境界線上のホライゾン・シャッフルズ!(マスチモ版) (ボストーク)
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第01話 ”快男児(マスチモ)”


皆様、始めまして。
Arcadia様にて主に活動していたボストークという者です。

しばし執筆活動を停止していたのですが最近色々と思うところがあり、ハーメルン様にも投稿させていただこうと思ったしだいです。
この作品もArcadia様に投稿させていただいている作品を叩き台に加筆修正したバージョンとなりますので、新しい読者様もまた原典を読んでくださっていた読者様も楽しんでいただければ幸いです。


 

 

人間関係とは常に合縁奇縁。

ちょっとした”運命”、あるいはほんの僅かな可能性の差異で、万華鏡のように大きくその姿を変えてゆく。

そして、このGENESISでは果たしてどのような色が世界を彩るのであろうか?

 

<配点:平行世界>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

かつて戦争があった。

 

もっとも聖譜に示された”歴史再現”が繰り返されるこのGENESIS世界では、特に【重奏統合争乱(じゅうそうとうごうそうらん)】以降は戦争(学生間抗争)くらいしか国家間ではやることないから珍しい話ではないのだが……

 

その中では多くのアクシデント、そして悲劇が存在した。

特に悲劇として語られるのはやはり四半世紀ほど前に起きた【レパント海戦】だろう。

 

本来は聖連監視の下、聖譜の基づき粛々と行われるはずだった「厳島の合戦」との二重の歴史再現の戦いで、十字軍の一角を担う”三征西班牙(トレス・エスパニア)”に対しオスマントルコ帝国役のP.A.Odaが歴史再現を越えた過剰な侵攻を行い、本来の歴史ではありえない”勝利”を得たのだった。

 

その甚大すぎる被害は、ただでさえ慢性的な破産傾向のある三征西班牙に歴史より早い衰退を招きそうな勢いだった。

 

そこで戦後、聖連は歴史再現を遵守しなかったP.A.Odaに対する政治的/経済的制裁を行うと同時に、各国に三征西班牙の支援を命じた。

 

そこでささやかだが歴史が動く。

 

 

 

聖連からの要請を受けた三河は、国家再建の為に必要な人材を融通すると決定する。

後で語られるところの三征西班牙で語られるところの【国家再建の為の復興人材支援(El apoyo de los recursos humanos para la reconstruccion)】である。

その供出人材目録を自ら書き上げた君主の【松平・傀儡男(イエスマン)・元信】に白羽の矢が立てられた中に、こんな名前があった。

 

”小野・忠明”

”葵・善鬼”

 

そう、まだ若かりし日の葵姉弟の両親の名が、だ。

 

 

 

小野忠明という人物は天下の剣豪”伊東一刀斎”から一刀流を相伝され、史実では柳生と並ぶ黎明期の徳川家剣術指南役だったが……傲岸不遜な性格で政治的駆け引きには向かず、接待勝負のようなものは受けず徳川の直参相手でもかまわずボッコボコにしてあげる~♪とばかりの立ち振る舞いだった為に周囲とは諍いを起こしてばかりだったらしい。

一説によれば手合わせで徳川の大藩の家臣を再起不能した為に徳川秀忠の怒りをかって、蟄居閉門処分にされたなんて逸話も残ってる。

 

そう考えると人材供出にかこつけた体のいい厄介払いのような気もするが……

いや、おそらくそこは追求してはいけないところなのだろう。きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、時は流れて平行世界と同じように忠明と善鬼は、”伊東一刀斎の一刀流相伝試合”の歴史再現の後に結ばれ、トーリと喜美が生まれることになるのだが……

 

もう皆さんも薄々お気づきだろう。

”この世界”において、葵・喜美とトーリは三征西班牙生まれであり、現在所属している学校は武蔵アリアダスト教導院ではなく”アルカラ・デ・エナレス”ということだ。

 

そして……【ホライゾン・アリアダスト】はその出自や正体が隠匿されたまま偽りの姿を演じながら、機械仕掛けの肉体を持とうともあるいは自動人形のように振舞おうとも”人間のまま生きて”いた。

そりゃああもう、武蔵の外道ども率いて元気いっぱいに。

 

 

 

さてさて、今はそんな細かい(?)ことはどうでも良くて……

 

トレス・エスパニア独特の太陽と情熱を表す明るい赤色に、旧派を示す白い十字架の意匠をあしらったいかにも空気抵抗の少なそうな流麗な船体を持つ小型航空艦の一室にて……在り来たりな日常がそこにはあった。

 

時刻は、まだ早朝といっていい時間帯。

船は舳先を三河へと進路を向けているが、そんなことはこの今まさにこの”第一特務長室(個室)”のダブルベッドにて呑気に高鼾をかいてる少年には関係ないだろう。

 

黒髪からすると極東系だろうか?

いや、そんなことはどうでもいい。

問題なのは”全裸”だということだ。

まあ西洋では全裸で寝るというのはさほど珍しいことじゃない。例えば男女の違いはあれど、英国君主の姉の方はまさにそうだ。

 

黒髪の少年で全裸といえば……皆様に思い浮かぶ該当者は一人しかいないのではないだろうか?

なんせ同じ全裸芸風の金髪の方は、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)だし。

 

そう、彼こそが平行世界における全裸の代名詞、このGENESIS世界では何をどう間違ったか三征西班牙に生まれてしまった【葵・トーリ】本人だ。

 

もちろん、平行世界とは数多くの相違点がある。

例えばその肉体。

原作では細く華奢な体つきで、ホライゾンが人としての生を失ったときに刻まれた痛々しい傷痕がひどく目立った……それがまるで胸に刻まれた癒されない痛みを代弁するように。

 

しかし、このトレス・エスパニア産の葵・トーリの肉体は、一見すると華奢だがつけるべき筋肉はしっかりとつけている。

いや、それどころか明確に普段から鍛えてる痕跡が見て取れた。

例えば、そう誰もがイメージするマッチョから余分な”魅せる筋肉”を削ぎ落とし、実用的な筋肉のみを残して、同時にそれを極限まで引き締め引き絞ったような印象の体つき。

ブルース・リーのそれに近いと言ったら誉めすぎだろうか?

 

そして最も重要な相違点は……『ゴッドモザイクを装着してない』ということだ!

 

つまり、ベッドを思う存分に占有して大の字に寝るトーリの脚の間には、誰憚ることなく立派な”マスラヲ”がそそり立っていた。

平たく言えば漢の朝の生理現象、モーニング・スタンドという状態である。

 

そのワイルドかつ開放的な寝姿は、本来は断じて余人に鑑賞させるためのものではない。

だが……

 

”きぃ”

 

部屋の主を起こさないようにそっと扉が開いた。

周囲をきょろきょろと見回し誰もいないのを確認すると、足音を忍ばせそっと入ってきたのは、巨大な胸に反比例した童顔をもつ藍色の短い髪の女性……いや、少女だ。

 

その熟練すら感じる周囲の空気さえも揺らさないような静かな脚裁きから、一瞬『暗殺者かっ!?』とも心配するが、それにしては様子がどうにも妙だ。

 

(うふふ。トーリ様、そんなご立派な”宝物”を携えてるのに、相変わらず無防備すぎですよ?)

 

と内心で呟くと、とりあえず左右の機械腕を静粛駆動(サイレント)モードで駆動させて、そそり立つマスラヲに二拍一礼をもって拝んでいたりする。

 

(寝てるのに、こんなに私をドキドキさせるなんて、本当にトーリ様は罪作りな殿方です……)

 

”ごくりっ”

 

機械腕の少女はこらえ切れないように生唾を飲み込むと、

 

「そんな悪い殿方にはオシオキです。他の女性(にょしょう)が被害にあってからでは遅いですし……」

 

彼女はベッドに登りながら肉食獣の瞳で、

 

「トーリ様の”一番槍”は何人たりとも渡しません……!」

 

決意の言葉と共にむしゃぶり……

 

「ちょお~っとまったぁ! ”誾(ぎん)”さん、なに朝からエキサイティングかつエロティックな奇襲攻撃しようとしてんの?」

 

 

 

***

 

 

 

そう、今更言うまでもないかもしれないが……機械腕の少女の名はは【立花・誾(たちばな・ぎん)】。

武術の腕は超一流なれど純粋で無愛想で面倒臭い(本人談)で天然で変人……

 

「おはようございます。トーリ様」

 

まるで何事もなかったかのようにさわやかに挨拶する誾だ。

ただし、視線は一番槍とやらをロックオンしてるが……

 

「おはよ。誾さん……って軽く流されちゃったぜ」

 

「いつものことですよ?」

 

”ぎゅ”

 

と誾は抱きつき、

 

「こうするのも」

 

「Wow! 俺様の扱い朝から種馬っぽいぜ~♪」

 

「一部訂正させてください。トーリ様は他の誰でもない”私の種馬”がちょうどいいと思います」

 

「誾さん、朝から熱烈だねぇ~」

 

真っ直ぐな想いについ顔が緩むトーリ。

彼に優しく髪を撫でられ、嬉しそうに気持ちよさそうに誾は目を細め、

 

「”快男児(マスチモ)”を自分の胸抱きたいと願うなら、自ら打って出なければその手綱はつかめません。それに……」

 

「それに?」

 

「『ねだるな。勝ち取れ』と偉い人も言ってます」

 

「いや、それはサーフボード乗った武神が飛び交う別の世界なんじゃ……」

 

 

そう、平行世界では不可能男(インポッシブル)というアーバンネームを与えられたトーリだが、この世界での二つ名はなんと”快男児(マスチモ)”!

この世界のトーリは、そう呼ばれるに相応しいいかにもラテン漢的な生き様を貫いてきた(あるいは浮名を流した)のだからある意味、当然かもしれない。

 

 

そう、この物語は……

 

破産状態の国家の中でも夫婦(?)むつまじく戦闘に勤しむ【葵・”快男児(マスチモ)”・トーリ】と【立花・誾】のちょっと変な戦闘系夫婦ぜんざいな妄想ストーリーである!!

 

「これでトーリ様が【立花・宗茂】を襲名してくれれば言うことないんですが……」

 

「無理だって。それに宗茂つったらアイツがいるじゃん?」

 

「顔も見たこと無い上に、三河だか武蔵だかに修行に言ったまま帰ってこない人は、論外だと思いませんか?」

 

何はともあれ相手こそ大幅に違うが、どうやらこの世界においても夫婦(?)仲良好で何よりである。

 

 

 

***

 

 

 

聖譜暦1648年04月20日

人為的に歴史の再現が繰り返される”世界”は、まだ辛うじて平和だった……

 

 

 

 

 

 

 



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第02話 ”甕割(かめわり)”


本日二度目の投稿です。
いや、実際こんな荒業ができるのもストックがあるうちだけではないかと(^^
ただ、今回のエピソードはかなり大胆に削除と加筆と修正をしたので、もしかしたら原本と比べても随所随所でかなり雰囲気が変わってるかもしれません。

何はともあれ平行世界のトーリのキャラが見えてくる第2話、お楽しみいただければ幸いです。


 

 

 

流転、回天、因果は巡る糸車。

それは運命を司る糸の僅かな攀じれから紡がれる物語。

果たしてそれは、どのような旗を織り上げるのだろう?

 

 

 

<配点:若武者>

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

一路、三河へと進路をとる三征西班牙(トレス・エスパニア)所属の航空艦の一室、具体的に言うなら第一特務長の私室にて。

ベッドに大の字に寝転ぶ全裸男と、立派なオパーイの機械腕の少女がまどろむような空気の中……互いのぬくもりを確かめるようにベッドの上で抱き合っていた。

 

「まあ、なんでもいいか。誾さん、おいで」

 

「(はぁと♪)」

 

嬉しそうに服を脱ぎながら、彼の少女のようにきめ細かい肌を傷つけぬように誾は機械腕生体義腕につけかえ…

 

「ひゃう! あぐぅ……トーリ様、さいしょっからはげしいぃ」

 

生憎と本作品のタグはR-18ではなくR-15指定。

モロ書き&細かい描写に出来ないのは、主に大人の情事ではなく事情です。

いや~、残念残念。

なので音声だけをお楽しみください。

 

「誾さんが仔犬みたいに可愛いからさ。だから仕方ないよなぁ~」

 

「ひゃぐ! じゃ、じゃあ仔犬の誾にいっぱい、いっぱいトーリ様の濃いみりゅくをのましぇ、ひゃぐうっ!!」

 

「Tes,Tes。まっ、その前に俺が誾さんのミルクタンクにかじりついてたりするけどね~♪」

 

「ひょーりひゃまぁ! もっろ、はげしくうううぅぅぅ!! ふきぃっ!!」

 

朝っぱから爆発しやがれ!!

もとい。失礼しました。放送事故です。

 

歪曲表現をするなら、とりあえず全裸トーリが腰にぶら下げた肉太刀を誾の濡れすぼった襞鞘に勢いつけて納刀したということだろう。

そりゃああもう何度も何度も。

 

 

 

***

 

 

 

時間もちょっとは過ぎて、夜の営み改め朝のお勤めを終えた二人はブリッジへと向かっていた。

生体腕から機械腕に付け替えた誾の歩き方がどこか生まれたての仔鹿っぽく見えるのは、きっと全裸が彼女のリクエストに全力全壊(誤字に非ず)で応えたからだろう。

 

そうそう。

今更だが全裸少年の名は【葵・”快男児(マスチモ)”・トーリ】、機械腕少女の名は【立花・誾(たちばな・ぎん)】。

何を隠そう三征西班牙教導院”アルカラ・デ・エナレス”の誇る、単純武力でなく色んな意味で最強ランク級のカップルであった。

 

この二人にも色々な物語はあるようだが……

だが、原作と呼ばれる平行GENESIS世界との大きな相違点は、その拙い足取りはともかく誾よりもむしろトーリに集中していた。

 

まず制服のデザインはインナーやパンツに関しては標準的な三征西班牙のそれだ。

しかし、彼が羽織るロングコート型の法衣は、襟周りのもうふもふファーや流れるような幾重もの飾金鎖まで含めて平行世界のトーリ本人が着ていたそれと、デザイン的には全く同一だ。

だがそうであっても、平行世界のトーリと同じデザインの服だと気付く人はむしろ少ないんじゃないだろうか?

何しろ見た目の印象が全く違う。

その相違を生み出してるのが色だ。

そう並行世界のトーリのそれは喪服のような漆黒だったのに対し、マスチモたるトーリのコートは三征西班牙を示す真紅の生地に、幾つもの純白の十字架をあしらったド派手な代物だ。

そう、他国なら隠密部隊が多い第1特務の隊長なのにも係らず、エナレスの学生全ての中でも選りすぐりの派手な装いを貫いてるのも葵・トーリという人物だった。

もっともそれは、トーリの率いる第1特務が他国の同じナンバーの部隊と比べて異質と言っていい特性を持つことや、またこの真紅のコート……”ガーブ・オブ・ロード”と呼ばれるそれも相応の意味があるのだが、それはまた別の機会に語られよう。

 

 

 

***

 

 

 

だが衣服もそうだがもう一つ平行世界の同位存在に比べて決して無視できぬ大きな差異、あるいは違和感があった。

それはトーリの左腰に差され一際大きな異彩を放っていたのは、堂々たる”一振りの刀”だった。

 

平行世界の彼から考えると物凄く似合わないように聞こえるかもしれないが、この世界の葵・トーリという少年はサムライ……それも『一廉の武人』として知られるほどの剛の兵(つわもの)として知られていた。

 

そう違う世界線では”立花・宗茂”こそが八大竜王の一人にして”西国最強”として名を馳せていたが、どうもこの世界では勝手が違う。

そもそも未来の立花・宗茂はこの世界では未だ『立花宗茂』の襲名は公式にはかなわず、公的には【ガルシア・デ・セヴァリョス】の襲名しかなしていない。

 

というのも本人が襲名を志す途上で自らの武に伸び悩む時期があり、『ならばここは音に聞こえし”東国無双”に頭(こうべ)を下げて教えをこうべし』と一念発起。

東を目指し、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)を駆け抜けて三河へとたどり着いたそうな。

 

当然の疑問だと思うが、何故に距離的に近しい筈の立花・道雪に教えを請わなかったのかと言えば……

別に彼が”割断世界ホンダリア”フリークで、子供達に「上野行けよ上野!」といわれる冴えないタートルネックのライバルより、『やっぱりここは主役でしょう』という思いがあった……というワケでは決してない。

それに彼に局部的特長を考えるなら今更、割礼神のご加護は必要は無いだろうし。

 

 

 

実はこの”運命線の変遷”も、トーリというより父母の小野・忠明(おの・ただあき)と葵・善鬼(あおい・よしき)が遠因になっていた。

同じ武を志すものとして幼い頃より葵姉弟を見てきて、憧れがやがて思慕に変わりまんまとトーリとの初恋に堕ちた立花・誾は、かなり早い段階から葵家に通い妻状態だったようだ。

 

しかも忠明と善鬼との神経勝負、巌流島で行われたらしい”伊東一刀斎の一刀流相伝試合”の歴史再現の後、武人としては一線を引退した善鬼がはじめた軽食店【青雷亭(El trueno azul:エル・トレノ・アズール)】を誾は手伝い、看板娘&調理補助を努めるなど中々の花嫁修業の成果……ぶっちゃけ女子力の売込みをし、すっかり葵家に溶け込んだようである。

 

すると誾の養育やら修行やらに手がかからなくなった為に立花・道雪は、さっさと隠居すると時を置かずして物見遊山として諸国漫遊に出かけ、そして平行世界の史実より早く”K.P.A.Italia”の副長に就任してしまったらしい。

 

そのため当時はまだまだ無名、要するにただの郵便配達の学生が努力の末にガルシア・デ・セヴァリョスの襲名を獲得したばかり過ぎない……そんなぽっと出の人間が、西国どころか神州全域に良くも悪くも名前を知られた武人で、なおかつ鳴り物入りでK.P.A.Italia”の副長に大抜擢された【重武神騎乗士(ナイトストライカー)】に容易く合えるわけは無かった。

そう意味では、こう言ってはなんだが聖連の言うことならなんでも言うことを聞く(と思われていた)【松平・傀儡男(イエスマン)・元信】が君主を務める三河に住む本多・忠勝のほうがまだ幾分面会しやすかったらしい。

 

 

 

とぉ~ころがぎっちょん!(by ありあるさーしぇす)

よほど三河の水が合ったのか?

未来の西国最強になるはずだった青年は、東国……というか槍本多家から未だ戻らず、おそらくだが今も楽しく忠勝や鹿角、そして本多・二代と共に面白おかしくついでに激しく濃厚な修行三昧の日々を送っているとの風の噂があった。

おまけに元信公が家臣払いした後は、”臨時契約外交官”としてたくしげく”武蔵”に通ってるという噂もあり、中々に活躍してる模様。

間違いなく教導院の外道と接触してることだろう。

 

 

 

***

 

 

 

そしてトーリは驚く無かれ、なんとこのガルシア・デ・セヴァリョス……長いので便宜上”宗茂”と呼ぼう。今のところはあくまで襲名候補者だが。

ともかくこの宗茂と幼馴染で友人なのだった。

しかし、誾は第01話でこんなことを言ってたはずだ。

 

『顔も見たこと無い上に、三河だか武蔵だかに修行に言ったまま帰ってこない人は、論外だと思いませんか?』

 

実はこれ、彼女の盛大な勘違いなのである。

何気に誾はなんども宗茂に合ってるのだ。ただ、記憶にとどめてないだけで。

 

それもそのはずで、ただでさえ宗茂は三征西班牙の人間種ではさして珍しくも無い金髪碧眼の典型的な白人青年(当時は少年)に加え、誾の認識区分は同年代に限れば幾人かの例外を除き、

 

【トーリと喜美とその周りの大切な人たち、とそれ以外】

 

といういっそ清々しいほどザックリしたものだった。

宗茂は当然のように大切な人たちにも例外にも選考落ちしていた。

これじゃあ宗茂が、『顔も見たこと無い(正確には、『顔も覚えていない』)』と評されるのも無理も無い。

第一、誾にとって自らの夫ともなる立場の”立花・宗茂”はトーリこそが襲名するに相応しい名であり、それ以外は眼中にない。

 

蛇足ではあるが、宗茂が武を志したのは幼き頃に出会った、『まるで呼吸するように刀を振る』葵姉弟だったらしい。

つまり誾と宗茂は同じ二人に惹かれたということだ。

 

 

 

***

 

 

 

そう、もうお気づきだろう。

葵・トーリも葵・喜美も只者ではない。

喜美は後のお楽しみとして……先ずはトーリの話からはじめよう。

 

彼の腰に差す刀の銘は実に由緒正しきもの。

その名を”瓶割刀”……立派な神格武装である。

 

”瓶割”というとP.A.Odaの柴田・勝家も同じような名の神格武装を使うが、あっちは【瓶割り柴田】の歴史逸話を題材にした割砕系、つまり刀に映った対象を割り砕く威力重視の武器で、大雑把に言えば蜻蛉切と同系統だ。

 

だが、瓶割刀は全く別のコンセプトで鍛えられた【純日本刀型神格武装】だった。

 

そのモチーフとなったのは、凡そ一刀流剣術全派の開祖といわれる”伊東一刀斎”が三島神社より一刀斎が賜れた愛刀”瓶割”である。

それは一刀斎がまだ鬼夜叉といわれていた頃まで遡る逸話で、三島神社に賊が押し入ったとき、潜んでいた瓶ごと賊を真っ二つにしたという逸話が名前の由来となっている。

その逸話を再現するため、瓶割刀は【相反する二つの要素】を”通常駆動”として兼ね備えていた。

 

一つは『折れず曲がらず歪まず錆びない』と評される”頑強さ”と、刃に触れた物を『焼けたナイフをバターに押し当てた』ように容易く切断する”切れ味”だ。

 

実はこの二つは同根の特性であり、その正体は一言で表すなら【物質/分子構造の相転移】と言えるだろう。

 

例えば刀身の部分は『刀が触れた物体のベクトルと性質、衝突エネルギーを瞬時に解析し、刀身をそれに耐えられるように分子レベルから再構成する』であり、また実際に斬る液体金属製の刃紋部分は『刀が触れた物体の分子結合構造を瞬時に解析し、それを切断できる硬度/性質/形状を持った刃を形成する』だ。

また流体金属の刃なので即時あるいは随時修復可能で、理論上は永続的な刃毀れもありえない。

 

 

 

わかりやすく言えば、”刀語”に出てくる【絶刀・鉋】と【斬刀・鈍】の双方の性質を刀身と刃紋に備えた刀こそが【瓶割刀】と思っていいかもしれない。

 

更に厄介なのは瓶割刀はどうやら不死系異族であるバンパイア、そのの属性である”吸血”を解析し、性質付与されてることだろう。

これは、『斬った相手の血を流体として取り込み、燃料として蓄積することができる』というもので、つまり瓶割刀は斬り続ける限り、半永久機関的に通常駆動を維持できることになる。

更に万が一損傷しても、流体動力のファイルセーフ機能と自己再生機能があり、一定の時間ほうっておけば勝手にリカバリーしてしまうのだ。

おそらくは、コレもまたバンパイアの能力付与の恩恵だと思われる。

 

人であれ物であれ、ただ折れず曲がらず刃毀れせず、鋭い切れ味のままひたすら”斬り続ける”ことに特化した刀……故に、瓶割刀は

 

【”妖刀・瓶割”】

 

と俗称されていた。

 

 

 

***

 

 

 

しかし、ここでもう一つ書いておかねばならないことがある。

史実の瓶割刀は伊東一刀斎の後、その相伝試合に勝利した小野忠明に”朱引太刀”や一刀流共々継承されることになる。

小野忠明はもちろん、トーリと喜美の父親である”小野・忠明”の襲名元になった人物だ。

そして小野忠明は後年、さらにその瓶割刀をある人物に継承させる。

 

 

その人物こそ一刀流二祖(伊東一刀斎と小野忠明)の小野忠明の弟とも実子とも言われ、小野忠明に一刀流を学び、忠明より生涯33戦の文字通りの真剣勝負の斬りあいを行いながら1度も負けなかった自分の師、「伊藤一刀斎に勝る」と評され、一刀流三祖を継承した証として瓶割刀を授けられる。

さらにそれを機に姓を流祖・伊藤一刀斎の家名である伊藤に改めたと伝えられる存在……

その名は【伊藤忠也(いとう・ただなり)】……そう、一刀流兵法においては小野派一刀流に並ぶ伊藤派一刀流の開祖、まごう事なき剣豪である。

 

 

 

さて察しの良い皆様はもうお分かりではないだろうか?

この世界における葵・トーリは、”襲名者”である。

その襲名の一つが瓶割刀の持ち主でそれを小野・忠明より継承された”実子”……この条件に合う襲名元は、【伊藤・忠也】のみ!

 

そう、葵・トーリは同時に伊藤・忠也であり、瓶割刀と名前負けせぬ実力を兼ね備えた、剣術一流派を興せるほどの【GENESIS当代屈指の大剣豪】の一人なのであった。

 

いや、とてもそんな歴史に名を残す剣豪に見えないことは承知なのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
第2話、お楽しみいただけたでしょうか?

久しぶりに後書きというものを書いてみたのですが、何を書いていいのか大いに悩むところです(笑)
せっかくこのようなスペースが用意されているのですから、今後は簡易設定や本編の補則やらこぼれ話やらも書いてみようかと思うのですがいかがでしょうか?

それではまた次話にて皆様にお会いできることを祈りつつ。


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第03話 ”文豪(セルバンテス)”


皆様、おはようございます。
今回のエピソードからいよいよ作者イチオシのあの娘が登場します。
ある意味、これ以上ないほど明確な原作との分岐点なのかもしれません。


 

 

 

えっ?

なぜ、居るはずのないきみが今ここに……?

 

 

 

 

 

 

<配点:違う名の文豪>

 

 

 

**************************************

 

 

 

「やあ、トーリ、ギン。朝から元気に盛ってたみたいだね? まったくもって羨ましいやら嫉ましいやらだよ。なんたってボクは、発情期になったって相手がいないんだから……あくまで”今は”だけど」

 

さてさてトーリと誾が流線型を基調とした航空艦の艦橋(ブリッジ)に入るなり、実に爽やかな笑顔で辛辣な毒を吐いてきたのは、眼鏡でひんぬーな長寿種のちみっこい、ある意味において属性の塊の少女だった。

ついでになぜか妙に肢体にぴったりとした赤いインナーの上に白衣を羽織っている。

いや、エスパニアン・カラー的には合ってるのだが……

 

「うぉう! 開口一番の苛烈な言葉責めとは、絶好調そうでなによりだぜ~♪ 原稿ははかどってるか? ”トマス”」

 

そう、二人より一足先に航空艦のブリッジ来ていたの少女の名は、【トマス・デ・ラ・セルバンテス】。

トーリ達と同じく三征西班牙教導院”アルカラ・デ・エナレス”の一員だ。

本来の役職は総長連合ではなく生徒会書記補佐だが、本業は三征西班牙(トレス・エスパニア)きっての今をときめく赤丸急上昇の売れっ子アイドル作家という変り種だ。

 

まあ上司であるディエゴ・ベラスケスも画家……いや、格好つけるのはよそう。

エロゲ会社のトップ兼絵師で、それが『部族の品位を著しく貶める』として部族から叩き出された過去を持つ更に輪をかけた変り種というか変わり者なので、彼女も知名度はともかく特に飛びぬけて目立つというわけではないだろう。

 

名前からわかるようにトマスは、スペインの作家【ミゲル・デ・セルバンテス】の”二代目”襲名者だった。

ちなみに初代は襲名者から引退した後、前出のベラスケスが率いるエロゲ会社”チーム・ベラスケス”でシナリオを担当しているという噂が……

 

それはともかく……もはや説明の必要はないかもしれないが、平行世界における彼女の同位体は同じく文豪ながらまったく国籍の違う人物の名を名乗っていた。

そう、【トマス・シェークスピア】という名を襲名していたのだった。

無論、そうなるにはそれなりのドラマがあったようだ。

 

もっとも変わったのは襲名する文豪や国籍だけではないようだ。

インナーに白衣というスタイルは基本的に一緒だが、ただでさえ幼く小さなボディラインにピタッと張り付くような真紅を基調としたインナースーツは平行世界のそれより艶かしく、更にシェイクスピアさん家のトマスさんのロングコート風に羽織る白衣はなんとなくボロボロだったのに、こっちのセルバンテスなトマスさんの白衣はまるで新品のようにピシッとアイロンが入ってる上に胸ポケットにはしっかり校章の刺繍が入っていたりする。

髪もフワフワくせっ毛のロングなのは同じでもしっかり櫛を通していて後ろで纏めるリボンはいかにも高そうなレースのそれ。

無論、無粋な紙袋などは持っておらず、メガネは同じく三征西班牙のイメージカラーである真紅のアンダーリムのそれ(具体的には”けいおん!”の真鍋和嬢のメガネをイメージしていただけるとありがたい)だったりする。

全体的に同位体より身奇麗というか身だしなみに気を使ってるのは明らかで、可愛らしいという風にも言えるのだが、今のように白衣のポケットの中に手を入れて背筋を伸ばしてる姿を見ると、不思議としなやかさの中に精悍さも垣間見えるという娘だった。

 

 

 

***

 

 

 

「おかげさまでね。今回だってトーリの臨時軍師を引き受けたのだって、従軍記者って旨味があったからさ。これで筆が進まなかったら態々三河くんだりにまで来た甲斐がないじゃないか?」

 

するとトーリはトマスの猫っ毛気味の淡い色合いの金髪を撫でながら、

 

「んで、本音は?」

 

「……本音ってなにさ?」

 

しかし、トマスはツン気味の台詞回しとは裏腹に、自分の頭を撫でるトーリの手を追い払おうとはしない。

いや、むしろトーリに撫でられるままむしろ気持ちよさそうに目を細めている。

どうやらトマス、髪の毛の質だけじゃなくて中身もまた猫属性っぽい娘らしい。

 

さっきからトーリの後ろで誾が可愛らしいヤキモチを隠そうともしない『打突から展開する零距離砲撃』をかますような視線をトーリの背中に投射しているが、反応から察するにトーリは気付いてないし、気付いるとしても特に反応する気も無いのだろう。

どうやらトマスは……なんか確信犯のような気が……

というかさっきから口元に薄っすら笑みを浮かべてるし。

 

あれ?

これもしかしてデレ……?

というかトーリ、とんでもない地雷原のど真ん中にフラグ立ててね?

 

 

 

「”トゥーサン・ネシンバラ”」

 

”びくっ”

 

不意にトーリが呟いた名前に、トマスの小さな肢体(からだ)が小刻みに震えた。

 

「今度こそ【テレセー(=スペイン語で”13”の意味)】だといいな」

 

「……うん。今までの中では一番信頼できる情報だと思う。多分、彼に会わないとボクは何も終わらせられない。そして何もはじめられないから……」

 

 

そう。

トマスはどうしてももう一度かつての友に、いや『大好きだった人』に会おうと心に決めていた。

そして、ずっと探していた。ずっとずっと探し続けていた。

 

(だって悪魔憑きとして処分された”同胞(はらから)”の中に、テレセーの姿も名もなかったから……)

 

あのGENESIS世界の超人機関のような【第十三無津乞令教導院(だいじゅうさんむつごいれいきょうどういん)】で同じ境遇で育ち、トマスと”あの子”といつも一緒だった男の子……

そうあの頃は何の不安もなく”三人”はずっと一緒に居られると思っていた。

でもそれは子供じみた哀しい思い込みだった。

 

(年月は流れて、”あの子”も消えてしまった……だから生き延びた自分は”あの子”の分まで思いを願いを伝えなくちゃいけない)

 

遺された者として、託された者として……

 

(それがボクが先に逝ってしまった”あの子”にできる唯一の手向けだ)

 

だから死体が見つかってないという拙い根拠を頼りに、生きてると信じて今もその後姿をトマスはさがしていた。

決意の瞳で青い空を見る彼女……トーリは『妹のように愛してる少女』の頭をくしゃくしゃとかき回し、

 

「安心しろ。他の誰でもねぇ……こ・の・俺・が、ネシンバラだろうが天照大神だろうが必ず会わせてやるぜ!」

 

「……うん!」

 

 

 

***

 

 

 

(そうだ。伝えて終わらせてあげないと……だれよりも彼が大好きだった、時間が止まってしまった”あの子”の遺言なんだから)

 

トマスとトーリ……

またこの二人にも物語はある。

 

二人の出会いはこんな言葉から始まった。

 

 

 

『アイツもいなくなって、もう一人の”わたし”もいなくなっちゃった……ボクは本当に一人になちゃったんだよ……』

 

『そっか。一人はイヤか?』

 

『……うん。一人じゃボクは、自分が誰だかわからなくなるから』

 

『じゃあ、一緒に来いよ』

 

『えっ……?』

 

『”今、大切な誰かと別れるのは、次の大事な誰かとの出会うために神様が用意してくれた機会”らしいぞ?』

 

『えっと……』

 

『俺はバカだから、お前が誰と別れて何を悲しんでるのかは本当にはわからねえ。だけどさ……』

 

きゅっと当時は今ほど大きさの変わらなかった少年は、その少しだけ自分より幼く見えたその子を優しく抱きしめ、

 

『だけど、今だけでもお前が一人じゃないって思わせるくらいはできるんじゃね?』

 

『今だけ……なのかな?』

 

『お前がずっとがいいなら、ずっとでもいいぞ?』

 

『じゃあ、ずっとがいい……! 一人ぼっちはさびしいから。さびしいよ』

 

『そっか。なら俺は……』

 

 

 

それはとある年の秋の山地、一人の年端も行かない少年が山篭りの最中に一人の行き倒れの少女と出会った小さなおとぎ話……

トーリがはじめて小太刀一振りでツキノワグマを倒したときのエピソード。

 

 

 

***

 

 

 

(あれから12年かぁ……思えばあっという間だったなぁ……)

 

トーリに山で拾われてから、トマスは色々なことがあった。

例えば、すぐに葵夫人が山から降りた自分に保護手続きをとってくれ、何も詮索せずに暖かく迎えてくれたこと……

それどころか、養子の手続きまでしてくれ『ただの14(トマス)』だった自分に、葵の姓をくれた。

そう、セルバンテスを襲名するまで、自分は【葵・トマス】だった。

 

初めてトーリの姉、喜美に会った時はその突拍子も無いキャラクターや存在感に圧倒された。

そして『可愛い妹ができた』と猫っ可愛がりされると同時に、トーリとセットで散々着せ替え人形にもされた。

でも、いつもトーリとお揃いなのがかなり嬉しかった。

 

誾と初めて会った時も別の意味で圧倒された。

まだ幼いのに研ぎ澄まされた武に、心底驚いた。

トーリだけが規格外じゃないんだと素直に感じた。

ちなみに彼女も同じく喜美に着せ替え人形にされた同志だ。

 

他にも色々な出会いがあった。

自分が囲われていた【第十三無津乞令教導院】がいかにちっぽけな世界だったか、いつもいつも思い知らされた。

 

趣味で書いてた小説を投稿してみたら文才が認められ気が付いたら文壇デビューを果たしていて、先代(初代)が『エロゲのシナリオに集中したい』ために作家を引退して対象候補になっていた”ミゲル・デ・セルバンテス”の名を襲名することになった。

 

恐れ多いのと、エロゲのシナリオライターと思われるのが少し嫌だったので、襲名しても姓だけを名乗るようにした。

ついでに女の子とわかるように公式には”デ・ラ・セルバンテス”にして。

 

 

 

襲名に伴って”葵”姓がなくなるのはさびしかったけど、

 

『バカねぇ。誰を襲名しようと、トマスが私と愚弟の妹だってことには変わらないでしょう? それに葵姓をまた名乗りたいなら、他にも色々方法はあるじゃない?』

 

チラッとトーリを見て意味深に微笑む喜美に背中を押された。

 

(本当にいろいろあったんだなぁ……)

 

自然に笑みが浮かんでくる。

それは自分でもわかるくらい……トーリに出会う前なら出来なかった、花がほころぶような柔らかい微笑だった。

 

「どうしたトマス? 嬉しそうな顔をして、何かいいことでもあったか?」

 

不思議そうに聞いてくる誰よりも強くて誰よりも優しい、自分の運命を変えてくれた”兄のような存在”に、

 

「もし、アイツに会えたら”ボクは”何から話そうかなって、ね? だって、楽しくて嬉しい思い出がいっぱいありすぎて♪」

 

それはとても柔らかで眩しい微笑だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
第01話から出張っていたトーリ嫁に続き、今度は曲者(あるいはストーカー)として定評のある義理妹が登場です(^^

シェイ子改めセバ子となったトマスですが、記録者として作家としてあるいは時には戦士(えっ?)として活躍してゆくと思うので、楽しみにしてもらえれば嬉しいです♪


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第04話 ”親友(こいがたき)”


皆様こんばんわ。
明日も朝から仕事なのに深夜アップをしてしまいましたボストークです(^^

さて今回のエピソード、原本(益荒男版)にくらべて実質的文章量で言うと倍近くボリュームアップしてます。
というのもトマスとトーリの出会い、その基点になった”12年前の出来事”を掘り下げてみたくなったから……という感じです。

加筆修正というより感覚的には書き直しに近い代物ですが、お楽しみいただければ幸いです。


 

 

 

出会い方が変われば人のつながり方も変わる。

例えば、敵として出会うか味方として出会うかで大きく運命が食い違うことなど珍しくもない。

歴史というのはいわばそんな事象の集合体だ。

 

 

 

<配点:12年前の出来事>

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

かつて三征西班牙(トレス・エスパニア)には【第十三無津乞令教導院(だいじゅうさんむつごいれいきょうどういん)】という組織があった。

表向きは三征西班牙の前総長であるカルロス一世が作った孤児院施設で、主教導院であるアルカラ・デ・エナレスの特待部に繋がる教導院とされていた。

 

詳細を述べれば孤児を集めて英才教育を施す場所となていたが、それは所詮は世間を欺くカバーストーリーに過ぎない。

実際には事故や歴史再現にない不慮の戦死等で襲名者が欠けたときに、その穴を埋めるための”後釜”を作り出すことを目的としていた。

さらに噂のレベルではあるが聖譜越境部となる生徒を作るための組織だったという。

 

すでに衰退が宿命付けられていた三征西班牙にとって、歴史再現を半ば宗教化しそれを聖譜と呼び世界の根本原理として据えるこの世界において、”歴史再現の中核や基点となる力のある存在”である襲名者を常時確保しておくのは、半ば急務であった。

 

特に本来の歴史にはない【レパント海戦の敗北】において、特に人材的な側面において膨大な国家的損失を負ってからは更に襲名者の重要性は増していった。

例えば、この時期を境に三征西班牙ではただの襲名者だけに留まらず、二重あるいは三重もしくはそれ以上の襲名を重ねた”多重襲名者”が急速にその存在を増やしていったのだった。

 

そんな事情もあらばこそ、【第十三無津乞令教導院】に対する要求もそれに総じて過酷になっていった。

そう多重襲名化を国策として進め、三河から人材の供給を受け、更にはレパント海戦において死んだ者……弘中・隆包やその妻である江良・房栄を幽霊として現世に留まらせてもまだ足りないと判断された。

それほどまでにレパント海戦で受けたダメージは深刻だったのだ。

 

だが、その穴埋めのために育てられる孤児達へ課せられた教導院のカリキュラムは、幼い子供達にとりあまりに辛酸なもので、当時真実を知る者……例えば【大内・義長(襲名前の”フェリペ・セグンド”)】から問題がありすぎると声が上がるほどだった。

事実、その過酷過ぎる鍛錬は”GENESIS世界の超人機関”と呼んでも違和感ないほどのものだったらしい。

ある意味においては当然の判断だったのかもしれない。孤児である以上、どのような扱いをしようと保護者からクレームが来るわけでもなく、またその過酷な訓練であらばこそ実際に襲名者を生み出す実績を残していたのだ。

 

 

 

***

 

 

 

そして物語の始まる12年前……

教導院のやりかたに不満をためた一部の子供達が叛乱を起こした。

記録を読む限り、それは流血を伴うものだったらしい。

叛乱を起こした子供達は教導院の脱走を試み、それは半ば成功するように思われたが……運命は残酷だった。

不祥事の発覚を恐れた教導院は自ら追っ手を放ち、脱走を図った孤児の大半を捕縛。それを『悪魔憑き』と称して内々に”処分”したのだ。

 

だが、それでも追っ手より逃れ生き延びた子供達もいたのだった。

その一人が……

 

「はぁ、はぁ……はぁ」

 

一人の長寿族の童女だった。

長寿族は一般に生存性を高めるために10歳前後までは人間と同等の成長速度であり、そのあと徐々に緩やかになっていくといわれている。

もっともそれはかなり個体差があると言われていて、例えば現状で最も高齢と思われてる清武田の”ヌルハチ(源・九郎・義経)”は幼女の姿である。

彼女より年齢的には若い三征西班牙のベラスケスなどが老人の姿をしていることを考えれば好対照と言っていいだろう。

 

だが、ヌルハチのような例外を除くとすれば、やはりこの情況は過酷を通り越して絶望的と評するべきだった。

 

「うくっ……!」

 

下関からそう遠くない山中にて……その薄汚れた長寿族の童女は、今にも息絶えそうであった。

長寿族と言っても人減と比べて圧倒的なアドヴァンテージを持っているのは種族名通り寿命くらいで、ことサバイバリビリティに関しては極端に勝るものではない。

当然、存外つまらない理由で命を落とすこともままるのだった。

ましてやそれが年端も行かない童女ならなおさらだろう。

この付近に人里のない山中にいる長寿族の童女は、明らかに1人間と同じ成長速度を維持できる0歳にも満たない容姿であり、彼女がありふれた長寿族ならば見た目通りの年齢なのだろう。

しかも彼女は苛烈な逃避行の最中に自らの”半身”を失っていた……

もはや心身ともに限界を迎えつつあった。

 

 

そして、環境神群ががんばりすぎたせいで自然界は再現の元ネタになった”古き世界”よりも豊かなれどさらに厳しく、そうであるが故に同年代の人間とさして変わらぬ長寿族の童子などは”被捕食者”として食物連鎖の最上位から外されてしまう。

しかも運よく重症ではないものの傷だらけで血の匂い漂わせた満身創痍の童女など「餌にしてください」と宣伝しながら歩いているようなものだ。

そうであるが故に、

 

「ひっ!」

 

彼女の前に腹をすかせた「グリズリー並の体躯を持つツキノワグマ」という常識的でない危険生物が現れたのは、ある意味必然だったのかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

まだ幼かった、”14”という数字に過ぎない固有名詞しか与えられなかった童女は、その時たしかに死を覚悟した。

恐怖のあまり腰が抜け、だらしなくおしっこを漏らし小さな水溜りを作りながら涙に溢れた瞳をつぶる幼い女の子……

でも彼女が聞いたのは、自らの肢体が食いちぎられる音ではなかった。

 

「セイッアァァァーーーッ!!」

 

裂帛の気合と同時に”三つ身分身”を伴い同時四斬撃を巨大な獣に叩き込む少年の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

残念なことにその長寿族の少女はその前後のことをよく覚えていない。

 

「ただよく覚えているのは、おぶわれたときの背中の温かさと、」

 

焚き火を囲みながら贈られた優しい言葉……

 

 

 

『俺はバカだから、お前が誰と別れて何を悲しんでるのかは、本当にはわからねえ。だけどさ……』

 

きゅっと当時は今ほど大きさの変わらなかった少年はその少しだけ自分より幼く見えたその子を優しく抱きしめ、

 

『だけど、今だけでもお前が一人じゃないって思わせるくらいはできるんじゃね?』

 

『今だけ……なのかな?』

 

『お前がずっとがいいなら、ずっとでもいいぞ?』

 

『じゃあ、ずっとがいい……! 一人ぼっちはさびしいから。さびしいよ』

 

『そっか。なら俺は……』

 

(『俺は葵・トーリ。今は他の何者でもない葵・トーリ。そして、』)

 

「『これからはお前が一人ぼっちになりそうになったら、必ずそばにいる俺、トーリくんさ』……だったよね?」

 

 

 

***

 

 

 

専用にカスタマイズしたテキストエディターソフトが奏填(インストール)済みの愛用伝纂器(パソコン)の神肖筐体 (モニタ) を見ながら、トマス・デ・ラ・セルバンテスはつい懐かしそうに笑みを浮かべてしまう。

 

ここは、先ほどと同じ三征西班牙(トレス・エスパニア)所属航空艦、ただし場所はブリッジからトマスが私室として使ってる来賓執務室(ゲストルーム)に移っていた。

 

実際、ブリッジで先で待ってたとはいえ、あまり打ち合わせすることはなかった。

むしろ、三河に入港して以降のスケジュールの確認という意味合いの方が強かった。

 

(気にするべきは、三河君主の松平・元信公よりも”K.P.A.Italia”の教皇総長ってのが、国際社会……特に聖連での立ち位置や力関係を表してるよね?)

 

そうなのだ。

そもそもトマスだけでなく、アルカラ・デ・エナレスの第一特務を三河入りの援軍として呼びつけたのは、件の教皇総長だった。

 

(まあ、そんな殺伐とした話題は今はいいとして……)

 

「『だけど、トーリもトマスも気付いてなかったのです。トーリは大切な物を盗んだことを、トマスは大切な物を盗まれたことを』……」

 

彼女は満面の笑みで、

 

「それは……」

 

「『トマスの心だったのです』……ですか?」

 

不意に後ろからかかる不躾な声。

だが、トマスは特に嫌な顔もせずに振り返りながら、

 

「Tes. ちょっとベタ過ぎかな? ”ギン”」

 

そう振り返った視線の先に何食わぬ顔で立ちながら画面を覗きこんでいたのは、気配を消していつの間にか部屋に入っていた立花・誾だった。

 

 

 

***

 

 

 

「いいえ。そういうセンスは嫌いじゃありません。でも……」

 

ちょこっと唇を尖らせて

 

「トマス、トーリ様との出会いをわざわざ恋愛小説化してまで発表するとは、中々あざといですね? 公認周知にはいい手段かもしれませんが」

 

トーリへの愛情かはたまた文才にか、ちょっとヤキモチ妬いたような表情の誾に、

 

「ギンにジェラシー妬いてもらえるのは光栄だけど、残念ながら今のところは発表の当てが無いただの私小説だよ。強いて言うなら”思い出日記”程度?」

 

苦笑するトマスに誾はよくわからないといった思考を表情に出しながら、

 

 

「光栄……なんですか?」

 

誾が不思議そうに聞き返すと、

 

「そりゃそうだよ。だってギンは押しも押されもしないトーリの”正室”じゃない? そのギンにヤキモチ妬かれるってことは、ボクもただの仲のイイ”幼馴染”やトーリの妹ってだけじゃなくて、ちゃ~んと”側室候補”と見られてるのかなって♪」

 

「側室どころか、トーリ様の正妻の座を争える”恋敵(リヴァル)”だと思ってますが? トマスは魅力的ですし、私には無いものをたくさん持ってますから」

 

「ギンにそこまで言ってもらえるなんて、それこそホントに光栄だね」

 

トマスは嬉しそうに頬を緩めながら、

 

「でも、ボクは元々正室向きじゃないし……それに今のボクにはその資格はないよ」

 

「資格……?」

 

「うん」

 

トマスは小さく頷き、

 

「トーリは”誰かへの想い”を引きずったまま想いを伝えていい相手じゃないでしょ? いくらボクだって、それがあまりに不誠実だってことぐらいわかるよ」

 

 

 

その意味は誾にだってなんとなくわかる。

そう、それこそもう十年来の付き合いを超えた”親友”なのだから……

 

「【”私”だったトマス】、ですね?」

 

トマスは懐かしそうにでもどこか切ない表情で頷き、

 

「”私だったボク”も確かに”そこにいた”んだよ。もう会えないけど、でも確かに生きていたから……居なかったことになんてできないから」

 

同じ場所に同じ刻を生きた二人の少女、誾とトマス……だから、同じ男に惚れるのは当然。

それが二人の帰結であり、この星に空気があることと同じくらい当たり前のことだった。

なればこそ、同じ男に惚れた誾は嫌でも理解してしまう。

第02話”甕割”の中で【トーリと喜美とその周りの大切な人たち、とそれ以外】という誾の認識区分が述べられた。

そしてトマスは間違いなく【大切な人たち】の中の一人で、より詳しく言うなら……

 

【幼馴染であり同じ目線に立てる親友、それに何より同じ男に惚れた恋敵】

 

という「あたりにでもなるのだろうか?

 

 

 

***

 

 

 

「残されし者に託された遺志……難しいですね」

 

「難しいんじゃなくて単に面倒くさいだけなんだよ、きっとね。難儀な性格だって自覚はあるから♪」

 

『あはは』と苦笑するトマスに、

 

「大丈夫です。私より面倒くさい女はいませんから、トマスはせいぜい私の半分くらいです」

 

「それならさしずめ、【ハーフ・ギン】だね?」

 

そう二人の少女は笑いあう。

 

 

 

「本当にボク”達”は面倒くさいね?」

 

「でも、器用に生きれない……難儀にしか生きれない”私達”でも、トーリ様がいます。それに喜美お義姉様も」

 

「そうだね。トーリがいてキミ姉に、お義父さんやお義母さんがいる……ボク達は、きっと」

 

どこか人とずれてて”普通に生きる”ことが苦手な二人は、今は確かに不器用のまま生きて、そして間違いなく幸せだった。

 

 

 

船はもうすぐ、三河の領空へと入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

お・ま・け(という名の実験執筆:課題『台詞回しだけで読者様に空気感が伝わるか?』)

もしくは……

 

【エスパニア風ガールズトーク蜂蜜添え・武蔵外道風味に仕上げてみました】

 

 

 

「ところでまじめな話、トマスもそろそろ閨(ねや)デビューしませんか?」

 

「ギン……さっきまでのちょっといい話を何事も無かったようにブッチする超展開をありがとう。というか、告白とかそういうのはオミットしていいもんなわけ? ギン的にはさ」

 

「……最近、段取りを無視しても早急に戦力の拡充を図らねばならないことを痛切に感じまして」

 

「もしかして、褥戦(しとねせん)での対戦成績がかなり悪いの?」

 

「Tes. トーリ様を一騎打ちでしとめるのは、もはや人の身ではかなわぬことでは?と最近、強く考えてます」

 

「う~ん……ギンにそこまで言わせるとは、さすがは三征西班牙(トレス・エスパニア)が誇る”暴れん棒”将軍ってとこかな? といってもギンもそっち方面は武術ほどにはタフには見えないけど」

 

「うっ……返す言葉がありません」

 

「仕方ないよ。女の子は主に性的な意味で可愛がられたら可愛がられるだけ感度が上がる構造の生物だから最初っから不利なわけだし、それは承知の上だろ?」

 

「でもでも、例えそうでも武人の端くれとしてこのまま連戦連敗、失神退場はさすがに悔しいです」

 

「たしかに助太刀は武芸者の嗜みだし、数に頼るのは兵法としてはむしろ王道だけど……でも、ボクにあんまりベッドバトルでの戦力増強は期待しないほうがいいんじゃないかな?」

 

「そのこころは?」

 

「だってギンと同い年だけど、分類的にはボクは炉式キャラじゃん? これで下半身が神格武装級とか、アソコの耐久力が魔神族といい勝負とか言ったら、逆に読者の期待を裏切るような気が……」

 

「別に書籍化してくれとまでは言いませんから」

 

「いや……なんか変な電波でも受信したかな? ともかく、ボクは褥でのHPも見た目どおり……いや、多分、敏感だから」

 

「その間はなんだったのかとツッコむとこ?」

 

「いや、詮索しないでくれると助かる。ともかく、閨でトーリの朱槍を討ち取りたいなら……そうだな、うん。最低でも耐久性が高そうなのをあと一人、できるなら二人は連れ込むしかないね」

 

「むぅ……候補を絞るだけで難しそうです」

 

「でも、ご褒美は【トーリのAhe顔】だよ?」

 

「なんとしても戦略/戦術を練り、作戦を完遂させましょう……!!」

 

熱い女の友情と、ささやかな欲望と共にガシッと手を握る二人だった。

どうやら本人そ知らぬところで内堀も外堀も関係なく埋められ、しかも外部勢力まで呼び込んで今にも包囲網ができそうだ。

 

しかし、彼は天下の”快男児(マスチモ)”。

果たしてこの勝負の行方は如何に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
これまで以上に原本との違いを浮き彫りにしたエピソードでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

改めて読み直し、そして書き直してみて完成度が上がっていればいいのですが、少し不安がありますね(^^



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第05話 ”姉妹弟子(ソードシスターズ)”


皆様、こんばんわ。
今宵も懲りずに深夜アップのボストークです(^^

さて、今回のエピソードよりいよいよ「素晴らしき外道たち」が登場♪
先ずは短くおさわり程度の内容ですが、楽しんでもらえれば嬉しいです。


 

 

 

「さて、この果てしなく面倒な世界の中で特に有数の面倒臭さに満ち満ちてる”武蔵”に、何の因果か乗り集ったキミ達がこの先どうやって生きるのか、生きてゆきたいのか、そして生きて生きて逝きたいのか……それは先生にはわからないし、先生に決めることはできないけど……でも、」

 

 

「本当に必要なときに必要な選択できる力、最低でも選択肢を引っ張り出せる力を教えてあ・げ・る!」

 

 

「もっちろん、先生なりのやり方だけどね♪」

 

 

 

 

 

 

 

<配点:王道ではない力>

 

 

 

**************************************

 

 

 

武蔵アリアダスト教導院、校庭

聖譜歴1648年4月20日午前08時40分

 

 

「さて皆さん……」

 

その”銀髪の少女”は顔馴染みばかりの周囲を見回しばがら一呼吸おき、

 

「”私的闘争”の時間です」

 

そう端的に言い切った。

流れる風に長い銀髪を靡かせ、

 

「これより教師オリオトライは地上げの恨み+その他の逆恨みをまとめて返済するため、品川のヤクザ事務所に殴りこみをかけるようです」

 

彼女の周囲にいた年は若いが無精髭、さらにかなりの金髪美形の青年が相槌を打ちながら、

 

「返済……される側に立てば、これほど潤う言葉は無いな」

 

と呟くと彼に寄り添うように立つ淡い色合いの金髪ににこやかな笑みを浮かべる少女は、

 

「シロくん、潤うのは心の方? それとも懐の方?」

 

小声で囁いた。すると金髪の青年は腕を組んでやけに自信満々に、

 

「もちろん両方に決まってる。貸した金が金利つきで返ってくれば懐は潤い、そうすれば心も潤う」

 

『順番の問題だな』と付け加えた青年だったが、

 

”ヒュオン!”

 

”何か”が二人の顔の間を凪ぐように凄まじい速度で駆け抜けた。

超音速は出てなかったのでソニックブームこそ出てないが、普通に刺されば洒落にならない威力はでているだろう。無論、スプラッタ的な意味で。

加えて投擲された代物が、細いがそれ自体が武器になる強度を持つ”術式強化処理銀組紐(ナノ・ツイスト・ミスリル・ワイヤー)”で手首のブレスレットと連結した”日本刀”だとするなら尚更だ。

 

なんというか……人間が満足に視覚化できない速度で飛んできたエモノは、とりあえず【GENESIS世界版の撃剣(この場合は三国無双6とかで徐庶とかが使ってる剣)】みたいなものらしい。

 

「”シロジロ・ベルトーニ”、『時は金なり』はむしろ貴方が好む単語ではありませんでしたか?」

 

「ふむ。確かにな。世の中には”時給”という言葉もあるぐらいだ」

 

しかし、そんな必殺の一撃が顔の真横を通過しても表情一つ変えない辺り、彼のアーバンネーム【冷面(レーメン)】というのは中々にシロジロという人間の内面を良く現しているのだろう。

 

「だが、刀を飛ばすのはどうだろうか? 地面に突き刺さったところを見ると刃研ぎが必要だろう。もったいないじゃないか」

 

自分の財布だけでなく他人の資産まで気になるあたりが商人(マーチャント)……いや、ここは一つ彼のキャラに合わせて”ヴェニスの商人”風に【悪徳商人(シャイロック)】とでもしておこうか?

ともかくそういった類の彼のキャラらしいと言えばキャラらしい。

 

「心配には及びません。この【ツッコミに使うにはちょっと殺傷力が強い撃剣”インポッシブル”】は、元をただせば数打ち(少数量産品)とはいえ”村正(むらまさ)”の銘をもつ準神格武装。自己再生力程度は標準搭載してます」

 

「なにっ!? 銘入りの準神格武装、しかも村正だと!?」

 

どうやらシロジロもようやく投げられた物の恐ろしさに……

 

「貴様! そんな高級刃物(希少品)をハリセン代わりにするとはどういう了見だ!? 一体、売ればいくらになると思ってる!?」

 

「「「「ツッコむとこ、そこっ!?」」」

 

その時、ハイディ・オーゲザヴァラーを除く”3年梅組”の生徒は心を一つにしたのだった。

ぶっちゃけどっちもどっちだろうが。

 

 

***

 

 

 

さて、情況を説明しよう……

というか、原作を読んだ or アニメ版を視聴した皆様には大体想像はついてるだろうが、原作なら第1巻冒頭、アニメなら第1話のAパートに描かれる、

 

【準バハムート級航空都市艦”武蔵”名物、体育授業の名を借りたオリオトライの私怨実行とアルティメット鬼ごっこ、ついでに戦闘訓練もできればいいなっと♪】

 

的な恒例のバカ騒ぎである。

要するにようやく原作に追いついたということだ。

なんでわざわざ体育の授業に粉飾させた戦闘訓練をせねばならぬのかといえば、”武蔵”は明確な武装の所持/搭載も、またそれを扱う戦闘訓練も公的には認められてない……””筈だった”からだ。

 

もっとも、その原則も最近は崩壊し”有名無実”化しつつあるのだが……それはいずれ詳しく語られよう。

ともかく、今外道……もとい。【3年梅組】いるのは、毎度お馴染みの”武蔵”甲板上。

より細かく言うなら、【武蔵アリアダスト教導院】の校庭だ。

 

ただしの原作と顔ぶれが少し違うようだが……

 

「さて、少なくともこの体育の授業の名を借りた殺伐としたガチンコ機動戦訓練において、皆さんに求められる仕事はなんでしょう?」

 

「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」

 

原作ではここにいるはずのない銀髪少女の声に、特にノリのいい戦闘系技能持ちの面々が呼応する。

だだし、男性キャラに限る……と思いたい。

なにやら男性にしては高い声も混じってたような気もするが、気のせいだろうきっと。

 

「そうです。今日という今日こそ、我々に苦心惨憺を舐めさせ続けた女教師の仮面をかぶった”女狂剣士(ベルセルク・アマゾネス)”に引導を渡し、その首級(みしるし)を品川にさらすのです」

 

「「「「「殺せ!! 殺せ! 殺せ!」」」」」

 

 

 

「ちょお~っとまてい!!」

 

鬨の声が上がりいい感じに戦意が高揚してるさなかに響いたのは、今一つ無粋な女性の声である。

 

「? なんでしょう”オリオトライ”先生?」

 

と銀髪の少女は小首を傾げると、

 

「いっくらなんでも体育の授業中に、よりによって先生の目の前で『殺せ』だの『首級をさらせ』とかは実際どうなんよ?」

 

すると彼女はきょとんとした顔で、

 

「今更、何を言ってるのですか? この程度の単語など”ホライゾン”達の間では日常会話、言ってしまえば挨拶代わりみたいなものです」

 

「いや、まあそりゃそうだけどさぁ」

 

あっさり認めるのは、銀髪の少女がチラリと言っていた背中に背負った長刀と万年ジャージがトレードマークの梅組担任【オリオトライ・真喜子】であった。

というか……教師が認めちゃいかんでしょう!?

 

「それにこの程度の気概と覚悟が無ければ、”姉弟子(おねえ)”様を屠ることは愚か、毛筋一本ほどの傷すらもつけられないでしょう」

 

そう軽く言い放つのは銀髪の少女、【ホライゾン・アリアダスト】。

人の心と最先端と言っていい機械仕掛けの肢体をもつ銀髪の少女で、現【武蔵アリアダスト教導院”総長兼生徒会長”】であった!!

 

端的に言うなら、飄々した口調とセメント思考で外道どもを率いる、”武蔵の統率者”だ。

 

 

 

***

 

 

 

「ほほ~う。我が妹弟子は随分と燃えてるじゃないのさ?」

 

「三河に”凱旋報告”するには、まず姉弟子様からの勝利くらい持参しなければ認められないでしょう……今日こそ梅組は姉弟子様を超えます」

 

「いいねいいね♪ ”私が”じゃなくて、”梅組が”ってあたりが特に好感触よ♪」

 

「一人で倒せぬなら二人で、二人で倒せぬのなら三人で……適切な場所に適切なタイミングで適切な数の戦力を投入することが、統率者の役目だと心得ます」

 

系統は違うが同じ師より”剣の使い方”を学んだ二人は、オリオトライは獰猛なホライゾンはクールな、そんな対照的な笑みを浮かべ、

 

「じゃあそろそろ……始めよっか?」

 

オリオトライの呼びかけにホライゾンは小さく頷き、

 

「いざ尋常に……」

 

「「勝負!!」」

 

 

 

そして”武蔵”の甲板上に、派手な轟音が響き渡ったのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
この”平行世界における武蔵一味(笑)”は如何だったでしょうか?
次回は少しずつ彼らの実力が明らかに……?
楽しみにしていただけりと嬉しいです。


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第06話 ”ガネっ娘と中二作家(ちゅうにびょうでもこいはする)”


皆様、こんにちわ。
中々まとまった執筆時間が取れないボストークです(^^
さて今回のエピソードは……シリーズ通算で屈指の甘さを誇るエピソードです(えっ?)
原本(益荒男版)と比較しても糖分増量セール中につき、皆様くれぐれも胸やけにご注意ください。
甘いものが苦手な方はブラック珈琲のご用意をお勧めします(笑)


 

 

 

『夢ならたくさん見たよ。でも、いつも辛い現実に押し潰された。だけど……』

 

『自分は臆病だから。だからいつも貴方を見てることしか、自分を見て欲しいって願うことしか出来なかった。でも……』

 

『僕は君と出会えた』

 

『自分は貴方に想いを伝えられた』

 

『夢でだって会いたい!』

 

『夢から覚めたらもっと会いたくなる!』

 

『『君が(貴方が)そうさせた! だって恋は欲張りだから!!』』

 

 

 

 

 

<配点:中二病だって恋がしたい!>

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

それは、武蔵アリアダスト教導院の総長兼生徒会長の【ホライゾン・アリアダスト】が姉弟子であるオリオトライ・真喜子の武を超えるため、3年梅組を巻き込みつつ冷静にしかし熱く気勢を上げてる同時刻、というか集合地点からちょっと離れた木陰では……

 

「気をつけてね? ”アデーレ”」

 

「うん。”トゥーサン”も指揮管制をよろしくお願いしますね♪」

 

にこやかに微笑む、クラスで一番ちっこくて平たい……ぶっちゃけ小等部の集団に混じっても違和感なさそうな金髪のガネっ娘が無垢ににっこり微笑むと、やはり高等部より中等部、それも不思議と二年生あたりの学年ががぴったりとはまりそうな同じく眼鏡の少年……いや、それとも”男の娘”か?は、

 

「ああ。アデーレが全力を出せるように、僕は僕なりに最善をつくすよ。それが、前線ではさほど活躍できない僕が、常に前線に立つ大好きな君にできる数少ないことだから……」

 

”こつん”

 

ある意味、様々な属性の集合体である眼鏡の小柄な少女”アデーレ・バルフェット”は少し背伸びをすると少年、”トゥーサン・ネシンバラ”の額にコツンと自分の額を当てて、

 

「自分がいつも自信を持って”一番鑓”として突撃できるのは、大好きなトゥーサンが背中から見ていてくれるからなんですよー?」

 

彼女は笑みをますます優しいものに変えて、

 

「トゥーサンが的確な指示をくれて背中を見守ってくれるから、自分は躊躇い無く突撃することが出来るんです」

 

「アデーレ……」

 

「でも、あの”個人戦闘能力暫定武蔵最強(ベルセルク・アマゾネス)”に一番鑓を叩き込むんですから、ちょっとだけ勇気とか祝福とか期待しちゃっていいですよねー?」

 

「僕でよければ喜んで」

 

”CHU”

 

柔らかい木漏れ日の中で重なる唇と唇……

それはとても幸せそうな情景だった。

少なくとも当人達にとっては。

 

でも、ここでアデーレは少し悪戯心を出してしまう。

ついついぺロリと舌でネシンバラの唇をなぞった。

 

(しょうがない娘だなぁ~)

 

”ぴちゃ”

 

ネシンバラはこちょこちょと擽るように、あるいはねだるように自分の唇をなぞるアデーレの舌に自分の舌を重ね絡めた。

 

「!?……(はぁと)」

 

するとアデーレはちょおとびっくりしたようにレンズの奥の大きな瞳をいっそう大きく見開いたが、すぐに蕩けるような柔らかな光を浮かべ、

 

”ぴちゃ……くちゅ”

 

むしろ自分から積極的にネシンバラの舌を絡めた。

 

 

 

どれほど唇を重ねたのだろうか?

どちらかともなく名残惜しそうに唇を離すと、

 

「てへっ♪ 濡れちゃいました♪」

 

困ったように、でも嬉しそうに幼さを残した表情であどけなく微笑むアデーレに、ネシンバラは同じくらい優しい笑顔で、

 

「キスだけでそうなるなんて、アデーレはえっちな娘だね?」

 

「ひどいですぅー。自分がえっちな娘ならそうしたのはトゥーサンですよぉ」

 

拗ねた仕草で膨らませるアデーレの頬に、

 

”Chu♪”

 

ネシンバラは軽くキスをして、

 

「知ってる。責任はとるよ」

 

”てへへー♪”でこれ以上ないくらいに頬を緩ませるアデーレは、どこまでも幸せそうだった。

 

 

 

***

 

 

 

「じゃあ、行ってきますねー♪」

 

小さな肢体に見合わない大きなエモノ、準神格(?)武装級の鑓【ランス・デ・ラ・ベート(Lance de la Bete。意訳:ケモノノヤリ)】を携え、「もうちょっとトゥーサンと一緒にいたかったですぅ」と言いたげに振り向きながら集合地点へと走っていく”従士”の少女。

ネシンバラはその後姿を穏やかな表情で見送りながら、

 

「さてと……」

 

術式鍵盤と中二病そのままのデザインの表示枠を手早く展開し、

 

「『愛する少女の後姿を見送ったネシンバラは、周囲に感じる殺気に素早く反応する』」

「「「「リア充眼鏡、爆散しやがれっ!!」」」」

 

アデーレが視界から消えるなり、複数の物理/術式を問わない攻撃の数々が直撃コースでネシンバラに迫る!

 

「『その時、ネシンバラは【年齢=彼女いない暦】のヤロー共から醜い嫉妬と共に放たれた攻撃を巧みに避ける。その動きはまるで未来を予測してるようだった』……と」

 

そして現実は彼の綴る通りになった。

これこそ、ネシンバラが最も得意とするスガワラ系イツル神奏術式、【幾重言葉(いくえことば)】だ。

汎用性も効力も高いが、小説形態の術式展開(神音借り)が条件とされてるために、発動が遅いのが難点であり、本人の言うとおり情況が秒単位で切り替わる最前線にはあまり向いてるとはいえない。

 

(だけど、この程度の攻撃はどうということはないんだよね)

 

「『ネシンバラは、「この程度の攻撃、当たらなければどうということはない」と思いながら巧みな回避運動を続ける。内心では同時に愛する少女の身を案じながらも、その娘と歩むだろう未来を思い描きながら』」

 

(結婚式は、どう考えても神前……”浅間神社”で強制執行だろうから……)

 

それを断れば昼夜関係なくズドンの脅威に怯えて暮らす日々が続きそうなので、ネシンバラやアデーレはとっくに諦めてる。

 

(世間は”末世”がどうとかって騒いでるけど……)

 

実はネシンバラもアデーレもあまり深くは考えていない。

というより、今【世界の滅亡】とやらの兆候が現実に起こっているとしても文字通り目の前で起こってない以上、実感せよというのも無理な話だ。

 

(それよりも……)

 

今考えるのは、間近に予定してる普通の意味での”卒業後”。

自分は本来の”生業”に戻ろうと思ってるし、アデーレとの結婚は既に確定事項だ。

 

(そうでなければ、いくら僕でも同棲なんてしないし)

 

大切な事なので二度言う。『ネシンバラとアデーレは交際を始めたその日から同棲している』。

繰り返す。アデーレとネシンバラは同棲してやがる!

 

(僕は学生結婚でもよかったんだけど……)

 

アデーレが嫌がった。曰く『学生結婚って全般的に貧しくて、若気の至りの後、若さゆえの過ちによる破綻ってイメージがあるんですよー』とのこと。

それは”いつの時代の四畳半戯曲だ?”と聞き返したいとこもあったが、しかし経済事情というのは、確かに人が生きていくうえで重要な因子ではある。

そこは納得してる。

 

(でも、その卒業もあと1年も無いし……)

 

ネシンバラとしては、卒業後なるべく早くアデーレとは夫婦になりたい。

 

(僕だって人並みに子供も欲しいし)

 

いつまでも避妊術式の世話にはなりたくないようだ。

 

(なら、できる準備はしておかないとね)

 

わからないことは聞こう。

 

(知らないことは恥ではない。知ろうとしないことが恥なんだから)

 

そしてネシンバラは周囲を取り囲む殺気だった男衆(なぜか梅組以外の面子が多い。授業さぼってる”ペタン同盟”とかだろうか?)に、

 

「ねえ、結婚式は否応なく浅間神社だろうけど、披露宴はどこがいいと思う?」

 

「「「「「死ねっ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

コンデンスミルクを一気飲みしたような甘さを乗り越え、舞台は再び”武蔵”全域……というか教導院のある”奥多摩”から”品川”にかけての【機動追撃戦(ハウンド・チェイス)】に戻る。

 

「セイッ……!」

 

ホライゾン・アリアダストの『重力と質量の段階的連続制御』による高速ゴー&ストップで残像すら発生させ間合いと踏み込みのタイミングをつかませない”残影縮地(ディレイ・アタック)”から、その脚裁きと加速に速度を相乗させて近接距離から放たれた超音速の居合い【鎌鼬の一閃(ソニック・ブレード)】。

そこに発生した斬戟と真空衝撃波(ソニック・ブーム)の組み合わされた二つの破壊を、

 

「よっと♪」

 

なんとオリオトライ・真喜子は受けるのではなく斬戟を”受け流し”ながら剣圧に逆らわず後方に飛び、さらに衝撃波に”乗って”しまったのだ!

 

「なんと……!」

 

つまりは、ホライゾンの鋭い一撃を【後方へ跳ぶためのカタパルト】として利用したのだ。

 

「これぞオリオトライ忍法(笑)、【衝波乗跳(しょうはじょうちょう)】! なんちゃって~♪」

 

空中で姿勢制御しながらくるりと反転して見事な着地を決めたオリオトライは、弾かれたような勢いで一路”品川”へと駆け抜ける!

 

「今、拙者のアイデンティティーが一部否定された気がするでござるよっ!?」

 

なにやら顔をスカーフで隠した”実は帽子が本体説”がある犬っぽい忍者が取り乱しているが、ホライゾンは視線を向けずに、

 

「”点蔵”」

 

「なんでござろう?」

 

「貴方も弾き飛びますか?」

 

「なんとっ!?」

 

「それが嫌なら、さっさと追いかけてください」

 

「J, Jud!!」

 

本気でホライゾンの一閃で飛ばされるのが嫌だったのか、どうやら点蔵という名らしい、あまり忍んでない風体/言動の忍者は、石弓から射出されたような勢いで慌ててオリオトライを追いかける。

 

どうやら長い銀髪がトレードマークの機械仕掛けの肢体を持つ少女、武蔵アリアダスト教導院総長兼生徒会長の”ホライゾン・アリアダスト”は、原作と比べても武力はアルティメットで性格はセメントらしい。

 

「ホライゾンの剣技もまだまだ未熟、更なる修練が必要ということなのでしょうね」

 

そして、どうやら努力家でもあるようだ。

 

 

 

***

 

 

 

(追いつきましたよー♪)

 

内心、そうほくそ笑むのはアデーレだった。

彼女は、オリオトライがホライゾンの一撃を受けると射出された方向を判断、ほぼ同時に駆け出していたからこそ、最速で追撃できるポジションを確保できていた。

 

「”ランス・デ・ラ・ベート(ケモノノヤリ)”、【恋文符カートリッジ】を装填してください!」

 

『Oui. Princesse(意訳:了解。お嬢様)』

 

アデーレは鑓を通じて全身に力がみなぎるのを感じる。

それも当然だ。

この術式符は、トゥーサンがアデーレへの想いを文にして綴った物であるのだから。

ケモノノヤリはその物騒な名前に反し、このネシンバラからアデーレへの恋文をスガワラ系の文神に奉納することでその能力にブーストをかけられる機能ががあるのだ。

だから文字通り、

 

(トゥーサンの想いが自分の力になる!!)

 

「だからいつまでも負けてられないんですっ!!」

 

アデーレはそのエメラルド色の瞳に覚悟を宿し、

 

「いっけぇーーーっ! 創作術式【スフィーレ・ゲイル(Soufflez Gale=疾風の一撃)】!!」

 

それは術式としてはさほど難しいものではない。

要約すれば、鑓の後方から圧縮空気を指向性をつけて噴射してブースター効果を得ると同時に、自分の周囲に【常に術者の動きに最適化された空力特性を持つ力場カウリング】を展開。

この二つの相乗効果で、爆発的な加速を得る術式だった。

 

「へぇ~。一番鑓はアデーレってわけ?」

 

まるで背中に目でもあるかのようにアデーレの接近に気付くオリオトライに、

 

「自分、脚力と速度が自慢の従士ですから!」

 

勢いを殺さないままにオリオトライの背中に向けて鑓を突き出すアデーレ。

しかし!

 

「甘いわよ!」

 

絶妙のタイミングでオリオトライは背面跳びの要領で跳躍回避すると、空中バク転を決めてあっさりとアデーレの背後をとった。

 

「まだまだぁー!」

 

だが、アデーレは諦めてはいない。

彼女は鑓の軌跡を変えて穂先を足場になってる屋根に突き刺しアンカー代わりに急制動をかけつつ、鑓の柄を軸に手をフックのように引っ掛けてスピードを維持したままくるりと半回転!

そして同時に、

 

「トゥーサン! 今です!」

 

通信枠が開くと同時にネシンバラはニヤリと笑い、

 

「このタイミングを待っていたよ! 術式”幾重言葉”の遠隔効果付与! 『風を司る神々の祝福により、愛らしい少女の両腕に真空の刃が顕現する! それは起死回生の一太刀となった!』」

 

これがネシンバラが後方にいる意味の一つだ。

彼は主人公を切り替えると同時に、通神を通しても主人公にした相手に”幾重言葉”の効果を付与することが出来るのだった。

 

「貫滅! ”双牙掌(そうがしょう)”!!」

 

”ビュオッ!”

 

それは技からすれば、”両腕の貫手(手刀)”という古式武術ではわりとメジャーな徒手空拳の打撃技だ。

しかし、アデーレ自身の突進スピードと両腕に顕現した”不可視の真空刃”により、まともに喰らえば命に関わる攻撃へと変貌する!

 

「だから甘いっていってんのよん♪」

 

されど流石は異世界ですらリアル・アマゾネスの二つ名を欲しいままにするオリオトライ・真喜子!

彼女はしゃがむと同時に脚を素早く低く伸ばしながら回転させ、アデーレの体重の乗った踏み込みの足首を鎌で雑草を刈り取る横薙ぎにした!

プロレス技でいうところの”水面蹴り”によるカウンターといったところだろうか?

 

 

 

「ふぇ!?」

 

軸足をモロに横薙ぎされたアデーレは、つんのめるようにバランスを崩し、まるで宙に投げ出されるような姿勢になってしまう。

そして、そんな隙を見逃すオリオトライではない!

 

「ちゃーんす♪」

 

”ガッ!”

 

彼女は立ち上がり際にアッパーカット気味にアデーレの喉元あたりを掴むと、

 

「せいりゃ!」

 

”ばずぅーーん!”

 

「あいたぁーーーっ!!」

 

問答無用にアデーレを足場の屋根に叩きつけた!

そりゃあもう、屋根瓦が割れ飛び散るような勢いで……

 

 

 

***

 

 

 

「はぅぅぅ~~~」

 

気絶こそしなかったものの肺の空気を一気に押し出されるような勢いで片手喉輪落としモドキ(?)を喰らったアデーレは、どうやらしばらく動けそうも無いようだ。

 

「んー。悪くはない攻めだったし、”夫婦の息合ったコンビネーション”ってのもポイント高いけど、今一つ詰めが甘かったわね~♪」

 

実に楽しそうに置き台詞(捨て台詞というのは何か違和感がある)を残し、カウンターでアデーレが沈んだために攻撃のタイミングが微妙に狂わせられた某カレー神の信奉者を軽く返り討ちにしながら、オリオトライは再び”品川”に向けて再加速するのだった。

 

 

 

「ごめんね、トゥーサン……せっかく力をくれたのに、あっさり負けちゃいました」

 

だが、表示枠の向こう側にいるネシンバラは小さく首を横に振ると、

 

「いいんだ。アデーレは”先生を足止めする”って役割は果たしたんだから、充分だよ」

 

「でも……やっぱり、悔しいよぉ……」

 

するとネシンバラは慈しむような優しい瞳で、

 

「ならアデーレ、また僕と一緒にがんばろうよ? 僕は何があってもずっと君のそばにいるから。世界がどうなろうとそれだけは変わらないから」

 

「そんな優しい言葉かけたら駄目……です……よぉ……自分は弱いから……」

 

『どこまでもトゥーサンに甘えてしまいます』という言葉を飲み込んで、顔を覆って小さく嗚咽するアデーレに、

 

「Jud. 今から迎えにいくから」

 

そして、この素直で気丈で愛らしく脆い、誰よりも大好きな少女を抱きしめようとネシンバラは思っていたのだった。

 

 

 

さて、ここで少なからぬ読者諸兄の心の声を代弁しよう。

ネシンバラ、マヂニモゲロ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 




ネシンバラ、バクサンシヤガレ……

はっ!? 失礼しました。
今のは放送事故(?)です。

皆様、ご愛読ありがとうございました。
元々シリーズ屈指の糖度を持つエピソードだったのですが、加筆修正分の大部分がネシンバラ&アデーレのイチャラブシーンという、ある意味劇物のエピソードを楽しんでいただけましたでしょうか?

考えてみるとタイトルはトーリ(の中の人)が主人公っぽいのですが、ネシンバラが主役という妙なエピソードですね?(笑)

次回も武蔵勢力がメインとなりますが、楽しみにお待ちいただければ幸いです。


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第07話 ”三人娘(トリニティ・ストライク)”


皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは、いよいよ武蔵の誇る武闘派筆頭の三人が登場です♪
そして半ばキンクリされるヤロー共の姿も(えっ?)


 

 

 

「ホライゾンの斬撃は相応に鋭いですよ?」

 

「私のズドンは、人生です」

 

「わ、私(わたくし)は上の二人ほど過激ではありませんからねっ!!」

 

「「「「「いや、お前も明らかに同類だって」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

<配点:武闘派三人娘>

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

「”智”、矢の属性に【拡散弾効果】と【音声起爆信管】を加えてください」

 

梅組きってのマッチョ巨漢【ペルソナ君】の掌上を射撃足場(プラットフォーム)にした”浅間神社”の誇る射殺巫女……もとい。ズドン巫女……どっちも印象が変わらないのはどうしてだろうか?

 

ともかく長い黒髪が印象的な純和風美人でおまけに巨乳、加えて義眼入れてるおかげで”オッドアイ”という属性の塊でありながら、その物騒という言葉が三次元に具現化したような性格と行動が男を寄せ付けないと評判の【浅間・智】に、ホライゾンはそう通神を繋げる。

 

浅間は既に放とうとしていた矢に、射撃物の停滞と外逸と障害の三種祓いに照準添付の合計四術式を通神祈願していたが、ホライゾンはさらに二つの効果を付け加えようとしているらしい。

 

「追加二つ分の代演は、ホライゾンが金銭奉納で払います」

 

「それはいいけど……ホライゾン、そこまでいるもの?」

 

「保険の様な物です。普通なら智の四代演で充分ですが、相手は”姉弟子(おねえ)”様です。万全に万全を重ねても、なお足りない存在と見たほうがいいでしょう」

 

すると浅間は少し考えると妙に納得した顔で、

 

「……わかりました。ハナミ、さらに二神音術式入れられる?」

 

『うーん……うん。大丈夫だよ♪』

 

なんとなく”おかめチック(乙女チックの誤字に非ず)”な浅間の走狗(マウス)が笑顔で答えた。

 

『拍手♪』

 

というかホライゾンの注文は、聞きようによってはえっらい剣呑だった気がするが……それを平然とあるいは当たり前のように受け入れるあたり、『色々と過激なこと』に定評がある”浅間神社”らしいリアクションではあるのだが。

というか”拡散弾”とか”炸裂信管”とかって、神社で術式オプション設定できるもんなんだぁ……

 

 

 

***

 

 

 

さてさて、原作と呼ばれる平行世界で浅間が出てくる前に……

 

点蔵・クロスユナイト

キヨナリ・ウルキアガ

ノリキ

 

の三人による”GENESIS版三次元ジェットストリーム・アタック”が披露されていたはずだが……

 

「ハァッ!」

 

「拙僧、打撃にてお相手仕る!」

 

「わかってるのなら言わなくていい」

 

何のことは無い。

原作よりわずかに善戦した(オリオトライの拘束時間を、原作比1.74秒も引き伸ばした)ものの動き的には同じであり、わざわざ文章化する必要も無いだろう。

 

「何気に扱いがひどいでござるなっ!」

 

「まあ、無理も無いがな」

 

「平行世界(原作)と同じ展開なら、わざわざ書き起こさないでいい」

 

ノリキ、ダウト!

それメタ発言だから。

 

それにぶっちゃけ、ヤローの筋張った戦闘シーンよりおにゃのこのキャットファイトのが書いてて楽しいし。

 

「この作者、本当にぶっちゃけたでござるよっ!?」

 

それと喜べ。三人とも益荒男版と比べても台詞が一つ増えてる。

 

「いや、それ全然フォローになってないにござるよ!!」

 

 

 

***

 

 

 

閑話休題、終了

シーンは再び美しくも激しいバトルへ!

 

「義眼“木葉”、合いました!」

 

”ドシュッ!!”

 

とても生身が放った弓とは思えない発射音を残し、術式付与で文字通り”魔法の矢(ミサイル)”となった矢は一直線にオリオトライの背中へと飛ぶ!

冗談抜きに音速くらいは出てるんじゃないかと思えたが……

 

「よっと」

 

軽いステップで回避運動を決めながら背中の太刀を抜いて迎撃を試みるオリオトライ。

しかし、あっさり回避されては射殺巫女……いやいや。”武蔵の主砲”の名が廃ると言わんばかりに、

 

「切り落とそうとしても無駄ですよ! 回り込みます!」

 

浅間の台詞通りに命中!という直前……

 

「”ブレイク”」

 

”ズムッ!!”

 

ホライゾンの言葉と同時に浅間の破魔矢が炸裂し、拡散弾となりオリオトライに降り注いだ。

 

「ホライゾン……何故?」

 

悪意でも敵意でも皮肉でもなく、浅間は純粋な疑問としてホライゾンに問う。

そう彼女の放った矢は間違いなく命中、それも直撃コースに乗っていた筈だからだ。

 

「髪の毛です」

 

「髪の毛?」

 

不思議そうに聞き返す浅間にホライゾンは頷きながら、

 

「背負いの太刀を抜刀すると見せかけて、”わざと”髪を切り落としました。姉弟子様に限って抜刀で自分の髪を切り落とすような下手は打ちません」

 

「そうか! ”チャフ(欺瞞因子)”だ!」

 

通神に割り込んだのは、アデーレをお姫様抱っこしたまま歩いていたネシンバラだった。

ちなみにアデーレを抱っこしながら歩けるのは”幾重言葉”で『自身がアデーレをお姫様抱っこして歩く』というペタン同盟やらナイチチ連盟やらツルペタ連合の同志達が読んだら憤死もののシーンを即興で書き起こしながら歩いてるせいである。

間違っても『脱いだら僕は(筋肉的な意味で)すごいんです』というわけではない。

とはいえ、原作よりかは幾分パワーアップしていそうだが。

中二病的な意味も含めて。

 

「抜き打ちすると見せかけて自分の髪を切り散らし、矢の術式を誤認/誤動作させるチャフ代わりにするつもりだったんだね?」

 

ホライゾンはとりあえずネシンバラの腕の中で「てへへ~♪」と幸せそうにデレデレに頬を緩ませてるアデーレを華麗にスルーしながら頷き、

 

「おそらくは。姉弟子様の術中にはまり、矢が迷走する前に炸裂させました。威力は減じますし、一撃で倒すことは難しいと思いますが……」

 

『それでもノーダメージよりはましです』と続けようとした矢先、

 

「ほうほう。よぉ~く気付いたわね? うんうん。流石は我が妹弟子♪ 手の内お見通しってわけ?」

 

「む、無傷……」

 

心底嫌そうな顔をするホライゾンである。

 

「なっ!? どうしてっ……」

 

呆然とするのは浅間だ。

なんせ炸裂術式はズドンに定評のある浅間神社のお墨付き、威力は第二次世界大戦の米軍手榴弾、通称”パイナップル”程度は楽にったるはず……

するとオリオトライはふふん♪と笑い、

 

「タネは単純よ。髪の毛切っても意味なさそうだったけど、せっかく刀抜いたんだから、ついでにそのまま抜き打ちの要領で音速出してソニック・ブレードをカウンターに放っただけよん♪」

 

無茶苦茶である。

実は剣風が音速に達する人材はままにいる。

というより第06話の初太刀で魅せた【鎌鼬の一閃(ソニック・ブレード)】でもわかるようにホライゾン本人がそうだ。

しかし、それはあくまで最大の剣速を発揮できる”居合い”においてである。

 

まさか背中なんて最も抜刀術(居合い抜き)のやりにくいポジションに背負った鞘から、しかも抜きかけた刀をそのまま腕力任せで加速させて音速突破、至近距離から発射された散弾の弾道を残らずひん曲げる真空刃を発生させる……なんて、色んな意味で常識って言葉に喧嘩を売ってるとしか思えない剣技(?)は、さしものホライゾンでも『今のところは』不可能だ。

というか普通はやろうとは思わないだろう。

それ以前にオリオトライが対人兵器ごときで殺傷できるのか、甚だ疑問に思えてくるが……

 

(もしできるとすれば、若手では他に葵姉弟とかでしょうか?)

 

何気にオリオトライと同じ”人外範囲”としてホライゾンに認識されてるトーリと喜美であったりする。

まあ、あくまでも噂として囁かれる【八十年戦争】での”葵・トーリと愉快な仲間達ご一行”の活躍、いやその『阿蘭陀とそれを支援する英国にとって悪夢に近い現実』の半分も信じるなら無理も無い話だが……

 

 

 

***

 

 

 

(しかし、やはり姉弟子様……一筋縄ではいきませんね)

 

「食後のアイスが……」

 

がっくりとペルソナ君の掌の上で膝をつく浅間……なんかこの表現だと浅間がペルソナ君の策略にはまり弄ばれたような雰囲気だが、実際には物理的な意味で射撃の足場にしていたペルソナ君の手の上で浅間がいわゆる”orz”状態になってるだけだ。

ペルソナ君は心優しいインドアゲーマーです。

ただ恋人が画面の向こう側にしかいない人種かどうかは不明だが。

 

「だ、大丈、夫?」

 

そう心配そうに声をかけたのは【向井・鈴】。

貴重な前髪枠の盲目で心優しい少女だ。

蛇足ながら体格はスレンダーなあっさり系。そして盲目を補うように音に鋭敏だ。

その特性を生かし、彼女は家業(銭湯)と掛け持ちである戦闘系の役職、それも三河弁でいうところの「どえりゃぁー役職」に就いてるようだが、それはおいおい明らかになる予定。

 

「ええ……ちょっと食生活から潤いが消えますが」

 

浅間は四神音術式に使う四代演のうち二代演を昼食と夕食に五穀を奉納としていたからなのであるが、

 

「問題ありません。智の胸部装甲の分厚さは、多少摂取カロリーが減少したところで軽量化できるような代物ではありませんから」

 

とのたまうは当然のようにホライゾン。

 

「あの、それって遠まわしに私が絶対にダイエットできないって言ってる……?」

 

思わず年度明けで”36”に達した内燃総拝気量をホライゾンにまとめてズドンしたくなる誘惑に駆られる浅間だったが、

 

「……ホライゾンも今日のおやつがランクダウンです。金銭奉納の代金で甘味処の白玉クリーム餡蜜の予定が、スーパーで特売の3個1パックになってしまいました」

 

そのハイライトの消えたあまりに暗い瞳に、浅間はどう声をかけてよいかわからず、

 

「あ~……みんなで不幸になりましょ? ねっ?」

 

あんまりフォローになってなかった。

 

「フフフ……これも、あの”武蔵”最強の剣豪に関わるものの宿命でしょうか? このやり場の無い憤りを、つい”インポッシブル(愛用の撃剣)”の刃にのせて、顔も知らないヤクザに存分に”変移抜刀ツッコミ斬り”を入れてしまいそうな自分がいます」

 

さすがに某無双系格ゲーをリアルで行う情景を思い起こし顔を青くした浅間は、

 

「ちょ、ちょっと! せめて峰打ち&半殺しくらいにしてくださいねっ!? ミンチにすると後始末が面倒だし、下手に悪霊化すると幽霊祓いも大変なんですから……」

 

その通神を聞いていた一同は誰しもが思った。

 

(((((半殺しならいいんだ……)))))

 

 

 

大体、会話を聞いてホライゾンと浅間の関係は気付いてもらえたと思うが、端的に言えば原作と同じく幼馴染、そして性格……はかなり違うけど、物騒なとことか過激なとことか変に馬が合うらしく、原作以上に友情が厚いと思われる。

 

正確には、【剣のホラ子に弓の浅間】とか【ザンッのホラ子にズドンの浅間】とかって良くも……いや、大半は悪くものほうで”双璧(配点:物騒)”と並び称されてるようだ。

 

 

 

***

 

 

 

「どうすんの? ホライゾン、まさかここで諦めるなんて言わないわよね?」

 

安い挑発なのはわかっていたが、ここでオリオトライに怖気づくようなら……

 

(”武蔵”の総長兼生徒会長の看板は外すべきですね)

 

そう、ホライゾンはわかっていた。

苦難がデフォ仕様の”武蔵”にいるかぎり、『所詮は実戦ではない』この程度の戦闘など半笑いで遂行すべき事柄なのだと。

 

「戦況を立て直します。”ネイト”、いくら重戦車気質が持ち味の貴女でも、そろそろ”自分の領地”は抜けますよね?」

 

すると鳥居を象った通信枠(サインフレーム)に映ったのは、

 

「誰が重戦車気質ですかっ!?」

 

えっらい豪快な銀髪の五連装巻き毛(ドリル・ロール)を装備する手足は長く均整は取れてるが、胸部装甲の厚みは【アデーレ<鈴=ネイト】と非公式に言われてるくらい軽量な少女、半人狼の【ネイト・ミトツダイラ】だった。

間違っても装甲の薄さを指して”未凸平”という意味ではない。

 

「ネイトの戦闘シーケンスを端的に表現しただけですが?」

 

「ぐっ……皮肉ではなく本気でそう思ってる分、やりにくいですわ。しかもわりと的を射てるあたりが」

 

「? ネイト、智がどうかしましたか?」

 

「ホライゾン、弓とか的とか射るって単語が出てくるたび、すぐに私に直結するのはやめてもらえませんか?」

 

通神に割り込んできて苦言する未だアイスに未練たっぷりな様子の浅間に、

 

「智、”末世”が来たとして……それを無事に乗り越えた先にあるのが、ズドンが許容された来世とズドンの否定された来世、どっちを望みます?」

 

「そりゃあ八百万(やおろず)の神に誓って、ズドンが奨励される来世ですが」

 

「「「「「神に誓って即答かよっ!? しかも奨励かいっ!!」」」」」

 

浅間の迷いも歪みも無い答えに、再び心を一つにする梅組一同である。

 

「それでこそ智です」

 

ただホライゾンだけが綺麗なサムズアップを決めていた。

ちなみにホライゾン、某魔女が絶賛連載中の浅間をモデルにした同人誌の愛読者でもある。

 

「というわけで智、もう一度ズドンの準備を。ネイト、領地を抜けたなら”銀鎖(アルジョント・シェイナ)”でいつものようにドカン。道を開いてください」

 

そして彼女はかすかな笑顔を浮かべると、

 

「頼みます。”我が騎士(Mon Chevalier:モン・シュバリエ)”よ」

 

その台詞と同時にミトツダイラの顔つきはやおら真剣なものに変わり、

 

「Oui. MON ROI(かしこまりましたわ。我が王よ)」

 

 

 

こうして舞台は、いよいよラストステージの終着点”品川”へ。

体育の授業の名を借りた戦闘もいよいよ佳境に入ろうとしていた!

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
武蔵外道衆(?)がはっちゃけるエピソードは、楽しんでいただけたでしょうか?

なぜか武闘派三人娘の中にホライゾンが入ってる罠(笑)
まあこれがシャッフルズの仕様ってことで(^^


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第08話 ”剣豪系譜(ミツ・クロニクル)”


皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは、前回に引き続き武蔵外道衆(笑)のお話です。
実はこのシリーズにおけるホライゾンの正体やら立ち位置やらがチラホラと明らかになっています。


 

 

 

 

 

人にはそれぞれ歴史がある。

格好つければ”パーソナル・ヒストリー”とでもなるのだろうか?

その存在が生まれてから死ぬまでの小さな歴史……

その小さな歴史が集まって”世界”は形成されていく。

 

 

 

 

<配点:年代記>

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

 

 

「ネンジ君、どうやら僕たちの出番は、丸々オミットされてしまったようだよ?」

 

「フン。どうやら作者は吾輩達を書ききるだけの技量が無いようだな」

 

ええ、ありませんとも!

マッチョな体操のお兄さん系インキュバスと理論値HP3程度のスライムを、一体ボストークにどうしろと……

というかネンジは喜美不在の為に同じく出番のない御広敷に地味に潰され、それを気付かなかった御広敷は、ふと振り返った浅間に派手にズドンされたりした模様。

イトケンは察するに、概ね原作どおりの活躍(?)だろう。

それはともかく、オリオトライ主催の”アルティメット鬼ごっこ”はさらに激しさを増しつつあるようだ。

 

”ズゥン!!”

 

準バハムート級航空都市艦”武蔵”は、実は

 

中央前艦・"武蔵野"

中央後艦・"奥多摩"

右舷一番艦・"品川"

右舷二番艦・"多摩"

右舷三番艦・"高尾"

左舷一番艦・"浅草"

左舷二番艦・"村山"

左舷三番艦・"青梅"

 

以上8隻の航空艦を同一平面状に連結させることで構成された【集合分散型大型航空都市艦】という極めて珍しい艦種だ。

 

そして今、航空艦を陸地に繋ぎとめるメタルアンカー……ではなく、それと見紛う迫力で”多摩”の最前列から”品川”の最後尾に打ち込まれたのは、

 

「チッ! 外しましたわ!」

 

そう舌打ちしたのは、豪奢な多連装ロングロール銀髪(断じて内部で力場を形成して質量弾を放つ”ロールカノン”とかの機能はない……と思う。多分)とダイナミックにシェイプされた胸部が特徴の【ネイト・ミトツダイラ】だ。

 

実は彼女が狙ってたのは、連結帯から”品川”の甲板に飛び降りようとしていた標的、3年梅組担任の【オリオトライ・真喜子】の背中だった。

 

普通なら命中し、例えば彼女が”ただの人間”なら背骨砕かれ内臓が破裂し、最後は腹部に大穴空けて細切れになった中落ちをぶちまけさせる……程度の威力はあったはずだが、オリオトライは絶妙なタイミングで軽く1ステップで回避運動終了。

まるで闘牛士(マタドール)を髣髴させる動きでネイトの”銀鎖(アルジョント・シェイナ)”ひらりとかわし、そしてネイトの鎖の先端は”品川”の甲板を貫いたのだった。

 

「いえ。上出来です」

 

その紡ぎ出された静かな言葉を追い越すような勢いでネイトの横を駆け抜ける銀色の影!

 

そう、言うまでもなく”武蔵”内部では実(まこと)しやかに聖連の評価に反して【教導院学生最速にして最強じゃね?】と囁かれるホライゾン・アリアダストだ。

 

ホライゾンは今まさに”武蔵”が進路を向けている【三河】にて”ある事故の顛末”として全身を自動人形化、擬体(サイバネティック)化した少女だった。

そう、ちょうど”人払い”がされた10年前にだ。

……いやここはもう少し風情のある言葉で、最近は”自動人形(オート・マタン)”との区別の為に少し使われるようになってきた

 

【機巧化(マシンナリー・ヒューマノイド)】

 

と表現しよう。

するとホライゾンは【機巧少女(マシンナリー・ガール)】とでもなるのだろうか?

もっともこの言い方は今のところあまりメジャーではない。どちらかと言えば中二病患者が使いたがる傾向があるようだ。

こう書くと北条の姫君と大差ないように聞こえるかもしれないが、実際には大きな隔たりがある。

いずれその詳細は書かれるかもしれないが……今言えることは『北条の姫に比べ武蔵の姫は、少なくともカタログスペック上では全般的な性能が大きく劣る』ということだ。

 

聖連に対する恭順の証の一環として、ホライゾンには様々な機能制限が”実の父親”である三河君主によって施錠されている”建前”であり、聖連が把握してるホライゾンのスペックは『自動人形としては最低ランク』であるはずだった。

でなければ、『もっとも無能な者に任命される』ことが慣例である武蔵の”総長兼生徒会長”などには任命されなかったろう。

 

とはいえいくらスペックが低くても彼女の身体の規範とされたのは自動人形であり、その特性は引き継がれていた。

その一つが自動人形の十八番で代名詞の”重力操作”だ。

 

 

 

***

 

 

 

自動人形の中には重力操作の限界質量が桁違いで、額面どおりに『武神とのタイマン勝負に勝てる』個体も存在するらしいが、残念ながらホライゾンの出力は某ダッちゃんの嫁のように【重力操作単体で戦術運用が可能】というレベルではない。

 

だからこそだろうか?

ホライゾンは、重力の繊細で連続性のある操作と人間特有の”柔軟な発想”を生かした戦い方を好んでいた。

例えば、

 

「ハッ!」

 

短い気迫と共にホライゾンは”銀鎖”に飛び乗り、その上を全力疾走したのだ。

本来は不安定な鎖の上だが、ホライゾンはまるでスピードトラックでも走るような安定した姿勢で走り抜けていた。

いや、それどころか本来なら速く駆けるならその分の反発や反動を得るため、強く地面を踏みしめねばならず、故に鎖にかかる反動も大きいはずだ。

単純な作用/反作用の法則なのだが……ホライゾンはそれを全く無視し、ネイトの鎖をほとんど揺らさず、そしてありえない速度で走り抜けてるのだ。

 

さて、作用/反作用の話が出たついでに鎖を揺らす要素、つまり蹴った時に発生する【運動エネルギー】の話をすれば『質量に正比例、速度の二乗に比例する』という話をしておこう。

 

速度を落とさずに運動エネルギーを軽減するには質量を軽減するしかないのだが……

地球上では質量は重量とよく混同される。正確には地球上なら混同しても問題は無い。

というのは、重量は言語分解すると”重力質量”という意味で、地球上では物体が例え静止状態でも【万有引力(重力加速度=1G)】がかかってるからだ。

つまり、地球上にある全ての物質には質量に1Gという重力が加わっているのだ。

 

ここで察した方もいらっしゃるだろう。

そう、ホライゾンは【ホライゾンという個体質量にかかる重力】を『重力を分散/統合制御』することにより、このような”人間離れした高機動”を可能としていた。

具体的に言うなら自分にかかる重力を、三次元的運動において強引に身体を安定させるバランサーやアクティブ・スタビライザー的な役割が基本の【能動的可変重力場(アクティブ・ヴァリアブル・グラヴィティ・フィールド:AVGF)】としているのだった。

それに加え今回は、”前へ引っ張る力(前方からの引力)”と後方から前へ”押し出す力(水平面の重力加速)”へと多めに配分/重力のベクトルを操作し、速度を稼いでいた。

 

ぶっちゃけ自分にかかる重量の大半を姿勢制御と加速に費やしてるのだから、そりゃ速いはずだ。

なお恐ろしいのは彼女はそれを術式で行ってるのではなく、人間の脳味噌と機巧化した身体に備わった”デフォ能力”のみで行ってることだ。

つまり、ホライゾンはまだまだ余力を残していた。

 

 

 

***

 

 

 

「ナイト、ナルゼ、近接航空支援(Close Air Support:CAS)を開始。命中しなくてもいいから姉弟子(おねえ)様の足を止めてください」

 

疾風の如く駆けながらホライゾンは、上空で機会をうかがっていた【オパーイが分厚くて全体的に白いんだけど黒魔術使いな”墜天”】の少女、”マルゴット・ナイト”は、

 

「りょうかいりょおかぁ~い♪ でもホラ子ちゃん、ナイちゃん思うに当てちゃってもいいんだよね?」

 

すると同じく並ぶように中空に陣取るナイトと好対照な【オパーイがかなり薄くて全体的に黒いんだけど白魔術使いな”堕天(正確には『匪堕天』)”】の少女、”マルガ・ナルゼ”も、

 

「ホライゾン、こう命じてもいいのよ? 『当ててしまえ』って!」

 

何やらナルゼの台詞はフラグっぽいが……それを気にすることもなく対なる二人の言葉にホライゾンは小さく頷き、

 

「なるほど……では、こう命じます」

 

彼女は愛刀の一つであり、色々と名称(建前)の変わる模擬戦とツッコミに主に使われる撃剣”インポッシブル”を鞘から抜き放ち、

 

「我が対なる翼よ、愛によって奏でられる”堕天と墜天のアンサンブル(合奏)”により、あの女剣豪をモザイクがかかるような蜂の巣にしてください……!」

 

その物騒な命令に、

 

「「Jud!!」」

 

二人の天道を外れた天使は、元気いっぱいに応えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

さてさて、このなぜか男はスルーされがちな一連の『戦闘訓練じゃないよ。体育の授業だよ?(聖連向け資料より)』を、”武蔵”を形成する八隻の航空艦の一つ、中央前艦“武蔵野”の展望台より眺める二つの人影があった。

 

「非加護射撃による近接航空射撃、いや乱射か?の援護下での突貫ねぇ~。やれやれ、相変わらずウチの現役”総長閣下”は、毎度のこととはいえ随分と攻撃的なオプションを好むもんだ。にしても……」

 

そう苦笑したのは初老の男、若い頃はさぞかし自覚にせよ無自覚にせよ女誑しだったことであろうことが伺える、元美形の面影が色濃く残っている。

 

「人を乗せるのまで上手いたぁ、あれが”天性の武人の資質”ってのかもしれないな」

 

彼こそが武蔵アリアダスト教導院の学長で、”武蔵”が今向かっている三河が誇る元”松平四天王”の一人、【酒井・忠次(さかい・ただつぐ)】だ。

 

もしかしたら女誑しという意味では現役かもしれない。

苦味ばしった燻し銀の雰囲気と人を食った飄々とした性格、それに老いたとはいえ未だ端正さを失わない顔の三拍子があいまって”大人の魅力”を形成しており、今でも現役女学生(!?)の間に根強いファンがいるらしい。

ぶっちゃけ、彼に尻触られて喜ぶ娘はいるわ、人目を憚って学長室に忍び込む女学生は日常茶飯だわ、学長室から出てきた女生徒が焦点の合わない虚ろな瞳で”にへらっ”とした笑みを浮かべ、艶かしい息で出てきた……なんて話は今更、噂にもあがらない。

『来る者は拒まず、去る者は追わず』というライフスタイルを好む酒井らしいエピソードではあるが。

 

「Jud. 流石はオリオトライ様の妹弟子と納得できる果敢さ、高度な複合的戦闘力です。__以上」

 

そう返答したのは、長い黒髪を携えた女性型侍女式自動人形。暗色を基調としたブリティッシュ・スタイル(ロングスカート)に和風のテイストを加えたメイド服と清楚な雰囲気が実にマッチしていた。

 

そう、彼女は”武蔵”。

八隻で構成される航空都市艦・”武蔵”を統括する総艦長であり、同時に”武蔵”そのものと言える。

 

「だねえ。そういや”武蔵”さんは、”ミツ”さんのこと知ってるんだっけか?」

 

「Jud. ただし、直接お会いしたことはございませんがデータとしては保有してます。__以上」

 

「そっかそっか。んで、どのくらいデータが残ってるの?」

 

「要約すれば、オリオトライ様とホライゾン様の剣の師匠で、現在は三征西班牙(トレス・エスパニア)にいる元剣豪の”葵・善鬼(あおい・よしき)”の実母。その関連で葵・喜美/トーリ姉弟の祖母にあたります。__以上」

 

酒井は感心したように、

 

「ほう。結構、知ってるじゃない? でも、いくつか欠損情報……いや、それとも意図的に削られた情報かな?があるね」

 

すると”武蔵”は微かに表情と呼べそうな何かを動かし……人間で言えば好奇心を刺激されたような状態になったのだろうか?

 

「よろしければ、お聞かせください。__以上」

 

観戦を続けながら酒井は小さく笑い、

 

「いいさ。俺が知ってる限りでならな……そうだな、例えばホライゾン君はミツさんの弟子としては二代目、母子(おやこ)そろっての弟子とかってのはどうだい?」

 

「初耳です。__以上」

 

知識で”武蔵”で上回るというシチュエーションが珍しいのか、酒井は愉快そうに

 

「他にも有名所では葵・善鬼はもちろん、旦那の”小野・忠明(おの・ただあき)”もまたミツさんの弟子だったんだよ。言ってしまえば、忠明や善鬼は、真喜子ちゃんとホライゾン君の兄弟子や姉弟子にあたるってことだな」

 

「随分とお詳しいのですね?__以上」

 

酒井は笑みを苦笑という種類へと変えると、

 

「俺ら”松平四天王”とミツさん、それに忠明や善鬼とは、良くも悪くも色々と因縁があるのさ。もっとも、俺が忠明や善鬼と最後に会ったのは、もう四半世紀も前の話になっちまうがな。そっか、あの頃はまだミツさんはまだ辛うじて現役の”襲名者”だったっけか……」

 

『やれやれ。まさか忠明と善鬼が結婚して、あまつさえそのガキを見ることになるたぁな~……どうりで俺も年を食うはずだぜ』と続ける酒井に”武蔵”は、

 

「25年前というと、レパント海戦の歴史再現の失敗で”疲弊し過ぎた”三征西班牙に、聖連の命から三河より”人材復興支援”が行われた時期ですね?__以上」

 

「ああ」

 

酒井はどこか今はもう戻れない場所を見るような遠い目で、

 

「信じられないかもしれねぇが、こんなしょぼくれたオジサンにも”青春時代”ってのは、それなりにあったんだぜ?」

 

ニカッと笑う酒井を”武蔵”はただ静かに見つめていた。

後にたまたまこの現場を見た人物によれば、『気のせいかもしれないけど、”武蔵”さんが心なしか嬉しそうに見えた』とコメントを残している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
某スライムとインキュバスのキンクリは(笑)楽しんでいただけましたでしょうか?

実は今回のエピソード、原本に比べて少しホライゾンの情報が改変&追加されていたりします。


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ハーメルン(マスチモ版)・オリジナル・エピソード
第09話 ”悪徳商人(シャムロック)”


皆様、こんにちわ。
ちょっとした発表ですが、今回のエピソードより益荒男版の改訂版ではなくハーメルン様(マスチモ版)用に完全新作で書き下ろした未発表のオリジナル・エピソード展開になります。

もしかしたらこれまでのエピソードと雰囲気が微妙に違うかもしれませんが、これまで同様に気に入っていただけたら嬉しいです。

さて、今回の主役は珍しくも……?
ついでにまたしても人間関係が中途半端にシャッフルされてたりして(^^



 

 

 

 

 

彼は”守銭奴”だと人は言う。

だがそれは本当に彼の本質と言えるのだろうか?

おそらく、彼を愛した少女”達”は、それを笑顔で否定するだろう。

 

 

 

<配点:商人の皮を被った……>

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

オリオトライ・真喜子、別名”ベルセルク・アマゾネス”はとにかく強い。

その強さは実際、本当に【種族:人間】なのか疑わしくなるレベルだ。

まあ薫陶を授けたのがミツ……かつて”とある大剣豪”の襲名者なのだから当然と言えば当然なのかもしれない。

 

だが、そんな彼女が今度は薫陶を”授ける側”になった場合はどうなるか?

その答えは梅組が示してくれていた。

 

 

 

時系列は、ミトツダイラが”品川”にアンカーをぶち込む前まで遡る。

 

「もっと派手に金を使え~~~っ!!」

 

上機嫌で街を駆け抜けるのは”冷面(レーメン)”のアーバンネームをもつ「銭ゲバ夫婦の夫のほう」こと”シロジロ・ベルトーニ”だ。

彼はる商業の神【稲荷系サンクト】と契約しており、奉納や神々との間のやり取りに金銭を用いることができた。

ぶっちゃけ『契約を仲介し術式などなどを”商材”として金銭で売買できる』という能力だ。

 

この能力に加え、均整の取れた長身で金髪碧眼、おまけに文句なく二枚目の顔立ちという世のヤローから怨嗟の声の集中砲火を浴びそうなキャラだが、そうならずに”外道の一員”という分類でカテゴライズされているのは、偏にその残念な性格ゆえだった。

まあ一言で言えばHNの通り自他共に認める”守銭奴”だ。

彼の言動はそれを根幹とすることも多いのだが、本質的に言えば少し違うようだ。

 

『シロジロ、景気は上々のようですね?』

 

唐突に開いた通神の相手はホライゾンだった。

 

「ああ。教師オリオトライを倒すため、皆が景気良く金をばらまいてくれるからな」

 

そう愉快という感情を隠そうともしないシロジロだ。

少なくともこの時点ではっきりしたことがある。彼は常時鉄火面でもなくポーカーフェイスでもない。見た感じどちらかと言えば表情豊かだ。どちらかと言えば彼のアーバンネームたる”冷面”はむしろ通神の向こう側に居る『一見すると感情が欠落したような』印象を受けるホライゾンの方が似合う気もする。

では、彼のアーバンネームの由来とはなんであろう?

 

『ですがシロジロ、お金を儲けることは否定しませんが溜め込むことが貴方の本懐ですか?』

 

「……何が言いたい?」

 

『動かぬ金はただの死に金です。経済とは金銭の流動があり初めて意味を成すもの。ただ金を溜め込むのが、貴方の商人としての在り方ですか?』

 

”ぞくり……”

 

その時、シロジロが全てを見透かすようなホライゾンの冷たい視線に感じたのは、明確な歓喜だった。

 

(嗚呼、これだからこの女に仕えるのは……)

 

「やめられんな」

 

『? 何がです?』

 

しかしシロジロはホライゾンに明確な答えを返すわけではなく、

 

「大したことじゃない。そうだな……確かに死に金を溜め込むのは商人として美徳に満ちた行為とは言いかねるな」

 

『では、いかがします?』

 

するとこんどはその通神に割り込む形でもう一つの表示枠(サインフレーム)が浮かび上がり、

 

『私も久しぶりにシロくんのちょっといいとこ見てみたいかも♪』

 

そう微笑むのは長い金髪がよく映える優しげだけどふわふわした感じの少女だった。

このどこかとらえどころのないけど間違いなく美少女の分類に入る彼女は、名を”ハイディ・オーゲザヴァラー”という。

 

「フン……まあいいだろう」

 

つまらなさそうに鼻を鳴らすシロジロだが、その口元には微かにだがはっきりと笑みが浮かんでいた。

 

「安い挑発だが、あえて今は乗ってやろう。私の実力を見せることによって商品の宣伝/販促に繋がるのなら悪い取引ではない」

そして彼は金銭を奉納し自らに術式をかける。

 

「術式ライブラリより仮面術式”雷光男爵(ライトニング・バロン)”を選択、展開……!!」

 

その時、シロジロに明確な変化が訪れる。

そう彼の鼻から上を覆うような無機的でシャープなデザインの【純白のフェイス・マスク】が顔に巻きつくように出現したのだ!

そう、実は”この世界”におけるシロジロのアーバン・ネーム”冷面”の由来は無表情であることではなく、彼の得意とするこの仮面術式にこそあった。

つまり生の表情ではなく『”無機質な仮面=表情を隠す冷たい面”で能力を底上げする男』であるからこその”冷面”なのである。

 

 

 

彼は金銭奉納により得た仮面の力を憑依させることにより己の力とし、【自らの適性や特性】を瞬時に切り替えることが出来る。

無論、奉納する金額によって召還するグレードは変わってくるが、当然グレードが上がるほどその効果は高い。

実際、ここ”雷光男爵”の上位マスクには”雷光伯爵(ライトニング・カウント)”なるものも存在するといわれているが、噂によれば伯爵は男爵の『単純な上位互換』ではないらしいが……

 

「創作術式”時は金也”!」

 

”ヒュゴッ!”

 

その術式展開の瞬間、シロジロの身体は常識外れのスピードで加速する!

 

 

 

***

 

 

 

「マルガ、マルゴット、援護する」

 

驚くべき加速度でトップスピードに達したシロジロは、ついに白黒の魔女(テクノ・ヘクセン)が弾幕射撃を浴びせかけてるためにジグザグ走行を余儀なくされ、幾分進撃速度を落としたオリオトライの横、正確には屋根伝いに併走する場所に躍り出たのだった。

 

創作術式”時は金也”は『時が金ならば逆もまた然り。等式が成り立つなら金は時になりうる』という発想で練りこまれた時間操作系の術式だった。

もっとも本当に時間が金で買えるわけではなく、シロジロは”体感時間”を操作し、相対的な時間感覚を圧縮/加速させたのだった。

今回、シロジロは金銭奉納により加速30倍……『1秒を30秒と感じるまで』時間感覚を引き伸ばしたのだ。

肉体もその感覚に引っ張られるために必然的に加速されるが加速した感覚に比べるとやはり相対的に鈍くなるのでシロジロに言わせると『ゲル化した空気の中を泳ぐような負荷』を感じるらしい。

またその際にかかる肉体的過負荷や疲労はやはり金銭奉納によって自動的に禊れるよう設定しているため、出費は小さくない。

 

「Wow! ”シーちゃん”やっるうっ~♪」

 

「へぇー。”守銭奴”が金に糸目をつけない術式発動なんて珍しいじゃない?」

 

素直び感嘆するマルゴット・ナイトと軽く驚くマルガ・ナルゼ。

しかしシロジロは仮面に隠れて表情こそわからないがクールな声で、

 

「何を言っている? 守銭奴であることは全面肯定するが、私は金を溜め込むのが快楽なのではない。むしろ盛大に使うのが趣味であり快楽だ。貯めるのはその快楽を味わうための手段に過ぎん。金は使われるものではない使うものだ」

 

『金を主とするのでなく常に金の主たれ』……シロジロ・ベルトーニとはそういう男なのだ。

 

「例えば、このように……なっ!」

 

”シャコン!”

 

シロジロの着こんだ制服の上着、その極東特有の長い袖口から硬貨を纏めた棒金が左右の手の平に飛び出し……

 

「創作術式”盗人に追い銭”!」

 

”ビュバッ!”

 

左右の親指で同時に硬貨を弾き飛ばす!

そのモーションは一般には”指弾”、銭を使うので変則的な羅漢銭とも言えるか?という暗器(隠し武器)の技能なのだが、シロジロのそれは一味違う。

もともとシロジロは金持ちであるが故に強盗や物取りにに襲われる機会は一般人より遥かに多い。

しかし、彼はボディガードを雇うことを『金の無駄』と切り捨て、四六時中護身用の武器を持ち歩くことを『エレガントではない』という理由でよしとしない。

そこで行き着いたのが彼にとって最も身近で硬質なアイテムである硬貨を武器として使う武術だった。

 

『金を武器にするとはいかにも商人らしい良い技だ』

 

とシロジロはその武術を知ったとき絶賛したという。

実際、彼はこの硬貨指弾に加え、『手首のスナップを生かして手裏剣のように水平に硬貨を投射』する”本来の羅漢銭”も習得していた。

ちなみに指弾は打撃力、羅漢銭は手裏剣と同じく刺突力が主な威力となるので使い道が少し異なるため、シロジロは使い分けているようだ。

それだけでは飽き足らずシロジロはこれら暗器投射術に加えて硬貨を触媒とした『硬貨の価値に応じた威力や様々な特性を付与させる術式群』を相乗させることに成功した。

シロジロが標準的なパチンコ玉のような金属球ではなく空気抵抗の大きな硬貨をわざわざ”弾丸”としているのは、この一連の”金銭価値比例型付与術式”があるからだった。

 

既にお気づきかも知れないが、術式の構成は大幅に違っても効果はマルゴットの攻撃術式に極めて近い。

そのせいだろうか?

シロジロにとりマルゴットはこと術式においては最大のお得意さまで、またマルゴットの発注で術式開発を請け負ったり、また二人で共同開発した術式もいくつもあるらしい。

そういう関係だから、シロジロとマルゴットは平行世界とは全く異なる意味で相性も仲も極めて良好なようだ。

どのくらい良好かと言えば、ハイディが思わずヤキモチを妬きまくるくらいのレベルらしい。蛇足ながらナルゼに向けるそれとは別種ながらMAXの好感度を隠そうともせずにハイディの目の前でも平然とべたべたするマルゴットほどではにないにしても、マルゴットとの絡みでシロジロとナルゼの関係も良好だ。

もしかしてナルゼは異性は排除すべきライバルなどではなく、”別腹”扱いなのだろうか?

そんな四人である故に、武蔵の掲示板によれば『こんがらがった四角関係(笑)』と揶揄するむきもあるようだ。

 

 

 

それはともかく……

術式付与により硬貨金額を速度と威力に変換した硬貨は、本物の弾丸と見紛うような勢いでオリオトライに迫る。

まるでその一連の動作は某”超電磁砲”やら某”竜宮神社の鉄砲巫女”を彷彿させるが……

 

「ナイトの弾幕を隠れ蓑に死角から高速硬貨弾を放つなんて、中々味な真似をするじゃない?と言いたいとこだけどまだ……甘い♪」

 

”ギインッ!”

 

オリオトライはマルゴットの硬貨弾幕を回避しながらシロジロの放った指弾硬貨ニ発を振り向きもしないで抜刀と同時に切り払うという離れ業を、呼吸するように平然とやってのけた。

だが、相手はあのホライゾンの残像踏み込みから真空斬撃をかわすどころかカタパルトに使うような女だ。

この程度で驚いていたら梅組の一因としてやっていけないだろう。

 

「そうでなくてはな。だからこそ”金の力”の力と意味を示す価値がある」

 

一本の棒金に纏められてる十円硬貨(キャスト・ブレット)は100枚。

十円硬貨にしたためられてる威力などたかが知れてると思われるだろうが、本来ならこれで十分なのだ。

単純な価値からいうと21世紀のアメリカなら対人用としてはメジャーな9mmパラベラム弾はノーブランドのバーゲンセール品なら500発1箱2000円程度で入手できる。

つまり1発当たり4円だ。シロジロの術式で価値変換を行えば、単純な威力だけで換算すれば『1発辺り10円の弾丸と同じ威力』を十円硬貨に持たせることができた。

 

(だが、威力は一枚辺り五円分に限定……)

 

威力をあえて半分にする辺り、何か考えがありそうだが……

 

「教えてやろう。私が百枚つづりの十円棒金を両手に持つということは、百連発弾倉(マガジン)付の二丁拳銃に等しいことを」

 

するとオリオトライはニヤリと笑い、

 

「教師に教えを説くとは中々に挑戦的じゃない?」

 

「なに。今日こそ教師オリオトライの不敗伝説を終わらせる気があるだけだ。君主がそれを望むなら、その望みを叶えるのが良き臣下というものであろう?」

 

オリオトライは愉快さを隠そうともしない表情で、

 

「へぇ~♪ アンタがそこまでホライゾンに入れ込んでるなんて先生知らなかったわ♪ ”冷面”なんてアーバンネーム付けられてクールなふりをしてるけど、本性の熱血が顔を覗かせてるわよ?」

 

例え生徒であろうとしっかりと挑発し返すことを忘れないあたりも、オリオトライがオリオトライである所以だろう。

 

「やかましい……!」

 

シロジロは不本意という言葉を顔に浮かべるような表情で十円硬貨指弾を三点分射(トリプル・バースト)で放ちながら、

 

「マルゴット、マルガ、合わせろ……!!」

 

「りょおか~い♪ ナイちゃん、シーちゃんのお妾(めかけ)さんの面目がつぶれないように頑張っちゃうんだから♪ でも、その時はご褒美おねだりしてもいいよね? ね?」

 

「いいわよ。三人で安宿でなくて滅多に泊まれない高級旅籠(ホテル)ね。料金はもちろんシロジロ持ちよ?」

 

「心得た!」

 

『ちょっとシロくん!? わたし、そんなの絶対に了承できないよ!? というかマルゴット=シロくんの妾(めかけ)なんて図式まだ認めてないんだからねっ!』

 

割り込むハイディの通神もなんのその。

二人の魔女と一人の商人の皮を被った”戦士”は、オリオトライを打倒すべく彼女を軸にするような急速旋回に入った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
魔改造され、『商人であると同時に戦士でもある』シロジロの活躍は如何だったでしょうか?
ちなみに仮面術式”ライトニング・バロン”の元ネタは中の人つながりで、某機動戦士シリーズの”W”の名敵役のあの方です(^^

マルゴット→シロジロの想いは『ガッちゃんは恋人。シーちゃんは愛人だよぉ~♪』

ナルゼ→シロジロのスタンスは、『まっ、不本意だけど愛人のふりくらいはしてあげるわ』
って感じでしょうか?
シロジロ、水橋パルスィあたりに刺されねぇかなぁ……
いずれにせよ、ハイディは原作以上に苦労しそうですが、彼女もまた原作とは違う意味で只者じゃないような?

ともあれ今回よりマスチモ版オリジナル展開、皆様のご意見ご感想を是非是非お待ちしております!




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第10話 ”魔女の在り方(ヘクセン・デートル)”


皆様、こんにちわ。
ストーリー展開が亀足なことに定評のあるボストークです(自虐)
今回でめでたく二桁話数に乗ったというのに、まだ”武蔵の追いかけっこ”が続いてるという。
しかも今回のエピソードは前回に引き続きバトルがメイン……の筈だったんですが、どういうわけか内面掘り下げの側面が強くなってしまいました(^^

やっぱり亀足展開ですね~。
こんな感じのエピソードですが、呆れながらも楽しんでいただけたら嬉しいです♪


 

 

 

 

 

魔女は嫌われ者だ。

無論、時の宗教にとって。

魔女は知らなくていいことを知ろうとするから。

だけどその好奇心ゆえに、魔女だけが本当の彼の姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

<配点:魔女の瞳>

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

「マルゴット、マルガ、合わせろ……!!」

 

それはシロジロ・ベルトーニの金勘定の時とまた別種の凛とした声だった。

普段の理知的な声ではなく、普段は魂の奥底に眠る闘争本能の戦闘衝動に突き動かされたときにしか発しない、シロジロが『雄としてのサガ』を解放した時の声だ。

 

「りょおか~い♪ ナイちゃん、シーちゃんのお妾(めかけ)さんの面目がつぶれないように頑張っちゃうんだから♪ でも、その時はご褒美おねだりしてもいいよね? ね?」

 

「いいわよ。三人で安宿でなくて滅多に泊まれない高級旅籠(ホテル)ね。料金はもちろんシロジロ持ちよ?」

 

「心得た!」

 

マルゴットはひどく上機嫌だった。

 

『ちょっとシロくん!? わたし、そんなの絶対に了承できないよ!? というかマルゴット=シロくんの妾なんて図式まだ認めてないんだからねっ!』

 

なんて本妻の割り込み通神が入っていたことすら気が付かないくらいだから、相当浮かれているのかもしれない。

本来はゆるキャラならぬ百合キャラのマルゴット・ナイトではあるが、この世界ではシロジロにひどくご執心のようだ。

ただし、それはハイディと違って純粋な恋愛感情などではないようだ。

 

(やっぱり魔女としての本性かなぁ?)

 

誤解のように言っておくが、マルゴット本人が『恋人はガッちゃん。シーちゃんは愛人』と公言したり、『えっ? ナイちゃんはシーちゃんのお妾さんだしなぁ~♪』と公然と言い放ちながらシロジロにべたべたしていたりするが、言葉の通り基本的に恋愛感情はナルゼに向いている。

ナルゼはナルゼでその自覚はあるので、不必要にシロジロに嫉妬したりはしていない。

別に平行世界の同一存在より物分りがいいわけでなくて、単純に『自分とは別枠』と割り切っているのだ。

それにナルゼ自身も昔から金銭面だけでなく色々世話になっていて、それが『お得意様への当然のサービス』だとしても困ったときに助けてもらえるのは嬉しいものであり、故にシロジロに対する好感度は低くはない。

というよりむしろ、むしろマルゴットと一緒に一つのベッドで汗だくになって可愛がられるのになんら抵抗がない(というより女同士では味わえない快楽がむしろ気持ちいい)位にはシロジロに対する好感度は高い。

ハイディの苦労が忍ばれるエピソードではあるが、

 

(でも普段のお金儲けして喜んでるシーちゃんも可愛いけど、なんか窮屈そうに見えるんだよねぇ~)

 

マルゴットがシロジロを見る目、あるいはその評価はどうやら他のクラスメートとは少し視点が違うようだ。

 

(ナイちゃんの見立てだと、”シーちゃんの本質”はもっと獰猛で凶悪なはずだもん)

 

根拠はある。

マルゴットは『魔女でいいよ。魔女なら魔女らしいやり方でNTRしてあげるから』って普段の朗らかな彼女らしくないハイライトの消えた瞳をしながらナルゼとつるんで隙を突いてシロジロを拉致、ハイディの追っ手を振り切り旅籠(ホテル)へしけこんだことが何度もある。

そのたびに感じるのはシロジロの野性味溢れた”獣性”だ。

 

性的な意味でナルゼの耐久度は愛らしいサイズの胸と比例するように低いから、文字通り”金髪のケダモノ”のようなシロジロの激しい責めの前にすぐに陥落して失神してしまうのであまり蓄積も経験もないが、そっち方面にはやたらと耐久度が高いマルゴットはついつい最後までつきあってしまうのだ。

詳細を語るとR-18指定まっしぐらになるため避けるが、胸部装甲の厚さに比例して性的な意味で高い耐久性を誇るマルゴットさえも、シロジロと一晩も共にすると『嬲られ続け身も心もボロボロになってしまう』のだった。

無論、暴力的な意味ではなく、苦痛と快感の境界線をさまようようなひたすら与え続けられる強い快楽ゆえにだ。

 

(あっ、濡れてきちゃった……この間もすごかったもんなぁ~♪)

 

どうやら思い出したら肢体が勝手に反応するレベルのプレイ強度だったようだ。

『そのうちシーちゃん無しじゃ生きていけない肢体になっちゃうかもね~』と軽くマルゴットは危惧するが、そうなったらそうなったで悪くないかな?とかも同時に思っているあたり彼女もまたツワモノ側だろう。

 

(まあ快楽で悪墜ちした駄目天使っていうなら、確かにナイちゃんにはお似合いのキャラだけどね~)

 

「でも、”守銭奴”とか”冷面”とかって今一つシーちゃんには似合ってない気がするんだよねぇ?」

 

そう小さく呟く。

名がその存在の本質を現すなら、このよく知られるシロジロの二つ名はマルゴットにとってシロジロの表層しか現してないような気がした。

マルゴットがいくつかの夜をシロジロと共にすごしたのは伊達じゃないということだろうか?

虚飾を捨てたある意味の極限状態、正気と狂気の狭間のような場所を互いに何も纏わぬ……何もかもを曝け出した時間を二人で共有してるからこそ、見えてくるものがあるのだろう。

多くの人間に忘れられているようふだが、時にはサキュバス(淫魔)と同等に語られるほど魔女は淫乱なものとされる。曰く『悪魔と性的交わりによって契約し魔法を得る存在』とまでされる。

故に聖譜の示す”七つの大罪”の一つ【色欲(luxuria)】に反するとして迫害されてきた。

確かにサバト(魔女集会)では性交渉やそれに従属する行為が行われるが、それはツァークや他の宗教と魔女との間に横たわる『解釈と意見の相違』と言えなくもない。

魔女にとって性交渉は愛情や悪魔との契約という世俗にとらわれるものじゃない。根源的には相手の最も深き場所を、本質や本性を探り知るための手段でありコミュニケーションだ。

隠さぬ隠せぬところで剥き出しの相手と自分を見るのなら、たしかにそれは合理的なのかもしれない。

 

参考までに言っておけばハイディに対するナイト・プレイは、マルゴットのそれと比べるならそこまで激しいものじゃないことは追記しておく。

むしろシロジロの奥底に眠る獣性は、マルゴットが触媒となって引き出している感すらある。

それを薄々感じ、自負してるからこそマルゴットは思う。

 

(それが”魔女”として正しい姿だと思うんだよねぇ~♪)

 

魔女は嫌われる。魔法を使うことだけは理由じゃない。知られたくない秘密(しんぴ)に土足で踏み込み、無造作に暴くから。それがどんなに他人に知られたくないことでも魔女には関係がない。

魔女とは生来、傲慢な生物なのだ。

もっともお互い肉食系だから共鳴する部分があるというオチもありえそうで怖いが。

 

(だからシーちゃん……)

 

「ナイちゃんが、シーちゃんを解き放ってあげるからね?」

 

「マルゴット、何か言った?」

 

呟きに反応したナルゼに、マルゴットは満面の笑みで告げる。

 

「ガッちゃん、【双嬢(ツヴァイ・フローレン)】使っちゃおうか?」

 

「いいの? たかが授業中よ? それに気に入らないけど三征西班牙(トレス・エスパニア)の連中の監視が……」

 

今回の航行、三河行きの航路で”武蔵”の監視役についてるはずの三征西班牙はガチガチの旧派でなおかつ純潔主義なんて超保守な国是を持つ国であり、そのため旧派の共通方針と言っていい”魔女狩り”……魔女達への排斥や迫害はことさらに強い。

実際、彼らの心情的に”武蔵”への監視や締め付けは厳しく、半ば嫌がらせじみてきてる。

当然のようにいかなる理由があっても、魔女達が自由に空を飛ぶのを毛嫌いし、ナルゼ自身もかなり高圧……というか恫喝的な目にあってるのだ。

その報復としてアルカナ・デ・エナレス運動部をモチーフにした『や・ら・な・い・か?』系のガチホモBL同人誌を各地即売会でばら撒いて溜飲を下げたりしてるのだが……

 

まったくの余談ながらその報復的同人誌(笑)とは別口に、同じBLジャンルながら第一特務隊長をモチーフにした耽美爽やか系の『トーリ様がまかり通る』は不思議と同性愛が宗教的な意味で禁止されてるはずの三征西班牙でも根強い人気があり、どこで情報を聞きつけているのか新刊を出すたびに即座にまとまった数の発注が入っていた。

 

「大丈夫じゃない? どういうわけか知らないけど連中まだ監視任務に来てないみたいだし」

 

たしかにマルゴットの言うとおり、いつもなら三河に近づくとブンブン煩く飛んでくる三征西班牙ご自慢の航空武神”猛鷲(エル・アゾゥル)”が視界の中には見えない。

 

「そういえばそうね……どうせならこのまま職務放棄しててくれると鬱陶しくなくていいわね。なんだったらずっと昼寝でもしててくれると助かるんだけど。どうせシエスタの国なんだし」

 

普段の魔女に対する態度の不満と憤懣がふんだんに詰まった不平を垂れるナルゼだったがマルゴットは苦笑して、

 

「それでも昼寝から醒めたら、その情熱には定評のある国だよ?」

 

「マルゴットったらロクでもないこと言わないでよ」

 

ナルゼはそう唇を尖らせつつも、

 

「そういうことなら異論はないわ。相手はホライゾンの斬撃も智の射撃技ですらまともに当たらない正真正銘の化物だもの」

 

「なら……」

 

マルゴットとナルゼが互いの”相棒”を召還しようとした瞬間、

 

「あんたら”敵”を目の前にして悠長におしゃべりしすぎよ?」

 

”ビュオン!”

 

二人の間を空間ごと斬り裂くような巨大な真空刃(ソニック・ブレード)が飛び抜けた!

 

 

 

***

 

 

 

「ちょっと先生! 今から変身シーンを入れようって時に攻撃してくる敵役がどこにいるのよっ!? ちょっとは空気を読んでっっ!!」

 

そうクレームをつけるナルゼだったが、オリオトライはシロジロの放つ硬貨指弾の弾幕射撃を涼しい顔で弾きながら告げる。

 

「どこの世界に目の前に飛んでる魔女が【強化機殻(シャーレ・ベーゼン)】を召還しようってのに指くわえて見てるバカがいるのよ?」

 

言うまでもないことだが、シロジロの弾幕を弾きながらソニック・ブレードを放った犯人はオリオトライだった。

無論、それは手に握るIZUMO謹製の大太刀で放ったのだが、その間シロジロの硬貨弾をどうやって裁いたのかと言えば……きっと聞けば彼女はこう平然と答えるだろう。

曰く『動体衝撃波(ボディ・ソニック)でそのまま弾いたんだけど?』と……

 

このボディ・ソニックという技、原理は極めて単純で肢体の動きを局所的に加速させて音速を突破、その時に発生する超音速衝撃波(ソニック・ブーム)に指向性を持たせて放つという技だ。

この場合、オリオトライは身体を旋回させる際に踏み込み/腰の回転/上半身の捻り/肩から腕の振りを連動させてボディ・ソニックを発生させ、しかもその動きで生じた”加速圧縮された空気”を太刀に相乗させて先ほどの巨大なソニック・ブレードを射出したのだ。

 

あの一瞬で自らの体の動きだけで攻防を兼ねた真空技二つを発生させるとは驚くべき戦闘センス……というよりもはや人間レベルのそれでは分類できないような気もする。

しかし、この程度のことでいちいち驚いていたら梅組じゃやっていけない。

オリオトライが”ベルセルク・アマゾネス”なんて呼ばれているのは伊達や酔狂ではなく、梅組の認識では『この人外ならこのくらいは出来て当たり前』なのだ。

 

「それとナイト、”双嬢”使う気があったのなら戦場に入る前に用意しときなさい。あんたたちの変身を待ってくれる呑気な敵なんて滅多に居ないから。いるとすればそうね……バカか、」

 

オリオトライは少し考えてから、

 

「あんた達が変身したところで『脅威度判定に差はない』って言い切るくらい自信があるヤツだわね」

 

言うまでもなく明らかな挑発なのだが、特にナルゼは冷静なふりを装いながら傍目にわかるほど鼻白ませるのが見て取れる。

しかし、

 

「いや十分だ」

 

(これで仕込みは終わった)

 

シロジロは表情に出さぬよう獰猛な笑みをつくり、

 

「マルガ、私のために剣を一振り描写してくれ。マルゴットはマルガが書き上げるまで私とともに回り込みながら教師オリオトライを弾幕で押し込むぞ」

 

「Jud. 有料になるわよ?」

 

どこからか愛用のスケッチブックを取り出し早速ペンを動かすナルゼに、

 

「Jud! ナイちゃんにお任せだよぉ~」

 

箒に複数の棒金を装填するマルゴット。

 

「今更、金に糸目はつけん。マルゴット、頼りにしてる」

 

「「Jud!!」」

 

そしてシロジロはわざわざソニック・ブレードを放って以来足を止め、こちらが何をしてくるのか実に楽しそうに見ているオリオトライを仮面越しに鋭い視線で見据え、

 

「教師オリオトライ、”とびっきりの一撃”を受けてもらうぞ……!」

 

残弾0に近づきつつあった両手の棒金にくわえ、新たな棒金を手首から”ジャコン”とスライドさせた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
皆様、ご愛読ありがとうございました。
今回のエピソード・ヒロインは間違いなくマルゴットでしたね~(笑)
作者、どんだけマルゴット好きなんだか(^^
でもアニメ版でも『マルゴットが微妙に優遇されてる説』がることですし。

基本的にこのシリーズのマルゴットは『”いい女だけど悪女” or 悪女だけどいい女』って魔女らしい側面があったりします。
というかシロジロ&マルゴット・ペア(ナルゼも忘れてませんよー)に書いてる本人知らないうちにハマってしまって(苦笑)

まだまだバトルは続きますが、お待ちいただければ幸いです。
是非是非、ご意見ご感想をお聞かせください。


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