます。そうすれば大分楽になると思います」

 

竜気を活性化させて横島の治療。聞くだけでは簡単そうだけど、それって横島に負担をかけるんじゃ?

 

「……ある程度なら問題ない。横島は既に竜気にかなり適応しているからな」

 

そ、そうなんだ……まぁシズクがそう言うなら問題ないわよね。これで一安心よね……?医務室の椅子に腰掛け私が安堵の溜息を吐いたとほぼ同じタイミングで試合会場のほうから凄まじい歓声が響き渡る

 

「どうしたのかしら?ピートさん勝ったのかな?」

 

【どうでしょ?あんまり興味ないですしね】

 

その歓声は気になりはした物の横島の方が心配だったので、私もおキヌさんも動く事はなかったのだった……

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

右頬に叩き込まれた拳の一撃でその場でよろめく。霊力の篭ってない攻撃は無効化される結界の中なので今の一撃は間違いなく霊力が篭っていた……そしてそれでいて重い一撃だった

 

(でもこの程度のダメージなら直ぐに回復する)

 

バンパイア・ハーフとしての肉体は物理的にも霊力的にも非常に打たれ強い。ダメージは大きいが、そこまで深刻なダメージではない、数分も時間稼ぎを擦れば十分に回復できるダメージだ

 

「どうしたよバンパイア・ハーフ。この程度か?っと」

 

返事の代わりに回し蹴りを顔目掛けて繰り出すが顔を逸らすだけで避けられてしまった

 

「よしよし、まだ元気だな?今度はこっちの番だ!」

 

僕の足を払ってえぐり込むように放たれた拳が腹に突き刺さる

 

「がっ……」

 

い、息が……その余りの強打に肺から酸素が強制的に吐き出され息が詰まる

 

「そらよっ!!」

 

「があッ!?」

 

更に至近距離から放たれた霊波で弾き飛ばされる。咄嗟に体勢を立て直したがリングアウト寸前だった

 

『おーっと!前々の芦選手と都津根選手の試合とは打って変わって激しい近距離での殴りあい!素晴らしい体術と霊力の応酬!これはいい試合です』

 

解説者の声が聞こえるがとてもではないが、いい試合と呼べるものではないと思う。目の前の対戦相手の伊達雪之丞も肩を竦めやれやれと言いたげな素振りをしながら

 

「この程度かよ。期待してガッカリだぜ」

 

「くっ……」

 

立ち上がろうとするが足に力が入らない。打撃のダメージだけじゃない、霊力で身体の中のバランスが崩れているんだ……

 

(道理でさっきからおかしいと思った)

 

霊力も思う様に使えないし、何よりもダメージが大きすぎる。いくら霊力の打撃と言ってもバンパイア・ハーフだ。ここまで大きいダメージを受けるわけがない、それにいつまでも抜けないダメージ。最初の一撃から肉体じゃなくて僕の霊基のほうにダメージを受けていたんだ……

 

「こんなつまらない試合とっとっと終わらせて次の試合に期待するか」

 

次の試合……次の試合は……横島さんだ……駄目だ。こんな危険な相手と横島さんを戦わせるわけにはいかない

 

「何を言っているんだ。お前の相手は……僕だろッ!」

 

「はっ!とろく……ちっ……味な真似してくれるじゃねえか」

 

拳が避けられるのは判っていた。だから避けられた瞬間肘を突き出してそのまま肘うちに切り替えた。だが完全に不意を突いたつもりだったが、軽く掠めただけで簡単に避けられてしまった

 

(くっ……つ、強い)

 

霊力の扱いもそうだが、何よりも体術のキレが桁違いだ。霊波は簡単に押し返され、かといって体術のレベルも違う

 

(近距離も遠距離も駄目だ。まるで勝てる気がしない……)

 

「さーて、今度はこっちの番だ!」

 

地面スレスレを通って放たれたアッパーを咄嗟で両手で受け止めるが

 

「なっ!?ぐああっ!?」

 

僕のガードを簡単に貫き、さらにそこから放たれた霊波に弾き飛ばされ、僕は試合会場の結界に叩きつけられてしまい、その凄まじいダメージのせいで薄れ行く意識の中

 

【自分の力を使い方を良く考えて見るんだな、妹では辿り着くことができない場所にお前は立つことが出来ている。その幸運の意味を知れ】

 

横島さんのバンダナに言われた言葉が繰り返し頭の中を過ぎり……

 

(僕に出来て……シルフィーに出来ない事?)

 

僕に出来てシルフィーに出来ない事……その時思い出したのは初めて唐巣先生に出会った時の事だった……

 

 

 

この程度か……振り切った拳を軽く振りながらつまらない試合だったと呟く。

 

(最初の一撃で気付かないんじゃ才能無しだな)

 

1番最初の拳、それは白竜会の十八番。打撃と共に霊力を相手に打ち込み、悪霊ならそれだけで浄化し妖怪変化などには体の中の霊力などのバランスを崩し弱体化させる。基本中の基本の技だが突き詰めれば己の拳だけで悪霊などを退治できる、基礎にして最高奥義だ

 

(自分の身体に頼り切ったくだらん奴だ)

 

バンパイア・ハーフの筋力と回復力に頼りきった向上心のまるでないくだらない相手だ

 

(さっさと叩き潰すか)

 

こいつを倒せば次は横島と戦える。こんなつまらない試合はさっさと終わらせるに限る

 

「あばよ」

 

倒れているピエトロの頭を掴んで霊波を直接叩き込もうとした所で背筋に強烈な寒気が走った

 

(なんだ!?こいつの眼は!?)

 

さっきまでとはまるで目の色が違う。真紅に輝く瞳を見て一瞬。一瞬だけ硬直した、その一瞬が致命的な隙になってしまった

 

「がっはあ……」

 

俺の腹に突き刺さっている拳。その余りのダメージに身体がくの字に折れる

 

「もう一発ッ!!!」

 

凄まじい衝撃を受けたと思った瞬間。俺の身体は宙を舞っていた

 

(なんだ!?なにが起きた!?)

 

その余りのダメージとピエトロの雰囲気の変化に頭が混乱する。それでも咄嗟に体勢を立て直した俺の目の前には奴が居た

 

「なに!?」

 

「はあッ!!!」

 

あいつが目の前に浮いていた。それに気付いた瞬間腕をクロスして防御の体勢に入る、それと同時に強烈な踵落としが叩き込まれ試合会場の床に叩きつけられる

 

「はっあ!!面白くなってきたぜ!!!」

 

咄嗟に受身に使った左腕が痺れて動かないが、あの高さから叩きつけられる事を考えれば、この程度のダメージで済んで御の字だ。受身を取った反動で右腕を突き出し霊波を打ち出すが

 

「いない……だと!?」

 

バンパイア・ハーフだから空を飛べる可能性は考えていた。もちろん身体を霧にして回避することも可能性として考えていた、だが目の前で見ると混乱する

 

「こっちだ!!」

 

背後に現れた気配。咄嗟に反転し無防備な背中に攻撃を喰らうことは回避したが

 

「がっはあ……」

 

まるでマシンガンのような連続攻撃が叩き込まれる。痺れている左腕で無理やり急所は回避したが、それでも凄まじいダメージだ……

 

(ちっ!煽りすぎたか!)

 

考えたくは無いが、俺が挑発を繰り返したせいで何かが吹っ切れたのだろう。この行き成りのパワーアップ。そうでなければ理由が考え付かない

 

(だが浅はかだ!)

 

左腕は間違いなく死んだ……骨折はしていないだろうが、この試合で動く事はない。しかし左腕を代償にした価値はあった

 

(ダメージが軽い)

 

霊力の篭った攻撃でなければ無効化される試合会場の結界。もし十分な霊力の練りこみが出来ていたのならば今のラッシュで俺は戦闘不能になっていた。恐らく吸血鬼の力を活性化した代わりに本来使っている唐巣神父とか言うGSの教えた技術が使えなくなったと見て間違いない。吸血鬼の力は闇、聖句は光。反発するのは当然……

 

(今度近づいてきて見やがれ、全力の一撃を叩き込んでやる)

 

遠距離攻撃はないはずだ。だから右腕に霊力を集中しカウンターで全力の一撃を叩き込んでやる。そう決めて意識を集中したその瞬間。俺の耳に飛び込んできたのは予想外の言葉だった

 

『主よ!聖霊よ!我が敵を打ち破る力を我に与えたまえ!願わくば悪を為す者に主の裁きを下したまえ!』

 

「馬鹿な!!」

 

吸血鬼の力と聖句を同時に使うだと!?そんな事が出来るはずがない!だが現に俺の目の前でピエトロの両手に光が集まっていく……

 

「くそがッ!!」

 

『アーメンッ!!!』

 

目の前に迫る白い光。避ける事も、防ぐことも出来ないと悟り。俺は悪態をつきながらその光に飲み込まれたのだった……

 

「見事……見事だよ。ピート君」

 

観客席で戦いを見ていた唐巣神父が手を叩きながらそう呟く。吸血鬼と聖句の力を組み合わせる、それは唐巣神父が考えていたピートの霊力の扱いの最終形態。無論荒削りとは言え、それを成功させた。その事に唐巣神父は感激していた……弟子の成長を喜ぶ師匠それは当然の事だが

 

「まだです。決まりが浅かった」

 

第三者として見ていた聖奈には見えていた。直撃を受けているように見えたが、命中の瞬間伊達の身体を覆った鎧を……

 

「はっははは!!!やるじゃないか!だがまだだ!!ここからが本当の勝負の始まりだッ!!!」

 

「魔装術!やっぱりあの男も使えたのね」

 

唐巣神父と一緒に試合を見ていた美神が忌まわしげに呟く。煙の中から姿を見せた伊達はダメージを受けた素振りも見せず高笑いをしながら、自ら展開したであろう魔装術の鎧に身を包みピートを睨んでいたのだった……

 

 

 

手応えはあった……今まで出来ないと思っていた吸血鬼と聖句の力の合一……

 

(土壇場で物にできた……)

 

唐巣先生に何度も何度も指南を受けていたけど、今まで全く使うことが出来なかった物が出来るようになった事に自らの成長を確かめる事が出来た

 

(勝った……あれを耐えることが出来る訳が無い)

 

完全に直撃だった。自らの勝利を確信していると

 

「はっははは!!!やるじゃないか!だがまだだ!!ここからが本当の勝負の始まりだッ!!!」

 

煙の中から姿を見せたのは甲殻類を思わせる鎧を纏った伊達雪之丞の姿……この可能性は判っていた筈だ。同じ胴着を着ているのだから同じ術を使う可能性は当然あった。慢心してしまったのだ、あの一撃を受けて動けるはずがない。自分の勝ちだと確信してしまった……

 

「はあッ!!!」

 

地面を蹴って凄まじいスピードで突っ込んでくる。は、速い……反応することは出来る。だが

 

(これでは霧化が出来ない!?)

 

今の僕では聖句と吸血鬼の力を同時に使うことが出来ない、僅かに意識を切り替えるための時間が必要だ。これだけのスピードで突っ込まれると霧化を使う事が出来ない

 

(なら!)

 

歯を食いしばり拳を強く握る。霧化で逃げることが出来ず、聖句を詠唱する時間もない。ならば覚悟を決めて向こうの土俵で戦うしかない

 

「「おおおおおおッ!!!!」」

 

僕と伊達の雄たけびが重なる。僕は距離を取るために、伊達は距離を詰める為に……自分の1番得意な距離で戦う為に拳を繰り出す。お互いの拳がぶつかり少しだけ弾き飛ばされるが直ぐに体勢を立て直すと同時に

 

「ちっ!」

 

「やっぱり」

 

今の打ち合いで判った。伊達は僕のこの反応がわかっていたと言わんばかりの態度をとる、その顔は歪んでいて、さっきまで優勢だった伊達とは思えないほどに苦しそうな表情だった

 

『ご、互角です!力も霊力も全くの互角!これは勝負がどうなるか判らなくなりましたー!!』

 

解説者の声が試合会場に響き渡る。今の攻防で判った。力も霊力も全くの互角……勝負を決めるのはどっちかの隙を突くしかない

 

『馬鹿者め。勝負が判らなくなった?普通に戦えばピエトロの勝ちじゃ』

 

『おっと?それはどう言う事でしょうか?』

 

ドクターカオスの解説に解説者が反応する。僕もドクターカオスの意見に賛成だ

 

『ピエトロのほうは力が安定しておるが、伊達の方は見てみい、こうしているだけでも消耗しておる。長期戦に持ち込めばピエトロの勝ちじゃ』

 

「はっ、あのじーさん。中々鋭い所を突いてくるぜ」

 

こうして向かい合っているだけでも酷く消耗しているのか、大粒の汗を流している伊達……どうもあの鎧を展開しているだけで相当な体力と霊力を消耗するのだろう

 

「ピート君!なんとか距離を取って持久戦に持ち込むんだ!!」

 

観客席から唐巣先生のアドバイスが聞こえる。確かに距離を取って霊波の打ち合いをしていればその内向こうは体力を使い果たして僕の勝ちになるだろう

 

「どうするよ?お前のお師匠さんは距離を取って戦えって言ってるぜ?」

 

にやにやと笑う伊達。完全に馬鹿にしたような笑みを浮かべている

 

「どうするって聞いてるんだよ。腰抜け!どうした!?距離を取って戦うんだろ?さっさとそうしたらどうだ!」

 

……きっと距離を取って戦うのが賢い選択なのだろう。それは判っている……でもそれで勝ったとして僕は胸を張って言うことができるのか?

 

(タイガーさんや横島さんは……)

 

辛い戦いだと理解していても前に出て戦っていた。ここで逃げる戦いをして2人に勝ったと胸を張って言えるのか?

 

「おおおっ!!!」

 

「そうこなくっちゃな!来いよ!男の勝負は昔から殴り合いだ!!」

 

唐巣先生のアドバイスを無視して、僕は拳を握り締め伊達と近距離で殴りあう事を選んだ……

 

 

 

いい試合ね……あたしは観客席で雪之丞とピエトロの試合を見て心の中でそう呟いた。お互いに一歩も引かない殴り合い。見ていて見応えのあるいい試合だ

 

(でもまあ……挑発のし過ぎね)

 

途中からしか見ていないが、雪之丞が挑発を繰りかえしていたのは見ていた。魔装術の展開時間の事を考えて挑発して自分のペースに持ち込んだ所は評価できる。でも……

 

「おおおっ!!!」

 

「がっ!舐めるな!!」

 

ピエトロの方が気合が乗っている。防御力や攻撃力は雪之丞の方が上だろうけど圧倒的にピエトロの方がタフだ……あたし達の十八番の霊力を相手の身体の中に打ち込む技も決まりが薄い。まぁそれは無理もない、魔装術を使った段階で霊力の鎧に覆われるのだから、細かい霊能力の操作が必要なあの打撃の決まりが薄いのは判っていた。

 

(それよりも期待してるわよ)

 

あの火の出るような打撃戦はきっと雪之丞に良い刺激を与えてくれるだろう。もしかするとガープの掛けた精神操作を突破する可能性だってある。あたしは正直その可能性に賭けていた

 

「はあああッ!!!」

 

「ぐっ!がはあっ!?」

 

霊力と体重移動がしっかり出来た左右のフックが雪之丞の顎を打ち抜く、かなりしっかり決まったのか雪之丞の足が揺れているのが見える。いくらタフでも頭を揺らされてしまったのでは意識はあっても戦うことは不可能だ

 

(これで決まりね)

 

魔装術を維持するにはとてつもない精神力と体力を消耗する。自分と同格と戦っていれば神経も削れるし、体力も勿論減っていく……雪之丞が維持できる時間はとっくにすぎている。それなのに暴走せず魔装術を維持できているのは正直言って雪之丞が気力で維持しているんだろうけど、それも確実に限界が近い。自分を取り戻すことが出来ないなら出来ないでそれでも構わない。これ以上戦ってガープの精神操作が酷くなり、陰念のように自分が無くなる前に負けてくれれば……ガープもこれ以上雪之丞に精神操作を施すメリットはないと判断して、時間は掛かるだろうけどきっと雪之丞は元に戻る

 

(陰念……あんたは大丈夫なの?)

 

横島にKOされた陰念。様子を見に行くことは出来ないけど、陰念の身体からはじき出された何かを横島が封印していたのは見ていた。きっとあれで陰念はもうガープに操られることも無く、リハビリをするだけで……いや、それは楽観的すぎる。傍から見ていて思ったのだが、横島がやっていたのは強制除霊に近い。最悪霊能者としての道が断たれているかも知れない……それでも生きていればきっと他の夢を見つける事だって出来る。生きてさえ居れば……いくらでもやり直しは聞くのだから

 

(だから雪之丞……あんたも……もう倒れても良いのよ。後は全部あたしが上手くやるから)

 

膝が折れて雪之丞が倒れる……これであたしの不安は全部消える。後は全部あたしが上手くやればいい……心の中で対戦相手に感謝しながら観客席を後にしようとした瞬間

 

【ウウォアアアアアアアアアアアアッ!!!!!】

 

獣めいた咆哮が聞こえた瞬間。さっきの陰念の姿を思い出し、慌てて試合会場に戻る、そこであたしが見たのはもっとも見たくない光景だった

 

【アアアアアアアアアアーーーーーッ!!!】

 

魔装術が雪之丞の全身を覆いその形状を変えていく……両手は鋭い爪、背中には1対の翼、そして氷で出来た刃を持つ尾に氷の塊が鎚のような形状に変化する

 

「な【ガアアアアッ!!!】がはっ!?」

 

動揺しているピエトロの胴に氷の鎚が叩き込まれる。まるでボールのように弾き飛ばされるピエトロの後を追って尻尾が伸び、その首に巻きつく

 

「うっ、うぐう!?」

 

両手でその尻尾を外そうともがいているが、氷で出来た尾に全くダメージが通っていない

 

【シャアアッ!!!】

 

「う、うあわああああああ!?」

 

そして勢い良く尻尾を叩きつける、凄まじい勢いで試合会場の床に叩きつけられたピエトロを見て、観客席のあちこちから

 

「魔族だろ!?なんであんなのが参加してるんだ!?」

 

「失格にしろ!あれはどう考えても術が暴走してるぞ!!」

 

GS達がそう叫んでいるのが聞こえてくる、本当なら試合中止にするのが正しい。だがガープが動いているのが東條によって伝えられているので試合中止に出来ないのだろう。トドメだと言わんばかりに鎚を振りかぶる雪之丞を見て

 

「何してんのよ!雪之丞!」

 

咄嗟にあたしがそう叫ぶと、雪之丞は鎚を振り下ろす事は無かったが、興味を失ったという感じで尻尾を振るいピエトロを弾き飛ばす、それは奇しくもあたしの居る方向で、邪魔をするなという警告をしているように思えた。近くの壁に叩きつけられたピエトロに近寄る

 

「う……うう……」

 

それはさっきまで雪之丞と戦っていたピエトロで身体のあちこちが凍結し、通路に縫い付けられた痛々しいピエトロの姿と……

 

【ウォオオオオッ!!!】

 

雪の結晶を思わせる1対の翼を持った異形が自身の勝利を誇る様に雄たけびを上げる姿だった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その9へ続く

 

 




ピートがわりと頑張りましたが雪之丞が勝ちました。とは言え陰念と同じくガープの仕掛けで暴走状態での勝利でしたけどね。横島と雪之丞戦でも暴走モードが入る可能性がありますが、最初に言っておきます。次はライダー化はありません、ちゃんと別の手段で勝利する予定なので!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その9

どうも混沌の魔法使いです。今回は雪之丞戦ではなく、その前準備の話にしたいと思います。ですので戦闘開始までは書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その9

 

ピートの名前を叫んで反対側の観客席へ走っていく唐巣先生。私は試合会場で荒い息を整えている伊達を見ていた

 

「はぁ……はぁ……なんだ?どうなった?俺の……勝ちなのか?」

 

呆然とした様子でそう呟いている伊達。私は魔装術の事は詳しくない、だから隣で険しい顔をしている聖奈にどうなっているのか尋ねることにした

 

「聖奈。あれはどういうことなのかしら?」

 

「恐らくですが……あの伊達雪之丞と言う男の本質が表に出ているのでないでしょうか?」

 

本質?氷のように冷酷?って事?と尋ねると聖奈は小さく首を振りながら

 

「酷い凍傷を負うと寒いのではなく、寧ろ熱いのです。うちに秘めた燃える様な熱さ、それがなにかのきっかけで氷へと変化したのでしょうね」

 

燃えるような熱さが氷にねえ……?そういわれても正直実感が持てない。強いて言えば危険な相手としか思えない

 

(今度こそこれまでね)

 

あのベルトは既に使ってしまっているし、その反動で霊力も体力も限界を超えている。そんな状態でいつ暴走するか判らない相手と戦わせる訳にはいかない

 

「では失礼します。使い魔の対策を考えるので」

 

そう笑う聖奈を見送り、私は大急ぎで復旧作業をしているGS協会の人員を見ながら、その場を後にするのだった……

 

 

 

小竜姫様の治療のおかげか、横島がさっきよりも元気そうになったのは良い。うん、横島が元気だと私も嬉しいから……でも!でも!!

 

「えっと……その」

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

お互いに話しかけようとしていえいえと言ってそっぽを向き、またお互いに話そうとしては黙り込んでいる小竜姫様と横島を見ていて段々苛々してきた

 

「中学生か!?」

 

だから思わずこう叫んでしまった私は絶対悪くない。この甘酸っぱいような雰囲気にも耐えられないし!そもそもそう言うポジションはこの私ッ!!

 

「はい!治療が終わったら離れて!」

 

小竜姫様を無理やり引き離し、横島を自分のほうに引き寄せる。この人は駄目だ、危険なのは未来の小竜姫様だけだと思っていたけど、この人も駄目だ。なんだかんだ言って初心な横島と修行漬けでそう言う経験のまるで無い小竜姫様が一緒にいると自動的に甘酸っぱい中学生のような雰囲気になる。そんなヒロイン的な空間を許すわけにはいかない

 

「あ、あうあう……」

 

私の方に抱き寄せた時に目を白黒させている横島。私の事もちゃんと意識してくれているようで何より

 

「……あ」

 

なんか寂しそうに手をこっちに向けようとしている小竜姫様から見えないように引き離す

 

【ずるい!ずるいですー!!】

 

私から横島を奪おうとするおキヌさんの手を回避しながら、しっかりと横島を抱き抱える。ちょっと恥ずかしいけど胸を横島の腕に当ててみると

 

「ぶぶっ!?」

 

鼻血を出すというリアクションを見せてくれた。その事が嬉しくて思わず笑みが浮かんでしまう

 

「蛍さん。そういうのはですね、あんまり良くないと思います。まずは文通から始めるのが……」

 

なんか訳の判らない説教を始めた小竜姫様に見せ付けるようにして更に抱きしめると

 

「ギリッ」

 

雰囲気ががらっと変わった、多分未来の小竜姫様に意識が切り替わったのだろう。だが仮にそうだとしても怯む私じゃない、腕の中の横島の顔が鼻血のせいでまた青白くなっているから、そろそろ止めないといけないけど……多分まだあと少しは大丈夫な筈だ。もう少し横島に意識して貰おうと思っていると急に医務室の温度が下がった気がした……

 

「【ひう!?】」

 

「みぎゃぁ!?」

 

「きゅーうきゅいー」

 

「こ、こん」

 

……振り返りたくない……小竜姫様とおキヌさんの引き攣った声に、お腹を出して降参の意を示しているチビやモグラちゃん……

 

「……お前ら、横島がまだ病人だということを理解していないのか?」

 

嫌だけどゆっくり振り返ると、髪が伸びてそれがまるで竜のようにざわめいているシズクが凄い目で私達を睨んでいて……

 

【「「すいませんでしたーッ!!!」」】

 

声を揃えて謝るが、横島に対して非常に過保護なシズクが許してくれるはずも無く

 

「……泣いて悔いろ」

 

凄まじい勢いで迫ってくる氷に逃げることも出来ず、器用にうねる氷の波に私達は完全に捕らえられてしまうのだった。なお横島は壊れ物を扱うかのように丁寧に氷に運ばれていた、この扱いの差は酷すぎると思う

 

「……何してるの?」

 

それから数分後。氷の重りを膝の上に乗せ正座している私達を見た美神さんが絶句するのは当然の事だと思った……

 

 

 

 

全くこいつらと来たら……私は蛍から取り返した横島を再びモグラの上に横にし、部屋の入り口で硬直している美神に

 

「……馬鹿なことをしたから反省させている。後15分はこのままにする」

 

ええっと呻く蛍達を一瞥するうぐうっと呻いて黙り込む

 

「蛍ちゃん達何をしたの?」

 

美神が自分に飛び火をしないように警戒しながら尋ねてくる。別に美神に怒る必要は無いのだからそこまで警戒しなくてもいいんだがなと思いながら

 

「……横島の取り合いをしていた」

 

「何してるの?」

 

呆れた様子で呟く美神。本当に私からしても何をしてるんだ?と言う問題だ。頭が痛いのか頭に手を当てている美神を見ていると

 

「美神さん。ピートの試合はどうなりました?」

 

横島がモグラの上から上半身を起してそう訪ねる。すると美神は言いにくそうな素振りを見せてから

 

「負けたわ。タイガーほどの重症じゃないけど、ピートはそのまま病院に搬送されたわ」

 

ここの設備では治療が出来ない怪我……その言葉を聞いた段階でタイガーよりも酷い重症だというのは判ったが、横島自身も怪我を負っているので要らない心配をさせない為の美神の配慮だと判断して口にしない

 

「嘘でしょ?ピートっすよ?吸血鬼のハーフの……そんなピートが負けたって言うんですか!?」

 

私も正直負けるとは思っていなかった。人間と半吸血鬼の身体能力の差は努力などで埋められる物ではない、己の力の引き出し方を知らないとは言え人間相手……負ける可能性は低いと思っていた

 

「た、対戦……相手は……伊達……雪之丞でしたっ……け?」

 

足が痺れているのか苦しそうに尋ねる蛍。だが後11分はそのままで反省してもらう

 

【ううう……なんで幽霊なのに足が痺れるんですかぁ……】

 

私の氷なら霊体にだってダメージを与える事が出来る。幽霊だから平気と言う考えは甘すぎるぞおキヌ。しっかりと反省してもらうからな

 

「ええ、白竜会の伊達雪之丞が相手だったわ。最初はピートの方が劣勢だったんだけど、徐々に押し返して勝てると思ったんだけど……」

 

そこで言葉に詰まった美神。勝てると思った状況から逆転負けをして酷い怪我を負って病院に搬送された……それが意味する事は

 

「……あの陰念と言う奴みたいに化け物になったんですか?」

 

陰念と戦った横島がそう尋ねる。十中八九私もそうなっていると思ったのだが

 

「一瞬だけね。直ぐに元に戻ったわ、霊力切れなのか、体力切れなのか……それとも陰念みたいに素質が無かったのか判らないけど……それよりも、横島君。あなたが次の雪之丞の相手よ」

 

美神の言葉を聞いて顔を引き攣らせる横島。もし横島を戦わせるというのならば、私だって黙っていない、全員の視線が自分に集中しているの気付いた美神が慌てて手を振りながら

 

「馬鹿ね。何を勘違いしてるのよ、あのベルトの反動があって碌に動けない横島君に戦えなんて言わないわよ。幸いベスト8には入ってるからGS免許もちゃんと発行されるし、横島君貴方は良く頑張ったわ。次の試合は棄権しなさい」

 

賢明な判断だ。今の横島はとてもではないが戦えるだけの霊力も体力も無い、大分回復させたと言ってもそれは表面上だけで身体の中はまだボロボロなのだから

 

「は……あ、そうすっか。良かったーGS免許も貰えるなら無理をすることも無いっすからねー!次の試合は棄権させてもらいます」

 

それが賢明よ。良く頑張ったわと美神が横島を褒めるが、なにか上手く言えないのだが、今の横島の返答には何か違和感があったような気がする

 

「とりあえず、試合会場の復旧で大分時間が掛かるからその間ちゃんと休んでなさいよ。後でタクシーを呼ぶからそれに乗って病院に行くこと。蛍ちゃん達はちょっと着いて来て話したい事があるから」

 

医務室に横島を1人だけ残すことは不安だったが、どうしても私に来て欲しいと言うので私は美神達と一緒に医務室を後にするのだった……ただ部屋を出る前に何かを考え込んでいるような表情をしている横島を見て、私は何か言いようの無い不安を感じるのだった……そしてその不安は的中することになるのだが、今の私はそれを知る良しも無かったのだった……

 

 

 

伊達君まで化け物に……その可能性は考えていたが、実際に目の当たりにするとかなり驚いた。魔族ならまだしも、人間が氷を扱うなんて想像も出来ない。更に言えば伊達君と契約しているのはメドーサのはずなのだから氷を使える訳が無い、しかしその姿を見て、どこかで見たような気がしてならない

 

「ガープ。何をしたんだ?」

 

さっきの炎はまだ理解できる。アスモデウスは炎の扱いに長けているから、2重契約でその炎を使えるようになったと聞いてもそうだなと思えるが、今の氷はどう考えても不可能と言う結論になる。ガープに尋ねるとガープは笑いながら

 

「くっく!復元実験をしただけさ?お前なら判るだろう?同胞の姿を忘れたのか?」

 

その言葉を聞いて、脳裏に過ぎったのは消滅し、復活の時を待っている仲間の姿。獲物は違うが間違いない

 

「バルバトスか?」

 

正解と笑うガープ。普段は人間の姿をしているが、ひとたび戦闘となると鎧を纏いその爪と尾で神魔を屠った。だが決して見境無く暴れるのではなく、自分の正義を持った男。それがバルバトスと言う魔神だった

 

「他にも復活していない同胞と契約していた下級魔族を見つけ、そいつらから奪った魔力を用いて再現してみたんだが、実験段階では全く成功していなかったが、まさかここで成功するとはな、嬉しい誤算だよ」

 

(なんて事をするんだこいつは……)

 

かつての神魔大戦の際に戦力を補うためにソロモンの中で素質のある、下級魔族に自分の力を分け与え戦力を強化した。だがいくら素質があったとはいえ、その力に耐えれるわけも無く発狂していた下級魔族の事を思い出す。伊達君が耐える事が出来たのは魔装術に強い適正があったからだろう。未来の伊達君は人間の中では魔装術を極限まで極めたと言える、だが今の伊達君がいつまでも耐えれるとは思えない……早い段階で無力化できるといいのだが……

 

「さて、アシュタロス。次の横島忠夫の試合だが、どうなると思う?」

 

「普通に戦うんじゃないのか?」

 

ベルトの反動があるから恐らく危険だと思っているが、戦うんじゃないのか?と尋ね返すとガープはちっちっと指を振りながら

 

「あれだけの霊力を使っているのだ。恐らく棄権する、賢明な判断だ。私とすればあのベルトの力を見れたので十分な結果だ。まぁ戦うのなら戦うで良いが、戦わないのならそれでも構わないと思っている」

 

予想外のガープの返答に反応に困っているとガープは慣れた手つきでワインのボトルの封を切り

 

「余興だよ。所詮は余興さ、無論その余興の中にも成し遂げたい目的はいくつかあるが……その大半はもう終わっている。残る目的も後1つ……残りの試合など暇つぶしにもならん。見てみろ、下らん試合だ」

 

そういわれて試合会場を見ると蛍がそろばんを持った痩せ型の男を霊力の篭ったアッパーで殴り飛ばしていた

 

(蛍ぅ……それは霊能力者としてどうなんだい?)

 

ぱっと見た限りでは霊能力者ではなく、ボクサーか何かのように見えた。対戦相手の武器がそろばんと言うのも酷いが、とてもではないが、霊能力者同士の試合には見えなかった

 

「シッ!シッ!!!」

 

「か、ががががっがッ!?」

 

蛍の速射砲のような左が対戦相手の顔を右へ左で弾き飛ばす。素晴らしいジャブだ、ああ、それは認めよう。だがどう見てもやはり霊能力者の戦い方には見えない。それ所か、八つ当たりでもしているのか倒れかけるとアッパーで相手を起して再び左の連打。倒れることを許さないとでも言わんばかりの戦い方だ

 

『素晴らしいジャブとアッパーのコンビネーション!ドクターカオスどう見ますか?』

 

『あの左は世界を取れるの、なによりも体重移動とあれだけ連打をしても息切れをしていない。素晴らしいスタミナじゃな』

 

解説の2人もGS試験の解説と言うよりかはボクサーの試合の解説をしているように見えるし……

 

「見る価値もないつまらない試合だ。そもそも最後まで試合をやれと脅しはしたが……」

 

いつの間に?そんな事をしていたんだ?ずっと私と一緒に居たはずなのだが……使い魔でも使ったのか

 

「残る試合もあと少し……こんなつまらないものを最後まで見るのも苦行だな。アシュタロス悪いが、そろそろ火角結界の用意を頼む」

 

断るわけにもいかない……か。まぁ威力は高めておいたが、蛍にだけ判るように結界の解除方法を結界自体に施しておいた。爆発する可能性は……うん。多分限りなく0だ、だから心配はない。判ったと返事を返し、私は結界の外に出るのだった……出る前に

 

『深くしゃがみ込んで……これはガゼルパンチだぁ!!』

 

『身体ごと突っ込むフックか……耐えられる物ではないな』

 

どうもガゼルパンチで対戦相手をKOしたらしい蛍に、私は霊能者じゃなくてボクサーじゃないか?と思わずにはいられないのだった……

 

「うう……む。外の方が空気が美味いな」

 

あの結界の中は中々快適だが、やはり気持ち的に外の空気の方が美味く感じる。ガープと2人きりと言うこともあり、ずっと気を張っていないといけないからな……

 

「さてと、さっさと仕掛けを……」

 

ぱっと見ただけでもガープの使い魔である蝙蝠があちこちに居る。私自身も監視下にある可能性があるので、さっさと火角結界を用意することにする

 

(うーん。蛍は怒るだろうか、それとも赤面するだろうか?いやはやもしかすると呆れ返るかな?)

 

きっとこの試合会場に居る人間の中でこの結界を解除できるのは蛍しか居ないだろう。蛍にだけ判る解除方法を用意したのだから、もしガープにそのことを追及されても勘がいい人間が居たんだろう?で押し切れると思う。火角結界は強力だがデリケートな物だ、なんらかのきっかけで機能を停止する可能性だって十分にある

 

「……大丈夫。あたしは大丈夫……最後まで演じきれる」

 

通路を歩いていると自分に言い聞かせるように何度も何度も繰り返し呟いている声が聞こえた。この声は確か……鎌田勘九朗君だったかな……

 

(なるほど、彼も彼で出来る範囲でガープに反抗しようとしているのだな)

 

その強い決意を伴った声を聞いて、私はそれを確信した。だがこのままでは間違いなく彼は死ぬだろう……

 

(頼むよ)

 

それほど面識があるわけではない、だが死なせていい理由にはならない。研究段階の霊力の障壁を張る機能を持った兵鬼に彼を護るように指示を出し、私は火角結界の設置の為に試合会場を歩き出したのだが

 

「あ……これもしかしたら詰む?」

 

試合会場に私の知り合いが多く居る。もし見つかれば蛍にも何らかの疑いが掛かるだろう……

 

「み、見つかるわけにはいかない」

 

さっきまでの散歩気分から一転。私は決して見つかってはならないと言う異常な緊張感を感じながら、試合会場を進むのだった……

 

 

 

 

「ここもですか……」

 

さっき見つけた金色の蝙蝠。それは文献にあったガープの使い魔の特徴に酷似していた、それが凄まじい数試合会場やその周囲に居る。無性に嫌な予感がし、周囲を調べてみたが使い魔は試合会場全体を包囲していて、どこにも隙が無い

 

「厄介な……」

 

先ほどから見ていたのですが、外に出ようとした人間はふらふらとまた試合会場の中に戻っている。恐らく使い魔同士が結界の基点となって試合会場の外に出れないようにしているのでしょう

 

(この周囲の人間は全て人質と言う事ですか……)

 

正直人間が対処できる結界ではない。それにこの結界自体に攻撃能力が無いことを考えると更に何かの仕掛けがあると見て間違いない

 

(さて、どうしたものでしょうか……)

 

神代琉璃に話した所で対処できる問題ではないと思いますし、先ほどからビュレト様が動いているのでビュレト様が何とかしてくれるのを待つしかないのでしょうか……私に何か出来ることはないかと考えていると

 

「あー資格が取れるなら無理して試合をすることも無いしなー」

 

【白々しいぞ横島。私に何か言いたいことがあるんじゃないのか?】

 

この声は……見つからない様に声のしたほうを確認すると横島が試合会場へ続く階段の所に腰掛けていた

 

「い、いやあ……確かに考えてることはあるぜ?でも多分無謀とかを通り越しているってお前も怒ると思って」

 

【言ってみろ、小竜姫様は私にお前の願いを叶える為に私を授けたのだからな】

 

「ちょっと無茶な願いでもか?】

 

バンダナの眼と話しているのですが、やはりあれは使い魔の一種だったようですね……

 

【ふ、そうだな……伊達雪之丞を倒すとかか?】

 

伊達雪之丞を倒す?それはいくらなんでも無謀と言わざるを得ないだろう。あの試合は見ていた、魔装術が変化し氷を使うようになった。霊力ならまだしも、霊力で具現化した氷だ。手足を失うくらいで済めば良いが、下手をすれば命を失う結果にもなりかねない……

 

「わはははは!!それは確かに無茶も良い……「止めておきなさい、死にますわよ」

 

止めなければと思った時にはもう声を掛けていた。横島は私を見て驚いた表情をしている

 

「いいですか、横島忠夫。陰念に勝てたのは偶然や、あのベルトがあったからでしょう。今の貴方はあのときよりも随分と霊力が減っている。そんな状態で戦うのは無茶を通り越して無謀ですわ。大人しく棄権しなさい」

 

私の言葉に横島は驚いた顔をしてから小さく笑う

 

「何がおかしいんですの?」

 

笑われていることに気付き、横島のほうに身を乗り出しながら睨みつけると

 

「えっと……」

 

赤面して目を逸らす横島。その反応を見て自分の今の格好を認識した、胸元の開いているドレスを着ているのでその胸を見せ付けるような格好をしているの気付き、咄嗟に後ずさりながら

 

「なんで笑ったんですの」

 

自分の美しさは理解しているつもりだった。それを見せ付けるような服を好んで着ているのも事実。だが横島に見られていると思うとなんか無性に恥ずかしくなった

 

(なんですのよ、これは……)

 

いままで恥ずかしいと思った事なんて無いのに、なんで急に恥ずかしいなんて思うのかそれが判らない。冷静でいようといようと思っているのに妙に心臓の音がうるさい

 

「いやあ……やっぱり神宮寺さんは優しいなって思って、心配してくれてありがとうございます」

 

頭を下げる横島だったが、直ぐに顔を上げる。その顔は真剣な表情をしていて

 

「でも俺は棄権はしたくありません」

 

「死ぬのですよ!?どうして参加すると言えるのですか!」

 

誰だって死ぬのは怖い。それなのになんで参加すると言えるのかと怒鳴ると

 

「俺は今まで何回も逃げました、自分が役立たずって言うのも知ってます。俺は変わりたいって思ってGS試験に参加することを決めました……自分で決めて、自分で参加したんです。誰に言われたんじゃない、自分の意思で参加するって決めたんです」

 

顔を上げた横島の目には強い決意の色が浮かんでいて、何を言ってもその考えを変えることが出来ないのだと悟った

 

「だから俺は棄権しません」

 

だからお願いですから美神さんや、蛍には言わないでくださいと再び頭を下げる横島

 

「……そう。そうですの……」

 

もう何を言っても無駄なのだ。もう横島は決意を決めている、その決意を崩すだけの言葉を私は持っていない。これがもし……芦蛍なら違うかもしれない、彼女なら説得できたかもしれない。でもこの場に居るのは私だ……私には止める事が出来ない

 

(なんですの……これ)

 

何故か判らないが胸が痛い……こんなに痛いと思った事は今まで無いかもしれない……

 

「判りましたわ、横島忠夫。私は貴方の意志を尊重します、美神令子にも芦蛍にも告げ口はしません」

 

「本当ですか!?」

 

バッと顔を上げた横島に私は嘘はつきませんと返事を返し、ポケットに手を入れて横島の手をとる

 

「じ、神宮寺さん!?」

 

手を持たれたことで動揺している横島に苦笑しながら、ポケットの中から取り出した指輪を横島の右手の人差し指に嵌める

 

「お守りにはなるでしょう。頑張って」

 

「あ、ありがとうございます!俺……頑張ります」

 

力強く返事をする横島にもう1度頑張りなさいと声を掛け、私は試合会場の中に戻り

 

「どうして渡してしまったんでしょうね」

 

とても貴重な魔石を填め込んだ金の指輪。魔道書を持たずとも呪文の威力を上げようと思い作成し、想定した出力には届かなかった物ので護りの術式を刻み込んだ護身用の指輪。それこそ値段にすれば一千万では足りない、そんな貴重な魔道具をどうして無償で貸し与えたのだろうか……こうして思い返すと勿体無いことをしたと思いながらも、それで横島が無事ならばと思う自分が居る。そんな自分らしくない感情に頭を抱えていると

 

『横島忠夫選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!』

 

係員の呼び出しの声が聞こえる。私は少し考えてから、横島の戦いを見届けるために観客席へと足を向けるのだった……

 

 

 

神宮寺さんに激励を受けてから、俺はその場で出来るだけ集中を高める為に目を閉じて意識を集中していた

 

【む?女を追いかけないのか?】

 

心眼がそんな事を呟く、確かにねーちゃんを見たほうが霊力とか、そう言うのが上がりそうな気がするけど

 

「いや、なんかそんな気分じゃなくてな」

 

神宮寺さんがくれた指輪があるから、なんかそんな気分じゃないと言うか……

 

「なんで知ってるんだ?お前をつけてからそう言う事したつもり無いけど?」

 

なんで俺が姉ちゃんが好きなのを知っているんだ?と尋ねる。心眼は少し黙り込んでから

 

【少しばかりお前の記憶を見ただけだ】

 

……そんな事も出来るのか。まぁ俺とすれば恥ずかしい失敗とかそう言うのを見られなければそんなに気にしないけどな

 

【もう少し集中していろ。私がお前の霊力と小竜姫様の竜気を整える。無駄なことを考えるな】

 

心眼の言葉に頷き再び目を閉じて意識を集中する。正直身体は痛いし、霊力もそんなに扱えるとは思えない。それでも……それでも逃げたくないと思った。情けない自分が嫌で参加したのに、ここで逃げたら何も変わらないから……蛍や美神さんに止められても参加しようと思っていた。まさか神宮時さんに止められるとは思ってなかったけどそれでも棄権するというつもりは一切無かった

 

『横島忠夫選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!』

 

【時間だ。いくぞ】

 

心眼の言葉に閉じていた目を開く、立ち上がるとさっきまでとは大分違って身体が軽い。心眼が何かしてくれたのかもしれない……これなら行けるかもしれない

 

「しゃっ!行こうぜ心眼」

 

【ああ、行くとしようか。横島】

 

気合を入れるために掌に拳を打ちつける。……きっと美神さんや蛍には怒られると思うけど……自分で決めた事だ。絶対に最後まで俺は諦めない……意地でも勝つ!俺は決意を決め次の対戦相手が待つ試合会場へと向かうのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その10へ続く

 

 




今回は繋ぎの話だったので少し中身が薄かったかもしれないですね。蛍がボクシングとかしてましたけど……一応くえす様のフラグが更に進んだという感じですが……まだ完全成立じゃないですけどね。もう少しでフラグが成立する予定なのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その10

どうも混沌の魔法使いです。今回は横島と雪之丞戦を書いて行こうと思います、今回は仮面ライダーなしなのでどうやって雪之丞に勝つのかを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その10

 

琉璃との話し合いの中で判ったのは、試験会場周辺から出る事が出来ない事と蝙蝠の数が増えて来ているので何が起きるのか判らないと言う点だけだった。ビュレトと聖奈が対応に当っているらしいが、2人が処理する量よりも増える量の方が圧倒的に多いらしい

 

「爆発する危険性があるのでシズクに試験会場全体をなんとか出来ないかって頼みたいんだけど……どう?」

 

琉璃の問いかけにシズクは少し考え込む素振りを見せてから

 

「……出来ない事は無いが、大量の水が必要だ、それに短時間しか持たない。水道水のような安い水じゃなくて湧き水とかでなら出来る」

 

湧き水……今から用意できるのかしら?琉璃は多分何とかできると思いますと返事をし、電話を手にする。邪魔をしたら悪いので、部屋を出ることにした

 

「……医務室に戻る。何か嫌な予感がする」

 

横島君が心配だと言うシズクと別れ、ついて行きたそうな顔をしていたおキヌちゃんにお願いし2人で観客席へ戻る

 

【蛍ちゃんはやっぱり楽勝みたいですね】

 

「そ、そうね」

 

楽勝は楽勝だけど、拳でフルボッコしている姿を見ると楽勝と言うよりかは、鬱憤晴らしをしているように見える

 

「令子。そっちはどうだったワケ?」

 

タイガーの入院の手続きが終わったのかそう声を掛けてくるエミと

 

「令子ちゃ~ん?本当に~横島君~医務室に居るの~今行ったら~居なかったの~」

 

居ない?トイレとかじゃないの?と尋ねると大分待ったけど帰ってこないと返事を返す冥子に強烈に嫌な予感がした

 

(ちゃんと棄権するって言ってたし……大丈夫よね)

 

試合は棄権すると言っていたので大丈夫な筈だ。でも念の為に探しておこうと思っていると試合を終えた蛍ちゃんがチビやモグラちゃんを抱えて慌てた様子で合流してくる

 

「美神さん!横島がいません!医務室にチビとかはいましたけど!」

 

うん、知ってる。それは今聞いたから、考えられるのは私が呼んだタクシーだけど……結界のせいで外に出る事が出来ないのだから、タクシーが見えるはず。でもタクシーも見えないし……そもそも基本的に行動を共にしているチビとモグラちゃんが医務室に残っているのがおかしい。シズクは?と尋ねると先に横島を探しに行ったと教えてくれた。まぁそれは予想の範囲内だ。シズクは横島君に対して非常に過保護だから……しかし姿が見えないのは気になる。もしかするとガープとかに攫われている可能性もある

 

「おキヌちゃん、ちょっと探してきてくれる?」

 

【判りました!】

 

「コーン!」

 

タマモには言ってないんだけど、横島君を探して観客席を後にしたおキヌちゃんとタマモを見送ってから20分後

 

【……いませんでした……】

 

「……横島の奴どこに行った」

 

見つけることが出来なかったのか何処かしょんぼりした様子で戻ってきたおキヌちゃんとシズク。本格的に攫われた可能性を考えていると

 

『横島忠夫選手!伊達雪之丞選手!試合会場へ!』

 

試合会場の復旧が終わったのか、呼び出しが掛かる。まさか参加……するって事は無いわよね。あのベルトも使えないし、体力も十全じゃないはず……いくらなんでも試合に参加するはずが無いと思っていたのだが……

 

「み、美神さん!?あ、あれ……」

 

蛍ちゃんが信じられないと言う感じで呟く、私だって信じたくは無かった……

 

「あの馬鹿!何するつもりなのよ!?」

 

何故なら……棄権するはずだった横島君が試合会場に姿を見せたのだから……

 

 

 

「来たか……」

 

試合会場で腕を組んで待っていた伊達がそう声を掛けてくるが、俺にはその声はあんまり気にならなかった

 

(怒ってるかな)

 

今聞こえた美神さんの怒声。今まで何回も言う事を無視しているので、今度はもしかすると減給かもしれないな……いや、最悪解雇されるかも……という不安を感じながらも伊達を見る

 

「ふっ、気合の乗ったいい顔をしてやがる。これは楽しませてくれそうだな」

 

腕組をやめて拳を構える伊達。向こうはやる気満々って所かぁ……小さく溜息を吐いてから両手に霊力を集中させる

 

『試合開始ーッ!!』

 

審判の試合開始の声が聞こえると同時に伊達が雄たけびを上げて、陰念が使っていたのと同じような霊力の鎧を展開する

 

【動揺するな、落ち着け。勝機は十分にある】

 

心眼の言葉に頷き、どんな攻撃にも反応できるように両手を胸の前で構えると同時に踵を上げて立ち、伊達の様子を窺う

 

「ふっ、いい判断だ。踵を上げて、両手は反応しやすい胸の高さ。それに爪先立ちでどんな方向からの動きにも対応する。さっきのピエトロとは違う、良い判断だ」

 

拳を構えて好戦的な笑みを浮かべる伊達。そ、そう言われたが、俺としては蛍の構えを真似しているだけなので、そんなに深く考えているつもりは無いのだが……

 

「貴様はやはりどことなく、俺に似ている!楽しませてくれよ!横島ぁッ!!!」

 

そう叫んで突っ込んでくる伊達。は、早い!でも見える!反応できる!後は向かってくる攻撃に恐怖せず対応できるか?そこが全てになる

 

「まずは挨拶代わりだ!喰らえッ!!」

 

右手を突き出して放たれた霊波砲に同じく左手を突き出して

 

「サイキックソーサーッ!!!」

 

心眼のアドバイスで声に出すと出しやすくなると聞いたので言われた通りそう叫ぶと、目の前に霊気で出来た6角形の盾が現れる

 

「おおおっ!!!」

 

霊波砲に突っ込みながら左手の角度を調整し、掌から現れているサイキックソーサーの位置を調整する

 

「なにっ!?」

 

工事現場の重機のような音を立てて、俺のサイキックソーサーに当って受け流される伊達の霊波砲……その衝撃で左腕が痺れるが、上手く受け流すことが出来ていると思う

 

【よし!その調子だ、そのまま受け流し続け前に出ろ!】

 

心眼のアドバイスに頷きそのまま言われた通り霊波砲を受け流し、間合いを詰めると同時に右拳を握りこむ。キンっと言う渇いた音を立てて右腕が翡翠色の光に包まれる。家ではギリギリ固形化出来ていたけど、やっぱ霊力が減っているのか物質化までは行かなかった

 

「なに!?魔装術!?」

 

「知るかボケェッ!!とりあえず喰らっとけッ!!!」

 

大体何だ魔装術ってうんなもん知らんッ!!とりあえずこれで殴れるってことは判っているのでそれだけで十分!!振りかぶり全力で右拳を伊達の顔目掛けて振りぬいた

 

「がっはあッ!!」

 

「っつー!?かてえ!!!」

 

伊達を殴り飛ばすことは出来たが、右腕が痺れて腕を覆っていた光も消えた……やっぱ一発だけかぁ。ピートの親父さんのブラドーに時みたいに完全に具現化してくれていれば、もっとダメージを与えることも出来たと思うんだけどなと思いながら、そのままバックステップで距離を取ると同時に両手を突き出す

 

「おらああッ!!!」

 

「どっせーいっ!!!!」

 

反撃にと打ち出された特大の霊波砲を両手で作り出したサイキックソーサーで受け止め、腕を振り上げて上空に弾き飛ばす。天井に当って霧散する霊波を見て

 

(勢いでやったけど案外出来るんだな)

 

受け止めるつもりだったんだが、勢いで腕を上げたら弾き飛ばすことが出来た……俺ってたまにすげえ……とは言え両手がひりひりと痛むので出来ればやりたい手段ではないが……後破壊した天井の一部が降ってきているので危ないし……

 

【今の行動は良かったぞ、相手を見てみろ】

 

心眼に促され伊達を見てみるとさっきまでの好戦的な笑みは消え、明らかに警戒した表情で間合いを詰めようとしない

 

【今の内に霊力を集中させておけ、向こうが警戒してくれたのは御の字だ】

 

そうだよな、正直攻撃力とか防御力で行ったら向こうの方が上だ。最初の打撃と、上に受け流すことが出来たのは全くの偶然だが、そのおかげで流れを掴めたかもしれない

 

『おーっと!横島選手。1戦目・2戦目と異なり、冷静な立ち上がりですね。遠距離攻撃も上手くしのいでいますし、近距離にも反応が出来ています』

 

『うむ、目が良いんじゃろうな。このままなら持久戦に持ち込めると思うんじゃが、ピエトロ選手の時の氷を使う術もある、まだ安心するには早すぎるな』

 

判ってるってカオスのじーさん。向こうの方が強いって判っているから楽観的になることなんて出来ない、このまま距離を取って自分のペースを作っていく事を考えるさ、それをする為にまず俺がする事は1つ!

 

「どうした?来ないのか?楽しませてくれよとか言っておきながら逃げ回るのか」

 

距離を詰められないように、更に反撃を受けないように俺の周りをサークリングしている伊達をそう挑発する

 

【程々にしておけよ。反応しきれないラッシュが来ても困る】

 

心眼の言葉に判っていると返事を返す。正直俺の状態は良いとは言えない。騙し騙し、それこそ自分も相手も騙して……騙して自分のペースを作って行き、ほんの僅かしかない勝利の芽を掴む。それは綱渡りにも等しい、ほんの少しのミスで全てを失う。冷たい汗が背中に流れるのを感じながら、俺は再び伊達を挑発するのだった……

 

 

 

よ、横島が自分のペースで試合を作ってる。本当は乱入してでも試合を止めるつもりだったんだけど、小竜姫様がいざとなれば私が止めに入りますと言って私達の座っている席の近くに来てくれたのでそのまま試合を見ていたんだけど、試合のペースは完全に横島が掴んでた

 

「楽しめるとか言っておきながら距離を詰めてこないのか?どうした?逃げ回ってないで掛かって来いよ」

 

横島が両手に霊力を集め拳を作りながら伊達の方に足を進めると

 

「くっ!」

 

苦しそうに呻いて再び距離を取る。その度に綺麗に描かれていた円が歪になる。近づけさせまいと弱い霊波を放っているが、横島が手に収束している霊力の方が強いのか、弾かれて霧散している。このままでは先に伊達の霊力が尽きるだろう……

 

「上手いですね。最初に自分の攻撃力と技術を見せて、徹底して自分のペースを作る。こうなると中々相手は思うように動けないですよ」

 

確かに伊達は魔装術で身体能力を強化して、霊波砲で遠距離から削るのと、霊力を込めた拳による近接。そのどちらも出鼻を横島にくじかれたのだから動きにくくなるのは当然だ

 

「……しかしあの手のタイプを挑発するのは危険だ。カッとなって何をしてくるか判らない」

 

シズクの言う事も確かだ。伊達は気が短いからその内切れて接近戦を仕掛けてくる可能性もある

 

「そっちが来ないならこっちから行くぜッ!」

 

ダンっと横島が踏み込む素振りを見せる。舌打ちし霊波砲を打ち出す伊達だが……

 

「効くかぁッ!」

 

サイキックソーサーで弾き飛ばし、前に歩を進める横島。今のところ完全にサイキックソーサーを使いこなしているようだけど……

 

(どうして使わないのかしら)

 

サイキックソーサーは投げて使う事も出来ると横島に教えてある。心眼もそれを知らないわけが無い……じゃあなんでそれを使わないのか?何か理由があるのか、それを考えていると

 

【美神さん。あれ大丈夫ですか?ちょっと挑発しすぎだと思うんですけど】

 

おキヌさんが美神さんにそう尋ねる。横島の挑発は伊達が近づいて来ないことで更に勢いを増している

 

「それだけ強そうな鎧を着てても怖くて近づけないのか?どうした?逃げ回ってないで来いよ」

 

「あの馬鹿!調子に乗りすぎ!」

 

美神さんがそう怒鳴ると同時に痺れを切らしたのか伊達が凄まじいスピードで間合いをつめてくる

 

「様子見は終わりだ!一気に行くぜッ!!」

 

近接になると不味い。生身の横島と魔装術を展開している伊達では攻撃力と防御力が桁違いだ。最初こそ反応できるだろうが、捕まればその瞬間終わりだ

 

「横島ぁッ!距離を取って!」

 

咄嗟にそう叫んだ瞬間。横島の姿が消えた……文字通り完全に消えたのだ。私も美神さんも完全に目が点になっている。何が起きているのか理解出来ない

 

「何いっ!?」

 

至近距離の伊達は更に困惑してるいるのか目に見えて動揺しているのが判る。

 

【上です!】

 

おキヌさんがどこに横島がいるのか気付きそう叫ぶ。視線を上に向けると横島が伊達の遥か上空にいた、良く見ると足のスニーカーから煙が出ているのが見えて

 

(サイキックソーサーを踏み台にして跳んだ!?)

 

サイキックソーサーを踏みつけてそれを爆発させた事で大ジャンプして伊達の突進を回避したようだ。口で言うには簡単だが、実際やろうとすればそれは自爆と綱渡りになる危険すぎる行動だ

 

「喰らっとけッ!!!」

 

両手にそれぞれサイキックソーサーを作り出し、伊達目掛けて叩きつける横島

 

「ぬ。うおおおおおおッ!!!」

 

霊波砲でそれを相殺しようとした伊達だが、サイキックソーサーの方が威力があったのか、それともとっさの事で反応しきれなかったのか、サイキックソーサーを押し返す事が出来ず、サイキックソーサーによって試合会場の床に叩きつけられると同時にサイキックソーサーが爆発し、凄まじい爆発音が試合会場全体に響き渡るのだった……

 

 

 

 

サイキックソーサーを踏みつけての跳躍……口で言うのは簡単ですけど、実際にやるのなら爆発させるタイミング、跳躍するタイミングなどその全てが揃わなければあんな跳躍なんて出来るわけも無い

 

(凄い発想と思い切りですよ。横島さん)

 

爆風に乗って跳躍する。それは考えるのは簡単だが、実行するにはとんでもない勇気がいる。そしてそれを実行する思い切りの良さ……正直言って凄い度胸だと言わざるを得ない

 

「うぐう!?着地に失敗したぁ!?」

 

【たわけ!思いつきで行動するからだ】

 

ちゃんと着地出来ていれば更に良かったんですけどね。あれだけ跳躍すれば着地する方が難しいのでそこまで言うのは酷という物ですね

 

【凄い!横島さん凄いですーッ!!】

 

どこから取り出したのか旗を振って応援しているおキヌさんが興奮した様子で叫ぶ。その声で正気に戻ったのか美神さんと蛍さんが

 

「し、心臓に悪いわ……なんて事を考えるのよ」

 

「ほ、本当ですね。私も凄くびっくりしました」

 

着地に失敗していれば骨折や負傷していてもおかしくない、美神さんと蛍さんが心配するのは無理もない。だがいつまでもさっきの行動に興奮している時間は無い

 

「……見た目ほど効いていない。直ぐに立って来るぞ」

 

シズクが警戒するように呟く、確かにその通りだ。叩きつけた事と爆発させた事でダメージは確かにあるだろうが、魔装術で防御力が上がっているはずだ。そこまでダメージは大きくないだろう……それに……

 

「さっきの試合の事を考えると、あんまり追い詰めるとピート君を一撃で倒した暴走状態になる危険性もある」

 

唐巣さんが額の汗を拭いながらやって来てそう呟く。確かにその通りだ、あの氷を伴った魔装術。そうなると霊波だけではなく、作り出された氷にも警戒しないといけない。そうなると一気に横島さんが不利になるだろう

 

「唐巣先生。ピートと一緒に病院に行ったんじゃ?」

 

「確かにピート君は心配さ、それでも今やらないといけないことはそこじゃない。自分のやるべきことはちゃんと把握しているつもりだよ」

 

それに東條君と陰念君も病院に搬送しないといけないからね、綺礼に任せたよと笑う。これ以上戦力を下げるわけにもいかないので唐巣さんが試合会場に残ってくれたのは正直ありがたい

 

「や、やるじゃねえか……だがまだだ!まだ!オレハマケテナイッ!!!」

 

横島さんの対戦相手の声のトーンが急に変わった……美神さんや唐巣さんの顔色が変わる

 

「オレハ!オレハ!!!!モット!モットツヨクナルンダアアアアッ!!!」

 

悲痛めいたその叫びと共に全身を覆っていた魔装術が変容を始める。ピエトロさんを一撃で倒した氷の翼を持つ異形の姿にへと……

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

鎚を試合会場の床に叩きつけ咆哮を上げる、すると鎚を基点に周囲に雪と氷を伴った嵐が巻き起こる。そして次の瞬間

 

「がはあっ!?」

 

横島さんが何かに弾き飛ばされたように吹っ飛ばされる。何が起こったのか判らなかった、この私が認識できないほどのスピード……いや違う

 

「かっ……かは……」

 

蹲った横島さんの腹の辺りから音を立てて落ちたのは巨大な氷の塊。霊力で出来ているのか地面に落下すると同時に砕け散り消滅するが、そのダメージは大きいのか横島さんはその場で蹲り動く事が出来ないでいる

 

『そこまで試合……うあわああああ!?!?』

 

試合終了と言って試合を止めようとした審判に氷の嵐が襲い掛かる。これは不味い、咄嗟に止めに入ろうとしたのだが……

 

「「「「キキィ」」」」

 

無数の蝙蝠が私達の前に着地し、その身体の魔力を増減させている。これは下手に動けば爆発させるぞと言うガープの脅し……

 

(しくじった)

 

完全に止めに入るタイミングを逃した。やはり横島さんの意志を尊重するのではなく、無理やりにでも試合を棄権させるべきだった……助けに入るタイミングを逃した……

 

【オオオオオオオオッ!!!】

 

「ぐっ……ぐう」

 

嵐の中にも氷の刃が混じっているのか、浅いとは言え横島さんの体の表面を切り裂き、凄まじい勢いで間合いを詰められ

 

【アアアアアアッ!!!】

 

「くっ……くそっ!」

 

高速で振るわれた鎚をバックステップで回避しようとする横島さんだが、やはり足の負傷が響いているのか足がもつれている

 

【心眼ビームッ!!!】

 

心眼が放った霊波で直撃だけは避けるが、振るわれた時に発生した鎌鼬が横島さんの全身を浅く切り裂いていく

 

「なろおっ!!サイキックソーサーッ!!!」

 

【シャアアッ!!!】

 

反撃にと放たれたサイキックソーサーも、片手で弾き飛ばされる。サイキックソーサーの密度よりも、魔装術の密度のほうが上なので簡単に弾かれてしまったのだ

 

【ガアアアアッ!!!】

 

放たれた咆哮と共に尾が動き、鋭角的な軌道を描いて横島さんに襲い掛かっていく

 

「くっ!この!!こっち来んなッ!!!」

 

サイキックソーサーで弾いているが、攻撃はそれだけではない。連続で放たれる鎌鼬や氷弾がサイキックソーサーを貫き、横島さんにダメージを与えていく。そして尾の攻撃もついには防ぎ切れなくなってきている

 

「……あいつも……ガープも……殺してやる……」

 

ぞっとするような殺気に振り返ると、シズクの目が紅く輝き、その髪が何かの形を象って行く……それは竜の頭であり

 

「駄目ですよ!?ここで暴走なんてしないでくださいよ!?」

 

このままだと大蛇になると思い必死に止める。横島さんとシズクの魂は加護と言う形で繋がっている。どんな悪影響が横島さんに出るか判らないのだ

 

「がっ!?……がっはあっ!?」

 

「横島ぁッ!!!」

 

蛍さんの悲鳴にも似た声に振り返ると、魔装術の尾がサイキックソーサを貫き、横島さんの身体が宙を舞っている

 

【オッ!オアアアアアアアアアアアッ!!!】

 

追撃にと全身から放たれた魔力刃と氷刃が一斉に横島さんに向かっていく

 

【くっ!させるかああッ!!!!】

 

心眼が横島さんの霊力を操り、サイキックソーサーを4枚展開するが、放たれた刃全てを防ぐ事は出来ず

 

「ぐっああ!?ごふっ!?」

 

「横島ぁッ!」

 

【横島さんッ!!】

 

「小竜姫様!このままだ横島君が本当に死んじゃうわ!何とかならないの」

 

切り裂かれ、吹き飛ばされる横島さんの姿に蛍さんとおキヌさんの悲鳴が重なり、美神さんが必死の表情で何とかならないかと尋ねて来る。このままでは横島さんが死んでしまう、ガープに脅されていますがこのまま見てるわけには行かない。腰に差した神剣に手を伸ばし乱入しようとした瞬間

 

「……私が乱入する」

 

その横島さんの痛々しい姿を見てシズクがペットボトルを抱えて、観客席から飛び降りようとした瞬間

 

「……お前……何のために……強くなろうと……思うんだよ」

 

異形と化した伊達雪之丞の背から伸びる尾に首を締められ、吊り上げられている横島さんがその尾を掴んでそう呟く。その目を見て私は驚いた、絶望的までな状況なのにまだ目が死んでいない。

 

「ナンノ……タメニ?……オ、オレ……ナンノタメニ……」

 

横島さんにそう問いかけられ目に見えてうろたえる。まだ完全に操られているわけじゃないのですか……?横島さんの言葉にうろたえている。横島さんはそんなうろたえている伊達雪之丞の隙を突いて、顔面目掛けサイキックソーサーを叩きつける

 

「があっ!?」

 

顔面も鎧で覆われているのでダメージは殆どないようだが、その衝撃でよろめいている隙に距離を取り右手首を掴んで

 

「お袋は俺に言ったぜ……男が覚悟を持って拳を握った時。その拳がこの世で唯一。俺と自分の護りたい物を護る武器になるってよ……なら俺は……ッ!!!俺が護りたい物を護る為に……強くなるッ!!!自分じゃない誰かの為にッ!!俺は今よりももっと強くなるッ!!」

 

突き出した右手から凄まじい霊力が溢れ出す。それは嵐のように横島さんから吹き出し、横島さんがしていた金の指輪の中に吸い込まれていく……

 

「横島君の潜在霊力が解放された!?」

 

美神さんがそう怒鳴るのが聞こえる。横島さんの潜在霊力は膨大だ、それが僅かでも解放されれば、それは凄まじい力となるだろう。しかしそれだけではない、あの指輪だ。あの指輪が更に横島さんの霊力を高めている……あれは一体……?

 

「まだだッ!!もっと!もっとッ!!!もっとだッ!!!!」

 

【横島!止めろ!それ以上霊力を高めるなッ!!!】

 

心眼が横島さんを止めようとするが、横島さんはトランスしているのかその声も届いていない。その霊力は凄まじく、狭い試合会場を嵐のように駆け回っている。美神さんや蛍さんは飛ばされないように観客席に掴まる事で吹き飛ばされるのを耐えている

 

(これが……横島さんの力……)

 

神族である私ですら威圧される凄まじい霊気。いや、霊気だけじゃない、私と天竜姫様そしてシズクの竜気が横島さんの霊気に混ざり、横島さんの霊力を更に高めている。伊達雪之丞も止めようと思って近づこうとしているが

 

【グッアアア!!!】

 

その凄まじい霊力に押されて近づくことが出来ないでいる、霊力だけで押し返すなんて……離れているからこの程度で済んでいるけど、近くに居る人はもっと影響が大きいのかもしれない。解説をしている人の声も良く聞こえないほどの轟音が響き渡っている

 

「もっと……ッ!もっとッ!!もっと輝けええッ!!!!」

 

横島さんの右手に霊力が集まり輝いている。それは直視するのも眩しいほどの光を放っているが、それでもまだだと叫んだ横島さんの首から下げられていた何が霊力の風に飛ばされる

 

「……私が作ったお守りが」

 

シズクの見ている前でそのお守りが破け、そこから何かの牙が零れ落ちた瞬間。それは霊力に吸収されるように消えて行く……あの牙を取り込んだ……?それはあまりに信じられない現象だが、目の前で見たからには信じるしかない。だが竜の牙を取り込んだことでどんな悪影響が出るかも判らない。どうしてそんな物でお守りを作ったんですか?とシズクに尋ねると

 

「……いや。私とモグラとチビの牙で……作った。あとタマモの尻尾」

 

「なんでそんな物でお守りを作ったんですか!?」

 

シズクの牙だけならまだかろうじて理解できる。なのに何故、そこにモグラちゃんとチビの牙を付け加えたのかが理解出来ない、更に言えば九尾の狐の尻尾の毛を入れるなんてお守り所か、普通に考えれば呪術道具か何かにしか思えない。だがそれを今責めてもどうしようもならない、それがどんな影響を出るか見守るしかない

 

「おおおおおッ!!!」

 

手に集まった莫大な霊力を握りつぶすようにして人差し指から中指、薬指、小指、親指と握りこんで行く……そして親指まで握りこんだ所で横島さんの手の中の霊力が一気に収束し、拳から右肩までが翡翠色に輝く篭手に包まれる。そして背中には三日月状の3枚の翼が現れていた……あれはなんなんですか……まさか霊力を固形化させて鎧として使っているとでも言うのだろうか……

 

「うおおおおおおおおおッ!!!目を覚ましやがれッ!!この馬鹿野郎ッ!!!!!!」

 

背中の翼の一枚が砕け、そこから凄まじい霊力が溢れ出し、凄まじい勢いで伊達雪之丞に突進していった横島さんの右拳がまるで雷の様な音を立てながら伊達雪之丞を殴り飛ばしたのだった……

 

 

 

いてえ……めちゃくちゃいてえ……横島の拳が当った右頬がめちゃくちゃ痛い。だがそのおかげか意識がはっきりしてくる

 

(そうだ、俺は……)

 

何のために強くなろうと思ったのか?その全てを思い出した。なんでこんな大事な事を今まで忘れていたのか、自分でも判らない。でもこの誓いは……決して忘れてはいけない物だ

 

「あーいてえ……めちゃくちゃ……いてえ」

 

んだよこれ、翼に尻尾?動きにくいったらありゃしねえ。なんでこんなのが俺の魔装術についてるんだよ。つうか……

 

「邪魔くせぇッ!!!」

 

視界の隅を動いている尻尾を掴んで引きちぎる。痛みは無いな、手の中でびくんびくん動いている尻尾を見て

 

「気持ち悪るッ!?」

 

持っていても気持ち悪いので試合会場の外のほうに投げ捨てる。誰かに当ったような気もするけど、まぁそこまで気にすることは無いだろ。むしろあんなのを避けられないほうが悪い。そのまま翼も掴んで

 

「ふんっ!!!」

 

力任せに引きちぎる。んで最後に顔を覆っている仮面に手を掛け……ようとして

 

「おう、横島ちっと待ってろ。これが邪魔くせえ」

 

前が見えない、こんなんじゃまともに試合なんて出来ない。だから仮面を引っぺがそうと思ったが、その間に殴られても詰まらないので横島にそう声を掛ける

 

「お、おう……」

 

翡翠色の篭手を身につけている横島にそう声を掛けてから仮面をひっぺがす、なんかべりっとかいう不吉な音がしたような気がするけど……気のせいだろ?なんか額から血が出ているのか、目の前が見にくいが、それもきっと殴られた衝撃で額でも切ったんだろうと判断する

 

「なんの為に強くなるかだったな。良いぜ、答えてやるよ」

 

ちょっと身体がダルイな、まぁ大丈夫だ。問題ない、身体のダメージは大きいが、そんなのが気にならないくらい気力が張っているのが判る。それに魔装術が消える気配もないくらいに安定してる。これならまだ全然戦えるッ!

 

「俺が強くなる理由!それは1つしかねえ!!若くして死んじまったママと約束したのさ!誰よりも強い男になるってな!!」

 

うええっと横島がドン引きしているのが判るが、お前だってお袋の言葉を大事な約束にしているじゃねえかと言うと

 

「いやいや!?あれ別に約束とかじゃないからな!?お袋が俺に発破を掛けただけだからな!?」

 

「ふっ、恥ずかしがることは無いだろうが?男の価値は産んでくれた母親への感謝で決まる!そう言う面では俺もお前も最高の男のはずだ!」

 

「俺までマザコンにするなーッ!!!」

 

やれやれ、俺と横島では価値観が違うのか、それともまだ俺と同じ領域まで到達していないのか……まぁどっちにしろ小さな問題だ。俺と横島の戦いの中できっと横島も真の男の価値という物を理解してくれるだろうよ

 

「やっぱりお前と俺は似ている!!お前と戦えば強くなれると思ったのは間違いじゃなかった!!ふふふふ、天国で見ていてくれッ!!俺はこんなにも強く逞しく!美しくなったぞ!!ママーッ!!!!!!」

 

観客席とかの方からざわざわとした声が聞こえるが、気にするまでも無い。真の男の価値は自分が判っていれば良いんだからなッ!!!

 

「嫌だーッ!!こんなやつと戦うのは嫌だーッ!!」

 

逃げようとする横島の方へと向かって俺は走り出す……この戦いの中で俺は俺の信じる真の漢に近づくことが出来ると確信し、拳を強く握り締めるのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その11へ続く

 

 




シリアスだと思いました?残念ギャグでしたッ!いつまでもシリアス続きなんて私が耐えられないのでここからかギャグでやっていこうと思います。勿論戦闘も頑張って行こうと思いますけどね!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その11


どうも混沌の魔法使いです。今回も雪之丞と横島戦を書いて行こうと思います。でもシリアスじゃなくてギャグ系で書いてみたいと思います。ガープの洗脳を解除されて素に戻った雪之丞と横島ですからね、面白おかしい感じで真面目な戦闘も書いてみたいと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その11

 

火角結界の設置を終えてガープが待っている結界の中に戻ると

 

「……」

 

「どうした?」

 

馬鹿みたいに大口を開けて、モノクルも外れて足元に転がっているガープを見て、どうしたんだ?と尋ねるとガープは返事を返さず試合会場を指差す。一体なんだって言うんだ?蛍とかに見つからないように隠密で行動していたから横島君と伊達君の試合がどうなったか見てないんだけどなあ……よっぽど衝撃的なことでもあったのか?と思いながら試合会場を見ると

 

「母母母母母母母母母(ははははははは)ッ!!!行くぞッ!!!横島ぁッ!!!」

 

なんかかなりハイになっている伊達君が高笑いしていた。はははって笑ってるみたいだけど母と叫んでいるようにも聞こえる

 

「また魔族化しかけたんだ、良い戦力になると思っていたら……急にこんなことに……何故か私の洗脳も解除されているし……しかも小竜姫達の動きを封じていた蝙蝠も霊力の放出で消え去ってしまった」

 

信じられないと呟いているガープ。それはそうだよなあ……自分の洗脳が解除されたと言うのはガープにしては相当なショックだろう……でも私からすればガープが手にするはずの戦力が少なくなった事でかなり安心しているというところもあるんだけどね……しかし横島君の潜在霊力のおかげでガープの蝙蝠が消えたのは良かった。これで皆動きやすくなるだろうからね

 

「まぁそう言う事もあるさ、戦力になりそうなら後でまた洗脳でも何でもすれば良い。今はこの試合を見ようじゃないか」

 

いつの間にか横島君も霊力の篭手を装備しているし、さっきまでのつまらない試合と言う状況にはならないと思う

 

「それもそうだな。私の洗脳を解除したのがあの男の実力なのか、横島の特異点としての力なのか……それを見極めるのも悪くは無いか……イレギュラーはあるものなのだからな」

 

横島君に興味を持たせるのは正直危険だと思うが、このままもうどうでも良いと判断され使い魔を起爆されても困る。やれやれ損な役回りをしてるなあと苦笑しながら私は試合会場に視線を向けるのだった……

 

 

 

ビュレト様とガープの使い魔の処理をしていたのですが、焼け石に水と言う結論になり。これ以上魔力と体力を消耗するわけには行かないと1度休憩する事にし、試合を見ようと階段を上がってきた私が見たのは予想外の光景だった

 

「なろっ!!これでも喰らえッ!!」

 

「おっ!面白い攻撃だなッ!!母母母ッ!!どんどん来いやぁッ!!!」

 

ガープに洗脳されていた筈の伊達雪之丞の目に光が戻り、楽しそうに笑いながら横島と試合をしていたのだが、その横島の戦い方が異常だった

 

(あれは魔装術……いえ、違う……あれは……一体)

 

横島の右手から肩までを覆っている霊力の篭手。ぱっと見た時は魔装術と思ったが、魔装術ではない……あれは純粋に霊力を固形化して武器兼防具として使っているとでも言うのでしょうか

 

「はは、面白いな。あいつ本当に!どうやったらあんな動きが出来るんだ」

 

背中から霊力を放出して滑る様に移動している。私達から見ればスピードはそんなにあるわけではないですが、人間同士と考えるとあの機動力は中々に厄介でしょう

 

「必殺思いつきッ!サイキックチャクラムッ!!!」

 

篭手から霊力の糸で繋がれた8角形の板が飛び出す、それは試合会場の床を切り裂きながら伊達に迫る

 

「おおおっ!?っこの野郎ッ!危ねえ攻撃してくれるじゃっ!?」

 

避けた伊達の背後から糸に引かれて戻ってきた霊力の板が迫る。咄嗟に伊達がしゃがんでそれを回避し

 

「うおおおっ!!あぶねーっ!?!?」

 

横島も試合会場に寝転がりその板を回避する。コントロールが途切れたのか結界に突き刺さり爆発する

 

「……思いつきでやるもんじゃねえな。危なすぎる」

 

「おいてめぇ、俺を殺す気か!?」

 

アレは確実に人間に命中していたら切り裂いた上で爆発し、確実に殺すだけの破壊力を秘めていただろう

 

「いや、思いつきでやったから適当だった。悪い、あんなに破壊力があるとは……」

 

「ちっ、仕方ねえな。必殺技ってのはトライ&エラーだからな」

 

……これ試合って言っていい物なのでしょうか?どっちかと言うと訓練しているように見えなくも無いのですが……

 

「だがまぁ、別にいいだろう」

 

「っぎゃーっ!!てめえ卑怯だぞ!?」

 

寝転がって自分の攻撃を回避した、それ自体はいいのですが、立ち上がるのに時間が掛かったのかその間に間合いを詰められた横島がそう叫ぶ

 

「かっかっか!本当あいつを見ていると飽きないな」

 

見ていると面白いと思うが、明らかに距離を詰められて横島の方が不利だと……

 

「ああん?お前、本気でそれを言ってるのか?」

 

ビュレト様が呆れたといわんばかりの態度で尋ねてくる。前の試合でも見ましたが、伊達は近接戦闘が得意だと見ました。横島は爆発力こそある物の、そんなに近接戦闘が得意だとは思えないと呟くと

 

「考えが甘いな。あいつ横島の策に完全に引っかかってるぞ」

 

えっ!?と尋ね返すとビュレト様はいいか?と前置きしてから

 

「まずあの霊力に流れに乗って移動する。あれは確かに面白いアイデアだし、機動力もそこそこあるだろうよ。でもな?あいつ足めちゃくちゃ早いんだぞ?わざわざ霊力を無駄にする移動するか?」

 

そ、そう言われれば……確かに、スピードがそこまであるわけではないのに、霊力をずっと消耗し続ける移動はどう考えても、霊力の無駄遣いだ

 

「俺やお前が見ていない間にあいつ多分足を負傷してるな、足をくじいたか、骨折したか……まぁどっちにしろ思うように移動できないんだろうよ。だから霊力を無駄に消耗するとわかっていても霊力を使う移動し、距離を取れば危険だと思わせる攻撃をした。その結果が……あれだ」

 

倒れないように肩幅に足を開いて立ち。真っ向から向かってくる伊達を迎え撃つ格好を取っている横島を見たビュレト様は笑いながら

 

「味方にすると頼もしいが、敵に回すと1番厄介なタイプだよ。あいつは」

 

お互いの拳がぶつかった凄まじい衝撃音の中。心底楽しそうにそう笑うのだった……

 

 

 

雪之丞と横島の戦いを見てあたしは安堵の溜息を吐いていた。心配事だったことが1つ消えた……これで残っている問題は1つになったのだから、安堵の溜息だって吐きたくもなるという物だ

 

(やっぱり横島には何かあるのかもしれないわね)

 

ガープが特異点と呼び、調べろとあたしに指示を出していた。その特異点が何かと言う話は聞いたが、正直眉唾物だと思っていたが陰念を元に戻し、雪之丞の洗脳を解除した事を考えると何か特別な力があるように思える

 

「掛かったな!マヌケがぁッ!!!」

 

横島の背中の2枚目の翼が砕けると同時に、背中から凄まじい霊力が噴出し、横島がその場で回転を始める。雪之丞は間合いに飛び込もうとしていたのでもう避けるとか出来るタイミングではないと悟ったのか

 

「このままぶち抜いてやらぁッ!!」

 

霊力を拳に集中し横島へと突進する。まぁ防御も無理、避けるのも無理となったら攻撃力で押し通すしかない、だから雪之丞の判断は間違っていなかった……予想外だったのは、横島の攻撃方法のほうだった……

 

(なにあれ!?)

 

霊力の勢いを生かして回転するのは判る。だがその回転が強くなるにつれて、緑色だった霊力の色が紅く染まって行く……そしてそれだけならただの脅しと言えたのだが、回転が強まるに連れて霊力が炎へと変換されていた

 

「燃えろぉッ!!!」

 

霊力を炎へと変換し、その爆発的な回転を伴って放たれたアッパーが雪之丞に向かって繰り出される

 

「くそっ!」

 

雪之丞がそう叫んだのが聞こえた。飛んで火に入る夏の虫じゃないけれど、もう避ける事も防御も出来ない、そして恐らく破壊力も横島の方が上。完全に誘い込まれた雪之丞はそのまま横島に突っ込むことしか出来ず

 

「がっはあああッ!?!?」

 

天井にまで届かんばかりの炎の柱に呑まれながら殴り飛ばされ、結界に背中からぶつかって崩れ落ちる姿を見て、あたしは雪之丞が死んだのではないか?と不安を抱かずにはいられないのだった……

 

 

 

「あちちちちッ!!!んじゃこりゃああ!?」

 

篭手の手の甲の辺りから吹き出ている炎を慌てて手を振って消火する。良く見ると手の甲で光っていた3つの光の内2つが消えてるな……背中の翼も消えてるし、手の甲の光と背中の翼には何かの関係性があるのかもしれない……だが今はそれ所ではない。熱い、めちゃくちゃ熱い!!そして痛い!その熱さを伴う痛みに咄嗟に右手を何度も振るう

 

【落ち着け!横島!!!敵がいるのだぞ!警戒を怠るなッ!】

 

心眼の怒声にも似た警告にハッとなり構えを取り直す……伊達を見てみるが動く気配は無い

 

(なぁ?あれもう動けないんじゃないのか?)

 

魔装術だっけ?それを身に纏っているからどれくらいダメージが通っているのか判らないが、魔装術が煤けている様に見えるし、完全に動く気配が無い。今の一撃で完全にKOしたんじゃないか?と思う。

 

(どうなってるんだよ。これ……)

 

最初に使ったときもそうだったし、使うたびに成長?と言うか変化しているこの篭手。ついには炎まで噴出した……これ本当にどうなっているんだ?ぱっと見ただけでは霊能力を使っているようにも見えないし……これ本当になんなんだろうか?

 

【馬鹿者!目を逸らすなッ!!!】

 

「う、うおおおおおおおおッ!!!」

 

心眼の怒声と伊達の声が重なる。慌てて前を見るがもう遅かった。目の前に迫る堅く握り締められた拳……俺に出来ることと言えば歯を食いしばることしか出来なくて

 

「がっはあッ!?」

 

顎目掛けてアッパーを叩き込まれ、その衝撃と威力で伊達に大きく殴り飛ばされる

 

【意識を失うな!横島!しっかりと意識を保てッ!!】

 

「横島ッ!!」

 

心眼の声と蛍の声が重なって聞こえる。その声のおかげか意識を失う事は無く、殴り飛ばされた衝撃でリングアウトしかけていたのを右拳を試合会場の床に叩きつけることでリングアウトを回避する。や、やべえ……目の前がチカチカする……それにサイキックソーサーを踏んで跳ぶと言う荒業のせいで痛めた右足がずきずきと痛む。これは駄目だな、もう走ったりするのは出来そうもない……でも何とか立つことは出来そうだ。俺の意識がはっきりしているのか確認に来た審判を左手で押しのけて痛む右足に顔を歪めながらも立ち上がる

 

「はぁ……はぁ……まだ倒れないか、お前も相当タフだな。ええ?横島ッ!!」

 

お前もなと言いたかったが、アッパーのせいで口の中が切れているのか喋りにくかったので、拳を向けることでまだ戦えるぞと言う意思表示をする、だが正直言ってかなり足に来ているし、ダメージも大きい、それに……

 

【あまり右拳は使うな、消耗している霊力を更に消耗することになるぞ】

 

この右拳の破壊力は流石だが、その分霊力の消耗が激しいのか、どんどん身体が重くなって行っているような気がする。ようやく落ち着いてきたので

 

「お前だって相当タフじゃねえか、いい加減倒れたらどうだ?」

 

魔装術は完全に溶解しているのか胴着が見えているし、口調ほど余裕という感じではない伊達にそう言うと、伊達は冗談じゃねえと言って

 

「お前は強い……ああ、俺が求めていた好敵手そのものだ」

 

いや、そんなものに認定されても困るんだが……俺としては美人の嫁さんを貰って平穏無事に暮らしたいだけなのだから

 

「それにこんなに楽しい勝負は初めてだ!!身体が重い、目の前が歪む!それなのにもっと戦いたいッ!!!絶対に負けないと言う闘志が湧いてくるッ!!」

 

……こ、こいつ危ないやつなんじゃないのか……若干ドン引きしかけるが、負けたくないと言うところだけは俺も同じ意見だ。絶対に負けたくないと俺も思っている

 

「さぁ行くぜッ!!続きをしようぜ横島ぁッ!!!」

 

霊波砲ではなく拳を構えて突進してくる伊達。俺が足を引きずっているのは見ていただろうに、遠距離ではなく俺の攻撃も届く範囲に突っ込んで来たのは本当に対等な立場で勝敗を付けたいのだと思った

 

「しゃあッ!来いッ!」

 

ならこっちも正面からぶつかるしかないッ!そんなの俺のキャラらしくないけど……真っ向から戦って勝ちたいという気持ちもある。俺は右拳を握り締め、一歩大きく前に踏み出した……

 

 

 

試合会場のほぼ中心で横島と伊達が殴り合っている。それはGSを決めるGS試験の戦いとは思えないほどに血なまぐさく、泥臭い物だった……それこそGS試験ではなく、ボクシングの試合とでも言うべき激しい肉弾戦を繰り返していた

 

「おおおらああッ!!!」

 

「がっ!?おおおおおッ!!!」

 

「ぐふっ!まだまだぁッ!!!」

 

殴られたら殴り返す、それを永遠と繰り返している。足幅を肩幅にしているのは意地でも倒れないように1番踏ん張りが効く立ち方だからだろう

 

「2人ともとんでもなく我慢強いな」

 

唐巣神父が感心したように呟く、かれこれ10分近く殴り合っているのにまだ2人とも霊力がそこを尽かないのか、それとも意地で霊力を維持しているのか判らないが物理を無効化する結界の中で殴り合いを続けることが出来るという事はまだ霊力を使っているという証明でもある

 

【うう……見てられないです】

 

おキヌさんが顔を隠しながらそう呟く、最初こそ横島を応援していたが、顔から鼻血や、切れたのか血を流しながらも殴り合いを続けて姿は痛々しく見える

 

「ここまで来るともうお互いに完全に意地ですね。気力が先に尽きたほうの負けですね」

 

小竜姫様がそう解説してくれるけど、私の見た所では先に気力が尽きると言う事は無さそうだ。相当なダメージと疲労が重なっているはずなのに、まだ横島も伊達も目の光が弱まっていない。絶対にお前を倒す、絶対にお前より先に倒れないといわんばかりだ

 

「「がっ!?」」

 

お互いに拳を繰り出すタイミングが同じだったのか、2人ともその場でよろめき倒れかけるが、2人ともはじかれたように身体を起し

 

「「まだまだぁッ!!!」」

 

再び同じタイミングで拳を繰り出す、横島の拳が伊達の右頬にめり込み、伊達の拳が横島の左頬にめり込み2人の顔が弾かれたように後ろにねじれる。その余りの勢いに私も思わず目を逸らしてしまった

 

「ぜー……ぜーッ!!てめえ……いい加減に倒れたらどうだ?」

 

「はっ……それはこっちの台詞だッ!!」

 

相当ダメージが積み重なっているだろうにまだ横島も伊達も倒れる気配がまるで無い

 

「……もう体力も霊力も限界を通り越しているだろうに……ここまで来たんだ。負けるな、横島」

 

「みーむー!!みみむーッ!!!」

 

「うきゅー!!うきゅうきゅーッ!!」

 

「ココーン!コーンッ!!!」

 

シズクやタマモ達の応援が聞こえているのかは判らないが、ふらついた足でまた前に出る

 

「とんでもないわね……お互いにお互いを高めてるとでも言うのかしら……試合前の横島君じゃここまで出来なかったでしょうに……」

 

美神さんが感心したように呟く。確かに試合開始前の横島ではここまでやる事は出来なかっただろう、美神さんの言うとおり戦いの中でお互いにお互いを高めているのかもしれない……伊達の言っていた通り横島と伊達は好敵手同士なのかもしれない……でも私からすれば勝って欲しいとも思っているが、もう倒れて欲しいとも思っている

 

『凄まじい乱打戦です!GS試験と言うよりかはボクシングの試合とでも言うべき、火の出るような乱打戦!!見てください、武闘派のGS達のこの盛り上がりようッ!!既に格闘技か何かの試合を見ているかのような熱気ですッ!!』

 

ドンドンっと足踏みをしている筋肉質なGS達から目を逸らしていたのに、今の解説者の声でそっちの方を思わず見てしまった。見るだけで暑苦しい……GSなのになんであんなに筋肉をつけているのだろうか……

 

『余り盛り上げるのも問題じゃ、この熱気のせいで倒れるに倒れることが出来ない。こういう雰囲気は良くないぞ、凄まじいダメージを受けているのに我慢し続けるのは良くないぞ、それこそ脳か何かに悪影響を与えかねない』

 

私の不安を全て解説してくれたドクターカオス。お互いに全力で振り切っているので、脳か何かに影響が出ないか?それが心配になってしまう、それこそGSなのに、パンチドランカーとかになっても困る。だから負けたくないって言う意地をはる横島の気持ちも判る。でも……お願いだから無理をしないで倒れて欲しい、ここまで頑張ったのだから……もう倒れても良い……これ以上無理をして何か後遺症が残るような怪我をしないで欲しい

 

「「うおおおおおッ!!!」」

 

思わず目を閉じたくなるような凄まじい打撃音が響き渡る。今度のダメージが意地や我慢できる物ではなかったのか弾かれたようにお互いに弾き飛ばされる。お互いによろめきながらもまだ倒れることは無く、お互いに傷だらけの顔の中まだ瞳に強い光を宿した横島と伊達は体力と霊力の限界を感じたのか、お互いに最後の攻撃を繰り出そうとしていた

 

「はーっ……はーっ……こいつで決めて……やるッ!!」

 

横島が霊力の篭手を装着した右手を突き出すと手の甲から赤・黄色・水色の光が放たれ、背中の翼が砕け散る。まるで工事現場にいるかのような轟音が響き突き出した右手に凄まじいまでの霊力が収束していく……あまりに収束されすぎて横島の周りに目で確認できるほどの霊力が見える……それはとても横島だけの霊力とは思えないほどの強大な霊力だった……

 

「は……すげえな……おいっ……っても悪いな。横島、俺にはそんな切り札も無くてよ」

 

伊達はそう言うと右手以外の魔装術を解除し、右手首を左手で掴み、好戦的な笑みを浮かべながら

 

「俺の全霊力をこの一撃に込めるだけだっ!!!」

 

伊達の方にも凄まじい霊力が収束していく……見ている全員が理解した。次の激突がこの長い試合を決める一撃になると……さっきまでの異常な盛り上がりを見せていた試験会場も水を打ったかのように静まり返り……横島と伊達が霊力を収束する音だけが試合会場に響き渡るのだった……

 

 

 

横島が突き出した右手に凄まじい霊力が集まっていくのを見て、今のボロボロの魔装術では耐えることが出来ないと判断して右手だけ残して魔装術を消した。そのおかげか右手だけに霊力を集中させることが出来た

 

(ははは……楽しいぜ。横島ぁッ!!!)

 

喋る体力も温存したい、意地でここまで立って居るが既に体力も霊力もとっくの昔に底を尽いていた……それなのに魔装術を維持できていたのは一重に俺の意地だと思う……それか何かの間違いで俺と契約している魔族……つまりはメドーサだが、それが力を貸していてくれたのかもしれない。だがこれ以上魔装術を展開しているのも限界なら拳だけ残して後は捨てた方がいい……周りの声も聞こえない。目の前にいる横島だけしか見えない……これが極限の集中ってやつか?と思いながら右拳にひたすら霊力を溜め込む……永遠とも思える数秒の時間……

 

(楽しかったぜ……横島)

 

戦うことは大好きだ。その中でもこんなに楽しいと思った戦いは今まで無かったかもしれない、でも楽しい時間というのはいつまでも続くものじゃない。終わりが来るものだ。そしてその終わりを俺の勝利で終わらせる、無論横島もそう思っているのか、強い光を宿した目で俺を睨み付けている。その気迫に押し返されないように俺も睨み返していると

 

カツン……

 

俺と横島の霊力のぶつかり合いで天井にガタが来たのか、天井の一部が崩れてちょうど俺と横島の前に落ちる。それは奇しくも俺と横島の霊力が最大になった瞬間と同じで……

 

「横島ぁぁあああああっ!!!」

 

「伊達ぇぇえええええっ!!!!」

 

お互いの名を叫びながら走り出し、俺と横島の拳がぶつかり、収束していた霊力同士の衝突により凄まじい閃光が試合会場を埋め尽くすのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その12へ続く

 

 




次回で雪之丞と横島の戦いの決着を書いて、ラストの話に向けて書いていこうと思います。当初の予定通り、150話で第一部完結となりそうです、それでは第一部完結まで後少し、最後までどうかお付き合いください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その12

どうも混沌の魔法使いです。今回で横島と雪之丞戦は決着となります、今回は少し短めになるかもしれないですが、今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その12

 

「「おおおおおおおおっ!!!!!!」」

 

俺と伊達の声が重なって聞こえる。この一撃で極めると決めて放った一撃は伊達を捉える事はなく、そして伊達の一撃もまた俺を捉える事は無かった……お互いの拳から放たれた霊力がぶつかり合い、俺と伊達は試合会場の中心で完全に停止していた……

 

『こ、これは凄い!お互いの霊力が完全に拮抗していますッ!!!』

 

馬鹿解説者の声がどこか遠くに聞こえる。色んな音が聞こえるのだが、その全てが何処か遠くに聞こえる。それは俺を激励してくれている心眼の声も同じで

 

【気を緩めるな!少しでも気を緩めれば一気に呑み込まれるぞッ!!】

 

心眼の警告に心の中で分かってると返事を返す。俺と伊達の右拳がぶつかり、そこを起点にし俺と伊達の全霊力が放出されている。もしもこのまま押し切られれば、俺の放出した霊力を伊達の霊力が巻き込みそのまま俺に襲ってくるだろう。そしてそれは逆だったとしても同じ……だから一瞬も気を緩めることは出来ない……だけど俺は心の何処かで感じ取っていた

 

(俺の……負けだ)

 

陰念との戦いでベルトを使った、すでに霊力は限界の一歩手前だった……身体の痛みも酷かったし、それにサイキックソーサージャンプのせいで痛めた右足に力が入らない。少しずつ……少しずつだが後ろに押し込まれているのが分かる

 

「は、ははははははッ!!!楽しかった。楽しかったぜッ!!!横島ッ!!!」

 

伊達も自分が押し込んでいるのを感じ取ったのか、楽しそうに笑いながら話しかけてくる……

 

(くっそ……俺には返事する余裕もねえよッ!!!)

 

心の中でそう怒鳴り返す……凄まじい衝撃が右手を通して伝わってくる。これもし押し返されたら死ぬんじゃないか?と言う恐怖が胸をよぎる……まだ死にたくない……そう思った……でもそれ以上に負けたくないと思った

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

もう振り絞る体力なんて雀の涙も残っていない、だから気力を振り絞るしかないッ!!!霧散しかけていた霊力が再び拳に戻ってくる。再び伊達押し返えし始めるが……

 

「うおっ!はっ!!まだだ!!まだ力が出せるかッ!!!」

 

だが俺が押し返す力以上に強い力で押し返してくる伊達に俺はもう気持ちでも負けそうになっていた……

 

(も、もう……駄目だ……)

 

足が滑る……目の前が霞む……硬く握り締めた拳が拳が解けて行く……押し返そう、押し返そうと思っているのに身体が思うように動かない……目の前に迫る霊力の塊に思わず目を閉じようとした瞬間

 

「横島ぁッ!!!!」

 

何もかも遠くに聞こえてきたのに、その蛍の声はやけにはっきりと聞こえた……諦め掛けていた心に再び灯が灯る……抜けかけていた力がまた満ちてくる。蛍に惨めな姿を見せたくないと、好きな子の前で格好悪い姿は見せたくない……

 

「負けないでッ!!!!!」

 

その涙交じりの声……ここまで俺を心配してくれて、そして応援してくれる蛍の前で負けたくない、勝ちたい、勝って俺は少しでも成長したのだと、いつまでも蛍にも美神さんにもシズクにも心配を掛けたくない。俺は……少しだけど強くなったのだと、胸を張って言える様になりたい

 

「おおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」

 

痛む右足……いや、痛くないッ!!こんなの全然痛くないッ!!!歯を食いしばり、霧散していく霊力を無理やり繋ぎ止める。勝つ、絶対に勝つッ!!そう強く決意し、右足で思いっきり地面を踏みしめる

 

「横島、お前……目がッ!?」

 

目?目が何だ!?伊達の目が驚愕に見開くのが分かる。霊力のぶつかりのせいで目でも怪我したか?いや。例えそうだとして問題ない、今この勝負に勝てるのならば、目を失ったとしても構わない。勝つ勝つ勝つ勝つッ!!!!絶対に何をしても勝つッ!!!!そう思った瞬間。霊力が再び戻った……これで勝てる!俺は再び霊力すべてを右拳に集める

 

【横島……待て!そちら側に踏み込むなッ!!】

 

「お、おあああああああああああッ!!!!!!」

 

「う、おおおおおおおおッ!?!?」

 

心眼の焦った声が聞こえたような気がしたが、勝てるそう思った時。もうその声は俺にとって何の意味も無い言葉になって……俺は全力で伊達目掛けて右拳を振りぬいたのだった……

 

 

 

お、俺は……生きてるのか……まるで上半身が消し飛んだかと思う衝撃だった……震える手で胸に手を当ててみると思わず乾いた声で笑ってしまった……

 

(すげえ……胸に拳がくっきりと残ってやがる)

 

そこだけへこんでいるかのように拳の跡が残っていて思わず笑ってしまう。痛すぎるのか、それともありえないものを見たせいか……それとも両方か……死にそうなくらい痛いのに笑ってしまう。これだけのダメージを受けているのに、こうして意識が残っているのが……心臓が破裂していないのが奇跡のように思える

 

『1……2……4……』

 

これ、カウントか……今までの試合では場外か、完全に意識を失っているのでカウントがあるような試合は無かったが、どうも俺の意識が残っているのを見てカウントダウンを始めたようだ……

 

(どうだ?まだ動けるか……)

 

手……右手は駄目だな。感覚が無い、それに指が折れているのか変な方向を向いてる。ただ、左手は……大丈夫だ、拳は握れる

 

足……こっちも大丈夫そうだな。動かせる……走ったり、跳んだりするのは流石に無理そうだが……立って構えをとるくらいなら……

 

胸……こっちはかなり深刻だな。さっきから呼吸がしづらい……肋骨が折れているかもしれないが、その痛みのおかげで意識がはっきりしてるから何とも言えないが……

 

結論……まだ戦える。いや正直立つことがやっとだと思うが……立てば続きが出来る……あの楽しい勝負の続きが出来る

 

「がっ……まだまだあ……」

 

身体を起こすと凄まじい激痛が全身を走った。正直よく意識を保つことが出来ていたなと思うと同時に、俺をこんなに強い身体で生んでくれたママに対する感謝が胸をよぎる

 

「う、うそだろ……」

 

右手を押さえて後ずさる横島が見える。どうも横島も相当ダメージを受けているのか、立とうとしている俺を見て明らかに顔が引きつっているのが見える

 

(さっきのは……気のせいか……)

 

さっきは一瞬横島の目が赤く光っているように見えたが、たぶんあれだ。霊力のせいでそう見えただけだろ……

 

「ぐっ……ぐぐうっ……」

 

何とかカウントが10になる前に立とうとするが、身体に力が入らない……それでも意地で立ち上がろうとした時

 

(俺とこいつの違いは何だ……)

 

そんな疑問が頭をよぎる。最初は俺の方が勝っていた。だが今はこうして俺は膝を着いてる……戦闘方法も、霊力の扱いも俺の方が上だった……魔装術もあり、負ける要素なんてこれっぽっちも無かった筈……それなのに俺は今こうして負けかけている……その理由は何だ?それを必死に考えながら立ち上がる

 

『8……伊達選手意識はありますか?』

 

審判の男が近寄ってくるのを左手で押しのける。くそっ……立ったは良いが動けそうにねえ、拳を握ることすら出来ない……震える手で何とか構えを取ろうとするが、手首に重りがついたように腕が上がらない……それでも俺は戦えるという意思表示をする為に横島の方を見て理解した……理解してしまった

 

(あ。ああ……そうか……)

 

俺と横島の違い。それはとても大きい物で、俺と横島の力の差を埋めるほどに大きな物だった……

 

「そりゃぁ……勝てないよなあ……」

 

俺はどこまで行っても自分の為に戦っていた。若くして死んでしまったママに恥じない、強く逞しい男になると……それだけを考えてここまで来た、だけど横島は……違った、自分を応援してくれる人、心配してくれる人……そう言う人間の為に強くなろうとしたんだろうな……それは拳の重さも違う訳だ。自分の為だけじゃなくて、自分じゃない誰かの為に……それはきっとあの時横島の名前を叫んだ、黒髪の女なんだろうな……あいつの為に強くなろうとしていたんだろうな……そう思えば俺が負けるのは道理だったか……負けた理由が判って清々しい気持ちになった俺は痛む右拳に顔を顰めながら拳を作り

 

「次は……俺が勝つ……楽しかったぜ……」

 

俺はそう呟くとゆっくりと倒れて行く……意識を失う前に勝者横島忠夫選手と言う審判の言葉を聞くことが出来た。わずかな悔しさを感じつつ、次は絶対に俺が勝つと決意を新たにし、俺の意識は闇の中に沈んでいくのだった……

 

 

 

横島君が勝った……それは良いんだけど、自分の勝利を聞いて緊張の糸が切れたのか、その場で倒れた横島君は伊達と一緒に今日2回目の医務室送りになった……説教しようと思っていたんだけど、完全にそのタイミングを逃してしまった

 

「……美神さん。横島勝ちました……勝ちましたよ」

 

眠っている横島君のベッドの所に座って震える声で言う蛍ちゃんの肩に手を置く、あの試合はどう見てもGSの戦い方じゃなかった。どう見ても格闘技の試合か何かのようにしか見えなかった。見ている私も思わず目を逸らしてしまうほどの試合だった……蛍ちゃんが心配してしまうのも無理は無いと思う。シズクも若干顔が引き攣っていたし、蛍ちゃんには少し厳しいものだったかもしれない

 

「ふーとりあえずの所ですが、重症ではないでしょうね。ただし霊力の消耗が凄まじいです、私からすれば信じられないですよ。日に2度も霊力枯渇に陥っても生きてるなんて……よほど身体も霊体も強いんでしょうね。まぁしばらくは絶対安静にしてください。今後何かの悪影響が出ても困るので」

 

伊達の方が重症と言うことで冥子では無く、神代家のお抱えの医者が横島君を診ていた。カルテを書き終え、荷物を片付けている医者にありがとうございましたと声を掛ける。医者が医務室を出た所で

 

「まだ駄目なの?」

 

本来医者を呼ぶ必要は無かった。それなのに医者を呼んだ理由、それはシズクが治療出来なかったからだ。その理由として小竜姫様と天竜姫様の竜気が横島君の中で増大しているのが原因なのか、シズクの治療を横島君の身体が拒否したのだ

 

「……ああ。判らないが、弾かれる」

 

不機嫌そう……実際不機嫌なんだと思う。横島君の治療が出来なかったことを気にしているのは目に見えている

 

(過保護なお母さんとかそういうレベルじゃないわね……これは)

 

横島君がロリおかんと呼んでいるが、今の表情を見るとどう見てもそれは母親やそう言う物ではない、明らかに女としての顔をしている

 

(なんとまあ……本当に蛍ちゃんの恋路は前途多難ね)

 

私から見ればお互い両思いなのは判っている。どっちか告白すれば、それで付き合うって結果になりそうだけど……今はそんな気配も無い、そのせいでかどんどん横島君に惹かれる人間や妖怪が増えている。とは言え、そう言う恋愛に口を挟むのは良くない、いつか蛍ちゃんが踏ん切りを着くのを待つしかなさそうね……しかしそれにしても神様まで魅了するって本当に横島君の人外に好かれやすい体質で凄いわねと思わず感心してしまった

 

【横島さん。大丈夫ですかね】

 

寝返りも打たないで眠っている横島君を心配そうに見つめているおキヌちゃん。私も確かに心配だけど、正直出来ることが何も無い。横島君が自然に目を覚ますのを待つしかないという状況だ

 

「美神さん、蛍ちゃん、それにシズク。悪いけど……こっちの話し合いに参加してくれないかしら?」

 

医務室の扉がノックされてから琉璃が顔を見せてそうお願いしてくる。確かに様子見がすんだら話し合いに参加するとは言ったけど、今のこの状況の横島君を1人にするのは正直不安だ。蛍ちゃんもシズクも渋い表情をしているのが判る

 

「一応精霊石とか、結界とか色々持って来ましたし、小竜姫様と聖奈さんが結界を用意してくれるらしいので、お願いします」

 

うーん……そこまでしてくれるなら、横島君1人にしても大丈夫かな……モグラちゃんとかチビとタマモは当然残していくし……

 

「判ったわ。でも途中で抜けるかもしれないからね」

 

あれだけの力を見せたのだから、横島君が攫われる可能性も出てくる。だから途中で抜けるかもしれないからねと琉璃に釘を刺し

 

「じゃ、チビ、モグラちゃん、タマモ。少しの間お願いね?おキヌちゃんは何かあったら直ぐに呼びに来て」

 

見た目は可愛い小動物だけど、その実並みのGSよりもはるかに強いチビ達に横島君を守るようにお願いすると

 

「みーむう!」

 

「うーきゅー!」

 

シュッシュとチビとモグラちゃんが短い手を動かす。そのパンチが当たるかどうかは判らないけど、やる気だけは確認できた

 

「ココーンッ!!」

 

【判りました!なにか危険を感じたら直ぐに行きます!】

 

狐火を展開するタマモ。うん、こっちも大丈夫そうね。ソロモンが動けば不味いだろうけど、使い魔くらいなら簡単に撃破してくれそうだ。おキヌちゃんも気合が入ってるみたいだし、この様子なら大丈夫そうね。私はそう判断し、渋る蛍ちゃんとシズクを説得し私達は医務室を後にするのだった……

 

美神達が医務室を出てから数分後。医務室は大変なことになっていた……しかしそれは美神にとっても予想外の襲撃だった筈だ。何故なら精霊石と結界札で封印されていた濃紺の眼魂が急に暴れだしたのだから

 

【ギャハハハッ!!!】

 

「みむーッ!!!」

 

大量の結界札と精霊石に封印されていた濃紺の眼魂が動き出し、横島の身体に入り込もうとしていた。チビとタマモが電撃と火炎で応戦しているが、二匹の速度よりも遥かに速く攻撃が当たっていない。

 

【う、ううーん……】

 

美神達を呼びに行くはずのおキヌは眼魂が動き出すと同時に体当たりで壁に叩きつけられ目を回している

 

「うきゅーッ!!!」

 

巨大化したモグラちゃんの爪も軽々と回避し嘲笑うかのようにモグラちゃん達の頭上を飛ぶ眼魂。

 

「みむぎゃーッ!!!」

 

ついにチビが怒ったのか最大火力で電撃を放つ、しかしそれを見た眼魂はその場で回転する。するとチビの放った電撃はその回転で受け流され、Uターンしチビ達へ戻る

 

「みむうっ!?」

 

「コンッ!?」

 

「うきゅうううッ!?」

 

自分の放った電撃が跳ね返され、チビ達へと直撃しそのあまりの威力にチビ達がその場に倒れる

 

【カッハハハハハッ!!】

 

邪魔者がいなくなったと確信し、眼魂が再び横島へと迫ったその時

 

「肉体の無い半端物の分際で何を調子に乗っているのです?」

 

美神でも蛍でもない第3者の声が医務室に響き、横島へと迫っていた眼魂は結界の中へ閉じ込められ、乾いた音を立てて医務室の床へ転がったのだった……

 

 

 

目の前で転がっている濃い青色の球体と、その近くで倒れているグレムリンを見て私は思わず頭を抱えた

 

(ついやってしまいましたわ……)

 

横島が気になった訳ではない、偶然医務室の前を通りかかった時。医務室の中から凄まじい電撃音に異常な魔力を感じて医務室に入った。そして謎の球体が横島の中に入ろうとしているのを見てとっさに結界の中に封印したのだ。

 

(とんでもない魔力ですわね)

 

完全に魔力をシャットアウトしたから動きを停止しているが、普通の精霊石や結界札では動きを封じるのは不可能だっただろう……陰念とか言う魔装術に取り込まれた奴から飛び出した悪魔を封印した球体。それがきっとこれなのだろう

 

(身体を持たず、宿主を求める悪魔……と言うわけでは無さそうですわね)

 

仮にそうだとしたら、そんな低級悪魔がこれだけの魔力をもっているわけが無いですし……もしかするとガープが陰念に何か仕掛けを施していて、それが原因で陰念が契約した魔族に何か変化をもたらした可能性がありますわね……

 

「っと、いけませんわ」

 

思わず考え込んでいたが、今この状況を見られたら私が犯人にされてしまう。その前に医務室を出ようと思った……のですが

 

「み……むうう……」

 

「う……うきゅう……」

 

「グ。グルウ……」

 

意識は無いだろうにまだ身体を起こそうとしているグレムリンと九尾……そして土竜の姿をしている竜を見て……そして彼らが守ろうとしている横島を見て……

 

「はぁ……私らしくないですわね」

 

最近私の口癖になりつつある言葉を呟き、倒れているグレムリンを摘み上げて椅子に座る

 

「……」

 

呪文を唱えグレムリン達の治療を始める。電気には抵抗はあるようですが、かなりのダメージを受けている。それほど凄まじい攻撃力をあの球体が持っていたということなのでしょうか……そんなことを考えながら治療をしていると

 

「……ん?んん?……あれえ?神宮寺さん?」

 

その声に思わず背筋を伸ばす、横島が起きる前に治療を終えて医務室を出ようと思っていたのに……

 

「御機嫌よう。横島忠夫。またずいぶんと無茶をしたようですわね」

 

とりあえず治療を終えたグレムリン達を横島の隣に横にする。さっきまでの痛々しい傷跡は無いので、まさか怪我をしていたなんて思わないだろう

 

「どうした……あいたたたた!!!痛い!?身体中がバラバラになりそうなくらい痛いぃぃッ!!」

 

身体を起こそうとして痛い痛いと騒ぐ横島にもう1度ため息を吐いてから

 

「大人しくしなさい、治療して差し上げますから」

 

見た所霊体痛と重度の筋肉痛……応急処置程度ですけどねと横島に言うと、横島は見ているほうが力が抜けそうな顔で笑いながら

 

「やっぱり神宮寺さんは優しいっすね」

 

その言葉を聞いて、何故か心臓の音がうるさく感じたのだった……

 

 

 

シズクの治療とは違う感じだな……神宮寺さんが触れている額から、身体が温かくなっていくのが判る。治療の邪魔だという事で、心眼は畳んでベッド横の机の上に置いてある、シズクの治療はその間に眠くなってしまうけど、なんか神宮寺さんの治療を受けていると目が覚めるような気がする

 

「はい、これで終わりですわ。ま、応急処置程度ですから、後で貴方の家にいる水神にでも様子を見て貰いなさいな」

 

応急処置程度と言うけど、全然身体が痛くない。神宮寺さんはやっぱり凄い魔法使いなんだなあっと思う。神宮寺さんは神宮寺さんでなにかぶつぶつと呟いている

 

『どうして体内に魔力が……そのせいで神通力を弾いている……今は整えましたが、水神では治療出来ない筈ですわ』

 

魔力?神通力?シズクが治療できない?……俺にはちんぷんかんぷんだったが、神宮寺さんが治療してくれたことには間違いないので御礼を言うことにした

 

「ありがとうございます。もう凄い楽ですよ!やっぱり神宮寺さんは凄い魔法使いですね」

 

俺がそう笑うと神宮寺さんの表情が曇った。俺何か変な事を言ったかな?と首を傾げると神宮寺さんは

 

「凄い魔法使いですか……ふふ、それは私には相応しくないでしょうね。私はあくまで自分の興味を、自分の力を高めるためだけに魔法を使います。ええ、それはきっと悪い魔法使いっとでも言うべきですわね」

 

自嘲気味に笑う神宮寺さんを見て驚いた、普段自信満々と言う感じの神宮寺さんらしからぬ顔で……

 

「その……俺で良ければ話を聞きますよ?」

 

思わずそう口にしてしまった。すると神宮寺さんの表情が冷たい物に変わる。俺が見たことのないゾッとするような冷たい表情だ

 

「はぁ?何を言っているんですの?どうして私が貴方みたいな落ちこぼれに話をしなければならないんですの?身の程をわきまえたらどうですの?」

 

……まぁそれはそうだろうな、試合ごとに医務室送りになっているような俺なんて本当に落ちこぼれとしか言いようがないだろうな……でも

 

(なんかほっておいたら駄目な気がする)

 

ここで神宮寺さんを行かせてしまったら駄目だと思った。椅子から立ち上がろうとする神宮寺さんの手を掴むと凄まじい顔で睨み付けられ、背筋が凍るような気分になったが、手を振り解かれなかった事に安堵しつつ

 

「誰かに話せば楽になると思います。落ちこぼれで愚図なのは判っています、俺なんか神宮寺さんの足元にも及ばないって事も判ってます。でも俺……神宮寺さんにかなり助けられてるから、ほんの少しでも恩返ししたいと思って」

 

蛍や美神さんは信用するなと言うけど、俺は神宮寺さんが優しい良い人だって判ってる。神宮寺さんがGS業界でなんて言われているかは知ってる。暗殺や破壊専門の危険なGSだって、でももし本当にそんなに怖い人なら、俺の怪我なんて治す訳がない、だから神宮寺さんは本当は優しい良い人だって俺はそう信じてる

 

「……貴方といると調子が本当に狂いますわ」

 

はぁっと俺の方を見て溜息を吐いた神宮寺さんが俺の手を振り払う。やっぱり……俺になんて話をしても意味無いって思ったのかな……そんな不安を感じていると神宮寺さんは椅子に再び腰掛ける。驚いて顔を上げると

 

「私の話を聞いてくれるのでしょう?何をそんなに驚いた顔をしているのです?それともさっきの言葉は嘘なのですか?」

 

いつものように自信満々の表情をして、胸の下で腕を組んで胸を強調する格好をしている神宮寺さん。思わずそっちのほうに目が行きそうになるが、それを必死で押さえこんで

 

「うっす、俺で良ければ……どうせ俺じゃなんにも解決になるとは思えないですけど」

 

頭は悪いし、学も金も無い。そんな俺に話をしてもきっと神宮寺さんの悩みは解決するとは思えない。でも今まで受けた恩を少しでも返したいと思ったから話を聞くと言ったんだ。その言葉に嘘は無い

 

「まぁ壁にでも話をしてると思いますわ。だからこれは私の独り言です、いちいち相槌を打つ必要は無いですわ」

 

そう言って話し始めた神宮寺さんだけど、神宮寺さんの話は俺が予想していた物よりも遥かに重く、そして俺では解決など出来るはずもない問題だった……

 

GSの中の異端児といわれる神宮寺家の話……

 

その血の中に眠る魔族の血の話……

 

そして魔術を覚えすぎて、自分の感情や記憶が砕けていて、いつか何も思い出せなくなる日が来る恐怖……

 

「人でありながら人ではない、それが神宮寺家。こんな人間だか、化け物だか判らない存在の手をとってくれる人間なんていませんわ」

 

吐き捨てるように言う神宮寺さん、なんで私こんな話をしてるんでしょうねと呟き立ち上がろうとする神宮寺さんの手を掴む。話を聞いて思った、やっぱり神宮寺さんをこのままにしていてはいけないと……思ったから……

 

「……」

 

驚いた表情をしている神宮寺さん。何か言わないといけないと……でも俺は口下手だから、神宮寺さんみたいな頭の良い人が納得するような事を言えるとは思えない。俺に言えるのは不恰好で、情けなくて、とても信用できる言葉じゃないだろう……でも俺にはこんな事しか言えない

 

「俺は……掴めます。周りの人がどんなことを言っても……蛍や美神さんが神宮寺さんが危険な人だと言っても……俺は知ってるから、神宮寺さんが本当は優しくて良い人だって知ってるから……俺は……神宮寺さんの手を掴めます」

 

神宮寺さんは驚いた顔をしていたが、すぐに怒ったような顔をして

 

「口では何とでも言えますわッ!!」

 

俺の腕を振りほどいて医務室を出て行ってしまった……やっぱ駄目だったか、そりゃそうだよなあ……やっとGS試験に受かった程度であのベルトと眼魂の力で試験に合格したような俺の言葉なんかじゃ駄目だよなあ……

 

「やっぱ俺ってまだまだだよなあ……」

 

俺の枕元で眠っているチビ達を抱っこして、天井を見つめながらそう呟き……再び目を閉じて眠る事にするのだった……

 

「……うるさいですわ……」

 

医務室を出たくえすはと言うと……胸に手を置いて、トマトのような赤い顔をして通路に背中を預けていた。くえすが呟いた言葉が横島に対しての言葉なのか、自らの心臓に対しての言葉なのか、それとも両方なのか……それは呟いたくえすにしか判らないのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その13へ続く

 

 




今回の話はくえすとのフラグがメインとなりました。ほかのヒロインと比べてフラグがめちゃくちゃ多かったですね、しかしまだ完全成立とはなりません。あともう1回くらいフラグイベントをやろうと思っています。このリポート25の中でですけどね。次回からは本格的にガープが動く予定です、第一部の最終回まであと少し、最後までどうかよろしくお願いします



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その13

どうも混沌の魔法使いです。今回は話はガープ対策をする美神達とガープとアシュタロス。そして横島の話にしようと思います。本格的に動き出すのが次回からになるので今回は少し内容が薄いかもしれないですが、どうか今回の更新もよろしくお願いします


 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その13

 

美神さんだけでは無く、小竜姫様や聖奈さんにも集まって貰った理由がある。それはとても深刻な問題だったからだ

 

「……とても言いにくいですが、試験をこれ以上続行するのは不可能となりました」

 

ガープが最後まで試験を続けろと脅してきたのは知っている、それでも試験を続行できない理由が出来てしまった

 

「その理由ってなんなの?」

 

美神さんの問いかけに私は思わずイラッとした。でも美神さんはそれを知らないから怒鳴るわけにも行かない、深呼吸を何回か繰り返してから

 

「美神さん。貴方の所の弟子が試験会場を完全に破壊してくれたからです」

 

あっと言う顔をする美神さん。修復する機材などもちゃんと準備しておいた、軽い破壊なら直ぐに修復出来るだけの準備もした。シズクが要求する山の湧き水も多少難しいがちゃんと用意した。でもまさか完全に基礎まで破壊されるととても修復なんて出来ない

 

「流石にのー。基礎まで破壊されると修理が間に合わんぞ」

 

「横島さんの力の上昇が想定の範囲を超えていましたしね」

 

ドクターカオスとマリアさんが疲れたように呟く。今まで何回も修復作業をして、こっちのスタッフと協力して陰念と横島君の試合の後の完全に破壊された試験会場も修復してくれたから、流石に疲労困憊と言う様子で呟く

 

「とりあえず、少しでも試合が出来るように修復はしますけど、間違いなく途中で中断になると思います。それだけ凄い戦いだったんですよ」

 

とてもGS試験の受験生同士の戦いとは思えないほどの霊力を測定したし、正直横島君か伊達のどちらか死んでいてもおかしくなかったので、両名とも無事で本当に良かったと思う

 

「確かにあの戦いは凄かったですからね。観客席のほうに被害は?」

 

小竜姫様の問いかけに手元にある資料に一度目を通して

 

「負傷者1名です。蛍さんの次の対戦相手の予定だった兵部幽介が伊達の投げ捨てた尻尾に絡まり、右手と左足を骨折しました」

 

間接的過ぎる負傷内容に美神さん達が思わず苦笑する。正直あれだけの霊力のぶつかり合いだから結界が壊れるかもしれないと思っていたけど、負傷者1名なら御の字だろう、流石ドクターカオスと聖奈さんのルーン魔術だ

 

「ただいまー。カオス、姉さん駄目だ。多分だけど基礎の破壊が地下まで伸びてる、もっと詳しく調査しないと確実な事は言えないけど……下手するとここら辺一帯陥没するぞ」

 

……調査をしてくれていたテレサさんの言葉を聞いて、私達の視線が美神さんに集中する

 

「わ、私は悪くないわよ!?」

 

このままだと自分の責任にされると思ったのか美神さんがそう怒鳴る。まぁ確かに今回の事は美神さんの責任には出来ない。むしろ責任を追及するなら……私の視線が小竜姫様の方に向けられる。横島君に竜気を授けた小竜姫様の責任だと思う

 

「えっと……保険程度のつもりだったんですよ?ただ横島さんの竜気へと適合率が高すぎたと言いますか……流石に私もまさかここまでとは思って無かったですし……」

 

小竜姫様がそう弁明してくる。とはいえ、今は責任を追及している場合じゃない。試験を中断せざるを得ない今の状況をどうするかだ

 

「もしガープが試験会場にいるとすると、今の試験会場の惨状を見ている可能性もあるね」

 

唐巣神父がそう呟く、確かにその可能性もある。そうなると試験終了と同時に何かを仕掛けるつもりだったのが、それを繰り上げて行動してくる可能性もある

 

「そう言えばビュレトはどうしたワケ?」

 

エミさんがそう尋ねてくる。確かに今この場に1番いないといけないのはカズマと名乗っているビュレトさんだろう。同じソロモンの魔神で1番の戦力なのだから……私が説明しようとする前に聖奈さんが口を開いた

 

「周囲の結界を一部でも解除できないかと結界の基点を探しています。一般人も多いですから、人質を減らさないと何をするか判らないとの事ですから」

 

陰念と伊達の事を見ている。もし一般人が同じような事をされたとして2人のように生き残れるか?や死傷者が出る可能性もある。周囲の結界を解除するのは最も優先しなければならないことだ

 

「ふむ、ワシも手伝えたら良かったんじゃが……」

 

「ドクターカオスはこの場にいてください、もしかすると貴方を攫う事を目的としている可能性もあるのですから」

 

結界を張ればそれを解除できる面子が動く、ドクターカオスは錬金術を極めた人。もしかするとGS試験に伊達や陰念を送り込んだのはドクターカオスを攫うためと言う可能性もある。だから自由に動き回られると危ない

 

「優秀な人材を攫う。それがガープの目的だと推測したんですか?琉璃さん?」

 

蛍ちゃんがそう尋ねてくる、柩の予知ではGS試験はおまけ程度に考えていると言っていた。つまり何か本命があると考えて、思いついたのはそれしかない。優秀な人材を攫い戦力とする、伊達と陰念のあの異常な強さを見ればそれを目的としている可能性は高いと言えるだろう

 

「無論それだけを目的としていると決め付けるのは早計だと思うが、可能性としてはそれが一番高いと思う。だがそれと同じくらい可能性のある事としてだが……力のあるGSを纏めて試験会場に集め抹殺する。それも目的としている場合もある」

 

ソロモンの魔神。人間が勝てる相手ではないということも考慮して、態々人間界に来てそんな事をする必要があるか?と言う疑問もあるが、あんまり動き回られると目障りと言うことで殺しにくる可能性もある。今は全てが可能性だが、備えることに越したことは無い

 

「……攫う……横島も攫われるかもしれないな」

 

シズクがぼそりと呟く、確かに攫われる可能性として横島君の名前は1番最初に出るだろう。小竜姫様と聖奈さんが結界を用意してくれたとは言え、シズクや美神さんも医務室から遠ざけたのは間違いだったかもしれない

 

「マリアさんとテレサさん、悪いですが横島君の護衛に医務室に向かって貰えますか?」

 

本当は唐巣神父とかが護衛してくれる方が良いと思うんだけど、戦力として数えたいので護衛には回したくない。なのでマリアさんとテレサさんに護衛に向かってもらうようにお願いすると

 

「判りました、装備を整えて直ぐに向かいます」

 

「姉さん。私精霊石で出来たシャルワールが良い、あれ使いやすいし」

 

「では私は精霊石を加工した銃弾を撃てるマグナムにしますか」

 

なんかすっごい物騒な話をしているマリアさんとテレサさんに絶句していると美神さんが

 

「マリアとテレサだけに任せるのも悪いわね、悪いけどシズクも先に戻ってくれる?ちょっとこの話し合いは途中で抜けられそうに無いわ」

 

美神さんの言葉に返事も返すことなく、その姿を水に変えて消えるシズク。よっぽど横島君が大事なのねと小さく苦笑する。しかし笑っている余裕なんて当然無いので直ぐに意識を切り替える

 

「白竜会の鎌田選手と蛍ちゃんが次の試合になるけど、試合は当然最後まで出来ないわ。会場がどこまで持つか判らないからね、一応GS協会からの発表として、試合の途中で中断して後日再試合って流れには持って行くけど、そこでなにかあるかもしれないから」

 

トランクケースを取り出して机の上に置く。急に用意したものだけど、ギリギリで間に合ってくれて良かった。タイガー君とピート君に貸し与えていた精霊石は砕けて使い物にならなかったから、厄珍に頼んで用意させた今日本にある中でもっとも純度の高い精霊石。鎌田選手も魔装術を使うことを考えたら、こう言うもので護りを固めたほうが良いと思ったのだ

 

「これを今からドクターカオスに加工して貰います。それから唐巣神父に簡易ですが聖句。エミさんに呪術的な防御を上げるペイント。出来る限りの防衛手段を蛍ちゃんに施します」

 

「え……よ、横島の時とぜんぜん違うんですけど……」

 

若干引いた表情をしている蛍ちゃん。まぁそれは言われると思っていたけど、横島君の時とは状況が違う。本当なら横島君にも同じ防御を施したい所だったけど、意識不明だったりしていたので出来なかったという面もある、それに多分だけど鎌田選手が伊達達のグループのリーダーと見て間違いないだろう。だから出来る限りの防御を施す必要がある

 

「確かにその通りね、蛍ちゃん。琉璃に言われた通りにして」

 

ええーっ!?と嘆く蛍ちゃんに我慢しなさいともう1度声を掛けてから

 

「じゃ、ドクターカオスと唐巣神父は少し外に出ていてください、時間の掛かるボデイペイントからやるので」

 

年寄りと聖職者とは言え、男は男。ドクターカオスと唐巣神父に一時的に部屋から出て貰って

 

「じゃ。エミさん。お願いします」

 

「OK、任されたワケ、じゃ、蛍服脱いで背中をこっちに向けるワケ」

 

若干渋る蛍ちゃんを美神さんが説得し、やっと服を脱いだ蛍ちゃんの背中にエミさんがボデイペイントを始めたのを確認してから椅子に腰掛け

 

「美神さん、相手がどう動いてくると思います?」

 

「並みの悪霊とかなら判るけど、流石にソロモンクラスとなると予想なんて付けようも無いわね。とりあえずさっきの話し合いの通り攫うのと、私達を全滅させるの両方で備えたほうが良いと思うわ」

 

「そうですね。ガープは魔界正規軍の追撃をことごとく退けています。対策はいくらあっても足りませんわ」

 

「それに試合会場のあちこちにいる使い魔も厄介ですね。私達の動きを監視していると見て間違いないですし……」

 

せめてどっちか1つなら対策も練りやすいんだけどねと呟く美神さんにそうですねと返事を返し、時間ギリギリまで4人で作戦会議を続けるのだった

 

「く、くすぐったいですよ!?エミさん!」

 

「我慢するワケ!ここでずれると全部台無しになるワケッ!」

 

真面目な話をしている場には相応しくない声が聞こえるけど、あんまり気にしない方向で行きましょうか?と私は思わず苦笑するのだった……

 

 

 

凄まじい破壊の後を残している試合会場を見下ろす。最後までGS試験を続けろと脅しはした物のこの有様ではGS試験を続けるのは不可能だろう

 

「アシュタロス。GS試験は続行できると思うか?」

 

一応アシュタロスにも問いかけてみる。多分私と同じ結論を出すと思うが、念の為に尋ねてみる

 

「多分まともな試合は無理だろうな。お前が脅しているから一応試合をするかもしれんが、直ぐに試合会場の不備を理由に中断するかもしれないな」

 

まぁ、そこら辺の対応が無難な所だろう……余興を見て楽しもうと思っていたのにとんだ興醒めだ……

 

「そう面白くないという顔をするな、なかなか楽しめたのではないのか?」

 

「む、それはそうだが……」

 

アシュタロスにそう窘められる。普通の人間では到底倒せる筈も無いほどに強化した陰念と伊達を倒した横島忠夫の戦いは正直面白い見世物だった。その時に使った力も含めて私の理解を超えていた

 

(特異点としての力を見るつもりだったが……ああ。途中から忘れていたな)

 

途中から純粋に試合を見る事を楽しんでいた……ああ、認めよう、これほどまでに面白い展開が続いていたからこそ、試合を行わないにしろ、中断するにしろつまらないと思ったのだと

 

「それで正直な話1つ聞きたいことがある。このまま分かれる前にな」

 

今回は協力してくれたが、やはりアシュタロスは私達とは違う方法で天界と戦うつもりか……出来ることならば共に来て欲しかった所だが、無理強いも出来んか……

 

「なんだ?何を問う?」

 

「あの鎌田とか言う男はどうするつもりなんだ?」

 

その質問に少しばかり拍子抜けした。予想では亜空間か、それとも魔人か聖遺物の事を尋ねられると思っていたのに……

 

「無論優秀な人材だ。このまま働いてくれると言うのならば、魔族へと転生させることも視野に入れている」

 

無論裏切るなら殺すがなと笑う。向こうが腹に一物抱えていることは判っている。人間の考えていることを読めなくて何が魔神だ、取り分け私は人の心理を読むことに長けている。向こうが何を考えているのかは判っているつもりだ

 

「そしてその上で泳がせるか、趣味が悪いな」

 

私の反応を見て、向こうが裏切って反抗することを判っているのにあえて自由にさせていることに気づいたアシュタロスがそう呟く

 

「ははは、人間は暇つぶしの良い道具になる。そして魔族へと転生させる場合も深い絶望や恐怖があればより強く転生する、その為に泳がしているのだよ、それで私への問いかけは終わりか?」

 

良い気分だからもう少し答えてもいいぞ?と言うとアシュタロスは小さく首を振り

 

「そこまで甘えるつもりは無いさ。お互いの目的は同じ、しかし進む道は異なる。また道が重なった時にでも聞くさ」

 

そう笑うアシュタロスにそれもそうだなと笑い返し、最後に飲もうと思っていたワインの封を切り

 

「飲もうアシュタロス。もうじき私も動かなければならない、となるともう酒を酌み交わすのは今この時しかない」

 

横島忠夫の戦力は見た。今の人間界の戦力も見た。となると私の最期の目的を後は成し遂げるだけ、それをするには絶対にビュレトが邪魔となる、そして私とアシュタロスが協力体制にあったという事をビュレトに知られる訳には行かない、このまま分かれる前に飲もうとグラスを向けるとアシュタロスはやれやれという素振りをしながらも穏やかに笑いながら

 

「やれやれ、そこまで言うなら付き合おう。酒が苦手なお前にそこまで勧められてまで断りはしないさ」

 

再び椅子に腰掛けたアシュタロスに感謝すると頭を下げ、ワイングラスを私とアシュタロスの前に置く。アシュタロスの皮肉に笑いながら

 

「私ほど酒の好きな魔神はいないと思うが?」

 

「ふ、皮肉だよ。判っているだろうに」

 

こんな冗談を交わすことが出来る仲間は私にはいない、アスモデウスは堅物だし、セーレは復活したばかりで自分があやふやだ。今私のいる陣営で本当の意味で私を理解してくれる仲間はいない、昔はビュレトが私の話を良く聞き、そして理解してくれようと努力していたが、今は袂を分かちお互いに敵対している。それは寂しくもあるが、仕方の無い事だと理解している。私のそんな感傷を感じ取ったのかアシュタロスが笑いながらグラスをこちらに向けながら

 

「さて、何に乾杯する?ガープ」

 

そうだな……何に乾杯するとするか……少し考えてから、これしかないと判断した。ちょっとした意趣返しのようなものだ

 

「いつか私達とお前の道が重なる事を願って」

 

同じ目的を掲げているのだから、今は道を違えたとしてもいつかはその道は重なるだろう。それがいつかは判らないが、いつかその道が重なると私は信じている。アシュタロスは驚いたように目を見開いてから、小さく笑い

 

「「いつか私達とお前の道が重なる事を願って……乾杯ッ!」」

 

お互いのワイングラスを軽く打ち付けあい、ワインを煽った所で館内放送が入る

 

『これよりGS試験最終戦を行います。芦蛍選手、鎌田勘九郎選手!試合会場へ!』

 

ほう、試合を強行するか……それとも試合会場で中止の発表をするか、どっちにせよ構わないか

 

(既に罠は仕掛けたからな)

 

私の本来の目的を遂行する為の仕掛けは施してある。後はそれをいいタイミングで発動するだけだ

 

「アシュタロス。火角結界の準備は終わってるな?」

 

「ああ、ほら」

 

差し出されたボタンを受け取る。これを押せば起動するというわけか……私の知っている物とは違うが、そこはアシュタロスがアレンジしているという訳か

 

「判っていると思うが起爆が失敗する可能性はあるからな?」

 

「ああ。問題ない、最悪離脱するまでの時間稼ぎになれば良い」

 

火角結界はその威力の大きさが魅力だが、その分繊細なので妨害される可能性も高い。最悪目的を遂行した上で離脱する時間稼ぎになれば良い。試合会場に入ってきた2人を見ながら、最後の余興を楽しむかと呟き再びワインをグラスに注ぐのだった……

 

 

 

俺が目を覚ますとおキヌちゃんがシズクに説教されていて、マリアとテレサが武器を構えていて、思わず何事っ!?と叫んでしまった。まぁ事情を聞いて直ぐに落ち着いたが……俺が封印したと思っていた眼魂が暴れだし、チビ達が頑張って応戦していたと……最終的に誰かに封印されたようだ。と……それって封印してくれたの神宮寺さんなんじゃ?と思ったけど、シズクは神宮寺さんを嫌っているので口にはしなかったが……やっぱり助けてくれたんだな、神宮寺さんはやっぱり良い人だ。マリアとテレサが武装しているのは俺の護衛の為らしい

 

「大丈夫です。横島さんは私とテレサが護ります」

 

「最近剣の練習してるから結構使いこなせるんだ。信用してくれて良いよ」

 

笑顔で言われてありがとうと返事を返した物のちょっと怖かった。特にテレサの三日月の形状をした剣が……

 

【ううう、あの眼魂めちゃくちゃ強かったんですよ……】

 

「……それでも逃走くらいしろ馬鹿が」

 

いや、シズクさんそれは無茶だというものだと思いますよ?おキヌちゃんは幽霊だし、眼魂がそんなに強いなんて思わないだろうし、シズクと違ってあくまで普通の幽霊なのだから出来ることと出来ないことはあると思う

 

「みーむう?みみむー?」

 

「うきゅーう?」

 

「クウーン」

 

擦り寄ってくるチビ達を抱っこしながら、護ってくれてありがとうなあと呟き、ベッドの横の机の上に畳んであった心眼を額に巻く。やっぱりバンダナが無いと落ち着かないんだよなと思っていると

 

【横島!私を畳むな!意識が途絶える!】

 

「え、あ、ごめん」

 

どうも畳んだら駄目だったようで怒鳴る心眼にごめんと謝るのだった。医務室で見た目ロリに怒られる巫女さんの幽霊とバンダナに怒られる俺、となんとも訳の判らない光景だ。思わず苦笑していると

 

【横島!聞いているのか!】

 

「聞いてる!ちゃんと聞いてるって!」

 

心眼の怒声に思わず背筋を伸ばす、声のトーンが女性だから怒られるとビクッとしてしまうなと思っていると

 

『これよりGS試験最終戦を行います。芦蛍選手、鎌田勘九郎選手!試合会場へ!』

 

最後の試合の案内放送が入る。俺はまだ怒ってる心眼にごめんと謝りながら

 

「次蛍の試合なんだろ?俺見に行きたい」

 

テレサとマリア、それにシズクの表情が渋い物になる。特にシズクの顔が苦虫を噛み潰したような顔になっている

 

「……さっきも説明したが、危険な魔族がこの試合会場にいる。お前も狙われる可能性が高いから、ここで籠城しているほうが安全なんだ。判るか?」

 

うん、それは判る、シズクやマリアやテレサが心配してくれるのも判るけど……

 

(俺ってそこまで価値無いだろ?)

 

霊力は使いこなせず暴走気味。ベルトを使えば倒れる、んで頭も悪い。正直言って俺を攫うメリットがあるようには思えない。むしろデメリットしかないんじゃないか?と思う

 

「頼むよ。蛍の応援をしたいんだ」

 

手を合わせて頭を下げると、シズクが面白く無さそうな顔をしながら少し待てと言ってマリアとテレサと何かを話し合っている。その話が終わるまでタマモを抱き抱えてもふもふしていると

 

「……判った。観客席へ向かおう」

 

これで蛍の応援が出来ると思ってベッドから立ち上がると

 

「え、えっと?テレサさん?マリアさん?」

 

すっと俺の左右に立つマリアとテレサに思わず敬語が出てしまう。なんか花みたいな匂いがして落ち着かない

 

「護衛ですから、隣に立たせて貰います」

 

ええ……俺の護衛なんて必要ないって……心配してくれるのは判るけどさ……

 

「っとと!?」

 

急に背中に重みを感じて驚きながら背中を見るとシズクがおぶさっている、ええ……これどういう状況やねん

 

「……行くぞ、横島」

 

負ぶさっている状態でそんなこと言われてもなぁ……って言うかなんでおぶさるの?と俺が首を傾げていると

 

「……早く行かないと蛍の試合を見れないぞ?」

 

う、それは困る。まぁシズクをおんぶするのはいつもの事なのでそこまで気にすること無いか……後は部屋の隅で

 

【いいなーいいなー。なんで私だけ仲間はずれなんですか……】

 

なんかいじけているおキヌちゃんを何とかするだけだ

 

「おキヌちゃんも行こうぜ、蛍を応援しよう」

 

【ぷう】

 

頬を膨らませて私怒っていますと言わんばかりの態度を取っているおキヌちゃんに苦笑しながら

 

「ほら、行こうぜ」

 

背中はシズクがおぶさっているので背中に取り憑いてとは言えないので、頭の上のチビとモグラちゃんをGジャンの胸ポケットの中に入れてから

 

「頭に憑いて良いからさ」

 

もう空いてる所と言えば頭か正面しかないので、自動的に頭の上に取り憑いて良いよと言うと

 

【ほ、本当にいいんですね!?後で駄目とか言っても離れませんからね!】

 

頭の上に取り憑いたおキヌちゃん。俺が予想外だったのは頭の上に感じる柔らかい感触で、それはやっぱりおキヌちゃんの胸が頭に当たっていると言う事で思わず鼻を押さえる。こ、これはいかん……今回だけの特別処置と言うことで今後は絶対にやらないようにしよう。背中のシズクから冷たい気配を感じるし、マリアの目線も鋭い、テレサだけは首を傾げてるだけだけど……これは非常に宜しくない状態だと思う。気を抜くと鼻血が噴出しそうだ

 

「じゃ、いこかー」

 

出来るだけ平然とするつもりだったのに、俺の口から飛び出したのは関西弁で自分が動揺しているのが判る。俺は心の中で念仏を唱えながら医務室を後にし、観客席へ向かうのだが、すれ違う人の視線が鋭かったのは確実に気のせいでは無いと思うのだった……

 

「美神さん。試合はどんな感じですか?」

 

観客席に上がってくると直ぐに美神さんを見つける事が出来た。エミさんと唐巣神父の姿も見える、やっぱり美神さん達と一緒に試合を見ようと思ってそっちに向かいそう声を掛けると

 

「横島君!?なんでここにいるの!?」

 

「いや、蛍の応援に……やっぱり不味かったですか?」

 

シズクやマリア達にも止められたけどどうしても応援したくてと言うと、唐巣神父が仲裁に入ってくれた

 

「美神君。怒るのは酷だよ。横島君の気持ちも考えてあげるといい」

 

自分の師匠に言われたのが利いたのか、溜息を吐いた美神さんは自分が首から下げていたペンダントを俺に手渡して

 

「精霊石のペンダントよ。お守りとして持ってなさい、貴方も狙われている可能性があるんだからね」

 

うーん……そう言われても実感が無いんだけどなあと思いながら渡されたペンダントを首から下げて観客席に腰掛ける

 

「せいっ!」

 

「くっ!なかなかやるわね」

 

蛍が優勢なのか、鎌田と言う男?いやオカマはどんどん追い詰められている。このまま行けば蛍の勝ちだと思う。ただ美神さんやエミさんは俺とは違う感じ方をしていたようで

 

「エミ、あれってもしかして……」

 

「令子。オタクもそう思うワケ?」

 

なんか難しい顔をして話をしている、本当なら声を出して応援したい所だけど……状況があんまりよくないように見える

 

「「……」」

 

お互いに神通棍で鍔迫り合いをしているんだが、その距離がかなり近い。多分お互いにお互いを吹き飛ばそうとしているんだけど、力が互角か、蛍が上手く力を逃がしているから完全に拮抗しているだと思う

 

「くっ!?」

 

だいぶ長いこと鍔迫り合いをしていたのだが、蛍が横に神通棍を振るうと鎌田が大きく跳んで距離を取る、片膝を突いているのと、蛍の手に破魔札があるのを見て、破魔札の一撃を食らって吹き飛んだのだと思い

 

「蛍、頑張れーッ!……あいたたた」

 

大声を出すと身体に響く、思わずいたたたと呻くとシズクが傍に来て

 

「……大人しくしてろ、馬鹿」

 

すまんと謝りながら試合会場に視線を戻す、蛍は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに真剣な顔をして鎌田を油断無く見つめている。だけど立ち上がる気配が無い所を見ると相当なダメージを受けているのだと思う

 

「このまま行けば、蛍の勝ちなんじゃないですか?」

 

俺が試合を見たまんまに言うとエミさんが俺を指差して

 

「おたくが戦った陰念と伊達と同じ所のGSなワケ、このまま終わると思う?」

 

あ、魔装術だっけ?そんな鎧を展開する術の事を思い出すと

 

「ここからは本気で行くわよッ!」

 

鎌田がそう叫び、その姿を変えていく。陰念や伊達とは違い、シャープな姿をしている。こんな風に言いたくは無いが、女性的なシルエットだと思う。そして手にしていた神通棍は形状を変えて巨大な大剣へと姿を変えていた

 

「魔装術は極めるとここまで美しくなるのよ、さぁ。覚悟して貰いましょうか」

 

鎌田がそう笑って剣を構えた瞬間。小竜姫様と聖奈さんが同時に試合会場に降り立ち

 

「この試合ここまで!鎌田勘九郎!大人しくして投降するのならば、痛い目を見る事はありませんよ」

 

「神界・魔界正規軍共に貴方の身の安全を保障しましょう。さ、返答はいかに?」

 

え?魔界正規軍?……聖奈さん人間じゃないの?思わず美神さんを見ると小さく頷く、まじか……全然気づかなかった……小竜姫様と聖奈さんの登場に観客席がざわめいたその瞬間キンっと言う乾いた音を立てて試験会場全体が何かに包み込まれた。そして周りの人達が力なく倒れるのが見えた……い、一体何が起きているんだ!?俺は完全に混乱していたが、美神さん達は素早く行動に出ていた

 

「やっぱり!唐巣先生!」

 

「判ってる!」

 

唐巣神父が何かの呪文を唱えると同時に俺達の周りが白い光に包まれる、これってもしかして結界って奴かな?いつも見るやつと全然違うけど、多分そうなんだよな?

 

「御機嫌よう。人間の諸君……そして小竜姫、ブリュンヒルデ」

 

突然聞こえてきた声に驚き、声の聞こえた方向を見て、更に俺は驚いた。そこには空中を歩く青年の姿があったから……

 

「う、浮いてる……」

 

空中を歩きながら片眼鏡をつけた青年がゆっくりと試合会場を見下ろし、ニヤリと冷酷そうな笑みを浮かべ、小竜姫様達に向かって巨大な光球を打ち出す、小竜姫様がそれを切り裂いた瞬間。凄まじい爆発を起こす

 

「っきゃあっ!?」

 

「くっ!?これは!?」

 

小竜姫様と聖奈さんが悲鳴を上げて試合会場の壁に叩きつけられ、崩れ落ちるのが見えた……嘘だろ!?小竜姫様が一撃で!?目の前の光景に驚いていると片眼鏡をつけた男は大げさな素振りで頭を下げ

 

「聞こえてはいないと思うが、初めまして、そしてさようなら。私はソロモン72柱序列33番ガープ……君達に死を与えに来た」

 

俺達の目の前でその青年の姿は一瞬でその姿は金色の異形と化すのだった……

 

そしてこれが後に魔神襲来と呼ばれ、天界・人間界・魔界その全てを巻き込む戦いの始まりとなるのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その14へ続く

 

 




次回は勘九郎と蛍の戦いがどうなっていたのか、それを少し書いてからガープの視点で話を書いて行こうと思っています。

後2話で第一部のメインは完結となります、後2話全力で頑張って行きます!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その14

どうも混沌の魔法使いです。今回はガープが現れる前のビュレト・勘九朗視点の話が前半で後半がガープの視点で書いて行こうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


それと今回は気分転換を兼ねて「お試し小説置き場」に私としては珍しく「R-15」「残酷描写あり」の小説を投稿しております。

あんまり書かない作風なので荒い所もあると思いますが、そちらも興味があれば見ていただけると嬉しいです



 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その14

 

「ちっ……しくじった」

 

俺は目の前を覆い尽くす金色の蝙蝠を見てそう舌打ちした。少しでも人間の人質を解放しようと思い周辺の蝙蝠を倒しながら結界の基点を探していたのだが、それ自体が既にガープの罠だった

 

(あの野郎。くそ鬱陶しい真似しやがって……)

 

確かに蝙蝠を倒すことで結界は弱くなり、少しずつだが人質は外に出るようになり少しでも足手纏いを減らす事が減らす事が出来ると思っていた……

 

「ちっ……力が入らない……」

 

痺れるような感覚と共に右足の感覚から抜け始め、次に左手……そして今は右腕。終いには左目の視力が無くなった……確かにあの蝙蝠は結界の基点になり、そして起爆の術式を組み込んだ事でここら辺周辺の人間を人質にすると言うのが主な役目だっただろう……だがさらにそこにもう1つ。あの使い魔には役割が与えられていたのだ……

 

(あの野郎……何しやがった……)

 

恐らくは俺単体を狙った遅延の毒か何か仕込んでやがったな。しかも相当数を倒さないと効果を発揮しないタイプのめちゃくちゃ鬱陶しいタイプの神経毒……

 

(だがこれだけで終わると思えねぇ……)

 

俺を無力化する為だけにこれだけ手の込んだ仕掛けを施しているとは思えない、さらにまだ何か……そう本命の仕掛けがある……

 

(ちっ……あいつが来ていると思ったのが間違いだったか)

 

ソロモン72柱ビフロンス。同じソロモンでありながらガープに心酔し、あいつの部下として行動している魔神。確実にあいつも絡んで来ていると思い、外に回ったが、俺の深読みが過ぎたようだ……なまじガープの考えが判る分、読み合いで負けた……ついに手の痺れが限界に来て愛剣を落としてしまう、その隙にと俺に組み付いて爆発しようとする蝙蝠を見て、人間の姿で耐える事が出来ないと判断し魔神としての姿に戻ろうとした瞬間。漆黒の炎が目の前を過ぎる

 

「大丈夫ですか!?ビュレト様!」

 

左手を突き出した姿勢のままそう叫ぶ女……神宮寺カズマの末裔……神宮寺くえすの姿を見て頭の中で何かが嵌るような感覚がした……

 

「くえす……馬鹿野郎!!試合会場に戻れッ!!!」

 

くえすがここに来る事も全てガープの計画に織り込まれていたのだと悟った。くえすが俺を存在している事を認識したことで、俺の眷属に近いくえすは俺の危機を本能的に悟った……そしてここに誘き出されてしまった。俺達が張った結界の出力が弱い場所に……

 

「えっ!?」

 

助けたつもりの俺にそう怒鳴られたくえすが動揺する。そのほんの一瞬にも満たない時間……それがガープが本来必要とし、これだけ大量の使い魔。そして白竜寺とかいう霊脈の上の寺を利用したのもこの一瞬の時間を得るため……

 

「っきゃあああああッ!!!」

 

無数の蝙蝠が複雑な軌道を描きくえすの周りを飛び交ったと思った瞬間。くえすを中心に魔法陣が展開されくえすの姿は跡形も無く消え去った

 

「ちくしょう!!しくじったッ!!!!」

 

あれだけ空を飛び交っていた蝙蝠は姿を消し、周囲を覆っていたガープの結界も消え去った……だがそれはガープの目的が完了したからであって、俺が消した訳ではない、つまり俺は最初から最後までガープの手の中で踊らされていた事に気付き、俺は悔しさのあまり拳を地面に叩きつけ

 

「俺は何をやってるんだッ!!」

 

あれだけ俺に任せろと言っておいてこの様だ……悔しさとそして自分の不甲斐なさに思わずそう叫んだ

 

「くそがぁッ!!俺を舐めるなよッ!ガープッ!!!!!」

 

毒が回って来ているのか、もう手足の感覚もほとんど無い……こんな有様ではガープを止めるなんて出来はしない……それだけ毒が回っていると言うことだろう。今は手足の麻痺程度で済んでいるが、このままではもっと酷い後遺症になるのは目に見えている。毒が完全に回りきる前に何とかしなければならない……だが魔力を放出するだけで吹き飛ばせるような甘い毒をガープは使わないだろう、それも俺専用に調整した神経毒だ。おそらく魔界正規軍や神界正規軍の軍医だったとしても治せる物ではないだろう……下手をすれば感染者が増えると言う結果で終わる。いや、確実にそうなるように調整してあるはずだ……ならば、毒が完全に体に回る前になんとかしなければならない……

 

「……ちっ、これしかねえか」

 

俺は目の前に落ちている自分の剣を見て、そう舌打ちしてから痺れる右手を剣に向かって伸ばすのだった……

 

 

 

 

結局最後まで追加の指示は無かったわね……決勝戦の相手の芦蛍を見つめながら、軽くストレッチをする

 

(やっぱりちょっと硬いわね)

 

普段は直ぐに身体が温かくなって十分なパフォーマンスを発揮出来るけど、今日はそんな感じではない。いくらストレッチをしても身体が硬いままだ……それも当然かと苦笑する

 

(ま、ここで死ぬって判ってたら、そりゃ身体も硬くなるか……)

 

本気であたしを魔族として取り立てる気が無いのは判っている。大方裏切った所で殺して、あたしの死体をベースに魔族を作るか、それとも陰念のようにあの紅い石を埋め込んで徐々に魔族に改造していくか……まぁそんな所だろう。あれだけ門下生が実験台にされているのを見ているのだから、自分もそうなるに決まっている

 

(殺されると判っているから、出来る事があるんだけどね)

 

メドーサ様の敵討ちをする為に従っていた振りをし続けた。生きていることが分かったのでそれも意味は無いが、殺された同門の皆。陰念や雪之丞を好き勝手してくれた事に対する怒りはどうやっても消す事が出来ない

 

(結局の所。あたしは魔族なんて柄じゃなかったのね)

 

どうやったってあたしは冷酷になんかなれない。どこか甘い所がある、それは自覚している。だから今からやるのはその甘いあたしの最後の抵抗

 

(あんた達の思い通りに絶対にさせない)

 

ここで美神令子の助手と戦えたのは明らかに幸運だ。それも横島忠夫では無く、芦蛍。ラプラスのダイスで決まったというのならば、これはきっと運命が味方してくれているに違いない

 

「さきほども説明しましたが、試合会場が不安定のため危険だと判断すれば試合を中断します、宜しいですね?」

 

確認と言う感じで尋ねてくる審判の言葉に頷く。どっち道ガープが来て試合が中断するのは間違いない。問題があるとすれば、それがいつでどれくらいの時間があるかの方が深刻な問題と言える

 

(魔装術を使わないと手抜きをしていると思われるし、手札を切るタイミングも重要よね)

 

「それでは!鎌田勘九郎選手対芦蛍選手の試合を開始します!!!」

 

あたしが考え事をしている間に試合開始の合図がされ、先手必勝と言わんばかりに突っ込んでくる芦蛍を見て小さく苦笑する

 

(いい判断よね)

 

陰念と雪之丞の試合を見て判断したのだろう。魔装術を使うにはわずかな溜めの時間が必要になる、そうさせない為の速攻。しかも距離を詰めるという判断は間違いではない

 

「一気に決めさせてもらうわよッ!」

 

神通棍を展開し、殴りかかってくる。あたしも神通棍を取り出してその一撃を受け流す

 

(あら。流石と言う所かしら)

 

霊力を調整して互角にしたつもりだったけど、あたしの神通棍と自分の神通棍がぶつかった瞬間霊力の出力を上げて押し切ろうとして来た。霊力を操る技術は互角と言う所かしら……?

 

「シッ!」

 

「っとと!」

 

どうも防がれるのは分かっていたようで、今度は鋭い踏み込みから拳を繰り出してくる。それを片手で受け止めるがびりびり痺れてくる。霊力の練りこみも十分な一撃だ、直撃していればそれだけでダウンしていたかもしれない

 

『芦蛍選手、見事な速攻です!体格の差を埋めるかのような火の出るような速攻!これはこのまま決まってしまうかもしれないですね』

 

『お前さんはもう喋らん方が良いぞ?無知にもほどがある』

 

『ハイ?』

 

馬鹿解説者と違ってドクターカオスの方は分かってるみたいね。それと芦蛍のほうも……

 

「……」

 

渋い顔をし、下がるか、このまま攻めるか判断に悩んでいる様子。話をする為にこの距離に誘い込んだのだからここで下がられては困る。一歩前に踏み出し体重で押しつぶすような姿勢で殴りかかる

 

「え?」

 

(静かに、黙って、反応しないで)

 

力が全く入っていないことに困惑している芦蛍に小声で話しかける

 

(気をつけなさい、あたし達白竜会を襲った魔族は横島忠夫を狙っているわ)

 

流石にこの言葉には反応してしまうかしら?と思っていたけど、無表情を保っている芦蛍に少し驚いた。試合を見ていて思ったけど、きっと横島忠夫と芦蛍は付き合っているのだと思う。お互いを好き合っているのは判るし、きっと良い関係であるのは間違いない

 

(どうしてそんなことを教えてくれるです?嘘をついているんじゃないんですか?)

 

流石にいきなり信用してくるって言う馬鹿じゃないみたいね。押し返そうとしてくる一撃を交わす

 

(まぁ疑い半分って所ね)

 

さっきよりも霊力が弱まっている。あたしの言葉の真偽を考えているって所よね、とは言え時間が無いので一方的にでも話を伝えなければ。再び間合いを詰めて神通棍を振り下ろす

 

(悪いけどそんなに時間は無いの。簡潔に伝えるわよ)

 

東條が無事に逃げ切ってGS協会側に回収されたのはさっきの陰念の試合で見ている。だからその前提で話せるのは正直ありがたい。時間を短縮できるからだ

 

(良くは判らないけど特異点って奴の可能性があるらしいの。なんでも時間や歴史の改変をするのに必要な因子らしいわ)

 

時空の特異点である横島忠夫を探れというのがあたしに出された指令の1つ。結局はとんでもない爆発力のあるやつくらいしか判らなかったけどね

 

(歴史改変!?それがガープの目的なんですか?)

 

(知らないわ。あたしもそこまで信用されているわけじゃないし、とりあえず横島忠夫をガープに渡したら駄目。それだけは言えるわ)

 

歴史改変なんて大それたことあたしには理解できない、しかもその鍵が人間でしかも爆発力はあるが未熟なGSだというのだから二重で驚きだ

 

(それと香港で何かあるみたい、詳しくは知らないけどそんな話をしていたわ)

 

どうも日本の今回の事件を隠れ蓑にして香港で何かやっているみたい。どうせ碌な事じゃないと思うから気をつけて

 

(貴方は良い人なんですね)

 

(良い人じゃないけど、ちょっとした意趣返しみたいなものね。さ、これ以上はあたしも疑われるから本気でいくわ、悪いけど破魔札で吹き飛ばしてくれる?)

 

あえてダメージは受けたくないが、様子見をしていたという言い訳をする為に吹き飛ばしてくれる?とお願いすると破魔札と打撃を組み合わせて吹き飛ばしてくれる。さてとこれであたしのやりたいことはほとんど終わったようなものね……後はガープに一泡吹かせてやるとしましょうか

 

「ここからは本気で行くわよッ!」

 

魔装術を展開すると同時に神通棍が剣の形状に変化する、これ本当にどうなっているのかしら?別に便利だからそこまで気にしてる訳じゃないけど、やっぱり少し気になる

 

「魔装術は極めるとここまで美しくなるのよ、さぁ。覚悟して貰いましょうか」

 

近くに小竜姫がいることを確認しているから、直ぐに鎮圧に来てくれると思っていたら、本当に一瞬で現れた

 

「この試合ここまで!鎌田勘九郎!大人しくして投降するのならば、痛い目を見る事はありませんよ」

 

「神界・魔界正規軍共に貴方の身の安全を保障しましょう。さ、返答はいかに?」

 

小竜姫の隣に立つには同じく参加者の確か……聖奈とか言う横島と戦っていた女性だ。どうもあの人も魔族だったみたいね全然気付かなかったけど……これからどうするか考えていると

 

「御機嫌よう。人間の諸君……そして小竜姫、ブリュンヒルデ」

 

突然聞こえてきた声に背筋に冷や汗が流れる。この声は!?とっさに振り返ると、そこにはやはり人間に化けたガープが居た……予想よりも遥かに早い登場に驚愕した数秒の間にガープは両手から霊波砲を放つ。小竜姫がそれを両断するが、その瞬間爆発し

 

「っきゃあっ!?」

 

「くっ!?これは!?」

 

小竜姫ともう1人が霊波砲に吹き飛ばされ意識を失う。こ、これがソロモンの力……自分は技術者でそれほど強くないと言っていたが、まさかこれほどの力を持っているとは……

 

「聞こえてはいないと思うが、初めまして、そしてさようなら。私はソロモン72柱序列33番ガープ……君達に死を与えに来た」

 

金色の異形の姿となったガープの声が響いた瞬間。観客席の大半が意識を失い崩れ落ちるのを見て、あたしはガープの底知れぬ力に恐怖し、そして命を賭けても一矢報いることが出来るのかと激しい不安を抱かずにはいられないのだった……

 

 

 

開いた右拳を握りこみ内心で溜息を吐きながら、自身の右手首と壁に叩きつけられ意識を失っている小竜姫とブリュンヒルデを見下ろす

 

(あの程度の神を一撃で倒すことが出来ないですか……やれやれ)

 

人間界で行動するに当たり、研究中の魔力を押さえ込むアミュレットの実験台に自らなったのは良いがあまりに弱体化が過ぎる

 

(これでは精々上位魔族程度……まだ研究が必要か)

 

本来の私の能力ならば今の一撃で倒す事が出来た。しかし気絶させるだけで留まったとなると弱体化なんてレベルでなく弱くなっている。これから人間界をメインで活動することを考えるともう少し能力を開放出来るように調整しなければ……私が動いたことで間違いなく私を倒す事の出来る最上級神魔が動いてくることは確実、早く撤退しなければ

 

「勘九朗、そこの小娘を押さえておけ、後で回収する」

 

私が現れた事で気絶している芦蛍とか言う小娘を見ながらそう指示を出す。押さえ込んでいるようだが、霊力の中に魔力が混じっているのが判る。希少な先祖がえりをしている人間だ、回収しておく価値がある

 

「さて……御機嫌よう……横島忠夫、良い試合だった。実に楽しませて貰ったよ」

 

私が現れると同時に結界を張って隠れた一団の前に移動しそう声を掛ける

 

「……う、あ……」

 

ふむ。人間には弱体化している私の霊力でも相当なプレッシャーになるのか……結界の中にいるが何人かは気絶しているか、青い顔をして動く気配が無い、結界の中に居る人間を観察していると、幼くなってはいるが見覚えのある顔があった

 

(ほう?水神シズク……こんな所に)

 

必死に右手を押さえ込んでいるシズク。邪龍の系譜ゆえに私の魔力に惹かれて竜化仕掛けているのを押さえ込んでいるのか……

 

(賢明な判断だな)

 

私の魔力に惹かれて変化したのでは間違いなく暴走する。それを知っているから自分の力全てをつぎ込んで竜化を押さえ込んでいるのだろう。凄まじい表情で睨み付けているシズクをあえて無視する、確かに邪龍の力は魅力的だが、今はそれよりも優先するべきことがある。横島忠夫は……駄目だな。話す余裕は無さそうだ

 

(少しばかり話をしておきたかったのだがな)

 

見ただけではその人間の人格を理解することは出来ない、特に特異点と言う異質な存在の可能性があるのだから言葉をかわしておきたいと思ったのだがな……残念だが、それは次の機会に取っておくとするか……結界の中に隠れている一団を見て

 

「ほう……美神令子……ふむふむ」

 

「な、なによ!?私が何だって言うのよ!」

 

良いな、気が強い女は嫌いじゃない。そしてそんな女の顔が歪むのを見るのは私の楽しみだ

 

「君の祖父母は元気かな?」

 

私の言葉に意味がわからないという顔をしている美神令子と違って、唐巣とか言う神父は私の言いたい事を理解したのか

 

「まさか……お前かぁッ!!!お前が!「ああ、その通りだよ。チューブラーベル。それを美神令子の母親に植え付け……ヴラドーとか言う臆病者の吸血鬼に植え付け……ああ、そうだ今思い出した。ブラドーの妻の父を狂わせたのも私だ、人間と吸血鬼の理想郷などと言う戯けた事を言う魔族の面汚しに制裁を加える為にな」

 

結界の中に居る全員の顔色が変わる、それを見てさらに高笑いしながら

 

「良いぞ。その顔だ、私は人間のその顔が好きなんだ」

 

怒り、絶望、恐怖ありとあらゆる負の感情それを見ることが出来た。実に愉快だ、横島忠夫の肩が揺れる……ふむ、自分ではない誰かの為に怒るか。1番行動が読みやすいタイプだな……もう少し時間があるのならもう分析をしておきたい所だが、時間が無い……だが

 

(まだか……あいつめ、いつまで抵抗するつもりだ)

 

ビュレトをおびき出し、先祖返りをしている神宮寺くえすの確保。しかしまだ使い魔が帰っていないので相当梃子摺っているのか、遅延性の毒にしたのは失敗だったか……

 

「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は1人もいない。我が目の届かぬ者は1人もいない」

 

突然聞こえてきた聖句に顔を上げると長身の男がこっちに向かって飛び降りてくるのが見える

 

「綺礼!!」

 

綺礼?言峰綺礼か!?海外で傀儡を増やそうとする度に妨害してくれたその男が向かってくる

 

「装うなかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」

 

特に強烈な先祖がえりをしていた優秀な少女の奪取を妨害されたことを思い出し

 

「貴様にはここで消えて貰った方が良さそうだな」

 

飛び降りてくるなら好都合……迎え撃つまでだ。両手に魔力を集めて迎撃体制に入った所で

 

「「「キキィ」」」

 

神宮寺くえすを捕獲した使い魔達が戻ってくる。ぬう……もう少し後ならば綺礼を始末しておくことが出来る……だが二兎を追う者は一兎をも得ずと言う、両手に集めかけた魔力をそのまま魔力弾にして打ち出す

 

「ぬ、ぐおおおおおおッ!?」

 

詠唱を止めて両腕をクロスさせて防ぐ綺礼。少し魔力を霧散させた分威力が下がったか……直撃だったが、止めを刺すまでには行かなかった……大きく弾き飛ばされ、試合会場の外へと吹っ飛ぶ、だが殺すには至っていない、弱体化していることを考慮しても人間1人殺すことは出来ないとは……これは完全に失敗作だな

 

「さてとでは、ここら辺で失礼するとしようか」

 

目的は達した、これ以上この場に残ることに意味は無い。横島も回収しようと思っていたが、二兎を追う物一途も得ずと言う……長居は禁物だな、そう判断し指を鳴らそうとすると

 

「そうはさせない!!!」

 

「ぬっ!ちっ……鬱陶しい奴らめ」

 

気絶していた小竜姫が意識を取り戻し、神剣で切りかかってくる。ベストな状態ならばこの程度の攻撃どうと言うことは無いのだが、弱体化している今では脅威になりかねない。障壁でその一撃を弾くが

 

「アンザスッ!」

 

人間の姿から魔族の姿へと戻ったブリュンヒルデが連続で呪文を唱える

 

「ちっ!ルーン魔術か!?」

 

魔術ならば問題ないが、ルーン魔術となると話は別だ。私が修めている魔術と系統が違う、私が唯一習得することが出来なかったルーン魔術は私の天敵と言える。1対1なら呪文で迎撃するが、2対1となると詠唱している間に小竜姫に間合いを詰められる、だが負傷している事もあり、動きが鈍い。これならば転移出来る……そう判断し身を翻して交わすが

 

「甘いんだよッ!!!」

 

「ちっ!?ビュレトだと!?」

 

神経毒で動けないと判断していたビュレトが現れ剣を振り下ろしてくる。障壁は間に合わない……!?その一撃を肩に受けて試合会場に叩き落される

 

「ガープ様!」

 

駆け寄ってきた勘九朗の手を借りて立ち上がる。ぐっ、思ったよりもダメージが大きいな……どうも攻撃力だけではなく、防御力も相当低下していたようだ。肩ですんで良かったと言うべきだろうか……

 

「蛍さん。しっかりしてください」

 

「うっ……小竜姫様?」

 

勘九朗が人質にしていた芦蛍を小竜姫に取り返されたか……しかも3対2……一気に状況が不利になったな

 

「人質は取り返した。形勢逆転だな」

 

剣を肩に担いでいるビュレトがそう言い放つ。なぜ動ける、間違いなく神経毒でビュレトは完全に封じたはずだ

 

「なぜ動ける、お前は完全に無効化したはずだ!」

 

「敵に教える馬鹿はいね……ごふっ!?」

 

ビュレトが吐血し崩れ落ちる、それをとっさにブリュンヒルデが受け止め

 

「無茶をなさらないでください。自分の体内で魔力を炸裂させるなんて真似をしているのですから」

 

「うっせえ……余計なことを言うんじゃねぇ」

 

なるほど……私の神経毒を流す為に……とんだ無茶をしたものだな。まぁビュレトらしいと言えばビュレトらしいが……

私の張った結界も解除され、意識を失った人間が目を覚ましていく。人間程度脅威とは思わないが、数で押してくると面倒だな

 

「人質が居ないというのは些か早計だな」

 

指を鳴らし魔法陣を展開する。そこから意識を失った神宮寺くえすが現れる

 

「神宮寺さん!?」

 

観客席から横島忠夫がその名前を叫ぶが、神宮寺は反応を返さない。反応を返せるわけが無い、今私の魔術で人間から魔族へと変貌しているのだからな……

 

「てめえ。やっぱりそいつを狙っていやがったか」

 

ビュレトが凄まじい眼光で睨み付けて来る、こういう甘さがビュレトの良い所であり、欠点だ

 

「当然だ。お前の魔力を宿している人間の一族を見逃す訳が無いだろう」

 

同じ気配をしているのだから直ぐにわかった。一時期ビュレトが人間界で囚われていた時期があった、その時に人間と契約したのだろう。その血脈が続いている、しかも先祖がえりをしていて強大な魔法使いでもある。狙わない訳が無い

 

『落ち着いて避難して下さい、慌てずに落ち着いて試合会場から避難して下さい』

 

目を覚ました人間が避難するように叫ぶ。ぎゃあぎゃあっと鬱陶しいな……しかもこのままでは横島忠夫にも逃げられてしまうか……横島忠夫も捕獲もしくは血液を入手する予定で、血液は入手したが、やはり本人も捕獲出来るなら捕獲しておきたい、ここで逃げられる訳にはいかない

 

「予定より早いが仕方ないな」

 

アシュタロスに用意して貰った火角結界を展開する。それを見たビュレトの顔色が変わる

 

「しまった!?私達も閉じ込められた」

 

観客席から聞こえてくる美神令子達の悲鳴を聞いた小竜姫の顔色が変わる。逃げてもらおうと思っていた相手が再び捕まった。これでまた人質が出来てしまった……再び自分達が不利になったと言うことを悟ったのだろう

 

「さてこれで新しい人質と爆弾を用意した訳だが?」

 

「正気かてめえ。お前も巻き込まれるんだぞ?」

 

はっ、ビュレトらしくないな、私がそんな愚作をするわけも無いだろう

 

「自分が逃げる手段くらい用意しているさ、さあ!美神令子!横島忠夫!お前達も降りて来い。断ればどうなっているか判っているだろうな」

 

逃げる算段をしている美神令子達にこちらに来るように叫ぶ、凄まじい形相で私を睨んでいるビュレトに

 

「形勢逆転だな。大人しく諦めたらどうだ?」

 

起動し時間を刻み始めた火角結界を見ながら、私は余裕を持ってビュレト達にそう問いかけるのだった……

 

 

火角結界が展開された試合会場から逃げ惑う人間の中をゆっくりと歩く漆黒のマント姿の男。都津根だ……彼もまた係員に避難するようにと試合会場から出されたのだ、だが周りの人間が悲鳴をあげながら逃げる中、彼は歌うように何かを呟いていた

 

『魔に操られし蒼き拳と翡翠の拳ぶつかる時、その音こそが終焉を告げる鐘となる』

 

不思議なことに都津根の周りの人間は都津根を避けるようにして駆けていく。その様子は都津根の存在を認識していないように思えた

 

『邪悪にして無垢。無垢にして妖艶……原初の魔人姫が蘇る時は迫る』

 

都津根はそう告げると肩を竦め、大きく溜息を吐きながら

 

「やれやれ、黒いのと白いの予言は判り難くて叶わん、おかげで1000年近くも人間界で過ごす事になったぞ」

 

1000年。その言葉が意味する通りなら都津根は人間ではないと言う事になる。都津根はそのまま試合会場の外れへと歩いて行き、被っていたマスクに手を伸ばす……マスクの下には目も鼻もない、その代わり漆黒の窪みだけがあった……マスクの下には骨しか存在していなかった……

 

「さ、行こうか。姫の目覚めの準備をしなければ」

 

【ブルルルルルッ!!!】

 

突如現れた巨大な怪馬に跨った都津根と名乗っていた骸骨はそのまま溶けるように消えていった……

 

もしここに神魔が居たのなら彼の正体に気付いただろう

 

かのものは絶対なる死の具現

 

かつて神魔の両方を相手取り、数多の神を屠った強大なる魔人

 

「さぁ行こう。全ては我らの姫の思うがままに」

 

【ヒヒーンッ!!!】

 

魔人ぺイルライダー。ヨハネの黙示録に名を連ねる4騎士が1人、そして今なお活動している唯一の魔人……それが都津根の正体であり、こうしてGS試験に参加していた……そしてそれが意味するのは魔人の活動が再び始まったと言う証なのだった……

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その15へ続く

 

 




次回でリポート25を終わらせるように頑張りたいと思います。まだまだ書きたい話があるので150話を過ぎるかもしれないですね……ちょっと見積もりが甘かったかなと反省中です。ただまだまだ盛り上がる所もあるので、どうなるのか楽しみにしていてください!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その15

どうも混沌の魔法使いです。今回はガープをメインに書いていこうと思っています、第一部最後に相応しいように盛り上げていこうと思っているので、今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その15

 

全身に走る激痛に顔を歪める、ガープの神経毒を押し流す為に剣を突き刺して魔力を身体に流し込んだ。そのおかげで毒を押し流すことが出来たが、その代償はあまりに大きかった

 

(左腕は完全に死んだな、それと……中もだいぶイカれたか……)

 

剣を突き刺した左肩を中心に感覚が無い、それと臓器のほうもだいぶ損傷を受けている。さっきから息がし辛い、それに目の前も歪む。それでも歯を食いしばり平気そうな顔をする

 

「自爆テロか?止めとけよ、ハッタリは」

 

「は!そう言う貴様もやせ我慢は辞めたらどうだ?」

 

カウントを進めている火角結界のカウントは400……ずいぶんと長い時間で設定してある。これは本来10秒やそこらで起動するものだ、400なんて長時間でセットするなんて事はありえない

 

(ビュレト様。ハッタリでは?)

 

ひそひそと話しかけてくるブリュンヒルデに違うと断言する。こいつはハッタリで火角結界なんて持ち出さない、出した以上は間違いなく爆発させる。だがその対象に自分をも巻き込んでいるのがありえない、安全圏で発動するならまだしも、自分も結界の対象範囲にいれるなんて愚の骨頂である

 

(なにかあるのかもしれねえな……)

 

自分だけは助かるような何かを用意している可能性は十分にある。それに態々横島忠夫達まで結界の中に取り込んだのも何か理由があるのかもしれない、それに何よりも

 

(くえすが危ねぇ)

 

魔法陣の中に閉じ込められているくえすの方が危険だ、今こうしている間もくえすが魔族へと変化させられている……もしくえすが魔族になってしまえば、俺の魔力を十全に扱えるようになるだろう。そうなれば向こうの戦力が増す、なんとかして奪還したいが、その隙が無い。魔装術を展開した奴が魔法陣の近くに陣取っているのもあるが、ガープに背中を向けることの危険性を考えれば、強引にくえすを助けるなんて事も出来ない。どうするか考えているとガープが俺の後ろを見て

 

「ああ、死にたくないなら死に物狂いで足掻くが良いさ、私は助かるからな。君達が苦しむ姿を最後まで楽しむとしよう」

 

結界を調べている美神達にそう声を掛け瓦礫に腰掛けるガープ。俺の剣が貫いた左肩が痛むのか庇う仕草は見せているが、浅いのは俺が1番判っている、間違いなく動くと見て間違いないだろう

 

「下手に動くなよ?指が滑るかもしれないからな」

 

機械を手にしているガープ。おそらくカウントを無視して起爆する為の機械だろう……これで動くことが出来なくなった……

 

「さて、少し話をしようか、人間の愚かさについてな」

 

にやりと笑い話し始めるガープに対して俺が出来たのは睨みつける事だけだった……

 

 

 

『ああ、その通りだよ。チューブラーベル。それを美神令子の母親に植え付け……ヴラドーとか言う臆病者の吸血鬼に植え付け……ああ、そうだ今思い出した。ブラドーの妻の父を狂わせたのものに私だ、人間と吸血鬼の理想郷などと言う戯けた事を言う魔族の面汚しに制裁を加える為にな』

 

美知恵君の両親に……先ほどガープが告げた言葉。腸が煮えくり返るほど熱くなっているのに、それに対して嘘の様に頭が冷えている、それはきっと真実を知っているであろう私に対して、何も問いかけてこない美神君の姿があるからだろう

 

「唐巣先生!そっちはどうですか?」

 

反対側の結界の基盤を調べていた美神君の言葉にハッとなり、中断していた調査を再開する

 

「こっちは外れだ!次に移る」

 

火角結界は指示を出す1枚の基盤を元に10枚前後展開される。指示を出す基盤を見つけることが出来れば解除できる可能性はある、だがこれだけ巨大で、しかも人の心を惑わすガープだ。見つけたとしても認識できない可能性もある

 

「じゃ、今度は私が見るワケ」

 

小笠原君の言葉に頷き隣の基盤に移る。その時に聞こえてきたのはガープの言葉だ

 

「人間は愚かだ、些細な事で同族を迫害し、殺す。全く持って愚かだよ。長い間人間の心を見てきた私だから言える、人間は滅びたほうが良い種族だ」

 

何を勝手なことを言っていると叫びたかった、だが今はなんとしても結界の元を探して脱出することを優先しなければならない

 

(横島君や蛍君を助けなければ……)

 

結界の基盤を探しているのは私と美神君、それと小笠原君と3人はっきり言って効率が悪いが、知識が無い横島君には解体なんて出来るわけもないし、それになによりも意識を失っている蛍君を心配している横島君を引き離すのは可愛そうだ

 

(出来ればシズク君には手伝って欲しかったんだがな)

 

しかしそのシズク君も明らかに不調と言う感じであり、手伝いを強要するのは気が引けた

 

(くそ……こんなことを考えている場合じゃないというのに!)

 

避難誘導してくれている琉璃君がいるのがせめてもの幸いか……

 

「唐巣先生、場所交代してください」

 

「あ、ああ」

 

美神君の言葉に頷き場所を交代する。てきぱきと結界を調べている美神君を思わず見ていると

 

「今は何も聞かないです、祖父母とか言われても私は認識があるわけじゃないし、ママの事も私に話さなかったのは何か理由があるんですよね」

 

美神君の問いかけに思わず硬直してしまう。美神君はそんな私を見て

 

「気になるといえば気になりますけど、今は助かることだけ考えましょう。小竜姫様も動けないみたいですし……」

 

完全に硬直状態になっている小竜姫様達の方を見て呟く美神君にそうだねと返事を返し、結界の調査をしていると

 

(美神さん、唐巣神父)

 

小声で話しかけてくる蛍君の声が聞こえて振り返ると、まだ青い顔をしているが蛍君が姿勢を低くし、ガープに見つからないように私と美神君の方に来ていた

 

(蛍ちゃん。大丈夫なの?)

 

美神君が駆け寄って蛍君に尋ねると蛍君は小さく頭を振りながら

 

(まだ頭がぼーっとしますけど、大丈夫です)

 

大丈夫と言っているが、その顔は青くとても大丈夫そうには見えない。美神君もそう思ったのか

 

(無理をしないで横島君のほうに戻りなさい、結界の方は私達の方で何とかするから)

 

(その通りだよ、蛍君は戻って休んでなさい)

 

私と美神君で戻るように言うが蛍君は小さく首を振って

 

(私……これ何とか出来ると思います)

 

何だって?私と美神君が驚いて顔を見合わせている間に蛍君は私と美神君の間にある結界の前に立って

 

(多分……ここです)

 

そう呟いて霊力を込めた手刀を振るった。するとガコンっと言う音を立てて結界が開く、其処には私達が探していた結界の基盤があった

 

(凄いじゃない!蛍ちゃん!)

 

美神君が駆け寄って青い顔をしている蛍君を抱き止める。確かにこれは凄い、これで火角結界を解除出来るのだからガープの策は無力化出来たも同然だ。ハンドサインで小笠原君に戻る様に合図を出すと直ぐに小笠原君が戻ってきて、開いている結界と蛍君を見て

 

(本当。令子より先にスカウトしたかったワケ)

 

疲れた表情でそう呟く、ここ1番の粘り強さ、そして運の良さ、どれを見ても優秀なGSの卵と言えるだろう

 

(い、いえ……そ、そんな)

 

私達に褒められているのが恥ずかしかったのか、赤い顔をしている蛍ちゃんが小さく手を振る。だがこれは本当に凄い事だと言える、後は結界を解除して小竜姫様達に攻撃出来ると言う合図を出そうとしたした時

 

「……勝手な事言うんじゃねぇぇッ!!!!」

 

横島君の怒声が聞こえ、振り返ると横島君が拳を握り締めてガープへと駆け出していた……

 

 

 

火角結界を張り、あえて無駄話を聞かせていたのには意味がある。この程度の言葉でビュレトや美神令子が動揺するとは思ってなかった。これは全て横島忠夫を動かす為だけに聞かせていたのだ

 

「……馬鹿!横島戻れッ!!」」

 

私の魔力に当てられて動くことがシズクが戻るように叫ぶが、言葉だけで横島忠夫は止まらない。私の言葉を否定するには横島は若すぎる、例え身体を抑えられてもそれを振りほどき私に向かって来ていただろう、霊力も篭っていない拳を握り締めて走ってくる。そんな攻撃など片手で弾くだけで防ぐ事が出来るし横島忠夫を殺す事だってが出来るが、殺してしまっては意味は無い。障壁を張ってその拳を止める、ついでにだが横島を回収されては意味が無いのでビュレト達が近づけないように結界を同時に展開する

 

「ぐっ!横島さん!戻って!殺されてしまいます!」

 

小竜姫が誰よりも先に叫ぶ、その顔は動揺と横島忠夫が死ぬことに対する恐怖の色が浮かんでいて

 

(ふむ、これは面白いな)

 

あれは確実に横島忠夫に想いを寄せている。いや、小竜姫だけではないか……

 

「横島!戻って!死んじゃうから!お願いだから戻ってッ!!!」

 

いつの間にか意識を取り戻していた芦蛍が戻るように叫ぶ。ここで横島忠夫を回収して洗脳するだけで何人かは攻撃を躊躇うな……精神操作をするのも完全に精神操作をしてしまうのではなく、元の記憶や感情を残した方が精神的ダメージを与えることが出来そうだな

 

(まぁまずは横島忠夫を捕まえてからだな)

 

これで特異点も確保できたな……人格を知らないから精神操作は難しいが、洗脳する事が出来れば、あらゆる陣営に精神的ダメージを与えることが出来る武器を手にする事が出来ただけで十分か、後で少しずつ調整していけば私の求める役割を十分に務めてくれるだろう

 

「ぐあっ!う、うわああああああああッ!!!」

 

障壁にぶつかり、拳を突き出した体勢のまま横島忠夫を見る、どうせ気絶しているだろうがなと思い目を向けて驚いた

 

(目が死んでいない……だと)

 

私の魔力で出来た障壁からの衝撃で意識を失って当然なのに、まだ目が死んでいない。しっかりと地面を踏みしめ、前に進んでくる横島忠夫を見て本気で驚いた。もう精神的にも肉体的ダメージの事を考えても気絶してもおかしくないというのに……

 

「……せっ」

 

「なんだ?」

 

「ブリュンヒルデ!早く結界の解除を!このままでは横島さんが!」

 

「待ってください!結界破壊は難しいんです!」

 

「ええい!どけッ!俺が破壊するッ!!!」

 

小竜姫がブリュンヒルデに詰め寄ってそう怒鳴り、ビュレトが怒号の中剣を振り下ろしているせいでよく聞こえないが、何かを呟いてる

 

「……えせ……」

 

小さな声で何かを呟いている横島忠夫の言葉に意識を集中する

 

「……神宮寺さんを……返せッ!」

 

私に殴りかかろうと右拳を突き出す、だが霊力も篭ってない拳で……そもそも人間が私の障壁を貫けるわけが無い。だがその目と闘志を見てこのままでは不味いと本能的に悟った。この手の人間の危険性は知っている……殺さなければ後で治療は出来る、左手を横島忠夫に向けようとした瞬間

 

「そうはさせないわよ」

 

耳元で聞こえた声、そして首に絡まる腕……あまりに予想通り過ぎて思わず失笑してしまった

 

「やはり裏切ったか」

 

「あら、裏切ったつもりは無いわよ。最初からあたしは貴方に忠誠を誓ったつもりなんて無いわ」

 

魔装術を展開した勘九朗がそう呟く、ああ、それも判っていた。だからここで処理しておくとしよう

 

「なら死んでおけ、お前に私の足止めなど出来ない」

 

全身から魔力を炎へと変換し噴出する。かつてベリアルから教わった術だ、漆黒のその炎は一瞬で勘九朗の全身を包み込む

 

「あ、ぎゃああああああああッ!!!!」

 

魔装術が焼けて苦悶の悲鳴を上げるが、私を押さえ込み続ける。馬鹿な!?精神と肉体の同時を焼く炎にどうして耐えることが出来るというのだ

 

「あたしはねえ!!!白竜会の長兄よッ!自分の家族を玩具にされて黙ってられるものかッ!!半端者の意地を舐めるんじゃないわよッ!!!」

 

精神が肉体を凌駕するという甘いものではない、文字通り魂を燃やして私の炎に対抗している。輪廻転生の輪から外れる覚悟をしている、覚悟を決めた人間は強い。文字通りその命を燃やして奇跡を起こす。数秒と言う時間を横島に与えた、そしてその数秒が私の命運を分けた

 

「……お、おおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

(ば、馬鹿なッ!?)

 

その一瞬の動揺。そして横島忠夫から目を逸らした一瞬……その一瞬で信じられない事が起きていた

 

「神宮寺さんを返しやがれええええッ!!!!」

 

真紅に輝く双眸。そして鈍い輝きを放つ黒い篭手に包まれた右腕……しかし何よりも私の目を引いたのは、背中から噴出している翼を思わせる漆黒の魔力……

 

(先祖がえりだと!?いや、ありえない!?なんだこれは!?)

 

人間が霊力と魔力を同時に発するなんて事はありえない。霊力に魔力が混じるのは判る、だが両方同時に発するなんて事はありえない。ありえてはならない

 

「え?どうして横島から魔力が……」

 

「こいつは……俺の……魔力だと!?いや……今はどうでも良い!ブリュンヒルデ!次の一撃を全力で叩き込める様に俺にルーンを使えッ!」

 

漆黒の魔力を見て、あちこちから動揺する声が聞こえてくる。私自身も動揺し、そして避ける事と防御することを完全に忘れた……

 

(くそ!もう間に合わん!)

 

仮に間に合ったとしても腕を押さえられているので魔術を使うことも出来ない、かと言って転移することも出来ない。全ての敗因は人間の意地を計算に入れていなかった私のミスだ。そう気付いた時にはもう遅かった。限界まで引き絞られた右拳が迫ってくる、とっさに歯を食いしばり、意識が飛ばされないように身構える

 

「がっはぁッ!!!!」

 

顔面に突き刺さる漆黒の拳。そのあまりの激痛に意識が飛びかける、だがその衝撃で私を押さえ込んで勘九朗も吹き飛ぶ

 

「……ッ!計算外だったが、それもここまでだ」

 

自由になった両腕で魔術を行使しようとした瞬間。横島忠夫の背中の魔力の翼からさらに魔力が噴出し、拳を振り切ったままの体勢の横島が弾丸のように突っ込んでくる。不味い、これは不味い!とっさに魔力障壁を展開出来たのは本当に本能としか言いようが無い

 

「滅殺の……ファイナルブリッドッ!!!」

 

地面を抉りながら放たれたアッパーが私の障壁を貫き、腹に突き刺さり上空高く殴り飛ばされる

 

「がっはああ!?」

 

い、息が出来ない……意識を失うだけのダメージだったが、腹を抉られた事で死ぬほど苦しいのに、意識はやけにハッキリしていた。

 

「神宮寺さん!」

 

もう私に興味は無いと言わんばかりに神宮寺くえすを覆っていた魔法陣を破壊し、倒れてくる神宮寺くえすを左手で掴み自分のほうに引き寄せる横島忠夫の姿……

 

(しかたあるまい)

 

ここで殺してしまうのは惜しいが、このままほっておくとどこまで成長するか判らない。横島忠夫の危険性を理解し、ここで殺す事を決め呪文の詠唱をしようとした瞬間

 

「ガープゥゥゥッ!!!!」

 

近くから聞こえてきたビュレトの怒声に振り返る、それが全ての間違いだった

 

「火精招来!くらいなさい!」

 

「アンサズッ!!」

 

下から放たれた小竜姫の火炎放射とブリュンヒルデの火のルーン魔術の直撃を喰らい、悲鳴を上げる間もなく炎に包み込まれ、周囲の酸素が燃え呪文を詠唱することが出来ない、その致命的な隙をビュレトが見逃す訳も無く

 

「くたばれぇぇッ!!!」

 

ルーン魔術で強化されたビュレトの一撃が胴を貫く、そこからビュレトの魔力とルーン魔術が流れ込んできて、全身がバラバラになりそうな痛みが走る、しかもビュレトの攻撃はそれで留まらず

 

「おおおおおッ!!!」

 

両手を頭の上で組み、渾身の力で振り下ろす。ルーン魔術のブーストを受けたその両拳の凄まじい威力に意識が飛びかける

 

「ぐはああっ!?」

 

トドメだと言わんばかりに投げつけられた剣。とっさに回避したが、右肩を貫かれた。だがその痛みのおかげで途切れかけた意識がはっきりとしてくる

 

「ぐう……殺してやる!!!」

 

痛む両肩に眉を顰めながら、右手をビュレトに向かって突き出した瞬間。背筋に氷を突っ込まれたような恐怖を感じた

 

「貴様が死ね、かつての配下の不始末は我がつける」

 

「ぐ、ぐはああああああああああああッ!!!!」

 

目の前に現れた魔法陣からあふれ出した蒼い炎。そして魔法陣の後ろで腕を組む緋色の髪を持つ魔神の姿を見たのだった……

 

 

 

突如私達の前に現れた緋色の髪をした男を見た瞬間。私が見たのは自分が死ぬ光景だった……何をしたわけではない、ただその場に立っているだけなのに死を感じた、思わずその場で膝を付いて倒れこんでしまった。私は半分魔族だったから意識を保つことが出来たが、美神さんや唐巣神父はその圧倒的な魔力に耐えることが出来ず、意識を失ってその場に倒れてしまった。幸いな事に離れていた横島やエミさんが意識を保っていてくれた事が不幸中の幸いだと言えるだろう

 

「あ、ああああ……アマイモン閣下ッ!?!?」

 

ブリュンヒルデさんの悲痛にも似た悲鳴が試合会場に響く、あ、アマイモン?……それって確かエノクの書に名前を刻まれた最上位の魔神!?

 

「オーディンの娘か、我がここにいることは不問とせよ。その代わりに……ガープは我が潰す」

 

組んでいた腕を解き拳を握り締めたアマイモンがガープに向かって

 

「かつての配下だ。その不始末……我がつけるが道理。これだけはほかの誰にもさせん」

 

力強く地面を踏みしめ、そう呟くアマイモンの目には僅かな悲しみの色が見て取れた。それはかつての部下を自分で始末しなければならないことに対して悲しみを感じていたからかもしれない。小竜姫様とビュレトさんも何か言いたげだったけど、アマイモンに任せることにしたのか2人とも剣を納めてガープから離れた

 

「くっはははは!!!!剣も鎧も持たず、私に勝てると思っているのか!アマイモン!衰えた今の貴様など恐れるに「……遺言はそれだけか?」ぐはあッ!?」

 

ぜ、全然見えなかった……アマイモンは一瞬で間合いを詰め、ガープの頭を鷲づかみにして地面に叩きつけていた

 

「ああ、確かに我は衰えたな、身体も重い、思うように動けんさ」

 

「ぐふっ!?」

 

無造作にガープを蹴り上げながら呟くアマイモン。こ、これで鈍っているっていうの……全盛期がどれだけの脅威だったのか想像も出来ない

 

「だがお前を滅することなど他愛ないのさ」

 

空気が爆発するような音が響き、ガープの苦悶の悲鳴と強烈な打撃音だけが試合会場に響く

 

「ぐっふう……ば、馬鹿な……これほどの力を……未だに保っているだと……」

 

結界に背中から叩きつけられたガープが大量の血液を吐きながら、信じられないと言う様子で呟く

 

「格が違うんだよ、ガープ。分不相応な想いを抱いたな、だがそれもここまで潔く死ね」

 

倒れているガープに向かって腕を伸ばすアマイモンだったが、その腕を止めて顔を上げる。それにつられて顔を上げると火角結界のカウントが残り5秒になっていた、慌てて火角結界を停止させる。

 

(お父さんの馬鹿……は。恥ずかしいじゃないの……)

 

どうして私がすぐに結界の制御装置を見つけることが出来たかと言うと、これでもかって目印があったのだ。しかも……私と横島の名前を書いた相合傘の下に制御装置だよ?と書いてあった。もう恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、そのおかげで結界を解除できたと考えるとお父さんを責める事も出来ない

 

「ふ、ふふふふ……こうなったのなら全てを巻き込んで自爆するだけだ。後は全てアスモデウスに任せれば……ば、馬鹿な!?」

 

多分ガープの敗因はお父さんを頼ったことだと思う。そうでなかったのなら、私含め全員が死んでいたかもしれない

 

「何をしでかすつもりだったかは判らんが……死んで詫びろッ!ガープッ!?!?」

 

トドメと言わんばかりにアマイモンが腕を振り下ろした瞬間。アマイモンの右腕が肩から消え去った……斬られた訳ではない、かと言って魔術を使ったわけでもない、唐突にまるで最初から存在しなかったかのように消え去ったのだ。一瞬呆けたアマイモンだったが、直ぐにその激痛に気付き、肩を押さえ、苦悶の表情で蹲るアマイモンを見たブリュンヒルデさんが慌てて駆け寄り

 

「閣下!お気を確かに今治療を」

 

凄まじい流血をしているアマイモンに駆け寄り、治療を始めようとしたブリュンヒルデさんだったが、アマイモンは青い顔で脂汗を流しながらも強い口調で

 

「良い、我よりもガープの討伐を優先しろ!なんの為にお前が派遣されていると思っているッ!この愚か者がぁッ!!!」

 

1番ガープに近かったブリュンヒルデさんがアマイモンに駆け寄るが、アマイモンはそれを振り払い、ガープに向かえを叫ぶ。だがそれはあまりにも遅かった、小竜姫様が、ビュレトさんが慌ててガープへと迫るが遠すぎた。時間にしてそれは僅か数秒にも満たない時間。だがガープが逃げるには十分すぎる隙だった、アマイモンから離れたガープはボロボロの様子だったが、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 

「はぁ……はぁ……危なかった。い、今のは危なかった……」

 

肩で息をしているガープの体が……いや、違う、ガープが立っている周辺が消えていく……

 

「待て!ガープッ!」

 

ビュレトさんがガープへと手を伸ばすが、伸ばした先から粒子となって消えていくのを見て慌てて手を引くビュレトさん。なにが起こっていると言うの……目の前で起きている現象に思考が完全に停止した

 

「くっははは。全てを消し去る亜空間……お前達には触れることも出来まい……計画が妨害されたのは癪だが、アマイモンの右腕を奪った……そう考えれば今回は失敗ではなく、成功だったと言えるだろう」

 

下半身から消えていくガープ、トドメをさせる。だが近づく事が出来ないので逃げるのを見ていることしか出来ない。小竜姫様やビュレトさんの顔が歪んでいる。出来る事なら、この場でトドメを刺したかっただろう、そうすれば敵のブレインが消え、圧倒的に神魔側が有利になるのだから……

 

「くくくっ!では御機嫌よう……いずれまた会おう」

 

勝ち誇った笑みを浮かべ、消えていくガープを倒す事も、捕らえる事も出来ず。笑いながら消えていくガープを見ていることしか出来ないのだった……

 

 

 

完全に私達の負けだった……私は目の前の惨状を見て歯を噛み締めた。救援に来てくれたアマイモン閣下は右腕を失い、ビュレトは身体の中がボロボロでさっきまでは動き回っていたが、今は意識を失っている

 

「ブリュンヒルデ、シズク……治療はどうですか?」

 

私は治癒の術などは殆ど知らない、出来て応急処置程度だ、ここまで重症の相手を診ることは出来ず、シズクとブリュンヒルデに治療の経過を尋ねる。2人の表情は険しい物で

 

「……ビュレトだったか、こいつはしばらく安静だな。骨が折れて臓器がズタズタだ。よくここまで動いていた」

 

「アマイモン閣下は重症ですね。恐らく2度と前線に立つことは出来ないでしょう」

 

2人の診察結果に思わず私は眉を顰めた。アマイモン閣下は神魔混成軍のまとめ役をやっていた、そんな大将格の負傷。そしてガープに対抗する為に行動してくれていたビュレトも行動不能。死者が出なかったのが幸いだが、客観的に見れば私達の敗北だろう。私はガープを数秒とは言え、足止めしてしてくれた鎌田勘九朗の近くにしゃがみ込んで、彼の様子を見ることにした。ブリュンヒルデとシズクに見せる前に簡単でも応急処置をしておこうと思ったのだが……

 

(これは酷い)

 

魔装術で耐えた事で余計に酷い怪我をしている、正直ここまでの重傷を負ってしまっていたら、助けることが出来ない……シズクとブリュンヒルデに見せても結果は同じだろう、両手足が完全に炭化し、顔もケロイド状の火傷に負われている、魔装術があったおかげで生きて居るが、それのせいでもう助かる可能性は無いというのに生きている……どうすれば良いのか悩んでいると

 

「小竜姫、鎌田勘九朗はどうなった?死んでおるのか?」

 

ドクターカオスがマリアさん達を連れて、こっちに降りてくる。鎌田勘九朗……彼が居たから、神宮寺くえすを助ける隙が出来た。でもその対価として彼はもう瀕死の状態できっと神魔でも助けることが出来ないという状況だ

 

「は……はっ……はっ」

 

全身大火傷では仮にブリュンヒルデとシズクが治療してくれたとしても、助けることが出来ない。ただ死を待つだけの状態だ

 

「まだ生きておるんじゃな?それなら治しようもある。勘九朗はワシが引き取る」

 

治す?この状態からどうやって助けることが出来るというのか、私の視線に気付いたドクターカオスは

 

「本人の意志しだいじゃが、マリアとテレサの有機ボデイの試作が残っておる。それに魂を移し変える」

 

人道に反する行いだ、生きている人間を人形の身体に移すなど神の末席に名を連ねる者としては許すことの出来ない行いだ。だが……彼はたった1人で頑張った。そんな彼が報われないまま死んでいい物なのだろうか?そう思えば、私はドクターカオスを止めることが出来なかった

 

「彼をお願いします」

 

「うむ、任された。マリア、テレサ、揺らさないようにそっと運ぶんじゃ」

 

担架で運ばれていく鎌田勘九朗を見ていると、それと入れ違いで琉璃さんがこっちに降りてくる

 

「小竜姫様、美神さん達は?」

 

避難誘導をしてくれていた琉璃さんが試合会場に来て、私にそう尋ねてくる。私が美神さん達が居る方向を見ると、吊られて琉璃さんもその方向を見ると

 

「よがったぁッ!!!ありがどうッ!!たずがっでぐれで!!ありがどうッ!!」

 

「え、え……え……ど、どういうことですの!?」

 

神宮寺くえすを抱きしめて号泣している横島さんとそんな横島さんと神宮寺くえすを見て、蛍さんとおキヌさんがどす黒い瘴気を撒き散らしている

 

「……み、美神さん。私あの人殺しても良いですかね?」

 

【凄く……嫉ましいです。呪い殺したいほどに】

 

「落ち着きなさい!今はそんなことをしている場合じゃないのよ!?」

 

あんな事件の後だというのにいつも通りの雰囲気の蛍さんとおキヌさんには正直脱帽です。今はとてもそんなことをしている状況じゃないというのに……美神さんが必死で落ち着かせようとしているが、全く効果が出ていないのが判る

 

「小竜姫様。どうして助けた横島君の方が泣いているんですか?」

 

そう尋ねられた私は横島さんの性格を考えてから、私の見解ですがと前置きしてから

 

「横島さんは自分の無力さを知っています。それに彼は優しい人です、例え敵対していても助けたいと願うほどに」

 

横島さんのいい所はその優しさだと思う。誰に対しても平等で、神族だから、魔族だからといって偏見を持たず、自然体で接してくれる。そしてその優しさがあるから、誰とでも仲良くなることが出来る。

 

(でもその優しさゆえに力を求めてしまうんですね)

 

人の心の痛みに共感できてしまうから、助けてあげたいと思うから力を求める。でも今の横島さんは力が無い、助けたいと思っても行動することが出来ない、だからきっと

 

「初めて自分の力だけで助けることが出来た、それがきっと嬉しくて、誇らしいんですよ」

 

神宮寺くえすも自分が助けられられたと言うことを理解したのか、優しい笑みを浮かべて

 

「ええ、ありがとうございます。私は貴方に助けられました……」

 

号泣している横島さんの背中を撫でてニヤッとした顔で蛍さん達を見ている、それが余計に蛍さん達の怒りに油を注いでいる。あの反応を見る限りでは、相当横島さんを意識しているのが判る

 

「本当横島君って凄い人たらしですね」

 

「そうですね、でもそれがきっと横島さんの良い所だと思いますよ」

 

きっと今回のことで彼女も横島さんに惹かれるようになるでしょうねと苦笑しながら、ガープがあれだけ動いても奇跡的に死傷者が出なかったことに感謝し

 

「ブリュンヒルデ。私は一度妙神山に報告に戻ります、後はお願いします」

 

治療が出来ない私がここにいても意味は無い、それよりも老師達に今後の指示を仰いだほうがいいと判断し、ブリュンヒルデにこの場を任せ妙神山へと戻るのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その16へ続く

 

 




次回で第一部完結となります、この後は外伝と言うことでオリジナルの話を少しと映画の話を書いてから第二部の話に入って行く予定です。次回はギャグメインで書いてみたいと思っています、アシュ様の絶叫とかそう言うのを



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その16

どうも混沌の魔法使いです。今回で本線の話は終わりとなり第一部完結となります、各サイドの視点の話とかをやって終わりで、この後は日常話的な外伝の話をいくつかやって、第二部GS免許取得後の話を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その16

 

下界から戻った小竜姫の報告を聞きながら、ワシはキセルの灰を落とした

 

「横島が魔力をなぁ……ありえん話じゃな」

 

ふうーっと大きく紫煙を吐き出す。ルシオラと融合していた時でさえ、横島が魔力を使う事は無かった。過去のしかもまだ未熟な横島が魔力を扱うというのはどう考えてもありえない話じゃ

 

「それと考えにくいのですが、ビュレトと同じ魔力だったそうです」

 

「なおの事ありえん話じゃな」

 

ソロモンの魔神の魔力を人間が扱う。報告を聞くだけではとてもではないが信じられる話ではない

 

「この件はワシのみの報告とせよ。竜神王にも報告をすることは許さん、最高指導者にはワシから報告しておく」

 

竜神王はよく頑張っている、それはワシも認めよう。だが竜神と言うのは総じて正義感が強い、魔族を許さないという過激派思考が多すぎる。今は上手く竜神王がやっているが、もし横島がソロモンの魔力を使うと知られたら一部の過激派竜族が何をしでかすか判らない。ならば横島の件はワシや小竜姫、逆行してきた者だけの胸の中に留めるべきじゃろう

 

「判りました、そうして頂ければ安心できます。私は……横島さんが悲しんだり、傷ついたりするのはあまり見たくありません」

 

現在の小竜姫の言葉に驚く、かなり横島に友好的なのは知っていたが、今の言葉には僅かにだが、横島を想う気持ちが込められている

 

(人外たらしと言うべきか、それとも人たらしと言うべきか……なんとも面白い男じゃなあ)

 

未来の横島も面白い男であったことは間違いない、だが過去の横島もまた面白い男だ。この調子でいけば、もしかすると未来よりもさらに横島の争奪戦が激しい物へとなるかもしれんなと苦笑しながら

 

「しかしアマイモンを戦闘不能に追い込んだ、ガープの術が気になる所じゃな」

 

アマイモン。かつての神魔大戦および魔人襲撃では、その圧倒的な魔力と鍛え上げられた武術で武勲を挙げ続けた武人であり、戦略家としての側面も持ち。大きく大戦に貢献した魔族、いくら不意打ちだったとは言え、一撃で戦闘不能に追い込まれるとは……

 

「本人は亜空間と呼んでいました、周囲のものを粒子分解し消滅させる恐ろしい術でした」

 

亜空間か……今まで誰も解析しえなかった物をガープが解析し、攻撃に転用する術を見つけた出したとなると相当厄介な問題になる……恐らく最高指導者でさえあらがう術を持たないだろう。アシュタロスのやつめ、そんな危険な術をどうして報告しなかったのだと思ったが、アシュタロスさえ知らぬガープのとっておきだったのかもしれん。その事に対して攻めることはあまりに酷と言うものか……

 

「報告御苦労じゃった。休んでくれ」

 

濃い疲労の色が浮かんでいる小竜姫はありがとうございますと言って、ワシの部屋を後にする。残されたワシは再びキセルに火をつけ

 

「ふーこれからどうなることやら」

 

もはや逆行したと思い込むのは危険。大分前からはそうなんじゃないだろうか?と思っていたが、今回のことで確信したここは似て非なる、平行世界であると言う事を……無論これはワシだけではなく、最高指導者達も今回の件で確信したじゃろう

 

「……前途多難じゃな」

 

横島に前回のような悲しい結末が無いことを祈っていたが、神魔大戦よりも激しい物になることを最早回避することは不可能。どうして横島にばかり、こんなにもつらい世界が待っているのか?それが宇宙意思や時間の修正力の意思なのかと思うと

 

「ふざけるなよ、世界め……」

 

たった1人の優しい人間に全てを押し付けようとする世界に対して、激しい怒りを覚えずにはいられないのだった……

 

 

 

GS試験が終わって直ぐ、伊達と戦った事や、ガープに殴りかかったことで美神さん達と説教をしようと思っていたんだけど、説教をする前に横島は泡を吹いて倒れ病院に緊急搬送となった。その理由は信じたくは無いが、急性の魔力中毒

高位の魔族と戦ったGSやエクソシストが稀に倒した魔族の呪いなどで発病する症例らしい。唐巣神父が直ぐに急性の魔力中毒だと叫んで、待機していた救急車へ運び込んでくれた事で最悪の事態は免れたらしいが、面会謝絶で今日で3日……とてもではないが、説教をする空気ではなくなってしまった。それにそれだけの横島の顔を見ていない、それほどに重症なのかと心配になってくる。なんでもブリュンヒルデさんが魔界に戻る前に治療してくれているらしいけど……どうして急性魔力中毒になったのか?と言う疑問が頭を過ぎる。それに勘九朗が教えてくれた特異点と言う言葉、それについてはブリュンヒルデさんから誰にも話をしてはいけないと念を押され、美神さん達にも特異点についての相談も出来ず、自分の中であれこれ考えることしか出来なかったそれが自分をさらに追い詰めていると判っても、横島の事が心配で考えてしまう。そんな悪循環に私は完全に捕まってしまっていた

 

(あの時の一撃のせいなのか、それともガープを殴った事が原因なのか……どっちなんだろう)

 

黒い霊力の篭手と翼。そして私でも感じた圧倒的な魔力……ガープを殴ったことが原因なのか、それともあの一撃のせいだったのか……私自身も

 

「蛍ちゃん、一緒に寝ても良いでちゅか?」

 

扉を少しだけ開けて顔を出したあげはがそう尋ねてくる。こういう時1人じゃないって言うのは気持ちに余裕が出てくる

 

「おいで」

 

ぱあっと華が咲いたような笑みで笑ってベッドに飛び乗ってくるあげはを抱きしめ、子供特有の暖かい体温を感じながら私は眠りに落ちるのだった……

 

「……ん。朝……」

 

習慣って言うのは本当に怖い。いつも横島と朝の訓練をする時間に目を覚ましてしまった、もう少し寝ようかなと少し悩んだが……朝食を作らないとと思いベッドから抜け出してキッチンに向かうと

 

「おはよう蛍」

 

椅子に腰掛けてコーヒーを飲んでいたお父さんにそう声を掛けられ、一瞬呆けたが直ぐに詰め寄って

 

「遅い!遅いよ……なんで直ぐ……帰って……わ、私……どうすれば……良いか、わ、判らなくて」

 

土偶羅魔具羅は確かにいたけど、相談しようとは思わなかった、逆行の記憶が無いのだから話しても普通のことしか言ってくれないって判っていたから、おキヌさんに相談しようとも思ったけど、アマイモンとガープと言う規格外の魔族の魔力に当てられたのが原因なのか、長時間話したり出来なくて自分の中で全部抱え込まないといけなくて……

 

「すまない、神魔の最高指導者と話をしていたんだ。事情は大体察しているよ、横島君が魔力を使ったんだって」

 

訳が判らなくなって涙する私の涙を拭いながらそう尋ねてくる

 

「う、うん……なんで横島が魔力を使えるのか判らなくて、前に私の夢を見たって言うし……本当どうなっているのか判らなくて」

 

逆行した筈なのに全然違う事ばかり起きてどうなっているのか判らなくて……どんどん不安ばかりが強くなって

 

「もう蛍も気付いていると思うが、この世界は逆行した世界じゃない、似て非なる平行世界だ。逆行していると思い込むのは危険すぎる」

 

お父さんの言葉に小さく頷く、琉璃さんや神宮寺くえす……知らない人が増えているのでその可能性は十分に理解していた

 

「だから先入観を捨てて行動するんだ。良いね、逆行しているという思い込みを捨てるんだ。そう思っていたら、蛍も横島君も全員に危険が及ぶ」

 

それはとても難しいことだと思うけど、そうしないと危険と言うのは今回の件で痛いほど理解した。もう完全に逆行の記憶なんて役に立たないのだと

 

「横島君はもう大丈夫だ、私と入れ違いでブリュンヒルデが魔界に戻ってきた、きっともう心配することは無いさ」

 

その言葉にやっと安心出来た。思わずその場にへたり込んでしまった、怖くて、怖くて仕方なかった。また横島がいなくなってしまうのか、会えなくなってしまうのかと思うと怖くて仕方なかった

 

(弱くなった、弱くなってしまった)

 

横島と過ごす毎日が楽しくて幸せで、それを失ってしまうと思うと動けなくなるほどに……幸せを知っているから、それを失う恐怖を考えるだけで身体が動かなくなってしまう

 

「蛍の不安も恐怖もよく判る、でもそれだけを考えていたらきっと何も出来なくなる。その恐ろしさを知っているから、蛍は強くなれる。だから今に負けないで頑張るんだ、未来を手にする為にね」

 

お父さんの励ましの言葉に頷いて立ち上がる。そうよね、もしもの事ばかり考えるんじゃなくて、前向きなことを考えないと何もかも駄目になるわよねと反省しているとガチャリとキッチンの扉が開き

 

「んーあーパパーッおかえりー♪」

 

目を擦りながら入って来たあげはがお父さんを見て、嬉しそうに笑いながら駆け寄ってくるのを見て穏やかな気持ちになりながら

 

「朝ごはんの用意するね」

 

2人にそう声を掛けてエプロンをつけてキッチンに入ると土偶羅魔具羅がいて

 

「ワシはあんまり頼りにならないのは判っています」

 

慣れた手つきで卵を割りながら、振り返ることなくこれは独り言ですからと呟き

 

「ですが、ワシは優太郎様や蛍様のお手伝いを全力でしたいと思っています」

 

……土偶羅魔具羅の言葉に少し驚いた。どうも私の中で逆行前の土偶羅魔具羅のイメージが強すぎたみたいねと反省し

 

「ありがと、えーとじゃあ、卵焼きをお願いしても良い?」

 

「ええ。任せてください」

 

土偶だから顔の変化がわからないけど、その柔らかい口調に私の知ってる土偶羅魔具羅とは違うのねと確信し、これから少しでもいいから歩み寄っていこうと思うのだった……

 

 

 

ボクの予知で暫くの間ガープの侵攻も無く安全と言うことが判ったので、そろそろ帰ると言ったんだけど

 

「いやだ!いやよ!ね?ね?もうちょっと私と暮らしましょうよ?ね?ね?」

 

ボクの腰にしがみ付いているゴモリーを振り解こうとだいぶ頑張っているんだけど、振り解けない。しかもボクにダメージを与えないように柔らかく抱きついている割には全く振り解けない

 

「だーかーらーッ!ボクはもう家に帰るんだよ!魔界にいつまでも人間がいれるわけ無いだろ!?」

 

「私の宮殿なら大丈夫だから!絶対安全だからぁッ!!!」

 

それはつまり軟禁と変わらないじゃないか!と叫ぶと

 

「じゃあ私が人間界に行くー!柩ちゃんと暮らすー!!こんな可愛い娘が欲しかったのーッ!!!」

 

「離れろーッ!!!」

 

ソロモンの魔神って言うのはもっと威厳があって、カリスマ性があるものだと思っていたのに、ゴモリーときたらただの可愛い物が好きなOLって感じだ

 

「まーな、上位の神とかって好き勝手してるからなあ……結構性格も違うのが多いんだよ」

 

一応ボクの護衛のはずのメドーサが疲れたように呟く、だが1つだけ言える。メドーサよりもボクのほうが遥かに疲れていると

 

「ご、ゴモリー様!人間界に行く等という事はおやめください」

 

ゴモリーの配下とか言う小さな魔族が思いなおすように言うとゴモリーがキッと睨みつけ

 

「柩ちゃんの能力は稀少なのよ!?絶対ガープがまた攫いに来るわ!そんなの私許さないんだから!」

 

「ボクの意見を聞けーッ!!!」

 

嫌って叫ぶゴモリー。保護してくれたのは本当にありがたいと思っているが、そのまま軟禁しようとするとか正気の沙汰じゃない。しかもボクの予知にはこんな未来は無かったので本当にどうなっているのか訳が判らない

 

「柩ちゃんは私のこと嫌いなのー!?」

 

若干泣きそうな声でそう尋ねてくるゴモリーに暴れるのが一瞬止まる

 

「……嫌いではないけれど!束縛されるのは嫌だ!」

 

料理とか振舞ってくれたし、優しかったし、好きか嫌いかで言われると嫌いではない。嫌いではないけれど、束縛されるのはうんざりだと言うと

 

「じゃあこれ、これ持って行ってくれるなら離す」

 

ずいっと差し出されたのはボクみたいな小娘には相応しくない、大きな宝石の付けられた黄金の指輪だ。あまりにボクに似つかわしくないので断ろうとしたんだけど

 

「これは私の指輪と対になってるの、柩ちゃんに危険が迫れば直ぐ判るし、それを元に跳んでも行ける」

 

その指輪の効果とゴモリーの心配そうな声を聞いて、本当にボクを心配してくれていることが判って

 

「……ありがとう。それと……そのゴモリー……楽しかった」

 

ボクには母の記憶は殆ど無い。生まれた時からボクの能力はずっと暴走している、だから母も父の記憶も無い。少し鬱陶しかったけど、ゴモリーの宮殿で過ごした時間は楽しかったと言える。だから素直にそう言うとゴモリーはやっとボクの腰から手を離して

 

「また遊びに来てね、ううん。今度は私から尋ねて行くわ……元気でね」

 

そう笑ってボクの頭を撫でて、メドーサ後はお願いねと言って宮殿の出入り口を開いたゴモリーに

 

「くひひ、ありがと。じゃあね」

 

だいぶ恥ずかしかったけど、ハグをしてゴモリーから背を向けてメドーサのほうに向かうのだった

 

「やっと離してくれたみたいだね、じゃ、契約終了まであともう一仕事するとしますかね」

 

ゴモリーが持って行けといった山のような衣服を見て。深く溜息を吐いているメドーサに

 

「くひひ。そうだね。ボクを人間界に返したら君の仕事は終わり、ちゃんと家まで届けておくれよ?」

 

人間界に返されて、はい終わりじゃ困るからねと言うとメドーサはそんなことしないと言って笑い

 

「ま、ゴモリー様に気に入られたのなら、私が護るよりもよっぽど安心出来るか。隠れてお前を護ってくれるだろうよ」

 

若干過保護が入っているゴモリーの事を考えると、あの指輪以外にも他の保険を用意しているかもしれない、そう思えば今後のガープの襲撃も大丈夫かもしれないと思えてくるから不思議だ。ちょっとふざけているけど、ゴモリーは信頼できる魔族だと思うから

 

「さ、帰ろうかな。くひひ、家が壊れてないと良いんだけどね」

 

それに関しては私の対象外だと笑うメドーサに連れられ、ボクは魔界を後にするのだった……

なお柩もメドーサも知る由も無いが……宮殿の中に戻ったゴモリーはというと巨大な姿見の前で

 

「これなら私ってバレないかな?」

 

「バレバレですよ!?ゴモリー様ぁッ!?」

 

なんとかして人間界にいけないかなあっと呟き、普段着ているドレスではなく、ジャージやら、短パンやら、髪型を変えてアホ毛を追加してみるなどの色々な方法を試していたが、根本的な問題があった。ゴモリーと言う魔神が持つ圧倒的な美はたとえ変装しようが、髪型を変えようが隠す事が出来るものではなく、どれほど地味な格好をしていてもゴモリーだと判る圧倒的な存在感がゴモリーの人間界行きの邪魔をしているのだった……

 

 

 

 

GS試験が終わり、私自身の検査などを終えてから私は直ぐある行動に出ていた。今まで使うことの無かった依頼費を使って、土地と事務所を購入したのだ。今までは事務所を構えることが出来ない、裏のGSとして活動していたが、今後それでは駄目なのだ。表で活動できるGSにならなければ

 

「はい、これで手続き完了よ。くえす」

 

神代琉璃から渡された書類を確認する、事務所の開設許可と停止処分だった私のGS免許。それが手元に戻ってきた

 

(これで良いですわね)

 

ガープに捕らえられて、そしてその時のことはぼんやりとだけど覚えている。横島忠夫が私を助けようとしてくれた事を……そして私を助けることが出来たと判った時のあの泣き笑いの顔がどうしても脳裏から消えない。

 

(無様な顔でしたけど……どうしても忘れることが出来ませんわ)

 

私を助けようとしてくれた、文字通り己の命を賭けて。そして今まで感じていた不快感が何のなのか?少し考える必要がありましたが、それもなんなのか判りました。私は嫉妬していたのだと、芦蛍に、あのおキヌと言う幽霊に……共にいることが出来ているシズクに嫉妬していたのだと、そう思えば私の不快感の正体は直ぐに判った。私は横島忠夫に惹かれているのだと、それを認識した後はここまで一気に来てしまっていた。睡眠時間も削り、食事の時間すら削り、2日で私の事務所を持つ準備を完了させたのだ

 

(自分でも不思議ですわね)

 

他人などどうでも良いと思っていたのに、恋をしているのだと自覚をしたら止まる事が出来なくなった。そして横島と仲良くなりたいと思った、そう考えればいつまでも裏のGSなんてやっていられない。

 

(横島はどう考えてもこっち側じゃありませんから)

 

私の事を優しい良い人なんて言えるお惚けた男がこっち側に来るなんてありえない、だから私のほうから向こうに行く必要があったのだ

 

「これで事務所を開設できるわけだけど、当面はどうするの?仕事回す?」

 

新設の除霊事務所なんて仕事が来るわけが無い、特に私の名前は良い意味でも悪い意味でもGS協会では有名だ。まず当面はろくな仕事なんて無いだろう、それを心配した神代琉璃が仕事回そうか?と尋ねてくる

 

「必要ありませんわ。暫くは活動するつもりはありませんもの」

 

へえ?意外ねと呟く神代琉璃。自分の評判をよくするためにまず仕事をして少しでもマイナスイメージを払拭すること、それは確かに考えもしましたが、私の今までの悪評考えれば一日やそこらで挽回できるものではない。だから慌てて仕事をする必要が無い

 

「まずはあれですわね。設備などの準備とかをしてから依頼を斡旋してもらいますわ。そうですわね……保留になっている危険案件それを回して貰いましょうか」

 

「正気……って聞くまでも無いわね。判ってて聞いているんだから」

 

当然ですわと返事を返す、危険案件。それは調査の段階で危険な悪霊や悪魔。妖魔の類が出現していることが判明し保留になっている案件。いまさらいい事をしても自分の悪評を取り消すことなど出来ないのだから、逆に危険な案件を続けて達成することで自分の力を示したほうが効率が良い。

 

「では失礼しますわ。まだやることがあるので」

 

会長室を出ようとすると神代琉璃は楽しそうに笑いながら

 

「そんなに横島君に自分の事務所に研修に来て欲しい?」

 

……ま、まぁそれは認めるしかありませんわね。横島忠夫を自分の事務所に招く為に行動しているのですから、でも理由はそれだけではない

 

「私は横島が魔力を使えた理由が判っていますから」

 

神代琉璃の顔色が変わる、まぁ当然ですわね。魔力を使える筈の無い人間が魔力を使った、その理由を解明しようとするのは当然の事だ

 

「知っているなら「横島忠夫が私の元に研修に来る。それが正式に決まればお教えしますわ」

 

神代琉璃の言葉を遮って言う。一時的にでも自分の手元に横島忠夫を置く事が出来るなら教えても良い、そうでなければ教える意味は無いと言うと神代琉璃は

 

「でも横島君が蛍ちゃんの側を離れるとは思えないけどね」

 

……それも判っている。横島忠夫が芦蛍の側を離れることがありえないと言うことなんて判りきっている。だからこんな卑怯な手段を使って、一時的でもいい、横島忠夫を自分の手元に置きたいのだ

 

「そうだとしても諦める事が出来ない物という物もあるのですよ」

 

闇の中にいた私には横島忠夫は眩し過ぎる。手を伸ばすのもおこがましいと思うが、それでも手を伸ばさずにはいられない、だって私は……

 

「横島忠夫を愛してしまったのだから。いまさら引き返すことなんてありえませんわ」

 

驚いた顔をしている神代琉璃。一泡吹かせることが出来たことに笑いながら

 

「それでは御機嫌よう。次会いに来るときは依頼の件で参りますわ」

 

驚いている神代琉璃を見て笑いながらGS協会を出ると

 

「どうも自分に足りないものを見つけたみたいだな」

 

人間の姿に化けたビュレト様がベンチに腰掛けていて、私にそう声を掛けてくる

 

「これはビュレト様。お体は宜しいのですか」

 

今から魔界に1回戻るところだと返事を返したビュレト様は立ち上がって

 

「まぁ前途多難だと思うが、頑張れや。カズマに負けない良い魔術師になれよ。お前に足りない物を手にするのは相当難しいと思うがな」

 

そうだとしても諦めませんわと返事をするとビュレト様はそのいきだと笑い、私の頭を撫でながら

 

「頑張りな、魔術師としても女としても精進しろよ、ああ、それと横島の件はお前に任せる、お前がやったんだろ?」

 

お見通しと言うわけですか、ブラドー島に行く時、死んでいた横島を助ける為に私の魔力を分けた。それは微々たる物で本来はそのまま消える筈だったのだが、何故か横島の中に残りそして横島が魔力を使えるようになった。その理由を解明するのを私に任せたと笑って溶けるように消えていくビュレト様。どうも本体ではなく、分霊だったみたいですね。

 

「負けませんからご心配なく」

 

きっと私を心配して分霊を残してくれていたのだろう、でもその程度で諦めるほど私は弱い女じゃないんです。心の底から欲しいと言える者をやっと見つけたんです、例えその心が私のほうに向く可能性が限りなく0だとしても

 

「諦めませんわ」

 

誰に聞かせるまでも無い、自分に言い聞かせるようにそう呟き私はその場を後にするのだった……

 

 

 

「大丈夫か?ガープ」

 

心配そうに尋ねてくるアスモデウスに問題ないと返事を返す。手痛いダメージを受けたが、この程度なら問題ない。暫く表立って動く事は出来ないが、その代わり研究に集中出来ると思えば動けないのはそれほど苦痛ではない。ベッドの上からでもアスモデウスやセーレに指示を出す事が出来るのだから、前線に居るか、後衛に居るか?それだけの違いで今までと何も変わりはしない

 

「アマイモンの腕を奪った、これで神魔の混成軍の戦力はがた落ちだ」

 

結界の中の取り込んだアマイモンの腕は培養液の中につけてある、これでクローンや魔装術の媒介を増やすことが出来たと思えば私の負傷などたいした問題ではない

 

「だが香港の原始風水盤はどうするつもりだ、その状態で動くことが出来るのか?」

 

……確かにそれは問題だな。だが今すぐに動くつもりも無い、少し時間を置いてからで十分だ。それに囮役には十分な奴がいるだろう?とアスモデウスに言うと

 

「ああ、蠅の王の劣化コピーか」

 

つい先日合流させてくれと無理やり来た蠅の王の劣化コピー、本来の蠅の王と比べれば、品性も力も魔力も何もかも足りないが、暫くの間神魔の目を引く囮としては十分だ

 

「少し休む、後は任せてもいいか?」

 

ああ、任せてくれと言って部屋を出て行くアスモデウス。静かになった部屋で全身に走る激痛に耐えていると何物かの気配がする……この気配は……

 

「このような無様な姿をお見せして申し訳ありません」

 

姿を見せることは無いが、ここにいる誰かの存在はしっかりと感じている。そうアスモデウスではない、私達の一派の本当の頭領が訪れている。本来ならば、跪き、拝見できること事態に感謝しなければならないのだが、ろくに動くことが出来ない己の身体に怒りすら覚える

 

「気にすることは無い、お前はいい働きをした」

 

「もったいないお言葉です」

 

本来顔を見ることは愚か、言葉を交わす事すら許されていない私を尋ねて来てくれた。それだけで私にはとてつもない褒章だ

 

「有益に使え、ガープ。お前が求めていたものだ」

 

何かが身体の上に落ちてきた。それと同時に息苦しいほどの威圧感は途絶えた、痛む身体に顔を歪めながら身体を起こしその何かを見て

 

「は、ははははははッ!!!感謝します!」

 

そこにあったのは私が追い求めていた聖遺物の数々、求め続けた物が其処にはあった。そう並の聖遺物ではない、手にすることなどありえない究極の品……

 

「失われた女神の遺品……」

 

今の神魔の中には消え去ったまま復活していない、神も大勢いる。そんな神々の遺物を手にすることが出来た。私は自らの頭領に深い感謝となんとしても頭領の願いを叶えるという思いを新たにするのだった……

 

そして傷を癒したガープはとある研究を始める、それは神魔においても最大の禁忌にして、いままで誰も成しえる事の無かった秘術……それが成し得た時どのような悲劇が起こるのか、それは誰にも判らない。ただ1つ言えるのは……不気味な鼓動の音だけがガープの研究室に響いていたと言う事だけだ……

 

リポート26 これから その1へ続く

 

 




リポート26と言う形を取りますが、内容的には日常の話の詰め合わせのような話になります。最初は今回の話でなかった。横島や雪之丞達の処分についての話ですね。後はチビやモグラちゃんといったマスコット達の話とかをしてほのぼのとかギャグで書いていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート26 これから
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回は前回の話でかけなかった横島とかの視点で書いていこうと思います、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート26 これから その1

 

「うあーって身体鈍ってんなぁ」

 

横島にボコボコに殴られ、俺自身も魔力中毒とやらで入院していたので身体が鈍りきってる気がする

 

「うるせえ、静かにしてろ。病院では静かにって知らないのか?」

 

東條に車椅子を押して貰って陰念が病室から出てくる。こいつは口は悪いけど、そう言うところうるせえんだよな。でもこればっかりは俺が悪いか

 

「わりぃ……」

 

素直に謝ると社会的常識を考えろと更にお小言を貰う事になった。口も悪いし、顔もいかつい割に本当におかん気質だよな……

 

「まぁまぁ、陰念先輩も伊達先輩も喧嘩しないでくださいよ。皆寺で待っているんで早く戻りましょう?」

 

俺達よりも早く回復した門下生達が寺で料理やお菓子を買って待っていると言うので、早く戻るかと呟くと背後からとちとちと言う個性的な足音が聞こえて振り返り

 

「横島ぁッ!?」

 

「ん?あーあーんーと、伊達?」

 

「……ん?どうかしたのか?」

 

「うきゅう?」

 

でっかい毛玉に運ばれている横島と顔色の悪い幼女が其処にいて、思わず俺は叫んでしまい、再び陰念に静かにしろと怒られるのだった。つうか俺の名前うろ覚えかよ……なんか割りとそれがショックだった

 

「モグラなのか……そいつ」

 

横島も今日退院らしく、歩けるらしいのだがモグラちゃんとシズクが駄目だというので運ばれているという横島と病院の外で話をすることになったのだが、横島も横島で急性魔力中毒で入院。しかも記憶がなんか混濁していると俺よりも遥かに酷い症状だったらしく、俺の名前がうろ覚えだったのもそれが原因だったらしい

 

「ああ。モグラちゃんだ、一応竜種らしい、でっかくなったり、小さくなったり、火炎放射したりする」

 

なにそれ怖い……大きくなったり小さくなったりするだけでもかなりのものだと思うのだが、火炎放射するは明らかに危険生物だろう

 

「その頭の上のはなんだ?」

 

車椅子の陰念が横島の頭の上を指差して訪ねると、横島はその何かを抱き抱えて

 

「グレムリンのチビだ。可愛いし、電撃が使える」

 

「みーむう!」

 

……GSだよな?こいつ。なんで妖怪をさも当然のように連れているんだ?再びチビとか言うグレムリンを頭の上に戻す横島は

 

「んで、九尾の狐のタマモ」

 

膝の上で丸くなっている狐を抱き上げて笑う横島に

 

「「「アウトだろ!?それ!?」」」

 

俺でも知ってる大妖怪をペットのように扱っている横島に俺はGSってなんだっけ?と思わずにはいられなかった……

 

「いや?タマモは良い子だぜ?めちゃくちゃ大人しいし」

 

「ガルルルル」

 

どう見ても大人しいようには見えないんだが……牙を剥き出しにして威嚇してくる。子狐だけどめちゃくちゃ怖い

 

「……横島。いつまでも無駄話をしているな」

 

「え?あ、ごめん」

 

横島の後ろの幼女が鋭い口調で告げる。兄妹見たいには見えないよな……誰だ?俺達の視線に気付いたのか横島が笑いながら

 

「紹介しよう、水神で竜神の我らの頼れるロリおかん。シズク様だ「……誰がロリおかんか!」ほわたああああ!?!?」

 

ザクウっと言う音を立てて氷柱が横島の頭に突き刺さり、ブシュウっと言う音を立てて横島の頭から血が吹き出る。赤面しているから照れ隠しだと思うのだが、その内容が余りに過激すぎる。鮮血に染まる病院前と言うホラーとしか言いようないあまりの光景に俺達が絶句していると

 

「なにやってるのよ!?シズク!また横島を入院させる気!?」

 

【横島さーん!?シズクちゃんなにやっているんですか!?】

 

試合の時に横島を応援していた幽霊と黒髪の女が横島を迎えに来たらしいのだが、噴水のように血を噴出している横島を見て絶叫していた

 

「……カッとなってやった。反省はしている」

 

若干しょんぼりとした様子で呟くシズク。だがさっきの光景を見るとなんとも言えない気持ちになる、見た目は可愛らしいがなんとも恐ろしい幼女だ。と言うかなんで水神で竜神とか言う規格外の存在と一緒にいるのかが理解できない

 

「まぁまぁ。俺は全然平気だから」

 

「「なんで平気なんだ!?」」

 

俺と陰念の突っ込みが横島に突き刺さる。なんであれだけ血を噴出していたのに傷がもう治っているのか理解できない。こいつ本当に人間なのか……!?

 

「んじゃな~」

 

モグラの上に乗って帰っていく横島を見ながら俺は同じように呆然としていると

 

「ま、まあ皆待っていますし、帰りましょう?」

 

東條の言葉に頷き、俺達は白竜会へと戻ったのだが

 

「「「「お帰りなさいッ!!!」」」

 

門下生全員に出迎えられることになり、俺も陰念もかなり驚いたが、帰ってくる場所があるっていうことのありがたみを実感して

 

「「おう!今帰ったぞッ!!!」」

 

出迎えてくれたことに感謝し、2人でそう返事を返し白竜会の門をくぐるのだった……後日GS養成施設としての白竜会は解散となり、寺としての白竜会として再結成される事をGS協会から通達され、俺と一部の門下生は白竜会を脱会することになるのだが……それでも俺の帰る場所は何処か?と言われたら、きっと俺は白竜会の名前を出すことになるだろう。気のいい仲間がいるこの場所は例えGS養成施設としての役割がなくなったとしても俺の帰る場所なのだから……

 

 

 

伊達や陰念といったGS試験で戦った相手と別れ家に帰って来たんだが

 

「えっと蛍さん?おキヌさん?もうそれくらいで良いんじゃないかな?」

 

家に帰るなり、塩を2袋水に溶かして、それをシズクに振りかけている蛍とおキヌちゃん。最初は水神だから大丈夫だろう?と思ったんだけど

 

「……し、染みるぅ……」

 

シズクはどうも塩水が弱点だったらしく、塩水をかけられ悶えている。幼女に塩水をかけている幽霊巫女と美少女。なんだこれ?なんだこれ?と言わざるをえない

 

「横島がそう言うならこれくらいにしておくわ」

 

真面目にぐったりしているシズクに大丈夫か?と尋ねると、あんまり大丈夫じゃないという返事が返ってくる。そんなに塩水は染みるのかと思いながら、熱湯で絞ったタオルでモグラちゃんを拭いてやることにする

 

「うきゅー」

 

外で遊んでいたので、ちゃんと綺麗にしておかないとシズクが怒るからな。今は怒られないと思うけど、元気になったら確実に怒られるので、怒られる前に綺麗に拭いてやる

 

「うきゅー!」

 

綺麗になったので机の上におろすと楽しそうに鳴きながら歩き出す。うむ、元気な事は良いことである

 

【たぁすけてええ!!】

 

久しぶりに聞いた牛若丸の悲鳴に振り返るとチビが牛若丸眼魂を転がして遊んでいたので、駄目だと言って取り上げる

 

「みーむう……」

 

しょんぼりしてるけど、駄目なものは駄目とちゃんと怒る。躾は大事だからな、変わりにゴムボールを与えると

 

「みーむみーむ♪」

 

楽しそうにボールを転がしているチビを見ながら、回収した牛若丸眼魂を手の上に乗せる

 

「大丈夫か?」

 

【主殿、私チビ苦手です、恐ろしいです】

 

牛若丸にごめんなと声を掛けてGジャンのポケットに入れる、牛若丸にとって1番安全なのは間違いなくここだろう

 

「なあ?俺のバンダナどこ?」

 

病院で起きた時から無かった心眼の事を尋ねるとおキヌちゃんが

 

【ちょっと汚れていたので洗っておきましたよ?】

 

綺麗に畳まれたバンダナを受け取って頭に巻くと

 

【ひ、酷い目にあった。あの洗濯機と言うのは危険すぎる】

 

どうも洗濯機で回されていた間も意識があったようで、非常に疲れた様子で呟く心眼。もしかしたら洗剤が目に染みたりしていたのかもしれない

 

「あーGS試験ってどうなったんだ?」

 

「逆に聞くけど、どこまで覚えてる?」

 

蛍に逆に問いかけられる……えーと……顎の下に手を置いて思い出せる範囲で思い出そうとする

 

「……ガープとか言うのが来て、えーとえーと」

 

なんかぼんやりしていて記憶がはっきりしない、なので心眼にも尋ねてみることにする

 

「なぁ?俺なにやったんだっけ?神宮寺さんを助けたのは覚えてるんだけどさ?」

 

なんでそれを覚えてるのよ!?と蛍に怒られたけど、妙に其処だけはハッキリと覚えている

 

【私も覚えてはおらぬ。何があったのだ?】

 

心眼も覚えてないかぁ……本当に何があったんだろうか。ガープが何もかも私は知っているぞと言わんばかりの態度で人間は醜いとか神宮寺さんには居場所など存在しないとかふざけたことを言うのでむかついたのは覚えているんだけどなあ……

 

「まぁ覚えてないならそれで良いわ。大した事じゃないし、えっとじゃあGS試験についてだけど、私も横島も試験に合格したわ。と言ってもまずは仮免許だからまだ美神さんの所で修行しないといけないけどね」

 

試合で取得権を手にしただけでまだ他にも審査があると聞いていたけど、いつの間にその審査を通ることが出来たのだろうか?と言う疑問は残るがGS免許を仮免とはいえ手にすることが出来た。少しとはいえ進歩があったという事で思わずガッツポーズをとる

 

【これから大変だと思いますけど、横島さんも蛍ちゃんも頑張ってくださいね!】

 

笑顔で頑張ってくださいと応援してくれるおキヌちゃんにおうっと返事を返すと

 

【イッヒッヒー♪】

 

「……え?」

 

かぼちゃ頭の小さい何かが目の前でくるくる回っている。なんぞこれ……?って言うかこの笑い声ってウィスプだよな?

 

「みーむう♪」

 

【イヒッ♪】

 

チビがウィスプ(?)と楽しそうに空を飛んでいる。えっとこれどういうこと?と蛍達を見てみるけど、蛍達も驚いているということはこれを始めて見たようだ。進化?進化したのか、眼魂って進化するとあんな不思議生物になるの?あまりに予想外すぎる光景に混乱してしまう

 

【イーヒーヒーッ!!】

 

「みむう!?」

 

空中宙返りでチビの後ろを取ったウィスプにぺちんと頭を叩かれ、墜落してきたチビを慌てて受け止めると

 

「みーむう!」

 

負けないぞーっと言わんばかりに勇ましく鳴いてウィスプとの追いかけっこを始めた。あ、遊んでいるのかな?それなら邪魔をしたら悪いかと思って好きにさせることにする

 

「うきゅ?」

 

ぴこぴこと前足を動かしているモグラちゃん。流石にモグラちゃんは飛べないなーと言って笑って頭の上に乗せると

 

「うーきゅーうー!」

 

チビの応援を始めるモグラちゃんの声が聞こえる。チビもそれに答えようと頑張っているのだが

 

【イヒー】

 

「みむ!?」

 

恐ろしいほどに小回りが利いているウィスプの方が速い、クイックターンからの宙返りとかを平気でやってのける。これは流石にチビが不利のようだ。ただ見ていると微笑ましい気持ちになるのでそれを見ていると

 

「……染みるぅ……」

 

「大丈夫か?」

 

まだ塩水が染みるのかぐったりしているシズクがずりずりと這い寄ってくる。濡れているのと、そのひどい顔色で暗いところで見たら叫んでしまいそうだ

 

「……ふぎゃっ」

 

「クフフッ!」

 

弱っているうちにと言わんばかりにタマモがシズクを攻撃しているので、こらっと怒りながら弱っているシズクを引っ張り寄せる

 

「大丈夫じゃないな?どう見ても」

 

「……炭酸もきついが、塩水もきつい……」

 

こりゃ駄目だな、頼れる我らのロリおかん様が完全にKOされている。俺にもたれかかる様に座らせると、蛍とおキヌちゃんの目つきが鋭くなった。何故に!?

 

「ねえ?横島」

 

「はいなんでしょうか?」

 

怒られるかもしれないと思ってびくびくしながら返事を返すと、蛍は俺に手を差し出してくる。え?えっとどうすればいいんだ?俺が首を傾げていると蛍は俺のバンダナと言うか、心眼を指差して

 

「心眼を少し貸して欲しいの」

 

え?心眼を?……怒られると思っていたので若干拍子抜けしながら、バンダナを解いて

 

「うん。判ったけど、どうするんだ?」

 

ちょっと心眼と話をしたいのよと言って心眼を持って行ってしまった蛍とおキヌちゃんを見送る。心眼って霊力の補助をしてくれるらしいから、それでアドバイスを貰いたいのかなあ?でもそれだとおキヌちゃんは何を聞きたいんだろうか?と思いながら部屋の天井を見ると

 

「みむきゃーっ!」

 

【イヒイッ!?】

 

チビのムーンサルトキックがウィスプを捉える。いつのまに追いかけっこから空中戦になったんだろうか?と思いながら俺はチビとウィスプの空中戦を見つめているのだった……

 

「あ、そう言えばさシズク。あの時のお守りどこ?」

 

GS試験の時にシズクがくれたお守りの姿が無いので、どこにある?と尋ねるとシズクは

 

「……お前が霊力に分解して取り込んで消えたぞ?」

 

「え?なにそれ怖い……」

 

それ大丈夫なの?とシズクに尋ねるとシズクは知らんと返事を返した。ええ……どうなってんだよ、俺の身体……竜の牙とか取り込んで大丈夫なのか?と不安に思っているといつの間にかだが、俺はシズクを膝枕するような格好になっており、戻ってきた蛍とおキヌちゃんに睨まれたのは言うまでも無いだろう……

 

 

 

何回か心眼と話をしようと思っていたんだけど、横島がいないと声を掛けても反応を返してくれない。

 

【それで私に話とは何だ?蛍魔ルシオラ】

 

やっぱり心眼も逆行した記憶があるのね。でもどうして私のことを知っているのだろうか?心眼はGS試験で消えたはずなので私を知っているはずが無いのに

 

【どうして心眼さんは蛍ちゃんの事を知っているんですか?前はGS試験で消えてしまったじゃないですか?】

 

おキヌさんがそう尋ねると心眼は一度瞬きをしてから

 

【私はずっと横島と共にいた。横島の魂の中で全てを見ていた……横島の悲しみも慟哭もその全てを見てきた、そして後悔し謝り続けた。私は横島の助けがしたかった、それなのに私に出来ることは見ているだけ、それが辛かった。横島の心を1番近くで見ていたから苦しくて辛くて仕方なかった】

 

平坦な口調だが、その口調だからこそ余計に心眼の苦しみを理解してしまって、私もおキヌさんも黙り込んでしまった。誰よりも近くで横島を見ていた言葉だからこそ、その苦しみが判ってしまったから

 

【やり直したいと、もう一度横島の助けになりたいと心から願った。本来かなうはずも無い願いが叶った、故に私は何をしたとしても、そう小竜姫様に逆らうこととなったとしても横島の味方であり……】

 

ここで言葉を切る心眼。横島の味方をしてくれるのはありがたいけど、これは下手をすると横島だけの味方であり、私やおキヌさんにとっては敵となる可能性もあるのよね……心眼の言葉がどう続くのかと不安に感じていると

 

【横島が幸福となる為にルシオラと結ばれるように尽力する】

 

「え?」

 

【え?】

 

私とおキヌさんが全く同じ事を呟いたが、その意味合いは全く異なる。私は味方が増え、おキヌさんは何もしていないのに敵が増えたと言うことに驚いた

 

【え?え!?何でですかぁ!?】

 

【お前は確かに横島の助けをしたが、生身になった後は自分の感情を優先して横島を困らせていた、故に信用できない】

 

いいぞ!もっと言って頂戴!この人は絶対反省すべきなのよ。自分の感情優先で突撃思考の肉食系幽霊。横島に迷惑をかけているということを反省するべきだ

 

【わ、私は横島さんの味方ですよ!?】

 

【味方だとしても自分の気持ちだけを優先するようなお前を私は信用しない、お前も私にとっては危険人物だ】

 

【うっう……心眼のばーかッ!ばーかッ!うええんッ!!横島さーんっ!!!】

 

号泣しながらリビングに突撃していくおキヌさん。心眼に完全論破されていた、その精神的ダメージはそうとう大きいだろう

 

「ありがと」

 

【良い、私は知っているだけだ。横島がお前といる時間をどれだけ幸福に思っていたか、だからこそあんな結末を認めない】

 

その強い口調に込められた強い決意を感じて、私は頼りになる仲間が増えたことに安堵し、そしてそれと同時に聞いてみたいと思った事を尋ねて見る事にした

 

「ねえ?心眼。どうして横島の中に魔力があるか判る?」

 

ガープを殴り飛ばしたあの拳の正体がどうしても気になる。今の横島には魔力を使える理由が無い、だから使えるはずが無い。だが現に使えていたので何か理由があるはず、その何かが気になって仕方ないのだ。もしそれが別の世界の横島の干渉だと思うと怖くて仕方ない、今の横島が消えてしまうんじゃないかと言う不安がどうしても頭から離れない

 

【お前の不安は判る。魔族化していくのではないかと言う不安だろう。だがそれはありえない、何故か判らないが、横島の中に魔力が息づいている、だがそれは眠っている。普段なら決して目覚めることは無いだろう、よほどの怒りか闘争心に飲まれない限りはな】

 

横島の感情が引き金になるが、普通に暮らしている上では問題は無いし、我も魔力が暴走しないように細心の注意を払うと言うと心眼の言葉に安堵の溜息を吐く、横島は元々臆病な性格だから、闘争本能とかには縁が無い。怒りについては心配だけど、それも心眼がついてくれるならそこまで心配することも無いわよね

 

【これからよろしく頼む。ルシオラ……いや、蛍だな。私はお前の恋路を応援している】

 

「ありがと、じゃそろそろ戻りましょうか」

 

とりあえず心眼の意思を確認できたし、魔力のほうも暫くは安心できそうだ。そう思ってリビングに戻ると

 

「あ、おかえりー」

 

能天気な顔をして私を出迎えてくれた横島だけど、シズクを膝枕しているのを見て思わずジト目で見つめてしまい

 

「やっぱり横島はロリコンなの?」

 

がふっと吐血する横島、違うとは信じているけど、シズクへの対応を見るとどうしてもロリコンという疑惑を払拭することは出来ないのだった……

 

 

 

「ふう……これで一息ついたわね」

 

横島君と蛍ちゃん達も食事に誘う約束をしていたけど、まずは琉璃を労う為に琉璃だけを連れて、私はレストランに訪れていた。少しだけ今回のGS試験についての火消しを手伝ったけど、本当に鬱陶しい連中だった

 

「お疲れ様です」

 

そう笑って私のグラスにワインを注いでくれる琉璃に貴方も疲れたでしょうに?と尋ねる。琉璃の仕事がハードなのは知っている。若いこともあり、国際除霊連盟から日本のGS協会の長には相応しくないなど、今回の一件でも責任を取って辞任しろなどと騒がれた事も知っている。まぁ結局辞任をすることは無く、GS協会長を続けるという結果で終わったんだけどね

 

「まーああいう馬鹿はどこにでもいますからね。仮に騒いだとしても、私はGS協会の長の立場から下りるつもりはありませんよ」

 

降ろそうと騒いだとしても六道家に唐巣先生のバックアップがある琉璃を降ろす事は相当難しい、日本でのGS関連の仕事に加えて政治にも強い影響力を持つ六道家を敵に回す馬鹿はいない。それでも琉璃を叩こうとするのは、GS協会長の立場を狙う下っ端連中と言う所だろうか

 

「今回は運が良かったですよ、本当。小竜姫様もいてくれたので、私のとった策が最善だったって言ってくれましたしね」

 

小竜姫様を頼らないといけないほどに追い詰められていたのか……とは言え政治に口を出せるほど私も発言力があるわけじゃない、正直ここは冥華おば様の存在が無ければ辞任に追い込まれていただろう

 

「でも英断だったんじゃない?今回のGS免許。仮でも交付する事にしたんでしょう?」

 

蛍ちゃんや横島君は研修を終えれば、GS免許を発行される仮免許を取得することになったが、今回琉璃はGS試験に参加し、GSをやると言う意思があり、後日審査を受ければ仮免許を交付すると発表した。無論これも反論が多かったが

 

「仕方なかったんですよ。引退宣言するGSが多かったですからね」

 

ソロモンのガープが動いていると聞いて、BランクやCランクのGSの多くはGS免許を返納した。その対策としての仮交付と踏み切ったらしいが

 

「正直何人くらい?」

 

「今の所は0ですね……ソロモンと対峙することになるかもしれないと考えたら、引退するのが普通は正しい選択ですよ」

 

そうは言っても、もしガープが動けば人間界なんて簡単に滅ぼされる。ならば恐ろしいとしても立ち向かわなければならない……これから神魔と多く話し合い、対策を練っていくことになるわね……っとそんなことを考えていたが、そろそろ本題を切り出すとしよう

 

「それであの件は?」

 

個室なので大丈夫だと思うけど、念のために結界を作ってから尋ねる。

 

「横島君の魔力の件ですね。あれに関しては小竜姫様でも判らないと言ってました、後で精密検査をしましたが、魔力は検知され無かったそうですし……本当に何も判らない状態です」

 

横島君がガープを殴り飛ばした時。彼は間違いなく魔力を使っていた、これは唐巣先生も同意したので私の見間違いではない、幸いなのは目撃者が殆ど身内だったと言うことだろう。

 

「琉璃もお疲れ様。暫く休暇を取るんでしょ?」

 

琉璃のグラスにワインを注ぎながら尋ねる。GS試験が終わるまではと休暇を取らなかったのだから、それが終わってからは休暇を取るんでしょう?と尋ねると琉璃は小さく首を振ってから

 

「まだまだやる事があるのですぐには休暇は取れないですよ。多分後1ヶ月は厳しいと思っています」

 

そう笑う琉璃だが目元には濃い疲労の色が浮かんでいる。GS協会会長と言う役職に就いてから連続で起きている神魔が関わる事件。それがどれだけ琉璃の負担になっているだろうか?かと言っても、私はGSとしては有名でも、GS協会に影響力を持っている訳でもない。私に出来る事といえば琉璃が抱えている事件を引き受けて解決するくらいだろう

 

「もう少し落ち着いてから有給を2週間くらいとって、妹を東京に呼ぼうと思ってます」

 

養子に出されたので別姓ですけど、今でも仲が良いんですよ?と笑う琉璃。それは妹にあえて嬉しいという年相応の笑みだった。

 

「でも良かったんですか?私だけで?」

 

横島君達も打ち上げで連れて行くと約束していたけど、別に焦ることは無いでしょ?と笑う。もし連れて行くなら仮免とは言えGS免許が来てからで十分だ。いきなり連れて行っても、手元に残るものが無いとやり遂げた達成感も無いだろうしね

 

「それもそうですね、ま、私は2回食べれるんで言うこと無いですけど?」

 

悪戯っぽく笑う琉璃。頑張ってくれているのは判っているので別に2回奢るとしても全然気にしないけどね

 

「そう言えば、くえすが事務所を開設するんだって?」

 

噂で聞いたので確認しようと思っていた。一部のGSでは既に噂として出回っている、あの神宮寺くえすがGS事務所を開設すると聞いたら誰だって嘘だろ?と言うだろう。暗殺や破壊専門の裏のGSと名を馳せたくえすが?となる

 

「先日受理しましたよ。横島君を自分の事務所で研修させるためだけに開設するみたいです」

 

「……え?」

 

え?まさかくえすも横島君に惹かれてるの?と尋ねると琉璃はワインを煽ってから

 

「愛してるって言ってました」

 

……本当横島君って訳ありとかそう言うのを惹きつけすぎじゃないかしら?そのうち刺されるんじゃないか?と心配になる

 

「まぁそれだけじゃなくて、横島君の魔力に付いて思い当たる節があるからそれを兼ねてって言ってました」

 

それならそれだけでも先に教えてくれてもいいものだろうが、くえすの性格を考えれば横島君を手元に一時的でも置いたときにしか話す気は無いだろう

 

「私とすればそれでくえすが丸くなってくれるならって思いますけどね」

 

「その代わりうちの事務所が修羅場になるわ」

 

それは美神さんが頑張ってください。研修制度についての妨害は出来ないですし、くえすと頑張って話し合ってくださいと笑う琉璃に他人事だと思ってと言うと、実際他人事ですからと笑い返される。まぁくえすが横島君を研修によこせと言って来てからどうするか考えれば良いか、先のことを今考えても結果なんて出ないだろうし

 

「ま、何はともかく本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね、今日はもうとことん飲んで食べましょう」

 

「美神さんの奢りでですね?」

 

はいはい判ってますよ。奢ると言った以上二言は無いわよと言っていると

 

「なんで先に始めてるワケ?普通待つでしょ?」

 

「そうよ~酷いわ~」

 

遅れて来たエミと冥子に遅れるほうが悪いのよと笑いながら、2人の分のワインを追加で注文して

 

「GS試験お疲れ様でした!今日はとことん飲みましょう♪」

 

GS試験が終わった打ち上げはその日の深夜遅くまで続き、次の日の除霊の依頼の日にちをずらして貰うほどに酷い二日酔いになるのだった……

 

「なんか幸先不安」

 

「俺、なんか不安に思って来たわ……」

 

「ごめんねえ……」

 

蛍ちゃんと横島君だけでやらせる予定だった除霊の仕事だっただけに、蛍ちゃんと横島君の幸先不安と言う言葉に私は本当ごめんと繰り返し謝る事しか出来ないのだった……

 

 

リポート26 これから その2へ続く

 

 




次回もこんな感じで日常的な話を書いていこうと思っています。次回はマスコットと愛子とかで学校の話を書いてみたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は日常的な話となります、暫くシリアスとか戦闘メインの話ばっかりでしたからね。日常的なほのぼのをこれでもかと書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

リポート26 これから その2

 

美神さんが二日酔いで予定していた俺と蛍だけの除霊が延長となり、オーナーさんの都合もあり、1週間の延長となったので俺自身は覚えていないが、入院していたらしいので身体を鍛えなおす良い期間だと思うことにした

 

(テストも近いし。学校も行かないとなぁ)

 

また蛍に助けて貰わないと留年しそうだなあと苦笑しながら柔軟を終える。はーっと息を吐くと白くなる、まだまだ朝は寒いなあ

 

「みーむ!みーむ!」

 

「うーきゅー!うきゅ!」

 

チビとモグラちゃんが楽しそうに鳴いているのを見ると自然と頬が緩む。なおチビとモグラちゃんにも防寒具として服もどきを着せている(チビはクリスマスの時の俺のコスプレセットだが……)タマモは起こしてみたんだけど起きなかったので留守番だ

 

「準備できた?」

 

自転車に乗って準備は出来た?と尋ねてくる蛍にああっと返事を返し、俺は朝の日課となりつつあるチビとモグラちゃんの散歩を兼ねたランニングに出かけるのだった

 

「みー!!みー!!!」

 

「きゅきゅきゅー!!!」

 

いつもゴールにしている川原まで走って来た所でリードを外してチビとモグラちゃんの好きにさせてやる。やっぱり広い所を走ったり飛んだりしている方が生き生きしているな

 

【霊力の循環を意識しろ、休んでいる時も常に修行だ】

 

心眼の言葉でつい普通に休もうとしていたのに気付いて、数回深呼吸を繰り返してから霊力の循環を意識する

 

(こ、これか?)

 

身体の中心から指先に向かって暖かい感覚が広がっていくのが判る、これが霊力の循環なのか?正直自分ではこれで良いのかよく判らない

 

【うむ、その感じだ。その感覚を忘れるな。霊力はお前の力だ、意識をしなくてもコントール出来る様になれ】

 

なんとも難しい注文だなあ……でも心眼のおかげか少しずつ、霊力って言うのが判ってきたような気がする。

 

【ヒヒー♪】

 

そんなことを考えているとポケットからウィスプ眼魂が飛び出して、かぼちゃ頭にマント姿に変化してチビ達の方に合流する、ウィスプも子供なのか実に楽しそうだ

 

「だいぶタイムが縮んで来たわね。持久力と体力がついてきた良い証拠よ」

 

俺の隣に座って笑う蛍の言葉にそうかと返事を返す、自分では自覚してないけど蛍がそう言うのならきっとそうなんだろうな

 

「なんか見ていると微笑ましい気持ちになってくるわね」

 

「ああ。見てると和むよなあ」

 

チビやモグラちゃんがいるだけで日常が明るい物になってくるように思える。しかしそのなんだ……蛍が近くに座っているので甘い香りとかがして落ち着かない、もしここで俺が蛍の肩を掴んで抱き寄せたらどう……

 

(いかんいかん。そんなことを考えたらいかん)

 

頭を軽く振って一瞬頭を過ぎったピンク色の妄想を飛ばす。蛍には感謝している、目標も何も無かった俺に進むべき道を示してくれて、こんな馬鹿でなんの取り柄の無い俺を見限ることも無く応援してくれているんだ。そんなことを考えるなんて恩知らずにも程がある

 

(もっと強くならないと……)

 

今の俺は蛍におんぶに抱っこだ。蛍に迷惑ばかりかけている。だから……もっと強くなって……自分を信じられるようになったら……俺はきっと自分の想いを口に出来ると思う。だから今はまだ想いを告げるには早すぎる

 

「どう?バイクの免許の勉強は進んでる?」

 

「んーそこそこかなあ」

 

蛍が一緒にツーリングしようと言うので勉強をしているが、GSの勉強に学校の課題もあるので思いように進んでいない

 

「焦らなくても良いからね?ゆっくり頑張りましょう」

 

そう笑う蛍の顔を近くで見てしまい、なんか気恥ずかしいものを感じて立ち上がると蛍が悪戯っぽく笑っているのに気付いて、更に落ち着かないものを感じてしまう

 

「さ、そろそろ休憩も終わり。また走るわよ」

 

そうやな、シズクとおキヌちゃんが朝ごはんを作って待ってくれてるからなあ……そろそろ帰る時間か

 

「チビー、モグラちゃん帰るぞー」

 

川原で遊んでいるチビ達を呼び戻し、家に戻ることにするのだった……

 

「じゃ、私とおキヌさんは美神さんと除霊があるから、横島は申請書の準備をちゃんとしないと駄目よ?」

 

【今回のは楽な除霊って聞いているので直ぐに帰りますからねー♪】

 

GSの仮免許を受け取るためにはちゃんと書類を作らないといけないらしく、朝食の後手渡された書類の束に軽く絶望しながら、判ったーと返事を返し除霊に向かう蛍とおキヌちゃんを見送るのだった。でもいつの間に、俺の家は蛍やおキヌちゃんが当然のように居座るようになったんだろう……いや別に良いけどな。

 

「……まぁ、面倒だと思うが頑張れ、必要な事らしいからな」

 

百科事典並みの厚さの書類って面倒を通り越して嫌がらせだと思うけど、これをやらないと仮免許を貰えないのならやるしかないかと溜息を吐きながら俺はボールペンを手にする

 

「みみみみみ!みみー!みっ!みっ!みみー!!」

 

「うきゅ!きゅきゅー!うっきゅ!うきゅきゅー!」

 

TVの幼児向けの番組を見て短い手足を振って歌っているチビとモグラちゃんを見て、普段こんな事をしてるんだなあと微笑ましい気持ちになりながら、めちゃくちゃ細かくいくつも書かれている注意事項の数々とあまりに多い記入欄の数に気が滅入りそうになりながら少しずつ書類を書き始めるのだった……

 

「うーん?」

 

「……どうした?」

 

書き始めて数分立った所でどうも妙な感覚がして、手が止まってしまった。シズクがどうした?と尋ねて来たので

 

「いや、多分気のせいだと思うんだけど……誰かに見られてる気がしてな?」

 

俺を見ても楽しくなんか無いだろうから、多分気のせいだと思うけどと言うと、シズクの表情が険しいものになり

 

「……私のほうには思い当たる節があるな」

 

シズクが恐ろしい表情をして、ペットボトルを抱えて出て行くのを見てそんなに危険な状態なのかと激しく不安に思うのだった……

 

 

 

美神さんの除霊の助手として今日は現場に来たけど……5分ほどで除霊も終わり、現場の清め作業まで終わってしまった……

 

「これ本当に私必要だったんですか?」

 

本来美神さんが受けるような除霊ではないと思う。それにこんな簡単な仕事なら美神さん単独でも出来た筈

 

「ま、除霊の手伝いをしてって言うのは半分くらい口実だからね」

 

基本的に横島君が付いて来てしまうから、蛍ちゃんとおキヌちゃんだけと話がしたかったのよと笑う美神さん。どうもこっちが本命の話のようだ

 

【横島さんがいると不味い話なんですか?】

 

おキヌさんの問いかけに美神さんの表情が僅かに曇る。横島に関係する話となるともしかしてGS試験の時の魔力の問題でGSの仮免許も剥奪となるって事じゃ?と不安に思っていると

 

「ああ。仮免許はちゃんと発行されるから心配ないわよ?横島君が今回の事件の功労者みたいな所もあるから」

 

特にガープに殴りかかったその度胸はかなり買われてるみたい。じゃあ何が問題……

 

「研修期間が蛍ちゃんのほうが早く終わりそうなのよね」

 

研修期間?……私が首を傾げていると美神さんが説明してくれた

 

「横島君と蛍ちゃんだと基本的な知識量が違うし、それに霊力の扱いの差もあるし……多分横島君よりも早く本免許が発行されると思うんだけど、それで横島君がふてくされないかって心配でね」

 

う、うーんそれは確かに難しい問題かもしれない、一応私と横島は同期って事になるし。私だけ先に本免許になると言うのは気がかりだ

 

【本免許はまず美神さんが受け取って、時期を見て手渡せば良いんじゃないですか?】

 

「それも考えたんだけどねぇ、ガープのせいで大分GSの数が減っているってのもあるから、早い段階で蛍ちゃんには本免許を発行したいらしいのよ】

 

あーそう言えばニュースで言っていた気がする。GS試験に参加していたプロのGSが引退宣言とか……ガープと戦うのが怖くて逃げたって事なのかしら。でもそれは無理も無いような気がするけど……誰が好き好んでソロモンの魔神なんて言う規格外と戦いたいと思うのか?と言うことだ

 

「まぁ蛍ちゃんが先に本免許を取ってくれれば、こっちとしてはかなり有難いのよね。あのくえすが自分の事務所開設するらしいから」

 

はい?美神さんの言葉に思わず尋ね返してしまう。横島は優しくて良い人だって言うけど、私には到底そうは思えないし。何よりもガープの一件から明らかに横島を意識している。あの時の横島を抱きしめての勝ち誇ったような顔は忘れることが出来るはずもない……そしてそれから認識したのだ、あの人は私の敵だと。しかも相当危険な相手だと確信したのだ、そしてそれを裏付けるような証拠もある

 

(あの人は危険だ!)

 

先日お父さんの持っているトトカルチョの紙に変化があった。それはありえなすぎる変化でお父さんが思いっきり噴出していたから嫌でも覚えている。そしてそんな人が事務所を開設する理由は何だ?と考えたら答えは1つしかなかった

 

神宮寺くえす 124.9倍→0.7倍

 

私の1.3を超えた。しかもあの手のタイプは危険だ、自分の感情だけを優先する。そしてそんな神宮寺くえすが事務所を開設する、それすなわち

 

「研修制度ですね!?研修制度を使うつもりなんですね!?ちゃんと断ってくれるんですよね!?」

 

若手GSの育成の為に研修をさせる制度がある。対象者は仮免許と本免許を取って1年未満と言うのが条件で、所属している事務所同士の話しあいになるけど基本的には断る事も出来る。だから美神さんにその申請があっても断ってくれるんですよね!?と詰め寄ると美神さんは明らかに目を逸らして

 

「ごめん、パイパーの一件で1回だけくえすの要求を無条件で引き受ける約束を……」

 

「最悪だッ!!!」

 

神宮寺あの人は駄目だ。横島の好みの年上だし、胸も私よりも遥かに大きいし……完全に横島のストライクゾーンのど真ん中だ。私と神宮寺くえすの戦闘力の差を感じてしまい、思わずその場に蹲ってしまう

 

「でもそれが無くても私はその要請を受けたわ」

 

その言葉に思わず美神さんの顔を見ると美神さんは静かにと言うジェスチャーをしながら

 

「GS試験で横島君が魔力を使ったのは覚えてるわね?その魔力に関してくえすが心当たりがある、教えてもいいが、条件として横島君を研修によこせって言ってるみたいなの」

 

出来れば私も研修には出したくないけど、その件についてはくえすの話を聞かないといけない。だから今回は我慢してと言う美神さん。ここまで言われたら駄々を捏ねる訳には行かないし、それに横島の魔力に関しては私も知りたいと思っているので嫌で嫌で仕方ないけど、我慢するしか無さそうだ

 

「なんかごめんね?で、でもほら、数日程度だし蛍ちゃんが不安に思う事は無いと思うわよ!?」

 

励ますように美神さんが声を掛けてくれるけど、嫌な予感がとんでもない

 

【魔法使いなんですよ!?もうあれですよ!?絶対変な魔法とか、薬を使いますよ!?私が欲しいと思っているもの的な!あれを!ピンク色のあの薬を使うに決まっているんですよ!!】

 

この色ボケ巫女幽霊も死んでくれないかな、あ、もう幽霊だから死なないか……と言うか、この人普段何を考えているんだろう……

 

「……多分。大丈夫だと思うわ」

 

「なんでそんなに不安そうなんですか!?」

 

その口調ではとてもではないけど安心など出来るわけもない。というかあの人は絶対あれです、肉食系女子です。横島がぱっくり食われる未来しか想像出来ない

 

「うう……聞きたくないことを聞いちゃいました」

 

絶対安全だと思っていた参加者が脅威の敵へとなってしまっている。しかもその敵の下に横島を送り出さないといけない、そんな知りたくも無い未来を知ってしまった。私の精神的ダメージは相当なもので暫く動くことが出来ないのだった……

 

 

 

蛍がそんな精神的ダメージを受けている頃、神界でもとんでもない問題が発生していた……ガープとか、裏切り者が出たとかそういう話ではなく身内的な意味で深刻な問題だった

 

「ヒャクメー?いないんですかー……ってヒャクメーッ!?!?」

 

今後の方針を固める為にもヒャクメの能力を借りようと思い、ヒャクメの家を訪ねたのですが、私を待っていたのは

 

「……」

 

『横島様の所へ参ります。ではでは 清姫 追伸 竜神王様 役人は選んだほうがいいですよ?返り討ちにしましたが、襲われかけました』

 

鍵で外された清姫の能力を封印する腕輪と目を回して倒れているヒャクメ。そして壁に貼り付けられた清姫の手紙

 

「起きなさい!ヒャクメー!ヒャクメーッ!!」

 

いつ清姫が逃げたのか知りたくて気絶しているヒャクメを起こすと

 

「小竜姫?……ううう!怖かったのねーッ!あの子怖すぎるのねーッ!!!」

 

号泣しながら抱きついて来たヒャクメに何があったのか?と尋ねると

 

「うう、あのなのねー?清姫が逃げたのは私のせいじゃないのねー」

 

相当清姫が怖かったのか震えているヒャクメに詳しい事情を聞くと、竜神王との謁見の時に清姫を迎えに来た竜族が腕輪を外して、手篭めにしようとした所を反撃され、清姫は鍵を奪ってそれで逃亡されたと

 

「それでその竜族はどこに?」

 

追伸の内容を見る限りでは、その竜族は清姫を襲おうとして返り討ちにあって、鍵を強奪されたのだろう。となるとヒャクメを責めるのはお門違いと言うものだし、そもそも竜神王の家系の姫である清姫に手を出そうとしたその竜族のほうが責任重大だろう

 

「あそこなのねー?」

 

ヒャクメが襖を開けると丁寧に角を2本とも切り落とされた若い竜族が猿轡を噛まされ、逆さ吊りにされていた

 

「んーんーッ!!!」

 

助けてくれと叫んでいるであろう竜族を殺気を込めて睨みつけると白目を向いて気絶する。女性に暴行を振るおうとするなど同じ竜族としても神族としても認める訳にはいかない。それに角を失っているので一族からも彼を助けようと思うものはいないだろう

 

「ううう……これって私の監督不行き届きになるのねー?」

 

不安そうに尋ねてくるヒャクメに大丈夫ですよと笑いかける。どう考えてもあの馬鹿の責任なのでヒャクメが責任を感じることは何も無いですよと言いながら清姫の手紙を壁から剥がし、気絶している馬鹿を吊るしているロープを切り

 

「竜神王様に報告に行きましょう」

 

「……減給だったら嫌なのねー……」

 

自分が任されたのに逃亡されてしまった事に責任を感じているヒャクメを励ましながら、私は馬鹿を引きずりながら竜神王様の宮殿に向かうのだった……

 

「ふむふむ。なるほどなるほど……」

 

報告と清姫の手紙を見せると額に青筋が浮かんだ竜神王様。先代の孫娘である清姫に手を出そうとした竜族は顔を青褪めさせて震えている。どんな裁きが下されるのかと考えて脅えているのだろう。娘を持つ竜神王様が今回の事件を聞いて恩情で済ませる筈も無く

 

「ちょうど魔界正規軍に竜族の文官の要請が来ておる」

 

その言葉にがくがく震えだす竜族。これは下界への追放なんかよりよっぽど厳しい罰則ですね

 

「これより無期限の魔界正規軍への出向を命じる。連れて行け」

 

嫌だ嫌だと叫ぶ竜族を引きずっていく近衛兵。極刑よりも酷いその罰則に竜神王様の怒りの深さが判る

 

「さて、ヒャクメ。清姫の居場所は判るか?」

 

「えっと……た、多分なのねー。横島さんの所に向かっていると思うのねー?」

 

まぁまず間違いなく東京に向かっているでしょうね。仮にも竜族の中でも高貴と言われる血脈だ

 

「竜神王様。迎えに行きましょうか?」

 

何かあってからでは遅い、私が迎えに行きましょうか?と進言すると

 

「いや。清姫には好きにさせておく」

 

予想外の言葉に驚いていると竜神王様は

 

「好いてもいない男に触れられそうになったんだ。そのショックを考えると無理に連れ戻すのは酷だと思ってな……横島とか言う人間には申し訳ないがな。清姫の好きにさせてやろう」

 

竜神王様の判断に口を出すわけにも行かないので判りましたと返事を返す。

 

「ヒャクメは清姫の居場所が判ったら連絡してくれ、信用できる部下を護衛に回す。連れ戻しはしないが、護衛をつけるくらいなら構わないだろう」

 

「判ったのねー!直ぐに見つけるのねー」

 

ヒャクメの気合の入った返事に空回りしないかなと心配に思っていると

 

「それと小竜姫にも新たに命を下す」

 

私にもあると思っていなかったので少し驚いたが直ぐに姿勢を正す

 

「メドーサが今日付けで正式に天界所属の竜族として復帰する。暫くの間、妙神山で預けるからメドーサを頼む」

 

はい?予想外の命令に思わず尋ね返す。え?メドーサも妙神山で暮らすんですか?いや、冤罪なのは知ってますけど……性格的に絶対私と馬が合わないと思うんですけど……

 

「ま?これからよろしく頼むよ?小竜姫?」

 

からからと笑いながら私の頭に手を置くメドーサに

 

(老師になんて説明しよう、後部屋はどうしたら……)

 

急に増えた同居人のことをどうやって老師の説明すればいいのか、私は頭を悩ませながら竜神王様の宮殿を後にするのだった……

 

 

 

日本から届いた2通の手紙。1つは忠夫からで、もう1つは美神さんからの手紙だった

 

『おふ……母さん。えーと大変だったけど、GS試験に無事合格することが出来ました。まだ仮免許やけど、本免許を貰える様にこれからも頑張るわ 後な、蛍も試験に合格したで。2人で合格出来てほんま良かったわ』

 

よっぽど嬉しかったのか、大阪弁が混じっている忠夫からの手紙に苦笑しつつ、合格出来て良かったなあと呟く。もう1通の美神さんからの手紙は最初は忠夫が合格したことに対する件とそれと忠夫の手紙には書かれてなかった事も明記されていた

 

『横島君の才能の高さを正直侮っていました。勝てるわけ無いと棄権することを薦めましたが、横島君はその相手も倒しGSの仮免許を手にしました』

 

プロが言うのだから忠夫では勝てない相手に勝ったって事何やろうな……あの臆病な性格の割にはよう頑張ったと褒めてやらんと行かんなあ

 

『ただ横島君は目立ちすぎました。明記出来ないことをお許しください。ただ名前を知るだけでも危険な魔族なので横島君のご両親の身の安全を護ることを考慮して明記しません。横島君はGS試験の裏で暗躍していたとある魔族を殴り飛ばしました。これにより恐らくその魔族に目を付けられたのは明らかです』

 

あの馬鹿何やってるんだろうね……なんでそんな魔族に喧嘩を売ったのかと考えて……

 

(蛍ちゃんの為かな……)

 

忠夫は臆病で争いごとを好まない、そんな忠夫が自分から仕掛けたと言うことはよっぽど許せなかったのか、誰かを助けたいと思ったのどっちかだろう……

 

『横島君を護る事を考え、今後はより本格的なGSの修行に入っていきます。横島君を預かっている以上、死なせません、必ず1人前のGSに育て上げることをお約束します。それでは失礼致します』

 

丁寧に手紙を送ってくれた美神さんに感謝しながら手紙を封筒に戻し

 

「1回日本に戻るかねえ」

 

ナルニアみたいな辺境ならうちの人の浮気癖も収まると思ったけど、全然収まる事無く、日付が変わるまで待っていたけど、こんな時間になってもまだ帰ってこない。

 

「決めた。日本に帰ろう」

 

忠夫のことも心配だし、今やっている仕事が一区切りついたら日本に帰ろう。もう愛想も尽きたし、離婚しても良いか……蛍ちゃんのことも気になるし、忠夫も手紙じゃなくてちゃんと労ってやりたいし

 

「そうと決まればちゃっちゃっとやりますか」

 

契約がまとまりそうなのが3件と仕事の指示を纏めないといけないのが5件。正直数日で終わらせるのは難しい所だけど、仕事をしていればまさか日本の帰るなんてあの馬鹿亭主も思わないだろうから、終わってから不意をついて日本に帰ってやろうと思い。私は鞄から書類の束を取り出し書類整理を再開するのだった……

 

 

リポート26 これから その3へ続く

 

 




基本的にこれからは第二部に繋げる話となっております。なのでくえすが動くのも、百合子さんが日本に戻るのも第二部の話となります。次回は清姫や愛子さんの話を書いてみたいと思っています、これも第二部の話につなげることが出来るように書いてみたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回の話も第二部に続く話の内容となります。今回は「愛子&シルフィー」「タイガー&ピート」「カオス」の話を書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート26 これから その3

 

GS試験に参加すると言う事で横島君達が学校を休んで1週間。まだ横島君達は学校に来ない

 

(なにかあったのかな?)

 

私の記憶では割と直ぐに学校に来ていたけど……やっぱり全部私の記憶通りに行くわけじゃないのねと改めて実感する。私の記憶ではピート君には妹なんかいなかったし、蛍さんがいる事自体で私の記憶が役に立たないのは判っているし

 

「うー愛子さん……ヘルプミー」

 

私の机に上に倒れこんできて助けてくれと呟くシルフィーさんを見て大きく溜息を吐く

 

「また課題が出来てないの?」

 

うんっと呟くシルフィーさん。毎日学校にこそ来ているけど、授業中寝ている事の方が遥かに多い。生まれ育った島じゃこんな勉強したこと無いから何もかも判らないと言っているけど、同じ条件のピート君が頑張って勉強しているのだから、もう少しやる気を出したほうがいいと思う

 

「もう直ぐお兄ちゃんとかが退院するから、それで課題をやってないのがバレると怒られる。最悪お父さんに手紙で告げ口される」

 

がたがた震えているシルフィーさん。そんなに父親が怖いの?と尋ねるとシルフィーさんは

 

「私はお母さんに似ているから基本的にはお父さんは甘いよ?でも……横島君の血を吸おうとして迷惑を掛けている事を告げ口されると思うと……下手をすると島に強制連行されちゃうかも」

 

……私としてはそっちのほうがいいと思う。欲望に身を任せ、横島君を襲っている所は良く見るし、私が何回も机で強打して横島君を助けている事を考えるとそっちのほうが横島君にとっては良いと思う

 

「ねー?愛子。今回は見捨てた方が良いんじゃない?優しいのは判るけど、ちょっとシルフィーのは目に余ると思う」

 

シルフィーさんは色々と問題視されている、人外で学校に通いたいを願う人のテストケースとしてシルフィーさんとピート君が選ばれれたけど、ハッキリ言ってシルフィーさんは選択ミスと言わざるをえない

 

「1回島に帰って良識を学んだほうがいいと思うわ」

 

「お願い!見捨てないでー!愛子様ぁッ!!」

 

私の腰にしがみ付いて叫ぶシルフィーさんに

 

「ちょっ!?スカートを離しなさい!脱げる!脱げるからぁッ!!」

 

スカートを引っ張られているのに気付いて慌てて両手で掴むけど、シルフィーさんの力が強くてどんどんずり落ちていくのが判る

 

「こらあ!男子こっち見んな!!!」

 

「サイテーね!!」

 

私の状態に気付いた男子がガン見しているのに気付いて顔が熱くなる。なんで私がこんな目に合っているのかと叫びたくなる。友達の女子が壁になってくれているから見られることは無いと思うけど、恥ずかしくて仕方ない

 

「お願いー!見捨てないでえッ!!!島にはまだ帰りたくないー!横島君の側が良いーッ!!!」

 

「離してって!スカートは駄目!駄目って!?そっちはもっと駄目ぇッ!!!」

 

シルフィーさんの指が下着に掛かるのを感じて全力で振りほどこうとするんだけど、其処は流石ハーフとは言え吸血鬼。全く振りほどくことが出来ない上に

 

(やばいっ!これめちゃくちゃやばいッ!!)

 

下着とスカートの生地が悲鳴を上げている。私の身体と服は霊体なので本来なら破けることなんてありえないのだけど、吸血鬼だからか服とかがやばい!このまま破けてしまったら私は確実に痴女だ。それだけはなんとしても防がないといけないのだけど

 

(れ、れれれ!霊体化も出来ないぃぃッ!)

 

霊体化して逃げようとも思ったけど、シルフィーさんに掴まれているせいか霊体化も出来ない。スカートと下着の悲鳴がどんどん大きくなるに連れてどんどん私も焦ってくるし、私を囲ってくれている女子もいるけど、男子生徒の視線が向けられているので恥ずかしくて仕方ない

 

「ほ、本当駄目だってぇ!!」

 

「お願いだから見捨てないでぇッ!」

 

私とシルフィーさんの悲鳴が重なるけど、悲鳴を上げたいのはむしろ私のほうだと思う。そもそも見捨てるなんて言ってないのにッ!っていうか本当にスカートと下着がやばいッ!!

 

「愛子ッ!ごめんねッ!!」

 

女子生徒の声に振り返ると何かの粉末が頭からかけられた、こ、この香りはニンニク?

 

「あーっ!!!!!!!!!!!!!」

 

シルフィーさんが断末魔の悲鳴を上げ、痙攣して動かなくなる。きゅ、吸血鬼にニンニクって本当に効いたのね……私はぎりぎりの所で耐えてくれたスカートと下着に感謝しつつ

 

「ごめん、1回消えるわ」

 

手を離したら破けてしまいそうなので1回霊体に戻って服を修復すると声を掛け、姿を消すのだった……

 

「……ごめんなさい、錯乱してました」

服の修復が終わったのでまた具現化すると、シルフィーさんが正座していて、膝の上に大量の辞典が置かれていた。吸血鬼にどこまで効果があるか判らないけど、ガーリックパウダーで弱体化しているのか、顔が歪んでいる

 

「いや、本当横島君と離れるの嫌でさ」

 

……それなら横島君を襲うのを止めれば絶対横島君は拒絶しないと思うんだけどね……どうもシルフィーさんは自分の欲望に忠実すぎるのが問題だと思う。でもまぁそれは横島君への恋心ゆえの暴走かと苦笑しながら

 

「次やったら絶対許さないからね?」

 

いきなり教室でストリップをさせられかけるなんて悪夢としか言いようが無い。だから今回だけは許すけど次は無いよと釘を刺す

 

「……本当反省しています」

 

声の響きから本気で反省しているのが判った。それに助けてくれと言っているのを見捨てるのも気分が悪いので

 

「課題見せて、教えてあげるから」

 

愛子本気なの!?と私を囲ってくれた女子がそう叫ぶけど、同じ人を好きになったってよしみって事で今回だけは助けてあげようかな。ただし

 

「今度横島君に迷惑をかけたら2度と助けないからね」

 

イエスマムッ!と敬礼するシルフィーさんに苦笑しながら、シルフィーさんの膝の上の辞書をどけてシルフィーさんの課題を教えてあげる事にするのだったが

 

「愛子。絶対あんた行き遅れするタイプだわ」

 

ぼそりと呟かれたその一言。未来で実際行き遅れた私には余りに痛い一言で思わず机に突っ伏してしまうのだった……

 

 

 

GS試験でお互いに重傷を負って入院していた僕とタイガーさんは奇しくも同じ日が退院の日で一緒に病院を出たのですが……

 

「タイガーさん。本当に大丈夫ですか?」

 

まだ包帯を巻いているし、足元もふらついているので本当に大丈夫なのか?と尋ねると

 

「全然大丈夫ですジャー?ワッシは身体は頑丈ですけん」

 

にかっと笑う顔を見る限りではやせ我慢とかではないと言うのが判る。それならあんまり大丈夫か?尋ねるのは失礼に当ると思い、それなら良いのですがと返事を返す

 

「ふう、しかし……シルフィーが横島さんに迷惑をかけてないか激しく不安です」

 

僕達よりも早く退院した横島さん。きっともう学校にいっているだろうから、シルフィーが迷惑をかけてないか激しく不安になる

 

「あー大丈夫じゃないですかのー?チビとモグラがついてるけん」

 

横島さんが基本的に連れている2匹の戦闘力の高さは知っているつもりだ、下手をすると並みのGSよりも強いかもしれない……だから最悪の事態になることはまず無いと確信しているのですが

 

「……蛍さんとかに怒られるの僕なんですよ」

 

どんまいですじゃーっと肩を叩いてくれるタイガーさんにありがとうと呟く。横島さんに対しては過保護すぎる蛍さんやシズクさんに怒られる恐怖は言葉にはしにくいが、真面目に怖い。特にシズクさんは氷柱を心臓に向けてくるので死の恐怖を感じる

 

「ワッシはフルボッコにされた挙句氷の棺じゃったのー」

 

遠い目をしているタイガーさん。どうもシズクさん達にボコボコにされたことがあったようだ……横島さんの回りにいる女性は皆強すぎる。そしてそれでいて横島さんを傷つける者を許さないので、本当に気をつけないといけない

 

「ピートさんは知っとるかのー?あのチビって言うグレムリン。鬼を一撃で倒したことがあるらしいんじゃ」

 

……それは種族的に考えたらありえない話だ。グレムリンはぎりぎり悪魔と言えるレベルの低級の悪魔だ。どっちかというと妖精とかそういうのに近い種族で、鬼とは比べるまでも無く弱い

 

「エミさんが言うには横島さんの霊力とか、タマモの妖気とか、シズクさんの竜気とかに触れて突然変異してるらしいんじゃ……もう大人のグレムリンよりも遥かに強いとか……」

 

……見た目は可愛いが、実はとんでもない種族に変化しているかもしれないチビに少しだけ恐怖を感じた。シルフィーが横島さんに襲い掛かる度に電撃で迎撃しているが、そのうち大変なことになるような……

 

「横島さんの近辺は魔窟ですね」

 

今の段階でも横島さんの周りにはたくさんの妖怪がいますが、もしかすると今後まだまだ増えていくかもしれないと思うと、横島さんはGSではなく、別の何かを目指したほうがいいような……

 

「タイガーさんはどうするんですか?僕は教会に帰りますが」

 

タイガーさんにどうするつもりですか?と尋ねるとタイガーさんは思い出したように

 

「退院したら1度唐巣神父を尋ねるようにとエミさんに言われてたんじゃ、今から尋ねて行っても迷惑じゃないかノー?」

 

唐巣先生の性格を考えたら多分大丈夫だと思いますよ?と返事を返し、タイガーさんと一緒に教会に向かって歩き出すのだった……

 

「先生、今帰りました」

 

「おかえりピート君、それと……タイガー寅吉君だったね?小笠原君から話は聞いてるよ」

 

除霊帰りなのか聖書と札を机の上に置きながら笑顔で声を掛けてくる唐巣先生を見て、タイガーさんは

 

「除霊帰りでお疲れでしょう?また後日お伺いするんじゃー」

 

除霊は体力と霊力を消耗する。いくら先生ほどのGSでも除霊の後は疲れ切っている、タイガーさんはそう判断して引き返そうとするが

 

「いやいや、構わないよ。早い内に話をしたいと思っていたからね、さ、座るといい」

 

椅子を指差され、タイガーさんは少し悩んだ素振りを見せながらお邪魔するけんと言って、教会の中に足を踏み入れるのだった……

 

「紅茶の茶葉がある……僕がいない間もちゃんと仕事が合ったんですね」

 

荷物を部屋に置いてから、キッチンでお茶の用意をしていると、見覚えの無い紅茶とお茶の缶を見つけて、先生がちゃんと報酬を貰って仕事をしていたのが判り安堵の溜息を吐く。入院している間唐巣先生がお金を貰っているのかと言う不安を感じていたが、そうじゃなくて本当に安心した

 

「お茶をいれ……あれ?」

 

唐巣先生と話をしているはずのタイガーさんの姿が無い。僕が首を傾げていると

 

「タイガー君ならもう帰ったよ。早速試したいことがあるってね」

 

そうなんですか……折角お茶を淹れたんですけどね……と呟きながら唐巣先生の前にお茶とお菓子を置いて

 

「何の話をしていたんですか?」

 

「ああ。タイガー君の除霊スタイルの事についてね。彼は体格は恵まれているが、彼の霊能はあまり攻撃に向いていない。それに対して小笠原君は攻撃と呪いに特化しているからね、補助系はあまり詳しくないから、そっちのほうで何か指導してもらえないか?と頼まれたんだよ」

 

補助系ですか……確かにタイガーさんは体格も大きくて、腕力もありそうに見えますけど、性格が穏やかだから余り殴った

りするのは性格的に向いていないだろう。それは得意としている霊能が精神感応という所にも出ていると思う

 

「何を指導したんですか?やっぱり聖句とかですか?」

 

僕も教わっている聖句を教えてあげたんですか?と尋ねると唐巣先生は苦笑しながら

 

「それだと私の弟子になってしまうだろう?あくまでタイガー君は小笠原君の弟子だ。あんまり口を出すのはお門違いと言うものだよ」

 

それなら何を教えてあげたんだろうか?と考えてみるが、これだって言うのが思いつかない

 

「ピート君やシルフィー君には向いてない技術だから思い当たる節が無いのも当然かな。一応話の中では言ったけど、その修行はしなかったからね。私がタイガー君に教えたのはヒーリングの基礎だよ」

 

と言っても私はあんまりヒーリングが得意じゃないから、使い方の基礎を教えてあげただけどねと呟く、そう言えばヒーリングは稀有な霊能の上に元々再生能力の高い僕やシルフィーでは使う感覚を思うように掴めないだろうから、と言って教えて貰わなかった事を思い出した

 

「無論使いこなすのが難しい霊能の上に、回復量も安定しないだろうから実践レベルで使うのは恐らく長い修行が必要になるだろうけど……私の勘だときっと彼に向いていると思うよ」

 

にこりと笑う唐巣先生だったけど、次の瞬間には真剣な顔になって

 

「ではピート君。申し訳ないが、ブラドーにこの手紙を出してくれないか?」

 

ブラドー島に?唐巣先生から手渡された分厚い便箋を受け取りながら、首を傾げる。ブラドー島に手紙を出すことはそう難しいことじゃない、使い魔の蝙蝠に頼めば国際便よりも遥かに早く届く。でもなんで父さんに手紙を?

 

「ピート君がGSの仮免許に受かった事を伝えないといけないだろう?それに息子と娘を預かっているんだ、近況を伝えるのは当然のことだろ?」

 

そう言われるとその通りですねと呟き、その分厚い便箋から1匹では駄目だなあっと思い2匹の蝙蝠を呼び出して

 

「これを父さんに届けてくれ」

 

「「キイッ!」」

 

元気良く鳴いて飛び立っていく蝙蝠を見送っていると勢い良く教会の扉が開き

 

「ただいまー!今帰りましたー!!」

 

元気なシルフィーの声が教会に響く、僕は苦笑しながらシルフィーの分のお茶を淹れてきますねと唐巣先生に声を掛け、キッチンへと戻るのだった……

 

 

 

培養液の中に浮かんでいる鎌田勘九朗。見た目だけはある程度回復させることが出来たが、恐らく培養液から出した瞬間に死ぬじゃろう、それほどまでにガープの魔炎の威力は凄まじいものじゃ。メタソウルに魂を移して助ける事を考えたが、傷ついた肉体と魂の今の状態ではメタソウルに魂を移すことも出来ないので、まず最低限……メタソウルに魂を移せるレベルまでの治療を施しているのじゃが……正直よくここまで回復したなと感心する

 

(強靭な身体と魂じゃなあ)

 

アシュタロスに提供してもらった特製の回復用の培養液の効果が高いのもあるが、回復には鎌田勘九朗自身の生命力と生きるという気持ちが何よりも大事だ。普通なら死んでいてもおかしくないダメージを受けてもなお生きているのは単純に鎌田勘九朗の生命力の高さがあってのものだ

 

「さてと……そろそろ回復してきた所じゃから聞くぞ?もしワシの言葉に返事を返すことが出来るなら、手を動かしてくれるかの?」

 

流石に少し早いかの?と思いながら尋ねてみると右腕が僅かに動く……駄目もとで尋ねてみたので返事があった事に驚きながら

 

「まず判っていると思うが、このままではお主は死ぬ。判っているな?」

 

自分の状態は判っているのか、こくりと頷く鎌田勘九朗に続けて

 

「ワシはお前に2つの選択肢を与えることが出来る、1つはこのまま死ぬこと、もう1つは人間じゃない身体で生き延びるか……お主はどっちがいい?生きたいか?それとも死にたいか?」

 

死にたいか?と尋ねると首を振る。そうか……人ではない身体となったとしても生きていたいか……

 

「うむ、心得た。ヨーロッパの魔王ドクターカオスが必ずお前さんを生かしてやろう」

 

メタソウルの準備はまだ出来ていないが、作成する事は出来る。そうすればお前を生かすことが出来る、功労者の1人をこのまま死なせる訳には行かんからな

 

「ではまた眠っておれ、身体の調整だけはしないと……む?どうした?」

 

メタソウルを組み込むボデイの調整をすると言うと、とんとんとケースを叩く。ボデイに何か注文があるのかのう?

 

「安心するがいい、ちゃんと元通りの身体「どんどんッ!!」むう……」

 

写真を元に復元するつもりだと言うと、力強くケースを叩く……これはもしかして……

 

「男の身体は嫌か?」

 

こくこくと何度も頷く鎌田勘九朗。ふむ……なるほどなるほど……これだけの反応を見せるという事は……これしかないの

 

「女の身体が良いと言うんじゃな?」

 

身体を動かすのも辛いはずなのに何度も何度も力強く頷く。まぁ元はマリアとテレサの有機ボディを作った時の試作があるから、それを男に改造するよりもそのまま使う方が楽じゃな

 

「あい判った。女のボディで調整してやろう、眼球の再生が終わったらお前さんの好きなように身体を整形する。それで良いな?」

 

ぶんぶんという擬音が聞こえてきそうな勢いで頷く鎌田に少し引きながら任せておけと声を掛け

 

「さ、もう少し眠っておれ、調整が出来るのは大分先じゃからな」

 

メタソウルの生成にも時間が掛かる、それに加えて鎌田の魂がメタソウルに移植するのに耐えれるようになるまでの時間も考えると半年は掛かる計算だ。鎌田自身もそれが判っているのか、徐々に反応が弱くなって行く。

 

「よっぽど男の身体が嫌じゃったんだな」

 

なんでも性同一性症だったらしく、よっぽど男の身体が嫌だったんだろうなと呟き部屋の明かりを消す

 

「カオスー?ご飯できるよー?」

 

テレサのワシを呼ぶ声に今行くぞーと返事を返し、ワシは地下を後にするのだった……

 

 

 

そしてこの頃東京から遠く離れたある山奥では

 

「ふむ、娘と自分を助けてくれた人間の元へ行きたいというのじゃな?」

 

どこか田舎を思わせる家の中で着物を着た立派な髭を持つ老人がそう呟く、だがその老人には耳と尻尾があり人間ではないのが一目で判る。そしてその老人の前で座っているのは妙神山に行く時、横島が遭遇した人狼の犬塚クロその人だった……

 

「娘が言うのです、武士として命の恩人の顔を知らぬ上に感謝の言葉すら言わぬというのは余りにも非礼。無論人間界との繋がりを絶っているのも重々承知しておりますが、我が娘ともども人間界へ行くことをお許しください、長老」

 

里1番の剣士であるクロの頼みであるから長老としてもかなえてやりたいと思う所だが、人狼族は人間との繋がりを絶って長い。そして何よりも迫害の歴史があったからこそ結界を用いて里を隠している。確かにシロとクロの言うことも判る、だがはいそうですかと長老も返事を返すことが出来なかった

 

「腕と目を失う覚悟で天狗殿と戦う事を選んだ某が間違っていると、そして天狗殿にも恐れる事無く、自らの意思を通した横島殿は確かに人間ではありましたが、信用に値する武士であったと言えます。どうか、ご許可を」

 

繰り返し頭を下げられた長老は参ったのう……と呟きながらキセルの灰を囲炉裏に落とす

 

「仕方あるまい、お主にそこまで言われたのでは駄目と言う事も叶うまい。特例として許可する」

 

「ありがとうございます!長老」

 

半日の間交渉を続け、やっと許可を取る事が出来たクロが長老の家を出ると

 

「っと!」

 

それと同時に鞘に納められた刀が投げ渡される。咄嗟にそれを受け止めたクロに

 

「……俺の刀だ。ちゃんと返しに来い」

 

「ポチ……ああ、ありがとう。借りていく」

 

里で2番目の剣士であり、クロの旧友でもある犬飼ポチから投げ渡された刀を腰に差したクロはそのまま家へと戻り

 

「父上。長老はなんと?」

 

「支度を整えろシロ。行くぞ、横島殿を探しにな」

 

「はいっ!」

 

そしてこの日人狼族里からシロとクロが横島を探して旅立つのだった……

 

 

リポート26 これから その4へ続く

 

 




かなり早めにシロを登場させますが、基本的にはマスコット枠での参戦となります。そして鎌田は……女の人造人間として復活する予定です。大分先ですけどね、次回は仮面ライダーのベルトの分析の話を書いてみようと思います。ここまでノータッチでしたからね、ちゃんと書いておきたいと思ったので

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4

どうも混沌の魔法使いです、今回はゴーストドライバーの話をしてみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


リポート26 これから その4

 

GS試験が終わってから数日後、私の事務所に優太郎さんとドクターカオスが揃って尋ねてきた

 

「珍しい組み合わせね?知り合いだったの?」

 

なんで錬金術師のドクターカオスと東京でやり手の若社長の芦優太郎さん……接点なんてどこにも無いと思うんだけど……見た感じかなり親しそうなのでそう尋ねると

 

「うむ。ワシがヨーロッパに拠点を置いて活動している時に会ってな、なかなか才能に溢れているので少しの間弟子として面倒を見ておったのじゃ」

 

「へぇ……なかなか面白い経歴ね。優太郎さんは」

 

蛍ちゃんにGSの道を進ませているのも、ドクターカオスとの出会いがあったからなのかもね

 

【どうぞ】

 

ちょうどそのタイミングでおキヌちゃんがキッチンからお茶を運んで来てくれた

 

「ありがとう、頂くよ」

 

「うむ。ありがとう」

 

湯呑みを受け取って穏やかに笑っているドクターカオスと優太郎さん。まぁ別に今日は除霊の依頼も入ってないし、今後の横島君の修行の方向性を考えるつもりだったから暇だけど……ただお茶を飲みに来たっていうのなら追い返そうかしら?

 

「GS試験で小僧が使ったベルト、あれをもう1度詳しく分析してみようと思っての」

 

……確かにあのベルトの力は私達の常識を遥かに凌駕している。眼魂を調べることは出来たらしいけど、やはり大本はあのベルトを調べないといけないのだろう

 

「でもあのベルト……横島君持ってないのよ?」

 

必要な時に現れる。そう言えば聞こえは良いが、いつ爆発するかもしれない爆弾を使っていると考えるといい気分はしない。そんな物をどうやって調べるつもりなのか?と尋ねると

 

「1度目の前で変身させてみようと思っているんじゃが?心眼がなんとかしてくれる筈じゃ」

 

ドクターカオスの言葉に眉を吊り上げる。凄まじい後遺症があると判っているのに、それをあえて使わせる。しかも心眼がなんとかしてくれるじゃろう?と言うあまりに行き当たりばったりの計画。流石にそれを2つ返事で了承することは出来ない。私が険しい顔をしているのに気付いた優太郎さんが持ってきていた物を机の上に乗せながら

 

「一応私の方で霊体治療薬などは最高級の物を用意させて貰った。まだ使っている回数が少ない内に正確に調べておくべきだと思うんだが」

 

アタッシュケースいっぱいの薬のビン。その1つを拝見しますと言ってアタッシュケースの中から取り出す

 

(良くもまあ、これだけのものを……)

 

配合材料を見ると、マンドラゴラの名前。マンドラゴラと言えば、霊薬の材料としては最高峰の物で、味が酷くなる事の多い霊薬を回復させる薬の中でも使用すれば味は良くなるし、効果も素晴らしい物になる。それだけの品をアタッシュケース一杯に用意した優太郎さんに呆れながら、しかしここまで準備してくれたのに断るのは悪いし、何より2人の言っていることは間違いではない、いい機会だからちゃんと調べておいた方が良いわよね

 

【どうするつもりですか?……私は正直あんまり賛成できないですけど】

 

おキヌちゃんの言うことも判るけど……やっぱり1回調べておいたほうがいいのは間違いない

 

「私達も参加するけど良いわよね?」

 

科学者って言うのは厄介な人種だ。もし熱が入ると横島君の体力を考えない実験とかをやりかねないので、一緒に行くわよ?と言うと判っていると返事を返す、ドクターカオスに一安心しそのまま横島君を迎えに行ったんだけど……

 

「はえ?美神さんにカオスのじーさんに優太郎さん?今日何かありましたっけ?」

 

チビとモグラちゃんとボールで遊んでやりながら、膝の上にタマモを乗せた横島君の姿にGSって何だっけ?と思わずには居られないのだった……

 

 

 

 

蛍の家の高層ビルの地下……なんでビルの下にこんなの場所があるんだろう?俺は辺りを見回しながらそんな事を考えていた

 

「……お前。本当の霊能者だよな?」

 

「そうに決まってるでしょ!?」

 

シズクにそう尋ねられ、大きな声で返事を返す蛍を見ていると

 

「どうだい!なかなかだろう。霊能者といえど適度な身体能力は必要だ。そう行った物を鍛える私の考えたジムは!」

 

自信満々に言う優太郎さん……確かに凄い、確かに凄いと思うけど……

 

「蛍ちゃん、あんまり筋トレをするのは良くないわよ?何事もほどほどよ?これは……ボクシングの世界チャンピオンでも目指してるの?って私でも言うわ」

 

うん……だよな。吊り下げられたサンドバッグにジムとかで見る大型の機械……これでトレーニングしていると思うと、蛍がムキムキになりすぎて嫌だなあと思わずにはいられない

 

「違うからね!?私もはじめて来るからね!?」

 

俺の視線で考えている事が判ったのか、慌てて近寄ってくる蛍。あ、ここでトレーニングしているわけじゃないのかと俺は思わず安堵の溜息を吐いた

 

「みむ?」

 

「うきゃー?」

 

チビとモグラちゃんは初めて見る機械に興味津々という感じで叩いたり、爪で突いたりしている。壊したら恐らく弁償できないので慌てて抱き抱えていると

 

「さ、皆さん。こっちです、こっちに霊能力の放出用のトレーニングルームがあるので」

 

優太郎さんに案内されてビルの地下へ地下へと向かっていく

 

「コン!ココーン!!」

 

「みーむ!みーむうう!」

 

「うきゅー!!!」

 

地下に向かっていく途中でチビ達がやけに元気になっているのに気付いた

 

「ちょいちょい!落ち着け落ち着け!!」

 

俺の頭の上や肩の上をもぞもぞ動き回っているチビとモグラちゃんを捕まえようとするが、するする動き回るので捕まえる事が出来ない。もうーどうしたんだよ、急に元気になっちまって。まぁ元気なのは良い事だけどな

 

【地下から凄まじい霊力が噴出しているのが理由だな。覚えておけ、横島。これが霊脈と言う土地の事だ】

 

心眼の言葉にへーっと返事を返す、霊脈って言うのは何度か聞いていたが、こんなにも効果があるものなんだなあ……そちゃ凶暴な悪霊とかが集まるのも納得だわ……そんな事を考えていると長い階段が終わる。

 

「いつの間にこんなの作ったのよ?」

 

蛍が呆れたように呟く。なんか、こう神殿っていう感じでそこに居るだけで思わず背筋が伸びる思いだ……何となく妙神山に似ているなあと思っていると

 

「小僧。ほれ」

 

ぽいっと投げ渡されたボールを受け取る。なんだこれ?と俺が首を傾げていると

 

「それを捻るとコードが出る、それを手足につけて、何とか変身してみてくれ」

 

優太郎さんがそう言う、ベルトを出せって事か……でも出し方判んないし、何より美神さんが良いと言うかと思っていると

 

「いつまでも判らないものを使うのはGSとしては致命的よ。良い機会だから分析して貰いなさい」

 

……まあ確かに俺自身よく判らないものだし、カオスのじーさんや優太郎さんが分析してくれるというのなら素直にお願いするべきだろう

 

「シズク、チビ達を頼むわ」

 

何かあると危ないのでチビ達をシズクに預ける、シズクが抱きかけても動き回っていたが

 

「……大人しくしていろ」

 

シズクの鋭い眼光にびくうっと身体を竦めて大人しくなった。でも出来ればもう少し優しく言って欲しかった

 

「コン」

 

頑張れという感じで頬ずりして肩から飛び降りるタマモ。出来るって言う前提で話を進められているけど、ベルトをどうやって出すか判らないと言うと優太郎さん

 

「それも考慮してる。無理そうなら諦めるから、やるだけやってみてくれ」

 

「はぁ、判りました」

 

でも本当にどうすれば良いか判らないんだけどなあ……首を傾げながらどうしようかと考えていると

 

「横島、頑張ってね」

 

蛍に笑いながら背中を押されて一歩前に踏み出す……出来なくても良いって言うんだからやるだけやってみるか……

 

「えっとこの中にはいれば?」

 

目の前にあるガラス張りのドームを見て、引き攣った顔で尋ねると優太郎さんはにこりと笑いながら

 

「その中に霊力が収束しやすいようにしているんだ。少しでも効率が上がるようにね」

 

そうなんだ……てっきり暴走したら危ないから隔離されるのかと思ったと安堵の溜息を吐く

 

【良し、では行くぞ横島】

 

心眼の言葉に判ってると返事を返し、俺はそのガラス張りのドームの中へと足を踏み入れるのだった……

 

 

 

本当は横島にあのベルトを使わせたくは無いけど、後遺症が更に酷くなる可能性があるのなら今の内にしっかりと調べて、今後使わせてもいいものなのか、それとも駄目なのか?それを知る必要がある

 

『では横島君。まずは軽く座禅して霊力を収束してみてくれるか?』

 

お父さんがモニターを見ながら、マイクで横島に指示を出す。私もモニターを見ながら座禅する横島を見ていたんだけど……

 

「変化ないのう……」

 

10分立ったが、グラフには何の変化もない……おかしいわね。座禅で霊力を高める方法は何度かやっているんだけど……

 

「うーん。座禅とかは横島君には向いてないのかもしれないね」

 

元々ジッとしているのが苦手な横島だ。1人で座禅をしろと言っても集中出来ないのかもしれない

 

「……私が行こう、何かあっても私なら対処できるからな」

 

シズクはよく横島に霊力のコントロール法を教えているのでそれで何か変わるかもしれない。シズクの後を追って自然に付いていこうとしたチビとモグラちゃんを摘みあげて

 

「大人しくしててね?直ぐ済むから」

 

不貞腐れたように鳴くチビとモグラちゃんに苦笑しながらモニターに視線を戻す。そこでふと気になった

 

「ドクターカオス。マリアさんとテレサさんは?」

 

珍しく単独行動をしているドクターカオスにそう尋ねると、ドクターカオスはにかっと笑いながら

 

「料理講座に出掛けておるわ、良い傾向じゃろ?それに他人と一緒に行動することで精神面の成長になる」

 

確かにその通りね。マリアさんはかなり安定しているし、人間の心も大分理解している。その反面テレサさんはまだまだなので、そう言う講座に参加するのは良い事なのかも知れない

 

「……落ち着いて、ゆっくりと深呼吸をして、霊力の循環をイメージしろ」

 

【焦るな、いつもと環境は違うがやる事はいつもと同じだ。緊張することは無い、普段通りにやるんだ】

 

心眼とシズクのアドバイスを聞いて、やっと落ち着いたのか徐々にモニターに反応が出始める

 

【ふわあ……これ凄いんじゃないですか?】

 

モニターを覗き込んでいたおキヌさんが驚いたように尋ねて来る。最初は何の反応を示さない水色だったが、今は鮮やかな赤と緋色に染まっている。そして表示されている数値は97……

 

「私よりもマイト数が大きいわね……」

 

美神さんが若干の悔しさだろうか、そんな感じの色が込められた言葉……まぁ確かに私も少しばかりショックは感じている。100マイト近いのは正直驚くべき数値だと思う

 

『ふむ、小僧。その霊力を動かすことは出来るか?使っておった盾でも、篭手でも良い、なんでも良いから霊力を操作してみろ』

 

ドクターカオスの指示に頷き、横島が拳を握りこむとそれと同時に赤は水色に変わった

 

「っとまぁこんなもんじゃな、元々霊力が収束しやすい場所じゃ、しっかりと集中すれば周囲の霊力と同調して高い数値が出るが、動かすことが出来ないんじゃ意味は無いわ」

 

そう言うことか……霊脈の霊力と同調していたから高い数値が出ていたのか……チビ達が元気になっているのと同じ現象と言うことだ。その証拠に私と美神さんもマイトをここで測定したら常時の倍近い数値が出た。

 

「97の半分って事は40前後……GS試験の時よりかは少し強くなっている程度ね」

 

確かGS試験の時が30前半だったから10前後霊力が強くなっている。徐々にだが霊的成長期に入って来たのかもしれない

 

『どうだい?ベルトを出せそうな気配はあるか?』

 

お父さんがそう尋ねると横島は小さく首を振る……霊力の収束じゃ駄目見たいね。じゃあ何がきっかけになっているんだろうか?と考えていると

 

【イヒヒ】

 

ポケットからウィスプがジャックランタンの姿をしたウィスプ眼魂が姿を見せる

 

【イヒ♪】

 

横島とシズクの周りをくるくると踊っている……何がしたいのだろうか?じっと見つめていると

 

【判ったぞ。今からベルトを出してみる】

 

心眼の言葉の後横島に腰にはベルトが巻かれていた……

 

【これは物体に見えるが、その実は霊体だ。普段は横島の魂の中に眠っているのだろう、こちらから呼び寄せてみたがどうだろうか?】

 

お父さんとドクターカオスは凄い勢いでキーボードを叩き始める。話しかけて良さそうな雰囲気ではないので、入力が終わるのを待つ事にする。暫くするとキーボード入力の音は止まり、ファイルに保存しているのが見える

 

「それで優太郎さん、ドクターカオス。分析結果としては?」

 

美神さんがそう尋ねるが、お父さんもドクターカオスも

 

「まだ結果が出るには早い、もう少し待ってくれ。今分析したのはベルト自体。次は変身時した時の霊力の動きを見ないといけない」

 

落ち着くように言われた美神さんが、そ、それもそうねと返事を返し椅子に座るのを確認してから

 

『ありがとう。大分データは取れた。今度は実際に変身してみてくれるかい?』

 

お父さんがそう声を掛けると横島は立ち上がって、ウィスプ眼魂を掴んでベルトに押し込む

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

聞きなれてしまったベルトからの歌が暫く続いた後、横島の変身っと言う声が響き

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?】

 

横島とウィスプがハイタッチをすると横島の姿が黒い鎧に包まれ

 

【OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】

 

黄色いパーカーを纏った姿に変化する、なんかこうしてみると本当に不思議よね。とても霊能力には見えないのに、あれでもちゃんと霊能力と言う辺り本当に不思議だと思う

 

「恐ろしいな、あの姿だけで180マイト……横島君の潜在霊力を引き出しているとしても……」

 

「そうじゃな……あれはオカルトでも説明できん」

 

お父さんとドクターカオスが何かを話し合っていると、横島がこっちを向いて

 

「俺これからどうすればいいんですかー?」

 

と尋ねて来る。何かぶつぶつと話し合っているお父さんとドクターカオスの頭に軽くチョップを叩き込んで

 

「横島が指示待ってるわよ?終わりなら終わり、続けるなら続けるって言ってあげてよ」

 

私がそう言うと2人はまたキーボードを叩きながら、横島に指示を出し始める。どうもまだ大分続くみたいね……

 

「結構長いですね」

 

「そうね、でも仕方ないんじゃない?」

 

分析が終わるまでは私達もここで缶詰だし……机の上でもそもそとモグラちゃんと遊んでいるチビを見ながら

 

「おキヌさん、お茶かなんかお願いできる?」

 

見てないうちに何かあると怖いので、おキヌさんにお願いすると判りましたと言って消えていくおキヌさんを見送り、お父さんとドクターカオスの分析が終わるのをのんびりと待つのだった……

 

 

 

ふーむ、面白い結果だなあ……私は心の中でそう呟いた。ウィスプ・ジャックランタン・韋駄天・牛若丸と続けて変身して貰ったが、1つ非常に興味深い事があったのだ

 

「ドクターカオス。これをどう見ますか?」

 

内包している霊力は韋駄天の方が圧倒的に多いのだが、実際に変身させて見ると牛若丸のほうがマイト数が高いのだ。神霊である韋駄天の方が上位なのに、英霊がそれを上回るとは……これは正直かなり驚いた

 

「恐らく、眼魂の中の質の差じゃな」

 

韋駄天は中身が無いが、牛若丸は今も眼魂の中に居る。その差がマイトの差となり出ているのじゃろうと言うドクターカオス。それは私と同じ分析結果だった……

 

(つまりもしもだが……韋駄天眼魂に八兵衛が入ってくれれば、更に能力が上がるのだろうか?)

 

もしそうならば、事情を知っている面々に眼魂に力を込めてもらえば、ガープ対策になるのでは?無論今の段階では机上の空論だが研究する価値は十分にあると思う

 

『では横島君。最後にブランク眼魂をシズク君に渡してみてくれ』

 

実験中に判明したのだが、霊力を放出することで中身の入っていない眼魂を生み出す能力を有しているらしく、研究の為に3個のブランク眼魂を作って貰った。1つは私、もう1つはドクターカオスがそれぞれ研究用の物として所持する事になり、そしてもう1個は今実際に使ってみる事にした、私だとカイガンアシュタロスなんて言われたもう正体バレのレベルなので無理だし、この中で最も適任なのはシズクなのでシズクの神通力を宿して貰おうと思っている

 

「これでシズクの眼魂が出来たとしても、私は実戦で使わせるのは反対ですからね」

 

念押しという感じで言う令子さんに判っていると返事を返す。分析の結果判ったのは、やはり横島君の身体に強い負担を掛けると言う事だった。眼魂の取替えをする度に横島君の潜在霊力がごっそりを削られている、恐らく今の段階では戦闘中に眼魂を取り替えることが出来るのは3回が限度だろう、それ以上は横島君の生死に関わってくる

 

「ウィスプなら消耗は少ない、どうしても使うと言うのならウィスプをメインに運用することになるだろうね」

 

ウィスプを使っている場合横島君の霊力の減少は非常に緩やかだった。もしも横島君が使うとすればウィスプをメインに使い、どうしても危険になった場合に別の眼魂を使うと思えば良いだろう

 

「まぁそれはあくまで最終手段として覚えておくわ」

 

それでも霊体痛を起こすのは判っているので使うのはあくまで最終手段。GSらしく破魔札などの普通の除霊手段を使うのが……

 

【カイガン!スカッパー!残念!ハズレ!また来週~♪】

 

「どわったああああ!?」

 

「……横島ッ!?」

 

背後から聞こえてきた凄まじい爆発音と横島君の悲鳴……絶句しているドクターカオスや令子さんの反応に、とんでもない事になっていると理解した私はだらだらと冷や汗を流しながら……

 

「こ、これって私の……「お父さんの馬鹿ぁッ!!!」……理不尽ッ!?」

 

蛍の霊力を込めたアッパーが私の顎を打ち抜き、天井に叩きつけられた後。今度は床に全身を強く叩きつけ、意識を失うのだった……

 

リポート26 これから その5へ続く

 

 




次回はスカッパーの話とマスコットであるチビとモグラちゃんの話をしようと思っています。そして優太郎が不幸なのは定番の落ちなのでこれからも大分出てくると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回は前半は前回の続き、後半はチビモグラちゃんとの話を書いていこうと思います。

最近シリアス続きで出番がありませんでしたからね、マスコット軍団、可愛らしい所を書きたいと思います

それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

リポート26 これから その5

 

持っている霊力を大分眼魂に注いでみたのだが、結果は失敗に終わり。何故か大爆発が起きて私も横島を弾き飛ばされてしまった。怪我こそ無かったが、実験を続けられる状況ではなくなってしまった。

 

「……すまない横島。こんな事になるなんて思ってなかった」

 

今までの傾向でいけると思ったのだが……やはりまだ不確定要素の強い物を出来ると思ったのが間違いだったか

 

「いや、あんまり痛くないから大丈夫や。爆発したのは驚いたけど」

 

【そうだな。見た目は派手な爆発だったが、ダメージは殆どない。そこまで気にすることはないだろう】

 

横島と心眼にそう言われるが……それでも納得できる物じゃない。手の中で×マークを浮かべているスカッパーと言う眼魂を睨みつける

 

(……手助けをしたかったんだがな……)

 

横島の力になると思って眼魂に力を注いだんだがな……GS試験でガープを殴った以上間違いなく奴に横島はターゲットにされてしまった。だから自衛の手段は少しでも多い方が良い

 

「所で横島。今回は霊体痛大丈夫なの?」

 

爆発で慌てて駆け寄ってきた蛍がそう尋ねる。それは私も気になっていた、普段変身すれば霊体痛で呻いているんだが

 

「あーそういやああんまり今回は痛くねぇな……軽い筋肉痛みたいな感じ?」

 

【変身しただけでは霊力は消費しない、戦えば爆発的に霊力を消費するので強い負担になる。変身するだけならばリスクは少ないだろうな】

 

まぁ変身する状況で動かないなんて事はありえないがなと呟く心眼。それはその通りだろう、危険だから変身するんであって、その状況で動かないなんていうのはただの馬鹿だろう

 

「とりあえず分析の結果を聞きに戻りましょうか。お疲れ様」

 

美神の言葉にういっす!と返事を返し歩き出す横島の後ろを歩きながら、私は手にしているスカッパーを強く握り締めるのだった……

 

 

 

蛍のお嬢ちゃんのパンチで気絶していたアシュじゃが、今はけろっとしている。その余りに平然とした姿にどことなく小僧に似ているなと思った

 

「ふーむ……スカッパーねえ」

 

アシュがシズクから預かった灰色の眼魂を機械にセットしながら呟く、ワシは機械から吐き出された紙を見て

 

「こ、こりゃ酷い……牛若丸や韋駄天よりも低い数値……「……なんだと、私があの韋駄天よりも劣っていると言うのかジジイ」

 

やばい殺される、完全に目が据わっているシズクに怯えながらそのグラフを差し出して

 

「眼魂はまだ解析段階じゃから断言できんが……多分必要な力が足りてないんじゃと思う」

 

眼魂は必要な霊力を吸収し、そしてそこから変化すると言うプロセスを踏んでいる。韋駄天の時は2人の韋駄天の神通力、牛若丸の時は単体で完成したらしいが、牛若丸は英霊としては未熟な子供時代。韋駄天は神ではあるが、それほど神格が高い存在ではない……恐らくじゃが……

 

「それってもしかしてシズクの神格が高すぎるのが原因って事?」

 

アシュも同じ結論なのかスカッパーを機械から外しながら

 

「多分だけどね。シズクは八岐大蛇の系譜の水神……その経歴でも判るように、桁違いの神格の持ち主だ。眼魂が変化するのにも相当な神通力と竜気が必要なんだろう。考察だから確信しているわけじゃないが、多分眼魂にするには当分は無理じゃないかな」

 

シズクがむうっと唸っているが、恐らくそれが真実だろう。今は弱体化しているとは言え、人間界に存在する神の中では間違いなく最高峰の神格の持ち主だ。そしてそれは弱体化していても代わりの無いことだと言える。ゆえに眼魂に変化するのにも相当な神通力と竜気が必要だというのがワシの出した結論だ

 

「じゃあシズクの眼魂は作れないと、そう言う訳なんですね?ドクターカオス」

 

美神の確認の言葉に頷き、小僧から預かったブランク眼魂を拾い上げて

 

「まだ分析段階じゃがな、まぁ、詳しい所が判るまではもう少し待っていてくれ」

 

ちらりと部屋の隅を見てみると小僧が床に座り込んで

 

「なん~か難しい話をしてるなー」

 

【ですねー、私も全然判りませんよ……】

 

「みむ!みみむ!」

 

「うきゃー!うきゅきゅー!」

 

チビとモグラの前足を握って遊んでいた。気のせいかもしれんが、小僧の頭から煙が出ているように見える。そしてその隣ではおキヌが同じように頭から煙を出している。実に器用な幽霊だ

 

「理解しようと頑張っていたみたいなんだけど、オーバーヒートしたみたい」

 

「……ま、まぁ仕方ないわね。私も殆ど良く判ってないし」

 

専門知識過ぎる話だから理解出来ないのも判るが、お主の為に時間を取っておるんじゃがなー

 

「仕方ないでしょう、ドクターカオス。あまりに専門知識が過ぎる、話をするならもう少し判りやすく噛み砕くべきでしたね」

 

あっはははっと笑うアシュにそれもそうじゃなあっと返事を返し、机の上の分析した紙を鞄に詰め込んで

 

「じゃ、ワシは家でもう少し調べてみる。小僧、ブランク眼魂は借りていくぞ」

 

ワシの推論ではメタソウルと同じ性質を持っていると思っておったんじゃが、今回の事でまだ別の性質を持っている事が判った。それについて調べておく必要がある

 

「ブランクを持っていくのは良いんだけど……?カオスのじーさん、今から優太郎さんが昼食奢ってくれるって」

 

むう……まぁそれは確かに少しばかり魅力的じゃが

 

「なにマリアとテレサが昼食を作って待っておるからな。先に食べろとはとてもじゃないが言えんよ」

 

最初からこうなると判っていればテレサとマリアも連れて来たんじゃがな、ま、アシュの奴に奢って貰うのは別に機会にするわいと呟き、ワシはアシュのビルを後にするのだった……なお帰り際に

 

「……お前、私に逆らうとか良い覚悟しているな」

 

スカッパーを握り締めぶつぶつ呟いているシズクの姿が視界の隅に入り、触らぬ神に祟りなしじゃなと呟きワシはその場を後にし……それから数分後。アシュのビルのほうから巨大な水の柱が出現したのを見て

 

「なぜあやつは地雷を踏みに行くんじゃ?」

 

絶対アシュの奴がシズクの地雷を踏んだと理解し、そして何故あえてそっちの方に突き進んでいくのかと思わずにはいられないのだった……

 

 

 

ベルトと眼魂の調査が終わった次の日。俺は大丈夫だと言ったんだけど待機していなさいと美神さんと蛍に釘を刺されたので家でのんびりすることにしたんだけど

 

「なんか凄いな、それ」

 

目の前でチビとモグラちゃんが遊んでいる姿を見て、俺は思わずそう呟いた

 

「みみむーみむむー」

 

発泡スチロールのボールを器用にヘディングしているチビがみーむっと鳴いてモグラちゃんの方にボールを飛ばすと

 

「うきゅ!うきゅー」

 

モグラちゃんも器用にヘディングをし始める。前PKやってるの見たけど、いつの間にヘディングまで覚えたのだろうか?というか少しばかり賢すぎではないだろうか?サイズ的にはハムスターなのでよくそんな動きが出来るなあと思わず感心してしまう

 

【TVを見ているうちに覚えたのかも知れんな】

 

心眼がそう呟く、家でいる間は寂しいだろうからシズクにTVをつけてやってくれとお願いしているし、チビ自身もTVの操作は出来るので勝手に見ていることも多い。そういうので見て覚えているのだろうか?と考えているとタマモが膝の上に上ってきて、そこで丸くなる。構って欲しいのかなと思って背中を撫でてみると満足したように鳴くので、これで良いかと思っていると発砲スチロールのボールが転がってくる

 

「むきゅ……」

 

「みーむみーむ」

 

モグラちゃんがパスに失敗したようで、チビが小さい手でモグラちゃんの背中を撫でているのを見ると気にするなよっと言っているような気がする

 

【表情豊かだな。あの2匹は】

 

鳴き声しかないけど家のチビもモグラちゃんもめちゃくちゃ表情豊かだぜ?と心眼に言いながら机の周りに落ちているボールを拾って

 

「ほれ」

 

発泡スチロールではなく、ゴムボールなので良く跳ねる。チビの目の前で跳ねたボールをチビがジャンプし両手でキャッチする。そしてそのボールを抱えて俺の方を見て

 

「みむう?」

 

「うきゅ?」

 

遊んでくれるの?と言う感じで首を傾げるチビとモグラちゃんに向かって両手を広げて

 

「おう、遊んでやるぞー」

 

やったーと言う感じで元気に鳴くチビとモグラちゃんを見て笑いながら、チビが投げ返したボールをキャッチするのだった

 

「……メチャ元気……」

 

1時間ほど遊んでやったんだがまだまだ全然元気なチビとモグラちゃんに驚いた。スーパーボールなので良く跳ねるので結構な運動になったので少し休憩とお願いしてフローリングに座り込む

 

「……チビ達はめちゃくちゃ元気だぞ?お前がいないと1日中家の中を走り回っているからな」

 

シズクが俺の前に冷たい麦茶を置いてくれながらチビとモグラちゃんの驚異的なスタミナの事を教えてくれた

 

「まじかぁ……朝と夕方だけの散歩じゃもしかして足りないかぁ?」

 

動き回るって事はそれだけ運動不足って事だよな。うーん、なんとかしてやらんといかんなと思いながら麦茶を飲んでいると

 

「みぎゃあ!?」

 

チビの悲鳴に驚いて振り返ると、ずっと前に買ってやったハムスターの台車が壊れて、チビが弾き飛ばされていた

 

「みぎい!?」

 

「うきゃ……」

 

壊れている台車を見てショックを受けているみたいだが、正直良く頑張ってくれたと思う。あれは大体ハムスター用で決してグレムリンやモグラ用ではないのだから

 

(うーん買いなおすにしてもまた壊れるよな)

 

ぽっきり折れているのを見て、また買っても壊れるだけだな。でもチビとモグラちゃんも気に入っているし……あ、そうだ

 

「うし!チビ、モグラちゃん!出掛けるぞ!」

 

壊れた台車を鞄の詰め込みながらチビとモグラちゃんを呼ぶ。若干元気が無さそうに俺の肩の上に昇って来たチビとモグラちゃんを見ながら

 

「シズク!ちょっとカオスのじーさんの所行ってくるわ」

 

「……何しに行くんだ?」

 

買って駄目ならカオスのじーさんにチビとモグラちゃん用の台車を作って貰えるように頼んでくる!昼には戻るからと言って俺はカオスのじーさんの家へと走ったのだった

 

「……と、言う訳で玩具を作って貰えないっすか?」

 

カオスのじーさんの家へ自転車で向かいお願いすると

 

「別に構わんが、台車だけじゃ足りないんじゃないかの?」

 

え?俺が首を傾げているとテレサがモグラちゃんを見て

 

「モグラちゃんは穴掘るほうが楽しいんじゃないか?」

 

はっ!?モグラちゃんの種族の事を忘れていた。確かにモグラなのだから穴を掘るほうがストレス発散になる!?

 

「うきゅ?」

 

マリアが用意してくれたチョコをもごもご食べているモグラちゃん。確かにその鋭い爪は決して煎餅やチョコの包みを開ける物や俺の服を登るのに使う物じゃない

 

「カオスのじーさん。何とかなる?」

 

台車の確認をしていたカオスのじーさんに何か良いアイデアはある?と尋ねると

 

「そうじゃなあ。うーんまぁ、それも考えておくから安心せい」

 

にかっと笑うカオスのじーさん。何もかもお願いしてしまうことに申し訳ないなぁと思っていると

 

「なーに気にすることは無いぞ。良い気分転換になるからの」

 

そう笑うカオスのじーさんにお礼を言っていると、テレサが机の上のチビとモグラちゃんを見て

 

「なぁなぁ!横島。私チビとモグラちゃんの散歩してみたい!」

 

あーそう言えばそんな事言っていたっけ……とは言え早朝に会うこともないし

 

「じゃあ、夕方に迎えに来るわ。その時一緒に散歩しようぜ」

 

やったーと喜ぶテレサ、両手を勢い良く上げたのでテレサの胸が揺れた事に若干の気恥ずかしい物を感じていると

 

「横島さん。私もご一緒してもいいですか?」

 

「え?むしろ一緒に来るんじゃないの?」

 

テレサが来るんだから、マリアが来るものと思っていたのにそう尋ねられて驚きながら尋ねると

 

「あ。いえ、是非ご一緒させていただきます」

 

ニコリと笑うマリアにじゃあ夕方に!と声を掛け、俺はカオスのじーさんの家を後にするのだった……

 

「姉さん。楽しみだなあ」

 

「ですね、テレサ」

 

なお残されたカオスはと言うと、姉妹の中で若干の意識の違いがある事に気付きながらもそれを指摘せず

 

(まぁ、これも良い経験じゃろうな)

 

テレサが人間の心を学ぶのに良い機会じゃなと心の中で呟き、横島が置いていった台車を観察しながら、どうやって改造するかのーと笑うのだった……

 

なお、夕方にマリアとテレサと一緒に散歩している姿を同じ高校の生徒に見られ、美人な外国なお姉さん2人とデートしていたと問い詰められることになり、その結果愛子がとんでもなく不機嫌になり、横島が慌てて弁解することになるのだが、これは全くの余談なのでそれほど気にする事もないだろう……

 

 

 

GS試験が終わった頃。自身の霊感で香港に調査に来ていた美神美智恵は眉を顰めていた

 

「……当たりとは言いがたいわね、でも外れとも言えないわ」

 

記憶の中にある原始風水盤。その事件の前現象として腕の良い風水師が殺される事件が多発していたが、その予兆は無く。代わりに香港周辺にある貴重な霊具の盗難事件が多発している

 

「どういうことなのかしら」

 

アシュタロスから得た情報とかなりの違いが出ている。だが嘘をついたわけではないだろう、歴史改変が大きくなっているのでその影響で歴史が変わり始めている

 

「1人で捜査するのはもう限界かしら」

 

得れる情報はもう殆ど入手したと言える。だがそれは人間で手に出来る情報だけだ、それ以上の情報を求めるのならば神魔族の協力が必要だ。1度日本に戻ってアシュタロスに協力を頼もうかと考えていると

 

「やれやれ……どうなっているんだ。殺されたはずの風水師が生きているなんて聞いてないぞ……それに姉上が横島に興味を持ち始めているし、私はいつになれば横島に会えるんだ」

 

ん?この声は……慌てて振り返るとそこにはスーツ姿の黒髪の女性……だが間違いない、あれは

 

「ワルキューレ!?」

 

思わずその名を叫ぶ。名前を呼ばれたワルキューレは振り返り私と同じように驚いた表情をして

 

「美神美智恵!?何故ここに!?」

 

向こうも私を知っている……と言うことは間違いない、人ごみを掻き分けワルキューレの側に近寄り

 

「貴女も逆行してきてるのね?」

 

「……そう言うお前は禁止されている時間跳躍をしたのか?」

 

……思いっきり警戒されているけど、私と同じ事を知っている人物でしかも神魔族。出来れば神族が良かったけど、それは我がままと言う物だ。それに逆行して来ているのなら前回の事も知っているから話もしやすい。正に渡りに船とはこの事だろう

 

「事故で逆行して来ちゃったのよ。今はアシュタロスに協力して捜査しているの、そっちは?」

 

「……私も似たような物だ。ただし調べているのは原始風水盤ではないがな」

 

原始風水盤じゃない?じゃあなんで人間界に派遣されているのだろうか?もしかすると他にも……そうだ!

 

「GS試験の前日に異常な魔力の流れを感知したわ、そっちはどう?」

 

大分前から香港に滞在していた私には歩き回って得た情報がある、その情報を話すとワルキューレは

 

「私が下界に来たのは2日前だ、今も調査を始めたばかりで何も情報が無いな……良し判った。1度情報交換をしよう、そしてその上で共同捜査をするか話し合おうじゃないか」

 

ワルキューレの言葉に頷き、近くのレストランに向かう途中ワルキューレが思い出したように

 

「所でこれだけは聞いておかないといけないな」

 

ゾッとするような凄みのある笑みを浮かべながらワルキューレは

 

「お前はまさか自分の娘と横島を結婚させるつもりではあるまいな?」

 

銃の撃鉄の音がする、これは選択肢を間違えると撃たれるわね……とは言え、それはワルキューレの要らない心配と言う物だ

 

「全然全くこれっぽっちもないわ。私は前回で横島君に迷惑を掛けた。だから今回は幸せになって欲しいって思ってるわ。令子が好きになるって言う可能性はあるかもしれないけど、私は関与するつもりは無いわ」

 

それに関与したら私今度こそ殺されそうだし……と言うとそうかとワルキューレは頷き

 

「では急ごう。神魔に残っている情報だと、近いうちに横島達が香港を訪れることになる。これは恐らく変える事の出来ない歴史の流れだ、その前にガープ達が何をしようとしているのかを特定しよう」

 

ワルキューレが先導して歩き出そうとするのを見て

 

「どこ行くつもり?近くに個室のあるレストランあるけど?」

 

「……案内を頼む」

 

ワルキューレはもしかしていると少し抜けているのかもしれないわねと思いながら、私は香港に滞在している間ずっと利用している個室のあるレストランへと向かって歩き出したのだった……

 

 

 




別件リポート 美神美智恵の捜査録へ続く

次回は美神美智恵とワルキューレのコンビによる捜査になります、基本的には第二部に向けての話の布石を打っておこうと思う訳です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回はワルキューレと美智恵の香港での捜査録となります。ガープの目的の少しを書いていこうと思っていますが、あんまり書きすぎるとネタバレしてしまうので少し短めになると思いますが、今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

別件リポート 美神美智恵の捜査録

 

漸く辞令が降りて人間界に行く許可が出たが、香港での捜査の命令で日本ではなかった事に心底落胆した

 

(小竜姫とメドーサは既に出会っているというのに……)

 

私もかなり早い段階で記憶を取り戻し、人間界へ行ける様に要望書を出し続けていたが、ずっと却下されていた

 

(しかも姉上が横島に興味を持つし……)

 

逆行する前の世界では既に婚姻を結んで魔界を後にしていた姉上だが、今もまだ魔界正規軍に属ししかも横島に興味を持つとか、私にとっては悪夢としか言いようが無い

 

「ワルキューレ?どこ行くの?店通り過ぎているけど?」

 

おっと私とした事が……考え事に没頭しすぎていたようだな。美智恵にすまないと謝ってから

 

「しかし人間としての姿をしている時は春桐魔奈美と名乗っている。なので魔奈美と呼んでくれ、どこにガープの手の物がいるか判らないからな」

 

今度は美智恵がごめんなさいと謝るのを聞きながら、美智恵の行き着けだと言うレストランへと足を踏み入れたのだった

 

「なかなかやるな」

 

その個室とやらは結界などで護られており、レストランでありながら強固な要塞としての機能を持っていた

 

「昔からの知り合いだからね。結構融通利くのよ。それで魔奈美は何か食べる?」

 

メニューを差し出しながら尋ねて来る美智恵。あまり食事は必須ではないが、断るのもおかしな話か

 

「頂くことにする。そうだな……」

 

メニューをざっと確認するが、正直私は余り人間の食事には詳しくないので

 

「すまないが良く判らない。お前と同じ物で良い」

 

「ん、判ったわ。じゃあ連絡するわね」

 

備え付けられた電話で料理の注文をする美智恵を見ながら、私は魔界の情報屋から得た情報と正規軍で得た情報を纏めた手帳を鞄から出し、情報交換の準備を始めるのだった……

 

 

 

お互いの手帳を交換し、料理が来るまで情報交換をする事にしたんだけど、魔奈美の手帳を確認していると気になったになった事があったので尋ねて見ることにした

 

「この魔界の情報屋って言うのは信用出来るの?」

 

情報屋って言うのは総じて自分の利益を重視する。そんな人種を信用できるのか?と尋ねると

 

「ああ。この男は信用出来るよ。私も数回会った事があるだけだが、どれだけ生きているかも全く判らん。それこそもしかすると1000年近く生きているのかもな」

 

魔族は長命だが、それでも1000年って言うのは大げさじゃない?と言うと魔奈美は笑いながら

 

「何を勘違いしているか知らんが、情報屋はヒャクメ族の元神族だぞ?なんでも見てはいけない物を見たと言うことで目の殆どを潰されて魔界に放り出されたらしいが……生き延び、今では凄腕の情報屋として活動している」

 

昔の神族は殺せという風潮の魔界でよく生き延びて、そして信用を手にしたものだ。その手腕は正直驚くよと言う魔奈美。確かにそれは驚くべき手腕よね……でも確かに話を聞く限りでは信用できそうね

 

「それでその情報屋がくれた情報って何なの?」

 

「ああ、もしかすると近い内に人間界に真の蠅の王が訪れるかもとな」

 

はい?真の蠅の王?……それってまさかベルゼブル?と尋ねるとそうだと返事を返される

 

「はぁ!?なんでそんな大御所が人間界に訪れるのよ!?おかしくない!?」

 

ガープだけでもおかしいのになんでそんな大御所が態々人間界に来るの!?と怒鳴ると

 

「落ち着け。ベルゼブル様は穏健派の魔王だ。しかしかつての神魔大戦の折自分の力を貸し与えた魔族が暴走し、蠅の王を名乗り始めたことに大層ご立腹でな。その蠅の王を名乗る偽者を倒す為に人間界に訪れるらしい」

 

ベルゼブルが人間界に来たらそれだけでパニックになりそうなんだけど……

 

「私の任務の1つがそれだ。ベルゼバブの捕捉。まだ詳しく聞いているわけじゃないが、情報屋の話と合わせると恐ろしいほどに信憑性が高い情報だ」

 

これは出来れば聞きたくなかった情報ね……思わず溜息を吐く。真の蠅の王と言えば旧約聖書にも名前が出てくるビッグネームだ。下手をすればバチカンが動いて全面戦争になりかねないわね……

 

「バチカンのほうには神族から使者が出ると聞いている、お前の危惧していることにはならないだろう。それでお前の手帳にある、おかしな魔力と言うのはどんな物なんだ?」

 

それはGS試験の前の日に観測された魔力らしいんだけど

 

「凄まじい魔力なのに、香港のGS支部には反応が無かったらしいの」

 

私が丁度捜査を終えてホテルに帰ろうとした時だ。空間が歪むほどの莫大な魔力を感じて捜査に向かったが、そこには何も無く。更に香港のGS支部に問い合わせてみたが、そんな物は観測されて無いと言われた

 

「それはおかしな話だな……ちなみに場所はどこになるんだ?」

 

地図を広げて、確かこの当たりと言って指差すと魔奈美の顔色が変わる

 

「ここになにかあるの?」

 

一応調べては見たが、特にこれと言った歴史がある訳でもないんだけど……

 

「人間は知らなくても当然だが。ここは人間界の中でも珍しい、神界と魔界の位相が全く同じ場所なんだ。現にそこを中心に神魔の大戦が起きた事もある」

 

神界と魔界の位相が同じ場所……話を聞くだけでも判る。ここが相当危険な場所だと

 

「でもここは原始風水盤が配置された場所じゃないわ」

 

そんな霊脈に満ちた場所ならそこに原始風水盤を配置した方がいいんじゃ?と尋ねると

 

「逆行の知識は役に立たないと思え、原始風水盤を使うというその考え自体が既に危険だ」

 

きっぱりと断言されてしまった。ここまで断言すると言うことは神魔の中でももう逆行の記憶は役に立たないっていう結論が出ているのね

 

「そうなってくると逆行の記憶が邪魔に思えてくるわね」

 

先入観というのは厄介だ。私自身1度歴史改変をやったから判る、ここでこうなる筈だ。ここはこうだったはずだという思い込みはどうしても付き纏う。もし逆行の記憶が役に立たないというのならそんな記憶は無いほうが良いと思えてくる

 

「そうも言ってられんさ。とりあえずは……そうだな。この場所の捜査をしてみようか」

 

私は原始風水盤の設置場所を調べてみたいと思っていたが、それもまた逆行の記憶を元に決めた事だ。逆行の記憶が役に立たないのならば、動くしかない。捜査の基本は歩く事と言うし……っとそんな事を考えていると料理が運ばれてきたので、机の上の資料を鞄の中にしまいながら

 

「まずは昼食。その後に色々回ってみましょう。結構気になるところも残っているしね」

 

まずは謎の魔力の反応があった場所。次は私が歩き回って気になった所を回って見ましょうと提案し、お昼からの捜査の方向性も決まった所で少し遅めの昼食を取るのだった……

 

 

 

ある意味前回の世界での全ての引き金となった美神美智恵との共同捜査は余り乗り気ではなかったが

 

(優秀だな。戦士とは違うが、実に優秀だ)

 

話術にしろ、政界やGS業界とのコネの使い方が実に上手い。私1人では決して捜査することのできなかった場所に美智恵のおかげで入る事が出来た

 

「うーん……私の勘も劣ってきたかなあ」

 

謎の魔力の反応場所までに、気になる所があるからと言って3箇所ほど回ったが、それは全て外れで、自信を無くした様に呟く美智恵。とは言え、そこまで仲が良い訳ではないので励ますことも無く地図を確認していると

 

(ん?これは……)

 

それはほんの少しの違和感だった。ペンで試しに回った場所に丸をつける……するとその違和感の正体が見えてきた

 

「美智恵!他に回る予定だった場所はどこだ!?」

 

「え?」

 

呆けている美智恵に地図を押し付けて丸をつけさせる、すると美智恵も気付いたようでその顔色を変える

 

「これ魔法陣……よね、こんな大きいの見たこと無いけど」

 

青い顔をして尋ねて来る美智恵に頷く、美智恵の霊感で回った場所全域を線で繋ぐと巨大な魔法陣が描き出されたのだ

 

「これまさかガープの仕業?」

 

「いや、違う」

 

ガープの仕業かと思ったが、それは間違いだ。これは相当古い術式だ、昨日や一昨日設置したものじゃない。それこそ何百年・何千年前の代物だ

 

「……香港に何があるというの?」

 

「それは判らないが、これだけの魔法陣を必要とする儀式……もしくは封印式が必要だったんだろう」

 

流石に私も知らないタイプの魔法陣だから、この魔法陣が何の目的の為に配置されたのかが判らない。

 

(姉上だったのなら判ったかもしれんがな……)

 

姉上はアマイモン閣下の負傷の治療を行っている筈。連絡を取るわけにも行かない

 

「魔法陣の一角を破壊してみる?」

 

確かにそれは1つの手段ではあると思うが、リスクが高すぎる。これがもし封印などの結界だとしたら封じられている何かが姿を見せるかもしれない……

 

「1度魔界へ戻って情報を……『いや、その必要はあるまい。今はまだ知られるわけにはいかん』……何者……」

 

突然聞こえてきた第3者の声に驚きながら振り返り、目の前に広がったのは白い刃……それを見た瞬間。私は意識が遠のいていくのを感じるのだった

 

 

「……結局これも外れだったな」

 

「ごめん」

 

申し訳無さそうに謝る美智恵に気にすることは無いと返事をし、何の印も付けられてはいない地図を丸めながら

 

「恐らく神界と魔界の位相が同じだからおきた、魔力か神通力の暴走だろう。ああ、間違いない。香港には今の所なんの危険性も無い」

 

1日調査した結果だ。今の段階では原始風水盤も配置されておらず、それらしい痕跡も無い。霊具の盗難事件は起きているが、霊具としても貴重だが、それ以上に骨董品としての価値が高いので人間が盗んだと言う線が濃いだろう

 

「最後に霊脈を見て別れよう、報告にも戻らないと行かんしな」

 

香港にいるかもしれないと偽の蠅の王ベルゼバブの姿も無かった。しかしそれは今の段階での話だ、暫くは香港に滞在して様子が見る必要があるかも知れんなと考えながら、私はその場を後にするのだった

 

【やれやれ、危ない所だったな。相棒】

 

「ブルルル」

 

歩き去っていくワルキューレと美智恵を見つめる影……巨大な化馬に跨った骸骨……都津根毬夫と名乗りGS試験に参加していた魔人ぺイルライダーだ。その手には先ほどまでワルキューレと美智恵が見ていた筈の地図が握られており、手にした鎌は青白い光を放っていた。それはワルキューレと美智恵の記憶の一部であり、彼らが信奉する姫と呼ばれる魔人の復活を妨害されるわけには行かないと、手にした鎌でワルキューレと美智恵の霊体から切り裂かれた彼女達の記憶だった……

 

【記憶の抹殺……こういうのは得意じゃないんだが……姫が目覚めるまで妨害されるわけにはいかんからな】

 

ぺイルライダーの足元には原型を留めぬほどに切り裂かれた無数の蠅のような悪魔の死骸が転がっていた……それはワルキューレが探していた偽の蠅の王ベルゼバブの分身だった

 

「ば、化け物が……」

 

【まだ息があったか、失せろ。貴様などの下等な存在が我らが姫を見ることなど万死に値する】

 

鎌に切り裂かれ消失するベルゼバブを確認してからぺイルライダーは溶ける様に闇の中へと消えていくのだった……

 

正史では原始風水盤が配置されるだけだった香港。だがここにも逆行による歴史改変の影響が出始めているのだった……

 

 

 

そして神魔。人間達が再びのガープの侵略に備えている頃……逆行により生まれた世界の歪が大きくなり始めていた……

 

 

とある世界の寺にて……庭にて青年が背伸びしていた。

 

「今日は良い天気だな…頑張って眼魂を取り戻さないとな」

 

そう呟いた彼は歩き出す。

 

 

また別世界

 

「んじゃあ行って来るな~」

 

「行って来ます」

 

「気を付けてね~」

 

とある家から出た青年と少年に机に座った女性が見送る中で歩き出す。

 

「今回の依頼は古いビルに憑りついた地縛霊の除霊だ。いつも通りに行こうぜルージ」

 

「はい!頑張りましょう横島さん!」

 

そう会話しながら2人は歩いて行く。

 

彼らや横島も予想していなかっただろう……

 

後に彼らがとある事で出会う事になると言うのを……

 

 

外伝リポート 仮面ライダーディケイド×ゴースト&ウィスプ! GS平行世界大作戦!へ続く

 






次回はコラボリポートになります。鳴神 ソラ様とのコラボになります。私とソラ様で交互に書いているので、ソラ様が書いてくださった作品は台本形式となっておりますので、それだけはご理解の程をお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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外伝リポート 仮面ライダーディケイド×ゴースト&ウィスプ! GS平行世界大作戦!
その1


どうも混沌の魔法使いです

今回からは外伝と言う事で、鳴神ソラ様とのコラボを投稿していきます

ソラ様と話し合って、順番に話を書いているので、ソラ様の書いてくれた作品は「台本形式」となっております

コラボ外伝は日曜日と水曜日に更新していくつもりです

それではコラボ外伝リポートをどうかよろしくおねがいします


仮面ライダーディケイド×ゴースト&ウィスプ! GS平行世界大作戦!

 

美しい満月が輝く夜。月は魔に属する者に大きな影響を与える。吸血鬼が最大の力を発揮する時や、魑魅魍魎の類が活性化し、凶暴化するのは満月からの魔力が影響しているといえる。そしてその満月の魔力の所為か、本来この世界には関係の無い物がこの世界へと紛れ込むのだった

 

突如空中に現れた目を模した巨大な魔法陣。そこから15の光の球が飛び出し、東京の街へと飛び散るのだった……そしてこの15個の光が本来交わるはずの無い世界。出会う筈の無い者達を出会わせることになるのだった

 

 

 

 

「あー暇だぁ」

 

ソファーに寝転がりそう呟く少年。紅いバンダナを額に巻き、青いGジャンを着込んだこの少年の名前は「横島忠夫」。目標としていたGS試験に合格し、借り免許だがGSとして活動できるようになったばかりのGSの卵だ。

 

「それに今日は変な夢を見たしなあ」

 

それは夢なのにやたらハッキリしていたので、起きた今でもしっかりと覚えている

眠っていたのになんでか俺は夜の砂浜にいた。

 

なんでいるかは分からないけど歩いていれば分かるかと思い歩き出す。

 

しばらく波の音を聞きながら歩いていた俺は見えて来たのに驚く。

 

そこにいたのは15体のパーカーゴーストとその前にいる俺と同じベルトを付けた存在

 

そして離れた場所では大きいライオンの様なメカにその前に立つ剣士の様ないで立ちの存在

 

さらにその隣にカードと不思議な輝きを持つ玉を持った存在

 

3人ともシルエットな感じで良く見えなくてなんだろうと思ったら、目覚ましの音で目を覚ましていたのだ

 

「うーん……なんか意味があるのか?」

 

霊能者の夢は何かを意味していると聞いていたけど、考えていても判らない。どうしても気になるのだが、考えても判らんし……ジットしていると夢の内容ばかり考えてしまうし

 

「こんな事なら蛍についていけばよかったなあ」

 

最近見たことのない悪霊の大量発生について調べると言って出かけた蛍と一緒に出かけて、俺も調査すればよかったと思っていると

 

【あ、主!どのお!た、助けえ!いひゃああ!?】

 

部屋の隅から聞こえてきた悲鳴にソファーから顔を上げると

 

「うきゅ!うきゅ!」

 

「みむう!ミミミ!!!」

 

【イヒヒー♪】

 

紫を基調にした丸い道具を押している黒い小動物とハムスターのようだが、その背中に翼を持つ奇妙な生き物……つまりモグラちゃんとグレムリンのチビ。そしてその上で楽しそうに笑っているハロィーンのジャック・オー・ランターンの姿をしたジャックの姿を見つけて溜息を吐きながら

 

「こーら、牛若丸を苛めたら駄目だ」

 

モグラちゃんとチビが押していた丸い道具。韋駄天事件の時に偶然生まれた俺専用の除霊具の1つ……英雄や神族の力の一部を吸収して、その力を扱えるようになる道具。カオスのじーさんの命名で「眼魂」と名づけられた除霊具を拾い上げる

 

【助かりました。主殿】

 

ちかちかっと光って礼を言う眼魂。この眼魂は怨霊ヨシツネを浄化した時に手に入れた、ヨシツネの魂の一部と幼い時の記憶を宿している牛若丸眼魂だ。

 

「いや、俺も悪いし気にしなくていいぞ?」

 

チビとモグラちゃんの手のとどかない所に置くべきだったな、あの2匹はボール遊びが好きだからボールだと思ってしまったのだろう

 

【いえいえ、助けられたのは事実ですので、では霊力を回復させたいので失礼します】

 

目を閉じた牛若丸眼魂をポケットの中にしまう。もう少し霊力が回復すれば具現化出来るらしいけど、まぁ無理せずのんびり……

 

「うおっと!?」

 

突然頭の上に衝撃を感じて顔を上げると、金色に輝く8本の尾が見える。俺は頭の上に手を伸ばして

 

「こーら!急に頭の上に乗るなタマモ」

 

九尾の狐の生まれ変わりらしいタマモを抱き上げてそう注意するが

 

「くう?」

 

何を怒っているのか判らないという顔をするタマモ。この野郎……判っている癖に……俺がじーっと見つめていると目をそ

らす。たっく何が不満なんだよ、散歩の時間か?それとも揚げを安いのに変えたのが駄目なのか?タマモを抱っこしたままタマモが何を不満なのか考えていると

 

【イヒヒ♪】

 

「あー判った判った」

 

顔の周りを飛び回るジャックを掴んで、脇のボタンを押す。するとジャックの姿がぶれて黄色の眼魂に変化する。これが一番最初に俺が手に入れた眼魂「ウィスプ眼魂」だ。疲れたか、眠いのか知らないがとりあえずポケットに押し込む。するとズボンをぐいぐいっと引っ張られる。今度はなんだ?と足元を見ると

 

「うきゅ」

 

「みむ」

 

モグラちゃんとチビが俺のズボンを引っ張ってくる。あーはいはいっと少しだけしゃがんでチビとモグラちゃんを抱き上げて、ソファーに座る。

 

「みーむ!」

 

「うきゅー♪」

 

俺のGジャンに爪を立てて登り始めるチビとモグラちゃん。まぁ服が破けるほど爪を立ててないから怒る事もないか

 

「くう♪」

 

頭の上から膝の上に降りてきたタマモ。俺は机の上のブラシを手にとってその8本の尾を梳いてやる事にした。何か判ればおキヌちゃんが迎えに来てくれるらしいから、今はのんびりしていようと思っていると

 

「……ただいま」

 

水色のワンピースを着込んだ、やたら顔色の悪い少女が両手に買い物袋を提げてリビングに入ってくる。だが外見に騙されては行けない、彼女は水神にして竜神と言う人間よりも遥かに強い存在なのだ

 

「おかえりー、大丈夫か?シズク」

 

「……問題ない」

 

唇の端を小さく上げて笑うシズク。そのままキッチンに買って来た食材を運ぼうとしたようだが

 

「……横島。お前眼魂落としたか?」

 

突然そんな事を尋ねられる。眼魂落とすって……俺は手にしていたブラシを机の上に置きながら

 

「落とすわけないだろ?俺の大事な武器だぞ?」

 

ウィスプに牛若丸に韋駄天。3つとも全部あるぞ?と言うとシズクはポケットに手を入れて、何かを取り出して受け取れと良いながら投げ渡してくる

 

「おおう!?なんじゃこら!?」

 

受け取ったのは茶色の眼魂。しかし当然ながら俺はこんな眼魂知らない……なんだこれ?またカオスのじーさんか?と考えているとつけていたバンダナから声が響く

 

【横島。これは私が昨日感知した霊力に似ている。恐らく昨日の謎の霊力の発生現象に影響しているのではないか?】

 

「んーマジか。じゃあ美神さんに伝えた方がいいな。ありがとな、心眼」

 

【気にするな、私の使命はお前の手助けなのだから】

 

このバンダナは心眼って言って、妙神山の小竜姫様から分けてもらった竜気が俺の中でなんか成って生まれた精霊?だったかな?口は悪いけど頼りになる助言者だ

 

(あの時キスしたんだよなあ)

 

心眼の事を考えていると思わず心眼が生まれた時に小竜姫にキスされた事を思い出してしまう。そしてその瞬間

 

ザクウ!

 

「ほわたあああ!?」

 

「うきゅううう!?」

 

「みむううう!?」

 

額に突き刺さる氷柱。ブシューっと鮮血が噴水のように飛び散っているのが見える。モグラちゃんとチビが絶叫するのを見ながらキッチンに目を向けると

 

「……またろくでもない事を考えているのだろう?」

 

氷柱を投げた体勢でこっちを見ているシズク。せめて口で言ってくれないかな?氷柱はさすがにバイオレンス過ぎる

 

【今癒す。少し大人しくしていろ】

 

心眼が俺の霊力を引き出して傷を治してくれる。痛みが引いてきた所で壁から半透明の少女が顔を見せる

 

【横島さん。美神さん達が呼んでますよ?】

 

彼女はおキヌちゃん。人骨温泉で出会った幽霊の巫女さんだ。時折黒くなるときもあるけど基本的に優しいので、割と好感が持てる

 

「りょーかい、今準備するわー」

 

膝の上のタマモと俺の肩の上で遊んでいるチビとモグラちゃんをソファーの上に1度下ろして、俺は出かける準備を整えるのだった……

 

 

 

場所は変わって美神除霊事務所。そこではそこの所長である「美神令子」ともう1人の助手である「芦蛍」が昨日の謎の霊力の発生現象とそれに伴う謎の悪霊の調査結果を纏めていた

 

「満月の晩に突然現れた魔法陣とそれから飛び出した15個前後の光の球体……これが鍵だと思うのよね」

 

私は机の上の書類を見ながらそう呟いた。昨日偶然散歩していたマリアが目撃していたらしく、プリントしてもらった写真を見る。眼を模したような魔法陣とそれから飛び出す複数の光が映されていた

 

「それと謎の悪霊ですよね。黒い人型」

 

「それよねえ……なんなのかしら?」

 

街で目撃情報を聞くことが出来た黒い人影。知性は無いらしく、適当に暴れていたのを唐巣先生が除霊したらしいが、その知性のなさと半比例するように霊的防御力が高くかなり苦戦したと聞いている

 

「結局何も判らないって言う結論って何よ」

 

「まぁこれからですよ」

 

半日かけた調査結果が何も判らないと言う事に愚痴を零していると断りもなく扉が開く

 

「御機嫌よう。美神令子、芦蛍」

 

長い銀髪を翻しながら1人の少女が事務所の中に入ってくる。彼女の名前は神宮寺くえす。黒魔術に長けた、主に破壊専門のGSなんだけど、GS試験の後から横島君に随分と熱を入れているようで良く蛍ちゃんと衝突しているのよね

 

「何しにきたのよ?」

 

蛍ちゃんが敵意むき出しで睨みながら言う。蛍ちゃんは横島君が好きだから、ちょっかいをかけられるのは面白くない。まぁそれは当然なんだけど、くえすはその程度で動揺するような甘い存在ではなく

 

「横島はいないようですね。まぁ良いでしょう、それよりもです。私も昨日の現象を調べていて面白い物を見つけたので持ってきましたわ」

 

私の机の上に何かを置く、何かしら?と思いながらそれを見て私は驚いた

 

「これ……眼魂じゃない!?」

 

韋駄天事件の時に偶然生まれた横島君専用の除霊具で良いのかしら?あれ?なんかの特撮ヒーロー見たいな姿に変身する為の霊具……眼魂と瓜二つの青い眼魂がそこには置かれていた

 

「でもこれ横島のじゃ無いですよ?こんなの見たこと無い」

 

蛍ちゃんがその眼魂を調べながら呟く。それは私も判っている。横島君が持っているのは黄色のウィスプ・白色の韋駄天・そして紫の牛若丸。こんな青いのは持ってなかった筈だ

 

「もしもこれが昨日の魔法陣から飛び出したものならば、後14個存在しているはずですわ。それが今回の悪霊事件の原因なのではないですか?まぁなんにせよ、この眼魂とやらを横島に使わせて見れば何か判ると思います」

 

使わせるって言ってもねぇ……今の横島君だと使うと反動が大きいからはいそうですか。と言って使わせることも出来ないし……私が悩んでいると

 

「ちーす!今来ましたー!ってくえすさんじゃないですか、相変わらずお美しい「ヨコシマァッ!」へぐう!?」

 

ソファーに腰掛けているくえすの手を握った横島君を見た蛍ちゃんが投げた花瓶が横島君の顔面を打ち抜く。スローモーションのように倒れる横島君を見て、私は思わず頭痛を感じてしまうのだった……

 

「横島も見つけたの?」

 

「おう!この茶色いの」

 

復活した横島君がポケットから茶色の眼魂を取り出す。この色もさっきの写真に治められていた者と同じだと思う

 

「これで後13個……「うおーい!美神ー面白い物を見つけたぞー」

 

カオスが事務所の中に入ってくる。その手には黄色と青の2つの眼魂が握られている

 

「どうもこれが今回の事件の鍵みたいね」

 

横島君しか持ってない筈の眼魂がこんなに……間違いなく、これが今回の事件の鍵を握っているはずだ

 

「くえす!来たんだから手伝いなさいよ」

 

「どうしてと言う所ですが、まぁ仕方ありませんわ。手伝いましょうか」

 

直ぐに返事を返すくえす。前までなら絶対にうんと言わなかったのに……これも横島君のおかげかしらね

 

「ドクターカオスもお願いします。貴方の考えを聞かせてください」

 

蛍ちゃんがそう声をかけるとカオスは楽しそうに笑いながら

 

「ふむ、任せておけ!」

 

かっかかと笑うドクターカオス。霊的な物質の解析ならまずはカオスよね……あれ?でも

 

「ねえ?マリアとテレサは?」

 

いつも一緒にいる人造人間の姉妹の事を尋ねるとカオスは

 

「うむ。調査用の機材を取りにいって貰っておる。直ぐに戻ってくるはずじゃ」

 

そう、それなら心配ないわね。じゃあこの魔法陣と眼魂の分析を始めますか。私は机の上の黄色と先ほどくえすが持ってきた青い…よく見たら紺色と青の眼魂を見つめながらそう呟いた。気のせいか一瞬震えたように見えたけど、多分気のせいよね。うん、私はそう判断して、昨日の魔法陣と悪霊の残したなにかの破片を机の上に置いてくえすとカオスと意見交換を始めるのだった……

 

「うーん。やっぱりなにも判りませんね」

 

くえすとカオスを交えても結論はわからないだった。情報が余りにないのだ、となれば後は

 

「横島君。この眼魂を……ってあれ?」

 

さっきまでソファーにいた横島君に青い眼魂を渡そうとするけど居ない。トイレかな?と首を傾げていると

 

【横島さんならさっきチビとモグラちゃんの散歩の時間だからって出かけましたよ?】

 

おキヌちゃんが教えてくれる。そうか、もう散歩の時間か、それなら仕方ないかと思っていると

 

「うきゅううう!!!!」

 

「むむうううう!!!」

 

チビとモグラちゃんが事務所に慌てて飛び込んでくる。これは間違いない、また何かトラブルを横島君が引き寄せたのね!

 

「蛍ちゃん!くえす!行くわよ!モグラちゃん!チビ案内して!」

 

うきゅっと返事を返すモグラちゃん。やっぱり横島君を1人にするものじゃ無いわね!

 

「美神さん!先に行きます!チビお願い!」

 

「みむう!」

 

「やれやれ、本当にあれと居ると飽きませんわ!」

 

事務所を飛び出していく蛍ちゃんとくえす、私と違って自前の霊力で戦う術に長けている2人なら心配ない。私は除霊具を保管している部屋から破魔札と精霊石、それと神通棍を手に取り事務所を出ようとすると

 

「持って行け!」

 

「ありがと!」

 

カオスから投げ渡された何かの除霊具を受けとり、私はモグラちゃんに案内され横島君の元へと走るのだった

 

 

「うっひい……なんでやねん」

 

俺は目の前の光景を見て泣きそうになった。何故なら

 

「ああーうおああーーー」

 

黒人型のような悪霊がどんどん姿を見せているからだ。さっきチビとモグラちゃんに美神さん達を呼びに行って貰うように頼んだけど……どうも隠れるとか逃げるとか出来る数じゃ無い

 

「はぁーーーしゃあーない」

 

本当は嫌だけど仕方ない。シズクは俺の言いたい事を理解したのか

 

「……心配ない。治療は私に任せろ」

 

ぐっとサムズアップするシズクを見ながら、俺は首を振る。さっきの悪霊にはシズクとタマモの攻撃も効果がなかった

 

「シズクも美神さん達と合流してくれ、ここは俺がなんとかする」

 

怪訝そうな顔をしたシズクだが、直ぐに戻ると言ってタマモを抱えて離れていく、俺はその姿を見ながら、頭に巻いていたバンダナを外して

 

「行くぜ、心眼」

 

【うむ!行くぞッ!】

 

心眼が溶ける様に消えて行き、変わりに巨大なバックルを持つベルトが現れる

 

「しゃ!行くぜ」

 

懐から取り出したウィスプ眼魂のボタンを押し込み、バックルを開いてウィスプ眼魂をセットする

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

ベルトからバックルから黄色のパーカーが飛び出して、俺の周りを踊っているのを見て思わず苦笑しながら

 

「変身ッ!」

 

【カイガン!ウィスプ!】

 

思いっきりレバーを押し込む、そのまま左手を掲げるとパーカーゴーストを飛んできながら、右手を差し出す。思いっきり

空中でハイタッチすると俺の全身を何かが覆っていく感覚がする

 

【アーユーレデイ?OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ・ゴ・ゴ・ゴーストッ!】

 

パーカーを着込むと同時に被っていたフードを外して拳を握る

 

「しゃあ!ウィスプ行くぜぇ!」

 

よろよろと近づいてくる悪霊に走り出して拳を叩きつけると

 

「よ、よわ!?」

 

その一撃でその悪霊が苦しんで消えていく、破魔札とかシズクの水鉄砲とか効果無かったのに……これは後で美神さんに報告だなと思いながら

 

「そうとわかりゃぁ……こっちのもんだ!」

 

地面を蹴って飛び上がる。ウィスプになると空が飛べるから面白いよなあ……

 

「せいや!!」

 

「ぎがあ!?」

 

顔面を蹴り飛ばし、着地と同時に回し蹴りを叩き込んで次々と悪霊を倒していくが

 

「だー!ぜんぜんへらねえ!!!」

 

倒しても倒しても悪霊の数は減らない。シズクの水鉄砲やタマモの狐火もあまり効果が無いし……かと言ってこのまま戦っているわけにも行かないし、まとめて薙ぎ払うしかないか……

 

「行くぜ!ジャック!」

 

【イヒヒ♪!】

 

1度ベルトからウィスプ眼魂を取り出して、悪霊の攻撃を交わしながらボタンを4回押して、再びベルトに戻す。すると今度は黒いコートとランタンを手にしたパーカーゴーストが姿を見せる

 

「変身!」

 

【カイガン!ジャック・オー・ランターンッ!トリック・オア・トリートッ!ハ・ロ・ウ・ィ・ン!ゴ・ゴ・ゴースト】

 

左腕にランタンを模したガントレットが装着され、視界が少し狭くなった代わりに敵の距離などが詳しく見えてくる

 

「うっし!いっきに行くぞ!」

 

ランタンの窪みにさっき拾った茶色い眼魂をセットし、ダイヤルを回転させて炎のアイコンに合わせ、ベルトに向ける

 

【ダイカイガンッ!!!ビリー・ザ・キッド! オメガストライクッ!】

 

ランタンの窪みが赤い閃光を放つと目の前に巨大な火の玉が展開される。それを見ながら思いっきり拳を突き出すと

 

「うおおお!?」

 

巨大な火の玉が分裂し、炸裂弾のように悪霊達を消し飛ばしていく……韋駄天の時はビームだったけど、これだとショットガンか!良いのを拾ったなあ……と思っていると

 

「アラン!」

 

突然聞こえてきた声に振り返ると険しい顔をした着物みたいなのを着込んだ青年が俺を睨んでいた

 

「は?アランって誰だ?」

 

アランなんて知らないぞ?つうかなんであんな怖い顔をしてるんだよ。なんか誤解されてる?まずは交渉をしようと思ったのだがその青年も懐から眼魂を取り出し、俺と同じベルトを装着する

その後に手に持っていた眼魂をセットした。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

そして黒色のパーカーゴーストがその青年の前を踊り始める。嘘だろ!?つうかこれしかないってカオスのじーさん言ってなかったか!?

 

「変身!」

 

【カイガン!オレ! レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!】

 

走りながらウィスプに似た姿へと変身し突っ込んでくる青年を見て

 

「どうなってるんやあ!?誰か説明してくれえ!」

 

「おおおッ!!」

 

俺の言葉を無視して、拳を突き出してくる青年が変身したライダーを見て思わず俺はそう絶叫するのだった……



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その2

 

 

魔法陣に吸い込まれてきてしてしまった世界で見つけた雑誌には「今勢いのある除霊事務所特集」と銘打たれており。子供のとき良く見た漫画「GS美神」の世界に紛れ込んでしまった?と言うのが俺と御成の出した結論なんだけど

 

「しかしここは本当にGSの世界なんでしょうかな?」

 

首を傾げながら歩く御成がそう呟く、俺だって信じられないけど、信じるに値する証拠があるからなあ

 

「んー証拠は結構あるけどね」

 

手にしている雑誌を見ながら御成にそう返事を返す。見開きのページには「美神除霊事務所特集」と書かれており、ちゃんと写真とそこへの行き方も記されていた。だから今美神除霊事務所に向かっているんだけど

 

「タケル殿、今手持ちは?拙僧は2000円ですが」

 

「……750円」

 

2人合わせても2750円。漫画ではかなりの守銭奴だったし、たったそれだけで俺と御成の話を聞いてくれるだろうか?と言う不安が頭を過ぎる

 

「唐巣神父殿を探す方がいいのでは?」

 

GS美神の漫画の中ではかなり優しい人物と書かれていた唐巣神父。確かに唐巣神父の方が話を聞いてくれるかもしれない……雑誌の中に唐巣神父の教会の場所が書かれてないかな?と思いページを捲っていると

 

「た、たたたた!大変!!」

 

前の方から沢山の人たちが慌てた様子で走ってくる。これはただ事じゃ無いぞ

 

「どうなされたのですか?」

 

御成が息を切らして走ってきた老人にそう問い掛けると、その老人は俺と御成を見て

 

「何をしておるんじゃ!早く逃げないと危ないぞ!向こうの方で悪霊が沸いて出て来ておるんじゃ!おぬしたちも早く逃げるんじゃ!」

 

そう言って再び走っていく老人。俺は老人が走ってきた方角を見て

 

「御成!俺様子を見てくるよ!御成はとりあえず、美神除霊事務所に向かって!」

 

ゴーストに変身すれば俺だって悪霊と戦えるかもしれない、そうすれば皆が逃げる時間を稼げるかもしれない。それにここが本当にGS美神の世界なら、美神さん達が来るまで時間を稼げば良いんだし……俺がそう言うと御成は暗い表情で

 

「し、しかし!タケル殿。今タケル殿の手元に英雄の眼魂は……」

 

御成が心配している事は判る。俺の手元には「オレ魂」と「闘魂ブースト」と必死に手を伸ばした結果、手元にあった「ムサシ眼魂」の3つしかない、だから普段のような相手に合わせて戦い方を変える事は出来ない

 

「それは判っているよ。でも俺にはこのまま黙ってみている事が出来ないんだ」

 

俺が行けば助けることが出来るかもしれない。それなのにここで黙ってみている事は出来ないんだ

 

「判りましたタケル殿!しかし無茶はいけませんぞ!拙僧直ぐに美神殿を探して戻って来るゆえ!」

 

そう言って雑誌を逆さまに持って走っていく御成に苦笑しながら、俺は老人が指し示した悪霊がいる方角へと向かって走り出すのだった……

 

「あ、あれは!?アラン!?」

 

悪霊がいるという場所に居たのは漆黒のパーカーに身を包んだ、ネクロムに酷似したライダーだった。顔にはネクロムと同じくまるで潜水ゴーグルのようなバイザー。左腕には眼魂をセットする機械。

 

(まさかアランもこの世界に!?)

 

じゃあ、あの老人が言っていた悪霊ってもしかして「眼魔」なのか!?……どうなっているのか判らないが、ここでアランを見逃すわけには行かない。階段を飛び降りて広間の方に向かいながら

 

「アラン!」

 

俺がそう叫ぶと目の前のライダーは不思議そうに首を傾げながら

 

「は?アランって誰だ?」

 

身振り手振りだが訳が判らないと言うことを伝えたそうなネクロム(?)アランじゃ無いならまた別の幹部か!それならますます黙ってみている事は出来ない

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

着物の中からオレ魂を取り出し、走り出しながら

 

「変身!」

 

【カイガン!オレ! レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!】

 

黒いパーカーに1本角を持つライダー。「仮面ライダーゴースト」へと変身し、目の前のネクロム(?)に向かって走り出す

 

「どうなってるんやあ!?誰か説明してくれえ!」

 

「おおおッ!!」

 

突然大阪弁で叫ぶネクロム(?)に俺は渾身の力を込めた正拳を繰り出すのだった……

 

 

 

突然アランと叫んで俺に拳を叩きつけてきた、ウィスプに似た姿に変化した青年の拳……凄まじい殺意を感じ慌てて避ける

 

「のわったあ!?」

 

上半身をマトリックスのように逸らして回避する。ゴウっと凄まじい勢いで空気が切れた音がしたのが恐ろしい

 

(あ、あぶな!?)

 

ジャックランタンは遠距離攻撃と回避に特化している分。接近戦にはあんまり強くない、回避力は高いが、打撃・防御力はかなり低い、あの威力で殴られたら動きが鈍ってしまう。そのまま地面を蹴って距離を取る

 

「なあ!?」

 

攻撃が当たる事を確信していたのか、信じられないという感じで叫ぶ目の前の青年に

 

「落ち着け!俺はアランって奴じゃ無い!「じゃあイゴールか!ジャベルか!!」

 

だから誰だ!?イゴールにジャベルって!!!こいつは一体何と俺を勘違いしているんだ!?

 

「しらねえよ!?なんだその鼻が長そうな名前は!」

 

「鼻が長い!?お前は何を言っているんだ!?」

 

俺だって訳わかんねえよ……ただイゴールって聞くと鼻が長いって言うイメージが……うっ!頭痛が……

 

「と言うか!頼むから本当に攻撃を!止めてくれ!」

 

こんなアホな会話をしている中も攻撃が連続で繰り出され続けている。蛍と唐巣神父の近接訓練のおかげで何とか捌く事が出来ているが

 

(あかん!手が痺れてきた!)

 

防御力の低さが響いてきた。受け止めているが、これだけ容赦なく攻撃を続けられていると流石に手が痺れてきた

 

「話を聞けぇ!!」

 

なんでこいつは人の話を聞かないんだ!だんだん苛々してきて、ナイトランターンを突き出して

 

「燃えろッ!」

 

どうも頭に血が上っているようなので交渉は出来ない。ここは1度叩きのめしてから!そう判断し、とりあえず距離を取る時間が欲しかったので、牽制用の火炎弾を打ち出す

 

「な!?ぐああ!?」

 

拳を振るう体制のままだったから、火炎弾の直撃を喰らって吹き飛ぶ青年。あ、あれ?牽制のつもりだったんだけど……

 

「ぐ!?ぐあああ!?」

 

地面を転がって炎を消火している。その苦しみ様から、ある考えが頭を過ぎる。それはさっきの青年が幽霊だったと仮定した場合だ。そうなると俺はとんでもなくまずい事をしてしまったかも……

 

(や、やばあ……)

 

仮面の下で冷や汗が流れるのが判る。ナイトランターンによる攻撃はそのどれもが除霊に特化した攻撃になっている

 

「くっ!やっぱりお前は敵か!」

 

やばーい!!!また勘違いが進んでしまったああああ!!!!!俺は思わず叫びそうになりながら

 

「いやいや!悪気はなかった!だからいい加減に落ち着いて話し合いを!」

 

今度こそ交渉を!そう思って近寄ろうとするが、それよりも早く眼魂を取り出す。もう話し合いをする段階ではないと判断し、俺は覚悟を決めて

 

「行くぞ!牛若丸!」

 

まだ霊力が充分じゃ無いが、牛若丸の戦闘経験に賭ける。韋駄天では暫く動けなくなるデメリットが大きすぎる。それならまだ後遺症もそこまで酷くなく、扱いやすい牛若丸の方が良い。それに近接に特化した牛若丸の方なら峰打ちとかで弱らせる事も出来ると期待する

 

【はい!参ります!】

 

やる気満々の声で返事を返す牛若丸に笑みを零し、同じようにベルトに眼魂をセットする

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

紅いパーカーゴーストと紫のパーカーゴーストが空中で何度も何度もぶつかる

 

「「変身!」」

 

【闘魂カイガン! ブースト! 俺がブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!】

 

【シュっバット!八艘!壇ノ浦ッ!】

 

俺が牛若丸魂に変身すると同時に向こうも変身が完了する。赤いブレードを油断なく構えるその姿を見ながら、俺も刀を構え同時に走り出し、お互いの剣がぶつかるその瞬間

 

【FINAL ATTACKRIDE!D!D!D!DECADEッ!】

 

上空から黄色のカード見たいのを蹴り破って何かが俺達へと突っ込んできて

 

「「なぁ!?」」

 

俺達の驚愕の声が重なる同時にその何かの一撃が俺達へと炸裂したのだった……

 

 

 

なんか分からんがぶつかり合っている2人のライダーを止める為にルージにはほかに敵がいないかの警戒をしてもらって俺は走りながらちょっとした事で手にしたディケイドライバーを腰に装着し、出てきたライドブッカーからカードを1枚取り出し……

 

「変身!」

 

カードを翻し、セットする。

 

【KAMENRIDE!DECADE!!】

 

音声と共に俺の左右に9つの虚像が現れ、俺に重なった後に俺の姿は変わった後に複数のカードの様なのが顔に突き刺さると共に灰色の所がマゼンタに染まり、世界の旅人で世界の破壊者である「仮面ライダーディケイド」に変身完了する。

 

「ええかげんに……」

 

【FINAL ATTACKRIDE!】

 

そのまま別のカードを取り出して再びディケイドライバーにセットし…

 

「せんかーーーーい!!」

 

【D!D!D!DECADEッ!】

 

音声の後に出現したレールの様に展開された黄色のカードへ向けて飛び上がった後に潜り抜けて行き、姿を変えて今度は剣でぶつかり合おうとした2人のライダーの中心に炸裂させる。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

2人のライダーはその衝撃で吹き飛んで俺が着地するとともに変身が解除される。

 

赤い姿だった青年は転がった後にこっちを見て、その後に驚く様子を見せたので俺ももう1人の方に向いて唖然とする。

だって、ぶつかり合っていたもう1人のライダーの正体がなんと…

 

「俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「この世界の横島さん!?」

 

マジかよ!もしかして介入するのまずったか!?と焦っていると複数の足音とタケル殿おぉぉぉぉぉぉぉ!の声が聞こえて来て、その方向に見て言葉を無くす。同じように見たルージも驚きの様子で見ていたのが横目に入った。

 

そこにいたのは美神さん達に知らない綺麗な女性がいたのだが、その中の1人が忘れられない…俺を愛してくれた人だった。

 

「ルシ……オラ……」

 

過去の平行世界の筈なのに俺は思わず呟いてしまった。

 

 

 

 

 

こ、これはどういうこと?私は目の前の光景を見て絶句した。倒れている横島と驚いた表情で私を見ている横島。私の目の前には2人の横島が居たのだ

 

「こ、これはどういう!?「うきゅうううう!」へぐろ!?」

 

途中で会った御成とか言うお坊さんがモグラちゃんに跳ね飛ばされているのが視界の隅に映るけど、今の私にはそれ所ではなかった

 

(い、今……ルシオラって)

 

小さい声だったけど、聞き違えるはずが無い。今確かにもう1人の横島は私の事をルシオラと呼んだ……なんでその名前を……

 

「うきゅう!うきゅうう!」

 

私が混乱している中。モグラちゃんが倒れている横島の元に走っていく。その姿を見て我に帰る、ウィスプの力は強力だが、その分反動も後遺症も非常に大きい。変身後は暫く動くことが出来ないのだ

 

「大丈夫!?横島」

 

目の前で硬直している横島が誰かは判らない、だけど今の私には倒れている横島を助けるほうが優先だ

 

「おーう……蛍かあ?ヘルプミー……」

 

ピクリとも動くことの出来ない横島の胴に手を回して、近くに来ていたモグラちゃんの背中の上に乗せる

 

「うきゅ♪」

 

「よろしく……モグラちゃん」

 

横島を背中に乗せて離れていくモグラちゃんを見ながら、黒い着物を着ている青年と呆然とした表情で俺を見ている横島

 

「ル、ルシ……「私は、芦蛍よ。貴方は?」っ!そうか!俺も横島だ」

 

もう1度私の名前を呼ぼうとする横島の言葉を遮って言うと、辛そうな表情をして名乗る横島。色々話をしたいけど、今はそれ所じゃ無い。

 

「まずは美神さんの事務所に行きましょう。そこでどういう事か話をしましょう」

 

こんな所で話をする訳には行かない、とりあえず美神さんの事務所に行きましょうと言って離れると神宮寺が

 

(平行世界の横島は貴女を知っているようですわね?)

 

私が何者なのか?それを気にしている神宮寺。今はまだ私の正体を知られるわけには行かない、特に神宮寺には……

 

「他人の空似じゃない?」

 

「……まぁ今はそう言うことにしておきましょうか」

 

怪訝そうに私を見ている神宮寺の姿に溜息を吐いていると、美神さんが私の肩に手を置きながら

 

「なんかとんでもない事になりそうね」

 

「ですね……」

 

別の世界の横島にウィスプに似た姿に変身する青年……どうもあの魔法陣は異なる世界同士を繋げてしまった様だ……

 

(これからどうなるのかしら?)

 

2人の横島を見比べているシズクやチビ達にもう1人の横島に駆け寄る少年を見ながら、私はもう1度深く溜息を吐くのだった……

 

【                                              】

 

移動している横島達を見つめている、黒い軍服のような物に身を包んだ青年は鋭い視線でタケルを見つめて

 

「天空寺タケル……そうか。お前もこの世界に来ていたのか……」

 

憎ましげにタケルの名前を呼んだ青年はゆっくりと背を向けて、その場を後にしたのだった……



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その3

ここで時間は少しだけ巻き戻る。ウィスプである横島とゴーストであるタケル。そしてディケイドである平行世界の横島。その3人がぶつかるほんの少しだけ前の時間へと……

 

 

とある日の事、横島とルージはいつも通り除霊依頼をしていた。

 

横島「そっち行ったぞルージ!」

 

ルージ「はい!」

 

依頼対象は古いビルに憑りついた地縛霊で横島が誘導し、ルージが決める所であった。

 

ルージ「極楽へ!行ってください!」

 

地縛霊「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

振り下ろされたムラサメブレードで両断された地縛霊は断末魔を上げると消えて行った。

 

横島「ようし!これで依頼完了だ。後は報告するだけだな」

 

ルージ「そうですね!」

 

お互いにワイワイ話しながら降りようとしてルージが別の方を見る。

 

横島「?どうしたルージ?」

 

ルージ「こっちから何か奇妙な気配を…」

 

そう言って歩き出すルージに横島も気になって追いかける。

 

すると奇妙な穴が目に入る。

 

横島「これか、ルージが感じた奇妙な気配って」

 

ルージ「はい」

 

穴を見ながら聞く横島にルージは肯定した後に横島はこりゃあオカルトGメンだなと呟いて連絡しようとした時…

 

突如、穴は渦の様に回転し始めると周囲の物を吸い込み始める。

 

ルージ「うわ!?」

 

横島「ルージ!」

 

それにルージは吸い込まれかけて横島は慌ててルージの手を掴んだ後に栄光の手を手短な掴める場所へと伸ばして掴んでなんとか吸い込まれない様にする。

 

横島「踏ん張れルージ!」

 

ルージ「はい!」

 

さて、此処で読者に説明しておこう。

 

今横島達がいるのは3階建ての古いビルでしかも彼らがいるのは最上階の3階である。

 

さらに言うならば長い間整備もされておらず、それによりボロボロである。

 

そうなると…

 

ピシっピシっ…バキッ!!

 

横島「げっ!?」

 

ルージと横島の体重に耐え切れずに掴まれていた場所は壊れてしまい、2人は穴へと吸い込まれてしまう。

 

横島&ルージ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

2人を吸い込んだ後、穴はそのまま小さくなってしまう。

 

海東「ふうむ、どうやら厄介な状況に巻き込まれたみたいだね」

 

その後に海東が現れて、穴があった場所を見た後にそのまま壁を出現させてその中へ入って消えてしまう。

 

 

 

 

同時刻、別の世界、大天空寺

 

そこで天空寺タケルは唸っていた。

 

残る眼魂はアランの持つ2つだけなのだがそのアランがどこにいるのか分からないので唸っていた。

 

???「タケルどの~~~~~大変ですぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

そんなタケルの元に彼の仲間である山ノ内 御成が慌てた様子で来る。

 

タケル「どうしたの御成?」

 

御成「モノリスにまた異常が発生したんですぞぉぉぉぉ!!」

 

話しかけたタケルは伝えられた事に驚いて向かうとそこに自分と一緒に戦ってくれている深海マコトと月村 アカリがいた。

 

そして問題のモノリスを見るとモノリスが怪しく輝いている。

 

タケル「マコト兄ちゃん!アカリ!」

 

アカリ「タケル!」

 

マコト「来たか。警戒しておけ」

 

話しかけて返されたことにタケルがうんと頷こうとした瞬間にモノリスの目玉部分から魔法陣の様なのが出てきた後に渦となって吸い込み始める。

 

御成「ぬお!?」

 

アカリ「きゃあ!?」

 

タケル「アカリ!しっかり捕まって!」

 

それに誰もが手短な場所に捕まって踏ん張り、なんとか耐え切ろうとする。

 

マコト「!?」

 

タケル「あ!?」

 

だがその瞬間、踏ん張るのに集中していたのでタケルとマコトの懐から2人が持つ13個の英雄の眼魂が穴へと吸い込まれてしまう。

 

タケル「眼魂が!」

 

御成「タケル殿!?ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

慌ててタケルはバッと飛び込み、御成も慌てて掴んでいたのを放してしまって同じように穴に吸い込まれてしまう。

 

その直後に穴は消えてしまう。

 

アカリ「タケル!御成!」

 

マコト「くそ!」

 

悲鳴を上げるアカリの後にマコトは顔を顰めて机を叩く。

 

 

 

 

タケル「……………ううっ…」

 

呻きながらタケルは目を開ける。

 

目に入ったのは天井ではなく青空で、ガバッと起き上がって周りを見るとどこかの路地裏で近くには御成が倒れていた。

 

タケル「御成!御成!」

 

御成「ん、んん…た、タケル殿…此処は一体…?」

 

揺すった事で目覚めた御成は頭を押さえてぶるぶると振ってから聞く。

 

タケル「俺にも分からない…そうだ、眼魂は!?」

 

意識を失う前のを思い出して慌てて周りを見るとあの時吸い込まれた眼魂達の姿は見えず、どこに…と思った後に右手に何かを掴んでるのに気づいてみるとムサシ眼魂が握られていた。

 

タケル「これだけは掴めたんだ…」

 

ギュっとムサシ眼魂を握り締めた後にタケルはどこなのかを知る為に辺りを見て、雑誌が落ちてるのに気づく。

 

これで何か…とムサシ眼魂を懐に入れて雑誌を拾い上げ…表紙に書かれているのにえ…と声を漏らす。

 

戸惑うタケルを見て同じ様に雑誌を見た御成も驚きの声をあげる。

 

御成「た、タケル殿!これは!?」

 

タケル「お、御成…俺達…別世界の…しかもGS美神の世界に来ちゃったかも…」

 

今勢いのある除霊事務所特集と一緒に写るとある人物…美神玲子を見て、震える御成へとタケルはそう言う。

 

 

 

 

横島「………っ、たた…」

 

吸い込まれてる間に気を失っていた横島は呻いた後に頭を抑えながら体を起こす。

 

その隣でルージも呻きながら起きる。

 

横島「大丈夫かルージ?」

 

ルージ「はい、なんとか…」

 

体を起こした後に2人はぶるる!と顔を振った後に周りを見る。

 

一見すると自分達がいた古いビルと同じ感じだが微妙に違うと言うのを横島は感じた。

 

とにかく此処がどこなのか知る為にビルから出る事にした。

 

出たのは良いのだがその後に見た新聞のにえぇ…となる。

 

横島「まさか平行世界に来るとはな…」

 

ルージ「しかも過去なんですよね?」

 

自分たちのいる所が分かったが現状ので横島はそうなんだよなと困った顔で呟く。

 

ちなみに横島は知人に出くわすかもしれないのを考えてバンダナを外して伊達のぐるぐるメガネを着用していた。

 

すると何かから逃げる様に走る人たちが目に入った。

 

横島「なんだ?」

 

ルージ「あ、あの…どうしました?」

 

それに横島は疑問に思った後にルージが近くに来た男性に話しかける。

 

男性「突然妖怪が現れて暴れ始めたんだよ」

 

横島「妖怪?」

 

早口でそう言って走り去る男性のに横島とルージは顔を見合わせた後に走って来た方向へと走る。

 

しばらくして何かがぶつかり合う音がして視界に入ったのに2人は驚く。

 

そのぶつかり合っているのは…2人の仮面とスーツを纏った存在で横島とルージには見た事もないが腰につけているベルトから安易に存在が何なのか分かった。

 

ルージ&横島「仮面ライダー…」

 

呟いた後に2人は止める為に走る。

 

突如穴に吸い込まれたルージと横島。

 

そして別世界にて13個の眼魂を追いかけて同じように吸い込まれたタケルと御成

 

彼らに待ち受けている運命とは……?

 

 

 

 

ぶつかり合いを止めた後、ルージと横島は平行世界の美神達と同じように飛ばされて来たタケルと御成と共に事務所に向かっていた。

 

御成「それにしてもタケル殿、大変な状況になりましたな」

 

タケル「確かにそうだね…」

 

困った顔で言う御成にタケル自身も困った顔で同意する。

 

というのもタケルは一度死んでいて、現世に留まっていられるまでの時間制限があるのだ。

 

その時間制限は99日で一度99日越えてしまったが父のお蔭でリセットされているのだ。

 

30日が経ち、後69日以内に15個の英雄の眼魂を集めなければタケルは生き返られなくなるのだ。

 

そんな2人へ横島とルージが話しかける。

 

横島「なあ、どうしたんだ?」

 

ルージ「何か困ったことがあるんですか?」

 

その問いにタケルと御成は顔を見合わせた後に自分たちの事情を話す。

 

横島「なるほど…んじゃあこれを持って置けよ。あ、ちなみにこの世界の美神さん達に内緒な。見せたら大変だし」

 

そう言って横島はある物を渡す。

 

それは太極文殊で『延・命』と浮かんでいる。

 

タケル「これって…良いの!?」

 

横島「まぁ、何個も作れるし、後、効果も永遠だからこの世界にいる間持っとけよ」

 

驚いて聞くタケルに横島は笑って言う。

 

タケル「ありがとう。それじゃあこの世界にいる間は借りるね」

 

御成「これで心配事が1つ減りましたなタケル殿!」

 

お礼を言うタケルと笑顔になる御成にルージと横島は笑うと着いたわよと言う美神の声と共に横島は懐かしげに事務所を見る。

 

 

 

 

美神「さて、そっちの横島君はともかく、そこの子とあなた達2人の名前を教えてくれるかしら?」

 

事務所に付いて早速自分の仕事机に座った美神はルージとタケル、御成を見て聞く。

 

ちなみに忠夫はソファーに寝かされていたが横島がさりげなく俺はヒーリング出来ますんでとちょいと嘘を付いて見えない様に文殊で『癒』したので復帰している。

 

ルージ「俺はルージ・ファミロンと言います。こちらの横島さんの助手をしています!」

 

タケル「俺は天空寺タケルと言います。仮面ライダーゴーストに変身します」

 

御成「拙僧は山ノ内 御成と申します。タケル殿と行動を共にしております!」

 

美神「ルージ・ファミロンくん。天空寺タケルくん。そして山ノ内 御成さんね。それじゃあタケルくんと御成さんにお聞きしたいのだけどがこれに見覚えはあるかしら?」

 

自己紹介した3人のを聞いた後に美神は机の上にある物を3つ置く。

 

それにタケルと御成は顔を喜ばせる。

 

タケル「エジソンとニュートン!」

 

御成「おお、それにフーディーニ殿ではないですか!!」

 

カオス「どうやらしっとる様じゃな」

 

くえす「しかもエジソンとニュートン…有名な偉人ですわね」

 

忠夫「もしかしてこれも知ってるのか?」

 

眼魂を持って言う2人の言った名前にくえすがそう言った後に忠夫がタケルが誤解して戦う前に使用した眼魂を取り出す。

 

タケル「ビリー・ザ・キッド!良かった!これで眼魂は5個!」

 

御成「ホント良かった!これで残りは8個ですぞ!」

 

美神「…ちょっと待って、今8個って言った?」

 

さらに喜んで言った2人のに美神は眉を顰めて聞く。

 

タケル「え、あ、はい。俺達が飛ばされる前、13個の英雄の魂が宿った眼魂が飛ばされる切っ掛けになった穴に吸い込まれて…その際になんとか掴んだこのムサシ眼魂以外が散らばって…」

 

蛍「それはおかしいわ。私たちが調べた所、満月の晩に大きい魔法陣が現れてそれから出てきた15個の光がこの東京に散らばっているの」

 

ルージ「確かにおかしいですね。タケルさんの話とそちらの証言を合わせると数が合いませんね?」

 

懐からムサシ眼魂を取り出して見せながら答えたタケルのに蛍がそう言い、ルージは首を傾げて言う。

 

御成「そう言えばタケル殿…もしや一休殿も…」

 

タケル「え…あ…!?」

 

そう言われてタケルは慌てて色んな場所を探った後に頭を抑える。

 

タケル「一休眼魂もない!!」

 

御成「つ、つまり美神殿たちが見た15個のうち、3つは一休殿も含めたまだ見ぬ2人の英雄の眼魂が!!」

 

絶叫するタケルの後に御成も慌てた様子で言う。

 

くえす「落ち着きなさい。それで、あなた方の知るその英雄の眼魂の名前は?」

 

タケル「えっと…順番に言うと、ムサシ、エジソン、ロビンフット、ニュートン、ビリー・ザ・キッド、ベートベン、ベンケイ、ゴエモン、リョウマ、ヒミコ、ツタンカーメン、ノブナガ、そしてフーディーニ、あと、グリムとサンゾウがあるけど敵に取られてて…一休は15個の英雄の眼魂に含まれてない英雄の眼魂なんだ」

 

牛若丸「(え、弁慶!?)」

 

カオス「ほう、これはまた全て名のある偉人じゃのう…そっちだと偉人が眼魂なんじゃな」

 

シズク「……こうは考えれない…お前たちの敵が今回の騒動を起こしたとか」

 

くえすのに答えたタケルの奴に眼魂内の牛若丸が驚く中で関心したカオスの後のシズクの推測にタケルは難しい顔をする。

 

タケル「それは…ないと思う。相手も英雄の眼魂を狙っているから散らばさせるのはありえない。それにそうなるとアランの持つさっき言ったグリムとサンゾウの眼魂も散らばってる事になる」

 

忠夫「ふうん。つまり坊さんの言う様に2つの英雄の魂が宿ったのが混じってになるのか?」

 

横島「どうなんだろうな?」

 

首を傾げるW横島忠夫に美神は平行世界でも変わらないわねと思った後に咳払いする。

 

美神「それでタケルくん。そっちの眼魂を使って出来る事を教えてほしいんだけど」

 

タケル「できることと言われても…エジソンとニュートンはともかく、フーディーニは特殊で、ある物がないと…」

 

そうお願いする美神にタケルは困った顔で言った時…

 

???「それなら安心したまえ」

 

誰とでもない声に誰もが見て、そこにいた人物に横島とルージがあっと声を上げる。

 

横島&ルージ「「海東(さん)!!」」

 

海東「やあ、僕の知る方の横島にルージくん」

 

美神「それで、なんで安心なのかしら?」

 

まさかの海東大樹に2人は声を上げる中で挨拶する海東に安心と言う言葉が気になったのか美神は聞く。

 

海東「僕に付いて来たまえ、そうすれば分かる」

 

だけど美神の問いにちゃんと答えずにさっさと歩いて行こうとする。

 

美神「ちょっと!ちゃんと答えなさいよ」

 

横島「あー、美神さん。海東はあんな感じですから気にしてたらきりもないですから素直に付いて行く方が良いッス」

 

そう言って歩き出す横島とルージに不満げだが美神や他のメンバーも付いて行く。

 

そして出ると彼は変わったバイクにもたれていて、そのバイクに御成とタケルがあっと声をあげる。

 

タケル「マコト兄ちゃんの!?」

 

御成「なぜこれがここに!?」

 

海東「持って来たのさ、フーディーニ魂にはこれが必要不可欠だからね」

 

横島「おま、無断で持ってきたろ」

 

半目でそう言った横島のに海東は鼻歌を歌ってその様子から…ああ、ホントに無断でなのね…と誰もが思った。

 

 

 

 

マコト「(ぷるぷる)誰だか知らないがこんな事態で…」

 

一方でマコトはシブヤとナリタからマシンフーディがない事を教えられて置いてた所に行ってちょっと借りるよ☆と言う残された紙を見て憤慨していた。

 

 

 

 

海東「とにかくしばらくは移動の足にしたまえ。僕もしばらくは此処にいるので」

 

美神「いやいや!待ちなさいよ!」

 

そう言って手をひらひらさせて歩く海東に美神は呼び止めようとするが聞かずに去って行く。

 

キヌ【変わった人でしたね】

 

忠夫「確かに」

 

ルージ「けど、良い人でもあるんですよ」

 

そんな海東のにそう呟くキヌと忠夫へルージはそう言うがホントかなというのがこの場のメンバーの共通のであった。

 

美神「さて、気を取り直して情報纏めとこれからの事で考えるわよ」

 

そう手をパンパンさせて美神はメンバーの視線を集めて言う。

 

再び事務所へ戻った後に咳払いして美神は口を開く。

 

美神「さて、まずはこっちの発端だけど、昨日の満月の晩、空に巨大な魔法陣が現れ、そこから15個の光、タケルくんと御成さんの話も合わせて眼魂と断定するけどそれが東京に散らばった。その内、エジソン眼魂、ニュートン眼魂、ビリー・ザ・キッド眼魂、フーディーニ眼魂を回収しているから残りはタケルくんが持っていたムサシ眼魂以外のロビンフット眼魂、ベートベン眼魂、ベンケイ眼魂、ゴエモン眼魂、リョウマ眼魂、ヒミコ眼魂、ツタンカーメン眼魂、ノブナガ眼魂、一休眼魂とまだ見ぬ眼魂2つとなるわね。ちなみにこれが昨日の夜に現れたのをそちらのドクターカオスの娘さんのマリアが撮影したのよ」

 

そう言って美神は4人に見せる様に写真を取り出す。

 

御成「これが…」

 

ルージ「まるで目の様な模様をしてますね」

 

タケル「確かに、俺達の知るのに似てるけど…なんか違う気がする」

 

横島「しかし、そうなるとあの穴はこれに繋がっていたのか?それだと俺達も一緒の所から出る筈だよな?」

 

蛍「そしてそれに併用して謎の黒い人型の悪霊が出現して、知性は無いらしく、適当に暴れていたのを知り合いのGSが除霊したらしいんだけど、その知性のなさと半比例するように霊的防御力が高くかなり苦戦したみたい」

 

忠夫「え、そうだったのか?確かにタマモとシズクの効かなかったけど俺がウィスプになって殴ったらあっさり倒せたぞ」

 

じっくり見てうーんと唸る4人に蛍が言った事に忠夫が思い出して言う。

 

御成「やはり眼魔みたいですぞタケル殿」

 

タケル「そうみたいだね…ただ黒いパーカーを着てる黒い奴はそんなに強くない筈なんだけどな…御成でも倒せるし」

 

美神&くえす「はぁ!?」

 

シズク「…嘘は良くない。私やそこのキツネのは全然効いてなかったのにただの人間が倒せる訳がない」

 

証言からそう言う御成にタケルはうーんと唸って言った事に美神とくえすは驚き、シズクは信じてない目で言う。

 

タケル「嘘じゃないんだけどな…」

 

横島「そこはあれじゃね?この世界に出た眼魔だっけ?そいつ等はこの世界の霊力に耐性があるからこの世界の霊力関係の攻撃は効果が薄いって事じゃないッスか?」

 

美神「一理あるわね。それなら唐巣先生が倒しにくかった理由も付くわ」

 

思った事を言う横島に美神は同意する。

 

御成「ただ、特定の奴がないと拙僧達の世界では一般の人には眼魔は見えないのでもしそんな奴もいるとなると…」

 

キヌ【あのー、先ほどの海東さんがさりげなく置いてたんですけど関係ありますか?】

 

そう言った御成の言葉にキヌがそう言って変わった電話と時計、ランタンを浮かばせて見せる。

 

タケル「ああ!コンドルデンワー、バットクロック、クモランタン!」

 

御成「おお!これは助かりますぞ!特にクモランタン!これさえあれば眼魔も見える様になりますぞ!」

 

カオス「ほほう、興味深いのう。ちょっとワシに預けて調べさせて貰っても良いじゃろうか?」

 

嬉しそうに持つタケルと御成にカオスがそうお願いする。

 

タケル「そうですね……分かりました。ただ、早めにお願いしますね。どれも俺が戦うのに必要なものなので」

 

カオス「分かっとる」

 

了承して注意するタケルにカオスは笑って預かる。

 

美神「それじゃあタケルくんに御成さんとルージくんにえっと…別世界の横島くんは…」

 

横島「あ、呼び難いなら俺の事は門矢って呼んでください。後、服も分かり易いようにしますし」

 

蛍「本人も良いならその方が良いですね」

 

美神「そうね。それじゃああなたの事は門矢くんと呼ぶわね」

 

その後にW横島、特に横島の区別で美神はどう呼ぼうか悩んだ時に横島の提案に蛍も同意したのでこれから横島を門矢と呼ぶ事になった。

 

美神「それで4人の滞在場所と今後の予定だけど…」

 

そう前置きした後にしばらく話をして解散する事になった。

 

今後の事と文殊で「癒」されたとはいえ忠夫の体調を考えて、明日から動くことになった。

 

横島とルージ、タケルと御成は忠夫の家に居候する事になった。

 

ちなみに横島は家を見た瞬間、(前住んでたオンボロより)でけぇぇぇぇぇぇぇぇ!?と叫んだのは些細である。

 

 

 

 

ディケイド「……………」

 

時が過ぎ夕方、横島は1人、ディケイドに変身し、東京タワーにいた。

 

ただ立つだけで目の前に広がる景色、特に沈む太陽を見ていた。

 

ディケイド「…昼と夜の一瞬の隙間……短時間しか見れないからよけい美しいのね。…だったよな……」

 

その夕日を表情が見えない仮面で見ながらディケイドは呟く。

 

ディケイド「驚いたよな。まさか平行世界でしかも過去なのにルシオラがいるんだもんな…しかも葦蛍って名乗ってる。つまりアシュタロスと良い親子関係なんだろうな」

 

誰かに語り掛ける様にディケイドは言う。

 

ディケイド「すっげぇ羨ましいよな…こっちだとルシオラは生まれたけどそれがなんと別の世界の女になった俺でしかも俺はディケイドのお蔭か魂のが人間に戻っちまってる。これだけだとすっげぇどう言う状況だよって思っちゃうよな…」

 

苦笑するかのようにそう言ってるがディケイドは微動だにせず夕日を見る。

 

ディケイド「ルシオラ…俺さ、嬉しかった。たとえ世界が違えど、笑ったり、心配したり、そう言う普通…って色々とドタバタだったりで言ったらおかしいかもしれないけど、人生を生きている…すっげぇ嬉しかった…」

 

そう言ってディケイドは思い出す。

 

世界と彼女の2つで彼女が自分を愛した世界を選び、その後に後悔して泣いた。

 

ディケイド「だからよルシオラ、俺はこの世界にいる間、この世界の俺の大切な人達やるし…蛍を守る。絶対にこの世界の俺に俺が抱いた思いをしてほしくないから…だからさ、俺、頑張るからな」

 

そう、自分の決意を表明した後にディケイドは夕日が沈むまでその場を動かなかった。

 

自分を愛してくれた者が好きな風景を決意の証として…



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その4

別の世界からの来訪者と言う天空寺タケルと御成。本当は別の世界の俺も一緒だったんだけど、用があるからと言って1人でどこかに行ってしまった

 

「さっきは本当すいませんでした」

 

向かい合って座ると深々と頭を下げるタケルに俺は手を振りながら

 

「良いって、誰だって勘違いはあるから。それとあんまり謝ると後ろの怖いロリおかんが「……誰がロリおかんかっ!」ホワタぁ!?」よ、横島さん!?横島殿!?」

 

シズクの投げた氷柱が頭に刺さる、タケルと御成の絶叫を聞きながら、今日のシズクは普段に増して不機嫌だなと思いながら

 

「だ、大丈夫ですか!?きゅ、救急車!?」

 

「そ、そうでござるな!早く電話を!」

 

慌てふためいている御成とタケルに苦笑しながら氷柱を引き抜き

 

「大丈夫大丈夫。見た目が派手なだけだから」

 

引き抜くと既に傷は治っている。あれはシズクなりのスキンシップだから問題ない、最近ちょっとバイオレンスになってきているけど、基本的には優しいし、最悪の事態にならなければシズクが治してくれるし特に問題はないんだけど

 

「あわわわ……」

 

でもこの光景に慣れてない子もいるから少し考えて欲しかったな。ルージ君なんか涙目で震えているぞ

 

「「もう治っている!?」」

 

タケルと御成は俺の額を見て声を揃えて絶叫する。うん。なんかこの反応も久しぶりだなと苦笑していると

 

【横島さーん。今日の夕ご飯どうします?すき焼きの予定でしたけど……】

 

「確実に材料足りないわね」

 

キッチンから顔を出すおキヌちゃんと蛍の言葉にうーんっと悩む。今日は給料日なので皆で何か美味しい物を食べようという話になり、寿司かすき焼きと言う話になって話し合いですき焼きになった。一応人数分用意してあったけど、人数が増えたからなあ

 

「あー俺達別に外で食べてきても「アホ」あいだ!?」

 

外で食べてくるというタケルの頭にチョップを叩き込む、大体食事って言うのは大勢で食べるから楽しいんであって誰かを追い出しては何の意味もない

 

「買い物行って来るわー。チビとかの散歩も中途半端だし」

 

がばっと顔を上げるチビとモグラちゃん。さっきは眼魔とか言うのが来て散歩中断になったからなあ、こうして伏せているのを見ていたら不満が合ったのが丸判りだ。尻尾を振っているチビとモグラちゃん、タマモは私は別にと言わんばかりの態度だが、7本の尻尾のうち、一番大きな尻尾が揺れているので期待しているのが良く判る

 

「……じゃあ、これお金。無駄遣いするな」

 

「りょーかい。じゃあ行って来る」

 

シズクから財布を受け取り、俺はチビとモグラちゃんとタマモを連れて、すき焼きの材料の買い足しとチビ達の散歩を兼ねて夕焼けの道を歩き出したのだった……

 

 

 

散歩と買い物に行ってしまった横島さんを見ながら、俺と御成は並んでリビングに座っているんだけど

 

(た、タケル殿。居心地が悪いです)

 

御成。それは俺も思っているから態々言わなくて良いよ。なんせこの家はかなり大きいし、女性ばかりだ。居心地の悪さを感じても仕方ないと思う

 

「こ、この家広いですね」

 

リビングで服を畳んでいた蛍さん、なんと言うかそうあるのが当然みたいで同棲しているのかな?と思いながらにそう尋ねると

 

「そうね。横島のお母さんが色々と考えてくれたみたいよ?態々1回帰って来て、別の家を借りるんじゃなくて買ってくれたし」

 

ど、どうしよう……か、会話が続かない……と言うか家を買うって……もしかして横島さんの家はお金持ちなのだろうか?GS美神は見ていたけど、昔だから正直うろ覚えだ。この人も見たような気がするんだけど、何処で見たかが判らない……もし帰れたら押入れに入っているはずだから探してみても良いかもしれない

 

「おキヌ殿は幽霊なのですよね?」

 

【そうですよ?見れば判るじゃ無いですか?】

 

御成は幽霊って事でおキヌさんと話をしている。自分の知っている幽霊とは違うなあとでも思っているのだろうか?

 

「TV見ても良いですか?シズクさん」

 

「……構わない。だがお菓子を食べながら見るのは机の上だ」

 

ルージ君は子供らしいと言うか、なんと言うか自由だ。もしかして俺だけ浮いている?俺はどうすれば良いんだろうか?と悩んでいると

 

「ただいまーで良いのかな?」

 

別の世界の横島さん……えーと門矢さんが家の中に入ってくる

 

「まぁ一応おかえりなさい?用事は終わったの?」

 

洗濯物をたたみ終わった蛍さんがそう尋ねると、門矢さんは手を合わせて

 

「……ああ。いきなり勝っ手なことしてすまん」

 

「まぁ別に良いけどね。とりあえず奥の部屋を使って良いから、右側がタケルと御成さんね?左側は門矢とルージ君。一応

掃除はしてあるけど、自分達でも少し掃除してね?夕食の前には声をかけるから」

 

その言葉にこれ幸いと俺は門矢さんと一緒に宛がわれた部屋に向かうことにした。どうもここは居心地が悪くて

 

「こ、こうでございましょうか!?」

 

【もうちょっと、こうですよ?】

 

「かあああああッ!!!」

 

【あ、浮きましたよ!御成さん!】

 

「やったああ!」

 

部屋の隅でボールを浮かしているおキヌさんと自分もとなにかの訓練をしている御成は気にしないことにした。と言うかボールを浮かせて居るように見えたのは気のせいだと思う事にしたのだった……とは言え、結局門矢さんと一緒でも何を話せば良いのか判らず、俺は自分と御成に宛がわれた部屋の掃除をする事にしたのだった……

 

 

 

「ちっ……どうした物か……」

 

私は椅子に腰掛けこれからどうするかを考えていた。昨日私の使うゲートと良く似た何かが現れたと思った瞬間。それに吸い込まれ、気がつけば訳の判らない世界だ。しかも

 

(サンゾウ眼魂もグリム眼魂も無い)

 

私の所有していた眼魂も無い……先ほど何故かこの世界にいた眼魔から情報を得ようとしたが、意思疎通も出来ず。何故か天空寺タケルも居る……それに何よりも今大きな問題は

 

「何故身体に戻っている……」

 

眼魔世界の人間は皆眼魂だ。それなのに今私は身体を得ている……これは1日歩き回った所で理解した。そしてその事により、私はかなりの窮地に追い込まれていた。それは……

 

ぐうう……

 

「これが空腹か……久しく忘れていた」

 

空腹で歩く気力もないのでこうしてベンチに腰掛けどうするか考えていると、目の前に何かの気配を感じて顔を上げると

 

「うきゅ♪」

 

「みむぅ♪」

 

「ぬう!?」

 

空飛ぶ毛玉とその毛玉が抱えている毛玉。なんだこれは……!?

 

「こらー!勝手に行くなあ!」

 

慌てて誰かが走ってきて毛玉を抱き抱え、困惑している私を見て

 

「いやあ!すんません!チビとモグラちゃんが迷惑とかかけてないですか?」

 

手を合わせ頭を下げる人間。なんとも騒がしい奴だ……ベンチから立ち上がろうとした瞬間

 

ぐうう……

 

再び私の腹が音を立てる。それを聞いて苦笑している人間……く、屈辱だ。こんなところを人間に見られるなんて……

 

「腹が減っているなら迷惑をかけたお詫びに俺の家で飯食わないか?」

 

「そんな必要は「ぐうう……」……「な?飯食いに来いよ」

 

く、屈辱だ……どうしてこの私が人間に情けを……そのまま背を向けて離れようとするが

 

「ほら、来いって!」

 

「コン!」

 

頭の上の狐と一緒に私の腕を掴む人間。しかもかなり力が強い、いや、私が弱っているのか?なんにせよ振りほどこうとするのだが、全く引き離せない

 

「は、放せ!」

 

空腹のせいかこの人間を振りほどくことも出来ず、私は無理やり引きずられるように歩き出すのだった……

 

「俺は横島な?頭の上はタマモでチビとモグラちゃん。お前は?」

 

「うきゅ」

 

「みーむ」

 

「コン」

 

小動物と一緒に尋ねてくる横島。特に毛玉は私の顔の目の前を飛んで、その円らな眼でじっと私を見つめて来る

 

「……アランだ」

 

ずっと話しかけているので良い加減に苛々して来て名前を名乗る。横島はふーん、外人さんかと呟いて

 

「観光に来たのか?それにしても日本語上手いなあ?」

 

「……観光ではない、探し物をしているのだ」

 

どうもこの人間と居ると調子が狂う……なんなんだこいつは……私が眉を顰めていると

 

「横島?こんな所で何をしているのですか?」

 

「おおう!神宮寺さんじゃないですか!神宮寺さんこそ何をしているんですか?」

 

長い銀髪の女に声を掛けられて顔を崩しながらその女に近づいていく横島。今のうちに離れるべきか……ゆっくりと背を向けようとするが

 

「こっちはなんか探し物をしているらしい外人さんのアランっす」

 

何故私に話を振る!逃げるわけにも行かず、振り返ると銀髪の女は私を見て

 

「また随分と珍しい物を連れてますわね?」

 

「そうっすか?なんか腹減ってるみたいだから連れて来たっすよ。そうだ!神宮寺さんも家に来ません?今日すき焼きするっすよ?」

 

「それでその安い木っ端肉ですか……良いでしょう。私が本物の牛肉と言うものを用意して差し上げますわ。感謝しなさい」

 

胸を張りながら言う銀髪の女、その仕草を見るだけでわかる。この女は相当にプライドが高いのだと……

 

「いやー!マジ助かります!それじゃあ待ってますねー」

 

普通なら若干の嫌悪感を抱いてもおかしくないのだが、なんと横島は能天気に笑いがら銀髪の女に感謝の言葉を言っていた。豪胆と言うのか、なにも考えてないと言うのか……少なくとも私の世界にはいない人間だな……私は横島の事を分析しながら、横島に連れられて、横島の家に来たのだが……

 

「……遅かった……お前何を連れて来た?」

 

顔色の悪い女に出迎えられぎょっとした、なんだあれは……生きているのか……それに人間の気配とはまるで違う……こいつは何者なんだ……?

 

「……なんでもかんでも拾ってくるな」

 

私を犬か何かと言わんばかりのその会話を聞いて、若干眉を顰めながら

 

「誰も連れて来て欲しい等と言っていない」

 

この能天気な男に無理やり連れて来られたのだと言うと、横島は笑いながら

 

「いいから!良いから!ほら来いよ」

 

無理やり私を家の中に引きずり込む横島。そのまま部屋の中に入ると

 

「アラン!?」

 

黒い鍋の前に腰掛けていた天空寺タケル。眼魂を取り出す天空寺タケル……罠か!くっ私としたことが

 

「天空寺タケル!?貴様ぁッ!」

 

横島にそう怒鳴りながら咄嗟にネクロム眼魂に手を伸ばすが、それよりも早く

 

「このドアホがッ!」

 

「へごお!?」

 

天空寺タケルが思いっきり殴られた。何?罠ではないのか……

 

「オウこら。今から飯やって言うのにお前は何をするつもりや?ええ?」

 

「いや、そのですね!?アランはその危険で「危険もくそも無いわ。お前だけ正座しとくか?シズク、氷付けの準備は?」

「出来てる」すいません!許してください!」

 

どうやら横島と言うのは敵ではないようだな……ネクロム眼魂を懐に戻していると

 

「なんの騒ぎだ?」

 

家の奥からもう1人横島が出てきた。全く同じ顔をしている

 

「横島?」

 

思わずそう呟くともう1人の横島は苦笑しながら

 

「門矢だ。よろしくな、アラン」

 

差し出されていた手を見つめて居ると、壁の中から女が顔を見せる

 

「ぬお!?」

 

【あ、すいません、驚かせてしまいましたね。おキヌです】

 

な、ななな……何なんだ……この家は!?どうなっている!?

 

「おーい、アランも座れよ。ほれこっちこっち」

 

横島に呼ばれてその隣に腰掛ける。天空寺タケルの姿が見えないのでこの位置が一番ちょうど良い

 

「それじゃあすき焼きを始めるわよ。ほら、横島」

 

「おう!」

 

黒髪の女と一緒に私の目の前で料理を始める横島を見ながら、この家の事を考える。人間と幽霊や謎の生き物が一緒に暮らす……なんとも不可思議な家だ。肉の焼ける音と何かが焦げる匂いが部屋の中に響き渡る

 

「すき焼きかあ……良いタイミングで来たなあ」

 

「そうですね!門矢さん!俺お腹空きましたよ!」

 

「御成……俺が悪いのかな?」

 

「ま、間が悪かっただけですぞ!気にめさるな……」

 

なんとも騒がしい家だ。私の望む完璧な世界とは程遠い……だが不快ではないな……

 

「ほれ!出来たぞ」

 

私の目の前に肉を置く横島。私は思わず横島の顔を見て

 

「食べて良いのか?」

 

私がそう尋ねると横島は笑いながら

 

「ああ!それはアランの分だからな!全部食えよ?んじゃほれ!ルージ次お前だ」

 

「お願いします!」

 

差し出されたおわんを受け取り、その子供の分を用意する横島。私は目の前に置かれている箸に手を伸ばし肉を摘んで口にする……こうして物を食べるのは何年ぶりだ?ゆっくりと咀嚼して飲み込む

 

「美味い……」

 

久しぶりに食べた食べ物の味に思わずそう呟いた後の私の動きは早かった。目の前の肉と野菜、そしてこんもりと盛られている白米……それを無心で食べていると

 

「良い食べっぷりだな!ほら!追加だ」

 

更に私の更に肉を入れてくれる横島に思わず私は

 

「感謝する」

 

「ははは!大げさだな!ほらほら!折角のすき焼きだ!皆どんどん食えよ!」

 

自分の膝の上に擦り寄ってくる毛玉達にも食事を与えながらそう言う横島。なんと言うか面白い男だな……私は思わず笑み

を零してしまうのだった

 

「感謝しなさい、横島!私が色々と持ってきて差し上げましたわ!」

 

「おおう!神宮寺さん!待って「横島!なんであいつを呼ぶの!?」

 

黒髪の女に首を絞められている横島。な、なんだ!?何故急にこんなことになっているのだ!?

 

「いやあ?そこで会ったから誘ったんですが?「「「誘うなあ!」」」へごお!?」

 

螺旋回転しながら壁に突っ込んだ横島に思わず箸を落としてしまう。

 

「全く暴力的ですわね?あんなヒステリーじゃなくて私にしなさい?横島」

 

しゃがみ込んで優しく横島の頬を撫でながら言う銀髪の女。黒髪と小さい女と幽霊を馬鹿にするような笑みを浮かべているのだが、その顔を見て何故かイゴールを思い出させる。どうして性別も違うのに、あいつを思い出したのだろうか?

 

「「「誰がヒステリーかあ!?」」」

 

あの銀髪の女のせいで一気に騒がしくなる。それは私の求める完璧な世界とは程遠い光景だったのだが

 

(これは悪くない……)

 

よろよろと立ち上がった横島に詰め寄る女達を見て、こんな騒がしい世界も悪くないと私は思うのだった……そして

 

「横島。お代わりだ」

 

「おう、一杯食え。でも出来れば俺も物を食べる時間が欲しいな」

 

「考えておこう」

 

私の世話と足元の小動物の世話で物を食べることが出来てない横島が切なそうに呟く。私はその言葉に考えておこうと返事を返し、横島から受け取った3杯目の白米を口に運ぶのだった……

 

 

なおその光景を見ていた門矢はと言うと

 

(すき焼きかあ……俺こんなの食った記憶も、こんな家に住んだ記憶もねえぞ……)

 

自分とは余りに違う、この世界の横島の生活を目の当たりにして、目から塩水を流していたりするのだった……

 



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その5

来るJ/水龍招来

 

 

前回、忠夫に連れて来られたアランにタケルは戦おうとして怒られ、門矢は忠夫が自分の昔と違う充実してるのに塩水を流した翌日

 

すき焼きを食べた後に話し合った結果、アランも居候する事になり、元の世界に戻るまでの間はタケルの眼魂は奪わない事を忠夫主導の元、一時休戦が結ばれ、タケルもグリム眼魂とサンゾウ眼魂を取り戻すのは元の世界に戻ってからにと言う事になった。

 

ちなみにアランは門矢とルージと同じ部屋で寝る事になった。

 

オマケで門矢はいる間は忠夫と見分け易い様に自腹で買った赤いジージャンに青いバンダナを付けている。

 

2Pカラーぽいが分かり易ければ良しと言う事になった。

 

閑話休題

 

カオスの準備もある事でお昼を食べて少ししてからと言う事でタケル達はのんびりしていた。

 

シズク「むむむむむむ」

 

そんな中で1つの眼魂を前にシズクは唸りながら手を輝かせて眼魂に力を送り込む。

 

それにアランも含めてタケル達は興味深そうに見る。

 

しばらくすると…

 

ボフン!!

 

そう言う音と共に眼魂から何かが出てくる。

 

それは真っ白いパーカーに眼が×で舌を出しているパーカーゴーストであった。

 

御成「な、なんですぞこれは!?」

 

忠夫&シズク「またスカッパーか…」

 

ルージ「スカッパー…ですか?」

 

それに驚く御成の後に落胆する忠夫とシズクにルージは気になって聞く。

 

忠夫「そ、このブランク眼魂に神族なら神通力・魔族なら魔力と言った力を込める事で力を込めた存在の魂の一部を吸収してその分霊を納めた眼魂へと変化するんだけど…込めてるのが足りないとこのスカッパーもといスカッパーカーゴースト眼魂になるんだよな」

 

何も入ってないブランク眼魂を見せながら説明しながら忠夫は先ほどスカッパーが出てきた後白い所が透明になったブランク眼魂を持ち上げて見せる。

 

アラン「この世界では眼魂はそうやって誕生するのか?」

 

忠夫「まぁ、ブランク眼魂はカオスの爺さんや芦さんが作ってるけどな。んでこれが今俺の持ってる眼魂」

 

興味があるのかそう聞くアランに忠夫は答えながら3つの眼魂を置く。

 

ルージ「これが横島さんの?」

 

忠夫「そっ、右からウィスプ眼魂、牛若丸眼魂、韋駄天眼魂だ」

 

タケル「牛若丸!つまり源義経!!」

 

答えた忠夫の言葉にタケルは目を輝かせて牛若丸眼魂を持ってじっくり見る。

 

牛若丸【あ、あの…そんなにじっくり見られると恥ずかしいです】

 

タケル「あ、すいません」

 

すると目の所をチカチカさせて言う牛若丸眼魂にタケルは謝ってテーブルに置く。

 

御成「時に横島殿、この牛若丸眼魂を持ってると言う事は本人に会って入れて貰ったんでしょうか?」

 

忠夫「あー、微妙に違うんだよ。この中に入ってるのは一部だけど本人なんだ。諸事情で眼魂の中に宿った」

 

門矢「はぁ~そうなのか…」

 

気になったので聞く御成に答えた忠夫のに門矢は納得してると忠夫と住んでるモグラちゃんとチビが忠夫に近づき、それに忠夫は2匹を抱き上げると2匹は嬉しそうにGジャンに爪を立てて登り始める。

 

モグラ「うきゅ♪」

 

チビ「みむ♪」

 

忠夫「おーよしよし」

 

ご機嫌で鳴く2匹に優しく撫でる忠夫にルージ達は微笑んでみる。

 

門矢「(しっかしグレムリンにモグラか…しかもタマモもいるって結構違うんだな…)」

 

おキヌ【た、大変ですよ!!】

 

それを見ながら改めて自分の所と違う事に感慨深くなっていた時、慌てた様子のおキヌが来る。

 

忠夫「ど、どうしたおキヌちゃん!」

 

おキヌ【眼魔です!また眼魔が現れました!】

 

タケル「また出たのか!」

 

アラン「この世界の眼魔、私の命令を聞かないみたいだからな」

 

ルージ「とにかく行きましょう!おキヌさん。案内を頼みます!」

 

慌てた様子で答えるおキヌにルージがそう言ってから誰もが慌てて向かう。

 

なお、アランは行かないつもりだったが忠夫に引っ張られて付いて来た。

 

おキヌ【あそこです!ってあれ?】

 

そう言って指した方を見ておキヌはすっとんきょんな声を上げる。

 

そこでは眼魔と戦う黒い戦士がおり、数に負けずに殴ったり蹴ったりで倒して行く。

 

離れた場所で美神と蛍もいるのだが同じように見ていた。

 

忠夫「なんじゃありゃあ?」

 

タケル「眼魔…じゃない。ベルトをしてるって事は仮面ライダー?」

 

門矢「あれ、あれって仮面ライダーW…か?なんか1色だけど」

 

ルージ「確かに、俺達が知ってるのは半分は緑ですしね」

 

海東「それは当然だよ。あの仮面ライダーは君たちが知るWの変身してる片割れが1人で変身した姿だからね」

 

その仮面ライダーを見て各々に言うメンバーに現れた海東がそう言う。

 

ルージ「海東さん!」

 

シズク「お前は知ってるの?」

 

海東「ああ、知ってるよ。彼は仮面ライダージョーカー、ハーフボイルド探偵が変身する切り札の戦士さ」

 

ジョーカー「おいこら!ハーフボイルド言ったのお前か海東!」

 

メンバーに対して答えた海東のが聞こえたのかジョーカーが眼魔を蹴り飛ばしてから海東へと向いて怒鳴る。

 

美神「ちょっと!まだいるわよ!」

 

ジョーカー「っ!邪魔すんな!」

 

【JOKER!】

 

美神の注意にジョーカーはしゃがんで眼魔の腕振りを避けた後にドライバーに刺していたメモリを抜いて右腰のスロットに装填してタッチする。

 

【JOKER!MAXIMUMDRIVE!】

 

ジョーカー「ライダーキック!回し蹴りバージョン!」

 

音声の後にジョーカーは振り向きざまにエネルギーを纏った右足による回し蹴りを叩き込んで蹴り飛ばし、眼魔は爆発四散する。

 

何もいない事を確認してジョーカーはメモリをドライバーに戻した後に再び抜くとその姿をライダーの姿からソフト帽を被った青年の姿へと変える。

 

青年「たくっ、おい海東!てめぇまたハーフボイルド言ったろ!俺はハードボイルドだ!」

 

忠夫「(自分でハードボイルドって言う奴初めて見たわ俺)」

 

シズク「(確かに、頭が残念そう)」

 

美神「えっと、あなたの名前を教えてくれないかしら?」

 

帽子を脱いでふっと息を吹きかけてからまた被り直して海東に詰め寄る青年に忠夫とシズクはそう小声で会話する中で美神は話しかける。

 

青年→翔太郎「俺の事かい?俺は左翔太郎。ちょいと迷い込んだ異世界の探偵さ…んでまぁ、久しぶりだな横島とルージ」

 

門矢「あ、やっぱりあんたあの時のか」

 

ルージ「お久しぶりです」

 

蛍「あなた、門矢とルージ君の知り合いなんですか?」

 

声をかけられたおで海東から美神に顔を向けてから名乗ったから門矢とルージを見る翔太朗に蛍は問うと翔太郎は怪訝となる。

 

翔太郎「はっ?こいつの苗字は横島だろ?なんで士と同じ苗字使って…ああ、納得した。んでもってこの世界にも静水久はいるんだな」

 

シズク「???」

 

すぐさま聞こうとして忠夫を見て自己解決した後にシズクを見てそう言う。

 

美神「もし良かったらどういう経緯で来たかを教えてくれると嬉しいんだけど」

 

翔太郎「良いぜ。まあ、まずは海東に…ってもういねぇ!くそ、ホントに逃げ足の早い奴だな!」

 

お願いする美神に翔太郎は了承した後に海東に向き直ろうとしていない事にぼやく。

 

 

 

 

しばらくして美神の事務所に移動した面々は翔太郎からなぜ迷い込んだのかを聞く。

 

美神「つまり、あなたは1つ1つに地球上の全ての物に対する記憶が入っていて人体などに刺せばその人を異形に変えると言うガイアメモリを密売していた組織の居場所を突き留めて密売を阻止したけどその前に1つのメモリが人の手に渡っていて探して追いかけたは良いけど目の様な魔法陣に吸い込まれてあなたも追いかけて入ったと」

 

翔太郎「そう言う事、しかしまた別の静水久やくえすと出会うとはな…」

 

くえす「何呼び捨てにしてるんですか、焼きますわよ」

 

聞いた内容を纏めて言う美神に翔太郎は頷いた後に眼魂ので来たくえすを見て、睨まれてうへぇと肩を竦める。

 

翔太郎「やっぱ世界違うと性格も違うな…んでそっちは10個の眼魂だっけ?それを探してるんだな…だったらそっちを優先しな、俺のは俺で片づける」

 

忠夫「けど、どうやって探すんッスか?手がかりないんッスよね?」

 

そう言う翔太郎に忠夫は気になって聞く。

 

翔太郎「なあに、そんなもん足で調べるだけさ」

 

蛍「地道に聞きこむって事?何の手がかりもないのに?」

 

自分の太ももを叩いて言う翔太郎に蛍はそう言う。

 

翔太郎「一応あてはある…って所なんだが此処だからな…」

 

美神「それならしばらくは眼魂探しを手伝ってくれないかしら?こっちも伝手で探してあげるから」

 

さっきとは違い、自信なさげにソフト帽を脱いで頭を掻く翔太郎に美神はそう提案する。

 

翔太郎「伝手って…もしかして夜光院柩か?」

 

美神「あら、あなたの世界にもいるのね柩は」

 

まあなと返した後に翔太郎は忠夫の頭にいるタマモを見る。

 

翔太郎「しっかし、こいつはお前のペットか?」

 

忠夫「あー、まぁ、家族に近いッスね。名前はタマモッス」

 

興味深く見る翔太郎に忠夫は手に持って見せる。

 

翔太郎「奇遇だな。俺の所にも似た名前でタマって言う九尾の狐の女の子がいるんだよ」

 

忠夫「へぇ~確かに奇遇ッスね」

 

くえす「待ちなさい。今普通にとんでもない事を言いましたわよこの探偵」

 

タマモの頭を左手でわしゃわしゃしながらそう言う翔太郎に忠夫もほんわかに返す中でくえすがツッコミを入れる。

 

美神「あなたの所に九尾の狐がいるの!?」

 

翔太郎「ああ、良い子なんだけど良く俺の膝や背中にくっついてな」

 

忠夫「あっ、俺もタマモに頭や肩に乗られてるッスよ~」

 

はっはっはっはっはっと笑いあう2人を見ながら、あ、こいつ等似た者同士だわと異世界メンバーを除いた美神や女性陣はそう思った。

 

タマモ「ガブっ!」

 

翔太郎「あいたっ!」

 

忠夫「あ、こらタマモ!すんません!」

 

忠夫以外に撫でられるのが嫌だったのか撫で方が気に入らなかったのか翔太郎の左手に噛み付いたタマモに翔太郎は手を退き、忠夫は注意してから謝る。

 

翔太郎「いや俺こそタマにやっている感じでやったから撫で方が気に入らなかったんだろうな」

 

おキヌ【少し血が出てますよ。軽い治療はしないと】

 

そう返して左手をふーふーしながら気にするなと言う翔太郎におキヌがそう言って医療用具を持って来る。

 

この時の翔太郎の行動とタマモが噛み付いた事で翌日の朝にちょっとしたハプニングが起こるなど、誰もが知らなかった。

 

御成「た、大変ですぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

そんな所にシズクと共に買い出しに向かっていた御成が慌てた様子で来る。

 

タケル「ど、どうしたの御成!?」

 

御成「たたた大変なんです!変な男が現れたと思ったUSBメモリの様なのを取り出して自分に刺したら化け物に変わったんですぞ!今はシズク殿が戦っておりますが眼魔の様に効いておらぬのです!!」

 

翔太郎「!ドーパントか!すると俺が追っていた奴に違いない!案内してくれ!」

 

忠夫「俺も!シズクが心配ッス!」

 

そんな御成に話しかけるタケルへ伝えられた事に翔太郎はすぐさま食いついてこちらですぞ!と言う御成の後にアランも巻き込んで行く。

 

それに美神達も続こうとする。

 

エミ「あら?どうしたワケ?なんか横島達が慌てた様子で通ったけど?」

 

ただ、現れたエミに止められる。

 

 

 

 

シズク「っ、こいつ。熱すぎる」

 

???「うがぁぁぁぁぁぁ!妖怪!殺す!!」

 

異形の相手をしているシズクは相手の攻撃などで顔を顰める。

 

その異形の外見は流れる溶岩と燃え上がる炎のような身体が特徴的でシズクが放つ水をあっけなく蒸発させて行く。

 

【ATTACK RIDE!BLAST!!】

 

再度シズクへと火炎弾を放そうとした異形は飛んで来た複数の銃弾に怯む。

 

忠夫「大丈夫かいなシズク!!」

 

そこにライドブッカーガンモードを構えたディケイドとルージに翔太郎、御成とアランとタケルと共に忠夫が来る。

 

ルージ「ムラサメライガー!」

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

タケル&アラン「変身!」

 

それに対してルージは右手首に付けたゾイドブレスの青いボタンを押し、タケルはゴーストドライバーにオレ眼魂を装填し、アランは左腕に自身の変身アイテムであるメガウルオウダーを装着してネクロム眼魂取り出してからスイッチを押してメガウルオウダーにセットして上部にある目薬を模した滴下ユニットのスイッチを押す。

 

【カイガン!オレ! レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

それぞれの音声と共にパーカーゴーストを纏って、それぞれゴーストとタケルがウィスプを勘違いした原因であるネクロムになる。

 

そしてルージは体が黒いライダースーツに包まれた後にその上に青と白の鎧が装着されて行き、顔の上にムラサメライガーの顔型ヘルメットが装着され、口をフェイスカバーが覆った後に虚空から現れた大刀を右手に持って構える。

 

ゴースト「あれ?ライダーじゃないの?」

 

ルージ「なれますけど、相手を見極める為にこっちにしました」

 

そんなルージに対してそう聞くゴーストにルージはそう返した後に駆け出す。

 

それにネクロムとゴーストも同じように駆け出してルージを追い越してパンチを叩き込む。

 

ゴースト「!?くっ!」

 

ネクロム「がっ!?」

 

だが、すぐさまパンチをした手を抑えて後ずさる。

 

ルージ「はっ!」

 

その後にルージが剣を振り下ろすが異形は両手で真剣白羽どりをする。

 

ルージ「っ!熱!!」

 

その直後に伝わってきた熱さにルージはすぐさま離れるが大刀の抑えられた場所が赤くなっていた。

 

ゴースト「なんて熱さだ!」

 

ネクロム「普通の熱さではないぞ」

 

御成「翔太郎殿。あのドーパントは何の記憶のなんですか!?」

 

翔太郎「マグマの記憶が入ったガイアメモリだ。だが、俺が戦ったのよりやばいな…そんだけ相性が良いって事と奴の怒りが強いって事か」

 

忠夫「怒りって…何に対してッスか?」

 

シズクに水をかけて冷やして貰いながら呻くゴーストとネクロムの後に翔太郎は苦い顔をして異形、マグマドーパントを見て言った事に忠夫は気になって聞くと…

 

マグマドーパント「憎い!俺の家族を、大切な人を殺した妖怪が憎い!!うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

怒気を含んだ言葉と共に噴出された熱気に誰もが慌てて後ろに下がる。

 

御成「あちゃちゃちゃちゃ!?」

 

翔太郎「ちっ!さらに上げやがるか!」

 

ゴースト「それよりもさっきの言葉…」

 

その熱さに誰もが自分の顔を腕で防ぐ中でマグマドーパントの言葉に翔太郎を見る。

 

翔太郎「ああ、奴がメモリを買った理由にして妖怪を殺す事に至った動機は奴の家族や大切な者が山にピクニックに行った際に本能だけの妖怪に殺された事だ。ただ目に入ったから殺した。それが担当したこの世界でのGSに当たる者による見解だ」

 

ゴースト「そ、そんな…」

 

ディケイド「本能だけで動く妖怪は珍しくないからな…だけど聞いてて気分悪いな」

 

ルージ「それじゃあ目の前の人がやろうとしてる事は…」

 

忠夫「八つ当たりに近い復讐!?」

 

ネクロム「…………」

 

ソフト帽を降ろして目元を隠して答える翔太郎に誰もが愕然とする中でマグマドーパントは火炎弾を放つ。

 

ディケイド「うわとと!」

 

翔太郎「確かに八つ当たりに近いな。だからこそ奴を止めなきゃならねえ。これ以上罪のない妖怪や奴自身を泣かせない為にも」

 

ゴースト「けどこの暑さじゃあ近寄れない!後あの火炎弾もなんとかしないと!」

 

美神「タケルく~~~ん!」

 

慌ててライドブッカーGMで撃ち落とすディケイドの後ろでそう言う翔太郎にゴーストが言った時、そこに途中でカオスとも合流した美神達が駆けつける。

 

美神「これを使いなさい!!」

 

ゴースト「!」

 

そう言って美神は手に持っていたのを振りかぶって投げ、ゴーストは慌ててキャッチして投げ渡された物を見る。

 

それは緑色の眼魂であった。

 

ゴースト「ロビンフット眼魂!これなら!……アラン!」

 

ネクロム「ぬっ!?」

 

それにゴーストは喜んだ後にネクロムにある物を渡す。

 

ネクロムは渡されたのを見るとビリー・ザ・キッド眼魂であった。

 

ネクロム「なぜ私に渡す?」

 

ゴースト「お前を信用してる訳じゃない。マコト兄ちゃんにやった事は許せないけれど今の状況をなんとかする為にも人手が多い方が良いから貸すだけだ。俺はお前を連れ込んだ横島さんを信じて貸す。それだけだ」

 

そう言ってロビン・フット眼魂のボタンを押し、ネクロムは無意識に仮面の中でフッと笑ってビリー・ザ・キッド眼魂のボタンを押してそれぞれセットする。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【イエッサー!ローディング!】

 

その後に2体のパーカーゴーストが現れて宙を舞う中でそれぞれボタンとレバーを引く。

 

【カイガン!ロビンフッド! ハロー!アロー!森で会おう!】

 

【テンガン!ビリー・ザ・キッド! メガウルオウド!シューティングガンナー!】

 

音声と共に2人はそれぞれパーカーゴーストを纏い、ゴーストロビン魂、ネクロムビリー・ザ・キッド魂へとチェンジする。

 

その後にカオスの手からコンドルデンワとバットクロックに蒼いハトの様なのが飛んで来て、それぞれコンドルデンワはゴーストのドライバーから出現したガンガンセイバーに合体してアローモードとなり、バットクロックと蒼いハトは変形して銃となってネクロムの手に収まる。

 

ネクロムBS「なんだこれは?」

 

カオス「ワシがバットクロックを元に開発したハットクロックじゃ!」

 

忠夫&ディケイド「おやじギャグかよ!」

 

左手に持った蒼いハトが変形したのを見るネクロムBSに答えたカオスのにディケイドと忠夫は同時にツッコミを入れる。

 

その間にゴーストRSはガンガンセイバーアローモードを使って射撃をし、ネクロムBSも加わって火炎弾を落として行く。

 

全て落とし切った後に3人同時にマグマドーパントを攻撃していく。

 

ゴーストRS「止しこれで!」

 

マグマドーパント「邪魔をするな!邪魔をするなら殺す!殺すぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

いけるとゴーストRSが感じた後にマグマドーパントはさらに熱気と殺気を高めた後に大量の火炎弾を放って行く。

 

御成「さっきより多めですぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

ディケイド「撃ち落とせ!」

 

それに誰もが驚いた後に3人は慌てて撃ち落としていくが次々と出る火炎弾に焦りを見せる。

 

忠夫「これ、相手の頭を冷やさんとやばいんじゃないッスか?」

 

翔太郎「ああ、やばいな…」

 

シズク「……私の眼魂が出来れば…横島の力で」

 

冷や汗だらだら流して言う忠夫のを肯定する翔太郎の隣で悔しそうに言うシズクに翔太郎は自分の左手を見る。

 

翔太郎「静水久、俺を信じて俺の手を握ってくれないか?」

 

シズク「お前の手を?」

 

そう言って左手を差し出す翔太郎にシズクは疑問に思ったがこの状況を打破できるならと握る。

 

翔太郎「頼む。俺の中に流れるじいちゃんの一族の血よ!この子に力を与えてくれ!」

 

そう強く願い翔太郎は叫ぶと翔太郎の左手が光り、光りはシズクに伝わって行く。

 

それと共にシズクは自分の力が大きくなっていくのを感じる。

 

美神「な、何あれ?」

 

???「光渡し、翔太郎のおじいちゃんの天河家が使っていた自分や自分以外に対象の能力を増幅させたり、魔力を付与すると言う技さ。まぁ、翔太郎の場合は無意識にだったり、強い思いで発動してたりするけどね。後は力ならなんでもで小さいのから大きいのと専門家から言わせると馬鹿げてると言う」

 

その光景に美神が驚く中で横からの聞き慣れない声に顔を向けると1人の青年がいた。

 

蛍「だ、だれ?」

 

青年→フィリップ「僕の名前はフィリップ。翔太郎の相棒さ。芦蛍さんだったけ君の事も検索済みだから今の状況と事情は大体分かってる。丁度終わったみたいだね」

 

戸惑いながら聞く蛍にフィリップは前を見ながらそう答えて、美神達もつられて見る。

 

光りが収まるとシズクの姿が10代の少女だった姿が20代の女性の姿になっていた。

 

翔太郎「なんか大きくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

忠夫「し、シズクがあの時の姉ちゃんスタイルに!?」

 

シズク「…これは…分かる全盛期並みにいける…横島、私が作るのに失敗したスカッパー眼魂を」

 

流石に予想外だったのか絶叫する翔太郎を横目に忠夫に対してそう言う。

 

言われた忠夫は戸惑いながら言われたスカッパー眼魂を取り出す。

 

シズクは忠夫からスカッパー眼魂を受け取って両手で包み込むと掌から水があふれ出して水球となって眼魂を包み込み、水球が渦巻いて眼魂が見えなくなった後に蒼い、海の様な光が発された後に水球が消えると眼魂の表面が海の様なマリンブルーへと変わる。

 

御成「おお!スカッパー眼魂が!?」

 

忠夫「これがシズクの…サンキューシズク!それに翔太郎さん!」

 

翔太郎「俺は後押ししただけさ。と言う訳だ。行くぜ相棒」

 

フィリップ「ああ、行こう翔太郎」

 

礼を言う忠夫に翔太郎はそう言いながら近づいていたフィリップと並び、会った際に装着していたのとは別の2つのスロットが付いたドライバー、ダブルドライバーを取り出して装着するとフィリップの腰にも同じのが現れて装着された後に翔太郎は懐から青いガイアメモリを取り出し、フィリップは水色のガイアメモリを取り出す。

 

それに忠夫もゴーストドライバーを出現させた後にシズク眼魂をセットする。

 

【WATER!】

 

【TRIGGER!】

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

フィリップ&翔太郎「変身!」

 

忠夫「変神!!」

 

まずフィリップが手に持っていたウォーターメモリを自分の腰のダブルドライバーの右側に装填するとウォーターメモリは消えたと思ったらフィリップはよろけて倒れかける。

 

御成「おお!?」

 

それを御成が支える間にウォーターメモリは翔太郎の装着したダブルドライバーの右側に出現し、翔太郎はそれを差し込み、左側にトリガーメモリをセットして展開する。

 

その隣で忠夫の周囲にベンケイゴーストの白い所をマリンブルーに染めて肩の部分の装飾を龍の爪に変更した感じのパーカーゴーストが飛び回り、忠夫はレバーを引く。

 

【WATER!TRIGGER!!】

 

【カイガン!シズク!唸れ水龍!渦巻く水流!】

 

音声と共に翔太郎は青色と水色で構築された球体に包まれ、下から上へと姿が変わっていき、赤く輝く瞳に額からWを描く銀色の二本の角、右側が水色、左側が青色のライダー、仮面ライダーWウォータートリガーへと変わる。

 

蛍「あれが…」

 

美神「門矢君やルージ君が言っていた仮面ライダーW?」

 

その隣で忠夫はトライジェントの状態からシズクゴーストを装着するとマスクは水の王冠現象の瞬間の中央に龍騎のライダーズクレストがある仮面ライダーウィスプシズク魂に変わる。

 

WWT「『……さぁ』」

 

右手でマグマドーパントを指差し、すぐに右手を引きながら、左手を動かす。

 

動かしながら、左手でマグマドーパントをまた指差し、師より受け継いだ言葉を言う。

 

WWT「『お前の罪を数えろ!』」

 

その後にマグネホルスターと呼ばれるトリガーサイドの胸に設置された専用武器であるトリガーマグナムを手に取る。

 

WWT(翔太郎)「お熱いのを冷やしてやろうぜ横島」

 

WWT(フィリップ)『君と僕達の必殺技を同時にぶつければ奴の熱や炎を冷やす事が出来る筈だ』

 

ウィスプSS「うっす!」

 

カオス「横島!ハットクロックを銃にしたガンガンブレードの先端に付けろ!そうすれば強力なエネルギー弾を放てる!」

 

そう言うWWTにウィスプSSは頷くとカオスがそう言い、ネクロムはハットクロックをウィスプに投げ渡し、ウィスプSSはガンガンブレードを取り出して銃にした後に投げ渡されたハットクロックを装着してアイコンタクトする。

 

その隣でWWTもダブルドライバーからトリガーメモリを抜く。

 

【ダイカイガン!ガンガンミテロー! ガンガンミテロー!】

 

【TRIGGER!MAXIMUMDRIVE!!】

 

それぞれ狙いをマグマドーパントに定めてエネルギーを収束させる。

 

WWT「『トリガー!スプラッシュバースト!』」

 

ウィスプSS「いっけぇ!!」

 

【オメガインパクト!】

 

同時に放たれたWWTの複数の水球とウィスプSSの水龍弾はマグマドーパントに向かって行き、マグマドーパントは止めようと火炎弾を放つが打ち砕かれて命中する。

 

マグマドーパント「ぐあぁ…」

 

【オメガストライク!】

 

【ダイテンガン!ビリー・ザ・キッド!オメガウルオウド!】

 

ネクロムBS「ふん!」

 

ゴーストRS「いけぇ!」

 

その間に同じ様に必殺技を発動してガンガンセイバーアローモードから強力な一撃とエネルギーを纏ったメガウルオウダーからショットガンの様なエネルギー弾を放って放たれていた火炎弾を破壊していく。

 

W(翔太郎)「一気に決めるぜ横島!フィリップ!」

 

W(フィリップ)『ああ、メモリブレイクだ。ウィスプ、一緒に決めよう』

 

ウィスプSS「うっ、うっす!」

 

【CYCLONE!JOKER!!】

 

その間にWは基本形態のサイクロンジョーカーになって決めようとし、ウィスプSSも必殺技の態勢に入る。

 

まずWはジョーカーメモリを抜くと右腰のマキシマムスロットに装填、ウィスプSSはレバーを再度引く。

 

【JOKER!MAXIMUMDRIVE!!】

 

【ダイカイガン!シズク!オメガドライブ!!】

 

音声と共にWは緑の竜巻を発生させ、その力で宙に浮き上がり、ウィスプSSは周囲の水を集めて飛び上がると水は水龍となる。

 

W「『これで決まりだ』」

 

その言葉と共にウィスプSSとWはマグマドーパントに向けて急降下する。

 

W「『ジョーカーエクストリーム!!』」

 

ウィスプSS「おりゃあ!!」

 

まずはウィスプSSが右足蹴りを叩き込んだ後に途中で正中から分割されたWの時間差での両足蹴りが叩き込まれてマグマドーパントは吹っ飛ぶ。

 

マグマドーパント「ぐ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

断末魔を上げた後にマグマドーパントは爆発し、それを背にウィスプSSとWは着地する。

 

美神「ねえ、今人体を無視したのをやったわね」

 

蛍「やりましたね」

 

エミ「と言うかどういう状況なワケ?」

 

先ほどのWのを見て感想を述べる美神と蛍に連れて来られたエミはちんぷんかんぷんな顔で聞く。

 

【オヤスミー】

 

タケル「ふう…」

 

アラン「ふん、返すぞ」

 

変身を解くタケルに同じように変身を解いたアランはビリー・ザ・キッド眼魂を投げる。

 

キャッチしたタケルはその後にロビンフット眼魂を持って来た美神に近寄る。

 

タケル「ありがとうございました美神さん。けど、ロビンフットのはどうやって?」

 

美神「ああ、エミがね見つけて持って来たのよ。まさかそのロビンフットに縁がなさそうなエミが持ってるとはね」

 

エミ「ちょっとそれはどう言う意味なワケ?」

 

聞かれたのに対して笑って答えた美神へ噛み付くエミに美神も何よと睨んで互いに睨み合う。

 

その状況から触らぬ神に祟りなしとタケルは決めて翔太郎達の方を見る。

 

変身を解除した翔太郎は爆発後で気を失った男を担ぎ、フィリップが近寄ると2人の前に何かが出来上がる。

 

それは中が目が大量にある穴であった。

 

忠夫「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

チビ「みみみみみみ!?」

 

モグラ「うきゅー!?」

 

タマモ「こん!?」

 

翔太郎「お、出迎えのスキマか」

 

フィリップ「そりゃあ僕を連れて来たのは彼女だからね…と言う訳でお別れだ」

 

驚く面々を後目にそう会話した2人は一同に向きなおって言う。

 

タケル「もう行くんですか?」

 

翔太郎「ああ、こいつを引き渡さないとな…お前らはどうする?」

 

聞くタケルに男を見てそう言った翔太郎に最後にルージや門矢へと聞く。

 

ルージ「俺達は最後までタケルさん達の手伝いをします」

 

門矢「それが終わってからって事で」

 

翔太郎「だよな…じゃあな」

 

そう交わした後に2人はスキマへと入る。

 

忠夫「えっと、短かったッスけどありがとうございました!」

 

翔太郎「なあに受け売りになるがライダーは助け合いだからな」

 

フィリップ「その通り。と言う訳で君も頑張りたまえ」

 

頭を下げる忠夫に翔太郎はそう言い、フィリップが言った後に翔太郎は手を差し出す。

 

忠夫も握り返して握手を交わした後に翔太郎が完全に入るとスキマは閉じた。

 

それを見送った後に忠夫はん?と自分のジャケットを漁るとブランク眼魂を取り出す。

 

取り出されたブランク眼魂は緑と黒の光を放った後に別の眼魂へと変わる。

 

忠夫「ブランク眼魂が変わった!?」

 

タケル「もしかして…Wのライダー眼魂?」

 

驚く忠夫にタケルは見て呟く。

 

驚いていた忠夫はそれを握りしめて…

 

忠夫「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

蛍「あ、反動が来た」

 

おキヌ【し、締まりませんね;】

 

がくっと崩れ落ちる忠夫に誰もが苦笑するのであった。

 

 

 

 

翔太郎「………おいフィリップ」

 

一方、元の世界に戻った翔太郎は時間を確認して強張った顔で相棒に聞く。

 

翔太郎「……なんで俺があっちに行ってから…時間が全然進んでないんだ?」

 

フィリップ「僕も八雲紫からだが…どうやらあの世界、起きてる事態で時間の流れるスピードが食い違っているみたいだ。解決するまではそのままとの事さ」

 

問われたのに肩を竦めて答えたフィリップのに翔太郎はソフト帽を脱いでふっと息を吹きかけた後に見上げ…

 

翔太郎「あいつら、予想以上の事態に巻き込まれてるって事かよ…」

 

そう呟いたのであった。

 

 

 

 

忠夫「ほんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そんな事を知らない門矢達は翌日、忠夫の絶叫にガバッと起きてなんだなんだと出ると忠夫が腕に何かを抱えて慌てた様子で来る。

 

御成「ど、どうしたのです横島殿!?」

 

タケル「そうですよ。何があったんですか!?」

 

忠夫「あ、ああ…聞いてくれ…タマモがタマモが…」

 

ルージ「タマモさんがどうしたんですか!?」

 

慌てて聞く御成とタケルに忠夫は慌てた様子で抱えたのを見せる。

 

忠夫「なんでか分からんけど増えて、しかも1匹はワンって鳴いてるんや!!」

 

タマモ?「ワンワン♪」

 

タケル&ルージ&御成「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

アラン「この世界ではよくある事なのか?」

 

門矢「ないない!俺の方でもこんなのないぞ!!」

 

バンと腕に抱えたタマモともう1匹のタマモに3人は絶叫し、首を傾げるアランへ門矢はツッコミを入れるのであった。



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その6

シズクが大人になって、やっとシズクの眼魂が完成し……家に戻るまでは大人の美人だったんだが……

 

「……むう……また竜気が尽きた……」

 

家に入るなりぽんっと言う乾いた音を立てて、見慣れた子供の姿に戻ってしまった。視界の隅で蛍がガッツポーズを取っているを気にしながら

 

「大人の姿を維持するのは難しいんか?」

 

シズクの大人の姿は美人だし、綺麗だし、強いし、側にいてくれるととても安心するんだけどなあと思いながら尋ねると

 

「……あれは私の竜神としての面が強調されている姿だ。竜気が一定以上無いと姿を維持することは出来ない。まぁ今の姿でも成れないことはないが……」

 

「なれないことはないけどなに?」

 

蛍がそう尋ねるとシズクはニヤリと笑いながら、俺を指差して

 

「……いろんな意味で喰われる覚悟はあるか?」

 

ライオンも真っ青の肉食獣の笑みで笑うシズクにありません!と即答し、キャットとタマモを抱え、頭の上にチビとモグラちゃんを乗せて逃げるように自分の部屋に逃げ込むのだった……

 

「……冗談だったんだがな」

 

「シズクが言うと冗談に聞こえないわよ。でもまぁ嘘なんでしょ?」

 

「……さぁ?どうだろうな?ただ少なくとも……横島の血や唾液を吸収すれば竜気も増幅出来る……無論それ以上の物をいただいても構わないがな」

 

くっくっくっと笑うシズクに蛍はやっぱりこのロリ娘危険だわと呟くのだった……

 

なおこのやり取りを見ていたタケルやルージ達は見た目は子供だが、過激な発言をした事にドン引きしており門矢は門矢であのロリ娘どうしてくれようかと拳を握っている蛍の隣で

 

(こっちの俺めっちゃ苦労してる)

 

俺よりもいい暮らしをしていると嫉妬していたが、この生活はこの生活で辛いものがあるなぁと呟いているのだった……

 

 

 

部屋で着替えを終えて、リビングに戻るなり俺の腕の中から飛び出したタマモとキャット。リボンも外しているので、どっちがどっちか判らない中、俺は目の前で並んでいる俺を見つめてくる2匹の子狐を見つめていた……

 

(う、うむう……どっちだ)

 

鳴きもせずじっとこっちを見つめてくるタマモとワンと鳴くタマモ……ずっと一緒にいるのだから、これを間違えるわけには行かない……

 

「こっちがタマモでは無いのか?」

 

「俺はこっちだと思いますよ」

 

アランとタケルがそれぞれ違うタマモを指差して俺にそう言う。確率は二分の一……当たる確率も外れる確率も5分だが……これを外す訳にはいかない

 

「みむ」

 

「うきゅ」

 

「……外せ」

 

きっと俺なら判ると言う信頼をその目に映して俺を見ているチビとモグラちゃん。その隣で外せと黒い顔をしているシズク……

 

【そんな事でタマモちゃんは怒らないと思いますよ?】

 

「そうよ?そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?」

 

おキヌちゃんと蛍が笑いながら言うが、これを外すのは俺としてありえない

 

「判るのか?」

 

門矢が笑いながら尋ねてくる。からかうような声の感じを感じて若干の苛立ちを感じながら

 

「頑張ってください!」

 

俺を応援してくれるルージにおうっと返事を返し、目を細めて2匹の子狐を見つめる

 

「「ピコピコ♪」」

 

体格も尻尾の数も全く同じ。しかも普段つけてやっているリボンも無いから外見で判断するのは無理だ……早く早くと言わんばかりに尻尾を振っている2匹の子狐をゆっくりと見つめる

 

(こっちは……なんか違う?)

 

左の方で尻尾を振っている子狐はなんか違うと思う。なので右の方を抱っこすると

 

「クウ♪」

 

嬉しそうに尻尾を振り頬を舐めてくるタマモ。そして左のほうの狐は

 

「ワン!ワンワン!!!」

 

犬のように鳴き始める。はー良かったなあ……タマモを間違えなかった事に安堵していると

 

「うきゅうー♪」

 

「みむう♪」

 

遊べーと擦り寄ってくるモグラちゃんとチビを抱っこすると、ワンと犬のように鳴いているタマモが歩いてきて

 

「ワフ?」

 

自分も良い?と言う感じで首を傾げているので、タマモを膝の上に乗せて両手を広げながら

 

「おーおいでおいで」

 

「ワン♪」

 

擦り寄って来たワンと鳴くタマモも抱き上げて、擦り寄ってくるチビ達と遊び始めるのだった……どうせ俺には難しい話なんて判らないし、蛍とか神宮寺さんが話を纏めてくれるだろと思うから……

 

 

 

 

突然ワンと鳴くタマモが増えたのに全く意に介した素振りを見せない横島。むしろタマモと一緒に膝の上に乗せて

 

「タマモドッグ……タマモポチ……なんかちゃうな」

 

ワンと鳴くタマモの名前を考えている。ドッグとポチってあんまりに適当すぎるのでは無いだろうか?そしてワンと鳴くタマモは横島の膝の上から降りて新聞を引きずって来て横島の前に置いて

 

「ワン!」

 

前足で文字を指差しているのか、横島が屈みこんでその文字を読み上げる

 

「えー?き・や・つ・と?キャット?」

 

ワンって鳴いているのに、名前が猫ってどういうことよ……

 

「ワオーン♪」

 

正解と言わんばかりに嬉しそうに鳴くキャット。と言うか本当にキャットって名前なのね……

 

「そうかー。お前はキャットって言うのかー。ワンって鳴くのに猫か……まぁ良いか、おいでーキャット」

 

「ワンワン!」

 

私達の話し合いに参加せずにチビとかと遊んでいる横島に溜息を吐きながら

 

「じゃあ眼魂探しだけど……なんか心当たりはある?」

 

タケルとアランに尋ねる。英雄の眼魂とやらは好きな場所などもあるので、そこを探すのが早いと言う結論に成ったんだけど

 

「んーすいません。俺は良く判りません」

 

「私もだ。すまないな」

 

タケルとアランは小さく首を振る。2人とも別の世界の人間だから心当たりが無いって言うのは判るんだけど、なにか思いついたりしてくれないかしら?一応2人の所有物なんだから

 

「そうだな。ロビンフッド眼魂みたいに誰かが拾っている可能性があるんじゃないか?」

 

門矢がそう呟く、確かにエジソンとかはドクターカオスが拾っていたことを考えると……

 

【ヒミコ眼魂は琉璃さんが持ってそうですよね?あの人も巫女さんですし】

 

「貴女も巫女さんだけどね?おキヌさん」

 

ぷかぷかと浮きながら呟くおキヌさんにそう突っ込みを入れる。最近黒くなるのが少なくなった代わりにボケてきているような気がする……

 

「えーと琉璃さんって誰ですか?

 

ルージ君が首を傾げながら尋ねてくる。どうやら門矢やルージ君の世界には居ないようだ

 

「GS協会の会長よ、人をからかったりする厄介な性格の人だけど、一応頼りになると思うわ」

 

私的には横島を奪おうとしているような気がして、本当は関わりたくない人なんだけどねと心の中で呟く

 

「ヒミコ眼魂か……未来予知とか出来るから琉璃って人のところを尋ねてみても良いですよね?」

 

「んー未来予知なら柩ちゃんも出来るぞ?頼めば多分予知してくれるんじゃないか?」

 

よしよしとタマモとキャットの顎の下を擦りながら横島が呟く

 

「未来予知できる人がいるならその人に会いに行けば良いじゃ無いですか。その後に琉璃って言う人のところを尋ねればいいんじゃないですか?」

 

まぁ確かにその通りなんだけど、正直私は柩には会いたくない……私の渋い顔を見た横島が

 

「蛍はやっぱり柩ちゃん苦手か?」

 

「あれを好きって言えるのは同じ狂っている人間だけよ」

 

じゃあ俺は狂ってるんか?とタマモとチビとモグラちゃんを抱き抱えて悲しそうに呟いている横島。自分でもかなり口が悪いと思うけど、これは本当の事だから仕方ない

 

「えーとそこまで言う柩さんってどんな人なんですか?」

 

冷や汗を流しながら尋ねてくるタケルに私は苦笑しながら

 

「自分の力のON・OFFが出来なくて、いっつも脳内麻薬でラリっている変態」

 

「……やめておきましょうか?会いに行くの?」

 

全員がうんうんと頷く、アランだけは良く判っていないようで

 

「脳内麻薬とはなんだ?」

 

「さぁ?」

 

横島に尋ねるが、横島も首を傾げている。馬鹿と天然が組み合わせると大変なことになるのね、収拾がつかないじゃない

 

「シズク殿!掃除終わりましたぞ!」

 

「……ご苦労。じゃあ次は草むしりだ」

 

「了解しました!」

 

御成の元気な声とそんな御成をこき使うシズク。御成はこの世界に居る間に霊力を使えるようになりたいらしく、私とかおキヌさんに良く話を聞いてくるんだけど、今日はシズクに頼んだから良いようにこき使われているようにしか見えないわね……まぁ本人が気にしてないようだから、私が言う事じゃ無いんだけどね……さてとじゃあ瑠璃さんの所に行ってみましょうかと言って立ち上がると、家の外からクラクションの音が響く、窓から顔を出すと

 

「美神さん?どうしたんですか?」

 

大型のバンが止まっていて、その運転席から顔を出している美神さんにそう尋ねると

 

「冥華おば様が眼魂を持っているらしいの、それを渡しても良いけど、なんか条件があるんだって……もの凄く嫌な予感がするけど、行きましょう」

 

冥華さんに関わると碌なことがないのは判っているが、眼魂をタケルとアランに返さないといけないから行かないわけにも行かない、それにあの眼魔が冥華さんの所に現れないとも言い切れない。私は嫌な予感を感じながら、準備を整え美神さんの運転するバンに乗り込むのだった……なおシズクと御成は家の事もあるというので家に残ったのだが

 

「……集中しろ」

 

「むむむ……かアーッ!!!」

 

「……ふざけているのか?」

 

シズクの手から水の鞭がのびて御成の背を叩く

 

「アーッ!!!!」

 

御成はシズクの超スパルタの指導を受けて、涙目で絶叫していた。私達はそんな御成を複雑な気持ちで見つめながら家を後にしたのだった……

 

 

 

美神さんの運転するバンは冥華さんが運営する六道女学院で止まった。話には聞いていたけど本当におおきんやなあ……卒業生である美神さんに案内され、学園長室へと向かう。ちなみに俺はタマモとキャットを抱っこして、頭の上にチビ。肩の上にモグラちゃん。そして……アランの面倒を見ていた、見た感じ俺と同じ歳っぽいのだが、どうもアランの世界には無い物が多いらしく

 

「ほう?あれはなんだ?」

 

窓の外を見て興味深そうに何度も何度も尋ねてくる。これで

 

「あれはハードルだな」

 

「ハードル?あれは何をするものなのだ?」

 

「飛ぶものやな」

 

あれもこれも気になるのか、さっきから俺に何度も何度も質問してくるアランの面倒を見ていた

 

(なんで俺がイケメンにこんな事をしないとあかんのや)

 

心の中でそう呟くが、連れてきたのは俺だ。だからアランに文句を言うことも出来ず説明しながら女学院の廊下を歩く

 

「みむー♪みみー」

 

「うきゅ!うきゅ!」

 

モグラちゃんとチビが肩の上で楽しそうに鳴いているのを見ていると俺もだんだん楽しくなってくる……

 

「それで今回は冥子さんは居ないんですか?」

 

「いないって聞いてるけどね」

 

美神さんと蛍の話を聞いて小さく安堵の溜息を吐く、冥子ちゃんは嫌いじゃ無いんだけど、会う度にショウトラとかに突撃されたり、押し潰されたりしているからなぁ……もう少し突撃してくる勢いとかを考えてくれると良いんだけどなあ……そんな事を考えながら歩いているとアランが眉を顰めながら

 

「なぜここはこんなにも騒がしい、頭痛がしてきたぞ」

 

嫌そうに呟く、だけどこれは仕方ない事と言うしかない、六道女学院はGSやオカルトに関係する女子生徒ばかりが入学している。どういうことかと言うと……

 

「見て!美神お姉様よ!」

 

「本当に綺麗ねー」

 

「それにあっちは前のGS試験で上位で合格した芦蛍さんじゃない?」

 

美神さんや蛍を指差してきゃいきゃいと盛り上がっている女子生徒。正直騒がしくて俺も若干頭痛を感じてきた……

 

「女の園って本当に怖いなあ」

 

「ですね……」

 

門矢とルージ君が疲れたように呟いている。何か嫌な事でもあったのかな?聞いたら、なんかむかつきそうだから聞かないことにしよう

 

「コン♪」

 

「ワン♪」

 

腕の中でこっちを見ているタマモとキャットを見て、学園長室に向かうまで我慢しようと思うのだった……なお横島は気付いてないが、その黄色い歓声の中にはちゃんと横島のことを言っている女子生徒の声も混ざったりしているのだった……

 

「良く来てくれたわね~令子ちゃん、それとタケル君とアラン君だったかしら~?」

 

この独特の間延びした声。冥子ちゃんも冥華さんも喋り方が同じなのは遺伝なのかな?とくだらない事を考えていると

 

「冥華おば様。眼魂を見つけたと聞きましたが……見せていただけますか?」

 

「ん~駄目よ~」

 

駄目と言う冥華さんに驚いていると冥華さんは俺達を指差して

 

「先にお願いがあるのよ~今回のGS試験で活躍してくれた横島君達の模擬戦をして欲しいのよ~?」

 

うわぁ……バリバリに嫌な予感がする。美神さんや蛍も同じようで眉を顰める中、冥華さんは楽しそうに笑いながら俺達を見てえーと、えーと……誰と誰にお願いしようかなあと言う姿に激しく不安を覚えるのだった……

 

 

 

だ、大丈夫か?俺はこの世界の冥華さんに案内された解説席に腰掛けて、目の前の模擬戦会場を見ていた

 

「うわ……なんでこうなるんかなあ?」

 

「問題ない。天空寺タケルと子供程度、この私が居れば何の問題も無い」

 

横島とアランがコンビを組んでいて、そして向かい合っているのは

 

「アランが相手か……正直言って不安だけど、頑張ろう?ルージ君」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

ルージとタケルがコンビを組んでいる。アランとタケルは恐らくライダーの力を使うだろうけど、変身すると反動のある横島は直ぐに変身するとは思えないしなぁ……

 

「大丈夫なのか?」

 

隣に座っているルシ……いや、芦蛍に尋ねると

 

「全然問題ないわ。最近の横島は大分成長しているからね、まぁ見てみなさいよ」

 

自信満々と言う感じで笑う蛍。GS試験が終わったばかりなら使えるのはサイキックソーサー位のはずだけど……どうなるのか心配だな、ルージには手加減するように言っておいたけど……どうなるものやら……

 

【横島さん!頑張ってくださいねー♪】

 

「みむうー♪」

 

「うきゅー♪」

 

「コーン♪」

 

「ワーン♪」

 

おキヌちゃんとマスコット軍団の応援に軽く手を上げて答える横島。そして冥華さんが会場に姿を見せて

 

「では~これより模擬戦を始めます~皆しっかり見て勉強するのよ~では始め~」

 

なんか力の抜ける冥華さんの掛け声で模擬戦が始まった。そしてルージとタケルとアランが同時に動く

 

「ムラサメライガー!」

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

「「変身!」」

 

タケルは腰のベルトのレバーを引き、アランは左腕に装着した機械のボタンを押し込む。

 

【カイガン!オレ! レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

タケルは黒のパーカーとオレンジ色の顔したライダーに、アランは白いパーカーに潜水ゴーグルの様な物を身につけたライダーに……そしてルージは黒いライダースーツに包まれ青と白の鎧が装着されて行き、ライオンを模したヘルメットと大太刀を掴んで構える

 

「うわ……俺明らかに見劣りしてるなあ……」

 

横島はそう呟きながら、懐からバンダナを取り出す……あれはまさか……

 

「さーて、行こうか心眼」

 

【うむ。心配するな、私がフォローするのだから何の心配も無いぞ】

 

どうもこの世界では心眼は消滅して無いのか……こういう所も違うのか……俺の世界では心眼は消えてしまい、ルシオラを失った後に修業をした際に再び心眼が誕生したが2代目なのでその先代とも言えてGS試験で最後まで俺に教えてくれたあいつが別の世界でもこうしていまも存在してくれているのは嬉しい

 

「さてとじゃあ……軽ーく行くか」

 

横島は懐から数枚の札を取り出す、だが見た所破魔札じゃ無い見たいだが……あれで何をするつもりだ

 

「急急如律令!水精招来ッ!!!我に仇なす者の視界を奪えッ!」

 

「「うわあ!?」」

 

札をタケルとルージへと投げつける。その瞬間札が弾けて2人の周囲に霧を発生させる、タケルとルージの悲鳴が重なる。俺は目の前の光景を見て心底驚いた

 

(お、陰陽術!?)

 

見た事はあるが、俺は全く使えない陰陽術を使っているこの世界の横島は陰陽術を使えるのか!?

 

「バックアップは俺がする!頼むぜアラン!」

 

「私にはそんな物は必要ないんだがな……まぁ良いだろう。背中は任せるぞ、横島」

 

どうもこの世界の俺は陰陽術によるバックアップに特化してるのか……これはどうなるか判らなくなったな……今も霧の中で思うように動く事の出来ていない、タケルとルージに向かっていくアランを見ながら俺は先の見えないこの模擬戦がどうなっていくのか?の予想を始めるのだった……いくらバックアップが万全でも、アラン1人でタケルとルージを倒せるとは思えない、あのネクロムとやらには時間制限があるらしいからな、それに横島の変身もかなり反動があるらしいから、好き好んで変身しようとは思わないはずだろうし……全く予想がつかないこの勝負がどうなるのか?俺は少しだけそれに興味を持ちながら、ネクロムに殴られているゴーストを見つめるのだった……



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その7

眼魂を持っている冥華の提案により模擬戦をする事になった横島達。

 

先手必勝と放たれた忠夫の陰陽術により発生した霧で視界を遮られたルージとゴーストはアランの攻撃を受けていた。

 

攻撃しようにも霧のせいでルージは大刀であるムラサメブレードを振るえずにガードにしか使えない。

 

ネクロム「なかなかやるじゃないか」

 

忠夫「まあな(だけど水の霧をいつまでも維持できないなぁ…;)」

 

褒めるネクロムに軽く返す忠夫だが内心は冷や汗だらだらであった。

 

今出してる水の霧は範囲が広い上に不確定多数を狙うので身を隠すのに最適だが霊力の消耗が激しいのだ。

 

ゴースト「くっ、霧でアラン達が良く見えない…」

 

ルージ「この霧から出ないと…良し!」

 

呻くゴーストの後にルージは呟いた後にゾイドブレスの赤いボタンを押す。

 

ルージ「ハヤテライガー!!」

 

ルージの咆哮と共にゾイドブレスのムラサメライガーも咆哮すると同時に大刀に書かれていた『村雨』の字が『疾風(はやて)』になって大刀はルージの手から離れて大空へ高く飛ぶと同時にルージを炎が包み込む。

 

ネクロム「む?」

 

忠夫「な、なんだ!?」

 

霧から出て来た大刀に忠夫は驚き、ネクロムも動きを止めた所に霧から飛び出したルージの蹴りを受けて倒れる。

 

ネクロム「ぐっ!」

 

それに誰もが驚く中で炎がはじけ飛ぶと鎧の青い所が紅く染まり、背中にブースターの様なのを装着したルージが現れ、大空から『疾風(はやて)』と書かれた小刀と小太刀が振ってきてそれをルージは掴んでポーズをとる。

 

蛍「鎧の色が変わった!?」

 

門矢「ルージのあの姿はハヤテライガー。どう言うのかは…の前に…ルージ!さっき言った事なし!」

 

ルージ「分かりました!」

 

それに蛍達にそう言った後に大声でそう言う門矢にルージは頷く。

 

ルージ「行くぞ!」

 

その言葉と共にルージの背中のブースターが火を噴いた瞬間…ネクロムは斬られていた。

 

ネクロム「ぬう!?」

 

忠夫「アラン!急急如律令!水精招来ッ!!!我に仇なす者を束縛せよ!」

 

それに呻くネクロムの後に忠夫が捕まえようと先ほどは違うのを発動するがルージの速さに捕まえ切れずに再びネクロムは斬られて、忠夫はキックを叩き込まれる。

 

忠夫「ごふっ!」

 

おキヌ【横島さん!】

 

冥華「え~ルージくんの上司の門矢く~ん。解説をお願いできるかしら~」

 

蹴られた所を抑える忠夫を見て叫ぶおキヌの後に冥華が門矢へ聞く。

 

ちなみに門矢は六道学院に入る前に忠夫と見比べられて騒がれない様に帽子をかぶり、度なしのぐるぐるメガネをかけている。

 

門矢「まずルージの最初の姿は言わばスピードとパワーがバランス良く取れた基本の形態なんですが紅い姿のハヤテライガーになると速さに特化するんです。これをルージや元を知ってる人は形態変化の事を『進化(エヴォルト)』と呼んでます。ちなみに最初の姿の名前はムラサメライガーです」

 

美神「エヴォルト…成程、速さを求めた事での進化…ってこと?」

 

解説する門矢に美神は納得しかけて彼の言った事が気になる。

 

【カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか!】

 

ただ、それを聞く前に霧の中からそう言う音声が響いた後に霧が何かに吸い込まれて行く。

 

どんどん吸い込まれて行くとゴーストの姿が見えて来るがそのゴーストの姿は青色のパーカーを纏い、両手にグローブをはめていて左手を付き出していた。

 

霧はニュートン魂になったゴーストの突き出された左手のグローブ前に集まって行くと大きな水玉となり…

 

ゴースト「はっ!」

 

忠夫「わぷっ!?」

 

その後に右手を付き出すと水玉は忠夫に向けて飛んでいき、忠夫はもろに水玉を受けてびしょ濡れになる。

 

美神「今の…引力を操って斥力で吹っ飛ばした?ニュートンは万有引力の法則を発見したからニュートン魂は引力を操作するのが特徴なのね」

 

その光景に美神は呟く中でゴーストNSは次にネクロムを引き寄せたり吹っ飛ばすの連続攻撃をする。

 

攻撃を受けている中でネクロムの緑色の部分が暗くなって行く。

 

ネクロム「くっ!良い気になるな!」

 

それに対してネクロムは模擬戦になる前に冥華によりくじで均等に配られたフーディーニ眼魂を取り出してスイッチを押してセットする。

 

【ローディング!】

 

すると駐車場に止められていたマシンフーディーが無人で走って来る。

 

それに誰もが驚いた後にマシンフーディーは左右に展開してフーディーニゴーストに変形する。

 

忠夫「ええ!?」

 

蛍「バイクがパーカーゴーストに!?」

 

美神「だからタケルくんは特殊と言ったのね…」

 

それに知らないメンバーは驚く中でネクロムはボタンを押す。

 

【テンガン!フーディーニ!メガウルオウド!エスケープマジシャン!】

 

音声の後にネクロムへフーディーニゴーストが装着されるとネクロムフーディーニ魂となる。

 

ネクロムHS「ふっ!」

 

その後にネクロムHSは紙吹雪と共に消える。

 

ルージ「消えた!?」

 

忠夫「どこ行った!?」

 

ネクロムHS「どこを見ている?私はここだ!」

 

それに誰もが驚いた後にネクロムHSは飛びながらルージを後ろから強襲する。

 

ルージ「うわっ!」

 

ネクロムHS「先ほどの礼だ」

 

いきなりの強襲にルージはステージを転がる中で観客は誰もが驚く。

 

おキヌ【飛んでますよ美神さん!】

 

美神「まさかバイクが変形して飛行ユニットって…」

 

門矢「ってか脱出王が飛ぶってありかい…あとおキヌちゃんも普通に飛んどるやないか;」

 

蛍「それには同意するわ私も;」

 

その光景に興奮するおキヌに美神は半場呆れ、門矢はそう言っておキヌにツッコミを入れて蛍もうんうんと頷く。

 

流石に二度目は受けないと避けた後ルージはネクロムHSとぶつかり合う。

 

その中でネクロムHSは仮面の中で先ほどのゴーストチェンジするまでに起こったのに顔を顰めて舌打ちする。

 

ネクロムHS「(ちっ、やはり眼魂がなかったらそのままのを維持するのが難しいか…)」

 

ネクロム魂は変身を解除したらもう一度チャージされるがネクロム魂のまま戦闘を持続させるには眼魔を吸収しなければならないが今いる世界の眼魔は言う事を聞かないので無理である。

 

ネクロムHS「(一度あのカオスと言うのにネクロムのデメリットをどうにかするのをして貰った方が良いかもな…)」

 

そう考えながらルージとぶつかり合う。

 

その間に忠夫と対峙したゴーストNSは別の眼魂を取り出して変える。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!カイガン!エジソン!エレキ!ヒラメキ!発明王!!】

 

その音声の後にマスク部分と肩パッドは電球がモチーフとなって白衣をイメージした銀色のパーカーで頭部には2本のアンテナが付いたゴーストエジソン魂になる。

 

ゴーストES「はっ!」

 

取り出したガンガンセイバーガンモードを忠夫に向けたゴーストESは連続で電気の銃弾を放つ。

 

忠夫「うおおお!!急急如律令ッ!!!雷の力を散らしめよ!」

 

慌てて忠夫はお札を投げつけて雷を無効にするが、左右を止められなかった電撃が通る。

 

忠夫「あ、危ないやろ!」

 

ゴーストES「いやまぁ、そうなんですけどね;」

 

涙目で叫ぶ忠夫にゴーストESも困った口調で言う。

 

心眼【横島、こうなったら変身するしかないぞ。と言うかタケル自身。そうしないとあの時の様にぶつかれないと思うぞ】

 

忠夫「いやそれは避けたいんやけどな…反動とかぶつかり合い的な意味で」

 

見ていた中でそう言う心眼にそう言う忠夫だがあっち見ろと解説席を見る様に指示する。

 

そこにはいつも通りのニコニコ顔の冥華がいるが、気配から早く噂のウィスプに変身して欲しいと言ってると言う心眼の言葉の意味にえーとなった後に仕方がないと忠夫は腹を括った後に心眼が消えてからバンダナを外すとゴーストドライバーを装着する。

 

忠夫「行くぞ牛若丸!」

 

牛若丸【はい!あの時出せなかった分を頑張ります!】

 

ゴーストES「牛若丸眼魂…!」

 

牛若丸眼魂を取り出す忠夫にゴーストESは呟いた後に懐からムサシ眼魂が飛び出す。

 

ムサシ【タケル!拙者を使ってくれ。有名な武将の実力を肌で味わってみたいのだ】

 

ゴーストES「ムサシさん…分かったよ!」

 

ムサシ眼魂に宿るムサシの頼みにゴーストESは了承してムサシ眼魂を手に持ってスイッチを押す。

 

そして2人は同時にセットする。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

音声が鳴り響く中で現れた牛若丸ゴーストとムサシゴーストはお互いにぶつかり合っていく。

 

忠夫「変身!」

 

そして忠夫の言葉を合図に同時に引く。

 

【カイガン!ムサシ!決闘!ズバッと!超剣豪!】

 

【カイガン!牛若丸!シュっバット!八艘!壇ノ浦ッ!】

 

音声と共にそれぞれゴーストはムサシ魂に、忠夫は両肩は船の船首を模した装甲になっており、両腕の袖は少し長くなっており着物を連装させる紫のパーカーを纏い、マスクに笹竜胆(ササリンドウ)の上に重なる様に武蔵と同じく刀が×マークになっているのが浮かぶ牛若丸魂になる。

 

ゴーストMSはガンガンセイバーをブレードモードから小太刀を分離させた双剣形態の二刀流モードにして構え、ウィスプUSは刀を取り出して構える。

 

少ししてから同時に飛び出すとガンガンセイバーDWMと刀がぶつかり合い、その後に剣舞と感じさせられるぶつかり合いが行われる。

 

ゴーストMSが二刀流を巧みに振るって攻撃したりウィスプUSのを逸らすなら、ウィスプUSはその身のこなしで避けたり、刀を振るってゴーストMSの斬撃を防いでいく。

 

そのぶつかり合いに誰もが目を見張る。

 

蛍&おキヌ「綺麗…」

 

美神「お互いに纏っているのは剣豪宮本武蔵と牛若丸…時代の違う剣士の勝負ね」

 

門矢「そうっスね。んで、次で決まりますね」

 

そう会話がされた後、ウィスプUSとゴーストMSは距離を取り合う。

 

ウィスプUS「これで決めるで牛若丸!」

 

牛若丸【はい!決めましょう!】

 

【ダイカイガン!牛若丸!オメガドライブ!!】

 

レバーを引いての音声の後にウィスプUSの両肩の船の船首からエネルギーで出来た大量の船が出現した後にフィールドが同時に現れた海面に覆われる。

 

ゴーストMS「こっちも命、燃やすぜ!!」

 

【ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!】

 

【ダイカイガン!ムサシ!オメガドライブ!】

 

それにゴーストMSもガンガンセイバーDWMをアイコンタクトしてゴーストドライバーのレバーを引いた後に赤いオーラを纏ってガンガンセイバーDWMを構える。

 

その直後にウィスプUSは8艘の船を高速で飛び移っていき…

 

【オメガスラッシュ!】

 

ゴーストMS&ウィスプUS「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

同時に振るわれた剣がぶつかり合って衝撃と爆風を起こす。

 

それに観客や美神達は吹っ飛ばされない様にする。

 

衝撃が収まった後に誰もが会場を見る。

 

タケル「いたた…」

 

忠夫「おおおおおお…」

 

変身が解除されて倒れたタケルと忠夫の姿があり、離れた場所で同じ様に変身が解けたルージとアランの姿があった。

 

どうやら先ほどの必殺技のぶつかり合いによる衝撃で2人とも変身が解けた様だ。

 

冥華「はいそれまで~結果は引き分けね~」

 

しばらくして誰もが動けないのを見て会場に上がった冥華がそう宣言する。

 

その後に拍手が鳴り響き、タケルとルージはくすぐったそうに頬を掻き、アランも決着が着かなかった事に不満そうだが悪くないと言う顔をしていて忠夫は勝ってないけどやったぞ~皆~と力弱く腕を突きあげる。

 

その後にタマモ、チビ、キャット、モグラが一斉に忠夫の元へと向かう。

 

冥華「みなさ~んあなた方が目指しているGSは彼らの他にも凄い実力の人達がいます。彼らの様にこれからも精進する事を忘れないようにね~」

 

そんな拍手を送る女学生たちに聞こえる様に冥華はそう付け加える。

 

美神「うーん。流石は冥華おば様。この為に模擬戦をしたのね…」

 

おキヌ【どう言う事ですか?】

 

門矢「学生の学力以外にGSとして意欲をもっと持って欲しいとかだよ…別世界でもあの人はそこらへん上手いよな…」

 

蛍「まぁ、敵には回したくないわね」

 

半目で冥華を見て言う美神のに聞いたおキヌへ変わりに門矢が答えてしみじみと呟き、蛍はそう言う。

 

 

 

 

冥華「ありがと~皆のお蔭で助かったわ~」

 

数分後、来客室で回復した忠夫達を含めて冥華はお礼を述べる。

 

美神「それで冥華おば様。眼魂を渡してくれますよね?」

 

冥華「はいは~いこの3つでしょ~?」

 

催促する美神に冥華はそう言って懐から3つの眼魂を取り出してテーブルに置く。

 

置かれたのは水色と深紅、黄金の眼魂であった。

 

アラン「なんだこれは?」

 

タケル「1つは一休のだけど…この2つは何だ?」

 

蛍「え?知らないの?」

 

その中で水色のを取ってから残りの2つを見て呟くタケルのに蛍は驚いて聞く。

 

アラン「ああ、知らん眼魂だ」

 

タケル「それぞれの名前は…」

 

そう返したアランの後にタケルは眼魂の上部分を見る。

 

大抵の眼魂は上部分に上にナンバリング、中央に変身した際に出るフェイス、下に眼魂に宿った偉人や英雄の名前がローマ字か英語などの出身地の言語で刻まれているのだ。

 

タケル「黄金のはK・A・M・E・H・A・M・E・H・A。深紅のはG・A・L・I・L・E・O…読むとカメハメハとガリレオ…ええ!?」

 

美神「もしかしてガリレオ・ガリレイとカメハメハ大王!?」

 

読んで驚きの声を上げるタケルと美神の後にあらあら~と冥華は呟く。

 

アラン「なんだそのカメハメハ大王とガリレオ・ガリレイとは?」

 

門矢「ガリレオはイタリア出身の科学者で振り子運動、落体の法則を発見し、凹レンズと凸レンズを組み合わせた高性能望遠鏡を開発して月のクレーターを発見したなど色んな事を成し遂げた偉人だな」

 

蛍「カメハメハ大王って…もしかして童話の南の島のハメハメハ大王の元になった人なの?」

 

心眼【うむ、ハワイ語は文字を持たない言語であった関係で、古い文献などではハメハメハと書かれていたのだ】

 

おキヌ【へぇ~そうなんですか~】

 

知らないので聞くアランに門矢が答え、蛍の呟きに心眼はそう答えておキヌは感嘆する。

 

ルージ「けれど、15個の英雄の眼魂に含まれてないんですよね?」

 

タケル「ああ、それに俺とマコト兄ちゃんも持ってなかったのだ…」

 

美神「……もしかしたら、あの魔法陣の影響で本来なかった偉人の眼魂が誕生しちゃったって可能性かしら?」

 

忠夫「はぁ~そんな事あるんッスかね…」

 

ルージのに頷いてからガリレオ眼魂を見て言うタケルに美神は困った顔でカメハメハ眼魂を見ながら憶測を言い、忠夫はハテナマークを浮かべながら呟く。

 

美神「まぁ、とにかく…これで残る眼魂が9個になったわね…それじゃあおば様。私たちはこれで」

 

冥華「はいは~い頑張りなさいね~」

 

そう言って退出する美神に冥華は手を振って見送る。

 

美神「あ、横島くん。明日は学校に行きなさい」

 

忠夫「ええ!?なんでっすか?眼魂探しは!?」

 

出た後に車に乗って帰宅中に運転しながら指示した美神に忠夫は驚いて聞く。

 

ちなみに来る道中はアランとタケルはマシンフーディに、門矢とルージはマシンディケイダーに乗っている。

 

美神「それも込みで行って欲しいの」

 

蛍「?どう言う事ですか?」

 

返された言葉に蛍が変わりに聞く。

 

美神「ねぇ、見つかってない残りの眼魂の中で一番学校に関わりがありそうな眼魂はなんだと思う?」

 

おキヌ【関わりがある……?】

 

蛍「………ああ!?音楽のベートベンに童話のグリムですね!」

 

問い返された事に誰もが首を傾げるが蛍が声を上げて忠夫とおキヌもあっと声をあげる。

 

忠夫「だから学校にって事ッスね!!」

 

美神「そう言う事。六道にはおば様の反応からしてなかったから横島君の学校か東京の学校のどこかにベートベン眼魂とグリム眼魂は落ちた可能性があると思うの。蛍ちゃんとおキヌちゃんに門矢君には私と一緒に虱潰しで満月の夜の翌日で変な噂が出てないかを調べるわ。タケル君やアランにルージ君はもしもの為に横島君と同行して横島くんの学校の近くで待機して貰う事にするわ」

 

合点がいったと納得する忠夫に美神は明日の予定を言う。

 

忠夫「けれど、ヒミコ眼魂は良いッスか?」

 

美神「確かにヒミコ眼魂も良いけど、番号の順番で集めた方が分かり易いでしょ?」

 

おキヌ【それを言うなら神宮寺さんが見つけたフィーディーニ眼魂は13番でグリム眼魂は14番ですよ?;】

 

聞く忠夫にそう返す美神におキヌは冷や汗を掻いて指摘する。

 

美神「とにかく、明日は学校での眼魂探し。横島君。ちゃんと探すのよ」

 

忠夫「了解っす!」

 

チビ「みみみ!」

 

モグラ「うきゅ!うきゅ!」

 

キャット「ワンワン!」

 

タマモ「こん!」

 

気合の了承をする忠夫やチビ達に美神は苦笑しながら戻るのであった。

 

なお……

 

御成「お、お帰りなさいですタケルどの~~」

 

タケル「御成ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

帰った時にはシズクの修業でボロ雑巾の様になった御成の姿があった。

 

なお、ちゃんと門矢により『治・療』されたのであった。



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その8

学校に眼魂があるかもしれない、と言う美神さんの考えを聞いて俺はアランやタケルと出会ってから始めて学校に来たんだが

 

「目がア!目がああッ!!!」

 

「うきゅ」

 

「ワン♪」

 

モグラちゃんとキャットのWクローを喰らって目を押さえて悶絶しているシルフィーちゃん。見た目お嬢様で性格も明るくて人気者だけど、その実半吸血鬼と人間と吸血鬼の間に生まれた混血児で、隙あれば俺の血を吸おうとするし、時々後ろを尾行してくるし……色々と残念な美少女だ。

 

「すいません、横島さん。シルフィーには僕がちゃんと注意しておくので」

 

申し訳なさそうに頭を下げる男子。顔つきや雰囲気がシルフィーちゃんに似ているが、それも当然だ。なんせ双子の兄妹なのだから似ていて当然だろう。

 

「いや別に良いぞ?頼れるセコムが居るから」

 

ピートが言っても効果がないなら正直抑止力としての期待は持てない。だから俺はモグラちゃんやチビを頼るから大丈夫だ

 

「横島君?何時の間にまた九尾の狐拾ってきたの?」

 

机の上に腰掛けるデザインの古いセーラー服を着ているのが愛子。彼女もまた付喪神と言う妖怪だが、その真面目な性格でクラスの委員長みたいになっている

 

「拾ってきたと言うか……朝起きたら増えてた。な?タマモ、キャット」

 

「ワン♪」

 

「コン……」

 

楽しそうに鳴くキャットと疲れたように鳴くタマモを見ていると

 

「何で狐なのにワンって鳴くの?それになんで猫?」

 

不思議そうに尋ねてくるシルフィーちゃん。両手で目を押さえているのでまだ視界は定まっていないのか明後日の方向を見ている

 

「いや?俺もしら「お兄ちゃーん!見てみてー!面白いの拾ったー♪」へぐろ!?」

 

突然聞こえてきたアリスちゃんの声に振り返ろうと思ったが遅かった……人外の力をフルに使ったアリスちゃんの突撃に俺は耐え切ることが出来ず、身体の中からべきべきと聞こえてはいけない音を聞きながら、意識を失うのだった……

 

「ごめんね?ごめんねお兄ちゃん……」

 

俺が目を覚ますと目に涙を溜めてごめんねと謝ってくるアリスちゃん。タマモとキャットに舐められて若干べとっとしているシャツに眉を顰めながら身体を起こして

 

「大丈夫だ。だから泣かなくて良いよ」

 

今にも泣きそうなアリスちゃんの頭を撫でる。あんまり住んでいる所から出て来れないからはしゃぎ過ぎてしまっただけ、その程度で怒りはしない……その事については怒らない。これは間違いない

 

「所でさ?アリスちゃん?俺の上着をもさもさ食ってるこの黒い馬何?」

 

今日は授業ではなく、霊の事件についての調査と言う事で私服で来ている。そして座り込んでいる俺の上着をもさもさ食っている黒い馬。金色の2本の角が見えるから普通の動物では無いのは判る。

 

「ぐーちゃん!?駄目だよ!?お兄ちゃんの服を食べたら駄目!」

 

「グー?(もさもさ)」

 

アリスちゃんに駄目と言われても、もさもさと食べ続けている黒い馬。少し寒くなって来たのは気のせいでは無いと思う

 

「みむう!」

 

「コン!」

 

「うきゅう!」

 

モグラちゃんやチビにタマモが馬の頭を叩いて止めようとしているが

 

「ぐー♪(もさもさ)」

 

全く意に介さずもりもりと俺の服を食べ続けている馬。何故馬が俺の服を食っているのか?そして

 

「「ひゃー♪」」

 

両手で目を隠しながらもしっかりと指の隙間から俺をガン見しているシルフィーちゃんと愛子。

 

「こ、これは魔界の魔獣では?」

 

ぐーちゃんと呼ばれた馬を見て顔を青くしているピート。なんと言うかこれ収拾つかないんじゃ?俺は溜息を吐きながらもう7割消滅している上着を脱いで

 

「これだけにしてくれよ?Tシャツとかジーンズは絶対に駄目だからな?」

 

上着を脱いで馬の前においてそう言う。露出狂になるのは絶対に駄目なので念を押して言うとぐーちゃんは

 

「ぐう!」

 

判ったと言わんばかりに頷いて上着の残りをもさもさと食べ始める。動物は嫌いじゃ無いけど、いきなり上着を食われると言う異常事態に正直混乱していると

 

「お待たせしましたのジャー!最近学校で多い霊現象を全部調べて来たのジャー!」

 

あ、タイガー……悪い……お前にそれを頼んだの忘れてた……大粒の汗を額に浮かべ大量の紙を抱えているタイガーの心の中で謝る。

 

「ぐー♪」

 

「のわああ!?な。なんですのじゃああ!?この黒い馬は!?あああー!!調査結果がぁああ!?」

 

そしてぐーちゃんに体当たりで吹き飛ばされ、紙をもさもさと食われてて絶叫しているタイガーを見ながら

 

「ぐーちゃんってなんでも食べるのか?」

 

「うん♪お肉と魚以外は何でも食べるよ?髪の毛も」

 

髪の毛も?俺とピートが揃ってタイガーの方を見ると

 

「ああああ!止めるんじゃー!ワ、ワシの髪を食べないで欲しいのジャーッ!!」

 

タイガーの背中の上にぐーちゃんが乗って、髪の毛をくわえて

 

「ぐー(ぶちぶち)」

 

「アーッ!!!!!」

 

タイガーの髪を容赦なく食いちぎっているぐーちゃんを見て、俺とピートは野球部のクラスメイトからヘルメットを借りて無言で被るのだった……本当こんな状況で眼魂探しなんか出来るのか?っと俺は幸先に不安を感じずには居られなかった……

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

私はここ最近の夜悪霊が大量発生していると言う地域に住んでいる人達から話を聞いて回っていた

 

(んー共通しているのは夕暮れ時から深夜か……)

 

タケルとアランの世界に眼魔とか言う悪霊が出現するのは決まってその時間。しかし人間を襲う事無くどこかに消えていくらしい

 

(消えていく場所に何かある?)

 

消えていく方角はもう取り壊しが決まっている古い神社。しっかりと地鎮祭を行い、祭神はしっかりと別の神社へと移動して貰ったので禍つ神になる心配も無いらしいが、その代わり本来の神域としての効力を失っているので眼魔とやらの棲家になっているのかもしれない

 

「そっちはどうだった?」

 

手帳の情報を纏めていると門矢が来てそう尋ねてくる。別の世界の横島で私を……ルシオラを救えなかったと後悔した横島……そう思うと若干胸が痛いが、門矢の世界と私の世界は違うので、謝る事は出来ないし、謝られても困るだろう。だからこそ普通に対応する

 

「廃神社に眼魔が住み着いている可能性がある見たいね。活発に動き回るのは夕暮れから深夜1時までらしいわ」

 

「幽霊の力が増す時間か……どうするつもりだ?」

 

んー正直に言うと私達じゃ眼魔とはまともに戦えないし……横島とか門矢達を頼る事になる

 

「とりあえず全部眼魂を集めてから考えるわ。じゃ、美神さんと合流しましょうか?」

 

了解っと言ってGS協会の方に歩き出す門矢。美神さんとおキヌさんはは琉璃さんに情報を聞きに行ったので、合流場所をGS協会にしたのだ。私はゆっくりと歩きながら

 

(横島は大丈夫かなあ)

 

なんか妙に嫌な予感がするので横島に何か危ないことが起きているんじゃないか?と少し心配になってしまうのだった……

 

 

 

 

俺とピートはヘルメットで髪の毛を護ることが出来た。だがタイガーは

 

「うう……酷いですのジャ」

 

ぐーちゃんにその髪の毛の6割を齧られて涙を流し、アイマスクをしている。こいつは女が苦手で限界を超えるとセクハラをし始める。愛子やシルフィーちゃん、そしてアリスちゃんにセクハラをさせる訳には行かないのでアイマスクを付けさせ

 

【イヒヒ♪】

 

ウィスプ魂。ジャックランタンモードが紐を引っ張って歩かせている。こうして見ると危ない趣味をしている人間に見えなくもない、しかし予防策と言うのは絶対に必要だ。それにあんなむさくるしい男と手を繋ぐより

 

「図書館って絵本ある?」

 

「あるかなあ?判らん」

 

可愛いアリスちゃんと手を繋いでいる方が良い。それにシルフィーちゃんは……手を繋ぐとそのまま血を吸われかねないのでちょっと手を繋ぐとかは勘弁して欲しい。だって今も……

 

「お兄ちゃん放してー!横島君の血が欲しいッ!」

 

目を真紅に光らせ、鋭い牙を生やして暴れている姿を見ると正直怖い

 

「シルフィー!いい加減にしないと僕も怒るぞ!」

 

暴走モードのシルフィーをがっちり掴んでいるピート。頼むから解放しないでくれよ?あと愛子はモテモテね?と言ってからかって来るが、生死が関わるようならモテもテにはなりたくない。なんせ俺の目標は美人の嫁さん(蛍)を貰って、二人でGSで頑張るのだから、死んでしまっては意味がない

 

「ここ見たいね。最近多い生徒が楽しい夢を見るって言う図書館は」

 

ぐーちゃんに大半を食われてしまった調査結果だが数枚残っていた。そしてその中に1つ気になるものがあった

 

【その図書館に行くと不思議な夢を見ることが出来る】

 

【シンデレラになった夢を見た】

 

など、それにピーンっと来た。タケルの話では「グリム眼魂」があるらしく、グリムはグリム童話。つまり図書館に居ると思ったのだ

 

「そう言えばアリスちゃん」

 

「なーに?」

 

「ぐーう?」

 

アリスちゃんと一緒に返事を返すぐーちゃんに苦笑しながら

 

「面白い物って何を拾ったんだ?」

 

あっと思い出したように呟いたアリスちゃんは肩から提げた鞄から丸い物を取り出す

 

「これー!お兄ちゃんのじゃ無い?」

 

それは眼魂だった。はいっと差し出されたそれを受け取り上を確認する。えーとNOは11……手帳を開いて確認するとツタンカーメン眼魂だと思う

 

「アリスちゃん。これどうしたの?」

 

「ぐーちゃんが食べようとして、食べれなかったみたいで吐き出してたの拾った」

 

……そうか。若干べとっとしているのはそれか……ハンカチで拭って図書館に向かって歩き出す。じゃっかん眼魂が震えているように思うのは勘違いでは無いと思う

 

「ぐー」

 

ぐーちゃんが手元のツタンカーメンを見つめている。どうやらまだ食べることは諦めていないようだ、凄まじい腹ペコだ……ただチビとかを食べる気は無いのか頭の上や背中に乗せているので一安心していると

 

「着いたわよ横島君。なんか妙な霊力を感じるけど……これじゃない?」

 

愛子に言われて顔を上げると確かに図書館から妙な霊力を感じる……

 

「よし。タイガー行け」

 

「なんでワシがぁ!?」

 

身の危険を感じたので図書館の扉を開けてタイガーを蹴り込むと

 

シュバアッ!

 

「アーーーッ!!!」

 

触手見たいのが伸びてきてタイガーを絡め取る。とんでもない衝撃映像だ……しかもそれだけでは終わらず

 

「「え?」」

 

その衝撃映像に停止していたピートとシルフィーちゃんも絡め取って図書館の中に引きずり込んで、その扉を閉める

 

「なぁ?逃げたら駄目かな?」

 

あれ絶対駄目だよ?死ぬよ?俺じゃどうしようもないって……シズク居ないのに変身したら反動で死ぬよ?動けなくなってシルフィーちゃんに血を吸われて詰むよ?だから逃げよう?と愛子に尋ねると

 

「駄目よ。友達を見捨てたら駄目よ」

 

ですよねー俺は深く溜息を吐いて手を繋いでいるアリスちゃんを見ると

 

「お兄ちゃん!なにあれ!?凄く面白そう」

 

泣いていると思ったら嬉しそうで正直反応に困る。ぐーちゃんとチビ達は

 

「み、みむう?」

 

「コン……」

 

「ワン……」

 

「うきゅう」

 

止めたほうが良いよ?と言わんばかりだ。そしてぐーちゃんは

 

「ぐー♪」

 

一瞬見えた大量の本に目を輝かせている。恐らく食料だと思っているのだろうが、なんとも恐ろしい子馬だ

 

「じゃ、と、とりあえず入ってみるか……」

 

警戒しながら図書館を開くと

 

「「「すやぁ……」」」

 

とても安らかな顔をして眠っているピートやタイガーが居て困惑していると

 

【ふむ?君は眼魂を持っているのか……なるほど。やはりここで騒動を起こしたのは間違いではないようだね!】

 

眼魂が光りそこから声が聞こえる。なんと言うか胡散臭い外人としか思えない

 

「えーとグリムさんで良いんですよね?」

 

【その通りだ。アランを知っているかね?】

 

知っていると返事を返すとグリム眼魂は伸ばしていた触手を納めて

 

【すまないが、彼の所へ連れて行ってくれ。私にはまだやる事があるのだよ】

 

そう言って俺の手の中に納まるグリム眼魂。回収できたのは良いけど、やることってなんだろうか?

 

「えーと?グリムさん?やることってなんですか?」

 

愛子がそう尋ねるとグリム眼魂は楽しそうに光ながら

 

【あの何も知らない者に色々な事を教える。それがこの私の役目なのだよ】

 

……なんかすげえ駄目な人な様な気がする……だけどまぁ……回収できたのでよしとしよう。鞄の中にグリム眼魂を仕舞って、寝ているピート達と本を齧ろうとしているぐーちゃんを止めようと奮闘しているチビ達を見て

 

「とりあえず。アリスちゃん。ぐーちゃん止めて?」

 

賠償金とかがでたって言ったら間違いなく美神さんが暴れるのでそうお願いすると

 

「絵本読んでくれる?」

 

いつのまにか絵本を抱えているアリスちゃん。高校の図書館になんで絵本が?と思ったがそれで止めてくれるなら全然問題ない

 

「良いよ。だからお願いぐーちゃんを止めてくれないか?」

 

「ぐーちゃん!駄目だよ!」

 

アリスちゃんに駄目と言われたぐーちゃんはぐうっと鳴いてその場に座り込む

 

「み。みむう……」

 

「クウ」

 

「ワフ」

 

「うきゅう」

 

止めるのに必死になっていたチビ達にご苦労様と心の中で呟き、アリスちゃんが差し出し来た絵本を受け取り、ピート達が起きるまで絵本を読んであげることにしたのだった……なお愛子は

 

(やっぱり横島君は良いお父さんになる)

 

アリスを膝の上に乗せて優しく絵本を読んでいる姿を見て、そんな事を確信しているのだった……

 

 

 

 

 

「横島さんは眼魂を見つけることが出来ましたかね?」

 

横島さんの学校の近くの公園で待機しているとルージ君がそう呟く

 

「判らないなあ……見つけてくれていると良いけど……」

 

部外者なので学校に入る事ができず、こうして2時間近く公園で待機している。日向ぼっこと思えば良いのだが、なんか切ない……

 

「ほう……お好み焼き……大阪の味……実に興味深い」

 

そしてアランはさっきから横島が置いて行った本の中の料理の本ばかりを見つめている。さっきからずっとこの調子だ……小説や漫画も置いて行ってくれたけど、正直そこまで読みたいとも思えないので俺はずっと暇を持て余していた

 

(アランってこんな奴だったのか?)

 

この世界に来てから、美味いと言ってもりもりとご飯を食べている姿ばかりを見ているのでアランの性格が正直良く判らなくなってきた……マコト兄ちゃんは知っていたのだろうか?それともこの世界に来て食事の楽しさに目覚めてしまったのだろうか?完璧な世界を作るとか言わなくなったし、アランには良い傾向なのだろうか?と色々と考えていると

 

「本も全部読んじゃいましたしね……暇ですね……」

 

ベンチに座ってそう呟くルージ君。眼魔の出現の可能性を考えて待機しているけど、そんな気配は無いし……本当ただこうしているだけって凄く疲れるなあ……深く溜息を吐いたところで

 

ジリリリリリ!!!

 

アランの隣に置いてある目覚ましが鳴る。それを聞いたアランは、凄まじい勢いで目覚ましを叩いて止めて

 

「昼食だ!」

 

嬉しそうにシズクさんが作ってくれたお弁当の入っている鞄に手を伸ばす。そんな姿を見て俺はまた深い溜息を吐きながら

 

「お茶でも買って来るよ。ルージ君は緑茶で良い?」

 

「あ、はい!お願いします!」

 

実に嬉しそうな顔をして鞄を開ているアランとそんなアランを見て苦笑しているルージ君を見ながら、俺は近くの自販機に飲み物を買いに行くのだった……だがこのときの俺は当然知る由もない。横島さんの学校では2つ目の眼魂が発見されていたのだが、まさかそれがとんでもない悲劇をもたらす事を今の俺は知る由も無かったのだった……

 

 

 

 

そして2枚めの調査結果。音楽室で楽器が勝手に鳴る、これは学校でありがちな怪談かとも思ったが、ベートーベン眼魂の事もあるので調査に来た。だけど問題は別にあった

 

「誰か楽器演奏できるか?」

 

全員さっと目を逸らす。この音楽室での現象は簡単に言うと楽器を演奏していると、光る音符が現れて演奏を教えてくれるという物だ。しかしあんまり下手だと駄目だし、上手すぎてもだめ……

 

「ピアノなら僕が!」

 

「「「お前は動くな!楽器に触るな!」」」

 

俺達の怒声がピートに向かう。ピートが楽器を演奏するとどんなものでも音波兵器になる、そう判っているので使わせるわけがない

 

「んーフルートなら吹けるんだけど持って来てないし……」

 

お嬢様みたいな外見だけじゃなくてそう言う楽器も演奏できたんだ。正直意外だな

 

「ワ、ワシは全然無理じゃ」

 

お前には何一つ期待していないぞタイガー。しかし俺も楽器は演奏できないし……愛子を見ると

 

「校歌なら行けるとおもうけど駄目よね?」

 

校歌で召喚されるベートーベン。なんか嫌だな……それに出てきてくれると思えない

 

「猫踏んじゃったなら出来るよ?」

 

アリスちゃんが手を上げながらそう言う。うーむ……ならアリスちゃんに頼むか?と思った瞬間

 

♪~♪~

 

ピアノの演奏が聞こえてくる。驚いて振り返ると

 

「コン」

 

「ワン」

 

タマモとキャットが前足で鍵盤を器用に叩いて演奏している。そしてその前で

 

「みみみー♪みむう!」

 

「きゅーうきゅ♪」

 

チビとモグラちゃんが前足をピコピコ振りながら歌っている……

 

(馬鹿な!?チビとモグラちゃんはともかく、タマモとキャットがピアノを!?)

 

俺の知らない内に我が家のマスコットがとんでもない進化を遂げていたことに俺は心底驚いた

 

「あ、適当だと思ったらちゃんとメロディーになってる」

 

「す、すごいけんのう……横島さんのペットは……」

 

シルフィーちゃんとタイガーも驚いたのかそう呟いている。あと言っておくがタマモ達はペットじゃなくて家族だからな?

 

「ぐー!ブルル!ぐーぐー!!」

 

モグラちゃんとチビに釣られてぐーちゃんも歌って踊りだす。なんと言うか思わずさっきまでアリスちゃんに呼んでいたブレーメンの音楽隊みたいだと思ってしまった

 

「ブレーメンの音楽隊みたい♪皆凄いねー!」

 

アリスちゃんが手を叩きながら喜んでいる。なんともほのぼのした良い光景だ……

 

「可愛いわねー。見ているだけでも癒されるわ」

 

本当だな。これは蛍やおキヌちゃんにも見せてあげたいなと思う。そして演奏が終わりに近づいた頃。壁が光りグレーの眼魂が出て来たのだが出て来た場所が悪かった……

 

「ぐー♪」

 

「「「あ」」」

 

パリーン……

 

楽しそうに鳴いて踊っていたぐーちゃんの後ろ足が炸裂し窓ガラスを粉砕して飛び去っていくベートーベン眼魂

 

「「「た、たたたた!大変だぁ!!!」」」

 

折角見つけたのにまた見失うわけには行かない。

 

「「先に行きます!」」

 

ピートとシルフィーちゃんは窓を開けて外へと飛び出していく、俺には当然そんな事は出来ないので、チビとモグラちゃん、そしてチビとタマモ抱き抱え、慌てて音楽室を飛び出してベートーベン眼魂を探す為に学校を後にしたのだった

 

「よーし!頑張れぐーちゃん!」

 

「ヒヒーン♪」

 

アリスちゃんはぐーちゃんの背中に乗って追いかけてきたんだけど、予想よりも遥かに早いぐーちゃんに正直驚いてしまうのだった……

 

 

なお横島達がベートーベンを探し出した頃。近くの公園で待機しているタケル達にはとんでもない悲劇を襲っていた

 

「んー良い天気だし、お弁当もおい……「キラーン!(ドスゥッ!)目がぁ!目がああ!!!」

 

弁当を食べていたタケルの目にぐーちゃんが蹴り飛ばしたベートーベン眼魂が衝突し、その激痛に暴れるタケル

 

「何をして……あああああ!?わ、私の弁当が……」

 

そしてその暴れているタケルに弁当を蹴り飛ばされ、地面に落ちた弁当を見て蹲るアラン。そして

 

「あっつういいいいいい!?」

 

ルージは運悪くアランが落した味噌汁を頭の上にかけられ、その熱さに地面を転がりまわっていた……

 

そしてそんな3人の目の前を馬の蹄の痕が着いたベートーベン眼魂がころりと転がるのだった……

 



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その9

おいでませ京都、主従の絆

 

 

前回、忠夫がアリスからツタンカーメン眼魂を貰い、学校にてベートベン眼魂とグリム眼魂を手に入れた。

 

ただ、それで起こった被害で前回から少しして合流した所で美神の事務所はハラハラした空気に包まれていた。

 

ディケイドCF「さて、なぜ君が俺の前に立たされているのは分かるかな?」

 

ぐーちゃん「ぐ、ぐー;」

 

中央でじっとさせられたぐーちゃんを前にコンプリートフォームになったディケイドが怒気を纏いながらそう問うとぐーちゃんは分からないので首を横に振る。

 

ディケイドCF「まず1つ、人様の物や大切な情報類に人の髪を食べた事、最後のは俺がなんとかしたからまだよかったがもし良心のない奴だったらアリスちゃんに被害がかかっていたかもしれないんだぞ?むやみやたらに食べ物以外のを食べたらダメ」

 

ぐーちゃん「ぐー…」

 

指を立てて指摘されたぐーちゃんは顔を伏せる。

 

なお、タイガーの髪は先ほどディケイドCFが言った様に太極文殊で『増・毛』して元通りにして感謝された。

 

ディケイドCF「2つ目、楽しくなってはしゃいじゃったのは仕方がないけどちゃんと周りを見る。それで被害が出ちゃったらこれもまたアリスちゃんのせいになっちゃう。お前だってアリスちゃんを悲しませたくないだろ?」

 

ぐーちゃん「ぐー」

 

2つ目の指を立てて指摘するディケイドCFにぐーちゃんは頷く。

 

なお、これもまたディケイドCFがちゃんとタケルとルージのを『治』したので問題ない。

 

アランに関してはケガは特にしてないが弁当が台無しになったので落ち込んでいる。

 

ディケイドCF「んじゃあ、タケル達に謝ろうな」

 

ぐーちゃん「ぐー」

 

そう言われてぐーちゃんは見ていたタケル達やタイガーへと頭を下げる。

 

ぐーちゃん「ぐー…」

 

タイガー「あ、いやワッシはもう気にしてないから良いですジャー」

 

タケル「俺達もちゃんと治してもらったし…ね?」

 

ルージ「ですね」

 

アラン「弁当…(ぼそり)」

 

謝るぐーちゃんにそれぞれ許す言葉をタケル達は言う。

 

なお、アランは弁当は改めて作ると言うので立ち直った。

 

アリス「良かったねぐーちゃん♪」

 

ぐーちゃん「ぐー♪」

 

忠夫「許して貰ってホント良かったな」

 

ディケイドCF「ふいー」

 

抱き着くアリスと頭を撫でる忠夫にぐーちゃんは嬉しそうに顔を摺り寄せるのを横目にディケイドCFはベルトを外して変身を解く。

 

美神「別に変身しなくても良かったんじゃないの?」

 

門矢「甘いッス美神さん。同じ顔だから甘くしてくれると言う考えが出来たらいけないッス。ここは別人とちゃんと分からせてビシッと言わんとあの子、下手したら除霊対象になりかねなかったかもしれないんですよ?それじゃあアリスちゃんも悲しい思いをするじゃないッスか」

 

蛍「まぁ、確かにそうね(下手して門矢の言うようなのが起きたら赤助さんが大暴れしていたかもしれないし;)」

 

そんな門矢に話しかけてそう聞く美神に門矢はそう答えて蛍も同意しつつ内心アリスを泣かせたのはどいつだぁぁぁぁぁ!と暴れまくるベリアルを思い浮かべながら冷や汗を掻く。

 

美神も初めてモグラちゃんと出会った時のを思い出して確かに教えないとねと頷く。

 

ムサシ【大丈夫かベートベンにツタンカーメン?;】

 

ベートベン【良い音楽が~流れて来たので~出てきたら~まさか馬に蹴られるとは~思いもしなかったよ~;】

 

ツタンカーメン【ホントだよ。こっちも危うく食べられかけたんだよ;】

 

エジソン【oh、ソレハ珍シイ体験ヲシマシタネ】

 

ニュートン【嫌な体験だと思うぞ;】

 

ロビンフット【確かにな】

 

牛若丸【私は私でコロコロされたりするので;】

 

グリム【苦労してるね君も】

 

こっちはこっちで眼魂同士で会話しあっている。

 

美神「まぁ、これで残る眼魂は5個ね」

 

おキヌ【丁度、瑠璃さんがヒミコ眼魂を持っていました、けれど丁度持って出張に出てて4日後だそうです】

 

気を取り直してGS協会で得たのからそう言う美神におキヌが付け加える。

 

タケル「そっか…残りはベンケイ眼魂、ゴエモン眼魂、リョウマ眼魂にノブナガ眼魂」

 

アラン「そしてサンゾウ眼魂だな」

 

蛍「ねぇ、本当に心当たりないの?」

 

そう言うタケルとアランに蛍は改めて聞く。

 

タケル「そうは言われても…俺達の方じゃあ眼魂は『英雄に関する物』と『その英雄への思いを持った人』、そして『目の紋章』の3つが揃ってだったからな…そっちの様にじゃないので…」

 

御成「ちなみに過程はこうですぞ」

 

頭を掻き、困った顔で答えるタケルの後に御成がさらさらと書いて見せる。

 

 

眼魂が出来上がる流れ

 

『英雄に関する物品』と『英雄への思いを持った人物』が揃う

その人物の英雄への思いが高まる

人物と物品の両方が光に包まれる

物品に目の紋章を描く

物品が消滅する

パーカーゴーストが誕生する

英雄・偉人の想いとシンクロする

パーカーゴーストをゴーストドライバーに吸収し、招き入れる

ゴーストドライバーからゴーストアイコンが生成される

入手成功!!!

 

 

忠夫「はぁ~なんかすっごい手間取るんだな」

 

タケル「眼魔達も狙っていた時は英雄への思いを持った人間をそそのかしてその思いを暴走させ、その人間の命と引き換えに英雄に関する物からゴーストを出現させようしてたんだ。俺の知る限りのは阻止はしたけどね」

 

ピート「それは怖いですね」

 

シルフィー「確かにそうだね」

 

タケル側の眼魂の誕生するまでの流れを見て感想を言う忠夫の後にそう言うタケルにピートとシルフィーは顔を顰める。

 

愛子「次の眼魂の当てはないんですか?」

 

美神「そうなのよね…」

 

???「それなら安心せい!」

 

聞く愛子に美神は困った顔で言うとその声と共にマリアとテレサを連れたカオスが現れる。

 

門矢「カオスのおっちゃん。その言葉からして眼魂を探すのを作ったのか?」

 

カオス「その通りだ!見よ!これが眼魂レーダーじゃ!」

 

そう言って取り出されたのは上に眼魂をセットすると思われるメガウルオウダーを元にした様な奴が付いたタブレットであった。

 

忠夫「んで、じーさん。どうやってそれで眼魂を探すんや?」

 

カオス「良い質問じゃ。この部分にタケル達の方の眼魂をセットするとその眼魂の次のナンバーの眼魂の場所を示すんじゃ」

 

美神「次の番号…そうなると丁度良かったわね。ドクターカオス。この眼魂でお願いするわ」

 

質問する忠夫にカオスはそう説明し、聞いた美神はベートベン眼魂を持ってカオスに手渡す。

 

カオス「心得た。では探すぞ」

 

そう言ってカオスはベートベン眼魂をセットして操作するとサーチしてるであろう音がピコーンピコーンと流れた後…

 

ブッブー!!

 

そんな音声が流れて、誰もが眼魂レーダーの画面を見ると反応なしと表示される。

 

忠夫「はぁ!?」

 

ルージ「反応がない?」

 

蛍「ちょっとドクターカオス!」

 

カオス「待て待てい!これは東京を指定していたから次の眼魂は東京都内にはないと言う事じゃ!」

 

ピート「つまり、次の眼魂は東京にはないって事になると?」

 

驚くメンバーに弁解するカオスのにピートがそう言った後にカオスは範囲を日本中へと変える。

 

ピコーン!

 

カオス「ビンゴじゃ!」

 

美神「場所は?」

 

急かすでないと返しながらカオスは反応があった場所へと拡大する。

 

愛子「眼魂がある場所って…京都?」

 

忠夫「なんで京都!?」

 

蛍「もしかすると落ちた場所が長距離トラックか何かで京都まで運ばれたのかしら;」

 

美神「ありえそうね;」

 

その場所を見て言う愛子の後に叫ぶ忠夫に蛍は推測を言い、美神も肯定する。

 

タケル「京都……もしかしたら、ベンケイ眼魂はあの場所かもしれない!」

 

ルージ「あの場所?」

 

牛若丸【あ、それなら私も分かります】

 

忠夫「えっ?分かるのか?」

 

京都と聞いてそう言うタケルに牛若丸も続くので忠夫は聞く。

 

門矢「そりゃあ牛若丸と弁慶で京都で一番関わりがある場所といやな…」

 

美神「五条大橋…そこにベンケイ眼魂があるかもしれないって訳ね」

 

これで予定は決まったわと手をパンとさせて美神はメンバーと共にベンケイ眼魂を探すスケジュールを組み立てる。

 

 

 

 

翌日、門矢達は京都へと向かった。

 

ちなみに…移動のでちょいとズルをした。

 

忠夫「すっげぇ…」

 

蛍「本当にあっという間に着いたわね」

 

目の前の京都の風景に忠夫は唖然としながら呟き、蛍も驚きながら後ろにある壁を見て呟く。

 

そう、東京から京都まで来たのは海東が出した壁によってである。

 

本来は世界から世界へと移動する為のだが早く来る為に使用したのだ。

 

海東「やれやれ、僕を足に使うなんてホント君は人使いが荒いね」

 

門矢「じゃかましい。お前ほとんど出てないんだからこういう時位手伝え」

 

やれやれと肩を竦める海東に門矢はそう言う。

 

愛子「はわ~凄いわ!修学旅行醍醐味の京都に来れるなんて!」

 

シルフィー「凄いねお兄ちゃん」

 

ピート「確かにそうだね」

 

すぐさま帰れるので一緒に付いて来た愛子とシルフィーははしゃぎ、ピートも京都の風景に感嘆する。

 

ちなみにタイガーはエミの手伝いでいないのでお土産買っておくかと門矢はそう考える。

 

ルージ「それで五条大橋にすぐに向かうんですか?」

 

美神「そうね。それでその後は明日も含めて京都を観光して行きましょうか」

 

タケル「息抜きにですね。確かにそれ良いですね」

 

御成「京都は良い所がありますから良い気分展開になりますぞ~」

 

アラン「成程、京都も大阪と同じ様に名物があるのか」

 

確認するルージに美神はウィンクして答え、タケルと御成もワクワクしてアランはいつの間にか仕入れていた観光ブックを見ていた。

 

アリス「凄いねぐーちゃん♪」

 

ぐーちゃん「ぐー♪」

 

チビ「みーみー♪」

 

モグラちゃん「うきゅ♪」

 

タマモキャット「わんわん♪」

 

アリス達も楽しみにしていて、それを忠夫は微笑ましそうに見ながら行こうとする。

 

???「ちょっとお待ちどす~」

 

すると突然呼び止められて誰もが振り返ると舞妓さんがいた。

 

舞妓「あんさん等五条大橋に行くそうですな?」

 

美神「ええ、そうですけどそれがどうしました?」

 

確認する様に聞く舞妓に美神は頷いて呼び止めた理由を問う。

 

舞妓「最近になって、五条大橋で全身が黒い人型の妖怪が目撃されとるんよ。観光で行くんなら気を付けた方がええぜ」

 

タケル「!全身が黒い妖怪!」

 

カオス「どうやら此処にも出るみたいじゃな」

 

蛍「東京だけと思ってたのが勘違いだったんですね」

 

忠告された中にあったのにタケルは反応してカオスと蛍は顔を顰めて言う。

 

美神「安心してください。私はGSの美神令子です。それに関する依頼で来たので」

 

舞妓「GS…しかもあの有名な美神令子さんでしたか~それなら安心ですわ。だけど気を付けてくださいね」

 

そう言って名刺を渡す美神に舞妓さんはそう言って一礼した後に去って行く。

 

おキヌ【美神さん、あの時話していた依頼ってそう言う事だったんですか?】

 

美神「京都関連ので依頼あるか調べていたら丁度ね。と言うか最近ただ働きでやっていたから1回は依頼を入れないとね」

 

タケル&御成「なんかすいません;」

 

京都へ行く際のスケジュールを考えていた際に出ていた事で聞くおキヌに美神は困った顔でそう言ってタケルと御成は申し訳なく謝る。

 

美神「とにかく五条大橋へ行くわよ」

 

門矢&忠夫「うっす」

 

そうかわして一同は五条大橋へと向かう。

 

 

 

 

しばらくして一同は五条大橋へと着いた。

 

眼魔の事もあって人はおらず、これならこれでまだマシかしらと美神は呟く。

 

確かに人がいるよりいない時に片を付ける方が良いだろう。

 

カオス「ふうむ、ここにベンケイ眼魂は確かにあると反応は出てるが見えんな」

 

ピート「ベートベン眼魂の様に隠れてるんですかね?」

 

シルフィー「けどその場合どうするの?」

 

眼魂レーダーを見てそう言うカオスにピートは前回を思い出して言い、シルフィーは首を傾げる。

 

牛若丸【懐かしいですね…少し風景が変わってますがこの橋は変わってませんね】

 

忠夫「へぇ~そうなんか~懐かしさがそんだけ出てるんだな」

 

しみじみと眼魂の中でそう言う牛若丸に忠夫は橋から見える川を見ながらそう呟く。

 

あの後行く前に門矢とタケルから武蔵坊弁慶と牛若丸に関する事を教えて貰ったので大体は覚えた。

 

忠夫「(そういや牛若丸って今の恰好で弁慶と出会ってる事になるんだよな…弁慶はどういう反応したんやろうな)」

 

その後に牛若丸の恰好を思い出してそう考える中、眼魂レーダーから激しい音が出る。

 

美神「な、何!?」

 

カオス「これは!オマケで付けた眼魔センサーに反応じゃ!」

 

その言葉と共に橋の両側に眼魔コマンドが数体現れる。

 

ただ、眼魔コマンド以外の眼魔も存在した。

 

タケル「あれは!?」

 

アラン「眼魔スペリオル。奴もいるのか!」

 

美神「あれも眼魔なの?」

 

左右に2体ずつ存在する眼魔スペリオルにタケルは目を見開き、アランは苦々しい顔で見る中で美神は聞く。

 

アラン「ああ、眼魔コマンドより上位の存在だ。お前達は手を出すな。足手まといになる」

 

シルフィー「何よその言い方!」

 

蛍「いえ、彼の言う通り。黒い眼魔に効き辛いのにその上位となると私たちじゃあ手も足も出ない可能性があるわ」

 

メガウルオウダーを装着しながらそう言うアランにシルフィーが噛み付くが蛍に言われて唸る。

 

タケルもオレ眼魂ではなく闘魂ブースト眼魂を取り出してセットし、ルージはゾイドブレスではなく懐から取り出したブレイバックルを装着する。

 

忠夫も今回は仕方ねえと最初からドライバーを出し、門矢もディケイドライバーを装着し、海東も自分の変身アイテムであるディエンドライバーを取り出し、カードをセットする。

 

【一発闘魂!!アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

【【KAMENRIDE!】】

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

タケル&アラン&ルージ&門矢&忠夫&海東「変身!」

 

その言葉と共にそれぞれレバーを引いたり、トリガーを引いたりする。

 

【闘魂カイガン!ブーストッ!!オレがブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

【ターンアップ】

 

【DECADE!】

 

【DE・END!】

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ・ゴーストッ!】

 

音声と共にタケルが忠夫と間違って戦った際になったゴースト闘魂ブースト魂にアランがネクロムに、門矢がディケイド、忠夫がウィスプとなる中、ルージは目の前に現れたオリハルコンエレメントを通り抜けて仮面ライダーブレイドになり、海東はトリガーを引くことで現れた3色の幻影が何回も移動した後に重なると頭にカードの装甲が突き刺さる事でシアン色の仮面ライダーディエンドになる。

 

御成「おお!!」

 

蛍「あれが話に聞いていたルージ君の仮面ライダーとしての姿!」

 

シズク「んで、あれが海東の…」

 

アリス「うわぁ~カッコいいねぐーちゃん!」

 

ぐーちゃん「ぐー!」

 

ブレイドとディエンドを見て誰もが驚く中でディエンドは牽制の射撃をする。

 

ディエンド「さて、ここは京都、和の仮面ライダーで行こうじゃないか」

 

そう言ってディエンドは3枚のカードを取り出してセットする。

 

【KAMENRIDE!HIBIKI!IBUKI!TODOROKI!】

 

音声の後にトリガーを引くと幻影が射出された後にそれは3人の仮面ライダー、響鬼、威吹鬼、轟鬼へと変わる。

 

美神「鬼の仮面ライダー?」

 

おキヌ【あんな仮面ライダーさんもいるんですか!?】

 

ディエンド「行って来たまえ」

 

驚く美神達を後目にディエンドの言葉と共に呼び出された響鬼達は眼魔コマンド達へと向かっていき、己の持つ武器で倒して行く。

 

ブレイド「はっ!でやっ!!」

 

ディケイド「ふっ!はっ!」

 

別の方ではブレイドがブレイラウザーを眼魔コマンドを斬って行き、斬撃をかわした眼魔コマンドをディケイドがライドブッカーGMで撃ち抜いて行く。

 

ゴーストTS「はっ!」

 

ネクロム「ふっ!」

 

一方で左側の眼魔スペリオルにゴーストTSはサングラスラッシャーを使い戦い、ネクロムも格闘戦で戦う。

 

こちらは苦戦はしてないがウィスプは苦戦していた。

 

ウィスプ「どわ!!」

 

蛍「横島!」

 

2体の眼魔スペリオルの猛攻を受けて吹き飛ぶウィスプに蛍は叫ぶ。

 

眼魔スペリオルはゴーストと元の世界にいるスペクターに対して同時に相手にしても圧倒する程の戦闘力を持っている。

 

二度目にゴースト達が戦った際は相手が慢心していた事もあって有利に運べたが、次の戦いでは圧倒されてゴーストが闘魂ブースト魂になって初めて倒す事が出来たぐらいだ。

 

1人でしかも他のメンバーよりライダーの戦いが浅いウィスプにはきつい相手になりうる。

 

ディケイド「!ルージ、ちょいとくすぐったいぞ!」

 

【FINAL FOAMRIDE!】

 

ブレイド「え!?もしかしてあれですか!?」

 

それを見てディケイドはすぐさまあるカードを取り出してセットしつつそう言いながらブレイドの後ろに移動してブレイドは次の行動がなんなのか予想がついて驚く。

 

【B・B・B・BLADE!!】

 

ディケイド「よいしょ!」

 

ブレイド「うわ!?」

 

掛け声とともにディケイドは両手を突き出すとブレイドは宙に浮かび上がると共にその体を超絶変形させてブレイドブレードへと変わる。

 

おキヌ【えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?】

 

御成「ルージ殿が巨大な剣になりましたぞぉぉぉぉぉぉ!?」

 

美神「あんな事出来るの!?」

 

カオス「ふむ、人体を無視させる程のか、興味深いのう」

 

テレサ「いや、あれはマネしちゃダメでしょ;」

 

それに美神達が驚く中でディケイドはブレイドブレードを何回か振り回した後にブレイドのライダーマークが描かれたカードを装填する。

 

【FINAL ATTACKRIDE!B・B・B・BLADE!!】

 

ディケイド「おりゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

気合の咆哮と共に電撃を纏ったブレイドブレードによる必殺技、ディケイドエッジで両断して行く。

 

あらかた減った後にブレイドブレードを放すと元のブレイドに戻る。

 

ディケイド「ルージ、俺はウィスプを援護しに行くから雑魚退治頼む!」

 

ブレイド「分かりました!」

 

そう言ってウィスプへ駆け出すディケイドを背にブレイドは眼魔コマンドを切り裂く。

 

ディケイド「大丈夫か!」

 

ウィスプ「お、おう」

 

眼魔スペリオルを蹴り飛ばして距離を取らせた後に安否を聞くディケイドにウィスプは頷く。

 

そして並ぶとディケイドの左腰にあったライドブッカーからカードが1枚飛び出して自分を使えと光る。

 

ディケイド「せっかくだ。やってみるか!」

 

そう言ってカードを装填する。

 

【KAMENRIDE!FOURZE!!】

 

音声と共に上下に現れた円から噴き出した煙にディケイドが包まれ、それが収まるとディケイドはディケイドフォーゼになっていた。

 

美神「姿が変わった!?海東のは召喚で門矢君のは別のライダーに変身するって事?」

 

蛍「と言うかあれ、頭の形なんですか?大根?」

 

おキヌ「おむすびでしょうか?」

 

シルフィー「屋根?」

 

カオス「いやあれはロケットではないか?」

 

愛子「確かに見た目も宇宙服っぽい?」

 

Dフォーゼに驚く美神の後にそう言う蛍やおキヌ達にカオスがそう言い愛子も体の所を見てそう言う。

 

Dフォーゼ「宇宙ぅぅぅぅぅぅぅキターーーーーーーーー!!!!!」

 

ウィスプ「うお!?いきなり叫んでどうした!?」

 

シズク「と言うか宇宙じゃない」

 

その間にしゃがみこんだ後にバッと伸びて腕を上に突き出して叫ぶDフォーゼにウィスプは驚き、シズクは冷静にツッコミを入れる。

 

あ、ロケットなのか仮面の形…と美神達は思った。

 

Dフォーゼ「いやなんかこれに変身すると自然に…とにかく行くぞ!」

 

【ATTACKRIDE!LOCKET!】

 

そう言いながらカードを装填すると右腕にオレンジ色のロケットが装着されると火を噴出させてDフォーゼは勢い良く眼魔スペリオルへ突進する。

 

Dフォーゼ「ライダーロケットパンチ!!」

 

勢い良く振るわれたロケットパンチに眼魔スペリオルは吹き飛んで転がる中でもう1体の眼魔スペリオルが攻撃しようと向かって来る。

 

【ATTACKRIDE!WATER!!】

 

だが、それよりも前に装填されたカードで左脚に現れた蛇口から噴き出した水流に押されて地面に倒れる。

 

そのままDフォーゼは圧倒していく。

 

蛍「な、なんか凄いシュールですね」

 

美神「だけど戦い方は熟しているわね…普通の時もそうだけど私でもギリギリに近いわね…」

 

ウィスプ「っ…」

 

眼魔スペリオル2体や襲い掛かる眼魔コマンドをを両手両足に様々なのを出現させて戦うDフォーゼのに蛍がそう述べる隣で美神が真剣な顔で言った事にウィスプは仮面の中で顔を顰める。

 

ウィスプ「強いなディケイドは」

 

ディケイド「あ?」

 

距離を取ってから元に戻るディケイドに思わずそう言うウィスプにディケイドは顔を向ける。

 

ウィスプ「だってよ同じなのに俺より霊力の扱い長けてて、しかも知識もある。さらには一人前のGSだから俺は…「あほか」あいた!?」

 

そう言うウィスプにディケイドは強めにデコピンすると顔を抑えるウィスプにディケイドは体も含めて向き直る。

 

(BGM:パラレルワールド)

 

ディケイド「言っておくぞ。お前の時期に当て嵌めると俺はそん時より前はすっごい足手纏いだったんだぜ。陰陽術も出来ないし怖がって逃げまくったり、しかも美神さんの所でアルバイトをしたのは美神さんの美貌につられてだ。さらに言うなら本格的に修業したり独立してGSになったのもルージを助手にしたのもディケイドになったのは凄く先だ」

 

ウィスプ「ええ!?」

 

美神&シルフィー&ピート「うそ!?」

 

告白された事に驚くウィスプと美神達だったがその時のを聞いていた蛍とおキヌ、カオスにマリアと愛子などの逆行組は内心うんうんと頷いており、ゴーストTSと御成もそう言えばと思い出す。

 

門矢こそ横島は初期の頃から霊力のれの字も知らない煩悩のたっぷりな少年で美神の美貌などで突っ込んだ後に基準違反な程の安月給でアルバイトになりGSの世界へと入った。

 

その後も結構囮にされたり、災難にあったりなど色々とあったが様々な出会いを果たして今へと繋がる。

 

ディケイド「住んでたとこだってそうだ。ほとんどボロアパートで飯はコンビニの弁当やカップヌードルとかで豪勢じゃなかったんだぜ。それに比べたらお前は恵まれてるんだ。断言してやる。その時の俺だったら確実にお前に負ける」

 

ウィスプ「マジか…んじゃあどうやって今に繋がったんだ?」

 

断言された事に驚くウィスプは思わず聞く。

 

ディケイド「色んな人と出会って、大切な人や目標が出来てだな…それが俺の心に火を付けさせて…変わらせてくれた」

 

懐かしむ様に言うディケイドのにウィスプが言葉が出なかったがおキヌ達はディケイドの言葉に含まれてるのに顔を悲しませる。

 

ディケイド「だからこそお前は今皆を守れる姿に変身出来てるんだ。しっかり修業して、守ってやれ!大切な人達を!」

 

ウィスプ「ディケイド…」

 

???【その男の言う通りだな】

 

肩を掴んでそう言うディケイドにウィスプは押される中で隣からの声に顔を向けると眼魂が浮かんでいた。

 

その直後に眼魂が輝くとウィスプは眼魂へと吸い込まれる。

 

 

 

 

ウィスプ「こ、ここは…?」

 

五条大橋とは違う太鼓橋の上に立っている事に戸惑うウィスプの前に白色のパーカーを纏った黒一色の人間が現れ、ウィスプは眼魔!?と慌てて構える。

 

牛若丸【ま、待ってください主殿!】

 

ウィスプ「牛若丸?」

 

それに牛若丸眼魂が飛び出して制止した後に眼魂が輝いて光ると牛若丸は本来の姿で立っていた。

 

牛若丸に眼魔?は膝を付いて首を垂れる。

 

眼魔?「姿と世界ちがえど…お久しぶりです。よし…いえ、牛若丸様」

 

牛若丸「やはりあなたは弁慶なのですね」

 

ウィスプ「マジか!?」

 

懐かしむ様に言う眼魔?いや弁慶に牛若丸はそう言うとウィスプは驚く。

 

弁慶「こうやって性別も世界も違うとはいえ、あなた様にもう1度会えた事、この弁慶、うれしゅうございます」

 

牛若丸「私は、どう言葉にすればいいか分からないけど…ありがとう」

 

そう言う弁慶に牛若丸は複雑な顔でそう返す。

 

弁慶「勿体なきお言葉…そこのお主、名前は?」

 

ウィスプ「横島、横島忠夫だ」

 

牛若丸からウィスプへと向いて聞く弁慶にウィスプは名乗る。

 

弁慶「忠夫よ。お前には貫きたい信念はあるか?」

 

ウィスプ「貫きたい信念……ある」

 

問いにウィスプは右手を自分の胸に当てて静かに頷く。

 

蛍との出会いからのGSになる為の修業。

 

タマモとの出会いに美神達との出会い。

 

苦しい時もあったが楽しい時もあった。

 

ウィスプ「俺は…今まで俺を支えてくれて歩んできた皆を守りたい」

 

弁慶「それがお前の信念にして決意か……何と言われようと、己の信じる道を進め。それは尊い決意だ」

 

そう言うウィスプに弁慶はそう言ってからただし…と続ける。

 

弁慶「自分の視野を広げ、周りの意見にも耳を傾けろ。それもまた道を切り開く大切な事だ」

 

ウィスプ「……ああ、ありがとう」

 

忠告にウィスプは受け止めて礼を言う。

 

弁慶「さて、では外へと送る。そして俺を使え」

 

その言葉と共にウィスプの目の前は真っ白になる。

 

 

 

 

ディケイド「うお!?」

 

一方、ウィスプがベンケイ眼魂に吸い込まれた直後、ディケイドのライドブッカーから数枚のカードが飛び出して驚くディケイドの手に収まる。

 

何も描かれてなかったカードが光りを発すると絵柄が浮かび上がる。

 

それは3人の仮面ライダーで、ディケイドが見た事もない仮面ライダーであった。

 

だが、カードに浮かび上がりし彼らもまた、フォーゼの後に生まれ、ゴーストより前に戦った仮面ライダー…

 

己に迫りし絶望を希望へと変えて人々を絶望より守りし指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザード。

 

様々な出来事で振り回されたが自分の本当の強さと優しさを貫き変身した武者、仮面ライダー鎧武。

 

一度心のエンジンが止まったが人々を守るために再びイグニッションキーを差し込んだ刑事、仮面ライダードライブ。

 

ディケイド「これは…」

 

それにディケイドは驚く間にベンケイ眼魂が光り、そこから出て来た光りからウィスプが現れる。

 

蛍「横島!大丈夫!?」

 

ウィスプ「ああ!大丈夫だ!タケル!借りるぜ!」

 

安否を聞く蛍にウィスプはそう返した後にベンケイ眼魂を掴み、ゴーストドライバーにセットする。

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

音声の後にベンケイゴーストが現れて眼魔スペリオル達を攻撃した後にウィスプはレバーを引く。

 

【カイガン!ベンケイ!!アニキ!ムキムキ!仁王立ち!!】

 

音声の後にトライジェントとなったウィスプにベンケイゴーストが装着するとウィスプはベンケイ魂となり、出現したガンガンブレードの先端にカオスのマントから飛び出したムササビが合体する。

 

ウィスプBS「なんだこれ?」

 

カオス「そいつはクモランタンを元にしたムササビランタンじゃ!!ハンマーで殴り飛ばせ!!」

 

合体したムササビを見て呟くウィスプBSにカオスがそう言う。

 

ゴーストTS「良し俺も!ガリレオ!力を貸してくれ!」

 

ネクロム「ならばこちらも」

 

それにゴーストTSとネクロムは冥華から渡されたガリレオ眼魂とカメハメハ眼魂を取り出してセットする。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【イエッサー!ローディング!】

 

その後にパーカーゴーストが現れた後にそれぞれレバーとスイッチを押す。

 

【カイガン!ガリレオ!天体知りたい!星いっぱい!!】

 

【テンガン!カメハメハ!メガウルオウド!サウスアイランドキング!!】

 

音声と共にそれぞれ、仮面ライダーゴースト闘魂ガリレオ魂、仮面ライダーネクロムカメハメハ魂になる。

 

ゴーストTGS「はっ!」

 

【ダイカイガン!ガリレオ!オメガドライブ!!】

 

音声と共に両手にエネルギーを纏わせた後に上へ突き出すとエネルギーは放たれて五条大橋を包む様に周囲を囲むと宇宙空間の様な感じに変わる。

 

おキヌ【ま、周りが宇宙空間の様になっちゃいました!?】

 

美神「ガリレオは物理学者や哲学者以外に天文学者だった。自身が開発した高性能望遠鏡で月のクレーターや木星の衛星をも発見してさらに宇宙に関する事を発見しているからそれでなのかしら?」

 

蛍「だから無重力になってるんですか!?」

 

それに驚くおキヌの後に美神は推察する中で蛍は浮かびあがろうとする自分のスカートを抑えて叫ぶ。

 

その間にゴーストTGSはガンガンセイバーガンモードで攻撃し、ネクロムKSは手からエネルギー弾を放って眼魔スペリオルを攻撃する。

 

【ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!】

 

【ダイテンガン!カメハメハ!オメガウルオウド!!】

 

音声の後にゴーストTGSはエネルギーを収束したガンガンセイバーGMの銃口を向けて、ネクロムKSは両手を後ろに引くと手の間にエネルギーを収束させていく。

 

ゴーストTGS&ネクロムKS「はっ!」

 

【オメガシュート!!】

 

同時に放たれたゴーストTGSの木星の四大衛星を模したエネルギー弾とネクロムKSの気功波が眼魔スペリオルに向かっていき、眼魔スペリオルはマトモに受けた後に爆発四散する。

 

一方のブレイドとディエンドも背中合わせになって眼魔コマンドへと必殺技を放つ体制に入る。

 

ディエンドは自分のエンブレムが描かれたカードをディエンドライバーに装填、ブレイドはブレイラウザーの持ち手部分の所にあるカードケースを展開し、そこから2枚のカードを取り出してブレイラウザーの持ち手の近くにあるスリットにその2枚のカードをラウズする。

 

【SLASH!】

 

【FINAL ATTACKRIDE!】

 

【THUNDER!】

 

【DE・DE・DE・DE・END!】

 

【LIGHTNING SLASH!】

 

音声の後にディエンドの前に何層ものカードの渦が、展開され、召喚されていた響鬼、威吹鬼、轟鬼はそのカードの渦に吸い込まれ、ブレイドは後ろにラウズした2枚のカードの幻影が現れた後にブレイラウザーに吸収されて稲妻が迸る。

 

ディエンド「はっ!」

 

ブレイド「ライトニングスラッシュ!!」

 

ディエンドライバーから放たれた強烈な光弾が眼魔コマンドを包み込み、ブレイドも飛び出して向かって来る眼魔コマンドを両断して行く。

 

爆発を背にするブレイドをチビは目を輝かせてみていた。

 

ディケイド「せっかくだ!使ってみるか!」

 

【KAMENRIDE!GAIM!!】

 

その間にディケイドは新たに出たライダーカードで和風な鎧武のカードをセットするとほら貝の音と共に上から巨大なオレンジがディケイドに覆いかぶさる。

 

その後に巨大なオレンジが展開すると鎧となってディケイドは姿が変わったディケイド鎧武になる。

 

シルフィー「何、さっきの…?」

 

おキヌ【大きい蜜柑…ですか?】

 

美神「蜜柑ね」

 

D鎧武「いやびびっと来た情報だとこれの名称オレンジアームズッス!」

 

【ATTACKRIDE!DAIDAIMARU!MUSOUSABER!!】

 

外野のに答えた後にカードをセットして音声の後に現れた無双セイバーと大橙丸を握ってD鎧武はウィスプBSと駆け出す。

 

ウィスプBS「おりゃあ!」

 

D鎧武「はっ!」

 

ガンガンブレードHMの打撃と無双セイバー&大橙丸の二刀流による攻撃に与えて行く。

 

D鎧武「これで決めるぜ!」

 

【FINALATTACKRIDE!】

 

ウィスプBS「おう!」

 

【ダイカイガン!ガンガンミテロー!ガンガンミテロー!】

 

【Ga・GA・GA・GAIM!!】

 

音声の後にまずD鎧武が無双セイバーと大橙丸を合体させて無双セイバー長刀モードにした後に勢いよく振るい、その勢いで飛んだエネルギー波が変化して残りの眼魔スペリオル2体を拘束するオレンジの檻へとなる。

 

その間にウィスプBSはガンガンブレードHMを地面に叩き付けて紋章を発生させる。

 

ウィスプBS「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

D鎧武「せいはー!!!!」

 

【オメガボンバー!!】

 

勢い良く振るわれた無双セイバーNMからの斬撃と出現した紋章から発射された弁慶の七つ道具を模したエネルギー弾が眼魔スペリオル達に炸裂して爆発四散する。

 

それと共に発生していた空間は消えて元の五条大橋に戻る。

 

【オヤスミー】

 

ルージ「やりましたね横島さん!」

 

忠夫「おー…あいたた…」

 

門矢「ホント、難儀だな」

 

変身を解いて駆け寄ったルージに忠夫は返事をしてから体を抑えて、門矢はそう呟く。

 

カオス「とにかくベンケイ眼魂回収完了じゃな」

 

タケル「そうですね」

 

忠夫「ほい。ベンケイ眼魂」

 

そう締め括るカオスにタケルも頷いた後に忠夫からベンケイ眼魂を確かに受け取る。

 

美神「まぁ、これで依頼は解決。私も久々にお金が来たわ」

 

御成「そこなのですな;」

 

蛍「まぁ、美神さんだし」

 

んーーーーと背伸びして言う美神に御成は冷や汗を掻き、蛍は苦笑する。

 

美神「まぁ、とにかく京都を堪能しましょうか」

 

愛子「良いですね!一足早めの青春よ!」

 

忠夫「おいおい」

 

海東「まぁ、僕も京都を満喫するからすぐに戻りたいなら探してくれたまえ」

 

門矢「ちゃんと出て来いよな」

 

そう言う美神に愛子は賛同して忠夫は呆れる中でそう言う海東に門矢は注意する。

 

アリス「ようし!お兄ちゃん早速行こう♪」

 

ぐーちゃん「ぐー♪」

 

チビ「みーみーみみみ♪」

 

タマモ「コン!」

 

モグラ「うきゅう!」

 

タマモキャット「ワンワン!!」

 

忠夫「はいはい、そんなに急かさんでも逃げないぞ」

 

その後にアリスにせがまれて歩き出す忠夫に慌てて追いかける蛍達にカオスとピートはやれやれと肩を竦めるのであった。

 

 



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その10

 

京都で横島達が弁慶眼魂を手に入れている頃。卑弥呼眼魂を拾っていた琉璃は東京を離れ、地方の神社を回っていた

 

「そうですか、はい。ありがとうございました」

 

「いえいえ、何か異常があればご連絡いたします」

 

ぺこりと頭を下げる初老の神主さんに別れを告げて、手にしている手帳に×印をつける

 

(ここは大丈夫みたいね)

 

出張として私は色々な神社を回っていた。前の天竜姫が地上に訪れた時、魔族側の尖兵として利用されていた源義経の事もあるし、GS試験の時に乗り込んできた魔族のアスモデウスの事もある

 

(んー神社仏閣に祭られている英霊が狙われているっていうのは考えすぎだったかなぁ……)

 

その二件のことを考えて、もしかしたら各地のそう言った神社に何か仕掛けているのでは?と思って調査に来たんだけど今の所空振りが続いている

 

(横島君を警戒しているのかなあ……)

 

義経の魂を浄化して、牛若丸眼魂って言うのを手にしていた。横島君が妖怪とかに好かれるのは知っていたけど、タイガー君の力を借りたとは言え、高位の魔神に操られている英霊の魂を浄化し、機械の力を借りているとは言え神卸しを成功させた……

 

(こういうところも規格外なのよねえ……)

 

まさかそんなことまで出来るなんて想像もしてなかった……それは間違いなく、魔族のほうも同じだろう……

 

(手下を増やすつもりで英霊を操って、敵が増えたら意味が無いと思ったのかしら?)

 

手帳を閉じて服の中に戻して、ゆっくり石段を降りていく……

 

「とりあえずの所はもう良いか……」

 

武勲を挙げて有名な武将や、英霊としても怨霊としても有名な平将門公の所も出発の前見たけどそれらしい形跡は無かったし……1度東京に戻って将門公の所を見てGS協会に戻るとしましょう

 

「これも横島君に渡さないといけないしね」

 

出張に行く前に拾った丸い球体。眼魂と言うそれはかの有名な女王卑弥呼の魂が収められた眼魂らしいしね……懐から出した眼魂を見ながら歩いていると

 

「!?何者!?」

 

強烈な霊気を感じて、眼魂をポケットの中に戻して後ずさると

 

「……ソレヲモライにキタ。オトナシクワタセバ……キガイハクワエナイ」

 

白と赤の身体をし、両手の手の甲に鏡をつけ、顔の無い異形がこちらを見つめていた

 

(これを?なんで……)

 

霊力が効きにくい悪霊がいるという話は聞いていた。だけどそれは知性のない物だと聞いている……急に現れた片言とは言え喋る異形を見て

 

(あの悪霊の目的もこれ……)

 

横島君達が集めていると聞いていたから、間違いなく東京にも現れるはず……ここはなんとかして逃げないと……

 

(破魔札と精霊石位しか持って来てないのよねえ……)

 

精霊石を使えば逃げることは出来ると思っていたけど、効果が薄い悪霊では……どうやってこの場から逃げるか?と考えていると

 

「タシカニモライウケタ……サルガイイニンゲン」

 

そう言うと現れたときと同じように消えていく異形。貰い受けた?咄嗟にポケットの中に手を入れる、其処にあったはずの卑弥呼眼魂は無く

 

「やられた……」

 

あの異形の何らかの特殊能力で眼魂を奪われたことに気づいた私は思わず天を仰ぐのだった……

 

 

 

 

 

京都で弁慶眼魂を手に入れ、1日観光して帰ってきた俺達は今何をしているかと言うと

 

「美味いか?アラン?」

 

「ああ、悪くない。本で見たとおりだ」

 

ご満悦と言う感じでたこ焼きを頬張っているアラン。俺はたこ焼き器の前でたこ焼きを焼いていた……きっかけはと言うとアランが旅館で見つけた雑誌。そこで大阪特集をやっていて、たこ焼きに興味を持ったアラン。売っていたたこ焼きを買うと美神さんが言ったので、俺が家にたこ焼き器があると言ってしまったのがきっかけだ

 

「意外な特技ね。横島君、美味しいわよ?」

 

「どうもーまぁ、大阪で生まれた子の大半はたこ焼きを焼けるものっすよ?」

 

そんな風に喋りながらたこ焼きをひっくり返し続ける。

 

「そっちはー?」

 

「もうすぐ出来る」

 

流石別世界の俺だ。ちゃんとたこ焼きを焼く技能を持っていた門矢に一安心しながら、更にたこ焼きを乗せて

 

「はい。蛍、それにシズク」

 

座って待っていた蛍とシズクにたこ焼きの皿を渡すと

 

「んーいつも作る側だけど、こうして作ってもらうのも悪くないわね」

 

「……あつ……でも美味しい」

 

にこにこと笑う蛍とその隣でたこ焼きと格闘しているシズクに苦笑しながら

 

「と言ってもなぁ?俺が作れるの、たこ焼きとお好み焼きと蕎麦洋食と肉水くらいなもんだぞ?」

 

THE・大阪のソウルフード。俺が作ろうと思って作れるのはそれくらいだ

 

「でも美味しいわよ?ここら辺のよりよっぽど」

 

「……たこも大きいし、味もいい」

 

普段料理をしている2人に褒められるとなんか照れるなあと思っていると服を引っ張られる

 

「ん?」

 

「ぐー」

 

「みむー」

 

ぐーちゃんの頭の上にチビが座って、空いた皿を差し出している

 

「おかわりかー、すぐ用意するな?」

 

「みむう♪」

 

「ぐー♪」

 

チビには中に果物を詰めた、大阪人としてはうーん?と言う代物だが。本人が喜んでいるのでOK、ぐーちゃんには普通にたこ焼きだ

 

「ふーふー、はい。タマモちゃん」

 

「コン」

 

アリスちゃんはタマモとキャットにたこ焼きを冷まして、食べさせて笑顔で頭を撫でている。うんうん、頑張って焼いている意味もあるというものだ

 

「うふー。うふー」

 

「うん。モグラちゃんはもう少しゆっくり食べようか?」

 

うきゅ?と首を傾げるモグラちゃん。口の中がたこ焼きで一杯でまともに鳴き声を上げることが出来ないモグラちゃんに思わず苦笑しながら

 

「なー?おキヌちゃんもそろそろ機嫌直そうぜ?」

 

【むすー】

 

私だけ食べれないんですもん。と言ってさっきから背中に憑いているおキヌちゃんにそう言うが

 

【ぷい】

 

あーあ。完全にふてくされている……気が済むまで好きにさせてやるしかないか……

 

「フミ婆のたこ焼きを思い出すよ、うん、美味しい」

 

「そうですなータケル殿。アカリ殿達も心配しているでしょうし……早く戻れるといいのですが」

 

たこ焼きを食べながらそんな話をしているタケルと御成。どうもタケル達の世界にもたこ焼きを焼くのがうまい人がいるんだなあと思いながら、俺はチビ用の果物を入れたたこ焼きをひっくり返すのだった……

 

「横島。おかわりだ」

 

「少し休憩しろよ?」

 

さっきから1人でもりもり食っているアランに思わずそう呟く、服の色が黒なのでぐーちゃんそっくりだぞ?この食いしん坊が……俺は心の中でそう呟くのだった……

 

 

 

 

 

 

「オモチイタシマシタ」

 

「ご苦労。ノーフェイス、待機していろ」

 

「リョウカイイタシマシタ」

 

ノーフェイスの差し出してきた眼魂とやらを手の上に載せて観察する。別の世界ではこれがあればどんな奇跡も出来るらしいが……今こうして手にとって見てみてもそれほど大した力を持っているようには思えない

 

「駄目そうだな。やはり世界の違いか……」

 

机の上におかれている青い眼魂と手の中にピンク色の眼魂……これを利用すれば他の魔人の解放に役立つかと思ったが……それほど大した力を感じない

 

(ノーフェイスをコピーした眼魔とやらもあまり役立っているとは言えんしな……)

 

先日偶然この場所に流れ着いた眼魔と言う別の世界の悪霊。それを改造し、ノーフェイスを作ったが求めていた能力には程遠い

 

(だがまぁ使い捨て程度には役立つか……)

 

この眼魂とやらも1つや2つでは意味が無いのであって、複数集めれば私の求めている力を発揮する可能性もある

 

「まだ情報が足りない無いか……」

 

使えないと判断するにはまだ早いかもしれないな……使い魔を通して見ていたが、どうもこの眼魂とやらには人格があり、その人格の協力を得ることが出来ないから、求めている力を発揮していない可能性もある

 

「セーレ」

 

「うえー。まだ僕をこき使うの?もー疲れた」

 

部屋の隅で寝転んでいたセーレが身体を起こして文句を言う。ほーそういう態度を取るわけか……丁度実験したい薬品もあったから実験台になってもらうとするか、机の中からアタッシュケースに収めたガラス瓶を取り出す

 

「そうか、では新薬の披見体になってくれ。ソロモンを操る薬品を作ってみたんだが、まぁ分霊だ。腕がもげようが、頭が吹っ飛ぼうが……「何をしてるんだい?ガープ!どこにでも行くよ!僕はどこに行けばいいんだい!」そうか?疲れているなら「全然平気さ!」

 

ふん、最初から素直に私の指示に従っていれば良いものを……

 

「ノーフェイスを東京に連れて行ってくれ、そこに眼魂を集めている者がいる。それをノーフェイスに回収させろ」

 

「りょーかい、ノーフェイス、行くよー?」

 

「リョウカイシマシタ。セーレ様」

 

ノーフェイスを連れて、研究室を出て行くセーレの背中を見て

 

「待て、セーレ、ノーフェイス」

 

面白いことを思いついたので研究室を出て行こうとする2人を呼び止める。

 

「んー?なーに?ガープ」

 

欠伸をしながら言うセーレにお前じゃないと言って、机の上の2つの眼魂を掴み上げ

 

「ノーフェイス、これをお前に預ける。この力を使って他の眼魂を全て集めて来い」

 

ノーフェイスは私が改造している。何度も私の邪魔をしてくれた人間、横島の力は何度か見ている。英雄や神魔の力をその身に纏う……実に興味深い能力を持っている。無論この時間の特異点でもあることを差し引いても、十分に警戒するには十分な能力を見せている……っと話は逸れたが、ノーフェイスも似たような存在であることは判っている。その眼魂を使えるようになっているはずだ

 

「……リョウカイシマシタ。カナラズスベテノアイコンヲテニイレテミセマス」

 

「期待している、行け」

 

今度こそ2人を送り出し、私は眼魂ではなく、もっと大事な研究を再開することにした

 

「魔人開放……その為の術式は……」

 

香港の地に封印されている封印の要と一体化する形で封印されている魔人を開放する準備を調べ始めるのだった……

 

 

 

 

内密にと言って尋ねてきた神代琉璃の話を聞いて、私は溜息を吐きながら

 

「実に無様ですわね?それでGS協会会長とは悪い冗談にしか思えませんわ」

 

「うぐう……気にしてるのに」

 

机の上で突っ伏している神代琉璃。保管しておくべき物を持ち運んで奪われるという愚かとしか言いようの無いミスをしている。しかしこうして私を訪ねてきたと言う事は

 

「何か依頼があるのならお早めに、私も暇ではないのですよ」

 

じろりと睨みながら言うと琉璃は私を見て

 

「……横島君を自分の事務所に研修に来させるつもりでしょう」

 

「……卑怯とは思いませんの?」

 

確かに私は横島忠夫を自分の事務所に研修に来させるつもりだった。その為に破壊や暗殺から手を引いて、正規のルートでGSとして起業するのを決めたのだ

 

「手伝ってくれないと、研修許可出さないわよ?」

 

「死ね。腹黒」

 

まさかここまで準備して、それを妨害されてはかなわない、私は深く溜息を吐きながら死ねと言ってから

 

「手伝えばいいんでしょう。でも私は横島しか助けませんわ」

 

「それで良いわよ。やっぱり横島君が絡むと素直になってくれるから助かるわ」

 

くすくすと笑う神代琉璃。私はギロリと睨みながら

 

「さっさと帰りなさい、じゃないと本当に焼き殺しますわよ」

 

私が炎を作り出すとじゃあよろしくーっと言って逃げていく神代琉璃……逃げ足の速いこと……私は神代琉璃を家の中に招きいれたのは失敗だったと思いながら

 

(横島……どうしてもっと早く……いえ、まだ全然大丈夫ですわ)

 

もっと早く、そう芦蛍よりも早く出会えたらと思う。そうすれば、きっと横島は今芦蛍に向けている信頼を全て私に向けてくれただろう。そう思うと残念でならない

 

「仕方ありませんわ、これも依頼。仕事をしっかりこなすのもプロですからね」

 

貴方に会って、私は自分でも理解できない感情を持つ事になりました。でもそれは決して不快な物ではないです

 

「だから貴方に死なれては困ります」

 

この気持ちが何なのか?それを理解するまでは……貴方に死なれては困るんです。私は愛用の魔道書を脇に抱え

 

「それまでは私が護って差し上げますわ」

 

そう呟きくえすは屋敷を後にした。この時柩が側に居れば、きっとおかしそうに笑っていただろう。年相応の少女というべき柔らかい雰囲気を纏い、見た人間を魅了するような美しい笑みを浮かべていたのだから……

 



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その11

カブキとでよーと新選組

 

 

くえす「と言う事ですわ」

 

美神「そう。まさか眼魔側にヒミコ眼魂が取られるのは痛いわね…」

 

事務所に来たくえすが持って来た話しのに美神は机の上で腕を組んで厳しい顔をする。

 

タケル「こうなると残りの眼魂を見つけ出さないといけないな」

 

おキヌ【えっとベンケイの次の眼魂は?】

 

御成「それは勿論。ゴエモン殿ですぞ!」

 

顔を顰めて言うタケルの後に聞くおキヌに御成がテンションを上げて言う。

 

忠夫「なんか御成。テンション高くね?;」

 

タケル「あー、御成ってゴエモンの事を気に入ってて」

 

蛍「だから;」

 

御成「それでカオス殿!ゴエモン殿はいずこに!」

 

カオス「落ち着けい…まずはベンケイ眼魂をセットしてからじゃ」

 

それを見て目を点にする忠夫にタケルは理由を言い、蛍は納得する間に御成はカオスに詰めより、詰め寄られた本人はそう言いながらタケルから預かったベンケイ眼魂を眼魂レーダーにセットする。

 

ピコーン!

 

カオス「出たぞ!しかも東京内じゃ!」

 

御成「どこですか!どこに落ちているんですか!!」

 

そう言うカオスに御成はしがみ付いて聞く。

 

カオス「ええい暑苦しいぞ!場所は…ん?これは…」

 

美神「どうしたの?」

 

引きはがしてから言おうとして顎に手を当てるカオスに美神は聞く。

 

カオス「眼魂が…移動しておる。方向的に見て、ここに近づいておる。しかももう1個、眼魂が一緒に移動しておる」

 

タケル「もう1個も!」

 

告げられた事に誰もが驚き、慌てて外に出る。

 

美神「どっち!」

 

カオス「こっちじゃ!」

 

問う美神にカオスはそう言って指し示した方へと一同は走る。

 

向かって行くと歩いてくる少女が見えて来る。

 

その髪の色は桜を感じさせ、服もピンク色の着物に紫色の袴を身に着けている。

 

忠夫「あれ…沖田ちゃん!?」

 

門矢「え?沖田ってあの沖田総司?」

 

おキヌ【はい、そうですよ】

 

その少女を見てすっとんきょんに声を漏らす忠夫の隣で違い過ぎね?と自分が会った人斬りに飢えているアブナイ性格の男(沖田総司)を思い出しながら門矢が聞いておキヌが肯定する。

 

沖田「あ、横島さ~んって2人!?」

 

美神「久しぶりね沖田さん。一体どうしたの映画から出て来て?」

 

気づいて手を振ろうとして門矢を見て驚く沖田に美神は苦笑しながら聞く。

 

沖田「実は…」

 

海東「待ちたまえ」

 

出て来た理由を言おうとした沖田だったが現れた海東が止めると共にとある方向にディエンドライバーを構える。

 

海東「出て来たまえ、君の狙いはわかっている」

 

門矢「そう言う事か!」

 

その言葉に門矢も前に出て、美神達も沖田を自分たちの後ろに移動させながら身構える。

 

すると眼魔コマンドと眼魔スペリオルと共に現れたタケルと御成、アランが見た事もない眼魔にくえすはあれが…と呟く。

 

くえす「あなた、神代瑠璃から眼魂を奪った眼魔ですわね」

 

眼魔「ソウダ…」

 

アラン「貴様、何者だ。お前の様な眼魔は見た事がない」

 

問うくえすに眼魔は肯定し、メガウルオウダーを装着しながらアランは問う。

 

眼魔→ノーフェイス「ワガナはノーフェイス…ソウゾウシュにヨリツクリダサレタガンマナリ」

 

タケル「作り出された!?」

 

門矢「つまり、この世界の眼魔って事か」

 

名乗るノーフェイスにタケルが驚く中で門矢はディケイドライバーを装着する。

 

ノーフェイス「オマエタチノアイコン…ワタシテモラオウカ」

 

タケル「やっぱり眼魂が狙いか!」

 

アラン「お前の様な奴に渡さん!」

 

その言葉と共にそれぞれ変身の態勢に入る。

 

京都から帰ってそんなに日が経ってないのに……と忠夫は愚痴りながらもドライバーを出す。

 

【一発闘魂!!アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

【【KAMENRIDE!】】

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

タケル&アラン&ルージ&門矢&忠夫&海東「変身!」

 

【闘魂カイガン!ブーストッ!!オレがブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

【ターンアップ】

 

【DECADE!】

 

【DE・END!】

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ・ゴーストッ!】

 

それぞれライダーの姿に変身すると駆け出す。

 

その後にノーフェイスは眼魂を持つゴーストTSたちをメインにしているのかディケイドとブレイド、ディエンドは眼魔コマンドや眼魔スペリオルを相手に差し向けて、後の3人と対峙する。

 

ゴーストTS「お前が盗んだヒミコ眼魂を返して貰うぞ!」

 

ノーフェイス「ソレハムリダナ。コレラはワガアルジのタメニヒツヨウダ」

 

そう言ってノーフェイスは左手でピンク色の眼魂と紫色の眼魂を取り出す。

 

ゴーストTS「ヒミコ眼魂以外にノブナガ眼魂まで!?」

 

ネクロム「ならば力づくで奪うだけだ」

 

ノーフェイス「ソレハコチラノセリフダ」

 

ノーフェイスが取り出したのに驚くゴーストTCにネクロムがそう言うとノーフェイスは右手の手の平に装着された鏡にヒミコ眼魂を映し出す。

 

HEMIKO!

 

するとノーフェイスが身に纏っていた真紅のパーカーが見覚えのあるピンク色のパーカーへと変わり、顔も見覚えのある顔に変わる。

 

ネクロム「何!?」

 

ゴーストTS「あの姿は!?」

 

ノーフェイスHS「ふん!」

 

驚く2人にノーフェイスHSは手からピンク色の炎を放つ。

 

慌てて3人は避け、続けて撃たれるのに回避し続ける。

 

ネクロムやウィスプはともかく、魂の状態であるゴーストTSが食らえば急所になりかねない。

 

ゴーストTS「エジソン!」

 

ネクロム「遠距離ならばこいつだ」

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【イエッサー!ローディング!】

 

攻撃が止んだ所でそれに対してゴーストTSはエジソン眼魂を、ネクロムはグリム眼魂を取り出して、セットする。

 

その際、ウィスプはノーフェイスHSが右手前に付き出して変な動きをさせているのに気づく。

 

ウィスプ「(なんださっきの?)」

 

【カイガン!エジソン!エレキ!ヒラメキ!発明王!!】

 

【テンガン!グリム!メガウルオウド!ファイティングペン!】

 

疑問を感じてる間にゴーストとネクロムはそれぞれ闘魂エジソン魂とグリム魂となるとゴーストESがガンガンセイバーGMで炎を撃ち落とし、ネクロムGSが肩部分のペン先型の『ニブショルダー』を使って刺突攻撃を繰り出して突きで吹き飛ばす。

 

ノーフェイスHS「グッ!ダガ、コピーサセテモラッタ」

 

GRIMM!

 

それに対してノーフェイスHSはそう言った後にパーカーがグリムパーカーゴーストのに変わる。

 

ネクロムGS「何!?」

 

ゴーストES「今度はグリムになった!?」

 

それに2人は驚いた後にノーフェイスGSのニブショルダーによる攻撃を受けて吹き飛ぶ。

 

ウィスプ「2人とも!うお!?」

 

それにウィスプが叫んだ後にニブショルダーのエネルギーチューブの部分で拘束された後に引っ張られて左手で首を掴まれる。

 

EDISON!

 

その後に今度はエジソンパーカーゴーストのに変わるとウィスプへと電撃をぶつけ、ウィスプの体に火花が迸る。

 

ウィスプ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

蛍「横島!」

 

ゴーストES「くっ!ニュートン!」

 

【カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか!】

 

それに蛍が悲鳴を上げて、ゴーストESは救出しようとニュートン眼魂を取り出してセットして闘魂ニュートン魂になって左手の引力でウィスプを引っ張って引き寄せようとする。

 

ノーフェイスESはゴーストTNSがニュートン眼魂を出した際に右手を突き出したままの態勢であっさりとウィスプを放し、ゴーストTNSは引っ張られて来たウィスプを受け止める。

 

ゴーストTNS「大丈夫ですか!?」

 

ウィスプ「お、おう…」

 

ノーフェイスES「次はこれだ」

 

NOBUNAGA!

 

声をかけるゴーストTNSになんとかウィスプは返した後にノーフェイスESは今度はノブナガパーカーゴーストに変えた後に沢山の火縄銃が現れてゴーストTNS達を攻撃する。

 

それにゴーストTNSは右手の斥力で防御壁の様なのを作り上げて防いで受け止めた後に銃弾を返す。

 

NEWTON!

 

戻って来るのにノーフェイスESもニュートンパーカーゴーストに変えて同じ様に斥力で受け止めると変えた事により影響か銃弾は消える。

 

美神「なんて奴なの…タケルくん達と同じ様にゴーストチェンジが出来るなんて…」

 

沖田「あわわ!ピンチって事ですか!」

 

くえす「そうですわね。十八番を相手を使えると言う事ですからね…」

 

状況に苦い顔をする美神の隣で慌てる沖田のにくえすは厳しい顔で見る。

 

???【ああ、もう!見てられんぜよ!】

 

???2【おう、オレッチ達も向かおうぜ!】

 

すると沖田からその声がした後に彼女の懐から何かが出た後に、群青色のパーカーゴーストと黄緑色のパーカーゴーストとなって飛んで行く。

 

御成「おお!リョウマ殿にゴエモン殿!!」

 

美神「あれが!しかもそれぞれ有名な坂本龍馬と石川五右衛門!」

 

おキヌ【あ、そっか!どちらとも主に活躍されたのが江戸だったから新選組の沖田さんの所に!』

 

沖田「あ、はい。突如、現れてビックリしましたが話を聞いてどうしようかと悩んで相談しに来たんです」

 

それに御成は喜び、美神とおキヌのに戸惑いながら沖田は説明する。

 

その間にゴエモンパーカーゴーストとリョウマパーカーゴーストはノーフェイスNSに体当たりした後にゴーストTNS達の所へと飛ぶ。

 

ゴーストTNS「2人とも!」

 

ゴエモン【待たせたなタケル!】

 

リョウマ【ワッシらも戦うぜよ!と言う訳でそこの青年!おまんにワシの力を貸してやるぜよ!】

 

ウィスプ「お、おう!」

 

そう言ってリョウマとゴエモンはそれぞれ眼魂に戻った後に2人はそれぞれ掴んでドライバーへとセットする。

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

音声の後に再びパーカーゴーストが現れ、ノーフェイスNSへ再び体当たりを仕掛けて吹き飛ばした所で2人はレバーを引く。

 

【カイガン!ゴエモン!歌舞伎ウキウキ!乱れ咲き!】

 

【カイガン!リョウマ!目覚めよ日本!夜明けぜよ!】

 

音声の後にゴーストTNSは闘魂ゴエモン魂に、ウィスプはリョウマ魂になる。

 

ゴーストTGS「行こう!横島さん!」

 

ウィスプRS「おう!」

 

そう交わした後にゴーストTGSはサングラッシャーを逆手に持ち、ウィスプRSはハットクロックとガンガンソードSMを構えて駆け出し、ノーフェイスNSはパーカーをノブナガパーカーゴーストに変えると銃撃をする。

 

それに対してゴーストTGSは身軽な動きで避け、ウィスプRSはガンガンソードSMで銃弾を斬り払いしつつハットクロックで攻撃する。

 

ノーフェイスNSは銃撃を受けて怯んだ所をゴーストTGSの袈裟斬りにウィスプRSの横斬りを受ける。

 

沖田「うう…私も戦えれば…」

 

ディエンド「ならばその願いを叶えよう」

 

そんな戦うウィスプRSを見て唸る沖田にいつの間にか近づいていたディエンドがそう言ってあるカードを取り出す。

 

それは何も書かれていないブランクカードでさらにブランク眼魂を取り出す。

 

カオス「あ、ブランク眼魂、何時の間に!?」

 

ディエンド「さて、何も描かれていないカードにこのブランク眼魂を手を合わせてくっつけると…」

 

それに驚くカオスを無視して言いながら拝む様にブランクカードにブランク眼魂をくっつける。

 

その際、カオスはディエンドの手に『融・合』と浮き出た太極文殊があるのに気づく中でブランク眼魂はカードへと吸い込まれた後にカードにブランク眼魂の絵柄が浮かぶ。

 

【ATTACKRIDE!BLANKAIKON!】

 

ディエンド「痛みは一瞬だ」

 

沖田「え?ほわ!?」

 

その後にカードをディエンドライバーに装填して沖田に向けてトリガーを引くと出て来た銃弾が沖田に命中したと思ったら沖田は輝いた後に白い所がピンクと水色の三角模様が付いた眼魂に変わる。

 

沖田【なんですかこれ!?】

 

おキヌ&蛍【「沖田さん!?」】

 

美神「ちょっとあなた何したの!?」

 

ディエンド「彼女の願いを叶えただけさ、この世界の横島、受け取りたまえ!」

 

驚きの声をあげる沖田におキヌも驚き、美神が詰め寄る中で涼しげに返した後に沖田眼魂を掴んでウィスプRSに向けて投げる。

 

ウィスプRS「え!?ちょ、おお!?」

 

あ~~~~れ~~~~!!?と声をあげながら飛んで来る沖田眼魂をウィスプRSは慌てながらキャッチする。

 

ウィスプRS「大丈夫か沖田ちゃん!?」

 

沖田【は、はい…なんとか…】

 

リョウマ【なっさけないのう。お前さん一応この世界の新選組じゃろ?】

 

安否を聞くウィスプRSに沖田は眼魂の目を回しながら答え、リョウマがそう言う。

 

そんなウィスプRSにノーフェイスNSは左手の手のひらを沖田眼魂へと向けようとし…手のひらを撃ち抜かれる。

 

ノーフェイスNS「グア!?」

 

ディエンド「やはり左手の方は盗む為に使う奴だったかい。それを使い、神代瑠璃から眼魂を盗んだんだね」

 

それにより左手の手のひらの鏡が壊れ、手を抑えるノーフェイスNSに撃った本人であるディエンドはそう言う。

 

ウィスプRS「と、とにかくやるぞ沖田ちゃん!」

 

沖田【は、はい!】

 

折角なったのだから使ってあげる事にしたウィスプRSに沖田も返事をした後にリョウマ眼魂と換えられる。

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

音声と共に新選組の羽織を模した桜色のパーカーゴーストが現れた後によれよれ~とトランジェントの状態となったウィスプの周りを飛び、その様子に大丈夫かな…と思いながら、ウィスプはレバーを引く。

 

【カイガン!沖田!病弱・虚弱・薄幸の剣士!!】

 

その音声の後にパーカーゴーストを纏い、顔には日本刀が×マークを描いて現れる。

 

ウィスプOS「って、なんやさっきの音声!?全然新撰組要素なかったんやけど!?」

 

沖田【げほ、ごほ…すいません横島さん。調子が…】

 

なった後に音声のにツッコミを入れるウィスプOSはせき込むながらの沖田の言葉にええ!?となる。

 

くえす「つまり…今の姿は沖田の本来の力を出せない状態って事ですわね」

 

美神「全然だめじゃない!と言うか女の子に銃を向けるってあんたは!」

 

ディエンド「後押ししただけだよ」

 

そういうくえすの後に美神は叫ぶとディエンドはスルーする。

 

ウィスプOS「と、とにかく行くぜ!」

 

そう言ってウィスプは駆け出した瞬間…ノーフェイスNSが目の前にいた。

 

ウィスプOS「おお!?」

 

ノーフェイスNS「ガハッ!?」

 

それにウィスプOSは驚き、ノーフェイスNSは突進と言う形でのぶつかりに吹き飛ぶ。

 

ゴーストTGS「は、速い!」

 

ネクロムGS「先ほどのは眼魂の力なのか?」

 

ゴーストTGS達からはウィスプOSが駆け出した途端にもうノーフェイスNSの前にいたと言う事だ。

 

蛍「い、今のって!?」

 

ディエンド「成程ね。沖田魂は沖田総司が身軽だったのもあって機動力が高い様だね」

 

美神「と、とにかく今よ横島くん!」

 

ウィスプOS「う、うっす!行くぞ沖田ちゃん!」

 

沖田【は、はい!】

 

【ダイカイガン!ガンガンミテロー! ガンガンミテロー!】

 

驚く蛍にディエンドはそう言い、美神がそう言ってウィスプOSは頷いてガンガンソードSMにアイコンタクトする。

 

その後に沖田総司の『平晴眼』の構えを取る。

 

沖田【行きます!「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……!】

 

その言葉と共にウィスプOSは踏み込みの足音が一度しか鳴らさず、ノーフェイスNSに接近し…

 

【オメガスラッシュ!】

 

ウィスプOS&沖田「【無明参段突き!!】」

 

突き出された同時に出された3つの突きが炸裂する。

 

ノーフェイスNS「グアァァァァァァァァァ!!」

 

必殺技を受けたノーフェイスNSは吹き飛んだ後に地面を転がり続けた後に…その姿が消える。

 

ディケイド「消えた!」

 

ブレイド「逃げられたのでしょうか?」

 

それに倒し終えたディケイドが近寄り、ブレイドは周りを見る。

 

【オヤスミー】

 

忠夫「ぬぉぉ…大丈夫か沖田ちゃん」

 

沖田「そ、そう言う横島さんこそ…げふ」

 

変身を解き、取り出した沖田眼魂から出て来た沖田に痛みを我慢しながらそう聞く忠夫に沖田はよろよろしながら返す。

 

タケル「それにしても…残りの眼魂は1つ…サンゾウ眼魂だけ…」

 

美神「それじゃあさっさと回収した方が良いわね。カオス、レーダーを」

 

カオス「そ、それが…」

 

それを見た後にそう呟くタケルにノーフェイスの事を考えてお願いする美神だがカオスの声に振り返る。

 

すると眼魂レーダーが煙を吹いていた。

 

カオス「さっきのノーフェイスのでじゃろうか…壊れてしもうたから直す時間をくれ;」

 

美神「もーーーー!!」

 

門矢「(サンゾウな…一応心当たりはあるが…うーん)」

 

そう言うカオスに美神は頭を抱える中で門矢は唸る。

 

 

一方、妙神山にて…

 

最高責任者である猿神は目の前で座禅をしている2人の存在と共に座禅をしていた。

 

1人は自分の師、もう1人は…黒い姿にパーカーを纏った姿の別の世界の師

 

斉天大聖「(さて、横島に天空寺タケルよ。来るのを楽しみにしておるぞ)」

 

そんな2人を見ながら斉天大聖はそう心の中で呟く。



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その12

ノーフェイスと名乗った眼魔の襲撃を退けた後。俺達は弱っている沖田総司を1度家に連れて帰り休ませることにした。

 

こっちの世界の美神さん達はノーフェイスと名乗った眼魔についての話し合いをする為に、1度この世界のGS協会の会長だと言う神代琉璃と言う人を迎えに行っている。

 

戻ってくるまで暇つぶしにはなるだろうと思い、手を伸ばした。

 

こっちの世界の映画の新撰組のパンフレットを見ながら部屋の隅に視線を向ける

 

「げほっ!ごほっ!うー……」

 

布団に横たわり激しき咳き込んで呻いている少女の姿をした沖田総司を見て

 

(この世界でもあの映画の監督頭おかしいんだな)

 

自分の世界の人斬りに飢えた沖田もおかしいけど、女の子にするって言う発想は正直どうなんだろうか?

 

「大丈夫か?沖田ちゃん?」

 

「あー横島君。ええ、全然大丈夫……がふっ!?」

 

「「「全然大丈夫じゃないだろ!?」」」

 

最後まで言いきることなく吐血する沖田に思わず俺達の突っ込みの声が重なるのだった

 

「だーかーらー無理したら駄目だっていつも言ってるだろ?」

 

横島が濡れタオルを絞りながら沖田に説教している。俺はその姿を見て

 

(一瞬お袋が見えた……)

 

俺がこの世の中で一番怖いと思う実母の姿が見えた。

 

これはもしかするとチビとかタマモとかと暮らしているのがきっかけでお袋の力にも目覚めているということなのだろうか?

 

「うーすいません横島君」

 

怒られた沖田もしょんぼりしている、おかしいな、見た目的には沖田の方が年上に見えるんだけど

 

「あれなんか凄いな。蛍」

 

「横島強くなってるわよ、いろんな意味で」

 

その一言にどれだけの苦労が込められているのか理解してしまった俺が反応に困っていると御成が

 

「沖田殿は血を吐いておられましたし、病院に連れて行くほうが良いのでは?」

 

これは幽霊とかの知識がないから強く言えないが、幽霊は病院では見て貰えないのだと説明しようとすると蛍が

 

「あーこれ病気とかじゃないのよ。強いて言うと設定かしら?」

 

設定?どういうことだ?と俺達が顔を見合わせていると

 

「えーとですね、簡単に言うと沖田総司って言われるとどんなイメージがありますか?」

 

布団で寝転んだまま尋ねてくる沖田。沖田総司って言えば剣術の天才で、新撰組の一番隊隊長……あ

 

「「「病弱!」」」

 

俺と御成とタケルの声が重なる。

 

沖田総司と言えば病弱と言うイメージがある

 

「そう、それなんですよ。皆さんのイメージが私の病弱って言うのを形作ってまして、ある意味私の象徴になっているんでこれは治らないんですよ。映霊ってのは辛いですね」

 

あははと苦笑する沖田から聞きなれない言葉が聞こえた。アランもそう思ったのか

 

「英霊とは?」

 

その問いかけに沖田ではなく、横島が答える

 

「映画の幽霊で英霊って美神さんが命名した。普通の幽霊とは違うけど、霊体だしんで……えーとなんだっけ?」

 

肝心な所を忘れてしまったようで蛍のほうを向く横島。

 

蛍は仕方ないわねと苦笑する。

 

これはある意味俺が失ってしまった理想の世界、だからこそなんとかしてこの事件を解決して、この世界の俺と蛍に幸せになってほしいと思う

 

(あーでもなぁ)

 

俺の時には居なかったタマモとかシズクとかの事を考えると、人外に好かれるのが異様にパワーアップしてる。

 

なんかまだ騒動がありそうだなあと思わず苦笑してしまう

 

「映画って言うのは想いが篭りやすいのよ、それに元になった人が居たりするとその魂と思いが結合して作られた幽霊になるの、それが映霊って物らしいわ」

 

んー俺の世界にはそういう幽霊は居ないけど……もしかするとこの世界特有の者なのかもしれない

 

【みなさーん、とりあえず軽く昼食にしましょうか?】

 

「……それなりの物だけどな」

 

キッチンからおキヌちゃんとシズクが山盛りのおにぎりの乗った皿と味噌汁の入った鍋を持って来る。

 

またすぐに出かける必要があるのでこんなものだろうな、俺は机の上に置かれたおにぎりに手を伸ばすのだった……

 

 

 

「そうですか、ノーフェイスが……お疲れ様でした」

 

私を訪ねてきてくれた美神さん達にそう声を掛ける。

 

私が奪われた眼魂のせいで状況が悪くなってしまったのだから、これは私の責任だろう

 

「まぁ過ぎたことを言っても仕方ないわ。残っている眼魂は1つ。サンゾウ眼魂。これだけはなんとしても確保しておきたいのよ」

 

サンゾウ……西遊記の三蔵法師だろう。

 

恐らくとしてだが、その能力は幽霊に対して強い力を持っているだろう

 

「天空寺タケルが不利になるのは確実ですし、横島やアラン達もきっと不利になると思いますわ」

 

神宮寺の言葉に頷く、横島君が変身するウィスプと言うのは調べた結果、一時的に幽霊と同じ存在になる為霊力を用いて戦うのだが、その反面浄化の霊力に弱いという欠点がある

 

「ヒミコ眼魂を使用したノーフェイスの攻撃で、横島達がかなり大ダメージを受けていたのを考えると、サンゾウをノーフェイスに渡す訳にはいかないのですが……」

 

神宮寺がレポート用紙を見ながら、溜息を吐く。私のところを訪ねてきた理由は大体予測がつく

 

「サンゾウ眼魂があるかもしれない場所ですか……残念だけど私には心当たりはないですよ?」

 

私は確かに巫女だけど、神代家の方からそういった物を見つけたという報告は受けてないし……唐巣神父からも聞いてないですよ?と返事を返す。

 

そもそも唐巣神父は今は日本には居ないので見つけている可能性はかなり低いはずだ

 

「神代家でも情報は何も無いのですか?」

 

「全然全く、私が奪われたヒミコくらいよ」

 

奪われたヒミコ眼魂が落ちていたと聞いて出張して回収しに行ったのだから、もう見つけたと言う情報は私に元には入ってきていない

 

「GS協会から柩に協力要請を出して貰えるだけでいいのよ?」

 

私としても柩に協力して貰えるのが一番だと思うのだけど……

 

「今連絡つかないんですよ、柩」

 

電話しても電話は繋がらないし、出かけて行っても屋敷にも居ないし……

 

「それは神宮寺の方が知っているんじゃないの?友達でしょ?」

 

私よりも神宮寺の方が柩に詳しいでしょ?と尋ねると神宮寺は渋い顔をして

 

「琉璃の依頼を受けていると聞きましたが?」

 

「私依頼なんか出してないわよ?どうせめんどくさいからとか言ってふらついているんじゃない?」

 

柩のことだ、今回の事も自身の能力で察知して見物する為にあっちこちであるいているんだと思う

 

「そっか……ありがと、それと悪霊とかの情報があったら連絡して」

 

「すいません、あんまり力に慣れなくて」

 

尋ねて来てもらって申し訳ないが私に協力できることではない、美神さんもそれが判ったのか蛍ちゃんと神宮寺を連れて私の部屋を出て行き

 

「くひ!やー疲れた疲れた」

 

突然聞こえてきた声にぎょっとして振り返ると柩が結界札を破きながら笑っていた

 

「いつからいたの?」

 

全然気がつかなかった、もしかして私が帰ってくる前にこの部屋に隠れてた?

 

「くひひ♪1週間くらい前からだね。ここはいいねー?お風呂も布団もあるし、キッチンもある」

 

上機嫌で笑う柩。絶対未来視の能力を使って見回りとかが来る時間を見て逃げてたわねと思いながら

 

「どうして美神さん達に協力しないの?」

 

私がそう尋ねると柩はソファーの上に座りながら

 

「いやぁ?ボクの体力で妙神山に連れて行かれたら死んでしまうよ」

 

妙神山?まぁ確かにあそこにいくには柩の体力では無理があると思う

 

「そこに三蔵法師が居るの?」

 

「法師って言うかあれは……」

 

そこで言葉を切った柩は何かを考える素振りを見せ

 

「切れている時の唐巣神父に人の話を聞かない横島がプラスされたような……破壊者?」

 

「それ何かの間違いじゃないかしら?」

 

おかしいな?私の思っている三蔵法師のイメージと違いすぎる、でもぶるぶると震えている柩を見ていると嘘じゃないと判る。

 

(横島君達大丈夫かしら?)

 

きっとこれから妙神山に行く事になるであろう横島君達のことを心配しながら

 

「何か飲む?」

 

「甘めの温いココア」

 

とりあえず今私に出来ることして、青い顔をしている柩にココアを入れてあげることにするのだった……完全な不法侵入なんだけど、柩は舞と同じ歳だからかなあ、なんか反応が甘くなっちゃうのよね

 

(元気にしているかしら)

 

近いうちに東京に来るとは言っていたけど……もう何年も会ってない妹の舞の事を思わず考えてしまうのだった……

 

 

 

琉璃が横島達の心配をしている頃。横島達はと言うと

 

「みむむみーむみみみー♪」

 

ぽーん

ぽーん

 

机の上で毛糸で作られたボールを器用にヘディングしながら歌っているチビを見てほんわかしていた……

 

「みーむみみむむいうみー」

 

ぽーん

ぽーん

 

ボールを見ることなく歌いながらボールをヘディングし続けるチビ。実に器用なグレムリンである

 

「みみーむみうー♪」

 

大きくボールを跳ね飛ばして、くるっと回転して尻尾を振り

 

「みーむむうーみーみみー♪」

 

ぽーん

 

「「おお!?」」

 

後ろを向いたまま尻尾でボールを高く打ち上げて

 

「みーむむっ♪」

 

ボールが机の上で跳ねると同時にジャンプしてその上に乗ってポーズ

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

思わず拍手が飛び出る。いつの間にこんなことが出来るようになったのだろうか?

 

「シズク殿。チビ殿は悪魔なのでござろう?あれではただのぺっ「みーむー!」ふぉおおお!?」

 

ペットと言われかけたチビが電撃で御成を威嚇する。チビは使い魔なので断じてペットではない、そこは重要だ。どれだけ愛嬌を振りまいていても使い魔は使い魔。ちっちゃくても強いのだ

 

「みむう♪」

 

どうだった?どうだった?と尋ねてくるチビの頭を撫でながら

 

「凄かったぞ~」

 

いつの間にかこんなに凄い曲芸を覚えていたチビを褒める。するとチビは

 

「みむう♪」

 

嬉しそうに鳴いてくるくる回っているチビ。大変愛らしい素振りに思わず笑みが零れてしまう

 

「う、うきゅ?」

 

モグラちゃんはチビの真似をしようとしているのかボールを頭の上でヘディングしようとするが、明後日の方向に飛んでいってしまいしきりに首を傾げている

 

「ほら」

 

毛糸のボールを摘んでモグラちゃんの前に置くと

 

「うーきゅー」

 

前足でボールをはじいて頭の上に持っていくが

 

「うきゅ!?」

 

ぽこっと言う乾いた音を立ててころころと転がっていくボール。

 

うーむ、チビは簡単そうにしていたが、これは実はとんでもなく難しいんじゃ?

 

「みむーみみーう」

 

「う?きゅー」

 

チビがモグラちゃんに何か話しかけて2人で机の上を降りていく、もしかして2人で練習でもするのだろうか?

 

「うむ、横島。チビとモグラちゃんは可愛いな、見ていて和む。グンダリとは大違いだ」

 

おにぎりを頬張りながらアランがそう呟く、1人で俺達の倍は食っている……その底なしの食欲に若干の恐怖を感じながら

 

「グンダリってなんだ?」

 

聞き覚えのない生物の名前が気になり尋ねるとタケルが

 

「んー馬鹿でかい空飛ぶ芋虫?」

 

「何それ怖い」

 

え?空飛ぶしでかいの?俺が驚いているとアランが腕組しながら

 

「電撃と火炎放射なども出来るぞ!」

 

……そんな危険生物がアラン達と一緒に来なくてよかった。俺は心底安堵するのだった……

 

「そろそろ美神さん達が戻る頃だな」

 

時計を見ながら門矢がそう呟く、琉璃さんの所に行っているだけだから確かにそろそろ戻ってくる時間だろう。出迎えの準備をしたほうがいいかな?と思っていると

 

コンコン

 

窓ガラスが叩かれる音が響く、誰だろうか?と皆で振り返ると

 

「お、お前は!?八兵衛!?」

 

「うお!?でかい怪物!?」

 

「なんだこの珍妙な生き物は!?」

 

門矢とアラン達がそう叫ぶ、その気持ちは確かに分かる。八兵衛はぱっと見どう見ても神様には見えないからな

 

「横島君。久しぶりだな、元気そうで何より」

 

縁側に座り込んでそう笑う八兵衛。

 

神様が一体何をしに来たのだろうか?あと出来れば

 

「悪い、今病人が居るから家の中で話しをしてくれるか?」

 

リビングでうーんうーんっと唸っている沖田ちゃんが居るので家の中に入ってくれと言うと

 

「む?それは失礼した」

 

そのまま家の中に入って来ようとする八兵衛だが……

 

「……足を拭け、部屋が汚れる」

 

嫌そうな顔をして雑巾を投げるシズク。

 

毎日綺麗にしているからそのまま土足ではいられるのは嫌だっただろうなあと思いながら

 

「悪いけど足綺麗に拭いてくれな?シズクを怒らせると怖いんだ」

 

「うむ、某もシズク殿を敵に回す勇気はない」

 

縁側に再度座り込んで足袋を綺麗に拭いている八兵衛を見ながら、俺もそんな勇気はないよと返事を返すのだった……

 

 

なんか凄いのが来たな……縁側で足袋を拭いている何かを見ながら俺はそう思うのだった。

 

ムキムキだし、頭なんか巻いているし、上半身裸に見える。

 

夜道で出会ったら絶叫するレベルだと思う。

 

しかしなんと訪ねれば良いのだろうか?横島さんの知り合いみたいだな。

 

なんて訪ねればいいのだろうか?

 

「横島殿?この方は?」

 

俺がどうやって尋ねようか?と悩んでいると御成が横島さんにそう尋ねる。

 

「ああ、こちら韋駄天の八兵衛、神様です」

 

「よろしくな!別の世界の住人よ!」

 

サムズアップする神様。

 

え?これ神様なの?俺と御成は一応寺の人間だからそういうのは信じているほうだけど、これはかなり予想外すぎる

 

「よろしく、私はアランだ」

 

「うむ。よろしく」

 

物怖じしないアランが八兵衛と握手している。

 

敵としての面しか知らなかったけど、アランってかなり天然なんだよなあ

 

(マコト兄ちゃんも苦労しただろうな)

 

眼魔の世界でマコト兄ちゃんとアランは親友だったらしいから、きっと苦労してたんだろうなあと思わずしみじみ思ってしまうのだった

 

「……何故タケル達が別の世界人間だと知っている?」

 

あ、そういえばそうだ。なんで俺達が別の世界の人間だと知っているんだ?シズクさんが言うまで全然疑問に思わなかったけど、確かにおかしい

 

「ふむ。某は韋駄天ゆえに情報には詳しい、そして某がここに来たのは……」

 

八兵衛さんは懐から手紙を机の上に置き

 

「妙神山に横島君が持つ眼魂と同じ物が落ちてきた。それについての話し合いをしたいので早急に妙神山に来て欲しいとの事だ」

 

眼魂で残っているのはサンゾウ眼魂だけ……神社とかに関係するところに現れていると思っていたけど、妙神山ってなんなんだろうか?

 

「それは横島達だけか?俺達も含まれているのか?」

 

門矢さんがそう尋ねると八兵衛さんはうむっと頷き

 

「ヒャクメが君達については調べている。全員で妙神山に来て欲しいとの事だ。美神殿達は九兵衛が伝えに言った、もう時期出発する事になるだろう」

 

ヒャクメ?また知らない名前が出てきたけど、話を聞く限りでは情報収集とかに特化した神様なのかな?

 

「それと増えてしまった九尾の狐についても話があるそうだ」

 

「ワフ?」

 

急に自分に話しかけられた事に驚いているキャット

 

「え?やっぱ増えたの不味い?」

 

横島さんがキャットとタマモを抱っこしながら不安そうに尋ねる

 

「某も詳しく聞いているわけではないが、何かあるそうだ。大事に思っているのならちゃんと話を聞くべきだと思うぞ」

 

格好はおかしいけど神様なんだなあ……凄く真面目な人のようだ。

 

後ろでぼそぼそなんか呟いている門矢さんはあんまり気にしないことにしよう。何か怖いから

 

「……しかしどうやって妙神山に向かう?どれだけ急いでも2~3日は掛かるぞ」

 

「え?」

 

2~3日掛かるってどんな遠いところにあるんだ。

 

それにそれだけ時間が掛かっていてはノーフェイスに襲撃されるほうが早いかもしれない

 

「それについては特別に天界の乗り物を使用する。さ、速く準備するんだ」

 

天界の乗り物かぁ……どんなものなんだろうか?思わず期待してしまう

 

「八兵衛!こっちは着いたぞ!お前も急げ!」

 

家の外から大きな声が聞こえてくる、あれがきっと美神さん達を呼びに行っていたもう1人の韋駄天様なのだろう

 

「横島君急ぎなさいー!」

 

外から俺達を呼ぶ美神さんの声。俺は自分の眼魂を着物の中にしまい、外に向かうのだった……

 

なお天界の乗り物はなんと言えばいいのか判らない、独創的な形をした長細い何かだった。

 

美神さん達もなんともいえない表情をしている中、アランはマイペースな感じでその乗り物を見て

 

「グンダリにそっくりだ」

 

アランのその一言で俺にはその乗り物がグンダリにしか見えなくなってしまうのだった……



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その13

14話:修業!ゼンカイガン!! 前編

 

 

前回、妙神山に眼魂があるで迎えに来た八兵衛と九兵衛と共に独特な乗り物(グンダリ似)に乗って門矢達は向かっていた。

 

タケル「そう言えば、横島さんのウィスプってどういう経緯で誕生したんですか?」

 

ルージ「俺もそこらへん気になってました。教えてくれますか?」

 

着くまでの間、気になっていた事をタケルは聞き、ルージも興味津々に聞く。

 

九兵衛「あー…それは……俺がとある魔族に操られてその際に横島に重傷を負わせてしまってな…」

 

八兵衛「その際に某は横島君を死なせない為に憑依してからカオス殿と優太郎殿と協力して貰い横島君と某の融合レベルを上げるために作り上げた強化スーツとベルトを作り上げたのだ。まぁ、ただ、ベルトは最初ゴーストドライバーと言うのではなかったのだ」

 

忠夫「なんかこう、力が湧き上がる感じがした後にベルトが今の形になって眼魂が誕生したんだよな」

 

御成「ほ~それがウィスプの誕生なんですな~」

 

美神「本当に心配したわねあの時」

 

おキヌ【そうですね。今もそうですがその時は完全に動けない状況でしたし】

 

蛍「本当に心配したわ」

 

苦い顔をして答える九兵衛の後に八兵衛と忠夫が続けて言い、御成は関心すると美神とおキヌと蛍は困った顔をする。

 

門矢「なんや、それやとワイがなった奴にはならんかったって事かい。ホントこの世界のワイ、運が良すぎやろ。なんでや、なんでこんなに違うんや。と言うか幸せ過ぎやろ」

 

アラン「おい、門矢がいきなり膝を抱え込んでぶつぶつ言いだしたぞ」

 

沖田「だ、大丈夫ですげほ!」

 

シズク「……お前も大丈夫じゃない」

 

それを聞いて黒いオーラを纏って膝を抱えてぶつぶつ言いだす門矢にアランはなぜだ?と首を傾げ、安否を聞こうとして吐血する沖田にシズクはそう言う。

 

流石に沖田を1人、残しておくのは危ないともしもを考えての結果である。

 

門矢の反応に思い当たるおキヌと蛍は内心、冷や汗を流す。

 

なんで門矢が黒いオーラを纏っているかは…原作GS美神を読もう!!

 

 

閑話休題

 

 

しばらくして妙神山が見えて来た頃に門矢も元に戻り、妙神山へと足を付ける。

 

そこに小竜姫が来る。

 

小竜姫「お待ちしておりました皆さん」

 

忠夫「小竜姫様お久しぶりッス」

 

そう挨拶する小竜姫に忠夫も挨拶する。

 

美神「早速ですが小竜姫様、眼魂につい「いや~待ってたわよ!」」

 

早速聞こうとした美神だったが途中女性の声に遮られてしまう。

 

誰もが声のした方へと顔を向けると1人の女性がニコニコ笑って来る。

 

見た目は膝まで来る髪をそのまま降ろし、服は小竜姫と同じのだがこちらは美神と同じか少し大きい豊満な胸元が見えるまではだけさせていた。

 

それに忠夫は思わず鼻を伸ばしかけて蛍に抓られてシズクに膝を蹴られる。

 

タケル「えっと、誰ですか?」

 

忠夫「いちち、いやこっちも知らん」

 

小竜姫「あー、このか、いえ人は…」

 

女性「あたしの事はゲンちゃんと呼んで!お手伝いさんみたいなもんだからよろしく!」

 

ね?と言うゲンちゃんに小竜姫はそうなんですよ!とうんうんと頷く。

 

そんな小竜姫の様子に彼女を知るメンバーは首を傾げるがゲンちゃんはタケルとアランに近寄る。

 

ゲンちゃん「と言う訳であなた達の眼魂、預かるわね」

 

タケル「え!?」

 

アラン「どう言う事だ?ここにサンゾウ眼魂があるから来たのだぞ。嘘だったのか」

 

いきなり言われた事に驚くタケルにアランはメガウルオウダーを装着しながら構えるのに待った待ったとゲンちゃんは手を出す。

 

ゲンちゃん「ちゃんとあるわよサンゾウ眼魂は…だけどね。それを守れるか確認する為にあなた達に修業して貰うわよ!ただし、さっき言った様に英雄の眼魂は預からせて貰うから英雄の眼魂なしでやって貰うわ!温情としてそれ以外の眼魂は使用して良し!勿論君もね」

 

忠夫「俺もッスか!?」

 

そう言ったゲンちゃんに忠夫は指さす。

 

ゲンちゃん「キミの事は聞いてるわよ!なんか変身出来るけどそれを解除したら負担で動けなくなる時あるって、鍛えないとね」

 

くえす「確かにそうですが今するのですか?」

 

そう言うゲンちゃんにくえすは眉を吊り上げて問う。

 

ゲンちゃん「勿論!ちなみにこれは管理人からのサンゾウ眼魂を渡す条件でもあるのよ。受けなければ渡せないわ」

 

タケル「…………分かりました。その修業、受けます」

 

どうする?と英雄の眼魂を入れる為だろう桶をどこからともなく出して聞くゲンちゃんにタケルは了承してムサシ達の11個の眼魂を取り出してゲンちゃんへと預からせる。

 

御成「良いのですかタケル殿?」

 

タケル「そうしないとサンゾウ眼魂を渡して貰えないし、それに俺も自分を鍛えてみたいんだ。これからの為に」

 

恐る恐る聞く御成にタケルは強く決意して答える。

 

それを見たアランも仕方がないとグリム眼魂を取り出して差し出し、ゲンちゃんはグリム眼魂を受け取って桶に入れた後に小竜姫に渡す。

 

ゲンちゃん「あ、そうそう。門矢くんだったね。ちょっとお願いがあるの」

 

門矢「俺ですか?」

 

そうそうとちょいちょいと手招きするゲンちゃんに門矢は疑問を感じながら近寄ると耳打ちされ、耳打ちされた内容に驚く門矢にお願いと手を合わせるゲンちゃんに門矢は少し考えて頷き、ある物を渡す。

 

ゲンちゃん「確かに、と言う訳で頼むわね小竜姫様」

 

小竜姫「は、はい;」

 

笑顔で言うゲンちゃんに小竜姫は何やらタジタジな様子で行ってしまう。

 

ゲンちゃん「さあて!さっさと修行場へ移動するわよ!そこであなた達の修業相手を務める子が待っているから!」

 

そう言って歩き出すゲンちゃんに誰だろうと美神達は首を傾げた後に続く。

 

忠夫「なあなあ、八兵衛や九兵衛はゲンちゃんさんの事知ってたのか?」

 

八兵衛「あー、それは…」

 

九兵衛「…すまねえが俺達からはノーコメントとさせて貰う。事情があるんでな」

 

口ごもる2人に蛍はホントに何者とゲンちゃんを見る。

 

門矢「(ゲンちゃん、小竜姫様の反応…まさか…な…)」

 

その中で門矢はゲンちゃんが何者かについて考えて自分の推測にはははと空笑いする。

 

 

 

 

小竜姫「老師、英雄の眼魂です」

 

斉天大聖「ご苦労。英雄の方々、気楽に人の姿になられても良いぞ」

 

一方で小竜姫は斉天大聖の下に眼魂を持っていき、斉天大聖がそう呼びかけると12個の眼魂たちは浮かび上がり、各々の場所に行くと人の姿へとなる。

 

リョウマ「いや~やっぱ眼魂の状態じゃと自由度が違うのう」

 

ムサシ「うむ、しかし、この状況、タケルに良い機会であったかもしれないな」

 

肩を解しながらそう言うリョウマにムサシも胡坐を掻きながらそう言う。

 

エジソン「確カニタケルハ成長シテイマスガ色々ト気ヲ張ッテイマシタ」

 

ロビンフット「この世界に来る事でアランがどう言う人物かの再認識と息抜きになっただろう」

 

ツタンカーメン「タケルは自分の命の事もあったからね」

 

グリム「アランもそうだ。此処は彼に良い影響を与えているよ」

 

ベートーベン「私は~蹴られたけどね~;」

 

ベンケイ「大変だったな」

 

ムサシに同意しながらそう言うエジソンにロビンフットを腕を組みながらそう言い、ツタンカーメンのにグリムはそう続けて、ベートーベンは頬を抑えながらそう言ってベンケイは労う。

 

ニュートン「だが、のんびりしてられないのも事実」

 

ビリー・ザ・キッド「そうだな」

 

フーディーニ「あのノーフェイスと言う奴はタケル1人では無理かもな」

 

サンゾウ「その為にはヒミコとノブナガを奪取しなければならない」

 

ムサシ「そして、我らを1つにする為に、世界の破壊者に選ばれた者から貰ったこれを使う」

 

ニュートンのにビリー・ザ・キッドも同意し、フーディーニのに斉天大聖の正面で座っていたサンゾウが言い、ムサシはある物を見せる。

 

 

 

 

タケル「それで、俺達の相手は?」

 

ゲンちゃん「はいはい、待ってなさい。入って来て!」

 

沖田を寝床へと寝かせてから修行場に着き、早速聞くタケルにゲンちゃんはそう言って呼びかける。

 

海東「やあ」

 

門矢「海東!?」

 

美神「なんであんたが此処に!?」

 

入って来たのがまさかの人物に誰もが驚く。

 

海東「なあにここの管理人のお宝と引き換えに君たちの修業を手伝うと取引しただけだよ」

 

門矢「あー…成程な…管理人のお宝と言うと絶対にあれ等だよな…」

 

美神のにそう答える海東に門矢は顔を抑える。

 

まだ管理人を知らない美神達が首を傾げる中で海東はディエンドライバーを取り出してカードを装填する。

 

【KAMENRIDE!】

 

海東「変身!」

 

【DE・END!】

 

美神「まさかあなたと戦えって事?」

 

ディエンドになった海東に美神は問うとディエンドはチチチと指を振って否定して1枚のカードを取り出す。

 

ディエンド「僕ではなく、僕が呼び出した仮面ライダーが相手だよ」

 

ゲンちゃん「ちなみに私が止めと言うまで続けるノンストップバトルよ!」

 

御成「の、ノンストップですと!?」

 

シズク「それはまた…」

 

出て来た言葉に御成は驚き、シズクがそう呟く間にディエンドはカードを装填する。

 

【ATTACKRIDE!ANOTHER・RIDER'S!!】

 

音声と共に飛び出した14の銃弾が地面に着弾すると14人の仮面ライダーへと変わって行く。

 

蛍「うそ…」

 

タケル「なっ!?」

 

アラン「なんだと?」

 

その中の1人に誰もが驚く。

 

なぜなら見覚えのある…仮面ライダーゴーストだからだ。

 

御成「な、なぜゴーストが、タケル殿が!?」

 

ディエンド「音声を聞いてたかい?僕が呼び出したのは姿はそうだけど変身者が別の人間の奴さ」

 

くえす「だからアナザーなのですね」

 

門矢「もしかして、こいつ等は魁斗やガロード達か?」

 

驚く御成にディエンドがそう答え、くえすが納得する中で門矢がそう聞く。

 

ディエンド「そうだよ。彼らは君たちが知る者達さ」

 

忠夫「えっと、誰?魁斗とかガロードって?」

 

ルージ「魁斗さんは門矢さんがいた世界とは別の世界に住む人で一番左の仮面ライダークウガに変身します。カブトムシな仮面ライダーカブトのシンジさんとアポロさんとこの場にはいない仮面ライダーWに変身するハセヲさんに仮面ライダーオーズのトキオさんに仮面ライダーフォーゼのシューゴさんと一緒にいるんです。ガロードさんは俺と同じ様に別の世界から来て仮面ライダー響鬼に変身して麻帆良と言う場所で仮面ライダーアギトのカミーユさん、仮面ライダーファイズのキラさん、仮面ライダー電王のレイさんと一緒にいるんですよ。他にも仮面ライダー龍騎のランドさん、仮面ライダーキバのユーノさんがいます。後のウィザードからは俺も知りません」

 

美神「そんなにいるのね仮面ライダーって」

 

質問する忠夫にルージが指さしながら説明して美神は呆れ半分に言う。

 

蛍「それにしても14人が相手なのね」

 

ゲンちゃん「まぁ、可能であればそこのルージ君や門矢君もこちら側で戦ってほしいけど流石にね…」

 

くえす「それは流石に多すぎですわ」

 

そう言った蛍へ返したゲンちゃんにくえすはツッコミを入れる。

 

タケル「やろう2人とも!」

 

アラン「言われるまでもない」

 

忠夫「ええい!やったる!!」

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

【アーイ!シッカリミロー!シッカリミロー!】

 

それぞれ眼魂を取り出してセットした後に構え…

 

タケル&アラン&忠夫「変身!」

 

【カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

【カイガン!ウィスプ!アーユーレデイ?OK!レッツゴーッ!イ・タ・ズ・ラ・ゴーストッ!】

 

それぞれの仮面ライダーの姿となる。

 

ゲンちゃん「あ、そうそう。そこの2人、変身してくれない?」

 

ルージ「え、あ、はい。変身!」

 

門矢「了解ッス。変身!」

 

【ターンアップ!】

 

【KAMENRIDE!DECADE!】

 

するとゲンちゃんがそうお願いし、言われたルージと門矢は変身するのを確認してゲンちゃんは今度はウィスプがブランク眼魂をそれぞれ2人に渡す様に言う。

 

言われた通り2人はウィスプから差し出されたブランク眼魂を手に持って霊力を流す様にと指示されて言われた通り流す様に意識するとブランク眼魂はそれぞれ青とマゼンタの色を放った後にブレイドとディケイドをイメージした眼魂へと変わっていた。

 

ディケイド「成程な。そう言う事か」

 

ブレイド「タケルさん、これを」

 

ゴースト「ああ、2人の力を借りるよ!」

 

納得した後にディケイドはネクロムに、ブレイドはゴーストに自分達のライダー眼魂を手渡す。

 

ゲンちゃん「では…はじめ!!」

 

その言葉を合図に14人の仮面ライダーは動き、ウィスプ達も駆け出す。

 

クウガ「!」

 

最初に飛び出したのはクウガで後ろ腰に両手を伸ばすと虚空から双剣を取り出して斬りかかる。

 

ウィスプ「うお!?」

 

それにウィスプは慌ててガンガンソードで防ぐが連続攻撃に押される。

 

そこに目の色を緑色に染めて胸の中央を赤くし、銀色の所を青くしてライダースーツを白く染めたアギトが銃剣っぽくしたシャイニングカリバーからビームを放って襲い掛かる。

 

ウィスプ「どわっ!?」

 

【ジャレンチベント】

 

慌てて避けるウィスプは音声のした方に顔を向けると巨大なレンチを横に振るおうとする龍騎が目に入って慌ててしゃがみ込む。

 

ウィスプ「あかん!今までと違ってあかん!!別のベクトルできつ過ぎる!」

 

その後に胸アーマーがソーラーアクエリオンとなってアーマーの銀色の部分が白く染まったカブト・ハイパーフォームのパンチのラッシュと右肩にクウガの顔を模したデンカメン、左肩にアギトの顔を模したデンカメン、胸に龍騎の顔を模したデンカメン、右腕にファイズの顔を模したデンカメン、左腕にWの顔を模したデンカメン、そして右手にブレイド、響鬼、カブトの顔を模したデンカメンが付いた電王ライナーフォームの武器『デンカメンソード』が装備し、背中にはキバの顔を模したデンカメン、顔にディケイドを模したデンカメンがきて、最後に電王ソードフォームのデンカメンが上に来てクライマックスフォームの状態となった電王の斬撃を必死に避ける。

 

一方のネクロムは背中にストライクフリーダムのバックパックを装着しライダースーツが白く染まり、赤い所が青くなったファイズブラスターフォームの一斉射撃と体の色が紫から赤く染まり、背中と肩と腕、足の装甲がガンダムDXに似たのになって額の文字も『甲』ではなく『月』となったアームド響鬼と背中にウィングガンダムゼロ(EW)のバックパックを模した翼が出現し、体と顔の色が青く染まってウィザーソードガンを長くしたのを持ったウィザード・インフィニティフォームとAGE-2ノーマルを模した鎧を纏った鎧武の銃撃に翻弄される。

 

ネクロム「くっ!飛びまくってさらに遠距離攻撃とは…」

 

呻いた後に右手に手甲を装着し、右腕から左肩にかけてクリアブルーの鎧へと代わり、胸がクリアブルーの鎧になって目の色もクリアブルーなキバとオーズとフォーゼの格闘攻撃を必死に避ける。

 

ゴースト「うわ!」

 

ゴーストはゴーストでAゴーストとドライブに翻弄されていた。

 

おキヌ【あわわ、数の暴力ですよ!】

 

蛍「数もそうだけど質もよ!」

 

美神「確かに今までと違って相手は同じ仮面ライダー…しかも話からして経験は横島君より上!」

 

ディエンド「だけど僕が呼び出したのは攻撃とかしかない存在だから攻略方法もある」

 

それに慌てるおキヌと蛍に美神は厳しい顔で見る中で傍に来ていたディエンドが言う。

 

ウィスプ「あかん!眼魂を替えんと!」

 

そう言いながらウィスプは困る。

 

なんせ、自分が持っている眼魂は一部は近距離でどれもこれも遠距離と中距離メインな眼魂だから…

 

ジャックランタン眼魂とシズク眼魂は上記の様に遠距離と中距離メイン。

 

沖田眼魂は近距離だが初変身の際のを見ると機動力はあるが防御面と火力が劣ってると思われる。

 

韋駄天眼魂は近距離で超加速を使えるがウィスプが持つ眼魂の中で1番負担が強いのでここぞと言う時にしか使いたくないので渋りたくなる。

 

牛若丸眼魂も近距離で一応必殺技で捕縛できるが複数いて一部は空中にいて意味がないのと遠距離攻撃がない。

 

どうしようかと考えて…思い出した。

 

自分にはもう1つ眼魂があったのを…

 

ウィスプ「翔太朗さん!フィリップさん!力を借りるぜ!」

 

シズク眼魂を手に入れると共に手に入れたW眼魂を取り出してセットするとWを模したパーカーゴーストが飛び出し、ウィスプを攻撃しようとしたライダー達を蹴散らしてからWの決めポーズの様な構えを取る。

 

【カイガン!ダブル!二人で一人!ガイアメモリ!】

 

そしてウィスプはレバーを引いた後にダブルパーカーゴーストを纏う。

 

ウィスプWS「さあ、お前の罪を数えろ」

 

美神「あれが…」

 

くえす「ライダー眼魂を使った姿」

 

そのままWの決め台詞とポーズを取るウィスプWSに美神とくえすが呟いた後にウィスプWSはメタルシャフトを取り出すと風を纏わせて振るい、攻撃してきたライダー達を薙ぎ払う。

 

ゴースト「良し!ブレイド!」

 

ネクロム「ならば使わしてもらうぞ門矢」

 

【アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【イエッサー!ローディング!】

 

ウィスプWSを見てゴーストとネクロムもそれぞれ手渡されたライダー眼魂を取り出してセットする。

 

その後にブレイドパーカーゴーストとディケイドパーカーゴーストが現れてライダー達をふっ飛ばしてからそれぞれの決めポーズを取る。

 

【カイガン!ブレイド!かざすブレード!トランプはスペード!】

 

【テンガン!ディケイド!メガウルオウド!ディメンショントラベラー!】

 

音声と共に現れたパーカーゴーストを身に纏う。

 

ゴーストBS「運命の切り札をつかみ取る!」

 

ネクロムDS「通りすがりの仮面ライダー、覚えておけ!」

 

それぞれブレイラウザーとライドブッカーを出現させてライダー達とぶつかり合う。

 

ウィスプWS「こなくそ!」

 

【ダイカイガン!ダブル!オメガドライブ!!】

 

斬りかかるクウガを吹き飛ばした後にオメガドライブを発動し、ウィスプWSは飛び上がると空中で数回回転してからクウガへと狙いを付けて風を纏った右足蹴りを叩き込む。

 

ゲンちゃん「はい!今!ブランク眼魂を彼に投げなさい!」

 

ウィスプWS「え、あ、はい」

 

必殺技を受けたクウガは地面に倒れると共にゲンちゃんがそう言ってウィスプWSは言われた通りにブランク眼魂を投げる。

 

投げられたブランク眼魂はクウガにぶつかるとクウガはブランク眼魂に吸い込まれ、ブランク眼魂は新たな眼魂となってウィスプWSの手元に戻る。

 

ウィスプWS「新たな眼魂になった!?」

 

ディケイド「これは…」

 

ゲンちゃん「そう!彼らを倒せばあなた達はそのまま新しい力を使えるって事!」

 

手に収まったクウガ眼魂を見て驚くウィスプWSに対してゲンちゃんはそう言う。

 

美神「成程、倒せば倒すほど、戦略が増えるって事ね」

 

誰もが納得した後に戦いを再開する。

 

要領を得た事とディケイドの高速移動出来るカブトを狙えと言われて3人はカブトを狙う。

 

【ダイカイガン!ブレイド!オメガドライブ!】

 

ゴーストBS「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

オメガドライブを発動した後に足に青い雷を纏ったゴーストBSは飛び上がった後にカブトにへと向けて飛び蹴りを炸裂させる。

 

倒れたカブトへウィスプWSがブランク眼魂を投げてカブト眼魂へと変える。

 

ゴーストBS「良し!カブト!」

 

ウィスプWS「クウガ!今度はお前の力、借りるぜ!」

 

それぞれ新たに手に入れたライダー眼魂をセットする。

 

【カイガン!カブト!今すぐ加速!キャストオフ!】

 

【カイガン!クウガ!超変身!変わる全身!】

 

ゴーストKS「天の道を行くぜ!」

 

ウィスプKS「皆の笑顔のために!」

 

パーカーゴーストを纏ってからそれぞれ言った後に今度はファイズとドライブを狙い、ゴーストKSがクロックアップで吹き飛ばす所をネクロムDSが狙う。

 

【ダイテンガン!ディケイド!オメガウルオウド!】

 

ネクロムDS「はぁ!!」

 

展開されたカードを通り抜けてネクロムDSはファイズとドライブへと蹴りを炸裂させる。

 

床に落ちた2人へとウィスプKSはブランク眼魂を投げて2人ともライダー眼魂となり、その内のファイズ眼魂をネクロムは使用する。

 

【テンガン!ファイズ!メガウルオウド!スリーファイブ!】

 

ネクロムFS「私には夢はない。だが、成し遂げたい理想はある」

 

美神「これで後10人」

 

ファイズエッジを握って言うネクロムFSを見た後に残りのメンバーを見て言う。

 

もう片方のドライブ眼魂はゴーストが手に取る。

 

ゴーストKS「泊さん!また力を借ります!」

 

【カイガン!ドライブ!警官!正義感!タイヤコウカン!】

 

そのままゴーストKSはドライブ魂へと変わる。

 

ゴーストDS「ひとっ走り付き合えよ!」

 

蛍「…それにしても…ライダーのも変わってますね;」

 

美神「確かに;」

 

くえす「前にあったWは普通でしたから本当に変化が激しいですわね」

 

次々とゴーストチェンジをしていくゴーストDS達ので音声に対して蛍はそう漏らし、美神は同意してくえすもそう言う。

 

そんな3人に向けて手に持った銃にエネルギーをチャージするウィザードと背中の砲筒をアームドセイバーを構えた響鬼が狙う。

 

蛍「横島危ない!」

 

気づいた蛍が警告すると共に同時に放たれ、着弾すると共に煙が覆う。

 

蛍達が息を飲む中で煙の中からゴーストDSとネクロムFSが飛び出すと共に…

 

【ダイカイガン!ドライブ!オメガドライブ!】

 

【ダイテンガン!ファイズ!オメガウルオウド!】

 

ゴーストDS「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ネクロムFS「ふん!!」

 

同時に必殺キックを叩き込むと共にウィザードと響鬼を吹き飛ばし、後から出て来たウィスプKSがブランク眼魂を投げて、ライダー眼魂にする。

 

ディケイド「これで残りはアギトと龍騎、電王、キバ、オーズ、フォーゼ、鎧武にゴーストだな」

 

残るライダー達を見て言うディケイドのを聞きながらゲンちゃんは3人を見る。

 

苦戦しながらもライダー達をドンドン押して行くのに良い感じねと内心呟く。

 

ゲンちゃん「(2人はともかく彼一押しの横島君もなかなか筋が良いから一皮むけると化けると言うのには納得ね…)」

 

それを見ながらゲンちゃんは考えた後にウィスプKSの肩当たりを見る。

 

ゲンちゃん「(しかし…あの女の子なんだろう。なんか気づいてないからそれだけ認識される程力がないって感じかしら…)」

 

そう考えながら見守るのであった。



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その14

前回からしばらく時間が立ち、残りを龍騎、フォーゼ、ゴーストと残して、3人はまた新たなライダー眼魂を使う。

 

【カイガン!ガイム!オレンジ!バナナ!そんなバカな!】

 

【カイガン!オーズ!メダル奪った!タカ!トラ!バッタ!】

 

【テンガン!デンオウ!メガウルオウド!トラベルライナー!】

 

ゴーストGS「ここから俺達のステージだ!」

 

ウィスプOS「ライダーは助け合いでしょ!」

 

ネクロムDS「私、参上」

 

美神「いよいよラスト3人」

 

モグラ「うきゅうきゅ!」

 

チビ「みーみー!」

 

タマモ「コーン!」

 

キャット「わふわふ!!」

 

タマモ達も応援する中で龍騎、フォーゼ、Aゴーストは必殺技の体勢に入り、3人はそれぞれ必殺技の体勢に入る。

 

【ダイカイガン!ガイム!オメガドライブ!】

 

【ダイカイガン!オーズ!オメガドライブ!】

 

【ダイテンガン!デンオウ!オメガウルオウド!】

 

飛び上がると共にエネルギーを収束させたライダーキックが同時にぶつかり合う。

 

ドカーーーーン!!!

 

美神「くっ!」

 

おキヌ【きゃあ!?】

 

それと共に凄まじい爆風が起こり、誰もが吹き飛ばされない様に踏ん張り、タマモ達はブレイドが抱き抱える。

 

誰もが爆風が収まるのを待つと膝を付いたゴースト達とその傍に龍騎眼魂、フォーゼ眼魂、そしてゴーストのを示すオレンジ色の眼魂が転がっていた。

 

ゲンちゃん「はいそこまで!お疲れ様!!」

 

それを聞いたウィスプはお、終わった…と尻もちを付きながら変身を解除し、タケルとアランも息を荒げながら変身を解除する。

 

その後に3個の眼魂を拾い上げる。

 

ゲンちゃん「と言う訳でライダーによる修業お疲れ様!」

 

アラン「それで?サンゾウ眼魂は返して貰えるのだろうな?」

 

パンとさせて注目を集めてから言うゲンちゃんにアランは聞く。

 

ゲンちゃん「大丈夫大丈夫。ちゃんと返すけどそれは明日にして今はそろそろお昼だし今日はゆっくり休みなさい」

 

そう答えてからのゲンちゃんのにそう言えばそろそろお昼ね…と美神は時間を確認して呟く。

 

蛍「見ている間にそんなに経っていたんですね」

 

忠夫「お~皆食べに行こうか」

 

モグラちゃん「うきゅううきゅう!」

 

チビ「みむ~」

 

タマモ「コン!」

 

キャット「ワンワン!」

 

ゲンちゃん「あ、横島君は少し待って頂戴ね~そこの狐ちゃんの事で話あるから」

 

そう言って近寄って来たチビ達を抱き抱えた忠夫にゲンちゃんはそう言う。

 

美神「それには私たちもいた方が良いかしら?」

 

ゲンちゃん「んー…まぁ、いた方が良いかな?」

 

御成「どうして分離したとか知りたいですし拙僧たちも」

 

タケル「そうだね」

 

誰もがタマモとキャット分離の事が知りたかったのでゲンちゃんと共に移動し、丁度来た小竜姫と共に広場に座る。

 

小竜姫「さて、まずは九尾の狐のタマモさん以外にキャット…で良いんですよね?…が現れてなぜ増えてしまったのかについてですが…これは急激な霊力の増幅により魂が分離したのです」

 

忠夫「急激な霊力の増幅ッスか?」

 

全員がいる事を確認してからの小竜姫から告げられた事に忠夫は首を傾げる。

 

ゲンちゃん「そうそう。それでタマモちゃんからキャットちゃんが登場した訳。心当たりあるでしょ?」

 

美神「心当たり…」

 

おキヌ【あっ!?翔太郎さんですよ!!ほら、フィリップさんが言ってたじゃないですか!翔太朗さんにはおじいさんの一族に伝わる自分や他の人の力を増幅するって言う光渡しを持ってるって!】

 

引き継いで聞くゲンちゃんのに美神はもしかして…と思った所でおキヌが変わりに言う。

 

忠夫「けど、シズクはして貰ったけどタマモは…」

 

シズク「別に血でも良いのではないか?それだけでも発揮しちゃったりする時がある」

 

蛍「……ああ!?そうよ!シズクがいないあの時、タマモは翔太朗さんの左手を噛んでた!!その時に血が口に入って翔太郎さんの血が媒体となってタマモの霊力を急激に増幅させちゃったのね!」

 

うーんと唸る忠夫にそう言うシズクへ蛍は思い出して叫ぶ。

 

小竜姫「そうでしたか…しかしその左翔太郎さんと言うのはなかなかの霊能力者なんですね」

 

門矢「いや、ただの探偵ッス」

 

ルージ「そうですね」

 

海東「後、彼の前でそう言うのを言ったら怒鳴られるからね。彼は探偵に誇りを持っているからね」

 

そう言う小竜姫に門矢が訂正し、海東が注意する。

 

まさかの的外れだったのに小竜姫は顔を赤らめながらコホンと咳払いする。

 

小竜姫「まぁ、見るからに安定しておりますから消えるなどと言う事はないでしょうし、後は横島さんにも懐いていますから大丈夫でしょうからそのまま面倒を見てあげてください」

 

忠夫「了解ッス(人の姿になったらやっぱりタマモと変わらんのかな?)」

 

ゲンちゃん「んじゃま!ごはんを食べましょうか!(肩の子については別に良いか)」

 

小竜姫の言葉に了承しながらふと、忠夫はそう考えた後におー!と誰もが駆け出す。

 

待ってぇな!と忠夫も続く。

 

 

 

 

 

 

しばらく時間が経った夜、門矢は1人ある場所に歩いていた。

 

そして目的の場所に着くと斉天大聖がゲームをしていた。

 

斉天大聖「おお、待っておったぞ別の世界の横島よ」

 

門矢「やっぱりな…あんたも未来から来た1人か」

 

振り返って気軽に声をかける斉天大聖に門矢はふうとため息を吐く。

 

斉天大聖「その言葉だと何人か分かってるみたいじゃな」

 

門矢「ええ、ルシオラ…蛍もそうですがおキヌちゃんにカオスのおっちゃんとかマリア、さらに愛子もで、小竜姫様も同じ感じッスよね?」

 

確認する門矢に斉天大聖は正解じゃとゲームをしながらそう言う。

 

門矢「確認しますがアシュタロスは?」

 

斉天大聖「安心せい。あやつも味方じゃ…ただその代わりとして別の者達が動いてしまっておるがな」

 

聞く門矢に斉天大聖はホント困ったもんじゃわいと手を動かしつつそう返す。

 

門矢「後…あのゲンちゃん…この世界の三蔵様っしょ?」

 

斉天大聖「やっぱりバレたか~本人は正体隠してた方が面白そうと言う事でな」

 

なんというお茶目さんな人ですねと言う門矢にまあのうと斉天大聖は肩を竦める。

 

斉天大聖「さて、横島よ…少し質問しても良いじゃろうか?」

 

門矢「答えられる範囲ので頼んます」

 

その後にゲームを一時中断して向き直って聞く斉天大聖に門矢はそう言う。

 

斉天大聖「ワシには分かる。お主は自力で時間逆行を容易く出来る…逆行すると言う考えはしないのかのう?」

 

門矢「そうッスね…しないと言えばウソになりますけど…そんな事したら俺は俺の方のルシオラの思いを踏み躙る結果になりますから」

 

真剣な表情で聞く斉天大聖に門矢はそう返す。

 

斉天大聖「ほう?なぜそう言えるのじゃ?」

 

門矢「それは逆行なんてしたら…そこはもうあいつが俺を…俺として(横島忠夫)を愛した世界じゃないからです…今までの思い出を上書きする様な形で忘れたくないのと、これまで出会って出来た縁を否定したくないんッスよ」

 

真剣な顔で言う門矢に斉天大聖は目を優しく細める。

 

斉天大聖「そうかそうか…根本的な所が変わっておらず安心したぞ(まぁ、スケベな感じが抜けておるが)」

 

門矢「おいこら、今失礼なの考えたでしょ」

 

半目で睨む門矢にすまんすまんと斉天大聖は苦笑して謝る。

 

斉天大聖「じゃがまぁ、それならこちらの事情については深く追及せんでくれ」

 

門矢「追及はしませんよ。あくまで俺の個人的な考えですし、のっぴきならない理由だったんでしょう」

 

お願いする斉天大聖へと返したその言葉に斉天大聖は目を逸らしかけたが根性で留まった。

 

斉天大聖「ウム、ソウジャナー(言えん。まさか逆行する理由が美神がズルした事によってこっちの方の横島と結婚したのでフェアに横島と結婚する為に逆行したなんて事と今それで誰が横島と先に結婚するかでトトカルチョしてるなんて口が裂けてもこの横島に言えんわい;)」

 

門矢「?」

 

並行世界の師の様子に門矢は首を傾げたが良いかと考えて他愛のない世間話に移るのであった。

 

 

 

 

海東「やあ、この世界の横島」

 

忠夫「あ、海東さん」

 

一方でチビ達とワイワイしていた忠夫の所に海東が来る。

 

忠夫「なんか俺に用事ッスか?」

 

海東「ああ、君に特別プレゼントをね」

 

特別プレゼント?と首を傾げる忠夫を前に海東はディエンドになると4枚のカードを取り出してセットする。

 

【KAMENRIDE!BIRTH!BEAST!MACH!CHASER!】

 

音声の後にトリガーを引くと4人の仮面ライダーが現れる。

 

忠夫「な、何ッスか!?見た目ガチャポンにライオンに白と紫!?」

 

モグラちゃん「うきゅう!?」

 

チビ「みむう!?」

 

キャット「ワンワン!」

 

タマモ「くぅぅ!!」

 

現れた4人の仮面ライダーに忠夫達は驚く中でそれぞれいう。

 

バース「仮面ライダーバース、さあて、お仕事と行きますか」

 

ビースト「仮面ライダービースト、ランチタイムだ…っていないな」

 

マッハ「追跡、撲滅、いずれも~~~マッハ!仮面ライダー~~~マッハ!!」

 

チェイサー「仮面ライダーチェイサー………」

 

忠夫「って最後の名乗るだけかい!?」

 

ディエンド「何してるんだい。早く眼魂を投げたまえ」

 

思わずビシッとツッコミを入れる忠夫はディエンドのになんかあるゲームを思い出すな…と考えながら4つのブランク眼魂をライダー達へと投げ、吸い込まれて4つのライダー眼魂となったのを拾う。

 

ディエンド「有効に活用したまえ。そのライダー達もまた力となるだろう」

 

忠夫「あ、ありがとうございます」

 

そう言うディエンドに忠夫は礼を言う。

 

ディエンド「では、僕はお暇させて貰うよ」

 

忠夫「え?別の世界に行くって事っスか!?」

 

出て来た言葉に忠夫は驚いている間にディエンドはさっさと出て来た壁を通り抜ける。

 

ディエンド『もう一通り終えたからね。ここからは君達だけで頑張りたまえ』

 

そう言ってディエンドは消える。

 

忠夫「……ホント自由な人やな…」

 

見送りながらぽつりと呟いた後に忠夫は寝る事にした。

 

 

 

 

一方、ガープ達の方では…

 

ガープ「調子はどうだノーフェイス?調整もしておいたが」

 

ノーフェイス「はっ、前よりも良い感じになりました」

 

セーレ「確かに前より聞き取りやすくなったね」

 

自分の前で跪くノーフェイスへとガープは聞き、そう返すノーフェイスのにセーレはそう言う。

 

ガープ「さて、どうやら奴らは最後の眼魂がある妙神山にいるそうだ」

 

セーレ「えー、あそこにあるの」

 

そう言うガープにセーレは心底めんどくさそうにぼやく。

 

ガープ「ノーフェイス。そこを襲撃し、眼魂を手に入れるのだ」

 

ノーフェイス「はっ!」

 

セーレ「流石に送るにしても手前までだからそこまで自力で行ってよ」

 

妥協するセーレのにそれで構わんと言ってから歩き出す2人を見送りガープは笑う。

 

ガープ「さて…結果はどうあれ…楽しみにしてるぞノーフェイス」

 

そうノーフェイスの背を見て呟きながら…

 

 

 

 

翌日、朝食を食べた後にタケル達はゲンちゃんから英雄の眼魂を返して貰おうとしていた。

 

ゲンちゃん「お疲れ様!これから眼魂を返すわね」

 

アラン「これで残りはあの眼魔が持つ2つのみ」

 

忠夫「けどよ。どこにいるのか分からねえしな…」

 

門矢「いや、きっと奴らの事だからな…」

 

そう言うゲンちゃんにアランは呟く中で忠夫のに門矢が言う前に小竜姫が慌てた様子で来る。

 

小竜姫「た、大変です!今、眼魔が襲撃してきました!」

 

美神「なんですって!?」

 

ルージ「やはり狙いは眼魂!」

 

門矢「やっぱ来るか…けど居場所が分かる奴がいるのかあっちには?」

 

告げられた事に誰もが驚く中でタケル達は飛び出す。

 

入口の門を越えると八兵衛と九兵衛が眼魔コマンドと眼魔スペリオルを相手にしていて、それをノーフェイスが見ていた。

 

タケル「ノーフェイス!」

 

ノーフェイス「………来たな」

 

美神「!口調が!」

 

蛍「分かり易くなっているって事は改良されている!」

 

気づいたノーフェイスの口調の変化に美神達が驚く中でノーフェイスは殺気を放つ。

 

ノーフェイス「今度こそ貴様達から英雄の眼魂を奪わせて貰うぞ。我が主の目的の為に」

 

タケル「誰が渡すか!それに彼らはそれぞれが未来を、明日を切り拓く為に己の命を燃やした英雄だ!お前たちが悪用しようとするならそんな事はさせない!」

 

アラン「…最初来た時、私は早く元の世界に戻ろうと考えていた。だが、貴様の様なのをほっておく訳には行かん!貴様を倒し、私は元の世界に戻る!」

 

忠夫「元々アランやタケル達の世界の眼魂だ。返して貰うぜ!信長と卑弥呼の眼魂を!」

 

是非もないね!

 

門矢「(ん?今なんか声が…他の皆の反応から空耳か?)」

 

ノーフェイスのに3人が返した際、門矢の耳に別の声が聞こえたが考えてる暇はないのでディケイドライバーを装着する。

 

忠夫「あっ!?」

 

その時だった!

 

忠夫の懐から17個のライダー眼魂が飛び出してノーフェイスへと体当たりを仕掛けて吹き飛ばした後に1つの光となって忠夫の右手に戻る。

 

忠夫「な、なんだ!?」

 

いきなりの現象に美神達も驚いていると光が収まり、1つの眼魂が現れる。

 

美神「ライダー眼魂が…」

 

くえす「1つになった!?」

 

タケル「これは!平成ライダー達の魂が籠った眼魂!」

 

蛍「つまり、平成ライダー眼魂!?」

 

誰もが驚く中で忠夫の脳裏にゴーストを含めた17人の平成ライダー達の闘いの記録が一瞬で過ぎて行く。

 

その後に忠夫は導かれるまま、腕を太極拳の様に円を反時計回りに描いて動かした後に身体を右に捻った後にすぐさま体を前に戻して眼魂を持った右手を突き出し…

 

忠夫「変身!」

 

叫ぶと共に眼魂の左側のスイッチを押してゴーストドライバーに装填し…

 

【アーイ!】

 

すぐさまレバーを引いた!

 

【カイガン!平成ライダー!新たな個性!これが平成!】

 

トランジェントの姿になった忠夫の前にゴーストを含んだ17人の平成ライダー達のライダーズクレストが出現し、ライダークレストは忠夫の体へと赤と白のアーマーとして装着されて行き、最後に顔にゴーストと同じ1本角と平を象ったフロントブレードが追加されると共に赤い複眼が輝く。

 

御成「おお!?」

 

小竜姫「体の各所に変わった紋章が…」

 

蛍「新たな…個性…」

 

その姿に誰もが驚く中でタケル達も変身の体勢に入る。

 

【一発闘魂!!アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!】

 

【スタンバイ!イエッサー!ローディング!】

 

【KAMENRIDE!】

 

タケル&アラン&ルージ&門矢「変身!」

 

【闘魂カイガン!ブーストッ!!オレがブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!】

 

【テンガン!ネクロム! メガウルオウド!クラッシュザインベーダー!】

 

【ターンアップ】

 

【DECADE!】

 

それぞれが変身完了するとディケイドのライドブッカーから3枚のカードが飛び出す。

 

飛び出したカードをディケイドはキャッチすると絵柄が入る。

 

ディケイド「な、なんだこのライダー?」

 

現れた絵柄のライダーに思わずディケイドは困惑する。

 

描かれたライダーは今までのライダーを一線を画す様な顔で複眼が目の様な感じになっているのだ。

 

そのライダーこそゴーストの次に誕生するライダー、仮面ライダーエグゼイドなのだがディケイドはすぐさま別のカードに驚いた。

 

描かれたライダーズクレストは違うがそれは間違いなく、コンプリートカードであった。

 

ディケイド「これは…試してみるか」

 

そう呟いた後にケータッチを取り出し、出て来たコンプリートカードを装填してライダーズクレストをタッチして行く。

 

【W!OOO!FOURZE!WIZARD!GAIM!DRIVE!GHOST!EX-AID!FINALKAMENRIDE!DECADE!】

 

音声の後にカードが出現してディケイドの額に張り付くとディケイドの姿が変わる。

 

その姿はくーちゃんを説教した際になったコンプリートフォームと変わらないが胸のライダーカードが変わっていた。

 

中央がWで向かって左からオーズ、フォーゼ、ウィザードとなり、Wの右側は先ほど出たエグゼイド、ゴースト、ドライブ、鎧武となっていた。

 

ディケイドCF「セカンドコンプリートフォームってか?フォーストに比べると1人すくねえけど」

 

自身の姿にディケイドCFがそう呟いた後にノーフェイスがやれ!と号令をかけて眼魔コマンドや眼魔スペリオルを差し向ける。

 

ウィスプ平成魂「!」

 

【カブト!ファイズ!ドライブ!】

 

それにウィスプは3つのライダーズクレストを輝かせた後に超高速スピードで駆け出し、眼魔達を次々と攻撃した後にノーフェイスへと接近する。

 

ノーフェイス「なっ!?」

 

【響鬼!電王!鎧武!オーズ!!】

 

ウィスプ平成魂「どりゃあ!」

 

続けざまに驚くノーフェイスへとガンガンブレードの連続斬撃を浴びせてから蹴り飛ばす。

 

ノーフェイス「ぐああ!?」

 

全く動けなかったので吹き飛んだノーフェイスからヒミコと信長の眼魂が転がり落ちて、すぐさま拾い上げ…

 

ウィスプ平成魂「タケル!眼魂だ!!」

 

ゴーストTS「!ヒミコさん!信長さん!」

 

ゴーストTSへと投げ渡し、ゴーストTSはすぐさまキャッチする。

 

ヒミコ【いやはや、やっと解放されたぞよ】

 

信長【うむ、感謝するぞこの世界のライダーよ】

 

それぞれ言葉を発した後にパーカーゴーストの姿となると飛んで行き、ゴーストTSが目で追いかけるとそこにはムサシ達13体の英雄のパーカーゴーストが浮かんでいた。

 

ゴーストTS「武蔵さんに皆!」

 

おキヌ【いつの間に!?】

 

ムサシ【タケル!今一度其方に問おう。お主が今成し遂げたいのは何だ?】

 

問われたゴーストTSはネクロムを見た後に英雄たちへと目を向ける。

 

ゴーストTS「俺が今成し遂げたい事!それはアカリやマコト兄ちゃん達とまた会う為、アランや横島さん達と一緒にこいつを倒して帰る!」

 

その言葉にムサシや他のパーカーゴースト達は満足そうに頷いた後に言う。

 

ムサシ【お主の決意!確かに聞き届けた!行くぞ皆の物!『合・体』だ!】

 

蛍「え!?」

 

出て来た言葉に蛍が驚いている間にムサシが取り出した太極文殊に『合・体』と浮かび上がり、輝くと15の英雄達は1つの光の球となってゴーストTSの元へと向かう。

 

それを向かって来た眼魔コマンドを追い払ったゴーストTSのキャッチすると手の中でゴーストドライバーと同じサイズの大型の金色の眼魂に変わる。

 

ゴーストTS「これは…そうか!」

 

それを見てゴーストTSはすぐさま理解すると変身を解き、ゴーストドライバーを仕舞うと代わりに大型の眼魂を腰に当てる。

 

すると大型の眼魂からベルトが出て来て、タケルの腰に装着される。

 

八兵衛「おお!?」

 

美神「眼魂がベルトに!?」

 

誰もが驚く中でタケルは右側面のトリガーを押してから左側面のボタンを押す。

 

【ガッチリミーナー!コッチニキナー!ガッチリミーナー!コッチニキナー!】

 

音声が鳴り響く中で一定の動作を取った後に右腕を静かに降ろし…

 

タケル「変身!」

 

気合の声と共に左側面のボタンを押す。

 

【ゼンカイガン!】

 

その後にドライバーから15体のパーカーゴーストが召喚されると共にタケルの全身が黒と金の鎧の様なのを装着したトライジェントの姿となる。

 

【ケンゴウハッケンキョショウニオウサマサムライボウズニスナイパー!ダ~イヘンゲ~~!!】

 

その後にパーカーゴースト達が装甲の様々な各所に宿って行き、最期にムサシが胸のアーマーへと宿るとパーカーゴーストのフード部分に付いた装飾が融合したような形状の装飾が頭部に出現すると共に金の複眼が輝く。

 

御成「おお…」

 

美神「さっき横島君が変身した姿に似てる…!?」

 

くえす「ですがこっちは歴史に名を遺す英雄達の姿…」

 

誰もがその姿に驚く中でウィスプ平成魂はゴーストGFSと並ぶ。

 

ウィスプ平成魂「行こうぜタケル!」

 

ゴーストGFS「ああ!」

 

起き上がるノーフェイスを見据えて、2人のライダーは叫ぶ。

 

ウィスプ平成魂&ゴーストGFS「命、燃やすぜ!」

 

 



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その15

凄い……私は目の前の戦いを見てそれしか言えなかった。

 

韋駄天の時に発現したあの謎のベルトの力が強大なのは判っていた。

 

一時的にしろ神魔の力を再現できる、それがどれだけ規格外かなんて言うまでもないだろう。

 

だが今目の前で繰り広げられている戦いはそれを遥かに越えていた

 

【ウィザード!フォーゼ!キバ!!】

 

新たに横島が変身した姿の身体の各所が光り、横島が回転しながら

 

「さぁ!ショータイムだッ!!」

 

横島の身体がぶれて4人に分身し、3人がノーフェイスが呼び出した眼魔と対峙しているルージ達のフォローに回る

 

「まだまだ兵隊は居る!我が主の為眼魂を寄越せッ!!!」

 

ノーフェイスがそう叫ぶと現れた倍以上の眼魔がノーフェイスの影から姿を見せ、横島達を無視して私達のほうに走ってくる

 

「やばっ!精霊石……」

 

咄嗟に美神さんが精霊石で結界を作ろうとした瞬間、門矢がその必要はないと叫び、美神さんの動きが一瞬止まった。

 

「さー続けていくぜ!」

 

【ウィザード!ゴースト!ディケイド!】

 

再び横島の体の箇所が輝くと横島の隣にオーロラのようなものが現れそこから韋駄天魂と牛若丸魂に変身したウィスプが現れ、無言で駆け出し私達の方に向かっていた眼魔達と戦い始める

 

「……もう本当に何でもありだな」

 

シズクが呆然とした様子で呟く。仮面ライダーって言うのは本当に私の理解を超えている。

 

「さらにオマケ!」

 

続けざまにジャックランタン魂と沖田魂のパーカーを纏ったウィスプが現れ

 

【イッヒッヒー!!】

 

【これどうなっているんですかね?私があそこに居て、ここにも私が居る?頭がパンクしそう】

 

混乱している沖田さんを尻目に楽しそうに笑いながら駆け出すジャックランタン魂を見て、流石の私も完全に思考が停止してしまって、手伝うとか考える事が出来ずに、目の前で繰り広げられている戦いを見ることしか出来ないのだった……

 

 

 

蛍達が思考停止している頃。妙神山の近くでは異常な霊力の渦が発生していた

「なんかすっげえ奇妙な感じ」

「くひひ!本当だねぇ?ついてきたけど、こんな奇妙な体験初めてだよ」

「話している時間はないのねー!急がないと!」

霊力の渦から2人の女性と1人の青年が現れ、ノーフェイスと戦っている横島達の方へと走り出すのだった……

 

 

 

 

ノーフェイスが呼び出した黒いパーカーをまとって突進してくる無数の眼魔。

 

その数は圧倒的で目の前に黒い壁が現れたかのように思えた

 

「ここは通さない」

「行きましょう。門矢さん」

 

門矢とルージの2人が私達の前に立つが、流石にこの数の前ではいくらなんでも不利だ

 

(別世界の悪霊がこんなに厄介だなんて)

 

プロのGSとして長い間活動してきたが、こんなにも自分の無力感を感じたのは初めてだ。見ていることしか出来ないなんて……

 

「大丈夫ですよ、ここは俺達に任せてください」

 

ルージ君はそう笑うと左腕に現れていた何かから2枚のカードを取り出して1枚をセットする。

 

【Absorb Queen】

 

そんな音声が鳴り響いた後にもう1枚のカードを腕の何かに通す。

 

【Evolution King】

 

金色のエネルギーで出来たカードが13枚浮かび、ルージ君の身体の周りを回っていく。

 

その光は腕や足に吸い込まれるように消えて行き、強固な装甲へと変貌していく力強さに満ちたその姿を見た門矢は

 

「キングフォームか、確かにこれだけの数だと通常じゃ厳しいからな」

 

そう笑いながら手にしたカードケースを変形させた銃で眼魔を的確に打ち抜き消滅させていく……相性の問題があるとは言え、ここまで一方的な差を見ると力の差は明確だ

 

「もしかすると横島の姿も更に変化していくのかもしれないですわね」

 

仮面ライダーが何かは私もくえすも判らない、ただ本来は別の世界に存在する力の概念。

 

それを何故横島君が使えるのか?それは確かにずっと引っかかっている疑問だ。

 

妖怪などに懐かれやすいのは判る、そして霊力の篭手も陰陽術も理解できる。

 

だがあのベルトと仮面ライダーの力は明らかに異質だ。そしてその力を持つ門矢と名乗る別の世界の横島君……

 

(いままでおざなりにしてきたけど、あの力についてももっと調べるべきなのかもしれないわね)

 

戦えるから良いと思っていたが、いつまでもそれでは駄目だ。なにかあってからでは遅いのだ

 

「出来損ないで私を押さえられると思っているのか!」

 

アランがそう叫び向かってくる眼魔を見た事の無い体術で葬り去っていく、門矢やルージ君と違って派手さは無いが、確実でそして計算し尽された動きだ。

 

(ただの腹ペコじゃなかったのね)

 

食べている姿しか見てなかったが、やはりアランも只者ではなかったようだ。

 

「まだ出てくるか、いい加減鬱陶しいな」

 

「ですね、一気に決めましょうか?」

 

「……それが良い、いつまでも戦っていたのでは、こちらの体力が先に底を着く。まだ出てくるにしろ、1度数を減らすべきだ」

 

倒したら倒した分だけ現れる眼魔に痺れを切らしたのか、門矢はバックルにセットしたのを外して何か操作する。

 

【GAIM!KAMENRIDE!KIWAMI!!】

 

そんな音声が流れた後にバックルに戻すと門矢の胸の8枚のカードが一斉に回転して1種類のライダーになった後に門矢の隣に白銀の装甲を持ったカードに描かれたライダーが現れ、門矢と同じ動作をしているのに驚く中で門矢はカードをバックルから右腰に移動したのにセットする。

 

【FINAL ATTACK RIDE Ga・Ga・GA・GAIM!!】

 

「一気に消し飛べ」

 

その後に現れた白銀の装甲を持ったライダーが手にした銃を眼魔達に向け、まるでDJのような動きで手にした銃に備え付けられた円盤を回転させると、これだけ離れていても凄まじいエネルギーを放っているのが判る

 

「これで一気に決めます」

 

その隣でルージくんは体を光らせると5枚のカードが飛び出してルージくんの手に収まった後にルージくんは現れたカードを手に持った剣へと投入する。

 

【スペード10、J、Q、K、A】

 

電子音声で読み上げられるそれはトランプの役……それも最高の役であるロイヤルストレートフラッシュと同じ物だった。

 

それはルージ君のもてる最大の攻撃なのか、眩いまでの黄金の光が周囲を照らしていき、眼魔達へと向けて投入された5枚のカードの幻影がレールの様に展開される。

 

【ダイテンガンッ!ネクロム!オメガウルオウド!】

 

「遊びはここまでだ」

 

アランの背後に緑色の眼で出来た紋章が浮かび上がる、それは横島君が変身するウィスプと酷似していた

 

【ロイヤルストレートフラッシュ!】

 

「これでトドメだ!」

 

「はあああああッ!!!」

 

門矢とルージ君の気合の篭った声が重なると同時に、白い仮面ライダーと門矢が手にしている銃から凄まじい光線が打ち出され、眼魔達の右半分を消し飛ばし、それに続くようにルージくんの剣より放たれた金色の閃光が今度は左半分を飲み込み消滅させる

 

「はあああああああッ!!」

 

そして最後にアランの飛び蹴りが残った眼魔達を全て消し飛ばした……私は目の前の光景を見て絶句することしか出来ないのだった……

 

 

 

私は完全になったはずだ……なのに何故!?私は目の前の光景を見て完全に混乱しきっていた

 

「はあ!」

 

「ふんッ!!」

 

呼び出しても呼び出しても消えていく主から借り受けた兵隊達。あのベルトを持たない者では眼魔を倒すことは出来ない、だからその後ろに居る女達を狙えと指示を出しているのだが、届かない。圧倒的な物量で押している筈なのに、ただの1体も女達の前に立つ事が出来た眼魔は存在しない

 

【いっきますよー!】

 

【イッヒッヒー!!】

 

先ほどの凄まじい光によって呼び出した眼魔の殆どが消滅し、残った眼魔も凄まじいスピードで撃退されている

 

【ムサシ!ラッシャイ!】

 

「力を貸してくれ武蔵!」

 

【任せられた!タケル!】

 

眼魂を奪われ、そして天空寺タケルは新たな力を取り戻し、パーカーゴーストを呼び出し、共に向かってくる

 

「行くぜッ!!」

 

【カブトッ!555ッ!ドライブッ!!!!】

 

横島忠夫は目にも止まらぬスピードで向かって来て、反撃も防御も出来ず一方的に殴り蹴られる

 

「貴様の存在を私は認めない」

 

「ここまでだな」

 

ずっと呼び出していた兵隊も全滅したのか、それと戦っていた者も合流してくる

 

「がっがはっ!?」

 

ありえない!ありえない!!!私は完全になった!完全になったのだ!私は失敗作などではない。だから負ける筈がない、こんな事になるはずがない!私は勝利し、眼魂を手にして主の元へ戻るのだ。そして私は完全な存在となり主へ仕えるのだ。こんな所で死にはしない……死んではならない……だが私の意思に反して身体が動くことはない

 

「これで終わりだ!」

 

【ダイカイガン!平成ライダー!オメガドライブッ!!】

 

「命燃やすぜッ!」

 

【ゼンカイガンッ!グレイトフルッ!オメガドライブッ!!】

 

「消えろ!」

 

【ダイテンガンッ!ネクロム!オメガウルオウド!】

 

「あるべき所へ帰るんだな」

 

【FINAL ATTACK RIDE De・De・De・Decade!】

 

それぞれが独特の動作をした後に飛び上がり、凄まじいエネルギーが込められた蹴りが向かってくる。

 

防がなければ、避けなければ……そう判っているのに身体は動かない

 

「ぐっ、ああああああああ!?!?」

 

凄まじいまでのエネルギーに身体が焼かれる、私が消える……消えてしまう……

 

(まだ、駄目だ……)

 

まだ私は何も成し遂げていない。主の役に立つ為に生まれと言うのに、私は……まだ死ねない、まだ死ぬことは許さない……だが私の身体は燃えていく……

 

『マダ……マダダ!!』

 

まだ消えることは許されない……まだ……まだ……マダマダマダッ!!マダマダマダッ!!そして私の核にエネルギーの本流が迫ったとき……体の中で何かが軋みを上げて動き出した……

 

 

 

お、終わったのか……?エネルギーの炎に焼かれ、倒れて動く事のないノーフェイスを警戒しながら見つめる

 

「いくらなんでもあそこまでの攻撃を受けては流石の奴も回復できまい」

 

アランがそう呟く、眼魂を奪われる訳には行かないので徹底して速攻をかけたが、速攻だったゆえに倒しきれたの

か?と言う不安が胸を過ぎる、だがいつまで立っても動き出す気配は無い

 

「これで終わりだな」

 

警戒していたアランが構えを解いた瞬間。炎に呑まれていたノーフェイスの指が動いた、慌てて構えを取るが反応はそれだけでやはり動き出す気配は無い。だが消える気配も無い……

 

(どうなっているんだ?)

 

今まで倒した眼魔はパーカーが弾け飛んでから爆発していたが、ノーフェイスにはそれが無い。この世界の眼魔だからだろうか?消え去る気配の無いノーフェイスを見つめていたその瞬間

 

【ゼンカイガンッ!!!】

 

不気味な機械音声が周囲に響き渡り、ノーフェイスの周りに15のパーカーが浮かび上がる。

 

「まさか!止めるんだ!!」

 

慌ててサングラスラッシャーを振るいパーカーを打ち落とそうとするが当らない。門矢さんや横島さんも攻撃するがやはり当らず、15のパーカー全てがノーフェイスに重なった瞬間炎が弾けとび

 

「ば、馬鹿な……ありえない」

 

アランがよろよろと後退する、俺も同じように後ずさっていた……何故ならばノーフェイスの姿は今俺が変身しているグレイトフルと酷似した姿をしており

 

【コレヨリマッサツをカイシシマス】

 

先ほど響いた機械音声音が響くと同時にその手が腰のベルトに伸びる

 

「門矢さん!」

 

「判っている!」

 

あれがもしグレイトフルをコピーした姿と言うのならあれを許してはいけない、1番近くに居た門矢さんが飛び出すが……遅かった……

 

【ムサシ!エジソン!ロビンフッド!ニュートン!ビリー・ザ・キッド!ベートベン!ベンケイ!ゴエモン!リョウマ!ヒミコ!ツタンカーメン!ノブナガ!フーディーニ!グリム!サンゾウ!】

 

機械的な声と違ってスムーズに動いたノーフェイスの指。そして俺達の目の前に現れた15の影。それは俺の予想通り英雄の力を持った15体の眼魔だった……

 

【ヤレ】

 

【【【【【!!!】】】】

 

それぞれの英雄眼魔が己が得意とする武器を構えて向かってくるのを見て、俺と門矢さんが同時にベルトに手を伸ばしたが

 

【!!!】

 

「「ぐあっ!?」」

 

俺と門矢さんの腕が大きく弾き飛ばされる。痺れる右手に突き刺さっているのはエネルギーで出来た弓矢、門矢さんには銃弾……

 

(これはロビンフッドと信長か!?)

 

ノーフェイスの隣で4人に分身し素早い動きで矢を放ったのだと判る。ロビンフッドの力は知っていたが、こうして敵に回った時にその脅威がよく判る……って

 

「横島さん!ピンクの眼魔から離れろッ!」

 

横島さんに突っ込んでいる眼魔を見てそう叫ぶ。間違いなくあの眼魔は卑弥呼の力を持っている、となると幽霊に近い俺や横島さん、そしてアランの天敵だ。だが警告が遅すぎた

 

「えっうわああ!?」

 

【!!】

 

下からの切り上げの直撃を喰らい吹き飛ばされた横島さんがこっちに転がってくる。

 

そのダメージは凄まじかったのか平成魂が解除されてウィスプに戻っている。追撃にと走り出す卑弥呼と竜馬を止めようとするが

 

【【【!!!】】】

 

「くっ!不味い!」

 

武蔵・弁慶・三蔵が立ちふさがり救援に回ることが出来ない。さっき横島さんの平成魂の能力で呼び出したジャックランタン魂と沖田魂、韋駄天魂、牛若丸魂も

 

【横島君!くっ!このおっ!!】

 

【イッヒ!?】

 

ビリーザキッド・フーディー二・グリムの遠隔攻撃の得意な英霊の能力を持った眼魔に押さえ込まれていた

 

「くっ!俺がッ!」

 

ルージ君の足が光り凄まじいスピードで走り出したが、その動きが止まり、膝を付く。これは……!?

 

【!!!!】

 

重力で動きを止められたこんな事が出来るのはニュートンだけだ。近いのに、手が届かない。このままでは横島さんが危ない、そう思った時

 

「ワンワンワンワンッ!!!」

 

凄まじい声で鳴きながらキャットが俺の前を走って行く、横島さんを護ろうとしているのは判るが、あんな子狐で何か出来るとは思えない。そう思った時

 

「殴ッ血KILL (ブッちぎる ) !」

 

タマモキャットの身体が光り、赤い着物を着込んだ美しい女性の姿へと変わっていた。そして凄まじいスピードで振るわれた両爪が卑弥呼と竜馬を弾き飛ばし、横島さんの前に立つ

 

「我こそはタマモナインの一角、野生の狐タマモキャット!ご主人を傷つける者は許さんぞ!」

 

た、タマモナイン?……何それ?思わず困惑しているとタマモキャットは

 

「うん……というわけで皆殺しだワン! 『 燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)ッ!!!」

 

ニャーンッ!!!と言う凄まじい猫の声が響いたと思った瞬間。俺達の前に居た15体の眼魔全てが吹き飛ばされる

 

「はあ!?なによあれ!?」

 

「……馬鹿狐の欠片だけあって吹っ飛んでいるな」

 

「コーン!?」

 

後ろのほうで困惑している美神さん達の悲鳴が聞こえる。俺自身もかなり混乱している、猫の声しか聞こえなかったけど……なんで全部吹き飛んでいるのだろうか……?と言う疑問は残るが、その威力で体勢を立て直す隙が出来た……そう思った瞬間

 

金色の光が目の前を過る。

 

「ま、また別の仮面ライダー?」

 

金色の光が目の前を過ぎったと思った瞬間。金色の姿をした見覚えの無い仮面ライダーが俺達とノーフェイスの間に立っていた

 

【キケン。ハイジョシ……!?!?】

 

その金色のライダーが右手を向けるとノーフェイスの身体が眼に見えない巨大な手で掴まれた様に動きが止まる

「……」

 

そのまま右手を上げるとノーフェイスの身体が浮かび上がり、振り下ろすとノーフェイスの身体が岩山に叩きつけられる

 

【グガ……ウッ!?ガハア!?】

 

何度も何度も岩山に叩きつけられるノーフェイス。何がどうなっているんだ……あのライダーは味方なのか?……目の前で圧倒的な力を持つ金色のライダーに恐れを抱かずにはいられなかった

 

【全開眼!絆!オメガドライブッ!!!】

 

「……」

 

金色のライダーの身体から凄まじい数のパーカーゴーストが飛び出す、その数はグレイトフルの倍の30

 

「馬鹿な……英雄眼魂は15個のはずだ……その全てが此方側にある。ではあの眼魂はなんなんだ!?」

 

アランの悲鳴にも似た声が響く中、30のパーカーゴーストは複雑な魔法陣を描き出し

 

「ッ!!!!」

 

飛び上がった金色のライダーはその魔法陣のエネルギーを纏った飛び蹴りをノーフェイスに叩き込んだ

 

【ギガア……】

 

その苦悶の声がノーフェイスの最後の言葉になり、爆発と共にノーフェイスの姿は完全に消えた

 

「お前は何者だ?」

 

門矢さんがそう尋ねるが爆発を背にしていた金色のライダーは何も答えず、此方を向いた。その腰に巻かれていたのは俺のと同じゴーストドライバー……

 

(マコト兄ちゃんじゃない……じゃああれは誰なんだ……?)

 

誰が変身しているのか?そしてあの異常な力を持つ何者かに警戒を強める。だが金色のライダーは興味が無さそうに俺と門矢さんを無視して何かを横島さんに投げつける

 

「うわっとと!?こ、これは?」

 

投げつけられたのは眼魂だった。しかし英雄眼魂とも違う、全く別の何かの眼魂だった。漆黒の球体に縁取りが金……どこと無くグレイトフルを連想させる眼魂にはGと言うナンバリングが振られていた

 

「……」

 

そして横島さんに謎の眼魂を投げつけた金色のライダーは現れた時と同じように、金色の粒子と化して解けるように消えていくのだった……

 

何者かは全然わからないけど1つだけ分かる事は…ひとまず、戦いが終わったと言う事だけだ。

 

 

「ノーフェイスは敗れたか……」

 

妙神山に使い魔を送る事が出来ないので、ノーフェイスの視界を共有し見ていたが、敗れる事が前提だったとは言えもう少し粘ると思っていたんだがな……

 

「下手に改造しすぎたのが裏目に出たか……まぁ、良いデータは残ったと思えば良いか」

 

12の眼魂全てを取り込んだ暴走形態。あれが想定外だった訳だが、横島が変身したウィスプの能力を模倣する事には成功した。それだけでノーフェイスの役割は十分に果たした

 

「私の理論は間違いではなかった。ならば……」

 

集めたデータを統合し、実行ボタンを叩く、すると私が今まで集めたデータを下に霊石の削りだしが始まる。

 

「あとはこれをベースに試作を繰り返すだけだな」

 

機械が停止し、そこから姿を見せた篭手と、その隣に転がる黒い眼魂を見て私は笑みを深めるのだった……

 



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エクストラ

今回は最終回の前にちょっとおまけとして話を入れさせていただきます

コラボ最終回は次回となりますのでよろしくお願いします


「そう言えばルージ君。気になってたんだけどその左手首に付けてるのは何?」

 

お昼を食べ終えた後、蛍がふと、ルージの左手首に付けているのに質問した。

 

見た目はライオンのが描かれた…腕時計じゃないけど良く特撮とかで見る感じの手首に付けてる通信機みたいな感じでルージが右手首に付けてるのに少し似てるけど微妙にボタンが違うそれは確かに俺も気になってたんだよな…

 

「これですか?どうします門矢さん?」

 

「んー、しばらく出してやってなかったし良いか。小竜姫様、御庭を少し借りても良いですか?」

 

「?ええ良いですよ」

 

心配そうに聞くルージに対してそう頼んだ門矢のになんでお庭を借りる必要あるんだと思ったがすぐさま知る事になった。

 

 

 

 

芦蛍の質問に対してのでどうして外に出たか疑問でしたがルージ・ファミロンはこちらから離れると此処で大丈夫かなと呟いてからこちらを見る。

 

「では行きますよ」

 

ホント何をするのやら…と思っていたら…

 

「ムラサメライガー!!!」

 

咆哮しながら左手首に付けていたブレスレットのボタンを押すとブレスレットの獣の顔が吠える様に動いたと思ったら光の球が飛び出してルージ・ファミロンの後ろに行くのを見てると…

 

グォォォォォォォォォォォォン!!!

 

「ななななな、なんじゃありゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「うきゅきゅきゅ!?」

 

「みむー!?」

 

「ワワワンワワワン!」

 

「コォォォン!?」

 

現れたのに横島やペットたちが騒いでいるが私達は唖然としていた。

 

現れたのは巨大なライオン…いえ、名前からしてライオンを父に、虎を母に持つライガーが正確なのでしょうか?ただ鬣が大きいからライオン型とも言える四足歩行のロボットで白き体に鬣と口から覗く牙は金色に輝き、顔の側面、肩甲骨と足甲骨に当たる部分に装着された装甲は青く輝き、顔はバイザーの様なV字の額とその横から覗くオレンジ色の瞳もそうだが目立つのはその腰に装着された大刀…それだけならまだ横島達の様に驚き程度に抑えられますでしょうが私以外に美神や芦蛍が驚きを通り越して唖然としているのはそのロボットが魂の波長を発しているから…つまりこのロボットは生きている!?

 

「す、すげぇ、ロボットだぞチビ!と言うか吠えたな!自動的なのか!」

 

「みみみみみ!」

 

「あ、止めてくださいね。ムラサメライガーは俺の大切な相棒ですから」

 

そんな私達をつゆ知らずに驚きから覚めて目を輝かせる横島と手をバタバタさせるグレムリンにルージ・ファミロンは注意する。

 

「よ、横島!そのロボットは普通じゃない!生きてる!生きてるのよ!」

 

「え!?こいつロボットだよな!?」

 

「まぁ、驚くはな……」

 

「ムラサメライガーは金属生命体ゾイドの1体なんですよ」

 

芦蛍に言われて驚く横島に門矢はうんうんと頷く隣でルージ・ファミロンが言った事に私達は驚く。

 

【金属生命体……ですか?】

 

「生命体と言う事はこの大きいのは生きてるのか?」

 

「なんと、驚きですぞ!」

 

「はい、俺がいた世界……その世界に存在する惑星Ziには様々な生き物の姿をした機械生命体ゾイドが生息していたんです。ただ、俺の時代だととある大災害で地面や海の底などの様々な場所で発掘する形で見つけてるんですよ。ムラサメライガーもそうやって出会いました」

 

おキヌやアランにそう説明しながらルージ・ファミロンは近寄るとムラサメライガーと呼ばれたロボットは伏せ、顔の一部分が展開……って展開するのですか!?

 

「なんか開いた!?」

 

「ああ、あいつは人を乗せれるんだぜ」

 

「はわ~凄いわね別世界」

 

……別世界はとんだぶっとんだ技術でありふれてるわねと思わず私は現実逃避気味にそう考えてしまった。

 

 

 

 

いやー、マジすげぇな……と俺はそう考えていてルージが乗り込む所を見ていてあれ?となる。

 

なんかライオンの顔はどっかで見た様な…と思ったら……思い出した!

 

「ああ、そうだ!!こいつ夢で見たのだ!!」

 

そうだよ!タケル達と出会う前に見た夢に出たのと瓜二つだ!とうんうんと納得する。

 

「え、横島夢で見たの?このライオンを!?」

 

「そうそう!見たんだよ!こいつを!タケル達と出会う事になった日に!」

 

もしかしてあの夢はルージ達と会う事を示してたのか?と思ってる中で美神さんが門矢に話しかけていた。

 

「門矢君。もしかしてルージ君のあの鎧は……」

 

「まぁ、御察しの通り、ルージの鎧はこいつを元にしてるんですよ。んでその特徴もちゃんと再現されてます。ブレイドが怪人に対してのならあの鎧は幽霊に対してのになるんですよ」

 

「成程、ですから眼魔との戦いでは仮面ライダーで戦ったのですな」

 

「門矢さん。もしかしてムラサメライガーを再現してるって事はあのエヴォルトはムラサメライガーが出来る事なんですよね?」

 

御成も納得してる隣で聞いたタケルのに確かにと俺達は気づくと門矢は正解と返す。

 

「ルージ!どうせだしあの時には見せていない『無限』を見せてやってくれよ」

 

『はい!分かりました!』

 

「無限?」

 

どう言うのだろうかと考えている間にルージの声が響き渡る。

 

『ムゲン……ランガー!!!』

 

その後にムラサメライガーの背中?いや腰にあった大刀が空へと切っ先を向けて伸ばしたと思ったら付け根部分に『『村雨』って文字が出たと思ったらすぐに消えて大刀は六道で見たのと同じように空へと飛んで行く。

 

「なる手順はほぼ同じなのね」

 

「な、何が起こるのですか?」

 

「お前たちは知ってるのか?」

 

「あ、そっか、シズクと御成は見てないから知らんのも仕方ないか」

 

2人は家でごうも……げふん、特訓してたもんな…と思ってる間にムラサメライガーは白い光りに包まれたと思ったらその姿は一瞬で変わっていた。

 

光っていた時になんかタマモやキャットが嬉しそうに鳴いたのはなんでかな?と思った。

 

青かった部分は白銀に輝いていてなんて言うかこう、六道で見たハヤテライガーの姿が軽装ならこっちは重装された感じがするな……

 

その後にムラサメライガーの後ろの空からあの時と似た感じで刀が2本飛んで来た。

 

ただ、あの時は小刀とか小太刀だったけど、こっちの場合は大刀がそのまま2本になってた感じでそのままライガーの腰に装着された。

 

「これが……ムゲンライガー……」

 

「そう、ハヤテライガーが速さなら、こっちは力に特化したエヴォルトッス」

 

「成程ね…確かに大刀が2本あればその力は計り知れないわね…」

 

マジか……もしも叩き込まれてたらと考えてゾッとしてすぐさま振り払ってる間にムラサメライガー改めムゲンライガーは調子を確かめる様に2本の大刀を振り回す。

 

「いやー別世界って凄いわね……あの大刀だったら伐採が楽になりそうね」

 

「そこですか思いつくの!?」

 

あー確かにゲンちゃんさんの言う通り伐採とか楽そうだな……と考えているとルージが降りて来る。

 

「門矢さん、夜までの間だけ、ライガーを歩かせて良いですか?」

 

「んー……そうだな……んじゃあ小さくするぞ」

 

そう返した門矢は近寄ってほいっとムゲンライガーの前足に触れるとムゲンライガーが光った後にドンドン縮んで…はい?

 

「ガウ」

 

「「「小さくなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

「何をしたんだ?」

 

「門矢マジック☆」

 

「つまり種も仕掛けも秘密って訳ね;」

 

知らせる気なしなんかーとアランのに門矢が茶化す中でルージが抱えられる位にタマモ達と同じ大きさまでに小さくなったムゲンライガーは俺達が驚いている間にモグラちゃん達と楽しそうに遊ぶ。

 

 

 

「そう言えば、門矢君はどんな霊能力が使えるの?」

 

微笑ましいなとムゲンライガーと遊ぶチビちゃん達を見てると美神さんがそう門矢さんに質問をした。

 

「んー流石に教えられないのもありますけど答える前に参考程度に聞きますけどそっちの俺はどういう感じに成長してますか?」

 

「あー……そうね……」

 

聞き返されると美神さんは困った顔をして蛍さん達も似た様な感じになっていた。

 

しかも当事者な横島さんも唸っている。

 

一応、仮面ライダー以外のじゃあ陰陽術は使えると言うのは六道女学院で知ってるけど、確かにそれ以外のは知らないなと改めて気づいた。

 

「私が知ってる限りのだと……」

 

そう言って美神さんが横島さんがこれまで使ったのを教えてくれると門矢さんは頭を抱える。

 

「いやなんだよそのスクライドのカズマが使っていたアルターの様な篭手…しかも羽が3つって所も似てるって…」

 

「え?なんか似た様なのを知ってるの門矢は!?」

 

出て来た言葉に蛍さんが食いつくとまあなと門矢さんは返してから説明を始める。

 

「シェルブリットって言って3つの羽を1枚ずつ消費する事で爆発的な推進力を出すんだよ。んで3つ使い切ったら1戦闘ではもう使えなくなるんだよ。第2とか上の形態が複数あって強化されるけど第2も曲者で羽の制限は無くなったけど負担が第1よりも強くなって普通に今の横島がそれに至ったらしばらくは動けなくなるか下手したら後遺症が出来る可能性もあるな」

 

「ま、マジか……確かにそうなりたくねえな;」

 

確かに後遺症が出来たらGSとしてもやれなくなるだろうし日常での生活にも支障が出ちゃうのは確実だもんね。

 

「そうなると……俺が教えられるのは霊波刀とかサイキックソーサーの応用だな」

 

「霊波刀?刀に霊力を乗せる感じか?」

 

ふうむと顎に手を当てて呟いた門矢さんのに横島さんがそう言うけど俺が知る限りのだと確か手に霊力を収束させて文字通り刃の様にする奴だったけ?

 

「ちゃうちゃう。今見せてやるから」

 

そう言って実践と門矢さんは右手に霊力を集中させて霊波刀を作り上げる。

 

「おお!?すげぇなこれ」

 

「これが霊波刀な、コツさえ使えば使えるようになると思うぞ。んでサイキックソーサーの応用がこれな」

 

そう言って手のひらサイズの盾の様なのを作ったと思ったら良くアニメやドラマとかで見る騎士が持ってる大きさになる。

 

「これは……霊力を多めに注いだのね」

 

「そうッス。まぁ、注ぐ霊力の量によるけどしばらくの防御術になるな」

 

「うわぁ……それやと俺、マトモなの作れるのかね……」

 

不安そうになる横島さんだけどまっ、そこは要練習だなと門矢さんは言う。

 

【……ただ横島にはあまり向いてないかも知れんな。霊力を圧縮して刃を作るなら、あの篭手が出来る前に発現しているだろう】

 

同じ横島さんでも、性格とかで発現する能力が違うってことかな?

 

「んーそれはありえるかもしれないわね、大体態々あれだけ霊力圧縮してるのに、拳ってのは気になってるのよね。普通あれだけ圧縮したら剣とか連想しない?」

 

「え?いや。全然でしたね!ぶん殴ってやろう!っとしか……それに剣とかだと怪我させちゃいそうじゃないですか?」

 

もしかしてこっちの横島さんって性格が穏やか過ぎて、相手を傷つける刃とか槍を連想できないから拳になったしまったんじゃないだろうか?と思った

 

「霊波刃は追々考えるとして、サイキックソーサーの強化は割とできるかもしれないわね、横島の性格的に……後は、タマモとかシズクの加護ね。良くわかんないけど、横島の能力を底上げしてるわ。具体的には回復力の強化とか、幻術耐性とか、炎と水に強いとか、瞬間的な霊力の強化とかね」

 

門矢さんは自動回復に火炎・凍結耐性に幻術耐性……こっちの俺はどんな生活をしてたんだ?どうしたらそんな特殊能力が付くんだ?と唸りながら

 

「霊力を増幅かぁ……一応一瞬でめちゃくちゃ強化出来るのは知っているが……それは無理や」

 

「え?なんでや?」

 

確かにすぐに霊力を増幅させる事が出来るなら助かると思うけど……

 

「教えたら……ワイが死ぬ!物理的にそこのオカンとか蛍や美神さんによって!」

 

「そんなに危険な奴なんか!?」

 

「……と言うかオカン言うな」

 

あぶなっ!?とシズクさんの放った氷を避けながら逃げる門矢さんのにどういうのなんだろうと首を傾げた。

 

……後で元の世界に帰った時に見直し的に漫画を見たら確かにあの横島さんに教えたらヤバいなと気づいたのは今回関係ないけどね。

 

ちなみに……

 

「……なぜ想像するだけで強くなれるのだ横島は?」

 

しばらくして仲間になったアランの純粋な言葉にはどう答えるか本気で迷った。そしてあの世界の横島さんはかなりの純粋培養をされているんだなあっと思わずにはいられないのだった……



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その16

謎の金色の仮面ライダーが助けてくれた事でノーフェイスの危機は去り、投げ渡された眼魂を手の上に乗せて観察していると

 

「みーむうー!」

 

「うきゅー!」

 

「クオーン!」

 

危険だという事で妙神山に隠れているように言っていたチビ達が元気良く鳴いて向かってくる。その後ろから歩いて来ている美神さん達を見ていると

 

「うむ……無茶をしたか……」

 

キャットのそんな声が聞こえて、振り返るとキャットの姿が金色の粒子となって足から消え始めていた

 

「きゃ、キャット!?お、お前どうしたんだ!?」

 

痛む身体に眉を顰めながら消えようとしているキャットに駆け寄るとキャットは困ったように笑いながら

 

「うむ、すまないなご主人。キャットはまだ完全に霊基が安定してなかったのだ、だから消えてしまうのは当然の事」

 

霊基?……俺には何の事か判らない。でも消えてしまうと言われて、はいそうですかと納得出来るわけが無い。キャットの手を取ろうとするがその手を掴む事が出来ない

 

「すまないご主人。キャットが無茶をしたせいでご主人を泣かせてしまったな、だがキャットは後悔していないぞ!ご主人を護れたのだ、キャットはそれだけで無理をして現界した価値があった」

 

にこりと笑うキャットを見つめていると美神さん達が消えかけているキャットを見て

 

「そう……そう言う事だったのね。貴方も英霊だったのね?」

 

牛若丸と同じ……?美神さんの言葉を聞いたキャットはチッチと指を振りながら

 

「少し違うな、キャットは英霊と昇華した玉藻の前から切り離された心の欠片。力を持つタマモに引かれ不安定な形で現界した。英霊とは異なる物だ」

 

淡々と騙るキャットだが、ついには腰元まで消えているキャットを見て、涙が溢れる……少しの間だが、家族として暮らした。これからもっと楽しく暮らして生きたいと思っていたのに

 

「悲しむなご主人。此度の出会いは仮初の物……本来はありえぬ夢のような物……だが縁は結ばれた。もしも……もしもご主人が……聖杯を巡る戦いに巻き込まれたのならば、このキャット……真っ先に駆けつけるワン!だからきっとまた会える」

 

聖杯……?なんだそれは……だがまた会えると言うのならば……

 

「判った……またな」

 

さよならは言わない、いつになるか判らないが……会えると言うのならば……言うべき言葉はさよならじゃなくて……またなしかないと思ったのだ

 

「みーむう」

 

「うきゅー」

 

 

「クウ」

 

俺の言葉に続いて、チビ達も小さく手を振り鳴く。もう胸元まできえているキャットは俺達を見て満足げに笑い

 

「ではな……また会おう!ご主人!リボンは……返す!また会えた時にまた結んでくれッ!」

 

そう言うとキャットの姿は弾ける様に消え、残ったのは俺が買ってやったリボン……ゆっくりと落ちてくるリボンを掴んで

 

「ありがとう……」

 

助けてくれてありがとう、そして何も出来なくてごめん……また会えるのなら……その時は……少しは強い俺になってるか

ら……タマモキャットのリボンを左腕に結び、少しぼやけた視線に気付き慌てて腕で擦る

 

【キャットは死んだわけじゃない、あるべき所に帰っただけだ。だから泣くなよ、横島】

 

心眼の言葉にわかっていると返事を返し、俺は放れた所で見ている美神さん達の元へ戻るのだった……

 

 

 

ここで少し時間は巻き戻る。妙神山の近くで戦っているのに小竜姫や老師が応援に来なかった事にはある理由があった

 

「必要な戦いと言う事か」

 

「そうなのねー……だから申し訳ないけど邪魔はしないで欲しいのねー」

 

真っ先に応援に向かおうとした小竜姫だが、突如現れたヒャクメと柩によって止められていたのだ

 

「逆行なんですか?」

 

「くひ!それは違うね、小竜姫。これは逆行じゃない、歴史によって決められた必要な出来事さ。くひひ!だからこれは逆行じゃない、逆説的になるが……この戦いがなければ未来は途絶えるのさ」

 

ここに居るヒャクメと柩は今の時代からすれば未来の存在だろう。ゆえに本来ならば過去に介入する事は逆行となり、歴史改変とつながるが、今回だけはそうではない。この2人が知りえる未来でもやはり同じく、未来のヒャクメと柩……そして

 

「たはー……つ、疲れたあー……」

 

横島忠夫が介入し、ノーフェイスを倒す事になるのだ。これは歴史の中で決められた逆行であり、歴史改変ではあるが、歴史改変ではないのだ

 

「ほう?ずいぶんと己を磨いたのだな」

 

老師が現れた未来の横島を見てそう呟く、今の横島よりもはるかに感じる霊力が高い事を老師は一目で見抜いたのだ

 

「横島さんも~色々ありましたから。まぁ……そう込み入った話もあると思いますが……あんまり居ると本当に歴史改変になるので失礼するのね~」

 

横島が戻ってきたタイミングで3人の後ろに時間の歪が現れる。それは奇しくも今の横島達が報告に戻って来たタイミングだった

 

「先に戻ってるよ、くひ!君はまだ話すことがあるのだからね」

 

「出来るだけ早く戻ってくるのねー」

 

先に時空の歪に飛び込んだヒャクメと柩を見送った横島は老師の後ろに座っている三蔵を見て

 

「不躾ですがお願いがあります、玄奘三蔵さん」

 

急に声を掛けられた三蔵は驚いた表情をしたが、直ぐに横島の方を見て

 

「何かしら?」

 

「はい、貴女でなければ出来ないんです。どうか白竜寺をお願いします、暫く現世にいるのでしょう」

 

横島にそう言われた三蔵はま、そのつもりだし考えておくわと返事を返した。横島はありがとうございますと返事を返し

 

「では小竜姫様、老師。失礼します、もう会うこともないですが……また俺をよろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げて歪に飛び込み消えて行った横島を小竜姫達は無言で見送るのだった……

 

 

 

消えて行った未来の横島を見送ってからワシは先ほどの横島の言葉の意味を考えていた

 

(お師匠様にしか出来ないこと……か)

 

玄奘三蔵老師にしか出来ないこと……それは何だろうか?確かにお師匠様は徳の高い僧だが……それ以上におっちょこちょいでトラブルメイカーと言う面も強い、そんなお師匠様しか出来ない事は何なのだろうか?と考えていると

 

「悟空……白竜寺って言うのは?」

 

お師匠様の問いかけに簡単に説明をする。ガープにより霊脈が乱れた元は人間界にしては上等な霊地に作られた修行場で、現在は寺として再建されている段階だと……

 

「判ったわ!未来の横島君はその寺の住職になってくれって事を頼んでいたのね!」

 

はい?……ワシと小竜姫の目が点になる。お師匠様の考えている事が判ったことなど数回しかないが、それでもその考えはおかしい

 

「どうせ天界から何人か聖人を下界に下ろして、ソロモン対策するんでしょ?じゃあ!まずは私が行くわ!じゃ!行ってくるわ!」

 

いやいや!!確かにその話はあったが、それはもう人選が決まっている。勝手に向かっていい物ではありませんっと叫ぶが、ワシの言葉は聞こえている筈なのに……天界の最高指導者であるきーやんの指示は殆どと言って聞いてくれないお師匠様

 

(仏教なので仏陀様の話しか聞いてくれない)は砂煙を上げながら走って行く。何度か見たその姿に呆れ果てて一瞬反応が遅れてしまった……

 

「待って!待ってください!三蔵様-ッ!」

 

しゅたっと手を上げて走っていくお師匠様を見て小竜姫が叫ぶが、あっという間に姿が見えなくなる。……妙に活動力のあるところが完全に裏目に……っと言うかこんな事をしている場合ではない!

 

「ええい!小竜姫!留守番をしておれ!お師匠様を迎えに行って来る!」

 

あの人を自由にするのは余りに危険すぎる。ワシと猪 八戒に沙悟浄がどれだけ振り回されたか!慌てて追いかけて行こうとすると

 

「羯諦(ぎゃてぇ)……ごくう~白竜寺ってどこ?」

 

勢いで走って行ったが、場所を知らないことを思い出して引き返してきたお師匠様に安堵の溜息を吐き

 

「まずは下界に降りる前に今の下界の常識を覚えてもらいましょうか。それに服装も」

 

「?お釈迦様から貰ったありがたい物よ?」

 

それは知っている、知っているが……露出が多い上に現代で着ていればコスプレにしか思われないだろう

 

「小竜姫。お師匠様を頼む……ワシは最高指導者の元へ向かう」

 

言い出したら聞かない性格だ、どれだけ頼んでも下界の白竜寺へ向かうだろう。ならそれ相応の準備をしなければならない、服に始まり東京の地理に現在の常識など覚えて貰うことは山ほどある

 

(うらむぞ……横島)

 

未来で何を見たかは知らないが、お師匠様に下界に来てくれと頼んだ横島に恨み言を呟きながら、ワシは妙神山を後にしたのだった……

 

「うーやっぱこれ胸苦しいわね。小竜姫ちゃん?もう少しサイズ大きいの無い?」

 

「……さ、探して見ます」

 

胸が小さい事を気にしている小竜姫にとって三蔵の言葉は非常に傷つく物で、本当なら怒鳴りたい所なのだが老師の師匠と言うこともあり、なおかつ自分にとっては大上司と言うこともあり、小竜姫は引き攣った顔をしながら更にサイズの大きい修行着を探しに向かうのだった……

 

 

「あ、おっかえり~」

 

屋敷に入るとゲンちゃんさんが走って来る。その後ろから何やら疲れた顔をした小竜姫様が付いて来る。

 

「ちょっと小竜姫、なんで来なかったのよ。こっちは色々と危機一髪だったのよ!」

 

「あー、その、色々と事情がありまして…」

 

「まあまあ美神さん、相手が最上級悪魔とか神じゃないんですし、介入したくても判断が付かんかったんでしょう」

 

ぷりぷり怒る美神さんを門矢が宥めているのを見ていたらふと、懐から平成ライダー眼魂を取り出すと平成ライダー眼魂は光った後に消えた……ってええ!?

 

「消えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「あー、どうやら1発限りのだったみたいね」

 

マジかよー!と俺が嘆いてると、カオスのジーさんが作ってくれた動物型のサポートアイテムも火花を散らして爆発する

 

「これも壊れたああ!?」

 

急ごしらえと聞いていたけど、このタイミングで壊れるか普通!?ショックな事が重なりすぎだろう!?っと言うか他のライダー眼魂は!と慌てて取り出したけど海東から新たに出されたバース、ビースト、マッハ、チェイサーのは残っていた。良かったー…まだ使ってないのに消えていたら貰った意味ねえだったからマジで助かった……と思っていたら

 

「ふぎゃあっ!!」

 

頭の上に何かが落ちてきて思わずそう叫ぶ。頭を両手で押さえてしゃがみ込む……す、すげえ痛かった……何が落ちてきたんだ?と顔を上げると

 

「ルービックキューブの眼魂?」

 

6面のカラフルな模様を持ったかなり大きい眼魂だった。平成ライダーがこれになったの?と思わず首を傾げる

 

「ルービックキューブ見たいね。横島君、色揃えてみる?」

 

美神さんに差し出されたそれを動かそうとするが

 

「ふぐぎいいいい!なんじゃあこりゃあ!うごかねぇ!」

 

カチカチでとてもじゃないが、絵柄を揃えるなんて無理そうだ。軽く振ってみるとからからと何かが転がる音がする

 

「中に眼魂が入ってるのかな?」

 

「かもしれないですね」

 

からからと音がするからもしかすると絵柄が揃うと眼魂がでて来るのかもしれない。今は使えないけどいずれ使えるかもしれないなと思い。バース、ビースト、マッハ、チェイサーの眼魂と一緒に鞄に入れようとしているとゲンちゃんさんがバース、ビースト、チェイサーの眼魂、そして巨大なルービックキューブの眼魂をいきなり取る。

 

「え、あ!?」

 

「おー何時の間に新しいの手に入れてたの…丁度良いからこの4つは私に貸してくれない?」

 

お願い!と手を合わせて俺にそう言うゲンちゃんさん。今回は事態が事態だったのと門矢がいたから負担を気にしないで結構使っていたけどあんまり使うなと言われてるから使用する機会が何時来るか分からないし……

 

「分かりました。けど大事に扱ってくださいね」

 

「分かってるわよ。この彼らもまた一英雄ですもの」

 

貸す事にして了承したのを後に何かを門矢に渡していたタケルが来る。

 

「そう言えば横島さん。ムサシさんがあのライダーから渡された眼魂について注意しておきたいとの事があるそうです」

 

「この眼魂か?」

 

言われて漆黒の球体に縁取りが金の眼魂を取り出す。

 

「その眼魂は俺が変身したグレイトフルの劣化した奴で負担は少なく、ムサシさん達15人の英雄の力を上乗せする事が出来るそうですがその場合の負担は横島さんが使う眼魂を超えるのと危険性が極めて高く、暴走する危険性を秘めてるそうですから力の上乗せの使用は最後の手段として極力使わない様にとの事です」

 

「成程ね…横島君、それの使用は絶対にしてはダメよ」

 

「ええ!?」

 

タケルが説明した後の美神さんの使用禁止令に俺は思わず声を上げちゃったが蛍達からも同じ感じで見られてるので使えないのにトホホとなる。そりゃあ痛い思いをするのは嫌だけど使ってやらないとなんか寂しい思いをさせる感じになる気がするんだよな…

 

「それで、これで我々の英雄の眼魂は取り戻したんだ。元の世界に戻るぞ」

 

「そう言えばタケルさん達はどう戻れば良いんですか?」

 

そう言えば…とアランの後のルージのに俺達はあっと声を漏らすと…

 

「ああ、それは大丈夫だ」

 

聞き覚えのある声に振り返るとそこにいたのは…

 

「翔太郎さん!」

 

「よう。迎えに来たぜ3人とも」

 

あの時見た穴の前に翔太郎さんがおり、その隣に美神さんの様に美人な女性がいた。

 

【えっと、誰でしょうか?】

 

「初めまして、私は八雲紫、彼の知り合いよ。今回は彼にお願いされて迎えに来た訳」

 

はぁ~そうなのか~と思っていると美神さん達は何やら八雲さんを警戒してた…なんで?

 

「…横島、そいつは妖怪だ…しかも強い存在だ」

 

ええ!?この人そんなに凄いのか!?なんか普通に見えるけど敵意がないからだろうか?そんな俺に八雲さんはふふっと笑った後に穴へと入る。

 

「ほら、早くしてよね。私はこれでも忙しいんだから」

 

「忙しいって訳ねえだろ。まぁ、とにかく早く来な、タケルだったか?レディが心配してたぜ」

 

「アカリが…そうか…」

 

「アカリ殿…拙僧の心配はないんですか」

 

促されながらタケル達は俺達へと体を向ける。

 

「色々とありがとうございました!」

 

「本当に助かりました」

 

「……礼を言うぞ」

 

「良いって!それに楽しかったからな!」

 

そう言ってからタケルや御成さんと握手をしてからアランともする。んでタケルは門矢にまた何かを返しながらそれじゃあ…と俺達に頭を下げながら穴に入る。

 

「さよなら!」

 

「ここでの事!忘れませんぞ!」

 

「さらばだ横島」

 

その言葉の後に翔太郎さんも穴に入ると穴は閉じた。

 

「んじゃあ俺達も帰るか」

 

「はい!」

 

タケル達を見送ると門矢とルージがそう会話したと思ったら2人の前に前に京都に向かう時に海東が使っていた壁が現れ、2人はそれに近づいた後にルージは頭を下げる。

 

「色々とありがとうございました!俺、会えてよかったです!」

 

「貴重な体験させて貰ったぜ…あ、そうそう、あの黄金のライダー…もしかしたらまた会えると思うぞ」

 

「え?どう言う事?」

 

門矢から出て来た言葉に俺達は驚く中でGSの勘だって門矢は笑ってから同じ様に驚いていたルージの背を押して壁を通る。

 

『俺が思うに、未来で何時か会えると思うぞ。案外、変身してる奴は意外な奴だったりするかもしれないかもな!』

 

『さようなら皆さん!もし縁があれば!!』

 

そう言い残して2人は元の世界に帰って行った。

 

「なんと言うか…思わせぶりな事を言って帰って行きましたわね」

 

【どういう意味なんでしょうね?】

 

「ホントにね」

 

くえすさんやおキヌちゃんに蛍のを聞きながら俺は門矢…いや別の世界の俺の言葉に確信出来ると思った。

 

これもGSの勘ってなんだろうなと思いながら眼魂を改めて握る。

 

 

こうして、短くも長い奇妙な出会いと別れを体験した横島達。

 

そんな横島達はそんな出会いから間もなくしてまた大きい異変に巻き込まれる事を知るのは…しばらく先である。

 

ー是非もなし!ー



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外伝リポート 外史からの来訪者
その1


どうも混沌の魔法使いです。今回からは外伝リポートとして劇場版の美神の話を書いてみようと思います。まぁ内容的にはそれをベースにしたオリジナルの話になるんですがね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

外伝リポート 外史からの来訪者 その1

 

炎に包まれた寺の中で対峙する2人の男の姿があった、1人は紫の禍々しい鎧に身を包んだ大柄の男。そしてもう1人は翡翠色の穂先を持つ槍を構えた男だった

 

「はっははははッ!!笑止ッ!貴様なんぞがこの第六天魔王織田信長に勝てると思っているのか!」

 

「黙れ!親方様の名を騙る悪鬼めッ!!この明智光秀が成敗してくれるッ!!」

 

明智光秀の言葉に織田信長と名乗った男の顔色が僅かに変わり、その形相が悪魔のような物に変化する

 

「ふははははッ!我の術に掛からぬ者が居ったか!だが例えそうだとしても!貴様の主君は「黙れッ!貴様を地獄に落とすが我が宿命!親方様の仇!今ここで取らせてもらうッ!」

 

明智光秀が織田信長の名を騙る悪魔の言葉を遮り、手にした槍を向ける

 

「はっ!悪魔祓いかッ!だがお前ごときにに我を調伏できるかぁッ!!」

 

突き出した腕から衝撃波が放たれ、明智光秀の身体を吹き飛ばすが、槍を寺の床に突き立てる事でそれを耐えた明智光秀は

 

「ぬう!舐めるなッ!悪霊退散ッ!はっ!!!」

 

懐から大量の破魔札を取り出し投げつける。それを見た悪魔は笑いながら

 

「ははははは!こんな紙切れが「はあああああッ!!!」ぬっうううっ!?」

 

破魔札は囮で、明智光秀は札が爆発した事で一瞬悪魔の視界を遮り、その一瞬の間に間合いを詰め手にした槍を悪魔の心臓に突き立てた

 

「ぐうっ!己ぇッ!!だが例えこの場は貴様に敗れたとしても、必ず蘇るッ!!」

 

「なにっ!」

 

「はっはははは!!貴様が塵へと成り果てた遠い未来で我は蘇るッ!ははッ!はーはははははッ!!!」

 

高笑いしながら消えていく悪魔の放った光が明智光秀を襲う、それは強力な呪いで明智光秀がその場に崩れ落ちる

 

「ぬうう……ぬかった……親方様……」

 

その呪いが急速に明智光秀の命を奪う。見る見る間にやつれていく明智光秀は手にしていた槍を支えにして立ち上がり

 

「貴様が遠い未来で蘇ったとしても!必ず我が意思を継ぐ者がいる!必ずやその者が貴様を倒すであろう!我が槍よ!時を超え!我が意思を継ぐ者の元へと行くのだぁッ!!!」

 

手にしていた槍は翡翠色の光に包まれ消えていった……そして残された明智光秀はその場に倒れ

 

「親方様……仇をとれなんだ……この無様な家臣をお許しください……」

 

手にしていた精霊石の槍を失ったことで急速に呪いが進み、一気に老人へと成り果てた明智光秀は炎に呑まれ消えていくのだった……

 

 

 

横島君と蛍ちゃんの単独実習が延期になってしまったが、他にも依頼は山ほど来ている。と言うわけで除霊実習と言う事にして蛍ちゃんと横島君をつれてきたんだけど、実習にならない事態になってしまった

 

「行け!チビ!雷だッ!」

 

「みむぎゃああああああッ!!!!!」

 

【【【ぎゃああああああッ!!!!!】】】

 

目の前を走る白い稲光に絶句する、もうチビはどう考えても、グレムリンという種族を超えていると思う。雷って自然現象よ?それを限定的とは言え呼び寄せるチビはどう考えてもグレムリンと言う種族の枠を超えているだろう、と言うかそんなグレムリンなんて怖すぎる

 

「けふっ」

 

「美神さーん、チビガス欠でーす!もう雷打てません!」

 

横島君がそう叫ぶけど正直2発の雷で悪霊殆ど全滅してるんだけど……残った悪霊は悪霊で

 

「うきゅ!うきゅッ!」

 

モグラちゃんの爪と足踏みで出現した岩の槍で貫かれているし

 

【さー沖田さん頑張りますよー!借金返済の為にッ!】

 

沖田ちゃんが次々と両断していくのではっきり言ってやることが無い。

 

「ねえ?なんでチビあんなにパワーアップしてるの?」

 

明らかに異常なパワーアップなので何か理由があるはず。なので1番知ってそうなシズクに尋ねてみると

 

「……さぁ?私が知るわけ無いだろう?」

 

なんで私に聞くんだ?と逆に聞き返される。シズクが原因じゃないって事は何が……

 

「みみ、美神さぁーん!?」

 

蛍ちゃんの動揺しまくった声に振り返ると、横島君の右腕がGS試験の時の篭手に包まれていて

 

「ストップ!横島君ストープッ!!!」

 

「迅雷のおおお……ファーストブリットォッ!!!!」

 

私も慌てて止めるように叫んだが、時既に遅し……イカヅチを纏った横島君の右拳が悪霊もろともマンションを打ち砕いたのだった……

 

「横島君、正座」

 

「……はい」

 

依頼主はどうせ壊すつもりだったからと言って、マンション解体の費用を何割かを報酬に乗せてくれたけど、それはそれ、これはこれだ。報酬を受け取って直ぐ事務所に戻り説教を始めた

 

「なんであんなのつかったのかしら?」

 

「……いや、俺もあんなに威力あるなんて思ってなくてですね?」

 

自分の力がどれくらいのものか判っていない、若手GSには良くある事だけど、あれは駄目だ。そんな言葉で片付けて良い威力の技じゃない

 

「あれは使用禁止。良いわね?自分で制御できない霊能なんて危険すぎるからね」

 

「……うっす……」

 

シズクの話ではシズクの牙・チビとモグラちゃんの牙にタマモの尻尾。霊具を作ると考えれば最高の素材を詰め込んだお守りを横島君が取り込んでいるらしいのでそれにより潜在霊力がまた開放されたと考えるべきだと思うけど

 

(今度検査をお願いしたほうがいいかもしれないわね)

 

あれだけの霊力を溜め込んでいる素材を取り込んだことに対する横島君への悪影響も考えないといけない。ドクターカオスに検査をお願いしたほうがいいかもしれない

 

【オーナー。唐巣神父が訪れていますので、横島さんへの説教はそれくらいで】

 

渋鯖人工幽霊壱号が教えてくれる。今日尋ねてくるとは聞いてないけど、何か用事かしら

 

「ま、今回はこれくらいにしておいてあげるわ」

 

まぁ横島君もどれくらいの威力か判ってなかったみたいだし、今回はこれくらいで勘弁してあげよう。すぐに蛍ちゃんとおキヌちゃんの方に向かう横島君に苦笑しながら

 

「今回の分も借金から直接引いておくわね?」

 

【はい!それで十分です!では沖田さんはお昼からエミさんのお手伝いなので失礼しまーす!】

 

霊体になって消えていく沖田ちゃんを見送ってから渋鯖人工幽霊壱号に唐巣先生を迎えてくれる?とお願いするのだった……

 

 

ガープの出現が影響しているのか、悪霊や妖怪の力が増しているのでそれについて警戒するようにと美神君に伝えに着たんだけど

 

「手伝いしようって思ったんやで?あんな威力あるなんて思ってないし……いきなり制御不能になるなんて思ってないし」

 

「……大丈夫。私やチビやモグラはちゃんと判っている。次があるさ」

 

使用禁止言われたもん……やっとまともな霊能力使えると思ったのに……とぶつぶつ呟いている横島君と

 

「大丈夫!ここまで出来たんだから破魔札とかも使えるようになってるわよ!」

 

【そうですよ!だからそんなに落ち込まないで頑張ってください!】

 

蛍君達に励まして貰っているその姿を見ながら、困ったように笑っている美神君に

 

「ビル粉砕ってもしかして横島君かい?」

 

解体予定のビルに悪霊が住み着いた件の除霊を引き受けていたのは美神君だったから、もしかしてと思ったけど本当にその通りだったんだね

 

「まだ霊力を思うようにコントロールできないみたいで、それで先生。今日は何の用事ですか?」

 

煎餅とお茶を用意してくれた美神君にありがとうと言ってから話を切り出す

 

「最近悪霊や妖怪がパワーアップしていると思わないかい?」

 

ピート君とシルフィー君にもお願いして、3人で分かれて小笠原君や、冥子君などの都内の有力GSにそう聞いて回っている。美神君はどう思う?と尋ねると

 

「チビが雷、モグラちゃんが地面から石の槍で殲滅しちゃうんですよね?最近だからあんまり苦戦と言うか、道具とかも使ってないんです」

 

部屋の隅でこちょこちょと遊んでいるグレムリンとモグラを見る。見た目はどう見ても可愛い小動物なんだが……

 

「みーむう?」

 

「うきゅー!」

 

私の視線に気付いたのか前足をぴこぴこと振る2匹を見てから

 

「雷使うのかい?」

 

「ええ、なんか回数制限とか、雲があるのが条件らしいですけど、悪霊の一団を纏めて焼き払うくらいの火力はあるみたいです」

 

……もうチビはグレムリンとかの枠を超えているんじゃないかな?雷を使うようなグレムリンなんて聞いた事が無い

 

「もしかすると悪霊とかのパワーアップがチビやモグラちゃんにも影響しているんじゃないかな?」

 

見た目は可愛くても悪魔と竜種だ。悪霊とかのパワーアップが2匹にも影響している可能性がある

 

「横島君!チビが雷使えるようになったの何時!?」

 

美神君に怒鳴られた横島君はえーとえーとと指折りしながら

 

「3日くらい前っす。その日はなんかずいぶんと元気で家の中を走り回っていたから良く覚えてます」

 

悪霊のパワーアップが始まったのが4日前……時期としたら丁度合致する

 

「これは結構不味いかもしれないですね」

 

「ああ。悪霊だけじゃなくて他の生物にも影響が出るとなると相当不味いね」

 

今はまだ悪霊や妖怪レベルで済んでいるが、グレムリンなどの下位の悪魔や土竜にも影響を及ぼすとなると早い段階で対処方を見つけ出さないと大変なことになる

 

「悪霊の出現の法則とかはどうなってます?」

 

私が持ってきた資料を捲りながら尋ねてくる美神君に私も同じように目的の資料を探す

 

「都内全域で出現率が上がっていると聞いているよ」

 

見つけた資料を美神君に手渡し、別の資料を探す。今回の事件はガープが現れた事で封印されていた何かが復活したのではないか?もしくは復活した何かが東京近辺で動いている可能性が出てきた。今の段階で後手に回っている為、少しでも早く対策を取れるように美神君と共に資料を片っ端から調べ始めるのだった……

 

 

 

急に慌しくなって来たわね?どうしたのかしら?唐巣神父と美神さんが急に慌しく動き出した、何かよくない事でもあったのだろうか?

 

「蛍ちゃん。悪いけど、そっちの棚から束ねてある文献取ってくれない?」

 

美神さんに声を掛けられたので棚を空けて文献を探す。見た所だと4つくらいあるわね

 

「4つありますけど、全部取れば良いですかー?」

 

どれもかなり年代ものの文献ね、古いのだと……戦国時代かしら?そんなことを考えながらどれを取ります?と尋ねる

 

「戦国時代から江戸時代のをお願い」

 

えーと……これとこれね。言われた年代の文献を手にして美神さんの方に向かう

 

「なー?チビ、タマモ、モグラちゃん。俺の方が近かったよな?やっぱ美神さん怒ってるのかなー?」

 

「みーむう?」

 

「うきゅ?」

 

「クーン」

 

自分のほうが近かったのに声を掛けて貰えなかったことにイジケて、チビやモグラちゃんと話をしている横島を見て

 

「美神さん怒っているんですか?」

 

違うとは思うけど一応尋ねてみると美神さんは横島の方を見て

 

「横島君。江戸時代の文献の文字の表紙見て判る?」

 

「……ワカリマセン」

 

……ああ、言っても判らないと思ったから私に声を掛けたのね。私が勉強を見てあげているから大分学力は上がっているけど、まだそう言う古い文献の見方はそこまでしっかり教えているわけじゃないし

 

「どうして江戸時代とかを選んだんですか?なにか根拠でもあったんですか?」

 

あそこまではっきりと断言したのだから何か確信があったんですか?と尋ねると

 

「うーん?感かしら?霊感が囁くって感じかしらね?」

 

根拠は無いけど、霊感が囁いている。普通ならそんなの根拠にならないですよと言う所だけど、霊能者の場合はこれが結構当ったりするからなあ……真剣に唐巣神父と話し合っているのを見て邪魔をしたらいけないと思い離れ、横島も落ち込んでいるみたいだし、一緒に散歩にでも行こうと声を掛けようとしたら

 

【横島さん。やることも無いですし、チビちゃん達の散歩に行きませんか?私も付き添いますよ?】

 

おキヌさんが私よりも先に横島を誘う。横島からは見えない角度でニヤリと笑っているのが見えて

 

(あ、あの野郎……本当黒いわね!?)

 

私が美神さんに何か用事を頼まれているタイミングで行動に出る辺りにその性格の悪さが現れているようだ

 

「そやなー、そろそろ散歩の時間やしなー」

 

駄目と言いたい所だけど間が悪い。横島が乗り気なのにおキヌさんと一緒だからと言う理由で散歩に行ったら駄目なんてとてもではないが言えない。

 

「散歩行きたいかー?」

 

「みーむ!みーむ!!」

 

「きゅー!うきゅきゅー!!」

 

タマモはそれほどでもないけど、チビとモグラちゃんがエキサイトしている。ここの所元気すぎるくらい元気だ。短い手足をぶんぶんと振って行きたい行きたいと全身を使ってアピールしている。この雰囲気の中で駄目とはとてもではないが、言えないのでおキヌさんと横島達が散歩に行くのを見送る事しか出来ないと悟り、私は深く溜息を吐きながら

 

(チビとモグラちゃんと何が違うのかしら?)

 

チビとモグラちゃんが元気になっているのに対して、何故かタマモはぐったりとして元気が無いのが気になる。それは横島も同じようでタマモを抱き上げながら尋ねている

 

「最近元気ないなー?どうしたん?」

 

「きゅーん」

 

声に全然元気が無いわね。それに尻尾も普段は1本に誤魔化しているのに8本の尾を全部出しっぱなしだ

 

(何か別に理由があるのかしら?)

 

チビやモグラちゃんが元気になってタマモが弱る。これももしかして悪霊のパワーアップ現象に何か関係があるのかな?

 

「「「え?」」」

 

そんなことを考えていると急に天井が輝き始める。私達の視線が天井に集まった瞬間天井に緑色の空間が開き、其処から何かが横島に向かって飛び出すのが見えた。その後は考えるよりも早く行動に出ていた

 

「横島!」

 

「うえ?」

 

咄嗟に飛び出して横島を突き飛ばす、後ろのほうで何かが床に突き刺さる音が聞こえる

 

「……槍!?どこから来た」

 

シズクの慌てた声で何が飛んできたのか理解する。まさか建物の中に居て槍が飛んでくるなんて普通夢にも思わないわよね

……そんなことを考えているとパサっと言う軽い音とやけに上半身が涼しい……っと現実逃避はこれ以上続けることが出来ない、目の前に落ちているのは背中のほうで切られた私が着ていたブラウスだ。横島を助ける為に下を向いていたから背中の生地が裂けた事で脱げてしまったのだろう、背後でドスンっと言う音と唐巣神父の悲鳴が聞こえたので美神さんが見えないように唐巣神父の意識を刈り取りに出たのだろう

 

「ほ、ほほほたるう!?」

 

横島が顔を赤くして目を白黒させているのを脳が理解した瞬間

 

「っきゃああああッ!」

 

咄嗟に左拳を下から振り抜いていた。拳に残った手ごたえから会心の一撃だったのがよく判る。そして数秒後に聞こえてきた窓ガラスが砕ける音と横島の悲鳴

 

「っがふああッ!?っお、落ちるうう!?!?た、たすけてえええッ!?!?」

 

「……横島ぁッ!?」

 

「みむうう!?」

 

「うきゅうう!!」

 

【蛍ちゃん!?なにやってるんですかあ!?】

 

シズク達が慌てて窓枠に指をかけて落下するのに耐えている横島を助けに向かうのを見ながら、私は両腕で下着を隠すように腕を組んでその場に蹲り

 

(あの槍を投げた奴……絶対殺す)

 

横島に下着を見られた上に、反射的に横島を殴ってしまう原因となったあの槍の持ち主を見つけたら絶対殺すと心に決めた所で

 

「サイズ大きいけど、無いよりましよ。着てなさい」

 

頭の上から掛けられたサイズの大きいシャツを見て、ありがとうございますと呟き慌ててそのシャツを着込むのだった……

 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その2

 

 




久しぶりのギャグ落ちで締めて見ました。やっぱりこういう感じの話を書いているほうが楽しいですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回の話も前回に続き映画の話となります、後は今回のリポートでのキーマンを今回の話で出して行こうと思います。誰が出てくるか判っている人も居るかもしれませんが、今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その2

 

天井から突然飛び出してきた槍から横島さんを庇った蛍ちゃんのブラウスが破けて脱げて、蛍ちゃんのアッパーで窓の外の放り出された横島さんを何とか救出し、蛍ちゃんが横島さんに謝った後

 

「「……」」

 

お互いにどんな反応をすればいいのか判らず、お互いに口を開きかけては閉じるを繰り返している2人を見て

 

【中学生ですか!?】

 

下着を見てしまったと見られてしまった側の差こそある物の、お互いに意識し合っているので喧嘩などにはなるわけが無い。最初こそ蛍ちゃんを怒っていたシズクちゃんだけど

 

「……まあ乙女心を考えれば仕方ない……のか?」

 

横島さんを危険に晒した事は許せないが、乙女心的には咄嗟に行動してしまっても仕方ないとするべきなのか?腕を組んで考え込んでいる

 

(ううーこういう時幽霊ってもどかしいです)

 

幽霊だから出来ることも多いが、出来ないことも多い。なんとかして早く復活出来ないかなあ……と改めて思ってしまう

 

「えっと、横島ごめんね?」

 

「ああ。いや事故みたいなもんやし、えっとええもの見れたし?ノーカンって事で」

 

ええものってあれですよねー?蛍ちゃんの下着姿って事ですよねー?チビとかモグラちゃんと一緒に居るからか、大分落ち着いてきていると思ってましたけど、こういう所はやっぱり昔のままですよね

 

「……えっとそのありがとう?」

 

ええものが自分の下着姿って事で何故かありがとう?と疑問系で返事を返し、また黙り込む横島さんと蛍ちゃん。見ていて凄くいらいらするけど、藪をつついて蛇が出て来ても困るので黙り込んでいると

 

「あ、そや、天井から飛んで来たの何なんや?」

 

話題を変える為か横島さんが立ち上がって調査をしている美神さんの元へ向かう

 

「……は、恥かしい」

 

残された蛍ちゃんの顔が真っ赤で顔を押さえてうつむいている姿を見て、やっぱり理不尽だと心の中で呟くのだった……

 

 

 

うーん……どう見てもこれは槍よね?しかもかなりの業物……天井を見上げてみるけどさっきの霊力の渦は無いっと

 

「あいたたた、美神君。急に酷いんじゃないかな?」

 

額を摩りながら身体を起こす唐巣先生にすいませんと謝りながらもその槍から視線は外さない

 

「穂先は……うっわ、凄いわね。めちゃくちゃ純度の高い精霊石だわ」

 

精霊石は翡翠色の輝きが強いほど純度の高い良い精霊石だ。この槍の穂先の精霊石は眩いばかりの光を放っている所を見る限りでは、間違いなく最高純度の精霊石しかもかなりの大きさだ

 

「唐巣先生。これどう思います?」

 

私の後ろから覗き込んでいる唐巣先生の意見を求めてみる

 

「これは凄いね……これだけの精霊石がまさか未だに存在しているなんて……」

 

先生がまだ破門される前はもっと大きな精霊石が市場に出回っていたらしいけど、採掘が進み殆ど掘り尽くしてしまったらしくこれだけの大きさの精霊石ざっと見積もっても400から500億はするわね

 

【お、オーナー。痛いので抜いてください】

 

渋鯖人工幽霊壱号が苦しそうに呻く、観察する前に抜いてあげるべきだったわねと謝りながら槍の柄に手を伸ばそうとすると

 

「どうっすか?美神さん。何が飛んで来た……ってすげえ!?なんだこのでっかい精霊石!?」

 

まだ顔が赤い横島君がそう尋ねてくる。まぁこの反応は普通の反応よね。精霊石はだいぶ見せて上げて来たから、これがどれだけ規格外の代物かって判ったみたいね。まぁとりあえず槍は抜きましょうか……再び槍に手を伸ばそうとすると今度はシズクが私の手首を掴む

 

「何?どうかした?」

 

「……少し待て、これだけの純度の精霊石の穂先を持つ槍だぞ?不用意に触るのは危険だ」

 

そう言われればそうよね……純度の高い精霊石だから何かの術式が刻まれている可能性もあるし、現に突然現れたって事も考えるといきなり掴むのは危険かもしれないわね

 

「ありがと、ちょっと道具を取ってくるわ」

 

渋鯖人工幽霊壱号に少し待っててと声を掛けて除霊道具を集めている部屋に向かう、目当ての物は直ぐ見つけることが出来たので急いで戻る

 

「美神さん?それなんですか?初めて見ますけど?」

 

私がつけている手袋を見て不思議そうに尋ねて来る横島君。そう言えば、この道具を使っている所は見せたことが無かったわね

 

「保護手袋よ、古い年代物の妖刀とか、遺物を触る時に呪われている可能性が高いから。それから身を護るのに使うわ、こういうのはエミとかが詳しいわね」

 

私は土地とか除霊を専門としているから、あんまり引き受けることがないけどそう言う訳ありの物を調査する時に使うのよと説明して上げてから槍の柄を掴んで床から引き抜く

 

「思ったよりも軽いわね」

 

軽く振ってみるけど思ったよりも軽くて思わずそう呟く、見た目の装飾の美しさもあるけどこれなら十分武器として使えそうね

 

「でも念のためにドクターカオスに調査……って!?なにこのパワーッ!?」

 

突然精霊石が輝き凄まじいまでの霊力を発し始め、どこかから声が響いてくる

 

【我が槍に選ばれし我が意思を継ぐ者よ】

 

ぼんやりと鎧姿の武者が姿を見せた瞬間。座り込んでいた蛍ちゃんが

 

「死ねぇッ!!!」

 

あの槍のせいで下着姿になった恨みか、霊力を込めた拳でその鎧武者に拳を繰り出すがその拳は空を切り、たたらを踏んだ蛍ちゃんは即座に体勢を立て直し

 

「ちいっ!幻ね!?ぶん殴ってやりたいのに!」

 

その凄まじいまでの怒気によっぽど恥かしかったのねと心の中で呟く、蛍ちゃんが横島君を好きなのは知っているけど、流石に下着姿は恥かしかったみたいね。そして横島君は横島君で

 

「こ、こわ……蛍がめちゃ怒ってる」

 

「きゅう?」

 

その怒気が怖かったのか、しゃがみ込んでモグラちゃんを抱えているし……なんか収拾がつかないわね

 

「ちょっと落ち着こうか?何か言いたい事があるみたいだし」

 

もう良いか?と尋ねて来る鎧武者。幻ではあるみたいだけど、意思疎通は出来るようなので

 

「後で文句を言えばいいわ」

 

「はい」

 

まだ怒りを露にしている蛍ちゃんに今は落ち着きなさいと声を掛け、その鎧武者の言葉に耳を傾けるのだった……

 

 

 

 

精霊石に自分の魂の欠片を写したのか、美神が持っている精霊石の槍から現れている鎧武者は

 

【まずは我が名を名乗ろう。私は明智光秀】

 

明智光秀?誰だ?私は聞いた事の無い名前に思わず首を傾げ、横島を見ると

 

「なあ?明智光秀ってあれだよな?本能寺で織田信長を殺したって言う武将?」

 

「ええ。その筈ね……美神さん。それ呪われているんじゃないですか?」

 

どうも明智光秀の名前を知っている横島と蛍の反応は宜しくない。悪名のある武将ならどう考えても呪われている見て間違う居ないだろう

 

「……壊すか?」

 

水の槍を作り出し精霊石の穂先に向けると、鎧武者が慌てた様子で

 

【待て、それは正しくない。我は今でも親方様に忠誠を誓っておる】

 

「じゃあなんで本能寺で謀反なんて起こしたのよ?」

 

美神の問いかけに明智光秀は目を伏せ、判っておる。我は逆臣であったと言うことはな……と辛そうに呟く

 

「唐巣先生。エミさんからの除霊リポートを受け取って来ました」

 

ピートが事務所に入って来たタイミングで明智光秀は

 

【我が本能寺で打ち倒したのは親方様ではない、親方様を殺し、織田信長の名を騙った悪魔ノスフェラトウだ】

 

ノスフェラトウの名前を聞いた瞬間。ピートや美神の顔が険しい物となった、なんだ?こいつはノスフェラトウを知っているのか?

 

「なぁ?ノスフェラトウってなんだ?」

 

【聞いたこと無いですね?有名な悪魔か何かなんですか?】

 

横島とおキヌがそう尋ねると唐巣が眼鏡を掛け直しながら説明してくれた

 

「ノスフェラトウって言うのは不死のパワーを持つ極めて強大な吸血鬼の事だよ」

 

吸血鬼と聞いた横島はなんだと笑いながらピートに

 

「それじゃあお前の仲間じゃねえか?」

 

「違います!ノスフェラトウは僕達の仲間なんかじゃありません!」

 

強い口調で横島の言葉を遮ったピートは更に説明を続けた。ノスフェラトウは人間や動物更には悪霊までもの生命エネルギーを吸い取りゾンビへと変え操る能力を持つ邪悪な吸血鬼なのだと

 

【その通り、そして我は親方様を殺し織田信長の名を穢すノスフェラトウに戦いを挑み、一度は倒した……だが奴は今まさにこの瞬間も復活しようとしている】

 

復活しようとしている?まさかそれがここ最近の悪霊のパワーアップの原因?雑霊ですらあそこまで強化するのだからその危険性がよく判る。復活の阻止をしなければ大変なことになってしまうと

 

【我が槍に選ばれたお前に依頼を頼みたい。報酬はその槍……悪魔祓い師には相当価値がある物だ。どうじゃ?引き受けてくれるか?】

 

美神は手にしている精霊石の槍を見て少し考え込んでから

 

「そのノスフェラトウの復活の阻止ってこと?」

 

【その通り、奴が蘇れば再び親方様の名を騙り悪行を行うだろう。それにその時代の人間にもかなりの被害を及ぼすことは目に見えている。どうだ?引き受けてくれるか?】

 

引き受けてくれるか?といいつつも、これは断ることの出来ない話だ。美神は仕方ないわねと溜息を吐いてから

 

「良いわ、引き受けるわ。それで奴はどこに……【感謝します。どうか奴の復活を阻止し、親方様の名誉をお守りくだされ】ちょっと!?奴の居場所も教えないで消えるつもり!?」

 

言うだけ言って消えていってしまった明智光秀。なんと無責任な奴なんだ、危険な悪魔が復活するとだけ告げて消えるとは……

 

【すまぬ、長時間その時代に干渉するのは我が槍を持ってしても難しい、奴の場所は我が槍が教えてくれる筈じゃ】

 

姿を現さず声だけが事務所の中に響くと槍は独りでにある方向を指し示す

 

「なるほどね、まぁ仕方ないわ。先に報酬を貰っちゃった訳だし、今更断るわけには行かないしね」

 

そう笑った美神は横島と蛍に向かって

 

「今から準備をするわよ、唐巣先生も協力してください。復活するに当って間違いなく先に使い魔とかが復活していると思うので」

 

「判った。私も準備をしよう、今から準備をするとなると夜になってしまうが……仕方ないな」

 

夜は吸血鬼の時間だ。本来その時間に動くのは得策ではないが、朝まで待って復活されては意味が無い、危険は承知で夜に行動するしかない

 

「今から準備を整えて、……そうね、7時に事務所に集合して、私も道具を整えるから、蛍ちゃんと横島君は体調を整えておいて」

 

判りましたと返事を返す横島と蛍の後をついて事務所を出て

 

(なんとも問題事ばかり起きるな)

 

ガープに続いて、今度は不死の吸血鬼の復活……もしかすると大きく時代が動こうとしているのかもしれないな……

 

「おーい?シズクー?早く帰ろうぜー?」

 

考え事をして足が止まっていた私を呼ぶ横島に今行くと返事を返し、私は早足で横島の下へ向かうのだった……

 

 

 

ノスフェラトウか……少し早めに夕食を食べ、チビとモグラちゃんの散歩をしながら復活を阻止すると言うノスフェラトウの事を考えていた

 

「よーわからんなあ」

 

「みむう?」

 

俺の言葉に反応して振り返るチビに大丈夫と返事を返すと、楽しそうに尻尾を振りながら空を飛ぶチビを見ながらゆっくりと夕日に染まる道を歩く。危険な悪魔と言うことで緊張していると

 

【大丈夫だ横島。私もついている心配する事は無い、復活する前に再封印してしまえばいいんだ。それほど緊張することは無い】

 

心眼がそう声を掛けてくれる。判ってはいるけど、もし復活してしまったら?と考えると不安になってくる

 

【最悪の結果を考えるのは悪いことではないが、失敗することばかり考えていると本当にその通りになるぞ?】

 

う、うーん……それもそうかあ……失敗することよりも成功する事を考えた方が気持ちも楽になるよなと考えて歩いていると

 

「うきゅー!うきゅー!!!」

 

先に走っていたモグラちゃんが大きな声で鳴いて俺を呼ぶ、何かあったのか?と思い慌てて鳴き声のほうに走ると

 

「え?えっと……行き倒れ?」

 

美しい黒い髪を首元で結んだ赤い着物の少女が草むらで眠っていた。生きているのか、死んでいるのか判らず、とりあえず救急車?それとも警察?と考えていると

 

【横島、それは正しくない。良く見るんだ】

 

心眼の言葉に一度深呼吸してから倒れている少女を見ると、その身体の近くに赤い人魂のようなものが浮かんでいるのが見えて

 

「幽霊?」

 

それはおキヌちゃんと良く似ていて、そう呟くと心眼が正解だと褒めてくれた

 

【いいぞ。大分霊視に慣れて来たな、言われなくても気付くことが出来ればなお良かったぞ】

 

心眼の褒め言葉にありがとうなと返事を返し、倒れている少女に頬触れてみる。ぷにっとした柔らかい感触が指に帰ってきて思わず首を傾げる

 

「あ、あれ?触れる……?それに暖かい?」

 

幽霊でも霊力があれば触ることが出来る、それはおキヌちゃんで判っているが、この少女はおキヌちゃんと根本的に違う、触っても生身に近い感触と暖かさがあった

 

「なぁ?この子本当に幽霊だよな?」

 

【その筈だが……本当に暖かいのか?】

 

心眼に確認すると逆に尋ねられたので、もう1度触ってみる。生身の人間に触るのと違うがやはりちゃんとした感触と暖かさを感じる

 

「死んだばっかりとか?」

 

ふと思いついた可能性を呟くと、心眼はあきれた様に溜息を吐いてから

 

【それならどうして着物を着ている?それ以前に死体がないだろう?】

 

う、うーんそれもそうだよなあ……じゃあこの子本当になんなんだろう?目の前で死んだように眠っている少女を見てどうするか考えていると

 

【う、うーん?】

 

騒いでいたのが原因なのかその少女が目を開ける。黒髪だから黒い目だと思っていたのだが、その少女の目は血のような真紅に輝いていた

 

【……る?……か?……すまんな……寝床まで……頼む】

 

俺を誰かと勘違いしているのか、そう呟いてまた寝息を立てる少女の幽霊を見下ろし

 

「なあ?心眼。どうすればいいと思う?」

 

一応破魔札は持っているから除霊は出来ると思う。いや、正しくは成仏だと思うが……成仏させるのが正しい選択なのか?それとも蛍や美神さんに尋ねてみたほうがいいか?と聞いてみると

 

【……私の勘だがそのまま保護したほうが良いと思う】

 

保護しろと来たか……うーん、でも確かにそのほうがいいかもしれない。俺もなんかこの少女を成仏させてしまっては駄目なような気がする。霊感がささやくって奴かもなと思いながら

 

「よいしょっと」

 

眠っている少女を背負う、幽霊だから軽いがやっぱり暖かさと人間よりは軽いが確かな重さを感じる。本当にこの幽霊少女なんだろうな?と首を傾げながら

 

「少し早いけど戻るぞ」

 

返事を返すチビとモグラちゃんを連れて自宅に戻ると準備をしていたシズクが俺の背中を見て

 

「……また変な物を拾ってきたな?」

 

決して違うとは言えないのが辛い所だな。みむう?うきゅう?俺を見て不思議そうに首を傾げているチビとモグラちゃんを見て苦笑しながら

 

「とりあえず寝かしておこうと思う。変な幽霊だし」

 

「……見れば判る。布団を用意しよう」

 

流石水神様だな。この幽霊が普通じゃないって言うのは一目で判るのかと感心しながら、その幽霊をシズクが用意してくれた布団に寝かせる。

 

「……お前も少し寝ておけ。時間になったら起こす」

 

シズクの言葉に頷き、俺は仮眠を取る為に自分の部屋に向かうのだった……そしてそれから2時間後シズクに起こされ準備を整えていると

 

「……横島。今回はチビとモグラは置いていけ」

 

シズクの言葉にどうして?と尋ねるとシズクはチビとモグラちゃんを見て

 

「……ノスフェラトウの復活で霊力が上がっているなら、もし復活すればその霊力に当てられて暴走する可能性がある。そうなったらお前はチビとモグラを攻撃できるか?」

 

そんなの悩むまでもなく、出来ないとしか言えない。チビとモグラちゃんを攻撃するなんて俺には出来ない。元から調子が悪そうなタマモは置いていくつもりだったし、今回はチビとモグラちゃんにも留守番をして貰おう

 

「判った。今回は危ないからお留守番だ。判ったな?」

 

チビもモグラちゃんも危ないというのを感じ取っているのか、素直に頷き自分の寝床に向かう。その姿を確認してから俺はシズクと共に家を後にし、美神さんの事務所に向かう事にした

 

「……所であの幽霊の事は伝えるのか?」

 

行く途中でそんなことを尋ねて来るシズク。確かに伝えたほうがいいと思うけど……

 

「まず再封印が終わってからで良いだろ?まずは目先の問題だよな?」

 

仕事の前に別の事を伝えるのは気が引けるし、まずはノスフェラトウの再封印。それに集中した方がいいから、報告するのは後でいいだろう、このとき報告しなかったこの謎の少女がノスフェラトウに対する切り札になることになる事を今の俺は

当然知る由もないのだった……

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その3

横島が拾った少女が何者なのか?きっと判る人はわかる、判ってしまうのは仕方ないことなんだ。でも登場までは言わないで貰えると非常にありがたいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです、今回も引き続き映画の話となりますが、前半に少しオリジナルの話を入れようと思っています。蛍がアシュ様に相談するとか、そんな感じの話になりますね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

外伝リポート 外史からの来訪者 その3

 

「ノスフェラトウだって?」

 

今日の夜から再封印に向かうという悪魔の名前を聞いて、私は驚いた。ノスフェラトウかぁ……

 

「夜に行くのは正直お勧めできないなあ」

 

「そんなに厄介な相手なの?」

 

蛍の問いかけに頷きながらノスフェラトウについて簡単に説明することにする

 

「ノスフェラトウは種族的には吸血鬼だが、その本質は私のような魔神に近い。吸血鬼の突然変異がノスフェラトウだ」

 

ピート君やブラドーとは異なる進化を遂げた固体だ。最上級神魔とはまでは言わないが、少なくとも中級神魔レベルの力はあるだろう

 

「それにガープがあちこちに仕掛けた結界の基点となる蝙蝠。それをもし支配下に置いているとなると手の打ちようが無くなる」

 

殆どビュレトと私で駆逐したが、全てを倒しきったのは言い切れない。もし生き残ったガープの使い魔を支配下に入れているとなるとガープの魔力も取り込んでいることになるので相当危険だ

 

「復活したのなら速やかに撤退。更に流血をしないように気をつけるんだ、特に横島君、彼の血液だけは絶対に駄目だ」

 

手帳にメモしていた蛍は少し驚いた顔をしてから、その理由が判ったのかハッとした顔になって

 

「横島の潜在霊力ね?」

 

うーん、それもあるんだけど、それだけじゃないんだよなあ

 

「小竜姫と天竜姫の竜気もあるし、シズクの神性とかもあるからね。下手をすると東京壊滅するよ?」

 

もしかすると日本も不味いかもしれないねと呟く、まぁそうなったら私が出るつもりだが

 

「封印できそうに無いなら撤退、更に流血をしないように細心の注意を払う事。良いね?」

 

私の助言を聞いてありがとうと言って部屋を出て行く蛍の背中を見送りながら

 

「うーん、一応メドーサに連絡を取っておこうかなあ」

 

でも今は妙神山にいるから連絡を取ると不味いかな?使い魔を出すか、開発中の兵鬼を護衛に出すかな?最悪の結果を想定し、そうならない為に使い魔と兵鬼を蛍に内緒でつけることにした私は蛍が部屋に入って来たことで机の中に隠した物を取り出した

 

「さてさて、これをどうしたものか」

 

神宮寺くえすの結界に閉じ込められ沈黙している、蒼い眼魂を観察する。こうして見ているだけでも判る……この中に封じられているのは私と同じソロモンだと、しかしその反応はとても弱く消滅する寸前にも思える

 

(うーん誰だったか……)

 

魔人大戦の際に何人かのソロモンが消滅し、復活を待っているのは覚えているがいかんせん数が多い。ガープは伊達君にはバルバトスの鎧の一部に残った僅かな霊基を基にガープがバルバトス足りえるだけの情報を再生し、狂神石にその情報を読み込ませ伊達君の生命の危機や闘争本能の肥大をトリガーにしてバルバトスを復元する実験を行った。結果は一時はバルバトスが顕現し、復活したかと思ったが伊達君の精神力がバルバトスを上回り、自力でバルバトスの憑依を解除した。いや、バルバトスが伊達君の身体を使い潰すことを良しとしなかったのかも知れない。あの男は魔神ではあったが、己の正義を持ちそれを貫く事を良しとした。例え、本来のバルバトスとは比べるまでも無い粗悪な復元だったとしてもその意思は残っていたのかもしれない、伊達君と性格的に似ているからこそ、自力で憑依を解除することが出来たのかもしれない

 

「お前には誰の魂が眠っているんだ?」

 

問題はこっちだ。メドーサ・アスモデウス。そして誰かも知らぬソロモン……その3つの情報を持った陰念君から横島君によって強制除霊され、眼魂に封じられた魂。外見ではとてもではないが、誰か判らなかった。私は結界の中で沈黙を続けている眼魂にそう尋ねたのだが、やはり眼魂は何の反応も返すことは無かったのだった……

 

 

 

 

チビとタマモそしてモグラちゃんを家に残して、美神さんの事務所に行くと既に唐巣神父にピート、蛍と全員揃っていて、俺とシズクが一番最後だったので

 

「遅れてすんません」

 

時間よりも少し早めに来たつもりだったが、あの変な幽霊の子の事もあり少し遅れてしまったと思い謝ると

 

「全然大丈夫よ、まだ集合時間じゃないからね」

 

蛍がそう声を掛けてくれる。じゃあなんで外で待っていたんだろうか?と首を傾げていると美神さんが

 

「はい、これを身に着けておきなさい」

 

渡されたのは何かのペンダント。首をかしげながら受け取ると唐巣神父がそのペンダントについて説明してくれた

 

「ノスフェラトウは強力な吸血鬼だ。復活の為に血液を求めている、最近多発している動物の変死も恐らく関係していると私は見ている」

 

動物の変死?それは知らなかったけど、散歩しているときに犬はあんまり見なかったなあとふと思い出した

 

「そして霊能者の血には大量の霊力が込められている、ノスフェラトウには喉から手が出るほどに欲しい血液だろう。触れられないようにと聖句で精霊石を強化してみた、そこまで頼られると不味いけどある程度は効果があるはずだ」

 

へーそんな事も出来るのかぁと感心しながらペンダントを首から下げる。吸血鬼と言うとシルフィーちゃんだけど、それよりも怖いのかなあと考えていると心眼が

 

【心配することは無い、我もついている。霊的な防御は恐らくこの面子の中ではお前が最強だ】

 

え?そうなの?と美神さんと蛍を見ると苦笑しながら頷き

 

「タマモとシズクの加護に小竜姫様の竜気。間違いなく、霊的な防御は私よりも上ね」

 

「でもあんまり過信しちゃ駄目よ?そう思っていると何処かに隙が出るんだから」

 

美神さんと蛍に忠告され、判りましたと返事を返す、俺みたいな小心者が己を過信するなんて事はありえないけど……油断するかもしれないのでしっかりと肝に銘じることにした。特に今回はチビ達が居ないので気を緩めることは出来そうにない。無論普段もしているわけではないが

 

「じゃあ目的を再確認するわよ。ノスフェラトウの再封印、もしそれが出来ないのなら即座に撤退して増員を要請する。深追いも無茶な行動もしない。良いわね」

 

俺を見て言う美神さんにうっすと返事を返す。今までめちゃくちゃな事をしてきたので念入りに注意される理由も判っているので素直に頷く

 

「宜しい。じゃあ行くわよ。それと……シズク。今回も頼りにしてるから」

 

「……まぁ、横島を守るついで程度には助けてやる」

 

それでいいわと返事を返し歩き出す美神さんの後を追って、俺達は光秀の槍から放たれる光に導かれるようにして夜道を進むのだった……

 

「ここね……」

 

光秀の槍が案内したのは新都庁だった。こんな街の真ん中に本当にノスフェラトウの封印がされているのだろうか?

 

【うーん。でも変な感じがしますよ?なんかこう……包み込むような……見られているようなそんな不快な感じです】

 

おキヌちゃんがそう呟く、うーんそう言われるとそんな気もするけど……本当にここなのだろうか?蛍や唐巣神父の目つきが鋭いから、間違いではないと思うけど……そう思って辺りを見ていると美神さんが手にした槍を構え直し

 

「横島君。良く見てなさい」

 

美神さんが何も無い場所を槍で突くと、そこを起点にして目の前の空間が割れて、薄暗い森が姿を見せた

 

「凄まじい結界ですね。ブラドー島と同レベル、もしくはそれ以上……」

 

どうもピートも気付いてなかったようで、驚いたような顔をしてそう呟いている

 

「……邪気に満ちているな……これはもしかすると手遅れかもしれない」

 

シズクが森の中を見つめてそう呟く。シズクの言葉を聞いた唐巣神父と美神さんは少し考え込む素振りを見せてから

 

「ぎりぎりで間に合うかもしれないわ。もし復活しているならゾンビがあふれ出てくるだろうし……」

 

「ああ、私も同じ考えだ。復活が阻止出来る可能性があるならそうするべきだ。無理と判断したら直ぐに撤退すればいい、それにもしかすると封印に使った術式を見ることが出来れば再現する事だって不可能じゃない筈だからね」

 

危険ではあると思うが、進むと言うことになったので俺達は暗い森の中へと足を進めるのだった……

 

 

 

 

重苦しい雰囲気ね……私は光秀の槍を手にしながら、背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。進めば進むほどにその重苦しい雰囲気は強くなり、そして邪気が強まっているのが判る

 

「……今なら引き返せるぞ?」

 

シズクが険しい顔をして私にそう言う。確かにここまで邪気が強まっていると再封印する為の霊力にも反応し、復活する危険性がある。だけどノスフェラトウの事を考えると、この程度の邪気ではないはずと言うのが、私と唐巣先生の出した結論だ。だから進もうと言うとピートが険しい顔をして失礼しますと前置きしてから

 

「先生、無礼を承知で進言します。引きましょう、ここの月は危険です」

 

ピートが視線を上げるので、同じように視線を上げると真紅の満月が浮かんでいた

 

「この月がどうかしたのか?」

 

横島君がそう尋ねるとピートは眉を顰める、良く見ると閉じられたピートの口から牙が顔を見せていた

 

「吸血鬼の力が異常に活性化しています、シルフィーが居なくて良かった。きっと暴走していたから」

 

ピートの話によるとブラドー島と違い、吸血鬼の力を抑えるのではなく、開放する結界が展開されている。これでは復活したばかりだとしても全盛期の力を震えるのは間違いない。だからここは撤退するべきだと、味方を増やした所で勝てる見込みは無いが、今の段階では負けるのは確実だと進言するピート……

 

「そうね、ここは撤退しましょうか」

 

ここまで来て撤退するのは正直癪だが、復活したばかりならまだ勝機もあると思っていたが、吸血鬼の力を解放する結界の中とすると復活したばかりで弱体化しているというのは正直期待できない。だから撤退することに決めた瞬間

 

【美神さん!森の奥から何か来ます!】

 

【邪気の塊が突っ込んでくるぞ!気をつけろ!】

 

心眼とおキヌちゃんの警告の怒声が響く、とっさに神通棍を構えると同時に背後からゾンビと化した大型犬が飛び出してくる。

 

「どうやら撤退は許してくれそうに無いわね!」

 

神通棍を振り突っ込んできたゾンビを殴り飛ばす。どんどん姿を見せるゾンビ犬に追いたてられるように私達は森の奥へと追いやられていくのだった……

 

「かすり傷1つでも奴らの仲間入りよ!絶対に噛まれたり、引っ掻かれたりしないで!蛍ちゃんと横島君は下がって」

 

かすっただけでも致命傷になる。神通棍を使えるけど、あんまり得意ではない蛍ちゃんと集中に時間の掛かる陰陽術と、制御できない霊力の拳が武器の横島君では圧倒的に分が悪い。だから後ろに下がるように指示を出しながら、私自身も下がりながら向かってくるゾンビ犬と対峙していた

 

(このままだと不味いわね)

 

どんどん邪気の中心に追いやられている。ノスフェラトウ自身は復活していないが、奴の部下が復活していて、それがゾンビ犬を操っているのかもしれない

 

「ヴァンパイヤオーバーへッドッ!!」

 

【ぎゃいん!】

 

ピートが派手な技でゾンビ犬を蹴り飛ばしているのを見て、私は即座にピートを怒鳴った

 

「そんな大技してないので真面目にやりなさい!」

 

着地の隙にゾンビ犬がすり抜けていくのを見てそう怒鳴る。しまったと言う顔をするがもう遅い、霊波砲や聖句が使えるのだからそれで私や唐巣先生を援護してくれればいいのに、どうして前に出てきたのか?それは若さと言えばそれまでだが、余りに未熟

 

「……消えろ」

 

鋭い風切り音の中でも冷酷な響きを伴ったシズクの声が響く、それから遅れて

 

「い、犬の首が目の前で4個と、とんだ……」

 

「横島!?横島しっかり!」

 

【駄目だ!横島の意識が途絶えそうだ!】

 

かなりショッキングな映像を見て脳がオーバーヒートしたのか呻いている横島君の頬を叩いている蛍ちゃんの悲鳴が聞こえてくる

 

「……ギロリ」

 

鋭い眼光でこっちを睨んでくるシズク。私が悪いんじゃないのに、思わず謝ってしまった、それだけの迫力がシズクにはあった

 

「すいません」

 

「もっと冷静に考えなさい」

 

ゾンビ犬の攻撃が散発的になってきたが、それでも戻ることはさせないのか包囲網を作って迫ってくるゾンビ犬の群れ。攻撃が無い間に体勢を立て直そうと森の奥と進む間に近づいて謝ってくるピートにもっと冷静になれと叱っていると

 

「う、これは酷いわね」

 

凄まじい邪気を放つ祠とその周りで倒れている犬の死骸。どれも干乾びている点から血を吸われて捨てられたのだろう

 

「こ、これマジで復活してないんですか?」

 

横島君が不安そうに尋ねて来る。復活しているか?居ないかでは間違いなく復活はしていない。もし復活していれば動物だけではなく、もっと人間に被害が出ているだろうから

 

「今の内に再封印できるか確かめよう」

 

唐巣先生が祠に足を進めた瞬間。祠に刻まれた悪魔の目が光る

 

「シズク!横島君と蛍ちゃんのガードよろしく!」

 

咄嗟にそう叫び、神通棍を振るう。倒れていた動物の死骸が置きあがり向かってくるのを見て、私はノスフェラトウの部下が復活しているのを確信し、撤退しても、ここで血を奪われてもノスフェラトウが復活すると言う事態になっている事に気付き、小さく舌打ちするのだった……

 

 

 

30分近く美神さん達が戦って、やっとゾンビ犬の動きが止まった。アリスちゃんのゾンビと違って明確な殺意を感じた

 

(こんなにも違うものなのか)

 

アリスちゃんのゾンビの犬や猫はまだちゃんと生前の姿をしていて、大人しかったが目の前のゾンビは身体が腐敗して、そしてこっちを殺そうとしてきた。操っている存在が違うとこんなにも違うのかと思っていると

 

「横島君と蛍ちゃんは唐巣先生の指示に従って、私とシズクで祠の様子を見てくるから。唐巣先生、念のために結界をお願いします」

 

再封印できるのかどうなのか?それを見てくると言う美神さんとシズクの背中を見ながら隣で座っているピートに

 

「普通の結界札で封印出来るのか?心臓に杭とかじゃないのか?」

 

吸血鬼と言えば心臓に杭だと思い尋ねるとピートではなく、唐巣神父が教えてくれた

 

「ノスフェラトウは吸血鬼として既に上位種に進化している。既に肉体は無いんだ」

 

肉体が無い?それってどういうことなんだ?余計に訳が判らなくなって混乱していると今度は心眼が

 

【自身の持つ霊力や魔力で身体を具現化させることが出来るのが、神魔族だ。死んでも、期間を置けば復活できる】

 

え、じゃあ小竜姫様も同じなのか?と尋ねようとしたその瞬間。美神さんとシズクが走ってくるのが見えた

 

「先生!結界の展開準備を!手遅れです!!」

 

「……急げ!爆風が来るぞ!」

 

美神さんとシズクが結界の範囲に入ったと同時に目の前に光の壁が出来るのと、とんでもない爆発が起きるのは全く同じタイミングだった……

 

【がっはははは!!我!復活ッ!!!!】

 

爆風が晴れると同時に高笑いしている日本人離れした大柄の男の姿が見える、それを確認した瞬間手足が震えて立つ事が出来ず、思わずその場に蹲る

 

「横島。落ち着いて、深呼吸して……ゆっくり、ゆっくりよ?」

 

蛍に背中を撫でられながら、言われた通りゆっくりと深呼吸を繰り返す。だが息苦しいままだ、なんだこれどうなっているんだよ

 

【す、凄まじい霊力です……私も……辛いです】

 

おキヌちゃんの姿がブレているのが見える。こんな影響が出るほどにノスフェラトウは強いのか?そんな相手に勝てるのか?と言う不安が頭を過ぎる

 

【落ち着け横島。ノスフェラトウのプレッシャーに呑まれているぞ。蛍の言うとおり、深呼吸を繰り返せ、干渉してくる霊力に負けるな】

 

干渉してくる霊力って言われても何の事か判らない……心臓がバクバクする。それに手足の先から冷えてくる

 

(なんだこれ……俺、このまま死ぬのか)

 

深呼吸をしても酸素が入ってこない、手足に力が入らない。こんなに近いのに蛍と心眼の声が良く聞こえない

 

【ん?その槍は……】

 

復活したというノスフェラトウの視線が美神さんが手にしている槍に向けられる

 

【我を殺したあの悪霊払い師の……目障りだな】

 

ノスフェラトウの手がこっちに向けられた瞬間、俺達を水のドームが包み込む。ま、まさかこれは……美神さんと蛍の顔が引き攣っているのが判る

 

「……緊急手段だ。全員衝撃に備えろ」

 

悪夢のミズチタクシー再び。俺達は上下左右あらゆる角度から襲ってくる衝撃にもみくちゃにされた物の、ノスフェラトウの特大の霊波砲から逃れることに成功したのだった……だがその対価は非常に大きかった

 

「「「「……は、吐く……」」」」

 

ジェットコースターなんて非じゃない、凄まじい上下左右のシェイクに俺含め全員が酷い乗り物酔いの状態になり青白い顔でその場で暫く蹲り動く事が出来ないのだった……

 

 

 

【逃したか】

 

姿の見えない美神達を見てノスフェラトウは少し落胆したような素振りを見せたが、直ぐにマントを振るい周囲の砂煙を弾き飛ばしてから

 

【蘭丸】

 

【ここに】

 

蘭丸と呼ばれた白い着物を纏った男の姿を確認してからノスフェラトウはくっくっと笑いながら

 

【すばらしい、1度封じられる前よりも遥かにパワーアップしている】

 

拳を握り締めたノスフェラトウ。それに呼応してかノスフェラトウの周囲に強大な霊力の柱が発生する

 

【蘭丸。今度こそ世界を手中に収めるぞ】

 

【はっ!全ては親方様の為に】

 

高笑いしながらノスフェラトウと蘭丸は闇の中へと消えていくのだった……

 

 

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その4へ続く

ノスフェラトウは性格改変をしております。原作の名古屋弁はとてもではないですが、私には使えないので……っとそんな理由でノスフェラトウは割と性格改変とパワーアップをしております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その4


ここからはオリジナルの要素を加えていこうと思っています。ノッブとかそこらへんですね。それでは今回の更新も同かよろしくお願いします


 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その4

 

ミズチタクシーによってノスフェラトウの攻撃を回避出来た私達だったけど、強烈な乗り物酔いに加え、ノスフェラトウの霊力に当てられて著しく体力と精神力を消耗していた

 

「……唐巣先生、1度休んでからGS協会に集合でいいですか?」

 

体感時間的には1時間かそこらだと思っていたんだけど、時計を見ると早朝4時。夜7時に結界の中に突入したことを考えると9時間ものあの結界の中に居たことになる。恐らくだけど、あの結界の中は時間の流れがおかしかったのかもしれない、犬や猫の身体が完全に腐敗したことも考えると私の予想は当っているだろう。

 

「ああ。その方が良いだろうね、精神的にも体力的にも弱っている。一応琉璃君に連絡だけ入れてから休むとしよう」

 

唐巣先生も同じ意見だったのか休もうと言ってくれた事に安心し

 

「蛍ちゃんと横島君も11時頃に事務所に来てね?」

 

事務所に来る時間を話してから車で家まで送ろうか?と尋ねると

 

「……横島は心配ない、私が連れて帰る」

 

「え!?ま、またミズチタクシーはいやあああああ!?」

 

がぼんっと音を立てて横島君を水の塊が飲み込みあっという間に消えていくのを見て

 

(これちょっとした衝撃映像よね)

 

水の塊が凄い勢いで動くので、鮫が獲物を襲っているようにも見える。

 

「じゃ、私はお願いしてもいいですか?美神さんも疲れていると思いますけど」

 

申し訳無さそうに言う蛍ちゃんに気にしなくて良いわよ?と返事をし、久しぶりにコブラをガレージから出して、蛍ちゃんを優太郎さんのビルの前まで送り届けてから事務所に戻り

 

「もしもし?琉璃?ちょっとやばいことになってるから、近隣に居るGSを戻しておいたほうがいいわよ?ノスフェラトウが復活したみたいだから、きちんと報告に行くけど……ちょっと精神的と体力的にやばいから少し休ませて貰うわ。昼前には行くから」

 

GS協会の留守電に必要な情報だけを入れてから

 

「おキヌちゃん、10時に起こしてちょうだい」

 

【わ、判りました。ゆっくり休んでください】

 

最低限の霊力が回復する時間だけ仮眠を取るから、10時に起こしてとおキヌちゃんに頼み私はベッドに潜り込むのだった……

 

 

ぺっと言う感じで水の塊から吐き出される。目が回っている上にめちゃくちゃ吐きそうだ

 

「お、おねがいだからもうミズチタクシーはやめてくれへんか?」

 

高速で移動出来るし、反撃を受けることも無いから安全なのは判る。だが身体に来る負担が半端無いので出来れば止めてくれないかとお願いするが

 

「……今の弱っている段階では雑霊でも危険だ、それに……」

 

それに?そこまで言った所でシズクが力なく倒れてくる。それを咄嗟に受け止めると

 

「……水を使い切ったから……あそこからここまでお前を守る力が無かったから……」

 

そう言って意識を失ったシズク。冷たいのはいつも通りだけど、それがいつにもまして冷たい気がする

 

【早く水を与えるんだ。最初のノスフェラトウの霊波を防ぐにもかなり水を消費している、いくら水神ミズチといえど限界を当に超えている】

 

心眼の言葉を聞くよりも早く家の鍵を空け、浴室の中にシズクを横にし水道の蛇口を捻る

 

「……」

 

意識を取り戻す気配は無いが、蛇口から出る水がどんどん吸収されていく……そのうち意識を取り戻すだろう。俺に出来ることはこれくらいしかない、早くシズクが目を覚ましてくれる事を祈り浴室を出ると

 

「ん?」

 

そのまま自分の部屋に戻ろうとしたが、やけにリビングが騒がしい事に気付きチビとモグラちゃんが何かしているのかな?とリビングを覗き込むと

 

【ははは!お前達面白いのう!】

 

ノスフェラトウの再封印の前に拾った幽霊の子が起きていて、チビやタマモ達と遊んでいた

 

【うん?おう!お主か!この家の家主は!拾ってくれて助かった!そのままほったらかしはちと酷いが、暖かい寝床に美味い食事!感謝しておるぞ!】

 

美味い食事?その少女の周りに転がっているカップラーメンのゴミとお菓子の袋。そしてそんな少女の側で

 

「みむう……」

 

「うきゅ……」

 

「くう……」

 

なんかぐったりしているチビ達を見る限りでは、相当振り回されているのが判る。と言うか、よくカップラーメンに入れるお湯を用意出来たな……と感心していると思わず欠伸が出る。い、いかんマジで眠いなあ……

 

【む?相当疲れているようじゃな。ワシは待って居るからお前さんが起きてから話をしよう!ではな!よく休め!】

 

かっかっと笑う少女。なんとまぁ豪快とでも言うのか、勝手に俺の家の物を食われているけどなんかしょうがないなあと思えてくるから不思議だ

 

【む?あの娘……】

 

心眼が何かを感じ取ったみたいだけど、正直眠すぎるので今聞いても判らない……

 

「じゃあ後で……」

 

【うむ!】

 

なんか普通に馴染んでいる少女に首を傾げながら、俺は自分の部屋に戻り眠りに落ちるのだった……

 

 

 

欠伸をしながら歩いて行った青い服を纏った小僧を見つめていると

 

「みーむう!」

 

「うきゃーっ!」

 

毛玉のような生き物がワシに爪を向ける。言葉を喋る事は出来ないが、その態度を見れば判る。あの小僧を攻撃すると言うのなら自分達が相手になるぞ!と言っているのだと

 

【安心するが良い、ワシはあの小僧に敵対するつもりはない】

 

宿と飯を無償で用意してくれた相手に敵対するつもりは無いし、攻撃するつもりも無い。だから安心せよと言うと

 

「グルルル」

 

【うむ、それは保障せん!】

 

あの毛玉とはベクトルの違う敵意を見せてくる狐にそう言う。あの態度を見れば判る、あれは自分の物に手を出すなと言う女としての反応。だからそれについては保障しないと言うと飛び掛ってきた狐。それを反射的に掴んで後ろにぽいっと投げ捨てる

 

「コーン!?」

 

「みむう!?」

 

「うきゅー!?」

 

投げ飛ばされた狐を心配している毛玉2匹に軽く投げたから大丈夫じゃと声を掛け、奇妙な四角い箱に視線を向ける

 

『新宿方面からゾンビが現れ、人間を襲い血を吸うという事件が発生しています』

 

……間違いない奴だ。ワシはあれを倒す為にこうして現世へと戻ったのだ、なんとしてもこのワシの手で討ち取らねば

 

(しかし、今のワシにそれだけの力があるか……)

 

こうして意識を取り戻すことは出来たが、霊力は殆ど残っていない。仮に回復するまで待つとしてもどれだけ時間としての猶予があるかも判らない……2、3日あれば回復すると思うが、果たしてそれだけの時間があるじゃろうか?

 

『なお当カメラマンがその姿を映しましたが、不審な人物の目撃情報が多発しており、その人物は自分のことを織田信長と名乗りゾンビを操っている点から、この事件になんらかの関係があると思われます』

 

その箱に一瞬映った男の姿を見た瞬間。怒りで目の前が真っ赤に染まる……

 

「みーむう……」

 

怯えの混じった毛玉の声に我に返る。背後から現れかけている物を見て

 

【いかんいかん、こんな所で霊力を使っては】

 

具現しかけたそれを霊力に戻し、やたらふかふかと柔らかい椅子のようなものに腰掛け

 

【くああ……ワシも寝る。お前達の主人が起きたら起こしてくれ】

 

霊力を少しでも回復させるために今は睡眠と食事が大事だ。毛玉2匹にそう声を掛け、ワシは目を閉じ眠りに落ちるのだった……

 

「寝てるなー?起こした方がいいのかな?」

 

「みむ?」

 

「うきゅー」

 

「ぐるう」

 

毛玉の鳴き声と小僧の声が聞こえてうっすらと目を開く

 

「あ、起きた?大丈夫?どこか調子悪い?」

 

心配そうに尋ねて来る小僧。勝手に物を食べて、好き勝手やっているワシを心配してくれるとは、生粋のお人好しじゃな。こういう善人が悪い奴に騙されて痛い目を見るが

 

「みむむー?」

 

「うきゅ?」

 

「グルルル」

 

この毛玉達やあの額当てに浮かんでいる目がそれを警戒し、この小僧を守っているのだと理解する

 

(猿に似ていると思ったが、それ以上かも知れん)

 

猿は人間に好かれていたが、この小僧は動物や怪異に好かれるのかも知れぬな

 

【うむ、問題ない。大分調子はいい】

 

本来の霊力には程遠いが、十分動けるだけの霊力は回復した

 

「そっか、それなら良いけど……」

 

幽霊だからそもそも調子が悪くなることなんて無いんじゃがなと心の中で呟いていると

 

「それで君の名前は?」

 

名前か……うーむむ、これは少し考えるなあ……うーむ

 

【ノッブ!ノッブじゃ!ノッブと呼んでくれ】

 

「ノッブちゃん?」

 

首を傾げる小僧にそれで構わないと返事をしてから、小僧を指差して

 

「お前の名前は?」

 

ワシがそう尋ねると小僧は毛玉を抱き抱えて笑いながら

 

「横島忠夫だ。んでこれがチビ、これがモグラちゃん、んでタマモと心眼」

 

毛玉の名前が判明した所で額当てを見て

 

【心眼?】

 

そ、心眼と笑う横島。もしやこの男は悪魔祓い師なのじゃろうか?もしそうならばぜひ力を貸して貰いたい所じゃが

 

【主殿、その幽霊……もしや】

 

横島のポケットから球体が飛び出し、ワシの正体を言おうとするので咄嗟にシーッ!シーっ!と口元に指を当てる。ワシも感じ取った、あの球体の中に居る何かはワシと同じ存在じゃと、だが今はそれを知られるわけには行かないので黙っててくれと言うとその球体は私の気のせいでしたといってポケットの中に戻った。ふ、ふう。危ないところじゃった……

 

「……横島?時間は大丈夫か?それとその幽霊も起きたのか」

 

む?なんじゃあの口の悪い童は……だけど凄まじい威圧感を感じるので、今敵対するのは無謀だと思い黙る

 

「シズク起きたのか、良かった。心配してたんだぞ」

 

その童に駆け寄って安心したと笑う横島。よほど心配していたのか、その顔に安堵の色が浮かんでいる。暫く話をした後時計を見た小僧が慌てて荷物を鞄に詰め込みながら

 

「あ、そうやな。早く美神さんの所に行かないと、ノスフェラトウの事で話をしないと」

 

ノスフェラトウ!何とかしてノスフェラトウと戦わせる流れに持って行こうと思っていたのにどうも最初から戦うつもりだったと言うのなら都合がいい

 

【ワシも行く!ワシも連れて行け!】

 

ええ?って困惑する横島に嫌だと言ってもついて行くからな!と言うと顔色の悪い童が

 

「……役に立つかもしれない。連れて行ってもいいと思うぞ」

 

まさかの支援に驚いたが、こうして見ているとこの童も見た目通りの存在ではないとわかり、ワシの正体にも気付いているからこその連れて行くといいと言ってくれたんじゃと理解する。

 

「シズクがそう言うのなら、一緒に行こうか?チビ達は留守番だぞ?危ないからな」

 

ちゃんとチビに留守番するように言う横島は童の手を取ってからワシの方を見て行こうと声を掛けてくる

 

【うむ、よろしく頼むぞ】

 

善人の横島を利用するようで良い気分ではないが、ノスフェラトウを討ち取る為にワシはこうして現界した。その目的を果たす、それだけを考えて横島の師匠が待つと言う場所に向かうのだった……

 

 

 

 

私が指定した集合時間の5分前に横島君がシズクと共にやって来たんだけど……

 

「横島?その隣の何?」

 

蛍ちゃんが引き攣った顔で尋ねる。何故ならば

 

【うむ!これは美味じゃ!】

 

メロンパンをむしゃむしゃ食べてる幽霊の少女と一緒だったからだ……幽霊をつれてくるのは何となく判る。横島君は人外の遭遇率が高いから、でも幽霊のほうに問題がある。なんで普通に物を食べてるの?

 

「美神さん。幽霊って物食べれましたっけ?なんか家に帰ったらカップラーメンとか食い荒らしてたんですけど、この子」

 

……なんでそんな幽霊を普通に連れて来たんだろうか?

 

「……よ、横島君?落ち着いて、その幽霊の子と出会った経緯を教えてくれないか?」

 

唐巣先生が引き攣った表情で横島君にそう尋ねながら、小声で私に

 

(美神君。あの幽霊の子を霊視して見るといい、桁違いの霊格の持ち主だ)

 

そう言われて注意してその少女を霊視してみる。するとその少女の外見からは想像出来ないほどの莫大な霊力を持ち合わせていた。これは人間霊ってレベルじゃない、人間よりも上位の神や精霊に属する存在だ

 

「えーっとノスフェラトウの除霊の前に倒れてるこの子を見つけて、家に連れて帰りました」

 

なんでそこで連れて帰るって選択肢が出てくるのか?その発想になる理由が私には判らない

 

【なんで幽霊の子を拾ってくるんですか!?そう言う子を拾ってくるなら私を家に置いてください!】

 

「なんでやねん」

 

思わず横島君が突っ込みを入れている。おキヌちゃんもなんか色々と壊れてるわね

 

(美神さん……あの幽霊の子……なんかどことなく義経に似てません?)

 

蛍ちゃんも霊視をしたのか、額に汗を浮かべて尋ねて来る。確かに……外見が似ているわけじゃないけど、雰囲気が似ている気がする

る気がする

 

【うむ、とても美味じゃった。横島、今度は生クリーム入りを買ってくれい】

 

普通にメロンパンを食べ終えて次のメロンパンの注文をしている幽霊の少女

 

「後でね?今はそんなことをしている場合じゃないからノッブちゃん」

 

ノッブと呼ばれた少女はうむと頷き、私達を見据える。血のように紅い目がジッと私達を値踏みしているように見える

 

【気軽にノッブとでも呼んでくれい。ちとノスフェラトウには浅からぬ因縁があるんでな、ワシも同行させてもらうぞ】

 

ノスフェラトウと因縁があり、人間霊よりも上位の存在に昇華している幽霊のノッブ……

 

(なーんか、今回もきな臭くなってきたわね)

 

まさか今回もガープとかが絡んでいるんじゃないでしょうね……普通こんな高位の存在がなんの媒介も無く具現化出来るわけが無い……ノスフェラトウだけでも相当不味いと言うのにガープも絡んでくるんじゃ手の打ち様がなくなるんだけど

 

【プクー】

 

「ああ、おキヌちゃん。俺は別におキヌちゃんを蔑ろにしてる訳じゃないんだ」

 

ノッブが近くに居るせいで頬を膨らませて、いかにも怒ってますとアピールしているおキヌちゃんを宥めている横島君を見て溜息を吐きながら

 

「GS協会に急ぎましょう。ゾンビの出現情報が多くなって来ているから早い内に対策を取らないと」

 

今はそんなことをしている場合じゃない、朝の電話でGSを琉璃が呼び戻して防衛しているのでそこまで被害は出ていないが、時間と共にもっとゾンビの数が増えてくると数の差でやられる。拮抗している今の内に作戦を決めましょうと声を掛け、私達はGS協会へと向かうのだった……

 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その5へ続く

 

 




次回は対策会議やノスフェラトウの視点で書いていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その5

どうも混沌の魔法使いです。今回の話ではノスフェラトウが動き出す辺りまでは進めて行こうと思っています。ノッブの参入でどうなるのか?そこを楽しみにしていてください。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

外伝リポート 外史からの来訪者 その5

 

【現在の対魔師が一丸となり、我が兵の進軍を完全に止めております。あの時逃した一団が情報を流した物だと思われます更にゾンビも増える事はないので、優秀な術師が何人も居ると思われます】

 

蘭丸の報告を聞き、ふむっと呟く。以前目覚めた時にそのときの有力者を殺し、その者に成りすまし記憶改変を行った時は知識があやふやで我と言う存在が希薄になっていたが、今は違う。我はこうして存在しているノスフェラトウとして、本来の我として蘇っている

 

【ノスフェラトウ様?】

 

怪訝そうに尋ねて来る蘭丸。捕らえる事が出来るなら程度に思っていたので失敗しようが、成功しようが正直な話どうでもいいのだ

 

【是非も無い。所詮は知恵も何も無い死兵、奇襲で先手を取れなかった以上勝ち目は無い】

 

ここで見ていても判る。向こうは何重にも防衛線を張り、それを利用して我が兵を打ち倒している。ただ進むことしか出来ぬ死兵では勝利など出来るはずもない

 

【月が昇るまでは戯れよ。散発的に死兵を出せ、そして情報を集めよ】

 

情報ですか?と尋ね返してくる蘭丸にそうだと返事を返し、胸に手を当てる。今もまだ残っている槍の傷跡……あれは駄目だ。あれだけは今の我とて屠る事が出来る

 

【あの槍を持つものを探すのだ】

 

あの槍を破壊することが我が世界を手にする第一歩。それ以外は全て些事だ、だからそれだけを考えろと蘭丸に指示を出し、慌てて出て行く蘭丸から視線を外し、天井からぶら下がりこちらを見つめている金色の蝙蝠を見据え

 

【我は我のやりたいようにやる。貴様らの施しも指図も受けぬわッ!】

 

抜刀した刀から飛び出した魔力刃が蝙蝠を両断するのを確認し、我は椅子に腰掛け再び夜が訪れるその時を待つのだった……

 

 

「どうする?アスモデウス。あれ失敗したんじゃない?」

 

蝙蝠を通じてノスフェラトウを観察していたセーレとアスモデウスは若干引き攣った顔をしていた

 

「うむ……そのようだ。やはりガープの不在は痛いな、我でも出来ると思ったのだが」

 

蝙蝠を通じてノスフェラトウに魔力を与え、洗脳し手駒にする。それを作戦としていたようだが、あっさりと失敗したことを認めるアスモデウスにセーレが

 

「ならなんで遠隔魔法なんてしたのさ!?」

 

「出来ると思ったんだが……いつもガープがやってるのを見ているから」

 

なんで見ているだけで出来ると思ったのさ!?とセーレの突っ込みを受けるアスモデウスはうむと腕組して黙り込む。なんで黙り込むかなあッ!?と怒鳴るセーレと黙るアスモデウス。ガープが治療により不在となっている間。アスモデウス陣営はガタガタになっているのだった……

 

 

 

 

早朝美神さんからの留守電に入っていたノスフェラトウの復活。それから慌ててGS協会で仮眠していた職員を叩き起こし、防衛の準備を整えたのがゾンビの襲撃の始まる1時間前。GS協会の備蓄は膨大だったから耐えることが出来ると思っていたんだけど……

 

「会長!新宿方面から物資の支援要請です!」

 

「近くの病院の病室が埋まりました。ヘリの要請をお願いします!」

 

矢継ぎ早に飛び込んでくる報告の数々に私は思わず頭を抱えた。ゾンビは確かに厄介な相手だが、動きは遅い、知能も無い。それに現代ではゾンビ化の治療方も確立されている。だからそこまで危険視する相手ではないのだが数が多すぎる、接近戦がメインのGSに負傷者が増加している。ドクターカオスの作ってくれた劣化精霊石で守られているからゾンビ化はしていないが、戦力は徐々に減って来ている

 

(うー、こんな時にくえすが日本に居ないからなぁ)

 

くえすの黒魔術なら間違いなくゾンビを一掃出来る。だが先日欲しい魔道書があると言って暫く海外を回ると言って、私からGS試験での協力の報酬を受け取って行ったのは記憶に新しい。ゾンビの出現で空港が閉鎖になっているからくえすを呼び戻す手段が無い。くえすほどの魔法使いならば自分で飛んでくることも可能だろうが、恐らく今までの事を考えればどこかの遺跡に居る筈だから電話は勿論駄目だし、使い魔もそこまで辿り付く事は出来ないだろうから連絡を取れるわけもない。柩は柩でこの事を予感していたのか日本にいない……確実に逃げやがった

 

(これ以上は言峰に借りを作りたくないし)

 

言峰綺礼の力を借りる事も考えたけど、GS協会、バチカンからも警戒されている言峰の力を借りると国際GS協会やバチカンの視察が来る可能性がある。横島君の事を知られる訳にも行かないので言峰を呼び寄せる事が出来ない、ノスフェラトウを相手にするには圧倒的に戦力が足りないのだ

 

(ドクターカオスとマリアさん達も動かせないし)

 

本来ならマリアさん達を主軸に添えて戦略を立てるのが定石。しかしそれが出来ない理由がある、ゾンビに襲われたかもしれない相手の治療及び、ゾンビになりかかっている人間を治療できるのがドクターカオスとマリアさん姉妹のみ。ただでさえ少ないGSを減らすわけにも行かず、更には安全なところから文句を言ってくる国際GS協会などからのクレームを無視する為にも、ゾンビになった民間人の治療が出来るあの3人を動かすことが出来ないのだ。

 

「会長!美神さん達と唐巣神父がお越しになりました」

 

部下からの報告に遅いっと心の中で叫びながら、直ぐに会長室に通してと言って来るのを待っていると

 

「ねえ?横島君?私いい加減幽霊とか、妖怪を拾うの控えたほうが良いと思うの」

 

メロンパンを頬張っている幽霊を見て横島君にそう言う、って言うかなんでこの幽霊普通に物食べてるのよ……え?精霊とかに進化しているの?あの子

 

「いや、別に拾ってるつもりじゃないんですけど……あ、後あの子の名前はノッブちゃんです」

 

美神さんの事務所の人外率が上がっている原因の横島君がそう笑いながら言う。別に名前を聞いているわけじゃないんだけど……と苦笑しているとバンダナに目が浮かび

 

【それもまた横島の良さである。それを封じるのは横島の成長を妨げるぞ?】

 

……いやさあ?妖怪とかを集めて育てるのは妖使いの戦い方の1つだろうけど、何事も限度があると思うのよ?

 

【横島。メロンパンおかわり】

 

「え?ああ、おう」

 

がさごそとコンビニの袋を漁りメロンパンを渡す横島君とその背中に憑いているおキヌちゃんを見て

 

「とりあえず状況を教えてくれます?」

 

横島君はほっておこう。うん、不機嫌そうなシズクとか蛍ちゃんとか怖いし、今はそっちの修羅場を見て楽しんでいる場合じゃないし……私は美神さんに状況の説明をお願いするのだった……

 

「ノスフェラトウの復活と明智光秀の依頼ですか……こういうの言うのなんだと思いますけど、横島君がトラブルメイカー

なんですか?それとも美神さんですか?」

 

最近色々トラブルが起きているけど、どれもこれも横島君か美神さんが関わっているので、2人の内どちらかが原因のような気がしてならない

 

「多分横島君じゃないかしら?」

 

美神さんが引き攣った顔で後ろを見ているので、どうしたんだろう?と振り返ると

 

【ガブーッ!!!】

 

「ぎゃああああ!痛い!おキヌちゃん!?痛い!痛い!!!頭割れるウウ!!!!」

 

自分を構ってくれないことに我慢する限界が来たのか、おキヌちゃんが横島君の頭に噛み付いていた。凄い力で噛んでいるのか、横島君が涙目で暴れている

 

【ぬう!?上は死角だ。私の攻撃は当らん!?】

 

「……ぬう掴めない、頭だけ具現化させているのか」

 

「破魔札も使えないし……コラー!横島から離れろーッ!」

 

【痴話喧嘩か!是非も無いかなッ!】

 

どたどたと大騒ぎしている横島君達に苦笑しながら、偵察から戻ってきた式神が持ち帰った情報を元にノスフェラトウへの対策を話し始めるのだった……

 

 

 

 

琉璃の式神が持ってきた情報を見ながらノスフェラトウに対する作戦を決める。今はゾンビの侵攻を抑えるために広く防衛線を張っているおかげで、そこまで侵攻は進んでいないらしいけど、いつまでもその防衛線を維持出来るか判らないので、そろそろこの状況を打破できる作戦を考える必要がある。1番早いのはノスフェラトウを倒す事であり、その為の切り札は既にこっちの手元にある。明智光秀の槍、これをどう使うががノスフェラトウ攻略の鍵となるだろう、だがその前には解決しなければならない問題が山ほど残っているが……

 

「どうもこの槍が切り札になりそうだけど……問題は其処まで踏み込めるかなのよね」

 

精霊石の切っ先を持つ明智光秀の槍。かつてノスフェラトウを屠っただけあり、その破壊力は折り紙つきなのだが……

 

「見た所では高密度の魔力を障壁として纏っている。如何に精霊石とは言え、あの密度を突破するのは相当難しいだろう」

 

唐巣先生の言葉に頷く、この槍は相当な霊力を溜め込んでいるがあの障壁を打ち破るのに霊力を使えば、肝心のノスフェラトウを倒すだけの霊力が足りなくなる可能性が出てくる。そうなってしまってはノスフェラトウを倒す手段が無くなってしまう……

 

「それにノスフェラトウには使役している使い魔が居たはずです。僕も父に詳しく聞いていたわけじゃないですが……確か

蜘蛛の悪魔の使い魔を使役していたと」

 

蜘蛛の使い魔……それもノスフェラトウのように信長の配下の武人に寄生し、その能力を得ていたら相当厄介な相手になるだろう

 

「それと琉璃。ノスフェラトウの城はやっぱり都庁の近く?」

 

復活した場所の近くで陣取っているのは当然の事だ。なんせあの森は霊脈の上だった、わざわざ其処から離れて陣取りする必要は無い。だからその近くで陣取っているの?と尋ねると瑠璃は険しい顔をしながら

 

「都庁の上に異形の城が現れていると聞いています。その近くには巨大な蜘蛛の巣が張ってあって近づくことも難しいと」

 

蜘蛛の巣……ピートが言っていた蜘蛛の使い魔の巣ってことか……

 

「それってやっぱり霊力に反応するの?」

 

「飛ばしていた式神20の内、戻ったのが3なので恐らく反応するかと」

 

うーん……そうなるとどうやって本丸に乗り込むかが問題ね……蜘蛛の巣が無ければ戦闘機でもチャーターして上空から一気に……いやそれだと乗り込める人数が限られるからノスフェラトウと戦う事に対して不安が残る

 

【むしろいっそ、今日の所は防衛だけに専念し、明朝仕掛けるというのはどうじゃ?】

 

背後からノッブがそう提案してくる。横島君達のほうで散々トラブルを起こしておいてっと思いはしたが、それは的確な助言だった

 

「たしかにそれもありかもしれないわね。琉璃、GS協会の備蓄の方はどう?

 

体力と霊力は万全とは言えない。向こうの戦力が未知数であり、更には突入経路を見つける事も出来ないとなれば必然的に消耗戦になって行くだろう。確かに早い段階でのノスフェラトウの討伐は必須だが、返り討ちにあっては意味が無い。無論市民達の避難誘導を行う必要は出てくるが、今攻め込む事が出来ないのならば守りを固めるのが1番有効な一手と言えるだろう。篭城戦をやるには備蓄が必要不可欠だ、GS協会に今どれだけの備蓄があるか?と尋ねると

 

「……正直な所かなり厳しいですね。早朝からかなりのペースで消耗してますし……なにより防衛に努めてくれているGS達の疲労具合もありますし……避難してきている市民に配給している食料とかにも限りがありますし……」

 

寝ている間に相当な戦いがあったのは知っている。時間的には昼15時……朝まで耐えるには長すぎる時間だ……しかし攻め込むことも出来ない……完全なジリ貧だ……どうしようかと戦力図を見つめているとまたノッブが手を伸ばし

 

【無駄に防衛線を広げすぎじゃな、ここからここの兵を下げて、こことここから再度防衛線を張りなおすのじゃ】

 

地図に素早く線を引くノッブ。周囲の地形などを生かし、ゾンビの侵攻を防げる場所を的確に選んでいる。地図をざっと流し見しただけでここまで的確な防衛線を張る位置を導き出すなんて……更にノッブは地図に書き込みを加えていく

 

【あの動く機械の箱を倒して壁を作って耐えよ。倒すのは出来るだけ大きな機械の箱が良い、向こうは所詮知恵も無い屍よ。態々霊具を使うこともあるまい。何人かで隊を作り、銃で近づいてくる屍の足を狙えば良かろう?足さえ動かなければ、壁を乗り越える事は不可能。後は纏めて焼き払えば体力の消耗も最小限で済むじゃろ?血の気の多い若者を使えば霊能者の消耗を更に下げることも出来る。まぁ統括するのは霊能者になるじゃろうがな】

 

メロンパンをずっと貪っていた少女の言葉とは思えないほどに的確な戦略だった。思わず唐巣先生や琉璃の顔を見る、並みの存在ではない事は判っていた……だがここまで来ると確信する。牛若丸や義経と同じく英霊……死後上位の存在へと至った者……当然の事ながらその正体なんてまるで判らない。これだけ軍略に長けた少女の英霊なんて居たかしら?

 

【ま、こんな所じゃろ?横島ー?メロンパンおかわり】

 

話は終わったと言わんばかりに先ほどの様に年頃の少女と言う表情を浮かべ、おキヌちゃんに頭を噛まれて青い顔で倒れている横島君とそんな横島君の治療をしている蛍ちゃんとシズクの方に向かって歩き出すノッブの背中を見ていると

 

「あの子の意見を採用しよう。ゾンビの侵攻を抑える為に広げていた防衛線を縮めて、ここからここまでで再度防衛線を展開。殿には私とピート君で出る、その間に負傷者や避難誘導を進めてくれ」

 

唐巣先生の言葉にピートは納得言ってないという表情だ。まだ完全に避難誘導が済んでいないのに防衛線を下げることに納得してないのだろう

 

「ピート君、気持ちは判るけど戦力的にはこっちが圧倒的に不利なのよ。無駄に防衛線を張り続けるとこっちが倒れちゃうわ」

 

琉璃が諭すように告げる。話し合いをしている間にも式神が情報を持って来ていたので、もうそれほど時間的な余裕がないのだろう

 

「しかし……「そう思うのならば動くんだピート君。避難誘導をしているGSの体力も危険域に来ているだろう、それならば休んでいた私達が率先して動こう」先生……はいっ!」

 

ピートを連れて会議室を出て行く唐巣先生を見送りながら琉璃に

 

「じゃ、近くの警察署とかから銃を借りましょうか?」

 

霊具の備蓄が心許ないのなら普通に銃を使えば良い。被害者はとりあえず足を撃ってから捕獲して隔離、そうすればこの騒動の後でそこまで叩かれる事は無いでしょ?と琉璃に言うと琉璃は深く溜息を吐きながら

 

「後で始末書酷いことになりそうですよ……」

 

ガープの襲撃に続いて今度はノスフェラトウの復活。トラブル続きで相当胃が参っているのか、ざらざらと胃薬を飲む琉璃に私は何も言うことが出来ないのだった……

 

【ううう……なんで幽霊で女の子が増えるんですか、理不尽。理不尽です……私だって……私だって……横島さんに構ってほしい……うう……噛み付いてごめんなさい……】

 

横島君をダウンさせたおキヌちゃんはシズクの作った氷の重りを膝の上に乗せられ、涙を流しながら正座していた……嫉妬心で横島君に酷い事をしてしまった事を反省しているのだった……

 

 

 

 

おキヌちゃんに噛まれ凄まじい激痛で意識を失った後。シズクの治療で何とか一命は取り留めたと蛍に聞いた、バタバタと忙しそうにしている美神さん達の邪魔をするのは悪いと思ってGS協会の中を見学を兼ねて散歩する事にする

 

(おキヌちゃんには今後絶対に噛まれないようにしよう)

 

その為にはおキヌちゃんを怒らせないようにしよう……その為には何をすればいいだろう?確かに迷惑をかけられる事は多い、だが料理をしてくれたり、家事をしてくれるのもおキヌちゃんだ……だから迷惑だけ掛けられている訳じゃないし、俺自身おキヌちゃんの事は嫌いじゃない……だから無碍にも出来ない

 

【私としては結界札でお前の自室に侵入出来ない様にする方がいいと思うぞ?】

 

心眼がそうアドバイスしてくれるが、それは出来ない。出来ない理由があるのだ

 

「そりゃ駄目だ。チビとかモグラちゃんが弱っちまう」

 

結界札で侵入出来ないようにした事があるが、その代わりにチビとモグラちゃんがぐったりとして動かなくなったので駄目だというと

 

【むう、難しい所だな】

 

まーなー。蛍も同じような事を言っていたしな。見た目は可愛い小動物だがれっきとした悪魔と竜種、結界札や破魔札には弱いんだよなあ……っとそんなことを考えていると家に置いて来たチビ達が心配になってくる

 

(餌は用意してきたけど大丈夫かな?見に行きたいけど……)

 

心配なので様子を見に行きたいが、ノッブちゃんの作戦で既にバリケードが用意されているので仮に出てしまうと、もう戻ってくることが出来ない……うーんどうしたものか……と考え込んでいると

 

【えっと……その横島さん】

 

壁から浮き出るようにおキヌちゃんが姿を見せる。一瞬ぎくりとしたが、申し訳無さそうな顔をしているのに気付いて

 

「どうかした?」

 

おキヌちゃんにそう尋ねるとおキヌちゃんはばっと頭を下げて

 

【ごめんなさい!私……その……その……上手く言えないけど……凄くもやもやして……】

 

俺の頭に噛み付いた事を謝りに来たのか……俺自身はそんなに気にしてないんだけどなあ……いや、蛍やシズクは激怒していたけどさ……そのもやもやってのはもしかして嫉妬とかそう言うのだと思うし、そうなるとノッブちゃんばかりに構っていた俺が悪いって事になるし……おキヌちゃんは基本的には穏やかだから、自分から攻撃するって事はあんまり無いし

 

「いや、良いよ。別に気にしてないし……」

 

【でも、でもっ!】

 

うーん……おキヌちゃんは真面目だからなぁ……言葉だけじゃ駄目なのかな……でも俺自身本当に気にしてないからなあ……

 

【横島。罰は罰だ、なぁなぁにするのは良くない】

 

そんな事を言われてもなぁ……相手幽霊だし、女の子だし……お世話になっているし……罰なんて言われても……あっ!そうだ

 

「じゃあおキヌちゃん。お願いがあるんだ」

 

【なんでしょうか?】

 

これは絶対におキヌちゃんにしか出来ない事だ。きっとシズクでも、蛍でも出来ない事だ。いや、もしかするとシズクなら出来るかもしれないが、ノスフェラトウから逃げるのに力を使いすぎているシズクの調子は良くない。だから無理はさせたくない

 

「家にいるチビとかの様子を見てきて欲しいんだ」

 

もしかするとゾンビが家に行っているかもしれない、炎を使えるタマモも居るが、弱っているし……チビやモグラちゃんなら電撃や岩の槍で倒す事は出来ると思うが、それでもどうしても心配になってしまう。だから様子を見てきて欲しいとお願いすると一瞬きょとんとした顔をしたおキヌちゃんだったが

 

【判りました、直ぐに様子を見てきます。もし危なそうだったら連れて来ますね】

 

確かに家が破壊されてはチビ達も危険だ。ノスフェラトウの魔力で凶暴化する可能性もあるが……それでもそのままにしておく事は出来ない。それに楽観的と言われるかもしれないが……チビもモグラちゃんも凶暴化しないのではないか?と思っている。最近牙の生え変わりや、翼が大きくなったり、爪が鋭くなってきているので純粋に成長しているだけなのでは?と思っている……っと言うかそう思いたいのだ。ずっと一緒に暮らしてきたチビやモグラちゃんが凶暴化する姿なんて想像したくないし、そうなるなんて思いたくないのだ……これからもずっと一緒に穏やかに暮らせるって……そう思いたいじゃないか……窓から家の方に向かっていくおキヌちゃんの背中を見ながらそんな事を考えていると

 

【女の扱いにおいてはまだまだじゃのう?】

 

楽しそうなノッブちゃんの声に驚きながら振り返ると、美神さんに借りたのかショットガンを肩に担いだノッブちゃんがこっちを見て笑いながら

 

【傷心の女子ならかるく抱擁するくらいの気位をもてんのか?でなければモテんぞ】

 

……ええ、俺なんで女の子の幽霊に女の子の扱いについて怒られてるの?

 

【ええい、余計な事を言うな。横島は横島だから良いのだ。女好きだが、いざっとなると足踏みするからこそ横島だ!そうじゃない横島など横島ではない!】

 

「なあ?心眼?お前も何言ってんの!?」

 

頼りになると思っていた心眼の明後日の方向過ぎる言葉に思わずそう叫んでしまう。

 

【くっはははは!ああ、そうか、それが横島と言う男か。それならば仕方ないな!】

 

そしてなんでノッブちゃんはそれで笑い出したの!?ひとしきり笑ったノッブちゃんは

 

【巡回に向かう、お主も付き合え。霊力くらい使えるんじゃろ?】

 

Gジャンの中には数枚の無地の破魔札があるけど……それでは明らかに心許ないだろう。それに勝手に外に出る訳には行かない

 

「1度美神さんや琉璃さんに指示を仰いでからにしようぜ?俺自身へっぽこだし……そのショットガンって奴確かそんなに弾数ないんだろ?」

 

猟銃だからそれほど弾を装填出来ないってのはTVで見た気がするしと言うと、ノッブちゃんは満足げに笑いながら

 

【その冷静な判断は買おう、じゃが……意地でも足の震えは押さえた方が良いの?怖いんじゃろ?】

 

そりゃまあ……ゾンビなんて戦ったことないし……悪霊とかと違う生身だから怖いと思うのは当然だ。だけど

 

「一応武者震いって事で?」

 

【カカ!!そう言うことにしておいてやるかの!じゃあついて参れ】

 

俺よりも幼くてそして背も低いのに、何故か俺はノッブちゃんの指示に従おうと思った。言うならば天性の人の上に立つ人間……ノッブちゃんはそう言う人種?と言うか幽霊なんだと思いながら……2人で会長室へと引き返していくのだった……

 

 

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その6へ続く

次回はノスフェラトウか蘭丸戦まで書いて行きたいと思います。後はチビ達の様子を見に行ったおキヌちゃんとか……多分いるであろうエミさんとかも出してみたい所ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その6

どうも混沌の魔法使いです。今回は蘭丸かノスフェラトウ戦開始までは進めて行きたいと思っています、蘭丸はかなりあっさり風味で終わるかもしれないですけどね、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

外伝リポート 外史からの来訪者 その6

 

いつの間にか銃を持ち出していなくなっていたノッブと散歩してきますと言って会長室を出て行った横島君が一緒に戻ってきて

 

「なんかノッブちゃんが一緒に巡回に来いって言ってるんすけど?俺どうすれば良いですかね?」

 

1度確認に戻ってきてくれた事に安堵する。ゾンビは今まで蛍ちゃんや横島君が戦った悪霊などとはまるで違う。腐ってこそいるが生身の肉体を持ち、血を撒き散らす……それは経験のないGSが戦えばトラウマになる可能性のある相手だ

 

(でもそんな事も言ってられないのよね)

 

この業界にいればゾンビと戦うことはそう珍しい事じゃない。しかしゾンビと戦ったことで死んだ末を見てしまったり、鮮血恐怖症になって引退するGSも決して少なくは無い……

 

(どうしましょうか……)

 

基本的にはバリケードの近くに陣取って様子見。状況次第ではゾンビと戦う事になる……それでトラウマを持ってしまうことを考えると即座にGOサインは出せない

 

「ゾンビと戦うって事は目の前で腕が千切れ飛んだり、血を撒き散らすのを見ることになると思うけど大丈夫?」

 

横島君は青い顔をしてるし、返事を返した物の蛍ちゃんも反応はあんまりよろしくない……

 

【しかし美神。お前の意見も判るが、いずれ乗り越えねばならぬ問題だ】

 

心眼の言うことも判る……だが私的には銃を使わせるのも早いし、ゾンビと戦うのも早いと思う。

 

【なーに、大体はワシが何とかする。作戦が決まるまでに少しはそういうのを見ておいた方が気持ち的に楽じゃろ?】

 

いきなり四肢が吹っ飛んだりするのを見るよりも確かに気が楽になるだろうが、それ以前にそれを見るだけでGSとして活動できなくなる可能性を考えるとハイリスク・ローリターンだ……

 

「美神さん。正面のバリケードのほうにエミさんと冥子さんが待機してますよ」

 

エミと冥子かぁ……エミはゾンビは問題なく処理できるけど、冥子はゾンビと戦ってトラウマを抱える事にはなった物のなんとか復帰したっけ……

 

【心配ありませんとも!なんせこの私がついてますから】

 

横島君のポケットから牛若丸眼魂が顔を出して言うが、具現化も出来ないのに頼りになんて思える筈も無い

 

「シズク……行ける?」

 

さっきからずっと水を補充することを繰り返していたシズクに行けるか?と尋ねて見る。17本目のペットボトルを空にしたシズクは身体の動きを確認するように、屈伸をしたり腕を伸ばしたり入念にストレッチを繰り返してから

 

「……本調子とは言わんが……ゾンビ程度なら問題ない」

 

シズクが付いて行ってくれるなら巡回に出しても良いと判断し、琉璃からエミと冥子が2人で巡回しているエリアの地図を受け取り

 

「こっちのほうにエミと冥子が居るから2人と合流して、2人から指示を聞いて行動しなさい。独断専行は絶対にしない事。良いわね?……それとゾンビと戦うのは本当に精神的にきついから気分が悪くなったら直ぐ戻りなさい」

 

横島君と蛍ちゃんにそう指示を出し見送りながら椅子に腰掛け深く溜息を吐く。シズクが居るし、実力は未知数だけど恐らく英霊のノッブもいるから大丈夫だとは思うんだけど……肉体的に守れても精神的にはどうなのだろうか?という不安はあるが、いずれはゾンビなどの生身を持つ相手と戦う事もあるので経験を積ませておくのもいいかもしれない……確かにゾンビとかと戦って潰れるGSは多いが、蛍ちゃんも横島君もそんな事で潰れないと信じているから

 

「じゃ、琉璃。突入経路とかの話し合いを再開しましょうか」

 

微笑ましい物を見ているような表情を浮かべている琉璃にそう声を掛け、新宿都庁とその上に現れた異形の城をどうやって攻略するのか?私と琉璃はお互いに意見を出し合い、今の状況を打開する手段を話し合うのだった……

 

 

 

冥子と共にバリケードの巡回をしていると、案の定あちこちからカリカリと引っかく音が聞こえてくる。恐らくバリケードを破ろうとしているゾンビが引っかいている音だろう

 

「ひう!?」

 

びくんっと身を竦める冥子にお願いだから、ぷっつんしないでよ?と祈らずには居られない。もし冥子がぷっつんしてしまえばバリケードは崩壊しゾンビが雪崩れ込んでくるのだから……

 

「エミさん、こっちの巡回は終わりました、これからどうするんジャー?」

 

ライフル銃を肩に担いで地図を片手に尋ねて来るタイガー。巡回ルートの見回りは終わって、民間人が残っていないのを確認しているからそろそろ引き返そうか?と考えていると

 

「あ、エミさーん」

 

背後から聞こえてきた声に振り返ると案の定。横島と蛍、それと……

 

(なんなのあれ!?)

 

外見こそ中学生位の少女の幽霊だが、その身体に渦巻いている霊力の量と質を考えると義経に匹敵している。それすなわちあの幽霊も英霊クラスの霊格をもった存在と言うことで……

 

(なんか面倒ごとになってきたような気がするワケ)

 

ゾンビとノスフェラトウだけでも十分厄介なのに……更なる面倒事の予感にあたしは思わず溜息を吐くのだった……

 

「あら~横島君~♪久しぶりねー」

 

にこにこと笑う冥子とお久しぶりです、冥子ちゃんと和やかに挨拶を交わしている横島に状況判ってるワケ?と思わずには居られないのだった……

 

【ふむ、そこじゃな】

 

片手でライフルを構えゾンビの足を的確に打ち抜いているノッブと名乗った少女の幽霊、その技量は半端ではなく、2発の銃弾を時間差で撃ち、お互いに兆弾させてゾンビ4体を一撃で歩行不能にするなどと神懸り的な射撃の腕を披露していた

 

「すごいけんのー……ワッシはそこまでは出来んノー」

 

その銃の腕に感心しながらタイガーも引き金を引き、ゾンビの足を打ち抜いている。元々海外のジャングルで暮らしていたタイガーだ。自衛の為の射撃は生活の中に組み込まれていたのか、正直あたしよりも銃の腕は上なので警察から借りたライフルを持たせたけど正解だったかもしれない

 

「うわ……気持ちわる……」

 

【だが今はこうして見学できる余裕がある、恐ろしくてもちゃんと見ておけ、後々役立つぞ】

 

横島は顔を青くさせて引き攣った顔をしており、バンダナの心眼が横島にそうアドバイスしている。ゾンビと戦うのは若手GSとしたら最も厳しい物だろう、人の姿をしていて、仮に倒したとしても遺体が残り、鮮血が舞う。正直トラウマとなってしまう者が多い除霊対象だ

 

「おたくは平気なワケ?蛍」

 

あたし的には蛍のほうが精神的にダメージが大きいと思っていたんだけど、けろりとした顔をしている事に驚きながら尋ねて見ると

 

「あんまり気にならないですね……ゾンビはゾンビ。もう人じゃないですから」

 

人だったら気分も悪くなると思いますけどと言う蛍。それはゾンビに限らず人型の魔獣や悪魔と戦う時の心構え、人間じゃないと思う事は確かに1つの対処法として間違いではない

 

「うええ……やべ、吐きそう……」

 

「大丈夫~?私も~ゾンビは苦手だから~出来るだけ見ないほうが良いわ~」

 

冥子が横島の背中を摩りながらそう笑いかける。基本的に子供っぽい冥子だけど、変な所で大人っぽいのよねと苦笑しながら

 

「どう?まだゾンビとか、民間人の反応はあるワケ?」

 

水で索敵をしてくれているシズクにそう尋ねて見る。本当はもう引き返す所だったのだが、蛍と横島にゾンビと戦うのを見せる為にゾンビを探して貰って移動してきた。民間人は既にGS協会に避難している筈だが、怪我などで残っている可能性を考慮して探して貰っていた

 

「……反応はもう無いな。引き返すほうが無難だろう、もうじき日が暮れる」

 

日が暮れればそれは魔の眷属の時間。ノスフェラトウが本格的に動き出す可能性が高くなる時間帯だ

 

「判ったわ、GS協会へ撤収するワケ!戻ったらゾンビの対処法をレポートにして提出するワケ!」

 

どうせなら見学だけではなく研修にした方が良い。だからGS協会に戻ってレポートを提出するようにと言うと

 

「うえ……俺殆ど見てねぇ……」

 

「ゾンビは気持ち悪いもんね~」

 

「ワフゥ!」

 

ゾンビ戦を殆ど見てなかった横島を励ましている冥子に内心溜息を吐くが、適材適所と言う言葉もある。人間誰しも向き不向きがあるのでそれほど強くは言えない

 

「タイガー。あんた今日半日ゾンビと戦ったでしょ?横島と一緒にレポートやりなさい」

 

タイガーと横島は結構仲が良いので2人でレポートを書くようにと指示を出していると。ノッブが突然銃を発射する、突然の銃声に驚いていると

 

【来たぞ。本命の連中じゃ】

 

ノッブの視線の先には鎖帷子を着込んだゾンビの一団。だがそのゾンビの動きは素早く、そして知性を持った動きをしていた……誰か指示を出している者が居る……あたしはそれを一瞬で理解し

 

「タイガー!ライフル!」

 

タイガーからライフルを受け取り、そのまま止まっていた車の窓ガラスに叩きつける

 

「早く乗るワケ!急いで戻るから」

 

そのまま運転席のカバーを外し、配線を引きずり出しそれらをつなぎ合せエンジンを掛け車に乗るように叫ぶ

 

「……エミさんすげえ……めちゃ手馴れてる」

 

「エミさんの知らない過去を知った……」

 

あたしの手際を見て絶句していたが、もう1度乗るように叫ぶと慌ててタイガー達が走ってくる

 

【ワシは上に乗る!早いのが仕掛けてきそうじゃからな!】

 

あたしの手からライフルと、タイガーが背負っていた鞄から予備の弾丸を受け取りひらりと車の上に乗るノッブ。即座に響く銃声と壊れて落ちてきた弓矢を見て

 

(弓兵まで!?これは不味いわ)

 

今までは動きの遅いゾンビだから銃で対応していたが、弓矢を集団で放ってくるとなると対応が段違いに難しくなってくる。絶え間なく響く銃声にシズクも車の上に乗りながら

 

「……急げ。気配が多くなってきてる」

 

言われるまでもないと車を発進させようとしていると今度は蛍が待ってくださいと叫ぶ

 

「まだ横島が乗ってません!」

 

あの馬鹿何やってるワケ!?運転席の窓から顔を出すと横島は熱心に拾ったであろう鞄に何かのスプレーを詰め込んでいる

 

「横島!早く乗って!急がないと不味いから!」

 

「早く乗るワケ!」

 

あたしと蛍で怒鳴ると横島は鞄の蓋を閉じて車に乗り込んでくる。それを確認すると同時にアクセルを踏み込み一気に最大まで加速する

 

「横島!オタクね!状況理解してるワケ!?」

 

明らかに知性のあるゾンビの集団が攻め込んできている。その事を瑠璃に伝えないといけないって言う今の状況を理解しているのか?と怒鳴ると横島はすいませんと謝りながら、でもこれが多分役立つと思うんですと反論する

 

【うーむ……私としては効果のほどはどうかと思うぞ?】

 

「いやいや絶対役立つってこれ」

 

何のスプレーを回収したのか?と気になったのか蛍が鞄からそのスプレーを取り出して

 

「……蜘蛛の巣駆除スプレー?」

 

蜘蛛の巣駆除スプレー?……それがなんの役に立つと言うのか?そんな物を拾う為に時間をロスしたのか?と思うと頭痛がしたが横島は笑いながら

 

「ピートが言ってたぜ。ノスフェラトウの部下に蜘蛛の悪魔が居るって、そんなら蜘蛛の巣を張って空中を走ったりするだろ?これで溶かしてやれば効果抜群だろ!」

 

「凄いわ~横島君。ナイスアイデアよ~」

 

のほほんと笑う冥子と自信満々で笑う横島に酷い頭痛を覚えながら、あたしはGS協会へ向けてハンドルを切ったのだった……なおこの時の蜘蛛の巣駆除スプレーが後々危機的状況を打破する事になる事を誰も知らないのだった……

 

 

 

琉璃とノスフェラトウへの対策を話し合っていると勢い良く会長室の扉が開き、エミが顔色を変えて飛び込んできた。エミはそのまま私と琉璃の前に来て

 

「明らかに知性のあるゾンビが大量に出現したワケ。少なくとも50、多くて200……しかも弓矢を使えるだけの知性も確認しているワケ」

 

その報告に私も琉璃も不味い事になったと理解した。ゾンビが脅威ではないのは知性が無いからであり、もし仮に知性を持ち武器を扱えるとなるとその不死性と合わせれば相当厄介な相手になる

 

「それでエミさん。そのゾンビは鎧か何かを着ていましたか?」

 

「遠目だったけど……織田信長の家紋入りの旗を背負った鎧武者だったワケ。流石に馬のゾンビは居なかったけど、100

キロで飛ばした車目掛けて矢を放ち続けてきたワケ」

 

……それやばすぎるでしょ、甲冑で防御力、100キロで走る車を弓矢で狙撃……近接にしろ遠距離にしろ攻略する手段が見えない……琉璃も同じ考えなのか非常に険しい顔をしている

 

「すまない、悪い情報だ」

 

唐巣先生が会長室に慌てて駆け込んでくる。明らかに強力なゾンビの上にまだ悪い情報があるの!?

 

「ノスフェラトウが陣取っている都庁を中心にして、12箇所に高密度の魔力結晶が配置されている。ノスフェラトウの奴……魔界の門を開くつもりだ」

 

魔界の門ですって!?それが開かれたら、人間界とは比べられないほど強力な悪霊や魔獣が出現する事になる

 

「唐巣神父……その魔界の門が開くまでの時間は?」

 

「恐らく……丑三つ時になる午前2時頃だと思う。ピート君を監視に残してきてから何かあれば直ぐに戻ってきてくれる筈だが……」

 

監視に残すのは間違いではないが、戦力が減ってしまう。シルフィーちゃんはどうしたのか?と唐巣先生に尋ねると

 

「吸血鬼の力が強いシルフィー君はノスフェラトウに操られる可能性が高いから……精霊石と破魔札の結界で封印してきた」

 

……ま、まぁいつも横島君を襲っていることを考えると、凶暴化されて横島君が襲われても困る。だからその対応は間違いじゃないと思うけど……

 

(戦力も時間も圧倒的に足りてないわね……)

 

今の時間は午後17時……時間的な猶予は9時間……その9時間の間に迫ってきている強力なゾンビとノスフェラトウの撃破……それは9時間でどうこう出来る問題ではない……どうする?どうやってこの状況を切り抜ける?それを必死に考えるが何もいいアイデアは浮かんでこない。そもそも魔界の門を開こうとしているなんて考えても無かったので、篭城作戦を取ったがそれが裏目に……

 

【ええい!落ち着かんか!】

 

突然響いた少女の怒声……この声はノッブ?私達が振り返るとノッブは肩にライフルを背負ったまま

 

【前提から間違っておるわ!強力なゾンビ?はっ!そんなもの存在せんわ!】

 

存在しないと言い切ったノッブはこれだけ霊能者が揃っているのに気付かないとは情けないと前置きしてから

 

【ノスフェラトウの周辺の蜘蛛の巣。それを作り出している悪魔がゾンビに糸を繋ぎ操作しているんじゃ、戦とはハッタリじゃ!数体のゾンビに糸を繋ぎ操作することで動いている一団全てを強力な物だと勘違いさせておるんじゃ】

 

その言葉にハッとなる。確かにその可能性は極めて高いと言えるが、それが真実だと確証を得ることは出来ない。仮にそれを信じて迎え撃って強力なゾンビが居た場合全員が危険に晒されるのだから

 

「どうしてそこまで断言できるんだい?」

 

唐巣先生も同じ意見なのかノッブに尋ねる。するとノッブはふんっと腕を組みながら

 

【現にこの目で見て居るわ!かつてノスフェラトウが織田軍を制圧しようとした時にな!】

 

ノッブの言葉に目を見開く。着物を着ていて、古い言葉を使う……かなり古い英霊だと思っていたけど……まさか織田信長が生きていた時代の英霊とは想像もしてなかった。しかしその情報で更にノッブの正体がなんなのか判らなくなった。織田信長が生存していた時代で軍略に長けた少女なんて居なかったし、牛若丸や義経と同じく性別を偽っていたとしたと考えてもやはり特定なんて出来るわけもない

 

「オタク、本当の名前を教えてくれない?」

 

エミがそう切り出した瞬間。私達はその場で膝を着いた……ノッブが放った殺気と霊力に飲み込まれて

 

【図に乗るな。ワシはノスフェラトウに因縁があるからこうして現界した、お前達に名を名乗る理由は無い】

 

圧倒的なまでの威厳を伴った声で不機嫌にそう告げたノッブは背を向けて

 

【ま、横島が面白い上に借りもある。協力はするが対等ではない。その事を努々忘れるなよ】

 

長い黒髪を翻し去っていくノッブ。それから暫くして身体の自由が戻った所で再び、迫ってくるゾンビとノスフェラトウ対策を話し合いを再開するのだった……

 

 

 

GS協会の方に向かって歩く鎧武者ゾンビの一団の後ろを宙に浮かびながら、着いて来ている白い着物の青年……ノスフェラトウの側近の蘭丸はGS協会の方を見据えて首を傾げた

 

(おかしい、迎撃に出てこないのか?)

 

あえて逃がした霊能者達から情報は伝わっているはず。それなのに迎撃の気配を感じない、あのGS協会とか言う場所を放棄して逃げたと言う可能性もあるがその可能性は限りなく0に近いだろう

 

(本丸を捨ててどこへ逃げるというのだ)

 

あそここそが現在の霊能者の城なのだから、そこを捨てて逃げるという可能性は殆ど無い

 

(さてどうしたものか……)

 

私が直接霊力を注いで強化し操っている屍兵は120体の中で30……30も居れば十分すぎるが、ここまで何の妨害も無く進んで来られた事にたいして強い警戒心を抱かずには居られない

 

(ノスフェラトウ様の目的に気付いていない?)

 

魔界の門を開き、魔界に残した自らの眷属を召喚する。それがノスフェラトウ様の目的だ、その目的を悟られないように屍兵を定期的に送り出し目的を特定されないようにしてきた。もしそれが成功しているのならば良いが……

 

【仕方ない。行け】

 

屍兵の補充は幾らでも利くが、態々捨て駒にするのも勿体無い話だ。なんせ今使役している屍兵はかつてノスフェラトウ様が蘇った時から使役している屍兵。蓄えている魔力は現代で屍兵にした者の10倍近く……むざむざ失うのは惜しいが反応を見るためには仕方ない。120の中から10体を選び、その内の1体に霊力の糸を繋ぎ、身体を乗っ取り視点と感覚を共有する

 

(まだ反応が無い?まさか本当に放棄したのか?)

 

敷地の中に足を踏み入れているのにまだなんの反応も無い。ありえないと思っていたが、まさか本当にこの場所を放棄したのか?と思い始めた瞬間。ぞわりと背筋に冷たい汗が流れる、咄嗟に霊力の糸を切って共有を解除した瞬間。氷で出来た無数の刃が屍兵を全て両断する。危なかった、後数秒感覚を共有していたら私も致命傷を居っていた所だ

 

【誘い込まれた訳か……】

 

結界を張られ離脱出来なくされてしまった……とは言え、それは大した問題ではない、私が人間ごときに敗れる訳が無い

 

(見つけた)

 

建物の中から姿を見せた人間達の中の1人、緋色の髪をしている女がノスフェラトウ様をかつて封印した槍を手にしているのを確認する、あれを破壊するのが目的なのだから結界の中に閉じ込められたのは好都合だ。なんせ向こうも結界の外に出る事が出来ないのだから……

 

【その槍、なんとしても破壊させて貰うぞ!】

 

屍兵達も結界で分断されてしまったので、残っている数は40弱だが。向こうは5人……数においても、能力においても負けるはずが無い。私は腰の日本刀を抜き放つと同時に左手を突き出し、周囲に自身の足場となる巣を張りその上に飛び乗りながら

 

【我が主君ノスフェラトウ様の命を受け、貴様らを殺す!掛かれ!】

 

【【【ウボアアアアアッ!!!】】】

 

屍兵に指示を出すと同時に私もあの槍を破壊する為に空中を走り出すのだった……

 

 

 

 

 

なお、美神達が蘭丸達の襲撃を受けている頃。横島の家の近くにも大量のゾンビが出現していたのだが……

 

「みっむうう」

 

凄まじい勢いで放電するチビは放電を保ったまま。何らかの構えを取る、すると放電の光が全て右足に集まって行く

 

「みっむううううッ!!!」

 

とちとちっとでも言うのだろうか、勇ましさとは無縁の動きから放たれた飛び蹴りは予想に反し、ゾンビを大きく弾き飛ばし……

 

【う、うがあ!うぼああああああああ!?!?】

 

チビの蹴りが当った箇所に電気のマークが浮かび上がり、そのゾンビを起点にし、地上から上空へと逆に雷が発生しゾンビを纏めて焼き払う。チビはその光景を見て満足げに頷く、そしてその背後では

 

「うっきゅー!!」

 

ゾンビから背中を向けて走りだし、勢いをつけて地面の中に勢い良く潜っていくモグラちゃん。そして数秒後周囲に凄まじい地震と共に庭が盛り上がり岩で出来た巨大な滑り台が姿を見せる

 

「うーきゅ」

 

そしてその頂上から可愛らしい鳴き声とちょんっと言う感じでモグラちゃんが滑り台の天辺から岩を押すとそれは凄まじい勢いで滑り台を転がって行きゾンビを纏めて押し潰していく。その威力に満足したモグラちゃんも滑り台の上から転がってきて、下で待っていたチビの方に近づいていき

 

「うっきゅー!」

 

「みーむッ!」

 

イエーっと言う感じでハイタッチを交わすチビとモグラちゃん。その仕草は可愛いのだが、先ほどから何回も放電キックや、岩で出来た滑り台から転がりながら体当たりをすると言う見た目からは想像も出来ない破壊力と殺意に満ちた攻撃でゾンビの集団を何度も何度も撃退していた。タマモはそんな2匹を見て。仕方ないといわんばかりに小さく鳴き、家の中に戻る。縁側に置かれていた雑巾で足を拭ってから部屋に入る辺りシズクの恐ろしさを良く理解していると言える

 

「みーむーみー」

 

「うっきゅ」

 

タマモから遅れること数分。チビとモグラちゃんも縁側に上り、足を雑巾で綺麗に拭き、洗面台まで飛んで行きそこで綺麗に身体を洗い、タオルで水気を取る。横島が知らないだけで、自分達で風呂に入るくらいの知恵を得ていたチビとモグラちゃんは、ゾンビの居ない家の周りに満足げに頷き、TVの前に座って遊び始める

 

【皆大人しくしていますね。良かったです】

 

横島からの罰と言う事でチビ達の様子を見に来たおキヌちゃんは普段とおりの姿を見て、大丈夫ですねと呟きGS協会へ引き返していったのだが、おキヌちゃんは知らない、その30分後に再び、チビとモグラちゃんによるゾンビの殲滅が行われていた事を、そして……

 

「みむうううう!!!」

 

「うきゅうー!!!」

 

モグラちゃんの上に乗ったチビが放電し、モグラちゃんはその放電をバリアのようにし突進し、ゾンビを弾き飛ばした後。放電したチビが飛び蹴りを叩き込むと言う合体技を開眼していることに、そして

 

「クウ……」

 

その姿を見て、タマモが疲れたように鳴き声を上げた事を……

 

横島が知らない所でパワフルに成長している、チビとモグラちゃんなのであった……

 

 

 

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その7へ続く

次回の前半で蘭丸戦。後半でノスフェラトウ戦前半を書いて行こうと思っております。予定としてはその9くらいで劇場版は終了の予定です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その7

どうも混沌の魔法使いです。今回は蘭丸戦を書いて行こうと思っています、後はタイガー&横島のコンビとかもやってみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その7

 

空中で腕組している白い着物を着込んだ男がにやりと笑いながら、腰の刀を抜き放ちゾンビに指示を出すのを見ながら内心舌打ちする

 

(もう少し数を減らしたかったのに……)

 

100ほど居たゾンビの数は大分減っているが、それでもまだかなりの数が残っている。それに対してこっちの頭数は、私にエミ、それと唐巣先生とシズクと冥子……GSのランクとしては高位が揃っているが……

 

「ふええええ……れ、令子ちゃーん……私もGS協会の中に隠れちゃ駄目?」

 

ゾンビが苦手な冥子はハッキリ言ってゾンビとの戦いで戦力として数えるのは難しい。GS協会会長の琉璃を戦力として戦場に出すのは明らかに愚策。彼女が死ねば、いまやっと立て直しかかっているGS協会がまた瓦解する事になりかねない

 

「美神さん。本当に支援だけでいいんですかー?」

 

窓からライフルを構えて顔を出している蛍ちゃんにそれで良いわと返事を返す。時間がある間に銃を使えるか?と言うテストしてみた、横島君は正直ハンドガンレベルの銃でさえまともに使いこなす事が出来なかったが、高校生って事を考えればそれを責める事など出来る訳もない。予想に反して蛍ちゃんはライフルを扱う事が出来たので、タイガーと一緒に窓からの支援射撃をお願いしたのだ。横島君には弾薬の運搬などのサポートに回ってもらっている

 

「……やれやれ……私の氷や水はああいうのには効果は薄いんだがな」

 

地面に手を置いたシズクがそう呟くと同時氷柱が地面を走りゾンビを貫くが、痛覚が無いのでその程度で止まるわけも無く、身体を引き裂きながら進むその姿に流石の私も血の気が引く……かなりのグロ映像だ

 

「ひう!?ああああーーーショウトラちゃん、ショウトラちゃ~~んッ!?!?」

 

冥子が錯乱してショウトラを抱き抱えて嫌々と首を振っている。やっぱり冥子を前に出したのは可愛そうだったわね……

 

「横島君!冥子を迎えに来て!後除霊具も持ってきて!!」

 

横島君に指示を出しながら、物陰から飛び出してきたゾンビを、手にした精霊石の槍でゾンビの頭を貫く、やはり悪霊やゾンビに対しては強いのか一撃で浄化してくれたが……

 

(やっぱり使いすぎは良くないわね)

 

本当に微量だが、蓄えている霊力が減って行っている。あまり使いすぎるといざノスフェラトウと戦うときに霊力切れを起こしかねない

 

「先生!少しお願いします」

 

蘭丸を引き寄せる為にこの槍を持ち出してきたが、やはりこれを武器として使うのは余りに危険性が高すぎる。使い慣れた神通棍に持ち替えた方が良さそうだ

 

「判った!ここは私に任せたまえ!アーメンッ!」

 

聖句を放ちゾンビを浄化させてくれた間に一旦下がり。冥子の回収に来ていた横島君に槍を預ける

 

「横島君!破魔札と神通棍は!?」

 

「は、はい!どうぞ!」

 

差し出された破魔札の束と神通棍を受け取り、青い顔をしている冥子に

 

「出来そうなら式神で援護して、それも出来ればアジラの炎で支援して頂戴」

 

ぷるぷる震えながら頷く冥子を半分抱き抱えるようにして建物の奥に撤退していく横島君を見ながら。使い慣れた神通棍を構えると同時にそのまま斜め上に振り上げる

 

【ほう、なかなかの反応だ】

 

感心したような蘭丸の言葉に舌打ちする。遠くに居た蘭丸の身体が糸になって消えていく……

 

(蜘蛛の糸を使った擬態……)

 

あちこちに張ってある蜘蛛の巣で空中を走ってくるだけも相当厄介なのに、そこに分身が加わると更に厄介ね

 

「エミ!蜘蛛の巣なんとか出来ない!?」

 

蘭丸と打ち合いながらエミに何とかできないか?と怒鳴ると

 

「無茶言うワケ!こっちはこっちで!手一杯よ!」

 

元々エミはこういう乱戦は得意ではないが、ブーメランと破魔札で何とか戦線を維持してくれていたが

 

【お遊びはこれくらいだ】

 

3人に分身した蘭丸のうち2人がエミを集中攻撃しているので、支援をしている暇が無い

 

「くっ!これは流石に少し不味い」

 

唐巣先生は空中から奇襲し、また上空に逃げるという事を繰り返され徐々に追い込まれているし……シズクはシズクで

 

「……ちいっ!鬱陶しい!」

 

氷の中にゾンビを閉じ込めていたが、それをさせない為に弓による狙撃と接近に持ち込まれてこっちを援護しているだけの余裕が無い

 

(これは不味いわね)

 

時間的な余裕も無い上に戦力不足がここで大きく響いてきた、圧倒的不利な状況に追い込まれつつある状況に私は思わず舌打ちをするのだった……

 

 

 

【さてと……どうなるか見物じゃな】

 

GS協会の屋上で胡坐を書いて美神達の戦いを見ながらワシはそう呟いた。屍兵の数は減っているが、蘭丸が表立って動き出したことで徐々に押し込まれ始めている

 

(この状況を打破するには劇的な一手が必要じゃな)

 

その一手でこの戦況をひっくり返し、更に蘭丸でさえも無力化するほどの劇的な一手が……

 

【むう……流石に無茶が過ぎたか……】

 

ふと視線を下に向けると右手が透けて見え、溜息を吐きながらそう呟いた。蘭丸の攻撃から逃れる為に銃撃を続けていたが、そのせいで折角回復しかけていた霊力をまた消耗してしまった。だがこれでいいのかもしれない、現代の霊能者の実力を見る良い機会だ。これでもし蘭丸に勝てないのならば、ノスフェラトウと戦っても勝てる訳が無い。もし勝てないのならばここで死なせてやるのが慈悲と言うものじゃ

 

【ま、そうはならんじゃろうがな】

 

視界の隅でタイガーとか言う大男と何か横島が何かをやろうとしているのを見て、ワシは笑いながらあの2人が何をしてくれるのかと期待を込めて見つめるのだった……

 

 

 

 

美神さん達が不利すぎる……冥子ちゃんが引き上げてきて、代わりに蛍が神通棍を手にして出たが。それでも不利的状況は何一つ変わっていない。ハンカチを水に濡らして絞って冥子ちゃんの額に置く、ゾンビが苦手なのにここまで頑張って来た冥子ちゃんは完全にダウンしているし……

 

「横島さぁん!弾薬!弾薬!」

 

タイガーに呼ばれて我に返り変えの弾丸をタイガーの元に運ぶ

 

「どうだ?状況は?」

 

「かなり不利ですケン……あの空中なのが厄介ですじゃー」

 

タイガーの視線の先には白い着物を着た男の姿がある、しかし1人ではない。4人であちこちから攻撃を仕掛けてきているので美神さん達が完全に追い込まれている。距離的には……届くな。無地の札に手を伸ばそうとした時心眼が俺に声を掛けてくる

 

【あの中に本体が居るとも限らない、下手に攻撃してこちらに視線を向けるのは得策ではない】

 

むう……今は銃だから取るに足らないと判断して攻撃を仕掛けてこないのだからなと言う心眼。だがこのままではノスフェラトウと戦う所の話ではないぞ……と俺が1人で焦っていると

 

【ぷはあ!?結界だらけで疲れました!】

 

「ふぉおおお!?」

 

おキヌちゃんが足の下から飛び出てきて、思わず絶叫しながら尻餅をついてしまう。おキヌちゃんはそんな俺を不思議そうに見ながら

 

【あ、チビちゃんたちのほうは全然大丈夫でしたよ、家でTV見たりしてました】

 

心配していた事が1つ消えたに安堵の溜息を吐く、だが気までは緩めない。美神さん達がよっぽど危ないのだから

 

「おキヌちゃん、冥子ちゃんを頼むわ」

 

【別に構いませんけど、どうするつもりなんですか?】

 

おキヌちゃんの問いかけに俺はいい考えがあるんだと返事をし、先ほど拾ってきた蜘蛛の巣駆除スプレーを詰め込んだ鞄を背負いながら

 

「タイガー。1つ聞くけど……こいつ狙い打てるか?」

 

蜘蛛の巣駆除スプレーを見せながらタイガーに聞くと、タイガーは少し悩んでから

 

「行けると思います……ただ絶対とは言えんのジャー」

 

自信無さそうに言うタイガーの肩に手を置いて

 

「ここまでタイガーの射撃は見てきたぜ。お前なら出来る。絶対出来る!」

 

タイガーは俺なんかよりもよっぽど凄いのに何でこんなに自信が無いんだろうか?だがこの状況を打破するにはタイガーの狙撃の腕が必要だ。だから自信を持ってくれと言うと

 

「やるだけやってみるんじゃー」

 

ライフルと替えの弾丸の入ったケースを手に立ち上がるタイガーと共に階段を降りて、正面出口ではなく、脇の関係者ようの出入り口から外に出る。バリケードが良い感じに立っているので、しゃがみ込めば俺もタイガーも発見されることは無いだろう

 

「心眼。俺には見えないけど、蜘蛛の巣ってどんな感じになっている?」

 

心眼にそう尋ねると心眼は少し待てと言うので、その間に準備を整えることにする。美神さんから預かった明智光秀の槍は悪いと思ったけど、GS協会の備蓄しつにおいてあった竹刀袋を拝借し、今は背中に背負っている。琉璃さんの部屋に預けようかとも思ったが、相手は吸血鬼。ピートと同じように霧にして進入してくる可能性も考慮して持ち運ぶ事にしたのだ

 

「それと……タイガー悪いけど。見つかったら出たとこ勝負の賭けになると思うから覚悟はしておいて欲しい」

 

一応俺もタイガーも美神さんやエミさんから預かっている精霊石があるので、結界を作ることは出来る。それでもそれが間に合わない場合は出たとこ勝負になることを先に謝っておく。最近水を陰陽術で使えるようになったので、それを応用してみようと思っているのだ

 

「判ってるんジャー、不測の事態っていうのは起きるものですケン」

 

にかっと笑うタイガーに悪いなと謝っていると心眼が

 

【この位置から前方に約3メートル。そこが巣の中心だ】

 

ここから3メートルか……風は……うん、俺もタイガーもついてるな。追い風だ、これなら上手く投げれば風に乗って遠くへ飛んでくれるだろう。俺は鞄から1本のスプレーを取り出して、軽くストレッチをして大きく深呼吸を繰り返す

 

「うっし!やるぞタイガー!距離はこっから3メートルだ。頼むぜ名スナイパー」

 

わっしはそんなんじゃないんジャーと笑うタイガーにお前なら出来るぜっと声を掛け、スプレーを投げ込むタイミングを計るのだった……

 

 

 

不味いわね……ダウンした冥子さんの変わりに出てきたけど、状況は本当に不味い

 

【【【ふはははは!!この程度か!】】】

 

ゾンビはもう殆ど殲滅した。だが残った蘭丸。これが曲者だった、空中に巣を張り、分身を生み出し私達を幻惑している。

攻撃しようにもリーチの外に逃げられ、捕らえたと思ったら糸を使った分身……トリッキーなんて言葉で片付けたくはないが、その通りしか言いようがない

 

「シズク。なんとかならない?」

 

この中で1番強いのはやはり水神で竜神のシズクだ。この状況を何とか打破できないか?と尋ねて見るが

 

「……気配を探れない。闇雲に攻撃しては水が尽きるだけだ」

 

倒したゾンビの邪気が結界の中に充満していて、思うように気配を探れないと言うシズク。今はなんとか水を防御に回しているから全員無事だが、水が無くなれば1人ずつ倒されるのが目に見えている。

 

(横島が居なくて良かった)

 

意外と頭に血の上りやすい横島がこの場に居なくて良かったと安堵する。とは言え、このままでは私達が全滅してしまうので本当にこの状況を何とかしないとしなければ……

 

【【【【これで終わり……】】】

 

4人に分身した蘭丸が私達に向かって来ようとした瞬間。蘭丸のほうに何かが投げ込まれる。誰が!?と思って振り返ると何かを投げた体勢横島とライフルを構えているタイガーさんが居て、思わず叫ぼうとした瞬間銃声が周囲に響き、何かを打ち抜くその瞬間信じられない光景が目の前に広がった

 

【ば、馬鹿な!?貴様ら何をした!?】

 

こっちに向かってこようとしていた蘭丸の姿が溶ける様に消え、1人だけになったのだ。いや、それだけじゃない、空中を縦横無尽に走っていた蘭丸が体勢を崩し、地面に向かって降下しているのだ。今まで無かった決定的な隙……その隙を逃す美神さん達ではなく

 

「これでもくらいなさいッ!!!」

 

美神さんの投げつけた1千万の破魔札が蘭丸の身体を吹き飛ばし、その先では拳を硬く握り締めた唐巣神父が居て……

 

「はっ!!」

 

【うぐう!?】

 

ここまで響いてくる凄まじい踏み込みの音と蘭丸のくぐもった悲鳴……だがダメージはそれほどでもないのか、再び空に逃げようとした瞬間

 

「タイガーッ!行くぞッ!」

 

「いつでも良いジャー!」

 

横島が再び何かを投擲し、タイガーさんがそれを打ち抜くと、蘭丸の手から伸びていた糸が解けるように消失する

 

【ば、馬鹿な馬鹿な!一体何が起きていると……「……くたばれ」ごほっ!?】

 

困惑する蘭丸にシズクの作り出した氷柱が襲い掛かる。一体横島は何を投げているのだろうか?そんな事を考えていると

タイガーさんが撃ち漏らしたのか横島が投げた何かが足元に転がってくる

 

「横島は何を投げて……え?」

 

「嘘でしょ?」

 

エミさんと美神さんが信じられないと言う顔をしている。多分私も同じ顔をしているだろう、なぜなら横島が投げている物は

 

【どんな蜘蛛の巣もイチコロ!スーパー蜘蛛の巣除去スプレーEX ※特許出願中】

 

……私達の苦戦と苦労って一体なんだったの……思わずその場に崩れ落ちそうになった時

 

【貴様らかぁ!!!】

 

横島とタイガーさんに気がついた蘭丸が2人の方に突進して行く、私達は呆けていたので完全に反応が遅れた。振り返ったときには既に蘭丸は横島とタイガーさんに向かって刀を振り下ろしていて

 

「よこ……っえ?」

 

危ないと叫ぼうとした瞬間。横島とタイガーさんの姿が溶けるように消えて

 

「よっしゃあ!タイガー!いっけえ!!」

 

「了解ですジャーッ!!」

 

全く別の方角から横島の声が聞こえて慌てて振り返ると、ライフルに陰陽術の札を貼りまくった横島の姿があって……強烈に嫌な予感がした……

 

「必殺思いつき!パート2!!火炎弾発射ぁッ!!!ってわああああ!?」

 

大砲を撃ったような轟音が響き、横島とタイガーさんが吹っ飛び

 

【おごああ!?おがあごああああああ!?】

 

銃弾に貫かれた蘭丸は凄まじい炎に飲み込まれ、そのままくぐもった悲鳴を上げながら炎に呑まれて消えていくのだった

 

「……水の幻術か……面白い事を考えたな」

 

楽しそうに笑うシズクと呆然としている私達の視線の先には

 

「た、タイガーーどけえ……死ぬう……」

 

「ううう……動けんですジャー」

 

横島を押しつぶす形で呻いているタイガーさんと、どろどろに溶解し、銃身のへし折れたライフルが2人の近くに転がっているのだった……

 

 

 

魔力の波長が途絶えた事に気付き、閉じていた目を開く。まだ忌々しい事に太陽は沈んではいないが……それも後数十分と言った所か……

 

【ふん、未熟者めが】

 

現代の霊能者に倒された蘭丸にそう吐き捨てたが、それは違うかと直ぐに別の可能性にたどり着いた

 

【元々我に従うつもりはないと言う事か?】

 

元々我が記憶改変を行った際に殺した人間に側にいたのが蘭丸だった。我が配下の蜘蛛の寄生先として殺したが……まだ自分の意識を保っていて業と殺されることで本来の主人に対する忠義を貫いたか?

 

【まぁどっちにせよ、大した問題ではないわ】

 

我が魔界の門を開こうとしている事には人間達も気づいているだろう。ならば向こうから出向いてくることは間違いない

 

【クックック……あと少し、あと少しだ】

 

あと少しで夜になる、さすれば我が領域は更に大きく拡大する。そうなればかつて我を屠った槍など恐れる事もない、夜になった時点で我が魔界の門を開く事を妨害することは不可能なのだから……

 

暗い魔城の中でノスフェラトウの不気味な笑い声が響き渡り、そしてノスフェラトウが待ち続けた夜が今訪れようとしているのだった……

 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その8へ続く

 

 




横島&タイガー。タイガーがスナイパーにコンバートし、横島の必殺思いつきパート2【ライフルを陰陽術で強化】で蘭丸を撃破となりました。そして強すぎる蜘蛛の巣駆除スプレーでした、まさかの特攻兵器となりましたね。次回はノスフェラトウ戦を書いて行こうと思っています、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その8


どうも混沌の魔法使いです。今回はノスフェラトウ戦まで書いていくつもりです。後次回では久しぶりに仮面ライダー出ます、新しい眼魂も入手できると思います、何を入手するかはもう判っていると思いますけどね、それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その8

 

視界の先にある奇妙な城を確認する。都庁の上を押しつぶすようにして出現している城と、周囲を覆っている蜘蛛の巣……蘭丸を倒したのでこの結界も解除されているのでは?と期待していたんだけどなぁ……物事って言うのはやっぱり思い通りには行かないものね……

 

「なかなか厄介なワケ。どうやって攻略するつもり?」

 

エミの問いかけに私もそれが聞きたいわよと返事を返す。ノスフェラトウが魔界の門を開くと思われる時間まで後5時間……蘭丸を倒した後に直ぐ出発できれば1番良かったんだけど、霊力を回復させないといけなかったし、何より装備を整える時間が必要だったので完全に夜になってからしか出発できなかった。今は発見されないように都庁の方角を偵察しているけど、ゾンビが巡回していて見つからないで突入するって言うのは難しそうね。どうやって都庁の内部に侵入するか考えていると、風に乗って横島君と蛍ちゃんの声が聞こえてきた

 

「横島。あんまり思いつきで霊力を使ったら駄目よ?何が起きるか判らないんだから」

 

「いやさあ?俺もタイガーもあんなことになるなんて思ってなかったんだよ」

 

後ろの方でまいったまいったと笑う横島君。蘭丸を撃破した陰陽術で強化したライフルの反動は凄まじく、タイガーは両腕が痺れて動かなくなってしまい。横島君自身も軽い打撲を負ってしまった

 

(本当とんでもないことをするわよね)

 

私の知らない所で横島君も修行をしていたのか、水の陰陽術を利用した幻術に、陰陽術による武器の強化と言うオリジナルの戦術を確立していた。無論試したことがないので暴走気味なのが不安要素だが、サポーターとしての能力が上昇していることは間違いない

 

「……水を選んだのは良い選択だ。今度から水の扱いを教えてやろう」

 

「おう!頼むな!シズク」

 

水の扱いに関してはシズクに聞くのが一番だ。そのうち氷とかも使うようになるかもしれないわねと思いながら、偵察していた場所から降りて横島君達と合流し。どこから進入するか話し合う

 

「美神君。やはり城の後ろに回りこむのは難しそうだ、ゾンビの数もそうだが、蜘蛛の巣がめちゃくちゃ張られている。回り込めば絡め取られて終わりだろう」

 

同じように偵察していた唐巣先生がそう呟く、出来れば背後からの奇襲がベストだったんだけど、それは無理みたいね

 

「大分偵察していましたが、定期的にゾンビが増えているので正面突破も難しいかと」

 

ピートの偵察の結果を聞いて更に気が滅入ってくる。普通に都庁を上って城に侵入するだけでも相当時間を食う。後5時間でノスフェラトウを倒す事がは不可能だ

 

「美神さん、俺に考えがあるんですけどー?」

 

【うむ、我も聞いたが、かなり無謀で危険を伴うが運が良ければ都庁を昇る時間を大幅にカットできる】

 

【カカ!思い切りの良い事を考える男じゃ!いいぞ、実にワシ好みだ】

 

横島君の作戦を聞いた心眼とノッブの言葉に対して、蛍ちゃんやおキヌちゃんの反応は険しい物で

 

「下手をすると侵入できず全滅します」

 

【わ、私も危険だと思います】

 

……反対意見があるほどの危険な作戦を思いついたようだ。だがシズクが何も言わないのは何でだろうか?と思っていると

 

「……私が居るから出来る作戦だ。なら私はそれに応える」

 

今の段階ではノスフェラトウの城に辿り着く事も出来ない。それならと横島君の作戦を聞いてみることにした

 

「と、とんでもない事を考えるね」

 

「でもこの状況じゃあ賭けに出るのも仕方ないワケ」

 

それは作戦と言うよりかは無謀な賭けとしか言い様がない。だが成功すれば一気に形成を逆転できる可能性を秘めていて……このままでは魔界が出現するのを止める事は出来ない。ならば

 

「いいわ、それで行きましょう」

 

本気ですか!?と叫ぶ蛍ちゃんに本気よ!と返事を返し、近くに止まっているバンを見て

 

「唐巣先生!横島君手伝って!タイヤを全部換装するわよ!」

 

この作戦の為にはノーマルタイヤでは駄目だ。スタッドレスに交換し、荷物を全部バンの中に積み込み

 

「さー。皆覚悟して貰いましょうか」

 

全員シートベルトを締めたのを確認してから、私はアクセルを全力で踏みつけ都庁へと走らせるのだった……

 

 

 

普通に突入できないと言うのなら、普通じゃない方法で突入しようと意見を出したのは俺だが

 

「「「うあわああああああ!?!?」」」

 

ジェットコースターよりも更に酷い衝撃が左右から掛けられて悲鳴を上げてしまう

 

「くっ!このっ!!!」

 

アスファルトを削る音が響き大きく車体が振られる。シートベルトをしてなかったら大変なことになっていたかもしれない

 

【はははは!!愉快愉快!面白いぞ!!!】

 

幽霊のノッブちゃんはダメージなんて受けないので、楽しそうに笑っているが、俺も蛍も叫びすぎて喉が痛くなってきた

 

【横島。大丈夫だ、何も心配することは無い。お前は私が守っているからな!】

 

うん、心眼ありがとう、ただバンダナの姿でどうやって俺を守っているのか?それを今度俺に説明してくれないかな?それを教えてくれないとどうしても安心なんて出来る訳もない。そんな事を考えていると、ゾンビの攻撃が当ったのかバンが大きく揺れる。とんでもない加速をしている中で横からの衝撃を受けたので、バンが大きく揺れる。美神さんの運転技術があるから横転することは無かったが、車体が揺れまくるのでめちゃくちゃ怖い。蛍も限界が来ているのか、さっきまではベルトを握り締めて耐えていた蛍も限界が来たのか

 

「っきゃあああ!?も、もういやああ!!!」

 

蛍が隣で泣き叫ぶ。何とかしたいと思って提案したが、早まった事をしたかもしれない、普段は格好良い蛍がこれだけ泣いているのを見ると蛍に可哀想な事をしてしまったと反省していると

 

「シズク!そろそろよ!」

 

美神さんがそう怒鳴る前にバンの進む先に氷で出来た道が現れる。そう、これが俺が考えた作戦。氷で出来た道とジャンプ台を使って都庁の上階に直接突っ込むっと言う今考えると作戦もクソもない、ただの特攻である

 

【美神さん!もうちょっと!もうちょっと上の階を目指してください!】

 

「もう少し上の階に会議室があります、そこに突っ込みましょう!」

 

おキヌちゃんと霧になって着地場所を探していたピートの話を聞いた美神さんは了解と返事を返し、更にアクセルを踏み込む、凄まじい加速のGが襲ってきて思わず顔を歪める。隣の蛍に至ってはガチ泣きしている、ノッブちゃんだけは

 

「れ、れれれ!令子ぉ!運転ミスするんじゃないわよおおお!?」

 

助手席のエミさんがそう叫び、除霊具を抑えている唐巣神父はさっきから何の反応もない所を見る限りでは気絶しているようだ

 

「もういやああああ!よこしまぁッ!こわいいいいいいッ!!!」

 

「おうふ!?」

 

【待て!蛍!?怖いのは判るが、胸に抱え込むな!横島の集中……駄目だ!もう手遅れだ!?】

 

泣きながら俺の頭を抱え込む蛍、心眼が何かを叫んでいるのが聞こえるが、そんなのはどうでも良いと思った顔に当る柔らかい感触と甘い匂いにさっきまでの罪悪感は消えて、この作戦を提案してよかったと思った瞬間

 

「飛ぶわよ!」

 

美神さんの怒鳴り声が聞こえたと思った瞬間。凄まじい浮遊感が俺を襲う、事実俺の見間違いで無ければ俺や蛍の身体は宙に浮いていた

 

(む、無重力状態!?)

 

目の前の蛍のスカートが捲れて。青と白のストライプの神秘の三角形を見たと思った瞬間。凄まじい衝撃が襲って来て、目の前の神秘の三角形に目を取られていた俺は受身を取ることが出来ず、バンの窓に強か頭を打ちつけて意識を失ってしまうのだった……

 

 

 

横島の考えた作戦で都庁の上層階にバンで突入すると言う、特攻一歩手前の突撃で何とか体力はともかく、霊力は温存した状態で突入できた

 

「う、うーん……」

 

私の近くで目を回している横島を起こそうとして止めた。横島は鼻血を出して、顔が緩んでいる。余りの恐怖に横島の顔を胸に抱え込んでしまったので、そのせいでオーバーヒートしてしまったのだと判ったから、横島のバンダナに目を向けると心眼が白目を向いている、どうも心眼までも着地の衝撃で意識を失っているようだ

 

(やっぱり意識してくれてるのよね)

 

この反応を見れば、少なくとも私を異性として意識してくれているのが判った。周りに魅力的な女性が多いので少し自分に自信が無かったけど頑張ろうと思えてくる。とりあえず横島のシートベルトを外して背負うようにしてバンの外に出ると

 

「は、吐く……うう……吐くよ……まじ。まじでやばいって……」

 

「先生!先生しっかりしてください!!」

 

普段の丁寧な言葉遣いとは思えない、まるで女子高生のような喋り方をしている唐巣神父にピートさんが乗り物酔いの薬の水を差し出している。シズクとノッブ、それとおキヌさんの姿が見えないけど、どうしたんだろう?そんな事を考えながら出入り口のほうに視線を向けると

 

「あ、足が震えて立てない……」

 

除霊具の詰まった鞄の近くにはエミさんが小鹿のように震える足で立とうとしてはその場で尻餅をついている、短いスカートを穿いているので下着が丸見えになっている。横島が気絶していて良かったと思いながら周囲を確認する。ピートさんの言う通り会議室に突っ込んでいたので近くに椅子や机が見えるのでその上に横島を横にする。ポーチから結界札を取り出し出入り口に走る

 

「あら蛍ちゃん。思ったよりも早く復帰したわね。ちょうどいいわ、手伝って頂戴」

 

美神さんの言葉に判ってますと返事を返し、出入り口を結界札で封鎖する。これだけの轟音を立てたのだから都庁の中に散っているゾンビが集まって来ている筈だ。着地の衝撃でどれだけ意識を失っていたか判らないが、時間的な余裕が無いのは確実だ。美神さんと素早く結界札を貼り終えると、それから数秒後どんどんっと扉を叩く音が響いてくる。ギリギリセーフだったようだ、美神さんと揃って扉に背中を預けそのまましゃがみ込む

 

「あ、危ない所だったわ……」

 

「ほ、本当にその通りですね……」

 

後数秒遅かったらゾンビがここに雪崩れ込んでいただろう……本当に危ない所だった。唐巣神父は車酔い、横島は気絶、エミさんは生まれ立ての小鹿の用に立つことが出来ない。しかも場所は会議室と戦うには不利すぎる立地と来た、結界を張る事が出来なかったらノスフェラトウと戦う前に全滅していたかもしれない

 

「美神さん、ノッブとかシズクはどうしたんですか?」

 

姿の見えないノッブ達の事を尋ねる。敵の陣営のど真ん中に居るのだから戦力を分散するわけには行かないのに、どうして姿が見えないのだろうか?

 

「ノッブは車でここに突っ込んでからいつの間にか居なくなってたわ……シズクは水を使いすぎたから水を補充してくるっておキヌちゃんとえーと……10分くらい前に出て行ったわ。戻ってきたら会議室の前のゾンビが全部吹き飛ぶから。行動するならそれからね」

 

確かに戻ってきてゾンビが居ればシズクならあっという間に殲滅してくれるだろう。それよりも気になるのはいつの間にか居なくなっていたというノッブの事だろう

 

「美神さん、ノッブの正体って判りました?」

 

紅い目と言うのは珍しいけど、顔つきはどこからどう見ても日本人だ。だからノッブなんて名前は明らかに偽名だと判る、だから彼女の本当の名前に辿り着く必要があるのだが、少女で軍略と射撃術に長け、織田信長と因縁のある英霊……ヒントは結構出ていると思うんだけど……

 

「全然全く判らないわ。大体戦国時代で女の子でしょ?武将とかになれる訳ないし……牛若丸みたいに性別を偽っていたっていう可能性を考慮しても判らないわ」

 

そうよね……あの時代のことを考慮しても、どう考えてもノッブの正体に見当なんてつくわけもない……本当一体何者なんだろうか?そんな事を考えると横島が目を覚ましたのか、頭を振りながらこっちに歩いてきて

 

「えーっと……シズクとノッブちゃんはどこっすか?」

 

横島らしいというかなんと言うか……1番最初に聞くのがシズクとノッブの事で思わず苦笑してしまう。もっと他に聞くことがあるんじゃないの?聞かないにしたとしてもこう……ほら、車で私が横島の頭を抱き抱えたのだから、もっとそこに関する反応とかが個人的には欲しいんだけど……

 

【上のほうから凄まじい霊力と魔力の反応だ……片方はノッブだな】

 

心眼が目を開きそう呟いたのと、凄まじい水の音が響いたのと、上のほうから凄まじい銃声が響いたのは全く同じタイミングだった……それはノスフェラトウとノッブが戦いを始めたと言う合図だった……そしてシズクが外から会議室の結界を解除して入って来たのと同時に横島が槍を片手で掴み止める間もなく飛び出していく

 

【親方様ッ!!今参りますッ!】

 

【蛍!美神!横島が憑依された!凄まじい制圧力だ!私では横島の意識を呼び戻すことが出来ない!】

 

横島と光秀の声が重なった奇妙な声と心眼の怒声を聞いた瞬間。私と美神さんも弾かれるように立ち上がり、槍を手に走っていく横島の後を追って走り出しながら、驚いた顔をしているおキヌさんに唐巣神父とエミさんの手当てを叫ぶようにお願いし、暗い通路を全力で走る

 

「……今。親方様と叫んでいたな!」

 

水を十分に蓄えることが出来ていたのかシズクが私と美神さんにぴったりついて走りながら尋ねて来る。確かに明智光秀は親方様と叫んでいた。明智光秀がそう呼ぶ人間は1人しか存在しない、ノスフェラトウに殺され、自分の名を奪われた存在……

 

「本物の織田信長……ってこんなの誰も気付かないわよ!?」

 

まさか織田信長が10代の少女だなんて、誰も考えても見なかった。因縁があるなんてレベルじゃない、自分の名を騙り、今も悪行をなそうとしているノスフェラトウを倒す為にノッブは……織田信長は現界していたのだ、ノスフェラトウと信長が戦うことは問題ではない。問題なのは、明智光秀が横島に憑依し、今まさにノスフェラトウと信長との戦いに乱入しようとしていることだ。英霊と悪魔の戦いに人間が飛び込むなんて正気の沙汰じゃない、なんとしても横島を止めないと……

 

「どうして横島を巻き込むのよ!?」

 

明智光秀が横島に乗り移って突き進んで行った通路を走りながら、そう叫ぶと凄まじい爆発音が上の階から響いて来て……その戦いの凄まじさが遠く離れているここまで伝わってくる。

 

「急ぐわよ!横島君が危ないッ!」

 

美神さんに言葉に走る速度を上げることを返事として、私達は都庁からノスフェラトウの魔城へと突入するのだった

 

 

 

扇子を開き舞を踊る……本来我はこのような舞を知らぬ。だが織田信長の名を騙った時、その知恵を吸収した時……この舞が脳裏に焼きつき今もなお離れないのだ。

 

(蘭丸は敗れたか……まぁ良い)

 

完全に復活したのだから配下はこれから増やせば良い、我が城に乗り込んできた人間を吸血鬼とすれば蘭丸よりもはるかに強力な手下を得る事が出来るのだから。ダンッと誰かが後ろに立ったのを感じ扇子を閉じながら開き直り、僅かに驚愕した

 

【ほう……久しいな、小娘】

 

腰元まで伸びた黒い髪に真紅の瞳。ああ、忘れる訳が無い。ニヤリと笑いながらその者の名を呼ぶ

 

【かつて織田信長だった者よ】

 

我が殺し、織田信長の名と立場を全て奪い去った事で名も無い亡霊に成り果て消滅した筈なんだが……まさか幽霊として今もなお現世に留まっているとは……な

 

【ワシの名を騙り、今もなお悪逆を行う大悪鬼ノスフェラトウッ!今こそワシの名……返してもらうッ!!】

 

着物から鎧甲冑姿になり小娘。なかなかの霊力を蓄えて来たようだがッ!全くもって足りていない

 

【笑止ッ!その程度の霊力で我に勝てると思っているのかッ!!】

 

魔力を開放するだけで、我が城の壁が吹き飛び、我と対峙していた小娘の体勢が大きく揺らぎ吹き飛ばされそうになるが

 

【ぬっくうっ!】

 

即座に腰の刀を抜き放ち、それを床に突き立てる事で堪える小娘目掛け

 

【無駄無駄無駄ッ!!】

 

両手を振り上げると同時に爪先から圧縮した魔力を飛ばす。小娘が血相を変えて飛びのいた先に回りこむ

 

【ば、馬鹿な!?あの時よりも速い!?がっ!?】

 

驚愕している小娘の顔面に硬く握りこんだ右拳を叩き込む。面白いように吹っ飛んでいく小娘を見ながら拳を握り締める。ただそれだけなのに膨大な魔力が握りこんだ右拳から溢れ出す……

 

(これほどまでとはな……)

 

強くなっていた事は判っていた。だがこうして戦ってみると遊び半分の動きでさえも、予想よりも鋭く動く……慣れるまでほんの少しだが時間が必要になりそうだなと苦笑するが、それと同時に歓喜する。バチカンの聖騎士に破れボロボロの身体で日本に辿り着き、あの小娘の霊力と知恵を吸収しなければ消滅してしまうほどに弱っていたあの時を思えば、強くなりすぎていると言うことは実に喜ばしいことだ。笑いを抑える事が出来ず笑っていると

 

【死ねぇッ!】

 

銃声の音と共に左半分の視界が途絶える。残った右目には上半身を辛うじて起こした小娘が銃を構えている姿が見える

 

【左半分を奪えば、ワシの姿を捉える事は……【左目がなんだ?】……化け物めッ!】

 

この程度の怪我などダメージの内に入らない、ほんの少し魔力を開放するだけで潰れていた左目が回復し、その様子を見た小娘の表情が曇る。あの小娘を殺した時の我だったのならば、左目を回復させる事は出来なかったがこれだけ魔力が増大していれば並のダメージなど恐れるまでも無い

 

【愚かだな。お前1人で我に勝てると思っているのかッ!】

 

再び魔力を開放しようとした時、階段から札と翡翠色の霊波が放たれる

 

【むっ!】

 

咄嗟に翼を具現化させ、向かってきた札と霊波を弾き飛ばしたが、翼が焼け焦げているのを見て、あの霊波がかつて我を倒した人間が手にしていた槍から放たれた事を理解する

 

【親方様!大丈夫ですか!?】

 

青い服に身を包んだ若い男が小娘に駆け寄る。どうやら人間の身体を借りて、我を封印したあの男が目の前に居る

 

【ふっはははははははははははははははッ!!!愉快!実に愉快!!!】

 

他にも何人か人間が居るようだが、そんなことは些細なことだ。目の前に我を殺した男が居る、借りを返す良い機会だ。今の我ならば魂ごと滅ぼす事など赤子の手を捻るよりも簡単なことだ。だが……その程度で済ませる積りなど無いがな!憑依している人間の体を引き裂き、焼き、喰らい。ありとあらゆる痛みを与えて嬲り殺してくれる!

 

【来るが良い!脆弱な人間共!貴様らを殺し、我は魔界を開き世界を我が手に掴むッ!!!】

 

 

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その9へ続く

次回はノスフェラトウ戦を1話全部使って書いて行こうと思います、そして次回の仮面ライダーは信長魂を出しますが……ゴースト本編とは異なる信長に使用と思っているので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その9


どうも混沌の魔法使いです。今回もノスフェラトウ戦を書いて行こうと思います、後はもう判っていると思いますが新しい眼魂を出すつもりなので、当然仮面ライダーも出ます。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

外伝リポート 外史からの来訪者 その9

 

親方様の気配を感じたワシは考えるよりも早く横島殿の身体に憑依してここまで駆けてきたが……目の前で高笑いしているノスフェラトウを見て驚愕した

 

(馬鹿な!?あの時よりも遥かに強くなっている!?)

 

本能寺で戦ったあの時よりも遥かに存在感と魔力が増しているのだ。手にしている我が愛槍ならば切り札に成りえる……そう思っていたのだが我が槍を持ってしても決定力に欠ける。目の前で荒い呼吸を整えている親方様を守る為に槍の切っ先を向けはしたが、かつてあれほど頼りになった槍が棒切れのように思えてくる

 

【くっくっく……どうした?顔色が悪いぞ?】

 

挑発するように言うノスフェラトウは更に魔力を開放し、凄まじいプレッシャーを放っている

 

(このままでは飲み込まれる!)

 

奴の魔力と威圧感に飲み込まれて、何も出来ないうちに殺される。それを理解したワシは震えている足に活を入れ、心の中で横島殿に謝罪する。恐らく向こうはワシを狙ってくる、仮に憑依を解除したとしてもそれは変わらないだろう。ならば彼を守る為には守りに回るのではなく、攻め込むしかない。そしてその中で活路を見出すしかないのだ

 

【ぬかせ!今度こそ貴様を討ち取ってくれる!】

 

自らを鼓舞するためにそう叫び、真っ先にノスフェラトウへと切り込んでいくのだった……

 

 

 

目の前に居るノスフェラトウの威圧感と圧倒的な魔力に一瞬我を失ってしまった。お父さんほどではないが、人間が勝てる相手ではないと言うのを本能的に悟ってしまった。美神さんも同じようで手から零れ落ちた神通棍がからりと音を立てると同時に

 

【ぬかせ!今度こそ貴様を討ち取ってくれる!】

 

横島の身体に憑依している明智光秀がそう叫びノスフェラトウに切り込んでいくのを見て

 

「馬鹿!横島の身体なのよ!?」

 

私がそう叫ぶが光秀は止まる事無くノスフェラトウに斬りかかるが……

 

【ハハハハッ!無駄だッ!!】

 

ノスフェラトウが全身から放っている魔力に押し返されて弾き飛ばされてくる。良し!今の内に横島を保護するためにあの馬鹿を縛り上げよう。私がそう判断して動き出す前に……

 

【ぬう!まだ……【このうつけものがぁッ!】

 

ノッブの飛び膝蹴りが横島の頭を打ち抜く、しかし不思議なことに横島自身は意識を失っている物の無事で光秀だけが横島の身体から弾き飛ばされ滑っていく、私は即座に横島に駆け寄りながらシズクの名を叫ぶ

 

「シズク!」

 

「……判っている」

 

あの男は危険すぎる、このままだと横島が危ないのでシズクに頼んで光秀を氷の中へと幽閉するのだった……

 

【クハハハ……良い見世物だ。それで次は何を見せてくれるのだ?】

 

私達のやり取りを見ていたノスフェラトウが手を叩きながら笑う。それは自分が負ける訳が無いという絶対の自信から出る余裕だろう。しかもそれは過信でも慢心でもなく純然たる事実。仮にこの場に小竜姫が居たとしても互角と言うレベルだろう

 

「それでノッブ……いえ、信長。何か対処法はあるの?」

 

光秀の叫んだ親方様という言葉に、今の鎧姿を見ればノッブの真名が織田信長であると言うことは一目で判る。しかし、信長でノッブと言う偽名はストレートだからこそ判らなかったと思う

 

【……正面からのぶつかりでは勝つことは不可能じゃな】

 

ワシと戦ったときのあやつなら勝ち目もあったんじゃがなと呟くノッブ。ノスフェラトウが笑いながら放つ魔力弾を飛びのいて交わす。気絶している横島を背負っている分どうしても私の反応が遅れてしまうが、今の所直撃はしていない……それは私の実力と言う訳ではなく……

 

【えーいッ!!】

 

おキヌさんがポルターガイストであちこちの家具や装飾品を浮かべて、それを盾としてくれているからだ。シズクの氷ならもっと防御力も高いだろうけど……もしシズクが防御に回ってしまうと今度は攻撃する手段がなくなってしまうので多少厳しくても自力で避ける必要があるのだ。ある程度距離を取ることが出来たので、今の内にと美神さんと一緒に結界を作りその中に横島を横にする。これで両手が使えるようになったのである程度は自分でノスフェラトウの攻撃に反応できる

 

「……行けッ!」

 

【いつの時代も厄介な者だ。竜神と言うのは……】

 

美神さんの破魔札や、霊体ボウガンは意に介さずという感じで腕組しているだけなんだけど、シズクの氷や水に対しては手やマントを使い防いでいる。唯一有効打を与える事が出来ているのがシズクなのだ

 

【じゃが、それもいつまでも続かんじゃろう……水はどこまで持つ】

 

シズクは大分水を蓄えたと言っていたが、これだけの勢いで水を使っていればそう遠くないうちに水は底をつくだろう。普段水を運んでいるペットボトルも今回ばかりは持って来ていないし……

 

「横島君が起きれば何とかなるかもしれないけど、そこまでシズクが持つかどうか……唐巣先生とエミも多分こっちにこれないだろうし……」

 

横島が陰陽術で水を出すことが出来ればシズクの水不足は解決するだろうけど、そうなると今度は回復やくになった横島が狙われるようになるだろう。光秀が突撃してしまったので応援として来てもらった唐巣神父とエミさんは多分回復したゾンビに阻まれてここに来ることは難しいだろう……

 

(あれ?これ詰んでない?)

 

大分考えてみたが、この状況を打破することが出来るとは思えないのだ。後数時間で魔界の門が開く、その前にノスフェラトウを倒さないといけないのだが向こうが常時展開している魔力壁をこっちの攻撃では突破できず、向こうの攻撃は直撃でもしようものなら身体はもちろん魂まで消し飛びかねない

 

「……撤退も出来ない、倒す事も出来ない……全部計算外だったわ」

 

光秀の槍が当れば倒す事が出来る。それがこの突入作戦の全てだったが、本来の持ち主である光秀が振るってもノスフェラトウの障壁を貫けなかったのだから槍の素人である私や美神さんが使ったとしても障壁を突破できるとは思えない

 

【ふええええ!!美神さーん!?蛍ちゃーん!?もう盾にする物がありませんよぉ!】

 

更には今まで防ぐのに使っていた床や壁、更には壺などの品も全て使い切ったおキヌさんが半泣きで叫んでいる

 

「……ちっ……鬱陶しいやつめ」

 

【ふっふふ。なんとでも言え、お前の水が尽きればそこまでよ。あいつらを殺すのは時間の問題、ゆっくり腰を据えさせて貰うだけだ】

 

脅威はシズクだけなのでノスフェラトウは椅子に座り込み、魔力を弾幕として飛ばしている。壁が無くなったのでシズクが私達を守るのに水を使う。見る見る間に水の勢いが弱くなって行く……そして遂には完全に水が止まった

 

「……ちい……水切れだ……こんなことなら竜気を少しでも小竜姫から借りておけば良かった」

 

舌打ちしながら最後の抵抗で作り出した氷の刃を構えるシズク。だが小柄なシズクでは大柄なノスフェラトウの間合いに入ることは不可能だろう

 

(何か無いか……何か!?)

 

この状況を打破する何かが無いかと必死に考えているとノッブが駆け出す

 

【これはワシの因縁、関係の無いお前達をこれ以上巻き込むわけには!】

 

【ははは!!無駄だぁッ!!】

 

ノスフェラトウの放った魔力弾がノッブを貫くがそれでもノッブは駆け続け

 

【くたばれえッ!】

 

火縄銃をノスフェラトウの口に向けて引き金を引いた……だが弾き飛ばされたのはノスフェラトウではなく、ノッブのほうで

 

【無駄だと言ったはずだ。英霊であれ、人間であれ……今の我を倒せるものなどこの地上には存在せぬわ!!】

 

ノスフェラトウの一喝で魔力が再び放出され、城の壁を粉砕する。私と美神さんは神通棍を床に突き立てる事で防いだが、零距離のカウンターで意識を失ったノッブはその勢いに弾き飛ばされノッブがそこから落ちていく瞬間

 

「ノッブちゃん!?」

 

「横島ッ!?」

 

気絶していたはずの横島がノッブを追いかけて、その穴から外へ飛び出していくのを見て、思わず私は横島の名を叫ぶのだった……

 

 

 

ここまでか……落ちていく中ワシが考えていたのはそれだけだった。名を奪われ、部下を奪われ、やってもない悪行(比叡山は焼き討ちしたが……)の咎まで負わされ……だが殺されるまでの武勲で英霊へと昇華されたが、信長の名を奪ったノスフェラトウが存在する限りワシは不完全な英霊であり、やつを倒したその時に正式に英霊へと昇華される。だがワシでは奴には勝てぬ……至近距離の魔力の放出で霊核に皹が入ってしまった。もう数刻もせぬうちに消滅するじゃろう

 

(無念じゃな……)

 

ワシを殺したときの奴ならば今のワシでも十分倒せるはずだった、だが奴はあの時よりも遥かに強くなっていた。ここまでつれて来た横島や美神までは奴に殺されると思うと胸が痛かった。最初から奴がアレほどまでに強くなっていると知っていれば1人で来たんじゃがな……とは言え、それも何もかも今ではもう手遅れ……ワシのせいで死んでしまう横島達に心の中で謝罪していると

 

「ノッブちゃんッ!!!!!」

 

横島のワシを呼ぶ声が聞こえて、まさかと思いながら声のほうに視線を向けると横島が城の屋根を走ってこっちに来ていた

 

【馬鹿者!なにをしておるか!?】

 

「心眼!頼むぜぇッ!!!」

 

【よこ……ええい!フォローしてやる!お前はお前の好きにやれ!!】

 

屋根から飛ぶ横島だが手が届く訳も無い。だが横島の目に諦めの色は無く

 

「頼むぜ……いっけええ!!!」

 

突き出した両手から翡翠色の光が放たれ片方がワシを掴み、もう片方が屋根を掴んだ

 

「うぐおう!?やべええ!?衝撃半端ねぇ!?」

 

【大人しくしていろ!左腕の霊力を私がコントロールする!ゆっくりだが回収する!】

 

額当ての言葉と同時にゆっくりだがワシと横島の身体が引き上げられて行き、屋根の上に戻る

 

「ぜはーぜはー!!死ぬかと思った」

 

肩で息をしている横島に詰め寄り、その服を掴んで無理やり起き上がらせ

 

【このうつけものがぁ!何をしておるか!!!】

 

生者が死者を救おうとするなど愚かとしか言いようが無い、何故そんな事をしたのかと怒鳴ると

 

「だって……見捨てられるわけ無いじゃんか……見ちまったから……ノッブちゃんの記憶」

 

横島から告げられた言葉に一瞬頭が真っ白になり、掴み上げていた横島を放してしまう

 

【横島は感受性が凄まじく強い、なんらかのきっかけでお前と霊波の波長が同調したんだろう】

 

額当ての目がそう告げる中。身体の中でビシリっと言う音がしてその場に崩れ落ちる

 

【限界か……】

 

指先から金色の粒子となって消えていく己の身体を見て舌打ちする。ワシがここまで連れてきたのに、1人だけ先に消滅する、残した横島達は間違いなく死ぬだろう。なんと無責任なと舌打ちをしていると

 

「多分何とかなるかもしれない……」

 

そう呟いた横島の手には何かが握られており、腰には奇妙な物が巻かれていた

 

【そうだな、可能性はそれしかないな】

 

勝手に自分達で納得されても困るんじゃが……しかも多分なんて付いていれば、信じられるわけがない……だがその言葉には強い核心が込められていて……ワシに信じたいと思わせてくれた

 

「俺の身体を貸すからさ、ノッブちゃん……いや、信長……ノスフェラトウを倒そうぜ」

 

幽霊に身体を貸す。それがどれだけ危険なことは知らない訳がない、だがそれを言い出したという事はワシを信用していると言う事か……お人よしが過ぎる男じゃが……ああ、こんな馬鹿は嫌いじゃないな。ワシは横島の提案に頷き、落ちてきた道を引き返し始めるのだった……霊核の皹は深刻だが……ここまで言わせたのだから最後まで持たせて見せるかの……しかしまぁ……顔は全く似ておらんが猿に似ているなあ……横島は……懐かしい物を感じざずにはいられないのだった……

 

 

 

横島君がノッブを追いかけて飛び出して行ってから蛍ちゃんの動きが鈍い、気持ち的には判る。想いを寄せている相手が幽霊とは言え女の子を追いかけて外へ行けば面白くないのは当然だろう。でも今はそんな事をしている場合ではないので

 

「蛍ちゃん!集中!次ぎ来るわよ!」

 

危惧していたゾンビの襲撃はないが、ノスフェラトウの雨のような弾幕は今も続いている。シズクの水も、おキヌちゃんのポルターガイストバリアもないのだから、目の前の攻撃に集中してもらわないと蛍ちゃんが死んでしまう

 

【くははは!無意味だ!全て何もかもな!】

 

ノスフェラトウが高笑いしながら叫ぶ、正直避けるだけで手一杯で反撃しても効果がない。残っている望みの綱は唐巣先生とエミが合流してくれることだけどそれも厳しいだろう

 

「っつ!判ってます!」

 

私の一喝に判っていると返事を返す蛍ちゃんだけど、やっぱり横島君が心配なのか動きが鈍い……ここはシズクに様子を見て貰ってきた方がいいかしら……でも人数が減ると1人に向けられる攻撃が激しくなるから、追い詰められるかもしれない……そんな事を考えていると背後から魔力が近づいてくるのを感じて、振り返ると同時に神通棍を振るう

 

「っとと!?あーっ!もう!鬱陶しいわね!」

 

避けたと思ったら、そこから鋭角に曲がってきた魔力弾を打ち落としながらそう叫ぶ。さっきから明らかに倒す目的ではなく、嬲るような攻撃が混じって来ている事が腹ただしい……

 

(それでも当れば致命傷ってのが厄介ね)

 

かなりの高密度の魔力を圧縮しているのは判っている。だから掠っただけでも致命傷であり、当ればそれで終わりだ。だから大きく動いて避けるか、何とかして打ち落としている。そしてそんな私達を見てノスフェラトウは笑いながら

 

【良いのか?そんなに悠長に事を構えていて?そらもう時間はないぞ?】

 

ノスフェラトウが挑発するように言う、確かにもう時間的な余裕はない。だが倒す手段は無い……焦りばかりが頭を埋め尽くしていくもっと慎重に動くべきだったのは無いか?時間的な余裕が無いのは判っていたが、もう少し準備を整えるべきだったのではないか?と後悔ばかりが頭を過ぎる

 

「……ちいっ!水が足りないッ!?」

 

徐々にシズクが追い詰められている……普通の相手なら水が無くても問題ないが、ノスフェラトウクラスになると流石に水が足りなくなってくると攻撃も防御も間に合わなくなってくるのか言動に余裕が無い。無論余裕が無い理由はそれだけではないだろう、横島君の姿が見えない事で更に集中が乱れているのが見ているだけでも判る。ここは危険だけどおキヌちゃんに横島君の様子を見てきて貰おうか?と考えていると、私が指示を出す前に様子を見に行っていたおキヌちゃんが姿を見せて

 

【横島さんが来ます!】

 

その報告に安堵の溜息を吐く、良かったとりあえずは無事なのね……その言葉にやっと蛍ちゃんとシズクの表情が柔らかくなる。おキヌちゃんの報告から数秒後横島君とノッブが姿を見せる。しかし横島君の腰に巻かれているベルトを見て

 

「馬鹿!それは止めなさいって!言ってるでしょうが!?」

 

無理やり霊力を引き出すベルトは使ってはいけないと何度も言っているのにまた使おうとしている横島君にそう怒鳴る

 

「本当そのうち大変なことになるから止めて!」

 

蛍ちゃんもそう叫ぶが横島君は私と蛍ちゃんの言葉を無視して

 

「しゃ!行くぜ、ノッブちゃん」

 

【うむ、説明を聞いただけでは判らんが……任せる!】

 

横島君が手にしているブランク眼魂にノッブが吸い込まれて行き、白色だった眼魂が赤と黒に染まる。横島君はそれをベルトに押し込む、すると最近良く聞く奇妙な歌がベルトから流れ出し、黒と赤のパーカーゴーストが横島君の周りを踊り始める

 

【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナー!】

 

「行くぜ!ノッブちゃん!」

 

【カイガン!信長!過激な刺激、乱れ撃ち!】

 

顔には火縄銃で×を描いたマークが浮かび、腰からは剣、そして背中にも2本の銃をマウントし、背中からは紅いマントがある。今までの姿を比べるとかなり異質な姿をしているのが妙に目に付いた

 

【すまぬな、横島。身体……確かに借り受けた】

 

発せられた声が横島君ではなく、ノッブの声で……それは横島君が完全にノッブに身体を貸していることの証明であり

 

「あの馬鹿!幽霊に身体を貸すなって何度言えば判るのよ!?」

 

1つの肉体に2つの魂。それは生きている人間が持つ霊的な防御を極端に下げ、なおかつ幽霊に憑依されやすい身体になってしまうから止めろと何度も言っていると言うのに……

 

【それは私が何とかする!今はこれしか手段が無い!】

 

心眼がそう叫ぶのが聞こえるが、仮に心眼が守ったとしても横島君の幽霊の干渉に対する防御は削られていくだろう……

 

(本当にどうにかしてあのベルトを取り上げたいわ)

 

芦さんの話では横島君の魂の中に眠っているので取り上げることが出来ない、それを知ってもなお取り上げてしまいたいと私は思わずにはいられないのだった……

 

 

 

 

(人間と融合した?……面妖な)

 

目の前に居る赤と黒を基調にした奇妙な鎧に身を包んでいる小僧を観察する。見たことの無い力だが……所詮は人間……脅威に感じる必要も、警戒する必要もありはしない

 

【そのような玩具で我を……【せぇいっ!!】ぬっ……ぐう!?】

 

我の言葉を遮るようにして切り込んできた小僧。その刀の軌道にあわせて腕を振り上げ弾き飛ばすつもりだったのだが、刀は深く我の腕にめり込んでいる

 

(姿形だけではないのか!?)

 

霊力をさほど感じないので我に攻撃が当る訳が無いと思っていたのだが、結果は直撃……どうも何か奇妙な力が働いているようだ

 

【はっは!良いぞ!少しは面白く……【楽しませるつもりも!楽しむつもりも無いッ!!!】

 

我の言葉を遮り振るわれる剣を飛びのいて交わす。ほんの少し掠めただけだが、焼けるような痛みが走る

 

(これは……我の霊核に!?)

 

肉体のダメージを与えるのではなく、魂にダメージを与える打撃……これは不味い……なんでか知らないが、魔力障壁も効果を発揮していない……更には力まで抜けていくような……

 

【ワシこそが第六天魔王織田信長じゃあ!ワシの名を騙る紛い物よ!早々に消えよッ!!!】

 

まさか……世界があちらを真の織田信長と認めたのか!?我が行った悪行それが織田信長の悪行となり、そしてその悪行を恐れる人間の負の感情。それが信長たる我に与えられていたのだが……その力が弱くなっている……いや、向こうに向けられているのか!?

 

【ふ、ふははははっは!そうか!そうだと言うのならばこの姿はいらぬ!!】

 

織田信長としての力を失っているのならば、その姿にこだわる理由は無い!着ていた外套を脱ぎ捨て本来の姿に戻る。

 

【見せてやろう!我の真の力を!!!】

 

魔力で剣を作り出し、力任せに振り下ろす

 

【ぬっぐう!?】

 

両手で我の剣を受け止めた小僧が苦しげに呻く。このまま一気に押しつぶしてくれる!

 

【うっ!?えええい!鬱陶しい奴らめ!】

 

顔で爆発した札……さっきまで適当に苦しめていた人間の攻撃だ……ダメージはないが、鬱陶しい上に目障りだ。一瞬そちらに視線を向けた瞬間。力ががくんっと抜ける

 

(なんだ!?なにが起きた!?)

 

押しつぶそうとしていたはずの小僧の姿が消えている。馬鹿な何が起こっていると言うのだ!?理解できない現象に一瞬思考が停止する

 

【喰らえぃッ!!!!】

 

【が、がああ!?】

 

背中に何十発も銃弾を喰らい、そこからまた魂が焼かれたような痛みが走る。咄嗟に振り返ると背後に小僧が立っていた

 

【……凄まじい力よ……お前にも負担をかけるじゃろう……じゃが安心せい!時間はかけぬッ!!】

 

身を低くして突っ込んでくる小僧がそう叫ぶ。時間はかけないだと!?

 

【このノスフェラトウを舐めるなあぁッ!!!】

 

両手に剣を作り出して振るう。人間ごときが我に手傷を負わせるなどありえてはならない!我は不死の吸血鬼ノスフェラトウ!人間になど敗れはしないッ!!

 

【はっ!】

 

【があっ!?己おのれおのれおのれおのれぇッ!!!】

 

絶え間ない痛みが全身に走る、取るに取らない相手だった筈なのに……我の攻撃は全く当らない。魔力を放っても、使い魔からの援護の魔力波も当らない

 

【喰らえ!!!】

 

我の身体を蹴って跳躍した小僧の身体が目の前に浮かぶ、そしてそこから放たれる雨のような凄まじい弾幕……頭を守る為に突き出した左腕に無数の穴が開き、だらりと垂れる……拳を構えようとするが、我の意に反してぴくりとも動かない……いや、腕だけじゃない、足も動きが鈍い……馬鹿な!我が敗れると言うのか!たかが人間に!?

 

【ありえぬ……こんなことはありえぬ!人間1人にいいいいい!!!】

 

奇妙な鎧を纏っていたとしても相手は人間1人……この我が負ける訳がないのだ……

 

【ワシが1人だと思っているのか?……愚かなのは貴様だ!ならば見るが良い!我が宝具をッ!】

 

【ダイカイガン!信長ッ!オメガシューティングッ!!】

 

【三千世界に屍を晒すが良い。天魔轟臨! これが魔王(三千世界(さんだんうち)じゃーっ!!】

 

小僧の後ろに浮かび上がった無数の銃……その後ろに我は確かに見た、銃を構える無数の武者達の姿を……我が殺した織田信長を慕っていた武将の数々が……一斉に叩き込まれた霊力の弾丸に翼も牙も角も砕かれ、更には右目も潰されたが、まだ我は生きていた……生きているのならば……まだ逆転の目はある……

 

【まだ……むわだだああああ!?】

 

人間界では魔力が少ない、ならば失敗する可能性はあるが魔界の門を開けば良い……呪文を唱えて魔界の門を開こうとした瞬間……凄まじい激痛が胸に走る……

 

【うぐああ!?】

 

視線をしたに向けると翡翠色に輝く切っ先を持つ槍が胸に突き刺さっていた……こ、これはぁ……!?あの時のぉ……

 

【貴様に次などない!この場で消えうせろ!ノスフェラトウッ!!!】

 

槍を投げつけた体制で叫ぶ小僧の姿……さっきの弾幕は槍を取りに行く姿を見せぬため……1度完全に防いだからその存在を警戒するのを忘れていた……それが我の敗因か……

 

【ぐぼああ……】

 

霊核を完全に砕かれ、存在する事が出来ない……ゆっくりと消滅しながら倒れる我が見たのは……小僧と小娘の周りに立ち主の汚名をそそぐ戦いに参加出来たことに対する喜びか、我を倒した事に対する喜びなのか?それともその両方か……小僧と小娘の周りで嬉しそうに笑う数多の武将たちの姿だった……

 

 

 

 




外伝リポート 外史からの来訪者 その10へ続く

次回で外史からの来訪者は終了となります、多分これが今まで書いた話の中で一番の難産でしたね……何回DVDをまき戻した事か……アニメの小説を書くのは厳しいというのを実感しました。次回はノッブとの別れを書いていこうと思います
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その10

今回で信長の劇場版の話は終了となります。この後はのんびりと第二部に向けての日常形の話を書いていこうと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



 

外伝リポート 外史からの来訪者 その10

 

それは唐突に訪れた、美神君達が先行して行き私達も合流する為に都庁から城に向かっていたのだが、思った以上にゾンビの数が多く完全に足止めされていたのだが

 

【あ、ああああ……】

 

突如目の前のゾンビ達が砂となって崩れ落ち次々と消えていったのだ。それに上の階から感じていた膨大なプレッシャーもいつの間にか消えている

 

「先生!これは!?美神さん達がノスフェラトウを倒したと言うことでしょうか?」

 

聖句でゾンビを浄化していたピート君がそう叫ぶ。私はその問いかけに頷き、開いていた聖書を閉じて

 

「お疲れ様。小笠原君、ピート君」

 

応援として呼ばれたのに何もしていないが……美神君達が戻ってくる場所を死守出来たと考えるべきか……

 

(少しばかり本気で鍛えなおさないと駄目だな)

 

ガープの出現により悪霊などの強さが上がっているのは判っていた。それでも今までは十分対応できていたのだが、今回の件でそれが甘い考えだったと痛快した。霊力は衰えが出てくる時期なのは判っているが、体力が圧倒的に不足しているのだ……それに伴い腕力や脚力もガタ落ちだ……これでは近い内に足手まといになってしまう……これから戦いが激しくなってくるのだから鍛えなおさないと……美神君の師として弟子の足を引っ張るような真似はしたくない

 

「ふー疲れたワケ……ピート、悪いけど水とか用意してくれる?ここら辺の浄化もしないといけないワケ、それに戻ってくる美神達の治療の準備もしたいから」

 

「判りました。直ぐ戻ります」

 

そう言って階段を下りていくピート君を見ていると小笠原君が手を向けて

 

「ほら、さっさと傷を見せるワケ」

 

気付いていたのか……先ほどゾンビが自分の腕をちぎって投げつけてくるという予想外の攻撃に対応出来ず、脇を掠めたのだが……後でこっそり治療しようと思っていたんだけど……ここは小笠原君に甘えよう

 

「全く、唐巣神父ともあろうものがずいぶんと情けないワケ」

 

「耳が痛いよ」

 

国内では最高クラスのGSと呼ばれているのだが、今回は殆ど役立たずで終わってしまった。

 

「はい、終わりなワケ……一応ちゃんとした霊能の診療科で診察を受けることをお勧めするワケ」

 

小笠原君の言葉に判っているよと返事を返し、美神君が置いて行った鞄から浄化用の霊具と治療用の霊具を取り出しながら

 

「結局の所……心も身体の鈍り切っていたんだ」

 

魔神が人間界に訪れるなんて予想もしない事件だ。精々Bランク程度の悪霊や悪魔を除霊する日々に慣れきってしまっていたのが、今回私が足手纏いになった理由だと思っている

 

「判っているなら1度しっかりと錆落しをするワケ」

 

小笠原君の言葉にありがとうと返事を返し、私は戻ってくる美神君達の治療の為の準備を始めるのだった……

 

 

 

【オヤスミー】

 

聞きなれたベルトからの声が聞こえたと思った瞬間。ふらりと視界が傾く……何度も変身は体験したが、やはり襲ってくるとてつもない疲労感と脱力感にはなれない……このまま倒れるのかと思っていると

 

「横島!」

 

横から蛍の声が聞こえたと思ったら、目の前に迫っていた床が離れていく。どうも蛍が抱き止めてくれたようだ

 

「ありがと……」

 

口を開くのも辛いがお礼を言っていると、蛍はそんなの良いから!と俺の耳元で怒鳴り

 

「あんまり無理しないで……確かにそれは横島の力だけど、そう簡単に使っていい物じゃないでしょ?」

 

このベルトの力はカオスのじーさんと優太郎さんが分析してくれた。俺の中に眠っている霊力を無理やり引き出すため後遺症が酷いと、最悪霊力を失う可能性もあると

 

「ごめん……」

 

蛍を心配させてしまったことを謝る。蛍は本当に心配させないでと言う……ノスフェラトウを倒すことは出来たが、蛍をこんなに心配させてしまっては何の意味も無いな……俺は薄れ行く意識の中そんな事を考えていたのだった……

 

「……う……あ?」

 

どれくらい意識を失っていたのだろうか?酷い頭痛を感じ頭を振りながら身体を起こすと

 

【おうコラ、ミッチー。なに人様の身体を使って特攻なんて真似をしておるんじゃ?】

 

【お、おうひわきゃあひゃません】

 

……土下座している光秀の頭を踏みつけているノッブちゃんの姿があった……余りに衝撃的な光景に絶句してしまった

 

「あ。横島君起きた?……体調治ったら説教ね」

 

美神さんの笑っているけど目が全く笑っていない笑顔に背筋が凍る物を感じていると

 

「……今回は私からもするからな」

 

おう……基本的には俺の味方のシズクまでも……俺大丈夫かな……シズクの説教ってめちゃ怖いんだよなあ……氷の刃とかを突きつけてくるから……

 

【まぁ……忠義は認めるがな、判ったらさっさと成仏せい、ワシも直ぐ行く】

 

【ふはあ……横島殿、美神殿……此度は本当に感謝しております。お約束通り私の槍をお譲りします……本当にありがとうございました】

 

深く頭を下げて消えて行く光秀を見送っていると、ノッブちゃんが槍を掴んで俺達の方に来て

 

【横島。ありがとう……お前のおかげでほんの少しはワシの悪行も訂正されるじゃろう】

 

ほれっと差し出された槍を受け取るが、ノッブちゃんの感謝の言葉に気恥ずかしいものを感じていると

 

「ノッブ……いえ、織田信長。ノスフェラトウの事を公表して、貴女の戦歴に傷が入ると思うけど……貴女の汚名は少しは晴らしておくわ」

 

【是非もなし……感謝するぞ、ま、あんまり悪行があっても困るしな!】

 

そう笑うノッブちゃんの身体が金色の粒子となっていく……これはキャットのときと同じ……

 

【出来ればもう少し現世を楽しみたかったんじゃがな……まぁ仕方ないか……おう!横島!これからも励めよ!お前は猿に似ておる!きっと大きく出世するぞ!】

 

猿?……それってまさか豊臣秀吉の事か?俺そんなんじゃないけどなあ……

 

「……当たり前だ、横島は才気に満ちている」

 

……いやあ?シズクさん、俺そんなに褒められるような人間じゃないんだけど……今だってまともに立っている事が出来なくて蛍に支えられているような状況なんだし……

 

【今はまだまだ、焦るなよ。お前はきっと大きく育つ……しっかりと下地を作ることじゃ!ではな!】

 

俺の顔を見て励ますように言ったノッブちゃんは、かかっと上機嫌にそう笑って弾ける様に消えた……まだ残っている金色の粒子を見ていると

 

「あ、あれ……」

 

頭痛が更に強くなり、目の前が揺らぐ……やば……これ本当にやばい奴だ

 

【横島さん!大丈夫ですか?】

 

おキヌちゃんが抱きとめてくれたおかげで倒れることは無かったが、返事をする気力も体力も無くて小さく頷くと

 

【不味いな、やはり横島の中の霊力のバランスがおかしい。早急に休ませよう】

 

「……水が残っていれば治療できたんだがな……やはり水を運搬する手段をなんとかしないと……」

 

心眼とシズクの言葉を聞きながら、俺の意識は再び闇の中へと沈んでいくのだった……

 

 

 

ゾンビの大群が消えてから8時間後、濃い疲労の色を顔に残したまま、レポートを手にGS協会に訪れた美神さんに

 

「大丈夫ですか?もう少し後からでも良かったんですよ?」

 

唐巣神父からの報告ではゾンビが消滅したのが6時間前、美神さん達が唐巣神父と合流して都庁を後にしたのが4時間前……顔色を見る限りでは恐らく一睡もしていないだろう

 

「やることを終わらせないとゆっくり眠れないからね、レポートの受理よろしく」

 

かなりの厚さのあるレポートを受け取り、受理の判子を押す。これで正式にノスフェラトウの事件は解決となった

 

「まだ事後処理もあるので、今は軽く目を通すだけになりますけど……良いですか?」

 

出来ることならちゃんと目を通しておきたいが、いかんせんやることが多すぎる。一睡もせずに届けてくれた美神さんに申し訳ないと思いながら言うと

 

「ふわあ……構わないわよ別に……どうせ暫くばたばたするのは判ってるし、重要な所は付箋を貼ってあるから、そのページだけ見て」

 

ゾンビに噛まれた人間の病院の手はずに、崩壊した都庁の修繕……それにゾンビの攻撃で崩壊した家屋の保険……本当やることが多すぎて目が回りそうだ。とは言え、それがGS協会の会長と言う地位に就く私の職務なのだから泣き言は言ってられない

 

「…………」

 

美神さんにレポートに目を通している内に、美神さんが一睡もしないでレポートを届けに来てくれた理由が判った

 

「……単刀直入に言うわ、出来る?出来ない?どっち?」

 

回りくどい事は嫌いだと美神さんの目が語っている……私としては美神さんの要望を叶えてあげたいと思うが……

 

「……申し訳ありませんが、私の一存だけでは返答することは出来ません」

 

妖怪使い・陰陽師に加えて横島君に発現した異能……恐らく、いや絶対にだがその霊能に関して言えば神代家がどのGSよりも特化しているだろう

 

「確証は無いけど、私はこう推測しているわ。横島君は極めて優秀なシャーマンとしての適正がある、それこそ神代の時代に近いわ」

 

それは私も同じだった。牛若丸に韋駄天と言った英霊や神霊を人間の身体に憑依させたらどうなるか?そんな者は考えるまでも無い、破裂するのだ。人間の器に英霊や神霊を入れることは出来ない。多分美神さんは横島君のその才能を伸ばす為に神代家の術を知りたいのだろう……

 

「あのベルトの力と考えても横島君は異常と言えるでしょうね」

 

神代家が目指し続けた到達点。それに手を掛けているのが、霊能に目覚めたばかりの高校生と言うのは余りに皮肉だろう……何代も何代も続けて研究し、そしてようやく神との交信が可能になり、そして限定的に神卸の儀式を行いその神霊の力の一部を借りる。それが今の神代家の限界だ……横島君は私達の1歩どころか100歩以上先に居る

 

「どうしても駄目?憑依に対する防御だけでもなんとか……?」

 

……憑依に対する防御……?そう言われてリポートの付箋部を見直すと、早急な問題として横島君の霊に対する防御についてと書いてあった

 

(あ、私の勘違いだ……)

 

そ、そりゃそうよね、幾らなんでも秘儀を教えろなんて言わないわよね……ちょっと所か大分早とちりしてしまった事に気付く、霊の憑依に対する防衛術。それは神代家の基礎の中の基礎だ

 

「……まぁ憑依に対する防御くらいなら……なんとか」

 

神代家の降霊術の基礎中の基礎だ。だがこれが元にして様々な降霊術が生まれて行ったのだから基礎と言って疎かにすることは出来ない

 

「本当?」

 

「ええ、でも口で伝えれるほど簡単な事じゃないですし……私が直接指導するしか……うーん」

 

予定帳を確認するが、ノスフェラトウの事件の影響で空いていた日も仕事が大分入ってしまうだろうからなあ……

 

「今の所はちょっと時間をください、スケジュール調整してみますので」

 

ごめんねと手を合わせる美神さんに仕方ないですよと返事を返す、仮に横島君が悪霊に取り憑かれて、持っている霊能全てを使って攻撃してきたら取り押さえるなんて言っている余裕は無い。射殺でもなんでもして殺すしかないのだから、そのことに対する防御を何とかしたいと思うのは当然の事なのだから

 

「とりあえず美神さんも休んでください。日程が確認できましたらFAXするので」

 

お願いねと返事をしてふらふらと会長室を出て行くの美神さんを見送っていると

 

『会長。オカルトGメンの方が訪れています』

 

はぁ……早速来たわね。本当最近こんなのばかりと小さく溜息を吐き、会長室に通してと受付に頼み、引き出しから胃薬の錠剤を取り出して数錠飲み込む

 

(ああ、胃が痛くなるなあ)

 

これからまたぐちぐちねちねちと文句を言われるのだと思うと、凄まじく気が重くなるのだった……

 

 

 

 

美神さんの事務所で数時間仮眠を取ってからシズクと一緒に家に帰ったんだが

 

「なにこれ……」

 

【凄まじいな、家に残したのは正解だったかも知れんぞ?】

 

心眼の言葉にそうだなと小さく返事を返す、家の周りにクレーターとか岩の槍が出現している。若干の血の跡が残っているのを見る限り、どうもこっちのほうにもゾンビの襲撃があったようだが、ゾンビの被害より、チビとモグラちゃんの被害のほうが大きいような気がするんだが……奇跡的に家が無事なのには心の底から安堵したが……

 

「……チビとモグラがなんとかしたんだろう」

 

何とかしたのは判るよ?家は無傷だけどさ?……家の周りとんでもねえよ……絶対自転車とか自動車とか走れないぞ……明日の朝の通勤時間とか大丈夫かな?と思いながら目の前の惨状をどうするか考えていると

 

【横島。考えるのは後だ、今は身体を休めることを考えろ】

 

確かに俺もシズクも本調子ではないので早くやすまないといけない

 

「……心眼の言うとおりだな、横島。早く休むとしよう」

 

シズクと心眼の言葉に頷き、比較的無事な場所を選んで歩く、しかしこうしてみると地震でもあったのか?と思うくらいアスファルトが捲れている所もあるので道路工事をしている所に電話しないとなーと思いながら家の鍵を開ける。するとリビングのほうからTVの音が聞こえてくる

 

「チビとかがTVでも見てるのかな?」

 

一晩留守番させたのは初めてなので寂しがってないかなっと思いながら、リビングを開けると

 

【むう?急に暴れだしてどうしたんじゃ?】

 

「みーむうう!みみーむー!」

 

「うきゃー!うきゅううー!」

 

「なんでいんの?」

 

綺麗な感じで成仏したはずのノッブちゃんがチビとモグラちゃんを抱え、胡坐をかいてTVを見ていたのだ

 

【ん?おお、暴れているのはお前が帰ったからか!ほれいけ】

 

ノッブちゃんがチビとモグラちゃんを放すと、凄まじい勢いで突進してくるチビとモグラちゃんが肩の上に乗って、みむうー!やうきゅーっと鳴いているが、当然何を言っているのか判らない

 

「コーン」

 

少し遅れて擦り寄ってきたタマモを抱き抱えていると

 

「……お前なんで現世に残ってるんだ?」

 

シズクが眉を顰めながら尋ねると、ノッブちゃんはメロンパンをもしゃもしゃと齧りながら

 

【だって折角の現世じゃぞ?何もしないで帰るなんて嫌じゃ】

 

……俺の中の織田信長のイメージがどんどん崩壊していく……武将って言うよりか、ただの女の子なんじゃ?と思っているとノッブちゃんはのほほんと笑いながら

 

【ただ現世に残るのに裏技を使ったんでの!霊力とかすっからかんじゃ!「……偉そうに言うな、この役立たずが」のっぶう!?】

 

シズクの指から放たれた水鉄砲でひっくり返ったノッブちゃんだが直ぐに起き上がり

 

【お主も居候じゃろうが!決定権は家主にある!】

 

「……横島。出て行けと言え、役立たずはいらん」

 

いや、決定権は俺にあるって言われても困るんだが、それとシズクの黒すぎるコメントになんと言えば良いのか判らない

 

【お主に追い出されたらワシには行く所が無い。折角の現世を謳歌したいんじゃ】

 

子供の姿をしているが、ノッブちゃんはかなりの美少女なので上目遣いで見られるとかなり気恥ずかしい……それに助けられたのも事実なので追い出すのも気が引ける……だが普通にもりもり食べるノッブちゃんの事を考えると食費が厳しい

 

【頼む!横島!お前に追い出されたらマジでワシには行く所が無い!!少し、少しだけ現世を楽しみたいだけなんじゃ!是非も無いよね!?】

 

俺が悩んでいるのを見て慌てて詰め寄りながら言うノッブちゃん……なんか力抜けたなあ……

 

「良いよ、でも霊力回復したらなんか手伝ってくれよ?」

 

【うむ!それは任されよ!この第六天魔王織田信長にな!】

 

自信満々に言うノッブちゃんに仕方ないなあと思いながら、蛍や美神さんになんて説明しよう?と頭を悩ませながら俺は眠る為に自室へと引き上げるのだった……

 

 

 

 




別件リポート 横島君の日常へ続く

ノッブこと織田信長が居候として横島の家に住み着きました、ロリ枠追加のお知らせですね!次回は横島が普段どんな日常を過ごしているのかと言うのを書いてから、ノッブを絡めた話を書いていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート 


どうも混沌の魔法使いです。今回からは横島がどんな日常を送っているのか、それを書いてみようと思います。なので視点は今回は横島オンリーとなります。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

 

別件リポート 横島君の日常 

 

ジリリリっと目覚ましの音が鳴り響く、反射的に目覚ましを止めてもう少し眠ろうかと思ったが

 

(あかんあかん。起きな)

 

蛍が迎えに来るだろうし、チビとモグラちゃんの散歩にも行かないと……だから少し気合を入れてベッドから身体を起こす

 

「ふあああーおはよう。心眼」

 

【うむ、おはよう。良く眠れたか?】

 

ベッドサイドの机の上に広げてある心眼にバッチリなと返事を返し、顔を洗おうと思い立ち上がると

 

「うおっ!?ち、チビか?」

 

机の上でもごもご動いている毛玉を見てビクッとする。

 

「みむう?」

 

どうも背中の毛並みを整えようとしていたようだが、微妙に届かなかったらしい……普段見ている姿と違うので暗い所で見るとなんか怖いし、驚く……チビはそのままぐぐーっと背伸びをして背中の小さな翼を飛び上がり俺の肩の上に着地し

 

「みむー!」

 

おはよーとでも言いたげに小さい手を振るチビに苦笑しながら、モグラちゃんとタマモを確認する

 

「すぷーすぷー」

 

まだ籠で眠っているモグラちゃんは鼻提灯を出している、本当アレどうなっているんだろうな?たまーに見るけど、モグラがどうやって鼻提灯を作っているのか凄まじく気になる。タマモはっと振り返ろうとすると

 

「わったた」

 

「コーン♪」

 

「みむううう!?」

 

箪笥の上からタマモが飛び降りてきて、頭に割りと強めの衝撃が来る。チビはその衝撃で落ちかけて、両手で俺のポケットを掴んで耐えている

 

「こーら!驚くじゃないか!」

 

「クウ?」

 

私知らないよ?ときょとんとした顔をしているので、頭の上のタマモを捕まえて

 

「この!悪戯狐ー♪」

 

「クウウウ!?!?」

 

暴れるタマモを逃がさないように捕まえてくすぐっていると、この騒動で目を覚ましたのかモグラちゃんが俺達の方を見てから、眠気を覚ますように数回頭を振ってから籠から這い出し

 

「うきゅー?うきゅーん!」

 

構って構ってと跳ねて来るモグラちゃんが足元にじゃれ付いてくるので、タマモを頭の上に乗せ、モグラちゃんを拾い上げて肩の上に乗せる

 

「うきゅー!」

 

頬に擦り寄ってくるモグラちゃん、やっぱり甘えん坊だなあと思いながら顔を洗いに行くと

 

「……おはよう横島。そろそろランニングに出掛ける時間だが、今日は少し寝過ごしたのではないか?」

 

キッチンから顔を出してそう尋ねて来るシズクに心眼が

 

【なに、朝からチビ達と少し遊んで居たんだ。時間的にはいつも通りの時間に起きている】

 

うーむチビとか構ってくれと来るとつい遊んでやりたくなるんだよなあと苦笑しながら、心眼を広げたまま机の上において顔を洗う

 

「みむ」

 

「うきゅ」

 

ペットボトルのキャップに水を溜めてやると、短い手で器用に顔を洗ってから……

 

「「ごっきゅごっきゅ」」

 

揃ってキャップを抱えて水を飲み干している、顔を洗った水を飲んで大丈夫なのだろうか?だが朝良く見るが、特に不調になっている所を見た事がないので大丈夫なんだよな?

 

「はーい、タマモおいで」

 

「コン」

 

タマモは自分で顔を洗えないのでタオルを絞って、顔を軽く拭いてやってからリビングに戻る。すると顔を洗う前は気付かなかったが、リビングの隅に巨大な氷塊が見えた

 

「ねえ?シズク、怒ってる?」

 

「……さぁな」

 

嘘だ絶対怒っている。ニヤリと悪い顔をしているから間違いない、それに氷塊の下から長い黒髪が見えているし、苦しそうな呻き声が聞こえてくる

 

(あそこってノッブちゃんが寝てた所だよな……)

 

幽霊だから大丈夫だと思うけど……でもどうしようかと考えていると

 

『横島ー?今日はランニング行かないのー?』

 

リビングを外から覗き込んでいる蛍の姿が見えた。時間を見るといつもの待ち合わせの時間を過ぎていたので、慌ててジャージに着替えて、チビ達にリードを着けて

 

「じゃ!ランニングに行って来る」

 

キッチンで朝食を作っていたシズクにそう声を掛け、氷塊を見ないように心がけて、俺は慌てて家を出るのだった

 

 

「はっはっはっは」

 

いつもと違うランニングのコース。昨日そういえばコースを変えるって聞いてたけど、これはかなりきつい。アップダウンが多いし、全体的に坂を昇って行くので息が切れる

 

「はい、呼吸が乱れてるわよ。それと霊力の収束が全然出来てないわ、疲れていても霊力の循環を意識して」

 

【焦るな、落ち着いて着実に霊力を操るんだ。それはお前の力だ、コントロール出来て当然だと思え】

 

心眼と蛍のアドバイスに判ったと返事を返し、走りながら呼吸を整える

 

「うきゅー♪♪」

 

「みむー♪♪」

 

元気が有り余っているチビとモグラちゃんが足元を走っている。つうか、俺よりも早いな、やっぱ4足歩行だからか?でもタマモは早々にリタイアして蛍の自転車の籠にいるし……

 

(子供は元気ってことか?)

 

目の前の急な上り坂を見て溜息を吐きたくなりながら、坂を上り始めるのだった……

 

「ぜはーぜはー……これきっついわぁ」

 

距離的には普段の川に向かうコースと同じだが、坂の連続で体力をずいぶんと消耗した気がする。自転車に乗っているけど、汗1つ、呼吸すら乱れていない蛍に正直驚いていると

 

「はい、横島。スポーツドリンク」

 

蛍に投げ渡されたペットボトルを受け取り、少し温いそれを一気に飲み干す。チビとモグラちゃんには塩分が多いので、もう1つ持ってきていたペットボトルの水をキャップに入れて与えてやると

 

「みむうっ♪」

 

「うきゅーッ♪」

 

ぷっはあっと言う感じで飲み干し、また元気に周囲を駆け始めるチビとモグラちゃんに驚いていると

 

【霊力の循環とコントロールが出来ていないからそこまで疲れるんだ。良いか、霊力がしっかりと循環出来ていれば、ここまで時間が掛かることも無かったし、疲労も溜まっていない。蛍とも話し合ったが、基礎体力は十分合格点だ。ここからは霊力に重点を置く、惰性で走れば良いと言う物じゃないぞ】

 

そうは言うけどなあ……本当座って霊力をコントロールするだけでもやっとなのに、走りながらはハードルが高いと思うんだけどなあ……

 

「GS試験で出来ていたんだから、それを当たり前にしないと駄目だわ。私もやってるんだから横島も出来るわよ。後はコツを掴むだけだからね」

 

コツかぁ……まぁ蛍に心眼、それにシズクも居るから出来るとは思うけど……それを覚えるまでは大変って事だよなと若干憂鬱な気分になっていると

 

「はい、じゃあこのまま10分座禅したら帰るわよ。学校に遅れるからね」

 

蛍の言葉に忘れていた事を思い出し、うげっと呻いていると蛍が俺を指差して

 

「ちゃんと勉強しておかないと後で困るのは横島よ。私だってアメリカで大学卒業してるんだからね?」

 

それにオカンにも高校卒業しろって言われてるしなぁ……しゃーないか……俺は溜息を吐きながら座禅を組んで霊力のコントロールに勤めたのだが

 

「はい、霊力が乱れてるわよ」

 

【もっと心を静めろ、良いか自然の中と言うのは霊力を認識するのに適した場所なんだ。大事なのは出来て当たり前と思うことだ】

 

心眼と蛍に何度も何度も駄目だしされながらだったので、本当に俺霊力のコントロールが出来るのか?と激しく不安に思うのだった……なおチビとモグラちゃんは俺が座禅している間何をしていたかと言うと……

 

「みーむ」

 

「うきゃー」

 

近くに落ちていたどんぐりを拾って、それでキャッチボールをしているのだった……

 

 

「くふぁあーふあー。よく寝た「寝たら駄目でしょ」あいた」

 

退屈な授業も終わり、漸く帰る時間になったので背伸びしながらそう言うと愛子に頭を叩かれた

 

「いやさ、全然判んないんだよ」

 

蛍にちょくちょく勉強を教えて貰っているけど、それはあくまで課題の範囲だ。授業だと受けてない授業とかも多いので授業の流れが判らないとボヤクとピートとタイガーが

 

「横島さんは除霊実習大目ですもんね。僕はそれほどですが、やはりそれだけ期待されているって事では?」

 

「エミさんはどっちかと言うと理論的な観点で除霊しとるけんのー……ワッシは座学メインじゃ」

 

やっぱり師匠によって勉強の方向性も変わるんだよあ……話を聞いている限りでは、ピートやタイガーは俺ほど短いスパンで除霊実習に行っている訳ではないらしい。美神さんが売れっ子と言うこともあるらしいが、唐巣神父もエミさんもどっちかと言うと座学をメインにしているらしいので、その差だろう

 

「なぁ心眼。座学と実践どっちが良いんだ?」

 

心眼にそう尋ねると心眼はどっちが良くて、どっちが悪いと決め付けるものではないがと前置きしてから

 

【座学によって色々な除霊パターンや悪霊の特性や妖怪・魑魅魍魎の行動パターンを学ぶのは確かに正解だ。だがそれを実践をせず知識だけを手にすると、応用力が無くなり、この妖怪はこうだと言う思い込みが生まれる。生き残れれば反省し、次に繋がるが、死んでしまえばそこまでだ。しかし知識が無ければ実践で相手の行動パターンを学ぶ必要がある、要するに適度な知識とその知識に対応出来るだけの身体能力が必要と言うことだ】

 

心眼の言っていることは難しくてよく判らないが、ある程度勉強して、そして身体を動かすことが大事と言う事か

 

「あれ?でも俺そんな勉強したこと無いぞ?」

 

エミさんに貰った妖怪図鑑や、陰陽術の基礎的なことは勉強しているが、対処法とかの勉強はした事が無いと言うと

 

【軽く試算して300近い妖怪の行動パターンとか覚えてられるか?】

 

「無理」

 

絶対頭パンクするし、それに絶対何処かで間違えて覚えてしまうと思う。

 

【そう言う訳だ。まぁ知識の方は私がフォローするから心配ないが、私に甘えっぱなしでも困る。今度時間を見て少しずつ覚えて行くと良い】

 

うげえ……薮蛇だった……GSの事を覚えるだけでも必死なのに

 

「ご愁傷様です。頑張って覚えてください」

 

「大丈夫ですジャー。わっしでも覚えれるけん」

 

とても不安なフォローありがとうよタイガー。はぁすげえ憂鬱な気分になったなあと苦笑しながら立ち上がり

 

「チビー、モグラちゃん。帰るぞー」

 

教室の隅でシルフィーちゃんと対峙しているチビとモグラちゃんに声を掛ける

 

「くっ……隙が無い」

 

「みむう」

 

「うきゅー」

 

放電しているチビと巨大化し、口からちりちりと炎を吐き出す準備をしているモグラちゃんに追い詰められているシルフィーちゃん。本当血を吸おうとしなければ良い子なんだけどなあ

 

「すいません。島育ちだから不器用なんです」

 

「不器用ってレベルじゃないと思うけど?」

 

ピートのフォローを両断する愛子。まぁ島育ちなのは判るけどさ、やっぱ世間一般的な常識は必要だと思うんだ。致死量の血を吸おうとするとか正気じゃないとしか言いようが無い

 

「みむーッ!!!」

 

「ふぎゃあああああ!?!?」

 

バリバリっと言う電撃の音とシルフィーちゃんの悲鳴。痺れを切らして突っ込んでこようとした瞬間。チビが放電していた電撃を全て放出したんだろうなあ……教室の隅で痙攣しているシルフィーちゃんを見て小さく南無と呟く

 

「みーむ」

 

「うきゅー」

 

モグラちゃんを抱えて飛んでくるチビが肩の上に乗ったのを確認してから

 

「じゃ、愛子、月曜日に」

 

「え、ええ。じゃあ月曜日に、遅刻とかしちゃ駄目よ?」

 

愛子の言葉に判っていると返事を返し、土日もやっぱり修行かなあっと考えながら教室を後にし、ゆっくりと家に向かって歩き出すのだった……

 

 

「……大分良い感じだ」

 

夕食も風呂も終わって後は寝る前にシズクに指導を受けながら霊力のコントロールをするだけなんだが

 

「なあ?ノッブちゃん。本当に何したんだ?」

 

氷の板の上に正座させられ、氷塊を膝の上に乗せているノッブちゃんを見ていると、どうしても集中できないので何をしたのか?と尋ねると

 

【ワシは……ちょっと……そのだな。お前の弁当と朝餉を食って……しまって……】

 

……それで朝シズクバタバタしていたのか、普段は俺が起きる頃には大体の準備を終えて、煎餅を齧りながらTVを見ているので、今日は珍しいなと思った物だ

 

「……居候の癖に家の主よりも先に飯を食う、そんなこと許されると思っているのか?」

 

俺別にそう言うのに気にしないんだけどなあと呟くとシズクが俺の方を振り返り

 

「……そう言うのはちゃんとしないといけない。なぁなぁになってしまっては駄目だ、大体私だってお前が食事に箸をつけるまで食べないだろう」

 

そ、そう言われるとそうだったかも……全然意識した事なかったけど、確かに俺が箸をつけるまでシズクが食事をしているのは見た事が無いような

 

【古風な考え方ですが、昔はこれが当たり前でしたよ。湯に入るのも家の主が先です】

 

牛若丸眼魂の目が光り、そう言ってくるが……そんな昔の常識を出されても俺困るんだけど……

 

【うぐぐ……冷たい……寒い……横島ぁ……助けてくれい……】

 

ぷるぷる震えているノッブちゃんが可哀想だ。助けも求められたし、シズクに止めるように言おうかと考えていると

 

【ふぎゃあ!?】

 

重々しい音を立てて氷塊が巨大化し、ノッブちゃんを押しつぶした。その余りの事に絶句しているとシズクは黒い笑みを浮かべながら

 

「……幽霊だ、死にはしない。それに食事だって本来する必要も無いし、眠る必要も無い。優しいのはお前の良い所だが、そこを利用されては駄目だ」

 

【うむ。優しさは確かに長所にもなるが、短所にもなる。そこまで気にすることは無い】

 

いや、そうは言うけどさ……呻いているのを見るとどうしても心配になって修行所じゃないんだけど……

 

「……判った。今日の霊力の修行は無しだ、どうせ明日と明後日と休みになる。修行はその時でも大丈夫だ」

 

そうと決まったら今日はもう休め。背中をぐいぐい押されながらリビングから追い出される……これはあれだな。完全に俺が何か言える雰囲気じゃないので、心の中でノッブちゃんにごめんと呟き、自分の部屋に向かおうとすると凄まじい水流の音が聞こえて振り返ると、シズクが指を窓の外に向けて険しい顔をしていて

 

「……どうかしたのか?妖怪とか?いる?」

 

もしかしてノスフェラトウのゾンビの生き残りでも居たのか?と思いながら尋ねると、シズクは今まで見た事が無いような険しい顔をして

 

「……お前は知らなくて良い。早く寝ろ」

 

有無を言わさないその口調に判ったと返事を返し、俺は逃げるように自分の部屋へと向かうのだった

 

「みむ?」

 

「うきゅ?」

 

「クウ?」

 

普段よりも早く部屋に戻って来た俺を見て首を傾げるチビ達。遊んでいたであろうボールが足元に転がってきたので、それを拾ってチビの目の前に置きながら

 

「明日休みだからなあ、修行は明日で良いってさ」

 

今日は慣れないランニングコースで疲れたから早く寝よう。GジャンとGパンをハンガーに掛けて布団に潜り込む

 

「じゃ、心眼おやすみ」

 

【うむ。おやすみ】

 

心眼をいつものように目覚まし時計の置いてある机の上に広げたまま置いて、眠ろうと目を閉じると

 

「うきゅうきゅー」

 

前足をベッドに掛けてよじよじと登ってくるモグラちゃんとチビを咥えてベッドに飛び乗ってきたタマモに

 

「ったく、シズクに怒られるのは俺なんだぜ?」

 

コテンと首を傾げるチビ達にしゃーないなと呟き、布団を捲ってモグラちゃんとタマモを布団の中に入れる。まだ寒い時期だから丁度いいが、夏場とかだったら地獄を見るなあと苦笑しながら

 

「じゃ、おやすみ」

 

「みーむ」

 

「うきゅーん」

 

「コーン」

 

俺の言葉に返事を返すチビ達にもう1度おやすみと呟き、俺は眠りに落ちるのだった……

 

 

リポート27 新たな幕開け その1

 

 




次回のリポートで第一部は完結となり、それ以降は新しく小説を作り第二部に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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リポート27
その1


どうも混沌の魔法使いです、今回で第一部のリポートは終了となり、次回からは新しく第二部を投稿して行こうと思っています。それに伴いリポート27は第二部に向けての動きを書いて行こうと思っているので、色々な視点や場面が変わることになると思いますが、それだけ状況が動いていると言うことでご理解いただければ幸いです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート27 新たな幕開け その1

 

先日の除霊のレポートを纏めているとタイガーが真剣な顔をしてオフィスに入って来たので、1度作業を止めてタイガーの話を聞くことにした

 

「1度国へ帰りたい?でもあの国には……」

 

「判ってますケン、ワッシにはもう肉親を呼べる人間はおらんですのジャー、でも仮とは言えGS免許を取れたって……報告したいんジャー」

 

GS試験では敗退したが、今回は特別処置として、琉璃が認めた参加者全員に仮だがGS免許が交付される事になった。確か……タイガーとピートとあと何人かが交付される予定だったが、ソロモン72柱のガープが出てきたと言うことに恐れを為して受け取り拒否が多かったと聞いている

 

(うーん……まぁ気持ちも判るワケ)

 

私がタイガーの身元を引き受けに行った時、タイガーはジャングルで小屋を建てて1人で暮らしていた。近くに岩を削って作ったであろう墓標が3つ並んでいたのも覚えている

 

「判ったワケ……お金はこっちが用意するわ、でも2週間後には大きな除霊の仕事が入っているからそれまでに戻るワケ」

 

2週間後に遺跡から発掘された、出土品の除霊の予定が入っている。その出土品に取り憑いている幽霊と言うのがこれまた珍しく、怨念も憎悪も持っていない巫女の幽霊と来た。残念な事に言語の違いで言葉を交わすことが出来ないので。タイガーの精神感応で会話し、成仏してもらうつもりなので、それまでには戻って来るようにと念を押すと

 

「判ってます……あの国には……正直良い思い出が無いんジャー。墓参りしたら直ぐに戻りますケン」

 

そう笑ってオフィスを出て行くタイガーの背中を見ながら

 

「悪魔……ね」

 

タイガーの母国ではタイガーは悪魔と恐れられていた。それは女性恐怖症が限界を超えてセクハラをするからじゃない、タイガーが7歳の時。つまり今から10年前……タイガーの住んでいた村に巨大な虎に憑依した悪霊が現れ、その事件の折にタイガーは両親を失い、村は壊滅的な打撃を受けた……そしてその悪霊はタイガーが殴り殺した。自分の10倍は大きいその虎の牙を折り、足をへし折り、徹底的に痛めつけ除霊師が来るまでの2時間。タイガーは1人で足止めをしていたのだ

 

「それゆえに悪魔……村を追い出され、ジャングルに追放された……か」

 

確かにタイガーは村を救った英雄となるだろう、だがそれ以上に恐怖され、歩くことがやっとの祖父と共に事切れた両親を抱えてジャングルへと移り住んだと聞く。そしてその10年の間に何があったのか、女性恐怖症になり限界を超えるとセクハラをするようになった

 

「もしかするとタイガーの霊能力は別にあるのかもしれないわね」

 

精神感応だけじゃないタイガーにはもしかすると他にも何か霊能力があったのかもしれない、そうじゃなければ当時7歳の子供が凶暴な虎を殴り殺すなんて思えない。まぁ私がこれを知ったのは最近の事で、スカウトしに行った時は強力な精神感応能力者としてスカウトに行った。GS免許の交付に伴い調べたタイガーの経歴を見て、そこで初めて知ったのだ。胸糞悪いことに悪魔付きの危険人物として母国のGS支部に今もなおタイガーの記録が残っていたから知る事が出来たのだ

 

「タイガーに何か、気持ちの変化があったのかもしれないわね」

 

ジャングルの小屋で大量の動物に囲まれ暮らしていたタイガー。人間を恐れ、会話を恐れ、誰かを傷つける事を恐れたタイガーを半場無理やり日本に連れて来たのは正解だったかもしれない……

 

「本当、先にスカウトしたかったわけ」

 

きっとタイガーを変えたのは横島だろう、横島には人を変え、惹きつける力がある。令子より先に知り合ってスカウトしたかったともう1度呟き。私はリポートを纏める作業を再開するのだった……

 

 

 

明日GS試験合格後の除霊テストの予定を組んだので、横島君と蛍ちゃんを事務所に呼んだんだけど……チビとモグラちゃんにタマモにシズク、といつもの面子に加えて後1人居て、その1人に私は目を見開いた

 

【むっしゃむっしゃ】

 

メロンパンを貪っている赤い着物の少女……ノスフェラトウの時に協力し、成仏したはずの英霊……織田信長が横島君の後ろから顔を出したのだ

 

「なんで居るの?信長」

 

「いや、家に帰ったら普通に飯食ってました」

 

……ず、頭痛が……と言うか成仏したんじゃないの?と思わずには居られない

 

「横島。私聞いてないけど?昨日ランニングの時迎えに行ったじゃない」

 

そうよね、昨日蛍ちゃんは除霊に連れて行ったけど、その時に私が決めたコースを走ったという報告を聞いている

 

【私の居場所を取る幽霊!キシャー!】

 

【おおう!?なんか突っ込んできたぞ!?】

 

包丁を持ってノッブに襲い掛かっているおキヌちゃん。凄く鬼気迫る表情をしていて怖いので関わるのはよしておこう。とりあえずは大体横島君の問題なので、横島君が何とかするべきだ

 

「えっと……シズクさんが氷塊で押しつぶしてたインパクトが凄すぎて言うの忘れてた……それに姿も見てなかったし……ぶっちゃけ完全に忘れてた」

 

あははっと笑う横島君だけど、確かに氷塊のインパクトが凄すぎて伝えるのを忘れてしまったも仕方ない……のかな?

 

「シズク。ノッブなにしたのよ?」

 

シズクがそこまで怒るには何か理由がある。そう思って尋ねるとシズクは

 

「……横島よりも先に飯を食おうとし、更には弁当まで食べて寝転がり寝ようとした。ふざけているとしか思えないだろう?」

 

ぶつぶつと家の主人よりも先に飯を食おうとするとか何を考えているんだとか呟いているのを見て

 

(シズクってやっぱり古風な考え方なのね)

 

現代とは違う考え方だけど、それも個性なので口にはしない

 

【シャアアアア!】

 

【ノッブう!?】

 

ノッブの顔の横に包丁を突き立てて唸っているおキヌちゃん……本当あの子やばいわ……横島君が関わらないとめちゃくちゃ良い子なんだけど……横島君が関わるとそれだけで一瞬で危険人物になってしまう。本当幽霊で良かった……生身だったらどこで事案が発生するか判ったもんじゃないわね

 

「渋鯖人工幽霊壱号。んーなげえからいっちゃんでいっか?」

 

そして横島君は横島君で渋鯖人工幽霊壱号に何か渾名つけようとしているし……

 

【え?あ。はい、お好きなようにどうぞ?】

 

「じゃあ、今日からいっちゃんな?」

 

だからぁ……勝手に幽霊とかに名前をつけたら駄目だって何時も言ってるのに……渋鯖人工幽霊壱号の霊格が上昇したのを感じて深く溜息を吐いていると

 

「横島を助手として使って行くならこれは覚悟してくださいね?」

 

「もうとっくの昔に覚悟してるわよ……」

 

ほっておいても幽霊とか妖怪を拾ってくる横島君だ。GSとしてはとんでもないのを助手にしてしまったと後悔する所だが、それを差し引いても能力が高いのでリリースするには押しすぎる人材だ

 

【横島ぁ!ワシ!あの幽霊娘苦手じゃあぁぁ!!!】

 

号泣しながら横島君にぶつかっていくノッブが溶けるように消えて行き、そんなノッブを追いかけていた包丁を持ったおキヌちゃんは当然ながら横島君に向かっていき……

 

【あ】

 

「のおおおお!?!?」

 

音を立てて自分の顔の横に突き刺さった包丁を見て絶叫する横島君。そしてバンダナに目が浮かぶのと、チビが放電したのは全く同じタイミングで

 

【いい加減にせんかああああ!!」

 

「みむぎゃあー!!」

 

【ご、ごめんなさーいッ!!!!】

 

バンダナから打ちだされた霊波とチビの電撃の直撃を喰らい事務所の壁に叩きつけられるおキヌちゃんを見て、深く溜息を吐きながら

 

「うう……モグラちゃん、タマモ。怖かった、怖かったんだよ」

 

半泣きでモグラちゃんとタマモを抱きしめている横島君を見て、私はもう1度深く溜息を吐くのだった……

 

 

 

包丁を持って横島に突撃したおキヌさんは、シズクの作った氷の板の上に正座し、膝の上に氷塊を置かれて

 

【ゆ、幽霊なのに痛いし、冷たいですぅ】

 

幽霊なのにぃっと呻いている。多分シズクの神通力が影響しているんだろうなあと思いながら

 

「それで美神さん。明日の除霊ってなにをするんですか?」

 

脱線しまくっていたが、今日事務所に来たのはその話をする為だ。除霊の内容を尋ねると

 

「うん。明日の除霊だけど、まぁ結構簡単のね。自殺して自我崩壊している社長の幽霊の除霊」

 

まぁそれは大して珍しい除霊の内容じゃないわね。割かし結構あるタイプの除霊だが、その代わり危険性が高かったり、低かったりして簡単とは言い切れないけど

 

「それを横島君。貴方1人で除霊して貰うわ、当然チビ、モグラちゃん、シズクに眼魂も禁止。心眼は許可するけど」

 

「うええ!?」

 

横島が絶叫する。私もシズクも若干険しい表情になるのを押さえられない。美神さんが私達を見て、ちゃんと説明するからと言うので美神さんの言葉に耳を傾ける事にする

 

「これはGS協会から指定された除霊依頼よ。まぁ詳しく言うと依頼じゃないんだけど、そこら辺は説明すると長くなるから省くわ。GS試験に合格した以上ある程度能力があり、リポートも詳しく纏める力があるか?そこら辺のテストがあるのよ」

 

あー何となく判った、横島1人での除霊経験の実習って事ね。そうなると確かにシズクやチビ達は駄目ね、横島が何かする前に除霊しちゃうから

 

「いやいや!?判りますけど!言ってる事は判りますけど!!!少し急すぎませんか!?」

 

横島が美神さんに詰め寄りながら言うと美神さんは険しい顔をして

 

「GS試験にガープが出たでしょ?残った魔力の残滓を悪霊などが吸収すると異常にパワーアップするわ。そうなる前に、まだ影響が強く出ていない内にやっておくべきだわ」

 

もし試験除霊の最中にそんな悪霊が来たら殺されてしまう。今ならまだ安全だからと言う美神さん……確かに今後どんな影響が出るか判らないのなら、安全が確保出来ている内に済ませてしまった方が良いだろう

 

「そうね、その方が安全ですよね。美神さん、私のほうは?」

 

「そっちも準備してるわ。横島君と同じで明日に予定を取ってあるわ」

 

流石美神さんね、こういう時の準備にぬかりはないわね。大丈夫かなあっと不安そうに呟いている横島に

 

「大丈夫よ。今まで色々やってきたでしょ?それに心眼は連れて行って良いって言ってくれてるんだからそこまで不安に思うことは無いわ」

 

【うむ。心配することは無い、私がお前のフォローをする】

 

私の言葉に合わせて言う心眼。横島は深い溜息を吐きながらも、さっきまでと違い気合の入った表情を浮かべ

 

「判りました、やってみます」

 

「それなら明日の午前9時。このビルに向かって除霊をして来てね。地図はこれ、あと下見は当然ながら禁止。ビルに入る前にこれを半分に折れば、自動的に鳥の使い魔になって横島君の除霊の手際とかを見てくれるから、絶対忘れないように」

 

地図や除霊前に渡される資料の入った鞄を受け取った横島。やっぱり不安そうな顔をしているので何か助言を……って思ったんだけど

 

「じゃあ、横島君は今日はもう帰って休みなさい。遅刻厳禁、それと駄目そうなら撤退。一応他にも除霊テストの候補はあるから失敗しても次がある。だから意固地にならず、無理だと思ったら逃げなさい」

 

美神さんが横島に帰るように言ってしまって、何もアドバイスをすることが出来なかった。まぁ後で家に行けば良いかと思っていると

 

「はい、こっちが蛍ちゃんの分。時間は11時から、場所は少し遠いから迷子にならないように気をつけなさい。それと今日は蛍ちゃんも自分の事だけに集中しなさい、横島君が心配なのは判るけど、今日の所は横島君の所に行くの禁止」

 

美神さんに横島の家に行くのを禁止され、私は溜息を吐きながら、事務所の隅を見ると

 

【うううう……冷たいです】

 

シズクが帰ってもなお、おキヌさんの膝の上の氷塊が溶けることは無く、いつになったら溶けるのか?あの様子なら横島の家にも行けないだろうし、多分この様子じゃ今日一晩経っても溶けないと思って

 

「今日どこかで外食した方がいいかもしれないですね?」

 

「……そうね。一応さっきどかそうと思ったけど、痺れたから自然に解けるの待つしかなそうだしね」

 

美神さん助けてくださいよーと叫ぶおキヌさんに自業自得よと声を掛ける美神さんを見ながら、私は事務所を後にするのだった……

 

 

 

横島と蛍が除霊テストを控えた夜。日本から遠く離れたブラドー島ではやっと身体を起こせるほどに回復したブラドーが唐巣神父の手紙に目を通していた

 

「ふむ……そうか……GSが何たるかは我は知らぬが、良く頑張ったようだな」

 

ピエトロがGS試験とやら補欠枠ではあるがに合格したと聞かされても、我にはよく判らぬが……ピエトロが努力したと言うのなら父としてそれは褒めてやらねばならぬな。そんな事を考えながら手紙を読み進めていると

 

「……くっくっ……ああ。そうか、そう言うことだったのか……漸く長年の疑問が氷解したぞ……」

 

我が妻の父は1度は我と妻の婚姻を祝福し、我に領地を与え。ヴァンパイヤと人間が手を取り合って暮らせる世界に共感した。だがピエトロとシルフェニアが生まれてから数年後。急に我達を害悪とし処刑しようとし、流行病で死んだ我が妻の遺体さえも奪い去った……裏切られた、その時は深い絶望ゆえにそう思った、だが……数年間とは言え親子として過ごした時間が嘘だとは思いたくなかった。我の理想に共感してくれた時のあの笑顔が嘘だとは思いたくなかった

 

「ソロモン72柱ガープ……よくもやってくれたな……」

 

我だけではなく、我が養父まで狂わせたと……その手紙には記されていた……ならば報復せねばならまい。我が理想を笑い、我が養父を狂わせた罪を償わせければならない。ほかの誰でもない、この我の手によって為さねばならない。それが貴族として、始祖の吸血鬼として、そして父として為さねばならぬ事なのだ

 

「ブラドー様!?どちらへ」

 

王座を出ると血相を変えて駆け寄ってきた執事を手で制し

 

「案ずる事はない。日本とか言う国に居るピエトロを労いに行くだけだ、丁度良い、帽子とマントを持って来い。早急に発つ」

 

は、か、畏まりましたと返事を返し、駆けて行く執事の背中を見つめながら拳を作る。手が震えて思うように拳を作る事が出来ない……まだチューブラーベルとやらを強制除霊された痛みはまだ我を襲っている。それに戦闘経験や魔術の扱いも全盛期と比べるまでもなく錆付いているだろう

 

「まずは錆落しだな……ああ、それに我を助けてくれた青年にも褒賞を与えなければ……」

 

なんだかんだでやることがたくさんあることに気付き、今すぐ出発できないなと気付いた我に準備できましたと戻って来た執事に

 

「すまない、やる事を思い出した。出発は未定とする」

 

きょとんとした顔になった執事だが、了承しました。ではいつでも出立出来るを致しますと言って階段を下りていく。良い執事だ、我が眠っている間。ピエトロとシルフェニアの教育係と執事の任を完璧に成し遂げてくれたと聞いている

 

「日本に行ったら名前をピエトロに聞いておくか」

 

そう言えば、あの執事の名前を知らないなと苦笑しながら、我を助けてくれた青年への報酬を見定めるために我は宝物庫へと足を向けたのだった……

 

リポート27 新たな幕開け その2

 

 




と言う訳で第二部ではブラドーが登場します。レギュラーとまでは行きませんが、準くらいには昇格するかもしれませんね。次回はくえすや柩と言った視点で進めて行こうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その2

どうも混沌の魔法使いです。今回は主にくえすや柩と言ったGS原作に出ていないキャラをメインに書いて行こうと思っています。内容的にはあんまり濃い内容ではないですが、そのキャラの方向性を決める感じの話にしようと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします



リポート27 新たな幕開け その2

 

魔界での保護生活を終え、一応報告の為にGS協会に来たんだけど……

 

「うう……はい。承認……ああ……もういや……もう3日も寝てない」

 

ボクのリポートに目を通すことなく、承認の判子を押した会長殿の顔には濃い疲労の色が浮かんでいる。更には3日も寝ていないという言葉を聞いて

 

「過労死するよ?会長殿」

 

一応ここまで通されたんだけど、机の上でぐったりして動く気配の無い会長殿。目に光が無くて死にそうな表情をしている

 

「GS試験にノスフェラトウの復活とか……なんでこんなに重なるのよ。まだGS試験のも終わってないのに……」

 

なんとまぁ不運が重なっているね、笑いたい所だけど、ここまで弱っているのを見ると笑う訳には行かないと思ったので我慢していると

 

「くひ!?ああ。安心するといいよ、会長殿」

 

何がぁ?と死んだ目でボクを見つめる会長殿。今急に見えた未来だけど

 

「六道が救援に……「冥華様よりお手伝いするように言われてまいりました。私達はどうすれば?」……あ、ああああ……ありがとう!冥華さーん!」

 

仕事の手伝いに来てくれた5人の六道家の家紋入りのスーツ姿の女性が会長室に来たと同時に会長殿は号泣しながら、感謝の言葉を叫ぶ。

 

その様相によっぽどギリギリだったねと苦笑しながらソファーに腰掛けるのだった……

 

「ああ。やっと帰れる……自分のベッドで眠れる」

 

業務の引継ぎを終えた会長殿に家に帰ったらこれでも飲みたまえよと言いながらガラスの瓶を差し出す

 

「なにこれ?見た事無いんだけど?」

 

ラベルも何も無い黒い瓶を摘みあげて怪訝そうな顔をしている会長殿に、その瓶の中の薬品の説明をする

 

「ボクを魔界で保護してくれていたゴモリーがくれたのさ、霊力とかを回復させるのに良いってね!くひひ!」

 

ゴモリーの名前のごふっと咳き込む会長。GS試験では同じソロモンのガープが襲撃してきたのだから、同じソロモンのゴモリーの名前を聞けば、この反応は当然だけど乙女がしていい物じゃないと思うけどねぇと苦笑しながら

 

「それを飲むと1日起きない変わりに体力とか霊力も完全に回復する霊薬らしいんだよ。ボクも魔界に行った時はお世話になったんだ」

 

と言うかこれがないと死んでたかもしれないねーと笑いながら言うと、笑い事じゃないわよと疲れた表情で溜息を吐いた会長殿は

 

「ありがと、これ貰っておくわ」

 

「くひ、ああ。それが良い、強制的に寝ないと回復する物もしないからね」

 

責任感の強い会長殿だ。何かトラブルがあれば、自分の休日さえも返上して行動してしまう、だからこそ薬にでも頼って1日誰にも起されること無く眠る必要があると思う

 

「あ、そうそう柩。貴女の事だからもう知っていると思うから、言う必要も無いと思うけど」

 

帰り支度をしながら話しかけてくる会長殿。まぁボクは未来視があるから大概の事は知っている、態々伝えるまでも無いけどと前置きしてから

 

「くえすが事務所を開設するわ「くひ!?くえすが!?」……その反応を見ると知らなかったみたいね。住所いる?」

 

会長殿の言葉に頷きながら、ボクは思わず笑みを零した。そもそもボクの未来視では、くえすが魔族となりガープと共に日本を去ったと言う未来しか見えてなかった。だからくえすが事務所を開設するなんて知る由も無い、確かに一瞬未来が変わるかもしれないという可能性は見たが、それはかなり低い確率の未来でくえすが魔族と化すのは決まっていた。それを覆したのは言うまでも無く横島しか居ない

 

(ああ。君は本当に面白い……)

 

決まっていた未来を変えた。そんな事はありえないのに、それを成し遂げた横島。ああ、本当に面白い男だ……こんなにもボクが興味を持つ男が居るなんて……

 

(横島に会ってから世界が面白く見えてきた)

 

今まで未来視の結末が変わった事なんて無かった。所が横島はそれを簡単に変えてしまう、灰色だった世界に急に色がついたような感覚だ

 

「はい、これ住所。ここからは割りと遠いからタクシーを使うと良いわよ」

 

「くひ!感謝するよ会長殿」

 

会長殿から差し出されたくえすの事務所の住所がメモされた紙をポケットにしまう。事務所なんていらないと言っていたくえすが事務所を持つ、その理由は間違いなく若手GSの育成制度を利用する為だろう

 

(くひひ!面白くなってきた)

 

今日はこのまま帰って寝るつもりだったけど、くえすをからかいに行くのも面白そうだ。ボクはそう思って早足でGS協会を後にし、出るなり見つけたタクシーを呼び止めくえすの事務所へと向かうのだった……

 

 

 

「ふう……やっと手続きも終わりましたわ」

 

机の上の書類の束を見つめて深く溜息を吐く。まさか海外に魔術書を探しに行っている間にノスフェラトウなんていう大物が日本で復活していたなんて……

 

「魔術の実験台を逃しましたわ」

 

見つけたは良いが、丁度良い敵がいなかったので使うことが出来なかった呪文が山ほどある。ノスフェラトウなら良い実験台になったと思うと残念で仕方ないですわね……それが若干の後悔となっていますが、私の事務所を開設する準備が出来たのでこれでいつでも横島を研修に引っ張る事が出来るのでそれで良しとしましょう

 

「本当に運が良かったですわ」

 

神宮寺の屋敷からは遠いが、その変わり横島の学校と家の間に幽霊屋敷として放置されていた物件があったので、そこを安く買い叩いて自分で除霊し事務所兼別邸とすることにしたのですが、暮らしてみると意外なほどの優良物件だった。まず竜脈の上に建っている。次に風水の観点から見てもかなりの吉の方角になるように部屋が用意されており、更には地下室もあり魔法の実験をするには良い条件ばかり揃っている

 

「全く無知な男に感謝ですわね」

 

この物件の前のオーナーは霊感も霊的な知識も無いのに、曰く付きの骨董品ばかりを集めていた。それが竜脈の霊力を吸収し、呪いの品としての力を高め、周囲の雑霊や悪霊を呼び集め、オーナーを呪い殺した。ま、今ではその呪いの品も除念を終えてただの霊具となっていますけどね

 

(優良な霊地にこれでもかと言うほどの上質な霊具……それが2千万で手に入るとはついていますわね)

 

並のGSでは除霊出来ないほどに悪霊が集まっていた。美神や唐巣神父レベルで無ければ手を出す事が出来ない物件であり、除霊依頼も出ていなかった幸運に思わず感謝していると

 

「やぁやぁ!くえす、良い事務所じゃないか」

 

「柩?不法侵入ですわよ」

 

オフィスにする予定だった書斎に我が物顔で入って来た柩にそう告げると

 

「いや?大分チャイムも押したんだけど反応ないし、鍵も掛かってないから悪いとは思ったけど失礼させて貰ったんだよ」

 

……そう言えば、まだ建物自身の設備は終わって無かったですわね……これは私の落ち度でしたね

 

「所で柩。貴女今まで何をしていたんですの?」

 

一応客人なので紅茶のカップを差し出しながら尋ねると、柩はくひひっと笑いながら

 

「ソロモン72柱のゴモリーの宮殿に匿われていたよ」

 

「それはまた……とんでもないのに匿われていましたわね」

 

GS試験の襲撃者であるガープと同じく72柱に数えられる魔神だ。どうやって匿って貰えるように交渉したのでしょう?

 

「向こうが勝手に気に入って、半分拉致されたよ。毎日毎日可愛い可愛いって頭を撫でられるのはそこそこ辛かったよ」

 

「ご愁傷様ですこと」

 

上位の神魔は独特な感性を持っている。柩がその感性に嵌ったから匿ってくれてくれたのだから、それくらいは必要経費として我慢するべきだ

 

「それで?何をしに来たのです?世間話を……「くひひっ!横島忠夫。彼はどうだい?禁忌の魔女様の未来を変えた凡夫を君はどう見る?」

 

柩の口から出た言葉に、今まで腑に落ちなかった何かがすとんっと嵌った気がした。きっと柩が見た未来では私は……きっと……

 

「……悪くない、悪くない男ですわ。ええ、この神宮寺くえすが欲しいと思ったのはあの男がきっと最初で最後でしょう」

 

あの馬鹿は私を救うために命を賭けた。だからこそ私は惹かれたのだ……打算も合ったかもしれない。だが、ただ私を救う為だけに命を賭け……そして私を救い上げたのだ。私をずっと呑みこんでいた闇から……救い出してくれたのだ

 

「ただ惜しむらくは、あの男の1番は私ではないということですわね」

 

私の1番は横島しかいないだろう、だが横島の1番は私ではないのだ。それが無性に腹ただしく、そしてなんとしてもその座を奪いたいと言う気持ちが胸の中に沸くのを抑える事が出来ない

 

「くひひ!いい返事を聞かせてくれてありがとう。友人として祝福するよ……さてじゃあボクはそろそろ帰るよ」

 

そう笑った柩から視線を逸らし、海外で買い付けた魔術書を開こうとすると柩がそうだと思い出したように呟き

 

「横島は君みたいな容姿の女性を好むんだ。チャンスはゼロじゃないよ、ああ、断言しよう。適切な行動を取ることが出来れば君にだって勝利者になる可能性はあるよ」

 

ぼっと顔が紅くなる。未来視が出来る柩が言うのだから、その可能性は少なくとも存在しているのだろう。自身の心音がうるさいくらいに響く……その心音を止めるのに相当苦労し、柩の姿が見えなくなるまで私は胸に手を当て続けていた

 

「ふっふふふふ……そうですか、そうですか……」

 

私に勝ちの目は無いと思っていたので、一時的にでも横島を自分の側に置く事を考えていたが……私と横島が結ばれる可能性があるのならば、止まる必要なんてない。そもそも愛してしまった以上、止まるつもりなんて微塵も無く、なんとしても芦蛍から横島を奪うことだけを考えていたのだから……

 

「良い助言感謝しますわ……」

 

しかし適切な行動と言うのに対して何一つ助言が無かった。私は少し冷めてしまった紅茶を飲みながら

 

「普通ってなんですの?」

 

魔女として生きてきたので普通が判らない、そして適切な行動と言うのも、私のように魔道に関する生き方をしていると、どうしても自分本位の考え方をしてしまうわけで……

 

「どうすれば良いんですの?」

 

1番肝心な所に関するヒントが無く、どうすればいいのか判らない……

 

「と、とりあえず……えっと……どうしましょう」

 

当面は横島を自分の事務所に研修に来させることだけを考えていたのですが、それが適切なタイミングなのか?と思うと不安ばかりが胸を過ぎる。ああ……これはもしかするとあんまり頼りたくないけど、柩のそのタイミングを聞く必要があるのかもしれない……

 

「急に前途多難ですわ」

 

今まで自分の思うままになんでもやって来た。だが、それでは上手く行かない物に初めてぶち当たった私は深く溜息を吐くことしか出来ないのだった……

 

 

 

東京から遠く離れた山中。横島とおキヌが初めて出会った人骨温泉ホテルの近くの山道を駆ける少女の姿があった。薄い水色の髪に赤い瞳と神秘的な容姿をした少女だ。もしここに神代琉璃の存在を知る人間が居れば、彼女との血縁関係者であるというのは一目で判っただろう。彼女の名は氷室舞。旧姓神代舞。神代家の権力騒動に巻き込まれる前に遠縁の氷室家に養子に出された琉璃の血を分けた妹だった

 

「舞!あまりはしゃぐな!危ないぞ!」

 

お姉ちゃんからやっと手紙の返事が来て、嬉しくてシズに会いに行こうとしていると肩に重みを感じたと思ったら、少し遅れて怒ったような声が聞こえてくる

 

「あ。ご、ごめん……ナナシ」

 

大分慣れてきたとは言え私はあんまり運動神経が良くない。ふと振り返ると、いつもはおっかなびっくり降りてくる坂道を既に通り過ぎて

 

いた事に気付いて、よく転ばなかったなあと感心しながら肩の上の妖精に謝る。種族も名前も無い妖精のナナシ、本人曰く既存の妖精とは全く異なる存在らしい、名前は無いと言うのでナナシと私は呼んでいる。背中に木の葉で作った盾を背負い。腰には枝を削った剣を挿している。こんな玩具みたいな武器を使っているが、この妖精はめちゃくちゃ強い。しかもこの剣を使わなくても、短い手足だけでも十分すぎるほどに強い。具体的に言うと、悪霊10体を1人で倒せるほどの力を有している

 

(ぬいぐるみ見たいなんだけどね……)

 

アニメとか漫画に出てきそうな人型で、人間とは全く違う姿をしているし、見た目よりも声がかなり渋いのが若干気になるところだ

 

「姉から手紙が来て嬉しいのは判るが、危険な真似はするな。シズ様にお前を守るように命を受けているワシの立場も考えてくれ」

 

ナナシにごめんともう1度謝り、山の中を進む。氷室家に引き取られてからは神代の家……いや、お姉ちゃんが恋しくて、私がお姉ちゃんになってあげると早苗お姉ちゃんが言ってくれたけど、それでも私はどうしても馴染む事が出来なかった。そして山の中でリスなどと遊んでいるうちに見つけたのだ。小さな小さな、打ち捨てられた社とそんな社に住む……

 

『おお?舞か、よく来たな』

 

かつては山に祭られた神だと言うシズに出会ったのだ。シズは私を見つけると穏やかに笑い、指を鳴らすと葉っぱが巨大化して椅子になる

 

『今の時期は少しばかり木の実なども少ない、我慢せよ』

 

「わ、私そこまで食いしん坊じゃないよ!?」

 

判っておるわとくっくっと笑うシズにお姉ちゃんから手紙が来た事、そして近い内に1度東京へ向かうことを話すと

 

『そうかえ……東京とか言う地の事はワシは知らぬが。ふむ……そうじゃな』

 

シズは何かを考え込む素振りを見せると、地面に手を置く。すると見たことの無い植物が生えて来て、木の実をつける。そしてその木の実はブレスレットのような形に変化する

 

『持ってゆけ、ワシの守りじゃ』

 

「ありがとう!シズ!」

 

シズがくれたブレスレットを両手で握り、暗くなる前に帰るねと声を掛けて私はシズの社を後にするのだった

 

 

 

『それで?お前はいつまでワシを監視するつもりかえ?』

 

舞を見送っていたシズが前を向いたまま声を掛けると、黒い導師服に身を包んだ男の幽霊が姿を見せる

 

【本当に山の神だったのだな】

 

『なんども説明したのに信じておらんかったかえ?』

 

舞にシズと呼ばれていた神はかつて死津喪比女と呼ばれ、この地を滅ぼそうとした悪鬼だった。だがその正体は長い飢饉、闘争による死者の念や憎悪に狂わされ属性が反転してしまった中国の名も無き神霊だった

 

【重ね重ね申し訳ない】

 

『気にしてはおらんよ、アレはワシにも非があった』

 

なんの因果か中国から日本へと渡り、そして偶然見つけた極上の霊地を見つけ。押さえ込んでいた憎悪を押さえきれず暴走し死津喪比女と言う荒神に成り果てたワシが悪い

 

【して真名は思い出されましたかな?】

 

『いいや?まったくこれぽっちも思い出せん』

 

そもそも過去の記憶が無い。大陸から渡ってきた事、長い飢饉の苦しみと戦争の悲しみは覚えているがそれ以上は何も覚えていない……

 

【そうですか、では失礼をワシにもやるべき事があるので】

 

そう言って消えていく導師を見つめながら、拳を作る。だが全くと言って力が入らない、ただここに存在しているだけで、霊脈から霊力を吸収しているわけでもない、だからワシはこのまま蓄えてきた霊力を長い年数をかけて減らして行き消滅するだけじゃろう

 

『消える前にやらねばならぬ事はあるがな』

 

視線の先には封印された洞窟が見える。今思えば、あの娘が居たからワシはこうして正気を取り戻すことが出来たんじゃろうな……ワシは

 

そんなことを考えながら沈んでいく太陽を見つめ続けるのだった……

 

 

 

リポート27 新たな幕開け その3へ続く

 

 




死津喪比女も半分オリジナルキャラへとなってもらいました。メガテンと言えば地霊はそう言うので狂って暴走しやすい立ち居地なので、メガテンの要素を加えて元神霊と言う経歴にしてみました、それと舞さんが連れている妖精はドラクエのコロシリーズみたいな姿をしていると思ってください、声はダンデイボイスですけどね。次回は神界と魔界そしてアスモデウス陣営の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


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その3

どうも混沌の魔法使いです。今回は神魔の今後の方針の話とアスモデウス陣営の話を書いて行こうと思っています

GS試験での戦いで各々の陣営がどのように動いているのかと言う感じの話ですね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

リポート27 新たな幕開け その3

 

アスモデウス陣営への決死のスパイ活動を終えたアシュタロスからの報告を聞いて、ワイ含め全員が首を傾げた。亜空間の攻撃転用は確かに恐ろしい技術や、今まではどうしても倒せない神魔を幽閉する事だけに利用していたそれを攻撃に転用する。これは神魔の長い歴史の中でも類を見ない発想や、無論気軽に使うことが出来ない上に、設備も必要と言う事でそう多用できる攻撃ではないが、下手に基地に攻め込んで全滅となる可能性が出てくるので情報を吟味する必要はあるが……最後の報告。これは流石にありえないとしか言いようが無い

 

「マジでやってるん?」

 

数多の聖遺物の回収。確認しただけで「ジャンヌダルクの旗の柄」「蛇の抜け殻」「アマンナの欠片」……他にも聖遺物をかなりの数集めていたとリポートには記されとるけど

 

「何するつもりなんでしょうね?……正直言って……ガラクタですよね?」

 

キーやんがそう呟く、歴史的な価値はあるかもしれんけど……正直言ってコレクション程度の価値しかない。そんな物を何故集めているんや?

 

「だが魔界正規軍に厳重に保管されていた聖遺物も盗まれているのもまた事実だ。何らかの意味がある」

 

オーディンの居る魔界正規軍の本部から盗み出す……それはコレクションを増やすだけで実行できるような物や無い

 

「アシュタロス。お前さんの意見は?」

 

一緒に行動していたアシュタロスに意見を求めると、私の推察ですがと前置きしてから

 

「ガープが開発した狂神石と言うのは鉱物ですが、生き物と言う特性を持っているそうです」

 

アシュタロスに新しく渡されたリポートに目を通す。血のように紅い石……見た目的な特徴は賢者の石見たいやな……

 

「これに特定の魔族や神族の因子を食わせ、媒体となる物に埋め込むことで擬似的にその神魔を再現するそうです」

 

次のページには写真が添付されており、伊達雪之丞が展開した魔装術をそれを見てワイはボソリと呟いた

 

「バルバトス?」

 

「そうらしいです、魔装術の適性のある人間にバルバトスの因子を吸収した狂神石を与え、擬似的にバルバトスを復活させたそうです」

 

……これはもしかするととんでもない事をガープはしようとしているんじゃ

 

「魔装術に適性のある人間を集め、擬似神魔を増やすか、擬似英霊を戦力とするつもりと言う訳か」

 

黙り込んでいたハヌマンがそう呟くが、アシュタロスは多分違いますとハヌマンの意見を両断し

 

「私は何らかの方法で英霊を直接現界させようとしているのではなかろうかと思っています。義経や韋駄天の事例を考えれば、それはありえない話じゃない」

 

……そうなったら最悪やな。英霊を現界させるだけでガープが満足するとは思えない、英霊を更に強化・改造するくらいは普通にやるかもしれん……

 

「判りました。最悪の可能性を考え、現段階で人間界で把握している聖遺物。魔界や神界で保管している聖遺物の警備を強化しておきます」

 

それくらいしか打てる手が無いって言うのが不味いなあ……とは言え。他にもまだ話し合う内容もあるし、聖遺物の事はここで中断するしかないか……

 

「んじゃ、今度はワイな。今回の事を踏まえて、天界・魔界に常駐しとる英霊を東京に派遣する事についてや」

 

本来英霊は奉り、信奉される存在や。それを人間界に派遣する、それは今までの神魔の常識では考えられない事態だが、今回のGS試験での出来事を考えれば、直ぐに動く事が出来、人間を護ることができ、ガープ達を退ける事が出来……そして

 

「ガープが特異点と呼ぶ横島忠夫の護衛が出来、なおかつ信用できる英霊を派遣するべきだな」

 

特異点が何かはわからん、だがガープが態々攫う事を考えているとなると、間違いなく何か特別な存在だ。それにワイ達からとしても横っちを護る事は最重要課題だ。ワイや、オーディンにハヌマンにアシュタロス。全員でどの英霊を東京へと派遣するかを話し合うのだが

 

「あ。すまぬ、お師匠様が人間界に行くと騒いでいるので、お師匠様は数に入れておいて欲しいんじゃが」

 

三蔵を?割と優秀な聖者だが、どこか抜けている上に人の話を聞かない三蔵が行くとなると、それをフォローできる人材が必要になる

 

「天界からやな。フォローできる人材を頼むで」

 

残念なことに魔界の人材で思慮深いと思われる人物は少ない、更に言えば魔界正規軍に属しているので自由に動かせる人物が居ないのでキーやんのほうで見繕ってくれと頼む事にした

 

「判りました、私の方で何人か選んでおきます」

 

すまぬと呟くハヌマンにしゃーないわと励ましながら、この日の夜遅くまでワイ達の会議は続くのだった……

 

 

 

 

最高指導者からの指示にあった英霊の人間界への派遣。それは天界でも波紋を呼ぶ結果となった、英霊は過去に偉業を為しその魂を昇華させた存在だ。ゆえに人間界へ派遣する事は当然ながら反対意見も多かった。特に武闘派の竜神族はそれが如実に現れていた。人間を見下し、英霊と言う存在も認めていない彼らの反発は凄まじかった……

 

「では、お前達が人間界へ行くのか?」

 

私がそう問いかけるとウッと呻くだけ……嘆かわしい事だ。仮に私が竜神王と言う役職でなければ、私自ら人間界に赴くのだが、それが出来ぬ立場にある事に腹立ちを覚えている上に、反対するだけで自ら動くつもりも無い若い竜神族を見てその苛立ちは限界を超えた

 

「自ら戦場に立てぬ者が私の決断に口を挟むなっ!!!」

 

私の一喝に顔を青褪めさせて出て行く馬鹿者達に思わず深い溜息を吐く。大体英霊を派遣する事だってガープの傀儡となる可能性が高く危険なのだが、神魔は人間界に行くと著しく弱体化する。ガープは何らかの術で能力をある程度維持しつつ、人間界に行く方法を確立している。そんな相手に弱体化したまま正規軍を動かす訳にも行かない、むざむざ相手に戦力を渡すわけには行かないのだから……

 

「英霊か……応えてくれる者がいればいいが」

 

英霊は本来座と呼ばれる異空間に存在している。概念的には最上級神魔の魂の牢獄と同じシステムだ、そこから分霊を呼び出す。しかし英霊は本来は地球の危機や、酷い闘争の時にのみ現れる。人間界で祭られている英霊とかならば、そこに納められた御神体を媒介に出現することがあるが、座に引っ込んでいる英霊を呼び出すことが出来るのか?それが私の不安の原因だった……

 

「確か……今現在天界にいるのは……三蔵法師と……マルタだったか?」

 

老師のお師匠様である三蔵法師。そして竜を従えた聖女マルタ……だったと思う。そこら辺は最高指導者の管轄なので仏教の私には管轄外だ……現にあった事がないのでうろ覚えとなっているのが現状だな……

 

「何にせよ。横島忠夫の護衛は必要だな」

 

ガープが特異点と呼び、捕獲することを考えていたのならば、横島忠夫をガープの手に渡すことは出来ない。保護する必要が出てくるのだが、最高指導者がそれにNOを出している。横島忠夫には素質があるので、それを妨害するような真似は好ましくないとの事だ。それならば護衛をつけると言うのが打てる手段だろう

 

「……そう言えば、清姫はやはり横島の側にいるのだろうか?」

 

ヒャクメに探して貰っているのだが、まだ見つかっていない清姫の事も気がかりだな……

 

「やはり竜神族からも誰か護衛に出すべきか……」

 

とは言え、護衛を任せることが出来るほど信用出来る竜族がいないのもまた事実……信用出来る竜神族は既にその大半が役職に就いており自由に動く事が出来るような立場に無い

 

「全く邪魔な物だな」

 

立場があるから護れる物があるが、その立場のせいで縛られるというジレンマを感じていると……

 

「そうだ。メドーサだ」

 

小竜姫から報告で聞いているが、悪巧みをしているような素振りもないし、実力もまた本物と聞いている。それにアシュタロスがスパイとして活動していることを知っている……護衛として派遣するのならばメドーサ以外の適任は居ないだろう

 

「そうと決まれば……」

 

妙神山にいるメドーサに近い内に人間界へ向かって貰うので、一度私の宮殿に来るようにと言う旨の手紙を送ることにするのだった……なお竜神王は知る由も無いが、その手紙がきっかけで

 

「なんで!?なんで貴女なんですか!?ここは私でしょう!?」

 

「妙神山の管理人が何を言ってるんだい!?ええい!ちょっと落ち着きな!」

 

身体を乗っ取った未来の小竜姫がメドーサへと襲い掛かり、メドーサがその冷や汗を流しながら必死に小竜姫を取り押さえようとすると言う珍事が妙神山で繰り広げられることになるのだった……

 

 

 

最高指導者との会議を終え自分の執務室へ戻るとブリュンヒルデが待っていた。その顔色は悪く、その表情を見ただけで理解した

 

「アマイモン閣下からです」

 

そっと差し出された手紙には、神魔混成軍の幹部としての座を辞任する事と、私への謝罪の言葉が綴られていた。

 

「アマイモンはもう駄目か」

 

独断で人間界へ向かい、ガープを後1歩の所まで追い詰めたアマイモンだが、ガープの亜空間を攻撃に転用した技を喰らい右腕を奪われた……神魔混成軍を編成する際の纏め役として召集したが。正式に神魔混成軍が結成される前にアマイモンが負傷してしまった。確かにその知力があれば隻腕でも十分に活躍出来るだろう。だが責任感の強いアマイモンは自らの独断で負傷した上に無様にもガープを逃してしまった。そんな自分を許すことが出来ないのだろう

 

「どういうことか判りませんが、義手の装着なども出来ず。また怪我の回復もある程度で止まってしまいます」

 

もしかすると亜空間を攻撃に転用すると、怪我の回復を阻害する効果もあるのかもしれないな……本来亜空間は封印などに用いられる。それを攻撃に転用する事で、負傷した状態で固定すると言う効果もあるのかもしれない

 

「申し訳ありません。私が止めるべきでした」

 

ブリュンヒルデが深く頭を下げるが、ブリュンヒルデの責任ではない……だが生真面目なブリュンヒルデの性格では、はいそうですかと受け入れることも出来ないだろう

 

「ブリュンヒルデ。暫く暇を与える」

 

「は?い、いえ!お父様!私はアマイモン閣下の変わりに「良い、良いのだ。ブリュンヒルデ。お前は最善を尽くした」

 

アマイモンが出てくればブリュンヒルデは意見出来るような立場に無い。それに負傷した段階で適切な処置をしたおかげでアマイモンは腕こそ失いはしたが、消滅することは無かった。もし消滅してしまっていたら、確実に1000年は復活することは無い、それを避ける事が出来ただけでも十分な働きをしたと言える

 

「アマイモンとて今の情勢は判っている。本当に不味い状況になれば、その英知を貸してくれるだろう」

 

アマイモンは元々アスモデウス達を配下としていた時期も合った、だから裏で手を引いているのはアマイモンではないか?

と疑われいたが、今回の事でアマイモンの疑いも晴れた。ならば時期が来ればアマイモンはその知恵を私達に貸してくれるだろう

 

「暇と言ったが、実は少し頼みたい事がある、悪いが人間界へ赴いて欲しい。英霊で横島忠夫を護る事が決まったのだが、準備に時間が掛かる。それまでの間、それとなく横島の近辺警護を頼む」

 

竜神王からメドーサを護衛に回すと聞いているが、やはり魔界からも護衛を出さなければ体裁が悪い。それも雑兵では面目も立たない。魔界正規軍副指令と言う役職のブリュンヒルデならばそういった面でも問題は無いだろう

 

「し、しかし私は「失敗したというのなら、これで取り返して来い。敵はガープだけじゃないんだぞ」

 

アスモデウス・アスラ・それに偽の蠅の王……敵はガープだけではない、1つの失敗に囚われ足踏みしている余裕は私達には存在しない

 

「判りました。早急に人間界に向かいます」

 

「ああ、頼んだぞ。ブリュンヒルデ」

 

正直な所、アマイモンの負傷の現場に居たブリュンヒルデに責任を追及しようとしている者も居る。それから逃がす為にも、1度魔界を後にした方がいい、肩を落として私の部屋を出て行くブリュンヒルデを見つめながら

 

「すまんな。ワルキューレ」

 

部屋の奥から姿を見せたワルキューレにそう声を掛けると

 

「いや、問題ありません。父上、私の存在に気付かぬほど気落ちしている姉上です。魔界に残すのは危険でしょう」

 

ワルキューレこそ横島を護りたいと思っているだろうに、その役をブリュンヒルデに譲ってくれた

 

「では続けてすまないが、香港での調査結果の報告を頼む」

 

「はっ!香港にてイレギュラーで逆行してきた美神美智恵と遭遇し、彼女と共に香港を調査した結果。何らかの魔術的な仕掛けが施されていることは確認しましたが、その全容を知ることは出来ませんでした」

 

美神美智恵か……ある意味今回の逆行が許可された元凶と言えるが、必要以上に干渉しようとしないのならばそこまで警戒することも無いだろう……しかし香港に仕掛けられた魔術か……あそこはかつての大戦の折の激戦区だった。そのせいか、天界と魔界と座標が合致していると言う場所だ。

 

「判った。魔術に特化した者を調査に出す。他には?」

 

「香港周辺でも聖遺物の盗難が多発、それと私は遭遇しておりませんが偽の蠅の王が潜伏している可能性があります」

 

偽の蠅の王か……ベルゼブルの力を借りた魔族はかつての戦争の主戦力だったが、今ではそれすらも敵か……とは言え、そこまで脅威ではないだろう。何せ自分の名を騙り、好き勝手しているベルゼバブをベルゼブルが許すわけが無い。近いうちにベルゼブル本人に断罪される事となるだろう

 

「判った。お前も疲れているだろう、休め」

 

失礼します!と敬礼して出て行くワルキューレを見送り、香港にベルゼバブの情報ありと言う旨の連絡をベルゼブルにしたが、決して独断で人間界へ向かうなと念入りに釘を刺す。もしもベルゼブルを誘き出すためにベルゼバブを泳がしているとなると現段階での魔界の最大戦力を態々罠の元へ向かわせる訳にもいかない

 

「……いつまでもお前達の思い通りになると思うなよ……アスモデウス」

 

GS試験では不覚を取り、今も好き勝手にかき回されているが、いつまでもお前達の好きにはさせないと決意を新たにするのだった……

 

 

 

キーやん達がアスモデウス陣営との戦いに備えている頃。アスモデウス達はまたも暗躍を始めていた……

 

「身体の調子はどうだ?ガープ」

 

ベッドで横になっているガープにそう尋ねると、ガープは読んでいた本を閉じ

 

「問題ない。もう数日の内に回復するだろう」

 

アマイモンと対峙したガープの負傷は酷い物だった。何日も意識を失い、呻いていた。このまま消滅してしまうのでは?と不安に思っていたが、回復してくれたようで一安心だ

 

「……まぁお前とセーレが馬鹿な真似をしなければもっと回復も早かっただろうがな」

 

「すまぬ」

 

ノスフェラトウを手駒にしようとして失敗し、更には魔力の残滓を残したせいでアジトが特定されそうになった。その時にガープがその残滓を消してくれたおかげでアジトの特定を防ぐことが出来たが、そのせいで回復に更に時間が掛かる事となった

 

「それでベルゼバブはどうだ?」

 

香港を中心に聖遺物を集めさせているベルゼバブか……真の蠅の王であるベルゼブルの力を魔装術で借り受けた小物は

 

「正直言って役立たずだな」

 

口先だけは立派だが、戦力として数えるだけの価値は無い。精々その無限に増える特性を生かしてスパイ活動や隠密行動に充てるくらいの価値しかないと告げる、するとガープは楽しそうに笑いながら

 

「所詮はその程度の小物だ。だが情報収集能力は使える、もう暫くは利用してやるさ」

 

ふむ?この反応では近い内に切り捨てるつもりか、まぁあの程度の小物は早急に切り捨てた方が良い。自分の命惜しさで我達の情報を魔界正規軍に売ろうとするかもしれんからな

 

「聞いてない!聞いてないぞ!アスモデウス!ガープ!なんだあの化け物は!危うく死に掛けたぞ!」

 

ベルゼバブが血相を変えて飛び込んできたのを一瞥すると、うっと呻くベルゼバブ。本当に典型的な小物だな、ガープが利用価値があると言わなければ迎え入れることも無い下等な魔族だ

 

「化け物?何と遭遇したんです?」

 

どうせワルキューレか竜神族とでも遭遇したのだろう。残滓こそ消せたが、偵察に神魔混成軍から誰か来てそれと遭遇したんだろうと思っていたのだが……

 

「死神だ……あれは死神だった……神魔殺しの死神だ!間違いねぇ!」

 

神魔殺しの死神……だと!?思わずガープのほうを見ると、ガープは心底楽しそうに笑いながら

 

「そうですか、それは失礼しました。まさか神魔殺しの死神が居るとは想定外。約束しよう、近い内にお前にも狂神石を与える、その為には体調を整えておけ」

 

本当に頼むぜ?と言って出て行くベルゼバブ。その姿が見えなくなってから

 

「正気か?あんな小物に狂神石を与えたとしても」

 

「ああ、暴走するだろうな」

 

じゃあなんでそんな奴に狂神石を与えるんだ?と尋ねるとガープはくっくっと笑いながら

 

「まぁ待て、全ては私の傷が治ってからだ……アスモデウス、悪いが適当に兵を動かして撹乱しておいてくれ。そうだな……あえて警護が厳重な所を重点的に頼む、失敗しても構わない。こちらから仕掛けるだけの力があるという事だけを示せばいい」

 

疲労の色が濃いガープに後は我に任せて眠れと声を掛け、ガープの部屋を後にすると

 

「!?これは失礼しました。振り返らぬ非礼お許しください」

 

背後に感じた強烈な魔力……振り返る事をせず頭を下げる。あの方は姿を見られる事を嫌う、故にこれが我が出来る最上級の敬意の示し方だ

 

「構わん、少し情報を与えに来ただけだ。天界から英霊が何人か人間界へ向かう事になった、恐らく横島忠夫の警護だ。良いか横島忠夫に手を出すな」

 

「存じております」

 

横島忠夫は特異点だ。それを手にする事が我達の勝利条件だが、今動き警戒を強めるのは愚策。戦いの中で隙を見て奪うのが最善

 

「それだけだ。これからの働きにも期待している、我の期待を裏切るなよ?アスモデウス」

 

その言葉を残し気配と魔力が消え去る。我は知らずの内に浮かんでいた冷や汗を拭っていると

 

「んー?どしたの?アスモデウス?」

 

ひょこっと顔を出したセーレに何でもないと返事を返し、丁度いい所に来たと笑いながら

 

「出るぞ、神魔混成軍が結成されようとして浮き足立っている今こそが仕掛ける最善の時だ」

 

将が出るからこそ、兵が動く。それに……期待していると言われただけで、血潮が沸く、これを抑えることは出来ない……

 

「了解。兵を集めるよ」

 

まぁ、僕は身バレすると不味いからと近くまでは送るよと笑うセーレに頼む。それから数分後アジトの前に並んだ兵を見つめる、その数は決して多くは無いが誰もが気力に満ちている

 

「さぁ行くぞ!!偽りの平和に終焉を告げるのだッ!!!!」

 

『『『『ウォオオオオッ!!!』』』』

 

我の鼓舞に合わせるように叫びを上げる兵達の先頭に立ち、セーレが作り出した門の先に見えている、魔界正規軍第一師団の基地を見据える。無論兵力はあちらが上だ。ならば時間はかけぬ、素早く攻め込み一気に攻め落とす!

 

「出陣だ!我に続けえッ!!!」

 

『『『『ウォオオオオッ!!!!』』』』

 

我を確認し、警報が響き、精霊石の銃弾が飛び交う戦場を駆ける。人間界での戦いなどは所詮は前座、今この時が本当の戦いの始まりなのだ……

 

この日魔界正規軍の第一師団はアスモデウスによる強襲により壊滅的な打撃を受ける事となる。そしてこの戦いを切欠に、くすぶっていた過激派魔族はアスモデウス一派に合流。その戦力を更に強大にするのだった……

 

そしてそれは奇しくも、横島が除霊試験に挑む日と同じ日だった……

 

別件リポート 本トトカルチョ 今後の予想へ続く

 

 

 




これで第1部は完結となります。日曜日に第1部終了時のトトカルチョの最終結果発表を行い、これで第1部は終了となります。それでは日曜日の更新もどうかよろしくお願いします


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別件リポート

どうも混沌の魔法使いです。今回は第1部完結と言う事で現在のトトカルチョの結果。およびゴモリー協力の下の今後の展開予想などを書いて見ようと思います。倍率が下がった理由とか、あがった理由とかと、今後どうなるかの予想で、賭けに参加している神魔の話を書けたらなあと思っています。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


 

別件リポート 本トトカルチョ 今後の予想

 

GS試験でガープが暴れ回り、人間界に致命的な打撃を与え、魔界ではアスモデウスが動き出し、神魔混成軍が纏まり掛けたタイミングでの奇襲だったので魔界も天界も指揮系統がめちゃくちゃになり、再編には相当な時間が掛かることになった。これに関してはアマイモンが独断で人間界に赴きガープに手痛い反撃を受けた事も関係しているが、それ以上にアスモデウスの奇襲のタイミングが良すぎた。混成軍の編成は時間を少し起き、神魔の最高指導者だけで混成軍が編成される流れとなった。それは奇襲のタイミングや撤退するタイミングの良さから、お互いの正規軍の中にスパイ、もしくはアスモデウス達が使う紅い石で洗脳されている者がいるかもしれないと言う危険性を考慮したからだ。そして今日もキーやんとサッちゃんは難しい顔でこれからについて話し合っていた

 

「……本トトカルチョがうごかな過ぎるんですよ。やはりここは途中でのいくらかの払い戻しや、参加者の心境などを纏めるべきでしょう?」

 

「そやな、ゴモリーに頼んでみよか。ビュレトは確実にキレるからな」

 

……神魔のそれぞれの陣営が必死に建て直しを図る中、最高指導者であるキーやんとサッちゃんはアスモデウス陣営の事ではなく、トトカルチョの事で頭を悩ませていたのだった

 

「いや、私は別に構わないけど……良いの?」

 

そしてそんな2人に呼び出されたゴモリーはそんな事をしていても良いの?と言いつつも現在参加が判明している女性達の内面を紙に書き出していた……

 

「正直打つ手が無いですからね、こうなったらこんな馬鹿馬鹿しい事でもやって隠遁している神魔を引きずり出そうと思いまして」

 

「そやなー。ゴモリーも知っとると思うけど、ソロモン72柱は殆ど隠遁で我関せずやし、上位の魔神も動く気ないやろ?なんか面白いことでやって興味でも引こって思ってなあ」

 

馬鹿な事を考えていると思いきや、案外真面目に考えてるのねと思いつつ、ゴモリーは黙々と現在のトトカルチョの参加者の情報を書き続けるのだった……そしてその日の深夜、隠遁している神魔の上役や現在トトカルチョに賭けている面々に1通の封筒が届けられるのだった……

 

「ほほう?これは判りやすいの。今後の賭けをどうするかの指針になりそうじゃ」

 

「悟空よ。あんまり自分の弟子を玩具にするなよ?」

 

妙神山では小竜姫から隠れてロンと老師がひそひそ話をし

 

「……1度最高指導者を殴りたい」

 

「同意しよう。竜神王。我も協力する」

 

ここ数日寝ていない竜神王とオーディンは馬鹿な事をしている最高指導者に殺意を覚え

 

「……またか、よっぽど暇なのか?」

 

「トトカルチョね……まー暇つぶしにはなるかもねー」

 

そしてキーやんとサッちゃんの思惑通り、一部の隠遁生活を送っている上級神魔の興味を引く事に成功したのだった……

 

『本トトカルチョ 今後の予想♪』

 

神魔の最高指導者より、今回は現在参戦がわかっている参加者の倍率の変化の理由や、今後の動きの予想をゴモリーにして貰いました。送付した予想表を元に今後の予想の参考にしてください、そして1度掛け金の再分配を行いますので、変更を希望する方は封筒に同梱した変化希望にて変更を自己申請してください、なお今後参加者の動き次第で横島の心境に変化があった場合。気持ち程度ですが配当金を配布する事にしたのでよろしくお願いします

 

 

美神令子 1.0→4.4倍

 

トトカルチョ開始の段階では最本命だったが、どうも逆行前の世界の事がトラウマになっている可能性があり。本人の意識してない所で大きな変化をし非常に穏やか性格になり、横島と蛍の良い姉貴分となりつつある。このまま進むと間違い無く横島とのフラグが消滅するが、それを良しとするか、悪いとするかは言えない所だろう。また現段階では上昇となっておりますが、下がる可能性も残っており手を引くべきかは非常に悩む所であると言えるだろう

 

芦蛍 1.3倍→1.1倍

 

今回のトトカルチョ、および逆行を考えた人物だけありやはり今なお大本命であることは間違いない。しかし横島を好きな割には非常に奥手であり、乙女心がまた自ら動く事に抵抗を持っている為。本命ではあるが、いつ動き出すかは判らない、しかし誰が見ても両思いなのでどちらかが告白すれば間違いなく付き合うことになると予想されるが、その場合横島を攫おうと考える参加者の割合が多いのでそれだけで決着とは言いがたいのが大変な所だろう

 

 

メドーサ 2.6倍→2.3倍

 

前回よりも僅かに数値が下がった。これは恐らく自らの冤罪が判明し、妙神山での保護観察に切り替わったのが原因だろう。横島が現在使っている霊力を固定化する術はメドーサが見せた魔装術を元に考え出した物であり、そう言う面では小竜姫と同じく師匠と言う立ち位置に近い。今後の動き次第では更に倍率が下がる可能性もあるが、人間換算で30代後半と言う外見年齢をしていると言う事もあり逆に倍率が上がる可能性もある

 

 

タマモ 5.7倍

 

まだ9本目の尻尾が戻らず妖狐の姿のままなので倍率は未だに高いままだが、9本目の尻尾を取り戻し、人化が出来るようになれば大きく動き出す可能性が窮めて高い。ただでさえ一緒に寝起きをし、基本的に一緒に行動しているので横島の警戒心はほぼ0と言える。だがそれは可愛い家族として物であり、異性として認識しているわけではない。人化を覚えたとしても妹扱いになる可能性もあり、倍率変動の可能性がかなり高いと言えるだろう

 

 

ヒャクメ 3.5倍

 

現在の所はまだ出会っていないので倍率の変化は無いが、未来の自分と完全に融合しているので横島に対する好感度は非常に高い。彼女自身は会いに行きたいと思っているのだが、清姫の脱走やソロモンの今後の動向を探るために仕事が2ヶ月先まで埋まっている為出会いに行ける可能性は非常に低い。ヒャクメ=苦労人もしくは不幸人と言う認識が最近強まってきている

 

 

 

小竜姫(現在) 4.1倍→3.2倍

 

今回でのGS試験での横島の成長を目の前で確認し、非常に満足している様子。またブリュンヒルデと共に行動している間に行き遅れの危険性を認識し、僅かに積極的になった。横島のファーストキスを奪い、更には心眼を授けたと言う事もあり、横島の信頼度も非常に高く、美神に次ぐもう1人の師匠として思われている為警戒心も低くなりつつある。後は小竜姫の心境しだいでは更に倍率が低くなる可能性もあるが、異性との交流がほぼ0の生活をしていた小竜姫がどこまで変われるかが重要なポイントだろう

 

 

小竜姫(未来) 1.4倍

 

逆行してきた未来の小竜姫の精神。ヒャクメと異なりまだ完全に融合しておらず、二重人格に近い形で今の小竜姫の中にいる。当然横島に対する恋慕や執着心が現在の比ではなく、なんとしても現在の小竜姫との精神の統合をっ!と思っているが、恋をしたせいで暴走気味の思考になってしまったので統合は難しいようだ。現在の小竜姫が自分よりになるように色々と精神干渉を行っており、本当に神族か?と言う疑いが生まれつつある

 

 

 

おキヌ 2.4倍

 

彼女も変化が無い参加者の1人。やはり幽霊と言う事もあり、生身ではないと言うのが大きいだろう。しかし横島はおキヌの気性の激しい性格に慣れつつあり、若干怖がっているが嫌ってはおらず。個性として受け入れつつある、もしも生き返る事があれば一躍本命に躍り出る可能性もある

 

 

 

六道冥子 2.7倍→2.2倍

 

GS試験で溢れる母性を見せ、蛍達が一気に警戒心を強めたダークホース。どうもGSは性格的に向いてなかったようだが、妻として必要なスキルは凄まじいほどに充実しており。包み込むような優しさがあることも判明し、年上で女性として均整の取れた体型をしていることもあり横島の好みのタイプであり、GSとしてではなく、近所のお姉さんと言う立ち位置で横島に接することが出来れば本命になる可能性も高いが、言動が幼いのがやはり最大の課題となりそうだ

 

 

 

 

マリア 3.4倍→2.5倍

 

錬金術師であるドクターカオスが生み出した人造人間。以前は身体が金属であるため一歩引いて横島を見ていたが、ドクターカオスとアシュタロスによって人間と同じ機能を持つ有機ボディになった為。少しずつ積極的になりつつある、冥子と同じく母性に溢れ、穏やかな性格に加え。黄金比と言えるプロポーションをしている為積極的になれば本命になる可能性は十分にある。ただしそうなると仲間を増やそうとするおキヌに目をつけられ、ダークサイドに落とされかねないので、如何に自分の安全を確保しつつ、横島にアピールすることが出来るかが重要となるだろう

 

 

 

テレサ 6.9倍→4.4倍

 

マリアの妹である人造人間。姉であるマリアと同じく人間と同じことが出来る有機ボディを持つが、大人の女性の姿こそしているが、生まれてまだ半年も経っておらず、急速に知識を身につけているが人間らしい感情はまだ芽生えておらず、言動こそハッキリしているが、性格は稼働時間に比例しており幼さが目立つ。現在はシズクに家事などを教えて貰いながら感情や性格を成長させているが、恋愛感情はまだ理解しておらず、横島の事は一緒に居ると楽しいと認識しており、それなりに好意は抱いているが、それを好意と認識出来ていないので現段階ではトトカルチョには参加しているが、勝利する可能性が1番低い女性でもある、今後に期待してみるのもありだが、大穴狙いとなるだろう

 

 

神代瑠璃 7.7倍→6.2倍

 

現在の人間界の除霊組織の会長をやっている少女。天界に属する者なら知っているが、神卸しと言う独自の交霊術を持つ神代家の現当主。非常に冷静で大局を見る事が出来るが、あえてお調子者の仮面を被っている切れ者。プロポーションもさることながら青味の掛かった髪と真紅の瞳を持ち、回りの人間を引き寄せるカリスマを持ち合わせている。横島が所有する眼魂と言う謎物質に強い興味を持ち、本人も横島を気に入っていることもあり神代家に迎えることも考えているが、今はまだ神代家の当主として、横島の血を神代の家に入れる事を目的としている為。気に入っているが、恋愛感情ではない。これが恋愛感情へと変わってくると面白いと思うが、今の段階ではテレサと同じく勝利する可能性は低めである

 

 

シルフィー 7.8倍→9.8倍

 

始祖の吸血鬼ブラドーの娘。貴族の娘だが、自分の事は自分でやると言う執事の教育方針により、料理から掃除まで非常に高いレベルで得意としている。容姿も非常に整っており人を惹きつけるカリスマも有しているが、性格面が非常に残念であり、横島の血を大量に吸おうと襲い掛かる為横島には恐れられている。フェミニストである横島も苦手に思い、恐怖している為今の段階での勝利はありえないだろう

 

 

アリス 6.5倍

 

ベリアルとネビロスの義娘。ゾンビではあるが、成長するように特殊なネクロマンシーで作られた身体をしている。天真爛漫な性格だが、やはりベリアルとネビロスの娘であり、子供特有の残虐性も持ち合わせているが、横島には非常に懐いている。時折人間界へ向かうなど好意の高さはその行動を見るだけで察する事が出来るだろう。ただやはり子供なので非常に好意を抱いているが、その好意の種類が問題だろう。現段階では近所のお兄さんに懐いているとの見解が多い

 

 

清姫 5.1倍

 

先代竜神王の孫娘。一時期人間界で暮らしていたのだが、その際に横島の前世に当る陰陽師に恋をしており、横島にも非常に強い好意を抱いているが、それが横島ではなく前世を見ているとの見解を持つ神魔が多く、人気は殆ど無い。これが横島自身を見ていると判れば、人気が出てくる可能性も高いが今の段階では不明。現在は人間界にいることは判明しているのだが、竜族の姫にあるまじき隠密行動のスキルをもっており、ヒャクメの賢明な捜索にも関わらず今もなお発見されていない。もしかすると横島の背後で穏やかに笑いながら、横島を観察しているのかもしれない……

 

 

天竜姫 11.7倍

 

現竜神王の娘であり、天界に属している面子ならご存知だと思うが、角の生え変わりも無しに竜気を使いこなし、更には超加速まで扱うという竜族の秘蔵っ子にして天才児。まだ少女ではあるが、既に高いカリスマを発揮しており、彼女が女帝となるのは間違いないだろう。人間界へ向かった際に横島に出会っており、アリスと同じく非常に好意を抱いているが、やはり近所や知り合いのお兄さんに向ける好意と同じだと推測される

 

 

 

夜光院柩 4.7→3.2倍

 

「超速思考」「完全空間座標知覚」「時間座標把握」の3つの能力からなる未来予知能力を持つ少女。ガープにその頭脳を狙われ、追い回されていた所を魔界正規軍に保護された。少々不気味な雰囲気を持っているが、整った容姿をしており美少女と言えるだろう。自分が予知していた未来を悉く覆している横島に非常に強い興味を持ち、年下は恋愛対象に見ないという横島の恋愛感の破壊を淡々と行っている。私から見れば大本命であり、間違いなく今後のトトカルチョを大きく動かすと断言できる

 

 

シズク 5.5倍→2.7倍

 

彼女の名を知らない神魔は居ないだろう。八岐大蛇の系譜の水神にして竜神。神ではあるが、魔龍でもあり、どちらの陣営にもなりかねない彼女だが、横島を非常に気に入っており、横島の家で家事などをしながら横島の面倒を見ているので、横島が健在ならば間違いなく横島の味方をするだろう。ただし横島に危害を加えれば間違いなく激怒し敵になると思われる、おはようからおやすみまで一つ屋根の下なので横島からは勿論信頼も信用もされている。水神としての姿は少女だが、竜神となれば絶世の美女と言う容姿を持つ彼女だ、もし竜神としての力が強まれば大人の姿を維持するのは眼に見えているので、そうなれば芦蛍を抜いてトトカルチョの本命に躍り出る可能性もあるだろう

 

 

 

神宮寺くえす 124.9倍→0.7倍

 

今回の倍率改訂でもっとも大きく変化したのが彼女だ。最も当らないと思われていたのだが、倍率で蛍を超え一気にトップに躍り出た。ビュレトの魔力と膨大な魔法の知識を持つ彼女はその影響か、感情などにいくらかの障害を抱えているのだが、ガープに連れ去られ掛けた時に横島に助けられ、その前から横島だけは彼女に対して非常に好意的であったのも影響し、横島に対して非常に強い執着心と独占欲を持つ事になった。容姿も恐ろしいほどに整っている上に、年上と横島の好みを全て満たしている。魔法の知識や魔法薬の知識も豊富なのでそういった物で横島の精神を操作する可能性も考えられる危険人物だが、初めて他人に抱く好意に困惑している素振りも見せている為強硬手段に出るとも考えられず。今後の経過に大変注目される人物だろう

 

 

愛子 7.8倍→5.4倍

 

九十九神の少女。本体が机なので学校に居るときにしか横島に会えないが、横島自身も愛子を気に掛けている為学校に居る時は共に居ることが多い。会う事が非常に難しいので今の段階では本命とは言いがたいが、もしも机から離れる事が出来れば本命になることも考えられる。なお本人は認めていないが恋愛脳(スイーツ)で机の中に横島と女性を取り込むと、女性に妙な属性が付与され、学園コメデイが展開されることになる。これを利用すると面白い事になりそうだ

 

 

ブリュンヒルデ 7.4倍→4.5倍

 

魔界正規軍司令オーディンの娘。見た目は穏やかな淑女だが、自分が英雄と認めた相手には病的に干渉しようとする。以前は弟のジークを英雄とし、鍛え上げジークが強い能力を得たので、今度は自分の夫としての英雄を探している時に横島を見つけ非常に強い興味を抱いた。GS試験で人間に化けて戦い、横島こそが自分の英雄だと確信してしまった……ルーン魔術で横島の才能が開花するように手伝うなど今は裏方的なことをしているが、そのうち直接干渉してくるのが目に見えている。現在は魔界正規軍の再編で忙しいので人間界へ向かうことは無いが、それが終わった後が怖いだろう、なお弟と妹はそんなブリュンヒルデを見て嘆いていたりする……

 

 

「まぁこんな物よねー。はー疲れた」

 

硬い文章で疲れたーと呟きながらゴモリーは大きく背伸びをしていたと思ったら、今度は机の上に伏せ

 

「ううう……やっぱり柩ちゃんに会いたい」

 

柩を自分の宮殿に匿っている間に情が移ったゴモリーは柩に会いたいと呟き、机から紙を取り出して

 

「なんとかして人間界にいけないかな……ううん、絶対人間界に向かって柩ちゃんと暮らすのよ」

 

自分の部下の巡回路を丁寧にメモしながら、どうにかしてこの宮殿を抜け出して人間界にいく手段を必死に考えていたのだった……

 

GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!セカンドへ続く

 

 

 

前リポート「別件リポート 本トトカルチョ 今後の予想」の投稿完了にて、第1部を完結とさせていただきます

 

本リポート・別件リポート・コラボリポートで全205話と大変長くなってしまいましたが、最後までお付き合いしていただき、本当にありがとうございます

 

第1部はGS試験終了まで、第二部は文殊覚醒までを書いて行くつもりです

 

第1部の最後でヒロイン力を大幅に上げてきたくえすや、まだ登場していないキャラを含め、第1部よりも登場人物や話のボリュームを上げていけたらと思っております

 

正直連載連載開始時は今更GS美神の小説投稿と言う事で不安の気持ちが強かったですが、頂いた感想や評価のコメントを励みにしてここまで書く事が出来ました。

 

もう1度、言わせて頂きます。最後までお付き合いして頂き、真にありがとうございます

 

既に連載させて頂いていますが、新規小説投稿で「GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!セカンド」として新規連載をしております

 

メッセージにて、第二部の連絡に気付かなかったという旨の物を頂いたので急遽、この別件リポートに付け加えさせていただく事になりました

 

しっかりと連絡していなかった事。大変申し訳ありませんでした

 

 

大変遅くなりましたが、第二部は既に連載しておりますので、続編もどうかよろしくお願いします

 




これにて第1部は完結となります。200話とかなり長い話となってしまいましたが、最後までお付き合いしてくださってどうもありがとうございます。古い作品なので感想をもらえるかなとか不安に思っていたのですが、たくさんの暖かい感想や評価によってここまでくる事が出来ました。1月1日からは第二部として新連載をして行きます。まだまだ全然序章の所ですからね、それでは第二部でまたお会いしましょう


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