蒼き空の騎空団 (闇カリおっさん来ない)
しおりを挟む

騎空団、封印を解く

VHの討滅戦が硬すぎるので初投稿です(半ギレ)


 ――月――日。晴天

 

 今日はおかしな出来事が起こりすぎた。混乱しそうな頭をなんとか押さえつけるために、数ヶ月前を最後に書くのを止めたこの日記を引っ張りだして、ここに今日起きた奇妙な出来事を綴っていこうと思う。そしてこれを機に、また日記を習慣づけようかと思う。これまでのことを思うと引きずられる物はあるが四の五の言ってはいられない。とにかく纏めなければ。

 

 本日の昼もまたお日柄がよく、数キロ先まで見通せるほどの晴天だった。操舵を担当する俺からすればとてもありがたい天候だと言える。俺達の騎空団を乗せる騎空船、『アジンドゥーバ』もいつも通りの速度を出して、俺達は騎空船のメンテナンスのためにガロンバへと向かっていた。騎空船を弄くれるのは俺ぐらいなもので、簡単なメンテナンスしか行えなかったが、ここに最近所々にガタを感じるようになった。

そういえば最後にメンテナンスしたのは二年前程ではなかっただろうか、という事を思い出した俺は行き先をガロンバへと指定。多少魔物に絡まれる等と言った事は合ったものの、それ以外の出来事は起こらなかった。

 

そう、帝国の戦艦が渡航中のこちらに目をつけるまでは。

 

 襲われた理由は覚えちゃいない。とにかく無理矢理なこじつけであることは確かだった。

 『アジンドゥーバ』は元々旅行用に組まれた騎空船である。速度に自信はあっても武装は全くの不得手。基本的に騎空"戦"においては逃げの一手以外の道は残されていない。先程も記述した通り、速度にはそれなりの自信がある。逃げきる事は容易だと思われたが、予想外の事態が起きた。エンジンルームをかするように敵の魔法砲弾が『アジンドゥーバ』の船体を貫通、外からの高熱を受けたエンジンは軽い空回りを起こし始めた。ピストンのパーツが高熱でイカれてしまったのだ。当然速度は下がり、あわや追い付かれると思った時、うちの騎空団においていた居候が帝国の戦艦を爆破させたのだ。

 

「クラリスちゃんにおまかせっ!」

 

 と、なんともふざけた声を上げて。本人は錬金術でやったと言っているが、あんなに派手にぶっ飛んだ錬金術があるのだろうか、アイデンティティーの創成はどこへ行った。

助けた理由を聞けば一食のお返しだ、と言ってきた。ピザを渡しただけでそれとは……その言葉にうちの風祷師役の彼が「気に入ったぞ!」と彼女を全面的に受け入れる姿勢を取っている。お前も一族の長なのだから、もう少し慎重に考えてみろと小言を行っても、高らかな笑い声に流されるだけ。もう少し自覚を持って貰いたい物だ。

 

 さて、帝国はなんとか片付いたが、今の状態ではガロンゾにつく前に『アジンドゥーバ』のエンジンがお釈迦になってしまうだろう。どうしたものかと悩んでいると、錬金術師の少女が提案を持ちかけてきた。

 

「この近くにさ、無人島があるんだ。そこに寄って直せばいいんじゃないかな? うちも錬金術師の端くれだし、少しぐらいはお手伝い出来ると思うんだ★」

 

 無人島がある。その情報を狙撃主の彼女に尋ねると、確かにそのような物が見えると言う。かなり寂れていて、誰もいないことは明白だ、と言えるほどだと。いつまた帝国に眼をつけられるかもわからないこの状況、俺達は今出せる全速で戦艦の残骸から離れ、居候の言う通りにその無人島へと向かった。

 

 数分後、俺も遠くの方にあるお目当ての島をガンパウダーミキサーである彼女と視認して、寂れている、と意見を漏らした。そのまた数分後に無事着岸。しかし、その島は近くで見るとよりはるかに寂れているように見えた。うん千年……いや、うん万年だと言っていた。とにかくそれぐらい前に建てられた物だと知ったのは後の事で、その時の俺は確かすごく古くに作られた物なんだなぁと考えていた気がする。

 おかしなを音をたてて回るエンジンの修理を始めて数十分がたった頃、一つの異変に狙撃主が気づいた。聞けば居候がいないとのことだった。エンジンルームから出て軽く周りを見渡すと、なるほど、確かに特徴的な金髪はいなくなっていた。丁度修理の方も錬金術師がいなければ完了しないといった所まで来ている、どこに向かったかは、ほとんど一目瞭然だったと言える。この島には、一つの大きな廃墟しかないのだから。

 

 風祷師役の彼に留守番を頼み廃墟に入ってみると、予想以上に古い建築物で人の手が入っていないのか、 そこら中に埃が待っていた。彼女は「こんなところで銃器を振り回したくはないな」と言って自慢の銃を背負って腰からナイフを抜く。

俺もそれに倣い白い鞘から美しい刀身をもった剣を引き抜いた。

――少し前に出会った黒髪の男性がお礼と称して渡してくれたこの一振りの剣。「カタナ」と言うらしいが、俺にはよくわからないし、切れ味もいいので普通の剣として振るっていた。

そしてもう片方の手には少々硬めの素材で出来ている杖を取り出す。これでいつもの俺のスタイルだ。

 

 二人して武器を抜き構えた理由は単純、魔物の気配のような物をそこら中に感じるからだ。こんな埃まみれの中で激しい戦闘は避けたいが、そう言ってもいられない。やられなければ食われてしまうのが俺達だからだ。殺られる前に、殺るだけだ。

 しかし、その意気込みはとんだ空振りで終わってしまった。魔物はこっちを見るだけで距離を取って襲ってこようとしない。これに狙撃主は「可能性として、君の変わったスタイルに警戒を示してるだけ、というのがあるが」と述べた。

 

 ――団員の皆からは変わったスタイルだ、と言われるオレ流の戦闘スタイル。近接には杖と剣で一刀一槍、遠距離の相手には魔法をばらまく。器用凡庸の俺には丁度いいスタイルなのだが、普通はあり得ないんじゃないかと言われたこともある。結構使い勝手はいいのだが、理解されないことは悲しいことだ。

 狙撃主の意見に、俺は「それはない」と否定した。距離を取っているだけなら警戒しているようにも思えるが、それだけでなく魔物からは敵意すら向けられていないのだ。どちらかと言うと怯えのような何かだった。

 

「やはりそうか。だとすればやはり彼女が問題なんだろうな」

 

 彼女とは誰だ、その問いを口にする前に俺は理解してしまった。奥の方から、小さいながらも爆音が響いてきた。それを聞いた周りの魔物たちは体を震わせてあっという間に逃げ出してしまう。なるほど、彼女のせいか、と納得した。

 少し進んだ先に今までの道とは違った広めの部屋に出たとき、漸く視認できた。うちの居候が、そこの座り込んでいた。

 

「あ"ーっ……疲れたぁ……」

「一人で突っ走るからだろう」

「あっ……団長さん」

 

 手をうちわのようにして扇ぐ居候とそんな会話してる間、狙撃主はそっと側を離れて周りの警備にあたってくれる。彼女には色々と助けてもらっている、今度またお礼をすべきだろうか。クムユと一緒に考えておこう。

 話が逸れたので書き戻そう。居候に何故突出したのかと聞くと、ここは自分としても因縁の場所なのだと語ってくれたが、それ以上は頑なに語ろうとはしなかった。探ろうとしても星を飛ばして笑うだけ、こいつも族長(あれ)と一緒なのだろう。

 

 周りから何か情報を得られないかと見渡す。その時に気づいたが、部屋は書斎のようで、至るところに爆発の影響で崩れたであろう本の山が散らばっていた。

しかし、本と一つの机しかない部屋でも異彩を放っている場所があった。部屋の奥、一本の杖が安置してある祭壇のような飾りに、目を奪われた。

他の物とは明らかに相違点が見られるそれに、俺の体が引き付けられる。居候は後ろで制止の意を叫んでいたらしいが、その時の俺には全く聞こえなかった。

 杖に手をつけそれを引き抜く。杖は銅色をしていたが、素材はそんな貧弱な物ではないと言うことは握った感触で理解した。

恐ろしい蛇の彫刻をそのまま縦にぶっ刺したような見たことのない歪な杖からは、とてつもない力が感じられる。軽く降るだけで並みの魔物を屠ることが出来ると確信させてくれるその力。

 

 その時だった。右耳の虹色の宝石が突然輝き出す。と、同時に魔方陣ではない幾何学的な陣が現れる。しかしそれも宝石の強い光を浴び、目の前で砕け散る。

すると砕け散った陣は粒子へと戻っていき、祭壇に人型になるように集っていく。いや、こちらの方が戻っていくと表現する方が正しいのだろう。

 数秒もしない内に、粒子はまさしく人となった。

 流れるような無駄なハネ一つない金髪、鮮やかな紅い布地を纏う人物の身長はクムユと同じぐらいだろうか。

 眠っていたように瞑られていた瞼は開かれ、紫色の瞳に光が灯る。

 

「けほっ……けほっ……。やっと、封印が解けたか……」

 

 粒子から生まれた女が放った最初の一言は、そんなものだった。

 

(次ページに続く)




廃墟がある島等には一切触れられてなかったので独自解釈を入れました。これからも触れられていない部分に関しては今回のように独自解釈を挟んで矛盾のないように展開していこうと考えています。

Q、貫通したらエンジン誘爆するんじゃね?
A、知ら管


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騎空団、開祖に出会う

水着ダヌアちゃんとヴィーラちゃん当てました(ドヤ顔)
尚2kが飛んでいった模様
白虎のExtremeが堅すぎるので初投稿です(半ギレ)


――月――日 夕時。彼の記憶

 

 その少女は違和感を放っていた。その見た目、その眼、その口調、その気配。存在するには足り得ているが、違和感を拭うにはまるでと言っていいほど足りていない。

両境界に片足ずつ突っ込んでいると言えば分かりやすいかもしれない。こちら側なのにあちら側。彼女の前ではあらゆる境界線が曖昧になるような気がした。

 その後彼女はぶつぶつと何かを呟いていたが、こちらに気がつくと満開の笑顔を見せて口々とこちらを褒めてきた。美しい笑顔だし、綺麗な笑みだと思う。しかし俺達の気を許すほどではなかった。

背後の狙撃主がマガジンを装填する音が聞こえる。居候は本を捲り、俺はカタナを静かに握りしめる。

 

「……チッ。そう簡単に隙を作らせてはくれないか。オレ様の世界一可愛いスマイルを拝めたんだから、もう少し顔を綻ばさせてもいいんだぜ?」

「君のそれがなければ、そうしていたかもしれないな」

 

 彼女が嘲り、狙撃主が一気に気を爆破させる。祈る余裕も与えないつもりだろう、お互いに歩み寄る余地はなかった。

 

「なら、次あった奴らには、上手くやるとするか」

 

 ウロボロス、と彼女が何かに呼び掛けた。一秒もたたない内に虚空に火が付き、まるで竜のような姿に形成されていく。いや、"竜のような"ではなく、炎が振りきれた先に見えたのは紛れもなく龍だった。

焔のような甲殻を見にまとった、恐ろしくも龍として完成された美しい姿。

呆けているこちらの姿に満足したのか、にんまりと笑みを深める彼女に狙撃主がトリガーを引く。

 それが開戦の合図となった。ウロボロスは主に向け放たれた弾丸を気にもとめずに、カタナを構える俺へと牙を剥ける。

猛然と突っ込んでくる龍、速度はそれほど出てはいない。回避は少し体を捻るだけでも十分だった。この程度ならば後方の二人にも当たる心配はないだろうと踏んでいた。事実、既に二人は回避行動に移っているようだった。

最初はのろまのような速度をした弾丸は、徐々にその弾速倍々に上げて彼女の額へと向かっていく。しかし彼女の笑みは変わらず不気味なほどに裂けている。まるでギリギリを楽しんでいるかのような、狂喜の混じった笑顔。

やはりと言うべきか、笑みを浮かべる余裕は本当だったらしく、マッハ20を越えた弾丸は突き上げられた岩によって塞き止められる。もちろんただでは止まらずに着弾した際に莫大な余波を起こすが、余程硬い素材で出来ているのか弾丸が岩を突き抜けることはなかった。

 

「媒体も開かずになんて練度の錬金術……ッ!」

 

 後方から居候の声が聞こえてくる。彼女の事情を知っているのか、その声は苦しそうに聞こえ、表情を想像させるには十分な物だった。

なるほど、一秒もかけずに岩を展開したあの術。魔法の物かと思ったが、あれが本場の錬金術というものか。

 

「見事な物だな」

「当たり前だ。オレ様は錬金術の開祖、カリオストロだぞ?」

「かり……なんだって?」

「カリオストロ! 次間違えちゃったら、カリオストロ、おこだからね!」

 

 先程までドスのきいた低い声だったのが、急に甲高くあざとい声色に変わった。ちぐはぐだ、わざとなのかどうかは理解できないが、彼女は非常に気分屋らしい。そして、それが彼女の歪さを表現しているようにも見える。

 

「ウロボロスッ!」

 

 空中を舞っていた龍が速度をつけて一気に下降、再び俺たちの命を噛み砕こうと迫ってくる。回避も出来るが、そうは目の前の彼女がさせてくれそうにもなかった。注視せずとも分かる、小さな手には媒体である広げられた本が展開されている、回避運動をすれば一秒もたたずと突き上げる錬金術に串刺しにされるだろう。

だがそう簡単にいかせないのはこちらとて同じだ。

 

「伊達や酔狂で杖を持っている訳じゃない」

 

 蛇の杖――あの龍に串刺しの蛇が似ているから『ウロボロス』とでも名付けようか――に彼女との距離の分だけ魔力を込める。込められた魔力の危険性に龍も気づいたのか、俺へと進路を変更して速度を倍にして牙を剥ける。このままでは俺は立派な餌として腹の中に収まってしまうだろう。そうさせないのは美少女天才錬金術師こと居候だ。

 

「どっかーんっ!」

 

 ふざけたかけ声とは裏腹にその威力は手投げ爆弾の比ではない、廃墟を揺らすほどの爆音が鳴り響く度に龍の姿勢はガクガクと吹っ飛びながら変わっていく。自己紹介の時の自信は嘘ではなかったようだ。

 

「おいおい。オレ様の錬金術になんて荒い事しやがる。これじゃあ台無しだっての」

「ごめんねー★ うちにはこれぐらいしか得意なことがなくてさっ」

 

 先ほど錬金術で手伝えるとかほざいていた気がするが、一体何をするつもりだったんだ。爆破して何を解決させるつもりだったんだ。非常に気になるが、そんなことを考えている暇はない。こちらの攻めるための準備は整ったのだから。

 魔力は既に充填済み、狙撃主もベストポジションに配置した。避ければ撃つ、避けなければ臓物と一緒に貫かれる。さっきしたことのお返しをさせてもらおうか。

 

「ぶち抜くッ!」

「もう二度も外しはしない!」

 

 魔力を爆発させようとした、その時だった。「馬鹿が」と、小さな声が嫌に響いた。

 ズブリ、と皮膚を貫く感触が杖を構える左腕を襲った。瞬間に腕の感覚が失われ、杖が地面に落ちる。いや、杖を持った腕が地面に落ちた。

 肩があった場所には、代わりとして刃となった岩のオブジェクトがそびえたっていた。

 ――切り落とされた。

 そう気づいたのは数秒後の事だ。

 

「団長ッ!」

 

 まるで切断面を焼かれているかのような熱量の痛みに、目の前が点滅とする。そういえばうちには回復役がいなかったなぁ、と軽い現実逃避した考えが浮かび上がる。くっつくのだろうか、片腕のままは嫌だなぁ、なんて事も思っていた。

ベストポジションの狙撃主が龍の尾に吹き飛ばされるのが見えた。かなり痛そうだ、いや、これよりはマシかもしれないけど。

居候の本は彼女の錬金術で吹っ飛ばされていた。媒体がなければ錬金術の精度はかなり下がると聞いたことがある。彼女も戦闘は不可能に近い。

 

「オレ様に勝とうなんざ、千年早ぇんだよ」

 

 真紅の龍を撫でながら、岩の玉座に座る彼女はそう言い放った。丁度良い準備運動にはなったかもな、とまで言ってくる。

 

「封印が解けた謎が残るが……。まぁいいか。ウロボロス、飯だ」

 

 ガチン、と牙を鳴らして龍はゆっくりと近づいてくる。あぁ、ここまでだろうか。しかし、死ぬのも悪くないかもしれない。この耐えきれぬ痛みから解放されるのなら、それもいいかもしれない。いや、多分そっちの方がいいんだろう。

天は既に舞い上がった龍にでも喰われてしまったんだろう。嫌なことばかり起こりやがる。にっくきあん畜生め、俺食って腹を壊しちまえ。

 戦意も尽き果て、仰向けで寝転がっていたその時、ガコン、と天井が崩れた。それに続いて周りの天井もジグソーパズルのようにボロボロと落ちてくる。廃墟が、崩壊する。

 

「なっ。……まさかあのガキ共、オレ様の封印が解かれる事まで考えて……。くそっ!」

 

 彼女が何やら酷く焦っているが、これは逃げるチャンスだ。天はまだ生きていた。虹石のピアスを握り締める行動、それだけで石に眠る彼女は俺の意思を汲み取ってくれた。

石から輝かしいオレンジの光が迸る。雷のように空へと走った光は、一秒もたたずに地面へと降り落ちた。

閃光が辺りを塗り潰す。すぐに色を取り戻した世界に降り立ったのは、一人の女性と猛々しい大獅子。

 

「キュベレー」

 

 小さく呼び掛けた。それだけで彼女は撤退をするために俺と周りの仲間たちを次々と獅子の背中へと乗せていく。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 先程までの鋭かった声は、どこへやら。情けない声をあげたのは金髪の彼女だ。

 

「封印が解かれたばかりで、体が思うように動かない。オレ様のボディーは特別製と言っても、こんな質量に押し潰されちゃあ流石に死んじまう」

 

 つまり、カリオストロはこう言いたいらしい。助けてくれ、と。しかしそう言うのは流石にプライドが許さないのかとても遠回しに同情を誘うような言い方で告げてくる。

 

「もちろん無料じゃない、お前の腕をくっつけてやる。このボディーを作ったのはオレ様だ、腕の一本や二本、くっつけてやる。だから……!」

 

 なるほど、かなり魅力的な提案だ。俺のスタイルは両手が存在している事が前提条件だ。片腕を切り落とされた今じゃ、俺はかなり戦いにくいどころか前線に出れるかどうかも分からない。というより、完全に足手まといだ。

だが一本の恨みは晴らさせてもらう。

 

「……ごめんなさいは?」

「はぁ?」

「人の物無くしたんだ。ごめんなさいは?」

「お、お前、そんなこと言ってる場合じゃ……!!」

 

 天井の一部が瓦礫としてまた一つ降ってくる。丁度彼女の頭上にあったらしく、ますます情けない悲鳴を上げて転びながら避ける。もはや涙目になっているが、それでも関係なしに告げる。ごめんなさいは、と。

カリオストロからすれば、言いたくない言葉のワースト5には間違いなく入るであろうその単語。それを強要するこの状況はかなりの屈辱だろうと踏んでいる。

 

「ご、ごごご……」

 

 あまりの屈辱に体を震わせるカリオストロ。正直、もうかなりスッキリしている。

 

「ごめんなさぁぁいっ!」

 

 それを聞いたキュベレーの動きは素早かった。一回の飛び込みで距離をつめ、鞭で彼女の体を縛り上げ、反転、猛スピードで出口へと駆け抜けていく。

 

「ふぎゅっ!? お、おい! 瓦礫が当たってるっての! もうちょっと丁寧に……! んの、聞いてんのかお ば さ ん!!」

 

 ギアが二速から六速に上がった。

 

「みぎゃあああああああああああッッ!!」

 

 哀れ彼女はボロ雑巾と化した。




カリおっさんならノータイムで相手の臓物貫くぐらいは出来そうだと思った。しなかったのは、ウロボロスのご馳走が臓物ということにしておいてください。

Q.何!? 星晶獣が呼べるのは、ルリアやオニキスだけではないのか!?
A.集いし星が、新たな絆を呼び起こす(至言)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騎空団、錬金術師を率いれる

ゼタちゃんが出ないじゃないですかーっ!やだーっ!
あぁ^~お金がピョンピョンするんじゃ^~
やっと来たSSRもハゲ親父でした。己れゴルゴム、ゆ゙る゙ざん゙ッ!


(前ページからの続き)

 彼女のその異様な雰囲気は俺たちに彼女が味方ではないことを悟らせるには十分すぎるほどだった。力の差は歴然なのは分かっていたが、彼女から滲み出る強者の威圧は逃げることを決して許しはしなかった。

 狙撃主の発砲から始まった彼女との戦いは熾烈を極めたが、廃墟の崩壊のどさくさに紛れて逃げるチャンスを得た。居候や狙撃主、そして俺もボロボロにされたがなんとか最後の力を振り絞ってキュベレーを呼ぶ。

キュベレーは俺の親のような存在だ、だから名前を呼ぶだけで込められた意を読んで行動に移してくれる。これには本当に昔からお世話になっている。

逃げようとした時に金髪の彼女が助けを求めてキュベレーに鞭で雁字搦めにされ、引きずられるというコメディでバイオレンスな出来事があったが、当の本人は廃墟から出た時にはケロっとしていた。普通はもっと血が出たりとかすると思うのだが、問う気力はとっくの前に失われている。キュベレーにそれとなく視線を向けたが、ふんわりと笑うだけで答えを提示することはしてくれなかった。金獅子は心配してくれてるのか顔をちろちろと舐めてくれた。とても可愛らしかった。

 

 カリオストロと名乗った彼女は脂肪と筋肉と骨が覗く断面から血を流す様子を見てか、すぐに対価にと治療を始めてくれた。カリオストロは錬金術師でありながら人体の構造にはかなり詳しいらしく、離ればなれになっていた肉と肉を瞬時にくっつけてくれた。聞けばかなりの錬金術師、というか錬金術の開祖らしく、これぐらいは朝飯前と胸を張っていた。

 錬金術の開祖、と言われてもそっち方面に知識がない俺にはまるで意味が分からなかったが、居候から聞けばかなりすごいことらしい。錬金術が生まれたのが3000年前であるから、開祖と名乗る彼女も少なくとも3000年は生きているのだと言う。カリオストロはそれを聞いて1000年は封印されていたから3000歳ではないと怒っていたが、結局は2000歳以上のおばあさんには変わりないと思ったのだが、せっかく繋がった腕をまた切り落とされるのも嫌だったためこれからも黙っておくことにしておこう。

 そういえば狙撃主はどうしたのだろうと居候に聞こうとした所で、思った以上に血を流していたのか、俺の意識がそこで途切れた。

 

 次に目を覚ました時にはアジンドゥーバの船内にある自室で寝かされていた。窓から降り注がれる光は柔らかい月光で、今が夜であることを示していた。

ふと側に目を向けると、錬金術師コンビが肩を寄り添いあって仲良く寝ていることに気づいた。少々頭に血が足りていないように感じたが、自分にかけられた毛布を二人にかけて部屋を出た。どうしようもなく、外の空気が吸いたくなったのだ。

 

 甲板に出ると、ネツァが迎え出てくれた。やれ大丈夫か胆が冷えたぞと心配の言葉を投げ掛けてくれる友人に貧血気味なだけで問題ないと返した。

 ネツァとは長い仲になる。大体三年ぐらいだろうか、困っていた彼が進空式を終えた俺の船に飛びかかってきたのが始まりだったはず。最初は突然の侵入なこともあって無理矢理蹴落とそうとしていたが、事情を話した上で何卒何卒と言う姿に蹴りをいれ続けるのは少々良心が痛んで、仕方なしに乗船を認めた。

あれからもう三年か、なんて漏らすと長いものだなと返してくる。その後の言葉は続かなかったが、その距離が俺にとってはなんとも心地よい物であることは間違いない。お互いに襲った苦楽について思い出している時間に、どうして文句が言えようか。

 その後も数分問答を続けていたが、結局最後には血が足りないのなら肉を食えと甲板から押し出されてしまう。少々心配しすぎではないだろうかと思ったが、血が足りないのは確かだしなによりも腹が減っていたのもあって特に寄り道もせずに食堂へと足を向けた。

 

 食堂で迎えてくれたのは我が騎空団の狙撃主であるシルヴァとその助手であるクムユだった。ぶっ倒れたというこをシルヴァから聞いたのか、こちらの顔を見て最初に言葉をくれたのはクムユだ。

彼女は距離をつめてきて「てやんでぃべらぼうめぃ」とハンドガンでぽかぽかと何度も叩いてくる。一体何なんだと困っていると、シルヴァからかなり心配していたらしいとの由を聞く。

 クムユは一部の装甲以外は小さいが、こう見えてもうちの騎空団の団員No.3だ。ネツァの次に付き合いが長いと言えるだろう。と言っても入ってきたのは団員No.4こと狙撃主シルヴァと同時期。つまり二人との付き合いは同じくらいだ。

大体一年前ぐらいだったか。今書いていてもかなり懐かしいと思える。

とは言え話を剃らすのは俺の頭によくない、続きを書くとしよう。

 特に何かしたでかい恩を売ったような覚えはないのだが、クムユは俺を兄としたってくれる。強がりの時には"兄貴"と、怯えている時にはにいちゃんと呼んでくれる。うちの妹弟たちとは大違いの可愛さだ、是非とも見習わせたい所だ。

 話を戻そう。そこまでとった覚えはないが、どうも剃らすと筆が進んでしまうのは歳のせいだろうか。

 クムユとしても兄貴分の腕がぶった斬られ、貧血で倒れた等と聞いて平常心ではいられなかったのだろう。多分、色々と嫌なことも考えてしまったんだろう。そんなことも露知らずに腹が減ったと食堂に入ってきた本人があんまりにも呑気だったからちょっと怒ってしまったのだと推測した。100%とも言えないが、かなり当たっているような気もする。

 暴れるクムユを静めながら「悪かった、反省している」との由を伝えると顔を真っ赤にして立ち去ってしまった。正直、書いてる今でも理由が分からないがシルヴァによれば「団長には怒ってはいない。安心しろ」と言われる。じゃあ一体何に怒っているんだ。

 数分後、帰ってきたクムユがシルヴァと一緒に飯を作ってくれた。軽い物で野菜のスープとパンだけだったが、とても美味しく出来ていた代物でスープだけ三杯おかわりしてしまった。食いしん坊と思われたのかクスクスと両者に笑われてしまった。少々恥ずかしい。

 

 久しぶりの日記だと言うのに書きすぎた。それだけ混乱していたのは否定できないが、何も2ページに渡って書かなくともよかったかもしれない。次からは出来るだけ続くように軽いノリで書いていこうと思う

 

 

――月―a日。晴天

 

 昨日よく眠ったからか、そこまで寝付くこともなく起床時間よりも早く起きてしまった。早起きは三文の得、と言ったのは誰だったか。もう覚えてはいないが、使いやすくて未だに忘れられない熟語の一つだ。

 樽一杯の水を桶で掬ってから顔を洗う。島が点々とあるとは言え、空の上で口に出来るのは空気や雲だけで水や食物はそう簡単には手にはいらない。たまに食材が向こうから飛んでくることもあるが、騎空艇の大きさに恐れて近づかない魔物の方が多い。特に、空の上では水はそう簡単には手にはいらない。今ではアウギュステにしかないそうだが、この世界にまだ海と呼ばれる物が溢れていた頃は掬って飲んでいたと伝え聞くが、法螺吹きも良いところだろうと思う。

何が書きたいのかと言うと水はとても貴重であるということだ。それをこんな贅沢に使えるのも、一重にシルヴァのお陰だ。

彼女の素養は青らしく、水やそれに近い氷等が扱えるらしい。残念ながら彼女にはそのような物を自在に操れるだけの才能はないようだが、今は才能がなくとも機械がなんとかしてくれる時代。青の素養を持つ者が魔力を送ると水が出てくる機械なんて代物まで存在する。これのお陰で我が騎空団の喉は常に潤っているわけだ。本当に足を向けて寝られないな。

 頭がスッキリしたせいか、騎空艇である『アジンドゥーバ』の整備がまだ終わっていない事を思い出す。これでは出航できないと急いで機関室に向かうと、かなり目立つ輝きを放つ二人組が目にはいる。

金髪コンビのカリオストロとクラリスであることを察した俺は適当な挨拶を送ってから疑問をぶつけた。

何故ここにいるのか。

 二人の答えは至ってシンプルな物だった。

 

「これからうちらの船になるのだから最善の整備をするのは当たり前でしょ★」

 

「そーいうこと。よろしくね団長さんっ☆」

 

 これには流石の俺も慌てふためいた。何故ならこの二人、明らかに大騒動を起こすような物を大量に持ち合わせているからだ。特にカリオストロなんて存在そのものが大問題だ。錬金術師の開祖で、3000歳で、ロリっ子だ。

古来よりロリっ子というのは絶対と言っていいほど物語の主人公に問題をふっかけてくる存在だ。そんな存在が目の前で団員になるなどと言われては、断るという道以外残されていない。

 当然俺は断ったのだが、当然引かないカリオストロは俺達との力の差を使って脅してくる。

確かに俺達では彼女の実力にも経験にも、さらにはセンスや才能にまで束になっても敵わない。今ここで騎空艇ごと爆破したって彼女はピンピンしているだろう、あのキュベレーの引きずりに耐えれるという事実は彼女の異常な程の耐久力を示しているのだから。

 けれど彼女は、それをしないと約束してもいいと言ってくる。何故か、色々と長ったらしく喋っていたが、つまりは俺に興味があるらしい。向こう側でもない人間が星晶獣を召喚した、というのが彼女の研究者としてのスイッチを入れてしまったらしく、それが解明できるまでは離れないとまで言われた。

 ありがとう神様、おかげで一生一緒に居てくれる相手ができました。例えそれが研究者で、自分をモルモットとしか見てないとしても僕は嬉しいわけがあるか堕ちて死ね。

 結局実力と団員の無事を材料にされては断れる訳もなく、俺は白旗を上げ彼女たちは喜んだ。だが何故居候まで団員にしなければならないのか……理不尽ではあるが受けてしまったものはもう撤回できない。団長として、なんとかあの破天荒共をまとめなければならない。先程あった空賊達の虐殺を思い出しながら、今日はこれで筆を置こうと思う。




Q.日記って?

A.あぁ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騎空団、団員No.2

我が騎空団である『チーム満足』に誰も入ってこないので初投稿です(半ギレ)


 この無限の空の下、騎空団がひしめき合う今の世の中。ある者は人を助けるため、ある者は星の島を目指して、またある者はまだ見ぬ宝を求めて、様々な思いが交錯しあう雲の上。

ここにも一人、旅をするために騎空団に身を置く男がいた。

 名を"ネツァワルピリ"、高山に住む誇り高き『翼の一族』の民の頂点に立つ若き長である。

 彼の団での役割は『翼の一族』で培った風の流れを感じる能力でそれを正確に読み、少しでも危険の少ない道へ導くことである。船のマストの見張りの足場に立つ彼、至るところに鷲を現すようなディティールがこされた鎧に、歴代の長に代々受け継がれてきた鋼の槍を担ぐ彼の姿はまさに人を導く長の姿に他ならなかった。その鋭き鷹の目は、ある一点を睨み付ける。睨み付ける先にはまるで重くのし掛かるような暗い灰色、その合間から覗く稲光が不安な行き先を暗示しているようだった。

 

 積乱雲、騎空団となった者ならば一度は襲われる自然の脅威。

ただの雲とて侮るなかれ、積乱雲の中は氷晶と雨粒が強烈な上昇気流により留まっており、この中を入るものならそれらがあらゆる方向から飛び交ってくる。また、積乱雲内部にはその厚すぎる雲のせいで光が全くといっていいほど届かない。時折氷晶同士がぶつかり起こる稲光が、暗闇を強烈に走るだけだ。

 

 入ったら最後、当たれば即死の雷が走り回り、先も見えずにただ乱気流にもみくちゃにされ、少しずつ体が凍りついていく音を聞くことになる。

 

 さらに上昇気流に打ち上げられ雲頂に登ったものならもう命はない。氷点下の中、荒れ狂う寒風に打ち付けられ、ただ静かに氷付けになるだけだろう。実際、そういうオブジェが島に流れ着いた事もある。

 

 この事から積乱雲は騎空団の中では恐れられており、年老いは死の象徴としてキツく子供たちに語るという。

その死が視線の先に広がっていようと、ネツァワルピリは狼狽えない。ネツァワルピリとて幼き頃には先代から積乱雲の恐ろしさは教わっており、流れ着いたオブジェも見たことがある。その恐怖は人一倍分かっているはずだ、だがそれでも恐れに体を竦めたりはしない。彼が『翼の一族』で、長だからだ。

 

 誇り高き戦士を恐怖させるにはこの程度のことではまるで足りないのだ。威圧も、殺意も、覚悟も。ただただ起こった事象に、何を恐れることがあろうか。いつだって恐れるに足りるのは、自身の恐怖に他ならない。だからこそ彼は克服の道を歩むことこそ勇気だと信じている。

 

 そう、まさに今がその道の一歩を踏み出すときなのだ。ネツァワルピリはただ一言、開戦の言葉を告げる。

 

「どうやって降りようか……」

 

◆◆◆

 

 騎空艇『アジンドゥーバ』を持つ騎空団こと『フライハイト』、本日は珍しく帝国や空賊、また見境のない魔物等に襲われる事もなく実に平和に航空中だった。目の前には恐ろしい積乱雲が広がっているが、そもそも積乱雲があることなど数時間前から気づいている。既にルートは変更済みで、上昇気流や下降気流に巻き込まれることもないだろう。

ガロンバで騎空艇を修理して数日がたった今、『アジンドゥーバ』は修理を行った技師に受けた借りとして押し付けられた仕事、故郷で待つ妻と息子へ物を届けるだけの仕事を果たすために静かな村島に向かっている。

 

 こんな仕事で気を付けることと言えば地図の向きや台風や積乱雲等の自然災害、襲いかかってくる空賊や魔物ぐらいな物だ。

時々エルステ帝国の騎空艇部隊である『鷹派』に目をつけられるが、彼らの本来の仕事は空賊や指名手配犯を拘束することである。流石に帝国を見かけたらルートを急変更するような怪しい挙動をする騎空艇には拘束に向かうが、のんびりと荷物を運ぶ程度であれば荷物からの魔力反応を確認されて終わる程度だ。

 

 だからこそ、ネツァワルピリは油断していた。

急ピッチですることがない今、他のメンバーが甲板に出てくることなどほとんどない。つまり、甲板に降りることが出来ないのだ。何故と気になるだろう。

少々話が変わるがこのネツァワルピリ、その戦法は自慢の脚力で空中を飛び回り、鋭い一撃で奇襲するという物だ。まさに『翼の一族』と名乗るのに相応しい見事な闘いぶりを見せてくれる。

ここで話が戻る、何故降りられないのか。実は彼、『高所恐怖症』なのだ。

 先程空中を飛び回って見事な闘いぶりを見せてくれると言ったばかりだが、事実彼は飛び回るのが嫌いだ。しかし、一族の伝統に基づく戦法を長の責任感を持つ彼はどうしてもそれを無視することが出来なかった。なので仕方なく内心震え上がりながら空中を舞う。

だが残念ながら今は戦闘中ではなくのんびりとしたおだやかな時間。当然気も抜けているし降りるだけで引き締めたくもなかった、だからこそいつもは誰かの力を借りてなんとか甲板まで降りている。しかし、今は上記した通りの状況だ。

 

 団長である彼は操舵士でもあるからいつもならこちらの様子を気にしてくれたりするのだが、ネツァワルピリにとっては運悪く次の島までは後はもう真っ直ぐ行くだけだ。これぐらいなら風による傾きを修正してくれるだけのオート機能に任せておけば団長が手綱を引く必要もない。多分、部屋でこれからの事を考えているだろう。

 

 狙撃主は今頃熱心に部屋で銃のメンテナンスを行っているはずだ。部屋に入っても声を出しても、肩を叩くまで気づかない、なんて事があった程に集中力を銃以外に割くことがない。ネツァワルピリの状況に気を向けることはないだろう。

ガンパウダーマスターであるクムユもシルヴァの為に銃弾を製作中だろう、しばらく技工室から出ることはない。

新しく増えた団員No.5のクラリスは十中八九寝ている。期待するだけ無駄だ。

団員No.6のカリオストロ、今は自室に籠り研究に耽っていて、もう二日も部屋から出てきていない。多分、今日も出てこないだろう。ネツァワルピリは籠る前に彼女が「胸はもう少し盛ってもいいかもしれない」と言っていたのを聞いていたが、彼自身はなんの事か理解せずに終わった。

 

「ぐぬぬ……。我としたことが、抜かった……」

 

 チラリと下を覗く。

 『アジンドゥーバ』は――本来この世界の物を語るとしては表現が間違っているが――風を原動力、推進力とする船の種類の『帆船』に分類されるもので、その推進力を得るために風を受け止める帆を張る柱『マスト』は二本の形式で、その中でもスピードに優れた種類である『ケッチ』だ。

大きさは約20メートルで、ネツァワルピリのいるメインマストの高さは大体10メートル程。けれど立っているのは頂点ではなく、見張りやいざという時の帆の角度を変える場所である8メートル地点にある足場にて悩んでいる。

そんな高い所から下を覗けばどうなるのか、言葉として書き示す必要もないだろう。

 

 覗いた事を盛大に後悔をした数分後、彼は一人脂汗を拭う。

 

「ど、どうする……」

 

 声にならない絶叫を上げてからというもの脚の震えが止まらない彼だが、それで思考力が落ちた訳ではない。選択肢は大きく分けて2つ見えている、降りるか、下ろしてもらうかだ。一つ目を選ぶとして、ネツァワルピリはどうすればいいのか。

一つはかけられたネットを伝って降りる方法がある、確実に安全に降りれるが、そもそもあんな穴空きで下が見えるような物では途中で動けなくなる可能性がある。ネツァワルピリは静かに首をふった。

もう一つは飛び降りることだ。これならば一瞬で終わる、何より『翼の一族』出身である彼ならば8メートルから落ちようと怪我なく着地する事など朝飯前だ。だがそもそも飛び降りる勇気があるならばこんな所で燻っている訳もなし、それに飛び込む一歩を踏み出せる気もしない。ネツァワルピリはため息をついた。

 

 ならば下ろしてもらう方法はどうか、一つは誰かを呼ぶことだが先程振り返った通り皆が皆集中をしているため、気づいてもらえるかどうかすら怪しい。もう一つは偶然大きめのグリフォンのような魔物が通りすがる事だが、積乱雲が近くにあることからそれも難しい。魔物とて自然の脅威くらい遺伝子に恐怖として刷り込まれているのだ、自分から突っ込むなど力を誇示しようとする阿呆のリーダーぐらいだろう。

 積みという言葉が彼に重くのし掛かる。越えようの、いや降りようのない現実が王手となって突きつけられた。

万策尽きたか、と思ったその時、ふと突き刺すような殺気を感じた。

 この世界において空を飛べる魔物はグリフォンのような幻獣種だけではない、昆虫種であるフライやロッド、鳥獣種であるホーンバード等も存在する。その中でも、特に人々に広く知られているのは幻獣種を越えた種である竜種。

仄かな熱を纏い、剥き出しにされている鋭牙よりも奥の火炎袋から火の粉を僅かに吐き出しながら、それは現れた。この世界では珍しくもない、だが存在はその認知度からは想像できない程の危険さを誇る竜種。名を『火竜 ヴレッザレク』、かの大戦でも尖兵として敵兵を万ほど焼き殺した凶悪な存在。その竜種が、ネツァワルピリを縦細く鋭い瞳孔が餌として捉えていた。

 

「……ほう、この自由を誇る我等が騎空艇に単身で乗り込んでくるとはな」

 

 カチリ、と意識が変わる音を確かに感じた。ネツァワルピリはメインマストにかけていた鋼の槍を手に取り、武骨に笑みを浮かべる。

 

 確かに竜種とは人々の恐怖の対象だ、この世界ではポピュラーな魔物、獣種であるウィンドラビットと比べればその差は圧倒的だ。

だがそれでも人々は歩みを止めない、恐怖が死神のように鎌を振るおうとも、空を我が物として翔け続ける。

 そう、それは単純に

 

「さぁいざ、仕合おうではないかッ!」

 

我らが勇気を持つ人々の方が強いからだ。

 

 その後ネツァワルピリはヴレッザレクをものの数分で狩り、いつの間にかメインマストから甲板に降りていたことに喜んだ。だが約一名だけ、その状況を開戦の一言から眺めていた彼は残念そうにため息をついたという。

因みにその日の番に、ヴレッザレクは皿の上に並べられたらしいが、それはまた別の話だろう。




勢いで書いたので誤字脱字が目立つかもしれません。こちらでも確認して無いと思ってから投稿をしていますが、もし目につくようでしたら報告をお願いします。

Q.レジェフェスって?
A.あぁ!(二万でパーシヴァルとアルタイルを引きながら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騎空団と正義の味方

どうにかしてあげたグラブル熱でなんとか書き上げました。新カリオストロが当たらなかったので初投稿です。


 ――月―b日 晴天

 今日も今日とて快晴だった。魔物や空賊達なのが厄介なのもいつも通りだったが、たまにはあいつらにも休日と言う物が存在してもいいのではないだろうか。いや、存在してたら多分生きていけないだろうな。俺らも生きていけないし。

 というのも、我が騎空団の家計は現在火の車だ。騎空団も人数が六人になった事から大分賑やかになった(というか、居候がうるさい)。悪いことではないが、良いことばかりでもない。食費倍増はもちろんのことだが、新しく入った二人は錬金術師なのが一番の理由だろう。

 錬金術師は大きく捉えれば研究者に分類される人種だ。何かと気になる事があると理解できるまで徹底的に調べ尽くす癖があるらしく、二人のうち特にカリオストロが顕著だ。

 流石に数百年も眠っていると世界のほとんどが変わったと言っても過言ではないらしく、毎日事あるごとになにか問題を見つけてきては研究に耽る。その研究材料代と研究機器代はもちろん我が騎空団の財布から出ている。

 俺からすればふざけるなの一言なのだがウロボロスを突きつけられては反論することさえ命の危機になりえる、当然俺も死ぬより生きたいので怒声を飲み込む。

 情けないと言われようと騎空団なんて大体が自分本意に生きるために空に出たような、言い換えれば不良集団だ。だからあそこで逃げの一手を選ぶことは間違ってはいないのだ。そうだ、間違っていない。

 

 そういえば、最近食料の減りが早いような気がする。六人になったとは言えカリオストロの特別製ボディは食料を摂取する必要性はないらしく入団当初から飯はロクに食っていない。だから実質五人分の食料しか減らないはずなのだが、どう見ても六人分減っている。

カリオストロがこっそり食べているのだろうか。明日それとなく尋ねてみようか。

 

 

――月―c日 大荒れ

 

 今日は一日中天気が悪かった、雨も降れば雷も鳴っていた。どうしてこういう日に限って俺が見張り担当をしなければならないのか。いや、原因は分かっている。俺の運が極端に悪すぎるのだ。

 元々はクムユが今日の見張り番担当だったのだが、あんな小さく華奢な女の子をこんな天気の中に放り出すわけにも行かずネツァとじゃんけんし、負けたのが俺だった。簡単に言えばそうなる、結果だってちゃんとした方法で出されたのだから理解もできる。だが納得できるかと言えばそうでもない。

 小さい男とは自分でも思うが、こんな自分とはもう二十年近く付き合ってきている。今更変えることなど出来はしない、出来ることと言えばそれが表に出ないように思っている以上にそれを抑制することだろうか。まぁ出来はしないのだろうけど。

 そういえば先日に書いた食料の件、カリオストロに聞いたところ逆に怒られてしまった。そんなことせずとも団員なのだから堂々と食堂で食べるとのこと。

 全くもって正論である。

 では一体誰が食料を減らしているのだろうか、うちにはそんな一人で二人分を消費するような大食いはいないはずだが。ネツァはちゃんとネツァに合わせて一人分の枠として用意しているからありえない。

 もしかして、クムユなのか? いや、だがクムユは小さいし、何よりそれほど運動もしない。消費量はうちの騎空団の中でもトップクラスの少なさのはずだ。

 まさか、あの胸の維持費として払われているのでは……?

 盛り上がってきた。明日からクムユの観察を始めよう。

 

 

――月―d日 晴天

 

 観察と言えど、うちの騎空艇は狭い。あまりに露骨にしているといくらクムユが相手とは言え、すぐにバレてしまうだろう。

 そういうことで、まずは姉貴分であるシルヴァからクムユについての話を聞いてみた。具体的には最近のクムユの悩みであるとか、おかしいと思えるところの話である。

 しかしこのシルヴァ、やはりと言うべきかシスコンの気があった。クムユの話をしたいと声をかけたところ、直ぐ様眼を輝かせて満面の笑みでクムユの良いところについて語り始めた。

 やれ優しい子だ、気を使える子だ、大和撫子に相応しいだのなんだの。まるで話が止まらない。

 なんとかその話を後に持ち込めたものの、有力な情報は得られなかった。確かに悩みはあるようだが、それを解決するのはあの子でなければならない。姉貴分というのはそういうものだよ。と話してくれた。

 なんとも露骨に話を切られたものだと不満を表に出す前に、シルヴァによるクムユ講座が始まってしまい、丸一日付き合わされた。

 今日はもう疲れた。

 

 

――月―e日  曇天

 

 昨日に引き続きクムユの観察を行ったが、あまり上手くいっていない。というのも尾行しているとどうしてかいいタイミングで邪魔が入るのだ。

 まず朝一番の食事時に食堂から出ていったクムユを追おうとするとネツァが腕相撲で勝負を挑んできた。魔法使い側の俺が一人で前線をはる筋肉に勝てるわけもなく悔しがっていると、いつの間にか帰ってきていたクムユに慰められていた。

 次に昼時の食事時に同じように行こうとすると居候がスキンシップと称して抱きついてきたりするのだ、それにネツァまで便乗してくるものだから身動き一つ取れず、いつの間にか帰ってきていたクムユに助けてもらいなんとか俺の尊厳は保たれた。全くここぞとばかりにいきり立つ俺の尊厳にも困ったものだぜ。

 夕飯時にも邪魔は入ってきた、誰かと言うとかなり意外ではあるが、邪魔をしてきたのはカリオストロと我らが狙撃主だ。まず狙撃主がいい酒があるんだと俺を酒の席に誘ってきた、これは頻繁にとは言わないが、彼女の気分が向いた日にはよ必ずと言っていいほどのことだから特に思うことはない。恥ずかしいことに俺は酒があまり強くないから、彼女を満足させれているかどうかは微妙ではあるが、団長はそのままでいいんだと微笑みを浮かべて語ってくれた狙撃主の誘いを、誰が無下に出来ようか。

 意外なのはここからだった、なんとここ数日研究に没頭していた研究狂いの、あのカリオストロまで便乗してきたのだ。しかも俺には世話になっているからと酌まですると言うのだから驚きだ。

 人に媚びるようなことを、研究絡み以外のことでは自分から絶対にしないカリオストロが酌だなんて、絶対に裏があると感じた。が、露骨に嫌がるのも俺の命が危ない。受けようとする俺の言葉を待ったと遮ったのは、さらに意外にもシルヴァであった。

 シルヴァの言い分はこうだ。

 

「これは私たち二人の必要な息抜きであり、明日の仕事の調子にも関わることだ。他人、ましてや入ったばかりの新人が入っては無駄に気を使って息抜きでは無くなってしまうだろう」

 

 なるほど、一理ある。彼女とのこの行為は息抜き以上の意味を持ってはいないが、それでも明日を生き抜くために必要なものであるし、実際気を使わずに語り合うと言うのはかなり気分がいいから翌日の調子にも関わってくるものだろう。

 それに対してのカリオストロの反論はこうだ。

 

「必要な息抜きであることは認めるが、それは俺様を弾く理由にはなり得ていない。新人であるからこそ、腹を割って話すべきなのはいつの時代も変わらないことだ。あんたのその行為は新人と古参の溝を広げ、チームワークを疎かにするお馬鹿なものだ。百歩譲ってあんたの意見が正しいものだとしても、それを口を開いてもいない団長の意思として団員が述べるというのは間違っているんじゃないか」

 

 俺はこれにも一理があると思った。確かに今までは俺たち二人で行ってきたが、俺らはもう輪を広げてしまったのだ。そこに限定的と決めて弾いて閉塞的になるのは、団として生きていく上では間違っているとも言えるだろう。だが同時に、広げていくということは多くのストレスを抱えることに繋がる。それを発散すべき場と行為がこれであるというのに、ここまでそういう場になってしまっては本末転倒とも言える。

 だからこそ腹を割って話すべきだとカリオストロは述べる。輪を広げたのなら新人とよく語り、そして互いによく知り、団のためによりよい環境を整える。つまり、新人たちの信頼を勝ち取る場を個人的主張で消してしまっては団として破綻することになるということだろう。

 

 そこで俺は二人にストップをかけ、カリオストロに酌をすることを許可を出して互いに腹を割って話すことにした。

 二時間という短い時間の飲み会ではあったが、シルヴァの不機嫌顔を拝め、カリオストロの研究への意欲を知ることが出来たし、そして何より二人の仲が目の前で深まったのを見れた。かなり充実していたのではないだろうか。

 さて、程よくお酒も入っているし、今日はゆっくりと眠れそうだ。

 

 そしてこれを書こうとした直前に、クムユの観察を思い出したので明日こそは観察を行おうと思う。団員全員が邪魔をする理由、きっとそれは食料が減っている事件と無関係ではないのだから。

 

 

――月―f日 晴天

 

 ついに今日、全ての真実を掴むことができた。食料を一人分ただ飯で食らっていたのは、ペンギンの機械的着ぐるみにつつまれた何かだったのだ。

 

 我が騎空団は小規模ではあるが毎日全員働いていては有象無象関係無しに死んでしまうだろう。そのため拙いものではあるがローテーションを組み、週に三日ほどの休日を設けている。今のところ目立った不満も出ておらず、なんとか上手くいっていると言ったところだ。

 今日はたまたま休みがクムユと重なり、しかも他の団員が出払っていると言う邪魔もされずに観察するにはまさにうってつけの日であった。だからなにとなしに彼女の行動を眺めていたのだが、ふと気を緩めた隙にクムユがいなくなっていることに気がついた。自分で言って悲しくなるが、うちの騎空船はかなり小さい。そろそろ増設作業かなにかしないとパンパンになってしまうぐらいには小さい。だから隠れる場所などかなり限られているのだ。

 あとはしらみ潰しに気配を殺して探していたら、誰も使っていない倉庫から彼女の話し声が聞こえるではないか。しかも、まるでそこに誰かがいるかのように、友達へ話しかけるようなフランクな口調で。俺は背筋がゾッとした。この騎空船にまさか、幽霊的な何かに取りついているのではないかと。

 あとは必死になった俺が手持ち無沙汰で部屋に突入してみれば、そこにペンギンがいたというわけだ。

 幽霊じゃなかったのか、と呆けているとクムユが涙目で謝りながら事情を話してくる。

 曰く、立ち寄った島の街への道中で倒れているのを一人で発見し、思わず心配となって船へ連れ込んでご飯を食べさせたのは良いものの勝手な行動をしてしまったことに対して中々謝れる勇気を持ち出せなかったらしい。謝らなくては謝らなくてはと思っていたらあれよあれよ他の団員に見つかってしまい、団員達にはクムユが俺に謝罪を切り出せるように、と協力してもらっていたらしい。

 その話を聞いたとき、思わずホッとした。思えば何かとクムユがフラりといなくなっていたからある程度は心配に思っていたのだが、そういう事情があっただけで、別段彼女に何かあったわけではないのだ。良かった良かった。

 しかしそれとこれとは話は別。無断でどこの馬の骨ともわからない奴を拾ってきただけでなく貴重な食料まで与えただ飯食らいにしてしまったのはいただけない。自分からついてくると言ったからといって、それは当の本人だけで家族が今ごろ心配して捜索願いを出してしまっていたらどうするんだ。と、軽く怒っているとペンギンの着ぐるみが音をたてて震えだす。なんだなんだと思っていたら、ペンギンの首から上が蓋のように開き、なんとびっくり。玉のような金髪美少女が飛び出してきたではありませんか。

 

「クムユちゃんを怒らないであげて!」

 

 そう言って飛び出してきた彼女に誰だお前はと質問を投げ掛けると、

 

「あっ、やっぴー☆ ペンギーだよ!」

 

 いや、誰だよ。

 結局彼女の登場のせいで空気がぐだぐだとなってしまい、とりあえず彼女にはただ飯の分騎空団で働いてもらうことを約束し、団員No.7として我が騎空団の一員とすることで事件は終結を迎えた。

 しかし女性の比率もかなりの物になってしまった。そろそろ男性もスカウトしたいものである、出来れば色々と場所を取らないハーヴィンなんかが狙い目だろう。

 これからの出会いに期待して、今日はこれで筆を置こうとおもう。




あなたの最推しハーヴィンはだれ?
筆者の推しはまた再来年の今頃にお教えしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。