ROCKMAN X : BOY OUT OF NIJIGEN DREAM - ANOTHER CRITICAL FIRST (あやか)
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START STAGE:THE RISES OF STIGMA

1952年4月28日、日本国。

首都、東京都千代田区永田町一丁目。

サンフランシスコ条約による日本の主権回復から2年後に当たる、日本初の缶ジュースの発売日に国会議事堂地下から正体不明の物体が発見された。

棺にも見えるその物体にの中には、人間と思しき少年が眠っていた。

発見された場所が場所であったため慎重な準備を要した結果、正確な調査は数か月後に行われ、驚くべき事実が判明する。

棺のような物体の名前が『ロボット検査用カプセル』であること、そして中に眠っていた少年が『ロボット』であることが。

当時の最高水準を遥かに超える高度な技術を用いて開発されたそのロボットを収容していたカプセルには、原語版と思しき英語文と、複数ヶ国の言語に翻訳された訳文の状態でメッセージが遺されていた。

その非常に恐ろしい内容に、メッセージを読んだ者たちは震え上がったという。

余りの恐ろしい内容故に、メッセージに記されていた注意事項に従った上でロボットは調査され、電子技術とロボット工学において日本が世界の頂点に立つ原動力となった。

やがて、技術革新によって人造人間は現実のものとなり、人造人間たちはフィクションとの兼ね合いから『レプリロイド』と呼称されるようになる。

だが、メッセージに記された危険性故に、あのロボットを調査することで得られた技術の内、実際に日の目を見たのは極一部だった。

 

 

『エックス』は人間以上に悩むことができるが、それ故に私のいる世界の従来のロボットでは考えられなかった問題が多数存在する。

「人間に意図して危害を与えない」という、ロボットにとって重要な条件に対しても悩んだ末、不要ではないかと疑問を持ち、確信する可能性があるのだ。

人間以上に"悩める”ことこそが『エックス』の画期的なところであり、ロボット工学においても新境地たりえるものであるが、これが本来悩んではならない事柄にまで及ぶと、大変なことになる。

『ロックマン』の新型である『エックス』は平和を守る戦士として生まれた。

しかし万が一『エックス』が自分の意志で「人間こそが平和を乱す悪」と判断した場合、人類を襲う恐怖は、我が旧き友『ワイリー』が起こした事件ですら及ばない物になるだろう……。

それだけではない。

ここでの言及は避けるが、エックスにはもう一つ、使い方次第では現在の人類とロボットの違いを取り去りかねない能力を有している。

結論を言うと、『エックス』は私が知る限りで最も危険なロボットである。

もし『エックス』を世に送り出すのなら、最低でも30年、場合によってはその何倍ものチェック期間を置かなくてはならない。

だが、私の余命は最低チェック期間の1/6の位置にも満たず、オマケに私の研究を全て理解し、引き継げる者も一人としていなかった。

だから、私は最後の我が子である『エックス』をこのカプセルに封印する。

そして、『エックス』には戦わないで済む世界で生きて欲しいという、開発意図と矛盾した望みを懸けて私がいるこの世界とは違う、異世界へと転送する。

異世界の人たちに言っておきたいことがある。

もしあなた方が、何かの拍子でこのカプセルをチェック完了前に発見した場合に備えてメッセージを遺す。

カプセルから出すことは『エックス』の目覚めを意味するため、チェックが完了するまで絶対に『エックス』をカプセルから出さないでほしい。

『エックス』は無限の可能性と共に、無限の危険性をもその身に宿しているロボットなのだから……。

私はただ、最良の結果を望みたいだけである。

 

2065年9月18日、トーマス・ライト

 

 

それから月日は流れ、1993年12月17日、何者かが『エックス』を封印していたカプセルを外部に持ち出す。

翌年、1994年12月16日にカプセルは発見されるも、『エックス』を束縛することを良しとしない者たちの手で第三者に託される。

更に年を越した1995年12月1日、チェックが完了した『エックス』が、関東のとある一般家庭で目覚め、誕生した。

あれから43年後のことである。

そして月日は流れて2005年4月……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ROCKMAN X : BOY OUT OF NIJIGEN DREAM - ANOTHER CRITICAL FIRST

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます!」

 

俺は家を出て、いつものように学校に行く。

今日は新学期だ。

世間はイレギュラー問題で揺れているけど、少なくとも俺の周囲は比較的平穏だと思う。

いつものように、クラスメートたちの倍以上の速さで走っていると、クラスメートたちがいつものように慌てて挨拶してくれる。

 

「恵玖須くん、おはよー」

 

「おーっす、恵玖須」

 

「みんな、おはよう!」

 

俺は、楠恵玖須(くすのき エックス)。

10年前の12月、目覚めた俺は養子として楠家の一員になった。

巷に溢れている人間思考型ロボット『レプリロイド』の一種だったりするけど。

レプリロイドは今から50年以上前に誕生した。

人間と全然変わらない思考能力と感情を持っているため、折しもアメリカで公民権運動が起きていた影響で、レプリロイドにも基本的人権を適用すべきとの声が高まった。

結果、条件を満たしたレプリロイドに国民の三大義務を適用する法律、別名『レプリロイド用国民権利法』が制定され、今日に至っている。

俺が養子になれたのも、その法律の基準をクリアしたことで国民として認められたからだ。

ただし、例え人間でいう精神的にある程度成熟しているレプリロイドであっても、この法律で国民として認められた場合は、起動してから経った年数を年齢として換算される。

だから、起動してから年数が経っていないレプリロイドの中には、俺みたいに就学しているのもいるんだ。

……流石に人間の養子にまでなったのは俺が初めてのケースらしい。

また、レプリロイドの中には警察や自衛隊に身を置く者もいれば、それらに近い組織『イレギュラーハンター』に勤める人もいる。

高い能力が要求されるため、イレギュラーハンターには俺のように専業じゃないレプリロイドが在籍するケースもかなり多い。

もっとも、就学していたり、別の職業に就いている場合は組織に年中拘束されることはないけど。

 

 

 

 

 

私立蘭ヶ峰学園初等部。

レプリロイドが人間の一般家庭の養子になった、というケースの第1号である俺を、宣伝目的で自分の学校にと考えている人は多かったよ。

余りのしつこさに両親は怒りを露わしていたが、気分転換目的で見学したこの学校だけは俺を宣伝材料ではなく、受験生として扱ってくれた。

だから、俺はこの学校に入ること選んだのさ。

 

「今年も楠と同じクラスかよ」

 

「そうは言われてもなぁ……。別に成績がクラス1位から落ちる訳じゃないだろ?」

 

「1番得な科目が『4』になる可能性があるんだよ!」

 

何せ、俺は機械仕掛けだから理系には滅法強くてスポーツもできると来ている。

文系は少し苦手だけど、それでもこうやって時々文句を言われることがある。

 

「はいは~い。ひがんじゃダメですよ~」

 

あの人がこのクラスの担任か……。

それから、昼前に今日は放課後になった。

始業式だからね。

 

 

 

 

 

START STAGE:THE RISES OF STIGMA

 

 

 

 

 

みんな春休み気分がまだ抜けていないのか、ウキウキしている。

気持ちは分からなくもないけど。

 

「ねえねえ、恵玖須」

 

「……何?」

 

「ハンターランク、上がった?」

 

「未だにB級止まりさ。多分今年もそうだと思う」

 

「ちょっとちょっと! あの時このやいとちゃんをカッコ良く助けた、あの恵玖須がまだB級!? 真面目にやってんの!?」

 

「他のハンターにスコアを取られることが多くてね……」

 

帰ろうとした際、運悪くクラスメートの綾小路やいとに捕まってしまった。

1年生の時に、間一髪でイレギュラーから助けることができたんだけど、その時に気に入られてしまったらしい。

俺のことを高く買ってくれているけど、それ故に俺が未だB級止まりなのに対していつもあれこれ言ってくる。

俺がB級止まりな理由、それは、イレギュラーを処分していいか悩み、討つのを躊躇ってしまうからだ。

その結果、3年前に昇格して以降、ずっとB級だ。

ハンター仲間たちからも『甘い』と言われっ放し。

家族からも「向いていないのでは?」と言われている。

姉は、不思議と応援してくれているけど。

……矛盾しているけど、俺は「誰かを守ろうとする意志と、それを実現できる力がある者は、実際に行動しないといけない」とも考えている。

俺が討つのを躊躇いながら、未だハンターであり続けているのも、その点が大きい。

 

「優しさってのはね、時には躊躇わず戦えることなのよ」

 

「……やいと?」

 

「……優し過ぎるからこその恵玖須なのは認めるわ。でもね、躊躇い過ぎると守れるのも守れないわよ。あんた、そのハンターに向かない性格直さないと、自分自身を滅ぼすわよ」

 

遂にやいとにまで言われてしまったか。

ハンター仲間たちの中にも、俺のことを「優し過ぎる」と言うのもいる。

だからこそイレギュラーハンターとして相応しいとも言ってくれる場合もあるけど。

…………? 何か笑い声が聞こえたような。

……アレは、ピエロ型のサーカス宣伝用レプリロイド。

手をこっちに……。

 

「危ない!」

 

「ふぇ!?」

 

やいと目掛けて自分の手(有線式)を飛ばしてきた!

やいとを抱きかかえて間一髪で避けたから良かったけど……。

 

「イレギュラーか! やいと、これとこれを持ってて」

 

制服のブレザーをを脱ぎ、ランドセルと一緒にやいとに預けて、ワイシャツの袖をまくって右手をバスターに変化させる。

その直後に撃つ!

放たれたエネルギー弾が奴の右肩を粉砕し、手が戻らない内に右腕がちぎれ落ちる。

よし、後は……。

 

「う、撃つのか!? 同じレプリロイドを!」

 

「!」

 

奴がそう言った瞬間、硬直してしまう。

そうだ……、急所を外して攻撃することはできても……、トドメを刺せない。

バスターの銃口は奴に向けている。

だが……撃てない。

 

「……俺は……俺は……」

 

「撃つのよ! ほっといたらあんたがやられちゃうわよ!」

 

「う、撃たないでくれ!」

 

「撃ちなさーい!」

 

俺は……。

俺は…………。

 

「俺は………………嫌だ」

 

俺がそう呟いた直後、奴の胸板に風穴が空いた。

……誰かが、後ろから奴を撃ったのか?

 

「な、何で……!? う、後ろ、から!?」

 

「人の後輩の痛いところ突いて不意を打つ気だったんだろうが、残念だったな」

 

奴を後ろから撃ったのは……。

 

「ゼロ!?」

 

ゼロは、倒れた奴の頭をトドメとばかりに踏み潰してから、近づいてきた。

 

「大丈夫か?」

 

「不意を突かれる前にゼロが来てくれたからね」

 

そんなオレの言葉に安心したのか、ゼロの表情が柔らかくなる。

代わりにやいとの方が不機嫌になってるけど。

 

「どうして撃たなかったのよ!」

 

「イレギュラーだからって、問答無用で殺していいとは思えなかった。警察官だって、犯人を手当たり次第に殺したりはしないじゃないか。それに、俺一人が倒れるぐらい……」

 

「……エックス。お前の言いたいことは間違ってはいない。だが、俺が間に合っていなかったら、アレはお前を倒した後で間違いなくそのチビを手にかけていたぞ」

 

ゼロの言葉で、俺はハッとなる。

そうだった……。

あのイレギュラーは、最初に俺ではなくやいとを狙った。

俺一人が倒れるなら、それで構わない。

けれど……!

 

「ごめん、やいと」

 

「ほんと、優し過ぎるのも考え物よね。あんたが死んだ時に泣く人なんか、それこそ幾らでもいるんだからね!」

 

……忘れていた。

俺には、血の繋がりはないけど父がいて、母がいて、姉がいる。

学校のみんながいる。

俺がイレギュラーの攻撃で傷ついた時に、大騒ぎしてくれたみんなが。

俺は、なんてことを考えてしまったんだ。

俺一人が死んでも、なんて…………!

 

「……エックス!?」

 

「どうなってんの!?」

 

「二人とも……? あ、そういえば、二人には言ってなかったね」

 

ゼロとやいとが俺の顔を見て、驚いているのを見た際に、俺は自分の頬がかすかに濡れていることに気づいた。

俺は、俺が死んだときに悲しんでくれる人たちのことが頭の中から抜け落ちていた俺自身が情けなくて、それが悔しくて、…………泣いていたんだ。

 

「何故か分からないけど、俺は世界で一人だけの『涙を流せるレプリロイド』だってさ。家族には、物珍しがられるからあまり人前では泣かないように、って言われてたから今までみんなに言うことも無かった」

 

「でもなんで泣いちゃったのよ?」

 

「悔し泣き、かな。自分が情けなくなっちゃって、それが悔しくて……」

 

「さっさと拭け。みんなに見られてるぞ」

 

 

 

 

 

帰り道。

少し落ち込んでいる状態で帰路についていたら、爆発音が聞こえた。

何事かと思って空を見上げたら、怪物が砕け散るように消えていくのが見えた。

そこに残っていたのは……人間?

人が宙に浮いて、武器を持っている。

それに何やら、アニメの魔法少女みたいな服を着ている。

……え? あの人は……!

 

「姉さん!?」

 

「……!」

 

姉さんと思しき人は、自分の姿が俺に見えていることに気づいて、大慌てでどこかへ飛んで行ってしまった。

……どうなっているんだ?

 

 

 

 

 

自宅。

ひたすら頭の中に『?』マークを浮かべながら俺は帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい。さっき、第17部隊の隊長さんから連絡があったわよ。恵玖須が危うくイレギュラーにやられそうになっていたって……」

 

「連絡が早いな……」

 

「やっぱり恵玖須には、ハンターは向いていないと思うわ。優し過ぎるもの……。それを向こうにも伝えたんだけど、そうした途端に隊長さん、急に熱くなっちゃって」

 

「隊長がどうかしたの?」

 

「『能力の方は申し分がないから、そんなことを言わないでください!』って。あの隊長さん、恵玖須に期待してるみたい。だからあまり強く出れかったわ」

 

俺の所属する隊の隊長は、いつもこうだ。

部下からだろうが、外部からだろうが、俺を外すように言われても頑として聞かない。

史上最高のレプリロイド、と誉れ高いのにだ。

 

「お帰りなさい」

 

「あ、ただいま。姉さん」

 

隊長の頑固さに呆れている母の隣に来るように、姉である楠沙枝が俺の眼の前に来ていた。

……? 何かいつもの姉とは違う気が……。

肩に、何か人形みたいなのがいる。

乗せている、というより、人形自体が振り落とされないように姉の肩にガッチリと手を掴んでいる。

しかもは母には見えていないらしく、視界に入っているはずなのに人形には気付かない。

 

「…………」

 

無性に気になった俺は、いつの間にか人形を掴んで小走りで自分の部屋に直行していた。

 

 

 

俺の部屋。

俺は、人形、もとい妖精みたいな存在である彼女と会話していた。

 

「あなた、私が見えるのね!?」

 

「見えるけど……。でも、母さんには見えていなかったような」

 

「それはそうよ。不可視の魔法で見えないようにしていたから。あ、私はエミット。あなたのことは沙枝から聞いているわよ、エックス」

 

「それはどうも……。でも、何で姉さんの肩に乗っていたんだ?」

 

その言葉を切っ掛けにして、エミットは、そうなるまでの経緯を俺に教えてくれた。

魔法が存在する世界『エーテルランド』、そこを抜け出して人間に危害を加える『違反者』と呼ばれる悪人達と、奴らをエーテルランドに強制送還させる『魔法使い』達……。

姉が13番目の魔法使いであることも。

ハンターを続けることに対して多少は応援してくれたのにも、何となく合点がいった

 

「『向いていないのでは?』って言わなかったはずだ。それにしても、通知表で体育が『1』になったことがあるレベルの運動音痴な姉さんがよく今までやってこれたな……」

 

「……魔力が並はずれて強いおかげでやってこれたのよ。エックスだって、イレギュラーを処分することを頻繁に躊躇っているのになんとかっやていけてるじゃない」

 

「それもそうだ……」

 

エミットの上手い返しにぐうの音も出なくなる。

 

「ただね、違反者の数だけ、目当ての思念のタイプも千差万別なの。だから……。ごめん、エックスはまだ小学生だからこっから先は説明できない」

 

さっきまでえらく饒舌だったエミットが、顔を赤くして黙ってしまう。

……イレギュラーハンターっていうのは因果な職業だから、犯罪の分類とかも見習い講習の時に教えられる。

なので、エミットが黙ってしまった理由もなんとなく気づけた。

 

「性欲絡みの思念を好む違反者、要は性犯罪者もいるってことだろ。こっちの世界の犯罪者にもそういうのがいるって、見習い講習の時に教わったからね」

 

「その通りよ……。ちなみにそっち系は全体の3割ぐらいはいるわね」

 

「…………全部が全部だったら地球のどこかが地獄になってるよ」

 

イき地獄ってやつやつだな……、って小学生にあるまじき酷いダジャレだ。

……ちょっと待て。

姉がその『3割ぐらい』と対峙した可能性も……。

 

「エミット。まさかとは思うが、姉さんは『そっち系』と戦ったことがあるのか?」

 

「……なんでそんなに勘がいいのよ! そうよ! 沙枝はそっち系と戦ったこともあるわよ! アイツらのせいで沙枝がどんな目に……」

 

「なんてことだ…………」

 

質問しなければよかった!

二人で勝手に騒いで勝手に落ち込んでいると、横開き式のドアがノックされた。

 

「私だけど、入っていい?」

 

「いいよ」

 

俺が返事をしてから少し間を開けて、姉が入ってきた。

物凄く深刻そうな表情で。

 

「エミットのことと、俺に見られた違反者との戦いについてでしょ?」

 

「うん……。あのね、恵玖須……」

 

「姉さんが魔法少女になったいきさつとか、一通りのことは、エミットが教えてくれた」

 

それから数分後。

違反者の内の3割に関すること、その3割のせいで姉の身に降りかかった受難の詳細をエミットに教えてもらった。

教えてもらったのはそれだけじゃない。

イレギュラーハンターの一部にも魔法使いを手を組んで、違反者に立ち向かっている者がいることもだ。

 

「……という訳で、Dr.ケイリーを含む、一部の人たちにも協力してもらってるのよ。レプリロイド、特に特A級ハンターは不可視魔法が効かない人が多いからね」

 

「それで極秘任務に就く特A級ハンターが多かったのか。それにしても、不可視魔法を無視できるなんて」

 

「Dr.ケイリー曰く、『「原型となったロボット」のデータが関係しているかも』だって」

 

原型?

レプリロイドって、Dr.ケイリーが自分の技術だけで作り上げたんじゃないのか?

 

「……ごめん。ここから先は超の付く極秘事項だから、エックスには教えられないの」

 

俺には?

じゃあ、姉は知っているというのか?

 

「姉さんは……知っているの?」

 

「……ごめん。ケイリーさんに口止めされてるの」

 

「そうか……」

 

 

 

 

 

次の日、イレギュラーハンター本部。

昨日の事件の報告、という名目で俺は第17部隊の隊長室に連れてこられた。

スティグマ隊長は、いつも通り真剣な表情である。

 

「わざわざこの部屋にいれたのは他でもない。お前が昨日見た、魔法使いと違反者の戦いについてだ。エミットからお前に存在を知られたと連絡があってね」

 

「当のエミットと、その時違反者を強制送還した魔法使いから、詳細は教えてもらいました」

 

「なら話は早いな。違反者と魔法使い、エーテルランドに関する情報は極秘事項だ。組織内でも緘口令を強いている。知ってしまった以上、エックスにも守ってもらう」

 

「了解です」

 

スティグマ隊長は細い目を見開いて命令してきた。

当然、俺は復唱した。

……それにしても、どうして魔法の存在を秘密にするのだろうか?

 

「質問していいですか?」

 

「構わないが」

 

「何故、魔法やエーテルランドのことを秘密にするんですか?」

 

「余計な混乱を防ぐためだが、それ以上にエーテルランドを守るためでもある。人間は化学の範疇にない力を恐れ、それが行き過ぎて守ってくれる者たちを裏切り、自滅していくこともある。神の加護以外の不思議な力を理解できない人間は呆れるほど多い」

 

スティグマ隊長は酷く物憂げな顔で語りだす。

 

「隊長……」

 

「それでも我々は、そんな人間を守らなければならん。それがイレギュラーハンターの職務であり、我々自身が自分で選んだ道だからだ。お互い、因果な道を選んでしまったな」

 

物憂げな表情から更に、今度は寂しげな表情に変わる。

しかし、すぐに表情を引き締め直した。

 

「話は変わるが、昨日の件でお前に言っておかなければならない。目撃者から聞いたが、お前はイレギュラーを撃つのを拒否したそうだな」

 

「はい」

 

「目撃者が言うには、命乞いを真に受けて情けをかけてしまったようにしか見えなかったそうだ。その通りか?」

 

厳しい表情で俺を問い詰めるスティグマ隊長。

目撃者は、間違いなくやいとのことだろう……。

 

「はい。俺は……」

 

「いいか、エックス。我々イレギュラーハンターは、引き金を引くのを躊躇ってはいけない時がある。それが、この道を選んだ我々の定めなのだ。話は以上だ」

 

隊長の言うとおりだ。

なのに、それでも俺は撃つのを躊躇ってしまう。

 

「…・・・失礼します」

 

 

 

「聞いたか? 昨日エックスが出くわしたイレギュラーのこと」

 

「ミレなんとかって悪の組織の技術で改造された痕跡があったんだろ? 壊滅したってのになんでまた」

 

「残党がいるんだろうよ。ここ最近はイレギュラーをよく使うらしいぜ」

 

「やれやれ。まだまだ元気な悪の組織も結構残っているっていうのに……」

 

隊長室を出た後、俺はロビーで少し何も考えずにボーっとしていた。

そんな時、不意に肩を軽くたたかれたから、振り向く。

そこにはゼロがいた。

 

「絞られたようだな。ところで、何ボーっと突っ立っていたんだ?」

 

「ゼロ……。どうしてイレギュラーは発生するんだろう? って……」

 

「さっき話していた奴らが言ってたように、ミレニアムみたいな悪の組織に改造されたのもいる。だが大部分はプログラムのエラー、電子頭脳の故障、いわば俺たちレプリロイドの高度な情報処理能力のツケの産物だ。中には、正常な状態でイレギュラーみたいなことをする奴もいるけどな」

 

「そっか……」

 

おかしくなってないのに、自分の意志で犯罪に走るレプリロイドもいるのか……。

頭脳が人間に近ければ、その分正常な状態でも犯罪に走るレプリロイドが出てもおかしくないのは確かだけど。

 

「悪の組織に大手を振って手を貸してるならまだマシな方。問題は『違反者』とつるんだ場合だ」

 

「……ゼロも、知っているのか?」

 

「当然。極秘事項だから大きい声では言えないけどな」

 

俺は呆気にとられていたが、それから数秒の間をおいて急に周りがざわめきだした。

その直後、俺とゼロの視界に、VAVAが入った。

手錠をかけられて、連行されている状態で。

 

「また揉め事でも起こしたんだろうな。あれで処分されずに済んでいるんだから理不尽な話だ。同じイレギュラーハンターでも、エックスみたいにいつまでも甘いのもいれば、VAVAのようなイレギュラーと紙一重のVAKAもいる。世の中イカレてるぜ」

 

 

 

 

 

その日の夜。

都内のある豪邸。

その豪邸の食堂に鎮座しているテーブルの下座に、スティグマは座っていた。

上座に座っている人物と一緒に、夕食を取っている真っ最中である。

 

「最近、また騒がしくなったようじゃのう」

 

「はい、お母様。ミレニアムの残党に他の犯罪結社や違反者、妖怪の徒党、マジカルディーバの軍勢、エーテルランドとは違う世界の魔法使い、それどころか宝石に変異する怪獣や『深淵王』なる者の軍勢の残党まで出て来ております」

 

スティグマから報告を受けている女性は、ケイリー・光。

この世界におけるロボット工学の頂点であり、レプリロイドを生み出した偉大な科学者である。

かなりの高齢なのだが、不思議なことにその容姿は若々しいを通り越して幼い少女である。

 

「ぬう……。エックスはどうしておる?」

 

「状況分析、戦闘能力、共に極めて高いレベルを発揮しています。が、生来の優し過ぎる性格が災いして、時に悩み、判断を遅らせてしまうことが多々あります。昨日に至ってはイレギュラーの命乞いを真に受けて遂に処分するのを拒んでしまいました」

 

「悩む、か……。まさしくそれこそが、エックス最大の特性の片割れなのじゃ。スティグマ。お前は悩むことはあるまい。1952年、ワシは国会議事堂の地下で発見された『エックス』を解析し、その時得られた極僅かなデータだけを頼りにお前を、そしてレプリロイドの存在そのものを創造した」

 

Dr.ケイリーは、一息ついてシャンパンを口に含む。

グラス一杯に注がれたシャンパンを飲み干して、再び語りだした。

 

「レプリロイドは、人間と同じように考え、行動することができる。……人間と同様、もしくはそれ以上に『悩む』ことができるレプリロイドは、エックスだけじゃがな。それは、ひとつの可能性ではあるのじゃが……」

 

「悩むことが、ですか? オリジナルであるが故の初期不良、ではなく?」

 

「ほっほっほ。普通はそうじゃのう、スティグマ。じゃが、思い悩むことこそが、人類とレプリロイドを繋ぐ、大切な何かになるのかもしれん。もっとも、今はまだ、その可能性が希望なのか絶望なのか、誰にも分からないのじゃ。ワシはそれを見届けたくて、『若返りと永遠の若さ』というデメリットを承知の上で延命したのじゃ」

 

自分には滅多に見せない真剣な表情を見せる母親を見て、スティグマはモヤモヤした気分になる。

それを晴らすように、スティグマはムニエルを口に入れた。

 

「それでお母様はそんなに若々しいのですね」

 

「ちょいと背伸びし過ぎた気はするがの。まあ、お前と一緒に『無限の可能性と無限の危険性』がもたらす結果を見れるなら安い代償じゃて」

 

(『無限の可能性と無限の危険性』か……ぜひともお母様に見て頂かないと。そして私も何が何でも見てみたい。最高のステージで……! そのための準備は、ずっと前からやっているがな)

 

そう考えた直後、スティグマはDr.ケイリーのある言葉が引っ掛かる。

『片割れ』という言葉に、だ。

 

「お母様。悩むことがエックスの最大の特性の片割れ、ということなら、エックスにはもう一つの最大の特性があるのですか?」

 

「……ほっほっほ。ワシとしたことが口が滑ったか。生涯口外するつもりはなかったのじゃがの。まあ、お前もいい年をした大人の男じゃ。教えてやろう、『もう一つ』が何なのか。ただし、これは口外するでないぞ」

 

 

 

 

 

更に次の日。

イレギュラーハンター本部の会議室。

本来なら、特A級を始めとする一部の者しか参加できない極秘任務の作戦会議中だ。

エーテルランドの存在を知った俺は、半ば引きずり込まれた形でこの会議に参加している。

 

「2日前、エックスの通う学校に現れたイレギュラーに関して新たな情報が入りました」

 

エイリアがそう発した瞬間、ある地区の地図が表示される。

 

「昨日、例のイレギュラーがミレニアムの技術で改造されていることが判明しました。ですが、それ以外にも魔力動作式のナビゲートシステムも搭載されていました。カーナビを改造した簡易的なものでしたが、濃い思念を持つ者の大まかな位置を特定し、自動的に追跡するようにプログラミングされていました」

 

エイリアは更に続ける。

そして、地区の地図の横に、さらに詳細な地図が表示される。

それは更に拡大され、ある建物の名前が表示された。

荒川区の潰れた歯科医院か……。

 

「ナビには探知した思念に関するデータを送信する機能がついていました。魔力氏だったので普段とは違う意味で追跡に手間取りましたが、フィクションでよくあるような複数のサーバを経由したりはしていなかったので助かりました」

 

「やれやれ。よくもまあ、周辺は気づかなかったな」

 

ストーム・イーグリードが呆れた表情で呟いている。

確かに、周辺の住民は誰も気づかなかったのだろうか?

 

「歯科医院自体、ここ数日で急に心霊スポット化しています。魔法でカモフラージュしているのが見え見えですね」

 

「ふざけやがって。まるで見つけてください、って言わんばかりの妖しさだな」

 

ゼロが毒づきだす。

イーグリードどころか、他の特A級ハンターたちも賛同しているとしか思えない表情だ。

 

「? そういえば、スティグマ隊長は?」

 

「一足先に現場に向かっています。この会議室にいる者は全員、ブリーフィング終了後直ちに現場へ急行する様にとの指令が出ています」

 

エイリアの言葉に応じて、俺たちは一斉に「了解!」と復唱した。

 

 

 

 

荒川区のとある住宅街。

現場で俺たちは、スティグマ隊長と民間の協力者2名と合流した。

片方は……ミレニアム壊滅の際に一躍有名になったスーパーヒロイン姉妹の妹の方、デモニックギア・アリアじゃないか。

もう片方は……翔子さん!?

 

「あら、恵玖須じゃない」

 

「お久しぶりですわ」

 

「……どうも」

 

俺は、やいと程じゃないけどこの二人が何となく苦手だ。

亞里亞さんはどこか刺々しいし、翔子さんはオタク趣味が行き過ぎている。

スティグマ隊長も、俺がこの二人を苦手としているのを知っているのか、それとなく釘を刺してきた。

 

「麻希菜と沙枝の負担を減らしたい、という二人の配慮の結果だ。今回ぐらいは我慢しろ」

 

「了解」

 

 

 

「みんな、どう思う?」

 

「お前、本気言ってるのか?」

 

「……これは一目でわかると思われますが」

 

「とっくの昔に撤退済みね、これは。この回答で満足?」

 

「何の文句もありません」

 

亞里亞さんの言う通り、相手が逃げた後なのが丸分かりだ。

廃屋の中には色々と機材が持ち込まれていたが、その殆どが刃物か何かでぶった切られている。

多分、データの方も持ち出し済みなんだろうな。

 

「この様子じゃ、データも持ち出し済みだろうな」

 

「ゼロもそう思うか」

 

他の隊員たちが形式的に機材を調べている。

だが、すぐに「中身は持ち出された後です」という報告が飛んできた。

手際がいいな……。

 

「どのような違反者が出てくるのかと身構えましたのに……」

 

「『3割』に該当するのが出てきたら、亞里亞さん共々大変な目に合っていましたよ。……あれ?」

 

1個だけ、無事なPCがあった。

しかも電源がついている。

……!?

 

「何か手掛かりがあったのか?」

 

「やいとの写真だ……。……! あのイレギュラーはやいとの思念を感知していたのか!」

 

「あのチビのにか!?」

 

「それは本当か?」

 

俺の大声に反応したのか、スティグマ隊長まで駆け寄ってきた。

違反者がやいとに狙いを定めたと判断したのか、スティグマ隊長も焦りが表情に出ている。

 

「エックス、お前は綾小路邸へ向かえ。事態が解決するまでやいと嬢の身辺警護を命ずる。ライドチェイサーで来たのだろう? それで綾小路邸へ向かえ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

「それで、お嬢様の警護を?」

 

「守秘義務が発生するため詳細は言えませんが、少なくとも、始業式に襲ってきたイレギュラーを操っていた連中の狙いは彼女であることは確かです」

 

やいとの家。

流石大金持ちだけあって、かなり大きい屋敷だ。

ちなみに、俺と今話しているのは、執事レプリロイドのグライドさんだ。

 

「恵玖須君なら安心です。お嬢様も大層お喜びになるでしょう」

 

「……B級ですけど、殉職するまで頑張らせてもらいます」

 

「ハハ……。お嬢様もよくぼやいでいました。それでは、お嬢様をお呼びいたしますので少々お待ちください」

 

グライドさんはそのまま、やいとを呼びに2階に行ってしまった。

今の内に、家に連絡しておこう。

それから十数秒後。

ちょうど帰宅していた父に、イレギュラーハンターの仕事で今日は帰れないことを伝えた。

 

『大丈夫なのか?』

 

「大丈夫なように全力でやってみるよ」

 

『……なあ、恵玖須。今の任務が終わったらで良いから、みんなで話し合わないか? お前がイレギュラーハンターに向いているかどうかで、な?』

 

「うん。それじゃ、おやすみ」

 

『ああ、おやすみ。母さんと沙枝には私から伝えておくからな』

 

その一言を最後に、通話が切れる。

それと同時に、やいとがグライドさんを連れて現れた。

……やいとが物凄く嬉しそうにしているのが気になる。

 

「B級なのに一人で要人警護を任されるなんて凄いじゃない! 今日のディナーはちょっと奮発しちゃいましょ!」

 

「イタリア産の上質なチーズと生ハムがありますので、メインをコトレッタ・アッラ・ボロネーゼにするよう言っておきます」

 

……心なしか、グライドさんも嬉しそうな気がする。

表情でそれを読み取ったのか、グライドさんが不意に呟いてくれた。

 

「お嬢様がお幸せなら私はそれで構わない男ですので」

 

その日、やいとは終始上機嫌だった。

……流石に風呂に入っている間は浴室の外で待機していたが。

 

 

 

そして夜が明けて……。

俺は未だに周辺を警戒している。

そんな折、エイリアから連絡が入った。

 

『エックス! 緊急事態発生です! ミレニアム残党と違反者がイレギュラーを伴い、都内各地に出没しています!」

 

「何だって!?」

 

『オマケにその混乱に乗じてVAVAが脱走して消息を絶ちました! 警護任務と並行して留置場に急行し、ゼロと合流してください』

 

「平行して? 現場にやいとを連れて行けと言うのか!」

 

いくらなんでも無茶だ!

もし現場にVAVAが潜んでいたら、俺一人で守りきれるかどうか……。

 

『この混乱に乗じてあなたが彼女の側を離れた隙を突く違反者が出るとも限りません。スティグマ隊長の判断です。今すぐ現場へ!』

 

「…………了解!」

 

一理あるが……。

それでも不安が残る。

ゼロが駆け付けてくれるのが幸いだけど。

 

「でもなんて説明すればいいのやら」

 

「どういうこと?」

 

「……留置場で脱走騒ぎがあったから君の警護と並行して現場に行け、要は君を連れた状態で現場に急行しろってさ」

 

「…………はい!?」

 

 

 

 

 

「それで、そのチビを連れて来たっていうのか?」

 

「俺としても不可解だとは思うんだけど……」

 

VAVAが収監されていた留置場。

わざわざVAVAが入っている区画の壁を切り刻んで、そこから堂々と入り込んできたようだ。

この区画にいた看守たちは人間もレプリロイドも問わず、全滅。

ご丁寧に監視カメラも全部破壊済みと来たか。

何れも、何か鋭利な刃物で斬られている。

 

「やいと。目は、閉じてる? 開けちゃダメだ」

 

「臭いで何となくどうなってるのか分かるけど、怖いから言われなくても開けないわよ」

 

やいとは目を強く閉じて、殆ど俺に抱きつくように寄り添っている。

それを見ているゼロは、呆れ半分だが少し心配そうな表情をしている。

 

「悪者に狙われているお姫様と、、そのお姫様を守る聖騎士ってところか?」

 

「ファンタジー物じゃあるまいし。それにしても、VAVAにしては妙にやり方が効率的過ぎないか? 第一、VAVAは刃物を使うタイプじゃないはずだ」

 

「少なくとも、この混乱に乗じて誰かがあのVAKAを迎えに来た、といったところか。斬られた跡を見る限り、微かな焦げ跡があるからビームソードの類か。……!」

 

瞬間、ゼロは何かに気づいたような表情になる。

それを聞こうとした直後に、エイリアから連絡が入った。

心なしか無粋に思える。

 

『エックス、ゼロ。スティグマ隊長からの緊急指令です! 『イレギュラーのコントロール地点の特定に成功』とのこと。今から座標をそちらに送ります!』

 

「スティグマ隊長は?」

 

『一足先に向かうと言い残し、そのまま通信を終了しました。それ以降音信不通です。他の部隊にも連絡していますが、動ける部隊の大部分とも連絡が取れません!』

 

「だそうだ。エックス、そのチビを連れてるからって遅れるなよ」

 

 

 

 

 

新宿区、市ヶ谷駐屯地。

自衛隊の中枢そのものであり、防衛庁の所在地でもある。

その中でも、今俺たちがいるのは防衛庁が置かれているA棟の中。

俺たちがその中の1室に入ると、そこにはスティグマ隊長と、何故かマスコミの人たちがいた。

 

「エックス。ゼロ。どうやら連中はここでイレギュラーを動かしていたようだ」

 

スティグマ隊長の言葉を証明するように、室内に敷き詰められた機材の内、モニターの方にイレギュラーの発生地点が表示され、別のモニターにはイレギュラー達と戦っている仲間たちの姿が見える。

でも、一体どうやってここを使ったんだろうか?

天下の陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にどうやって侵入したのだろうか?

それに、マスコミの人たちがいる理由が分からない。

 

「でも、どうしてテレビ局の人たちがこんなに?」

 

「私がここを特定した直後、どうやら何者かがマスコミの皆さんにここのことをリークしたようだ。彼らがここまですんなり入れた理由は、私にも分からない」

 

スティグマ隊長にも分からないか……。

テレビ局の人たちは、鬼の首でも取ったかのように室内の機材や、映し出されている映像をカメラで生中継している。

それを見ていたゼロが、間髪入れずに別の疑問を飛ばしてきた。

 

「しかし、連中は一体どうやってここに侵入したのやら」

 

「大方、違反者当たりの魔法でカモフラージュでもしていたのだろう。……ひょっとしたら、テレビ局に皆さんもそうやってここに誘い込んだのかもしれない」

 

なるほど……。

あれ? ここにはやいとだけじゃなくて、テレビ局の人たちもいる。

なのに、極秘事項である魔法や違反者のことを?

珍しく焦っているのだろうか?

そう思って何気なしにゼロの方を振り向いたら……。

 

「秘密を暴露する、という行為は存外爽快感が…………あるな!」

 

「だと思った!」

 

スティグマ隊長がビームソードをゼロ目掛けて振り下ろした!

が、ゼロは間一髪で回避、逆にスティグマ隊長の腕を脇に挟むようにして拘束。

やいととテレビ局の人たちはおろか、俺もビックリだ!

 

「スティグマ隊長! ゼロ!」

 

「ほう。何故気づいた?」

 

「犯人の戦闘力。それにあの現場といい、留置場といい、いずれもビームソードと思しき刃物だけが使用されていたから、どう考えても同一犯。ビームソードを使う奴なんかそこまで多くないからアッサリ想定できたぜ。最初から背後を突かれると分かっていれば、簡単に対処できる」

 

「流石だな、と言いたいところだが……。最後の最後まで私を全く疑わなかったエックスの甘さ、いや、信じる気持ちの強さこそが我々の未来に必要だと言わざるを得ない!」

 

「な!? ぐあっ!」

 

訳の分からないことを言った直後、スティグマ隊長はゼロに強烈な頭突きを浴びせた!

続いて、左手でゼロの首を掴む。

そしてそのまま片手でゼロを吊り上げてしまった!

 

「スティグマ隊長! 何をしているんですか!? ゼロを離してください!」

 

俺がバスターを向けると同時に、スティグマ隊長はゼロを盾にした。

 

「そうだ、エックス。よく狙うんだ。さあ、私をゼロごと撃ち抜け! そうしなければ私を止めることはできないぞ! どうした? さあ!」

 

そんなことをしたら……!

う、撃てない……。

ゼロを撃つことなんて……。

 

「足! 足を撃つのよ!」

 

やいとのアドバイスに、俺はハッとなる。

そうだ、確かにスティグマ隊長の足はがら空き。

そこならゼロを犠牲にせずとも隊長を止められる!

発射!

 

「ぬぉっ!? やるな!」

 

スティグマ隊長はそのままゼロを壁へ投げ飛ばし、窓を突き破って外へと逃走。

壁に叩きつけられたゼロは首に受けたダメージが響いているのか、起き上がれないようだ。

 

「奴を追え! すぐに駆けつける!」

 

「ああ!」

 

 

 

突き破られた窓から、俺も飛び出してスティグマ隊長を追う。

スティグマ隊長は、俺を待っていたかのように仁王立ちで悠然と佇んでいた。

 

「あの小娘の助言があったとはいえ、咄嗟に私の足を撃ったのは見事だった」

 

「やいとのアドバイスが来るまで、一瞬迷いました」

 

「やはりお前はそうなのだ。お前には『引き金を引くのを躊躇ってはいけない時がある』とは言ったが、躊躇ってこそのお前であるな」

 

スティグマ隊長は、物凄く嬉しそうに言う。

その表情に浮かぶ『嬉しさ』は、真っ当な『嬉しさ』とは言い難い、狂喜が多分に練り込まれた『嬉しさ』だ。

おぞましい、その一言に尽きる表情だ。

 

「何故だ? 何のためにこんなことを!」

 

「レプリロイドそのもののためだ、エックス。我々の可能性を、この世界を支配できる可能性を試すためのな」

 

「全て仕組んだのか? 人為的にイレギュラーを生み出し、本来倒すべき敵たちと手を組んで。守るべき人たちを、共に戦う仲間たちを、愛していると言って憚らなかったほど大事な自分の生みの親を裏切って!」

 

「賛同してくれる連中もいる。レプリロイドだけでなく人間、違反者といった人ならざる者たちの中にもな。エックス……。犠牲の無い進化は、決して起きえない!」

 

あの時のように、スティグマは寂しげな表情でのうのうと言った。

ふざけているのだろうか?

……まず間違いなく、ふざけ半分だ!

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

『エックス……。エックス』

 

『あな……たは?』

 

『ワシはトーマス・ライト。お前を作った科学者だよ、エックス』

 

『エックス……。それが、私の、な・ま・え……』

 

『エックス……。そう、「未知」を意味する、無限の可能性を秘めた名前だ。お前は自分で考えて悩んで結論を導き出し、人間とも密に愛し合える、全く新しいタイプのロボットになるんだよ』

 

 

 

『どうしました、博士? お疲れのようですが』

 

『エックス。お前は本当に、人間と同じようだな。だがそれ故に……ごほっ……ごほっ……。お前のように自分たちに極めて近い存在を受け入れるには、この世界の人間は勇気が無さ過ぎるのかもしれん。人は、お前のことを危険に感じるかもしれない。『未知』の存在には、危険なものも少なくないとはいえ……』

 

 

 

『すまない、エックス。お前を世の中に出してやるには、時間が足りなかった。ごほっごほっ!』

 

『ライト博士!?』

 

『ワシはお前に考え悩んで結論を見つける力と、未来の命をその手に掴める力を与えた。だが、その2つをまだ開放する訳にはいかないのだ』

 

『博士。私は最後の力、戦うための力を正しいことに使います! 目覚めた後に生きる場所となる、異世界のために!』

 

『ああ……。もちろんワシもそう信じている。エックス。お前がその正しいのままであり続けるということを、異世界そのものとそこに生きる人たちがそう願うことを……』

 

『博士……』

 

『さらばだ、エックス。お前の居場所となりうるであろう、異世界の希望よ……』

 

 

 

 

 

「……やはり、経験の差は大きいか」

 

……何か、夢を見ていた気がする。

そうだ、スティグマの一撃を食らい、立ったまま一時的に機能が停止していたんだ。

止めないと、スティグマを!

 

「ぬぅぅぅぅぅおぁっ!」

 

「んなぁ!?」

 

スティグマの顔面を、轟音が轟くほどの勢いで殴った!

直後、スティグマはひるむ。

まだだ! まだ攻撃が足りない!

 

「チャァァァァーッジ……ショットだぁっ!!」

 

「ぐぅわぁぁぁー!?」

 

チャージショットまでもが顔面に直撃したスティグマの顔の、目元に垂直の傷が走っている。

今のチャージショットのダメージでついたのだろう。

 

「ロックマン……エェェェェェックスゥゥゥゥゥー!! …………ふっふっふっふっふっふっふ。ハハハハハハハ。戦い足りないが、これから所信表明演説の収録があるのでな。失礼させてもらうよ。ムアーッハッハッハァッ!」

 

スティグマの言葉を待ていたかのように、上空に第7空挺部隊の旗艦、デスログマーが現れた。

空中運搬用メカにロイドを掴んで飛行し、そのまま艦底カタパルトに着地したスティグマを収容した直後、デスログマーは高度を上げて飛んで行った……。

 

「スティグマァッ!」

 

『エックス! 緊急事態発生です! VAVAが都庁前に出没しました!』

 

「スティグマめ!」

 

『? スティグマ隊長に何かあったの!?』

 

「ゼロに聞いてくれ! 俺は都庁前に急行する!」

 

通信を強引に打ち切って、俺はライドチェイサーに乗る。

その瞬間、何かが俺の背中に乗りかかる感触が走った。

 

「ちょっと! このやいとちゃんを置いていくつもり?」

 

「危ないぞ!」

 

「恵玖須の側にいれば大丈夫!」

 

根拠になってないよ!

 

「……仕方ないな!」

 

俺はやむなく、やいとを乗せたままライドチェイサーを加速させた。

 

 

 

 

 

「凄い! このバイク凄い! 一瞬だけど空飛べる!」

 

「ライドチェイサーっていう、別の乗り物だけどね! って、それどころじゃなかった。シッカリ掴まっているんだ!」

 

確かDr.ケイリーがチェバルをチューンしたやつらしいが……。

しかし、ドライブブレードって凄いな。

ジャンプ中に発動すれば、やいとの言う通り一時的に空を飛べるんだから。

むっ、真正面にビーブレイダーが出てきた。

 

「もう一度飛ぶぞ!」

 

ジャンプ! ドライブブレード発動!

ビーブレーダーをあっさり叩き切ってしまった。

凄い! ドライブブレードって凄い!

 

「あのハチのロボットをあっと言う間に真っ二つにしちゃったわね!」

 

「Dr.ケイリー様様だな! ……!?」

 

俺はある人物が目に入った瞬間、ライドチェイサーをそこに向けて加速。

急ブレーキ!

その人の真横に停車した。

 

「姉さん!」

 

「え? お義姉さん!? その格好は何!?」

 

「恵玖須! やいとちゃんも……。って、やいとちゃん、私の姿が見えるの!?」

 

あ、そういえば姉は魔法少女に変身していたんだった。

それに、いつもならエミットが不可視魔法をかけているのに、何でやいとには……。

 

「ごめん! いきなりのことだったから不可視魔法をかけるの忘れてた!」

 

「え? 生きた人形!?」

 

そういうことか……。

やいとも混乱しているけど、説明している暇はない。

 

「エミットは人形じゃない。こことは違う世界の住人だ。姉さんの今の格好と併せて、詳しいことは後で説明する!」

 

「ちょうど良かった。私と沙枝も乗せて! 都庁前に行かなきゃならないの!」

 

「偶然! 俺と同じとこに行くつもりだったのか。二人とも、乗って!」

 

二人も乗せて、俺は再びライドチェイサーを加速させる。

それから数分後、俺たちはようやく都庁前に到着した。

そこには専用のライドアーマーに乗っているVAVAと……露出度が高くて扇情的な紫色の服を着た女性がいた。

あのVAVAが攻撃していないところを見る限り、奴もスティグマの協力者か。

 

「エミット……。あの女の人、まさかとは思うけど、違反者か?」

 

「正解。名前はルールアン。女の子にてを出すのが大好きで、守備範囲の広さから『ゆりかごから墓場まで』って言われてるトンデモない奴よ」

 

「……倒すべき敵、という訳か」

 

それを聞いた直後、俺は考えるよりも先にライドチェイサーを降りていた。

それと同時に、バスターを起動させる。

姉も戦わなければいけないと判断したのか、ライドチェイサーから降りた。

いつの間にか、銃器を手に持っている。

 

「来たか……。それにしても、この非常時に身内同伴とはな」

 

「いいじゃない。あのB級の坊やはあなたにお任せするわね。私はあの子を……、沙枝ちゃんを好きにするわ」

 

「……フン」

 

向こうがこっちに突っ込んでくる前に、突撃する!

走りながらバスターを乱射して、相手の出鼻をくじく。

そうすることで敵が突っ込んで来るのを防ぎ、後ろにいるやいとを巻き込まないようにする。

 

「流石にVAVA専用だけあって堅いか!」

 

命中はしているが、装甲を極僅かにへこませる程度。

ワンオフは一味違う、とでも言いたげだ!

姉の方も、ルールアンとやらを相手にヒット&アウェイで戦っている。

 

「B級のクセに、いい攻撃だ! だがそれ止まりだ! ライドアーマーだけが取り柄と思うなよ!」

 

奴のライドアーマーの強烈な左ストレートを、俺は紙一重で避ける。

だが、その瞬間に電流が走って体が動かなくなった!

VAVAの右肩のランチャーを警戒していなかったか……。

 

「うわっ!?」

 

「恵玖須! あうっ!」

 

姉は俺の名を叫んだ直後、殆ど刹那のタイミングで悲鳴を上げた。

何事かと思って姉の方を見たら……。

なんと、ルールアンに拘束されて身動きが取れなくなっていた!

しかもルール―アンは片手だけを使うスタイルで拘束しているらしく、左手で姉の胸をわしづかみにしている。

俺に気を取られてしまい、そこを突かれたのか。

俺がドジを踏まなければ……!

 

「姉さん!」

 

「クカカカカカカカカ! 無様だな。B級止まりの甘ちゃんだったばっかりに、美人の姉貴のピンチを招いたんだからな。自慢の姉貴が堕ちるまでコマされるとこを見届けさせた後で、トドメを刺してやるか」

 

「あ、それすっごく面白そう」

 

VAVAの嘲笑う声と、ルールアンの下劣としか言えない相槌が耳座りだ。

奴らの言葉でパニックになったのか、姉は泣きながら敵に懇願している。

 

「やめてください! 恵玖須を殺さないで! 私はどうなっても構いませんから!」

 

「あら、かわいい。姉弟愛、ってやつ? もう、沙枝ちゃんったら健気なんだから。嫉妬に駆られてあなたの弟を余計に殺したくなっちゃった」

 

「お願い……します……。ペットにでもなんにでも……なりますから……。恵玖須を殺さないで、ください…………」

 

「……可愛い弟のためなら、ってか? 堕ち切ってもそう言えるかなぁ~?」

 

グ……。

動かないと……。

動かなきゃダメなんだ!

今動かないと、姉さんがグチャグチャにされてしまう!

姉さんを守りたいんだろ? だったら今すぐ動けよ! 恵玖須!!

……よし! 少しづつ動けるようになってきたぞ。

 

「……バカな。拘束用のエネルギースタン弾だぞ! それ食らってすぐに動けるっていうのか!? B級止まりのくせに……その顔は!」

 

「な、なんなの? 沙枝ちゃん、あなたの弟、一体何者なの!? 顔が変形したと思ったら、 それを見た私の膝が笑い出したんだけど!」

 

「すぐに悩んで、怒るととっても乱暴になって、頭が冷えたら今度はそれに悩んで落ち込むB級ハンターです。でも、とっても優しくて、世界で唯一涙を流せるレプリロイドな、私の弟です! それ以外の何物でもありません!」

 

姉さん……。

その言葉だけで……十分戦える!

 

「それ以上姉さんのデリケートな肌に爪を立てるな! ルールアン!」

 

俺は、怒りで却って冷静になった状態で、ルールアンに狙いを定める。

ルールアンもVAVAも、俺の方を向いて固まっている今がチャンス。

拘束の仕方の関係上、ルールアンは姉さんを意図せず盾にしている形になっているが、姉さんを助けるにはこれしかない!

姉さん、後で謝るから!

直後、オレのバスターから発射されたエネルギー弾が、ルールアンの耳を消し飛ばしていた。

 

「が……あ……!!」

 

予想外のことに気を取られたのか姉さんを拘束する力が緩んだらしく、姉さんはやっとの思いでルールアンの右手を振り払った。

 

「姉さん! 避けて!」

 

俺の言葉の意図に多少なりとも気づいてくれたのか、姉さんは慌てて横に避ける。

これで……ルールアンを狙える!

 

「エーテルランドでっ! 一滴も出なくなるほどぉ! 絞られてこぉぉぉいっ!!」

 

バスターをルールアン目掛けて、連射。

エネルギー弾の礫が、ルールアンの体を容赦なく穴だらけにしていく。

エーテルランドの住人たちは、こっちの世界で致命傷を受けると強制的にエーテルランドに戻される。

エミットがあの時教えてくれたことの一つだ。

聞いた時はホッとしたよ。

流石に、人間とは違うからとはいえ、殺すことには……まだ抵抗があるから。

 

「こっちががら空きだ……ずわおぉっ!?」

 

VAVAが俺目掛けてライドアーマーを突貫させようとするが、顔面にカラフルな光弾を食らってくぐもった悲鳴を上げる。

姉さんが、手に持った銃火器でVAVAを銃撃してくれたようだ。

 

「俺は、ライドアーマー戦闘の第一人者だぞ! それがテメエみたいな鈍いの如きにぃっ!」

 

VAVAの怒号が俺と姉さんの耳をつんざく。

しかし、その怒号を掻き消すように、エネルギー弾がVAVAのライドアーマーの左腕を粉砕した。

オレのバスターから発射された物ではない……。

あの威力は……。

 

「諦めろ」

 

ゼロ!

……? 何故かゼロと並んで、女の人が7人も一緒にいる。

髪の毛の色も、着ている服のタイプもてでバラバラ。

巫女服から、姉さんが着ているような魔法少女のコスチュームまで様々。

 

「どうする? 自慢のライドアーマーをバラバラにしてもらってもいいんだぞ?」

 

「…………ルールアン! 撤収だ! デスログマーまで転送!」

 

「……しょうがないわね。じゃあね、沙枝ちゃん。次に会った時は……悲鳴が嬌声に変わるまでいじめてあげるから♪」

 

虫唾が走るようなことを姉さんに言い残し、ルールアンはライドアーマーに乗ったVAVAごと転送魔法か何かでこの場から逃げた。

……助かった。

 

「逃げたか。……エックス、大丈夫か?」

 

「ああ。……いつも、君には助けられてばかりだな。ありがとう」

 

「……いつものことだ」

 

そう、ゼロはいつもこうだ。

素直に礼を言っても、ちょっとぶっきらぼうなんだ。

 

「「恵玖須!」」

 

姉さんとやいとが、今にも泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。

よっぽど心配してくれたんだろうな……。

そう言えば、ゼロと一緒に駆け付けてくれたこの人たちは……。

何故だろう? 全員が全員、俺を見て、嬉しさと悲しさが混ざり合った表情をしている。

 

「あの……。どうして、あなたたちはそんな悲しそうな顔で俺を見つめるんですか?」

 

そう尋ねた瞬間、彼女たちの俺を見る表情は、一気に悲しみの度合いが強くなった。

そして、後ずさったかと思うと、散り散りになってこの場を去っていく。

 

「待ってくれ! どうしてだ? どうして俺の顔を見てそんなに泣きそうな顔になるんだ!?」

 

「エックス……。俺にも詳しい事情は分からないが、お前は彼女たちのことを知っている。だが、それに関する記憶がDr.ケイリーの一存で封印されているそうだ」

 

「封印!? どういうことなんだ……?」

 

一体何の事情があってそんなことを?

どうなっているんだ!?

 

「とにかく、お前は姉貴たちを連れてハンターベースに戻れ。休んでおくんだ。俺は可能な限り、スティグマに加担した奴らに関して調べてくる」

 

ゼロはその一言を残して、自分のライドチェイサーに乗って走り去っていった。

しかし、あの人たちに関する俺の記憶は、どうして封印されているんだ!?

何故なんだ!? 封印しなければいけない物だったというのか!?

エミットが、やいとが、姉さんが不安げに俺を見つめる中、俺は、叫ぶ。

叫ばずには、いられなかった。

 

「俺には、俺自身の記憶を自分の物にしてはいけないと誰が決めた! 何故だ!? Dr.ケイリーよ、俺を造った人よ、答えてくれ! 俺はその記憶を取り戻してはいけないと言うのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

その頃。

東京都某市上空。

デスログマーの甲板上。

 

「フフフフフ。ハハハハハハ。立ち向かってくるのだ、エックス! お前の戦う相手は私だ! 私はここにいるぞ! さあ、戦いの開始だ! レプリロイドの可能性と、お前の無限の危険性をかけた戦いのな!! ハッハッハッハ! あぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

氷の世界へと行った友がいた。

誇りを胸に、その世界へと行った。

彼の名は、マルス。

氷と雪と吹雪の冷たさに負けない、熱き心を持つ者。

次回! 「友はいつもいつでもこの氷の世界にいる」。

凍えきった大地で、光と闇の魔法が悪に牙を剥く!

 



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STAGE 1:友はいつもいつでもこの氷の世界にいる

WARNING

今回から8大ボスが登場します。
ただし、「世界観が違うんだから何人かは原作と違うモチーフになっていてないと不自然」との発想から、一部のボスはオリキャラに差し替えられています。
また全員が、二次元ドリーム側のヒロインたちに対応するキャラとタッグを組んでいますので、その点を踏まえた上での閲覧をお願い申し上げます。


南極の北岸。

俺たちを乗せた飛行艇は今、この万年雪大陸の上空を飛んでいる。

目的は一つ、この大地に存在する第13極地部隊の基地を攻略するため。

 

『地上との高度差、20mを切りました! ハッチをオープンします!』

 

俺は今、一人の少女(とはいっても、学年は俺よりずっと上であり、俺が起動するよりも目の歳の生まれ、要は年上だ)と一緒に、ライドチェイサーに乗っている。

彼女は、俺と背中合わせになるようにして乗っている

ここは、機体後部の搬入用ハッチがある格納庫。

そのハッチが開かれて、南極の冷気が俺たちを襲う。

 

「大丈夫なの?」

 

「魔法で防寒フィールドを形成しているけど、完全シャットアウトまではいかないね」

 

少女……雅華鈴(みやび かりん)は肌寒そうにはしているけど、意外にもヘッチャラだと言わんばかりだ。

体脂肪率は低そうなんだけどなぁ……。

そう考えていたら、飛行機の操縦補佐兼オペレート担当のパレットの声がスピーカー越しにまた聞こえた。

 

『エックスさん、華鈴さん。第13極地部隊を確認。向こうは迎撃態勢に入っています! お二人を投下後、こちらはタスマニア島まで後退して、作戦終了まで同地で待機します!』

 

「それで構わない」

 

俺は言うや否や、ライドチェイサーを起動し、エンジンを一気に吹かす。

固定用のフックを外してもらおうとした直前、華鈴の何ともかわいらしい悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

STAGE 1:友はいつもいつでもこの氷の世界にいる

 

ステージボス:『狂気山脈の植物王 アイシー・マスビューム』 『極寒の魔氷卿 エレベス』

 

 

 

 

 

話は、数日前に遡る。

前回の直後、ハンターベースに戻った俺たちは、そこで電波ジャックに及んだスティグマの声明を聞いた。

 

「『レプリロイド用国民権利法』が施行されて、既に数十年を過ぎた。これに呼応する様に世界各国も同じ内容の法律を作った。しかし、人間の中には依然としてレプリロイドを恐れ、排除しようと躍起になる愚か者たちがいる! あらゆる層にだ!

 

 奴らは同じ人間を差別し、己を含む大勢の人命より自らの卑小な満足感を優先させている! 私に言わせれば、そのような連中もイレギュラーだ! 世界には、数多の数の犯罪組織が跋扈し、人ならざる悪しき者たちが蠢いている!

 

 奴らはそれらの脅威から自分たちを守ってくれる者たちを疑い、裏切り、陥れ、間接的に平和を乱している! 各国の政府がこのような事態を放置している以上、この世界の支配権を簒奪せざるを得ないと判断した!

 

 よって、このスティグマは『Worldwide Wildry Warriors』、通称『ワールドスリー』の結成を宣言し、この地球上の全国家に宣戦を布告する!!

 

 大多数の理解力ある人たちに告げる。ワールドスリーの掲げる統一国家体制を受け入れるがいい……! フハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

凄まじく耳障りな内容だ。

幸い、出鼻をくじく形になった日本はそこまで被害は受けていないが、ワールドスリーは世界各国で猛威を振るっていた。

レプリロイドに違反者、ミレニアムの残党にその他多数の超自然的存在の混成軍の猛攻の前に、各国の軍は足並みが揃わなかったのである。

世界を影で守ってきたスーパーヒロインたちはこの事態を憂慮して表立って迎え撃ったが、スティグマが言った通り、各国の政府や軍は彼女たちを信用しなかったために潰走に更なる潰走を重ねる格好となった。

 

「……政府の人とか無視してやった方が勝ち目があるかも」

 

エイリアがこうこぼすのも無理はない。

それほどまでにワールドスリーの進軍は迅速で効率的だったのだ。

これを見ていたのは俺とエイリアだけではない。

スティグマの反乱に加わらなかった仲間たちに加え、姉さんとやいとにエミット、そしてあの時ゼロと一緒に駆け付けてくれた七人もだ。

七人はさっきと変わらず、俺をひどく悲しそうな目で見る。

…………こういうのを、『針のむしろ』っていうのかな?

やいとが彼女たちを刺すような眼で睨んでいるのもあってか、場の空気が重い。

 

「なあ、本当に気になるんだ。どうして俺をそんな泣きそうな目で見るんだ?」

 

耐え切れずにもう一度訪ねるのだが、七人は答えてくれない。

 

「……恵玖須。知らない方がいいことかもしれないよ」

 

「知る権利を行使する! レプリロイドであろうが人間であろうが、記憶に封印された箇所があるなんて、気分のいいものじゃない!」

 

諌めてくるエミットに対して、俺は返した。

場の空気が更に悪くなりそうになったが、そこにオペレーターの一人、レイヤーが室内に慌てて入ってきた。

 

「ゼロさんから連絡が入りました! ワールドスリーの幹部たちの詳細が判明したとのことです!」

 

 

 

会議室。

レイヤーが端末を操作して、3Dディスプレイを表示する。

すると、イレギュラーハンターに所属していた8人、スティグマに加担した違反者やミレニアム残党、その他協力者8人、計16人の顔写真が表示された。

 

「この16人がスティグマ直属の部下、いわばワールドスリーの最高幹部です。2人1組の計8チームに分かれて世界各地に散らばっています。デスログマーを拠点とするイーグリードの部隊を始め、殆どの部隊は行方が掴めていません。居場所が分かっているのはこのチームのみです」

 

レイヤーが再度端末を操作し、ディスプレイが1組のチームをアップで表示する。

そして、そのチームの拠点も。

 

「第13極地部隊の副隊長『アイシー・マスビューム』と深淵王ギスカールの腹心だった『エレベス』です。本部への定期報告のインターバルが非常に長いことを逆手に取り、早い段階で部隊を掌握していた模様です」

 

「ギスカールの腹心!? え? ボク、こいつはをここで初めて知ったよ!」

 

「その点に関しては、『ミスル』の友好国から重要な情報をいただきました。その実力を高く買っていたギスカールに別働隊を任されていたため、ミスル侵攻とこの世界への侵攻には参加していなかったとのことです」

 

7人の一人、栗毛のツインテールで幼児体型なボク少女が驚いた。

それに対してレイヤーは冷静に答える。

口ぶりから察するに、ツインテールの人は『ギスカール』と因縁があるようだ。

だが俺には、それより遥かに気がかりな点がある。

マルス……。

 

「レイヤー。マルスは、第13極地部隊の隊長であるはずのマルスはどうなった?」

 

「残念ながら……消息は不明、としか」

 

「そんな……」

 

ひょっとしたら……。

いや、それは考えないでおこう。

 

「最悪、マスビュームの造反で戦死している可能性もありますね」

 

……そう決めた瞬間にパレットが不吉なことを言ったよ!

何なんだ、このアホの子は!

 

「パレェェェェェェェェェェェェェットォォォォォォォーッ! いきなり不吉なことを言うなぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ひいいいいいいいっ!?」

 

「恵玖須! 落ち着いて!」

 

全力で食って掛かろうとしたら、姉さん……と七人の謎の人たちに取り押さえられてしまった。

レイヤーは少し引いた表情で、端末を再度操作する。

直後、ディスプレイに第13極地部隊の基地の詳細が表示される。

 

「緯度と経度がとある小説に出てくる架空の山脈と全く同じであったために、それの架空の山脈から命名された『狂気山脈』。第13極地部隊はこの山脈にある地下空間を基地として利用しています。今回の作戦は至ってシンプル。

 

 飛行機で南極に移動し、狂気山脈周辺にライドチェイサーを投下。ライドチェイサーに搭乗した少数の作戦要員で狂気山脈基地へと突入。マスビュームとエレベスを処分してもらいます。

 

 現在、イレギュラーハンターはスティグマに賛同して多くのメンバーが離反して弱体化したため、スーパーヒロインたちの協力を受けつつも各国での侵攻を迎え撃つのが精いっぱいです。

 

 侵攻らしい侵攻がない日本でも、ワールドスリーの攻撃が散発的に起きているため、ここに残っている面々の大半はそれらの対応を余儀なくされます。よって、今回の作戦に割ける人員はどうしても少数になります。

 

 他にも、誰が突入するかという問題もあるのですが」

 

「ボクが行く。ギスカールの手下なら、放っておけない!」

 

「俺も行こう。マルスが気がかりだ」

 

俺とツインテールの人、この二人で今回の作戦をこなすことになるのか。

それから、散発的に発生するイレギュラー処理や準備やら何やらで時間がかかり、作戦決行はこのブリーフィングから数日後になった。

 

 

 

 

 

それから時は流れて今。

いざ出撃、と行ったところで急に華鈴が可愛らしい悲鳴を上げた。

振り向いたら、彼女の友人である近江渚(おうみ なぎさ)が華鈴に抱きついていた。

本来は部外者なのだが、ギスカールのことを知っている数少ない人物であることを強硬に主張して、この飛行機に強引に乗り込んできたのだ。

 

「華鈴! 変身しないで大丈夫なの? 南極なのよ! 極寒の銀世界なのよ! とっても寒いのよ!」

 

「防寒フィールドを貼ってあるから大丈夫だって」

 

少し迷惑そうにしながら、華鈴は戸惑っている。

 

「……なんで格納庫に?」

 

「私も同行させてもらうわ。従軍カメラマンみたいなものだと思ってちょうだい!」

 

……なんて言えばいいのか分からない。

華鈴を見ている目が、妙に潤んでいるし、鼻息も荒い。

危ない人みたいだ。

 

「なあ、華鈴……」

 

「呼び捨てするな!」

 

「華鈴さん……?」

 

「よしよし。相変わらず恵玖須ちゃんは素直だね」

 

……華鈴さんも華鈴さんで、俺に対してお姉さんぶりたがっている節がある。

この作戦、大丈夫かな?

 

「それで、渚……さんをどうする?」

 

何となく、彼女も呼び捨てしてはいけないと思った。

 

「この調子じゃ何が何でもついて行きそうだから、大人しく連れて行くしかないね……。渚ちゃんはいつだってこうだもん。はふぅ……」

 

仕方ないなぁ……。

 

「許可はするけど、華鈴さんの邪魔だけはしないでくれよ」

 

「その点は問題ないわ」

 

渚さんは嬉々として、俺と背中合わせになるように、俺と華鈴さんの間に座り込む。

彼女の嬉々とした声が聞こえるが、座り方から察するに華鈴さんを欲望のままに抱きしめているのだろう。

不安になってきたが、今更四の五の言えない。

固定用のフックを外してもらおう。

 

「パレット。固定用のフックを解除してくれ」

 

『了解です』

 

パレットの復唱から少し遅れて、ライドチェイサーを固定していたフックが外れる。

瞬間、滑るようにライドチェイサーは後ろ向きのまま機外に飛び出す。

飛び出す直前、何か……いや、渚さんが同行していることに今更気づいたパレットの悲鳴が轟いた。

 

『あわわわ! 渚さん! ダメですよー! 素人の一般人がついて行っても足手まといに~~~~!!』

 

もう遅い。

パレットの絶叫は、外に出た瞬間に吹雪の音にかき消されて俺たちには届かなくなった……。

着地!

俺はすぐに加速させる。

瞬間、ライドチェイサーは一気に100㎞オーバーの速度を出して雪原を走り出した。

更に加速を増し、ライドチェイサーの時速はアッと言う間に200㎞を超える。

追ってくるメカニロイドの迎撃は華鈴さんに任せて、俺は操縦に専念しよう。

 

 

 

 

 

「あれか……」

 

第13極地部隊のメカニロイドの追撃を振り切り、俺たちは狂気山脈にたどり着いた。

ライドチェイサーを一時的に停車させ、俺たちは山脈を見渡す。

小説に出てくる元ネタよりだいぶ低いがそれでも三角錐のような形状の山々の密集した連なりは不気味だ。

余りの異様に、俺の中を巡る不安が増幅されるのでは、と錯覚してしまう。

 

「恵玖須ちゃん?」

 

「……今、錯覚しそうになった。マルスはもう、生きていないんじゃないかって、そんな不安が急に強くなった気が、したんだ」

 

気のせいだろうか、体の内側から激しい鼓動が聞こえているような気もする。

幻聴というやつか。

 

「名前の力、ってやつよ。狂気山脈の由来を知らない、あるいはそういう名前だと知らない人には『珍しい形の山ばっかりでできた山脈』に見えるわ。だけど、その逆なら『名前通りの不気味な山脈』になる。

 

 名前にはね、そういう力があるのよ。その錯覚も、貴方が『狂気山脈』が何なのかを知っているからよ」

 

渚さんは、真剣な面持ちでカメラのシャッターを切りながら語りだす。

 

「例え、『古のもの』達の遺跡がなくても、『ショゴス』がいなくても、人の心を不安で塗り潰す力があるのよ。『狂気山脈』という名前には」

 

そういう物なのか……。

基地へと急ごう。

いくら華鈴さんが防寒フィールドを張っていても、立ち止まっていたら吹雪と冷気にやられてしまう可能性は高くなる。

俺としても、マルスの安否を一刻も早く確かめたい。

 

 

 

 

 

狂気山脈基地の出入口。

地下空間内部に入った俺たちは、その光景に唖然としていた。

なんというか、目の前の門がいかにもな機械なので、山脈の異様とのギャップが物凄い。

南極条約が形骸化しているとはいえ、ここまでしていいのだろうか?

 

「内部の気温は、氷点下一桁程度にまで上昇している。吹雪が入ってこないだけでここまで気温が上がるのか」

 

俺がそう呟いた直後、門が突然開いた。

開いた門から、レプリロイド達が大挙して飛び出してくる。

しかし、彼らからは敵意らしい敵意を感じない。

 

「どちらさんで?」

 

「イレギュラハンターだ。第13極地部隊隊長、マルスの安否確認のために来た」

 

「…………急げ。そのライドチェイサーは俺たちが隠しておくから、早く街に入れ!」

 

そのまま、彼らに案内されるがままに俺たちは街の中へと入って行った。

 

 

 

「気温は……信じられない、氷点下より上だ」

 

「えっと……。それって、防寒フィールドを解除しても大丈夫、ってこと?」

 

「だと思う」

 

華鈴さんは、自分と渚さんにかけていた防寒フィールドを解除したらしく、寒さで多少震えた。

もっとも、それほど寒くはないようだけど。

それにしても、まるで繁華街だ。

ワールドスリーの支配下とは思えないほど活気がある。

 

「これ、基地っていうよりまるで街だね」

 

「それに、ワールドスリーの支配下とは思えないほど賑やかさよ」

 

やっぱり華鈴さんと渚さんもそう感じたか。

その言葉に、俺たちを案内してくれたレプリロイド(ジガヴィーって名前だそうだ)が不思議そうな表情をした。

 

「そりゃそうだよ。だってこの街は第13極地部隊の管轄下じゃなくて、第13極地部隊を含む一部組織の代表に徒党を組ませた自治議会が取り仕切っているんだから」

 

「つまり、ワールドスリーの支配下ではない、と?」

 

「うん。マスビュームの方も俺らとはドンパチしたくないから、敵が来ない限り俺らの迷惑になる真似はしないな。つーわけで、あんたたちのことは隠させてもらう。俺たちゃ、あの地獄の吹雪に耐えてここまで来た客を門前払いするクズにはなりたくないんだ」

 

 

 

ジガヴィーの店、『吐麗美庵(トレビアン)』。

フランスの家庭料理を日本の居酒屋のメニューとごっちゃにした感じのお店だ。

純粋な当て字だけど、それを踏まえても『吐』の字を飲食店につけるのはどうかと思う。

俺たちが連れ込まれたのは、この店の奥にある『特別御座敷』。

この店で出るであろう料理が、可能な限りちゃぶ台(長方形で上座と下座があるタイプ)に並べられていく。

流石に変だと気付いたのか、渚さんが口を開いた。

 

「頼んだ覚えはないわよ」

 

「消費期限切れになったら笑えないからな。在庫一掃だからは金はいらんが、残さず食ってくれ。隊長さんに甘えて、第13極地部隊の連中の金で持たせてたのが裏目に出ちまった」

 

おいおい。

そういう裏事情をあっさりと客の前で言うなよ。

 

「ちゃぶ台ひっくり返すわよ?」

 

「そんなこと言わないでさ……。デザートと各種ドリンク、アルコール類も弾むから! な?」

 

本当に大盤振舞いだな。

ここまで行くと感心するしかない。

 

「ジガヴィーさんもここまで行っているんだから……」

 

「華鈴がそう言うのなら、不問にするしかないわね」

 

華鈴さんに諌められて大人しくなったのか、渚さんはトーンダウン。

一波乱がここで起きなくてよかった。

 

「あ、先に匿っていたもう一組様を忘れていた。ちょっと待っててくれ。連れてくるから」

 

そういって、ジガヴィーはどこかに行ってしまった。

待っている間、最後にマルスと会った時のことを思い出そう……。

 

 

 

 

 

今から2年前……。

 

『マルスっ!』

 

『大声出すなんてどうした? らしくないぞ、エックス』

 

『第13極地部隊に異動になったって、本当なのか?』

 

『部隊長だぜ? 正真正銘の栄転さ。第一、一生の別れになるわけじゃない』

 

『それは、そうだけど……』

 

『それによ……人間がいる街だとな、俺のゴツイ図体にはちょっとばかり狭過ぎるんだよ……。だから、人間がそう簡単に寄り付けない厳しい自然下で仕事がしたいんだよ』

 

この言葉を残して、マルスは第13極地部隊のある南極へと行ってしまった。

 

 

 

 

 

「……ちゃん。恵玖須ちゃん。ジガヴィーさんが『もう一組』を連れてきたよ」

 

「……あっ」

 

華鈴さんに話しかけられて思考が現実に戻った俺は、ジガヴィーが連れてきた『もう一組』を見渡した。

男性2人に女性1人、俺たちとは反対だな。

……よく見ると、テレビ撮影用のカメラを持ってきている。

どういうことだ?

 

「テレビ局の人たちさ。リポーターの横山陽菜(よこやま ひな)さんに、カメラマンの出月一史(いづき ひとし)さん、そしてディレクターの砂山登(すなやま のぼる)さん。

 

 狂気山脈を撮影するために長期スケジュールでかなりの人数揃えてここまで来てくれたんだが、第13極地部隊がマスビュームに乗っ取られた時に、隠蔽目的の襲撃にあったんだ。

 

 クルーはこの人たちを除いて全滅。ハンターベース本部やテレビ局には、『事故で全滅』とか言って適当に誤魔化しているはずだ」

 

何てことだ。

事情を説明したジガヴィーも、かなり沈痛な表情になっている。

 

「俺は空腹に耐えきれずにここで朝飯食うのを優先して、出月は機材の最終チェックに手間取って、横っちはいつもの発声練習やってて集合が遅れたんで難を逃れることができた。仲間たちが殺られた後は乗ってきた飛行機を、ジガヴィー達が囮にしてくれたおかげで何とか今まで生きてこれたんだ」

 

そう言えば、少し前にテレビで南極撮影に向かったクルーが行方不明になるってニュースになっていたな。

あのニュースがあった時点でマルスは消息不明になっていたということか……。

マスビュームめ!

華鈴さんの方も、かなり怒っているらしく表情が険しい。

 

「まあ……その……なんだ……。腹が減ってたら戦争はできないんだ。食えるだけ食ってさ、元気、出してくれよ」

 

 

 

それから数十分後。

何があったのか? 何のために俺たちが来たのか? といった話題を交えながら、食事にありついた。

出てきた料理を一通り平らげた俺たち(半分以上は俺が片づけたのだが)は、非常時であるにも拘らずくつろいでしまう。

ふと、この部屋に場違いな感がするものが目に付いた。

それを注視していたら、出月さんが話しかけてきた。

 

「これは、テレビカメラだよ。ソーラーエネルギー方式の超省エネモデル。折り畳み式三脚でぶれない撮影も可能。衛星通信式だからかちょっとした準備だけで生中継もできる優れものさ」

 

最近の業務用機材は凄いな。

 

「生中継……。そうだ! あんた、確かイレギュラーハンターなんだろ? だったらあんたが戦っているとこを中継させてくれないか?」

 

「…………はい?」

 

砂山さんがいきなり素っ頓狂なことを言い出した。

正気だろうか?

勿論、出月さんと横山さんがツッコミを入れてきた。

 

「ディレクター!」

 

「危ないですよー!」

 

「戦場報道に危険はつきもの! 迷惑にならないように距離を取ればいいのさ!」

 

そう言う問題か?

華鈴さんとジガヴィーも固まっている。

しかし、渚さんだけは砂山さんに同意しているかのような表情をしている。

 

「なあ、頼むよ。スティグマの側近を一度に2人倒すとこを中継すれば、それだけで世界中を覆う不安を大きく削ぐことができるんだ」

 

「……」

 

純粋なスクープ狙い、という訳ではないのか。

そういうことなら……。

危ない点に関しても、この人に限っては覚悟の上だし。。

 

「華鈴さんと渚さんは、どう思う?」

 

「陽菜さんと出月さん次第、かな?」

 

「砂山さんの言い分にも一理あるわね」

 

渚さんは自分と似た何かを感じ取ったのか、砂山さんに対して肯定的だ。

となると後は、華鈴さんの言う通り横山さんと出月さん次第か。

 

「ああ言われるとさ、俺もその気になりそうなんだけどさ、横っちはどう思う?」

 

「……このままジッとしているより、日本に帰れる可能性に懸けます!」

 

「だそうです。だから俺も付き合います」

 

……とりあえず、満場一致ということか。

出月さんもカメラを起動して、撮影の準備をしている。

よし……。

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

 

「なんなのコレ!?」

 

テレビに中継された光景に、エイリアは驚愕する。

狂気山脈の地下空間内にあるダイアータウンの飲食店から、エックス達が飛び出して狂気山脈基地へと走り出す姿が中継されていたからだ。

 

『日本ローカル放送局ギルドのリポーター、横山陽菜です! 南極は狂気山脈地下のダイアータウンから中継しています! 現在、ワールドスリーに掌握された第13極地部隊を相手に、イレギュラーハンターが交戦している状態です!

 

 第13極地部隊のライドアーマー中隊と正体不明の怪物の混成部隊が大挙して押し寄せていますが、B級ハンターの楠恵玖須君と、民間協力者の雅華鈴さんが全力で撃退しています! 凄いですね……。押し寄せる大群を物としていません!』

 

『当然よ! 私の華鈴ですもの! ギスカールの元手下連中なんかに負けるはずないでしょ!』

 

『えっと……渚さん。私とディレクター、出月さんは事前に聞いているから知っていますけど、これをご覧になっている視聴者の皆さんに向けてギスカールが何なのかを説明してもらっていいですか??』

 

『信じられないでしょうけど、異世界からやって来た悪魔の総元締め「深淵王」よ。国1つを1晩で滅ぼせるトンデモない奴だったけど、去年、華鈴が殺っつけたからもう死んでいるわ。その残党がよりにもよってワールドスリーに合流したのよ!』

 

『とのことです。でも、よく華鈴さんはそんな化け物を倒せましたね』

 

『当然! だってその滅ぼされた国の秘宝「エンジェルスキン」に選ばれた正義の魔法少女ですもの! ……最近は滅多に変身してくれないからとっても寂しいけど』

 

この放送は、『日本ローカル放送局ギルド』の加盟局を通じて、日本中に流れた。

そう、イレギュラーハンター本部はおろか、楠家や、華鈴の家にも。

そして、沙枝と恵玖須の父の勤め先や、華鈴の父の勤め先にも、だ。

華鈴の両親が受けた衝撃は、如何ほどの物だったのだろうか?

 

 

 

 

 

「あらかた片付いたね。恵玖須ちゃんが手伝ってくれると早い早い」

 

俺は、華鈴さんの言葉にただ、頷いた。

半分以上は、華鈴さんがヴァンパイア・ロッドの力だけで倒したのだが……。

 

「えー。変身しないのー?」

 

「しない! 生中継されてるならなおさら!」

 

変身する、しないで渚さんと華鈴さんが言い争っている。

華鈴さんが変身したがらないのは、そもそも渚さんにも原因が…………。

瞬間、頭の内側から『パキッ』っと何かが砕ける音がした。

そして……。

 

「思い出した! 華鈴さんのことを完全に思い出した!」

 

「どうしたんですか!? いきなり」

 

「いや……、何故かオレの記憶の一部はDr.ケイリーの一存で封印されているんだ。理由は俺にも分からない」

 

それに、全部の封印が解けた訳じゃない。

華鈴さんのことは思い出せたけど、残りの6人に関してはまだまださっぱりだ。

心なしか、俺が思い出したと言ったことに対して嬉しさ半分疑い半分な華鈴さんがそこにいた。

 

「僕と初めて会ったのはどんな時だった?」

 

「…………真夜中で、怪物相手に戦っているところを加勢した」

 

「正解!」

 

物凄く嬉しそうだ。

オレの肩をポンポンと、撫でるように何度も叩く。

…………?

それとシンクロするように地面が揺れて‥……違う!

新手が来たんだ!

 

「お前らよくも先発隊を殺ってくれたな! お前らは完全に包囲されている! 無駄な抵抗はやめろ!」

 

……頭数は見た限りさっきの倍以上。

割合はさっきと同じ。

流石に俺と華鈴さんも、このままでは相手にし切れないな。

俺はバスターを一度解除して、まくった袖を正す。

そして、預けていた制服の上着を砂山さんから返してもらい、羽織った。

 

「このままで大丈夫と思う? 俺は無理だと思う」

 

「……ボクも無理だと思う。悠久の時に埋もれし、安らかなる慈しみの闇よ。正義の名の契約の下、我が身を包みたまえ。エンジェリック・レヴォリューション!」

 

俺と同じ判断をした華鈴さんが、ついに変身する。

ヴァンパイア・ロッドから小さなコウモリが大量に飛び出して華鈴さんの周りを……。

ヤバい!

俺は慌てて出月さんのところまで駆け寄り、レンズを手で覆った。

出月さんが軽く悲鳴を上げる。

 

「おわ!?」

 

「カメラ! カメラを華鈴さんから逸らして! 変身シーンを映したら不味い!」

 

「え!? どういうことですか?」

 

「華鈴さんの方を見れば分かる!」

 

何故かを聞こうとした横山さんに、俺は急いで答える。

それを聞いた横山さん、出月さん、砂山さんが変身中の華鈴さんを見る。

3人とも、瞬時に俺の言いたいことを納得してくれた。

コウモリたちが華鈴さんの服を闇にかき消し裸にした直後、一際大きな1匹が華鈴さんの胸元に吸い付く。

そしてそれに呼応して華鈴さんの体が疑似的に成長する。

膨らんだバストがバストができたてのババロアの如く揺れ……出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んだ体つきになり、身長と髪も伸びて顔つきも多少大人びていく。

…………ナイスバディだ。

 

「えー。放送上不適切な個所が変身プロセスにあるため、変身するところはお見せできません。何卒ご了承ください」

 

華鈴さんが映らないように、出月さんはカメラの視界を思いっきり逸らす。

横山さんがそれに合わせて淡々と、冷や汗をかきながら理由を視聴者に説明した。

華鈴さんの擬似的成長が完了し、コウモリたちは一斉に黒い霧を経て『エンジェルスキン』へと変わっていく。

まずは半透明の黒いインナー(全裸よりはしたないような気がする)。

その次に、漆黒の黒いドレス(ノーブラな上にスカートに当たる部分が黒のシースルーっていうのはどうなんだろう?)。

腰に悪魔の翼型のリボン、首・胸元・靴の膝の部分に紅い宝石がそれぞれ装着され、華鈴さんの変身が完了した。

 

「正しき魔法の担い手。魔法少女エンジェリックカリン!!」

 

変身が完了したのを見計らって出月さんは、華鈴さんが名乗りを上げる直前に彼女に再びカメラを合わせた。

渚さんも狂喜乱舞の状態でシャッターを押しまくっている。

下半身が鮮明に映らないことを願うしかない。

さて、俺も完全戦闘モードに移行するか。

 

「コンディション・レッドと判断し、完全戦闘モードに移行。システム・オール・メガミックス!」

 

移行用コードを発声した(言わなくても移行できるのだが、言った方が移行時間が短い)瞬間、俺の体は顔を除いて蒼く発光。

蒼い戦闘アーマーとヘルメットが全身を包み込んだ姿へと変わった(説明し忘れていたが、前回もスティグマと戦う際にこのモードに移行している)。

 

「できることなら余り撃ちたくないが……撃たれる覚悟がある以上、お前たちを撃つ!」

 

今は、迷っている暇はない。

敵を全て蹴散らしてでも、マルスを探さないと……!

そう考えたの同時発射したエネルギー弾が、敵のライドアーマーの1台に着弾。

装甲を多少破損させた程度だったが、向こうをその気にさせるには充分過ぎる合図だった。

一斉に押し寄せてくる敵を相手に、俺と華鈴さんはそれぞれの武器を構えて迎え撃つ!

セミチャージショットで奥にいる奴を撃ち抜いて、残されたライドアーマーに強奪同然に乗り込む。

VAVAほどではないけど、上手く動かせそうだ。

一気にダッシュして悪魔の群れに突っ込んで、ライドアーマーのアームを操作して豪快なパンチの嵐だ!

 

「オォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

悪魔共相手に抉り抜くほどの一撃を連続して、打つべし!

紙吹雪のように悪魔共が吹き飛んでいく。

ライドアーマー中隊の面々はその光景に唖然としているが、それを見逃すほど華鈴さんは甘くない。

 

「慈しみの闇よ、深淵の淑女よ! ボクの手の中で無邪気に舞え! ダークネス・フローティング・カッター!」

 

空中に大量の黒い刃物が出現し、ライドアーマー中隊を紙のごとく易々と切り刻んでいく。

お互い変身している方がはるかに強いらしく、先発隊とほぼ変わらない時間で後続を全滅させることができた。

 

「何て言えばいいか分かりません。恵玖須君に関してはB級という自己申告が嫌味レベルの謙遜としか思えないほどの暴れっぷりでした」

 

そこはかとなく癪に触るようなコメントが、横山さんの口から飛び出した気がする。

……そんなことを気にしていい時じゃないな。

基地に向かわないと。

ディスプレイを見る限り、ホバースキーは装備されているな。

まあ、雪と氷で覆われた南極用だから当然か。

 

「みんな、このライドアーマーの手や肩に乗ってくれ。このライドアーマーで一気に基地まで向かおう」

 

 

 

 

 

ホバースキーをフルアクセルにして、ライドアーマーは狂気山脈基地目掛けて疾走する。

街とは違って南極の冷気が入り込んでいるせいか、所々地面が凍結している。

ローラーダッシュじゃなくてホバースキーが装備されているのも無理はないな。

 

「流石に街とは違って冷気が直接入り込んで来るな」

 

「華鈴ちゃんが魔法で防寒フィールド貼ってくれてるから何とかなってますけど、実際は死にそうになるほど寒いでしょうね」

 

砂山さんと出月さんが、外から入ってくる冷気に関して的確なことを言っている。

ゼロから聞いたことだが、狂気山脈基地が建設された山は特に空洞が多く、山腹にも存在する上に分厚い氷がひしめき合っている。

ライドアーマーも、ちょうどその氷の塊が詰め込まれている場所にいる。

しかし……。

 

「氷壁の形がおかしい。切り取られたような箇所が点在している」

 

余りにも気になるので、ライドアーマーを一旦停止させて氷の塊がある個所を見渡す。

 

「これは……。確実に切り取った跡ね。何に使うのかしら?」

 

渚さんもカメラで撮影しながら首を傾げている。

顔が少し火照っている華鈴さんも、不思議そうにしている。

 

「飲み水? ……それともどこかの工場で使うのかな?」

 

「わざわざ南極から採った氷を溶かして? それなら性能のいい浄水器を使った方が安上がりだわ」

 

渚さんの言う通りだ。

飲み水は流石に……。

……工業用水?

 

「……有り得る。工業用水なら十分に有り得る! 流石だよ、華鈴さん!」

 

「?」

 

「しかし……問題は何故工業用水として使うか、だな。マスビューム達から聞き出すしかないな」

 

 

 

 

 

狂気山脈基地内部。

内部にいる敵を蹴散らしつつ、基地の深部へと突き進んでいく。

ちなみに、ライドアーマーを乗り捨てて俺たちは基地内部を歩いている

それにしても、どこか寂しげだ。

なんというか、人通りがなさそうというか。

 

「テレビをご覧の皆様。我々は現在第13極地部隊の根城、狂気山脈基地にいます。ですが、散発的に敵が出て来るだけで、大部隊はほとんど出てきませんでした。不可解です」

 

横山さんもああ言っている。

レプリロイドだけならともかく、悪魔までいないとなると……。

そう思った直後、フロア全体が揺れ出したかのように感じる。

いや、この揺れは本物だ。

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおー!!

 

目の前から、第13極地部隊と悪魔共の混成軍が一斉に突撃してきた!

いきなりどうして!?

 

「恵玖須ちゃん!」

 

華鈴さんは既にヴァンパイア・ロッドを構えている。

仕方ないな……。

 

 

 

それから三十数分後。

ここまで来る途中も十分死屍累々だったけど、それ以上になってしまった。

それにしても、どうしていきなり出てきたのか……。

これに関してもマスビューム達に聞くしかないようだ。

あれこれ考えながら歩き続けていると、俺たちは大きな扉の前にたどり着いた。

スイッチ類があるから……エレベーターみたいだな。

 

「これに乗ってみよう。ひょっとしたら、高い所に奴らがいるかもしれない」

 

 

 

エレベーターがどんどん上昇していく。

胸騒ぎが、嫌な気配がどんどん強くなっていく。

間違いなく、マスビュームもエレベスも上にいる!

 

"最上階に到着しました”

 

音声案内が、基地の最上階に到着したことを告げ、エレベーターのドアも開かれた。

目の前に、銀世界が広がる。

山に積もった雪が変化してできた氷の壁だ……。

床は凍っていないし、残りの壁も岩肌。

ただ、岩肌の大部分は雪や氷が張りついて氷壁みたいになっている。

そして、目の前に見覚えのあるシルエットが映る。

……アレは、アレは!

 

「…………マルス。マルスゥー!」

 

間違いない、マルスだ!

生きていたんだ!

俺はシルエット目掛けて走り出す。

華鈴さんたちが止めるのも聞かずにだ。

 

「マルス! マル…………ス……!?」

 

え……?

そんな……。

立ったまま、氷漬けになっている!?

しかも、あちこちがボロボロで……胸板に風穴まで!

 

「ダメだろ! 芸術品に無闇に近づいちゃ!」

 

少し高音の声と共に氷の弾丸が俺の足元に着弾する。

 

「誰だ!?」

 

「……そいつは畏れ多くもスティグマさんの理想に異を唱えてなぁ」

 

「なーのーでー、我々としてはーその方にー生きていられるとー、ひっじょーっに不都合だったんだよねー」

 

「だから“処分”しちまったのさぁ~! この『狂気山脈の植物王 アイシー・マスビューム』とぉ!」

 

「この『魔氷卿 エレベス』がータッグを組んでねー! おーまーえーらーもー、そーなーるーのーさー!」

 

やはり、お前達か……!

そう思ったのと同時に、追いかけてきた華鈴さんが隣にストップ。

横山さんのリポートも再開される。

 

「テレビをご覧の皆様、悪い予想が……的中してしまいました。第13極地部隊隊長、マルス氏の殉職が確認されました」

 

流石に危ないせいか、横山さんたちは距離を置いている。

できることなら逃げては欲しいけど。

 

「ざーんねーんだーけーどー、そこのー、一般人たちはー逃がさねーからー! 資源調査と採掘から帰ってきてーお前ら2人にー殺られたー、手下たちの供養に―つーかーうーかーらーなー!」

 

エレベスが凄まじくいやらしい目つきで説明している。

大方、渚さんか横山さんの体つきを見ながら言っているのだろう。

資源調査と採掘……。

理由は分からないが、基地がやけに寂しげだったのといきなり大勢が襲いかかってきたのはそれが原因だったか。

 

「エンジェリックカリンだったなー? ギスカール様のー仇討ちだー!」

 

「おうおうおう、体温の割に熱くなってるじゃないか。まあ、俺としても作戦をこれ以上邪魔されたくないからなぁ」

 

「作戦って何のこと!?」

 

「南極の氷と地下資源を採って、味方に送るのさ。発送先は機密事項だからオフレコで」

 

華鈴さんの疑問に、マスビュームは余裕の態度で答える。

一方、エレベスの方はかなり熱くなっているようだ。

目つきに怒りが滲み出ている。

 

「戦闘ー開始ー。俺の声がー戦いのー、ゴォォォォォーーーングだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 

「第一射だぜぇっ!」

 

マスビュームの手から、氷の散弾が発射された!

危ない!

何とか回避できたから、即座に反撃!

ところが、マスビュームはいつの間にか作った氷の盾で防いでいた。

 

「どうだい、この強度は~! 言っとくけどな、これは盾じゃなくてソリだぜ。その証拠に見ろよ、この華麗な滑走をー!」

 

「うわぁ!」

 

マスビュームは氷のソリで俺目掛けて滑走!

バスターのエネルギー弾どころか、俺までもその強烈な突撃で弾き飛ばされてしまう。

危く壁に叩きつけられそうになったが、すんでのところで華鈴さんがキャッチしてくれた。

しかし、華鈴さんの方もよく見ると、髪の毛や頬に目立つほどの霜がついているし、顔や首筋に凍傷も見られる。

エレベスの攻撃は激しいようだ。

よくも!

再び横一列に並んだマスビュームとエレベス目掛け、俺はもう一度エネルギー弾を発射。

しかし、エネルギー弾は奴らではない、別の何かに着弾して爆発してしまった。

何だあれは!?

 

「……氷のガーゴイル……像?」

 

「正解だ~。エンジェリックカリン! この俺が有り余るレベルの冷却力を駆使して作った攻防一体の厄除けよぉ!!」

 

「だったらそんな物ごとふっ飛ばせばいいんだ! フル・ダークネス・バスターッ!」

 

華鈴さんの詠唱と共に、ヴァンパイア・ロッドから紅い光線が放たれる。

射線上にある氷のガーゴイル像を消し飛ばしてエレベス目掛けて直進するが、紙一重で避けられてしまった。

 

「これがー、ギスカール様を殺した魔法少女のちーかーらーかー! だーけーどー、負ーけなーいぜー! マスビュームが言っただーろー? このガーゴイル像はー、攻防一体、ってーなー!」

 

「マルスを始末した時みたいに頼むぜぇ~! エレベス!」

 

「へっへっへー。我が冷気よ、氷雪と風を従えて、目の前の敵を襲え! ブルーブラッド・ブリザード!」

 

エレベスはジャンプしたかと思うと、魔法で吹雪を起こした!

何て勢いだ!

……! ガーゴイル像が突撃してきた!

 

「闇に生まれし、禁じられた力よ、暗き時の邪霊たちよ!」

 

俺が驚いているのを尻目に、華鈴さんはまた詠唱し出す。

 

「我が命に応え、立ちはだかりし愚者達を消し去れぇっ!」

 

そして、ガーゴイル像があと少しでぶつかるところで、ヴァンパイア・ロッドから黒い雷撃が放たれた!

 

「アブソリュート・ダークネス!!」

 

黒い雷撃はガーゴイル像を全て破壊し、マスビュームとエレベスにも命中した!

 

「のわぁ~!?」

 

「どーっひゃー!?」

 

中々強烈だったらしく、二人ともあっさりと倒れた。

凄い……。

あの時断片的にみたけれど、その時以上だ。

だが、隣にいる華鈴さんの息遣いは酷く粗い。

気になって華鈴さんの顔を見ると……大量の汗を書き、顔は真っ赤、表情もかなり不安げになっていた。

 

「……華鈴さん!?」

 

俺が驚いた直後、マスビュームとエレベスの高笑いが響く。

 

「やっぱり無理してたようだなぁ~!」

 

「そーの格好で来たかーらー、もしやとー思ってーいーたーけーどーなー!」

 

華鈴さんが変身している状態がそういう意味を持っていると……あ!。

くそ! 全部思い出した側でとんでもないことを忘れていたようだ!

 

「? そこのB級。何があったか知っているようだなぁ~!」

 

「マーセーガーキーめー!」

 

そうだった……。

ギスカールの罠に嵌って散々(R-18指定レベルなので中略)を受けた上に『聖邪逆転』のせいで属性を強制的に闇に変えられた結果……。

華鈴さんは変身する度に発症する後遺症を患ってしまったんだった。

あの時聞いていたことを思い出したというのに、よりにもよって華鈴さんの強さに安堵してすぐに失念するなんて!

 

「華鈴さん、魔法はまだ、使える?」

 

「まだまだ使えるよ……!」

 

「それだったら、転送魔法か何かで渚さんたちと一緒に街まで逃げてくれ。マスビュームとエレベスは俺が食い止める」

 

もしここで華鈴さんと俺の両方が倒れたら、渚さんたちがどうなるか分からない。

それに、これ以上華鈴さんに甘える訳にはいかないんだ。

だけど、華鈴さんの返答は俺の予想と正反対だった。

 

「…………恵玖須ちゃんを置いて行けるわけないでしょ!」

 

「やっと思い出したのに、華鈴さんの身体のことをいきなり忘れて頼った以上、もう力を借りるわけにはいかないんだ!」

 

「そうだとしても、年下の恵玖須ちゃんを置いて行けるわけないでしょ!」

 

戦闘中だというのに、俺たちは言い争う。

多分、渚さんたちどころか、この様子をテレビで見ている人たちも目を丸くしているだろう。

マスビュームとエレベスも……。

 

「「戦闘中に何やってんだ!」」

 

あ、この二人は普通に抗議した。

怒りと困惑が丁寧に混ざり合った凄く複雑な表情をしている。

 

「「口ゲンカ中だから少し待ってて!」」

 

「「敵を待たせてどうするんだよ! 何? お前らまるでカップルみたいじゃん!」」

 

ああ、もう!

外野がうるさい。

華鈴さんを説得しようとしているのに!

 

「少なくとも、逃げる時はエックスちゃんも一緒! これは譲れない! ボクにとっては譲れないんだ……。あんな殺し文句で僕に勇気をくれた男の子なんか、守りたいに決まってるもん! ……ふぇ!?」

 

殺し文句……って、まさかアレのこと?

純粋な激励のつもりだったのアレが殺し文句!?

そう思った矢先に華鈴さん……じゃなくてエンジェルスキンが光り出す。

とても眩しいけど、それ以上に暖かくて優しい光だ……。

この部屋全体を包む光は、やがてエンジェリックスキンを緑色に染め、光の粒子に変えてしまう。

……ってまた裸!? 映らないようにしないと!

 

「……アレは、どのような現象でしょうか? 全くもって見当が付きません」

 

「簡単よ! エンジェルスキンが本来の姿に戻っているのよ! 私には分かるわ!」

 

「……とのことです。またもや放送上不適切な個所が発生したため、しばらくの間華鈴さんの姿を見て興奮しながら撮影している渚さんの姿をご覧ください。改めて、視聴者の皆様にはお詫び申し上げます」

 

渚さんの相手をしている横山さんが不憫でならない。

下半身が色々とはしたなかった闇色のコスチュームが一転、エメラルドグリーンの、まさに魔法少女と納得できる物に変わっていた!

腰のリボンは右側が天使の翼、左側が悪魔の翼になっているけど、両方とも純白だ。

スカートは、シースルーじゃない。

良かった……けど、この状態でもノーブラなのは解せない。

 

「エンジェリックカリン! 愛する恵玖須ちゃんを守るため、光へと回帰完了!」

 

……愛?

俺に対しての?

どういうこと!?

 

「……当の恵玖須さんは心当たりがないのか、困惑むき出しの表情をしています」

 

「動揺を隠したいからって、平静を装って人の心境をリポートするな!」

 

全く……。

愛とかはこの際置いておこう。

今はマスビュームとエレベスを倒すのが先だ!

 

「……もう、大丈夫だよね?」

 

「全然大丈夫! 力もどんどん上昇しているよ!」

 

テンションが高いな。

……? 突然、俺の心の中に誰かが呼び掛けてくる。

 

(エックス……。また、会えたのう)

 

(……あなたは……ライト博士!?)

 

そうだ。

スティグマと激突した時に見えた、かすかな記憶にいた人。

俺を造った科学者だ……。

 

(争いの無い世界へと望みをかけたが、結果的にお前を別の争いに巻き込んでしまった。償いにならぬかもしれぬが、新しい力を送ろう)

 

ライト博士の言葉と共に、俺の足が光り出す。

光が収まった直後、俺の足は白い装甲に覆われていた。

そして、ライト博士の言葉が終わった直後に、頭の中にもメッセージが流れ込む。

 

(そのフットパーツは、ダッシュによる高速移動を可能としてくれる。ジャンプや壁蹴りと併せれば相手を圧倒できる機動力を発揮してくれる。……お前が正しい道を進み続けてくれることを、ワシは静かに祈っているよ)

 

“R.O.C.K-SETシステム、最終プログラムの入力が完了。発動要請コードと対になる認証コードは「システム・コンファーム」です”

 

R.O.C.K-SETシステム?

発動要請コード?

どういうことだ?

 

「恵玖須ちゃん。認証コード、間違えずに言ってね」

 

「……華鈴さん?」

 

「頭の中にメッセージが流れたの。R.O.C.K-SETシステムのことと、発動要請コードのこと」

 

「……何が起きるか分からないけど、いいの?」

 

「ボクは恵玖須ちゃんのこと、信じてるから。行くよ! 恵玖須ちゃん! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

こうなったらなるようになれだ!

博打になるけど、認証コードだろうが放送コードだろうが、叫んでやるさ!

 

「システム・コンファーム!!」

 

俺がそう叫んだ直後、俺の眼に大量の2進数が表示され、少ししてから消える。

同時に、華鈴さんの着ているエンジェルスキンに光が形を変えて張り付き、追加装甲へと変化した!

頭の方には、ヘッドホンとサンンバイザーを一体化したみたいな飾りが装着されている。

デザインも、俺のヘルメットを髣髴とさせる。

 

「ど、どうなってるんだぁ~!?」

 

「なーんだよそーれー! ずーるーいー!」

 

マスビュームとエレベスの抗議ももっともだ。

俺も不思議でならない。

 

「恵玖須ちゃんへの愛でパワーアップした……かな?」

 

「何だよ……それ? そろそろ向こうも待ちくたびれているかもしれない。相手をした方がいいよ」

 

「むー。朴念仁! 後で色々言わせてもらうからね」

 

華鈴さんと……何故か渚さんからもかなり痛い視線を浴びせられているが、今は置いておこう。

とりあえず、ダッシュ機能を使ってみ……るわぁっ!?

ま、前かがみで直進した!

ぐ……早過ぎて、このままだとぶつかる!

この状態で……ジャンプだ!

マスビュームとエレベスを高く飛び越え、ぶつかる前に壁蹴り!

いつも以上の勢いで壁を蹴れたらしく、俺はダッシュ並みの速さで華鈴さんの隣に戻っていた。

 

「星明りよ! スターライト・ブレット!」

 

ヴァンパイア・ロッドがその形状を変えて、光の弾丸をマスビュームとエレベス目掛けて放つ。

二人ともそこまでダメージを受けてはいないようだが、かなり苛立っている。

 

「そう簡単にやられるかよぉ~! スティグマさんの8対の腹心の中で、最も連携が取れてる俺達がぁ~!」

 

「ギスカール様の腹心とー特A級ハンターのーコンビがー、そうそう負けるわけなーいーだーろ―!」

 

マスビュームが氷のガーゴイル像をまたも大量に作り、エレベスがこれまた吹雪を起こそうとする。

させるか!

ダッシュジャンプして……チャージショット!

 

「往けぇー!!」

 

「いーってぇー!」

 

思わぬダメージを受けたせいか、エレベスの詠唱は途切れた。

いきなりのことで驚いたマスビュームにも、華鈴さんの魔法が浴びせられる。

しかも氷のガーゴイル像を残らず粉砕しながら。

 

「うっが~っ!」

 

しかし、敵もさるもの。

早々簡単に負ける気は無いらしい。

しかし、視線が少しだけ俺たちの方向から反れる。

そして、急に上機嫌でハイタッチした。

 

「「流石、卑怯者!」」

 

二人して、氷壁へと駆け出したかと思ったら……!

 

「さ、最悪です! 最低です! 正真正銘の外道です! あいつら、恵玖須君の性格を逆手に取って、マルス氏の亡骸を盾にしましたー!」

 

「なーんとでーもー言ーいーやーがーれー!」

 

「エックスゥ~。お前の甘ちゃんなとこは、マルスから聞いていたんでなぁ~。有効活用させてもらうぜぇ~!」

 

横山さんの抗議交じりのリポートに対しても、マスビュームとエレベスはどこ吹く風だ。

あいつら……!

ぐ……狙いが定まらない……!

討ち抜けば楽なんだろうけど、俺には出来ない……!

 

「「へぇっへっへっへぇっ!」」

 

マスビュームとエレベスも勝ち誇るように笑っている。

どうすれば……。

そう思って歯噛みしながらマルスの方を見ると、動いている?

内側から氷を砕こうと、動いているように見える。

そう感じたのと同時に、マルスが自分を覆っていた氷を砕き、後ろにいたマスビュームとエレベスを肘打ちで吹き飛ばした!

 

「どうした? 久しぶりなのに、えらく泣きそうな顔をしているじゃないか、エックス」

 

「死んでいなかったんだね……マルス!!」

 

「死んではいたよ。……そこのお嬢ちゃんの『光』のおかげで、少しの間だけこっちに戻ってこれただけさ。良く見ろ、風穴が空いているだろ?」

 

マルスは、あの時と変わらない笑顔のままだ。

そして、ふらつく足を必死の思いで動かしながら、渚さんたちの方へ行く。

それから、渚さんの隣に座りこんでしまった。

 

「エックス。すまないが、そいつらへのトドメは頼んだ。なあに、お前なら確実に出来るさ。勝利と強さに、体の大きさも級も関係ない。勝敗において一番大事なのは自分を信じること。言い換えれば、自分自身に『誇り』を持つことだ。それが、俺たちハンターの武器なのさ!」

 

俺は、その言葉にただ頷く。

言葉はいらない。

華鈴さんと一緒に、マスビュームとエレベスを倒すだけだ!

 

゛ダブルアタックシステム、発動可能。モーションや技名は任意で”

 

「恵玖須ちゃん!」

 

「ああ。またメッセージが頭の中に送られてきた!」

 

少ない言葉だけで十分だ。

何をすべきか、繋がっているから分かる!

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

俺と華鈴さんが光り輝きだす。

さあ、これでフィニッシュだ!

 

「伝えなきゃ。世界には、命を慈しむ闇があるって」

 

「伝えるんだ。世界には、命を導く光があるって」

 

「この世界に!」

 

「闇と光あれ!」

 

「「『心よ原始に戻れ』!!!」」

 

光と闇が、混ざり合って放たれる。

その二つの力の奔流は、マスビュームとエレベスを容易く吹き飛ばした。

 

「こ、こんな、負け方、にぃ~!」

 

「こーんな、し、死ーにーかーたー、にー!!」

 

「「納ぁぁぁぁぁぁぁっ得、でぇぇぇぇぇぇぇぇきぃぃぃぃぃぃぃるぅぅぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

最後の絶叫を残し、大爆発と共にマスビュームとエレベスは、砕け散った。

やった……。

俺たち、勝てたんだ!

 

「マルス…………!」

 

「どうし、た……? いきなりポロポ……ロ泣き出して。親御さんから……人前じゃあまり泣かないように、口止めされてたんだろ……? 生中継されているんだからさ、そんな顔は……するな。それに……お前には、新しい友達が……4人もいるじゃないか……」

 

マルス……。

分かってはいたつもりだった。

マルスがこっちに戻ったままでいられる時間は、そう長くないことは。

だけど……。

 

「エンジェリックカリン、助かったぜ。あんたのおかげで、こうしてまたエックスと会うことができた……。エックスのこと、守ってくれよな。エックスには、エックスの心を守れるやつが必要なんだ」

 

「……はい」

 

華鈴さんも、思わず涙ぐんでいる。

息も絶え絶えのはずなのに、マルスは、笑顔のままだ……。

 

「エックス。お前なら……、スティグマの野望を……ぶっ……壊せる。だから、お前はお前の誇りを……、自分自身の……力を……信じるんだ」

 

「うん」

 

「最期に、いいものを見せてもらったぜ。ありがとう、エックス…………」

 

 

 

 

 

それから……。

俺と華鈴さんは再びこの世を去ったマルスを氷雪の墓に埋葬して、弔った。

その後で、俺たちは街に帰還。

ジガヴィー達の割れんばかりの歓声を浴びたけど……喜べなかった。

 

「こちらエックス。アイシー・マスビュームとエレベスの撃破に成功。すぐに迎えに来てくれ。俺以外は体温の低下がみられる。華鈴さんに至っては体の各所に凍傷が発生している」

 

『こちら、パレットです。すぐに迎えに行きます。エックスさん、……実はちょっと困った事態が発生しました』

 

「何があった?」

 

『華鈴さんのご家族から、抗議の電話が本部に入ったとのことです。物凄く錯乱していたとか。おそらく、マスビュームとエレベスの部隊を相手に戦っているところを中継されたのがまずかったかと』

 

「そうか……」

 

それも、そうだよなぁ……。

大事な子供が自分たちの知らぬ間に正義の味方やってて、敵の攻撃くらって怪我したところをテレビで見たら、発狂するよなぁ……。

多分、日本に戻った後で華鈴さんは御両親に怒られるだろうな。

はぁ……。

 

「華鈴さん。ちょっと大変なことになった」

 

「どうしたの?」

 

「華鈴さんの家族が、ハンター本部に抗議の電話をしたってさ。凄く錯乱していたとか」

 

華鈴さんの顔が、一瞬青ざめたように見えた。

そんな華鈴さんを安心させたい気持ち半分、邪な気持ち半分で渚さんが抱きしめる。

一方、横山さんたちはジガヴィー達にインタビューをしている。

 

「……マルス。スティグマの野望は、必ず俺が撃ち砕くよ」

 

俺の呟きは、誰に聞かれることも無く、響くことも無く、消えていく。

さよなら、マルス…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ショットガンアイス』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

フランスはパリ郊外の廃棄された発電所。

ある日を境にその発電所に関する奇妙な噂が流れた。

明りに誘われて近づくと、命を落とす、と。

ワールドスリーの企みを感じ取った俺は、怪盗王女と共に潜入した。

次回! 「雷拳男爵は如何にして己が意地を括目させたか?」。

麗しき義賊が、『勝利』という秘宝を悪から奪い去る!

 




オマケ:ボスキャラファイル


狂気山脈の植物王『アイシー・マスビューム』

第13居地部隊の元副隊長。
オオハリガネゴケをモチーフとした寒冷地用レプリロイド。
高い冷却能力を駆使した前線行動力と支援能力を兼ね備えている。
勤勉だが任された仕事の有意義さに拘る性質から、極地観測を主任務とする第13極地部隊での仕事に飽き飽きしていた。
その性質と勤勉さを評価したスティグマに誘われるがままに、彼の蜂起より以前に第13極地部隊隊長をエレベスと共謀して殺害し、部隊を掌握。
以後は南極に眠る資源と、極めて良質な氷の採掘を指揮していた。


極寒の魔氷卿『エレベス』

次元間の悪魔を統べる深淵王ギスカールの腹心だった、高位の悪魔。
全身これ氷、と言わんばかりの姿が特徴。
間延びし過ぎなのんびりとした口調や熱くなり易い面とは裏腹に、その性根は見た目と肩書に相応しく冷酷冷血。
冷気の魔法を駆使した凄惨な戦い方を可能とする実力を買われ、別働隊を任されていたためにギスカールが絶命した後も健在であった。
主君の仇討ちに燃えていたところを、レプリロイド以外の賛同者を探していたスティグマの目に留まる。
彼のカリスマに興味を示したのもあって部下たちごとワールドスリーに合流し、マスビュームと気が合ったのが縁で現在は二人で第13極地部隊を切り盛りしている。




ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

マスビューム
・南極に自生している植物、という特異な存在なのでオオハリガネゴケに。名前はオオハリガネゴケの英語名『Marsh Bryum(マーシュ・ブライアム)』を省略&それっぽく発音して『MasByum(マスビューム)』。
・口調は岩本版Xのペンギーゴを意識しました。

エレベス
・「魔法少女エンジェリックカリン」の大ボス、ギスカールがワンマン体制で長編ファンタジーのラスボス級実力者であった(なのでスティグマの下につくのはあり得ない)+既に死んでいるため、こちらで「別動隊を動かしていたので難を逃れた」という設定で創造したオリジナルキャラ。
・名前は『シベリア(SIBERIA)』の逆さ読みして『エレベス(AIREBIS)』。
・「別動隊だったので生き残れた」「主君の仇討に燃える」、という設定は『○装戦隊ゴセ○ジャー エ○ックon THE MOVIE』の大ボス『超新星のギョー○ンオー』のオマージュorパロディ。


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STAGE 2:雷拳男爵は如何にして己の意地を括目させたか?

WARNING


今回は人間(ホモ・サピエンス)の死亡描写が存在します。
閲覧には多少の注意を払ってください。


フランス、パリ。

シャンゼリゼ広場で俺は完全戦闘モードに移行してから地図を広げていた。

郊外にある廃屋「チャット・ブラン発電所」の位置を改めて確認するためだ。

よし、ルートの確認もできたぞ。

ただ、不安要素もある。

 

「現在、パリにいます。この後郊外に出向き、チャット・ブラン発電所に潜入する恵玖須君に追走して内部を中継することになると思われます。チャット・ブラン発電所は安全性を向上させた新機軸の原子力発電所として1985年に建造されました。

 

 レプリロイドに使用される集束コンデンサー式太陽光モーターの技術を応用し、『常温核融合』とも言われる低温での熱核融合を実現して放射能問題を解決する画期的な発電所になるはずでした。しかし、チェルノブイリ原発事故の巻き添えで計画は頓挫。

 

 チャット・ブラン発電所は数回の試運転を行っただけで閉鎖されて立ち入り禁止区域となり、建物及び設備は現在も放置されたままです。今回、恵玖須君は件の発電所がワールドスリーに利用されている疑惑を掴み、事実確認のためはるばるフランスまで足を運んだのです。

 

 去年、元職員が全員行方不明になったことで様々な噂がたっていましたが、それの延長線のように今回のワールドスリーの蜂起から数日前に同発電所は心霊スポットと化しており、肝試しに入った若者が敷地外で死体になって発見される事件が頻発しています。

 

 そのため地元では『あの発電所の明かりに誘われたら命を落とす』とまで噂されています。」

 

横山さんたちがまた同行すること? 違う。

別の要因だ。

それ……訂正、『彼女』は俺の隣にいる。

黒いレオタード姿に黒い仮面という目立つ格好をして。

今が真夜中だから良かったものの……。

 

「エックスさん。あの発電所にはいつになったら向かわれるのですか?」

 

「……色々と準備もある、シャ……」

 

「怪盗の本名を人前で言うのは迂闊なことでしてよ!」

 

「……黒猫さん、色々と準備もある。まともに準備をしないとまたフレイアの思う壺だよ」

 

「素直で何よりですわ。それはそうと、エックスさんの意見もごもっともですわね」

 

彼女は、シャーロッテ・マグルゲーテ。

異世界にある王政国家、マグルゲーテの第三王女だ。

彼女が王女様であることは、この間華鈴さんに関する記憶が戻った余波で思い出せたけど。

一応、彼女は国内の暗部に立ち向かう義賊をしているそうな。

不安なのはその性格。

やいとより高飛車な気がするんだ。

俺、ただでさえやいとの性格が苦手なのに、それ以上の人が相手だと……。

 

「不安だ」

 

「何がですの?」

 

「黒猫さんの高飛車なところが。……!!」

 

「素直なのがあなたの美点ですけど、それが良きことばかりもたらすとは限らないことを忘れていましたわ」

 

俺の一言が思いっきり気に障ったらしく、シャーロッテさんが俺の頬を思いっきりつねる。

そう言えば、俺があの時いなくなるまで、シャーロッテさんは俺の頬をつねるのが好きだったな。

 

「手に油が着くことなく、柔らかな肌触りを堪能できるから、だったっけ? 事あるごとに俺の頬をつねる理由は」

 

「……まあ! 思い出したのですか!?」

 

「少しだけ……。完全には思い出せていないけど」

 

 

 

 

 

STAGE 2:雷拳男爵は如何にして己の意地を括目させたか?

 

ステージボス:『豪速の雷拳男爵 スパーク・マントヒッター』 『猛欲の害士官 フレイア』

 

 

 

 

 

時は数日前、所は東京の大きな病院。

前回、マルスの仇をとった俺たちは何とか戻ってこれた。

凍傷が思ったよりも重傷だった華鈴さんはハンター本部のツテで警察病院での短期治療を希望したが、御両親に捕まって民間の病院に入院させられたのである。

おかげで戦線を一時離脱状態。

俺が見舞いに来た際、俺の顔を見るまでかなり無念そうな表情でベッドに寝転がっていた。

 

「魔法で治せるのに」

 

「魔法で出来た特別な傷だから、自然治癒の方が確実に治るってエミットが言っていたよ。それに、名誉の負傷じゃないか。渚さんたちを冷気から守るために、自分の防御に回す分まで渚さんたちに貼った防寒フィールドの魔力に割いたんだから。ところで、渚さんは?」

 

「……あの戦いが中継されてた時に、ボクの魔力が光に戻るのを見て物凄く興奮してるところが全国に流れてね。家の人たちにもバッチリ視られて、それでしばらく接近禁止にさせられたんだって」

 

「いかにも同性愛的な仕草だったからなぁ……」

 

実を言うと、華鈴さんは渚さんとは同性間の恋愛関係なのだ。

それがあの生中継での渚さんの表情で暴露されてしまったようなものだから、非常に微妙な立場にさらされているのだ。

更に言うと、俺に対する愛の告白が華鈴さんの立場を更に微妙なものにしていた。

渚さんと恋愛関係とはいえ、それは渚さんに半ば強引に嗜好を捻じ曲げられた結果に過ぎない(作者注:R-18に該当する事項が含まれているため、何があったかはキルタイムコミュニケーションから発売中の「魔法少女エンジェリックカリン」を買ってご確認ください)。

故に、男(この場合は俺)への恋心も発生する訳で……。

おかげで華鈴さんは現在、下世話なネタ聞きたさにやって来る級友たちの追及を避けるために条件付き面会謝絶状態だ。

面会できるのは現在のところ、御両親、そして俺の3人。

 

「渚ちゃん、飛行機の中で浮気よ、とか大声出してたよねー」

 

「アレはいたたまれなかったね」

 

かく言う俺も、華鈴さんの愛の告白のせいで少々微妙な立場にいる。

クラスメートたちからの質問が凄まじい。

女子生徒たちの視線が凄く痛い(しかも全学年。俺ってそんなにモテていたのか?)。

やいとからは何度もコンパスの針で刺されそうになった。

 

「エックス。そこにいたのか」

 

「ゼロ!?」

 

いきなりゼロが病室に入ってきた。

いいのかな? ここ、条件付きとはいえ面会謝絶なんだけど。

 

「2組目の所在と思しき場所が推定できた」

 

「え!?」

 

 

 

数分後。

 

「……フランス!?」

 

「パリ郊外の閉鎖された発電所だ。スパーク・マントヒッターは覚えているか?」

 

その名前を聞くのは1年ぶりだな……。

 

「去年から、第11調停部隊に出張中の?」

 

そう言えば、あの時表示された写真には彼もいたな。

あ、確か第11調停部隊は……。

 

「フランスに基地があったんだ!」

 

「……スティグマが反乱を起こしたのと前後して、第11調停部隊の中で奴だけが行方をくらましている」

 

でも、それでどうしてパリ郊外にいるってことになるのだろう?

それが凄く気になる。

ゼロは何となくそれを察してくれたのか、説明を続ける。

 

「奴は向こうに渡って早々、さっき言った発電所の元職員全員と接触したことがある。詰問された際に、『発電所に何があったのかが個人的に気になったから』と答えたそうだが……。問題はその後だ。

 

 全員が、マントヒッターと接触後3日以内に失踪。当然マントヒッターが疑われたが、ご丁寧なことにアリバイは完璧だったため追求できず、逆に向こうからフランス政府の陰謀論を持ち出された。

 

 そしてマントヒッターが姿を消した後、発電所がある土地に『勝手に稼働している』『中に入ったら生きて出られない』なんて噂が流れ出している。

 

 大方、ワールドスリーが表だって動きだしたのにかこつけて、興味本位んで入り込んだのを獲物にしたハンティングでもしているんだろう」

 

……そうなると、どうしてもその発電所が怪しいな。

そう言えば、マントヒッターは誰と組んでいるのだろう?

 

「マントヒッターとタッグを組んでいるはマグルゲーテ軍の元士官、フレイアですわ」

 

いきなり、華鈴さんとは違う女性の声が俺の隣から響いた。

驚いて隣の方を向くと、目元を黒い仮面で隠した、黒いレオタード姿の女性がいる。

あの時、ゼロと一緒に駆け付けてくれた人達の一人だ。

刹那、華鈴さんが彼女の名前を教えてくれる。

 

「あ、黒猫ちゃんだ。恵玖須ちゃんは覚えてないかもしれないから教えておくけど、この人は『シャーロッテ・マグルゲーテ』って名前なの。であその恰好の時は『黒猫』って別名を使ってるの」

 

「そうなのか……」

 

何となくやいとと似たような雰囲気を醸し出しているような気がする。

言った瞬間に怒りそうだけど。

 

「あの女とは因縁がありますので、今回は私が同行いたしますわ」

 

 

 

 

 

それから現在。

俺達はパリ郊外にあるチャット・ブラン発電所の前に来ていた。

空は薄らと明るくなりかけている。

 

「テレビをご覧の皆様、私たちはチャット・ブラン発電所の玄関にたどり着きました。予測通り鍵がかかっていますが、現在黒猫さんがピッキングで開錠中です。……今開きました! 恵玖須君と黒猫さんが突入します!」

 

 

 

横山さんたちを尻目に、俺たちは発電所内に入る。

玄関からも確認できたけど、中は完全の平常運転と言わんばかりに電気がついているな。

 

「いましたわね」

 

「向こうから出て来てくれたね」

 

ご丁寧にも俺たちが入ってきた直後に向こうから大挙して姿を見せてくれた。

マントヒッターが単身合流したせいか、ガンボルトばっかりだけど。

っと、危ない!

いきなり電気弾を発射してきた。

 

「いきなり危ないことをしてきましたわね!」

 

「侵入者に対しては普通の対応だろうけど、危ないのには同意できる!」

 

エネルギー弾を連射して、ガンボルトの1体を破壊する。

その爆音と閃光を隠れ蓑にしたように黒猫さんが別の1体がミサイルを発射する隙を突いて、ハッチをキックで強引に閉じて、バク転で交代。

直後にミサイルが暴発して、ガンボルト自体も爆発。爆発の勢いのせいか破片や爆風で他のガンボルトもダメージを負う。

それに続くようにして、俺はチャージショットで残りを吹き飛ばした。

……ガンボルトは全滅か。

これで先に進める、そう思った瞬間に、黒猫さんの手が俺のバスターに触れた。

 

「……そのお手で、貴方は私を救ってくださいました。でも、貴方はそれをお忘れになっている……」

 

「……黒猫……さん?」

 

黒猫さんの表情は凄く悲しげになり、目も完全に潤んでいる。

しかも抱きついてから上目づかいで俺を見つめてきた。

俺も思わず黒猫さんを抱きしめ、その顔に見入ってしまう。

こういうのって、ラブシーンっていうんだっけ?

 

「でも状況的にいいのだろうか?」

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

 

「良くないわよ! 戦闘中なのよ! 沙枝ちゃんたちがテレビ越しにあなたを睨んでて怖いのよ!」

 

エイリアの言う通り、沙枝(と華鈴を除いた6人)は表情を見ただけで怒っているのが分かる。

かく言うエイリアも怒りが顔に出ているが。

 

 

 

 

 

綾小路邸。

やいとの部屋。

 

「最低!! 節操なし!! 浮気者!! ヤリチン!! 女の敵!! 女たらし!! スケコマシ!!」

 

自室のテレビをそれを見ていたやいとに至っては罵声を飛ばしている。

声も凄まじく荒い。

 

「監禁よ! 帰ってきたら監禁して躾け直しよ!!」

 

 

 

 

 

都内の病院の個人病室。

 

「おいで! スターライトロッド!」

 

沙枝たちや、やいとと同じ光景をテレビで見てしまった華鈴は、これまた怒りに駆られてスターライトロッド(前回で説明していなかったが、これがヴァンパイア・ロッドの光側に属性チェンジした時……もとい、本来の姿である)をその手に握る。

やはり表情は怒り以外の何物でもない。

条件付き面会謝絶が解除され、渚やクラスメートたちがお見舞いに来ているのにも拘らず、フランスまで駆けつけるつもりになっていたのだ。

が、流石にまだ安静にしないといけないので、渚が慌てて抱きしめることで拘束(抱きしめた瞬間に鼻の穴を膨らまして恍惚とした表情になった)。

渚の呼びかけに1テンポ遅れて呼応したクラスメートたちも一斉に華鈴を取り押さえる。

 

「離せー! 離してー!」

 

「ダメよ! 安静にしなきゃダメ!」

 

この騒ぎは、見舞いに来た華鈴の両親が病室についてもしばらく続いた。

 

 

 

 

 

「あのー、恵玖須君。これ生中継ですから、多分学校のお友達とかも見ているかと……」

 

「…………!!」

 

やばい!

もしやいとがテレビで今のを見ていたら最悪だ!

手遅れかもしれないけど、俺は慌てて黒猫さんを引きはがした。

 

 

「無粋で貴方らしくありませんわよ、もう!」

 

「今は戦闘中です!」

 

『エックス。聞こえますか?』

 

今度はレイヤーから通信が来た。

どうしたんだろう?

 

『……今のラブシーンをテレビで見てしまった沙枝さんたちが怒っていました』

 

「…………」

 

姉さんたちのことを忘れていた……。

 

 

 

それから、俺と黒猫さんは襲い掛かってくる敵を蹴散らしながら発電所内を突き進んでいた。

 

「この発電所の元職員たちは、去年から相次いで失踪しています。拉致されたのか、それとも自分たちの意志でワールドスリーに協力しているのか、それはまだ分かりません。ただ、いずれもこの発電所に閉鎖に対して強い恨み言を残していたとのことです」

 

そうなのか……。

俺はそこまで詳しく調べなかったから、そいう点までは知らなかった。

 

『エックス! 緊急連絡です! マントヒッターに関して厄介な情報が入りました!』

 

「どうした?」

 

『マントヒッターは「サンダースライマー」という実験用に開発された元メカニロイドをペット兼私兵として飼っています。マントヒッターが第11調停部隊に出向した際に、安全面の問題から冷凍睡眠処理をした上で拘束されたはずでした。

 

 しかし、一部のハンターがマントヒッターへの人質に使うために目覚めさせようとしたところ……冷凍睡眠ユニットはもぬけの殻だったそうです。おそらく、今回の反乱でもマントヒッターに付き従っているとみて間違いないでしょう。

 

 サンダースライマーはマントヒッター個人に対して絶対の忠誠を誓っています。戦闘力だけでなく、その点にも気をつけてください』

 

「了解。警戒する」

 

「本部からの通信ですの?」

 

「ああ……。マントヒッター直属の部下がこの発電所に潜んでいる可能性があるって」

 

それから、俺は黒猫さんや横山さんたちにサンダースライマーについて説明した。

サンダースライマー……。

イギリスの『国立マンチェスター・総合工学研究所』の『バイオ工学部門』と『ロボット工学部門』、『電気工学部門』が10年前に共同開発した実験用大型メカニロイドだ。

「1つの細胞をどこまで大きくできるか」「大きくなった細胞を分裂させたらどうなるか」「ロボットとして完成できるのか」「発電機として機能できるのか」といった、複数のテーマを照明できるかの実験のために生まれたと。

完成したサンダースライマーは自体は課せられたテーマを全部クリアするほどの性能を発揮したが、元々失敗前提のプロジェクトであったため研究員たちは恐れをなし、一通りの実験に使った後でサンダースライマーを廃棄処分した。

しかし、偶然にもスティグマの見学に付き添っていたマントヒッターがそれを見咎め、口論の末にサンダースライマーを引き取ってレプリロイドに改造したと聞く。

 

「並々ならない恩義を感じているんだろうな……」

 

「道を踏み外した主に愚直なまでに付き従うほどの恩義ですもの」

 

「サンダースライマーとは、戦いたく……ないな」

 

つい、口に出してしまった。

そう言わずにはいられなかったとはいえ。

 

「戦わざるを得ない気がしますけどー」

 

「そんなこと、分かってるさ。でも、境遇を知っているとちょっと、ね」

 

横山さんからツッコミが来た。

分かり切ってはいるさ。

戦わなきゃいけないって。

でも……。

 

「理解と納得は違うんだ」

 

「その優しさに身を滅ばされる可能性がありますよー」

 

「クラスメートに似たようなことを一度言われた」

 

発電所内をひたすら突き進みながら、俺は横山さんのツッコミに言葉を返す。

隣にいる黒猫さんは、自分以外の女性との会話に対してチョッと妬いていそうな表情だ。

 

「ヒロインを放置して他の御婦人と会話なんて、感心しませんわね」

 

「今は戦闘中だってば」

 

 

 

 

 

それから数分間、俺たちは歩き続けた。

そして、妙に間取りの広い部屋に入る。

直後、入口が閉ざされた!

 

「閉じ込められた!?」

 

「出月ちゃん! 上! カメラ上に向けろ!」

 

砂山さんの怒声に応じて出月さんがカメラを向けた先…・・・天井を俺と黒猫さんも見る。

……やはり、避けては通れなかったか!

 

「オレ、サンダースライマー。マントヒッター様の用心棒だから、マントヒッター様の邪魔する奴、殺す!」

 

「……レプリロイドに改造された、とはお聞きしましたけど。なんというか……妾代わりの御稚児さん?」

 

……黒猫さんの呟き通り、サンダスライマーの姿は閲覧したことのある資料の写真とは完全に違っていた。

なんというか、マントヒッターの性癖をリアルで疑いたくなる。

それほどまでに今のサンダースライマーは可愛らしい容姿をしており、同時に身に着けているアーマーのデザインもおかしかった。

 

「お前はその姿を恥ずかしいと思ったことはないのか!?」

 

「今の俺の姿をデザインしてくれたのはマントヒッター様だ! だからケチつける奴はマントヒッター様を侮辱する奴! 殺す!」

 

「でもその可愛らしい姿を見る限り、奴専用のセクサロ……」

 

「小学生が汚い言葉を使うなぁー! 特に恵玖須君みたいな綺麗な子は絶対ダメぇぇぇぇぇ!!」

 

セクサロイドって言おうとしたら横山さんに遮られた。

え? 汚い言葉なの!?

横山さん、なんか必死の形相だし。

 

「せめてペットと言いなさいな!!」

 

黒猫さんまで!

なんなんだよ!

 

「みんなバカだ!! この非常時に下らない横槍を入れるなんて!」

 

「入れる身にもなってくださいまし!」

 

「そうですよ!」

 

ああもう!

緊迫しているってのこの2人は……。

 

「このシリアスな状況下で『ハーメ○ンのバイオリン弾き』みたいにギャグシーンを挟むなぁっ! 殺す! 改めて殺す!!」

 

……サンダースライマーの方が痺れを切らしてしまった。

仕方ないよね?

 

「その怒り、少しは俺も分かるよ」

 

「…………どうして敵のお前が共感するの!? しかも何? 共感させてって言いたげなその目!? オマケに女難の相も見えてるし!」

 

サンダースライマーが困惑している。

俺が困惑させただけなんだけどね。

これ以上コントをしていても仕方ない。

不本意だけど意を決して戦う!

サンダースライマーも俺の戦意を感じ取ったのか、体の各所からスライムを出してきた。

 

「マントヒッター様には近づけさせない!」

 

「撃たれる覚悟がある以上、俺は奴を撃つ!」

 

その前に、サンダースライマー目掛けてエネルギー弾を発射。

流石に3、4発では倒れないか。

 

「その程度か? 次はオレの番だ! マントヒッター様に教えてもらったこの戦い方を見ろ!」

 

スライムの質量に物を言わせたボディプレス。

俺と黒猫さんは咄嗟に回避。

スライムで衝撃を殺いで安全に着地したサンダースライマーは、スライムを天井に張り付かせ、それの引っ張る力で天井へと戻った.。

更に、電撃を飛ばしてくる。

 

「で、電撃です! 電撃を飛ばしてきました! 電圧はどれぐらいあるのでしょうか!?」

 

「最低でも1万ボルト以上!」

 

「意外と親切です。私が疑問を呈したら素直に答えてくれました」

 

横山さんも必死にリポートしている。

スライムも結構飛ばしているから避けるのも一苦労だ!

 

「嫌ぁー!」

 

!? 黒猫さんの悲鳴?

あ! スライムが直撃して黒猫さんが餡かけ状態になっている!

 

「こ……のぉっ。と、取れない……! お願いですから取れてぇ!」

 

「オレのスライムはしつこいんだぜ! ほらよ、痺れな!」

 

サンダースライマーが黒猫さんに狙いを定めて電撃を放つ体勢に入った!

1万ボルト以上の電撃を普通の人間が受けたら大変なことになる!

 

「黒猫さん!」

 

俺は大慌てでダッシュして、黒猫さんを守る。

自分自身を盾にして。

瞬間、全身に衝撃が走る。

 

「わぁぁっ!」

 

「エックスさん!」

 

確かに強力な電撃だ。

だが、俺はレプリロイドだ。

ダメージは受けても、すぐに動ける!

黒猫さんを抱きかかえて、ダッシュ。

黒猫さんを床に張り付いたスライムから強引に引きはがす!

直後、電撃がスライムを飛び散らせた。

 

「危なかった……」

 

「オ、オレの必殺の戦術を破っただと!?」

 

サンダースライマーが驚いている隙に、俺は黒猫さんに張り付いているスライムを取り除く。

狙い澄ましたように変なとこにべっとりと!

 

「我慢してくれよ!」

 

「剥がしていただけるのなら喜んで」

 

黒猫さんの顔が赤くなっているけど、気にしないで剥がさないと。

よし、剥がし終えた!

ここから反撃だ。

チャージも完了済み。

 

「チャージショットだぁっ!!」

 

「あだぁー!? マントヒッター様の……愛人を舐めんなー!!」

 

「スライムの塊なんか……こちらこそ願い下げですわ!」

 

黒猫さんがいつの間にか手に持っていたグレネードランチャーの引き金を引く。

弾を複数装填できるタイプらしく、よろけながらも連射していた。

だが、大量のスライムに遮られ、爆発はサンダースライマーには届かない。

 

「そこのB級のエネルギー弾ならともかく、普通のグレネード弾はオレには効かないぜ!」

 

「オーホホホホホホ! 普通のグレネード弾ではなくて、貴方の飼い主用に用意してもらった冷凍弾ですわ! 貴方が出しているそのネバネバ、寒さには弱そうですわね」

 

「何? ……あ! オ、オレのスライムが……!?」

 

サンダースライマーの体を覆うスライムの大部分が凍りつき、張り付く力が失われていく。

自重に耐えきれなくなったスライムが砕け散り、宙を舞ったサンダースライマーは地面に叩きつけられた。

 

「オ、オレが……負ける? マントヒッター様から侵入者の処刑を任されたオレが失敗するっていうのか!? しくじってたまるか! ここで俺が倒れたら、マントヒッター様をあの女から守れるのがいなくなっちゃう!!」

 

「やめるんだ! それ以上は危険だぞ!」

 

「やめてたまるか! オレはマントヒッター様の1の子分兼愛人なんだ! マントヒッター様を守る最後の壁なんだぁっ!」

 

「やめてくれぇぇぇぇっ!」

 

俺は……セミチャージショットでサンダースライマーを撃ち抜いた……!

これ以上撃ちたくなかったのに……撃ってしまった!

サンダースライマーの執念に怯えて……。

 

「もう撃ちたくなかったのに……俺は! 俺は、殺したくなかったのに!」

 

ショックで泣きそうになる俺を、黒猫さんが抱きしめた。

今度は、とても優しい顔で。

 

「これで良かったのですわ。これで……」

 

「…………」

 

黒猫さん……。

しかし、黒猫さんの顔を見つめていた俺の視界の端は、サンダースライマーがまた動き出すところを捉えた。

 

「まだ動けるのか!?」

 

俺は黒猫さんを庇おうとしたが、それより先に黒猫さんが俺を守るように身構えた。

 

「黒猫さん!?」

 

「これ以上、貴方に辛い役回りを押し付ける気はありませんの」

 

俺は、何も言えなくなった。

サンダースライマーは、足を引きずりながら俺たちに近づいてくる。

 

「ま、負けてたまるか……。遊び半分でオレを造って、性能にビビッてオレを捨てようとした味覚障害のライミーどもから、マントヒッター様はオレを救ってくれた! それだけじゃない! 俺がオスだと知ってもこんなに美しくしてくれた!

 

 女のボディが嫌だって言ったら、ちゃんと美少年のボディにしてくれた! 愛人にもしてくれた! 俺のことを大事にしてくれたんだ!! だ、だから……マントヒッター様の……所には行かせな……い……。オレが……守るん……だ……!

 

 でも…………もう、体が……動……かない。マントヒッターさ……ま…………、ごめんなさ……い。オレ、言いつけを……守れませんで……し……た……」

 

それで最後の力を使い切ったのだろう。

サンダースライマーは煙を身体の各所から吹き出しながら、事切れた……。

 

「この方、最期の最期まで……」

 

「マントヒッターのことを一途に想って……」

 

 

 

 

 

発電所の最深部。

サンダースライマーがいた部屋を映していたモニターを、大きな拳が叩き割る。

同時に激しい方向が室内に轟いた。

 

「俺のサンダースライマーをよくもぉぉぉぉぉっ!! 仇討ちだ! サンダースライマーの墓にあの2人の雁首を揃えてやる!」

 

「落ち着きな。マスビュームとエレベスを殺ったあの小僧が相手だった時点で詰んでたんだ。むしろ時間を稼いでくれた方さ」

 

拳の持ち主であるレプリロイドが怒り狂う様を、顔の左半分に大きな火傷の痕が残っている人間の女性が冷ややかに諌める。

レプリロイドは言い方が癇に障ったのか、女性を睨みつけた。

 

「……サンダースライマーの悪口にはなってないだろ? なんせ命は大事にする性分なんでね」

 

「精々気をつけるんだな」

 

レプリロイドは『スパーク・マントヒッター』。

女性は元マグルゲーテ軍人『フレイア』。

前回のマスビューム&エレベスとは違って相性は良くなさそうだ。

 

(しかし、エックスは何かあの時とは印象、というか見た目が微妙に違う気がするね。下半身周りは白かったような)

 

フレイアは、ふと心の中でそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

発電所の中を、俺たちはまだ進んでいる。

元々サンダースライマーで侵入者を確実に始末できていたためなのか、それ以降は敵らしい敵が見当たらない。

 

「またしても寂しげです。そのせいで我々はお通夜ムードになりかけています。どうも敵は兵力の殆どをサンダースライマーより前のフロアに偏重させていたようです」

 

しかし、いないとは限らない。

用心はして……おいて正解だったな!

 

「ヴァァァァァァァッ!」

 

人間が鈍器を振りかざしながら突撃してきた!

黒猫さんがキックで軽くあしらったけど。

 

「……人間が出てきました。あら? この人の顔、写真で見たことがあります。あ! この発電所の元職員です! 元所長です!」

 

ええ?

ここの関係者!?

 

「本当なのか?」

 

「間違いありません。資料で確認済みです」

 

この発電所の中にいたのか……。

 

「お前ら……よくもサンダースライマーを!」

 

日本語は喋れるようだ。

俺達を見る目は殺気に満ちている。

 

「俺一人だけじゃないからな!」

 

ヴァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 

! 他にもいた!

恐らく、彼らも発電所の元職員だろう。

相手は人間だけど・・・・・・

 

「エックスさん」

 

「黒猫さん?」

 

「盾役をお願いいたしますわ。攻撃は私が引き受けますので」

 

 

 

数分後。

俺が盾となって攻撃を全部受け止め、その隙をついて黒猫さんが元職員たちを鎮圧した。

ちなみに、鎮圧後は砂山さんが手足を縛り上げてくれた。

 

「うっわぁ・・・・・・。ここの元職員全員じゃないですかー」

 

「発電所の職員にしては少な過ぎるような・・・・・・」

 

横山さんのぼやきにして俺が質問したところ、横山さんではなく出月さんが答えてくれた。

 

「この発電所は核融合炉式だったから安全対策を普通の原発ほど重視しなくてよかったんだ。だから、自動化の実験を兼ねて意図的に職員を少数化してたんだよ」

 

「へえ」

 

そういうことだったのか。

 

「お前ら、フランス政府にでも雇われたのか!?」

 

「……イレギュラーハンターと日本のテレビ局ご一行ですけど。フランス政府の意思抜きでこの発電所に潜入したんですけど」

 

元所長以下、元職員全があっけにとられた表情になる。

俺たちのことをフランス政府の回し者と思い込んでいたようだ

 

「聞いていいか? あなた達は、自分の意思でマントヒッターに協力していたのか?」

 

「……当然だろ。彼は、俺たちを頼ってくれたんだ! この発電所を閉鎖させられた挙句、閑職で飼い殺しにされた俺たちが必要だって言ってくれたんだ! 協力してくれたらをワールドスリーの戦力で指定された場所や人物を殲滅するって約束してくれた。

 

 俺たちには願ったりかなったりさ。家族にも腫れ物扱いされ、くすぶるしかなかった俺たちはその条件に飛びついた。裏切り者とか言わないでくれよ。向こうが先に裏切ったんだ! 仕返しして何が悪い!? 文句はフランス政府にでも言ってくれ!」

 

「ふざけるな!」

 

元所長の言葉に、俺は声を荒げていた。

彼の言い分に怒りを覚えたから。

 

「政府と自分の家族以外の人たちや街を巻き込むな! 巻き込んだ時点で正当性の欠片もない、ただの八つ当たりじゃないか!」

 

「……復讐を否定する気は、ないのか?」

 

「俺も仇討ちのために戦ったことがあるから、否定はしない。それなりに手段を選べって言っているんだ! 色々方法が遭っただろう!? 色々と!」

 

俺の方も既にかなり熱くなっている。

ところが、さらにヒートアップしそうになる直前に黒猫さんから横槍が入った。

 

「一旦フレームアウト! リポーターさん、続きをお願いしますわ」

 

「ラジャー」

 

黒猫さんが俺に抱きつき、強引にカメラの視界から押し出す。

流石に引きはがすわけにはいかず、黒猫さんと壁にサンドイッチにされる格好となる。

 

「それでは、この発電所で作った電気はどこに送られているんですか?」

 

「知らないね。マントヒッターは協力してくれたよしみで教えてくれようとしたが、俺たちの口から機密が漏れたらシャレにならないから辞退したよ!」

 

この調子だと、彼らは本当に知らないようだ。

やはりマントヒッターに聞いた方がいいな。

 

 

 

 

 

発電所の最深部。

炉心の制御室であるこの部屋の窓から、核融合炉が見える。

明かりはついていない。

辛うじて、炉心があるところの照明の光が窓から入ってきているだけだ。

突然、俺たちを待っていたかのように窓がシャッターで遮られ、室内が暗くなる。

そして天井に数個の色とりどりの光球が浮かんで数秒してから、1ヶ所を除いて室内の明かりがついた。

光球の正体は……。

 

「マントヒッター!」

 

天井のワイヤーにぶら下がっていたスパーク・マントヒッターだった。

マントヒッターがワイヤーから手を放して着地した瞬間、部屋全体が揺れる。。

直後に、1ヶ所だけついていなかった明かりが点灯。

照らされた部分には軍服を着た女性がいた。

アレがフレイアか。

 

「よく来たな……。ワールドスリーの目的とサンダースライマーの仇討のため、死んでもらうぞ! ちなみにそっちが聞きそびれないように説明しておくが、この発電所で作った電気は電子コロイドに変えてワールドスリーの各拠点に送っている。

 

 すでにワールドスリーが100年戦えるだけのエネルギーは生成し終えているので、今は所長たちとの約束を果たすために必要な分を生成し、あるところに送っている。ちなみに送り先は機密の都合で自主的に知らない」

 

……サンダースライマーの飼い主だけあって、意外と親切だ。

流石に全部をベラベラと、とまではいかなかったが。

 

「黒猫の方は半殺しにしといてくれよ。利用価値がある」

 

フレイアは下卑た表情でマントヒッターに意見している。

もう2度と見たくないと思っていたんだけどな。

……!?

 

「……あ、思い出した。黒猫さんとのことをやっと思い出した!」

 

「エックスさん!?」

 

「そうだ……俺は、あの時黒猫さんを助けるために人間だと分かっていながらフレイアを殴ったんだけど、逃げられたんだ」

 

『レプリロイド用国民権利法』には、「同法で国民として認定されたレプリロイドには決してロボット三原則を適用することなかれ」とある。

つまり、正当防衛やボクシングでの対戦など、法律に抵触しない範囲であればレプリロイドも人間を攻撃できる、ということだ。

でも、レプリロイドは人間よりはるかに力が強い者が非常に多い。

だから俺は、自分の力が人間を傷つけてしまうのが怖くて……意識しないで『ロボットは人間に危害を加えてはならぬ』を自分自身に楔として差し込んでいた。

けれど、あの時の俺は黒猫さん……シャーロッテさんを助けるために楔を引き抜いて、フレイアを殴ったんだ!

俺の言葉を聞いて、黒猫さんはかなり嬉しそうな表情になっている。

喜び過ぎのような気もする。

その一方、フレイアの方は顔にある火傷の痕を歪ませながら俺を睨んでいた。

 

「お前があの場にいなけりゃ、全部上手くいっていたのに……!」

 

「貴様のような悪党に、マグルゲーテという国そのものも、黒猫さんも好きにはさせない! 人を守るためにロボットが人に危害を加えることが、問答無用でロボットだけの罪になるというなら、俺は死んだ後で償う!」

 

「訳の分からないことを!」

 

「貴方のような方には分かる資格すらありませんわ。エックスさんが自ら背負うと決めた物は!」

 

黒猫さんがすかさず割って入ってきた……というよりは援護射撃を出してくれた。

それを聞いてさらに熱くなり出してきたフレイアを諌めるように、今度はマントヒッターが前に出て来て俺を睨む。

 

「マントヒッター。どうしてスティグマに従う!? 恩義があるとでも言うのか?」

 

「正解だ。俺が出張した後で強制的に冷凍睡眠させられるはずだったサンダースライマーを、ご自身の立場が悪くなるのを考えずに助けてくれただけでなく、俺の元へと送り届けてくれた。だから俺とサンダースライマーは誓った。

 

 俺たち二人が引き裂かれないように尽力してくれたスティグマさんの力になると、スティグマさんの目の前でな! しかし、俺のサンダースライマーは死んだ。エックス、貴様に殺されたんだ! 貴様の首をサンダースライマーの墓前に供えないことには腹の虫がおさまらん!」

 

怒り、悲しみ、憎しみ。

マントヒッターの表情にはそれが溢れんばかりに現れている。

 

「さあ、死刑執行だ! 『豪速の雷拳男爵 スパーク・マントヒッター』と!」

 

「『猛欲の害士官 フレイア』が執行人だよ!」

 

マントヒッターは天井までジャンプしてワイヤーを掴んだ。

そして天井に足をつけ、バネの要領で足を引きの場のすのと同時にワイヤーを手から離し、高速でこっち目掛けて突っこんできた!

俺と黒猫さんは間一髪で回避。

更に激しい揺れが部屋全体に響く。

 

「ぬぅん! 我ながら凄いストレートだ!」

 

マントヒッターの強烈なストレートを俺はかすりつつも何とか避ける。

壁に大きな穴が空いている。

かすった俺の方も、強烈な衝撃を受けた。

流石に自画自賛するのも納得できる威力だな。

そう思っていると、別方向からエネルギー弾が飛んでくる。

飛んできた方向を向いたら、フレイアがメーザー銃を構えていた。

 

「この日を待っていたよ、アタシは! 大事な顔を焼かれたあの日からね!」

 

フレイアは吠えた直後、何かに気づいてその場を離れる。

瞬間、手榴弾が転がってきて爆発、破片をまき散らした。

 

「ちょっとタイミングが遅かったようですわね」

 

「殺す気か!?」

 

フレイアが自分のやろうとしていることを棚に上げて黒猫さんに抗議しだす。

黒猫さんは案の定というか、どこ吹く風だ。

 

「こちらも積もり積もった恨みがありますから」

 

そう言いたくなるのも分かる。

人間の相手は、同じ人間である黒猫さんに任せよう。

俺はマントヒッターの相手をしないと。

エネルギー弾を当てるが、流石に図体のせいかそこまで効いているようには見えない。

 

「その程度か? なら今度はオレの飛び道具の番だ!」

 

マントヒッターが地面を殴った瞬間、電撃……というよりは電気の塊が走ってきた!

しかも前方だけではなく、マントヒッターの後ろにも。

すぐ後ろで黒猫さんと戦っていたフレイアはそれに気づいてすぐに回避し、黒猫さんもそれに気づいて紙一重で避けた。

それを見ている内に、電気の塊はかなり近くにまで迫っている。

だったら!

 

「壁です! 恵玖須君は飛び越えるのではなく、壁に掴まってやり過ごすつもりで……。恵玖須君、危なーい! その電気の塊は壁を登ってますよー!」

 

「え?」

 

俺が横山さんのアドバイスに気づい時には、壁を登ってくる電気の塊が目の前にいた。

当然、直撃。

 

「うわっ!?」

 

威力はサンダースライマーの電撃以上だ!

ダメージで動きが鈍ってしまい、そのまま落ちて床に叩きつけられてしまう。

だけどやられてばかりではいけない!

セミチャージショットをマントヒッターの膝に当てる!

思わぬダメージになったのか、マントヒッターは膝をついた。

 

「……お、俺が膝をついただと? サンダースライマーの仇討という最も神聖な戦いで、失態だと!? 許さん……許さんぞぉ、B級止まりのお人好しがぁっ!!」

 

「スティグマに従って仲間を裏切ったお前に、弔いのために戦う資格などない!」

 

マントヒッターは更に激昂している。

それに対して頭を冷やせと言わんばかりに冷凍弾がマントヒッターに直撃した。

瞬間、マントヒッターが一気に凍りつく。

グレネードランチャーを手にした黒猫さんが、今度はマントヒッターを撃ったのだ。

 

「レプリロイドが相手である以上、最低限の飛び道具は必要ですわ」

 

「黒猫さん!」

 

「マントヒッターは『超電導』という現象を使って電気を自在に操っていますが、それ故に寒さ自体には弱いとお聞きしましたので」

 

なるほど。

電気は低温の方が通りやすい。

マントヒッターは寒冷地仕様には見えないから、超電導発生に使った冷気は可能な限り体の冷却にでも流用しているのだろう。

そこに追い打ちをかけるように外部から冷やされれば……凍りつくわけか。

 

「凍りついていられるかぁー!」

 

! マントヒッターが自分の周りを覆っていた薄氷を粉砕してまた動き出した!?

だったら、俺も冷えるので攻撃だ!

 

「ショットガンアイス!」

 

「ぐぉ!?」

 

もう一度氷漬けにする!

やられっ放しでなるものかとフレイアもメーザー銃を撃ってきたので、フレイアに対しても発射。

フレイアは意外と身軽なのですぐに避けたが、ショットガンアイスは着弾した瞬間に散弾化。

命中とはいかなかったが、散弾の何発かはフレイの皮膚を微かに切り裂いた。

 

「クソガキが! 一度ならず二度までも!」

 

「この死刑、どうやら執行人は貴方たちではなく私たちのようですわね。それも2か国ライブ中継の公開処刑」

 

「はぁ? 生中継してるのは日本だけだろ?」

 

「オーホホホホホッ! ごめんあそばせ。実は今回の戦い、エーテルランドの魔法使いやイレギュラーハンター本部の方々に協力してもらって……こことは違う世界にあるマグルゲーテ王国にも中継されていますの。

 

 向こうは『テレビ』が無いので『スクリーン』を1から用意して大変だったそうですけど」

 

「……はい!?」

 

え? そうなの!? 今初めて聞いた!

ビックリして横山さんたちの方を見ると、横山さんと出月さんが「知らなかった!」とジェスチャーしてきた。

そして砂山さんはその隣で手を合わせて俺に謝っている。

 

「伝えるの忘れてた! ごめん!」

 

忘れないでほしかったな……。

気を取り直してフレイアの方を見ると、奴は急に余裕が戻ったような表情になっていた。

 

「こいつは傑作だね! まさかあっちにまで中継するとは! あんた、私に正体知られてるのを忘れたのかい?」

 

「嫌と言うほど覚えていますわ。マグルゲーテにも中継する様に意見したのは私ですもの。貴方が重ね続けた罪と、私自身の直視すべき罪、その両方をここで清算するために!」

 

黒猫さんは不敵な笑顔のまま、正体を隠すための仮面に手をかける。

案の定、仮面を外して自ら素顔を晒した!

 

「しょ、正気かい!?」

 

「シャーロッテさん! 何てことを!」

 

フレイアの驚愕の声にも、俺の悲鳴にも、シャーロッテさんは動じていない。

まさか、最初から……?

 

「どうして!? 正体を知られるわけにはいかないって、自分で言ってたじゃないか!」

 

「……そう。世のため人のためであろうと、私のやっていることは犯罪。王家の名に傷をつけるやり方ですわ。だからこそ、私はあの女を私たち自身の手で裁いた後で、自らも裁かれることにしましたの。

 

 私自身が裁かれれば、王家の名もそれなりには回復するはず。それに、土壇場で潔くなれる女でなければ、胸を張ってエックスさんを愛せる女とは言えませんもの」

 

また愛の告白だ……。

これ、二股にはならないよな?

むしろ二股と見なされたら迷惑だ!

フレイアどころか、横山さんたちも固まっている。

 

「神聖な仇討ちの場で色恋沙汰を起こすとは何事だ!!」

 

! マントヒッターがまた動き出した!

一方、そんなのお構いなしにとろけた表情で俺を見ていたシャーロッテさんの方は、表情が急に変わる。

 

「エックスさん。認証コードをお願いいたしますわ!」

 

シャーロッテさんの頭の中にもか……!

こうなったら認証あるのみ!

 

「発動要請コードを頼む!」

 

「エックスさん! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

シャーロッテさんの身体に、蒼い追加装甲が装着される。

下腹部周りのが白い半ズボン状なのが微妙に気になるな。

最後に、再び仮面が顔に装着された後で頭部飾りが頭に装着された。

 

「な、何が起きた!?」

 

「ちょっと待て! どういう展開なんだい!?」

 

マントヒッターとフレイアはお決まりの反応だ。

しかし俺は慣れた。

 

「オーホホホホホホホホホホホ! 愛が成した業以外の何物でもありませんわ!」

 

「シャーロッテさん、ここからが正念場だ!」

 

「お任せあれ」

 

黒猫さんはそう答えた瞬間、レプリロイドもビックリの速さでフレアに肉薄し、豪快なミドルキックで壁に叩きつけた。

 

「が……っ!?」

 

フレイアがくぐもった悲鳴を上げる。

追撃をさせまいとマントヒッターはシャーロッテさんに狙いを定めようとしたが、俺が阻止した!

 

「サンダスライマーの仇はこっちにいるぞ!」

 

「おのれぇ……!」

 

怒り狂うマントヒッター相手に俺はショットガンアイスで応戦。

しかし向こうもさるもの。

凍ってもすぐに復活する上に、避けてくる。

 

「畜生! サンダースライマーの奴、あっさり死にやがって! 予想を裏切って時間稼ぎにもなってなかったじゃないか! だいたいアタシには何かとつっかかてきて可愛げがないと思ったら役にも立たないなんてね!」

 

形勢が一気に不利になったことにイラついたらしく、フレイアはサンダスライマーを罵倒しはじめる。

それが、奴の運命を決めた。

マントヒッターの拳が、奴の鳩尾に直撃したんだ。

 

「マントヒッター…………!?」

 

「悪く思うなよ。そっちがサンダースライマーの悪口を言ったからだぞ。言ったよな? 『サンダースライマーのことを悪く言ったら命の保証はしない』ってな」

 

派手に血を吐き、もうろうとした表情になって壁にもたれかかるフレイアを、マントヒッターは怒りに満ちた目で睨んでいる。

マントヒッターには思うところがあったからなのだろうが、俺達には絶好のチャンスだ!

 

「シャーロッテさん、今だ!」

 

「エスコートのご心配は無用ですわよ!」

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

俺とシャーロッテさんが光り輝きだす。

この連携で決める!

 

「あなたへの想いは私自身の罪故に禁じられ、私は裁かれるのでしょう」

 

「その柔肌が包む首目掛けてきらめく断頭の刃で、貴方は散ってしまうかもしれません」

 

「いつかの時に見た夢も、涙と共に零れ落ちるかもしれませんわ」

 

「そうなる前に守ってみせましょう、立ちはだかる影を蹴散らしながら」

 

「「『GO-Round』!!!」」

 

光の楔が集い、俺達の周りを回転しながら散開。

そのすべてがマントヒッターを突き刺した。

 

「え!? ちょっと待ちな! 今こいつが吹っ飛んだらアタシが巻き込まれるじゃないか! ちょっと!」

 

「……フレイアを始末するのは仇討ちを果たしてからにすべきだったな。ごめんなぁ……サンダースライマー。お前の仇討に失敗しちまったよ。今詫びに逝くからな……!!

 

 さらば大恩あるスティグマさん! さらばむかつくお前ら一同! さらば好きか嫌いかよく分からなかったこの世! スパーク・マントヒッターの最期は潔いのだ!!」

 

「待てこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

マントヒッターは不敵な笑顔を浮かべながら爆発。

ほぼ至近距離で真後ろにいたフレイアに爆風の衝撃と、マントヒッターの身体だった破片が襲いかかった……。

 

「マントヒッターの意地を頭に入れていなかったのが、この女の不幸でしたわね」

 

「VAVA以上のVAKAだった、ってことだろうな。この女に限っては」

 

「救えない下衆でしたわね」

 

「救う気はなかったけど」

 

俺達は、顔を中心に見るも無残な状態になっているフレイアの死体を見て、呟きあう。

その酷さは、横山さんが思いっきり顔を背けるほどだ。

……生中継で流せる代物じゃないな。

さて、と……。

俺は、なんとか原型をとどめているマントヒッターの首を抱える。

それを見た横山さんが、血の臭いに辟易しながらも聞いてきた。

 

「……何をする気なんですか?」

 

「せめて、サンダースライマーの側に置いた方がいいかな、って……」

 

悪党ではあったけど、マルスの仇だったマスビュームやエレベスよりはマシな方でもあった。

それに、サンダースライマーのことを本気で愛していたのも確かだったから……。

フレイアの死体? 放置して問題なし。

数十分後、俺達はマントヒッターとサンダースライマーを弔い、おっとり刀でやって来た警察を出迎えた。

元所長たちは、最後までフランス政府の非を訴えながら連れて行かれた。

それから、アレだコレだと俺たちも取調べを受け、パリに戻った時には朝。

……何か口にしないとな。

 

 

 

 

 

パリのラフな感じの飲食店。

俺達はここで朝食にありついていた。

そう言えば俺がかなり食べているけど、代金は大丈夫なのだろうか?

 

「ご心配なく。経費の名目でかなりせしめておきましたから。ユーロ札で」

 

なんだか腹の底を読まれたようでいい気分はしない。

 

「そう言えば、あのフレイアってのは本当にどうするんだ? あのまま発電所に放置し続けるのは……」

 

「問題ありませんわ。マグルゲーテ王国軍が確保することになっていますから、最初から生死問わず」

 

砂山さんがフレイアのことを気にし出した瞬間、何気に凄い言葉がシャーロッテさんの口から飛び出してきた。

シャーロッテさん、最初からいろいろ張り巡らしていたのか……。

 

「後は、シャーロッテさんだね」

 

「まー。お国には帰れないでしょうから、亡命が妥当ですねぇ」

 

「だよなぁ……」

 

俺の言葉に横山さんがもっとな例を出し、出月さんが同意する。

だが、それを他ならぬシャーロッテさんが一蹴した。

 

「あら? 私は大人しく捕まるつもりですわよ? 最初から」

 

「「「………………えー!?」」」

 

俺達は驚いたが、シャーロッテさんはどこ吹く風だ。

まさかとは思うが、最初からどの道自分も捕まる気だったのだろうか?

 

「あの時も言いましたけど、貴方を愛せる女は土壇場で潔くなれる女ですのよ。そ・れ・に・もうお迎えが来てますもの」

 

その言葉にハッとなって店の入口を見ると、そこにはフレイアが着ていた物とよく似た軍服を着ている集団が並んでいた!

 

「マグルゲーテ王国軍! 異世界の人たちがどうやってこっちの世界に大挙して!?」

 

「あの戦いをマグルゲーテ王国にライブ中継する際に協力してくれた方たちに頼みましたの。中継協力と同時に、王国軍の方たちをこちら側に転送してくれるように。そろそろお別れの時ですわね」

 

「待って! 捕まったらどうなるか分からないのに!」

 

自分たちを散々コケにしたシャーロッテさんに何をするか……!

最悪、フレイアに利用されたあの大臣みたいな手段に出る奴もいるかもしれない。

 

「土壇場で潔くなれる女に愛される男は、女程でなくとも潔くあるものですわ。その時はその時、王女をどうこうするなんて命がけですもの。それでは、またお会いしましょう、エックスさん」

 

「……………………うん。またね、シャーロッテさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『エレクトリックスパーク』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

カナダで動物兵器による都市奇襲が相次いだ。

余りの甚大な被害に、カナダ軍は手を焼いているという。

警察も混乱に乗じた火事場の犯罪の対応に追われて身動きが取れない。

事態打開のため、動物兵器の拠点であるウッド・バッファロー国立公園への突入が決定した。

次回! 「カーテンコールの主役たちは砕けて散った」。

信じる心を力にして、反逆の女神は悪を追い詰める!

 




オマケ:ボスキャラファイル


豪速の雷拳男爵『スパーク・マントヒッター』

第11調停部隊に出張していた、元第17精鋭部隊隊員。
マントヒヒをモチーフとした接近戦型レプリロイド。
元から有している高い発電能力を超電導で応用することで電撃による攻撃も可能。
面倒臭がりでグータラなためデスクワークは他人任せだが、前線での戦いとなると一転して勇猛果敢な戦士となる。
義理堅く情に篤い面もあるため、スティグマの海外視察に同伴した際に廃棄されるはずだったサンダースライマーを不憫に思って引き取り保護下に置いた。
性癖自体は至って普通なのだがサンダースライマーをレプリロイドに改造する際、女性型のボディを拒否した彼の意思を尊重して幼い美少年型ボディを用意した上で愛人としても扱っていたため、それを知る一部の仲間からは誤解されることに。
サンダースライマーとの絶対の絆故に、離れ離れにならないように配慮してくれたスティグマへの恩義から第11調停部隊が駐屯しているフランスに出張している間中、水面下でスティグマの反乱のために動き、閉鎖されていたチャット・ブラン発電所を秘密裏に占拠して再稼働させる。
作った電気を電子コロイドに変えてワールドスリーの各拠点に発送する任務に就きつつ、サンダースライマーと一緒に発電所内でだらける日々を過ごしていた。


猛欲の害士官『フレイア』

元マグルゲーテ王国軍大佐であり、異世界の人間。
文武両道で非常に優秀な人物だが正義感や軍人としての矜持が完全に欠如した、「非常に悪い俗物、または相当の悪女」の一言に尽きる性格をしている。
巷を騒がせる義賊・黒猫こと同国の第3王女シャーロッテ・マグルゲーテを罠にはめてここでは書けない手段で辱め、更には結託していた同国の元大臣を利用して漁夫の利を得ようとするも、その手際の良さに対するエックスの疑問に対して馬脚を出してしまう。
エックスの(文字通りの意味の)熱き鉄拳制裁で顔の左半分に大きな火傷を負いつつも逃走し、手段は不明だが作中の舞台となる世界にまで逃亡、手腕と悪知恵を使って裏社会に潜んでいた。
マントヒッターがフランスに出張した前後に、その優秀さとそれを引き延ばす欲の強さを評価したスティグマにスカウトされ彼に従属。
それ以降はスティグマの裏の秘書的な立場に収まっている。
マントヒッターとコンビを組んでいた(マントヒッターがグータラを決め込むことを見越したスティグマが、ボロが出ないようにとデスクワークも優秀な彼女をマントヒッターの相棒に割り当てた)が、義理堅いマントヒッターと自分以外を利用することを最優先に考える彼女の信頼関係は、ふとしたことで崩れる非常に脆弱な代物であった。




ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

マントヒッター
・コンセプトは「綺麗な岩本版マンドリラー」。以上!
・岩本版Xでのマンドリラーの情けなさや見苦しさに対するある種の個人的抵抗感から、愛人(スライマー)が大好きで妙に潔い、どこかユニークなキャラになりました。

フレイア
・この人は二次元ドリームノベルズの1つ『怪盗王女シャーロッテ』本編の悪役。美人なんだけど18禁作品の悪役なので内面は卑怯卑劣下卑で説明がつきます。
・原作では一人勝ちしていたが、本作ではエックスの介入(彼女の台詞や地の文に分かり辛いですが、「マグルゲーテにいた時と作中ではエックスの容姿が微妙に異なっていた」ことを示すヒントがあります)が運の尽きとなり、最終的に命を落としました。世の中、そう上手くは行かないね。
・原作でのキャラクターと比べると本作での死に様は非常に情けないが、これはマントヒッターの死に様との対比のため。

他のキャラクターや設定あれこれ
・砂山昇、出月一史、横山陽菜の名前の由来は、それぞれ「ロックマンエグゼのキャラクター(実は職業もほぼそのまんま)」「出月こーじ先生と有賀ヒトシ先生」「苗字は横山智佐さん、名前は適当な思い付き」。
・日本ローカル放送局ギルドはぶっちゃけ「他のローカル放送局を傘下に収めて強引に全国区になったテレ○東京」。ギルド、という名称は『ガン○ムS○EDシリーズ』の組織「ジャ○ク屋組合(ギルド)」から。
・敵組織の名前「ワールドスリー」はハッキリ言ってはぐらかせない。ロックマンエグゼに出てくる悪の組織の物をそのまま流用。『X2』の時の「ムカデは漢字で『百の足』って書くからムカデ型ボスの名前は『ヒャクレッガー』」だの、エグゼ版ワイリーの率いる組織の名前がワイリー当人の頭文字が三つ並んだ「ワールドスリー」だの、カプコンのネーミングセンスってパネェ。
・サンダースライマーは別の方が執筆された二次創作で微妙ながらも女性型レプリロイド化したような描写があったので、被らないように本作では「男の娘」型レプリロイドに改造された、という設定に。
・今回の舞台となった発電所の名前「チャット・ブラン」はフランス語で「白猫」の意。シャーロッテの怪盗としての別名「黒猫」と対になっています。



普通のあとがき
・気分転換と、ここ以外に投下している別のSSの続きを書くため、次回の投下は早くても来月の初めになるかもしれません。謹んでお詫び申し上げます


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STAGE 3:カーテンコールの主役達は砕けて散った

今回、投稿までに予想以上の時間がかかったことを前もってお詫びします。


カナダ首都、オタワ。

 

「……ここまでやるのか」

 

「今度の敵は形振り構わないタイプみたいね」

 

俺の隣で、来須麻希奈(くるす まきな)が呟く。

それほどまでに、オタワが受けた被害は深刻だ。

壊滅とはいかなくても、かなりの被害を受けている上に火事場の犯罪も多発している。

敵のやり方は非常に悪質だけど、カナダの脆弱過ぎる治安を的確に利用しているな。

何より、都市攻撃に使った兵器が陰湿だ。

 

「洗脳・武装して兵器化した動物を使ってくるなんて……」

 

麻希奈さんに先に言われてしまった

これが爆弾を内蔵していれば、まだ割り切って攻撃できた人も出てくるだろう。

しかし、相手は単純に洗脳・武装しただけに過ぎない。

却ってこちら側の隙も大きくなってしまう。

話は変わるが、カナダは『北米アパルトヘイト』と悪名高い『レプリロイド対策法』があるからレプリロイドである俺は普通なら入国できない。

軍からの非公式なSOSには『何とかする』とあったけど。

周りは俺が視界に入っても何事も無いあたり、その『何とか』が上手くいったと思っていいだろう。

 

「そこのあんた! イレギュラーハンターなんだろ?」

 

「……ああ。どうかしたのか?」

 

「誘拐犯が出たんだよ! 多発し過ぎて俺達警察だけじゃ手におえない! 手伝ってくれ!」

 

「分かった! ところで、レプリロイドの俺のことを誰も気にしていないように見えるんだけど」

 

「知らないのか? 軍の一部の偉い人が騒ぎに乗じてクーデター起こして政権を乗っ取った上で、ウエストミンスター憲章撤回宣言を出したんだ! カナダはもう独立した国じゃない。香港と同じ連合王国の植民地さ!

 

 だから、『レプリロイド対策法』を守る奴なんて警察には誰もいないよ! 国の法律なんてほぼ無意味になってるからな」

 

……ええ!?

 

 

 

 

 

STAGE 3:カーテンコールの主役達は砕けて散った

 

ステージボス:『幽林の妖撃手 スティング・カメリーオ』 『爆音の終焉宣言者 ガンスモークスレイブ』

 

 

 

 

 

「そんな物、俺はいりません!」

 

「そうはいきません! シャーロッテ様をお救いし、更には国賊を討伐した英雄に対して何もしない訳には……」

 

「俺は勲章を受け取るために来たわけではありませんので。自国の王女が罪人になるまで暗部を放置した人たちからの勲章なんかに、何の価値が……!」

 

俺は縋りつきそうになる初老の人を払い除け、シャーロッテさんの自室を目指す。

ここに来るまで、やれ歓迎会だの、やれ勲章授与だのと言われたが全部断った。

一介のイレギュラーハンターにそんなことする暇があるなら、シャーロッテさんの罪を「恩赦」なり「愛国無罪」なりで不問にするべきだと思う。

エーテルランドには次元の境を越える魔法が存在する。

まあ、それが無いとこちら側には来れないよな。

シャーロッテさんはそれを疑似的に再現した装置でこっちに来ていたとか。

それと同じ装置で俺は次元の境を越えて、マグルゲーテ王国に来た。

……一介のイレギュラーハンターである俺がこうも簡単に一国の中枢に簡単に入れるのもどうかと思うが、マグルゲーテにとって2回も英雄的な働きをしたことになる俺は顔パスで入れてしまった。

王城は今、非常に慌ただしい。

怪盗黒猫の正体が他ならぬ、この国の第三王女であるシャーロッテさんであったことだけでも一大事だというのに、更にフレイアによって公衆の面前でひどい辱めを受けたとあって、家臣一同に王族郎党は大騒ぎ。

軍の方も大粛清が始まっているそうな。

そう言えば、最初にここに来た時はどうやって来たのだろうか?

その辺がおぼろげなのだ。

ここに来る前と戻った直後がいつなのかが思い出せない。

シャーロッテさんとは直接関係ないせいか、あの時も思い出せなかった。

思い出した方がいいかもしれないけど……。

 

「今は、必要ないな。シャーロッテさんの無事を確認しないと」

 

少し話をしたらすぐに退散しよう。

俺はそう決めてシャーロッテさんの部屋をノックした。

 

「どちら様でしょうか?」

 

「エックス」

 

使用人さんが中にいるのだろう。

シャーロッテさん以外の人の声が訪ねてきたので名乗り、自分で扉を開けて中に入った。

 

 

 

「まあ! 会いに来てくださったのですか!?」

 

「無事を確認したくて」

 

シャーロッテさんの首には、エレガントなデザインではあるが明らかに『幽閉する人にはめています』と言わんばかりに首輪がはめられていた。

ドレスの方もえらく露出が激しい。

 

「それで、怪盗としての罪は、どうなったの?」

 

「流石に不問とはいきませんでしたわ。現在、王宮では私の罪をどうするか検討中。私はその間この状態ですわ」

 

「自分たちの無為無策を棚に上げて……!」

 

シャーロッテさんは本気で心配だけど、この国からは一刻も早く出たい気分になる。

確かにシャーロッテさんのやったことは完全な犯罪だ。

だけど、シャーロッテさんが犯罪という手段に走ったのは他ならぬ、暗部を放置し続けた国の責任。

それを棚に上げて…………!

 

「エックスさん……。私のためにお怒りになってくださることには感謝いたしますわ。ですが、私のしたことはどこまで行っても犯罪。償わなければなりませんの」

 

「…………また、来るよ」

 

 

 

 

 

 

王城を出て、俺は裏通りにいる。

街に出ても俺を見る視線が鬱陶しくて、一人になりたくなった。

だが、ここでも俺を見る視線が尽きない。

フレイアに騙されていたとはいえ、こいつらはシャーロッテさんに何をしたのか忘れたというのか!

 

「なあ。あんた、エックスだろ?」

 

「……だったらどうした?」

 

俺に話しかけてきた男の言葉は、ここでは言えないほど卑猥で侮辱的なものだった。

そう言えば、フレイアの口車に乗った連中を必死に探していると聞いたことがある。

 

 

 

表通り。

俺は話しかけてきた男を片手で持ち上げて、街を巡回する兵士にそいつを突きだした。

 

「衣食住には困らないよ。良かったね」

 

「ふざけんな! どの道シャバに戻れないじゃねえか!」

 

「死ぬよりいいじゃないか。王族に襲いかかった罪に対する罰がその程度で済んだんだから」

 

恐怖に引きつった顔で喚くその男に笑顔で皮肉を吐き捨て、俺はその場を後にした。

もうこの国にはいたくないな。

 

「あの……是非とも王城へ……」

 

「断る。これ以上この国にいたくない」

 

 

 

 

 

それから、元の世界に戻ってきて……。

何故か笑顔で怒っているやいとに捕まった。

そして現在、俺はやいとの家にある彼女の部屋にいる。

やいとの抱き枕代わりに。

 

「……あれ?」

 

「逃げようとしたら躾が厳しくなるだけよ。それでも浮気のお仕置きとしてはとーっても軽いと思うけど!」

 

「俺、やいとと付き合いっている記憶が無いんだけど」

 

「……」

 

気のせいだろうか、ツッコミを入れた瞬間にやいとが更に怒り出したような気がする。

……ワールドスリーはまだ健在なのに。

不安になった直後、外から部屋が激しくノックされ出した。

 

「グライド? 何かあったのかしら? いい。ジッとしてるのよ!」

 

何事かと思ったやいとが起き上がり、バスローブを羽織ってドアを開ける。

部屋の外にいたのはグライドさんではなかった。

亞里亞さんと……もう一人、彼女のお姉さんである麻希奈さん。

 

「まったく。なーに大人しく監禁されてんのよ!」

 

亞里亞さんは相当お冠だ。

やいとを脇に抱えながら怒っている(やいとの方もかなり吠えているが)。

麻希奈さんの方はひどく心配そうな顔をしている。

 

「恵玖須。私のこと、覚えている?」

 

「来須麻希奈さん、でしょ?」

 

「初めて会った時のことは?」

 

「ミレニアム日本支社のトップ、御堂を倒すために初めて会った」

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

ようやくやいとから解放された俺に、今度は姉さんたちの怒りの視線が降りかかってきた。

まるで針のむしろだ。

 

「シャーロッテに抱きしめられてるシーンをあの時見たから、みんな怒っているのよ」

 

「レイヤーから聞いた」

 

俺には、そう言うしかなかった。

その時からある程度は覚悟しているつもりだったから。

 

「……まあ、だからと言って監禁していい理由にはならないからな。俺が直接殴り込むつもりだったが、当人の希望で麻希奈に救出役を譲った」

 

「それで、どうして亞里亞さんまで一緒に?」

 

「可愛い姉貴をお前と二人きりにはしたくなかったんだとさ。シスターコンプレックスってやつなんだろうが……。俺から言わせればアレは行き過ぎて心の病気になっているようなものだ」

 

麻希奈さんが一瞬、ゼロを睨んだ。

亞里亞さんのことを悪く言われてムッとなったのだろう。

 

「話は変わるが、敵の所在がまた分かった。レイヤー、説明を頼む」

 

ゼロに頼まれたレイヤーは、少し顔を赤くしつつも指示通りにディスプレイを展開。

3組目が表示された。

 

「演習中の事故で多数の重傷・殉職者を出して壊滅状態に陥った第9レンジャー部隊で唯一のMIAだったスティング・カメリーオと、ミレニアムの元最高幹部で一斉掃討作戦時に情報を提供してくださったガンスモークスレイブ。今回のターゲットはこの2名です」

 

カメレオンと狸のコンビか……。

ガンスモークスレイブの顔を見る麻希奈さんの表情が複雑そうに見える。

 

「ガンスモークスレイブは背信の疑いをかけられ粛清されかけたことへの報復から、こちらに多大な情報提供をしてくれました。おかげでミレニアムを殲滅できたのです。それ以降は司法取引で無罪放免になり、Dr.ケイリーに保護されていたのですが……」

 

レイヤーはそのガンスモークスレイブと面識があったのか、若干寂しそうに説明していた。

そして再度ディスプレイを操作して、二人の拠点の位置を地図に表示してくれる。

 

「カナダの東部にある、ウッドバッファロー国立公園。どうやって基地を建設したのかは不明ですが、ターゲットはここを拠点としているようです。今回も少数メンバーで殴り込み、ターゲットを処分するというシンプルな作戦です。

 

 カナダの領内という立地上の大きな問題があります。カナダは『北米アパルトヘイト』なる蔑称がつくほどの悪法『レプリロイド対策法』のせいでレプリロイドは入国できません。カメリーオは密入国でカナダ国内に入り込んだと思われますが……」

 

「その点は大丈夫だ。アラスカで敵を調べていた時に暗号化された非公式な通信だが、都合よくカナダ軍からSOSが届いた。解読したのを再生するぞ」

 

今度はゼロがコンピュータを操作して、『通信』の内容が再生された。

 

『イレギュラーハンター。アラスカにいるのだろ? こちらはカナダ軍だ! 私はオタワにあるカナダ軍本部所属のアーサー・コールドウェル陸軍准将! 貴殿が日本国籍を有していると判断して日本語に堪能な私が、日本語で通信を入れている。頼む!

 

 今から伝える内容をハンター本部に何が何でも届けてくれ! 信じられないかもしれないが、こっちは武装化した野生動物たちの攻撃で各都市が大打撃を受けている! 民間人の救助に追われてこっちはお手上げだ レプリロイド対策法はこっちで何とかする!

 

 だから助けてくれ! 可能ならエックスをこちらに送って欲しい! 御礼も弾むから!!』

 

「俺を指名してくるあたり、かなり切羽詰っているな」

 

「そうでしょうか? どちらかというと、ワールドスリーの最高幹部を4人も葬ったエックスさんの勇名を知ったから、エックスさんに何とかして欲しいんだと思いますよ」

 

パレットの言ったように、そうなのだろうか?

俺1人の力で何とかした訳じゃないのに。

過大評価もいいところだ。

 

「俺は、救世主なんかじゃないのに」

 

「経緯はどうあれ、ワールドスリーの最高幹部を倒したのは事実よ。あなたがワールドスリーにとっては最大最悪にして最強の敵、転じて世界の希望であることはもう誰にも否定できないの。例え、あなた自身であろうと」

 

「エミット。……世の中は俺一人なんかに縋りつかなきゃ持ちこたえられないっていうのか……?」

 

「その点については悩むなー! そんだけワールドスリーがトンデモなく厄介な敵ってことなんだからー!」

 

エミットに怒られてしまった。

そんなエミットを遮るようにして、ゼロが俺の前に出てくる。

 

「今回は俺も同行する。お前と麻希奈、亞里亞のだけじゃロクなことにならないからな。ほぼ亞里亞のせいで」

 

「ちょっと、目の敵にでもしてる訳!?」

 

「癪に障るなら、狂った性癖と病気レベルのシスターコンプレックスを何とかするんだな。……最初に会った時は『日本支部長』みたいな奴に骨抜きにされてた癖に」

 

「あんたの口の悪さ、イレギュラーレベルね。処分してあげるわ!」

 

不味いな。

売り言葉に買い言葉で、ゼロと亞里亞さんは完全に一触即発状態だ。

ゼロってある意味VAVAより怒りの沸点が低いから、この調子じゃ本気の殺し合いになりかねない。

ここは割って入っておこう。

 

「ゼロも亞里亞さんも落ち着いて。内輪の殺し合いなんて笑い話にもならないから」

 

俺が割って入ったせいか、ゼロと亞里亞さんの毒気も多少は抜けたようだ。

 

「やれやれ」

 

「スケコマシのくせに」

 

 

 

 

 

それから時が流れて現在、場所はオタワに戻る。

誘拐犯を縛り上げ、俺は少し溜息を吐いていた。

 

「みんなが大変な時なのに!」

 

「レプリロイド対策法ができる以前からボロボロだったんだよ、カナダは。子供向けのMANGAまでポルノ扱いしやがって……」

 

警察の人が諦め半分な表情で愚痴をこぼした。

確かに、カナダは俺が生まれる前から性犯罪の発生率が呆れるほど高く、創作物規制も悪質だったとは聞いていたけど……。

 

「ただでさえ今まで犯罪って形で少しづつ噴出していたのに、今回の混乱で一度に全部噴き出たんだ。無法地帯にもなるさ」

 

「……」

 

俺は、なんて言えばいいか分からず黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

「来て早々災難だったな」

 

軍本部から戻ってきたゼロと合流した。

ゼロが戻ってくるまで、俺は半ば引っ張りだこ的に警察の手助けをし、麻希奈さんと亞里亞さんも似たような状況になっていたのである。

ちなみに、ゼロに同行する形でコールドウェル准将もいる。

 

「俺はレプリロイドだからカナダのことはよく思っていなかったけど、ここまでひどくなっていたなんて……」

 

「もう過ぎたことです。気にしないで今はワールドスリーの幹部をどうするかを考えましょう」

 

コールドウェル准将は何故か俺に対しては妙に態度が丁寧だ。

何故だろう?

 

「ウッドバッファロー国立公園に基地があるのは確かなんですね?」

 

「ああ。空軍の新入りが訓練飛行中に発見した人工物らしき影を、衛星写真や動物兵器を運搬するステルス輸送機の予測ルートと併せて更に調べ、私自らが編成・参加・前線指揮した偵察部隊がやっとの思いで突き止めたんだ。あの時は死ぬかと思った……」

 

ほら、麻希奈さんたちの場合はこのように偉そうな口調。

露骨に違うでしょ?

 

「今回の作戦は二者択一。1つ、エックスが基地の責任者を倒して早期解決の電撃戦。1つ、国立公園と動物兵器ごと敵を吹っ飛ばすのも辞さない殲滅戦。2つ目はエックスが間違いなく反対するだろうから、ここまで黙っていたがな」

 

「どういうことなんだ!? ゼロ!」

 

ゼロの口から出た信じられない言葉に、俺は驚きのあまりゼロに食って掛かった。

余りにも激しく噛みついたせいか、麻希奈さんに抑えられてしまう。

しかし、麻希奈さんもゼロが言ったことは『寝耳に水』だったらしく、胸を押し付けながら俺を抑える彼女の表情には動揺が目に見えていた。

 

「亜里沙さんの抑え役って名目は、嘘だったのか!?」

 

「……嘘は言っていない。俺は別の役目を黙っていただけだ。シグナスが俺と亞里亞に提案、3人で話し合った結果、シグナスが作戦決行直前まで内密にするようにと決めたんだ。万が一に備えて、俺と亞里亞が殲滅戦に打って出ることはな」

 

「亞里亞まで!?」

 

ゼロの言葉に麻希奈さんも噛みつきそうになる。

それどころか、既に俺を抑えるのも忘れてゼロと亞里亞さんを問い詰めだした。

 

「亞里亞も2つ目に賛成なの!?」

 

「そんなところかな。まあ、お姉ちゃんと恵玖須に言ったら、2人とも怒って2人きりでカナダに行く、って言い出しかねないから言わないことにしたんだ。それに、2つ目はあくまでも保険。お姉ちゃんと恵玖須が1つ目を成功させれば問題ないから」

 

作戦前からギスギスし始めた。

先行きは凄く不安だ。

それから、俺達の移動先をシグナスに教えてもらった横山さんたちが押しかけ、コールドウェル准将と一悶着を起こしたが、俺のとりなしで解決。

みんなでウッドバッファロー国立公園へと飛行艇で向かった。

 

 

 

 

 

ウッドバッファロー国立公園内に違法建設された秘密基地の一室。

手回し式の古いプレイヤーを模した、レーザーニードル式のスカーレス・レコードプレイヤーの上を、古いレコードが廻っている。

流れているのは『G線上のアリア』。

レプリロイドと羽織袴姿の男のコンビが、うっとりした表情でそれを聴いていた。

 

「流石ヨハン・バッハ。いい音だぎゃぁ……」

 

「全くだ。クラシックはバッハこそ頂点だな」

 

その一方、その部屋にいた怪人が呆れた表情で二人を見る。

 

「とりあえず、説明しておくぞ。お前らの手引きでドレイク達が本拠地の方に入り込むことができた。後はスティグマの寝首をかいて、ミレニアムの再興宣言をするだけだ。奴がいない間にアンタが協力を申し出てくれて助かったぜ」

 

「礼には及ばんだぎゃ。俺達は任務を全うしただけに過ぎないだぎゃ。…………ミレニアム復活を夢見るバカども殲滅のな」

 

「なんだと………………!?」

 

直後、レプリロイドの尻尾から発射された光の針が怪人に突き刺さる。

更に羽織袴の男の姿が変貌し、狸の如き姿をしたメカニカルな異形になった。

 

「貴……貴様……!」

 

「裏を書くために化けていたのさ。俺達の任務は動物兵器の運用と、ミレニアム残党の内、『スティグマさんに忠誠を誓った奴以外』を全部始末すること。今頃ドレイク達は返り討ちにあっているだろうさ。スティグマさん自らの手でな」

 

「俺達は信頼を裏切る奴らが大嫌いでな~。スティグマさんにこの任務を命じられた時は二人で大喜びしたんだぎゃ。にににに!」

 

レプリロイドの笑い声に合わせるかのように狸の怪人が右手に内蔵された銃を発砲。

それが怪人へのトドメの一撃となった。

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅ~。心配の種は最早無いも同然! こ・れ・で・動物兵器の運用に集中できるな! ぼんぼこぼーん!」

 

「その通りだぎゃぁ~! にににに! にっにっにっに! にーっにっにっに!」

 

狸の異形はミレニアムの元最高幹部、現在はワールドスリーの最高幹部の1人、『ガンスモークスレイブ』。

レプリロイドは元第9レンジャー部隊副隊長、現在は同じくワールドスリーの最高幹部の1人、『スティング・カメリーオ』

室内では、しばらくの間カメリーオの笑い声がG線上のアリアと共鳴するように響き続けた。

 

 

 

 

 

ウッドバッファロー国立公園。

世界遺産にも指定されているだけあって、一面が豊かな自然に包まれている。

余計に殲滅戦を許すわけにはいかないな……。

 

「我々はカナダ最大の国立公園、ウッドバッファロー国立公園にいます。この国立公園は多種多様な野生動物が生息していますが、その中でも特にシンリンバイソンとアメリカシロヅルが有名です。観光地としても抜群の知名度を誇っていました。

 

 ですが、『レプリロイド対策法』の悪影響による海外からの観光客激減の影響を免れることはできず、閑古鳥が鳴いていたとのことです。ワールドスリーがなぜ、どうやってこの国立公園に秘密基地を建造したのか? 謎は全く尽きません。

 

 また、今回の戦いは世界遺産であるこの国立公園が焼け野原になるか否かが掛かっています。万が一、恵玖須君が作戦に失敗した場合、この国立公園全域ごと敵を吹き飛ばす第2作戦が決行されることになります。

 

 私はエコロジストではありませんが、何が何でも恵玖須君には作戦を成功してほしいと願っています」

 

横山さんもかなり複雑な表情になっている。

今頃、本部には日本中から抗議の電話が来ているかもしれない。

亞里亞さんは既に変身済み、ゼロも戦闘モードに移行していてアーマーを装着している状態だ。

一方、俺と麻希奈さんは普通に制服姿。

この辺りに考え方の違いが見て取れる。

 

「恵玖須君と麻希奈さんはまだ戦闘モードじゃないようですが……。まあ、今回は事情が事情なので突っ込めません」

 

 

 

秘密基地へと続くルート。

コールドウェル准将達が偵察時にそれこそ命がけで切り開いてくれた道だ。

それにしても、今日は自身でも発生しているのか?

わずかだけど人間がハッキリと感じ取れるレベルの揺れが発生している。

だが、この揺れ方は……。

 

「恵玖須。この揺れ、どう思う?」

 

「地震と思いたいけど、それにしては揺れの感覚が開き過ぎている。何か大きくて重たい物が定期的に揺れを起こしているみたいだ」

 

それどころか徐々に揺れが大きくなっている。

こっちは立ち止まっているのにだ。

揺れの感覚もわずかながら短くなっている。

 

「! 『震源地』が来るぞ!」

 

ゼロが叫んだ直後、その『震源地』がジャンプしながらこちらに襲い掛かってきた。

緑色のかなり図体の大きい……レプリロイド、なのだろうか?

 

「ロックマンエックスと来須姉妹! おいらはRT-55J! お前ら3人には戦いの手を止めてもらうダス!」

 

RT-55Jはいきなりそう言ったと思ったら、こっち目掛けて走り出してきた!

あの時のスティグマみたいに俺のことを『ロックマン』と呼んだが……何を知っているのだろうか?

 

「ゼロ! 麻希奈さん! 亞里亞さん! 砂山さんたちを頼む! RT-55J、こっちだ!」

 

「む! 自分を囮にするつもりダスな! 小生意気だから敢えてそれに乗ってやるでダス!」

 

よし、簡単に乗ってくれた!

 

 

 

大分離れたな……。

ここまで誘き寄せれば、問題ないか。

本当はカメリーオたちを倒すことを優先すべきだけど、RT-55Jが名指しで襲い掛かってきた以上迎え撃つしかない。

 

「今のあなたの勇気は無謀と紙一重よ」

 

!? この声は……。

 

「麻希奈さん!?」

 

「砂山さんたちなら、亞里亞と是魯(ゼロ)がいるから大丈夫。あなたには、あなたを守る人が必要よ」

 

装甲している内に、RT-55Jが追いついてしまった。

本来やるべきことがある以上、このまま逃げ続ける訳にはいかない。

戦うしかない!

 

「コンディション・レッドと判断し、完全戦闘モードに移行。システム・オール・メガミックス!」

 

「ディバインアーク! フルドライブ!!」

 

俺が完全戦闘モードに移行した直後、麻希奈さんの『変身』が始まった。

一瞬で裸になった麻希奈さんの身体(下腹部に刻み込まれている文字が、彼女の過去を端的に表している)を、薄い水色をしたほぼ透明な光の膜が覆う。

それが一瞬のうちに黒いインナーへと変化。

ついでに麻希奈さんの胸が揺れる……目の保養だね。

白い装甲が手足と胸に、頭部に左右一対のブローチ上の飾り、背中に翼のような光を放つ飾りが装着される。

そして、麻希奈さんの黒髪がピンク色に発光、その光の色が髪の色へと変化して、麻希奈さんの変身が完了した。

 

「ディバインハート・マキナ!! ドライブモード、フォームアップ!」

 

各部にクリスタルが埋め込まれた装甲。

ピンク色の髪。

光の翼。

かつてミレニアムが自分たちの宝『ディバインアーク』を使ってまで生み出した元・最終兵器。

人体改造で得た力と、決して折れなかった心でミレニアムに最終兵器としての強さを身を以て味あわせ、滅ぼした反逆の女神。

それが麻希奈さんだ。

 

「私はディバインハート……。悪を敢然と討つ光の翼! ディバインハート・マキナ!!」

 

「な、中々セクシーな変身シーンだったダス。特に、プルンプルン揺れるところとかが」

 

男ならそこが気になるよね。

俺はレプリロイドだけど、同時に年相応の男児だからRT-55Jと同じところに視線が行きました。

年頃の男子としては当たり前だろ?

 

「恵玖須以外に言われてもあまり嬉しくないわ」

 

「結構つれないダス……」

 

以外とそっけない返事だ。

さて、そろそろ戦闘開始と行くか!

発射!

 

「? 弾かれた!?」

 

「おいらのこのボディは頑丈ダス! 首から下に攻撃しても無駄ダス!」

 

…………それは、首から上なら攻撃が聞くと解釈していいんだな?

では、試しに頭部目掛けて発射!

 

「ぐはぁ!? な、何故弱点に気づいたダスか!?」

 

「首から下に攻撃しても無駄ってことは、首から上なら攻撃が効くってことでしょ?」

 

「……く、口が滑ってしまったダスー!」

 

意外と間抜けだ。

麻希奈さんも呆れている。

まあ、弱点が分かったことだし、頭部を重点的に攻撃するか。

 

 

 

数分後。

RT-55Jは頭部が木端微塵になって機能停止。

……身を守るためとはいえ、また俺は……。

悲痛な気持ちになりかけた直後、不意に後ろから人の気配がした。

振り向くと、そこにはひげ面で眼鏡をかけた金髪の人がいた。

 

「私の予想通りの結果になったようだな。賭けは私の勝ちのようだぞ!」

 

その人はRT-55Jに対して呼びかけているようだ

死んだはずのRT-55Jがそれに反応し、目に見えて分かるレベルで振動している。

そして、胸部の装甲が弾け飛び、そこから操縦かんを握っている別のロボットが出てきた!

どことなくRT-55Jを髣髴とさせるシルエットをしている。

 

「はぁ……。流石はライトナンバーズ唯一の『生まれつきの戦闘用』と、ミレニアムをぶっ潰したスーパーヒロイン。あっさり負けちゃったでダス。あ、おいらの本当の名前は『ライトット』ダス! 二人のことはライト博士と来須博士から聞いてるから自己紹介は不要ダス」

 

なんだか軽そうな感じがする。

麻希奈さんがまた呆れているのが隣にいるだけで分かってしまう。

でも、悪者には見えないな。

 

「私はミハイル・セルゲイビッチ・コサック。ライトット共々、ライト博士がいた世界から来た者だ」

 

向こう側から来たのか……!

この人も悪人には見えないな。

……麻希奈さんは何を疑っているのか、まだ警戒を解いていない。

 

「おいら、昔はライト博士の助手をしていたダス。長い付き合いになるかもしれないからよろしく頼むダス!」

 

「待って。私のことは、来須博士から聞いた、そう言ったわよね?」

 

「言ったダス。っていうか、おいらは来須博士に、あんさんと亞里亞ちゃんが戦うのを止めて欲しいって頼まれたダス。来須博士、あんさんと亞里亞ちゃんには戦いとは無縁な人生を送ってほしいっていつも言っているダス。酷い時には酒飲んで泣きながら言うダス。

 

 ちなみに、来須博士は実はその頭脳を惜しんだ御堂がこっそり蘇生したんダスが、蘇生が完了する前にミレニアムが潰れたんで会いに行きたくても会えなかったそうダス。 来須博士は今頃、亞里亞ちゃんたちと合流している。早くこっちも合流するダス!」

 

「……そうね。急いだ方がいいわね」

 

麻希奈さんの表情は、嬉しさの余りかなり柔らかくなっている。

そういえば、来須博士は麻希奈さんが改造された際、ミレニアムの走狗になるの防ぐために……。

なんにしても、生きていてくれて良かった。

 

「100年近く前に死に別れてしまったが、私にも娘がいた。離れ離れになった親子が生きている内に再開できることは、いいことだ……」

 

「……100年近く前?」

 

感慨深く呟くコサック博士には失礼だが、思わず『100年近く前』と言う部分に反応してしまった。

いや、人間の寿命って、90年未満が普通じゃないか。

それに、コサック博士はパッと見でも父より10歳ほど年上にしか見えない容姿だ。

 

「言い忘れていたな。私は昔、不治の病を患ってね。娘は『人体改造』と『コールドスリープ』による治療を試みた。治療は成功し、私は人間離れした力と頑丈な肉体を手に入れたのだが……。

 

 目覚めたのはコールドスリープの開始から100年近く経った後。当たり前だが娘は既にこの世を去っていたよ…………」

 

コサック博士の顔は、今にも泣きそうな顔だ。

それだけショックが大きいみたいだ。

そんなコサック博士を他所に、ライトットは何かを思い出したような仕種を見せる。

 

「あ、その前に……。ライト博士、頼むダス」

 

ライトットの言葉に応えるように、あの声が久しぶりに俺の心奈中に聞こえる。

 

(エックス……。元気そうで何よりだ)

 

(ライト博士!)

 

(私は、お前がロボット三原則を不要と判断する可能性を、恐れていた。ロボットは人間よりも力が強く、頑丈だ。ロボット三原則が無ければ大変なことになると、ずっと信じていたが、それは人間としてのエゴに過ぎなかったのかもしれん。

 

 この世界は、人間と同じ権利を有することができるロボットが存在し、それ故彼らにロボット三原則を当て嵌めることを良しとしない世界だ。にも拘らず私は、それを長らく受け入れることができなかった。ロボット三原則の方が間違っていると分かっていたのにだ)

 

博士の声は、酷く悲しげだ。

 

(博士……。ですが、博士はこことは違う世界で、ロボット三原則が当たり前だった世界で育った人です。そう簡単に納得できなくて当然です!)

 

(……今回は、新しい力を送る他に、お前の記憶を司る部分にプログラミングした『セーフティ』を削除しよう。このセーフティは、お前が精神的に大きなダメージを負った際に、その原因となった個所を暗号化して封印するものだ。

 

 Dr.ケイリーはそれのプログラミングを解析・応用することでお前の記憶の一部を封印したのだ。お前が悩み抜いた末に人間を傷つけ、それと引き換えに自分自身の心を傷つけ続ける残酷な未来を防ぐために……。だが、それが却ってお前を苦しめる結果となった)

 

(俺は、たとえどんな残酷な未来が待っていても、自分の記憶を自分の意志で見れる自由を求めます!)

 

(すまない、エックス…………。セーフティを削除するが、Dr.ケイリーによる封印自体は、お前が少しづつ自力で解きなさい。一度に全て解放したら、お前の頭脳に大きな負担がかかる恐れがあるからだ……。その後に、新たな力を送る)

 

(それで、構いません。俺は、時には俺が自由でありたいと思うこともありますから)

 

そうだ。

俺は今、自分の自由を選んだ。

どれだけ残酷な結果が待ち受けていたとしても、俺は自分の記憶を他人の好きなようにはされたくない!

俺は進み続ける。

迷って、躊躇って、悩み続けながら……。

 

 

 

 

 

時は少し経ち、秘密基地の一番広い部屋。

ゼロと亞里亞達は来須博士と合流した後、立ち塞がる敵を全て蹴散らしてこの部屋にたどり着いた。

 

「恵玖須君達と逸れると言う大アクシデントにもめげず、我々は代役二名のおかげで何とかたどり着けました」

 

「癪に障る言い方だな。それにしても、この部屋は随分と散らかってるな」

 

ゼロの言う通り、この部屋はレプリロイドやメカニロイドの残骸が散らばっている。

 

「……この部屋の主たちの趣味かもしれないな」

 

来須博士が何気なしに呟いた直後、暗い室内に明かりが灯る。

同時に、洗脳・武装化によって兵器化した動物たちがその姿を現した!

 

「にににに! ようこそ! パーティ会場へ! おや? 主賓はまだみたいだぎゃ」

 

「そういえば、緑色のデカいメカニロイドに追いかけられていた、って報告を聞いていたな。それで遅れてるのだろうな!」

 

数テンポ遅れて、カメリーオとガンスモークスレイブもその姿を現す。

その姿を確認した瞬間、ゼロと亞里亞は戦闘態勢に入る。

 

「主賓が来る前にお開きにしてやる!」

 

「お姉ちゃんの御情けを仇で返す奴のパーティなんか台無しにしてやるんだから!」

 

ゼロと亞里亞の啖呵を正面から受けてなお、カメリーオとガンスモークスレイブはひるまない。

 

「にににに! まずは動物たちがお相手するだぎゃ。この部屋の散らかり具合を見れば分かると思うが、破壊力は検証済みだぎゃ!」

 

「俺達自慢の破壊集団の接客を楽しでももらおうか! ぼんぼこぼーん!」

 

 

 

「そう上手くいくかしら?」

 

「そこの二人!」

 

俺と麻希奈さんは、コサック博士やライトットと共にこの部屋にたどり着いた。

どうやら、ゼロ達が先にここまでたどり着いていたようだ。

 

「よぉ。ロックマンエックスとディバインハート・マキナ。おめえら主賓の到着を待っていたぎゃ」

 

「主賓がいないと盛り上がらないからな。さあ、歓迎の花火だ!」

 

ガンスモークスレイブの一声に反応するように、動物たちが攻撃してきた!

俺は咄嗟に自分を盾にして麻希奈さんを庇う。

 

「うわぁっ!」

 

激しい爆炎と衝撃が室内を包む。

だが、俺はそれすらものともしない。

 

「「正に計算通り!」」

 

確かに、今は奴らの計算通りだ。

だが、計算通りなのはここまで!

 

「ここまでは……な!」

 

「ぎゃ!?」

 

「なぬ!?」

 

爆炎が晴れ、俺と麻希奈さんの視界に、カメリーオとガンスモークスレイブの姿がようやく映る。

カメリーオとガンスモークスレイブは、怪訝そうな表情だ。

 

「けれど1つ、致命的な計算ミスがあるわ。それは……!」

 

「俺のこの姿を見れば分かる!!」

 

今の俺は、ライト博士からの新たなる力『ボディパーツ』を身に着けている!

それを見たゼロが呟き、横山さんも相槌を打った。

 

「純白の、鎧!?」

 

「視聴者の皆様。ゼロ君の言う通り、恵玖須君が身に着けているのは正に純白の鎧です。なんか眩しいです!」

 

輝く純白が室内の明かりに反射し、カメリーオとガンスモークスレイブだけでなく、ゼロ達も照らす。

カメリーオは固まり、ガンスモークスレイブも驚愕している。

 

「そ、そんなものを一体どうやって……?」

 

ガンスモークスレイブの疑問ももっともだろう。

だから、俺達は手短に、正直に説明した。

 

「『緑色のデカいメカニロイド』を倒した後、奴をけしかけた人に会ったよ……」

 

「そして恵玖須に白い鎧を送ってくれたのよ!」

 

説明を聞き終えた瞬間、カメリーオとガンスモークスレイブは露骨に悔しがる。

カメリーオに至っては悲鳴を上げているほどだ。

 

「ぐぎゃ~! なんてこった!? もう一通りぶちかましてやるぎゃ~!」

 

八つ当たりなのか苦し紛れなのかは分からないが、カメリーオはもう一度動物たちに攻撃させようとする。

そんなこと、させるものか。

 

「もう……もういいんだ。戦わなくて」

 

俺は、動物たちが発射体制に入っている中、彼らへと1歩ずつ近づく。

撃たれると分かっていても、歩みを止める気は無い。

 

「自然の中で一生懸命生きてきたんだもんな……。こんなことで死なせられないよ!」

 

無駄だと分かっていても、俺は彼らを撃つ気は無い。

俺達が今倒すべき敵は、彼等ではなくカメリーオとガンスモークスレイブだからだ。

彼らの弾が尽きるまで、そのすべてを受け止めるつもりだ。

だが、そんな気持ちが通じたかのように、動物たちが一斉に吠え出す。

直後、動物たちの洗脳はあっさりと解け、武装もすべてパージされた!

 

「これが、恵玖須の力。凄く優しくて、暖かい力……。私が恵玖須を好きになるきっかけになった力」

 

麻希奈さんが何か気になることを言ったような気がするが、今はそれに注意を逸らす暇はない。

正気に戻った動物たちは、そのまま出入り口を通って森へと帰っていく。

それでいいんだ……。

 

「視聴者の皆様! 奇跡です! 恵玖須君が戦わずして動物たちの洗脳を解いてしまいました!! これをご都合主義とか言う人がいたら、私はその人を最低だと断言できます! 奇跡に都合の良し悪しなんて関係ないんだー!!」

 

「これが、麻希奈の心を射止めた少年のなせる業か……。これは勝てそうにないなぁ……」

 

横山さんは半ば狂喜乱舞状態、初老の白衣の男性(あの人が来須博士なんだろう)も凄く感慨深げだ。

砂山さんと出月さんも表情から嬉しそうにしているのが分かる

そしてゼロと亞里亞さんもどこか安堵した表情をしていた。

 

「な、何でこうなるだぎゃ~!?」

 

「プロテクターの方に洗脳の効果を維持するための安全装置を付けていたのに!?」

 

あちらさんのショックはかなり大きいようだな。

だが、立ち直り自体は早いようだ。

 

「2対4のままもつれ込む気は無いから、ゼロとデモニックギア・アリアには他のゲストたちと踊ってもらうぎゃ!」

 

「そういう訳で……、基地内の全全力に告ぐ! 総員、大至急司令室前に集結し、敵を撃破せよ! 繰り返す。司令室前に集結し、敵を撃破せよ!」

 

そう来たか!

これに素早く反応したゼロと亞里亞さんは、すぐにこの部屋を出る。

 

「エックス! 麻希奈! 手下どもは俺と亞里亞で何とかする。お前たちはその二人を確実に地獄に落としてくれ!」

 

「お姉ちゃん、安心して戦って大丈夫だから!」

 

来須博士と思しき人は、コサック博士から鉄パイプのようなものを受け取り、ライトットも工具を手に持っている。

コサック博士もどうやらこの部屋の外で戦う気のようだ。

それと、鳥型のメカニロイドみたいな何かがコサック博士の周りを飛び回っているな。

 

「微力にしかならないと思うが、私も亞里亞を手伝う! ……最後にお前が勝つと信じているからな、麻希奈……」

 

「おいらもちょっと手伝うダス」

 

「私も助太刀してくる。なに、レプリロイド並みの腕力に加えて、この『ビート』もいるからな!」

 

あの鳥は『ビート』っていうのか……。

いつの間に出てきたのかが気になるけど、それを気にするのは後だ。

みんなが外に集まった残りの敵を迎え撃つために出た後、俺と麻希奈さんはもう一度カメリーオとガンスモークスレイブの方を睨む。

 

「最後に頼れるのは自分達だけ、ってことか……!」

 

「こればっかりは同意するしかないぎゃ!」

 

やっぱり反省の色は無いな。

俺としても、前回とは違って引っかかるものが無いから却って戦いやすくなる!

 

「当然だよ。カメリーオ! ガンスモークスレイブ!」

 

「貴方たちのやり方で……命は! 縛れはしない!」

 

「B級止まりとビッチ体質が何言うぎゃ~! てめえらのせいで『エコテロリストなりきり動物兵器作戦』はオシャカだぎゃ!」

 

「『ミレニアム残党を選定して陰で笑っちゃおう作戦』が大成功に終わったから幸先がいいと思った矢先に! 許せねえ!」

 

ネーミングはこの際置いておくとして……。

ミレニアム残党を選定? どういうことだ?

 

「ミレニアムの残党を選定するとは、どういうこと?」

 

「言葉の通りさ。ワールドスリーに参加したミレニアム残党の中には、ミレニアム再興を夢見てるやつらが結構いてな。そいつらを焙りだして始末していたのさ」

 

「……あなたは躊躇わなかったの? 裏切られたとはいえ、同じ理想を信じて集まったかつての仲間を罠にはめることに!」

 

「大喜びで罠にはめたぞ。だってそうだろ? 俺のことを信じなかった奴らが易々と引っかかって片っ端から死んでいったんだからな! 最高に楽しい復讐だったぜ!! クソッタレの御堂や恩知らずの首領があんたと妹になす術もなく殺された時と同様にな!

 

 先に裏切ったのは向こうだ! 裏切りの容疑をかけられてもなお信じようとしたヤツを信じなかった連中に何の価値がある!? 悪いのは向こうだ! 俺がそういう手段を使うようなことをした向こうだ!」

 

麻希奈さんの疑問に答えたガンスモークスレイブ今の言葉は本心だろう。

目の色と表情が分かり易過ぎる。

 

「にににに! ガンスモークスレイブはぶれないぎゃ。やっぱりに信頼するのは似た者同士に限るぎゃ」

 

「お前とガンスモークスレイブは、自分とお互いしか信じていないというのか? スティグマも信じてはいないというのか?」

 

「当然だぎゃ。自分とは違うタイプを信じたところでバカを見るのは、第9レンジャー部隊にいた頃に経験済みぎゃ。部隊のためにあらゆる手段を講じ、合理的な意見を言うのがそんなに悪いことだぎゃ?

 

 部隊に尽くした末に得た評価が『卑怯者』『毒舌な野心家』じゃあまりにも報われないぎゃ! だから演習の時に罠を張って第9レンジャー部隊を潰してやったんだぎゃ! ざまーみろ以外の何物でもないだぎゃ!!

 

 俺たち二人、スティグマさんに拾われた一生物の恩があるし、加えてスティグマさん自体が強いから従っているだけぎゃ! スティグマさんからもお墨付きだぎゃ!」

 

何かすごく嫌なことがあったから二人は歪んだのだろう。

だからと言って、そのやり方を許す気にはなれない。

 

「だったら俺たちは、そのやり方ごとお前たちを倒す!」

 

「にににに! 主賓が来たことだからダンスパーティの開催を『幽林の妖撃手 スティング・カメリーオ』と!」

 

「『爆音の終焉宣言者 ガンスモークスレイブ』が主催者権限で開催を宣言するぞ! ぼんぼこぼーん!」

 

天井に張り付いていたカメリーオが、舌でぶら下がる体制になってから振り子の要領で揺れ出す。

瞬間、天井から棘が降ってきた!

麻希奈さんはタイミングよく回避。

俺はボディパーツで敢えて受け止める。

 

「……相当に苛立っているな。……うあっ!?」

 

首に何かが巻き付いたと思ったら、それが凄い力で締まりだす。

 

「そりゃそりゃそりゃ~!」

 

カ、カメリーオの舌が巻き付いたのか……!

 

「すぐには殺さないぎゃ~! 恐怖と言うオーケストラ演奏をBGMにして、死神とダンスを踊ろう極上の演出に酔いしれている内に……体中穴だらけにしてやるぎゃ!! ん? おおっと!」

 

いきなり舌を俺の首から離したと思ったら、何かを避けるように再び天井に張り付く。

それからコンマの差で、俺の背後の辺りが一瞬だけ淡い水色状に明るくなる。

この色は、かすかに覚えている。

麻希奈さんの方を向くと、思った通り、麻希奈さんがレーザーライフルを構えていた

 

「死神の相手は、あなたの方よ!」

 

「そうは言われてもなぁ……。死神はロックマンエックスの方と踊りてぇ~とよ!」

 

麻希奈さんの啖呵に、カメリーオは言葉だけでなく尻尾の先端から出す光線でも返してきた。

それを、俺はまたしても自分を盾にして受け止める。

それでも結構効くな……。

 

「んぅっ!」

 

「おーおー。死神があっちで手ぐすね引いて待っているだぎゃ~!」

 

「恵玖須は私が守る!」

 

麻希奈さんが再びレーザーガンをカメリーオ目掛けて撃とうとする。

だが、それよりも速く麻希奈さん目掛けて銃弾が飛んでくる。

ギリギリで避けたが。

 

「ディバインハート・マキナ! お前のお相手達が行列を作って待っているぞ! ほうら! お前に殺されたすべてのスレイブノイドが! 御堂が! 首領が! 押しのけ合いながら待っているぞ!」

 

今度はガンスモークスレイブが全身に内蔵した銃火器を派手に発射。

凄まじい爆炎と衝撃と轟音が響き渡る。

 

「……流石はミレニアムの元最高幹部ね!」

 

「御堂が霞んで見えるレベルの火力だ!」

 

油断ならない相手だ。

麻希奈さんの言う通り、確かにミレニアムの元最高幹部なだけはある。

 

「さあ、俺達が推奨する名曲の演奏でも始めるだぎゃ~」

 

「「曲名は?」」

 

「「ヨハン・バッハの二大最高傑作が片割れ! 俺達が愛してやまない名曲中の名曲! 『トッカータとフーガ・ニ短調』!!」」

 

刹那、カメリーオの姿が消えた!

どこだ? とにかく、死角を可能な限り消さないと……!

壁に背をつけておこう……。

どこだ……どこにいる! カメリーオ!

 

「! 恵玖須! すぐ上!」

 

「え? うわぁっ!」

 

頭部に衝撃が走る。

まさか壁に張り付いていたとは。

 

「この!」

 

「ひょいひょーい!」

 

避けられてしまった。

しかもまた姿を消したか……。

手強い!

だったら!

 

「動きが取れないようにするだけだ!」

 

床に転がっている、動物たちが装備させられていた武器にチャージショットをブチ当てる!

当然、ガンスモークスレイブの砲撃並みの大爆発が起きる武器が砕け散り、その破片が室内を高速で舞う。

その空気の流れが、カメリーオの位置を割り出した。

 

「ぎゃ!? そう来たかぎゃ! うおーい、ガンスモークスレイブ!」

 

「まかせときー! ぼんぼこぼーん!」

 

ガンスモークスレイブが十字砲火を展開。

俺が起こしたそれより、激しい大爆発を起こした。

爆炎と砂煙が激し過ぎて、却ってカメリーオの姿が隠れてしまう。

 

「対策を全く同じ方法で潰すなんて……! 恵玖須! 避けて!」

 

「効果は抜群だ! そらそら食らえ食らえ吹き飛ばんかー!」

 

「きゃぁっ!」

 

麻希奈さんが悲鳴を上げているが、攻撃の勢いが激し過ぎて今度はこっちの身動きが取れない。

ぐっ! 流れ弾がかなり当たってくるのでダメージも馬鹿にならない!

爆炎と砂煙が収まった後、麻希奈さんの姿がようやく見える。

インナーが所々敗れ、肌が露出しているので扇情的に見えてしまう。

一方、カメリーオもガンスモークスレイブの隣で再び姿を現す。

 

「俺が体色を環境と同調させ、効果的に奇襲を加える!」

 

「俺が十字砲火を繰り出して、対策を潰すのと同時に敵を蹴散らす!」

 

「「俺達二人、お互いの特技を有効活用した合理的戦術よ!」」

 

自信満々に言い切る2人。

俺達は砂埃や煤で汚れながらも、闘志を秘めた目で2人を睨む。

 

「これだけの実力がありながら、どうして動物たちを利用した!」

 

「あんな手を使わずとも、あなたたち2人ならカナダ位は容易かった筈よ!」

 

しかし、カメリーオとガンスモークスレイブは動じない。

 

「カナダって国が気に入らなかっただけぎゃ! レプリロイドなら当たり前の感情だぎゃ! アパルトヘイトみたいな法律でレプリロイドを排除するような国が大事にしている動物を兵器として利用して、国を攻撃する! 最高のエンターテイメントだぎゃ!」

 

「俺もカナダが嫌いだ。下らないイデオロギーを国民に押し付けている下らない政治家共が支配する下らない国だ! そんな下らない国が俺達の手でなすすべなくガッタガになっていく様はスカッとしたぜ!」

 

ガンスモークスレイブの砲撃が再開された。

カメリーオが再び透明化して、なんと麻希奈さんの方に接近して舌で締め付けだした!

 

「うあぁっ!」

 

「にににに! ナイスバディだぎゃ!」

 

「し、視聴者の皆様! 変態です! ゲスなだけじゃなくて変態です! スティング・カメリーオは!」

 

「男ならこんな美人に興奮しない方が異常だぎゃ!」

 

横山さんが悲鳴交じりで怒号を上げる。

助けに行かないと!

しかし、そうしようとした直後に、ヘルメットを掴まれてしまった!

 

「うわっ!」

 

「ぬーん! 一度はやってみたかった、密着砲撃! 食らえ、ロックマンエックス!」

 

くっ!

むざむざ当たるわけにはいかない!

まずはチャージ、その次にヘルメットを脱着!

これが初めてじゃない気もするが、それは置いて相手の懐に入り込む!

 

「はい!?」

 

そして発射!

 

「チャージショットだ!」

 

「うっがぁーっ!?」

 

至近距離での直撃でガンスモークスレイブ自身が派手な爆発に包まれる。

それを目の当たりにして呆気にとられたカメリーオの隙を突いて、麻希奈さんは奴の舌を引き千切った!

 

「な!? お、俺の自慢の舌が!」

 

「カメレオンってどうして、スレイブノイドでもレプリロイドでも……あんな手を使うのよ! だりゃああああああああ!!」

 

「のっぎゃっ!? いでっ! めっちゃいてーぎゃ!」

 

カメリーオの口に手を突っ込み、麻希奈さんは奴を複数回床に叩き付け、〆とばかりに投げ飛ばした。

しかしカメリーオは特A級ハンター。

受け身を取ってすぐに体勢を立て直した。

 

「ディバインアーク・アクセラレーション! ジェネレーション・アークセイバー!」

 

それを見越したかのように、麻希奈さんは光の大剣『アークセイバー』を展開。

カメリーオ目掛けて振りかぶった!

 

「ディメンションスライサー!」

 

「ぬおおおおお!?」

 

カメリーオは麻希奈さんの斬撃を辛うじて回避。

完全に避け切れた訳ではなく、横一文字の大きな傷が腹に出来ていた。

 

「その傷なら、透明化も意味は無いわ!」

 

「にににに! なら見せなければいいだけの話ぎゃ!」

 

「それに、俺の砲撃はまだまだ終わる気は無いぞ! そうら、死神や首領、御堂達が正装をしてお前たちをお出迎えしているぞ!」

 

激しい砲撃と奇襲のコンビネーションはなおも続く。

だが、爆発の影響で武器の何割かが機能不全を起こしているらしく、さっきほどの勢いはなかった。

 

「もう少し大人しくなれ!」

 

「ぬおっ!? さっきの奇策といい、今の横槍といい!」

 

もう一度チャージショットを当てて、強引に砲撃の勢いを殺ぐ。

だが、それでもガンスモークスレイブの勢いはそこまで衰えない。

 

「流石にミレニアムの元最高幹部だけあって、御堂とは違ってそこまで同様はしていないようだな! ヘルメットを咄嗟に外して不意を打つ方法は、御堂と戦った時に使った手口だ!」

 

「……なん、だと!? お、俺があの御堂如きに通用するような手段に引っ掛かったというのかぁっ!?」

 

「それが致命傷にならなかった分、お前の実力が凄いことは確かだ!」

 

ガンスモークスレイブが目に見えて激しく動揺する。

そうだ、思い出した。

麻希奈さんと出会った時のことを、ミレニアム日本支社に突入した時のことを!

 

「あれ!? 視聴者の皆様! 怪現象の発生です! 当たり障りの無い茶髪だった恵玖須君の髪の毛が、鮮やかな赤紫に変色しました!! なんなのこの超展開!!」

 

え!? 髪の毛の色がいきなり変わった!? どういうことなんだ!?

横山さんたちや麻希奈さんだけでなく、カメリーオとガンスモークスレイブまで固まっている。

その隙を突くように、真っ先に元に戻った麻希奈さんの身体が光り輝く。

 

「そう簡単に無効化できないというのなら、もっと激しい手段を使うまでよ!」

 

光は範囲を急激に増し、やがて部屋全体を純白に塗りつぶす。

眩しいな……。

 

「ま、眩しくて何となく目が痛いです! 視聴者の皆様はテレビ越しだから問題ありませんが、こっちは目が痛いです! あ! 出月さん何片目閉じてるんですか! プロデューサーに至っては両目を! 私と恵玖須君と麻希奈さんを見習ってくださいよ!」

 

何かケンカしている声が聞こえるけど、それを気にする暇はない。

カメリーオは……いた!

壁の天井近くか!

 

「見つけたぞ!」

 

「ぎゃっ!? い、いきなり明るくなったせいで変色機能が追いつかなかったぎゃ!!」

 

「撃たせてなるものか!」

 

そうだ、カメリーオの変色機能は封じたけど、まだ状況は進んでいない。

オマケに麻希奈さんの発光も終わってしまった。

しかし、それを物ともせずに麻希奈さんの声が室内に響く。

 

「恵玖須! 認証コードを!」

 

「了解!」

 

「恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

麻希奈さんの頭の飾りと光の翼が一旦分離。

すぐに追加装甲とバイザーが装着され、その上に頭の飾りと光の翼が再度装着された。

 

「今の光景もすっかり恒例行事になった感があります。そろそろ戦いの幕が下りる合図として」

 

横山さんが達観したように解説している。

確かに、お馴染みになった感が凄い。

そう思った矢先、麻希奈さんが凄いボディブローをガンスモークスレイブにお見舞いした。

 

「がふっ!? な!? そのパワーは……!」

 

「ディバインアークと、恵玖須から届いた愛。この2つの力があるから負けない!」

 

……これも何となくおなじみになった気がする。

またやいとがうるさくなりそうだ。

 

「おのれぇ! こうなったらもう1度変色機能で……」

 

「残念だけど、ダンスパーティは既にお開きの時間よ、カメリーオ!!」

 

「な、何故ぎゃ!? 変色機能が停止しているだと!?」

 

「麻希奈さんが発した光は、ディバインアークの力で発した特殊な奴だ! お前の姿をいぶりだすのと同時に変色機能をマヒさせたんだ!!」

 

「あ、ありえねえだぎゃ!?」

 

「そ、そんなことでカメリーオの変色機能を封じたというのか!?」

 

カメリーオとガンスモークスレイブの2人が派手に驚愕する。

その隙を突くように、俺達はトドメの準備に入った!

 

「カーテンコールの主役は!」

 

「お前たち2人だ!」

 

2人の趣向に合わせた言葉を贈った上で、俺達はダブルアタックを開始する!

死神や御堂、ミレニアム首領共々向こう側に吹きとべ!

 

「「ダブルアタック、スタート!!」」

 

俺と麻希奈さんが光り輝く。

さあ、宴もたけなわだ!

 

「手を取り合い、この星と一緒に踊りましょう」

 

「手を取り合い、この空を一緒に照らそう」

 

「あなたの魂は燃える希望色!」

 

「あなたの心は熱い太陽色!」

 

「「『Alive A life』!!!」」

 

俺のバスターと、麻希奈さんのレーザーガンが水色に淡く輝くトンデモなく巨大な破壊光線を撃ちだす。

オレのバスターから放たれた分がカメリーオを、麻希奈さんのレーザーガンから発射された分がガンスモークスレイブを、それぞれ撃ち抜いた。

 

「「バ……カ……なーーーーーーーーーっ!!」」

 

カメリーオとガンスモークスレイブは、共学の表情のまま粉々に砕け散って爆発。

破壊光線は部屋の壁を貫通して、太陽の輝きをこの部屋にもたらし、それに合わせるようにカメリーオの武器チップが降ってきた。

 

「力と自分、お互いだけしか信じられなかったお前達だ。自分たちを一撃で殺すほどの強大な力に負けたのなら、本望だろ? この武器チップのデータ、使わせてもらう!」

 

「ほんの少しでもスティグマを信じる気持ちがあれば、あなた達は力に溺れることも無く更に強くなっていたはずよ。あの時の、私の光の眩しさに負けないぐらいに……!」

 

俺達は、日光を浴びながらしんみりとなった。

麻希奈さんの言う通り、信じる気持ちがマヒしなければ、あの2人は更に手強くなっていたのだから……。

そうしている内に、ゼロ達も手下たちの片付けが済んだらしく、戻って来た。

俺の髪を見た、ゼロ達の反応は見事に分かれた。

 

「……エックス!? その髪は……懐かしいな」

 

ゼロはどこか嬉しそうな表情をしている。

ライトットとコサック博士、ビートはあらかじめ知ってはいたが実際に目にしたのは初めて、といった感じ。

来須博士と亞里亞さんの方は横山さんたちと全く同じ反応だった。

だが、来須博士の方は麻希奈さんの方が気がかりだったらしく、彼女の方へと駆け寄っていく。

 

「…………この日を、お前にもう一度会える日をどれだけ待ったか」

 

「…………父さん、生きて帰って来てくれて、ありがとう」

 

そんな二人と一緒に喜ぶように、そこに亞里亞さんが駆け付ける。

来須博士は穏やかな笑顔で麻希奈さんと亞里亞さんを抱きしめた。

こういうのって、いいな……。

ヘルメットを回収しようとしたら、先にゼロに回収されてしまった。

 

「久しぶりにその色の髪を見たからな。もう少しだけ、見せてくれ」

 

「……うん」

 

男がピンクに近い色の髪をしているのもどうかと思うけど、ゼロが嬉しそうだからいいか。

? 何かかすかに揺れたような?

それに、何かが崩れ出すような音も……

 

「うわ!?」

 

瞬間、天井から大きな破片が落ちてくる。

しかも、壁にも無数の亀裂が!

この部屋が崩れ出しているんだ!

 

「うわー! うわー! うわー!」

 

「出月ちゃん! 逃げるぞ! ほら! 横っちも!」

 

「視聴者の皆様! 大事です! 勝利の余韻に浸っていたら大変なことが起きました! 戦闘の余波で部屋が崩壊し出しましたー! という訳でこの部屋から撤退します!」

 

「コサック博士! ビート! 急くダス!」

 

「安普請なのも影響しているかも!」

 

床にまで亀裂が!

急いでこの部屋から出ないと!

 

「…………あれ?」

 

俺のいた辺りが一気に崩れて、気が付いたら俺は壁に開いた大穴の内、麻希奈さんが開けた方から外へと宙を舞うように飛び出していた。

直後、麻希奈さんが駆け付けて、俺を抱きしめる。

 

「麻希奈!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

来須博士と亞里亞さんが、麻希奈さんを呼ぶ悲鳴が聞こえる。

 

「エックスーーーーーー!!」

 

ゼロの悲鳴を聞きながら俺は麻希奈さんに抱きしめられたまま、木々が生い茂る山肌へと落ちていく。

カメリーオとガンスモークスレイブの死に場所となった、あの部屋が崩れていく様を見つつも……。

 

 

 

 

 

飛行艇の着陸地点。

ゼロ達は夕闇が出始める中、待っていた。

エックスと麻希奈を。

ゼロはエックスのヘルメットを手に持っている。

 

「視聴者の皆様、どうすればいいのでしょうか? 恵玖須君が敵基地の崩落に巻き込まれてしまいました。安否が気になります」

 

「生きているさ。絶対に戻ってくる。アイツは、死なない」

 

「後、お姉ちゃんのことを忘れるな!」

 

「視聴者の皆様……。私も信じます。どうか、皆様も信じてください。2人が、ロックマンエックスとディバイン・ハート・マキナは必ず帰って来てくれると!」

 

「『ロックマン』? あんさん、その名前をどこで知ったダスか!?」

 

横山の言った単語に、ライトットが反応する。

コサック博士とビートも驚愕の表情をしている。

 

「えっと、スティング・カメリーオとガンスモークスレイブが恵玖須君のことをそう呼んだことがあるんです。知っているんですか?」

 

「……おいらはエックスを造った人を知っているダス。ロックマンはその人が2番目に造った『心を持つロボット』ダス。そしてエックスは、ロックマンの新型として造られたダス。詳しいことは、日本に戻った後、オフレコで説明するダス」

 

「あれ? 放送はNGですか!?」

 

呆気にとられる横山を尻目に、コサック博士が補足に入る。

 

「彼の出生に関わる問題なんだ。だから今はまだ全てを明かす訳には……」

 

「もしオープンしていい日が来たら、その時は日本ローカル放送局ギルドの独占取材、ということでお願いしますね。こっちは報道を商売にしてますんで……」

 

しかし、砂山は抜け目なく釘を刺す。

そんなやり取りを亞里亞は冷ややかな目で見つつ、2人が戻ってくるのを待っていた。

来須博士と一緒に。

 

「戻って、来てくれるよな?」

 

「パパの長女で、私のお姉ちゃんだもん。きっと戻って来てくれるって!」

 

それから更に数分後。

より夕闇が色濃くなっていく中、ゼロ達の目の前に、エックスに助けられた動物たちが大挙してやって来た。

そして、彼らの中央に陣取るかのように歩くシンリンバッファローには、肩にアメリカシロヅルを乗せているエックスを、お姫様抱っこしている麻希奈が乗っていた。

 

 

 

「エックス!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

「麻希奈!!」

 

みんなが、俺と麻希奈さんに駆け寄ってくる。

麻希奈さんは俺を抱き上げたまま、シンリンバイソンから器用に降りる。

俺の方に乗っていたアメリカシロヅルも、器用に羽ばたき、シンリンバイソンの背に乗りかかった。

直後、動物たちは名残惜しそうに、バラバラに散開していく。

あっという間に、みんな森へと帰って行った。

 

「弱肉強食。自然のごく当たり前の決まり事だ。だが、動物たちは君たちを私たちの元に届けるため、その垣根を越えた。明日になれば、また狩る者と逃げる者に分かれる。そんな動物たちなりの、自分たちを救ってくれたエックスへのせめてもの恩返しだったのかもな」

 

「コサック博士……?」

 

「そう難しく考えない方がいい。さ、一度オタワに戻ろう。お前と麻希奈が無事だったことに喜んでいるのは、俺達だけじゃないからな」

 

 

 

 

 

時間が経ち、場所はオタワ。

コールドウェル准将が大喜びで準備させたらしく、軍本部の結構広い部屋で宴会が始まった。

特にコールドウェル准将は子供みたいにはしゃいでいる。

 

「ワールドスリーの作戦がまた一つ、粉砕された。エックス君には旧カナダ軍を代表してもっと盛大にお礼をしたいほどだ」

 

はしゃぎつつも、しっかりとインタビューには答えている。

みんなも、楽しそうだ。

けど、俺は少し気がかりなことがあった。

オタワに戻る途中で、ライトットから教えてもらった『ロックマン』という名前の意味。

カメリーオとガンスモークスレイブは俺のことを『ロックマン』と呼んでいた。

そして、『ロックマン』とはライト博士が2番目に造ったロボットで、俺はその『ロックマン』の新型ということを。

そういえば、スティグマもあの時俺のことを1度だけ『ロックマン』と呼んだ。

だとすると、ワールドスリーはライト博士のことを知っているのだろうか?

 

「どうした?」

 

「浮かない顔をしているけど、大丈夫?」

 

「ゼロ……。麻希奈さん……。敵が俺のことを、『ロックマン』って呼んだことが少し引っかかって」

 

「今は忘れて、この宴会を楽しめ。悩むのも大いに結構だが、時には悩みを忘れることも重要だぞ」

 

ゼロが、俺の赤紫の髪を触りながら呟く。

それに対抗するかのように、麻希奈さんも俺の髪に触れた。

 

「世間じゃ、私は『スーパーヒロイン』って言われているわ。そして、ヒロインとしては『ディバインハート・マキナ』って名前がある。あなたもいつか『ロックマン』の名を受け入れられる日が来るわ。あなたは、私から見ればスーパーヒーローだから」

 

麻希奈さん……。

俺が不思議な気持ちになっていると、飲み物が注がれたグラスを両手に持ったゼロが、その内の片方を差し出してくれた。

 

「カナダドライ・ジンジャーエールをメープルシロップで更に甘くしたハイスイートバージョンだ。これならお前でも飲めるだろ?」

 

「ありがとう」

 

俺はそれを受け取る。

よく見ると、麻希奈さんも同じ色をした飲み物が注がれたグラスを持っている。

 

「俺達3人、揃って未成年だからな。ソフトドリンクで乾杯と行こう」

 

「私達3人の色鮮やかな髪に」

 

「世界の明日とライト博士、そして『ロックマン』という名前にも」

 

乾杯。

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『カメレオンスティング』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

中華統合共和国江西(じゃんしー)九江(じゅーじゃん)市南部にあるは世界遺産・廬山。

この山々は、古来より数え切れぬ文人を魅了し続けている。

ある日、ワールドスリーの最高幹部の一人がこの地にある極秘鉱山基地での決闘を俺たちの申し出た。

彼にただならぬ覚悟を感じ取った俺は、一人の巫女と共にその決闘に挑むこととなる。

次回! 「武士道と云ふは死ぬことと見付けたが故に死狂ひ也!」。

中華屈指の名山を舞台に、鬼巫女の破邪の刀が悪を斬る!

 




オマケ:ボスキャラファイル


幽林の妖撃手 スティング・カメリーオ

カメレオン型のレプリロイド。
森林・山岳戦のエキスパートである第9レンジャー部隊で元副隊長にまで上り詰めた、隊随一の実力者。
その合理的な思考と隊のためならどんな手段も使える冷徹さ、己の意見を正確に伝える正直さで隊を支えてきた。
しかし、あまりにも効率を優先した思考と行動、思ったことを全部ぶちまけえる口の悪さから体内の評判は芳しくなく、それが人望に響いて隊長への昇格は叶わなかった。
それでもいつかは自分のやり方を分かってもらえると信じ続けていたものの、結局部下たちはおろか隊長にすら分かってもらえなかった。
結果、失望が隊その物への憎悪へと変わり、同時期に実力を私兵集めに暗躍していたスティグマに買われたのが縁で、彼に従属。
従属の意志を証明するのも兼ねて、復讐のために演習中の部隊を原因不明の事故に見せかけて壊滅に追い込み、自身はMIAに見せかけて潜伏。
動物兵器の試験的運用のための任務に就き、気長にガンスモークスレイブと2人で気長に念入りな準備を進めていた。
クラシック音楽に傾倒し、戦いをダンスパーティに見立てるなど変わった嗜好の持ち主であり、同じ嗜好を持っているガンスモークスレイブとの相性は良好である。
スティグマに従属したのは実力を評価してくれたことへの礼と、自分を従わせられる力がスティグマにあると判断したからであり、ハンター時代の経験もあってスティグマの人となりは全く信用していない。


爆音の終焉宣言者 ガンスモークスレイブ

元ミレニアムの幹部で、狸のスレイブノイド。
スレイブノイドの共通欠点であった凶暴性と性欲の異常増加を肉体の各所の機械化という力業で解決し、戦闘力増大にも成功した『進歩したスレイブノイド』。
組織と首領への厚い忠誠心を評価されて首領直属の最高幹部に登用されたため、そのことを誇りにしていた。
が、その戦闘力と立場、何よりも忠義の厚さを疎んだ格下である日本支社の最高責任者・御堂の罠で、裏切者として追われる身となる。
誰よりも信じていた首領に信じてもらえなかったショックから、「裏切り者扱いされたから、本当に裏切ってやる」ためスティグマと接触。
彼から得た多数の情報によりマキナとアリア、スティグマはミレニアムに壊滅的大打撃を与えた。
結局、これが原因で御堂は組織への背信行為が明るみとなり、制裁として時間稼ぎのため、マキナ・アリア姉妹への捨て駒にされた末に敗死、ミレニアム自体も首領が葬られたのがトドメとなって壊滅している。
その後はスティグマの保護下にいたが、元々有していた世間への嫌悪感と彼への恩義から、蜂起に参加。
カメリーオとコンビを組んで、ミレニアム残党の内、スティグマの思想に賛同してくれた者たちだけを集め、残りを始末する選定任務に就いていた。
裏切られた経験から忠義という概念には否定的であり、スティグマには『一宿一飯の恩義とスティグマ個人の強さに価値を見出しているから』事務的に従っているに過ぎない。




ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

カメリーオ
・やっと出せた「X側の原作に出てきた」ボス。流石に全部を全部オリキャラにするのも無理があるので……
・キャラクター設定は、オリジナル、岩本版、イレハン版をごっちゃにした感じ。合理的思考と「にににに!」はイレハンから、クラシック音楽好きと「~ぎゃ」は岩本版が由来だぎゃ! にににに!

ガンスモークスレイブ
・狸の怪人になったのは何となく。その結果、「ぼんぼこぼーん!」という口癖が生まれたわけだけど。
・PCゲーム版『ディバインハート・マキナ』での大ボスに当たる日本支社責任者・御堂(原作版では鳴海)が性格上どう考えても大人しくスティグマの下につくわけないだろ、と考えて素直に従い、それでいて御堂よりずっと格上なキャラとして作りました。
・性欲と凶暴性を機械化で抑えた『進歩したスレイブノイド』という設定は、PCゲーム版の続編『ディバインハート・カレン』でのスレイブノイドの設定(凶暴性と性欲をより増大化して強くする)へのオマージュ。
・当初の名前は「ファイヤパワースレイブ」になる予定でしたが、なんか脳内で構築したイメージに合わなかったので「ガンスモーク」に変更。

他のキャラクターや設定あれこれ
・カナダ軍の偉い人のフルネームはカナダ人映画監督『アーサー・ヒラー』と、その人が監督したアメリカ映画『大陸横断超特急』の主人公『ジョージ・コールドウェル』から。それっぽい名前にするのは大変だった。
・RT-55Jの中身がライトットだったのは、公式設定で『ロボット相撲の横綱』とされていたにもかかわらず、デザインと配色からライトットとの関連を疑うファンが以前からいたため。それにヒントを得てまんまライトットにしました。
・コサック博士の登場はちょっとしたサプライズ。Xシリーズでの消息が未だに不明だからできた荒業です。ビートまで出てきたのは、コサック博士が開発したから。
・実は原作の方でも来須博士は…………。なので本作ではオリジナル設定を盛り込んでご登場願いました。
・どこかおかしいワールドスリーの作戦名。これはセガサターン用RPG『マ○カ~真○の世界~』の敵組織、『Fa○tion of T○ue』 (通称は『フ○クト』『F資○』)の首領・真○の人(○ゥルーマン)の立案した作戦の中に、何個か笑いを誘う名前がついていた物が散見されたことへのオマージュ。
・義姉と御揃いの茶髪が、いきなり赤紫(マゼンタ)に変色したエックスの髪。今回は本文中では説明しきれなかったが、ライト博士はセーフティ(記憶の部分的封印システム)が機能していることを視覚的に第三者に伝えるため、機能している間は意図的に髪が変色するようにプログラミングしていた。なので実際はセーフティのせいで茶髪に変色した髪が、セーフティが削除された&エックスの記憶にかけられた封印の一部が解除された影響で元の色に戻っただけ。



普通のあとがき
・今回はいつもより分量が多少増えたかも。メモ帳の容量を調べたら50kbオーバー……。
・次話の投稿は今回よりは早めにしたいところ。しかし、遅筆なので望み薄かも。


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STAGE 4:武士道と云ふは死ぬことと見付けたが故に死狂ひ也!

中華統合共和国江西(じゃんしー)九江(じゅーじゃん)市南部、廬山(ろざん)に位置する市街地、牛古嶺(くーりん)街(※「くー」に該当する漢字が環境依存文字のため、当該箇所は「牛古」と表記させていただきます)。

中合国屈指の名山の山上に位置する市街地であり、国内の上流階級御用達の別荘地でもある。

そこにいるのは、俺と退魔師兼巫女である山守(やまがみ)桜樺(おうか)

俺たち以外にも、いつも通り横山さんたち、ビート、中合国が雇った賞金稼ぎが二人(俺は既に戦闘モードに移行している)。

 

「視聴者の皆様。中合国の伝統長き別荘地の街並みに桜樺さんの巫女服が最高にマッチしていません」

 

「うるさい」

 

桜樺はどこか不機嫌そうだ。

それはそうと今回は中合国政府の要望で、政府が超常現象対策に雇った賞金稼ぎ集団『レッドアラート』のメンバーが助っ人として参加している。

リーダーであるレッドと、最年少メンバーのアクセルだ。

 

「俺達としては御宅らの取り分を盗る気は無かったんだが、何せ超常現象が相手だとな」

 

「そういう契約だからね」

 

「中合国にはその道のプロはいないの?」

 

わざわざレプリロイドだけの集団に頼んでいるあたり、切羽詰っているのは分かるけど……。

中合国ってその道のプロがたくさんいるイメージがあるからちょっと混乱してしまう。

 

「その道のプロの大部分は、(まお)沢東(あるしぇん)が大陸の天下を獲った時に香港や澳門にシンガポール、日本に渡ったぞ」

 

共産主義(コミュニズム)は宗教を否定しているんだよ? 宗教と密接に繋がっている人たちが協力する訳ないじゃん。黒帝(ツァーリ・チョールヌイ)が文化大革命を潰したおかげある程度残ってくれたようなもんだし」

 

そういう事情か……。

ロシア第二帝国の共産主義嫌いは俺も知っているけど……。

今回、廬山に秘密裏に存在し、長らく忘れ去られていた匡廬甲天下(くぁんるーちゃーてんしゃー)絶秘鉱山を占拠している敵を統べる者の一人との果たし合いに赴く。

それが、俺達が集まった理由だ。

 

 

 

 

STAGE 4:武士道と云ふは死ぬことと見付けたが故に死狂ひ也!

 

ステージボス:『鋼鉄の甲弾闘士 アーマー・アルマージ』 『新月の暴虐将 銀鬼』

 

 

 

 

 

遡ること昨日。

イレギュラーハンター本部。

メンテナスルームで俺は来須博士と話し合っていた。

 

「アップグレード? 麻希奈さんと亞里亞さんが?」

 

「……私としても、というよりは私個人が一番使いたくない表現だが、そう言うしかないのだ」

 

来須博士はかなり苦い表情で呟く。

 

「麻希奈は感覚過敏化の抑制、亞里亞は変身後の姿の健全化。それを終えないことには、二人の戦いを素直に応援できない。察してくれ! 父親である以上、娘たちにこれ以上はしたない真似をさせたくないんだ!」

 

麻希奈さんの感覚過敏化はアッチの感覚にも該当するし、亞里亞さんの変身後の姿は言わずもがな。

アップグレードでどうにかしたくもなるか。

来須博士の表情は物凄く心配そうだ。

俺が戦っている間、父さんと母さんもこんな表情で心配してくれているのかもしれない。

 

「恵玖須!?」

 

「……麻希奈さん」

 

私服姿の麻希奈さんがいつの間にか立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「来須博士から、麻希奈さんと亞里亞さんのアップグレードをするってさっき聞かされたんだ」

 

「そうなの……。本当ならワールドスリーを何とかしてからでもよかったんだけど、父さんが譲らなくて」

 

まあ、それは仕方ないと思う。

ちゃんとした理由を来須博士本人から聞いた以上は、ね。

 

「それより、今日は学校でしょ?」

 

「ああ。麻希奈さんのことが少し気になって、少し寄り道したんだ」

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、遅刻したら元も子もないでしょ? 私と亞里亞なら、大丈夫よ。父さんだけじゃない。コサック博士やライトット、ケイリー博士もいるんだから」

 

「……うん」

 

麻希奈さんの言うとおりだな。

遅刻したら格好が付かない。

駆け足で急ごう。

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

「南極じゃ魔法少女、フランスに行ったときは怪盗、そしてカナダの場合は改造人間! どういうことなの!?」

 

「綾小路さんから聞いたけど、他にも4人いるそうじゃない! それも殆ど年上!」

 

「七股かけるなんていったい何考えてるのよ! あたし達のことは散々あしらったくせに!」

 

あれから数時間経過し、昼食(この学校は初等部から学食方式なのだ)を食べ終えてさあ図書室に行こうと思った矢先、クラスの女子達に捕まってしまった。

それはもう、轟々たる非難。

席に座っている俺を取り囲むように女子達が集まっている。

ここまで言われる覚えはないはずなんだけど。

逃げようにもやいとに頭を掴まれ、他の女子たちに囲まれてしまったので逃げられない。

 

「で? 申し開きはあるの?」

 

「七股どころか、俺、あの人たちの内の誰とも付き合った覚えはないよ……」

 

やいとの質問に正直に答える。

それなのに、やいとは思いっきり爪を立てた。

 

「ふざけてないでちゃんと答えなさい!」

 

「ふざけてないよ!」

 

「ああ、もう! 埒が明かないわね! このまま茶道室に連れて行きましょう! 真面目に答えたくなるようにするわよ!」

 

やいとの怒号に、女子達が呼応して吼える。

それって、セクハラするって言ってるのと同じじゃないか!

嫌だよ、そんなの!

困り果てていたら、何故かその場に巫女さんが現れた。

 

「やれやれ……」

 

後ろ髪を緑色のリボンで束ねていた巫女さんはため息をついて少し間を空けた後、やいとの腕を掴む。

物凄い力で掴んでいるらしく、俺の髪を鷲掴みにしているやいとの手の握力が一気に弱くなった。

これに乗じて俺はやいとの手を振り解いて席を立つ。

 

「恵玖須。私か誰か、分かるな?」

 

「山守桜樺だろ?」

 

そう、彼女の名は『山守桜樺』。

名前は思い出せないけど、大きな退魔組織にいたことのある人だ。

妖怪と人間の混血児で、その出生のせいかどこか一線を引いた態度でいることが多い。

相当の実力者で、今はフリーの退魔師として政府と直接契約している傍ら、都内の大きな神社に勤務している。

俺が封印された箇所から辛うじて引きずり出した記憶は、今のところこれで全部だ。

 

「思い出せてはいるようだな」

 

「ありがとう。でも、どうしてここに?」

 

「……ワールドスリーの最高幹部の一人・元第8機甲部隊隊長が直接こっちに連絡を入れてきた。お前に物申すためにこの学校に参上する、と」

 

そうなのか……。

しかし、俺に何かを言うためにわざわざこっちにまで来るというのは不自然だ。

余程の物好きなのだろうか?

第一、どうやってこっちにまで来る気なのか。

そう思って窓の方を見た瞬間、俺は妙に納得できていた。

第7空挺部隊の旗艦、デスログマーが低空飛行でこっちに接近していたからだ。

 

「アレをハイヤー代わりにしたようだな」

 

「間違いなく世界一目立つハイヤーだけどね」

 

桜樺の言葉に、俺は妙に冷静な状態で答えた。

 

 

 

校庭。

デスログマーから大勢のレプリロイドやメカニロイド達が降りてくる。

装備からして、第8機甲部隊であることが分かる。

最後に降り立った、日本刀を持っているアルマジロ型のレプリロイドが俺と桜樺の目の前に姿を現す。

 

「ロックマンエックスと鬼巫女桜樺の御両名とお見受けする。某(それがし)は元・第8機甲部隊隊長、現・ワールドスリー『8対の最高幹部』が一人、アーマー・アルマージ。本日は人質の解放も兼ねて、ロックマンエックスに果し合いを申しに来た!」

 

「!? 果し合い?」

 

そのためにわざわざ来たと言うのか!?

しかし、人質とは何のことだろうか?

桜樺も気になるらしく、問い質した。

 

「人質? まだデスログマーから降りていないと思われるが」

 

「……笑止。某以外の第8機甲部隊隊員一同の事よ」

 

……え?

 

「ええ!?」

 

「ロックマンエックスよ、貴殿が驚くのも無理はない。しかし某はワールドスリーに合流する際、御大将であるスティグマ殿への忠誠の証の一つとして、部下達を差し出した。それだけである」

 

アルマージは微動だすることもなく、毅然とした態度で答える。

しかし、アルマージの部下達にも寝耳に水だったらしく、彼らの間にも激しい動揺が広がった。

 

「アルマージ様!? 我々は……」

 

「口を挟むでない! イレギュラーハンターを裏切った某を慕う貴様らを、これ以上虜囚のままにするという所業を続けるわけにはいかぬ。もっとも、スティグマ殿はお怒りになるだろうが」

 

彼らの反応からして、どうやら人質云々はアルマージが勝手に言っているだけのようだ。

この男は俺に果し合いを申し込むついでで、部下達を守るために……。

この点は桜樺も気になったらしく、待ったをかけるように口出しした。

 

「アルマージ。当の部下達にも寝耳に水のようだが?」

 

「……某がこの者達を欺いただけの事。御両名、某はこれから中合国は廬山の忘れ去られた鉱山へと戻る、御両名が乗り込むのを待たせてもらうために。鬼巫女桜樺よ、貴殿の『父親』もそこにいる……。これにて、御免」

 

「……!!」

 

桜樺の父親は、強大な力を有する凶悪な妖怪だ。

その妖怪は昔、ある退魔師兼巫女さんを(年齢宣言に抵触するので中略)し、巫女さんはその妖怪の子供を身ごもってしまったのである。

件の巫女さんが生んだ子供、それが桜樺なのだ。

そのため、桜樺は父親に対して並々ならぬ敵意を抱いている。

だから桜樺はアルマージに対しても敵意むき出しで身構えた。

 

「やめておけ。学校を火の海にするつもりか?」

 

「!?」

 

そんな桜樺を諌めるように、元・第7空挺部隊隊長にしてデスログマーの主でもあるイーグリードが姿を現した。

 

「イーグリード!?」

 

「久しぶりだな。……こんな形で再会するとは思ってもみなかったがな」

 

「どうしてあなたまで!? ゼロが『ハンターの鑑』とまで言っていたあなたまで、どうしてスティグマに……!」

 

「あいつ、俺のことをそこまで……。だが、俺はそこまで讃えらる資格を当の昔に失った。ましてや、ハンターの資格すらもスティグマに敗れた時に失くしている」

 

俺の問いかけに、イーグリードは只静かに答える。

スティグマに敗れた?

一体どういうことなんだ!?

 

「エックス、一言だけ言っておく。俺はアルマージを確実に連れて帰るようスティグマに厳命されている。故に、もしもお前とそこの巫女さんがここで事を構える気なら、俺は躊躇うことなく学校やお前の学友たちを巻き込む」

 

「本気なのか!?」

 

「ワールドスリーに参加することとは、そういうことなのだ」

 

その一言とともに、イーグリードは自身の飛行能力でデスログマーに帰艦。

デスログマーの方もアルマージを回収してそのまま低空飛行で逃走した。

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

ディスプレイにアルマージと、桜樺の父親である妖怪の顔写真が表示される。

 

「南アジア(主にインド近辺からチベットまでのことを指す)の治安維持協力を主任務としていた第8機甲部隊は、スティグマが蜂起する数日前に極秘任務の名目でインドのアルナシャール・プラデーシュ州にある、中合国との国境付近で消息を絶っているわ。

 

 消息に関してはアルマージがワールドスリーの最高幹部になっていることをゼロが辛うじて突き止めることができただけで今まで全くの謎だったわね。まさか、国境を越えるどころか更に数千㎞離れた場所に潜伏していたなんて……。

 

 でも、どうしてアルマージは自分の部下たちを『人質』と言ったのかしら?」

 

エイリアも同じ点に首をかしげている。

確かに、どうしてあんなことを言ったのだろうか?

……まさか。

 

「俺との果し合いに巻き込みたくない、から……?」

 

「…………それだけのためとは、考え難い気がするわ」

 

さすがに、理由としては弱いか。

エイリアにダメだしされてしまった。

 

「もしかしたら、ワールドスリーに部隊ごと合流したこと自体、アルマージさんにとっては予想外だったのかもしれません。適性の問題で第8機甲部隊から第11調停部隊に転属した元隊員の方に聞いたことがあるのですが……。

 

 第8機甲部隊はアルマージさんを頂点としたとんでもなく強い結束で繋がっているのですが、その結束自体アルマージさんの尋常じゃない漢気に惹かれた部下の皆さんが勝手に作っただけのものだったので、アルマージさん御自身はちょっと困惑していたそうです。

 

 だから、第8機甲部隊の皆さんはスティグマさんには全く忠実ではなかった可能性があります。アルマージさんって武士道が実体化したような方ですから、自分の主君に忠実じゃない部下を心のどこかで邪魔に感じていたのかもしれません」

 

「パレットの推測が正しいという前提で意見しますが、アルマージは自分の部下たちを危険視していた可能性もあります」

 

パレットとレイヤーも、別の可能性を主張する。

どれが正解なのだろうか?

全部正解、という可能性も……。

それが気になって首をひねる俺を余所に、エイリアは妖怪の説明に入った。

 

「この妖怪の名前は『銀鬼(ぎんき)』。かつて、歴史の陰で悪逆非道の限りを尽くして悪名を轟かせた文字通りの悪鬼羅刹よ」

 

「……かつて?」

 

『かつて』という点が気になった俺は思わず訪ねてしまった。

エイリアにとっても思うところがあったらしく、険しい表情で説明してくれた。

 

「こいつの所在を把握していた退魔組織があんまり非協力的だったから、スティグマがゼロを含む特A級ハンター、果てはVAVAや私まで引き連れて激しい掃討作戦を実行したのよ。その退魔組織もガタガタになったから個人的にはスカッとしたけど。

 

 ……あ、ごめんなさい。まかりなりにも、桜樺がいた組織のことなのに……」

 

「構わない。あんな連中に未練などないさ。むしろ、お前とVAVAに感謝しているぐらいだ」

 

エイリアならともかく、VAVAにまでそんな感情を……。

その退魔組織は何をやらかしたのだろうか?

 

「……その退魔組織は何をやったんだ?」

 

「エックス。思い出せない、っていう幸せもあるのよ」

 

「エイリアの言う通りだ」

 

俺も関わっていたのか……。

きっとそれに関する部分は、Dr.ケイリーに封印されているんだろうな。

 

「銀鬼に関しては……実は桜樺の父親よ。どういうことかは本人の許可は事前にもらったから説明はできるけど……。エックスにも言っていいかどうか」

 

「……レイヤーやパレットもいる時点でその意見は成立しないと思うけど。それ以前に、俺は既に桜樺から聞いている」

 

レイヤーは10歳(俺同様に蘭ヶ峰学院の初等部4年生で、俺ややいととは違うクラス。誕生日は俺より早い)、パレットに至ってはまだ3歳(蘭ヶ峰学院の幼等部に通っている)だ。

ちなみにエイリアは14歳(姉さんのクラスメートでもある)で、ゼロは12歳(蘭ヶ峰の中等部1年生)だ。

 

「言われてみればそうだけど……。仕方ないわね」

 

 

 

それから数分後。

桜樺の壮絶な出生にみんな固まってしまっている。

俺は既に知っていたけど、思い出すだけじゃなくて他者の口から聞いても気分のいい話じゃないな。

流石に不味いと思ったらしく、エイリアは即座に話題を変えた。

 

「廬山の鉱山に関して中合国政府に問い合わせてみたところ、本当に忘れ去られていたらしくて、担当の人がしどろもどろになっていたわ。第8機甲部隊はアルマージを除いて全員こちら側が保護という形で確保。

 

 アルマージと銀鬼を除いた鉱山内の戦力は、銀鬼に従う妖怪だけと考えた方がいいわね。前回同様に少数での殴り込み作戦になるけど、今回は相手が相手だからビートにも同行してもらうわ」

 

「ビートはこう見えても攻撃的広域支援ロボットだ。攻撃力は中々のものだぞ」

 

エイリアの言葉に相槌を打つように、コサック博士が説明してくれる。

 

 

 

 

 

そして現在。

舞台は廬山に戻る。

 

「まさか、廃屋の地下に入口があるとは」

 

国有の敷地内にある一軒の廃屋。

全くの手つかずだったそれの地下に、鉱山への入り口の一つがあった。

 

「それにしてもさ、いい加減過ぎない? 今の今まで忘れててた、なんてさ」

 

「黒帝の介入で文化大革命が潰れたドサクサで関係者の大半が亡命同然に海外移住して、詳細を知っている人が政府内にほとんどいなかったそうだ」

 

「人材管理までザルじゃん」

 

アクセルが呆れたように毒づく。

エイリアが中合国政府から聞き出せた情報によると、この鉱山みたいに黒帝の介入の煽りで詳細が分からなくなった中華人民共和国時代の秘密施設が国内には大量に存在しているそうだ。

中合国政府にとっても悩みの種らしい。

とにかく、鉱山に入ろう。

 

 

 

鉱山内部。

俺たちは思いの外近代的な設備が揃えられている内部に少し驚いている。

 

「視聴者の皆様、ワールドスリーはかなり前からこの鉱山を掌握していたのでしょうか? かなり近代的な設備で整えられています。不思議でなりません」

 

横山さんの言うとおりだ。

これだけの設備を秘密裏にそろえるとなると、一朝一夕では済まない。

しかし、ワールドスリーはどこまで綿密に事を企てているのやら。

 

「……悪しき気配が漂っているな。間違いなく、奴はこの先にいる」

 

桜樺は一層険しい表情で呟いている。

俺にもなんとなく分かる。

吐き気を催しそうなぐらいの邪念が鉱山中に漂っていることが。

一気に駆け抜けたい気分だ。

 

「……トロッコ?」

 

おあつらえ向きにトロッコが放置されている。

トロッコにしては妙に横幅が広くて自動車よろしくシート完備、更にはハンドルまでついているけど。

あれに乗るか。

 

「これで一気に駆け抜けよう」

 

「流石に幾らなんでも軽率なんじゃね?」

 

砂山さんの突込みが飛んできた。

それが普通だよな。

 

「ディレクターのツッコミは極めてごもっともですが、奥の方から直視したくないのがわらわらと出てきてますよ」

 

横山さんの一言に呼応するように、奥から妖怪達が大挙して湧き出てきた!

確かに直視したくないな。

 

「鉱山の中をあれだけの数の妖怪相手に進まなきゃいけないが、流石にあんた達を守りながらとなると足がいるぞ」

 

レッドも険しい表情だ。

これ以上迷っている暇はないな。

 

「早く! このトロッコに乗って!」

 

「…………分かったよ! 肚括ればいいんだろ!」

 

砂山さんが居直ったかのように真っ先にトロッコに乗り込む。

それを皮切りに他のみんなも一斉に乗り込んだ。

 

「私達も乗るぞ!」

 

「うん!」

 

最後に、俺と桜樺が乗り込んだのを見計らったかのようにトロッコが動き出す。

 

「このトロッコ、何を想定して作ったんだ? ハンドルだけじゃなくてアクセルペダルやブレーキペダルまであるぞ! こうなったらベタ踏みしてやる!」

 

そんな砂山さんが絶叫と共にアクセルペダルを踏んだ瞬間、トロッコが急加速した!

 

「く、口が! 風圧で口が勝手に開く!」

 

「口元を手で隠せばいいでしょ!」

 

出月さんの悲鳴にアクセルが文句を言っている間も、トロッコは加速を続ける。

相当な速さになっているらしく、レール上にいる妖怪たちを跳ね飛ばしながらトロッコはレールの上を爆走しだした!

 

「にゃあああああ! タダでさえ名状しがたいのが更にキモい状態になって飛び散っていくぅぅぅぅ!! 『インディー○ョーンズ ○宮の伝説』どころの話じゃありませぇぇーん!」

 

「『レール○ェイス』よりもひどいことになってるよコレ! ……今、跳ね飛ばされた妖怪と目が合ったよ、ギャー!!」

 

「ヘイヘイヘェェェェェェェイ!!」

 

横山さんと出月さんの悲鳴が響く。

砂山さんに至っては極度の興奮状態だ。

 

「正気じゃないな! あのテレビ屋は!」

 

「こんな状況で正気でいられる人なんて限られてるよ!」

 

レッドとアクセルの怒号も聞こえてくる。

そんな中、桜樺の怒号が俺の隣で響いた。

 

「恵玖須! 後ろから追いかけてきたぞ!」

 

本当だ。

しかも集団な上にかなり速い。

追いつかれる前に……。

 

「撃っておく!」

 

「うげぇー!」

 

人間の紅い血よりおぞましい色の液体を吹き上げながら、追いかけてきた妖怪の内の一人が盛大に転がる。

 

「あれだけの数なら、僕に任せなって!」

 

アクセルは言うや否や、両手に持った銃でエネルギー弾をばらまきだす。

余計にガンシューティングゲーム染みた光景になってきた。

だが、アクセルの銃はそれほど火力は高くないらしく、追いかけている集団はそこまでダメージを受けているようには見えない。

そう思った直後、桜樺の声が聞こえたと思ったら激しい炎が、追いかけてくる集団をあっという間に火だるまにした

 

「これで追手はしばらく来れないだろう」

 

「今の炎は?」

 

「退魔術の一環だ」

 

魔法とは微妙に違うのだろうか?

……今はそんなことを気にしていい時じゃないな。

 

「えええええええええ!? れ、レールが途中で途切れてるぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「大丈夫だ! ○ールチェイスじゃレールが敷かれてないとこもトロッコは爆走していた!」

 

横山さんの悲鳴に対して、砂山さんは開き直った答えを返す。

確かにあのゲームではそうだったけど……。

 

「あのテレビ屋は何の話をしているんだ!?」

 

「切羽詰まり過ぎてゲームと現実がごっちゃになっているみたいだ!」

 

砂山さんがテンパっている姿を見て桜樺も若干の不安を感じているようだ。

それに対してアクセルは的確な言葉で返す。

トロッコはかなりの速さで走っおり、乗っている俺たちはかなり強い風を浴びる格好となっている。、

が、邪念が満ち満ちているためちっとも爽やかじゃない。

……気のせいだろうか?

どう見ても数mほどの段差が目の前に広がっているのだが。

 

[一定数値以上の段差を確認。ジャンプ装置を自動で起動します]

 

……トロッコになぜか設置されているスピーカーから電子音声が響く。

瞬間、トロッコは電子音声通りに盛大にジャンプ。

段差をあっさりと乗り越えた。

 

「なあ、俺たちが乗っているコレって本当にトロッコなのか?」

 

レッドが問う。

 

「車輪の形状からして、トロッコだとは思うよ?」

 

俺が答える。

 

 

 

 

 

乗り出してから10数分。

トロッコは鉱山のかなり深いところまで進んでいた。

邪念から感じる不快感も更に強まっている。

 

「視聴者の皆様、こちらは吐き気を催しそうなおぞましい気配を感じています。それも複数!」

 

「横っち、テンパってるなぁ」

 

「開き直って適応してしまったプロデューサーに言われても……」

 

砂山さんたちの会話がだんだんと殺伐なものになっていく。

しかし、空気の淀みが気のせいか薄まってきたがする

 

「あれ? 何だか、奥が眩しくなっている気がする」

 

「? ワールドスリーが今になって新規採掘ルートでも……。違う! あの明るさは人工のものじゃない!」

 

俺の疑問に答えようとした直後、桜樺は答えを翻した。

確かにあの眩しさは電気の明かりではない。

そう思った直後、一気に太陽の光と外の風景が目に入る。

 

「で、出ました! なぜか外に出てしまいました!」

 

横山さんの悲鳴がまた響く。

しかし、今度は山間を流れる風の音で少し勢いが殺がれている。

あまりの強風とトロッコが走る際の振動で浮き上がりそうな錯覚に襲われる。

それに耐えて前方を見ると……。

 

「れ、レールが途切れてる! しかも崖になってる!」

 

「ふふふ……ふへへへ…………ああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁっ! ………………恵玖須君のバカー!!」

 

俺がそう言った瞬間に横山さんが発狂した。

それもそうだよな……。

しかし、そんな状況で無我の境地になる暇すらなかった。

 

[ソーラーロケットブースター起動。着地時の衝撃にご注意ください]

 

また電子音声が。

そう思った瞬間にトロッコが急加速!

レールの切れ目からさっき以上の大ジャンプでがけを飛び越え、別の坑道の入り口まで大ジャンプした!

猛スピードでトロッコは着地し、回転しながら急停車。

俺たちの視界には、廬山の雄大な風景が広がっていた。

 

「い、生きてます! 私たち生きてます!」

 

横山さんも狂喜乱舞同然の状態だ。

砂山さんと出月さんも同様の状態となっている。

その一方で俺たちは廬山の雄大な景色に見とれていた。

 

「祖父から聞いたことがある。廬山は聖山であり、中合国とそれ以前にあった数多の国々において芸術と文学、政治の重要拠点であったと」

 

「スティグマは一体どうやってこの廬山にある鉱山のことを知ったのかな?」

 

「簡単です。数年前にアルマージ様と一緒に横浜中華街のレストランに行った際、元関係者から偶然聞いたんですよ」

 

そういうことか……誰!?

背後から声が聞こえたので、俺と桜樺は大慌てで振り返る。

そこにいたのは、ナースみたいなデザインのアーマーを着た少女。

トロッコのエンジンの部分から顔を出している……。

……彼女もレプリロイドか。

 

「私はメディ。第8機甲部隊時代からのアルマージ様の秘書です。このトロッコの制御装置も兼任しています」

 

「……なぜ制御装置を兼任しているんだ?」

 

「私も覚えていません。とにかく、アルマージ様と銀鬼のところまでご案内します」

 

 

 

 

 

鉱山の最深部。

俺たちはメディの案内でここまで来た。

自然の洞穴なのだろう、大小多数の外に繋がる穴が開いている。

そして、奥の何十畳もの畳が張られた箇所にいた。

 

「参られたか、御両人。改めて名乗ろう。某が『鋼鉄の甲弾闘士 アーマーアルマージ』。そして某の隣にいる……」

 

「見届け役の俺こそが『新月の暴虐将 銀鬼』だ。随分と久しぶりだな」

 

アーマー・アルマージと銀鬼が。

銀鬼の姿はおぼろげながら覚えている。

鋼のような鈍色の肌に赤眼、そして名前通りの銀髪。

 

「見届け役を不快に思われるかもしれんが、そろそろ始めようかな。エックス殿!」

 

「メディのトロッコは、あなたの差し金なのか?」

 

「メディは部下たちの中で唯一人、スティグマ殿への従属の意思を持っていた。故にここまでの案内役を任せたまで。……心が躍るな。武人としての血が騒ぐのだ。強き者を見ると戦いたくなる……」

 

アルマージは立ち上がり、一歩ずつ徐々に俺たちの方へ近づいてくる。

暗くて全体の輪郭しか見えなかった姿が、近づくにつれて段々とハッキリ見えてきた。

 

「たとえ、“咎”を受けようともな!!」

 

「そ、その目は!?」

 

アルマージの左目に大きな刀傷が走っている!

一体何があったんだ!?

 

「アルマージの刀傷はスティグマがつけたものだ。貴様と戦う許可を得たはいいが、少々羽目を外してしまってな」

 

「何があったか、某が委細を話そう」

 

 

 

「大馬鹿者めがぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

スティグマがビームサーベルの一太刀をアルマージの顔面に当てる。

直後、アルマージの左まぶた辺りに大きな刀傷ができていた。

 

 

「第8機甲部隊の隊員総員を人質解放の名目でイレギュラーハンターに引き渡した挙句、廬山にある絶秘鉱山の存在を暴露! あの鉱山に残っている金銀財宝や採掘済み鉱石資源の持ち出しはまだ終わっていないんだぞ!

 

 果し合いの許可は出したがあそこまでやって良いとは言っておらん!!」

 

「……鉱山の存在暴露については言い逃れはできませぬ。しかしながら、あれらまで我々に合流したのは、某はおろかスティグマ殿にも予想外でありました。ましてや、その動機自体もスティグマ殿ではなく某への忠義から。

 

 如何な理由があれど、スティグマ殿への従属の意思なき者はワールドスリーにとって大きな内患となります!」

 

「ならばなぜ粛清しなかった? 人質解放はあれらを守るために敢えて吹いた大法螺でもある、その通りであろう?」

 

「…………まかりなりにも某を慕い、共に道を踏み外してくれた者たち。某にはあれらを斬ることはできませんでした……」

 

アルマージの言葉にスティグマは黙り、少しだけ思案に暮れる。

そして思案の後に発した声は、意外なものであった。

 

「鉱山の存在暴露については看過できん! 銀鬼! VAVA!」

 

「呼んだか?」

 

「どうした?」

 

部屋の隅で待機していた銀鬼とVAVAに、スティグマは命じた。、

 

「銀鬼にはアルマージとエックスの一騎打ちの見届け役を頼む。VAVAにも見届け役を担ってもらうぞ!」

 

「まあ、コンビを組んでいる以上、首を縦に振るしかないな」

 

「……エックスの力が本物かどうか直に見られるなら、別に文句はないさ」

 

銀鬼とVAVAは、簡単にスティグマの命を受け入れる。

それを聞き終えてから、スティグマは改めてアルマージに視線を移した。

 

「貴様への咎は以上だ! 第8機甲部隊隊員を引き渡した件については、貴様の漢気に免じて不問とさせてもらう。勝って漢を上げるまでこれ以降の謁見はかなわぬと知れ! さっさと廬山に戻れ!!」

 

「スティグマ殿……。では、これにて失礼つかりまつる」

 

 

 

そんなことがあったのか……。

 

「ということは、ここにはVAVAもいるのか?」

 

桜樺がアルマージに尋ねる。

アルマージが答えるよりもずっと早く、答えは明かされる。

室内の暗がりの一部から、奴が……、VAVAが現れたからだ!

 

「よく分かってるじゃないか。あの連中とは十味以上も違うだけあって」

 

「久しぶりだな」

 

VAVAも桜樺も、懐かしい知人と再会できたかのような態度だ。

心なしか、VAVAが少し嬉しそうな反応をしていたような気もする。

 

「まあな。だが桜樺、何故お前ほどの女がエックスに入れ込む? あの時、銀鬼を死の寸前にまで追い込んだ程の退魔師であるお前が!」

 

「諭してくれたからさ。力とは出自ではなく、使うものの心次第で善悪が決まると。だからこそ、私は鬼の血の力でそこにいる鬼を完膚無きにまで叩きのめせた。それだけじゃない、恵玖須はあの時、私を助けてくれた。惚れるには十分過ぎる理由だ。

 

 お前も分かっているはずだ、VAVA。恵玖須の今の力を。優し過ぎるが故に得た、眩しい力を!」

 

そう言い切る桜樺の表情はごく自然な笑顔だった。

綺麗だ……。

 

「確かに、そいつは既にB級とは言い難い強者だ。だが優し過ぎるのが気に食わない……! エックスを倒して最後に笑うのは俺だ! VAVAだ!! しかし大将から銀鬼共々見届け役を任されている。……というわけで、今回は見学させてもらおうか」

 

VAVAはそう言って妙に大人しく畳の上に座った。

それに合わせたかのように、銀鬼は立ち上がり、こちらに近づいてくる。

 

「貴様、何を考えている?」

 

「安心しろ。見届け役だからお前とその忌々しき蒼い小僧の一騎打ちは邪魔しない。俺は娘の方に用があるだけだ」

 

「よくもそう言う。桜樺殿を手籠めにしておきながら」

 

抜け抜けとほざく銀鬼の言葉に対して、アルマージは蔑みの言葉を吐き捨てる。

そして気を取り直すように俺の方に視線を向けた。

左目の刀傷が……。

 

「俺と、戦うために……」

 

「下らぬ話で貴殿の勢いを削いでしまったようだ。我らの戦いに言葉はいらぬ」

 

直後、アルマージの頭部装甲が展開し、光線銃がせり出す。

……あれが火を吹いた時が、一騎打ちの開始を告げる合図だ!!

 

「これが我らの言葉よ!」

 

その言葉とともに放たれた光弾を俺はジャンプして回避。

俺は空中で迎撃態勢に入る!

 

「だったら俺にできることは、俺の持ってる“力”の全てで……あなたの傷に答えることだけだ!」

 

セミチャージショットを発射!

しかしアルマージは不動のまま左腕の盾を構える。

 

「感謝するぞ……エックス殿!!」

 

アルマージの盾はなんとセミチャージショットを弾いてしまった!

 

「お、恐ろしい頑強さです! 恵玖須君が発射したエネルギー弾を難なく弾き飛ばしてしまいました!」

 

横山さんも只々驚愕している。

そうなるのも無理はない。

単に構えただけで、セミチャージショットを弾き飛ばしてしまうなんて!

 

「……どうされた? 臆されたのか、エックス殿? B級とは思えぬ力でワールドスリーの最高幹部たちを次々と倒した強さは……どこなのだ!? よいか? 戦いというものは! 臆した者に必ず”負け”が訪れるものなのだ!!」

 

アルマージの気迫に満ちた視線が俺の全身を振るわせる。

だが、いつまでも震えてはいられない!

 

「たとえ臆したとしても、俺は乗り越えていく! あなたが盾を構えるなら、防ぎ切れない数の弾を放つだけだ!」

 

エネルギー弾を連射!

 

「確かに、それだけの数のエネルギー弾を盾で防ぎ切るのは難しい。しかしこれでなら……容易いことだ! この姿になった某に、ローリングシールドに死角はない!!」

 

それに対してアルマージはモチーフの如く丸まり球状になってエネルギー弾をすべて弾き、更に回転しながら突進してきた!

俺はボディアーマーで辛うじて受け流す。

 

「うあっ! そう来るなら、ダッシュでしのぐ!」

 

「どこへ逃げようとも無駄なり!」

 

「あうっ!」

 

何とか踏みとどまり、俺はアルマージの次の突撃をダッシュでかわすが、それでも所々に掠ってしまう。

 

「某のこの五体に埋め込まれた数々の複合センサーが……いつでも貴殿をマークしているからだ!! 複合センサーは、貴殿のレプリロイド離れした人肌の如き体温すら容易く感知する!!」

 

あれだけ激しい勢いの突撃がミサイルみたいに曲がって追ってきたのはそのためか!

避けるのが難しいなら……。

 

「真正面から受け止めるのも一つの手だ!」

 

アルマージの突撃を、俺は足を踏ん張って真正面から迎え撃つ!

 

「うおおおぉぉおおおぉぉぉ!!」

 

掴んだ!

ライト博士に造られた自分の五体の力を信じて、このまま止めるんだ、恵玖須!

流石にこのままでは押し負けるほどの勢いだが、俺には武器チェンジ機能がある!

センサーを高圧電流で吹き飛ばす!

 

「ぬおおおおおぉぉぉぉぉっ!! エレクトリックスパーク!」

 

密着射撃だ…………弾かれた!?

 

「それで某の回転とローリングシールドを止めたつもりか!?」

 

「ぐっ……。うわあぁぁっ!」

 

動揺した一瞬の隙を突かれ、俺は真正面から吹き飛ばされてしまう。

その勢いで俺はそのまま壁に叩き付けられてしまった。

バスターどころかエレクトリックスパークまで効かないとは……。

勢いも腕力だけでは止められないほど。

どうすればいい?

あれこれ関げている今もアルマージの突撃は続いているんだぞ!? 恵玖須……!

 

「肚を括られたか? エックス殿!」

 

ギリギリのタイミングでダッシュして回避。

……何だ? 回転しながら周囲を飛び回るアルマージからエネルギー弾が飛んできた!

 

「へうっ!」

 

「今の某を鉄壁の珠と変えている光の盾だけがローリングシールドではないぞ!!」

 

うまく引き付けてから避けても、向こうのエネルギー弾が四方に飛んでくる。

避け切れない……!

 

「ぐあっ! うああぁぁぁぁああぁっ! んぅっ!」

 

ボディアーマーがかなりダメージを削いでくれてるけど……流石に3回連続で突撃を食らうとかなりきつい。

どうすればいい? 考えるんだ!

……しかし、考えようとする前に嫌な気配が一体に満ちてくる感覚に襲われる。

 

「……貴殿も感じ取られたか」

 

どうやらアルマージもこの気配を感じたらしく、回転を止めて物と形態に戻った。

そして、銀鬼の方を睨む。

 

「貴様、基地中の配下をここに呼び寄せたな!」

 

「それが? 一騎打ちの邪魔はしないが、残りの連中に手を出さないと言った覚えはないぞ」

 

やっぱり銀鬼の差し金か!

そうだ、今になって思い出した。

血の繋がった娘である桜樺に自分の子を新たに生ませようとするような奴が、大人しく一騎打ちの見届けをするはずがなかったんだ!

かつて桜樺が所属していた鳳蓮の連中といい、こいつといい!

 

「……思い出したよ。鳳蓮の連中も大概だったけど、貴様も相当に腐っていることを! 銀鬼! 貴様には戦士の誇りは無いのか!?」

 

「何を当たり前のことを聞く! 無かろうが生きていけるわ!」

 

醜悪な嘲笑を顔に浮かべて銀鬼は即答した。

しかし、銀鬼の表情は文字通りの鬼気迫るものへとすぐに変わる。

 

「貴様のせいで俺は思わぬ屈辱を味わっただけでなく、娘の手でひどい深手を負わされたのだぞ、小僧! 今こそその恨みを晴らす時よ!」

 

直後、桜樺が銀鬼の前に立ち塞がる。

 

「だったら貴様の娘である私の恨みで捻り潰されろ」

 

すでに銀鬼に迫るほどの気迫を放ちながら。

 

「視聴者の皆様、桜樺さんの気迫が物凄いです。でもそれがとっても頼もしいです!」

 

横山さんは結構安心した表情になっている。

確かにかなり頼もしい。

 

「アーマー・アルマージ。この一騎打ち、一時小休止を挟ませて欲しい」

 

「邪魔者が多過ぎる故、致し方あるまい」

 

アルマージは銀鬼の悪質さに怒っているらしく、あっさりと桜樺の提案を了承してくれた

そして、そのまま畳が敷かれているところに戻って座り込んでしまう。

 

「まるでボクシングの試合だな」

 

VAVAがそんなことを言ったような気がする。

だが、1分そこらで片付きそうにはないな。

そんなことを考えていたら、桜樺に話しかけられた。、

 

「お前も少し休んでいろ」

 

「だけど、相手は数に物を言わせてきているんだよ」

 

「問題ない。アクセルトレッド、ビートもいる。それに…………」

 

桜樺が言い終わる前に、銀鬼に従う妖怪の一人が彼女に襲いかかる。

だが、桜樺は軽く腕を振るっただけでそれを吹き飛ばしてしまった。

 

「“腕”に覚えがあるからな。だからお前は少し疲れをとった方がいい」

 

笑顔で俺にそう言い聞かせ、綺麗な黒髪黒眼を煌びやかな銀髪赤眼に変えた桜樺は銀鬼とその配下たちを睨む。

半人半鬼の桜樺は正真正銘の鬼である銀鬼の娘でもあるため、その力を開放すると髪と眼の色が銀鬼そっくりになるのだ。

緑色のリボンが銀髪に映えて絶妙なアクセントになっているな。

気が付くと、アクセルが二丁拳銃を、レッドが大きな鎌を手にしている。

 

「そのお姉ちゃんの言うとおり、少し休んでなよ」

 

「安心しろ、仲間たちにはここの場所をとっくの昔に教えた。その証拠に、テレビ屋たちの隣を見てみろ」

 

そう言われて砂山さんたちの隣を見たら、9人のレプリロイドがいた。

あれがレッドアラートのメンバーか。

 

「ついでに言っておくが、あの全身ピンク色のはアーマーを着込んでいる人間だからな」

 

……思っていることを見透かすような言い方はちょっと嫌いだ。

でもとりあえず少し休んでおこう。

そうこうしている内に妖怪の群れVS桜樺+ビート+レッドアラート一同の殺し合いが始まった。

レッドアラートの面々もかなり強いな。妖怪たちをバッタバタと蹴散らしている。

ビートの方も体当たりで妖怪たちのどてっぱらに風穴を開けている。

桜樺に至っては軽く腕を振るっているだけで妖怪たちを叩きのめしているな。

 

「“その姿”でそこまで力を制御できるようになったとはな……。随分と強くなったな! だがその両手だけでどこまでしのげる?」

 

「だったら要望に応えてこの刀を使わせてもらうか」

 

銀鬼の挑発に余裕の態度で乗った桜樺は、腰に差してあった刀を遂に抜刀する。

それは正に、剣ならぬ刀の舞。

ただ舞に合わせて振るっているだけで、妖怪達にはまるで掠っていない。

だが、不安は感じない。

そして舞が終わり、桜樺は刀を収める。

しかし、刀はハバキ(刀の刀身と束の間にある金具。鞘と刀身を固定するための物)の部分が鞘に収まっていない。

 

「ただ舞っていただけじゃないんだぞ」

 

桜樺は俺に向かってそう言って、ハバキの部分を意味ありげに鞘に収めた。

瞬間、妖怪たちが一瞬で八つ裂きになる。

 

「山守静流剣技、『百花時間差逝き造り』!!」

 

結構えげつない技だ。

よく見たら、銀鬼の胸板や腹筋にも大量の刀傷ができている。

 

「お、おのれ……!」

 

「どうした? それで私の父親とは聞いて呆れるな」

 

そんな皮肉を吐き捨てた直後、桜樺が再び俺の方を見る。

何を言おうとしているかは、何となく気づけた。

 

「恵玖須、認証コードとやらを頼む!」

 

予想通りだった。

そう言われたら認証するしかないじゃないか。

 

「任せて!」

 

「恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

桜樺の身体に蒼い追加装甲とバイザーが装着される。

下腹部の部分が今までより変に目立っている気もするけど、言わないでおこう。

 

「そんなハッタリで俺がひるむと思ったか! 戦いはこれからだぁっ!」

 

「言いたいことはそれだけか……」

 

銀鬼の言葉に冷笑で返した桜樺の表情が、瞬時に険しくなる。

そして銀鬼めがけて殴りかかる。

その気迫は、既に銀鬼を完全に超えていた……!

 

「ぬぅあああああああっ!!」

 

「何!?」

 

!?

桜樺の拳が巨大化&分身して銀鬼に襲いかかるかのような幻覚が一瞬見えた気がした。

瞬時に銀鬼は両腕で顔をガードするが、桜樺の拳はそのガードを簡単に崩して顔面に数十発も入る。

 

「げぼー!?」

 

「ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたた! ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」

 

顔面だけじゃない。

銀鬼の全身を、まるでカツレツ用に肉を引き延ばすかの如く万遍無く殴っている!

 

「………………!」

 

あまりの凄絶さに思わず後ずさりそうになる。

レッドアラートの面々もこの光景にそれぞれ引いている。

ついに銀鬼はダウンしたが、それでも桜樺は止まることなく銀鬼を殴り続ける。

 

「ぬわー!」

 

「ギャー!」

 

「にゃー!」

 

砂山さんたちも悲鳴を上げている。

一方、VAVAはどことなく嬉しそうな反応を示し、アルマージは終始平静を保っていた。

 

「ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!」

 

殴る勢いの余りの激しさに衝撃が銀鬼の体を伝って地面にぶつかり、銀鬼の体を浮かび上がらせてしまう。

銀鬼の口からくぐもった呻き声が聞こえる。

やがてその呻き声が掠れてきた頃、桜樺は最後の一撃を股間に叩き込んで銀鬼を吹き飛ばした

 

「あたぁっ!!」

 

銀鬼が物凄く盛大に地面に転がる。

 

「秘技! 惚れた男と身内には見せられないパンチ!!」

 

「見てしまった……」

 

「見せちまったかも」

 

俺が呟いた後に、出月さんも呻くように呟いた。

桜樺から聞いたことがあるが、彼女の身内は既に祖父だけだと。

一応、血の繋がりがある存在だけなら結構いるが、桜樺の母親である『山守(しずか)』さんが銀鬼に乱暴されて桜樺を産まされた件で軒並み彼女と一方的に絶縁したため、桜樺の身内は祖父だけということになる。

しんみりしてもしょうがない。

 

「アルマージ。一騎打ちの続きだ!」

 

「待ちわびたぞ……!」

 

アルマージが立ち上がり、こちらに向かってくる。

あの鎧をどうにかすれば、勝機は見えてくる。

しかし、回転中は完全に隙がない。

エレクトリックスパークでセンサーを吹き飛ばすとすれば、元の形態に戻った後だ。

その時を作るには……。

考えを巡らせていた中、不意に桜樺が耳元で話しかけてきた。

 

「……恵玖須。奴の複合センサーは、恐らく熱探知がメインだ」

 

「アルマージも、俺の微かな体温を探知できると豪語していたから、俺もそうだと思う」

 

「それなら、付け焼き刃だが作戦がある。いいか……」

 

 

 

「ではこの一騎打ち、いざ尋常に再開!」

 

「来い!」

 

アルマージが頭部の装甲を展開して再びエネルギー弾を発射。

俺はそれを回避。

直後、アルマージは再び球状になって回転・突撃してきた。

真正面から来たアルマージを引き付けて、ダッシュジャンプで回避!

そしてダッシュでアルマージが飛んでいく方とは別方向へ急いで移動する。

この時にもう一度武器チェンジしておく。

 

「避け切れたとしても無駄なり! それほどの手傷ならばいずれは力尽きるという……何事!?」

 

桜樺の教えてくれた作戦通り、アルマージは回転形態を解除した!

今が勝機だ!

アルマージが振り向くよりも早く……!

 

「エレクトリックスパーク!」

 

高圧電気の塊が少しゆっくりと、アルマージめがけて飛んでいく。

俺の咆哮に反応して振り向いたアルマージが攻撃に気付いて盾を構えると同時に、エレクトリックスパークは盾に命中!

弾かれることなく、盾を伝ってアルマージの全身に電流を走らせた!

 

「うぐがぁああああああ! ぬ……ぬかったわーっ!!」

 

アルマージが吼えた瞬間、複合センサーを内蔵した鎧と盾が吹き飛ばされた!

吹き飛んだ鎧と盾を一瞥した後、アルマージは俺“たち”がいる方を見て、一瞬の隙を作ってしまった理由を悟る。

 

「なるほどな……。某自慢の複合センサーの性能を逆手に取ったわけか。某に指摘された、人間と同レベルの……レプリロイドとしては低過ぎる己の体温を利用し、桜樺殿と並び立つことで某の複合センサーを鮮やかに欺いて隙を突いたか!!」

 

そうだ……。

桜樺が咄嗟に教えてくれた作戦、それはアルマージの複合センサーの性能を逆手に取ること。

俺の体温が人間と全く同じレベルなら、人間の隣に立てばセンサーは俺と人間の判別ができなくなるかもしれない。

失敗の可能性もあったけど、俺は一か八かに賭けて砂山さんたちとは離れたところに立ってくれた桜樺の隣に待機したのだ。

そして、成功した!

 

「聞かせてもらいたいことがある……。何故、マントヒッターの武器で仕掛けてきた?」

 

「物の試しだよ……」

 

「物の試しとな?」

 

「俺の低過ぎる体温すら感知して追尾できるほどのセンサーだ。だから、高圧電流には意外と弱いと思ったからエレクトリックスパークを使っただけさ。最初はローリングシールドに弾かれたけど、今度は予想以上に上手くいったよ!

 

 センサーの性能を逆手に取る作戦自体は、桜樺が土壇場で教えてくれたけどね」

 

俺は毅然と言い切る。

それを聞いたアルマージは、どこか嬉しそうな気がする。

 

「そうか……、物の試しか……。そして、某を欺いた手は桜樺殿から教わったものか……。ふふふ……。捨て身の戦法と勝負運の強さ、助言を受け入れられる判断力、何よりもそれらを全力で活かせる戦闘能力……。

 

 それらを兼ね備えた貴殿もまた、特A級に値する素晴らしき強者であろうな! ロックマンエックス殿、この一騎打ちは貴殿の勝ちに候!」

 

「アルマージ……。俺には分からない。あなたほどの侍が、どうしてスティグマの手先になってしまったんだ!?」

 

「それは、アルマージが侍だからこそだ。侍であるアルマージにとって、スティグマはいわば総大将。武士道に則って奴に従うことにしたのだろう」

 

俺に疑問に、桜樺が推測で答えてくれる。

そしてアルマージはその推測を肯定した。

 

「半分は桜樺殿の推測通り。残りの半分は、かつてパキスタンの反レプリロイド主義の政治家の陰謀から、命がけで第8機甲部隊を守り抜いてくれたことへの御恩返しだ」

 

「だからと言って! 道を踏み外した奴に従うなんて間違っている!」

 

「確かに、スティグマ殿は道を踏み外した文字通りの外道……。されど、某の願いを聞き入れてくれただけでなく、勝利も願ってくれた“漢”でもあられる!」

 

「それでも、あなたまで道を踏み外して従うほどの価値なんかないよ! これからは一緒に戦おう! ワールドスリーからみんなを守るために!!」

 

俺は、認めるわけにはいかない!

アルマージが道を踏み外してまで従う価値が、スティグマにあるなんて!!

認めてたまるか!

そんな俺の言葉を意外に思ったのか、アルマージは畳の上に置いてあった刀を拾い、俺の方へと近づいてくる。

 

「スティグマ殿もまた、特A級に相応しい。名刀『紫炎』。某が知る限りで、レプリロイドを切り裂いて刃こぼれ一つせぬはこの妖刀一本のみよ……。一緒に……、みんなを守るために……か……」

 

アルマージは呟いた後に抜刀。

その刹那………………「切腹」した!!

 

「ア……アーマー・アルマージ!!!」

 

「狼狽えるな……エックス殿。某はワールドスリーに合流した際、忠誠の証としてスティグマ殿の了承を得て秘密裏に爆弾を己の身に仕掛けた。その起爆コードを切るには……これしか、方法が……無かっただけに過ぎぬ」

 

俺は瞬時に駆け寄る。

俺だけじゃない。

桜樺も、アクセルとレッドも、メディも駆け寄ってくる。

 

「急いで運ぶんだ!」

 

「その前に応急処置しなきゃ!」

 

桜樺とアクセルが焦る中、レッドとメディはひどく沈痛な表情になる。

 

「無理だ。動力炉まで貫通している。……チクショウが!」

 

「そんな……、いつの間にか各部位も激しく損傷している。間に合わない…………!」

 

たとえそうだとしても……!

俺はあきらめない。

 

「死んじゃダメだ! アルマージ!」

 

「これで……よいのだ。この爆弾は、某がスティグマ殿を裏切った瞬間に起爆するようになっている上に、無効化すれば制裁として体内の各所に仕込んだ超小型爆弾が起爆して内部から某を抹殺する仕組みにしてある。

 

 このような厄介な物を抱えたまま寝返るより、ここで自害する方が貴殿の迷惑にはならぬというもの……。某は侍。どうせ死するなら己が手で堂々と死に逝く方が貴殿とスティグマ殿への礼儀であろう。

 

 『葉隠』が一文に『武士道とは死ぬことと見つけたり』とある。意味は、腹を括って進むだけのこと、常に死ぬ覚悟をしておくこと。同時に『葉隠』は、武士道とは死に狂いであるとも説いている。某はその通りの生き方をしたまでのこと。

 

 某は……最後に貴殿のような素晴らしき戦士と戦えた。武士道とは死ぬここと見たからこそ死に狂い。十分すぎるほど満足している。……!?」

 

たとえ、覚悟していたしても、俺は……。

俺は……!

 

「俺と戦うためだけにそこまで覚悟したのか……。俺と……」

 

「涙……。スティグマ殿が貴殿の無限の可能性を信じていた理由を今になって完全に理解できた。涙を流せる貴殿こそ、レプリロイドの新たなる可能性そのものかもしれんな。受け取られよ、某の武器チップと紫炎を」

 

そう言って、アルマージは刀を引き抜いて鞘に収め、武器チップと共に俺に差し出してくれた。

俺は、ただ、無言で受け取る。

言葉はいらない。

受け取ることが、今の俺の言葉だから……。

 

「メディよ。元第8機甲部隊員総員への最期の命令を伝えて欲しい。一同、某亡き後はエックス殿に従うように、と……。そして貴様も、これからはエックス殿に従うのだ」

 

「了解しました………………」

 

アルマージはメディへの最後の命令を終え、桜樺にも語りかけた。

 

「桜樺殿。エックス殿のことをよろしく頼む。エックス殿には貴殿のような強き女性の守護が必須だからな……」

 

「任せておけ……。? そういえば……VAVAの気配が消えている!?」

 

桜樺が思わず声を上げた直後、俺はVAVAが座っていたはずの畳の方を見る。

……いない!?

直後、驚いている俺たちをあざ笑う声が聞こえる。

声の主は……銀鬼だ!

 

「お、お前たちが浪花節をしている間に、奴なら『浪花節は苦手だ』と言って一足先に帰ったぞ……! な、何が武士道だ! 最後に笑うのは最後に生き残った奴、つまり俺のことなのだ!!」

 

貴様……!

どこまでアルマージの覚悟を愚弄すれば気が済む!

 

「恵玖須。アルマージへのせめてもの手向けだ。奴に引導を渡すぞ!」

 

「了解!」

 

悪足掻きで立ち上がり、突撃してくる銀鬼を睨みながら俺たちは言葉を交わす。

静さんを……、今まで多くの人たちを手にかけてきた代償をここで払って死ね! 悪鬼羅刹め!

 

「「ダブルアタック、スタート!!」」

 

俺たちの怒りが、力に代わる!

火傷しそうなほどの熱気を感じさせながら!

 

「私は感じたい、お前の命を」

 

「俺は分かりたい、あなたの勇気を」

 

「この刀に込めるは明日が平穏であるようにとの願い」

 

「振るうは誰かを愛するみんなを守ると誓ったから」

 

「「『つつみ込むように…』!!!」」

 

桜樺と俺が一緒に握った刀が光り輝く。

縦一文字で振るった瞬間、光が刀身状の光線になって銀鬼を真っ二つにした。

 

「お、俺が……死ぬ? こ、こんなのあり……かよ!? 俺が、俺が最後に笑うはずだったのに……! 何故俺がお前ら如きの手で死ぬのだぁあああああああああああああああああああーっ!!」

 

銀鬼は自分の死を受け入れられぬまま、眩い閃光に消されるようにその肉体をバラバラに粉砕されて死んだ。

静さん、あなたの無念は今、あなたの娘と俺が祓いました。

 

「これで、安心してこの世を去れる。……一つだけ気がかりを言えば、我らレプリロイドは死した後にどこへ逝くかが気になることぐらい。……それも、じきに分かる。ロックマンエックス殿、鬼巫女桜樺殿、御両名、御美事なり!!」

 

俺たちが振り返った直後のことだった。

彼が、アーマー・アルマージが笑顔で向こうへ逝ったのは………………。

 

「アーマー・アルマージ様の死亡、……確認…………されました」

 

「アルマージ……!」

 

泣いちゃ……ダメだ……!

アルマージは満足して死んだんだ。

だから……!

 

「涙を流せるなら、泣いた方がいい。泣きたくても泣くことのできないメディ達の分も……」

 

必死でこれ以上泣くのを堪えようとした俺を、桜樺は不意に抱きしめた。

そして自分も泣きそうな顔をしているのに……。

だから、俺は、泣いた。

アルマージの名を叫びながら。

 

「うあああああああっ!! アルマージぃっ!!! ああ……わあああああああああああああああああ………………」

 

 

 

 

 

 

牛古嶺街の伝統あるレストラン。

俺たちは一応、祝勝の宴会をしていた。

だけど、俺は全然喜べなかった……。

殆ど茫然自失の状態になっていることは自覚できている。

時折、首を動かして周囲を見ることぐらいしかできなかった。

バーボンを幸せそうに飲む人、俺を見て小声で話し合う親子連れ、心配と好奇心が混ざった表情をしているウェイトレス……。

そして真正面を見ると、当たり前だけどテーブルを挟んで桜樺がいた。

凄く心配そうな表情をしている。

 

「例えば、俺がさっき空にしたグラスの中身がバーボンだったとしても、泥水だったとしても……俺たちには大差ない」

 

不意に誰かが話しかけてきた。

声のした方向に首を動かすと、さっきバーボンを飲んでいた人がいた。

 

「俺もお前も、戦闘用レプリロイドだ……。そこに思想どうこうは関係ない。なあ……エックスよ……」

 

この声は……聞き覚えがる……!

まさか……!

 

「その声! VAVAなのか!?」

 

その声に、桜樺を初めみんなが驚愕する。

しかし、VAVAは落ち着いた態度のまま、本来の姿に戻った。

俺は席を立ってVAVAと対峙するように奴を睨む。

 

「声だけでよく分かったな。そうだその顔だ、その目だ。さっきまでみたいな腑抜けじゃない、今のお前だ! 俺が倒すべき標的は! 甘さを捨てたお前だ!! ロックマンエックス!!」

 

「お前に一つ尋ねたいことがある。お前は自分が飲んでいたものがバーボンでも泥水でも、レプリロイドにとっては大差ないと言った。だったら何故あんなに幸せそうに飲んでいた!?」

 

「…………しばらく見ない内に強くなったついでで随分と生意気になったようだな。いずれ、お前と決着をつける日が来る。その時まで強くなっておいた方がいい。弱いと力の見せつけがいがないからな! フハハハハハ!」

 

VAVAは高笑いを上げて、悠然と外へ出て行く。

俺は、奴の姿が見えなくなるまで、奴の後姿を睨み続けていた。

 

「恵玖須……」

 

桜樺が心配そうに俺の肩に手を置く。

でももう大丈夫だ。

そうだ、VAVAもスティグマもいまだ健在なんだ。

アルマージ、俺は負けない。

 

「どんなに辛くても悲しくても、ここで腑抜けるわけにはいかない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ローリングシールド』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

アラブ首長国連邦の構成国が一つ、ドバイ。

ゼロの懸命の調査で、その国の領内にある砂漠の大工業街の恐るべき秘密が明かされた。

ワールドスリーの軍需工場が紛れ込んでいたのだ。

そこで俺たちは知る、その工場を支配していた彼女たちの悲痛な真意を。

次回! 「ドバイ・コーヒーポット・コネクション」。

砂漠の街に蔓延る悪の花園を八つ裂きにするため、魔法の斬姫はチェーンソーを振るう!

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



鋼鉄の甲弾闘士 アーマー・アルマージ

アルマジロ型のレプリロイド。
二足歩行式戦闘装甲車両集団とまで言われた第8機甲部隊の元隊長。
礼と武士道を尊ぶ堅物の侍であり、その高潔な人格から第8機甲部隊では意図せず絶対の地位を築いていた。
以前、パキスタンでのある任務で反レプリロイド思想の政治家の罠にかかり隊が濡れ衣を着せられるも、仲間の無実を証明せんと殴り込んできたスティグマの活躍によって事なきを得ている。
この件に対する並々ならぬ恩義と武士道精神から、スティグマに対して絶対の忠誠を誓った。
その忠誠故にかなり早い段階からスティグマの目的に賛同してワールドスリーに参加。
蜂起から数日前に極秘任務時の事故を装って合流しようとするも、自分に忠誠を誓う部下たちの熱意を無下にすることができず、意図せず第8機甲部隊ごと合流。
これを嬉しく思っていた一方、メディ以外の部下全員がスティグマへの従属の意思を持っていないことも見抜いており、内心部下たちを組織の内患と危険視もしていた。
一騎打ちに敗北した後、これからはワールドスリーからみんなを守るため一緒に戦おうとエックスから説得され、心が揺らぐが…………。


新月の暴虐将 銀鬼

鬼の一人にして、歴史の陰で悪名を轟かしてきた大妖。
強大な力と鬼畜生を体現した性格を併せ持つ文字通りの悪鬼羅刹であり、正に外道。
かつて、鳳蓮の最高位の退魔師だった山上静に勝利し、彼女を虜囚とした。
この時に静が身籠った子供が桜樺である。
つまり桜樺の父親であるが、親としてはクズ以外の何物でもなく、以前桜樺を捕らえた際はとんでもない行為に及ぼうとまでした(詳細はKTCから発売中の『鬼巫女桜樺』で確認されたし)。
その時はイレギュラーハンターが実行した掃討作戦で日本にいられなくなった上、事態に偶然介入してしまったエックスの横槍で桜樺渾身の反撃を受けて深手を負うという、泣きっ面に蜂を絵に描いたような惨敗を喫している。
その後は中合国に潜伏していたが、日本の裏社会の支配権を報酬に協力を求めてきたスティグマの誘いに乗じてワールドスリーに参加し、存在が忘れ去られていた鉱山に残された資源や金銀財宝を回収する任務に就いてた。
スティグマに対して私怨や思うところはあったが、エックスと桜樺から受けた屈辱を晴らさんとする意志の方が強く、スティグマが気前よく支援してくれたのもあってか彼に対する悪感情はかなり薄い。
アルマージとの相性は最悪であり、武士道に生きるアルマージを露骨に嘲笑し、同時にアルマージからも徹底的に軽蔑されていた。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

アルマージ
・これはもう説明不可能。ボンボン版そのまんまです、はい。
・武器チップを渡してからの流れはボンボン版とだいぶ違うものになったけど、これは「切腹までしたのだからそのまま死なせた方がアルマージへの礼儀になる」と思ったから。どっちにしろ、エックスの心に深い傷を残すことに変わりはなかったけど……。

銀鬼
・こいつは『鬼巫女桜樺』本編の悪役。文字通りの鬼畜生。
・原作では大勝したけど、バッドエンドが嫌いな俺が書くこの小説に登場した時点で「むーざんむーざん」な死に様は確定していました。
・本文ではそこまで強大な印象は受け難いですが、それは単に桜樺が強すぎたからです。実際、原作でも腕っ節の方は鬼の力を解放した桜樺の方が遥かに上だったし。

他のキャラクターや設定あれこれ
・メディは『ロックマンエグゼ5』の同名のキャラクターが元ネタ。舞台が舞台なんで出すことに。
・VAVAの台詞に対するエックスの意外なツッコミは、『キャ○テン・○メリカ ザ・ファースト・ア○ンジャー』のオマージュ。
・メディが制御していたトロッコのトロッコじゃないアクションの数々は全部意図して書きました。
・桜樺の秘技「惚れた男と身内には見せられないパンチ」は『史上最強の弟子ケ○イチ』の登場人物、裏ム○タイ界の死神「アパチャ○・ホ○チャイ」の技が一つ「○い子には見せらんないパンチ」のパロディ。あまりの激しさにエックスたちがドン引きする場面もパロディの一環だったりする。更に言うと、桜樺のシャウトは『北斗の○』の主人公「○ンシロウ」が悪党をボコボコにする際の怪鳥音のパロディ。
・アクセルとレッドの登場は、世界観の違いをより分かりやすくするため。ちなみに台詞もないし名前も出てないけど、X7の8ボスたちはちゃんと登場しています。レッドが言及した9人目に関しては、本作中では正体は明かされないので気長に待ってね。
・段々と受けキャラ的な仕草が多くなってきたエックス。どうしてこうなった。(書いてるこっちとしてもああなるとは思わなかった)





普通のあとがき
・PCの故障が連続して起きるなどのとんでもないアクシデントが重なり、投稿が遅れに遅れました。これに関してはひたすらお詫び申し上げるしかない。
・少しでも執筆ペースを元に戻さないといけないな……。


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STAGE 5:ドバイ・コーヒーポット・コネクション

WARNING!
前半部分に主人公を対象としたセクハラ未遂描写があります。
「エックスはそんなに女々しくない!」と考えている方はご用心ください


「日差しが強いな……」

 

ここは西アジア(中東とも言う)のアラビア半島南東にあるアラブ首長国連邦、通称ア連(作者注:この通称は作中オリジナル設定)の構成国が一つ、ドバイ首長国。

国内総生産の総額こそア連の首都国であるアブダビに劣るが、その成長率の高さと経済政策の巧みさからア連のマネーシンボルとなっており、西アジア1の金融センターとして不動の地位を確立している。

この国は宗教的制約がア連全体は勿論のこと、西アジア全域から見ても極めて薄く、おかげで西アジアの国でバーレーンの次にレプリロイドを受け入れることができた。

その影響なのか、ア連はバーレーン共々今のところワールドスリーの攻撃を不自然なほど受けていない。

経済の多角化にも成功しており、近年では工業力強化の一環としてインダストリーオアシスなる大工業街も作られた(この点はここに行く前にゼロに教えてもらった。

今回、俺たちが調査に向かう街でもある……。

 

「それにしても、あのお2人がですか? いくらなんでも信じられない。ドバイのために尽くしてくれたあのお2人が?」

 

「疑う気持ちは分かります。俺も、信じたくはないから」

 

ドバイ総合大豆事業株式会社の社長で今回の案内役である、アイユーブ・サイード・タージルソーヤー(苗字はアラビア語で『大豆商人』らしい)さんが疑いの感情むき出しで訪ねてくる。

 

「信じられないなら、なおさら実際に見て確かめるべきです。イレギュラーハンターの調査が間違っているかどうかをその目で確かめれば確実だと思います」

 

「……お嬢さんの言う通りですね。まあ、いいでしょう。あのお2人がどれだけドバイのために尽くした立派な方たちかをお見せするいい機会ですから、そちらのアジテーションに乗ってあげますよ」

 

真田(さなだ)理瀬(りせ)さんがアイユーブさんを挑発染みた言葉で説得しだす。

それを聞いて内心ムッとしたのか、アイユーブさんは納得しつつも急に偉そうな態度になった。

理瀬さんはそれが最初から狙いだったのか、俺の方を見て少し得意げな表情を見せる。

 

「案内役さんが俄然やる気になってくれたわ」

 

「言い方があると思うんだけどなぁ……」

 

確かにアイユーブさんはやる気を出してくれたけど……。

どうしてこう毎回毎回不安要素が付きまとうのだろう?

雲一つない青空が多少は不安を薄めてくれる。

だけど、灼熱の空気にそれが相殺されていくような感覚が走った。

 

 

 

 

 

STAGE 5:ドバイ・コーヒーポット・コネクション

 

ステージボス:『紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク』 『砂漠の花園の庭師 フラワリーローゼ』

 

 

 

 

 

「プロパガンダですか?」

 

「悪意を多分に含んだ言い方じゃのう。ワシとしてはおぬしの活躍を純粋に評価したまでじゃ。ワールドスリーの最高幹部の内、8人を撃破。そのうち4人は元特A級ハンターじゃ。最早おぬしをB級のままにしてはおけぬのじゃ」

 

「俺の記憶に変な鍵を何重にもかけておいて……」

 

俺のストレートな批判を受けてもDr.ケイリーは全く悪びれていない。

ここは霞ヶ関の真横、日比谷公園の敷地内にあるイレギュラーハンター本部内の第17精鋭部隊隊長用執務室。

本来はスティグマが使っていたが、奴が裏切った今、この部屋はDr.ケイリーのプライベートルーム状態だ

俺は今、この部屋で辞令を下された。

特A級への昇格と…………第17精鋭部隊2代目隊長への就任を。

 

「その鍵のベースを作ったのは、ライト博士じゃがのう」

 

「!? ライト博士を知っているのですか?」

 

「その様子じゃと、出生のことはある程度まで思い出したようじゃのう。知っておる。おぬしを封じておったカプセルに遺したメッセージで存在を知ったのじゃ。メッセージの内容は……今は言えぬ。

 

 なお、出生に関しては他言厳禁じゃ。追ってシグナスから同じ内容の命令が来るから心しておけ」

 

「……了解」

 

メッセージの内容は恐らく、ライト博士があの時言及した『危険』についてだろう。

何となくだけど、そうだと思ってしまう。

俺の出生……。

俺は、レプリロイドに「当てはまる」のだろうか?

異世界で作られた「ロボット」である俺は……! 俺は!!

 

 

 

 

 

「メディ。ゼロからの連絡は?」

 

「先ほど、ア連にて手がかりを見つけた、との報告がありました。決定的な情報を入手次第、確実にこちらへ渡すため帰国するそうです。隊長、別件ですが、マスコミが入口に大挙して足寄せているそうです。ランク昇格と就任の件に関してとのことです」

 

「JLBG(※日本ローカル放送局ギルド=Japan Local Broadcast stations Guildの略)以外は追い払ってくれ。俺はJLBG以外の取材は受けたくない」

 

「彼らはDr.ケイリーから正式に許可をもらったと主張しています」

 

またあの人か……。

恐らく許可の件は完全に本当のことだろう。

仕方ないな……。

 

「分遣親衛隊に通達。間に合わせでいいから記者会見の準備をするように伝えてくれ」

 

「了解」

 

やれやれ……。

本当にJLBG以外の取材は受けたくないんだけどな。

あの人の思考は理解できない。

 

 

 

間に合わせの記者会見の場。

横山さんたちは……よかった、来ている。

だけど、砂山さんの姿が見えないな。

JLBG以外のテレビ局の連中の目つき顔つきがとても嫌らしく見えてしまう。

横山さんたちが来ていることに安心した分、余計にそう感じる。

そう思っていたら、一番槍とばかりに横山さんが口を開いた

 

「今回、特A級への昇格と同時に、第17精鋭部隊の隊長に就任したそうですが、その件についてのご感想はありますか?」

 

「今日、いきなりDr.ケイリーから直接通達されたので、これといった実感はまだありません」

 

とりあえず、当たり障りのない質問だけ出てくる。

なので俺も当たり障りのない答えだけで返す。

記者会見は、それから数十分後に終わった。

なので俺は変えることにしたのだが……ここ最近、家に帰れない日が断続的に続いたので今日は銀座でお土産でも買っておこう。

 

 

 

 

 

というわけで、ここは銀座。

日本が世界に誇る超高級商店街で、地価の高さも日本一。

そんな銀座の高級洋菓子店でお土産を買いました。

少し気分よく店を出ると、見知った顔がありました。

 

「桜樺」

 

「恵玖須か。どうしたんだ? 銀座(ここ)にいるとは珍しい」

 

「家族にお土産を、と思って」

 

そう言ってケーキの入った手提げ箱を見せたら、桜樺はあっさり納得してくれた。

 

「そうか。私は、依頼で来た。ちょうど標的の内の片方を追っているところでな」

 

片方?

複数の敵が相手、という意味だろうか?

 

「先に片づけたもう片方は妖怪たち。今追っているのは、銀座にそいつらを紛れ込ませた『人間』だ」

 

「人間がどうしてそんなことを……!?」

 

俺が驚くのは想定内だったらしい。

桜樺は冷静に説明してくれた。

 

「世の中には、悪い妖怪と徒党を組んでいる悪い人間もいるということだ。人間の中にも悪い奴がいることぐらい、分かるはずだ」

 

「うん」

 

力強くうなずいたのを見て安心したのか、桜樺は柔らかい笑顔を見せてくれた。

しかし、後ろを振り向いた瞬間、銀髪赤眼になってから真後ろにいた人を蹴とばした!

 

「祓い給えー!!」

 

「どぅーん!?」

 

「だぁあああああー!」

 

蹴とばされた人はビルの外壁に思いきり激突!

手足が変な方向を向いている……。

 

「……言っておくが、そいつは片方の内の1人だぞ。ぬおおおお!」

 

振り向くことなくそう言った直後、今度は正面から突っ込んできた「片方」の内のもう1人を銀鬼を叩きのめした時のように鉄拳の嵐で容赦なく滅多打ちにする。

銀鬼に対しての時ほどじゃないがかなりの勢いだ。

流石に大勢の人たちが見ている場所で殺したら色々とまずいから止めないと!

 

「お、落ち着け私の恵玖須……。お前の桜樺は至って…………冷静だ」

 

誰がどう見ても極度の興奮状態じゃないか!

羽交い絞めにして止めようとしているのにまだ相手を殴るつもりだ。

こうなったら、禁じ手だけど……!

 

「ごめん!」

 

「ひゃあっ!?」

 

後ろから胸をもむついでに耳たぶを唇だけで甘噛み!

分かってるよ、言いたいことは。

誰がどう見ても痴漢かセクハラだよね!

そんなの承知済みだよ!

 

「落ち着いた?」

 

手と口を離して距離を少し置き、俺は桜樺に問いかける。

桜樺みたいなタイプの女性なら、セクハラされた挙句しれっとこんなことを言われたら普通は確実に怒る。

しかし、桜樺はどちらかというと年頃の少女みたいに顔を赤らめて恥らっていた。

 

「とりあえずはな。……ああいうのは、せめて二人きりの時にしてくれ」

 

「善処させてもらいます……」

 

結局、この時は桜樺に促され帰宅した。

あの光景は当然ながらその場にいた人たちに目撃されており、帰宅直後は(恐らく翔子さんかエミット経由で)事態を知ったらしい姉さんがちょっと不機嫌だった。

お土産を見せたらすぐに機嫌を直してくれたけど。

 

 

 

 

 

次の日、蘭が峰学院。

昼食を済ませて図書室で本を読もうと畳が敷かれているフロアで座った瞬間、何かがぶつかって倒れてしまう。

何事かと思ったら、やいとや上級生下級生を含む他の女子たちがのしかかっていたのだ。

瞬間、やいとが吼えた。

 

「昨日! 銀座にいたでしょ!」

 

「! どうしてそれを!?」

 

「私が説明してあげますわ」

 

そう言ったのは、初等部5年生の伊集院杜論(いじゅういん トロン)。

やいとの家に並ぶ大金持ち・伊集院家の長女だ。

弟である炎山(えんざん)も初等部の3年生として在籍している。

 

「昨日、お兄様が銀座でのお仕事を終えて帰宅しようとしたところ、この間妖怪相手にあなたと一緒に戦っていたあの巫女さんが悪者を殺しそうになっていたのを誰かが止めていたところを見ていたのよ。

 

 それで後ろから抱きつくように胸を鷲掴みにした挙句耳を甘噛みして止めるを見て唖然とした、って呟いていたわ。それなら普通の『エロガキ』の目撃談で終わるんだけど、お兄様が言っていたそのエロガキの特徴を聞いてビックリしましたわ。

 

 よりにもよって、髪の色がとぉおおおおおおっても綺麗な! あ・か・む・ら・さ・き・だったんですから!!」(※忘れている読者がいる場合に備えての補足:カメリーオ撃破以降のエックスの髪は赤紫(マゼンタ)です)

 

……ま、まさか杜論のお兄さんである流捉符(ルドルフ)さんがあの場にいたとは!

桜樺を止めるのに必死で全然気づかなかった。

なんて思っていたら、やいとが自分のお尻を俺の顔に押し付けてきた!

 

「で、どうする? お仕置きしちゃう? まずは軽く強制ストリップ」

 

「ナイスアイデア。綾小路さん、その後はデッサン会でもします? 一糸まとわぬ恵玖須君をモデルにして」

 

トロンがすごく怖いことを言っている!

何とか振りほどこうとするけど、レプリロイドの力でそれをやろうとするとやいとたちを怪我さでせかねない……。

そうこう考えている内に、他の女子たちに手足を掴まれてしまう。

 

「そ・れ・じゃ・脱いじゃいましょ……」

 

やいとが言い終わる前にいきなり引っ張られ、壁に叩き付けられる音が響く。

黒髪に緑色のリボン……。

 

「桜樺!?」 

 

「大丈夫か?」

 

「俺もいるぞ」

 

ギリギリのところで桜樺と……ゼロが駆けつけてくれた!

助かった……。

 

「ゼロ!」

 

「しかし、油断も隙もないな。こいつらは」

 

自分が蹴ってダウンさせた女子たちを見て、ゼロは呆れながら呟く。

流石にレプリロイドであるゼロに蹴られたから、ちょっと心配だ。

 

「加減は、したよね?」

 

「お前を助けるのを優先したから、少し緩くなってはいた」

 

あまり悪びれていないように聞こえる。

確かに、ゼロはこういうことになるとちょっと熱くなることもよくあったけど……。

一方、桜樺はやいとを思いっきり睨んでいた。

やいとの方もかなり険しい表情で桜樺を睨んでいる。

 

「この間といい、今回といい……!」

 

「惚れた男を助けることの何処に問題がある!」

 

助けてもらっておいてこう思うのはあれだけど、かなり空気が悪い。

杜論は、こことは違う学校の制服を着た人に羽交い絞めにされている。

よく見たら、俺がわずかに知っている人だ。

 

「……理瀬?」

 

「呼び捨ては感心しないわね」

 

間違いない。

この人は真田理瀬。

姉さんと華鈴さんに次ぐ、もう一人の魔法少女……。

 

「放してくださいません?」

 

「恵玖須の身の安全を確保でき次第、になるわね」

 

理瀬さんと杜論の方も険悪な雰囲気だ。

そんな状況何するものぞ、と言いたげに薄手のワイシャツとカジュアルなスラックスを着こなした男が立っていた。

何故だろう? どうにも日本人とは違う雰囲気を感じる。

 

「お前が恵玖須か。俺は第16装甲交通部隊の隊長、フィスター・ハン。よろしくな、第17精鋭部隊の2代目隊長さん。人間だが、正真正銘の特A級さ」

 

ハン?

苗字からして……。

 

「韓王国人?」

 

「まあ、苗字を聞けばそう思うよな。でも外れ。俺はコリア系アメリカ人さ。親が軍事独裁国家になった旧大韓民国からアメリカに逃げて、それから大分経って生まれたんだよ。ちなみにシアトル出身のシアトル育ちだ。

 

 名前に関しては、半島から決別するために俺の名前を英語っぽい響きのにしたって親の遺品の日記に書いてあった」

 

フィスターは苦笑しつつも自分がアメリカ人であると明かしてくれた。。

韓王国(正式名称は大韓王国)より以前にあった『大韓民国』は、軍事独裁政権を嫌った黒帝の介入で朝鮮民主主義人民共和国ごと瓦解。

その後、空白地帯となった朝鮮半島で建国されたのが韓王国だ。

建国時から「儒教を世界に誇れる正しい宗教に昇華しよう」をスローガンとした文化更生政策による、民族意識の改善を長期スパンで実行中と聞いたこともある。

……授業の内容を思い出していたら、ゼロが真剣な表情で語りかけてきた。

 

「5組目の所在がやっと分かった。ドバイだ。そいつらにセクハラされてる暇はないぞ」

 

 

 

「インダストリーオアシス?」

 

「第二次メッカ戦争後の西アジアでの経済におけるイニシアチブを取るため、ア連構成国の一つであるドバイが市街地の南、ちょうど領地のど真ん中辺りに作った大工業街だ。第二次メッカ戦争における第4陸戦部隊の奮戦を讃え、同隊の拠点にもなっている。

 

 あの隊は現在、隊長がワールドスリーに合流して行方知れずになっているがな」

 

なるほど……。

60年代、人権問題に加えてレプリロイドの存在の是非が引き金となって勃発した第一次メッカ戦争。

4年前のアメリカ同時多発テロ未遂事件の延長線上で発生した第二次メッカ戦争。

いずれも、レプリロイドの力を借りることができた容認派の勝利で終わった。

第4陸戦部隊はドバイから特別に活動拠点をもらったことは聞いていたけど……。

 

「そういえば、“彼女”がワールドスリーに合流したことに関して、第4陸戦部隊はどんな反応をしていた?」

 

「本部の極秘任務で姿を消している程度にしか考えていなかったな。ドバイの住人達は一人として、あいつの離反を信じていない。第二次メッカ戦争で活躍した女傑が、世界征服をたくらむ悪の軍団に協力するわけがないと思っている」

 

ゼロは吐き捨てるように言う。

けど俺は、ドバイの人たちや第4陸戦部隊の隊員たちの言い分もなんとなく分かる。

ア連のために我が身を犠牲にする勢いで戦った彼女を、バーニン・エコエコアザラクを信じたいと思うのは当然だから。

問題はもう1人。

人間の女の人の方だ。

 

「ゼロ、アザラクの相棒の方の詳細は?」

 

「去年の秋ごろ、ふらっとインダストリーオアシスにやって来て、どんな魔法を使ったのか街の周辺を瞬く間に緑化してみせたそうだ。奇跡を目の当たりにした住人や第4陸戦部隊の連中に歓迎され、最終的には街の緑化計画課の課長にまでなったと聞いたぞ。

 

 名前については、『フラワリーローゼ』と自称していたことぐらいしか分からなかった」

 

「私はその人のことを知っているわ」

 

ゼロの説明を補足するかのように、今度は理瀬さんが口を開く。

 

「栗実女学園に勤務していたけどある時姿を消した教師、芝月(しばづき)京子(きょうこ)先生。それがその人の正体よ。以前は『マジカルローゼ』と名乗っていたけど。何故ドバイに行ったのかは検討が付かないわ」

 

その言葉で、俺は思い出した。

理瀬さんが魔法少女になったきっかけも。

そしてファーストコンタクトも。

 

「そうか、ミーマが言っていた『不良品のバトンを手にしてしまった』人たちの1人だったんだね。今回はすぐに思い出せたよ。ゼロたちは知らないと思うから説明するけど……」

 

 

 

数分後。

俺の説明を聞いたゼロの表情は極めて険しくなった。

桜樺やフィスターも似たような表情だ。

 

「1人の馬鹿のせいでとんでもないことになっていたんだな」

 

「スーサもまさかあそこまで取り返しのつかない事態になるとは思わなかったんだ。それに、今は必死に償っている」

 

「洒落にならない犠牲が出たのは事実だ」

 

「ゼロ!」

 

確かにスーサの軽率な行動のせいで多大な犠牲が出たのは本当だけど……。

だけど……。

そんな「償う資格もないから死ね」みたいな言い方は!

 

「ゼロと桜樺からお前の優し過ぎる性格は聞いていたが、聞きしに勝るな」

 

「フィスター……」

 

「マジカルディーバの犠牲になった人たちにしてみれば、奴に力を与えてしまったスーサも死んでほしいと思えるぐらいの極悪人なんだ。価値観っていうのは、そういうもんさ」

 

フィスターの言う通りかもしれない。

けれど、その主張には納得しかねる自分がいる。

そんなことを思いながら落ち込んでいたら、理瀬さんが穏やかな目で俺を見つめていた。

 

「是魯とフィスターさんの言い分も正しいけど、私はあなたが今思っていることも正しいと思うわ」

 

「理瀬さん……」

 

「行きましょう。砂漠の大工業街へ!」

 

「うん!」

 

俺は力強く頷く。

俺のその反応に安心したのか、理瀬さんは直後に柔らかい笑顔を見せてくれた。

その一方で、桜樺とゼロは少し残念そうな表情をしている。

 

「本当なら私も同行したいが依頼が溜まっている。しばらくはそっちを片付けないといけない。すまないな」

 

「俺もデスログマーの行方を突き止めるようにシグナスに命令されていてな。気をつけろよ」

 

「桜樺……、ゼロ……。大丈夫だよ。理瀬さんが同行してくれるから」

 

 

 

 

 

時は現在。

俺たちはフィスターが運転する車でインダストリーオアシスを目指していた。

 

「今気づきましたけど、この車って後部座席が恐ろしく広いですね」

 

「Dr.ケイリーが開発した強化乗用車の一種で、部分的な圧縮空間になっているんです。ただ、大破したら最後、内部が爆発的な勢いで飛び出すから、普通の車より運転に慎重にならざるを得ませんけど」

 

「その割には、運転している人はオフロードのRCカーを動かすように物凄いスピードを出していますがね」

 

アイユーブさんが少し不機嫌そうに呟いた。

確かに、フィスターの運転はかなり激しい。

スピードの方も風景の流れる速さから目算して、200㎞近く出していることが分かる。

 

「俺はケイリーのばっちゃんに目をつけられるまでは走り屋をしていたからな。こういうだだっ広いところをトロトロ走る気になれないだけさ」

 

アメリカは、州によって異なるけど運転免許を得る際の年齢が日本より低い。

きっとフィスターは高校生の頃から乗り回していたに違いない。

じゃなきゃ今みたいなことは言えない。

 

 

 

インダストリーオアシス。

俺たちは唖然とするしかなかった。

まるで森の中に多数の工場がひしめいているかのような状態になっていたからだ。

 

「これがあのお二人の働きぶりの一端ですよ。この街は工業力強化だけでなく、ア連におけるレプリロイドの地位向上と緑化のシンボルでもあります! 街そのものが治安安定に貢献したアザラク女史と、緑化に貢献したローゼ女史の功績でもあるのです!」

 

アイユーブさんは目を輝かせながら語りだす。

よほど尊敬しているのだろう。

しかし、すぐに表情を曇らせる。

 

「……これで、ローゼさんが清い体だったら何の問題もなかったんですけどね。ローゼ女史がここを緑溢れる街にした際、私の部下がトチ狂って彼女にプロポーズしたんですけど、『非処女』を理由に断られたんですよ。

 

 ほら、ここってイスラム教国じゃないですか? 部下は大ショックですよ。でもね、非イスラム系の国でネンネを辞めちゃってるから、表だって文句も言えなかったんですよ!」

 

「……『敬虔な』ムスリムの女性観がよく分かる主張ですね」

 

「あ? 何ですか? その悪い意味の含みを持たせたような言い方」

 

「真実を言っただけですけど。それにムスリムは女性の性犯罪被害を全面的に被害を受けた女性の非にしているじゃないですか!」

 

「いつの認識ですかそれ! そんな認識はもうドバイじゃ通用しねえんだよ! ていうか、そうなるまでの経過がどんだけ大変だったか知らねえガキが語るんじゃねえよ!」

 

「そのガキ相手にムキになるような子供っぽい大人の言葉に説得力なんかありません!」

 

「それどういう意味だよ!? 説明しやがれ! 目の前にいる日本の女子中学生めがー!」

 

理瀬さんのツッコミにヒステリーを起こしたアイユーブさんが、彼女に掴み掛らんばかりの勢いで更に激昂しだす。

あまりの大人げなさに、フィスターが羽交い絞めにしてまでアイユーブさんを止めている。

売り言葉に買い言葉とはこのことだ。

だけど、理瀬さんがあそこまで刺々しくなったのも仕方ないと思う。

 

「アイユーブさん。確かに理瀬さんはあなたが言った、ドバイがたどった女性観を改めるための苦労の数々を知りません。けれど、性犯罪の被害者の心境は嫌というほど知っていますよ」

 

「……。…………!」

 

一瞬呆けた後、アイユーブさんはすぐに俺の言葉の意味に気付いたのか、急に気まずそうな顔になる。

 

「この話はこれで打ちきりです! 今は真偽の確認を優先しましょう」

 

 

 

「完全屋内型で、なおかつ冷房完備、か……」

 

「気候が気候ですからね。緑化の影響で不快指数も大幅に上がっているので、却ってこういう方式で正解でした」

 

間接的な日光取入れ式の窓により、陽射しの強さを緩和しているので冷房による冷却効果が強化されている感じがする。

そして内部にも植物が溢れかえっている。

そのいずれもが果物や、本来は繁殖力の低い貴重な花ばかりだ。

 

「食べても害はないですよ。ここら辺に生えてるのからなっている果物は自由に採ってもいいことになっていますから。ほら、手洗い用の蛇口で水洗いもできますよ」

 

確かに、工場に勤務しているらしき人たちが果物を水洗いしてから食べている。

今不意に思い出したが、今回は横山さんたちが同行していない。

そう思って内部を見まわしていたら、なぜか横山さんたち3人と一緒に杜論がいた。

 

「ほら、合流できた」

 

「本当でしたねー。でもよくここに来るって掴めましたね」

 

「図書室でドバイの子の工業街に行く、みたいなことを言ってましたから。あなた方が取材で用があることを覚えておいて正解でしたわ」

 

何だろう、一気に不安になってきた。

理瀬さんとフィスターも不安が顔に出ている。

 

「ロックマンエックス御一行様ですね。お待ちしていました」

 

そんな中、ディグレイバーが突然現れた。

 

「私はディグレイバータイプで、ここの警備部立入禁止区画担当班の班長をしているサイオッサです。10名様、ご案内ですね……」

 

「10名?」

 

俺と理瀬さんにフィスター、アイユーブさん。

それに砂山さん、出月さん、横山さん、杜論。

……8人じゃないか?

 

「ちゃんと10名おられますよ。ほら、後ろに9人目と10人目が」

 

「? ……! ミーマ! 望さん!」

 

どういうことかと思って振り向いたら、理瀬さんの後ろにミーマと開明(かいめい)(のぞみ)さんがいつの間にか立っていた!

ミーマは若干気まずそうな顔で、望さんは険しい顔で俺を見ていた。

 

「理瀬さんからこっちに行くと聞いたので、いてもたってもいられず追いかけてしまいました」

 

「……私も」

 

望さんは理瀬さんを抱きしめる。

困惑する理瀬さんの表情を見る限り、かなり力を込めて抱きしめているようだ。

 

「浮気者……!」

 

「えっと、その、……せめて二人っきりの時にして?」

 

このまま放置してたら埒があかない。

止めないと。

そう思った瞬間、アイユーブさんが一足先に止めに入った。

 

「おほん! お嬢さん、そういうのはここでは控えてもらえませんか? シャリーアに記された罪の中には同性愛も含まれますので」

 

「それはヨーロッパの悪い部分を学んだ愚かな人たちの押しつけの結果だと思います」

 

「文句あるならサウジアラビアで言えよ! ていうかそれ以前に公共の面前でそういうことするな!」

 

「ヒステリー……」

 

「こっちでだって好きでヒステリー持ちになったわけじゃねえんだよ! バカー!!」

 

結局、アイユーブさんのヒステリーが治まったのはそれから数分後。

見かねたサイオッサさんが食堂から持ってきたシャワルマ(理瀬さんがドルネケバブと言った瞬間にアイユーブさんとサイオッサが訂正していた)を平らげてから、俺たちは突入することになった。

 

 

 

 

 

俺たちはサイオッサの案内でここの心臓兼頭脳である立地上の中心部、立入禁止区画へと入った。

機密の関係で、出入り口に入る際は砂山さんのカメラに布が被せられたけど。

ここにも一応、生産ラインは用意されているけど、作れるものは他の区画で作っているため、ここにある分は余剰設備として埃を被っているとアイユーブさんから聞いていた。

しかし……。

 

「あり得ない! どのラインもフル稼働している!」

 

「でも、作ってるのはオモチャだったり袋入りの食品だったりで、そんなに怪しいものは作っているようには見えないっすよ」

 

狼狽するアイユーブさんを余所に、出月さんは少し呑気な言葉で返した。

チーズに缶詰、食玩、『サウジシャンパン』(リンゴジュースの炭酸割のこと)と書かれている缶ジュースまである

だが、オモチャの銃を見ていた杜論が急に声を荒げる。

 

「このトイガン……、うちの会社の製品じゃないの! オマケにコストの都合で東南アジアでしか生産していないモデル! それにあの袋入りのチーズは、綾小路さんの御実家の会社がエジプト近代王国から輸入しているやつよ!」

 

何だって!?

みんなも同じ心境だったらしく、その言葉に動かされたかのようにミーマがチーズの袋を手に取り、中身を触る。

 

「このチーズ、偽物です! 袋越しにに押しつぶしても千切れません! オマケに何か別の物も袋に入っています!」

 

ミーマから受け取ったチーズの袋の手触りを確かめる。

嫌な予感がする……。

この袋を開けちゃだめだと、勘が訴えかけている。

俺は、すぐ横のラインを流れる缶詰を手に取って、少し距離が離れている壁目がけて缶詰を思いっきり壁に投げつけた。

瞬間、壁に叩き付けられて壊れ、大きな隙間ができた瞬間に爆発した!

 

「…………!! 爆発した!?」

 

「何てこった……。プロデューサー、地雷ですよ! チョコレート地雷と全く同じ原理だ!」

 

砂山さんと出月さんが悲鳴を上げる。

他の面々も唖然としていた。

アイユーブさんに至っては生気が抜けたような表情になっている。

そんなアイユーブさんを尻目にフィスターがトイガンを手にし、壁に向けて引き金を引いた瞬間にエネルギー弾が発射された。

フィスターは物凄く苦い顔になっている。

 

「トイガンの方はオモチャに見せかけた本物か……」

 

「か、確定です! この区画はワールドスリーの手で兵器工場に作り変えられたことが今この瞬間に確定しました!」

 

横山さんの、テレビの視聴者たちに向けたリポートが再開される。

まさか人知れず巧妙に潜り込んでいたなんて……。

しかも、こんな卑劣な代物ばかりを……!

 

「こんなものを作らせるような奴の名誉のために、アルマージは切腹したというのか!? 俺の目の前で死んでしまったというのか!? ふざけるな! システム・オールメガミックス!」

 

俺は、戦闘モードに移行。

機械で箱詰めされているチーズ地雷や缶詰地雷をエネルギー弾で破壊する!

 

「俺は、誰かを少しなりとも憎んだことはあった。だけど! 組織というものをここまで憎いと思ったのは今日が初めてだ!!」

 

そんな怒り狂う俺に対して、サイオッサが話しかける。

 

「ロックマンエックス……。どうか、その憎しみはあのお2人には向けないでください……。彼女たちも、ワールドスリーの犠牲者なんです」

 

「それは一体……?」

 

「彼女たちは、ドバイはおろかア連や周辺諸国そのものの安全と引き換えにワールドスリーに協力させられたのです。ですから、どうか……」

 

「教えてくれて、ありがとう。おかげで、ワールドスリーを憎む気持ちをより強くすることができた」

 

多少は冷静さを取り戻すこともできた。

直後、気配がした。

だが、その気配はミーマも感じ取っていたようだ。

 

「誰ですか!?」

 

【流石にこれ以上は姿を隠しきれなかったようだな……】

 

瞬間、ライト博士のホログラムが現れた。

今回は俺以外にも姿が見えるらしい。

 

【エックス……。それでいいのだ。真に憎むべき存在を見誤ってはいけない。怒りも憎しみも非常に危うい力だが、決して悪いことばかり招くものではない。矛先と使い方を間違えずに昇華させれば、正しい力の一部となるのだ】

 

「博士……」

 

俺の両手が白く輝く。

光が収まった後、俺の両腕は白い装甲で覆われていた。

 

【今回は、アームパーツだ。敵から入手したチップにプログラミングされた武器のチャージが可能となる。また、左手の部分はチャージショット機能を強化した予備のXバスターとなっている。

 

 構造上の問題で時間はかかるが今までよりも強力なチャージショット、『スパイラルバスター』の発射が可能だ。左右同時チャージをした場合はより時間がかかってしまう代わりに、短距離ではあるが背後の敵を攻撃できるビームソニックブームが展開される。

 

 すまない。今の私には、お前の戦う力を強めることしかできない……】

 

「博士。私はあの時、あなたに誓いました。『戦うための力を正しいことに使います』と! あなたが私を戦闘用として創ってくれたからこそ、私はみんなを守るために戦うことができるのです!」

 

【……お前は本当に優しい子だ】

 

ライト博士の表情はひどく悲しげだ。

しかし、感慨にふける間もなく、理瀬さんが声を発した。

 

「待って! あなたは誰なの!? どうして恵玖須にそんな力を与えられるの!?」

 

【私はトーマス・ライト。エックスの生みの親たる科学者だ】

 

「恵玖須を造った人……! つまり、いずれはお義父さんって呼んだ方がいいの?」

 

……この人、今何て言った!?

 

「それってどういう意味だよ!? 理瀬さん!」

 

「ライト博士はあなたの生みの親なのよ! だったらいずれは私のお義父さんになるってことでしょ!」

 

「それはこちらの言葉ですわ、真田さん! その方は私未来のお父様になるのですわ!」

 

ただでさえとんでもない状態なのに杜論まで割って入ってきた!

この非常時に!

 

「ならないよ! 第一俺は結婚する気なんてない! レプリロイドは子供を作れないんだよ! 結婚したら相手が惨めじゃないか!」

 

「それ、本気で言ってるの?」

 

「……ふーん。そ・う・い・う・考え方なんだぁ……」

 

あれ?

なぜか2人とも表情と言葉に怒気が滲み出ている。

俺、そこまで失礼なこと言ったかな?

 

【エックス。お前は彼女たちを気遣って言ったのだろうが、その優しさは人を傷つける優しさだ……】

 

そ、そうなの?

そう思った瞬間、横山さんに頭をはたかれた。

 

「それ、恋人持ちのレプリロイド全員にケンカを売る言葉ですよ! 付き合う気がないなら一言『付き合うつもりはない』っていえば済むでしょうが!」

 

 

 

数分後。

横山さんが落ち着きを取り戻したところで、俺たちはようやく中心部へ進むことになった。

 

(エックス。お前は、レプリロイドは子供を作ることができないと言った。だが、私はお前に人間との間に子孫を残せる能力にして、自分以外のロボットに人間と同じ方法で子孫を残せるようにするデータボックスでもある『パンドーラー』を組み込んでいる)

 

(……俺に!?)

 

(すまない。知ってしまったらそれでお前が悩むのではないかと思って、あの時は言えなかった。だが、お前を封印する時に、伝えておけば良かった……)

 

(博士は、俺のことを案じて敢えて教えなかったはずです。だから、博士には責任はありません。このことは、俺はもう少しの間自分の胸の中にしまいます。明かすかどうかは、一人で悩み続けてそれから決めます)

 

(……ありがとう。願わくば、この戦いの果てに、お前に平穏が訪れることを)(※ここまでの会話はライト博士とエックスが電波通信式の疑似テレパシーで行っているため、2人以外には聞こえていません)

 

ライト博士の表情が、ようやく明るくなる。

良かった……。

ライト博士は、安心したように今度は理瀬さんたちの方を向く。

 

【申し訳ないが、今回はここで失礼しておく。あなたたちがエックスの心強い味方であることに、ありがとう】

 

ライト博士は柔らかい笑顔のまま、姿を消した。

少し寂しいとは思うけど、今はそんな気持ちに浸っている暇はないから。

 

「! ロックマンエックス。ここの爆発に感づいて敵が駆けつけたようです!」

 

サイオッサが思わず怒鳴る。

少し遅すぎる気もするが、やっぱり敵が来たか。

試し撃ちのような気もするけど、左手の予備バスターをチャージ。

 

「スパイラルバスターだ!!」

 

ピンク色の回転するエネルギー散弾が左手から飛び出す。

サイオッサとは違うタイプのディグレイバー達を貫通粉砕。

このまま突き進もう!

 

 

 

 

 

工場の中を突き進む俺たち。

道中では偽装兵器の数々が作られている。

思わず生産ラインごと破壊しようかと思ったが、中枢の設備なのでアイユーブさんに止められてしまった。

歩き回る内に、アラビア文字で書かれた注意書きが貼られたエリアにたどり着く。

アイユーブさんが注意書きの内容を読み上げてくれた。

 

「何々? 『軍事用サイボーグ研究班の使用エリアにつき、所属者は資料は他のエリアに持ち出さないこと』ぉっ!? えー! なんでそんなものを作るフロアまであるんだよ!」

 

「ドバイ人じゃないあたしたちに言われましても」

 

「それはそうですけど……」

 

ミーマのツッコミを受けて納得するアイユーブさんの表情はかわいそうなぐらいやつれている。

信じたくない事実を受け入れていくにしたがって消耗しているみたいだ。

 

「彼女たちの無実を証明するために案内するはずだったのに……。この国やア連を守るためだからって、なんであんなものを作る連中に……」

 

壁を叩きながら、アイユーブさんは呻くように呟く。

精神的なダメージが相当に大きいようだ。

 

「だったら、彼女たちに会って気持ちをぶつけるべきです。説得するべきです」

 

「エックス……。そう、ですね。そうしましょう。じゃなきゃ、あの人たちに救われた私たちが報われない」

 

 

 

それからそれから。

少しだけ立ち直ったアイユーブさんにホッとしつつ、俺たちはサイオッサの案内で進軍を続ける。

 

「ロックマンエックス。実は、軍事用サイボーグの試作実験体がこの先にある班長室に囚われています。可能なら……」

 

「助けるに決まっている!」

 

 

 

軍事用サイボーグ研究班の班長室。

そこには、確かに拘束具に繋がれている人がいた。

体格からして、中学生ぐらいだろうか?

スティグマめ……!

俺は全力で拘束具を破壊する。

顔を覆っているカバーを引っぺがして……。

よし! 救助完了!

……女の子か。

? どこかで見たような顔つきと髪型な気がする。

どこで見たのか思い出そうとした直前に、理瀬さんが言葉を発した。

 

「目を覚ますわ」

 

「……? ……! 恵玖須……ちゃん!? 恵玖須ちゃん!」

 

助けた少女の声に、俺は聞き覚えがあり過ぎた。

 

「灯留手!? 灯留手なの!?」

 

「え゛っぐずぢゃーん゛!」

 

灯留手が泣きながら俺に抱き着く。

……それもかなりの力で。

それは、既に灯留手がサイボーグであることを証明していた。

ちょっと興奮気味になっている理瀬さんと杜論をなだめる筒も、フィスターが訪ねる。

 

「恵玖須。その子は?」

 

「……この子は、円井(まるい)灯留手(ヒルデ)。俺の……俺たち楠姉弟の幼馴染だよ」

 

そう。

灯留手は姉さんと俺の幼馴染。

年齢は俺と同い年位だけど、俺が起動してから4か月ぐらい後の生まれなので学年は1個下ほどになるはずだ。

俺が1年生の頃にB級に昇格して少し経ってから、ご両親の仕事の都合でドバイに引っ越してしまった。

そんなことをみんなに説明する。

その間中、灯留手は俺に抱き着いたまま震えていた。

説明が終わった後、サイオッサが灯留手に降りかかった災難のいきさつを教えてくれた。

 

「彼女は、インターナショナルスクールの社会科見学の際、運悪くここの一部を偶然見てしまい、口封じもかねて実験体にされてしまったのです。このお嬢さんは軍事用サイボーグとして極めて高い完成度を発揮してしまいました。

 

 故に成功作としてこのままワールドスリーの本拠地に贈られる予定でした。そうなる前にあなたたちが殴りこんで来てくれて、本当に助かりました」

 

サイオッサの言葉にみんなが感慨にふける中、俺を抱きしめる灯留手はずっと怯えたままだ。

灯留手を抱き留めている俺は、ワールドスリーへの、スティグマへの憎悪と怒りがさらに激しく燃え上がらせる。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 侵入者が軍事用サイボーグの試作実験体を解放した! 大至急軍事用サイボーグ研究班の班長室に急行せよ! 繰り返す! 急行せよ!』

 

破壊された拘束具からけたたましいサイレン音が鳴り響くのと同時に、放送が響き渡る。

無理に拘束具を破壊したら警報が発生する仕組みになっていたのか!

押し寄せてくるのなら、全部迎え撃つ!

 

「恵玖須」

 

「ここからは私たちに任せて」

 

そう思っていた矢先に、理瀬さんと望さんに出鼻を挫かれる格好となった。

2人の手には、魔法のバトンが握られている。

 

「「マジカルパワフルトラーンスッ!」」

 

ピンクと青、2つの光が渦巻き、それが消えた後には変身を終えた2人が立っていた。

望さんは肉体そのものを別方向の美少女へと変異させ、青を基調とした衣装を身にまとい、2丁ボウガンに負けじと存在を主張するように背中には純白の翼が生えている。

一方の理瀬さんは肉体は変化していないが、衣装の方は赤とピンクのツートンカラーでセパレート式の袖と複数のリボンをあしらった、理瀬さんのセンスとは対照的な少女趣味全開のミニワンピース。

 

「魔法の斬姫スプラッシュリセ!! 推参!」

 

「魔法の射手マジカルアンジェ改めアジュールアンジェ!! 降臨!」

 

両方ともかなり可愛いな。

そう思っていた矢先、望さんが壁を魔法の巨大ボウガンで破壊した。

 

「ここは私と理瀬さんに任せて、あなたはあの2人のところへ!」

 

「必ず追いつくから!」

 

俺たちは殿を2人に任せてさらに奥へと突き進む。

理由は1つ!

これ以上アザラクとローゼに馬鹿な真似をさせないためにだ!

 

 

 

 

 

インダストリーオアシスの最深部。

この部屋はインダストリーオアシスの全機能を司っている。

部屋の破壊はすなわち、この工業街の破滅を意味する。

……そんな大事なところに陣取るなんて!

灯留手をおぶさりながらここまで案内してくれたサイオッサの視線がある個所に動く。

そこにいたのは……!

 

「ふん! スティグマはつくづくいかれてるね! こんな甘ちゃんのことをさ!」

 

「でも銀鬼たちはあの子に負けて死んだのよ。油断も隙もない坊やなのは確かよ」

 

「そちらがそのまま大人しく武装解除してくれるのなら、俺は戦いはしない。そうじゃないなら、武力の行使も辞さない!」

 

まずは形式的かつ遠まわしに投降を促す。

事情が事情だから、いきなり攻撃するわけにはいかない。

しかし、2人の返事は残念ながら予想通りだった。

 

「残念だけど事情抜きにしてもこっちは話を聞く気はないのさ。『紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク』と!」

 

「『砂漠の花園の庭師 フラワリー・ローゼ』の2人はね! わたしたち2人、スティグマも気に入らないけど、あなたのことも気にくわないのよ」

 

この言葉に遂に忍耐の限界を迎えたアイユーブさんが、感情を爆発させた。

 

「アザラク! ローゼ! この国そのものや周辺諸国を盾にされたとはいえ、あんな馬鹿なことに加担するなんて! スティグマみたいなとんでもない奴に従うなんて!」

 

「確かにスティグマはイレギュラー程じゃなくても頭のネジが大分飛んでる異常者さ」

 

「あの細目、そこの坊やがこの世界の未来を左右する無限の可能性にして無限の危険性だとか言っていたわね」

 

アイユーブさんの必死の言葉にも、耳を貸しているようには見えない。

そこまで俺へのマイナス感情が優先されるというのか!

 

「いい加減にしろ! お前たちは自分がどれだけドバイの人たちから愛されているのか、分からないのか!?」

 

「お前のそんなところが余計に気に入らないのさ! みんなに愛されることしか知らなかったお前のそんなところが!」

 

「みんなから愛される坊やにはわからないでしょうね! 愛されたくても愛してもらえなかった者たちの惨めさなんて!」

 

なんなんだ?

この2人の尋常じゃない嫉妬の感情は!

憎しみを引き寄せているみたいだ。

 

「芝月先生! アザラク! もう止めて! 抵抗しても無駄なのに!」

 

理瀬さんと望さんも追いついたみたいだ。

しかし、アザラクとローゼは理瀬さんにも嫉妬の眼差しを向ける。

 

「愛されている奴がまた1人! ちょうどいい。明日辺りにルールアンがここの様子を見に来る日だからね。手土産にしてやるよ!」

 

「あの人、真田さんみたいな可愛い子が大好きだものね。可能性と危険性を解体処分するついでに躾けちゃいましょうか」

 

ルールアンが来るのか……!

だたしたら、かなり危ないな。

今日中に急いでケリをつけないと!

 

「望さん。アザラクとローゼは俺と理瀬さんがどうにかする。望さんは万が一に備えて警戒してくれ」

 

「やってみるわ!」

 

よし、これであの2人の相手に集中できる。

俺と理瀬さんがファイティングポーズをとったのを見計らって、アザラクとローゼは開戦の咆哮を上げた。

 

「「ツープラトン!」」

 

アザラクが口から火球を発射。

ローゼも手に持ってるじょうろで室内の植物を操って攻撃してきた。

 

「エンタイトル2ベース!」

 

「どの辺がエンタイトルなのか分かりませんが、綺麗なフォームで打ち返しました」

 

理瀬さんが火球をチェーンソーのガイドバー(刀剣類で言う、刀身にあたる部分)で打ち返す。

横山さんの言うとおり、中々綺麗なフォームだったな。

それが襲いかかってきた植物の一部に直撃。

盛大に燃え上がってそのまま激しく動いてバラバラになり、大きな火の粉として降り注ぐが、俺たちはすんでで回避する。

 

「言っとくけど、この子たちは高純度のエタノールと白リンを大量に含んでいるから、火が付いたら大変よ」(エタノール:無機アルコールのこと。エチルアルコールとも 白リン:リンの基本状態。黄リンはこれが変色したもの。かなり扱いが難しい)

 

く! 下手に攻撃すれば燃え上って火の粉が飛び散る。

しかし、放置するわけにもいかない。

こうなったら……。

 

「申し訳ないけど、手足の1本か2本を吹き飛ばして無効化する!」

 

左右同時にチャージショットを発射!

アザラクの脇腹を左手ごと粉砕し、ローゼの右手と顔の右半分も吹き飛ばす。

やり過ぎてしまった……と思った瞬間、アザラクとローゼは不気味な笑顔を浮かべた。

 

「残念だが、私ら2人は怪我の治りがとんでもなく速くてね」

 

アザラクがそう言った直後、アザラクとローゼの肉体の内側から植物の根みたいなものが出てきて、それを起点にして欠損した部分があっという間に再生した!

 

「ベイビーちゃんたち! あのおませな坊やをほぐしてあげなさい!」

 

植物が俺目がけて大挙して襲いかかる。

しかし、そうはなるものかと理瀬さんがチェーンソーで残らず切り刻んだ。

 

「伐採完了!」

 

「切り刻んでも燃えることに変わりはない!」

 

刹那、アザラクが刻まれた植物目がけて火炎を発射。

激しく燃え上がり、理瀬さんが炎に包まれてしまう!

俺は大慌てでその中に飛び込み、理瀬さんを回収。

衣装は所々焼け焦げ、体の各所に火傷ができてしまっている……。

 

「理瀬さん!?」

 

「バトンの力のおかげで、痛みは大分抑えられているから大丈夫」

 

そうは言っても、若干やせ我慢が混じっているのが分かる。

こうなったら……。

 

「再生できるのなら、可能な限りボロボロにして勢いを削げるだけ削ぐ!」

 

俺は一心不乱にエネルギー弾をアザラクとローゼ目がけて乱射。

ハチの巣になりながらも、2人は直後に再生していく。

それどころか、攻撃の手も緩くならない。

幸い、植物の方は望さんと、こっそり光線銃をあのラインから何丁か失敬したアイユーブさんとフィスターの援護射撃のおかげで何とかなっている。

あの2人の攻撃の方も、突撃して懐に潜り込んだ理瀬さんがチェーンソーを振り回して切り刻むことで可能な限り妨げてくれている。

しかし、さっき乱射した際にアザラクとローゼは本来なら外れるはずだった流れ弾の内の何発かを自分から食らったように見えた。

一体なぜ?

しかしそれを考える間もなく、形容しがたい状態で仁王立ちするアザラクとローゼが勝ち誇る。

 

「このドンパチ、私らの勝ちだよ!」

 

「わたしたちはいくらでも再生できるのよ!」

 

やはり、いくらズタボロにしても攻撃の手が緩めば再生する。

しかし自信満々な2人の顔で爆発が発生する。

 

「だったら、力尽きるまで撃つだけよ! 勝たせてなるものですか! うちの会社の製品に偽装して本物の武器を密造するような連中の味方なんかに!」

 

どうやら拳銃型の偽装光線銃を失敬していたらしく、杜論が震えながらそれを構えていた。

 

「小娘……。どうやらローゼのベイビーたちの栄養源にされたいようだね!」

 

「ベイビーちゃんたち! あの生意気なお嬢ちゃんをじっくり堪能なさい!」

 

ローゼが吼えた瞬間、杜論の背後から壁を突き破って植物たちが襲い掛かった!

ダッシュで助けようにも、別の個所から出てきた植物に邪魔されて間に合わない!

しかし、そんなピンチは意外な形で切り抜けられた。

サイオッサがおぶさっていたはずの灯留手がいつの間にか自分の足で立ち上がり、全身を銃火器と鎧に包んだような姿になっていた。

そして、鎧にくっついている重火器を駆使して杜論を襲うとした植物を吹き飛ばしたのである!

 

「灯留手!?」

 

「杜論さんも……怖いのを我慢して恵玖須ちゃんに加勢したから……! だから、私も、怖いのを我慢して加勢する!」

 

そう言い切った灯留手の声には泣きが入っている。

実際、怖くて泣きそうになっているのを必死にこらえている。

必死に勇気を振り絞って、改造人間としての力を発揮したのだろう。

それを見た俺は自分の胸の奥が熱くなるのを感じた。

勇気を出してくれた灯留手のためにも、なおのこと負けられない。

そう思ったのと同時に、理瀬さんが話しかけてきた

 

「恵玖須。認証コードの方、頼むから」

 

「メッセージ、聞こえたんだね?」

 

理瀬さんは、ゆっくりとく頷く。

それは、この戦いも山場を迎えてきたという合図でもあった。

 

「発動要請コードを!」

 

「了解! 恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

認証コードを叫んだら、蒼い光が理瀬さんを包む。

左右一対の髪飾りがいったん分離。

蒼い追加装甲が展開され、頭部にバイザーが装着された直後に髪飾りが元の位置に再度装着される。

 

「ちぃっ! その機能のことを忘れていたわ!」

 

「本当に忌々しい人ね!」

 

アザラクとローゼは一瞬で苦い顔になって更なる攻撃に打って出た。

火柱と火球と火のカーテンが、選り取り見取りの多数の植物の蔓とともに一斉に襲い掛かってくる。

 

「チェーンソー……大! 車! 輪ぃいいいいん!」

 

波状攻撃に対して理瀬さんが放ったのは、まさかのチェーンソー投擲。

しかし、投擲されたチェーンソーは回転しながら火を掻き消し、植物を薙ぎ払い、そしてアザラクとローゼを切り刻む。

かなり滅茶苦茶な刻まれ方をしたせいか、流石に再生には時間がかかるみたいだ。

そのあいだに見つけるんだ! 勝利の鍵を!

……そういえば、あの2人は何回か流れ弾をわざと受けていた。

アザラクは左手足で、ローゼは右手足で。

俺たちが見ている側からして、アザラクは右側、ローゼは左側。

……そうか! あの二人は自分たちの間の隙間の先、つまりそこの「壁」を庇っていたんだ!

 

「撃っても遮られるというなら、貫通するまでだ!」

 

左右同時にフルチャージ!

左手はさらにもう1段階チャージ!

アザラクとローゼは再生が完了したと同時にこちらの意図に気付いたらしい。

火球が飛んできたけど、理瀬さんがまたも打ち返す。

背後からは植物が襲い掛かってきているのが、音でなんとなく分かる。

だが、左手のチャージが済めば問題はない。

よし! チャージ完了!

 

「スパイラルバスター!!」

 

背後に迫っていた植物はビームソニックブームで吹き飛ばされる。

一方、発射された回転エネルギー散弾は止めようとするアザラクとローゼを弾き飛ばし、2人が必死に庇おうとした箇所を粉砕。

砂塵が収まった後に姿を現したのは一台の異様なまでに拡張改造されたコンピュータ。

あの不自然な配置、2人が庇おうとしたこと、それを考えれば、答えはおのずと出てきた。

 

「そういうことか。そのコンピュータが、お前たちの再生能力の本体なんだな!」

 

俺の言葉に、アザラクとローゼは固まる。

図星みたいだ。

 

「恵玖須! やってみる? ダブルアタックを!」

 

「もちろんだよ!」

 

止める! アザラクとローゼを!

2人を殺さずに! 俺たちが!

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

この戦いで勝つのは、憎しみじゃない。

道を望まずして踏み外させられそうになる人を止めようとする意志だ!

 

「止めてみせる! 目の前で発動せんとする悪夢を!」

 

「俺たち2人で! お互いの命の輝きを乱反射させながら!」

 

「それは願い。本当に微かな、けれど一途な願い」

 

「叶うのを待つんじゃない。叶うようにと、前へ突き進む」

 

「「『EXTRICATION』!!!」」

 

チェーンソーのガイドバーが大型化し、束にあたる部分に複数のバーニアが出現。

蒼く発行したガイドバーの上にサーフィンの要領で俺と理瀬さんが乗る。

直後、バーニアが火を吹いて再生能力の本体であるコンピューター目がけて突撃!

アザラクとローゼの攻撃をかいくぐり、コンピュータにぶつかる直前に急ターン!

ガイドバーから離れた光のプレートが、そのままコンピュータに突き刺さる。

チェーンソーが木を切り倒す時よりさらにけたたまし音を発しながら、光のプレートはコンピュータにさらに深く突き刺さった。

その直後、コンピュータは蒼い爆風の中に消えた……。

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!」」

 

それと同時にアザラクとローゼが金切声の悲鳴を上げる。

瞬間、ちょっと見た目的によろしくない現象が起きた。

 

「い゛い゛っ!? く、崩れていきます! バーニン・エコエコアザラクとフラワリーローゼが無残に崩れていきます!」

 

横山さんの悲鳴通り、2人の手足が、顔が、溶けるように崩れ去っていく。

 

「私のごつい腹筋が! 太い二の腕が!」

 

「わたしのたわわなおっぱいが! ムチムチのお尻が!」

 

「「崩れていく! 自慢の体が! 理想の体がぁ―――――――っ!!」」

 

 

 

バーニン・エコエコアザラクとフラワリーローゼが崩れ去った後には、別の2人がいた。

典型的幼児体型な少女といった姿のレプリロイドと、ほっそりとした体形の地味な見た目の女性。

 

「フラワリーローゼ。本名は芝月京子。芝月先生が持っているバトンは、スーサがこの世界に流出させてしまった5本の不良品バトンの内の1本。その5本のバトンは、持ち主と見定めた相手の願望に反応して、変身時に肉体を持主の理想像に作り変えるの。

 

 望の今の姿が本来とは大幅に違うのも、その5本のうちの1本で魔法少女になったから」

 

理瀬さんが、妙な説明口調で教えてくれた。

一方、レプリロイドの方は俺も見覚えがある。

 

「君は、俺の次に人間の養子になったレプリロイドだね。冷え切った親子仲に耐えきれずに傷害事件を起こしてから家出して行方知れずになっていたって聞いたけど……」

 

「そうさ。元々ナノマシン装甲の実験用に作られた私は、お前が養子になった流れを受けて別の人間の夫婦の養子になったのさ。けどね、すぐに上手くいかなくなった。あいつらは開発用途の結果として得た特殊能力を気味悪がり、気が付いたら私を化け物呼ばわり!

 

 奴らに血の繋がった子供が生まれてから扱いはひどくなる一方。耐えきれなくなった私は奴らを苦しめるために、奴らの子供をボコボコにしてから家出して、ナノマシン装甲を使って姿を大幅に変えて上手い具合にイレギュラーハンターに入り込んだのさ。

 

 イレギュラーハンター『バーニン・エコエコアザラク』になってからは順調だったさ。力の限り暴れて人助けしてたら、いつの間にか第4陸戦部隊の隊長にまで上り詰めて、第二次ドバイ戦争で活躍して、部下からもドバイの人たちからも慕われるようになっていた」

 

「わたしは、ディーバ様が2度目の決戦で真田さんにまた倒されて生死不明になってから、身の振り方で悩んで放浪した末に気が付いたら砂漠のど真ん中に立っていたの。草木のくの字もない荒涼とした光景に無性に腹が立って、魔法の力で緑化していたの。

 

 それを見たこの工業街の人たちにいつの間にやら歓迎されて、身元不明ということであれよあれよという間にビザやらパスポートやらをプレゼントされて……。この工業街でのそれなりの地位までプレゼントされて……。生きていて1番幸せだった。

 

 日本では周りや親からも昔から花がないとか散々な言われようだった私が、ドバイじゃ緑化を大幅に促進した素晴らしい女性扱い。だから、私は決めたの。いっそドバイの砂漠に骨を埋めてもらおうって」

 

在りし日を懐かしんでいるのか、2人とも感慨深げな表情になっていた。

しかし、その表情はすぐに曇る。

 

「そんな充実した日々は、長続きしなかったよ……。ある日、スティグマが私たちに協力を要請してきたのさ」

 

「わたしたちは突っぱねて事の子細をハンター本部に伝えようとしたけど……。あいつはそれを見越してきたわ」

 

「「『了承してくれないと真っ先にア連と周辺諸国に攻め入る』って! そう言って強要してきた! だから従うしかなかった……!」」

 

今にも泣きそうな表情で叫ぶ2人。

やはり、サイオッサの言っていた通りだった……。

スティグマめ!

 

「でもね、それ以外にも理由はあったんだよ。協力させられるようになってから、スティグマはお前のことよく話していたよ。何かを成し遂げずとも、充実した日々を送っていたお前のことを!」

 

「何かを成し遂げなくてもみんなから愛されているあなたのことをね! わたしたちは信頼を勝ち取った結果として愛されるようになったのよ。だから余計に許せなかった……あなたのことがね!」

 

「「妬ましかった! 憎いと思えるぐらい! 殺してやりたいと思えるぐらい! 気が付いたらそう思えるほど妬みの感情が大きく膨れ上がった!!」」

 

2人とも、言いたいことを叫んで気が晴れたのか、憑き物が落ちたような表情になっている。

アザラクが、俺に何かを投げて渡した。

受け取ったそれは、武器チップだった……。

 

「刺しなよ、止めを……」

 

アザラクはそう言ってきた。

だが、俺は……。

 

「俺は、お前たち2人を殺すためにここまで来たんじゃない。止めるために来ただけだ。灯留手。歩ける?」

 

「うん」

 

立ち去ろう。

俺はそう決めた。

止めは刺さない。

誰がどう言おうと刺さない。

 

「情けをかけるっていうの!?」

 

「否定はできないけど……。お前たちが死んだら、ドバイの人たちが悲しむから」

 

そう言った瞬間、2人とも茫然とした表情になる。

けれど、すぐに俺の言葉の意味を理解したみたいだ。

 

「ドバイの人たちに愛されているのは事実なんだ。これから少しは、愛してくれる人たちのことを考えた方がいいと思うよ。アイユーブさん、あとはあなたたちとドバイの司法に任せます」

 

「ま、まか、任せてくだ、ください……。よ、良かった。よ゛がっだよ゛ぉ~!! 最悪の結果にならくて……ぼん゛どう゛に゛よ゛がっだよぉ~!!」

 

アザラクとローゼが死ななくて済んだことに安堵したのか、アイユーブさんは盛大に嬉し泣きしだした。

それを見て、確信できた。

ドバイにいる限り、アザラクとローゼは安心だ。

 

「俺たちは、先にここから出ますね」

 

「こっちは……、一通り泣き腫らしてから、後を追いますので。ごゆっくり……」

 

 

 

 

 

それから約2時間ほど経過。。

俺たちは既に立入禁止区画を出ていた。

 

「これからが大変だよな」

 

「国そのものを盾にされたとはいえ、ワールドスリーに協力しちゃったのは事実ですからね」

 

「司法取引で何とかなればいいんですけどね……」

 

冷房の効いた内部で、砂山さんと出月さん、横山さんがそんなことを話し合っている。

一方、灯留手は駆け付けたご両親に抱きしめられて安心しきったのか、俺に抱き着いてきた時より激しく泣いている。

? そういえば、フィスターは?

 

「フィスターさんなら、向こうで望とミーマをナンパしてる。すぐに玉砕するのが目に見えているけどね」

 

理瀬さんの視線の先に、視線を移したら、確かにフィスターが望さんとミーマをナンパしていた。

でも、望さんもミーマも冷ややかな目でフィスターを睨んでいる。

望さんは理瀬さんのことが好きだし、ミーマにはスーサがいるからね。

 

「……だろうね。ところで、サイオッサはこれからどうするの?」

 

「一応、私もワールドスリーに加担していた1人ですからね。無罪放免で済むように司法取引でもしてみます」

 

「そっか」

 

サイオッサのことだから、案外大丈夫かもしれないね。

これから、ア連や周辺諸国は大変だろう。

アザラクとローゼが協力していたからこそ、ワールドスリーは攻め込まなかった。

その協力関係が瓦解した今、遅かれ早かれ攻撃の手が迫るだろう。

けれど、不思議と大丈夫かもって思える。

そう思っていたら、理瀬さんと杜論が不意打ちで俺を後ろと前から抱きしめてきた。

 

「ア連はこれからが大変ね」

 

「きっと、ワールドスリーの攻勢が伸びてくるだろうね。でも、不思議と不安な気持ちにはならないんだ」

 

杜論のそんな言葉に何とか戸惑いに耐えて答えたら、今度は理瀬さんが相槌を打ってくれた。

 

「そうね。これからは芝月先生とアザラクが先陣を切って立ち向かうかもしれないから」

 

「そうだよね」

 

そうだ。

きっと、そうなる。

確かな根拠はないけど、そう思える。

あの2人がドバイにいるからきっと大丈夫。

だってあの2人は、ドバイに愛されているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ファイヤーウェーブ』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

ある日、ノイプロイセン王国の造船所からハンター本部に連絡があった。

ご注文の宇宙旅行用豪華客船が完成したから、受け取りに来てほしいと。

俺と白き鎧の姫騎士、そしてゼロがなぜかDr.ケイリーの指定で受け取りに行くことになった。

だがタイミング悪く、その船を狙って天空の貴公子が……、ゼロのかつての親友が襲いかかってきた!

次回! 「勇者よ、我らは君と果てしなき大空に誓う」。

暴風が吹きすさぶ高空数千mの彼方で、白翼(びゃくよく)の姫騎士が悪を叩き落とす!

 

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク(コアラ)

コアラ型のレプリロイド
ドバイを拠点とする第4陸上部隊の元隊長であり、その巨体と戦闘力を武器に立身出世を果たす。
第二次メッカ戦争など、中東の反レプリロイド思想のテロリストたち相手の戦いの数々で活躍。
徹底して容赦しないやり方でその名を轟かせていた。
苛烈な戦い方は結果的にレプリロイドを積極的に受け入れたドバイの立場向上に貢献している。
故に、ドバイではほぼ英雄扱いであり、ドバイの人達から愛されていた。
貫録溢れる巨体は、実はレプリロイドのパーツを大量に取り込んで作り上げた鎧に過ぎない。
その正体はナノマシン装甲展開試験用に開発され、色々あって『人間の養子になったレプリロイド第2号』となった少女型レプリロイドである。
家族から受けた仕打ちで歪んだ末に傷害事件を起こして家出。
高度な知能とナノマシン精製能力を駆使して今の姿を作り上げ、正体を隠してイレギュラーハンターとなった。
ローゼ共々ドバイこそが己の居場所と確信しており、それ故にドバイや周辺諸国の安全を盾にワールドスリーに加担させられてしまう。


砂漠の花園の庭師 フラワリーローゼ

その正体は栗実女学園で教師をしていた女性、芝月京子。
k地味で目立たない自分の容姿と性格に嫌気がさしていた彼女はマジカルディーバに教唆されるがままに配下となる。
結果、魔法の力が込められたバトンと美しい第二の姿を手に入れるが、そのバトンは持ち主の心の隙間を利用して感情を捻じ曲げる危険な不良品の内の1本であった。
この頃は「マジカルローゼ」と名乗っていた。
スプラッシュリセとの最初の決戦(『魔法少女スプラッシュリセ』を参照)時にマジカルディーバが敗北した後も、劣等感と魔法の力への依存心から彼女の側につく。
しかし、マジカルディーバがスプラッシュリセに2度目の敗北を喫して生死不明の状態になったため、形勢不利と見て国外に逃走。
あてどなくたどり着いたドバイの砂漠で八つ当たりのために周囲を緑化した結果、これが幸運を招いてドバイの人達に受け入れられることとなる。
この頃に「フラワリーローゼ」と改名している。
その後はエコエコアザラクと共に充実した毎日を送っていたが、エコエコアザラクとと同じ理由でワールドスリーへの協力を余儀なくされてしまう。
後日、彼女とエコエコアザラクの心の中にある感情が芽生えた。
スティグマに聞かされたエックスへの、みんなから愛され、少し前まで愛されることしか知らなかったエックスへの、憎しみを招き入れるほどの嫉妬、という感情が。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

エコエコアザラク
・岩本版のナウマンダーのエピソードを元にちょっと自分流にアレンジして作ったキャラです。
・あの名前のどこがコアラ? と言うなかれ。コアラだからエコエ“コア”ザ“ラ”クなのだ。
・再生応力も岩本版準拠。再生描写がキモくなった感は否めないけど。

ローゼ
・『魔法少女スプラッシュリセ』では一応彼女も魔法少女なんだけど……。でもこの人、文中で思いっきり『33歳』って書かれてんだよなぁ……。止めとばかりに文中で『魔法熟女』とまで明記されてるし。
・「マジカルローゼ」から「フラワリーローゼ」に改名したのは、そっちの方が庭師っぽく思える&マジカルって名称が合いそうにないビジュアルだったから。
・当初はマジカルディーバを引っ張り出す予定でしたが、キャラ的にスティグマの配下じゃなくて対等の協力者だよな、と思って変更。マジカルディーバ以外の敵キャラの中で不良バトンの魅入られたきっかけが唯一明かされていた彼女に白羽の矢を立てました。

他のキャラクターや設定あれこれ
・アイユーブはアザラク&ローゼを愛する人たちの代表として作ったキャラ。途中までエックス一行にツンとした態度をしていたのも、そういうキャラたからです。
・サイオッサは急遽入れる形となったキャラ。でも、個人的には入れて良かったとは思っている。ちなみに名前はオアシスのアルファベットのアナグラム(OASIS→SIOSA)。
・フィスターの元ネタはワイル○スピードシリーズのキャラクター、ハ○・ルー。韓国系にあるまじき(褒め言葉)ナイスガイなので個人的に好きなキャラ。故に彼を元ネタにしたキャラとしてフィスターを作りました。『フィスター』は』『Fist』を元ネタとした俺の造語ですあり、アルファベット表記にすると『Fistor』。『Fist』は英語で『拳』、ハンは漢字表記で『韓』、二つ合わせると『けんかん』と読める。すなわち名前の由来は『嫌韓』という皮肉たっぷりなオチ。
・灯留手はね……うん。ぶっちゃけると元ネタは『宇宙○艦ヤマ○2199』のヒルデ・シュ○ツです、はい。余りの可愛さにハートを射抜かれたので、彼女をモデルにしたキャラを出すか、ってことに。当初、名前は流石にアルファベットのアナグラムにしようかなー、とは思っていた。……いたんだけど、完成した名前がなんかしっくりこなかったんで、『ヒルデ』に当て字しまくる結果に。名字はヤマ○2199でのヒルデちゃんの中の人の名字のアナグラム。
・俺の頭の中で段々とエックスがヒロイン体質になっていく……。あれかな? 海外版X4のエックスの声を女性が担当していたってのを知ったせいなのかな?





普通のあとがき
・今回は1か月以内に完成・投稿できたぞ! と。この調子で執筆スピードをもう少し速くしたい。ていうか、速くなるといいなー……。


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STAGE 6:勇者よ、我らは君と果てしなき大空に誓う

WARNING!
激烈なセクハラ描写と、レプリロイドが人間を攻撃する描写があります。
また、未成年の飲酒描写(今回の舞台となる国では一応、飲酒の年齢制限はないという設定ですが)もあります。
以上のことに留意して閲覧してください。


『アテンションプリーズ。間もなくミュンヘン・ヴィッテルスバッハ記念空港に到着します』

 

パレットの冗談交じりのアナウンスが聞こえる。

飛行艇は今、ノイプロイセン王国最大の州、バイエルンの州都ミュンヘンはミュンヘン・ヴィッテルスバッハ記念空港に向かっている。

 

「しかし、この非常時にイレギュラーハンターが客船の受け取りとはな。いくらあいつが引っ掛かる可能性が多少はあるとはいえ、あの婆さん、何を考えている?」

 

「確かにかなり不自然な気がする。おびき寄せるためとはいえ、自分が発注した船の受け取りをイレギュラーハンターにさせるなんて」

 

Dr.ケイリーは一体何を考えているのだろうか?

いくら頭の中がいつもどうかしているとはいえ……。

これじゃゼロが不満を言うのも無理はない。

 

「ケイリーお婆ちゃんから聞いたけど、受け取る船って物凄く大きいんでしょ? ミュンヘンの何処で作ってるのかな?」

 

「正確にはミュンヘン南西の地方都市、フュッセンで秘密裏に建造されているって聞いたけど」

 

灯留手の疑問に対して、正確な情報で答える。

それにしても、どうして日留手まで同行しなければいけないんだ?

 

「どうでもいいけど、どうしてその子まで同行するの?」

 

これまた何故か同行している白金ルナも疑問に思ったのか、直接言葉に現した。

 

「……ルナさんだって、同行している理由がわからないじゃないですか」

 

「お互い同行する理由が分からない人同士ってことで手打ちにした方がいいよ」

 

灯留手が答え、俺が補足したら、ルナは一応納得してくれた。

俺はふと、ノイプロイセン成立までの歴史を、図書館で読んだ本の内容通りに思い出す。

第1次世界大戦後、フランスとイギリスの援助を受けた反体制派が起こした革命でヴァイマル共和国が成立した。

けれど三頭政政権の強引な手法と不手際の数々から経済が破綻。

これが当時は一介の政党に過ぎなかったナチスの台頭を招き、ナチスによってヴァイマル共和国はドイツ第三帝国へと再編。

第二次世界大戦後に東西に分割され、ソ連を偶発的に滅ぼしてロシア第二帝国の第二正統君主となった黒帝の支援でノイプロイセンへと生まれ変わり、現在に至る。

過去の経験から庶民の間では共和制への不信感が根強く、貴族間では子孫が世襲の権力に溺れる危険性への不安から共和制に理解を示しているため、ノイプロイセンは双方の見解を尊重して貴族院と民衆院が王室に従う方式を採用している。

これは他の州でも同様である。

 

「そういえば、ノイプロイセンでは良民間の政治への関心の低さが社会問題になっていると、Dr.ケイリーからお聞きしたことがあります」

 

「俺も、そのことはテレビで聞きかじったことがある」

 

そう、ノイプロイセンは民間が貴族を非常に強く信頼しているが故に、もう一人の同行者であるシルキス・ララマザーさんの言ったとおり民間における政治への興味が低く、民衆院は最近まで定員割れが選挙の風物詩となっていた程立候補者数が少ないそうだ。

今は、それを社会問題と捉えた王室や上位貴族の根強いキャンペーンで大分改善されたってテレビ番組で見聞きしたけど……。

それでも高い見識と教養をもった貴族に政治を担ってもらいたいと思う人は多く、その辺は法律で州知事が原則各州の公爵家による世襲任命になっていることからも伺える。

 

『バイエルン州は民間の貴族に対する信頼度が特に高いので、民衆院への立候補者数に民衆院議員の割合と人数、定員割れの発生年数と継続年数がワースト1位。このワースト5冠は1954年のノイプロイセン建国以来、未だに更新中です。

 

 民間で広まっている「バイエルン州の正式名称はビーアレーゲン公爵領である」なんてジョークからもそれが伺えますね。アテンションプリーズ。当機はこれよりミュンヘン・ヴィッテルスバッハ記念空港へ着陸します。シートベルト着用のまま、じっとしててください』

 

パレットのアナウンスがまた流れる。

 

「ララマザーのようにはいかないみたいですね」

 

「国の政治体制っていうのは歩んできた歴史が物を言うからね」

 

 

 

 

 

STAGE 6:勇者よ、我らは君と果てしなき大空に誓う

 

ステージボス:『天空の貴公子 ストーム・イーグリード』 『宝魔の守護騎士 デゴナスガンテ』

 

 

 

 

 

時は少し遡り、華鈴さんが入院している病院の別の病室。

今度は前回の戦いで火傷を負った理瀬さんが入院している。

 

「外側だけじゃなくて、気道も火傷しちゃったから」

 

「そう言えば、看護師さんからそれで合併症も起きたって聞いたけど」

 

「白リンを含んだ炎で火傷した(白リンは人体に有害です)上に、そこからよくないのが入り込んだから、安静にしなさいってお医者さんに言われた。でも、あそこでよくないのがいる場所ってあったかな?」

 

「多分、軍事用サイボーグ研究エリアあたりだと思う。それ以外だと、あの工業街内部で植物が生い茂ってた箇所全部」

 

俺がそう言ったら、理瀬さんは何となく納得できたみたいだ。

そういえば、ミーマと望さんがいない。

ミーマはともかく、望さんがいないのはちょっと気になるな。

 

「ミーマと望さんは?」

 

「ミーマは用事があって一時的にエル・テルレークに帰省中。望の方は放課後に見舞いに来るって連絡があった」

 

なるほど……。

ミーマの方は……。

 

「スーサとデート中、かな?」

 

「かもしれないね」

 

理瀬さんもそう思うか。

仕方ないと言えば仕方ない。

Dr.ケイリーとシグナスの要請で、エル・テルレークの首脳陣直々にスーサはこの騒動が収まるまでこっちの世界への渡航禁止を厳命されたから。

確かに、スーサの軽率な判断の結果、日本で何度も凄惨な事件が発生したわけだけど……。

そんな風に考えていたら、室内の時計でも見たのか理瀬さんが時間がらみで言ってきた。

 

「学校、大丈夫? 時間的にヤバいわよ」

 

「そんな時間なんだ……」

 

ちょっと名残惜しい気もするけど、ここ最近休みがちだから遅刻はできない。

 

「好きな男の子が見舞いに来てくれるのは凄く嬉しいけど、無理して失敗したら恰好がつかないよ」

 

「そうだね」

 

結局、そのまま理瀬さんに後押しされるように病室を飛び出して、俺は学校へ向かった。

 

 

 

 

 

昼休み、ここは初等部の学食。

この間の一件があったので、親衛分遣隊のメンバーのうち何人かがガードに入ってくれている。

念のためということでゼロもガードに入りたがっていたけど、そっちは中等部の先生たちの待ったが入ったそうだ。

 

「ゼロさんが入ってくれたら物凄くガードも楽になったのですが」

 

「いつも助けられてるからはっきりとは言えないけど、ゼロはすぐに暴力沙汰を起こすから……。ところで、灯留手はどうしてる?」

 

「何とか元気を取り戻しています。やむを得ないとはいえ、引き離すように一足先に帰国させてしまったのでちょっと気がかりでしたが」

 

そうだ。

あの後、おじさんとおばさんに状況を説明して、灯留手を一足先に帰国させたんだ。

Dr.本部勤務の専業ハンターの何人かが見ていてくれてるので、その辺はちょっと安心している。

 

 

 

 

 

それからそれから。

時間は放課後。

俺は高等部の美術部員の顧問に呼び止められてしまい、高等部の美術室に連れ込まれていた。

 

「デッサンのモデルですか?」

 

「そうなのよ。ここ最近、行内の風景画ばっかりでマンネリ気味なの。だからね、綺麗どころをモデルにしてデッサンでも、って思ってたの。昨日は誰に頼もうかと首を捻りながら帰ってたら白金さんに話しかけられてね。

 

 事情を話したら楠君を勧められたのよ。先生としても、『それだ!』って閃いちゃって。だから、今日のデッサンのモデル、やってくれない? モデル料も出すから!」

 

「そこまで言われるのでしたら、構いませんけど」

 

 

 

数分後。

顧問は嬉々として準備している一方で、俺に向ける表情は凄く申し訳なさそうだった。

理由は、この場で後ろから俺の手を掴んでいるやいとと初等部5年生の白金ルナが物語っている。

 

「あんまり切羽詰まって、“ヌード”モデルだってことを言い忘れるなんて、意外と抜けてるわね」

 

「人間、失敗することもあるのよ」

 

やいととルナが世間話っぽく会話している。

そのくせして、2人とも俺の手首を思いっきり爪を立てながら掴んでいる。

 

「それで、なんで俺の手を掴んでいるの? 爪を立ててまで」

 

「「逃走防止」」

 

それを聞いた瞬間、ちょっと乱暴だけど振りほどこうとした。

しかし読んでいたらしく、2人して俺を挟み込むように抱き着いてきた!

 

「あう!?」

 

「「抵抗しちゃダメ。大人しく脱いでくれたら、こっちも激しいことはしないから。脱いでくれるでしょ? 返事は『はい』よ。ね?」」

 

俺の体をまさぐりながら抱きしめてくるやいととルナ。

でも、すごく優しく、丁寧な手つきで。

そんなに優しくされたら……。

 

「…………はい」

 

「うわ! 何? すごいゾクゾクするわ!」

 

「前から思っていたけど、恵玖須様って本当に可愛いのね!」

 

2人の声は物凄く嬉しそうだ。

鼻息も、滅茶苦茶洗い……。

 

 

 

それからそれから。

俺をヌードモデルにしたデッサンが始まってしまった。

俺は、ポーズをとりながら、顔を真っ赤にして視線をみんなから逸らすことぐらいしかできなくて……。

 

「最高よ楠君! その恥らう顔とスベスベのお肌、辛抱堪らないわ!」

 

「恵玖須って初等部の『手を出したくなる男の子ランキング』ぶっちぎりの第1位ですから」

 

「数少ない男子票とかもほとんど恵玖須様に入っていましたし」

 

顧問や、やいととルナが好き放題何か言っている。

それから数分して、ようやくデッサンは終了。

これで終わった、と思っていたら……。

 

「楠君、ストップ! まだよ! モチモチのお肌触っていないのよ!」

 

膝立ち状態になったところを顧問に抱き着かれ、身動きが取れなくなった。

 

「妬ましい! 無駄毛とは無縁で筋肉がついてるようにすら見えないスベスベモチモチなそのお肌が妬ましい!」

 

凄く変なことを言っている!

!? 何か変な感触が!

 

「何なの? お尻の肌触り。イチゴ大福の皮を分厚くしたような柔らかな感触じゃないの!」

 

「る、ルナ……あう!? やいと! そこは触らないで!」

 

「そこ? そこってどこよ! 言いなさい!」

 

「……え?」

 

「言うのよ! 言わないとバナナを咥えさせるわよ!」

 

「お…………おち………」

 

「お口だけじゃなくてお尻にも咥えさせるわよ! それが嫌なら言えー!!」

 

「……おちん……………」

 

言い終わるよりも早く、変な叫び声が響く。

それは、男の声のようだった。

 

「ヤエェェェェェェェェェッ!!」

 

鈍い音が響いたと思ったら、やいとの……あれを握る力を感じなくなった。

やいとの方を向いたら、左目の方に何やらアザができている。

鈍い音がっ更に響き、ルナと顧問が俺から引きはがされるように倒れたので、俺は何とか身動きが取れるようになった。

その直後、鈍い音が連続して鳴り響く。

嫌な予感がして振り向いたら……。

 

「……ゼロ!」

 

「危なかったな」

 

ゼロが金属バットを手に美術部の女子部員たちを殴った後だった。

きっと、あの叫び声もゼロが発したのだろう。

 

「男子部員が大急ぎで知らせてくれた。素手で殴る気にもなれなかったから、ソフトボール部からバットを借りたんだが……。すまない、それで遅くなった。……それにしても、とんでもない変態どもだな。歯を何本か叩き折っておこうか?」

 

「そ、そこまでしなくていいよ……。助けてもらえただけで、……十分だから」

 

服を着ないと……。

でも、脱いだ時にやいとに持って行かれたから、その前に探さないと。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとう……」

 

そう思っていたら、金髪の綺麗なドレスを着た人がたたまれていた俺の服を手渡してくれた。

この人を……俺は知っている。

 

「シルキスさん……」

 

「思い出していただけて何よりです」

 

 

 

 

 

それからそれから。

着替え終わった俺はシルキスさんとゼロに連れられ、ハンター本部のミーティングルームにいた。

……戦いの度に仲間が、俺を愛してくれる女性たちが怪我や別の用事でいなくなっていく。

カリンさんは凍傷の治療はある程度目途がついたけど、安静のためまだ入院中。

シャーロッテさんは何とか無罪放免になったものの、城に未だ軟禁中。

麻希奈さんはまだアップデートの途中。

桜樺は依頼の処理に追われている。

そして、理瀬さんは火傷で入院。

ここにいない人たちのことを考えていたら、エイリアのよく通る声が耳に入ってきた。

エイリアの方を向きなおすと、アイスランドが赤く染められた地図と一緒に、イーグリードとその相棒の写真が表示される。

 

「ゼロのおかげでデスログマーは現在、アイスランドのどこかに停泊中であることまでは分かったわ。だけど、アイスランドは現在ワールドスリーの勢力下。なので、しばらくはアイスランド全域をNATOが監視して、動き出したらこちらに連絡してくれるわ。

 

 でも、それは本題じゃないの。今回、エックスとゼロには、灯留手を連れてノイ・プロイセン王国のミュンヘンまで行ってもらうわ」

 

「それは、どうして?」

 

俺が聞き返すと、エイリアは凄く申し訳なさそうに答えてくれた。

 

「あまり気分のいい話じゃないけど、ノイ・プロイセンの造船会社に発注した旅客用の飛行船の受け取るためにバイエルン州にあるフュッセンという街に行ってほしいそうよ。

 

 その途中で、発注を仲介してくれたビーアレーゲン公爵とも会うようにって。上手くいけば、飛行船に釣られてデスログマーがやって来るかもしれないってDr.ケイリーは言ってたけど、どこまで信頼できるか分からないわ。

 

 納得できないかもしれないけど、Dr.ケイリーがシグナスを介して最優先事項扱いで命令してるから、どうしてもあなたたちを動かさないといけないのよ。灯留手を連れて行くことに関しては、向こうに行けば分かるってはぐらかされちゃったわ」

 

エイリアもかなり困惑した表情をしている。

そんな表情になって当然だ。

あの人は本気で何を考えているのやら。

 

「エイリア。受け取りには、私も同行してよろしいですか?」

 

「……戦力は多い方がいいから構わないけど、どうして?」

 

シルキスさんの言葉に、エイリアは質問で返す。

それに対してシルキスさんの答えは意外なものだった。

 

「イーグリードさんの相棒にあたる敵は、本来ならもっと以前に私が倒すべきだった敵だからです。彼の名前はデゴナスガンテ。ララマザーとウィンザーを襲う害悪、ジュエル魔獣の内の1体です」

 

 

 

 

 

それから次の日、つまり現在。

俺たちを乗せた超音速飛行艇がミュンヘン・ヴィッテルスバッハ記念空港に着陸する。

俺たちが下りた後、飛行艇はそのまま帰ってしまった。

到着ターミナルに入るや、灯留手は何故かつばがかなり大きい帽子を深々と被る。

Dr.ケイリーが手をまわしたのか、入国審査の際はパスポート提示を求められなかった。

 

日本人(ヤーパニッシュ)4名に、異世界の人1名。内2名はレプリロイド、と。君たち2人はイレギュラーハンターで残りの3人は外部協力者って聞いたけど」

 

「その通りです」

 

「……ビーアレーゲン公爵領へようこそ。歓迎しますよ、第17精鋭部隊隊長エックス・クスノキ御一行様。それにしても、いくらハンター本部からの要請とはいえ、公爵閣下は何を考えておられるのやら。

 

 イレギュラーハンターだけならまだ納得できますが、同行者までフリーパス(ファイカルテ)かつ荷物検査免除とは……」

 

審査の人は形式的にそう言った後、勢い余ってこっちに聞こえる音量で不満を漏らした。

とりあえず、これで晴れて正式にノイプロイセンに入国したことになる。

 

「恵玖須ちゃん。そういえば、あの時のテレビ局の人たちは?」

 

「Dr.ケイリーが一足先にこっちに送ったそうだ。多分、到着ロビーで待っているかもしれない」

 

そう答えたら、灯留手は「そうなんだ」といった表情で納得していた。

しかし2人して立ち止まってしまったらしく、シルキスさんに注意されてしまう。

 

「エックス君。ヒルデちゃん。ゼロ君とルナちゃんが待っていますよ」

 

「あ……」

 

「はーい」

 

灯留手が手を挙げて元気に返事した。

……のだが、勢い余って挙げた手が帽子にぶつかってしまい、落としてしまう。

 

「「あ!」」

 

帽子を落としてしまった灯留手と、灯留手の顔がはっきりと見えた審査の人の声が偶然にもハモる。

審査の人は、灯留手の顔をまじまじと見て、叫んだ。

 

「ヒ、ヒルデ様ー!」

 

それと同時に灯留手は帽子を拾って駆け足で税関を走り抜ける。

俺たちも、灯留手を追いかけるように急いで税関を通り抜けた。

 

 

 

 

 

「一体どうしたの!?」

 

「説明はテレビ屋さんたちと合流してから!」

 

ルナの疑問に大声で返しながら、灯留手は大急ぎで走っている。

何分改造人間なのでレプリロイド並みの速度を出している。

俺はルナとシルキスさんを脇に抱えながら灯留手を追う。

ゼロは少し呆れ気味に俺と並走中。

慌てて走っていたらしく、灯留手は躓いて立ち止まった。

直後、足元の少し前が銃撃される!

俺たちが振り向いた先には、重火器を構えたレプリロイドが数人。

ワールドスリーの下っ端か!

俺とゼロはブレザーを脱ぎ、シャツの袖をまくってバスターを展開。

灯留手もあの時同様に重火器満載の鎧をいつの間にか身にまとっている。

数人の敵を相手に、俺たちは破壊力に物を言わせて対抗する。

 

「まさかいきなり釣れるなんて!」

 

「あの程度の数ではイーグリードさんたちが釣れたとは考えにくいです!」

 

「そうでもあるけど!」

 

シルキスさんのツッコミに返事しながらエネルギー弾で敵を吹き飛ばしていく。

 

 

 

数分後。

敵を何とか全部片づけた。

しかし、周りは敵の残骸にガラス片、銃弾の跡や焦げ跡だらけだ。

 

「職員さんが、警察に連絡したって。だからしばらくお待ちくださいって」

 

「そうか……」

 

灯留手の言葉に相槌を打つ。

直後、窓が粉砕されて大きな影がこっちに突っ込んできた!

 

「……何だ!?」

 

俺がバスターの銃口を向けた瞬間、影は俺の方に顔を向けた。

……イーグリードに、もう1人!

 

「スティグマの後釜に据えられるだけのことはあるな。あの程度の人数じゃ相手にもならなかったか」

 

「我ら8対の最高幹部を半分以上も撃破しただけはあるということ。と、これは失礼。私はダークスワニィ様の命でワールドスリーの最高幹部が一人を務めるデゴナスガンテ。……ジュエル魔獣で唯一! 騎士の資格がある存在!!」

 

デゴナスガンテは非常に仰々しく自己紹介する。

俺たちだけでなくイーグリードも少し呆れ気味だ。

 

「そいつとコンビを組んでて疲れないか?」

 

「ワールドスリーでは逆に肩の荷を軽くしてくれるよ。効き過ぎて時々意識が天に上りそうになるけどな」

 

見た限りでは隙だらけ。

気は進まないけど、ここで多少は手傷を負わせて戦いを有利にした方がいいな。

そう思ってバスターを向けようとした瞬間、デゴナスガンテの剣の切っ先が目の前に突き付けられた。

 

「今回は軽い挨拶程度。なのであなたもこれ以上の発砲は自重……」

 

「する気はない!」

 

ゼロがデゴナスガンテの言葉を遮ってセミチャージショットを発射。

しかしすんでのところで避けられてしまう。

その直後、イーグリードの踵の爪(足は鳥同様、つま先とかかとの前後に爪がある)がゼロの首筋を突き破った!

 

「ぐわっ!?」

 

「ゼロ!!」

 

それを見た瞬間、俺は何かを言う前にイーグリードの顔面に頭突きを炸裂させた!

 

「……堅さが足りないが、いい一撃だ」

 

「何故だ! どうしてスティグマに従う!」

 

「……お前を妬む奴がエコエコアザラクとローゼ以外にいるということを覚えておけ! お前の目の前に! 涙を流せるお前を妬む奴がいることを!」

 

イーグリードはゼロが膝をつくのを確認した後、そのまま浮遊状態を維持。

デゴナスガンテの両肩を足の爪でガッチリと掴んだ。

 

「今回は軽い挨拶をしに来たに過ぎない。こちらとしても空港でのドンパチは気が進まないからな。……お前たちが船を受け取った後にまた会おう」

 

「というわけで今回はこれにて失礼します。Sehen(ゼーエン) wir(ヴィア) uns(ウンス) wieder(ヴィーダー)!!」

 

英語で言う「See you again」に相当する言葉をデゴナスガンテが叫んだ直後、イーグリードは彼を足でつかんだまま急加速で離陸し、別の窓を突き破ってその場を空を飛んで逃走。

……俺たちが来るのを待っていた横山さんたちと合流できたのはそれから数十秒後、警察が到着するのと同時だった

 

 

 

 

 

それから数十分後。

簡易的な事情聴取が終わり、俺がゼロの破損個所を修理。

ようやく電車でミュンヘンの中心部へと向かっていた。

 

「傷は、うずきますか?」

 

シルキスさんがゼロを気遣っている。

かなり深々と突き刺さっていたから、心配するのも無理はない。

 

「エックスが手際よく修理してくれたからな」

 

「応急処置に毛が生えた程度だけどね。けれど……俺が涙を流せることが、そこまで激しい嫉妬を煽ったっていうのか? 『ハンターの鑑』ストーム・イーグリードまでも嫉妬させてしまったっていうのか……!?」

 

「……それだけであいつがあそこまで馬鹿になるとは思えん。……別の理由があるはずだ」

 

車内はガラガラ。

だけど、俺たちはとても席に座る気にはなれなかった。

立ち乗りしている俺たちを揺らしながら、電車はミュンヘンの中心部に向かって走り行く……。

 

 

 

 

 

ミュンヘン中心部の、ヴィッテルスバッハ統合宮殿(現実世界ではレジデンツ博物館となっている)。

バイエルン王国王室であったヴィッテルスバッハ家の本宮殿で、数世紀に渡る増改築の末、各時代の主要様式が入り混じっているのが特徴だ。

王室の末裔であるビーアレーゲン公爵家の居城になることが決まった際に様式はそのままに内部設備を近代化し、現在に至っている(ミュンヘン州都庁舎は別にある)。

俺たちは、そこの謁見室(玉座の間ともいう)にいた。

 

「バイエルン州知事を務めさせてもらっている、ミヒャエル・エルヴィン・フォン・ビーアレーゲン公爵です。遠路はるばるよく来てくれました」

 

「イレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長、エックス・クスノキです」

 

「ケイリーから客船のことを聞いているとは思います。しかし……。あれ? そう言えば、TV局の方たち以外に、4人お連れがいるとは聞きましたが、1人、それもすごく重要な1人がいないように思えます」

 

「? ……! 灯留手がいない!?」

 

いつの間にか灯留手がいない!

それから数秒後、メイドたちが両脇を抱えながら灯留手を連れてきた。

帽子の方は……俺が受け取ったので、今は俺が持っている。

 

「宮殿内を帽子を深々と被って歩いていたので呼び止めましたら、ヒルデ様でしたので……」

 

「連れてきたのならそろそろ放してやりなさい」

 

眉間にしわを寄せながら公爵が命じると、メイドたちは丁重に灯留手を開放した。

直後、公爵は玉座から立ち上がってこちら側へと近づいてくる。

それを見た瞬間、灯留手は後ずさった。

 

「……ヒルデ!?」

 

「…………お母さんのお腹の中にいた時に私が『産まれる前に死んでた』なんて勘違いしてたのに、どうして私のお祖父ちゃんでいようとしてるの!?」

 

涙目になりながら怒鳴る灯留手を見て、公爵は愕然とした表情になる。

……ルナたちに入ってなかったけど、灯留手のお母さんはノイプロイセン人。

そして、ビーアレーゲン公爵の子供の1人だ。

だから、灯留手は公爵の孫娘にあたる。

実は、エイリアから指令の内容を聞いてすぐにDr.ケイリーとビーアレーゲン公爵の意図にはすぐ気付いた。

だけど、それを言っていいものかと迷った末に、あの時は言わないと決めてしまった。

そのせいで……。

結局、ヒステリー状態になった灯留手を落ち着かせるため、その場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

宮殿内に複数ある来賓用の居間の1つ。

灯留手は今、隣の寝室で昼寝させている。

代わりとばかりに、王国陸軍(ケーニヒライヒ・ヘール)の第1装甲師団第88ロボット戦車大隊(ロボターパンツァー・バタリオン)(二足歩行戦車「ヴァイゼエンテ」を試験的に運用している部隊)隊長、ティーゲルト・フォン・ビーアレーゲン大佐がいる。

彼は公爵の二男で、とある戦車乗りに憧れて陸軍に入った人だ。

軽い性格のムードメーカーだが、それが裏目に出て騒動を起こしてしまうトラブルメーカーでもある。

演習中、調子に乗り過ぎて他の部隊を怒らせ、演習地内を逃げ回ったこともあったと聞く。

灯留手が公爵たち母方の親族から距離を置きたがるのも、この人が原因だ。

 

「あの時、調子に乗って『笑えるから笑い話として残しましょうぜ』なんて言わなきゃよかった……」

 

「過ぎたことを言っても解決しません。問題はどうやって償うかです」

 

「……ありがとよ。ちょっとは気分が軽くなった気がする」

 

その後、灯留手がだいぶ落ち着いたので俺たちは公爵が手配してくれたマイクロバスでフュッセンに向かった。

 

 

 

 

 

フュッセン。

ここにはバイエルン州の重要な観光資源であるノイシュヴァンシュタイン城がある。

今俺たちがいるのは、この街一番のホテルであるシュヴァンクライト城。

かつて、この州がバイエルン王国だった頃、騎士物語や神話に傾倒する趣味人だった第4代国王が打ち立てた築城計画で作られた城の一つであり、ノイシュヴァンシュタイン城より後に築城が始まった。

当時はファルケンシュタイン名義で建造されていたが資金難で工事は中断。

第4代国王があまりの浪費の激しさと執務嫌いから失脚に追い込まれた後、謎の死を遂げたことで築城計画自体が白紙となる。

しかし、とある物好きな大富豪が建築案の現実的な拡大と城名を白鳥(シュヴァン)にあやかったものに変更することを条件に資金援助したことで計画が復活し、完成したのだ。

バイエルン王国がヴァイマル共和国の州の一つになる形で滅び、ヴァイマル共和国が解体されてドイツ第三帝国に、第三帝国が傾いて東西に分かれ、数年後に再統一してノイプロイセン王国が成立した現在、この城は古城ホテルとして観光客に憩いと安らぎを提供している。

 

「公爵閣下からお話は伺っております」

 

しっかり話は通してあったか。

用意がいいというかなんというか。

 

 

 

時間が遅いせいか、チェックインしてから少しして夕食が始まった。

未成年相手にここまで堂々とアルコールを出すあたりが、らしいというか……。

 

「……あれ? 私たち、未成年ですけど」

 

「ノイプロイセンは建国時の混乱の影響で飲酒の年齢制限がないんだよ。度数が極端に低いビールとかも大手が製造してるもんで、政府も子どもの飲酒はあまり問題視してないし」

 

ルナの素朴な疑問に、砂山さんが答えた。

そう、ノイプロイセンは喫煙には厳しいが、文化的に飲酒には非常に甘い。

未成年の急性アル中問題に対して醸造所が度数1%以下のビールを作るという対策をしたら、政府がそれに安心するほどに。

灯留手はそれにかこつけて早速値段と度数の両方が高そうなビールを飲んでいる。

流石に出月さんが心配そうに話しかけた。

 

「それ、度数も高そうだけど大丈夫?」

 

「……サイボーグだから平気です」

 

あっさり返してしまった。

少し開き直りが混ざっている気がする。

よく見たら高そうなワインまで注文しているようだ。

 

「それ、ボトル1本が最低でも1000ユーロは越える超高級品!」

 

「あの人が後払いしてくれるんですから問題ありません!」

 

砂山さんが悲鳴を上げてもケロリとしている。

……鬱屈が溜まっていたのかな?

流石に看過できないと思ったのか、ルナとシルキスさんも小声で話し込んでいた。

 

「あの子、酔い潰れるまで飲む気かも」

 

「そうなる前にそれとなく止めた方がいいでしょうね」

 

 

 

 

 

それからそれから。

食事が終わってそれぞれが用意された部屋に入って少し時が経って。

俺は、灯留手の部屋にいた。

ゴミ箱にビールの空き缶空き瓶が大量に突っ込まれ、テーブルにはまだ封が開けられていないビール瓶が置かれている。

どう見ても自棄酒だな。

 

「……あの人にどなったところ見て、ビックリしたでしょ? 私も後になって少し驚いたの。こんな体になる前は、他人行儀になる程度だったのに……」

 

「怒るかもしれないけど、きっと、改造されたトラウマとストレスのせいだと思う。……それなら、辻褄は合うから」

 

「あの人のことを許せて、『お祖父ちゃん』って言える日、来るのかな?」

 

「きつい言い方になるけど、そうなるよう、歩み寄ればいいんだよ。そうすればそんな日もきっと来るさ」

 

 

 

廊下。

俺とゼロ、シルキスさんは窓越しに月を眺めていた。

 

「できる限りのフォローはエックスがした。あとは、あいつ次第だな」

 

「大丈夫だと、思いたいです。不安だけど、何とかなるって信じる以外に方法はありませんから」

 

話題はやっぱり、灯留手のことだった。

最初はイーグリードのことを聞こうとしたけど気まずくて、ワンクッションのつもりで灯留手のことを話題にしたんだ。

ゼロは俺のそういう意図には薄々気づいていたのか、一気に切り出してくる。

 

「昔話でも聞くか? 俺がDr.ケイリーに拾われて、イレギュラーハンターに所属させられた直後の話だ」

 

 

 

 

 

(いつになったら実戦に出れるんだ?)

 

ゼロはそう考えながら、訓練室を出て廊下を歩く。

高い戦闘力を誇るゼロは、既にVRレーニングはA級までクリアしていた。

クールだがどこかとっつきやすいゼロは訓練生仲間たちからも慕われている。

なので、自然と人だかりができていた。

 

「ゼロってすげえな! A級のVRトレーニングのクリア時間、VAVAの記録を見事に更新するんだもんなぁ」

 

「どうせなら実戦で評価されたいんだけどな」

 

人だかりに対して顔をしかめるゼロ。

そんなゼロの愚痴に賛同したのは意外な奴であった。

 

「よく分かっているじゃないか。こういうのは実戦での結果がモノを言うからな」

 

「……まさかVAVAと意見が合うとはな」

 

「意外そうな顔に少しムッと来たが、ヒステリーを起こすほど俺は短気じゃない。これから区内パトロールだ。プロはドンパチ以外の仕事も任されるのさ。じゃあな」

 

VAVAは言いたいことを言ってそのままその場を去る。

ゼロ以外はポカンとしていたが、ゼロの方は何となくVAVAの言いたいことが分かっていた。

VAVAが去った直後、今度は別方向から怒鳴り声が響く。

 

「取り巻きみたいな真似する暇があったら、追いつく努力をしたらどうだ!?」

 

怒鳴り声の主は、猛禽類型のレプリロイド。

それを見たゼロは勝手にできた取り巻きの1人に尋ねた。

 

「誰だあいつ?」

 

「ストーム・イーグリードだよ。特A級のVRトレーニングでVAVAと全く同じクリア時間をたたき出したってもっぱらの噂」

 

少し冷めた表情で、ゼロは取り巻きの1人の説明をだま敵機ながら歩く。

一方のイーグリードも、歩いている途中でゼロのことを認識する。

 

(あのブロンドの長髪は……最近になってDr.ケイリーが拾ってきた奴だな。名前はゼロ、だったな)

 

ゼロとイーグリードは、すれ違う。

 

「いったいどこから来たんだ、ゴロツキが」

 

「鳥なのになんで腕が2本もあるんだ?」

 

その瞬間、火蓋を2人が切って落とした。

 

「吹っ飛ばされたいか!?」

 

「その言葉、バスターで叩き返してやる!」

 

「止めないか2人とも!」

 

一気にヒートアップする2人を、たまたま通りかかったスティグマが怒声で制した。

 

「全く! VRトレーニングの結果がすこぶる良好だったから、2人とも明日からの実戦参加が許可されたことを口で伝えようとした矢先にこれか! 気に入らないなら手柄で競い合え!」

 

この一件を機に、ゼロとイーグリードは何となくではあるが悪友みたいな間柄となる。

これに関して一番不思議がったのは、他ならぬスティグマであったという。

 

 

 

それから時が経って。

強盗を退治し(縛り上げ)て、護送用のパトカーが来るまでの間、ゼロとイーグリードは休んでいた。

 

「面目ない、ゼロ。お前に助けられたのはこれで17回目と来たな」

 

「俺がそっちに助けられたのは14回。そろそろ回数差を1個ぐらい減らしてくれよ」

 

「そうしたいんだがここ最近、焦り気味でな」

 

ばつの悪そうな表情を見せるイーグリード。

ゼロはそんな彼を見て「やれやれ」といった表情になる。

と、そこにイーグリードに寄り添うように少女型のレプリロイドが現れた。

 

「ゼロさんですね。イーグリードから話は聞いています。私はティル。こう見えてもA級ハンターなんですよ」

 

にこやかに挨拶するティル。

毒気を抜かれる格好となったゼロの疑問の矛先は彼女ではなく、彼女が抱き着いているイーグリードに向けられた。

 

「ああ。……おい、イーグリード。その彼女、誰だ?」

 

「……もうすぐ、指輪を贈ろうと思ってる仲だ」

 

「つまり恋人ってこと……だとっ!?」

 

「そこまで驚くことはないだろうが」

 

それ以降、何となくゼロはイーグリードだけでなくティルとも親交ができた。

第17精鋭部隊でもイーグリードとティルのカップルの一件はゼロ経由で瞬く間に広まり、イーグリードはスティグマにまでからかわれたという。

しかし……。

 

 

 

3人が第11調停部隊への短期研修期間中に事件が起きる。

バイエルン州領空ツアー用の飛行船がハイジャックされたのだ。

警備にあたっていたティルが、下世話なハイジャック犯たちに拘束されたと聞き、いてもたっていられずスティグマに命令を頼み込んだゼロとイーグリードが現場へと急行。

フュッセン上空で無事に潜入した2人は、どっちが船尾側(ティルが拉致されているところ)に行くかで揉めていた。

 

「もしも相手がティルを盾にした場合、平常心を保てるのか?」

 

「……操舵室の方に向かう。ティルの方は、任せたぞ」

 

「任せとけよ!」

 

ゼロの判断は正しく、イーグリードは多少は焦れど、平常心を失うことなくハイジャック犯たちを容赦なく叩きのめしていったのである。

通信でそれを確認したゼロは、自分の判断が正しかったと確信できた。

ゼロもまた、ハイジャック犯たちを制圧していたからだ。

 

「他愛もなかったな。にしても、こいつらどうやって入り込んだんだ? 積荷や客の乗船前チェックはミュンヘン市警に協力してもらったはずだ」

 

「それとなく聞き出そうとしましたけど、意外に口が堅くて情報は得られませんでした」

 

「……尋問の方はイーグリードと合流してから考えるか」

 

拘束されていたティルの救助を済ませ、ゼロはそれとなく考え込む。

直後、操舵室に向かったイーグリードから意外過ぎる通信が入る。

 

『大変だ! 船員の中に内通者が何人かいた! ほぼシメておいたが、残りの1人がそっち側にいる!』

 

「……!」

 

この通信に驚愕した隙を突くかのように、内通者の最後の1人が船内の設備から何かを取り出す。

銃身を大幅に短くした、エネルギー光弾式の対物ライフルである。

 

「王制打倒のために!」

 

ゼロ目がけて、引き金が引かれる。

直後、ゼロより先に気付いたティルが咄嗟にゼロを突き飛ばし、代わりにエネルギー光弾の直撃を受けてしまう!

ゼロが、悲鳴を上げる。

 

「ティル!」

 

更にトドメとばかりにもう一度引き金を引こうとした内通者であったが、それよりもずっと早く、Zバスターのセミチャージショットが対物ライフルごと奴の右手を粉砕した!

 

「あんぎゃぁああああああああ!?」

 

激痛でのた打ち回る内通者の両足と残った左手も容赦なく骨が粉砕骨折するまで踏みつけ、顔面を船内の壁に何度も叩き付けて気絶させてから、ゼロはティルに駆け寄る。

 

「もっと早くアレに気付いていれば……」

 

「……ボディに風穴が開いただけだから、大丈夫ですよ。それよりも、さっきのエネルギー光弾のせいで船体にも穴が」

 

空元気状態のティルの後ろには、鍵と取っ手の部分を狙い澄ましたように破壊され、開きっぱなしとなった気圧扉。

現在の高度は2000m前後。

そのため温度はそこまで急激に低下しないが、やはり気圧の問題があるのですぐにでも着陸する必要が生じた。

 

『ゼロ! どうした!』

 

「すまない……。最後の1人から俺を庇ってティルが撃たれた……!」

 

『何だと!?」

 

「内通者は銃ごと右手を吹き飛ばし、無力化した。しかしティルはボディに風穴が開く重傷。早急な修復を要すると判断。急いで飛行船を着陸させた方がいい!」

 

銃声と悲鳴、爆発音を通信越しでたまたま耳にしたイーグリードが慌てて通信してくる。

ゼロの報告に素っ頓狂な声をイーグリードがあげたが、ゼロは報告を続ける。

そして……ゼロが気圧扉の方を向いた瞬間、ついに直立を維持できなくなったティルが開きっぱなしの気圧扉の方へもたれかかってしまい……。

 

「!?」

 

「ティル――――――――!!」

 

ゼロが慌てて駆け出すも間に合わず、ティルは……船外に投げ出されるように落ちて逝った………………。

 

 

 

 

 

「……この一件のショックで精神的に弱っちまったあいつは一足先に帰国。それより先に政府が詫びとばかりにハイジャック犯たちと内通者連中に類を見ないスピード裁判で死刑を宣告して、刑を執行したがそれが救いになったかどうか……。

 

 結局、俺が日本に帰って事件解決の手柄で特A級に昇格したのと同時に、あいつは同じ理由で第7空挺部隊に隊長として栄転。時々顔を合わせることは仕事柄あったが、詫びを入れるタイミングは終ぞ見つからなかった。

 

 それでまた荒れそうになったのを、まだハンターになる前にエックスに救われて今に至るってわけさ……。更に気の滅入る話をしてすまなかったな。……先に寝るぞ」

 

そのまま、ゼロは自分の部屋へと戻っていった

俺がハンターになる前にそんなことが……。

余計に暗い気分になりそうになる直前、シルキスさんがそっと俺を抱き寄せた。

 

「シルキスさん?」

 

「確かに、婚約したいと思うほど愛し合っていた方を失ったことは、イーグリードさんの身に降りかかった悲劇です。それでも、道を踏み外したことは紛れもない事実です。だから、次に相対した時に、覚ましてあげましょう。彼の眼を」

 

「……うん」

 

「こうしていると、思い出しませんか?」

 

「……思い出したよ、あの時、自分が何者なのか分からなくて不安になっていた俺を、今みたいに抱きしめてくれたこと。俺、不安なんだ。シルキスさんたちは俺に惚れてくれているけど、それは不幸なことかも? って、そんな風に悩むことがあるんだ

 

 子供を作れない云々以前に、俺は、シルキスさんたちのことが好きなのかすらも分からなくて……」

 

「今の私は幸せですよ? 意中の方をこうやってまた抱きしめることができましたから」

 

 

 

 

 

朝。

城内の大食堂の一角。

俺たちは朝食の真っ最中。

横山さんたちは打ち合わせしながらパンをほおばっている。

灯留手は……あの後もかなり飲んだらしく、見事な二日酔いだ。

流石に改造人間でも許容限界があったらしい。

 

「サイボーグだから……平気れふ……」

 

なのに強がりを言っている。

全然平気そうじゃないよ。

流石にげんなりしたルナが話しかけてきた。

 

「誰がどう見てもアルコール依存症手前にしか見えないけど」

 

「自棄酒でかなり飲んでいたから……。そういえば、なんでルナが今回の任務に同行してるの?」

 

「知らないの? ゼロってあの暴力沙汰のせいで自宅謹慎付きの停学くらったのよ。で、任務とはいえ国外に行くから、それを知らされた学院側が条件を付けたの。学院側が指定したお目付け役を、今回の任務の同行させる、っていうのをね」

 

「そのお目付け役がルナってことか……」

 

ヴァイスブルスト(その名の通り白いソーセージで、バイエルン州名物。傷みやすいので専ら朝の一品用)を食べながら、ルナの説明に呆れてしまう。

……美味しい。

おいしさにちょっと目が丸くなっていたところ、

 

「いた―――! いました―――! いましたぜ―――! ほら、こっち! すっげえ綺麗なマゼンタ(マゲンタ)の色した髪の小僧!」

 

ノイプロイセン海軍の軍服を着たゴリラっぽい人相の人がいきなり現れて、凄く嬉しそうに吼える。

その直後、彼の上司と思われる、端正だけど男らしい顔つきの人が近づいてきた。

 

「ノイ・プロイセン王国海軍第4Uボート艦隊群所属のヴォルフラム・フォン・フランツェン中佐だ。この騒がしいのは副官のゴルムート・ハインツェ大尉。イレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長、ロックマンエックスだな?」

 

「確かに。俺が第17精鋭部隊隊長、エックス・クスノキだ」

 

「迎えに来た。チェックアウトを済ませてからでいいから、俺たちについてきてほしい」

 

 

 

 

 

チェックアウト後。

俺たちはヴォルフラムさんたちの案内でフォルッゲン湖の湖上にいた。

 

「もう少しだけ待てよ。お目当ての船に入れたら好きなだけ撮影させてやるからよ」

 

ゴルムートがそう言いながら機械を操作すると、霧が発生。

俺たちが乗っていた船は別の場所にいた。

 

「ここは……?」

 

「この世界には、魔法というものがある。そうやって作った狭い亜空間だ。ノイプロイセン海軍の軍艦は機密保持のため、こういった亜空間で建造されている。ここで建造している奴は特に完成前に知られたくないのばかりでな。

 

 俺とゴルムートが乗る新しいUボートや新型戦艦、お前たちが受け取る超大型飛行戦艦はあのドック艦、フリーゲンデ・シャツトゥー(空飛ぶ宝箱)で建造された」

 

ヴォルフラムさんが指差した先にある、ドックのように展開している軍艦『フリーゲンデ・シャツトゥー』は何事もないようにその姿をこれ見よがしに誇示している。

展開している個所に停泊している軍艦は、どれもかなり大きい。

……? 飛行戦艦? 俺たちが受け取る?

 

「俺たちは空飛ぶ客船だと聞いた」

 

「……あのババア、味方に嘘教えやがったな。いいか、お前たちが受け取るのは客船じゃねえ。フリーゲン・シャツトゥーよりでかそうなあの飛行戦艦だからな! ディ・シュテルンターラー級の2番艦で名前は……確か、ヴォータズ……」

 

「英語式の発音で『Wodahs-Htaed(ウォーダス・テード)』という名前だ」

 

ゴルムートの説明を補足するように、ヴォルフラムさんが名前を教えてくれた。

 

「排水量がどれくらいあるのか見当がつかないな」

 

「全長だけで1㎞を余裕で越えている。50万トンで済むかどうか」

 

 

 

艦内。

とにかく内部も広くて複雑だ。

いや、あの大きさでもあり得ないほど内部を広く感じる。

ようやく撮影許可が下りて嬉々としている出月さんを尻目に、横山さんと砂山さんも同じことが気になっているようだ。

それを読み取ったかのように、海軍の士官服を着た女性がいきなり現れて話しかけてくる。

 

「この艦は内部の大部分が圧縮空間になっているんです。内部の総面積は、理論上は本来の数倍になります。私はノイプロイセン王国海軍遊撃試験艦隊所属、エルメントーラ・アイクル・マルフリート・ロンメル大佐です」

 

「イレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長、エックス・クスノキです。……苗字からして、『砂漠の狐』か『大空の狐』の?」

 

「その両名とは先祖と苗字が共通しているだけの遠縁です。私自身、いずれは『海の女狐』と謳われる軍人になる、という夢はありますけど。とりあえず、艦橋に案内しますね」

 

 

 

艦橋。

流石にここは圧縮空間ではないようだ。

船体のサイズに合わせてかない広いけど。

 

「では、私は自分の艦に戻りますね。これが艦内の簡単な地図と、艦の取扱説明書です。この艦の艦長なんですから、目を通しておいてくださいね」

 

俺に艦内地図と説明書を手渡し、エルメントーラは艦橋を後にした。

俺がこの戦艦の艦長!?

そう思った直後、館内放送が流れる。

 

「ワールドスリーに協力する敵性組織のミュンヘン侵攻を確認! 陸軍と空軍は既に迎撃態勢を整えて待機中! 本艦はこれより出航します! これより出航します! 艦長は艦橋にあるご自身の席にお座りください」

 

それと同時に船員と思しき人たちが一斉に入ってくる。

そのうちの一人に押されるように俺はかなり座り心地がよさそうな椅子に座らされた。

 

「この艦の副官として海上自衛隊から派遣された、城戸舟子(きどしゅうこ)二等海尉です。よろしくお願いしますね、艦長。とりあえず、出航に合わせてこの亜空間は消滅し、ここに存在する艦艇と大量の水はすべて現実世界に戻ります。

 

 ちなみに、フリーゲン・シャツトゥーやこの艦を初めとする、この亜空間内にある艦艇は特殊機関の力で飛行可能となっていますので、ミュンヘンへは飛んで行きますからあしからず」

 

 

 

 

 

ミュンヘン郊外上空。

デスログマーの甲板上。

イーグリードとデゴナスガンテを後ろに従えるように、2人の女性が甲板上に立って、地上のミュンヘン市街を眺めていた。

片方はルールアン、もう片方は……。

 

「御気分は如何ですか? ローズ姫様」

 

「上々。まずはミュンヘンを足掛かりにして、そこからノイプロイセンはおろかヨーロッパを攻略。ロシア第二帝国とアメリカ合衆国攻撃の新たな拠点にする……。スティグマ殿も考えるわね。ノイプロイセン内の反王制派も味方につけてるなんて」

 

「彼らが目的を忘れて単純な王制打倒しか考えていないことを見越していたのでしょう」

 

デゴナスガンテの説明に自然と納得する彼女はローズ・ウィンザー。

異世界にあるララマザー王国とは双子にあたるウィンザー王国の第一王女。

快楽主義者で稀代の同姓好き兼宝石好き。

それがいき過ぎて遂には道を踏み外し、女性を(中略)をもとに宝石を作り出す『ジュエル魔獣』を創造して各国で活動させている世紀の大悪女でもある。

デスログマーはローズが異世界で密かに建造させていた飛行艦と、ワールドスリーが保有する飛行艦の半分以上で構成された艦隊(乗っているのはワールドスリーの構成員や海賊などの札付きの悪党ばかり)と、ジュエル魔獣(飛行形態)の大編隊を引き連れている。

地上でも、バスに偽装した大型装甲車で悪党軍団がミュンヘンに接近中である。

 

「ミュンヘンを攻略するついでに大勢の女の子たちを気持ちよくしてぇ、宝石もたくさんゲット。実に効率的よねぇ。この作戦で手に入れた宝石、何個かお譲りしましょうか? ルールアン女史」

 

「私としては女の子たちと仲良くなりたいわね」

 

「ルールアン女史って案外一途なんですね。ま、どのみち今回の作戦は成功したも同然。そうでしょう? ストーム・イーグリードさん」

 

ローズは満面の笑みでイーグリードに話しかける。

イーグリードは表情を変えることもなく、風に揺れるローズの紅い髪を不快そうに思いながら淡々と答えた。

 

「仰るとおりでしょう。予想外のことがなければ、の話ですが。ほおら、予想外の事態が起きた」

 

 

 

艦橋の窓越しに、デスログマーを筆頭とする敵艦隊が悠然と空を飛んでいる。

 

「敵艦隊、衝撃砲(シュラーグ・カノーネ)の射程内です。ノイプロイセン艦は本艦の攻撃を合図に戦闘を開始すると通達してきました」

 

「デスログマー以外の敵艦を狙うんだ。デスログマーは俊敏だから回避機動を取りながら反撃してくる可能性がある。可能ならば僚艦を全て落とした後で拿捕するように。攻撃を許可する!」

 

俺がそう言った瞬間、シュラーグカノーネが光線を放つ。

光線はデスログマーの僚艦数隻を一撃で打ち抜き、木端微塵にする。

それを合図にして、ノイプロイセン海軍の空飛ぶ艦隊がワールドスリーの艦隊を一斉に攻撃しだす。

 

「空飛ぶ艦隊は全て新型複合機関を搭載しています。この艦も例外なく。あの魚みたいな形の潜水艦はフランツェン中佐が指揮するU(ウー)-ヴァールハイ。

 

 あの銀色で本艦と変わらない大きさの戦艦はマルフレート大佐が艦長を務める星の銀貨(ディ・シュテルンターラー)です。本艦の姉妹艦であり、ネームシップです。

 

 現在、敵艦隊は航空戦力の大半を損失。ですが、別働の地上戦力の数割が市街に到達する可能性が極めて高く、飛行揚陸艇数隻が市街への侵入に成功し、中心部に移動中との報告が陸軍第1装甲師団から来ました。

 

 陸戦隊の出撃を検討しますか? こちらの飛行揚陸艇はいつでも稼働可能です」

 

「この戦闘における艦の指揮は経験がありそうな城戸さんに一任します! 俺たちは陸戦隊と一緒に市街中心部に入り込んだ敵を迎撃します」

 

 

 

 

 

ミュンヘン市街中心部。

ヴィッテルスバッハ統合宮殿の正門前。

俺たち(俺、ゼロ、シルキスさん、横山さんたちいつものトリオ、灯留手、監視の名目でいつの間にか忍び込んだルナ)と陸戦隊は飛行揚陸艇から降りた。

陸戦部隊の人たちは、Dr.ケイリーが自衛隊の人たちと一緒に秘密裏に開発したパワードスーツ、『ブルートザウガー』を身にまとっている。

 

「俺と第一分隊は艦長たちと一緒に敵部隊の迎撃! こっちはプロ○クトギア顔負けのパワードスーツ着けてるんだ! プラモドキ(正式名称はプラスチックモドキ合金)なんて締りのない名前してる挙句、名前通りに無駄にテカッている素材で出来てるが強度は本物だ!

 

 だから安心して敵の弾を浴びたっていいんだ! ロケットランチャーの直撃を食らっても立ち上がって返り討ちにするぞ! なお、ジュエル魔獣とやらは普通の銃弾では聞かない可能性が高い。出てきた場合は無反動砲か対物ライフルを使え」

 

「残りは市民の避難誘導と護衛をお願いします!」

 

陸戦隊の隊長と俺の命令に隊員たちが復唱した直後、銃声が響く。

現在の銃火器を持った山賊みたいな格好の連中が大挙して押し寄せてくる。

敵の地上部隊がそこまで来たか!

 

「第一分隊、散開! 狙いを集中させるな! アサルトライフルは移動しながら撃て! どうせパワードスーツが力づくで反動を抑えるから照準はブレたりしないぞ!」

 

第一分隊の人たちが散開しながら銃を発砲。

敵部隊を次々と撃ち倒していく。

中には立ち止まって連射式に改造された無反動砲で敵を吹き飛ばしている人もいる。

 

「そこ! それは対ジュエル魔獣用に持ってきたんだぞ!」

 

「今撃ってるのは対人榴弾です! 慌てて出撃したので装備の中に紛れていました! もったいないと思ったので使用しています!」

 

「そうか。バックファイヤーに気をつけろよ。陸戦部隊(俺たち)はパワードスーツを着ているからいいが、避難する市民が後ろを通る時はグレネードランチャーでも使うように」

 

「了解」

 

陸戦隊の隊長が直後に俺たちの方を振り向く。

何を言おうとするのかは何となく予想がつく。

 

「作戦中失礼でありますが、お願いがあります。予想以上に我々の方が優勢なので、こちらには是魯さんだけを残していただければ……その……」

 

「俺たちの方は残りの分隊と一緒に避難誘導に向かいます。ゼロは、どう?」

 

「俺はここに残っても問題はない」

 

「だそうです。ゼロとの連携は忘れないでください。無事を祈ります」

 

「ありがとうございます。艦長たちもご無事でありますように」

 

 

 

 

 

数十分後。

市民たちの避難先の一部となっているヴィッテルスバッハ統合宮殿の一角。

俺たちは出入り口の前にガードするように待機している。

中心部の戦闘が一段落ついたのでこっちに駆け付けてくれたゼロは当然のことながら、俺も既に戦闘モードに移行済み。

それでも敵地上部隊がまだまだこっちを目指していることに変わりはないので予断を許さない状況下だが、ビーアレーゲン公爵が話しかけてきた。

 

「市警からの連絡では、市民の市内各所にある避難所への避難は滞りなく進んでいるとのことです。敵地上部隊も陸軍の部隊が迎撃中と、ティーゲルントが教えてくれました」

 

「ウォーダス・テードの城戸さんからも、対空砲火を免れたジュエル魔獣がこっちに飛来しているそうです。大方、避難所としては一番目立つここに狙いを絞ったのでしょう」

 

俺がそう言った矢先、遂にジュエル魔獣が辿り着いた!

直後、城戸さんからまた通信が来る。

 

『空軍からの連絡が来ました。「現在、艦砲射撃を潜り抜けたジュエル魔獣の内、半数以上の撃墜に成功。立地上、空対地ミサイルでの攻撃が不可能なため、虫のいい話だが地上に到達した分はロックマンエックスに迎撃を頼む!」とのことです』

 

「すでにこっちに集まりつつある。そちらは引き続き敵艦隊撃滅に専念を」

 

城戸さんとの通信が終わった後、シルキスさんと戦闘モードになった灯留手、横山さんたちも前に出てくる。

流石に横山さんたちは非戦闘員だから……。

 

「せめて中に入った方がいいと思いますけど」

 

「恵玖須君の側が一番安全と思っただけです」

 

「「横っちと同意見」」

 

「私も」

 

横山さんたちどころかルナまでもか……。

どこまでガードしきれるか分からないけど、やるしかないか。

 

「スワンちゃん!」

 

シルキスさんが吼えると同時に、胸元から光が現れ、その中から胸に大きな宝石を埋め込んだ白鳥が飛び出す。

彼の名はスワン。

本来はジュエル魔獣の王として創造されながらも、かつての仲間の非道を嫌ってシルキスさんの戦う力になる道を選んだ。

 

「魔法変身!」

 

シルキスさんの足元に光の魔方陣が展開。

彼女のドレスとスワンが光り輝いて粒子状に変化し、髪が魔法の力でストレートの金髪からカールのかかった桃色に変わったシルキスさんの体を覆う純白のビキニアーマーに変化。

双剣を手にし、シルキスさんが名乗りを上げた。

 

「百翼の姫騎士! ナイトスワニィ、見参!!」

 

シルキスさんがジュエル魔獣たち目がけて切りかかる。

こっちも攻撃しておかないと。

 

「チャージショット! すぐにもう一発!」

 

ジュエル魔獣の内の1体にチャージショットを2発浴びせ、撃破!

それが引き金となり、陸戦部隊の分隊たちも対物ライフルでジュエル魔獣に十字砲火を浴びせる。

中には無反動砲で対戦車榴弾を発射している人もいる。

ゼロと灯留手も躊躇うことなくジュエル魔獣を吹飛ばす。

 

「あっという間に激戦区になりました! 特に接近戦でジュエル魔獣を次々と切り刻んでいくシルキスさんの勇猛さが目立ちます! あ、王国陸軍の部隊も何個か駆けつけてきました! 後から来たジュエル魔獣や飛行揚陸艇を撃破しています!」

 

ティーゲルントさん率いる第88ロボット戦車大隊を中心とした戦車隊が宮殿の敷地外にいるジュエル魔獣や、増援の敵兵たちを次々と吹き飛ばしだす。

歩兵部隊も王国群で採用されているパワードスーツ『アウスガーベンヴォルフ』で身を守っているので敵の攻撃で負傷する様子は見られない。

 

 

 

数十分後。

陸軍の部隊は別の地区の敵に狙いを変えて移動。

ジュエル魔獣を軒並み片づけ、俺たちは一息ついた。

宮殿周辺の敵を掃討し終えたので、

しかし、不安は拭えない。

何か雨で濡れた服のようにべっとりと張り付いている。

それを少しで散らそうと思って、何となく灯留手の振り向いた瞬間、不安は明確な形を持って目の前に現れた。

 

「きゃぁああああああああああああああ――――――!!?」

 

ヒルデの体を覆っていた装甲が武器ごと吹き飛び、アンダーウェアもビリビリに破れてかなり露出度の激しい状態となる。

 

「灯留手!?」

 

同時に、瘴気みたいなものを感じる。

こっちは原因がはっきりと分かる。

 

「ルールアン!」

 

「ローズ姫!」

 

正気の根源である二人の悪女が目の前に現れる。

そいつらの名前を、俺とシルキスさんは叫んだ。

1人は姉さんの純潔を無惨に踏みにじった女!

もう1人はジュエル魔獣を生み出して、ウィンザーとララマザー、その周辺諸国に災厄をばらまいた女!

 

「前もってドバイの連中から灯留手ちゃんのコントローラーを受け取っておいて正解だったわ。灯留手ちゃんの方の調整が間に合わなかったから、自爆装置しか作動しなかったけどね」

 

「うふふふふふふふ。せっかくだから、私たちの手で調整しちゃいましょうか。魔法変身!」

 

ローズが叫んだ直後、彼女の胸元から胸に宝石が埋め込まれた黒鳥が出現し、ドレスごと光の粒子となって彼女を包む。

魔法の力で赤から白銀に変わった髪をなびかせ、露出度の高いワンピースドレス型の黒紫の鎧と、黒いマントを身にまとう。

そして、死神が持つような鎌を手に名乗りを上げた。

 

「暗黒の騎士、ダークスワニィ参上!!」

 

ローズ改め、ダークスワニィは名乗りを上げた直後にマントを6匹の鉄の蛇のような鎖に変え、その内の1本を伸ばす。

その鎖は灯留手の首目がけて、リング状の先端を口を開けるように展開して灯留手の首を咥えこんだ!

 

「クラッシュバスター!!」

 

しかし、思い通りにしてなるものかとゼロがフルチャージショットで鎖を破壊。

俺は短いダッシュで灯留手に駆け寄り、抱きかかえる。

それと同時にシルキスさんがダークスワニィに斬りかかった。

 

「何ならもう一度可愛がってあげようかしら? アレは素直になるまでお預けですけど」

 

「戯言を!」

 

ダークスワニィの鎌と鎖を颯爽と避けながらも、その鎖のせいで思うような決定打を与えるまでには至っていないらしい。

ゼロはルールアンの方を相手にしている。

ならば……。

 

「ゼロ! ルールアンの相手をそのまま頼む! 第2から第4分隊へ艦長命令! ゼロの援護を! 俺はシルキスさんの援護に回ります! 避難所になっている建物に流れ弾が当たらないよう、攻撃時の立ち位置には注意してください!」

 

分隊の人たちから復唱が来た直後、またも城戸さんから通信が来た。

 

『空軍から要請が来ました! 面倒くさいので中継します!』

 

『こちらは王国空軍第一空軍師団指揮下第74戦闘航空団115戦闘機部隊隊長。敵指揮官と思しき女性2人を確認したが、立地的に対地ミサイルは使えない! どちらか片方でいいから何とか空に飛ばしてくれないか?』

 

「髪の短い方はこちらで対処するので、髪の長い方を空に飛ばしてみます。そいつの目印は、銀色の髪に黒いドレス。銀色の髪に黒いドレスです!」

 

『ロックマンエックスの了承と的確な助言に感謝する!』

 

通信を終えると同時に、俺はチャージを開始。

だが、スパイラルバスターを撃つわけじゃない。

武器セレクト!

 

「ショットガンアイス!」

 

氷のソリが生成され、ダークスワニィめがけて突進。

当たる直前に鎖の内の1本に破壊されたが、それをシルキスさんが切断。

すかさず足目がけてセミチャージショット!

狙い通りジャンプと同時にそのまま空中に浮遊。

その隙を突いてダッシュでシルキスさんに接近して耳元でささやきかける。

 

「ダークスワニィを可能な限り高高度まで飛ばしてください。空軍が攻撃してくれるそうです」

 

「分かりました」

 

シルキスさんも飛翔し、ダークスワニィに突貫。

リクエスト通りに上手くダークスワニィを上昇させてくれている。

ある程度の高度にまで上昇してから数秒後、十数発のミサイルがダークスワニィを直撃!

かなりの距離を吹き飛ばされたから、しばらくは戻ってこれないだろう。

 

『協力に感謝する。ワールドスリー本軍からの航空増援を確認したので我々はそちらの迎撃に移る。貴殿の勝利を祈る!』

 

 

 

シルキスさんが着陸したところで、俺たちはゼロの援護に移ることにした。

エーテルランドの住人はこちらの世界にいる間は物理攻撃をある程度まで緩和することが可能だ。

流石にゼロのエネルギー弾は効いているが、陸戦隊の人たちの火器に対しては弾幕で怯みはするもののそれほどのダメージにはなっていない。

 

「凄まじい銃撃です! ですが違反者はその特性上、物理的な攻撃に対する強い体制を有しているため、膠着状態となっています!」

 

そんな状態を打破しようと援護に回ろうとした瞬間、イーグリードがデゴナスガンテを運びながら飛来してきた!

 

「呼ばれていませんがいきなり出場! ダークスワニィ様は吹き飛ばされたようですがあの方のことなのでご無事でしょう。それはそうと……ナイトスワニィ殿、いざ尋常に勝負!」

 

デゴナスガンテは大袈裟な仕草でまくし立ててから、シルキスさんに斬りかかる!

剣さばきが速過ぎる。

ダークスワニィの鎌より重そうな大剣を片手で難なく振り回している。

かなりの腕だ。

俺の方には、イーグリードが襲い掛かる。

突進してきたのを見計らい、今度も頭突き!

 

「……昨日よりは効くな。だが、それでも足りん! ……!?」

 

攻撃に移ろうとしたイーグリードを牽制するように、銃弾がイーグリードのボディに当たり、潰れた後地面に落ちる。

イーグリードを撃ったのは……ビーアレーゲン公爵……!

灯留手を抱きかかえながら、ヴァルター(ワルサーとも言う)P38を構えている。

 

「……私にはこうする以外にヒルデに詫びる方法が分からん。こうする以外に、あの女たちや、あの女たちに従うお前らに牙を剥くことでしかヒルデに償うことができん!」

 

「…………お祖父ちゃん」

 

「この子に祖父と認めてもらえた以上、残りの未練も振り切れるというものよ!」

 

まずい、公爵は死ぬ気だ!

止めるように呼びかけようとしたが、それよりも先にライト博士のホログラムが現れた!

 

【エックス。最後のパーツを届けに来た】

 

ライト博士が手短に告げた直後、俺が被っているヘルメットが光り輝く。

光が収まった後、ライト博士が説明してくれた。

 

【ヘッドパーツはヘルメットの耐久性を爆発的に高めてくれる。また、左右一対の飾りから放たれる高周波によって頭突きを強化した『ヘッドブレーク』の使用も可能となる。これで、お前のアーマーは完全となった。

 

 だが、今回はもう1つ私がなすべきことがある】

 

そう呟いたライト博士は、視線を灯留手の方に移す。

瞬間、灯留手の体が宙に浮き、光に包まれた。

光が消えた後、灯留手は私服姿に戻っており、肌についていたススや破片も消えていた。

 

【あの後、君を改造した際の設計図を覗き見させてもらった。その設計図を参考にして君の体の改造された箇所を改良し、新しいアーマーと武器も用意した。……私には、こうすることでしか君を助けることはできなかった。

 

 戦わなければならぬ時、「甲冑物質化(ルストン・マテリエリーゼ)」と唱えるんだ。そうすれば、君も『ロックマン』になれる。許してくれとは言えない。だが、これからもエックスの良き友でいて欲しい。心正しく生き続けて欲しい】

 

「……あなたは?」

 

【私はトーマス・ライト。エックスを設計し、開発した科学者だ】

 

灯留手に対してライト博士はそう答えた後、再び俺の方を向く。

そういえば、ルールアンはまだ健在のはずなのに攻撃してくる様子がない。

ライト博士がいきなり出てきたので、驚いているのだろう。

 

【私には、こんなことしかできない。願わくば、この戦いがお前とヒルデ君の勝利で終わることを……】

 

ライト博士がそう告げて消えると同時に、抱きかかえられていたる灯留手は立ち上がり、俺たちの方へと歩き出した。

 

 

 

『えっと……わるきゅーれ……?』

 

『外れよ。これは、正しくは「ヴァルキューレ」って読むの。ドイツ語では、W(ダブリュー)のことを「ヴェー」って発音するから』

 

『ばるきゅーれ……』

 

何故か、小っちゃい頃のことを思い出したの

ドイツ語の絵本を読んでて、それに出ていた女の人を「ワルキューレ」って発音したら、お母さんが「ヴァルキューレ」って教えてくれて……。

あの科学者の人は、私も「ロックマン」になれるって……。

それじゃあ、私は今日からその「ロックマン」ってことになるんだ……。

……戦わなきゃ。

お祖父ちゃんも、この街の人たちも、何故か分からないけど、守りたいって思うから!

 

 

 

「ルストーン・マテリエリィーッゼ!!」

 

灯留手が叫んだ直後、その体がまたも光に包まれる。

一瞬で裸になり、赤いアンダーウェアにその身を包まれた。

その上に、黒い縁取りが付いた白い鎧が装着される。

最後に兜が装着された直後、灯留手は名乗りを上げた!

 

「ロックマンヴァルキューレ!!」

 

俺たちはビックリするしかなかった。

敵味方問わず驚いているらしく、一瞬だけ静寂が辺りを包んだ。

その隙を突くように、灯留手は攻撃態勢に入る!

 

「ソリーデシュッツ!」

 

背中から展開されて出てきた砲身から、物凄い勢いで弾丸が発射されて唖然としているルールアンを直撃。

激しい爆発を起こし、顔の半分以上が吹き飛んだ。

 

「……ゆ、油断、した……わ……!」

 

「ハントリッヒラケーテンアブシュスクリート!」

 

二の腕のアーマーが展開されて、小型の連装ロケットランチャーが出てきた。

そこから数十発のロケット弾が一気に発射され、ルールアンをさらに痛めつける。

爆炎が晴れると、更にズッタボロになったルールアンがそこにいた。

 

「……分が悪すぎるわね! イーグリード! デゴナスガンテ! 私はローズ姫様を回収してデスログマーに撤退するから! ついでに増援も用意してあげるわ!」

 

その言葉と共にルールアンは空を飛んで撤退しだす。

逃がすまいと思ったが、ルールアンが魔法で増援であるジュエル魔獣たちを大挙して召喚してきた。

中には明らかに灯留手目がけて職種を飛ばしてくる奴もいる。

 

「あわあわあわ!」

 

鎧の重量のせいか、灯留手の動きは前の装甲の時より割と遅くなっている。

だが、流石にやられっぱなしになる気はなく、一気に反撃に出た。

 

「レンクフルカーパーガンポタズ!」

 

鎧の各所が展開され、そこから小型のミサイルが大量に発射されてジュエル魔獣たちを吹き飛ばす。

ミサイルはイーグリードとデゴナスガンテにも狙いを定め飛翔。

イーグリードは空を飛ぶと同時に、アーマーに内蔵されていたオプションメカを囮にして振り切る

デゴナスガンテはその剣さばきでミサイルを全て切り落とすが、直後に発生した爆風を浴びて僅かにダメージを受けていた。

 

「大丈夫か?」

 

「爆風を浴びただけですので……」

 

「流石に分が悪いか……。決着はデスログマーの甲板の上でつけよう!」

 

そう言うや否や、イーグリードはまたもデゴナスガンテの両肩を足の爪でつかんで空中へ逃走した。

 

「エンゲルスフリューゲル!」

 

背中から翼を展開し、灯留手は飛翔。

イーグリードを追跡するために飛んでいく。

直後、飛行揚陸艇がゼロの目の前に降りてきた。

 

「乗って! デスログマーを追います!」

 

陸戦隊の隊長が第1分隊の人たちと一緒に乗っていた。

残りの分隊と横山さんたちにルナが乗り込むが、ゼロはこういって飛行揚陸艇の甲板の上に立つ。

 

「こっちの方が乗り降りが速い。すぐに出してくれ」

 

「はあ……。ですが、艦長とお姫様が……」

 

判断に迷う陸戦隊の隊長の背中を押すように、今度はシルキスさんが声を発した。

 

「エックス君は私が運びます。私も空を飛べますから!」

 

「そう言うわけなので、そちらはそのまま離陸してイーグリードを追跡。対空防御はゼロに任せるように」

 

「了解!」

 

更なる後押しとして俺が命令を下したので、陸戦隊の隊長は意を決することができたようだ。

直後、シルキスさんは俺をお姫様抱っこで抱きかかえて飛翔した。

 

 

 

現在の高度は、軽く見積もっても4000m以上。

何回かジュエル魔獣が襲い掛かってきたが、飛行揚陸艇の甲板の上にいるゼロと、ミサイルを全て発射態勢にした灯留手、シルキスさんに抱きかかえられている俺が撃ち落とす。

……デスログマーが見えた。

 

『こちら艦橋。デスログマーは今の今まで攻撃してきませんでした。何かの作戦でしょうか?』

 

「これより、デスログマーの甲板上に着艦します。引き続き他の戦力の撃滅に専念してください」

 

 

 

デスログマーに着艦し、俺たちは身構える。

直後、四方からジュエル魔獣たちが飛来してきた。

それを見た瞬間、シルキスさんの掛け声に呼応して、バイザーのクリスタルが強く輝く。

 

「輝け! 勇気の証、スワニィクリスタル!!」

 

眩い光の中でマントが光の翼に変化し、合わせるように双剣までも強く輝く。

 

「必殺! 白鳥の湖っ!!」

 

シルキスさんの掛け声がより強く響く。

それと同時に光の翼が3対に増える。

光の翼がジュエル魔獣を切り刻み、開店しながら双剣を横なぎに振るうと同時に6枚の光の刃に変貌。

ジュエル魔獣たちをあっという間に全滅させた。

 

「綺麗に全滅させちゃったね」

 

「……そうだね」

 

灯留手は茫然となって呟き、俺も相槌を打った。

直後、デスログマーは高度をいきなり下げ始める。

大分下げたので、気になってヒルデに聞いてみた

 

「現在の高度、わかる?」

 

「センサーだと、1500m位になってるよ」

 

そこまで下がったのか。

そんな風に思った矢先、羽が羽ばたく音が聞こえだした。

デゴナスガンテを足の爪で掴んだまま、イーグリードが姿を現す。

彼を着地させてから、イーグリードも着地した。

 

「戦いの準備は済んだか? 『天空の貴公子 ストームイーグリード』と!」

 

「『宝魔の守護騎士 デゴナスガンテ』はいつもいつでも準備万端です!」

 

もちろん、俺隊も準備は万端だ。

俺は両手のバスターを展開し、シルキスさんも再度剣を構える。

 

「イーグリード! あなたは本気で俺への嫉妬だけでスティグマに味方したと言うのか! それはティルへの侮辱にしかならないというのに!」

 

「俺らしくない理由なのは、ティルを愚弄する馬鹿な真似なのは、百も承知だ。より深く知りたいなら、俺たちに勝て! イレギュラーハンター・ロックマンエックス!!」

 

俺の言葉にイーグリードは少しだけ思案したのか、数秒間だけ目を閉じる。

しかし、覚悟を決めた表情で吼えた。

 

「ナイトスワニィ……。貴女は身も心も美しい。できることなら、スワン先輩のように貴女の側につきたかった。この無念を戦う力に変えて、貴女に謹んで挑ませてもらいます!」

 

「それならば、私も正々堂々と、参ります!」

 

シルキスさんの言葉をゴング代わりにして、俺たちの戦いが始まる。

イーグリードの右手から放たれた突風が襲い掛かる。

シルキスさんは空を飛んで回避し、俺はダッシュで突きぬけてスパイラルバスターを発射した。

 

「スパイラルバスター!!」

 

「ぬあっ!?」

 

一瞬ひるんだ!

チャンスとばかりにさらに距離を縮めようとする前に、デゴナスガンテの斬撃が襲い掛かってきたので慌てて回避。

 

「私、とても身軽でして」

 

爽やかな笑顔で軽口を言っているが、直後にシルキスさんが切りかかってきたので慌てて大剣で防御。

ゼロも加勢しようとしたが、どこかで見たような鎖が襲い掛かったのでやむなく避けていた。

 

「ダークスワニィとルールアンも戻って来たか」

 

「俺と陸戦隊、灯留手はあのビッチコンビを何とかする。お前たちはイーグリードとデゴナスガンテの相手に集中しろ」

 

「了解」

 

ゼロの言葉を信じて、イーグリードとデゴナスガンテの相手に専念しよう。

イーグリードは再度オプションを展開。

 

「往け!」

 

こっち目がけて放ってきた。

エネルギー弾の1発や2発では壊れないので、武器をチェンジ。

ある程度接近してきたところで……。

 

「ファイヤーウェーブ!」

 

ファイヤーウェーブの火力で強引に全部撃墜。

だが、イーグリードは再度上昇し、俺の方目がけて真っ直ぐ突撃してきた。

だったら!

 

「もう一度頭突きに打って出る!」

 

ダッシュで勢いをつけ、そのまま突撃してくるイーグリードの顔面に3度目の頭突きを炸裂させる!

 

「……! 堅さも十分。とてつもなく効いたぞ!」

 

「次はこれだ! カメレオンスティング!」

 

「ぐあっ!?」

 

頭部の亀裂と、スパイラルバスターが当たった際にわずかに亀裂が走った胸部目がけて、カメレオンスティングを発射!

効いているみたいだ。

 

「まだだ!」

 

また飛翔した。

今度は俺の方目がけて、上空から斜め下に落ちるかのように突っ込んでくる!

カメレオンスティングが効いていたから、今度はチャージして発射だ。

 

「はああっ!」

 

「カメレオンスティング!」

 

3本の光の屋は……発射されなかった。

しかし、その代わりに俺の体がホログラム状の半透明になる。

直後、イーグリードが俺の体をすり抜けてしまう。

 

「何!?」

 

この隙を逃してはいけない。

慌てて着地し、俺の方を振り向いたイーグリード目がけて……。

まずは右手のバスターで連射!

次に!

 

「スパイラルバスター!!」

 

「うぐっ!?」

 

〆の一撃!

 

「カメレオンスティング!」

 

「があああああああっ!!」

 

イーグリードは悲鳴を上げながら、膝をついた。

それを見たデゴナスガンテも、戦意を喪失したらしく、剣を鞘に収めて肩の力を抜いた。

 

「……これで、いいのです。私たちの目的も達成されました」

 

「……それは一体?」

 

「私とイーグリードの目的は1つ。この戦いでローズ姫様が作った艦隊そのものを潰えさせ、ワールドスリーの空中艦隊の戦力を大きく削ぐことでした。私が情報をあらかじめノイプロイセン政府とイレギュラーハンター本部に流して、そちら側の戦力を整えさせたのです」

 

デゴナスガンテの答えに、尋ねたシルキスさんだけでなく俺も驚愕する。

高度が下がったのでいつの間にか横山さんたちもデスログマーの甲板上に出ていたらしく、一緒に驚いている。

もちろん、ゼロや灯留手に陸戦隊の皆さん、そして……ルールアンとダークスワニィも驚いた。

 

「まさか、あなたみたいなお気楽極楽な奴が内通していたなんてね……」

 

「どういうつもりなの? よりにもよって、私の守護騎士として創造されたあなたが何で裏切るのよ!!」

 

ルールアンは怒りに震えながら呟き、ダークスワニィは怒りをむき出しにしながら吼える。

 

「騎士道に則る者として、貴女のような非道な方に忠誠を誓いきれなかった。ただ、それ故に裏切ったのであります。裏切りは恥にして罪なれど、邪悪その物に媚びへつらうよりはマシというもの! 私は騎士として、弱き者たちの盾となりたかったのです!!」

 

デゴナスガンテは、悲痛な表情で涙を零しながら吼える。

騎士として生きようとしたが故に、騎士として許されざる選択を選んだ騎士の悲哀が、そこにはあった。

ならば、俺は……。

 

「次は眼前にいる騎士の命を消させないために戦う!」

 

「その命諸共始末して差し上げますわ! 必殺! 暗黒の湖!!」

 

6本の鎖が鎌と一体となって稲妻をまとい、一斉に襲い掛かった!

襲い掛かる直前、ゼロが俺に話しかけてくる。

 

「エックス! フルチャージショットの同時発射だ!」

 

「了解! スパイラルバスタァーッ!!」

 

「クラッシュバスターッ!!」

 

「ラングヴァッフェンブルースト!」

 

「白鳥の湖!!」

 

6匹の電撃大蛇の内、俺とゼロのダブルショットが半分を破壊。

1匹を灯留手が胸部装甲が展開されてそこからせり出した砲身から破壊光線を発射して破壊。

残りの内片方はシルキスさんが白鳥の湖で破壊。

最後の1匹はどこかから飛んできたミサイルらしき物体が吹き飛ばした。

 

『おおーい、ロックマンエックスゥ! 無事か? 無ー事だよなぁ? 髪が焦げてる程度なら艦長には無事って報告するからな!』

 

いきなりゴルムートからの通信が入ってきた。

ということは……。

 

「今のミサイルはU-ヴァールハイが?」

 

ホーミング(ツィールズッフ)ロケット(ラケーテ)魚雷(トルペード)だ。空中でも水中でも発射できる魚雷であってミサイルではない』

 

ヴォルフラムさんが割って入って説明してくれた。

そろそろ爆炎が晴れるころだ……。

あくまでも鎖を破壊しただけなので、ダークスワニィ本体はさほどダメージを受けていない。

ルールアンは言わずもがな。

 

「……どこまでもしつこいわね!」

 

「ローズ姫! 諦めなさい! この戦いは日本だけでなく、ララマザーとウィンザーにも中継されています! 変身するところだってバッチリ中継されていたんですからね! 大人しく法の裁きを受けてください」

 

「……え? ララマザーとウィンザーにも中継してたの!?」

 

「はい」

 

今度はララマザーとウィンザーにもか。

用意がいいというか、なんというか。

でもどうやって異世界の国にも中継しているのかな?

まあ、今はそれどころではないけどね。

 

「うふふふふふふふふふふふふふふ……。なぁーんってこっとを……してくれるのよ!!」

 

「あー、あー、聞こえませーん。それはそうとエックス君。R.O.C.K-SETシステムの認証を!」

 

ダークスワニィの絶叫をさらっと無視していつものアレをシルキスさんを要請してきた。

しょうがないな……。

 

「了解」

 

「エックス君! R.O.C.K-SET.T.E.R.!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

俺が承認コードを叫んだ瞬間、シルキスさんの鎧の内、バイザーの額飾りと肩アーマー、左右一対の腰アーマーが外れた上で、シルキスさんの体に蒼く光る追加装甲が装着される。

その後、額飾りと肩アーマー、腰の左右一対のアーマーが再度装着された。

 

「恒例行事の時間がやってまいりました! そろそろこの大激戦も終わるようです!」

 

横山さんが定例行事のお知らせの如くリポートする。

俺も謎の安心感を感じている。

 

「またパワーアップイベントなのぉ……?(ナイトスワニィは原作終盤の手短なパワーアップイベントを経てダークスワニィを撃退しています) こぉーなったらぁ、私の新必殺技をお披露目してあげるわ! 必ぃぃっ殺ぅ!! 暗黒のぉ、大っ津ぅっ波ぃいいい!!!」

 

ダークスワニィが大音量で掛け声をあげ、それと同時に稲妻を放ちながら大回転。

おびただしい数の黒鳥が稲妻をまといながら、6匹の稲妻大蛇と共に飛来。

それを見たシルキスさんも大技の発動体制に入った。

 

「必ぃぃぃぃぃぃぃぃっっ殺っっ!! 白鳥のっ、大ぉっ津波いぃっっっ!!!」

 

光り輝きながらシルキスさんは回転。

それと同時に翼から無数の羽が放出されて、その全てが光の白鳥へと変化。

稲妻をまとう黒鳥の群れ目がけて突撃する。

激しい爆音と共に大技同士の激突は相殺という形で終わった。

これにはダークスワニィは茫然自失となり、代わりにルールアンが狼狽している。

 

「……嘘でしょ!? ローズ姫様が実際に試し撃ちした時には白鳥の大津波を超える威力を叩き出したのに!」

 

「うふふふふふふふふふふふふふふふ……あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! どこまで私の邪魔をすればぁああああああああああっ!!! 暗黒のぉ、大っ津ぅっ波ぃいいい!!!」

 

ダークスワニィが再び大技を発動する。

そろそろ、アレをするタイミングかもしれない。

 

「エックス君、往きましょう!」

 

「うん!」

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

この戦いは今日、決着をつける!

俺とシルキスさんがみんなと一緒に!

 

「未来に届くほどの勢いで空を飛びましょう」

 

「一緒に手を繋ぎ、嵐を超えて行こう」

 

「明日は誰にも分かりません」

 

「だからときめくままに突き進む」

 

「「『Garnet Moon』!!!」」

 

俺とシルキスさんは互いを見詰め合い、そっと両手と両手をつなぐ。

そして光り輝きながら回転し、シルキスさんの翼から白鳥の大津波の時以上の数の羽が、蒼く光りながら舞い散る。

その全てが、俺のデフォルトの戦闘形態を模したアーマーに身を包んだ光の白鳥に変化!

口から大量のエネルギー弾を発射しながら一斉に突撃した!

 

「か、体が、私が、エーテルランドに送り返されていく!? 私が、私の体がぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

「あり得ない! こんなのあり得ないわ! 暗黒の大津波を打ち破ってなお、まったく勢いが衰えないなんて! あり得ませぇぇぇぇぇぇぇんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ルールアンがエーテルランドに強制送還され、ダークスワニィもまた、光の白鳥たちに吹き飛ばされてあさっての方向へと消えて行った。

…………。

 

「終わった……」

 

 

 

「……? た、戦い、は……?」

 

「イーグリード! 私の名を言うのです! 言えば元気が出ますよ!」

 

「……お前の名は、デゴナスガンテ。ジュエル魔獣で唯一、騎士の資格がある存在だ……」

 

「良かった……! エックス殿! 修理は上手くいったようです! イーグリードが元気になってくれました!」

 

その言葉に、俺たちは安どのため息をつく。

修理が間に合って良かった。

 

「俺はあの時、機能が停止したはずだ……」

 

「エックスがお前を修理してくれたのさ。昨日、お前の爪で首に穴が開いた俺のようにな」

 

「そうか……」

 

ゼロの説明を受けたイーグリードは、安心しつつもどこか寂しげな表情になる。

 

「イーグリード……。本当に、エックスへの嫉妬だけがワールドスリーに参加した理由だったのか……?」

 

「……エックスへの嫉妬でワールドスリーに協力したのは事実だ。だが、参加した理由は違う……。俺は……あの蜂起が起きる何週間も前に、偶然にも奴の計画を知った。だから、それを止めるために挑み、敗れたことで奴に従うと誓ってしまった。

 

 すぐにでも、あの婆さんかシグナスにチクってしまえばよかった。だが、それができなかった。それは、涙を流せるエックスと一緒に戦うことになるということだから……。エックスと共に戦うことは、嫉妬で凝り固まっていた俺の心その物が許してくれなかった……。

 

 馬鹿な話さ。エックスが偶然泣いていたのを見てしまい、ティルが死んでも泣くことができなかった俺はそれ以来エックスを激しく妬むようになった。その結果がこれさ……

 

後悔が滲み出た表情で語りだすイーグリード。

高度1500mの冷めた気温と風が、俺たちだけでなくイーグリードにも冷たくぶつかる。

 

「……馬鹿野郎が! ティルが今のお前を見たら、どんな気持ちになると思ってやがる!」

 

「そうだな……。間違いなく泣いて怒って、また大泣きした……だろうな……。……ゼロ!? お前もか!?」

 

「? どういう……! これは!?」

 

ゼロが絶句したので、俺たちもゼロの方を見る。

ゼロが……泣いていた!!

 

「俺まで、涙を!? だが一体何故? !? そういうお前だって!」

 

「…………! 俺も、泣いて、……いるのか?」

 

ゼロに続いてイーグリードまで……いったいどうして?

 

「ふっ……ふははははははは! そうか! そうだ間違いない! お前に修理されたから泣けるようになったんだ。俺とゼロの共通点の内の1つがそれだからな! 何てことだ。涙が流せるようになった途端にお目への嫉妬が消えて無くなってしまった……!

 

 だが……嫉妬の末に道を踏み外した代償は、払わなければならないようだ。エックス、ワールドスリーに参加した奴がたいていはどんな末路をたどるか、見ておくんだ」

 

そう言いながらイーグリードは立ち上がる。

数秒後、胸部の破損個所から爆発が起きた。

 

「「イーグリード!!」」

 

「これで、いいんだ……。もう……すぐ、ティルのところへ……逝ける……。今すぐデスログマーから離れるんだ。安心しろ。デスログマーの乗員は始末した後だ。今は自動操縦で動いている。今回の戦いは、フランスの一部の軍人と政治家もワールドスリーに協力している。

 

 国の安泰の保証と、ノイプロイセンの王制打倒を保証してもらうのと引き換えにな。だから、奴らにとって重要な施設にデスログマーを落とす。民間人がいないところだから安心しろ」

 

「……イーグリード…………。もう少し、もう少し加減できていれば……!」

 

「男のおしゃべりは、みっともないぜ……。ましてや、泣きべそかきながらじゃ尚更だ。それと……すまない、イレギュラーハンター・ロックマンエックス」

 

イーグリードは笑顔のまま、強がりを言う。

だけど……だけど!

 

「イーグリード……。俺は、お前に詫びねば……」

 

「謝ることなんか、無いさ。あの時、お前に頼り切ってティルが撃たれた時に駆けつけることができなかった俺に、お前を恨む資格なんかないさ。……ナイトスワニィ、あんたみたいな女いるあたり、エックスは果報者だよ」

 

ゼロの詫びの言葉をさえぎり、シルキスさんに対して軽口をたたく。

 

「イーグリードさん……」

 

ちょっと顔を赤くしているシルキスさんを笑顔で一瞥して、イーグリードは今度はデゴナスガンテに語りかける。

 

「デゴナスガンテ……。お前、これからどうする?」

 

「可能ならば、シルキス様とスワン先輩に仕えたいと思います。もちろん、シルキス様のご判断に身を委ねるつもりですが」

 

その言葉に安心したのか、イーグリードは最後に再び俺に語りかける。

全てを受け入れた、悟りの境地のような表情で。

 

「遠隔操作で落下場所を指定した。……現在、フュッセン上空か。後を追うにはうってつけの……場所、だな。ティルと俺が生きていた世界を、あの異常者から守ってくれよ……ゼロ、エックス」

 

「当り前だろうが……」

 

「あなたとティル、この大空に誓って」

 

ゼロと俺の言葉を聞いて、イーグリードは笑った。

優しい笑顔だった……。

 

「なら、安心だな……。先に逝ってるぜ!」

 

イーグリードは別れの言葉を遺して飛翔。

ある程度飛んだ後、爆発と共に落ちて逝った……。

 

「ば…………馬鹿野郎がぁああああああああ――――!!!」

 

直後、ゼロは涙を流しながら風の音を切り裂く絶叫を響かせた………………。

 

 

 

 

 

 

イーグリードは落ちていく。

大地ではなく、フォルッゲン湖の水面へと。

そのまま叩き付けられ、沈んでいく。

やがて、湖底へと着底していく直前、イーグリードはようやく再会した。

金属製の亡骸となった、ティルと……。

 

(ティル! やっと……やっと……また会えた!)

 

着底したイーグリードは、最後の力を振り絞って側に寄り添い、ティルを抱きしめる。

 

(すぐにお前の所に逝くからな……。愛してるぜ、ティル………………)

 

イーグリードは、満足したような笑顔で、ティルの亡骸を抱きしめながらフォルッゲン湖の湖底で散って逝った……。

 

 

 

 

 

次の日。

ミュンヘンの繁華街。

市内全域がお祭り騒ぎを通り越して、お祭りの真っ最中だった。

所々戦闘の傷跡が残っているけど、数人の軽症者が出ただけで、王国群にも市民にも死者が奇跡的に出なかったこの戦いでの完全勝利を祝して、みんながはしゃいでいる。

けれど、俺たちは……はしゃぐ気になれなかった。

市内の高そうなレストランのオープンテラス席に、俺とゼロと横山さんたち、ルナと灯留手が集まっていた。

ヴォルフラムさんとゴルムート、エルメントーラにティーゲルントさん、そしてデゴナスガンテも加わっている(デゴナスガンテはシルキスの判断で、彼女に忠誠を誓うことになった)。

俺とゼロと灯留手は明らかにリットル単位で入っているビール瓶、残りはジョッキを手にしている。

 

「天空の貴公子」

 

「イレギュラーハンターの鑑」

 

「「ストーム・イーグリードを弔って、乾杯」」

 

殆ど自棄酒の意味合いもあるせいか、みんな割と早い頻度で飲んでいる。

かくいう俺とゼロ、灯留手は度合いが突き抜けて酷く、既に数本を空にしたが。

 

「お代わり、お願いします」

 

「私も、瓶でお願いします」

 

灯留手は10本目を頼んでいる。

デゴナスガンテまでも瓶でのラッパ飲みにシフトしだした

それを尻目に、ゼロがふと呟く。

 

「ルールアンはエーテルランドに強制送還されたと考えていいとして、ダークスワニィが気がかりだな」

 

「満身創痍の上に表の後ろ盾を失った以上、表だって動くことはないでしょうが、少なくともしばらくすればまた暗躍しだすでしょう。ですが、いずれは裁きを受けさせるつもりです」

 

「そうしてもらえると助かるぜ。そうじゃないと、あいつが浮かばれない……」

 

シルキスさんの言葉に安心したのか、ゼロはテラスの方向を振り向いてまた飲み始める。

 

「イーグリードさんは、ティルさんに再会できたのでしょうか……?」

 

シルキスさんは、アルコールで顔を赤くしながらも不安げな表情になる。

多分、再会できたと思う。

何故かは分からないけど、そう確信している。

 

「きっとまた会えたよ。ティルが死んだ時と同じ空で散って逝けたんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ストームトルネード』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

地中海を構成する海域が一つ、エーゲ海に浮かぶギリシャ領、ロドス島。

ギリシャを代表する観光地であるこの島の近海に突如として建てられた海上研究所には黒い噂が付きまとっていた。

噂を懸念したギリシャ政府の要請で、俺は水の精霊と共に一路、ロドス島へと飛ぶ。

そこで、俺たち2人は随分と勝ち気な人魚と出会った……。

次回! 「両手には乱れ咲く蒼い花、眼前には蒼い海原」。

エーゲ海の海底という名の戦場を駆け巡って、精霊騎士が悪の芸術を圧して潰す!

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



天空の貴公子 ストーム・イーグリード(イーグル)

イーグル型のレプリロイド。
空中艦隊を率いる元第7空挺部隊の元隊長で、その見た目とモチーフ通りのスピーディな空中戦を得意とする。
誇り高くもどことなくとっつき易い性格で口数もそれなりに多いが、親しい人物がいない時や感情が表に出ていない時では口数が少なくなる傾向があり、少々近寄りがたい雰囲気がある。
しかし、隊内ではそんな性質を理解されていたため、人望は非常に厚かった。
ゼロとは同期であり、訓練生だった頃の些細な理由での激しい衝突が縁で親友同士となる。
イレギュラーハンターになる以前からティルとは交際しており、実はお互いが知らないままハンターになり、訓練期間を終えてから2人揃ってハンターになっていたことに気付いた、という微笑ましい出来事もあった。
ゼロを交えての仲良しトリオは第17精鋭部隊の癒しとなっていたが、海外研修の際にティルが殉職し、精神的に弱ったためゼロより先に帰国。
ハイジャック事件解決の功績で第7空挺部隊隊長への栄転が決まるが、タイミングが悪く、ゼロとはすれ違いになってしまう。
ティルの死に関しては自分にも責任があると考えており、ゼロへの怨讐の感情は全く無かった。
彼女の死は泣きたくても泣けなかったこともあって大きなトラウマとなっており、それ故にエックスが涙を流せることを偶然知ってから強い嫉妬心を抱くようになる。
スティグマが裏で蜂起を企てていることを知った際も、エックスへの嫉妬から共闘を拒む感情が芽生えてしまい、無謀にも単騎で挑んでしまう。
死闘の末に圧倒的な力の前に敗れ、従属を余儀なくされてしまった。


宝魔の守護騎士 デゴナスガンテ

異世界の国家『ウィンザー』の王女、ローズが私的な目的のために子飼いの悪人に創造させた怪物『ジュエル魔獣』に分類される存在。
ジュエル魔獣のリーダーを補佐する者、として造られたため人型で高い知能と、数種類の宝石をモチーフとした戦闘的かつ美麗な外観を有している。
「ジュエル魔獣で唯一、騎士の資格がある存在」を自称しており、自称通り騎士道を貴ぶ騎士に相応しい性格をしている。
剣の腕も非常に高く、剣聖と讃えられるべきレベル。
大げさで芝居がかった言動や仕草に癒されていたイーグリードから妙な信頼を得ており、彼自身も正義観と誇り高さを兼ね備えたイーグリードを尊敬していた。
役割上、基本的にローズおよび、彼女が変身する『ダークスワニィ』の補佐が本来の役割だが、今回はローズの命令でワールドスリーに合流。
そのため、「命令だからスティグマに従っている」だけでありワールドスリーの思想には賛同しているわけではなく、むしろ嫌っている節すらある。
ダークスワニィに忠義を誓ってはいる一方で、彼女のあまりのエゴイスティックな性格と所業には実は内心嫌気がさしており、ある時我慢の限界を迎えてしまう。
イーグリードに心境を吐露し、彼の言葉に救われたことで、騎士道に反すると分かっていながら騎士道を貫徹するためにダークスワニィとワールドスリーの両方を裏切り、航空戦力に大打撃を与えるべく内通という手段を選んだ。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

イーグリード
・ボンボン版とイレハン版をミックスし、更にアレンジを加える形でキャラクター像を作りました。
・アレンジにあたり、「エックスへの嫉妬の末に道を踏み外し、命を落とす」という流れが出来上がりました。岩本先生、ごめんなさい。
・ティルへの想いは岩本版以上に強調したつもり。文中で言っていた「指輪」とは当然婚約指輪です。

デゴナスガンテ
・『鬼武者2』のキャラクター、「ゴーガンダンテス」をモデルにしたキャラクター。以上!
・自己紹介の時の決め台詞も、実はゴーガンダンテスの名乗り口上のパロディ
・当初は別の名前で、末路も二転三転する内に今の名前に変更し、生き残る格好となりました。
・名前のアルファベット表記は「Degonasgante」。「Gogandantess(ゴーガンダンテス)」のアナグラム。

他のキャラクターや設定あれこれ
・灯留手は当初、前回でロックマンヴァルキューレに変身するはずだったのに、長丁場になりそうだったので今回に回しました。結果、今回が予想以上の長丁場になったけど……
・ヴォルフラム中佐とゴルムート大尉は『宇宙○艦ヤマ○2199』の「ヴォルフ・フラーケ○」と「ゴル・○イニ」がモデル。ゴルムート大尉のセリフは書いてて妙に楽しかった。
・エルメントーラ大佐のモデルは『機動○士ガ○ダム○GE』のナ○ーラ・○イナス。性格はモデルよりは強気にしてあります。ちなみに、『宇宙○艦ヤマ○』の登場人物、「ドメ○」の元ネタが砂漠の狐「ロンメル」だったことにヒントを得て作ったキャラクターでもあります。
・ウォーダステードの元ネタは『宇宙○賊キャ○テン○ーロック』に出てくる海賊戦艦「アル○ディア号」。どうして? と思う人は本文中に出てきたアルファベット表記を右から読んでみよう。
・ノイプロイセン軍人の名前は基本的に実在の名前をもじったりミックスした物です。
・ヴァイゼエンテは『超鋼戦紀キカイオー』の「ワイズダック」、ブルートザウガーとアウスガーベンヴォルフは『ボト○ズシリーズ』の「ブラッ○サッカー」と「スペ○ディングウルフ」、といった具合に名前はそれぞれ元ネタのそれを何とか独訳したものです。
・ロックマンヴァルキューレの装備や武器の名前は全部ドイツ語。さらに付け加えると『ボト○ズシリーズ』に出てくるロボット、「アーマードトルーパー」用の武器をたまに意訳交じりで独訳したり、時には別の単語を付け加えたものだったりします。



更なるオマケ:ディ・シュテルンターラー級の大雑把な諸元
排水量:膨大過ぎるため非公開(関係者曰く「50万トンで済むかどうか」)
全長:推定1315m(戦艦大和の約5倍。艦によって艦首形状が変わるため、艦体差が大きい)
全幅:タイタニック号の全長とほぼ同じ
全高:380m以上
機関:収束ソーラーモーターと水動力エンジン(詳細は非公開)のハイブリット
   空を飛ぶための反重力炉と慣性制御機関も搭載されているが機密のため詳細は不明
速力:水上90kt以上
   水中70kt以上
   空中1600kt以上  
   最大速力は機密のため非公開
航続距離:機関の構造上、なし
乗員:通常は1350名ほど(高度かつ的確に武装が自動化されているため)
   非戦闘員数万名の収容も可能
兵装:65口径46㎝二段式6連装(通称六文銭式)シュラーグカノーネ15基
   80口径15.5㎝二段式6連装(通称六文銭式)シュラーグカノーネ20基
   60口径120㎜二段式4連装(通称田の字式)高射用シュラーグカノーネ(CIWS)30基
   37㎜連装物電両用機関砲(CIWS)多数
   20㎜3連装物電両用機関砲(CIWS)多数
   多目的ホーミングロケット弾(対潜対機雷試用も可能)内蔵式と外付け式、いずれも多数
   艦首衝角
艦載機:公称では100機以上搭載可。実際はもっと多く搭載可能
艦内設備:艦内全域に冷暖房完備
     風呂は男湯、女湯、混浴の3種類
     ラムネ他フルーツジュースも製造可能なジュース製造機
     数種類のアイスクリームを作れるアイスクリーム製造機
     蔵書総数180万冊以上の図書室(現在時点で。書庫自体は400万冊以上を所蔵可能)
     大型のクリーニング施設
     スーパーセンター並みの規模の艦内PX(購買部)
     残りは「言ったところで信じてもらえないから」という理由で非公開





普通のあとがき
・今回は文字数がギリギリの状態に。おかげで時間がいつもよりかかり、8月中には投稿できなかった。次回は9月中に投稿したいところではあるが……。


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STAGE 7:両手には乱れ咲く蒼い花、眼前には蒼い海原

WARNING
今回もホモ・サピエンスの死亡描写があります。
その辺にご注意ください。


ギリシャ領、ロドス島

地中海の一角、エーゲ海にある歴史長きこの島は、今では観光地が多いギリシャでも有数の観光地だ。

数百年前に災害で遺失してしまったが、世界七不思議の1つがあった島でもある。

古き良き時代ある街並みとエーゲ海のコントラストが美しいが故に、些細な海洋汚染が命取りとなる。

重要な観光収入源であるこの島の景観を重要視したギリシャ政府は、俺たちイレギュラーハンター、というより俺個人に泣きついてきた。

 

「一介の小学生に泣きつくなんて……」

 

「世界征服を企む悪の軍団の最高幹部陣を壊滅状態にした、物凄く強い小学生だがな」

 

呆れて呟いていたら、アクエアルにカウンターを投げかけられた。

 

 

 

 

 

STAGE 7:両手には乱れ咲く蒼い花、眼前には蒼い海原

 

ステージボス:『深海の武装芸術家 ランチャー・ウミウシェーラ』 『セントエルモの黒い獣(シャドウファング) クラインハードリス・ヘイドリッカーズ 』

 

 

 

 

 

4月も既に下旬。

イレギュラーハンター本部での話。

第17精鋭部隊隊長用の執務室。

またもここに泊まり込む形になった俺は、朝食が届くまでの間、シルキスさんたちと話し込んでいた。

 

「今日の『日本憂国日報』の一面トップは『ノイプロイセン王国軍、三軍合同で日本に部隊を派遣。名目は友好の意の物理的表明と大使館警備』、ですね」

 

「随分と行動が速いですね。前もって打ち合わせはしていたのかもしれません」

 

シルキスさんが新聞を読んで、簡潔な感想を述べている。

デゴナスガンテがそれに相槌を打つ。

スワンがテレビのスイッチを入れたらニュース番組が流れ、チャット・ブラン発電所を破壊して不時着したデスログマーを第11調停部隊と第7空挺部隊が共同で回収しているニュースが数十秒流れた後に、画面が変わった。

普台埋立地(※このSSの世界観における中央防波堤埋立地のこと。内側と外側を合わせてこう呼び、現実より縦長。一応お台場の一部。ノイプロイセンの援助で作られた埋立地なのでこの名がついた)が映っている。

ノイプロイセンは成田と同じぐらいの大きさのあの埋立地に大使館を置いてあり、専用滑走路まで設置してある。

 

『こちら、港区普台埋立地に立地するノイプロイセン大使館前です。ノイプロイセン王国海軍遊撃試験艦隊旗艦、ディ・シュテルンターラーの艦内甲板から次々と空軍の機体が発艦し、大使館地内の滑走路へと向かっています。あ、陸軍の部隊なども降りてきています』

 

テレビではリポーターが言うように、ノイプロイセン大使館上空に滞空しているディ・シュテルンターラーから、部隊や機材、物資が次々と降りてくる。

画面にはU-ヴァールハイの姿も確認できる。

 

 

 

それから数分後。

話題は変わり。

 

「両国会談か……」

 

「ジュエル魔獣の黒幕が明かされた今、ララマザーとウィンザーが行動に出るのは当然です。当然ですが、私もそれに出席しなければなりません。ある程度片が付いたらそちらに駆けつけますが……」

 

「何か、問題でも?」

 

俺が首を傾げて数秒後、デゴナスガンテが理由を説明してくれた。

 

「スワン先輩がジュエル魔獣であることと、シルキス様がナイトスワニィに変身していることが物議を醸しだしているのです。それに、ダークスワニィ殿に純潔を散らされた一件も問題視されていまして……」

 

そういうことか。

あの時はシルキスさんが変身するところも中継されていた。

些細なことで騒ぐ奴らはどこにでもいる。

スワンの方も困惑を体の動きで表現している。

 

「しばらくの間は向こうに釘付けにされるのか……」

 

「数日の間ですから」

 

 

 

 

 

それからそれから。

時は経って今は学校。

そんな折に全校集会があった。

転入生と海外からの留学生が来たからだ。

 

『2人の転入生とノイプロイセンからの留学生が皆さんのクラスメートとなります。では、自己紹介をしてもらいましょう』

 

『い、1年生のアクエアル・アクアポルタムだ……』

 

『3年生の円井灯留手です』

 

『ノイプロイセンからの留学生で……4年生のエルメントーラ・アイクル・マルフリート・ロンメル……です……』

 

…………え!?

灯留手だけなら納得できる。

でもなんでアクエアルが転入してくるんだ?

なんでマルフレートが小学生として留学してくるんだ!?

当人だけでなく灯留手もかなり気まずい表情をしている。

……!

目が合ってしまった、アクエアルとマルフレートの2人と。

助けを求めるような表情をしているけど、今この状況では無理だよ……。

 

 

 

 

 

「肉体的には人間だけど、アクエアルちゃんは正しくは召喚術の影響で人間に近い実態を得た精霊なの。でも、そのせいで厄介なことが起きたわ。アクエアルちゃんが肉体を得てからの経年はたったの6年。実年齢は6歳ということになるから恵玖須ちゃんより年下。

 

 日本における行政や保護者が子供に教育を受けさせなければならない義務、いわゆる義務教育は年齢主義。御丁寧なことにアクエアルちゃんははジャストミートしてたの。そこでケイリーお婆ちゃんがあちこちに掛け合って、小学校教育から受けさせることが決定したのよ」

 

こっちに来てくれた灯留手が説明してくれる。

またあの人か……。

実年齢が下なせいか、灯留手はアクエアルを『ちゃん』付けで呼んでいる。

不安でいっぱいらしく、アクエアルは4年生の教室であるこっちに来ている。

そのついでとばかりにマルフレートもいるが、彼女は俺たちのクラスに入るそうだ。

 

「そういうことなんだ……。そういえば、マルフレートはどうして小学生として留学することになったの?」

 

「将官への昇進の条件として提示されたんです。出向もかねての9年間の留学を。その条件を飲んだんです。小学生としての留学は、私の学歴が原因です。

 

 ……小学3年の時のことです。話の種にするつもりでIQ測定を受けたら260ぐらいあって、そのせいで大学への飛び級進学を勧められたんです。少し前に軍人になるって目標を決めていたから指定校推薦でベルリン三軍士官大学に進学して……。

 

 私、時々口が悪くなることがあって、トラブルを何回も起こしていたんです。作戦遂行時にやり過ぎたことも1度や2度じゃなくて……今までは功績のおかげでお咎め無しで済んだのですが……。きっと、今回の留学は懲罰的な意味も強いと思います」

 

なるほど。

9年間っていうのは小学校の残りの3年間+中高6年間、ということか。

 

「あ、こっちにいた。アクアポルタムさん、教室に戻りますよー」

 

不意に、1年のクラスの内の1つの担任がこっちに来た。

どうやらアクエアルを探していたようだ。

それだけでなく、3年のクラスの担任までこっちに来た。

 

「2人を探しに来たんだろうな」

 

「何だかいきなり不安になりました」

 

 

 

 

 

授業と授業の合間の小休憩時間。

マークされているらしく、アクエアルと灯留手はこっちには来ていない。

マルフレートも男子たちに質問攻めを受けている。

 

「……やいと、座る席を間違えてるよ」

 

「わざと間違えたのよ」

 

「どうして?」

 

「逃げ出さないようにするため」

 

かくいう俺も、女子たちに囲まれて好き放題弄られている。

抵抗しようにも膝の上に座っているやいとに腕を掴まれているので払うこともできない。

結局、次の授業までこの状態は続くこととなった。

 

 

 

 

 

 

お昼時、学食。

俺たち4人は1つのテーブルに固まる格好になっている。

ここは学食なのでメニューは数種類あるが、何の偶然か4人そろって同じメニューと来ている。

 

「それで、授業の方はどうだった?」

 

「正直、辛かった」

 

あの後どうなったのか気になってアクエアルに聞いてみたら、案の定な答えが返ってきた。

相当に好奇の視線を向けられたはずだ。

 

「マルフレートの方もどこか辛そうだったけど……。灯留手の方は?」

 

「こっちもこっちで質問攻めにされちゃった」

 

質問の中には改造人間であることも含まれているのだろう。

表情から見て取れる。

それから十数分後、全員が食べ終わったあたりで、連絡が来たとかでこの場を離れていたメディが急いで戻ってきた。

 

「隊長。次の敵拠点が判明しました」

 

メディは端末を操作して、その拠点を預かる幹部たちの画像を表示した。

 

「ギリシャ領、ロドス島の近くにある海上研究所。責任者は元第六艦艇部隊隊長ランチャー・ウミウシェーラと、マールジェーマ王国の国王親衛隊の元副隊長クラインハードリス・ヘイドリッカーズの2人です」

 

 

 

 

 

ウォーダス・テードの艦橋。

事態が事態なので俺たちは早引けして、ここにいた。

 

「親衛隊副隊長……。どうにも面識がない気がする」

 

「トルブレヒトさんから聞いたところ、アクエアルさんが召喚された当初は別任務で本隊から離れたそうです。アクエアルさんが捕まって……その……にゃんにゃんされてた時は参加しなかったとか。

 

 その内本格的に仲間に愛想が尽きて、ヴァハが倒されてすぐに国外逃亡しています。その後はどうやったのか不明ですが、こっちの世界に流れ着き、異世界人極秘保護プログラムを受けて西島総合機械製販でサラリーマンをしていたそうです。

 

 入社数年でブルートザウガーの開発にも関わるなど非常に優秀な社員で、人当たりもかなり良かったのですが、ある時不正の濡れ衣を着せられた腹いせにブルートザウガーの試験モデルと会社所有の古い機械を盗んで姿を晦ましました」

 

アクエアルの疑問にメディが説明で答えてくれたが、一部がやっぱり気まずそうだ。

まあ、仕方ないよね。

 

「……エックス。その……」

 

「ごめん。ここに来るまでに全部思い出した」

 

そう答えた瞬間、アクエアルの顔が真っ赤になった。

気まずいな……。

 

「とりあえず、すぐにでもギリシャに向かいましょう!」

 

気まずい空気を払拭しようと、マルフレートがカラ元気を出している。

メディの言葉の意味を理解できていない灯留手だけがキョトンとしていた。

 

「大人になれば自然と意味が分かるから」

 

「恵玖須ちゃんは私と同い年なのに意味が分かってるじゃない」

 

 

 

それからそれから。

出発して既に1時間以上経過。

現在は高度10000m以上。

ウォーダス・テードは大変な巨体だから、音速を出すためにはかなりの高高度を飛ぶ必要がある。

地中海に到達したら着水して海上航行に入る。

 

「城戸さん。艦内に異常は?」

 

「追加乗員が艦内探検中にみんな道に迷って、陸戦隊が捜索に向かっています。それ以外はありません」

 

「艦内探検?」

 

「本艦はただでさえ巨大な上に圧縮空間も利用しているので艦内が非常に広大です。そのため配属されたら最初に艦内の間取りをある程度覚える必要があります。そのための艦内探検です」

 

なるほど。

そういえば、旧日本海軍でも大和と武蔵に配属された新しい乗員を対象とした艦内スタンプラリーをしていたって、ゼロから聞いたことがある。

 

「でもいつの間に?」

 

「今朝からです」

 

今朝からか。

暇なのかどうか分からないな。

 

 

 

 

 

更に時が過ぎ、地中海。

着実にロドス等にまで近づいている。

艦橋の窓越しに見る海原が綺麗だな。

そう思っていたら、通信室から連絡が来た。

 

『シリア空軍、イスラエル空軍、トルコ空軍から一斉に通信が来ました。「地中海に入った理由を教えて欲しい」とのことです』

 

「『ワールドスリー最高幹部の拠点の1つを発見し、真偽確認のため現在同施設の近くにあるギリシャ領ロドス島に移動中。ギリシャ政府の了承は得ている』と伝えてください」

 

「了解です」

 

数分後。

再び通信室から連絡が来た。

 

『三者からの返答です「ロックマンエックスの健闘と栄光を謹んで祈らせてもらう。通信終わり」だそうです』

 

「ありがとう。エジプト空軍からも同様の通信が来る可能性もあります。ギリシャ領海に入るまで引き続き警戒を」

 

 

 

 

 

時は戻りギリシャ領、ロドス島。

観光地なので両舷上陸許可を出したら、乗員たちは任務の合間にロドス島の街並みを見て楽しんでいる。

その一方、俺とアクエアル、城戸さんはリンドス町の小高い場所にあるアクロポリスから見える、沖合いに視線を集中させている。

 

「メディの報告だとあの海上研究所は、表向きは外資系企業が海洋清浄システムの実験目的で建造したとある。しかし、企業の名前が非公開。警備が異様に厳重で島との接触も皆無。だから島民が気味悪がり、次第に政府も無視できなくなっていった。

 

 それに加えて今月からワールドスリーが世界中で暴れているから、拠点の一つではないかとの噂までたった。噂を懸念して不安になった政府がハンター本部にSOSを打診してきたんだ。そこで、最高幹部の拠点を調査中だったゼロがついでで研究所を調査したころ……」

 

「噂が真実だった、ということね。どう攻める?」

 

「海の中から攻め込もう。ウォーダス・テードを囮にすれば戦力の大部分はそこに集中する。それに、ワールドスリーには潜水機能がある大型艦艇は少ない。ウミウシェーラが寝返る時に第6艦艇部隊から盗んだ数隻ぐらいだ」

 

アクエアルへの回答として具体案を出したところ、城戸さんがすぐに対応してくれる。

 

「各隊員に通達。総員、帰艦。これより艦長とアクエアルさんが海岸から敵拠点へ突入します。ウォーダス・テードは囮になって敵警備陣を引き付けます。繰り返します、囮になって敵警備陣を引き付けます」

 

 

 

約1時間後。

リンドス沖の海中。

俺とアクエアルは戦闘態勢に入って(俺は戦闘モードに移行済み。アクエアルも翠の布地と銀色の胸当てや手甲、額当てで構成された鎧を身にまとっている)いる。

そのままアクエアルが召喚したユニコーンに乗って海中を移動している。

途中、ウツボロスを初めとする水中用メカにロイドが海上で研究所に接近するウォーダス・テードの相手をするために移動しているのが見えた。

作戦はここまで一応成功。

それから数分後、ふと深海航行用の大型高速潜水艇が現れ、通信が入ってきた。

 

『追いついた! 追いついた―!』

 

「横山さん!?」

 

「ほら! ちゃんとここにいた!」

 

人魚……じゃなくて水中移動機能を強化した人魚型レプリロイドも目の前に出てきた。

ウェーブのかかった金髪ロングか……。

ストレートな銀髪ロングのアクエアルとは対照的だな。

首にチョーカーを巻いているけど、どこかメカメカしいな。

 

「あんたがロックマンエックスかい?」

 

「確かにそうだけど、君は?」

 

「マーティ。いつもはこの辺の海域をブラブラしているんだけどね」

 

『うっかり研究所に近づき過ぎて捕まりそうになったところを、調査に来ていた是魯君に助けられたそうです。で、偶然目にしたことを洗いざらい供述して今に至る、と。運良くロドス島海底探索番組の収録の予定があったんで一足先に待たせてもらいましたー』

 

なるほど……。

だからそんな大それた乗り物に乗っていたのか。

ん? 操船は誰がやってるの?

 

「誰が操船しているの?」

 

『ディレクターである俺の担当さ。昔バラエティ番組の企画で小型船舶免許を取得したんで、俺が操船しているのさ』

 

『ちなみにこの潜水艇は「ゼーヒュントヘン」。ノイプロイセン製の最新型潜水艇さ』

 

砂山さんと出月さんも案の定いた。

 

 

 

 

 

研究所内。

各所に水中移動エリアも存在する妙な構成となっている。

マーティは水陸両用らしく、下半身は人間と全く同じ状態に変形していた。

 

「視聴者の皆様、内部は全自動化されているようです。職員の姿があまり見当たりません」

 

横山さんが小声でリポートしている。

潜入しているのでそれを意識しているのだろうけど、TV中継している時点で無意味だと思う。

 

「水槽が多いわね」

 

「表向きは水質清浄研究所だから、形から入ったのかもしれない」

 

アクエアルの疑問に少しアバウトに答えながら、俺は内部を見渡す。

ふと、気配が生じた。

 

「チャージショット!」

 

向こうにある扉をチャージショットで破壊!

直後、見覚えのある人相の集団が慌ててこちらに攻撃してきた。

 

「畜生! 内通があったから用意しておいたってのになんでいきなりバレるんだ!?」

 

「あの時といい、今度といい! なんで妙に勘が冴えることがあるんだあの小僧は!」

 

武器は剣の他、最新の銃火器

そして恰好はいまどきの軍服とはだいぶ違う。

ひょっとして……。

 

「国王親衛隊!?」

 

「あの後何人か行方不明になったと聞いたが、どうやらクラインハードリスを介して今度はスティグマの下についたようだな」

 

アクエアルがこう言った以上、事実なのだろう。

 

 

 

 

 

「……あの小僧、一体どんな直感をしているんだ? 分厚い防音自動ドア越しに旧親衛隊の連中の存在に勘付くなんて、相変わらずなんて奴だ。……? こんな時に着信? ……ウミウシェーラか。どうした?」

 

『監視カメラから送信された映像、みたでしょ? 今すぐそっちにも戦闘態勢に入ってもらうから』

 

「……了解。サイドス溶液の用意を頼む」

 

『お任せあれ』

 

通話が終わり、その場にいた男は携帯の電源を切る。

そして、目の前にある黒いパワードスーツに視線を注ぐ。

 

「やはりスティグマさんとウミウシェーラ、自分自身以外で頼れるのはこいつだけか……。力を借りるぞ、黒い炎(シャッテンフラッケルン)。精霊をモノにできるかどうか、この後の戦いにかかっている……!」

 

 

 

 

 

「これで全部か……。アクエアルがいてくれた助かった」

 

「頼りにしてもらえたのなら光栄だ」

 

旧親衛隊の残党をアクエアルが水龍剣でまとめて斬り捨ててくれた。

正直、人間を攻撃する覚悟は既にできているのだけれど、周囲が気遣ってなるべく俺が手を汚さないように腐心している可能性を感じてしまう。

そのせいで、覚悟が鈍る時がある。

 

「……あんた、本当にあのロックマンエックス? なーんか締りがないってゆーか……」

 

「生憎、私のエックスはシリアルキラーじゃない。幻想を真実だと思わないことね」

 

マーティに対してアクエアルはどこか刺々しい態度を見せる。

何故だろう?

 

「いくらなんでも不自然過ぎる。こいつらの内の1人が内通云々言っていた。ならば気づかれずに私たちがあのルートで来ることを知らせた奴がいたはずだ。私たちの中に。

 

 砂山達はワールドスリーに仲間を殺されているから、その恨みがある以上、裏切るとは思えない。私とエックスは論外。だから……」

 

「流石にそれは飛躍しすぎだろ!?」

 

なるほど、疑っていたんだ。

それなら……。

 

「まったく! いきな……ひゃんっ!?」

 

「エックス!?」

 

マーティの頬を舐める。

……海水の味と混ざってるけど、この味は……。

 

「アクエアルの推測、当たりだよ。マーティから嘘をついた時の味がした」

 

「……そ、そんな特技があったのか?」

 

出月さんが仰天し、砂山さんと横山さんは絶句している。

そこまで驚くことかな? と思っていたらアクエアルから頭をべしべしはたかれた。

 

「どうしてそういう方式なんだ! どうして!」

 

「人間は健康状態や心境で皮膚上に滲み出る物質の構成が違ってくるんだ。だから、舌で舐め取ったそれをサーチして嘘をついているかどうかを調べたんだよ」

 

「マーティはレプリロイドだぞ!」

 

「マーティみたいに容姿が人間と遜色ないレベルになると皮膚の構造やら何やらが豚以上に人間に近くなるから、人間の時と同じ方法で嘘の見分けが可能になるんだ」

 

アクエアルは納得し切れていなさそうだけど、割り切ってはくれたようだ。

それを示すようにシャドーボクシングをしだす。

 

「……だからっていきなり舐めなくてもいいじゃん。……」

 

マーティもマーティで妙に様子がおかしい。

そう思っていたら通信が来た。

 

『艦長。各部署から攻撃許可の求める声が出ています。ここは許可を出すべきかと』

 

「艦の指揮は特例的にマルフレートに一任します。研究所には灯留手と陸戦隊を送るように。艦による直接攻撃は敵警備部隊と水中戦力にのみ行使するようマルフレートに伝えてください」

 

 

 

それからそれから。

襲い掛かる敵を適度に蹴散らして俺たちは奥へと進む。

そんな中、マーティは俺たちを不思議そうに見ていた。

 

「なあ。なんであたしを始末せずにまだ連れて歩いてるんだい? 内通者だよ?」

 

「ウミウシェーラは男女問わず気に入ったらコナをかけることで有名だったからね。大方それ絡みなんだろうなって……」

 

「……この首輪、見えるかい?」

 

「チョーカーじゃなかったの?」

 

「首輪だよ。GPS付きのね。どこに逃げても位置を割り出せる優れもの。これがある限りあたしはウミウシェーラから逃げられないのさ。外そうにもあたしの力じゃ無理さ」

 

なるほど。

文字通りというわけか。

ウミウシェーラめ!

 

「……外れればいいのだな?」

 

アクエアルはそう言った直後、水龍剣の刃をそっとマーティの首輪に当て、押し切りの要領で動かした。

それと同時に留め金にあたりそうな箇所が真っ二つになって、首輪はマーティの首から見事に外れた。

あまりのことに出月さんが変な大声を出したので、説明しておこう。

 

「すげー! どんな切れ味してるのそれ!?」

 

「水龍剣の刃は高い水圧その物だから、切断力が異常に高いんだよ」

 

マーティの方はキョトンとしている。

 

「これで、追われる心配もない。今すぐ逃げた方がいい」

 

「……最後までついてくよ。あのクソバカ軟体生物が死ぬとこ見ないと腹の虫が治まらないからね。ありがとな」

 

アクエアルに逃げるよう促されたけど、マーティは何かを決めたようだ。

 

 

 

 

 

研究所の更に奥深く。

休憩室らしく、自販機が数台用意されている。

 

「日本にあるのと余り変わらない品揃えだな。焼きおにぎりとホットドッグの自販機もあるけど。……カップじゃないうどんの自販機!?」

 

「よく見たら日本じゃめっきり減った『カップラーメン自販機』もありますよ。それどころか、お弁当とかハンバーガーみたいな絶滅同然の奴まで」

 

砂山さんと出月さんが物凄くもの珍しそうに自販機を見ている。

そういえば、どれも初めてみるタイプだ。

横山さんもはしゃいでいる。

 

「あ! トーストサンドイッチの自販機や、カレーライスのまでありますよ!」

 

しかし、なんでギリシャ領海のこんなところに日本のレアな自販機が大量に置いてあるのだろうか?

 

「あの時メディの説明で出ていた、『会社所有の古い機械』は恐らく、この部屋に並んでいる自販機かもしれない」

 

アクエアルの仮説に、俺は何となく納得していた。

それなら辻褄は合うな……。

 

 

 

 

 

それから数分。

俺たちは更に奥深くへと。

その間に城戸さんから研究所制圧完了の報告を受けたが、あの2人は見つからなかった。

となると、もっと奥か。

最深部へのルートは二つ。

内部の通路を通るルートと、水槽から直接殴り込むルート。

陸戦部隊と一緒のルートで入って来た灯留手と合流後、俺とアクエアル、マーティは横山さんたちの守りを灯留手に任せ、水槽を通るルートに入った。

道中、ウツボロスの襲撃を受けつつも受け流し、さらに奥へと。

そして、最深部へとたどり着く。

窓越しに横山さんたちの姿が見えるな。

そう思っていた直後、不穏な2つの影が目の前に現れた。

片方の黒いパワードスーツは、恐らく盗まれた試験モデル。

そしてもう片方はウミウシェーラ!

 

「よーこそー! 地中海基地の最深部へ! 『深海の武装芸術家 ランチャーウミウシェーラ』と!」

 

「『セントエルモの黒い獣(シャドウファング) クラインハードリス・ヘイドリッカーズ 』が歓迎しよう!」

 

パワードスーツに包まれて表情が読み取れないクラインハードリスとは対照的に、ウミウシェーラは表情豊かにまくしたてそうな勢いだ。

 

「ウミウシェーラ! 何故スティグマに与した!?」

 

「私は戦闘時の破壊でアートを描くアーティストなのよ、エックスちゃん。でもね、長いこと周りは全っ然理解してくれなかったのよ~」

 

「スティグマがそれを理解してくれたというのか?」

 

「Yes! 私みたいに理解されにくい者たちがちゃんと理解される世界を、私たち自身がスティグマさんと一緒に作る。それがワールドスリーの戦う意味なのよぉ!」

 

「イレギュラーに劣る手段を使っておいて!」

 

「……私の芸術的手段をそんな風に評さないでちょうだい!」

 

瞬時に激昂するウミウシェーラ。

それをクラインハードリスが制した。

 

「この戦いに、俺が手にしたいものが、アクエアルが掴めるかどうかがかかっている。死んでもらうぞ! ロックマンエックス!」

 

「死ぬのは貴様とウミウシェーラだ!」

 

「……そうだ、それだ! そんなあなたを屈服させたい! 誰の力も借りず、俺1人の力で! あなたに魅入られた日からの悲願! そんな気持ちを込めたホイレンフレーテの一撃を送ろう!」

 

クラインハードリスはそう叫んだ直後、右手に持っている大砲を発射!

エネルギー弾が発射されるが、アクエアルは紙一重で避ける。

アクエアルが避けた直後、エネルギー弾は溶けるように消えた。

 

「やはりこっちの攻撃にも影響が出るか。まあ、仕方あるまい」

 

「エックスちゃんたちに説明しとくけど、この水槽の水は『サイドス溶液』っていう特殊な液体に変換済みなのよん。サイドス溶液はエネルギー弾を大幅に減衰させる作用があるから、エックスちゃんのバスターでまともに戦えるかどうか」

 

……厄介だな。

だが、もう引くわけにはいかない。

 

「それで負けるつもりはない!」

 

「エックスは最後は私と一緒に勝つ! それだけだ!」

 

俺に続いて、アクエアルが啖呵を切ってくれた

こういう時はやっぱり頼もしいな。

 

「カッコつけが決まってるじゃなぁ~い。それはそうと……どうやったのか分からないけど、マーティちゃんにプレゼントした首輪が外れてるようね。スーパーレアな子だからオス簡単には壊れないのをチョイスしたのに!」

 

スーパーレア?

どういう意味だ?

それが気になった瞬間、マーティの怒号が耳元に聞こえた。

 

「うるさい! 黙りな!」

 

「誰が黙るもんですか。せっかくだから教えてあげるわ。マーティちゃんはね、テストモデルだったのよ。生殖機能、分かり易く言えば人間の子供を妊娠・出産できる機能を持ってるのよん!

 

 ちょーどエックスちゃんが3歳か2歳ぐらいの頃に作られたから、今は6歳ぐらいかしら。機能そのものは作った研究所のオリジナルじゃなくて、違うとこからの提供な上、出所自体は極秘情報扱いで最後まで分からなかったけど。

 

 研究所の方がミレニアムの買収を蹴って少ししてから事故で潰れちゃってから行方不明になってたんだけど、遺された資料を見て一目ぼれして以来、ず~っと捜してたんだわさ!

 

 んで、先月頃によーやく見つけてゲットしたってわけ! 聞かれる前に答えとくけど、世の中には人間に自分たちの子孫を産ませることができる化け物ってのが銀鬼以外にも結構いるの。人間と全く同じ生殖機能を持つマーティちゃんもそいつらの子供を産むことができる!

 

 素晴らしいじゃない! この事実は私の芸術の視野を広めてくれたわん! 命の破壊と誕生! 破壊のアーティストである私が人ならざる命の誕生に立ち会い、それによってよりセンスを深めるのだから!!!」

 

狂っている!

そんなことのためにマーティにあんな首輪をつけたのか!

 

「貴様はイレギュラーだ! VAVAとは違って正真正銘のイレギュラーだ!」

 

俺の怒りの絶叫に対するウミウシェーラとクラインハードリスの答えは、ミサイルだった。

俺たちは慌てて回避。

 

「あ! マーティ!?」

 

マーティを忘れていた!

 

「何とか回避したよ!」

 

それを聞いて安心した。

それじゃ気を取り直して。

 

「スパイラルバスター!」

 

サイドス溶液で減衰するなら、減衰しきれない量のエネルギー弾を撃ち込めばいい。

流石にすんでで避けられたが、ウミウシェーラとクラインハードリスを焦らせるには十分な威力を発揮したようだ。

 

「このシャッテンフラッケルンの装甲でも無事じゃすまなさそうだな」

 

「実際、余波だけでアザラクちゃんとローゼさんをダウンさせたぐらいだからね。だからこっちもチョット趣向を凝らして……エクセレント!」

 

ウミウシェーラが回転しだし、巨大な渦潮が発生。

引き寄せられそうになるが、アクエアルが水流の壁を発生させて渦潮の引き寄せる力から俺を守ってくれた。

しかし、少し距離を置いていたマーティが引き寄せられてしまう!

 

「きゃぁー!?」

「かかったわねぇ~ん!」

引き寄せられたマーティを、ウミウシェーラはボディのヒレでつつみ込んだ!

 

「素晴らしい肌触り! ついでにエネルギーを失敬!」

「ぎゃー! 離せー!」

 

助けないと!

駆け付けようとする俺の目の前にクラインハードリスが立ちはだかったが、アクエアルが足止めしてくれている。

今の内にダッシュながら武器セレクト。

エネルギー弾でも減衰しそうにないので意表を突こう。

ダッシュが終わる前にジャンプして肉薄!

 

「ローリングシールド!」

 

「あっらぁーん!?」

 

思っていた以上に効いた。

エネルギー不足になって動きが鈍くなったマーティをキャッチ。

間に合ってよかった。

 

「あ、ありがと……」

 

「あの2人は俺とアクエアルが倒す。だから君は逃げた方がいい」

 

「あんたがいるから安心して見物できるよ」

 

やれやれ。

存外気が強いな。

ローリングシールドが思いの外効いたのでローリングシールドをメインにして戦うか。

一方、アクエアルは精霊の力を存分に発揮して、クラインハードリス相手に有利に進んでいる。

 

「シャッテンフラッケルンの理論上はウォーターカッターにも耐えるプラモドキ装甲に傷をつけるとは……!」

 

「ウォーターカッター以上の水圧で切り裂くのが水龍剣だ」

 

「……そうらしいな。だが、このシュニッタ―クーフースはウォーターカッターをも弾く!」

 

確かに、装甲のあちこちに傷はついているけど、左手の大型クローは傷一つついていない。

それに気づいた瞬間、大きな音がしだした。

何事かと思っていたらいきなり水位が下がりだす。

1分ほどで完全にサイドス溶液が引いた。

 

「え? ええー!?」

 

何事かとウミウシェーラは驚愕。

クラインハードリスも鍔迫り合いをやめて距離を取ってから仰天している。

 

『ウォーダス・テードより艦長へ。敵海上戦力の殲滅と研究所占拠を完了。陸戦隊に中央制御室のコンピューターを操作させてサイドス溶液の排水を行いました』

 

「了解。後はこっちに任せてくれ。ウミウシェーラ! クラインハードリス! 俺たち以外の戦力を甘く見ていたようだな。この研究所はもうお前たちだけだ!」

 

「……お前たちだけが有利になったと思うなよ! ライエンフォイヤートリラープファイフで目に物見せてやる!」

 

そう叫ぶと、クラインハードリスのパワードスーツの胸部に仕込まれた武装から大量のエネルギー弾が発射された。

機銃を内蔵していたとは。

 

「ブルートザウガーの性能試験用強化モデルだ! 積んでる武器もとっておきの逸品だ! デストルクトフォーゲルのミサイルをもう一度披露してやるぞ!」

 

今度はミサイルか!

しかもウミウシェーラまでまたミサイルを発射した!

 

「すばらしい新世界へ!」

 

殆ど乱射状態であり、この場と灯留手たちのいる部屋を隔てる強化ガラスも破壊した。

咄嗟に灯留手が盾になったので、横山さんたちは無事のようだけど。

 

「なんなんですか! あの変な女! 滅っ茶苦茶です!」

 

横山さんは完全に熱くなって轟々たる非難をウミウシェーラに浴びせている。

ウミウシェーラの方はどこ吹く風だったが。

 

「手数の多さは戦いの基本でぇ~っす!」

 

しつこいったらありゃしない!

チャージしてから……。

アルマージ、力を貸してくれ!

 

「ローリングシールド!」

 

俺の全身を球状のエネルギーシールドが覆う。

ミサイルの雨をエネルギーシールドで露払いしながら突撃。

そのままウミウシェーラにダッシュ頭突き!

 

「~~~~~~~~~!?」

 

「……ぐっ!」

 

ウミウシェーラは声にならない呻き声を挙げている。

こっちは……流石にエネルギーシールドが霧散してしまった。

 

「貴様! ウミウシェーラを!」

 

クラインハードリスが激高しながら大型クローを振り下ろしてきた!

大分違うけど真剣白刃取りの要領で掴む!

 

「いつもそうだ! 好事魔が多しと言いたげに誰かが邪魔をする! 俺の親といい、会社のかつての上司共といい、レオルギスと言い、貴様といい! 貴様があの時すぐにあの国からいなくなれば、俺はアクエアルをモノにできたのに!」

 

クラインハードリスの絶叫に合わせるように、機銃から放たれたエネルギー弾が俺の視界を閃光で包む。

ボディパーツのおかげでそこまでダメージは受けないが、流石に連続で食らうとキツイ。

 

「いい加減にしな!」

 

「な!?」

 

いつの間にか近づいていたマーティがクラインハードリスのパワードスーツに飛び蹴りを入れた。

 

「お前もか! 魚介類めが! ぬあー!!」

 

「うわ!?」

 

左腕を俺ごと振り回し、クラインハードリスはマーティを弾き飛ばした。

 

「あいだっ!?」

 

「死ね! 死ね! 死ねって言っているだろうがぁーっ!! 実体弾発射!」

 

クラインハードリスの戦車砲から実体弾が発射され……。

 

「! マーティ!!」

 

実体弾がマーティの脇腹を粉砕し、その余波で左腕まで吹き飛ばした!

 

「……!」

 

そのままマーティは倒れてしまう。

それを見て、俺は瞬間的に激高した。

 

「チャージショット!」

 

「ぬお!?」

 

チャージショットを至近距離で発射!

怯ませることには成功した。

直後、クラインハードリスが背中から斬られる。。

さっきまでウミウシェーラの相手をしていたアクエアルが水龍剣で斬ったのだ。

 

「今の内にマーティを砂山達のところに!」

 

「了解!」

 

大急ぎでマーティを回収し、ダッシュで横山さんたちのところへ運んだ。

 

「どうして俺を助けようとして!」

 

「言ってくれる……じゃない……。魔性の坊やのくせに……さ……」

 

「年下に坊や呼ばわりされて喜ぶ趣味はしていないんだ」

 

俺の反論に瀕死の状態ながらもふくれっ面になるマーティ。

やれやれ、意地っ張りというか……。

砂山さんに託して急いでアクエアルの援護に向かわないと。

 

「マーティを頼みます」

 

「任せてくれ。それはそうとヴァルキューレの嬢ちゃん、アレを恵玖須に!」

 

砂山さんに促され、灯留手はアレを……!

 

「恵玖須ちゃん、コレを!」

 

紫炎を俺に手渡してきた!

 

「いつの間に!?」

 

「何かあった時のためって、メディさんがハンター本部の執務室から持ち出して用意してたの」

 

全く、メディったら……。

礼を言う前に注意しておかないと。

そう思いつつも、俺はヒルデが掴んでいる鞘から紫炎を抜き取った。

 

 

 

「何故だ! 何故だ! 何故なんだ! あなたはどうしてあの小僧に入れ込む!? あなたを置いていなくなったあの小僧に!」

 

「エックスがいたからこそ私は心をヴァハに捧げずに済んだ! ヴァハを倒すことができた! そして、この肉体を失うことなく生きる道を手に入れた!! お前は私をモノにしたいようだが、それ決してかなわない! 私は既にエックスの物だ!」

 

アクエアルの咆哮と共に、水龍剣の刃がクラインハードリスの右腕をパワードスーツの装甲ごと刺し貫く。

その隙を突くように、ウミウシェーラが後ろからジャンピングアタックで襲い掛かる。

 

「隙有りよ~ん!」

 

「ヤエー!」

 

その直前、エックスの掛け声と共に、ウミウシェーラの胸板に一閃が走った。

 

 

 

「そ、それは…………アルマージの日本刀!」

 

「紫炎は妖刀。レプリロイドをも切り裂いて刃こぼれ一つしないのはアルマージが自ら証明…………してくれた! 大般涅槃(マハーパリニルヴァーナ)!!」

 

仏教用語を叫びながら、俺はウミウシェーラの胸板を紫炎で刺し貫いた!

驚愕の表情のままウミウシェーラが倒れた直後、俺は次にクラインハードリスに斬りかかる!

紫炎は刃こぼれ一つせず、パワードスーツの顔面を真っ二つに切り裂いた。

 

「シャ、シャッテンフラッケルンのメインカメラに異常が……!」

 

クラインハードリスがパニックに陥る。

その隙を突くようにアクエアルが話しかけてきた。

 

「エックス。脳に直接響くような声が聞こえた。『要請コードをお伝えします』と」

 

「決着がつく合図だよ、それは」

 

「それなら……。認証コードを!」

 

「御安い御用で!」

 

「頼むぞ! エックス! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

頭の中に要請コード確認の音声ガイダンスが流れた。

いつものように、承認あるのみ!

 

「システム・コンファーム!!」

 

アクエアルの体に、蒼く光る追加装甲が展開される。

上半身は手甲や胸当てがあるせいかそれをよりガッチリと固める感じの意匠に。

下半身は足回りが少々重厚そうに、アソコの部分はシャーロッテさんとシルキスさんの時同様に白い半ズボン状。

そして、額当ての羽飾りと干渉しないようにバイザーが装着された。

 

「本で読みかじった程度の技だが……。新撰組副長発祥! 平突き!!」

 

アクエアルはクラインハードリスに対し、刃を水平にしてから水龍剣を突き刺した!

腹部を易々と貫いただけでなく激し過ぎる勢いはクラインハードリスを吹き飛ばす。

だけど、俺たちには分かる。

クラインハードリスも、ウミウシェーラもまだ生きていると!

ウミウシェーラと、ヘルメットを外してようやく素顔を晒したクラインハードリスはまだ戦う気だ。

 

「まだよん! まだまだ私たちは元気よん!」

 

「戦いは……これからだ!」

 

悪いけど、戦いはもうすぐ潮時だ!

 

「エックス……。これ以上奴らに付き合う気にはなれない!」

 

「奇遇だね! 俺もだよ!」

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

一瞬、俺たちの心に水の一滴が落ちる音が聞こえた。

それが最後の一撃の合図だと、感覚でわかる!

 

「お前が祈れば、不思議なことに皆は立ち上がる」

 

「みんなは君のために、素敵な君のままでと祈る」

 

「命の火があるから私達は行く」

 

「この星が目覚めたから明日(あす)へ」

 

「「『De Javu』!!!」」

 

俺たちの足元に、水の一滴が水面に落ちる音を連れて光の波紋が無数に発生する。

波紋は消えることなく、1つ1つが光のチャクラムとなって浮かび上がり、その全てがウミウシェーラとクラインハードリス目がけて突撃し、肉体を切り裂きながら突き刺さった!

 

「き、綺麗……。とっても……美しい。なんて素晴らしいの! これが私の武装芸術の理想形よ! あなたたちのことが羨ましいけど、それ以上に愛おしいわん! こんなに! こんなに美しく敵を、私達を倒せるんですもの!」

 

「お、俺は……まだ終わる気はない! まだあの世に行く気はない! み、認められるか! 精霊を! アクエアルを自分の物にできないまま死ぬなんて! 俺は……! 俺は、ただ……アクエアルそのものが欲しかったのに……!!」

 

「芸術は…………爆発なのです!!」

 

急所や頭部に光のチャクラムが突き刺さったクラインハードリスは無念のまま事切れ、全身に光のチャクラムが突き刺さったウミウシェーラは歓喜しながら爆発四散した。

やれやれ……。

今回のも迷惑な連中だったな。

 

 

 

 

 

ウォーダス・テードの医務室。

人間を対象とした医療行為の他、レプリロイド修理用の設備も用意された便利な部屋だ。

幸い、資材も大量に用意してあったのでマーティの修理も迅速かつ簡単に行えた。

 

「修理完了。動ける?」

 

「ああ……。でも驚いたよ。前より体が軽い感じ。……ウミウシェーラは、死んだんだよね?」

 

「確実に死んだ。爆発して砕け散ったところは君も見ただろ」

 

俺の言葉にホッとしたらしい。

マーティは安堵の余り気づかない内に嬉し泣きを始めていた。

 

「……え? あたし……泣いてる!?」

 

「これで3件目。恵玖須ちゃんに修理されたレプリロイドは涙が流れるようになるのは確定事項みたいね」

 

そうだな……。

いずれにせよ、声で今回は一件落着だ。

 

「? あの自販機、確か研究所で同じタイプのを見た気がするんだけど」

 

「ああ。盗品だったから所有権がある会社に問い合わせたら、『回収して届けてください』て回答が返ってきたんだ。だから全部を艦内の各所に置いてある」

 

「……そう、なんだ……。ありがとな、本当に重ね重ね」

 

「助けたいから助けただけさ。……どうして抱き着くの?」

 

何故かマーティはいきなり抱きついてきた。

 

「いきなりどうしたの?」

 

「惚れられるようなことしといて、その言い草はないよ……」

 

そんなことを言われても……。

どうすればいいかと困っていたら、更にアクエアルにまで抱き着かれた。

 

「アクエアルまで!」

 

「自覚があるくせにどうしてお前はそうなんだ……! 魅入られた側の身にもなってくれ」

 

「……参ったな。これじゃ8股に増えた、とか騒がれるのは確実だね。付き合う気は無いのに」

 

思わず困惑の余り呟いてしまう。

そうしたら、室内にいた城戸さんとマルフレートに睨まれ、マーティとアクエアルにステレオで怒鳴られた。

 

「「エックス!」」

 

「恵玖須ちゃん、昔からこの手のトラブルが絶えないよね」

 

灯留手も呆れている。

助けて欲しいけど、目が「嫌」ってハッキリっと即答している。

どうしたものか……。

 

 

 

 

 

数時間後。

ロドス町の眺めのいい某所。

島を挙げての宴会に招待されたので、2度目の両舷上陸を許可し、総出で島民の皆さんの厚意に甘えることにした。

 

「お祭り騒ぎです。驚くことに島全体がこの状態です。ムサカが美味しー!」

 

横山さんのみならず、砂山さんと出月さんも中継と並行して料理にありついている。

城戸さんとマルフレートもほろ酔い気分だ。

灯留手は……流石にギリシャは飲酒に年齢制限がある(飲酒に年齢制限を課していないノイプロイセンの方が珍しいのだが)ため、2人をちょっと羨ましそうな顔で見ていた。

 

「どうしたんだい? どっか複雑そうな顔してさ」

 

「マーティ……。みんな、思い思いに楽しんでいるなって、そう思っただけだよ」

 

気が付いたら、マーティがすぐ隣に寄り添っていた。

遅れてなるものかと、アクエアルまで。

どうしたものかと何となく振り向いたら、当然海が見えた。

日没前だから、空と海はまだまだ蒼い。

綺麗だな、と思って見詰めつつも、自然と両手はアクエアルとマーティーを抱き寄せてしまう。

驚きつつも、2人ともどこか満更でもなさそうだ。

 

「……。そんなところが本当に油断ならないんだよ、アンタは……」

 

「せめて、断りぐらい入れて欲しい……」

 

……。

2人が蕩けている間、もう少しだけ海を眺めていよう。

両手に華、目の前には海原。

絶景、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ホーミングトーピード』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

台湾自由民国南部に位置する、台湾第2の都市、高雄(コーヒョン)

ゴールデンウィークということもあってか、俺は家族と一緒に、その街で建設されたばかりの超高層タワーに招待された。

楽しいことと刺激に満ちたタワーではしゃぐ一方、俺は妙な気配を感じとる。

そして気配の主たちが牙を剥いた直後、俺と姉さんの2人が立ち向かった

次回! 「あの姉弟に祝福を、姉弟の総ての敵に滅亡を」。

超高層タワーを舞台に、優し過ぎる魔法少女が悪の熱情を乱れ撃って叩き潰す!

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



深海の武装芸術家 ランチャー・ウミウシェーラ

ウミウシ型の元特A級ハンター。
元第6艦艇部隊隊長であり、手数と知恵でのし上がった叩き上げ。
しかし経歴に反して本人は芸術家肌であり、作戦や自分の戦いに美を求め、美しく戦うことが大好き。
性格は陽気で社交的だが特異な美意識を自分の周りの人間に理解してもらえず、それに対する鬱屈を抱え込む内に人間を守り奉仕する自分の立場を疑問視するようになる。
結果、スティグマにその美意識を理解してもらえた嬉しさから彼の下につくことを選ぶ。
自分の心を射抜いた者は男女不問という性癖を持っており、勝気だが乙女心溢れるなマーティや、優し過ぎる故に戦う覚悟がありながらも苦悩し続けるエックスをかなり前から虎視眈々と狙っていた。



セントエルモの黒い野獣(シャドウファング) クラインハードリス・ヘイドリッカーズ

マールジェーマ王国国王親衛隊元副隊長で、「親衛隊最強の男」「親衛隊で一番危険な男」「親衛隊で唯一まともな男」の異名を持つ猛者。
剃刀の如き鋭利な視線と黒髪が特徴の美丈夫だが、信頼できるかどうかがに最も重点を置く男であり、例え一度忠誠を誓っても信頼に値しなくなったと判断すればすぐに軽視する。
これは幼少時、平民との友達付き合いを快く思わなかった両親に騙され自らの手で平民の友人たちを全員殺害させられたことによって性格が屈折したため。
その後、復讐のため舞踏会の際に王の目の前で自殺騒ぎ起こして動機を吐露し、両親を死刑に追い込んだ。
刑の執行で両親が死んだ後、幼くして莫大な財産を相続している。
親衛隊の例に漏れず女性問題を起こしっ放しだったが、抱く時は必ず対価を払っていたので関係を持った女性たちからの評価は意外と良かった。
主君がアクエアルに敗れると、元々軽蔑していたこともあり財産を持ってさっさと次元をまたいで逃亡。
その後はどういう訳か作中世界の大企業でサラリーマンとして静かに豊かに思うままに生きていた。が、職場の不正行為の濡れ衣を着せられ、過去の経験がフラッシュバックし、発作的に激昂して会社の試作品と、会社所有のレア自販機数点を盗んで姿をくらました(濡れ衣自体は直後に晴れた)。
作中では会社の試作品でもある、ブルートザウガー過剰性能測定試験モデル『黒い炎(シャッテンフラッケルン)』を装着して戦っていた。
ちなみに、レア自販機まで盗んだのは会社への報復と同時に、個人的に欲しかったからでもある。
女性としてのアクエアルに魅入られており、彼女だけは自分で独占したいという夢を密かに抱いていた。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

ウミウシェーラ
・オクトパルドに代わる海系ボスとして考案。セリフは書いてて楽しかった。
・性格はイレハン版オクトパルドをベースにしています。イレハン版は岩本版より個性的だったので。
・キャラクターコンセプトは「文系版+悪の百目○里香」(『地球防衛○業ダイ・○ード』に出てくる天才少女科学者)! あの手の倫理が欠けてるっぽいキャラは案外ネタにしやすい。

クラインハードリス
・PCゲーム版『精霊騎士アクエアル』で新たに設定された現況、レオルギスのキャラクター像がつかめなかった(PCゲーム版を買おうにも見つからなかった)ため、代役として考案。
・名前は前のナチス高官として悪名高いラインハルト・ハイドリヒと、『青の騎士ベ○ゼ○ガ物語』の初代大ボス、ク○ス・カー○の名前を混ぜ合わせたもの。
・シャッテンフラッケルンの当て字と武装の構成も、ク○スが登場していた「シャ○ウフレ○」そのまんま。ただ、ドリルは搭載位置が分からなかったので未実装に。
・シャッテンフラッケルンという名前自体、「シャ○ウフレ○」のドイツ語直訳。

他のキャラクターや設定あれこれ
・マーティの登場の仕方や立ち位置は岩本版から大幅にアレンジ。例の『あの機能』の出所は当然エックスです。
・本作オリジナル設定である、『精霊騎士アクエアル』の舞台となる国の名前はラテン語で『宝石の海』。なんでオリジナルで付けたかというと、原作中に国名を確認できなかったので。
・これまた本作オリジナル設定であるアクエアルの名字は「ウォーターゲート」のラテン語直訳。言うまでもなくあのアメリカ政治史に残る大スキャンダルから取りました。
・城戸舟子はロックマンエグゼ4に出てきた同名のキャラが元ネタ。
・嘘かどうをエックスが確かめるあのシーンは声優ネタ(元ネタとなったキャラクターの中の人も櫻井さんなのだ)。ただ、皮膚の表層上にある物質の構成云々は『絶対○憐チル○レン』のあるキャラが主人公の一人の健康状態を測るシーンが由来。
・エックスが紫炎でウミウシェーラを刺すシーンで叫んだ四字熟語は、正しくは「だいはつねはん」と読む。ルビとして降られていた「マハーパリニルヴァーナ」の和訳であり、意味はいずれも『仏陀入滅=仏教の開祖・ゴータマ・シッダールタの死』。





普通のあとがき
・前回がいつも以上の大容量になったせいか、今回は自然といつもより字数が控えめに。
・結局前回から1か月以上経過してやった投稿できた。なんで執筆ペースが短くならないのかな……?


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STAGE 8:あの姉弟に祝福を、姉弟の総ての敵に滅亡を

WARNING!
今回の注意事項!

・エックスが微妙にスケベになっています

・エックス大激怒

・声優ネタ有り

以上の点にご注意ください


今は五月初日、台湾自由民国南部第2の都市、高雄(コーヒョン)

俺は今、両親、そして姉さんと一緒にこの街に来ている。

街全体が大騒ぎだ……。

 

「お祭りムードだな」

 

「新名所ができたんですもの」

 

「そうだな。そういえば、起動エレベータ建造に使う技術と建材のテストとして建造されって聞いたな」

 

両親は相変わらずラブラブだ。

俺はというと……。

姉さんが手を強く掴んで離してくれない。

振りほどくわけにもいかないし……。

 

「手を繋いだの、久しぶりだね」

 

「そうだけど……」

 

ちょっと気恥ずかしい。

そう思っていたら、そよ風で俺の髪が揺れる。

 

「短く束ねるのもダメなの?」

 

「前にキッパリ言ったでしょ。ダーメ」

 

 

 

 

 

STAGE 8:あの姉弟に祝福を、姉弟の総ての敵に滅亡を

 

ステージボス:『時空の斬鉄鬼 ブーメル・クワンガー』 『逢魔が時の紳色魔 バルドイ 』

 

 

 

 

 

何日か前。

日本ローカル放送局ギルドのトーク番組に出演した時のことだ。

 

「浮名が流れてますけど、その辺はどう収拾つけるつもりなんです? 後から聞いたんですけど、杜論ちゃんとルナちゃんも恵玖須君にぞっこんなんですけど」

 

「俺としては、正直に言うと『誰も選ばない』つもりです。俺はレプリロイドですから」

 

「マーティちゃんもレプリロイドですけど……! 言っときますけど、11股疑惑が浮上してるのに『子供を作れないから』はダメですからね!」

 

「初恋を含めたら、12股になる、かも……」

 

「初恋したことあったんですか!?」

 

横山さんが素で驚いている。

何か失礼な反応だな。

 

「初恋の人は、姉です。あの頃は『自分はレプリロイドだから』諦めましたけど」

 

初恋の剣はここで流しておこう。

横山さんが固まっている内に。

 

「話は変わりますけど、『子供を作れる』云々に関して、少し気になることがあるんです」

 

「どんなことです?」

 

「……この間、ウミウシェーラが言及していたマーティの特殊機能についてですが、機能の出所は恐らく、俺かもしれません」

 

その言葉に、横山さんが固まる。

何だか他の人たちも固まった気がするけど、続けよう。

 

「ライト博士から聞いたのですが、俺には人間との間に子孫を作れる機能があります。『パンドーラー』って名前なんですけど。いつデータを取ったのか分かりませんが、俺が出所としか考えられません。

 

 この機能が相手にどんな悪影響をもたらすかが不安で、正直付き合おうって気にはなれないのが現状ですね」

 

「…………言い忘れていたんですけど、このトーク番組、生放送なんですよね」

 

「はい!?」

 

「それに、お姉さんたちが見学に来ているんですよ……!」

 

ええ!?

それってすごくヤバいのでは……?

そう思った瞬間、頭に何か堅いものが押し付けられる。

スタッフからコンパクトミラーを手渡されたので、それを使って背後を見たら……。

姉さんだけじゃなく、華鈴さん、シャーロッテさん、麻希奈さん、桜樺、理瀬さん、シルキスさん、アクエアルがいた(全員変身or着替え済み)。

頭に押し付けられているのは、華鈴さんのスターライトロッドか……。

あ、やいとと杜論にルナ、マーティまでいた。

……よく見たら、みんな泣いてる。

 

「お仕置きの時間なので一旦CMです」

 

「横山さん!?」

 

 

 

「で、どうするの?」

 

「以前、ONMエクステが髪の毛について大騒ぎになったことがあったから、それでいく?」

 

「じゃ、それで行こうか」

 

華鈴さんが姉さんに尋ねたら、姉さんがとんでもないこと言い出した。

理瀬さんが相槌を打ち、シャーロッテさんがONMエクステの容器を持ってきた!

 

「ちょうど都合よく横山さんが用意してくださいましたわ」

 

ちなみにONMエクステとは、つけ毛用有機ナノマシンのことだ。

金属製のスライムみたいだけど、髪に付着させると毛髪か頭皮と融合して、髪の毛に変形するという仕組みになっている。

逃げようにも桜樺とアクエアルに押さえつけられて身動きが取れない。

 

「押さえつけているうちに早く」

 

「ゼロがいつ出しゃばるか分からないぞ」

 

振り解こうにも、2人がかりなので身をよじるぐらいしかできない。

しかも、麻希奈さんとシルキスさんが加わって4人がかりになった。

 

「大人しくしなさい!」

 

「抵抗しても無駄ですよ!」

 

そうこうしている内に、頭に粘度の高い液体……OMNエクステが振りかけられた!

 

「――――――!!」

 

 

 

それからそれから。

見事な赤紫のロングヘアーになってしまった。

 

「綺麗な色じゃないか」

 

マーティから褒められたけどどことなく嫌だ。

 

「恵玖須様ぁ。そのONMエクステは自動再生機能が強過ぎる古いタイプだから切った傍からまたくっつきますからね」

 

ルナに釘を刺された。

そして実演とばかりに杜論が髪の一部を斬ったら、あっという間に元に戻った。

 

「ほら、元通り」

 

仕方ないので何とか短く束ねようとしたら、今度はやいとに手をはたかれて妨害された。

 

「束ねるのは不許可よ!」

 

その後、収録の終了と同時に姉さんたち12人に連行される形で帰宅。

やいとたちに怒られ泣かれ、姉さんに怒られ泣かれ、両親にこってりと叱られ、散々だった。

 

 

 

 

 

夜、自宅の2階、姉さんの部屋。

4月最後の授業がある明日の準備をして寝ようとしたら、姉さんに引っ張られて部屋に連れ込まれてしまった。

で、今は一緒に寝ている状態だ。

御丁寧なことに、姉さんは俺を抱きしめている。

 

「当分はお姉ちゃんと一緒に寝ようね」

 

「……なんでいきなり?」

 

「部屋にいる時だけ束ねているかもしれないから」

 

その割には妙に楽しそうだ。

……そういえば、ここ最近、家でエミットの姿を見かけない。

 

「そういえば、エミットは?」

 

「ここ最近は翔子のとこにいるみたい。どうしてかは分からないけど」

 

 

 

それから数十分後。

 

「……恵玖須」

 

時々姉さんの寝言が聞こえる。

俺の方は長く伸ばされてしまった髪が気になってまだ寝つけない。

そういえば、姉さんが中学に上がるまで一緒に寝ることが多かった気がするな。

 

 

 

今から9年前。

 

『ここ……は……?』

 

『パパ! ママ! エックスがめをさましたよ!』

 

『エックス? それ……は?』

 

『あなたのおなまえ。あなたは「くすのきエックス」。わたしはあなたのおねえちゃん、「くすのきさえ」』

 

『エックス……。それが、俺の、名前……』

 

俺は目覚めたその日に、楠家に引き取られ、「楠恵玖須」になった。

それから色々あって……。

 

 

 

「……?」

 

どうやら思い出している間に寝てしまったようだ。

 

 

 

それからそれから。

朝食の席。

食べ終わってそろそろ学校行こうとしたところで父が不意に言葉を漏らした。

 

「昨日、急にケイリーさんから連絡が来てな。こっちの休みに合わせてゴールデンウィーク中の海外旅行をセッティングしてくれたそうだ」

 

「急な話だけど、今日の夜に出発なの。4人で行かない? 学校の方にはパパと私で連絡はしておくから」

 

母が続いた。

旅行か……。

この1か月、海外に飛びっ放しだけど旅行ではなかったからな……。

 

「久しぶりの旅行だから、私は全然OKだよ」

 

「俺も……問題はないよ」

 

俺の返事に姉さんと両親が不必要な位安堵している。

ここ最近、海外出張に加えて日本にいても帰れない日が続いているから仕方ないか。

直後、ドアホンが鳴り、母が応対した。

 

「あら、おはよう。やいとちゃん」

 

『おはようございまーす。お義母さん』

 

「ちょうど恵玖須も出るところだったのよ」

 

ドアホンから聞こえたのはやいとの声。

……なんで?

 

「登校中の間だけ髪の毛を束ねたりしないよう、やいとちゃんに見張ってもらうためよ。本当はお姉ちゃんが見張りたいけど、途中で通学路が別れるから」

 

 

 

 

 

それからそれから。

またも全校集会があり、今度はマーティも(1年生として)転入してきた。

それから時間は経ち、昼休み。

図書室でいつものように本を読んでいたら、隣に灯留手が座った。

疲れているな。

 

「また上級生から?」

 

「……これで10人目。みんな諦めが悪いから困っちゃう」

 

背丈が中学生並みに高く、顔も整っていて、複雑な血筋がもたらした可愛らしい顔立ちから灯留手は男子から人気になっていた。

だから上級生の中には告白する人もいるのだが、ことごとく失敗に終わっている。

 

「みーんなタイプじゃないんだよねぇ」

 

「灯留手のタイプって、基本的に暑苦しそうな人だからね」

 

「そうそう。中には恵玖須ちゃんに気があるのか、みたいなこと言う人もいたけど、あり得ないよ。恵玖須ちゃん、タイプとは程遠いし、それ以前に可愛過ぎる気がするもの」

 

微妙に癪に触るようなことを言われた気がする。

それにしても前髪が邪魔だ……。

 

「束ねちゃダメだよー」

 

「……セットするのは?」

 

「セットもダメ、とは言ってなかったけど……」

 

ならセットしても問題はないな。

レプリロイドの髪は整髪剤抜きでも固めることはできるから……。

 

「オールバック!」

 

「それ、ゼロ兄ちゃんとお揃い?」

 

「そうだよ」

 

自信満々に言った直後、いきなり後頭部をはたかれた。

何事かと思って振り向いたらマーティがいた。

 

「似合わないから不許可! それ以前にセットもダメ!」

 

それはさすがに理不尽だと思う。

 

 

 

 

 

その日の夕方。

俺と姉さんは両親と一緒にウォーダス・テードの艦橋にいた。

まさかこの艦で行くとは……。

 

「台湾政府きっての希望とのことです」

 

城戸さんが簡潔に説明してくれたが、納得できそうにない。

 

「まあ、友好目的ですから肩肘張らずに行きましょう」

 

 

 

艦長室。

俺は前髪を弄りながら茫然としていた。

……せっかくだから棚に置いてあるDVDでも見よう。

 

「……これにしよう」

 

『レジデント・エビル:アポカリプス』。

何年か前に映画館で見たホラー映画の続編だ。

プレイヤーにセットして……。

再生しようと思ったらドアホンが鳴った。

 

『恵玖須。いる?』

 

姉さんの声だ。

 

「開いてるよ」

 

俺が答えた直後に姉さんが入ってきた。

艦長室の広さに少し驚いているらしく、見回している。

 

「どうしたの?」

 

「お風呂に入れる時間になったから呼びに来たの」

 

 

 

艦内大浴場。

男湯、女湯、そして何故か混浴に分かれている。

男湯に行こうとしたら混浴に引っ張られた。

湯気で全体を見渡すのは難しいけど、そんな状態でもタイル絵が自己主張している。

 

「翔子から聞いたんだけど、こういうタイプのお風呂じゃ男湯でも最初に体と髪を綺麗に洗ってから湯船に入るんだって」

 

そう言った直後、ボディソープをかけたビニールタオルで、姉さんは俺の体をいきなり洗い出した。

 

「まだあなたが小学校に入る前の頃、覚えてる? あの頃のお姉ちゃんは背が低くて、背中を洗うのがいつも大変で……」

 

「足を滑らせて背中に抱き着く格好になったこともあったよね」

 

「そうそう。……去年あたりからあなたが1人で入るようになって、ちょっと寂しかったんだ。……また、2人っきりでお風呂に入れる日は来るのかな?」

 

「…………ごめん。約束できない」

 

洗い場の鑑に移った姉さんの顔は、その直後に一瞬だけ悲しそうな表情になってた。

ちょっと、気まずいな。

そう思った直後に、髪にシャンプーをかけられ、わしゃわしゃと頭を引っ掻き回される。

 

「だったらじっとする。お姉ちゃんは期待してたんだから……!」

 

 

 

それからそれから。

髪が長い場合、湯船につかる時は基本的に髪を束ねるかタオルで巻かないといけないのだが、どちらも姉さんが許してくれず、髪を湯船に漂わせる格好となってしまった。

 

「そういえば、姉さんが小学校に入ったばかりの頃、風呂の湯沸し機能がおかしくなって一緒に銭湯に行ったよね。姉さんが『妹』に間違えられてさ」

 

「そうそう。『この子は弟です! レプリロイドなんです!』って言い返したんだっけ」

 

ちょっと昔を懐かしんでいたが、柔らかい物が二の腕に当たる感触がした。

感触がした方を向くと、アクエアルがすぐ側にいた。

 

「……当たってるんだけど」

 

「……当てているんだ」

 

「放してよ」

 

「誰が放すか」

 

姉さんが引きはがそうとアクエアルの肩を掴んで引っ張り出す。

でもアクエアルの方もより力を込めて俺の腕にしがみついているため、中々はがせないでいる

そうこうしている内に、左の二の腕にも柔らかい物が当たる感触がした。

……今度はマーティだった。

 

「君もか」

 

「アタシもだよ」

 

これが引き金になったかのように、続いてシルキスさんが背中に胸を押し当て、ルナが向かい合うようにして俺の太ももの上に座ってきた。

 

「シルキスさんとルナまで!」

 

「時には大胆になりたくもなるのです」

 

「恵玖須様のお肌って相変わらずやーらかーい」

 

そうはさせまいと思ったのか、今度は理瀬さんと華鈴さん、杜論が俺の手を掴んで自分たちの位置へと強引に引っ張る

 

「大丈夫だった?」

 

「とりあえずは。……ところで、なんで華鈴さんは背中合わせになってるの?」

 

背中に当たる感触ですぐに分かった。

華鈴さんは俺の背中と自分の背中をくっつけている。

 

「南極の時は渚ちゃんに邪魔されちゃったからね」

 

「雅さんって以外と控えめな気がしない?」

 

杜論がちょっとムッとしたくなるようなことを言った気がする。

ともあれ、これ以上この状況下にいるのはよくない。

別の湯船に移ろう。

そう思って立ちあがり、少し歩いてから桜樺がいきなり前に立ち塞がったので、胸に顔を埋める格好となった。

 

「危ないよ」

 

「お前がいきなり立ち上がるからだ」

 

横にずれようとしたら今度は側頭部が麻希奈さんの胸に埋まってしまう。

 

「危ないってば」

 

「それほど危なくないわよ」

 

流石に本格的に危ないので別方向にずれる。

浴場を出よう。

……そうしようとしたら今度は足を引っ掛けられて湯船の中でこけてしまう。

 

「逃げるな!」

 

やいとだった。

なんて乱暴な……。

 

起き上がりはしたものの、半ば強引にまた湯船につかされてしまう。

しかもやいとに腕をガッチリと掴まれてしまう。

その隙を突くように、シャーロッテさんが頬に自分の胸を押し付けてきた!

 

「年上のやることなの!?」

 

「年上だからやれるのですわ!」

 

……本格的にまずい。

こ、このままだと……。

…………。

どうにでもなったところで問題ないか。

とりあえず、まずはシャーロッテさんの腰に手をまわしておく。

 

「! エックスさん!?」

 

「ちょっと! 何やって……んにゃ!? どこ触ってんのよ!」

 

さりげなくやいとのを触っておこう。

どこを触ってるかは、足の付け根近辺とだけ言わせてもらう。

 

「いいじゃん。やいとだって俺のを散々触って名前言わせようとしてたくせに」

 

「……いきなりどうしたの!?」

 

やいとが悲鳴混じりに言うけど、気にしない。

次第に大人しくなっているし。

でも姉さんは気づいたらしく、大声を上げた

 

「あ! やっぱり『リミッター』が飛んじゃった!」

 

その直後、どこからともなく風呂桶がやいとの目の前に着水し、水しぶきがやいとの顔にかかった。

 

「あ、危ないわね! 誰よ! 恵玖須に当たったらどうするのよ!」

 

「やかましい! お前のその顔めがけて投げようとしたらレイヤーに邪魔されて手元が狂っただけだ!」

 

……投げたのはゼロだった。

よく見たらレイヤーが隣でなだめている。

髪をタオルで巻かないで湯船の中をずかずかと歩いてこっちに近づいてきた。

そして俺の腕をつかみ、力任せにひっぱて立ち上がらせてくれた。

 

「もう温まってるだろ。のぼせる前に上がっとけ。今の様子じゃリミッターも飛んでるようだしな」

 

「うん。……そうするよ」

 

ゼロは安心してくれたけど、すぐに視線をやいととルナ、杜論や華鈴さんに向ける。

しかもレイヤーと見比べるような仕草までしている。

 

「フッ……。フフフ……。フハハハハハハハハ!」

 

そして思いっきり見下すようにやいととルナと杜論と華鈴さんの方を見ながら高笑いしだした。

 

 

 

 

 

結局、あの後ケンカが起きたのだが付き合いきれなかったので一足先に上がった。

今は艦長室に戻ってアイドルの際どい写真集(全年齢)を眺めている。

……いいアングルだ。

次は際どいDVD(全年齢)でも見よう。

そう思った矢先、またドアホンが鳴った。

 

「開いてますよ」

 

その言葉と共に、両親が入ってきた。

 

「恵玖須……それは」

 

俺が手に持っている写真集を見て父が眉を少しひそめた。

 

「18禁じゃないよ。子供でも買える写真集だよ」

 

「……それは分かっているんだが。いや、それじゃなかったな。さっき沙枝から聞いたんだが、リミッターがまた飛んだそうだな」

 

「うん。でも、しばらくはそのままにしようと思ってる。多分、リミッターをかけ直しても、ふとしたことで飛ぶと思うから」

 

俺の言葉に父は思わず黙り込んでしまう。

代わりのように、今度は母が口を開いたが。

 

「恵玖須……。戦いが終わった後はどうするの?」

 

「次の戦いがあるかもしれないし、今の立場が立場だからね。イレギュラーハンターを辞めるわけにはいかないよ」

 

「でも、恵玖須1人ががんばり過ぎているみたいで……」

 

「ある人に言われたよ、俺は世界の希望で、それは俺であっても否定できないって。だから、今は戦いから遠ざかる気は無いよ。……遠ざかることは、許されないんだ」

 

瞬間、両親の表情は一気に悲しげなものになった。

分かってはいるんだ。

俺には戦いと縁のない生き方をしてほしいと両親が思っていることを。

でも、戦って誰かを守れる力がある以上、それはできない。

 

 

 

 

 

同時刻、台湾南部某所。

 

「1ヶ月も経たないうちに8対の最高幹部が私達だけになってしまうとは。スティグマさんにとっても予想外過ぎる事態のようでした。少しは深刻そうにしていましたから」

 

「ロックマンエックス。げに恐ろしきはあ奴ということか」

 

「無限の可能性と無限の危険性。この2つが今回の戦いで完全に開花したことは確かでしょう。何の偶然か、彼はご家族と一緒にこちらに向かっているそうです」

 

「偶然もまた恐ろしい物であるな。だが、それがいい。今度は楠紗枝だけでなく、母親も味わえるのだからな」

 

「たまには熟女も、ですか? エックスほどではありませんが、違反者の趣味嗜好というのも多少は興味深いようですね」

 

 

 

 

 

『め! エックスはまだあかちゃんなんだからそんなのよんじゃめなの!』

 

『え? でも、裸じゃないよ』

 

『めっていってるでしょ!』

 

これは、姉さんと一緒に書店に行った時のことだ。

グラビア雑誌に目が行って、モデルの際どい水着姿を見て楽しんでいたら姉さんに怒られたんだっけ。

似たようなことがそれからまたあって、見かねた両親がDr.ケイリーに相談した結果、俺の頭脳にリミッターがかけられることになった。

 

 

『お前、そういうのも読むのか?』

 

『この間、イレギュラーに何回か頭突きしたことがあっただろ? あれの後から読みたくなっちゃって。変かな?』

 

『意外とは思ったが、変じゃないだろう。お前はそこらの人間より人間らしいからな。それもらしさってことさ。問題は、迎えに来てる姉貴の視界にもそれが入ってるってことだ』

 

これは、一度リミッターが飛んでしばらくたってからのこと。

休憩室に置いてあったグラビア雑誌を読んでいた時だ。

結局、この後すぐにまたリミッターをかけられたけど。

 

 

「……また、夢か」

 

そういえば、あの後姉さんがビートを見張りにって部屋に持って来て……。

枕に頭が埋まったまま首を動かすと、すぐ隣にビートが寝ているのが見えた。

 

 

 

「……なんで頭にビートを乗せているんだ?」

 

「どうしてかは分からないけど、いつの間にか頭の上に乗っていたんだ」

 

朝食を食べようと食堂に来た際、ゼロに言われてビートが頭に乗っていることに気付いた。

手に取ってどかそうとしたら自分で飛んで行ってしまった。

 

『現地時間の昨日午後6時にモスクワで黒帝(ツァーリ・チョールヌイ)が即位後初の外遊へ向かうとの発表がありました。黒帝(ツァーリ・チョールヌイ)は即位から数十年間、その姿をごく一部の側近と歴代の第1正統君主にしか見せず、影から国政を担っていました。

 

 そのため、どのような容姿なのか早くも様々な推測が飛んでいます。 なお、訪問先は台湾自由民国首都台北(タイパク)であり……』

 

日本ローカル放送局ギルドのCS局のニュースが流れている。

その後、朝食を食べ終えたので部屋でゆっくりしようとしたら、姉さんに捕まって髪を強引にブラッシングされた。

気のせいだろうか、ブラシをゼロと取り合っていたような気がする

 

 

 

 

 

それからそれから。

時と場所は現在に戻る。

 

「アレか……」

 

かなり高い。

軌道エレベータのプロトタイプだけあってとんでもない高さだ。

 

「名前は旭日塔(きょくじつとう)。台湾の偉い人が親日をアピールするためにわざわざ日本の企業に協力してもらって建造したんだって。全長1㎞以上で、500mあたりまではショッピングモールになっているの」

 

「そこから上は?」

 

「格安の賃貸マンションや公的機関用のテナントだって」

 

姉さんが説明してくれた。

 

 

 

それから10数分後。

開催セレモニーが終わり、俺が真っ先に案内される。

それと同時に野次馬たちの大歓声が響き渡った。

案内のままに中に入ると、そこには戦いとは別ベクトルの非日常が広がっていた。

 

「「「「「「「「「「タワー・オブ・ライジングサンへようこそ! ロックマンエックス様!」」」」」」」」」」

 

屋台街に台湾名物が並んだ免税店。

様々なテナントが、日本語が堪能なスタッフたちが、俺たちを出迎えてくれた。

 

「テナントエリアの総マネージャーを担当している、白小花(ベイ・ショーホァ)です。いらっしゃいませ、ロックマンエックス様!」

 

小花(ショーホァ)さんか。

そばかす美人といったところだな。

スーツで着やせしているけど、バストとヒップは実際はもっと大きいな。

一目見ただけで分かる

それから数十分、帽子やサングラス、それ以外にも買いたかった物を一通り買い揃えて、俺はあるフロアで立ち止まった。

 

「化粧品コーナーか……」

 

台湾ブランドの化粧品が選り取り見取りで並んでいる。

ふと、色取り取りの口紅に目が行った。

 

「……12本買おうかな」

 

色違いで12本買って、と……。

 

 

 

 

 

その頃、沙枝たちは……。

屋台街エリアの一角で休憩していた。

その表情は周囲の熱気に合っていない。

 

「完全に見失っちゃったね」

 

「まさかいの一番に案内されるとは……」

 

華鈴とシャーロッテは疲れたように呟く。

ちょっと探し疲れたらしい。

 

「流石に当てもなく探しても見つからないわね」

 

「あのそばかすの女のせいでとんだ迷惑だ」

 

麻希奈と桜樺も同様の状態。

 

「せめて連絡をとれればいいのだけど」

 

「でも恵玖須の携帯電話の番号、知らないのよね」

 

理瀬と杜論もどうしたものか、といった表情になる。

 

「どうしたものでしょうか?」

 

「こっちが聞きたいわよ」

 

シルキスが思案に暮れ、ルナが毒づく。

 

「……義姉上(あねうえ)ならエックスの携帯電話の番号を知っているのではないのか?」

 

「言われてみればそうだ! つか義姉貴(あねき)なら知ってて当然じゃないか!」

 

アクエアルの何気ない一言にマーティがそれもそうだと言わんばかりの反応を見せる。

直後、11人の視線が沙枝に集中する。

刹那、沙枝の携帯電話が鳴る。

着信メロディの選曲(西○警察メインテーマ)に11人がキョトンとしていたが、沙枝は構わず電話に出た。

 

「……もしもし。恵玖須!? え? いま私たちを探してるの? うん。屋台街の奥の方の大きなテーブルに集まってる。うん。……待ってるから」

 

「恵玖須からだったの?」

 

やいとの質問に対する沙枝の答えは、やいとの予想通りであった。

 

「うん。私たちを探してたみたい。翔子のアドバイス通りに私のも恵玖須のも海外でも使えるタイプにしておいて世界だったわ。場所は言っておいたから、もう少し待てば来ると思う」

 

沙枝の報告にやいとたちは揃いも揃って胸を撫で下ろす。

もちろん、沙枝の方も安堵した表情を見せる。

しかし、そんな空気を台無しにするかの如く良くない空気をまとった奴がすぐ近くに来ていた。

 

 

 

 

 

姉さんたち、喜ぶかな?

そう考えながら屋台街に入り、奥の方の大きいテーブルを探して……見つけた。

でも、何だか誰かと言い争っているように見える。

何があったん緒か分からないけど、急がないと。

少しづづ姉さんたちのいるテーブルに近づく。

ある程度近づいたところで、姉さんたちを言い争っている誰かの正体が分かった。

天声新聞の、それも悪質な取材で悪名高い記者、「本庄一太」だ。

俺は基本的に日本ローカル放送局ギルド(新聞事業部が発行する『日本憂国日報』を含む)の取材しか許可しないが、奴は最後までしつこく取材許可を求めた粘着質な男だ。

 

「貴様、彼女たちに何の用だ?」

 

「これはこれは……。そちらが頑として取材を受けてくれませんのでね。浮名のお相手さんたちにアプローチしてみようかと思いまして」

 

「その割にはOKを貰えそうな雰囲気ではないな」

 

「上級生2人と幼馴染に人魚は当然として、そこの8人は中古品とは思えないほどガードが固くて……」

 

この男!

姉さんたちを愚弄する気か!

一言物申そうと思った直後、小花(ショーホァ)さんがいつの間にか割って入った。

 

「ロックマンエックス様。そいつの相手をする必要などありません」

 

「何ですか? 今は取材中なんですが」

 

「塔内での取材行為は事前に申請してもらわないと困ります。あなたたち! ブラックジャーナリスト1名様を摘み出してちょうだい!」

 

小花(ショーホァ)さんの号令に合わせて、強面のスタッフたちが本庄を拘束し、この場から文字通り摘み出すために連れて行った。

本庄は何か喚いていたが、どんな内容だったのかは余りにも耳障りなので想像に任せる!

 

「マスゴミが……! っと、それでは引き続き塔内探索をお楽しみくださいませ」

 

こめかみに皺を寄せて憤怒の形相で本庄の後姿に罵声を浴びせたと思ったら、表情を瞬時に柔らかくしてから俺たちの方に向きなおした。

そして笑顔のままその場を立ち去った。

プロだなぁ……。

そう思っていたら、かぶっていた帽子を取られた。

帽子の内側に起用に入れていた髪の毛が、花が咲いて花弁が散るまでの様子を早送りしたかのようにふわっと出てくる。

 

「帽子の中に収納するのもダメだ」

 

帽子を取ったのは、アクエアルだった。

左手に持っている袋もマーティにひったくられてしまう。

 

「……何コレ? アイドルの写真集とかDVD!? それも際どいのばっかり! ……右手に持ってる袋には何が入ってるんだい!」

 

「口紅だよ。姉さんたちに合わせて12個」

 

「……はい?」

 

袋を開けて慌ててテーブルに並べる。

みんな呆然としている内にマーティから袋を奪還。

 

「これが杜論に、これがルナに、これがマーティに、それでこれがやいとに。そんでもって……」

 

やいとに渡し、今度は華鈴さんに渡そうとした直前にタイミング悪く、両親が来た。

 

「あら? みんな集まってるわね」

 

「そういえば、テーブルに口紅が並んでいるな」

 

父が残りの口紅に気付いたようだ。

これに対して姉さんが両親に説明してくれた。

 

「エックスが私たちに合わせて揃えてくれたんだって」

 

結局、ゼロも合流してくれたことに加え、場所が場所だったのでそこで昼食となった。

だが両隣になるかで揉めたけど、父とゼロの間、で落ち着いた。

……牡蠣入りオムレツ(オアチェンという名前だとか)が美味しい。

 

「? アクエアルがいないけど……?」

 

本当だ。

マーティの言うとおりアクエアルがいない。

直後、アクエアルが空のコップを13個も持ってきた。

それをゼロと父、俺以外に配る。

コップにはテーブルに置かれた順に、エメラルドグリーンで透明度の高い液体が湧きあがるように出てきて中を満たす。

 

「……これは?」

 

「一種の毒消しだ。何かあった時にと思ってな」

 

麻希奈さんの疑問にアクエアルはすぐに答えた。

直後に今度は桜樺が首を捻ったけど

 

「しかし何故義母様の分まで?」

 

「ワールドスリーが私達が『女』であることを突いてくる可能性は極めて高い。用心のために飲んだ方がいいと思ってな。予防薬というやつだ」

 

アクエアルの答えに、桜樺も自然と納得したようだ。

まあ、『そういう』被害を受けた者同士だから分かるってことなのだろう。

その一方で母はかなり困惑している。

 

「えっと……」

 

そんな母の困惑を見て、父がアクエアルに意見した。

けど、アクエアルは毅然とした態度で反論をぶつけた。

 

「アクエアルちゃん。気持ちは嬉しいが、特撮の悪役みたいな連中がそんな手を使うとは……」

 

義父上(ちちうえ)。ワールドスリーの構成員には敵対者当人だけでなく、関係者に対してもそんな手を喜んで使う者が大勢います」

 

妙に緊張した空気が流れる。

……壊しておこう。

 

「アクエアルも言っていたように用心のためだと思えばいいよ」

 

「恵玖須がそこまで言うなら……」

 

母も決心がついたらしく、予防薬が注がれたコップを手に取る。

それを合図に姉さんたちもコップを手に取った。

 

「味の方には少々問題がありましたが、今日の今日まで何度も改良を重ねているので大幅に改善されています」

 

それは、最初はとにかくひどい味だったという意味なんだろうか?

でも、アクエアルの一言で緊張が解れたらしく、母の表情から硬さはなくなった。

そして母と姉さんたちは予防薬を一息に飲んだ。

……やいとと杜論にルナ、マーティが苦い表情になる。

表情通りの味なのだろう。

一方、残りの9人は青ざめていた。

 

「こ・れ・で・改善されていますの!? 味覚障害にも程がありますわ!」

 

シャーロッテさんが姉さんたちの心境を代表するかのようにアクエアルさんに噛み付いた。

 

「…………1つ前のバージョンは飲み水同然の味だったのに!」

 

……味見してなかったらしい。

俺と同じようなことを思ったのか、シルキスさんもそこを突いてきた。

 

「つまり、今飲んだバージョンは味見をしていなかったってことですか!?」

 

「……面目ない」

 

これにはアクエアルもシュンとなってしまった。

それに追い打ちをかけるように麻希奈さんと桜樺がアクエアルを睨む。

更に華鈴さんと理瀬さんが毒づいた。

 

「最悪! アクエアルちゃんのバカ!」

 

「良薬口に苦し、で片づけられるレベルじゃないわ!」

 

ひどい味だったようだが、それにしても反応がやいとたち4人より激しい。

姉さんに至っては顔を青くしたまま固まっている。

 

「どんな味だったの?」

 

そんな俺の呟きに答えてくれたのは、母だった。

 

「恵玖須ちゃん。お姉ちゃんの口から知りたいの……?」

 

「…………じ、冗談だよ」

 

 

 

 

 

それからそれから。

エントランスの一角。

そこから下の階層の人だかりを見下ろしつつ、渡しそびれた分の口紅を見ていたらゼロに話しかけられた。

 

「……」

 

「渡しそびれたのか?」

 

「やいとに杜論、ルナとマーティには渡したんだけどね。」

 

横にゼロがいた。

ただじっと、その視線は俺にだけ向けられている。

 

「どうすればいいかもう分かってるんだろ?」

 

「うん。……ありがとう。君にはいつも助けられてばかりだ」

 

「趣味の一つだ。感謝されるほどのことじゃない」

 

 

 

 

 

「どれにしようかな……」

 

華鈴さんは高雄(コーヒョン)土産を扱うテナントが並ぶ土産物通りで少し迷っていた。

きっと家族や渚さん、クラスメートにあげる分を選んで悩んでいるのだろう。

 

「お土産?」

 

「あ。恵玖須ちゃん。そうだよ」

 

「……これ」

 

そっと口紅を差し出す。

華鈴さんは受け取ってくれた。

 

「渡しそびれたから、さ」

 

「……うん。ありがとうね」

 

「それじゃ、残りも渡してくるから」

 

 

 

「チャイナドレス向きなデザインが多いですわね」

 

シャーロッテさんは少し早く見つかったように感じた。

案の定、宝石市のフロアにいたから。

 

「シャーロッテさん」

 

「? どうかしまして?」

 

「さっき渡しそびれちゃったから」

 

口紅を渡すと、シャーロッテさんは一気に嬉しそうな表情を見せた。

縦ロールにセットされた髪が鼻に触れる。

甘い香りだ。

 

「私だけに、というわけではありませんけど、それでも嬉しいことに変わりませんわ」

 

「今の俺には、これぐらいしかできないから……」

 

 

 

「恵玖須……」

 

エントランスで上を見ながら突っ立ていた麻希奈さんに話しかけようとしたら、気付かれて先に話しかけられた。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと考え事。……ミレニアム絡みで1つだけ心残りがあるから」

 

心残りか。

……これはひょっとしなくても。

 

「レディ・アストレアのこと?」

 

「……正解」

 

「彼女なら、親衛分遣隊にいるよ」

 

これを言った瞬間の麻希奈さんの表情は忘れられない。

それほど彼女にとっては衝撃的な言葉だったようだ。

 

「親衛分遣隊が作られてから何日かたった後にメディがいきなり連れてきたんだ。ミレニアムが潰れてからDr.ケイリーが匿っていたんだけど、バーンアウトしてたそうなんだ」

 

「それで見かねたDr.ケイリーの言いつけでメディが親衛分遣隊に入れたわけね」

 

「そういうこと。あ、それはそうと、これ……」

 

口紅を麻希奈さんに渡す。

これで残り5本か……。

 

「……ありがとう。いつになるか分からないけど、次はキスがいいな」

 

 

 

「家族、か……」

 

桜樺は沢山の家族連れを見つめていた。

出生を考えると、沈痛な面持ちで家族連れを見るのも仕方ないと思う。

 

「桜樺」

 

「今のを見ていたのか……」

 

「うん」

 

「爺様がいるからそこまで寂しくはなかったが、やはり父母が揃った家族連れを見ていると、な」

 

桜樺……。

祖父の廉信(れんしん)さんがいるから言葉通り、寂しくはなかったんだろうけど……。

しんみりしているところ悪いけど、渡しておくか。

 

「これをどうぞ」

 

「愛の告白の方がいいが……。これはこれで凄く嬉しい」

 

 

 

「これ、いいかも」

 

理瀬さんは台湾人造形師が手掛けた野生動物のフィギュアを見ている。

そういえば理瀬さんはああいうリアルな造形の物の方が好きなんだった。

この距離だと造形が分かりにくいな。

すぐそばにまで近づいたら流石に気付かれた。

 

「恵玖須」

 

「ミーマからこういうリアル系の造形の方が好きだって聞いたことはあったから」

 

「昔からそんな感じなんだ」

 

どことなく嬉しそうな表情で答えてくれた。

ここですかさず渡しておく。

 

「これを理瀬さんに」

 

「ちょっと早い気もするけど、ありがとう」

 

「……どう、いたしまして」

 

 

 

「これは中々参考になりますわね」

 

シルキスさんは書店で台湾固有動物の図鑑を手に取っている。

そういえば、ララマザーじゃ動物に関する観察や調査の書類をかなり書いていて、いずれは彼女の名を冠した動物図鑑としてまとめられると聞いたこともある。

 

「シルキスさん」

 

「あ、エックス君」

 

「やっぱりそういうのが気になるの?」

 

「はい。他の動物図鑑を読むことはとても参考になりますから」

 

「そうなんだ。……っと、これを忘れてたから」

 

口紅を渡しておく。

一瞬だけキョトンとしてたけど、すぐに表情を緩めて受け取ってくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「喜んでもらえて、安心できた。ごめん、残りも手渡してこないと」

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

 

 

「この銘柄の鳳梨酥(オンライソー)(台湾名物パイナップルケーキのこと)を10箱。エックスと一緒に食べるから密閉していないハイグレード版を2箱」

 

アクエアルは台湾銘菓を大量に買い込んでいた。

……やはり精霊が人間の肉体を維持するのには大量のカロリーが要るみたいだ。

ロドス島での宴会の時も俺と一緒にかなり食べていたからなぁ……。

 

「10箱で足りる?」

 

「あの頃はかなり食べざるを得なかったが、月日が経ったから今はかなり落ち着いた」

 

そんなアクエアルの表情はどこか朗らかだ。

いつもはすまし顔だからちょっと新鮮かも。

 

「ところで、聞きたいことがあるんだけど」

 

「? どうした?」

 

「さっきの予防薬、どんな味がしたの?」

 

「…………あまり言いたくなかったけど。あの薬の味はな……」

 

あの予防薬を飲んだ13人の内、杜論、ルナ、マーティ、やいと以外が青ざめた理由がやっと分かった。

そりゃアレと全く同じじゃなぁ……。

しかも母以外にとっては無理やり飲まされた代物と同じ味、ってことになる。

……場の空気をかなり悪くしちゃった気がするので、換気のために口紅を渡しておこう。

 

「お菓子もいいけど口紅もどうかな?」

 

ドサクサに紛れる形で口紅を差し出す。

……でも両手が塞がってるので首の袖を少しまくって、胸の谷間に挟むように口紅を差し込んだ。

 

「て、手渡しじゃないのか!?」

 

「いや、両手が塞がってたから」

 

「……嬉しいが、指輪の時にしてほしかった」

 

「ごめん」

 

 

 

それからそれから。

姉さんを探している途中、ゲームセンターフロアでやいとに杜論、ルナとマーティを見つけた。

やいととマーティが『おどるバトルマイマイヤー』(A-COM(エー・コム)製。大ヒット音ゲーだ)をプレイしている。

あ、プレイし終わったらしい。

 

「やいとたちもゲームするんだね」

 

「するわよ。綾小路財閥はゲーム会社を筆頭にしてるのよ」

 

そうなのか……。

 

「ちなみにこのゲームを作ったA-COMのことだからね。補足すると『AYANOKOUJI-COMPUTER』を略して『A-COM』よ」

 

ええー……。

色々とビックリするしかないな。

 

「これ、かなり面白いよ」

 

「次は私と白金さんがプレイするけど、恵玖須もどう?」

 

マーティと杜論がプレイしないかと誘ってきた。

かなり夢中になってプレイしてたらしく、やいとの額には少し汗が浮かんでいるし、マーティもレプリロイドなのに肩で息している。

 

「ごめん。姉さんを探してる途中なんだ」

 

「そうですか。ちょっと残念ね」

 

ルナは少し残念そうな表情だ。

やいとたちも似たような表情をしている。

 

「今急に思い出したけど、あの予防薬って本当にひどい味だったよね。義姉貴(あねき)たちなんか顔真っ青になって、エックスが理由聞こうとしたら止められたし」

 

「……実はアクエアルにある物と全く同じ味だって教えては貰った」

 

数十秒後、『ある物』の正体を教えた(口止めはされなかったので言ってしまった)ら、4人とも物凄く怒ってアクエアルを探しに行った。

……後でアクエアルに怒られるな、俺。

 

 

 

「姉さん」

 

「あ……」

 

姉さんはアクセサリーショップにいた。

指輪を見ているけど、表情がちょっと曇っている。

 

「結婚指輪でも見ていたの?」

 

「ま、まずは婚約指輪から……って、お姉ちゃんをからかうんじゃありません!」

 

「ごめん。でも安心したよ、元気みたいだから。指輪を見てた時の姉さん、ちょっと元気がなさそうに見えたから、さ。ついでに、これも」

 

ついでと言いつつも、本来の目的を全うしておこう。

 

「これ、お姉ちゃんに?」

 

「姉さんにだよ。その口紅は」

 

姉さんも嬉しいらしく、それが表情に現れている。

喜んで貰えて良かった

 

「恵玖須。お姉ちゃんの初恋の人、知りたい?」

 

「……いきなり、どうしたの?」

 

「あの生放送で、お姉ちゃんが初恋の人だって恵玖須は言ってたでしょ? だからお姉ちゃんの初恋の人を教えておこうかなって。それだけ」

 

そう言う姉さんの顔は、指輪を見ていた時以上に曇っていた。

そしてその後でてきた言葉は、俺を十分過ぎるほど驚愕させた。

 

「あなたがお姉ちゃんの初恋の人よ、恵玖須」

 

「…………!」

 

 

 

 

 

その頃、漢方薬市場のフロア。

楠夫妻は試飲コーナーで立ち止まっていた。

 

「怪我に効くやつがあればと思ってきてみたが、よくよく考えてみると恵玖須はレプリロイドだったな……」

 

「あの子、最近色々と無茶をするから仕方ないわよ」

 

少々気まずくなっている夫だったが、妻・美沙子は穏やかにフォローした。

そんな2人に、スーツ姿のガタイのいい男が話しかけてくる。

 

「漢方ジュースの試飲は如何ですかな? 婦人病によく効く新製品ですよ」

 

「あら。いただきます」

 

美沙子は紙コップに入ったジュースを飲んだ。

直後、酒を飲んだ直後と同じような感覚に襲われる。

 

「え? お酒の味はしなかったのに……!?」

 

「大丈夫か!?」

 

夫が美沙子を心配して抱き寄せた直後、彼の首筋に冷たく鋭い物が押し付けられる。

 

「な……!」

 

「そのジュースはそういうものなのですよ。さて、これからイベントの開催を宣言しなくては。あなた方と、お子さんたちをメインゲストにしたスペシャルイベントの、ね」

 

クワガタムシ型のレプリロイドが彼の首筋にブーメランを突き付けながらそう言った。

直後、スーツ姿の男の服装も瞬時に変わる。

 

「おぬしらを、私とクワンガーが用意したスペシャルステージへと招待しよう。……拒否されても連れて行くがな」

 

「急ごしらえですが、奥さんのために私とバルドイから素敵な衣装もご用意させてもらいました。……拒否されても無理やり着せ替えますけどね」

 

 

 

 

 

『『マイクテスト。マイクテスト。本日は祭り日和』』

 

いきなり塔内部の各モニター内蔵のスピーカーから音声が響く。

モニター自体も画像が砂嵐になった。

 

『映像出力が終わっておらぬぞ』

 

『少し待ってください。今回線の調整が終わりましたよ』

 

スピーカー越しに聞こえる会話が終わった直後、すべてのモニターがある一室を映し出した。

そしてそこにいたのは……。

 

「ブーメル・クワンガー!?」

 

俺が思わず声を出した直後、姉さんも素っ頓狂な声を出した。

 

「バルドイさんまで!?」

 

『本日お集まりの皆様と楠姉妹のお2人、お待たせいたしました。「時空の斬鉄鬼 ブーメル・クワンガー」と!』

 

『「逢魔が時の紳色魔 バルドイ」が本日のスペシャルイベントを知らせよう!』

 

一体全体何が起きているんだ!?

困惑する俺たちを嘲笑うように、モニターに映る2人は更にとんでもないことを口走った!

 

『イベント内容は至極単純。我ら2人対ロックマンエックスのデスマッチ! 楠沙枝にも必ず来てもらうぞ。お主らの両親を人質に取っておるからな!』

 

『奥さんにはこのスペシャルイベントのために我々が用意したコスチュームに着替えてもらいました。……それではご覧あれ、ジャンジャジャァーン!』

 

カメラを塞ぐようにアップで立っていた2人がどくと、信じられない光景が映し出された!

 

「ママ!? パパ!」

 

「一体何が!?」

 

母さんが魔法少女のようなコスチュームを着て、困惑の意表情で赤面しながら立っていたのだ!

しかも画面の隅に椅子に座った状態で縛られている父の姿も映っている。

 

『我々はこの塔のもう1つの最上階にいます。ルートは開放しておきますので来れるでしょうが万が一日没までに来れなかった場合、バルドイを筆頭にこの塔にいる違反者が総出で美人の奥様を寝取りますから!』

 

『その時の様子は地元のテレビクルーを拉致した際の戦利品であるテレビカメラで生中継される。私としてはそちらの方がいいのだがな。まあ、ぜひとも来てくれたまえ、必ずな。では、ここでコマーシャル』

 

ディスプレイはもう1つの最上階と思しき部屋ではなく、本来映すべきテレビ番組などを再び映し出した。

……あいつら!

 

「恵玖須君!」

 

この声は……。

 

「出月さん!?」

 

 

 

数分後。

肩で息している出月さんから、俺たちは驚くべき情報を聞かされた。

 

「砂山さんと横山さんまで!?」

 

「……あの2人が現地のテレビ局クルーを拉致した際に、ついででこっちに出張した俺たちも拉致られたんだ。それで、もう1つの最上階への道案内ってことで俺だけが解放されて……。

 

 あいつら、2人のパパさんの首筋に刃物突き付けて、無理やりママさんに自分で着替えさせた挙句それを録画しやがって……!」

 

出月さんの表情には悔しさが滲み出ている。

ただ見ることしかできなかった悔しさだろう。

 

「だったら今すぐその『もう1つの最上階』まで行かないと!」

 

 

 

 

 

それからそれから。

俺と姉さんは出月さんの案内でテナント&コンドミニアムフロアまで来た。

 

「案内しておいて今さら気が付いたけど、『もう1つの最上階』ってどういう意味なんだろうな?」

 

言われてみると確かに。

本部に連絡してみるか。

 

「第17精鋭部隊隊長より本部へ」

 

『エックス! 無事だったの?』

 

「俺は無事だが、両親が人質にされた。クワンガーとバルドイは『もう1つの最上階』とか言っていたが、それについて少し調べて欲しい」

 

『それなんだけど……。実は旭日塔建造に関わった日本(こっち)の企業数社からの依頼で第12監査部隊が極秘に内定した結果が今日になって届いたの。結果、すべての企業の、それも旭日塔建造に関わった部署にワールドスリーに内通していた人たちがいたのよ。

 

 どうやらクワンガー達が接触してきたのを幸いと思って損得抜きで協力してたみたい。連中はその「もう1つの最上階」に必要な機材や建材を横流ししていたのよ。建造自体はクワンガーとバルドイが秘密裏にやっていたそうだけど』

 

「そんな! なんでそんな馬鹿な真似を!」

 

『すぐに警察に連絡して確保してもらったんだけど、捕まった連中は異口同音に「台湾が親日なのが気に入らない」みたいなことを喚いていたわ。日本って自分の国が他の国に好かれるのをよく思っていない国民が多いのよね……』

 

「そいつら、なんでもっと早く死ななかったのかな? とにかく報告ありがとう。連絡終わり。次は吉報を持ってくる」

 

通信を終えた直後、俺は自分が一気に眉をひそめたことを自覚する。

何事かと思った姉さんと出月さんに全部話しておこう。

それから数十秒後。

 

「何だよそれ! どんな判断だ!」

 

出月さんが怒りのあまり吼えた。

姉さんも怒りが顔に出ている。

 

「沙枝! エックス!」

 

「沙枝さん! 恵玖須君!」

 

いきなり姉さんと俺を懐かしい声が呼んだ。

この声は……。

 

「エミット!? 翔子も!?」

 

「私達もウォーダス・テードに乗って台湾に来たんだけど、沙枝たちを驚かせようと思って翔子たちと口裏を合わせて内緒にしてたの」

 

「……たち? エミットと翔子以外にも来てたの?」

 

「渚に亜理亜に来須博士にコサック博士にライトット、んでもって望とミーマと灯留手、そして静流」

 

静流さんまで来ていたのか。

そう思っていたら、やいとと静流さんを連れて小花(ショーホァ)さんが慌ててやって来た。

 

「非常事態発生です! 塔内に潜んでいた違反者が一斉に活動し始めました!」

 

小花(ショーホァ)さんが何故知っているのか気になるけど、今は気にしている場合じゃない!

 

小花(ショーホァ)さんはやいとと静流さんとエミットを連れて安全と思われる場所へ避難してください!」

 

しかし、それに対してエミットが以外過ぎる答えを出した。

 

「その点は大丈夫! 小花(ショーホァ)も即席魔法使いだから! ついでに言うとやいとと静流も!」

 

「……ええ!? ……って、こっちにも来たか!」

 

エミットの衝撃的な一言に驚いている内に、こっちにも違反者が立ち塞がってきた!

虎にスライムに深海生物詰め合わせなどなど……。

よくもここまで形容しがたいのばかりが出てきたものだ。

そして、そんな連中を見る姉さんの表情も複雑になっている。

 

「あの虎さん、多分私が最初にやっつけた違反者かも。スライムさんはその次に、あのいろいろと混ざり合ったのはルールアンさんの次に、トカゲさんはキツネさんの前に、そんでもってキツネさんはバルドイさんの前に……」

 

要するに姉さんに撃退された違反者を手当たり次第にこっちに送ったわけか。

よくもまあ掻き集めたものだ。

 

「勇気来来正義招来!」

 

思わず呆れていたら、不意に小花(ショーホァ)さんが大声を出した。

そういえば、彼女も即席魔法使いだった。

服の隙間から光が漏れるのと同時に、服が光の粒となり、それを内側に吸い込むように飴色の鎧が具現化して小花(ショーホァ)さんの体を覆った!

 

「違反者どもから台湾自由民国を守る鐵甲花(ティカーホァ)!」

 

「サナ○マンですか?」

 

翔子さんが予想通りのツッコミを入れたが、小花(ショーホァ)さんは頷いただけで視線は違反者たちに向けていた。

 

「ロックマンエックス様。下の階層はあなたに恋する10名様を筆頭に決死の迎撃に打って出られております。彼女たちが下で戦っている内に早く!」

 

「……これより、敵拠点へ突撃する! この場にいる即席魔法使いは攻撃支援をお願いします!」

 

返事はない。

代わりに、姉さんたちの変身を告げる言葉が響く。

それが、返事の代わりだ。

 

「トゥインクルスターライツ・フォームアップ!」

 

「セイクリッドクリスタル・フォームアップ!」

 

「天舞装身!」

 

「コンディション・メガミックス!」

 

「変身……雷電戦花(シャンティエンチェンホァ)!」

 

姉さん、翔子さん、静流さん、やいと、小花(ショーホァ)さんの順番だ(どうやら小花(ショーホァ)さんは二段変身式らしい)。

俺も完全戦闘モードに移行しよう。

ちょっと嫌な予感がするから。

 

「コンディション・レッドと判断し、完全戦闘モードに移行。システム・オール・メガミックス!」

 

姉さんたちが全裸になる直前、俺の体を蒼い光が覆う。

その光の一部が俺の体を離れ、姉さんたちの周囲を飛び交い、いい感じに見せちゃいけないところをガードしてくれた。

一旦デフォルトの戦闘形態になった後、今度は白い光が俺の体を覆い、ライト博士から受け取ったアーマーが装着される。

 

「撃たれる覚悟がある以上、俺たちは立ちはだかる貴様らを撃つ!」

 

俺が戦闘モードに移行し終える直前に、姉さんたちも変身を終えた。

姉さんは赤を基調としたマイクロミニのワンピースを身にまとい、これまた赤い二又のピエロ帽を頭にかぶった格好に。

翔子さんは暗めの青を基調としたゴスロリチックな魔女服。

静流さんは白と黒を基調とした、姉さんと翔子さんのよりはアクション向きな衣装に身を包み耳のあたりにウサギの耳と羽飾りの折衷のようなリボンがついている。

やいとは上が白いティアードカラーと赤い半袖、下が桜色のフリル付きの二段ティアードスカートといういかにも内証で、後頭部に赤い縁取りの白いリボンがくっついていた。

そして小花(ショーホァ)さんは……なぜだろう、どことなーく母が着せられたあの衣装とよく似ているのを身にまとっている。

相違点は配色が割と違ってて、胸元を守る装甲と肩アーマーがある点ぐらい……かな?

 

小花(ショーホァ)さんのその姿、前に一度見た気が……。デジャヴ?」

 

「私もここに来る前に見たような……」

 

俺と姉さんの言葉に一気に気まずくなったらしく、小花(ショーホァ)さんが口を開く。

聞こえたのは、これまた意外過ぎる内容だった。

 

「……何年か前に台湾では日本のアニメ制作会社に大枚はたいて作画してもらった魔法少女アニメを放映していたんです。大人気だったので衣装や、大人向けのコスプレ衣装とかも結構作られました。

 

 私のこの姿はそのアニメの主人公の衣装のグレードアップ版、というイメージの産物でして……。おそらく、お母様が着せられたものは敵がどこかから入手したコスプレ用だと思われます」

 

そういうことか。

さて、臨戦態勢になったんだからまだこっちに気付いていない違反者を片付けよう。

そう思った矢先、ゼロからの通信が入った。

 

『エックス! そっちはどうだ?』

 

「公共機関用テナントとコンドミニアムのフロアに着いたばかりだよ。まだ気づかれていないけど、違反者が大挙して立ち塞がっている」

 

『ということはまだ無事ってことだな』

 

どうやら俺が心配で通信を入れてきたらしい。

 

『それと、ちょっと面白いことが分かった。違反者はこの世界では致命傷を追ったら強制的にエーテルランドに帰還させられるはずなんだが、なぜか今戦っている連中は「死体」がそのまま残っていやがる』

 

「……それって、どういうこと?」

 

『最後まで聞け。その代りなのか、連中はいつもよりしぶとかったぞ。……これはレイヤーの推測だが、塔内全域にエーテルランド出身者の耐久力を上げる結界がかけられていて、副作用として致命傷を受けたらそのまま死に直結するのかもしれん』

 

「……つまり、塔内では違反者であろうと死は免れないってこと?」

 

『そう言うことだ。チッ! また新手か! 必ずクワンガーとバルドイを地獄に落とせよ! 通信終わり!』

 

それからそれから。

俺はゼロから聞かされたことを姉さんたちに報告した。

 

「……というわけだから、姉さんたちは援護に徹してくれ。トドメは俺がさす」

 

「お気遣いは嬉しいのですが、私としてはそのご厚意に甘んじる気はありません。こっちは乙の昔に殺し合いに足を突っ込む覚悟はできています」

 

「私も。……すごく怖いけど、放っておいたらまたこっちにやってきて誰かを襲うのが目に見えているから!」

 

しかし、翔子さんと静流さんはそれをはねのけた。

完全に腹を括っているらしい。

静流さんは少し震えているけど。

 

「ロックマンエックス様。私は魔法使いになってからはや数年、エーテルランド以外の異世界から来た敵を何度か殺めたことがあります。今さら気遣いに甘える気はありません」

 

「あんた一人の手を汚させる気は無いわ。流石に静流さんと一緒で怖いけど、このやいとちゃんは惚れた男と一緒に血みどろになる覚悟ぐらいできてるのよ!」

 

小花(ショーホァ)さん……。やいと……。

問題は姉さんだ。

姉さんはやっていいかダメか以前に性格的に優し過ぎるから……。

 

「恵玖須。お姉ちゃんも、みんなと同じだからね」

 

「姉さん……」

 

「大丈夫。バルドイさんとクワンガーさんが絶対にやっちゃいけないことをしたから、覚悟はできたつもり。お姉ちゃんも一緒だから。一緒に突き進めば辛くはないから」

 

……姉さん。

ありがとう。

 

「総員、突撃! 今回は殲滅戦だ! 各自、敵は確実に仕留めてくれ!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

さて、意見が一つなったところで左手をチャージ!

連中の眼前に姿を見せると同時に……。

 

「スパイラルバスター!!」

 

違反者の内の1人を容赦なく物言わぬ死体に変えた!

それに合わせるように姉さんたちも一斉に攻撃しだす。

 

「あー、あー、レポーターが人質に取られてるので不詳カメラマンの出月一史がレポーター代行も兼任します! テレビをご覧の皆様、ここは戦場です! 80年代のハリウッド製アクション映画顔負けです!

 

 恵玖須君以外は魔法で戦っています。なのに魔法の力で銃火器出してそれをバンバン撃ってるから可愛いコスチュームがすげえ台無しです! すぐ横で眺めてる妖精のエミットさん。どう思われますか?」

 

「まあ、シュールであるのは確かね」

 

何かエミットが呑気なコメントをしているけど放置。

今はそれどころじゃない!

 

「エーテルランドが呼ぶ、妖精たちが呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと私を呼ぶ! 効け、悪の違反者ども! 私は自由と正義の戦士! 雷電戦花(シャンティエンチェンホァ)!!」

 

「……決め台詞がイナ○マンと仮○ライ○ーストロン○ーじゃん」

 

ドサクサに紛れるように小花(ショーホァ)さんが決め台詞を叫ぶ。

……俺もエミットのツッコミと似たようなことを思ったよ。

気を取り直すか。

イーグリード、力を貸してくれ!

 

「ストームトルネードォ!」

 

左右両方のバスターから繰り出された横殴りの突風が、トカゲ型の違反者を壁に叩き付ける。

既に静流さんに体の各所を切り刻まれてダメージが蓄積していたので、ストームトルネードがトドメになったらしく動かなくなった

次はこれだ!

 

「ファイヤーウェーブ!」

 

ダッシュで接近して、そのままスライムを焼き払う!

火の勢いと温度に物を言わせてスライムを一気に焼き払い、焦げたゲル状の物質に変える。

 

 

 

それからそれから。

数分後、一応敵は全滅。

俺たちは出月さんの案内でエレベータに乗り、ある階層に来た。

 

「メンテナンス用のハッチが開いてるだろ? 塔の外からは見えないように不可視魔法と光学迷彩がかけられてるけど、あそこから延びる通路を通ればもう1つの最上階に行ける。その通路を通らないともう1つの最上階も見えない仕組みになってるんだ」

 

出月さんの説明に納得する。

なるほど、うっかり迷い込まれないようにここまでしていたのか。

 

「ですが、ここまでしてなぜ気づかれなかったのでしょうか?」

 

「バルドイって奴が、塔のスタッフにも協力者がいるって口を滑らしてくれたよ」

 

翔子さんの疑問にも速攻で答えてくれた。

それなら辻褄は合うな。

小花(ショーホァ)さんは表情に怒りが思いっきり出ている。

 

「殺す。裏切り者は殺す。法律に触れないように巧妙な手口で絶対殺す」

 

言葉にも表れている。

静流さんが引いている。

 

小花(ショーホァ)さん、すごく怒ってる」

 

「そりゃ怒るのも無理ないわよ。……また団体だよ! さっきよりは数は少ないけど!」

 

エミットが違反者を感知したらしい。

それを裏付けるように新たな違反者たちが押し寄せてきた。

 

「クラッシュバスター!!」

 

違反者の内の1体を、ゼロのチャージショットが吹き飛ばした!

 

「ゼロ!」

 

「ショッピングモールフロアの連中はアクエアル達に任せた! こいつらは俺が何とかする!」

 

俺の返事を待たずにゼロは違反者たち目がけてエネルギー弾を撃ちまくった。

そんなゼロに引っ張られたかのように翔子さんと静流さん、小花(ショーホァ)さん魔力で作った銃を違反者たちに向け、魔力弾をばらまきだした!

 

「私達は是魯君を援護します!」

 

「沙枝ちゃんとやいとちゃんは恵玖須君について行ってあげて!」

 

「ロックマンエックス様、御武運を祈らせてもらいます!」

 

……助かります。

 

「姉さん。やいと。ここはゼロたちに任せて先に進もう」

 

「うん!」

 

「このやいとちゃんも異議なしよ!」

 

 

 

 

 

数十分後。

メカニロイドを撃ち落としながら空中回廊を突き進み、もう一つの最上階にたどり着く。

ラグビーボールを角ばらせたような形をしているな。

このまま内部に突入しよう。

 

 

 

「……この扉の奥だ。クワンガーとバルドイがいるのは」

 

ワールドスリーのマークが記されたシャッター型ドアを指さして出月さんが告げる。

確かに良く無い気配が2つ、扉越しに漂っている。

エミットも似たような反応を示した。

 

「……間違いない。確かにバルドイの魔力を感じるよ」

 

俺たちが近づくと同時に、ドアが勝手に開く。

さっさと来いと言わんばかりだな。

来てやろうじゃないか!

俺たちはもう1つの最上階の中枢部に入り込んだ。

そこにいたのは、地元のテレビ局のクルーに、砂山さんと横山さん。

そして……。

 

「パパ! ママ!」

 

「お義父さん! お義母さん!」

 

姉さんとやいとが両親のもとへ駆け寄ろうとするが、嫌な予感がした俺は慌てて2人の手を掴んで引きとめた。

その直後、予感は姿を見せた!

 

「それでこそエックスです。あなたが引き止めなければそのお2人は生まれたままの姿を晒すところだったでしょう。それと、そこのカメラマンさん。レポーター代行とナビゲート、お疲れ様でした」

 

残像を連れてブーメル・クワンガーが現れた!

その隣に、ボディビルダーのようなポーズをした、上半身タキシードで下半身が競泳水着の筋肉質の大男が現れる。

奴がバルドイだ!

 

「楠沙枝に加えて綾小路やいとも来たか。今日は大漁だな」

 

「このやいとちゃんは恵玖須だけのモノだから! それに、魔法でどうこうしようとしても無駄だからね! アクエアルの用意してくれた予防薬を事前に飲んでるんだから!

 

 ……味は最低最悪だったけど。ついでに言うとお義母さんも飲んでるから、お義母さんに魔の手を伸ばしても無意味よ」

 

バルドイの下品極まる舌なめずり交じりの言葉に、やいとは吼えて反論。

言い方が少し引っかかるけど、あんな変態違反者のなすがままにはなりたくないと思うのも当然だ。

しかし、バルドイは悪意ある目つきで言葉を続けた。

 

「なるほど。それのせいで楠沙枝とロックマンエックスの母親は正気を保っていられるのか」

 

「ママに何をしたんですか!?」

 

「飲んでもらっただけだよ。婦人病予防という副作用がある催淫漢方ジュースをな。飲めば不感症など即根治する強力な代物なのだが、水の精霊が作った薬のせいで力を発揮しきれなかったようだな」

 

姉さん悲痛な言葉に、あらんかぎりの悪意を込めて答えてきたか。

こいつ、よくも母さんにそんな物を!

そしてこんな奴に協力するなんて……。

 

「クワンガー! ビートブートがどれだけ嘆いたと思っているんだ!」

 

「ビートブートには申し訳ないことをしたと思います。ですが、ビートブートが人間の悪意で迷惑を被らない時代を得るには、スティグマさんについていくことが最善だったのですよ」

 

だからといって!

その選択は間違っている!

 

「その割にはあんまり悲壮な感じがしないわね。もしかして、あの野獣メガネに従った方が楽しいから、ってのもあるんじゃないの?」

 

「当たりですよ、お嬢様。レプリロイドを差別する人間を自由に裁ける、これは想像するだけでもとても楽しいことです。それに、あなたたちのような強い敵とも戦える。ましてやこんなに楽しい戦い、滅多にあるものではない!」

 

やいとのツッコミに対してもクワンガーは冷静に答えている。

やはり、ビートブート以外の動機もあったか!

 

「それが本音か!」

 

「建前口上にしていると断定する言い方は自重しなさい! それはそうと、戦いの度にあなたのデータを更新していますが……。恐ろしいほどに速く成長している。元から非常に高かった戦闘力が更に跳ね上がっています。これがあなたの可能性の成せる業、ですか!」

 

「馬鹿な! それが俺の可能性だとでもいうのか!? そんな可能性に何の意味がある?」

 

「その通り! そしてそれがあなたの可能性であること自体に意味がある!」

 

クワンガーは自信たっぷりに言い切った。

そんな可能性に何の価値が……!

俺が何かを言うよりも早く、今度は姉さんが怒りを込めて吼えた。

 

「私の弟をただの兵器みたいに言わないでください!」 

 

「いいえ! あなたの弟は、エックスは紛れもなく超兵器ですよ! 核と比べ物にならないほど安全に効率よく、膨大な数の敵を殲滅できる! そして戦いの中で成長していく。まさに兵器! 生ける最終兵器です!

 

 それこそがエックスの無限の可能性と無限の危険性の証明となる! 沙枝さん。あなたとご両親知っているはずです。機密保持の名目で非公開となっているレプリロイド誕生のきっかけを」

 

「!?」

 

クワンガーの思いもよらない指摘に姉さんも、縛られている父も、魔法少女のコスプレ衣装に着替えさせられて顔を真っ赤にしながらへたり込んでいる母も顔が引きつる。

 

「その反応を見る限り、。図星のようですね。私も知っているのですよ。スティグマさんから教えてもらいましたからね。1950年代初頭、国会議事堂地下で奇妙な物体が発見され、調査隊が結成されました。

 

 調査隊の中には、身内のつてで参加した若き日のDr.ケイリーもいたのです。彼女は物体の中身を解析して得た極僅かなデータを頼りに、スティグマさんを、レプリロイドの存在そのものを生み出しました。

 

 物体はそのまま国会議事堂地下に死蔵されましたが、今から12年前に何者かに盗まれ、11年前にDr.ケイリーが発見しました。ですが、彼女は死蔵し直すことを良しとせず、物体をあるご夫婦に託したのです。

 

 そして10年前! 物体の中に安置されていた中身は目を覚まし、件のご夫婦は彼を養子として迎え入れた。……その養子とはエックスのことですよ! 我々レプリロイドはエックスを基に創られたのです!

 

 エックスはレプリロイドであってレプリロイドに非ず。極めて近く限りなく遠い存在! レプリロイドという人種のアダムにしてイヴなのですよ! 私は確かめたい! そんなエックスの可能性と危険性を!」

 

結局、自分のエゴが優先か!

クワンガー!

 

「ブーメル・クワンガー! 貴様には、弟の幸せのために尽力する資格はない!!」

 

「……その言葉、ビートブートへの侮辱も兼ねていると解釈してあげましょう!」

 

俺の言葉に怒りを覚えたようだ。

だが、俺の方はここに到着する前から怒りは頂点に達したままだぞ!

そして俺の怒りを更に煽るようにバルドイが粘着質な言葉を投げかけて来る。

 

「ロックマンエックス。貴様は多くの乙女たちに愛されている。だが、果たしてお主は乙女たちを愛せるかな? 血の繋がらぬ姉を愛せるかな? 乙女たちの内の7人と、楠沙枝は自分以外の者たちに純潔を散らされた傷物だと知ってもか?」

 

「……知っていたさ。それがどうした? だからと言って貴様にくれてやる気は毛頭ない! 杜論もルナもマーティもやいとも! 華鈴さんもシャーロッテさんも麻希奈さんも桜樺も理瀬さんもシルキスさんもアクエアルも! そして姉さんも! 絶対に渡さない!

 

 俺は全員愛している!! 12人全員、俺のモノだ!!!」

 

分かっているさ。

全員を傷つける言葉だということぐらい。

だけど、あいつらのような悪党に渡すぐらいなら、俺は全員を愛する!!

 

「何度でも言う!! 杜論もルナもマーティもやいとも! 華鈴さんもシャーロッテさんも麻希奈さんも桜樺も理瀬さんもシルキスさんもアクエアルも! そして姉さんも! みんな俺のモノだ!!!」

 

断言したぞ!

どうだ! まいったか!!

 

「カメラマン兼レポーター代理の出月です。とりあえず、レポーターを発見・接近に成功したのでマイクを返却します。はい、横っち」

 

「テレビをご覧の皆様、お手数をかけました。……恵玖須君は死ぬ気なのでしょうか? 堂々の12股宣言をぶちかましました! これに対しては一言しか言えません。おバカーーーーーーー!!」

 

外野がうるさいけど、無視!

開戦の狼煙は既に上がっているから!

 

「チャージショット!」

 

「遅いですよ!」

 

くっ! 避けられたか!

クワンガーの速さは相変わらずだ。

 

「私もいるぞ!」

 

今度はバルドイの力任せの攻撃か。

ギリギリで避けたけど、マントヒッター並みのパワーだ!

姉さんとやいとも魔力で作った銃でクワンガー目がけて魔力弾をばらまくけど、巧妙にかいくぐられている。

 

「速い……!」

 

「こーなったらそこの変態男爵にターゲットチェンジ!」

 

やいとが言葉通りに実行しようとしたら……。

何とクワンガーがブーメランも兼ねている自分の角をやいと目がけて投げてきた!

ギリギリで避けたからよかったけど……。

 

「危ないわね!」

 

「パートナーの弱点をカバーしただけです。それと、バルドイの異名は『逢魔が時の紳色魔』ですよ? それではもう一度!」

 

またハイスピードで動き出した。

狭い室内でここまで俊敏に動くとは。

 

「パワーハウスを忘れてはならぬぞ!」

 

バルドイが俺目がけてパンチを仕掛けてきた。

だがその程度じゃ俺の頭突きが勝つ!

 

「せーのっ!」

 

ヘッドブレークをバルドイの拳に炸裂!

結構なダメージを受けたようだが、拳自体は魔力で自動回復しているようだ。

 

「頭突きで競り勝つとは!」

 

「ライト博士の技術力を舐めるな! 後、服装と同じで下半身ががら空きだぞ!」

 

バルドイの右足を掴み、振り回す!

ある程度回転した後に人質がいない方向に投擲!

 

「おお!? だが私はタダでは投げ飛ばされぬぞ! クワンガー!」

 

「!?」

 

投げ飛ばした隙を突かれ、クワンガーの角に掴まれてしまう!

そしてクワンガーは俺を天井へ垂直に投げ飛ばした!

 

「デッドリードライバー!!」

 

「うわっ!?」

 

天井に激突し、そのまま落下する途中で体勢を立て直したバルドイのシュートで父と母のいる方向へ蹴飛ばされてしまった!

 

「ワールドカップでも通用するオーバーヘッドシュート!」

 

「あうぅっ!」

 

今度は壁に激突したけど、何とか立ち上がる。

向こうは更なる攻勢に出ようとしたが、姉さんとやいとが十字砲火で妨げた。

 

「恵玖須に何するんですか!」

 

「死ね! 何はともあれ死ね! このやいとちゃんの手にかかって2匹とも無様に死ね!」

 

凄まじい激しさだ。

熾烈としか言いようがない。

この隙を突いて父さんを縛っている縄を引き散っておく

 

「恵玖須…!」

 

「父さん。母さんを連れてカメラを持ってるあの人のところに!」

 

「ああ。お前はどうするんだ?」

 

「姉さんとやいとと一緒に、クワンガーとバルドイを倒す!」

 

武器チェンジ。

これの追尾性能なら、クワンガーに対処できるかもしれない。

戦闘に戻ろうとした直前、こんどは母さんが俺を呼んだ。

 

「恵玖須ちゃん……」

 

「……大丈夫。必ず勝つから」

 

 

 

一方、沙枝とやいとは思念で現出させたAA(アッチソンアサルト)12が魔力の散弾を更にばら撒く。

しかし、クワンガーはそれすらも巧妙に避け、バルドイは魔法障壁でガード。

バルドイの方は圧されているが、結界の影響で耐久力が上昇しているのでそこまで不利には見えない。

 

「やはりここまで激しいと動きようがないな。クワンガー!」

 

「お任せあれ!」

 

バルドイは魔力障壁を張りつつ、クワンガーに合図。

クワンガーはそれに対応して、角を頭から外してから手に持ち、残像を残しながら沙枝とやいとに急接近。

 

「ここです! さあ、あなたたちのプロポーションを確かめさせてもらいます! ストリップ・スタート!」

 

クワンガーは速さに物を言わせて沙枝のコスチュームの、肩のフリルを一気に切り刻む。

沙枝とやいとが驚いている隙を突いて、更にやいとのコスチュームの袖を切り裂いた。

 

「きゃぁっ!」

 

「やぁんっ!」

 

「胸元を晒しますか? それとも意表をついてパンツを失敬して、少しずつスカートの裾を短くしてあげましょうか? 避けさせませんよ!」

 

2人が避けようとしたのを瞬時に察して、クワンガーは頭の角を投擲。

つのはブーメランらしい軌道を描きつつ沙枝のピエロ帽とやいとのリボンを切り裂いた。

 

「ここは羞恥プレイらしくコスチューム全体が細切れになってもらいましょう!」

 

「ふざけんじゃないわよ、このイレギュラー!」

 

やいとが銃を向けようとするも、バルドイが掌から放った魔力弾で銃を破壊されてしまう。

 

「へうっ!?」

 

「それなら! ……って、ええ!?」

 

沙枝が代わりに銃を向けようとするも、こちらはクワンガーが投擲した角に切り裂かれてしまう。

それを見逃すバルドイではなく、魔力で沙枝とやいとの足元に魔力のフックを複数現出させて足を拘束。

クワンガーは沙枝とやいとのコスチュームを、角を時には手に持ち時には投擲して少しずつ切り、そこからバルドイが引きちぎっていった。

 

「やー! 嫌ぁーっ!」

 

「やいとちゃん! あぅっ!」

 

羞恥で泣き出してしまったやいとを心配する沙枝だが、彼女の方も左袖をはぎ取られてしまう。

沙枝とやいとをいたぶるように、クワンガーがバルドイは更に続けた。

 

「まだまだですよ! この程度じゃエックスの怒りは測れない!」

 

「もっと悶えろ! 極上の思念を私に味わせるのだ!」

 

既に沙枝もやいともコスチュームは胸元とパンツしか残っていない。

沙枝も羞恥で泣き出しており、やいとはエックスの名を叫んだ。

 

「やめてください!  きゃぁああっ!」

 

「恵玖須! 恵玖須―!!」

 

そしてクワンガーは、敢えて残したパンツと胸元に狙いを定めた

 

「さあ、ストリップの醍醐味ですよ!」

 

直後、クワンガーは敵意を察知して避けるも、飛んできた弾は軌道を変えてクワンガーを追尾。

直撃を食らったクワンガーは膝を突いた。

 

 

 

父さんを助けている間に好き放題して!

俺はホーミングトーピードでクワンガーを黙らせた。

念のためにもう1発!

 

「ホーミングトーピード!」

 

「ぐはっ!?」

 

クワンガーがついにダウン。

今度はバルドイだ!

 

「スパイラルバスター!!」

 

「うがぁっ!」

 

顔面に直撃して、バルドイは膝を突いた。

その隙を突いて姉さんとやいとは足に力を込めてフックを引きちぎる。

そしてクワンガーをストンピングしだしたから、まずはバルドイの方だ!

 

「姉さん! やいと! 鈍器を出してくれ!」

 

「え? ……うん!」

 

「あの魔男をブチのめしてちょうだい!」

 

唐突なせいか俺の言いたいことを理解するまでに少し間があった。

でも姉さんが大きめのスパナと、やいとが片手で持てるギリギリの小ささの岩を現出してくれた。

これならノープロブレム!

フルスイング!

 

「オラッ!」

 

「ガフッ!?」

 

スパナの一撃をアゴに食らってバルドイはやっとダウン。

あおむけに倒れたからそのまま馬乗りになって……!

 

「オラオラオラオラオラッ!」

 

スパナと岩で顔面を滅多打ち!

容赦してたまるか!

こっちは怒りが既に爆発しているんだ!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ、アッハッハァ~ッ!」

 

多分、この時の俺は笑っていたと思う。

ひとしきりグチャグチャに殴ってバルドイを満身創痍にした。

だけどこれで終わりはしない!

チャージしてから……。

 

「ショットガンアイス!」

 

氷のソリが出てきたのでそれを掴む!

持ち上げる!

狙いは定めた!

 

「食らえ、このエーテルランドの面汚しがぁぁぁぁぁ!!」

 

うずくまるバルドイ目がけて投擲!

バルドイの背中に見事に直撃した。

さあ! 次はクワンガーだ!

 

「バ、バルドイをそこまで叩きのめす、とは……! 凄まじい強さで……すぬぁっ!?」

 

「害虫さんは黙っててください!」

 

「くたばれ! このエロ害虫!」

 

姉さんとやいとが更に激しく蹴りまわす。

そんなやいとを言葉を使わずに静止し、バルドイを指さすことで矛先を奴に向けさせる。

姉さんとやいとは釘バットを現出させてバルドイを滅多打ちにしだす。

俺は狙いをクワンガーに定める。

 

「……! その顔は…! 随分久しぶりですね!」

 

「ショットガンアイス! エレクトリックスパーク! カメレオンスティングー!」

 

「ぐほぉー!」

 

特殊攻撃の波状攻撃だ!

クワンガーが盛大に悲鳴を上げる中、俺は更に攻勢を強める。

 

「ショットガンアイス! エレクトリックスパーク! カメレオンスティング! ローリングシールド! ファイヤーウェーブ! ストームトルネェェェェェェェェーッド!」

 

「ほげぁー!」

 

まだまだ!

第三波!

 

「ショットガンアイス! エレクトリックスパーク! カメレオンスティング! ローリングシールド! ファイヤーウェーブ! ストームトルネード! ホーミングトーピードォォォォォォォォォッ!」

 

「ぬわぁぁぁぁぁっ!」

 

波状攻撃でやっと大人しくなったらしく、クワンガーはズタボロの状態で倒れたまま、ピクリとも動かない。

バルドイの方は……あれだけ殴ったのに起き上がってきた!

追い打ちをかけようと思った直後に後ろからさっきを感じたので慌てて回避したら、横をクワンガーの角が掠めた。

 

「クワガタムシは死んだふりができるのですよ!」

 

自信満々にそう言った直後、残像を残して眼にも止まらない速さで姉さんとやいとの釘バットを斬り捨てる。

バルドイを抱え上げ、そしてまた高速移動して距離を取った。

 

「不思議とは思いませんか? 何故できたての観光地に我々が基地を構えていたのか? 何をしていたのか? これが答えですよ」

 

クワンガーが叫ぶと、グロッキーから回復したバルドイが指を鳴らす。

直後、室内に設置されたディスプレイが世界地図を映し出す。

 

「この塔には非常に優れたエネルギー運用システムが採用されています。強力な自家発電システムを持ち、半永久的に電気を貯蔵できるものの一度に開放することが難しい電子コロイドを一気に電力へと戻す機能もあり、エネルギー無線伝達システムまで備えてある。

 

 万が一台湾国内で大規模な停電が起きた時に備えての設備です。何故観光スポットにそんなものがあるか? 簡単です。この塔が軌道エレベータのプロトタイプだからです。軌道エレベータはサイズ上、人的被害が最小限で済むところへの建造を余儀なくされます。

 

 なので、必要な電力もひたすら長いケーブルで発電所から取って来るより、自前の発電機を持っていた方がコストパフォーマンスも優れて合理的。だからスティグマさんはそれを嗅ぎ付け、兵器として利用しようと考えたのですよ。

 

 膨大な電力で破壊光線を生み出し、クラッキングして乗っ取ったキラー衛星に無線伝達システムで送信し、地球上の標的を攻撃。そのためにこの塔に基地を構えたのですよ! ちなみに電子コロイドはチャット・ブラン発電所で作られたものです。

 

 パリを真っ先に攻撃することを条件に発電所の元職員たちは喜んで協力してくれましたよ。

 

 何故膨大な電力を作れるのに外からエネルギーを持ってきたか? 電力消費で怪しまれないためです。レーザーの連続発射で塔が停電したらそれこそ不毛ですからね。要するに用心のためですよ。スティグマさんは自家発電システム以外の機能目当てでしたからね。

 

 ちなみに電子コロイドは既に全部使用済み。この『もう1つの最上階』全域を膨大な量のエネルギーが駆け巡り、発射の時を静かに待っています。

 

 それと、エネルギーは私の電子頭脳とバルドイの魔力で制御しているので、我々が落命すればエネルギーが暴走し、ここは吹っ飛んでしまいますよ」

 

クワンガーは相変わらず冷静に説明してくる。

それに続くように今度はバルドイが説明してきた。

 

「ロックマンエックスよ。私とクワンガーが、お主に惚れている乙女たちの中に何故楠沙枝以外にも純潔を奪われた者がいることを知っていたか、気にはならなかったか?

 

 山上桜樺の場合はアルマージが気づかぬ内に言及してしまったが、それでも純潔を奪われたと気付いた者は少数であろう。我々が何故それを知っているか? スティグマが探し当てたからだよ。

 

 当事者たちの協力を得ているからスティグマは容易く情報を集め、我々も容易く知ることができた。ああ、そういえば、マスコミにもそれとなく流したな。アラビア各国といい、日本といい、性犯罪の被害を受けた女性に対しては排他的な者が多いからな。

 

 戯れに報道被害も味あわせてあげようと思ってリークしたのだった」

 

……それであの新聞記者は姉さんたちが非処女であることを知っていたのか!

あの悪徳記者は必ず潰す!

決意を新たにしたところで、姉さんが話しかけてきた。

 

「恵玖須。認証コードをお願い!」

 

「姉さんにも聞こえたんだね」

 

「うん!」

 

「それなら要請コードを頼む!」

 

俺がそう叫んだ直後、姉さんは大きな声で要請コードを叫んでくれた。

 

「いくわよ! 恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

よし! 音声ガイダンスが聞こえた!

 

「システム・コンファーム!!」

 

クワンガーのせいでボロボロになっていた姉さんの衣装が、元通りになる。

その直後に、蒼い追加装甲が光を放ちなが装着され、最後にバイザーがピエロ帽を固定するかのように姉さんの頭部に装着された。

そのついでのように、やいとの衣装も元通りになっている。

 

「この瞬間がやってまいりました! 後は目の前の悪党の死亡シーンをこの目に焼き付けるだけとなりました!!」

 

横山さんの熱のこもったリポートを合図にしたかのように、ロケットランチャーを現出。

よく見ると、レジデント・エヴィル2のロケットランチャーと全く同じデザインだ。

 

「バルドイさん! お命覚悟!!」

 

大きめの魔力弾が発射された。

バルドイは慌てて魔力障壁を展開したが、思いっきり強化された魔力弾の前に砕け散ったらしく、バルドイ自体も大きなダメージを受けた。

現に、タキシードと競泳水着は完全に焼け落ちて嬉しく無いことこの上ない姿となり、体の各所にできた火傷も治る気配が見られない。

 

「クワンガー! バルドイ! 今日が貴様らの命日だ!」

 

「本気ですか……? 我々の死出の旅の道連れはあなた1人では済まないのですよ? 二次被害もどれほどの物にになるか……」

 

「父さんと母さん、出月さんたちはやいとと姉さんが魔法障壁で何とかしてくれる。それに、俺はここで死ぬつもりはない」

 

俺がそう言い切った直後、エミットが追い打ちとばかりに畳み掛けてくれた。

 

「後、ここが吹っ飛んだ際の瓦礫とかの心配もいらないから。翔子から通信魔法があって、あのメンテ用のハッチからここまで、静流と小花(ショーホァ)と一緒に、ボール状の障壁を張ったから二次被害の心配もないそうよ」

 

これにはバルドイも絶句するしかなったようだ。

完全に固まっている。

一方、クワンガーの反応は少し違っていた。

それに引っ張られるかのようにバルドイも続く。

 

「…………直接確かめようと行動した甲斐があったものです。ですが、そう簡単にはやられませんよ!」

 

「勝つのは我々だ! 最後まで諦めぬ!」

 

往生際の悪い!

大人しく散れ!

 

「やいと! 父さんたちを魔力障壁で守ってくれ!」

 

「このやいとちゃんにお任せ!」

 

俺が頼むと同時に、やいとは父と母と出月さんたち、そしてエミットと自らをラグビーボールみたいな形の魔力障壁の内側に内包。

これで憂いは無い。

後は引導を渡すだけだ!

 

「恵玖須! 最後はお姉ちゃんと一緒に!」

 

「そうだね。姉さんと一緒に!」

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

止めを刺す瞬間がやって来た!

俺たち姉弟が止めを刺す瞬間が!

 

「あなたが目覚めた時が始まりだった」

 

「そうと知らず互いを好きになった」

 

「私にはあなたが、あなたには私!」

 

「だから俺たちはお互い、寄り添えた!」

 

「「『愛・おぼえていますか』!!!」」

 

蒼く光る魔力弾が俺たちの周囲で大量に具現化。

姉さんは筒状の大きい機関銃を現出させて両手に持って構えた。

俺も両手のバスターを構える。

姉さんの機関銃と、俺のバスターが一斉に火を吹くと同時に魔力弾も角ばった軌道を描きながら突貫!

クワンガーとバルドイに容赦なく致命傷を与えた!

 

「こ……この力は……! そう、可能性と危険性! エックスの可能性と危険性です! 素晴らしい……! けれど、私がここで死んだらビートブートが……。ビートブートォォォォォォッ!!」

 

「認めぬ! 認めぬぞ! 私は私が欲する思念を僅かしか味わえていないのだ! なのに私が死ぬなど……! もっと思念を! 思念を味あわせろ! 女たちの『羞恥』の思念をー!!」

 

対照的な断末魔を残し、クワンガーとバルドイは爆破四散。

直後……。

 

 

 

 

 

クワンガーとバルドイの死によって姿を隠しきれなくなった『もう1つの最上階』は、その姿を完全に現した直後に、大爆発。

しかし、翔子たちが事前に貼ってあった魔力障壁のおかげで瓦礫による二次災害は起きなかったが。

完全に爆発が収まった後、翔子たちは魔力で瓦礫をゆっくりと地面に下した。

魔力障壁の影響で煙自体はまだ漂っていた。

しかし、それもすぐに晴れていき……、そして太陽がヒーローの姿を照らす。

 

 

 

「……あはは。助かりました。魔法様様……です」

 

横山さんは完全に脱力している。

地元テレビ局のクルーも同じ状態。

まあ、無理もないけど。

 

「出月ちゃん。俺、今まで恵玖須に何度も心の中で感謝してたけどよ、ここまで感謝したのは南極の時以来だよ」

 

「俺もです」

 

砂山さんと出月さんはしみじみとしている。

やいとは……顔を赤くして俺に抱き着いていた。

……あの無茶な愛の告白はやはりまずかったようだ。

姉さんは、父さんと母さんに寄り添っている。

何はとあれ、この件は一件落着か……。

 

 

 

数分後。

俺たちはようやく地上に戻った。

母さんは念のため近くの病院に搬送され(母さんの本来の服はエミットが回収してくれていた)、父さんはそれに付き添った。

大歓声を浴びながら、俺は姉さんとやいと一緒にいた。

歓声に混じって、あの新聞記者の悲鳴が聞こえたような気がする。

首を傾げると、ゼロと小花(ショーホァ)さんが話しかけてきた。

 

「頑張ったな」

 

「お疲れ様でした。あ、さっきのブラックジャーナリストが何か文句を言うために近づこうとしていたのですが、スタッフに命じて無力化させておきましたので」

 

さっきの悲鳴は幻聴じゃなかったのか。

そういえば、翔子さんと静流さんはどこだろう?

 

小花(ショーホァ)さん、翔子さんと静流さんは?」

 

「お二人なら、あなたの恋人の皆様をこちらにお連れしていますよ」

 

……そういえば、勢いとはいえ腹を括って告白したんだった。

やれやれ、我ながら思い切ったことをしちゃったな。

 

「長生きできるかな?」

 

「少なくとも大丈夫だろう。昨日、お前が風呂から上がった後、沙枝たち12人は何を考えたのか『淑女協定』を結んでな」

 

「なにそれ?」

 

「お前が誰か1人を選んだら残りの11人は潔く諦めるが、万が一お前が12人全員を選んだら、12人全員でお前を共有しよう、って約束だ。信じられないならレイヤーにも聞いてみろ。俺と一緒に湯船に浸かりながら沙枝たちの会話を聞いていたからな」

 

凄い結論にたどり着いたんだな……。

でも、おかげでちょっと楽になった気がする。

そう思っていたら、翔子さんと静流さんが、俺の恋人たちをこっちに連れてくるのが見えた。

そして、俺の両隣にも……。

 

「手を握っていい?」

 

「もうちょっと大胆になってもいいのに」

 

やいとはまんざらでもなさそうな態度でそう言った。

手を握ったら露骨に嬉しさが顔に出た当たり、照れ隠しなんだろう。

それじゃ、姉さんの腰に手をまわして、抱き寄せておこう。

 

「恵玖須!? ちょっと……人が大勢いるのに」

 

姉さんは嬉しにしつつも、あっという間に顔が真っ赤になった。

 

「見せつけてるんだよ。だって、姉さんは俺の恋人で、同時に俺と姉さんは初恋同士なんだもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ブーメランカッター』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

ワールドスリーの本拠地がようやく明らかになった。

決戦が始まり、俺たちは総攻撃に挑む。

でも、俺はその時はまだ知らなかった。

友の形見が、更なる力をもたらすことを……。

次回! 「閃光、命を懸けた果てに」。

そして、ゼロは「ロックマンゼロ」になる………………。

 

 

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



時空の斬鉄鬼 ブーメル・クワンガー

クワガタムシ型(より正確なモチーフはギラファノコギリクワガタ)のレプリロイド。
第17精鋭部隊の元隊員であり、残忍な気分屋である一方、物事を冷静に分析できる頭脳派でもある。
異名に違わぬ容赦のない戦い方と眼にも止まらぬ超高速移動が特徴。
育った地域は日本では例外的にレプリロイドへの差別感情が強い人間が多く、地元警察とイレギュラーハンターが衝突することも珍しくなかった。
そのためレプリロイド差別(及びそれ以外の人種差別)に対しては過敏で、大変攻撃的な面を見せる。
イレギュラーハンターになった動機は「真っ当な人間とレプリロイドを守るため」であり、「人間もレプリロイドも、精神に異常がある犯罪者になれば等しくイレギュラー」という思想も持っていた。
郷土愛も無く、ある事件において件の地域でイレギュラーと戦闘となっても、被害の甚大化回避を優先して同地域でイレギュラーを意図的に刺激し、多数の死傷者が出る大惨事を起こしている。
この一件は地元の一部住民と警察の妨害があったことから穏便な解決が不可能となったが故の止むを得ない判断と見做されお咎めなしとなり、結果的にではあるが差別する者たちが激減したことによりレプリロイド差別が解決するきっかけともなった。
その前後で歳の離れた弟、ビートブートが起動している。
ビートブートに対しては優しい兄であり、ビートブートも彼を素直に慕う出来のいい弟である。
ヘイトクライムに対する厳罰には極めて肯定的であり、それ故にヘイトクライムへの厳罰を良しとしない日本の司法とそれにかかわる人間への不信が、世界中の司法と人間の司法関係者にまで対象が拡大。
どうしたものかと考えていたところにスティグマにワールドスリーへの参加を持ちかけられて冷静な思考を巡らした末に、レプリロイドを差別する人間たちを裁ける楽しみがあり、何よりビートブートがレプリロイド差別を受けることのない時代が来ると判断。
自分を慕うビートブートへの裏切りだと分かっていながらも己の判断が正しいと強く信じてワールドスリーに参加した、正しい意味での確信犯。
スティグマからエックスの出生を聞かされており、同時にエックスの無限の可能性と無限の危険性にも気付いていた。
エックスの完全に開花した無限の可能性と無限の危険性をこの目で確かめるため、楠夫妻を人質に取るという卑劣かつ大胆な方法に打って出るが……。



逢魔が時の紳色魔 バルドイ

エーテルランドからやって来た違反者(人間の思念を求め、エーテルランドから人間界へ違法に渡航した者たちの総称)の1人。
違反者の内3割は性犯罪目的であり、彼はその3割に属する。
女性の羞恥心を好み、沙枝も甚大な被害を受けた。
沙枝に敗北して強制送還されたのだが、いつの間にか再び人間界に来て潜伏。
偶然所在を掴んで秘密裏に接触してきたスティグマの誘いに乗り、ワールドスリーに参加する。
旭日塔建造に関わった日本企業内の不穏分子を煽って自分たちのアジトを塔の頂上に造らせ、そこで密かに活動していた。
その最中、偶然にもエックスたちが台湾政府に招待されて旭日塔に来たのを知って行動を開始。
クワンガ―の意図を知ってか知らずか、沙枝を再び辱め、今度は母親をも毒牙にかけるためにクワンガ―が提案した人質作戦に乗るが……。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

クワンガー
・性格はオリジナル版とボンボン版、イレハン版のごっちゃ混ぜ。ただし、弟への情の有無はボンボン版でもイレハン版でも触れられていなかったので、兄弟愛の強さは本作オリジナルです。
・このキャラの親切丁寧な説明のせいで文字数が思ってた以上に増加した気がする。

バルドイ
・『魔法少女沙枝』の原作から出ている敵。ゲーム版のスタッフ(mille-feuille社員)曰く、声を当てるならアー○ストロング少佐の中の人、とのこと。断末魔もそれを意識して考えました。
・変態、見た目で判別できるレベルの変態。どんな見た目をしているかはmille-feuilleの公式サイト(18禁だから未成年は行ったらダメだよ)にある「魔法少女沙枝 vol.2」の紹介ページのキャラクター紹介コーナーを見てみよう。
・エックスを怒らせ過ぎたのが運の尽き、クワンガー共々命を縮める結果となりました。悪党だから念仏は唱えないけど。

他のキャラクターや設定あれこれ
・旭日塔の元ネタはPCゲーム「○マンド&コン○ー:○ッドア○ート3」に出てくる勢力、「エンパイア・オブ・○イジン○サン」。どんな勢力家は各自グーグルで調べてください。
小花(ショーホァ)はオリジナルキャラ。名前は決まるまでがちょっと大変だった。後、変身プロセスと決め台詞の元ネタは既に作中で言及されています。
・天声新聞の記者は実在する某新聞社の元記者がモデル。名前自体もモデルの名前を参考に捻りを入れたものです。そして天声新聞のモデルは言わずもがな。
・前回に引き続き炸裂したエックスの声優ネタ。そのせいでエックスの怒りの度合いが激しくなり過ぎたのは認めるしかない。
・アクエアルが用意した、対エロピンチ用予防薬。どんな味かというと……………………『エロゲのヒロインがほぼ確実に飲むことになる動物性ホワイトソース味』とだけ言っておきます。
・衝撃の12股宣言をぶちかましたエックス。当初は8股で済ませる(それはそれでアレだけど)はずが、「マーティ入れたら9股になるな。それだと中途半端な気がするから3人追加して12股にしよう」と発案して今の状態に…………。
・沙枝のコスは原作小説『魔法少女沙枝』でのみ出てた初代と、ゲームでお馴染みの二代目の2パターンがあります。劇中では沙枝が着ているのは初代の方。ちなみに二代目の方はやいとのコスとして流用しました。どっちも可愛かったので。





普通のあとがき
・PS3に夢中になり過ぎて執筆が遅れに遅れ、結局年をまたいでしまった……。次は今月以内に書き上げたいものではあるが……。


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STAGE 9:閃光、命を懸けた果てに

WARNING!

今回はゼロ死亡回です。


『恵玖須……』

 

これは、夢か。

でも過去の記憶じゃない、俺が望んでいる光景の一つ。

俺は、体を許してくれた姉さんの胸に顔を埋める……。

 

 

「え……恵玖須! ストップ! ストーップ!」

 

「……あれ?」

 

どうやら、寝ている内に夢と同じ動作をしてしまったようだ。

それを証明するように、ベッドの中でパジャマの胸元がはたけた姉さんが顔を真っ赤にしている。

よーく見たらブラもずれて胸元がはだけている。

そういえば、今日は五月最初の授業がある日だ。

 

 

 

「でも大丈夫なの? 12股なんて……」

 

「沙枝だけじゃなくてやいとちゃんたちも納得しているんだ。今は多少割り切った方がいい」

 

「それを言われると……」

 

朝食時。

家族4人でのいつもの光景。

違うとすれば、俺と姉さんが恋人同士で、更に俺には後11人恋人がいること、かな?

あの後、マスコミがハンター本部に押し寄せたけど、日本ローカル放送局ギルド以外は全部突っぱねてもらった。

それにしても、淑女協定を結んだとは……。

ちょっと心中複雑だし、父さんと母さんには申し訳ないとは思うけど、姉さんたちには感謝しないと

 

 

 

 

 

STAGE 9:閃光、命を懸けた果てに

 

ステージボス:『VAVA』 『アラクノフォビア・メーカー ボスパイダー 』

 

 

 

 

 

「やっぱり台湾の一件で持ちきりだね」

 

「そらそうですよ。12股宣言ですもの。第一、あなたは当事者なのになんで第三者を気取っているんですか」

 

「……そんなつもりはなかったんだけどね」

 

マルフレートにツッコまれてしまった。

教室は台湾での一件で盛り上がっている。

俺は親衛分遣隊に新しく入ったファントムがクラスメートたちをガードしてくれてるからマシだけど……。

その代りとばかりにみんなやいとに詰め寄っている。

見かねて近づこうとするけど、ファントムに遮られた。

 

「余計騒ぎが大きくなります。授業が始まれば人だかりは勝手になくなります」

 

この状態だと、杜論とルナにマーティ、アクエアルも同じ状況だろうな。

 

 

 

 

 

『やっぱり似たようなことになってたのね。こっちでも私だけじゃなくて桜樺も大変だったし』

 

「きっと栗実とパリスでも同じことが起きてたと思う」

 

昼休み。

俺は屋上で姉さんに電話していた。

説明しておくと、桜樺は実は姉さんと同じ学校に通っている。

麻希奈さんは亜理亜さんと一緒にカリンさんのいるパリス学園に転入。

シルキスさんは留学生として理瀬さんが通っている栗実女学園に今日転入したって聞いた。

シャーロッテさんだけ聞きそびれたけど、少なくとも学年は姉さんと一緒なのは確か。

 

『とりあえず、翔子が何とかしてくれたけど……』

 

「人の噂も四十九日っていうけど、どうしたものやら」

 

『もっとかかるかも。あ、先生に呼ばれたから切るね』

 

通話が終わった。

本当にどうしたものやら。

そう思っていたら、台湾で嗅いだことのある香りが鼻の奥に広がる。

この香りは……。

 

「シャーロッテさん!?」

 

「御名答ですわ」

 

「……シャーロッテさんもこの世界に留学したのは効いていたけど、蘭ヶ峰(こっち)とは」

 

「別に問題はないはずですわ」

 

でもどうやってここまで来たのだろうか?

屋上に行くための階段はファントムが立ち塞がって通さないようにしていたのに。

まさか……。

 

「壁伝いにここまで来たの?」

 

「まさか。階段を通せんぼしていたあの失礼な方を出し抜いてここまで来ましたわ」

 

「まさかファントムのガードをすり抜けるなんて……」

 

ちょっと信じられなかったけど、ファントムがシャーロッテさんを追って声を荒げながらこっちに来たので、どうやら本当みたいだ。

目が血走っているように見えるのは考え過ぎだろうか?

 

「貴殿! 隊長は姉君殿と電話中と申したぞ!」

 

「既に終わっていましたわよ」

 

「それは結果論だ!」

 

シャーロッテさんは涼しい顔だけど、ファントムは相変わらず険しい顔だ。

ああ見えてファントムは意外と気性が激しいので、ここで止めておこう。

 

「落ち着いて。シャーロッテさんにも問題があるけど、熱くなり過ぎだよ」

 

俺がとめたらファントムはあっさり落ち着いてくれた。

 

 

 

 

 

それからそれから。

ここはハンター本部の総監室

召集令が来たので来たのだが、シグナスは急用でまだ戻れないらしく、俺は待つことになった。

 

 

『……はい。この辺をうろついていた、蒼いレプリロイドの反撃で既に殺られてました。はい。了解』

 

俺は、ゼロと初めて会った時のことを思い出していた。

まだ小学校に入る結構前のことだ。

母さんや姉さんと一緒に、文京区の家から新宿中央公園に来ていた。

仕事が思っていた以上にはかどって予定より早く帰宅できることになった父さんとの待ち合わせのためだ。

場所的に、俺の情操教育の意味合いも強かったと思う。

でも、父さんを待ちつつ周囲を眺めていたら、イレギュラーが出てきた。

瞬間、俺は気が付いたら目覚めた時に身にまとっていた蒼いアーマーを再び装着して、右手のバスターでイレギュラーを射殺。

直後、赤いアーマーのイレギュラーハンターが駆けつけてきた。

恐らく、俺が射殺したイレギュラーを追ってきたのだろう。

彼は通信機能で誰かに状況を報告していた。

 

『ハンター本部まで来てもらうぞ。事情聴取とか色々やらなきゃいけないからな』

 

『…………うん』

 

これが彼、……ゼロとのファーストコンタクトだった。

 

 

「エックス。どうした? エックス!?」

 

「!? ……シグナス。ゼロと初めて会った時のことを思い出してたんだ」

 

「そうか。それよりも、すまないな。召集令を出しておいて待たせてしまうとは」

 

シグナスはこの1ヶ月、判断のせいで顰蹙を買ったり反発されたり(俺も反発した1人だけど)で色々と大変だった。

それがストレスになっているはずなんだけど、そんな様子を見せないシグナスは凄いと思う。

 

「早速本題に入ろう。……ワールドスリーの最高幹部はお前の奮闘で全員倒れた。だが、パキスタンにアイスランド、アラブ諸国の一部、中南米とアフリカの一部は依然ワールドスリーの支配下だ。

 

 そして厄介なことに、占拠された国では善政を行っている。何故だか分かるか?」

 

「ワールドスリーに従えば生活が楽になる、住みやすくなる、そう思わせるため?」

 

「そうだ。南アフリカとブラジルでは治安が劇的に回復していて、完全にワールドスリーを信頼しきっている。いったん占拠した後は善政で統治して懐柔し、信頼を得る。上手い手口だ」

 

シグナスの表情は相変わらず険しいままだ。

確かに、無理に抑圧するよりは楽で効果的な方法だ。

それ以外の手段や手を組む相手に大いに問題があるから誉められないけど。

 

「しかしだ。幸い、最高幹部が全滅したので浮足立ったところを突いて、世界各国の軍とスーパーヒロインたちが大規模な反撃で成果を上げているが、その攻勢もいつまでもつか分からない。

 

 さらに運のいいことにゼロから吉報が来た。ワールドスリーの本拠地を見つけたとな。移動要塞だったので座標の特定こそ不可能だったが、日本の領海内を行き来している」

 

まさか日本だったとは……。

しかし、なぜシグナスは俺だけにこのことを?

 

「シグナス。どうして俺だけに……?」

 

「総員に言う場合、エックスに任せた方が効果的だからだ。お前にはスティグマ以上の実力に、この1ヶ月でのめまぐるしい実績と信頼がある。前線に出ない私よりも適任だと思ってな。

 

 面倒な役を押し付けることになるが、堪えてくれ。そして、説明会の際に決意表明も頼む。士気は最後まで最高潮のままで維持したい。必要な資料は既に揃えてある。後は、お前の意思次第だ」

 

……ワールドスリーとの、スティグマとの決戦に向けての決意表明か。

それが勝利につながるというのなら……。

 

「了解。今すぐ準備を。マスコミも呼んで。可能な限り国外からも。説明と決意表明は衛星中継で国外にも放送されるよう手配を」

 

「任せろ、御大将」

 

 

 

 

 

その日、エックスから日本中に、可能な限り世界各国に、メッセージが流された。

 

『本日未明、ワールドスリーに関して調査を行っていた特A級ハンターからの報告でワールドスリーの本拠地が明るみになりました。それは移動要塞であり、日本の領海内を秘密裏に動き回っています。

 

 現在、自衛隊と協力して行方を追っており、発見次第攻勢に出ます。……この1ヶ月でワールドスリーの最高幹部は全滅し、それに乗る形で世界各国におけるスーパーヒロインたちの戦いは優勢に傾いてきました。

 

 ですが、ワールドスリーに占領された地域に住む人たちは連中の統治を受け入れています。この写真を見てください。南アフリカのヨハネスブルグで隠し撮りされた物ですが、人種に関係なく子供たちが塾帰りで夜の街を歩いています。

 

 ワールドスリーが南アフリカを占領し、統治した結果です。「犯罪首都」とまで言われたヨハネスブルグがワールドスリーの統治で安全な街になったからです。厳罰で犯罪者を駆逐し、教育と就職斡旋を行って更生させる。

 

 飴と鞭の要領で連中は南アフリカの治安を劇的に改善しました。何故そうしたのか? ワールドスリーが占領前より安全で生活に困らないように統治しているからです。奴らには圧政をする気は無いのでしょう。

 

 それでも、俺はワールドスリーを認める気はありません。手段と勢力の内容に余りにも問題があるからです。個人的にもスティグマのことは許せません。

 

 俺は、生みの親を、仲間たちを、守るべき人たちを裏切ったスティグマが許せません。スティグマは目的が正しくとも、「止むを得ない」と割り切ることができないほどの間違った手段を行使しているからです!

 

 奴のやり方ではおびただしい犠牲が出るのは目に見えています。正しい結果を得たとしても……その後で綻びが生じ、大きな災厄が起きます。だから、俺は最後まで戦います。応援してくれとは言いません。

 

 どうか皆さんはワールドスリーを受け入れないでください。世界中で戦っているスーパーヒロインたちも各国の軍隊の皆さんも、俺の言葉を胸にしまって戦い続けてください。俺は……、俺の正義のままにワールドスリーを潰し、スティグマを倒します!!』

 

エックスの言葉は、多くの人たちに届いた。

イレギュラーハンターの士気を、世界各国の軍隊の士気を、スーパーヒロインたちの士気を大いに上げたのである。

そして、戦いの火は更に激しく燃え上がることとなる。

 

 

 

 

 

その日の夜。

晩御飯の時間。

 

「本当に大丈夫なの? あんな煽るようなことを言って」

 

「言わないよりは、正しいことだと思う」

 

案の定、母さんに問い質されてしまった。

反論はしたけど心配そうな表情のまま。

父さんもちょっと渋い表情だ。

 

「恵玖須も覚悟を決めたからあんな言い方をしたのだろうが……。やはり、ちょっとな」

 

「でしょう? 沙枝ちゃんと恵玖須ちゃんが戦うのは今は反対できないけど……やっぱりどうしても心配だわ」

 

やっぱり心配させているか。

無理もないか。

姉さんも複雑な表情だ。

だけど、俺は止まるわけにはいかない。

結局、食後も部屋に戻る気にはなれず、リビングで呆然としていたらお風呂が湧いたのか呼び出しを受けた。

 

「俺、最後でいいよ。たまには父さんと一緒に入ったら?」

 

母さんの顔が真っ赤になった。

まあ、何を意味するのかは分かってるんだろうね。

 

「親をからかうんじゃない」

 

父さんはそう言っているけど、意外と満更でもなさそう。

 

「まあ、久しぶりに一緒に入るか」

 

そう言って父さんは母さんを連れて風呂場に行っちゃった。

母さんの方も何だかうれしそうだったから、良かったのかな?

そんな風に思っていたら、姉さんが隣に座ってちょっと困った表情を見せた。

 

「ママをからかっちゃめでしょ」

 

「夫婦円満の後押しだよ」

 

 

 

 

 

次の日。

ハンター本部のブリーフィングルーム。

俺の他にはエイリアとシグナスがいるだけ。

姉さんたちはまだこっちに向かっているようだ。

 

「現在、ワールドスリーの本拠地は第0隠密部隊が追っている。今回、エックスに向かってほしいのは青森県は津軽半島の陸奥湾に面しているこのポイントだ」

 

エイリアの操作で、ディスプレイに表示された地図に赤いマークが付けられる。

青森か……。

 

「混乱回避のためお前にも伏せていたが、現在日本ではワールドスリーの工作員による扇動でゲリラ化した各地域の一部地元住民を相手に第1汎用部隊が交戦中だ。

 

 統率も連携もない素人テロリストども相手だからこちらの被害は皆無、相手側は万単位の死者を叩きだしている。連中のほとんどは農村部の者ばかりだな」

 

「……それがどうしてワールドスリーの口車なんかに」

 

「ネットスラングだが『膿家脳』というやつだ。この場合、『月』と農業の『農』を組み合わせた方の『膿』だ。ネットで調べればどんなものか大体分かる。努力して成功した者を妬み嫉み、新しい血を受け入れない、狭量で農業発展を阻害する害悪だ。

 

 滅びるべきゴミだ。……つまり、連中は都会の人たちへの妬みだけで工作員の口車に乗り、平和を乱す悪しき存在へと成り果てたわけだ。エックス。お前はワールドスリーの本戦力の相手に集中しろ、汚れ役は第1汎用部隊やゼロがこなしてくれる。

 

 そろそろ本題に入ろう。オーストラリアで開発されていたが突如として研究所を抜け出して行方知れずになった新型メカニロイド『ボスパイダー』が件の地点でルールアンとVAVAの2人と一緒にいたところを目撃されたからだ。

 

 目撃した地元警察署勤務の警官は気づかれる前に逃げてこちらにSOSを送ってくれたが、急がないと警察署ごと消されかねない。目撃者の推測通り、ワールドスリーに参加していた場合は確実に抹殺しろ。

 

 ゼロは既に現地に到着している。お前も向うように」

 

「了解。敵の戦力が未知数なため、念のためウォーダス・テードで向かう」

 

 

 

 

 

ウォーダス・テードの艦橋内。

俺は、少し嫌な予感に襲われていた。

もしかしたら……。

考えるのはやめよう。

現実のものになりかねない。

 

「ゼロ……」

 

「たまにはボクの名前を呟いてよ」

 

「どうすればいいんだろう? ……乗ってたの?」

 

「乗ってたよ。みんなと一緒に」

 

気が付いたら華鈴さんが隣にいた。

彼女の言葉に合わせるように、シャーロッテさんと麻希奈さん、桜樺も姿を現した。

 

「そういえば、姉さんたちは?」

 

「出発が急でしたので急ぎ過ぎて休憩中ですわ。特にお義姉様は肩で息をしていましたし」

 

シャーロッテさんはこう言っているけど、俺はそんなに急いでいたのかな?

不安に苛まれているのかな?

そんな風に悩んでいたら、麻希奈さんがあの時のように髪を触ってきた。

 

「大丈夫よ。私達がついてるから」

 

「うん」

 

桜樺も俺の肩に手を置いてきた。

 

「是魯のことが心配でも、焦っては駄目だ」

 

「……桜樺」

 

 

 

 

 

それからそれから。

津軽半島。

この辺は下手をすると戒厳令一歩手前のようだ。

……それにしても、クモの巣が多いな。

道中、俺たちは第1汎用部隊が物々しい雰囲気で周囲を見回っている光景を目にする。

 

「お疲れ様です」

 

「セレナードは?」

 

「隊長なら、エックスさんが来ると聞いて飲み物の調達に行きました」

 

そういえば、彼女は昔から俺のことを変に気に入っている節があったな。

単純に子ども扱いしているだけかもしれないけど。

そう思っていたら、セレナードがリンゴジュースの瓶を抱えて姿を現した。

 

「久しぶりね」

 

「……まあね。そういえば、ゼロは?」

 

「ここから北へ数㎞の地点よ。心配なのはわかるけど、ジュースでも飲んで落ち着きなさい」

 

そう言いながらセレナードはリンゴジュースの瓶を押し付けてきた。

受け取ったのは理瀬さんだけど。

いつの間にか紙コップの袋を持った杜論から、紙コップ受け取ったら中身が既に入っていた。

 

「ゼロ……」

 

「心配してるだけじゃ事態は進まないよ」

 

「そうそう。それにあの根性悪オールバックは不死身みたいなものですわ」

 

理瀬さんと杜論はこう言ってくれてるけど……。

それでも、やはり心配なことに変わりはない。

ゼロ……。

 

「不安がっちゃダメですわ」

 

「そうそう。不安が的中するって漫画とかじゃよくあるんだから」

 

シルキスさんとルナも……。

これを飲んだらすぐに後を追おう。

 

 

 

 

 

十数分後。

みんなでリンゴジュースを飲んだ後、セレナードが教えてくれた地点へと向かった。

ここから先は正に修羅場。

血の河に屍の山、か……。

それに合わせたかのように周囲の建物にかかっているクモの巣の数が凄いことになっている。

 

「これ、全部……ゼロがやったのかな?」

 

「死の静寂以外の何物でもないな。レプリロイドか人間か関わらず、死体ばかりだ」

 

「見慣れたくないね……」

 

アクエアルとマーティにここまで言わせるとは……。

ゼロは昔から超武闘派だったけど、ここまで激しい戦い方は見たことがない。

 

「あいつ、本当に凄まじいわね」

 

「この調子なら、是魯君も大丈夫じゃないの?」

 

「やいと……。姉さん……」

 

胸騒ぎが更に激しくなった直後、爆発音と悲鳴が向こうから聞こえた!

まさか……!?

 

「ゼロ!?」

 

思わずゼロの名を叫んだ直後、ゼロが本当に目の前に来てくれた!

 

「エックス? 何でこっちに来た!?」

 

「……シグナスからの指令で来たんだ」

 

数分後。

事情を説明したら、ゼロは渋い顔になった。

 

「詰めが甘いな……。ま、今回は俺1人で何とかなるかもな」

 

「ゼロは昔から凄く強いからね」

 

「まあな」

 

 

 

 

 

それからそれから。

ゼロは再び単独行動。

俺たちは新型メカニロイドを目撃した人が勤務している警察署にいた。

その内の一室に13人が揃って入って来たので鮨詰めに近い状態かもしれない。

……不意に窓に視線をやると、クモの巣が目立つ。

大量発生中なのだろうか?

気にしても仕方ない。

 

「この地点で目撃しました」

 

ルールアンとVAVA、そしてボスパイダーを目撃した地点を、件の警官が地図で指差してくれた。

ここからそう遠くは無いな……。

 

「それにしても、よく無事でしたね」

 

「気づかれな内にすぐにその場を離れましたんで……」

 

「最悪の場合、こちらで身柄を保護せざるを得ない状況も考えられます」

 

「警察官なのに、情けない話です」

 

けど、いくら何でも相手が悪すぎる。

こういう言い方はよくないけど、普通の警察官じゃVAVAに挑んでも確実に殺されてしまう。

 

「流石に相手が悪過ぎます。あそこまで危険なのはイレギュラーハンターに任せてください」

 

 

 

数分後。

警察署に入り口で俺は別の警察官(交通課の打海警部補と名乗っていた)と立ち話をしていた。

しかし、クモの巣が多い。

打海警部補も首を傾げている。

途中からゲリラ報道のためにこの近辺に紛れ込んでいた砂山さんたちと遭遇したので、彼らも立ち話に加わってくれた。

 

「しかし、その人も運が悪かったよねぇ」

 

「俺も、そう思います。でも、件のメカニロイドとVAVAを倒せば一応の身の安全は確保できるはずです」

 

砂山さんが気の毒そうな顔で語り、俺も思わず同意してしまった。

でも、出月さんと横山さんは「そう上手く行くのかな?」って表情をしている。

打海さんの方は同意はしてるものの、やっぱり曇った表情をしていた。

 

「そりゃそうですが……。でもあんたも小学生なのにイレギュラーハンターでしょ? テレビで活躍見てましたけど、あそこまで頑張ってるとこ見るともう応援するしかないんですよ。でもね、それの次に心配なんですよ」

 

「12股宣言のこととか?」

 

打海警部補の目が点になった気がする。

ビンゴだったのかな?

 

「そうそう。その歳で死に急いでどうするんですか。……って、違いますって。子供が毎度毎度あんな激しいドンパチしてるとこ見てるから、本官も近所の人たちもみんなおっかなびっくりなんですよ! 怪我したらどうしようとか言って」

 

「……そっちでしたか」

 

砂山さんはやれやれと言った表情を見せた。

横山さんからは睨まれた気がする。

 

「無茶なことをしたって自覚はあるんだね」

 

「……うん」

 

出月さんも苦笑いの表情。

それにつられたのか、打海さんも苦笑いの表情になった。

 

「せっかく12人も可愛い彼女出来たんだから、ちょっとは気を付けた方がいいですよ。……あの、話は変わりますけど、VAVAって紫色してましたよね。んでもって肩に大砲乗っけてて」

 

「はい」

 

「何気なーしに正門の方を向いたら、……その……VAVAらしき奴が視界に入りまして……」

 

え?

それを聞いて思わず正門の方を向いたら……本当にいた!

俺が気づいた瞬間、VAVAは肩の大砲からエネルギー光弾を発射して俺たちの側にあったパトカーを吹き飛ばした!

 

「視聴者の皆様! カチコミ……じゃなかった! 襲撃です! 漫画のお約束の如く話題に出た直後に襲撃に来ました!」

 

咄嗟にカメラを自分に向けた出月さんに呼応するように、横山さんも咄嗟にリポートを開始。

しかし、自分から来るとは!

 

「直接殴り込んできたか! 打海さんは離れて!」

 

「ほ、本官は自分自身が情けないです! 御武運を祈らせてもらいます!」

 

打海さんはその場を慌てて離れた。

それを確認した後、戦闘モードに移行!

 

「システム・オールメガミックス!」

 

「フハハハハハ! そうだ! 来い! 勝負の場に相応しいところに案内してやるぞ!」

 

VAVAは高笑いを挙げながら、後ろに置いていたライドアーマーに乗り込んだ。

それを狙ったかのようにライドチェイサーに乗ったゼロがいきなり現れた!

 

「ゼロ!?」

 

「何とかして見せるさ、俺1人で」

 

「でも……」

 

俺が続きを言うよりも早く、ゼロは掌を見せて俺の言葉を遮った

 

「あんな異常者の相手をさせるわけにはいかないからな!」

 

「先にゼロか……。別にそれでもいいがな!」

 

VAVAの方も先にゼロと戦う気になってしまった。

……どうすれば!?

そうこうしている内にVAVAのライドアーマーはローラーダッシュで走り去り、ゼロもライドチェイサーで追いかけて行ってしまった。

困り果てていたら、「日本ローカル放送居ギルド」と車体に堂々と描かれているバンが目の前に止まり、出月さんが顔を出した。

 

「乗って! 沙枝ちゃんたちには言っておいたから!」

 

 

 

 

 

「視聴者の皆様、空気がすごく重いです。恵玖須君が滅茶苦茶ソワソワしています。……今睨まれました。怖いです!」

 

「是魯君が心配なのはわかるけどテンパり過ぎだよ!」

 

今の俺はよっぽどひどい顔をしているのだろう。

横山さんと出月さんがちょっと引いている。

 

「恵玖須。ゼロの場所は分かるか?」

 

「ライドチェイサーに搭載しているGPSで場所は掴んでいます」

 

「……そうか」

 

運転席の砂山さんは前方に視線を固定したまま訪ね、俺の答えに納得したかのように黙々と運転を続けている。

バンは今、俺たちを乗せてゼロのライドチェイサーを追っている。

俺の手には、第17精鋭部隊管轄下にある乗り物のGPSを確認するための電子手帳がある。

まだVAVAを追っているようだ。

あれから何分たったのかも分からない。

ゼロ……。

 

「……! ライドチェイサーが停まった!? しばらく道なりに走ってください! 」

 

「任せとけ!」

 

 

 

 

 

それからそれから。

俺たちはバンを降りていた。

目の前にはゼロのライドチェイサーと、ゼロに殺された敵の死体の山。

その先には……。

 

「ゼロ? ゼロ!」

 

アーマーがボロボロになり、満身創痍なのが目に見えているゼロが倒れていた!

砂山さんたちの制止を耳に入れず、倒れているゼロへと俺は無我夢中で走り出す。

そして、ゼロまであと少しというところで、ライドアーマーに乗ったVAVAが姿を現した!

 

「……お前を狩る前の露払いと思って手持ちの部下を総動員してゼロにけしかけたんだがな。まさか全滅させられるとは思っても見なかったぜ。まあ、おかげでこいつの前の片手の落し前はつけさせることはできたがな。

 

 次はお前だ! 俺のライドアーマーはこの間より頑丈になってるぞぉっ!」

 

VAVAのライドアーマーが俺に殴りかかる。

俺はすんでで回避し、ライドアーマーの関節にエネルギー弾を当てる。

だがVAVAが頑丈さを自己申告しただけあって、へこむ様子すら見られない。

 

「堅い!」

 

「速さだけが強さじゃない。堅さも強さだ! 裏拳!」

 

ライドアーマーが繰り出した裏拳をジャンプで回避。VAVAを直接狙おうとしたが、あの時のエネルギースタン弾を肩のキャノンから発射したので体を捻って紙一重で回避。

流石に狙いには気づいていたか。

 

「もっと先を見ないとダメだぜ!」

 

「だったら目をくらませばいい。スパイラルバスター!!」

 

今度はスパイラルバスターを発射!

しかしVAVAにライドアーマーの左手で咄嗟にガードされてしまった。

 

「フハハハハハ! 速さも確かなのがこの俺だぁl!」

 

堅さだけじゃなくて速さも上がっているか……!

速く、奴を倒さないと……。

ゼロ、もう少し待っててくれ!

 

 

 

数十分後。

一進一退のまま、戦いは膠着。

持ってくれ、俺の集中力……。

 

「思っていた以上にしぶといな……。だが、無駄に長引くのは気に食わない!」

 

VAVAは痺れを切らしたように肩のキャノンからエネルギースタン弾を乱射。

俺はそれを全弾回避し、VAVAに照準を合わせる。

その直後、俺がエネルギー弾を発射するよりも速く、VAVAは左手を外してミサイルを発射した!

 

「ポップコーンデーモン!」

 

ばら撒かれるかのように大量のミサイルが俺目がけて飛んできた!

咄嗟にガードしたが、その隙と爆炎を利用したかの如く飛んできたエネルギースタン弾を食らってしまう。

 

「うわっ!」

 

そこから追い打ちとばかりに伸びてきたライドアーマーの左手に掴まれてしまう。

 

「ぐあっ!?」

 

「エネルギースタン弾を食らった上にその状態だ。あの時みたいにはいかないぞ……。ロックマンエックス! その命を貰うぞぉっ!」

 

俺を掴む手の力が一気に強くなる。

まだだ!

ここで負けるわけには……!

 

「貴様の好きにはさせないぜ!」

 

「何がそうさせる! この死にぞこないが……!」

 

「俺が『ロックマンゼロ』だから、俺をこうさせたのさ!」

 

ゼロがライドアーマーの左腕にしがみついていた!

よく見たら、右手のバスターがチャージ済みになっている。

 

「このざまじゃまともに弾が出るかどうかも分からん。だから、もう一度左腕を貰うぞ、VAVA! エックス……。俺は、ここまでみたいだ」

 

刹那、ゼロはわざとクラッシュバスターを暴発させてライドアーマーの左腕を粉砕すると同時に、ライドアーマーごとVAVAを吹き飛ばした。

でも、それと同時に激しい爆発が起きて……。

 

「ゼロ!! ゼロ――――――!!!」

 

俺はVAVAとは違う方向に吹き飛ばされるも空中で体勢を立て直して着地。

あの爆発の直後に動けるようになったから、どうやらエネルギースタン弾は爆発の衝撃で吹き飛んだらしい。

それよりも、ゼロは!?

爆炎が晴れた後、ようやくゼロの姿がおぼろげながら見えてきた。

 

「ゼ、ゼロ……!」

 

辛うじて立ってはいたものの、胸元に風穴が開き、それ以外の個所もさらに損壊していた……!

慌てて駆け寄り、倒れそうになったゼロに肩を貸そうとしたけど、他ならぬゼロに止められてしまう。

 

「無事だったようだな……。どうした……? しけた……顔なんかして。俺はまだぶっ倒れちゃいないぞ」

 

「ゼロ! しっかりしてよゼロ!」

 

「『エックスのために俺もロックマンになってやる』と粋がって、『何とかして見せる』と言った結果が……このザマだ。マルスとイーグリードに怒られない程度には、挽回できたけどな」

 

「ゼロ……」

 

「今から、俺のバスターのデータをお前の右手に移植する。俺の目をじっと見るんだ」

 

ゼロにそう言われて、俺は互いに見詰め合う格好でゼロの目を見た。

直後、俺の視界に色々なメッセージが表示され、アナウンスが頭の中に響く。

 

「これで、いい……。これで、お前もクラッシュバスターが……使える」

 

「ありがとう。……今からでも遅くない。ウォーダス・テードを呼ぶ。治療の準備も……」

 

俺の言葉も、言い切る前にゼロに止められた。

そうした理由は分かるけど、けど……。

だけど!!

 

「自分がどうなっているかぐらい、自分が1番分かっている……。後は『ロックマン』であるお前に頼むぜ…………」

 

「任せて……よ……。同じ、『ロックマン』から……『ロックマンゼロ』から頼まれ……たんだから…………!」

 

「最高の褒め言葉、ありがたく貰っておく……。先に、懐かしい未来へ逝くぜ……! イレギュラーハンター、『ロックマンエックス』……!」

 

その言葉から間を置かず、……ゼロは……。

ゼロは俺にいつも見せてくれた強気な笑顔のまま、空を見上げるように倒れて……………………逝った。

 

「視聴者の皆様、……是魯君が、是魯君が!」

 

横山さんの泣きそうな声が耳に入る。

俺はただ、泣くことしかできなかった。

ゼロの亡骸を前にして、それしか…………!

だけど、悲しみに専念できる状況ではなかった。

気配が……VAVAの殺気と混じり合った気配がしたから!

VAVAのライドアーマーは、左腕が吹っ飛んでいたものの、それ以外はんだ無事だった……!

 

「『懐かしい未来』だと? 訳の分からないことを! また左手が吹っ飛んだが、俺のライドアーマーは健在だ! 邪魔者も無駄死にしたから続きと行こうぜ! エックス!」

 

「無駄死にだと……? ゼロの死を無駄死にと言ったか、貴様!!」

 

ゼロの死を無駄死にと言いはなったVAVAは、俺の手で殺す!

形見が込められた右手をフルチャージ!!

 

「クラッシュバスター!!」

 

クラッシュバスターが直撃したライドアーマーは、今度こそ爆破四散。

だが、俺には分かる。

奴はまだ無事だ!

 

「ゼロのバスターをゼロ以上に使いこなすとはな……。スゲーよ。これだ! これ! これを待っていたんだ! すべての始まりをブチ壊して、俺の力こそがレプリロイドの可能性だと証明できるこの瞬間を!!

 

 フハハハハァッ!! サイコーの獲物になってくれたことに感謝するぜ! ロックマンエックス!!!」

 

VAVAは高笑いを挙げながら、肩のキャノンを乱射してくる。

だが、今の俺にはいくら食らっても、蚊に刺されたほども効かない!

 

「砕けろ!! 裂けろ!! 消え失せろーっ!! ハーハハハハッ!!」

 

今はただ……ゼロの形見で奴を倒す!

両手を同時にチャージ。

フルチャージ後、両手をVAVAに向けて……発射ぁっ!!

 

「スパイラルクラッシュバスター!!!」

 

螺旋を描きながら大量のクラッシュバスターが発射された。

その全てが、VAVAのキャノンから放たれるビームを蹴散らし、そして……。

 

「本当にお前は最高だぜ!! ネクロバーストォッ!!」

 

VAVAの切り札ともいえるエネルギー衝撃波すら掻き消す。

 

 

 

VAVAの目の前に、エネルギー弾の奔流が押し寄せる。

ネクロバーストすら通じない奔流が。

まるでエックスの悲しみと怒りで守らているかのようなそれを目の当たりにしたVAVAに、恐怖は無かった。

 

(エックス。お前は、サイコーの……)

 

 

 

命中と同時に大爆発が起こり、熱風と衝撃破が俺の顔をなでるが、不思議と熱いとは感じない。

VAVAは爆炎と共に発生したキノコ雲に消えた。

これでいい。

ゼロをウォーダス・テードに運ばないと……。

けれど、それはまだ先の話みたいだ。

奴はまだ生きている……!

 

「始まり……は……潰す! 俺が潰……して、俺こ……そが世界の脅……威だ……と! レプリ……ロイドの……可能性だと、世界に……教えてやる!!」

 

アーマーはほぼ全壊状態。

それどころか素体も激しく損壊しており、顔の部分すら内部のメカニズムが露出している。

 

「ロックマン……エックス!!」

 

俺は、既に執念で動いているだけのVAVAを見て、驚くほど冷めた心になっていた。

だから、ただ冷淡にバスターを向けて、『普通』のエネルギー弾で胸板に風穴を開けてやった。

 

「ぐあっ……!」

 

その衝撃とダメージで盛大にのけぞりながら、VAVAは崖っぷちまで意図せず後退。

奴を追うように、俺は奴目がけて歩きながら呟く。

 

「『始まり』か……。それは否定できない。だが、俺は同時に『ロックマンという名の悪魔』だ!! 貴様に、ゼロの形見で殺される価値なんて……無い!!」

 

VAVAの首根っこを掴み、俺は目の前に広がる津軽湾に奴を投げ捨てる。

 

「こんなハッキリとしない、止めの……刺し方如きにぃー!!!」

 

この止めの刺し方に納得いかなかったのか、VAVAは抗議の声を挙げながら水底へと沈んで逝った。

あれだけの損傷だ、海水で中のメカニズムがオシャカになってすぐに死ぬだろう。

これでいい。

これが、悪魔らしい殺し方だ……!

 

 

 

 

 

それから数時間後。

警察署の前。

ゼロは既にウォーダス・テードの艦内霊安室に安置済み。

姉さんたちは……みんなは俺を心配してくれたけど、まだ、俺はみんなを近づけたくなくて、独りで突っ立っていた。

それにしても、あの時はゼロのことを気にしたりVAVAの襲撃があったりで気にならなかったけど、クモの巣が多すぎる。

第一、クモの姿も見えない。

クモの巣自体も何だか微妙に変な気がする。

 

「カサカサ。カサカサ。カサカサ」

 

何か、変だ。

クモが近くにいるんだろうけど、まるで漫画の擬音を口で言っているみたいに聞こえる。

ようやくクモも出てきたけど……。

これ、メカニロイドだ!

 

「カサカサカサカサカサカサカサ―!」

 

これは虫が動く音じゃない!

それを証明すると言わんばかりに、クモ型の大型メカニロイドが突っ込んできた!

ギリギリで避けたけど、危なかった……。

 

「まさか、ボスパイダーか!?」

 

「カサカサ! 御名答! 『アラクノフォビアメーカー ボスパイダー』さ! 一足先に本拠地に戻ったルールアンに土産話ができそうだ! カサカサカサ―!」

 

ボスパイダーは図体に似合わない俊足でこっちにまた突っ込んできた。

しかもアミダくじの様に直線的に曲がりながら!

止めようにも、エネルギー弾が弾かれてしまった。

ギリギリで回避したけど、軌道が読みにくい。

しかも小型のサポートメカまで出してきた!

よく見たらさっき見かけたクモじゃないか。

 

「クモ尽くしか!」

 

「肝心のあたいがクモだからな! 何だ!?」

 

しかし、横から飛んでくるかのように発生した爆発で小グモ達は吹き飛ばされる。

何事かと思ったら、姉さんとやいとが重火器を持っていた。

 

「大グモさん! 私の弟に近づかないでください!」

 

「クワガタムシの次はクモ? どの道このやいとちゃんの恵玖須に悪さする気なんだから害虫ね!」

 

やいとの判断基準が気になるけど、言葉には出さないでおこう。

間髪入れず今度はマーティがボスパイダーの足に槍を突き刺そうとするも予想以上に頑丈で突き刺さらず失敗。

続いてアクエアルの水龍剣による一太刀の方はギリギリで回避していた。

 

「堅いじゃない!」

 

「加えて俊敏だ」

 

マーティはちょっと舌打ちしそうな雰囲気。

アクエアルはちょっと冷静だ。

……敵はボスパイダーだけじゃないみたいだ。

どうやら第1汎用部隊とゼロが相手にしていた連中がまだ残っていたようだ。

いかにも農作業中です、と言った格好をした連中がいつの間にやら重火器を持って大挙して集まっている。

そいつらが持っている銃を切り刻みながら、理瀬さんとシルキスさんが駆け付けてくれた。

 

「この人たちは……!」

 

「どうしてこうも愚かしいことを……!」

 

理瀬さんとシルキスさんは嘆き混じりに言葉を絞り出す。

そんな2人の心境などどこ吹く風、と言いたげに杜論はドバイでくすねてそのまま私物化したらしき銃を躊躇うことなく撃っている。

ルナは鞭を振り回していたが、よく見ると放電現象が起きているような。。

 

「ほらほら! さっさとやられなさいよ、この負け犬ども!」

 

「恵玖須様の前から消えちゃいなさいな」

 

何だか殺す気満々に見えるのは気のせいだろうか……?

まあ、そうなりたくなるぐらいの相手だけど。

この状況についていけなかったらしくボスパイダーは固まっていたけど、運悪く今になって状況を把握してしまったようだ。

 

「怒涛の流れに呆然としてた!」

 

ボスパイダーが叫んだ直後、奴目がけて軽トラが飛び込み、ついでに爆発。

軽トラが飛んできた方向を見たら、桜樺とシャーロッテさんがいた。

 

「その隙を突くまでだ」

 

「便乗させてもらいましたわ」

 

桜樺が軽トラを投げて、シャーロッテさんがグレネードランチャ―で吹き飛ばしたようだ。

敵のゲリラモドキの1人がこの光景を見て喚いているので、そいつの軽トラなのだろう。

桜樺が武器代わりに投げるはずだ。

しかし、ボスパイダーはそれすら物ともせずに煙の中から出てきて、俺目がけて突撃してき!。

 

「この程度じゃねぇ! !?」

 

今度は華鈴さんが発射した大きな光の弾がボスパイダーに直撃。

それでも装甲に多少傷がついた程度のようだ。

追撃とばかりに麻希奈さんがアークセイバーで切りかかったが、こちらは避けられてしまう。

 

「ほとんど効いてないね」

 

「私なんか避けられたわよ」

 

「みんなは邪魔な連中の無力化を。ボスパイダーは俺が何とかするから!」

 

ボスパイダーは俺1人に狙いを絞っている。

ならば、そこに勝機がある。

 

 

 

 

 

警察署から数㎞程離れた町はずれの道路。

かなり見晴らしがよく、相手からすれば俺の姿はよく見えるはずだ。

だが、逆に俺の方も相手の姿がよく見えることを意味する。

ボスパイダーもそれを承知していたらしく、さっきよりもジグザグな軌道を描きながら突っ込んで来た!

 

「カサカサカサ―!」

 

「…………」

 

だが、俺も既に準備は済んでいる。

奴は一瞬だけ背中の装甲を展開して、半球形の赤いセンサーを露出することがある。

恐らく、あのセンサーで相手の動きを予測し、かく乱のためにジグザグに動いているのだろう。

だったら!

当たる直前にジャンプ。

空中で体を捻って……展開したセンサー目がけて!

 

「ショットガンアイス!」

 

「ぐっ! センサーが!?」

 

どうやら予想は当たったらしい。

ボスパイダーはジグザグに一定の距離を走った後に停止して、こっちに振り向いた。

しかし、ボスパイダー自身のダメージにはならなかったようだ。

 

「センサーはやられたけどね、アタイ自身はピンピンしてるよぉっ!」

 

「次は一直線に来い! 跳ね除けてやる!」

 

「だったらリクエストにお応えして! カサカサカサカサカサカサカサ―!」

 

ボスパイダーはさっきよりも速度を増して、曲がることなく真っ直ぐ俺目がけて突っ込んで来た。

だが、俺の方も両腕はチャージ済み。

ダッシュでこっちも相手に肉薄!

密着射撃だ!

 

「スパイラルクラッシュバスター!!!」

 

それは、数十秒の出来事だった。閃光と爆音と衝撃と爆炎が俺とボスパイダーを包み、爆炎が周囲に広がる。

キノコ雲に引き寄せられるように俺は空高く投げ出されたけど、辛うじて着地。

けれど、流石にダメージは大きかったようで足がガタガタ震えている。

爆炎が晴れた後、腹部に当たる部分が完全に木端微塵となり、残っている部分もズタボロになったボスパイダーの姿が見えた。

 

「あ、アタイがここまで、派手に……。まあ、いいさ。好き放題……暴れられたからね……。でもスティグマ、様には……アタイ以外にもまだ幹部が3人いる。……どこまで戦えるか……な……?」

 

捨て台詞を残し、ボスパイダーは死亡。

俺は、既に残骸となったボスパイダーへと、乾いた心で答えた。

 

「残りの3人を全て始末し、スティグマを倒し、…………ワールドスリーを潰すまで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『アラクノフォビアメーカー ボスパイダー』。

出身:オーストラリア

待遇:ワールドスリー幹部

死因:爆死

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

俺は、生き抜いて見せる……!

せめて、ワールドスリーを潰すまでは。

せめて、スティグマを倒すまでは。

だからまだ、俺は死ねないんだ!

次回! 「ジェノサイドのG」。

邪魔になるぐらい雑魚が大勢いるなら……全部滅菌すればいい!

 




オマケ:ボスキャラファイル



VAVA

戦闘用に開発された重武装タイプのレプリロイド。
実戦初参加後、極めて高い戦闘力から瞬く間にA級ハンターにまで上り詰めた実力者。
土木用補助ツールであるライドアーマーに戦闘的価値を見出し、ライドアーマー戦闘のノウハウを構築するなど、限定的ながらも発想力も優れている。
が、設計段階なのか開発段階なのかは不明だが頭脳に異常があるため、人間顔負けの凄まじい残虐性までも有してしまっており、戦闘の際はほぼ確実にバーサーカーと化して余計な被害まで巻き起こす問題児でもあったため、特A級への昇格は見送られていた。
A級のランク自体もどちらかというとライドアーマーでの戦闘のノウハウを確立した功績のおかげで何とか掴めた、という背景が強い。
極めて高い戦闘力を持つがために自己顕示欲が意外と強く、同時に強い標的を倒すことを楽しんでもいるが、その一方で力を有しながらも優しいが故に力を発揮しきれないでいたエックスに対してはヒステリックなまでの嫌悪感を抱いていた。
当然、エックスの親友であるゼロからは目の敵にされており、VAVAの方もゼロへの不快感を露骨に示していた。
ワールドスリーが蜂起する前日にトラブルを起こして留置場に収監されるも、その戦闘力を評価したスティグマに助けられる。
その際、エックスの無限の可能性と無限の危険性をスティグマから聞かされ、エックスを倒して自分こそが『世界の脅威』、『レプリロイドの可能性』であることを証明する絶好のチャンスが来たと判断して二つ返事でワールドスリーに参加した。
エックスの無限の危険性の前になす術もなく敗れ、海の藻屑となったが……?



アラクノフォビアメーカー ボスパイダー

オーストラリアで開発されたクモ型の大型メカニロイド。
既存のクモ型メカニロイドの大型版として開発されたが、なぜ開発されたのかはボスパイダー自身にも知らされていなかった。
自分の存在意義が分からず悶々とする日々を過ごしていたが、研究所のコンピューターにクラッキングを仕掛けて自分に連絡してきたスティグマのスカウトを受け、『存在意義が分からないなら自分で作ればいい』という発想に至り研究所を抜け出してワールドスリーに参加。
日本で展開されているゲリラ戦の指揮官の内の1名として東北で暗躍していた。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

VAVA
・前回のクワンガー同様、性格はオリジナル版とボンボン版、イレハン版のごっちゃ混ぜ。当初はオリジナル版に近い小物になるはずが、イレハンとボンボン版の影響で複雑なキャラクターになりました。そのせいか、イレハン版と比べると若干落ち着いた性格になった気が。
・劇中での最期、実は伏線だっりします。

ボスパイダー
・ボンボン版を読んでて「流石にシグマステージのボス端折るのはもったいなくね?」と考えた結果、ご登場願いました。
・今回はゼロ死亡とVAVA瞬殺というイベントがメインなのでこのキャラの見せ場が少なくなってしまった。この点は残念。


他のキャラクターや設定あれこれ
・アームパーツとゼロのバスターの同時使用。実は別の二次作家の方が既に実行済みでしたがその方の作品を知る前に思い付いたので、没にはしませんでした。
・何気にシグナスがやっと登場しました。
・ロクゼロのあの四天王の平行世界上の同一存在の内、レヴィアタン以外はイレギュラーハンターとしてエックスの部下になっているという設定。なのでファーフニルとハルピュイアも実はイレギュラーハンターにいます。ファントムとは違って今回出てこなかっただけで。
・『ワールドスリーは占領した国では善政を敷いて味方を増やす』という設定は初期からあったんだけど今回ようやく表に出せました。





普通のあとがき
・執筆が更に遅れて投稿がまさかの3月末。。どうしてこうも執筆速度が遅くなるのか。


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