とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ (桐生 乱桐(アジフライ))
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おしらせ

読んで字のごとく


どうもです、今回はお知らせと評してちょっと初めてこんなんを書きました

 

だいぶ前から更新サボっていたこの作品のリメイクのリメイク、かっこよく言うなら再筆版みたいなのがようやく書き終わり投稿する感じになりました

現在は別の作品にうつつを抜かしあまりかけてはおりませんがのんびりとかけていけたら良いかなと思ってます

っていうかしばらくはこっちからコピペしつつ要所要所修正してったり書き足していく感じになるかもです

 

そもさんこっちが失敗したのは調子に乗ってポンポンキャラ出しすぎてたことが原因ですしおすし

やり直すにあたってはいろいろ自重できていけばいいかと思っとります

 

はっきり言ってしまえば全部自分のせいだ湊くん

こんな不出来な作品でも変わらず見てくれる人はたくさんいてくれますし、そのことは喜ばしいです

期待に応えられるかどうかとかいつもビクビクしながら書いているので面白いっていう感想は素直に嬉しいのです

ここでちょくちょく活動して約二年

 

…っていうかもう二年もこんなことしてるのかと思うとちょっと感慨深かったり

 

これからもほそぼそとではありますが書いていけたらと思ってます

 

以下文字数稼ぎ、ということでなにか書きます

 

最近リアルもごたつきつつ、ちょっとずつ書いていく日々、もっぱら暇なときはグランドオーダーをしています

別作品の前書きで嘆いていましたエリザも無事最終再臨を迎えウチのエースサーヴァント

そしてピックアップガチャではどういうわけか玉藻もドレイクも来てくれるという豪運

おまけにドレイクは二枚も引けて後日死ぬんじゃないかと疑ったり

最近曜日クエストのリニューアルとかありましたが、もっぱら現在は大不評の模様

私もHP二十万を超えたマリーに挑む気は起きずそのまま放置してます

それでもシナリオは面白いのでのんびりしていく予定ですが

 

とまぁいろいろ書いてきましたがみなさんの感想とかに自分は割と救われてると思います

以前なろうで初期の頃の作品を軽く書いてそのまま放置してましたが、ふと感想欄を見てみると面白かったっていう感想があってそれでちょっとずつやってこうって気分になることができました

ただそれでも自分はガラスのハートのチキン野郎なのであんまり強い言葉にはなれてません(臆病)

 

これからいろいろ書いていくかもしれませんが頑張って読者の方々が「おもしれー」ってなるような作品にしていきたいです

 

また、このお知らせが投稿されたとき、恐らくはこの作品のリメイク版というか焼き直し版のプロローグ的なのが出てると思います

そちらの方も読んでくださったら個人的に嬉しいです

 

長くなってしまいましたがこの辺にて

ではでは

 

11/20 桐生乱桐




これからもよろしくお願いします
2015年も僅かですので、どうか皆様お健やかに


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#0 そんなありふれた日常

なろうで書いていたとある小説をフルリメイク

つまらないとは思いますが息抜き程度にご覧ください

ではどうぞ


学園都市

 

東京西部に位置する完全独立教育機関の事

 

そこには総勢二百三十万人もの人口(その八割は学生)が滞在し、日々自身の能力開発に打ち込んでいる

 

そんな学園都市の第七学区

 

この区は主に中高生の少年たちが多く住み、故に学生が多い

高級感あふれる〝学舎の園〟や逆に治安の悪い裏路地など雰囲気は様々である

 

「こ…困ります…!! やめてください!!」

 

そんな七区の一角

 

時刻は夜

 

夜と言ってもまだ七時前後の時間帯

 

一人の女生徒が数人の不良らに絡まれていた

学園都市と言えど半数が学生、こう言った輩も少なくはないのだ

 

「いいじゃんよぉー…夜道の一人歩きは危険だぜぇ?」

 

「そうそう、だから俺達が一緒に行ってやるって言ってんだよー…なぁ?」

 

そう言って不良の一人が女生徒の顔にずい、と自分の顔を近づけた

 

女生徒は「ひっ」と小さくかつ短く悲鳴を上げて若干顔を引く

そして小さく目を開けて周囲に助けを求めるべく視線を巡らせる

 

しかしその視線を合わせるものは一人もいない

当然の反応である

好き好んで面倒事を引き受ける人間などこの時代にそうはいない

 

「じゃあ、行こっか。さっさと」

 

言いながら不良の一人がその女生徒の手首を半ば強引に掴み歩き出す

 

「やっ、離してください!!」

 

彼女は力を入れてその男の手を振り払おうとする

しかし相手は男性、女性の力では到底適うはずもなくあっけなく連れられていく

 

「やっ…誰か…! 誰かぁ!!」

 

耐えきれずに彼女はついに声を上げた

誰でもいい、助けてと淡い期待を込めて

 

だが誰一人その声に答えるものはいなかった―――

 

◇◇◇

 

そんなもめごとつゆ知らず

 

一人の少年、鏡祢アラタはコンビニにいた

 

具体的な理由としては自分が所属している風紀委員(ジャッジメント)一七七支部での残業が夜遅くかかりそうだから同僚にお弁当を買ってくるのを頼まれたのだ

まぁ早い話パシリであるのだが

 

適当に彼女たちが好みそうな弁当をチョイスして清算する

ちなみに代金は事前にもらっているのでかかった費用は多くはない

 

さっさと支部に帰ろう、そしてさっさと仕事終わらそう

 

そう心に決めてコンビニを出た矢先

 

 

 

不良に連れられてすすり泣く女生徒の顔が見えてしまった

 

 

 

「…」

 

どうやら今夜は長くなりそうである

決してやらしい意味はない、そう、決して

 

内心で深くため息をついてその不良に声をかけた

 

◇◇◇

 

「もしー、そこの見る限り不良のお方ー」

 

その声を聴いたとき女生徒はえっ、と短く驚いた

完全に諦めて、ただ無感情のまま歩いていたのだから

 

「…ぁあ!? んだよてめぇ」

 

ぎらり、と目を光らせて不良のリーダー格が睨みを利かす

たいていの一般人にはその一睨みで怯むのだが今回は相手が悪い

 

「彼女、嫌がってるじゃないか。だから離してあげられない? でないと―――」

 

そう言って彼はリーダー格に近づいて説き伏せようと言葉を続けようとしたその時にリーダー格が

 

「うぜぇんだよ!! この野郎がっ!!」

 

彼に向かってパンチを打ち出してきた

よけることは造作もないパンチだったが運悪く彼が持っていたコンビニ袋にそのパンチが掠ってしまった

 

「あ」

 

ばっさぁ、と音を立てて袋からお弁当がこぼれていく

 

「やばいやばい…!」

 

軽く焦りを覚えながら彼はお弁当をしまおうと手を伸ばす―――

 

が、そのお弁当は不良たちの足によって粉々に踏み砕かれた

 

バキバキ、と音を立てながら容器は砕け、おかずやご飯はコンクリートと不良グループの足に踏みつぶされていく

 

 

 

ブヂリ、と何かがブチ切れる音が脳内で聞こえる

 

 

 

「…おまえらは習わなかったのか」

 

「…あ!?」

 

「食べ物は粗末にしちゃいけないってさ…」

 

そういうアラタの顔は笑顔だった

 

彼の眼だけは笑ってなかった

 

◇◇◇

 

「じゃああとお願いします」

 

数十分後

 

アラタの通報を受けて付近にいた風紀委員が急行してくる

本来なら自分がしょっ引けば問題ないのだが今回は腕章を支部に忘れてしまっているので他の風紀委員にやむなく頼んだのだ

 

定例会に真面目に出ていないから顔を知られていないから、というものあるのだが

 

「じゃあ後はお任せを。ご協力ありがとうございます」

 

「はい。では自分はこれで」

 

短く挨拶をしてその場から立ち去ろうと踵を返したときに

 

「あ、あのっ」

 

女生徒に声をかけられた

なんだろうとかと思い振りかえり女生徒に視線を合わせる

 

「その…ありがとうございました…」

 

涙ながらにそう言われてアラタはすこしドギマギしたがすぐ冷静になってこう返した

 

「どういたしまして」

 

短くそう返すと今度こそアラタは帰路についた

 

「…あ、弁当どうしようか」

 

すっかり忘れていたことをいまさらになって思い出した

 

◇◇◇

 

「遅いですわよお兄様!!」

 

支部に戻ってきた直後に開口一番待っていたのは同僚である白井黒子からのそんな罵倒だった

まぁ当然であろう

七時前後に出かけて帰ってきたのが八時とだいぶ遅れてしまってしまったのだ

 

「仕方ないだろう。たまたま行先のコンビニでトラブルがあったんだから…」

 

「トラブル? …まぁだったら大目に見てさしあげないこともありますけど…。あ、お弁当買ってきてくださいました? 私はともかく初春がおなかペコペコでございますから…」

 

そういって黒子は首を動かして視線を移す

 

そこには机の上に顔を突っ伏してぶっ倒れてるもう一人の同僚、初春飾利

なんだか魂が抜け出てそうでちょっと怖い

 

「まぁ弁当もちょっとトラブルがあったから今回はこんなもので我慢してくれな」

 

そういってコンビニ袋をさかさまにして中に入っているものを出してゆく

 

ちなみに袋の中身はパン

メロンパン、アンパン、クリームパンと無難な三品

 

「…はて、わたくしたちお金渡したはずじゃ…」

 

「さっきも言ったろ? こっちもトラブル。…先に買った弁当なくしてちまってね。今度なんかおごるから今日はこれで勘弁。すまん、この通り!」

 

アラタはその場ですぐに膝を折り黒子の方に向いて礼をする

 

日本に古来から伝わる伝説の謝罪、〝土下座〟である

 

「そうなんですの? …はぁ…今日は厄日ですわねぇ…」

 

苦笑いを浮かべてパンに向かって手を伸ばす、と伸ばし切る前に黒子は初春に呼びかけた

 

「初春、貴方は何食べますの?」

 

「く…クリームパン…を」

 

絞り出したようなか細い声だった

 

◇◇◇

 

「あ、そうだ白井さん、明日の約束忘れてないですよね?」

 

「約束? あぁ、お姉様のことですのね」

 

「なんだ、なんかあんのか?」

 

残業も終わり支部の戸締りを終わってさぁ帰ろうと支部を出たときに二人が話し始めた

初春はくるりとアラタに向き直って満面な笑顔を作り

 

「実は、御坂さんと会わせてくれるように白井さんに頼んでみたんです。そしたら明日OKって出たんですっ」

 

そう言ってくるくるとまわる初春

 

「おぉ、よかったじゃん。美琴は有名人だしな。なぁ、くろ―――」

 

そう言いながら黒子を見てちょっと思考が止まった

なんか知らないが黒子がぶつぶつ呟いている

おまけ何やら黒い笑みを浮かべながら

 

(…あれは何か企んでる。絶対何か企んでる)

 

そう思わずにはいられない、そんな笑みだった

 

◇◇◇

 

黒子や初春と別れ自宅という名の学生寮へ歩いていく

アラタが通う高校には男子は男子寮、女子は女子寮に住まう制度となっている

責任もってお子さんを預かる、という決意の表れか

 

「ま、憧れるからなぁ。超能力って奴は」

 

夜空を見上げながらなんとなしに呟いてみる

 

超能力

 

誰でも憧れたことはあるだろう

漫画やアニメでよく見るそんな力を使ってみたいと思ったことがないとは言えないのはアラタだって同じだ

しかし現実は非情なもので、才能がないものには容赦なく無能力者(レベル0)の烙印が押されれ不良になってしまうケースも珍しくない

 

「まぁ、俺は割と楽しくやってますけどね」

 

そうして視線を正面に向けたとき懐に入れた携帯が震えだした

 

「あ、そういやマナーのままだったな。…まぁいいか」

 

通話ボタンを押して耳に当てる

聞こえてきたのは聞きなれた声色

 

<アラタ。聞こえるか、私だ>

 

「…橙子か、こんな夜分にどんな用事だ?」

 

<わかりきっているくせに。…例のヤツが現れた。いま位置を送る>

 

言いたいことだけを言ってブツリと電話は切れた

だが慣れたものなので携帯を畳みまた懐へと戻す

その後また携帯にメールが送られた

確認すると位置はここから割と近くで走ればすぐ到着する場所である

 

「…さて、行くか」

 

改めて携帯を戻し、メールで教えられた場所へと走り始めた

 

◇◇◇

 

薄暗い路地の中でゆらりと一人の人影が歩いている

その人影に明確な意思はない

 

その人影は、否、人影のようなものはおおよそ人間とは思えない姿をしている

緑色の皮膚に頭には蜘蛛の足のような装飾品がつけられており、第一印象は〝蜘蛛〟といったところか

彼は人影でなく、怪人と呼称すべきだろう

獲物はどこか、と本能のままに首を動かす

 

背後でガタリ、という物音がなった

蜘蛛の怪人の首がぐるんと振り向いた

視線の先には一組の男女

 

それは噂好きのカップルだった

たまたま見た都市伝説サイトに〝闇夜に怪人を倒す謎の人物〟なる書き込みを見て興味本位に裏路地を歩き回っていただけである

まさかこのような事態に遭遇するなどとは、思ってもいなかった

 

「ね、ねえ…逃げようよ…!?」

 

「わ、わかってる…!! け、けど、足が…!?」

 

言いようもない恐怖に二人の足は完全に止まっていた

このままではどうなることか、そんな少し先の未来すら考えられなくなるほどに

 

「…獲物ダ」

 

怪人が小さく、それでいてはっきりとつぶやいた

その一言だけでこれから何をされるか、明確に理解した

このままだと殺される

それだけは今完全に理解した

 

怪人が一歩、また一歩と歩み寄ってくる

ただそれだけの単調な動きがさらに恐怖を倍増させる

 

そして三歩目を踏み出した時だった

 

カップルの背後から一人の人影がその恐怖を破壊するかの如く飛び出して怪人に拳を叩き込んだ

 

「…え?」

 

女は目を見開き、男はポカンと口を開ける

 

現れたその人物は黒の素体に胸・肩・腕・膝の各部にフォームごとの装甲を纏い、赤い複眼とシンプルな外見をしている

なかでも特徴的なのは頭部の黄色い二本角

それはどことなくクワガタを彷彿とさせた

 

「早く逃げて」

 

二人して呆けているとそのクワガタの人物が話しかけてきた

 

「急げ。まだ間に合う」

 

「は、はい! いこう!」

「う、うん!」

 

男が女の手を引いて一目散に走り出す

その背中が見えなくなるまで彼は見送った後、再び殴り付けた怪人に視線を戻す

蜘蛛の怪人はゆっくりと立ち上がってこちらを見た

 

「…ガ」

 

「悪いな。こんな遅いからもういろんな人に迷惑かかる前に…」

 

彼は地面を適当に見回すと一本の鉄パイプを見つけた

それ蹴り上げてキャッチすると同時、彼の体が青く変わり始める

変わると同時に赤かった複眼も青く変わり夜の路地に発光する

 

「潰させてもらう」

 

鉄パイプを突きつけるとその鉄パイプが形を変える

流水のごとく悪鬼を薙ぎ払うその武器の名はドラゴンロッド

 

「さぁ、始めようか」

 

そしてその武器を所持する男の名はクウガ

 

のちに仮面ライダーと呼ばれる男の一人である

 

 

 

 

 

これは学園都市に住まう一人の男の物語

 

笑顔を守らんと戦うものの物語




クウガ以外も出てきますよ
まだだいぶ先になりますが…



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#EX バレンタイン特別編

特別編です

いつもよりぐだぐだですがご容赦を
二日遅れてるって? こまけぇこたぁいいんだよ!

この話はなんかの片手間にでも閲覧ください

ではどうぞ


その日はなんだか、甘ったるい雰囲気だった

それに気づいたのは自分のは教室に入った時だ

何だか妙にソワソワしている気がする…特に男子陣が

正直青髪ピアスなんて完全挙動不審だ

 

「おっすアラタ!」

 

そんな中で普通に声をかけてくれたのが弦太郎だ

彼の隣には当麻もおり、彼もよぉ、と手を挙げた

 

「おはよう弦太郎、どうしたのさ、今日」

「…またまたー。とぼけんなって、知ってる癖にー」

 

そう言って弦太郎はうりうりとアラタの腹部を肘で小突いた

何が何だかわからないというようなアラタに当麻はカレンダーを指差した

その指を追ってアラタはカレンダーを見る

そこで今日の日付を思い出した

 

「…あぁ、そっか」

 

本日はバレンタイン

確かに男子がソワソワするハズだ

一年に一回ある男子にとっても女子にとっても一大イベントなのだ

 

「んで、弦太郎は貰ったのか?」

「うん? いや、貰ってねぇよ。俺は惚れた女には尽くすタイプだ、どんなとこでもそれは変わらねぇ」

「…うん? それはどういうこった?」

「惚れた女以外からは貰う気ないってこった。気持ちはもちろん嬉しいんだけどよ」

 

なにこのイケメン

同級生の意外な一面を初めて知った気がする

青髪ピアスなら歯を噛みしめてそのまま砕かん勢いで発狂するやもしれない

 

「ははっ、そんな一大イベントでも上条さんの不幸は変わりませんよ。はぁ、出会いが欲しい」

 

そして本気で言っているのだろうかこのウニ頭

そんな呟きをした瞬間、何人かの男子の目線が殺気を帯びた目になった気がするが当の本人は全く気付いてない

クラスメイトからの視線をかき消すように、当麻に一人の少女が歩み寄っていく

 

「ね、ねぇ当麻くん」

 

その少女の名前は鳴護アリサ

かつては一声を風靡したアイドルだが、現在はアラタや当麻のクラスメイトだ

アイドル業はしばし休業しており、卒業するまではやらない、とのこと

そんな彼女が僅かに頬を染めて、当麻の前に立っている

 

「おう、どうした? アリサ」

「そ、その…えっとね?」

 

もじもじと彼女はどこか視線を逸らす

それが数秒続き―――アリサは口を開いた

 

「こ、これ、受け取って!」

 

そう言って彼女は梱包された小さ目な箱を手渡した

 

一瞬、それが何か分からなかった

しかし今日という日付、そしてこのタイミングを鑑みるに、それがどんなものかは容易に想像できた

 

「―――え、俺に!? いいの!?」

「う、うん。えと…一応、手作りだから」

「マジか、ありがとうアリサー!」

 

当然ながら喜ぶ当麻

恐らく彼は一つももらえないと思っていたようだからその嬉しさは半端ないだろう

しかし、受け取った場所が悪かった

 

「なんであいつばっかり―――」

「ころしてでもうばいとるしか――」

「どうやら、考えは皆一致のようやね」

 

嫉妬に狂った男たちは怖い

そう判断したアラタは教室の隅に退避することにした

次の瞬間、「な、なにをするですかー!?」と叫びながら逃走する

その光景をアリサは驚きながらも元気そうなその姿を見て僅かに笑みが零れた

 

「…やれやれ、たかだかチョコでここまで荒れるものなのか」

 

そんなタイミングを見計らってかは分からないが、アラタの隣にはシャットアウラ・セクウェンツィアが歩いてくる

綺麗な黒髪をたなびかせ、やれやれと言った表情を浮かべている

 

「オトコにとってこういうイベントは楽しみなもんなんだよ」

「そういうものか? …よくわからないな」

「お前はそういうのなかったのか?」

「あいにくとな。…なんだ、期待してたのか?」

 

そう言って彼女にしては珍しく意地の悪い笑みを浮かべた

期待していないと言われれば嘘になる…正直少し期待していた自分がいた

少しだけしょぼんとしているとき、すっ、と何かが自分の前に出された

それは梱包されていない、ラップで包まれた星の形をしたチョコレートだった

 

「―――か、勘違いするな。アリサと一緒に作って、その、あ、余って。つ、ついでだついで!」

 

彼女にしては珍しく顔を真っ赤にしながら言ってくるシャットアウラに思わず笑ってしまう

アラタは出されたそのチョコを受け取って小さく笑みを作った

 

「サンキュ、アウラ」

「ふ、ふん。せいぜい味わって食べるがいい」

 

そう言ってどこかそっぽを向くシャットアウラ

最近の彼女はどこか、僅かではあるが笑みを見せてくれるようになった気がする

それは、喜ばしいことだ

 

 

「はい、夜神さんっ」

「…はい?」

 

BOARDのアジトにて

ソファに腰をかけながら思いっきり漫画を読んでいた夜神一真に向かって黒川陸姫はハート形のチョコレートを手渡した

戸惑いながらも一真はそれを受け取る

 

「…なにこれ」

「ちょ、なにこれって! 夜神さん今日何の日か知らないんですか!?」

「知らないし興味もないね。で、今日は何の日だってんだ?」

 

言いつつあろうことかチョコレートをテーブルに置いて漫画を読むのを再開する一真

そんな態度に拳をプルプルさせながら陸姫は口を開く

 

「今日はバレンタインですよバレンタイン! 世の女性たちが気になってる男子たちに思いを告げる一大イベントなんですよ!」

「へー」

 

興味ゼロ

余談だが橘さんには義理チョコを渡したが気持ちだけで問題ないと断られた

しかし夜神はといえば受け取ってはくれたがその視線は完全に漫画に行っており、どうも話が続かない

 

「…はぁ」

 

なんだかすごくショックである

女子として軽く落ち込むレベルだ

部屋に戻ろう、と判断しとぼとぼと踵を返して帰ろうとする

 

「あ、言い忘れてた」

 

不意に夜神が口を開いた

なんだろう、と思いながら彼の方を振り向く

 

「一応、礼は言っとく。…ありがとうな」

 

顔の表情は漫画に入ってはいたが、視線だけが僅かに自分の方に向いていたのを陸姫は見逃さなかった

その視線だけでも、陸姫は嬉しかった

 

「―――いいえ! どういたしまして!」

 

そんな夜神に陸姫は満面の笑みで返す

この感情が届くのは、いつになるやら

 

 

校門から出ると見慣れた金髪がアラタを出迎えた

 

「はぁい」

 

甘ったるい、間延びした声

その金髪の正体は食蜂操祈と呼ばれる人物だ

 

「…操祈、どうしたんだよこんなとこで」

「わざわざ出待ちしてあげたのよぉ? 今日が何の日か知ってるでしょ?」

 

そう言って食蜂は同じように梱包された箱を取り出しそれをアラタの手に乗せる

 

「ハッピーバレンタインっ。…なぁんてね」

 

軽くウィンクする食蜂

いつも通りな彼女に少し安心しつつ、そのチョコを受け取る

 

「…貴方の事だから、もう貰ってるだろうけどぉ…」

 

そこで食蜂は一度言葉を区切る

その後で今度は普段の彼女では見られないような真剣な眼差しをアラタに向けて

 

「―――気持ちだけは、負けてないから」

 

そう言ってきた

その真っ直ぐな瞳に、思わず吸い込まれそうになる

しかしすぐいつもの食蜂に戻り

 

「それじゃ…お返し、期待してるゾ」

 

そんな言葉と共に流れるような足取りで歩き去っていく

彼女の背中を追いかけながら先ほどの表情の意味を考える

―――しかしいつまで考えても分からなかった―――そんなアラタの背後から

 

「―――へぇ、意外に貴様もモテているのね」

「へ?」

 

その言葉に振り返るとそこには吹寄制理が腕を組んで突っ立っていた

 

「…吹寄、見てたのか」

「偶然よ。校門から出ようとしたら話してたものだから」

 

言いながら吹寄はアラタの隣に歩み寄る

 

「…一応、バレンタインという行事に私も乗っかってあげるわ」

 

言ってぶっきらぼうに彼女は市販されているチョコを差し出した

キョトンとしていると吹寄が言葉を付け足す

 

「カカオ八十パーセント。―――言っておくけど、私は甘くないわよ」

「へいへい。…けど、ありがとよ」

 

短く礼を言ってアラタは受け取る

どことなく、吹寄は小さく笑みを浮かべていたがアラタは気づかなかった

 

 

「何かアイデアをボクに教えて。兄さん」

「…は?」

 

学生寮の自分の部屋に訪ねてきたひよりの言葉に天道は口をポカーンとさせた

 

「兄さんも知ってるだろうけど、明日はバレンタイン。…本気を込めたチョコをアラタに渡したいの」

「そ、そうか。それでアイデアって…」

「流石にボクも原材料からチョコを作ろうという気にはならないよ。だけど、アラタがどんなチョコが好きそうか、兄さんなら知ってそうだから」

 

確かになんとなく何が好きそうなのかは多少ではあるが想像できる

天道としては妹の力になってあげたいが知り合いに御坂美琴もいるため、正直言って複雑な気分だ

 

「…アイツなら、どんなものでも受け取ってくれると思うぞ」

「…そう、かな」

「あぁ、結局は気持ちの問題だ。―――おばあちゃんが言っていた、刃物を握る手で人を幸せに出来るのは、料理人だけだ、てな」

「…、わかった。ありがとう兄さん。全力でぶつかってみるよ」

 

そう言って何か意を決したように拳を握ると材料を買ってくると言って天道の自室から出て行った

閉まっていく扉を見送って天道は笑みを零す

そして彼女に向かって呟く

 

「…俺は応援しているぞ、ひより」

 

 

そんな訳で今現在、ひよりは鏡祢アラタにチョコを渡すべく歩き回っている

学校の校門前では兄以外の知人と鉢合わせしてしまう可能性もあるし何よりなんか恥ずかしい

そして現在彼が所属している支部の前で彼が来るのを待っているのだ

…これでもう先に入っていたらもう笑うしかないのだが

 

そんな考えは杞憂に終わり、普通にこちらに向かって歩いてくる人影が見えた

鏡祢アラタだ

 

「…あれ、ひより」

「そ、その、何も言わずに、受け取ってくれ」

 

どうにも彼を前にすると呼吸が早くなる

すっかり恥ずかしさが勝ってしまい半ば押し付けるような形でチョコを渡す

 

「え、えと?」

「べ、別に、お返しとか入らないからなボクは! それじゃ!」

 

そのまま逃げるようにひよりは風のように走り去ってしまった

そんなひよりの背中を戸惑いながら見つめて、一人首をかしげていた

 

 

「はい、パパ! どうぞっ」

 

伽藍の堂にて

同じようにバレンタインを謳歌している人たちがここにもいる

 

「はは、ありがとう未那」

 

笑顔でそれを受け取って頭を撫でる幹也

未那も嬉しそうに眼を細めてそのなでなでを堪能する

 

「はい、兄さん。私からも」

 

なでなでを終えると今度は鮮花からもチョコを受け取る

同じように笑顔でそれを受け取ってありがとうと礼を言う幹也に、今度は式も歩み寄り

 

「ほら。オレからもやるよ」

 

若干ながら頬を染める式から幹也は先ほどと同じように笑顔を浮かべる

が、やはり式から貰った時の表情が一番嬉しそうなのを橙子は見逃さなかった

まぁ奥さんだし当然である

 

「鮮花、ところでアラタにはやらないのか?」

 

何となく気になったので聞いてみる

ちなみ本日は本人は支部に顔を出しているようで、おそらく彼もそっちで同僚から受け取っているだろう

 

「私は後で上げますよ、お兄様にっ」

「オレも一応やるぜ? 市販のやつだけどな」

 

どうやら未那、式両名あげる予定のようだ

それに続くように鮮花も

 

「上げますよ? 義理ですけどね。そう言う燈子さんはどうするんですか?」

「私か? 私はチョコはやらないよ。伊達くんの所に誘うくらいかな」

 

…たまには伊達を交えてアラタと話すのも悪くはないと、素直にそう思った

そんな彼女を見て、鮮花は笑む

 

「―――ふふ、橙子さん、だいぶ笑うようになりましたね」

「うるさいぞ、鮮花」

 

 

支部から帰り道

どういう訳か残った仕事は初春と黒子がやってくれると買って出てくれて、今回はそれに甘えさせてもらった

みのりのご飯とかもあるし

そして案の定、義理ではあるが初春や佐天、固法や黒子、神那賀からチョコを受け取っている

因みに神那賀のは割と力作らしく、普段変身に用いてるセルメダルの形をしていた

 

鞄の中には入っているが、溶けていないか心配だ

 

そして隣には御坂美琴も歩いている

支部から帰ると言ったとき、門限も近づいてきたという事で、そして残る黒子の事も寮監に言わないといけないようで美琴も帰ると言った

そんでもって必要はないと思ったが途中まで送ることにしたのだ

 

「…アラタ」

 

不意に後ろを歩いてた美琴が口を開いた

 

「うん?」

「はい、…これ」

 

伏し目がちになりながら彼女が取り出したのは、梱包されたチョコレート

形は四角だが、隅の方のリボンが目立つ

 

「ホントは、皆と一緒の時に渡せばよかったんだけど…その、出来れば、二人っきりの時に渡したかったから…」

 

視線を下に向けつつも、時折こちらを伺うように視線を向ける

美琴の恥じらいが伝わったのか、なんだかこちらも恥ずかしくなってきてしまった

 

「―――本気、だから」

 

僅かな、しかし確かな決意を込めたその小さな呟きに、アラタが気づくことはなかった

いや、気づいていたらいたでそれはそれで困るのだが

 

「…ありがとう、家でゆっくりいただくぜ」

 

笑顔で受け取ってくれた彼を見るだけで、何となく今日は満たされた気がした

 

「―――うん」

「さ、早いとこ帰ろうぜ、門限近いんだろ? …こんな時にビートチェイサーに乗ってきてないからなー」

「ううん。大丈夫よ」

 

―――そっちの方が、長く一緒にいられるから

 

 

美琴を送って帰ってくると辺りは薄暗くなっていた

だいぶ待たせてしまったと思いつつもアラタはドアに手をかけて扉を開ける

すると

 

「おかえりっ」

 

そう言いながら抱き着いてきたのはみのり―――ゴウラムである

アラタは彼女を抱き留め頭を撫でるとそれに「ただいま」と返す

返された後でゴウラムは身体を離れ、はい、と箱に入れられた一口サイズのチョコを渡してきた

 

「…これは?」

「今日はバレンタインって言うんでしょ? 日頃のお礼をする日だって、トウコが言ってた」

「橙子が? …まったく」

 

間違ってはいないのだけど

 

「インデックスと一緒に作ったんだよ。楽しかったなぁ…アラタにも見せてあげたかったよ!」

 

楽しそうに話すみのりを見て、まぁいいかと思うアラタだった

 

 

上条当麻が自分の寮に帰ってきた時に視界に入ってきたのは珍しく出迎えてくれたインデックスの姿だった

今日一日いろいろ追い掛け回された当麻としてはぶっちゃけ休みたかったがなんだかそれを言い出せないような空気があった

 

「はいこれ、ばれんたいんなんだよ」

「―――へ?」

 

今この腹ペコシスターは何を言ったのか

当麻は確認のために、もう一回聞いてみる

 

「えと、インデックスさん?」

「ばれんたいんっ」

 

まさかくれるというんだろうか

カップラーメンを三分待てないこのシスターが

 

「みのりと一緒に作ったんだよ? まぁ、溶かして型に流して固めただけだけど」

「お、おう…」

「日頃の感謝を込めたんだよ、いつもありがとうね、とうま」

 

言葉を失う

そして図らずも笑顔を作る

当麻はそれを受け取って、インデックスの頭を撫でた

 

「―――あぁ、ありがとよ、インデックス」

 

そして彼女も、笑顔になる

 

心の中で、当麻は思う

この笑顔を、ずっと守れるように

 

改めて、心に誓うのだった




バレンタインやっときながらホワイトはやるか未定です

ごめんなさい


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幻想御手編
#1 電撃使い


注意

一話とは思えないほどに長くなってしまいました
ぐだぐだ
文法おかしいグロンギ語
最初しか出番ないクウガ

相変わらずです

そんなのでよかったらどうぞ


シャン、とロッドを振るい蜘蛛の怪人の足を払う

 

蜘蛛の怪人は「ガッ!?」と短く声を上げて転倒するが、そのままの状態で口から糸のようなものを吐き出し、クウガの動きをとめようと試みる

 

「あぶなっ」

 

青いクウガは軽く跳躍し蜘蛛怪人の頭上を飛び越えると再び怪人の方へ向き直り再びロッドを構える

 

蜘蛛怪人は立ち上がって態勢を立て直すとそのまま青いクウガへと襲い掛かった

しかし手慣れた様子でクウガは怪人の腕にロッドを通し腕の自由を奪うとその遠心力を利用して自身の前方へと投げ飛ばす

 

「ガァァァ!?」

 

どしゃぁ! と勢いよく音を立て背中を強打し苦しそうにもがく怪人を尻目にクウガは

 

「…さて、終わりだ」

 

クウガは仮面の中でゆっくりと瞳を閉じる

少し閉じたのちカッ! と目を見開いた

仮面の中の瞳は蒼く煌めき、輝きをおび、クウガの複眼は闇夜に強く輝いた

 

そしてあらためてドラゴンロッドを構えて力を込める

よろよろと立ち上がった蜘蛛怪人を深く見据えてつぶやく

 

 

 

「…視えた」

 

 

 

完全に立ち上がったタイミングを見計らってクウガは前へ駆け、そしてその胸部に視えたその点に向かってドラゴンロッドと突き出した

 

ビュン、と放たれたドラゴンロッドは風を斬りその怪人の胸部にヒットする

 

その部分を中心に怪人の体に波紋が広がり、ベルトが砕け、体が崩れ始める

 

ジャグサバビ(やすらかに)べルセ(ねむれ)

 

ベルトが砕けると同時に怪人の体も砂のように消え去った

 

シャン、とロッドを振るいまた調子を整える

 

「…慣れねぇな。この目は」

 

自身の能力は直死魔眼(イーヴルアイズ)

目で視た線、点をなぞる、突くと対象を(コロ)す能力を保持しているが、いかんせんアラタは使いこなせていない

ごくたまにしか使わないようにしているのだ

おまけになぜか身体測定(システムスキャン)には引っかからず、レベルは0と謎の能力

 

「…それにしてもワームとかこんなのとか…増えてきてるな…。気をつけないと」

 

ぼそりとつぶやくとクウガは路地裏の闇へと消えていった

 

その後ろ姿を路地裏に設置されていたカメラが静かに眺めていた

 

◇◇◇

 

翌日の事

 

昨日の事を手短にメールで済ますとアラタは制服を着こみ冷蔵庫へと直進する

ガチャリと冷蔵庫の中を確認…するが質素な冷凍食品しか入っていない

 

「…朝はコンビニかなー」

 

適当につぶやくとまた大きく背伸びをする

背筋がピンと伸び多少といえど若干ながらも眠気が消え意識もはっきりとしてくる

 

「…今日は特に何もないから―――」

 

全力で休もうかなと考えた直後携帯が勢いよく鳴り出した

まるでこちらの行動を先読みして先手を打ったようなタイミング

 

「…えーと」

 

浮かび上がる不吉な考えを振り払いつつ携帯を開き通話をしようと耳に当て部屋のドアを明けて一歩踏み出したその瞬間だった

 

「ナイスタイミングですのお兄様!」

 

「え」

 

驚く余韻に浸る間もなく突如現れた黒子によってアラタはどこかに一緒に空間転移(テレポート)させられた

 

◇◇◇

 

「もっと穏便にできねーのかお前は!」

 

「急いでいらしたのです! それくらい大目に見てくださいまし!」

 

現在空中を黒子と一緒にテレポートで移動中

白井黒子の能力はレベル4の空間転移(テレポート)

 

自身や触れたものを瞬時に移動させる

距離・重さ・個数・発動条件などに制限があり、テレポートの精度は転移させる物体の重量に関係なく、飛距離が限界値に近いほど甘くなるらしい

加えて上記のとおり触れたものに限られるが、複数の物体を転移することも可能

なお彼女の場合、連続で自身を転移させる際の直線での移動は時速に換算すると、約288km/hほど

このことから自身の連続転移では、一度テレポートしてから再度行うまでに1秒ほどのラグがあるようだ

 

「で、暴漢だっけ!?」

 

「えぇ、先ほど初春から連絡がありましたの! 場所は―――」

 

「あぁなるほどな、そこならもう大丈夫だ! 黒子、先に行け!」

 

「わかりましたわ!」

 

そこで会話が途切れいったん黒子は低空へと移動しアラタを地上にやると再び黒子は転移を再開しその場から消えた

それと同時にアラタは目的地に向かって走り始める

 

ここからなら急げばすぐ到着するはずだ

 

◇◇◇

 

「ここら辺のはずだけど…」

 

付近にたどり着いてきょろきょろと見回す

そういえば場所は聞いたが詳しい詳細までは聞いてなかった

今度からは短く詳細でも聞こうかな、と考えたその直後だった

 

バリバリバリバリ!! と雷のような音が耳に聞こえてきたのだ

 

「わわ!?」

 

思わず体がビクッとなる

それと同時に顔が青ざめていくのをしっかりと感じていく

 

「…嫌な予感」

 

そんな感覚を感じながら音のなった方へ足を向けた

 

そして目にした光景は案の定な光景だった

 

〝彼女〟の雷撃にやられぶっ倒れる暴漢と思しき数人の不良とその中心に一人の女性…〝彼女〟である

 

「…やっぱりお前か」

 

「んあ…? あ、アラタじゃない」

 

前髪にバヂリと雷を迸らせ、友達に会ったような気軽さで彼女…御坂美琴、通称〝常盤台の超電磁砲〟はアラタの名前を口にするのだった

 

◇◇◇

 

「…何度申し上げればわかってくれますの」

 

ぐたーといった様子で黒子は呟いた

アラタとほぼ同じタイミングで駆け付けて腕章を見せつけて彼女特有の決め台詞を言い放った後に彼女の存在に気づき顔が驚きに染まったのは記憶に新しい

ついさっきの事なのだが

 

「仕方ないじゃない、先に手を出してきたのはあっちだし。だいたい学園都市だって名前負けしてるのよ。街中にいろんなセキュリティ張り巡らしてもああいう馬鹿はいなくならないし」

 

言いながら彼女は自販機の前に止まった

軽く靴の履き心地を確かめながらつま先をとんとんと叩く

 

「お姉―――え」

 

黒子は一瞬戸惑ったがすぐにまた驚愕の色に染まる

対してアラタはまたか、といった表情で美琴の行動を見守った

 

「ちぇいさーっ!!」

 

次の瞬間、美琴はその自動販売機の側面に回転回し蹴りを叩き込んだ

がたがたん、と音を立てて自販機は取り出し口に黒豆サイダーなるものを吐き出した

ちなみに美琴はスカートを履いているが、その下には短パン着用済みなので問題ない

 

「結局、私らの生活には関係ないじゃん」

 

そのまま慣れた手つきで黒豆サイダーを取り出してプルタブをかきょ、と開けて口をつける

…ところで黒豆サイダーってどんな味なのだろうか

無難な巨峰ソーダのようなものしか飲まないアラタには予想できない

 

「相変わらずお嬢様の欠片もないな」

「うっさいわねー。あんたには問題ないじゃない」

「まぁね。そっちの方が付き合いやすいし」

 

そんな軽口をたたきあう美琴とアラタ

一方で黒子は両膝を抱えたままに

 

「お姉様…またスカートの下にそのようなお召し物を…」

 

彼女も彼女で変わらない変態クオリティ

黒子は美琴を慕ってはいるが少々行き過ぎてレズっているのだ

 

その発言を聞いた美琴は「ぶっ!?」とむせてしまい軽くせき込んで息を整えた後

 

「どこ見てんのよアンタ!! この方が動きやすくて―――」

 

そう言って黒子に近づこうとしたときに、サイレンのような警報が耳に届いてきた

警備ロボットだ

 

恐らく自販機に蹴りをブチ当ててしまってセンサーか何かに引っかかってしまったのだろう

それに気づいた黒子はアラタの手首をつかみ、残った右手で美琴の手を掴むと付近に位置する高層ビルの屋上に空間転移した

 

その場に残ったのは駆け付けた警備ロボットと美琴が落とした黒豆サイダーの容器だけだった

 

◇◇◇

 

「ま、派手に動くのもほどほどにな」

 

「…わかってるわよ」

 

屋上の手スリによっかかってる美琴はむすーとした表情で呟き返した

 

その光景を見ていた黒子は笑みを浮かべながらふと空を飛ぶ電子飛行艇を見て

 

「あらいけない。急ぎませんと」

 

その声につられて美琴も空を見上げる

 

「あぁ、そういえば今日、身体測定(システムスキャン)の日だっけ」

 

 

「じゃあまた後でなー」

 

「えぇ。じゃあまたいつものファミレスでね」

「それではまたー」

 

身体測定(システムスキャン)に向かった美琴と黒子にいったん別れを告げたあと時間を潰そうと練り歩く

 

第二左探偵事務所にでも顔だしてみようか、とも思ったがまた依頼(ペット探し)かなんかを手伝わされたら面倒だ、と結論付けてそこはなし

 

じゃあ伽藍の堂か、とも思ったが確実に燈子に面倒事を押し付けられる予感がしてならないのでこれもなし

 

「…」

 

むむむ、としばらく歩きながら考えた結果

 

「操祈はどうかな」

 

操祈―――食蜂操祈とは常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)の名前である

知り合ったのは四月の頃でその時軽く一悶着あったが今回は割愛させてもらう

 

「…いや、今常盤台じゃ身体測定やってるからな…これもなしだ」

 

結局候補はすべてなし

仕方ないので無難にコンビニで時間を潰すことにした

 

◇◇◇

 

警備員(アンチスキル)のとある施設

 

「…ふう」

 

一人の男性が訓練終わりのベンチに腰掛け疲れたような息を吐く

 

「…気が重いなぁ」

 

男性の名前は立花(たちばな)眞人(まこと)

学園都市の警備員(アンチスキル)に所属する一介の青年である

 

「ため息なんてついて珍しいじゃん?」

 

「あ、黄泉川さん」

 

そんな様子の眞人に対して一人の女性が声をかけた

その女性の名前は黄泉川愛穂

彼の同僚にして緑のジャージの上からでも分かるナイスバディの持ち主である

 

「どうしたよ。悩みがあるなら聞くじゃん?」

 

「いえ…悩みというわけじゃないですが…その今日決まったことに実感持てなくて」

 

「決まったこと…あぁ、G3ユニットの事?」

 

G3ユニット

最近毎夜ごとに出没する怪人やドーパント、そしてそれを退治する戦士…それらに対抗するべく作られたパワードスーツ型の強化ユニットである

ベースはその退治する戦士であるがいかんせんデータが少なく、ほとんどがオリジナルの産物である

 

「けど問題ないじゃんよ。体力レベル的にもお前さんが適任じゃん?」

 

「別にそれは問題ないんです。与えられた仕事は責任もって果たしますし…けど、いざもらってみると…」

 

そんなことを言うと黄泉川は眞人の肩をバシッ! と勢いよく叩いて

 

「痛っ!?」

 

「細かい事でくよくよすんなよ! 安心しろって。私や鉄装、影山さんや矢車隊長だってサポートしてくれるじゃんよ。だから、一人で気負うな」

 

そう言って軽く笑みを浮かべる

こういったさりげない心遣いが黄泉川のいいところだ

 

「…えぇ、ありがとうございます」

 

今はその小さな心遣いに感謝をしつつ、目の前のディスプレイを見た

その画面には暗い路地裏で戦う二本角の男の映像が映し出されていた

 

◇◇◇

 

ファミレス〝Joseph's〟

ちなみに読みは〝じょせふ〟である

某奇妙な冒険とは関係はない

多分

 

で、現在

暇をつぶしたアラタは身体測定を終えた美琴と黒子と共にそのファミレスにいた

そのテーブルの一角

 

「私のファン?」

 

美琴はほおづえを突きながら黒子の言葉を聞き返した

 

「あぁ。昨日言ってた奴か」

 

「えぇ。一七七支部でわたくしたちのバックアップを務めている子ですの。一回でいいからお姉様とお会いしたいと事あるごとに」

 

言われてみれば結構な頻度で聞いていたような気がする

その時はほかの作業に没頭していたのであまり気にならなかったが

 

「…はぁ」

 

対する美琴はあまり乗り気じゃないのか小さくため息を吐く

だが彼女の場合は仕方ないと言える

何せ彼女は〝常盤台の超電磁砲〟と言われ尊敬と敬意の念を込められている

いわば常盤台の中では本物のお嬢様なのだ

 

「お姉様が普段ファンの子たちの無礼な振る舞いに参っているのは存じてますわ。しかし、初春は分別をわきまえたおとなしい子」

 

言いながら黒子はカバンから一冊の手帳を取り出した

恐らく今回の事記した予定帳なのだろうか

 

「ですからここは黒子に任せ―――」

 

しかし美琴はその手帳に違和感を持った

それはアラタも同じだった

昨晩に見せた黒子の変な笑いは違和感を持たせるには十分だ

アイコンタクトで合図を送る

伝達が終わると同時美琴は黒子からその手帳を奪い取った

 

「っあ!? ちょ―――」

 

慌てて手帳を取り返そうと手を伸ばす黒子をアラタが顔面を抑えて制する

 

「…初春を口実にしたお姉様たちとのデートプラン…? …ほお。つまり大人しくて分別をわきまえたその子を利用して、自分の変態願望をかなえよう、と」

 

「あ…、あの…その…」

 

だらだらと黒子の額から汗が溢れ出てきた

恐らく焦りからの汗

 

「…な事だろうと思ったよ」

 

昨日は友達思いだなー、と思っていたのに

…しかし初春を利用してまで美琴と親睦を深めようとしたその姿勢にだけは感服する

見習いたくはないけど

 

「読んでるだけですげーストレス溜まるんだけどぉ!!」

 

そう言って美琴は黒子の両ほっぺをみょーん、と伸ばし始めた

ひとしきりみょーんとした後に美琴は落ち着いたのか座りなおすと

 

「…まぁ黒子の友達なら、仕方ないか」

 

やれやれといった表情で美琴はテーブルに置かれた水を一口飲む

 

「まぁ初春が良い子なのは俺も認めるからさ。大目に見てあげてくれ」

「アラタがそう言うなら。…けど黒子の友達でしょう? 最初から仲良くするつもりよ、…て、黒子?」

 

半ばフリーズした黒子

数秒経って「おーふたがたぁ!!」と言いながらアラタと美琴の間にジャンプしてきた

ていうか座ったままの状態からどうジャンプしたのだろうか

 

「おわ!? ちょ、やめなさいって!!」

「そうだぞ!? さすがに迷惑―――」

 

そう言って何気なく窓の外を見た直後青ざめた

 

なぜなら初春が友人であろう女の子と一緒にこんな光景を見ていたのだ

さらに

 

「お客様…」

 

「え?」

 

「あの…ほかのお客様のご迷惑になりますので…」

 

一人の黒子(バカ)のいらん行動により、本来ならなかなか言われない言葉を言われた

 

とりあえず二人で一発殴っておいた

 

◇◇◇

 

ファミレスを出て初春とその友人に合流

美琴とアラタはそれぞれ右手と左手を軽くプラプラさせているが理由は頭をさすっている黒子を視れば明白である

その様子を初春と友人は苦笑いで見ていた

見てるしかなった

 

「えぇ…では、改めてご紹介しますわ…」

 

さすりさすりと頭をさすりながらぴっ、と手を初春の方へ向ける

 

「こちら、柵川中学一年…初春飾利さんですの」

 

言われた初春ははっ、となった感じで表情を赤く染めながら緊張した様子で

 

「はっ、初めまして…初春飾利、です…」

 

憧れの人に初めて会うのだという緊張からかあまり凝った紹介などでなく、シンプルなものだった

そして黒子は初春の隣へと視線を移す

しかし黒子はその友人と面識がないから紹介のしようがない

 

「それからそちらは…」

 

故に言葉が詰まってしまった

 

「あ、どーもー。初春のクラスメイトの佐天涙子でーす。なんだかわかんないけど、ついてきちゃいましたー。ちなみに能力値は無能力者(レベル0)でーす」

 

皮肉たっぷりに自分のレベルをアピールする佐天

そんな佐天をまずいと感じたのか初春は「佐天さん何をっ!?」と驚いた様子で彼女を咎めようとするが

 

「佐天さんに、初春さん…ね」

 

美琴は確認を取るように二人の名前を暗唱すると改めて二人を見て

 

「あたしは、御坂美琴。んでこっちは―――」

「鏡祢アラタだ。よろしくな」

 

そう二人して親しみやすい笑みを佐天と初春に向ける

てっきり何か言われると思っていた二人は若干拍子抜けした様子で

 

「…よろしく」

「おねがいします…」

 

そう思わず返答していた

 

「ごほん」

 

皆の自己紹介が軽く済んだところで黒子がわざとらしく咳払いをする

割って入ることで主導権を握ろうと踏んだのだ

 

「では…つつがなく紹介も済んだところで…。多少の予定は狂ってしまいましたが、今日の予定はこの黒子がばっちり―――」

 

全部言い切る前に美琴のげんこつとアラタのローキックが同時にヒットした

頭と弁慶の泣き所同時に衝撃をもらってしまい「はうあっ」と短く嗚咽を漏らしながら黒子はうずくまった

 

「…ったく。…まあこんなとこにいてもしょうがないし…」

「てっとり早く遊ぶなら、無難なゲーセンかな」

「そね。そこにいこっか」

 

行き先が三秒で決まってしまった

 

そんなあっけなくていいのだろうか、と考える初春と佐天の心配をよそに美琴は持っているカバンを肩にかけ、準備万端

 

「おら黒子。行くぞ」

「お、鬼ですわお兄様がた…」

 

そしてまた美琴いまだポカンとしている二人に向かって小さく微笑んだ

 

◇◇◇

 

「まったくもう、お二人ったら…ゲームや漫画などではなく、もっとこうお琴とか書道とか…お上品な遊びを学んだりとかはなさりませんの?」

 

そう前を歩く黒子はぐちぐちとまるで小姑みたいにぶつくさ言う

 

「っさいわね…だいたい、茶とかのどこがあたしらしいのよ」

「そうだぞ。つぅかそんな美琴気持ち悪ぃ―――あたっ」

 

言葉の途中で腹部に軽い痛み

美琴に肘で腹をド突かれたのだ

 

「それはそれでムカつくんだけど?」

「いた、痛いって。ごめ、ちょ、さーせんっ」

 

そんな光景をすぐ後ろで見ていた初春と佐天はちょっと驚いた様子で眺めていた

 

「…なんかさ、全然お嬢様じゃなくない?」

「上から目線でもないですしねぇ…」

 

少なくとも佐天は最初こそ彼女に好印象はなかった

常盤台の名門に通うお嬢様

上から目線でとっつきにくそう…

それが名前を聞いたときに思った最初の印象だ

 

しかし蓋を開けてみればそんなものは微塵も感じさせないほどの気さくな人となりに親しみやすい明るさ

少なくとも自分が思っていたお嬢様のようなイメージは完全に払拭された

 

「…ん? なにそれ」

 

ふと初春を見てみると手にチラシが握られていた

チラシを覗き込むように佐天が首を伸ばす

 

「新しいクレープ屋さんですよ。なんでも先着百名にゲコ太ストラップがもらえるらしいですね」

 

そのチラシの真ん中右らへんに大きく件のゲコ太ストラップのイラストが大きく書かれていた

 

「わ、なにこのやっすいキャラ。今どきこんなのに食いつく人なんて―――」

 

そう佐天は言いかけてどしん、と目の前を歩く美琴とぶつかってしまった

 

「あ、すみませ―――え?」

 

しかし美琴は佐天の謝罪に耳を貸すことなく受け取ったチラシをくいるように見つめていた

それはもう真剣に

 

「…御坂さん?」

 

初春の呼びかけでやっとはっ、となった様子で初春に振り返った

 

「へ?」

「なんだ、どうした美琴…ん? クレープ屋に行きたいのか? それとも、その特典の方が目当てかな?」

 

「えっ!? そ、そんなわけないじゃない!! わ、私は別にゲコ太なんか―――」

「あらあら? お兄様は別にゲコ太と言ってはおりませんのに…?」

「―――はっ!?」

 

最後の最後に地雷を踏む美琴だった

 

◇◇◇

 

そんなわけでふれあい広場に到着した御一行

そのクレープ屋は移動式のクレープ屋らしくこのたび、このふれあい広場に新規オープンしたらしい

それで現在はオープンフェアで先着百名にゲコ太ストラップがもらえるとかなんとか

 

しかし今現在このふれあい広場には結構な数の子供たちが溢れ返りそうなくらいいた

おそらく今度学園都市に入ってくる子供たちであろう

その証拠にバスガイドであろう女性が

 

「休憩は一時間ですー! あまり遠くに言ったら駄目ですよー!」

 

と大声で注意を言っていた

 

「タイミングが、悪かったですね…」

そんな微笑ましい光景を見ながら初春は呟いた

これは先に席を確保した方がいいかな、と考えた黒子は

 

「先にベンチを確保してきますわ」

「あ。じゃあ私も」

 

それに初春も便乗し、二人は列を離れる

離れる際、アラタの後ろに並んでいた佐天に初春たちはこう告げた

 

「佐天さん、私たちの分も、おねがいしますねー」

 

唐突に言われた一言に佐天は「え?」っと素っ頓狂な声を上げる

しかしそこに黒子の追撃

 

「お金は後で払いますわ―」

 

そう言って二人は先にベンチを確保しに向かってしまった

取り残される佐天、美琴、アラタ

ちらり、と佐天は美琴を見る

彼女は腕を組みながらまだかな、まだかー、っと言った様子で人差し指をパタパタさせてる

 

「…え? 何?」

 

佐天の視線に気づいた美琴は若干イラついてるような感じがした

恐らくなかなか進まないこの列に少々イラついてるのだろう

 

「い、いえ…その、順番変わります?」

 

佐天がそう言うと美琴はパァ! と笑顔になるがすぐさま表情を戻し

 

「べ、別に順番なんて! 私は、クレープさえ買えればそれで―――」

 

そう言いながらも彼女の視線は先ほど購入したときにストラップをもらった子供たちに目が行っている

それをちょっとうらやましそうに見てるのだ

 

「…はぁ」

 

思わず苦笑いをしてしまった

想像と全然違う表情をするものだ

 

「ちょっととっつきづらいか?」

 

「へっ?」

 

不意に前を並んでいたアラタが彼女に声をかけられた

 

「それともちょっとイメージと違うって感じか?」

 

「えと…、そうですね。ちょっとびっくりっていうか…驚いたっていうか」

 

たはは、と佐天は笑みを作る

そのしぐさにアラタははは、と笑いながら

 

「まぁ最初に見たら驚くよな。思ってるのと全然違うんだもん」

 

けどさ、とアラタは続ける

 

「それがあいつのいいところだと思うんだ。親しみやすいというかさ」

 

「はい。それは…私も同じです」

 

そんな雑談を交わしていると順番がアラタに回ってきた

 

「そだ、俺黒子の分買うから、佐天は初春の分頼めるか?」

「全然大丈夫ですよ」

 

短く交わすとアラタはクレープを適当に頼む

少し待つと店員のお姉さんがクレープを二つ持ってくる

アラタはそれを受け取ると今度はお姉さんがゲコ太ストラップを差し出してきた

 

「どうぞ。最後の一個ですよー」

 

「はい、最後の―――え? 最後?」

 

その直後背後でガクンッ、と勢いよく膝が崩れる音が聞こえた

当然ながら美琴である

 

「美…美琴?」

 

アラタがゆっくり声をかけると猫みたいな目になっていた

若干潤んでる

よほど入手できなかったのが悔しかったのか

 

「あぁ…ほら、俺のやるから」

 

「え!? いいの!?」

 

「お、おう」

 

そう答えると美琴はアラタの手を握りしめて

 

「ありがとぉぉぉぉぉ!!」

 

普段の彼女から想像できない感謝が聞けた

それはもう全力のありがとうにちがいない

 

◇◇◇

 

「ほらお姉様ぁ、遠慮なさらずにぃ」

「入らないって言ってんでしょ!! 何をトッピングに納豆と生クリームなんか…!!」

 

現在初春らが座っているベンチの目の前で美琴と黒子が追いかけっこをしている

その光景を微笑ましく見ながら三人は手に持ったクレープをついばむ

 

ちなみにベンチに座っているのは佐天と初春、その付近に立っているのはアラタだ

 

「よかったですね」

 

「え?」

 

ベンチでもふもふとクレープを食べている初春が不意に佐天に話しかける

彼女は一度クレープを食べるのを止めそのまま続けた

 

「御坂さん。お嬢様のイメージとはちょっと違ったけど…、思ってたよりずっと親しみやすい人で」

 

初春に言われまた改めて黒子と戯れている(?)美琴を見て

 

「…うん、そだね」

 

そう静かに同意した

 

「けどあんたの友達にはついていけないかも…」

「ははは…」

 

そう話している二人を見ながらアラタも同様に笑みを零す

微笑ましいなぁ、とかそんな事を考えながら

 

「…ん?」

 

おもむろに怪訝な表情をした初春がとある一点を見つめた

見つめた視線の先には銀行があった

しかし現在時刻は真っ昼間、銀行ならまだ経営していても問題ないはずなのだがどういうわけか防犯シャッターが降ろされている

 

「どうした、初春」

 

「いえ…あそこの銀行…どうしてまだ昼間なのに、防犯シャッター降ろしてるんでしょう…?」

 

そんな初春の何気ない一言に戯れていた二人も、佐天もアラタも初春が見た視線の方向に移す

 

じ、と見ていたその数瞬後

 

 

ボォゥン!! と激しい音と共に防犯シャッターが内側から吹き飛んだ

 

 

 

『!?』

 

 

 

広場にいた人々に戦慄が走る

それが強盗なのは誰が見ても明らかだった

 

「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と、怪我人の有無の確認! 急いでください!」

 

「は、はい!!」

 

こういう時の黒子の対応力は高いものがある

食べかけのクレープを一息に食べ切り、そう指示を飛ばすと初春らが座っていたベンチを乗り越え、道路に着地した

 

「俺も行くぞ、黒子」

 

アラタも同様に飛び越えて、黒子の隣に着地する

それと同時に二人はポケットから風紀委員(ジャッジメント)の腕章を取り出すと右腕にそれを通す

 

「黒子! アラタ!」

 

思わず美琴は二人の名前を呼んだ

あわよくば手伝おうとも思っていたのだが

 

「っと、美琴、気持ちは嬉しいがここから先は風紀委員の仕事だ」

「ですからお姉様は今度こそ、お行儀よくしていてくださいな」

 

そう言って小さく笑みを作る二人を見て、美琴は二人を送り出す

〝二人なら問題ないか〟

そう確信して

 

 

「おら、ぐずぐずすんな!!」

 

もくもくと黒い煙が立ちこもる銀行の中から五人の男性が出てきた

全員口元にスカーフを巻いておりそれぞれがバッグを持っておる

恐らくその中に現金を入れてあるのだろう

 

「さっさとしねぇと―――」

 

「お待ちなさい!!」

 

しかしみすみす逃がすはずもなく、その男たちの前に黒子とアラタが立ちはだかる

黒子は右腕にかけてある風紀委員(ジャッジメント)の腕章を見せつけながら高らかに言い飛ばす

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!! 器物破損、および強盗の現行犯で、拘束します!!」

 

対して言われた側の強盗グループはそれぞれ顔を見合わせたあとまたアラタと黒子を見る

その行動の意味が分からない二人も一度顔を見合わせたのち、同じように強盗グループを見た

 

その後

 

『あーひゃっはっはっは!!』

 

全力で爆笑された

 

「ひゃひゃひゃ!! なんだよこのガキども!!」

「風紀委員も人手不足かぁ!!」

 

笑いまくる強盗たちを尻目にアラタはちらりと黒子の方へ視線をやりながら

 

「…ガキだってさ-、黒子が」

「いえ、こういう場合お兄様も入るのでは」

「…だよね」

 

一通り笑い飛ばした強盗グループのうち、三人が一斉に走り出してきた

恐らくすぐ突破できるとふんだのだろう

 

「黒子、先行くぜ」

「ええ、どうぞ」

 

黒子と短いやり取りをしてアラタはそいつらが近寄ってくるのを待つ

 

「おら兄ちゃん、そんなとこにいっと、怪我すっぞ!!」

 

まるでテンプレのようなセリフを言いながら強盗の一人がアラタめがけてパンチを繰り出してきた

 

「…そんな定番なセリフは」

 

自分に飛んでくるパンチを片手でばしっと受け止める

その時強盗の表情が驚きに染まるがアラタは動くのをやめない

 

「そぉぉぉいっ!!」

 

そのまま腕へと掴み直し相手の体重を利用して勢いよく放り投げる

一本背負いの要領だ

 

「のわぁぁぁ!?」

 

ビタンっ!! と大きな音を立て強盗は地面にたたきつけられた

そのままかくんと気を失う強盗

最後に男を見下ろしながらアラタは言う

 

「死亡フラグだぜ?」

 

そして同様に驚いている残り二人の強盗に視線を移す

アラタは余裕たっぷりに手先でちょいちょい、と指を動かす

 

「あ…の野郎!!」

「ぶっ殺してやる!!」

 

挑発につられて我を忘れた様子の二人がアラタに向かって一直線に突っ走ってくる

…想像以上に釣られたものだ、と内心で苦笑いしながらアラタはそいつらを見据える

 

先に仕掛けてきたのは自分から見て右側の強盗

走りから勢いをつけて持っていたバッグで殴り掛かってきた

 

「ほっ!!」

 

そのバッグを受け止めて逆にその遠心力を利用してバッグを奪い取りそのまま自身も回転して相手の側頭部にそのバッグをブチ当てた

 

「~~~!?」

 

声にならない悲鳴を上げながらバッグを喰らった強盗はゆっくりと倒れ伏した

 

「…痛そう」

 

自分でやっておきながらそう呟く

 

「この野郎!!」

 

仲間が倒された怒りからか最後の一人がこちらに駆け寄ってくる

そんな奴に

 

「ほら」

 

現金の入ったバッグをそいつに向かって放り投げた

 

「うえ!? ととと」

 

わたわたしながら落とすまいとそのバッグを自分の手の上で弄ぶ

そしてなんとか落ち着いてそのバッグを抱いてふぅ、と一息ついたところで

 

「ご苦労さん!!」

 

顔面を思いっきり殴りぬけた

 

これで残る強盗は単独で動いた三人は捕まえた

 

あとは二人

 

◇◇◇

 

「…すごい…」

 

佐天は思わずそんな声を漏らしていた

最後だけはなんか納得できないがそこまでのながれには見とれてしまうものがある

その光景を佐天の隣で同じように見ていた美琴はこれなら大丈夫か、と安心した

そんな時だ

 

「ダメですって! 今広場から出たら!」

「でも!」

 

初春とバスガイドが言い争っていた

いや、言い争う、というよりは初春が必死にバスガイドを止めているという感じだ

 

「どうしたの?」

 

気になった美琴と佐天はその二人に向かい歩み寄る

 

「それが―――」

「男の子が、一人いないんです!」

 

初春の言葉を遮ってバスガイドがそう言った

その言葉に初春と佐天は「えぇっ!?」と声を上げてしまった

てっきりみんな避難していたものと思っていたのに

 

「ちょっと前に、忘れ物したってバスに取りに行ったっきり…」

 

それは非常にまずいことだ

もし強盗との確保戦で巻き込まれでもしたら大けがをしかねない

 

「じゃあ、私と初春さんで―――」

「私も行きます!!」

 

美琴の提案に佐天は自分も行くと主張する

一般人だからという理由だけで残されるのは嫌だった

 

「…わかった。手分けして探しましょう」

 

◇◇◇

 

一方黒子はアラタが相手したのとは別の二人と対峙していた

強盗の一人が掌を差し出すとその上にボゥッ!! 火の玉が現れる

 

「今更後悔してもおせぇぞ」

 

それは発火能力(パイロキネシス)

飛んで時のごとく、炎を生み出す能力の事

 

(…発火能力者(パイロキネシスト)。なら…)

 

まず黒子は大きく右側に走り、半円を描くように移動する

それを逃走と取ったパイロキネシストは

 

「くそ…逃がすかよっ!!」

 

掌に具現化した炎を黒子めがけて投げつけた

その炎は確実に黒子を追いかけて、直撃する―――寸前に黒子が消えた

 

「消えた!?」

 

「こちらですわよ」

 

ハッと気づいたらもう黒子は目の前にいた

そしてまた消えたと思ったら後頭部に激しい痛みが駆け抜ける

一度意識が朦朧としたときにはもう自分は地面に倒れており、目前に黒子が立っていた

 

現れた黒子はふとももに巻きつけてある小さなベルトに仕込んである爪楊枝サイズの鉄針を取り出すとそれを袖や裾に縫い付けるように空間移動(テレポート)させていく

 

そしてその様子を見たパイロキネシストはやっと気づいた

 

空間移動能力者(テレポーター)!?」

 

「これ以上抵抗なさいますなら…鉄針(これ)を、体内に直接空間移動(テレポート)させますわよ?」

 

そう言って手に持った鉄針をちらつかせながら黒い笑みを見せる

 

「…あんま脅すなよ?」

 

そこに先ほどぶちのめした三人を引きずりながらアラタも合流した

 

「わかってますわよ。ふりですわ、ふり」

 

「…ホントかよ」

 

苦笑いを浮かべるしかなかった

 

◇◇◇

 

バスの周辺をくまなく探すが、一向にその男の子は見つからない

 

「そっちは!?」

 

バスの外を探す初春に美琴は聞いた

 

「ダメですー!」

 

しかし返ってくるのはいないの言葉

 

「どこ行ったのよ、もう…!!」

 

同じように佐天も探すがやはりどこにも見つからない

一体どこに行ったのだろうか、と思ったその時だ

 

「ちょうどいい! 一緒に来い!」

「え? お兄ちゃんだれ―?」

 

変なやり取りが自分の後方から聞こえてきた

振り返ると強盗グループの最後の一人が、件の男の子の手首を掴み上げる姿が見えてしまった

 

「あ、あの…」

 

一瞬佐天は美琴たちに知らせようとした

しかしその一瞬の行動の遅れが男の子を危険にさせてしまう

 

(…私だって!)

 

たった一人の男の子を守るくらいはできるはずだ

 

 

「やっぱり、広場の方をもう一度―――」

 

バス周辺を調べつくしたがどこにもその男の子は発見できなかった

もしかしたら広場のどこかに隠れているのかもしれない可能性に賭け、そう初春とバスガイドに言おうとしたその時だった

 

「あぁ!? なんだてめぇ!! 離せよ!!」

 

「だめぇ!!」

 

何やら言い争う声が聞こえてきた

その声の正体は佐天と強盗のやり取りだった

よく見ると佐天は迷子になっていた男の子を守るように抱いている

 

「くそっ…!! この野郎!!」

 

強盗は痺れを切らしたのか、強行に出た

ぐっと足を引いて佐天の顔に突き出した

そう、蹴ったのだ

 

「あうっ!?」

 

そう彼女は声を漏らし佐天はゆっくりと地面に倒れ伏す

それでも彼女は男の子を守ろうとしたその腕を解くことはなかった

 

「!!」

 

その光景を見ていた美琴の中で何かがプツン、とキレた

当然だ

友達を蹴り飛ばされて何も感じない奴などいない

 

◇◇◇

 

「あの野郎!!」

「くっ!!」

 

黒子とアラタも同様に怒りをあらわにし、それぞれ駆けだそうとしたその時だ

 

 

 

「黒子ォォォッ!!」

 

 

 

耳をつんざくような怒号が二人の耳に響き渡る

恐る恐る二人は美琴の方へ振り返る

そこにはゆっくりと歩いてくる御坂美琴の姿があった

その表情は不機嫌とも通り越して不快に近い

 

「こっからは、私の個人的なケンカだから、手、出させてもらうわよ」

 

「…あー」

 

現場を見ていたせいで断りづらい

本来なら黒子的にはあんまり美琴には参戦してほしくはないのだが…

判断に困った黒子は助けを求めるようにアラタを見た

 

「アラタも。それでいいわよね?」

 

「…ふぅ」

 

アラタは一つ息を吐いて美琴に告げる

どのみち彼女に言ったって無駄なのだ

なら

 

「ほどほどにな」

 

「オッケイ…!」

 

後押しをするだけだ

 

「思い出した!!」

 

唐突に地面に縫い付けられてるパイロキネシストが本当に思い出したように口を開く

 

「風紀委員には、捕まったら最後身も心も踏みにじられて再起不能にする最悪の空間移動能力者(テレポーター)がいて!!」

 

「誰の事ですの」

 

いや、確実にお前だろう

そう心の中で黒子に突っ込む

 

 

強盗は事前に停めてあった車に乗り込みエンジンをかける

このままでは何もかも負けたままで引き下がることになってしまう

 

「くそっ…!! このまま引き下がれっかよ!」

 

慣れた手つきで車を反転させると目の前にいる美琴に相対するよう位置に移動する

 

「こうなったらこのまま…!」

 

そう、強盗は一気に美琴らを轢こうと思っているのだ

 

「…」

 

対する美琴はスカートのポケットからゲームセンターで使うようなコインを取り出した

特に焦った様子などなく、まるで作業みたいに

 

 

「さらにその空間移動能力者(テレポーター)の、身も心も虜にする最恐の電撃使い(エレクトロマスター)が!!」

 

美琴の事を言われて少し誇らしく思ったのか、黒子が口を開く

 

「…そう。あの方こそが、学園都市二百三十万人の頂点…」

 

美琴はピィン、と右手でコインを弾く

弾かれたコインはゆっくりと宙を舞う

 

「七人の超能力者(レベル5)の第三位…」

 

強盗が一気にアクセルを踏み、美琴を弾き殺そうと接近する―――

 

「…!!」

 

だが美琴の方が早かった

自分の手元に落ちてくるコインを自分の雷の力を用いて撃ち出した

 

音速の三倍で放たれたそのコインはまさにそこを走ろうとしていた車の地面に着弾し、その場所を抉り取った

 

爆風に巻き込まれた車は勢いよく縦にくるんくるんと回りながら美琴の頭上を越えて地面に落下する

幸い爆発はしなかったようだ

 

超電磁砲(レールガン)―――御坂美琴お姉様」

 

常盤台が誇る、最強無敵の電撃姫ですの―――

 

爆音から耳を守りながら、そう黒子が付け足した

 

◇◇◇

 

警備員(アンチスキル)が来てから、事態はすぐ終息に向かった

初春は現在先輩である国法に被害の報告の最中である

 

別段やることがなかったアラタは強盗グループが警備員のトレーラーに連行されていくのを黙ってみていた

そしてパイロキネシストがトレーラーに乗り込むときに黒子が喋った

 

「…貴方の能力もなかなかの物でしたわよ」

 

そう言われてパイロキネシストはゆっくりとこちらを見る

 

「能力に有頂天になるあまり、道を違えてしまったようですわね。…しばらく自分を見つめなおして、もう一度出直してくださいな」

 

そういうと黒子は振り返り歩いて行った

パイロキネシストは一人歯を噛みしめた表情をしながらトレーラーの中に入っていった

 

「…あ、そうだ」

 

最後に乗り込んだ強盗の顔を見てアラタは思い出した様子で彼に歩みよった

そいつは佐天を蹴っ飛ばした男だ

 

「な、なんすか?」

 

「や、女を蹴った罰」

 

そう言ってアラタは拳をグーにして突き出す

バキッと鈍い音がトレーラーの中に響き渡った

 

◇◇◇

 

「本当に、ありがとうございました!!」

 

「あ…いえ、あの…」

 

佐天は自分が守った男の子の母親からの感謝の言葉をもらいドギマギしていた

無我夢中でやったことだから、そう正面か言われると反応に困ってしまう

 

「ほら、貴方も」

 

母親にうながされて男の子もうんと元気良くうなずいたあと、佐天に向かって

 

「お姉ちゃん、ありがとう!!」

 

満面な笑顔とそんな言葉をもらった

その男の子の笑顔を見て佐天は改めて思う

 

〝守れてよかった〟と

 

 

男の子がバスに乗り込み走り去っていくのを佐天は小さくなるまで眺めていた

そこで緊張の糸が切れてしまったのか佐天はペタリとその場に座り込んでしまった

 

「…はぁ…」

 

そこでまた安堵のため息

脳裏に浮かぶあの男の子の笑顔

自分は守り切れたのだ

 

「佐天さん」

 

いつのまにか自分の目の前に美琴が立ってこちらを見ていた

その隣にはアラタもいる

 

「お手柄だったな、佐天」

「うん。すっごくかっこよかったよ」

 

二人から面と向かってそう言われるとどうにも言葉に詰まってしまう

二人ほどの力はもっていないけれど、確かに力になれたのだ

 

「…御坂さんもアラタさんも―――」

 

「おっふたっがたー」

 

佐天の言葉を遮って黒子の言葉が耳に入る

彼女は二人の間に飛ぶとがしっと抱き着く

 

「おわ!? おい、黒子!!」

「ちょ、やめなさいって!!」

 

目の前で行われるそのドタバタに佐天はきょとんと目を丸くする

それと同時にまた日常が戻ってきたのだと実感する

 

「佐天さーん!!」

 

報告を終えた初春が駆け寄ってくるのが見える

自分の怪我を心配してくれる彼女の優しさが少しうれしかった

 

「佐天さん! 怪我は!?」

「へーきへーき」

「ほんとですか!?」

 

自分を心配してくれる初春に感謝しながら、佐天は先ほど黒子にかき消されて言えなかったことを心の中で呟く

 

〝御坂さんもアラタさんも、とってもかっこよかったです〟

 

そう心で呟きながら目の前で行われるドタバタを見守った―――

 



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#2 その名はK&W/〝仮面ライダー〟

出来ました

今回は

メインなのにあんま出番ない美琴
それ以前に名前しかでない初春佐天
相変わらずです

こんなんでよければぜひ
感想なんかも一言、気が向いたら


その日珍しく記憶に新しい夢を見た

それは一人の男と初めて出会って日の夢だ

なんでかルームメイトが後輩に変わっていたりとかいろいろあったが、その男と出会ったのが進級してからの一番の出来事だったと思う

気さくに話せる男友達はおそらくそいつが初めてだろう

 

「…ぅ、ん…」

 

窓から差し込む日の光が部屋を照らし、その光が若干ながら美琴の覚醒を促す

美琴と黒子が住んでいる部屋は両サイドにベッドがあり、真ん中の壁には割と大きめな窓がある

その反対側に位置する壁には扉といたってシンプルなつくり

ちなみにもう一つのベッドには当然ながら黒子が寝ている

 

 

 

「あっはぁ…!! お姉様ぁ! そんな事されたらぁ! 黒子はぁ、黒子はもぉぅ…!!」

 

 

 

どんな夢見てるんだこいつは

だがしかし相変わらずの黒子の変態クオリティで安心、できるわけなかった

逆に後輩の未来に一抹の不安を覚えかねない事態に遭遇してしまった気分である

そんな変態丸出しな寝言を聞かされては美琴としては二度寝する気にもなれない

というか眠気が覚めてしまった

 

「…にしても、もう七月かぁ」

 

月日が経つのは早いものだ

成長って早いんだなぁとしみじみしながら、その時の事を思い出してみる

 

◇◇◇

 

常盤台中二年に進級しその日は特に宛があるわけでもなくただ周辺を歩いていた

しいて用事と言うなれば何か可愛いマスコットキャラ的な何かを探し求めてはいたのだが

 

「…ん」

 

ひとしきり歩いたところ喉が渇いた

実際はまだ大丈夫なのだろうが一度意識をしてしまうとどうにも頭の片隅に残って消えない

その辺の自販機を見つけると美琴は駆け寄って財布に中身を開けて小銭を探す

いつもみたいに〝ちぇいさー〟してもいいのだがまた警備ロボットに駆け寄られると面倒なので仕方なくお金で購入するべく小銭を探す(元来自動販売機はそうやって買うものなのだが)

そんな時だ

 

「おっ。お嬢ちゃん可愛いねぇ。一人?」

「よかったら、俺らとこれから遊ばない?」

「悪いようにしないぜ、へっへっへ…」

 

これだ

最先端科学とかなんか言ってもこういった連中は全く減る兆しを見せないし、むしろ増えてる感じさえする

幸いにも数は三人と少なめだ

これなら能力をだいぶ押さえて追っ払えそうだ

美琴はゆっくり振り返り面倒そうに頭を掻いて―――

 

 

 

「はいはい。そこまでそこまで」

 

 

 

唐突に聞こえたその声に意表を突かれた

その三人の間を押しのけて間に入ってきたのは一人の男

夏服の制服を着こんで髪は肩くらいまでの長さを誇る

しかしよく見ると髪先はまばらで、荒っぽい切り方をしてるんだと思う

 

「あぁ!? んだよてめぇよぉ!!」

 

案の定一人の男がキレ気味にその男に歩み寄る

しかしその男はそんなのどこ吹く風と言った様子で自販機に近づくと普通に小銭を投入し始めた

この状況で缶ジュースを買う気でいるのかこの男は

 

「よくいるよな。最近アンタらみたいな集団で一人の女の子の言い寄るヤツが」

 

ピッ、と彼は自販機のボタンを押す

がたがた、と音を出しながら自販機が吐き出したのは巨峰サイダーというグレープ味炭酸飲料だ

ちなみに彼が買ったのが最後の一本のようで

 

(あ、それ私も飲みたかったのに…)

 

美琴も美琴でこの後飲みたいジュースの事しか考えてなかった

男たち涙目である

 

「…大方、レベルの壁とかにぶつかってやけになってんだろうよ。こんなくだらないことしてないで、とっとともどんなよ―――」

 

「説教なんかしてんじゃねぇぞ糞がぁぁぁ!!」

 

ついにブチギレて男の一人が軽く勢いをつけて拳を突き出してきた

このままだと彼の顔に直撃する―――寸前に彼自身が受け止めた

ギリギリ、と男の拳が震えてくる

 

「こ…こいつ…!!」

 

「人に八つ当たる暇あんなら―――」

 

そのままつかんだ拳を引っ張り男の腹を蹴っ飛ばす

特に何するでもなく当たったその蹴りは確実に腹部をとらえ男を転倒させる

 

 

「―――自分見つめなおしてきやがれ。諦めるなんざ単なる逃げだぞ、このヤロウ」

 

 

そう短く言葉を紡いだのだった

 

 

このご時世でそんな言葉を言う奴なんて初めて見た

確かにああなる理由の一つに能力の伸び悩み、というものがある

それをはっきりとした口調でああも言えるなど、彼も悩み努力したのだろう

 

「…一応」

 

「ん?」

 

「一応、感謝しとくわ。結果的には助けられる形にはなったし…」

 

普段美琴はこんなことは言わない

だが今回はその男も言葉で相手を説き伏せたわけだし、何より美琴もその男に興味があった

 

「あ…そだ。なんもされてないか? 見たところは大丈夫みたいだけど…」

 

「心配いんないわよ。あんな奴ら追っ払うのわけないし…それはそれとしてさ。あんたに一個聞きたいんだけど」

 

少しその男と距離を詰めて気になったことを聞いてみる

 

「アンタも、能力開発とかでさ、行き詰ったり、悩んだりしたことあんの?」

 

「ないよ。俺無能力者(レベル0)だし」

 

「ふぅん…無能力者(レベル0)…レベル0ぉ!?」

 

耳を疑った

あんだけな事を言っておきながら彼自身は無能力者(レベル0)だというのか

それならむしろこの男の方がスキルアウトやそれこそさっきみたいなナンパ連中になってしまいそうな状況なのに

 

「…なんでさっきの連中を励ますようなこと言ったの? こう言っちゃなんだけど…あんただって似たような立場なのに…」

 

「ん? そりゃあ、あいつらだって夢見て学園都市(ここ)に来てんだからさ。そんな下らない事で止まってほしくないからさ」

 

かきょ、とジュースのプルタブを開けながら彼は続ける

 

「可能性ない俺と違って、な」

 

そういって屈託ない笑みを見せる

その表情には迷いがない

どうやら彼は本当に自分が無能力者であることに劣等感はないようだ

 

「…本当、学園都市(ここ)じゃ珍しい奴よね。…あんた」

 

苦笑いを浮かべながら美琴も自販機にお金を投入しジュースを購入する

購入したのはヤシの実サイダーという炭酸飲料

ガタンと取り出し口に吐き出したサイダーを取りながらもう一度彼を見て

 

「けど、私はきらいじゃないよ。あんたみたいなの」

「…そいつはサンキュー」

 

お互い短く言葉を紡ぐと互いの隣を通り抜けていく

互いの後姿はどこか、清々しかった

 

ちなみに、再会はあんがい早かったのだが

 

◇◇◇

 

「…お姉様?」

 

「あ、黒子。おはよう」

 

回想しているうちに黒子が起床したようだ

眠い眼を擦りながら眠気と戦っているこういう時の黒子はまぁしおらしい雰囲気なのに

 

「…普段もこんなだと問題ないのになぁ」

 

「ふぇ? 何か仰いましたお姉様」

 

「なんでもないー。黒子、早く支度してよ? 今日初春さんと佐天さんが来るんでしょ?」

 

そうなのだ

親睦を深めようということで今回、二人はこの常盤台女子寮の美琴と黒子の部屋に誘ったのだ

当然ながらアラタは男子なので誘っていない

しかしここの寮監にはたまに差し入れを持ってくるあたり中は悪くないのだろう

ちなみに寮監はアラタの友人の好みらしい

 

「そうでした。急ぎませんと」

 

黒子も起きたことだし、美琴もベッドから立ち上がり着替え始める

今日もまた楽しい一日が始まるのだ

 

◇◇◇

 

学園都市第七学区のとある広場

様々な人が行きかうその広場に一台の屋台がある

夏休みの真っ只中だというにのれんには〝ばぁすおでん〟と達筆な字面で書かれている

そんなおでんの屋台に一人の少年が座っていた

少年の名前は鏡祢アラタ

 

そしていろいろなおでんもろもろの仕込みをするのが屋台主、伊達明

フラッとこの学園都市にやってきた風来坊…などと本人は言っているが実際はわからない

また、彼も変身ベルト〝バースドライバー〟の所持者でもある

 

「伊達さーん。そうめん頼めますかー」

 

「おうよ。固さは注文あるかい」

「伊達さんに任せますー」

 

そんな店員と客のやり取りを済ますとアラタはぐたー、と突っ伏すように体をテーブルに預ける

そんなアラタに向かって伊達はこんなことを聞いてみた

 

「そういやよアラタ。お前さん、宿題終わったのか?」

 

「ちょくちょくやってますよ。なんだか当麻が写させてくれっていってきそうですが…」

 

「あぁ…予想できそうだな」

 

苦笑いを浮かべて伊達は茹でた麺を冷やす作業に入る

この〝ばぁすおでん〟はおでんと書いてはあるが実際はおでん以外の物も多々売っている

飲み物だって茶やお酒のほかにサイダーやオレンジジュースを売っていたりする

なんでもオールマイティな屋台を目指すとか

 

「すみません」

 

のれんを掻き分けスーツ姿の男性が一人、屋台に入ってきた

その風貌からして恐らく警備員(アンチスキル)に所属している人だろう

 

「ヘイ! らっしゃーい! お客さん、注文はお決まりで?」

 

本日二人目の客に気をよくした伊達は気前良い挨拶でその客を迎え入れる

警備員であろう男性はメニューを見て悩んだ後

 

「あ、じゃあ僕もそうめんを」

 

短く注文を済ますと男性はアラタの隣に座る

流石に突っ伏したままなのはいけないので体を起こし態勢を戻す

男性はキョロキョロと珍しそうに屋台を見回す

まぁ妥当な反応だ

この糞暑い真夏にポツンとある屋台

だが学生には結構人気があるらしく、よく部活帰りの学生はもちろん、アラタもよく当麻と一緒にこの屋台に食べに来ている

 

「ほいお待ち。アラタ、先にできたから渡すぜ」

 

ことりと自分の前に置かれた皿に盛られた白い冷麦、そうめんである

まってましたと顔を輝かせテーブル真ん中に置かれている割り箸入れに手を伸ばし一本を掴んでそれを割る

そんな時、なぜか驚きに表情が染まっていた男性は目に留まった

 

「…えと、どうしました?」

 

「いや…その、君、もしかして鏡祢アラタって名前かい?」

 

なんでか名前を聞かれた

別に隠すほど有名でもないので「えぇ、そうですけど…?」と肯定する

 

「やっぱり。よく矢車隊長が仰っていた子か」

 

「矢車さんを知ってるんですか?」

 

そう聞くと男性は大きく頷くと

 

「僕は立花眞人。矢車隊長の部下です」

 

「矢車さんの部下…そうだったんですか」

 

矢車ソウ

彼はアラタがクウガだと知っている数少ない人物だ

他に人物を上げるなら目の前の伊達、伽藍の堂の人たち、左のダンナにフィリップ…

あれ、割といる

 

「たまに話してるのを聞くんです。生意気だけどいい奴だって」

 

「…矢車さんめ…」

 

苦笑いを浮かべながら心の中では少し感謝をしている

自分がクウガだと秘密にしてくれているようだ

 

「ほいお待ち、ちなみに俺は伊達明。よろしくなタッちゃん」

 

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。…あとタッちゃんて…」

 

そんな何の変哲もない会話を繰り広げながらそうめんをすする

すすったそうめんの味はめんつゆの味がしみていて美味しかった

 

◇◇◇

 

その後つつがなく昼食も食べ終わり何するでもなく適当にコンビニにでも立ち寄って漫画雑誌でも立ち読みでもしようかな、と店内に入ろうとしたときだ

うぃーん、と店内から見知った顔が歩いてきたのだ

 

「あっ」

 

「…あら。奇遇ね鏡祢アラタ」

 

吹寄制理

アラタとは同級生であり友人である

長い黒髪にスタイルもいいし可愛い部類に入る

しかしクラス内ではなぜだか〝色っぽくない鉄の女〟などと呼ばれている

 

「まぁ奇遇だな。またあれか、健康食品の買い足しか」

 

「貴様は私をどんな目で見てるのよ! そりゃあ確かに昼食とかは通販で入手した健康食品を食べてはいるけども!」

 

がみがみと続ける吹寄の言葉を聞きながらこの後どうしようかな、なんて考えていた

しかし一度吹寄に捕まるとなかなか抜け出せないからなぁ…とかなんとか思ったその時だった

 

 

 

キャアァ!! と大きな女性の悲鳴と共に数々の声が聞こえてきた

 

 

 

「!?」

「! な…何!?」

 

吹寄の驚きと共にその音の方へ視線を移す

付近のレストラン辺りで妙な人だかりができている

どうやらまた事件(面倒事)が巻き起こっているみたいだ

 

「吹寄、お前はここにいろ」

 

アラタはそう吹寄に言い残すとその喧噪の方へ走っていった

 

「あ、ちょ、待ちなさい!」

 

思わず吹寄も彼の後を追いかけていく

 

◇◇◇

 

「ちくしょー!!」

 

その喧噪を掻き分けて前に出るとマグマドーパントが一人の女性を人質にとり何かを叫んでいる

人質の女性の表情は恐怖に染まりきっており、いつパニックを起こすかわかったもんじゃない

 

「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!! なんだってんだぁ!!」

 

そう大声を撒き散らしながら周囲に喚き散らしている

彼がメモリを入手した経緯は不明だがこのままでは被害が大きくなるばかりだ

 

「けど今は…力がある! この力で…散々俺を馬鹿にしてきた奴らに復讐してやるんだ!!」

 

「そいつは間違った力だなぁ」

 

同じように喧噪を掻き分けて歩いてきた一人の男性

黒い帽子をかぶり紺のYシャツに袖なしのベスト、黒いズボンを着こんだその男

 

(…左のダンナ!)

 

その男は左翔太郎

かつて風都という街で探偵業を営んでいた青年である

今現在は学園都市に流出しつつあるガイアメモリを追ってこの学園都市にやってきたのだ

 

「学園都市の生徒なら、そんな紛い物の力に頼るより自分自身の力で挑んでみろ」

 

「ンだとぉぉぉぉぉ…!?」

 

このままでは逆上したドーパントにより女性に危害が加えられかねない

そう感じたアラタはまた人混みを掻き分けて人気のない路地裏に駆け込んでいく

 

◇◇◇

 

「たく…どこ行ったのよあの男…」

 

追いかけたはいいが完全にアラタを見失ってしまった

このまま下手に動くよりも事件が収束するまで待った方がいいだろう

徐々に人垣も冷静になっていき各々逃げ出す最中吹寄はアラタを探していた

彼が風紀委員だとは知ってはいるがああいう怪人みたいなやつはプロ(いるかわからんが)にでも任せていればいい

 

<BAT>

 

先ほど前に出てきた帽子の男が何かを起動させ怪人に向かってそれを投げた

カメラのような機械は瞬時にコウモリを彷彿させる姿へと変形し怪人を翻弄するように飛び回った

 

「ぬわっ!? なんだこれは!!」

 

コウモリに気を取られて思わず怪人は確保していた人質を離す

その隙を逃がさず、人質となっていた女性は一目散に逃げ出した

 

「…私もここを離れた方がいいか…」

 

アラタが見つからないのは気がかりだがここにいたままでは自分まで怪我をしてしまう

きっと無事だと祈りながら吹寄はその女性を追うようにその場から離れようと―――

 

「こなくそぉぉぉ…!! 死ねやぁ!」

 

やけを起こした怪人が闇雲に火山弾を辺りに巻き散らし始めた

 

「おうわっ!! っと、あぶねぇことしやがる…あっ!!」

 

たまたま青年が目を向けたその方向には後ろを向いて逃げている吹寄の姿があった

タイミングの悪いことに火山弾の一発はその吹寄の背中めがけて飛んでいく

 

「危ねぇ!!」

 

この位置では間に合わない

そう感じた翔太郎だがそれで諦めるわけにもいかない

気づいてくれることを願いながら大声を上げて吹寄に促した

いざとなればもう一つ持っているガジェットで守れる距離に…!

 

「…え?」

 

自分を呼ぶその声に気づいて振り返ったその時には火山弾が自分の目前にまで迫っていた

頭が真っ白になる

その瞬間に流れている時間がスローになるような錯覚さえ覚えてしまうほどにあっさりしているものだった

思わず吹寄は目をつぶる

 

 

・・・

 

だがいつになっても何も起きない

静けさに耐えきれなくなりゆっくりと瞼を開く

 

「…あ…」

 

変化はあった

具体的には自分の目の前

そこには吹寄を守るように立っていた一人の男

その姿は数えるほどしか見ていない、というか友人の写真くらいでしか見たことがなかった

 

そして直接見るのはこれが初めてだ

都市伝説としてしか見ていなかった赤い男の姿を

 

◇◇◇

 

「ナイスタイミングだぜアラ―――っほん!」

 

わざとらしく咳払いして翔太郎はクウガの隣に歩み寄る

 

「早く倒しましょうぜダンナ。いろいろと厄介なことになる前に」

「おお。激しく同意だ」

 

そういって翔太郎はどこからか二つスロットが空いてるドライバーを取り出した

それを腰に巻きつけると今度はベストの内側から一本の黒いメモリを取り出す

メモリには〝J〟と書かれている

翔太郎はそのメモリの端子付近のボタンをカチリ、と押す

 

 

 

<JOKER>

 

 

 

そうボイスが発せられ翔太郎はもう一人の相棒に向かって呟いた

 

「フィリップ!」

 

 

第二左探偵事務所

 

なんてことはないただの廃墟をどうにか事務所っぽく見せてるだけだがここのガレージしかリボルギャリーが収納できなかったのだ

そんな中フィリップは椅子に座りながら読書に耽っていた

 

ライトノベルである

 

「…ふむ。たまに読むならいいかもね」

 

ペラペラとページをめくりながら少し背伸びをしようとしおりを挟んでテーブルに置いたとき。腰にダブルドライバーが現れた

 

「どうしたんだい翔太郎。また厄介事かい?」

 

(似たようなもんだ。行くぜフィリップ)

 

どうやら事件か何かに巻き込まれたようだ

フィリップは小さく笑みを浮かべながら一本の〝C〟と書かれたメモリを取り出した

 

「久しぶりだ。…ゾクゾクするねぇ」

 

カチリ、と押す

 

<CYCLONE>

 

そういって左手に持ったメモリをバッと自分の右側へ

 

 

同じタイミングで翔太郎も右手に持っていたメモリを自分の左側へと動かす

場所は違えどそのポーズはWの文字を連想させた

 

『変身!』

 

先に事務所に待機しているフィリップがメモリをドライバーの右側に差し込む

すると差し込んだメモリは現場にいる翔太郎のドライバーへと転送されて、翔太郎がそのメモリを深く差し込み、直後に自分のメモリを左側に差し込んだ

最後に左手で右側、右手で左側のスロットを勢いよく開く

 

 

<CYCLONE JOKER!>

 

そんな電子音と軽快な音楽と共に強烈な風が巻き起こる

その強風が終わるとそこに翔太郎の姿はなく

右半身が緑色、左半身が黒色という特異な姿の男が赤い男の隣に立っていた

 

 

 

「仮面ライダー…ダブル」

 

 

小さくそう名乗るとダブルはマグマドーパントに向かってバッと右手を突き出したのだった

 

 

「仮面ライダー?」

 

「あ? 知らないのか?」

 

聞きなれない単語を耳にしたクウガはダブルに向かって聞き返す

いや、聞き慣れないという言葉は少し違う

その時はその場の雰囲気で名乗っただけだったからすっかりその単語を忘れていたのだ

対してダブルはさも意外そうに

 

「知ってると思ってたんだがな…」

「<案外外には知られていないのかもね。早い話異名みたいなものだよ>」

 

翔太郎の呟きと共にフィリップが右の複眼を点滅させて発言する

その言葉を聞いたクウガはふぅむ、と考え始めた

正直クウガと名乗るのもなんか味気ない気はしてたのだ

その単語をつけて頭の中で改めてリピートしてみる

うん、その時も結構いいかも、と思ったがやっぱりしっくりくる

 

「…ダンナ。その単語、俺もつけていいですか?」

「構わねぇぜ。お前も紛うことなきライダーだからな」

 

よし、と心の中でガッツポーズをする

この名前ならもっと堂々と名乗れそうだ

 

「俺を無視してんじゃねぇぇぇぇ!!」

 

激昂したマグマの声を聞きながらクウガは悠然としたままマグマに向き直る

ゴオッ!! と炎を纏いながら吹き飛ばそうとクウガに迫るが彼は勢いよく跳躍するとマグマの背後に着地して

 

「俺はクウガ。仮面ライダークウガだ!」

 

そう高らかに名を名乗った

それが新しい己の名称と言わんばかりに

 

「何が仮面ライダーだこの野郎ぉ!!」

 

「もう一人いるって事忘れてねぇか!?」

 

喚き散らすマグマに向かってダブルが連続で蹴りを叩き込む

回し蹴りを連続で二回、その後にもう反対の足で蹴りつけて吹き飛ばす

 

「がっはぁ!」

 

大きく転がりながらもマグマは態勢を立て直しながら反対側のクウガへと殴り掛かる

しかしそれを予見していたクウガはその拳を受け止めて腹部に膝を数発打ち込んで自身の反対方向に投げ飛ばした

 

「ぐわぁぁぁ!?」

 

大きく弧を描いてマグマは地面に叩きつけられる

マグマはゆっくり立ち上がるがその足はふらついている

 

「メモリブレイクだ」

「了解」

 

クウガとダブルは頷きあってマグマを見据える

ダブルはドライバー左側のメモリを取り出し、クウガは一回バク転して距離を取った

 

まずはダブル

抜いたメモリをベルト部分右側にあるマキシマムスロットに差し込んだ

 

<JOKER MAXIMAMDRIVE>

 

そんな電子音性と共にまた大きな風が巻き起こりゆっくりとダブルの体が浮き上がっていく

 

浮き上がったタイミングでクウガが動く

離れた位置から足に力を込めて走る

そして空中へと一回転しながらダブルと同じ高さまで飛び上がりマグマに向けて右足を思いっきり突き出す

 

同様にクウガを確認するとダブルはマキシマムスロットを軽くポン、と叩いた

その空中のまま一度後転してその両足をマグマに向けて突き出した

 

「ジョーカーエクストリーム!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

クウガはその右足を紅蓮の炎に纏わせて繰り出し、ダブルは身体を中心から左右に割れ時間差で繰り出す

クウガのマイティキックとダブルのジョーカーエクストリームがそれぞれマグマドーパントにぶち当たった

 

 

「が、ぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

蹴りの反動でクウガとダブルは少し離れた位置に着地した

その直後にマグマドーパントは爆散した

その爆散した煙の中にメモリの使用者と思われる学生が力なく倒れ伏した

カチャン、とメモリが学生の付近に落ち、パリンと砕け散った

 

「決まったな」

「ですね」

 

そんな目の前で巻き起こった出来事についていけず、吹寄はただ茫然としてるしかなかった

 

◇◇◇

 

マグマドーパントとなった学生は駆け付けた警備員にしょっ引かれた

少々遅れたような気がするが、辺りがパニックに陥り避難誘導等に時間がかかっていたらしい

 

ちなみに翔太郎はクウガがいなくなった後にすたこらさっさと立ち去ってしまった

あまりにも早いものだから吹寄はお礼が出来なかったとそこだけは嘆いていた

 

そしてアラタが戻ってきたら吹寄に天頂部を思いっきり叩かれました

なぜ? みたいな顔してると何を言ってるんだと言わんばかりに

 

「貴様今までどこにいた! どこ探しても見つからないから、流石に心配したんだぞ」

 

「す、すまん…けど避難誘導とかしてたから…」

 

当然ながら嘘だ

避難誘導等は駆け付けた警備員(アンチスキル)に任せっきりだったので

 

「あ、鏡祢くん!」

 

吹寄とそんな問答している間に一人の警備員に声を駆けられた

アラタの名前を知っているから相手は立花であろう

 

「ちょっと聞きたいんだけど…ここで怪人が暴れてたんだよね? その怪人は誰が…」

 

「仮面ライダーです」

 

立花の問いに吹寄が答える

 

「…仮面、らいだー?」

 

「はい」

 

その表情にはなぜかアラタに向けたものがあった

横目でちらりとこちらを見やる

その視線には〝どうだ〟みたいな意味が込められていたようで

そしてそんな視線を送ってきた吹寄がちょっと可愛いと思ってしまったワケで

 

「…ふふっ」

 

「!! 何がおかしい鏡祢アラタ! そんな意味有り気な笑みを浮かべるなんて顔の筋肉が弛んでいる証拠ね今すぐこのコロコロローラーで徹底的に鍛えてやるわ!!」

 

「なんでんなの持ってんだお前ってか痛い!! 痛いってマジで!!」

 

そのまま目の前で仲睦まじく騒ぎ合う二人を見ながら立花は微笑む

そして学生だったころを思い出し、ちょっと泣きそうになった

 

◇◇◇

 

今日この日

ある都市伝説サイトにまた一つ書き加えられた

 

 

:仮面ライダー

人知れず学園都市を守る仮面のヒーロー

 

一緒に張られている写真には、クウガとダブルがマグマドーパントと戦っている姿が映し出されていた

 



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#3 狙われた常盤台

お待たせしました
今回は

食蜂操祈の大幅な改変
ぐだぐだ
長い

な感じです

こんなのでよければお付き合いくださいませ


その日はなんだか違和感があった

特に何の変哲もない住宅街の道を婚后光子は歩いているとき、心の中でそう思った

 

ここは普段から通っている道だし歩くことに何ら抵抗はない

時刻は夕刻だし人通りも決して多くはない、というか人はいない

 

だと言うのに先ほどからどうも視線を感じるのだ

 

「…」

 

しかし振り返って確かめても誰もいない

いつも通りの道並みしか自分の視線は移さなかった

 

…やっぱり気のせいか、と自分で結論づけて再び前を向いて歩き出そうとしたその時に

 

 

また自分を見るような視線を感じた

 

 

一体これで何度目だ

いい加減腹が立ってきた婚后は声を張り上げて叫んだ

 

「どなた!?」

 

後ろを振り向いて視線を巡らせる

しかしどこを見てもやっぱりその視線の主はいない

ならば何らかの能力を用いその姿を消しているのだろう

ここは学園都市、見た事こそはないがそのような能力があっても不思議じゃない

 

バッ、と婚后は自分のトレードマークで扇子を取り出して開くと自身の口元に持っていく

 

「わたくしを常盤台中学の婚后光子と知っての狼藉ですの!?」

 

視線を張り巡らしながら少しずつ背後へと歩いて距離を取っていく

どこから来るかわからない、ならせめてどこから来られてもいいように距離だけは―――

 

ドンッと背中に何かが当たった感触がした

その感覚は確実に人だ

 

「っ!?」

 

瞬時に背に振り向いて確かめようとするがやっぱり誰もいなかった

 

(…どういうことですの?)

 

自分の勘違い?

だとしてもまだ相手はどこかに潜んでいるかもしれない

注意深く辺りを見回し、どこかにいるかもしれぬ相手を探す―――

 

 

―――バヂリっ!!

 

 

「あうっ!?」

 

背中に電撃が走った

その電撃の正体がスタンガンなのだと知るのに時間はかからなかった

しかしその一撃は婚后の意識を奪うのに十分すぎる威力だった

どさりと力なくその場に倒れ伏し気を失う婚后

そんな彼女の近くに一人の女の子が立っていた

その女の子は婚后の近くまで歩み寄ると小さく口角をつり上げた―――

 

◇◇◇

 

太陽の日差しを受けて目が覚めた

 

「おはようございますお兄様」

 

黒子の声を聞きながらアラタは上半身を起こす

そしてうーんと背伸びをして眠気を覚まそうとして

 

なんで黒子が俺の部屋にいるんだと気づく

 

「たっはー。お兄様の寝顔ゲットですわ。さっそくこれを保存ん!?」

 

「何勝手に俺の部屋に上がってんだテメェはぁぁぁ!!」

 

空間移動能力者(テレポーター)とはこれだから

いや、こんなことするテレポーターは学園都市中を探し回ってもこの黒子(バカ)しかいないと思うが

 

とりあえずゲンコツをかましカメラをぶんどって画像ファイルを消去しておきました

 

 

「迎えに来てくれんのはありがたいけど不法侵入はやめてくんないかな」

 

「はは…、つい出来心で…」

 

苦笑いとともに頭を掻く黒子

笑ってすむものではないが知り合いなので一応許す

で、本題

 

「美琴はもう来てるのか」

「ええ。もう常盤台の校門で待っておられますわ」

 

本日は初春、佐天の両名に〝学舎の園〟を案内するべく、彼女ら二人を招待したのだ

〝学舎の園〟は学園都市の女子校が集結している場所であり、当然ながら我ら一般庶民では入ることは不可能に近い

しかし今回は美琴や黒子に招待されているから堂々と入れるのだ

まぁしかし今回は黒子の能力で入るのだが

 

「じゃあさっさと制服着るから待ってくれ」

「ええ。私にお構いなく」

 

そう言っていそいそとビデオカメラを用意してこちらを

 

「だからやめろって言うとろーがぁぁぁ!!」

 

ベシィ!! と頭をド突く

本日も黒子は変態でした

 

◇◇◇

 

「おっすー。来たわねアラタ。その様子だと…うん。だいたい察した」

 

つつがなく黒子の空間移動(テレポート)にて常盤台校門に到着

ちなみに黒子は頭にクレヨンし〇ちゃんばりのたんこぶを作っていたのを見て何がおこったのを美琴は察してくれとようだ

その判断に心から感謝した

 

「で、二人は?」

「ううん。まだ来てないわ。もうそろそろだと思うんだけど…」

 

そう言って形態を取り出して時間を見る

時刻は午後三時

待ち合わせは三時だったはずだ

 

そう思ったその時足音が聞こえた

 

「あ、来たぞ。…て、あれ」

 

三人が足音の方を見るとそこには確かに初春と佐天がいた

しかしなぜだか佐天だけやけにずぶ濡れで

 

「…どうしたの?」

 

苦笑いを浮かべて美琴が聞く

その問いに二人は「あはは…」とはにかみながら

 

「その…水たまりで、ちょっと…」

 

とりあえず佐天さんに替えの服を貸してあげることになりました

 

◇◇◇

 

とりあえず佐天が着替え終わるまでアラタは校門で待つことになった

まさか着替えにまで同席するわけにもいかない、というかそんなんしたらさすがにいろいろやばい奴である

 

とりあえず彼女らが出てくるまで何にもすることがない

どうしようかな、と考えながら校門でぼけー、と待つことにする

 

「あらぁ。アラタじゃないのぉ?」

 

ずいぶん甘ったるい語尾を聞いた気がする

その声の主をアラタは知っていた

 

「…操祈じゃねぇか。ここで会うなんて奇遇だな」

 

「それはこっちの台詞なんだケドぉ…どうしたの今日は。あたしに会いに来たとか?」

 

てててと近寄ってこちらの顔を覗き込むように移動する彼女

名前は食蜂操祈

彼女は常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)

そしてアラタが最初に出会ったガイアメモリ使用者である

 

「違うわ、友達待ってんの。さっきまで降ってた水たまりで衣服汚れたから今着替え待ち」

 

「なぁんだザンネン」

 

ふてくされたような表情を見せてぶーたれる食蜂

そんな仕草の一つ一つは可愛いのだが

 

「ほら、さっさとどこか行け。それともここに用事でもあるのか?」

「はぁい。言われなくとも行きますよぉだ」

 

なんか知らないがぷんぷんした様子で食蜂はアラタの隣を通り過ぎた

…そういえばなんで食蜂は常盤台を通ったのだろうか

 

「お待たせ。待たせたわね」

 

ちょうど食蜂が帰ったタイミングで着替え終わった佐天を連れて美琴たちが戻ってきた

佐天は常盤台の制服に身を包み、その佐天を初春がうらやましそうに見ている

 

「…佐天さんだけずるいです…」

 

なんでかぷくー、と頬を膨らませている

そんな初春に対し佐天は苦笑いを浮かべスル―している

 

「制服はクリーニングに出しておくから、後で寄ってね?」

「なんなら、貴女方の寮なで届けますわよ?」

 

常盤台半端ない

輸送とかまであるのか

 

「メイドさんですか!? やっぱりメイドさんなんですか!?」

 

今日の初春のテンションはなんかおかしいと思うのは自分だけなのだろうか

そんなことを思いながらアラタは四人の少し後ろを歩いていく

そんな五人を後ろから見つめている女性の存在に気づかずに―――

 

◇◇◇

 

鏡祢アラタに初めて出会ったのは四月の初め

たまたま町に繰り出してボディーガードに丁度良さそうな男を探していたら偶然出会ったのが彼だった

その時は自分の能力でどうとでもなると思っていた私は特に何も疑いを持たず彼に近づき能力をかけようとした

 

だけど彼に能力は効かなかった

 

なんとでもなると思っていたが能力が効かないなんて聞いていない

そんなのは超電磁砲だけで十分だ

能力が効かないなら力で打ちのめして自分の配下に置けばいい

ちょうどこの学園都市には様々な能力者が集っているのだし、集団でかかれば問題ないだろうと考えていた

だが送り込んだ奴らはことごとく返り討ちにされ、あまつさえその根源が私だと突き止めたのだ

観念した私は事前に入手したガイアメモリを持って鏡祢アラタと戦うことを決めた

 

 

「…案外やってくれるわねぇ…ますます欲しくなったわぁ」

 

深夜誰もいない廃墟の中で私は鏡祢アラタと対峙した

向こうからゆっくりと歩いてくる男の姿に少しだけゾクリとした

 

「…高々俺一人のためにずいぶん巻き込んだなおい。いい迷惑だぜマジで」

 

ため息をつきながら私の眼を見る鏡祢アラタ

その時の私はもう少しで手に入るその男に内心ドキドキしていた

 

「なら私に従いなさい。そぉすれば今より幸せな未来が待っているわよぉ?」

 

「そいつは却下だ。生憎俺は今の生活にすげぇ満足してるんでね」

 

そう言われるとはわかっていた

その予想通りの言葉に思わず笑ってしまったほどだ

 

「そう…ならやっぱり、力づく…しかないのねぇ」

 

そう言いながら普段リモコンを入れているバッグから一つのメモリを取り出す

途端に鏡祢アラタの表情が驚愕に染まったのを私は見逃さなかった

 

「お前!? それは!?」

 

「直々に、相手してあげるぅ…」

 

<QUEENBEE>

 

そうメモリから電子音声が聞こえ私はそのメモリを二の腕の生体コネクタに挿入する

少しズキリ、と痛むが我慢できないほどではない

そして徐々に姿が変わっていく

モチーフは女王蜂

お尻にある蜂特有の重みが気にはなったが些細なことだ

 

「…話し合いでどうにかとは思っていたが、メモリ使用者なら別だ」

 

「…?」

 

ドーパントとなった私の耳にははっきりと聞こえた

どういう意味なのだろうか

そう思った矢先彼がアクションを起こした

バッと自分の両手をおへその下…丹田あたりだろうか…に手をかざす

すると唐突に体の内側から現れるように変なベルトが出てきたのだ

そして一定のポーズを取って鏡祢アラタは言ったのだ

 

「変身!」

 

確かにそう言った

今どきテレビの特撮番組よろしくそんなことがあり得るかとその時の私は思っていた

実際に鏡祢アラタの姿が二本角の仮面をした姿になるまでは

 

「…な、によそれぇ…!?」

 

「悪いな。…女とて、手加減しない」

 

 

結果を言うなら私は負けた

鏡祢アラタは半端なくこういった戦いに慣れており、こちらの攻撃はすべて避けられ往なされ、弾かれた

初めて使ったメモリの力は私では扱いきれず、そもそも身体を使った戦闘に不慣れな私はなすすべなく打ちのめされた

 

アラタの蹴りが私の腹部に決められて吹き飛ばされて、身体が爆発する感覚を覚える

倒れ伏す私の身体から抜け出てくるメモリはカチャン、と音を鳴らす

 

「…お前さん、超能力者(レベル5)なんだってな」

 

「…それが、どおしたの…」

 

ガシャン、とそのメモリを踏みつぶし、先ほどの姿を解いた鏡祢アラタが私の方へ近寄ってくる

このまま警備員(アンチスキル)にでも突き出されるのだろうか

そんな事ばかり考えていた

しかし予想に反して鏡祢アラタは私を抱え上げそのまま歩き始めた

お姫様抱っこ、というのは恥ずかしいものだ

 

「ちょ…何を…?」

 

「今まできっと自分の為にしかその能力使ったことないんだろ。…少しずつでいい。他人の為にその力を使ってやってくれないか」

 

「…え?」

 

何を言っているのか最初はわからなかった

少し経ってからそれは自分に言ってくれているんだと気づく

 

今まで思い通りに事をなしてきた

だけどこの男だけは思い通りにならなかった

それどころか真っ向からぶつかってきて私に説教じみた事を言ってくるなんて

けどそんな自分に初めて反論した人物なんて初めてだった

 

 

だからそれなりに力になってあげようかな、と最近は思うようになり野心も薄れていく今日この頃

今日はアラタに会えたことだし気分もよかった

 

「…さて…なにか面白い事起こるかしら。…ないか」

 

小さい笑み交じりに食蜂は呟く

そこにはかつてのような不気味な笑みはなく、ただ純粋な笑顔があった

 

◇◇◇

 

現在佐天がリクエストしたケーキ店にて

佐天や美琴、黒子が決まっている中で初春だけが決めかねていた

ちなみにアラタはイチゴのショートケーキと決めている

生クリームの上にあるイチゴとか最高じゃないか

 

「うむむむむ…これも美味しそう…あぁ! けどこっちのも捨てがたい…」

 

ショーケースに並べられたケーキを見ながらいまだに悩んでいる初春

きっとこの子はレンタルビデオ店に入っても悩んじゃうタイプだ

だってアラタもそうだから

 

「そんなに悩むようなことですの?」

 

「ま、まぁアタシはチーズケーキって決めてましたから…」

 

「早くしないと陽が暮れちゃうよ?」

 

それぞれが苦笑いを浮かべつつ初春に言う

対する初春は慌てた様子で

 

「うわぁ、ちょっと待ってください―――」

 

そして注文をしようとしたとき、アラタの携帯が震えだした

 

「うん?」

 

「悪い」と四人に断わってアラタは携帯を取り出して通話ボタンを押し耳に当てた

 

「うい。なんだ固法。…わかった、すぐに行く」

 

携帯をぱちんと閉じながら黒子と初春の顔を見る

雰囲気を見て察したのか黒子が先に口を開いた

 

「呼び出しですの? お兄様」

 

「ご名答。行くぞ二人とも」

 

タイミングが悪いとはあえて口に出さなかった

しかしケーキが食べれない、という事実は初春に衝撃をもたらしたようで

 

「はぁう…」

 

ものすごく残念そうな表情でショーケースの中のケーキを眺めていた

 

「…美琴、初春の分テイクアウトできるか?」

 

「ええ。私もちょうどそうしようと思ってたところよ」

 

「ありがとうございますぅ…」

 

とりあえず初春のケーキ問題はこれで解決

あとは支部に顔を出して、指示を仰ぐのみだ

 

「よし、行くぞ二人とも」

「了解ですわ」

「はいっ」

 

三人は口ぐちにそう言ってケーキ店を飛び出した

慌ただしく走る三人の背中を見ながら美琴は小さい息を吐く

こんな時にもお仕事をする三人に少し申し訳なく感じながらも美琴は佐天の方へ向き直り

 

「じゃあ私たちも―――」

 

「あの…」

 

少しもじもじしながら佐天は視線をちょっとだけそらしながら頬を掻く

 

「私…ちょっとお手洗いに…」

 

◇◇◇

 

風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICE

通称一七七支部

 

風紀委員の初春、黒子、そしてアラタの三人が所属している事務所である

ちなみにこの事務所に入るのに特に制限はない

実際たまに友人であるツルギもたまにここに入り浸っては国法に怒られている

ツルギというのはアラタの同級生で、彼の親友でもある

 

「まったく…せっかくの非番の日だというのに…」

 

愚痴る黒子に苦笑いする初春

しかしそのままストレートに不満を口にするといろいろと危ないので黙っておく

 

「あたっ」

 

案の定ポカリ、と黒子に頭が叩かれた

 

「到着早々ぼやかないの」

 

しっかりと黒子の小言を聞き逃さなかった彼女は注意の意味も込めて適当に書類をくるめて軽くたたいたのだ

彼女の名前は固法美偉

今叩かれた黒子や初春の先輩で立場上はアラタにとっても先輩であるが同時に年齢的には同学年にあたる

 

「で、固法。用事ってどんな用事だ?」

 

アラタが聞くと国法は表情を切り替える

仕事モードの表情(かお)

 

「昨日の放課後から夜にかけて、常盤台の生徒が六人ほど、連続して襲われる事件があったの」

 

言いながら国法はデスクに置いてあったパソコンに近寄りキーボードを操作し画面を切り替える

いくつか操作して、ディスプレイには被害者と思われる生徒六人の顔写真が写された

 

「しかも、その事件すべてが〝学舎の園〟の中で」

 

◇◇◇

 

事を終えた佐天はハンカチを口にくわえながら手を洗おうと洗面所へと歩み寄って蛇口をひねって水を出す

 

その時どういう原理か分からないが背後の出入り口が勝手に開いた

 

「…?」

 

しかもご丁寧に開いた後また普通にその扉が閉まったのだ

 

「…え?」

 

正直訳が分からず気のせいか、自己完結し佐天は気にはしなかった

 

◇◇◇

 

常盤台の学生は最低でも強能力者(レベル3)以上の能力者しかいない

その能力者をいとも簡単に倒していることから、相手はかなりの手練れだと推測できる

 

「相手の能力は?」

 

アラタが固法に聞くと彼女はいいえ、と言っているように首を横に振った

ただ、と固法は口を開き

 

「ただ、被害者は全員、スタンガンで昏倒させられているの」

 

◇◇◇

 

トイレの中をきょろきょろと見回す

やっぱりどう考えてもあの扉がひとりでに開くなんて想像できないのだ

そもそもあの扉はしっかりと閉め切ったはずだ

ノブを回さない限り開くことは絶対にない

 

注意深く周囲を見渡していると―――

 

 

バヂリ、とどこからかスタンガンを押し付けられた

 

 

「あぅ!?」

 

今まで受けたことのない痛みに佐天は洗面所に身体を預ける形になってしまう

 

◇◇◇

 

「それで、意識を失った被害者は…?」

 

恐る恐ると言った様子で初春が固法に聞く

すると固法はまた空気を一変させる

それはこれより先、聞く勇気をこちらに問うかのように

 

「写真があるんだけど―――」

 

国法はカチカチ、とパソコンを操作しながらキラリ、と眼鏡の奥の瞳を煌めかせる

 

「―――酷いよ?」

 

背中に駆け抜ける戦慄

それはこれより先に待っているのはかなりの凄惨なものだろう

そんな事実が三人の脳裏に駆け巡る

 

「見るんだったら、覚悟しなさい」

 

じっ、とレンズの奥からまた固法の瞳が光る

ここから先に何があっても、動じないと約束できるの?

固法の瞳はそう訴えていた

 

「…今更だな。この仕事に就いてから、とっくの昔にできてるぜ」

「わたくしも」

「私もっ!」

 

アラタ、黒子、初春の三人はそう言って固法の眼を見る

それぞれの瞳から何かを感じたのか、固法は観念した様子でパソコンのディスプレイはこちらに見えるように動かした

 

そしてその画面を見た三人は、絶句した

 

◇◇◇

 

「佐天さーん?」

 

あまりに遅い佐天の帰りを心配した美琴がお手洗いを訪ねてきた

入ってきてすぐ思ったのは水の音が絶え間なく流れているということ

 

「…佐天さん?」

 

トイレの方を覗き込むが誰もいない

そして今度は洗面所に顔を向けると―――

 

「―――!?」

 

そこには洗面所に身体を預けて気を失っている佐天の姿が飛び込んできた

 

「佐天さん!!」

 

慌てて彼女の下に駆け寄り身体を揺り起こす

しかしスタンガンにでもやられたのか、彼女の意識はだいぶ深いところに落ちてしまっているようだ

だがとにもかくにも彼女をここから移動させなければ

そう思った美琴は改めて彼女の身体を支えようとする

その時にぐらりと彼女の頭が揺れて、美琴の視線に入ってきた

 

「―――あぁ!?」

 

その瞬間、また美琴も絶句した

 

◇◇◇

 

常盤台中学の中にある風紀委員室

 

そこに一同は集まっていた

ちなみに佐天はソファに寝かせている

 

「常盤台狩り?」

 

黒子と初春から事件の詳細を聞いた美琴はそう声を上げた

 

「そっか…常盤台(うち)の制服を着てたせいで…」

 

偶然とはいえ彼女は常盤台の制服を着ていたせいでこんな事件に巻き込んでしまったのだ

その罪悪感がその場にいる者にのしかかる

 

「…佐天の具合はどうだ?」

 

「しばらく横になれば、大丈夫だろうって…。…ただ…」

 

そこで美琴は言葉を区切る

いや、言うのを躊躇ったのだ

その行為が意味するのはつまり、彼女も犠牲になってしまったのだ

その事実に初春は肩を落とす

 

「…犯人の目星は?」

 

「まだついておりませんの。…少々厄介な能力者でして…」

 

「厄介?」

 

「目に見えないんです」

 

呟いた初春の言葉に美琴は耳を疑った

 

「…え?」

 

 

「本当ですわ!!」

 

だん、と机を勢いよく叩きながら婚后は声を張り上げた

 

「わたくし何も見ていません!」

 

「で、ですが、監視カメラには確かに…」

 

彼女の相手である立花眞人はパソコンの画面を見せながらそう言うが婚后は聞く耳を持たず

 

「それでもっ! 本当に見ておりませんの!」

 

 

そこで映像はブヅリと途切れた

正確には黒子が見かねてその画面を落としたのだが

ちなみに映像の婚后はとある事情により常に額を隠していたのだが、理由は後程

 

「被害者には見えない犯人、か…」

 

ぼそり、とほおづえを突きながら美琴は呟いた

 

「最初は光学迷彩系の能力者を疑ったんだけどさ…」

 

アラタの言葉に続けるように初春がパソコンを操作しながら付け足す

 

「完全に姿を消せる能力者はこの学園都市に四十七人います。けど、その全員にアリバイがあって…」

 

「それ以前に監視カメラには映ってるんでしょ? 光学操作系っていうのはちょっと違うんじゃない?」

 

そうなのである

光学迷彩は基本的にそう言ったものから逃れるための能力だ

しかし今回のケースは〝犯人はカメラに映っている〟

光学迷彩の件ははずれなのだ

 

「…けど、なんで被害者は犯人の姿に気づけなかったのでしょう?」

「…すっごく早く動いたとかでしょうか…」

 

黒子と初春のそんな何気ない会話にアラタの耳はピクリと反応した

〝気づけなかった〟?

 

「初春、一つ調べてほしいことがある」

 

「ふぇ?」

 

 

静かな風紀委員室にカタカタとキーを打つ音が響く

しばらく初春が検索しているのを黙って見ていると一つのウィンドウが開かれた

 

「ありました! 能力名は視覚阻害(ダミーチェック)。対象物を見ているという認識そのものを阻害するという能力です。該当者は一名。関所中学校一年〝重福省帆〟」

 

ウィンドウに表示された分を淡々と読み上げる

その画面に映った女の子はお団子頭で、前髪が長く自分の眉毛を隠すように伸びている

その画面を確認した黒子は

 

「そいつですわ!!」

 

と声を張り上げて画面を睨む

しかし初春がその言葉を否定する

 

「けど、この人異能力者(レベル2)です。自分の存在を消せるほどの力ではないと、実験データにはあります…」

 

と、なるとこれも不発ということになる

その事実を知ったアラタははぁ、と深いため息をついた

 

「…いい線いってると思ったんだがなぁ」

「振り出しに戻っちゃったわね」

 

美琴と二人そんな事喋りながら窓の方をみたその時だった

 

「う、うう、ん…」

 

佐天の声だ

しばらく意識を失っていた彼女が回復したようだ

 

「あれ…わたし…」

 

自分の額に手を当てて調子を確認する佐天

そして彼女は声のする方向…つまり美琴たちへと視線をやる

 

「佐天さんっ」

 

初春が安堵に満ちた声を上げ

 

「あまり無理しないほう、が…」

 

美琴が続いて気遣うような言葉を言おうとしてどもった

正確には佐天以外の全員がどういうわけか笑いをこらえているのである

 

「…?」

 

その行動の意味が分からなかった彼女だがアラタから渡された手鏡を見て

 

「…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

絶叫した

 

◇◇◇

 

なぜか

 

それは佐天の眉毛にある

昏倒させられた佐天はどういうわけか知らないが、自分の眉毛が思いっきり太くなっていたのだ

恐らくマジックで上から書かれたのだろう

ちなみに先ほどの婚后も恐らく同じ理由で眉にあたる部分を自身の扇子でかくしていたのだ

どんな眉毛か、というと両津〇吉みたいな眉毛といえばわかりやすいか

 

「な…ななっ…なぁ…」

 

先ほどからスーパー絶句タイムな佐天

というかがんばってシリアスに持ってきても被害がこれなので正直安心した感はある

最初固法に真面目な口調で言われた時は始めて髪の毛を引っ張ってやろうかと思ったほどである

 

「佐天さん…お気を確かに…。…ぷ、くくく…」

 

フォローになってない初春

ていうか笑ってんじゃん

 

「ショックだよね、そりゃあ…」

 

苦笑いと共に佐天を励ます美琴

というか彼女も言葉を探しているのだろう

 

「まぁ…その…なんだろうな」

 

実際言葉が見つからないアラタ

いや、どんな言葉をかければいいのだ

 

「せめて、これくらい前髪があったら隠せましたのに…」

 

笑み交じりで先ほどの女の子の画像を見ながら呟く黒子

 

「前髪?」

 

黒子の発言が気になったのか佐天は歩いてきてその画面を覗き込み、佐天の表情がまた変わる

驚愕の表情に

 

「こ、こいつだぁぁぁ!!」

 

佐天はそう叫びながら画面の指差し、プルプルと指を震わす

そしてその一言にその場の空気が一変する

 

「犯人を見たんですの!?」

 

黒子の問いかけに佐天は「はい!」と頷いて

 

「あの時、確かに見たんです。意識が薄れる中で、鏡を見たら、この女の子が…!」

 

なるほど、これではっきりした

 

「どうやら存在の認識を阻害できるのは、肉眼で見た者のみに限られるわけだな」

 

「どうりで被害者は一貫して見ていないって言っていたわけですわね」

 

黒子とアラタが二人呟く

これで確保にまた一つ歩を進めたわけだ

 

「…ふ、ふふふふふ…」

 

テーブルに手を当てて俯きながらプルプル震える佐天

その声色にはなんか怨念めいたものを感じる

そしてバッと顔を上げてビシッとまた画面の女の子を指差して

 

「この眉毛の恨みぃ…晴らさでおくべきかぁ!」

 

そう高らかに宣言した後に初春を見て

 

「やるよ! 初春!」

 

「…はい?」

 

◇◇◇

 

かたかたかたかた…と風紀委員室にパソコンのキーを打つ音が淡々と響く

そのキーを打ち込んでいるのは初春だ

彼女は現在四つの画面を同時に見ながら手元を見ずにただ情報を閲覧していく

これが彼女のスキルの一つ

正直スキルというべきか分からないがパソコンを使った情報、および電子戦に置いて彼女の右に出る者はいないだろう

 

「初春、上からの許可、取り付けましたわ」

 

「わかりましたー…と」

 

かちり、と彼女はエンターキーを押す

その直後四つのモニターに新たなウィンドウがいくつも表示され、そこにまた新たな映像が映し出された

それはこの〝学舎の園〟の監視カメラ

 

「〝学舎の園〟の監視カメラ、すべてに接続を終えました」

 

『おーっ!!』

 

その場の女子一同から感嘆の声が上がる

当然だがアラタも初春のその技量に改め驚いていた

ていうか学舎の園の監視カメラってゆうに二千を超えていたはずなのだが

 

「待ってろよぉ前髪女ぁ…必ず見つけ出してやるからなぁ…!!」

 

ぐわしっと握り拳を作りながら意気込むように佐天は呟いた

キーをたたく作業の傍ら、初春は佐天に言う

 

「約束のケーキ、忘れないでくださいよ?」

「三個でも四個でも好きなだけ食べてよしっ!」

「うわーい♪」

 

この会話からもわかるが初春はケーキに釣られました

食べれなかったからかはわからないが

 

「…多すぎるわね」

 

不意に美琴が画面に映ったいくつもの監視カメラの映像を見ながら呟いた

 

「? 何がだ? ケーキの数?」

 

「違いますわよお兄様。…初春、エリアEからHとJとNは無視ですわ」

「あ、はい」

 

黒子に指摘されたエリアをカットしていく

カットされたエリアは黒くなり、まだつないでいるエリアだけが光ったままだ

 

「あのあたりは常盤台から一番遠い場所…ですから常盤台(うち)の生徒はほとんど通りませんの」

 

流石常盤台に通う生徒

こういった情報は熟知しているようだ

やはり真面目な黒子は頼りになる

 

「じゃあ、人通りの多いところも後回しね」

 

そんな黒子に続くように美琴が付け足した

 

「なんでですか?」

 

怪訝な顔をした佐天に美琴は説明をする

 

「犯人の服装よ。学舎の園(ここ)じゃ目立ちすぎると思わない?」

 

「あっ…」

「確かに!」

 

初春と佐天がお互いの顔を見渡して言葉を紡いだ

確かに初春らがここ、学舎の園に来たときは多くの視線を受けていた気がする

そこでアラタがぽんと手を叩いて

 

「つまり、人通りのある所じゃ能力を発動したままで…疲れたらどこか人目のつかないところで身を潜めている…」

 

「ナイスアラタ」

 

と、いうことはだ

 

初春がそれまでの情報を頼りに犯人が潜みかつよく利用していそうなエリアを割り出す

 

◇◇◇

 

人気の少ない路地裏にて

 

また一人の常盤台中学の生徒が帰りの道へとついた

そんな生徒を狙う女の子が一人

 

彼女の名前は重福省帆

ざっくり言ってしまえば今回の事件の犯人だ

彼女はゆっくりとスカートのポケットから一つの獲物を取り出す

それはスタンガンだ

入手経路は不明だがそれでも最近は物騒だ、などと言えばわりかし携帯できてしまうほどのものだ

重福はまた自身の能力を発動させその生徒に歩み寄ろうと―――

 

 

「みぃつけた」

 

 

背後からの声にハッとした

急いで振り向くとそこには帽子を深くかぶった常盤台の制服を着込んだ女―――

よく見るとそれは昨日トイレで昏倒させた女だ

 

「私のかわいい眉毛のカタキ、きっちり取らせてもらうからね」

 

このままではまずい

そう判断した重福は認識阻害(ダミーチェック)を使い女の視界から自分の存在を消して逃亡を図った

 

「えっ!?」

 

その場にはただ走り去る足音が聞こえるのみ

 

「…ほんとに消えた」

<感心してる場合じゃないですよ! 追ってくださいっ!>

「っと、そうだった…」

 

 

先ほどのとはまた別の裏路地

そこの壁に鏡祢アラタは背中を預けてただ待っていた

 

「…、」

 

静かな路地に耳を澄ませただ待つ

少ししてたったったっ、と誰かが走ってくるような足音が耳に入ってきた

視線を向けるが何も映らない

 

「…ビンゴ」

 

その足音が自分の隣通るタイミングで足と思われる場所に自分の足をかける

ガッと確かな手ごたえを感じ、その直後自分の付近で一人の女の子がしりもちをついた状態でその場に現れた

それは先ほどパソコンに映った女の子と同じものだ

 

女の子が首を見上げるタイミングでアラタは自分の腕章を見せつける

 

風紀委員(ジャッジメント)だ。これ以上は無意味―――」

 

「ちっ!」

 

短く舌を打つと女の子は再び姿を消して反対方向に走り出した

 

「…ま、そりゃそうだわな」

 

黙って捕まる犯人などいまどきの探偵ドラマでさえやっていない

アラタは耳に就けた通信機に手を当てて向こうにいる初春に指示をを仰ぐ

 

「初春、ナビ頼んだ」

 

<はいはーい。その路地を出て左、三番街に入ってください>

 

 

<わかった>

 

アラタからの返事を聞くと初春は再び画面へと視線を向ける

画面に映っているのは必死に走っている重福省帆の姿が映っていた

 

<初春!>

 

佐天の声が聞こえた

初春はまた画面に目をやって重福の逃走経路をまた告げる

 

彼女の仕事はただ簡単

重福の逃走経路へ佐天や黒子、アラタを誘導し逃走経路を塞ぐことである

 

<初春! ナビをお願いしますの!>

 

「はーい」

 

 

(なんで…!?)

 

重福省帆は焦っていた

それは行き着く先々に先ほどの男や帽子を被った常盤台の女、さっきなんかは男とは別の風紀委員に妨害された

当然逆方向へ走って撒こうとしたがその道の先には風紀委員の男がいるし・じゃあまた別のルートをたどれば帽子の女が先回りしているし

 

(なんで!?)

 

どういうことだろう

こちらの逃走経路を知りもしないのに

まるで心を読まれているのかのような錯覚さえ覚える

 

「はぁ…はぁ…」

 

視覚阻害(ダミーチェック)に使い過ぎで身体に疲労が溜まってきた

さすがにここにはいないだろう…そんな考えを抱きながら重福は最後の望みとして公園に立ち寄った

 

「っはぁ…すぅ、はぁ…」

 

膝に手を置いて減ったスタミナを回復させる

よかった、ここには誰もいない―――

そう思った重福の幻想はいとも容易く砕かれた

 

キーコ、と誰かがブランコを扱ぐ音が聞こえた

その音にハッとして前方のブランコの遊具を見る

そこにはゆっくりとブランコを扱ぐ短髪の常盤台の女性

 

それと同時に背後からの足音が聞こえた

それは先ほど自分を追い回した黒子と佐天、そしてアラタだった

 

ブランコに乗った短髪の女性はこちらの存在を認識するとブランコを扱ぐのをやめて

 

「…鬼ごっこは、終わりよ」

 

小さい笑みと共に重複を見た

 

 

「…どうして!? なんで視覚阻害(ダミーチェック)が効かないの!?」

 

「さぁね」

 

そうそっけなく答えると美琴はブランコから降りて重福の下へと歩み寄る

まさか初春のサポートがあったなどというわけにもいかないし。そもそも言っても意味がないと思ったからだ

 

「くっ…! これだから常盤台の連中はぁ!!」

 

そう怒りの形相とともに重福はスカートのポケットからスタンガンを取り出した

佐天や婚后、その他常盤台の生徒を合計六人昏倒させたあのスタンガンである

 

その行動に佐天はハッとなるが黒子、アラタは動じずに事の成り行きを見守った

 

「うあぁぁぁぁ!!」

 

そんな叫び声と一緒に重複は一直線に走って美琴の胸部にそのスタンガンを押し付けた

バヂリっ、と電撃が迸る音が公園に響き渡る

その一撃に何かを確信した重福はにやり、と冷や汗交じりに笑いを浮かべた

 

 

当の美琴はまったく効いた様子なく普通に立っていた

 

「…え?」

 

バヂリ、バヂリと何度かスイッチを押し電気を流してみる

しかし結果は変わらず、美琴はケロッとしたままだ

 

「ざーんねん。私こういうの効かないんだよねー」

 

そう言いながら美琴は両手の人差し指を向き合わせる

そして先ほどのスタンガンのようにその指の間でバヂリ、と電気を迸らせた

 

「…えっと」

 

美琴の能力をようやく理解した重福

慌てる重福の視線を余所に、美琴は重福の二の腕に人差し指をちょん、と当てて

 

「きゃあ!?」

 

バヂリっ! と今まで彼女が常盤台の生徒にしてきたように電流を流し重複を気絶させた

 

「手加減はしたからね」

 

倒れた重福に向かって美琴は小さくそう言った

最も聞こえてるかはわからないが、まぁ問題ないだろう

 

「…初春。お疲れさん」

警備員(アンチスキル)に連絡しておいてくださいな」

 

<ふぁー…い>

 

背伸び交じりに欠伸も混じった声で初春はそう返事した

今までずっとパソコンの前にいてせわしなく指示をしていた彼女が恐らく一番疲れただろう

そのうちケーキでもおごってやるか、とそんな事を思うアラタだった

 

◇◇◇

 

とりあえず警備員が来るまで重複をベンチに寝かせ回復を待つ

しかし佐天の怒りは収まっていないようで妙に手をわきわきしながら油性マジックを取り出して

 

「ふふふふ…さぁて…」

 

その笑い方はもはや悪役のソレである

笑みと共にマジックのキャップをキュポンと抜きながら気絶している重福へとにじり寄る

 

「どんな眉毛に…」

 

そう言って重福の前髪に手をかけて

 

「してあげましょう―――。…か?」

 

掻き分けて眉毛を見て佐天が止まった

どういうわけか冷や汗交じりである

どういうことかと佐天の後ろにいたアラタは美琴、黒子と互いに顔を見渡して横からちらりと重福の額を見た

 

 

簡潔に言おう

正直言えば彼女の眉毛も普通の人よりも変だったのである

それでも確かに悪く言えば変かもしれないがよく言えば個性的とも取れる

 

「う…うん…」

 

そうこうしている内に重福が意識を取り戻した

そして佐天の手が自分の前髪にあるとわかったとき

 

「嫌! 見ないで!」

 

そう言って額を庇いながら視線を逸らす

流れる沈黙

どうコメントをすればいいのだろうか

 

「えっと…」

 

言葉に詰まった佐天が皆の空気を代表するかのように言葉を濁す

 

「おかしいでしょ…?」

 

今度こそ完全に言葉が見つからない

どうやら彼女にとって眉毛はコンプレックスのようだ

 

「笑いなさいよ! 笑えばいいわ…あの人みたいに…」

 

『あの人?』

 

言ってる意味が分からず皆そろってそんな言葉を口にした

 

 

春―――

 

―――私は麗らかな日差しの中で微睡んでいた

 

あれ、なんか語りだしたぞ

 

―――幸せな時間はいつまでも続くと、ただ無邪気に信じていた…

 

けど、幸せな時間は突然と終わりを告げた…―――

 

大切な人が、常盤台の女に奪われるまでは―――

 

「どうして!? そんなに常盤台の女が良いの!?」

 

「別に…そういう訳じゃ」

 

「じゃあなんで!?」

 

そう彼に聞くと、彼はこう言ったのだ

 

「だって…お前の眉毛…―――変」

 

私は泣いた…

悲しみと怒りの感情がふつふつと湧き上がってきた

 

私をあの男が憎い…

私から彼を奪った常盤台の女が憎い…!

 

そしてなにより―――

 

 

「この世の眉毛すべてが憎い!! だからぁ!!」

 

ぐわばぁっ!! と寝ていた態勢から起き上がり拳を握りしめながら言葉を続ける

 

「みんな面白い眉毛にしてやろうと思ったのよぉ!!」

 

逆恨みやないかい

そしてなぜそこまで眉毛にこだわるのだろうか

 

「なによ!? さぁ笑いなさいよ!!」

 

「えっ!?」

 

唐突に言われた故に佐天は言葉を用意していなかったので苦笑いのまま黙ってしまった

どうしよう、と頭の中で言葉を探しているそんな時

 

「…人によればその眉毛も個性的だと思うんだけどなぁ」

 

ぼそりと呟いたその言葉に佐天はこれだと言わんばかりに同意する

 

「う、うん! あたしはそれ好きだなぁ! ねぇアラタさん!!」

 

「へっ!? あ、あぁおう! なんだかとってもチャーミングだなぁおい!」

 

思わず乗ってしまった

しかし彼女をなだめるのはこれが最も効果的と思ったのでまぁ問題ないだろう、などと思っていたのだが

 

「…、」

 

ポォ…と重福の頬が赤く染まった

そして佐天、アラタと両方の顔を見てさらに顔を赤くする

 

『…えっ!?』

 

フラグが立った瞬間だった

よく目と目が合うー、なんていうが今回は眉毛をフォローしただけなのに

そんな二人を苦笑いしながらも佐天と美琴は見守っていた―――

 

◇◇◇

 

しばらくしたのち警備員のトラックが到着した

大人しくなった重福は警備員の人に誘導されるままそのトラックへと乗っていく

乗り込む直前、重福は振り向き

 

「あの…」

 

その言葉は佐天とアラタに向けられた言葉であるとすぐにわかった

なぜなら頬が赤かったから

 

「手紙、とか、書いてもいいですか?」

 

「…はい」

「おぉ…」

 

完全に態度が変わっている

佐天に至っては眉毛の恨みなどと言っていたのに

 

その返事が聞けたあとまた重福は頬を朱に染めたままトラックに乗っていった

彼女が乗ったトラックが走り去った後にふぅ、とアラタは息を吐く

 

「…そういえば、完全に姿を消してたな」

 

いろいろ公園での出来事が尾を引いているせいでうっかり忘れがちだが彼女は完璧にその気配を絶っていた

 

「そういえば、異能力者(レベル2)という話でしたのに…変ですわね?」

 

その疑問には黒子も同様に思っていたようで腕を組みながら言う

 

「…データバンクに誤りがあったとか?」

 

「や、流石にそれはないですわよお姉様…」

 

その時はそんな風に笑って流していたが、これが後に起こる大きな事件に繋がってるとは、この時誰も思っていなかった

 

ちなみに

 

佐天や他の被害者の眉毛に書かれたインクだが

何やら特殊に作成されたインクらしく一週間は絶対に落ちないんだとかなんとか

 

◇◇◇

 

んで一週間後

 

婚后光子は夕刻人通りの少ない路地を歩いていた

ちなみに一週間前にまんまと婚后が襲われた場所である

 

だがしかし今回もまた視線を感じるのだ

犯人は捕まったはずなのだが、なんだかその時に感じた視線とはまた違う視線

 

「…どなた!?」

 

思いっきりデジャブがするがそんなことは言っていられない

カバンからまた扇子を取り出し口元に当てながら周囲に視線を向ける

 

「…やっぱり気のせいなのでしょうか」

 

それでも注意深くまたゆっくりと後ろへと下がる

少しずつ足を後ろに動かしているうちに背中に誰かの気配を感じた

 

「貴女ですわね!!」

 

そう大きな声を出して勢いよく後ろを振り向いた

今度は先手を取った

前回のようなミスなど…

 

「…ハァ…!」

 

そこにいたのはカメレオンのような姿をした人型の化け物だった

口と思われる部分から舌のようなものがちろちろと動いている

その行動は先ほどまでの婚后の自信を打ち砕くのに十分すぎた

 

「ひっ…!」

 

身の毛のよだつ恐怖を初めて感じた

言いようのない恐ろしさが彼女の精神を蝕んでいく

気づいたら婚后はへにゃん、とその場にしりもちをついてしまった

思うように動かない

 

「こ、来ないでくださいっ…!」

 

それでもかろうじて動く両手を懸命に動かし化け物から距離を取ろうとするがいかんせんスピードが出ない

化け物はただ歩いているだけなのに

 

「シャーッ!!」

 

化け物が咆哮し声を上げる

たったそれだけの事なのに体が震えあがる

今ので完全に体から力が抜けてしまった

 

「だ…誰か…!!」

 

普段言わない言葉でさえ呟いてしまうほどに彼女は追い詰められていた

届かない声だとしてもすがらずにはいかなかった

だから彼女は叫ぶ

 

「誰かーーー!!」

 

そう叫んだ直後だった

 

自分の背後から足音が聞こえて、そして自分を飛び越えてあのカメレオンの化け物に蹴りを当てた

蹴られたカメレオンは大きく後ろにのけぞり態勢を崩す

 

「…今日は早い時間だなおい」

 

「…へ?」

 

突如目の前に現れたその男

そう言えばネットで見たことがあるような気がした

都市伝説で噂されている赤い仮面ライダーの姿だ

 

「おい、そんなとこに座ってないで早く逃げろ!」

 

「そ、そうしたいのはやまやまですけど…その…わたくし腰が抜けて…」

 

「ったく…仕方ない。速攻でケリつけるか…!」

 

そう呟くと赤いライダーはまっすぐ化け物に接近すると顔面に向かって拳を繰り出した

直線に突き出されたそのパンチは確実に化け物の左頬を捉え、ダメージを与える

しかしカメレオンも黙ってはいない

負けじと反撃と言わんばかりにパンチを繰り出すが手慣れた手つきでライダーはその拳を掴み、軽く遠心力をつけると思いっきり上空へと投げ飛ばした

 

「悪いな。こいつで終いだぁ!!」

 

そのまま落ちてくる化け物の腹部めがけて自分の拳を突き出した

突き出されたその拳は化け物の腹にぶち当たり、また上空へと打ち上げられて

 

「ガァァァァァ!!?」

 

そのまま浮いていく体制のまま、化け物は叫びながら空中で爆発した

 

「…ふう」

 

戦いを終えたライダーは軽くそんな息を吐いた

その仕草はまるで授業か何かを終えた直後のように

 

「じゃあ、さっさと帰れよ。あとこのことは秘密な」

 

「は…はいっ…」

 

ライダーはそう言いながら婚后の隣を通り過ぎると夕闇の路地へと入っていく

 

「あの!」

 

そんな後ろ姿を婚后は呼び止めた

どうしても聞きたいことがあったからだ

 

「あ、の…お名前は…」

 

その問いにライダーは少し考えたような素振りを見せた後こちらに向かって振り返り

 

「クウガ。仮面ライダークウガだ」

 

そう短く言い残すと今度こそ夕闇の路地へと消えていった

婚后はその背中が消えるまでずうっとクウガの背中を眺めていた

クウガの背が完全に消えてから、婚后は改めて名を呟く

 

「…クウガ…さん」

 

なぜだろう

彼とはまた、どこかで会えそうな…

そんな気がした

 



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#4 都市伝説

出来ました

今回は

ぐだぐだ
戦闘なし

な感じです

ではどうぞ


ファミレス〝Joseph's〟のとある一角

ファミリーテーブルの席にて一つ奇妙なテーブルがあった

黒い布を被って、何やら微動だにしない変なテーブル

その正体は自分の友人たちである美琴らである

ちなみになんでそんな事になっているのかと言うと雰囲気を出したいかららしい

そんな雰囲気を出すために美琴、黒子、佐天、初春はテーブルに突っ伏してその上からは黒い布をかけて夜っぽい雰囲気を出しているのである

そんなテーブルの近くでアラタは佐天が持ってきたオカルト雑誌を読みながら彼女たちが話が終わるのを待っていた

そんな空間に一人混ざる勇気もないし、女子四人という状況に男子一人とはいかがなものか

 

しかし都市伝説にもいろいろあるようで、アラタはふむふむとひとり頷きながらその雑誌を読み進めていると

 

 

「―――てぇ、全然怖くないじゃんっ!!」

 

 

そんな声と共にぐわばぁ! と勢いよく美琴が立ち上がった

その反動で彼女らにかぶせられていた黒い布がふわりと浮かび上がる

 

「美琴ー。ほかの客に迷惑―――のばっ」

 

そんな布が注意を促そうとしたアラタの上にぱさ、と落ちる

その布から一瞬、フローラルな香りがした

 

 

ある蒸し暑い夜の事

一人の男性が人気のない公園を通った時、一人の女の人に駅までの道のりを聞かれたんです

 

快くその男性が道を教えているとどこかうつろなその女性が、ふわぁ…と手を挙げて突然がばぁっと…

 

 

ブラウスを脱いだんです…

 

 

会談の内容はまぁ要約するとそんな感じ

早い話道を聞かれたので教えていたらその女性がいきなり服を脱ぎだしたでござる、ということだ

 

「いやどういうことだ」

 

佐天から改めてその話を聞かされたアラタは怪訝な顔をした

どうしよう、全然怖くない

 

「せっかく雰囲気を作っても、そんな話ではね…」

苦笑いと共に黒子が携帯片手にそんな事を言う

 

対する佐天は雰囲気作りの為に持ってきていた先ほどの黒い布を折りたたみながら

 

「けど実際いたら怖くないですか? いきなり脱ぎだす都市伝説〝脱ぎ女〟!」

 

「怖くないっ」

 

だがしかし全力で美琴はバッサリと否定する

 

「てか、仮にそれが事実でもいたら変態じゃんか」

 

アラタの呟きに美琴はうんうんとうなずいた

確かにいたら怖いかもしれないがきっとそれは恐怖の怖さではないだろう

 

「じゃあじゃあ、こんなのはいかがですか?」

 

がさごそとカバンからノートパソコンを取り出してwebページを開くとテーブルの中央に置いてみんなに見えるように位置を調整する

そのページにはこう書かれていた

 

〝風力発電のプロペラが逆回転するとき、街に異変が起きる!?〟

〝夕方四時四十四分に学区をまたいではいけない、幻の虚数学区に迷い込む!?〟

〝使うだけで能力が上がる!? 幻想御手(レベルアッパー)!〟

 

…なんだろう、どれもありそうだがいまいちパッとしない

あからさまに嘘っぽいのである

 

「そんな下らないサイトを見るのはおよしなさいな」

 

案の定黒子からそんな言葉が放たれる

 

「だいたい都市伝説なんて非科学的な話。ここは天下の学園都市よ?」

 

美琴の言葉にアラタもわずかに同意する

そもそも能力の使用が当たり前になっているのがこの学園都市だ

だというのに噂だけの都市伝説はどうも信憑性に欠ける

 

そう思いながらアラタはテーブルに置いてある水をコクリと飲みながら耳を傾ける

 

「もお、ロマンがないなー」

「本当に起きた出来事が形を変えて形も変えて噂になることもあるんですから」

 

それでもやっぱり脱ぎ女なんていないと信じたい

 

「どんな能力も効かない能力を持つ男、とか! 学園都市ならではって感じじゃないですか!!」

 

「どんな能力も効かない…?」

 

そんな佐天の声が耳に入ったときアラタのこめかみがピクリと反応した

 

ものすごく知り合いにいるんですけど

つうかあいつ都市伝説にまでなってやがるのか

恐るべし幻想殺し(イマジンブレイカ―)

 

「そんな無茶苦茶な能力、あるわけないですわ」

 

しかしあくまでそれは都市伝説

当然黒子は信じるはずもなく笑いながら

 

「ねぇ? お姉様」

 

だがしかし美琴はその画面を食い入るように見つめていた

…まさか当麻と会ったことがあるのだろうか

 

「…どうした?」

 

アラタの言葉にようやくほか四人の視線に気づいた美琴は軽くコホンと咳払いして

 

「そ、そうね。そんなのいたら、一度、戦ってみたいわね。はは、はははは…」

 

乾いた笑いをする美琴に怪訝な顔をする黒子

空気を変えようと思ったアラタは佐天にこんな質問をした

 

「ところで、最近はどんなのが人気なんだ?」

 

「あっ。アラタさんも興味あります? さっきの奴とは別に、実はもう一つ今話題の奴があるんですよー。ね、初春」

 

「はい。ちょっと待ってくださいね…と」

 

佐天に促され初春はカタカタとノートパソコンのキーを叩き始める

待ってる間アラタはまた水を喉に流し始めた

心地よいくらいにキーの音が耳に聞こえ少ししてそれが止まった

 

「今話題の都市伝説はこれです! 〝仮面ライダー〟!!」

 

「ぶヴぁ!?」

 

「? アラタさん?」

 

 

盛大にむせてしまった

心配そうに見る初春に手で大丈夫と訴えるが内心ひやひやしていた

当然である

アラタも仮面ライダーなのだ

 

しかしその単語を初めて聞いた様子である美琴と黒子は頭に?を作り

 

「仮面ライダー…」

「ってなんですの?」

 

そう佐天に聞き返した

聞き返された佐天はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに

 

「〝仮面ライダー〟ていうのは人知れずこの学園都市を守っているヒーローなんです! て、あ。白井さん信じてませんね!?」

 

「当たり前ですわよ。百歩譲って先ほどのは認めても、流石にそれは作り話にもほどがありますわ」

 

「なら! 初春、例の動画よ!」

 

「わかりましたー」

 

動画!? とアラタはまた穏やかじゃない気持ちになった

しかし大丈夫

最近は変な怪人も出てきてないしそれこそこの頃はガイアメモリを用いたドーパントを左翔太郎と共に退治、捕縛しているくらいしか…

 

「これですね、これは数日前…たしか、私たちが御坂さんのお部屋にお邪魔した日に起こった奴ですねー」

 

そう言ってまたテーブルの中央に置いて皆に見えるようにノートパソコンの画面を動かした

その画面には―――

 

今まさにマグマみたいな容姿の変な怪人と緑と黒のセンターマンのような人物、そしてそのセンターマンと一緒に戦っている二本の角が特徴的な赤い人物が戦っている姿があった

しかも結構画質良いし

 

「…これはまた…特撮か何かの撮影ではなくて?」

 

その動画を見た黒子が一般人なら当然の感想を口にした

正直な所不安ではあったが黒子がそういった感想をするならまぁ特に問題はないだろう

別に正体を隠していない翔太郎は問題ないがアラタは違う

友達に心配させたくないから正体を隠しているのだ

まぁ、しずれバレてしまうのだろうな、とはアラタも思っているのだが

 

「えー、結構リアルだと思いません? 特にここの炎なんか…」

 

 

佐天や初春がそんな会話してる中ただ一人美琴はふむぅ、と考え事をしていた

 

◇◇◇

 

「で、結局あいつはなんなのよ」

 

その日はそこでお開きとなった

とりあえずアラタも一度家、というか学生寮に帰ろうかと思った時美琴に捕まった

そして先ほどの台詞をきいたのである

 

「あいつって?」

 

「あいつは…あいつよ。ほら、どんな能力も効かない能力を持つ男!」

 

「あぁ、当麻の事か」

 

上条当麻

 

アラタと同じ学校に通っている同級生、そしてアラタの親友である

同じくクラスメイトの土御門元春、青髪ピアスと合わせて三馬鹿(デルタフォース)なんて呼ばれているのだが

 

「アラタだったら仲良いから、そいつの弱点くらい知ってるんじゃないかって思って」

 

「えぇ? なんで」

 

そもそもなんで当麻と美琴が接点なんて持ってるんだろうか

…いや、なんとなく想像できるので聞かないでおこう

 

「別に当麻に勝っても何にも自慢できないぞ。てか勝ってどうする?」

 

「それは…」

 

「理由がないなら戦うな。お前の力は、そんな事の為にあるんじゃないだろ」

 

そう言われて美琴は押し黙る

そういえば勝ってどうしたいのか、今思えば何も思いつかない

ここは学園都市、そんな能力もあってもおかしくはない

しかしそれはどうやったらそんな能力が生まれるのかはなはだ謎である

 

「それに当麻は良い奴だぜ、本当に。まあちょっとバカだけど…」

「…そんなはっきり言うものなの?」

 

案外バッサリぶった切るアラタに美琴は苦い顔をする

少し歩いてゲームセンターにでも寄ろうかなどと話し合っているときである

 

「あのー…目印かなんか、わかりませんか?」

 

何やら聞きなれた声が聞こえた

それは誰かの探し物を探しているような感じである

声の方へ向くとタイトスカートとYシャツを着こんだ女性と学生服を着たツンツン頭の少年の姿が見えた

その少年は先ほど話していた件の上条当麻である

 

「目印、かぁ。…目の前に横断歩道があった…」

 

「横断歩道じゃ、あんまり目印とは…」

 

「よお、当麻ー」

 

アラタが声をかけると上条は気づいて手を振り始めた

 

「おお、アラター。それと隣にいるのは…ビリビリかー」

 

「ビリビリ言うな! 御坂美琴! いい加減覚えろ!」

 

さっそくヒートした美琴をどうどう、と落ちつける

少しして落ち着いた美琴と共に二人は上条の元に歩いて行った

 

「で、どうしたんだ」

 

「いや、この人が車置いた駐車場、わかんなくなっちまったらしくてさ」

 

どういった理由だよ

心の中で思わず突っ込んでしまった

ていうか車の場所を忘れるって斬新すぎると思うんだが

 

「そうだ。押し付ける形になって悪いんだけど、探してやってくんないか? 俺行かないといけなくてさ」

「補習か?」

 

アラタがそう聞くと当麻は少し項垂れて「いや…」と否定し

 

「スーパーで卵の特売があってさ…貧乏な学生にはわかるだろう? アラタ」

「あぁ。逃せば死活問題だな」

 

学生寮に住む生徒はこういった特売はチャンスである

いくらお金を節約できるかでだいぶ変わってくるほどだ

 

「そんなわけで、後頼んだアラタ! ビリビリもっ!」

「だー!! あくまで言うか己はっ!!」

 

再びバチバチ雷を鳴らす美琴の頭に手を乗せて落ち着かせながら走って行く当麻を見送る

そういえば補習ってあったな…俺は大丈夫だっけ…アラタは軽く不安になりながらもその女性に向き直った

そして目を疑った

 

「えぇあっ!!?」

 

「ちょ・・・!? 何を、してるのでしょうか…!?」

 

美琴と二人して赤面しながらその女性に聞く

対して女性は手慣れた手つきでYシャツを軽く畳み右手にかけると

 

「炎天下の中歩き回ったからね。…汗びっしょりだ」

 

答えになってない

とりあえずこのままだと社会的に殺されかねないので美琴が服を着せてアラタが先導する

こういう時の連携は無駄のなかった動きだった

 

◇◇◇

 

「ここは涼しくていい気分だ…」

 

日陰のある自販機でその女性はジュースを買っている

美琴とアラタはその付近のテーブル付きベンチでその女性を待っていた

 

「…なんなの? あの人」

「俺に聞かれても」

 

まさかいきなり服を脱ぎだすとは誰が思ったことか

…脱ぎだす?

 

「…もしかして」

 

美琴と視線を合わせてJoseph's店内にて言われた事を思い出す

 

いきなり服を脱ぎだす都市伝説〝脱ぎ女〟

 

『いやないない』

 

全力速攻全否定

そうだ、たまたまだたまたま

そう結論づけて再び女性を待つ、とそこで美琴の携帯が鳴った

美琴はアラタに断ると形態の通話ボタンを押して耳に当てた

 

「もしもし」

 

<お姉様? 今どちらですか?>

 

「あぁ、黒子。今アラタ―――」

 

<まぁ、お兄様も一緒でしたの? これから初春たちとお茶しに行くのですけど、一緒にいかがです? もちろんお兄様も―――>

 

「いや…それが…今変な人と一緒でさ」

 

<…変な人?>

 

「うん…その、道端でいきなり服を脱ぎだして…」

 

<突然服を脱ぎだしたぁ!?>

 

携帯のスピーカーからそう驚く黒子の声が聞こえた

そしてその後に

 

<それって! きっと脱ぎ女ですよぉ!!>

<大丈夫ですか!? 御坂さぁん!>

 

何やら初春と佐天の声が遠くから聞こえてきた

 

<ちょ、おやめなさい貴女たち!!>

 

何やらがさがさと音が聞こえる

きっと佐天や初春が黒子に組み付いて携帯に声を入れようとしているのだろうか

 

<写メ! よかったら写メお願いします!>

 

いや、流石にそれは失礼ではなかろうか佐天よ

 

「あのねぇ…面白がって都市伝説につなげないでよ。ちょっと変わってるけど、普通の人―――」

 

「変わっているとは、私の事かな?」

 

「わぁ!?」

 

まだいないものと思っていた美琴はいらんことを口走ってしまった

すでにその女性は飲み物を購入し終え戻ってきていたのだ

美琴は慌てて携帯を切りその女性に視線を向けて

 

「いえ、そんな。見も知らぬ女性を捕まえて…ねぇ?」

 

「…俺に振るなよ」

 

そんなやり取りのなか女性はテーブルの上に飲み物を置いた

ちなみになぜか飲み物は美琴とアラタの所にも置かれていた

 

「…え?」

「その、これは…」

 

「付き合ってくれるお礼だ」

 

そう言って女性は小さい笑みを浮かべた

せっかくのご厚意を無下にするのは申し訳ないので

 

「いただきます」

「すみません」

 

そう言って美琴とアラタはいただくことにした

しかし缶に触れたとき、なぜだか熱さを感じ、思わず手を離す

一度顔を見合わせて改めて缶を持ってラベルを見てみるとそこにはスープカレーの文字が

 

「…なんでホット?」

 

「そしてスープカレー?」

 

二人してその疑問を口にする

いや、厚意に失礼とはわかってはいるのだが

そしてそんな疑問を聞き取ったのか、その女性は答えた

 

「暑い時には温かい飲み物の方がいいのだよ。それに、カレーのスパイスには疲労を回復する成分が含まれている」

 

理屈はわかる気がしないでもない

けど…

 

「…気分的には、冷たいものの方がいいなー…なんて…」

「こら、美琴。いくらなんでも失礼だろうが」

 

流石にこの言葉は駄目だろう、と感じたアラタは頭をペチ、と叩いた

美琴は小さく「ぁぅ」と呻くと頭を押さえる

 

「気分、か…若い娘さんや少年はそう言う選択をするのか…買いなおそう、なにが良い?」

 

「いいですいいです!!」

「お気持ちだけで結構です!」

 

流石にそこまでお手を煩わせるわけにもいかず、全力で女性を引き留める

 

「…すまないね。研究ばかりしているせいか、何事も理論的に考えてしまう癖がついてしまってね」

 

「研究者…てことは、学者さんなんですか?」

 

美琴の問いに女性はスープカレーを一口飲みながら

 

「大脳生理学。主にAIM拡散力場の研究をしているんだ」

 

AIM拡散力場

 

正式名称〝AN_INVOLUNTARY_MOVEMENT拡散力場〟

『AN_INVOLUNTARY_MOVEMENT』は『無自覚』ということであり、

能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールド全般を指す言葉

 

「もう授業でならったかな?」

 

「え、えぇ。一年の時に…」

 

美琴は言いながら手元のスープカレーに視線をやる

飲むかどうか迷っているのだろうか

 

「…確かそれって、機械を使わないと人間じゃ計測できない微弱な力だって…奴でしたっけ?」

 

そんな迷う美琴を尻目にアラタが女性に聞いてみる

その女性は妖艶に足を組み替えると少しだけ前に前に乗り出す

もともとその女性は美しい部類に入るので、その仕草だけでもこう、なんだろうか…

 

「…、」

 

ぎゅむ、と左足のつま先に痛みが走った

 

「いだっ」

 

それは美琴に踏まれたものだと気づくのに時間はかからなかった

視線だけ向けると美琴はふんっとそっぽを向き、意を決したようにスープカレーを飲みだす

 

「私はその力を応用する研究をしてるんだ」

 

その言葉に二人してほえー…と口を合わせる

世の中にはいろいろな研究をしている人がいる者だなぁ、と素直にそう思った

と、そんな時だ

 

「うわっ!!」

 

一人の子供が足を滑らせて女性のスカートにアイスクリームをぶちまけてしまったのだ

起き上がった子供はすぐ女性に向かって「ごめんなさい」と謝る

しかし女性は「気にしなくていい」と子供に言った後おもむろに立ち上がってスカートのジッパーを下げて―――

 

「だから脱ぐなって!!」

 

このまま何もなかったらまたこの女性はまた脱ぐところだった

というか正直目のやり場に困ってしまう

今もアラタは全力で美琴により首を左にさせられている

だはしかし、その女性は

 

「…え?」

 

さも自然に、不思議そうに返すのだった

 

◇◇◇

 

美琴がトイレにて彼女のスカートを乾かす間、アラタは外で待っていることにした

だがしかし待つと言ってもやる事はなく、暇をつぶすためには携帯のソーシャルゲームをかちかち進めるくらいしかない

 

こういったソーシャルゲームはやり始めのころは確かに面白いのだが先に進めていくと行動力的なものを消費して進めるのが面倒になってきてしまうのだ

まぁそれは単にアラタに忍耐がないからなのであるが

 

「…む。行動力が尽きた」

 

とたんまた暇になる

アプリか何かを落とすという手もあるが携帯(主にバッテリー)に優しくない

じゃあなにか携帯ゲーム機ということもあるがいかんせんお金がない

 

「…どうしようかなー」

 

と呟いて空を見上げる

空には自由気ままに動いている雲

そしてその向こうには真っ新な青空

雲みたいにゆっくり自由に生きていけたらと何度思ったことだろうか

そんな幻想的なこと言ったって何も変わるはずももなく

 

「さて…」

 

ひとしきり空を見上げたあと再び視線を前に向ける

視線の先にはボウルに豆腐を入れた変な同年代の少年が

 

「…」

 

正直言って知り合いである

それもよく知る知り合い

 

「…何してんの天道」

 

「…ん? なんだ鏡祢か。お前こそそんなところで何してる」

 

質問に質問を返すこの男は天道総司

名前の意味はなんでも〝天の道をいき、総てを司る〟という意味らしい

なんでもこの名前は先代から受け継いだ誇り高い名前らしく、本人もそういっている

 

「友達待ってるの。ちょっとした事情があってね。そっちは?」

 

「俺か。なに、外から取り寄せた上質の豆腐が今日ようやく届いたからな。上条や土御門に麻婆豆腐でもふるまってやろうと思ってな」

 

そう言いながらボウルをアラタの前に持ってくる

そのボウルの中にはとても美味しそうな豆腐がプリンのように揺れていた

その瑞々しい白さが食欲をそそる

 

「当然お前にも分けてやる。辛さはどのくらいがお好みだ?」

 

「マジで? じゃあ俺は辛口で頼むぜ」

 

「分かった。飛び切り辛くしてやる。あと、いつ見られてるか分からないから変身は気をつけろよ」

 

何気なく言ったその一言にう、とアラタは言葉が詰まる

どうでもいいが彼も都市伝説でいうところの仮面ライダーなのである

 

「それと、だ。鏡祢、お前は幻想御手(レベルアッパー)って、聞いたことあるか?」

 

「あの都市伝説のか? それがどうしたんだ」

 

そう言ったあと天道は真剣な表情に変える

キリ、と絞められた眼力はなかなか来るものがある

 

「それはな、どうやら実在するらしいんだ」

 

実在、する?

 

「どういうことだ?」

 

「言葉通りの意味だ。まぁあくまでらしい(・・・)だからな。俺も実物は見た事がないからわからんが…」

 

そう言って天道は左手を顎の下に持っていき

 

「何やら不穏な空気がする。…鏡祢、気をつけろ」

 

「わかった。サンキュー天道」

 

短く礼を言うと天道はフッと笑みを作ると

 

「礼はいらない。だがもし俺の力が必要になったら連絡しろ。力になる」

 

「あぁ。その時は頼りにしてんぜ」

 

そう言った後、軽く笑って天道は豆腐片手に学生寮の方へと歩いて行った

その堂々とたる背中姿は見習いたいほど気品にあふれていた

 

「なるべくは、借りたくないけどな…」

 

いくら頼りになるといえど天道は一般人である

風紀委員(ジャッジメント)としてはなるべく連絡したくないのが本音だ

 

そんな事を考えながらアラタは美琴とその女性が出てくるのを待った

 

 

その数分後美琴らは出てきた

 

なんでか美琴の顔は朱かったが、今追求すると確実に電撃を放たれそうなのでやめておきました

 

 

ほどなくして彼女の車は見つかった

意外にもセブンスミストの駐車場に普通に停めてあったのだ

 

「いろいろとありがとう。それじゃあ」

 

そう言い残して女性は車を走らせた

その後ろ姿を見送りながらアラタと美琴は手を振る

美琴は発進の際に

 

「お気をつけてー…」

 

なんて言葉を付け加えた

その車が見えなくなったところで美琴は手をおろし

 

「…てか、自分が停めた駐車場の場所わからなくなるってどうよ」

「…さぁ。あるんじゃないか?」

 

車を持っていないアラタらにはわからない事である

一応アラタはバイク所持者だが普段使用しないのでどうも同意できない

 

「つか、トイレの中で何話してたのさ」

 

「え? …っ!!?」

 

なんでかしらんがアラタの顔を見ると急にボン、と赤くなった

 

「どした? もしかして風邪か?」

 

もしそうだとしたら大変だ

科学の最先端都市であるこの学園都市ならすぐ治せるだろうがそれでも心配なのは心配である

アラタは美琴の前に移動してその額に手を置こうとして―――

 

「だだだ、大丈夫!! 大丈夫だから!! ほんと!」

 

全力で後ろに下がられました

 

「じゃ、じゃあ私帰るね! またねっ!」

 

そう言って美琴はたたたっ、と走り出した

…何か嫌われるようなことでもしただろうか

 

「…俺も帰るか」

 

考えても仕方ないのでとりあえずアラタも帰宅することにした

それはそれとして、なんだか今日はドッと疲れた気がする…

 

 

恥ずかしくなって走って逃げてきてしまった

しかしあんな事言われた後は変に意識してしまう

そのあんな事、とは

 

・・・

 

それはトイレの中で女性のスカートを乾かしていた時のこと

 

「すまないね。手間をかけさせて」

 

一つの個室からそう声が聞こえた

現在彼女は下着姿のままトイレの個室内で待ってもらっている

まさか下着姿のまま外で待たせるわけにはいかない

 

「まぁ…乗りかかった船ですし…はい、どうぞ」

 

いい塩梅に乾いたのでそのスカートを個室の扉にかける

 

「ありがとう。ところで…」

 

そのスカートが個室の中に吸い込まれその女性の質問を投げかける声が聞こえた

 

「はい?」

 

「君たちは付き合っているのか?」

 

「え? 誰と」

 

「外で待っている少年だよ」

 

「…はい!?」

 

何を言ってるのかと耳を疑った

しかし女性は割と本気のようで

 

「なにやら出会ったときに仲良さげに歩いていたものだったから。…違うのかい?」

 

・・・

 

その時は「友達ですよ友達!」と言って逃れたがいざ改めて意識するとどうもやりにくい

鏡祢アラタは仲の良い男友達だ、そう、友達だ…

 

何度も自分に言い聞かせ深呼吸する

 

「…はぁ…今日は疲れた…」

 

平和なのは良い事だがこういったイベントは今日限りにしてもらいたいな、と思う美琴

だがしかし、今日も学園都市は平和なのである

 

◇◇◇

 

「…ん?」

 

帰り道を歩いている途中

何やら地面に膝をついて沈んでいる上条当麻を発見した

 

「…どうした」

「全滅だ…。貴重なタンパク源がっ…!」

 

その一言でだいたいわかった

恐らく長時間並んで手に入れた食品をクラッシュしてしまったのだろう

 

「…どんまい」

「いやぁ!! 変な慰め入れないで! 自分がとても惨めになるんですっ!」

 

ぶんぶんと頭を振りながら当麻は現実から目を背けようとする

しかしいくら振ったところでその現実は変わることもなく

 

「まあまあ。とりあえず帰ろうぜ。天道が麻婆豆腐作って待ってくれてるはずだから」

「…へ?」

 

説明中

 

「マジで!? 本当に麻婆豆腐が!?」

 

当麻のテンション急上昇

まあ今日の晩御飯が悲惨だった当麻からしてみてはそれは嬉しい誤算だったろう

おまけに麻婆豆腐

 

「おうよ。だからさっさと帰ろうぜ。豆腐が待ってるぞ」

 

「ああ!! 持つべき友は天道だな! アラタ!」

 

他の友人たちの事も忘れてあげるなよ

心の中でそう付け足すアラタだった

 

◇◇◇

 

「ただいまー…」

 

一人で問答してるうちにすっかり夜になってしまっていた

常盤台女子寮の自室に戻ってきてみると黒子はおらず、室内も暗いままだ

風紀委員の仕事か何かだろうか

 

「…はぁ…疲れた」

 

呟きながらいそいそとセーターを脱ぎ、シャツのボタンを一つずつ外していく

 

―――お姉様…

 

どこからか黒子の声が聞こえた

しかしその声色はなんでか低く、くぐもっている

 

「黒子? あんたどこに―――」

 

そう言いながらベッドの下を覗き込むとギラリと光る二つの眼

確認したその直後カサカサ! とまるであの黒光りするアレみたいにそれはこちらに近づいてきた

 

「わっ!?」

 

その不気味さに思わずしりもちをついてしまった

ほどなくしてそいつの正体がはっきりしてくる

 

「えぇ!? 黒子!?」

 

その正体は黒子だった

恰好こそ寝間着ではあるがそれ以前に彼女の頭に一番気になるものがある

それはなぜか下着

しかもどういう訳か美琴の下着を被っているのだ(お気に入りのゲコ太がプリントされてるヤツ)

 

「いきなり服を脱ぎだすなんてやはり脱ぎ女に呪われているのですね!さぁー! お姉様もお被りになって!!」

 

そう言って黒子はバッとまた別の下着を取り出した

恐らくそれは黒子の下着

 

「な…!? ちょ、どしたのあんた!?」

 

「脱ぎ女の呪いを解くためにはこうするしかないのです! 後日改めてお兄様にも! しかし今はっ!!」

 

黒子はカッ!! とどこぞの捜索隊よろしく目を見開いて美琴の頭にその下着を被せにかかった

 

「消えろー! 脱ぎ女ぁぁぁぁぁ!!」

 

「やめろっつーのぉぉぉぉぉ!!?」

 

一体どんなことがあったのか

というか解呪の方法なんてあるのか

そもそもなんで脱ぎ女になっていることになっているのか

様々な疑問を余所に美琴の絶叫が夜の女子寮に木霊した

 

 

◇◇◇

 

とある研究所の研究室

そこに一人の女性がパソコンの前に座っていた

 

「…あれが、噂の超電磁砲(レールガン)

 

カチカチ、とマウスをクリックする音が室内に響く

その部屋の中が無駄に静かだからか、そのクリックの音がはっきり聞こえた

 

「そして、仮面ライダー…か」

 

その女性は今日あった出来事を思い出すように呟く

 

「面白い子たちだったな…」

 

そしてまたクリックする音が響く

その女性の表情にはわずかばかりの笑顔が見えた

 



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#5 とある二人の新人研修

今回はだいぶ長くなってしまいました

…いえね、ライダー要素がないな、と思い付け足したらこんな長くなってしまったのです…

誤字とか脱字とかたぶんあると思います
見かけたらご報告を

それではどうぞ


その日風紀委員一七七支部に顔を出すと妙な空気がその室内を包んでいた

何事か、と思いその空気の出所を探してみるとそれは真剣な表情で書類を読みふける初春からだと知る

 

なんだろう、今の彼女には近寄りたくない

近寄ったらナイフで突き刺されそうな感じである

 

軽く引きつった表情を作りながらアラタは席に座っている固法に近づいて

 

「…何があったんだよ」

 

単刀直入に理由を聞いてみた

理由を聞かれた固法は苦笑いを浮かべ

 

「白井さんと、ちょっとね」

 

「黒子と?」

 

普段あんなに仲が良いあの二人が今日に限って何かあったのか

 

疑問に思ったアラタは流石に初春本人に聞くと本当に殺されかねないので固法に聞くことにする

聞かれた固法は苦笑い交じりに今日起こった出来事を話し始めた

 

 

それはとある学校の監視カメラを増設する仕事に黒子と初春がついていた時だった

 

滞りなくカメラの増設が終わろうとしたその時、事件は起きた

 

車上荒らしである

 

黒子は車上荒らしを一人と断定し確保に行こうと動いたがそこで初春が意見した

 

応援が来るまで待機すべきだ、と

 

しかし黒子は聞かず確保に向かったのだが…

 

「案の定車ん中にもう一人犯人がいて、その二人組を取り逃がし…その際ちょっとした口論になった、と」

 

「まぁわかりやすく言うとそんな感じ」

 

事の顛末を聞かされたアラタはふむぅ、と腕を組んで椅子にもたれかかる

そして一言

 

「まぁその際に至っては黒子が悪いんじゃね?」

 

「貴方も同じ状況なら突っ込むでしょう。…まぁ貴方は立ち直りが早いからその時に全員とっ捕まえそうだけど」

 

否定できない

 

とりあえずごまかそうと先ほど固法が淹れてくれたコーヒーのカップを手に持って口に持っていったところで

 

「こんにちはー! 初春来てますかー?」

 

元気よく佐天が支部を訪れた

本来この一七七支部とは風紀委員しか入れないのだがその決まりは緩いのかたびたび佐天や美琴がやってきている

それでいいのか、という言葉はこの際なしの方向で

 

「また貴女…。ここはたまり場じゃないのよ?」

 

やれやれといった感じで固法が咎めるように口を出す

 

「はーいはーいわかってまーすっ」

 

それは絶対わかっていない人の返事だぞ佐天

そんなアラタの心の声をスルーしながら徐にカバンの中をがさがさとあさる

 

「けど今日はちゃんと理由がっと…。じゃーん! あたしの補習プリントーっ!」

 

カバンから取り出した紙を取り出して高らかに宣言する

ちなみにそう朗らかに宣言することではない

その声を聞いた固法はずるっと机の上で転ぶようなアクションをする

 

「初春に教えてもらおうと思って…」

 

「初春ならいまあそこに…」

 

きょろきょろと視線を動かす佐天に助け船を出すかのようにアラタが真剣に書類を呼んでいる初春に視線を向ける

初春を見つけた佐天はおぉ、と言ったように瞳を輝かせて彼女の下に歩み始める

 

「けど今はやめといたほうが…」

 

だがその忠告はもう遅かった

視線を向けたその先には初春のスカートを「うーいはっるぅ」と言いながら大きくばっさぁ、とまくり上げた

 

「なっ!」「ぶっ!」

 

今度はアラタと固法が驚いた

ていうかスキンシップのつもりなのだろうが現実問題セクハラで訴えられてもおかしくないレベルである

しかし今現在彼女の機嫌は悪い方にクライマックスであり、本来なら何らかのアクションをするであろう彼女も今回は目の前の書類に夢中であり、彼女のセクハラに見向きもしなかった

 

「…おっ、今日はクローバー? よーし、幸せの四葉クローバーはどこかなー…って…」

 

「…」

 

眼中になし

 

「…え、…と…ほ、ほらー、めくってるよー? 絶景だよー?」

 

「…、」

 

オールスルー

 

あまりにもノーリアクションな初春についに佐天の心はバッキバキに折れた

彼女は若干目に涙を溜めながら国法とアラタに泣きつく

 

「初春は…ぐす、どうしちゃったんですかぁ~…」

 

よよよ、と言う擬音が聞こえてくるかもしれないほどぐったりしてた

それに二人は苦笑いを交えつつ

 

「白井さんと…」

「色々な」

 

 

 

説明中

 

 

 

 

「そんなことがあったんですか?」

 

事情を聞いた佐天は固法が淹れてくれたココアを飲みながらそう聞き返す

 

「あぁ。そんなわけだから、少しそっとしてあげてくれ」

 

アラタの言葉に佐天は一人黙々とパソコンを操作している初春をちらりと見やる

今も彼女は相変わらず真剣な目つきで画面を食い入るように見つめている

普段の優しい初春は見せない、とても真面目な表情

 

「…」

 

佐天はそんな彼女をじっと見つめた後

 

「だったらもういっそのこと、風紀委員(ジャッジメント)辞めちゃえばいいのに」

 

「ぶっ!」「!? げほげほっ!!」

 

そんな佐天のぶっ飛んだ発言に盛大にアラタと国法はむせかえった

 

アラタは口元を手で拭いながら

 

「こらこら、無責任すぎんぞ今の発言」

 

「そうよ、風紀委員は、警備員に並ぶ学園都市の治安維持機関なのよ。勝手に放り出せたり出来る仕事仕事じゃないわ」

 

固法も同様にティッシュで口元を拭きながらアラタの言葉に付け足した

言われた佐天は少し納得していないような表情で

 

「…じゃあ、このままほっとくしかないんですか?」

 

友人としてはやはりほっとけないのだろう

相手は自分も知っている友達、ましてや仕事の同僚である

ケンカしたままでは仕事にも日常にも影響が出てしまう

当然ながらアラタとしてもそれは避けたい展開なのだが…

 

「ま、問題ないだろう。な」

「そうね…あの二人なら」

 

何やら意味深に呟く二人

そんな二人に何かを感じ取ったのか佐天は二人に詰め寄った

 

「あの二人、何かあるんですか?」

 

そう聞かれた二人は何かを思い出すように、そしてどこか遠い目をしながら

 

「聞きたい?」

「ちょっとした昔話だが」

 

◇◇◇

 

一方常盤台中学女子寮

 

その女子寮の美琴と黒子の部屋にて

 

白井黒子がパタパタと自分のベッドの上でバタ足のようにばたつかせていた

 

「うー…」

 

そんな音をBGMに美琴は自分の机の上で勉強に励んでいる

いくら常盤台と言えども予習は大事なのである

大事なのだが…

 

「うーー…」パタパタ

 

これである

事の顛末は先ほどアラタに電話した際にだいたい聞いた

だいたい聞いたのだがこればっかりは当人たちで何とかしてもらうほかない

しかし

 

「うーーー…」パタパタパタパタ

 

相も変わらずうじうじパタパタする我が後輩にいい加減美琴はキレた

 

「ああもう鬱陶しいっ! ったくもう! そんなに気になるならさっさと仲直りしてくればいいじゃないっ!!」

 

その言われた黒子は漸くパタパタする脚をやめて枕にうずめていた顔を上げる

 

「それは…」

 

「このままだと初春さん、あんたに愛想尽かしてほんとにコンビ解消しちゃうかもよ?」

 

美琴は相対するように自分のベッドに腰掛ける

相変わらず黒子はその場を寝たっきりで動かない

 

「…それくらいで終わるなら、所詮その程度の関係だったということですわ」

 

「またそんな強がりを…」

 

「強がってませんの!!」

 

はぁ、と美琴は内心でため息をついた

わりかし長い付き合いだからなんとなく彼女の性格はわかるがどうしてこんな黒子と普段おとなしい初春がどうしてコンビなんて組んでいるのだろうか

 

思い切って聞いてみるとようやく黒子は身体を起こし

 

「私だって…」

 

そこで少しの間をとった

俯いた彼女はやがて自分の昔を思い出すように

 

「私だって…最初はそんなつもりありませんでしたの。…あんなとろくて何もできない子…ですけれど―――」

 

◇◇◇◇◇◇

 

話は白井黒子が小学六年生だったころに遡る

 

その日の仕事はすべて終わり、当時担当だった固法は背後にいる黒子へと向き直る

 

「今日の巡回はこれでおしまい。なにか、質問とか気になったとことかある?」

 

黒子は自分の背で両指をいじりながら、たどたどしく聞いてみる

 

「では、一つお聞きしたいのですが…」

 

「なに?」

 

「風紀委員にもなって一年にもなるのに、なぜわたくしに任されるのは、裏方や雑用、先輩同伴のパトロールばかりですの!?」

 

固法にとって予想しやすい言葉が返ってきた

恐らく彼女は不満なのだ

確かに彼女は成績も優秀だし、仕事もきっちりこなす優等生だ

それを予見していた固法は少し笑み交じりで

 

「成績優秀な自分が半人前扱いされるのが不満?」

 

「そ、そういう訳ではありませんが…」

 

そう言いながら黒子は少し俯いた様子で

 

「お、おそらく私が小学生だからかと…」

 

そういう彼女の頬は真っ赤に染まっていた

固法はそんな黒子の頭をぽむ、と優しく手を置いて

 

「年齢だけが問題じゃないわ。あなたの場合、なまじポテンシャルが高いせいで全部一人で解決しそうとする嫌いがあるからね」

 

そう

彼女は確かに優秀だ

教えられた護身柔術を完ぺきに使いこなしているし、下手をすれば一人でも犯人を確保できてしまうだろう

だからこそだ

このまま行けば彼女は仲間を頼ろうとしない孤独な者へとなってしまう

だから

 

「もう少し周りの人間を頼るようにならないと危なっかしいのよ」

 

対して言われた黒子はやっぱりムスっ、とした表情を見せる

 

「ほら、そんな顔しないの!」

 

半ば強引にその場の空気を変えんと固法は明るい声を出す

 

「たくさん頑張ったご褒美に、なにか甘いもの奢ってあげる! お金下ろしてくるから、ちょっと待ってて」

 

そう言って固法は歩き出してしまった

そんな固法の背中を見る

 

…なんだろうか、うまくはぐらかされた気がする

そのたびに黒子は思うのだ

 

(…やっぱり子供扱いされてますの)

 

 

第七学区の第三支所

わかりやすく言うなら郵便局である

 

その郵便局にはATMも完備しており代金もその場で引き出せる新設設計だ

 

「…あれ、固法」

 

「あら、アラタも来てたの? 奇遇ね」

 

店内にはお客のほかに一人知人が先に来ていた

その知人は固法の友人で風紀委員としては後輩にあたる同僚、鏡祢アラタだった

 

「貴方もお金を引き出しに?」

 

「残念、俺は逆に預けに来たの。…まぁ意外に客が多くて待ってるんだけど」

 

そう言ってATMに並んでいる客足を見やる

今もATMの前にはぞろぞろと一般客が足を運び並び続けている

確かにこれは時間がかかりそうだ

 

「お前は? まぁ見ればわかるけど」

 

「えぇ。この子に甘いもの奢ってあげようって思ってね」

 

そう固法は今やってきた女の子と話し込んでいる黒子に視線をやった

 

「風紀委員も大変だなぁ」

 

「同じ支部所属のくせに何言ってんの」

 

軽く軽口を叩きあいながらアラタは背もたれのない共同ソファへと歩いて行った

相変わらずだなぁ、と短く息を吐きながら視線をATMに戻そうとして、

 

「…ん?」

 

妙な人物が視線に入ってきていた

妙、というのは恰好だけでなく、その仕草にある

 

「どうなさいましたの?」

 

固法の真剣な表情に気づいた黒子も彼女に歩み寄ってこちらを見上げていた

固法は自分の右人差し指を自分の口元に当て、静かに、というジェスチャーを伝えたあと視線をその人物へと向ける

 

「あの男」

 

固法の呟きと共に黒子がその人物に視線を向ける

その人物はニット帽に肩からバッグをかけた緑のジャージを着込んだ男

 

「局員の視線や、その配置、場所ばかりを気にしてる…」

 

そう言って固法は黒子の肩に触れ少し身をかがめる

 

「他人の所有物を勝手に〝視〟るのは気が引けるけど…」

 

そう呟きながら一度固法は瞼を閉じる

神経を研ぎ澄ませ、カッと開けて国法はその男の所有物を視る

 

彼女の能力は透視能力(クレアボイアンス)

内部が隠れて見えないものを解析したり、遠隔地を見たりできる能力の事で彼女のレベルは3である

持ち物程度なら完全に透視できるのだ

しかしその男の持ち物は今のところ変なものは見当たらない

 

「…妙なものは持っていないようね…。っ!?」

 

しかしいずれ彼女の表情が驚きに染まる

固法は黒子の耳にそっと自分の口を近づけるとその事実を伝えた

 

「右ポケットに拳銃…」

 

「!? 強盗ですの!?」

 

十中八九そうだろう

念のために固法は共同ソファに腰掛けているアラタに視線を向けてみた

アラタは固法の視線に気づくとわずかだが頷くのが見えた

どうやらアラタも気づいているようだ

 

なら

 

「局員に伝えてくるわ…。貴方は万が一に備えて、一般客の誘導準備を」

 

「! 逮捕しませんの!?」

 

「馬鹿な事考えちゃダメ。犯人確保は、警備員(アンチスキル)に任せなさい」

 

そう言うと固法は近くの局員に向けて歩き出し、事情を説明し始めた

それを黒子は眺めていた

…だが頭の中では納得していなかった

 

そんな悠長なことを…っ!

 

先に手を打たれたどうするのだ、それこそ一般人に危害を加えかねないのに…!

 

 

共同ソファに腰掛けていたアラタは件の男の動向を目で追っていた

恐らくあの鞄の中には人質として縛り上げるロープか何かの拘束具が入っているはずだ

 

(けど、アイツはこういったことをするのは多分今回が初めて…)

 

額から伝う汗でなんとなくわかる

慣れている奴はこういったとき思い切ってやるものだ

しかし未だに渋っているってことは、だ

 

(…たぶんこいつの失敗に合わせて動き出す…仲間がいるはずだ)

 

目の前の男はおそらくフェイク、囮だ

この男で成功すればそれはそれで問題はないだろうが失敗する可能性も加味しているハズ―――

 

 

 

っパァァァンッ!!

 

 

 

そう思考に埋没していると一発の拳銃の音に現実に引き戻される

 

(…先手を打たれたか)

 

「お、おかしな真似するなよ? おお、お客も、あんまり騒がないでくれよな…」

 

しかし明らかに焦っているし若干声が強張っている

確実に素人だ。…いや、強盗に素人もクソもないのだが

 

(けど、今固法が説明してるし…いざとなったら…)

 

だがその予想は実現することはなかった

 

(…なっ!?)

 

どういう訳か固法の後輩がその犯人に向かって駆け寄っていたのだ

 

 

(訓練どうりやれば…!!)

 

黒子は一直線に強盗犯に向かって接近しその勢いのまま強盗犯のつま先を思いっきり踏んづけた

 

「いっ!?」

 

今まで感じたことのない痛みをつま先に受けて悶絶する

その隙を逃さない

 

黒子は身体を回転させて左足全体を使って強盗犯の両足を引っ掛けて転倒させる

そしてトドメと言わんばかりに思いっきり強盗犯の肺をめがけて踏んづけた

 

「がっ、はぁ…!?」

 

その声を最後に強盗犯はガクッとなり気を失った

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

初めてだが上手くいった…!

なんだ、こんなものなのか…

 

「…簡単ではありませんの―――」

 

「きゃあぁっ!?」

 

また別の悲鳴

なんだ、と言わないばかりに黒子がその悲鳴の方へ目線を向ける

 

「ったくアホか…。何ガキにのされてんだよ。つかえねぇ」

 

先ほどの男とはまた別の男

分厚い茶色じみたジャンパーを着込んだ男が一人の女の子にナイフを突き出して人質に取っていたのだ

 

しかもその女の子は―――

 

「初春っ!!」

 

さっき自分と話していた友人の女の子、初春だった

 

「あれ、こいつ知り合いか。…ふぅん、こりゃ好都合」

 

そう言って男はにやりといやらしく笑むのだった

 

 

突きつけられたナイフに初春の表情が恐怖に引きつる

当然だ

目の前にナイフを突きつけられたら誰だって怖い

 

「おっと動くなよ。お前風紀委員だろ。風紀委員が人質見捨てるわけねぇよなぁ。ましてや自分の知り合いを」

 

「…くっ!」

 

その言葉に黒子の表情は苦いものに変わる

 

(…ったく…)

 

その場を見ていたアラタの表情も同様に変化する

流れが最悪な空気になってしまった

この状況をどうする、とアラタは考える

下手に動けばあの女の子が怪我をするのは確実だし、かといってこのまま強盗を逃す気になどならない

しかしチャンスでもある

相手は風紀委員を一人しかいないと思っている(と言っても警戒はしているが)

 

このまま一人だと思っていてくれればアラタも固法も動きやすいのだが―――

 

しかしまたしても予想外の事がおこってしまう

 

ジリリリリリリッ!! とけたたましい音と共に店内のシャッターが閉まっていく

こんな状況で警報など犯人を煽る以外のなにものでもない

その行動の意味が表すのは一つ

 

(お客様よりお金様の方が大事ってかよ…。くそったれ…!)

 

苛立ちを通り越してあきれる

やっぱり人間我が身が大事なようだ

 

総てのシャッターが閉まりきったあとまた警報と共に警備ロボットが起動する

警備ロボットはファンファンファン…という音をならせ続け、犯人の前に移動した

 

ちょうどその場所は犯人と黒子の間に位置する場所だ

 

「…ち、めんどくせぇ」

 

犯人は初春を片手で抱えながら右ポケットに手を突っ込んだ

この場所からでは見えないがわずかな仕草でなんとなくわかった

 

<ケイコクカンリョウ。ジッコウシマス>

 

そんな機械音と共に警備ロボットが車輪を展開させる

そして勢いをつけて警備ロボットが犯人めがけて突っ走った

そしてそれを追いかけて、黒子も走った

 

 

黒子はその警備ロボットのすぐ後ろを走る

警備ロボットが気を引いてくれれば、先ほどのように―――

 

「!?」

 

しかしその安易に予想は容易く砕かれた

何やらビキビキと砕けるような音と一緒に警備ロボットが動きを止めた

 

そして気が付いたときには自分は固法の腕の中にいたのだ

 

ボォン! と耳に聞こえる爆発音

それは警備ロボットが破壊された音と知るのに時間はかからなかった

 

「な…何が…!?」

 

訳もわからず視界が開けたとき、固法がずるり、と手をだらけさせる

思わず黒子は彼女を見た

 

「!? 先輩…!!」

 

瞬間彼女は絶句した

固法はボロボロで額からは血が流れている

先ほどの爆発で自分を庇ったせいで、彼女は怪我をしたのだ

 

「ど、どうして―――」

 

「おい」

 

聞こえたその言葉の方向に振り向いたときには犯人の蹴りが黒子の顔面を捉えていた

 

「あうっ!」と短い嗚咽と共に倒れこむ

 

「白井さんっ!!」

 

「おっと…」

 

思わず駆け寄ろうとした初春を犯人は手を掴んで制止させる

こいつは人質としては有用だ、手放すわけにはいかない

 

「やっぱ仲間がいたか。…あのバカみたいに俺もやれると思ったのかよ」

 

言葉と共に犯人は黒子の左足首を思いっきり踏みつけた

 

「っぐうぅ…!!?」

 

激しい痛みが黒子を襲う

小学六年、ましてや足首を成人男性に思い切り踏まれているのだ

その痛さは計り知れない

 

(…わたくしのせいですの…!)

 

その激しい痛みを感じながら黒子は悔いた

自分ならやれる

そう思って行動した自分自身の軽率な判断が初春も、固法も危険にさらしてしまった

なんて様だ…半人前以下だ

 

(…でも…!)

 

黒子は方向を変え、人質にされている初春へと手を伸ばす

 

が、今度はその手を思いっきり踏みつけられる

 

「ぐっううう!!?」

 

華奢な指が地面にたたき伏せられる

そのたびに初春が自分を心配する声が聞こえてくる

そうだ、こんなに自分を心配してくれる友人を、これ以上危険にさらすわけにはいかない

黒子は残った力を振り絞り残った右手で初春の足を掴んだ

 

これ以上涙に濡れた彼女を見るのはもう嫌だった

 

だから、必ず―――

 

「助けて見せますの…」

 

呟きと共に黒子は自分に宿った超能力を発動させた

瞬間、今さっき人質だった初春は〝消えた〟

 

「なっ!」

 

犯人の表情が驚きに変わった

―――ざまぁみやがれ、だ

 

そして犯人は理解した

 

空間転移(テレポート)だぁ!?」

 

その声が発せられると同時、先ほど外へ飛ばした初春が防犯シャッター―を叩く音が聞こえてきた

そして彼女の声も

 

 

〝白井さん!? 中にいるんですか!? どうして私だけ―――〟

 

 

シャッター越しに聞こえるその問いかけに黒子は答えない

答えたって聞こえないだろうし、大声を出してまで初春に答える気力がなかった

それに出来ることなら自分も一度外に出て体制を立て直したかった

だが今の黒子のレベルでは、自分を転移させることは出来なかったのだ

 

それに

 

「まだ…事件を解決していませんの…」

 

「…この、ガキっ…!」

 

 

バキィ、と防犯シャッターの中で誰かが蹴っ飛ばされた音が聞こえた

その誰か、とは考えるまでもなく白井黒子だ

先ほどから初春はシャッターをとめどなく叩くが反応は返ってこない

このままでは白井が大怪我を負ってしまう―――

 

「―――誰かっ!!」

 

初春は涙を流しながら辺りを歩く人に助けを求めた

自分ひとりじゃあどうしようもできないと悟ったから

 

「中に、強盗がっ!! 人が閉じ込められてて…!!」

 

必死に言葉を生み出して周囲を歩く人に呼びかける

だけどそれに耳を傾ける人は今のところいない

仮にそれが真実だとしても、好き好んで首を突っ込む輩などなかなかいない

 

「…?」

 

だけどその声を聞いた人物がいた

 

それは常盤台の制服に身を包んだ女の子―――

 

 

蹴っ飛ばされた黒子は共同ソファ近辺に吹っ飛ばされた

彼女は口元の血を拭いながら犯人を睨みつけた

警報が鳴ってしばらく経つ、人質を取られないよう時間を稼げば―――

 

「お前が何を考えてるか、当ててやろうか」

 

「…え?」

 

そんな思考は犯人の一言にかき消された

きょとんとする黒子を尻目に犯人は続ける

 

「警報が鳴ってだいぶ経った、人質を取られないように俺を足止めできれば、そっちの勝ち。…図星だろ?」

 

く、と黒子は表情を歪ませる

考えていたことのほぼすべてを看破された…だがそれがわかったところでこの犯人がこの場にいる以上、うまく立ち回れば―――

 

「だがな」

 

犯人は徐にビー玉サイズの鉄球を取り出して、それを防犯シャッター側へ放り投げた

投げられた鉄球は歩くようなスピードでゆったりと進み、防犯シャッターの前を隔てた強化ガラスへと突っ込み、その強化ガラスをぶち破った

 

しかし鉄球は止まらずに、その防犯シャッターをも貫いてそのシャッターに小さいながらも穴を開けた

 

「!?」

 

黒子の顔はまた一変する

先ほど警備ロボットを破壊したのはこの能力だったのか…

 

絶対等速(イコールスピード)

 

犯人は余裕を崩さず、また鉄球を取り出して、放り投げた

再び放られた鉄球は先ほどと同じ速度で突き進み、ガラスを砕き、シャッターに穴を開ける

二~三放り投げれた時には人ひとり分が通れるくらいの大穴が開いていた

 

「俺が投げたものは、能力を解除するか、それが壊れるまで何があっても進み続ける」

 

説明を終えた犯人は口元を歪ませて付け足した

 

「残念だったなぁ、目論見が外れてよ」

 

その穴をただ茫然と黒子は眺めていた

そんな黒子を一瞥し、犯人は時計を確認しちっ、と顔を歪ませた後、黒子に向かって声をかけた

 

「おい」

 

「っ!?」

 

黒子は警戒を崩さず、犯人を睨む

対して犯人は動揺することなく言葉を続ける

 

「お前の力で金を取り出せ。そうすれば全員解放してやる」

 

 

「お前の力で金を取り出せ、そうすれば全員解放してやる」

 

どこまでも腐ったヤツだ、と心の中でアラタは罵った

先ほども黒子が今自分が座っているソファ近辺まで来たとき思わず駈け出そうとしたほどだ

しかし、下手に動けば一般人を巻き込みかねない

完全な隙ができるまでは動けなかった

 

「いや、これからは俺と組まないか? 俺とお前が組めば無敵だぜ、なぁ、どうだ」

 

挙句にそんなことまで言いやがる

先ほどの男がゴミとわかれば小学生まで勧誘するのか、最近の強盗さんは

 

(…どうする。後輩)

 

 

思い起こせば最低の初仕事だった

勝手に突っ走って、先輩に怪我させて、お客を巻き込んで…

 

(でも…)

 

黒子は先ほど踏みつけられた左手を睨みつけて意を決したように立ち上がった

 

「そうですわね…」

 

そのまま立つ黒子の言葉に気をよくしたのか犯人はにやりと口角をつり上げた

 

しかし黒子が言った言葉は予想とは真逆の言葉だった

 

 

 

「絶対にお断りですの…!!」

 

 

 

そうはっきりと言ってやった

 

「あいにくと、郵便局なんか狙うチンケな強盗なんてタイプじゃありませんの…!!」

 

黒子はニィ、と不敵に笑みを作って

 

「もう心に決めてますの!!」

 

 

「もう心に決めてますの!!」

 

穴があけられた防犯シャッタ―の中から黒子の大声が聞こえてきた

 

思わず周囲に助けを求めていた初春も声の方を振り向いた

ボロボロになりながらも凛と立つ黒子の姿がその防犯シャッターの中にあった

 

「自分の信じた正義は、決して曲げない、と!!」

 

 

初めてだった

まさか小学六年にあんな啖呵が出るとは誰が思っただろうか

 

「…はは、良い後輩持ったな固法…」

 

これ以上、アラタが待つ理由はない

もうあの子に負担はかけたくはないのだ

 

そう思い立った彼はもう動き出していた

 

 

「そっかぁ…残念だぁ」

 

わざとらしく頭を掻きあげるように犯人は手をやった

その仕草が本当にわざとらしく、逆に清々しく思えるほど

 

(あの能力、威力はあっても速さはない…この足が、言うことを聞いてくれれば…ッ!)

 

だがこういう時に限って自分の足は言うことを聞いてくれない

 

「なら…、ここで死ねぇっ!!」

 

そう叫んだと同時、犯人は黒子に向かっていくつもの鉄球を投げつけた

 

「!?」

 

「一度に一つしか投げられないとは言ってないぞぉ!!」

 

完全に失念していた

このままでは―――

 

「え、うわぁっ!?」

 

その時だった

唐突にぐいと首根っこを引っ張られ自分の代わりに前に出る一人の男がいた

男は一瞬黒子を見て、グッと親指を立て唇を動かす

 

〝グッジョブ〟と

 

 

走り出す刹那、彼は外にいる人影を視認した

性別は女性、常盤台の制服を着込んでいるその女の子はこちらに向けて何かを打ち出す構えを取っている

 

一瞬、視線が合った

彼女の眼は語る

 

〝行きなさい〟と

 

その視線のメッセージを見たアラタは同じように視線で返す

 

〝分かった〟と

 

走り出す勢いを利用したアラタは一気に足を前に突き出し身をかがめ、スライディングキックを繰り出した

投げられた鉄球はすべて黒子に向けられたもので間隔は小さいものだったが、その鉄球がアラタはおろか、黒子にあたることはなかった

 

何故なら、先ほどの穴から唐突に放たれた雷にすべて焼き払われたからである

 

鉄球が焼き払われた以上、アラタの進行を妨げるものはいない

そのまま真っ直ぐ突き進んだ彼の両足は犯人の足に当たり、犯人はバランスを崩し前のめりに倒れこむ

 

「がっ!?」

 

だがそれだけで済むはずがなく、アラタはそのまま倒れこむ犯人の胸ぐらをわざわざ手を伸ばして掴んだ後その場で回って入れ替わるように犯人の背中を地面に叩きつけてその顔面に

 

「でぃやぁっ!!」

 

真っ直ぐに握った拳を叩きつけた

バキリ、と鈍い音を立て、犯人はみっともなくその場でだらりと気を失った

 

「…」

 

今も呆然とこちらを見る黒子に気づいたアラタは小さく笑みを浮かべると

 

「お疲れ」

 

そう気さくな笑みと共に親指を立てたのだった

 

 

警備員がやってきたのは事件が収束して数時間経った夕刻

 

犯人は連行され、固法も手当を受けている

 

仕方なく今回はアラタも警備員の仕事を手伝っているのだがぶっちゃけよくわからない

ソレでいいのか風紀委員、というツッコミはなしの方向で

 

とりあえず治療を終えた固法の隣にアラタは腰を下ろした

ふう、と短く息を吐く

 

「やっぱりすごいです。白井さんは」

 

共同ソファに腰掛け、初春の治療を受ける黒子たちの方からそんな声が漏れてきた

 

「本当に一人で解決しちゃうなんて…」

 

「最後は、持っていかれちゃいましたけどね」

 

苦笑い交じりに黒子は返した

それと同時にもう一つ、黒子はわからないことがあった

 

(鉄球を焼き払ったあの雷…あれは…)

 

実質、確保できたのはほぼあれのおかげと言っても過言でもない

 

「私、約束します」

 

「へ?」

 

思考にふけっていた黒子を呼び戻したのは初春のそんな一声

 

「己の信念従い、正しいと信じた行動をとるべし」

 

「…え」

 

「私も、自分も信じた正義は決して曲げません。何があってもへこたれず…きっと、白井さんみたいな風紀委員になります!」

 

あんなに怖い思いをさせてしまったのに、一途に彼女は自分を慕ってくれている…

その厚意が純粋に嬉しかった

 

今まで何でも一人でできると思っていた

だけどそれは間違いなんだってこの一件で見に染みた

 

だから

 

「…その約束、わたくしにもさせてくださいな」

 

「ふぇ?」

 

「…今日まで全部一人でできると思ってた。けど、それはとんだ思い違い…。ですから」

 

黒子は初春に向かって手を伸ばす

それは傷だらけの左手

 

「これからは二人で、一人前になってくださいます?」

 

差しのべられたその手を見て初春は笑顔になる

拒む理由なんてどこにもなかった

 

「はい」

 

きゅ、と彼女の手を優しく握り返す

それは何があってもへこたれず、互いに励ましあい、共に一人前になる

 

夕焼けに交わした、そんな約束―――

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「へぇ…。いい話じゃない」

 

黒子からの昔話を聞き終えた美琴は素直にそう口にした

そういった経緯があったからこそ、あの二人は見えない絆で結ばれているのだろう

 

「…」

 

しかし黒子はどういう訳か先ほどから黙ったまんまである

 

「…? どしたの?」

 

「い、いえべつに」

 

なんかものっそい狼狽えてるのだけど

それともなのか思い出したのだろうか?

 

冷や汗をだらだらと流す黒子

うん、きっとそうだ

なにかをたった今思い出したか、どうやって謝ろうか、などと考えているのだろう

 

そんな狼狽えている黒子の携帯が鳴りだした

慌てた様子で携帯を取り耳に当て応対する

 

「は、はい。白井ですの。…え? 初春が?」

 

電話の相手はアラタだった

 

<おう。例の車上荒らしの居場所を特定したっつって飛び出してった。あいつずっと探してたんだぜ?>

 

「…初春…」

 

<なぁ。お前はどうするんだ?>

 

アラタに問いかけられ、黒子は考える

事実といえど自分はその約束を一時的に忘れてしまったのだ

非はこちらにある、初春は許してくれるだろうか…

 

「己の信念に従い、正しいと信じた行動をとる、だっけ?」

 

悩む黒子に美琴の声が届いた

彼女は黒子の背中を押すように

 

「いいじゃん。それでぶつかり合って、それでも一緒に進んでいけるなら」

 

それが仲間

生きていく上で、楽しいこともある

しかし時に衝突するときもあるだろう

だけどそれもひっくるめて、初春はきっと黒子を受け入れてくれる

 

「…」

 

やがて黒子は何かを決意した表情を見せ、ベッドから飛び降りたと思ったらその場から空間転移をして姿を消した

 

空間転移を見届けた美琴はふぅ、と安堵の息を吐きながらベッドから立ち上がる

 

「やれやれ。せわしないなぁ」

 

だがこれはこれで、青春なのかもしれない

 

 

夕刻の道を初春は走り続ける

いろいろとパソコンを用いて今さっき車上荒らしのアジトを突き止めることに成功したのだ

このまま放っておけばまた彼らはまた繰り返すだろう

 

そんな初春の隣に

 

ヴォン、という音と共に黒子が現れた

スタッと地面に着地した黒子は同じ早さで初春の隣を並走する

 

少しの間沈黙が続き、地面を靴が蹴る音だけが耳に響く

しかしそのいつしか業を煮やした黒子が口を開いた

 

「な、なにをぐずぐずしてますのっ!」

 

その言葉にまた初春はむっとした表情で黒子を見る

だが黒子の頬は若干赤くしながら付け足した

 

「そんな事では、いつまで経っても二人で一人前になんてなれませんわよ!」

 

そう言ったあと黒子は恥ずかしさからペースを上げて初春を追い抜き彼女の前を走り出した

 

「…!」

 

覚えててくれた

 

もしかしたら思い出したのかもしれないけれど今となってはそれは些細なことだ

こみ上げる嬉しさを抑えながら、初春は黒子の後ろを追いかける

 

…だが普段運動が苦手な初春にとって黒子に追いつくのは至難の技で

 

「し、白井さん! ちょ、ちょっと早すぎませんかっ!?」

 

「ああもう! 先に行きますわよっ!!」

 

「ちょ、空間転移(テレポート)はなしですよぉっ!!」

 

そんな微笑ましい、とある日のコト―――

 

◇◇◇

 

時間は深夜に突き進む

 

住民のほとんどが寝静まったその道すがら、そこに一人奇妙な人影の姿があった

否、それは人影というにはとても異形な姿をしている

全身が金色で背に亀の甲羅のようなものを背負っている

時刻が深夜で助かった

日中であれば阿鼻叫喚に包まれていただろう

 

以降、彼を亀の化け物と呼称する

 

そんな亀の化け物の耳に、何かが走る音が聞こえた

 

バイクの音だ

きょろきょろ、とあたりを見回してみる

その音は次第に近づいていき、音も増してくる

 

やがて亀の化け物はそれを視界にとらえ、ここに来るのを待った

 

きぃ、とバイクを停めてそこから降りたのは一人の男

 

「…やっぱり怪人…。連絡の通りだ」

 

その男の名は立花眞人

この学園都市の警備員の一人だ

 

乗っていたバイク〝ガードチェイサー〟から無線を通じて声が聞こえる

 

<立花、聞こえるか>

 

「はい、影山さん」

 

<いいか、危険を感じたら迷わず逃げろ。わかったな>

 

「了解です!」

 

そう返答して無線は切れた

立花は一つ深呼吸して調子を整えるとバイクに積んであった一つのカバンのようなものに手を伸ばす

 

そのバッグは妙な形をしており、なにかのボディパーツを彷彿とさせ、人間の腕が通りそうな穴が二つ開いていた

眞人はその穴に両手を突っ込んでそれを自分の胸に持っていく

 

するとそのカバンから何かが起動し、それを眞人に装着させていく

次第にそれは彼の全身を包み、その場に青い戦士が現れた

 

名を、G3

 

それはこの学園都市で噂になっている仮面ライダーの一人、クウガをベースに作成されてはいるがほとんどがオリジナルの強化スーツだ

 

「装着完了、行動を開始します!」

 

G3はバイクに積んである一丁の突撃銃〝スコーピオン〟を左手に持ち、右手には腕全体を包み込むように装着された高周波ブレード〝デストロイヤー〟の二つの武器を準備し、亀の化け物に立ちふさがるように前に出た

 

初めてスーツを纏った緊張感に少し怯みそうになるが頭を振って恐怖を振り払うとその怪人の足元に向かってスコーピオンを発砲する

発砲と共に亀の怪人が動きだしこちらに向かって走り出した

 

「来た!」

 

接近する怪人に向かって再びスコーピオンを連射する

しかし効いてはいないのか構わず怪人はこちらに向かってきていた

 

「なら…!」

 

相手の接近に合わせて右手のデストロイヤーを突き出してタイミングを計る

 

視線を目の前に向けていたがゆえに

 

「シャアァァァッ!!」

 

背後からとびかかるもう一体に気づかなかった

 

「え!?」

 

飛び掛かったもう一体はG3を蹴りつけて大きく吹き飛ばす

蹴っ飛ばされたG3は地面に身体を滑らせながら身を悶えさせる

 

「もう一体!?」

 

改めてG3は怪人二体を睨んだ

金の亀の怪人と銀の亀の怪人、二人の凶悪な目がG3を見据えた

 

「流石に、これは不味いかな…」

 

よろよろ、と立ち上がりながらそれでも、と身体に言い聞かせる

ここで引けばこの学園都市にいる子供たちに被害が及ぶ

警備員(アンチスキル)として、そして何より大人としてそんなことはできない

それはこのG3を与えられた責任の放棄だ

 

「引けない、なにがあっても…!!」

 

そう決心し、二人の怪人に相対したその時だ

 

「はぁっ!」

 

自分の背後から何かが跳躍し、金の亀怪人めがけてキックを繰り出した

金の亀怪人はとっさに背を向けて亀の甲羅を盾にするように突き出す

一瞬その甲羅から何か障壁みたいなのが生まれた気がした

 

「何…?」

 

放たれた蹴りはその障壁に阻まれて怪人に届くことはなかった

ガシンっ、という音と共に蹴りを放った男は弾かれる

男は地面に着地しそのままG3の下に飛び退く

 

「あ、貴方は…!」

 

ようやくその男を視認できた時、G3は驚いた

それはこのスーツのベースになった存在、〝クウガ〟だったからだ

一方クウガはこちらを見ると短く一言

 

「片方、任せていいか?」

 

まるで気さく友人のような感じで彼は言う

彼とは今回が初めて会うはずなのだがなぜだろうか、そんな気がしない

まるでどこかで会っているような…

しかし今はそんな事を考える状況ではない

 

「…はい!」

 

力強く頷くとG3は改めて右手のデストロイヤーを構えなおす

 

同様にクウガもその辺に転がっていた鉄パイプを持ち

 

「超変身!」

 

と叫んだ

 

すると彼の身体が徐々に紫色の鎧を纏った姿に変わり、持っていた鉄パイプも剣先が伸びる両刃の剣へと変化した

 

「…行こう」

 

「えぇ!」

 

互いに頷きあって、G3とクウガは亀の怪人たちに向かって駆け出した

金の亀怪人はクウガが、銀の亀怪人にはG3がそれぞれ向かって走り出す

 

 

スコーピオンでの連射でけん制しつつ、G3は銀の亀怪人へと接近していき、一定の距離を保ちながら銃撃で怪人をけん制する

 

亀怪人はそれを止めようと拳打を繰り出してきた

数発喰らいながらもG3は怯まない

しかし不意に放たれたパンチが左手に持つスコーピオンが弾き飛ばされた

 

「っく!」

 

観念したG3は素手となった右手を用い、相手の攻撃をいなすことに集中する

こういった戦いは初めてだが、影山や矢車に鍛えられていたおかげか、相手の攻撃を見切るのは意外にも容易だった

 

「はぁ!」

 

デストロイヤーを起動させ、まず一度振る

しかし相手は大きく後ろに飛んでそれを回避する

 

勝負は次の一瞬

 

しばらく相手を睨みながらただ待つ

 

静寂が場を支配する

 

先に動いたのは亀の怪人のほうだ

 

「シャアァァァッ!!」

 

という雄叫びと共に銀の亀怪人がこちらに向かって接近してきた

そして繰り出されるパンチを左側に身体を動かすことで回避し、そのがら空きの身体に

 

「ハァァァァっ!!」

 

高周波全開にしたデストロイヤーで切り付けた

確かな手ごたえを感じる、後はこのまま―――

 

「斬り抜けるっ!!」

 

声と共にブン、と大きく動かされたデストロイヤーはザシュ、と銀の亀怪人を両断した

 

後方に広がる爆発を背に受けてG3は漸く肩の荷が下りたといわんばかりに手をだらりと下げた

 

「はぁ…はぁ…」

 

倒せた

人間である自分が、初めて化け物を…

 

「そうだ、彼は―――」

 

 

一方のクウガはあくまで余裕な態度を崩すことなく金の亀怪人の攻撃を手で容易くいなし、ゆっくりと歩いていく

ただ歩く、というだけなのにそれだけがただ怪人の恐怖を演出する

 

「悪いな。時間はかけていられない」

 

そう短く呟くと手に持った剣―――タイタンソードを静かに金の亀怪人へと突き出した

 

怪人の方もとっさに背を向けて甲羅で防ごうと試みるが先ほどの蹴りみたいにうまくはいかなかった

というかその剣はその防御ごと貫いて怪人の背中を貫き腹部に突き刺さる

 

「―――!!!!」

 

貫通するとは思わなかったのか、叫ぶ間もなく爆散する

 

「―――」

 

その戦いをG3はただ茫然と見ていた

そのあまりにも圧倒的なその姿にただ見惚れていた

 

(…強い…!)

 

もしこんな人が自分たちの、人類の敵になってしまったら

そう思ってしまうとゾッとする

 

「…ふぅ」

 

爆炎の中から出てきた彼は剣を払うように振るう

そしてその後にその剣を適当に放り投げた

クウガの手から離れた剣はまた元の鉄パイプに戻っていた

 

いつの間にかその姿も紫色の鎧の姿から駆け付けた時の赤い姿になっていた

 

「…」

 

戦いを終えたクウガはその場から踵を返しその場から歩き去ろうとする

 

「待ってください!」

 

その背中をG3が呼び止めた

呼び止められたクウガはゆっくりと振り返る

 

「…?」

 

頭の上には疑問符が浮かんでいるのが見えた

そんなクウガにG3は問いかける

 

「…貴方は、何者なんですか?」

 

問いかけられたクウガはその問いかけにうーん、と考える素振りを見せた後にこう答えた

 

「仮面ライダー」

 

「…仮面、ライダー?」

 

「そう。おせっかいが好きな仮面ライダーさ」

 

そう言い残してクウガはまた踵を返す

背中越しにクウガは右手だけ上げて手を振った

そんなクウガの背中を見ながら装着を解除しながら呟いた

 

「…仮面ライダークウガ…彼は一体…?」

 

何者なんだ、と

 




ちなみに今回のG3の装着はアイアンマンみたいなものだと思ってください

…最先端科学な学園都市だからできると思ったんです…

ではまた次回


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#6 能力(チカラ)とちから 前編

今回は前後編です

今回は前編となります

誤字脱字等ございましたらぜひご報告を


ではどうぞ


一週間前の事である

 

その日立花眞人はコンビニによってお昼ご飯でも買おうかな、と思っていた

念のためにG3になるためのユニットは自分の足元に置いてある

何時先日のような怪人が現れても迅速に対応できるようにするためだ

 

「…それにしても…」

 

 

 

〝おせっかいな仮面ライダーだ〟

 

 

 

そんな言葉が頭の中で繰り返される

先日自分を助けてくれたあの仮面ライダーは一体何者なのだろうか

都市伝説と言えど仮面ライダーはクウガだけではないらしい

 

他にもカブトムシのような赤いライダー、剣を使用する青いライダー、緑と黒の二色のライダー、トンボのようなライダーやサソリみたいなライダーなど少しネットで調べただけでこんなにも情報が集まってくる

ていうかどれだけみんな目撃してるんだと突っ込みたいほどである

基本的にこういった怪人は深夜帯に目撃されているのだ

つまり仮面ライダーらもそれに合わせて深夜に現れるということ

…その時間まで起きているとでもいうのか

健康に悪い、今度深夜の見回りでもしようかな、と思ってた時に事件は起きた

 

ういーん、と自動ドアを開けて一組の男女が入ってきた

二人とも右腕に風紀委員の腕章をしており女性は何かシールドのようなものを持っている

そして開口一番

 

「皆さん、早急にこの場から避難してください!」

 

女性の風紀委員が凛とした声で店内のお客さんたちに告げた

何事かと思ったのか不安に思った店長と思わしき人が女性の風紀委員に聞く

 

「あ、あの…うちの店に何か…?」

 

「重力子の加速が観測されました。この店に、爆弾が仕掛けられた可能性があります」

 

「ば、爆弾!?」

 

店長のその一言で店内がパニックに包まれる

恐怖におののいた声で店内を後にするものがいる中で眞人はがさ入れをしている男性の風紀委員に向かって歩き出し

 

「自分も手伝います」

 

「! 何を言ってるんですか!?―――」

 

「自分は警備員(アンチスキル)です。爆弾が仕掛けられた可能性がある以上、自分が手伝わない訳にはいきません」

 

そう眞人は警備員の手帳を見せながら言った

もともと警備員というのは子供たちを守るために組織されたものだ

それなのに爆弾の捜索を子供たちに任せたまま自分だけ逃げ帰るなんてできない

 

「わかりました…では貴方はお弁当売り場のコーナーを調べてきてくれませんか?」

 

「わかりました」

 

短く答えて眞人は弁当売り場のコーナーに行こうとしたとき「きゃ!」という声が聞こえた

声の方に向けるとぺたりと座り込んだ女生徒の姿があった

 

「どうしました!」

 

眞人が駆け寄って女生徒に声をかける

 

「すいません、足を…」

 

どうやら逃げる際に足首をくじいてしまったようだ

 

「わかりました、肩を貸しますから、急いで…、…!?」

 

女生徒に肩を貸そうと屈んだその視線の先

正確には商品が乗っている台の下のスキマに何かがあった

 

それは愛くるしいウサギの人形

見た目だけは本当に愛くるしい人形だった

 

しかしそれは不意に捻じ曲がる

中心に強引にねじ込まれるような―――

 

そして眞人は本能で察知する

 

「まさか―――!!」

 

爆発は寸前

一人なら容易に避けれるこの距離だが女生徒がいるこの状況ではそれは出来ない

ならばこそ、と眞人がとったその行動は

 

「くそっ!!」

 

自分の足元にあるG3ユニットを迅速に装着し女生徒を守るように自分の身を盾にする

 

その数瞬後

 

 

 

大きな爆発音がそのコンビニに木霊した

 

 

 

「…ぐ…」

 

G3ユニットのおかげで幸いにも自分の身は守られた

女生徒の方も怪我はない

 

その爆発を聞きつけた女性の風紀委員と男性の風紀委員も駆け付けてくる

 

「大丈夫ですか!?」

 

「怪我は…!」

 

心配する二人の風紀委員に駆け寄られ、G3はそれに答える

 

「大丈夫です、これに助けられました…」

 

言いながらG3は爆発跡を改めて視線をやる

そこにはバランスボールのように大きな焼け焦げた跡があり、周囲の商品はすべて吹っ飛んでいる

 

もしこれが人になど当たったら…

 

考えただけで恐ろしかった

 

 

これが一週間前に起きた一番最初の虚空爆破(グラビトン)事件である

 

 

幸いにもその時は立花が居合わせたこともあり怪我人は出なかったがその後も同じような事件が続き次第に八人もの怪我人を出してしまった

 

◇◇◇

 

「ふあ…」

 

アラタが大きな欠伸をする

先述したように虚空爆破事件が続きその調査で正直睡眠の時間が全く取れていないのだ

眼尻に若干の涙を浮かべ前を歩くアラタの隣にいた美琴が口を開く

 

「…あんた大丈夫? 夕べも遅くまで調べてたんでしょ?」

 

「仕方ねぇよ…捜査が進まないんだから、今までの調査に何か見落としがないか確認しないといけないんでさ…」

 

実際黒子は今現在一七七支部で仮眠を取っているほどである

本当はアラタ個人としても手伝いたかったんだがどういう訳か拒否(ことわ)られた

それでも納得いかないアラタは自宅で独自に調べてはいたのだが先の欠伸の通り何にも掴めなかった

あしからず、である

 

「…熱心なのは良いけど、あんまり無理しないようにね」

 

「…。なんだ、心配してくれてるのか?」

 

苦笑いと共に美琴に聞いてみる

すると美琴は「ばっ!」と顔を赤くしながら

 

「馬鹿言うんじゃないわよ! あ、あんたがいないと、その、場の空気が盛り下がるから言っただけよ!」

 

「へいへい。そういうことにしとくよ」

 

全く、という美琴と共にアラタは歩を進めていく

とりあえず、早急に虚空爆破事件の犯人をひっ捕らえなければ、と改めて心に誓う

 

 

そんな美琴と別れアラタはもう一つ頼りになる人たちの所へ向かう

それは第二左探偵事務所と呼ばれる建物である

 

「ダンナー、左のダンナー」

 

扉をノックしながら了承を得ず扉を開ける

まぁいつもの事である

 

「…おいアラタ。毎回だけど了承を得て入ってこいよ」

 

入って奥のデスクに座っていた翔太郎が立ち上がりながら抗議の言葉を述べる

彼がここの探偵事務所の探偵、左翔太郎

この学園都市に流出したガイアメモリを確保及び破壊にやってきた二人組の探偵のうちの一人だ

 

「いいじゃないですか。減るもんじゃないですし」

 

「はぁ…まぁいいか。おいフィリップ、アラタが来たぜ」

 

翔太郎の視線の先にはイスに座りながらライトノベルを読みふける彼の相棒、フィリップの姿があった

フィリップは翔太郎に声に反応するとしおりを本にはさみアラタに向かって歩き出す

 

「やあアラタ。来たんだね。君の教えてくれたこの本、悪くないよ」

 

「そう言ってくれると紹介した甲斐があったですよ。なんならまた紹介しましょうか」

 

「それはありがたい! ぜひお願いしたい―――」

 

「あぁそれまでそれまで。アラタ、何か話が合ったんじゃねぇのか?」

 

このまま行くとラノベの話になってしまうと判断した翔太郎がそう横槍を入れた

そう言われてはっとなったアラタはその場で息を整え、改めて要件を伝える

 

「いえ、実は―――」

 

 

「なるほど。件の虚空爆破事件の事か」

 

壁に背中を預けながら腕を組んでいたフィリップがそう呟く

 

「最近巷で噂の無差別爆破事件か…ったく、許せねぇよな…」

 

パン、と自分の拳を自分の掌にたたきつける翔太郎

もともと彼は正義感が強い

だからこうこそこそ爆弾を仕掛けて陰でほくそ笑んでいそうな犯人は正直言って彼は嫌いだ

それはもちろんアラタだって同じ気持ちである

 

「今のところ考えられるのはただの愉快犯か、なんかしらの悪意を持ってやっているのか…」

 

可能性は捨てきれない

しかしそれを結びつける証拠がどうも足りず断定はできない

 

「とりあえず俺も外を歩き回ってそれらしい人物を探してみる。アラタ、お前はお前で風紀委員のとこで調査をしててくれ」

 

「わかった。お願いしますよダンナ」

 

翔太郎と少し雑談を交わした後、フィリップに次持ってくるライトノベルは何がいいかを話した後、アラタは第二左探偵事務所を後にした

 

◇◇◇

 

「はぁい、奇遇ねアラタぁ」

 

探偵事務所を出てすぐ

食蜂操祈に遭遇しました

 

「…なんだ操祈。お前も暇なのか」

 

「開口一番失礼ねぇもう…。…あら? 貴方、目の下に隈が出来てるわよ?」

 

そう指摘されてハッとする

一番まずい人にそんなとこを気づかれてしまった

そんなアラタの表情に気づいた食蜂はにやぁ、と唇を歪ませる

それは決して悪い笑みではなくむしろ可愛い部類に入る

しかしその笑みの持ち主が食蜂だというのが問題なのである

 

「ねぇ、もしよかったらあたしが癒してあげましょうかぁ?」

 

「断固辞退する」

 

「即答!?」

 

確かに幾分か丸くなったといえど、逆にその純真な笑顔がなんか怖い

 

「そんな即答しなくても、もうちょっと考えてくれてもいいじゃないのよぉ」

 

「付き合ったら確実に今後の職務に支障が出そうで嫌なんだよ」

 

職務、という言葉を聞いて食蜂はあぁ…と言った表情をして、そして少し申し訳なそうに顔を俯かせてしおらしくする

 

「アラタも、風紀委員なんだっけぇ…?」

 

「…そ、そうだけど」

 

ギャップが激しすぎるんですけど

先ほどとは一転、急にしおらしくなった食蜂に少しときめく自分がいる

 

「…無理しちゃだめよぉ? アンタが怪我しちゃったら私のからかう対象がいなくなっちゃうんだからぁ」

 

前言撤回

ときめいた自分を殴りに行きたい

しかしこんなんでも心配をしてくれている事は伝わったので感謝はしておく

 

「…まぁ、サンキュ。お前の取り巻きにも注意をしとけよ」

 

そう言ってアラタは歩き出そうとしたとき彼の背中から食蜂が何か言っているのが聞こえた

 

「…心配はしてるんだからねぇ?」

 

「ん? なんか言ったか」

 

「何にもぉ」

 

◇◇◇

 

その日、寮に帰り夕飯を天道から貰った麻婆豆腐を食したあと居間にあるテーブルに置いてあるパソコンに向き合い、虚空爆破事件についての調査資料を確認し始める

 

例の爆弾はいずれもぬいぐるみや女物のカバンなどに仕込まれており、一見しただけではそれを爆弾と判別できない

正直言ってこれが怪我人を増やしてしまう原因だ

 

しかしあれほどの爆発を起こせるのは少なくとも強能力者(レベル4)だし唯一のその人物も原因不明の病で昏倒しているらしいし

 

今のところ完全に手詰まりだ

 

今夜も夜遅くなりそうだ、と心の中でため息をついたその時、携帯が鳴った

携帯のディスプレイを見るとそこにはフィリップの名前があった

アラタは携帯の通話ボタンを押し耳に当てる

 

<もしもし、アラタかい?>

 

「あぁ、なにか分かったのか?」

 

電話の奥でフィリップが<ああ>と頷くような動作のあと言葉を続ける

 

<まぁわかったといっても些細な事なんだけどね…確実な情報とも限らない。それでもアラタに言っておいた方がいいかと思ってね>

 

「構わない、教えてくれ」

 

<わかった>

 

その言葉のあとがさがさとプリントを探る音が聞こえる

恐らく資料か何かを探してるのだろう

 

<あぁ、見つけた…。アラタ、一週間前のあの事件のあと、被害者が出たよね>

 

「? あぁ…」

 

<その時の被害者は風紀委員なのもわかってるよね>

 

「あ、あぁ」

 

それ以降不定期にその虚空爆破事件は広がっていき、いずれも風紀委員が怪我をしていき―――

 

「―――あれ」

 

そこで違和感を覚えた

怪我人の職業である

こう言った無差別な事件なら様々な人が怪我してもいいのだが…

 

<アラタも気づいたみたいだね。そう、この事件、どういう訳だか風紀委員ばかりが狙われているのさ>

 

思い返してみるとこの事件はどうも風紀委員が来たタイミングでその爆弾が爆発していたような気がする

もしかしたら犯人の狙いは風紀委員なのではないのだろうか

 

「じゃあもしかしたら、犯人は風紀委員に何かしらの恨みを持っている可能性が?」

 

<恐らく。…まぁ確実ではないけど、それだけだよ。頭の片隅にでもいいから留めていてくれ>

 

「あぁ、気を付けるよ」

 

<じゃあ僕はこれで。もしこれが事実なら君も危ない、用心してくれ>

 

最後にそんな言葉を残してフィリップからの電話は切れた

フィリップからの小さい親切に感謝をしつつアラタは通話ボタンを押して携帯を仕舞おうとしたとき、また携帯が鳴った

今日はよく鳴るな、とそんなことを思いながらディスプレイを見るとそこには御坂美琴の文字が

アイツから電話をかけてくるとは珍しい、と思いながらまた通話ボタンを押して耳に当てる

 

「もしもし」

 

<あ、アラタ。 今大丈夫?>

 

「あぁ、問題ない。どした?」

 

<いえね、アラタ明日非番でしょ? 息抜きにどうかなって今日佐天さんと話してたんだ>

 

息抜き、か

確かに最近夜更かししまくっているし、こういったときくらい羽を伸ばしたいものである

しかし黒子はどうかわからないが確実に女子は三人という構図になるだろう

その中に男子が自分だけというのは少々心もとない

 

「おっけー、参加させてもらうぜ。あ、けどちょっとこっちも誘っていいか? 人数は多い方がいいだろ?」

 

<え? 別にいいけど…誰誘ってくるの?>

 

「それは明日のお楽しみだ。んじゃま、また明日な」

 

<えぇ、それじゃお休み。再三言うけど、無理しないでよ?>

 

その後少しだけ会話を交わし電話を切った

そんな気遣いに感謝しながら誰を誘うか考える

 

「…大介でも誘ってみようか」

 

風間大介

高校生ながら〝バーバラKAZAMA〟という床屋兼美容院を経営しており、人気過ぎて予約は一週間待ちとかなんとか

友人というコネで入っているからそういったのはよくわからないが

 

「そうと決まればさっそく電話だ」

 

三度携帯を取り出し番号を見つけると電話をかける

スリーコール待ってがちゃり、と電話に出る音

 

<はい! もしもし〝バーバラKAZAMA〟でっす! 予約ですか?>

 

底抜けに明るい声が聞こえてきた

声で分かる、こいつは大介じゃねぇ

 

「てかなんでお前が大介の携帯もってんだよ」

 

<なんだお前か切るぞクソヤロウ>

 

「態度変わりすぎだろ!!」

 

先ほど電話に出たのは風間が預かっている置き去り(チャイルドエラー)、ヒカリである

両親が蒸発し、途方に暮れていたところを風間に保護されそのまま風間宅に住み着いた十一歳の女の子である

どういうわけか風間にのみ好意的でありその他の人物にはやけに攻撃的(男性のみ)なのである

 

<ほかのお客様がしっかり予約してんのにアポなしで来やがるお前なんかしらんわ…あ、ちょ>

 

何やら電話の向こうでがたがたと騒がしい音が聞こえる

多分大介が自分の携帯を取り返そうと奮闘してるころだろう

五秒くらい待ってまた声が聞こえる

 

<…ヒカリが迷惑かけた。要件はなんだ>

 

すっごく疲れた声が聞こえた

むしろ迷惑かけてしまったのはこちらの方かもしれない

 

「い、いや。風間って明日暇か?」

 

<ん? あぁ、問題ないぞ? 遊びの誘いか?>

 

「まぁ似たようなもんだ。明日来れるか?」

 

<あぁ、何時だ?>

 

その後待ち合わせ等について二言くらい話込んだ後、じゃあなと互いに言って電話を切った

しかしヒカリのあの攻撃的なのもどうにかならんだろうか

風間にはやけにデレデレなのに

 

「…まぁ考えても無駄か」

 

そう自己完結しアラタはベッドの上に身体をうずめる

心のどこかで美琴たちとの息抜きに、少し期待を覚えながら

 

◇◇◇

 

 

皆が寝静まったそんな時間帯

とある学生寮のとある部屋の中

 

一人の少年がパソコンの前に腰を下ろしていた

室内は真っ暗で、その場にはただパソコンの光だけがその部屋を照らす

 

少年はネットサーフィンをしながらヘッドフォンでただひたすらに〝ナニカ〟を聞いている

それは曲と形容できるかどうかさえ微妙なものだ

 

少年はパソコンの前で歪に表情を歪ませて

 

(…新しい時代が来る…)

 

そう心の中で呟いた―――

 



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#6 能力(チカラ)とちから 後編

今回は相変わらずぐだってしました

ちょっとオリジナルかもしれません

ではどうぞ


翌日

 

起きてすぐ顔を洗い適当に高校の制服に着替えた後、アラタは大介の待ち合わせの場所に向かう

ちなみにその待ち合わせの場所は、美琴に誘われた場所、セブンスミストである

 

ほどなくしてセブンスミストの入り口が見えてきた

その入り口にはすでに風間が立っており暇を持て余すように本を読んでいた

おまけに

 

「遅いぞお前」

 

「…なんでいんの?」

 

どういう訳かヒカリも風間に同行していたのである

あって早々敵意むき出しの彼女の頭を風間はこつんとド突きながら

 

「一緒に行くって聞かなくてな。仕方ないから連れてきた」

 

そう言ってちらりと風間はヒカリの方を見る

するとヒカリはちらりと風間の方を見やるとアラタを見てフンとそっぽを向いた

 

「…やれやれだな。留守番が嫌だったとか?」

 

「かもしれんな。…そら、お前の連れが来たみたいだぞ」

 

大介が指をさした方向に見知った顔が三人ほど

美琴、佐天、初春の三人である

黒子は予定があったのか、それともまだ何か調べたいことがあったのかその彼女だけはいなかった

 

初春はこちらを視認すると「アラタさーん」と言いながら手を振ってその数秒後

 

「!?」

 

彼女の表情がフリーズした

具体的には風間の姿を確認したときに、だが

 

初春だけにとどまらず、佐天、揚句に美琴まで驚愕の顔をしていた

 

「…あんたの言ってた友人って…」

 

「あぁ、風間大介。俺の同級生だ」

 

そう言った瞬間、初春と佐天がアラタに食い付いた

目をこれでもか、と言わんばかりに輝かせて

 

「あ! アラタさん大介さんと知り合いなんですか!?」

「普段は予約しないと入れない超高級なお店の美容院の!?」

 

「…お、おう」

 

その剣幕にちょっと引いてしまった自分がいる

…やはり普通は予約しないといけないんだろうか

 

「初めまして。俺は風間大介。〝バーバラKAZAMA〟を経営している。そして、こっちは―――」

 

「ヒカリです。大介さんのお手伝いやってますっ」

 

思いっきり猫をかぶって挨拶する風間家の居候、ヒカリ

実際ヒカリの見た目は普通に可愛い部類に入る

性格を除けばきっと将来は良いお嫁さんにでもなれると思う

 

ヒカリがそれぞれ挨拶を交わし、自己紹介が済んだ後いざ彼はセブンスミストへ入っていく

そんな彼らを眼鏡をかけた少年の視線が捉えていた

彼の視線の先には初春の右腕につけられている風紀委員の腕章

 

「―――」

 

セブンスミストに入っていく初春をただ眼を細めて睨んでいた

 

「…僕を救えなかった風紀委員は」

 

彼の手には子供向けのカエルの人形

それは探せばどこにでもありそうなごく普通な人形だった

彼はそれを握りしめ呟く

 

「―――要らない…!!」

 

◇◇◇

 

そんなわけでセブンスミストに入店

セブンスミストははっきり言ってしまえば服屋である

正直言えばアラタは服にはあんまり興味がない

しかしせっかく誘ってくれたのでどうせならなんかジャンパーでも買ってみようかな、と思う今日この頃

 

「ういはるー! ヒカリさーん! こっちこっちー!」

 

どういう訳か今日の佐天はテンションが高い

久しぶりに初春と一緒に買い物ができるからだろうか

そんな佐天を見ながら、美琴は初春に問いかける

 

「初春さんはどこか見たいとことかある?」

 

「うーん…特に決めてないんですけど…」

 

「ヒカリは?」

 

それに便乗し、風間もヒカリに問いかけた

問われたヒカリはうーん、と考える仕草をしたあと

 

「あたしも今のところないなー」

 

「うーいーはーるー! ちょっとちょっとー!」

 

いつの間にかぐんぐん先に進んでいる佐天が手を振りながら初春を呼ぶ

苦笑いをしながら初春は

 

「な、なんですかー!?」

 

そう言って初春は佐天の下へと走って行く

ちらりと佐天が入ったコーナーを見てみるとそこは女性ものの下着コーナー

これは流石に一緒にはいけない

女物の下着コーナーに男子二人って気まずすぎる

 

そんなわけで一度美琴とヒカリと別行動を取る

別行動と言っても付近の服売り場にとどまるだけなのだが

 

正直買うものがないと暇でしょうがないが、セブンスミストは洋服の種類が豊富で見ているだけでも時間を潰せるほどだ

 

しかし何が悲しくて男二人で洋服を見なくてはいけないのか

口に出すとたまらなく空しくなるのでお互いあえて口を閉ざす

というか誘ったのは自分か

 

「お、アラタに風間じゃん」

 

二人して洋服を見ていたらまた聞きなれた声

声の方向に振り向くとそこには我らが友人、上条当麻の姿が

 

「…当麻、なんでここに」

 

「一番無縁そうな奴がどうして…」

 

「それが出会い頭に級友に言う言葉ですか!?」

 

今までならこれくらいふざけるのは普通なのである

しかし今回は違った

 

「お兄ちゃ~ん」

 

そう呼ぶ幼女の声が耳に入ってこなければ

アラタと風間は二人してその声の方へと首を動かす

その視線の席にはサイドポニーの幼女が一人

 

一度彼女の存在を確認した後、ぎぎぎ、とロボットみたいに再び当麻へと視線を戻す

 

「…お前、いくら、出会いがないからとか言っておきながら…!」

 

「その…それは流石に、なんだ…まずいんじゃないか?」

 

「なんて考えしてやがりますかアンタたちはっー!!」

 

当麻の怒号が耳に入る

まあいきなりロリコンのような視線をされてかつそんな事を言われれば嫌にもなろう

しかしそう判断してしまいそうな状況だったという訳で

 

「俺はただ、この子が洋服店探してるから、ここまで案内してきただけだ!」

 

全力でロリコン疑惑を否定する当麻

まぁそんな気はしていたわけだが

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、あっち行きたい」

 

そんなことを話していると幼女、もとい少女が当麻の服の裾を引っ張り向こうを指した

 

「っと、わかった。…まぁそんなわけだから、…頼むから変な噂流さないでくれよ?」

 

「わかってるって。んじゃ、またな」

 

「おう、またな。アラタ、風間」

 

そして少女に手を引かれていく当麻の背を見送りながらアラタと風間はふぅ、と息を吐く

アラタが一言

 

「…あんな女の子にもフラグ立てるとはな」

「フラグかどうかはしらんが、まぁ当麻は誰にでも優しいし、人付き合いもいいからな」

 

故にとある高校には隠れ上条ファンがいたりする

しかしそれを言ってしまえばここにいるアラタや風間、ここにはいないツルギや天道にもそんな隠れファンがいるのだが、本人たちは気づいていない

 

 

先ほどの衣服コーナーに戻ってみると何やら美琴がとある寝巻の前でがっくりしていた

ちょうどその時戻ってきた初春、佐天、ヒカリに視線でどうしたのと問いかけてみるが彼女らも事情は分からないようだ

 

不思議に思ったアラタは皆を代表し

 

「…どした?」

 

と聞いてみた

 

すると美琴は少し疲れたような苦笑いを浮かべながら

 

「…なんでもない」

 

と返すのだった

 

◇◇◇

 

お昼ご飯はどうしようか、という話になったその時だ

初春の携帯がけたたましく鳴り響いたのは

 

「…初春さん、携帯鳴ってない?」

 

「え? …あ、本当だ」

 

ヒカリの指摘を受けて初春が携帯を取り出した

通話ボタンを押して耳に当てたその瞬間

 

<初春!! 虚空爆破(グラビトン)事件の続報ですの!!>

 

あまりの声量の大きさに一瞬怯んでしまったがその単語を初春は聞き逃さなかった

 

<学園都市の監視衛星が、重力子の加速を観測しましたの!>

 

「!? か、観測地は―――」

 

<今近くの警備員を急行させるよう手配していますの! 貴女は早くこちらへ戻りなさい!>

 

聞く暇もなく黒子は言葉をまくし立てる

時は一刻を争う

思わず初春にしては珍しく

 

「ですから! 観測地は!」

 

そう声を張り上げて問いかけた

その声を聞いた電話の向こうの黒子はその観測地の場所を答える

それは想像もできないような場所―――

 

<第七学区の洋服店、セブンスミストですの!!>

 

「セブンス、ミスト…」

 

確かにそれは危険だ

しかし逆にそれはチャンスである

ちょうど自分はいまセブンスミストにいる

迅速に避難誘導すれば怪我人はゼロにできるはずだ

 

「ちょうどいいです! 今、私そこにいますから、直ちに避難誘導を開始します!!」

 

そう告げて初春は携帯を切り、ゆっくりとこちらの方を向く

彼女の表情は先ほどまで見せていた遊びの表情は消えうせ、仕事の顔となっている

 

「落ち着いて聞いてください。犯人の次の目的が分かりました! この店です!」

 

「な、なんですって!?」

 

美琴がそう驚いた声を上げる

無論驚いたのは美琴だけではない

アラタも、ヒカリも、表情に出してこそいないものの風間も少しながら動揺している

 

「御坂さん、風間さん。すみませんが避難誘導を手伝ってくれませんか?」

 

「え、えぇ」「わかった」

 

「あ、あたしは―――」

 

「佐天さんは、ヒカリさんと避難を」

 

「―――うん」

 

当たり前といえ少し寂しくなってしまった

自分の親友ががんばっているのに、自分は何にもできない

そんな自分に、ちょっとだけ、嫌悪感…

 

「…初春も、気を付けてね」

 

短くそう言うと初春は少しだけ笑んで避難誘導に向けて走って行く

 

その背中を見送りながら、佐天はどこか複雑な表情を浮かべて―――

 

 

そのまま爆弾が仕掛けられたことを伝えるとパニックになりかねない

だから店内の人に事情を話し、電気系統のトラブルとしてお客を外に避難させることにした

 

つつがなく避難誘導も終わり、アラタは店内でほかに遅れた客がいないか歩き回って探す中

 

「アラタ!!」

 

出入り口の方から走ってきた美琴、当麻、風間の三人が焦った表情でこちらに向かっているのが見えた

 

「お前ら! なんで戻ってきた!」

 

「悪い、けど、あの子がいなくって…」

 

「…あの子?」

 

当麻が言うあの子とは、恐らくあの女の子の事だろう

もう避難したものと思っていたのだが、この様子からすると、まさか―――

 

「いないのか!?」

 

「そうみたい、アラタ、探すの手伝って!」

 

「わかった! 俺はこの事をいったん初春に伝えてくる! 探すのはその後でいいか?」

 

「あぁ、構わない」

 

風間に後押しされアラタは初春の下へと走り出す

一度初春の下に行く、と言ったのは理由がある

それは先日フィリップから聞かせられた、とある情報によるものだ

 

「…もし本当に狙いが風紀委員なら…!」

 

自分も確かに風紀委員だ

しかし、狙いやすさで言えば

真っ先に狙われるのは―――

 

「間に合ってくれ…初春!」

 

 

「…」

 

初春は周囲を見渡しほかに人がいないか確認する

どうやらこの周辺に爆弾らしきものは見当たらない

とりあえず、当面の危機は去った、と思っていいだろう

 

「初春!」

 

そう自分を呼ぶ声に初春は視線を向ける

そこには自分に向かって走ってくるアラタの姿が見えた

彼の姿を確認して少しだけ安堵している自分がいる

それに少し気恥ずかしさを感じながら自分の下へと近寄ってくるアラタに報告をする

 

「アラタさん、避難誘導が終わりました」

 

「あ、あぁ…そのことはお疲れさん…じゃなくて、まだ一人、女の子が残ってるんだ。…疲れてるとこ悪いけど、一緒に探してくれないか?」

 

「えぇ!? ホントですかそれ!」

 

「残念ながらマジだ。だから―――」

 

「お兄ちゃーん!」

 

そんな会話を交わしていると、件の女の子がこちらに向かってとてとてと走ってきていた

両腕にカエルの人形を持ちながら

当然初春もアラタもその女の子の安否が確認できただけで安堵していたがアラタはそれに違和感を覚えた

 

…あの子、あんな人形をどこで貰ってきていたのか

それ以前にここは洋服店のはず

子供向けのコーナーがあったとして、あんなのはなかったし、それ以前にあったとしても購入などできない

つまり―――

 

「眼鏡をかけたお兄ちゃんがこれを渡してって」

 

女の子が差し出したそのカエルの人形を初春が受け取ろうとして

その人形が不意に歪んだ

 

「!!」

 

刹那で判断した初春はその爆弾を自分たちの後方へと投げ飛ばしその女の子を守るべく自分の身体で包みこんだ

 

ここに今、自分と初春しかいない

当麻がいれば彼の右手でどうにかなったろうがそんなことも言っていられない

ならばとるべき行動は一つ

 

幸いにも初春はこちらを見てはいない

これなら気兼ねなく変身できる

 

アラタは腰に手をかざす

すると彼の腰に身体の内側から浮き出るようにベルトが顕現した

そして右手を左斜めへと突き出し、左手をベルトの右側近辺にと手を動かし、その両手を開くように移動させる

 

「…変身!」

 

そして右手を左手の方へと動かし、ベルトのサイドスイッチを左手の甲で軽く押した

 

 

外からでも分かるくらいにその爆発は大きかった

周りの人々がざわつく中、介旅初矢は一人ガッツポーズをしながらその場をゆっくりと離れた

 

徐々に人混みが少なくなっていくなか、介旅は心の中でほくそ笑む

 

(いいぞ…すごい、素晴らしいッ…!!)

 

少しずつではあるが確実に自分はより強大な力が使いこなせるようになっている

疑心暗鬼で使用したが、どうやら大成功のようだ

 

「…くっくくくく…くはははは…!」

 

堪え切れなくなって介旅は人気の少ない路地裏に入りながら笑いを吹き出した

もうすぐだ…あと少し数をこなせば…!!

 

「無能な風紀委員も、あの不良共も…!! みんな纏めて―――ぎゃ!?」

 

唐突に背中を思いっきり蹴り飛ばされた

介旅はみっともなくその辺にぶちまけられていた空き缶や空のペットボトルの中へと突っ込んだ

訳が分からない、と言った様子の介旅は地面に両手をついて身体を起こす

 

「よぉ爆弾魔。…分かるよねぇ…俺が言いたいことは」

 

目の前には男がいた

自分と同じくらいの背丈に、乱雑に切りそろえられた前髪

腕には風紀委員の腕章があった

 

「な、何の事だか。僕にはさっぱり―――」

 

「けど残念だったなぁ。あの爆発、確かに結構な威力だったけど…死傷者ゼロの、怪我人ゼロ。…つまり被害者なしだ」

 

「な…!! そんなバカな!! 僕の最大出力だぞ!! …はっ…」

 

自分で言って失敗した、と介旅は直感する

それでは自白するようなものではないか

 

「…ほぉ?」

 

案の定男の目が鋭く光った

大丈夫だ、急いでこの男を始末すれば―――

 

「い、いやぁ…外から見てもすごい爆発だったんで…」

 

介旅はちらりと自分の近くにぶちまけられたアルミのスプーンが入ったバッグを見やる

開けられたバッグの中から一本だけスプーンの柄が飛び出していた

 

「中の人は―――」

 

言いながら介旅はそのスプーンの柄を掴みとり

 

「無事じゃないんじゃないかってさぁ!!」

 

そのスプーンをその男に向かって投げつけた

こうも至近距離だと自分にも被害が及んでしまう

それを危惧してか爆発の威力は弱めにしなければ―――

 

そう思いながらスプーンは歪んでいき、男の近くで爆発する

 

ドォォォォン! と大きな爆音が鳴り響き、やった、と介旅は確信する

 

しかし

 

「…」

 

その煙の中から出てきたのは男ではなかった

そうだ、自分は知っている

たまに見た都市伝説のサイトでよく見かける

 

「…仮面、ライダー…!」

 

呟くと同時、介旅はまた蹴っ飛ばされた

ごふ、と肺から息を吐き出しみっともなく後ろに転がった

 

「ふ・・・ふふふ…! まさか都市伝説のヒーロー様とはね…」

 

憎々しげに介旅は呟く

その言葉に憎悪と苛立ちを募らせながら

 

「いっつもこうだ。何をやっても、力で地面に、捻じ伏せられる…!!」

 

その言葉を聞いてか聞いていないのか、二本角の赤いライダー、クウガはゆっくりと歩いてくる

その道中、その姿が人間の姿へと戻っていく

それはさっきと同じ男だった

 

「…殺してやる…!! お前みたいなのが悪いんだよ!! 風紀委員(ジャッジメント)だって同じだ!! 力のあるヤツは、皆そうだろうがぁっ!!」

 

「じゃあ聞くが、お前はその状況を打破するために、努力したことはあったかよ」

 

「努力、だと…!」

 

コツコツと男は近づいてくる

そして自分の胸ぐらをつかみあげ

 

「お前はただ、力のせいにしてただ現実から逃げてるだけだろうが!! 子供みたいに駄々こねて! そんなんで今が変わるわけないだろうが!!」

 

「…!!」

 

男の剣幕に介旅はヒッ、と声がうわずってしまう

睨みつけるその眼力に、まるでナイフで突き刺されてような錯覚さえ覚えるほど

 

「まだ幼い子供まで巻き込みやがって…!! 力、力ってほざく前に、ちったぁ努力しやがれ!! このクソヤロウがぁ!!」

 

バキリ、とその狭い路地裏に鈍い音が響いた

介旅は茫然とした表情でその場に座り込み、アラタはそんな彼を一瞥すると、踵を返し歩き去っていく

 

後ろを振り返る事は、なかった

 

◇◇◇

 

アラタからの電話を受けてその路地裏に黒子が急行するとそこには戦意を失い佇んでいる犯人と思しき男が座り込んでいた

 

どういう経緯があって彼がこんな状況になったのかは気になったが黒子はそれは些細なことだと切り捨てた

 

男を連行したあと、黒子は爆発現場へと戻ってきた

ちなみに初春たちは無傷だったらしくその報告を聞いたときは心から安堵した

そしてその現場を改めて見直す

 

その焼跡は妙で、初春たちのいた場所のみが無傷という変な跡だった

 

「…初春はお兄様が守ってくれたといっていますが…お兄様ってそう言った能力ありましたっけ…?」

 

◇◇◇

 

夕刻の帰り道

アラタは一人、学生寮への帰路についていた

 

ちらり、とアラタは先ほど爆弾魔を殴り付けた右手を見やる

少しだけ赤く腫れタその右手を夕日が照らす

 

「アラタ」

 

声が聞こえた

後ろを振り向くと美琴がこちらに走ってきていた

 

「爆弾魔、貴方が捕まえたんだってね。黒子が言ってたわよ」

「まぁ実際に捕まえたのは黒子だけど。俺は動きを止めただけだ」

 

そっけなく答えるアラタに美琴はちょっと違和感を覚えた

その違和感で思い出したことを直接美琴は聞いてみることにした

 

「…ねぇ。一個聞いていい?」

 

「ん? なんだ?」

 

初めて聞いたときはおぉ、と思ったが冷静に考えるとアラタは無能力者(レベル0)って本人が言っていたのを美琴は聞いていたではないか

何かテーブルのようなものを盾に使ったのなら問題はないかもしれないが付近にそんなものはなく、仮にあったとしてもあの爆発を防ぐことはできないだろう

じゃあどうやってアラタは初春とその女の子を守れたのだろうか

 

「…アラタって、無能力者、だよね?」

 

確認するように美琴は声を絞り出す

聞かれたアラタ本人は普通に「あぁ」と頷いた

 

「…じゃあ、どうやって初春さんと女の子を守ったの? …あの爆風、とても防げるなんて思えない」

 

それを聞かれたとき、アラタはどんな表情をしていただろうか

間髪入れず美琴は言葉を続ける

 

「あんた、もしかしたら何か隠してんじゃないの? 事件の有無に関わらず、結構眠たそうだし、たまに怪我してるし…私たちの知らないところで―――」

 

「美琴」

 

低く、それでいて普段のアラタが決して出すことはない声色に一瞬ビクッと身体が震えた

アラタは美琴に視線を合わせ、静かに言う

 

「…いつか話す。…だから、今は何も聞かないでくれ」

 

どこか儚げで、そして切なさが垣間見えるその横顔に、美琴はそれ以上何も聞けなかった

そして直感で美琴は悟る

 

―――あぁ、こいつはまた一人で背負ってるんだな

 

力になってやれるかはわからない

それでももう彼は友達なのだ

アイツは無駄に明るく振る舞うから普通にしていては彼の悩みはわからないだろう

けどせめて、自分だけはわかってあげれたらな、と思わずにはいられなかった

 

…けれどこんなことを今考えてもしかたない

 

「ねぇ、アラタ」

 

「ん?」

 

「ゲーセンいかない? 息抜きと、変な事聞いたお詫びも兼ねて」

 

「え、別にいいけど、お前門限は―――」

 

「いざとなったら黒子呼ぶわ! ほら、行くわよ!」

 

困惑するアラタの手を引いて美琴は足早に駆け抜ける

ただ引っ張られるアラタは前を行く美琴を軽く苦笑いをしながらついていく

 

底抜けに明るい彼女の気遣いに心から感謝しながら―――

 



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#7 幻想御手<レベルアッパー>

またもや長くなってしまいました

相も変わらずですがどうかご容赦を

また誤字、脱字があったら気兼ねなくご報告を

では#7、どうぞ


懐かしい夢を見た気がする

 

それは先日の強盗事件を解決して、今度はアラタが黒子の担当となった巡回のとある日の事

先日の一件を経験して初春と二人で一人前になると宣言して以降、独断専行はだいぶ減っていき、ようやっと頼りになれる後輩になってきた気がする

 

「さて、今日はこんなもんでいいか…たまには俺も先輩らしくしないとな。おい、なんか食いたいものとかあるか?」

 

「アラタさんの経済状況を言ってしまえば、あまり奢られたくないですけどね…」

 

苦笑いと共にそういう黒子

ぶっちゃけ黒子に言われる通り金欠なのだが

 

「いいんだよ。…もうすぐお前も常盤台に行くんだからさ。入学祝い的な奴だよ」

 

「ふふ。そういうことにしといてあげますわ」

 

そんな事を言い合いながら黒子と共に歩く道すがら

まだ小さいころ、アラタも先輩の風紀委員と巡回していたころを思い出す

…その頃は自分に秘められていた力の事を知らず無邪気に振る舞っていたものだ

 

「…アラタさん」

 

歩きながら黒子が思い出したように問いかける

 

「ん?」

 

「どうしてあの時、わたくしを助けてくれたんですの? あの時はまだわたくしとも面識がなかったですし…無駄に首を突っ込まなくてもよかったんじゃ―――あたっ」

 

言葉の途中でポカリと頭にゲンコツを喰らった

軽い痛みと唐突なその衝撃に黒子は頭を押さえきょとんとした顔になる

そして自分を見やるその瞳は少しばかり怒っているようでもあった

 

「…二度とそんな事言うな。誰かを助けるのに、理由なんているか? お前も誰かを助けるのに、理由なんか選ばないだろう?」

 

「それは…そうですけど…あだっ」

 

そしてまたポカリと叩かれる

 

「どもるな。そこは言い切ってくれ。…あんとき犯人に啖呵切ったお前、かっこよかったんだぜ?」

 

「…え?」

 

「真っ直ぐ自分の信じた道は曲げない。…小学生なのに良い事言うな、おい」

 

そして今度は頭をわしゃわしゃと撫でる

わしゃわしゃと撫でながらアラタは続けた

 

「お前と初春は、今のところ二人で半人前だ。…はやく一人前になって、俺たちの背中を預けられるくらいにはなってくれよな」

 

ひとしきり頭を撫でた後、アラタは黒子の背中を優しく叩いて前を歩く

その背中は大きく、どこか優しさを纏っていた

 

(鏡祢…アラタ先輩)

 

思えば彼は無能力者(レベル0)と聞く

なのに能力者相手に堂々とした戦い方でいずれも圧倒してみせている一七七支部の実力者…

定例会等には出てくれないことが固法先輩の悩みらしい

 

どうしてあの人はああも強いのだろうか

あの人が能力者相手に圧勝している様を見ていると能力なんて関係ないのではと思ってしまうくらいだ

その強さに憧れると同時に強く黒子は惹かれた

そしていつか、あの人の隣に凛としていられるような風紀委員でありたい

 

「アラタさん、いえ、お兄様」

 

「は?」

 

「あら。いいではありませんか…年齢的にも妹ではありませんか」

 

「言ってる意味が分かんないだけど」

 

「構いませんわっ、わたくしに何か奢ってくれるのでしょう? わたくし今日は珍しく甘いものが食べたいですのっ」

 

◇◇◇

 

そんでその後はコンビニにで言ってアイスを買ってあげて黒子にやったのだが

 

「…今じゃすっかし慣れたけど…」

 

なんでお兄様なんて言うようになったのだろう

…まぁ気にしたって仕方ないか

 

「とりあえず、今は目の前の事件の整理整理っと…」

 

ベッドから起きてアラタは制服に身を通す

一人部屋の中で考えるのも寂しいのでアラタは外に出て歩きながら考えることのにした

 

 

一人道を歩きながらアラタは考えた

それは先日、殴り飛ばした虚空爆破事件の犯人、介旅初矢の事だ

昨日目の当たりにした爆発の威力はどう見積もっても大能力者(レベル4)相当だ

しかし書庫(バンク)に入っているデータをいざ見てみると介旅初矢は異能力者(レベル2)であることが発覚した

 

しかし自分が体感した爆発の威力は間違いなく大能力者ほどの力

短期間で急激に成長したか、同じように何らかの手段で自らの強度(レベル)を上げたのか

 

「考えられるとしたら、後者だな…」

 

数日前に天道から聞かれた言葉が頭の中で再生される

使用することで能力が上がるという夢のようなアイテム

 

幻想御手(レベルアッパー)

 

そんなものが本当にあるとは思えない

しかし異能力者のはずの介旅が大能力者相当に力を行使してる以上、否定はできないのだ

ふむぅ…と考え込むアラタの耳に聞きなれた声が届いてきた

 

「おーい、アラター」

 

「…ん?」

 

声の方向に視線を向けるとそこには美琴が手を振っていた

その隣には黒子もいる

アラタはそれに少し笑みを浮かべて美琴たちの方に向かって走って行った

 

「アラタもなんか考えてた感じ?」

 

「え? …なんでわかった?」

 

その一言に黒子がくすくすと笑いながら

 

「お兄様ったら、遠目からでも悩んでるって丸わかりでしたわよ?」

 

「…そんな顔に出てたのか?」

 

「ええ、そりゃもうはっきりと」

 

これは少し恥ずかしい

確かにものすごく熟考してはいたがそこまで顔に出ていたとは

 

「煮詰まってるなら、一度休んで頭切り替えましょ」

 

そんな言葉と共に美琴はふれあい広場のとある一角を指差した

その先にはちりんちりん、と風流な音と一緒にそよぐ氷の文字が

 

◇◇◇

 

「黒子は?」

 

「お姉様と同じものを。お兄様は?」

 

「俺も一緒でいいや」

 

美琴が財布をいじってる中、徐にアラタはちりん、と音を鳴らす風鈴を見やる

時折吹く風に小さく揺れ、涼しい音色を奏でていく

人間というものは不思議なもので、夏にこういった音を聞くとどこかしか涼しい気分になってくる

 

「…こういった音って、ほんと不思議だよなぁ」

 

「あぁ。共感覚性って奴?」

 

「…共感覚?」

 

疑問に思って聞き返そうとしたときタイミングよく店員さんが三つのイチゴ氷を差し出してきた

 

「どうぞー、イチゴ三つですね」

 

目の前の冷たい食べ物に黒子は少し目を輝かせる

美琴もそのイチゴを確認しながら再び小銭を探すべく財布に目をやりながらアラタの疑問に答えていく

 

「一つの刺激で、複数の感覚を得ることよ。…あ、ここ、割り勘だからね?」

 

「…え?」「…え?」

 

 

「つまりさ、赤い色を見たら温かく感じたり、逆に青い色を見たら冷たく感じたりするでしょう?」

 

「暖色、寒色とありますものね」

 

比較的日陰の多いベンチにて

かき氷をつまみつつ美琴による共感覚性講座中

語り方も分かり易く、聞いていて楽しいものがある

 

「となると、このかき氷も赤だな。イチゴの赤」

 

赤いシロップに果物のイメージを追加しているこのかき氷も立派な共感覚だ

 

「そゆこと。…ん~…!」

 

ぱくりとかき氷と口に入れ夏特有な状態になる美琴

やはり夏、それにかき氷と言えばそんなコンボは外せない

ちなみに別にかき氷でなくとも冷たい食べ物なら夏特有状態になれるのだが

 

「お姉様ったら…。…ん!? ん~…!?」

 

最初こそ苦笑いだった黒子だが少し量が多かったらしく、美琴以上の刺激に襲われているようだ

その証拠に彼女のトレードマーク(?)であるツインテールがなんかそれぞれ三つに分かれているほどである

 

「…ん~…、夏って感じがしていいね」

 

言っているアラタ自身も軽くそんな状態になりつつそう呟く

スプーンを持っている手で額に当てながら彼は白い雲の多い空を見上げる

ゆっくりと動くその雲は相変わらず自由だ

 

「御坂さーん、白井さーん、アラタさーん」

 

すると前の方から恐らく学校帰りの佐天が通りかかった

カバンを両手に抱え、彼女はこちらに歩み寄ってくる

 

「佐天さん」

 

「それ、美味しそうですねっ」

 

 

そんなわけでそのメンバーに佐天を交えて再びかき氷をつつく

ちなみに彼女はレモン味

そして例によって彼女も夏特有状態を満喫中である

 

「ん~~~!」

 

目を閉じながらバタバタと足をばたつかせる佐天

 

「それって、もはや夏の風物詩よね」

 

「わかってるけどやりたくなるもんな」

 

「あ! わかってくれますかアラタさんっ! …あ、御坂さん、それってイチゴ味ですか?」

 

「うん。よかったら一口どう?」

 

「あ!いいんですか?」

 

その一言を聞いた途端何故だか黒子の顔が驚愕に変わった

まるで何をしていらっしゃるのかお姉様、といいたげな表情

 

そんな黒子の心境を知ってか知らずか美琴は佐天の口元に自分のスプーンを持っていかせ食べさせる

そしてそれを口にして「んー…美味しいっ」と感想をもらしながら自分のかき氷をスプーンで崩しながら

 

「お返しにレモン味食べます?」

「ありがとう」

 

そう言って美琴は佐天の差し出したスプーンをぱくりと一口―――

 

「あああああっ!!?」

 

その瞬間に聞こえた黒子の絶叫

訳が分からず美琴は佐天のスプーンを口にくわえながら佐天と一緒に黒子の方を見る

当の黒子はぱくぱくと唇を動かし、わなわな震えている

 

「…どうした黒子」

 

「い、え…な、なにをしてるんですの…!?」

 

「…変な事聞くな? 見ての通りだろう、なぁ」

「え、えぇ…食べ比べ…」

 

アラタの問いかけに佐天は少しどもりながらそう応える

対する黒子は相も変わらず口をパクパクとまるで餌を食べる金魚のようだ

やがて何かを悟ったような表情をし、なにを思い立ったのかいそいそと美琴の前に立って自分のかき氷を一さじすくうとそれを差しだし

 

「そ、それではお姉様…わたくしとも関節キ―――もとい食べ比べを―――」

 

「お前美琴と同じイチゴだろ」

 

「…」

 

フリーズ黒子

直後自分の頭を地面にめっさ叩きつけながら

 

「馬鹿バカばか!! 黒子のばかっ!!」

 

…そっとしておこう

 

◇◇◇

 

「ところで佐天、今日初春はいないのか?」

 

ひとしきりかき氷を食べ終えてかねてから気になっていたことをアラタは聞いてみた

今日あってからもそうだが普段一緒にいる初春の姿がいないのだ

それを聞かれた佐天は「はは…」と苦笑いを漏らしながら

 

「夏風邪ひいて、今日休んでるんです。それであたしは、これから薬を届けに」

 

そう言って佐天はカバンからかさり、と紙の袋を見せる

それはよく病院とかで処方される風邪薬だ

 

「かなり悪いの?」

 

「大したことはないらしいんですけど…やっぱり、心配ですしね…」

 

美琴の問いにその風邪薬を見ながら佐天は呟く

すこしして佐天はハッとしたように美琴たちの方へ顔を向ける

そして申し訳なさそうに

 

「…あの、もしよかったら」

 

◇◇◇

 

「ってことで! お見舞いに来ったよーん!!」

 

「お邪魔しまーす」「お邪魔いたします―」「お邪魔します―」

 

佐天に連れられて一行は初春の寮へと訪問していた

あの時佐天に頼まれたのは一緒に初春にお見舞いに来てくれないか、というものだった

別に断る理由もないしそもそも友人の頼みを無下には出来ないので三人は快く承諾、案内され現在、三人は居間に腰を下ろしている

初春は今二段ベッドの上に寝ており、佐天が梯子を上って初春の熱を測っている最中である

 

「すみません、わざわざ…」

 

「気にすんなって。ちょっと動かないで…」

 

佐天は初春の耳に体温計を当て、彼女の現在の夏を測定する

一昔前はよく脇に当てて測定していたものだが最先端科学都市なこの学園都市ではそんなすごい体温計が出回っているとは知らなんだ

 

「三十七度三分…。まぁ微熱だけど、今日は一日寝てること。もーお腹出して寝ちゃだめだよー」

「佐天さんが私のスカートめくってばっかいるから、冷えたんですよ…」

 

その言葉に一瞬頬を赤くするも佐天はすぐ調子を取り戻し

 

「いやぁ、そりゃあだって、親友として初春がちゃんとパンツ履いてるか、気になるじゃないですか。ねぇ?」

 

直後がばぁ!!と初春が勢い良く起きる

 

「ちゃんと履いてます!! 毎日!」

 

「はいはい分かったから…。病人は寝て寝て」

 

美琴に笑み交じりでそう諭された初春は少しだけむっとしながらいそいそとまた横になる

ていうか男がいるこの状況の中そんな話題は避けるべきなのでは、とも思った

その後佐天が冷たいタオルを作成するべく台所に行ったとき再び初春が口を開く

 

「そだ白井さん、アラタさん…、虚空爆破(グラビトン)事件の方、何か進展ありました?」

 

「んー…正直言えばどっちとも言えないんだよなー」

「そうですわねぇ…分かったことといえば。あの犯人の強度(レベル)異能力者(レベル2)だということだけ…」

 

しかし酷使していた力は間違いなく大能力者(レベル4)クラス

…考えれば考えるほどわけの分からない無限ループに陥ってしまう感覚だ

ふむぅ、と考え込む黒子とアラタの姿を見て美琴は思い出したように冷水タオルを作ってる佐天に言葉を向けた

 

「そういえば佐天さん、前に幻想御手(レベルアッパー)がどうとかって言ってなかったっけ?」

「…はい?」

 

◇◇◇

 

「能力の強度を上げるぅ!?」

 

開口一番そんな声を上げたのはリアリストな黒子である

対面に座った佐天は「いやぁ…」と手を振りながら

 

「あくまで、噂ですって。実態がわからない代物ですし…」

 

「実態が分からない?」

 

美琴の問いに佐天は「そうなんです」と言いながら言葉を続ける

 

「噂も中身もバラバラで、本当に都市伝説みたいなものなんですよ…」

 

「んー…やっぱりそううまくはいかないかぁ…」

 

「いや、その線も捨てきれないぜ?」

 

そう佐天と美琴の会話に乗り込んだのはアラタだ

?と顔に浮かべてこちらを向く二人にアラタは続ける

 

「や、書庫(バンク)に登録された強度(レベル)と、被害状況に食い違いがあるケース…今回だけってわけじゃないんだ」

 

え? と二人はアラタの会話に耳を傾けた

 

「常盤台眉毛事件…、黒子が捕まえた発火能力者(パイロキネシスト)…俺たちが知ってるだけでも、もう二件」

「それ以外でも強度(レベル)と被害状況に差がある事件が発生していますの」

 

今まで正直半信半疑だった幻想御手(レベルアッパー)がまさか肯定された瞬間だった

それまで実在しないのではないか、と言われるユーマにでも会ったような気分に佐天は少し眩暈がした

そして呟く

 

幻想御手(レベルアッパー)て、マジモンなんですか…?」

 

「佐天さん、幻想御手(レベルアッパー)について他に知ってることはない?」

「え!? えっとぉ…、ほんとかウソか分からないんですけど…幻想御手(レベルアッパー)を使った人たちが、ネット掲示板に書き込んでるとか…」

 

「その掲示板がどこか、分かるか?」

 

アラタに言い寄られ佐天は懸命に記憶の中を巡りそのサイトがどこか思い出そうとする

そんな時ベッドの方からカタカタとタイピングを叩く音がした

 

「これじゃないですか?」

 

そう言って初春がベッドから少し身を乗り出しパソコンの画面を見せる

そこにはチャットと思わしきネット掲示板が

その画面を見て佐天は思い出したように

 

「あ、そこそこ!」

「お手軽ですわ初春!!」

 

一気に事件が進展する

あわよくば事件が解決できれば万々歳だ

 

「これであとは奴らの素性やたまり場が分かれば…」

 

「たまり場かどうかはわかりませんが、ほら、このファミレスによく集まってるようですよ」

 

初春が指差したところには一つに単語の文字

そこには〝ジョナG〟という店の名前が記されてあった

 

 

「ありがとう初春さん! 行ってみるわ! それと、お大事にねー!」

 

「おい美琴! それお前の仕事ちゃう!」

「わたくし達風紀委員の仕事ですのー!」

 

飛び出していった美琴を追いかけてアラタと黒子も初春の部屋を出ていく

その後また扉が開いて

 

「早く元気になれよ初春ー!」

「待ってますわよー!」

 

そうお見舞いの言葉を言った後、また扉が閉まった

また外から走る足音が聞こえてきた

慌ただしい三人を見送りながら苦笑いを浮かべながら

 

「大丈夫ですかねぇ」

 

と初春は呟いた

 

「心配ないよ、あの人たちなら。学園都市が誇る超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)だもん。それにアラタさんもいるし…。私たちがいても、ね」

 

どこか歯切れの悪い言葉を口にする佐天の顔にはいつものような元気がなかった

自分の無力が分かっているような、自嘲気味な表情(カオ)

 

「佐天さん…」

 

そんな佐天にかける言葉が見当たらず、初春は彼女をただ見ている事しかできなかった

 

「ねぇ、初春」

 

そんな初春に佐天が不意に言葉を投げかけた

 

「もし幻想御手(レベルアッパー)を使ったら、私たちも強度(レベル)上がるかな?」

 

「さぁ…。でもズルは駄目ですよ」

 

「わ! わかってるって! 言ってみただけだよ、手は出さないって!」

 

顔を少し赤くしながらそう佐天

…よかった、少しいつもの佐天に戻ったみたいだ

 

「それよりさ、今日学校で先生に当てられちゃってさ、手伝ってくんない?」

 

「病人に聞かないでください…」

 

「お腹減ってない?」

 

「そうやってもので釣ろうとしてもダメですよー…」

 

そう言いながら初春はパソコンを畳む

 

「わかった。…じゃーいらないんだ」

 

その直後ぐぅ~…と大きなおなかの音が

その音の主は誰のものかはすぐにわかった

その主は少しながら頬を赤くし、やがて観念したように

 

「…いただきます」

 

◇◇◇

 

そんなわけで美琴を追っかけてそいつらのたまり場であろう所に到着

 

「ここね…」

 

そのファミレスを見て一番最初に呟いた美琴の言葉である

もうやる気満々だ

 

「んじゃ、行くとしますか…!」

 

「…止めてもいくんだろ」

「当たり前よ。わかってるくせに」

「またお姉様は…。お兄様もなんで止めないのですの」

「俺たちは風紀委員だし、顔知られてるかもしれないだろ。本当は嫌だけど…まぁ美琴なら大丈夫だろう」

 

そう言われて少し気をよくしたのかカバンをアラタにずい、と渡し

 

「じゃあ行ってくるわね。あんたたちは離れて見てて!」

 

そう言ってファミレスの入口へと走って行く

そんな美琴の背中を見ながら黒子はボソッと呟いた

 

「なんでしょう。黒子はすっごく不安ですの…」

「奇遇だな。…俺もだ」

 

送り出しておいてなんなんだが

 

 

で、今

 

―――うん、ネットで偶然、お兄さんたちの書き込みを見かけて、できたら私にも教えてほしいなーって

 

例の男らと接触に成功した美琴の演技で幻想御手(レベルアッパー)の情報を得ようと試みるが

 

「…声作りすぎだろおい」

 

普段のトーンより少し高めの若干ぶりっ子めいたその声は普段の彼女を知るものからは違和感バリバリである

というかぶっちゃけ気持ち悪い

 

黒子と二人ドリンクを飲みながらその交渉(?)の行方を見守る

 

―――お願い、この通りっ

 

――――知らねぇよ…とっとと帰んな

 

―――そんな事言わないでぇ

 

――――しつけーぞ、ガキはもうおねむの時間だろ

 

そう言われた時遠目からではわからないが表情が不機嫌になったのははっきりとわかった

…早くも頓挫の予感である

あぁ、予測可能回避不可能とはこの事か

 

―――えぇ? 私ぃ、そんなに子供じゃないよ?

 

「―――ぶぅっ!!」

 

「うわ!! 汚ぇなおい!」

 

いきなり黒子がメロンソーダを吹き出した

危うく直撃するところだったが、まぁ吹き出す気持ちはわからんでもない

 

――確かに子供じゃないよなぁ、俺はあんた好みだぜ?

 

―――うわぁっ、ホントにぃ?

 

そう言って両手を振る美琴

…うわ、気持ち悪い

演技だとわかっていてもあれは流石にやりすぎではなかろうか

ギャップ萌え、なんて言葉もあるこのご時世、ああいうのも必要なのか

 

―――じゃあ、教えてくれる?

 

――けど、やっぱタダってわけにもいかねぇなぁ…

 

そこの男、思いっきり視線が足に行っているぞ

考えていることがバレバレだぞおい

 

―――えっと、お金なら、少しは出せますぅ…

 

―――金もいいけど、やっぱこっちの方がいいよなぁ…

 

そう言いながら手を伸ばして触れようとするがそれより先に美琴が後ろに移動する

そして両手を後ろに組みながら

 

―――やっぱり、そういうのは怖いっていうか…

 

「…何もあそこまで演技せんでも…なぁ黒―――」

 

ガン、ガン、ガン、ガンとテーブルに一心不乱に額をぶっつけてる白井黒子がそこにいた

なにをしているのだこの子は

いや、まぁ尊敬している御坂美琴さんが演技とはいえあんな事口にしているわけだからぶつける気持ちはわからんでもないが

 

ふと美琴らの方を見てみるといつの間にか話は進み、そこにいるメンツが皆立ち上がっていた

 

「やべ、アイツら移動するぞ、おい黒子―――」

 

「――――――」

 

白井黒子は完全に沈黙していた

擬音で〝ちーん〟とかいう音が似あっているくらいだ

 

「…そっとしておこう」

 

そのうち回復するだろう

そう信じたい

 

◇◇◇

 

人気の少ない、というか全くいない路地裏に美琴とそいつらはやってきていた

全く予想通りというかなんというか

 

意外にここは月当たりが激しく隠れる場所少ない

とりあえず路地の入り口付近の角に身を潜ませてアラタはその様子を見守った

 

「んじゃ、まずは有り金全部出してもらおうか」

 

「え?」

 

「キャッシュカードもと暗証番号…あとクレジットカードも」

 

これまた予想通りな返答が帰ってきた

恩を売りつけて幻想御手(レベルアッパー)をくれてやるかわりに永遠に金を払わせてやるつもりなのだろう

もしくは、最初から金ズルとしてか見ていないのか

 

「え、ええと…少しくらいならもってきたけど…流石にそれ全部は―――」

 

「あぁ!? 話聞きてぇんだろ? だったら早く出せよ」

 

分かり易い連中だ

やっぱりどこにいてもああいう奴らはいなくならないのか

同じく感じたのか美琴も大きく肩を動かした

ため息でもついたのだろうか

 

「…めんどくさ―――」

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

…え? と美琴の心の中の声とアラタの呟きがリンクした

アラタと美琴が横合いから聞こえた別の声の方に顔を向けるとそこには黒をベースにした制服に腰までなびく黒い髪が特徴的な美琴同年代な女の子がいた

 

「…あぁ? なんだお前」

 

「なんだじゃないわよ、一人の女の子相手に集団で取り囲んで。恥ずかしくないの?」

 

両手をあげてやれやれ、とジェスチャーをする女の子

その仕草にイラついたのか、集団の男の一人がその女の子に向かって拳を振り上げた

女の子は動じることなくその拳を避けて、男の腹に一撃を喰らわす

どごむ、と鈍い音がしたと思ったらゆっくりと男の一人はその場に崩れ落ちた

そしてその後集団に向かって手を突き出し、かかって来い、と手先を曲げて挑発する

 

その女の子に視線が集中している中、近寄ってくるアラタに対して美琴は問いかける

 

「…誰? あの子」

「俺に聞かれても…。今のところ味方っぽいけど」

 

暫くすると女の子が集団を全員叩きのめしていた

中々の実力者のようだ

 

「そこの人、怪我ない?」

「え? え、えぇ。大丈夫」

 

手をパンパンと払いながら女の子は美琴の方へ駆け寄って声をかけた

かけられた美琴は少し言葉を濁しながらもそう返事する

 

「…あんたは?」

「人に聞くときって、まず自分から名乗るもんじゃないの?」

 

そう言われ、少し言葉を詰まらせる

しかしその通りなので、アラタは軽く咳払いして名を名乗った

 

「俺は鏡祢アラタ。こっちは―――」

 

「御坂美琴」

 

美琴の名を聞いて女の子は少し驚いた表情をした

 

「御坂…て、常盤台の? …はは、出しゃばったことしちゃったかな…」

 

「そんな事ないわよ。ああいうのに手加減なんてやりづらくてむしろ助かったわ」

「そう? …ならいいけど…。あ、私だけ名乗ってなかったわね」

 

彼女は少し後ろに下がって美琴、アラタそれぞれを見ながら

 

「私は神那賀(かみなが)(しずく)。よろしくね、御坂さん、アラタさん」

 

「派手にやってくれたねぇ」

 

軽く自己紹介が終わるとまた別の女が歩いてくる

のされた男の一人が「あ、姉御…」と言っているところを見るときっとその集団のリーダーかなんかなのだろう

姉御と呼ばれた女は男の一人の前に座り

 

「おい、お前たち…。あんな嬢ちゃんたち相手になにやってんだ」

 

「す、すいませんっ!」

 

「…女の財布なんか狙いやがって…」

 

「で、でも―――」

 

言い切る前に姉御がその男の顔をぶんなぐる

バチン! とやけに気持ちいい音が聞こえた

 

「あたいに口答えかい!? 埋めるよ?」

「す、すいませんっ!」

「謝る相手はあたいじゃないだろ!!」

 

そこでまたバチンっとぶっ叩かれる

どこぞの無双ゲームのかあちゃんみたいな豪快な人だなぁ、とアラタは一人思う

 

「ほらお前たちも!」

 

姉御の一喝で倒れていたほかの男らも立ち上がる

そして座っている姉御の後ろに横一列に整列すると

 

「わ、悪かった…」

「そうじゃないだろ!!」

 

「ほ、本当に、すいませんっしたぁ!!」

『したぁ!!』

 

野球部かおのれらは

 

全員での一斉謝罪が終わると姉御は立ち上がって笑みを浮かべると

 

「これでけじめはついたろう? 許してやっとくれ。…お前らぁ! もう帰んなぁ!!」

 

「う、ウス!!」「お先ですっ!」

 

それぞれそんな言葉を言いながら男たちは撤収していった

…本当にどこまでも野球部みたいなノリだった

男たちが撤収していって、姉御がこちらに向かって歩いてくる

 

「…あんた、アイツらのボスみたいだな。なら、幻想御手(レベルアッパー)についても知っているか?」

 

「そんな事より、あたいの舎弟を可愛がってくれたのはドイツだい?」

 

アラタの問いかけを半ばスルーし、姉御はそんな事を聞いてきた

一人ひとりを視線で見た後、姉御は再びアラタを見る

やがて神那賀が一人ずい、と前に出て

 

「あたしよ」

 

神那賀を一瞥した後姉御は手首を回しながら

 

「…んじゃ、覚悟はできてんだろうねぇ」

 

…え

 

「覚悟って、さっき謝ってくれたのは…?」

 

美琴がそう問いかける

 

「あれはあれ。これはこれ…。借りはきっちり返さないとね」

 

そう言って徐に一本のメモリを取り出した

そのメモリにはアラタが見覚えあるマークがしるされている

 

「…あれは、クウガのマーク…?」

 

<KUUGA>

 

かちりっと姉御がボタンを押しそのメモリを起動させ、それを自分の掌に差し込んだ

すると姉御の身体がみるみる変わっていき、今都市伝説を賑わせている仮面ライダークウガへとその姿を変える

しかし腰にはベルトがなく、丸い球体のようなものになっている以外はほぼクウガだった

 

「な!! お前、それは!!」

 

「あたいも最初はびっくりしたけどねぇ。なんせ都市伝説と同じ存在になれるたぁだれが想像したかい」

 

同じ存在、という言葉あたりで神那賀のこめかみがピクリと動く

そして変化した姉御に向かって

 

「そんなパチモンが、同じ存在だなんて言わないでもらいたいわね」

 

そう言って神那賀は徐に一本のベルトを取り出してそれを腰に巻きつけた

そして右手に持っていたメダルのようなものを大きく弾く

ピィン、と弾かれたメダルは空中でくるくると回りそのまま彼女は右手でそれをキャッチして

 

「変身!」

 

と叫び、ドライバー右側のメダルスロットにそれを装填し、右側のハンドルレバーを左手で勢いよく回した

するとカポーン! と小気味よい音が響き、彼女の姿を何かが覆う

胸部、背部、両肩、両腕、両腿、両足にリセプタクルオーブを纏ったその姿は

 

「あたしはバース! …仮面ライダーバース」

 

ここにもう一人の仮面ライダーが現れる

 

 

「へぇ…行くよ!」

 

似非クウガが地面に手を当てた

何をするのか、と思ったときバースが立っていた地面が粘土のように歪み始める

 

「え、なにこれ!?」

 

「地面を…!? っと」

 

危険が及ばないようにアラタは美琴の手を引き、安全圏へと避難する

 

「あたいの能力は表層融解(フラックスコート)…。アスファルトの粘性を自在にコントロールすることが出来んのさ」

 

言葉と共に、ついに似非クウガの手がアスファルトの中に突っ込んだ

それと同時にさらに複雑に、深く地面が歪む

 

「小賢しい…!」

 

呟きながらバースはメダルをまた挿入し、レバーを回す

 

<ブレストキャノン>

 

そんな電子音声が流れたと同時、バースの胸部に大きなキャノン砲が出現した

バースは両手でそれを構え

 

「うまく避けてよね」

 

その言葉の後、大きな一撃をぶっ放す

似非クウガは地面を操作し目の前に壁を作り、それを防ごうとした

しかしそんな壁など意味をなさない

 

バゴォン!! という大きな音が路地裏に響き渡る

放たれた弾丸も壁に相殺されたが爆風も半端なものではなく似非クウガも自分の顔を両手で多い、防御する

 

「…ねぇ、やめないこんな戦い」

 

「なんだと…!?」

 

バースは自分の後ろで待機しているアラタと美琴を見て

 

「彼女たちは幻想御手(レベルアッパー)について知りたいだけだし、こんな争いしてたら、貴女が怪我しちゃうわ」

 

「…つまり、さっきの一発は加減してたってのかい」

 

「そんなつもりはなかったんだけど。…そう思うならそうなんだわ」

 

似非クウガはフン、と鼻で笑った後面と向かってバースに言う

 

「お断りだね…!」

 

そう言ってギリ、と拳を握りしめ

 

「あたいはまだ負けちゃいない。あんたもライダーってんなら本気で来な! あたいの鉄の意思は、そんなちゃちな砲撃ごときで砕けるほどじゃないんだよ! 砕けるもんなら砕いてみなぁ!!」

 

「…ふぅん…」

 

どうやらこの女の人はまっすぐだ

自分が思っている以上に真っ直ぐ

…そんな真っ直ぐで、きれいな心を持っているのにどうして彼女はメモリや幻想御手(レベルアッパー)なんてものに手を出してしまったのだろう

 

「…いいわ。なら私も全力で向き合ってげる」

 

バースはブレストキャノンを解除して真っ直ぐ、似非クウガへと歩き出す

彼女には小手先の技術で打ちのめしても意味がない

真っ向から向かって彼女を倒さなければ勝ったとはいえないのだ

 

「…一発よ。一発で終わらせる」

 

バースは言って拳を握る

力強く、自分を体現するように

 

「…へぇ、なかなか通な事するじゃないか。気に入ったよ」

 

似非クウガも同じように拳を握ってゆっくりと歩み寄る

 

じりじり、とお互いの距離は縮んでいく

その空気は一色触発、ピリピリするその空気は肌で感じ取れるほど

 

三百メートル

 

文字通りこの戦いは一発で終わるだろう

鉄の意思が勝つか、立ち向かう意思が勝つか

 

百メートル

 

この時点でどちらかが先に動いてもいいはず

しかしそれでもお互いは動かない

 

五十メートル

 

「はぁぁぁぁ!!」「やぁぁぁぁ!!」

 

動いたのはほぼ同時

咆哮をしながら二人は拳を突き出し、全力の拳打を放つ

バキィ!! と鈍い音が路地裏に響き渡る

 

「…ぐ、」

 

姉御の手からメモリが排出され、地面に落ちて砕け散る

そして姉御はその場で崩れ落ち、膝をついた

 

バースはその場で変身を解除し姉御を見やる

 

「…、」

 

それでも何もかけることなくゆっくりとその場を後にした

 

「…あ、あの…」

 

「美琴、俺たちも行こう」

 

何かを言いたげな美琴を制し神那賀を追う

その場には姉御だけが残された

 

その場に膝をついた姉御の表情はどことなく清々しい顔で

 

「…重かったなぁ、アイツの拳」

 

そしてキラキラと輝く夜空を見上げながら

 

「あたいの負け、か…」

 

◇◇◇

 

結局幻想御手(レベルアッパー)についてなにも聞けなかった

あの後、神那賀雫は「また会いましょうっ」と言ってどこかに走り去ってしまった

どういう訳か、神那賀雫には近いうちにまた会うかもしれないとアラタは思っていた

 

そして翌日

黒子の電話で起こされたアラタは衝撃の事実を耳にする

 

「…介旅初矢が意識不明?」

 

その後やってきた空間転移でやってきた黒子と合流

話によると介旅は警備員(アンチスキル)との取調べしてる時にいきなり倒れたらしい

途中で美琴と合流し彼が運ばれた病院へと足を運ぶ

 

その病院の入り口を抜けカルテを持った医師に風紀委員の腕章を見せる

 

「風紀委員の鏡祢だ。容体を聞かせてほしい」

 

「最善は尽くしておりますが、依然意識を取り戻す様子は…。というか、彼の身体にはどこにも異常がないのです。意識だけが失われていて…」

 

「原因不明、という訳ですのね…」

 

医師はカルテを見ながら

 

「ただおかしい事に、今週に入ってから、同じ症状の患者が何人も運ばれてきて…」

 

三人は医師のカルテを覗き見る

そのカルテに張られていた顔写真は銀行強盗をした発火能力者と、眉毛騒動を引き起こした重福省帆の顔だった

 

「…!」

 

三人は顔を見合わせて頷きあう

 

「情けない話ですが、当院の医師とスタッフの手に余る事態ですので、外部から大脳生理学からの専門家を招きました」

 

「―――お待たせしました」

 

凛とした、それでいて気怠そうな声が耳に入ってくる

三人はその声の方へと視線を向けた

そこには両手をポケットに突っ込んだ白衣を纏った女性がいた

 

 

「水穂機構病院院長から招へいを受けました。…木山春生です」

 

 

その顔にはアラタと美琴は見覚えがあった

数日前、車探しに付き合わされたどこでも服を脱ぐ女の人―――

 

◇◇◇

 

「…やっぱ見つからないなぁ、幻想御手(レベルアッパー)

 

佐天は自分の部屋でネットを用いて件の幻想御手(レベルアッパー)を興味本位で捜索していた

見つかるとは思ってないし、存在するとは思えない

それでも能力に対するあこがれは消えたわけではなく、もしかしたら、と思ってはいたのだが

 

「やっぱ噂は、噂なのかねー…。なんか新曲でも入れようかな…」

 

やがて捜索に飽いた佐天は携帯を取り、何か新しい曲でも探そうかな、と再びマウスを動かす

が、偶然マウスがクリックできる場所を通過した

 

「…? 隠しリンク?」

 

気になった佐天はマウスを戻して先ほど通った隠しリンクの場所をダブルクリックした

直後の暗転、瞬間画面の中央にはこのような文字が記されていた

 

 

 

TITLE :Level Upper

ARTIST:UNKNOWN

 

 

「…」

 

佐天はしばらくその画面に起こっていることが理解できなかった

暫くその画面をじっと見つめてようやく理解できた

今、目の前で何がおこっているのかを

 

「…これって…」

 

―――それは、悪魔の囁きか―――

 




ライダーメモリ

メモリ内の内包されたライダーのデータを再現するメモリ

自分に挿して似非ライダーにもなれるし、そのまま放りなげて召喚することもできる

ライダーとの違いはベルト部分が違うことと、基本フォーム以外にはなれない事




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#8 マジョリティリポート

時間かかりました…

そしてとりあえずできました
今回はちょっとオリジナルな感じです


誤字脱字がありましたらご報告を


ではどうぞ


炎天下の中、三人は木山を待った

今頃はここの院長と専門家にしかわからない話をしてる頃だろう

 

L字型の椅子に腰掛けて待ってはいる結構時間がかかっている

美琴に至ってはぐっすりと眠ってしまっているくらいだ

普段見せない彼女の姿から繰り出される寝顔は破壊力がある

 

「…それにしても熱いなぁ」

「そうですわねぇ。…ふぃ~」

 

黒子はそう言いながら手をパタパタさせ、人口手団扇を展開する

黒子の言うとおりこの病院はなんでかエアコンを起動させていない

メンテナンスでもしているのだろうか

 

「…黒子、なんか飲み物奢ってやる。何がいい?」

「あら。ではお言葉に甘えて…ていうかお茶でいいですのー」

 

この際三人ともお茶でいいだろう

純粋に今は水分を身体が欲している

アラタは椅子から立ち上がってすぐ近くにある自販機に歩み寄ると小銭を投入し、何気なく右側の通路を見た

視線の先には話が終わったのかこちらに向かって手をポケットに突っこんで歩いてくる木山春生の姿が見えた

 

「黒子、木山さんが来た。美琴起こせ」

 

「了解ですの。お姉様、起きてください、お姉様」

 

そう言ってゆさゆさ、と出来るだけ優しく揺する

しかし意外に眠りは深いらしく軽く揺すった程度では起きそうにない

 

「お姉様、おねえ…さま」

 

唐突に黒子の口元がにへら、と歪んだ

その声色は明らかによからぬことを考えているときのもの

黒子の狙い、それは美琴の唇だ

未だ誰にも穢されていない、柔肌…

そうだ、普通に起こしても起きないお姉様が悪いのだ

黒子は自分にそう言い聞かせ目覚めのキスをするべく自分の唇を美琴の唇へと―――

 

「…にゃ」

 

と、間一髪で美琴が覚醒した

そして自分の身に何が起こるかを瞬時に先読みした彼女は勢いよく立ち上がると

 

 

ごちんっ! と黒子の頭にゲンコツをブチ当てる

殴った右手を握りしめながら美琴は言う

 

「普通に起こせないの!?」

「起きなかったではありませんのー…」

「…自業自得だよ。ほら、お茶」

 

先ほど購入した缶のお茶を二人に手渡しながらアラタは呟く

まぁ今回は普通に起こしても起きなかった美琴も多少は悪いかもだが

 

「君たち…まだ残っていたのか?」

「あ、いや…。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 

頭をさすりながらその場を代表して黒子が聞いた

 

 

「…それにしても暑いな。ここは真夏日でも冷房を効かさないのか…」

 

「まぁ…確かに暑いですけど…別に耐えれないってわけじゃ」

 

その時この病院の看護婦さんがきゅらきゅらと何かを押しながらその疑問に応えるように

 

「現在、機械系統のメンテナンス途中でして、エアコン等の機材は使用できないんです。申し訳ありません」

 

そのままからからと通り過ぎていく看護婦さん

木山は「そうか」と呟きながらネクタイを緩め始めた

その行動の意味は分かりきっていた

唯一、そしてこれが初見な黒子は木山の取った行動の意味が分からず「ふぇ?」と素っ頓狂な声を上げる

 

「あ、あんたは見るな!」

「あだだ!?」

 

若干顔を赤くしながら美琴は両手を使ってアラタの両目を圧迫するように押し当てる

意外にも手の圧迫は眼球にダメージがあり、結構痛い

本気でやられたらしばらく目が見えなくなりそうだ

 

「ななな!!? 何をいきなりストリップ、もとい脱いでおられますの!!?」

 

一般人の正しいリアクション

しかし木山はさも当然、と言わんばかりに

 

「いや…だって暑いから」

 

やっぱり理由になってない

 

「殿方の眼がありますの!!」

「下着つけてても?」

「ダメです!!」

 

そう言われて少ししょんぼりーとする木山晴生

…この人には羞恥心という概念がどこかに抜け落ちているのではないだろうか

 

「…木山先生、専門家として、一つご意見を伺いたいんですが…」

 

そう言って美琴はアラタの両目から手を放す

ようやく目の圧迫から解放されたアラタは少し目をぱちぱちさせるアラタ

…うん、大丈夫

最悪見えずとも直死魔眼(イーヴルアイズ)で乗り切れる

うん、そう信じたい

 

「…それは構わないが…ここは暑すぎる…」

 

どこまでもマイペースなお人だ

 

◇◇◇

 

「遅いなぁ佐天さん」

 

そう言いながら初春は先ほどメールを貰った携帯を開いて時刻を確認する

そんな何気ない確認をした直後である

 

「今日は青のストライプかー!」

 

佐天の強襲である

全くためらいなくどうして彼女は友人のスカートをめくることができるのか

 

とりあえずせめてもの抵抗として初春はポカポカと佐天を叩くのだった

 

 

一通り落ち着いて

初春はさっそく本題の事を聞き始めた

 

「見せたいものってなんですか? 佐天さん」

 

初春にそう聞かれた佐天はふっふっふ、と不敵な笑みと共に

 

「よくぞ聞いてくれました…。…括目しなさいっ!!」

 

「へ!?」

 

いきなり声を大きくした佐天に初春は軽く驚いた

佐天はそこでくるくると回りながら

 

「ついに見つけたの! あの噂のアイテム!」

 

次第に佐天はスケートリンクの選手のように初春の周りを移動しながらやがて初春の正面に移動し、そして

 

「じゃじゃーん!!」

 

と佐天は音楽プレーヤーを突き出した

そんなテンション高めな佐天に初春は見たままの感想をもらす

 

「…音楽プレーヤー、ですよね?」

 

見たまんまな感想である

いつも彼女が聞いている音楽プレーヤーそのままだ

しかし佐天はちっちっち、と舌を鳴らしながら

 

「中身が問題なのよね~」

 

やけに勿体ぶった様子で佐天は初春の前を歩く

そして振り返って

 

「あとで、教えてあげるっ」

 

そこにはいつもの佐天の笑顔があった

 

◇◇◇

 

ところ変わってファミレス〝Joseph's〟

ここは冷房完備なパーフェクトなお店である

 

そこにファミリー席に陣取り、木山は両手を組んで

 

「さて、話しの続きだが。なぜ同程度の露出でも下着は駄目で水着は問題ないのか…」

「それは俺もぜひ議論したはごラバっ!!」

 

思いっきり美琴にぶん殴られた

グーであるグー

いくらクウガと言えど生身にパンチは普通に痛いです

殴られた頬をさすりながら改めて本題へと戻す

…なんで水着はいいのだろうか

 

 

改めて本題である

 

幻想御手(レベルアッパー)、か…」

 

黒子からその話を聞いた木山はふむ、と小さく息を吐いた

眼の下に隈ははあれど考えるその姿はまさに研究者、と言ったところか

 

「それはどういったシステムなんだ? 形状は? どうやって使用する?」

「…まだ分かっていないんです。…こちらから聞いておきながらお恥ずかしい限りですが」

 

からん、と飲み物に入れたままのストローが揺れたのを聞きながらアラタはそれに返答する

正直に言って昏睡の原因は不明

今回の事だって半ば縋るような思いで木山博士に聞いたのだ

 

「とにかく君らはその幻想御手(レベルアッパー)とやらが、昏睡に関係しているのでは、と。そう考えているわけなのだな?」

 

木山の問いに三人はうん、とそれにしっかりと頷いた

仮にそれが原因であるならそれを取り締まる事が出来れば被害を少なくすることができるかもしれない

 

「で、そんな話をなぜ私に」

 

「能力を成長させるということは、脳に干渉するシステムであることが高いと思われますの。ですから、もし幻想御手(レベルアッパー)が見つかったら専門家である先生に調べてもらいたいんですの」

 

黒子はまっすぐ木山の眼を見ながらそう告げる

仮にこちらで幻想御手(レベルアッパー)を確保できたとしても正直調査などできないだろう

だからこういう場合は専門家の力を仰いだ方が効率がいいと判断したのだ

ちなみその時窓の方からなんかガラスになんか引っ付いた音が聞こえたような気がしたがあんまり気づきはしなかった

 

「…むしろこちらから協力をお願いしたいね。大脳生理学者として、興味がある。…ところで、さっきから気になっていたんだが」

 

そう言いながら木山は窓の方へ視線を動かす

 

「あの子たちは知り合いかね?」

 

釣られてアラタたちもその窓の方へと首を動かした

視線の先には手をべったりとガラスに引っ付けてこちらを笑顔で見ている佐天の姿が

その少し後ろには申し訳なそうに苦笑いしている初春もいた

 

 

 

店内へ彼女たちが移動中

 

 

そんなわけで初春佐天が合流

木山側に初春佐天、その対面にアラタ、黒子、美琴

席の順は初春が端(窓側)で佐天が中央、その右(通路側)に木山が座っている位置だ

その対面での席順は黒子(窓側)、美琴(中央)、アラタ(通路側)という位置である

 

「へぇ~…脳学者さんなんですか~…。…はっ!! 白井さんの脳に何か問題がっ!?」

 

どうでもいいが最近初春の黒子に対する言い分が少し過激になってきたなぁ。と思う

そんな初春に対し黒子は若干イラッとした様子で

 

幻想御手(レベルアッパー)について話していましたの」

 

幻想御手(レベルアッパー)、という単語を聞いてプリンを食べていた佐天はその手をいったん止めて

 

「あ、それなら―――」

 

「アラタや黒子が言うには、幻想御手(レベルアッパー)の所有者を、保護するんだって」

 

え、と佐天の手が止まる

そんな何気ない仕草に気づくものはおらず、純粋に疑問を抱いた初春が質問する

 

「まだ調査中ですので、はっきりとは言えませんが…使用者に副作用が出る可能性がありますの」

「おまけに強度(レベル)が上がったからって調子こいて犯罪に手ぇ出す馬鹿もいるからな」

 

別に二人は佐天の事を言っているわけではないだろう

ただ、風紀委員(ジャッジメント)としての使命感から言っているだけで、悪気があるわけでもない

それでも何故だか自分が言われているような錯覚に襲われる

 

「? 佐天さん、どうかしました?」

「あっ、い、いや、別に―――」

 

驚いた拍子に自分の近くに置いてあったコップに手が当たってしまいコップが倒れて中身を木山のストッキングにぶちまけてしまった

 

「あ」

「あぁ!? すいませんっ!!」

「あぁ、大丈夫だ―――」

 

しかし佐天は予期していなかった

その後に木山がとる行動を

それを予期していた美琴は再び両手をアラタの両目に押し当てる

だが問題ない、今度は受ける直前目を閉じたから軽傷だ

 

「―――濡れたのはストッキングだけだから…脱いでしまえば…」

 

いそいそとスカートを脱いだかと思うと今度はストッキングを脱ぎ始める木山

その艶めかしい素足はとれもきれいなものがある

そんな光景を見て初春は顔を真っ赤にし、美琴は目をつむって小さくため息を吐く

 

どぅくぅるぁ(だから)っ!! 人前で脱ぐなといってますでしょうがええ!!?」

 

そんな中入る黒子の一喝

けれどやっぱり木山はポカンとしながら

 

「しかし…起伏に乏しい私の身体を見て劣情を催す男性なんて…」

「趣味嗜好は人それぞれですのっ!! それに殿方でなくとも、歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ!! ねぇ!!」

 

何故だろうか

黒子が言うと無駄に説得力がある

 

 

「忙しい中付き合って下って感謝しています」

 

そう言ってアラタが軽く一礼する

それに合わせて黒子と初春も腰を曲げる

 

「いや。私も教鞭を振るっていたころを思い出して楽しかったよ」

「木山さん、教師を?」

 

何気ない問いに頷くと

 

「あぁ。…むかぁし、ね」

 

そう言った時の表情はなんだか寂しいものがあった

 

軽く手を挙げて歩き去る木山を見送りながら黒子が呟く

 

「一度、支部に戻らなければなりませんわね」

「木山先生に渡すデータも揃えないといけませんしね」

「あぁ、そうだな。…それじゃ俺たちはいったん戻る。美琴は…」

 

振り返ったとき、なぜか美琴はいなかった

いや、なんとなく行き先はわかってた

同様にいなくなったもう一人を追っかけていったんだろう

不思議に思う黒子と初春を連れながら情報を整理すべく、アラタは一七七支部へと歩を進めた

 

◇◇◇

 

手放したくない

 

それが佐天涙子が思った率直な思いだった

ようやく手に入れた幻想御手(レベルアッパー)

まだ使用したわけではないし、黙っていれば問題ないはずだ

大きな橋を支える柱に背中を預けながら佐天は音楽プレーヤーを握りしめた

 

「やっと見つけたんだもん…」

 

ようやく見つけた一縷な望み

無能力者(レベル0)と断定されてからも消えなかった憧れ

ズルはいけない、わかっているけど、それでも縋るしかなかった

 

「こんなとこで女性一人は危険だぞ」

 

だから不意に聞こえたその声にビクリ、とした

聞いたことない声色にビクビクしながら佐天は声の方へと視線をやる

そこにはコンビニ袋を携えた青年が立っていた

年齢はアラタと同じくらいか

 

「あ、貴方は…?」

「ああ。いきなりで申し訳なかったな、俺は天道総司。鏡祢の友人だ」

 

言いながら天道と名乗った男は右手で天を指差すような仕草をした後こちらに向かって歩いてくる

腕章がないのを見る限り彼は風紀委員ではなさそうだ

 

「アラタさんの…?」

「あぁ。同じ高校なんだ」

 

そう言って天道はニヒルな笑みを浮かべる

 

「あの…天道さんは、どうしてこちらに…?」

「ん? あぁ、ここは夜間よく不良共が(たむろ)しているからな。そんな中入っていくお前を見て、気になってしまってな」

 

どうやら善意で彼はここに来てくれたようだ

きっとこの人は何気ない相談事でも全力で向き合ってくれるような人なのだろう

 

「佐天さーん」

 

もう一つ聞こえたその声色は美琴のものだった

佐天は振り返ってその声に応える

 

「御坂さん…どうして…」

 

「だって急にいなくなるんだもん…。あれ、この人は…」

「あ、その、この人は―――」

 

「天道総司。鏡祢の知り合いだ、会うのは初めてだな、御坂美琴」

「アラタの…? 私の事知ってるの?」

「あぁ。よくアイツが言っている、お転婆だがカッコいい女だってな」

「…あいつ…」

 

プルプルと拳が震えている

この場にいないときでも話題に上がるんだな、と心の中で佐天は呟く

 

「…まぁアイツじゃこの際置いておくとして。…心配してのよ? 佐天さん」

 

不意にこちらに振ってきたものだから佐天は驚きながら

 

「な、何でもないですよ!!」

「でも―――」

 

「ほ、ほら! あたしだけ、事件とか関係ないじゃないですかっ!」

 

佐天は無理に笑顔を作り、ポケットにその音楽プレーヤーをしまいながらその手を出し

 

「風紀委員じゃないし!」

 

その拍子にポケットから何かがポロリと落ちた

それは赤をベースに桜の花びらのような模様が刺繍されたお守りだ

 

「何か落ちたぞ」

 

天道がお守りを拾い上げ、佐天に手渡す

佐天はそれを受け取りながら「ありがとうございます」と礼を言う

 

「それ、いつもカバンに下げてるやつでしょ?」

「はは…えぇ、そうなんです」

 

人差し指に紐を通しぷらん、と掲げ苦笑いを浮かべる

 

「母に、貰ったんです」

 

ぷらん、と掲げたそのお守りを見ながら佐天は言葉を続ける

家族の事を馳せながら

 

「お守りなんて。科学的根拠、何にもないのに…」

 

佐天は思い出す

自分が学園都市に行くといった時の事

 

弟はそんな自分をカッコいいと言ってくれたし、母は最後まで心配してくれていたこと、そんな母を笑って励ます父

表面上は笑ってごまかしていたが本当は怖かった

 

超能力開発

すなわちそれは自分の頭の中をいじられるというものだ

超能力に期待すると同時に、能力開発に対する恐怖も当然あった

そんな事を言い出せず、佐天は一人公園のブランコで黄昏ていたそんな時

 

―――はい、お守り―――

 

母がお守りをくれたのだ

ヒカガクテキ、と言葉を口にしながらも心の中は嬉しさで一杯だった

 

―――何かあったらすぐ戻ってきていいんだからね? 私は、涙子が一番大事なんだから―――

 

「…こんなもので、身を守れるわけないですよね?」

 

お守りを両手で握りしめながらまた苦笑いを浮かべる

本当に、迷信深い人なのだから

 

「…いいお母さんじゃない」

「ああ。尊敬に値する」

 

美琴と天道、それぞれが口にする言葉

もちろん、それはわかっている

このお守りをくれた事が、自分を気遣ってくれたということを

 

「…けど、そんな期待が、重い時もあるんですよ。…いつまで経っても、無能力者(レベル0)のままだし」

 

自分はそんな母の期待を裏切ってしまった

心配してまでお守りを渡してくれたのに、結果は、貴方は無能力者(レベルゼロ)ですの文字

 

「―――おばあちゃんが言っていた」

 

そんな中一人、言葉を挟んだ

それは天道総司だった

彼は右手の人差し指をまた天に指す動作の後、言葉を続ける

 

「大切な人に思われていると気づいたとき、また人は強くなれる。…お前の母は優しい人だ。胸を張っていい」

「そうよ。それにレベルなんて、どうでもいいことじゃない」

 

そう二人に言われて、苦い顔をする

その言葉の意味を、佐天はまだ分からないでいた

 

◇◇◇

 

翌日の事である

パソコンの前でにらめっこする初春に足してアラタが「どうだ?」と聞いた

聞かれた初春は「うーん」と首をかしげながら

 

「暗号や仲間の中でしか使われない言葉ばっかりで、正直何とも言えないですけど、幻想御手(レベルアッパー)の取引場所に 使われているであろう場所をいくつか見つけました」

 

「さっすが初春ですの!」

 

初春はカタカタとパソコンを操作し取引場所をリストに纏め、プリントアウトしたものをそれぞれ黒子とアラタに手渡した

それを受け取った二人はその瞬間顔を歪ませる

 

「…多すぎね?」「全くですわ…」

 

言葉にするのも億劫な場所の量である

しかしそれでも動かなければ始まらない

黒子とアラタは頷いて支部の出口へと歩き出す

 

「白井さん、アラタさん―――」

 

何も言わずに出口に向かう二人を呼び止める

二人は振り向いて

 

「この中に必ずあるんでしょう?」

「なら虱潰(しらみつぶ)しに当たるまでですわ」

 

そう言って二人は笑む

その笑みに初春も笑みで返した

これならきっと、問題ない

そう信じて

 

 

「ではお兄様、後程」

「おお。お前も無理すんなよ」

 

言葉を交わして黒子は空間転移(テレポート)で姿を消す

先ほど黒子がいた空間を見ながらアラタは手元にあるリストを見た

 

「んー…やっぱ多いな」

 

しかし初春にああいった手前退けない

というか退く気もない

とはいえ流石に徒歩で行くとなると疲れる

ここは自分の移動の為の足が必要だ

 

「…とりあえず、燈子んとこの近くの取引場所を潰しながらバイク取りに行くか」

 

リストを折りたたんでポケットに突っ込んで歩き出したその瞬間、視界に入ってきた人がいた

腰まで伸びた長い髪の持ち主をアラタは知っている

 

「…神那賀」

 

「やっほー、アラタさん」

 

ひらひらと手を振りながら彼女はこちらに向かって歩いてくる

やがて自分の前に来た彼女は

 

「これから仕事?」

「まぁそんなとこ。お前はなんだ」

「私はただ歩いてただけ、やる事もないしね。…ねぇ」

 

少しだけ声を低くして神那賀はこちらを伺うかのような声色になった

 

「? なんだ?」

「その、私も手伝っちゃダメかな? 幻想御手(レベルアッパー)の事」

 

◇◇◇

 

幻想御手(レベルアッパー)、かぁ」

 

最初聞いたとき流石にそれは噂だろう、と心の中で何度思ったことか

無論仮面ライダーの噂も最初は疑ったが、のちにネットにアップされた動画でその存在を信じることが出来た

しかし幻想御手(レベルアッパー)はどうか

証拠がある仮面ライダーとは違い、証拠があるわけでもない

 

「…無能力者(わたし)でも能力者になれる、夢のようなアイテム」

 

だから見つけた時は本当に好奇心だった

これを使えばこんな自分でも無能力者じゃなくなる

母からの期待に応えることができる

そう簡単に考えていた自分の幻想は昨日、いとも簡単に砕かれた

 

「…得体のしれないものは怖いし、よくないよね…」

 

そう自分に言い聞かせながら形態のディスプレイに表示された〝消去しますか?〟の文字に指を這わそうと

 

―――幻想御手(レベルアッパー)! 譲ってくれるんじゃなかったのか!?―――

 

そんな時耳に入ってきた別の声

驚きのあまりその動作をやめ、「え…?」と短く声を漏らした

 

 

声の聞こえた方に佐天は足を運んだ

そこには一方的に一人の男を殴っている数人の男

 

取引現場―――!?

 

佐天は本能で察し、急いで物陰に隠れる

少し音が聞こえてしまった気がするが、それより先に身体を隠すことができたからきっと問題ないはずだ

 

(とりあえず、警備員か、風紀委員か…)

 

内心で呟きながら佐天は急いで携帯に視線を移す

しかしそこには充電してください、と無情にも表示されたディスプレイ

 

(やば、充電切れ!?)

 

万策尽きた

どうしようか、と考える

しかし正直言ってもう自分にできることは何もないのだ

 

連中はいかにもな男たちが三人

こちらに至っては最近まで小学生をしていたのだ

適う訳ない

適う訳ない、が―――

 

 

「やめなさいよ!」

 

逃亡か、挑むか

佐天涙子は後者を選んだ

なし崩しの勇気を振り絞り、佐天は言葉を振り上げる

 

「その、人、怪我、してるみたいだし、すぐに警備員が―――」

 

その言葉が最後まで紡がれることはなかった

リーダー格と思われる男が佐天のすぐ後ろの壁を蹴りを打ち込んだからだ

バガン!! と音が鳴り響き、佐天は思わず頭を押さえる

 

「今、なんつった?」

 

歯並びが悪いその男が佐天に向かってそういった

 

「…え?―――きゃあ!?」

 

男は佐天のむんずと掴みあげ、

 

「ガキのくせに生意気いってくれるじゃねえか。あ?」

 

男は続ける

 

「なんも力もない奴が、グダグダ指図する権利はねぇんだよ」

 

「―――!!!」

 

…あぁ、やっぱりそうなんだ…

力もない自分が、出しゃばる事なんか―――

 

 

「おばあちゃんが言っていた―――」

 

 

そんな絶望も切り裂くように一人の男の声が耳に響いてきた

 

 

「―――まずい飯屋と、悪の栄えたためしはない、ってな」

 

 

佐天は声色で判断する

 

(天道、さん…?)

 

「何やら騒ぎがするかと来てみれば。…どんな場所にも外道はいるんだな」

 

状況は三対一

数で言えば圧倒的に天道が不利だ

しかし、あのような自信は一体どこから来るのだろう

 

「けっ!! 何かと思えばよぉ…」

 

男の一人がにやにやと笑いながら天道に近づく

 

「優男が一匹増えただけじゃねぇか」

 

そう言って男は天道の胸ぐらをつかみあげる

 

「―――威勢がいいな」

 

「はぁ!? 何言ってんだこの野―――」

 

ぷぎゃる!!? と男の声が響いた

情けない声を上げながら仰向けにぶっ倒れた男の口元からは若干の血が流れている

言葉の途中で天道が本気のアッパーカットを叩き込んだために恐らく唇を切ったのだろう

 

「だがお前らと話すことなどない。幻想御手(レベルアッパー)について何か知っているなら洗いざらい全部吐いて貰おうか」

 

言葉が終わると同時、また別の男が天道に向かって走ってくる

走りながら男は天道から見て右側に避けた

その直後後ろから鉄パイプやら何やらがこちらに向かって飛んできていた

 

「ほお。念動能力か」

 

しかし天道は物怖じする様子など微塵も見せず器用に一番最初に飛んできた鉄パイプを回転しながらキャッチし後から飛んできた諸々をはじき落とす

 

「すまないな。わざわざ武器を提供してくれるとは」

 

どうでもいい謝辞を口にしながら男の脇腹に鉄パイプの一撃を叩き込む

がっふ!!? とまた声を漏らしながらその場に崩れ落ちる男

天道は鉄パイプをその辺に放り投げると先ほどまで佐天を掴んでいた男を見据えた

 

「なんだ、能力なしかお前」

「少なくとも偽善な力で手に入れているお前らなんかよりはずっといいさ。むしろ誇りに思えるね」

 

くっくっく、とリーダー格は笑い

 

「あっそ」

 

<DRACULA>

 

おもむろに取り出したメモリを起動させる

その行動に天道は目を見開いた

 

「お前、幻想御手(レベルアッパー)だけでなくガイアメモリまで…」

 

「力がすべてなんだよこの世はよぉ…」

 

汚い歯並びから繰り出される言葉の後、露出した二の腕にガイアメモリを差し込んだ

差し込んだところを起点にし、リーダー格の男が変わっていく

その姿はまるで西洋の吸血鬼みたいな風貌だ

 

「…そうか。お前もそんな力で来るなら―――」

 

バッと天道は大空に向かって手を伸ばした

ドラキュラドーパントが目を細める中、天道の手に何かカブト虫のような赤い機械が捕まっていた

 

「…変身」

 

そう呟いた後、天道はベルトにそのカブトの機械をセットする

 

<HENNSINN>

 

そう電子音声が聞こえ、天道の身体を何かがつつんでいく

ヒヒイロカネと呼ばれる呼ばれるマスクドアーマーに包まれたその姿

 

「…仮面、ライダー?」

 

譫言のように呟く

まさか昨日知り合ったばかりの人が都市伝説の人だったとは誰が思っただろうか

 

 

「へぇ…噂の仮面ライダーをぶっ潰せるとは…今日はラッキーだなぁ!」

 

ドラキュラドーパントがカブトマスクドに向かって走ってくる

しかしどういう訳かその姿は一回り大きく見えた

しかし些細な事と切り捨てたカブトMFは大振りに放たれたその拳はいなし、ドラキュラドーパントの背後に回って反撃を繰り出そうと―――

 

「何?」

 

振り返ってみるとそこには何もなかった

ただあるのは先ほど自分がノックアウトした野郎二人だけだ

どういう事だ、自問自答する中、背後からの足音

 

「っ!?」

 

瞬時に判断し大きく放たれた蹴りを振り向きざま両手で防ぐ

幸いにもマスクドフォームゆえかあまりダメージは通らなかった

それでも天道の思考はまだ追いついていなかった

 

(俺の方が回り込んだはずだ…しかし奴は…)

 

そんな思考の中、カブトMFはクナイガンを取り出してドラキュラドーパントの脳天に向かって引き金を引く

このまま行けば弾丸はドーパントの頭に直撃し、動きを一時的に止めることができるはずだ―――

そう考えていたカブトMFの予想とは斜め上の結果がでる

どういう訳か弾丸は当たることなくそのまま顔の横を通り抜けたのだ

 

(外した…?)

 

ドラキュラドーパントはそのままカブトMFに向かって直進し両手にあるその鋭利な爪をカブトMFに向ける

別段マスクドフォームとなっているこの状態なら当たっても問題はないが本能からその一撃を避け、大きく後ろに飛び退いた

 

「…見極めるか」

 

そう呟いて、カブトMFは一度身構える

 

ドラキュラドーパントが一直線に突っ込んでくる

そしてそのままの勢いで大きく蹴りを放つ

予想ルートは上段

だからカブトMFは左手でそれを受け止めようとした

しかしその蹴りはがら空きの腰にぶち当たった

 

「うぐっ!?」

 

威力を軽減するべく自分も横に飛び退いたことが幸運だったか

そしてマスクドフォームだったことも自分を助けてくれた

そうじゃなかったらあばらの数本は持っていかれただろう

 

「ちっ、邪魔くせぇなその装甲。おかげで足痛めちまったぜ」

「…要望なら脱いでやろうか」

「あ?」

 

カブトMFは立ち上がるとカブトゼクターのホーンを軽く起こす

すると妙な機械音と共にマスクドアーマーが浮かび上がり、

 

「キャストオフ」

 

起こしたゼクターのホーンを右側に展開させる

直後

 

<Cast Off>

 

そう電子音声が鳴り響いた瞬間装着されていたマスクドアーマーが吹っ飛んだ

あまりの勢いにドラキュラドーパントは両手を顔の前に持っていき、風圧等から身を守る

 

<Change Beetle>

 

顎のローテートを基点に顔面の定位置に収まったその姿は赤く、水色の複眼が一時的に発行する

 

「…そら、脱いでやったぞ」

「へ、へへ…ご丁寧にどうも―――」

 

そんな言葉と共にドラキュラドーパントはカブトに拳を叩き込んだ、はずだった

だがするり、とその拳は避けられ逆に自分が投げ飛ばされたということを自覚するのに多少時間がかかった

 

「お前の能力。それはただの目くらまし」

 

立ち上がり態勢を整えるドラキュラドーパントに対してカブトが言い放った

 

「周囲の光を歪ませて、相手の視覚情報を誤らせる。…姑息なお前にぴったりだ」

 

「っへ…偏光能力(トリックアート)ってんだけどよ。だからって何が出来んだ。…自分の眼しか頼れない雑魚がいきがってんじゃねぇって」

 

「頼るものならあるさ。…それはお前の気配だ」

 

両手をだらんとさせた状態でカブトはゆっくりとドラキュラドーパントを目掛け歩き出した

たったそれだけの動作なのに、なぜかゾクリとした

 

(…こけおどしだ。あんなもん!!)

 

自分に言い聞かせ、ドラキュラドーパントは再びカブトの方へ走る

そしてそのまま拳を顔面に叩きこもうと―――したのだが

どういう訳か当たる寸前にすっと首を右に動かされ容易く躱された

そしてカブトはその手を掴み

 

「…捉えたぞ」

 

短く呟いたその後にカブトはドラキュラドーパントの腹部に向かって膝蹴りを叩きこむ

数発打ち込み、その後はがら空きの顔に向かってカブトはパンチを叩きつけた

 

「あがっ!!?」

 

みっともなく地面を転がりドラキュラドーパントは軽くせき込んだ

 

「どういう事だぁ!」

 

そして叫ぶ

訳が分からないと駄々をこねるように

 

「俺の能力は完璧に作用しているハズだ…!! なのになんで攻撃が当たりやがるッ…!?」

「言っただろう。俺はお前の気配を呼んでいる、と」

 

先ほどと変わらない口調でカブトは答えた

 

「相手の眼に効果を及ぼすなら、いっそ眼なんて使わなければいい。…お前のむき出しの殺気を捉える事くらい、眼を瞑ってでもできるからな」

 

眼を、瞑っても…?

訳が分からずドラキュラドーパントは呟く

ゆっくりと歩いてくる仮面ライダーに恐怖を覚える

アイツは一体なんなんだ

恐怖が極限に達したドラキュラドーパントは付近に佇んでその戦いを見守っていた佐天に近寄ってその頭を掴みあげた

 

「きゃっ…!!」

 

「近寄んなよぉ…!! 近寄ったらこのガキがどうなるか―――」

 

「…クロックアップ」

 

小さく呟いてカブトは腰右側のスイッチを軽く叩いた

瞬間、カブトが消える

 

「…え?」

 

佐天が呟いたその時にはどういう訳かドラキュラドーパントが宙に浮いていた

かすかに聞こえる打撃音

それが意味しているものは―――

 

 

クロックアップ

 

それは分かり易く言うなれば超高速移動である

ライダーフォームに駆け巡るタキオン粒子と呼ばれるものを操作し、時間流を自在に行動可能になる事である

他者から見ればそれは消えたと同じ、そしてカブトから見れば他者はすべて止まって見えるのだ

正直に言ってこれはワンサイドゲームになってしまうため、極力使用を避けていたのだが、人質を取られてしまったなら話は別である

 

クロックアップを発動したカブトはドラキュラドーパントの顔面を殴り付け一度佐天から引き離した後、そのまま連打を叩きこみつつ、ゼクター上部のスイッチスロットルを押す

 

<one>

 

そしてそのままアッパーを繰り出し、ドラキュラドーパントを上空に追いやった後、残りのスイッチを押していく

 

<two three>

 

カブトはその後、ゼクターホーンを一度戻し

 

「ライダーキック」

 

そしてまたゼクターホーンを倒すと

 

<Rider kick>

 

という電子音声が鳴り響き、タキオン粒子が右足へとチャージされていく

カブトはふと上を見た

そこにはゆっくりとした調子で落ちてくるドラキュラドーパントの姿があった

そして自分の攻撃範囲に落ちてきたその瞬間

 

「はぁっ!!」

 

掛け声と共にドラキュラドーパントに向かって回し蹴りを叩きこんだ

 

「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」

 

断末魔と共に爆散するドラキュラドーパント

その爆発を背に、一人カブトは天を指差す

 

「…天の道を往き、総てを司る」

 

最後にそう呟いた

 

 

「見事だったぞ。佐天」

 

駆け付けた警備員にすべてを任せた後、天道は佐天に向かってそう言った

どこが見事なのかわけがわからず、佐天は頭に疑問符を浮かべた

 

「…お前は、自分と関係ない人の為にその勇気を振り絞った。それだけでも十分お前はすごい。そう行動できるかで、お前はただの無能力者とは違うんだ」

 

「天道、さん…」

 

「もし幻想御手(レベルアッパー)なんてものを使用し、お前に何かあったらどうするつもりだ。友人は、家族は」

 

天道に指摘され、ようやく佐天はハッとした

そして昨日言われた言葉の意味

 

 

 

―――大切な人に思われてると気づいた時、また人は強くなれる―――

 

 

わたし、思われてるんだ

 

脳裏に浮かぶ、家族の事、初春の事、黒子の事、美琴の事…そしてアラタの事

今、この瞬間だけは、レベルゼロであること誇れるような気がした

 

「…ありがとうございます。天道さん…」

「ん?」

「私、もう少しで大切なものを自分から壊しちゃうところでした」

 

そう言って大きく佐天はお辞儀する

顔を上げた佐天の表情(カオ)は良い笑顔となっていた

 

「そうか。…それはよかった」

 

そんな笑顔に天道も同じように笑顔で返した

 

 

さしあたっては自分の持つ幻想御手(レベルアッパー)について誰かに説明しなければならない

何らかの副作用があるならやっぱりこれは危険なものだ

しかし今携帯の充電は切れているのでここは公衆電話を使わなければいけなさそうだ

 

よし、と一人決意した佐天は走り出した

もう自分は無能力者であることを悲観しない

力がないからなんだというのだ

 

そう思える佐天の足取りはいつも以上に軽かった

 

軽快に走る佐天の背中を天道は一人見送って

 

「…いい友人を手に入れたな。佐天」

 

そう言葉を送りながら天道も歩き出す

 

これ以上、幻想御手(レベルアッパー)による被害を増やさないために



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#EX もう一つの物語

禁書目録編です

しかしあくまでもメインは超電磁砲ですので本当にたまにしか書かないかもです


<本当に、ごめんなさいっ!!>

 

 

電話の声が申し訳なさそうにそう言った

行く場所のほとんどは外れだったし今日はもう帰ろうか、と神那賀と話していたとき、アラタの携帯が震えだした

基本的にマナーモードにしているので結構気づきにくいのだが今回は割とそれがしっかりと感じ取れる

ディスプレイに表示された〝公衆電話〟の文字

 

誰だろうと思って耳に当てるとそれは佐天だった

 

一体なんだろう、と思い聞いて見るととんでもない事を彼女は言ってのけたのだ

 

 

〝私…幻想御手(レベルアッパー)を持っているんです〟

 

 

最初こそ言っている意味が分からなかったが話を聞いていくうちにアラタは現状を理解する

何気なくネットサーフィンをしていた偶然見つけてしまったこと

自分たちは何気なく言った保護する、と言う言葉を聞いて怖くて言い出せなかったこと

 

この事を言い出すのはかなりの勇気を振り絞ったであろうか

それでも打ち明けてくれたことに深く感謝する

 

「いいよ。ちゃんと言ってくれたしさ…あ、けど後で反省文くらいは書いてくれよ」

<…ありがとうございます。ほんとに、ごめんなさい>

 

さらに電話の向こうで謝る佐天

 

「…とにかく今日はもう家に帰れ。公衆電話からかけてんだろ? あと、美琴たちには黙っておくから」

<え、でも…>

「…このまま黙ったまんまだったら多分軽蔑してた。…けどお前は話してくれたじゃんか。それがどれだけ勇気のある行動かオレは知ってる」

<…アラタさん…>

「んじゃあ。また明日、な」

<…はい!>

 

最後に元気のいい佐天の返事にアラタは安心し、携帯を切る

そんな彼の近くにいた神那賀はアラタが携帯を閉じたのを確認したのを見ると

 

「終わったの?」

「あぁ、神那賀も今日はご苦労様。…結局全部無駄足だったがな」

 

あの後神那賀の協力も借り、リストにある所を虱潰しに当たっては見たのだがどれも不発

とどのつまり徒労に終わってしまったのだ

 

「今日はもう神那賀も帰って休め。なんだかんだで疲れたろう」

「そうね。…そうさせてもらうわ」

 

そう言うとうーん、と背を伸ばすと小さく欠伸をする

そして神那賀は踵を返して

 

「じゃあねアラタさん…また明日ー」

 

そんな言葉を言いながら神那賀は手を振って歩いて行った

その背中を見送りながらアラタも携帯で時間を確認する

時刻は夕刻、ちょうどいい時間帯だ

 

「…俺も帰るか」

 

誰にでもなく呟いてアラタも真っ直ぐに帰路につく

そんな帰り道、視界の先に見知った人物の背中が入ってきた

あの特徴的なツンツン頭はまさしく―――

 

「当麻」

 

「ん? …おー、アラタじゃんか」

 

カバンをぶらりと下げてこちらを見る友人、上条当麻

その表情にはどことなく疲れが見える

 

「今日は補習か?」

「おうともよ。…全く、今日は本当に不幸だぜ。小萌先生の補習はあるは、変なシスターが干されるわで…」

 

…え? どんな状況それは

ていうかシスターってなんだよ

思わずそんな疑問を聞いて見ると

 

「あ、いや。その…今日の朝そんな不思議体験みたいなのがあったわけでして」

「へぇ…。まぁいいや。とにかく帰ろうぜ、たまにはお前んちでゲームとかするか」

「お、いいね。受けて立つぜ」

 

そんな今どきの高校生の会話をしながら二人は歩を進める

その先に、何が待っているのかを知らずに

 

◇◇◇

 

そんなこんなで学生寮にご到着

 

「…ん?」

 

変化に気づいたのは上条当麻だった

釣られてアラタも当麻の視線の先を見る

そこは当麻の部屋の前…もっと言えばその部屋の扉の前

 

アラタが見た光景は今まで見た事のないみょうちくりんな光景だった

白いドラム缶型の清掃ロボットが当麻の部屋の前でうぃーんうぃーんと屯している

 

なんだこりゃ

 

それがアラタが思った素直な感想である

しかし隣の当麻は「……あー」と小さく呟いたのちまた小さく笑みを作った

 

「…なんだ、知り合いでも倒れてるとか?」

「あ、まぁ…そんなもんだよ。ほら、今日の朝の不思議体験の主役さ」

 

まるで意味が分からんぞ

とはいえ当麻の知人ならそれはアラタにとっても友人だ

先に当麻がその清掃ロボットに歩み寄るとき、鼻に妙な匂いが届いた

微かだからわかりにくいが、鉄の匂い―――

 

「―――え?」

 

故に最初に聞いたのはそんな当麻の戸惑いの声

気になってアラタもそれに駆け寄ってロボットをどかしそして―――

 

「…うわ、サスペンスか」

 

思わずそんな感想を口にしてしまった

それは純白な足首にまで届くワンピースみたいな服、すらりと長い銀の髪

服装からしてこれは多分本物のシスターなのだろう

しかし状況はそんな生易しいものでなく、深刻だった

血だまりに倒れた彼女は腰に近いあたりが鋭利な刃物で斬られている

それは一目見ただけで殺人未遂ものである

幸いにも彼女にはまだ息があった

―――本当に微かだが

 

「っくそっ!!」

 

それは上条当麻の叫び

当麻とこの子に何があるかはわからない

しかし理由が分からないが当麻は自分に責任を感じているのかもしれない

 

「なんだ! ふざけやがって! 誰に…誰にやられたんだお前っ!!」

 

 

 

 

「―――うん? 僕たち、魔術師だけど」

 

 

 

 

唐突に背後からかかる男の声

ゆっくりと二人が振り返るとエレベーターの隣の非常階段からその姿は現れていた

それは二メートル近い白人男性

しかし当麻やアラタよりは少し幼く見える

しかしその風貌は異様の一言

両手にはメリケンかと錯覚するほどの指輪をつけ、口には煙草を咥えて

おまけに右目の下にはバーコードのようなタトゥーまである

 

「…これまた派手にやってくれたね。神裂が斬ったって話は聞いていたんだが。まぁ血の跡はなかったから安心してはいたのだけど」

 

その台詞から察するに彼女はどこかで斬られて、命からがらここに逃げてきたのだろう

 

「…そうか…!」

 

脇にいる当麻が小さく呟いた

当麻は彼女がここに逃げてきたことに心当たりがあったのだろう

 

「…くっそ! 馬鹿野郎がっ!!」

 

それは当麻には似つかわしくない叫びだった

普段温厚で割と面倒くさがりな当麻が怒りを露わにしてるのだ

怒る当麻を余所にアラタがバーコード神父に向かって口を聞く

 

「…そっちの狙いはこの子かよ?」

 

「ごもっとも。それは僕たちの回収対象さ」

 

「…回収だぁ?」

 

「ああ。この国では、禁書目録っていうのかな。まぁ詳しく説明したって無駄だろうし? 簡潔に言うなれば十万三千冊の〝魔導書(悪い見本)〟を抱えた毒書の坩堝。あ、君たちのような宗教観の薄い人間が目を通せば廃人は確定だから」

 

「十万三千冊、だと…!? ふざけんな!んなもんどこにあるってんだよ!!」

 

ただ一人状況が呑み込めていない上条当麻が叫ぶ

確かに彼女の周りにはそのような本など一冊もないし、持っているような素振りも見せていなかった

第一そんなもの隠せるわけがないじゃないか

十万三千冊だなんて。それは図書館一つ分じゃないか

そんな当麻に応えるかのように、アラタが口を開いた

 

「頭ん中か。完全記憶能力って奴」

 

神父の眼が細くなる

 

「…へぇ、よく知っているね。そっちの男は何もわかっていないようだけど、君はあるのかな? 魔術の心得が」

 

「どうだか。ご想像にお任せするよ。…で、お前は何をしに来たわけ?」

 

訳が分からないといわんばかりの当麻を置いてけぼりにしつつ、アラタは会話を進める

…正直に言えば、当麻を巻き込みたくはないのだ

もう、遅いかもしれないが

 

「保護だよ。保護」

 

「…ほ、ご」

 

譫言のように当麻が呟く

頭で理解(わか)ってはいなくても、本能では理解(わか)っていた

この赤で染められた光景を前に目の前の神父は何を言った?

 

「あぁそうさ保護だよ保護。ソレにいくら良心とかがあったって薬物とかには耐えられない。拷問なんてもってのほかだ。そんな連中に預けるなんて心が痛むだろう?」

 

瞬間

 

「ざっけんな!! 何様だ!!」

「おい、当―――」

 

アラタの制止を聞かず、突発的に当麻は神父に向かって拳を握って駆け出した

対して神父は至極、冷静

 

「ステイル=マグヌスと名乗りたいところだけど、ここはFortis931と名乗っておこうかな?」

 

その時アラタのこめかみがピクリと動く

燈子から聞いたことがある、魔術師というものは名前とは別に、魔法名というものを持っているらしい

それは己の覚悟を現すと同時に、魔術をフルに使用するためには必要な事とかなんとか

そんな思考に埋没している内に当麻は着実に距離を詰めていく

 

「聞きなれないよね魔法名なんて。僕たち魔術師はなんでも魔術使用するときには真名を名乗ってはいけないそうだ。まぁ古い因果らしくて僕は理解できないんだけど」

 

あと三メートル

当麻の拳はあと数歩で届く位置

 

「重要なのはこの名乗りを上げたことでね? 魔術を使う魔法名、よりもむしろこれは、〝殺し名〟、かな」

 

当麻の拳が届く前に神父は咥えていた煙草を指に取りそれを水平に指ではじく

弾かれたタバコは手すりを越えて隣のビルに壁に当たり、火の粉を散らした

 

「炎よ」

 

呟いたその刹那、その火の粉を基点に炎の剣が顕現した

それをステイルと名乗った男は思わず立ち止まった当麻に炎の剣を叩きつける

炎剣は触れた瞬間に爆発し、辺りを熱波と閃光、爆炎と黒い煙に包みこんだ

 

「やりすぎたかな」

 

「おーおー。まさしくこりゃやりすぎだよ」

 

煙の向こうにいるもう一人の少年が応える

そう言えば彼は先ほどの少年のように突っ込んでは来なかったため炎剣の射程に入っていなかった

…しかしなんでこの男は冷静なのだろうか、とステイルは考える

目の前で友人が肉塊にされたのになぜこの男はここまで冷静なのか

 

「…ずいぶん余裕だね? 目の前で友達一人消し飛んだんだよ?」

「あ? 余裕じゃねぇよ。煙吸いこまないように必死だよ」

 

帰ってくるのはそんな下らない事ばかり

訝しむステイルの耳にその男が告げる

 

「―――つうかさ」

「うん?」

 

 

 

 

「あの程度で俺の親友を殺したと思っているのなら大間違いだぜ」

 

 

 

 

は? とステイルが言葉を返す前にそれは起きた

突如としてあたりに巻き散らしていた黒煙と火炎を吹き飛ばす竜巻のように殺したはずの少年が立っていた

全くの無傷で

 

「…ったく。そうだよなぁ、なにビビってんだよ。インデックスの〝歩く協会〟を破壊したのも、この右腕だったじゃねぇか」

 

彼はおそらく魔術なんてものを理解していないし、理解する気もない

だがしかし、たった一つの真実がある

 

 

 

それは所詮、異能の力だということ

 

 

 

「な―――!?」

 

ステイルは目の前の現象に混乱しながらもまた炎剣をぶつけるが、それもまた煙のように消されていく

まさか魔術か、と思案するがこんなクリスマスをデートの日と勘違いしてるとぼけた国にそんな魔術師いるわけない

それ以前にこの男からは魔力を感じることは出来ないのだ

 

「…ちっ、ならば!」

 

ステイルは舌を打ちながら懐に手を突っ込んだ

そして勢いよくその手を表に取り出す

その手には三枚の色のついたメダルだった

当麻がそれに警戒し、構えていると

 

「…斎堵みたいには出来ないが、せめて顕現させるくらいなら―――」

 

そう言ってステイルはその三枚のメダルを思い切り握りしめる

するとそれは三色のメダルは一枚のメダルへと変化し、ステイルは地面に叩きつけた

瞬間まばゆい光と共に変な歌のようなものが耳に聞こえてくる

 

 

<タカ! トラ! バッタ!>

<タトバ! タトバ タトバ!>

 

光が消えた当麻の視線の先にいたのは三色のへんな人型の何か、だった

しかしその風貌は彼が知っている都市伝説に似ている

 

「なっ!? 仮面ライダーだって!? なんでお前がそんなもんもってやがる!!」

「カメンライダー? なんの事だい。これは僕の友人が使用するメダルを媒介に魔力を注入して顕現させた自動人形(オートマトン)、オーズさ」

 

そう笑みを作りながら話すステイルはまた余裕を取り戻していた

その証拠にゆっくりと煙草に火をつけ、再び咥えていたのだ

 

「…」

 

流石にあれには当麻の拳は聞かない

徒手空拳をベースにする当麻にとってライダーなんてのは相性は最悪

そう判断したアラタは歩を進めだし、当麻の前に立つ

 

「…アラタ?」

「いや、ホントはバラす気なんかなかったんだけどさ。状況が状況だからさ」

「…は?」

 

当麻の言葉を無視し、アラタはオーズの前に出る

視界に入ったオーズには覇気がない

恐らくこのオーズとやらはステイルの意のままに動く戦闘マシンなのだろう

 

なら、俺が負ける道理はない

 

アラタはいつものように両手をかざす

かざした場所からにじみ出るように現れるベルト

 

「!? そのベルトは!!」

 

ステイルの声を無視しながらアラタはポーズを取る

そして自分を変えるその声を上げる

 

「変身!」

 

叫ぶと同時、ベルトのサイドスイッチを左手の甲で押す

キュイン、とそのような音がしたその次には身体に変化が現れる

赤い鎧に、紅蓮の複眼、そして黄金の二本角

 

その変化に当麻は驚きのまま口を開け、ステイルはまたもや混乱で思考が追いつかない

 

(馬鹿な…!! あれははるか古代に消えたハズだ! それがなぜ今…!)

 

そう考えるステイルを無視し、クウガは一気にオーズに向かって走り出した

 

「! 迎撃しろ、タトバコンボ!」

 

ステイルの一言を皮切りに三色のオーズ、タトバコンボが構えて迎撃態勢を取る

幸いにもここは学生寮という地の利を知っている

ここを十分に生かせばはっきり言ってこのオーズとやらは余裕だろう

相手に変身者がいれば別だが

 

まずクウガは走る勢いを利用し壁を走った

勢いがつけば案外いけるもので内心びっくりしてる自分がいる

そんなクウガを叩き落とそうとタトバコンボが拳を握りクウガ目掛けてその一撃を繰り出した

しかし馬鹿正直にその一撃を貰うクウガではない

貰う直前にその壁を蹴り、金属の手すりに飛び乗った

そしてその手すりに乗ったままクウガはタトバコンボの顔面に蹴りを叩きこんだ

その蹴りを受けて怯んだすきにクウガは手すりから降りてタトバコンボの首を掴む

瞬間叫んだ

 

「当麻!!」

 

クウガの声に反応した当麻はハッとする

道は一本道

道を封鎖していた変な奴はクウガ…というかアラタが押さえている

動くなら今だ

 

「おう!」

 

短くそう返答して一直線にステイルへと直進する

拳を握り、溜めた力を殴り付けるように駆ける

 

「! しま―――」

 

ステイルが反応するより早く、当麻の拳が彼の顔を捉えた

直撃ではあったが意識を奪うことは出来なかったが、こういったことには慣れてはいないのか、大きく仰け反った

その拍子に彼の懐からばさばさとなぜかコピー用紙が落ちてきた

そのコピー用紙にはインクで妙な字が書いてあり、それが何を意味するか当麻にはわからなかったが

 

「…へぇ、あんたルーン魔術の使い手か」

 

いつの間にかタトバコンボを倒していたクウガがステイルに向かって三枚のメダルを投げながらそう呟く

 

「けどコピー用紙にインクって馬鹿か。かっこ悪いし非効率的だぜ? …まぁ正直ルーン魔術なんざわかんねぇけどな。加工の仕方はテメェでやりな。…つうわけで、今回は引いてくんない?」

 

クウガは変身を解いてステイルを睨む

悔しいがこの男の言うとおりだ

ツンツン頭の右手は脅威だし、睨む男は意味が分からない

…大人しく立ち上がって、ステイルはゆっくりとその場を後にする

その背中を見送りながらアラタは夕闇に染まりつつある空を見た

 

(…また面倒な事が起きそうだな)

 

そして遠からず、それが当たってしまうことを、アラタと当麻は、知らない

 



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#9 サイレントマジョリティ

遅れました
申し訳ないです

誤字、脱字等ありましたら気兼ねなくご報告をば

ではどうぞ


このシスターの事も気掛かりだが、この都市(まち)に魔術師が来ること事態が異常なのか

そんなタイミングを計ってきてか、アラタの携帯がブルブルと震えだした

いそいそと携帯を取り出しディスプレイに表示された名前を蒼崎橙子の文字

 

シスターを解放している当麻を横目にアラタは通話ボタンを押してそれを耳に押し当てた

 

<アラタ。今軽い魔力の流れがあったが? しかも炎のだ>

 

先ほどの魔力の流れを感知したのか燈子からそんな声が上がった

意地の悪いことにその口調は若干ながら嬉々としたものを感じる

 

「あぁ。知人がちょっと襲われた。禁書目録とか何とかを保護するために来たんだと」

<…ほお、まさかそんな大層なものまでかかわってくるとは。式といいお前といい、厄介事を運ぶ天才か?>

 

激しく馬鹿にされている気がしてならないんだが

そんな時ううっ、と小さくシスターが呻いた

交流した時間は極めて短いが、それでも当麻の友人を捨て置けない

そう判断したアラタは燈子に断わりを入れて再び当麻に視線を向ける

 

「おい、聞こえるか?」

 

当麻は彼女の頬を優しく叩きながら言葉を続けた

 

「お前の頭ん中に、傷を治すようなもんはないのかよ?」

 

シスターは小さく浅い呼吸を繰り返しながら

 

「あるけ、ど…君たちには、無理…」

 

「なっ!?」

 

その言葉に当麻は驚愕する

そしてその絶句を補足するようにシスターが付け足した

 

「たとえ私が、教えて、実行しても…、君の力が、邪魔をする…」

 

愕然とした様子で当麻が自分の右手を見る

その右手に内包されるは幻想殺し(イマジンブレイカ―)

異能としてステイルの炎を打ち消すなら同様に回復術式を破壊する恐れがある

 

「くっそ! …またこの右手が悪いのかよ…!」

 

「あ、ううん…そういうのじゃなくて」

 

か細い声色

失血で震える唇を動かして

 

「?」

 

「超能力者、ていうのがダメなの。魔術っていうのは…〝才能ない人間〟が〝才能ある人間〟と同じことをするために生み出された術式…。分かる? 〝才能ない人間〟と、〝才能ある人間〟は、違うの…」

 

「なっ…!?」

 

当麻が息を呑んだ

とどのつまり、どういう事かというと、だ

我々能力者は時間割り(カリキュラム)を受けている

それは薬や電極を用いて普通の人間とは違う回路を無理やりに拡張している事を指す

ありていに言えば身体の作りが一般人とは違うのだ

 

「ちっくしょう! そんなのって…そんなのってあるかよ!!」

 

逆に普通の人間が能力者に近づくために作られた術式や儀式が、魔術である

故に、この学園都市にシスターを救える事が出来る人間は一人もいないのだ

 

「…当麻、諦めるのはまだ早いぜ」

「何がだよ!? この学園都市には能力者しかいない! つまりインデックスを助けることができる人間は―――」

 

「教師はどうだ」

 

アラタの呟きに当麻がえ? と聞き返す

 

「確かに俺たちは能力者、シスターを助けることはできない。けど作る側の教師はどうだ?」

「…そ、そうか…俺たちはみんな何かしら開発されてるけど…教師の人たちなら!」

 

魔術の使用条件は〝才能のない人間〟

それに〝魔術の才能のない人間〟とは言っていない

だから、あるいは希望はあるはずだ

 

「当麻。悪いけど俺は一緒に行けない。正直思い当たる人一人しかいないけど」

「あぁ。俺もその人だけど」

 

不意に当麻は押し黙った

当麻はインデックスを背負いながら

 

「けど俺、あの先生の家知らないぞ?」

「だったら場所教えてやる。…口頭で言うの面倒だな、携帯貸す」

 

そう言ってずい、とアラタは携帯を当麻に押し付けた

彼は仕事用の携帯とプライベート用の携帯と二つ所持している

今回渡したのは仕事用のものだ

 

「悪いアラタ! これ明日返すから!」

 

携帯を確認しながらシスターを背負った当麻は足早にかけていく

その背中を見送りながらアラタは一つ、安堵の息を洩らした

 

「…魔術、か…」

 

こういったことを聞くのはやはり専門家に限る

そう思い立ったアラタはその場からゆっくり歩き始めた

 

◇◇◇

 

伽藍の堂の外見はパッと見建設途中の廃ビルにしか見えない

しかしちゃんと電気も通るし水道も完備、簡易なものだが寝床もあると至れり尽くせりな事務所

わざわざその廃ビルを買い取り、本人は事務所だと言い張っている

その場所には結界も張られており、ほとんどの人間が訪れることはない、が宿主が認めた人物ならば割とふつうに出入りできるようだ

 

そんな廃ビル四階のドアを勢いよく開けてアラタが訪問する

 

「おい、燈子。いるんだろ」

 

「来たか。早かったじゃないか」

 

割かし大きな机に座っていた彼女がふぅ、と煙草を吹かす

名前は蒼崎橙子

封印指定を受けた魔術師…と言ってもアラタはあまり理解していない

 

「…魔術師が学園都市(ここ)に攻めてきた、と聞いたが?」

「あぁ。そのことだけど…」

 

そこでアラタは先ほどのステイルの事を掻い摘んで話し始めた

暫く話を聞いた橙子はふむ、と首を縦に振りながら

 

「しかし、本当に禁書目録が絡んでいるとはね。幸い知り合ったのは一般人な事が救いか」

「…さっきからその禁書目録ってのはなんなんだ? そんなにヤバいものなのか」

 

見た感じの所は年端もいかない可憐な少女だったのだが

自分で言っておいてなんだがとても危険性があるとは思えない

 

「禁書目録はいわば世界中の魔導書、邪本悪書十万三千冊の原典を記憶しているんだぞ? 渡るヤツが渡るヤツなら、魔術を極めし魔神にだってなれるものさ」

 

「…まぁ、彼女がなんとなくすごい女の子だってわかった…。けどなんで狙われないといけないのさ?」

 

「それはわからない。…私から言えるのは今のところここまでだ。お前もまだ仕事が残っているだろう?」

 

そう言われてむ、とアラタは口をつぐむ

そうだ、禁書目録も大事だが優先するべきは幻想御手(レベルアッパー)

 

「ありがとう。…何か分かったらまた来る」

 

とりあえずこの事が分かっただけでも今日は良しとしよう

短く燈子にそう告げてアラタは伽藍の堂を後にした

 

 

扉から出て道を歩くアラタを窓から橙子は見つめていた

煙草を吸いながら窓越しに彼の背中を目で追う

 

「…アマダム、か」

 

煙を吐きながら彼に埋め込んだ霊石の名を口にする

かつてその少年は怪人に襲われ、瀕死の重傷を負ったことがある

医学には精通していたが道具も何もない状況ではああいった霊石を頼るほかなかった

 

「…まさかそれが、お前をクウガに目覚めさせてしまうとはな」

 

知人から渡された霊石がこんな事態を招くとは

何か特別な力があったのはわかっていたが変身させる能力など誰が思ったか

 

「…まぁ私も、出来うる限りは、手伝ってやるさ」

 

自分でもこんなことを言うとは

吸い終わった煙草を携帯灰皿にブチ込んで橙子は再び机に歩き出した

 

◇◇◇

 

翌日の一七七支部

 

パソコンの前でにらめっこしていた初春は最後にかちりとエンターキーを押した

すると画面に何かがダウンロードされるバーが表示され、やがていっぱいになり、完了する

 

「完了、と…」

 

そう呟きながら初春は接続された音楽プレーヤーを手にする

先ほどこのプレーヤーにダウンロードしたのは件の幻想御手(レベルアッパー)である

 

「…しかし、この音楽を聞いただけで、本当に能力が上がりますの?」

「さあな。けど情報提供者はそう言ってたぜ?」

 

この情報は天道からもたらされたものだ

どこから入手したのかは謎だが、正直これしか頼るものがなかったので、仕方ない

 

「ん~…正直眉唾というか…はっ! けどこれを使って白井さんを超える能力者になったら、今までの仕返しにあんなことやこんなこと…」

 

「初春ー、思考が駄々漏れだよー」

 

そんな私怨にも俗物にもまみれた思考の事を今現在厨房で軽食を作ってくれている佐天が指摘した

そこを指摘されてハッとなった初春の背後には幻想御手(レベルアッパー)を構えた怖い笑みを浮かべる白井黒子

 

「わたくしに恨みを晴らしたいのでしたらぜひっ!」

「ひぃ!? 冗談!! 冗談ですよぉぅ!」

 

ギリギリと自分の両耳に接近させる黒子の腕を必死で押さえる初春

この二人は仲が良いんだか悪いんだか…と、そんな仲睦まじい(?)やり取りの最中、不意にピリリと黒子の携帯が鳴った

 

「ほ! ほら! 携帯鳴ってますよ!?」

 

好機と言わんばかりに初春がそのことを指摘する

一方黒子はどこか苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるとしぶしぶと言った様子で携帯に出た

 

「はい。…えぇ、了解しました」

 

短く言葉を済ませて通話を切り、黒子はアラタと初春に向き直る

その表情と先ほどの短い会話から推測できる事柄をアラタは口にした

 

「また学生が暴れてるのか?」

「その通りですわ。初春は木山先生に連絡をお願いしますわ」

「わかりました」

 

そう言ってドアに駆け寄る黒子の背中にアラタは

 

「手伝おうか?」

 

と言葉を投げかけた

一方言われた黒子は嬉しさ半分と言ったような表情で

 

「お気持ちだけ受け取っておきますわ。あのような連中、お兄様の手を煩わせるまでもないですもの。初春や佐天さんたちを頼みますわ」

 

そう言って黒子はドアを開けて飛び出して行ってしまった

いなくなった黒子の場所を見ながらアラタはやれやれと苦笑いする

黒子は美琴や自分に対して心配をかけまいと振る舞っている

それが逆に心配になるのだが

 

「アラタさん、軽食のシュガートーストできましたよー」

「あぁ、ありがとう。机に置いといてくれ」

「はーい」

 

佐天の気配りに感謝しながらアラタはもう一つの用件を思い出す

用件というのはなんか違うような気がするが

 

 

初春が木山さんと連絡を取り合っている中、アラタは友人である上条当麻に電話をかけていた

幻想御手(レベルアッパー)の事もそうだがあのシスターの事もある

スリーコールの後、聞きなれた声がアラタの耳に届いてきた

 

<アラタ! 仕事は終わったのか?>

「いんや、まだ途中だけど、心配になってな。どうだ? シスター…インデックスは」

<あぁ、小萌先生のおかげで何とかな…一時はどうなるかと思ったぜ…>

 

そう語る当麻の声色は本当に安堵したような声色だ

そんな当麻の後ろでそのインデックスと小萌先生が話し合うことが聞こえてくる

どうやら彼女の怪我が治ったのは本当のようだ

 

「そっか。安心したぜ、近いうちにまた顔を出すよ」

<あぁ、んじゃまたな>

 

その後短い会話を交わして当麻との電話を切る

近々何か差し入れでも持っていこうか、と考えながらシュガートーストを頬張る佐天と初春の下に戻っていった

 

 

それでいて約二日後

 

「ちょっと沁みますよ?」

 

初春のそんな言葉と共に彼女はピンセットで消毒液を沁みこませたポンポンを黒子の傷口に軽く触れる

瞬間黒子がもだえた

傷口に直に消毒液をぶっかけるよりかはマシだがそれでも応えるものがある

 

「…日に日に生傷が増えていきますね…」

「仕方ありませんわ。…幻想御手(レベルアッパー)の使用者が増えてきているんですのもの」

 

そんなやり取りを交わしながら初春は慣れた手つきで湿布を取り出して先ほどの傷口に張り付けた

ひんやりとその傷口近辺が冷却される気分が心地いい

 

「とにかく、泣き言言っても始まりませんわ」

 

今やるべきことは三つある

 

まずは幻想御手(レベルアッパー)拡散の阻止

次に昏睡した使用者の回復

そして最後に、幻想御手(レベルアッパー)開発者の検挙

 

この三つが最優先すべき事柄だ

開発者がどんな経緯を持って幻想御手(こんなモノ)を作ってばらまいたのか、その目論見を吐かさなければならない

 

「けど、今は白井さんのけがの手当てが先ですよー」

 

初春に促され、黒子は笑みを浮かべる

初春は包帯を持ち、黒子は両手を上げて身体を晒す

包帯をすべて取り、再び黒子の身体に包帯を初春が巻いていく

 

「ホントは御坂さんやアラタさんにやってもらいたいんじゃないですか?」

「百歩譲ってお姉様にこの無様な姿は晒せても、お兄様には晒せませんわ。お兄様に晒すときはベッドの上と決めておりますの」

「大丈夫ですって。ぶっちゃけ誰も見たくないですから」

 

その言葉にギラリ、と黒子の眼が鋭くなった

瞬間初春はしまった! というような顔をするがもう遅く、伸びる黒子の手は初春の胸ぐらをガッツリ掴んで彼女をぐわんぐわんと前後させる

その時だった

 

「おっすー。あたしもなんか手伝おうかー?」

 

タイミング悪いというかなんというか、偶然にも美琴が入ってきたのだ

こんな姿見せるわけにはいかない、そう判断した黒子は暴挙に出る

今先ほど掴んでいた初春を美琴の頭上へと空間転移させた

ご丁寧に初春の位置を逆さにして

跡の末路は推して知るべし、である

重力に耐えられず落下した初春の頭は美琴の頭に見事に激突し、びったーん、と床に倒れ伏した

 

「うぃーす。ん…? あれ? どうしたのこれ?」

 

美琴より少し遅れてアラタが扉を開けて入ってくる

視界に入ったのは床にぶっ倒れた美琴と初春

そしてシャツを着た黒子の姿であった

 

 

んで

 

「それで? 進んでるの? 捜査の方」

 

おでこに絆創膏を貼った美琴が椅子に座りながら問いかけた

割と痛そうに額を撫でているあたり結構大ダメージだったのかもしれない

 

「木山さんの話では短期間に大量の電気的情報を脳に入力するための学習装置(テスタメント)なんて言う装置もあるらしいんだけど…」

 

「ですけど、それは五感すべてに働きかけるもので…」

 

幻想御手(レベルアッパー)は音楽ソフトですし…それだと聴覚作用だけなんです」

 

ふむう、と考え込む四人

被害者の自宅ないし自室に行ってはみたが曲のデータ以外何にも見つからないのだ

 

「…仮の話だけどさ」

 

不意に美琴が呟いた

何かに思い出したかのように彼女は言葉を紡いでいき、三人は耳を傾ける

 

「その曲自体に、五感に働きかける作用があったとしたら?」

 

「…と、いうと?」

 

「前にかき氷食べた時の話、覚えてない?」

 

美琴に指摘されてその時の会話を思い出す

あれは介旅の事で悩んでいた時に、遭遇した美琴らに誘われてかき氷を購入して…

そこまで思い出してアラタはあっとと手ポンを叩いた

 

「共感覚性…!」

 

「それよ」

 

アラタに合わせて美琴もピッと指を指す

 

「そうでした…うっかり忘れていましたわ…」

 

「…え? なんです?」

 

ただ一人その場に居合わせていなかった初春一人だけが頭に疑問符を浮かべた

そんな初春に黒子は笑みを浮かべながら

 

「共感覚性ですわ! 一つの刺激で複数の刺激を得ることですわ」

「ある種の方向で間隔を刺激することによって、別の感覚を刺激されることよ」

 

黒子に続けて美琴も補足する

流石常盤台、説明が分かり易かった

 

「つまり、同じ音で音で五感を刺激して…学習装置と同じような効果を出している、ということですか?」

 

 

<その可能性はあるな>

 

そのことを早速初春は木山晴生に電話で報告

そして帰ってきたのはそんな言葉だった

 

<なるほど、見落としていた…>

 

「その線で調査をお願いしたいのですが…?」

 

<あぁ。そういうことなら、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の許可も下りるだろう>

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)!? 学園都市のスーパーコンピューターならすぐですね!」

 

先ほど初春が口にした樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)とは、言った通りこの学園都市が誇るスーパーコンピューターである

スーパーコンピューターとは比喩ではなくマジであり、正しいデータさえ入力してやれば、完全な未来予測が可能

そのため学園都市では天気予測は〝予報〟ではなく〝予言〟であり確率ではない完全な確定事項として扱われる

つまり雨はが止むのはあと何秒後、みたいな感じで予言され、その秒を過ぎると雨が止む、と言ったニュアンスである

 

<結果が出たら知らせるよ>

「あ、じゃあ今からそちらに行ってもいいですか? 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を使う瞬間をこの目で見てみたいんです!」

 

初春のパソコン好きに火がついたのか、そんな事を言っていく

そんな初春を木山は電話の向こう側で笑みを作りながら

 

<あぁ、構わないよ>

 

許可を貰った初春はさも嬉しそうな表情の後、携帯を仕舞い初春は扉に歩いていく

そして手をかけようとしたそんな時扉がガチャリと開いた

 

「おっ邪魔しまーす、何か手伝いに―――」

 

「佐天さん! 丁度良かった! 佐天さんも一緒に行きましょう!」

「え? ど、どこに?」

「行けばわかりますよ!さぁ、早くっ!」

「ちょ、わかったってば、なんでそんなテンションあがってるの初春!?」

 

ドキドキが止まらない初春に引っ張られて佐天は彼女の後ろを苦笑いしながら歩いて行った

 

◇◇◇

 

リアルゲコ太っ

 

それが御坂美琴が冥土帰し(ヘブンキャンセラー)抱いたパッと見の印象だった

ぶっちゃけ失礼ではないかとアラタは思ったが言われた本人は気にしてなさそうなのであえて突っ込まないでおいた

 

それで現在、彼の研究室にて

 

冥土帰しはカタカタとマウスとキーボードを操作してディスプレイに折れ線グラフのようなものを表示させる

 

「これは幻想御手(レベルアッパー)使用者の全脳波パターン。…脳波は個人個人で違うから、同じ波形なんてありえないんだね? …だけど使用者の脳波パターンには共通するところがあることに気が付いたんだよ」

 

「どういう事ですの?」

 

「誰か他人の脳波パターンで無理やり脳が動かされているとしたら人体に多大な影響が出るだろうね?」

 

それはつまり、幻想御手(レベルアッパー)に無理やり脳をいじられて植物状態になってしまったのだろうか?

しかし一体誰が何のために…

 

考えている三人に向かって冥土帰しは口を開く

まるで自分らの思考を先読みしているかのごとく言葉を並べた

 

「僕は医師だ。それを調べるのは、君たちの仕事だろう?」

 

 

「はい、わかりました」

 

木山の研究所についたとき、初春はアラタから電話を受けていた

内容は至ってシンプルな気をつけろよ、という何げない心配の言葉だった

 

<あと、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が見れるからって浮かれない事。まだ事件は終わっていないんだからな>

 

そう言われて初春は顔を引き締める

浮かれていてうっかり忘れそうになってしまっていた自分の頬を軽く叩いて喝を入れる

 

「もちろんです!」

 

<じゃ、問題ないな。…再三言うが、気を付けてな>

 

そんな言葉と共にアラタは通話を切った

同じように初春も携帯を切ってそれをポケットに入れる

 

「はるばるお疲れ様。疲れただろう、少しコーヒーでも淹れてくるよ。待っていてくれ」

 

自分の対面に座っている木山の言葉を聞きながら初春は少しだけ頭を下げた

同様に隣に腰掛けていた佐天も「すいません」と短く言葉を入れながら頭を下げる

しかし木山が初春の隣を通りかけるとき、不意に初春は言葉を洩らした

 

「…けど、こうやっている間にも被害者が出てるのでしょうか…?」

 

「君が気負う必要はないよ。―――大丈夫、最後はきっと上手くいく」

 

初春の言葉に応えるように呟いた木山の言葉はどこか意味深なものがあった

まるで何か、考えているような―――

 

「けど初春、大丈夫? しっかり休んでいる?」

「だ、大丈夫です佐天さんっ。気を遣わせて…」

 

そう言われると佐天は一瞬キョトンとしたような表情を浮かべたのち、今度は笑顔を浮かべ

 

「気にすんなって。あたしたち友達じゃん。…そりゃあワタシは風紀委員でもなければ能力者でもない一般人だけどさ? …困ってる友達の力にはなりたいんだよね。…といっても、何にもできないんだけど」

 

笑顔を浮かべながらそう言う佐天の表情(カオ)はかつて見たことないくらいに輝いて見えた

その顔色には依然見せた能力者への憧れこそ消えてはいないものの、それはだいぶ薄れているように感じれる

だけど初春はただ純粋に佐天に笑顔が戻ったことが嬉しく思い、同時にその心遣いに深く感謝した

 

「…ん?」

 

そんな時ふと、引出からはみ出た紙の端に目がいった

 

「初春?」

 

「いえ…ちょっとあそこの用紙が気になって…。直してきますね?」

 

佐天にそう断りを入れて初春はその引き出しの前に歩いていく

そして何気なく引き出しを開けてはみ出ていた用紙を手に取り―――

 

「…え?」

 

初春の思考が停止した

 

◇◇◇

 

「なるほど。そういうことなら、書庫(バンク)へのアクセスも認められるでしょうね」

 

カタカタとキーボードを叩く固法がそう口を開いた

そんな固法の後ろで立っていた美琴が

 

書庫(バンク)にデータがなかったら?」

 

とそんな疑問を口にした

それに黒子が「大丈夫ですわ」と返した後

 

「学生はもちろん、職業適性テストを受けた大人のデータも保管されていますの」

 

「ふーん…けど、なんで幻想御手(レベルアッパー)を使うと同一人物の脳波が組み込まれるのかな? しかもそれでいて強度(レベル)があがるなんて…」

 

「さぁな。…コンピュータだってソフトを使ったからって性能が格段に上がるわけじゃなし、ネットにつなぐならわからんでもないが」

 

「? ネットワークにつなぐと、性能が上がるのですか?」

 

黒子にそう聞かれアラタは向き直って

 

「個々の性能が上がるわけじゃない。けど、いくつものコンピュータを並列に繋げば、演算能力が上がるから…」

 

「そっか。幻想御手(レベルアッパー)を使って、脳のネットワークを構築したんじゃ…」

 

美琴の呟きにアラタが頷いて固法を見る

彼女はうん、と頷いて

 

「可能性はあるわ」

 

しかしそうなるとどうやってみんなの脳を繋いでいるかに疑問がいく 

気になったアラタは国法にそう聞いて見ると彼女はカタカタとキ-ボードを叩く動作の傍ら

 

「考えられるのは、AIM拡散力場かしら。能力者は無自覚に力を周囲に放出してる。もしそれが繋がったら―――」

 

「ちょっと待ってください。それって無意識化の事ですし、私たちの脳はコンピュータでいえば、つかってるOSはバラバラだし、繋がっても意味はないんじゃ…」

 

「確かにね。だけど、ネットワークが作れるのは、プロトコルがあるからでしょう? 可能性の範疇を出ないけど、特定人物の脳波パターンがプロトコルの役割を担ってるんじゃないかしら」

 

「そっか…そうやって脳を並列に繋げば、莫大な量の計算をすることができる…!」

 

単独では弱い能力であったとしてもネットワークと一体化することにより能力の処理能力が向上し、結果的に能力の強度が上がる

かつそれでいて同系統の能力者の思考パターンが共有されることでより効率的に能力を扱えるようになる

恐らくそれが幻想御手(レベルアッパー)の真実

 

「昏睡患者は脳の活動すべてをネットワークに使われているんじゃないかしら?」

 

呟きながら国法はカタン、エンターキーを押した

 

「出たわよ! 脳波パターン一致率、99%!」

 

『!?』

 

その後に画面に出てきたのは、三人がよく知っている人物だった

 

 

「これも…これも…共感覚性の、論文…」

 

「初春?」

 

直してくるはずの初春がどういうわけだか書類に釘付けになっている

怪訝に思って佐天は思い切って聞いて見ると

 

「…おかしいんですよ。…木山先生に共感覚性について調べてくれるように頼んだのはついさっきなんです。…だけどここにあるのは、そのほとんどが共感覚性の研究論文なんです…!」

 

「…つまり、木山先生はもうその共感覚性について調べていた…?」

 

力強く初春が頷いたのと、扉が開くのは同時だった

否、まるで自分たちがこの行動を取ることを予見していたかのようなタイミング

 

「いけないな」

 

「っ!」

 

初春と佐天はハッとしながら木山の方を見た

木山の表情には相変わらずの気怠さがあったが、纏っているのは、紛れもなく敵意

 

「他人の研究成果を勝手に見ては―――」

 

そう言って、木山晴生は目を細めた―――

 

 

「こ、れは…!?」

 

ただただディスプレイに移された写真を見て目を丸くするしかなかった

 

「登録者名…木山、晴生…!?」

 

美琴が呟いたその名前に一瞬アラタの思考がフリーズする

―――そう言えば、木山の所に誰か行っていなかったか?

 

「おい、まずいぞ! 今その人の所には、初春と佐天が!」

「!? 初春さんと佐天さんがどうしたの!?」

 

アラタの声に固法が大きく振り向いた

 

「さっき、その人のとこに行くって、佐天と…」

 

「なんですって!?」

 

そんな声を背に受けて黒子が携帯を取り出すと急いで初春の携帯に電話を掛ける

最悪の事態になっていなければいいが、と淡い期待を込めながら黒子はスリーコールを待った

がちゃり、と音が聞こえた

 

「初春!?」

 

<おかけになった電話は、電波の届かないところか―――>

 

しかし聞こえてきたのは無情にもそんな無機質な機械音声

 

「繋がりませんの!」

 

警備員(アンチスキル)に緊急連絡、木山晴生の身柄の確保! ただし人質のいる可能性あり!」

 

「はい!」

 

固法の指示を受けて黒子が再び携帯を操作する

それと同時にアラタも携帯を操作し始めた

万が一、に備えて

 

(…間に合ってくれよ、ダンナ…!)

 

 

とある道路を走る車の中

後部座席に佐天は乗せられ、初春は木山の隣、つまりは助手席だ

念のためか二人は手錠をさせられ、一応行動を制限させられている

 

「…幻想御手(レベルアッパー)って、なんなんですか」

 

消沈する佐天の耳に初春のそんな問いかけが入ってくる

 

「どうしてこんなことをしたんですか。眠っている人たちはどうなるんです?」

 

「…矢継ぎ早だな」

 

対する木山は運転をしながら余裕綽々と言った様子である

余裕を見せているのかわからないが、今現在の様子は確かに木山に有利ではある

 

「誰かの能力を引き上げさせてぬか喜びさせて、何が面白いんですか!?」

 

初春の声色には明らかに怒気が込められている

一時とはいえ夢を見させてあとは昏倒させられるなんて行為、彼女が怒りを露わにするのは当然である

木山は静かにその言葉を聞きながらやがて答えた

 

「他人の能力には興味などないよ。…私の目的はもっと大きなものだ…」

 

「…大きな、もの…?」

 

佐天の呟きを最後にいったん車内での会話はストップした

重々しい空気を纏わせながら、木山の車は道路を走る

 

◇◇◇

 

「私も出るわ!」

 

「本心としては駄目だって言いたいが、状況が状況だからな…いいだろ? 固法」

 

「一般人の貴方は巻き込みたくないけど、そうも言っていられないものね…。お願いするわ」

 

固法の声に力強く頷いて美琴はアラタに視線を向ける

 

「よし、行くぞ」

 

それに応えるかのようにアラタは勢いよくドアを開けて外に向かって走り出す

その走り出した背中に

 

「お兄様、お姉様!」

 

黒子が追いかけてきた

言葉を向けられた二人は立ち止まって黒子の方に向き直った

黒子は二人に向かって走り寄りながら

 

「初春も風紀委員(ジャッジメント)の端くれ、いざとなれば…」

 

待て、そこでなぜ言葉を濁らす

 

「…その、運がよければ…」

 

ここで不安に煽ってどうする、とアラタは心の中で突っ込んだ

 

「それに一科学者の木山に、警備員(アンチスキル)を退けられる力があるとは思いませんの!」

 

「何千人もの昏睡者の命が狙われてんだぞ?」

「それに…なんか嫌な予感がするの…」

 

思案するかのように美琴が呟いた

一科学者と言えど彼女は幻想御手(レベルアッパー)の開発者

何も用意していない訳がない

 

「ならなおさら! ここはわたくしもご同伴を―――」

 

そう言葉の最中で美琴は彼女の肩を軽く叩いた

瞬間激痛に耐えるかのようなリアクションを彼女は見せてくれる

…薄々思っていたが黒子は嘘が下手だと思う

 

「…そんな身体で動こうっての?」

「治ってないんだろ? 体の生傷」

 

この頃頻繁に幻想御手(レベルアッパー)使用者の暴走を捉えてきた黒子だ

だいぶ身体もボロボロだろう

 

「き、気づいていらしていたのですか…?」

 

叩かれた肩を押さえながら若干涙目になりながら黒子がこちらを見やる

 

「当たり前でしょ」

「むしろ気づかれてないって思ってたのかよ」

 

日常を見ているだけでも無理しているのは見て取れた

もう一度思う、黒子は嘘が下手だ、と

 

そんな黒子の額に美琴は指をこつんと当てて、アラタはぽふんと黒子の頭に手を乗せた

 

「アンタは私たちの後輩なんだから」

「こんな時くらい、先輩を頼れよ」

 

そう言って二人は小さく笑みを作る

美琴は軽くウインクし、アラタは優しい微笑みを

そんな二人を間近で見て、黒子は惚けてしまった

 

「…お姉様…お兄様…」

 

 

そんな黒子を戻し、二人は支部を出る

 

「どうするアラタ、タクシー拾う?」

「いや、拾う時間がもったいない。こいつで行く」

 

そう言ってアラタは近くに停めてあったバイクに駆け寄った

 

「って、あんたバイク運転できんの!?」

「言ってなかったっけ? …言ってないな、うん。つかどうでもいいからはよ乗れ!」

 

アラタに言われて美琴は急いで彼の後ろに乗った

バイクに乗るのは初めてだが不思議となんだかしっくりくる

 

「悪いな、ヘル俺のしかねぇんだ、だから全力で捕まれよ?」

 

言いながらアラタは警棒のようなものをハンドルの右側に突き刺して、エンジンをいれる

ブォォン、と大きな音が美琴の耳に聞こえてきた

 

「おっけー! 信じて任せるわ! かっ飛ばして!」

「任された! しっかり掴まってろよ!」

 

美琴の声を受け安心したのか、思い切りアクセルをひねる

自分の背に温かさを感じながらアラタはバイク、〝ビートチェイサー〟を発進させた

これ以上の被害者を、出さないために



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#10 木山せんせい 前編

お待たせしました

相も変わらないクオリティではありますがよろしくお願いします

誤字脱字等ありましたら是非是非

幻想御手編も終盤

どうかお付き合いくださいませ
ではどうぞ


木山の操る車が道路を駆け抜ける

 

疾走感漂うその車内で佐天は初春と木山の会話に耳に澄ませていた

 

「演算、装置?」

「AIM拡散力場を媒介にしたネットワークを構築して、複数の脳に処理を割り振ることによってより高度な演算をすることを可能とする。…それが幻想御手(レベルアッパー)の正体だよ」

 

口調は淡々としたものだったがそれは冷静に考えて恐ろしい事ではないか?

もしかしたら自分も一歩間違えばそう言った道具になっていたのでは、と考えると背筋が凍る

 

「…どうして…!」

 

ぎゅ、と悔しさを現すかのように初春がスカートの裾を握りしめる

木山は変わらぬ表情でまた淡々と言葉を続けていく

 

「ある目的のために樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可をしたのだが、どういう訳か断られてね。代わりになる演算装置が必要だった…」

 

「…代わり、になるって…!?」

 

呟くように佐天が会話に割って入った

木山はちらり、と佐天に視線を向けたあとまた前を見る

 

「一万人ほど集まった。…十分代用してくれるさ」

 

代用、という言葉に反応したのは初春である

まるで人を道具としか見ていないその発言に怒りを抱いたのは佐天だって同じだ

 

「…ふふ。そう怖い顔しないでくれ。もうすぐ全部終わる、そうすれば皆解放するさ」

 

そう言いながら徐に木山は白衣のポケットに手を突っ込んだ

数秒ほど探すようなしぐさの後に取り出したのは一つの音楽プレーヤーと一枚のメモリースティックである

す、とそれを初春に渡しながら

 

幻想御手(レベルアッパー)をアンインストールするプログラムだ。…君に預ける」

 

「えっ…!?」

 

耳を疑った

行動の意味を理解するのに少々時間がかかる

…彼女が言うすべてが終わったらこれを使えとでもいうのだろうか

 

「後遺症などはない。すべて元通り…ハッピーエンドと言う奴だ」

 

「騙されないで初春っ! …嘘かもしれない」

 

一瞬心が動きかけるが、佐天の言葉で持ち直す

そうだ、この人は幻想御手(レベルアッパー)を開発しそれをばらまいた張本人だ

もしかしたらこれもなんかの罠かもしれない、という一抹の不安はどうしても拭いきれるものではない

 

「信用できません! いきなりこんなもの渡されて信じろと言われても、気休めにもなりませんよっ!」」

 

「…ふふ。手厳しいな…、む?」

 

ふと単調な電子音が耳に聞こえてきた

木山がそこに顔を向ける

向けた先はカーナビのようなものでその画面には赤い文字が表示されている

 

「もう踏み込まれたのか。…君たちとの連絡が途絶えてからにしては、早すぎるな。別ルートでたどり着いたのかな」

 

「…どういうことですか」

 

初春の問いに木山は「うん?」と短く呟いた後

 

「一定の手順を踏まずに起動させると、セキュリティが動くようプログラムしておいたんだ。…これで幻想御手(レベルアッパー)に関するデータはすべて消えた。使用者を起こせるのは、君の持つそのアンインストールプログラムだけだ」

 

「えっ!?」

 

思わず手元にあるプログラムに視線をやり、そのあとで思わず佐天と顔を見合わせる

もしそれが真実なら無下にはできない、いや、本人が言うのだ

恐らくそれが事実だろう

 

「大切にしたまえ」

 

最後にそう呟いたのち、車の中での会話は途切れた

何とも言えぬ空気を醸し出しながら木山の車はその走りを加速させていく

 

 

しばらく走っていたら急に木山が急ブレーキをかけた

割と速度も出ていたので一瞬ガクンッ! となったがシートベルトをしていたおかげかそれでのダメージは少なかった

何事か、と思いフロントガラスの先を見てみるとそこにはアサルトライフルを構えた大勢の警備員(アンチスキル)姿があった

 

それを掻き分けるかのように一人のスーツ姿の男性が前に歩きながら拡声器で

 

「木山晴生、だな」

 

落ち着いたような声色で男は聞いてきた

その男の視線は車の中にいる木山に向けられている

 

「…警備員(アンチスキル)、か。上層部(うえ)から連絡が入ったときだけは、動きが早いものだ」

 

幻想御手(レベルアッパー)頒布の被疑者として拘束する。速やかに車から降りてもらおう」

 

そんな木山の呟きをかき消すかのようにそう男が拡声器でそうしゃべりかけた

 

「…どうするんです? 年貢の納め時ですよ?」

 

「降参した方がいんじゃないですか?」

 

そう二人に言われるものの木山の表情は変わらない

むしろうっすらと笑みさえ浮かべて

 

「…幻想御手(レベルアッパー)は、人の脳を使用した演算機器を作るためのプログラムだ」

 

そう呟くように口にした

その言葉が何を意味するか分からず初春は佐天と顔を見合わせてまた木山へと視線を戻す

 

「しかしそれと同時に、使用者にある副産物をもたらしてくれるのさ」

 

「?」

 

「…面白いものを見せてあげよう」

 

 

ほどなくして木山は車から降りてきた

見たところ何か武器を隠しているわけでもなさそうだがそれでも油断することは出来ない

矢車は再び拡声器を用いて

 

「そのまま両手を頭につけて、地面に伏せろ。…、人質の安否は」

 

そう言って矢車は自分の隣にいる部下、影山シュンへと首を向ける

視線を投げられた影山は双眼鏡で車の中を確認している鉄装へと視線を向け、同時に鉄装は頷いた

 

「人質の女の子たちは無事です。どこにも異常は見られません」

 

「…よし、確保だ」

 

矢車の一声で警備員(アンチスキル)の部隊がじりじり、と距離を詰め寄る

ゆっくりとではあるが着実に詰める

このまま何もなければ―――そう思っていたその時だった

 

 

 

ダァン! と一発の銃声があたりに響き渡った

 

 

 

「貴様っ!?」

「何を!?」

 

それは警備員(アンチスキル)のうちの一人が仲間に向けて発砲したものによるものだと理解するのに時間がかかった

 

「違う!! 俺の意思じゃないっ! 信じてくれ!」

 

たった一発の銃声が引き金となり、部隊は混乱の坩堝へと突入していく

そんな混乱を狙ってか、ふと木山はこちらに向かって手を突き出した

そしてゆっくりと何かを潰すように少し掌を動かすと

 

 

ヒュオォッ! と風をその場に巻き起こし始めた

 

 

「何!?」

「能力者だと!?」

 

黄泉川と矢車が叫んだその時には木山は風の中で不敵な笑みを浮かべていた

 

巻き起こる烈風

吹き荒れる砂嵐

 

「黄泉川! 鉄装を一緒に残っている部隊を率いて一度身を隠せ! このままでは分が悪すぎる!」

「了解! 隊長はどうするじゃん!?」

「時間を稼ぐ! それと余裕があったら立花にも連絡を入れておけ!」

 

そう黄泉川に言い放ち、矢車は彼目掛けて飛んできたバッタのような機械を掴む

 

「行くぞ影山」

「はい、矢車さん」

 

応える影山の手には同じようなバッタの機械が握られており、二人はそれぞれ腰に巻きつけてあるバックルを展開させ、

 

「変身!」「変身っ!」

 

そう叫んでバックル部に乗せるようにバッタの機械、〝ホッパーゼクター〟をセットした

直後二つのそれぞれのゼクターから<HENNSIINN>と電子音声が発せられ、矢車と影山の身体に纏われていく

 

矢車は緑色の生える姿に、影山は矢車と姿は似ているが色は茶色だ

 

<Change Kick Hopper>

<Change Punch Hopper>

 

仮面ライダーキックホッパー、そしてパンチホッパー

それが今の二人の姿の名である

 

「…へぇ。まだ仮面ライダーがいたとはね。これは少し、リサーチ不足かな?」

 

「本来生身相手に使うのは不本意だが、能力者、しかも複数の能力を使うとならば話は別だ」

「木山晴生。…大人しく投稿しろ」

 

「ふふふ。そう言われて、大人しく抵抗する輩がいると思うかな?」

 

説得は失敗に終わった

ならば話は早い

 

「…続け、影山!」

「はいっ!」

 

お互いに頷きあってホッパーライダーは木山に向かって駆け出した

 

 

橋の方で大きな爆発が聞こえた

その爆発から察するに交戦でもしているのだろうか、とも思ったが考察は後だ

アラタはビートチェイサーをどこか適当な場所に停め、エンジンを切る

 

後ろでは美琴が黒子と電話でやり取りをしている

今の自分に出来るのは美琴の道を作る事だ

彼は先導し立ち入り禁止と看板が張られた金網の扉を思い切り蹴破ってぶっ壊す

状況が状況だ、大人も許してくれるだろう

 

「彼女、能力者だったの!?」

 

そんな美琴の驚きの声が聞こえてくる

となると橋の上で戦っているのは間違いなく木山晴生だ

相手は警備員か、左翔太郎か

どちらにせよ危険なのは確かである

しかし一体どういう事だろうか、木山晴生が能力者などという情報はなく、書庫(バンク)のデータにも載っていなかったハズだ

 

「そんな! 能力者に一能力者に一つだけ! それに例外はないはずじゃ…!」

 

一つだけ?

それはつまり木山はいくつかの能力を使用しているという事なのだろうか

もしそうだとするならば木山は実現不可能と言われた多重能力者…

 

考察しながらカンカンと鉄でできた階段を走って上がっていく

やがて美琴も電話を終え、アラタの後ろへと追いついた

階段を登り終えた二人の視界に最初に入ってきたのは―――

 

 

「…む」

 

悠々とホッパーライダーの攻撃を捌く木山は誰かの存在を感じとる

それは自分もよく知る人だと気づくのに時間はかからなかった

蹴りかかってきたキックホッパーを吹き飛ばし、接近してくるパンチホッパーを水の激流で拘束する

 

「すまない。君たちの相手をする暇がなくなった」

 

「なん、だと…!?」

 

水の中で拘束されているパンチホッパーがそう呟く

木山は身を翻し、パチン、と指を鳴らす

 

「後の相手はこの子たちに任せておくとしよう」

 

突如として拘束を解除されたパンチホッパーは地面にドサリ、と叩きつけられた

 

「影山、無事か!」

 

そんなパンチホッパーを気遣ってかキックホッパーが駆け寄ってくる

 

「はい、何とか…けど」

 

立ち上がりながらパンチホッパーは辺りを見回す

周囲にはいつの間にやら気配があった

普段クウガが倒している怪人たちだ

中にはクウガがかつて倒している怪人の姿もある

木山が呼び寄せたのか、それともあるいはクローン体なのか

どちらにせよやるべきことは変わらない

 

「結構な数だな。…やれるか影山」

「もちろんです。さっさと倒して木山をひっ捕らえましょう」

「ふっ…! 頼もしいなっ!」

 

そう言いながらホッパーライダー二人は背中合わせに駆け出した

 

 

視界に広がってきたのはまさしく地獄絵図

幸いにも死人などが出ていなかっただけでも十分奇跡だろう

 

警備員(アンチスキル)が、全滅…!?」

 

倒れた車両、ボロボロの道路に立ちこむ煙

それだけで何がこの場所で起こったのか容易に想像できた

 

「アラタ!」

 

不意に横合いから声が聞こえた

声の方向に視線を向けるとこちらに向かって走ってくる帽子を被った一人の青年

左翔太郎だ

 

「悪ぃ! 遅れちまった…!!」

 

「いいや、大丈夫ですぜ。俺たちも今来たところです…。! おい美琴!」

 

周囲を見渡している内に何かに気づいたアラタは指をさして叫んだ

美琴もそれに釣られて指をさした方向を見やるとそこには一台の車があった

そしてその車内の中には二人がよく知る人物の姿があったのだ

 

「初春さん! 佐天さん!」

 

思わず駆け寄って中の二人を確かめる

 

「安心しろ、気を失ってるだけだ」

 

翔太郎の言葉で二人は一瞬安堵する

しかし同時に気持ちを切り替える

そうだ、すぐそばにはこの状況を作った張本人、木山晴生がいるのだ

 

「来たようだね。…御坂美琴に鏡祢アラタ。それに風都の探偵、左翔太郎。まさか貴方みたいな名探偵まで出てくるとはね」

 

不意に背後の方で声がした

三人が振り向くと煙の中から一人の人影が現れる

ポケットに手を入れたその姿からは正直気迫にかけるが、身に纏う気配は研究所出会った時とは全然違った

外見にも多少ではあるが変化しており、よく見ると左目が充血しているように真っ赤だった

 

「そっちこそ俺を知ってくれてるとはね。…俺も売れてきたかな?」

「アホな事言ってないでください。美琴が若干ポカンとしてます」

 

アラタに言われて翔太郎はこほん、と息を整える

そして木山を見据えながら徐にダブルドライバーを取り出し、腰に巻きつけた

同様に美琴も身構え、いつでも雷撃を繰り出す準備をする

そしてアラタもいつでも駆けるように身構えようと―――

 

「―――む? 君はベルトを出さないのか?」

 

まるで生徒の間違いを指摘するかのように木山はアラタに向かってそう呟いた

一瞬アラタは何を言われたのか分からなかった

同じように翔太郎もただただ顔を曇らせるしかできなかった

当然だ

アラタは木山に変身を見せたことはないし、怪人を退治するときだって監視カメラには細心の注意を払っていたはずなのに―――!?

 

「何を言っているのよ! アラタは無能力者(レベル0)よ!? 能力なんか何にも…!」

「…あぁそうか、彼女には黙っているのか。…となると、あの風紀委員(ジャッジメント)の同僚にもいっていないんだね。…まぁ、当然か」

 

アラタの戸惑いを知ってか知らずか木山はぐんぐんと話を進める

いや、それ以前にどうして彼女には自分の正体が割れているのだろうか

そしてこの状況で一番戸惑っているのは隣にいる美琴自身のはずだ

 

(…いや、考えるのは後だ)

 

いずれにせよ正体がバレたのは自分の責任だ

それに、いずれバレるとは思っていた

ただそれが、早まっただけの事

今更後には退けない

 

「…美琴」

「な…何?」

「文句は、後で聞く」

 

彼の表情から何かが伝わったのか美琴は戸惑いを隠せないままそう聞き返した

アラタは翔太郎とアイコンタクトを交わし意を決したように腰に手を翳す

直後内側から浮き出るように彼の腰に〝アークル〟と呼ばれるベルトが顕現する

そのベルトを見て思わず美琴は息を呑んだ

そんな美琴を一度視界に入れたのち、再び木山に向き直り、右手を自身の左上に突き出し、左手はアークルの右上に軽く添える

 

<JOKER>

 

アラタに合わせ隣の翔太郎も自身のガイアメモリを起動させる

軽く帽子を整えて翔太郎は自身の左側へとメモリを握る手を左側へ動かし、アラタも同様に両手を反対方向にスライドさせる

そして各々に叫んだ

 

『変身っ!』

 

<CYCLONE JOKER>

 

翔太郎のベルトからそんな電子音声が鳴り響き、辺りには風が吹き荒れる

その風の中、アラタもその姿を変えていく

 

風の強さに思わず美琴は両手で顔を庇い、木山はただ眼を細くして見つめていた

数秒の後、風は止み、一瞬の静寂が訪れる

手をのけて美琴はアラタたちがいた場所を見た

そこにはいつぞや初春たちが見せてくれた映像に映っていた都市伝説の姿があった

確か、名前は仮面ライダー

 

「アラタ、準備はいいか? そこな嬢ちゃんも」

 

緑と黒、それぞれが半分なカラーリングは目立つライダーがそう聞いてきた

そう言われ美琴は頷く

驚くには驚いたがそのことを追及するのはまた後だ

 

「行こう、美琴」

「…ええ。わかったわ」

 

隣の変身したアラタもそう言いながら構える

その光景を眺めていた木山は「ふふ…」と笑みを浮かべ

 

「…あえて問おう。…君たちに、一万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

「はっ! また分かり易い事聞いてくるじゃねぇか」

「止められるか、…だと? 決まってる」

「そんなの…! 当たり前でしょ!!」

 

美琴の叫びに呼応して一気に三人は木山に向かって駆け出した

これ以上、被害を拡大させるわけにはいかない

 

 

くん、と一瞬ではあるが木山が充血したかのような左目を細めた

何か来る、と判断したその時はそれぞれ行動を起こしていた

頭が理解する前に本能でそれぞれ前に飛び込んだ

瞬間、先ほどまで自分たちがいた場所がぽっかりと穴が開いていたのだ

 

<地面に穴を開ける能力? …興味深いねぇ>

「今そんな事言ってる場合じゃねぇだろうがっ!」

 

こんな時でも平常運転なフィリップに翔太郎はツッコミを入れながらダブルは一気に接近してとび蹴りを木山に向かって放った

本来生身の人間相手に放つのはいただけないが状況が状況だ

油断していたら倒されるのは自分たちだ

 

「流石に早いな。…だが」

 

放たれたキックは木山に届くことなくその攻撃は見えない壁のようなもので防がれた

ガキンっ! とまるで本物の壁に蹴ったかのような感覚を感じ、ダブルは驚愕する

 

「なんだこりゃあ!? 念動力とかか!?」

<可能性は捨てきれない。…っ!? 翔太郎、離れるんだ!>

 

本能的に危機を感じとったのか右の複眼が点滅し、ダブルに危機を促す

同様に翔太郎も危機を察知していたのかすぐさま後方へと飛び退いた

 

直後、ダブルの目の前で大きな爆発が生じた

あのままその場に留まっていたならば今頃火だるまになっていただろう

 

「発火能力か!?」

発火能力(パイロキネシス)というよりは、爆発能力(エクスプロージョン)と言った方が正しいかもしれないね>

 

どちらにせよ厄介なことに変わりはない

一度距離を取ったダブルの背後からと飛び出すように美琴が現れる

その手にはバチリ、と雷を迸らせ

 

「これなら、どう!?」

 

迸らせた雷撃の槍を木山に向かって真っすぐ撃ち出した

放たれた一撃は直線となって木山に遅いかかるがその雷は木山に当たる寸前でかき消される

どうやら直前で念動力か何かの壁に当たりそのまま相殺させたのだろう

しかし避雷針か何かを生み出す能力は今のところなさそうだ

もしかしたらあるのかもしれないが、被害者にはその能力を所持する人物がいなかったのか

 

「なら…!!」

 

美琴は再び右手に雷を迸らせ大きく弧を描くように地面に雷を走らせる

バリバリ、と音を響かせて木山の視界を遮るように煙が浮き上がる

 

「…む?」

 

木山は一瞬訝しんだ

しかしそれだけという理由だけで気を抜くわけにもいかない

彼女は煙が収まるのを待った

瞳を細くしながら警戒心をあらわにする

どこから来る?

前…しかし目の前の御坂美琴は掌に雷に溜めたままこちらの動きをうかがっている

その隣のダブルはいつの間にか右半身が赤く、左半身が鉄のような色へと変わっていた

だがダブルからは敵意は向けているがこちらに先手を取ろうとタイミングを計っている

…ふと、目の前の光景に違和感を覚えた

 

 

 

―――あと一人はどこにいる?

 

 

 

前からも来ない、背後からはあり得ない

となると残る場所は

 

「上か!」

 

殺気を覚え木山は念動力の壁を作る

途端にその壁に何かがぶち当たったような衝撃が駆け巡った

それは誰なのかなど、確かめるもでもない

 

「っぐ…! っ!!」

 

木山は一気に一瞬壁を解き、そのまま波動を生み出しそいつを直撃させる

 

「のわっ!?」

 

そいつは飛び退いたことによって威力を軽減させる

そのまま彼は美琴の隣に移動して、持っていたロッドをシャン、と構えた

 

「…少し考えればわかったものを。うっかりしていたな」

「まさか直前までバレないなんて思ってなかったよ。…二人のおかげかな」

 

男―――クウガは赤い姿から青い姿へと変化していた

…どうやらあの青い姿は素早さを増すようだ

そして手に持ったロッドはその反動で低下した腕力をカバーするもの…

 

「それにしても、ホントにいくつもの能力が使えるのね…!」

<君のは、二重(デュアル)というより多重(マルチ)だね。…それも幻想御手(レベルアッパー)の恩恵かな>

 

右の複眼が点滅して翔太郎とは別の声が聞こえた

恐らくそれは彼の相棒、フィリップだ

 

「流石の洞察力。…頭脳は違うのだね」

 

<お褒めの言葉痛み入る。…状況が状況なら友人になれたかもしれない>

「あぁ。…かもしれないな」

 

そう言いながら木山はくっ、と右手を握る動作をした後に、地面を走るかのように風の刃が通過した

その刃を美琴とクウガは左へ、ダブルは右へと飛んでその風を回避する

 

「こっちも遠距離だ!」

 

ダブルはそう言いながらメモリへと手を伸ばし、ドライバーのメモリを一度引き抜いた

そして先ほどのとはまた別のメモリを取り出し起動させ、ドライバーに入れまた開く

 

<LUNA TRIGGER>

 

電子音声が響きダブルの色が黄色と青色へと変化した

ルナトリガーへとチェンジしたダブルは木山に向かってトリガーマグナムを向ける

 

「美琴!」

「おっけー!」

 

その一方で二人の息も合っていた

正体が露見してしまったといえど、彼女はいつもと変わらない表情を見せてくれる

それが少しだけ嬉しかった

そんな事を思いながらクウガは手に持ったドラゴンロッドを大きく振りかぶり、そのロッドに美琴の雷撃を纏わせる

そしてダブルが引き金を引くと同時に木山の胴目掛けて一気に振り抜く、が

 

振るわれたロッドと放たれた弾丸は木山に届くことなく、彼女の周囲に展開されたドーム状のバリアに阻まれた

 

「!? これも念動力か!?」

<いや、これは別の…防御専門の能力!?>

 

「どう捉えるかは君たち次第だ。…こんなのはどうかな?」

 

不敵に笑みを作った後何か音波のような波動が周囲に発せられた

なんだ、と考える暇もなく突如として地面が崩壊する

ガガガ! と音を立てながら態勢を立て直しながらクウガは美琴の手を引いた

 

「わ!?」

 

半ば強引にこちらに引き寄せ彼女を抱き寄せる

崩壊する瓦礫を背後にクウガはダブルと共にその橋の下に着地する

 

<…おっかないね。巻き込むことをためらいもなく能力を行使してくるとは>

「全くだ…戦いにくいったらないぜ」

 

ダブルからの会話を耳にはさみながらクウガは木山を見据え美琴を隣に下ろす

下ろされた美琴は「ありがと」と小さく声を呟いて同様に木山へと視線を見やった

一方で木山はポケットに手を入れながら軽く息を吐いた後

 

「…。もうやめにしないか? 私はある事柄を調べたいだけなんだ」

 

何を思ったのか唐突にそんな事を言い出した

三人が怪訝な表情を浮かべる中、木山は続ける

 

「それが終わればすべて解放する。…誰も犠牲にはならない―――」

 

「ふざけんな!!」

 

木山の言葉を遮って叫んだのはクウガだ

当然である

ここまで大多数の人間を巻き込んでおきながら今更犠牲はださない、と言ったのだこの科学者は

 

「…確かに犠牲は出てないかもしれない。けど被害は出てんだろうが!! …他人(ひと)の心をもてあそぶような奴を、見過ごすわけにはいかないんだよ」

 

彼の言葉に同意するように美琴も頷きながら木山を睨みつけた

その光景を見た木山はやれやれというように髪を掻きながら

 

「…やれやれ。やはりライダーや超能力者(レベル5)と言えど、所詮世間知らずの子供、か」

 

『アンタにだけは言われたくないっ!!』

 

美琴とクウガの声が見事にハモった

ところ構わず脱ぎだすような女に世間知らず、とか死んでも言われたくない

そんな言葉を受けてもなお、木山は冷静に彼女はクウガと美琴、両方を見ながら

 

「…君たちが日常的に受けている能力開発。それが本当に安全で人道的だと、思ってるのかな」

 

「…何が言いたい」

 

その場を代弁するかのように大人であるダブルが問いかけた

問われた木山は頭を掻いていた手を再びポケットに仕舞いながら

 

「学園都市の上層部は、能力に関する重大な〝何か〟を隠している。…それを知らずにこの町の教師たちは、学生の脳を、改造(かいはつ)してるんだよ」

 

妙にニュアンスの籠った言い方に背筋がぞくりと震えあがる

もし本当に何か裏があって、それを知らずに自分たちが毎日開発されているのだとしたら

 

「…へぇ。なかなか面白い話じゃない」

 

その話を聞いてもなお美琴は怯まなかった

彼女自身興味はあるのだろうが、優先順位を目の前と決めただけなのだろう

彼女は地面へと手を伸ばしながら

 

「アンタを捕まえた後でその話、たっぷり調べさせてもらうわっ!!」

 

バチバチっ! と雷を走らせて砂鉄を一斉に槍へと変えた彼女の攻撃は真っ直ぐに木山へと向かっていく

 

「…残念だが、私はまだ捕まるわけにはいかないのだよ」

 

対する彼女は手をポケットに突っこんだまま周囲の瓦礫を操ってその砂鉄の攻撃を受け止めながらそのへんのゴミ箱を彼女たちの周囲へとばら撒いた

 

「なんだ!? 空き缶!?」

「いや、これは…!」

 

その空き缶のほとんどが〝アルミ缶〟

アルミ缶、と言えば―――

 

虚空爆破(グラビトン)だ!」

 

自分たちの上空にある空き缶は数えきれないほどある

ペガサスやルナトリガ―なら撃ち落せるかもしれないがクウガに至っては銃がないためそれはなし

それ以前にいくらルナトリガーといえど百を超えるあの空き缶を撃ち落とすなんてことは不可能に近い

 

「さぁどうする。流石にこの数は対応しきれていないのではないかな…」

 

「舐めんなっ…! 私が全部、吹き飛ばすっ!!」

 

小さく笑みを浮かべたのち彼女は上空に無数に位置するその空き缶へと雷を放電する

雷を受けた空き缶は連鎖的に爆発を起こしどんどんと数が少なくなっていく

その圧倒的な姿を見てクウガは改めて彼女は|超能力者なのだと思い知らされる

そして、カッコいいじゃんか、とも

 

「…すごいな。…だが」

 

一方でその光景を見ていた木山も似たような感想を考えていた

しかし彼女は手にあった空き缶を転移させる

どこか、などはわかりきった事

 

「はぁ、はぁ…! どう!? もう終わり!?」

 

やがて全てを破壊し終えた美琴の表情にはやや疲れの表情が見て取れる

しかしそれを感じさせない辺り流石だ

 

「…やるじゃねぇか。エレキガール」

「御坂美琴だっつの。…あんたといいアラタの友人と言いなんで名前で呼ばないのよ」

 

ダブルが手をスナップさせながらそう称賛する

言われた美琴の方も文句は言いながら満更ではなさそうである

 

「…二人とも、状況わかって―――」

 

そう言いかけたところで言葉が止まった

油断しきっていた三人の目の前に一つの空き缶が出現したのだ

介旅で大能力クラス…

木山ならその上のレベルでの威力を撃ち出すことが出来るはず―――!

そう考えに至ったクウガは二人の前に出て―――

 

 

ドォォォンッ!! と大きな爆破が木山の前に広がった

黙々と広がる黒煙に向かって木山は誰にともなく言葉を紡ぐ

 

「…てこずるとは思っていたが、こんなものか」

 

不意を突いたといえどこうもあっさり終わるとは

拍子抜けにもほどがある

 

「恨んでもらって構わない」

 

そう呟いたのち、ふと違和感が木山を襲った

黒煙の向こう側…

まるで誰かいるような―――

 

そう思った瞬間にその黒煙の向こうから黄色い腕が伸び、自分を拘束し、引っ張られる

 

「なっ!?」

 

防いだとでもいうのか、あの爆発を!?

木山の驚愕は疑念から確信へと変わっていく

黒煙の中へと引っ張られやがて木山はガッと誰かに胴を掴まれた

その最中、木山はクウガの姿を見た

爆発する前は確かに青かったはずのその姿を紫色に縁どられた銀の鎧にロッドは剣へと変化していたのだ

 

「そうか…! 防御特化の紫に…!」

「介旅の時は防げたけど、流石にアンタのはちょっと堪えたね」

 

そして今度はその隣のダブルへとその視線を巡らす

姿こそ変わらない黄と青だ

 

「まさか、伸びるとはね…それは予想外だ…!」

「切り札ってのは最後まで取っておくものさ。ミス木山」

<正直に言えばただ伸ばして殴っても意味がないと判断したからさ。隙を突いた結果だよ>

 

どうやら油断していたのは自分の方だったようだ

しかし拘束されていようと能力を行使してあがくことはまだできるはず

そう思いたった木山は同じように電気の力を用い周囲の砂鉄を固形化し―――

 

しかしその砂鉄はクウガの剣とダブルの銃によってすべて阻まれた

 

「ゼロ距離の電撃―――受けてみなさいっ!!」

 

木山の表情がハッとするのも束の間

バチバチッ!! と大きな音を上げ木山が痛みを堪えるかのように声を張り上げた

このまま近くにいては巻き込まれかねないのでダブルとクウガは変身を解き、少し離れた位置に移動する

やがてその雷は終わり、ぐったりとした木山を彼女は支えながら

 

「…一応、手加減したからね」

 

―――せんせいっ―――

 

「っえ…?」

 

唐突に頭の中に声が響いた

それは子供の声だった

まだ幼く、小学三年生くらい、だろうか

 

それは付近にいた翔太郎やアラタにも聞こえていたようで

 

「なんだ…これは木山の記憶なのか?」

「かもしれねぇ…エレキガールの電気に呼応して何らかのバイパスは繋がったのか…?」

 

だとしたどうして電気を介していない自分たちに繋がったのかが説明できない

しかし頭に響いてくる声は変わらない

 

「…もしかしたら」

 

呟きながら翔太郎は腰に巻きつけたままのダブルドライバーを見る

 

「…ベルトがなんか拾ったのかも知れねぇな…」

 

そう言われてアラタも自身のベルト出現位置の所を見る

あり得ない話ではないかもしれないが、どうも信じられない

…いや、この霊石(アマダム)ならあり得ない話じゃないかもしれない

そう考察するうちにも徐々にその声は鮮明に聞こえてくる

 

はっきりと、親しみが込められたその言葉

 

 

―――木山せんせいっ―――

 

 



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#10 木山せんせい 後編

短めです

あと今回正直無理やり感があります

ではどうぞ


「私が、教鞭を…?」

 

最初その話を聞いた時木山春生は耳を疑った

自分のような無愛想な女などがそのような事来るはずないと確信していたからだ

しかしそんな木山の想像とは裏腹に目の前の老人、木原教授は朗らかな笑みを崩さない

 

「君は、教員免許を持っていたよね?」

「確かに持っていますが…しかしそれはついでに取ったようなもので…」

「なら問題はないじゃないか」

 

そう言って教授は老人特融の優しげな笑顔をする

しかし今現在している研究を手放してなど…

 

「別に研究から離れろと言っているわけではないよ」

 

教授は腰掛けていた椅子から立ち上がり窓から見える景色が見える位置に移動する

 

「…あの子供たち」

 

教授が視線を移したその先には元気よく遊ぶ子供たちの姿があった

彼、あるいは彼女たちは勢いよくボールを蹴っ飛ばして校庭を走り回っている

…こんな炎天下なのに、元気だな、と思わずその時の木山は思ってしまっていた

 

「彼らはチャイルドエラーといってね。何らかの理由によって捨てられた、身寄りのない子供たちだ」

「…はぁ」

「そして今回の実験の被験者でもあり、君が担当する生徒でもある」

「…え!?」

 

あの子供たちが自分の?

…気が合うとは思えない、そもそも自分は根っからの根暗に近い性格だ

奔放な少年少女についていけるとは…

 

「実験を成功させるには、被験者の詳細に成長データを取り、彼らのコンディションを整えておく必要がある。それらの事を踏まえると、担任として受け持った方が効率がいいでしょう」

「…それは、そうかもしれませんが」

 

そう言われると言い返せない

少し木山は悩む素振りを見せた後、仕方なく教授の申し出を受け入れた

 

 

そうして、私の教師としての生活が始まった

教室内にかつかつ、とチョークで黒板に書く音がする

やがて私は自分の名前を書き終えると改めて生徒たちとなった子供たちへと向き直り

 

「…えー。今日から君たちを受け持つことになった、木山春生だ。…よろしく」

 

『よろしくお願いしまーすっ!!』

 

…厄介なことになった

もう何度目かと思うその言葉を私は心の中でもまた呟いた

 

 

正直言って私は子供が嫌いだ

デリカシーがないし、失礼だし、イタズラするし、論理的じゃないし、なれなれしいし、すぐに懐いてくる

純粋な好意を向けてくる子供という生き物自体が私は苦手だった

私のような研究者が彼らの好意に応えていいものなのか、と自問自答したほどだ

 

そんなとある日の事だった

雨が降りしきる中傘をさして帰路へとついていた私の目に飛び込んできたのはしりもちをついている枝先絆理という女の子だった

 

「どうした? 枝先」

「あっ…木山せんせい…あっはは…滑って転んじゃった」

 

あはは、と大きな笑みを浮かべておちゃらける枝先

表情こそ笑ってはいるもののその日は雨、しかもどしゃ降りだったために彼女はずぶ濡れだった

―――だから、魔が差したのだろう

 

「…私のマンション、すぐそこだから…風呂貸そうか?」

 

そう言った時の枝先の嬉しそうな顔は忘れられないくらいとてもいい笑顔だった

それもそのはずだ

枝先の施設では一週間の間に二回ほどのシャワーしかない

だからお風呂、などというのは憧れなのだ

 

「ねーせんせい」

「ん?」

 

風呂から聞こえるその声に反応する

 

「私でも、頑張ったら大能力者とかになれるかなー?」

「…今の段階では何ともいえないな。…高能力者に憧れでもあるのか?」

「んー。もちろんそれもあるけどー…」

 

その後ちゃぷん、と水面が動く音が聞こえた

そして

 

「私たちは、学園都市に育ててもらってるから。この都市の役に立てるようになりたいなぁって」

 

役に立つ、か

私の行っている研究は、役に立っているのだろうか

 

やがて彼女もお風呂から上がり、私は眠気覚ましにコーヒーを淹れ居間に戻ると枝先がソファの上ですやすやと眠る姿が視界に入ってきた

 

「…研究の時間がなくなってしまった」

 

口ではそう言いながらも内心悪く思っていない自分がいる

なれとは恐ろしいものだな、とコーヒーを飲みながらソファに座り枝先をちらりと見やる

そんな枝先を見て、思わず口元が緩んでしまう自分がいた―――

 

子供は嫌いだ

騒がしいし、デリカシーがない、イタズラするし、論理的じゃない

だけど、共に過ごしていくうちに、そんなのもいいかな、と思えてくる

しかしそんな日々もやがて終わりを迎え、実験の日がやってきた

 

 

木原教授指導の下、係員の行動は迅速だった

私は一人の女の子の下に歩いていき、こんなことを聞いて見た

 

「怖くないか?」

 

問われた女の子、枝先絆理は即答する

 

「全然! だって木山せんせいの実験なんでしょ?」

 

その言葉のあと枝先は満面の笑顔でこう付け足した

 

「せんせいの事信じてるもんっ!」

 

笑顔につられて私も小さく笑みを作る

せんせいゴッコもこれでおしまい、か

そう思うとこれまでの日々がどこか懐かしく思えてならなかった

必ず成功させよう

そう心の中で誓うまでに至るほどに

 

 

 

しかし

 

 

 

響き渡るアラームの音

対処しようと駆け回る他の科学者たち

 

…何が、起こっているんだ?

 

「早く病院に連絡を―――」

「ああ。いいからいいから」

「しかしこのままでは―――」

 

「浮き足だってないで早くデータを纏めなさい。この実験については所内にかん口令を敷く」

 

耳に入ってこなかった

ただ目の前で起きている出来事(げんじつ)に頭が理解(つい)ていけなくて―――

 

「実験はつつがなく終了した。君たちは何も見なかった。…いいね」

 

有無を言わさぬ迫力で教授は他の研究員に告げる

そして教授は茫然となっている木山の下へと歩み寄りポン、と肩を叩いた

たったそれだけの事のなのに、全身が震えあがった

 

「木山くん。よくやってくれた」

 

よくやった、だと?

そんな、こんな、ことになっていながらよくやっただなんて―――

 

「彼らには気の毒だが―――」

 

そう言いながら教授は笑みを浮かべ

 

「―――科学の進歩(はってん)には、付き物だよ」

 

そこに、かつて見せた笑みはなく、ただただ先を追い求める狂気の笑みがあった

 

◇◇◇

 

ひとしきり彼女の記憶を見たその直後、美琴はもう一つの記憶を見た

それは木山ほど鮮明なものではないものの、内容を分かるには十分なものだった

 

彼がその力を手にしたのは彼がまだ中学生、ちょうど美琴と同じような年代の時だ

親が蒸発し、孤独になりながらも彼はその時に知り合えた友人と共に毎日を楽しく生きていた

しかしある時、その事件は起こる

学園都市にもワームやそれに該当する怪人が出没するようになり、少年は居合わせた人を庇い致命傷を負った

命の危機に瀕した彼は一人の女性に救われた

だがそれは同時に、彼にある変化をもたらした

 

それはクウガへと姿を変える事

 

無論最初は姿を変えることに抵抗があった

だからワームとかが現れても警備員(アンチスキル)とか、そのライダーとかに任せっきりで自分は見て見ぬふりを貫いていた

けどいつしかそんな事をしている自分がとても恥ずかしく感じた

 

力があるのに何をしている? 今こうしているときでも誰かが泣いているのではないのだろうか

かつての自分のように怪我を負い、痛みに堪えている人がいるんじゃないのだろうか

助けを求め自分に向けられて伸ばしているその手を、自分は払うことが出来るのか?

否、出来るわけがなかった

 

ワームだとか、ガイアメモリを悪用し私利私欲を満たす奴らによって誰かが涙を流している

そんな奴らの為に、これ以上誰かの涙を見るのは嫌だった

世界の人を笑顔にすることなんて、そんなのはアラタ(じぶん)にはできない

ならせめて自分の近くにいる人たち…学園都市(このまち)にいる他の誰でもない他人の笑顔を守ろう―――

 

◇◇◇

 

「おい、エレキガールっ」

「…こと。美琴」

 

「―――え?」

 

自分の名前を呼ぶ声で美琴はハッとした

目の前にはドサリ、と倒れた木山春生がいる

 

「…どうした?」

 

自分を心配して覗き込んでくるアラタの顔から少しだけ視線を逸らし赤くしながら「大丈夫…」と返答しながら翔太郎にも視線で合図する

 

「っう…見られた、のか…?」

 

頭を押さえながらよろよろと立ち上がる木山を見て美琴を思い出す

そうだ、今はそんな事気にしている場合ではなかった

 

◇◇◇

 

「…道が無くなってる…!?」

「あたしたちが気を失ってる間に、なにが…」

 

意識を取り戻し木山の車から降りた初春を佐天は目の前で起きたことに思考が追いつけていないでいた

今見える視界の範囲で一番目を引くのぽっかりと空いた大きな穴だ

 

「…う! ぐ、あああ…!」

 

その穴の下から誰かのうめき声が聞こえた

声色から察するに、恐らく木山春生のものだろう

二人は頷きあい、その穴へと近づいてその中を見た

 

「あ…! 御坂さん…!」

「アラタさんと…誰?」

 

思わず佐天が呟いた言葉にこけそうになったが正直同感ではあった

まぁ二人は翔太郎にあったことはないのだから当然の反応ではあるが

 

◇◇◇

 

「…なんで、あんな事をしたのよ」

 

美琴が確信を突くように誰もが思った疑問を問いかけた

記憶を見る限りでは木山自身もそのことを知らないような素振りを見せていたのだが

美琴の疑問に木山はよろよろと立ち上がりながらも

 

「…あれはね、表向きはAIM拡散力場を制御するための実験とされていた。事実、私もそう思ってた…! しかし実際は、暴走能力の法則解析用誘爆実験だったんだ…!」

 

「…え?」

「…それは、AIM拡散力場を刺激して暴走条件を知るための実験ってわけか」

 

翔太郎の呟きに美琴とアラタは愕然とした

 

「…じゃあ、暴走はあらかじめ仕組まれていたってことなのか!?」

 

アラタの声に木山は後ろ姿でありながら頷く

 

「もっとも、気づいたのは後になってからだがね…」

 

よろよろ、と態勢を治しながら木山はこちらを振り返り

 

「あの子たちは今なお目覚めることなく眠り続けている…! 私たちはあの子たちを、〝使い捨ての実験動物(モルモット)〟にしたんだ!!」

 

木山は声を張り上げる

悲痛に満ちた叫び、木山本人としてはそんなつもりはなかっただろう

しかし、結果的にはそういうことになってしまったのだ

 

「け、けどよ! んな事あったなら、警備員(アンチスキル)にでもなんでも―――」

「二十三回」

 

翔太郎の声を遮り木山は何かの数字を口にする

 

「…なんだそりゃ」

「あの子たちの回復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレートを行うために、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用を申請した回数だ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算装置をもってすればあの子たちを助けられるはずだった…! もう一度陽の光を浴びながら元気に走らせてあげることもできただろう…!」

 

だが、と木山は続ける

 

「却下された!! 二十三回ともすべてっ!!」

 

「…そんな…」

 

嘘だろう、と言わんばかりに美琴が呟いた

いくらなんでもそんなに申請をして全部断られるなんてありえない

つまりそれが、意味しているのは―――

 

「統括理事会が共犯(グル)なんだっ!! 警備員(アンチスキル)が動くわけないっ!」

 

「だからってこんな、一万人もの人間を巻き込んでまで―――」

 

 

「君たちに何が分かるっ!?」

 

 

アラタの言葉を遮った怒号に思わず体が震えた

彼女の瞳には迷いがなかった

彼女は覚悟している

このまま止めなかったら、世界を敵に回してでも彼女は歩みを止めないだろう

それはまるで血を吐きながら続ける、孤独で悲しいマラソンのようだ

 

「あの子たちが助かるならなんだってする! 悪魔にだって魂を売る!! たとえ世界を敵に回しても!! 私は、諦めるわけにはいかないんだぁぁっ!!」

 

彼女がそう咆哮した直後だった

ドクンっ! と何かが躍動したような音が聞こえた

それと同時に、木山が頭を抱え苦しみだす

 

「な…!?」

「ちょっと…!?」

 

心配する美琴とアラタ、そして警戒する翔太郎

その三人の視線を受けながら彼女は小さく呟く

 

「ネットワークの、暴走…!? いや―――これは…―――」

 

そのまま木山はドサリ、とその場に倒れ込んでしまった

思わず駆け寄ろうとした美琴とアラタに向かって

 

「待て!!」

 

何かを感じ取ったのか翔太郎が叫んだ

そして、その不安は的中する

 

不意に木山の身体から何かが召喚された

まるでRPGみたいに彼女から何かが生まれたのだ

 

「…胎児…?」

 

美琴の呟きは的を得ていた

生み出されたものは赤ん坊の胎児に似ているが大きさは何倍も大きい

内側には何か水色の体液のような目立つ

極めつけは頭にある天使のような輪だ

 

しばらく眺めていると、その胎児の眼が開き、ぎょろりと三人をその赤い瞳孔が捉える

悪寒が走る

第六感が告げている

こいつは、在ってはいけないものだと

 

そんな意図を知ってか知らずか、目の前の胎児は奇声を上げた

その言葉は耳で聞きとれるものではなくただの叫びか

まるでこの世に生を受けた赤子のように産声を上げた―――



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#11 AIMバースト

次回で幻想御手(レベルアッパー)編は終了、予定です

お気に入りしてくださった方たちや感想をくださった方たちにも深く感謝を

それでは#11
どうぞお楽しみください


一七七支部にてキーボードを叩く音が単調に響く

先ほどまで映像を見てはいたのだが唐突に砂嵐に見舞われて一切の情報が入ってこないのだ

 

「だめですわ! どのカメラも死んでしまっていますの…!」

 

どう操作しても画面の中の映像が砂嵐のまま変化がない

ためしに電話ならどうかとも思ったがこちらもつながらない

暫く考えてそして黒子は徐に立ちあがり扉へ向かって歩き始めた

 

「待ちなさい」

 

が、何かを察したのか固法にその腕を掴まれた

 

「お姉様とお兄様を放ってはおけません!!」

 

「その怪我で何が出来るっていうの!」

 

言われた時黒子は苦い表情をした

黒子は幻想御手(レベルアッパー)使用者を捕縛したときに負った怪我や、その連日での疲労が抜けきっておらず、まともに戦う事は難しい状態なのだ

 

「二人を信じなさい。あの二人ならきっと…!」

 

固法に諭され黒子は顔を歪ませる

こんな時に何にも力になれない自分に腹が立つ

そして同様に固法も心配なのだ

なんでもっとうまく立ち回ることが出来なかったのだろう、と自分を責めたくもなる

 

そんな時、唐突に扉が開かれた

 

「カ・ガーミンっ! 日頃頑張っているお前に親友の俺が励ましに―――あれ」

「…開けて早々迷惑をかけるなツルギ」

 

重苦しい空気をぶっ壊すように現れたのは神代ツルギと天道総司の二人だった

天道とツルギは何やらポリ袋を携えており中には食材が入っている

 

「…貴方たち、今お仕事中なのよ?」

「だからそんなお前たちに晩御飯をだな…。む? スィ・ライン、なぜ涙目なのだ」

 

ちなみにスィ・ラインとは黒子の事である

 

「えっ、あ、のっ」

「カ・ガーミンもいないな。遠出でもしてるのか?」

 

取りつく間もなくツルギはテーブルにそのポリ袋を置いた

そしてふとテーブルの上にあったパソコンを見てしまった

 

「む? …天道」

「どうした」

 

ツルギに促され天道も同様にポリ袋を置き、その画面を見た

なんてことのない砂嵐

そしてここにはいないアラタ

理由はわからないがこの二人は何かをモニターしていたという事になる

そして涙目の黒子

 

「…固法」

「…何?」

 

天道は固法へと向き直る

向けられた固法は半ば苦笑いを浮かべている

これから何か聞かれるか、もうわかっているようだ

しかしあえて天道は問いかける

 

「何があった」

「…はぁ」

 

半ばあきらめた様子で固法は椅子へと背中を預ける

…なんだってこう鋭いのだこいつらは

 

 

「それは本当かクォノーリ!?」

 

事情のあらましを聞いたツルギが椅子から立ち上がる

同様に天道も椅子から立ち上がった

 

「おそらく事実だろう。…あいつは、一般人である俺たちをできるだけ頼らないようにしているからな」

 

「…本当は白井さんを行かせてあげたいけれど、彼女は怪我が治ってなくて…あんまり無茶させられないのよ…」

 

言いながら国法はちらりと黒子に視線を向ける

向けられた黒子はじっと下を向いたままでスカートの裾を握りしめている

どことなく天道はツルギに視線をやる

同じようにツルギも天道の方を向いていた

…考えている事は同じようだ

二人はそのまま椅子から離れドアへと移動していく

 

「ちょっと!? どこに行くの!」

 

「わかってるだろう。友人を手伝いに行くんだ」

「先に断わっておくが止めても無駄だぞクォノーリ」

 

念を押された国法はむぅ、とその場で押し黙った

それになんとなくではあるがそう言われるだろうと思っていた

自分だって美琴とアラタは心配なのだ

やがて固法はふぅ、と一つため息をつき

 

「…お願いするわ、二人とも」

「わたくしからもっ! どうか、お姉様とお兄様を…!」

 

二人からの言葉を受けてツルギと天道は笑みを浮かべこう返した

 

「任せろ。俺たちは天の道を往き総てを司る男と」

「神に代わって剣を振るう男だ」

 

 

一方で美琴たち

今現在目の前で起こっていることに正直ついていけなかった

 

「胎児…?」

「おい、こんな能力見た事ないぞ…」

 

体質変化(メタモルフォーゼ)の亜種かなんかかもしれない

しかしあんなの書庫(バンク)にない、というかあってたまるか

 

「■■■■■■――――――ッ!!」

 

言葉にならない奇声をその胎児はまたあげる

その余波により、周囲の瓦礫やら何やらが吹き飛んできた

 

「あぶねぇ!」

 

翔太郎の叫びと共に反応してアラタは美琴の手を引いて大き目な瓦礫に身を隠しその衝撃波を何とかしてやり過ごす

少ししてその衝撃波が終わったとき、タイミングを計った美琴が雷を掌に形作る

 

「こんっのぉ!」

 

そして一直線に胎児に向かって雷を撃ち出した

その雷は確かに直撃した

だが直撃した破損個所が内側から再生されていき、どういう訳だかその箇所から手が生えた

 

「うえ!?」

「どうなってんだ! しかもなんか…でかくなってねぇか!?」

 

翔太郎の言葉にアラタは注意深くその胎児を見る

よく見ると確かにその胎児は最初に見た時より一回り大きくなっている

…というか絶賛増大中だ

そしてふと、ぎょろりと赤い目が三人を捉えた

 

その瞬間、胎児の周囲に氷塊が生み出され

 

「やばい逃げろ!」

 

正直に言えば翔太郎が叫ぶ前に本能が行動を起こしていた

反転し、一気にダッシュする

直後その場所には氷塊が叩きつけられる

しかしその氷塊は立て続けままに生み出され再び叩きつけられ追っかけてきている

今はただ逃げることが先決だ

 

「御坂さんっ!」

「アラタさんっ!」

 

ふと自分たちを呼ぶ声が聞こえた

その方向へ視線を向けると意識を取り戻した佐天と初春の姿があった

 

「二人とも!?」

「馬鹿、なんでここにっ…! 美琴っ!」

 

その時の動きは早かった

アラタは美琴に視線を送ると一度振り向き追いかけてくる氷塊に向かって雷を放った

そしてそれを背に受けながら今度は翔太郎に視線を送る

アラタと翔太郎は一気に二人に駆け寄って余波から守るように自分の身体を盾にする

 

「無事か、二人とも」

 

アラタが問いかけると佐天と初春の二人は大きく頷いた

どうやら特に目立った外傷はないみたいだ

 

「エレキガールッ! 気をつけろ! 追って…来てない?」

 

振り向いて胎児の動きを確認してみればどういう事か胎児はこちらを追っかけてはきてなかった

それどころか、まるで何かにすがろうとしている赤子のように生まれた両手を動かしている

それはどことなく、悪夢にうなされているようにも見えた

 

そんな思考の最中にも胎児はどんどん大きくなっていく

いつしか胎児は一回りも二回りも大きくなっており橋の上にその姿を現した

そして橋の上から聞こえてくる銃声

しかしその銃撃に意味はなくむしろ撃たれているたんびにまた大きさを増しているようにも見える

 

 

同様に橋の上で怪人を殲滅していたキックホッパ―とパンチホッパーの二人も橋の上から姿を見せたその胎児に驚いていた

 

「矢車さん! あれ!」

「あぁ! 俺も確認した!」

 

そして同じような感想を二人は思っていた

〝なんだあれは〟である

 

「何はともあれ、一度黄泉川のとこに戻るぞ」

「はい!」

 

 

「天道!」

 

こちらはバイクで走っていた二人組

固法からだいぶアバウトな場所しか聞いていなかったが、遠くから視認したその胎児のようなもので確信が持てた

 

「あぁ! 飛ばすぞ!」

 

天道はそう言葉を飛ばし、さらにエンジンをフルスロットルさせる

そんな天道を追うようにツルギも速度を上げた

 

 

「ふっははは…」

 

警備員が胎児と銃撃戦を繰り広げている最中、木山春生は自嘲気味に笑みを浮かべた

 

「…すごいな」

 

思わずそんな感想を呟いていた

まさか自分からあんな化け物が生まれ出でるとは思わなんだ

学会にでも発表すれば表彰ものだ

…もはやあれは自分の手に負えるものではない

それは同時に、あの子たちを助ける術が失われたという事だ

 

「…おしまいだな」

 

これまでやってきたことはすべて泡と消えた

もう二度とあの子たちを目覚めさせてあげることは叶わなく―――

 

「諦めないでくださいっ!」

 

絶望しかけていた木山に一人の女の子の声が聞こえた

木山がその声の方へ首を向けるとそこには初春飾利の姿があった

いや、初春だけではない

佐天も、翔太郎も、美琴も、アラタも、皆いた

彼らの眼には、まだ色があった

 

・・・

 

「AIM拡散力場の…」

 

美琴の聞き返しに木山は頷いた

 

「恐らくは集合体だろう。…仮に、AIMバーストとでも名付けておこうか」

 

「…AIMバースト…」

 

幻想御手(レベルアッパー)のネットワークによって束ねられた、一万人のAIM拡散力場…それらが触媒となって生み出された潜在意識の怪物…」

 

「…つまり、アイツは一万人の思念の塊…みたいなものなのか?」

 

翔太郎の言葉に木山はゆっくりと頷いた

 

「まぁ、そういうことだ…」

 

そして徐に、今も叫びをあげている胎児―――AIMバーストを仰ぎ見た

 

幻想御手(レベルアッパー)の使用者となった人たちは、夢に破れた人たちが大半だろう

実際、アラタだってクウガという力に覚醒しなければ使用していたはずだ

身体検査で下された結果を見て、悟ってしまうのだ

能力者なんてものは、夢でしかなかったんだと

どんなに頑張っても、この都市(まち)では〝才能〟という壁が邪魔をしてくる

才能ある人間は才能ない人間を食い物にし、己の欲求を満たすためだけに虐げられる

何時しかそれが日常となってしまうほどに

 

だから縋るしかできなかったんだ

間違っているとわかっていても、力に、縋るしか

 

…あのAIMバーストはいわば被害者たちの心の叫びだ

憧れ、妬み、羨望、夢…

そう言った想いの類が具現化したもの

 

そう思えると、あの胎児の姿をしたものがかわいそうに感じた

 

「…あれはどうすれば止められる?」

 

それぞれの決意が込められた瞳が木山に向けられる

その中で言葉を発したのはアラタだった

 

「…それを私に聞くのかい? 今更何を言っても信じるとは―――」

 

「手錠」

 

木山の言葉を遮って佐天が木山の前に手を見せた

 

「…私と初春の手錠、外してくれたの、木山さんでしょう?」

「…気まぐれだよ。…まさかそんなもので私を信じようなんて…」

「そうです!」

 

今度は元気のいい初春の声が木山の言葉を遮った

そして真っ直ぐ木山の眼を見て

 

「…子供たちを救うのに、木山先生が嘘つくはずないですもん」

 

その初春の顔を

 

「信じます! 木山先生の事」

 

 

―――せんせいの事信じてるもんっ―――

 

 

今眠っている枝先の純真な笑顔と重なった

 

「…聞いてたのか? 二人とも」

 

アラタの問いに佐天と初春は苦笑いと共に首を縦に動かした

 

「…全く」

 

木山の呟きにみんなが顔を向ける

その視線を受けながら木山は口を動かした

 

「…AIMバーストは幻想御手(レベルアッパー)の生み出した怪物…ネットワークを破壊できれば、止められるかもしれない」

 

「…! 初春、あれ!」

「はい!」

 

佐天に促され初春は自分のポケットをまさぐる

そして取り出された掌の上にあったのは一枚のチップ

 

幻想御手(レベルアッパー)の治療プログラム!」

 

「…試す価値はあるな」

 

翔太郎の言葉に頷く

―――希望が見えてきた

 

そして美琴とアラタはちらり、と何気なく橋の上を見る

視界の先に見たのはAIMバーストに向かって銃撃を繰り返してる姿だ

 

 

銃撃をしている最中、聞き覚えのあるサイレンの音が黄泉川の耳に届く

音の方へ向けるとそこにはガードチェイサ―から降りてこちらに走ってくるG3の姿が見えた

 

「馬鹿! 遅いじゃんよ!!」

 

「すみませんっ! なるべく急いできたつもりなんですが…!」

 

言いながらG3はスコーピオンを構え、うごめく触手に向かって発砲する

しかし効果的な感じではなさそうだ

 

「くっ…!」

 

これはだいぶ手間がかかりそうだ

 

内心眞人はそう呟いた

 

そんなG3の耳に聞きなれた声が耳に届いてくる

 

「ライダーパンチ!」

「ライダーキックっ!」

 

そんな声と共に触手が吹き飛ばされていく

 

「ようやく来たか立花!」

「間に合ってくれたか!」

 

キックホッパーとパンチホッパーだ

それぞれがG3の隣に立ち、例の胎児を見つめている

 

「隊長、影山さんも…ご無事なようで!」

心を奮い立たせながらG3はスコーピオンを握りなおした

 

 

「あいつは俺たちが引き受ける。お前らはそれを持って警備員(アンチスキル)んとこに」

 

翔太郎に促され初春は頷く

そして初春は佐天の方を向き、また頷きあった

 

その頷きを見て翔太郎はダブルドライバーを巻きつける

そして美琴とアラタに視線を向けた

 

向けられた二人も同様に大きく頷いた

少し時間が過ぎた後、三人と二人はそれぞれ反対方向へと駆け出していた

 

その背中を追いながら木山は苦笑いを浮かべ

 

「…本当に、根拠もないのに…」

 

かくいう木山も、信じていないわけではない

彼らなら、或いは

 

◇◇◇

 

「っくそ!! 減らない…!」

 

あれから何度もスコーピオンを放ってはいるが触手が減る気配はない

というか増えてきているように感じられる

 

「鉄装さんっ! 黄泉川さんを連れて少し後ろにっ!」

「わ、わかりましたっ!」

 

自分の後ろにいる鉄装にそう言ってG3はさらに前に出る

 

「流石に、堪えるな…!」

「でも、まだまだ…!」

 

肩で大きく息をするキックホッパーとパンチホッパーを尻目にG3は考える

思えば二人はだいぶ前から戦闘を繰り返していたのだ

当然、疲労も蓄積されている

 

「…どうする…!」

 

G3は考える

そんな時―――

 

「でやぁぁぁっ!」

 

そんな叫びと共に自分の前に雷が迸った

眼前の触手が薙ぎ払われ、G3の隣にスタリ、と着地する一人の女の子

 

「二人とも! 遅いわよ!」

 

「スパイダー〇ンみたいに壁走れないんだよ俺たちは!」

 

やがて遅れて彼女の隣に二人の男が走り寄る

いや、一人知っている

 

「鏡祢くん!?」

「わっ。その声は、立花さん…!?」

 

思わぬ来客に驚いたがそうも言っていられない

ここに一般人が来ては

 

「ようやく見つけたぞカ・ガーミンっ!」

 

しかし予想とは裏腹に逆にどんどんと人が増えてくる

…一体どうなっているんだ

 

「少々探すのに手間取ったぞ鏡祢」

「天道…ツルギまで!? なんで…」

「水臭いぞカ・ガーミン。友情とは富にも勝る最高の宝だ。手伝わない訳にはいくまい」

「…ったく。…ありがとよ」

 

そう言ってアラタは笑顔を見せる

…いやそうではなくて

 

「何をしてるんですか! ここは貴方たちのような子供が来ていい所では―――」

「いいんだ」

 

言葉の途中でキックホッパーに止められた

意味が分からずにG3はキックホッパーを見る

彼はずい、と前に出て

 

「アラタ、あの胎児が向かっている先の施設、なんだと思う」

 

不意に投げかけられた問いに考えながらその場のメンツは胎児の先にある施設を見た

そこはいかにもな工場施設

正直言ってわからないのでキックホッパーの答えを待った

 

「原子力実験炉だ」

 

その呟きを聞いてゾクリとした

間に合わなかった場合の事など考えたくもない

これは、本当になにがなんでも止めなくては―――

 

「ちょ、何やってるのあの子!」

 

唐突に鉄装の叫び声が場を支配する

向けられた視線の先には階段を駆けあがる佐天と初春の姿があった

 

「…逃げ遅れたのか!?」

「そいつは違うぜ」

 

影山の呟きを翔太郎が否定する

え? と向けられた疑念に美琴が付け加える

 

「彼女たちはもう、人質でも、逃げ遅れた人でもない」

「矢車さん、お願いがあるんです」

 

そう言って事情を説明する

キックホッパーはそれを聞いて頷いて快諾してくれた

 

「…よし、行きますか、ダンナ、天道、ツルギ」

 

アラタがそう言うと言われた三人はそれぞれ笑みを浮かべ頷いてくれる

 

「…何を…?」

 

G3―――立花眞人の視線はつらいがそんなことを言ってはいられない

時は一刻を争う

 

<STANDBY>

 

ボゴンと地面から這い出るかのようにサソードゼクターが現れ、ツルギの手へと飛び、それを受け止める

同様に空から飛翔してくるカブトゼクターを天道はキャッチし、翔太郎はメモリを起動させる

そしてアラタも腰に手を翳し、アークルを顕現させた

その後右手を左斜め上に、左手をアークルの右側へと移動させ、それを開くように移動させ、そして各々に叫んだ

 

『変身ッ!!』

 

叫びと共にツルギはヤイバ―にサソードゼクターをセットし、ゼクターニードルを押し込み、マスクドの過程をキャンセルする

同じようにベルトにセットした天道もカブトゼクターのホーンを倒し、マスクドの過程を省略して変身する

 

<Change Scorpion>

<Change Beetle>

 

青い複眼と緑の複眼が点滅し、カブトは天を指し、サソードは剣を構える

 

<CYCLONE JOKER>

 

風と共にその姿を変えた翔太郎もダブルへと変身し、軽く手をスナップさせる

 

そしてアークルのスイッチを押したアラタも同様に姿を変える

赤い複眼、二本の角

今、G3の前に広がっているのはすべて都市伝説で噂となっていた仮面ライダーたちの姿

 

「…鏡祢くんが、クウガ…!?」

 

驚くG3をスルーしつつ美琴はクウガの隣に並び立つ

一度向けられた視線に美琴は小さい笑顔で返し、再び前を前を見る

仮面ライダーたちの視線の先にAIMバースト

その思念(おもい)を止められるのは、自分たちだけだ

 

「行こう、皆」

 

クウガの声に応えるかの如く、彼らは一斉に駆け出した

昏睡している人たちに、未来(あした)を届けるために

 

 

 

 

次回 幻想御手(レベルアッパー)

完結



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#12 AIMバースト 決着

サブタイトルなんも考え付かなかった
今回も相変わらずグダグダではありますが楽しんでくれたら幸いです
あとペガサスフォームは少しオリジナルが混じってます

バトライドウォーはやって損はないゲームですぜ
特にカブトがカッコいい


伽藍の堂一階のガレージにて

 

久しぶりにバイクの手入れやチューンナップでもするかと思った蒼崎燈子は一階のガレージに足を運んだ

ふと視線をやるとブルーシートを被った何かがやけにガタガタと動いてるのが目に行った

 

「…今日は珍しくざわついてるな? 青子が持ってきた日以降ちょくちょく動いていたが…」

 

それでもこのブルーシートの中にいるこいつは時折起動してはアラタを助けに行き、何度も勝利に導いてくれたものだ

そんなこいつがガタガタしているという事は

 

「…そうか、呼んでるんだな。お前を」

 

察した様子で燈子はそいつにかかったブルーシートを引っ剥がすとガレージのシャッタ―を開ける

 

「行ってこい。お前の主の下に」

 

燈子が促すと頷くかのように赤い瞳が輝く

そして羽を羽ばたかせ、そのシャッターから飛び出していった

 

 

地上へと飛び出した一行はまず美琴が砂鉄で作り出した剣で先制する

放たれた砂鉄の剣はAIMバーストの触手を容易く切り裂いた、がやはり効果はなくすぐに再生師元に戻ってしまう

しかしそれでもこちらに気を引くことには成功したようだ

 

「アンタの相手は私らよ―――て、うわ!?」

 

 

言葉など通じんと言った様子でAIMバーストは美琴の方へと波動のような一撃を放つ

慌てた様子で美琴を含めたメンバーは散り散りに回避行動を取った

 

「っくっそ! こっちの話は聞かない感じか!」

「聞いてくれたら幸運だがな。…む、見ろカ・ガーミン!」

 

サソードに促されクウガは彼が指差した一点を見た

視界に入ってきたのは先ほど美琴に切り落とされた触手の一部だ

その触手が何やらウネウネとうごめいていき、そこから成人男性サイズの土人形が生み出された

分かり易く言うなればゴーレムだ

 

「…おいおい、あんなの聞いてないぜ?」

<けどやるしかない。行こう翔太郎>

 

短い会話をした後ダブルがその土人形に向かって走り出し、一体に飛び蹴りをかます

それに続くサソードを尻目にしながらクウガはAIMバーストの方を見る

AIMバーストは自らの頭上で気のようなものを溜めていたところだった

恐らくこの周囲に向かって放つ攻撃のはずだ―――

 

「! まずい!!」

 

思わず振り向いたがもう遅い

付近一帯に放たれた光弾の一発は今まさに階段を駆け上がっている佐天と初春の所へ―――

 

「クロックアップ」

<clock up>

 

その呟きが聞こえたと思ったらその瞬間カブトの姿は消えていた

間に合ってくれるといいのだが―――

 

 

「え?」

「危ない初春!」

 

ドンと突き飛ばされたと感じた時に耳に爆発のような衝撃音が入ってきていた

思わず前のめりになって倒れてしまい、足や手に軽い痛みが走る

 

「い、たぁ…」

 

痛みに堪え視線を向けるとばらばらにひしゃげた階段の手すりや、何かの破片などが周囲に散らばっていた

どうやら下に続く階段がその瓦礫に阻まれてしまったようだ

そして自分の近くに佐天の姿がないことに気づく

 

「! 佐天さん!?」

 

彼女の名前を叫ぶ

どこか、どこかと思いながらきょろきょろと周辺を見回して

 

「初春ー!」

 

阻まれた向こう側から佐天の声が聞こえた

 

「佐天さん!? 無事なんですか!?」

「あたしは大丈夫! それより初春! ワクチンの方は大丈夫!?」

 

えっ、と呟きながら彼女はポケットに手を入れてそのプログラムを取り出す

…うん、どうやら目立った傷はないようだ

 

「先に行って! 初春! あとはあんたに託すわ!」

「え!? でも―――」

「今はもっと優先すべきことがあるでしょう! アンタが助けるの! 昏睡してる人たちを!!」

 

確かにここで止まっていたらAIMバーストと戦っているあの人たちを危険にさらしてしまう

なら自分に出来る事は、足を動かすことだけだ

初春は力強くそのプログラムを握りしめ、意を決したように再び会談を登り始めた

 

「…頼んだよ、初春」

 

呟きながら初春は先ほどの衝撃から庇ってくれた人の後ろに改めて身を隠す

 

「…ごめんなさい天道さん。手間をかけさせて」

「気にするな。人が歩くのは人の道、それを拓くのが天の道だ」

 

そう言いながらカブトは周囲を確認する

どうやらさっき放った光弾にゴーレムを生み出す触手の一部が組み込まれていたのだろう

 

「安心しろ。お前は必ず守る」

 

そう言われて思わず佐天は顔を赤くする

…どうしてこういう人たちはナチュラルに恥ずかしい台詞を吐けるのか

 

 

階段から抜けて初春は辺りを見渡した

視界には数分前に乗っていた木山の青い車が見える

 

「私だって風紀委員(ジャッジメント)なんだ…!」

 

戦える力がなくても、抗える力がある

そう自分を奮い立たせてまた足を動かしたとき、また爆発音が鳴り響く

どうやら左側の壁にまた光弾のようなものが直撃したようだ

 

その音に足をもつれさせてその場に初春は転んでしまった

だけどプログラムは守り切れた

 

「はは、アラタに似て無茶をする」

 

声が聞こえた

声の方に振り向くと自分を庇うように緑色の仮面ライダーがAIMバーストを睨んで立っていた

その周囲には灰色の仮面ライダーとG3もいる

 

「怪我は?」

 

灰色のライダーに問われない、と首を振る

 

「ならプログラムも無事ですね」

 

G3の言葉に初春は力強く頷く

 

「…よし、何とかして移動するぞ」

 

緑色のライダー…キックホッパーの視線の先には警備員(アンチスキル)の車両がある

木山のとの交戦ですべて破壊されたと思っていたが幸か不幸は一台だけはその被害を受けることなく静かにたたずんでいた

 

あの車両ならこのプログラムのデータをこの都市中に流せるかもしれない

 

しかし、AIMバーストはそれを許してはくれないらしく、再び頭上に再び何やらエネルギーを溜め始めた

 

 

「いい加減にっ!!」

 

半ば怒りと共に放たれたその雷撃はAIMバーストの頭上に溜められていたエネルギーごと焼き尽くす

だがその攻撃にも意味はなくすぐ再生されていく

けれども問題はない

注意を引くことが重要なのだ

 

「そろそろこっちにも振り向いてくれねぇか?」

 

美琴の左隣にはダブル

彼は左手をスナップさせ軽くそれをAIMバーストの方に突きつける

 

「あいつらに、罪を数えろたぁ言えねぇしな」

<彼は被害者みたいなものだからね。彼らに罪はない…>

 

右の複眼が点滅し、彼の相棒が呟く

 

「だからこそ、俺たちが立ちはだかるんでしょ」

 

その呟きにクウガが応える

その声にダブルは仮面の下で軽く笑む

 

「さぁエレキガール、止めてやろうぜ。俺たちが」

 

「えぇ。…みっともなく泣き叫んでないで、真っ直ぐこっちに向かってきなさいっ!」

 

美琴の叫びに呼応するかのように、またAIMバーストは嘶いた

 

 

クウガ、美琴、そしてダブル

彼らはAIMバーストを足止めしているが、依然効果はなし

カブトは階段の途中で土人形と交戦しているし、サソードは地上で同様に土人形と戦っている

 

その戦いの光景を見ながら木山はゆっくりと橋の下から歩いてきて思考を走らせていた

 

(…ワクチンプログラムを何とか都市中に流すことで、幻想御手(レベルアッパー)のネットワークを破壊する。…あの子たちがうまくやれば、あの暴走を抑えることが出来るはずだ)

 

だが…、とそこで思考を区切り、再び木山は歩き始めた

 

 

<TRIGGER!>

 

<CYCLONE TRIGGER!>

 

「たぁぁぁっ!!」

 

トリガーマグナムから放たれた風の弾丸は空を飛び、AIMバーストに当たり、破損させる

だがやはり自己修復され、その攻撃は無意味なものとなる

 

「くっそ! やっぱりか!」

<このままでは防戦一方だ…>

 

そんなダブルの隣を駆け抜け、クウガが前に出る

AIMバーストはクウガに狙いを定めて一斉に触手を伸ばし始めた

伸ばされた触手を手刀で斬り、蹴りで払い、拳でクウガは砕いていく

だがいずれも全く効果はなく、再び再生されていく

 

「あちゃー…全然効かねぇな…」

 

そのまま何度か触手に向かって徒手空拳を繰り出すがやっぱり再生されてしまう

 

「屈んで!」

 

「え!?」

 

美琴の声が聞こえた時にはもう眼前に大量の砂鉄で生成された鞭みたいにしなるブレードが迫ってきていた

 

「おうわっ!?」

「っぶねぇ!?」

 

当然範囲にはクウガはもちろんの事、ダブルも入っていたらしくクウガを見て同じように屈む

自分たちの頭上を通る砂鉄の剣は空を切り、そのままAIMバーストの腕に該当する部分を切り落とす、がやはり腕は再生され、切り落とされた腕からはまた変な土人形が生み出された

 

「おい! 何しやがんだ!」

「ちゃんと忠告したじゃない」

「雑すぎるわっ! 危うく真っ二つになるとこだったわぁ!」

 

ダブルが立ち上がると同時に美琴に詰め寄りプチ口論となる

クウガとしては美琴の無茶な振る舞いにも慣れてしまっているので正直何にも思わないのだが

 

「状況見てダンナ。今味方同士でそんなこと言い合っても仕方ないじゃないですか」

<アラタの言うとおりだ翔太郎。最大の障害は目の前にいるんだから>

 

右の複眼が点滅しフィリップが彼を諌める

翔太郎の方もわかっていたのか軽く深呼吸し再びAIMバーストへと向き直った

 

「…けど、ホントにどうすんのよ。はっきり言ってキリないわよ」

 

穿っては再生され、切断しては再生され、引きちぎっても再生される

おまけにそこから変な土人形は生まれるわで収拾がつかない

 

「あの嬢ちゃんたちがプログラム届けるまで凌ぐしかないだろ? やれるとこまでやんないとな…ん?」

 

呟きながら空を見たダブルが訝しんだ

どうやら何か見えたようだ

 

「…ダンナ?」

 

自分たちに接近してくる土人形を破壊しながらクウガが聞いた

同じように怪訝な表情を浮かべながら美琴は寄ってくる土人形に雷撃を放つ

 

「…アラタ、知り合いが来たぜ?」

 

その空を彼は親指を指す

指された方向を見ると黒い影がこちらに向かって一直線に飛翔してくる

その影の姿はよく見るとクワガタのような…いや、クウガはそれを知っている

こういった戦いの前、幾度か空を飛ぶ怪人と戦ったことがあった

その時に何度か助けてくれたのがあのクワガタのような自立機械―――

 

「ゴウラム!」

 

確かそんな名前だったはずだ

ゴウラムと呼ばれた大き目なクワガタは一度美琴やダブルの付近を回るとクウガの前に浮遊する

その佇まいはまるで乗れと言っているように

 

「…こんな機械初めて見た…」

 

珍しそうに甲のあたりをぺたぺたと触れる美琴

心なしか嬉しそうに見える

 

「ダンナ、俺たち空からけん制してみる」

「わかった。なら、使いなっ!」

 

言葉と共にダブルはクウガに向かってトリガーマグナムを投げ渡す

それを受け取ったクウガは頷いて叫ぶ

 

「超変身!」

 

言葉と共に今度は赤い姿が緑色へと変化する

緑色の鎧をベースに複眼も緑色へと変わり、手に持つマグナムも緑色特有の武器であるボウガンへと変換されていく

 

「行くぞ、美琴」

 

「え? えぇ!」

 

クウガが先に乗り、その手を美琴へと伸ばす

美琴はその手を取り、彼に引っ張られる形でゴウラムの上へと乗った

 

「地上は任せときな、お前らは上から注意を引いといてくれ」

「えぇ! …うし、行くぞゴウラム!」

「うえ!? ちょ、ま―――」

 

クウガが言うとゴウラムは羽を開き羽ばたかせ上空へと瞬いていく

その時同時にエレキガールの叫ぶような声が聞こえた気がしたが気のせいだろう

 

「…よっし、行くぜフィリップ!」

<あぁ。行こう翔太郎>

 

そう言いながらダブルは一本のメモリを取り出して、起動させる

 

<METAL!>

 

そしてトリガーメモリを抜き、それを差し込みドライバーを開く

 

<LUNA METAL!>

 

そんな電子音が鳴り響き、右は黄色のまま、左半身が鉄のような色へと変化し、背中から一本の武器を構える

それはメタルサイドのウェポン、メタルシャフト

 

「…っし、行くぜ!!」

 

ルナの力で伸縮するメタルシャフトを振るいながらダブルはAIMバーストへと駆けていった

 

 

階段の途中での戦闘

 

幸いにも動きが単調な土人形を倒すのは造作もないことだった

しかし問題はいくら斬りつけても斬りつけても治ってしまうのだ

流石は人形と言ったところか

おまけに場所が場所なだけにライダーキックが使えない

使ってもいいがそれでは佐天を巻き込んでしまう確率もある

 

「ならば…」

 

カブトはクナイガンを構え、静かに態勢を低くする

何か来ると予想したのか土人形が少し身構えた気がした

しかしそれを杞憂と判断したのか二体同時に接近し始める

その時、先にカブトが動いた

 

クナイモードとなった刀身にエネルギーを込め、通り抜け様にアパランチスラッシュをそれぞれの胴体に叩きこんだ

深々と斬られた二体の土人形は再生能力を失ったのか、それとも再生するためのエネルギーが切れたのか、土人形はその場で崩れ落ちた

 

「…怪我はないか。佐天」

「は、はい。おかげ様で…」

「そうか。それは何よりだ。…行けるな?」

 

カブトがそう問いかけると佐天は力強く頷いた

これ以上の心配はなさそうだ

 

「―――頑張れよ。佐天涙子」

 

そう言い残してカブトは手すりを飛び越えて、地上で戦っているサソードの方へ加勢すべく駆け出した

その背中を見ながら佐天は瓦礫を見やる

瓦礫は通れないほどでなく、少しばかり小さくなっている気がする

戦っている最中、カブトが切りつけてくれたのだろうか

だとしても有難い

 

「よし。行こう!」

 

自分を奮い立たせるかのように呟いて、彼女はその瓦礫の上を走る

何もできなくても、構わない

今動くことが重要なんだ―――

 

 

「ツルギ!」

 

サソードの耳に聞きなれた声が届く

その方向へ視線を向けるとカブトがこちらに向かって走ってきていた

走りざまにクナイガンにて土人形を切り裂いていきながらカブトはサソードの隣へと駆け寄った

 

「天道!」

「一気に決めるぞ、準備はいいか」

「あぁ! 問題ない!」

 

言葉と共に二人は必殺技の構えを取る

カブトはゼクターのスイッチを押し、サソードはサソードテイルを一度抜いて、再び挿す

 

<One two Three>

 

「ライダーキック」

「ライダースラッシュ!」

 

<Rider Kick>

<Rider slash>

 

そう電子音が鳴った後、カブト自分の前方にいる数体の土人形へと回し蹴りを繰り出し、その背後では同じように数体の土人形に向かってサソードヤイバーを振り抜いた

 

それぞれの動作が終了したあと、サソードはヤイバーについた血を払うように空を切り、カブトは天を指す

 

「あとはアラタたちを待つだけだ」

「あぁ。任せたぞ、カガーミン」

 

 

「…空からでもあんま効果なし、か」

 

いくつか射撃してはみたが案の定効果はなし

同じように美琴も雷を売っては見たが結果は変わらずだ

 

「それでも、やんないといけないでしょ? 初春さんたちがやってくれるまで」

「あぁ。…行けるか?」

「…ふふ、誰に言ってんのよ?」

「はは。…そうだったな!」

 

お互いに言い合いながら迫ってきた触手にクウガはボウガンを撃ち込む

このボウガンは弓に当たる部分があるのだが、それを引かずに引き金を引けば威力が低いがけん制程度の弾丸が放てるのだ

 

触手がすべて破壊された後、今度は氷の刃が周囲に展開される

いくつもの刃がこちらに向かって放たれる中、美琴は焦ることもなく、雷を展開しそれを砕いていく

ゴウラムもまだ問題はなさそうだ

…大丈夫、まだいける

 

 

警備員(アンチスキル)の車両にて

 

「ああ、そうだ。手段は問わない、これから送る音声データを学園都市中に流すんだ!」

 

変身を解いた矢車が携帯を使用して指示を飛ばしている

これが成功しなければもう勝算はない

 

「転送! 完了しました!」

 

初春の声が耳に届いた

よし、後は―――

 

「責任はすべてこの矢車が持つ! とにかく流せ!」

 

矢車のその指示のあと、学園都市中に単調な音が響き渡った

 

 

曲と言われれば十人中十人は首をかしげてしまうだろう

とても曲とは言えないただシンプルな一つの音を聞かせられればそれは曲でなく音だ

だがこの音はただの音ではない

 

「…なんだ? このなんだかわかんねぇ歌でも曲でもねぇ音は?」

<いや…これはもしかしたら―――?>

 

思考に埋没しようとしたその時だった

直前までに迫っていたAIMバーストの触手に一瞬気づくのが遅れ、囚われてしまったのだ

 

「のわっ!? しまったぁ!!」

 

ご丁寧に両手までしっかり巻きつかれている

これではメタルシャフトが振るうことが出来ない

万事休す、か

 

「ダンナ!」

 

空中からこちらを視認したクウガがその場からボウガンで触手を狙い撃つ

触手の縛りから解放されダブルは地上に降り立った

それと同時に一度彼らは地上に着地する

 

「すまねぇアラタ! だけどいくらやっても再生するんじゃあ…っ!?」

 

言葉を言いかけてダブルは驚いた

ボウガンを放たれて破損した場所が治っていないのだ

 

<やはり! これは治癒プログラムだよ翔太郎! ダメージを与えるなら今だ!>

 

フィリップの言葉になるほど、と納得する

幻想御手(レベルアッパー)も音声ファイルならそれを治すのも音声ファイルなのだろう

そしてそれが意味することとは―――

 

「初春さんたちやってくれたんだ!」

「あぁ! ったく…すげぇよホントに」

 

つまり今のこの時ならば、AIMバーストを倒せるはずだ

しかしこの大きな巨体を一度にダメージを与えるなら―――

 

「美琴!」

「えぇ! これで、戦闘終了(ゲームオーバー)よっ!!」

 

クウガの叫びに呼応して美琴が高威力の雷撃を放電する

その大きな体に放たれた雷は真っ直ぐにAIMバーストを捉え、身体全体を焼き尽くす

声にならない叫びをあげてAIMバーストは身体を黒くしながらその場に崩れ落ちた

 

「…はぁ」

 

ようやく終わったと感じた美琴は短くそう息を吐いた

そんな背中をいつの間にか赤いのに戻っていたクウガが軽く叩く

 

「お疲れ」

「あんたもね…そっちお半分こも」

「誰が半分こじゃあ!」

 

ダブルの声を聞きながらどこか笑みを浮かべる自分がいる

とにもかくにもこれで

 

「気を抜くな!!」

 

終わったと思った矢先、木山の声が耳に届いた

いや、というかなんで彼女はここにいるんだ!?

 

「まだ終わっていない!」

 

木山の言葉に三人はもしやと思いAIMバーストの方へと向き直る

そして予想通りAIMバーストはまだ動きを止めていなかったのだ

 

「そんな!? ネットワークは壊したんじゃ…!?」

 

「あれはAIM拡散力場が生み出した一万人の思念の塊…、常識は通用しない!!」

 

「はぁ!? 話が違うじゃねぇか!」

 

倒したと思っていたのにこれじゃぬか喜びもいいとこだ

あんなの、一体どうやって倒せば…

 

「核だ! 力場を固定させている核が、どこかにあるはずだ…! それを破壊できれば…!」

 

―――ユルセナイ…―――

 

「!? …今の、は…」

 

不意に唐突に聞こえたエコーのかかった声に美琴たちは一度動きを止める

それはおそらく、幻想御手(レベルアッパー)使用者の心の声…

 

―――毎日、馬鹿にされて―――

―――レベルゼロって、欠陥品…―――

 

「…」

 

思わず美琴は押し黙る

彼女は努力で超能力者となった人だ

だから、なんとなくだが気持ちが分かるのだろう

 

「…私、佐天さんに謝んないと」

「…え?」

「無責任にあんな事いって…さ。気にしてるかもしれないのに」

 

苦笑いと共に美琴はそう呟く

恐らく、自分の知らないところで何かがあったのだろう

それを聞くのは野暮だと感じたクウガは何も聞かなかった

やがて意を決したように美琴はいまだ行動を続けるAIMバーストを仰ぎ見る

 

「下がって。…巻き込まれるわよ」

 

そして木山に向かってそう言った

 

「構うものか! 私には、あれを生んだ責任が―――」

 

「教え子」

 

「…え?」

 

ダブルの言葉に木山は目を丸くする

 

「…あんたはよくても、あんたを待ってる教え子たちはどうする気だ?」

 

「…っ」

 

木山はそう言われて少し顔を俯かせる

彼女が今まで行動してきたのはすべて今なお眠っている子供たちの為だ

その子たちが起きたとき、一番に見せなければならないのが彼女自身の笑顔でなくてはいけないのだ

 

「…こんなやり方以外なら俺たちもいくらでも協力する。ねぇダンナ」

「あたぼうよ。子供は未来の宝だぜ?」

<ふふ。調子がいいんだから>

「当然あたしだって。…だから、こんなところで諦めないで」

 

二人のライダ―と御坂美琴が一度顔を見合わせる

そして少し視線を合わせてお互いに頷くとまずクウガがゴウラムに乗って上空へと飛翔する

その後でダブルがメタルシャフトを構えた

 

「それにね、アイツに巻き込まれるんじゃない。…アタシらが巻きこんじゃうって、言ってんのよっ!!」

 

言葉の途中に美琴らに放たれた尖った触手が貫かんと伸ばされる時、美琴の手から放たれた雷がその触手を焼き尽くす

そのまま放たれた雷は力場のようにAIMバーストを取り囲み、少しずつではあるがダメージを与える

しかしそれでも決定打には至らない

だが

 

超電磁砲(レールガン)、まだ行けるよね?>

 

美琴の死角から来る触手の攻撃をダブルが伸縮するメタルシャフトで援護しながらそう問いかけた

対する美琴はニィ、と笑みを浮かべて

 

「あったりまえじゃないっ!」

 

その言葉と共にAIMバーストを包んでいる誘電力場がさらに出力を増していく

彼女の電撃は直撃してはいない

美琴が強引にねじ込んでいる電気抵抗の熱で、表面から焼いているのだ

その戦いを見て確信する

 

「私と戦ったときは、全力ではなかったのか…!!」

 

しかしAIMバーストは意地があるのか、妬かれた表面を再生させながらいくつもの触手を束ねて大きな手を作り出す

 

「気づいてやれなくて悪かったよ」

 

<METAL MAXIMAMDRIVE>

 

シャフトにメモリを挿入し、その場でブンブンと振り回す

するとシャフトから生成されていく黄色の輪刀がダブルの周囲を飛び回った

 

「<メタルイリュージョンッ!!>」

 

放たれた光輪は弧を描きながらその大きな手を切り裂いた

 

<頑張りたかっただけなのさ。彼らは>

 

だがまだAIMバーストは抵抗をやめない

今度は周囲に氷の刃をつくりだし、地上の二人に目掛けて撃ち出した

 

「だったら、もう一度頑張ってみよ?」

 

そう言いながら彼女が周囲に放たれる雷撃は撃ち出された氷の刃を打ち砕く

泣いている子供をあやすように、美琴は優しい目でAIMバーストを見つめながら、一枚のコインを弾いた

その隣でダブルはメモリを変える

 

<LUNA TRIGGER!>

 

ルナトリガーへとチェンジしたダブルは美琴の隣でマグナムを構える

 

「頑張れんなら、頑張ろうぜ。他人の事なんか気にすんな」

「そうだよ。こんなところでくよくよしてないで、自分に嘘つかないで―――」

 

自分の手元に落ちてくるコイン

それを見ながらダブルはトリガーメモリをトリガーマグナムへと装填する

 

「―――もう一度っ!!」

 

飛来したコインを音速の三倍で撃ち出す美琴の代名詞

それが超電磁砲(レールガン)

その一撃に合わせるようにダブルも引き金を一気に引く

 

「<トリガーフルバーストッ!>」

 

真っ直ぐ突き進む超電磁砲に添えるように放たれたいくつもの光弾が重なり合い一つの弾丸となってAIMバーストの腹部を突き破る

やがてそれはAIMバースト内部にある核に衝突し、そのまま貫いて体外に排出した

しかしその核を破壊するまでには至らず、ヒビを入れてコインが先に砕けてしまった

だが特に焦ることない

もう一人、私たちには仲間がいる

 

 

「これで決めるぞ!」

 

ゴウラムに指示を飛ばし、スピードをアップさせる

速度が上がる中、貫かれた核をクウガは全力で視た

するとまばらな線共に、中心に点があるのが分かった

ならば狙うのはそれ一つ

ある程度速度が出て、態勢を立て直しそして先に自分が飛び出す形で一気にジャンプし、空中で一度回転させ、右足を突き出した

それに追うようにゴウラムも後に続き、彼のすぐ隣に鋭い角を前に出す

 

「おぉぉぉりゃぁぁぁっ!!」

 

咆哮と共に紅蓮の炎を纏ったマイティキックに、ゴウラムのゴウラムアタック

高所からの飛び込みを利用し速度を増したその蹴りはゴウラムの補佐もあって、ヒビの入ったAIMバーストの核に直撃し、それを砕き割った

 

ズドォン、と地面に砲弾のように着地したクウガは自分の周囲を飛ぶゴウラムを撫でながら

 

「…大丈夫、きっとできるさ」

 

昏睡してる人たちを励ますように呟く

レベルゼロの気持ちはわかる

だけど、それでも、俺たちには明日が待っていてくれるのだから

 

 

「…」

 

言葉が出てこなかった

目の前で起こる圧倒的な力を前に木山はただ黙った見ているしかなかった

 

「…これが、超能力者(レベル5)…!」

 

想像などは浅すぎた

自分が予想していたのとは圧倒的に、違うものだった

 

「そして、仮面ライダー…」

 

学園都市を、守るもの

 

 

「…やったな」

「あぁ。流石は我が親友」

 

事の成り行きを見守っていたツルギと天道は口々に言葉を呟く

長い事あったが、これで幻想御手(レベルアッパー)の方はひと段落しそうだ

 

 

「倒した…!」

 

感極まった様子でG3が呟く

本当に彼らはやってくれたのだ

いや、彼らだけではない

 

「…はふぅ~」

「うを! ちょ、初春!」

 

気が抜けたの背中に倒れそうになった花飾りの女の子を支える黒い髪の女の子

彼女たちの力なくしては止めることは出来なかっただろう

 

「お疲れ様じゃん。立花」

「えぇ、黄泉川さんも、お疲れ様です」

 

そんな黄泉川の後ろではそれぞれ変身を解いた影山と矢車の二人が車両に背中を預けていた

その近くではへたん、と鉄装が地面に足をついて息を吐いている

二人はここまで変身しっぱなしだったからか疲れがたまったのだろう

 

それは眞人も同様だった

そして一つ、目標もできた

仮面ライダーを名乗るには自分はまだほど遠いだろう

けれどいつしか彼らの隣に並べるような、そんな存在になれるように

 

 

全てが終わった夕刻

木山の腕には手錠があった

当然である

彼女は幻想御手(レベルアッパー)事件の容疑者なのだから

 

「…どうすんだ。子供たち」

 

口にするのを躊躇ってどもる美琴の代わりにアラタが問いかけた

木山は一瞬ポカンとした表情になるがすぐに小さい笑みを作り

 

「当然諦めるつもりはない。刑務所だろうとどこであろうと、私の頭脳はここにあるのだから」

 

…心配は杞憂のようだ

安堵した美琴、初春、佐天と顔を見合わせそれぞれ小さい笑顔を作る

 

「ただし」

 

そんな空気を割るかのように木山が口をはさんだ

 

「今後も手段を選ぶつもりはない。気に入らなければ邪魔しに来たまえ」

 

そう言って木山は警備員の車両に乗り込んでいく

…相変わらず、そしてたぶん曲げる気はないだろう

 

「昏睡してた人たちも、起きてきたらしいぜ」

 

先ほどスタッグフォンで連絡を取っていた翔太郎がそんな事を報告してくれる

 

「ホントですか!? …佐天と初春のおかげだぜ」

「うん。本当、お疲れ様」

 

二人に言われ、両名は赤面する

 

「そ、そんな。私なんて途中からなんもしてないし…」

「励ましてくれたじゃないですかっ佐天さんはっ! あの言葉で私勇気もらったんですから!」

 

どうやら自分たちの知らない間にまた絆が強くなっていたようだ

そんな時美琴がばつが悪そうに

 

「その、佐天さん」

 

と口をはさんだ

言われた佐天はきょとんとした顔で美琴の顔を見る

 

「…ごめんなさい」

「ふぇ!? なんで急に謝るんですか!?」

「…前に、レベルなんて関係ないって、私言ったじゃない? …あの時、その…自分勝手な言葉を押し付けて…」

「…御坂さん」

 

謝る必要なんてないのに

あの時の自分はただ必死だったんだ

なんの能力もない自分が許せなくって、そして能力に憧れた

けれども一人の男性が気づかせてくれたんだ

 

「大丈夫ですよ御坂さん。…それに本当に大事なのは、能力じゃないって…知ることが出来ましたから」

 

そう言いながら彼はアラタの後ろ、少し離れた場所にいる天道の方へ視線を向ける

その視線に気づいた天道はわずかに微笑みを作り、応えるかのように天へと指を向けた

 

「…天道となんかあったのか?」

「別になんもないですよアラタさん。…ふふ」

 

問われた佐天は空を仰ぎ見る

その仕草に初春と美琴、アラタは一度顔を見合わせる…けれども佐天がとても嬉しそうに笑っているから変に追及するのはやめておいた

 

「…鏡祢。ではそろそろ帰ろう」

「俺と天道で料理を振る舞う予定だったのだ。もちろんウィハールやサ・テーン、ミサカトリーヌにも我々の料理を振る舞ってやろう」

 

なんか名前がすっごい事になっている

ツルギらしいといえばらしいのだが

 

「…けど、そだな。今日はもう戻るか」

 

アラタのその一言でその場の連中はひとまず一七七支部へと戻ることとなった

恐らく黒子辺りが心配してるに違いない

 

 

 

―――こうして、一万人もの能力者を巻き込んだ幻想御手(レベルアッパー)事件は、ひとまず幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

その夜

支部からの帰り道

帰還してからダイブしてきた黒子を美琴と共に制裁し、天道が作った(ツルギは独創的過ぎたのか受けなかった)ラーメンに舌鼓を打った後特に気にするでもなくコンビニの前に寄った

強いて言うなれば明日のご飯を購入するためだったのだがふと気づく

 

「…あれ?」

 

妙に人が少ない、否、少ないのではない

〝いない〟のだ

こういった時間帯にはまだまだ夜これからですよと言わんばかりに学生諸君がわんさかいるハズだ

それなのに誰もいない、という事は異常だ

不自然な人の消滅、微かに頭をよぎる違和感…

導き出される結論は

 

「…また魔術か?」

 

教訓

一難去ってまた一難

確かに一つの騒動は終わったが、これからもう一つ始まりそうだ

 




今回で幻想御手(レベルアッパー)編は終了です


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束の間の異常と日常
#EX 少女の結末


詰め込みすぎた結果がこれだよ

次回はまたレールガンに戻ります

相も変わらずな出来ではありますが楽しんでくれたらと思います

誤字、脱字等見かけましたらご報告を

では、どうぞ


周囲を見渡して一つ息を整える

思えばここに来るまでく気づくような点はあったんだ

誰ともすれ違っていない道とか誰も出入りしないコンビニとか

ただあまりにも自然すぎて気づくのが遅れただけ

 

アラタはキョロキョロと首を動かす

これが魔術の類ならおそらくここら一体はその魔術の効果を受けているだろう

そしてこんな効果に絡まれそうな知人は―――

 

「…当麻…インデックス…」

 

先日赤毛バーコードに襲われたのはどこのどいつだ

そしてその襲われた女の子を守ろうと全力で奮起したのはどこのどいつだ―――!

 

思い立ったが吉日、アラタは走り出していた

幸いにもここの道路は一直線、このまま走ればすぐに当麻かインデックスと―――

 

ドンっ!! と唐突に聞こえたその大きな音に足は止まった

 

撃たれたとも錯覚するほどの衝撃に耐えながら音の聞こえた方向、つまりは自分の後ろを見る

視線の先では闇に染まった夜が夕焼けのような色に焼かれるのが見えた

その正体は炎

恐らく自分の背後のいるのは先日のバーコード神父だ

一瞬どっちに走るか本気で迷った

しかし万が一、まっすぐ行っても収穫がなかったらと想定すると正直恐ろしい

だからアラタは敵が分かっている方へと足を進める

無事でいてくれ、と願いながら

 

 

どうしよう、とインデックスは頭の中で思考を回転させていた

少し考えれば分かる事だったはずだ

当麻と一緒に、大きいお風呂に入って小萌が教えてくれたコーヒー牛乳というものを飲んで、ありふれた、それでいて楽しい会話をして一日を過ごすはずだったのに

小さい意地がそれを邪魔してしまった

自分は魔術師に狙われているのに

彼を、当麻を一人にするべきではなかったのに!

 

「…魔女狩りの王(イノケンティウス)

 

目の前の赤い髪の魔術師が呟くと彼の隣に顕現された炎の化け物が動き始める

どうしようか、とインデックスは考える

ひとまずこの魔術師から逃げて何とかして逃げ延びて当麻と合流しなければ

幸いにもここまでの道のりは覚えているし、どうにかしこの魔術師を撒くことが出来れば―――

 

そう思っていたインデックスの考えはもろくも崩れ去った

反転して走ろうとしたその目の前に、信号機のような人影が立っていたからだ

何時の間に、とも思ったが魔術師がこういった用意をしていないとも思えない

インデックス単体にああいった者と戦える知識はないし、あったとしてもその知識を生かせる身体構造ではない

 

「諦めてくれ。…彼を傷つけるつもりはないよ」

 

嘘だ

魔術師は二人いたハズだ

もう一人がここにいない、という事はつまりそういうことだ

目の前に信号機の人、後方には炎の化け物

…もう逃げられない

 

覚悟を決して目をつぶったその時だった

 

バウッ! という風を斬るような音がした

その直後炎の化け物の身体が揺らぎ、やがて姿をその姿を消した

同様に風を斬るように放たれた弾丸がその信号機の人にぶち当たり、消滅した

 

「はっ!」

 

そんな声と共に跳躍してインデックスの前に降り立つ緑色の人影

その姿を見た魔術師はわずかに顔を強張らせた

 

「…君は…!」

 

「ようバーコード。しっかりとルーンは加工したみたいだな」

 

降り立ったのはクウガだった

しかしその姿は依然見た赤い姿ではなく、緑の姿で右手には銃のようなものを握っている

 

「あぁ…君の助言通り、ラミネート加工させてもらったよ。…その点だけは感謝してるけど」

「それはどうもありがとう。んじゃあついでに―――」

 

クウガは言葉の途中で隣にいるインデックスを抱き上げて続けた

抱き上げる過程でインデックスが「わひゃあ!?」と言葉を漏らしたが気にしない

 

「見逃して?」

「やると思うのかい」

 

当然の返答

バーコード神父がラミネート加工されたルーンカードを取り出して

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

とその名を叫んだ

―――が、なにも生まれない

 

「―――なにっ!? そんな馬鹿な! ルーンの配置は確かにやったはずだ…! なのに、なぜ…!」

 

周囲二キロに確かに十六万四千枚、自分は確かに設置したはずだ

六十時間を費やしたと自覚している

 

「万物にはすべて綻びがある」

 

バーコード―――ステイルの言葉をかき消すようにクウガが言葉を挟む

 

「人間は言うに及ばず、時間や大気にだって。それを視るのが俺の能力…直死魔眼(イーヴルアイズ)だ」

 

それは能力開発の生み出した偶然による賜物

身体検査(システムスキャン)に引っかかる事がない正体不明な彼のチカラ

最もその能力に目覚めたのは高校に入ってからなのだが、直前に自分自身に起きた怪我が能力の発現を促したのでは、と燈子は語る

 

「まぁアンタのは魔術だから、発生源断たないと何度でも生まれるかもしれない。…それでも一から詠唱しないといけないはずだ。…正直わかんないけど」

 

ガチャリ、と緑のクウガはインデックスを抱えたままボウガンのような銃を構える

 

「だけど退かない。あんたにも譲れないものがあるように、この子にも譲れないものがあるんだ」

 

 

何度打ちのめしても目の前の少年は向かってくる

瞳にある闘志は消えることなく、むしろ増してさえいるような気さえもする

どうして

どうして彼はここまで戦える?

 

「テメェらが、もう少し強かったら…! 嘘を貫き通せるくらいに強かったら! 一年の記憶を失っても次の一年にもっと楽しい記憶を与えてやれば、その次の一年にもっと楽しい幸せが待ってるってわかってれば、逃げる必要なんかねぇんだ! それだけの事だろうが…!」

 

少年は彼女の持つ刀の鞘にしがみ付き、言葉を続ける

握った手からは血がにじみ出ていた

手だけではない、腕全体からだ

 

「ふざけんな、お前は力があるから仕方なく人を守るのか? 違うだろう!? 守るために力を手にしたんじゃないのかよ…!!」

 

少年―――上条当麻の言葉はわずかだが、それでも確実に彼女―――神裂火織の心を揺さぶっていく

当麻は鞘から這い上がり、神裂の襟首を掴むとさらに言葉を続ける

 

「誰のために力を手にしたんだ、その手で誰を守りたかった!? …どうして! そんな、力があんのに…!」

 

急に彼の視界がぐらりと揺れた

身体に蓄積した疲労が一気に彼を襲ったのだろう

その言葉を最後に上条当麻は意識を手放し、その場に崩れ落ちた

 

その場に倒れた少年を見ながら神裂は立ち尽くしていた

この場で彼を排除するなら簡単だ

だが神裂にはそれが出来ない

繋がりがある状態で彼を斬れば当然インデックスが悲しむ

それもあるが、自分をここまで追い詰めた少年に興味も生まれた

諦めかけた希望、この少年なら、或いは―――

 

「…いえ。それは甘えすぎというものです」

 

考えかけた思考を放棄し、ひとまず彼を運ぼうか、と彼を抱えようとしたとき

 

 

 

「とうま!」

 

 

 

聞き慣れた声が聞こえた

何事か、と思い目を見開き声の方を向く

そこには赤いクウガと駆けてくる自分が一番見知った彼女の姿が視界に入ってきた

す、とクウガが身構えたのに合わせて神裂も当麻から離れる

しかしクウガからは殺気のようなものは感じられない

 

「…インデックス、当麻を連れて逃げるんだ。確か小萌先生のアパートって言ってたね?」

「うん。…だけどとうまを担いでいくのは流石に…」

「大丈夫、その辺は考えてある。…ゴウラム」

 

彼が呟くのと同時に羽を羽ばたかせてインデックスの目の前に降り立ったクワガタのような機械を見てインデックスは驚いた

 

「お、自動人形(オートマトン)!?」

 

そんなインデックスを尻目にクウガは当麻を前足に抱えるように乗せてその背中にインデックスを乗せてあげる

 

「頼んだよ」

 

ゴウラムの頭を撫でてそう呟いた

それに答えるように赤い目を輝かせ、ゴウラムはゆっくりと浮上し再び羽を羽ばたかせた

 

その場に残ったのは、クウガと神裂のみ

 

ヒュウ、と誰もいないその場に風が吹きすさぶ

先に動いたのは神裂だった

 

「貴方がステイルが言っていた古代の戦士、クウガですね。変身者の調べはついています、鏡祢アラタ」

 

問われたクウガは振り向きながらその変身を解く

現れたのはどこにでもいるようなごく普通の少年だった

目の前の少年はその辺のコンビニを見つけると、そのゴミ箱に拳銃を捨てた

よく見るとその拳銃は玩具だった

捨てた後少年は向き直り

 

「ご明察。…もう調べられてるとはね。流石」

「…彼の敵討ちですか」

「普通ならそうしたほうがいいんだけど。…貴女には聞きたいことがある」

 

そう言って彼は神裂の顔を見る

その瞳に敵意はなく、まっすぐな瞳だった

先に見た、少年のような

 

「…なんです? 聞きたいこととは」

「わかってるくせに。…インデックスの事だ」

 

 

「こちらからも一つ聞きたいのですが」

 

適当に公園に場所を移し、唐突に神裂が問うてきた

 

「その、ステイルはどうしたのですか?」

「あぁ。案外あっさり引いてくれたよ?」

 

あの問いかけの後、バーコードはふん、と息を吐いてメダルを回収し、どこかへ去って行った

インデックスを見る目つきはどことなく感情があったようにも見えたがそんな事はどうでもいい

 

「まずアンタたちとインデックスの関係は? 見たところただの敵味方には見えないんだが」

「…そうですね。私とステイル、そして彼女は本来、同じ所属…必要悪の協会(ネセサリウス)なんです。…インデックスは私の同僚で、大切な親友なんですよ」

 

最初にこう聞いた時嘘をついているのではないか、とも思った

しかし彼女の表情は真剣そのものだし、声色も少なからず震えていた

だからそれが嘘であることはないだろう

 

「貴方は、〝完全記憶能力〟という言葉に聞き覚えはありますか」

「それが十万三千冊の正体なんだっけか。…とてもそうは見えないが」

「貴方には、インデックスがどんなふうに見えますか?」

 

どんなふうに見えますか、と聞かれても

触れ合った期間は恐ろしく短いからそう詳細に彼女を評価することは出来ない

それでも見た感じのままの言葉を連ねてく

 

「そうだな。…普通の女の子にしか見えないけど、それでもアンタらの攻撃から逃げるんだからある種の天才なのかもな」

「…ええ。彼女は紛れもなく天才です。扱い方を間違えば天災ともなるレベルの。協会がまともに取り扱わない理由(わけ)は明白です。…怖いんですよ、彼女が」

 

まるで道具のように彼女を扱うその言い方に少々ながら苛立ちが募ったが、それを何とか抑え込める

 

「…じゃあなんでアンタは彼女の敵であり続ける? 友達なのになんでインデックスは二人を敵だと認識してるんだ?」

「それは―――彼女が何も覚えていないからです」

 

何も覚えていない?

それは一体どういう事なのか

 

「―――どうして何も覚えていないのさ。忘れてしまったとでもいうのかよ」

 

だからシンプルにそう問いかける

その問いかけに神裂はゆっくりと首を振って

 

「私たちが、消しました。…そうしなければ、彼女が死んでしまうから」

 

空気が凍りついた

あまりにも自然に口にしたその言葉を一瞬聞き逃すところだった

 

「…穏やかじゃないな。どういうことだ?」

「言葉通りの意味ですよ。彼女の脳の八十五パーセントは十万三千冊に使用されているんです。ですから、彼女はその残りの十五パーセント分しか脳を使えません。でなければ、彼女の脳がパンクしてしまうんです」

 

嘘を言っているようにはとてもじゃないが見えない

つまり、本当に?

 

「人の脳のスペックは案外小さいものなのです。それでも百年単位で動かせるのは、いらない記憶を忘れて、頭を整理しているからです」

 

完全記憶能力は一度見たものを忘れない事

街を歩けば人の顔を覚え、書店に入れば何気なく見たどうでもいい本のタイトルでさえ完璧に覚えてしまう

つまり彼女は自ら忘れることが出来ないのだ

 

「彼女は忘れることが出来ないんです。それこそ本当にどうでもいいゴミみたいな記憶でさえ完璧に記憶してしまう彼女が生きるには、誰かの力を借りて忘れる以外に道はないんです」

 

…本当にぶっ飛んだものに関わってしまった

彼女を襲ってくるものを撃退して、当麻と笑い合って彼女の無事を喜び合う

そんなものは儚すぎる幻想だったのだ

 

「…あの子の脳が持つのはあとどれくらいなんだ?」

「あと三日が限界です。…遅すぎても早すぎてもいけません、ちょうどでなければいけないんです」

 

それが真実なら、あのバーコードも初めはインデックスの友達だったという事になる

しかし今は彼女の敵

あの仮面の下にどれほどの決意を秘めているのか想像もできない

 

「…私たちだって頑張った。頑張ったんですよ…春も秋もいつの日も笑い合って、忘れないようにと日記やアルバムを胸に抱かせても、ダメだった」

 

表情から読み取ることが出来るのは例えようもない悲しみと虚無感

春夏秋冬、毎日を忘れないように過ごし、笑い合ってきた

記憶に残せないならせめて記録にして残すことにして、それを見せることで断片くらいなら―――

それでも、ダメだった

 

「もう、耐えられなかった。私たちに彼女の笑顔をこれ以上見るなんて、不可能です…」

 

だから二人は敵になった

失う記憶がなければ悲しみも軽減される

そのために、親友を捨てた

 

「…なるほど。だいたいわかった」

 

インデックスが抱えているものも、この二人の想いも

 

「もしよろしかったらで構いません。…貴方から、彼を説得してもらえれば」

「…まぁ、考えておく」

 

そう曖昧に返事をしてアラタはその場を後にする

その足は一直線にある場所へ向かっていた

魔術関連で相談できるのは、あの人しかいないからだ

 

◇◇◇

 

伽藍の堂

蒼崎橙子の仕事場にて

 

「…っていう話を聞いたんだけど」

 

先ほどの事のあらましを蒼崎橙子に話していた

対する橙子は煙草を吸いながら「ふむ」と短く息を吐き

 

「それはおかしいな」

 

といきなり否定するような言葉を彼女は漏らした

どういう事だろうか、と素直にその疑問を口にすると彼女は

 

「ならなんで彼女は今生きているんだ」

 

「…は?」

 

言ってる意味が分からなかった

まるでその口ぶりはもう死んでいなければおかしい、とでも言っているようではないか

 

「百分の八十五が魔導書で埋め尽くされている、と言っていたなその女は。ならその子は六~七歳で死んでいることになるぞ」

 

一瞬何を言っているか理解できなかった、がしかしすぐにあっ、と言葉を口にする

確かに神裂は八十五と、そう言った

しかしどうやってその数字を叩きだしたのだろうか

数学にでも強ければ仮定として導き出すことが出来そうだが

 

「完全記憶能力なんて世界を捜せば結構いる。それでもそんな病みたいなのがあれば流石に耳に入ってくると思うが」

 

「確かに、そんなもんが実在するならニュースにでもなってそうだ…」

 

アラタの呟きを聞くと橙子は興味を失くしたように煙草を携帯灰皿にブチ込むと徐にコーヒーを淹れるべく席を立った

 

「人間の脳はそんな脆いもんじゃない。仮にそれがあるとしたら、本当に彼女はそういった体質か、教会が何らかの細工をしたかのどちらかだな」

 

こぽこぽ、とカップにコーヒーを注ぎながら橙子は言葉を続ける

その後ろ姿を、なんとなくカッコいいと思ってしまった

 

「私が教会側だったら迷わず後者を選択する。聞き分けのいい駒を手放すわけないからね。ありもしない嘘でも吹き込んで縛り付けるだろうさ」

 

橙子のその言葉で合点がいった

恐らく、神裂たちは騙されている可能性が高い

しかしそれでもまだ憶測の域を出ない故、断定はできないが、確率は高いはずだ

 

「細かい事はお前が調べろ。ここは学園都市だ、脳医学に関する本なら山ほどあるだろう?」

「あぁ。…いろいろあんがとな燈子、希望が見えた」

 

これを確定させるためには自分は少々脳医学について調べなければならない

説得? 違う、これは当麻を後押しするためだ

まだ希望はあるんだから

 

 

翌日、アラタはとあるオープンテラスのテーブルに腰掛けていた

目的は一つ、操祈に頼んだものを受け取るためである

正直言って彼女から手を借りるには気が引けた、というか案の定見返りを求められた

 

「…はぁ」

 

頼んでおいてなんだがため息が出た

…やっぱり美琴に頼むべきだったろうか

 

「お待たせぇ」

 

一人うんうん唸ってると甘ったるい語尾と共に一人の金髪美女が現れる

履いているストッキングはどこか蜘蛛の巣を連想させ、瞳の中にある星をパチクリさせながら彼女はやってきた

 

「はい、とりあえず私が見た限りで最も詳しい脳医学の本をいくつかチョイスしてみたわぁ」

 

そう言いながら結構なページ数のある本がドサ、と置かれる

最低でも五百~七百くらいはありそうだ

その量の多さに顔が引きつる

 

「それでぇ、忘れてない? 私との約束」

「忘れてないよ。…出かけるんだっけ?」

 

彼女から求められた見返りは、一緒に出掛ける事

日時は後に改めて彼女の方から決めるとの事らしい

 

「それはそれとして急にどうしたの? 学者にでもなるつもりぃ?」

「残念だがなる気はない。とにかく今日はありがとう、さっそく読ませてもらう」

 

短く感謝を述べながらテーブルの上にある脳医学の本を持ってきたカバンに入れながらアラタは席を立つ

この量は今から読み進めないと多分やばい(時間が)

急がなければ、と心の中で急かしながら席を離れた

 

 

「…なんだったのかしらぁ?」

 

急ぎ足で走るアラタの背中を見ながら食蜂はポカンと眺めていた

最初脳医学の本を持ってきてくれるように頼まれた時は何事かと思った

それでいて聞いてもみても学者になどなる気はゼロのようだしますます訳が分からない

 

「…また厄介事にでも巻き込まれてるのかしらねぇ?」

 

当たらずとも遠からず

せっせと走る彼の後姿を見て彼女ははふぅ、と息を吐いた

 

 

ふと、目が覚めた

だいぶ読みふけったと思う

寝る時間を削って読みふけった結果、ようやくその確証ともいうべき情報を見つけた

…ていうかこういう書物ってどうしてこんなに分厚いのか

せめて上、下巻くらいに分けてさえくれれば少しは読みやすいのだが

 

とりあえず乾いた喉を潤そうと一度その場から立ち上がり水道へと歩みを進める

適当にコップを手に取り、蛇口をひねって水を淹れながら

 

「…そういえば今何時だ?」

 

何の気なしに呟いて、ハッとした

 

 

 

あれ? 何日経ったっけ?

 

 

 

落ち着こう、確かこれを読みだしたのは確か一昨日だったから…え、とその時はあまりにも膨大な量に悪戦苦闘していて、本格的にページが進んだのは昨日で、その途中黒子からの連絡で風紀委員の仕事が入って帰ってきたのは夕刻でまた読んで、その時に確証となるページを見つけてそれから気が緩んで寝てしまってさっき起きて…

 

恐る恐る時計を見る

 

そこには無情にも零時を指す時計の針

 

「…やばい」

 

そこで悟る

 

もう三日経ってた

 

◇◇◇

 

「十分間だ! いいなっ!!」

 

アラタが小萌先生のアパートについたときに聞こえたのはそんなバーコード神父、ステイルの声だった

傍らには神裂の姿も見え、二人はカンカンと階段から降りてくるところだ

そしてばっちり二人と目があった

先に口を開いたのはステイルだ

 

「…なんだ、君も彼女に別れを告げに来たのか」

「別れだぁ? 違うね、俺はあいつらを助けに来たんだよ」

 

助ける、なんて言葉を耳にしたとき心の底からステイルは不服そうな表情をした

まるでこちらを侮蔑するかのような視線のあと

 

「まだそんな事をいっているのか異常者が。君もなかなかに物覚えが悪いな」

「あいにく人間なんでな。諦めが悪いのが短所であり長所だよ」

 

いずれにせよ、ようやく掴んだ希望なんだ

ここでそれを当麻に伝えないと、多分一生後悔する

そしてステイルの横を通り過ぎようとしたその時、神裂の声が耳に入った

 

「鏡祢アラタ」

 

「? …なんだい神裂さん。先に行っておくけど止めても無駄だぜ?」

 

「えぇ。それはわかっています…願わくば、最後に素敵な悪あがきを」

 

短くそう伝えて神裂は視線を戻す

上等だ

みっともなく足掻いて、それでだめならすっぱり諦める

アラタにもう迷いはなかった

 

急いで階段を駆け上がって小萌先生の部屋のドアを開ける

ドアを開けて最初に目に入ってきたのはインデックスのそばで項垂れる上条当麻の姿だった

インデックスは横たわっており、苦しそうに息をしている

 

「…当麻」

「―――俺ってさ、結局何にもできねぇのかな」

 

言いながら彼はゆっくりとこちらを見た

その眼には光こそ宿しているものの、絶望の陰りが見えた

いけない、心が折れかけている

 

「神様の奇跡だって壊せるのに、目の前の苦しんでる女の子一人さえ助けることが出来ないなんてさ…」

 

自嘲気味に笑う目の前の男に僅かばかり苛立ちを感じた

今、インデックスが手を伸ばしているのに、この男は掴まないつもりなのか

 

「…おい、当麻」

 

アラタの声を聞いて当麻が顔を上げる

ハテナマークでも浮かんでそうな表情をする友人に言葉を続ける

 

「一個聞く。お前、インデックスの容体はもう知ってるよな」

「あ、あぁ。記憶を消さないと生きていけないことや、十万三千冊が脳の八十五パーセントを占めてるってことも、神裂って人から聞いたけど…」

 

「その八十五パーセントって数字は、どこから聞いたんだ、あの人は」

 

「え? …あれ?」

 

そこまで言ってようやく当麻も言葉の違和感を感じ取った

そもそも八十五なんて数字がおかしいのだ

インデックス以外に完全記憶能力者なんてものがいたとしても、その人たちは魔術などで記憶の消去を行わない

それでも十五パーセントで一年単位でしか記憶できないなら、世の中の完全記憶能力者は橙子が言っていたように本当に六~七歳で死んでしまう計算になる

 

「たぶん神裂さんは脳医学については詳しくないと思う。だから上司から言われた言葉をそのまま受け入れていると思うんだ」

「そうか…! 友達がそんなことになってりゃ、信じるしかないもんな…」

 

その場で考えるようなしぐさを当麻は見せる

そしてふと思い立ってようにアラタへ言葉を投げかけた

 

「そもそも完全記憶能力って、本当にそんなもんなのか? 一年で十五パーセントも脳を使うもんなのか?」

 

「いや。俺も気になって調べてみたんだ。そして、そんな訳ないって結論が出た」

 

アラタは一言で切り捨てる

そして常盤台の脳医学本で得た知識をフル動員して答えていく

 

「別にそんなもんで脳がパンクするなんてありえないんだよ、人の脳は本来、百四十年分の記憶が可能なんだから」

 

記憶というのは一つだけではない

 

言葉や知識を司る〝意味記憶〟

運動の慣れや間隔を司る〝手続記憶〟

思い出を司る〝エピソード記憶〟

 

これらは現実で例えるなら容器だ

燃えるゴミ、燃えないゴミみたいなものだ

入れる容器が違うのだから、それで圧迫されるなんてありえないのだ

 

「…え、と。つまり…」

「早い話、どんなに本を記憶して意味記憶を増やしても、それだけでエピソード記憶がパンクするなんてことは、脳医学的に考えてあり得ないんだ」

 

その言葉を聞いた当麻は頭に冷水をかけられたような気分になった

その真実が何を意味しているのか、それは明白だ

 

教会が神裂たちに嘘をついていたことになる

彼女の能力は、命を脅かすものではなかったんだ

 

「けど待ってくれ、なんでもともと何もしなくていいはずのインデックスにそんな一年置きに記憶を消さないと死ぬって嘘をついたんだ? …目の前で苦しんでるこいつを見ても、とても嘘には見えねぇんだけど…」

 

「…たぶん、縛り付けておきたかったんじゃないか」

 

「え?」

 

「考えてもみろよ、インデックス(この娘)は十万三千冊もの魔導書を記憶してんだろ? もし彼女が何もしなくても大丈夫な体だったらどこに行くか分からない。…だから」

 

「一年ごとのメンテナンスを受けないと生きていけないっていう、首輪を括り付けた…?」

 

考えられる結論はおそらくそれだろう

教会は何が何でもインデックスを手中に収めておきたかったのだ

そこから導き出される答えは一つ

 

 

問題なかった彼女の頭に、何か魔術的な細工を施した

 

 

「…そっか、そう考えれば妙に納得がいく。…教会に頼んないといけないようにしたんだな」

「あぁ、そしておそらく、彼女のどこかにそれが刻まれてるはずだ。人目につかない場所、喉とか」

 

人間の喉は直線距離ならもっとも脳に近い場所

同時に最も人の眼に触れない部分

アラタの言葉を聞いた当麻は意を決してインデックスに近寄って「…ごめん」と短く謝ってから彼女の口に自分の右手の指を入れた

もしこれで違っていたなら完全に詰みだ

合っていてくれ、と心の中で願いながら当麻を見守る、そして

 

 

バギンっ、と当麻の右手が勢いよく後ろへ吹き飛ばされた

同時に鮮血の球が飛び散り、上条の右手から血が零れ落ちる

 

 

「当麻!!」

 

 

何が起こったか理解できない

アラタはとりあえず名を叫び、彼の隣へと移動する

当麻を支えながら、ふとインデックスを見た

倒れていたはずの彼女は両目を開き、眼は赤く光っている

その眼球の奥に、朱い魔方陣のようなものは確認できた

 

(やべっ!!)

 

本能で危機を理解する

衝撃が身体を襲う前に、アラタは当麻を抱え、右後方へ飛んだ

衝撃は真っ直ぐ飛び直線状にあった本棚へとぶつかり、破壊される

 

「…当麻、立てるか」

「あぁ、問題ねぇ」

 

右手の調子を軽く確かめつつ、当麻は目の前のインデックスを視る

 

「―――警告。第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum―――禁書目録の〝首輪〟、第一から第三までの結界の貫通を確認。再生、失敗。自己再生は不可能。現状、十万三千冊の〝書庫〟保護のため、侵入者の迎撃を最優先します」

 

のろのろとまるで軟体生物のような動きでインデックスが立ちあがる

両目には真紅のような赤い瞳が写っている

 

「…そういや一つだけ聞いてなかったな、なんでお前に魔力がないのかってこと」

 

拳を握りしめながら小さく当麻が口の中で呟いた

…恐らく理由としてはこれだろう

彼に誰かが秘密を知り、無理矢理に首輪を外そうとした場合、彼女は自動的にその十万三千冊を駆り、最強ともいえる魔術を行使しその口を封じる

彼女の魔力はすべてその迎撃システムの方に回ってしまっているのだろう

 

「侵入者に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより、聖ジョージの聖域を発動、対象を破壊します」

 

バギン、と音を立て彼女の両目にある魔法陣が大きくなる

唐突に彼女の背の空間に亀裂が走り、何かが這い出ようとしている

だが怖いという感情はない

 

早い話そいつを倒すことが出来れば、彼女を救えることが出来る

しかしそれをなすことが出来るのはいくらなんでも自分では無理だ

隣にいる、当麻の右手以外には

 

「出来うる限りサポートする、行けるか当麻」

「当たり前だ! ここまで来て、退けるかってんだ!!」

 

そう言って当麻はじりじりとインデックスへと接近する

サポートすると言ってもこのまま行けば当麻が彼女の術式を破壊して終わり、だといいのだが

そう問屋が卸さないというのが世の摂理である

 

不意にべギリ、と亀裂が一気に広がって、そこから何かが覗き

 

 

ゴウッ! とその亀裂の奥から光の柱が襲い掛かる

 

 

瞬間当麻は右手を前に突き出し、その柱を防ごうと試みるが、そのすべてを消し去れない

消しても消しても湧き上がるのだ

 

僅かずつではあるが当麻の方へと近づいているのだ

 

何かないか、とアラタは部屋の周囲を見渡した

と、部屋の隅に破り捨てられた先月のカレンダーがあった

…これを丸めれば剣の代わりになるだろうか

いや、考えている暇はない

アラタはそれを手に取り、軽く丸める

すると子供たちがチャンバラにで使うような紙の剣が完成した

 

「…ええい! ままよ! 変身!」

 

言葉と共に紫のクウガへと変身し、手に持つ紙をタイタンソードへと変化させた

案外いけるものだな、と納得しているとき、当麻を見やり、そして事態を思い出す

クウガは急いで当麻へと接近し、自らを襲ってくる波動を受け止めた

こちらへ波動を放ったからか、当麻の方に向けられている光の柱の出力が落ちた気がする

 

「悪ぃアラタ! 少し楽になった!」

「気にすんな! 困ったときはお互い様だ!」

 

しかしそれでも状況は変わらない

と、そんな時勢いよく階段を走る足音が聞こえてきた

自体に今更気づいたのか、と文句を言いたくなるがそんなのぶっちゃけどうでもいい

そして勢いよくドアが開かれた

 

「何をしてる! この期に及んでまだ―――!!」

 

叫びかけたステイルは言葉の途中で息を詰まらせた

同様に神裂も光の柱を放つインデックスを見て絶句した

 

「ど、竜王の殺息(ドラゴンブレス)!? いえ、そもそもなんであの子は魔術を使ってるんですか!」

 

「見たままだ! あんた等は教会の奴らに騙されてんだよ! 教会の奴らがなんか仕掛けたんだ!」

 

自分に向けられた波動を防ぎながらクウガが叫んだ

今まで自分たちがやってきたことはすべて仕組まれたものだったんだ、と

 

「考えてもみろよ!」

 

光の柱を受け止めている当麻が振り返らずに叫んだ

 

「禁書目録なんて残酷なシステム作った奴らが馬鹿正直に真実話すと思ってんのか! 何ならいっそ目の前のインデックスに聞いてみろよ!」

 

ステイルと神裂は亀裂のその先にいる、彼女(インデックス)を見る

二人の視線の先には、ロボットみたいに声を出す彼女の姿

 

「―――聖ジョージの聖域に効果は見られません。術式を切り替え、〝首輪〟保護のための侵入者の破壊を継続します」

 

それは間違いなく二人が知らない彼女の姿

それは間違いなく教会が教えなかった彼女の姿

 

「…!」

 

ステイルは少しだけ歯を噛みしめる

奥歯が抜けるほどの力を込めて噛みしめて

 

「―――Fortis931」

 

漆黒の服の内から幾枚ものカードがばら撒かれる

ルーンが刻まれたそのカードはあっという間に部屋の壁や天井を埋め尽くす

それはすべて当麻の為ではない

たった一人の女の子を助けるために、ステイルは彼の背中へと手を突きつけた

 

「曖昧な可能性なんていらない。記憶を消せば〝とりあえず〟彼女を救うことが出来る。そのためならだれでも殺す。なんでも壊す! そう決めたんだ! ずっと前に!」

 

ある単語を聞き、当麻の足に力がこもる

 

「とりあえず、だぁ!?」

 

当麻は振り返る事なく言葉を続ける

 

「ふざけんな! そんな事なんかどうでもいい!! ただ一つだけ答えろ!!」

 

当麻は大きく息を吸って

 

 

「―――テメェらは! インデックスを助けたくないのかよ!!」

 

 

二人の吐息が止まる

隣のクウガは仮面の下で小さく笑みを浮かべる

 

「ずっと待ってたんだろ! 待ち焦がれてたんだろ! 記憶を奪わなくても済む、敵にならなくても済む、誰もが笑って望む最高なハッピーエンドを!」

 

光の柱を抑える彼の右手からグキリ、と嫌な音がクウガの耳に届いた

ふと見ると彼の小指が折れている

 

「ずっと主人公になりたかったんだろ! 絵本や漫画、小説みたいに命を懸けても一人の女の子を守る、そんな魔術師になりたかったんだろ! 少しくらい長い序章(プロローグ)で諦めてんじゃねぇ! 絶望してんじゃねぇよ!!」

 

絶対に諦めないその背中に、二人の魔術師は何を見たのか

最後に当麻は叫んだ

 

「手を伸ばせば届くんだ! いい加減始めようぜ!! 魔術師!!」

 

その言葉の直後、クウガが受け止めていた波動が少しだけ弱くなり、同様に当麻が受け止めていた光の柱が強くなる

唐突に力を強くした光の柱はついに当麻の右手を弾いた

 

「まずい!!」

 

流石にクウガにあんな光を受け止めるほどの力はない

無防備になった当麻の顔面に光の柱が襲い掛かり

 

 

 

「―――Salvare000ッ!!」

 

 

ぶつかる直後に神裂の言葉を聞いた

それは日本語ではなく、彼女の魔法名

彼女が持つ二メートル近い日本刀が大気を裂く

七本の銅糸を用いる七閃がインデックスの足元の畳を斬り裂いた

不意に足場を失ったインデックスは後ろへ倒れ込む

彼女の眼に連動していた魔法陣は動き、本来当麻を裂くはずだった柱は天井を斬り裂く

否、それは天井はおろかはるか空にある雲さえも斬り裂いた

もしかしたら大気圏外の人工衛星までも斬り裂いたかもしれない

裂かれた壁や天井は木片すら残さず、その代わりに破壊された部分は光の羽となってはらはらと雪のように舞い落ちる

 

「それは〝竜王の吐息〟―――伝説の聖ジョージのドラゴンの一撃と同等の力を有しています。いかなる力を持っていても、まとも取り合おうと考えてはなりません!」

 

彼女の言葉を聞きながら光の柱の束縛から解放された当麻は一気に接近する

しかしそれより先にインデックスが首を動かした

大きな剣を振り下ろすかのようにその光の柱が振るわれた

当麻を捉えるその一瞬

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

現れた大きな人を形作る火炎は真正面からその光の盾になった

 

「行け! 能力者!」

 

ステイルが叫ぶ

 

「もともと彼女の期限は過ぎている! 成し遂げたいなら時間を稼ごうとするな!」

 

当麻はその声に答えることもなく、振り返る事もしなかった

ステイル自身がそれを願ったから

その言葉の真意をくみ取り、理解したから

彼は右手を握り、走る

 

「警告―――戦闘思考変更。現状、最も難度の高い強敵、〝上条当麻〟の破壊を最優先とします」

 

ブン、と光の柱ごと首を動かした

それに合わせて魔女狩りの王も動いて彼の盾にな理、それは互いに打ち消しあいを始めた

 

当麻は無防備となったインデックスへと直進した

確実に距離を詰めていき―――

 

「いけません! 上!」

 

引き裂くような神裂の声

思わず足を止めないで上を見て確認しようとした当麻を

 

「そのまま行け!」

 

クウガの言葉がそれを止めさせた

そして当麻の頭上を凪ぐようにクウガが手に持つ〝ロッド〟を振るった

いつの間にかクウガは青へとその姿を変えており、剣も棒に変化していた

 

「立ち止まるな当麻! お前はあの娘を救う事だけ考えろ!」

 

その行動は風圧を起こし光の羽の動きを変える程度でしかないが、それでも当麻に当たるという事態だけは避けられそうだ

しかしそれでも状況はあまり変わらない

そんな状況の中でも当麻は進むことをやめない

 

「―――警告、第二十二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明、対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、〝神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)〟、完全発動まで十二秒」

 

直後白かった光の柱が血のような朱色へと変化していく

すると魔女狩りの王の再生速度が弱まっていき徐々に押され始めた

クウガの助力もあるが光の羽は減る気配はないし、いずれ態勢を立て直されるかもしれない

 

(神さま…! この世界がアンタの作ったシステムの通りに動いてるなら―――)

 

簡単な事だ

どっちを救ってどっちか倒れる、そんな簡単な話

答えなんて決まってる

この右手は、目の前の女の子を助けるためにあるんだ

 

(―――その幻想をぶち殺す―――!!)

 

振るわれた右手はいともたやすく亀裂ごと魔方陣を斬り裂いた

まるで水に濡れた紙を破くかのごとく

 

「―――警、告。最終、しょ…首、わ…再生、不可…消」

 

プツンとラジオみたいにインデックスの声が消えた

柱も消え失せ、部屋の亀裂も消えていく

クウガは安堵し、ロッドをその辺に頬り捨て手をだらりとぶら下げて何気なく当麻を見て気づいた

 

彼の頭上に、ひらりと舞い降りる一枚の光の羽に

 

「と―――」

 

もう遅かった

名前を呼んだ時には遅く、当麻の頭上にはその光の羽が舞い降りた

 

触れられたとき一度ビクンと震えたのちに、倒れているインデックスを庇うようにどさりと倒れ伏した

まるで今も舞う光の羽から彼女を守るように

 

当麻はそれでも笑っていた

笑ってはいるが、彼の指が動くことはなかった

 

この日、この時、この夜に

 

彼は、上条当麻は〝死んだ〟

 

◇◇◇

 

鏡祢アラタは一人病室の前にいた

先ほどその病室に入って行ったインデックスを見送って彼女を待った

しばらくしてそのドアから勢いよく飛び出してきたインデックスを見た

彼女は泣いていた

その涙は悲しみから来ることによる涙ではなく、喜びから来る涙だった

その証拠に彼女の顔は本当に嬉しそうに笑っていた

走って行くインデックスをまた見送って、アラタは当麻が待つ病室へと入る

 

「…何があった」

 

なんか知らんが当麻は上半身だけベッドからずり落ちており、頭を押さえて若干涙目になっていた

…これはまた、派手にやらかしたな

 

「…あれで、よかったのか?」

 

問いかけるようにアラタは聞く

それに答えて「なにがだ?」と聞き返す

 

「お前、何にも覚えてないんだろ」

 

当麻が受けたのは記憶破壊、というもの

記憶破壊という名称自体はカエル顔の医者が決めたものだが言いえて妙だと思う

思い出を忘れたわけでなく、物理的に脳細胞ごと壊された―――

それはどうやっても治せるものではなかった

 

聞かれて当麻は黙り込む

先にインデックスに一人で入らせたのはこういった話を聞かせないためだ

そしてそのインデックスに当麻は優しい嘘をついた

ただそれだけの事

 

「…けど、それでよかったじゃんか」

 

目の前の少年は言う

 

「俺さ、なんでかわかんねぇけど…あの子には笑顔でいてほしかったんだ。確かにそう思えた。これがどんな感情かはわからないし、二度と思い出すこともないんだけど、さ。確かにそう思うことが出来たんだよ」

 

そう言って目の前の友人は笑った

それに釣られてアラタも思わず笑ってしまう

それと同時にひどく心が締め付けられる

当麻の顔はまるで鏡だ、否、どっちが鏡なのかわからなくなるくらい、当麻の笑みには何にもない

悲しみも、寂しさも感じることもできないくらいに

 

「それにさ、あんたとも初めて会った気がしないんだ。なんでかわかんないけど…俺の心が、そう言ってる」

 

当麻らしい、とアラタは思った

けどだからこそ、どうしてあの時もっと早く気付いてやれなかったんだと自分を殴りたくなる

気づくのが早かったら、もっと普通にインデックスと触れ合えたはずなのに

 

「…ごめんな」

 

気づいたら小さくアラタは言葉を漏らしていた

その呟きは幸いにも当麻に聞こえていなかったのが救いか

 

「なぁ、もしよかったら、俺とあんたの…鏡祢アラタとの関係ってやつを聞いておきたいんだ」

 

「関係? …別にホモォな関係ではないぞ?」

「ぜひそうであってほしいな万が一そうだったら反応に困るわ!」

 

当麻はこんなくだらない冗談にも付き合ってくれた

そしてアラタは確信する

俺と当麻の関係は変わらない

 

記憶があっても、なくても変わらない

 

これまでも、これからも

 

「冗談だ相棒。…俺たちは親友だ」

 

そう言って鏡祢アラタは彼に向かって手を差し伸べる

手を差し伸べられた当麻は笑みを浮かべ、彼の手を握った

二人の手が強く結ばれて、何気なく当麻が言った

 

「…案外、俺は覚えてんのかもしんねぇな」

「そっか。…あえて聞くけど、それはどこに残ってんだ?」

 

鏡祢アラタの問いかけに、上条当麻は答える

 

 

 

「決まってるじゃねぇか。―――心に、だよ」

 

 

 



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#13 水着とカレーと思い出と

いろいろカオス

割と前に言いましたが食蜂に大幅な改変アリです

こんな出来ではありますがどうかお付き合いください

お気に入り登録もありがとうございます

では#13、どうぞ


夢を見た

 

吹雪の中の視界に見えるのは二人の人影

一人は白かった

かろうじて人間だとわかったが、その表情は吹雪にかき消され、見ることは叶わなかった

 

一人は黒かった

その姿は自分の変身した姿に似ている、というかそっくりだ

しかし放つその威圧感に足が止まる

 

「なれたんだね」

 

白い人影が言った

 

「究極の力を、持つ者に」

 

黒い人影がピクリ、と反応する

やがて吹雪も少し止み、黒い人影の顔が見えた

そこにはいたのはクウガだった

しかし自分が知るクウガではなく、パッと見の外見は真っ黒だ

全身は黒く覆われ、手足に鋭利な刃もある

しかしその顔は、どことなく優しさを感じさせる

 

やがて白い人影もその姿を異形へと変える

一見の外見なら黒いクウガによく似ていた

だが纏っている雰囲気は、クウガのそれとはまったく違う

 

そしてゆっくりと手を黒いクウガに向けると、黒いクウガの身体がボウッ、と勢いよく燃え上がる

しかし効果は薄いのか、黒いクウガも同じように開いた手を向けると、白い怪人の身体が燃え上がった

お互い燃えている状態で歩を進め、距離を詰める

やがて二人はその炎を振り払い―――真っ向から殴り合う

 

そこからは凄まじいの一言だった

互いを殴る度に血渋きが巻き起こり、雪が積もった地面を濡らし朱へと染めていく

下手な技術などはなく、本当に純粋な―――力と力のぶつかり合い

その激闘を見ていると、息をするのも忘れそうになる

やがて黒いクウガの一撃が白い怪人の腹部にあるベルトを捉えそれを砕いた

しかしお返しと言わんばかりに白い怪人も黒いクウガのベルトに拳を叩きこみそれを砕く

 

何時しか互いの変身は解けて、そこには二人の人間がただただ殴り合っていた

 

一人は楽しそうに

暴力による痛みを愉しみながら一人は自分の笑顔の為に拳を振るう

 

一人は悲しそうに

暴力による痛みに堪えながら一人は誰かの笑顔の為に拳を振るう

 

最後に、お互いの拳がそれぞれの顔面に直撃し、血を吐いた

それっきり、二人はばったりと倒れた

 

どちらが勝ったのかは、自分にはわからなかった

 

 

ふと、目が覚めた

 

「…夢?」

 

ものすごくリアリティがあった気がする

季節は冬ではないというのに身体が寒さで一瞬震えたくらいだ

 

「…黒い、クウガ…」

 

夢の中で見たその姿が忘れられない

戦いながらその人は泣いていたのだ

その状況の中でも、黒いクウガは誰かの笑顔のために拳を握っていたのだ

偉大な人だ、とアラタは呟く

天地がひっくり返っても自分はその人を超えることなどできはしない

 

「…俺は、自分が出来る無理をしよう」

 

世界を笑顔になんてできない

だからせめて自分の友達の笑顔だけは守り抜こう

そう決意を新たにした、何気ない朝だった

 

◇◇◇

 

「…水着のモデル?」

 

制服に着替えて朝食のアンパンをかじっていた時に御坂美琴から電話を受けた

内容は率直に言って水着のモデルをやらないか、というものだった

 

<ええ。後輩の子に頼まれちゃって…他にも初春さんとか佐天さんも誘ったから、アラタも誘おうかなって>

「…いや、別に問題はないけど…。大丈夫か? 俺モデルとかやったことねぇぞ」

<私だってやったことないわよ。…けど、息抜きと思ってさ>

 

息抜き、と言われてふむぅとアラタは唸る

確かに先日エライ事を体験し(インデックスの諸々事情)て割とヘビィな出来事が続いている

これはこれでまたいい機会かもしれない

 

「わかった。参加する」

<あんがと。そんじゃ、待ち合わせ場所は―――>

 

その後待ち合わせと集合時間を決めて、短く雑談して電話を切った

そして考える

水着モデルと言えば当然ながら女性が来る

それに一人だけ男子という構図はなんか嫌だ

そう考えたアラタは一人の友人に電話をかけた

 

 

<分かった。参加させてもらおう>

 

電話の向こうで風間が答える

 

<最近休みが取れていなかったからな。ヒカリも喜ぶ>

 

「ありがとな。正直一人で女性陣の中に行くのはちょっとこそばゆいからさ」

 

いつものメンツだろうけれどそれでも水着姿を見るのはなんか恥ずかしい

別に邪な気持ちなどはまったくない

断じてない、うん

 

<気持ちは分かる。明日は俺ものんびり楽しませてもらおう>

「うし。んじゃまた明日」

 

<おう>と短く挨拶をすると風間は電話を切る

アラタも同様に通話を切ってそれを机に置き、今日は寝ようと背伸びをした直後またピリリ、と電話が鳴った

そしてディスプレイに表示された名前を見て

 

「…操祈からだ」

 

なんでだ、と思い至って思い出す

そう言えば彼女が本を持ってきてくれたお礼に自分のお出かけに付き合ってほしいという約束をしていたのだった

 

<はぁい。夜分にしっつれい、貴方のアイドル食蜂操祈ちゃんだゾ?>

「切るぞ」

<早い早い早い! もぉちょっと話してよぉ!>

 

電話の向こうでわたわたとする操祈に対してアラタは再び携帯を耳に当て

 

「夜分ってわかってるなら手短に用件を言ってくれ。寝たいんだ」

<わかってるわよぉ。…それでね、用件は明日私と出かけましょうって事なんだけど>

 

そう言われて表情を曇らせるアラタ

時間の指定も彼女がするという話だったのを忘れていた

そしてタイミングも悪い

先約があるからと言って断るのは流石に気が退ける、かといって別の日にしてもらうのも彼女に悪い

そう考えて

 

「そうだ操祈、こっちから提案があんだけど」

<? 提案?>

 

 

待ち合わせのとあるビル内部

 

『うわぁぁぁ…!!』

 

そんな初春と佐天の簡単の声が耳に届く

二人が驚くのも無理はない

実際美琴自身もこのビルの内装に驚いていたのだ

 

見かける人はいかにもなエリートサラリーマンやタイトスカートを着込んだOLなどがおり一流企業という風格が見える

 

「お友達まで読んでいただいて、ありがとうございます」

 

隣にいる泡浮万彬に美琴は笑顔を作りながら

 

「気にしないでよ、こういうのはみんなとやった方が楽しいし」

 

少数でするより大勢でワイワイやった方が楽しいと美琴は感じている

対戦ゲームを一人でやるより二人で実際に戦った方が楽しいのと多分同じだ

 

「でもいいんですか? 私たちが水着のモデルなんて」

 

「大丈夫ですわ。どんな幼児体型でも科学の力でチョチョッと解決ですの」

 

「はうっ! ヒドイです白井さん…!」

 

初春にそう黒子がバッサリ答える

幼児体型、と聞いて美琴は自分のある一点に視線を落とす

…いや、少しはあるはずだ、うん

それに黒子も似たような体形ではないのか、と突っ込もうとしたがなんとなくやめておいた

 

「お待たせしましたー」

 

そんな時横合いから一人の女性が歩いてきていた

担当メーカーさんである

 

「今日はよろしくお願いします。…あれ、まだ何人か来て…」

 

「? お兄様なら遅れて―――」

 

 

「―――まぁ、白井さん」

 

 

「ぬがっ。…この声は」

 

黒子が若干ながら顔を歪ませ、声の方を見る

釣られて美琴や初春、佐天、泡浮、湾内が視線を動かし

 

「なぁ!?」

 

美琴も同様に声を荒げた

いや、黒子の時よりひどいかもしれない

 

「あらあら大勢いますわね? 社会科見学か何かかしら?」

 

「婚后光子…」

 

名前を言われた婚后がなぜだか着物を着込んでおり、手には扇子を持っている

その隣にいるのはアラタや黒子の同僚で先輩でもある固法もいる

しかし問題なのはそこではない

 

「なんだ。皆来てたのか」

 

その隣にいる風間大介とその相棒ヒカリ、そしてその隣にいる鏡祢アラタ…

そこまでは別に問題ない、許容範囲だ

しかしその隣は、まったく予想出来ない存在だった

というか、なんでそこにいるのかが分からなかった

 

「食蜂…!?」

 

常盤台の女王様で知られるあの食蜂操祈がアラタの隣にいたのだ

 

「悪い美琴、遅れた」

「あらぁ、御坂さんもいらしたのぉ?」

 

甘ったるい語尾に美琴は「え、えぇ」と狼狽える

正直に言って美琴は食蜂操祈という人間が苦手なのだ

派閥とかそういうのがどうでもいい美琴は女王様というキャラな操祈はどうも気が合わない

…しかし最近の食蜂からはそう言った噂を聞かない

現に初春や佐天らとなじんでいるし、たまに見かけたときにいつも肩からかけているバッグが見当たらなかった

 

「てか、まっさか固法もいたとはねぇ?」

「通ってるジムの先輩に頼まれてちゃって。私もまさかアラタがいるなんて思わなかったわ」

 

訝しむ美琴の視線に気づくことなくアラタは自然に固法と会話し始めた

 

「美琴から誘われてね。…ま、場違いだとは思うけどさ」

 

「そんなことないですよ。男性用水着もちゃんとございますから、エンジョイしてください」

 

担当メーカーの言葉に軽く安堵する

今日は珍しく水遊びが出来そうだ

 

「さっ、各々の自己紹介も終わったことですし、参りましょう」

 

バッと扇子を広げて婚后が担当さんと共に歩き出す

最初から最後まで黒子の婚后を見る目がジト目だったが気にしないことにする

 

「…ところで白井さん、あの人お知り合いなんですか?」

しかし初春が聞いてしまった

 

その問いに黒子はうなだれながら

 

「…知り合いたくはなかったでしたけどね…」

 

◇◇◇

 

担当さんによってそれぞれ試着室へと案内された

当然ながら男女別々である

 

「どれでもお好きなのをお選びください」

 

そう言って担当さんは席を外す

改めて男子水着部屋を見回すがなかなかの種類を揃えており、短パンのような水着と言えど抵抗が違ったり、普通に私服としても使用できそうなほどのクオリティを誇っているのだ

 

「…風間、お前はどんなの着るんだ?」

「別に。普通に水で遊べれば問題ないだろう」

「いや、それはそうなんだけどさ」

 

そんなやり取りのあと風間は適当に水着を吟味してから一枚を手に取り試着室へと入っていく

決めるの早、などと思いながらアラタも一枚一枚水着を見ていく

 

「…こんなんでいいか」

 

結果アラタが手にしたのはシンプルなデザインの短パンタイプ水着だった

それに水の抵抗が少ないTシャツを着こみ、上から半袖を羽織る

そして鏡を見て一言

 

「…あれ、これプール場とかにいる監視員じゃね?」

 

笛でもあれば完璧だ

しかしあったものなんだから問題はないと思うのだ

だって好きなの選んでいいって言ってたし

 

「…お前、バイトでもするのか」

 

同じタイミングで着替え終えた風間も似たようなそうでないような感想を口にする

苦笑いと共に振り返ると、そこにはどういうことか全身タイプのぴっちりした競泳水着を着た友人、風間大介が立っておられました

 

「…なんだ?」

「い、いや」

 

てっきり普通の水着かと思ったら競泳水着とは思わなんだ

…相変わらず予想の斜め上を行く男だこいつは

 

「…今なんか失礼な事考えてなかったか」

 

「いいや。考えてないって」

 

 

その後、担当さんの後ろをついていくとやがて広い空間へとたどり着いた

部屋を一言で表すならただただ広い部屋、である

 

部屋の中には今のところ男性陣(つまり二人)しかおらず女性陣はまだ来ていなかった

特にすることもないので二人で雑談でもしながら待っていると再び担当さんが戻ってきた

今度は着替え終わった女性陣も一緒だ

んで、開口一番

 

「…ぶっ!ちょ、大介!! なんてもん着てんのよ…! ぷぷっ!」

 

ヒカリがおもっくそ笑い始めた

まぁ普段の風間を知るものならこんな水着を着込むなど思いもしなかっただろう

事実、ほかのメンツも苦笑いである

 

ちなみに初春は花柄のワンピースに、美琴はシンプルなスク水タイプ(別にスク水ではない)、泡浮も美琴のと似た感じであり、青い模様が可愛らしい

佐天はビキニタイプだが腰から右足にかけてパレオと呼ばれる布を巻いている

身体のラインがはっきりと出ており、色気がある

…佐天に限らず、この場の女の子はほんのちょっと前まで小学生なんですよね、と考える思考を放棄した

んで黒子は…ぶっちゃけ一言で言うなればエロいである

しかしそれはスタイルが良い女性が着ればの話であり、ぺったんな黒子が来てもただの変態としてしか見れない

…まぁそれはそれで失礼なわけだが

 

「…つか水着でも変態って…。ブレないなお前は」

「まぁ。それは褒め言葉と受け止めておきますわお兄様」

 

今日も黒子は平行運転

苦笑いを浮かべ今度は固法へと視線を移す

まず一番最初に目に入ってきたのは白い生地に黒い玉模様に包まれたモノだった

年代的に同年齢でそこそこスタイルは良いと思っていたがここまでとは

下手になんか口にすると気まずくなるのでだんまりを決め込むことにした

 

大介の相棒、ヒカリは初春と同じようなワンピースだった

しかし初春以上に少しフリフリが多い気がする

そして黒子の学友婚后光子

彼女は大胆な赤い水着でお腹や横のお腹を見せつけるデザインで色気がある

最後に食蜂操祈

彼女は青いしましま模様のビキニを着ており、体のラインがはっきりと出まくっている

その発育の良さから本当に中学生かこいつは、と何度思ったか

 

「あらぁ? 私の身体にアラタったら釘づけかしら?」

「アホな事言うな。…ところでここで撮影すんですか?」

 

食蜂をスルーしつつ担当さんに聞いて見る

モデルというからにはカメラマンさんがいるのかとも思ったがそう言った人もおらず、そもそもこの部屋は何にもない

 

「あぁ。それなら大丈夫です」

 

そう言って担当さんは手に持ったリモコンをぽちっと押した

と、次の瞬間何もなかったその部屋が、南の島のような海へとリデザインされる

 

「このスタジオは様々なシチュエーションを再現できるんです」

 

ポチ、とスイッチを押すたびに繁華街や教室、あげく北海道などの景色が映し出されていく

学園都市パネェ

 

「…この砂、触れるぞ」

 

地面に手を伸ばした風間がサラサラと砂を弄ぶ

見た感じでも砂の質感はまさしく本物そのものであり、ホログラムとは思えない

 

「撮影はすべて自動で行われるので、皆さま自然体で楽しんでくださいね」

 

 

『え?』

 

全員の言葉が重なる

もう一度言おう

 

学園都市パネェ

 

 

自然体で遊んでと言われても正直何をすればいいか分かったもんじゃない

しかし婚后は椅子に座り様々なポージングを作ったりしており、撮影してくださいと言わんばかりなポーズをしている

ていうかノリノリだ

 

その一方で美琴と黒子は何やら追いかけっこをしているようで、あれはあれで自然体だと思う

 

「なるほど。あれが自然体ってわけね」

 

と国法が納得し

 

「流石御坂さま…」

 

と湾内と泡浮が尊敬の念を向ける

 

「…んじゃまぁ、我々も見習いますか」

 

軽くその場で準備運動したアラタが呟いた

まぁ要はだ

 

思いっきり楽しめ

 

それでいいのである

 

 

まずビーチ

 

各々にビーチバレーを楽しんだり、美琴が黒子に向かってヘッドロックを極めていたり、なんだか棒付きアイスをやたらエロく舐めてる婚后を尻目にアラタは木の下で陽向ぼっこ、もとい日陰ぼっこをしていた

 

大介も固法の付近のハンモックで横たわりながら本を読んでいる

 

「あらアラタ。貴方はここでのんびりとぉ?」

 

「皆テンション高いからな。とりあえず体力の温存って奴だ」

 

様々なシチュエーション、と言っていたからまだまだこんなものではないだろう

こういった海と言った状況は学園都市の外にでも行かなければ体験できないため、こういった科学力で再現できるこの会社は凄まじいの一言だ

 

「じゃあ私も隣に失礼してぇ…」

 

そう言いながらいそいそと食蜂が付近に腰掛ける

 

その後は別に会話などはなく、ただ静かな時間が過ぎていく

まぁ耳には黒子の断末魔というか喘ぎ声というかわけわかんないのが聞こえてきたが気のせいだとしてスルーする

 

そんな声を聞きながらたまに吹きすさぶ風を肌で感じていた

 

 

 

次はプール

デザイン的には屋外に作られていると言った感じだ

 

そんなプールサイドにて

 

まだ美琴と黒子が追いかけっこを続けていた

 

「…飽きないなお前ら」

 

「私はうんざりだけどねっ!」

 

苦笑いと共にこめかみをひくつかせながら美琴は答える

そして美琴に向かってダイブをかます黒子の顔に手刀を叩きこんだ

「あふっ」と短く嗚咽を漏らした後、黒子は地面へと突っ伏し、ビクビクと痙攣させる

…少し怖い

 

「まぁそんなお前らだから安心して見てられるというか…」

「アンタも黒子に追いかけられればわかるわよ。…それと、なんかその水着って監視してる人みたいよ?」

 

風間にも言われたことをさらりと美琴にも言われた

…自覚はしてたがそこまでなのだろうか

 

「自然体って言われても、ここにまで来て黒子の相手すんのも疲れるわよ…。全然休めない…」

「…気持ちはわからんでもない」

 

これほどではないにしろ普段の美琴は割と苦労人である

 

「…なんか飲み物持ってくるか。何が良い美琴」

「なんでもいいわ…」

 

軽く息を吐く美琴に苦笑いで応えるアラタ

そんなんでもどことなく楽しそうな表情を浮かべる美琴は内心では満更でもないのだろう

 

 

次なる場所はキャンプ場

 

「…またぶっ飛んだ場所の転換ねぇ?」

 

目の前のテーブルにはたくさんの野菜に飯盒、ジュースや牛乳などの食材が積まれている

ためしにちらりと手をやるとこれもしっかりと触れる

手に取って感触を確かめてみるとこいつは本物だ

 

「すみません」

 

と、その時担当さんが部屋の中に入ってきた

表情に申し訳なさそうな笑みを浮かべて

 

「実はカメラのシステムがエラーを起こしてしまいまして…すぐ直ると思うんですけど…それまで休憩しててください」

 

「はぁ…あ、けどこの食材は」

「あ、好きに使っていただいて結構ですよ、本物ですから」

 

笑顔と共に担当さんはててて、と戻って行った

…何だか妙に取り残された気分になってきた

アラタは適当に玉ねぎを手に取り、この中で一番年長者である固法に視線を向ける

 

「…どうする? 固法」

「そぉね。…この人数でこの食材と言ったら…カレーしかないでしょう!」

 

 

固法の一言で一行はカレーを作成することになった

幸いにも食材は結構な量があるからメンバー分作るのに苦労はしないはずだ

 

「ねぇ、アラタ。…そのぉ、私料理したことないんだけどぉ…?」

「え? マジでか。…意外だな」

 

食蜂のカミングアウトに少々面食らった気分になる

女王様と言われてるなら料理のひとつや二つさらっと作れると思ってたんだが

 

「あ、あの…」

 

そんな食蜂のカミングアウトに便乗するかのように、婚后も遠慮がちに手を上げる

 

「その…恥ずかしながら、わたくしも料理したことなくて…」

「大丈夫ですわ婚后さん。わたくしたちも作り方わからりませんから…」

「えぇ、作り方を教えてもらいながら、ゆっくり料理していきましょう?」

 

そんな婚后に湾内と泡浮がフォローをいれる

二人に励まされたことが火種となったのか、婚后も「そ、そうですわねっ」と少し力を入れなおしたようだ

 

「んじゃ、楽しくみんなで作るをテーマに作ろっか!」

 

固法の号令に合わせその場の皆が「おー!」と元気よく返事をした

それと同時にふと思った疑問を口にする

 

「ところでごはんはどうするんだ?」

「え? それはもちろん飯盒で―――」

「いや、火がないんだけど」

 

かちり、と何度かガスボンベのスイッチのオンオフを繰り返しているがウンともスンともいわない

こういった機材の確認は大切だと思い見つけたは良いが一向に火がつく気配はない

そんなガスボンベを固法に見せる

彼女はそのボンベを見ながらテーブルに置き、何かを閃いたように手をポン、と叩いた後美琴を見た

 

「…へ?」

 

ライス部分は美琴に決定しました

 

 

「大介、私甘いのがいいな」

 

各々に野菜を切っている作業の中、ヒカリがぼそりと呟いた

 

「甘いの? …あぁ、甘口とかか」

 

ヒカリは基本的甘いのを好む

別段風間はそこまででもないのだがどちらかというと辛いのは少々苦手だ

 

「…甘口とか辛口とか、分けた方がいいかもな。アラタ」

「ん?」

 

とんとんと向かいのテーブルで食材を切っているアラタに風間は言葉を向ける

向けられたアラタは一度包丁を置いて風間の方へと視線をやった

 

「どした風間」

「いや、お前は辛いカレーを作ってくれ。好みで分けられるようにしたいんだ」

「あぁ、なるほどね。確かに甘いカレーは好きなのもいるかもしんないし…わかった、一通り切ったら取り掛かるよ」

「助かる。辛さは任せるぞ」

 

そう風間が言うとアラタは「任せれた」と返答して再び野菜を切る作業に戻って行ったのを確認すると風間はヒカリに向き直り

 

「俺もカレー作りに取り掛かる。ヒカリ、野菜切るの頼んでいいか」

「合点っ」

 

ヒカリにそう言った後、風間はテーブルに置かれたカレールーの確認に取り掛かる

先ほど返事したヒカリも危なかっしい手つきではあるものの、ゆっくりではあるが野菜を切る事に集中し始めた

 

 

「ぐぬぬ…」

 

御坂美琴は飯盒相手ににらみを利かせていた

ブロックを縦におき、金網を間に乗せてそこに飯盒は佇んでいる

美琴はそんな飯盒に両手を翳し集中していた

ご飯を炊くために

 

(気をつけろ私…油断すると吹き零れる…!)

 

両手から発せられる微弱な雷により、内部に熱を加えてお米を炊いているのだ

しかし機械ではなく完全な手動なため、少しでも加減を間違えるとその時点でお陀仏なのだ

 

「御坂さぁん。もう一つ頼めるかしらぁ」

「え!? まだあるの―――ってあぁ!?」

 

食蜂の声に居を突かれて、完全に気を取られた

一瞬の力みが飯盒にダイレクトに伝わっていき内側ふじゅる、とお米が零れ落ちた

 

「ご、ごめぇん…また持ってくるから」

 

苦笑いと一緒に噴き出た飯盒の持ち手を持つ

よいしょと立ち上がる食蜂を見て何気なく美琴は彼女に向かって口を開いた

 

「…あんた、変わったわね」

「? そぉかしら。なるべくいつも通りを心がけてるんだけどな」

 

小さい笑みと共に食蜂は戻っていく

彼女の後ろ姿を見ながら同様に微笑を作り美琴は呟いた

 

「変わったわよ。…少しだけど、笑うようになってる」

 

 

「やっぱり、にんじんはいちょう切りですよね」

 

「え? カレーの時は乱切りじゃないの?」

 

一方こちらは甘口用の野菜を切っている初春と佐天

ちなみにいちょう切りとは読んで字のごとくいちょうの葉っぱみたいに切る事である

そして乱切りとは食材の大きさを揃えずにアバウトに切る事、つまりはだいたいな感覚で切る事を指すのだ

 

「ふぇ? いちょうの方が可愛いと思うんですけど…。火の通りだって早くて」

「ちっちっち。わかってないなー初春。カレーの野菜は大きすぎず小さすぎずが基本でしょう?」

 

その言葉にむむ、と初春は反応し

 

「うちのカレーは細かく切ってルーと一体化させて食べるんです!」

 

今度は佐天がむむむ、反応する

 

「細かくなんてありえない!ジャガイモもちゃんと面取りして、見栄えよくする方が大事じゃんっ!」

 

ちなみに面取りとは材料の角を削り取る事で、この用語は建築業でも使われる

 

「見栄えよりも味が大事ですっ!」

「味だって美味しいんもんっ!」

 

一触即発

そこまでヒドイものでもないが二人にも譲れないものがあるのだろう

むむむむむ、と二人は互いを見つめて

 

「アラタさんはどっちがいいと思いますか!? もちろん小さい野菜ですよね!?」

「いやいや! ここはやっぱり大きい野菜ですよね!?」

 

あまりにも唐突に話を振られたアラタは「え?」と一瞬戸惑ったような声を上げるがすぐにうーんと考えて

 

「…半分半分でいいんじゃね?」

 

割と現実的な事を言ってその場を纏めました

 

 

「…終わった」

 

長きに渡る飯盒との戦いがようやく停戦を迎えた

何しろ人数が人数だ、飯盒の量もそれなりにあったが黒子の地道な応援(?)のおかげで何とか乗り切れた

カレーの方もほとんど準備が完了し、後は煮込むだけだそうだ

 

「お疲れさん。美琴」

 

カレーの場所からアラタがこちらの方へ歩いてきた

両手にはコップがあり、中には水が淹れてある

 

「ほら、水。黒子も」

「ありがと」「感謝ですわ」

 

正直に言って全くと言っていいほど給水が出来なかったから、持ってきてくれた水には素直に感謝だ

コップに口をつけて一息に喉に流し込む

程良い冷たさの冷水が喉を通り嚥下していく

 

「万が一火がなくても、これでご飯はばっちりか?」

「そうね…。正直に言えばもうやりたくないけど」

 

電気で炊かねばならない状況が来ないことを切に願う

 

「そっちは? どう? カレーの出来栄えは」

「まぁ普通だよ。可もなく不可もなく、な。辛口と甘口があっけど、どっちがいい?」

「じゃあ甘いのにしよっかな」

「わたくしはそれらを混ぜて中辛にしますわ」

「ちょ、ようやる…。まぁ同じルーだし、問題ないか」

 

コップの中にある水を飲み干してようやくひと段落つけた

そして思う

 

「…たまには、こうやって皆で料理とか作るのもいいわね」

「そうですわね。…つい先日幻想御手(レベルアッパー)事件を解決したとは思えないくらい平和ですの」

 

それを言ってしまったらアラタは本当に先日偉い目に遭ってたりするのだが

下手に口に出すとまた余計な心配を抱かせてしまうので心の中に留めておくことにする

 

「…続くといいな。こんなのが」

「えぇ。…そうね」

 

どことなく呟いただけだがどこかしんみりとした空気になってしまった

いてもたってもいられなくなったアラタは軽く咳払いをして

 

「ほら、そろそろカレーが出来んぞ。行こうぜ」

 

空気を変えるかのようにそんな事を美琴と黒子に言う

それに答えるように二人は立ち上がり、黒子は先導して

 

「先に行ってお皿やらを確保に参りますの」

 

と言って行ってしまった

別段競争などはしていないが、彼女がなんとなくそうしたかったのだろう

 

「アラタ」

「ん?」

 

不意に声をかけられる

アラタは一祖立ち止まり美琴を見るが、彼女は止まることなく彼の顔を見ながら隣を歩き過ぎ

 

「無茶しないでよ。…いろいろと、ほどほどにね」

 

そう美琴は笑みと共にアラタに言った

言われたアラタは少しきょとんと言ったような表情のあと笑顔を作り

 

「あぁ。わかった」

 

そう短く返した

 

―――そうだ、自分は大丈夫

何があっても、彼女の笑顔は守りきろう

彼女だけではない、自分を取り巻くすべての人たちの笑顔を守るために

それを脅かすものたちに対して、この拳を振るおう

 

 

ここまでいろいろあったもののカレーは見事に完成した

木でできたテーブルに人数分のカレーとその中心に余った野菜で作った簡素な野菜サラダ

割とバランスは取れていると思う

ちなみに魚介類もあったので、甘口のカレーはそういった魚類を混ぜたシーフードカレーとしてある

そんな訳なので黒子は普通に甘口シーフードを選びました

 

「それじゃあっ、いただきますっ」

 

固法が両手を合わせそう言った

他の人らも固法に習い両手を合わせて「いただきますっ」と口をそろえる

そして皆それぞれ自分の前にあるカレーにスプーンを持っていく

 

「…お、なかなかちょうどいい辛さだな」

「まぁ皆食べるからな。いろいろ試行錯誤したけど」

 

アラタが担当した辛口カレーはおおむね好評だった

ここが自分宅だったら正直このカレーはもっと辛くしていたと思う

どうでもいいがアラタは辛党だ

 

「細かい野菜も味が出ていいね」

「大きいのも美味しいですっ」

 

先ほどまで野菜論争をしていた初春と佐天も和解し、それぞれ感想を言い合っている

 

「それはそれとして、アラタって意外に料理できるのねぇ?」

「一人暮らしだし少しは出来ないとな」

 

当麻だって出来るんだし

そしてそれを言ったらプロ並みの腕前を持つ天道だっているのだ

もしこの場に天道がいたら「プロ以上と言ってもらいたいね」なんて言われそうだが

 

「このシーフードカレー、甘さの中にも魚介の美味しさが凝縮されてますわっ」

 

婚后が笑みを浮かべもう一口、二口とカレーを口に運んでいる

それに合わせるように泡浮と湾内も頷いた

同様に今度はヒカリもカレーも口に運ぶ

 

「くぅ…! 大介のカレーはやっぱり美味しいなぁ…」

「基本通りに作っただけだ。この程度はお前にだってできる」

 

どこまでも大介は謙虚だった

 

そして自分の前にあるのは辛口のカレーだ

さっきも言ったがもう少し辛くつくろうと思ったが皆も食べるという事なので今回は無難にレシピ通りに作成した

アラタはカレーにスプーンを入れ、一さじすくい、そして口に持っていく

程良い辛みと野菜の美味しさが口内に広がっていく

…うん、自分的にはもう少し辛い方が好みだ

 

「うーん…皆で作るカレーもさ、なかなかいいわね」

「そうですわね」

 

美琴の呟きに黒子が同意する

口には出してはいないがアラタもそれには同意したい

と、皆がわいわいしながら食事をしていたその時だった

 

<お待たせしましたっ。システムが復旧しましたから、撮影を再開します>

 

「え!? もう!?」

 

慌てた様子で美琴が椅子から立ち上がった

そんな彼女をいさめるように担当さんの声は響く

 

<あ、食べてて大丈夫ですよ。…とりあえず、一枚っ!>

 

そんな担当さんの掛け声と共に、軽く混乱状態になりながら一同は適当に集合する

皆で作ったカレーを持ちながら撮影したその写真の人たちは、それぞれとてもいい笑顔をしていた

 

 

そんな撮影も終わりさて帰ろうとした矢先の事である

うっかり着替えの所に置き忘れてきてしまった携帯を取りに戻っていた時にそれは起こった

 

「…っと、あったあった。完全に忘れてたよ…気づいてよかった」

 

無事携帯の回収を終え、さて戻ろうか、となったときそれは視界に入ってきた

先ほどまでみんなで撮影していたホワイトルーム(仮名)である

今後こういった施設に来るかなど分からないし、興味もあったアラタは戻る前にそのルームを焼き付けておこうと何気なく足を踏み入れた時、それは視界に映ってきた

 

「うー…やっほーっ!」

 

そこには誰だお前と突っ込みたくなるくらいにハシャギまくる御坂美琴の姿が

しかも彼女は自分が来訪したことにまだ気づいていない

 

「んー…やっぱりこの水着可愛いっ! あっはははっ!」

 

彼女が来ている水着は撮影していた時のスク水タイプでなく、フリフリのついた水玉模様の水着を着用していた

そして悟る

あぁ、やっぱり撮影の時は我慢してたんですね

 

「きゃははっ、そおぅれっ! ははは―――は!?」

 

目があった

静まる美琴、黙るアラタ…なんて声をかければいいのでしょうか

 

「―――!」

 

徐々に美琴の頬が羞恥に染まっていく

まるでトマトだ

やがてゆっくりと、かつ徐に手を上げる動作を取った

なんだろう、と最初は思ったが、すぐに察した

その手の周りを飛び交う青い閃光によって

 

「―ぅ――と…――!!」

 

彼女は恥ずかしさのあまり声も上げられないようで

そしてこれは避けてはいけないんだろうなぁ、と頭の中で思いながらアラタは友人の言葉を借りた

 

 

 

「不幸だァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

彼の空しい叫びと共に、そのルーム内に彼女の雷撃が響き渡った

その一撃を受けた時、彼の体の中にあるアマダムが反応したが、それに気づくことはなかった

それどころではなかったからであるが

 

いずれにせよ、これで水着のモデル撮影は終了した

皆の心に、楽しい思い出と、笑顔を刻みつけて



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#14 スキルアウト

長すぎワロタ

相変わらずではありますが出来ました

今回マジで長いです

それでも誤字脱字等を見かけましたらご報告を

では#14、始まります


人気の少ない路地裏にて

 

「…貴方たち。わたくしを常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの?」

 

バッと婚后は緑色で花が描かれた扇子を勢いよく広げ、自分を取り囲む不埒な男どもを見渡した

話には聞いていたがまさか、自分が能力者狩りに遭うなど想像もしていなかった

 

「狼藉ぃ? はっ、さっすが常盤台のオジョウサマは俺らとは違うお言葉をお使いだ。なぁ?」

 

目の前の男が仲間に同意を求めるとそれに合わせたかのように大笑いする

これだから品性のない男は嫌いだ

御坂の友人である彼のような男性は中々いないらしい

 

「どうやら、日本語が通じない方たちらしいですわねぇ。…ならば、お相手いたしましょう!」

 

じり、と婚后は身構えた

大丈夫、相手は徒党を組んでいようとも所詮品のない無能力者

油断さえしなければ問題はないはずだ

 

「…っは」

 

目の前の男が笑う、と同時の出来事だった

 

キィィィ、と耳鳴りのような音が聞こえてきたと思ったら強烈な頭痛が婚后を襲う

それは能力者限定なのか、目の前の男を含め、その仲間たちはピンピンしている

 

「どうした? 頭が痛いのか」

 

白々しく聞いてくる男に苛立ちが募る、が頭痛には勝てない

婚后は扇子を落とし、その場に跪いてしまった

そんな婚后の耳に、また新しい声が聞こえてきた

 

「…おいおい。女の子にちょっかい出すってのは、いただけねぇな」

 

「あぁ!? 誰だて―――ぶふゅ!?」

 

前に立つ男を拳一撃で意識を奪うと、目の前の男はニィ、とニヒルな笑みを浮かべる

 

顔を確かめようとしたが痛みがピークに達し、ついにその場に倒れ伏してしまった

 

◇◇◇

 

それで通報を受けてアラタたち風紀委員が駆け付ける

駆け付けた時最初に目に入ったのはものの見事にぶっ倒れたスキルアウトの方々

 

「…わお。これは派手にやったね」

「ですが、これにて頻発していたスキルアウトによる能力者狩りも、どうやらこれで打ち止めですわねー」

 

黒子の言うとおりになってくれればいいのだが

 

「けどま、相手が悪かったな。確か彼女は大能力者(レベル4)なんだろ? 無能力者(レベル0)が群れなしてもなぁ…」

 

「それが違うのよ」

 

固法の言葉に「え?」と黒子と共にそんな声を出す

「どういう事さ」と聞いてみると

 

「彼女の話によるとなぜか能力がうまく行使できず、そこに謎の人物が現れて―――」

 

言いかけた時一人のスキルアウトを乗せた担架が彼女の前を通り過ぎた

彼女の顔はそのスキルアウトをちらりと見るとハッとして

 

「…タメゾウ?」

 

小さい声ではあるがそう人物名を口にした気がする

てか誰だ

 

「固法先輩?」

「どうした?」

 

「え? え、えぇ、ごめん。えっと、初春さんの聞き取り上手く行ってるかしら」

 

思い切り話を逸らされた気がするが気のせいだろう

彼女の視線を追うとそこには婚后に聞きこんでいる初春の姿があった

 

「気が付いたら、皆倒されていた、と」

「えぇ…」

 

婚后は頭に手をやりながら彼女に自分が体験したことを話していた

彼女を襲っていた頭痛はもうなくなったらしい

 

「何か覚えてることがあれば、ぜひ」

「そうですわね…黒い、革ジャンと…それを持った殿方の背中黒い大きな刺青を見たような…」

 

「っ!」

 

ある単語を聞いた時、国法の顔はまたハッとなる

先ほども感じたが、やはり様子がおかしい

 

「…どうした固法。さっきからおかしいぞ?」

「い、いえ、何でもないわよ…」

 

…本当にどうしたのだろうか

どういう事か凛としてない

その表情には、どことなく寂しさが募っていた

 

◇◇◇

 

「ビッグスパイダー?」

 

お昼時の時間帯

珍しく固法から昼食に誘われたアラタはテーブルを挟んで固法と対面していた

そして固法の言葉からそんな単語を聞いたのだ

 

「支部でも初春さんと白井さんに話したんだけどね。昔はそれなりのプライドを持って一線は弁えてたんだけど。今じゃただの無法者の集団になってしまった」

 

「プライド、かぁ」

 

スキルアウトにはスキルアウトなりの流儀がある、というところか

正直に言って今のそいつらは単なる暴れ者、と言った印象しかないが昔は名のある組織だったのだろう

 

「…それはそれとしてさ、よく知ってるな固法」

 

「え? え、えぇ。…まぁね」

 

にはは、と笑う固法

しかしその笑見の奥にある瞳は、どこか悲しそうに見えていた

 

「…ま、深くはきかねぇよ。お昼ごちそうさま」

「え、えぇ、おそまつさま」

 

何故だか一瞬どもったがとくには気にせずアラタは歩く

そんな彼女の隣を歩いたとき、ちらりと彼女の横顔へと視線をやった

その横顔はどこか落ち込み、沈んだものだった

 

 

「…あれはぜってーなんか隠してる」

 

友人という立場故、追求はできないが固法は確実に何かを背負い込んでいる

別段聞く気などはないが…気にはなってしまう

いけないいけないと頭を振り払いながらアラタは今現在美琴たちがいるファミレスへと足を運ぼうとした

 

「…ん?」

 

どういう訳だか自分の視線の先にぶっ倒れている男性がいる

これは一大事だと思ったアラタは急いで駆け寄ってその男性を抱き起す

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

「…い、の」

 

「え? なんだって!?」

 

「食い、物を…」

 

…えー

 

 

「いやー! 感謝感激雨あられ! すまないな、うっかり財布忘れてしまってな」

 

公園のベンチにて

コンビニで適当に食べ物を購入してそれらを彼に渡すと大喜びで青年はそれにがっついた

そしてそれを食い尽くすと先ほどの台詞をアラタに向かって言ったのだ

 

「いや、それはいいんだけどさ。なんで空腹になるまで粘ってたのさ。それとも直前まで財布の忘れに気が付かなかったのか?」

 

「まぁそういう事だ。腹も減りに減って何か買おうとしたら財布を忘れたことに気づいてな。いや本当に助かった」

 

残ったアンパンを口に突っこんで牛乳を流し込む

そのあまりの豪快な食べっぷりに思わず目を見張る

とことんまで気持ちよく食べる男だなこの人は

 

「っぷはぁ…いや、ホントありがとう。助かったよ、そうだ、名前名乗ってなかったな。俺は流星(ながれぼし)リュウセイ。よろしく」

 

そう言って流星はアラタに向かって手を差し出す

特に拒む理由のないアラタはその手を握って

 

「俺は鏡祢アラタ。こちらこそよろしくな」

「あぁ、んじゃこの礼は必ずする! それでは!」

 

そう言ってリュウセイと名乗った青年は風のように走り去っていった

 

「…騒がしい人だなぁ」

 

それが純粋に思った感想である

 

 

 

<聞いたわよ。婚后さんが襲われたって話>

 

美琴から電話がかかってきたのでそれに応答している途中

どうやら今日、黒子や初春から聞いたのだろう

 

「その話を知ってるって事は、ビッグスパイダーの件も知ってるよな」

<ええ。…ったく、このご時世に能力者狩りなんて流行らないわよ。…いっそ私に絡んできてくれれば―――>

「それ以上はストップだ美琴。実際にそうなったらエライ事になる」

 

主にスキルアウトの連中が

 

「友達が襲われて許せないのはわかるけど、お前はあくまで一般人だ。…ほどほどにね」

<わかってるわよ。…けどもし私が襲撃されたら、反撃くらいはしていいよね?>

 

妙に期待のこもった声色だ

…まぁ正当防衛くらいはかまわないかな、と判断したアラタはやれやれ、と思いながらも首を縦に振る

 

<さっすがアラタ。話が分かる! …それじゃまた明日ねっ>

 

そう元気に言って彼女からの通話は切れた

まぁそんな事はないとは思うが、頭には入れておこう

そんな事を考えながら軽く背伸びしてアラタは布団を敷いて眠りについた

 

◇◇◇

 

事件が進んだのはそれから数日後の事だった

 

「またビッグスパイダーが?」

 

黒子の後ろでパソコンを除いていた美琴が呟いた

美琴が呟いた通り、この一週間においてその件のビッグスパイダーの活動がより活発になってきたのだ

 

「今週だけでももう三人…連中、ピッチを上げて来てますわ」

「やっぱここは一発ドカン! と―――」

「お前のドカンは爆発力がありすぎるから駄目だ」

 

そう言われしょぼんとする美琴をスルーしつつ初春に視線を向ける

彼女は携帯端末を開いて

 

「ビッグスパイダーが勢力を強めてきたのは、約二年ほど前みたいなんですよ。武器を手にして、犯罪行為を繰り返すようになったのも、その頃です」

 

初春が喋っている際に、わずかばかり固法の口元が変化したような気がした

気にしないように視線を再び初春に向けて、彼女の言葉を聞いていく

 

「…けど、そんなのをどうしたら学園都市に持ってこれんだ?」

 

アラタの考える疑問はそこである

学園都市の物資運搬は学園都市側で管理されている

当然ながら非合法なものは完全にシャットアウトされるはずなのだが

 

「…蛇の道は蛇と申しますから…」

「…あぁ、そうか。誰かがその手の流通を手伝ったのか」

「バックがいるってわけね?」

 

調べてみる価値はありそうだ

三人で頷きあったとき初春が「あ、ちょっと待ってください」と声をかけた

 

「それと、ビッグスパイダーのリーダーが分かったんです。名前は黒妻綿流(くろづまわたる)。かなりあくどい男のようです。なんでも、仲間を平気で裏切るような奴みたいです。グループから抜けるなんて言えば背後―――っていうか、背中から撃ちかねないとか」

 

「…とりあえずは、最低の男というわけですわね」

 

黒子の呟きに同意しそうになったとき、一瞬固法の表情が見えた

どことなく、唇を噛みしめているかのような、そんな表情

 

「背中と言えば、その人背中に蜘蛛の刺青がいれてるみたいですよ?」

 

「…蜘蛛の?」

 

婚后を助けた人も蜘蛛の刺青を入れていた、という報告を聞いていたのだが

黒妻は二人いるのだろうか

 

「結局、ただの仲間割れだったとか?」

「仲間割れ?」

 

アラタが聞き返すと美琴は人差し指を立てながら

 

「仲間を背中から撃つような男なんでしょ? その可能性もなくはないんじゃない?」

 

そう言われると納得できる

…納得はできるが、どうも違和感が引っかかる

 

「えっと…彼らは、第十学区の、通称〝ストレンジ〟と呼ばれるところを根城にしているようです」

 

携帯端末を弄りながら、初春がその情報を導き出す

その報告を聞きながら黒子はふむぅ…、と息を吐いた

 

「行くの?」

「管轄外ではありますが、第七学区で発生した事件の調査だと言えば筋は通りますの。固法せんぱ―――」

 

「ごめんっ。…私、今日中に報告書纏めなきゃいけなくて…」

 

黒子の言葉を遮るように固法は声を出した

見えてはいないところで、手を握りしめながら

 

「よっし、じゃ行こうか!」

「行くって…。お姉様!?」

 

パチンと掌を叩きながら美琴は意気揚揚とそう言った

行く気満々である

その後彼女はアラタの顔を見て

 

「アラタは?」

「…いや、ちょっと気になる事が出来たからさ、その後で行く」

 

その言葉を聞いた美琴はニィ、と笑みを浮かべて

 

「わかったわ! 行くわよ黒子!」

「ちょ、待って下さ―――」 

「二人のピンチヒッターよ! ほら早く!」

「ですから―――あーれー、ごむたいなぁー」

 

口で否定しながらもガッツリにやけ顔になっていた黒子

調査と言えど美琴と二人で出かけられるのが嬉しいのだろう

しかし流石に二人だけでは心配なのも確かである

…連絡入れておこう

片手で携帯を操作しながらアラタはちらりと固法の顔を見た

その視界に眼鏡の奥に揺らいでいる瞳と、懸命に歯を食いしばる彼女の顔が見えた   

 

 

所変わって第十学区

今現在美琴たちがいるのはストレンジと呼ばれる場所だ

 

「ここが、ビッグスパイダーの根城、ストレンジってわけか」

 

黒子、美琴から一歩前に出て帽子の位置を直しながら翔太郎は呟いた

そんな翔太郎を見ながらぼそりと美琴は口を開く

 

「…ていうかなんでここに貴方がいんのよ」

「アラタに頼まれたんだよ。お前ら二人じゃ心配だってな」

 

そう言いながら翔太郎はスタッグフォンを見せながらそう言った

連絡を受けたのは三十分くらい前でその時にストレンジの場所も添付されていたので難なくここにたどり着くことが出来た

特に断る理由もなく正直暇を持て余していた翔太郎はこれを快諾、今に至るという訳だ

 

「お兄様も心配症というかなんというか…、まぁ今回はこの行為を素直に受け取っておきましょうよ」

「ったく…しょうがないわね」

 

黒子に宥められ美琴は頭を掻きながら改めてストレンジを見渡した

パッと見での感想はまさに不良の集まりと言った感じだ

壁に描かれたグラフィティアート、破壊された警備ロボットに壊れた車、はては破壊されたままの監視カメラなどまさにスラム街

道路も汚くろくに掃除されていないうえに煙草の吸殻の山や放置された空き缶など、まったく期待を裏切らないというかなんというか

 

「…素敵、とは言い難いわね」

 

苦笑いと共に美琴はそんな感想を漏らした

水清ければ魚は住まず、とはよく言ったものだ

 

「まぁ…スキルアウトからしてみれば、ここは住みやすいのかもしれませんわねぇ…」

 

「かもな。能力者の苦悩はわかんねぇけどよ」

 

それぞれ口に出しながら三人はとりあえず歩き出した

 

道を歩く途中にも道端にいるスキルアウトの奴らに思い切り睨まれたりしてる

正直に言って視線が痛い

 

「スキルアウトもスキルアウトだけど、こいつらを放置してる学園都市も学園都市よ」

「そうですわねぇ。それにますます歓迎されてますし」

 

そんな彼女たちの言葉を気にくわなかったのかわらわらとスキルアウトの連中が集まっている気がする

ていうか分かってて言っているのだろうか

 

「アンタが風紀委員の腕章(そんなもん)つけてるから」

「なぁ! これはお姉様が急かすから!」

 

自覚なしかよ

 

内心重く、それでいて深くため息をつく翔太郎だった

そんな三人の耳にヒュウ、と口笛が届いた

 

「よお、嬢ちゃん。なあにもめてんのかなぁ?」

「おいおい、風紀委員もいやがるぜ?」

 

案の定絡まれた

美琴は若干眉を潜ませて

 

「ほらぁ…」

 

と黒子に呟いた

 

「…お姉様ぁ」

 

黒子が嘆く

そんな嘆きを無視してスキルアウトの連中が口を開いた

 

「何もめてんのかなぁ?」

「今更かえさねぇぜ…?」

 

これは一戦交えないといけないかな、と思いながら翔太郎が前に出たその時だ

 

 

「待ちな」

 

 

と、透き通った声が耳に届いた

 

その声色は後ろから聞こえたので、徐に後ろへと振り向く

そこには赤い髪にライダースジャケットを羽織り、牛乳を片手にしている一人の男性がいた

男性は手に持った牛乳パックを口にし、飲み始めた

そしてぷはぁ、と口からパックを離すと笑みを浮かべ

 

「大勢で三人にちょっかい出すのは、いただけねぇな」

 

そう言いながらゆっくりとその男性は戸惑う美琴と黒子、翔太郎を尻目に徒党を組んだスキルアウトの前に立つ

 

「女の前だからって何カッコつけてんだよ、あぁん?」

「まぁまぁ」

 

男性はとりあえず最初は話し合いで解決しようと思ったのか、笑みを浮かべたままだ

 

「いいからテメェはとっとと失せろ」

 

男の言葉と共にパシッと牛乳パックを持った手が弾かれた

その拍子に持っていた牛乳パックが地面に落ち、中身がブチ撒かれた

 

男性はしばらくその牛乳パックだったモノを見下ろして、そしてそのスキルアウトの連中を一瞥すると

 

「…ちっ」

 

凄く不機嫌そうに舌を打った

 

 

~五分後~

 

 

「あ、あの、こちらでよろしかったでしょうか」

 

先ほどとは打って変わって低姿勢なスキルアウトの連中

顔には殴られた跡が如実に浮き出ており妙に生々しい

ちなみにこのスキルアウトの一人は先ほど自分が叩き落とした牛乳を買いに行かされたので実際は五分以上かかっているかもしれない

 

「おう。悪いな」

「い、いえいえ!! じゃあ俺らはこの辺で!」

 

そう言い残すとスキルアウトの連中はいそいそと逃げ帰って行った

ケンカしていた時は正直に言って圧倒的だったから、アイツらにはトラウマになってしまっているのではなかろうか

 

「…別に助けてくれ、なんて頼んでないだけど」

 

「ん? あぁ、そりゃ悪かった。昔知り合いに君ら位の胸の女の子がいてさ、放っておけなかったんだ」

 

そう言って朗らかな笑みを浮かべた

 

「殿方に胸の話をされたのに」

「不思議と、いやらしくない…」

 

美琴と黒子はそれぞれ自分の胸元を見ながらそう呟いた

翔太郎は黙ったままだが、ここでその男性に続いて胸の話をしようものならセクハラで訴えられてもおかしくないレベルである

 

そんな静寂の中、ふと視線を戻すとその男性はすたすたと歩いてしまっていた

 

「っと、ちょっと待ってくれよおい!」

「あ、待ちなさいっ!」

「お姉様、お待ちになってくださいなっ」

 

三人は翔太郎を筆頭にその男性を追いかけ始める

思えば肝心のビッグスパイダーの情報が集まってなかった

 

 

鏡祢アラタはとある警備員の部署の前に一人佇んでいた

先ほど顔を出した第二左探偵事務所で留守番していたフィリップから、ここに探している人物がいるという情報を聞いたのだ

その人はいるのは知ってはいたが所属している部署までは把握してはいなかったために、今回はフィリップに聞いたのだ

あと、どうでもいいが追加のライトノベルもおいてきました

 

一つ深呼吸してアラタはその部署の中に入っていく

そして前を歩く警備員の一人にこう言った

 

「すいません。照井竜って人がここにいるって聞いたんですけど…お話って、出来ませんか?」

 

 

照井 竜

またの名を仮面ライダーアクセル

 

以前はとっつきにくい性格だったが今現在はだいぶ丸くなり、面倒見がよくなったと左のダンナが言っていた

と言っても内心少しではあるが緊張もしていた

存在は知っていたのだが何せ会うのは初めてなのだ

…俺に質問するなとか言われたらどうしようか

そんな事を考えながら内心ビクビクと時間が経つのを待っていると

 

「待たせたな。お前が、左たちの友人か」

 

そんな声が耳に届いてきた

声の方に振り返ると赤いジャケット、赤いボトムな赤尽くしの男性がこちらにやってきていた

基本的に警備員の人たちは一部を除いて黒い服装ゆえか正直に言ってすごい目立つ

 

「はい。その、初めまして。風紀委員一七七支部所属、鏡祢アラタと言います」

「知ってはいると思うが、俺は照井だ。左から話は聞いている。何やら話がしたいと言っていたが」

 

そう照井に指摘されそうだったと思い出す

二~三、深呼吸してから照井を見て口を開く

 

「黒妻綿流って人の事、もしよろしかったら…教えていただきませんか?」

 

 

「へぇ…」

 

男性の後ろをついていくと、とある建物の屋上に出た

そしてその屋上から見える景色に素直に美琴は息を呑んだ

様々な建物が並び、何よりも広大な青空に目が行く

ゆっくりと進む白い雲をつい目で追いたくなるほどだ

その景色に見入っているのか、黒子も翔太郎も黙っている

 

「いいとこだろ? ちょっとした秘密の場所さ」

 

景色を楽しんでいるとき、男性がふと口を開いた

男性は目の前の手すりに両手をのせて

 

「ここは風が気持ちいいんだ。…ここから見るストレンジは、二年前と変わらねぇな」

「二年前?」

 

思わず気になった言葉に反応して美琴は反射的に聞き返してしまった

問われた男性は目を閉じながら小さく笑いを作ると

 

「ま。いろいろとな」

 

ものの見事にスルーされた

まぁ当然の反応だろう

 

「それにしても、なぜスキルアウトの方々はこの地区に集中して―――」

能力者(アンタたち)にはわからねぇさ」

 

黒子の言葉を切って男性が呟いた

美琴と黒子の二人は男性の方を振り向き、翔太郎はただ黙って話を耳に入れていく

 

「いろいろ投げ出しちまったんだよ、俺たちは。全てが能力で判断される学園都市を捨てたのさ」

 

無能力者にとって、超能力は手の届かないもの

それこそ、あの青空のように

だから、幻想御手(レベルアッパー)なんてものに手を伸ばしてしまうんだ

 

「けど、スキルアウトはスキルアウトでしょ? …群れを組んで何をするかと思えば、やることなすことろくでもないことばっかり」

「はは。手厳しいな」

 

そんな美琴の言葉さえ男性は笑って飛ばした

そう言ったところで男性は横目でちらりと美琴たちを見る

 

「ところで、あんたたちは何しに来たんだ?」

 

「あぁ、そうでした。その―――」

「ビッグスパイダーッつう組織について、なんか知らねぇか?」

 

またもや黒子の言葉を遮って今度は翔太郎が口を開いた

当然ながら黒子はむぅ、と口元を歪ませたが、気にせず翔太郎は男性を見る

 

「―――ここでその名前、出さない方が賢明だぜ?」

「そうかい。んじゃ黒妻綿流ってやつに心当たりは?」

「知らないな。…じゃ、しっかりと守ってやんなよ」

 

最後にそう言って男性はポケットに手を突っ込んで歩いて行ってしまった

その後ろ姿を美琴と翔太郎はどこか訝しんだような目で追っていた

 

「…どうされました? お姉様に、探偵さん」

 

「いや。あの人、なんか気になるのよね」

「エレキガールもか。奇遇だな」

 

しかし黒子は頭にハテナマークを浮かべ首を傾げながら

 

「気になる…といいますと?」

「ビッグスパイダーが勢力を伸ばし始めたのが、二年前。…なんか引っかからない?」

「…言われてみれば…」

「こいつはいいヒントになるぜ。この調子でいろいろ歩いて回ってみるか」

 

翔太郎の言葉のあと美琴は頷きながら前を歩く翔太郎の後ろを歩く

同様に黒子も美琴のあとを歩いていく、そのどさくさに紛れて腕を組もうとしたら案の定美琴にゲンコツされた

 

 

その日の夕方

ストレンジのとある屋上に照井とアラタはやってきていた

オレンジ色に染まった空から見える太陽は目を見張るものがある

 

「…ここは?」

「黒妻に教えてもらった場所だ。そもそも、俺があいつと知り合ったのは、アイツが出所する数週間ほど前…確か半年くらい前だった。回復力が早くてな、打ち解けるのに案外時間はかからなかった」

 

照井からその話を聞くに、やはり今の黒妻はその名前をかたって能力者狩りを行っているにすぎない

そうでなければこういった話が照井の口から出てくるはずがないのだ

 

「ここでの景色は綺麗だろう。昼間は大きな町並みが見え、夕方には鮮烈な夕焼けが見え、夜には広大な星空が見える。景色を見るなら、ここはまさしく最高の場所だ」

 

「そうですね…この学園都市にも、まだ景色を楽しめる場所があったなんて、正直ちょっと意外でした」

「確かにな。…ところで、なぜ俺にこんな事を?」

 

不意に照井に言われそうだ、とアラタは思い出す

一通り話も聞いたし、ここで打ち明けてもいいのかもしれない

意を決したようにアラタは口を開いた

 

「実は―――」

 

・・・

 

「…なるほど。さっきも言った通り、俺の知る黒妻はそんな姑息なことなどしない。間違いなくその黒妻は偽物だ」

 

「はい。照井さんから話を聞いたおかげで確信が持てました」

 

やはり照井竜に話を聞いたのは間違いではなかった

頭の中に残っていた疑念も完全に払拭され、より一層捜査に打ち込めそうだ

 

「今日は本当にありがとうございました」

「気にするな。俺も出来る限りで調べてみよう」

 

ストレンジからの帰り道、そんな事を話しながら第十学区を後にする

照井竜の協力を得られたなら百人力だ

その後、二人は握手を交わしたのち、それぞれの帰路へとつく

学生寮への帰り道、アラタは一つ考え事していた

それは同僚でもあり、友人でもある固法美偉の事である

…一人で考え、その悩みに潰されなければいいのだが

 

 

「おめぇら何やってんだ!!」

 

ストレンジのとあるアジトにて

そこはビッグスパイダーと呼ばれるスキルアウトの人たちが集まる言わば拠点だった

その拠点の中でマグナムの銃口をメンバーに突きつけながら一人の男が声を荒げている

 

「能力者狩りの兵隊がもう二十人以上やられてんだぞ!?」

 

怒気がこもった〝黒妻〟の声色に周りは明らかに焦りを感じている

そんな〝黒妻〟を宥めようとメンバーの一人が口を開いた

 

「そ、その、手掛かりは探してはいるんですが―――」

「探してる、だぁ!?」

 

〝黒妻〟はその男にマグナムの銃口を向けた

思わずひっ、と声を上げる

 

「見つけるんだよぉ!! なんで見つからねぇか分かるか! 舐められてんだよ俺たちが!!」

 

いいか野郎ども! と声を続けながらマグナムを天井に向けて〝黒妻〟は続ける

 

「能力者をぶっ潰して、俺たちビッグスパイダーがどんだけ力を持ってるか! 連中に思い知らせてやるんだ…!! そうすりゃ、俺たちに逆らう奴らなんざいなくなる…!!」

 

そんな〝黒妻〟の言葉に触発されたメンバーが「応!!」と答える

そのメンバーたちの表情を見ながら〝黒妻〟は一つ考え事をしていた

 

メンバーも散った夕刻時

〝黒妻〟はソファーに腰掛けながら地面を見ていた

 

「…〝アイツ〟が生きてる…?」

 

譫言のように呟くその声の真意は誰にもわからない

その言葉が何を意味しているのかも

 

「そんな訳はねぇ…けど、もし…生きてたら…」

 

ぎゅ…! と彼は手に持ったマグナムを思い切り握りしめて

 

「…生きて、いたら―――!!」

 

 

翌日

 

ビッグスパイダーの行動はさらに加速していった

それの対応にアラタはただ追われていた

一応美琴も協力してくれてはいるが、それでも数は中々減らない

 

<アラタさん、そっちはどう?>

 

「一人を保護した。神那賀の方は?」

 

<こっちは二人。…なんなのよ連中、調子に乗っているかと思えばただ集団でリンチしてるし。…こんな小さいことする小物集団のリーダーが見てみたいわね>

 

うんざりと言った様子で電話の向こうで彼女が呟く

正直彼女がうんざりしたい気持ちもわかる

朝から起きてこの調子、ずっとスキルアウトを倒して被害者を保護する、というのが本日の基本的なサイクル

しかし如何せんいたるところで起きているために、今回は神那賀の手も借りてしまったというのだ

 

「とりあえずこのままいろいろと歩き回ってみてくれ、見かけたら保護を頼む」

<了解。今度ジュースかなんか奢ってよ?>

「考えておく」

 

などと言ったやり取りをしながらアラタは携帯の電源を切った

そして携帯を仕舞おうとしたその瞬間再び携帯が鳴り響いた

唐突になった音楽に驚きながらもアラタはディスプレイを見てみるとそこには左翔太郎の名前があった

怪訝に思って通話ボタンを押すとそれを耳に当てた

 

「ダンナ? どうしたんですか」

<いや。ついさっきとっ捕まえたスキルアウトの連中からアジトの場所聞けたからよ、教えておこうと思ってな>

「ホントですか? 助かります」

<気にすんな。それより聞いた後なるたけ急いで向かってくれ、エレキガールが後輩と一緒に空間移動(テレポート)で先に行っちまった>

 

アイツら…

内心で呟きながらため息を漏らす

しかしあの二人ならとくに問題はないだろうが

 

<電話のあとメールでも伝える。口より文字の方が分かり易いだろうしな>

「ですね。ついでに詳細な地図があるともっと助かります」

<わかったわかった。んじゃ、また後でな>

 

そう言い終えて電話を切った後すぐにメールがきた

 

そこには簡素な文章と共に地図が添付されてあった

本当に送ってくれたようだ

翔太郎の配慮に感謝しながらその場所に向かおうと近くに停めてあるビートチェイサーに足を運んだその時だ

 

「おう、そこの君」

 

エライ気さくな感じで声をかけられた

振り向いて確認してみると赤い髪にライダースジャケットを着込視、片手に牛乳を持った青年が立っていた

 

「? はい、なんですか?」

 

見た目はスキルアウトのようだが、敵意などはなくむしろ友人になれそうなほど兄貴的なオーラを放っている

青年は一度手に持った牛乳を飲みながらアラタに近づいて

 

「これから、ビッグスパイダーのアジトに行くんだろ? 悪いね、電話の内容が聞こえちまって」

「え、えぇ。そうですが…?」

 

そう言うと青年は少し真剣な表情をして彼を見て

 

「頼む。俺も一緒に連れて行ってくれ」

「え!? ちょ、待ってくれ―――」

「無茶言ってるのは分かる。…けど、俺はつけなきゃなんねぇケジメがあんだ」

 

そしてアラタは見た

その瞳の奥にある真っ直ぐなまなざし、何かを背負っているようなその雰囲気

…困った、こういうのに弱いんだ自分は

 

「…わかりました。行きますか」

「! …いいのか?」

「構いませんよ。本気みたいだし、なら俺にはそれを止める権利はないです」

 

言いながらアラタは呼びのメットを青年に渡し、自分はビートチェイサーに跨った

アラタはメットを被りながらアクセラーの調子を確かめて、エンジンをふかす

 

「ただ飛ばしますよ、舌噛まないでくださいね」

「…恩に切るぜ、少年」

 

青年は感謝の言葉を述べながら彼の後ろに座る

そんな青年にムッとしながら

 

「少年違います。俺には、鏡祢アラタって名前があんです」

「ははっ。悪かったアラタ。…んじゃ、俺も自己紹介しないとな」

 

そしてその後聞かされた彼の名前に一瞬、本気で驚いた

アラタはメットの中で頷きながら

 

「オッケー、しっかり捕まっててくださいよ!」

「おう! かっ飛ばしてくれ!」

 

青年の言葉に応えるかの如くアクセルをフルスロットルにし、ビートチェイサーは駆け抜けた

 

◇◇◇

 

とある廃墟にて

 

ドサァッと誰かが地面を統べる音がした

それはビッグスパイダーのメンバーの一人である

それを黒子と美琴は残っているメンバーの前に突き出したのだ

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!!」

 

そして黒子のこの台詞

しかしメンバーはまだ状況を理解していないようで「なんだこいつら」だの「ガキがふざけてんじゃーぞ」だの好き勝手言っている

そして困惑しているメンバーの割って出てきたのがジャケットを羽織ったリーゼントの今どきの不良感満載な男が現れた

 

「…風紀委員が、一体何の用だ」

 

恐らくこの男が黒妻だろう

そう確信した黒子は口を開く

 

「黒妻綿流ですわね?」

「あ?」

「能力者を対象とした暴力事件の首謀者として、貴方を拘束します」

 

その言葉を聞いた〝黒妻〟は「ほぉ…?」と口を細めた

何か思惑でもあるのか、と思った黒子は警戒する

 

「拘束ねぇ…? わりぃがママゴトに付き合ってる暇はないんだよ。帰りな」

 

「…言ってくれるわね」

 

美琴がぼそりと返答するように呟いた

しかしそれでも〝黒妻〟を含め周りの連中は余裕の態度を崩さない

…本当に何か勝算でもあるのだろうか

 

「親切心で言ってやってんだぜ? わかんねぇなら、その華奢な身体に教えてやるまでだ」

 

〝黒妻〟の一言で周りのメンツが二人を取り囲む

それと同時に美琴も身構えた

が、

 

「お待ちになってお姉様」

「? …黒子」

「この程度の連中、お姉様の手を煩わせるまでもなく、わたくし一人で十分ですわ」

 

確かに黒子の実力をもってすればこの程度の奴らはものの数分でノックアウトだろう

しかし目の前の〝黒妻〟はそれでも笑みであった

 

「十分かどうか…確かめてみな!」

 

そう〝黒妻〟が叫んだ直後だった

キィィィ…! と耳に劈くような不快な音が聞こえてきたのだ

思わず二人して耳を抑えて音を塞ごうとする、がそれでも不快な音は消えてくれない

 

「な、なに!? この音…!!」

「頭に…直接…響いてくるみたいですの…!?」

 

例えるなら黒板を引っ掻いたようなそんな音が絶えず頭の中で流れているような、そんな感じ

そしてこれらの音は目の前のスキルアウト達には効果がない

設定かなにかか、それても無能力者には効果がないのか

 

「どうした?」

 

二やついた〝黒妻〟の顔がイラついてくる

舐めるなとばかりに黒子は空間移動を実行しようとするが、一瞬消えただけで移動には至らなかった

 

「飛べない!?」

「どうした嬢ちゃん…一人で十分なんだ…ろぉ!?」

 

言葉と共に〝黒妻〟が黒子の腹部を蹴り飛ばした

 

「ぐふっ!!?」

 

肺から息を吐き出し、黒子は大きく後ろへ飛ばされ地面へと叩きつけられた

 

「黒子!! こっのぉ!!」

 

蹴られた後輩のカタキを取るべく、美琴は全力で放電した、はずだった

しかし放たれた雷は彼女の思った方向に飛ばず、あげくに威力も弱いものしか放たれなかった

それでも彼女の雷は建物を破壊するほどの破壊力はあったのだが

 

「そんな…!? 狙いも、威力も…!!」

「へっ、コントロールが利かねえか。お前はもちろんしらねぇだろうが…こいつはキャパシティダウンっつうシステムでな、細かいことは知らねぇが、要するにこの音が脳の演算能力を混乱させるんだってよ」

 

そんなシステムがあるなど初耳だ

いや、そんな事よりもそんなものどうやって持ってきたのだこいつらは

目の前の〝黒妻〟は笑う

勝利を確信したようなそんな汚い笑みだ

 

「おら、どうするよ? 黒妻さん助けて下さい、って頭下げたら許してやらないこともない―――ん?」

 

ふと、キャパシティダウンとは別にバイクのようなエンジン音が耳に聞こえてきた

その音はどんどん近づいていき、徐々にその姿も露わになっていく

一台のバイクはこちらの目の前を横切ると同時に、先ほど〝黒妻〟が見たキャパシティダウン付近へとドリフトして停止する

 

「…へぇ、今は黒妻っていうのか」

 

そんなバイクの後ろからメットを脱ぎ、牛乳片手に一人の青年が下りた

同様に運転していた男もメットを脱いでハンドルにかけた

 

「無事か、二人とも」

 

それは自分が最も知っている男性の姿だ

 

「アラタ…!?」

 

驚愕する美琴を余所に、目の前の〝黒妻〟は目を見開いていた

まるで幽霊かなんかにでも会っているように

そして譫言のように呟いた

 

「…くろ、づま…さん…?」

 

「え…!?」

 

目の前の男はなんといった

この男が〝黒妻〟ではなかったのか

 

「…えっと…こいつか?」

 

黒妻は適当にシステムのケーブルを引っこ抜いた

直後、先ほどまで不快に感じていた音が消え失せる

 

「! 音が…」

「消えた…」

 

不快感が消え、調子もいつもの感じに戻ってくる

そして気が付くと隣にはアラタが立っていた

 

「…よかった。特に怪我はないみたいだな。黒子は?」

 

美琴の調子を確かめたあと彼は後ろにいた問いかける

慌てて黒子も返事をして駆け寄ってきた

 

「は、はい。大丈夫ですの」

 

その言葉を聞いてふぅ、とアラタは一息ついた

間に合ったみたいだ

 

「アラタ」

「はい?」

 

返事をした直後、彼目掛けて黒妻が持っていた牛乳パックが投げられた

それを受け取ったアラタは頭にハテナマークを浮かべながら黒妻を見る

 

「持っててくれ」

「…了解」

 

どうやら今回は、出番はなさそうだ

 

アラタに牛乳を渡した黒妻は改めて目の前の〝黒妻〟を視界に捉える

 

「…久しぶりだなぁ。蛇谷」

「う、嘘だ…! 死んだはずだ! あんだけの事があったんだ、生きてるはずが―――」

「じゃ幽霊ってことでいいや」

「ゆ、幽霊…」

 

その単語を聞いた黒妻、否、蛇谷は一瞬下を向いた

そして

 

「んだったらぁ! 墓場に戻してやらぁ!! おらテメェら!! やっちまえ!! 相手は一人だ! こっちには武器もある! ビビんなぁ!!」

 

蛇谷の言葉に促され、数十人いるメンバーはそれぞれの獲物を構える

そんな蛇谷の顔を見ながら、愁いを帯びた表情で黒妻は呟いた

 

「…変わっちまったな、蛇谷―――」

 

そう呟いたのち、黒妻は一気に駆け抜けた

 

―――そこからはもう爽快なぐらい黒妻が圧倒的だった

振られたパイプを軽く身を逸らすことで避け、カウンターを叩きこんだり、二人一気に殴り飛ばしたり

自分に向けられた銃でさえ、相手の手を先に掴み、引き寄せて遠心力を込めた拳を叩きこんだりと、まさしく無双というような言葉がぴったりだった

 

息をすると一人殴られて

瞬きすると二人殴られて

眼で追うと三人殴られて

 

蛇谷は確信する

幽霊なんかではないと

 

やがてメンバーの一人が徐に一つのメモリを取り出した

そいつを見て蛇谷は確信する

そうだ、まだこいつがあるじゃないか…!

 

「…なんだ? USBメモリ?」

 

目の前の男が取り出したメモリを見て訝しむ黒妻

そんな黒妻を見てメモリを持った男はボタンを押して起動させる

 

<ELEPHANT>

 

その電子音声が鳴り響いた後、その男は掌にそのメモリを差し込む

途端に男の身体は象のような身体へとみるみる変わっていき、やがて怪人へと変貌した

顔は大きな象を模しており、大きな鼻に目が行く

分かり易く例えるならどこぞの神様、ガネーシャみたいな感じだろうか

 

流石にこれには傍観できない、と判断したアラタは持っていた牛乳を美琴に預けると駆け足で黒妻の隣に駆け寄った

 

「こっからは俺の出番です、黒妻さん」

「…行けんのか? 怪物なんて初めて見たがよ…」

「大丈夫です。…ああいうのには慣れてますから」

 

そう言ったあと、アラタは腰へと手を翳す

すると体の内側からアークルと呼ばれるベルトが顕現する

ゆっくりとエレファントドーパントへ歩み寄りながら右手を左斜めへと突き出し、左手をアークルの右側上部へと持っていく

そしてそれらの手を開くように動かした後、叫んだ

 

「変身!」

 

その手をアークルのサイドへ持っていく

ギィン、と音がしたと思ったら、先ほどの怪人と同じように彼の身体が変わっていく

怪人ではなく、仮面ライダーに

 

その姿を見た誰もが驚愕する

そんな驚愕の視線に動じることなく、クウガはエレファントドーパントへと駆け抜けた

 

そんな後姿を見た黒妻は

 

「…仮面ライダーって奴だったのか…」

 

そんな黒妻と同じように驚いたのはもう一人

 

「お、おおおおお兄様がっ!! 変わって…!?」

 

彼の同僚の白井黒子である

彼女はクウガを指差しながら口を金魚みたいにパクつかせ、ちょっと気味悪い

 

「そういやアンタ知らなかったわね」

「! その口ぶりからするとお姉様は知っておられましたの!?」

「知ってたわよ。たぶん初春さんも佐天さんも知ってるんじゃないかな」

 

その言葉を聞いてさらに絶句する黒子

彼女の表情は語る

 

わたくしだけハブラれていたという事ですのね…!?

 

まぁ彼女はその時怪我をしており支部でお留守番だっただけなのだが

 

そんな彼女を尻目に、エレファントドーパントと戦闘をしていたクウガ

エレファントドーパントは象特有の怪力を遺憾なく発揮し、着実ではあるがクウガを追い詰めていく

しかもクウガが反撃しようとその顔面を殴り付けても

 

「…固ぇ…!!」

 

皮膚が分厚いのか、はたまた体が硬いのか、こちらの攻撃がうまく通用しないのだ

このままではジリ貧と感じたクウガは先ほど黒妻が掃討したスキルアウトが所持していた鉄パイプを一本取って叫ぶ

 

「超変身!」

 

その言葉と共に赤い身体が青く、ドラゴンフォームへと変わっていく

そして手に持っていた鉄パイプもドラゴンロッドへと形を変化させ、それを構えた

 

そのままドラゴンロッドを振り回し、エレファントドーパントへと叩きつける…が、やはり効果は薄い

 

「っくそっ…! ぐわっ!」

 

唐突に振るわれた長い鼻に反応できず、身体にもろにもらってしまい、壁へと叩きつけられる

青のクウガ…ドラゴンフォームは俊敏性、跳躍力に長けるがその反面、防御力、腕力にその反動が出てしまっている

その低下した力を補うためにドラゴンロッドという棒型武器があるのだが、これも効かないとなれば意味をなさない

恐らくあの皮膚の厚さだと紫の剣の攻撃も通りづらいだろう

 

「…ふぅー…! 超変身」

 

大きく息を吐いて壁を背にクウガは立ち上がりドラゴンロッドをその辺に放り投げ、姿を再び赤へと戻す

だったら真正面から殴り合う他、道はない

相手の皮膚に穴を空けるか、こちらの拳が砕けるかのどちらかだ

その時握った拳にバヂリ、と雷が迸った気がした

 

しかしその時は特に気にするでもなく、真っ向からエレファントドーパントに走っていった

それに答えるようにエレファントドーパントも自分の両手を叩いてその勝負に乗った

だが馬鹿正直に殴り合う気はない

クウガは相手からの攻撃を捌くなり、避けるなりで隙をうかがってからぶん殴るスタイルだ

エレファントからの一撃を躱して、がら空きの顔面にその拳を叩きこむ

殴ったその瞬間、また拳から雷が迸った

 

(…まただ)

 

先ほど拳を握ったときもそうだったが、どこか自分の身体にある違和感がぬぐえない

しかし別に嫌でもない、むしろ気分がいいような気もする

だが今は目の前の敵を優先し、クウガは連撃を叩きこむ

 

「はぁぁぁぁ!」

 

咆哮と共にクウガはのろけたエレファントに向けてさらに拳を叩きつける

そしていつしか、彼の鎧はどことなく〝変化〟していた

 

赤い鎧は金色に縁どられ、ベルトのアークルは金色へと変わり、右足にはアンクレットが現れている

その変化に気づかなかったクウガは何気なく右足で蹴りつけて吹き飛ばした際に、何気なく自分の右足を見て驚いた

 

「! なんだこりゃ!?」

 

自分の身体の所々に金色が施されたその姿を自分は知らない

だが不思議と変な感じはしなかった

むしろ身体が軽い、いける…これなら…!

 

クウガは少し後ろへ下がりながら変身する際のポーズを取る

そして少し右足を引いて、大きくその両手を開いた

右足に力を込める

紅蓮のように熱くなる感覚を覚えたのちに、今度はバヂリと雷が疾る感覚がついてきた

 

そしてエレファントめがけて一直線に突っ走る

進路に見えているのは起き上がろうとしているエレファントドーパントただ一体

完全に立ち上がったエレファントは近づかせまいと長い鼻を振り回した

しかしその鼻を、クウガは雷を帯びた手刀で両断する

そしてその勢いのまま跳躍した

中空のままでクウガは一回転し、蹴りの威力を上げ、右足をエレファントドーパントへと突きつける

 

「おりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

突き出されたその足はエレファントドーパントの顔へと命中し、クウガはその反動で少し後ろへと飛び退いた

 

「う、ぐ…がぁぁぁぁ!?」

 

そんな叫びと共に、ゆっくりと後ろへと倒れた次の瞬間大きな爆発が巻き起こる

爆炎が止んだのち、見えたのは使用者が気絶して倒れている姿と、その隣に落ちているエレファントメモリのみ

 

クウガは急ぎメモリの下に駆け寄るとそれを手に取って思い切り力を入れて握りつぶした

 

 

全く持って予想外だった

黒妻が生きていたことも予想外だったし、まさか仮面ライダーがいたことも想像の範疇を軽く超えていた

…勝てない

自分はどうあがいてもこいつらに勝てない―――!

 

そう思った時に、蛇谷は動いていた

本能ではなく体が

 

「…う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

そんな情けない言葉を上げながら黒妻はまだ立っている仲間を無視して逃亡した

その後ろに「待ってください!」「黒妻さんっ!」と言いながら残った部下も逃げ帰る

あとに残ったのは変身を解除したアラタと、黒妻、そして美琴と黒子だけだった

 

 

「どうだ。調子は」

 

黒妻が美琴と黒子二人に尋ねる

 

「まだちょっと力が入んない感じだけど…まぁ問題ないわ」

「それを聞いて安心したぜ。心配は杞憂だったかな」

 

改めて二人が無事な事にアラタが安堵したタイミングで美琴が気になった疑問をぶつけてみることにした

 

「…ねぇ、あの男、黒妻じゃないの?」

「昔は蛇谷って呼ばれてたんだが、今は黒妻って呼ばれてるらしい」

「―――で、本物の黒妻は貴方ですのね」

「そう呼ばれたこともあったなぁ」

 

そう答えながら黒妻は美琴の手にあった牛乳を受け取ると蓋を開けて、それを一気に飲み始める

ゴクリ、ゴクリと喉を嚥下させ、ぷはぁ、と牛乳を口から離す

 

「やっぱ牛乳は―――」

 

 

 

「―――ムサシノ牛乳」

 

 

 

黒妻の言葉を遮るように女性の声が耳に届いた

その声色は聞き覚えのあるものだ

 

思わずその声が聞こえた方に三人して顔を向ける

そこには神妙な顔で立っている国法美偉の姿があった

 

「…固法先輩…!?」

 

思わずその驚きを口にした黒子を余所に、黒妻は彼女の方へ振り返った

そして一言

 

「―――久しぶりだな。美偉」

 

「…え?」「…え?」

 

美琴と黒子の声が重なった

まるであれ、二人って知り合いなんですか的な空気を醸し出している

正直そんな気がしていたアラタは特に驚くことがなかったが、この二人は違った

 

『え…』

 

黒妻を見る

 

『…え』

 

今度は固法を見る

 

そして最後に―――

 

『えぇぇぇぇぇっ!?』

 

二人の叫びが、誰もいないビッグスパイダーのアジトに響いた

 

 

 

それは過去の記憶

自分に思い出と、居場所をくれた、大切な人との再会―――

 



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#15 学園都市(イバショ)

今回も長いです

こんな拙い文にここまでお付き合いいただきありがとうございます

では#15、どうぞ


沈黙

 

それがこの場を支配しているものの正体だった

固法はどこか遠い目で黒妻を見ているし、その視線を黒妻はただ黙って受け止めていた

やがて先に固法が口を開いた

 

「…生きてたんですね、先輩」

「そうみたいだな…」

 

そんな二人についていけずに、黒子と美琴はそれぞれの顔を見合わせたのち、アラタの顔を見た

…いや、そんな視線で訴えられてもどうすることもできないのだが

 

「…どうして。どうして連絡くれなかったんです!? 私、てっきり―――」

 

何気なく自分の右腕を見て固法はハッとする

彼女の右腕には風紀委員の腕章がかけられているのという事に今気づいたのだ

立場的には、彼女は黒妻を捉える立場にある

固法は慌てて左手で腕章を隠す…が、もう遅かった

 

その腕章を見た黒妻は小さく笑みを浮かべて、一つ息を吐くと改めて牛乳を持ち直して歩き出す

 

「安心しろ」

 

黒妻は彼女の横を通り過ぎると同時、呟いた

 

「すぐ消えるさ」

 

「っ! 先輩っ!!」

 

固法は慌てて振り返った

しかし黒妻はそれに答えることはなくそのまま歩いて行ってしまった

 

「…先輩」

 

彼の背中を見ながら呟く

彼女の胸中はわからない、しかしそれでも、拳が握られていたのだけは逃さなかった

 

◇◇◇

 

ここはとあるレストラン<AGITO>と呼ばれるお店の中

つまりは店内である

このレストランはアラタのお気に入りで、週一ペースで通っている

たまには気分を変えてみよう、というアラタの意見で彼のお気に入りのレストランをみんなに紹介したのだ

メニューは結構豊富だと思う

軽食のトーストからガッツリなステーキとか千差万別

知人である伊達明とかもよく通っているのだ

それでいてあまり人には知られていない、俗に言う隠れた名店である

 

そんなAGITOの一角にて

 

「固法先輩と黒妻が知り合いぃ!?」

 

佐天の大き目な声がAGITO内に響き渡る

 

「ちょ、佐天声がでかい…」

 

そんな佐天を宥めながらアラタ目の前に出されたジュースを軽くかき混ぜる

彼女は「す、すみません」と言いながらいそいそと椅子へと座りなおす

 

「けど、けど黒妻って言ったら…」

「ビッグスパイダーのボスですよね?」

 

二人の認識は正しい

しかし二人は本物の黒妻を見ていないのだ

疑念に思うのも当然である

 

「…それは、そうなんだけど…」

 

美琴が苦い顔をする

…どう説明すればよいのやら

そう困惑していると、さらに二人の口撃は加速していく

 

「その黒妻となんで固法先輩が!?」

「寄ってたかって女の子襲うような奴なんかと!?」

 

「い、いや、二人が知ってる黒妻と違うんだ。…なんて説明すりゃいいか…」

 

そう美琴とうんうん悩んでいるとただ一人、涼しい顔で紅茶をすする女が一人

御坂美琴の後輩、白井黒子その人である

 

「…おい黒子、なにだんまり決め込んでんだ」

「アンタからもなんか説明しなさいよ」

 

かちゃり、と黒子はカップを置きながら静かに口を開く

 

「縁は異なもの、味なもの…」

 

『…はぁ?』

 

美琴と声が重なる

何言ってんだこの子

 

「この件に関しては、わたくし静観させていただきますの」

 

つまりは特に追求もしなければ語ろうともしない、という事なのか

ていうかなんでこんなに達観してるんだこの子は

そんな黒子の言葉を聞いていてもたってもいられなくなった佐天はぐわしゃあ、と勢いよく立ち上がって

 

「あーもー気になるモヤモヤするー! こうなったら、固法先輩に直接―――」

「それがさー…」

 

そんな佐天にアラタは肩肘を頬につけながらため息交じりに

 

「…あいつ、ここ最近一七七支部に顔出してないんだよ」

 

アラタの呟きに初春はえぇ、と小さく頷いた

ちなみに黒子は変わらず紅茶を啜っております

 

「そうなの?」

 

その情報は初耳だと言わんばかりに美琴がアラタに問うてみる

彼は小さく頷きながら

 

「携帯は繋がらない、メールもダメ。…お手上げだよ」

 

その場に漂う変な空気

ただ一人黒子だけが涼しい表情なのが唯一の救いか

…これは最終手段を行使した方がいいのかもしれない

 

「…黒子、お前固法んち知ってたっけ」

「? えぇ、知っていますけど。…もしかしてお兄様」

「あぁ、そのもしかしてだ」

 

 

会計時

 

誘ったのは自分なので今日ぐらいは俺が奢ると頑張って説得し、四人を外に待たせている

レジの前で財布を開きながら中身と相談する

幸いにも今回はホットケーキなどの軽食くらいしか頼んでいないため、問題はないかな、と高を括っていた時期が自分にもありました

自分含めて五人ともなると結構な被害が被る

しかしそれほど大きくはないかな…などと熟考していると

 

「アラタくん、大丈夫?」

 

横合いから声をかけられハッと顔を向ける

そこには一人の青年がアラタの顔を覗き込んでいた

その青年を自分は知っている

 

「翔一さん…、大丈夫って、お金ですか?」

「…確かにレジの前でうんうん唸ってるとちょっと心配はするかな?」

 

こちらを心配してくれている青年の名前は立神翔一

ここのレストランの店長でもあり、教諭でもある二足のわらじを履いているお人である

また、アラタがクウガと知る数少ない人物であり、かつ自身も仮面ライダーでもある男性なのだ

 

「はは…すいません。ちゃんと払いますから…と、」

 

言いながらアラタはレジに表示された金額を翔一の手に置いた

受け取った翔一は手早くそれをレジに入れながらおつりをアラタの手に乗せて

 

「…僕でも手伝えることがあれば、協力するから」

「…ありがとうございます。翔一さん」

 

笑顔でそれに答えながらアラタは外で待っている美琴たちの下へと歩いていく

これから向かう場所は、彼女のマンション…つまりは自宅だ―――

 

 

◇◇◇

 

 

ピンポーン、とインターホンが鳴り響く

黒子の案内の下にたどり着いたのはあるマンションの一室

そしてとたとたと扉へ駆け寄ってくる音が聞こえたのち、「はーい」と答えるような返事のあと扉が開いた

 

「どちらさま?」

 

開いた先にいたのは固法でなく、ストレートが決まってる女性だった

恐らく相部屋の相方の方だろう

てっきり部屋にはいるものだとは思っていたが、まさか彼女は自宅にもいないのだろうか

 

「…えっと、ここ、固法美偉さんの部屋…で間違いないですよね?」

「あ、もしかして美偉の彼氏!? やだ、アイツ結構―――」

「違います」

 

変になんか噂されると恥ずかしいので思いきり否定する

少なくともアラタは彼女を友達だとは思っているが

 

「はは、冗談よ冗談。…あ、ごめんね、今アイツ出かけてるのよ」

 

その口ぶりから察するにどうやら自宅には帰ってきているようだ

なぜだろうか、どこか安堵している自分がいる

 

「…う~。黒妻の事が聞きたかったのにー…」

「仕方ありませんよ。…あと佐天さん、それは思ってても言っちゃダメですよー」

 

黒妻、という単語聞いたときにその相方の表情が一瞬変わった、ような気がした

しかしアラタは特に気づく様子はなく佐天の方を見ながら苦笑いを浮かべた

正直に言えば気にはなるが、かと言って自宅に入り浸るなんでもってのほかである

そんな事をした暁にはなんかもういろいろ終わる

 

「すみません、また出直します」

 

固法のルームメイトにそう告げて、一度みんなで礼をする

そしてその場を後にしようとしたときに

 

「あ、ちょっと待って!」

 

ルームメイトに呼び止められた

 

 

「っとにしょうがないわね…後輩や同僚にまで迷惑かけて」

 

ルームメイトの人が得々と麦茶を注いでくれる

そんなルームメイトに「い、いえ」と言葉を濁しながらアラタは麦茶を口にして喉を潤した

 

「それで、黒妻が帰ってきたのね」

 

「っえ!?」

 

あまりにも自然に口にするものだから本当にびっくりした

初春に至ってはむせてしまっている

 

「…まさか生きていたとはねぇ」

 

どこか物思いにふけるルームメイトにがたっと勢いよく立ち上がった人がいた

それは美琴と佐天である

 

「黒妻の事、ご存じなんですか!?」

「それで、黒妻と先輩はどーいう…!?」

 

「二人とも」

 

ヒートアップしている佐天と美琴に対してアラタが止めに入る

 

「逸る気持ちは分かるが落ち着け。その人が迷惑してるだろうが」

 

彼の言葉を受けて熱が冷めたのか一つ二つ深呼吸して美琴と佐天は椅子に座りなおした

その二人を見てルームメイトの人は一つ咳払いをして空気を変える

そしてアラタの顔を見て

 

「…とりあえず、そっちの話を聞こうかしら?」

 

どうでもいいがこんな時でも黒子は静かに麦茶を飲んでおられました

 

 

「…そっか。どうりでね」

 

一通りの話を聞き終えたルームメイトはそう小さく呟いた

 

「…その、それで、固法先輩はどうして黒妻を知ってたんですか?」

 

「ん? あぁ、それはね。美偉は昔ビッグスパイダーのメンバーだったの」

 

ルームメイトが軽い感じでそう呟いた

あまりにもさらりと言うもんだから一瞬場の空気が固まった

 

数秒後

 

『えぇぇぇぇ!?』

 

佐天と美琴、初春の絶叫

そのことには流石に黒子も若干ながら狼狽えているように見える

事実、アラタも少しながら狼狽えている

 

「あり得ない! いくらなんでもそれはないっ!」

「だって、先輩は風紀委員なんですよ!? どうして…」

 

当然の疑問をぶちまける初春佐天

そんな疑問をぶつけられてもなお、彼女は笑いながら

 

「ああ見えて、昔はやんちゃだったのよ」

 

「やんちゃって…!?」

 

信じられない、と言った感じで美琴が呟く

それもそうだろう、普段見せている彼女とのギャップにただ驚いてばかりなのだから

 

「…あまり過去にどうこう言うつもりはありませんけど」

 

不意に美琴の隣にいる黒子が言った

 

「〝寄り道〟なら、もっと他にあったでしょうに。なぜよりにもよってスキルアウトなんかに」

 

黒子の言葉を聞いた彼女は静かにその言葉を聞いて、やがて口を開く

 

「貴方にはない? 能力の壁にぶつかった事。それが中々乗り越えられず暗い気持ちを持て余した事…」

 

 

どこに行っても居場所がない

自分の能力に伸び悩み、雨の中をただ彼女は歩いてた

そんな時だ

 

不意に河川敷に方へと顔を向けるとそこにはスキルアウトの連中がケンカをしていたのだ

最初は物騒だな、なんて思ったものの、いつしかその赤い髪の男性に目が行っていた

しかもその理由が、また意外だった

小さい子供を守るために、その男たちは戦っていたのだ

何時しか時間がたつのを忘れ、その赤い人を目で追っていたら

 

不意に、その人と目が合ってしまった

 

それが、固法美偉と、黒妻綿流との出会いだった

 

別にスキルアウトと言っても、彼らはただ気の置けない仲間たちとバカやってただけだった

ヤクに手をだすわけでもなく、犯罪をするでもなく、ただ集まって楽しく遊びあうような人たちだった

 

当然、最初は心配した

わざわざ自分が能力者であることを隠してまでいるとこなのか、と聞いて見たこともあった

そうすると彼女は真っ直ぐこう言ったんだ

 

 

「ビッグスパイダーは、私が私でいられる場所…そう言ってたわ」

 

居場所、か

 

小さく呟きながら佐天は隣の初春を見る

その視線に初春は笑みで応えた

彼女らの光景を見ながらアラタも小さい笑みを零した

 

「…ま、固法も人間。学園都市(ここ)にいたら必ずかかる麻疹みたいなものに、アイツはかかってたんだな」

 

「…でも麻疹にかかるのは一度だけよ」

 

アラタの言葉を砕くように、御坂美琴はそう言った

 

「…美琴」

 

納得できていないのか、彼女の顔に笑みはなかった

 

◇◇◇

 

その帰り道

 

道中、ただ淡々と道を歩いていた

別に気まずい、という訳ではなかったのだが、今日は状況も状況で、どこか口を聞くのを躊躇わせてしまう

こういう時に明るく振る舞ってくれる黒子と初春でさえ黙ったままなのだ

 

「…やっぱりわからない」

 

アラタの隣を歩く美琴がふと呟いた

 

「…どうした?」

 

「固法先輩がスキルアウトだったっていうのもショックだけど…。だからって、なんで風紀委員を休んでるの。…なんか関係があるの?」

 

「…だから、それは―――」

 

 

「昔は昔じゃないっ!!」

 

 

唐突に張り上げたその声に思わず身体が震えてしまった

 

「今は先輩、風紀委員で頑張ってるし、私たちにも優しくて、でも時に厳しくて、頼りになって…。そんな先輩が好きなのに、…なのに、どうして今更―――」

 

「…そう簡単に、割り切れないんじゃないかな」

 

ふと、初春の隣にいる佐天がそれに答えるように口にした

誰だって大切な人や自分を変えてくれた人と出会ったら、その人の事を意識するだろう

当然だ

現在の自分を形作るのは、過去の自分

その過去に、そういった大事な人がいるならば、なおさらだ

 

「…その過去が、大切なものなら…よりいっそう…」

 

ふと気づけば全員の視線が佐天に集まっていた

その視線が気恥ずかしくなったのか慌てて手を振りながら

 

「や、違いますよ!? 別に御坂さんに反対してるわけじゃっ! は、ははっ」

 

思い切り乾いた笑いが出てしまっている

別に美琴もそれをわかっているのかわずかばかり笑みを見せたあと空を仰ぎ見る

その視線の先に広がる空は、少し赤みがかった青空

 

「…。やっぱり、わかんないよ…」

 

ぼそりと、彼女は呟いた

 

けど、今はそれでいい

いつか、彼女も気づいてくれるとアラタは信じている

そう思いながら、皆で帰路への道を進む

あの日、何気ない自販機で美琴と会えたことも、きっと意味があると想いながら

 

◇◇◇

 

ビッグスパイダーアジトにて

そこ二はメンバーも集まってはいるのだが、その数はまばらである

 

「…なんだよ、集まり悪ぃな」

 

ちょうど来た一人の男が代弁するようにそんな言葉を漏らした

 

「仕方ねぇだろ。…〝あんなコト〟があった後じゃ」

「…まぁな」

 

あんなコト、とは先日起きたある戦いの事である

その戦いで起きた出来事は、ビッグスパイダーのメンバーにある疑惑を抱かせていた

 

「…黒妻さんって、偽物なのかな」

「んなわけねぇだろ!! 黒妻さんは、黒妻さんだよ」

「…でもよ、あの人蛇谷って呼ばれてビビッてなかったか?」

 

その一言で、言い様のない空気がその場に流れる

目にしてしまった事実はどうあっても拭えないのだ

そんな男の後頭部に、何かを突きつけられたような感覚があった

それが銃口だと気づくのに時間はかからなかった

 

「―――誰がビビってるって?」

 

それは先ほど話していた人物、蛇谷である

しかしメンバーには黒妻で通っているようで

 

「く、黒妻さん!?」

「…俺を疑ってる暇があんなら、今すぐあの偽物を探し出してぶっ殺せぇっ!!」

 

蛇谷は手に持った銃を天井に向けながらさらに叫んだ

 

「学園都市に、黒妻綿流は二人もいらねぇんだ!!」

 

鬼気迫る叫びに身の危険を感じたのかガタガタと慌ただしくメンバーは散っていく

その場にメンバー全員が外に駆け出すのを確認すると一つ息を吐いてソファにどっかと腰掛けた

ふと、唐突に蛇谷の携帯が鳴り始めた

その音に思わず驚いてしまったがすぐ冷静さを取り戻し自分の携帯を取り出し、通話をするべく耳に当てる

 

「もしもし、俺だ。あ? キャパシティダウン? ちゃんと使ってるよ。…うっせぇな! こっちも今いそがしぃんだ!! んなコトしてる暇は―――なんだと…!?」

 

電話の主が言った一言に蛇谷は戦慄した

 

 

◇◇◇

 

一七七支部にて

御坂美琴はある一点を凝視している

それは固法美偉が仕事していたデスクである

ここ最近、彼女はずっと彼女のデスクを眺めたままなのだ

 

「…御坂さん、あれからずっとあんな感じなんですか?」

 

「あぁ。まぁ、気持ちはわからんでもないけど」

 

佐天の言葉に応えつつ、アラタは自分のノートパソコンをカタカタと弄る

キーボードを叩く傍ら、ちらりと美琴の方へと視線をやった

変わらない様子で彼女は固法のデスクを眺めたまま、どこか物悲しい表情を浮かべ佇んでいる

その風景を見ていると、脳裏に彼女と固法が仲良さそうに話している姿を幻視してしまった

 

「…、」

 

そのような幻視を首を振るう事でかき消すと改めて自分の作業に集中する

 

「…あれ、警備員(アンチスキル)からメールだ…」

 

そんな時に初春の言葉が耳に入ってきた

そのまま彼女はその場にいる全員に聞かせるように言葉に出して読み始めた

 

「え…と…警備員本部は…スキルアウトの能力者狩りに対抗し…明朝十時より、第十学区エリアG…ストレンジの一斉摘発を行う…!?」

 

空気が変わる

 

早い話が強硬手段

今更になり、警備員は取り締まる気でいるのだろう

いずれにしてもこの話は国法にも伝わっているハズだ

…話すなら今しかないかもしれない

明日には一斉摘発が始まる、動くなら急がなければ

 

向かう場所には心当たりがある

 

 

第十学区〝ストレンジ〟

 

あるビルの屋上に固法はいた

その場所は固法や黒妻にとっても思い出の場所である

夕焼けに染まる景色を視界に入れながらどこか物思いにふけっていると

 

「やっぱりここにいたんですね」

 

声が聞こえた

固法が振り向くとそこにはその声の主である御坂美琴と、その隣には鏡祢アラタ

アラタは苦笑いを浮かべつつ頭を掻いている

御坂は半ば強引についてきたのだろうか

そんな二人を見て、小さく口にする

 

「…二人とも…」

 

 

「こんな所で何してるんです。…ひょっとして、明日の一斉摘発の事、黒妻に教えに来たんですか」

 

どこか彼女の言葉はとげとげしい

信じているからゆえの言葉だろうが、それでも少しケンカ腰のようにもとれる

なまじ、彼女は今の固法美偉しか知らないから

 

「ここは、先輩がいていい場所じゃないと思います」

「…そうね」

 

吹きすさぶ風に髪を揺らせながら固法は応える

そして付近の手すりに手を乗せて朱く染まってく夕焼け空を見ながら

 

「でも、その居場所を私に教えてくれたのは…黒妻なのよ」

 

 

行かないで

 

そう彼女は黒妻に懇願した

 

黒妻に届けられた一通のメール

それは仲間の一人である蛇谷を預かった、という簡素なものだった

 

それ故に、罠だと分かり易すぎるほどの

 

しかし黒妻は仲間を放っておくわけにはいかない、とそれを突っぱねる

性格を考えればその返答を予測していた

だがその次の言葉は全く予想してはいなかった

 

「…やっぱりさ、ここはお前の名前を刻む場所じゃねぇと、俺は思うぜ」

 

え、と考える

そして彼女は自分の後ろにある手すりを見た

何気なく書いた相合傘

古いかな、とその時は思ったが書いてみると割といい感じかも、と思った相合傘

自分の名前と黒妻の名前がマジックか何かのように上書きされていた

それが明確な否定、と思って彼女は慌てて先ほどまで黒妻がいた方を見た

しかし、もうそこには誰もいなかった

 

 

「私が駆け付けた時には、もう…」

 

その時の悲しみはどれほどだったか

それは想像できるものではない、ましてや自分たちは部外者だ

かける言葉など、見つかるはずがない

 

「それで、今の私がいる」

 

悲しみを乗り越えて、固法美偉はそこに立つ

彼女の背中がどことなく儚く見えてしまったのは気のせいだろうか

 

「…でも、先輩は風紀委員じゃないですか! 犯罪者を逃がすなんて…! おかしいじゃないですか! それって―――」

 

「あぁ。間違ってるよな」

 

美琴の言葉を割って入るように一つの声が耳に入る

咄嗟に美琴とアラタは振り向いた

 

そこにはいつか見た革ジャンに身を包んだ赤い髪の青年、黒妻綿流がいた

彼は以前の笑みでなく、どこか真面目な表情をしてゆっくりと歩いてくる

 

「…先輩」

「あの後、目を覚ましたら病院でさ。そのまま施設に送られて、出てこれたのがほんの半年前」

 

黒妻はその時ちらりとアラタの方を見て

 

「照井のアニキにあったのもそんときくらいかな」

「えぇ。…そう聞きました」

 

アラタが答えると黒妻はそうか、と笑み交じりに返答して固法の隣で立ち止まった

彼は手すりに寄りかかって懐かしむように景色を見る

 

「…先輩、…私…」

「ここで見る景色も、もう見ることはないんだろうなぁって思ってたけどな。…それから、お前にも」

 

黒妻の言葉に固法の肩が震えた

そんな二人の会話を美琴とアラタは黙って見守るしかできなかった

下手に言葉を投げかけては、いけないと思ったから

 

「会わない方がいいって思ってた」

「また、一人で行くつもりですか。…あの時みたいに」

 

拳を握りしめて固法は口を開く

その体はわずかに震えており、今にも砕けてしまいそうで

 

「ビッグスパイダーを作ったのは俺だからな。…その落とし前をつけるのも俺さ、警備員じゃない」

 

予想通りというような言葉を固法はわかっていたのか、ついに彼女は心中を吐露する

固法は彼の左腕を握りしめて

 

「行かないでっ!!」

 

昔みたいに黒妻を制止する

言えなかった不満をぶつけるように彼女は言葉を重ねていく

 

「貴方はいつだってそう! 自分勝手に人を思いやって! 自分勝手に動いて!! 貴方がそんなだから…! 私は…!!」

 

「お前だってそうじゃねぇか」

 

黒妻に言われ、固法はゆっくりと顔を上げる

自分を見る黒妻の顔は穏やかで、微笑ましかった

 

「だから、〝ここ〟に来たんだろ?」

 

その言葉に真意はおそらく固法自身にしかわからない

同時に腕をつかんでいた力が抜け、手を離していく

 

「ほら、もう帰りな。あの子たちも困ってるじゃねぇか」

 

黒妻に視線を向けられる

その視線に美琴は思わず顔を逸らし、アラタは苦笑いする

 

「…今いる所を大切にな」

 

そして黒妻はポケットに両手を突っ込み、扉へ向けて歩き始めた

 

「…私も一緒に行きます…!」

 

そんな黒妻を止めるように固法は言った

 

「もう…あんな思いは、したくないから…!」

「いい加減にしろよ美偉。…昔と今じゃ違うだろ」

「今とか昔とか!! 関係ありません!! 居場所が変わっても、私の気持ちは変わりません!!」 

 

そう叫ぶ固法の姿を、二人はただ見てることしかできなかった

 

◇◇◇

 

思えば彼女と友達になったのはいつだろうか

 

あれは確か、中学二年くらいの頃ではなかったか

一七七支部に配属され、そこで初めて彼女と出会ったのだ

同年代ではあるのだが、風紀委員としては彼女の方が先輩にあたる

 

学年も近かったし、仲良くなるのには特に時間はかからなかった

 

そんな彼女の過去を図らずも自分は知ってしまったのだ

常に大人びていて、冷静で心優しい彼女の過去

 

「…居場所、ねぇ」

 

居場所、とはなんだろうか

一口に居場所と言っても多々ある

通っている学校、入っている部活動、立ち上げたサークル…こういった寮なども居場所に当たるだろう

もちろん友達と一緒にいるその時間を居場所という人もいるだろうし、孤独こそが自分の居場所という人だっているはずだ

そこまで考えて、なんとなく悟る

 

 

居場所とは、自分らしく在れる場所

 

 

軽口を叩きあい、時にケンカしたり、励ましあったり…

そんな気軽に触れ合えて、駄弁りあうような人たちが近くにいるだけでも、それだけでも確かな居場所なのだ

積み重ねた月日が、自分の現在(イマ)を作っていく…

 

「…、」

 

今いる友人たちとの関係は、何年たっても変わることはないはずだ

自分でそう結論させた

どことなく自分の口元には小さい笑いがあった

 

自分の考えに一区切りをつけ、よし、寝るかとそう思ったその時、ピリリと携帯が鳴り響いた

こんな時間に誰だろうか、と思いながら見ると画面に御坂美琴の名前が表示されていた

 

「…美琴、どうしたこんな時間に」

<うん、ちょっと手伝ってもらいたいんだけど…いいかな?>

「…やけに明るいな声色が。…なんかあったのか?」

 

そう聞くと電話の向こうでえへへ、と小さい笑いが聞こえた

その後で

 

<今日固法先輩の言ってた、変わらない気持ちって奴に、気づいただけよ。…アンタとだって、これからも友達でいたいしね>

 

直球で言われると思わず頬が赤くなってしまいそうなセリフをサラッと口にするものだから驚いた

だがそれは、アラタも同じ気持ちだった

その言葉に

 

「…あぁ、そうだな」

 

短く、それでいて強く返す

多分黒子とかも彼女についてくるのだろうな、まぁ…悪くはないかもしれない

 

「んで、手伝ってほしいことはなんだ」

<あ、そうだった。…、まぁ本当に大したことじゃないんだけど―――>

 

 

翌日、時刻は明朝

固法美偉は携帯のとある画像を眺めていた

それは自分がまだビッグスパイダーに在籍していたころに携帯で撮った写真である

暫くその写真を眺めたのち、固法は携帯をパチンと閉じた

自分の机の上には風紀委員の腕章があったが、固法はそれを手にすることなくクローゼットへと足を運んだ

ガチャリとドアを開けた中には、自分がビッグスパイダーの時に着用いていた赤い革ジャン―――

 

それを着て、固法は一人ストレンジを目指していた

今頃警備員が動いているハズだ

警備員より先に、何としてもビッグスパイダーだけは止めないといけない

そんな固法の目の前に、空間転移してきた人たちがいた

 

それは黒子と美琴、そしてアラタの三人だ

 

「…あなたたち? どうして―――」

 

そんな言葉の中で美琴はアラタから何かを受け取り、黒子は彼女の方に手を置いた

直後美琴は国法の右腕付近へと空間転移し、そして彼女の右腕に何かを撒きつけはじめた

 

「ちょ!? なんなのこれ!?」

 

慌てふためく固法をスルーし美琴は作業を完遂させ「ふぅ」と息を吐いた

 

「やっぱりこうでなくっちゃ」

 

そう美琴が言った後、固法は自分の右腕を見た

その腕には風紀委員の腕章が巻かれていた

 

「これ…風紀委員の…どこから…?」

「それは俺のスペアだ。流石にお前の部屋から持ち出すわけにはいかないしね」

 

そう言われアラタは僅かに微笑んだ

同様に彼の隣にいる黒子もウインクしてそれに答える

 

「先輩」

 

不意に美琴に言われ、固法は彼女の方を見た

美琴は笑んだ後、言った

 

「カッコいいですよ」

 

固法は自分に巻かれた腕章を見る

幾度となく見た緑色の腕章

それが、今の自分である証でもある

そう考えて、なんとなく口元に笑みを浮かべた

 

 

同じ時間帯

 

ビッグスパイダーの本拠地を見張っていたスキルアウトの一人の腹部に鉄拳を叩きこみ、それを出入り口へと投げ込んだ

投げられたスキルアウトは扉を吹き飛ばし、そこから外の光が室内に入っていく

 

「朝っぱらから忙しそうじゃなねぇか。…終わらせにきたぜ」

 

周りのメンバーが警戒する中、蛇谷はやはり来たか、と言った顔つきで

 

「…テメェ…!」

 

そう怒りを露わにした

その怒りに黒妻は小さい笑みを浮かべ

 

「分かってるだろうけど―――俺は強ぇぜ?」

 

 

黒妻の言葉は偽りでなく、彼に挑んでいったメンバーはことごとく打ち倒された

しかしそんな事わかりきっていたことだ

そう正攻法が通じないなら、正面から挑まなければいいだけだ

 

「…あぁ、確かにアンタは強ぇ! けどな! んなのは能力者と一緒だ! 数と武器には適う訳ねぇんだよぉ!!」

 

「待ちなさいっ!」

 

声が聞こえた

聞こえた場所は黒妻の後ろ…出入り口の方からだ

黒妻が振り向いた場所には、赤いジャンパーを羽織った固法美偉が立っていた

 

「美偉…」

 

そして、右腕にある風紀委員の腕章―――

それを見て黒妻は笑った

 

「…カッコいいじゃねぇか」

 

それに答えるように固法も彼に笑んで見せた

そして、蛇谷を視線に捉える

 

「こ、固法さん…!?」

「蛇谷くん。あなたずいぶん下賤な男になり下がったわね。数にものを言わせて、その上で武器?」

「―――! う、うるせぇ!! 俺らを裏切って風紀委員になった奴に何が分かんだ!! おらぁっ!! こいつらに俺たちの力を見せてやれぇ!!」

 

蛇谷の号令に応えるようにメンバーが二人に対して手に持っていた銃器を構える

しかし直後、その銃器に鉄針のようなものが突き刺さった

それは空間転移で貫かれたものだと理解するのに時間はかからなかった

そしてそれを象徴するかのように、一人の女の子が現れる

 

「今度は、体内に直接お見舞いしましょうか?」

 

白井黒子は手に鉄針を持ち、不敵に微笑んだ

 

「能力者!? へ、へっ! だが俺たちにはあれが―――」

 

「あれって」

 

言葉の途中で、コインの弾く音が響いた

一秒のあと、御坂美琴が放った超電磁砲が壁を貫通してそとにあるキャパシティダウンを搭載していた車を吹き飛ばした

 

「これの事?」

 

吹き荒れる砂塵のなか、御坂美琴は雷を迸らせる

 

「まさか二度も引っかかるなんて思ってないよな」

 

彼女の隣にいたアラタは口を開く

今度はそれの発生源を確実に叩き潰した事により、美琴は全力を出せるだろう

同様に自分はサポートに回るだけだ

 

完全に切り札はつぶれた

勝因ははっきり言ってないに等しい

だけど―――もう退けない

 

「―――やれぇ!!やっちまえぇ!!」

 

「で、でも―――」

 

バァン、と銃声が鳴り響く

それは天井に向けて蛇谷が撃ったものだ

 

「うるせぇ!! いいからやるんだよ!! でないと俺がお前らをぶっ殺すぞぉ!!」

 

完全に恐怖で部下を支配している

これならば倒すのにはあまり苦労はしないだろう

美琴と黒子、そしてアラタは襲い来るスキルアウトの連中に身構えて―――

 

「貴方たちは手を出さないで」

 

そんな時に固法がそう言った

続けて

 

「たまには先輩を立てなさい」

 

そして固法は笑みを浮かべる

そんな言葉を聞きながら黒妻はふっ、といい笑顔を浮かべ一気に走り出し、襲い掛かる相手を迎え撃った

 

以前見た強さは全く変わっておらず、はっきり言って無双状態である

振るわれた鉄パイプを身を屈めることで回避しがら空きの顔面に拳を叩きこみ、逆に自分を狙ってきた男に向かってパンチをブチ込み、反対側から襲ってきた奴には蹴りを入れる

さらに三人密集していた一人にライダーキックばりのとび蹴りをかましたのちに、いとも簡単に残りの二人も一蹴する

 

「おらどうした。もっと気合い入れて来ねぇと、張り合いがねぇぞオラァッ!!」

 

物足りん、と言った様子で黒妻は叫んだ

そんな叫びに呼応されたかは分からないが一人、怪しい動きをした奴がいた

そいつに向かって固法は自身の能力、透視能力(クレアボイアンス)を発動させる

 

まず男が忍ばせたポケットには拳銃があった

そして反対側のポケットにはスタンガンが忍ばせてある

これは放置しておくとマズい、そう判断した固法は駆け出した

 

「―――っへ…あがぁ!?」

 

「これは没収ね! それから―――」

 

取り出そうとした右腕をひねりあげ、拳銃を手から離させる

そのまま腹部に手刀を叩きこみ、そのまま反対側のポケットに固法は手を突っ込んだ

 

「このスタンガンもねっ!!」

 

取り上げたスタンガンを見せつける

男はなんでわかったんだと言いたげな表情に固法はゆっくりとスタンガンを押し当てて

バヂヂ、とそのスタンガンが炸裂した

 

「…なんかイキイキしてるな、今日の固法」

「そうね…けど、あれが固法先輩なのかも」

「まぁ、イキイキしてるのは事実ですわねぇ」

 

三人でそんな事を言い合う

普段の冷静な固法もカッコいいが今日みたいな活動的な固法もいいかもしれない

 

「へぇ、それがお前の能力か」

 

不意に黒妻が固法に言った

固法は彼の方へと視線を向ける

黒妻は口元にクールな笑みを作ると

 

「すげぇじゃねぁか」

 

「…、でしょ?」

 

それに応えるように頬を赤くしながら短く答えた

 

「へっ…。俺も負けてらんねぇなぁ!!」

 

その叫びと共に再び黒妻無双が始まる

そしてその黒妻を支えるようにひっそりと固法が走る

 

「…派手にやってるな」

 

殴る音と悲鳴をBGMにドアからまた新しい人物が姿を見せる

 

「照井さん」

「心配になってきてみたが、杞憂だったな」

 

照井の手にはエンジンブレードが握られており、彼が歩いたと思われる地面には剣を引きずった跡があった

恐らく引きずって歩いてきたのだろう

 

「知り合いですの?」

「あぁ。ちょっとしたな」

 

黒子の問いに答えながら戦っている黒妻と固法の方を見た

いつしか部下は殲滅され、残ったのは蛇谷一人になっていた

 

「おら、どうするよ」

 

黒妻が問いかけた

しかし蛇谷は不敵な笑みを浮かべ黒妻を睨む

 

「まだ…! まだ俺は負けてねぇ…!」

「…?」

 

黒妻が訝しむ

蛇谷はジャケットの内側から一本のメモリを取り出して、スイッチを押して起動させた

 

<COMMANDER>

 

電子音声が鳴り響き、蛇谷はそれを自らの掌に差し込んだ

瞬間に彼の身体はみるみる変わっていき、怪物の姿へと変化した

 

「…お前」

 

「うおおぉぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

叫びと共にコマンダードーパントは自分の周囲に仮面兵士と呼ばれる自分の駒を呼び出した

先ほどまでに自分の部下を恫喝していた彼が指揮官を関する怪人となるのは何の因果か

 

黒妻は呟く

…本当に、変わっちまったな

 

「黒妻さん」

 

さっきまで美琴の隣で待機していたアラタは歩いてきていた

彼の隣にはエンジンブレードを引きずって歩いてきていた照井の姿もあった

二人は黒妻の下に歩み寄ると照井はエンジンブレードを地面に突き刺した

 

「悪いな。状況が変わった。手を出させてもらうぞ」

「えぇ、頼みましたぜ照井のアニキ、アラタ。…俺の代わりに、アイツにお灸をすえてやってくれ」

 

そう言われ照井は「あぁ」と首を頷いた

道を違えてしまった青年を矯正するのは、慣れていると言わんばかりに彼はアクセルドライバーを取り出し、それを腰に巻きつける

 

「蛇谷と言ったな。…お前では俺たちに勝てん。それでもやるのか」

 

「うるせぇな! 今更後に退けるかよ…!」

 

「…やれやれ」

 

そう呟いたのち、照井竜は自分のジャケットの内側から赤いメモリを取り出した

それはAと書かれたメモリだ

 

「アラタ、兵士どもを任せていいか」

「了解です。…照井さんもお気をつけて」

 

そう答え、アラタは自分の腰に手を翳し、アークルを顕現させる

それと同時、照井もアクセルメモリを起動させた

 

<ACCEL>

 

メモリが起動するのと同じタイミングでアラタはポーズを取りながら、各々に叫ぶ

 

「変…! 身ッ!!」

「変身!」

 

アクセルメモリをドライバーにセットしパワースロットルと呼ばれる右グリップを回した

まるでエンジンを蒸かすように

 

<ACCEL>

 

そう電子音声が鳴り響き、バイクのような音と共に、照井の姿を変える

その姿こそ、照井のもう一つの姿〝仮面ライダーアクセル〟

 

個々のメモリを使い分け、汎用性が高いダブルとは対照的にアクセルは一つのメモリを極限にまで高める事で凄まじい戦闘力を誇っている

 

「…重圧感がありますね」

 

その隣で変身を完了したクウガの声を聞きながらアクセルは苦笑いする

そしてアクセルはエンジンブレードのグリップを握りしめ勢いよく引き抜いて

 

「さぁ! …振り切るぜ」

 

 

一直線に向かってくる仮面兵士を真っ向から挑み、クウガは拳を振るっていく

幸いに仮面兵士の一体一体の力はさほど強くなく、数発叩きこめばすぐにダウンする

問題はその数である

 

「おっと…!」

 

不意に背中をホールドされる

両手をがっしりと掴まれ、腕の自由を奪われるが足は問題なく動く

止まった隙を狙おうとした仮面兵士の腹に蹴りを入れる

そして背後を掴んでいた兵士の顔に自分の後頭部を頭突きの要領で当てるとわずかに腕の拘束が緩んだ

すかさず肘鉄を腹部に叩きこんで振り返りざまに顔面に拳を繰り出す

 

しかしやはり数の暴力は素手では覆せそうにない

何かないか、とクウガは辺りを見回した

少し見回すと地面に先ほどのスキルアウトが使用していたとされる木刀が見つかった

クウガはそれ目掛けて跳躍すし、その付近へと着地するとその木刀を手に取って

 

「超変身!」

 

紫色のクウガへと姿を変える

同様に手に持った木刀も両刃の剣、タイタンソードに変化し剣先がシャン、と伸びた

よし、とクウガは手に持つタイタンソードを構え、向かってくる仮面兵士を一刀の下斬り捨てていく

 

「ああもう、多いなホントに!」

 

前方の仮面兵士の群れに向かってクウガは剣を持つ手に力を込める

バヂリ、とわずかに雷が迸った、が自らの姿を変えるまでには至らない

そのままクウガは一気に接近し、すれ違いざまに次々と剣で斬り裂いていった

 

すべて斬り終えたとき、クウガは剣についた血を払うような動作をする

別に血などついてはいないのだが

自分の背後には粒子となって消え去っていく仮面兵士の姿があった

 

「…あとは、照井さんか」

 

 

「お前の兵士は倒されたぞ、まだやるか」

 

「うるせぇ!! いちいち勘にさわる野郎だなてめぇはぁぁぁ!!」

 

激昂したコマンダードーパントはコマンドソウと呼ばれる電磁刃を取り出すと一気にアクセルへと接近していく

アクセルはエンジンブレードを使用して器用にコマンドソウと切り結んだ

蛇谷自身がこういった武器になれていないことが唯一の救いか

闇雲に振るうコマンダーのソウをアクセルはエンジンブレードで受け止め、その腹部に蹴りを打ち込む

 

吹っ飛ばされ地面を転がっていくコマンダードーパントは態勢を立て直すと、再びコマンダードーパントは自分の周囲に仮面兵士を呼び出した

 

しかしアクセルは冷静にエンジンブレードのマキシマムスロットを開き、そこに一つのメモリを差し込んだ

 

<ENGINE><MAXIMAMDRIVE>

 

エンジンブレードにエネルギーを宿し、そのまま仮面兵士の群れに向かってアクセルはブレードを突き出す

その刀身からはAの文字を模った衝撃波が飛ばされ、仮面兵士たちを一撃のもとに殲滅した

 

「グ…! くっそぉぉ…! 俺たちは、示さないといけないんだ…! 学園都市の、連中にぃ…」

「その示し方が間違っていると何故気づかない。…ひねくれた男だ」

 

アクセルはゆっくりと自分の手をアクセルドライバーの左グリップのレバーへと持っていき、それを引く

 

<ACCEL><MAXIMAMDRIVE>

 

そして再び変身の際に右グリップを回していく

ブゥン、ブゥンとバイクの音が聞こえ、その音が徐々に速度を増していく

それに合わせるようにアクセルの周囲も赤く蒸気が発生し、うっすらと炎のようなエフェクトが見えてきた

 

ほどなくして、アクセルがコマンダードーパントへと飛んだ

そしてそのまま飛び後ろ回し蹴りの要領でアクセルは〝アクセル・グランツァー〟と呼ばれる必殺キックを打ち込んだ

アクセルが蹴りつけた場所はまるでタイヤの跡が残り、アクセルは倒れ伏すコマンダードーパントを背に呟いた

 

「絶望がお前の、ゴールだ」

 

瞬間、アクセルの背後でコマンダードーパントが爆発する

その場には変身を解除された蛇谷と、ブレイクされたコマンダーメモリだけだった

 

◇◇◇

 

「…どうしちまったよ。蛇谷」

 

うずくまる蛇谷に向かって黒妻は問いかけた

昔は本当に楽しかった

皆で集まって、バカやって…何気ない日々の一つ一つが宝物だった

なのに、なんで

 

「…仕方なかった…! 仕方なかったんだ…!!」

 

蛇谷は両手で自分を抱きしめるような仕草のあと、呻くように答えた

 

「俺たちの居場所はここしかねぇ…! ビッグスパイダーを纏めるには、俺が〝黒妻〟になるしかなかったんだ…!」

 

ただ彼は自分にとっての居場所を守ろうとしただけだった

だがそのために、蛇谷次雄という存在では纏まらなかった、故に、彼は黒妻綿流を騙るしかなかった

しかしそれは居場所と呼べるものではない

自分を偽ってまであり続けることが、本当に居場所と呼べるのだろうか

 

「だから…!! だからぁ!」

 

そう叫んだ時、蛇谷は懐へと手を突っ込み、鋭利なサバイバルナイフを取り出した

 

「今更テメェなんていらねぇんだぁぁぁぁぁ!!」

 

そう言ってナイフを黒妻に向かって突き出、そうとしたときに蛇谷の手に何か堅いものがブチ当てられた

それがアラタが投げつけた木刀だと気づくころには、黒妻の鉄拳が顔面にめり込み、意識が抉り取られ、地面にみっともなく倒れた

 

「蛇谷…」

 

黒妻は呟く

かつて自分の隣にいてくれた友人に

 

「居場所ってのは、自分が自分でいられる場所を言うんだよ…!!」

 

◇◇◇

 

その後つつがなくやってきた警備員の連中にビッグスパイダーの奴らは逮捕され、照井はそれらを指揮するためにどこかへと歩いて行った

 

今、この場にいるのは美琴に黒子、それにアラタ

そしてその三人の前に黒妻と固法である

 

「いやー。終わった終わった…」

 

その場で軽く息を吐くと彼は改めて固法を見る

黒妻は彼女の前に徐に両手を出した

 

「ほら」

 

それは自分を捕まえろ、という事だ

しかし固法はすぐに実行に移さず、それを躊躇うような動作を見せた

 

「美偉」

 

黒妻に後押しされ、それでも固法は悲しそうな表情を浮かべる

しかしやがて意を決したように

 

「黒妻綿流。貴方を、暴行傷害の容疑で拘束します」

 

そうして固法は彼の手に手錠を付けた

その行動を、黒妻はどこか優しげに見つめていた

 

「似合ってるぜ」

 

「…、」

 

そう言われ満更でもないような顔をする固法

しかし黒妻は不意に固法の胸元を覗き込み

 

「けど、その革ジャン、流石にもう胸きつくねぇか?」

 

オブラートに包むでもなくド直球に発言する

これが普通の男性なら間違いなくセクハラものだ

しかしなぜだか彼が口にするとあまりいやらしくない不思議

 

指摘された国法は流石に顔を赤らめたもののすぐに笑みを作り

 

「そりゃ毎日あれ、飲んでますから」

 

あれ、と言われ黒妻は一瞬訝しんだ

しかし即座にあれの正体は何かを看破し、二人同時にそれをいった

 

『やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳!』

 

お互いの顔を見ながら言った後、二人は楽しそうに笑いあう

その二人が本当に楽しそうで、まるで兄弟のような雰囲気だった

 

「…、」

 

思わずアラタは隣の美琴のある一点に視線を向けてしまい

 

「…ねぇ」

「…はっ!?」

 

がっつり美琴の怒りを買った

 

「アンタ今アタシのどこを見てたのかなぁ」

「ど、どこと申されましてもっ、え、えと…強いて言うならその慎ましい胸ですかね…?」

 

美琴は笑顔であるが、目で見てもはっきり分かるようにこめかみをひくつかせ、徐に手に雷を溜めた

アラタは悟る

 

あ、これ死んだ

 

「正直でよろしい…この変態がぁぁぁぁッ!!」

「おっふ!? ちょっと、落ち着こう美琴さんっ! 話せば分かる!」

「やっぱりアンタもデカい方がいいのかァァァァァ!」

「嫌ァァァァァ!」

 

そんな喧噪を見て黒子は思わず苦笑いをする

 

「本日もお姉様とお兄様は平常運転ですわねぇ」

 

そして黒子の視線は不意に黒妻と固法の視線と合った

少し互いに見合って、どちらともなく吹き出してしまった

笑い合っている最中、固法は自分を導いてくれた黒妻へ感謝を馳せる

 

 

先輩、ありがとう…と

 



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#16 そんな休みの一日

お待たせしました

今回は別のキャラに焦点を当ててみました
そんな結果がコレだよ

故にアラタの出番は少ないしガールズに至っては出て来てないです

相変わらずな出来ではありますがお付き合いください
誤字、脱字等ございましたら報告ください

ではどうぞ


ぴぴぴ、と目覚ましから聞こえる音で覚醒する

ばす、とやや乱暴にその目覚まし時計のスイッチを押し、立神翔一は覚醒する

 

「ふむむぅ…もう朝かぁ…時間って経つの早いよなぁ」

 

そんなどうでもいいようなことを呟きながら翔一は布団から起き上がり布団を畳んでいく

手際よくパタパタと畳み部屋の隅に置いてパパッと着替える

 

「んー…! 去って、今日も頑張ろうかなー」

 

翔一は自宅兼レストラン、〝AGITO〟の店長だ

 

着替えを終え、翔一は入り口から外へ出る

AGITOの入り口付近には翔一が手製した野菜農園があり、毎朝ここに水をやるのが日課となっている

レストランで使われる野菜もここで採れる新鮮な野菜を用いておりおまけに無農薬

ちょっぴり味には自信があるのだ

…それでも足りないときはあるからたまに買いに行くのだが

レストラン前を歩く学生たちにおはよう、と声をかけながら翔一は農園に水道につないだホースを掴み水やりを続ける

現在とある高校の生徒たちは夏休みに入っている、だから今学校へと歩いていくのは常盤台かなー、などと考えながら翔一はホースの先に力を入れ、シャワー状へと切り替える

一通り畑に水をまき、土を湿らせたあと蛇口をひねり水を止めてホースをくるくると巻き、それを水道の近くに置いた

 

「水揚げはこんな感じかな、よっし…次は開店の準備しないとね」

 

呟きながら翔一は扉の前にかけてあるプレートを開店中へと再び店内へと戻っていき今度は厨房へと足を運ぶ

AGITOは基本バイトの子数人と店長である翔一だけで切り盛りしている

しかし午前中は翔一一人だ

幸いにもここに来る客があんまり多くないことが救いか

有名にでもなって客足が増えたらエライ事になりそうだ

隠れた名店、とアラタは言っていたがむしろ隠れていて正解だと思う

 

時刻はだいたい朝六時半、といったところか

この時間帯だとトーストのオーダーがよく来る

無論、そのオーダーをしてくる人も限られてくるが

 

「翔一さーん。今大丈夫ですかー」

 

そうこうしているうちにさっそく一人お客が来店してきた

鏡祢アラタである

 

「いらっしゃいアラタくん。今日も風紀委員かな?」

「はい。たまには朝ごはんここで取ろうかなって思いまして。あ、エッグトーストで」

 

アラタのオーダーに答えながら翔一は厨房へと足を運んでいく

パンをトースターに入れフライパンに卵を落としそれを熱していく

 

「アラタくんも大変だね、もう高校夏休みに入ってるのに」

「慣れっこですよ。あいつらといるのも楽しいですしね」

 

そう言いながらアラタは笑う

彼は風紀委員一七七支部に所属している風紀委員(ジャッジメント)

それと同時に小萌先生が受け持っている生徒の一人でもある

彼も無能力者ではあるのだが友人たちとも仲が良くそれを感じさせないほどに明るい性格をしている

何人か友人と一緒にこのお店に来たことがあるのだが、皆個性が強く名前を覚えるのに時間はかからなかった

 

「お待たせ。飲み物は大丈夫?」

「あ、大丈夫です。ありがとうございまーす」

 

アラタはテーブルに置かれたエッグト-ストを二つ折りにする

その際につぶれた黄身から液体が零れ出るがそれを皿で受け止めたあと、ゆっくりと食べ始めた

 

黙々と食べる姿を見ながらふと翔一は時計を見やった

あれから約三十分ほどたち時計は七時を示していた

こうして何かに没頭していると本当に時間って進むのが早いなぁ、としみじみ感じる

気が付くとトーストを食べ切ったアラタはレジへと足を運んでいた

翔一はレジへと歩き、彼から五百円受け取るとおつりを渡す

 

「ごちそうさま翔一さん、じゃあ行くよそろそろ」

「うん。行ってらっしゃい」

 

そう言って翔一は出ていくアラタを見送る

そんなアラタと入れ違いにまた別のお客が入ってきた

白っぽい髪に男か女か分からない風貌の少年

 

「いらっしゃーい。…お、一方通行(アクセラレータ)が人連れてくるなんて珍しいね」

「別にイイだろ。何となくだ」

 

一方通行(アクセラレータ)と呼ばれた少年の背後には蛇革のジャケットを着込んだ青年がいた

かけられた少年は手を挙げて反応し、青年の方は「おう」と短く声を上げ答える

二人は席へ移動し、向かい合うように座る

 

「珍しいな。こういったレストランみてぇな所によるなんて」

「ここのコーヒーは中々だからな。悪くねェ」

 

そう言ったのち、白い少年はメニューを掴み、開いて見る

暫く見たあとで少年は翔一に向かって手を挙げて

 

「コーヒーと適当にパンを頼む。…浅倉、お前は」

「俺もパンだな。あとコーラ」

「だそうだ。ンじゃ頼むぜ」

「畏まりましたー」

 

翔一はそう返事して厨房へとは歩く

用意している最中、二人は会話を続けていく

 

「…いいのか。今更止めるつもりなんてないけどよ」

「俺だって今更止める気なンざねェよ。〝絶対〟てェのにも、興味あるしなァ…」

 

ここからでは二人の会話はよく聞き取れない

しかし翔一としても個人的な事は聞く気はないし、追求する気もない

それ以前にケンカになってしまったら勝つ自信はない、というか勝てない

一方通行(アクセラレータ)とはこの学園都市に存在する能力者の頂点に君臨する能力者の事だ

そんな第一位に認められるというのも結構悪い気ではない

果てしなくどうでもいい事を思いながら翔一はコーヒーカップとコーラを入れたグラスを持っていく

 

「お待ちどうさま、コーヒーとコーラを持ってきたよ」

「あ、どうも」

 

青年が受け取り、一方通行(アクセラレータ)の前に置く

そして今度はオーダーされたパンを焼くために再び厨房へと戻っていく

彼らが何をしておるのか、それはわからない

それに知ったところで翔一にはどうにもできないだろう

彼らを止めてくれる、誰かがきっと立ち塞がるはずだから

 

 

一方通行(アクセラレータ)達二人から代金を貰いしばし自由時間

八時を過ぎるとあとは興味本位で来るお客やなじみのある警備員の人たちくらいしか来なくなる

 

「おいーす! ガミちゃん、今やってる?」

 

そんな声と共に来店してきた伊達明もそんななじみある客の一人だ

 

「いらっしゃい、伊達さん。朝食ですか?」

「おう。ちょっち遅いかもだけどな」

 

伊達は席につきメニューを見ながらふむ、と考え始める

ひとしきり考えているとき、また扉が開いて来店してきた人がいた

 

「立神さん、開いてますか?」

「あぁ! 立花さん! 大丈夫です、開いてますよ」

 

もう一人のなじみのお客、立花眞人が来店した

メニューを見ていた伊達が眞人の方へと振り向いて「おう!」と手を上げる

 

「タッちゃん! お前もここの常連だったのか」

「あ、伊達さん。常連と言っても、数日前に見つけて通っただけですから、それを常連と言えるのかどうか…」

「相変わらず気難しいなタッちゃんは。店員と顔馴染みならもう常連よ?」

「言ってる意味が分かんないですけど…」

 

苦笑いを浮かべながら立花が困り果てている

あれでは部下に絡む上司みたいだ

しかしそんなやり取りでさえ、このレストランでは日常茶飯事なわけで

そんな喧噪を耳に入れながら翔一は準備を始めた

 

 

お昼時

この時間帯にはバイトの子も数人やってきて少しだけ楽が出来る

と、言ってもそのバイトの子がとある高校在籍でしかも夏休みだからなのだが

 

そんなバイトの子らががんばっているの中ひっそりと食パンを用いて軽食を作り翔一はゆっくりと裏口に進んでいき扉を開ける

扉の先には一組の男女がの姿はあった

しかしその身なりはボロボロで、とても綺麗とは言えない

この子らはある事情があるのだ

 

「はい、今日もこんなのしか出せないけど…」

「大丈夫です…化け物になっちまった俺たちに優しくしてくれるだけで感涙ものですから…」

 

男女それぞれに軽食を手渡すと短く礼をすると路地裏の暗闇へと消えていった

その後ろ姿が消えるまで翔一は見つめ、見えなくなると彼は再び店内へと戻っていく

 

彼らの事情とは、自分の身が異常であるという事だけ

オルフェノクと呼ばれる異質な身体へと変貌を遂げているのだ

突発的な事故で命を散らし変化する

恐らくキーは死ぬことなのだろう

しかしそれ以外の詳しい情報は全く分かっておらず、ただ化け物へと姿を変える以外わかっていない

分かり易く言うなればそれは病気だ

死ななければ発症しない、とても分かりにくいもの

それなのに公になっていない事から何らかの情報が張られているのかは分からない

 

唯一の救いとやらは、大半がそれを隠し普通の生活へと戻ろうとしてくれることか

突如として現れた力に恐怖し、もう一度やり直そうとするのだ

が、その力に溺れ個人の復讐へと走る人たちもいる

 

翔一は何人かを更生させることに成功はしているが、それでもこの都市にはオルフェノクは何人かいるはずだ

流石に人数まではわからないが

 

と、そこまで考えてふぅ、と翔一は息を吐いた

正直自分が考えても分かる事は何もないと思ったからだ

今自分がとっている行動ははっきり言って偽善かも知れない

それでも構わない、と翔一は自分に言い聞かせる

自分は、自分を貫こう

 

 

午後

 

二時くらいかと思われるそんな時、その一行は扉を開けて入ってきた

それは四人ほどの女性のグループだ

 

「いらっしゃい麦野ちゃん」

「立神、とりあえずいつもの頼むわ」

 

そう告げた麦野の後を歩く女性たちにも手であいさつをしながら翔一は厨房へと歩いていく

 

彼女たち一行はアイテムと呼ばれる暗部組織だ

正直暗部組織と言われても全く実感が湧かないが翔一としてはそんなのどうでもいい

数限りない依頼を受けて普通の女の子でいられないなら、せめてこのレストランの中でくらい女の子でいさせようと思っている

そしていつか彼女たちを支えてくれるような人が現れてくれれば、とも思っている

 

翔一はそんな彼女たちの下へ飲み物をおぼんに乗っけて

 

「はい、とりあえず水だけはおいておくよ」

「お、相変わらず超気が利きますね立神は」

「大人だからね。…ていうか、水くらいはどこのファミレスでも配ると思うけど」

「タイミングが超絶妙なんですよタイミングが。超飲みたい…そんな空気を悟って立神は水を配るんですよ」

 

…いや、絶対偶然だと思うけど、本人がそう思っているならそうなんだろう

苦笑いを浮かべながら水を入れたコップを置いていくとフレンダが翔一の袖をくいくいと引っ張ってきた

 

「ん? どしたの?」

「ねぇねぇ、テンドンはいないの?」

「…テンドン?」

 

天丼と言いたいのだろうか

というかそれ以外思いつくものがない

もしくは天ぷらうどんを省略して言っているのだろうか

そんなやり取りの最中、いつの間に来店していた一人の男性がぽふ、とフレンダの頭を叩いた

 

「あたっ」

「天道、だ。全く…何度間違えればいいんだお前は」

 

入ってきたのは天道総司

週に一度程度だがこのレストランを手伝ってもらっているのだ

週一とはいえ彼も立派なバイトの一人だ

 

彼は頭をさするフレンダを尻目に翔一に歩み寄り

 

「手伝いに来ました、立神さん」

「ありがとう総司君。さっそくで悪いけどお願いできるかな?」

「えぇ、任せてください」

 

苦笑いと共に繰り広げ天道は厨房へと歩いていく

それを見届けながら翔一は彼女たちに向き直り、オーダーを受ける準備をする

 

「注文は」

 

「あたしはシャケね。シャケ弁…ここじゃ定食だったね」

「サバカレー! 天道ならやってくれると信じてるってわけよ」

「ハンバーグ。超チーズ盛りで」

「…カレーライス。中辛で」

 

オーダーを受けながら徐に翔一は考える

…レストランっていう名称を変えようかなぁ、なんてことを考えながら時間は進んでいった

 

 

麦野らが食事を終えて勘定を受け取り出ていく一行の背中を見送りながら今度は食器を洗うべく厨房へと戻っていく

かちゃかちゃ、と皿と皿がぶつかる音が響く中、少しづつ時間は進んでいく

その最中、やってきた来客には天道君といったバイトの子たちが対応してくれたおかげで翔一は食器洗いに没頭できた

お皿を食器棚に戻している最中、何気なく除いた冷蔵庫の中の肉類の材料が少なくなっている事に気づいた翔一はエコバッグ片手に近くにいたバイトの子に買い物に行く旨を伝えたあと、AGITOを出た

 

つつがなく買い物も終わり、さぁ戻ろうかな、と思った時である

 

キャアァァァ! と劈くような悲鳴が翔一の耳に届いてきた

 

時刻としてはまだ三時半くらい

夏休みの学生たちがまたやらかしたのか、とも思ったがあの悲鳴はただ事ではなさそうだ

何よりあんな悲鳴を聞いてしまっては男として引き下がれない

翔一は急ぎその悲鳴の場所へと走り出した

 

・・・

 

当然ながら辺りは混乱し、人が逃げ惑う

どうやらまたメモリを手に入れた学生が暴れているようだ

 

翔一が見たその怪物の姿は屈強な赤い甲冑を纏い、腹部に3つ、両肩、左膝と右足先とオリオン座の星に当たる部分に青白いコアがあった

その姿はドーパントとは似ても似つかないが、それでも学生たちに迷惑をかけているのには変わりない

 

しかしその怪物(仮にオリオンと仮称する)は傍らに女学生を捕まえており、下手に刺激すると傷つけてしまう可能性もある

と、そこまで考えてふと自分の手に持っている様々なお肉が入ったエコバッグに目が行った

…が、そこで思い直す

 

「…いやいや、流石にそれは駄目だ」

 

食品の神様が怒りかねない

翔一はエコバッグをどこかに置くと、周囲を見回して手ごろな何かを探す、と大きめな空き缶が目に入ってきた

よし、と一つ決意をした後、両手を左腰へと移動させた後、右手を右側へと移す

すると彼の腰にオルタリングと呼ばれるベルトが姿を現した

 

そしてそのベルトの両脇のスイッチを両手で押して

 

「変身…!」

 

直後、眩い光が翔一の身体を包んだ

 

 

支配感

それがオリオンの思っている感情だった

 

素晴らしい力を手に入れた

ガイアメモリとも違う、素晴らしい力を

路地裏に引きずり込み八つ当たる必要なんかもなくなったのだ

これからこの絶対的な力がこの街を支配する

傍らの女が震えた目でこちらを見る

…いい気味だ、この都市の女、いや女だけではない

この街のいたるヤツがレベルが低いと言うだけで罵倒し侮蔑を浴びせてくる

そんな人生はもうウンザリだ

 

そう思っていたその時、顔にコツンと何かがぶつけられた

よくよく見てみるとそれは五百ミリリットルの空き缶だ

誰が投げたんだ、と思いつつ彼は睨みを効かせながら辺りに視線を巡らそうとしたその直後

 

さらに顔面に強い衝撃が襲ってきた

思わずずざざ、と後ろに仰け反ってしまいその反動で人質にしていた女を離してしまった

 

痛みも引き、オリオンは正面に立つ人影を睨む

そこに立っていたのは金色の鎧を纏った二本角の男だった

 

「…仮面、ライダー…!? 噂に聞くクウガって奴かい!!」

 

オリオンもクウガについてはある程度は知っていた

しかし目の前に立つそいつはどこか違う気がする…

 

「違う。俺はクウガじゃない」

 

男は女性に逃走を促すとオリオンに向けて身構える

 

「…アギトだ」

 

 

憮然と構えオリオンと対峙する

厚い甲冑に覆われたその身体にダメージを与えるのは難しいかもしれない、がそれをさほど気にするアギトではない

右手を前に出し、ゆっくりと歩を進める

じり、じりと足をすり足のごとく動かし、相手の出方をうかがう

 

と、こちらに向かって大きく接近し手に持った棍棒を大きく振り抜いた

アギトはそれは身体を左へと動かすことで避け、右足での蹴りを打ち込む

しかしやはりその甲冑に阻まれ思うように通らない

それに気を良くしたのかオリオンは再び棍棒を振り抜いた

その一撃を大きく後ろへ下がる事で回避したものの、攻勢はを緩めることなくまた棍棒を振るう

 

幾度かそれを繰り返し、流石にジリ貧だと感じたアギトはオルタリングの右側のスイッチを押した

 

すると中央の宝石部分から一振りの剣が生み出され、それをアギトが抜き取った

それに応えるように金色だった中央の鎧が赤くなり、右腕も赤く変色していく

それはフレイムフォームと呼ばれるアギトの戦闘形態の一つだ

別名〝超越感覚の赤〟

 

チャキリ、とアギトはフレイムセイバーと呼ばれる片刃の剣を構え、オリオンが振るった棍棒を受け止める

そのまま鍔迫り合いに持ち込んだアギトはオリオンの腹部を蹴りつけてさらに手に持ったその棍棒を両断して叩き斬った

 

がらんと二つに切られた棍棒に驚くオリオンを尻目に再びアギトはフレイムセイバーと二度三度切りつける

大きく仰け反ったオリオンを見据えてゆっくりとセイバーを構える

その時フレイムセイバーの唾が展開し、刀身に炎が纏われた

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

呻くオリオンに向かって、居合切りのごとくフレイムセイバーを振り抜き、セイバースラッシュを叩きこんだ

斬り抜けた後、アギトは背を振り向いて刀身を鞘に納めるかの如くベルトへと戻し、ふぅ、と一つ息を吐く

 

直後、叫び声と共にオリオンが爆発した

 

 

爆発したところに向かい翔一は学生を見つけ、そして今度はメモリを探そうと辺りを見回した

だがどこを見てもメモリのようなものはなく、その場にはスイッチのようなものしかなかった

 

「…もしかして、これかな」

 

手に取ったのは目玉のようなスイッチ

恐る恐るかちりとそのスイッチを押すとどこか虚空へと消え去ってしまった

 

その場に残ったのは気を失った学生と戸惑う翔一のみ

今までもこういった暴走は起きていたが、総てガイアメモリというある記憶が内包されていたメモリによって引き起こされたものだ

しかしこういったケースは全くもって始めてだ

だが考えたところで翔一には理解できるものではない

学生を駆けつけた警備員に引渡し、翔一はエコバッグを回収しレストランへと戻って行った

 

(…このお肉はお客には出せないなぁ)

 

袋越しといえど地面に置いてしまったのだ

これは自分で処理しよう、と心に決める翔一だった

 

 

レストランに戻り、夜も半ばとなる

この時間帯になるとたまに夜遊びグループの学生が来店する

まぁホントにたまにだから正直夜はやることはない

バイトの子たちもすっかり気を緩めており、店内の椅子に座りリラックスしている

 

そんな時また一人来店する一人の男性

 

「マスター、カプチーノを頼むぜ」

「…翔太郎くん、レストランだからここ。あるけど」

 

本当にレストランという看板を変えようかとも思う今日この頃

しかしマスターとはいかがなものか

 

「ていうか僕店長だから。マスター違うから」

「細かい事は気にするなマスター。俺の気分だ」

 

…ぶれないなこの人は

それが彼のいい所なのかもしれないが

 

コーヒーを淹れそれを翔太郎の前に持ってくる

翔太郎はカップを手に取りまず鼻で匂いを嗅ぎ、一人笑みを浮かべる

そしてゆっくりとカップに口をつけ―――

 

「あつっ! はふ、ふー、ふー…!」

 

ぶち壊しである

 

◇◇◇

 

夜も更け、バイトの子たちも帰り、その場には翔一が一人

扉にかけてあるプレートを閉店へと直し翔一はその場で背伸びする

 

「んー…今日もお疲れ様ー」

 

自分に言い聞かせ店内のシャワールームへと足を運ぶ

数分経ってさっぱりした翔一は寝間着に着替え階段を上り布団を敷いた

 

今日も何の変哲もない一日だったがその生活にももう慣れている

特筆するのは今日戦った怪人だ

詳しい事情や正体はわからないが、今後も関わるには違いないだろう

 

そんな事を思いながら翔一は布団の中で目を瞑る

 

 

 

それは、そんな休みの中の一日―――



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#17 あすなろ園 ~寮監の恋~

変身、戦闘一切なし

今回はほのぼのな感じです


誤字、脱字ございましたらご報告ください

では#17、どうぞ


「黒子ォォォッ!?」

 

常盤台女子寮にて、時刻夜

今日もルームメイト〝白井黒子〟首が狩られた

 

どさり、と地面に倒れ伏した黒子は眼鏡が光る寮監に引きずられ、寮の外に投げ出された

そして重い声色で寮監は口を開いた

 

「…寮内での能力の使用は禁止だと、何度言えば分かるんだ。…なぁ? 御坂」

 

ギラリ、と眼鏡が煌めきレンズの奥の視線が御坂美琴の身体を貫く

 

そんな寮監に美琴は怯えながら気を付けの姿勢のまま、「はっ、はひっ」なんて情けない返事しか出せなかった

 

◇◇◇

 

「まったく! いつ何時(なんどき)も、口を開けば規則! 規則!! 規則!!!」

 

Joseph's店内

白井黒子がそう愚痴りながらカップの中をストローでつつく

つつかれた反動で中に入れられていた氷が飛び出し、対面にいる美琴とアラタの方へと飛んで行った

 

「…それが寮監の仕事だろうが」

 

アラタの呟きは最もである

それを黙認していたら仕事にならない

格闘家に戦うなというようなものである

 

「それでもですの! どうにかなりませんのあのオンナ…昨日だってお姉様と戯れていただけなのに…。なんでわたくしばかりがあのような目に。…イケズゴケのヒステリーですわ」

 

制裁対象がいつも黒子なのはおそらく寮監も発端は彼女だと察しているのだろう

 

「…それはそれとしてイケズゴケって」

「本当の事ではありませんの!」

 

美琴の言葉に怯むことなくどんどん黒子は寮監に対しての罵詈雑言を連ねていく

 

「だいたい女子寮の量感なんて男っ気の欠片もない仕事なんてしてるからいつまで経っても時代に取り残されてるんですわ。その鬱憤をわたくしたちに晴らそうだなんて。ほんっとイイメイワクですわ」

「こらこら。…いくらなんでもそれは言い過ぎ―――」

 

「…ん? あ」

 

宥めようとした美琴を尻目に何気なくアラタが窓の外を見たその瞬間思わず声を洩らした

そんなアラタの声に反応し美琴と黒子もつられて窓の外へと視線をやった

そして同時に二人はテーブルに突っ伏した

何故なら先ほどまで黒子が罵詈雑言をぶちまけていた寮監が歩いていたからである

噂をすればなんとやら

 

「…おかしいですの」

 

そんな中ひっそりと黒子が呟いた

 

「…え?」

「何がだ?」

 

二人の言葉に頷きながら黒子が答えていく

 

「あの寮監がおめかしをしているんですの」

「そ、そういえば、休みになるとどこかに出かけてるらしいけど…」

「え、マジか?」

 

意外である

こう言ってはなんではあるがアラタも彼女に対しては正直きついイメージしか持っていなかったからだ

そんな彼女が休日に出かけてる、という理由は―――

 

オトコ(OTOKO)ですわっ!!」

 

『…はぁ?』

 

見事にハモってしまった

いや、その考えに行きつかなかった訳ではないがこう、面と向かって言われると…なんか、ねぇ

戸惑う二人を尻目に黒子はバッと席から立ち上がると

 

「こうしてはおられませんわお二方ぁ!」

 

一直線に出口に向かって走り去ってしまった

 

「ちょ、黒子!?」

「ったく…、あ、ごちそうさまでしたぁ!」

 

さりげなく黒子は席を立つ直前に自分の分の勘定をテーブルに置いていたのだ

同様に二人もそれぞれ五百円ずつ置いて、彼女の後を追いかけた

 

 

一定の距離を保ちつつ三人は寮監さんの後ろをスニーキングする

技術も何もあったものではないが意外にバレてはおらずすんなりと尾行には成功している

 

「…つうか、尾行してどうすんだよ」

 

アラタの問いに黒子はそれはとてもとても黒い笑みを浮かべながら

 

「あの女の弱みを握ってやりますの」

「弱みって…」

 

その後はただもうただもう黒子のマシンガンな口撃が繰り出される

 

「きっとお見合いですのよ。あんな血も涙もないロボットみたいな人でなしのイケズゴケにデートする相手なんているとお思いですの? まぁ最も、お相手の方も大変なマニアックですわよねぇー、よりにもよって賞味期限切れ寸前の女なんかと! 罰ゲームですわよホントに」

 

「…そこまで言わなくても」

「てか世話になってる人になんでそんなボロクソに言えるのかねお前は」

 

そこまで恨みは凄まじいという事か

それにしたって言い過ぎだと思う、オーバーキルである

尾行を開始して数分経ったその時、寮監はとあるお店に入って行った

ピザチェーン店である

 

「…ピザ屋でお見合い?」

「いや、流石にそれは」

 

美琴と二人、顔を見合わせる

そんな中黒子はじろ~と出入り口を睨んでいた

 

やがて出入り口から寮監が出てきた

両手にはピザの箱がそれぞれ五箱ずつ、計十箱手に持っていた

 

「…なるほど、見合いの相手はメキシコのお方…! 恐らく名前はマルコとみて間違いないですわ!!」

「…お前は何を言ってるんだ」

 

わりかし付き合いはあるが何だか白井黒子が分からなくなってきた

思わず美琴に視線をやってみたが彼女は苦笑いと共に首を横に振るばかりである

 

 

電車に揺られて数十分

彼女の後を尾行し続けるうちに三人は十三学区に辿り着いた

ていうか結構遠出してきてしまった

 

「ていうかどこまで後をつける気なのよ」

「だいぶ学区も移動したぜ?」

「マルコの顔をこの目に収めるまでですわ」

 

もう彼女の頭の中でマルコは決定事項らしい

そこからしばらく彼女の後をついていくと一つの大きな施設の中に入っていくのが見えた

入り口の看板には〝児童養護施設 あすなろ園〟と書かれている

 

思わず三人して顔を見合わせてしまった

 

 

あすなろ園とやらに入って最初に目にしたのはたくさんの児童に囲まれてる寮監の姿だった

アラタも何度か寮監と話したりはしているがあまり笑顔というものを見たことがなかった

そんな彼女が子供たちの前ではとても自然な笑顔を浮かべているのだ

黒子がその場で調べてみた情報によるとあすなろ園という養護施設はどうやらチャイルドエラー達が通っている施設のようだ

 

「…寮監のあんな顔、初めて見た」

 

呟く美琴に頷く

彼女の笑顔は本当に本心からの笑顔なのだ

感銘を受けたのは美琴やアラタだけではない

 

「知りませんでした…! まさかこんなところで寮監〝さま〟がこれほどまでに心根のお優しい方だったなんて…!」

 

待ってくれ、今〝さま〟って言わなかったか

つい先ほどまで罵詈雑言ぶちまけていた黒子が

 

「それに比べてわたくしたちはっ! イケズゴケなど人でなしなどロボットだなどと…! 自分が恥ずかしいですわっ! くろこのばかっ! ばかっ!」

 

そう言いながら黒子は手すりにぺちぺち拳をぶつけ始めた

いや、それ全部お前の口から出た言葉なんですけど

そう言いたい気持ちを抑え、アラタはハァとため息をついた

美琴も同じように苦笑いをしていたが、ふと視界にある人物が入ってきた

 

「ねぇアラタ、あれ」

 

彼女はアラタの袖をくいくいと引っ張り、視線を向ける

アラタの視界に入ってきた人物は自分たちがよく知っている人たちの姿があった

 

 

「はぁ…いくらテストの点が悪かったからボランティアだなんてさぁ…」

「何事も経験ですよ佐天さん。ほら、元気に遊ぶ子供たちを見て癒されましょうよ」

 

ジャングルジム付近にて

佐天涙子と初春飾利両名は

ほうきを持って地面のお掃除をしていた

 

「そして子供たちと遊べて楽しいじゃないですか」

「…ま、それもそっかっ」

 

ボランティアといえど子供たちに触れ合う機会はあんまりない

腕白にははしゃぐ子供たちの相手をしていると疲れる分、元気そうな笑顔が見れるからそれで良しとしよう

佐天は頷きながらおーし、と気合を入れ直しさて掃くかぁっ、としたその時

 

「二人とも、ちょっと大丈夫かな」

 

二人の目の前から眼鏡をかけた先生と園長と思われる先生はこちらに向かって歩いてきていた

眼鏡をかけている先生の名前は大圄といい、初春と佐天の通っている柵川中学校の教師でもある

今回二人はこの先生に言われ、このあすなろ園でボランティアをしているのだ

 

「まだ紹介してなかったね。この方が、園長の重之森加寿子さん」

 

大圄がすっ、と手を差し出し園長先生を紹介する

園長は大圄を見ながら

 

「この子たちが、大圄先生の生徒さんね。今日一日、よろしくお願いしますね」

 

『よろしくお願いしますッ』

 

元気よくそう挨拶をしてふと園長先生がちらり、と視線を動かして

 

「ところで…あちらの子たちはお友達?」

 

「え?」

「あちらって…」

 

園長に指摘され初春と佐天は彼女が向けた視線の方へと首を動かした

そこにはこちらに向かってすごく手を振る白井黒子と小さく笑みを浮かべる御坂美琴、そして控えめに手を振りながら笑みを浮かべている鏡祢アラタの姿が見えたのだ

 

 

「こんな所で会うなんて奇遇ですわねぇ」

 

中に入れてもらい、五人はブランコ付近に集まっていた

 

「三人もボランティアですか?」

 

と純粋な瞳で佐天がそう問いかけてきた

正直に言って尾行してましたとはさすがに言えない

 

美琴と二人「あ、あぁ…」とか「ま、まぁね…」とお茶を濁すような返答しかできなかった

一瞬そんな二人に?を浮かべるがすぐにそれを振り払った

そんな時初春が窓の向こうにいる寮監を見ながら

 

「あれって、白井さんの所の寮監さんじゃないですか?」

「いえ、これには深い深い事情がございますのよ」

 

そんな風に言いながら黒子はその寮監さんを見るべくこっそりと窓付近に移動した

それに釣られて残りのメンバーも黒子の後ろについて行った

窓の向こうで子供たちと戯れている寮監に先ほどの大圄先生が挨拶でもしているのか、彼女に向かって歩いてきていた

 

彼に声をかけられた途端、寮監の頬がどんどん赤くなっていく

 

「今日はうちの生徒も一緒なんです。至らない所があったらどんどん注意をしてくださいね」

「そ、そんな…。大圄先生の生徒を叱るだなんて…。りょ、寮生を叱った事もありませんのに…」

 

普段は規律に厳しい寮監さんがあら不思議

何ともしおらしい乙女になってしまってるではないか

 

「寮監さんもボランティアなんですねー」

「ふーん。大圄のボランティア仲間かー」

 

そんな二人の呟きにムッと反応したのが白井黒子だ

彼女は腕を組んだままちらりと首を向けて

 

「あのお方は大圄先生と申しますの?」

「? はい。私たちのクラスの担任で―――」

「なるほど…! お相手はあの方だったんですのね」

「え? お相手って?」

 

よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに黒子が目を輝かせる

 

「寮監様は、あの大圄先生に恋をしているのですのよ!!」

 

場が一瞬フリーズする

その後、黒子以外の四人の声がシンクロした

 

『恋ぃぃぃぃぃーッ!?』

 

別に考えが行かなかった訳ではない

だがしかしやっぱり窓越しに見る寮監の大圄さんを見るその視線はやっぱり熱を帯びている

さっきも思ったが恋する乙女状態だ

 

そんなアラタの独白を尻目にグワシッ!! と黒子は拳を握り

 

「その恋、わたくしが実らせてさしあげますわっ!」

 

「お、おい黒子…」

 

流石にこれは黒子がまたカキョッてされる未来しか見えない

こんなに未来がはっきりしているのだ

先輩として止めねばなるまい

と、思っていた矢先

 

「わー! なんか楽しそうですね!」

「私も手伝いますよっ! 白井さんっ」

 

まさかの初春、佐天が同意

 

「もぉ…面白がって」

「そうすんなり上手くいくはずないだろう」

 

「問題ありませんわっ! さぁ、お兄様もお姉様もさぁ! 作戦会議ですのっ!!」

 

そんなこんなで白井黒子主導の下、名付けて〝寮監様の恋を成就させましょう作戦〟は開始された

 

…と、ぶっちゃけその時のアラタはどうせ寮監さんにまた怒られて終わるだろう、などと軽く考えていた

そう言った色恋沙汰に変に干渉すると余計こじれてややこしくなるに違いないと思っているからだ

少なくとも黒妻さんと固法の時はそうだったし

 

そう思っていたアラタの考えは夜、美琴から来た一本の電話によって見事に覆された

 

「…寮監さんが乗った!?」

 

夜も更ける午後九時付近

暇だからゲームでもして時間を潰そうと考えていた時、アラタの携帯が鳴った

電話の相手は御坂美琴で、彼女は思いもしない言葉を言ってきたのだ

 

〝寮監が黒子の作戦に乗った〟という事に

 

実際は黒子が寮監の悩み、つまり恋の悩みの相談に乗るという形ではあるが相手が黒子な以上、作戦を発動するだろう

そして先ほどの言葉に戻る

 

<うん…あたしもまさかそんな展開になるなんて思わなくて>

「…まぁ、寮監さんも女性だからねぇ」

 

人に好意を抱くときとはちょっとしたキッカケが必要だ

そのキッカケをトリガーに、その人に興味を持ち徐々に好きという感情へと変わっていく

今回はボランティアがトリガーだったのだろう

そこで寮監は大圄という異性に出会い、好意を持った…

ほとんどが推測だがきっとこんな感じのはずだ

 

<…次の休みなんだけど、大丈夫?>

「問題ない。乗りかかった、どころかがっつり乗った船だ。俺だけ関係ないとは言えないよ」

<ありがとう、そう言ってくれると助かるわ。…じゃあまた>

 

短く告げて携帯は切れた

携帯をテーブルに置くとアラタは背伸びをする

子供は苦手なわけではないが先生の真似事がうまく出来るか多少不安になってくる

ふと、思い立ったアラタは携帯を手に取り、ある人物へと電話をかけた

 

 

で当日

 

「今日一日、皆と一緒に遊んでくれるボランティアのお兄さんお姉さんたちですよー」

 

園長先生にそう紹介され、『よろしくお願いしまーすッ』と礼をして挨拶を交わす

あすなろ園のエプロンを着込んでいるのは初春、佐天に黒子、そして美琴にアラタ…と、神那賀の五人

 

 

「…唐突に呼び出して何事かと思ったら」

「悪いな。急にこんなん頼んで」

 

苦笑いをしながら愚痴る神那賀にアラタはちらりと視線をやった

 

「大丈夫よ。特にやることもなかったし。子供も好きだし」

「お、それじゃ結果オーライって奴かな」

「チョ-シに乗んないの」

 

そんなやり取りを少し微妙な顔つきで美琴が睨むように見ていた事をアラタは気づいていなかった

と、部屋の隅で何やら相談というか打ち合わせをしていた黒子と寮監の二人に目がいった

一言二言会話を交わした後、黒子が咳払いをしながら四人の前に立ち、宣言する

 

「それではさっそく、作戦(オペレーション)を実行いたしますわよっ!」

 

何その名称

 

 

黒子の指示で寮監さんを厨房へと移動させる

そこでは今日開かれるお誕生日会に使用されるケーキを作るための材料があるのだが

連れて行った初春が戻ってきて黒子にそれを報告した

 

「寮監さん、連れて行きましたよ」

「ご苦労さまですの。これでステップ1はクリアですわね」

 

黒子が考えた作戦はこうだ

まず厨房に寮監を放り込み、そしてその場に大圄先生をブチ込む

そして二人の共同作業にて愛を深め合う…

 

まぁ要約したらそんな感じ

早い話一緒に作業すれば二人の仲も進展するはずだ、というようなものだ

 

「つか意外だな。黒子がそんなわりかしまともな作戦を思いつくなんて」

「あ、それには同感。てっきりまたわけわかんない小道具でも使うのかなって思ってたけど」

「まぁ! お二方ったら。普段わたくしにどんなイメージをお持ちですの」

 

それを言われると言葉につまるのだが

二人して苦笑いをしているとエプロンを不意にくいくいと引っ張られる感覚があった

 

「おにいちゃーん、あそぼー」

 

気づけばいつの間にか子供たちがアラタと美琴の前に集まってきていたのだ

 

「ではお姉様、お兄様。お願いしますわ」

 

黒子に促され二人は頷く

二人は打ち合わせで子供たちの遊び相手を引き受けていたのだ

 

「んじゃ行くか」

「おっけー。じゃあ、皆行こっかー?」

『わーいっ!!』

 

そう元気に叫ぶ子供たちに似たような声を、どこかで聞いた気がした

 

 

子供たちは外でアラタと美琴に任せて、厨房には今寮監と大圄先生が愛の共同作業(黒子命名)をしているハズだ

初春、佐天に黒子、そして神那賀の四人は椅子に座って、絶賛休憩中

 

「…うまくやってますかねぇ、大圄先生と寮監さん」

 

ほんわかと呟く初春

こういった色恋沙汰には疎いがそれで二人が進展するなら安い…かは分からないが

 

「まぁ見た感じだと結構いい雰囲気だったし、上手くいってくれると手伝った甲斐があったって胸張れるね」

 

初春の近くで立っていた神那賀はそんな事を言いながら笑みを作る

初春と佐天両名は今回が神那賀と初コンタクトになる

しかし明るい佐天と朗らか笑顔な初春にすぐに打ち解けて仲良くなり、アドレスも交換済みだ

 

「でもさ」

 

そんな時ふと思い立った佐天が口を開いた

 

「あたし達って成功前提で作戦進めてるけどさ、これ失敗したらどうすんですか?」

 

そんな事を言われ神那賀はそう言えば、と考える

確かにこの作戦はセッティング云々は黒子を中心に自分たちだが、実質二人になれるような場所を用意するだけで成功するか否かは寮監にかかっている

つまりはいくら自分たちががんばっても肝心の寮監がコケてしまったらそれっきりだ

そんな疑問を払拭するように黒子が

 

「それは―――」

 

 

 

「にゃわーーーーーッ!!?」

 

 

 

そんな黒子の呟きを遮るかのように厨房にいる寮監がそんな叫びをあげた

 

「今の、寮監さんの声でしたよね?」

「一体なにが…」

「え、けどケーキ作るのにそんな叫ぶようなことって…」

 

三人それぞれ口々に不安の声を上げるがただ一人、黒子は笑みを崩さない

 

「心配ご無用ですわ。こういった不測の事態に対する策はちゃんと用意してますの」

 

 

黒子についていき、厨房のドアの前に到着

 

そして黒子は扉に手をかけて勢いよく開けると

 

「あらまぁなんという事でしょうー!?(棒)」

「ちょ、なにこれ!?」

 

佐天の驚きももっともだ

厨房はどういう訳か小麦粉が周囲にばら撒かれており、寮監も大圄も真っ白だ

そしてその中心にいた寮監が一番白かった

 

「わ、私がいけないんだ。小麦粉を開けようとしたら…」

「…小麦粉を開けるだけでそんな…」

 

神那賀が呟くが、自分もかつてポテトチップスを開けようとしてエライ事になったことを覚えている

それを思い出して苦笑いする

 

「だ、大丈夫ですよ、またやり直せば。ね? 先生」

 

「…だ、大圄先生…」

 

一瞬ではあるものの、二人を取り巻く空気多少変わった気がする

 

「それではとても間に合いませんわっ!」

 

間に入るように黒子が乱入する

そして黒子は笑みを浮かべて大圄に

 

「ささ、今すぐケーキを買って来て下さいですのっ」

「そ、それもそうだね。それじゃ―――」

 

そう言って大圄先生は買いに出かけようとした彼を

 

「ちょっとお待ちくださいな」

 

黒子が呼び止めた

そして彼女は寮監を開いた両手で指し示し

 

「寮監さんがとっても美味しいケーキ屋さんをご存知ですの」

「なぁ!? 白井ッ!!」

 

あまりにも無茶ぶりな要求に寮監は黒子の肩を掴むが

 

「大丈夫ですわ。こちらの三人がサポートしますから」

 

降られた三人は内心〝え!?〟とドッキリした

別段反論する気はなかったのだが寮監がちらりとこちらを見て

 

「…本当か?」

 

と小さく呟いた

それに慌てて三人は軍人ヨロシク敬礼の体制を取りながら

 

『も、モチロンデスっ!!』

 

若干冷や汗を流しつつそう答えたのだった

 

◇◇◇

 

一方外で子供たちと戯れる組

 

(なにやってんだろあたし…)

 

笑みを浮かべながら鬼ごっこをしてる美琴はそんな事を思っていた

そんな時自分の腰付近に衝撃があった

それは一人の女の子が抱き着いてきたからだ

 

「捕まえたっ」

「よーし、今度は美琴お姉ちゃんが鬼だぞー」

 

その子供の近くにいたアラタが自分を指しながらそんな事を言う

普段呼び捨てで名前を呼ぶ人物にそんなお姉ちゃん付きで呼ばれるとなんだかすごくこそばゆい

美琴はふう、と息を吐きながら小さく笑みを浮かべ

 

「よーし、今度はあたしが鬼かー。ほらぁ、早く逃げないと…鬼になっちゃうぞぉっ!」

 

そう言って両手で威嚇するようなポーズをして子供たちへと視線をやる

嬉しそうに「わーっ!」と逃げ回る子供たちを見ていると、〝ある子供たち〟の姿が頭の中で蘇った

 

木山春生の子供たちだ

 

〝あの子たちが助かるならなんだってする! 悪魔にだって魂を売る!! たとえ世界を敵に回しても!! 私は、諦めるわけにはいかないんだぁぁっ!!〟

 

「…、」

 

そんな子供たちを見て、どことなく歯がゆい気持ちになる

もし未来が変わっていたら、あの子たちもこんな風に笑って遊んだ日が来たのだろうか

 

「美琴」

 

ふとアラタに名前を呼ばれた

先ほどとは違い、呼び捨てでフランクな呼び方

美琴は彼の方へと向き直る

 

「…あの子たち見てたらさ、木山たちの教え子たちの事…思い出しちゃってさ」

「あぁ、そっか…。どこかで見た事あるな…なんて思ってたら、あの子たちだったのか」

 

頭で再生される元気だったあの子たち

木山春生を信じ、木山春生がすべてを捨ててまで助けようとした、そんな子供たち

 

「…、やめだやめこの話題。…沈んで話になんねぇよ」

「…うん、そうね」

 

どこかぎこちない様子でアラタが呟いたのに美琴は頷く

こんな所でしんみりとしていてもしょうがない

今は、前を見て歩かなければいけないからだ

 

よし、と美琴は一つ息を吐くと同時にガバッとアラタに抱き着いた

 

「なばっ!?」

 

アラタは当然ながら驚く

美琴は上目遣いでアラタの表情を見て一言

 

「…つーかまーえた」

「は? …あ!? おまっ!?」

 

すぐさま美琴は離れて子供たちの方へと逃走する

そしてアラタを指差して

 

「さぁ、今度はアラタが鬼だかんねっ!」

 

そう元気に宣言して美琴は子供たちと一緒に逃げ回る

 

どこか苦い笑顔を浮かべる彼を見て、不意に美琴も笑顔になる

いつしか自分が無意識に、彼に惹かれていることに、御坂美琴はまだ、気づいていない

 

◇◇◇

 

その後初春たちもつつがなく戻り、その手にはケーキの入った箱が握られていた

しかし変だったのは五人の表情である

どことなく疲れているようなそんな表情

 

佐天は語る

 

「…何とかケーキは買えましたけど、その過程がもぉ大変で大変で…」

 

なんでも犬のしっぽをうっかり踏んでしまいエライ事になってしまったり、どういう事か道を間違えるわ、寮監さんはふらっと川に落ちてしまいそうになるわetc…

 

「…なんでケーキ買いに行くだけでそんな冒険してんだよ」

「アラタ、そこんとこは聞かないで」

 

切実な神那賀の言葉にアラタは口を紡ぐ

確かに変に追及したら後々メンドイことになりそうである

そんなハプニングを乗り越えて、今目の前にはテーブル二つをその上にテーブルクロスをひいて、注文したピザや先ほど買ってきたケーキをテーブルの上に乗せてお誕生日会の準備は万全だ

 

いずれにせよ結果オーライだ

 

「さぁ、それじゃいただきましょうねぇ」

 

園長先生がそう言うと子供たちが元気よく『わーいっ!』と返事をする

 

「よかったですね、皆、喜んでくれて」

 

大圄先生がそう言った

言葉を聞いた寮監は内心恥ずかしい気持ちになりながら徐に眼鏡を取って、レンズを拭く

 

「すいません。…ちっともお役にたてなくて…―――」

 

「…あれ?」

 

不意に大圄が口を開いた

その動作に寮監は「?」と怪訝な顔をして大圄を見る

 

「…眼鏡、ないほうが良いですね」

「…えっ!?」

「あ、いや…ある方も似合ってますけど、裸眼の先生も素敵だなって」

 

寮監の顔がみるみる赤くなっていく

そりゃそうだ、気になる異性からそんな事言われてしまっては赤くならざるを得ないではないか

そんな寮監の気分も一人の子供の「あーっ!」なんて言う言葉で現実に戻される

 

「おねえさんとだいごせんせい、ラブラブだーっ!」

 

『ラブラブーっ!!』

 

直後に子供たち全員からそうリピートされる

純真な子供たちとはいえど、そう大っぴらに口にされるとさすがに恥ずかしい

 

「こ、こらっ! 大人をからかわないのっ!」

「そ、そうだよ! 第一、僕なんかが相手じゃ先生に申し訳がないよ…」

 

そうはにかみながら答える大圄を黒子は逃さなかった

すかさず続ける

 

「では、大圄先生はどのような方が理想ですの?」

 

「んー?… そうだなぁ…」

 

そんな黒子の質問に大圄は真面目に応えようとする

多分この人、いい旦那になれるな、と内心アラタは勝手に思う

 

「…尊敬できる人、かな」

「尊敬、と仰られますと…具体的には…?」

「そうだな…自分よりも、他人の為に行動できる人…、かな」

「なるほどー…」

 

といった会話がなされているとき、背を向けていた寮監は顔を赤くしていた

先ほど子供たちから茶化されたから顔を合わしづらい

どこまでも、優しい方だな…なんて思いながらカタカタ、という音に現実に戻された

 

徐々に揺れが強くなりやがてテーブルに乗っていたコップに入っていたジュースが震えはじめる

 

「地震!?」

 

アラタが明確に言葉にしたことで子供たちが恐怖に震え、怯えはじめる

混乱する子供たちにどう対応していいか分からず、大圄も美琴たちも困っていたその時だ

 

「動くなっ!」

 

寮監の張りのある声が室内に響き渡った

 

「落ち着いてテーブルの下に隠れろ、ゆっくりな…!」

 

寮監の声は不思議と浸透し子供たちを含め美琴たちも指示に従いテーブルの下に潜り込み、隠れる

しかし一人の子供が指示を聞かず、混乱したまま走って逃げだそうとした

そして、ポットが乗っているテーブルに肩をぶつけてしまう

ぶつかった拍子にポッドがぐらり、と揺れて子供へと落下していく

 

「危ない―――!!」

 

大圄先生の言葉と同時、寮監が駆けていた

ガンっ! と何かがぶつかった音が聞こえる

 

そんなことが怒っているとは知らずテーブルの下へと潜り込んでいた組

 

「…止まった?」

 

ボソリと神那賀が呟く

 

「最近多いですよね…」

 

神那賀に初春が答えた

それに内心アラタも同意する

さほど頻繁に起きるわけでもないのだが妙に地震が多い気がする

 

「先生! 先生っ!!」

 

ふと大圄の声に反応した

声の方を見るとそこには寮監が自分の身体を盾にするように子供を抱きしめていた

その傍らにはからのポッドが落ちており、地震の揺れで落ちたのか、子供がぶつかったことで落ちたのかは分からないが、どうやら寮監はそのポッドから子供を守ったようだ

幸いにも空だったおかげで大事には至らなかったみたいだ

 

「先生、怪我は―――」

「こら! だから落ち着けって言ったでしょう」

 

寮監は守っていた子供へ一喝する

それは本当に子供を心配していたことが分かる一言だ

怒られた子供はしゅん、となり「ごめんなさい…」と呟いた

その後で寮監は優しく微笑み

 

「怪我はない?」

「うん」

 

そのやり取りはどこか、仲睦まじい家族を連想させた

 

「先生」

「! だ、大圄、先生…」

 

寮監と子供を心配して駆け寄った大圄先生が笑顔を作る

 

「流石です。…尊敬します」

 

微笑み交じりで呟いたそんな言葉

もう寮監の心は、大圄(かれ)の事でいっぱいだった

 

 

その後つつがなくお誕生日会は終了した

ちなみに終始寮監はぽわわんとしたままだった

 

「…あれでフラグは立ったのだろうか」

 

学生寮自室にて

すっかり時間は八時を迎え、アラタはテレビをなんとなく見ながら少し遅い夕食を食べていた

メニューは白米とチンジャオロースという簡素な品

作り方は天道に教えてもらったものの、まだまだ彼の味には程遠い

肉とピーマンを箸ではさみ、それを白米の上に乗せてそれをかきこむ

 

「…ん、やっぱ俺が作るより天道のが美味いなー」

 

などと言っていると携帯が震えた

誰だなどと思いながら携帯を手に取るとそこには黒子の名前があった

…猛烈に嫌な予感がしたがそれらを振り払い電話に出た

 

<お兄様! 今お時間よろしいですのっ!?>

 

なんかテンション高い黒子が電話に出た

どうしたのだろうかという事を問うてみる

 

「…なんだ? やけに息が荒い気がするけど」

<寮監様がプロポーズをお受けになるんであられますのよっ!!>

 

うん、意味が分からない

とりあえず夕食にラップをかけて黒子の迎えを待つことにした

 

そしてその数分後に黒子は来た

傍らには美琴もおり、彼女もやれやれといった顔つきでお手上げのポーズをする

しかし隣にいる、という事でおそらく寮監がらみは本当なのだろう

 

・・・

 

んで、AGITO店内

 

大圄と向かい合って座っている寮監を少し離れた席で見守る

いつの間にか佐天と初春も合流しており、すっかり観戦ムードである

 

ちなみに美琴から話を聞いたところによると寮監さんは〝相談に乗ってくれ〟と大圄先生に誘われたらしいのだ

つまり本当にプロポーズなのかはわからないのだが…

 

「いよいよ大詰めですねっ白井さん」

「なんかあたしまでドキドキしてきたよ…!」

 

すっかりテンションマックスなお二人

 

「…けど、なんでレストラン?」

「全く…これだから彼女いない歴=年齢な男は困りますの」

 

さりげなくAGITOがディスられた

 

「ですよね~、やっぱりプロポーズって言えば、海辺の綺麗なレストランですよねぇ…」

「えー? 夜景がきれいなレストランでしょ? ね、御坂さんっ」

 

美琴に話を振るのは良いんだけどそれ以上翔一さんの店ディスらないで、頼むから

初春と佐天が示す条件全く満たしてないんよこのレストラン

と、そこまで考えてふと一個の仮説が思いついた

 

ここに呼んだ、という事はもしかして本当に大圄先生は寮監さんに相談しに来ただけなのではないか、という事

仮にこれはプロポーズと仮定してもはっきり言ってムードも減ったくれもないこんな場所に呼び出すことは…もしかしたら…

 

さりげなくアラタもAGITOをディスっているが、この際気にしない

 

「そ、そうねぇ…それで、プロポーズをOKしたら、海から花火が上がるのとかいいかなぁ…」

 

そんなアラタの思考を余所に先ほど佐天に降られた話題を妄想全開で返す美琴

 

『いや、それはちょっと…』

「…え!?」

 

初春、佐天がハモり、黒子も首をかしげてしまう

意外にも御坂美琴はロマンチックだった

 

「あ、じゃアラタさんだったらどんなプロポーズしますか?」

「は? え、俺にも振るの?」

 

不意に佐天に振られて考え込むアラタ

女子だけで終わってしまうだろうと思っていたためにこの不意打ちは想定外だ

 

「…そうさなぁ…。俺だったら変に飾らないで真っ直ぐ言うかも。演出なんかしてこけたら恥ずかしいしね」

「もう、アラタさんってば意外にロマンがわかってませんっ」

 

なんか初春に怒られた

…変に凝るより真っ直ぐ向かい合った方が伝わると思ったんだけど、ダメみたいだ

 

―――そ、それで…私に相談って…?

 

聞こえてきた寮監の声に慌てて身を低くする

そして二人の会話に耳を澄ませた―――

 

 

「…えぇ。単刀直入に聞きますけど、結婚相手が年下って…どう思われますか?」

「!? け、けけけけ結婚? 相手、ですか?」

「はい。…例えるなら僕のような―――」

「!?!?!?」

 

一瞬会話が止まる

そしてその後寮監から会話を再開した

 

「と、歳は関係ないと思います…。その人の事を、尊敬、出来るなら…」

「…やっぱり。先生なら、そう言ってくれると思ってました。…ありがとうございます、急にこんな変な事聞いて」

「…い、いえ…」

 

寮監は頬を赤くしながらそう返答した

 

そして隠れてそれを聞いていた四人はそれぞれガッツポーズをする

その中で一人、アラタだけはどこか微妙な顔をしていた

 

 

パァンっ!!

 

『おめでとうございまーすッ!』

 

寮監が帰ってくると同時にクラッカーの音が常盤台女子寮に響いた

ついさっきコンビニで購入した簡素なクラッカーではあるが、祝うのにはこれで十分なはずだ

それを五人は手で持って寮監の帰宅を待ってタイミングよく引っ張ったのだ

引っ張るのと同時、そんな謝辞の言葉を女性陣が口をそろえる

 

「…見てたのか」

 

顔を赤くしながらそんな言葉を発する

 

「やりましたわね寮監様っ、あとはご両親へ挨拶の後、式場を―――」

「白井」

「―――? はい…なんでございましょう」

「私の頬をつねってくれ。…夢なら早く覚めたい」

 

どうやら寮監は本当に信じられないようで、先ほどから天井の一点を見て惚けているようだ

黒子は一つ咳払いをしたあと、心を鬼にして寮監の頬をつまみ、ぐいーっと引っ張る

 

「…いはい(いたい)いはいろひらい(いたいぞしらい)

 

これは紛れもない真実なんだと寮監は多分理解しただろう

ほどなく黒子も手を話し寮監はつねられた頬をさすりながら

 

「…それともう一つ、頼みたいことがあるんだ。…ちゃんと、返事をしたいから…」

 

頼みたい事

それは服諸々のコーディネートだった

 

なんの服を着ていったらいいのか、どんなお化粧したらいいか…

そう言ったことを初春や佐天、黒子と美琴と話し合う寮監の顔は紛れもない女の子だった

その分、アラタの辿り着いた仮説を寮監に言い出すことが出来なかった

 

化粧は大介に頼み込み、最高のメイクをしてくれることを約束してくれた

 

「風間流、奥儀…〝究極なる美しき化粧(アルティメット・メイクアップ)〟ッ!!」

 

その手つきはまさにプロ級、いやプロという肩書さえ彼には失礼なのかもしれない

ヒカリのサポートも相まってメイクしている大介の手はおろか、寮監の顔すらも見れない

割と大介の店にはよく行くが、こんな奥儀なんて初めて見る

そしてメイクアップが終わると、そこには見違えた寮監の姿があった

 

「行けますって! これなら大圄なんてちょちょいのちょいですよっ!」

「風間さんの技も見れて…! 今日は幸せですっ!」

 

ヒートアップしまくしの初春、佐天

眼鏡も外してパッと見の外見なら寮監だってわからないのかもしれない

コーディネートを終えた寮監は、まっすぐあすなろ園へと向かう

 

子供たちと一緒に遊んでいる途中の大圄を寮監は呼び止めて、ブランコへと移動した

 

「…今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね」

「…あの、こないだの話なんですけど…」

 

そんな二人を物陰から、五人がうかがっていた

ここまで関わってしまったのだ、こうなったら最後まで見届ける義務があると思うのだ

 

「あぁ、その時はありがとうございます。…先生のおかげで、やっと決心がつきました」

 

そう言いながら大圄は寮監にある箱を見せて中身を見せた

それは指輪だった

一見するとただの指輪かもしれないがこういった状況ならその指輪がどんな指輪か、一目瞭然だった

結婚指輪である

 

「…〝彼女〟に、プロポーズをしようと思ってまして」

「…〝彼女〟?」

 

大圄は「えぇ」と頷きながらある人物へと視線を向ける

その視線の先には、子供たちと遊んでいる一人の女性の姿があった

園長先生だ

 

「…彼女、…て」

「貴女に、歳は関係ないって言われて、勇気を貰ったんです。…本当に、ありがとうございます」

 

大圄はそう寮監に感謝の言葉を述べる

きっとそれは紛れもない本心なのだろう

そして、彼は、寮監の気持ちに気づいていないことも

だから寮監がおめかししていても、普段と態度を崩すことはなかった

 

「…ッ。いえ、よかった、です。…お役にたてたなら」

 

その時寮監はどんな顔をしていたことか

ここからでは二人の後姿しか見ることが出来ず、その表情は読めない

 

「…大圄先生、お幸せに」

 

その言葉を言うのに、どれほどの決意を要したことか

きっと彼女は泣きたかったはずだ

けどそれは、彼が尊敬している寮監の姿を裏切ることになってしまう

だから、泣くなんてことは出来なかった

 

「…上手くいくと思ったのに…」

「なんだかなぁ…」

 

初春と佐天がどこか煮え切らない様子でそう呟いた

煮え切らないと言えばアラタも同じである

自分の想像した通りになってしまうとは思わなんだ

 

「…そのうち、良い事があるよ」

「寮監様…優しいですものね」

 

どこか寂しげな様子で子供たちの方へ向かっていく寮監の背中を見ながら美琴と黒子が呟く

そんな寮監をアラタは見つめ

 

「…まぁ、とりあえず…お疲れ様だな」

 

ここまで奮闘してくれた寮監に小さく感謝と称賛を

 

「さぁ、皆、今日は何して遊ぶー?」

 

耳に子供たちを戯れる寮監の明るい声が聞こえた 

こうして、〝寮監様の恋を成就させましょう作戦〟は終わりを告げた

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

白井黒子は逃亡していた

しかしそんな黒子を逃がさないと伸びた手が黒子を捕える

 

「た、たった一秒遅れただけではありましぇんかっ!?」

 

黒子は言う

しかし

 

「たとえ一秒だろうとコンマ一秒だろうと、門限を破ったことにかわりはないだろ、なぁ…」

 

寮監は巧みな手さばきで首を狩る態勢を作ると黒子の頬をつまむ

 

「覚悟は出来てるなぁ、白井ぃ…」

 

その言葉にはなんかいろいろ含んでいそうな気がするが

 

一方階段を下りて急いで黒子を救助しようと駆ける

が、ダメ

 

「黒子!?」

 

コキッ…!!

 

―――ぎゃああああああッ!?―――

 

―――黒子ォォォォォッ!?―――

 

常盤台女子寮の夜は更けていく―――

 

 

 

おまけのおまけ

 

「ねぇ、アラタくん」

「? なんですか翔一さん」

 

朝時のAGITO店内

来店したアラタに翔一は話しかけてきた

 

「…僕の店、そんなにムードないかなぁ」

「…え?」

 

気にしてらした



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#18 常盤台の盛夏祭

今回もノーバトル

いろいろネタを入れようと頑張ってみました
そんな結果がコレだよ

相変わらずな出来ですがお付き合いください

誤字、脱字を見かけましたら報告を

では、どうぞ


 

常盤台の女子寮、とある部屋にて

 

「…ハァ…」

 

御坂美琴は自分のベッドでぐだーっ、と項垂れていてため息をついた

彼女は器用に布団にくるまり、わずかに顔を出すスペースを出し、そこからひょっこり顔を出している

 

ほどなくしてカーテンが開かれた

窓から差し込む光に僅かながら目を細める

 

「朝ですわお姉様。ついにこの日がやってきたのですわよっ」

 

カーテンを開けたのは相部屋相手でもある後輩の白井黒子

何故だか彼女はすでに制服に着替えており準備万端である

 

「ついにって…」

 

対する美琴はローテンション

僅かばかりに出した場所から呟いた

 

「今日はお姉様の清々しき晴れ舞台っ、と、言っても晴れ舞台などお姉様にとってはいつもの事でしょうけど…わたくしはもちろん、寮生一同この日をまっておりましたのですよっ」

 

そう言う黒子の眼はひときわ輝いて見えた

はふぅ、と一度息を吐いて美琴はもぞもぞとくるまったまま器用に起き上がり

 

「…別にわたしじゃなくったって相応しい人たくさんいるだろうに…」

「まぁお姉様ったらご謙遜を。常盤台に常盤台に腕自慢多しといえど、ここはぜひお姉様にと満場一致だってだはありませんか」

 

あぁ、そういえばそうだったと美琴は心の中で思い出す

そして決まったその時には思わず食蜂に振ってはみたものの―――

 

―――ごめんなさぁい…私、そういうのホント苦手でぇ…―――

 

と割とマジな視線でそう言われた

あれは本当にできない目線だ

仕方なく美琴もそれを受け入れたのだ

 

「…まぁ、決まった以上は仕方ないけど…」

「それでこそお姉様っ。さぁ、お召変えお召変え~っと」

 

そう言いながら黒子は布団を引っぺがし自然な手つきで美琴のパジャマのボタンに手をかけようと

したところで思いきりぶん殴られて「にゃうっ!?」と反対側の黒子自身のベッドに吹っ飛ばされた

 

「言われんでもちゃんとやるわよっ! …決まった以上は」

 

吹っ飛ばした体制そのままに、わずかばかり頬を染めた

 

◇◇◇

 

数日前に遡る

 

その日特にやる事もなかったアラタは自分の部屋でテレビでも見ながら怠惰な時間を過ごしていた

そんな時である

 

ピンポーンと自分の部屋のインターホンは鳴らされた

こんな時間に珍しいと思いながら扉を開けるとその先にはこれまた珍しい客人がいた

御坂美琴である

どういう訳だか彼女の頬はトマトのみたいに赤く心なしか若干プルプル震えている

恥ずかしさから来てるのだろうか

 

「い、い、今時間空いてるかしらっ」

「え? あ、あぁ…問題ないけど」

「だい、大丈夫よ、すぐ終わるからっ」

 

いつもなら軽く茶化しているかもだがなんか今回に限ってそんなもんやった日にゃ確実に黒こげにされる未来がように想像できた

 

と、そんな時ビシッとほど紙を差し出してきた

大きく書かれている文字〝盛夏祭〟とある

 

「…これは?」

「こ、今度常盤台女子寮が一般開放される日よっ。…それの招待券」

「マジで? わざわざありがとうな」

 

そん紙を受け取る

常盤台にはあんまり行ったことはないが、今度は堂々と入れるのだ

その日は十分に堪能したい

 

「まぁとりあえずサンキュ。ところで美琴は出し物とかすんのか?」

「ふぇっ!? さ、さぁ、どうでしょうんねぇ…ははは」

 

乾いた笑いを浮かべる美琴

正直出し物かどうかはわからないが、何らかのステージはするのだろう

しかしそれを聞くのは流石に野暮だと感じたアラタはそんな美琴に苦笑いを浮かべながら

 

「ありがとな。楽しみにしてるぜ美琴」

「っ…。え、えぇ、楽しみにしてなさいっ」

 

美琴はそう言うと若干笑みを見せてそのまま階段の方へと走って行った

アラタはそのまま部屋へと戻り、さて夕食の支度でもするか、と厨房に向かったところで

 

 

「むぁいかぁぁぁぁぁッ!! 愛してるんだぜェぇいっ!」

 

 

隣人のやけにテンションの高いそんな声を聞いた

アラタの友人、土御門元春である

別名〝シスコン軍曹〟

この学園都市であれだけ義妹想いなのは彼を覗いてアラタは知らない

恐らく義妹の舞夏に盛夏祭のチケットを渡されてそれはもう歓喜しているのだろう

 

そんな仲睦まじい喧噪を聞きながらアラタはテレビに集中した

しかしその内心ではその盛夏祭とやらにワクワクしていた

ワクワクして眠りにつけないなんて久しぶりだった

 

◇◇◇

 

盛夏祭当日、常盤台女子寮にて

 

ずらりっ、とメイド服を着込んだ女子生徒たちが寮監の言葉に耳を傾ける

 

「いいか。普段一般開放されていない常盤台中学女子寮が、年に一度解放される日…! それが〝盛夏祭〟だっ!」

 

そのまま眼鏡をきらりと光らせる

 

「今日は諸君らが招待した大事なお客様がご来訪する日…寮生として誇りを持ち、くれぐれも粗相なきようおもてなしするように!」

 

『はいっ!』

 

そんな寮監が檄を飛ばしていた最中

御坂美琴は入り口付近でパンフレットを配っていた

当然彼女もメイド服である

 

「…別にこの服でなくてももてなすことは出来ると思うんだけどなぁ…」

 

そう言いながら美琴は自分が今着ているメイド服を見下ろしながらそんな事を呟いた

あまり気慣れていないこういったフリフリの洋服は少々動きづらい

…別に嫌いではない、むしろ好きだこういう服

 

気を取り直して美琴は来訪しているお客様にパンフレットを配る作業を再開する

 

「いらっしゃいませー! こちら、本日のパンフレットになりますー!」

「…美琴か。最初誰だか分らなかったぞ」

 

作り笑顔が引きつる

思いっきり聞き覚えのある声が耳に聞こえた気がした

ゆっくり目を開くとそこにはパンフレットを受け取った鏡祢アラタが立っていた

 

「…い、いつの間に来たのよ」

「ついさっき。…似合ってんじゃん、メイド服」

「…ありがと」

 

少しばかり頬を染めて応対する

お世辞といえど、言われて悪い気はしないものだ

 

「写真とか撮るか? 記念に」

「何の記念よ。あと寮生の撮影は禁止されてるから駄目よ」

 

しかしその直後カシャッと、どういう訳だかシャッターを切る音が聞こえた

美琴は引きつった笑顔で

 

「…だから禁止だって言ってるでしょうが」

「いや、俺じゃねぇって」

 

そう言われて美琴は作り笑顔をやめ目を開く

美琴の視界に入ってきたのはかしゃりかしゃりとシャッターを切りまくる我が後輩白井黒子の姿があった

 

「FANTASTIC…ですわっ、これはもうPPましましですの…! オウYES…」

 

どこぞのジャーナリスト型ゾンビ殲滅兵器みたいなことを口走りながら黒子はシャッターを切るのをやめない

 

「YESじゃないわよ! なんでアンタが撮ってんのよ!!」

「誤解なさらずお姉様…。今宵の黒子は盛夏祭の記録係…!」

 

そう言いながら右腕にかかっている記録係と書かれた腕章を見せつける

…一番やらせてはいけない仕事なのではなかろうか

 

「来年以降の開催に向けてこうして参考にと写真に残しておりますのよ? …ですがお姉様」

 

黒子は撮ったデータに目をやりながらどこか不満げな表情を浮かべる

 

「メイド服にまで短パンを吐くのは流石に如何なものかと…せめて普通の下着をお履きになられては―――」

 

相変わらず黒子は黒子だった

美琴はこめかみをひくつかせやがて雷を放出し、黒子のカメラを破壊する

「にゅわっ!?」と黒子は慌ててカメラから手を離した

 

「…来年以降の開催になんで私のそんな写真必要なのか教えてくれるかなぁ…!」

 

乾いた笑いで美琴は黒子のほっぺをにゅーんと伸ばし始めた

かつてJoseph's店内で伸ばしたほどではないがやはり黒子は伸びる

ていうかこの流れもはやテンプレとなってないだろうか

 

そんな光景を苦笑い交じりに眺めていたら

 

「こんにちわーっ」

 

再び聞き覚えのある声

声の方に向くとよく知る二人の人物が私服姿で立っていた

初春飾利と佐天涙子である

 

「相変わらずですねぇ、あの二人は」

 

佐天の言葉にアラタはまた苦笑いを浮かべて応えた

 

 

「わぁぁ…!!」

 

常盤台女子寮のドレスアップをした内装を見て初春のテンションはどんどん上がっていく

 

「ありがとうございます白井さんっ!盛夏祭っ! 何と言っても常盤台中の寮祭ですっ!! きっと想像を超えた何かが待ち受けてるに違いないんですっ!!」

 

マックスにまで上り詰めた初春の後ろからどことなく炎が見えた

これが執念というものか

 

「えぇ、その期待を裏切らないとても素晴らしい催し物もご用意してますからどうぞ楽しんでいってくださいまし」

 

何故少し美琴をチラ見しながらその言葉を紡いだのか

アラタの疑念をスルーしつつ、黒子は一度咳払いをして

 

「では改めて、ご案内を―――」

 

 

「ちょっと待てー」

 

 

そんな黒子を呼びとめる一つの声色

声の方へ向くとそこにはメイド服を着た美琴と同年代っぽい女の子が立っていた

しかしその女の子はアラタもよく見知っている

 

「お、アラタもいたかー」

「おう。土御門はどうした」

「アニキなら今は自由に見て回ってるんじゃないかなー。…と、忘れる所だった。白井、手伝いはどうするのだー」

「…わ、忘れてましたのー」

 

普通に会話しているので初春と佐天が完全に置いてけぼりをくらっている

やがて初春が「あ、あのー…」と遠慮しがちに呟いた

 

「あ、二人は初対面だったわね。紹介するわ、この子は、繚乱家政女学校の土御門舞夏。今回の料理も彼女の学校に指導してもらったの」

 

その学校名を聞いて初春は再び目を輝かせた

 

「繚乱家政女学校って…あのメイドスペシャリストを育成するって言う…!?」

 

よく知ってるな初春

正直アラタはなんか家政婦を排出する学校だとつい最近まで思ってた

対する舞夏はスカートの裾をわずかばかりたくし上げ、優雅に自己紹介をする

 

「土御門舞夏であるー」

 

「わ、ワタシは初春飾利と言いますッ! よろしくお願いしますっ!」

「佐天涙子です、よろしくー」

 

二人は口々に自己紹介し、それに舞夏も答えるように手を挙げて

 

「困ったらなんなりと問いただすがよいー。…さてと」

 

舞夏はぐわし、と黒子の襟首を掴みあげるとずりずりと引きずっていく

 

「白井ー、来るのだー」

「うぇ!? ちょ、待ってくださいな、お兄様たちを放っておくなど…」

「仕事は放ってもいいのかー?」

「い、いえ決してそんな…」

 

そんな問答しながら黒子は舞夏に引っ張られていった

その場に残ったのは初春と佐天、美琴にアラタのみ

辺りは他のお客で賑わっていく

 

「代わりに、私が案内するね」

 

引っ張られる黒子を見ながら笑み交じりに美琴がそう言ってくれた

 

 

「さて。どこから回る? どこか行きたいところは―――」

「はいっ! はいはい、はいっ!!」

 

美琴の言葉を遮って初春が挙手、声を上げる

先ほども思ったが今日の初春のテンションは終始上がりっぱなしだ

 

「行きたいところあります! えー…と、まずここと、こことここと…あと、こっからここまでを…」

 

パンフに指を指しながらありとあらゆる場所をする初春

ここまでハイな初春をアラタは見たことがない

そんな初春に佐天は苦笑いを浮かべながら

 

「それ全部じゃない」

 

と突っ込みを入れる

しかし初春は動じることなく

 

「佐天さん…、今日だけは私、いつもの初春飾利じゃあありません。強いて言うなればスーパーモード…! そう、今の私は、初春飾利スーパーモードなんです!!」

 

なんども言うが今日の初春のテンションはホントおかしい

それだけ〝盛夏祭〟を楽しみにしていたのだろうけど

燃え盛るような初春に気圧される佐天を見ながらアラタと美琴は微笑んだ

 

 

結局順番に一つずつ見て回る事となった

 

まず最初に入ったのはシュガークラフト展示典…といった方がいいのだろうか

展示品すべて砂糖で作られており、一見しただけでは砂糖とはわからない出来栄えだ

特に花の作りは素晴らしく一枚一枚の花弁が本物なのではないかという錯覚さえ覚える

 

「こんな展示があるなんて…流石お嬢様学校…!」

「そうだなぁ…。改めてすげぇ学校だな常盤台…」

「どれ…それじゃ一つ…」

 

それぞれ感想を漏らしながら感心している最中、徐に佐天がバラの花弁を一枚もぎ取りそれを口に放り込んだ

そしてもにゅもにゅと咀嚼し砂糖かどうかを確かめるように味わう

…いや、いいのかあれは

 

「…うん。果てしなく砂糖だね」

「あぁ~!? 食べちゃダメじゃないですか! 展示品なんですよこれ!? ね、御坂さん―――」

 

視線を向けたその先には後輩に砂糖人形を差し出され困っている美琴の姿が

 

「よろしければこれ、ぜひ御坂さまもおひとつ…」

「はは、ありがとう…けど気持ちだけ受け取っておくわ」

 

どこまでも美琴は人気者だった

 

 

次に回ってきたのはステッチと呼ばれる体験教室だ

ステッチとは…見た感じだと布に色のついた糸を通した針を通してそれをうまい事動かして作品を作るといった感じだろうか

 

初春に流されるまま体験コーナーへと足を運びそのまま作業に集中する

しばらくして初春は完成したらしく、針をテーブルに置いた

 

「これは中々の出来ですよ…ほら佐天さん―――」

 

と言いながら初春は自分の作っていた作品を佐天に見せようとする―――が、何気なく佐天の作品を見てストップする

ちらりと見た佐天の作品はそれはもうカッコいい車が描かれていたのだ

初春は自分とのクオリティの格差にちょっと面喰いながら、恐る恐る今度は美琴の作品を見てみる

そこには大変ハイクオリティなゲコ太があしらわれておりました

初春は最後の希望と言わんばかりに今度はアラタの作品を見てみることにした

 

こう言ってはなんだがアラタはきっとこういう細かい作業は苦手なはずだ、だからきっとなんか、それなりな出来のはずだ…と淡い願望を持ちながら彼の作品を見てみると…

 

そこには黒一色しか使われてなかったが、彼が変身するクウガを簡単に現したマークがあしらわれていた

少なくとも、初春よりは上手だった

 

「アラタさんの裏切り者ぉぉぉぉっ!」

「え!? なんで!?」

 

そう言いながらポカポカとアラタを叩く

特に理由のない怒りがアラタを襲った

 

◇◇◇

 

結構いい時間になったので美琴に誘われるままお昼ご飯を取ることになった

その食堂はなんとバイキング方式で好きなものを好きなだけ食べれるという素晴らしいシステムだ

流石常盤台だ、とアラタは内心呟く

 

「もう帰りたくない…ッ! いっそ住みたいです…」

「こらこら。…全く。先に行くぜ初春」

「あ、はーい」

 

うっとりしている初春を見ながらアラタは彼女にそう言いながら適当に皿に乗せると先に美琴が座っている席の前へと足を運ぶ

その道中、見知った顔を見た

 

鉄装綴里、黄泉川愛穂、そして立花眞人の三人だ

 

「く、苦しい…」

鉄装は椅子にもたれかかってお腹を押さえている

彼女の前には結構な枚数の空のお皿があり、早い話食べ過ぎたのだ

 

「…そんなに取るからですよ」

 

一人静かに呟く眞人

その隣では黄泉川がハァ、とため息をついた

 

「ったく。生徒には見せれないじゃんね。ほら、立った立った」

 

もうすでにがっつり見てしまっているのですが

そんなツッコミをアラタは心の中にしまい、三人を見守った

 

黄泉川は立ち上がりむんず、と鉄装の襟首を掴みあげそのまま食堂の出口へと歩いていく

眞人もそんな二人の後ろをついていき鉄装を立たせる

 

「ふやぁ…乱暴にすると逆流しますぅ…」

 

引っ張られる鉄装を見ながらアラタは思う

警備員も大変だなぁ、と

 

 

お皿に盛られた食事をフォークで突きながら御坂美琴はため息をつく

…別に憂鬱なわけではない

ただ、多少柄にもなく緊張しているというか

 

「どった美琴。食べないのか?」

「た、食べるわよ。…うん」

 

アラタにも心配されてしまうのだから余程だ

と、そんな時腰に何かが抱き着いてきた感触があった

 

「みことおねーちゃーん」なんて言葉と共に抱き着いてきたのはかつてボランティアで触れ合ったあすなろ園の女の子だ

 

「…あれ、その子は確か…あすなろ園の」

 

アラタも気づき女の子に駆け寄る

 

「あれ…けどなんで…」

 

美琴が疑問に思いかけた時、ふと視線を上げた時寮監に手を繋がれたあすなろ園の子供たちがいたのだ

寮監は僅かに顔を逸らして

 

「…私が、招待した」

 

そう小さく呟いた

…寮監は相変わらずツンデレ気質なようだ

美琴はどことなく苦笑いを浮かべる

 

そんな美琴を尻目に女の子はアラタに向かって笑顔を作り

 

「ビーズでゆびわつくったり、えをかいたりしたんだー」

「ほぉ、そうなのかー」

 

アラタは笑みを浮かべながら女の子の頭を撫で繰り回す

ひとしきり撫で繰り回した後、女の子は美琴へと視線を移し

 

「でもね、もっとたのしみにしてるのがあるんだー!」

「へぇ? 何を楽しみにしてるんだい?」

 

アラタの問いかけに女の子は大変いい笑顔で

 

 

 

「みことおねぇちゃんのステージ!!」

 

 

・・・

 

空気が凍った

なんかやるのかな、とは思っていたがまさかステージとは思わなんだ

ちらりと美琴の顔を見やると〝なしてこの子そないなことしっとんねん〟と言いたげな表情を浮かべている

否、なぜ知っているのかなど一目瞭然

 

目の前の寮監である

 

「いっぱいおうえんするから! がんばってね!」

 

女の子はそう言ってくれる

彼女に悪意は全くない、それ以前にむしろ好意としてそれを言ってくれるのはわかるのだが、逆にそれがプレッシャーを募らせていく

寮監はゆっくりと美琴の耳元へ顔を近づけて

 

「…あの子たちの期待に、応えてやれ」

 

眼鏡を光らせながらそう仰っては軽く脅迫だ

美琴は小さく「は、はい」と答え、子供たちと寮監が食堂を去るのを見送った

 

「…ステージ、ね」

 

すぐ近くでアラタが呟く

思えば彼はなんとなく察していたのだろう

それがステージとは言っていなかっただけで

 

「御坂さん御坂さんっ! ステージで何かやるんですか!?」

 

先ほどの出来事が耳に入り気になったのか初春と佐天がその話題を振ってくる

 

「え、え!? ま、まぁね…」

 

「えー? どうしてあたしたちに黙ってたんですか? …はっ!? わかりましたサプライズですね!!」

 

「…はい?」

 

何故だか勘違いがマッハで進行されていく

 

「い、いやいや! そういう訳じゃなく…!?」

「わっかりました! もう何も聞きませんっ! サプライズなんですから!!」

「サプライズかぁ…! すっごく楽しみです…」

 

完全に初春と佐天が勘違いしてしまった

まぁ言っていなかったし結果的に見ればサプライズなのかもしれないが

美琴の肩が下りたのを見て、アラタはどこか苦虫を噛みしめたような顔をする

この状況で美琴に向けて楽しみだなんて言えない

 

「アラタアラター」

 

不意に間延びした声が聞こえた

土御門舞夏のものだ

彼女は両手に料理を乗っけており運んでいる途中のようだった

 

「なんだ舞夏、用事か?」

「用と言うほどもないんだがなー。お前白井を見なかったかー?」

 

アラタは首をかしげた

白井黒子ならつい先ほど舞夏が引っ張っていったではないか

それを口にすると舞夏は

 

「実はどこ探してもいなくてな。…さては逃げられたか。いや、招待下友人の中によく食べる人がいてな。てんてこまいなのだ」

 

そう言いながらテクテクと舞夏は歩いていく

と、ふと足を止めて「そーだ」なんて言葉を口にしたのち美琴の方へと顔を向けて

 

「今日、楽しみにしてるぞ」

 

全く純真な笑顔でそう言ってきた

それを聞いた美琴はどこか浮かない顔をしていた

…嬉しくないわけではないのに、妙に緊張してしまう

 

 

とりあえずアラタは黒子を探すべく食堂で三人と別れ、適当に周囲を見渡しながらぶらつく

いろんな展示品のコーナーにはいなかった、となると奴がいるのは外か

…見て回ってない場所もあるからちらりと見ながら外へ向かおうとしたその時だった

 

「お。ワタルワタル!アラタだアラタ!!」

 

そんな声と共にもしゃもしゃなんかを食べてる咀嚼音がした

声の方へと向けるとそこには赤いストールをした青年と、肩にコウモリっぽい生き物が乗っていた

その人物たちをアラタは知っている

 

「ワタルさん。来てたんですか?」

 

名前は紅葉(くれなば)ワタル

肩に乗っている変な生き物はキバットという

出会ったのは数か月前の秋葉原での騒動だが、それ以降ちょくちょくメールでのやり取りを交わしていた程度だが

 

「うん。バイオリンの修理をしてたんだ。僕は学園都市で楽器屋を営んでるから」

「バイオリン? …となるとアイツのステージは演奏ものか…」

 

まだ断定できたものではないが恐らく十中八九そうだろう

しかしバイオリンの修理をワタルに頼むとは…

常盤台は慧眼だ

 

「他にも演奏の仕方とか、割かし教師っぽい事してんだぜワタルは」

「真似事だけど。…僕免許持ってないし」

 

紅葉ワタルは音楽に関してはとてつもない才を持っている

彼がコーチしてるなら常盤台の生徒らはバイオリンが上手くて当然だろう

 

「あ、じゃあアラタ、キバットがまたいろいろ見て回りたそうにしてるからこの辺で」

「あぁ、じゃあまた」

「え? 俺のせいなの!? 否定しないけど」

 

しないのか

 

 

「いらっしゃらないならこれで落札となりまーす」

 

中庭へとやってきた

作られた大きなステージでは現在オークションの真っ最中で、いろいろな欲望が渦巻いている…はず

 

「ていうかオークションまでやってるのか…。対象商品は…バッグ、かな」

 

よく覚えていないが今オークションされているバッグはレアもののブランド品だという情報を聞いたことがある

しかも中々市場には出回らない上に手に入りにくいというものだ

それが経った今落札したらしい

今ステージに上がっているのはそのブランド品を勝ち取った落札者―――

 

「あれ…?」

 

とてつもなく見覚えがある人物が壇上に上がっていく

いや、見間違えるはずはない

ステージに上がってるのは固法美偉だ

 

 

目的のブツを手に入れた固法はにやりとクレ〇んばりの笑みを見せる

少々値は張ったが問題ない、安い買い物だ

 

「おい固法」

「ふぉふぁ!?」

 

完全に背後を懸念していた固法はあっけなく後ろを取られた

彼女は後ろを向くとそこにはジト目でこちらを見る同僚鏡祢アラタの姿があった

 

「…結構ミーハーなのねぇ」

「ち、違うわよ!? これはチャリティなの! ここで払った金額は全部置き去り(チャイルド・エラー)に寄付されるの!! 風紀委員としては出ないわけにはいかないじゃない…ね!」

「わかったわかった。…そういう事にしておくよ」

 

なんか下手に追及するといろいろ面倒なことになりそうだ

だからアラタは適当に彼女に合わせることにした

 

「そ、そうだ。アラタも参加してみたら?」

「…お前、俺の経済状況知って言ってんのか?」

 

とてもじゃないがオークションで使うような金なんぞ持ち合わせていない

数字を提示したらすぐに潰されるだろう

 

「それの心配はないわよ。…ほら」

 

そう言って国法はステージの方へ視線を見やる

 

…次の商品は…〝小説版風の左平次〟! 百円から!

 

その言葉のあと所々から百二十円、だの二百円だの声が聞こえてくる

 

「ほらね。お財布にも優しいのよ」

「へぇ…それでも俺にとっては響くんだがな」

 

そのままちょっとずつ額が上がっていき次第に四百円へと上がっていき、このまま落札かと思ったとき

 

 

 

「八千円ッ!!」

 

 

 

ぶっ飛んだ額を聞いた気がする

その声の主を思い切りアラタは知っている

左翔太郎だ

彼は堂々とそのステージに上がり、その小説を受け取りタイトルを確認すると

 

「…よっ、しゃあぁぁぁぁぁッ!!」

 

喜びを全力で表現してくれました

その間アラタは壁を前に座り込んでいた

 

確かに翔太郎とは知人だ、認めよう

だがしかしこの瞬間だけは赤の他人だ

知人と見られてなるものか

 

 

オークションを見に来た初春佐天両名と合流、固法を交え四人でオークションを見学することにする

 

…次の商品は…キルグマーの文具セットー! 百円から

 

 

「そう言えばアラタさん、結局白井さん見つかったんですか?」

「うん? いや全然。あの後中を調べ回ってみたけどいなくてさ…もうお手上げだよ」

 

他のお客が口々に金額を言っているのをBGMに初春とそんな事を話し合う

それに佐天はうーん、と声を上げ

 

「白井さん、ホントどこ行っちゃったんだろう…」

 

やがて金額は五百円まで上り詰め今回はここで落札か…と思った時だ

 

 

 

「一万円ッ!!」

 

 

 

翔太郎を超える金額を叩きだす猛者が出た

そんな額を叩きだした人物をその四人はよく知っている

その人物は優雅に、かつ堂々とステージを上がっていく

 

「…いないと思ったら」

 

そこに白井黒子がいたのだ

メイド服のままで

 

 

「厨房抜けて何してんのかと思ったら。…文具セットに一万ってお前」

「いいえお兄様。ただの文具セットではありませんの。何故ならこれはお姉様がご出品なさったものなのですから。いわばこれらの品はお姉様の分身…ふ、ふふふふふ…」

 

黒子は文具セットに頬刷りをしながらいい笑顔を極めている

盛夏祭というイベントの中でも黒子はやっぱり黒子だった

 

「御坂さんの…」

「どうりで…」

 

佐天と初春も完全に苦笑いである

しかし厨房を抜けてまでオークションに参加する辺りにはもう呆れを通り越して関心する

そこでふと違和感がアラタの中を過ぎった

御坂美琴の姿がいないのだ

 

「そういや美琴は? 一緒じゃなかったのか?」

「あ、いえ…さっきお手洗い行くって言ってたんですけど…」

 

そうなのか、とアラタは頷きつつ顎に手を乗せる

珍しく緊張でもしてるのか、いずれにせよ少し心配だ

 

「御坂さん何かステージでやるの?」

「サプライズですよ! 固法さんッ」

「さ、サプライズ?」

 

 

やがて婚后や湾内、泡浮の三人も合流し用意されたパイプ椅子に座って美琴のステージを待つばかりだ

 

「御坂さま、一体どんなサプライズをなさるのでしょう…」

「楽しみですわね、婚后さん」

「えぇ、わたくしも心が躍ってきましたわ…」

 

一方初春、佐天組

 

「はわわ…なんか私まで緊張してきましたよ…」

「初春が緊張してどうするよ。…あれ? アラタさんは?」

「へ? あ、先にトイレに行ってくるって…」

 

最後に固法、黒子組

 

「白井さんは、御坂さんが何やるか知ってるの?」

「もちろんですの。しかし今は…」

 

そう言いながら徐に記録用のカメラを取り出し、シャッターを切る準備をした

 

 

そんな噂の中御坂美琴はステージ用の衣装へと着替えていた

その服装は白いワンピースタイプの服で頭には青いリボンをあしらった髪飾りをつけていた

…なんだか胸元と背中が少しスース―する

 

「うん。とっても似合ってるわよぉ、御坂さん」

 

食蜂が自分に向けてそんな声を発しているが、あんまり聞こえていない

正直言ってそれどころではないのだ

 

「…御坂さん?」

「は!? な、何かしらっ!?」

「いえ…その、緊張してるぅ?」

 

ほとんど真実を突かれた美琴は一瞬驚いた顔をするがすぐに落ち着きを取り戻し

 

「だい、大丈夫よ! うん! 私、行くわ食蜂さんっ!」

「そ、そう…。ならいいんだけどぉ…」

 

反応を見てる限り今日の彼女は緊張してるようだ

その証拠に手に触れた時、若干変な汗で濡れていたからだ

 

「…、」

 

食蜂は少し考えて徐に携帯を取り出した

 

◇◇◇

 

動きづらいワンピースのまま美琴は舞台裏までやってきた

袖からちらりと客席を覗き見てみる

見知った人物が最前列に座っている…

 

「…やば。なんか、すっごいドキドキしてきた…! …あぁもう、しっかりしろ私…!」

 

自分に気合を入れるように軽く自分の両頬を叩く

しかし緊張は増すばかりで思うようになってはくれない

そんな時だ

 

「あ、いたいた」

 

と自分を見つけたような声色である

ハッとして美琴はその声の方へと向くと、そこに自分が一番見知った男性、鏡祢アラタが立っていたのだ

 

「なばぁ!?」

 

当然美琴はびっくりする

どうしてここにいるんだとかなんでこんなところにいるのかとかそんな疑問が一切合切ぶっ飛んでいく

 

「なんでアンタがここにいんのよ!? 茶化しにきたの!? 笑いに来たのこの慣れない衣装をっ!!」

「今更そんなことして俺に何の得があんだよ。…落ち着いたか」

「いきなり来て何言ってるのよ! 落ち着くわけ…、れ?」

 

ふと美琴は気づいた

怒鳴ったからだろうか、妙にリラックスしている気分だ

 

「…よかった。今日のお前はちょっと変だったからな。ぎこちなかったって言うか…ソワソワしてたと言うか」

 

そう言ってアラタは笑う

その微笑みを見て、釣られて美琴も微笑む

図らずも、目の前の友人に助けられたみたいだ

 

「…うん。じゃあ行ってくるわ」

 

パイプ椅子に置かれたバイオリンと弦を手に、美琴はアラタに向かってそう言った

対するアラタもグッと親指を立てて彼女を見送る

 

「おう。行って来い」

 

アラタのサムズアップに美琴も同様にサムズアップして返す

 

ステージへと繰り出す美琴はどこか清々しく、凛として、それでいて…美しかった

 

 

中央へと歩み寄り、美琴は一つ礼をする

そして彼女はバイオリンを構えた

 

演目はバイオリンの独奏

 

(全く人の気持ちも知らないで…)

 

だけど、と思いながら弦をバイオリンへと当て、ゆっくりと音を奏で始める

 

(今日は素直に、感謝するかな。…過程はどうあれ、助けられたんだしね)

 

紡がれた音は優しく、人の心を惹きつける

聞いたものの心を優しく包み、温かく迎えるかのような感覚

その音色に、誰もが聴き入っていた

 

静かに、それでいて優雅に奏でられる静の音楽

 

彼女が弾いたその音は、きっと永遠に語り継がれていくだろう

 

そうして、年に一度開催される常盤台女子寮の盛夏祭は彼女の演奏を持って幕を閉じた

来訪した人々に何が良かったのかを問うたらきっと皆口々にこう言うだろう

 

御坂美琴のバイオリン、と




最近外伝的小説を始めました
読まずとも言いように書いていますがお時間空いたときに暇つぶし程度に読んでいただけたら幸いです


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乱雑解放編
#19 乱雑解放<ポルターガイスト>


今回は少し戦います

物語も佳境に入ってきました
一期終盤の物語に突入です
相変わらずではありますがご容赦を

お気に入り登録、感想をくださった方々に深く感謝を

こんなモノではありますが皆さんの暇つぶしになれているなら幸いです


あと皆! 今月の22,29のウィザードは見逃すな!
〝もやし〟が通りすがるぞ!!

そんなこんなではじまります
誤字脱字見つけましたらご報告を


その日の夕食時、自分の部屋に戻ってきて一番最初に視界に入ってきたのは黒髪ロングの幼女だった

 

「あ、アラタさんだっ」

 

「…へ?」

 

どうやらその少女は自分の事を知っているらしくとてとてとこちらに駆け寄るとだきっとしがみ付く

 

「初めまして! パパから話は聞いてます、ワタシ、娘の未那(マナ)って言います!」

「ま、未那…? ってか、パパ!?」

 

誰だパパって、と考えて一つ思い当たった

そう言えば知り合いに一組、夫婦がいた

親が蒸発し、クウガとなったとき燈子からの紹介で少しだけだがお世話になったことがあった

両親代わり…いわば家族と言えるような存在…

その証拠にテレビが置いてある居間を覗いてみると上下真っ黒な服を着込み眼鏡をかけた男性が座っていた

彼はアラタに気づくと笑顔となり手を振ってくる

 

「おかえり、アラタくん」

「幹也さん!?」

 

黒桐幹也

どこまでも普通な、〝異常〟な男性

彼がアラタの父親代わりだ

ある理由から幹也は左目が聞かない、そしてそれを隠すように左側だけ伸ばした髪形をしている

アラタは未那を連れて幹也の所へ行くと未那は父親である幹也に抱き着いた

そしてここからキッチンに位置する場所から調理するような音が聞こえる

ここに幹也がいるとするなれば、キッチンにいるのは…

 

「よぉ。遅れて言うが邪魔してるぜ」

「し、式…」

 

簡単な野菜炒めを大きな皿に乗せてこちらにやってくるのは両儀式と呼ばれる和服美人

幹也の奥さんであり、彼女が母親代わりでもある

式はテーブルに皿を置いてゆっくりと腰を下ろすと

 

「ていうかお前、もう少し食材を買っておけ。珍しく腕を奮ってやろうと思ったら全然材料ないから簡単な野菜炒めになっちまった」

 

さっそくのダメ出しである

とはいえこちらは普段一人暮らしな上、式たちの訪問など予期していなかったのだ

そればかりは今回ぐらい許してもらいたい

 

「まぁまぁ式。押しかけたのは僕たちなんだし、仕方ないじゃない」

「そりゃあな。…けどもっとマシな食生活はおくれよ?」

 

ずい、と式に指差される

昔は冷蔵庫に貴女も水の入ったペットボトルしか入れてなかったじゃないですか、というツッコミたい気持ちを抑えつつ、アラタは頭を掻きながら

 

「ぜ、善処します。…ところでなんで今日はいきなり…」

 

アラタがそう聞くと野菜炒めをつつきながら

 

「ちょっと義手の調整を燈子に頼もうと思ってな。ついでに、お前に未那を紹介しようって話になったんだ」

 

となると既に燈子に挨拶は済ませているという訳だ

しかし燈子は式や幹也たちから離れるとき特に何も言わずに去って行った…なんて話を聞いていた気がするのだが

そこん所を式に聞いて見ると式はちらりと幹也を見やった

 

当の本人は娘を仲良く話をしながら夕食である野菜炒めを食べている

 

そう言えばこの人は探し物の天才だった

隻眼になっていてもそこの所は全く衰えはないようだ

思わず燈子も笑ってしまっただろう

 

と団欒しているときだ

 

カタカタ、とテーブルに乗ったコップが揺れた気がした

 

そう言えば最近学園都市は地震が頻繁に起こっている

自分が通っている学生寮は流石に大きくは揺れたりしないがそれも時間の問題か

 

「…学園都市でも地震があるんだ?」

「いや、普段はあんまりないんですけどここ最近多いんですよねぇ…なんなんだろう」

 

幹也からの何気ないつぶやきに返事しながらアラタは野菜を口に運んでいく

この自然現象に近い地震が、まさか大きな騒動になるとはこの時思いもしなかった

 

 

とりあえずベッドは未那と式に譲り、男連中である幹也とアラタは床で就寝した

 

幸いにも夏に近い時期なので寝る際は何もなくても何とか寝れた

 

そして翌日

 

「そう言えば後どうするんですか?」

「んー。とりあえずしばらくは学園都市に滞在する予定だぜ? 未那だってこういうとこ来るの初めてだしな」

 

そう言いながら式は未那の頭をポンと軽く叩く

その光景は仲睦まじく、ずっと見ても飽きないくらいだ

 

「あれ、じゃあ住居とかは? …流石に俺の寮はちょっと…」

「大丈夫。その辺は燈子さんが部屋を貸してくれるって言ってくれたんだ。今度からはそこに移るよ」

 

用意が早いなあの人

もしくは伽藍の堂にでも空き部屋でもあったのだろうか

現在彼女が滞在している伽藍の堂はかつて住んでいた場所を再現したいわば二代目なのだ

しかし流石に地下のガレージは再現できず、そのガレージは一階となってるのだが

おまけにそのガレージにはゴウラムがゆっくりしている

 

「了解です。…んじゃあ俺そろそろ出ますけど、鍵は燈子の所にでも置いておいてください、後で取りに行きます」

「了解、それじゃ行ってらっしゃい」

 

そう幹也に見送られ、アラタは扉のノブに手をかける

アラタは幹也や式、未那の方を見ながら言い返す

 

「…行って、きます」

 

「おう」

「行ってらっしゃいアラタさーん」

 

今度は式と未那がそんな見送りの言葉を発した

普段聞き慣れないその言葉を聞きながらこんなのも、悪くないかもしれないと思いながらアラタは歩を進めた

 

◇◇◇

 

本日は珍しく初春からお誘いがあったのだ

なんでも柵川中学に転入生がやってくるとかなんとか

そんでもってその転入生が初春のルームメイトになるからみんなに紹介したい、とのことだ

 

つつがなく美琴と黒子、そして佐天と合流し先頭を佐天が歩く

 

「それにしても今の時期に転入生なんて珍しいですわねぇ」

「普通は、新学期の始まりに合わせるものだけど…」

 

黒子と美琴が二人してそんな事を話し合う

言われてみればそうだ

何か思惑があってこんな中途半端な時期になったのか…と考えて首を振る

 

変に考えるとまたいろいろと面倒だ

ふと何気なく佐天を見ると彼女は先ほどから上機嫌で鼻歌を歌っている

 

「…それはそうと、やけに嬉しそうだな」

 

アラタに問われた佐天は鼻歌をやめ、拳を握ると

 

「そらそうですよ! 初春のルームメイト、つまりはアタシの親友候補でもあるんですから!!」

 

喜びの理由はそれか

まぁけど、友達が増えるのは喜ばしいことだ

 

「佐天さーん!!」

 

しばらくしてこちらに向かって全力で手を振る初春の姿が視認できた

その隣には恐らく件の転入生の姿が見えた

 

 

場所を初春たちの住む寮の部屋入口へと移し、そこで軽く自己紹介のお時間

初春は自分の隣にいる転入生へ手をやって

 

「こちら、春上衿衣さん。そして…」

 

今度は四人で並んでいるアラタや美琴たちを手で示して

 

「常盤台中学の白井黒子さんとその先輩の御坂美琴さんに、私たちと同じクラスになる佐天涙子さん、そしてそちらの男性が、鏡祢アラタさん」

 

一通り自己紹介(というかほとんど初春の紹介)が終わったとき、佐天が笑顔を見せる

 

「よろしく、春上さん。…いや、まぁそれは良いんだけど…」

 

言って佐天は扉の前にある大きな段ボールの荷物へと視線をやる

そう、どういう訳だか初春の部屋の前には春上のものと思われる荷物がどっさり積まれていたのだ

 

「…なんでこんなことになってるわけ?」

「い、いやぁ…その、春上さんを駅に迎えに行ってる時に引越し屋さんが到着したって連絡が来て…この有り様に…」

 

初春は両手をいじいじしながら若干頬を赤らめる

ただタイミングが悪かっただけだろう

 

「…引越し屋もちょっと考えてくれればいいのに」

「やれやれだな。…よし、黒子、出番だ」

「はぁ。…仕方ありませんわね」

 

若干呆れ顔で黒子は積まれた段ボールの一角に手を置いた

途端ヴォンッ! と置かれた段ボールは消失する

恐らくもう室内に空間移動(テレポート)したのだろう

 

こう言った地味な作業の時、空間移動(テレポート)は割と便利なのかもしれない

 

黒子の助力もあって荷物を部屋へと運搬する作業は十秒足らずで終わった

今現在アラタたちは初春の室内へとお邪魔している

その中央には黒子の力で積まれた春上の荷物が

 

「すごいの…空間移動って初めて見たの」

「そりゃそうでしょうともっ。わたくしほどの力を持った空間移動能力者(テレポーター)はこの学園都市にはそうそういませんわよ?」

「ほえー…」

 

春上に褒められ胸を張る黒子

 

「…けどこの学園都市で空間移動能力者をあんま見ないんだけど」

「お兄様、それ以上いけません」

 

結構な数いるはずだが黒子以外アラタは知らない

 

「はいはい。ちゃちゃっと荷物片しちゃお」

 

パンパン、と手を叩いてみんなを纏める美琴

確かにここで手間取っていては遊ぶ時間が無くなってしまう

とりあえず春上や初春に聞きながら荷物整理をすることになった

 

 

~整理中~

 

 

皆の手伝いもあって思いのほか早く荷物の整理が終わった

佐天が段ボールを畳み、最後の一枚を積み終えるとふぅ、と一息ついて

 

「こんなところかね」

 

なんて関西のおばさんじみた言葉を口にした

春上はおずおずとどこかぎこちない様子で礼をすると

 

「その…ありがとうございますなの」

 

「気にすんな。困ったときはお互い様だ」

「そうそう。それよりさ、結構速く片付いたし、どっか遊びにいこっか?」

 

美琴の提案に初春は笑顔を見せて

 

「さんせーい!!」

「ちょっとお待ち初春。賛成ではありませんの、忘れましたの?」

 

出鼻をくじかれふぇ? と怪訝な顔をする初春

かくいうアラタも(何かあったっけか…)と疑問の顔を浮かべる始末

 

「もう…お兄様とわたくし、そして初春はこれから合同会議」

 

黒子から単語を聞いて初春はハッとする

そしてアラタも思い出したように手を叩いた

 

「…そういやそんなんあったな」

「合同って?」

 

美琴の言葉にアラタが答えていく

 

「なんでも風紀委員と警備員のだよ。ほら、ここ最近頻発してる地震についてのな」

「? 地震で会議…?」

 

ただの地震なら会議など多分起きないだろう

しかし会議が合同で行われるほどのものだから、何らかの可能性は捨てきれない

ついでにちらりと初春を見やる

 

「ハァ。…ソーデシタ」

 

テンションの落差が酷いなおい

がっつり落ち込む初春を尻目に佐天は少し前に歩みつつ

 

「じゃ、あたしと御坂さんと、三人で行こうか」

「あぁ! ずるいですよ佐天さん!」

「終わったら合流すればいいじゃん? …ね?」

 

唐突に佐天は春上に話を振った

振られた春上は急だったためか対応できず「え、っと…」と言葉を濁してしまう

 

「あ、大丈夫ですよ春上さん。佐天さんはともかく、御坂さんは優しい人ですから」

「…アンタねぇ」

 

そんなやり取りを春上は小さく笑顔を浮かべながら眺めていた

 

「くれぐれも佐天さん。春上さんのスカートをめくらないでくださいよ」

「え? なんで私がそんな事するの?」

「…え?」

 

まさかのマジレス

 

 

ここは第七学区にある警備員(アンチスキル)本部

その建物内部の第一会議室

 

各部署の風紀委員が募り、警備員の説明を聞いている

大きなモニターの前に立ち、立花眞人は資料を見ながら説明をしていく

 

「ここのところ頻繁に発生している地震について、判明した事実があります。結論から言ってしまえば、これは地震などではありません。これは、ポルターガイストであるという事が判明しました」

 

ポルターガイスト、あるいはポルターガイスト現象と一般では呼ばれている

触れてもいないのに物がひとりでに動いたり、物体を叩いたような音がしたり、発光、発火など通常では説明のつかない現象の事を指す

 

「なお、最初に言っておきますが、これは超常現象などではありません。このポルターガイストの原因は、RSPK症候群の同時多発です」

 

「…RSPK症候群の…」

「同時多発…」

 

固法と黒子が呟くのを耳に入れながら、アラタは正面のモニターに視線を集中させる

 

「ここからは、先進状況救助隊のテレスティーナさんから説明を伺います…どうぞ」

 

眞人がそう言うと袖の方から黒いスーツとタイトスカートに身を包み、眼鏡をかけた女性が眞人の方へ向かって歩いてきていた

彼女は眞人からマイクを受け取ると軽く咳払いをしたのち、話を始めた

 

「ただ今ご紹介に預かりました、先進状況救助隊所属、テレスティーナです」

 

自己紹介の後、テレスティーナは説明を始めていく

 

まずRSPK症候群とは能力者たちが一時的に自立を失い、自らの力を無意識に暴走させてしまう状況を指すらしい

個々に起きる現象自体は様々だが、これらが同時に起きた場合、暴走した能力は互いに干渉し融合しあい一律にポルターガイストと呼ばれる現象が発生するようだ

 

「さらにこのポルターガイストが規模を拡大した場合体感的には、地震と何ら変わりがない状況になってしまいます。…これが、今回の地震の正体…という事になります。同時多発の原因については目下調査中ではありますが―――」

 

そこまで話を聞いてアラタは大きく一つ息を吐く

こう言った事を変に学生たちが騒ぎ立てなければいいんだが

 

・・・

 

意外にも早い時間帯で合同会議は終わった

早速初春は携帯を取り出して電源をつけ、佐天に連絡を取ろうとしている

 

「警備員はこれからもミーティングですって。…はて? どうしましたの固法先輩」

 

合同会議が終わって以来、どうも固法が考えている

黒子が聞いて見ると「あぁ…」と固法は反応し

 

「RSPK症候群の同時多発なんて、聞いたことがないわ。それに今回の対応…なんか引っかかって」

 

「そいつをこれから専門家が調査すんだろ? 俺たちが考えても仕方ないって」

 

とはいってもその妙な違和感を拭えてない訳ではない

固法が疑問に思っていたようにアラタもまた疑問に思っていたのだ

しかし考えても今はどうしようもない

 

「それはそうかもしれないけど…」

 

「あ! 佐天さん! 今どこですかっ!?」

 

今日の初春は余程春上と遊びたいのか、そんな事などどこ吹く風といった感じだ

まぁ正直今考えても無駄なので早々に美琴らと合流することにした

 

 

ほどなくゲームセンターに到着

正直に言うと黒子に運んでもらったのだが

 

「さぁ! 春上さん、次は何が良いですか? あ! あれなんてどうですかっ!!」

 

そう言うと彼女は春上の手を掴み、走り出した

その光景を一歩後ろで眺めていた佐天たちは笑みを浮かべる

 

「初春ったら。張り切っちゃって」

「お姉様もずいぶん張り切っていらしてるようで」

 

黒子はちらりと美琴が持っているメダルカップへと視線をやる

その中にはどこかで見たようなことがあるメダルがわんさか入っていた

 

「あ、…いや…」

「補充できたか?」

「えぇそりゃもう…って言わすな!」

 

 

チャイナチックな音楽と共に穴からモグラが出たり入ったりしている

そう、モグラたたきだ

本来モグラたたきは名前の通りモグラをぶっ叩いて得点を稼ぐゲームである

中にはそのモグラを憎い餡畜生に置き換えて全力でぶっ叩いてしまう人もいるらしいのだが

とにかくモグラたたきはモグラを叩くゲームだ

 

しかし春上は

 

「わぁ…」

 

どういう訳かモグラを叩かずただ眺めているだけなのだ

その反応に初春も流石にどう対応していいか分からずおろおろしているばかり

 

「お? モグラたたき?」

 

そんな状況を発見した美琴がそう呟きながら春上たちに歩み寄る

 

「懐かしいですわねぇ…」

「あんまりこういうのやんなくなったからなぁ…」

 

以前は当麻とどっちが得点を稼げるか競争したこともあった

そしてそんな一日を思い出し、唐突に涙が湧き上がる

あの時、もっとちゃんとしていれば―――

発生した自答を振り払い、アラタは改めて春上へと視線をやる

 

「私、こういうの初めてなの…ピコピコ出てきて…可愛い…もぐらさん」

 

その言葉に場の空気が一瞬固まった

もしかして…モグラたたきを知らない?

 

「で、でもでも…その、見てるだけじゃなく、叩いて見ない?」

「モグラさんを? …、…かわいそう」

 

・・・

 

話は平行線を辿ってしまった

そうこう話している内にモグラたたきマシーンはやがて時間切れとなり、モグラたちは穴の中へと戻って行った

 

「あ…。…もう一回」

「は、春上さん、流石に四回目は…」

 

三回もやってたのか

ただ眺めているだけでモグラたたきを三度繰り返し四度目に突入しようとは

場の空気を変えようと思わず美琴はある機会を指差して

 

「ね、ねぇ! みんなでアレとらない!?」

 

美琴が指差したのはプリクラだった

 

 

流石にこういった機械では女子だけでいいだろう、と言っては見たものの、美琴に半ば強引にプリクラ内部に引きずられてしまった

女子五人に男子一人という構図は流石に恥ずかしい気がする

 

「それじゃ行くよー」

 

美琴がそう言ってシャッターボタンを一度押す

すると数秒後、シャッターを切る音がした

 

まず一枚目は普通に撮り、二枚目は各々にポーズを取って、三枚目は本当に自由にその姿を写真に収めた

 

一通り回って先ほど撮ったプリクラを初春は電子メールで送信している光景を眺めながら徐に黒子が呟いた

 

「…なんと申しますか、不思議な子ですわねぇ」

「そう? 可愛いじゃない」

 

美琴の言葉には同意だ

確かにちょっとふわふわしている印象があるがそれを覗けばどこにでもいる普通の女の子だ

流石にモグラたたきのくだりはちょっと驚いたが

 

「…なんだか、初春の昔を思い出しちゃった」

 

不意に佐天が呟いた

 

「? 初春が?」

 

アラタが聞き返すと佐天はえぇ、と頷いて

 

「入学したての頃なんですけど…あれ」

 

言葉の途中で佐天が春上を見た

釣られてみると何故だか彼女が座っていたベンチから立ち上がってどこかに歩き始めていた

進んだ先にあるのはガラスの壁だ

 

「あ、春上さん危ない―――」

「―――あうっ」

 

初春の制止は一歩遅く、彼女はそのガラスの壁におでこをぶつけてしまった

春上はおでこを抑えながらうずくまり、すかさず初春が彼女の傍へ駆け寄った

 

「春上さん、どうしたんですか?」

「うぅ…あれ」

 

そう言って春上はガラスの壁の向こうにあるポスターを指差した

壁に貼られてあったのは花火大会の開催を知らせるポスターだった

簡単に言えば花火大会の告知用紙である

 

「あ、そういや今日じゃないですか? 花火大会」

 

佐天に言われアラタはそのポスターをよく見てみる

確かに日付は今日と記してある

 

「ねぇ、皆でいこっか!」

「いいですわねお姉様っ! 浴衣なんか着て」

「賛成です白井さん!」

 

そんな楽しそうな三人を見ながらアラタはちらりと春上を見た

春上は一瞬キョトンとしていたが

 

「…行くかい? 花火大会」

 

アラタがそう問うた

それに初春も乗って

 

「行きましょう春上さん! きっと楽しいですよ!」

 

そう言って初春は笑顔を作る

春上は彼女の笑顔を見つめ

やがて笑顔で

 

「うん!」

 

と大きく頷いた

 

◇◇◇

 

そんな訳で花火大会へと行くことになりました

 

時間までその場はいったん解散となりアラタは伽藍の堂へ寄って鍵を受け取ると一度学生寮へと戻っていく

恐らく彼女たちは浴衣で来るだろう

それに合わせてこちらも浴衣で行くのが普通なのだが、いかんせんアラタは浴衣を持っていないのだ

ていうかそれ以前にアラタはあまり服に興味がない

ぶっちゃけ私服も普通にあまり脚色がないTシャツだし、ズボンはジーパンとかである

基本的に制服しか着ないのだアラタは

 

「なんだったら、着物でも貸してやろうか?」

 

と式が言ってくれたが丁重にお断りした

流石に女物を着る勇気などアラタにはなかった

 

そうこうしている内にちゃくとちゃくと時間が進んでいった

外のはもう夕方となっており、太陽もだいぶ沈みかけている

 

「さて…そろそろ行かないとな」

 

結局制服を着ていくことになった

なんか美琴辺りから言われそうだが特に気にしない事にする

 

 

すでに待ち合わせ場所には五人そろっていた

美琴は黄色い浴衣、黒子は紫色というちょっと変わった色の浴衣だ

 

「…制服なんだ」

「いいだろ別に」

 

案の定なんか美琴に言われたが先述の通り気にしない

今度は初春たちを見る

佐天は緑色のシンプルな浴衣、初春はピンクで多少花柄があしらわれた可愛らしい浴衣、そして春上は白をベースに水色をあしらった浴衣だ

どれもみんな個性が出て可愛らしい

 

「皆可愛らしいじゃんか」

 

そう言うと初春は苦笑いと共に頭を掻く

春上はどこかもじもじとした様子で

 

「あ、ありがとうなの…」

 

と呟いた

 

「あー!」

 

唐突に佐天が声を上げた

彼女が見た方向へ視線を向けるとその先には数々の夜店が並んでいた

 

「夜店だー!」

「ホントだ! いっぱいあるね!」

 

ここから夜店までは結構な距離があるがすでに焼きそばやたこ焼きなどの匂いは漂っており食欲をそそっていく

 

「ん~! たまらんっ!」

 

そんな言葉と共に佐天は駆け出してしまった

 

「あ! 私も!!」

「お姉様! そんなに走っては…。もう!」

 

そんな佐天を追って美琴も彼女の後を追いかけた

そして美琴を追いかけて黒子も空間移動してその場から消える

 

「…俺たちも行くか」

「そうですね。それじゃ行きましょう春上さんっ」

「うんっ!」

 

 

その後は純粋に夜店を楽しんだ

 

まずたこ焼き

こう言った屋台でのたこ焼きは出来立ての為かほくほくとしてとても美味しい

ぷりぷりのたこがその味を増していると言ってもいいだろう

 

「やっぱり鰹節が決め手だと思うんですよね。アラタさんはどう思います?」

「え? どう思いますって言われてもなぁ…」

 

もむもむと頬張る佐天にちょっと萌えてしまったのは内緒である

 

次にスーパーボールすくい

ボウルみたいな最中的生地に持ち手が付けられておりそれを用いてボールをすくうゲームだ

見た目の割りに意外と難しく一つもすくえないまま終わってしまった

 

「わわ! 春上さん! 食べちゃダメですよ!」

「はむ?」

 

やっぱり彼女は天然なのだろうか

 

お次は輪投げ

シンプルに輪を投げて景品を輪に入れるゲームだ

アラタは一回挑戦してキャラメルをゲットした

 

「…よし、入りましたのっ!」

「能力使って入れんじゃないッ!!」

 

バシッと黒子がド突かれる

輪が入らないからといって能力を使ってはいけません

 

 

御坂美琴はあるお面に心を奪われていた

それはカエルのお面である

 

別にそのお面がただのカエルのお面なら美琴も興味を持たなかっただろう

ではなぜか

そのお面が美琴が好きなキャラクター〝ゲコ太〟に酷似していたのだ

いや、もしかしたらこの面はゲコ太なのかもしれない

 

「…買ってやろうか」

 

その光景を見ていたアラタがそんな事を言い出した

 

「え!? いいの―――って! べ、別に私は―――」

「遠慮すんなって。ほら、このお面だろ」

 

手早く清算するとアラタはそのお面を受け取って美琴に渡してきた

美琴はおずおずとそのお面を受け取ると僅かばかりに頬を染めて

 

「あ、ありが…と」

 

そう小さく言うとそのお面を被る

お面の中の顔はどことなく、無意識に笑んでいた

 

 

「…ん?」

 

綿あめをもふもふしている佐天がふとある一角へ視線をやった

 

「なんですか? あのトラック」

 

視線の先にはサイレンが取り付けられた大き目のトラックが三台ほど並んでおり、その付近には何名かの大人たちがいた

そのトラックにはMARと書かれている

 

「あれは…先進状況救助隊のトラックですわね」

「あぁそうか。例のポルターガイストの一件でここに」

 

ポルターガイスト、という単語を聞いた途端佐天の眼が輝き始めた

 

「ポルターガイスト! やっぱりあの噂まじなんですか!!」

「こんな人通りの多いところで起きたら大パニックですし…」

 

確かにこんなお祭り騒ぎな会場でそんなことが起きたら大惨事だ

それを未然に防ぐためでもあるのだろうか

 

「それはそうと…あんな警備がいる中で花火見物だなんて。…風情も何もあったもんじゃないですわ」

 

ハァ、と黒子がため息と共に愚痴を漏らした

それに佐天がアッと気づいたように声を上げる

釣られて皆が佐天を見た

 

「だったらいいとこがありますよっ!」

 

◇◇◇

 

佐天に案内されてきた場所は自分たち以外の客がおらず、先ほどのMARの職員らもいないまさしく花火を楽しめる場所だ

 

「ここ、穴場なんですよ」

 

確かにここからなら花火もよく見えるし視界には何も堅苦しいものも入ってこない

まさしく穴場だ

 

「あ、また上がりますわよ!」

 

黒子のテンションもわずかではあるが上がっている気がする

そんなタイミングでまた花火が夜空に打ち上がり、夜の空に花を咲かせていく

 

「どーんと響きますよねぇ…」

「うん。どーんと来るの…」

 

花火はどんどんと打ちあがる

色とりどりの花火たちは何発も空に花を作り、心を魅了する

あまり花火などを見たことはなかったが、ここまで美しいものだとは思わなかった

 

 

『たーまやー!』

 

初春と佐天がそんな定番の言葉を同時に叫んだ

春上はそんな二人を見ながらふと口元に笑みを浮かべる

 

「? どうしたんですか?」

「…思い出してたの」

 

春上は物思いにふけるように胸元に手をやった

そして懐かしむように

 

「私にも…初春さんと佐天さんみたいな…―――」

 

言葉が途切れた

急に様子が変わった春上に戸惑いを隠せない二人は顔を見合わる

 

「春上さん?」

 

初春の言葉に耳を貸すことなくいきなり春上は会談に向かって歩き始めた

 

「ちょ、春上さん!?」

「どこ行くんですかー!?」

 

 

「どこ行くんですか―!?」

 

そんな声を聞いたのはついさっきだった

ふと視線をやるとどこかに行く春上を佐天と初春が追っかけていく姿が見えた

 

「…どこ行くんだアイツら」

 

アラタの呟きに美琴も反応し彼の視線の先に目を見やる

 

「? どうしたの? 初春さんたち」

「さぁ…俺に聞かれても」

「きっとわたくしたちに気を使ってくれたんですわよ…。…さぁ、今こそ黒子たちもめくるめく熱い夜を…」

 

ピリリ、とアラタの電話が鳴った

今にも襲い掛からんとする黒子を美琴に任せアラタは携帯に手を伸ばしディスプレイを見る

そこにはフィリップと名前が映し出されていた

 

「もしもし、フィリップ?」

<やぁ、アラタ。君に頼まれていた件なんだけど、一応調べ終わったよ>

「マジですか。…早いな」

 

あの合同会議の後、やっぱり違和感はぬぐえず、花火大会に帰り際左探偵事務所に赴いて調査を依頼したのだ

数日はかかるかな、と思っていたがまさか半日かからないとは

 

<調べ終わったといえどそこまで詳しいことじゃない。RSPK症候群…だっけ。それの同時多発の条件がAIM拡散力場への人為的干渉という可能性が浮上したんだ>

 

「…人為的干渉? …え、ちょっと待て、つまりそれって」

<あぁ、ここまで起きたポルターガイストは偶発的に起きた事故なんかじゃない。誰かが意図的に―――>

 

フィリップがそこまで言いかけた時不意に足元がぐらりと揺れた

揺れが徐々に大きくなり、目の前の手すりを支えにしないと立っていられないほどだ

思わず携帯の通話ボタンを押してしまいフィリップとの会話が途切れてしまった

 

「ちょ、これって…!?」

「ポルターガイストですのっ!?」

 

揺れの大きさがピークに達したとき、地面が罅が入るのをアラタは見た

そこからは本能だ

アラタは美琴と黒子を脇に抱え、そのまま叫ぶ

「わひゃあ!?」とか「お、お兄様っ!?」なんて言葉が聞こえるが気にしない

 

「変身っ!!」

 

アークルが顕現しアマダムが青色に輝く

崩れ去る地面から跳躍し、階段の上へと着地する

そして美琴と黒子を下すと美琴が叫んだ

 

「佐天さんたちは!?」

 

そう言われて思い出す

そうだ、ポルターガイストが起きる前三人は…!

 

 

訪れた揺れに佐天は足を取られてしまった

自分の先には初春と春上がいるのだ

幸いにも今の所二人は無事―――と思ったその矢先だった

 

揺れによって地面が崩れて街灯が初春たちの所へと倒れていったのだ

 

「初春!!」

 

言葉を飛ばすが間に合うかどうか、それ以前にアラタも美琴も黒子もいないこの状況では佐天はただ言葉を発することしかできなかったのだ

佐天の言葉にハッとする

向かってくる街灯に恐怖を覚えるがそれでも彼女は春上を守るべく自分の身を盾にするように覆いかぶさった

 

 

しかしいつまで経っても衝撃は来なかった

恐る恐る目を開けてみるとビビッドなピンクのロボット(?)がその街灯を受け止めていたのだ

 

そんな時黒子のテレポートを用いて美琴とクウガがその場に到着した

 

「佐天さん! 怪我はない!?」

「は、はい。初春たちも、怪我は…」

 

そう言いながら佐天はそのロボットみたいなのに視線をやった

 

「あれって…」

 

ロボットは街灯をゆっくり下ろすとしゃべりだした

 

「間一髪ね」

 

うっすらと黒で覆われた顔に該当する部分がはっきり見えてくる

 

「もう大丈夫よ」

 

それは合同会議で見た、テレスティーナの顔だった

という事はあれはロボットではなくパワードスーツだったのか

 

とりあえず当面の危機は去ったと思ったその直後である

 

「ハァァァッ!!」

 

と茂みから唐突に虎の怪人が強襲してきたのだ

 

虎の怪人は真っ直ぐ春上を狙って襲い掛かる

その前にクウガは彼女の近くへと跳躍して顔面を蹴っ飛ばす

びっくりしながらもそれでも春上から離れない初春の頭を撫でつつクウガはテレスティーナに告げる

 

「任せていいですか?」

 

テレスティーナはゆっくりとアーマーの中で頷いて

 

「えぇ、行って来てちょうだい」

 

その言葉を受けてクウガは虎の怪人に向かって駆け出した

彼の背中を見つめながら、テレスティーナは僅かに、本当に僅かに笑んだ

 

(…見せてもらうわよ。仮面ライダーさん)

 

 

敵は虎というよりも豹、といった方が正しいか

とはいえ違いなんかよくわからないのでこの際虎の怪人という事にしておく

クウガは赤に戻りながら一定の距離を保ちながら敵の動きを待つことにした

 

お互いの距離はそのままにじりじりと足を動かしつつ出方を見る

最初に動いたのは虎の怪人だ

虎の怪人は一思いに跳躍して手にある鋭い爪でクウガを斬り裂こうと手を伸ばした

クウガは一歩退いてその一撃を躱しカウンターで蹴りを繰り出すが、反対側の手でそれを防がれた

すかさず足をひくが相手の繰り出した拳がクウガの胸を捉える

 

「うぐっ!」

 

一歩身を引いたことでダメージを軽減する

その隙を逃すまいと一気に接近して虎の怪人はラッシュをかけていく

このままダメージをくらい続けることは流石にマズイ

そう思ったクウガは何とか両手でそのラッシュを耐えていく

虎の怪人の攻撃を耐えている最中、クウガは妙な違和感を覚えた

 

(…なんだ、この敵…泣いてる?)

 

どういう原理かは分からない

しかしクウガにはこの敵が泣いているように思えるのだ

別に拳を交えれば分かるとか、そんなものではない

ただ、なんとなく…そう言った曖昧なものでしかないのだが

 

「ハァァァァッ!」

 

顔面に向けられた拳を両手で受け止めてギリリ、と握りしめる

力強く握られた拳に痛みに耐えられず虎の怪人はクウガを蹴っ飛ばして後ろへ飛んだ

吹っ飛ばされたクウガは態勢を立て直しながら周囲を軽く探す

見渡すと自分の付近に木が合った

植物にごめんなさいと謝りながら適当に枝をへし折ると剣のようにそれを持った

 

「超変身!」

 

そう叫んでクウガは紫の〝タイタンフォーム〟へと色を変えた

そして手に持った枝も彼のモーフィングパワーにより両刃の剣〝タイタンソード〟へと形を成す

クウガはソードを持ち直し、一気に虎の怪人へと駆け出す

 

「ウアァァァッ!」

 

虎の怪人も咆哮を上げ真っ向からクウガへと接近していく

手を開き手刀を繰り出すがクウガはそれをギリギリで回避する

そのままクウガは右下から斜め上に向かって逆袈裟切りを繰り出すが難なく虎怪人はそれを回避しがら空きの横腹に蹴りを貰ってしまった

痛みはさほどあったものではないがそれでも衝撃は強く軽くよろめいてしまう

なればクウガはその痛みを耐えることにした

 

「ガァァァァッ!」

 

虎怪人が叫びながらクウガの顔面に一撃を叩きこんだ

だがクウガは怯むことはなく、むしろそのままぐい、と前に歩み寄ってきて

 

「だぁぁぁっ!!」

 

手に持ったタイタンソードを虎怪人の腹部へと思い切り突き出した

突き出された剣は虎怪人の腹を突き破り、貫通する

そのまま虎怪人はどういう訳かクウガにしがみつき、か細いような声でこう言った気がした

 

「…あ、り…がと…う」

 

「―――え?」

 

疑問に思う暇もなく直後に虎の怪人は爆発する

爆炎の中、美琴たちの下へ帰りながらクウガは僅かに聞き取った言葉を頭の中で再生する

 

…あ、り…がと…う

何故感謝されたのだろう

その意味が、分からなかった

 

 

「春上さん」

 

怪物もクウガとなったアラタが倒してくれたしこれで少しは安全だろう

初春は自分の倒れている春上に声をかけた

 

「無理しちゃダメ…」

 

佐天と初春の声に反応しつつ、春上はゆっくりと身を起こす

 

「…どこ」

 

僅かに呟いたその呟きを初春は聞き逃さなかった

 

「…春上さん?」

 

春上は首にかけていたネックレスを握りしめながら誰かを想うように

 

「…どこに、…いるの…?」

 

そう短く呟いた

 

 

 

夜に花火が上がっていき、先ほどのポルターガイストの一件で野次馬が増える

美琴は思わず花火に目をやった

夜空で爆発する花火は綺麗だった、しかし今はその美しさを楽しむ気にはなれなかった

 

そして、パワードスーツを着込んだテレスティーナは、誰にも悟られることのないその内側で、口元を歪に歪ませた―――



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#20 声

なんか微妙な長さ

楽な気持ちでお楽しみください

誤字脱字等ございましたらぜひ

それでは#20、どうぞ



 

花火が打ち上げられる夜空の中、テレスティーナの声が聞こえる

どこか連絡を取っているようだ

その内容は恐らく被害状況などの報告だろう

その報告が終わるまでアラタは美琴と黒子と共に待っていた

 

ピ、と携帯のような通信機のような物を切った後タイミングを見計らって黒子が頭を下げた

 

「友人を救出していただいて、ありがとうございました」

「気にしないで。怪我がなくてよかったです。それに、彼女たちを守ったのは彼でもあるんですから」

 

そう言って彼女はアラタの顔を見る

視線を向けられた時、少々戸惑ったがアラタは軽く礼をする

所で、空気を変えつつアラタは地震で崩れ去った方を見ながら

 

「…あそこにいる人は、この場所のAIM拡散力場を調べてんですか? もしかしたらMARでは事前に感知とかできたりするんですかい? …対応が迅速だったので気になって」

 

問われたテレスティーナは柔和な笑みを浮かべて

 

「貴方、お名前は?」

「…風紀委員一七七支部、鏡祢で…こっちは白井だ」

 

ポンと黒子の頭を撫でながら軽く自己紹介をする

テレスティーナはアラタに向き直り

 

「その支部には、とても優秀な風紀委員が揃っているのね。ASPKとMIM拡散力場についてもう把握してるなんて」

「…。RSPKは第三者による人為的な干渉が原因と聞きました。そいつの同時多発がポルターガイストを起こしてる…」

「合同会議の時に仰ってくれれば、風紀委員でも不審者の割り出し等、お手伝いできましたのに」

 

テレスティーナは笑みを崩さず

 

「それは警備員の管轄。会議でも言ったけど、風紀委員には風評被害の対策や日常の安産対策に専念してほしかったの」

 

ちゃんとした理由があるなら仕方がない

警備員にも眞人や黄泉川のような頼りになる人がいるしそれなら大丈夫だろう

と、思ったところで美琴が呟いた

 

「…AIM拡散力場への人為的干渉…そんな事出来る人がほかにいるんでしょうか…」

「他にも…?」

 

「すいませーん!」

 

その時佐天の声が聞こえた

佐天はアラタたちに向かって手を振りながら

 

「心配なんで病院についていきまーす!」

 

付近には初春に連れられてトレーラーの中に入っていく姿が見えた

 

「あ、私たちも―――」

「ダメですわお姉様。そろそろ寮監の巡回が…」

「あ…」

 

ひとまずその場はそれでお開きとなった

本心を言ってしまえばアラタもついていきたかったが女子同士の方が春上もきっと話しやすいだろうと考えてアラタは学生寮に帰ることにした

 

その光景をテレスティーナはどこかつかめないような表情で眺めていた

 

 

深夜

 

「そっか、よかった…。あぁ、気を付けてな」

 

先ほど佐天から連絡を貰い、春上は無事だという事を知る

一言二言言葉を交わしアラタはテーブルに携帯を置いた

そして鏡祢アラタはベッドに腰掛けて考えた

そもそもこの事件はAIM拡散力場への人為的干渉が原因だという

そう言えばAIM拡散力場を利用した事件では他に幻想御手(レベルアッパー)事件が挙げられる

思えば捕まったとき〝気に入らないなら邪魔しに来い(意訳)〟みたいなことを言っていたしもしかしたら…なんて思ってしまう自分がいる

 

しかし木山は今は十七学区の特別拘置所に拘留しているはずだ

だが可能性としてはなくはないのでとりあえずこれは保留としよう

そしてもう一つの仮説をアラタは考える

 

もう一つの仮説は春上だ

ポルターガイストの発生前の彼女の様子はどこかその場にいない誰かを探しているようにも見えたのだ

しかしこれは友達を疑う、という人としてはどうかという考えだ

無論、アラタはそんな事は有り得ない…と信じている

しかし確率としてはこっちの方が俄然高いのだ

こんな考えを突きつけては美琴たち―――特に初春に確実に嫌悪されてしまうだろう

 

「はっ…。自分が嫌になる」

 

時たま翔太郎の捜査の手伝いなんかをしているものだから一度気にすると気になって仕方ない

そんな可能性もある、という事にしてとりあえずアラタはベッドに横になった

とりあえず目を閉じて寝ようと心掛けようとしたその時、テーブルに置いた携帯が鳴った

こんな時間に誰だよもう、と思いながら携帯の画面を見るとその画面には御坂美琴の名前があった

 

<もしもし? …もしかして寝てた?>

「いや、大丈夫だよ。…どうした」

 

話を聞くとどうやら美琴も自分と同じ仮説に至ったらしい

そしてわずかではあるが、春上に疑念を抱いてしまったことも

 

<友達を疑うなんて最低な行為だと思うけど…黒子に指摘されてどうもそれが離れないの…>

 

そう小さな声で呟く美琴の声をアラタは黙って聞いていた

そして気づいた

彼女もどこか不安なんだ、と

 

「…じゃあ、調べてみるか」

<え? でも…>

「お前は気にするな。いざとなったら俺が言い出したことにしておく。…それじゃ、また明日」

<ちょ、待ってアラ―――>

 

言葉の途中でアラタは携帯を切った

そして念のために電源を落とし、それをテーブルに軽く放り投げる

 

「…友達を疑う…か」

 

 

翌日少し早く起きたアラタは一七七支部に合流する前にアラタはとある場所へ向かった

それは第二左探偵事務所である

ノックをしていつもの通りドアを開けて足を踏み入れると二人はもう起きていた

 

「ん? おう、アラタじゃねぇか。どうした?」

 

今ではすっかりノックの事に関しては突っ込まなくなった翔太郎

言っても無駄と悟ったのか気にしなくなったのか

きっと後者だと信じたい

 

「こんな朝早くから来るなんて珍しいね。巷で起きてる乱雑解放(ポルターガイスト)の事かい? それとも何か別の事?」

 

今回はライトノベルを読んでおらずどこからかコピーした資料に目を通している彼の相棒、フィリップ

しかし今は読んでないだけでその近くにはしっかりと息抜き用なのかライトノベルが置いてあった

…今更だがフィリップにこんな趣味を持たせてしまったのは自分かもしれないと後悔する

 

「まぁ、そんなところ…かな」

「へぇ…相談かい? っと、ちょっと待ってな。コーヒー淹れてやるからよ。…まぁ照井のに比べりゃ味は劣ってけど、どの辺は勘弁な」

 

翔太郎はそう言いながらコーヒーポットへと足を運ぶ

彼がコーヒーを淹れてる間、フィリップがアラタの話を聞き始めた

 

「それで? 話ってなんだい?」

 

フェリップに問われゆっくりとアラタは話し始めた

 

・・・

 

「なるほど。もしかしたら、ポルターガイストの原因が、その友達の可能性がある…と」

 

コーヒーを置きながら翔太郎が呟く

その隣でフィリップは「ふむ…」と顎に手を当てて考えるようなしぐさをした

 

「…疑っちゃいけないってわかんですけど…やっぱり信じたいんです、俺は…」

「信じてるなら、徹底的に疑わなきゃな」

「…え!?」

 

翔太郎はコーヒーを口に運びながら続ける

 

「俺たち探偵は疑うのが仕事だ。可能性が出てきたなら、しっかり調べてそいつの無実を証明してやらないといけねぇ」

「そうだね。…むしろ、信じてるから疑うべきだと、僕も思うよ」

 

翔太郎の言葉にフィリップが賛同する

 

「…気持ちはわからんでもねぇ。…けどな、信じてるからってだけで疑わないのは駄目だと思うぜ」

 

そう言われてアラタは小さく笑みを浮かべる

そうだ、自分は春上を信じている

他ならぬ初春の友人だ、原因なわけなわけがない

そう思いながらアラタは目の前の二人で一人の探偵であり、仮面ライダーを見る

この二人がどっちかが犯人の可能性が出たなら躊躇なく徹底的に調べ上げるだろう

互いを相棒と信じて疑わないからこそ

 

「ありがとうございます。…なんか楽になりました」

「そっか。だったら何よりだ」

 

そう言って翔太郎は笑みを浮かべ、帽子を整える

恐らくこれほど帽子が似合う男は学園都市中、いや、日本中を探してもこの男だけだろう

 

「もう大丈夫そうだね。引き続き僕たちも調べてみるよ、ポルターガイストの事」

「えぇ、よろしく頼みます」

 

そしてアラタはコーヒーのカップを持ち、それを一気に飲み干した

飲み干したコーヒーは冷めてしまっていて正直に言って美味しくはなかったがそれでも自分の中の迷いを払うのには十分だった

 

「じゃあ、この辺で」

「おう。困ったことがあったら何でもいいな。俺たちライダーは、助け合いだからな」

 

仰る通りです、と心の中で呟いた

 

 

そして現在一七七支部にて

 

「えー!? なんであたしも誘ってくれなかったのー!? ていうか非番ってあたし聞いてないよ?」

 

そんな感じで初春でと電話をしている佐天

電話から声が聞こえる

 

<す、すいません…! た、たまにはマイナスイオンを吸うのもいいかなって…ぜェ…!>

 

どういう事だか電話の向こうにいる初春は息が切れている

 

「…どうしたの? なんか息荒くない?」

 

<あ、荒い…ですかっ!? そ、そんな事…ないです…よっ!>

 

実際彼女は船をこぎながら電話を春上に持ってもらって通話をしているのだ

じゃあ止まればいいじゃないかと思うかもしれないがこの際触れないでおく

それから少し話してから佐天は電話を切った

 

「ハァ…せっかく遊びに来たのに振られちゃった…」

 

それ以前に本来ここは遊び場ではないのだが

そんな固法の視線を感じ取ったのか佐天は苦笑いを浮かべて

 

「あ、あはは…すいません…! そだ、よかったらあたし何か買ってきましょうか? 冷たい飲み物とか…」

 

佐天がそう言うと国法はうーんと考えて口を開く

 

「そぉね…じゃ冷やし中華と五目炒飯、それからマカロニサラダとエビフライとか…」

 

注文に飲み物が全くないのですけど

そんなやり取りをする佐天らを尻目に黒子と美琴、そしてアラタの三人はパソコンの画面を睨んでいた

三人はこれから春上衿衣の事を調べようとしているのだ

 

「…やっぱり気が引けるわね」

「えぇ。…そうですわね」

「だがここにきて退けない。…美琴」

 

アラタが彼女に視線をやると意を決したように彼女は頷いてパソコンにす、と手をあてる

そして美琴はパソコンに軽く電撃を流し、ハッキングを実行した

改めて美琴は超能力者なのだと改めて思い知る

 

少し時間が経ってやがて画面にウィンドウが表示されていく

最後に春上の顔写真が載ったデータが表示された

書かれてある能力名は精神感応(テレパシー)、レベルは2の異能力者だ

 

「…レベルってことはまだ実用の域をでない…やっぱりこの心配は杞憂だったんだ―――」

「いえ、お姉様…これ…」

 

そう言って黒子は画面を指差した

特記事項としてその欄にはこう書かれていた

 

〝特定波長下において、能力レベル以上の力を発揮する〟と

 

◇◇◇

 

ここは自然公園にある、湖のボート漕ぎ場

先ほどまで汗だくになってボートを漕いでいた初春にはベンチで座りながら身に風を受けるこの場所は心地がいい

 

「うーん…風が気持ちいいですねぇ…!」

 

大きく背伸びをしながら初春は春上に声をかけた

彼女は先ほど売店で購入した巻きずしを食べつつ初春に笑顔を見せる

それに笑顔で答え初春も同じように巻きずしを口に運んでいく

 

そこでふと春上が口を開いた

 

「…初春さんには、ちゃんと話しておかなきゃ」

 

彼女は巻きずしを一つ食べ終えると座っていたベンチを立って初春の前に立った

春上は首にかかっていたネックレスを握りしめる

 

「…春上さん?」

「私、友達を探してるの」

 

彼女は続ける

 

「その子とはずっと友達で…よく遊んでて…けどある日突然離れ離れになって」

 

「春上さん…」

 

「その子は約束してくれた…。また会えるからって。だから、ずっと待ってた…。けど、待ってるだけじゃダメなの。こうしてる間も。あの子は―――」

 

言葉を遮るように初春は彼女の手を握りしめた

唐突に握られたその手に春上は「えっ?」と目を丸くする

 

「一緒に探しましょう、春上さんのお友達を」

「え…?」

「大丈夫、きっと見つかります! いえ、見つけます!」

 

思わず涙が出そうになった

まだ会って数日しか立っていないのに彼女はこんなにも自分に真摯になってくれている

その優しさに

 

「ありがとう、初春さん。―――っ?」

 

ふと春上は声のようなものを聞いた

春上は初春の手を話し、歩きながら呟く

 

「…どこなの―――?」

「え? …春上さん?」

 

「どこ…? なんでそんなに苦しんでいるの!? どこにいるのっ!?」

「は、春上さ―――」

 

ん、とまで続くはずの言葉は続かなかった

何故ならつい先ほどまで湖を扱いでいたカップルのボートがどういう訳か中空に浮いているのだ

その光景を見て察する

ポルターガイストだ…!!

そう自覚した時ゴゴゴ、と大きな揺れが初春と春上を襲った

 

◇◇◇

 

一七七支部

唐突にピー、ピーとやかましい音と共にメールが届いた

ちらりと固法に視線をやるが彼女は食べるのに夢中である

今現在彼女の中では〝仕事<食事〟なのか

ハァ、とため息をつきながらパソコンを操作しメールを読んでいく

 

「んっと…第二十一学区の自然公園で…大規模なポルターガイスト!?」

 

思わずアラタは声に出していた

支部の中の空気が張り詰める

そこで佐天が思い出したように

 

「自然公園って…今初春たちがいる場所じゃないですか!?」

 

「なんだって!?」

 

アラタの声に美琴も黒子も驚く

これはもう、支部でのんびりしてる暇はなさそうだ

 

◇◇◇

 

付近のMARの隊員に聞くと現在初春は病院にいるらしく、アラタたちは案内の下その病院に駆け付けた

その病院に向かう最中ちらりと自然公園を覗いてみたが酷いものだった

木々が倒れ地面に地割れが多く、壊れたボートが山ほどあった

 

病院に足を踏み入れた時、目の前にはベンチに座っている初春の姿があった

 

「初春!」

 

佐天が声を上げる

彼女の声に気づいた初春が立ち上がりこちらに向かってくる

 

「みなさん…」

「大丈夫? 怪我とかは…」

 

美琴に心配された初春は笑んだままちらりと足の膝を見せる

そこには湿布が張られていた

 

「私はちょっと擦りむいただけです。平気だ、って言ったんですけど…」

「ハァ…よかったぁ…」

「心配したんですのよ? ホントにもう…」

 

そんな三人のやり取りに少し安堵の空気を感じながらアラタはふとこの部屋の中を見渡してみた

一言で表すなら怪我人が多かった

恐らくこの場にいる怪我人たちは先ほどの自然公園でのポルターガイストの被害者だろう

一通り見回してアラタはふと思った

春上衿衣の姿が見えないのだ

その疑問に気づいたのか佐天が初春に向かって聞く

 

「…あれ? そう言えば春上さんは?」

「際に搬送されましたから多分どこかに。大丈夫、怪我はしてませんよ。ただ気を失ってしまっていて…」

 

気を失っている。という事はだ

もしかしたらこのポルターガイストが始まる直前、彼女に何かが起こったのではないのか

黒子と美琴と顔合わせ、アラタが少し前にでた

 

「初春」

「? はい、なんですか?」

「ポルターガイストが発生する前、春上に何か変わった事はなかったか?」

「あの…どういう事でしょう…?」

「だからこの前の花火大会みたいなことがなかったかって」

 

彼女は戸惑った表情でアラタを見る

何を言ってるん野だろう、という表情で

 

「話が…見えないんですけど…」

「調べたところ彼女はレベル2のちょっと変わった感応系。…もし花火大会に見られたときと同じような―――」

 

「…なんで」

 

ボソリ、と初春が呟いた

それに動じることはなかった

何故なら必ずそう言った反応になると分かりきっていたからである

 

「なんでそんな事調べてるんです。…もしかして、アラタさん春上さんを疑ってるんですか…?」

「…。まぁ。結果を言えばそうなるな」

 

だがアラタは退かなかった

最低な事とわかっても

 

「酷いですアラタさん! …春上さんは転校してきたばかりで、私たちを頼りにしてて…不安なんです! それなのに―――!」

「だからって疑わないのは筋違いだよ。…あくまで可能性を提示したまでであって彼女だとは言っていない」

「同じじゃないですか! 隠れて友達を調べたり…あげくに原因にしようとしたり…見損ないました…! アラタさんは、そんな事する人じゃないって信じてたのに…!」

 

胸が痛む

正直そこまで信じてくれたのは嬉しい、がそれを砕いたのも自分だという事にどことなく嫌悪感を抱く

 

「あ、あのね初春さん…、アラタは別に―――」

 

精神感応(テレパス)が、AIM拡散力場の干渉者になる確率は、ないという訳ではないわ」

 

助け船を出そうとした美琴の声を遮って一人の女性の声がした

振り返るとそれはこちらに向かって歩いてくるテレスティーナの声だった

 

「だけどそれには少なくともレベル4以上の能力値が必要だし、よっぽど希少な能力と言わざるを得ない。…レベル2にその可能性はないと思うけど、ちゃんと検査した方がいいと思うかしら? お友達の名前は?」

「春上衿衣、という人だ」

「! アラタさん!!」

 

間髪入れずその名を口にしたアラタに初春は怒りをあらわにする

 

その名を聞いたテレスティーナは通信機で部下にいくつか指示を飛ばした

初春は歯を食いしばりながら

 

「あ、あのっ!!」

「友達の潔白の為だと思いなさい。…あとここは病院だから、お静かに」

 

テレスティーナにそう論されると初春は俯いた

彼女はどこか、苦い表情をしていた

 

◇◇◇

 

テレスティーナに案内されるまま、五人は先進状況救助隊の本部に来ていた

 

事前に春上は運び込まれていたらしくもう検査は始まっていた

ベンチに行くまでアラタはキョロキョロと周囲を見渡す

メンテナンスをしている駆動鎧とかしっかりとした銃火器とか結構ある

しかしメインは災害救助ではないのか、とアラタは疑問に思った

確かに駆動鎧は瓦礫の中から人を救出するときとかに使いそうな気もするが銃火器はなんだ

 

(…きな臭いな)

 

大広間へと到着し適当にベンチに腰掛けて報告を待つことにする

その際、アラタの座っている場所と初春の座っている場所がえらく離れていて妙に気まずい空気が美琴や佐天、黒子を襲う

 

「検査が終了したわ」

 

しばらくしてテレスティーナが戻ってきた

彼女に真っ先に向かって言ったのは初春である

 

「そ、それで、あの…春上さんは!?」

「慌てないで。結果が出るまでもう少しかかるの。ついてきて」

 

テレスティーナに言われるままに彼女たちとアラタはついていく

 

案内された場所はテレスティーナの自室、と思われる場所だ

室内は結構広く、棚の上には可愛らしい小物が置いてある

ちなみに美琴は早速その小物に釘づけだ

あとで聞いたところによるとこれらはすべてテレスティーナの趣味らしい

 

「改めて自己紹介するわ。私は先進状況救助隊付属研究所所長のテレスティーナです」

 

「…所長…って、もしかしてMARの隊長も兼任なさってるんですか!?」

 

驚いた様子で美琴がそう問うと笑顔で彼女は頷いた

 

「そう言えば、白井さんと鏡祢くん以外は名前を聞いていなかったわね、貴女名前は?」

「え…あ、と…御坂美琴です。そして彼女は―――」

「さ、佐天涙子です…」

 

おずおずといった感じで二人は名前を名乗っていく

美琴の名前を聞いた時テレスティーナは驚いた表情をして

 

「まぁ…常盤台の? こんな所で出会うだなんて…。案外、学園都市も狭いわね」

 

そう笑顔で美琴を見たあと、今度は初春を見て―――

 

「風紀委員一七七支部所属、初春飾利です!」

「あら? じゃあ白井さんと鏡祢く―――」

「あの! 春上さんは干渉者じゃ…犯人じゃないですよね!?」

 

あまりの剣幕にテレスティーナは驚きつつも笑顔を崩さず

 

「―――試してみようかしら?」

 

「え?」

 

テレスティーナは徐にポケットに手を伸ばすとそこから筒状の容器に入ったマーブルチョコを取り出した

 

「貴女、好きな色は?」

「…なんでも好きですけど、強いて言うなれば黄色です」

「黄色ね? OK」

 

そう言ってテレスティーナはシャカシャカとマーブルチョコの入った容器を振る

少し振った後でテレスティーナは初春に手を出させた

怪訝な顔をする初春の手に彼女はチョコを容器から一つ、出した

出たチョコの色は黄色だ

 

「あら? 幸先いいわね」

 

『…は?』

 

何だか意味が分からなかった

 

◇◇◇

 

その後しばらくして彼女の検査結果がコピーされたプリントを持った研究者が入ってきた

 

「結果が出たのね?」

「はい」

 

そう言って研究者はプリントをテレスティーナに手渡した

「どれどれ…」と言いながらテレスティーナはそのプリントを見ていく

しばらくして彼女は笑顔を作った

 

「安心して。彼女は干渉者じゃないわ」

 

その言葉に皆が安堵したような溜息をもらす

アラタも顔には出さなかったが、それでも一つだけ聞いていないことがあった

 

「彼女はレベル2の精神感応(テレパス)、受信専門のね。水から発することはできないわ」

「しかし書庫(バンク)には特定条件下に至っては能力値以上の―――」

「アラタさん!! まだそんな事…!!」

 

このままではまた口論してしまう事を予期したのかテレスティーナは目を細めて

 

「検査結果を見ると、どうやら相手が相手が限られるみたいね。その人物に限って、距離や障害物の有無に関わらず、確実にとらえることが出来る…。けど、いずれにしても彼女は干渉することなど出来ないわ」

 

それを聞くと初春は満面な笑顔を浮かべて

 

「ほ、ほら! ほらっ!」

 

周囲に向けて初春は喜びを振りまいた

そんな初春にアラタは

 

「そう…みたいだな。…悪かった、初春」

「ふぇ!? あ、い、いえ…そう真っ向から謝られると…えっと…その…」

 

流石に初春も困り顔である

別にアラタも彼女が犯人だと思ってはいなかったし結果が分かってむしろすっきりした

そして目の前のこの女に悟られないように瞳だけでテレスティーナを見る

アラタはこの女だけは如何せん信用できない

…本能によるものだろうか

 

 

その後テレスティーナに案内された場所は春上衿衣の病室だった

そこにはベッドくらいしかなく、まさしく安静にするための部屋だった

現在、彼女はベッドで寝ており、目を覚ますのはもうしばらくかかるかもしれない、とはテレスティーナの言葉である

 

少し経って、彼女が目を覚ました

 

「春上さん…」

 

彼女はゆっくりと上半身を起こすと頭を押さえる

 

「私、また…」

「大丈夫ですよ、心配しなくていいですから…、あ、そうだ…あと、これ」

 

初春はポケットからネックレスを取り出して春上に渡す

春上はそれを彼女から受け取ると笑みを見せる

 

「ありがとう…友達との、思い出で…」

 

そのネックレスの先にはロケットのようなものがあり、春上はその部分を大事そうに握りしめる

 

「友達って…探してるっていう…」

 

「うん。声が、聞こえるの」

 

「声?」

 

美琴の言葉に春上はうん、と頷いた

それは彼女の能力である精神感応(テレパス)によるものだろう

 

「たまにだけどね? …それを聞いてるとボーっとして…」

 

つまり花火大会の時も彼女はその声を聞いていたのだ

そして完全に彼女は無関係だと悟る

その時、窓際で身体を預けていたテレスティーナの表情がわずかではあるが強張った気がする、がそれに気づくものはいなかった

 

「そのロケットの中に何か入ってるんですか?」

 

春上は頷いてそのロケットを開いた

付近にいた美琴と初春、アラタは彼女の手元を覗き込んで

 

「…っ!?」「…なっ」

 

美琴とアラタは息を呑んだ

 

春上のロケットの中身は写真だった

写真の中に映っている人物は黄色いヘアバンドをしたオールバックの女の子

その女の子をアラタと美琴は知っている

いや、正確には、知ってしまったのだ

そうだ、彼女の名前は―――

 

「枝先絆理ちゃんって言うの」

 

思わず声に出して驚きそうになったがそのことはここにいる人の中でアラタと美琴しか知らない

声に出したい気持ちを抑え、美琴はアラタに目で視線を送る

その視線にアラタは小さく頷いた

 

そんな二人の驚きを知らず、春上は続ける

 

「…私もね、置き去り(チャイルド・エラー)なの」

 

 

その日の夕食は翔太郎が発見したというお店へと行くことになった

翔太郎やフィリップも同じようにポルターガイストに調べていたのだ

 

「おっと見つけた…。ここだぜフィリップ、ここのステーキが美味いんだ」

「ん? どれ、お店の名前は…ステーキハウス〝ブラック・サン〟…?」

 

直訳すると黒い太陽という意味である

 

「…翔太郎、趣味悪いよ、何さ、黒い太陽って」

「そんな事言うなって。料理はマジで美味いんだから」

 

翔太郎はそう言いながら笑う

まぁ、別に本心から言っている訳ではない

基本的にコーヒーくらいしか淹れられない二人は大抵食事時は外食が多くなる

まぁ朝食はパンを焼いたトーストとかそういうのだが

 

翔太郎の背中を追いながらフィリップはその店内に入っていく

店内はカウンター席と四つくらいのテーブルしかなくお客もまばらだった

恐らく隠れた名店、と言ったところか

従業員は総じて若く、バイト店員なんだろうか

 

翔太郎は適当にカウンターに座りマスターと呼ばれる男性に声をかける

その男性の年齢は五十代近辺と言ったところか

男の人は翔太郎を見かけるとやぁ、と言った様子で手を挙げた

 

「翔太郎くん、また来てくれたんだね」

「あぁ、今日は俺の相棒も連れてきた。最高のステーキを頼むぜ」

「わかった。任せてくれ」

 

そう言って男性は肉を焼きに行ったのか,奥に戻っていった

そしてふと翔太郎は語りだす

 

「最初にブラックサンって見かけたときにさ、思い出したんだよ」

「思い出した? 何をだい翔太郎」

 

翔太郎はコップに入った水を飲みながら

 

「もうだいぶ昔の話だけどよ、昔この日本を守ってたその、なんだ。…いわば、俺たちの先輩仮面ライダーの事だ」

「先輩ライダー…興味深いねぇ」

 

翔太郎から話を聞くなど久しい事だ

それに自分たちの先輩だ、話を聞かない訳に行かない

 

「まぁ、俺が覚えてるのは一人の先輩ライダーしかいないんだけどな」

「構わない。ぜひ聞かせてくれ」

 

翔太郎はコップを置いて帽子に手をかけて思い出すようにしゃべりだす

 

「俺が覚えてんのは確か―――」

 

―――仮面ライダーブラック…アールエックスって人だったかな



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#21 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの ~SYSTEM~

今回はいつもよりクオリティが下がってしまったかも
申し訳ない

前回のウィザードでのディケイドの台詞の少なさに早くも絶望しかけた私
けど次回は本人も出るし大丈夫だよね

誤字脱字ございましたらご報告を

それではどうぞ


春上衿衣は置き去り(チャイルドエラー)の一人

そんな事を聞いたのはほんのついさっきだった

 

「私と絆里ちゃんはね? 同じ施設にいたの。…人見知りで友達がいなかった私だけど…、絆理ちゃんとだけは仲良くなれた。精神感応でいつも話しかけて来てくれて…。だけど、別の施設に移されて…それっきり」

 

恐らくその別の施設というのが木山春生が担当した施設なのだろう

そしてそこで、枝先絆理はある実験に巻き込まれた―――

 

「この頃ね? また聞こえてくるの。…助けてって」

 

彼女はネックレスについたロケットを見ながら呟いていく

 

「苦しいって…言ってるのに、どこにいるのか、どうしていいか分かんないの。助けたいのに…何にもできない…!」

 

彼女は目尻に涙を浮かべていく

自分の無力に気づいていながらも、彼女はそれでも助けたいと願った

枝先絆理の悲痛な声を聞きながら、春上は自分を嘆いて…

 

「大丈夫です! お友達は、必ず見つけてみせます!」

 

そんな春上を励ますように初春は声を上げる

 

「なんてったって! 私は風紀委員なんですから!!」

「…初春さん…」

 

初春はそう言って笑顔を浮かべる

こう言う明るい子がいるから、きっと一七七支部は活気づいているのだろう

黒子がボケて初春がツッコみ固法が纏め、アラタがボケてまた誰かがツッコんで

 

「そうだよ! こう見えても初春は優秀な風紀委員なんだから!」

「そうですわねぇ、初春は優秀ですわねぇ」

「ちょ! 白井さん! なんですかその含みのある言い方!」

 

突っ込みを入れつつ初春は笑顔を作りながらまた春上に顔を向けて

 

「…ですから、安心してください。…必ず見つけてみせますから」

 

「初春さん…、ありがとうなの…」

 

そう言う春上はどことなく涙目だった

そしてネックレスを彼女は優しく、それでいて強く握りしめて

 

 

初春と佐天をそばに残し、アラタと美琴、黒子の三人はテレスティーナを室外へと呼び出した

そして先ほど感じた事を美琴は伝えていく

 

幻想御手(レベルアッパー)事件…って、あの…?」

 

どうやらその事件の事も彼女は知っているようで、案外話は早かった

 

「…その犯人、木山春生の過去を知る機会がありまして…その中に、枝先さんの姿が」

 

そう言いながらアラタは確認するように美琴をちらりと見た

応じるように美琴はゆっくりと頷く

 

「…暴走用の法則解析用誘爆実験…。そんなものが…」

「その実験に関わってたのが木原って言う人らしいんですけど…」

 

美琴の呟きにテレスティーナはピクリと反応した

そしてすぐに顎へと手をやって

 

「…もしかして、木原幻生…?」

「? 誰です、その人は」

 

アラタが問い返すとテレスティーナは頷いて

 

「割と有名な科学者よ。いわゆるマッドサイエンティストね。…その人なら、人体実験を行使してもおかしくないわ。…今は消息不明らしいけど…。けどその実験が本当なら、ポルターガイストの原因はその子供たちなのかもね」

 

「…どういう、ことですか」

 

彼女は頷きながら解説してくれた

簡単に言ってしまえば、その眠っている子供たちかもしれない、という仮説

 

「けどその子供たちは今も眠ってるって…」

「意識がないまま能力が暴走しているとしたら?」

「…!」

 

意図的、ではなく無意識に

だとするなればその子供たちは自分の意思とは関係なく能力を暴走させてしまっているという事なのか

その考えを否定できない自分に少し苛立った

 

「…その子供たちは、今どこに?」

 

テレスティーナの問いに首を振る

事件の後、警備員が捜査してはみたのだが、見つけることは出来なかったのだ

テレスティーナは「そう…」と言いながら徐にマーブルチョコを取り出して

 

「なら、最初は探すとこからね。…今日のラッキーからは青…」

 

そう呟きながら彼女は筒の容器をシャカシャカ振る

そして自分の掌に中身を一粒

出てきた色は青だった

 

「ふふ。幸先いいわね」

 

そう言うと彼女はそのチョコを口に放り込んだ

相変わらず、その行動の意味が分からない

運試しかなんかだろうか

 

◇◇◇

 

「ちょ、ちょっと待ってください、え、となると…枝先さんが木山の元生徒さんで、その子供たちがポルターガイストの原因…てことですか?」

 

帰り道の電車内で

先ほどの事を佐天と初春に話した

そのことには初春はどこか苦い顔を浮かべ、佐天は素直に驚いた

 

「…仮説だけどな。場所も特定できてないし、…そこの所は…初春に頼りたいんだが…」

 

すなわちそれが何を意味するのか

それは…春上衿衣の友人を疑うという事だ

先ほど春上の疑惑が解けてすっきりしそうになった二人の間にまた気まずい空気が流れる

初春は、黙ったままだ

 

「…、」

「う…初春…?」

 

恐る恐ると言った様子で佐天が問う

しばらくして、彼女は

 

「もちろん探します。…だけど、春上さんの次はその友達を…疑うんですか?」

 

言葉にされると辛いものがある

アラタはそれに返す言葉が見つからず、ただ時間が過ぎるのを待った

待つしか、出来なかった

 

◇◇◇

 

初春飾利が怒るのも無理はない

優しいから、というのも理由になるかもしれない

そして自分とアラタは結構な付き合いになる

だから、彼女は裏切られた気持ちになったのだろう

 

黒子は「風紀委員としてお兄様は間違っていませんわ」と励ましてくれた、があまり気休めにもならなかった

心遣いは嬉しかったがそれについてはどうにもすんなりと頷けなかった

確かに風紀委員として間違っていないだろう

しかしそれはあくまで風紀委員として、だ

人間としては、褒められたものではない

 

「…悩んでも仕方ないか」

 

割り切ったつもりだった

しかし全然割り切れてなどいなかった

彼女が何を言ってきても、ポーカーフェイスを貫こうと思ったのに

存外、自分もメンタルが弱いと思い知る

アラタは適当に服を脱ぎ捨てるとお風呂場に入って適当に身体を洗う

そしてまた服を着るとアラタはベッドに横たわった

 

 

翌日、アラタは一七七支部へ顔を出さず、そのまま第二左探偵事務所へと向かった

今自分があの場にいては、また空気を濁らせてしまうと思ったからである

 

「木山春生の供述によると、被験者は約十名。皆植物状態になってしまい、医療機関に分散して収容された…ってう話だけど」

「だけど、入退院を繰り返して消息を絶ってんだろう?」

 

翔太郎の言葉にフィリップが頷く

そしてフィリップはふと近くの椅子に座っているアラタを見た

彼は何食わぬ様子で資料を見ており、パッと見の外見なら普段通りと変わらない

 

「…翔太郎、どうしたんだいアラタ」

「俺たちにはわからねぇよ。…ああいうのは、当人で決めねぇとな…っと」

 

翔太郎はコーヒーを淹れ終わると一つをフィリップに渡し、もう一つを自分の前に置く

そして三つ目のカップにガムシロを入れかき混ぜるとアラタに向かって持っていく

 

「息抜きも必要だぜ? ほら」

「あ…、ありがとうございます」

 

そう言ってアラタは笑みを浮かべてカップを受け取る

笑ってはいたが、どことなくその笑みをぎこちなかった

と、そんな時彼の携帯が鳴った

 

「…っと…すいません」

 

断りながらカップをテーブルに置き、アラタは携帯を取り出した

番号は非通知だった

 

「はい、もしもし」

<あ、鏡祢君? 私よ、テレスティーナ>

 

電話の相手はテレスティーナだった

しかしどうして番号を知っているのだろう、とは疑問に思ったがきっと学校でも調べたのだろう、と勝手に結論づけて応対する

 

「はい…どうしました?」

<えぇ、…その、驚かないで聞いてね?>

 

そこで電話口でテレスティーナがある事実を告げた

それを聞いたアラタは

 

「…えぇ!?」

 

驚かないで、と言われたが驚かずにはいられなかった

 

 

テレスティーナに言われた場所に行くとあるカフェテラスについた

そこには佐天と美琴もいて、同じ席にはテレスティーナも座っていた

美琴はアラタを見たとき、何か言おうとしたが、結局黙ったまま、なにも言わなかった

 

アラタも席に座り、美琴がさっそく本題を切り出した

 

「…それで、木山春生が保釈されたって」

 

そう、本題はそれだ

木山春生の保釈

 

「えぇ。例の話を聞こうと思って、拘置所に行ったの。そしたら…もう、ね」

 

「…いくらなんでも早すぎる」

「あれだけの事しておいて、保釈が認められるんですか?」

 

彼女がしでかした罪はとてもじゃないが軽いものではない

だというのに保釈が認められるとは到底思えない

 

「…子供たちに繋がる糸が、切れたわね」

 

「…あれ? でも木山って…子供たちを助けるためにあんな事件起こしたんですよね? それなのにその子たちを利用するってのは…」

「おかしくないでしょう?」

 

そんな佐天の疑問を容赦なくテレスティーナは斬った

彼女はコーヒーのカップを皿に置きながら

 

「学生達の能力の憧れさえも、利用するような女よ?」

 

どこか冷めた瞳でテレスティーナは言った

だがそう言われると頭の中に疑問が残る

 

元はと言えば木山春生は昏睡した子供たちを助けるためにあのような事件を起こしたのだ

学生たちの憧れを利用こそすれ、いくらなんでも子供たちを利用するような真似をするだろうか

対峙した時、感じた眼光からは鬼気迫る感情をアラタは感じたのだ

他の三人が黙る中、アラタは一人、考えていた

 

 

「はい、息抜きも、必要ですわ」

 

「…ありがとうございます白井さん」

 

一七七支部にて

パソコンの前に付きっ切りな初春に黒子はコーヒーを差し出す

初春は伏し目がちになりながらそれを受け取る

 

「…、お兄様の事…あんまり責めないでください」

 

黒子はそう呟く

もちろん初春だってわかってる

アラタだって本心でそう言っているわけじゃない

けれど、たとえ捜査であっても友人を疑うという行為が許せなかった

そんな自分を気遣ってかは分からないが、だから彼は今日を顔を出せなかったのだろう

 

「早く子供たちを見つけます。…アラタさんとも…仲直りしたいですし…」

「…そうですわね。でも体調の管理はしっかししてくださいな?」

 

そう言うと初春は少しだけ笑いを見せながら「はい」と頷いた

そして彼女は再び画面に向けて―――

 

「待って」

 

黒子が気づいた

 

「? 白井さん?」

「このAIM拡散力場の共鳴による…RSPK症候群の集団発生の可能性…」

 

 

同時刻

 

「共鳴?」

「あぁ。同じ系統のAIM拡散力場が共鳴する…って言うんだよ。この論文は」

 

フィリップはばさり、と紙を纏めながら

 

「まず一人の能力者が暴走した能力者に干渉されるとする。その後で同系統の能力者がどんどん干渉して共鳴していくって具合だね。それでいて、この同系統、というのが厄介でね」

 

これに関して、御坂美琴を例に例えてみよう

彼女の能力は大まかに言うと雷を操る力だ

それを細かくすると電場を操る力と磁場を操る能力を秘めている

故に彼女は複数の能力者と共鳴するのだ

 

「これは行方不明になってる子供たちにも同じことが言える。もし、その子供たちが皆、暴走してしまったら…影響力は凄まじいことになる。数字に換算して、おおよその七十八パーセント」

「七十八って…もうそれじゃあ、学園都市が壊滅しかねないじゃんか!」

 

フィリップは頷く

この学園都市の大半は能力者…

似たような能力者なんて探せば溢れかえるほどいるだろう

それはが全て共鳴などしてしまったら―――

考えるだけで恐ろしい

 

「け、けどこの論文が正しいってことは…」

「執筆者を見てごらん」

 

そう言ってフィリップはもう一枚紙を渡してきた

恐らくそれに執筆者が乗っているのだろうか

渡された紙を見て、そしてそこに映っている男を見て驚愕した

 

「この男…!?」

 

乗っていたのは木原幻生その人だったのだ

 

「僕たちもあの時彼女の記憶を見てしまったから、彼がどんな人間かはわかってるつもりだ。…それでも、最初にこの論文を見つけた時は驚いたけれどね」

 

木原幻生

木山があのような事件を引き起こしたきっかけを作った張本人―――

 

「念のため、この男についてもちょっと調べてみた。今現在は消息不明。関連していた研究所も全部封鎖されていたよ。…ただ、一件だけ見覚えある研究所があった」

 

そう言ってまた一枚の紙を渡し、ある写真を指差した

指された研究所は木山の記憶に出てきたものだった

 

「たぶん誰もいないかもしれないし…もしかしたらいるかもしれない。…行くかい?」

 

フィリップはそう声をかける

答えはもう決まっていた

 

 

時刻はすでに深夜

すっかり寝静まった学園都市をアラタはビートゴウラムで駆け抜ける

何故ビートゴウラムにしたかというと、なんとなく一人では寂しかったからだ

 

「…悪いなぁ、こんなことにつき合わせて」

 

別に帰ってくる言葉などあるわけでなく、ただ思いつきでゴウラムの装甲を軽くなでる

もともとは馬に装着する鎧らしいがゴウラムは半ば強引にビートチェイサーに装着してくれているのだ

思えばこのゴウラムは青子が持ってきて以来、いつも自分を助けてくれた

未熟だったころから…今に今まで

 

「いつもありがとうな。ゴウラム」

 

ガラになく物思いに耽ってしまった

急いで例の研究所に急ぐとしよう

 

そう自分に言い聞かせてアラタはハンドルを切る

 

礼を言ったとき、ゴウラムの赤い目が輝いた気がしたが、アラタは気づくことはなかった

 

 

「…ついた」

 

しばらく走らせてると件の研究所の入り口に辿り着いた

案の定入り口はテープでふさがれており、塀の高さも結構なものだ

常人ならば入る事は難しいだろう

 

アラタは少し後ろへ下がって距離を取ると一気に駆け出した

なんとか手をかけることが出来れば…と、思ってるうちに塀のてっぺんに手が届く

ここからは腕の力だけでいけるはず…

 

「よっと…! ゴウラム、ちょっと待ってな」

 

そう言って飛び降りて施設に入ろうとした時だ

 

バヂィンッ!! とやけにでかい音と共に突如として研究所の明かりがついた

灯りだけではない、恐らくこの分ならセキュリティも復旧しただろう

もしかしたら中に誰かいるのか、と思いやっと上った塀をまた飛び降りて、ふと誰かの視線に気づいた

 

「よっす。アラタ」

 

そこにいたのは予想もできない人物

顎に生えたひげがワイルドな―――

 

「伊達さん!?」

 

「おう。戦うおでん屋、伊達明だ」

 

 

思えばおかしいと思ったのだ

いつもいるはずの場所にたまにいないときがあったし、屋台があっても本人がいないときが多々あったし、ここ最近になってその頻度が増したし

 

「ていうか、なんで伊達さんがいるんですか」

「そいつは後で話すぜ。…そら、出てくるぜ」

 

そう言いながら伊達は入り口に視線をやった

テープをくぐって出てきたのは見知った二人の女性だった

 

「木山、春生に…美琴…」

「アラタ…アンタ、なんで…」

 

恐らく美琴も一七七支部でこの情報を得たのだろう

そしてこんな夜遅くにいるという事は、多分黒子にも言っていないはずだ

 

 

「伊達くん。来ていたのか」

「あぁ、ドクターに様子見て来てくれって頼まれてよ」

「そうか。…なら、そこの彼も連れて行こう」

 

木山はそう言うと自分の青い車に美琴を乗せる

 

「うし、行こうぜアラタ」

 

気さくな様子で伊達は乗ってきたバイク、ライドベンダ―に腰掛けた

何が何だかわからないがとりあえずそれに従うことにした

 

 

木山の車と伊達さんを追っかけていたらある病院へとたどり着いた

 

「伊達さん…ここは?」

「まぁ、ついてきな」

 

伊達にそう言われアラタは彼の後をついていく

美琴も募る疑問があるようでどこか納得していない表情で木山の後ろを歩いていた

 

しばらく歩くとある部屋についた

壁にかけられたセキュリティを操作し、木山は中に入っていく

そしてその部屋に入って最初に視界に入ってきたのは

 

 

子供たちだった

 

「っ!」「これって…!!」

 

アラタと美琴は息を呑んだ

目の前に広がっている光景はなんだ?

いや、それ以前に、なんでこんな場所に―――

 

「ポルターガイストを起こしてたのは、やっぱりアンタだったのね!?」

 

美琴が確信を突くように声を上げる

それに対し木山は相変わらずひょうひょうとした態度で

 

「…そうだ」

 

「っ!!」

 

頭に血が上った

美琴は雷を迸らせ、アラタも拳を握ろうと―――

 

「けどよ。そいつにはちょっとばっかり事情があんだ」

 

それを遮ったのは伊達明だった

 

「なぁ。ドクター」

 

伊達はそう言うと自分の後ろに立っていた人に視線をやった

彼が視線をやった人物は、アラタもよく知っている医者だった

 

「…冥土帰し(ヘブンキャンセラー)…!」

 

忘れるものか

このインパクトのあるカエルの顔は早々忘れるものではない

 

「あと、ここは病院だから…電撃は勘弁願いたいね?」

 

美琴はしばらく呆然としていたが少しして「あっ…!」と彼の事を思い出した

 

「あの時の…」

「御嬢さんは、久しぶりだね。アラタくんは、あの時以来かな?」

 

あの時、とは上条当麻が記憶を破壊された際の時だ

今も覚えているあの何もない笑顔

 

「…なにが、…一体何がどうなってんのよ!!」

 

その場にいた美琴が意味が分からないと言った様子で声を荒げる

それはアラタも同じだった

巻き起こった事柄が多すぎて頭の理解が追いつかないのだ

 

「木原幻生」

 

そしてそれを説明するように医者は話し始めた

 

「彼が、総ての始まりなんだね?」

 

・・・

 

―――あえて問いましょう。我々の究極の目的とはなにか!

 

そう壇上に立って話しているのは木原幻生

医者はその時にいた一人として彼の話を聞いていた

 

―――学園都市が存在するその理由とは何なのか! それは人類を超えた存在! レベル6の想像に他なりません!! 

 

彼の後ろの画面が切り替わる

膨大なデータを背に、原生は続ける

 

―――暴走能力者の脳内では通常とは違うシグナルデータが形成されて、様々なホルモンが異常分泌されています。それらを採取し、凝縮形勢されたものこそ、この能力体結晶です! これを特に選ばれた能力者に投与すれば、レベル6を生み出せるのです…! この結晶こそ、長らく閉ざされてきた〝神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの〟…SYSTEMへと至る、道を照らしだす、科学の灯なのです…!

 

 

ある道で、医者は問うた

 

「あんなもので、本当にレベル6は作り出せますかな」

 

「もちろんだとも」

 

即答された

 

「…本当かい? いたずらに意識障害を招いたり、かなり重い副作用なんかを起こすのではないかな?」

「実験は確実に成果を上げている」

「そのために、一体どれだけの犠牲を払ったんだい?」

 

 

その時見せた笑みは本当に狂気に満ちた―――それこそ子供たちなぞどうでもいいと言い切るほどの()

 

「犠牲ぃ? なんの事ですかなぁ。私の研究に犠牲者などいない。いるわけがない! フフフ…ハハハ…ハーッハッハッハッ―――!」

 

・・・

 

「彼がその存在をどう認識してたかはわからない。犠牲者はいたんだよ」

 

冥土帰しはどこか遠い目で

 

幻想御手事件(あのじけん)に関わり、発端を知り、そして…確信したんだ」

 

「…もしかして」

 

「あぁ。アラタの予想通りだぜ。木山ちゃんの子供たちは、その結晶体の実験体にされたのさ」

 

「あの時君たちに話した、暴走能力の法則解析用誘爆実験は建前…。君たちが見たあれは、その結晶の投与実験だ」

 

馬鹿げてる

そう素直に思った

レベル6などというくだらない欲の為に、こんな年端もいかない子供たちが被害に遭っていいわけがない

 

「…っ!」

 

美琴はただ口を閉ざして拳を握りしめる

彼女も憤ってるのだ

こんなふざけた実験に

 

「幸い、子供たちを集めるのに時間はかからなかった。…こう見えてドクター、けっこう顔効くんだぜ?」

「こう見えてもは余計かな?」

「っと失礼。…んであとは、目覚めさせるだけだったんだけど…専門家の話が聞きたくってさ」

 

だから、木山が保釈された

裏でそんな事があったなんて想像もできなかった

 

「無理を言ったのは私だ。伊達君と先生には感謝している。ここの施設を使えたおかげで、目覚めさせる目途が立った」

 

「それで助かるっちゃ助かるが、別の問題があんだ」

 

そう言って伊達は苦い表情をする

たがて彼は重い口を開いて

 

「覚醒が近づくにつれて、AIM拡散力場が異常値を示しちまった。…どういう事か、わかるよな」

 

伊達の問いにアラタは頷いた

すなわちそれは、能力の暴走である

…そしてRSPK症候群の同時多発を引き起こし、乱雑解放(ポルターガイスト)を発生させた

 

「木原幻生の研究は進んでいた。…僕が知っていた能力体結晶なら乱雑解放(そんなもの)起こるはずがなかったんだよ。けど。改良された能力体結晶は―――」

 

「この子たちを眠りながらにして、暴走能力者にしてしまってた」

「じゃあ…目を覚まそうとすると…ポルターガイストが起こる…?」

 

美琴の声に木山はゆっくり頷いた

 

「…ほかに手はないのか?」

「暴走を鎮めるワクチンソフトを開発してる。…だが、それにはファーストサンプルと呼ばれる最初期の被験者から精製された成分の解析がどうしても必要なんだ。…そのデータを探すためにあの研究所にいたんだよ。…結局、何も残ってなかったが」

 

ギリ…、と木山は拳を握りしめる

僅かばかり、震えさせながら

 

「だが諦めるものか…! あのデータは結晶の研究において必要不可欠。それだけのものが廃棄されるはずがない…! 私は…必ずそれを見つけ出してみせる…!」

 

声色は本物だった

ここでは顔色は窺うことは出来なかったが、その背中からは鬼気迫るものを感じる

だが、もしもだ

 

「…見つからなかったら?」

 

美琴が聞いた

躊躇って口にするのを拒みそうになりながらも彼女は問うた

 

「…覚醒させる」

 

「言ってる意味は、分かってるよな」

 

この子たちを目覚めさせるという事は、RSPK症候群の同時多発を引き起こし、共鳴し合い…かなりの大規模なポルターガイストが起きる

それがどんな意味を持っているのかなど、分かりきっていたことだった

 

「分かっている。だがこれ以上…眠らせておけないんだ」

 

「正気なの!? 学園都市が崩壊するかもしれないのに―――!」

「これ以上放っておけない!! 今もこの子たちは、苦しんでいるんだ!」

「だからって!! …だからって…!!」

 

美琴が俯いた

彼女だって木山の気持ちは痛いくらいわかる

不可抗力とはいえ、彼女は木山の過去を覗いてしまったのだから

だからこそ、悩んで―――

 

 

 

「そんな事はさせない―――。絶対に」

 

 

そう言った空気を断ち切るように、一つに凛とした声が響いた

出入り口の自動ドアが開いていく

そこに立っていたのは無数の駆動鎧を従えたテレスティーナだった

 

「…貴女は…!?」

 

「…ごめんなさい。後をつけさせてもらっていたの」

 

アラタと美琴にそう詫びると彼女はまっすぐ歩いていき木山の前に立つ

 

「先進状況救助隊です。子供たちを保護します。…大人しく従ってくださると嬉しいのですが」

「…それは命令かい?」

「えぇ。令状も用意しましたが、出来れば自発的に従っていただく事を望みます」

 

そう言って彼女は近くにいた伊達明に令状と思わしき紙を渡した

伊達はしばらくをそれを吟味し

 

「…マジモンっぽいなこりゃ」

「…ぐ…!」

 

木山は舌を打った

彼女としてはあまり信用してはいないのだろう

否、得体の知れない奴らに子供たちを引き渡すのが心苦しいのか

 

「安心してください。我々は人命救助のスペシャリスト。治療する設備は整っています」

「しかし…!」

「我々は貴方では閲覧できないような情報も、合法的にアクセスすることが可能です。先のお話に合ったファーストサンプルと言った情報も、入手できる可能性が高いのです」

「…!!」

 

全くの事実を言われ木山は黙った

歯を食いしばりながら、わずかに身体を震わせて

その仕草を肯定と取ったのかテレスティーナは指示を飛ばす

 

「…保護しろ」

 

彼女を指示を筆頭に後ろに控えていた駆動鎧が子供たちを保護しようと歩いていく

頭では理解していたが、本能では理解していなかった彼女は駆動鎧の前に立とうとして

 

御坂美琴に阻まれた

 

「…何の真似だ?」

「気に入らなければ邪魔しろ、って言ったのは貴女よ」

「どけ!! この子たちを救えるのは…私だけ―――!」

 

「救えてないじゃないっ!」

 

木山がハッとした

そして目を見開いた

木山だってわかってた

ここまでして、誰も救えていないことに

ただそれから目を逸らしていただけで

 

幻想御手(レベルアッパー)事件を起こして、乱雑解放(ポルターガイスト)を引き起こして…誰も救えてないじゃない…」

 

言葉にされて思い知る

それでも、木山は認めようとはせず、顔に手をやる

 

「もう少し…! あと少しなんだ…!」

「枝先さんはね、…〝今〟助けを求めているの。春上さんが…私たちの友達が…その声を…聴いているのよ…」

 

その言葉に、木山春生は茫然とし、だらん、と顔にやったその手を下ろした

 

そしてテレスティーナが、言った

 

「運び出せ」

 

◇◇◇

 

病棟入り口前

トレーラーに入れられ運ばれていく子供たちを見て、ふと空を見た

瞬く星は変わらず、空を彩っている

 

「…アラタ」

 

背後に気配を感じた

気配の主などわかっている

それは御坂美琴だ

 

「…どうした」

「これで…いいのよね」

 

彼女は迷っているようだった

恐らく、木山の前に立ちはだかったのも、苦渋の決断だったに違いない

木山春生にどのような決意を持ってあの言葉を言ったのか、アラタにはわからない

 

「本音を言うとね、私もわかんないんだ…これでよかったのかなって…おかしいよね。あんなコト言っておいて今更さ…」

 

彼女の言葉は震えていた

何か言葉をかけようと彼女の顔見たとき、アラタは固まった

 

頬を伝うしずく

目尻にたまる水

彼女は、泣いていた

号泣というほどでもないが、それでも泣いてることにかわりはなかった

 

「…ごめん」

 

手で拭いながら美琴は無理やりに笑おうとする

それを見ているのが、たまらなく辛かった

 

「とりあえず送るよ。後ろに乗りな」

 

僅かに震える彼女の頭を優しくなでると美琴は一瞬ビクリ、とした

そして今度は無理にでなく、自然な笑顔が見れた

 

「…うん」

 

そう言って笑った彼女は、超電磁砲(レールガン)と呼ばれる超能力者でなく、常盤台のお嬢様でもなく

どこにでもいる普通の女の子にしか見えなかった




一期終盤です

こんな作品ではありますが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます

どこにRXを出すか悩みつつ、また次回


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#22 貴女の瞳に見えるもの ~太陽の子~

次回にて一期は終わり
こんなモノに今まで付き合ってくれてありがとうございます

相変わらずの出来だがよろしくお願いします

では、どうぞっ


常盤台女子寮に辿り着く

時間は体感時間で四時くらいだろうか

恐らく黒子を携帯かなんかで呼べばここに来てくれるだろう

 

「…ねぇ、アラタ」

 

不意に後ろに乗っていた美琴がメットを取りながら口を開く

脱いだメットを膝の上に置き、その上で掌を弄びつつ言葉を続けた

 

「…まだ、支部には顔出さないの?」

「あぁ、そのことか。…そうだな、まだ気になる事があるからさ」

「気になる事? もうポルターガイストは起きないしその子供たちの覚醒方法もテレスティーナさんが見つけてくれるって…」

「上手くいきすぎてると思わないか?」

 

え? と美琴の言葉が詰まる

 

「美琴、仮にもお前は誰の目につかないように行動したんだろう?」

「え、えぇ…、細心の注意を払ったと思うけど」

「なのに後をつけてたってさ…。あぁ、別に美琴を責めてるわけじゃないぜ?」

 

そう言ってアラタは苦笑った

その笑みを、美琴は素直に見れなかった

どことなく、無理をしているように見えたから

 

「ともかく、これで一段落だ。美琴もちゃんと休めよ」

「その台詞、そっくりアンタに返すわ。…無理して、この馬鹿アラタ」

 

小さく呟く言葉に頭を掻きながらアラタはエンジンを蒸かし始める

美琴の視線を背に受けながらアラタがビートゴウラムを発進させた

 

 

先進状況救助隊の研究所

その春上の病室にて

 

春上衿衣は携帯の画面を見ていた

それはゲームセンターで撮ったプリクラで、画面の中ではそれぞれが皆笑い合っている

自分が退院したら、またこうやって笑い合える時が来るだろうか

そう物思いに耽っているとコンコンと扉がノックされた

 

「春上さん?」

 

そう言って扉を開けて入ってきたのはテレスティーナだった

彼女はどこかうっすら笑っているようにも見える

 

「お友達よ」

 

 

「…お友達って…初春さんたちじゃないんですか?」

「さぁどうかしら」

 

先ほどから聞いてもはぐらかされるばっかりでテレスティーナは何も語ろうとはしない

それ以前にどこか雰囲気も変わって見える気がする

疑心暗鬼のまま彼女についていくとある扉の前で止まった

 

扉を開けて進むとたくさんのベッドとそれに横たわっている大勢の子供たちが目に入ってきた

きょろきょろと子供たちを見ながら春上はテレスティーナを追っていく

やがてテレスティーナは一つのベッドの近くに止まる

春上もそれにならって立ち止まり、そのベッドで寝ている子供を覗き込んだ

 

「…え!?」

 

春上は驚愕の声を上げる

それもそのはずだ

今そのベッドで寝ているのは彼女が探している枝先絆理その人なのだ

 

「絆理ちゃん!? どうして…絆理ちゃんっ!?」

 

彼女は感極まった様子で涙を流す

本当に目の前にいるのは枝先絆理なのだと春上は実感していたのだ

 

「そうだ…初春さんたちに連絡を…」

 

そんな春上を離れたところでテレスティーナは見つめていた

その口元をこれ以上ないくらいに歪ませて―――

 

 

深夜からいろいろありすぎた

コンビニによって朝食を購入していたら学生寮に戻るころにはすっかり九時ごろになってしまった

流石に疲れがたまったアラタはいったん身体を休めようと学生寮の自室へと戻った

階段を上っていき扉のドアに手をかけて扉を開け―――

 

「あ、お帰りなさいお義兄様っ!」

 

何故だか自分をお義兄様と呼ぶ両儀未那が出迎えてくれた

しかも奥の居間には見覚えのある黒い髪の女の人―――

 

「あ、おかえりー」

 

黒桐鮮花

彼女は黒桐幹也の妹君で、妹でありながら実のお兄ちゃんに恋をしてしまった困ったお人である

しかしなんでこんな所にいるのだろうか

考えられえる可能性は幹也を追っかけて式の所に行ったのか…とかだが

正直真面目に考えると疲れるのでこの際スルーしておく

 

「ていうか勝手に人の部屋ん中に入んないでくれますか鮮花さん」

「いいじゃない別に。…そりゃ悪いとは思ってるけど」

 

そう言って可憐な笑顔を見せる鮮花

…こんなに可憐なのに幹也はすべてをスルーするあたり凄まじいと言える

どこまでもあの人は式一直線だった

 

「…とりあえず、ちょっと寝ていいですか? 深夜からあんま寝てないんです」

「おっけー。…風紀委員の?」

「いえ…まぁ似たようなものです」

 

短くそう答えてアラタはベッドに倒れ込んだ

とりあえず、二時間前後は仮眠を取ろう

そう思ってゆっくりアラタは瞼を閉じた

 

 

時間は少し遡る

時間帯は恐らく六時前後

ステーキハウス〝ブラック・サン〟

店主は厨房にてステーキの為に仕込みをしていたところだった

 

そんな時、ハウスの入り口が開け放たれた

そこに目をやると茶色いジャンパーを着込んだ男性がそこに立っていた

男性は歩き出すとカウンターに腰をかけて

 

「…悪ぃ、子供たちを〝保護〟されちまった」

 

その声を聞きながら店主は仕込みをいったん中断し、冷凍庫に置いてある保存してるお肉へと手を伸ばした

 

「本当は俺も動くべきなんだが…生憎本業をおろそかにもできねぇ…」

 

冷蔵庫から取ったお肉を包みクーラーボックスに入れながら店主は男性の前に持っていく

 

「差し出がましいが…頼まれてくれるか?」

 

男性の言葉に店主は頷く

その仕草を見たあと男性は苦い笑いをして

 

「すまねぇ。…恩に切る」

「気にしなくていいさ。…それに、未来ある子供たちを道具にするような悪行を、俺は許さない」

 

そう言って店主はかけていたエプロンを外し畳んだ後、テーブルの上に置いた

置いた後店主はハンガーにかけてある白いジャケットを取り、それを羽織る

 

「…頼んだぜ」

「あぁ。頼まれたよ」

 

そう言って男性―――伊達明と手をハイタッチを交わし店主はステーキハウスを後にする

大体の情報は伊達から聞いてはいるが、テレスティーナに関する情報は少々少ない

ここはいつも来てくれる翔太郎を頼ってみようかな…なんて考えながら店主は歩を進める

全ては、この街にいる誰でもない誰かのために

 

 

テーブルに置いてある携帯が鳴る

そんな音に気が付かずアラタはベッドの上でごろりと寝返りをうった後、こちんと頭を叩かれる感触があった

痛みに耐えながら目を開けるとそこには鮮花の顔があった

彼女はずい、とアラタの携帯を差し出しながら

 

「電話」

 

と言ってきた

彼女から電話を受け取り誰から来たのかを確認する

表示された名前は初春だった

ちょっと気まずいと思ったが無視するわけにもいかない

アラタは通話ボタンを押してそれを耳に当てる

 

「…もしもし?」

 

<…ひっく…! ぐず…>

 

聞こえてきたのは泣き声だった

それもただの泣き声ではない、本当に何かを失敗してしまったような、そんな声色

流石に疑問に思ったのかアラタはベッドから起き上がり改めて会話に集中する

 

「…初春?」

 

問いかけても帰ってくるのは泣き声ばかり

これは…もしかして―――

 

「…支部で話し合おう」

 

初春にそう言ってアラタは電話を切り、ベッドから立ち上がった

鮮花と未那にお昼でも振る舞おうかなと仮眠を取り始めた時は考えていたがそれはまた別の機会で振る舞うとしよう

 

 

矢車ソウは乱雑に電話を受話器に叩きつけるように戻した

唐突に申してきたその申し出に、苛立っているのだ

 

「隊長~…ポルターガイストの資料、一通り集めましたぁ」

 

そう言って鉄装は山ほど資料が入った段ボールをデスクに置く

矢車は彼女に向き直り

 

「あぁ、ご苦労。…」

 

「隊長? どうしたんですか?」

 

先ほどから矢車は電話を睨みつけている

普段の彼からはみられない怒りにも似たオーラが漂っているような…

 

「いや、今しがたMARから連絡があってな。ポルターガイストの件はもういいと言ってきてな」

 

「! なんですって!?」

 

それに過敏に反応したのは立花眞人だ

 

「あんなに大きな事件なのに、一方的にそんな事言うなんておかしいですよ!」

「あぁ、それには俺も同感だ。…終わったから、の一点張りではな」

 

もともとあの女…テレスティーナと言ったか

あの女も含めて先進状況救助隊とはどうにも胡散臭い

その疑惑を、この電話はさらに深めたのだ

 

「鉄装、その資料は影山に渡せ。あいつに保管させる」

「了解しました!」

 

 

「テレスティーナ・木原・ライフライン…!? 本当にそう言ったのか!?」

 

一七七支部

駆け付けた時にはすでに初春が座っており、そして泣いていた

そんな初春の背中を佐天が優しくなでている

 

話を聞くに、彼女は木山と一緒に子供たちに会えないかと頼みに行ったようだ

そのついでに今まで木山が調査したデータも持ち寄って頼んでみたのだが―――結果はすぐにわかる

今目の前にいる初春を見れば一目瞭然だ

そしてそこで…テレスティーナは本性を現した

 

「木山は今、どこにいますの?」

「わっ…! かりま、ぜん…ぐずっ…」

 

初春は先ほどからずっとこの調子だ

これでは会話にすらなりはしない

 

「落ち着いて初春…大丈夫だから」

 

佐天に宥められているが彼女は一向に泣き止まない

そんな初春に、少しだけアラタはイラついた

 

「あったわ! テレスティーナ・木原・ライフライン…」

 

パソコンの前に座って彼女を調べていた固法がそう声を上げた

 

「木原幻生の血縁…孫!?」

「なんですって…!?」

 

木原、というファミリーネームがあった時点で何らかの可能性は考えてはいたが、まさか孫だとは思わなんだ

嫌な予感はしていたのに、まんまと行動を許してしまった

 

「前白井さんが見つけた論文から当時の職員のデータに当たったの…これを考えると、恐らく彼女は木原幻生の助手をしてたことにもなるわね…。待って、第一被験者…〝テレスティーナ・木原・ライフライン〟!?」

 

「なんだと…!?」

 

めまぐるしく動き回るアラタや黒子を見ながら、美琴は拳を握りしめた

そして同時に後悔する

どうして、あそこで立ちはだかってしまったのだろう…、自分がやったことは、完全に間違いじゃないか…!

 

「つまり、アイツが最初の被験者!? いや、ちょっと待て、自分の孫さえも材料に…!」

 

まさに外道、というレッテルがピッタリだ

そしてそのテレスティーナも研究者…血は争えないとはこの事か

 

「ど・・・どうじよう…っ!! わたじ、わだじ…!」

「な、泣かないで初春…!」

「だっで…春上ざん…枝先さんまで…う、うぅぅぅぅ…!!」

 

みっともなく初春を見て、アラタは苛立ちが募っていく

やがてピークに達したアラタは彼女の方に歩いて行った

 

「…いつまで泣いてるつもりだ」

 

「…え…!?」

 

彼女の顔は酷いものだ

涙に濡れて、目は真っ赤になっている

 

「いつまでそうやってめそめそ泣いてるつもりだ、初春」

「あ、アラタ…ざんっ…ぐずっ」

 

まだ彼女は涙を止めない

それどころか、拭おうともしない

アラタは意を決した様子で彼女の胸ぐらをつかみあげた

そして、怒鳴る

 

「泣いてるばかりで何してんだこの馬鹿野郎ッ!!」

 

「っ!?」

 

「泣けば彼女が戻ってくるか!! 泣いたら何かが変わるのか!! 変わんねぇだろわかってんだろうんなコトはッ!!」

 

初春は涙を流しながら彼の怒号を聞いた

それ以前に佐天や黒子、固法でさえも彼の声に驚いている

 

「答えろ! お前の仕事はなんだ!!」

「わ…私は…」

 

初春はそこでめいっぱい息を吸い込んだ

そして、真っ直ぐアラタを見て、言い返した

自分のやるべきことを確認するかのように

 

「風紀委員一七七支部の…初春飾利です…!!」

「…よし、よく言った」

 

宣言する時には初春からだいぶ涙は消えており、いつものような顔つきが戻ってきていた

そうだ、それでこそだ

 

「怒鳴って悪かった。…いろいろごめんな、だから―――絶対に助けるぞ」

「―――はいっ!」

 

そう元気よく、そして僅かに笑んだ彼女は国法の所に行き、交代を申し出る

彼女がキーボードを叩く音を背に、アラタは一つ、息を吐く

ふと目を開けると佐天と視線があった

彼女はアラタに気づくと少し笑ってくれた

 

「アラタさんって、結構不器用?」

「言ってくれるな」

 

小さい声でそんなやり取りを交わした直後、辺りを見回すと違和感に気づいた

佐天…は目の前にいるし、初春は黒子と話しながらパソコンを操作していて、その様子を固法が見ている

固法もその違和感に気づいたのか唐突にきょろきょろし始めた

 

「…あれ? 御坂さんは?」

 

何気なく呟いたその言葉に支部の中の時間が止まる

脳裏に嫌な予感がよぎった

もしかしたら、美琴は―――

 

「あのバカ…!」

 

いてもたってもいられずアラタは支部を飛び出して下に停めてあったビートチェイサーの下に駆け寄った

 

 

先進状況救助隊研究所の入り口付近

そこに御坂美琴は立っていた

目の前からはMARのトレーラーが通り過ぎていく

恐らくあの中に子供たちが入っているのだろう

 

「いいの? 追わなくて」

 

目の前に見えるテレスティーナは前と変わらないスーツ姿だった

しかし、今はそんな事などどうでもいい

 

「騙したわね」

「騙す? 人聞きの悪い」

 

彼女は依然と変わらない態度だったがそれでも不快に感じるものがある

いや、今やそこにいるだけで不快な存在だ

 

「何を企んでるの」

「企むぅ?」

 

「木原幻生の孫娘…それでいて結晶体の最初の被験者…なのに、アンタは木原幻生の研究を手伝い…子供たちを連れ去った…。一体どういうつもりなの―――」

 

「ぷっ!! げひゃははは!!」

 

纏う空気が完全に変わる

 

「よく調べたじゃねぇかお利口さ~ん…でもさぁ、なんでって言われて正直に答えると思ってんのかァ!? サスペンスの見すぎだろヴァァァカ!! 聞きたかったら力づくとかで割らせてみやがれ小便くせぇ小娘がよぉ!!」

 

怒りが頂点に達した

今までの性格は完全に作っていたものだったようだ

体中にバヂバヂと雷を奔らせて目の前のアイツにぶつけようとしたところで

 

キィィィン…、と耳に残る音が響いてきた

 

その音は美琴の頭に痛みを走らせて思わず膝をつかせてしまう

 

「こ、この音…!?」

 

「知ってるのぉ? キャパシティダウン」

 

キャパシティダウン

それは蛇谷率いるビッグスパイダーの連中が使っていたものだ

それをどうしてこの女が持っている…

 

「ん~? なんでお前がーみてぇな面だなぁ。教えてやるよ…これはアタシが作った奴だからなぁ!!」

 

そう言ってテレスティーナは美琴の腹を蹴り飛ばす

灰から空気が逆流し、一瞬呼吸が出来なくなる、が身を転がしてなんとか距離を取った

 

「作った…!?」

「スキルアウトのネズミどもにプロトタイプくれてやったらよぉ、たくさんデータが集まったんだ。おかげでだいぶパワーアップしたぜェ? …ま、おかげでデカくなっちまったが」

 

そう言ってテレスティーナは徐にある所に視線をやった

恐らくそこに改良されたキャパシティダウンがあるのだろうが、美琴はそこに視線をやるほど余裕はない

 

「スキルアウトとかいうゴミみてぇな役立たずどもでも、使い方次第じゃ役に立つんだなァ? あっひゃひゃひゃっ!!」

 

美琴は拳を握りしめる

脳裏に蘇るのは一緒に戦った黒妻綿流の笑顔

友達を馬鹿にされて、怒らないヤツはいないんだ

 

「ざっけんじゃねぇわよ…!」

「あァ?」

「スキルアウトは…実験動物(モルモット)じゃないッ!!」

 

怒りと共に放たれた雷は凄まじい威力を誇るものだった

しかしキャパシティダウンの邪魔があり、思ったところには上手くいかなかった

 

「おお怖い怖い。…こりゃ流石に、生身はあぶねぇな」

 

そう言いながら胸ポケットから取り出したのはガイアメモリだった

書いてあるのは〝W〟の文字

彼女は「っは!」と笑いながらメモリを起動させる

 

<WEATHER>

 

そして彼女は首へとそのメモリを挿入し、身体を変貌させていく

 

「アンタ…そんなものまで…!」

「雷ってのは…こう撃つんだよぉっ!」

 

ウェザーの掌から放たれた雷撃を美琴は走る事で何とかして回避する

だが状況は完全にこちらが不利だった

 

 

ビートチェイサ―を走らせるその道中、前方に異様な集団を発見した

その連中はまりで自分がこの道を通るのを予期しているかのように立っていたのだ

 

(…もしかして、テレスティーナの部隊かあれは…!)

 

流石に轢くという訳にもいかず、アラタはその集団の前でビートチェイサーを止める

そして敵意を隠さず、メット越しにそいつらを睨みつけながら

 

「なんだ、アンタたち」

 

しかし言葉が返ってくることはなかった

代わりに返ってきたのは、メモリの起動音声

 

<MASQUERADE>

 

一つだけではない

その集団が一斉にそのメモリを起動させて自分へと挿入していくのだ

来ている衣服はそのままに、人型を保ちながら頭部全体がムカデか背骨のようなマスクで覆われていく

少なくともこの集団は二十人前後はいるか

だが、そんな事で止まってなんていられない

アラタはメットを被ったまま腰へと手を翳す

そしてそのままポーズを取って叫んだ

 

「変身!」

 

ギィン、とアマダムが赤く輝き彼の身体を変えていく

クウガはビートチェイサーから降りながら身構えてマスカレイドの集団に駆け出して行った

 

 

クウガがマスカレイドに足止めされているとき、御坂美琴は追い詰められていた

キャパシティダウンのおかげで能力はうまく作用しないし、相手は雷だけでなく雲や雨といった天候までも操ってくるのだ

はっきり言って避けるだけで精いっぱいだ

 

「アンタみたいな子ってとっても素敵。正義感にあふれて頑張り屋でさぁ。そんなあなたやお友達のおかげでぇ、子供たちを見つけることが出来ましたァ。…だからよぉ、褒美の代わりに教えてやるわ」

 

ウェザーは全く疲れた様子は見せていない

それどころか余裕すら見せている

 

「私の目的はその能力体結晶を完成させること。ついでになぁ…あの花火大会で襲ってきたあの化け物…」

 

ウェザーはそこで一度言葉を区切った

そしてずい、と美琴の顔へ近づけて

 

「―――私が人体実験で作った奴なんだよねェ?」

 

「―――!?」

 

今、目の前の女はなんといった

 

「クウガとかいう奴のデータを取りたくてよぉ? けど出来た化け物はみぃんなすぐおっ死んじまってさぁ…たまたま出来たあのトラを、仕向けてやったのさぁ」

「アンタ…! 人間をなんだと思ってんのよ…!?」

「別に何とも思ってねぇよ。それくらい分かんだろ?。学園都市の奴らは皆能力開発受けてんだぜ? つまりみんなサンプル品だって事だろうが」

 

軽快に腐ったことを吐きながらウェザーはさらに美琴を蹴り飛ばした

幸いにも喰らうその直前、僅かに右に飛んだおかげで大きな怪我は免れたが、それでもダメージを負ったことに変わりはなかった

 

そんな時だ

 

「…ん」

 

ウェザーの耳にバイクのような音が届いた

差し向けた部隊を退けた鏡祢アラタが向かってきたのだろうか

仮にそうだとしたら役に立たねぇ部隊だな、とも思ったがそうでもないようだ

何故なら視界に入ったバイクは自分が知っているバイクではなかったからだ

 

そのバイクの色を一言で表すなら青である

特徴的なのは赤い瞳のようなものがあり、陽に当たって輝いている

そしてその勢いのまま、何と乗っている男が自分に向かって飛び蹴りをしてきたのだ

そのままバイクはなんと美琴の付近で自律的に止まった

 

「トゥアッ!」

「ぐっ!?」

 

その蹴りを受け止め、思わず後ろへ下がる

地面に着地した後も男は攻撃の手を緩めず、そのまま腹部に蹴りを叩きこんできた

一度距離を離すとすかさず男は地面を這いつくばる美琴の方へ駆けていく

 

「大丈夫か」

「え、ぇ…あ、貴方は―――」

「名乗るのは後だ、今はここから逃げる」

 

 

そう言って男は彼女を抱きかかえると再びバイクに跨った

跨ったとき、疲れが溜まったのか緊張が切れたのか、美琴は気を失ってしまった

 

「行くぞ、アクロバッター!」

<OK、ライダー>

 

「く、そうは問屋が卸さないってなぁッ!!」

 

逃がすまい、とウェザーは雷を掌から放出する

だがその雷撃はすべて躱され、流れるように駆け抜けていってしまった

 

「…ちっ!」

 

テレスティーナへと戻ると大きく彼女は舌を打つ

貴重なサンプルを取り逃がした

 

 

一方で膨大な量のマスカレイドドーパントと戦っていたクウガは最後の一体を仕留めた

一人一人ははっきり言って弱かったが、流石に数に頼られるととてつもなくしんどい

クウガは地面に膝をつくと同時、変身が解けてしまった

 

「…数多すぎ…、物量って怖いなぁ…」

 

完全に息が切れている

ともかくこれで美琴の所へ行ける

急いで合流しなければ、と前を見たところである一台のバイクがこちらに向かってくることに気が付いた

バイクはこちらに気が付くと自分の前に止まる

そこで気づいた

彼の手元に御坂美琴が担がれていたことに

 

「美琴…! え、っと…」

「君がアラタくんかい? 翔太郎くんから聞いているよ」

「えっ? …ダンナの知り合い…なんですか?」

 

男性は美琴をアラタに託すとメットを取った

その素顔はどこにでもいそうなおじさんだったが、その笑みだけでもこの人の優しさが伝わってくるかのような感覚を覚える

そして、その視線が果てしない激闘を潜り抜けてきたという事も

 

「とにかく、早く病院に行こう。念のため、その子を」

「お、おうっ」

 

男性にそう言われ、アラタは美琴をお姫様だっこして再びビートチェイサーに跨り、アクセルを切る

 

◇◇◇

 

御坂美琴が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった

 

「お姉様!?」

「御坂さん、大丈夫ですか!?」

「どこか、痛いところとか…」

 

起きた瞬間に黒子、初春、佐天の三人に声をかけられる

アラタも声をかけては来なかったが本当に安堵したように息を漏らした

そしてアラタの付近には自分を救出してくれたあの人もいた

 

「…そうだ…私…あの人に…」

 

そう思いだしたところで、あの女の顔を思い出す

そうだ、自分は何もできなかった

こんな所で、寝ていられない…

思い立った彼女はベッドから立ち上がった

 

「お姉様!? 急に動いては…」

「どいて黒子…春上さんたちを、助けないと…!」

「ですからそれは―――」

「私が! …勝手に研究所に忍び込んで…勝手に頭にきて…! 子供たちをあの女に…!」

 

彼女の声色は怒りに震えている

あの時の行動は、間違っていたんだ

まんまとあの女に利用されただけじゃないか…!

 

「どきなさい黒子。…あの女は、私が止める」

 

黒子の制止を振り切り、美琴は一人出口へと足を進める

そんな彼女の前に立ったのは―――佐天涙子だった

 

「…佐天さん?」

「御坂さん」

 

彼女は言った

 

「今、貴女の瞳には、何が見えていますか」

「…何って…佐天さん、…だけど…」

 

違う

佐天が言っているのはそう言う物理的な事ではない

彼女が言っているのは―――

 

「…あ」

 

気づいたように声を洩らした

そして、振り向いた

 

最初に視界に入ってきたのは黒子だった

次に初春…そして、アラタ

バカだ、と美琴は自分を罵った

こんなに自分を心配してくれる〝友達〟がいるのに…目先の事にとらわれて周りが見えなくなっていたんだ

 

「…ごめん。また…皆に迷惑をかけてた…」

「迷惑なもんかよ」

 

そんな美琴にアラタは声をかける

 

「迷惑ってのはかけるもんだぜ? まぁ程度はあんだろうけど…それでも、ただ心配するくらいならさ、近くで一緒に背負わせてくれよ。…それが友達ってもんだろ?」

 

「そ、そうです!! 私たちだっているんですからっ!」

「えぇ。仲間外れは許しませんわよ?」

 

そう言って笑いかけてくれる初春と黒子

あぁ、そうだ

自分は一人じゃないんだ

そう思って思わず美琴もつられて微笑んでしまった

 

「…いい友達を持ってるんだな、アラタくんは」

「えぇ。…最高の仲間です」

 

そう返答すると、男性はフッと笑った

 

「人間は一人では生きてはいけない。それは、誰にも言えることなんだ」

 

男性が窓の景色を見て、懐かしむように

 

「…友達、か」

 

遠い戦いを懐かしむように男性は目を閉じ、小さく微笑んだ

 

「…信彦」

 

小さく呟いたその声は聞き取ることは出来なかった

しかしその佇まいから、彼がどんなに激動の人生を歩んできたのがひしひしと伝わってくる

やがて男性は目を開けて

 

「君たちの戦い、微力ながら俺も手助けしよう」

「え? けど流石にそこまでは…」

「大丈夫だ。伊達君に頼まれてるからね。それに…中途半端には関わらないさ」

「伊達さんが? …あの人…」

 

見えないところで尽力してくれる

そう思ったところでそう言えばこの人の名前を聞いていなかったことに気が付いた

 

「そう言えば名乗ってなかったですよね。知ってると思うけど俺はアラタ。…彼女が美琴で、花飾りの子が〝飾利〟、ロングの子が〝涙子〟…そしてそのツインテの子が黒子です」

 

アラタに紹介されてそれぞれ礼をして挨拶をしていく

この時、呼び方に変化があったがあまりに自然すぎたため誰も気づかなかった

 

「俺は南光太郎。…しがないステーキハウスの店主だ」

 

◇◇◇

 

一七七支部にて

 

<わかった! なんとかしてみる>

「き、聞いてくれますの!? てっきり何か言われるかと思ってましたのに…」

 

パソコンに向かっているのは白井黒子

テレビ電話のようにモニター越しに会話をしているのは矢車ソウだ

黒子はこれまでのことをすべて話したうえで警備員に協力を仰ごうとしていたのだが

 

<あいつの組織が怪しいのなんて一目瞭然だ、おまけに君から話を聞いてさらに決心が固まった! さすがにすぐには無理だが、必ず動く! 君たちも無理はするな!>

 

「よろしくお願いしますの!」

 

そう言って矢車は一度通信を切った

てっきり反論でも言われるかと思っていたが矢車も疑念を抱いてらしい

どっちにしろ、これで一つ、強力な味方を得た

 

それから数分後

 

「警備員から衛星のデータが届きました! トレーラーは現在都市高速五号線、十八学区第三インターチェンジを通過したところです!」

 

五号線とは、十八学区へと続く道路だ

恐らくそこには木原幻生が所有している研究所があるのだろう

 

「…初春、このトレーラーの後ろを走ってる車に寄れるか?」

「え、はい…って!?」

 

画面を近づけて初春が驚いた

その後ろを走る車のカラーリングには見覚えがあるのだ

 

「これ、木山先生じゃないですか!」

 

佐天の言った通り、これは木山が使用している車なのだ

そんな木山の車を見て美琴が呟く

 

「ったく…無茶して。背負い込んでじゃないわよ全く」

「…お姉様がそれを言いますの?」

「やれやれ、だな」

 

人の事言えないのは美琴も同じだった

 

「はい、アラタ」

 

そうしているうちに固法から渡されるお椀

その中には美味しそうなわかめスープが入っていた

 

「光太郎さんが作ったスープよ。私はおにぎりだけど…ほら」

 

そう言って彼女が視線を向ける

その先のテーブルにはたくさん盛られたおにぎりと、大き目の容器に入れられたわかめスープが

 

「腹が減っては戦は出来ぬ。しっかり食べて備えなさい!」

 

『はーいっ!』「おうっ!」

 

 

やがて皆の準備も終わり、それぞれが戦いに向けて表情を引き締めていた

佐天は護身用か金属のバットを持っている

というか、どこで手に入れた

 

「…よし!」

 

アラタも決意し、両手を翳す

それに呼応するかのように光太郎も右手を天に突きだした

そしてお互いにそれぞれの構えをし―――叫ぶ

 

「変身っ!」「変ッ身ッ!」

 

アラタのアークルのアマダムが輝き、光太郎のサンライザーが太陽の如し光を生み出す

その輝きが終わったときには、そこにアラタと光太郎の姿はなく、二人の仮面の戦士がいた

 

「仮面ライダー…クウガ」

 

静かにアラタは構えながら小さく呟く

アラタの変身を初めて目の当たりにした固法はおぉ…と何かに感嘆したような声を出す

 

「仮面ライダー、BLACK! R、Xッ!!」

 

両手を交差し、RXを描くように構えを取る

黒いボディに、真っ赤な目

その姿は、まさしく戦士

 

「なんか…私たちすごいとこにいますね」

「そうだねぇ…都市伝説で噂されてる仮面ライダーが目の前にいるんだもん」

 

そう呟きながら改めて佐天はバットを握り直す

皆が完全に戦闘態勢になったとき、美琴が言った

 

「それじゃ…行きますか」

 

美琴の言葉にクウガが答える

そしてこの時から、子供たちを救う戦いが始まるのだ

 

「おう。…ぶっちぎるぜ!」

 

覚悟は決まった

あとは、前に進むだけだ―――




本格的なRXの戦闘シーンは多分次回

とりあえずまた次回っ!


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#23 笑顔 前編

今回は挿入歌を~で囲んでみました
別に流さずとも大丈夫ですが脳内で再生すればきっと盛り上がれる…ハズ

次回で一期は本当に終わり
その後は妹達に…なると思います
禁書三巻ベースになるかも…
ともかくどうぞ


木山は車を走らせる

目的は一つ、目の前にあるMARのトレーラーを追いかけるためである

 

「待っていろ…!」

 

木山は無意識にハンドルを握る手に力を込める

全ては、眠っている子供たちの為に―――

 

「私が…必ず…! …む!?」

 

不意に違和感を覚えた

目の前を走るトレーラーが並んだ

まるで道を遮るかのように―――

 

そう考えたその時、トレーラーが開き…そして中にあったものが見えていく

それは駆動鎧だったのだ

 

「な!?」

 

騙された―――!?

そう考えた時には駆動鎧は木山に向けて銃器を構え―――

 

「ずぇいあぁぁぁッ!!」

 

そんなトレーラーの間に一人の人影が蹴りをブチ込んだ

思わず木山はハンドルを切り、ドリフトを効かせながら道路に横になるように急停車する

何がおこったのだろうか

しかしあの人影、依然どこかで見た気がする―――

そう思い目を凝らすと、見知った人物が立っていたのだ

 

「…悪趣味なイタズラするじゃない」

「あぁ、まったくだ」

「本当ですわねぇ…」

 

そこに立っていたのはクウガと呼ばれる戦士と、超電磁砲と呼ばれる常盤台中学の女の子、御坂美琴が立っていたのだ

その彼女の後ろにいるツインテールの女の子は恐らく彼女の後輩だろうか

唐突過ぎる再会に面食らうが、今はその再会を喜ぶべきなどではないのだ

 

「何の真似だ君たち! いったいどういう―――」

 

つもりだ、という言葉は続かなかった

何故なら同様に走ってきた青いバイクが横切ったからだ

そのバイクに乗っているのは黒い身体に赤い目が特徴的な―――

 

「仮面、ライダー…!?」

「木山先生! この車は囮です!」

「子供たちは乗ってません!!」

「な、なんだと―――て、おい!?」

 

そのバイクの後ろに乗っていた佐天と初春がそう言いながら木山の車に乗り込んでいく

一体何が起こってるんだ、どんな状況なんだ、と考える前に初春の言葉が耳に届く

 

「乗って下さい!」

 

「…え?」

 

初春はカバンからノートパソコンを取り出して起動させる

その隣にいる佐天はまだ呆然としてる木山に

 

「早く! 子供たちを助けるんでしょう!!」

 

「っ!」

 

木山は驚愕する

まさかあの時の子たちに論されるとは思ってもみなかった

木山はちらりと美琴とクウガを見る

 

美琴はその視線に気づくとゆっくりと頷き、クウガは親指を立てながらこう言った

 

「大丈夫」

 

温かくも優しい言葉を聞いた

それを聞いて決心した木山は急いで車に乗り込むと一気にアクセルを全開にして、駆け抜けた

 

「…さて、お客様がお待ちだぜ!」

 

クウガはそう言うと身構える

彼が示した視線の先には膨大な数のMARトレーラーと駆動鎧、おまけに雑兵としてかマスカレイドドーパントまで引きつれている

 

「参りましょう、お姉様、お兄様!」

「えぇ、アンタたちの相手は―――」

 

そう美琴の声はバラバラバラ、という妙なプロペラ音にかき消された

徐にそんな音の方に向くと数台のヘリコプターが滑空していた

まさかヘリまでも用意するとは

 

「…流石に予想できなかったな」

 

RXも思わずたじろいでしまっている

しかし何が相手でも引くわけにはいかない

木山の子供たちを助けるためには―――

 

<Rider slash>

<TRIGGER! MAXIMAMDRIVE>

 

一つの紫色の光刃と、幾重にも重なった弾丸がそのヘリコプターを打ち貫いた

 

「え…?」

 

思わずそんな言葉を口にしていた

覚えのあるその言葉―――

 

「水臭いぞカ・ガーミン。こういった決戦の場に親友の俺を呼ばぬとは」

「ツ、ツルギ!?」

 

仮面ライダーサソード、神代ツルギ

そしてその隣には、青と黄色の半分こなライダー―――

 

「よう、助けに来たぜ」

 

仮面ライダーダブル、左翔太郎&フィリップが立っていたのだ

 

あまりにも突然の出来事に美琴や黒子もびっくり顔だ

 

「や、けど…なんで」

「警備員がやけに騒がしかったからな。気になって照井に聞いたんだ」

<それに、助けに来てくれるのは僕たちだけじゃないよ>

 

右の複眼を発光させつつダブルが顔を向けたその先から、戦闘しているような音が聞こえてきた

戦っているのはライダーだった

 

「ふんっ! …助太刀に来たぞ、鏡祢」

 

マスカレイドを蹴り飛ばしながら天に手を翳す紅いカブト虫のライダー…カブト

 

「この借りは、俺の店を利用して返してもらうぞ」

 

銃撃で駆動鎧やマスカレイドを打ち抜くトンボのライダー…ドレイク

 

「ここは僕たちに任せて! 早く!」

 

近寄るマスカレイドを殴り蹴り飛ばし返り討ちにする竜のライダー…アギト

 

「皆…!」

 

思わず目頭が熱くなるものがある

それと同時に、胸にふつふつと湧き上がる感情があった

これは…絶対に負けないと、はっきり確信して言える自信があった

 

「お兄様、お姉様」

「彼の言った通り、ここは俺たちに任せるんだ」

 

いつの間にか黒子はカバンから大きい革のベルトのようなものを取り出していた

そのベルトには黒子がいつも使用している鉄針が仕込まれている

 

対するRXも拳を握りしめ、駆動鎧らと対峙していた

 

「お二人は、木山春生にご助力を!!」

 

「…わかった、任せたぜ黒子、光太郎さん!」

「ちゃんとついてこなかったら、承知しないんだから!」

 

その言葉に黒子は頬を僅かに染めて平静を保ちつつ、内心歓喜し、RXもクウガの方を見て

 

「任せてくれ。俺は〝太陽の子〟だからな!」

 

力強い返事を聞いてクウガは空に向かって叫ぶ

空を力強く駆ける、大切な相棒の名前を

 

「ゴウラムーッ!!」

 

大空の先から、一体の黒いクワガタがこちらに向かって飛んできた

赤い瞳を輝かせて勢いよく駆け寄ってクウガの近くに漂った

 

「よし…行くぜ、美琴」

「えぇ、なるべく急いでよね」

 

クウガはその背に飛び乗って美琴に手を差し伸べる

美琴はその手を握ってクウガの隣に飛び乗った

 

「行け!」

 

クウガの指示に応えるように、ゴウラムは木山春生の車を追いかけた

背後にあるのは信頼だ

振り向くことはない

誰でもない、友達を―――仲間を信じているから

 

◇◇◇

 

空間移動で白井黒子は縦横無尽に飛び回る

彼女の武器はその空間移動での神出鬼没さと、その鉄針による空間移動攻撃だ

 

付近を飛んで相手の眼を翻弄した後、その銃器に鉄針を空間移動させて使い物にならなくする

しかしそんな彼女にも、死角はあった

 

それは空間移動直後に来る銃撃

彼女の着地のタイミングを見計らわれ、グレネードが放たれた

しかしそのグレネードが黒子に当たる事はなかった

 

<clock up>

 

見えない速度で加速したサソードがそのグレネードを斬り裂いたのだ

サソードが爆風こそ受けたが特に目立った外傷はなかった

 

<clock over>

 

加速を終えたサソードの背に、黒子は空間移動し互いに背中を預け合わせる

 

「まさか…貴方と共に戦う日が来るとは思いませんでしたわ」

「俺もだスィ・ライン。改めて見ると、お前の力は素晴らしいな」

「あら。褒めてますの?」

「当然だ。俺は称賛することでも頂点に立つ男だ」

「それは…ありがたいですわねっ!」

 

互いに言い合うと背中を預け、二人は目の前の駆動鎧やマスカレイドへと駆けぬけた

 

 

~NEXT LEVEL~

 

ドレイク、カブトの行動は至極単純

カブトは臨機応変にクナイガンで斬り裂き、それを狙う敵をドレイクが撃ち落とす

またその逆もしかりだ

相手は単純に数で押してきているものの、起こしてくる行動はさほど分かりにくいものではない

 

「しっかし、なんでこうも面倒な事に巻き込まれるんだろうなっ!」

 

傍らでマスカレイドを射抜いたドレイクが一呼吸しながらカブトに向かって呟いた

一方のカブトはカブトクナイガンで駆動鎧の装甲を斬り裂きながら、いつもの様子で受け応える

 

「さぁな! だが、友達を助けるのに、特に理由はいらないと思うが?」

「あぁ、それもそうだな!」

 

バッと飛び退いてお互いを背に預けるとカブトはクナイガンをガンモードに、ドレイクはそのままドレイクゼクターを構え、同時に引き金を引く

放たれた弾丸は周囲に展開していたマスカレイドにヒットし、それぞれを爆散させていく

その直後、待機していた駆動鎧の群れが二人の正面方向から突撃してきた

 

カブトとドレイクは互いを背に跳躍し、それぞれ駆動鎧の後ろへと着地した

先に動いたのはドレイクだ

 

「ライダーシューティング」

<Rider shooting>

 

ドレイクゼクターを畳み、狙いを定めてトリガーを引く

放たれたそれは真っ直ぐに駆動鎧に向かっていくが、予期していたのか駆動鎧は大きく右に動いてそれを躱した

だが、それはドレイクとて読んでいた

駆動鎧が回避したそれはカブトに向かって行く駆動鎧の方向へと飛んで行ったのだ

それを確認したカブトは冷静に

 

「クロックアップ」

 

ベルトの右側を軽くタップしクロックアップを発動させた

クロックアップの中まずはクナイガンを持ち、その高速移動の中で駆動鎧を幾度も斬りつけ破壊する

数度斬りつけたのち、カブトはゼクターのスイッチを押して、ホーンを倒す

 

<one two three>

 

「ライダーキック」

 

呟きながらホーンを戻し、カブトはドレイクに向かっていく駆動鎧へ、ドレイクが放ったライダーシューティングを蹴り返した

蹴り返されたシューティングはゆっくりと駆動鎧の背へと向かって飛んでいき―――カブトはクロックアップを解除した

 

<clock over>

 

クロックアップ空間から抜け出したその砲弾は速度を取り戻し、駆動鎧に直撃する

爆発を背に、カブトは一人、天を指す―――

 

「全く…、危ないな」

 

いつの間にか隣にいたドレイクがため息を吐きながら大きく肩で息をした

恐らくぶつかった直後クロックアップで爆風の中を抜けてきたのだろう

 

「お前を信じたまでだ」

「そう言うことにしておく」

 

そんな言葉を交わしながらカブトとドレイクは互いの手を叩きあった

 

 

~Believe yourself~

 

迫りくる敵をアギトは徒手空拳で寄せ付けず返り討ちにしていく

グランドフォームは超越肉体の金と呼ばれるアギトの基本形態、故にこういった一般兵程度なら素手で対処できるのだ

 

…が、こうも数が多いとさすがに対処に困るというか面倒だ

そう感じたアギトはオルタリングと呼ばれるベルトのサイドの左側を押した

ベルト中央、左側が青く輝き中央の宝石が青く変色する

同時にアギトの身体にも変化が訪れる

胴体部分と左腕がベルトと同じように青くなったのだ

超越精神の青、ストームフォームである

 

す…と、アギトはオルタリングに手を寄せるとオルタリングから長い棒状の武器が現れる

専用武器〝ストームハルバード〟だ

 

ブン、と一つ振り回しそれを目の前のマスカレイド連中や駆動鎧に突きつける

すると両側の刀身が伸びて、両刃の薙刀のようなものになった

それを改めて両手で構え、アギトはその軍勢へと突撃していく

 

「ふっ!」

 

一つ一つ攻撃をいなしながらハルバードでの一撃を切り込み、背後から強襲してくるマスカレイドも振り向きざまに斬りつける

不意に前を向くと数体に駆動鎧がこちらを捉えていた

手にはガトリングと思わしき銃器を携えている

撃たれる前にアギトは行動を起こした

 

「はっ!」

 

ハルバードを大きく振り回しながらアギトは一気に距離を詰める

接近してきたことに驚いたのか、駆動鎧たちは一斉に銃器を発砲しようと構えるが遅かった

撃つより先に接近してきたアギトのハルバードが駆動鎧を斬り抜ける

ドォン、と背後で爆発が起きアギトはゆっくり振り向いた

 

直後前に立つ、マスカレイドの集団にその中心に駆動鎧

アギトはストームハルバードをオルタリングに戻して、グランドへと形態を切り替える

そして一度普通に立つと同時に、頭部にあるクロスホーンが展開された

 

角が展開されたことにより、何かを警戒したのか、駆動鎧たちは身構えた

そんな連中を視界に捉えつつ、両手を開き、左足をゆっくりと後ろへ後退させていく

同時に右手を上に、左手を下に、オルタリングの左側上付近へと持っていく

それはまるで刀の居合を彷彿とさせる構えだった

 

「はぁぁぁぁ…!!」

 

息を深く吐きながら、さらに腰を落とす

地面に現れたAGITOのマークは彼の足に吸収されるように足に力を蓄積していく

 

そして、アギトは一気に飛んだ

驚いて放たれた銃撃には目もくれず、バッと右足を突き出し

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

叫びと共に駆動鎧に渾身のライダーキックを叩きこんだ

ライダーキックを受けた駆動鎧はバランスを崩し、大きく後ろへ仰け反ってマスカレイドを巻き込んで爆散する

その爆風の中、アギトは毅然と佇んでいた

 

 

~W-B-X -W-Boiled Extreme-~

 

ルナトリガーからサイクロンジョーカーへと戻ったダブルは流麗な蹴りでマスカレイドを蹴り飛ばし、駆動鎧の体制を崩してさらに追い打ちをかける

 

そして一息をついたその隙を見計らい、何人かのマスカレイドが飛び掛かってきた

危うく捕まるところだったその場所を後ろに飛んで回避し、そんなマスカレイド達に飛び蹴りを打ち込んだ

 

<翔太郎、ちまちまやっても仕方ない。ここは派手に行こう>

「っと…フィリップからそんな提案されるとはな…。いいぜ、派手にかましてやるか!」

 

大きく頷きながらダブルはドライバーにあるメモリを引き抜き別のメモリを起動させる

 

<HEAT><METAL!>

 

それをドライバーにセットし思い切り開く

 

<HEAT METAL!>

 

ヒートメタルへとチェンジしたダブルは背に現れたメタルシャフトを構え、群がってくるマスカレイド達を薙ぎ払っていく

一通り凪いで、ダブルはメタルメモリをシャフトにセットする

 

<METAL! MAXIMAMDRIVE>

 

ぶんぶん、と振り回しダブルはシャフトを構えた

それと同時、メタルシャフトの両側から噴射するように炎が吹き荒れる

ダブルは先ほど凪いだマスカレイドを見据え、地面を蹴った

 

「<メタルブランディング!>」

 

シャフトからの炎をジェット代わりに加速したダブルはそのままマスカレイド達にメタルシャフトを叩きつけた

薙ぎ払われたマスカレイド達は大きく吹っ飛びそのまま消滅していった

直後、再びダブルはヒートとメタルのメモリを引き抜きサイクロンとジョーカーのメモリに戻す

 

<CYCLONE JOKER!>

 

戻った直後に駆動鎧たちの銃撃を受け、思わず足をばたつかせてしまった

 

「おわっ!? 危ねぇなおい…!」

 

しかしそれでもダブルは余裕を崩さず冷静にドライバーから片方、メモリを引き抜いた

 

「たまには行ってみるか!」

 

引き抜いたのはサイクロンのメモリだった

ダブルはドライバー左側のマキシマムスロットにサイクロンメモリをセットし軽く叩く

 

<CYCLONE MAXIMAMDRIVE>

 

「行くぜ! フィリップ」

<あぁ、行こう翔太郎!>

 

軽く右手をスナップさせて、ダブルは駆動鎧に向かって走り出した

そして飛び上がり風の力を纏ったその右足を突き出す

 

「<たぁぁぁぁぁッ!!>」

 

二人の叫びはシンクロしより威力を倍増させる

一度ヒットした体制からその場でもう一度ひねり上から叩きこむようにもう一機の駆動鎧に叩きこんだ

爆発を背に受けてダブルは左手をスナップさせて一息つく

 

「さぁ、次はどいつだ!」

 

 

~仮面ライダーBLACK RX~

 

黒いボディ、真っ赤な目

RXは堂々としていた

迫りくるマスカレイドを蹴りと拳で一蹴し、駆動鎧に穴を空け一撃のうちに破壊する

 

その時、背後からマスカレイドの一人が急襲し羽交い締めにしてきた

しかし焦ることなく身体を思い切り曲げて振り下ろす

勢いで転げ落ちるマスカレイドに視線を落としながら周囲を警戒し身構えた

 

直後、RXに向かって一発のグレネードが発砲された

RXがそちらに視線を向けた時には目前にグレネードが迫っており―――

グレネードが爆発した

 

燃え盛る火炎を見て誰もが倒した、と確信する

しかしそんな確信はすぐに覆された

その火炎の中からゆっくりとした動作で歩いてくる一人の男がいた

RX化、とは思ったがそれは違う

鋼のような鉄の身体に、涙にも見える赤いライン―――

それがRXの別形態である〝ロボライダー〟だとは知りもしなかった

 

走るでもなく、急ぐわけでもない

ただ歩くという行為そのものがどういう訳だか恐怖を募らせていくほど

それでも駆動鎧は怯まずにグレネードをロボライダーに向かって撃ち続ける

だがそれでもロボライダーは怯まない、怯みすらしない

 

「ボルティックシューター!」

 

ロボライダーは両手から一丁の銃を生成する

銀色に輝くその銃をゆっくりと構え、ロボライダーは引き金を引く

銃口から放たれたその弾丸はマスカレイドへと飛び、さらに駆動鎧の方にも追尾していく

直撃を受けた駆動鎧やマスカレイド達は次々と爆散した

その爆炎の中から、一機の駆動鎧が姿を見せた

携えているのはバズーカか何かだろうか

どちらにせよ、撃たれるとマズイことには変わりない

ロボライダーは一度RXへと戻り、そのまま両腕を開きそれを胸元で拳を合わせる

 

「キングストーンフラッシュッ!!」

 

サンライザーから放たれる輝きは相手の視界を奪い、同時に隙を生じさせるには十分な輝きだ

その隙を見逃さず、RXは屈みつつ地面を叩き、一気に跳躍する

後ろに回りながらも前方へ飛びながらRXは両足にエネルギーを溜めて繰り出した―――

 

「RXキックッ!!」

 

両足から放たれる太陽のごとしその蹴りを受けた駆動鎧は大きく吹き飛び、そして爆発する

その爆発を背に、RXは木山たちとクウガたちが向かった方向を見ながら呟く

 

「頼んだぞ―――」

 

そちらに向かうにはもう少し、かかりそうだ

 

彼らが築いたバトンは―――木山たちへと託された

 



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#23 笑顔 後編

凄い長くなってしまった
後編なのに

まぁとりあえず一期はこれにて終了です
次回からは…どっちかな、多分禁書版妹達かな

無理やり感もあるかもです今回は
まぁ温かい目で見てあげてください

ではどうぞっ


一方、こちらは本当のトレーラーを追う木山一向

高速で走る彼女の車に、ゴウラムに乗っているクウガと美琴も追いついて並走している

その社内で初春がキーボードを操作しつつ、彼女をナビゲートしている

 

「先ほどの部隊が出発した少しあと、民間を装った輸送車を二台本部から出ていったのを衛星の映像で確認しました! 恐らくこちらが本命だと思います!」

「なるほど…! 私はまんまと騙されたという事か…!」

 

ギリ、と木山は食いしばる

急くあまり、周りの事が見えていなかったみたいだ

 

「急ぎましょう! そいつら、もう到着してるみたいなんです!」

 

佐天の言葉に木山はアクセルをさらに踏み込んだ

 

「場所は!?」

「二十三学区! そこにある、今は使用されていない推進システム研究所! この先を左です!!」

 

木山は初春の指示通り車を走らせる

 

・・

 

その様子をテレスティーナはモニターで監視していた

そしてほぉ…と僅かながら称賛する

 

「やるじゃねぇか。…ウゼェガキしかいねぇと思ってたがちったぁ頭の回るガキもいんじゃんよ…」

 

くひひ、と彼女は笑った

そしてテレスティーナは操作レバーを動かし、起動させる

 

「まぁそれくらいの方が…殺し甲斐がねぇもんなぁ…!!」

 

・・

 

「! 下か…!」

「え?」

「掴まってろ!」

 

美琴のそう指示し手に力が籠められるのを確認すると、クウガはゴウラムの速度を僅かに上げる

第六感が危機を伝えたのか、ただ勘が働いたのか

いずれにせよ、今回はそれが功を成した

 

先ほどまでゴウラムが飛んでいたところをぶん殴るかのように地面からなんか手みたいなものが突き出てきたのだ

 

やがてそれは全身の姿を現す

それはずんぐりむっくりした黄色いロボットのような駆動鎧だった

そのロボットは足付近にタイヤを展開すると、走るように着地すると、車を潰そうとするべく滑走する

 

「くっそ、あの女…! 何でもアリか!」

「みたいねぇ!」

 

どうにかそのロボットを振り切り、クウガは木山の車の付近を再び飛行する

 

「な、なに、今の…!」

 

先ほどの揺れが応えたのか、佐天が譫言のように呟いた

 

<ほぉらほぉらぁっ! 急がないと潰しちまうぞぉぉぉ!?>

 

「…この、声!」

「あの女か…!」

 

悔しさを噛みしめるように初春と木山が呟く

ふと、窓の外を見るといつの間にかゴウラムに乗ったクウガと美琴が木山の車と同じ高度を飛んでいた

それに気づいた佐天が窓を開け、声の通りを良くする

 

「おい、もっと速度でないのか!」

「言われずともやっている!」

 

すでに限界寸前だ

これ以上は流石に無理だと分かってはいるのだが、へんに躊躇してはあのロボットもどきに破壊されてしまう

そうヤキモキしながら運転している木山の耳に

 

「ごめん…!」

 

美琴の謝罪の言葉が届いた

何事か、と思い木山は彼女の言葉に耳を澄ませる

 

「間違ってた。…私」

 

流れる沈黙

重い空気の中、口を開いたのは木山春生だった

 

「立場が違えば…私も同じことをしていたさ」

「っ!」

 

その言葉で、御坂美琴のわだかまりが取れた気がした

一瞬驚いた表情を浮かべたあと、彼女はテレスティーナが駆るそのロボットを睨みつける

それに応えるようにクウガはゴウラムを動かし、そのロボットを相対するように

 

「その埋め合わせは―――」

 

彼女は―――御坂美琴はその身体に雷を迸らせる

そして放つ

雷の一撃を―――

 

「ここでするからっ!!」

 

放たれた雷は確かにロボットを捉えた

しかし喰らう直前肩からシールドのようなものが展開し雷を弾いていく

 

「弾かれた…!?」

「マジか…!」

 

それならば、と美琴はポケットからゲームセンターのメダルを取り出した

超電磁砲を放つ気だ

しかし放つ直前、不意にロボットの速度が落ちた

 

「!」

 

美琴はそれに気づきはしたがそれはもう放った後の事だった

彼女の手から放たれた雷を帯びたメダルはロボットに到着する前に溶けてしまったのだ

 

<知ってんだよ! テメェのチンケなそいつの射程はたったの五十メートルしかないってことも含めて!! お前の能力は全部書庫(バンク)に入ってんだからなぁっ!!>

 

そう叫びながらロボットは右手を突き出した

直後―――その手が発射された

ロケットパンチ…ではなかったが似たようなものだ

思わず美琴は身構える―――が

 

「おわっ!」

 

ゴウラムが大きく左に動いたことでその右手から何とか逃れる

幸いにも車には被害が及ばなかったのが不幸中の幸いだ

 

「と、とと…! 何すんのよ!?」

「お前は戦いに集中しろ! 心配はすんな!」

 

思わずクウガに言ったがそう言われ改めて表情を引き締める

 

・・

 

「次も左です!」

「わかった…!」

 

初春の指示を貰い、車は車線を左に持っていく

外の様子が気になるが、今は走る事を考えなくてはいけない

そう思ったとき、通信機が作動した

 

・・

 

「ち、外しちまった」

 

あのアームパンチは使い切りだ

しかしもう一発ある、それで殺せば問題ない

それにアイツらが曲がったその先には部隊が先読みしているはずだ

 

「おい、そっちいったぞ。ツブせ」

 

しかし返ってきたのは了承の応えではなかった

 

<こ、こちらレッドマーブル…! 現在警備―――>

<ライダーパンチ!!>

 

その言葉の後、断末魔が聞こえてきた

何が起こっていやがる―――

 

・・

 

「聞こえるか! ここから先は警備員が押さえる! お前らは行け!」

 

道路に立ってテレスティーナの部隊を足止めしていたのは矢車の変身するキックホッパー率いる部隊だった

現在目の前にてパンチホッパーが駆け回り、近辺で鉄装、黄泉川、そしてG3は銃撃している

 

「ここから先は、通さないんだからー!」

「おお! 絶対に死守するじゃん!」

 

<…なぜ、警備員は協力を―――>

「理屈なんていりますか!」

 

木山の声を遮ったのはG3こと立花眞人だ

 

「僕たちが何で協力してるかなんて今はどうでもいいんです! 早く子供たちの所に行ってあげて下さいっ!」

 

珍しく立花が叫んでいる

彼にもこんな一面があったのか、と皆ちょっと驚いている

 

・・

 

「やってくれたんだ…!」

 

佐天がそう喜びの声を上げる

そうだ、今はそんな些細なことなどどうでもいい

紛れもないチャンスを…逃すわけにはいかないんだ

 

<ち! …だったら自分でやってやらぁ!!>

 

左側のシールド部分を腕へと換装させ、ロボットは速度を上げていく

 

「木山ぁ! 気をつけろ!」

「君もな!」

「あぁ! 掴まってろ美琴!」

「えぇ、分かったわ!」

 

クウガとそんなやり取りを交わしたのち、殴り掛かっていくロボットの足を車はすり抜けて回避し、ゴウラムはそのロボットの上空を飛んで彼女の車付近をまた加速する

 

<チョロチョロアリみてぇに…! さっさと諦めろやゴミがぁっ!! いくらお前らが頑張ったって、助けられるわけねぇんだからよぉっ!!>

 

「うっせぇ! そんな事、お前が決めることじゃないだろうが!」

 

クウガはゴウラムの上で怒鳴り返す

しかしテレスティーナははん、と鼻で笑い

 

<決まってんだよ! …吠えんじぁねぇぞガキどもがぁ!!>

 

仮面の下でクウガは歯を食いしばる

そんな時だ

 

「それでも…!」

 

木山の声だ

 

「足掻くと決めたんだ!! …教師が…! 先生が生徒を諦めるなんて…出来るわけないだろうっ!!」

 

それは、あの悲劇から決めた彼女の決意

この世界すべてを敵に回しても、彼女は戦うと決めたんだ

その覚悟を、戦ったクウガと美琴は知っている

言葉に込められた思いを―――

 

「…ったり前じゃないっ!」

「あぁ! …必ず送って見せる!」

 

態勢を整えながら吠える

そうだ、自分たちは守るためにいる

会わせる為に、ここにいるんだ―――

 

<今更何が出来んだ! …とっとと死ねよやぁぁぁぁっ!!」

 

侮蔑するような声と共にテレスティーナのロボットからまたアームパンチが放たれた

そのアームパンチに、真っ向からクウガは挑む

ゴウラムを正面に向けてクウガは構えた

 

「はぁぁぁぁ…!!」

 

迸る雷の感覚

右足から伝わるその力を今度は拳に溜めていく

クウガはゴウラムの上で、ライジングマイティに姿を強化させ―――放たれた拳を殴り付ける

 

「おぉりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

バギンっ!! と拳が当たると同時、相手のパンチの勢いに負け、クウガはゴウラムから足を離してしまった

 

「グ、ぅぅぅ…!!」

 

高速で後ろへ飛ばされる中、クウガは踏ん張った

だが空中で姿勢を取るのは難しく、後一発拳が放てるかどうか―――

 

「負けんな!」

 

ふと美琴の声が耳に届く

ちらりと視線をやるとゴウラムに乗った美琴がそこにいたのだ

 

「私も―――手伝うから…!」

 

そう言って彼女はバッとクウガに向かって手を突き出した

彼女の掌から放たれた電撃はクウガに力を与えるようにその身体に纏わりつく

痛みなどはなく、むしろ力が湧く感覚を覚える

 

「あぁぁぁぁっ…!!」

 

クウガはその右手でもう一度、拳を繰り出した

 

「だぁぁぁぁっ!!」

 

繰り出されたその拳は相手のパンチを殴り砕く

ドガァッ!! と砕かれた手を尻目にテレスティーナはほくそ笑む

 

「だったらなんだ! 私に対抗する手段もねぇくせによぉっ!!」

 

その声を聞きつつ、クウガは着地し美琴も彼の隣に着地した

ゴウラムはクウガと美琴の周りを浮遊し始める

 

「美琴、使え」

「え!? で、でも…」

 

クウガは付近を漂うゴウラムを撫でる

一瞬戸惑ったが、ゴウラムがそれに応えるように赤い瞳を輝かせた

 

「えぇ…! じゃ、使わせてもらうわ!!」

 

美琴は自分の周りに再び雷を迸らせる

彼女の周囲一体を雷が包み込み、ゴウラムが彼女の前へと移動して―――

 

「これが―――」

 

その雷をゴウラムに纏わせて

 

「私の―――!!」

 

殴るように撃ちだし―――

 

「全力だァァァッ!!」

 

彼女をサポートするようにゴウラムもさらに加速し、高速で回転する

名づけるなら―――〝ゴウラムカノン〟と言った所か

 

放たれたゴウラムカノンは真っ直ぐにロボットへと突っ込んでいく

流石に、あんなもんをぶっ放すとは思わなかったテレスティーナは狼狽える

 

<なっ…! んだとぉぉぉぉっ!!?>

 

そんな叫びをテレスティーナはあげ、そしてゴウラムはロボットの胴体を貫いた

 

 

流石に今のは応えたのか、ゴウラムもちょっとふらついている

クウガは変身を解除しつつゴウラムの頭を撫でた

 

「お疲れ、今日はもう燈子の所に行って休め」

「ごめんね、流石に…やりすぎたかも」

 

美琴の謝辞に応えるように、ゴウラムはふよふよと近寄って美琴の頬を擦る

 

「わ、くすぐったいよ…。…ありがとう、ゴウラム」

 

その言葉と共に美琴はゴウラムを優しく撫でた

嬉しそうに赤い瞳を輝かせるといつもとは少し遅い速度でゴウラムは飛んでいく

 

「御坂さんっ」

「アラタさんも! 怪我…ないですか?」

 

佐天と初春の心配する声が聞こえた

ふと後ろを見ると木山の車が停めてあり運転席から木山がこちらの様子を伺っていた

 

「お姉様、お兄様っ」

「アラタくん」

 

そしてまた別の声

振り向き直すとバイクに乗った光太郎と黒子が到着していたのだ

黒子は空間移動で美琴たちの前に移動する

 

「アンタも怪我ないみたいね」

「えぇ。お兄様のご友人に助けられましたわ」

 

そう言って黒子はアラタに向かって笑いかける

それにアラタは同様に笑んで返した

ちらり、と光太郎にも視線をやる

応えるように光太郎はサムズアップをした

それにアラタもサムズアップで返し、彼は初春と佐天の方へと振り向いて

 

「…涙子と飾利もお疲れ様」

 

唐突に言われて二人は僅かに顔を赤くしつつ、ふと気づいた

 

「…あれ? アラタさん今名前で―――」

「助かった」

 

が、疑問に思った佐天の声はタイミング悪く木山の声に遮られた

 

「礼を―――」

 

「待って」

 

そんな木山の言葉をまた美琴が遮った

 

「それは、子供たちを助けてからね」

 

そう、まだ肝心の目的が終わっていない

それが終わるまで、まだ自分たちは感謝をされる資格はないのだ

彼女たちの想いを汲み取ったのか、木山は目を閉じ

 

「…あぁ…!」

 

ゆっくりと頷いた

 

◇◇◇

 

学園都市 第二十二学区

今は使われていない推進システム研究所にて

 

カタカタとキーボードを叩く音が耳に届く

 

「…どうだ?」

 

木山が不安げに呟く

 

「もう少し待ってください…プロテクトが硬くて…」

 

その部屋の入口付近にて休憩していた黒子が美琴に向かって呟く

 

「お姉様が一人残らず殲滅なさるから…」

「仕方ないじゃない。…さっきは中に誰もいないなんて思わなかったんだから…」

 

当然ではあるがこの研究所にも駆動鎧やらマスカレイドらは警備等をしていた

しかし今後の捜索の邪魔になるとして美琴やクウガ、黒子やRXは殲滅しながら来ていたのだが

そしてこのルームに入る前、中にいた相手に先制の意味を込めて美琴の雷撃がさく裂したのだ

それがプロテクトの強化に繋がったのかは知らないが

 

「見つけました!」

 

初春が声を上げる

 

「この研究所の中で一つだけ、供給電力がけた違いな場所…最下層ブロックの―――」

 

 

最下層

部屋の名前はわからないが、見るからにそれっぽそうな雰囲気を持っていた

そしてガラスの向こうには―――

 

「…やっと…見つけた」

 

思わず表情を緩ませる

木山は目尻に涙を溜めながら呟いた

その子供たちの手前、人ひとりが入るであろうポッドの中に春上もいた

初春はそのポッドのガラスを叩きながら彼女に呼びかける

 

「春上さん! 春上さんっ!」

 

なんどか彼女に呼びかけられ、ポッドの中で眠っていた彼女は目を覚ました

それを確認すると初春は笑みを浮かべる

 

「春上さん…。あ…ここのシステムは…」

「待ってて、向こうの方見てくるから」

「お願いします、佐天さん」

 

そんな光景を四人は少し離れた場所で見ていた

ふと顔を見合わせて笑みを作る

 

「待っていろ…今、助けて―――」

 

そんな木山の言葉は、突如として聞こえてきたキィィ…! と耳障りな音にかき消された

同時に、初春、美琴、黒子の三名が頭を抱え苦しみ始める

 

「大丈夫か!?」

 

光太郎が黒子たちに駆け寄る

そうだ、こんな音…前に聞いたことがなかったか?

 

 

 

「このゴミやろォ共がぁぁぁ…!!」

 

 

 

背後から声が聞こえた

そこに立っていたのは―――ウェザードーパント―――テレスティーナ・木原・ライフラインだったのだ

 

「お、前!?」

 

てっきりあの爆発に巻き込まれ再起不能かと思っていたが…まだ動けたとは

 

「さっきの礼だァァァァァッ!!」

 

全力で美琴たちに振るわれたその蹴りを光太郎が庇う

しかし威力は凄まじく、庇った光太郎ごと、美琴と黒子は壁へと吹き飛ばされた

 

「貴様ぁぁぁぁッ!!」

 

怒気に駆られ木山も彼女へ向かっていく、が一撃のもとにあしらわれる

 

「木山―――!」

「他人の心配してる暇があんのかよォォォッ!!」

 

ドゴム、と腹部に重い一撃を貰う

肺から空気を吐き出し、アラタは地面に這いつくばった

 

「がっ!?」

 

拳を握りながら、アラタはウェザーを睨みつける

 

「あーひゃっひゃっ!! あースッとしたぜぇ…ナメたマネしやがってくそったれどもが…」

 

油断していた

こんな事があるかもしれないと考えればすぐ読めただろうに―――

 

「キャパシティダウンですね!」

 

唐突に、〝誰か〟に呼びかけるように初春が叫んだ

 

「御坂さんが言ってた、能力者にしか作用しない音…!」

「あぁ? だから何だってんだ」

 

最初、初春の行動が読めなかった

しかしある方向にいる誰かを確認したことによってそれを理解する

それは向こうを確認する、と言ってこの場から移動していた佐天涙子だったのだ

 

「改良型は大きくて…移動できない…! この施設中にそれがあるなら…制御できる場所は限られます…! それが出来るのは…私たちがさっきまでいた―――中央管制室っ!!」

 

「だから何だって聞いてんだよぉぉッ!!」

 

初春に振るわれそうになるその一撃をアラタがウェザーにタックルをかましバランスを崩す

ここで時間を稼がないと

そう思った矢先、背中に痛みが走り、続けて腹に膝蹴りを叩きこまれた

 

「うぐっ!!」

「せっかくいいもん見せてやろうと思ってんのによぉ…」

 

ゴミのように春上が眠るポッド付近に投げ飛ばされる

そんなアラタを心配し初春は駆け寄り、ポッド越しに春上は声を上げるように口を動かしている

目尻には、涙があった

 

「トゥア!」

 

隙を見た光太郎がウェザーに向かって飛びかかる、直前その身に風を受けた

その風に吹き飛ばされ光太郎は再び壁に激突した

違うのは、今度はダイレクトにその痛みを喰らったという事だ

 

「ガハッ!!」

 

「光太郎さん…!」

 

付近でかろうじて立ち上がった美琴は彼を見て、再びウェザーを睨みつける

 

「…なんで? アンタも。被害者じゃない…! 実験体にされて…なのに!」

「ハッ! 被害者じゃねぇよ。アタシは権利を得たんだよォ…アタシから生まれたこの結晶体…こいつを開かせて―――」

 

徐にウェザーが取り出したのは一つの結晶―――

 

「それは…ファーストサンプル…!?」

 

木山の驚いた言葉が耳に届いた

どうりで探しても見つからないハズだ

本人が持っているなら見つかりようがないのだ

 

「レベル6を生み出す権利をなァ…!!」

 

「レベル6…!?」

 

美琴の言葉にテレスティーナ―――ウェザーは応える

表情こそ分からなかったが、きっと狂気に満ちているに違いない

 

「あぁ! 春上衿衣(こいつ)は今から学園都市初めてのレベル6になる! このガキどもの力でなァッ!!」

 

言葉に驚愕する

もしかしてこの女は…春上を使ってそんな事をしようとしているのか

 

「こいつの能力はよぉ、この結晶体を使うのに最も都合がいい。高位のテレパスは希少なんだぜぇ?」

 

狂ってる―――

それしか言えなかった

 

「なんで―――」

 

木山が口を開く

言葉は震え、顔は〝涙〟に濡れながら

 

「なんでまたこの子たちなんだ…! なぜこうも子供たちを傷つけるんだ…!!」

「なぁに。ちぃとばかしこのガキどもの頭の中の現実ってのを借りるだけだよォ」

 

自分だけの現実(パーソナルリアリティ)…」

「呼び方なんざどうでもいいんだよバァカ!」

 

美琴の言葉を一蹴しながらウェザーは続ける

彼女はわざわざ変身を解除しながら口を開いた

 

「まぁ要はあれだ。こいつらの暴走能力者としての神経伝達物質…そいつを採取し、ファーストサンプルと融合させる…。そいつによって結晶は抑止力を獲得し…完全なものになるのさ。まぁ。あのクソジジィはそいつに気づかずマイナーチェンジに気を取られてたみてぇだがよぉ」

 

そう言ってテレスティーナはパソコンを操作しようと―――

 

「やめなさいっ!!」

 

その行動を美琴が制止した

 

「…ハァ?」

「そんなことしたら…暴走状態のまま目覚めたら、学園都市は―――」

「大規模なポルターガイストによって壊滅する…だろ?」

「じゃぁなんで―――」

「上等じゃねぇか!! 神ならぬ身にて天井の意思に辿り着くもの…なぁ!!」

 

<WEATHER>

 

彼女は再びウェザードーパントへと姿を変え、御坂美琴の掴みあげた

 

「うぐっ!?」

「そのための実験場(学園都市)だろうがァ!! レベル6が完成すりゃこんな下らねぇ実験場(まち)用済みなんだよォ!!」

 

「グ…! あぁっ!?」

 

「テ、メェ―――!!」

 

思わずアラタは立ち上がり、ウェザーへと駆け―――

 

「うっぜぇんだよクワガタヤロー!!」

 

片手間に放たれた蹴りにいともたやすく一蹴された

ゴフ、と息を漏らし初春の近くに地面を転がる

 

「アラタさん! ぐ、あぅ…!!」

 

初春も誰かを心配する余裕などなかった

痛む頭を抑えながら、彼女は名前を想う

 

(佐天さん―――! 佐天さん―――!!)

 

 

中央管制室

数十分前にここで初春がパソコンを操作し、先ほどの部屋を見つけたのだが―――

 

「どれ…!? これ…違う…これも違う…!!」

 

懸命にキーボードを叩くが全く持って分からない

元からあまりパソコンに強くなかった彼女ではキャパシティダウンのシステムを見つけ出すのは難しいのだ

 

<あぁぁぁぁっ!? がぁ…!!>

 

不意にスピーカー越しに誰かの苦しむ声を聞いた

その声色は自分がよく知っている人のもの…御坂美琴だ

 

<お前面白れぇ事言ってたな。スキルアウトは実験動物(モルモット)じゃないって…! そう!! スキルアウトだけじゃねぇ!! テメエら皆が実験動物(モルモット)だ!! いわば学園都市は飼育場!! テメェらガキどもみんな食われるだけの豚なんだよぉッ!!>

 

美琴の苦しむ声と共に、テレスティーナの勝ち誇った声が耳に届く―――否、耳障りな声だ

そうだ…なんでこんな簡単な事気づかなかったんだろう

操作しても分かんないなら―――何もかもぶっ壊してしまえばいいんだ

 

 

「さぁって…そろそろフィナーレと―――!! あん?」

 

不意にキャパシティダウンの音に混じって何か変な音が聞こえてきた

数秒後―――それは吠えた

 

<モルモットだろうが豚だろうが!! 関係ないっ!!>

 

それは佐天涙子の声だった

 

「佐天さん!!」

 

歓喜に初春は声を上げる

そしてウェザーは動揺を隠せなかった

 

「な!? なんで動け―――」

 

 

 

<私の友達にぃ!! 手ぇ出すなァァァァァッ!!>

 

 

 

その言葉と共にバギンッ!! 何かが壊れる音が聞こえた

同時―――耳障りな音が消える

 

「音が…!!」

 

初春が笑みを作る

同時にアラタも膝を付きつつも体制を立て直した

 

「アラタさん…!」

 

その声に小さく笑んで応え彼女の目尻の涙を拭いつつ立ち上る

 

「なっ―――!? ぐわっ!!」

 

驚愕した言葉と共にウェザーが蹴り飛ばされる

黒子がなけなしの体力を振り絞って空間移動しその顔面にドロップキックを叩きこんだのだ

そしてもう一つ、ウェザーを襲う物体があった

それは青いゲル状の何かだ

 

その隙にアラタは黒子を抱きかかえ、彼女を初春の下へと戻り彼女を初春に託す

 

ゲル状の何かは美琴を抱えるように包むと、ウェザーの手から何かを奪い取った

ゲル状の何かは木山の隣で形作り、正体を現す

一瞬青い身体が見えたが、やがてそれは人の姿を形作る

それは南光太郎だったのだ

 

彼は美琴を立たせ、木山に奪い取った何かを渡す

奪い取ったもの…それは能力体結晶だった

 

「すごいですね…あんな一瞬で」

「慣れっこさ」

 

彼の近くに駆け寄ったアラタは気さくな笑みで慣れっこと言われるとちょっと気が抜けてしまう

そして今度は美琴の方へと視線をやった

彼女はけほけほ、と息を整えつつアラタの視線に気づくと小さく笑った

―――最後に、総ての元凶へと三人は視線を向けた

 

「このゴミどもがぁ…! っとに諦めがワリィなぁぁぁ…!!」

「諦めが悪いのはどっちよ。…モルモットとか豚とか…どんだけ憐れんだら逆恨みできんのよ」

「ホントにな…かわいそうになってくる」

 

ウェザーの怒気を尻目に、小さい声でふと、美琴にアラタは呟く

 

「美琴」

「うん?」

「あんな奴らの為に、俺はもう誰かが泣くのは見たくない」

 

この研究所の外

天候が今どうなっているかは知らないが、いずれにせよ広大な青空が広がっているハズだ

そしてああいった狂った研究員のせいで、この広大な空の下、誰かが、涙を流しているんだ

 

「皆に笑っていてほしいから。…だから、見ててくれ」

 

アラタは一歩、前に出る

それに応えるように光太郎も彼の隣に立つ

 

「俺の―――!」

 

これは自分なりの決意の表れ

覚悟の表明

もう、隠す必要などあるものか

堂々と、胸を張って闘おう

 

ノーフィアー

怖くない

怖いと思うのは怒った美琴とか吹寄とかだ

 

ノーペイン

痛みもない

感じることもあるけれど、当麻が受けた痛みよりは痛くはない

 

誰かを想う、その為なら

笑顔を守る、その為なら―――!

 

仲間の―――友達の為なら、一生戦える!

 

「俺の―――!! 変身ッ!!」

 

そう叫びアラタは大きく両腕を広げた

直後、彼の腰にアークルが浮き出るように顕現し、バヂリと雷が迸った

そして彼はアークルに手を翳し、そして右手を左斜め上に、左手をアークル右側に

そしてその両手を開くように動かしたあと、左手を拳に握り、ベルトのサイドを甲で添え―――右手で押すように動かした

 

変身の掛け声はなく、ギィンと音が聞こえ彼の身体を変えていく

それは見慣れた姿ではあった

しかし見慣れていない姿でもあった

その明確な違いは色

普段〝赤〟であるべき所が、闇のごとく〝黒〟だったのだ

右足にのみのはずのアンクレットも両足に現れて、そして両目の複眼が〝紅〟く輝く

 

アメイジングマイティ

それが今の彼の姿だった

 

そしてそれに応えるように、光太郎も右手を天へと突きだす

 

「変身ッ!」

 

太陽を掴むように手を捻りつつ、ゆっくりと正面へと下ろしていき、そのまま大きく右に払うように動かしつつサンライザーの右側へ、左手で拳を握りしめる

 

カッ! とサンライザーは光輝き、光太郎の身体を変身させていく

 

黒いボディに真っ赤な目、煌めく稲妻、愛の戦士―――

その名は―――

 

「俺は太陽の子っ! 仮面ライダー! BLACK! R、X!!」

 

名乗りを上げ、クウガの隣に彼は立つ

今、この場にいるのは二人の黒い仮面ライダー

 

「テレスティーナ・木原・ライフライン! 貴様はもはや、人間でもなんでもない!! 子供たちを利用し、あまつさえ道具にするその愚行ッ! たとえ神が許しても、この俺が許さんッ!!」

 

RXの言葉には同意せざるを得ない

それ以前に、同情の念など持ち合わせてはいない

 

「行くぜ、美琴」

「えぇ。光太郎さん…いや、RXも!」

「あぁ! 行こう!」

 

 

~戦士~

 

RXは地面を叩き、跳躍した

それは後方に回転しているにも関わらず前へ進むという荒業だ

 

そして美琴とクウガは左右から挟撃すべく走り出す

 

対するウェザーはウェザーマインと呼ばれる鞭のようなものを取り出し、まずそれを美琴の向かって振り回した

 

「たかがサンプルごときがぁぁぁ!」

「うっさいわね、それしか―――言えないのっ!!」

 

しかしそれを雷を纏わせて受け止めて思いっきり彼女は放電する

マインを伝って多少ではあるものの、ウェザーにダメージが通る

だが彼女に気を取られるあまりに、もう片方から来る存在を完全に懸念していた

 

「だぁぁっ!」

 

懐に飛び込んだのはクウガだ

純粋に振るわれる拳はウェザーの腹部を捉え身体を九の時に折り曲げ、そして―――

 

正面から来るRXのとび蹴りがさらに顔面にヒットする

直撃を貰ったウェザーは叫びをあげながら吹き飛び、地面を転がった

 

「学園都市はね…私たちが私たちでいられる最高の居場所なの…」

 

ウェザーを睨みつつ、ポケットから美琴はコインを取り出す

コインに映り込む自分を見て、自分に言い聞かせるように言葉を紡いでいく

 

「私だけじゃできないことも…友達と…皆と一緒ならやり遂げられる―――」

 

白井黒子

いろいろ言いたいこともあるが、紛れもない自分の相棒

 

初春飾利

のほほんとしていて、喋っている内にこっちまで楽しくなる黒子の後輩

 

佐天涙子

元気がよくて、明るくて…励まされたこともある初春の友達

 

鏡祢アラタ

誰かのために戦える―――たまに馬鹿なとこもある自分の戦友

 

「アンタが―――どうにかしていい場所じゃないのよっ!!」

 

吠える美琴に、クウガは小さく笑む

そうだ、人は一人じゃないんだ

 

自分たちは時として自分の為にこの手で争ってしまうこともあるだろう

しかし同時にこの手は、相手の手を握りしめることもできる

その時は何があっても、愚かでも、弱くても―――ひとりじゃない

 

「行こうぜ美琴、RX…俺たちの力で!!」

 

「えぇっ!!」「おうっ!」

 

クウガの叫びに呼応するように、RXは左手をサンライザーに添える

そして、太陽が凝縮された光子剣を顕現させる

 

「リボルケインッ!!」

 

サンライザーの左側の穴から生成されたそれを左手で抜き取るとスムーズに振り回しそれを右手に持ち替えた

 

「こんちくしょォォォッ!!」

 

激昂しながらウェザーは掌から特大の雷を三人に向かって撃ち出した

その雷は、三人に届くことはなかった

何故なら美琴が放った全力の超電磁砲によってその雷がかき消されたからだ

 

「なっ―――!」

 

こんな、容易く!?

あの女の能力は全部頭に入っている

少なくともあの女を超える威力の雷撃を放ったハズだ―――

そう思案する間もなく、ウェザーの視界にまた別の人物が入ってきた

 

それはリボルケインを携えたRXだ

思案していたことで完全に回避することを失念していた彼女の腹部に突き立てる

 

「―――ガッ!?」

 

数秒ほどでRXはウェザーからそれを引き抜き飛び退いた―――

そして最後に、RXの後ろからまた黒い人影が跳躍してきた

人影はウェザーに向けて両足を突き出した

繰り出されるその蹴りを―――避ける術などなかった

 

「おりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

ウェザーの胸部に渾身のアメイジングマイティキックを貰い、ウェザーは大きく後ろに吹っ飛んだ

叫びなど上げず、そのままウェザーは爆散する

その爆炎の中から出てきたのは気を失って倒れ伏すテレスティーナと、地面に落ちたウェザーメモリだった

 

 

木山が結晶体を用いて子供たちを覚醒させるための操作をしている最中、アラタはテレスティーナが倒れている付近に歩み寄っていた

翔太郎や照井竜…そう言ったいわゆるメモリライダーはマキシマムを叩きこむことにより撃破と同時に身体から排出されると同時にブレイクされるのだが、自分やアギトとかと言った非メモリライダーは技を叩きこんでも排出されるだけでブレイクはされない

だからメモリを物理的に破壊しないといけないのだ

 

「…あった」

 

アラタはテレスティーナの近くにあるWと書かれたメモリを見つけ、それを踏み砕く

そしてちらりと気絶しているテレスティーナを見やった

どうやら完全に気絶しており、まったくもってピクリとも動かない

 

「…因果応報、だな」

 

そう言ってアラタは振り返り、歩き出す

正直に言ってこんな奴にはかける言葉なんてない

 

あれから初春がポッドを解放し春上も地面に立っている

下の方からはカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてきた

 

「アラタさんッ!!」

 

こちらに向かって階段を下りて走ってくるのは佐天涙子だった

結構急いできたらしく、彼女は肩で息をしている

 

「あぁ、お疲れさん涙子」

 

駆け寄ってきた佐天の頭を軽くポンと叩く

今回のMVPと言っても過言ではないくらい大活躍をしたのは紛れもない彼女だ

佐天は僅かに頬を染めて「…えへ」とはにかんだ

 

 

「プログラムは…完成した」

 

ようやくファーストサンプルのデータを用いてようやくプロテクトが完成した

あとは…このエンターキーを押せば―――

 

唐突に脳裏に蘇るあの悪夢(きおく)

もしかしたら…今回も失敗してしまうのではないか

万が一そんな事になってしまったら―――私は―――

 

「大丈夫なの」

 

初春に支えてる春上が口を開いた

思わずハッとした木山が彼女の方を振り向いた

 

「…絆理ちゃんがね、言ってたの。…先生の事、信じてるからって」

 

そう言われて、木山は彼女の顔を見た

春上は、微笑んだ

その笑顔に後押しされた木山は再びキーボードに向き合った

今、乗り越えるんだ

あの時の、トラウマを―――

 

 

彼女がキーボードのエンターキーをクリックして数分

 

木山が息を呑んで眠っている枝先を伺っている

息を呑んでいるのは木山だけではなかった

その場にいる全員が見守っているのだ

 

やがてその緊張は砕かれる

 

彼女が―――枝先絆理が目を覚ましたことによって

 

「―――――っ!!」

 

ゴクリ、と唾を飲んだ音が聞こえる

その後で

 

「せんせい…? どうして…目の下にくまができてるの…?」

 

あぁ―――

やっと聞こえた

ようやく聞こえたんだ…ずっと―――その声が聞きたかった

 

「…〝いろいろ〟と…忙しくてね―――」

 

彼女のいろいろにはどれほどの意味が込められていたか

 

「ホントだ―――髪も、伸びてる」

「でも…せんせいだ」

 

覚醒した子供たちから声をかけられる

待ち望んだ声が耳に入ってくる

 

木山は大粒の涙を流していた

 

<衿衣ちゃん―――>

 

唐突に春上は絆理の声を聞いた

それは彼女が精神感応の力で彼女の頭に語りかけていたからだ

 

<私の声…聞いてくれてありがとう>

 

その声を聞いて、春上は思わず涙が零れそうになる

彼女に向けて、春上は「うん!」と勢いよく頷いた

それに気づいた初春も同様に枝先に笑顔を作り、釣られた佐天も笑顔を向けた

 

そんなやり取りに美琴も、彼女に支えられている黒子も互いの顔を見合わせて笑い合う

 

光太郎も小さく笑みを作り、アラタもようやく肩の荷が下りたように息を吐く

 

「…今度こそ、言わせてくれ」

 

「え?」

 

その言葉はアラタと美琴に向けて言われたものだった

 

「―――ありがとう」

 

「―――っ」

 

真っ直ぐに謝辞を受けることはこんなにも恥ずかしいことだっけか

思わず美琴とアラタもどちらともなく互いの顔を見合わせてなんとなしに笑い合う

 

 

 

そうだ

子供たちを助けることが出来たんだ―――

 

◇◇◇

 

翌日

 

ステーキハウス〝ブラック・サン〟

 

そのカウンターに鏡祢アラタは座っていた

そして目の前に出されたコンソメスープをすすりながらアラタは改めて光太郎にお礼を言いにやってきていた

 

「本当に―――ありがとうございました」

「礼なんていいって。俺たち仮面ライダーはどんなときだって助け合いだ。…また何かあったら呼んでくれ」

 

そう言って気さくな笑顔を浮かべる光太郎

 

「はい」

 

その笑顔に応えるようにアラタも笑顔を浮かべた

と、そんな時に携帯が鳴った

ディスプレイを見ると初春の名前があった

 

「おいっす、飾利。どうした」

<どうしたじゃありませんよ! アラタさんッ、このままじゃ遅刻ですよ>

 

そう初春に言われてハッとアラタは思い出した

 

「…やばい、完全に忘れてた!」

 

今日はサプライズの日ではないか

美琴発案の木山を驚かすためのサプライズ

 

「どうしたんだい? 忘れてたって」

「あ、あの! お勘定!!」

 

やや駆け足になっているアラタを見て何かをなんとなく察した光太郎は

 

「今日はいいよ、サービスだ。…今日だけだよ?」

「あ、ありがとうございます!」

 

そう言ってアラタは出入り口に駆け出して行った

彼の背中を見送りながら光太郎は苦笑いを浮かべる

 

「慌ただしいなぁ」

 

 

ひたすらに街を走る

走りながらそう言えば今美琴たちがどこにいるのかを聞いていなかった

なんという凡ミス

 

「ええいくそ! ゴウラムーッ!」

 

完全にずるいと思いながらアラタは呼んだ

こんなくだらない用件でも来てくれるゴウラムには頭が上がらない

駆け付けたゴウラムに飛び乗りながらアラタは言った

 

「美琴たち探すぞ、頼めるか?」

 

そう聞くとなんとなく仕方ないなぁ、見たいなニュアンスな声が聞こえてきた気がした

 

「…いつもありがとな、ホントに!」

 

頭を撫でながら、アラタは言う

撫でられた事で気を良くしたのか不意にゴウラムの速度が速くなった気がした

 

 

木山春生は病室のベッドで雑誌を読んでいた

 

テレスティーナとの戦闘で傷を負った彼女は念のため、という事で警備員の付属の病院に入院していたのだ

今日もまた、ごくごく普通な時間が過ぎると思っていたその時だった

 

<木山せんせー!!>

 

自分を呼ぶ大きな声

思わず雑誌を閉じ、窓の外を見た

 

窓の外には青空が広がっており、いつもと変わりはなかった

ただ一つ、あったとすればそれには飛空艇が飛んでいた

側面にあるディスプレイには、見知った子供たちの姿が映っていた

 

そして―――

 

<お誕生日、おめでとーっ!!>

 

そう自分を祝ってくれる言葉を聞いた

彼らを担当して、初めて聞いた時は少々煩わしく思っていたかもしれない

けど、今はどうだ

 

木山は溢れる涙を堪えきれなかった

 

<ありがとう! 木山せんせー! …大好きだよ!!>

 

そう絆理の声を聞いた

心から思うのだ

 

助け出せて―――よかった、と

 

 

「…ふふ」

 

上空でアラタはそのサプライズを聞いていた

だいぶあの子たちも元気になってきたみたいだなぁ…と思いながらアラタは橋の上に集まっている美琴たちを見つけ出した

アラタはゴウラムに言ってその橋近辺へと移動させる

 

「あ! アラタさんズルいです!」

「そうですよ! 来ないなぁって思ってたらまさか空から来るなんて!!」

 

佐天と初春からそんな声を貰うがアラタは笑いながらスルーする

ゴウラムから降りた彼は改めて挨拶する

 

「とりあえずおはよう、美琴、黒子。んで涙子に飾利」

 

「よっす。…ていうかこんなことでゴウラム使わないでよ、全く」

「そうですわよ、言ってくださればこの黒子がお迎えに行きましたのに!!」

 

本日も黒子は平常運転

そう言えばこんな感じだったな、とアラタは思い出した

 

「そう言えばアラタさん。…前から聞きたかったんですけど―――」

 

おずおずとした様子で初春は口を開いた

 

「うん?」

「…その…私と佐天さんを名前で―――」

 

そう

変わった所は初春と佐天の呼称である

彼は基本的には名前で呼ぶ

呼びやすいことに限ったことではないのだがアラタはこの二人に関しては純粋に呼びやすいから呼んでいたのだが

 

「んー…美琴と黒子は名前なのに、二人だけ苗字なんてなんか悪いと思ってさ」

「アラタさん…」

 

佐天が思わず苦笑いをする

初春もどこか頬を染め小さく笑んだ

 

正直に言えば呼び方を改める機会がなかっただけなのだが

この際、そういう事にしてしまおう

 

「…それじゃ、皆も集まったし…」

 

美琴は背伸びしつつ、それぞれの顔を見渡していった

 

 

 

「今日は、どうしよっか?」

 

 

 

学園都市

ここは本当に―――退屈しないな―――

 

◇◇◇

 

「…あの」

 

神裂火織は戸惑っていた

日本のどこか、うどん屋さんにて

 

目の前で思いっきりうどんを啜る男性を見て神裂はどこかげんなりした様子で

 

「き、聞いてます?」

「うん? あぁ、ひいてふふぉ(聞いてるよ)

 

うどんが口の中にまだ残ってる

本当にこの人が〝猛士〟のエースなのだろうか

確かに割と年配そうでベテランっぽい雰囲気が漂っているのだが今の姿だけを見てしまえばただのおじさんだ

 

「…それで、その。引き受けていただきますか?」

「うん。なんだっけ…魔化魍退治…だっけ」

「えぇ。イギリスへと入り込んだ魔化魍と呼ばれるものを退治していただきたく貴方をお尋ねしたのです」

 

古来より、この日本にはそう言った化け物を退治する専門組織がいるという話を聞いていた

魔術にも精通し、人知れず活動するその組織の名を〝猛士〟というらしい

 

ひとしきり話を聞いた彼はうどんを食べ終えて箸をどんぶりに乗せる

そしてナプキンで口元を拭くと「よしっ」と言いながら席を立つ

 

「あ、あの?」

「あれ? 行かないの?」

「いえ、そういうわけでは…。その、引き受けてくれるのですか?」

「うん、仕事だし」

 

結構軽い感じでびっくりだ

てっきりもっと何か言われると思っていたのだが

 

「と、とりあえず引き受けてくれるのなら構いません。そう言えば私、まだ貴方のお名前を伺っていないのですが…聞いても大丈夫ですか?」

 

「あぁ、俺かい? 俺はねぇ―――」

 

 

 

―――響鬼ってんだ

 



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妹達編
#24 ある夏の一日


グダグダ注意
今回から禁書編


そしてシスターズ編導入部
短いがお許しを

ではどうぞ



夏の夕暮れにて

 

上条当麻は路上に立つ自販機の前に突っ立っている

その傍らには鏡祢アラタ

傍らに立つ彼は笑いを堪えているように見えた

 

「…なぁ、今目の前で何が起きてるんでせうか」

「さぁな。…つうか分かってるだろうが」

 

ああそうだ

アラタに聞いたのは目の前の不幸(げんじつ)から逃れたいだけである

喉が渇いた当麻は道端に設置してあった自動販売機に二千円をブチ込んだ

何故二千円かというとどういう訳だか今どき珍しいお札、二千円札を当麻は所持していたからである

千円札が多い昨今、二千円札を持っている当麻もすごいがそんな二千円札を読み込んだ自販機もすごいのだが

話を戻す

その二千円札を滑り込ませたまではよかった、うん、よかったんだそこまでは

だがしかしそれを取り込んだ自販機は全くうんともすんともアクションを起こさない

あれ、と思った当麻は釣り銭レバーをガチャガチャさせるが時すでに遅し

 

率直に言おう

上条当麻は自動販売機に二千円札をゴックンされたのである

うん、可愛く言っても駄目だ

 

「…もしかしたら思いっきり叩けば出てくるとかないかな?」

「出てくるだろうな。警備ロボットが」

 

アラタの指摘にがっくりする

そう、ここで八つ当たりみたいにこの自販機に手を上げれば警報が鳴り響く展開を読めない当麻ではない

肩をがくりと落とす当麻とそんな当麻の背中を眺めている二人の後ろから革靴の音が聞こえてくる

 

「おいーす。…あれ、飲まないの?」

「うっす美琴。まぁちょっと待ってくれ、今うちの友人が懸命に闘っているのを内心で笑いながら応援しよう」

「ヒドイ! 俺にはこれに生活が懸かってるかもしれないのにっ!!」

 

声をかけたのは女の子だった

無化粧な整った顔立ち、半袖の白ブラウスとサマーセーター灰色のスカートを着こなしている

それは名門中学常盤台のものだ

名前は御坂美琴

美琴はすっかり夏の暑さにまいってるような表情で当麻を見やる

 

(…アラタ。誰だこの人)

(あ、そうだった。…忘れてたぜ)

 

当麻本人に問われそう言えば、とアラタは思い出す

上条当麻は記憶喪失である

何故記憶喪失になってしまったのかの説明は省くが、彼には七月二十日以前の記憶がないのだ

 

(御坂美琴っていうんだよ、俺の友達。お前とも割とフランクな関係だからそこんとこよろしくな)

(マジでか。上条さん的にはお前に女の子の友人がいたことに内心驚きたい)

(引っぱたくぞテメェ)

「ちょっとー? 何さっきからこそこそ話してんのよー」

 

美琴の声が聞こえる

慌てて当麻はアラタとの内緒話を中断し彼女に向かって

 

「え、えっと! な、なんだっけ!」

「御坂美琴だと何度言ったら―――…もういいや、この暑さの中で突っ込んだら余計暑くなる」

 

いつものように雷でも放とうと思っていたのか一瞬彼女の周りには雷が迸った、がこの暑中に観念したのかそれを断念する

 

「ともかく買わないならそこどいてどいて。私はその自販機に用があんのよ」

 

と、言う事は彼女もその自販機にマネーを投入すると言うのか

そのことに引け目を感じたのか当麻は美琴に言い出す

 

「あ、えっと。その自販機飲み込むらしいぞ?」

「知ってるわよ? …あれ、アンタ知ってたんじゃないの?」

 

そう言って彼女が見たのは鏡祢アラタである

え、と内心驚きつつ、信じられなーいと言った表情でアラタを見つめた

 

「お、俺を裏切ったな!?」

「いやいや。聞かれなかったからさー」

 

どこぞの白いアクマスコットみたいなことをさらりと言いやがりましたよこの人は

や、確かに聞かなかったけどもさ

 

「この自販機に裏技があるのよ。お金入れずともジュース出す裏ワザが」

 

その言葉に当麻は冷や汗をかいた

何故ならその裏ワザはものすごく不安な予想しか生まないのだ

その証拠にアラタは普段から見慣れているのかやれやれと言った様子

そしてそんな当麻の不安は見事に的中することとなる

 

「ちぇいさーっ!!」

 

そんな掛け声と共に繰り出された上段回し蹴りが件の自販機の側面にぶち当たる

その後ゴトン、と取り出し口に何かが吐き出された

缶ジュースである

 

「古いからかは分かんないけどね、ジュース固定してるバネが緩んでるらしいのよねー。この方法、何が出てくるか分かんないギャンブルなのが難点なんだけど」

 

因みにスカートの下は短パンだった

そんな様子にも一切ガッカリとかせずアラタは苦笑いしている

そして悟る、こいつ見慣れてやがる、と

 

「あれ、そういやさっきガチャガチャしてたのって…アンタ、飲まれたの?」

 

すっかり忘れそうになっていたことを思いっきりぶり返してきやがりました

それに応えることなく当麻はズーンとしている

 

「…まぁ知んなかったししゃあないか。それで、いくら呑まれたのよ」

「あぁ、今時珍しい二千―――」

「やめてよして言わないで三段活用!! そんな事言われた日には上条さんはもう立ち直れないッ!!」

 

しかしアラタはもうほとんどを口に出していたわけで

おまけにそいつはがっつりと美琴の耳に入っていて

 

「は? 二千円…? なんでそんな中途半端な…ってっもしかして、二千円札!? 嘘、まだあったのそんな都市伝説みたいなお札!? ちょ、そりゃ流石に自販機だって飲み込むわよそんなレアな札来たらさ! あはははっ!」

 

思わず腹を抱えて笑ってしまった美琴を苦笑いで見守るアラタ

その近くでうわー! と頭を抱える当麻

あぁそうだ、だから二千円なんて言いたくなかったんだ

スマイルゼロ円な某ハンバーガーショップの女性店員さんでもこんなお札出されたら流石にその笑顔が凍りつく

 

「はははっ…。おっけー、じゃあその二千円札が出てくることを祈りつつ。あ、けど千円札二枚出てきても文句言わないでよねー」

 

そう言いながら美琴は自動販売機の硬貨を入れる口に手を添えた

しょぼんとしている当麻を尻目に、ふとアラタは疑問に思ったを事を口にする

 

「ところでどうやってお金を取り出すんだ?」

「んー? それはねー…こうやって」

 

一度笑顔を見せたあと朗らかに彼女は添えた掌から雷をぶっ放した

 

ほぼゼロ距離なその雷は確実に自販機を捉える

人ひとりでは持てないようなその自販機はまるでぶるぶるするブレードのように揺れまくる

そして金属の隙間とか何やらからいかにも壊れとるわいと自己主張するようになんかヤバい煙をもくもくと湧き出てきた

 

当麻は真っ青になった

アラタは苦笑いするしかなかった

 

「…あれ? そんな強く撃つつもりなかったけど―――あ、なんかいっぱいジュース出てきた。わ、これって確実に二千円以上の量よこれ」

 

アラタは無言で彼女の手を取り、そして同時に当麻と一緒に走り出した

理由など言うまでもない

ここまではっきりわかったオチなんて考えるまでもないのだ

 

「あっと、ちょっといきなり何すんのよアラタっ!」

「ここから先の展開が読めないお前でもないだろうが…」

 

走りながらやれやれといった様子でアラタは美琴に言い返す

 

数秒の後

自動販売機は蹴られた恨みじゃーと言わんばかりに警報を大音量で叫びだした

 

 

どこまで走ったかは覚えてない

時間にしておおよそ十分くらいはトマラ〇ナーみたいに走っていたと思う

ふと気は付くと三人は繁華街のバス停留所、そのベンチに腰を下ろしていた

何気なく空を見る

飛空艇に取り付けられた大画面は、筋ジストロフィーの病理研究を行っていた水穂機構は業務より撤退したことを表明しました、なんてことを垂れ流す

 

「ちょっと。ジュース持ちなさいって。もともとアンタのやつでしょこれ」

「俺はお金入れてないから全部当麻のだな」

「鬼かアンタら! てか熱っ!? なんであったかいおしるこが混じってんの!?」

「誤作動狙いだからね。選べないのよ」

「まあガラナ青汁とかいちごおでんとかやってこないだけで十分幸運だよ」

 

マジか、とがっくり肩を落とす当麻

学園都市は大きく言い換えると実験都市でもあるのだ

数ある大学や研究所等で制作された商品のテストとして街中にはゴミの自動処理とか自動で走る警備ロボットとかの実験品に溢れかえっている

 

「あ、このヤシの実サイダー貰っていい?」

「…うまいのかそれ」

 

当麻の腕の中にあるそんなサイダーを引き抜きつつ、当麻は疑心の眼差しでそのサイダーを見る

 

「えぇ。結構イケるわよこれ」

「じゃあ俺もなんか貰おうかなー」

 

選べない、というギャンブル性をを逆手に取り、アラタは目を閉じて何が取れるか分からない、というそういった賭けに出た

正直に言って分の悪い賭けかもしれない、しかしそんな賭けも嫌いじゃない

 

「これだ!」

 

そう言ってアラタが当麻の腕にある膨大なジュースから引き抜いた一本は―――

 

「チョコレートドリンク?」

「…うわ、甘そーなの引いたわね」

 

甘そー、ではなく間違いなく甘ったるいだろうと予想できる逸品を発掘した

ていうかなんでこんなもん作ったんだよこんちくしょー

チョコレートという素材なんて甘いに決まってるじゃないか、なんだ、固形化に飽きたのか学園都市

だから液状化などに走ったのか、ちまちま食べるでなく一気に喉に流し込みたいのかこんなものを

 

「あ、そだ」

 

とりあえず冷蔵庫にこいつをブチ込んで未那にでもあげてやろう、と心に決めながらふと思い出したことを口にした

 

「枝先の具合はどうだ? だいぶ回復してきたんだろ?」

「あぁ、枝先さん? えぇ、もうそろそろ退院もできるだろうって」

「そっか。よかった」

 

枝先絆理

彼女は美琴とアラタの共通の友人である

彼女との出会いのいきさつは省くが、ある研究者が行った実験により意識不明の重体に陥ったのだが、美琴やアラタ、そして太陽の子らの活躍によりその研究者は拘束され、枝先とその友人の子供たちも意識を取り戻したのだ

現在は長年寝たきりだった身体を満足に動かすべく入院しリハビリに励んでいるらしい

一度お見舞いに行く機会があったのだが、その日は燈子に面倒事を押し付けられ赴くことが出来なかったのである

 

そんな二人の会話を当麻は眺めていた

気さくな関係とはなんとなく知ってはいたがすっごい仲が良さそうなのだ

特にそれといった他意などはなく思ったことをそのまま当麻はぶつけてみることにする

 

「なぁ、つかぬ事聞くけどさ」

「うん?」

 

アラタが振り向く

それに合わせて美琴もヤシの実サイダーを飲みつつ当麻に視線を向けた

 

 

 

「もしかしてお二人は―――恋人とかってやつ?」

 

 

 

ぶふぉあ! と盛大にむせる

美琴も美琴で思いっきりむせかえり思わず胸をとんとんと叩く始末である

 

「な! 何言ってんのよアンタ!」

 

思わず美琴は掴みかかりそうになる、がジュースを持っていたことに気づきそれを断念する

 

「こ、こいつとはあれよ! 遊び仲間みたいなもんよ! そうよ、友達よこいつとは! …だ、だよね?」

 

何故同意を求める

けほけほ、とアラタは席をしながら彼は

 

「まぁ、そんな感じだな。それとも戦友って言った方がいいか?」

「そうね、戦友ね! …うん、戦友」

 

なんでか自分でいって僅かばかりにしゅん、とする美琴

どうかしたのだろうか、と思ってなんとなく聞いてみようとするが先に当麻が口を開いた

 

「わ、悪かったって。変な事聞いちまったよ」

 

流石にここまでテンパるとは思わなかった当麻は手でどうどうと言ったジェスチャーをしつつ、

 

「お姉様?」

 

不意に耳に届いた無機質な声が彼らを貫いた

ベンチの後ろ、振り返ると―――もう一人

 

〝御坂美琴〟が立っていた

 

 

「は?」

 

一番驚いたのは鏡祢アラタである

お姉様、などと彼女を呼ぶのは黒子くらいしかいないと思っていたが

結構付き合いは長いと自負していたがまさか彼女に妹―――双子?―――がいるとは思わなかったのだ

服装、体つき…どこをとってもそこに立っていたのは御坂美琴だ

だが、ふとアラタは自分を姉と言った妹を睨んでいる美琴を見た

よく見ると僅かばかりに震えているようで、おまけに驚いているようにも見えた

 

一触即発

そんな空気を破壊するべく口を開いたのは上条当麻だった

 

「えっと…どちらさま?」

「妹です、と間髪入れずに答えました」

 

なんか変な口調だな、と素朴な疑問を心にしまう

それ以前に変な口調でしゃべる人物は割と自分たちの周りに結構いるのな、と気づくのは後の話

 

と、そこまで黙っていた御坂美琴が唐突に声を荒げた

今まで聞いたことないくらいの怒声が

 

 

 

「なんでアンタがこんなとこ歩いてんのよっ!!」

 

 

 

思わず当麻と二人、その叫びにのけぞった

劈く言葉に驚きながらアラタは美琴を、当麻は妹の方をそれぞれ仰ぎ見る

それっきり、美琴は黙った

違う、黙ったわけではない

待っているのだ、妹の返答を

嵐の前の静けさ、とはこの事か

 

やがて直立不動のまま、妹はぼんやりと呟く

 

「何か、と聞かれれば、研修中です、とミサカは簡潔に述べます」

「けん、しゅう…!?」

 

息を詰まらせ、彼女は視線を逸らす

 

「嘘…! だって、研究所は大堂さんたちと―――!!」

 

そう言った呟きは、アラタと当麻の耳には届くことはなかった

 

「研修? 妹さんは風紀委員にでも入るのか?」

「え? けどそんな情報は―――」

 

「アラタ!!」

 

その叫びに、思わずたじろいだ

すぐに美琴は「ご、ごめん」と言った後、彼女は妹の手を掴み

 

「…私ちょっとこの妹と話すことがあるから…、その…またね」

「? いえ、ミサカにもスケジュールが―――」

「―――来なさい」

 

そう言った美琴の声は驚くほど平坦だった

ちらり、と美琴は当麻に視線をやって、アラタに視線をやる

そこにいた彼女は、いつもと同じ彼女の表情(カオ)

 

「そんな訳だから…じゃあ、また」

 

たどたどしく口にした彼女は妹を連れて駆け足で走って行く

当麻はベンチに腰掛けて、空を飛ぶ飛空艇を眺めながら

アラタは今も去っていく彼女の背中を見送りながら

 

「複雑なご家庭…なのか?」

「さぁ…な」

 

今も走る彼女の背を見ながら、アラタはそんな事しか呟けなかった

 

 

終わったと思ってた

思わぬ所からの協力もあり関わっていた研究所も可能な限り破壊し、そういった実験は終わったと思っていた

 

しかし、アイツはなんといったのだ

研修だって?

 

その言葉から連想されることは一つ

 

それは―――終わってなんかいないと事実

 

今度はあの時とは違って、しっかり四人を見据えてる

視界にちゃんと入ってる

それでも―――自分は戦うと決めたのだ

 

「お前は表にいるからこそ輝く女だ」

 

そう彼らから言われた言葉を思い出す

 

表、か

こんな実験に無意識に関わっていたと知れたらアイツはどんな反応をするのだろう

そう考えかけて首を振る

 

巻き込まないと決めたのだ

先ほどのツンツン頭と一緒にアイツはいる方が似合っている

 

いつも笑顔を守ってくれてるように

少女は彼の笑顔を守りたいんだ―――

 




響鬼の登場を期待していた人申し訳ない

いずれちゃんと出てくるから待ってくれ!

ではでは


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#25 レディオノイズ ~その男、通りすがりにつき~

今回も無理やり感が否めない

申し訳ない

誤字脱字等ありましたら報告を




問題は山積みなのでありました

冷静に考えてみるとそう言えばこのベンチの上に積まれている約十九本の缶ジュースである

流石にかわいそうになったアラタは約半分の九本くらいを持ってあげた

そんな訳で赤い夕暮れの街並みをジュース抱えてのんびり歩く姿は正直シュールである

 

割と冷たいジュースとは意外にも長時間持っていると体の体温を奪っていく

確かに時期は夏ではあるが、流石に缶ジュースで凍傷とか笑えない

と、いきなり当麻がずっこけた

誰かが遊んでそのまま放置していたテニスボールを運悪く思いっきり踏んづけたのだ

手の中にあるジュース缶をぶちまけダイレクトに背中を打った当麻はゴロゴロとのた打ち回る

こうまで彼が不幸だとさすがにアラタも笑えない

っていうか前より不幸がマッハな気がしている、と思うアラタだ

 

「うー…いってー。俺が何したんだよ…」

 

手伝いたいのも山々だが今アラタの腕もジュースで埋まっている

一人しょぼんとジュースを回収する当麻を見ているとひとりの人影がその二人に近づいた

 

「うん?」

 

とアラタは首を向ける

そこには御坂美琴―――の妹さんが立っていた

 

一見、見分けがつかないが、妹と美琴の外見的違いは頭につけているヘッドギアだ

割かしカッコいいデザインは見分けるのに十分である

 

そんな妹さんはアラタに向かって軽く一礼をして後、当麻に

 

「必要あれば手を貸しますが、とミサカはため息を吐きつつ提案します」

「え? あ、妹か。…にしてもお前ホントにアイツに似てるのな」

 

当麻の言葉に妹は首をかしげつつ

 

「アイツ…あぁ、お姉様の事ですね? とミサカは確認を取ります」

「いや、他にいないでしょう」

 

そんなマイペースな妹にアラタは面食らいながらふと気になったことを妹にぶつけてみる

 

「あれ、けどさっき美琴に連れてかれなかった?」

「ミサカはあちらから来ましたけれど? と来た方向を指差します」

 

そう言って妹は通りの向こうを指差した

見当違いの方向だった

 

当麻とアラタは顔を見合わせながら頭に疑問符を浮かべる

 

「それで散らばった缶ジュースはどうするのです? とミサカは問いかけます。必要なら手も貸しますが、とも付け加えます」

「え? いいよ、流石に。半分はアラタが持ってくれてるし大体お前が手伝う必要性なんてないだろ?」

 

その時運悪く軽トラックが走ってきた

軽トラは当麻たちの前で止まると乱暴にクラクションを鳴らす

そのクラクションを聞いて妹は無言で缶ジュースを拾い始めた

一瞬何か言いたげな当麻だったがクラクションがうるさいからかそれを喉の奥にしまい込む

平等に二人で半分づつ缶ジュースを持つことにした

 

「…あれ?」

 

いつの間にか缶ジュースを多く持っているのはアラタになってしまった

いや、別にいいんだけど

 

缶ジュースを回収し終えると軽トラは怒ってる様子を隠さずに乱雑に発進した

 

「それで、このジュースはどこまで運ぶのでしょう、とミサカはジュースを抱えて問います」

「あぁ、だからいいってば。お前が運ぶ義理とか―――」

「早くしなさい」

 

言葉が鋭くなった

思わず助け船を期待して当麻はアラタを見る、が彼もやれやれと言った感じで首を振った

ハァ、と諦めて御坂妹に荷物を持ってもらうことにする

 

そんなこんなで学生寮のエレベーターの前にやってくる

本数の少なくなった当麻が先にエレベーターに入り、七階を押した

そして残った妹とアラタが乗り込み三人は七階へと向かっていく

当麻やアラタの住むこの学生寮の形は長方形だ

故にエレベーターを降りると道は直線通路しかない訳だ

因みに直線通路、当麻の部屋近辺の手すりの金属は不自然なくらい真新しいものになっている

何故そんなことになっているかというとどこぞのバーコード神父が炎を用いて吹き飛ばしたからである

 

ふと、当麻の部屋の前でインデックスと巫女服を着ている女の子が向かい合うようにしゃがんで猫とじゃれついていた

二人に挟まれた三毛猫は少女二人の手に撫でられてゴロゴロしている

 

「…おい、部屋の鍵でも失くしたのかよ」

 

当麻が声をかけると巫女さんとインデックスがこちらを向いた

 

「あ、とうま。違うよ、スフィンクスにノミが付いたから取って―――ってまたとうまが知らない女の人連れてる!?」

 

そんな叫びをしたのがインデックスと呼ばれる十四歳くらいの女の子だ

偽名マックスな彼女は見た目紅茶カップのような白地に金刺繍という豪華な修道服を身に纏っている

彼女は魔術の世界では禁書目録と呼ばれており、上条当麻の居候相手でもある

もっとも、今の当麻からしたらいつの間にか居候になっていた女の子、という事になるのだが

 

「もはやそう言う星の下に生まれたのかもしれない。息を吐くようにフラグを構築していく」

 

こちらののんびりと口を紡いだのは姫神秋沙

長い髪に巫女装束という割とぶっ飛んだファッションをしている彼女だが首から下げた大きい十字架だけは妙に浮いていた

これは後にインデックスから聞いた話なのだがあのケルト十字は姫神の内に宿す力、吸血殺し(ディープブラッド)を抑えるべく制作されたものらしいのだ

その力を巡って厄介事に巻き込まれたらしいが、そこを上条当麻に救われた…

まぁすごく簡単に言うとこんな感じだ

そして姫神を救うべく奮闘した当麻に手を貸したあるキバった仮面ライダーがいるらしいが、アラタは知る由もない

 

因みに、姫神とアラタはここで会うのが初めてである

 

「…えと、どちら様」

「あぁ、そういえばアラタは初めてだっけ。この巫女さんは姫神秋沙、ちょっと前に知り合ってさ」

「はじめまして。私は姫神秋沙。お見知りおきを」

 

そう言って礼儀正しく一礼する巫女さん秋沙

思わずアラタもつられて礼をしつつ、名を名乗った

 

「こ、これはどうもご丁寧に。鏡祢アラタと申します」

 

その後握手を求められたが自分の両手は缶ジュースに塞がれていたという事実に気づき握手を断念した

そして姫神はそんなジュースを見て当麻に聞いた

 

「ところで。そのジュースは一体? 水が飲めない口?」

「ちげーよ。それにジュースのが身体に悪いし」

 

当麻はため息をつきつつ、アラタが持っているジュースの山から一つ甘いものを抜き取るとインデックスにそれを渡す

 

「ほらインデックス。甘いのはお前の担当だろう」

「むむ。ジュースは好きだけどこの〝ぷるたぶ〟っていうのは嫌い。とうまとうま、開けて」

 

現代の文化に馴染んでいないインデックスはプルタブが開けられないようだ

開け方が分からない、とか単純に力が弱いとかでなく無理に開けようとすると爪が割れそうで怖いから、との事

まぁ、分からんでもない

そんなインデックスは当麻の横で飲み物を持っている御坂妹へ視線をやって

 

「それにしてもとうまはワケあり少女との遭遇率が高すぎるんだよ。関わるなーって言っても聞かないと思うし。それで? その子はどこのどなたなの?」

 

「私的見解としては。謎の組織に狙われる薄幸少女の予感」

 

普段の当麻の不幸ぶりが露わになる的を得た答えだった

思わず笑う自分がいる

 

「そこ、笑うな。 誰でもなんでも不幸扱いにするなお前らも」

 

そこで思い出したように当麻がインデックスを見て

 

「それで、三毛猫にノミが付いたっていう聞き捨てならないことを聞いたような気がしたんだけど」

「うん。朝起きたらスフィンクスがノミだらけ。とうまの布団の中がきっと大変なことになってると思う」

「思うじゃなくて! 何という事をしてくれたのでしょうこのシスターさんはっ! その前に布団に猫を入れるなよ抜け毛でエライ事になるから! ていうかなんか身体のあちこちがかゆいなー、なんて思ったら原因はそいつかーッ!!」

 

恐らく当麻の布団の中身は増殖繁殖したノミの魔窟になっている事だろう

喚く当麻を尻目にふとインデックスは袖から緑色の葉っぱを徐に取り出した

 

「…えっと、インデックス? そいつは…」

「セージって言うんだよ? 結構そこらに生えてるんだけど、あらた見たことない?」

 

学園都市では能力開発に薬物を用いるのは基本である

因みにセージとはシソ科の多年草であり地中海地方原産、サルフィア葉と呼ばれる葉の部分は薬用として使用し、香辛料や観賞用として栽培されることもあるのだ

 

「セージには浄化作用があるんだよ。それを用いて魔女学のごとくノミを追っ払うの」

「? …その、どうやって?」

 

そうアラタが聞くとインデックスは満面の笑みを浮かべ言葉を続けた

 

「うん。セージに火をつけてスフィンクスを煙でいぶして、ノミを追っ払うの」

 

「…。え?」

 

「あ、流石に部屋ではやらないよ。そこまで私も非常識じゃないんだもん」

 

内心苦笑い、表情青ざめつつ、アラタは固まった

 

「アラタくん。そこは突っ込み所。このままでは。猫の香草蒸しの出来上がり」

 

そう姫神に指摘されハッとする

 

「そ、そうだよインデックス。そんなことしたら猫も一緒にお陀仏だよ」

 

内心姫神に安堵しつつ、当麻の交友関係は多彩だなぁ、と感心する

よかった、彼女は自分と同じツッコミだ―――

そう思っていた時期が自分にもありました

 

「…姫神さん。その袖から出しうる奴はなんですか」

「魔法のスプレー」

 

・・・

どう見ても殺虫スプレーじゃないですかーやだー

 

「てゆうかなんでゴキ二秒でぶち殺す試作スプレー持ってるんだ! 何、アンタ友人の顔に蚊が止まったら迷わず殺虫剤吹き付けるのか!?」

 

?を頭に作って顔を見合わせる姫神とインデックス

そんな二人を見てアラタは当麻へと視線を移す

向けられた当麻はやれやれといった表情でアラタを見返した

 

何が辛いと言えば二人とも真剣に考えての事だから余計辛いのだ

 

「議論を交わすのなら先にジュースを下ろしてからの方が効率的では? ミサカは提案します」

 

唐突に今まで黙っていた御坂妹が口を開いた

 

「…まぁそれもそっか。当麻、部屋開けてくれ、冷蔵庫に入れてくる」

「おう、わかった」

 

アラタに言われ当麻は部屋のカギを開ける

そしてアラタはその部屋に入ってすぐの場所にある冷蔵庫に缶ジュースを入れてくる

一通り自分の分を入れると一旦部屋の前にいる二人の所へ戻り、二人が持ってた缶ジュースを受け取ると再び当麻の部屋の冷蔵庫にしまってきた

 

「…それで猫についての対処法ですが」

 

アラタが戻ってくるタイミングを見計らってか御坂妹が口を開いた

 

「おっとそうだった。何か知ってんの?」

「知っているも何も市販のノミとり薬を使用することを推奨します。粉状で振りかけることによりノミを落とすタイプのものがあったはずです、とミサカは助言します」

「けど薬だろう? どのみち猫にとっては有害っぽくないか?」

 

御坂妹は無表情のまま告げていく

 

「この世に有害でない薬など存在し得ません、とミサカは即答します。ノミか薬か、と問われれば前者の方が深刻と捉えます。さらにノミやダニなどの害虫被害は皮膚炎を起こすだけではならず、最悪命に関わるほどのアレルギーを作る引き金を作る可能性もあります、とミサカは補足します」

 

むむぅ、と当麻とアラタは互いの顔を見て黙り込む

抗生物質の乱用は免疫力の低下に繋がると言われても高熱にうなされたら服用するしかない、という理屈は分かるのだが

 

「ようは薬を使わなくても猫の表面からノミを落とせばいいのですね? とミサカは確認します」

「え? あ、あぁ。だけどどうやって?」

 

こうやって、と彼女は猫の方に手を向けた

瞬間彼女の掌からパチンっ! と静電気が弾けるような音がした

するとパラパラとホコリのように猫の体表面からノミの死骸が落ちていく

全身の毛を逆立てたスフィンクスはバタバタと暴れたのち、思わず七階からフライする瞬間に姫神に掴まれた

 

「特定周波数により、害虫のみを殺害しました、とミサカは簡潔に述べます。このタイプの虫除け機械は大手量販店で割と普通に市販されてるので安全面の心配も大丈夫でしょう」

 

そう言った後御坂妹は一度ドアの方を眺め

 

「室内の方は煙が出るタイプの奴を使えば簡単に駆除できると思います、とミサカは助言を加えておきます」

 

では―――と彼女は感謝の言葉を聞かずに背を向けて颯爽と立ち去っていく

少女の後姿を目で追ったインデックスはぽつりとつぶやく

 

「あれがきっとパーフェクトクールビューティーって奴なんだね」

 

インデックスに言われアラタはそれに答えた

 

「異議なし。…ハードボイルドだぜ」

 

そんな事をボソリと呟くアラタの隣で当麻はインデックスに向かって呟いた

 

「…少しでいいから見習ってください」

「…切実な。願い」

 

◇◇◇

 

とあるヘリコプター内部

運転席に座って操作をしているのは神裂火織の後輩でもある五和と呼ばれる少女である

五和は天草式十字凄教と呼ばれる組織の一員であり、神裂火織はそれのリーダーでもある女教皇なのだ

しかし今現在神裂火織は離脱してしまったために、別の人物がその代理を務めているのだが

それでもこんな小さいことでも頼られることは嬉しかった

 

「ありがとうございます。五和」

「いいえ、いいんです。お役に立てたなら何よりですから」

 

神裂は学園都市への移動手段として五和にお願いし、ヘリコプターでの移動を頼んだのだ

そのお願いを五和は快く快諾し現在は空をヘリで飛んでいるわけなのだが

 

そこでふと、先ほど学園都市へと送ってきた一人の男性、響鬼の事を思い出す

イギリスで件の魔化魍を退治したのち、彼はふと気になっていた都市として学園都市の名を挙げた

その後で彼はその場所へと言ってみたいと言ったのだ

神裂は魔化魍を退治してくれたお礼として彼を学園都市へと送迎し、今自分たちは戻る途中なのである

 

「…しかし、人は見かけによらないものですね」

「そうですねぇ…。確かに私も最初その人を見たときはちょっとって思っちゃいました」

 

しかしふたを開けてみるとどうだ

ベテランの名に相応しき堂々とした戦いぶり、圧倒的なまでの力強い一撃

その活躍は事前に持ったイメージを払拭するには十分だった

 

そう思ったとき、ふとあの少年を思い出した

右手一つで自分に向かってきたあの少年を―――

 

「―――ほぉ、ここが学園都市か」

 

ヘリの中の空気が変わる

いつからそこにいたのか、まったく気配を見せず、自分の隣の席に一人の男が堂々と腰を下ろしていた

神裂は付近に携えていた七天七刀を突きつけた

どういう事だ、と神裂は思考を巡らせる

その席は響鬼がここに送ったときに座っていた場所のはずだ

しかし今座っているこの男、理屈は分からないが〝いつの間にか〟座していたのだ

 

「答えなさい、貴方は誰、いえ、何者です」

「通りすがりの…なんだ、旅人だ」

「答えになっていません、それでこの状況を乗り切れるとお思いですか?」

「乗り切るも何も、そうとしか言えないんだから仕方ないだろ。昔は破壊者だなんて言われたが、もう飽きたしなー」

 

そう軽い調子で応える男

見た目は赤っぽいシャツに黒いコートに黒いズボン、何よりも目を引くのが首にかけられた二眼レフのトイカメラだ

それに加えて男自身もひょうひょうとしているようで全く隙がないのだ

 

(…この男、出来ますね)

 

そう考えた瞬間だった

その一瞬の思考の隙をついたのか、その男は飛んでいるヘリのドアを開け放ちそこから飛び降りたのだ

 

「! 五和、貴女は先に戻っていなさいっ!」

「え? ちょ、女教皇(プリエステス)!?」

 

そんな五和の制止を聞かず、彼を追うように神裂もヘリコプターから飛び降りた

また空中にいた男に、何らかの影が重なった気がしたがその時の神裂は知る由もなかった

 

◇◇◇

 

時刻は午後六時四十分

もうそろそろ当麻の補習は終わっていそうだな、などと思いながらアラタは特にやることもなくその辺をうろうろと歩いていた

ちらりと彼は風力発電のプロペラを見た

特に風が吹いているわけでもないのに、そのプロペラはのんびりとくるくる回っている

 

「おっすーアラタ、アンタも補習帰り?」

 

人混みの中からこちらを見つけた御坂美琴は駆け寄ってくる

対するアラタは笑いつつそれを否定した

 

「違うよ、ただ当てもなくブラブラしてただけだ」

「そうなの? じゃあちょっと付き合ってよ。一緒に歩くだけでいいからさ」

 

特に断る理由もないアラタはそれに快く応じる

しかしこういった場所を得るべくどれほどの男が努力しているのかアラタは知らない

一瞬、妹の事を聞くべきか迷ったがアラタはそれを心の奥にしまいこむ

今聞いたらなんかややこしいことになりそうだからだ

 

その道中を一緒に歩きながら二人はそれこそなんでもないありふれた会話が紡がれた

やれ今日は黒子がどうだの、格闘ゲームでのキャラはどれが使いやすいか、だのどこにでもありそうな会話がなされた

言葉を紡いでゆく彼女の顔は笑顔だった

いつも見ている、笑顔だった

 

そこでふと、アラタの視線が空に行った

釣られて美琴も空を見る

視線の先には飛空艇があった

そんな船のお腹には大画面がつけられておりその画面に表示されているのは筋ジストロフィー関連の研究施設は二週間で約四件が撤退表明を出しており―――みたいな、そんな感じのニュースをやっている

 

視線が空に行ってしまったからかそこで会話が途切れた

ぼんやりと眺めていると不意に、美琴が呟く

 

「私、あの飛空艇って嫌いなのよね」

「え? なんで?」

 

アラタは眺めながら美琴に聞いた

なんでもあれは学園都市の統括理事長が〝もっと学生にも時事問題を知ってもらうため〟に飛ばしたらしいのだが

 

「…機械が決めた政策に、人が従ってるからよ」

 

忌々しいものを吐くように彼女は応える

思わずアラタは彼女の顔を見た

しかし特におかしいところはなかった

 

「…樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)、だっけか」

 

樹形図の設計者

分かり易く言うなればそれは世界で一番賢いスーパーコンピューターの事を指す

より完全な天気予報を使うために作られたシミュレーター

天気予報、なんていえば身近に聞こえるかもしれないが樹形図の設計者がやってるのは予言に近い

必要なデータを全部ブチ込めばそいつを演算し完全に天気を予測するのだ

そんなスーパーコンピューターは外敵からその身を守るために宇宙に漂っている

早い話、学園都市が打ち上げた人工衛星、それが樹形図の設計者である

 

「…けど、どれだけ高い演算能力があってもそれが人に牙を向くってのはないんじゃない? ATMが人の身を滅ぼすのが計画的に利用してなかっただけって具合でさ」

 

「…」

 

美琴は黙ったままもう一度夕闇を動く飛空艇を見る

いや、飛空艇を見ているのは分からないが、それでも彼女は夕闇の空を見上げている

 

「気象データ解析という名目で打ち上げられた人工衛星〝おりひめ一号〟に搭載されてる今後二十五年はどこにも抜かれないだろう、と言われている世界最高のスーパーコンピューター、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)…」

 

まるでパンフでも読むように、彼女は口の中で呟く

 

「―――なんて言われてるけど、実際そんな馬鹿げたシミュレーターなんて、存在してるのかしらね」

 

「…え?」

 

アラタは思わず彼女の顔を見る

振り向いた彼女の顔はいつもと同じような、朗らかな笑顔をしていた

 

「なーんてね。はは、ちょっと詩人になっちゃった」

 

そこにいたのは変わらない御坂美琴(かのじょ)だった

 

 

「少年、ちょっとそこの道を歩く少年よ」

 

美琴と別れて数歩歩くとまた横合いから声が聞こえた

立っていたのは革製のジャケットを着込んだ人当たりの良さようなまた二十代後半、もしくは三十代前半のおじさんだった

 

「…えっと、どちら様でしょうか」

「おっと。俺は通りすがりのおっさんだよ、よろしくな」

 

と言いながら彼はシュッ、と妙なポーズを取る

なんですかシュッって

 

「まぁそれはそれとして聞きたいんだけどさ、ここいらで家電とか売ってるお店知らない?」

「か、でん?」

 

家電とは

炊飯器とかミキサーとかそういったものを大雑把に纏めて家電という

間違ってるかもしれないが、大体あってると思う

 

「そう、家電。学園都市って科学の最先端都市でしょ? 俺家電好きでさぁ、ぜひこの都市の家電が欲しいの!」

 

まさかこのおっさんは家電マニアだと言うのか

確かにそういった家電はよくテレビとかで宣伝とかしてるが実際役に立つのだろうか、という疑問が残る

まぁそれをこの人に聞いたところで無駄だろう

 

「まぁ…俺が知ってる場所でよければ」

「助かるよ少年! あ、そだ,威吹鬼と轟鬼の分も買ってやんなきゃ!」

 

そんな事を耳に入れつつアラタはその人に家電店の道を教える

それを聞いた響鬼はやけに上機嫌で再びアラタに向かってシュッ、として走って行った

…だから何ですかシュッ、って

 

◇◇◇

 

夕闇の学園都市の最中

 

あるビルの屋上にその二人は相対した

一人は神裂火織

もう一人は旅人と名乗った青年だ

 

「…いつまで逃げるつもりですか」

「別に逃げてたわけじゃない。…まぁ、状況を考えれば逃げたことになるけどな」

 

青年は両手でやれやれ、と言った仕草をとる

その背中を見ながら神裂は考えた

もしかしたらインデックスを狙ったある組織の一員か、いや違うと否定する

仮にそうであるならばこんな所で会話になど興じないはずだ

それ以前に、あのヘリコプターに乗り込む意図が掴めない

ではこの男の目的はなんだろうか

インデックスの襲撃でないとすれば、あの少年とその友人を狙いに来たのだろうか

 

「この学園都市は渦巻いているな、いろいろと」

 

神裂が思案しているとき、不意に男が呟く

彼女は七天七刀の柄に手をかけ、出方を伺った

 

「一人一人が夢を持ち、憧れを胸にやってきて…現実に打ちひしがれる。夢のような、それでいて拷問所でもあるような、そんな都市だ」

 

夕闇を見つつ、その男は言葉を続ける

 

「けれどここで出会った絆は何物にも耐えがたいものとなる。能力があろうとなかろうと」

「…さっきからあなたは何をいってるのですか」

「アンタはどうだ」

 

神裂は目の前の男を見据えつつ、柄を持つ手に力を込める

そんな事を知ってか知らずか男は続けた

 

「何があるかは知らねぇが、迷ってるみたいだな」

「…貴方になにがわかるんですか」

「一つ言っておいてやる。仲間ってのはな、〝背負うもんじゃねえんだぜ〟」

 

その時の言葉は、今の神裂には分からなかった

言葉の真意を知るのは、本当に先の事

 

神裂は男を見据え、たった一つ聞いた

 

「貴方は―――何者ですか」

 

男は答えた

 

「―――通りすがりの仮面ライダーだ。覚えなくていい」

 

 

妙な格好のエロい女にそう言い放つと、男〝門矢士〟はそのビルから飛び降りる

落下しながら士は器用に用意していたカードをバックルに差し込んでそれを閉じるように動かした

 

<KAMENRAID DECEDE>

 

そんな電子音声が鳴り響き士の身体に幾重にも幻影が重なりその姿を変える

その姿は変わり終えたころには地面に着地しており、すかさずバックルを開き変身を解いた

 

「…?」

 

そんな時士の目の前に何やら絶句した様子のツンツン頭の男が電話している様子が見えた

その口ぶりから察するに恐らく友人にでも電話しているのだろうか

 

しかし士はその男から視線を外し、唐突にきょろきょろと見渡した

 

「…とりあえず、飯だな」

 

 

アラタは当麻から連絡を受け、道を走っている

内容は信じられないものだった

 

簡潔に、延べよう

 

それは御坂妹が死亡した、というあまりにもあっけないものだった

 

アラタが駆け付けると、そこに当麻はいた

当麻は両手に黒猫を抱えていた

何故、そういった状況になったのか、それをアラタは聞かなかった

聞いたらまた、思い出してしまいそうだから

彼はひどく落ち着いていた

それでもそこから離れなかったのは、彼なりの意地だったのか

当麻はアラタに気づくと声を出す

僅かに震えた声色で

 

「あ、アラタ…」

「当麻、その、状況は」

 

仮にもアラタは風紀委員だ

それでも殺害現場に遭遇するとは思わなかったが

とりあえず、警備員には後で連絡をするとしよう

 

「そこの、路地裏だ。…うん」

 

その言葉でアラタはだいたい察した

 

「なぁ、友達が死んだのに! なんで俺はこんな冷静なんだ!? もっと取り乱してもおかしくないのに、なんで…なぁ、なんでっ!」

「落ち着け、当麻」

 

ずい、と手を顔の前に出され当麻は言葉を止める

 

「何もできないわけはない。少なくともそれを探しにその現場に行く。お前はどうする、残るか」

 

少し経って、当麻はアラタの顔を見て言った

 

「俺も行く。理由なんてわかんないけど…もう逃げたくないんだ」

 

・・・

 

「…む」

 

その路地裏に赴くと、どういう訳だか件の遺体はなかった

しかし当麻の言っていることが嘘だとも思えないアラタは周辺を操作しようと辺りを見回す

確かに血痕とかは見つけることは出来なかった、しかし壁の傷の違和感に気づくことが出来た

しかしその壁の傷は何でついたのか、それだけが分からない

 

ふと、どこかでもぞりと動く影があった

それに気づいた当麻がその影に向かって叫んだ

 

「誰だ!」

 

釣られてアラタもその方向を見る

その人影は意外にも小柄だった

体格から察するに、その子は女子だろうか

しかしその肩に担がれている寝袋のようなものが何よりも怪しかった

 

やがて二人はそれを見た

 

あきらかに怪しい寝袋が入ったそれを持っていた人物の正体、それは―――

 

 

他ならぬ御坂妹だったのだ

 



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#26 妹達<シスターズ>

いつもより拙いかも
いつも拙いですけど


とりあえず妹達編が終わったら今度は劇場版に力を入れます

それが終わったら今度は風斬編かなー


目の前で起きていることが理解できなかった

 

あまりにも奇怪な光景に二人は凍りついた

見間違えるはずはない、それ以前に二人の本能が言っている

目の前にいるのは、御坂妹だと告げている

 

肩まである茶髪に半袖のブラウス、サマーセーターにスカート…

なじみのある姿がそこに立っていた

 

「申し訳ありません。作業が終了したら戻る予定だったのですが、とミサカは最初に謝罪を述べます」

 

視線に仕草、雰囲気に何よりもその口調

間違いない、彼女は御坂妹だ

 

「なぁ、お前は御坂妹で間違いないのか?」

 

そうアラタは問うた

念のため、という意味もあったがそうであると当麻が見たのは幻覚とかそういうものなのだろうか

仮にそうだとしたら、蜃気楼もいいとこだ

当麻はへなへなと言った様子で膝を付く

 

「くっそ…なんだったんだ結局…」

「さぁな…けど、お前の見た光景は夢とかの類になっちまったが」

「? お二人が何のことを話しているかは存じませんが―――」

 

当然だ

ついさっきここらへんにお前の遺体があったんだ、などとは死んでも言えない

いずれにせよ、妹が無事ならそれで問題はないと思っていたその時

 

 

「―――ミサカはちゃんと死亡しましたよ、と簡潔にミサカは述べます」

 

 

は、と当麻が声をあげ、アラタは眉間にしわを寄せる

そこまで聞いてふと、彼女が担いでいる寝袋に視線がいった

人ひとりがずっぽりと収まるであろうサイズであろうその寝袋

アラタは注意深く観察し―――気づいた

彼は当麻の肩を叩き、その視線を促す

 

「…見てみろ、あの寝袋」

「え…?」

 

アラタに促されて改めて当麻はその寝袋に視線を移した

壊れたマネキンでも入っていそうな、造形のおかしい関節の向きが変なその異様なシルエット

そこで当麻も気づいてしまった

ファスナーからはみ出している―――茶色の髪の毛に

 

「―――っ!!」

 

当麻は絶句し、アラタは冷や汗を流す

この短い時間帯で様々な事が起こりすぎている

偽物か、もしくは人形かとも考えた

しかしその艶や質感と言った何もかも、担いでいる御坂妹に酷似していた

 

「おい、その寝袋…一体何が入ってんだよ…!?」

「そもそも、お前はここで何やってる?」

「分からないのですか? とミサカは問い返します。…しかし、そうですね、確かに貴方方は〝実験〟との関係性はなさそうです、とミサカは直感で答えてみます」

 

御坂妹は続ける

 

「念のために確認を取ります、ミサカは有言実行します。―――」

 

そう言ったのち、御坂妹は何かを呟いた

しかし言っていることは全く理解できない

 

「は、ちょ、おま…何を言ってるんだ?」

 

と、当麻は戸惑った

当麻が分からないなら、当然だがアラタにだって分からない

 

「分からない時点で、関係者ではなさそうですね、とミサカは確信します」

 

一体、何を言ってるんだ、と思う

話している言葉は日本語なのに、まったく理解できなかった

 

「寝袋に入っているのは、妹達ですよ、とミサカは答えます」

 

疑問に答えたのは確かに御坂妹の声だった

しかしその声はその寝袋を抱えている御坂妹の背後から聞こえたもので

感覚に間違いはない、だからこそそれが誰か分からなかった

 

「黒猫を置き去りにしたのは謝ります、とミサカは謝辞を告げます」

 

彼女の背後から顔を出したのは、御坂妹だった

 

「しかし無用な争いに動物を巻き込むのは気が引けました、とミサカは弁解の言を言います」

 

顔を出したのは一つではなかった

どんどんとその顔は増えていく

マンガみたいな、分身でもしているように増えていく

ふと、気が付いたら

 

二人は大多数の御坂妹に囲まれていた

 

「…なんだ、これ?」

 

当麻は口に出すがアラタも同様に混乱していた

つまりさっき当麻が見た遺体はこの中の一人が殺された、という解釈でいいのだろうか

そしてそれの隠ぺいにもこの大多数の妹たちがやったのだろうか

 

確かに人間の血など凝固剤やドライヤーの熱風でも使えばすぐに固まる

指紋とかルミノールも専用の薬でも使えば消せるだろう

 

いや、違う、そうではない

双子―――俗に言う一卵性双生児は確かに遺伝子レベルでの同じ骨格を持った兄弟だ

 

だが、どうして目の前の彼女たちはこうも彼女(みこと)に似すぎているのだ

普通兄弟と言ってもずっと同じ体格を維持できるなどあり得ない

十年、二十年と時を重ねれば当然生活リズムは変わり、自分に影響を及ぼすだろう

しかし妹はあまりにも似ている

まるで、彼女に合わせるような

まるで、作られたような

 

ふと、アラタは当麻の持っている黒猫へと視線を移した

囲んでいる御坂妹たちはどうも自分たちの事を知っているようで、さらに黒猫の事も知っている

アラタは御坂妹と当麻、そして黒猫にあった出来事は知らないが、同じような疑問を恐らく当麻は感じているハズだ

もしかして、今寝袋に入れられている人物こそが

 

「心配はいりません、とミサカは答えます」

 

寝袋を抱えた御坂妹は答える

 

「貴方方が今日まで接してきたのは検体番号10032号、つまり私です、とミサカは自分を指差しながら答えます」

 

ピ、と開いた手で自分を指し言葉を続ける

 

「ミサカは電気を操る能力を用いて互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは単に10032号の記憶を共有させているにすぎません」

 

脳波リンク

信じられない事ではあるが双子ならあるいは、とも思う

遺伝子レベルで同じならば

 

そこまで考えて首を振る

この際、そんな事はどうでもいい

二人を代表し、上条当麻は問いかける

 

「…お前は、誰なんだ」

 

「学園都市で七人しかいない超能力者、御坂美琴(おねえさま)の体細胞クローン…妹達(シスターズ)ですよ、とミサカは答えます」

 

今度はアラタが問いかける

 

「じゃあ、そこで何をしている」

 

「実験ですよ、とミサカは言います。無関係な貴方たちを巻き込んでしまったことを重ねて詫びましょう、とミサカは頭を下げて謝罪します」

 

去っていく彼女たちにかける言葉が消え失せた二人はその場で立ち尽くしてしまった

もう何が何だかわからないくらいに、彼女の背中は違っていた

違い過ぎていた

 

 

そんな会話を盗み見ていた人影が一つ

その人影は御坂妹たちが撤収する少し前にその身を隠し姿を消した

正直、バレてるかもしれないが

 

その人影の正体とはバーガー片手な門矢士

フィッシュバーガーをもふもふしながら片手間にそんな話を聞いていた

 

「…いまどき人体実験とか、アホか。SF小説でもやらねぇっつの。…わからんけど」

 

詳細はよく知らないが、実験とはたぶんそうだろう

あのバイザー女の連中は使い捨て、と言った所か

最後の一切れを無造作に口に突っこんで士は立ち上がった

 

「その実験についてちっと調べるか」

 

そう言って士は歩き出した

 

 

第二左探偵事務所

 

今日も平和ではあった

以前起きたテレスティーナの事件以降、この街では平和な時間が続いてた

それに比例してくる依頼も変わらずペット探しになったがそれでも問題はなかった

フィリップも読書に専念できるとしてソファに座りながらゆっくりライトノベルを読んでいる

 

そんな光景を見ながら翔太郎はタイプライターを打ちながら徐に窓の景色でも見ようと―――

 

「邪魔するぜ」

 

バン、といきなり開け放たれた扉に翔太郎は驚いた

フィリップも肩をビクッとさせながら読んでいたライトノベルを閉じながらそのドアを開けた人物に目を向けて

 

「…君は」

 

その人物を見てフィリップは目を見開く

翔太郎に至っては「あー!」と変な声まで上げていた

 

「よぉ、久しぶりだな。仮面ライダーダブル」

 

ドアを開けて乗り込んできたのはかつて共に戦った世界の破壊者と呼ばれた男

仮面ライダーディケイドこと門矢士だったのだ

 

「お前…いつ来たんだよ!?」

「そんな事はどうでもいい。…お前たちにちょっと調べてもらいたいことがあってな―――」

 

 

あの後どちらともなく帰り道についた

本当は同じ帰り道なのだが、あんなことが起こった後だと会話が続かず、また明日、なんて言葉を交わして後、別々の道を歩き始めた

 

あの後路地を見てみたが、たくさんいたミサカたちは闇に消えそこには痕跡すらなかった

 

多分これからも実験は続いていくだろう

そしてアラタや当麻の知らぬところで殺され、その実験に貢献していくのだろう

クローンと自分で呟いて吐き気がする

 

世の中には草でも引き抜くかのような感覚で人を殺す奴だっている

それこそテレスティーナみたいなクソヤロウだっているのだ

御坂妹たちはどんな実験に加担しているかは知らない、知りたくもない

 

そこでふと足を止めた

御坂妹は〝実験〟と口にした

とするなら背後に何らかの研究機関が存在するはずだ

そうすれば自分たちを体細胞クローンという専門用語を言ったのも説明がつく

 

(まて、〝体細胞クローン〟?)

 

それを作るのには元となるデータ、つまりオリジナルが必要になるはずだ

彼女たちはなんと言ってた?

 

「…御坂美琴の体細胞クローン…」

 

まさか、もしかしたら…

美琴もその実験の事を知っていたのではないか?

 

 

空の色はすっかり夜の青に変わっていた

そんな夜空を眺めながらアラタは御坂美琴本人に話を聞くためにビートチェイサーを走らせていた

正直こんなことすれば何もかも砕いてしまうだろう

だけど、聞かないと進めない、とアラタは思った

彼女の味方でいられるか、分からないけれど…

 

「ん?」

 

見えてきた常盤台女子寮入り口付近に一人の男がいるのを見つけた

ツンツン頭がトレードマークな自分の友人

アラタは門付近にビートチェイサーを止め、メットを取りながら彼を見た

当麻は当麻でいきなり現れたアラタにびっくりしつつ、それがアラタと知ると安堵した様子で歩み寄ってくる

 

「アラタ…、お前も」

「そう言うお前も。…聞きに来たんだな」

 

そう聞くとゆっくりと当麻は頷いた

これ以上下手に聞くのははっきり言って野暮だ

その決意だけわかっていれば十分だ

お互いに頷きあうと女子寮の入り口に向かって歩き出す

正面玄関には想像通り厳重なロックがかかっていた

一見木のドアに見える扉はカーボンファイバの特殊性のものだろう

ドアノブがセンサーになっているのか、古めかしく偽装された鍵穴の奥に光る赤いランプ

恐らく指の油からDNAコードでも調べる仕組みになっているのだろう

 

そしてインターホン

その近くにある電卓のようなボタンを操作して部屋番号を入力するとその部屋に繋がるという訳だろう

 

ボタンを操作する、たったそれだけの事ではあるがそれが出来ずにいた

 

冷静に考えてその実験には美琴の同意が得られなければ実行などできない

それを本人に聞く、という事が一体どういう事なのか

 

「…なぁ」

「どうした…?」

 

不安そうになく黒猫の声を聞きながら当麻は口を開いた

 

「もし…あの自販機で触れ合った御坂の顔が…演技、とかだったら―――」

「言うな」

 

アラタは言葉を遮った

彼は信じたいだけなのだ

初めて出会った彼女の顔を

共に笑った彼女の顔を

友と触れ合った彼女の顔を

共に戦った彼女の顔を

 

例え世界の全てが彼女の敵に回っても、自分だけは彼女の味方で在れるように

 

「せめて、あと少しだけは幻想を見させてくれ」

「…わかった」

 

アラタの眼を見て何かを感じ取ったのか当麻はそう言って黙りこくった

そしてついに、アラタは部屋番号を入力してインターホンを押した

ぶつっ、とノイズと共に部屋にそれが繋がった

案外言葉はすんなりと出てきた

 

「美琴、或いは黒子。俺だ」

 

そんなアラタを見て当麻は割とラフだな、と突っ込んだのは内緒である

 

<へ…? お、お兄様!?>

 

返ってきたのは今この状況で今絡みたくない奴のものだった

 

<お兄様!? まさかお部屋をお尋ねになさってくるとは! い、一体どのようなご用件で―――>

「いや、今回は美琴に用があってきたんだが」

<? お姉様と? 了解ですの、なれば中に入ってお待ちになってくださいな。行き違いになるといけませんので>

 

そしてぶつり、とインターホンの切れる音がして同時に玄関のロックが外れる音が聞こえた

 

「よし、行こうぜ」

「え? い、いいの!?」

「問題ないよ、黒子が言うんだ」

 

…その黒子が誰か当麻は分からない

だがアラタが言うなら間違いないのだろう、と当麻は結論付けて当麻は彼の後ろをついていく

玄関をくぐるとそこは大きなホールだった

貴族でも住んでそうな内装で、白い天井や壁、極めつけに床に敷かれた赤いじゅうたん

こんな所に忍び込んだ日には逆にバレそうな気がしてならない

 

そんな事を考えつつ二人は階段を上っていき左側を歩く

件の部屋は案外すぐに見つかった

常盤台女子寮の部屋は初めて見るがまるでホテルみたいだな、と思ったのが素直な感想だ

 

アラタが軽くノックすると扉が開け放たれる

そこから姿を現したのはツインテールな茶色い髪の女の子が出迎えてくれた

 

「どうぞおいでなさいませお兄様。…はて、そちらの殿方は?」

「俺の学友。まぁ気にしないでくれ」

「はぁ。お兄様がそう言うなら」

 

黒子に案内されて室内へと赴く二人

ドアの外見もホテルみたいなら室名もホテルみたいな感じだった

奥のベッド二つとサイドテーブル、小さい冷蔵庫だけ

クローゼットはなく私物は全部ベッド横の大き目なスーツケースに収めているようだ

 

「申し訳ないですわね。もとから寝て起きるための部屋ですので客人をもてなすなどできないのです。とりあえずお姉様を待つならそちらのベッドに腰掛けてくださいな」

 

「え、けど流石に本人の許可取らずに座っていいのかよ」

 

当麻の問いかけに黒子はふふん、と胸をはりつつ

 

「大丈夫ですの。そちらがわたくしのベッドです」

 

「…、」

 

当麻は一瞬何かを言いそうになったが、それを胸の中に押し殺す

とりあえず当麻は腰を下ろしたがアラタは何かを察しているのは立ったままにすることにした

 

「け、けど意外だな。さっき御坂の事お姉様って言ってたからてっきり後輩だと思ってたけど」

「いえ、わたくしはれっきとした後輩ですわよ? ただ前の同居人の方には合法的に、あくまで合法的に出てってもらっただけですの」

 

こわ、と当麻は思わず顔を引きつらせる

それに対し、アラタは苦笑いで済ませた

どうやら昔からいつも通りだったようである

 

「ですけど、お兄様もどうしてお部屋なんかを? お兄様はお姉様のアドレスを持っているでしょうに」

「え? あ…その…」

 

流石にそこまでダイレクトに聞く勇気はなかったのだ

言い淀んでいると黒子は苦笑いをしながら

 

「まぁいいですわ。全く、お姉様も無自覚なんですから困りものなのですのよ。食事時も入浴中もお兄様の話…思わず妬けてしまいますわ」

 

「…そう、なのか」

 

そう黒子に言われてアラタは素直に驚いた

そんな事を言っていたとは初耳だ

 

「…けど、アイツってリーダーシップを発揮して、いつでも輪の真ん中にいそうだけどな」

「だからこそですわ。お姉様は輪の中心に立つことは出来ても、混ざることは出来ない。敵を倒せても、作る事は避けられない。…そんなお姉様に必要なのは…対等に向き合ってくれているそれこそ、お兄様みたいな存在ですのよ」

「…、」

 

思わず二人は黙る

いや、それ以前に深く考え込んだのはアラタである

 

彼はふと自分と一緒にいた夕暮れの美琴の顔を思い出す

ありふれた話を繰り広げて、朗らかに笑っている彼女

そこにある笑顔は本物だった

そこにある日常は彼女にとっては安全だったのだろう

 

「…間に何があるかは、知んないけどきっとそこには確かな絆があんだな」

 

当麻に肩を叩かれ、アラタは頭を掻く

そして同時に自分を恥じた

あぁ、こんな思いをしたのは何度目だ

以前春上を疑ったようなときも似た感情を抱いたはずだ

 

なんでもっと信じてやることができないんだろう

そう考えた時、扉の向こうで足音が聞こえた

まさか、帰ってきたのか

そう予測したアラタと当麻は変な汗を出しつつ、対する黒子はその足音に耳を澄ませてベッドから飛び降りた

 

「マズイ、寮監ですわ」

 

「! マジでか」

 

寮監、という名前を聞いたアラタは先ほどとはまた別の緊張が走る

一方置いてきぼりな当麻は頭に疑問符を浮かべつつ

 

「ち、仕方ない! 当麻、隠れろ」

「え、ちょ! ―――たくっ!」

 

ここに当麻がいなければ黒子の空間移動で脱出しただろうが当麻がいてはそれが出来ない

なぜなら彼の右手はそんな能力も打ち消してしまうからである

そして咄嗟に生まれたのが一つがベッドの下に隠れるというアナログな方法である

それを見届けた黒子はいきなり開かれたドアに応対する

 

「白井。夕食の時間だ、食堂に集合せよ。…御坂はどうした? 私は外出届を見ていない。規則を破ったのなら同居人と連帯責任でマイナス一だが」

 

「いえいえ。本当に急ぎなら外出届を出す暇ならないですわ。わたくしはお姉様を信じてそのマイナスを受け取る事は出来ません」

 

ぐいぐい、と寮監を押し出しつつ、部屋から出ていった

どうやら一つの難は乗り切れたみたいだ

もぞもぞとベッドの下からアラタは出て立ち上がった

あとは当麻を待って―――と思ったとき

 

「…当麻?」

 

どういう事だかいつまで経っても当麻が出てこない

なんだろう、と思ったときもぞもぞと当麻が這い出てきた

その手にはなぜか紙の束を握りしめながら

 

「…当麻、それは―――」

 

アラタの問いに答えることなく、当麻は無言でそれを差し出した

まるで読め、と言わんばかりに

 

その表情からただならぬ様子を感じたアラタはその紙の束を受け取って目を通し始めた

内容は、想像を絶するものだった

 

◇◇◇

 

量産異能者、妹達(シスターズ)運用における超能力者〝一方通行(アクセラレータ)〟の絶対能力への進化法

 

学園都市には七人の超能力者が存在する

その中で樹形図の設計者の演算によって絶対能力に辿り着けるものは一方通行のみ

 

彼は事実上、最強の超能力者である

演算によるとそれを素体として用いれば通常カリキュラムを二百五十年組み込めば絶対能力へとたどり着くとされた

 

我々は二百五十年法としそれを保留、別の道を探してみた

そして樹形図の設計者を使用して演算した結果百二十八種類の戦場を用意し超電磁砲を百二十八回殺害すれば可能である、と判明

しかしながら超電磁砲を百二十八人を用意することなど不可能、そこで我々は同時に行われていた超電磁砲量産計画〝妹達(シスターズ)〟に注目した

当然だが量産型の妹達(シスターズ)では性能が違う、多く見積もってもせいぜい強能力者(レベル3)程度だ

これらを用いて樹形図の設計者に再演算させた結果二万の戦場を用意し、二万の妹達(シスターズ)を用意すれば先ほどと同じ効果を発揮することが判明した

 

妹達(シスターズ)はの製造方法はそのまま転用、超電磁砲の毛髪から摘出した体細胞を用いて受精卵を用意Mこれに薬物を投与して成長速度を加速させる

 

その結果約十四日で超電磁砲と同様、十四歳の肉体を手に出来る

もともとが劣化品であるため、寿命が減じている可能性があるが実験を実行することには問題ない

 

◇◇◇

 

左翔太郎は事務所の壁を殴り付けていた

ドン、と壁にかけてある帽子が揺れる

 

「…まさか、裏でこんなことが行われていたとは」

 

パソコンの前で呟くのはフィリップ

その隣で息を吐くのが門矢士だ

 

「ここまでとは狂ってるとは思わなかったぜ」

「あぁ、ディケイド、いや、門矢。君はこれを知っていたのか?」

「んなわけないだろ。そんな話を聞いて気になっただけだ」

 

士が嘘を言ってるとは思えない

恐らく本当に気になって訪ねてきたのだろう

 

「おい、今その実験はどこで行われてやがんだ」

「翔太郎、気持ちは分かるが落ち着きたまえ。今調べてみる」

「けどよ! …俺はあったことなんかねぇけど、エレキガールは進んでそんな事に手を貸すとは思えねぇんだよ」

 

翔太郎は書類にある妹達(シスターズ)とあったことはない

しかしそのオリジナルである御坂美琴とは友人なのだ

触れ合った時間は短いがそれでも彼女の笑顔が偽物だと信じたくはない

 

「翔太郎、お前ガジェット出せるか?」

「あ? 出せるけど…なんで」

「同じように調べてるやつらがいると思ってな。…お前も知ってるだろ?」

 

自分も知ってるやつ、と言われて翔太郎は思い出した

 

「…アラタの事か」

「あぁ。場所を割り出したら知らせた方がいいと思ってな。それに―――」

 

士はパソコンに視線を向けて

 

「その女がどんな奴かは知らないが、翔太郎の言うとおりきっと自ら進んでこんな実験には協力しないと思うんだ」

「士…」

「お前の見る目は意外に確かだからな」

「うっせ、意外は余計だっつの」

 

◇◇◇

 

レポートを読み終えてアラタは手を握りしめた

そして口の中でふざけるな、と呟く

あの少女たちは殺されるためだけに作られたとでも言うのか

そんな事が、許される世界になってしまったというのか

違う、そんな事があっていいはずがない

 

「アラタ、気持ちはわかっけど、もう一個見てほしいとこがあるんだ」

 

レポートを睨んでいるとふと当麻から声が聞こえた

そして当麻はす、とある一点を指差した

なんだろう、と思い当麻が指差した場所を見つめてみる

そこで気づいた

そのレポートの上右側と下左側にあるバーコード

 

このレポート自体はデータ上に印刷物だ、別にそれは構わない

問題はそれと一緒になっているバーコード

 

唐突だが学園都市の端末にはランクがある

携帯がD、一般端末はC、学校の教師が使う端末はB、研究機関の端末はA、理事会の専用端末はSというようなものだ

アラタはバーコードをよく観察する

確か上のバーコードは端末のランクで、下がそのデータのランクだったはずだ

 

上の端末のコードは、C

下の情報のコードは、A

 

これはCの端末でAランクの情報を引き出した、という事になる

それはつまりどういう事か

 

それは彼女が、協力者ではないという事

 

アラタが思った幻想は、夢幻じゃないかもしれない

 

二人は互いに頷きあい、改めてそのレポートに目を通す

そこでふとがさり、と地面に落ちた紙が一枚

当麻はそれを拾い上げてばさばさ、と広げた

それは一枚の学園都市の地図だった

結構折りたたまれて全部広げてみると本棚くらいの大きさだ

その地図は路地裏など細かく記載されており、その地図のあちこちに赤いバツ印が書かれている

それは地図のあちこちにあった

 

気になった二人は当麻の携帯を用いてその座標を調べてみた

すると一件の建物の名前が表示される

 

〝金崎付属大学 筋ジストロフィー研究センター〟

 

筋ジストロフィー

その単語を聞いていつの日か飛空艇でやっていたニュースに、その研究センターが撤退だのなんだの表示されていた

その証拠に調べた建物全てがその筋ジストロフィーに関する建物だったのだ

 

そしてその場所全てに、バツ印がついている

 

そこである疑問に思い至った

 

ふと窓の外を見る

もう夜は更けていた

なのになんで御坂美琴は帰ってきていないのか、という疑問

このバツ印はなんだ、という疑問

研究所は撤退を表明した、という意味、いや、それ以前に―――美琴は今どこで何をしているのか

 

このレポートは正規に入手したもではない

となると美琴は実験の協力者でもない

もし、美琴の意に反して実験が進められているとしたら

美琴(かのじょ)はどんな行動に出るだろうか

 

「…そうか。そうなんだな」

「あぁ。俺たちは、アイツの味方でいられる」

 

それさえわかれば十分だ

 

二人は頷きあって部屋を飛び出す

見つかることなど考えず、一気に階段を下り、玄関を開け放ち外へと飛び出した

 

◇◇◇

 

レポートを読むのに相当時間を取ったせいか辺りは完全に真っ暗闇だった

夜の繁華街を二人走る

走っている途中、当麻の抱えていた黒猫が揺さぶられて気分悪そうな泣き声をあげた

 

しかしこのまま闇雲に走り回っていても意味はない

もしかしたらもう実験は始まっているのかもしれないのだ

彼に美琴を見つけても、実験が始まっていたら元も子もない

それでも間に合えばいいのだが、それも上手くいく可能性もない

 

隣を走るアラタに当麻は話をきりだした

 

「アラタ、お前は御坂を探せ!」

「はぁ!? 何言ってんだお前!」

「御坂とはお前の方が仲良いだろ? お前の言葉なら届くかもしれないんだ」

 

「それは…そうかもしれないが、とアラタは言い淀む

 

「じゃあお前はどうすんだ」

「―――実験を止める」

 

彼の口から信じられないことを聞いた気がした

今友人はなんといったのだ

 

「止めるって…お前!?」

「お前だって分かってんだろ、御坂が何をしようとしてるのか、何となくだけど分かってんだろ!? …そんなアイツを説得できるのは多分お前なんだ」

 

当麻はそう言って手に抱えていた黒猫を託すようにアラタに渡す

それを抱えたアラタはなんとなく黒猫に視線を落とした

黒猫はこちらの顔を見ると一つ、ミーと鳴いた

 

「…けど今度の実験がどこでやるかわかんのか?」

「それは―――その」

 

分かってなかったのか

まぁ確かに先ほどのレポートには場所の事は書かれていなかったし仕方ないが

しかしそれでは先ほどの提案は出来なくなってしまう

どうするか、と考えた時、声が聞こえた

 

 

「場所の心配ならすんな」

 

 

不意に聞こえた青年の声

声の方へ向くと三人の男性がそこに立っていたのだ

一人は左翔太郎

一人はその相棒、フィリップ

そして―――通りすがりの、門矢士

 

「ダンナにフィリップ…あれ、アンタは…?」

 

唐突に現れた三人に驚きつつそんなアラタを尻目にフィリップは徐に懐を漁った

 

「今日行われる場所の割り出しは何とか成功した、案内は任せてもらいたい」

 

フィリップは一枚の紙を取り出しこちらに向かって歩いてくる

そして当麻に向けてその紙を手渡した

当麻は一度その紙に視線を落としてみる

…正直内容はよくわからなかったが、それでも妹達(シスターズ)とか絶対能力という単語がある以上偽物ではなさそうだ

 

何はともあれ、これで実行する手はずは整った

 

「けど、なんでダンナたちが…」

「士に頼まれてよ」

 

そう言って翔太郎は士の肩を軽く叩く

叩かれた士はフン、と言いながらどことなく夜空を見た

 

「こんな胸糞悪い茶番なんざさっさと止めたいだけだ。…それよりいいのか、行かなくて」

 

士に指摘されて当麻とアラタはハッとした

そうだ、こうしている間にも美琴は動いているかもしれない

 

「…じゃあ当麻、任せていいか」

「あぁ。…任せてくれよ」

 

お互いにそう言うとなんとなく笑い合った

そして二人は手を挙げて―――ハイタッチを交わす

 

「じゃダンナ、フィリップ、士さん、当麻の事頼んます!」

「あぁ、お前もちゃんとエレキガールを止めてこいよ」

「無理はしないようにね、アラタ」

「あぁ、まぁ任せとけ」

 

三人とそんな会話をした後、アラタは走り出した

御坂美琴を探し出すために

 

 

アラタの背中を見届けたあと、フィリップは当麻に向き直った

いきなり視線を向けられて当麻はちょっとたじろぎつつ

 

「な、なんだ?」

「いや、君が上条当麻で間違いないね?」

 

なんなんだろうか、と思いつつも当麻は頷いた

 

「そうか、君が。…上条君、よく聞いてくれ」

「は、はい…?」

 

「この実験を止めるには、君の力が不可欠なんだ」

 

 

ああいって飛び出したものの、正直行くあてなんてなかった

だけどそれでも走る事をやめない

ここで走るのをやめてしまったら、手遅れになる気がするのだ

 

宵闇の中を走り続け、ふと風力発電のプロペラが目にとまる

風なんてないのに緩やかに回っている

 

疑問に思ったとき、こんな話を思い出した

 

発電機、つまりはモーターの事だ

モーターはこう見えて面白い性質を持っているらしく、電気を用いて回すハズのコイルの軸を逆に手動で回すことでも電気を生み出せる

また、モーターに電磁波を浴びせることでも回転させることが出来る

最近学園都市で開発が進んでいるのがその仕組みを使っているマイクロ波発電、らしい

 

風もないのになぜプロペラが回っているか

つまりそれは見えない電磁波に作用しているからだ

 

「…もしかしたら!」

 

アラタは黒猫を抱え直し再び走る

人の流れを裂くように走るアラタに注目が集まるがいちいち気にしてなどいられない

 

最初は僅かにしか揺れることのないプロペラを頼りにしていたが、しばらくそのプロペラを追っていくと徐々にはっきりと早く回るプロペラが見える

 

アラタは走る

ただ、ひたすらに

 

 

「俺の力が必要不可欠って…どういうことですか?」

 

前を歩くフィリップに当麻は問いかける

 

「話を聞くに、君は全ての異能を打ち消すという右手を持っているらしいね」

「は、はい…」

「その力を使って一方通行(アクセラレータ)を打ち倒して欲しいんだ。…調べてみるとその一方通行(アクセラレータ)とは、学園都市最強故に、その実験の素体に選ばれたんだよね」

 

そのはずだ、と思い当麻は首を頷いた

当麻が頷くのを確認するのを確認すると

 

「なら、彼にその進化の価値なんてないと示さないといけないんだ」

 

フィリップの言葉に当麻は思わず口を閉ざす

そうだ、実験を止めるという事はその一方通行(アクセラレータ)と戦うという事だ

そしてそれを示す、という事は彼を倒すという事だ

それが出来るのは…すべてを打ち消す幻想殺しを持つ当麻だけ

 

「けどただ倒すだけじゃダメだ。…無能力者(レベルゼロ)である君が、超能力者(レベル5)を倒し、一方通行(アクセラレータ)に絶対進化をする価値がないという事を示さないといけない」

 

「え? それって、つまり…」

 

当麻がそう聞くとフィリップは頷く

 

「あぁ、君は一人で戦わなくてはいけないんだ」

 

一人、という言葉に冷や汗が噴き出る

 

「本当なら俺たちも加勢してやりてぇ。…けどそれじゃ俺たち仮面ライダーの助力の末の勝利ってなっちまう。…一方通行(アクセラレータ)に価値がないって示すには、真っ新(まっさら)無能力者(レベルゼロ)であるお前が倒さないと意味がねぇんだ」

 

歯がゆい気持ちを呟き、翔太郎は拳を握った

その隣で士が言う

 

「それで、どうすんだ?」

 

どうするか、だって?

当麻の答えは、決まっている

アイツが戦っているのに、一人逃げ出すなんてできっこない

 

「戦います。―――だから、行きましょう」




想像できるかもしれないですが一方通行戦は当麻主体の原作沿いです

そこにいろいろ混ぜれたらな、なんて思いつつ今回は通りすがります

因みに士は割と滞在します


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#27 友達

恐らく次回辺りでおわるかも 
駆け足だね

今回中途半端な所で切ったかも
申し訳ない
相も変わらずな出来ですが誤字脱字あったらお願いします

それではどうぞ

※どうでもいい近況

なんかこたつからカーテンのシャーってなるヤツが六個くらい出てきました
しかしカーテンを調べても取れた様子はない
何があったのだ母よ


すっかり空は真っ黒に染まってた

今日は三日月、笑う口にも似た細い月の光は弱すぎた

 

御坂美琴は一人手すりに両手をついてぼぉ、と遠い街を見ていた

美琴はす、と掌を出すとそこから青白い火花が散った

雷、と聞くと物騒なイメージがあるが美琴にとってそれはとても暖かい光だった

初めて使えるようになった日の事を、彼女は今でも覚えている

 

布団に潜って一晩中ぱちぱちとしていたものだ

星の輝きに似た、青白い閃光

成長して大きくなったら星空なんかも出来るのかな、と本気で考えたこともあった

 

子供の頃の美琴(じぶん)なら

今となっては、そんな幻想を語る資格すらないのだ

 

「…筋ジストロフィー、か」

 

唇が言葉を紡いだ

筋ジストロフィーとは不治の病の一つだ

原因は不明、かかったら少しづつ筋肉が動かなくなっていく病気だ

それは徐々に体中の筋力を奪っていき、やがては死に至らしめる

 

当然、彼女は筋ジストロフィーではない

そして知り合いにその病気にかかった知人もいない

 

しかしそんな生き方は辛いだろうな、と思う

生まれた時から思うとおりに身体を動かせずやがてベッドの上からも動けなくなっていき、どんなに手を伸ばしても誰も掴んではくれない

 

そんな人たちを助けてみないか、とある研究者が言った

キミのと力を使えば助けることもできるかもしれない

そう言って研究者は握手を求めてきた

 

かつて幼かった少女はその言葉を信じて疑わなかった

素直に助けられるなら、と思った善意から彼女は自分のDNAマップを提供したんだ

だけど最近になってそれを用いて妹達(シスターズ)が作られている、という根も葉もないう噂を耳にした

当然、最初は信じなかった

いや、信じたくなかった

だが、現実は無情だった

 

軍用に作られた彼女たちは後はボタン一個で無限に作られる状態だった

しかも彼女たちは兵器としてでなく、使い捨ての実験動物にされることだけを目的とされたんだ

 

「…なんでこんなことになっちゃったんだろう」

 

そんな事は分かってる

幼かった自分が不用意にDNAマップを提供したからだ

あの研究者の言葉が嘘だったのか、健全な研究が歪んだのか美琴には分からない

しかしはっきりしているのは一つ

 

助けたい、と思った善意は

二万人もの妹達(シスターズ)を殺す悪意となった

 

だから、それを止めたいと彼女は願う

命を懸けてでもこの狂気を止めないといけないと思った

 

別に命を懸けることがカッコいいとも思わないし、死を望んでるわけでもない

実際、身体は震えているし指先は血の気が引き、冷たかった

思考もうまくまとまらない

 

出来るなら一言叫びたかった

助けて、と叫びたかった

だがそれは絶対に許されない

 

脳裏にふと、一人の少年の姿が浮かぶ

誰よりも笑顔を重んじ、人知れず誰かの笑顔を守っているもの

見えない所で傷ついて、それを感じさせないように振る舞う自分の友達

 

もしも、仮にだ

 

美琴がこの街に潜む〝闇〟に気づいて彼に助けてと叫んだら来てくれたのだろうか

 

きっと来てくれた、と思う

 

けれど自分だけ助けを求めるのは卑怯だ

美琴のせいで一万人近い妹達(シスターズ)が殺されてしまった

残っている一万人にしても死の線に立たされていることに変わりはない

そんな罪を背負う人間が

両手を血で汚した化物が助けなんて求められない

求めてはいけないんだ

 

「…助けてよ」

 

故に、彼女の声は孤独の中でしか呟けない

ボロボロなその声は闇へとかき消されていく

 

「助けてよ…!」

 

誰でもいい、この暗闇から連れ出して欲しかった

しかしそれは許されないことだ

届かない声色は、つらつらと美琴の口から零れていく

その時、ふとみーと嘶く猫の声が聞こえた

 

彼女は視線を下に落とす

そこにいたのは小さな黒猫だった

闇とは違う、優しいぬくもりを感じさせる小さい黒猫

 

どこから来たのだろうか、と美琴が思っているとカツ、と地面を蹴る足音が聞こえた

ハッとなって美琴は顔を上げる

 

「よぉ」

 

灯りなく、三日月の光だけが照らす闇の鉄橋に

鏡祢アラタは現れる

少女の叫びを聞いて駆けつける、英雄(ヒーロー)のように

 

◇◇◇

 

シリアルナンバー10032号、御坂妹は繁華街を抜けて工業地帯にある一角を目指し歩いていた

ゆっくりと街灯が並んでいる通りを歩きながら実験内容を頭の中で思い出していた

 

別に恐怖なんてない

憎悪もないし、あきらめもない

彼女の顔にあるのはただ本当に無表情

他人が見ればそれはぜんまい人形がテクテク崖に歩いているように見えるだろう

 

別段、御坂妹は命の大切さが分からない人種ではない

目前で死にかけの人がいれば自分の取りえる行動を選択し適切な判断をする行動力はある

 

だが、それを自分に向ける、当てはめることが出来ないだけ

 

材料や機材があればボタン一個で作られる身体に洗脳装置(テスタメント)を使ってデータに上書きするように強制入力される無の心

彼女の単価は金にして十八万円

少し性能の高いパソコンだ

製造技術が向上されれば早々にワゴンセールに放り込まれるくらいに

 

だからこそ、理解できないことが御坂妹には一個だけあった

 

夜道を歩きながらふと思う

路地裏で複数のミサカと遭遇した二人の少年は驚いて息を止めていた

 

二人の言葉を思い出す

 

―――お前は、誰なんだ

その言葉はまるで御坂妹に対しての言葉ではなく

 

―――じゃあ、そこで何をしている

まるで何かを否定して欲しくて投げかけた言葉のような感じがした

 

それほどまでに認めたくなかっただろうか

二万人の妹達(シスターズ)が、心臓を止めていく作業が

 

分からない、理解できない

一体何を言っていたのだあの二人は

 

理解できないものを考えても仕方ない、と御坂妹は結論付ける

 

 

 

だけど、どうして、あの二人の顔を思い出したんだろうか

 

 

 

本当に価値などないなら思い出す必要もない

昨日踏んづけたガムを覚える必要もないくらいに

 

今これから行われる実験について考えていたはずなのに、どうして脱線してしまったのか

 

「…、」

 

御坂妹には、分からなかった

たったそれだけのことなのに

 

◇◇◇

 

「よぉ」

 

彼女を見つけて、いつも通りに声をかけた

声を聞いて振り向いた彼女はいつも通りの顔をしていた

 

「あら、アラタじゃない。アンタも夜風にでも浴びに来たの?」

 

いつも通りすぎて、辛かった

 

「美琴、もういいから」

 

その言葉を言ったとき、一瞬彼女の表情が消えた気がした

しかし瞬きするときにはいつもの彼女になっていた

 

「いいって何がよ。言ってる意味がわかんないんだけど? 別にイイじゃない夜遊びくらい―――」

 

「全部!」

 

不意に声を荒げたアラタにビクリ、と美琴は肩を震わせた

そして次の瞬間、彼はポケットから紙の束を取り出した

 

「全部、分かってる。だから無駄な事は省こうぜ」

 

「――――――――――――――――――っ!」

 

その紙の束を見て、美琴は固まった

肌で感じていたのだ

 

日常が、粉みじんに砕けた事を

アラタの胸を痛む

しかしそれを自分の手で砕き、彼女の下に歩もうとしたときに

 

「…なんでこんな事しちゃうかな」

 

遮るように美琴は言った

 

「それ持ってるってことは、部屋に上がったって事でしょう? …全く、プライバシーの侵害よ? 侵害」

 

そう言う彼女の顔はいつも通りだった

その吹っ切った笑みが、何よりも辛かった

 

「…ねぇ。一個聞いていいかな」

 

「何を?」

 

 

「それを見て、アンタは―――貴方は私を心配してくれたの? 許せないって思ったの?」

 

 

妙に明るい声で、そういった

それは糾弾しに来たと分かっていると言いたげな、世界に味方なんて誰もいないと言っているような

 

「心配したに決まってるだろう」

 

低い声色で呟く彼に、美琴は少しだけ笑んだ

 

「…ありがとう。嘘でもちょっと、嬉しいかな」

 

そう言う彼女は笑っていた

まるで全部諦めたような、そんな顔を浮かべて

 

「嘘じゃない」

「…え?」

 

「嘘じゃないって、言ったんだ」

 

静かに言ったその言葉だが、僅かに美琴は肩をまた震わせる

真っ直ぐ言われたその言葉に、思わず美琴は目線を逸らしてしまった

 

「ねぇ、聞いた? あの子たち、何食わぬ顔で自分たちの事実験動物(モルモット)って言うのよ」

 

たっぷり間を取った後、ポツリ、と彼女は呟いた

 

「実験動物。それがどんな扱い受けてるか知ってる? …酷いもんよ?」

 

彼女はぐ、と唾を飲むように喉を嚥下させる

 

「あの子たちをそんな状況に招いたのは、私だから」

 

そう言った彼女の顔は、ひどく疲れているように見えた

そこまで聞いたアラタは、ふと一つの疑問を抱いた

 

今までのレポートとか地図を見る限りでは、彼女はその実験を潰そうと外部から妨害しているように思える

少なくとも彼女は、―――言い方は悪いが―――気にくわないヤツがいるなら自らカチコミに行くような人間だ

実際、テレスティーナの時は彼女は自ら乗り込んでいったのだ

それをしないのは、出来ない理由があるのか

 

「超電磁砲を百二十八回殺せば、一方通行(アクセラレータ)は絶対能力に進化できる」

 

静寂の中で、不意に彼女が呟いた

 

「けど百二十八人も用意なんかできないからその劣化コピーとして、二万人の妹達(シスターズ)を用意する」

 

そう言って彼女は一つ息を吐き、

 

 

「私に、それだけの価値がなかったら?」

 

 

纏っている空気が凍りつく

彼女が言っている意味が理解できなくて/理解したくなくて

 

「私にそんな価値がなかったら。研究者たちにそう思わせることが出来たら」

 

そう言って彼女は笑う

 

「実際に樹形図の設計図の演算結果でも、私は逃げに徹しても百八十五手で殺される。だけどもっと早く私が殺されたら? 初手で敗走し、無様に頭を垂れることしか出来なかったら?」

 

本当に楽しそうに、笑う

 

「それを見た研究者はこう思う。樹形図の設計図の予測演算はすごいけど、それでも機械に頼る事なんて間違ってたんだ、って」

 

その笑みは、酷く、ボロボロで

思わず拳を握りしめる

 

彼女は一方通行(アクセラレータ)に、負け確定の戦いを挑もうというのだ

ハッタリでもして研究者にシミュレーションに間違いがあったと思わせるもの

 

しかしそれは同時に、自らを散らすもの

 

「だけどそれに意味はない、仮に誤魔化せても、また演算し直されたら―――」

「それは大丈夫。樹形図の設計者はね、二週間ぐらい前にどこかからの攻撃で破壊されてるの。上は隠してるけどね。だからもう再演算は出来ないわよ」

 

二週間前、という単語にアラタは思い出す

確かその時、インデックスを止めるために当麻と共に戦い、インデックスの一撃が空を裂いたことがあった

恐らくその時に、破壊したのだろう

 

アラタは確認するために、問うた

 

「…お前、死ぬ気なんだな」

 

えぇ、と美琴は頷いた

 

「そうすることで、残った妹達(シスターズ)が助かるって信じてるんだな」

 

えぇ、と彼女は頷いた

 

そして美琴はゆっくりと歩き始めて、改めてアラタと向かい合う

 

「さ、分かったらどいて。私は行くわ、もう実験の場所は調べてある。戦う前に、私が割り込んで終わらせる」

 

だからどいて、と彼女はまだ優しい声色でいった

 

 

 

「―――断る」

 

 

 

アラタの言葉に、驚いたように彼の顔を見返した

 

「…なんですって?」

「断るって言ったんだ」

 

退くなんてできるはずがなかった

自分のやる事は、彼女の説得

ここで折れてしまったら、今まさに死ぬかもしれない戦いをしている親友に顔向けできない

 

「言葉の意味わかって言ってんでしょうね!? 私が死なないと残りの妹達(シスターズ)が殺される。…まさか、あんな劣化コピー死んだって構わないとか思ってるんじゃないでしょうね…!!」

「そんな訳ないだろ。仮にそう思っているなら、最初からこんなことに来るか」

「じゃあなんで―――!?」

 

 

「決まってる。お前に死んでほしくないからだ」

 

 

彼は真っ直ぐ美琴を見据えてそう言った

それは偽らざる本心だった

 

「―――な、何言ってるの…、アンタ、馬鹿じゃないの!? 聞いてなかったの!? 私が死ぬ以外実験を止める術はない!! だから、私が―――」

「確かにお前はそうかもしれない。…けれど、お前は残された人たちを考えたことがあったのか」

 

え、と美琴は口ごもった

 

「黒子、涙子、飾利、固法。数えるだけでお前の死を泣く人はいる。黒子なんて確実に報復しに行くぞ。お前はそれでも―――」

 

黒子の性格からして、美琴が死んだりなんかしたら間違いなくそうするだろう

本当に殺されるかなどは流石に分からないが、少なくとも無傷ではないはずだ

 

「―――私は、皆の事見えてるわよ」

 

「…何?」

 

「分かってる! …これは私の自分勝手な事だって。…だけど、それでも―――私は行かなくちゃいけない」

 

そう言って美琴はアラタを見つめ返す

その眼が、総てを物語っていた

 

「ごめんね、アラタ」

 

本当に、本当に小さく彼女は呟いた

その言葉はアラタに届くことはなかった

 

「…さぁ、今度こそどきなさい。それとも力づくで私を止めるならそれでいい。…私は、もう退けないの」

 

バヂリ、と彼女の身体から雷が迸る

そこでアラタは悟る

悟ってしまう

 

あぁ、もう彼女に言葉は、届きそうにないという事に

 

確かに変身して彼女と戦えば簡単に彼女を降すこと出来るだろう

しかしそれでは意味がないのだ

だから、アラタは彼女の眼を見て言ってやった

 

 

 

「―――断る」

 

 

 

「…なっ―――!?」

 

「どかないし、俺は戦わない。…何があっても」

 

その言葉と態度に、流石に彼女も怒りが募ったのか激昂する

 

「戦いなさいっ! 言ったじゃない、私を止めたいなら力づくで止めなさい! アンタが無抵抗なら、躊躇なく撃ち抜くのよ!?」

 

砲弾のように放たれる憎悪が混じったその言葉

だがやっぱりアラタはこう答える

 

「それでも…断る」

 

「―――!」

 

信じられないように美琴はアラタを見る

彼女はアラタを凝視ながら

 

「馬鹿、じゃないの! 馬鹿じゃないの!? もうこれ以外に道はない! だから私はアンタだって撃ち抜ける! こんな地獄でそんな…そんなひよった言葉が通るわけ―――」

 

「それでも俺は…お前とは戦わない」

 

美琴の言葉は彼には届かない

彼はそのまま棒立ちのまま美琴を見た

立ちはだかると同時、戦う意思など全く見えない

 

「く、っそ…!!」

 

彼女は内側に帯電しきれなくなった雷を放出するように雷を奔らせた

その雷はアラタの顔のすぐ横をかすめていく

それでも、彼は動かなかった

 

彼女を止めにきたのに、戦っては意味がない

そもそもこういう時に、助けを求めてくれない彼女に、今更ながら苛立った

 

「―――戦いなさいって、言ってんのよ」

 

そう言って彼女は拳を握りしめ雷を帯電させる

 

「戦う気がないならここから消えなさい!! 半端な―――中途半端な気持ちで人の願いを、想いを踏みにじんなっ!!」

 

それでも、アイツは動かなかった

半ば激情に駆られる思いで彼女は、雷を放った

彼女の手から放たれた特大の雷は―――彼の身体に直撃した

 

 

操車場は戦場と化している

恐らく今回もこの実験は一方通行(アクセラレータ)があの人形を破壊して終わるだろう

まるで機械のように繰り返される単純な作業

 

それを浅倉涼はコンテナの上で傍観していた

 

自分の仕事はこういった実験場に部外者が侵入してこないかを見張る事である

最もこの仕事は最近になって通達されたことだ

なんでも以前の実験にうっかり部外者が侵入してしまったらしく、今後そう言ったことがないように、との事らしい

 

それで今、浅倉はここにいる

 

「浅倉、そっちはどうだい」

「今回もワンサイドゲームになるかな」

 

そう呟いてくるのは仲間である芝浦と手塚という人物だ

分かり易く言うなればこの二人は舎弟に近いものがある

実際舎弟なのは芝浦だけで手塚は違うのだが

 

「あぁ。そうなるな」

 

そう言って浅倉は一つのデッキを取り出した

 

蛇のようなマークが描かれたそのデッキ

 

「出来れば、無駄な殺生は避けたいがな」

「仕方ないでしょ、降りかかる火の粉は払わなきゃ」

 

そう言って二人もそれぞれのデッキを取り出す

芝浦にはサイの、手塚はエイのようなマークが描かれている

 

「…ん?」

 

そんな時、芝浦が声をだす

 

「おい、手塚。…あれ、部外者じゃん?」

「…みたいだな」

 

どうやら芝浦は侵入者を発見したようだ

それに応えるように手塚は芝浦の見た方へ視線を向けて頷く

 

「マジか。さっそく仕事かよ」

「いや、お前が出向く必要はない。俺たちで片付けてくる」

「そうそう。アンタはこのままこの実験を見ててよ、三人くらい俺たちだけで十分だって」

 

そう言って芝浦は嬉々として走って行く

そんな芝浦を追うように手塚は彼の後を追っていった

 

「ったく。…けどま、いいか」

 

二人がしくじるとは思っていない

その時は、そう思っていた

 

 

「…あ―――」

 

思わずそう呟いてしまったのは終わった後の事

彼はその場に倒れて動かない

彼の身体からは焼け焦げたような煙さえ出ているほどだ

 

それだけで十分だ

それだけ、で

 

「―――あ、ぁ…」

 

嘆いてももう全てが遅かった

アイツはもう動かない

雷の一撃は彼に直撃し、その身を地面に倒れ伏した

 

「…わ、たしは」

 

例え自分が消えても、貴方だけは巻き込みたくなかった

彼だけは陽だまりの中でいてほしかったんだ

 

みー、と黒猫がないた

ふらり、と美琴は振り向く

その先に怯えきった黒猫がこちらを見ていた

威嚇するでもなく、ただその幼い瞳が語っている

 

なんでこんなことするんだ、と

信頼を裏切って急襲すればもっと安全に事を終えることも出来たかもしれないのに

 

「アラタ…」

 

決まってる

美琴はアラタを心から信じてた

彼の隣は、安心できるから

 

「…ごめん。私もすぐ―――そっちにいくから」

 

だがもう彼はいない

他でもない自分自身が消したのだと思うととても胸が苦しむ

だけど、その事への謝罪は、あの世で聞くことにしよう

美琴は一度アラタを見て、何かを振り切るように倒れている彼の身体を通り過ぎて

 

 

 

「―――おい」

 

 

 

彼の声を聞いた

信じられないようなものを見る目で、美琴はアラタが倒れている場所へ振り向いた

そこに―――彼は膝を付いてこちらを見ていた

 

「―――!」

 

言葉が出てこなかった

どうして、と思った

そこまでボロボロなのに、なんで

 

戦わない、と、彼は言った

 

彼の執念は、助けてと叫んだ少女に今もなお、手を伸ばす

 

「…なんで?」

 

思わずそんな言葉を呟いた

レポートを読んでだけで事情が分かるわけでもない

善意でDNAマップを提供した事とか、それが軍事目的に使われていた事とか、助けたいと強く思った気持ちが、二万人の妹達(シスターズ)を死に追いやった事とか

 

そんな事情を、アイツは知らない

知らなくても、立ち上がってくれたんだ

 

「もう、やめてよ…!」

 

わがままをする子供みたいに美琴は首を振った

彼が立ち上がってしまっては、妹達(シスターズ)を助けるために

けれどそれを邪魔する目の前の男を彼女は倒さなければいけない

だがほんの些細な一撃で本当に彼が死んでしまうかもしれない

 

「もう、やめてよ…っ!」

 

だから彼女は叫ぶ

 

そのまま倒れていてほしかった

倒れていてくれればもう誰も傷つかない

 

彼が美琴を諦めればもう誰も傷つかない

見限ってくれれば、この苦痛から解放されるのに

 

「立たないで!! お願いだから…!」

 

美琴の言葉を無視して、彼は立ち上げる

 

「なんでよ!? アンタは、これには関係ない…! 私が死ねば全部終わる! ここから先に救いなんてないのに! なのに…! なのになんでアンタは立ち上がるの!?」

 

それは彼女の心からの叫び

どうして、と美琴は叫んだ

その声を聞いた目の前の男は応える

 

「どうして、だぁ…?」

 

その後、僅かばかりに笑みを浮かべてこう言った

 

 

 

「―――友達を助けるのに、理由なんているのかよ」

 

 

 

ふと、涙腺が熱くなる

 

結局はそれだけの事だったんだ

どんなに言葉を並べても、どんなに理由を作っても

目の前の―――鏡祢アラタという男は、たったそれだけで駆けつけてくれる

 

「…ここからは、雨しか降ってないのよ…?」

 

「その雨だって必ず止むさ。…そんでもってその雲の向こうには、青空が広がってんだ」

 

涙なんて、とっくに枯れたと思ってた

だけどそうか、とも美琴は思った

まだ涙を流せるくらいには、感情(こころ)は残っててくれたんだ

 

 

「ははっ!! イイねイイね最高だねェッ!! 面白れェぞお前!! さすがに一万回も殺されてりゃ悪知恵の一つくらいは思いつくってかァッ!?」

 

そう一方通行(アクセラレータ)は嗤いながら一方的に御坂妹を追い詰める

彼の顔は心底楽しそうに見えた

 

一方通行(アクセラレータ)の能力は〝向き(ベクトル)〟の変換

平たく言えば、彼に触れるものは全て反射されるというチートじみた能力だ

 

「おら、死ぬ気で避けなきゃマジで死んじまうぞ?」

 

そう言って一方通行(アクセラレータ)は御坂妹の脇腹に蹴りを叩きこむ

いつでも殺せるのに、わざわざ手を抜いて放った蹴りの直撃を貰った御坂妹はゴロン、と数メートル転がりながら仰向けに転がった

 

「ごっ、が、はっ…!?」

 

肺から息を吸うように息をし、御坂妹はちらりと一方通行(アクセラレータ)を見た

だらだらと、その引き裂かれた嗤いから流れ行く唾液を手で拭ってる

 

どれだけされても彼女は彼を恨むことなどない

彼女は己の命に価値を見出していなかったからである

 

一体十八万円の身体は殺され、その遺体はまるでゴミのように掃除される

所詮、それだけの事

 

そんな時、ふと何かに気づいたように一方通行(アクセラレータ)は動きを止めた

ふと、ゆっくりと自分の後ろを振り返り、何かを確かめるようにそれを見た

 

「…?」

 

仰向けに倒れてるとちょうど一方通行(アクセラレータ)が壁となってしまい彼が何を見てるか分からない

しかし彼は動かない

やがて、呟く

 

「おい。この場合実験てのはどォなるンだ」

 

そう呟くように彼は訪ねてきた

何を言ってるのか分からず、彼女は地を這って彼が何を見ているのかを確認した

操車場の外周近辺、コンテナの隙間に、一人の男が立っていた

 

 

 

上条当麻が立っていたのだ

 

 

 

「離れろよ、お前」

 

 

当麻は剣を突き刺すように一方通行(アクセラレータ)に言い放った

触れば怪我をするような、そんな怒気を彼は纏っている

 

「聞こえねぇのか。御坂妹から離れろって言ってんだ」

 

そんな言葉に一方通行(アクセラレータ)は嫌そうに眉をひそめて。、そして御坂妹の方へ僅かながら非難めいた視線を向けた

 

「おい、ミサカってのはお前の原型の名前だろ。それを知ってるっつうことはお前の知り合いってことだろ。…頼むぜ、無関係な一般人連れ込ンでンじゃねェよ」

 

興ざめしたと言わんばかりに彼は告げる

 

「ったく。…てか浅倉は何してンだ? こういうのを防ぐために今日はアイツらがいるンじゃ―――」

 

 

 

「ぐだぐだ言ってねぇで、とっとと御坂妹から離れろよ! 聞こえてねぇのか三下ぁっ!!」

 

 

 

落雷のような怒号が、その場に炸裂した

その声に反応したのか、一方通行(アクセラレータ)の所へ浅倉がやってくる

 

「…あいつら、わざわざ一人逃したのか」

 

一方通行(アクセラレータ)なら雑魚の一人くらい訳ないと思ったのだろうか

しかしあの男、よくあんな啖呵を切れるものだ、と内心感心していた

だが一方通行(アクセラレータ)はそんな浅倉の呟きには意にも介さない

当然だ

最強に君臨する超能力者(レベル5)に向かってそんな口をきいた雑魚は初めてなのだから

 

◇◇◇

 

「わざわざ逃しちゃっていいの?」

 

芝浦はそう目の前の男三人にどうでもよさげに言葉を投げた

それに対してトイカメラをぶら下げた青年、門矢士は答える

 

「問題ない。あんな奴に負けるほど、アイツは弱くない」

 

それに対して手塚が言った

 

「…一方通行(アクセラレータ)だぞ。学園都市最強の能力者を相手に、先ほどの少年が勝てるとは思えないが」

 

その手塚の言葉に、今度は帽子を被った探偵、左翔太郎とその相棒、フィリップが返答した

 

「最強なだけで、無敵じゃねえんだろ」

「だったら、彼にも十分勝てる見込みはあると思うけどね」

 

そんな二人の言葉に、

 

「…ぷっ!」

 

芝浦は腹を抱えて大笑いを始めた

 

「あーはははっ!! 冗談最高に上手いねオタクら! あんなヒョロッとしたヤツが一方通行(アクセラレータ)に勝てるとかマジで思ってやがるよ!! ひーひひ! 腹イテェ!」

 

「…全面的にこいつに同意するわけではないが、それでも彼が勝てる確率は低いと思うぞ」

「へぇ、君の考えには僅かでも彼が勝つと思ってくれているんだね」

 

そんなフィリップの言葉に、僅かながらに手塚は笑う

 

「まぁな。…俺もおかしいとは思ってるのさ。…けど、仕事だからな」

 

そう言って手塚はデッキを前に突き出す

するとそのデッキは輝きだし、彼の腰にバックルが現れる

バッと彼は右手を突き出し、叫んだ

 

「変身!」

 

デッキをバックルにセットすると彼の身体はガラスが割れるような音と共に鏡像が重なった

名前は、ライア

 

「ま、部外者には消えてもらわないとね。変身!」

 

同様に言いながら芝浦もデッキを突き出し、同様に輝きだす

そしてガッツポーズをするように右手を動かしデッキに挿入する

手塚と同様に鏡像が重なりつつ、鏡が割れるような音がした

 

そこにいたのはサイのような姿のライダーだった

名前は、ガイ

 

「…たく、世知辛いな」

「全くだ。…だが翔太郎、お前ここでどうやって変身するんだ」

 

そう言ってディケイドライバーを装着し、開きながら士は翔太郎に聞いた

対する翔太郎は待ってましたと言わんばかりに、あるドライバーを取り出す

 

「その辺は抜かりはねぇ。…フィリップには悪いが、今回は俺一人で戦う」

 

普段変身する際、外に二人でいるときは鳴海亜希子という女性にソウルサイドであるフィリップの身体を安全な所に運んでもらっていた

しかしもうその人は照井竜の所に嫁いでいるのでそれが出来ないのだ

だが翔太郎はもう一つ、ドライバーを持っている

 

「ならそれでいい。…行くぞ」

「おうよ。聞き分けの悪いガキと、融通の聞かない仕事人にお仕置きだ!」

 

そう言って士はカードを取り出し、翔太郎は一本のメモリを用意する

 

「変身」

 

言って士はディケイドライバーにカードをセットし、ディケイドライバーを閉じる

 

<KAMENRAID DECEDE>

 

ディケイドライバーからそんな電子音声が聞こえ、士の身体を変えていく

九つの残像が重なっていき、彼はディケイドとなる

 

その隣で翔太郎はメモリのスイッチを押し、そのメモリを起動させる

 

<JOKER!>

 

そのメモリを翔太郎は左手でドライバーへセットし右手を自分の前へと動かしてその指をジェイのように開く

 

「俺―――変身」

 

そして再び左手でそのドライバーを開くように動かした

 

<JOKER!>

 

その電子音声と共に、彼の身体は黒い装甲に纏われていく

赤い複眼と黒いボディに身を包んだその姿は―――

 

「仮面ライダー…ジョーカー」

 

彼は左手をスナップし背後にいるフィリップへ声をかける

 

「相棒、お前は当麻を追っかけてくれ! こいつらは俺たちがなんとかする!」

「あぁ、無理しちゃダメだよ翔太郎、門矢もね」

 

そう言ってフィリップは駆け抜けた

彼の背中を見届けてジョーカーはディケイドを見る

 

「…行くか。ディケイド」

「あぁ、行こうぜ」

 

短くそう言い合って、二人は目の前のライダーに向かって走って行く

 

「じゃあ軽くいきますかぁ!」

「…足元をすくわれるそ」

 

妙に気合の入ったガイをたしなめるようにライアは言った

そして向かってくるジョーカーとディケイドを迎え撃つ

 

◇◇◇

 

その場で睨み合っていると、当麻の隣に一人の人影が飛来した

ふと、その人影を当麻はちらりと見やる

降りてきたのは鏡祢アラタだったのだ

その視線にアラタも答えるように見返した後、ふと空を見た

そこにはゴウラムに乗った、心配そうな表情で見つめる御坂美琴の姿があった

そんな美琴にアラタはぐ、と親指を立てる

その仕草に、美琴は頷いて、ゴウラムが少し離れていく

 

「…ンだよ、また来客って奴ですかァ? 今日はなンだ、ハロウィンパーティかっつの」

 

一方通行(アクセラレータ)は頭をボリボリと掻きながら当麻を睨む

 

「浅倉はアイツをやれ。…俺はこの三下を潰す」

 

今現在一方通行(アクセラレータ)の興味はあの少年に意識を向けている

それもそうだ

あんなちょっとコンビニ行ってくるみたいな感覚でケンカを売られてはたまったものではない

 

「あぁ…さっさと愉快なオブジェにでも変えてやれ」

 

そう返しながら浅倉はゆっくりと蛇の紋様が描かれたデッキをゆっくりと突き出していく

そしてゆったりと右手を動かし…半月を書くようにさらに動かす

 

「変身!」

 

現れたバックルに浅倉はデッキを挿入し、その身体を紫色のライダーへと変えていく

その名は王蛇

変身を終えた王蛇は大きく首を回すように動かしつつ、当麻の隣の男を睨む

 

 

「…任せるぞ、当麻」

 

アラタは腰に手を翳し、アークルを顕現させながら隣の当麻に声をかけた

当麻は右手を握り直して、一方通行(アクセラレータ)を睨み返しながら答える

 

「あぁ、任されたぜアラタ。お前も無茶はすんなよ」

「おうよ。そっくり返すぜその言葉…変身!」

 

ギイン、とアマダムが輝きその姿を変えていく

しかしその姿は普段とは角が短く、装甲も白かった

先ほどのダメージがまだ残ってるのか、彼はグローイングフォームへとその姿を変えたのだ

しかし特に気に留めた様子はなく、当麻から離れつつクウガは王蛇へと身構える

 

それと同時に、当麻も一方通行(アクセラレータ)へと身構えた

 

応えるように―――一方通行(アクセラレータ)は狂気の笑みを浮かべた―――




デッキライダーは鏡がなくても変身できる仕様です
ミラーワールドはあるにはありますがディケイド仕様(どっからでも入れどっからでも出れる)
しかしあんまりミラーワールドは使わないので意味はないかもしれない

バロンの登場に胸を躍らせつつではまた次回


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#28 誰がために

今回で妹達編は終わり
相変わらずな出来ですがあしからず

次回から劇場版に取り掛かろうと思います

後一方通行に若干の改変ありです

誤字脱字ありましたら報告してください

ではどうぞ


当麻は拳を握る

彼の隣で、クウガはゆっくりと身構える

 

そんな二人を、御坂妹はただ見ていた

あの人は何をしようとしているのか

分かってる

彼は一方通行(アクセラレータ)と戦おうとしているのだ

彼だけではない

 

姿を変えたアラタ自身も、戦おうとしているんだ

こんな、劣化コピーの自分の為に

 

「何を―――しているのですか? とミサカは問いかけます。こんな替えの効く模造品の為に、貴方たちは何を―――」

 

 

 

「うっせぇよ! ミサカっ!」

 

 

 

そんな御坂妹の言葉をクウガは一言で切り捨てる

彼に続けて、当麻も言葉を紡いだ

 

「替えとか模造品とか、そんなの関係ねぇんだよ。俺たちは〝お前〟を助けるためにここにいんだよ! 他の誰でもないお前の為に戦うんだ! それでいいじゃねぇか!」

 

あの二人が何を言ってるのか御坂妹には分からなかった

御坂妹の言葉は何一つ嘘はなかったはずだ

この身体はいくらでも替えの模造品

一人減ったら一人足し、三人減ったら三人足せばそれで済むような存在のはずだ

それなのに

 

「お前はこの世界で一人しかいねぇだろう!?」

「なんでそんな簡単な事もわかんねぇんだっ!?」

 

血反吐を吐くように叫ぶ彼らの言葉はどういう訳か、彼女の心に届いた

別に、彼らの言葉を信じたという訳ではない

自分の命など、いくら消えても問題なんてないのに

そんな、道端の石ころ同然の命を、守ろうとしてくれる人たちがいる

 

「今からお前を助けてやる」

「お前はそこで休んでな」

 

 

士に言われた言葉を思い出す

 

―――いいか、最強だなんて言われているが、無敵じゃない

 

当麻は拳を握る

 

―――聞くところによると、そいつは今まで負け知らずらしいじゃないか…恐らくその勝利は自分の能力に頼り切ったものだ…掻い潜って何とか一撃を叩きこめば、勝機はある

 

ちょうど距離は十メートル前後

全力でいけば、三歩から四歩で詰める距離のハズだ

 

当麻は息を吸い、一方通行(アクセラレータ)目掛けて勢いよく駆けだした

 

しかし、一方通行(アクセラレータ)はその場を動かない

それどころか拳すら握らない

しかし彼は笑みをやめない

 

そしてトンと、柔らかくリズムを刻むように彼は足で砂利を踏む

 

瞬間、彼の足元で砂利が爆発した

 

言うなればそれは砂のショットガン

 

「!」

 

気づいた時にはもう遅かった

咄嗟に顔を庇った瞬間、轟音と共に大小さまざまな小石が当麻を襲う

 

「遅ェ」

 

言いながら一方通行(アクセラレータ)は手を下から上に振り上げた

刹那、まるで弾丸のような風が当麻に向かって一直線に飛び交った

 

「そんな速度じゃ百億年遅ェぞオラァッ!!」

 

その風を避ける当麻に向かって一方通行(アクセラレータ)は砂利を蹴り上げた

三段のように放たれた小石はまたも当麻に襲い掛かる

 

「っぐ!」

 

のた打ち回る当麻に向かって今度は鋼鉄のレールを飛ばしてきた

あんなものを喰らっては確実に死に至る

 

それでも当麻はレールの着弾地点を予想し転がり続けることしかできない

 

(っくそ…! 全然近づけねェ!)

 

 

互いが互いをにらみ合っている

クウガの赤いようなオレンジ色のような複眼が王蛇を捉え、王蛇の仮面は白いクウガを捉えている

 

「お前のお仲間はだいぶ苦戦してるみたいだなァ」

 

王蛇は言う

 

「そもそも、本当に勝てると思ってるのか。一介の一般人がアイツに」

「勝てるさ。…こんなくだらないことに関与しなきゃ強くなれないショボイ最強よりはな」

 

その言葉を聞いたとき、思わず王蛇は仮面の下で笑ってしまった

そして思う

 

「お前…マジで面白れぇよ―――!」

 

王蛇は牙召杖ベノバイザーを持ち、一直線にクウガに向かって駆け出した

そのままベノバイザーをクウガの顔目掛けて突き出してくる

 

クウガは首を動かしてその一撃を躱しつつ、そのバイザーを取り、相手の胸元にその拳を叩きつける

しかし―――

 

「…お前、舐めてんのか」

 

確実に捉えたハズなのに、まったく効いていなかった

否、何となくわかっていた

 

この白い姿は自分の覚悟が足りない時や、自分の身体にダメージが残っているときになってしまう姿だ

いわば、クウガの不完全体と言ったようなものだ

 

「っく、そぉ!」

 

そのまま数発、拳を叩きつける

しかし、まったくと言っていいほどダメージを与えることなどできなかった

 

「パンチってのはなぁ…こうすんだ!!」

 

お返しと言わんばかりに腹部に放たれた王蛇の拳はドゴム、と直撃する

ガハッ、と空気を吐き出し地面に膝を付いた瞬間に王蛇のつま先がさく裂する

そのまま大きく仰け反ってクウガは地面を転がった

 

「おい。もっと俺を楽しませろ…そんなんじゃ飽きが来るぜ?」

 

牙召杖を回しながら王蛇はゆっくりと歩いてくる

その姿はまさしくチンピラのそれなのだが、逆にそれがしっくりきているかのような気がする

接近してくる王蛇を睨みながらクウガは態勢を立て直した

 

闘志はまだ、消えていない

 

 

目の前で二人が戦い始めても、まだ御坂妹は理解していなかった

否、出来なかったのだ

 

他の誰でもない自分の為に戦ってくれているという事に

 

「なぜ…です、と、ミサカは自分に問いかけます」

 

二人は言った

お前を助けたいんだ、と

 

「こんな…模造品(わたし)に…価値なんて―――」

「価値ならあるよ」

 

ふと声が聞こえた

その声に御坂妹は振り返る

そこ立っていたのは

 

「初めましてだね。…僕はフィリップ。…あの二人の知人さ」

「ち、じん…、なれば早くあの二人を止めてください、とミサカは懇願します。このままでは殺されてしまいます、ともミサカは付け加え―――」

 

「大丈夫。…彼らは死なないよ。負けもしない」

 

だがそうフィリップはそう断言する

―――わからない

どうしてここまで頑なになれるんだ

 

「意味が分かりません、とミサカは言います、どうして、こんな―――」

「もうそれはナシだよ。…そこまで君は誰かを想えるんだ。君には十分価値がある」

 

価値

私に価値なんて見出したのか、と彼女は思う

 

「そうだろう? 君は彼らを心配している。そんな思考が出来るなら…君はもう人形じゃないんだ」

 

言いながらちらり、とフィリップは自分の隣を見る

そこにはちょうどゴウラムから飛び降りた美琴の姿があった

 

「…だから君も、阻止しようと奮闘したんだろう?」

「…私がやったことは、あんま意味なかったですけど」

 

そう言う美琴にフィリップは首を振った

 

「意味はあったよ。…君がそう行動を起こしたから、この子には命を懸けてまで守る価値があると言えるんだ」

「…なら、いいんですけどね」

 

僅かに笑みを作りつつ、美琴は御坂妹へ駆け寄った

倒れる彼女に肩を貸しながら、彼女へと言葉を紡ぐ

 

「お姉様…」

「信じましょうよ。…あいつらを」

 

 

「行くぞ―――」

 

そんな言葉と共に繰り出される鋭い蹴りをディケイドは手で弾きながら、反撃の機会を伺う

赤い色が目立つ目の前のライダーは戦闘にも慣れているのか、ときおり放つこちらの攻撃もすかさず対応してくる

 

「お前は―――なんでこんな事に協力する」

 

ライアの拳を受け止め、ディケイドはすかさず打ち込む、がそれを受け止められる

そんな時、ふとでディケイドは問うてみた

ライアはディケイドを蹴りで距離を離しながらライアは口を開いた

 

「そうだな。…、あの少女たちの運命を見ている」

「…運命、だと」

 

ライアは頷きながら

 

「あの少女の運命を、見届ける。…もっとも、もう決まっているのだが」

「その決められた運命を、お前から変える気はねぇのか」

 

そうディケイドは聞く

しかしライアは首を振った

 

「運命を変えることなどできない。…決められた定めは曲げる事など出来はしないんだ」

「…なるほど。だいたいわかった」

 

この男には、言っても恐らく無駄だろう

運命を変える事などできないなどと信じているこの男は

 

「…わかった、だと?」

「あぁ。決められた運命、とお前はいったな」

「それが…それがどうした」

 

ディケイドはライドブッカーをソードモードに変形させ、剣先をライアに突きつけた

 

「それはお前が変えようとしないだけだってな」

「…なに!?」

「変えられるかもしれないのに、お前は探していないだけの…臆病者だってな!」

「―――貴様!」

 

激情に駆られるようにライアはVバックルから一枚のカードを引き抜き、それをエビルバイザーへとカードを装填した

 

<スイングベント>

 

突如現れた鞭をライアはとり、それをディケイドに向けて振り回す

それをディケイドはソードで斬り捌き、ライアへ接近していく

 

「変えられない運命なんてない! お前ほどの男が気づいていない訳ないだろ!」

「っく…!」

 

鞭と剣

異様な組み合わせの鍔迫り合いが巻き起ころうとしたその時、大きな爆発音が耳に届いた

 

 

「ッはは、おかしいのねアンタらも! あんな人形に価値なんてあるわけないのに!」

 

肩に重そうなパーツをつけているにも関わらずガイの動きは早かった

しかしそれに追いつけないジョーカーではない

 

「そんなもんは、お前が決めるもんじゃねえだろ!」

 

鋭い蹴りがガイを捉える

それにガイは両手を使って受け止める

 

「けれどあんたでもないよねぇ! それ決めんのもさぁっ!!」

 

そのまま両手を前に突き出しジョーカーの体制を崩す

大きく吹き飛ばされたジョーカーはそのまま地面を後ろに転がりつつ態勢を立て直した

 

「ッてゆうか、これってゲームなんだって、なんで分かんないのさ」

「…ゲーム、だと…!?」

 

ジョーカーの仮面の中で翔太郎のこめかみがピクリと動く

この男は、今なんといった

 

「ゲームだよゲーム。…これはさ、一方通行(アクセラレータ)のゲームなんだよ。アンタだってRPGやったことくらいあるでしょ? 一匹一匹スライム倒して経験値溜めてさ、それで一杯になったらレベルアップってやつ」

 

ゲーム

目の前の男はそう言い切った

ジョーカーはただ拳を握りしめる

 

「…ふざけんな」

「ハァ…?」

 

「人を殺すようなゲーム…認めてたまるかって言ってんだ! そしてそれをゲームって言い切るてめぇみてぇなガキもな!!」

 

それを聞いたガイは仮面の下でほくそ笑む

そして徐にvバックルから一枚のカードを取り出して

 

「…言ってくれるじゃん」

 

左肩のメタルバイザーへ投げ入れた

 

<ストライクベント>

 

瞬時に彼の右手に角のようなガントレットが現れた

 

しかしジョーカーは憮然とガイに向かって身構えるだけだった

睨むようなその眼光は以前にもまして鋭くなっているほどである

当然だ

殺し合いをゲームと言い切るこんな男を、翔太郎は許す事はできなかった

 

そうしてガイに向かって駆けだそうとしたその時、大きな爆発音が耳に届いた

 

 

「けっ、ごほっ!」

 

当麻は息を吐き出すように咳をする

 

一方通行(アクセラレータ)が攻撃に使ったコンテナの中身は小麦粉だったのだ

たまたまだったのか、もしくは最初から小麦粉だったのかは分からないがそれを見た一方通行(アクセラレータ)は粉塵爆発という攻撃方法を思いついたのだ

 

粉塵爆発とは、濃度などによって、火花などの火源からエネルギーを与えられ、熱と圧力を発生しながら急激に爆発することだ

石炭微粒子による炭塵爆発がよく知られているが、このほかにも小麦粉、砂糖、プラスチック粉、有機物の微粉末、金属粉末、洗剤などきわめて広範囲のものが粉塵爆発をおこす…らしい

 

どうにか爆発から逃れることは出来たものの、彼が身体に受けたダメージもゼロではない

新鮮な空気を大きく吸い込み、当麻は息を整える

そして後ろを振り返った

 

そこに一方通行(アクセラレータ)は歩いてきていた

己が作った炎の中を悠々と歩いてきていた

 

「ははっ。あァ死ぬかと思った。喜べ三下、テメェ世界初俺を死ぬまで追い詰めた男だぜ?」

 

歌うように言う彼の声に僅かながら恐怖する

それでも、まだ立ち向かうという意思は残っていた

そんな当麻を見て、本当に興味なさげに彼は言う

 

「…お前、身構えてどうすンだ?」

 

小首をかしげる子供みたいに一方通行(アクセラレータ)は首をひねった

 

「お前絶対的な差ってわかってンのか? そもそも近づいたところで何ができるってンだよ。…まぁそれでも? お前は頑張った方だと思うぜェ? この俺を前にまだ息してンだからなァ…」

 

一撃

たった一撃―――…叩きこんでどうになる?

もし腕を戻す前に掴まれたり、触れられたりでもしたらそれでおしまいだ―――

 

いや! と当麻は心の中で首を振る

その一撃を与えることすらできないまま諦めるなんてできない

助けると決めた以上、自分から逃げ出すようなことはしたくない

 

「お前は頑張った…本当に頑張ったよ。だから―――イイ加減楽になれッ!」

 

そう言って一方通行(アクセラレータ)は両足を蹴り、一直線にこちらに向かってきた

 

ここだ、と当麻は直感的に感じ取る

相手に向かうことが出来ないのなら、相手が来るのを迎え撃てばいい

それを行うタイミングはここしかない、と強く当麻は拳を握る

 

そしてこちらに向かってくる相手の顔を見据え―――その拳を打ち出した

 

 

爆音を耳にし、咄嗟にクウガは振り返った

しかし、すぐに目の前の相手に意識を向ける

 

「…ほぉ? お仲間が死んじまったのかもしれないのに、余裕だな」

「あいにく俺は信じている。…ああ見えてタフなんでな」

 

仮面の下でアラタは笑った

そんな笑みを感じ取ったのか王蛇は大層不機嫌と言わないばかりに舌を打ちながら、バックルから一枚のカードを取り出し、ベノバイザーに装填した

 

<ソードベント>

 

そんな電子音声が鳴った後、彼の手に金色の突撃剣が現れる

王蛇はそれを手に、クウガへ向かって行った

クウガは両手を開き、相手がこちらに来るのを待つ

幸いにも相手の剣は切るような形でなく、叩きつけるような形状をしていたのが救いか

もっとも、剣先で繰り出されれば斬られてしまうが

 

「らぁっ!!」

 

そのまま片手で振り下ろされたその一撃をクウガは両手を交差させて受け止める

そして両手の甲を滑らすように接近させる

 

彼女は自分を模造品と言った

材料があればいくらでも作り出せる人形

 

クウガはそれを否定する

仮にそれで新しい御坂妹が生まれたとしても、〝今、ここ〟にいる御坂妹はそれで終わりじゃないか

 

自分たちと触れ合った彼女を覚えている

猫のノミを取ってくれた彼女を覚えてる

この世界に、奪われていい命なんてあるはずがない

 

これ以上、妹達(シスターズ)の死を望んでいない人たちがいる

それ以前に、約束したんだ

 

助ける、って

 

拳を握る理由なんて、それだけで十分なんだ―――

 

そう強く願いながらアラタは拳をより一層力強く握りしめる

瞬間、彼の両腕の白い小さな宝石が赤く輝いた

 

「でぇいやぁぁぁっ!!」

 

そのまま勢いを利用しクウガはその拳を放つ

王蛇は特に防御もしなかった

する必要もなかったからだ

 

この白い奴の非力さでは、自分を怯ませることもできない

そう考えていた王蛇の考えは脆くも崩れ去る事となる

 

ドゴム、と胸部に直撃した

その痛みは、先ほどとは比べ物にならないくらいに強力な痛み

 

「―――っ!!?」

 

思わず大きく王蛇は後ろへ仰け反った

明らかに威力が向上しているのだ

 

「ぐっ!? が…!?」

 

地面に膝を付きながら王蛇は目の前のクウガを睨む

視線を向けた時、クウガは大きく右足をひいており、両手を開いていた

そして―――一直線に走ってくる

 

「!」

 

本能的にマズイと察知したのか素早く王蛇は立ち上がって両手で防御態勢を取った

一撃目、どうにかその一撃を防ぐことは出来た

しかしそれでも僅かに押されてしまう

 

付近に着地した白いクウガはその場でもう一発飛び蹴りを放ってきた

 

二撃目、今度は防御が間に合わずもろに身体に喰らってしまった

直撃を受けた王蛇は今度は大きく後ろへ吹き飛ばされる

幸いにもこちらの蹴りは最初のパンチと同じようにあまりダメージはなかったことが救いだったか

 

しかしクウガは止まらなかった

再び蹴りの体制を取り、こちらを見据える

その時、彼の足が一瞬赤く光った気がしたが、王蛇はそんな事気にする様子などなかった

 

すでに立ち上がったときには、もうクウガはこちらに向かい跳躍しており―――

 

三撃目

 

紅蓮に纏われた白いクウガの蹴りは王蛇の顔面にぶち当たり、彼を大きく吹っ飛ばす

 

スタリ、と着地したクウガは肩で息をしながら地面を転がった王蛇を見る

そこに倒れていたのは、変身が解除された浅倉の姿があった

 

 

エライ爆発音が聞こえた気がするが、ディケイドは気にしないことにした

 

今は目の前の男を倒すのが先だ

 

「ふん!」

 

振るわれる鞭をライドブッカーソードで斬りはらいつつ、咄嗟にブッカーをガンモードに切り替えてライアに向かって銃撃を行う

ライアはその場から跳躍を行い、ディケイドの背後を取った

背を取られたディケイドはすかさずライアを撃とうとガンモードを向けるが、その手がライアの持つエビルウィップに弾かれる

 

「っ!」

 

その隙を逃さずライアはさらに連続攻撃を仕掛ける

丸腰となったディケイドは数発貰ったが、すぐに後ろに飛んで距離を取る

 

「…ったく…やるじゃねぇか」

 

仮面の下で士は笑う

それと同時に苛立ちを覚える

どうしてこんなに力があるのに、お前は動かないんだ、と

 

徐に一枚のカードをディケイドは取り出した

 

龍のような、それでいて炎ような色のそのカードは―――

 

「見せてやる…願いに準じた男の変身した姿を!」

 

それをディケイドはドライバーに差し込んだ

 

<KAMENRIDE RYUKI>

 

かがみの割れるような音と共に、ライアと同じように残像が重なる

ライアは思わず身構えたがふと気づくとそこにディケイドの姿はなかった

代わりに、赤いドラゴンのような仮面ライダーが、そこにいた

 

名を仮面ライダー…龍騎

 

「…シャ! てな」

 

ディケイド龍騎は自分の顔の前で拳を握り―――ライアに向かって駆けだす

相手の行動に一瞬驚きそうになるがすぐに手に持つエビルウィップを振るう―――がディケイド龍騎はそれをスライディングして回避し、相手の足に蹴りを叩きこんだ

 

すかさずディケイド龍騎は自分の身体を押すように地面を叩く

その威力を利用して、スライディングの体制からライアの腹部を蹴りつけた

 

「うぐ!?」

 

腹部に痛みに耐えながらライアはエビルウィップをその辺に放り投げた

同時にもう一枚、カードを取り出す

 

それはエイの紋様が刻まれたカードだ

 

「…ケリをつけよう」

「上等だ」

 

同じようにディケイドもカードを取る

カードのデザインは違うが、同じように龍の紋様が書かれている

 

そして―――二人はカードを入れた

 

<ファイナルベント>

<FINAL ATTACK RIDE RYU RYU RYU RYUKI>

 

そんな電子音声が鳴り、二人にモンスターが現れる

 

一体はエビルダイバーという、エイの形を持つモンスター

一体はドラグレッダーという、竜の形を持つモンスター

 

ディケイド龍騎はそのまま宙へと飛び、ドラグレッダーも彼の周囲を飛び交う

それに合わせてライアも自身の周りを飛び交うエビルダイバーの背に飛び乗った

 

ドラグレッダーが放つ炎と共に繰り出されるドラゴンライダーキックを、ライアのハイドべノンが迎え撃つ

 

お互いの必殺技が激突して、立っていたのは―――

 

 

「…まぁこんなもんか」

 

 

ディケイド龍騎だった

自分の背後では倒れているライアの人間体の姿

もぞもぞと動いている所から恐らく気絶してはいないのだろう

 

ディケイド龍騎はディケイドへと戻った後ドライバーを開き変身を解く

士はちらりと背後の彼を見たが、特に言葉をかけず歩き出す

 

その背中を、手塚は朦朧とした意識の中で見つめていた

 

 

「ははっ! あんな爆発じゃ生きてなんかいないんじゃない!?」

 

ストライクベントによって生み出されたメタルホーンを振るいながらガイはジョーカーを追い詰めていく

とはいってもその攻撃はなかなか当たらず、ほとんどが避けられるか、捌かれるかで正直ガイはイライラしていた

 

そもそもこういうライダーへと変身し、戦うことも彼にとってはゲームと一緒なのだ

戦って経験を積み強くなる

弱い奴を潰すのは楽しいし、強い奴を屈服させるのはもっと楽しい

 

目の前のライダーもそれと同じだ

綺麗事を吐く偽善者、あんな人形を助けるなんてどうかしている

 

一方通行(アクセラレータ)も派手にやるよね、あんな奴とっとと潰して、ゲームに戻ればいいのにさ!」

 

「いちいちうっせぇよ!」

 

下から繰り出された唐突な蹴りがガイの右手を捉える

大きく右手を弾かれ隙を晒したガイはジョーカーの拳を顔面にもらった

 

「ぐっ!?」

 

「ゲームとか…人形とか…! 俺はお前みたいな、遊び感覚で戦うような奴が一番腹立つんだ!」

「なっ! …アンタだってそうじゃないのか! こんな力を手に入れて…遊ばない方がどうかしてる!」

「ふざけんな! この力は…この力は誰かを守るためのもんだ! お前と一緒にすんなっ!」

 

言葉と共に放たれたジョーカーの蹴りはガイの胸部に当たる

ぐ、とガイは胸を抑えつつ彼が言った言葉を頭の中でリピートした

 

誰かを、守る

 

ガイにはそれが分からない

今まで自分の為に使ってきたこの力を、誰かのために振るうなど考えたこともなかった

 

「バッ…バカか! なんだって顔も知らない奴なんかの為に―――」

「そうかい、案外悪くないぜ。誰かに感謝されるってのは」

 

徐にジョーカーはメモリを引き抜き、ドライバー横のマキシマムスロットへと装填した

そしてそのスロットを軽く叩き―――

 

「大人の一発お見舞いしてやる! 頭冷やしなぁ!」

 

<JOKER! MAXIMUMDRIVE>

 

そうしてジョーカーは勢いよく走り始める

 

「何が大人だ…! この野郎!!」

 

釣られるようにガイも紋様が刻まれたカードを肩のバイザーへ投げ入れる

 

<ファイナルベント>

 

その音声と共にガイの背後にサイ型のモンスター〝メタルゲラス〟が現れる

改めてガイはメタルホーンを構え直し、ゲラスの方に飛び乗った

 

乗ると同時にゲラスはジョーカーの方へ駆けだした

駆けだすゲラスの方に乗りながらガイはジョーカーへホーンを突き出し、ヘビープレッシャーを繰り出す

そのヘビープレッシャーを迎え撃つように拳を突き出し、ライダーパンチを繰り出した

 

角と拳

二つの一撃が交差し、周囲に爆発が巻き起こる

 

もくもくと煙が張れる中、そこに立っていたのは黒い人影

男性はロストドライバーを閉じ、メモリを抜いて変身を解く

そして被っていた帽子で自分の周囲にある煙をパンパンと払ったあと帽子を再びかけ直す

 

「…ま、せいぜい迷いな。…俺が言うほどでもねぇが、若ぇんだから」

 

自分の後ろで倒れている芝浦に、翔太郎はそんな言葉を投げかける

そして一度倒れた彼を振り返りながら、翔太郎は前に向かって歩き始めた

 

 

幻想殺しを宿した右手は躊躇なく一方通行(アクセラレータ)の顔面に突き刺さった

 

ぐしゃり、と彼の顔に当たった当麻のパンチは一方通行(アクセラレータ)を吹っ飛ばし彼を砂利の上へと倒れさせた

 

「あ…は?」

 

一方通行(アクセラレータ)本人も理解していなかっただろう

恐らくなんで自分が空を見ているのかも

もそり、と一方通行(アクセラレータ)は起き上がり殴られたところに振れて粘つく赤い液体を見た

 

「―――な、ンじゃこりゃァァァ!?」

 

殴られた!? 

この俺が―――!?

 

否、あり得ないと一方通行(アクセラレータ)は心の中で自問自答する

第一自分に振れる全てのもののベクトルを一方通行(アクセラレータ)は操作できるはずだ

ならなんで殴られた?

 

(…ハイになりすぎて無意識に全身の反射を切っちまったのか?)

 

そう自分に結論付けて再び彼は当麻へと向き直る

 

「はっ、はは! イイねェ! 愉快に素敵に決まっちまったぜオイオイヨォ!」

 

いいながら一方通行(アクセラレータ)は再び当麻を破壊しようと手を伸ばす

そうだ、さっきのは何かの間違いだ

テンションが高すぎたせいで引き越したアクシデントだ

このまま手が相手に触れればその時は今度こそアイツの身体は粉微塵に吹き飛ぶはずだ

 

当麻はゆっくりと右手を動かす

その右手は一方通行(アクセラレータ)の手に触れた

 

パン、と緩やかに一方通行(アクセラレータ)の手が弾かれた

 

「―――!?」

 

今度こそ一方通行(アクセラレータ)は確信する

しかし確信したときにはもう上条当麻の右手は目前にまで迫っており

 

バガン、と再び一方通行(アクセラレータ)の顔面にぶち当たる

 

それでも彼は目の前の男を殺そうと両手の毒手を伸ばす

しかしその手は触れる事かなわず、いとも簡単に避けられる

身体を大きく動かして、或いはその右手で弾かれて

 

「っくそ! なンなンだよその右手は!!」

 

能力に頼っているか、否か

 

結局はそれが二人の明確な違い

 

一方通行(アクセラレータ)は戦っているわけではなくただひたすらに殺しているだけだ

見についた能力があまりにも一方的なばかりで、彼は戦い方を覚えようとはしなかったのだ

 

実際よく見ると彼の構えは適当で足の運びもめちゃくちゃだ

しかし、それすらも気にする必要もないくらい彼のチカラは強すぎた

技術や努力は言えば足りない人間が己を補うためのものに過ぎない

 

しかしそんなものを必要としないくらい、一方通行(アクセラレータ)という能力は圧倒的だった

上条当麻という、イレギュラーが現れるまでは

結局の所、士が言っていた通りだ

 

一方通行(アクセラレータ)は最強なだけで、無敵ではない

 

その針の穴のような隙間に勝機は見える

 

「三下がァァァッ!」

 

咆哮と共に一方通行(アクセラレータ)の足は地面を踏む

巻き上がる砂利の向きを変え放たれた砂利のショットガンは今度はいともたやすく避けられた

顔面を狙ったその攻撃は低く身を屈めただけで避けられてしまった

そしてその身を屈めた状態で当麻は拳を強く握り、渾身のアッパーカットを一方通行(アクセラレータ)の顎へと突き刺さる

 

「つまんねぇことに手ぇ貸しやがって」

 

当麻は紡ぐ

 

「な―――に!?」

 

慣れない足に力を込めながら一方通行(アクセラレータ)は言葉を聞いた

 

妹達(シスターズ)だって生きてんだぞ。毎日毎日…必死になって走ってんのに…なんでお前みてぇなヤツに喰われ続けなきゃいけねぇんだ…!」

 

生き、てる?

 

(あいつらは―――人形だって―――)

 

そう科学者は言った

だから何も気に病むことはないとも

 

けれど―――この男は―――浅倉とも対峙しているあの男も―――この人形を助けるために立ち塞がって…

 

絶対的な力が欲しかった

最強の座を狙う馬鹿どもが、挑む気すら起こさなくなるような存在になれば、また、あの輪の中に―――

 

 

―――おい、アクセラレータ

 

 

不意に頭に響く声

それは浅倉亮の声

 

―――最近上手いコーヒーが出たらしいぞ、買いに行かないか

 

手塚孝之の声

 

―――なぁ、ゲームしようぜ。イイじゃん、手の反射くらい切れんだろ?

 

芝浦篤の声

 

「歯ァ食い縛れよ最強―――」

 

なんでこんな簡単な事気づかなかった

こんな自分を友と呼んでくれる存在は―――こんな近くにいたのに

 

「俺の最弱は…少し響くぞ」

 

当麻の拳は襲い来る

しかし一方通行(アクセラレータ)は特にアクションを起こさなかった

 

(あァ…何やってンだァ…俺はァ…)

 

なんて、無様

 

一直線に突き出された上条当麻の最弱は、一方通行(アクセラレータ)を吹き飛ばす

華奢な身体は地面に叩きつけられ、彼は手足を投げ出して、ゴロゴロと転がった

 

◇◇◇

 

夢を見た

 

燃え盛る教会の中、一人の刑事がコウモリの怪人とライフル一つで戦っていた

しかし相手は怪人、力の差は歴然で全く歯が立たない

おまけに刑事はコートを着ていたためか、炎が刑事のコートに燃え移ってしまった

 

絶体絶命

そう思ったとき、入り口から一人の男性がバイクごと突っ込んできた

バイクは勢いを殺しつつ、横に倒し強引に止めてそれを怪人に向けて滑らした

そのままバイクは怪人に当たり、ガソリンにでも引火したのか、激しく爆発しさらに炎上する

 

「刑事さん!」

 

バイクに乗っていた青年は来ていた服を脱ぎ、刑事に燃え移っていた炎を消そうと刑事にばさばさと服を当てる

消されながらも刑事は言う

 

「なぜここに来た!?」

 

刑事は嫌だったのだ

一般人であるその青年が戦おうとしてることや、力を手に入れたからって中途半端に関わろうとしている事が

そんな思いとは裏腹に、青年は叫ぶ

 

「戦います! オレ!」

 

襲い来るコウモリ怪人に挑みながらも彼は刑事の方へ飛ばされる

そんな青年の胸元を掴み、

 

「まだそんな事を―――!?」

 

しかし青年は刑事を振り切り、コウモリの怪人と相対しながらまた言葉を紡いでいく

 

「こんな奴らの為に! これ以上、誰かの涙は見たくない!!」

 

青年は言う

 

「皆に笑顔で、いてほしいんです! ―――だから見ててくださいオレの―――」

 

 

 

―――変身ッ!!

 

 

 

そして青年は戦いの運命をたどる事となる

仮面の下に、その涙を隠しながら―――

 

◇◇◇

 

「ハッ」

 

ふと、目が覚めた

 

似たような夢をどこかで見たような気がする

だけど、なんでこんなリアリティある夢を見るのだろうか

 

「…てかここどこだっけ」

 

見慣れない場所に戸惑いつつ、何があったかなと思い出す

そうだ、思い出した

 

確か昨日当麻は一方通行(アクセラレータ)と、自分は紫色の仮面ライダーと戦ったのだ

そしてその戦いが終わった後に、御坂美琴やフィリップから念のために病院に行った方がいいと言われたのだが、それを断ろうとして半ば連行されるように美琴に二人は連れられて―――検査入院という形で今に至る

 

「起きたか、アラタ」

 

ふと視界に入ってきたのは蒼崎橙子だった

彼女は病室であるにも関わらず、窓を開けて堂々と煙草を吸っていた

 

「…あの、ここ室内なんですけど」

「細かい事は気にするな。ちゃんと窓を開けてるだろうが」

「いえ、そういう事でなく。…まぁいいや」

 

この人がこんななのは今に変わったことではない

それに今は、何となく煙草を吸う橙子を見てどこか安心している自分がいる

 

「それで、何の用さ」

「何。一応見舞いに来たんだよ。と言っても、杞憂だったがな」

 

橙子は煙草を携帯灰皿にブチ込んで改めてアラタに向き直った

 

「それとなアラタ。お前無茶しすぎだぞ」

「え?」

「昨日は無茶しすぎと言ったんだ。とにかく、今日一日は変身するな。ゆっくりアマダムを休ませてやれ」

 

そう言って橙子は懐から缶ジュースを取り出し、それをアラタに向かって投げ渡す

唐突に投げられたものの、それを何とか受け取り、その缶ジュースを適当に置く

因みにオレンジジュースだった

 

「…まぁ、そうさせてもらうよ」

「分かればよろしい。後で未那や黒桐夫妻に会いに行ってやれ。心配してたぞ」

「おっけー。…いろいろとありがとう」

 

そう言うと橙子は短く手を振って出口へと向かっていく

そして橙子が扉を開けた時、一人の女の子と鉢合わせした

 

「あっと…、すいません」

 

それは御坂美琴だった

同様に橙子もそれが美琴だと確信するのに時間はかからなかった

 

「いや、こちらこそすまない。…これからも、あのバカを支えてやってくれ」

「え?」

 

美琴にそう言って橙子は彼女の隣を歩き過ぎる

そんな橙子の背中を、美琴は戸惑った表情で見つめていたが、すぐに意識を切り替えて室内に入っていく

 

「…お見舞いにきたよ」

 

そう言って小さく笑みを浮かべる

その笑顔は若干疲れたような感じがしたが、それでも本当に笑っていた

 

「はいこれ。お見舞いのクッキー。一応、デパ地下とかで高そうなの選んできたから美味しいと思うけど」

「そっか。…ありがとう」

「あぁ、それから。アンタの友達だけど」

「ん? 当麻がどうしたって?」

 

美琴は花瓶の花を整えつつ、アラタに言葉を紡いでいく

 

「ついさっき退院したわ。アンタに比べると、怪我少なかったみたいだしってあの医者が言ってたわ」

「そうか」

 

アラタはそれを受け取りながら言葉に頷き、先ほど橙子にもらったジュースの隣にクッキーは入った袋を置いた

 

「そだ、さっきの人ってだれ? 知り合い?」

「そんなところだ。俺の恩人」

 

短くアラタはそう答えると大きく背を伸ばした

その時思い出したように、美琴が口を開いた

 

「実験」

「ん?」

「中止になったってさ。あの子から聞いた。…それでさ、少しの間研究所の厄介になるって」

 

後から当麻に聞いた話によると、もともとのクローン体に薬物投与して急成長させた彼女たちはもともと短命だった彼女たちの寿命はさらに短くなってしまったらしい

そう言った状態を治すべく、研究施設の世話になって寿命を回復させる、とのこと

 

「そうか。…なら、守れたんだ」

「…うん」

 

けど…、と美琴はスカートの裾をぎゅ、と握る

 

「…それ以外の妹達(シスターズ)は…救えなかった」

 

自分が不用意にDNAマップを提供したせいで、二万もの妹達(シスターズ)を死すべくしてこの世に生んでしまった

その重荷は、これからも背負って行かないといけない

世界が許しても、それだけは永遠に背負って生きていかないといけないのだ

 

「けどさ、お前が提供しないと…妹達(シスターズ)は生まれる事すらなかった。その実験は間違ってはいたが、彼女たちが生まれた事だけは誇っていい」

 

「…私のせいで、一万人以上の妹達(シスターズ)が殺されたのに?」

 

「それでもだ。辛いことに辛いって言って、そんな当たり前の事も生きてないとできない。生まれてこないとできないんだよ。…だからきっと妹達(シスターズ)は恨んではいない。あの実験は歪んでたが、それでもこの世に生を受けた事だけはきっと、感謝してると思うんだ」

 

アラタの言葉に美琴は顔をあげた

彼は少しだけ美琴に向かって笑いかける

 

「だからお前は笑っていい。あの子たちはお前が一人で塞ぎこむことを望んじゃいない。妹達(シスターズ)は他人の痛みを笑ったりなすりつけるような子たちじゃないと思うし…何より、お前は笑った方が可愛いしね」

 

◇◇◇

 

そんな病室の入り口にて

 

「やれやれ…」

 

先ほどの発言以降、室内が妙な空気になってしまい入るに入れなくなってしまったのだ

しかしそれは、平和の証でもあるのだが

 

「まぁいいか。この世界は面白そうだ…、退屈はしなさそうだな」

 

呟きながら門矢士は歩きはじめる

 

かつて世界の破壊者と呼ばれ、今は気ままな旅を続ける仮面ライダー、ディケイド

 

科学と魔術が交差するとき、その瞳は何を見る

 

◇◇◇

 

病院の入り口にて

御坂妹は黒猫を抱えながら左翔太郎と、そしてその相棒フィリップと話をしていた

内容は実験が中止になったことと、自らの身体の調整のために一度研究所に身を置く、という事だ

 

「そうか。よかったじゃねぇか。これで一件落着だ」

「うん。ようやく一息ついたね」

「…いろいろとご迷惑をおかけしました、とミサカは礼をしながら謝罪の言葉を述べます」

 

そう言ってお辞儀する御坂妹を翔太郎は手で制す

 

「気にすんなって。こっちが好きにしただけなんだからよ」

「ですが…」

「気にしないでって本人が言ってるんだ、大丈夫だよ。翔太郎はハーフボイルドだからね」

「ハーフじゃねっつの。ったく」

 

そんなやり取りに、小さく、本当に小さく御坂妹は笑った―――そんな気がした

 

「それでは、とミサカは小さく手を振りながら踵を返します」

「おっと、もう行くのか?」

「えぇ、とミサカは答えます。これからあのツンツンの人たちに礼を述べたあと、研究所に向かうつもりです」

「そうか。じゃあね、御坂妹。機会があったらまた会おう」

「―――えぇ、とミサカは力強く頷きます」

 

そう言って黒猫を抱え直した御坂妹は手ってと走って行く

そんな背中を見ながら翔太郎は帽子を被り直す

フィリップも顎に手をやりつつ、

 

「…じゃあ、僕たちも帰ろうか、翔太郎」

「あぁ、そうだな」

 

そうして二人も帰路につく

またこれから、何でもない日々が始まるのだ



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私たちのはじめてのともだち
#29 始業式


劇場版を書きつつ、今回は風斬編導入部分

基本的には劇場版をメインですのであんまり本編は書かないかも

誤字脱字等ありましたら報告ください

ではどうぞ


前日にそれは起こった

ゆっくりと部屋でくつろいでいたアラタの部屋を開け放ち、いきなり上条当麻が入ってきたのである

顔色を見ればそれがどういったものであるか等はすぐわかった

しかし問題はそれじゃない

内容は学園都市の外の行こうとしていることで

 

なんでも、インデックスの十万三千冊の魔導書を狙い、一人の魔術師は襲撃してきた

その名を闇咲逢魔(やみさかおうま)

実際には知り合いである大切な人の為に、インデックスの持つその十万三千冊の一つの魔導書を狙って襲撃したらしいのだ

そしてその魔導書をコピーしようとするものの、魔導書の毒に身体が耐えることが出来ず、あえなく断念

そこに当麻の説得もあり、彼は当麻と共にその呪いの呪術師と一線交えるべく外に行こう、という話になったらしいのだ

 

それでもしよかったら…という事で鏡祢アラタも援軍を頼まれた

実際、そんな事情があるのなら断る理由もなく、アラタはそれを快諾、共に学園都市の外に出かけることとなった

 

しかし問題も多かった

 

そもそも学園都市の外に出かけるのにはちゃんとした許可証とかいうのがないといけない

とはいえ馬鹿正直にそんなもん申請していては時間がかかる

それを乗り切れたのが闇咲の持つ魔術のおかげである

なんでも彼の持つ魔術の一つにそれを持っているように見せかける術式があるのだ

それを用いてどうにかその堅牢な警備隊を突破

そして当麻を援護しつつ闇咲の知り合いを助けて、もう一度彼の魔術の力を借りて本日二度目の強行突破を敢行、成功し帰路についているわけだが

 

「…明日から学校だというに、お前は厄介事を運んでくる天才か」

「言わないでくれアラタ…」

 

まぁ助けられてよかったと思っているのだが

本日は始業式、いわば始まりの日である

アラタは割と暇を見つけて夏休みの課題(しゅくてき)を終わらせてきたのだが、友人である当麻は自分以上に厄介事に巻き込まれすっかりやっていなかったのだ

 

「…ハァ…結局終わらなかった。マジどうしよう」

「俺のを写せる範囲で写せよ。登校にはまだ時間があるからな」

「ホントに!? 助かるぜアラタ! 持つべきものは友達だよなぁ!」

「調子いいなおい」

 

そんな当麻を尻目に、学生寮に到着し各々の部屋の前に到着

 

「そいじゃちょっととってくるから、お前は朝飯の準備とかしとけよ」

「おう、ホント悪いな」

「気にすんなっての。困ったときはお互い様だ」

 

そう言って二人は自分の部屋へ入っていく

そう言えばインデックスは当麻の部屋に留守番してた記憶がある

危ない場所に連れてくのは危険だ、という当麻の判断で彼女を縄で縛り(これも闇咲の魔術の助力で縛った)、そのまま当麻の部屋で放置プレイされていたのだ

 

「…まぁ、それは俺の知るところじゃないよね」

 

被害を受けるのは当麻である

可愛そうな気もするが、そこら辺のフォローは出来ない

とりあえず課題のプリントを探すべく靴を脱いで居間に行こうとしたとき、ふと違和感を覚えた

 

―――居間に誰かいる

 

敵かどうかはわからない、が身構えていて損はない

いつでもアークルを顕現させるべく腰に手を添えつつ、じりじりと距離を詰めていく

時刻は明朝五時前後

うっすらと闇にいるその人影がこちらを向いた

ゴクリ、と唾を飲む

居間に入る相手の赤い瞳がアラタを見据え―――一気に駆けてきた

 

(なっ!?)

 

全くの予想外の行動にアラタは反応できず相手が繰り出すタックルをもろに喰らってしまった

なんとか足で踏ん張る事により、仰向けに倒れることを避けることが出来たが―――

 

「…うん?」

 

てっきり攻撃かとも思ってみたがそれは違う

仮に攻撃ならこの時に一撃を打ち込めるはずだ

だというのに相手はなんか妙に抱き着いてきてるような―――

気になって彼は電気をつけてみる

 

かちり、とスイッチを入れて明かりがつき、室内が明るくなる

 

今までよく見えなかった相手の姿が明かりに照らされてはっきりし―――

 

「なぁ!?」

 

そして驚く

なんてったって自分にタックルをかましてきたのは黒髪ロングの女の子だったのだ

そりゃあ驚くに決まっている

あまりの驚きにアラタは一度彼女を引きはがす

 

見た目ははっきり言って黒一色

黒いワンピースに履いているのはスパッツだろうか、逆にそれがなんかそそるような…

邪な方向に行きかけた思考を頭を振って正常に戻す

そして何よりも目に行くのが頭につけてる角である

そう言ったカチューシャなのだろうが、なんか変に似合っているのだ

 

「…え、あれ?」

 

そう言えばこの角、最近どこかで見た気がする

いや、最近ではない、ほぼいっつも見ているハズだ

よく一緒に飛んでくれる相棒のとか

そこまで考えてハッとする

 

そんな中黒髪の女の子はきょとんとしたままアラタを見る

クリ、とした赤い瞳は真っ直ぐにアラタを捉えていた

注意深く観察してみると、なんかペンダントのようなものを彼女はしていた

それは緑色の宝石をあしらったペンダント

奇しくもそれはいつもゴウラムに乗る際によく見るものとそっくりだった

 

そこまで考えて…目の前の女の子の正体に気づいた

 

「もしかして…お前…ゴウラムなのか…!?」

 

彼の口からその名前を聞くと本当に、本当に嬉しそうに女の子は笑った

 

「やっと名前を言ってくれたね、クウガ」

 

 

とりあえず件の課題を当麻(なぜか歯型があった)に渡し再びアラタは部屋に戻る

そして携帯を取り出し、一人の知人に連絡を求める

 

<やぁアラタ。そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ>

「その口ぶりからすると、やっぱりお前知ってたな」

 

連絡相手は蒼崎橙子

伽藍の堂のオーナーであり、人形師であり、魔術師でもある彼女はくくっと笑いながら返答していく

 

「なんだよ、いつゴウラムは人型に超変身できるようになったんだ」

<私に聞かれてもな。おそらくその宝石の力のおかげだと私は睨んでいるのだが>

 

彼女の話によるとその緑色の宝石はクウガのアマダムと同等の力を持つものらしい

確かにそれなら人型になれるかもしれないが…それにしたって唐突過ぎる

 

<夜なんとなくガレージに行ったらそうなっててな。お前に説明しようと尋ねたらいないものだから、そのまま置いてきたという訳だ>

「やっぱりお前かよ! どうすりゃいんですかこれ!」

<そう言われても…。そうだ、これからはお前が彼女の面倒を見ろ>

「えぇ!?」

 

まさかの同棲提案

 

<わかってるだろう? クウガであるお前にゴウラムが必要なように、アイツにもお前が必要なんだ。…ガレージで待機しているゴウラム、どことなく寂しそうなんだぞ?>

「そ…そう…なのか」

 

そう言ってちらりと居間でテレビを見ているゴウラム(黒髪ロング)に視線をやる

自分からの呼び出しがあるまで、ずっと彼女は一人だったのだろう

実際、一緒に飛んでいるときのゴウラムはイキイキしているような…気がした

断言できない自分がとても憎らしかった

 

<まぁ、可愛い妹分だ。可愛がってやれ>

「…わかったよ。オレが預かる」

 

そう橙子に言うと任せたぞ、と言ったのち通話を切った

携帯を閉じてそれをポケットに仕舞うと改めてアラタはゴウラムの所へ歩いて行った

そこでふと思い当たる

 

(…待てよ、そうなるとゴウラムって呼ぶのかわいそうじゃないか? せっかく人型になれるようになったんだからちゃんと名前を付けないといけないか? いやでもゴウラムってのも本名だしなー)

 

こういったいらんことで悩めるのもは平和の証か

そこでふと時間を見るともうそろそろ学校に登校する時間帯ではないか

これはまずいと思ったアラタは鞄に適当に筆記用具やら通信簿やらをブチ込み上履きの入った袋を用意する

 

「ゴウラム」

「ん? なぁにクウガ」

「…二人だけとか、美琴たちや当麻とかの前でならいいけど、あんまり大勢の前で言わないでくれよクウガって」

 

そう彼女に言うとハッとした様子でうん、と頷いた

そんな何気ない仕草にちょっとときめいたのは内緒である

 

「とにかく学校言ってくるから、悪いけど留守番頼まれてくれないか?」

「うん、いいよ」

 

二つ返事で彼女は了承してくれた

そこでアラタはもう一つお願いをすることにする

 

「そうだ、隣の部屋にインデックスっていう子がいるはずだから、もしよかったら話し相手になってくれないか?」

「インデックス? あ、あの時のシスターちゃんの事?」

 

ゴウラムとインデックスは一応面識がある

面識と言ってもその時のゴウラムは人間体ではなかったが

 

「うん、分かった。任せてよ」

「OK。…ほんじゃまぁ、行ってくるから」

 

アラタは人間体となったゴウラムに向かって手を振った

それに応えるようにゴウラムも手を振って

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

どこか背中のあたりがかゆくなるのを感じながら、アラタは部屋を後にした

 

 

部屋を出ると同じタイミングで当麻も部屋から出てきていた

顔を合わせるとよぉ、なんて言葉を言いながら挨拶をしつつ、当麻は課題をアラタに返す

 

「サンキュ、とりあえず出来る所だけはやった。…あとは祈るばかりだ」

 

これは後で聞いた話だが彼の課題は闇咲逢魔の襲撃に伴いほとんどが紛失してしまってるらしい

おかげで残っているのは普通授業分だけの課題だけとかなんとか

 

「流石にインデックスは留守番か」

「そりゃあな。色々考えないといけないからよ…。とりあえず、帰ったらどっか遊びに行くってインデックスと約束したんだけど…お前も行くか?」

「そん時までなんもなかったら行く。風紀委員の仕事とかは行っちまったらいけないけど」

 

そんな言葉を交わしつつ、二人は学校への道を急いだ

 

…しかし線路上にカラスが小石を置いた、なんてしょうもない理由で学校へと走る電車が止まっていたらしく、アラタのビートチェイサーで学校に走って行ったのは別の話

 

 

当麻が部屋を出て早五分

インデックスは速攻で暇になっていた

つけっぱなしのテレビには目もくれず三毛猫のスフィンクスを弄っていたインデックスはやがてその動きを止めて

 

(…暇かも。追いかけたいかも)

 

そんな欲求に駆られるが、それで自分の都合を押し付けては当麻やアラタに迷惑をかけてしまうだろう

立場が逆なら分かり易い

たとえば自分が聖ジョージ大聖堂から召喚命令を受けたとしよう

そんな中、暇だからー、という理由で当麻が後を追ってきたとしたら

 

それは確かに嬉しい

嬉しいけど―――困る

魔術の専門家としての顔を見知った人間に見られるのは割と恥ずかしいものだ

それと同じで今彼の後を追って行ったら困るかもしれない

そう思うと無邪気に追うのも気が引ける

 

そうだ、ここは大人しくお留守番してよう

帰ってきたら遊びに連れて行ってくれるって言っていたんだし

再び決意を新たにし、スフィンクスをいじくってゴロゴロしようとしたところで

 

「…あれ、そう言えばお昼ご飯は?」

 

呟いて彼女の動きがフリーズする

インデックスに料理を作るスキルはない

スナック菓子の類も完全に三毛猫が食い散らかしてしまっているために買い置きはもうない

 

「…こ、これは単純明快大ピンチかも」

 

そう言ってインデックスは今しがた当麻が出ていった扉にちらりと視線を見やるとまたいきなりその扉が開いた

思わず身構えるがそこに立っていたのは黒い髪に角みたいなカチューシャを付けた黒いワンピースを着た女の子がいた

 

「あ、インデックス。久しぶり」

 

女の子はどうやら自分の事を知っているらしい

しかしインデックスとしては目の前の少女とは初対面のはずなのだが

そこでふと、インデックスは彼女の首にかけてあるペンダントに気が付いた

それはいつぞや背中に乗った背中に合った宝石と酷似していた

 

「…あーっ!? 貴女、いつかの自動人形(オートマトン)!?」

「うん、元気そうで何よりだな。改めて初めまして、私はゴウラム」

 

 

見た目の年齢が近いこともあってか二人はすぐに仲良くなった

ほどなくしてインデックスは当初の目的を思い出す

 

「そうだ、当麻にお昼ご飯貰わないと!」

「あれ、インデックスも学校に用があるんだ?」

 

彼女の口ぶりから察するとゴウラムもようがあるのだろうか

インデックスのそんな視線に気づいたのか、ゴウラムはすっと手に持っていたコンビニ袋を見せると

 

「クウ―――アラタがお昼忘れてさ、届けようと思ったんだけど…そうだ、よかったら一緒に行く?」

「え? い、いいの?」

「うん。一緒に行こう、あの人たちに会いに!」

 

ゴウラムはインデックスの手を取り、扉を開け放つ

眼前に広がっていたのは―――上条当麻と鏡祢アラタの待つ、外の世界

 



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#30 学生生活

お久です
劇場版完結しましたので戻ってきたよ
相変わらずですがご容赦を

誤字脱字ありましたら報告を

ちょっと短めですが、どうぞ


その辺にバイクを隠して当麻と二人、学校の校門前に来ていた

道を歩きながら、アラタは当麻に確認を取るように言葉を言う

 

「いいか当麻、念のために確認するぞ」

「おう。バッチ来い」

 

当麻の了承を得て、アラタは質問を開始する

 

「校舎は二つ、奥が旧校舎で手前は?」

「新校舎。俺たちが向かうのは新校舎の三階の教室」

「その教室の場所は?」

「右から二つ目の教室」

「最後に。俺らが利用する下駄箱の位置は?」

「昇降口の右手側…よし」

 

小さくガッツポーズを取る当麻に、アラタはふぅと息を吐いて安堵する

記憶を失った当麻にとって本日から初めての学校となる

そこで挙動不審にならないようにアラタが補佐をすることとなったのだ

と言っても当麻自身も補習で高校には来ていたようで、あまり補佐するようなことはなかった

確認も取れたし、問題はなさそうだ

 

アラタや当麻の通う高校は都内では珍しく、土の校庭を持ついわゆるよくある学校だ

二つの校舎を渡り廊下でつないで〝工〟の字になっていたり、それこそ定番の蒲鉾みたいな形をした体育館だって完備している

 

ここまでいろいろとそれっぽく言っては来たが早い話この高校には個性がない

まぁそれでも屋上がプールな学校とか体育館の地下が大倉庫みたいな学校と並べられても困るのだが

 

「けど、やっぱ常盤台とかすげぇんだろうな」

「さぁな。案外普通かも知んないぜ?」

 

自分たちの高校を見つつ、二人はそんな事を言い合う

そんな時、横合いからクラクションのような音が聞こえた

いつの間にか職員用の駐車場を通り過ぎようとしていたようだ

そのクラクションを鳴らしていたのは丸っこい軽自動車だった、がよく見ると助手席がない

一人用に設計された車のようだ

 

「…いいなぁ、スクーターみたいな車だなあれ。俺も自転車くらい買ってみようかな」

「やめておけ。駅あたりにでも停めたらお前のだけピンポイントでパクられるぞ」

 

アラタに指摘されう、と当麻は言葉を詰まらせた

恐らくそのような光景が頭に思い浮かんだのだろう

 

「あとあれ小萌先生の車だから」

「うそ!? ブレーキに足届くのか!?」

「とっ! 届かないでも運転は出来ますー!!」

 

アラタの言葉に反応した当麻の声に、小萌先生はわざわざ車のドアを開けて言い返してきた

よくよく見てみると彼女の車のハンドルは少々特殊で左右にボタンがあった

ゲームセンターにあるレーシングゲームみたいにボタンでアクセルとブレーキを操作しているのだろう

手慣れた感じで小萌先生は車を駐車し、仕事用であろう分厚いクリアファイル片手に降りてきた

 

「まったく、上条ちゃんたらまったく。夏休み終わっての第一声がそれですか? それとも鏡祢ちゃんがなんか吹き込んだとか」

「なんですかその責任転嫁。俺はあの車の所持者が小萌先生だっていっただけです」

「そ、そうですよ! うん!」

 

アラタの言葉に同意するように当麻が大きく頷く

そんな二人をじとー、と見つつ

 

「…そんなこと言って実は後ろから先生を高い高いしようとか考えてませんか!?」

「してねぇよ!? 疑心暗鬼になりすぎでしょうがっ!!」

「むしろそれは高い高いしてほしいってフラグですか?」

「違いますですよー!!」

 

そんな事を言い合いながら三人は校舎への道を歩いてく

因みに小萌先生はやけに小走りだったが他の生徒に声をかけられるたんびに立ち止って挨拶をするため、ちょっと早めに歩いている二人にすぐ追い抜かれてる

いい意味で律儀な先生なのだ

いや、世話好きと言った方がいいのだろうか

ふと、手に持っているクリアファイルが気になったのか当麻がなんとなく問いかけた

 

「先生、ところでそのクリアファイルってなんです? …まさかいきなり抜き打ちですか?」

「先生は学生時代やられて嫌だったことはやりませんよ。ほら急いで急いで」

 

小萌は当麻とアラタを急かすように

 

「これは学校とは別件です。大学の頃の友人から資料集めをお願いされましてですねー。論文で使うようで、それのお手伝いなのです」

 

それを聞いたアラタは考えるように顎に手を添えながら

 

「…そうか。先生にも学生時代はあったのよね」

「なんででしょう。鏡祢ちゃんからそこはかとない悪意みたいなのを感じるんですけど」

「気のせいです先生。ところでその論文ってどんなのなんですか?」

 

強引に話を変えるべくアラタは小萌の持っているクリアファイルに視線を移しながら問いかけた

しばし小萌はジト目でアラタを見ていたがやがてふぅ、と一息をついて

 

「難しいことじゃないですよ。AIM拡散力場のお話ですし、上条ちゃんにも鏡祢ちゃんにもなじみ深いものだと思いますよ」

 

そう小萌は言うが、アラタはまだしも当麻にとってそんな言葉馴染んですらいない

恐らく、たった今初めて聞いた言葉だろう

 

「まぁ、あれだ。一言で言うなら〝無自覚〟って奴さ。能力者が体温みたいに無意識に発してるあれみたいな」

「へぇ? たとえばあれか、御坂から微弱な磁場が漏れてるみたいな?」

 

そうそう、とアラタは頷く

そんなアラタの説明を補足するように小萌が付け足した

 

「AIM拡散力場は能力者が持つ能力によっていろいろあってですね? 発火能力(パイロキネシス)なら熱、念動力(サイコキネシス)なら圧力を周りに展開してしまう、といった具合にですね。まぁ言ってもどれも微弱なものですから精密機器を使わないと計測もできないんですけど」

 

小萌の説明でなんとなく理解したのかほえー、と頷きつつ当麻は

 

「それだとあれですか? もしそのAIMなんとかって奴を読み取る能力者がいれば〝むむ、この気配は〟みたいなことが出来るんですか?」

「あはは、そうかもしれませんねー」

「〝戦闘力たったの五か、ゴミめ…〟みたいなやり取りもあるかもな」

 

ともかくとして、世の中にはそんな物好きもいるようだ

そんな話をして三人は校舎に向かって行ったがすぐに別れる

職員用の昇降口は別にあるのだ

 

当麻はアラタの隣で小萌の姿が見えなくなるとふぅ、と息を吐いた

 

「…大丈夫か、当麻」

「あぁ。問題ない」

 

短く返答すると彼は小さく笑った

彼の生活は、ここから改めて始まる

記憶のない、騙し合う学園生活が

 

◇◇◇

 

以前補習できていたから下駄箱の位置、教室については特に問題はない

問題は上条当麻の座席位置だ

彼が補習の時は小萌と二人きりで教卓付近の席に座っていたらしいが今回はそうはいかない

とはいっても、その辺はアラタも考えてあった

 

(いいか当麻。俺は教室に入って真っ直ぐオレの席に向かう。そんでもってお前の席の机を軽く叩くから―――)

(わかった。お前から目を離さなきゃいいんだな)

 

そう耳で確認を取ると意を決したようにアラタが教室のドアを開けた

中に入って大きく視界を見回す

まだ教室の生徒総数は半分にも満たず、しかも誰も席に座っていない

しかし想定していなかった訳ではない

 

歩きつつウィース、などと付近のあいさつをしながら窓際の席へ歩いていく

そしてある一つの席の机を指先でトン、と叩いた

 

(…おっけー、そこが俺の席なわけね)

 

彼の行動をしっかりと見届けた当麻は己の席の場所を確認する

そしてアラタを追うように歩いて行って机に座って荷物を置き

 

「…ふぅ…」

 

と安堵のため息を漏らす

そんなため息を見た青髪ピアスが歩いてきながら

 

「どないしたんかみやん。まさかここまで来て宿題忘れてもうたー、なんて素敵で不幸な真実に気付いてしもた感じかいな?」

 

青髪がそんな事を言うとクラスにいる男女の視線が一斉に当麻の方に振り向いた

 

「え、上条もしかして…忘れた?」

「上条君…本当に忘れちゃったの?」

「よっしゃー! 仲間はいたー!!」

「どうせ注目浴びんのは上条だけだし俺らの不幸は軽くなるぞー! ばんざーいっ!!」

 

そして始めるコミカルな日常の一ページ

うんざりしつつも当麻はアラタへと一度表情を移し苦笑いを浮かべながら小さく口の中で〝さんきゅ〟と口にした

それにアラタも答えるようにサムズアップで応え改めてアラタも自分の机に荷物を置く

そしてギャーギャーとざわめく当麻たちの喧噪をBGMに、一度教室を出た

 

 

適当に自販機でボトル飲料を買ってきて教室に戻ってくるとすっかり当麻はクラスの皆と打ち解けていた

彼が昔の記憶を失って早ひと月

いまあそこにいる自分の友人はもう真っ白なキャンバスではない

 

だがそれは、インデックスにとっては解決にもなっていない

つい最近知り合って、ある出来事で彼女は当麻を信頼している

インデックスにとってその短い期間で培ったのは、確かな思い出なのだ

だけど、インデックスは知らない

 

上条当麻が記憶を失い、それを覚えていないという事実を

 

アラタはそのボトル飲料を飲み干してそれをゴミ箱にブチ込んでなんとなく窓を開け放った

九月の初め、少しづつ秋に染まりつつある風が髪を撫でる

 

「…なんで、俺はあの時」

 

もっと早く気付いていなかったのだろうか

あの時、気づけていれば

アイツは―――もっと自然な笑顔でいられたはずなのに

 

「…黄昏てるの。鏡祢アラタ」

 

不意に背後から声が聞こえた

振り向くとそこに長い黒髪の女の子が立っていた

その女の子の名前を、アラタは知っている

 

「吹寄」

 

吹寄制理

美人ではあるが色っぽくなく、男子からは鉄壁の女、などと言われてる鏡祢アラタの同級生

肩から鞄をぶら下げた吹寄が何か珍しいものを見るようにアラタを見ていた

 

「おはよう、吹寄」

「えぇ、おはよう鏡祢アラタ。…それで、珍しく黄昏てる理由を聞いていいかしら? 普段のお前からは想像つかないわ」

「俺だって悩むときはあるっての。お前だって悩むだろう? 健康器具買うときとか」

「ぬが! …ひ、人が心配してやってるって時に…!」

 

ギリギリ、と拳を握りながらこめかみをひくつかせる吹寄にアラタは思わず苦笑いする

思えばコンビニとかそんなあたりで会った時もこんな感じだったかな、と何となく思い出す

 

「悪い悪い。別に理由なんてないよ、ただそうしたかっただけだ」

「…そう? ならいいけど」

 

心配して損した、というような彼女はふと何かを考えるような仕草をして

 

「…ねぇ、鏡祢。運営委員って興味ない?」

「? 運営委員って…」

「大覇星祭よ。今月にある学園都市のイベント」

 

大覇星祭

学園都市全体で行われる大規模な運動会みたいなものだ

 

「…えっと、何故、俺に」

「なんだかんだで気配り上手だからよ、鏡祢は。お前とだったら、きっとみんなの思い出になるような大覇星祭が出来ると思うんだ」

 

そう言って彼女からは想像もつかないようなキラキラが吹寄の周囲に現れる

 

「返事は今じゃなくてもいいわ。のんびり考えてくれればいいから」

「お、おう…」

 

アラタからその返事を聞くとうん、と頷きながら

 

「それじゃそろそろ私は教室にいくわ。またあとで」

 

短く手を振って教室に入っていく彼女の背中を見て、またアラタは笑う

…少しだけ、彼女に救われたみたいだ

 

「―――考えておこうかな」

 

可愛くないなどと言われてるが、それはきっと違う

アイツは十分可愛いじゃないかと、心の中で彼は言った

 

 

「はいはーい。それじゃあちゃちゃっとホームルームはじめまーす。始業式まで時間押してるのでサクサク進めますよー」

 

月詠小萌が入ってきたころにはもう他の生徒全員が着席していた

 

「あれ? そういや土御門は?」

「さぁ? 俺は何も聞いてないが」

 

当麻の問いにアラタは小首をかしげつつ答える

 

「出席を取る前に皆さんにビッグニュースです。なんとこのクラスに転入生が来ますー」

 

むむ、やおや? と言った様子でクラスの面々が彼女の方に向いた

 

「ちなみに二人で、男女一人ずつですー。おめでとう子猫ちゃんたちに野郎どもー」

 

おおおおっ! とクラス一同が色めきだつ

その間、なんか知らないが当麻が変な顔をしていたがこの際無視する

 

「とりあえず今回は顔見せですー。それじゃまず一人目どーぞー」

 

小萌がそう言った後、やけに勢いよく扉が開かれて一人の男が教室に入ってくる

夏服に身を包んだ少年は、小萌からチョークを受け取ると大きく黒板に自分の名前を書きこんでいく

 

やがて黒板には大きな文字で〝如月弦太郎〟とあった

 

「先生が言ってた通り、今日からこのクラスの一員になる如月弦太郎だ! 目標はこのクラスのヤツ全員と友達になる事だ!」

 

そう言って弦太郎は自分の胸のあたりをとんとんと叩きどこだかにその指を突き出す

…これはまた、濃いのが来たなぁ、とアラタは一人思う

しかし顔立ちは悪くなく、黒髪のサラサラ感は半端ない

濃い、とは思ったが仲良くなれそうだ

当麻もちょっと安堵したような表情でふぅ、と息を吐く

 

「それでは二人目ですー、どーぞー」

 

再びそんな事を言うと、今度は

 

三毛猫を抱えたシスターとクワガタのような角のカチューシャをした女の子が立っていた

 

「―――」

 

思考停止

あまりにも予想外すぎてアラタも当麻も完全に固まってしまったのだ

当然ながらクラスメイト一同テンパっている

まず何しろ服装が異常だ

弦太郎の方も戸惑っているのか「…え? あれ?」と口を濁している

 

「あ、見て見てあそこあそこ! いたよ!」

「ホントだ、とうまにあらただ。これは案内してくれたまいかにお礼を言わないとだね」

「うん!」

 

彼女たちの短い会話を聞いた後、クラスの視線が一気にこちらに振り向いた

ま た お 前 ら か、と言いたげな視線が突き刺さる

 

「…あ、あれー? なのですよ…?」

 

あろうことか呼び込んだ本人もテンパっていた

 

「あ、あの先生…一体これは―――」

「てゆうか転校生って…」

「違いますよ! てかシスターちゃん! どこから入ってきたんですか! てゆうか隣の子は誰ですかーっ!」

「え? でもでも私はとうまにお昼ご飯の事を―――」

「あ、私はアラタにお弁当を届けに―――」

 

インデックスとゴウラムは何かを訴えているが小萌はぐいぐいと彼女たちの背中を追い出そうとする

まるでいつ泣き出すか分からない表情をする小萌はそのまま教室の外に出て行ってしまった

思わず追っかけようと思ったが完全にそのタイミングを失ってしまい思わず二人は届くことない手を伸ばしてしまった

 

やがて入れ替わりで黒い髪の女の子が入ってくる

 

「本物の転入生は私。姫神秋沙」

「お、おぉ。よかった、この子だ…」

 

黒い髪の女の子―――姫神秋沙を見て弦太郎はふぅ、と息を吐く

同じように当麻も安堵の息を吐く

 

そんな安心をしている当麻の隣でアラタはむぅ、と頭を掻いた

…いや、転校生が姫神で安堵したのも事実だが

まさか学校に来るとは思わなかった

 

大丈夫かなぁ…なんて思いながら時間は過ぎていく―――



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#31 侵入者

多分年内最後の更新
だというのにこの体たらく
…申し訳ない


本音を言うとクリスマススペシャルとかやりたかったですが断念しました
でも最低でもバレンタインとかはやりたいなぁ…
来年も頑張りたいです
ではよいお年を ノシ

※12/29 一部修正しました


月詠小萌に追い出され、インデックスとゴウラムの二人はとぼとぼと廊下を歩いていた

二人の手にはそれぞれ二千円ずつお札を持っていた

小萌から貰ったものだ

これでタクシーをつかまえて帰ってくださいね、とのことだが止め方なんて分からない

それ以前にゴウラムが本気出せばすぐに帰れるのだが

ゴウラムはちらりと隣のインデックスを見やった

彼女はちょっとムッとした、それでいてどこか寂しそうな表情をのぞかせている

それもそうだ、慕っている相手にあからさまな拒絶の色の表情を見てしまっては

一方でアラタもどこか苦笑いだったのをゴウラムは鮮明に覚えている

 

ふと、二人は食堂へと差し掛かった

厨房付近から聞こえてくる炒め物のような音や、鼻に来る美味しそうな香りにインデックスの腕の中にいる三毛猫が鳴き、二人の足が止まる

 

「…お腹減った」

 

ふとインデックスが呟いた

朝、あまり食べていなかったのか彼女はまるでゾンビみたいな歩き方で食堂へと進んでいく

慌ててゴウラムも彼女の後を追った

 

食堂は広く、内装はだいぶおざなりだった

丸いテーブルに椅子四脚のワンセット、それが百個ほど並べてある

部屋の隅には食券販売機が三つほどおいてあった

 

「むむ。あれ確か漫画で読んだんだよ。確かお金入れてボタン押すと食べ物引換券みたいなものが出てくる奴だ」

「そうなの?」

 

正直言ってゴウラムはそう言った知識についてはあまり乏しくない

そもそも人間体となれたのもつい最近だし、口にしたのもアラタがくれたコッペパン(こしあんマーガリン)と牛乳だけだ

 

インデックスはゴウラムの声にウンと頷くと胸を張って

 

「任せて。とうまは私の事時代遅れだとかなんとかいうけど私にだって出来ることを証明してみせるんだよ。このお金を…入れて」

 

しわを伸ばしてお札を自販機に飲み込ませる

 

「そしてボタンを―――あれ」

 

そしていざ、と自販機のボタンを押そうとして、彼女の指が止まった

何故ならその販売機にはボタンが一つもなかったから

 

「…、」

 

インデックスはフリーズしている

実際はモニターがタッチパネルになっているのだがそんな事はインデックスにもゴウラムにも分からない

 

インデックスはお金を取り出そうとしているのか取り出し口を見てあたふたしている

因みにやっぱり液晶には〝取り出し〟ボタンがあるのだがそのボタンは完全に心理的に死角に回り込んでいる

単純にインデックスは〝画面に触れると何かが起きる〟なんてありえないと考えているのだ

 

「…大丈夫? インデックス」

「う、うー。…とうまの事言えないかも」

 

途方に暮れた彼女はそのまま床に四つん這いに崩れ落ちた

三毛猫は呑気に欠伸しているし、ゴウラムもインデックスを見てあたふたしている

そんな彼女たちの背後からかつん、という誰かの足音が聞こえた

 

その足音に気づいたゴウラムはふと、背後を振り向いた

そんなゴウラムに釣られてインデックスも視線を動かした

 

立っていたのは見慣れていない女の子だった

背丈は当麻やアラタより低く、それでいてインデックスやゴウラムよりは上か

それでいて茶色っぽい黒髪が太腿まで伸び、またそれとは別にゴムで束ねた髪が一房伸びている

おまけに眼鏡もかけていて、知的な感じが出ていた

そして何となく、胸元を見た

 

(…鮮花よりは大きいかも。いや、同じくらい…?)

 

そのふくらみを見てゴウラムはそんな事を考える

それでいて多分、橙子よりは小さいかもしれない

いや、そんな事はどうでもいい

問題なのはこの女の子が誰かという事だ

ちらりとインデックスに視線を移してみるとどうやら彼女も知らないようで首を振る

 

見た感じでは個々の女生徒は白い半そでのセーラー服と紺色のスカートを着込んでいる

しかし目の前の女の子は半袖ブラウスに青色スカートなのだ

その雰囲気からここの生徒ではなさそうなのだが

 

「その…ボタンをね? 押さないと」

「え?」

「だから…モニターの、ね? ボタンを…」

 

おずおずと、小さい声で彼女は言いながら彼女は販売機を指差した

インデックスは起き上がり迷子になったような顔をして

 

「ボタンって、この自販機にはボタンなんてないんだよ」

「え、っと。モニターに直接触ればいいの。し、知らなかった? あ、だ、だからそんな泣きそうな顔市内で…」

「嘘だよ。私知ってるよ、テレビにさわったって何にも起きないんだよ」

 

そんなインデックスの声を聞きつつ、女の子は自販機の前に立ち、モニターの端にある〝取り消し〟ボタンに手を振れた

するとうぃーん、とモーターの音が聞こえ取り出し口からにょーん、とお金が吐き出された

インデックスは目を丸くし、ゴウラムもおー、と声をあげた

 

「な、なにこれ?」

「え、っと…モニターに触れればいいんだけれど…」

「凄いなぁ…アラタはこんなのを使いこなすんだ」

 

盛り上がる二人を見て女の子は苦笑いをした

そして一通り落ち着くとインデックスとゴウラムは女の子へと視線をやり

 

「ありがとう、貴女、名前は?」

 

インデックスの言葉に女の子は答えた

 

「…ん。風斬氷華」

 

そう言って目の前の女の子―――風斬氷華は笑った

 

 

三人はとくに注文をせずにそのまま食堂の席の一つを勝手に陣取って世間話を開始した

世間話というよりはインデックスの愚痴を風斬とゴウラムが聞く、と言った感じになっている

会話にすっかり夢中になっているのか空腹という事は完全に忘れているようだ

 

「でね、とうまの事よんだのに答えないばっかりか目を逸らしたんだよ。お昼用意してくれなかったのはとうまの方なのに」

「まぁ、勝手に来ちゃった私らも悪いけどね」

「そ、それも…そうだけど」

 

ゴウラムにそう言われしゅん、とするインデックス

そんなインデックスに風斬はあはは、と笑いかけて

 

「まぁ学校は部外者が入ってきちゃいけないし…先生に見つかったら大変なことになっちゃうよ」

「あれ? でもひょうかも入ってきてるよ?」

「カザキリも転校生ってヤツなの?」

「う、うん。正確には転入生だけど。制服持ってないだけだし」

「じゃあじゃあ私たちもその転入生になろう! ね!」

 

そう言ってインデックスはゴウラムの手を掴む

そんなインデックスにゴウラムは

 

「だけどどうするの? この格好じゃ流石に目立つよ」

「ふぇ?」

 

インデックスは自分の恰好を見る

日常的に着こなしている本人に自覚はないが金糸の刺繍が入った修道服は流石に場違い感が否めない

まぁそれは黒いワンピースを着たゴウラムにも言えることだが

 

「あの、保健室に行けばきっと予備の服があるかも。…多分体操服だと思うけど」

 

「たいそうふく? それ着れば大丈夫かな」

 

無邪気なインデックスの問いかけ

普通に考えれば恐らく修道服とかよりは目立たなくなるだろう

しかしそれでも始業式の日に体操服はやはり目立つような気がするし

それ以前に猫連れてきちゃいけないという原則事項もあるわけで

とはいってもこれ以上名案も浮かばない

しばらく考えて風斬は

 

「うん。きっと大丈夫だよ。…たぶん」

 

そんな曖昧に答えてしまった

風斬が答えた時、横合いからまた別の声が聞こえた

 

「ゴウラム、ここにいたのか…、うん?」

 

少しだけ息を切らせた鏡祢アラタがこちらに向かって走ってきたのだ

 

「あ、あらた」

 

インデックスは知人を見つけまた笑顔を作る

しかしアラタの視線はインデックスの隣にいる見慣れない女生徒へと向けられる

 

「…えっと。こちらの方は?」

「ひょうかって言うんだよ。私たちのともだち」

「友達? …まぁいいや、俺はアラタだ。よろしく」

 

今度は風斬に笑いかける

それに対して風斬も笑って返し「よ、よろしく…」と答えてくれた

そんな挨拶を交わした後、ゴウラムはアラタに向かって口を開く

 

「ところでアラタ。私を探してた様子だったけど、どうしたの?」

「あぁ、そうだった。今大丈夫か?」

「大丈夫と言われれば大丈夫だけど…。何かあったの?」

「まぁ何かあったと言われればそうなんだが。いや、今回は俺が悪いんだが」

 

何だか妙に歯切れが悪い

しかし深く追求はせず、ゴウラムは肯定する

 

「分かった。私の力が必要なら」

「助かる。ともかく、インデックスに風斬さん、また後で!」

 

アラタはインデックスと風斬の二人にそう告げて走って行く

ゴウラムも二人に「また」と言って彼の後を追っていく

そんな二人の背中を見て風斬は

 

「…いろいろ大変なんだね?」

「うん。とうま以上に大変かも」

 

二人してそんな事を呟きつつ、彼らの背中が見えなくなるまで見送っていた

 

◇◇◇

 

警備強度(セキュリティコード)

それは文字通り学園都市の警備体制の事を指す

それらのレベルには複数段階あり、大雑把に言うなれば

 

第一級警報(コードレッド) ・・・特別警戒宣言。テロリストの侵入が完全に確定した状態を指す

第二級警報(コードオレンジ) ・・・テロリストの侵入の可能性がある状態を指す

コードグリーン ・・・第三級警報より一段階低い警報で正常を表している事を指す

 

このような三つに分けられる

今現在学園都市に発せられている警報は第一級警報…コードレッドである

コードレッドが発令された時点で学園都市は完全に封鎖され、風紀委員には公欠と共に侵入者の捜索、及び索敵の命令が下された

…下されたのだが、アラタがそれに気づいたのは自分が学校に登校してからだ

何故か

 

そもそも昨日、アラタは当麻と一緒に闇咲の知人を助けるために外に行っていたのだ

その際、携帯は電源を切って自宅に置きっぱなしであり、帰ってきてからも携帯は持ったが電源をつけたのはつい先ほど

アラタはコードレッドを発令されたことを直前まで知らなかった

それ故に、かかってきた固法の電話になんとなしに耳を付けたら彼女の怒号が耳を貫いたわけで

 

それでいて小萌先生に事情を説明し、彼は始業式を欠席し、辺りを調べて回る事としたのだが

 

「<どう? 何か見つかった?>」

「いや。この辺には何も。…次は―――」

 

ちまちまと地面を歩いて探すより、上空から見た方が早いと考えたアラタはゴウラムに頼んで今現在、空から散策しているわけなのだが

 

「<ねぇ、アラタ>」

「うん? どうした」

 

紅い複眼を発光させて、躊躇うようにゴウラムは聞いてくる

 

「<その…私たちが学校に来たこと、迷惑だったかな?>」

「迷惑? なんでさ」

 

ゴウラムの気持ちとは裏腹に返ってきたのはそんな軽い言葉

思わず呆けてしまいそうなゴウラムにアラタは続ける

 

「まぁ驚きはしたけれど、別に迷惑だなんて思ってないよ。一方的に留守番しててって言った俺も悪いし。一段落したら当麻とインデックスとで遊びに行こうぜ」

「<…>」

 

思わずゴウラムは押し黙る

そして思い出す

あぁ、この人はそう言った細かい事は気にしない人だった、と

 

「<…フフ>」

「? どうした」

「<なんでもない。さぁ、次はどこを―――>」

 

ゴウラムが行き先を確認したその直後だった

不意にゴウラムが口を閉ざしたのである

何らかの異常を感じ取ったのか、アラタも顔つきも真剣なものになっていく

 

「<…魔力の流れ>」

「侵入者は魔術師か。…ゴウラム、急いでくれ」

「<わかった>」

 

短く返事して、ゴウラムは加速する

そんな彼女の背中の上で、アラタは臨戦態勢を取った

 

◇◇◇

 

白井黒子は窮地に陥ってた

白井黒子は鏡祢アラタと同様に風紀委員の一人だ

よければ不審者の探索もアラタがいてくれれば心強かったが、どういう訳だか連絡が取れず、仕方なく黒子は一人で何時間かかけて街中を歩き回って探していたのだが、つい先ほどその人物を見つけた

 

見た目はゴシックのようなドレスを着込んだ見るからに異様と言える女だった

黒を基調とし色々な所に白いレースやリボンがあしらわれた、金髪碧眼の少女が着れば似合いそうな服だった

しかし着ている女は長い金髪ではあるがボロボロで肌もガサガサで、何というかゴシックロリータに抱く幻想を完膚なきまでにぶち壊したような女だった

 

黒子はその女を拘束しようとした

しかし、女が使用してくるわけの分からない〝超能力〟に圧倒され、今まさに、絶体絶命の危機にあった

空間移動で難を逃れようとしても、足は得体の知れない何かに噛まれ拘束され、その痛みが邪魔し、うまく演算できない

地面から生えてくるその腕を、黒子は睨む

よく見るとその腕はガードレールやら何やらを一つに纏め粘土細工のようにこねくり回して作ったような感じだ

ぐ、と足を噛む何かが食い込み、思わず彼女は眼を瞑る

瞬間、彼女の耳に何か別の音が聞こえた

 

それは何かが地面から生えていた腕を斬り裂いた音

 

「…え?」

 

突然の事に白井黒子は驚いていた

 

腕の手首に当たる部分が水平に切断されていたのだ

それと同時に自分の足を拘束していた何かも薙ぎ払われる

枷が外れ、黒子は距離を取るべく後ろへと地面を転がった

切断されたその場所は支えを失ったようにばらばらと元の部品へと戻り四方へ散っていく

 

ブゥン、とハチの羽音を大きくしたような音が黒子の耳に届く

よく見るとそれの正体は砂鉄だった

その砂鉄は磁力か何かに操られレイピアのように宙を泳いでいた

 

「磁力で…操る? もしや―――」

 

黒子はげほげほとせき込みつつ、視線を向ける

その先に、御坂美琴が立っていたのだ

 

彼女は一枚のコインを弾く

弾かれたコインはゆっくりと彼女の頭上を舞う

 

美琴は言った

 

「なんだかわかんないけど―――私の知り合いに手ぇ出してんじゃないわよっ!!」

 

叫びと共に放たれたのは彼女の異名の所以となる、超電磁砲を撃ち出した

撃ち出されたオレンジ色の閃光はまさに攻撃しようとしていた腕の半分を貫き、吹き飛ばす

ゴウ、という轟音は少し遅れてやってきた

立ち込める粉塵の先を美琴は睨む

 

<herakusu>

 

僅かに聞こえてきたそんな電子音声

そこから、一体の人影が飛び出してきた

 

思わず美琴はその場から一歩後ずさった

瞬間、自分がいた場所にブンと斧のようなものが振り下ろされた

 

瞬間美琴は眼を見開く

そこに立っていたのは、天道が変身するような仮面ライダーがいたのだ

しかしカラーは赤ではなく銀色で、右肩に何やら変な突起物がある

そのライダーの名前はヘラクスという事を、美琴と黒子は知る由もない

 

「お姉様!」

「黒子! アンタはそこで休んでなさいっ!」

 

自分を呼ぶ黒子に向かい、美琴はそう言ってヘラクスに向かって電撃を放った

しかしその電撃は容易にに避けられ、容易く接近を許してしまう

 

(―――早い!)

 

それでもカブトほどではないが、十分な速度を誇るものだ

雷と共に美琴はヘラクスの腹部に蹴りを打って、その反動で距離を取る

だがそれでも大した一撃にはならなかった

 

ち、と美琴は歯噛みする

そして美琴はヘラクスを睨んだ―――その時だ

 

上空からそのヘラクスの顔面に誰かが蹴りを叩きこんだ

割と勢いのある一撃だったらしく大きく吹き飛び地面を転がった

蹴りを打ったその人物はスタリ、と美琴の前に着地した

その男を、美琴は知っている

 

「ったく。…遅いわよ、アラタ」

 

「あぁ、遅くなった」

 

そんなアラタの周囲にはゴウラムも飛び交っている

美琴は飛び交うゴウラムを撫でつつ、美琴はアラタを見て

 

「ごめん、任せていいかしら」

「あぁ、任せときな」

 

目の前のライダー、ヘラクスを睨みアラタはアークルを顕現させる

そして構えを取って叫んだ

 

「変身!」

 

徐々に彼の身体を変化させ、美琴と黒子の前には赤い戦士、仮面ライダークウガの姿があった

その戦士の背中を見て、今度は黒子の方に美琴は駆け寄った

 

「大丈夫? 黒子」

「え、えぇ…大丈夫ですわ」

 

未だ地面に膝を付いたままの黒子を支えつつ、美琴はアラタの戦いに視線をやった

 

 

手に持ったハンドアックスみたいな一撃をクウガは避けつつ、カウンターで蹴りを打ったり、拳を放つ

ヘラクスの持つクナイガンアックスでの攻撃は細かい動作に見えて少しばかり大振りなのだ

落ち着けばその攻撃を見切るのは簡単だった

 

そんな攻防を何度か繰り返し、再びヘラクスが後退した時だ

ふと、ヘラクスが自分の右腰に手をやり、何かを捻るように動かした

 

<clock up>

 

そんな電子音声が聞こえたその瞬間、ヘラクスの姿が消えた

否、消えたのではない、超高速で動いているのだ

 

「―――これはっ!?」

 

クロックアップ、と口にする前にガツン、と一撃を貰う

その隙を逃がすまいと二撃、三撃とクウガは攻撃を受けていく

ドサリ、と地面に倒れながら、クウガは叫んだ

 

「―――く、超、変身っ!」

 

攻撃を受けつつも、その姿を赤から緑―――ペガサスフォームへとその身を変えた

姿を変えたその直後でもまた一撃を貰う、が今度は立ち上がり、精神を集中させる

意識を研ぎ澄まし、〝音〟を探る

―――僅かに、前方から走るような足音が聞こえた

 

クウガはカッと目を見開き、繰り出されるであろうその一撃を受け止める

 

<clock over>

 

そんな音が鳴った時、クウガの目の前にはヘラクスがいた

振り下ろしたクナイガンアックスを受け止められた状態で

僅かに動揺したその隙を、クウガは見逃さなかった

そのまま緑から赤へと姿を変え、腹部に一撃を打ち込み、そのまま足を払うように蹴りつけてダウンを奪う

そして足に力を込め、倒れ伏したヘラクスの胸部にその紅蓮の蹴りを叩きこんだ

その態勢のまま―――さらに力を入れて踏み砕く

 

直後、ヘラクスは爆散し、そこにはクウガしかいなかった

クウガが足を退けるとヘラクスが倒れていた場所には一本のメモリ

 

「…ガイアメモリってのはどこまで流出してんだよ?」

 

とりあえずそのメモリ踏み砕き、クウガは変身を解いた

 

そして二人の友人の近くへと歩き出す

 

「怪我は…なさそうだな」

「えぇ、おかげ様でね。―――所で黒子、聞くの遅れたけど、さっきの女が件の侵入者でいいのかしら?」

 

そう美琴が聞くと黒子は頷いて

 

「間違いないですわ。何とも珍妙な能力でしたが…」

 

…どうやらあのライダーは本人が逃げるための囮に過ぎなかったようだ

しかし事情を知らない二人に魔術の事を言ってしまえば変に混乱させてしまうだろう

故に魔術関連の事は伏せておく

 

「ところでお兄様、今までどこにいたんですの? わたくし電話も致しましたのに」

「え、あ…その…ははは」

 

言い淀むアラタをゴウラムは中空から眺めていた

がやがやと言い合うその三人の姿を、楽しそうに



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#32 放課後のこと

あけましておめでとうございます
本当は年が変わった瞬間に更新したかったけど結果はお察し

こんな作品ではありますが今年もよろしくお願いします

ではどうぞ



天道総司は廊下を歩いていた

歩く理由は始業式をぶっちぎった上条当麻を探している最中だ

教室にいた時にはみんなと談笑していた時は普通だったが、教室にあのシスターとワンピースの女の子が訪問してきた時は珍しく狼狽えていた

 

そして始業式の時間になっても姿を現さない彼が気になって探している、という訳だ

そんなもんだから天道も堂々と始業式をぶっちぎっている

それでいいのか、というツッコミはスルーで

 

ふと食堂に差し掛かると変な争いの声を聞いた

 

「今日は始業式なんだから昼までには帰るっての!」

「そ、そんなの言ってくれないと分からないかも!」

「分かれよ! 常識だろうがこんなもんはっ!」

「とうまの常識を押し付けないでほしいかもっ! ならとうまは分かる!? イギリス仕込みの十字架に天使の力を込める偶像作りの為に、儀式上における術の行う際の方角や術者の立ち位置の関係とか! 実際メインの術の余波から身を守るための防護陣を置く場所は決められてて、そこからちょっとでもずれるとサブがメインに喰われてうまく機能しなかったり! そう言った黄金比とか、とうまはわかる!? こんなの常識なんだよほらほらっ!」

「ま、まーまー…」

 

…なにこのカオス

思わずそんな事を呟いてしまうくらいその光景は自然だった

会話をしているのは上条当麻でその相手は件のシスター

そしてそんな言い争っている二人を宥めようとしている女の子

 

そんな天道の後ろでふと、また気配がした

それは一瞬ではあるものの天道をゾワッとさせたほどだ

恐る恐る振り返るとそこにはすごくいい笑顔な小萌の姿が

実際向けるべき矛先はその付近の天の道も入っているのだが、完全に小萌の視線は当麻とシスターらを捉えている

 

彼女はありったけの空気を吸い込んで、叫んだ

 

「何やっとるですか上条ちゃーんっ!!」

 

きっとこの日一番の叫びだったと思う

 

◇◇◇

 

結果、インデックスは学校の敷地の外に追い出された

ゴウラムも今はいないし、とりあえず学校の金網に寄りかかって待っていることにした

 

「…その、すごかったね。少し、驚いたかも」

 

か細い声にインデックスが振り返る

そこには風斬氷華が立っていた

インデックスはちょっとだけ俯いて、口を開く

 

「とうま。怒ってた」

「え…?」

「今までだって何回もケンカしたことあった。…あったけど、今回のはなんか違う気がする。全然私の言う事聞いてくれないし、笑ってくれないし…」

 

自分で言いながら、彼女の顔は悲しみに歪む

恐らくあの言い争いの中では内面、沈んでいたのか

 

「…もしかしたら、私の事嫌いになっちゃったのかな―――」

 

「それは違うぞ」

 

呟いたその時、校門から出てくる人の声を聞いた

その男は天に指を翳し

 

「おばあちゃんが言っていた。ケンカをするのは仲が良い証拠、そこには見えない絆がある、ってな」

 

「えっと、誰?」

 

「俺は天の道を往き総てを司る男、天道総司だ。上条当麻の友人だ」

「とうまの? …っていう事はあらたとも?」

「アラタとも知り合いなのか、なら話は早いな。安心しろ、当麻がお前を嫌う事はない」

「え?」

「…そうだよ」

 

天道の言葉に続くように風斬も口を開く

 

「ケンカが出来るって言うのはね、それだけでもちゃんと仲直りできるって言う証拠なの。それだけじゃ終わらないの。あの人はね、貴女とケンカをしても縁が切れないって信じてたから、安心してケンカが出来たんだよ」

「…ホント?」

「その女の子の言うとおりだ。ならお前は、ケンカなんかしない方がいいか? 確かにそれはそれでいいのかもしれないな。だがそれではずっと自分の気持ちを押し殺し、言いたいことは黙ったままで。そんな偽りの生活をしたいのか?」

「それは…いやだ。ずっと…ずっととうまと一緒にいたい」

 

インデックスは言う

 

「うん。そう思えるならきっと大丈夫。少なくとも上条当麻(あのひと)は貴女の為に怒ってくれる人だから…きっと大丈夫」

 

風斬はそう言ってインデックスに言った後、小さくこう付け足した

 

「…人の裸見ても普通に話しかけてくるけど」

 

そんな言葉を聞いて天道は笑った

そして思う

いつも通りの日常だな、と

 

◇◇◇

 

地下街にて

紅葉ワタルはある人物と二人で遊びに来ていた

いや、遊びに来ているというよりは日頃頑張っている仲間を労おうという優しさもあった

それはアームズモンスター、という自分の大切な友である

 

そんな訳でガルルにはコーヒーメーカーをあげドッガには人間体に合いそうなスーツをあげたのだが、バッシャーから提示されたのは、ゲームセンターで遊んでみたいとのことだった

それで今、ゲームセンターに二人はいるのだが

 

「…ここがゲームセンターってところですか」

 

それで今現在、いろいろな所を珍しそうに見て回るバッシャーの後ろでそれを見守る紅葉ワタル

 

「…あんまりはしゃがないでよ。問題はないと思うけど」

「わかってますって! いやぁ…ワタルさんが持ってくるゲームでもよかったんですけど、やはりアーケードゲーム…でしたっけ。やっぱり実機? て奴に触れてみたいなーなんて」

 

何だかバッシャーがゲーマーへの道を着々と進んでいる気がする

…引き込んだの自分ですけど

 

 

そんな二人を影から見守っているのは黒い執事服を着込んだ男性と、白いスーツを着込んだヤクザみたいな男がいた

執事の方をガルル、白いスーツの男がドッガである

 

「どんな感じだ、ガルル」

「…いつも通りだな。というかあの二人が問題起こすと思えないんだが」

 

正直に言って二人がついてきたのは単なる興味本位である

学園都市にも興味あったのは二人も一緒なのだ

ドッガは対戦格闘ゲームの筐体を見つけるとそれにお金を投入し、どっかりと腰を下ろす

 

「まぁガルル、お前も少しは羽を伸ばしたらどうだ」

「…逆にお前は適応しすぎだと思うのだが」

 

ガチャガチャと対戦格闘ゲームにいそしむドッガを見ながらガルルはやれやれ、と首を振った

 

◇◇◇

 

インデックスの目の前に広がる、別世界

 

「…これがかの地下世界なんだねとうま」

「地下街だからな、地下街」

 

はしゃぐ彼女に突っ込みを入れる当麻

小萌のお説教から解放され、そして始業式の後で遊びに行く約束だった二人に天道は風斬はそのまま誘われて、今ここにいるというわけだ

先ほど当麻はアラタにも連絡を入れたようで、彼とは現地で合流の予定だ

 

因みに当麻がここを遊び場に選んだ理由は別になく、ただインデックスがここの地下街の存在を知らなかっただけのことだ

 

「ま、とりあえず昼にするか。なぁインデックス、なんか希望とかあるか? あ、高いとことか行列のある店とかはナシな」

「大丈夫だよ。美味しくて安くて量もそれなりで。なおかつ隠れた名店みたいなところが良いな」

「それはそれで難しい条件を。…風斬は?」

 

当麻はそう言って風斬の方を向く

しかし風斬はビクン、と肩を震わせてインデックスの陰に隠れるように移動する

 

「…あー」

 

何かやったのかと心の中でおそらく呟いているのだろう

そんな当麻を風斬は彼女の陰から伺うように

 

「べ、別に怖いとかそう言うんじゃないの。え、っと…裸、も見られたし」

 

最後部分がよく聞き取れなかった当麻は「え?」と聞き返した

その傍らで天道がはぁ、と息を吐き、風斬は「見られたのに…反応薄いのは…」なんて呟いている

そんな空気を壊すようにパンパンと手を叩きながら天道は言った

 

「まずは食事だ。行くぞ当麻、おススメを知っている」

 

そう言って先を行く天道の背中を三人は追っていく

歩いてる時も、風斬はインデックスの近くにいたままだった

 

 

あの後支部に顔を出してアラタはこってり絞られた

まぁ何回も電話をしていたのに連絡がなかったらそりゃ怒るだろう

おまけに状況も完全に理解していないならなおさらだ

 

その後で初春が一通りまとめた資料にアラタはちらりと目を通す

どうやら侵入者は女性らしく、戦った黒子によると何やら珍妙な能力を使うらしい

支部の人らは知らないが、十中八九魔術で間違いないだろう

しかし魔術師がここに来る理由が分からなかった

…いや、何となくだが見当はつく、インデックスだ

 

彼女の持つ十万三千冊を狙っての事か、もしくはまた別の事か

いずれにしても、ここはインデックスたちの近くにいた方が万が一が起きても対応できるだろう

 

幸いにもさっき当麻からこのまま地下街に行く、という感じのメールが携帯に届いた

固法からも見回りを続けててと言われたのでアラタとしてはありがたい

風紀委員としてはどうなのか、と問われればぶっちゃけダメかもしれないが

 

 

「アラタ」

 

支部から出て自分に向かって声をかけられた

その正体は人間となったゴウラムだ

 

「おお、待たせて悪かった。このまま俺たちも地下街に向かうぞ」

「チカガイ? なにそれ」

「その名の通り地下の街だよ。そこで当麻やインデックス、風斬さんと合流予定だ」

「そうなんだ? …けど何だか楽しそう」

 

そう言ってゴウラムは笑顔を作る

その表情を見て、アラタはふむ、と考えた

人間と同じいろいろな顔を見せる彼女には、ゴウラムと呼ぶのはなんだか彼女に悪い気がしたからだ

それに何より、他の人の前でゴウラムだなんて流石に呼べない

何か…ゴウラムとは違うピッタリな名前はないものか

 

そんな事を考えながら人間体となったゴウラムと共に、アラタは地下街へと足を運んだ

 

 

そしてその二人を少し離れた位置で見る人影があった

その人影はお店の看板とかに身を隠しながら、その二人をスニーキング、もとい尾行している

 

「…あれ、なんで私こんなことしてんの」

 

ふと、御坂美琴は我に返った

思えばなんでことしているのだろうか

そもそも彼女は支部に忘れ物をしたアラタに忘れ物を届けようと外に出たのだ

因みに忘れ物とは風紀委員の腕章である

その程度ならと自分がやると黒子が言ったが美琴はそれを断って彼の元へ届けようとしたのだが

 

なんかとても仲良さげな二人の姿をうっかり目撃してしまったのだ

もう片方は鏡祢アラタだ、間違いない

しかしもう一方の女の子を美琴は知らない

長い黒髪に、角みたいなカチューシャ、それでいて黒いワンピースを着込んだその女子

その女子と楽しく談笑しているアラタを目撃してしまったのだ

 

その時の美琴はなんかわからないが迅速だった

というか、美琴としても本能みたいなものだった

気づいていたら隠れてしまっていたのだ

 

それでも美琴の視線は歩くアラタとその少女を捉えて外さない

己の中で芽生えつつあるその感情に、彼女は気づいていない

 

 

「頼まれたものを。持ってきた」

「あっ、ご苦労様ですー」

 

人がまばらにしかいない職員室で、椅子に座ったままの月詠小萌がパタパタと手を振った

本日は始業式にて半日授業、現段階では部活の顧問を請け負っている先生や生徒以外に人はいない

しかし小萌は例外で、友人のレポート作成を手伝うべく、彼女は残ったままなのだ

 

「すみませんねー、本当は学生さんにお手伝い頼むのはいけないんですけど、どうしても手が離せなくて…」

「大丈夫。それより。この専門書で合ってる? アパートに合った本が。全部同じに見えてしまったから。少し不安」

「うん、これで合っていますよ。…あ、そう言えば如月ちゃんは見ましたか?」

「彼なら学校に戻ってきた時。校舎を探検してた」

「ははは…元気ですねー」

 

ちょっと不安になったがそれならとくに問題はないだろう

小萌は椅子の背もたれに身体を預けて

 

「今日は本当にごめんなさいです姫神ちゃん。いきなり知らない人たちの所に投げ込まれて不安とかにはならなかったですか?」

「その点は。問題なかった。そんな事より。上条当麻は。何をやらかしたの?」

「そうでした! 聞いてください姫神ちゃん! シスターちゃんたちを追いかけたのならまだ許せたのですけどね、なのにあろうことかシスターちゃん以外にも女の子を連れてお喋りしてたんですよー!」

 

女の子、というフレーズを聞いて姫神の眼が鋭くなる

上条当麻がそんな名前を言っていた

そして校門前でインデックスや天道と話をしていた女の子

 

「…それ。どんな感じの人?」

「え? えっとですねー…眼鏡で頭の横から出た髪の毛が印象的で…制服はうちのとは違ってて、半袖のブラウスに赤いネクタイで、青いスカートで…なんというか、周りに気を使うというか、そんな感じですかねー」

 

小萌の言葉に、姫神は一度視線を外す

なんという、名前をしていたか

 

「…先生」

「はい?」

 

「風斬氷華って生徒。この学校にいる?」




アームズモンスターの方々はキバ本編とはまた別の存在です
因みにドッガの人間体はディケイドでドッガを演じた声優さんのあるキャラ(桐生ちゃん)がモチーフ



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#33 閉鎖化

完成しました
まぁいつもの出来ですがご容赦を

誤字脱字等がありましたら報告を


ではどうぞ


天道の案内してくれたレストラン〝学食レストラン〟でひとまず昼食を食べたあと、当麻たちはゲームセンターへと足を運んだ

 

因みにその学食レストランではあろうことかインデックスが四万もする常盤台給食セットを頼んだ時はどうしたものかと思ったがなんとその金額を誘ったのは自分だ、と天道が言って奢ってくれたのだ

払った後、天道は当麻に向かって

 

「金を返す必要はないぞ」

 

と今まさに危惧していたことを言ってくれた

…当然ながら、払える分は払ったのだが如何せん四万が大きすぎるのだ

 

そんな事が起こった学食レストランでの思い出を早速回想して、今度は自分の財布を当麻は見る

つい先ほどまでそこには千円札が九~十枚くらいあったのに、もう一~二枚になっている

…ゲームセンターでも大雑把に一周くらいはすればそんなに減るんだ、と痛感した

 

「…相変わらず不幸フルスロットルだな当麻」

 

そんな彼の耳に聞こえてくるのは聞き慣れた親友の声

鏡祢アラタだ

その傍らには見慣れない女の子もいる

 

「ははは…しばらくは一日三食パンの耳だな」

「切実すぎるだな…」

 

一方、人となったゴウラムを見かけたインデックスはさらにぱぁっと笑顔になり彼女の付近へ駆け寄った

同様にインデックスを見たゴウラムも小さくはあるが微笑み、インデックスの手を取る

 

「楽しそうだね、インデックス」

「うんっ、そして貴女が来てくれたからもっと楽しくなるよっ!」

「ははっ。ありがとうインデックス」

 

短い期間ながらインデックスとゴウラムは本当に仲が良くなった

見た目は流石に全然違うが、それでも姉妹のようでもある

一方でちらりとクレーンゲームの方へと視線をやると天道がいそいそとクレーンゲームに興じていた

何故だろう、すごくシュールである

それでいてワンコインで目的のブツを入手するあたり凄い

そんな時、タイミングを計ったように当麻の携帯の着メロが鳴り響いた

当麻は携帯を取って画面を見る

どうやらメールではなく通話らしい

そんな当麻から何かを感じ取ったのか、風斬が動いた

 

「ねぇ、飲み物買ってこない?」

「え? それならとうまたちも一緒に―――」

「皆の分も買ってくるの…」

 

風斬はそう言いながらゴウラムとインデックスの手を掴み、そんな風斬たちに当麻は申し訳ない、とジェスチャーで謝りながら彼は財布を取り出してそれを風斬に放る

あたふたとしながら彼女は一度手を離して財布を受け取ると改めて手を掴み、自販機へと走って行く

そんな三人の背を見送ってから当麻は携帯に耳を当てた

アラタも三人を追いかけようとしたが、きっと女子三人の方が気楽だろう、と判断してその場に留まった

 

「…なんだったんだ一体?」

 

通話が終わったであろう当麻が携帯の画面を見ながら頭にハテナマークを浮かべている

気になったアラタは

 

「どうした?」

「いや…繋がったは繋がったんだけどさ…ほら、ここ地下街じゃん?」

 

当麻の言葉にアラタはあー…、と声を詰まらせる

地下街にいる自分たちの携帯は地上とは電波が繋がりにくい

それを改善するために携帯用の設置アンテナがあるのだが、そこから離れてしまうと途端に携帯は繋がらなくなる

 

「…まぁ、とりあえず大丈夫か」

 

そう言って当麻は携帯を折りたたみそれをポケットに突っ込む

それを見届けたアラタは今度は反対に向き直り

 

「…天道、いい加減クレーンやめないか」

「ははは。のめり込むとつい、な」

 

いつの間にか袋を調達したのか数体の人形がその袋に突っ込まれていた

どうでもいいが犬さんや猫さんが多めだった

 

 

そんな三人をやっぱり見ている人影が一人

御坂美琴である

 

「…ゲーム、センター…」

 

今現在アラタの付近にいる人は彼の友人である上条当麻と天道総司だ

それ以外にもあの女の子とは別に二人くらいまた見知らぬ女の子がいた

 

…以外にも女子の友人がいることに驚きつつ、美琴はゲーム筐体に身を隠しそのまま様子を伺っていると

 

「…あれ。御坂さん」

 

不意に背中からかけられた声に驚く

一瞬声が出そうになったがなんとか抑え、後ろを向いた

そこには紅葉ワタルとまた見知らぬ人が立っていた

…歳はアラタやその友人の当麻と同じくらいだろうか

 

「ワタルさん、知り合いなんですか?」

「うん。たまに常盤台で音楽講師やってるから…教え子かな」

 

ほぇー、と言いながら感心したようにその子は首を動かした

その後で美琴へと手を差し出し

 

「僕は、羅門…、ネロ! ネロです。よろしくね」

「え、えぇ。私は御坂美琴。こちらこそよろしく」

 

握手を交わし握り合う

…どうしてテンパったのか気になったが

 

「所でなにを見てたの? 隠れてたみたいだったけど…」

「え!? な、何でもないですよ!? は、はは…」

 

とてもじゃないが、尾行してましたなんて言えなかった

 

 

「とうまは、そんなに怖い人じゃないんだよ」

 

ゲームセンターのその奥にある自動販売機コーナーにて

インデックスは風斬に向かってそう言った

続けてゴウラムが

 

「そうだね、当麻もだけど、天道もアラタもみんないい人だから大丈夫」

「あ…うん。え、ッと…怖いとかそうじゃなくて…なんだろう。男の人と話すのが初めてだから…かな?」

 

そんな声を聞きながらゴウラムは風斬から受け取った小銭を自販機に入れていく

チャリン、と小気味よい音が聞こえる中、風斬は言った

 

「その…私どれが美味しいか分かんないから、その…貴女たちのおススメを、教えて?」

「? ひょうか、ジュース飲んだことないの?」

 

普通ならばどこかに引っかかりを覚える筈のその言葉に何の疑問を抱かなかったのはインデックスとゴウラムの二人がまだ現代知識が欠如しているからだった

その言葉に対し、風斬はインデックスとゴウラムの顔を見て口を開く

 

「うん。…〝今日が、はじめて〟」

 

 

いつまで経っても戻ってこない三人を心配し、探しにいった上条当麻が戻ってこない

そんなミイラ取りがミイラな状況にどうなってんだいと戸惑いながら天道とアラタの二人は三人+当麻を探して歩いて回る

 

ぐるりとあたりを見回してみると何人かバニーコスをした女子高生を何人か見かけた

恐らくはそう言う服の貸し出しコーナーでもあるのだろう

少し歩いて二人は目的の三人を見つけた

同じようになんかのアニメのコスプレをしている三人は今現在プリクラの操作に夢中になっており、アラタらの存在に気づいていない

因みに風斬はなんだか戸惑いつつ、インデックスに振り回されて、それにゴウラムが上手く合わせているようだ

 

目的の三人は確認した、じゃあ今度はあのウニ頭だ、となって天道とアラタはもう一度周囲を見渡した

そして見つけた

筐体の陰に隠れるように放置された、まるでゴミのような上条当麻を

 

「…、」

「…。」

 

あぁ、恐らくなんかハプニング(ラッキースケベ)な事態にでも直面してしまったのだろう

二人は両手を合わせ合掌して、未だ放置プレイを受けている当麻を起こすべく足を動かした

 

◇◇◇

 

そのドレスの女は歩いていた

名をシェリー・クロムウェル、イギリス清教の対魔術組織、必要悪の協会(ネセサリウス)のメンバー

同時にカバラの石像使いでもある彼女は笑みを浮かべてただ歩く

 

「まずは原初に土」

 

歩きながら歌うように彼女は紡ぐ

ドレスの破れた袖から彼女は魔術に使用する白いオイルパステルを取り出し、近くにある自動販売機やガードレール等に何かを書き殴っていく

 

「神は土で形作りそれに命を拭きこみ。人と名づけた―――しかしその御業は人の手で成せるものに在らず…また堕天の口で説明出来るものにもならず」

 

印を刻み、それを数えるほど七十二

そして空中にパステルを走らせて―――

 

「かくして、人の手で生まれた命は腐った泥人形止まり。…さぁて、ゴーレム=エリス。私の為に、使って笑って潰されろ」

 

最後に、パン、と手を打った

刹那、膿を潰すような音が響いた

一つや二つではなく、幾重もの

しかしその音は小さいものであったために、街を歩く人たちの耳に届くことはなかった

それ以前に、その音は人の喧噪に飲まれて消える

 

変化が起きた

 

自販機、ガードレール…書き殴った様々なものがピンポン玉サイズの大きさに盛り上がる

シェリー・クロムウェルの魔術は材料を問わない

その場にある、あらゆるものが彼女の武器だ

 

やがてその玉は横一線の亀裂が入り、それが瞼みたいに動きだし濁った白い眼球が姿を現した

彼女はハガキくらいの大きさの黒い紙を取り

 

「自動書記。標的はこいつでいいか。…? なんだこりゃ、この国も標準表記は象形文字なのか」

 

その紙に殴り書きのような文字でパステルを一閃する

そしてピン、と指で弾いて地面へと放った

 

〝風斬氷華〟と書かれたその紙が地面へと着地したその直後、何十体もの泥の眼球がその紙に押し寄せる

紙を千切り食い破り、その紙片を取り込んだ眼球はゴキブリのように四散していく

一つは地面を泳ぎ、また一つはぎょろり、と視線を動かして

 

「ここにいたか」

 

不意に聞こえた声

その主は唐突に現れる

ぐおん、と現れたその魔法陣の中から一人の男が現れる

シェリーはその男を知っている

 

「…ソウマ・マギーア」

 

同じく必要悪の協会(ネセサリウス)に属している魔術師…

ソウマは言う

 

「…何のようだ」

「別に。お前がやろうとしてることなんざ興味ないさ…俺は所用で来たんだよ」

 

ソウマは小さく笑みを浮かべる

対してシェリーはち、と心底鬱陶しそうに舌を打つ

 

「あぁそうかい。じゃあ私は行くぞ。いちいちお前になんて付き合っていられるか」

 

吐き捨てて彼女は彼の隣を通り過ぎた

そんな彼女の背中をちらりと見てソウマはなんとなく天井を見る

再び前を向いて

 

「…よし、まずはドーナツ屋だ。シュガーを買わないと」

 

呑気にそんな言葉を呟いた

 

◇◇◇

 

ゲームセンターにいると恐ろしい速度で金が経る、という事から一行は外に出た

割かし時間が立った気がするがそれでもこの地下街の喧噪が衰えることはない

しかし小さな変化と言えば学生の服装が制服から私服に変わっているところか

地下街、という場所は蛍光灯などで一定の明るさを保っているため、こう言う些細な変化で時間の変化をなんとなく読まなければならない

 

そんな訳で通行人の邪魔にならないように談笑していると、ふと風紀委員の腕章をつけた女の子が彼らの横を通り過ぎた

 

アラタはすぐに視線を外そうとしたが、その女の子がどういう訳かアラタたちを睨んでいることに気が付いた

その女の子はつかつかとこちらに向かって歩いていき、近くまで来ると

 

「ちょっとあなたたち、これだけ注意しているのになんでのんびりしてるんですか!」

 

凄い勢いで怒鳴られた

いきなり怒鳴られたことで当麻やインデックス、ゴウラムと風斬もきょとんとしてしまった

同様にアラタも驚いていたが天道は特に顔には出さず涼しげな顔でその女の子を見ていた

 

しかし目の前の少女は別に何か言っていたとは思えない…と考えて頭に直接語り掛けるように声が聞こえた

そしてこの目の前の女の子は念話能力(テレパス)の能力者なのだと悟る

同様に不意に頭の中に直接語りかけられたことで、ゴウラムとインデックス、風斬が驚いた表情をしていた

 

「了解です。こちらで誘導しておきますので貴女は職務の続行を」

「ご理解頂けて感謝します。なるべく急いでくださいね」

 

そう言ってその風紀委員の女の子は急いでまた走り出した

何が何だか分からない当麻はアラタに向かって口を開く

 

「どういう事だ? アラタ」

「すごく簡単に言うとだ。この地下街にテロリストが紛れ込んでるからシャッターを閉めるから巻き込まれないうちに早く逃げてくださいって事だ」

 

その声に当麻はギョッとした

アラタに付け足すようにテレパスの言葉を聞いていた天道が

 

「無用な混乱を避けるために、そしてそのテロリストに情報が洩れるとまずいから彼女のような念話能力(テレパス)が入り用になったらしい。幸いにも、シャッターを閉めるまでには十分ある」

「マジでか。…じゃあ急いで逃げないとな」

 

そんな訳で一行はさっさと地下街から離れよう、という事で出口に向かって小走りで移動し始めた

しかし、そこである一つの問題が浮上する

 

出口の階段付近には武装した警備員(アンチスキル)の姿が約五名ほど

皆黒いボディアーマーを着込んでおり、完全武装である

インデックスはこの街の住人ではないし、ゴウラムに至っては人へと姿を変えた存在だ

それでもゲストIDを持っているインデックスはまだいいが、ゴウラムはそんなものを発行している暇がなかったのだ

 

非常事態であるこの時では少しでも不審な人物は調べられるだろう

 

「…どうするアラタ」

「このまま行こう。…クソ、あそこに矢車さんとか立花さんとかがいれば誤魔化せたんだけどな…」

 

しかし無いものねだりをしても仕方がない

このままテロリストとの戦闘に巻き込まれるか、検問か

どちらが楽かと言われれば圧倒的に後者だ

しかしそんな考えは、いとも簡単に打ち消された

 

非日常の来訪によって

 

 

<見いつけた>

 

 

不意に、女の声がした

どこから、とアラタと当麻は周囲を見回し、天道はインデックスやゴウラム、風斬の前に立つ

そして、彼らは壁を見た

そして、見た

 

その壁の視線の先―――まるでガムのようにこびりついたその泥の中央に、眼球があったのだ

ぎょろり、ぎょろりとせわしなく動くその眼

 

風斬はきょとんとしたままだった

当麻は何が何だかまだ理解できていないでいた

天道はほぅ、と言葉を紡いだ

ゴウラムはその眼を逆に睨み返していた

アラタはその眼を見て、一瞬ではあるが思考が止まった

そしてインデックスは、冷静のその眼を見ていた

 

眼は呟く

 

<ふふ。ふっふふ…。うふふふふ。禁書目録に幻想殺し、虚数学区のカギに…おまけにクウガまでよりどりみどり。何人かわかんねぇのがいるけど、それでも困っちゃうわぁ、迷っちゃう…ほんとぉに>

 

その声は妖艶ではあったが妙に錆びていた

声は続ける

 

<ま。全員殺せば問題ねぇか>

 

粗暴な声へと切り替わる

この闖入者が誰か、正直今は分からなかった

しかしインデックスは切り捨てる

 

「土よりで出でし人の巨像…。その術式、アレンジがイギリス正教に似てるね。ユダヤの守護者たるゴーレムを強引に英国の守護天使にしてるところなんてとくに」

「…ゴーレム?」

 

当麻は思った疑問を口にする

ゴーレム…パッと思い浮かぶのは日本で有名な某RPGにでも出てくるようなあの岩の巨体だ

インデックスはその眼球を睨み

 

「神は土から人を創り出したって言う伝承があるの。ゴーレムはそれの亜種、恐らくこの魔術師は探索、および監視用に視覚の特化したこの土人形を作ったんだよ。本当は一体しか作れないけど、そのコストを小さくしてたくさんの個体を操ってるんだよ」

 

その声に、眼から聞こえる声はまた笑う

正直、理屈は全く分からなかったが、簡単に言うならば

 

「こいつがそのテロリストってことか」

「あぁ…たぶん間違いないな」

 

当麻の言葉にアラタは同意する

対して声は

 

<テロリスト。…テロリストってのは、こういうことする人らの事かしら>

 

ばしゃ、と音を立て眼球が弾けた

 

瞬間、ガゴンっ! と地下街全体が揺れた

 

その振動に、当麻は大きくよろめいた

天道はしゃがんで態勢を整えて、風斬はインデックスを支え、アラタは思わず転びそうになったゴウラムを抱き留める

 

そしてもう一度、まるで砲弾でもぶち当たったような振動が地下街全体を襲っていく

爆心地は遠い、しかしその余波は一瞬で地価全体に広まっているような感じだ

パラパラ、と天井から粉塵が零れてくる

そして蛍光灯が数回ちらついたのち、一気に全部の光が消えた

少し遅れて非常灯の光が薄暗くあたりを照らしていく

 

それまでゆっくりと出口に向かっていた人垣が雪崩のように出口に向かって突き進む

 

そして今度は足音とは別の重い音が鳴り響く

それは障壁が閉まる音だった

警備員(アンチスキル)が予定より早く障壁を下ろし始めたのだ

 

それが意味することは一つ

 

閉じ込められた

人垣が殺到した出口には近づけない

もし相手がこの事を予期していたのなら、この建物の構造、位置関係…人の流れを呼んだのだろうか

インデックスの言葉を思い出す

コストを下げてたくさんの個体を創り出す…もしかして地下街中に放ったというのか

 

<さぁ、パーティーを時間だ―――泥臭ぇ墓穴で、存分に鳴いて喚け>

 

そしてもう一度、大きな振動が地下街を揺らした―――



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#34 ゴーレム

どうも

今更アイドルマスター2を買ってプロデューサーになりました桐生です
みんな上手すぎ、どうやったらトゥルー見れるん…

新年という事で久しぶりにバトライドウォーをプレイしました
とりあえずファイズカッコいい、しかしクリムゾン当てずらい
因みに一番レベルが高いのはキバでした

そんな訳で始まります
誤字脱字ありましたら報告ください

ではどうぞ


あれから他の出口を探そうと思ったが結局は全部無駄骨に終わった

一応、ダクトも念のために調べてみたが当然ながら人ひとり入れるスペースではないので諦めた

空調が切られたのかは不明だが地下の温度が上がっているような気もして、おまけに変に非常灯が赤いためにオーブントースターに放り込まれた気分だ

 

どうも居心地が悪い

 

薄暗い道の先を見て当麻が呟く

 

「…クソ、迎え撃つしかなさそうだ、あっちは顔確かめて襲ってきたみたいだし。インデックス、お前は風斬たちと一緒に隠れてろ」

 

相手はこっちの位置を把握している

いくら広いと言えど、見つかるのも時間の問題だろう

そんな事を考えつつアラタは己の顎へと手をやる

 

「せめて人数でも分かれば、策は練れそうなんだがな」

「あぁ。けどわからない以上、先手を取らないと」

 

天道の言葉にアラタは同意する

相手がどこから来るか分からない上に、その人数も不明な今、後手に回るのは避けたい

そんな中、三毛猫(スフィンクス)を抱えたインデックスが頬を膨らませつつ

 

「とうまの方こそひょうかたちと隠れててほしいかも。あらたみたいな力を持ってるならともかく、敵が魔術師なら私の仕事なんだから」

「アホか。お前の手で殴ってなんか見ろ、逆にお前の手が痛んじまうだろうが。いいからお前は隠れてろ」

「むむむ。もしかして今までの幸運(ラッキー)が全部実力だって勘違いしてない? その右手があっても所詮とうまは素人なんだから一緒に隠れててって言ってるの」

 

何やら当麻とインデックスが言い合っている

そんな光景を見ながらおろおろしつつ、氷華はアラタに向かって

 

「あ、あの。こういう時、私が何か手伝うってことは…、ないの?」

「ないだろうな。申し訳ないけど」

 

そんなアラタの言葉に天道は頷く

そうはっきり断言されてしょぼん、と風斬は項垂れた

 

◇◇◇

 

「…また大きな揺れだね。テロリスト…だっけ」

 

ゲームセンターから出て、ワタル達は周囲を見渡す

どうやら先ほどの大きな揺れで障壁が閉まってしまったらしく、軽く騒ぎになっているらしい

完全に逃げ遅れた美琴とラモン、そしてワタルはとりあえず道を歩いていた

 

「…どうします? このままじゃ外に出れないと思いますけど…」

「まぁ仕方ないね。いろいろ歩いて道を探してみよう」

「ですねぇ」

 

三人は頷き合って再び道を歩く

それにしても学園都市に侵攻してくる都はそれはそれですごいなぁ、なんてワタルは思う

念のために、キバットもコートのポケットに待機させてはいるのだが

 

警備もしっかりしているこの都市に真正面から突っ込んできたのだろうか

一行が歩いていると、不意に後ろからかつかつ、と誰かが走ってくるような音が聞こえたあと、声をかけられた

 

「そこの方々! 風紀委員―――て、お姉様!?」

「えっ? …あ、黒子」

「黒子ちゃん?」

 

声にワタルと美琴は振り向き、ただ一人ラモンは怪訝な顔をする

美琴を見たあと、さらにワタルの顔を見た黒子はまた驚いたような顔を浮かべ

 

「紅葉先生まで! どうしてここに」

「どうしてって言われても。…その、友達にゲーセン行こうって誘われて」

 

そう言いながらワタルはラモンの頭をぽふん、と叩く

なんかラモンの口からはぎゅ、なんて声が聞こえたが気にしない

その言葉を信じてくれたのか黒子ははぁ、と息を吐きながら

 

「…お姉様は?」

「へ!? わ、私は―――その」

 

尾行してました、とは口が裂けても言えない

言ってたまるか

 

◇◇◇

 

その時、付近の曲がり角から足音が聞こえた

一瞬驚くがすぐに当麻は風斬とインデックスを、インデックスは風斬を庇おうとして―――結果、二人はぶつかって勢いよく転んでしまった

天道とアラタ、そしてゴウラムは僅かに身構えるだけだったが、その光景に若干ではあるが苦笑いをしてしまう

インデックスの腕に潰されそうになっているスフィンクスがみゃー、と鳴きながら前足をばたつかせた

 

「…はて。猫の声が聞こえますわね」

「それも結構近い感じだね」

「あれ? 黒子、アンタ動物興味ないんじゃなかったっけ」

「お姉様は興味がございましたね」

「べっ、別に私は、そんな事―――」

「別に隠す必要ないじゃありませんか。わたくし、存じております。寮の裏にたむろっている猫達にご飯をあげる日課を。でも体から発する微弱な電磁波でいつも逃げられて一人ぽつんとなっていることも」

「なんで知ってんのよ!?」

「…はは、意外だな、御坂さん動物好きなんだ?」

「ちょ!?」

 

曲がり角から二人の青年と少女が現れた

歩いていた彼らは床に転がっているインデックスと当麻を見て足を止め、今度は視線をアラタたちに向けてまた驚いた

同時に身構えていたアラタらは敵でない彼らが出てきて内心ホッとしている

落ち着いた様子で美琴は当麻をちらりと見やって

 

「…え、と、なにしてんの?」

「お兄様のお友達は大胆ですのね?」

「いや別に。転んだだけさ、うん」

 

とりあえずそう言い訳しておく

そんな中インデックスはそのままの態勢で 

 

「だれ? この人たち、とうまの知り合い? 短髪の人はこの前のクールビューティー似てるけど…」

 

そんな事を言いつつインデックスは彼から身を起こす

対する美琴は戸惑いつつ

 

「え、っと…私はどちらかというとアラタの方…かな?」

 

実際二人とは面識はあるが交流が長いのはアラタだ

インデックスはふぅん、と短く声を出し美琴の前に出て

 

「私はインデックスって言うんだよ。よろしくね」

「い、いんでっくす? すごい名前ね。…私は御坂美琴、こちらこそよろしく」

 

そう言って軽く握手を交わす

結構この二人…悪くはないのかな? なんてそんな事を思いながら当麻はアラタの手を借りつつ身体を起こした

 

黒子やワタルらと軽い自己紹介が終わると当麻はアラタと共に軽い状況説明を行う

当然ながら魔術関連の話は省いておくこととする

 

「ふぅん? やっぱりあのゴスロリとなんか関係があるのかしら」

「可能性は高いですわね。貴方がたが聞いたとされる声の特徴を重ねても、関与してると考えた方がよろしいかと」

 

黒子は腕につけた風紀委員の腕章を改めて付け直しつつ

 

「全く。テロの侵入を許すだなんて、わたくし達風紀委員も気を入れ直す必要がありますわねぇ。報告では二組あったと聞いてましたし」

「? なんだよ黒子、まだなんかあったっけ」

「…お兄様、侵入を許したのは二組だと申したはずですが?」

 

そう言ってじとー、と見てくる黒子

 

「…そうだっけ?」

 

そして冷静に考える

同じように彼の横では当麻がだらだらと冷や汗をかいており、インデックスに不思議がられている

 

「そうですわよ。侵入方法は全く違うとの事ではありますけど、まだ断定はできないですわ」

 

そんな冷や汗をかく当麻にインデックスは服の袖を引っ張りつつ

 

「どうしたのとうま。なんだかあらたもちょっと苦笑いしてるけど」

「や…言うの忘れてたんだけど、その侵入者の一組は俺らだ」

 

アラタは当麻の肩に手を置きながらそう言った

そんな言葉にその場の全員はは? と頭に疑問符を作り、それらを代表するようにワタルが問う

 

「…どういうこと?」

「えっと…あれですよ。なぁアラタ」

「そこで俺に振るの!? …その、なんだ? すごく簡単に言えば〝人助け〟…みたいな」

 

アラタがそう言うと一同はどういう訳か「あぁ、なるほど」みたいに首を頷かせて納得したような仕草をする

…それはそれでなんか嫌だがこの際は気にしないことにした

とりあえず空気を変えようとアラタはワタルに向かって一個聞いた

 

「ていうかワタルさんなんでここにいるんですか?」

「まぁ分かり易く言うと逃げ遅れた」

 

本当に分かり易かった

あまりにも会話が早く終わってしまったために、今度は当麻が言葉を紡ぐ

 

「え、えっと! し、白井はなんでここに?」

「はい? あぁ、わたくしは風紀委員ですので、閉じ込められた方々の救出しにきたのです。これでも空間移動(テレポート)の使い手ですので」

「なるほど。じゃあ御坂は?」

「え!? わ、私はそのっ、あ、アラタに忘れ物届けにきたの! ほら、腕章!」

 

唐突に話を振られて驚いたのか、顔を赤くしながらずい、と美琴はアラタに向かって風紀委員の腕章を差し出す

 

「あぁ、悪い美琴。なんかないなー、なんて思ってたらやっぱ忘れてたのか」

「そ、そうよ。全く」

 

アラタは美琴から受け取って改めてその腕章を腕につける

別にこの腕章がなくても問題は特にないが、それでも何かしっくりくるものがある

 

「よっし、黒子。人命優先だ、早いとこ救出作業を」

「了解ですの。お兄様は」

「敵さんを食い止める。時間を稼いだ方が救出も捗るだろう」

 

そう言いながら少し前に出て軽く屈伸をする

準備運動するアラタの隣に並ぶように当麻も歩き

 

「手を貸すぜアラタ」

「…ホントは駄目だって言いたいけど。…しゃあないか」

 

本来なら黒子の能力で真っ先に外に出て待っててもらいたいが、彼の持つ右手がそれを邪魔をする

幸いにもここはワタルに天道と戦力はそれなりだ、なら変に外に出てもらうよりここで共に戦った方が被害は少なそうだな、とアラタは考えた

そんな訳で

 

「黒子、まずは美琴とインデックスから外に」

「え!?」

「ちょっと!?」

 

当然ながらそんな声が二人から聞こえた

驚くインデックスに当麻は

 

「いいかインデックス。敵はお前を確実に狙ってきてんだ、ここにいるよりも外の方が安全なんだって」

「とはいってもそれが確実とは言えない、だからその護衛を美琴、頼めるか」

 

最もらしい理由を言われ、インデックスと美琴は言葉を詰まらせる

少し時間があって

 

「…わかった。けど当麻、無茶しちゃダメだよ?」

「アラタもだかんね。ほんっとに」

 

しぶしぶと言った感じで承諾してくれた

そんな二人を見届けて黒子は二人の肩に手を置いて

 

「では―――行きますわ」

 

そう言ってヒュン、と目の前から消える

黒子の能力〝空間移動(テレポート)〟が発動したのだ

 

「…ほう。初めて見るが、今のが空間移動(テレポート)という奴か」

「常盤台はレベル高いからねぇ。…僕も見るのは初めてだけど」

 

天道とワタルはそんな事を言いながらふと天井を見る

それに釣られて当麻とアラタ、風斬も天井を見上げた

無事にたどり着けただろうか

なんてことを考えながら当麻は風斬に向かって口を開く

 

「…悪いな、お前を残しちまって」

「い、いえ、別に私は最後でも…。それより、皆さんたちの方こそ―――」

 

風斬の言葉はゴガンっ! と聞こえてきた大きな音に遮られた

これまでと違い、爆心地が近い

通路の先から銃声の音と、怒号や悲鳴が聞こえてくる

 

「…ちっ。もう来やがったか」

「そう…みたいだな」

 

当麻の言葉に応えながら天道と当麻はその通路を睨む

先ほどまで障壁に集まっていた生徒たちは再びパニックとなっていた

一斉に離れようと走り出す…がすぐに何かにつまづき転んで将棋倒しを起こしてしまう

 

「考えている時間はなさそうだな」

「うん。バ…違う、ラモン、風斬さんの近くにいて」

「わかった」

「ゴウラムも。頼んでいいか?」

「うん。カザキリは守る」

 

ワタルは隣にいるラモンと呼ばれた青年にそう言って、同様にアラタもゴウラムに言い残し当麻らが睨んだ通路を見た

数十人と人がいるこの場所で戦ってしまえば必ず犠牲者が出てくる

避けられない戦いなら―――

 

「行こう、当麻、天道、ワタルさん」

「あぁ」

「任せろ」

「うん」

 

決断は早かった

 

「風斬さん、お前はここで二人と一緒に黒子を待っててくれ」

「は、はいっ」

 

風斬が返事をした直後、四人は一斉に走り出す

正直敵の正体も、強さもわかったものではない

しかし、この戦いに巻き込んでしまえば間違いなくいくつもの命が巻き込まれる

その中には風斬だっている

 

それだけは、させちゃいけない

 

◇◇◇

 

魔術師、シェリー・クロムウェルは銃声渦巻くその戦場を歩いていた

その顔には特に何も色はなく、無表情

シェリーの前方には巨大な盾のように、石像が立っている

身長はだいたい四メートルと言った所か

彼女は空にパステルを振るい、命令を下し、ゴーレムの歩を進めた

 

それに立ち向かっているのは漆黒の装備に身を包んだ警備員(アンチスキル)

彼らは喫茶店などのテーブルを集めバリケードを形作り、そこに身を隠しながら三人セットでローテーションを組んでいる

一人が撃っている間にメンバーは装填をし、弾幕を途切れさせないように一定間隔で放ち続ける

 

(…品がないわね)

 

適当に評価を下して、さらにゴーレムを盾にし歩を進める

そんな時、カチンと何かの金属音が聞こえた

誰かが手榴弾のピンを抜いたのだ

彼はゴーレムの股下をくぐらすように投げようと―――

 

「エリス」

 

それより先に彼女のパステルが宙を切る

ゴーレムが大地を踏み鳴らし、床が波のように振動する

タイミングを奪われた男の手から手榴弾が滑り落ち―――爆発した

 

赤が見えた

 

その手榴弾はどうやら破片で傷をつけるようなものらしく、バリケードには一切被害がなかった

バリケードの奥から鉄の匂いがシェリーの鼻に届く

 

(…使う必要は…なさそうね)

 

ちらり、と彼女は手元にある数枚のメダルとメモリに目をやった

メモリは二本合ったが一本は逃走に使う際に使用して消失している

…興味本位で購入してみたが、案外役に立つものだ

そしてメダル

こちらは信号機のような奴三枚と黄色いのが三枚ほど

一つ一つに膨大な魔力が内包されており、この三枚を凝縮させるとオーズという自動人形が生成される…と聞いたことがある

しかしこのメダルは斎堵からくすねたもので、レプリカモデルらしく本来の強さはないようだ

まぁそれでも…目の前の奴らを蹴散らすには十分なはずだ

 

それらを改めて仕舞い、再びパステルを彼女は振るった

 

石の化け物を相手にするのに、彼らでは脆弱すぎる



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#35 風斬氷華

出来ました
相変わらずですがご容赦を

今回のライダー大戦に藤岡さんが出ると知って狂喜乱舞ヒャッハーしている私です
でゅるわぁぁぁみたいな感じです

ではどうぞなのです

あとどうでもいいですが前回の投稿で一周年になりました
こんなこんなゴミみたいな小説にお付き合いいただきありがとうございます
これからものんびりやっていきたいなぁ、なんて思ってます


戦場

 

その場を一言で表すならそうだろう

視線の先に広がっているこの光景は、本当に戦場という名が相応しい

傷ついたり心折られた人達が、壁に寄りかかって、傷の治療を受けている

いわば野戦病院と言った所だ

その数、おおよそ二十数人

一体何度立ち向かったのか、彼らの傷は尋常でなく、絆創膏を貼るなどと言うレベルを超えている

 

「…ここまで警備員(アンチスキル)を圧倒するとはな。想像以上だ」

 

天道の言葉に思わずうなずく

魔術師とは何度か戦闘してきたが、それでも多少どんな感じかは理解しているつもりだった

しかし現実はこのザマだ

 

学園都市の治安を守る人たちが、わき役のような扱いだ

それでも、彼らは退かなかった

身体の動く人たちは付近の店から椅子やらテーブルやらを引っ張り出しバリケードを作ろうとする

否、動く動かないの問いかけなどとうの昔に終わっている

死ぬ気で、じゃない

死んでもそれを成そうとしているのだ

 

ここにいる人…警備員(アンチスキル)の大半は教師だ

誰かに強制されているわけではないし、そこまで命を張る理由なんてない

それなのに、どうして彼らは

 

「ちょっとそこの少年たち!? 何してんじゃん!」

 

そんな呆然としていた彼らを見て驚いた警備員(アンチスキル)の女性―――黄泉川愛穂はそう声を荒げた

彼女の怒号にその場の警備員(アンチスキル)らは一斉に振り向いて、アラタや当麻たちを見た

思わず戸惑って声を返せずにいると

 

「ちっ! 月詠んとこの悪ガキじゃん、そっちは連れ添い? 閉じ込められたのか? ったく! だから閉鎖を早めるなって言ったのに! 少年たち! 逃げんなら方向が逆じゃん! A03ゲートまで行けば後続の風紀委員がいるから、ひとまずはそこに退避! 鉄装! ちょっとメット渡してきて! なんもないよりマシじゃん!」

 

指示を飛ばしながら付近の警備員(アンチスキル)は人数分のメットを持ってきてそれを四人に手渡す

そして何となく、辺りを見回してみた

 

「…やはり、大人は偉大だな」

 

天道が口を開く

現実に彼らのような大人など、なかなかいない

 

「そうだね。見習わないと、僕たちも」

 

そう言ってワタルのポケットからコウモリのような生き物が這い出て来て、彼の周囲を飛び回る

その生き物に届けに来た警備員(アンチスキル)がびっくりするが、気にしないことにした

 

彼らの言葉に、当麻とアラタは頷き合う

そして悟ったのだ

彼ら彼女らが、退かないその理由(ワケ)

 

天道はどこからか飛来した赤いカブトムシを掴み、ワタルも右手をバッと翳す

 

「待ってたぜーワタルーっ!」

 

そう言いながらコウモリは彼の手に収まった

そしてその四人はメットを再び押し付けて

押し付けられた警備員(アンチスキル)はあたふたしながら困った様子だった

 

「おい!? どこに行こうとしてるじゃん!? くそ…、誰でもいいからそこの民間人を取り押さえてッ!」

 

叫び、その手を伸ばすが彼らには届くことはなかった

すでにぼろぼろの彼らは、そんな力も残っていないのに、まだ戦う意思を秘めている

言えば、警備員(アンチスキル)は通学路の見回りなどの延長線上でしかない

しかしそれゆえに、心の弱さに負けてしまえば簡単にぽっきりと折れてしまう

 

思えば、風紀委員や警備員(アンチスキル)は立候補によって成立するのだ

そう、考えてしまえば簡単な事

 

彼らは誰に頼まれたわけでなく、己の意思にここにいるのだ

 

警備員(アンチスキル)の制止を振り切って、当麻の隣でアラタはアークルを顕現させる

 

そのまま、その道に向かって一行は走り出し、警備員(アンチスキル)その姿が見えなくなると、当麻らの隣で天道はその手を動かし、ワタルはキバットにガブッ! とその手を噛ませ、アラタは右手を斜め左に突き出し、三人は叫んだ

 

『変身!』

 

言葉と同時、天道はゼクターをベルトにセットし、ワタルは現れた止まり木にキバットを装着し、アラタは己のアークルの左側へと両手を動かす

 

<HENSIN>

 

電子音声の後、天道の身体はヒヒイロカネの鎧を纏ったマスクドカブトへとなり、ワタルの身体が透明になったと思った瞬間弾け飛び、キバへと姿を変え、アマダムが輝き、アラタの身体は赤い姿と複眼をもつ、赤のクウガ、マイティフォームへと身を包む

 

変身を終え、当麻と共に頷き合いさらに彼らは奥へと進む

 

さらに進むと一つ、変化があった

 

「…物音がしなくなったな」

 

呟くようにマスクドカブトが口にしたのち、さらに意識を集中させる

通路の奥では銃撃戦が繰り広げられているハズだ

しかしいくらなんでも静かすぎる、まったくもって何も聞こえないのだ

 

「―――急ごう」

 

ワタルの声に頷いて一行はさらに通路の奥へ足を進ませる

薄暗く、赤色の証明に照らされたその通路の先に―――

 

 

 

「…あら。ふふふ、こんにちは」

 

 

 

女の声が反響する

黒いドレスを着込んだ金髪にチョコのような肌色をしたその女がそこに立っていた

そしてその女の盾になるように、大きな石の像がいた

鉄パイプやタイルといったあらゆるものを無理やりに潰し織り交ぜ整えたようなデカい人形

同時に周囲を見渡す

四方にバリケードの破片が散らばっており、その破片を浴びたのであろう八~九人の警備員(アンチスキル)が倒れていた

まだ息があるようで、その手が震えるように動いている

 

「…お前」

 

なんでこんなことを、と言いかけてアラタは言葉を飲む

しかしそんな意図を組んだのか金髪の女は

 

「…おや、お前は確か…幻想殺し、か。おまけに古代の戦士まで一緒とは。うん? あのカザなんとかはいないのか。…いや、まぁいんだよ誰だって。殺すのはあのガキでなくともさ」

 

なに? と思わずクウガは聞き返す

目の前の女が当麻や自分、風斬を狙っているところはなんとなく分かっていた

しかしこの女はどうも調子が分からない

狙っているわけではないのだろうか

 

「そのままの意味よ。…テメェらを消したって構わねぇってわけさ!」

「! 屈めっ!」

 

相手の行動を察知したのかマスクドカブトが声を張り上げる

その声に反応してキバとクウガ、そして当麻が思わず屈むのと、女がパステルを空中で一閃するのは同時だった

 

瞬間、女の動きに連動するようにゴーレムが大きく地面を踏みつける

ドォンッ! と大きな震動が走り、大地を揺らす

事前に屈んではいたからあまり害は受けなかったが、それでも不利なのに変わりはない

 

しかしその震動の中であの女だけは悠然と立っていた

あのゴーレムのマスターだからか、それとも何かの術式を地面に施しているのか

 

「地は私の力。エリスを前にしたら、誰も立つことはかなわない。…おら、無様に這え、そして噛み付いてみろ負け犬」

 

勝ち誇った表情を浮かべる女を態勢を整えながら睨みつける

だがしかし相手の指摘も間違ってはいない

この振動の中下手に攻撃してしまえば最悪同士討ちを巻き起こしかねない

悔しいがこの戦い方は理にかなっているといえよう

 

「…っち!」

 

少しでもダメージを与えようとマスクドカブトがクナイガンを構える

そして揺れを抑えるようにキバが彼の肩に手を置いて、安定させた

しかし僅かながらの震動が邪魔をして、上手く狙いを定められない

 

「て、めぇっ!」

 

「てめぇでなくてシェリー・クロムウェルって名前あんだけど。…これから死ぬ奴らにイギリス清教名乗っても意味ねぇか」

 

イギリス清教、と聞いて当麻の顔が一瞬変わる

そして

 

「い、イギリスって、インデックスと同じところのやつか!?」

「な、んだと!?」

 

イギリス清教

分かり易く言えばそれはインデックスが所属している魔術組織のはずだ

もっと言ってしまえば同僚に近い存在のはずなのに

そんな思考を巡らせる中シェリーは小さく笑み

 

「戦争を起こしたいんだよ。それの火種が欲しいの。だから…出来る限りの大勢の人間に私がイギリス清教の手下だと認識させなきゃな」

 

言いながら彼女はまたパステルを一閃する

そんな動きに引かれるようにエリスと呼ばれるゴーレムが大地を踏みしめ、その大きな拳を振り上げる

急造と言えどバリケードを一撃で破壊したあの拳だ、直撃を貰えばただでは済まない

しかし踏みしめたおかげで、僅かではあるが震動が止まった

 

「はっ!」

 

そのままクナイガンのトリガーを引き弾丸を発射した

数発ではあるが放たれたその弾丸はゴーレムエリスの足にヒットする

しかしいくら動きを止めているからと言っても、ただのハンドガンのようなものではあまり決定打には至らない

おまけに何発か跳ね返って跳弾さえしているのだ

 

「くそ…少しでも接近できれば!」

「あぁ、お前の右手なら…!」

 

恐らくあのゴーレムは魔術で作られたものだ

故に異能を打ち消す当麻の右手に触れれば勝機はあるはず

しかし迂闊に接近は出来ない、不用意に攻めればあのゴーレムの拳の餌食になりかねないからだ

ぎり、と歯を食いしばり当麻はクウガと共に相手を睨む―――

 

 

一方で白井黒子の帰りを待っている三人組

風斬を背にし、バッシャーとゴウラムは警戒を怠らない

少し時間が立ってから、バッシャーがゴウラムに問いかけた

 

「…なぁ、アンタ。アンタも、…変化してるのかい?」

「…まぁ、そんな感じ。そう言う貴方も」

 

ゴウラムが聞き返すとバッシャーは小さく笑みを浮かべて

 

「やっぱりわかる人にはわかるか。まぁ当然だな」

「大丈夫。その分かる人も限られてるし、まず気づかれない」

 

正直ゴウラムもバッシャーの正体にはなんとなく程度しか分かっていなかった

そして先ほどの言葉を聞いてその僅かな疑念が確信へと変わったのだ

 

「ていうか、カザキリの前でそんな話しないで。変な感じに―――」

 

そこまで言いながらゴウラムがなんとなく風斬がいるであろう背後を見て、言葉が止まる

 

「? どうかしたの―――って」

 

同じように振り向いたその瞬間、バッシャーも息を呑んだ

それもそのはずだ

 

つい先ほどまでいたその場所から、風斬氷華がいなくなっていたことに

 

「な、なんで!?」

「わ、わかんねぇ! けど、気配は―――あれ!?」

 

どうしてだろうか、確実に己らの後ろにいたと感じていたのだが

というか、いつからいなくなっていた? 

足音は聞こえたか? 動くような物音は

 

「い、いや、考えるのは後だ、彼女が行くとしたら彼らのとこしかない!」

「うんっ!」

 

お互いに頷き合って一斉に二人は走り出す

過程がどうであれ、眼を離してしまっていたのは事実だ

不安に思いながらも、二人は速度を落とすことなく走り続ける

 

 

不意にかつん、と聞こえたその靴の音は妙に耳に残った

定期的に聞こえる銃声に、そんなマスクドカブトを援護すべく態勢を整え、傷の応急処置を施した警備員の放つライフル音が響く中、その足音は本当に耳に残った

 

アラタは当麻を地面に伏せさせつつ、ゆっくりと顔をあげ首だけを後ろに動かしてその音の正体を探る

内心、いやな予感はしていたのだ

だがそれを素直に認めてしまったら、当たってしまうような気がして認めたくなかったのだ

しかしこういう時に、その嫌な予感は当たってしまうわけで

 

恐る恐る首を向けたその先には

 

「あ、あのっ」

 

風斬氷華がそこにいた

あろうことか、通路のど真ん中に

 

「馬鹿っ!! なんで黒子待ってなかったんだよ! ていうか、どうやってここに来た!? あの二人は!?」

 

あの二人の眼を掻い潜ってきたのか、一体どういう手段を使用したのかは不明だ

しかしあのままあそこにいては確実に何らかの被害をこうむってしまうだろう

だが迂闊に立って駆け寄ろうものなら飛び回る跳弾の餌食となり、その隙をあのゴーレムは狙わないはずがないだろう

 

発砲音に負けないよう、クウガは声を張り上げた

しかし風斬本人はまだ状況を掴めていないのか

 

「だ、だって―――」

「だってじゃないっ! くそっ! とにかく早く伏せろ!」

 

そんなクウガの叫びに風斬はきょとんとした後

 

ゴッ!! と彼女の身体が大きく後ろへ飛んだ

 

「っ!?」

 

クウガは思わず息を呑んだ

そしてその隣で伏せていた当麻も、彼の反応を見て何が起きたかを察した

当然、人間の眼は飛び交う弾丸を視認できるほど高性能ではない

しかし、今回はどうなったかは一目瞭然

 

ゴーレムの身体に当たり、跳弾した弾丸が風斬氷華の顔面に当たった、という事

肌色が飛び散って、眼鏡のフレームごと千切れ、飛ぶ

銃声はいつの間にか止んでおり、警備員(アンチスキル)が呆然と倒れる彼女を見て、マスクドカブトは急いで彼女を支えようと駆けるが間に合わず、風斬は地面に倒れた

 

逆にシェリーは目標がいきなり現れ、予想できない形で自滅したことに僅かではあるが眉をひそめていた

 

駆け付けるカブトを追うようにクウガと当麻、そしてキバの三人は風斬の所へと走り出し―――また息を呑んだ

その目の前の惨状に、〝ではなく〟

 

確かに、風斬氷華の傷は酷かった

しかし問題はそこではない

そんな問題は些細な事だ切り捨てれるレベルの、もう一つの問題がある

 

「…ねぇ、僕は夢でも見ているのかな」

「残念だけど、現実だよワタルさん」

 

呟くキバに応えるようにクウガは口を開く

改めて、風斬の傷口を見た

 

頭の半分を吹き飛ばすほどの傷なのに―――中身は、空洞(から)だった

人間を生成する筈の中身が、何もない

 

それ以前に、血液が流れていなかった

吹き飛ばされた時、これほどの大怪我なら赤い鮮血が飛び散るはずなのに、散ったのは肌色だったのだ

空洞の頭の中―――中心部には五センチ弱のくるくる回る正三角形が見える

その側面にはキーボードみたいなのがあった

 

思考が追いついていかない

今眼の前で何がおこっているのかも分からない

 

「―――う」

 

戸惑う四人を尻目に、風斬がうめき声をあげる

意識を取り戻したことに反応してその三角形は動きを加速させる

カタカタ、と見えざる指がタイプするように、三角形の動きに合わせ、彼女は動く

 

本来敵であるシェリーでさえ、攻撃を忘れギョッとしていた

 

やがて、片方しかない眼は四人を捉えた

 

「…あ、れ? め、眼鏡は…」

 

痛がっている様子はなく、むしろ寝起きのような仕草で彼女は手を動かして―――何かに気づいた

 

「…え?」

 

空洞の淵を、彼女の指がなぞっていく

そして徐に―――たまたま近くにあった喫茶店のガラスを見た

そして―――知る

 

「―――な、にこれ!? や、いやぁっ!!?」

 

感情が爆発したように、彼女は髪を振り乱して、鏡に映った自分から逃げるように走り出した

あろうことか、ゴーレム―――エリスがいる方向へ

我に帰ったシェリーはパステルを横に一閃する

同じように我に帰ったクウガも慌てて飛び出し―――振るわれるゴーレムの一撃にクウガも拳を突き出して風斬を庇った

ドゴォ! と音が響き風斬は一瞬身体をびくつかせたが、それでも足を止めることはなかった

 

「…エリス」

 

小さく笑いながら彼女はパチンと指を鳴らす

するとエリスと呼ばれたゴーレムは近くにあった支柱を殴る

地下全体が揺れて天井がミシリ、と音を立ててライフルを構える警備員(アンチスキル)に降り注ぐ

 

「行くぞエリス。―――狩りの時間よ」

 

当麻やキバ、カブト、膝を付いているクウガや生き埋めになっている警備員(アンチスキル)には目もくれず彼女は風斬を追うために歩き出す

 

何とも言えない空気が、四人を包む

今しがた見た光景が、あまりにも鮮烈で―――

 

 

一方でソウマ・マギーアもあるデパートから出て来ていた

手にはビニール袋を携えて、その袋の中には温泉の元が入れられていた

 

「…ったく。最大主教(アークビショップ)のヤツ、入浴剤くらい本国にもあんだろうが」

 

そう、今回ソウマは本当に所用で来たのである

組織のトップの風呂好きにも困ったものだ

このまま〝テレポート〟で帰ってもいいのだが、ここではあまりにも人の目が多い

なので歩いて適当に人気のない場所を探していく

 

それと同時に、学園都市の街並みも視界に入れ、記憶に収めていく

最先端科学なこの都市に、色々な人たちが様々な夢を持って来訪するこの都市

生憎ソウマにそんな願望などないが、それでも能力を発現できたものにとっては楽園になるだろう

逆に、発現できなければ地獄と化してしまうが

 

「…面倒くせェ都市だ」

 

どうしてわざわざ頭の中弄ってまで力なんて欲しがるのだろうか

そう言った憧れを否定するわけではないのだが、別になくても困るわけでもないし

そんな事を考えているうちにだいぶ人気のない場所にふと立っていた

 

「…こんな所、かな」

 

徐に彼はがさごそと指輪を取ろうとポケットに手を入れようとして―――気づく

どういう訳だか何人か、ガラの悪い連中に囲まれていたことに

夢を見て学園都市に来て、そして夢に破れやさぐれた連中だろう

というかそれ以前にいつ尾行された

そこまで思考に埋没していたのだろうか

 

「よぉ、にいちゃん。ずいぶん高そうな指輪持ってんじゃなねぇか。一個俺らに恵んでくんない?」

 

そんな一人の男の言葉を無視しはぁ、とソウマは息を吐く

夢に破れたショックで、ここまでやさぐれるものだろうか

まぁ、何らかの力はあるはずだ、と希望にすがってやってきて〝あなたには何もありません〟なんて言われた日にゃやさぐれもするか

 

「何シカトしてんだ…おらぁっ!」

 

気に障ったのかどこから調達したのか警棒を展開し、ソウマに向かって振りかぶった

その攻撃をあっさりと躱し、ソウマは距離を取る

 

「…やれやれ」

 

コンビニ袋を肩にかけ、面倒くさそうにソウマは息を吐いた

 

「帰ったらあとでプレーンシュガーを最大主教(アークビショップ)名義で買い占めてやる…!」

 

小さい野望を芽生えさせつつ、自分を取り囲んでいた連中がそれぞれ調達した武器を取り出した

それぞれ警棒やスタンガンと言った、護身用的なものから、ナイフやドスといった割とガチな物まで様々である

そして別に一人、USBメモリを取り出した男もいる

男はメモリを起動し、それを腕に突き刺した

 

<MONEY>

 

電子音声が鳴ると同時、ずんぐりむっくりとした怪人へと姿を変える

マネードーパントだ

 

「…ガイアメモリ、って奴か」

 

…本当に面倒くさい

心から鬱陶しそうに息を吐いて彼は指輪を嵌めて自分の腰へと手をやった

 

<ドライバーオン プリーズ>

 

そして彼はそのドライバーの左右のレバーを操作して、待機状態に移行させる

 

<シャバドゥビタッチヘンシーン―――>

 

直後、ドライバーから歌のような詠唱文が再生される

何度聞いても耳に残る、ソウマはすっかり慣れてしまったが

そのドライバーに、彼は赤い指輪を嵌めて、ゴーグルのようなパーツを降ろし、ある言葉を口にしつつ再び翳す

 

「変身」

 

<フレイム プリーズ> <ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!>

 

現れた魔法陣をが通り抜けた時、ソウマの姿はどこにもなかった

代わりにいたのは、宝石のような仮面をした、魔法使い―――

 

「―――さぁ、ショータイムと行きますか」



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#36 ともだち

ウロブチさんが本気になってきた鎧武が楽しみな桐生です

相変わらずな出来ではありますがご容赦を

誤字等を発見したらご報告を

多分あと一~二回くらいかな

ではどうぞ


降ってきた建材は意外に軽く、どかすのに時間はかからなかった

それをどかしている最中、バッシャーとゴウラムの二人が血相を変えてこちらに走ってくるのが見えた

彼らがアラタの近くへ走ってきて息を整えながらバッシャーは言った

 

「ごめん! 僕らがいたのに…!」

「気にしないで、バッシャー。…けど、どうして? 君がこんなミスをするなんて思えない」

 

そうワタルが聞き返すとゴウラムが

 

「うん。…だけど、急にいなくなったんだ。うっかりバッシャーさんと話してた私も悪いけど…、それでも後ろにいたハズなのに」

 

ゴウラムの話を聞いてアラタは僅かに首をひねる

…急にいなくなった? それは一体どういうことだろうか

それを考えようとして、首を振った

その事以前に気になることが多すぎる

確かに襲撃してきたシェリーも気掛かりだが、それ以上に気掛かりなのが風斬氷華の事だ

 

彼女は自分自身の以上に気づいていないようだった

だからガラスに映り込んだ自分の姿を見て悲鳴を上げ、逃げるように走り出した

彼女のリアクションを見る限り、その真実に彼女自身、今日初めて気づいたようだった

つまり自覚していない能力なのか、それとも風斬自身の能力ではないのか…?

 

当麻と二人、考え、悩んだ末に当麻が携帯を取り出す

いくらなんでも不可解な事がありすぎる

携帯を取り出したタイミングでアラタは天道に向かって

 

「なぁ、天道。この付近でアンテナないか?」

「あぁ、それなら…あそこのスポーツ店の近くにあるのがいいんじゃないか?」

 

そう言ってす、と彼はある一点を指差した

場所は少し離れてはいるが、特に問題はなさそうだ

一行はそのアンテナ付近まで駆け寄って、当麻が携帯を操作し始めた

携帯を弄る当麻を尻目に、改めてアラタは思考を巡らせた

 

…そもそもあの風斬氷華はいつこの学校に来ていたのか

出会ったのはインデックスとゴウラムらしいし、その顛末を聞いてはいなかった

 

「…なぁ、お前が初めて風斬さんと出会ったとき、何か感じたりはしなかったか?」

「うぅん。何にも感じなかったよ? …ちょっと変わった人だなぁ、とは思ったけど」

 

恐らく彼女が言うならそうなのだろう

…だがそれでも謎が深まっていく

そんな中ワタルがバッシャーに一つ問いかける

 

「ねぇ、バッシャー。風斬さんが消えた時、何か感じた?」

「そう言われても…わかんないんだよ、その…いきなり消えた、というか…」

「消えた?」

 

どういう事だろうか

風斬氷華はテレポートの能力者なのか?

いや、そんな事は聞いてはいないし…そう考えたところで当麻の声が響き渡った

 

「せ、先生、ちょっと待ってくれ! 今スピーカーにするから…」

 

そう言いながら当麻は携帯のスピーカーをオンにし連絡先の声が聞こえるようにする

彼の携帯から聞こえてきたのはとても見知った声色だった

 

<あ、あー。聞こえてますですかー?>

「こ、小萌先生?」

<あら? その声は鏡祢ちゃんですかー? 上条ちゃんと一緒なら安心ですねぇ>

 

いつも通りの声色に、アラタは少しだけ安堵する

しかし状況は何ら変わらない

 

<えっとですね? さっき上条ちゃんからカザキリヒョウカさんの事について聞いたのですけど…>

 

どうやら当麻は〝こんな能力があるのだが〟みたいに風斬の事を隠したうえで小萌に聞いてみたのだが、どういう訳か小萌はそれを聞いただけで風斬氷華の事を言い当ててしまったようだ

 

<上条ちゃんの質問…肉体変化(メタモルフォーゼ)についてですけどね? 確かにこの都市にもそう言った能力の類はあります。学園都市にもわずか三人しかいませんが、その中に風斬氷華さんという名前の方は存在しません>

 

その声色に、僅かに緊張が走る

 

<知っての通り、学校にもセキュリティがあるのは知ってますよね? 先ほど警備員(アンチスキル)の方に連絡して衛星写真を見せていただいたんですけど、どこにも怪しい影はありませんでした。…その、風斬氷華さんも>

 

月詠小萌は、映っていない、と言った

なら、つい先ほどまで自分たちと話していたあの氷華は一体なんなんだろうか

 

「…小萌先生は、どのように考えているんですか」

 

張り詰めた空気に天道の問いかけが響き渡る

電話の向こうで少しだけ息を吐いて調子を整えるような吐息が聞こえた

一瞬間を開けて小萌は続ける

 

<AIM拡散力場。先生はこれが深く関わっていると思いますね>

 

AIM拡散力場

その単語にアラタと当麻は互いの眼を見やる

 

<人様の論文内容を口外するのはやっちゃいけないんですけど…先生は上条ちゃんたちの口が堅いのを信じてます。今朝、先生は言いましたね? 友達に付き合ってAIM拡散力場について調べてるって>

 

電話の向こうで何かパラパラと紙をめくるような音が聞こえ

 

<その研究内容は、複数のAIM拡散力場がぶつかった際に生まれる余波の事なんですけど>

 

ますます何が言いたいのか分からなくなる

本当にそれらは風斬と何か関係があるのだろうか、と首をひねっていると

 

<上条ちゃん、鏡祢ちゃん、人間って、機械で測ったいろんなデータが取れますよね? 熱の生成やら放出やらその他諸々。扱う機会に応じて何万通りのデータが取れると思うのです>

 

「え、えぇ」

「…それが一体?」

 

そう周囲に気を気張りながら彼らは先を促した

 

<これは推測なんですけど…逆に、それらのヒトらしいデータがあったらそこに人がいるという事になると思いません?>

 

息が詰まる

小萌はさらに続けて

 

<この都市にはいろいろな能力者がいるのは知っていますよね、そして同時に彼らは無意識に微弱な力を放出してしまう。一人一人が小さい力でもそれらが重なり合って一つの意味を成すとしたら? たとえば、あ、とかいって言う意味のない文字でも、いろいろ並べるとおはよう、とかありがとうみたいな意味のある言葉になるじゃないですか>

 

「つまり、風斬氷華という人物はたくさんの命令文が集まったプログラム…みたいなものなのか」

<簡単に言うとそうですね。天道ちゃんは頭の回転が早いです>

 

思えば先ほどバッシャーはワタルに何と言ったのか

いきなり消えた、と言っていた

そうじゃなく、最初から風斬氷華なんて人物がいなかったらとしたら

その実、プロセスは全くの逆だとしたら

 

そこに人がいたから体温を感じた、ではない

体温が感じたからそこに人がいるのだ、と勘違いしたのだとしたら

 

能力者が体温を作り、また別の能力者が肌の感触を形作り、また別の能力者が声を作り

それら様々な能力のAIM拡散力場がいくつもの数字やアルファベットを創り出し、それを組み合わせて入力するプログラムみたいに、人を、人間を作っているのだとしたら

 

<学園都市には二百三十万人の能力者がいます。体温は発火能力者(パイロキネシス)が、生体電気は発電能力者(エレクトロマスター)が無意識のうちに担当してしまって、カザキリヒョウカというアプリを作ってしまっているのです>

 

今いるこの場所さえも、戦場という実感すらなくなってしまいそうになる

それに裏付けるようにワタルが

 

「けど、確かに念動力者が上手い事能力を駆使して指を押せば人肌を感じるし、空気の振動を操れば声も出せる…」

「光もその屈折操れば姿を見ることもできるしな。…ワタル、学園都市ってすっげーな」

 

ワタルのすぐ近くでパタパタと飛んでいるキバットにワタルは頷く

 

小萌が言うには何度か不完全なカザキリの目撃談は何度かあったらしい

恐らく当時のカザキリは曖昧な幽霊みたいな存在だったに違いない

そこで不意にアラタは思い出した

 

「けど、彼女自身は自分の事に気づいていなかったみたいだけど。あくまで自分は普通の人間だって」

「そ、そうだよ。アラタの言ってる通りその自分の異常に怯えたから逃げ出した、本当にそんな、生まれた時から人間以外のモノだとしたら、おかしいじゃないですか―――」

 

そんな二人の声を斬り裂いたのは近くに見知った声色

 

「いや、何もおかしいことはない」

「事はないって…」

 

口を開いた―――天道は当麻の声を遮り言葉を続ける

 

「生まれた時からずっと自分が人間だと思い込んでいれば、何の疑問も抱かないだろう」

「なっ…!?」

 

言葉を聞いた時、当麻は絶句した

その隣で、妙に納得してしまうアラタもいた

同時に、そんな感情を抱いた自分に嫌悪感を覚えた

 

「…つまり、結論行っちゃえば、カザキリは…人間じゃないってこと?」

<そうなりますね。AIM拡散力場が生み出した物理現象の一つです>

 

ゴウラムの言葉に、小萌は淡々と返す

そんな言葉に反論するかのように当麻は口を開いた

 

「…そんなのって! そんなのってアリかよ! 酷過ぎる…! そこにいるアイツの思いも、感情も全部作られたものなのか…!」

「…酷い、か。間違ってるぞ当麻」

 

嘆く当麻に反応したのは、天道総司だった

その言葉に腹が立ったのか、ギリ、と当麻は天道を睨みながら

 

「…なんだよ、まさか単なる自然現象に感情移入するのは馬鹿馬鹿しいって! そう言いたいのかテメェッ!!」

「話は最後まで聞け当麻。…それに、そんな分かりきったことを聞くなら、俺はお前と友達をやめなくてはならないぞ」

 

電話の向こうで小萌の息を吐きつつも、苦笑いするような声が聞こえる

そんな中、天道は続けた

 

「確かに言ってしまえば彼女は幻想だ。ヒト足り得る要素をすべて満たしていようが、彼女は人間じゃない。…しかしだ当麻、お前の眼から見た風斬(あいつ)は、儚い幻想だったのか」

 

「―――!」

 

そうだ、と思い返す

アラタは彼女と触れ合った期間は短かったが、それでも、記憶に焼きついた彼女の笑顔は決して偽物なんかじゃない

 

「―――幻想なんかじゃないよ」

 

その場にいた一行を代表するように、ゴウラムが口を開く

 

「作り物だなんだって言われても、カザキリはカザキリだよ! …私や、インデックスの…友達なんだ…!」

 

泣きそうになるのを堪えながら、ゴウラムは告げる

そんなゴウラムの頭を撫でながらアラタは

 

「あぁ、少なくとも、本物だとか偽物だとか…そんな〝小せぇ〟事で仲間外れに出来る存在じゃねぇよな」

 

「…あぁ」

 

当麻は頷く

あぁ、そうだ

幻想なんかであるはずがない

以前に、彼女は苦しそうだった、自分も知らない現実を突きつけられて、そして受け入れることが出来なくて、右も左も分からない、訳の分からない状況で、闇へ逃げるしかなかった、ただ一人の女の子

見殺しにされていいわけがない

 

「…けど先生、ふと思い出したんですけど、先生の友達ってAIM拡散力場の事を調べてたんじゃ?」

<大丈夫ですよ、その論文の中にカザキリヒョウカさんの事はなかったですから。もちろん、この事は伏せておきますから心配しないでも大丈夫なのですよー>

 

アラタの問いに小萌は変わらずほんわかした様子で応えていく

 

<それに小萌先生は先生なのです。単純ですけど、それが一番の強力な心の柱なのです。そしてわたしのお仕事は生徒の大切なお友達を売りとばして名声を得る事は含まれてないのです>

 

「…ありがとう先生」

 

アラタがそう感謝を伝えると電話の向こうでふふん、という声が聞こえたのち

 

<くれぐれも、その人を泣かしちゃダメですよー>

 

そう聞こえたのち、それではなのですーと言って電話は切れた

その電話を見たワタルは

 

「…いい先生だね」

 

そんなワタルにアラタは小さい笑みを作りながら頷く

そしてアラタは当麻を見た

視線の先には、決意のこもった瞳があった

その隣には、同じよう笑みを浮かべる天道の顔が見えた

やるべきことも、行くべきかも理解した

 

しかし問題は別にある

 

「とりあえずは、あの石像をどうするか、だな」

 

あの女の傍らの石像…

変身すればいくらか太刀打ちは出来そうではあるが、それでも一抹の不安はある

どうするか、と悩んだときふとガラスのウィンドウを見て、自分たちの後ろに誰かが立っていたことに気が付いた

 

「―――ふふ」

 

当麻の小さい笑い声が聞こえる

本当は息を吐いたらなんとなく無意識に笑っていただけなのだが

同じように天道も、ワタルもそれらに釣られて笑みを浮かべる

ゴウラムは頭に疑問符を浮かべてアラタを見たが、それに対してアラタは彼女の頭を撫でて応えた

 

案外近くに、切り札はあったのだ

 

◇◇◇

 

今になり、焼けるようなその痛みに気が付いた

 

「あ、うううっ…!」

 

顔の半分―――砕けたその断面に灼熱で溶けた熱でも流し込まれたような激痛が彼女を襲い、立っていられずに地面に倒れ込む

それでもその痛みを紛らわせるように両手両足を振り乱して地面の上を転げまわった

普通なら死んでいるハズなのに

むしろ死んでなきゃおかしいのに

生き地獄とはまさにこの事だ

死ぬほどの痛みに苛まれていながら、死ぬことも許されないのだから

 

「―――あっ!?」

 

しかしそれも長くは続かない

変化が、あった

 

ぐじゅ、とゼリーが崩れるような音と共に傷口が塞がり始めた

ビデオの早送りのようにあり得ない速度で瞬く間に空洞が修復されて、痛みも引いていく

致命傷なのに

死んでてもおかしくないはずなのに

 

「―――あ」

 

痛みが引くと同時、考える余裕すらなかった思考が高速で展開していく

己の中は、空だという真実

普通と思い込んでいた己の正体は、異常だという事実

 

言葉を組み立てる余裕もなく、叫ばずにはいられない重圧が彼女の心を蝕んでいく

そんな彼女の絶望に引き寄せられて、もう一つ深い絶望が現れる

ズゥン、と深い音と共に、佇んでいる遺物な化け物

その傍らには、金髪の女が立って、そして嗤っていた

 

「―――ひ!?」

 

反射的に逃げようとした―――が思うように足が動かなかった

それに対して、女はただパステルを振り抜くだけ

パステルに応えるように石像が風斬に向かって拳を繰り出す

咄嗟に風斬は地面に伏せようとした、が少し遅れてなびいた髪に拳が引っかかりそのまま頭皮ごと剥がさんとばかりにそのまま拳を振り抜き、それに釣られて彼女の身体が大きく飛ばされる

 

「あがっ!!?」

 

恐るべき勢いで地面を滑った彼女は、まるでヤスリに削られたような痛みに襲われた

その地面には何メートルにわたり、剥がされた皮膚や髪の毛がこびりついていた

しかし、またぐずぐずと彼女の顔が波打っていく

剥がされた顔のパーツが、元に戻ろうとしているのだ

 

「…なんなのかしらねぇ。これ」

 

女がようやく口を開いた

目の前の光景に、笑いながら

 

「っは。虚数学区の鍵がどんなものかと思って来てみればこんなもんかよ! ったく、こんなんを後生大事に抱え込むなんて。…ホント狂ってるよな科学ってのは」

 

けらけらと笑う女の前で風斬の修復が始まった

べちゃりと湿った音を立て、数秒もしない内に風斬の修復は完了する

怯える彼女を見て、女は言う

 

「…なんだよその面構えは。お前、まさか自分が死ぬのが怖いってほざくようなやつかしら?」

「え…?」

「はっ。何当然ですって顔してンだよ。気づきなさいな、自分がクソ気持ち悪ぃ化け物だってことをよぉ」

 

化け、物

 

「お前が消えたくらいじゃ世界は何も変わらない。化け物が死んでお涙ちょうだいなんてありえないから。何、着せ替え人形の服ひん剥いて興奮するような性癖なんざないんだよ」

 

絶望に絶望を塗り重ねるように、女はさらに真実を突きつけてくる

 

「この際だからはっきり言ってやるよ化け物。逃げる以前に、どこに逃げんのよ? 居場所なんかないくせに」

 

パステルがふらりと揺れる

だけど風斬は動けない

身体の傷はもう治った、心に恐怖はない、今も逃げろと叫んでる

 

 

 

逃げる? いったいどこに?

 

 

 

そこで風斬はふと思い出した

 

初めて、学校に通った

同じように、食事を取るのも初めてだった

あれだけの男の人と話したのも初めてで

自動販売機を使うのも初めてだった

 

買い方は知っているのに、どうして飲んだことがないなんてわけの分からない異常にどうやって納得していたのだろうか

今日、何もかもが初めてだった

それこそ本当に初めてだらけで、目に映るものが全て新鮮に見えた

 

―――あぁ、なんで気づかなかったんだろうか

 

ただ私は、目を逸らしていただけじゃないか

思ったところでもう遅いのだ、この世界に、自分を受け入れてくる場所など存在しない

ふと、ポケットの中に、あの少女たちと撮った写真のシールに目がいった

それを取り出し、見た

 

映っている少女たちは、写真の中で笑っているインデックスとゴウラムは知らない

己の正体を知らない

それを知ったら、もう笑ってはくれない

瞼が、熱くなる

 

暖かい世界に、いたかった

もっと笑っていたかった

いいや、違う、結局の所誰かと笑って過ごせるのなら死にもの狂いで縋りたかった

 

「泣くなよ化け物」

 

女が嗤う

 

「お前が泣いても気味が悪いだけなんだよ」

 

ゴーレムの腕が迫りくる

絶望の中で彼女は思った

 

そうだ、確かに私は死にたくない

だけどいっそ化け物として扱われるくらいなら、死んだ方がマシなんだ

 

襲い来る衝撃に耐えるように、風斬は目をギュッと閉じた

 

 

だけど衝撃は来なかった

 

いつまで経っても何も衝撃は襲ってこなかった

不気味なはずのその沈黙は、何故だか優しく風斬の身体を包んでいるように感じた

ポン、と誰かの手が風斬の肩に置かれた

 

彼女は恐る恐る目を開ける

まず視界に広がったのは、ゴウラムの顔だった

 

「―――え?」

「…大丈夫だよ、カザキリ」

 

言って彼女は微笑んだ

彼女の後ろでは、少年がいた

一人の少年がゴーレムの拳を受け止めて、その近くにいる三人の人影が同時にその拳を蹴り返す

その蹴りは―――ゴーレムの拳を容易く砕いた

 

「―――待たせちまったみたいだな」

 

聞き覚えのある声がした

 

その声は、力強かった

 

「せっかくの美人が台無しだ。おばあちゃんがいっていたぞ、全ての女性は、等しく美しいってな」

 

その声は、暖かった

 

「キミと触れ合った時間は短いけれど、それでも友達であることは変わんないからね」

 

その声は、頼もしかった

 

「ほら、涙を拭きな。もう、安心していいからさ」

 

その声は、優しかった

 

風斬氷華は子供みたいに涙をぐしぐしと拭う

涙の膜が晴れ、その視線の先に彼らはいた

 

上条当麻が、鏡祢アラタが、紅葉ワタルが、天道総司がそこにいた

向けられたその笑顔は、自分自身に向けられたものだと気づくのに少し、時間がかかった

そして気づく

その笑顔は、友達に向けるような笑顔だという事に

 



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#37 守るのは彼女の居場所(げんそう)

フィフティーン楽しみな私
言われて気づいたけど頭の飾は十五って書いてあったのね

…だけどパッと見だと敵っぽいなぁ、思う私
まだ分かんないけどね!

今回もまた相変わらずですのであしからず

一~二回で終わりかなー、なんて前回ほざいてたけど多分おわんない

ではどうぞ


「―――呆けるな…! エリスっ!」

 

怒りを孕んだその絶叫

女はパステルを握ると抜刀術と見間違うほどの速度で壁に何かを書きなぐった

同時、彼女は何かを詠唱する

するとそのコンクリートの壁が崩れ、何かにこねられるような動きの後、砕かれた石像が再生する

女の顔には焦りはあったがまだ冷静だった

 

そんな歪な石像に立ち塞がるように、上条当麻たちは振り返る

その光景に風斬は驚き、女はまた嗤う

 

「は! 喜べ化け物。世の中にはこういう馬鹿がいるってことにさぁ!」

 

「―――生憎」

 

そんな女の言葉を斬り裂くように、鏡祢アラタは口を開く

 

「俺らだけじゃねぇんだぜ」

 

目の前の石像に動じた様子はなく、凛とした様子で言い放った

は? と女が変な声をあげそうになったその瞬間

 

カッ! と眩いばかりの光が女を襲う

 

思わず女は両手で自分の顔を覆う

風斬は十字路の真ん中に座り込んで、そして光は金髪の女がいる通路以外の三方向から向けられたものだ

眩い光に耐えながら、風斬は見渡した

 

そこにいたのは、警備員(アンチスキル)の人たちだ

持っている光の正体は銃に取り付けられたフラッシュライト

加えて、警備員(アンチスキル)の人たちは無傷ではなかった

それこそ、病院のベッドで寝ていなければおかしいのに

 

「…な、んで?」

 

不思議そうに、風斬は問いかける

 

「お前は、友達を助けるのに理由を求めるのか?」

 

その問いに、天道が答える

 

「…え?」

 

「俺の友人が言っていてな。友情は富にも勝る宝だ、てな。友達を助けるのに、見返りなど求めない」

「そうだよ。僕たちは警備員(アンチスキル)の人たちに、友達を助けてほしいって言っただけなんだから」

 

理解、出来なかった

 

「…とも、だち?」

「そうだよ。カザキリはもう友達なんだよ。…だから、そんな泣きそうな顔しないで」

 

ゴウラムは目尻にたまった風斬の瞳からそっと涙を指で拭った

晴れた視界は、温かい世界を捉える

あれだけ恐ろしく見えた世界はもう見えない

 

「行くぜ。天道、ワタルさん。当麻も準備はいいか」

「あぁ、いつでもいいぜアラタ」

「愚問だな」

「いいよ、行こう!」

 

風斬の隣を歩き、前に出るのは三人の少年と一人の青年

一人は拳を握り、一人は赤いカブトムシを掴み、一人はコウモリに己の手を噛みつかせ、一人は腰にその手を翳す

 

そして三人は叫んだ

 

『変身!』

 

ワタルは透明になったと思ったとたん弾け飛び、天道の身体はヒヒイロカネの鎧に包まれていき、アラタは赤い姿に身を包む

 

「風斬、今からお前に見せてやる。この世界には、まだ救いがあるってことを」

 

闇からはい出るために、立ち上がったのは少年たちだ

上条当麻は続ける

 

「そんでもって教えてやるよ。お前の居場所は―――そう簡単に崩れやしないってことをな!」

 

◇◇◇

 

「殺せ! 一人残らずっ! 肉片をかき集めて、お前を作ってやるわ!」

 

怒りに震えた声でシェリーはパステルで宙を切る

重ねた線が、ゴーレムを操っていく

 

「配置B! 民間人の保護を最優先とせよ!!」

 

一人の怒号を皮切りに銃口が一斉に火を噴いた

警備員(アンチスキル)らは盾を持つ前衛組とライフルを放つ後衛組の二人組で動いている

シールドはゴーレムエリスの攻撃から身を守るのでなく、その身体に当たって跳ね返る跳弾を防ぐためのものである

 

キバとクウガ、マスクドカブトは咄嗟に当麻や風斬の近くに移動し、キバは風斬の前に立ち、マスクドカブトとクウガは当麻の近くで身を屈めた

 

直後、別の警備員(アンチスキル)が透明な盾を構え、身を屈める三人の前に立った

 

瞬間、ガガガ! とその盾に跳弾した弾丸が当たり悲鳴を上げる

その音に、思わず驚き、身を震わせた

 

「乱反射しただけでこれか。侮れないな」

 

マスクドカブトの言葉にクウガは思わず同意しふと、風斬を見た

 

一度その身で味わっているせいか雷に怯える子供みたいに震えている

そんな彼女の頭を優しく撫でるゴウラムを見て改めて、クウガらは石像へと視界を移す

 

「ちっ! 四界を示す四天の象徴! 正しき力を正しき方向へ、配置し、導けっ!」

 

パステルによって歪な十字架が宙に書かれていく

するとエリスからぎぢ、と軋むような音が聞こえてきた

それはゴーレムエリスの悲鳴にも似た声だ

 

実際それは声ではなく、石像の間接から漏れる音

強引な命令ではあるが、それでもゴーレムエリスは応えた

不気味な音を立てながらではあるが、確実に動いてくる

 

「そ、んな―――」

 

風斬は思わず声を洩らす、が

 

間一髪盾を持った別の警備員(アンチスキル)が入れ替わる形でマスクドカブトとクウガが移動し、当麻と共に身を屈めた

 

「ここまでは、予想通りってとこか」

「あぁ、おおよそ、な」

 

クウガと当麻のやり取りに風斬は思わず耳を疑った

さらに今度は女の警備員(アンチスキル)

 

「けど、ホントにやる気なの? 怖気づいても誰も責めたりしないじゃん?」

「そ、そうですよ…。ですからやっぱり…」

 

「違いますよ黄泉川さん、やんなきゃいけないんです。それに、当麻の右手はああいう異能を打ち消す力があんです。サポートも俺らがやりますし大丈夫ですって」

「あぁ、だから俺たちを信じてくれよ」

「―――もう、ていうか見知った人間が仮面ライダーってだけで驚いてんのに…」

 

頭を掻きながら黄泉川と呼ばれた警備員(アンチスキル)ははぁ、と息を吐いた

 

「どのみちこのままならあの木偶人形が接近してくる。やるやらないなら、やるしかないとやはり思うが」

 

マスクドカブトの言葉に黄泉川は反応する

その眼に僅かながら力を込めて

 

「一回こっきりじゃん? ミスしても、うちらは君らを回収できない。その時は―――君らごと撃つことになるけど?」

 

その言葉に、風斬は愕然とする

そんな、あっていいはずがない

 

「待ってください…! な、何をしようと―――」

「あれを止めてくる」

 

間髪入れずに、当麻が答えた

耳にゴーレムエリスの足音が響き渡る

 

「ダメです! そんなの、危険すぎます!」

「大丈夫だよ、カザキリ」

 

声を張り上げる彼女に、ふと傍らのゴウラムが答える

 

「皆を信じてあげて」

 

ゴン、とさらに距離を詰められる

おおよその距離は、約二十メートル前後と言った所か

 

「指示を出すけど、構わないの?」

「あぁ、頼んだ」

 

何をするか

それはここに来る前に打ち合わせた

だから答えはそれでいい

自分たちは、当麻を全力で援護すればいいだけだ

 

「…かー! ホントカッコいいじゃん、少年に仮面ライダー! ったく。…センセは生徒に恵まれてんじゃんよ。いいよ、付き合う。その代り何があっても成功させるじゃんよ」

 

「あぁ、任せてくれ!」

 

その言葉に当麻が答える

そしてアラタ―――クウガへと視線をやってお互いに頷いてさらに決意を固めたようだった

 

「カウント! ―――スリー」

 

黄泉川は無線機に向かって何か命令を下した

 

怖くないはずはない

起動すらも読めない、あの弾丸の雨の中にこれから突っ込んでいくのだ

 

床に伏せている当麻が僅かに身体を起こす

 

「待って、やっぱりダメ! 死んじゃうに決まってます! そんなの―――そんなのいや―――」

「止めるな。風斬」

 

その言葉に応えたのは天道―――マスクドカブトだった

 

「お前がなんとなく当麻を避けていた理由…たぶんだが、その右手に原因があるのだろう」

「かもな。オレの右手は異能の力なら善悪問わず打ち消しちまうから。きっと、風斬の事も例外じゃない」

 

その言葉に、風斬はただ黙って、そして衝撃を受けたように息を詰まらせる

 

「―――ツー」

 

どうやらシェリーもこちらが何か仕掛けてくることに気が付いたのか、さらにパステルを中空に書き殴りまくる

その直後、ゴーレムエリスの足が力強くまた踏み出される

しかし、今この瞬間だけは、その女を視界に捉えてはいなかった

 

「―――ワン」

 

当麻とクウガは風斬の顔を見る

彼らはただ、笑みを浮かべて

 

「気にすんなって。俺たちが友達ってことにかわりはないからさ。俺たちは必ず帰ってくる。絶対だ」

「帰って、来る?」

「あぁ、今度はさ、俺の友達も誘っていいか? もっと楽しくなるからさ」

 

言って、笑う

仮面に覆われているハズなのに、その奥の顔はとても優しく見えた

 

そして黄泉川は告げる

風斬との繋がりを断ち切るように

 

「―――ゼロッ!」

 

 

 

刹那、ゴーレムエリスに向かって弾丸をばら撒いていた警備員(アンチスキル)が、〝撃つのをやめた〟

 

 

 

真っ先に疑問に思ったのはシェリー本人だ

弾幕は自分たちを守る、いわば鎧のようなもの

それを取り払えば、待っているのはゴーレムエリスの拳

自らその身体を死に晒すような真似をするはずがないと考えていたからだ

 

だが効果はあった

ゴーレムエリスのその鈍重な身体が前のめりにつんのめったのだ

強い北風に向かって全力で足を進めていたおかげで不意に風が止んだとき、自分が生んだ余力な力で、大きくバランスを崩したのだ

 

そしてそれを待ち構えていたと言わんばかりに、三人の人影がまず飛び出てくる

その人影は一気に走り、バランスを崩したその巨体に向かって三者三様に一撃を叩きこむ

 

クウガは赤の力を込めた拳撃でゴーレムエリスのバランスを崩すように放ち、キバはその身軽さを最大限に活用して、跳躍し頭を地面に叩きつけるように蹴撃、そしてマスクドカブトはクナイガンアックスでの斬撃

立て続けに攻撃を加えたが、それらは転倒させる為でもあったがもう一つ、あの女―――シェリーの気を一瞬であるが引くためだ

そして案の定、その三人に気を取られたシェリーは一直線に接近してくる一人の少年に気づくのが遅れる

その少年は―――上条当麻だ

 

「! しまっ―――」

「寝てろ! このヤロウっ!」

 

一切の加減なく放たれたその拳はシェリーをぶん殴る

その細い体は、まるで風にふわりと流れる紙みたいに地面を転がった

 

 

警備員(アンチスキル)の銃声が再開された

幸いにも妙にバランスを保ったゴーレムエリスを盾にしてひとまず安堵の息を吐く

我々は操っている根源をぶん殴ったが、警備員(アンチスキル)からはまだそのゴーレムは健在なのだ

 

「…ひとまずは一件落着…か」

 

変身を解除しつつ、アラタは一息をして何となく呟いてみる

 

「そのよう…だといいのだが」

 

その声に変身を解除しつつもどこか周囲を警戒している天道が答えた

 

「そうであることを願いたいね…、!? 当麻くん」

 

同じように周囲を見渡していたワタルが殴り飛ばしたシェリーを指差し身構えた

 

「―――ふっ、ふふ」

 

笑っている

倒れたまま、笑っているのだ

おまけにその手には、パステルが握られており、ビュン、と高速で何かを地面に書き殴った

 

「なっ! まさか、二体目…!?」

「いや、それは有り得ない。停止しているとはいえ、ここにある以上、二体目の生成は出来ないはずだ」

 

当麻の言葉に冷静に天道は答えていく

その言葉に反応するように

 

「えぇ、そうよ。そこのガキが言っているように、二体同時に作って操ることは出来ない。そんなことが出来るなら最初からやってるわ。無理やり二体目を作ろうものなら泥みてーに崩れちまうからな。…けどよぉ」

 

獰猛に彼女は言った

 

「それを利用すりゃ〝こんな事も出来んのさ〟」

 

その瞬間、シェリーが書いた字を中心としてその半径おおよそ二メートル前後、彼女が倒れている地面が崩れ落ちる

彼女はそのまま崩落に巻き込まれ、地面に呑まれるように闇の中へと消えていく

それと同時にこちらにあるゴーレムエリスが音を立て崩れていき、それに合わせて銃声もやむ

 

「…やられた」

 

頭を掻きながらアラタが呟いた

当麻もその穴に近寄り、その空洞を覗き込む

よく耳を澄ますとその穴からは何か空気の流れのようなものを感じた

 

「どうやら下には地下鉄が走っているみたいだな」

「…みたいだな」

 

アラタの言葉に同意しつつ、当麻は顎に手を乗せ考えた

あの女―――シェリー・クロムウェルは目標に対しての執着心が薄いと思うのだ

そこまで考えて―――ある言葉を思い出す

 

―――…おや、お前は確か…幻想殺し、か。おまけに古代の戦士まで一緒とは。うん? あのカザなんとかはいないのか。…いや、まぁいいんだよ誰だって。殺すのはあのガキでなくともさ―――

 

そう言えばアイツは最初からそこまで風斬に固執していなかったと思う

 

―――戦争を起こしたいんだよ。それの火種が欲しいの。だから…出来る限りの大勢の人間に私がイギリス清教の手下だと認識させなきゃな―――

 

アイツは恐らく目的があってここに来た

風斬氷華は恐らくその手段の一つでしかないのだろう

その風斬の代わりを誰が代用できるだろうか

 

そこまで考えて、当麻はハッとする

 

そうだ、一人、いた

当麻とアラタ、風斬はここにいる

唯一ここにいない、あのシスター

 

―――インデックスだ

 

 

地下の中をズゥン、と重い足音が響く

それはコンクリートや線路で作り上げた二体目のゴーレムエリスだ

シェリーはゴーレムエリスの腕に抱かれつつパステルでゴーレムを操っている

二体目を生成する前に目を放ち目標の居場所は掴んである

生成の都合上、邪魔となるので全ての目玉は潰したが

 

ぶん殴られた頬が痛む

本来彼女は長いスカートに隠しつつ、地面から数センチ足を浮かせ震動から逃れていたが、殴られた衝撃を受け流したのを最後にその術式は完全に崩壊してしまっていた

 

「…忌々しい」

 

周囲を見渡しながら彼女はそう口にする

あぁ、全部忌々しい

この視界に映る科学の何もかもが

 

シェリー・クロムウェルはこの都市が嫌いだった

比喩でなく、本心からこの都市全てを嫌っていた

 

「…エリス」

 

シェリーは呟く

 

本来エリスという名前はこのゴーレムにつけられた名前じゃなかった

 

それはもう二十年も前に亡くなった、超能力者の名前―――

 

 

薄暗い地下とは異なって地上は目がくらむほどの炎天下

 

その街中で二人はポツンと立っていた

恐らく今も黒子は閉じ込められた学生を運んでいることだろう

二人の間には会話はない

しかしそれは熱さを身体に受けているダルさからであり別に話をしていないわけじゃない

 

「あついね」

「そうねぇ…」

 

インデックスに同意する形で頷いた

その後で、聞くに聞けなかったことについて美琴は聞いてみることにする

 

「…ていうかすごい服ね? この暑さの中で長袖ってかなりしんどいと思うけど…。あ、ひょっとして日焼けに弱い肌…とか?」

「うーん。別に気にしたことはないかも。今となってはこの服も風通しがよくなったし」

「? …うわ、よく見たらこれ布地を安全ピンで留めてるだけじゃない。なんでこんなことになっちゃてるのよ」

「う。…それはちょっと、深く追求しないでくれると嬉しいかも」

 

そう言うとインデックスはちょっぴり苦い顔をする

美琴としては気にはなったが本人がそう言うので追及するのをそこでやめ、また別の話題を美琴は探した

 

「それにしても、遅いわね。アラタたち」

「うん。…どうしよう、アイツはなんだかひょうかを狙ってたみたいだし…本当、何にもないといいけど…」

 

彼女から聞こえた聞き慣れない単語に美琴は首をかしげた

思えばここに来た時も黒子に感謝の言葉を述べてはいたが、だいぶソワソワしていた気がする

 

「ところで、ひょうか…ていうのは一緒にいた女の子?」

「そうだよ。あ、でも今回はとうまが引っ張ってきたんじゃなく、先に私たちが会ったんだから」

「今回はって。…え? たちって」

「私のほかに…えっと、そう言えば名前聞いてなかったかも。とにかく私たちなのっ」

 

そう言って僅かに頬を膨らませる

その仕草は、どうしてかハムスターみたいなげっ歯類を連想してしまった

 

「そう言えば、貴女はその…上条さん、だっけ。その人の心配してないの?」

「とうまの事? とうまなら心配ないよ。とうまは何があっても必ず帰ってきてくれるもん」

 

帰ってきてくれる

その言葉に少しだけ彼女に嫉妬した

誰の下に帰ってくる、などわかりきっている

 

彼らにとっては、それが共通の認識になっているのだ

 

「みことだって」

「え?」

「みことだってそうでしょ? あらたの事」

 

そう言われ、僅かながら頬が紅潮するのを感じた

もちろん、心配していないと聞かれたら嘘になる

そして同時に、心のどこかで帰ってきてくれるとなんとなく信じていることも

ただそれをはっきり言葉に出来ないだけで

 

「…アンタがうらやましいわ」

「ふぇ?」

 

唐突にぽむ、と頭に手を置かれインデックスは疑問符を浮かべた

 

彼女のような純真さがあれば、もっと素直に自分も日頃の感謝を伝えられたろうに

と、その時だった

 

みぎゃあ、なんて声をあげながら三毛猫がインデックスの腕から抜け出したのだ

 

「あ!?」

 

思わずインデックスが叫ぶがもう遅い

すでに地面へと着地した三毛猫(スフィンクス)は猛烈な勢いで走り去ってしまう

思わず猫を追いかけようとして―――その足が止まる

彼女はおろおろと美琴と猫の走り去った方向を交互に見た

そんなインデックスに美琴は小さく微笑みを作りながら

 

「いいよ。ここには私が残ってるからさっさと猫つかまえてきなさい」

「あ、ありがとう、みこと。…こらー! スフィンクスーっ!」

 

インデックスは頭を下げて礼を言うと逃げ込んだ猫を追いかけるべく走り出した

スフィンクスて、と思わずそのネーミングに苦笑いしていたがふと、足元のマンホールのふたがカタカタと揺れていることに気が付いた

 

「…?」

 

疑問に思った直後、今度は自動販売機の取り出し口が小刻みに揺れ始める

木々の葉が、風もないのに揺れる

 

「…地震…じゃあないわよね?」

 

その様はどこかで怪獣だか巨人だかが歩いているような、そんな妙な震動だ

もしかしたらあの猫は、本能で逃げたのかもしれない

 

「…いや、けどまっさか―――」

 

そう考えて、黒子を襲ったあの妙ちくりんな手を思い出す

ふと、インデックスが走り去った方向を見る

すでにその姿はコンビニの裏手に消えており、彼女の様子から察すると猫と追いかけっこになっているかもしれない

 

けど、何かあってからでは遅いのだ

 

「それに―――任されたしね」

 

良し、と軽く拳を握るとインデックスが走り去った方向に向かって彼女も走り出した

大丈夫だよね…、と己に言い聞かせながら

 



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#38 それぞれの戦場

長くなりそうなので今回はここまで

まぁ相変わらずですけどね

誤字脱字見かけましたらご報告をば

あとお気に入り300件超えててすごいびっくりした
心からの感謝を

ではどうぞ


ペタンと、地面に座り込んでいる風斬氷華はふと自分の近くで誰かが言い争っていることに気が付いた

いや、言い争っているのは実質、当麻一人だけだ

彼だけが女性の警備員(アンチスキル)―――黄泉川愛穂に掴みかからん勢いで口を荒げている

 

「なぁ! もうさっきの奴はいないんだろう!? なんでシャッターが開かないんだよ!」

「何度も言うけど、地下の管轄とうちらの管轄じゃ異なってるんじゃん。こっちからも連絡してるけど、封鎖を解くのにはもうすこしかかるじゃんよ」

「―――くそっ」

 

そう当麻は毒づいた

同じように苦い顔をしてアラタも頭を掻いている

それに釣られて、天道も、ワタルも何かを考えるような仕草を取っているのが視界に入ってきた

冷静になってみるとその四人を彼女は疑問に思った

 

黄泉川の無線に連絡が入る

彼女は少年たちの元を離れると何か専門用語のような言葉を言いながらまた口論を交わしている

黄泉川が離れると同じく、ゴウラムの支えを受けながら風斬はふらふらとその四人の元へ歩いて行った

 

「あ、あの。先ほどは、ありがとうございました」

「うん? あぁ、別に気にすることじゃないよ」

 

風斬の言葉にアラタが笑顔と共に答えてくれる

アラタの言葉に続くように当麻も

 

「それより、お前身体大丈夫なのか?」

「え、えぇ。平気…だと思います。そ、そんな事より、何かあったんですか?」

 

その言葉に、一瞬重い空気があたりを包んだ

当麻は相談するように天道へと視線をやった後、天道はゆっくり頷いた

それに頷き返したのち、やがて言葉を選ぶように当麻が言葉を紡ぐ

 

「あの女…シェリー・クロムウェルは逃げたんじゃない。目標をインデックスに変えただけなんだ」

「―――えっ?」

「どうやら特定条件下に合えば誰でもいいらしくてさ。そのうちの一人がインデックスという事なんだ」

 

当麻、そしてアラタの言葉に風斬は息を呑む

そうだ、守られている私たちはまだいいが、外のインデックスはほぼ無防備に近いじゃないか

 

「…美琴もいるにはいるが、不安な事に代わりはないな」

「そ、それなら外の―――警備員(アンチスキル)の人たちに保護してもらうとか―――」

「それは出来ない相談だ」

 

最もな意見に、天道総司が反論する

 

「な、なんで!?」

「話を聞くにインデックスという子はこの街の住人ではないらしい。…はっきり言えば部外者も同然だ。運が悪ければ保護どころか逮捕だな」

「そ、そんな…」

 

風斬氷華とインデックス

この二人とでは少しばかり事情が違うのだ

風斬氷華もこの街のID登録をしてはいないが、それだけだ

確かに彼女の正体は普通じゃない、がそれだけで危険と判断はされない

しかしインデックスは違う

彼女は、学園都市とは違う、魔術という組織に属している

そして、属していると言うだけで危険と判断されてしまうかもしれないのだ

 

「…やっぱりこの穴から行くしかないか」

「状況を考えるとね。後手に回るのはちょっと癪だけど」

 

当麻の言葉にワタルが答える

その穴とはついさっきシェリーが逃走する際に空けた穴だ

 

その穴を風斬は覗き込んだ明かりはなく、真っ暗だ

底は見えず、何メートルあるかもわからない

その中に、彼らは飛び込むというのだろうか

学園都市の敵、という少女をかくまって、かつそれに手を貸しているという時点でおそらく彼らの心は揺るがない

 

少し、考えて風斬は口を発した

 

「大丈夫です」

 

その言葉に、四人の男性は訝しんだ

 

「…カザキリ?」

 

ポン、とゴウラムの肩を叩いて風斬は一つ前に出る

そして言った

 

「化け物の相手は、化け物がすればいいだけの話です」

 

空気が、凍る

 

「勝てるかは分かんないけど、せめて囮くらいは果たして見せます。…それぐらいしか、出来ないから」

 

「―――俺たちがそんな事されて嬉しい人種に見えるのか。インデックスが、美琴が。そんな胸糞悪いことされて笑うような人種だと思ってるのか」

「それに俺たちが誰のために、何のためにここに来たと思ってんだ! お前は、化け物なんかじゃねぇんだよ!」

 

当麻とアラタの言葉は偽らざる本心だろう

しかし、恐らく彼らは気づいていない

彼らが挑んだものも、〝化け物〟という事実に

 

「良いんです。私は化け物で」

 

彼女は笑う

友達に見せるようなその笑顔で

 

「だから―――私の力で、大事な人を守ります。私は化け物で―――幸せでした」

 

そのままの笑顔で彼女はシェリーの空けた穴に身を投げた

一瞬遅く、ゴウラムが彼女の手を掴もうと手を伸ばしたが、届かなかった

そして、ゴウラムは見た

 

自分に向けて微笑んでくれる、風斬氷華の笑顔

大丈夫だよ、と言っているような、そんな彼女の笑顔(かお)

 

 

「あぁ、もう。どこ行ったのよ…」

 

急いでインデックスを追っては来たものの、思いのほか彼女のスピードが速くついに見失ってしまった

それでも少し前はそんな彼女の後姿を捉えることは出来たのだが

美琴は一つ息を吐きながら辺りを見回した

 

どうやら考えなしに彼女を追っかけていたらなんだかよくわからない廃墟のような場所に来てしまったようだ

周囲のビルのガラスは割れ、或いは外されて、内装もむき出しのコンクリが見えるなど、まさに廃墟だ

 

「だけどこの辺かなー…とは思うんだけどな」

 

呟きつつ、もう一度美琴はこの廃墟街を見回した

そしてちらりと、とことこと全力で走るあのシスターを見つける

 

「あ、いた…!」

 

口にしながら今度こそ逃がすまいと美琴は後を追いかけはじめた

 

 

「はぁ…やっと捕まえたんだよ」

 

三毛猫が逃げてインデックスが追っかける

そんな不毛な鬼ごっこも終わり、ふぅとインデックスは息を吐いた

自分がいた場所は一言で言えば廃墟だった

その光景にほぇぇ…なんて言葉をあげた隙にスフィンクスが足をパタつかせる

 

「こらスフィンクス。あんまりわがまま言ってると、流石の私も怒るんだよ?」

 

そう言ってインデックスはお仕置きと題してスフィンクスの耳に息を吹きかけようとして―――

自分に向かってくる足音を聞いた

ふとその音の方に視線を向けると、御坂美琴がこちらに向かって走ってきていたのが見えた

彼女はインデックスの前に立ち止まると大きく息を吸い込んで調子を整えた

 

「ようやく追いついたぁ…」

「みこと。あのまま待っててもよかったのに」

 

インデックスがそう言うと調子が戻ったのか

 

「そうもいかないの。一応アラタから貴女の護衛…でいいのかな。とにかくそれっぽいの任されてんだから」

「え? けどくろこって言う人は…」

「いざとなったら連絡するから大丈夫よ。…猫は捕まえたの?」

「うん。スフィンクスってば逃げすぎなんだよ、ホントに」

 

そう言って彼女は手の中のスフィンクスと呼ばれる三毛猫を美琴に向かって見せる

スフィンクスは小さくみゃあ、とだけ一回鳴いた

 

「よかった。それじゃ戻りましょ」

「うん」

 

頷いてさぁ、戻ろうとしたとき

 

ぴくん、とスフィンクスが顔をあげる

そして今度はインデックスの腕から逃れようと大きく抵抗を始めた

その今までないほど強く暴れたインデックスは慌て、美琴も少しおろおろしている

インデックスがスフィンクスを落ちつけようとあれこれ試している間、ふと頭に何かかかっているのを感じた

美琴が手を伸ばし、確かめてみる

 

それはコンクリートの粉だった

 

同じようにインデックスも気づいたのかお互い顔を見合して空を見上げた

どうやらこの粉は廃ビルの壁から降っているようだ

 

そしてカタカタ、という音に釣られ今度は地面も見てみる

マンホールの蓋が、震えていた

 

「…足元が揺れてる?」

「地震かしらね?」

 

怪訝な顔をしたのも束の間―――インデックスは思い出す

 

敵の魔術師は、地下に、つまり足元に潜んでいるという事実に

 

彼女たちが踏んでいる地面が、一瞬蛇のようにうごめいた気がした

 

「っ!」

 

本能が理解したのか、美琴はスフィンクスごとインデックスを抱えて大きく後ろに飛んだ

 

瞬間、先ほどまで経っていた地面が爆発する

その爆心地からはい出るように、巨大な石像が姿を現す

術者である魔術師の姿はない、ならばおそらくこれは遠隔操作か

 

地面に立たせたインデックスの眼が無意識に細くなる

 

「―――基礎理論はカバラ、主な用途は防衛と敵の排除、本質は無形と不安定…」

 

ぶつぶつ、と呟く言葉を美琴はあまり理解できていない

しかし、何かをやろうとしているのはなんとなく理解できた

 

それを察してか、美琴は彼女の隣で防御態勢を取る

下手に能力を行使しては彼女を巻き込んでしまう恐れもあるかもしれないと踏んだからだ

 

その時、石像の拳が美琴ごと潰さんとインデックスに襲い掛かる

 

「―――右方へ歪曲せよっ」

 

彼女は一言告げる

それだけでストレートを放った石像の拳は急に左にそれる

その光景に驚きながらも余波から吹き飛んできた破片から微弱な電磁波を繰り出し、美琴はインデックスを守る

 

インデックスが行っているのは、強制詠唱(スペルインターセプト)と呼ばれるものだ

 

〝ノタリコン〟という暗号を用いて術式を操る敵の頭に割り込みを掛け、

暴走や発動のキャンセルなどの誤作動を起こさせるという〝魔力を必要としない魔術〟

順番に数を数えている人のそばで出鱈目な数を言って混乱させるように

 

インデックスに魔術は確かに使えない

しかし、逆に暴走させることなら可能なのだ

石像を操る術者は確かにここにいない

しかしこれが遠隔操作なら、この石像を介してあの術者はこちらの状況を見ているという事でもある

ならこっちにもつけ入るすきはあるはずだ

 

「右方へ変更、両足を交差、首と腰を逆方向に回転っ!」

 

インデックスが叫び、美琴がその石像の攻撃の空振りから来る小さい破片からインデックスを守る

 

「…捌くだけじゃ足らない」

 

インデックスは修道服のスカート部分を繋いである安全ピンを一気に引き抜き、美琴にいった

 

「みこと、これをアイツの足元付近に、私が合図したときに撃って!」

「任せなさい、その程度なら―――」

 

インデックスから安全ピンを受け取ると超電磁砲の要領で構え、インデックスの指示を待つ

 

(自己修復を逆演算、周期はおおよそ三秒ごと―――逆手に取るなら―――)

「今!」

「おっけぇいっ!」

 

彼女の指示を聞き、美琴はその石像の足に安全ピンを撃ち放った

それはゴーレムの足に当たり、ゆっくりと磁石に呑まれるように吸い込まれていく

 

刹那、まるで楔でも打たれたかのようにゴーレムの右足の動きが阻害される

 

これも先ほどの強制詠唱(スペルインターセプト)と原理は同じだ

このゴーレムは周囲のものを利用して自動で身体を創り出したり、または修復する機能を有している

反対に構成に不必要な―――言ってしまえば身体の生成を邪魔するようなものを投げ込めばそれを逆手にだってとれるのだ

 

「…いけるかも」

「えぇ、正直何が起きてるか分かんないけど、全力でサポートするわ」

「そうしてくれると嬉しいかも―――」

 

互いに頷いたその瞬間

 

ドォン、とゴーレムが地面をその場で踏みつけた

 

「きゃ!?」

「っと!?」

 

転びそうになるインデックスを美琴が受け止める

態勢を崩す二人にゴーレムは右足を引きずりながら接近してくる

 

「っ、右方―――」

 

言葉にしようとし、それより先にゴーレムが地を叩きつけた

ドォン、という衝撃波がインデックスの耳を叩き、美琴の耳を襲う

そして同時に、ゆっくりとゴーレムは頭を揺さぶった

 

(まずい、かも!? 自動制御に―――!?)

 

強制詠唱(スペルインターセプト)は術者を対象としたものだ

インデックスの言葉が騙すのはあくまで人間であって、心無い無機物を騙すことなどできない

 

ゴーレムが拳を振りかざす

その光景に思わず美琴はインデックスを抱きしめ己の身を盾にした―――

 

 

一行はようやく地下鉄の構内に辿り着いた

最後の笑顔を至近距離で見たゴウラムは追いかけるようにその身を同じように大穴に投げ出してしまうし

そしてそれを止められなかった自分自身にも罪悪感を覚える

 

「体の調子は大丈夫か、当麻」

「あぁ、悪いな天道」

 

先ほどまで上条当麻を抱えていたマスクドカブトは変身を解き、問題ないと言わんばかりに軽く笑みを見せる

本来なら何かロープの代わりになるもの探してそれをつたって降りようとしていたのだがそれでは時間がもったいないとのことで、変身し、一人は当麻を担ぎ、そのまま自分たちも飛び降りたのだ

 

その辺のアトラクションよりも当麻は恐怖を感じたのは内緒だ

調子を整えてよし、と当麻は拳を叩く

 

彼女の幻想は、こんな結末で終わらせてはならない

コンクリートの地面を睨むと点々とゴーレムの足跡があった

しかしすでに先をいったのか足音はない

一行が地面に気を取られていると、ふとまた別の足音が耳に入ってくる

 

「っ!?」

 

一足先にマスクドカブトは気づいた

それは上空から奇襲をかけるように跳躍していた

―――仮面ライダーだ

 

気配を消していたのか、その姿を顕現させた黄色いライダー、ラトラーターはトラクローを振りかざす

その一撃を前にでて、マスクドの鎧で受け止め、後ろへ投げつけて距離を取る

 

「こいつは…!」

「恐らく、あの女の―――」

 

そう言ってふとクウガは自分の前を見る

そこにもう一人、かつてステイルが召喚してきた信号機のようなライダー―――タトバコンボがこちらにゆっくりと歩いてきていた

 

「…どうあがいても通さないつもりかよ」

「だけど、やるしかない―――」

 

そう言いながらクウガは構えようとして、キバに肩を叩かれ止められる

疑問符を浮かべたクウガはキバに視線を向ける

 

「…ワタルさん?」

「行って、アラタ、当麻くん。ここは僕たちが食い止める」

「えっ!? で、でも―――」

「こうやっている時間が惜しい、急げアラタ、当麻」

 

一瞬、クウガは逡巡する

だが、天道もワタルも、この程度でどうにかなる人ではない

そう信じて、改めてクウガは前を向く

 

「―――行こう、当麻」

「あぁ!」

 

そう当麻に告げて一気に全速力でタトバの横を通り過ぎる

彼らの背中を見届けて、キバはタトバに向かい、マスクドカブトはラトラーターに向かってそれぞれ構えた

 

「片方、任せていい?」

「無論。はなからそのつもりだ」

 

 

不意に、一本の柱が揺れと共に倒れてきた

自分たちに向かってくる柱に当麻と自分の身を守るため思わず裏拳を叩きこんで壊してしまったが、こんな非常時だ、きっと大人も許してくれるはず

 

「流石に…そう簡単には潰れないか」

 

闇の向こうに聞こえてくるその向こうに視線を凝らす

そこにはシェリーが立っていた

汚れたドレスを引きずるように

 

「ふふっ、エリスなら先に行かせたわ。今頃もう標的に辿り着いてくる頃よ。もしくは、もうゴマみてぇにすり減らしたかもな」

「て、めぇ…!」

 

当麻が拳を握る

どうやら、遠隔操作する術があったようだ

 

「―――当麻、お前は先に行け」

「なっ、けど」

「早く!」

 

クウガの声に当麻は思わず身を震わせる

しかし、あの女もおいそれと通してくれないだろう

だが、こちらにだって意地がある

 

当麻が走り出すその瞬間、クウガも彼の後ろを追従するように追いかける

その瞬間に狙ってか、闇にまぎれていたもう一人の人影が姿を現す

 

ケタロスだ

事前に彼女がメモリから顕現させていたものを、背後に忍ばせていたものが―――当麻を止めるべくクナイガンを振り上げる

だが予期していなかった訳ではない

すかさず当麻の背後から飛び出し、そのクナイガンの刃を受け止める

白刃取りの要領だが、多分こればかりは偶然だ

 

さらに当麻が走る

そしてそれを止めようとパステルを振るわんとする彼女に向かってクウガはケタロスを蹴り飛ばした

 

「がっ!?」

 

真っ直ぐ飛んだケタロスが当たり、シェリーを少し後ろへ仰け反らす

それが決定的な隙となり、当麻の後姿は完全に見えなくなった

 

「―――ち、まぁいい。テメェの方がまだアイツよりは楽そうだ」

「見くびっても貰っちゃ困るぜ、俺だってそれなりに場数はふんでる」

 

立ちあがるケタロスを前に、シェリーは一つ息を吐き、クウガもそれに合わせて身構える

それぞれの戦場で、それぞれの戦いが、始まる―――



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#39 終止符

今回の映画は昭和か平成、どちらかに投票してエンディングを決めるらしいですね
…しかしDVDを待つ自分としては微妙なところ

皆さんはどちらに勝ってほしいですか?

そんな訳で、相変わらずですがお付き合いください
ではどうぞ

今回で多分風斬編はおしまい
次はもう一つの外伝、アキバズトリップ編に行くので更新ペースは遅れるかもしれません
話は変わるけど本当に面白いゲームですから、興味が湧きましたらぜひ、お近くのゲームショップへ


じり、とマスクドカブトはすり足をしつつラトラーターと距離を取る

パッと見た感じでは恐らく、スピードタイプ

俊敏な速度で相手を翻弄し、両手の爪で一閃する…というのがおおよその戦い方だろう

そう考えた時、ラトラーターが動いた

 

ヒュン、と凄まじき速さで接近してきたと思ったらその鋭利な両爪で先制攻撃を仕掛けてくる

すかさず両腕で防御を試みるがやはり素早さでは相手が勝っているようでその一撃を貰ってしまう

その隙を逃さんと地上に着地した刹那、腹部に向かって蹴りを撃ちこんできた

今度は防御する暇もなく大きく後ろへ仰け反らされ蹴られた箇所を抑えながらマスクドカブトはクナイガンをラトラーターに向けて引き金を引く

しかし放たれた弾丸は当たることなく空を過ぎる

そして再びラトラーターは接近し、先ほどと同じようにクローを振りかぶった

だがそう何度も喰らう訳には行かないと思ったマスクドカブトはクナイガンをアックスモードへ切り替えてそのクローの攻撃を受け止める

それでもやはり両手と片手のアドバンテージはやはり両手に軍配が上がるらしく、しばらくは切り結べたが次第に押されそのままクローに吹き飛ばされてしまった

 

地面をゴロゴロと転がりながら体制を立て直したマスクドカブトは地面に膝を付けたままゆっくりと立ち上がり

 

(…やはり、このままでは分が悪いか)

 

素早さに圧倒的に劣っているマスクドフォームのままではとてもじゃないがあの速度の対応できない

そう判断したマスクドカブトはすっ、と手をカブトゼクターに手をやり、ゼクターホーンを起こす

 

するとマスクドアーマーが浮き上がり、パージの準備が整っていく

そのままマスクドカブトはゼクターホーンを右側に倒した

 

「―――キャストオフ」

 

その言葉と共に

 

<Cast off>

 

直後、変化が起きた

浮き上がっていたマスクドアーマーが弾け飛んだのだ

思わずラトラーターは身構える

事実、いくつかの吹き飛んだアーマーがこちらに飛んできた

幸い、そんなに被害はなかったが

 

そしてラトラーターの視界の前に、先ほどとは違う姿のライダーが立っていた

 

<Change Beetle>

 

顎を基点に、角のような装飾が張り付き、水色の複眼が発光する

そこにいたのは少し前の銃鈍そうなライダーでなく、赤い輝きを放つスマートなライダーだ

 

「―――行くぞ」

 

カブトはそう言いクナイガンを逆手に持ち、一気に接近する

負けじとラトラーターも両手にトラクローを再度展開させて迎え撃つように走り出した

ガキン、と火花を散らしクナイとクローがぶつかり合う

だが先ほどの遅かった動きとは段違いで、両手と片手というハンデも容易に乗り越えている

いつしか押されているのはラトラーターとなっていた

ブンッ! と振るわれたクナイガンの一撃に両手は大きく弾かれて防御を崩される

そして先のお返しと言わんばかりにカブトはクナイガンで数度斬りつけ、回し蹴りで吹き飛ばした

 

今度は逆に地面を転がったラトラーターはすかさず、態勢を立て直し、再びカブトへ向かって跳躍をした

その様を見ながらカブトは再びゼクターへと手をやり、上部のスイッチを押していき、ホーンを左側へと戻した

 

<one two three>

「―――ライダーキック」

 

そしてもう一度ホーンを右側へ

 

<Rider kick>

 

エネルギーが右足に蓄積されていく感覚を感じながらカブトは待つ

ラトラーターが己の攻撃範囲に来るのを

そして数秒の後、ラトラーターが範囲内に飛び込んできた

相手は空中にいる、故に、逃げられない

 

「―――ハァッ!!」

 

その掛け声と共に繰り出される上段回し蹴り

足の残像は綺麗な弧を描き、宙にいるラトラーターに直撃する

ライダーキックを喰らい吹き飛ばされたラトラーターはそのまま壁に激突し、その姿を消した

チャリン、と何かが落ちたような音がしたが、カブトはそれに気づかなかった

 

「…ふぅ」

 

一息をついてカブトは変身を解除し、一つ深呼吸した

 

「…あいつらは間に合っただろうか」

 

 

ガガガッ! と地上でタトバと肉弾戦をしているのはキバだ

キバが今なっているフォームは基本体―――というか力を抑え込んでいるキバフォームだ

力を解放すれば人形に近いこの敵を簡単に倒せそうではあるが、今回その必要はなさそうだ

 

キバはそんな事を考えつつ、タトバの胸部に連続でパンチを繰り出す

その拳撃を受けたタトバは大きく仰け反って、また態勢を整えた

そしてどこからか、タトバは剣のような獲物―――メダジャリバーを取り出し、それをキバに向かって突きつけた

 

唐突に構えた武器に、キバは警戒する

相手はそれなりのリーチを持った剣に対し、こちらは素手だ

バッシャーを呼ぶ、というのも手だがフエッスルを使用する隙をつかれる可能性も否定はできない

…こんな事ならバッシャーを置いて警備員(アンチスキル)の手伝いをさせるのではなかった

タイミングが悪い

 

構えながら、相手の出方を伺う

痺れを切らしたのか先に動いてきたのはタトバだ

それを迎え撃つようにキバも駆ける

袈裟に振るわれた斬撃を躱し、足を払うように蹴りを放つ

しかしその蹴りは軽く跳躍されることで躱され、逆に斬撃を貰ってしまう

 

「ぐわっ!」

 

その一撃で立場は反転した

先ほどは与える側だったキバがダメージを追い、逆に先ほどまで劣勢だったタトバが傷を与える側となる

ブン、と振るわれたジャリバーはキバを捉え、火花を散らす

一撃を貰うたびに、大きくキバは仰け反り態勢を崩す

その隙を逃さんと、タトバは真っ直ぐ、ジャリバーを突き出し、キバを貫いた―――かに見えた

 

よく見てみる

メダジャリバーの剣先―――確かに刃はベルトを捉えている

捉えているのだが―――

 

「―――残念れひは(でした)っ!」

 

なんと、ベルトの止まり木にとまっているキバットがその剣先を口で受け止めていたのだ

一瞬ではあるが動きが止まる

その隙を、キバは逃さなかった

 

「ハッ!」

 

その隙をついて剣を手刀で叩き落としがら空きになった胸部に再び拳の連打を叩きこむ

ガクンと態勢を崩しながらも反撃を試みるタトバに、キバはサマーソルトを打ちこみ、壊れて突き出ていたパイプに足を引っ掛けぶら下がる

それこそ、さながらコウモリのように

逆さ吊りの状態で変わらぬ威力の連打を再度叩きこみ、ぶら下がるのをやめて地面に着地をしたと同時にしゃがんだままの体制でタトバを蹴り飛ばした

 

ゴロゴロと地面を転がるタトバに向かい、悠然と歩きながら、キバは一つのフエッスルを取り出した

そしてそのフエッスルをちゃきり、と水平に持ちそれをキバットの口へと持っていく

 

「よし行くぜ…! ウェイクッ! アーップッ!!」

 

止まり木からキバットが離れ、キバの周囲を飛び交う

そしてキバは一歩、その場から足を踏み出し、両腕を交差させる

 

変化が訪れた

 

自分たちを包み込むように、静寂と共に夜が訪れる

暗雲が立ち込め、雲から満月が顔を出す

三日月を背に、キバは大きく右足を振り上げる

直後その右足付近をキバットが飛び交い、封印のカテナを解放する

バギン、と音を立て、ヘルズゲートを解き放つ

 

そのままの姿勢でキバは大きく飛び上がる

空中にいるにも拘らず、とんぼ返りの要領で態勢を整えて―――そのまま右足を突き出した

 

「ハァァァァァッ!!」

 

月夜をバックに繰り出した―――ダークネスムーンブレイクは真っ直ぐ、タトバに直撃し、地面のキバの紋章が地面に刻まれ―――そして大きく爆発した

 

その爆発の中から歩いて出てくるのはキバだ

同時に夜が終わり、周囲はまた地下鉄の風景へと切り替わる

 

そして、アラタたちが走った方向を見た―――

 

◇◇◇

 

「…お前は、何を考えてんだ」

「―――うん?」

 

首をかしげる目の前のゴスロリを着込んだ、シェリーに向かってクウガはそんな事を聞いた

目の前の女はどうやら戦争を欲してるようだ

しかし―――

 

「裏の事情なんて俺はわかんないけど、それでも今はまだ魔術も科学もバランスは取れてるはずだろう、なのになんで」

「―――超能力者が魔術を使うと、身体が破壊される、なんて話を聞いたことはないかしら」

「…は?」

 

質問と違う答えが返ってきて、クウガは首をかしげる

 

「そもそもさ、おかしいと思わない? 〝なんでそんなこと〟が分かってるのか」

 

言葉が僅かに、少しづつ思考を巡らしていく

 

「試したのよ。だいたい二十年くらい前に、イギリス清教と学園都市が手を繋ごうって動きがあってな。それぞれの技術や知識を持ち寄って一つの施設に訪れた。そして能力と魔術を組み合わせた新たな術者を生み出そうとした。…あとは、分かるだろ?」

 

クウガはそれに頷いた

そして恐る恐る、クウガは問う

 

「…その施設はどうなった」

「潰れたというかなんというか。科学側に接触してたそいつらは同じイギリスの連中に狩られたわ。互いの知識が流れるのは、それだけで攻められる口実になりかねねぇからな」

 

クウガは口をつぐむ

互いの手を結ぼうとしたのも、そしてそれを止めようとしたのも、傷つけようと思ったものじゃなかった

 

「エリスは、私の友達だった」

「…エリス? あのゴーレムの事か」

 

…そうなると、この女はどんな思いであのゴーレムの事を呼んでいたのだろうか

そう考えたところで、目の前のシェリー以外にその感情は理解できるはずもない

 

「私が教えた術式のせいで彼は血まみれになった。施設を潰すべくやってきた連中から私を逃そうとして、エリスは死んだの」

 

彼女は落ち着いた口調で告げていく

 

「だから、私たちは住み分けるべきなのよ。いがみ合ってばかりで、そして分かり合おうとしてもそれが牙になり、返ってくる。科学は化学、魔術は魔術と、それぞれ領分を定めとかないと何度だって繰り返されちまうからな」

「そのための戦争ってか。…だけど互いを守るために戦ってどうする。お前の目的果たすためなら戦争が起きそうになったら、で済むじゃねぇか」

「買い被んなクソガキ。何憐みの目で人を見てやがんだ」

 

本当に、メンドクサイ奴だ

魔術と科学は住み分けるべき―――彼女の言葉には確かに一理あるのかも知れない

しかし、それでもクウガには―――アラタには彼女の意見には賛成できない

 

戦争が起きる、という事はそれだけ誰かが傷つくかもしれないからだ

そして、たくさんの笑顔が失われてしまうだろう

アラタには彼女の事情なんて分からない

しかしそれでも、戦争なんて馬鹿げたことをさせるわけにはいかないのだ

 

「―――行け!」

 

彼女の咆哮と共に、ケタロスが駆けた

天道が変身するカブトと同じようなクナイガンをクナイモードに切り替え、それをカブトと同じように逆手に持つ

 

クウガもケタロスを見据えて構え、相手に向かって駆けだす

一定の距離を走り、交差したのは互いの足

繰り出されたケタロスの蹴りを、クウガの蹴りが迎え撃つ

その後でお互い一歩引き下がるが、すぐに再び接近しお互いの攻撃が飛び交う

すんでの所でクナイによる斬撃を回避しながらカウンターをお見舞いする

 

しかしケタロスも負けてはおらず、一瞬の隙を見て、振るわれたクナイガンはクウガを斬りつけ仰け反らせた

 

「―――なんで」

 

そこでふと、シェリーは呟いた

 

「なんでお前は邪魔をする! 止めるな! 現状が一番危ういことになんで気づかないの! 学園都市は今ガードが緩い、あの禁書目録を余所に預けるほどに甘くなっている! エリスの時と同じよ、私たちの時でさえ、あんな悲劇を招いたのに! 不用意に踏み込めば、何が起きるかなど分かるはずなのに!」

 

彼女は暗い地下を反響し、クウガの耳に届いていく

そんな一瞬をついて、ケタロスの膝蹴りがクウガを捉えた

ゴロゴロと地面を転がりながら、シェリーに向かい、言葉をぶつける

 

「そんな言葉で、正当化できると思うな! 風斬やインデックス、当麻が何をしたって言うんだ! 争いたくないなんて言ってるけど、それ以前に、お前は誰を殺そうとしている!」

 

納得できない

納得できないから声を荒げる

 

「怒りも、悲しみも別に良いさ、人間だからね。だけど向かうべき矛先はそこじゃない。そしてその感情は誰かに向けるべきものじゃない! 辛いだろうし、俺だって理解できないだろう!」

 

ケタロスの攻撃を受け止め、「だけど!」と言いながらケタロスを殴り付けて言葉を続けた

 

「その矛先を誰かに向けてしまったら、それこそアンタが嫌う争いが起きるんだ!」

 

エリスが死んだのは、一部の学者や魔術師が手を取ろうとしたり、それを危険視したイギリス清教のせいらしい

それを知った時、彼女は何を思ったのだろうか

友人を殺した者への復讐か、こんな悲劇は繰り返さないという誓いか

 

「―――わかんねぇよ」

 

ケタロスの行動を停止させ、彼女は歯を噛みしめた

 

「あぁ、確かに憎いよ、けど本当に争いなんて起きてほしくないとも思ってる! 頭ん中なんざ最初(ハナ)っからぐちゃぐちゃなのよ!」

 

矛盾を孕んだ絶叫が響く

自分を引き裂くのではないかと、勘違いしてしまいそうな、声色で

 

「信念なんか一つじゃない、いろいろな考えがあって、そしてそれも納得できるから苦しいの! 人形みたいな生き方なんてできない! 笑いたけりゃ笑え、どうせ信念なんざ星の数ほどある、一つ二つ消えたところで―――!」

「そこまでわかっているのになんで気づかないんだ!」

 

シェリーの言葉を、クウガは遮った

その言葉に、隣のケタロスが身構える

そしてシェリーがクウガを見た

 

「…なんですって?」

「そこまで理解して、たくさんある信念の奥底にあるたった一つの信念に、お前はなんで気づいていない」

「たった、一つの、だと」

 

あぁ、と頷いて、彼は言う

恐らく、自分でさえ気づいていないその事実

 

「…結局の所、アンタはその大切な友達を失いたくなかっただけなんだ」

 

そうだった

いくら信念を数多く生み出しても、その根底にあるものは変わらない

生まれた信念だってそこから分岐して、さらに派生しただけで

 

「アンタには俺たちがいやいやインデックスに付き合わされたように見えたのか。その泥の目を使って見た時、争いを呼ぶような連中に見えたのか。住み分けなんかしなくていい、俺たちは、手を取り合って生きていける」

 

頭に思い描く、上条当麻とインデックスの関係はまさしくシェリーが願っていた姿のハズだ

アラタだって、他の誰かを代わりにしろなんて誰かに言われたらためらいもなくそいつを殴る

だから、告げる

 

「アンタの手なんか借りたくない。オレの友達を奪わないでくれ」

 

彼女の肩が震える

表情は、何かに耐えるように歪んでいた

彼女が分からない訳ない

それはかつて、彼女も口にした言葉だから

 

「―――我が身の全ては亡き友のために(Intimus115)!」

 

放たれた言葉は魔法名

シェリーはクウガの―――アラタの思いも分かっている一方で、〝それが分からない〟感情も理解できる

彼の気持ちが納得できるから、今はもう自分にない持ってる人を、己の手で

無数の信念の中にそんなのがあってもいいだろう

 

シェリーは自分の近くにある壁にパステルで何かを走らせる

途端、壁が崩れ落ち、二人の視界を遮断した

瞬間、迫った粉塵を突っ切ってケタロスが駆けて来ていた

クナイガンを手に、弾丸みたいに突っ込んでくる

 

「殺せ! その男をっ!!」

 

叫ぶ彼女の目尻には、僅かながらに涙があった

そこで、理解した

 

(…あぁ、アンタは)

 

彼女の信念は、星の数ほどあるらしい

たくさんの考えがあり、それが納得できるから彼女は苦しんでいる

だから

 

 

自分を止めてほしいという感情も、理解できるんだ

 

 

ブン、と振るわれたクウガの拳はケタロスに直撃する

ケタロスは地面をバウンドし、ゴロゴロと転がってシェリーの足元へと

その一撃が決め手だったのか、ケタロスはそのまま力尽き、メモリへと戻った

 

◇◇◇

 

いつまで経っても、衝撃は襲ってこなかった

恐る恐る、美琴は目を開けて―――そして驚愕する

釣られて目を開けたインデックスも同じように表情を驚きに染めた

 

風斬氷華

 

二人の後ろから跳躍した彼女が、ゴーレムに蹴りを打ちこんだからだ

蹴り飛ばされたゴーレムは縦に三回も回転しながら吹っ飛んだ

それに対し風斬は宙で制止しながらふわり、と地に足を付けた―――瞬間彼女を中心に半径二メートルほどのクレーターが浮き上がる

 

「ひょ、うか…?」

 

息が詰まる

 

よく見ると蹴りを放った方の足が膝から全部吹っ飛んでいる

当然だ、あんな巨体蹴り飛ばして生身がその反動に耐えられない―――そう思っていた

 

けど、彼女の足の断面は空洞、つまりは空っぽだった

傷口も、まるで卵を割ったみたいに不自然だった

 

「逃げて」

 

風斬氷華は振り返らなかった

 

「ここは―――私が食い止めるから」

 

彼女の声は確かに風斬氷華だった

けど、本能が警戒を解くべきか否かを、迷わせてしまった

 

そんな時、吹っ飛ばされたゴーレムが起き上がる

そして何か、羽虫を見るような感覚で、ゴーレムは風斬を睨んだ―――気がした

 

「何やってんの貴女! 早くここから離れるわよ!」

 

美琴が風斬に向かって叫んだ

 

「私は大丈夫です。―――貴女は、彼女を連れて早く逃げて」

 

それに対して、落ち着いた様子で美琴に返す風斬

風斬は振り返ることなく、ただ口を開く

 

「ひょうかは―――ひょうかはどうするの!?」

「私は―――あの化け物を止めないと」

 

彼女が答えた時、それに応えるようにゴーレムが拳を振り上げた

動きは遅かったが、人ひとりを破壊するには十分な威力を持っているハズだろう

 

「何馬鹿な事言ってるのよ! あれは人間がまともに戦っちゃいけないの!」

「そんなことしたら、ひょうかが―――!」

 

二人の言葉に、やっと氷華は振り返る

その顔は―――泣きそうになりながらも、笑んでいた

 

「大丈夫だよ」

 

彼女は言った

 

「私も、人間じゃないから」

 

え、とインデックスは息を呑み

な…と美琴は言葉を失った

 

迫りくる拳に、風斬は振り返る

彼女は両手を広げ、二人を守る壁のように立ち塞がった

そして―――

 

ドォンッ!! と、風斬の腕はその拳を受け止める

体中が痛い

その痛みに耐え、彼女はもう一つ、言葉を告げる

 

「騙してて、ごめんね…」

 

そんな彼女を押し潰さんとさらにゴーレムが力を込める

そしてそれを返さんと風斬も力を込める

その分、痛みも跳ね上がる

もう、喋る力も残ってない

このままじゃ―――そう思った時だった

 

背後から、何かが飛翔してくるような音が聞こえそれがゴーレムにぶち当たり、僅かにのけぞらせる

体当たりを繰り出したソレはクワガタの形をしていた

その正体を、美琴とインデックスは知っていた

 

「ご、ゴウラム!?」

 

言葉を発したのは美琴だった

共に戦ったとき、名前が記憶にあったから

その言葉に反応するように人の形へと戻り、風斬の隣に降り立った

 

「あ、貴女―――」

「関係ないよ」

 

呟く風斬に向かって彼女は言う

 

「カザキリがなんであれ、友達ってことには変わりはないから」

「―――え」

 

風斬は思わずそんな事を言っていた

その言葉に続くように

 

「そうだよ…!」

 

インデックスが

 

「ごうらむの言うとおりなんだよ…! 確かに、私はひょうかの事知っちゃった…、だけど、それだけで関係が変わるなんてないんだから!」

 

言う彼女の目尻には僅かながら涙があった

その隣にいる美琴も

 

「―――私は、貴女の事知んないけどさ。…見くびってもらっちゃ困るわね」

 

そう言って笑顔を作る

その純真な笑みに、思わず顔を逸らそうとしてしまう

そんな彼女の耳に、また声が響き渡る

 

 

 

「―――かざ―――風斬ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

心からの絶叫

それは最も聞き慣れた少年の声色

上条当麻は―――否、上条当麻らは、こんな化け物になってしまった自分の事をまだ風斬って言ってくれる

 

ゴーレムが振り上げたその拳に、一人の男が立ち向かう

ゴーレムの拳に、当麻の右手が直撃する

 

彼の右手から血が噴き出した

だが、それは相手の力から来るものではない

単純に、岩盤を殴ったからのようなものだ

 

瞬間、ゴーレムの身体が崩れだす

そして派手に灰色の粉塵が舞い上がり、皆の視界を奪っていく

何はともあれ、危機は去ったのだ

 

ふと風斬は視線をあげた

彼女の視界にいるのは、インデックスだ

その隣には、人となったゴウラムもいる

 

インデックスは、優しく彼女に向かって手を差し伸べた

そして、笑顔を浮かべる

その手を見て、思わず風斬は泣きそうになってしまった

違う、泣きそうではない、実際もう泣いている

大粒の涙が風斬の頬を濡らしている

 

あぁ―――ここにいても、いいんだ―――

 

 

シェリー・クロムウェルはその場に佇んでいた

ケタロスを倒した後クウガはその変身を解き、メモリを砕いて上条当麻を追いかけて走って行った

走り去るとき、シェリーは聞いた

 

殺さないの? と

 

自分は殺されても文句は言えないという感情も理解できたから、彼女は無謀にとも取れる特攻を仕掛けたのに

それに対してアラタは逆に聞き返す

 

殺してどうする? と

 

自分たちの気持ちを理解してくれたからこそ、これ以上戦ってなんになるのか、と

そう言って走るその男の背中をシェリーはどこか苦いような表情で見つめていた

 

「どうしたのさ」

 

不意に背後から聞こえてきた声にシェリーは振り返る

そこには呑気にプレーンシュガーを頬張りながらこちらに向かって歩いてくるソウマの姿があった

 

「―――ソウマ・マギーア」

「忘れ物だぜ」

 

彼はシェリーの近くまで歩み寄ると彼女の手に数枚のメダルを手渡した

それはタトバとラトラーター召喚に用いたメダルだ

それを受け取ってシェリーは仕舞いながら

 

「…何やってたんだお前は」

「いやー、夢を失った若者にちょっと絡まれてさ。そいつらに、希望を提示してきたとこよ」

「―――はっ、相変わらずだな、お前は」

 

そう言うとソウマははっ、といつもと変わらない笑顔を浮かべた

ソウマは指についたシュガーを舐めながら

 

「お前の方は。…終わったのか」

「あぁ。…終わったよ」

 

そう言って彼女は天井を仰ぎ見た

彼女の表情は読めなかったが、声色から幾分の余裕が聞いてとれる

 

「そうか。…じゃあとっとと帰るぞ、面倒事はごめんだからな」

 

そう言ってソウマは一つの指輪と取りだし、それを腰に翳した

 

<テレポート> <プリーズ>

 

二人の頭上に、大き目の魔法陣が現れる

その魔法陣が二人を通り抜けた時、二人はもう、そこにいなかった

 

 

そこにアラタたちが駆け寄るともうすでに決着がついていた

どうやら当麻が間に合ったようだ

 

現在は日も暮れて、病院の中

上条当麻は診察室の中で小萌と姫神に挟まれている

アラタは今、その病院の外で風を浴びている

因みに天道は当麻が病院に入っていくのを見届けたあと、すでに自宅へと帰っており、ワタルもいつの間にか三人の友人と合流して彼らも帰路についたようだ

 

身体検査を終えて、現在は友人である当麻を待っている最中なのだ

そして彼の背後では、ゴウラムがどこか浮かない顔して立っている

 

「…ねぇ、アラタ」

「うん?」

「その…怒ってない?」

 

疑問符を頭の中に浮かべる

何を怒るというのだろうか

 

「カザキリがあのゴーレム止めにいった時…私も衝動的に飛び出して…」

「…なんだ、そんな事か」

 

負い目に感じていたのは割と小さい事だった

 

「別に気にしてないよ。こんな事で怒るような俺じゃないさ」

「で、でも…」

「むしろあれで正しいよ。…友達があんなこと言ったら、身体が動くよな」

 

そう言ってアラタはわしゃわしゃとゴウラムの頭を撫でた

ふと、思い出す

 

「そうだ、ゴウラム。…お前に名前を付けたいんだ」

「…名前?」

「あぁ、ゴウラムもお前の名前だけど、人間の姿を取った時の、お前の名前」

 

ゴウラムの目が見開く

アラタは腰を落としてゴウラムの視線に合わせそして、その名を告げる

 

「―――お前の名前は、みのり。鏡祢みのりだ」

「みの…り?」

 

アラタは頷いた

 

「その…なんだ。お前と触れ合う人たちが、みんな笑顔を実らせてほしいなー…なんて意味合いで考えてみたんだけど。…悪いな、名前なんて考えるの初めてで、気に入るような名前じゃ―――」

 

ぼふ、と腹部辺りに衝撃が走る

しかしそれは別に痛いとかではなく、抱き着かれたような衝撃だった

 

「えっと…、どうした?」

「…なんでもない」

 

ゴウラムはアラタの胸に顔をうずめており、表情はわからない

けれどうっすら涙声になっているのだけはわかった

 

「その、気に入らなかったか? 名前」

「違うよぉ…! ばかぁ…!」

 

どうやら名前に関しては問題ないらしい

じゃあなんで泣いてるんだろうか、という事にはいつまで経ってもアラタは分からないままだった

 

 

すっかりゴウラム―――否、みのりも泣き止んだ

ふと気になったアラタは口を開く

 

「そう言えば、風斬と会わなくていいのか?」

「大丈夫。アラタが検査してる間にインデックスと一緒に〝約束〟したから」

「そっか。…ならいいんだ」

 

どうやら無用な心配だったようだ

そう言うのなら、いずれまた会えるだろう

 

「あ、ここにいたんだ」

 

病院の入り口から御坂美琴が歩いてきた

彼女も同様に身体検査を受けており、どうやら今終わったのだろう

 

「ういー、お疲れ」

「うん、お疲れさま。…でも、まさかこの子がゴウラムとはねー」

 

そう言って美琴は頭を撫でる

頭を撫でる美琴に向かい、みのりは

 

「ミコト、今はゴウラムじゃないよ。私はみのり」

 

そう言ってむん、と胸を張る

一瞬キョトン、とした顔を見せたが美琴はすぐに笑顔を作り

 

「そっか。それじゃよろしくね、みのりちゃん」

「みのりで大丈夫だよ、ミコト」

「そう? じゃあみのりって呼ばせてもらうわ」

 

人間体になる前から多少交流していたからか、この二人は比較的早く打ち解けられそうだ

そこでふと思い出したように美琴はアラタに向かって

 

「そうだ、伝言預かってるのよ、アンタの友達…上条から」

「当麻から?」

「うん。もう少しかかるかもだから、先に帰っててくれって」

「マジか。…そんならお言葉に甘えて帰るかな」

 

出てくるまで待ってようかな、とは思っていたが本人から帰っていいと言われたなら帰ろうか、とアラタは思う

せめてアイツの分でも食事を作っておいてやろうか

 

「…よし、じゃあ帰るか」

「ねぇ、どうせなら晩御飯でも作って待ってない? もっとインデックスやみのりと話したいし」

「え? けどお前門限は…」

「大丈夫よ。…不可抗力とはいえ、もう過ぎちゃってるしね」

 

現在時刻は八時三十分

それに対して常盤台の門限は八時二十分なので十分過ぎてしまっている

…帰る際は送って、無駄かもしれないが寮監さんに話をしてみよう、と思いながらいるとみのりがアラタの左手を掴んで、そして反対の手で美琴の右手を掴んだ

 

間にみのり、両側にアラタと美琴という図になる

 

「おっけー、ならどっかで材料でも買うか。念のために当麻にもメールで知らせとこう」

「アラタアラタ、私シチューっていうの食べてみたい!」

「シチューか。いいな、保存も効くし」

「賛成、ビーフにする? それともホワイト?」

 

そんな会話をしながら、三人は夜の都市を歩いていく

間にいるみのりの顔は、終始笑顔だった

そして、思い出す

 

―――カザキリ、約束だよ。ずっと、私たちは友達だから―――

 

それは消えゆく彼女と、そしてインデックスと交わした、色褪せることない、たった一つのやくそく―――

 

 

とある場所

 

スキルアウトの連中が誰かに投げ飛ばされる

どしゃあ、と地面に倒れ伏し、投げられたスキルアウトは男を睨んだ

 

「テ、メェ…!」

「おいおい、先に手を出してきたのはお前だろうが」

 

その睨みを逆に睨み返しながら赤いメッシュの入った男はその男に歩み寄る

 

<あんまり派手に暴れないで。僕たちは道聞きたいだけなんだから>

「分かってるぜカイト。…てぇわけだ、ちょっとここまでの道教えてくれっと嬉しんだけどよぉ」

 

そう言ってチンピラ同然に聞かれ、男は睨みを利かす

しかしメッシュの男は全く動じることがない

それどころかため息を吐いた

 

「…なぁ頼むぜ、場所知りたいだけなんだよ俺たちは」

 

それでもこの男は口を聞こうとしない

ついにイライラしてきた男の耳に、また別の男の声がした

 

「―――おい、テメェオレのダチに何してンダ?」

 

声の方を向くとまたいかにもなチンピラルックの奴らが数十人ほどいた

どれもみな、メッシュの男に睨んでいる

 

「…あぁ? んだテメェ」

「とぼけんじゃねぇ! オレのダチを可愛がってくれたみてぇだなぁ」

 

そう言って男は何かのメモリを取り出し、スイッチを押す

 

<OCTOPUS>

 

それを二の腕に突き刺すと、その姿を変えていく

みるみるうちに変わったその姿はタコを連想させる、オクトパス・ドーパントへと変化した

 

「―――へぇ?」

 

それを見ると、メッシュの入った男は口角をつり上げた

 

<…結局こうなるのか>

「分かり易くていいだろカイト! オレもイライラしてたんだ」

 

待ってましたと言わんばかりにメッシュの男はあるベルトを取り出して巻きつける

そしてベルトにある四つのボタンのうち、赤いボタンを押した

すると軽快な音楽が流れて、今度はパスポートのようなものを取り出し―――

 

「変身!」

 

そのパスを、ベルトの中央へとセタッチした

 

<sword form>

 

電子音声の後、その男の姿を変えていく

やがて周囲に赤いオーラアーマーが形成されて、装甲となり装着される

そして後頭部から電車のように動いてきた桃が開き、電仮面となり赤い複眼が発光する

 

そして、その仮面ライダーは―――電王は宣言する

 

「―――俺、参上ッ!!」

 




皇(すめらぎ)カイト 
仮面ライダー電王

この世界の電王
時間を脅かすものや弱者を脅かすものと日夜戦い続けている
また彼自身、それなりに戦えるため、彼自身のフォームがある
その代り、ライナーフォームにはなれない(ケータッチはあるにはある)

名前で気づいた方は改名前の自分を知っているお方
カイトくんは自分の処女作での主人公でした


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神代ツルギの本気
#40 第七学区にて


お待たせしました
まぁいつも通りです

前よりは短くしたいなー、なんて願望があったり

あとトッキュウジャーは嫌いじゃないわ
一話の敵は律儀すぎた

そしてどうでもいいが、現在笑顔動画で電王が配信されてます
毎週日曜八時から三日間無料で見れるよ!

ではどうぞー


常盤台中学のある学舎の園と同じ学区にありながら、いかんせん華やかさが足りないその一角に、上条当麻と鏡祢アラタの学生寮がある

 

当然ながらここは男子寮だ

しかしとある一室と一室は例外がまかり通っている

そのある一室のうちの片方で、ゴウラム―――人間名〝鏡祢みのり〟は厨房に立って、鏡祢アラタの手伝いをしていた

 

「アラタ、コロッケ出来たよ」

「おっけー、皿に乗せておいてくれ」

 

言われた通り、みのりは適当に切ったキャベツと一緒にお皿につい先ほど出来たコロッケを盛り付ける

一通り皿に乗せて、ふと思った疑問をみのりはぶつけた

 

「ソースは?」

「あぁ、それもかけといて」

「はーい」

 

アラタからの返事を聞いてみのりは冷蔵庫に歩いていきそこからソースを取り出した

ほどほどに冷えており、出来立てのコロッケに賭ければちょうどいい感じになりそうだ

 

「さて、そろそろ食べようか」

 

みのりと自分、二人分用意してアラタは今のテーブルへと歩いていく

すでに料理はみのりが運んでおり、今ではすっかり生活に溶け込みテレビを見ている

現在映っているのは天気予報だ

大きめの日本地図を背後に、女性キャスターがスマイルで何事かを喋っている

 

「…ねぇねぇアラタ、どうしてこれで天気が分かるのかな?」

「うん? んっとな…その地図に書き込まれてる年輪みたいなのが等圧線って言ってさ、気圧の谷やら山やらを見て大雑把だけど雲が出来るかどうかを調べてるんだよ。…まぁあんまりあてになんないけどな」

「ふぅん…。最近のカガクってすごいなぁ」

「ちょっと前までは天気〝予報〟じゃなくて〝予言〟みたいなものだったからなぁ」

 

樹形図の設計図(ツリーダイアグラム)

学園都市が打ち上げた三基の人工衛星のうちの一つは、もう存在していない

…まぁそんなものがなくなった所で、アラタがやる事は変わらない

数日前、彼女の笑顔を守ると改めて誓ったのだ

とある魔術師と街中で出会い、彼との会話で、むしろ任せていいか、と言われた

正直、その男の事をアラタは知らない

それでも、胸を張って任せろとアラタは答えた

だから、守るんだ

 

この日常を

 

「アラタ! おかわりっ!」

「はいはい、お前は元気だなー」

 

 

現在時刻午後七時三十分

そんな時刻、神代ツルギはいつものように一七七支部に足を踏み入れた

 

「親友の俺が遊びに来たぞカ・ガーミン―――…て、なんだ。ウィハール一人か」

「私見て落胆するのやめてくださいよー」

 

ふぇぇ、なんて擬音が似合いそうなくらい座っている少女が抗議する

対してツルギは

 

「いや、すまない。ついうっかりいつものテンションで入ってきてしまった。許してくれウィハール。ところでサ・テーンはいないのか」

「いつもいつもいませんよ。今日は固法先輩いなかったからいいものの…」

「ふふふ。甘いなウィハール。俺はクォノーリがいてもこの調子だぞ」

 

ですよねー、と言いながら再び初春は目の前の作業を再開した

 

「スィ・ラインもいないのか?」

「白井さんはさっき電話で読んでおきましたよ。もうそろそろ来ると思いますけど」

 

そう彼女が答えた直後、バァンと勢いよくドアが開け放たれた

そして部屋の中に不機嫌ですよと言わんばかりに白井黒子が入ってくる

 

「…何の用ですの? 山ほどいる風紀委員の中からわざわざわたくしを呼ぶなんて」

「冷静に考えると別段白井さんである理由もないような」

「―――ほっほぉう。わたくしがお姉様と買い物中であることを理解したうえでそう思うのならもうちょっと違う態度をとってもいいんじゃないですの?」

「やったー! うわーいっ!!」

「なんで大感激ですの!?」

「ははは。ウィハールもスィ・ラインも仲が良いなー」

 

外野は黙りますの! なんて言葉をしながら黒子は初春にぐりぐり攻撃を叩きこむ

 

一七七支部はオフィスの一室のようなものだ

役所にあるようなデスクが並べられ、そこにパソコンが何台か置かれている

初春はダリの時計みたいな〝科学的に疲れにくい〟椅子に座っており、ぐりぐりを受けながらもパソコンを操作した

 

バツ印が描かれ何かが表示されている

気になったツルギも彼女の後ろに歩いてそれを覗き込んだ

映ってるのはGPS上の地図みたいなものだ

何か事件でも発生しているのか、赤いバツ印が書かれている

バツ印の他にも難点化ポイントされて別ウィンドウに写真やらデータやらが表示されている

 

「校内でのもめごとではないのですのね」

 

学校問題ならGPSなんか使わない

基本的に風紀委員はその名の通り校内での治安維持を行うための組織であり、支部は各学校に一つずつ設置されており、交番等と違って最終下校時刻になったら鍵を閉めて無人となる…と言っても今は例外だが

非常事態にでもならない限り基本学外の治安維持は警備員(アンチスキル)の仕事だ

 

やがてぐりぐりから解放された初春が

 

「一応警備員(アンチスキル)の肩に連絡はしたんですけど、なんだか妙なんですよ。じきに警備員(アンチスキル)から、情報の提供を求められるのは必至な感じだったんで。それで、白井さんの方が答えられそうだなーって、アラタさんが言っていたので」

「お、お兄様ったら…」

 

やれやれ、と言った様子で黒子は自分の頭に手をやった

 

「それで。これはどういった事件なのだ?」

「ちょっと神代さん。部外者がツッコまないでくださいな」

 

そんな黒子の言葉にツルギはまぁまぁ、と返すのみでどうも話にならない

それに初春は苦笑いしながら

 

「えっと、強盗というか、ひったくりというか。だけど十人がかりで実行してますからスマートなやり方とは言えませんね」

「ふむ。となるとこの色つきの矢印は逃走経路か。…しかし十人がかりでひったくりか。それは本当にひったくりと言えるのか」

「私に言われてもそれは流石に…あ、でもここからが問題なんです。何でも、盗まれたのはキャリーケースなんだとか」

 

「…キャリーケース?」

 

黒子は頭にキャリーケースを思い浮かべる

恐らく、そこに車輪がついている運びやすいあれだろうか

 

「このキャリーケースに荷札がついてたという事で、目撃情報があって…えっと、見てもらった方が早いかな。ちょっと確かめてみてください」

 

彼女がキーを叩くとまた別のウィンドウが開く

そこには荷札の番号と荷主の送り先が書かれてあった

 

「…常盤台中学付属演算補助施設? …スィ・ライン、聞いたことあるか?」

「ありませんわね。…ていうかナチュラルに会話に混ざらないでください」

「あ、ないんですか。…一応、荷札の番号も紹介してみましたけど、おかしいんです。ちゃんとこの番号で登録されてはいますけど、モノは熱暴走を防ぐための大規模な冷却装置なんですよ。どう考えたってキャリーケースなんかに収まるはずないんです」

「…学舎の園でも、金属部品ならまだしも、機材の搬入は聞いたことありませんわよ」

「ウィハール、元はと言えば強盗に襲われたのだろう。つまりは当人がいると思うのだが―――」

「いいえ、当人はいないんです」

 

そのあっさりした答えに黒子は驚いて目を開いた

それに対してツルギは

 

「いないってどういうことだ」

「私らとは別に被害者の肩も独自に追跡したみたいなんです。見ますか? 直前の映像。強盗は十人くらいいるのに、たった一人で誰かと連絡を取りながら追っかけていってますよ」

 

初春がコンピュータを操作する

するとまた別ウィンドウで鮮明なビデオ映像が映し出された

駅前の大通りらしき場所で、スーツを着た男が周囲を警戒しつつも、無線機で連絡をどこかと取っている

 

「あ、ここです」

 

そう言いながら初春は映像を止めた

 

「ここ、被害者のスーツがめくれて何か少し見えてませんか?」

 

そう言われてよく覗き込むとなんだか脇腹のあたりに黒いサスペンダーのようなものが見えた

 

「…ホルスター、かこれは」

「はい。大手機銃メーカー公式のショルダーホルスターです。ほら、刑事ドラマとかでよく見かけるような、ハンドガンを仕舞うやつ」

 

初春はそのホルスターを拡大させる

黒子は小さく苦笑って

 

「実は飾りかもしれませんわよ?」

「えぇ、かもしれません。こちらも」

 

そう言って初春はまたパソコンを操作する

スーツの胸のあたりに拡大し、いくつもの細かい矢印が出現する

それらは服の細かい凹凸(おうとつ)を検証してるのだ

矢印は、ハンドガンの形を作っている

 

「映像はこれだけです。もっと他に映ってても良さげですけどね」

 

それらの映像を見て、ツルギは口を開いた

 

「カメラを避けるように行動しているのか、それとも純粋にカメラを避けて移動した結果、その男の姿を見失ったのか。…よくわからんな」

「それでも、物騒なことになりそうな予感だけはしますけどね」

 

同感だな、とツルギは答える

先ほどの映像を見た黒子は少し思考を走らせる

拳銃はまだ何とも言えないが、男が使用していた無線機は風紀委員の訓練で見たプロ仕様のものと酷似している

こちらに通報してこないという点もおかしいし

 

独自に動く被害者と、常盤台が絡んだキャリーケース

不自然なまでに揃っている装備品

 

普通の事件とはどこか違う

 

「スィ・ライン。犯人と被害者、どちらを追うか」

「本来なら両方…というべきでしょうけど、今回はやはり犯人ですわね。ケースを回収すれば被害者もこちらに接触をせざるを得ないでしょうし」

 

なるほど、と黒子にツルギは同意する

黒子は一つ息を吐いて初春に

 

「犯人の逃走経路は? と言っても、わたくしがここに来るまでに三十分程かかってますから、正確な位置はまだ分からないでしょうけど」

「ところがどっこい、そうでもないんです」

 

初春は告げる

 

「彼らはケースを盗んだ後、徒歩で地下街へ入ったみたいなんです。おそらく人工衛星から隠れるためでしょう。地下にもカメラ等はあるにはありますが、地上よりは逃げやすいはずです。上空からの撮影を封じれますし、カメラも人混みをうまく使えば死角を作れます。車での移動なんてもう絶望ですよ、信号機の配電ミスで、主要道路は混雑してますし」

 

ふむ…、と黒子は顎に手をやる

恐らく初春から通報を受けているから警備員(アンチスキル)も動いているハズだ

しかし渋滞に巻き込まれればそれだけで動きが制限されるし、ヘリの申請も面倒くさい

こう言う迅速な行動を求めているときに限って、組織というのが弊害を生む

 

「…わたくしが向かった方が早いですわね」

「えー。つまりそれって私だけで警備員(アンチスキル)と受け答えしないといけないってことですかー?」

 

そんな初春に向かって得意げな顔したツルギが口を開く

 

「安心しろ。これからその面倒を片付けにいくのだ」

 

ツルギはすっくと座っていた椅子から降りて―――

 

「いや、貴方は連れて行きませんわよ?」

「―――なん、だと!?」

 

変な沈黙

 

・・・

 

「頼むスィ・ライン! 俺を同行させくれ! 安心しろ、オレはサポートに置いても頂点に立つ男だ!」

「あぁ、もう…仕方ありませんわね…」

 

その後、何とか頼み込んで同行を許可してもらいました

 




気まぐれな紹介

今回から不定期にライダーゲームとか怪人とかを書いていきたいと思います
一回目はこちら

仮面ライダー ~正義の系譜~
ハード〝PS2〟

探索型アクションゲーム
メインライダ―は1号、2号、V3、BLACK、アギト
サブにはライダーマン、シャドームーン、ギルス
メインの方々は全員ご本人

変身ムービーとか必殺技とか中々の気合の入りっぷり
全く衰えない藤岡さんの掛け声は震える
ただ操作性がちょっと複雑、かつバイク面が超難しい
それさえ乗り切れば最高に楽しめる

簡単ではありますが、ここまで

ではでは


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#41 座標移動<ムーブポイント>

神代ツルギの本気なんて大層な章タイトルですがいつも通りですのでお気になさらず

今回はいつも以上にひどいかも
申し訳ない

ではどうぞ


そのあと、黒子はツルギと共に現場へと駆けつける

 

白井黒子の能力は大能力者(レベル4)空間移動(テレポート)

だからと言って万能ではなく移動させられる質量は約百三十キログラムが限界だし、最大飛距離は約八十一キロだし、そもそも〝手で触れたもの〟しかその力を行使できない

だが逆に言えば基準点である自分の身体を飛ばすのには苦労しない

現在はその隣にツルギがいるだけだが、それだけだ

 

「見えましたわ」

「おぉ、流石はスィ・ライン」

 

地下鉄の出入り口のような建物の近く

煉瓦みたいに敷き詰められた隙間を縫うように走る姿が見えた

やかましくクラクションが鳴り響く中、走るスーツの男たちの一人はキャリーケースの車輪を転がしているのが見えた

やがてその男たちは路地の細い道へと足を運んでいく

 

ダン、と彼女は地面を蹴る

刹那、その男たちの真ん中へ黒子は移動していた

笑みを浮かべ、ケースをなぞり―――また消える

傍らのツルギと共に、男たちの行く手を遮るように立ち塞がる

 

「失礼―――風紀委員です」

「我々がここに来たのを、説明するか」

 

黒子は言葉を取られ少しだけむっとする、がすぐに視線を切り替える

それらに対して男たちは迅速な行動だった

すぐさまに拳銃を取り出してそれらを黒子とツルギに突きつけた

図ったかのように同じデザインだ

 

黒子は一瞬舌を打ち―――そして驚いた

ふと気づいた時には、ツルギが動いていたのだ

持っている剣みたいな何かを峰にし、撃たれるより早く彼は斬っていた

黒子はあまり神代ツルギに好印象は持ってはいなかった

しかしそれでも悪印象、という訳でもなく、親しみやすかったのは事実だ

せいぜい、会えばそれなりに話す程度の…友達みたいなものだ

 

「女に銃を向けるとは。なっていない…なっ!」

 

最後の一人を蹴り飛ばし、意識を刈り取る

その手際の良さに、思わず小さめだが拍手を送っていた

 

「…思った以上にやりますのね。侮っていましたわ」

「当然だ。俺は神に代わって剣を振るう男だからな」

 

血なんてついていないのにまるでその血を払うように彼はヤイバーを振るう

 

「しかし、思った以上にあっさりだ。逆に疑念がわいたぞ」

「そうですわね。それは私も思っていましたの」

 

ツルギに答えながら黒子はその男たちを軽く小突いて意識の有無を確認しつつ手錠をかけていく

四人目にかけたところで手錠がなくなり、その辺に落ちていたケーブルで代用する

黒子がその作業をしている最中、ツルギは警備員(アンチスキル)に連絡を済ませる

手錠をかけ終えて、改めて黒子はその男たちの装備を見た

特に身分証のようなものは見当たらず、逆に意図的に削除しているようにも見えて、ふと気づいた

 

「…金歯」

 

口を開けて気絶している男の口内を見て、黒子は疑問に思う

学園都市は曲がりなりにも最先端科学が結集している都市だ、今時この街で金歯を使うような輩はいない

彼らが使っていたと思われる携帯を見ても新しいとは思えない

銃の構えはそれなりに訓練した様子が見え隠れしたが、黒子の空間移動を見て驚いたり、ツルギの剣技に圧倒されている所を見るとこの街とは無関係の、〝外〟のプロだろうか

 

「…」

 

黒子はケースに目を向ける

彼女はそれを開けようとするが―――鍵があった

 

「まぁ、当然ですわね」

 

よく観察しているとアナログなカギに、電子錠一つ、おまけに組合せ無限大という磁力錠までついている

本来なら、このケースを開けるのは不可能だ

 

「―――わたくしの力なら、問題はないのですけど」

 

彼女の力は空間移動(テレポート)

触れたものしか移動できないが―――それを利用し、〝外側の箱〟移動させることで中身を取り出すことは可能なのだ

流石に金庫みたいな大きい箱は動かせないが、キャリーケース程度の箱なら問題ない

さっそく実行に移そうとケースに手をやって、うん? と気づく

 

どうやらこのケースには極端に隙間がない

防水加工するようにゴムパッキンみたいなものが敷き詰められている

黒子は気にはなったが、深追いは禁物と詮索するのをやめた

 

「…むむ、この荷札はウィハールに見せてもらったものと同じだな」

 

ツルギに指摘され視線を巡らす

恐らく機械に通さなければ判別は出来ないだろうが、少なくともおかしな点も見当たらない

と、それとは別に変なマークを見つけた

丸い縁の中に四角を重ねただけの簡単なモノ

どこかで見たような気がするが、どうも記憶は曖昧だ

 

「分からない事は聞いてみるに限りますわね」

 

結果、黒子は考えるのをやめた

黒子はポケットから携帯を取り出し、初春に連絡すべく準備する

 

「…スィ・ラインの携帯はずいぶんコンパクトだな」

 

今はじめてツルギは黒子の携帯を目の当たりにした

 

「ふふふ。コンパクトだけならよかったのですけどね」

 

力のない笑みと共に黒子は携帯を操作する

携帯、と言っても一般的な携帯とは違い、黒子の携帯は口紅みたいな形をしている

彼女は巻物みたいな本体を取り出しカメラを起動させ、そのマークを撮影し〝要調査〟の一言と一緒に初春へ送信した

約二分で帰ってきた

着メロが鳴ったとたんに黒子は通話ボタンを押して通話を開始する

 

通話を開始した黒子を見ながら、改めてツルギは初春の調査スピードに感心した

書庫へのアクセス権限を持っていながらわずか数分だ

 

「…」

 

黒子が電話している中、ツルギは改めてキャリーケースに目をやった

そしてふと気づく

ケースの荷札の右端に、赤い四角があったことに

これはもしかしたらなんか初春の助けになるかもしれないと判断し、ツルギは携帯をRWSモードに切り替えそれを撮影した

因みにRWSモードとはICチップなどの電波情報などを読み取るためのモードであり、風紀委員の携帯品として義務付けられている

で、なんでそれがツルギの携帯に搭載されているのかというと、アラタに無理言って搭載したものだ

自分ももしかしたらそういったときに手助けできるかもしれない、という要求をアラタは吞んでくれたのだ

…あの時の固法に怒られているアラタの苦笑いは今でも忘れられない

 

<―――と。もう、白井さんがマニュアル読んでなかったからツルギさんが送ってくれました>

「へ? なんでそこに神代さんが出てきますの」

<気にしないで下さーい。…それで、ですけど、やっぱりこの荷札自体は学園都市発行の本物ですね>

「本物。…送り先は〝学舎の園〟ですの?」

 

その言葉に電話の向こうの初春はえぇ、と頷いた

会話を聞いて、ツルギはふむ、と考えてみた

 

本来、神代ツルギはこういった推理を考える人物ではない

しかし、今回は奮闘している黒子の為に何かできることは出来ないか、と考えた結果、〝考える〟事だったのだ

で、考えた結果―――

 

(さっぱりわからん)

 

それに至る

今も黒子は電話で初春と会話しているのであろうが、何を言っているのか理解できない

時折、何か舌を打つような音まで来こえる(思考での事だろうが)

 

「ありがとうですの。後はキャリーケースとこの男たちを送る道すがらにでも考えてみますわ」

 

そう言って黒子は初春との通話を切った

切る寸前に初春が何事か言っていたが、特に気にしないことにした

 

「相談は終わったのか?」

「えぇ、一応は。これ以上考えるのは、わたくしの仕事ではないですの」

 

そう言って彼女はキャリーケースに腰を下ろした

このスーツの男たちも謎ではあるが、もともとこのキャリーケースを持っていた人間も謎だ

…それにしても警備員(アンチスキル)の人たちがなかなか来ない

道路状況の影響だろうか

その時、また黒子の携帯が鳴る

確認すると、そこには御坂美琴の名前があった

 

「―――っ! …神代さん、男たちは気を失っていますの?」

「あぁ、今の所目を覚ます気配はない。急用か?」

「似たようなものですわ。…少し失礼…」

 

言って黒子は口元を抑えながら通話を開始した

恐らく、ミサカトリーヌか、カ・ガーミンかのどちらか、か

お姉様、という単語が聞こえるので多分きっと前者だ

会話している様を微笑ましく見守っていると、ふと妙な足音が遠方から聞こえた…気がした

そこで会話を終えて―――なんだかゴーン、としている黒子に向かって

 

「スィ・ライン、足音が聞こえたような気がしたが」

「あー…そう言えばテープ張り忘れてましたわね」

 

黒子はそう言いながらぼんやりと思考を開始しようとし

 

ふと、黒子の乗っていたケースが消えて、背中から地面に倒れた

否、落ちたという表現の方が正しいか

 

「…スィ・ライン?」

 

ツルギの声が耳に入るが、一番混乱しているのは黒子本人だ

何がおこったのか、その一瞬の後ケースが消えたことを悟り―――

 

―――地面に倒れ伏す彼女の右肩に何かが突き刺さった

 

「っ!!?」

「なっ!?」

 

あまりにも突然の出来事にツルギも目を丸くした

ふと突き刺さったものは何か、見てみるとそれはワインのふたを開けるコルク抜きだった

一瞬、黒子はそれを引き抜こうと思ったがそう考えて思いとどまる

コルク抜きの形状を考えろ、あれは螺旋を描いてなかったか?

そんなもんを一気に引き抜いてみろ、肉ごとそれを引き抜くことになる

それを実行した際の、黒子に受けるダメージは尋常でないものとなる

 

そう思考を巡らせた際に、ツルギの顔面に誰かの蹴りが叩きこまれた

 

「うぐっ!?」

 

完全に油断していた

直撃を貰ったツルギは地面を転がり、黒子とは少し離れた位置に倒れる

それでもツルギは持ち前の根性で立ち上がった

ふと黒子の方へと視線をやると、彼女も同様に立ち上がっている

恐らくは自分を空間移動させ、無理やり立ったのだろう

 

血を流す黒子と、地面を転がったツルギを楽しげに眺める視線が二つほど

 

路地の入口―――そこに一組の男女の姿が見える

 

一人はブレザーを袖に通さず肩にかけ、胸にはサラシ、腰には飾みたいなベルト、金属板をいくつもつないで作ったタイプのベルトにはホルダーがあり、直径三センチ、長さ四十センチ弱の軍用懐中電灯が収められている

もう一人は先ほどの男たちと同じようにスーツ姿だ、しかし纏っている空気は全く違い、あんまり隙というものがない

目元にはサングラスをかけており、そこから伺える表情はわからない

 

そんな二人の傍らに、白いキャリーケースの存在を確認する

さっきまで黒子が座っていたものだ

 

「アイツも空間移動(テレポート)の能力者か!」

「いえ、ですが触れられては―――」

 

確かに大雑把に言うならば空間移動(テレポート)だろう

しかし、決定的な何かが違う

 

「流石に同系統の能力者だと理解が早いわね。けど、私は貴女とは少々違うの」

「―――同系統、だと」

 

ツルギの言葉に少女は答える

 

「私のは…座標移動(ムーブポイント)と言った所かしら。出来の悪い貴女と違ってね、いちいち触る必要がないの。どう? 素敵でしょう」

 

淡々と少女は答えていく

 

「…それはそうと、使えない連中だな。だからケースの回収という雑務を任せたのだが…それすらもできないとはな。ゴミ以下だ。…いや、捨てるという道が残ってる以上ゴミの方がまだ優秀か」

 

サングラスをかけた男が答える

となるとこの寝ている男たちは関係者だと考えていいだろう

 

「―――わたくしを誰と心得ておりますの?」

「もちろん。分かってるから安心して仕掛けたのよ? 風紀委員の白井黒子さん。でないと自分の手札を晒したりしないわ。…そっちの男性はわかんないけど」

 

ケースの中身は不明、この女と男の意図も分からない

それでも、一つ分かっているのは

 

目の前の奴らは敵という事実

 

「―――ちっ!」

 

黒子は両足を広げる

その反動でスカートが舞うが、気にしてなどいられない

太腿にはガンマンみたいに革製のベルトが巻かれており、そこには金属矢が仕込まれている

空間移動を用いて相手の座標に矢を飛ばし、貫く矢

それより先の少女が動く

 

ブレザーの内側の細い手が、軍用の懐中電灯を引き抜きバトンのように手の中でくるりと回し、それを黒子とツルギに向ける

そして誘うように、ひょい、と先端を動かした

 

瞬間、拘束していた男たちが消え、その少女たちの目の前に移動した

意識のない男たちはまるで盾のように展開された

 

<SCRPIO>

 

そんな電子音声が聞こえたのち、その盾を飛び越えるように銀色の怪人が現れる

その怪人は一直線にツルギへと向かっていき、ツルギは繰り出される攻撃をヤイバーで防いだ

一瞬、ツルギの事が気になったがもう一人いるであろう女性に向かって金属矢を飛ばす

しかし、その矢は当たる事はなかった

 

男たちが地面に落ち、確認しようとしたとき、矢は少女がいたであろう中空にただ浮いていて、すぐに地面にポトリと落ちる

本来、空間移動は点と点の移動

座標から少しでもずれれば、黒子の攻撃は当たらない―――

 

一方で、隙を付かれた神代ツルギも同様に防戦一方だった

完全に変身するタイミングを逃し、カウンターを試みてはいるが掠りもしない

それと同様に、相手の―――銀色の怪人の実力も高いのだろう

一瞬の思考の隙を付かれツルギは腹部に蹴りを貰う

 

「がはっ!!」

 

肺から空気を漏らし、地面をゴロゴロと転がった

ふと、黒子を視界に収める

彼女もダメージを追っているのか、わき腹を抑えて、地面に倒れているのを見た

 

「残念ね。貴方」

 

少女の声が聞こえる

 

「常盤台の人間でしょう? 御坂美琴が、後輩を巻き込むように思えないんだけど」

「実験阻止にしたって、一人で片付けたわけでもないし、どうでもよくなっているのではないか」

 

男の言葉に「かもね」と同意する

そして、ある言葉に白井黒子は反応した

 

「なんで、お姉様の名前が、ここで…!?」

 

「―――あら。知らなかったの。…まぁ、常盤台の超電磁砲が知らないまま使用するような人じゃないし…その感じじゃ本当に知らないのね」

 

黒子の疑問に、その女は答えない

 

「都合がいいって思わなかった? こいつを盗んだうちの使えない連中がタイミングを計ったように重体に巻き込まれたり。信号の配電ミスって何が原因かを予想できなかった? 御坂美琴が何を司る能力者なのかも知らないわけないわよね?」

 

「っさっき、から、何を…」

 

血反吐を吐きそうになりながら、黒子は言葉を続ける

腹部を抑えながら、ツルギも耳を傾けていた

 

「レムナント…って言っても分かんないか。―――樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)残骸(レムナント)と言えば分るかしら?」

 

「な…!? そんな! あれは今なお衛星軌道上に浮かんでいるハズでは―――!?」

 

黒子が驚いているように、ツルギも驚いていた

樹形図の設計者とはこの学園都市が誇るスーパーコンピューターだ

そんなもんが故障とか破壊とかされた日には報道されなければおかしいのに

 

ふと、茫然としてる黒子の視界に一枚の写真がひらりと舞い落ちる

その写真は黒い宇宙空間に大きい地球が写っているものだった

そしてその青い星を背に、ある残骸が散らばっている

 

「―――嘘」

 

黒子が呟いた

その呟きが、敵の少女の言葉が嘘ではないという事を物語っていた

 

「樹形図の設計者はもう壊れているの。だからみんな、残骸を欲しているの。…御坂美琴も大変でしょうね、あれが壊れてくれたから悪夢がなくなったというのに。それが修復されそうになっているんだもの。それが治されれば、またあの悲劇が繰り返されるのだから、足掻いて当然か」

 

まただ

またこの女は御坂美琴と名をいった

なんで、ここで敬愛する人の名前が出てくるのだ

 

「―――まだ分かっていないの? ならとっておきのヒントをあげる。―――先月のある一日、何か変わったことはない?」

 

ある一日、と言われてもピンとこない

先月は何か、あっただろうか

 

「…そうね。貴女がここまで来れたのなら、友達になってもよかったのだけどね」

 

その言葉を皮切りに銀色怪人は黒子の方へツルギを吹っ飛ばした

声を上げながらゴロゴロと転がるツルギを見て思わず駆け寄ろうとしたが、右肩と腹部の痛みが邪魔をする

 

そんな中、笑いを浮かべてる彼女と、いつの間にか変身を解除していたサングラスの男

 

現状、分かるのは二つ

 

この女たちを、ここで止めないといけない事

そしてケースの中身を誰かに渡してはならないという事

 

―――…一瞬のうちの、僅かな静寂

 

出口に車のエンジンが響いた時、少女と、黒子が同時に動く

 

◇◇◇

 

結果は一瞬だった

少女は黒子が外した金属矢をいつの間にか回収しそれを使用し、同じく黒子はまだ持っていた数本の金属矢を放つ

互いに飛び交い、朱が飛び散る

 

白井黒子は、負けた

 

「スィ、ライン…!」

 

地面を転がっているツルギは悔しさから己の手で地面を叩きつける

ツルギと黒子を残して少女とサングラスの男キャリーケースと共に去っていく

 

なんて様だ

 

あれだけ大口を叩いておきながらこの様だ

神代ツルギは、地面に倒れ伏す彼女の表情を見た

前髪に僅かに隠れてその真意は窺い知れない、しかし、噛みしめているのはよくわかる

 

同じように、ツルギも歯を噛みしめる

 

何の手助けもできなかった、自分を呪うように

 




スコルピオドーパント

スコルピオワームのドーパントバージョン
高い防御力に弁髪状の鞭で相手を拘束する能力を保有
毒とか洗脳能力はなし

気まぐれ紹介

第二回目はこちら

仮面ライダー
ハード プレイステーション

仮面ライダーの格闘ゲーム
デジタルカードもしっかり完備しているナイスなゲーム
ショッカー戦闘員が「仮面ライダーに…なりたかった…!」なんてやってるCMは一回は見たことあるはず

ライダーストーリーとショッカーストーリー、二つのメインモードがある

ライダーストーリーはテレビ通りの物語を追体験する
しっかり新一号と新二号になるよ(新二号が見れるの最終決戦時だけですが)
ラスボスは当然ながら首領、しかしタイミングを合わせてライダーキックを撃ちこんでいけば倒せる

ショッカーストーリーは打倒仮面ライダーを目標に怪人たちでバトルロワイヤルさせて最強を決めて、頂点に立った怪人を再改造し最強怪人を生み出して、仮面ライダーを倒すモード

ショッカーストーリーに出てくる二号の強さは異常
「ライダー二号を忘れていたか!」

では今回はここまで

ではでは


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#42 彼の名は

今回もぐだってます
申し訳ねぇ…

多分後、二~三回かな(願望)

こんな感じではありますが、どうぞ


幸い、黒子よりも傷が少なく済んだツルギは黒子をおんぶして、彼女を常盤台女子寮に送って行った

おんぶしている際に耳元に聞こえる彼女の吐息が生々しく、彼女の傷の度合いを改めて知る

 

「…すまない」

「…なんで、神代さんが謝りますの」

 

震える声で黒子は言い返す

こんな時、何かうまい言葉でも言えればいいと思ったが、悲しいかな、何も思い浮かばない

 

「貴方は、巻き込まれただけですわ。何も…悪くない」

「それでもだ。…大口を叩いて、この様だ」

 

もう、と黒子は息を吐く

真っ直ぐな人だ

 

「―――あ、ここまでで結構ですの」

 

流石にこの傷のままで正面から入るわけにはいかない

 

「そうか」

 

ツルギはそう言って黒子を地面へと下ろしてくれる

彼の支えを借りながら黒子はどうにか足を付け、改めてふと、自分の部屋を確認する

なんとか計算式を繋ぎ、彼女は自分の部屋へ空間移動した

 

 

無事部屋に空間転移した彼女はは部屋の中をうろついて応急セットや替えの下着、制服を探し出す

それらを手にするとユニットバスのドアを開けて中に入って明かりをつける

 

壁に背を預けながら黒子は、あの女が言っていたある一日を思い出す

そうだ、先月―――ある日だけ変な日があった

 

「…お姉様は夜遅くまで帰らず…、お兄様がご学友と来訪してきて…」

 

考えれば考えるほど、頭の中に考えが浮かんでは消えていく

そうだ、あの後戻ってきたらアラタとその友人はどこかへと消えていて、美琴のベッドの下からクマのぬいぐるみが引っ張り出されたまんまで、しかもその後学園都市の外れの工業地帯にある操車場で爆発や閃光が目撃されたという噂が広まったことも

 

そしてその日を境に、とある噂が広まり始めたのだ

 

「…学園都市最強が、誰かによって倒された…」

 

そんな未確認の情報を、どこかからか聞いた

その〝誰か〟の事は黒子の耳には入ってこなかった

爆発、閃光、そして暴風…それを巻き起こしたのは間違いなくそれは学園都市の超能力者だ

その惨事の中、そいつに挑んだのはどんな力を秘めているのか

 

「もしかしたら…その決闘にお姉様が立ち会っている可能性がある」

 

そして確率は低いが、恐らくそれにアラタも関わっているかもしれない

思い返してみれば、見たんだ

 

その操車場でいろいろな残骸が散らばっている中、黒子はそれを拾った

そのコインは、御坂美琴がよく使っているゲームセンターのコインだ

そこまで考えて、黒子は思考を切り替える

 

確かに先月のある一日は特別だ、しかしそれがこの一件とどこまで関わっているかは分からない

ひとまず、傷の手当だ

その後で、初春に情報を聞かなければならない

因みに初春には寮に帰る前に一度、連絡を取っていた

ツルギの背中に揺られながら、そこで負けた事、ケースを奪われたこと、樹形図の設計者の情報の収集、相手の空間移動能力者の素性、そしてその相手の逃走ルートを可能な限りの追跡…それを頼んでいた

ついでに、自分らが負傷したことも出来うる限り伏せておくことも

この事が警備員(アンチスキル)らに知られれば、黒子の活動が制限される

おまけにこの事が美琴やアラタにバレたら確実に動けなくなる

今、ここでリタイアをするわけにはいかないのだ

 

 

白井黒子が空間移動しそれを見届けてツルギも行動を開始する

恐らくは、彼女も似たような行動に移るだろう

 

「…俺も、出来ることをやらねばな」

 

恐らく、黒子に何か言われてしまうかもしれない

しかし、ツルギもこのままやられたまま終わるつもりもないのだ

同様にツルギも携帯を取り出し、初春に向かってメールを送る

もしかしたら電話は使用中かもしれない、だから彼女が調べたことを簡潔に纏めて返信してくれるようにと軽く一文を添えて彼女に送ったのだ

ほどなくして、了解しましたとの一文が帰ってきた

本当に、初春の手際に驚かされる

とりあえず、体力を回復させるべくツルギは一度、腰を落ち着ける所…ひとまず、公園を探す

リタイアできないのは、ツルギも同じなのだから

 

 

「―――し!」

 

初春との情報交換している最中、人の気配を感じた白井黒子は慌てて通話を切った

そしてふと、ユニットバスの出入り口のカギをかけ忘れてて急いでカギを閉める

ガチン、と結構な音が響きわたり、内心穏やかじゃなかった

 

「…黒子?」

 

薄い板一枚通して、聞き慣れたその声を耳に黒子は聞き間違える筈がなかった

 

「何よ、風呂入ってるの? 帰ってきたなら明かりぐらいつけなさいよ、真っ暗で何してんの?」

 

ドアの外から聞こえる声に黒子は冷や汗を流す

今現在のこの傷ついた姿を美琴に見せるわけにはいかない

そしてこの姿を連想させるような言葉もアウトだろう

 

「省エネですわよお姉様。さ、昨今の温暖化に対するわたくしの小さいばかりではありますが、配慮ですわ」

「へぇ。だけど学園都市って風力メインだからあんまり二酸化炭素って関係なさそうだけどな?」

「あら、そうでしたっけ。これを機にうす暗いムーディーな世界にお誘いしようとしてましたのに」

 

その言葉を聞いてか美琴は大きく息をがいたように声がした

そうして徐に、思い出す

 

―――あら。知らなかったの。…まぁ、常盤台の超電磁砲が知らないまま使用するような人じゃないし…その感じじゃ本当に知らないのね―――

 

何かが起きているのは、何となく分かる

それに美琴が関わっていることも

だけどそれが分かっても、彼女は周囲に対してそう言った素振りを見せない、いや、見せたくないのだろう

誰にだって悩みはある、それは当然美琴にだって

けれど、それは美琴には打ち明けられなくて、その代わりに誰か―――アラタ(お兄様)がその悩みに答えているのだろう

 

だけど、それでも、その二人の為に何かしたいんだ

影から、二人を援護するように

黒子が身体をがっても意味はないのかもしれない

 

(…えぇ、わたくしには詳しい事情なんてわかりませんわ)

 

けど、もう終わりにする

何もかも終わらせて、また笑顔になれるなら

その為なら、他ならぬ貴女の為なら。今一度本気で貴女を欺こう

 

「お姉様はこれまでどちらにいたのですの?」

「ん? いえ、ちょっと〝アクセサリー〟を買いそびれてさ、それを集めてたってとこかしら。ここんとこ探してるんだけどね。今は忘れ物取りに来たってとこかしら。これからまた出かけるけど。あ、土産とかは期待しないでね」

 

もし、自分がいつもみたいについていくなんて言ったら。なんて顔するのか

一瞬考えて、思考を開始する

ここのところ、という事は美琴はまた何かをしていたというのか

精密機械(アクセ)の補助部品(サリー)とは、言ってくれる

その心中を察し、黒子は言葉を投げかけた

 

「天気、崩れないといいですわね。最近は、〝天気予報〟も当てになりませんし」

 

「―――ッ」

 

彼女は一瞬だけ、驚いたように息を呑んだ

それからまた少しの沈黙があった

 

「―――心配してくれてありがとう。早く帰るようにするわ」

 

彼女の声色は少し柔らかくなった

その声の後、ふと扉の前から気配が消える

どうやら部屋から離れ、外へと行ったようだ

 

「―――さ、て」

 

黒子は漸く息を吐くと、替えの制服を掴み、また初春に電話をかける

聞かないといけないことがあるのだ

 

「えぇ。そいつの予想ルートを、早く教えてくれません?」

 

 

しばらくして、ツルギの携帯にメールが届く

内容は自分が聞きたいことをだいぶ簡潔させた文だった

 

まず交戦した女の名前は結標(むすじめ)淡希(あわき)

黒子と同じ空間移動の使い手だが、やはり別系統なのだろう

一応、結標に関する情報もあったが正直ツルギは興味がなかったために軽く見て流した

 

次に樹形図の設計者についてだ

どうやらそいつは、未だに衛星軌道上に浮かんでいることになっているらしい

それに合わせて先月打ち上げた学園都市のシャトルの船外活動スケジュールもそれとは無関係のものだった、という事になっているようだ

因みに別のチームがケースの盗難被害者を確保したらしいが、何も知らなかったらしい

他にも何か書かれていたが…結標が外部組織と手を組んで事件を起こした、と強引に考える

 

そして最後に彼女の用心棒みたいな男についてだ

軽く調査を依頼したが、どうやら彼女とは単に依頼相手だけのようだ

もし自分と同じ家柄なら、己の手でけじめをつけるとつもりでいたが

 

…神代ツルギの家柄は、それなりに名門ではある

しかし、本人の強い意志もあり、彼は学園都市に足を踏み入れた

結果は無能力者だったがそのおかげで、天道やアラタ、当麻と言った、掛け替えない友人を手に入れた

 

そうだ、じいやが言っていた

 

「―――友情に勝る財産はない。一生の宝にしろ」

 

口の中で小さく呟いて、ツルギはすっくと立ち上がった

戦いは、ここからだ

 

 

バスルームから手当てをした痕跡を隠蔽し、避けて汚れた衣服を処分すると彼女は再び空間移動で外に出る

現在時刻は、八時二十分弱

この時間帯ではこの都市の交通機関はだいたい眠りについている

夜遊びの防止も兼ねて、バスも電車も最終下校時刻に合わせているからだ

もう渋滞は解消されているだろう

黒子は大きく深呼吸をする

 

<有力情報ですよ、白井さん>

 

繋げていた携帯から初春の声がする

 

「どんな情報ですの?」

<件の結標淡希なんですけど、どうも自分の身体を連続移動させる術はないみたいなんです、書庫(バンク)に記録がありました。どうやら、二年くらい前に暴走事故を起こしたみたいですね>

「それがどうしたんですの?」

 

電話の向こうでカタカタとキーを叩く音が聞こえる

少しして、また声が聞こえた

 

<なんでもその後で、校内カウンセラーを頻繁に使用してるんです。もしかしたら、一種のトラウマになっているのではないのでしょうか。自分を移動させる実験ではいい結果を出せず、無理して体調崩したことも少なくないようです。肉体移動一回につき、決死の覚悟一回って感じですよ。漫画やゲームのラスボス戦くらいの>

「つまり、連続で移動などすれば、それだけで精神が擦り切れてしまう…そんな感じですわね」

 

正直、初春のたとえは分からなかったがきっとこんなんであってるだろう

 

確かにあの時戦ったとき、自分を飛ばしたところは見てないし、第一そんな事出来るならさっさと逃げてるはずだろう

壁も道路も無視して移動できるなら普通の追跡方法では捕まえることはできないのだから

 

黒子だって精神状態で強さが揺らぐ

そのトラウマを掘り起こすことが出来れば、勝利に近づけるかもしれない

 

(…それにしても、あれだけの能力者が、わたくしと同じレベルどまりなのは…やはりそのトラウマのせい…?)

 

苦い感想と共に、黒子は空間移動をし―――ようと思ったとき、視線の先に誰かがいるのに気が付いた

その男の名前は、神代ツルギだ

 

「初春、ちょっと失礼」

 

黒子は初春に断りを入れて携帯を切った

 

そして改めて彼の姿を見て黒子は息を吐いた

これ以上、彼を巻き込むわけにはいかない

 

「なんでここにいらしたんですの、ここから先はわたくしの戦いですのよ?」

「いいや、俺たちの戦いだぞ、〝白井〟」

 

黒子は一瞬、彼の言動に違和感を覚えた

そう感じた思考を振り払い、改めて黒子はツルギに向きなおる

 

「貴方は一般人ですのよ、それに貴方は巻き込まれただけなんですから、これ以上首を突っ込んでこないでください」

「―――御坂もそうだが、白井よ、お前も人を頼る事を覚えた方がいいぞ」

 

小さい笑み交じりでツルギはそんな事を呟いた

彼はゆっくりと黒子の前に歩いていき―――真っ直ぐに彼女を見る

 

「それに、お前ひとりで行っても、結標は何とかなるだろう。しかし、その近くにいるメモリ使用者はどうするつもりだ」

「そ、それは―――」

 

いけない、全く考えてなかった

そうだ、仮に結標淡希を倒せても、ガイアメモリを使うあの男は太刀打ちできない

 

「て、ていうか、なんで貴女があの女の名前を知ってますの? もしかして―――」

「あぁ、初春の力を借りた。最も、彼女にも無理をさせてしまったが」

 

言葉と共に黒子は頭に手をやる

そして初春…なんて毒づくともう一度ため息をついた

 

「…けれど、どうして貴方はここまでわたくしを助けますの。言ってしまえば、わたくしと貴方はただの友達―――」

「それ以上に理由などいらないだろう。俺たちは、友達だ白井」

 

友達、ですか

彼の言葉にそう返しながら黒子は今度は苦笑いをした

 

「貴方はぶれませんわねぇ、神代さん」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている」

 

ふふん、とツルギは胸を張る

黒子はなんとなく、帰ってくる言葉は分かってるけど、それをあえて口にした

 

「誰、と申されましても」

「ならば仕方ない、今一度、記憶してもらうぞ」

 

彼は笑みを浮かべると、想像通りの台詞を口にした

 

 

「―――俺の名前は神代ツルギ。その名の通り俺は神に代わって、剣を振るう男だ」




第三回目はこちら

仮面ライダー響鬼
ハード PS2

対戦格闘アクションゲーム
特徴は〝少年よ〟、と〝輝〟の入ったスペシャルな太鼓の達人ディスクがついている
しかしこの二曲しかないので注意

そして音撃を叩きこむシーンでは実際にタタコンを使って打ちこめた…と思う(自分の家にタタコンはあるにはあるが壊れて動かないのでうろ覚え)

本編ではあまり見せ場がなかった裁鬼さんとか使えるよ!

そして二人プレイ限定ではあるが魔化魍同士でド突き合う魔化魍対戦モードも搭載

しかしやり込み要素は少なめ、ぶっちゃけ1Pバトルモードと1Pきよめモードやりまくれば全部出る

今回はこんな所で

ではでは

…アラタの出番ないかもね


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#43 やるべきことを

どうも、桐生どす
まぁいつも通り

次回の黒子対結標の部分はあんまり変わんないから要所ダイジェストになるかも
下手な自分を許してくだせぇ…
その分サソードを活躍させたい…なぁ

どうでもいい余談
ロストデイズというドラマをちょくちょく見てます
意外にライダー俳優多し(キバ、メテオ、ダブル(左))
翔ちゃんの演技に普通に引く(いい意味で)

ではどうぞ


結局、ツルギも一緒に行動することになった

やれやれと言った顔つきで黒子は彼の手を取り、空間移動で開始した

おおよそ八十メートルほど進んで、地面に足をつけて、また目的地を定めて連続的に移動する

今、黒子の身体は全快とは言えない

だからこういったときに自在に自分の身体を連続で高速移動できるこの能力が頼もしい

 

(結標の場合は、わたくしと違って〝遠く離れたもの〟を転移できる反面、その分計算式が複雑で面倒ですのね。わたくしは〝手元にあるもの〟しか転移できませんけど、その代わり移動前の座標を計算する必要がないですし)

 

そんな事を考えながら連続的に彼女は空間移動をしている―――そんな時、より明確な指針を得る

 

ドォン! とどこかで、落雷みたいな音が耳に届いたのだ

 

黒子は止めって、夜空を見る

それに釣られツルギも空を仰ぎ見た

 

「白井、これはまさか」

「えぇ…そのまさかですわ」

 

空は美しい星々があり、別段濁ってなどいなかった

都心に比べると基本時刻が学校に合わせているこの学園都市は日が落ちるとさっさと表から明かりが消えていく

故に、この澄んだ空から落雷なんてありえない

 

<白井さん、第七学区の一地区で能力者による大規模な戦闘が発生しました、結標の予想ルート上です!>

 

その予感を裏付けるようにもう一度雷が迸る

断言していい

 

「―――お姉様!」

 

そう叫んで進路を変える

不要に美琴の前に己の姿を晒すのは気が引けるが彼女が何者かに襲われている所を想像すると居ても立ってもいられない

 

途中、人の目が気にはなったがそれらを一切無視し、とにかくツルギと共に先へと進む

その雷撃の音源からちょうど四角になるビルの角から顔を出し、向こうを窺った

同様にツルギも彼女の隣に行き、僅かに顔を覗かせる

 

 

一言で表すなら、戦場と言った所だろうか

たった一人の女の子が作り出す、戦場

―――違う、その女の子の隣に、一人の少年もいる

 

場所は建設途中の廃ビルだ

何日か前に鉄骨が崩れて事故が起きた場所でもある

壊れて邪魔になった鉄骨を覗いて残った部分の強度を検査し、再び組み上げた所…と記憶している

 

そのビルの入り口にマイクロバスが横倒しになっている

ガラスは割れて内装は舞い飛んでいるが、その中には誰もいない

 

乗っていたであろう人々はみんな建設途中のビルの中にいる

そこらにある鉄骨が盾になってくれるように願いながら

潜んでいるのは大小合わせ約三十人弱、武装しているものもいれば、能力者もいた

 

(…白井、見えるか、あの銃を)

(えぇ、覚えていますわ、確か貴方がド突きまわした連中が持っていたのと同じですの)

 

デザインはもちろんの事、構え方まで完全に一致だ

対する美琴はそのバスの横にただ立っており、その傍に鏡祢アラタもバスに背を預けていた

彼は腕を組んではいるものの、いつでも動き出せるように視線は一点に向いている

 

その構図を見れば件の〝残骸(レムナント)〟を外部組織に引き渡そうとしているヤツらなのだと推測できる

どう言った経緯を持って能力者が離反したかはわからないが

そしてそこには見知った顔もある

 

結標淡希と、サングラスの男だ

美琴らの前には特に遮蔽物も何もない

飛び道具を持つ連中を相手に、近くのバスを盾にしようともしていない

―――否、必要がないからだ

常識を考えれば、それはあまりにも無防備な状況だろう

 

しかし、超電磁砲(レールガン)―――御坂美琴はその常識さえも吹き飛ばす

 

彼女の指から、閃光が疾った

 

音速の三倍の速度で放たれたコインは柱になっている鉄骨を貫き、銃を構えた男たちは弾け飛ぶ破片で薙ぎ払われ、上階で美琴らの頭上を狙っていた連中は支えを失い真下へと飲まれていく

 

運よく彼女の雷撃から逃れた残り物能力者たちが一斉に美琴に襲い掛かり、巻き返しを図ろうとした、が連中が動くより先に隣の男が動いていた

 

鏡祢アラタ

 

相手が能力を発動するより早く腹部に拳を叩きこみ、風力使いらにはその男を盾代わりにし攻撃を封じた隙に顔面に蹴りを叩きこむ

そして彼を狙って放たれた念力使いの木の杭は護身用として持っていた警棒―――トライアクセラ―によって叩き落とされがら空きとなった身体に飛び蹴りを叩きこまれた

 

そして一言

 

「出てきやがれ、この卑怯者」

 

彼の言葉に続くように美琴もアラタの隣に歩いてくる

 

「仲間をクッションにするなんて、関心できないわね」

 

ある一点を見据え、侮蔑を孕んだ言葉をぶつける

 

「仲間の死は無駄にはしない、なんて美談はどうかしら」

 

答える声は、まだ余裕を保っていた

白いキャリーケースを片手に口元に笑みを浮かべ、結標淡希は鉄骨を組んだ足場の三階部分に現れる

結標の周囲には美琴の電流を浴びて気を失ってる男たちが転がっている

恐らく、美琴の攻撃の際に自分の付近へと転送し、そのまま〝盾〟にしたのだろう

そして無造作に盾としていた一人を適当に蹴っ飛ばし、サングラスの男が出てくる

 

「…まったく、悪党は言う事も小さいわね。何、この程度で逃げ延びたと思い込んでるの?」

「まさか。貴女が本気を出していたらここら一体は壊滅してるでしょうし、そこの連れの男性にも殲滅されているでしょう。…まあ、だから何なのか、と言った所だけど」

 

結標はケースを固定して、それに腰掛ける

そしてそのまま

 

「…それはそうと、随分焦ってるのね。そんなに残骸(レムナント)を組み直されるのが怖いのかしら。それとも復元された樹形図の設計者を世界中に量産、流通化される事? もしくは、その内の数基かで実験が再開される事かしら」

 

美琴の前髪あたりで火花がバヂリと迸る

そんな彼女を抑えるようにアラタがジロリ、と彼女を睨み―――

 

「黙ってろ」

 

明らかに怒気を孕んだ声色でそう一喝する

それに対して結標は座ったまま、軍用ライトを下から振るうだけだ

 

(―――)

 

黒子は様子を伺い、二人が対峙している相手が結標都サングラスの男なのだと悟る

彼らの因縁がどうあるかは分からないが、敵対しているのかは間違いなさそうだ

 

「弱いものなのど放っておけばいいのに。そもそも、貴女たちが大切にしてるあれらは〝実験〟の為に作られたんでしょう? なら本来通りに壊してあげればいいのに」

「―――本気で言ってんの」

「本気も何も、貴女たちは自分の為に戦っているのでしょう。私と同じように、自分の為に力を振るい、他の人を傷つける。別にそれが悪いことだなんて言わないわ。自分の中にあるものに対して、自分が我慢する方がおかしいのよ。違うかしら」

 

仲間を盾にする目の前の女は嘲るようにそう言った

結局の所、私利私欲のためにその力を行使しているのだと

私たちは同類なんだから、どちらかが一方的に憤るのはおかしいのだ、と

 

「―――そうね」

 

それに対して、御坂美琴は小さく呟いた

 

「えぇ、確かに私は怒ってる。頭の血管が切れそうなくらい怒ってるわ。例の残骸掘り起こそうとしたり、自分の為にそれを強奪しようとするやつが現れたり、またこんな事にアラタを巻きこんだり、やっとの思いで治めた実験をまた蒸し返されそうとされたり。確かにそれは頭にくるわ。―――でもね」

 

少し間をおいて、御坂美琴は口にする

自分が一体、何のために怒っているのかを

 

「一番頭にきてるのは、この件に私の後輩を巻き込んでしまった事。その後輩が医者にも行かないで自分で下手な手当てをして、なおかつまだ諦めていない事! あまつさえ自分の身を差し置いて私を案ずるような言葉吐いて!!」

 

黒子の胸が詰まる

今ここに黒子がいることに、御坂美琴は知らないハズだ

なら、その声は誰に言っているのか

今、彼女は

 

何のために動いているのか

 

「えぇ! 私は怒ってる! 完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と! それを傷つけた目の前の女と! この状況を作り上げた自分自身に!!」

 

美琴は睨む

 

「この一件が実験の発端だというのなら責任は私にある、後輩が傷ついたのも、あんたが後輩を傷つけてしまったことも、全部私のせいだというのなら。私は、全力でアンタを止める!」

 

そう言いつつ、彼女は横目でちらりとアラタを見て

 

「…本当は一人で行こうと思ってたんだけどね」

「…ん? どうした?」

 

いつも通りのやり取りに美琴はなんでもない、とため息を吐きながらも、少しではあるが安堵している

底抜けに優しい男の善意に今回は肖ろう

理由も聞かずにそばにいてくれる、この人の善意を

 

そして改めて結標と、サングラスの男を視界に入れた

そんな二人の視線を前に、まだ結標は笑っている

 

「本当に優しいわね。素直に自分も被害者だと嘆いていれば、戦わずに済んだのに」

「けど、アンタが戦うきっかけになったのが実験のせいなら。絶対能力進化実験(レベル6シフト)や、量産能力者実験にしても」

「やはり、倒された仲間から私の理由を聞いていたのね。ならわかるでしょう? 私はここで捕まるわけにはいかない。―――意地でも逃げ延びさせていただくわ」

 

最後の言葉だけ、声のトーンが本気だった

対するアラタは

 

「お前の力で、美琴から逃げ延びれるかな」

「あら。確かに雷撃の速度は目に止められないけど、それだけよ。前触れを読み、それに合わせて―――」

「無理ね」

 

その問いに美琴は一言で切り捨てる

 

「アラタは初めてかもしんないけど、〝私はアンタとぶつかるのは初めてじゃないでしょうが〟気づいてるくせに。アンタの能力にはクセがあるのよ、何でもかんでも飛ばせるくせに、自分の身体だけは移動させない。まぁそうよね、ビルの壁の中や道路の真ん中にでも移動してしまったらお終いだもの。誰かを犠牲にしてでも救われたいアンタにとっては、万が一でも自滅する可能性は廃したいって所かしら」

 

「―――」

 

結標淡希は答えない

 

「…もしかして、私が今まで気づいていないと思っていたの? 散々周りの奴や看板飛ばして利用しておいて自分だけ飛ばないなんて状況、違和感持って当然じゃない。…ていうか、これだけ不利な状況になればふつうなら逃げに徹するでしょう。出し惜しみなんかじゃない、アンタに余裕がないことくらい誰だってわかるわ」

 

結標は薄く笑う

しかし、その指先は僅かばかりに震えている

幸いにも、本当に凝らさないと分からないほど微弱だが

 

「他人を飛ばすのは躊躇わない。けど自分を飛ばすのなら話が違うんじゃない? 計算式に間違いがないかを確かめるのに、少し時間がかかるとか。二~三秒ほどね」

 

それで、と美琴は言葉を区切る

 

「そのくらいの時間で、何発撃てると思う?」

「―――書庫にそこまで情報が記載されていたかしら」

「同じ答えを二度言わせるな。アンタのツラと戦い方見てたら予想できるわ」

 

その問いに結標淡希は笑みを作る

揺れる足が鉄骨の足場に届く、ケースから身体を離し、優雅に彼女が立った

 

「―――ですけど」

 

自分以外なら、その女は飛ばすことを躊躇わない

 

その一言と共に結標淡希の眼前に十人前後の人間が飛ばされる

美琴やアラタの攻撃を受けて気を失った人たちだ

それはいわば、人を用いた盾

 

「盾にしては―――穴だらけね!」

 

しかし美琴は止まらない

人の身体というのは、そこまで平じゃない、どうあがいても僅かばかりの隙間が生まれる

彼女はその間を貫こうとしている

美琴が掌で高圧電流を生み出す傍ら―――

 

「問題」

 

結標の声が響く

 

「この中に、〝私たちとは関係ない人間〟は何人混じっているかしら?」

 

な、と美琴は一瞬のその動きにブレーキをかける

そのためらいは結標にとってのチャンスであった―――が

一人、迅速に動く影があった

 

すでに目星をつけていたのか、彼は気を失っている男のホルスターから瞬時に銃を引き抜き、それを構えた

走りながらにして、男はその姿を二本角の緑の姿へと変わっている

結標はギョッ、とした

しかしここで躊躇えば、せっかく時間を稼いだ意味がなくなる

幸いに件のサングラスの男はあえて盾に使用し、気を失っている奴らの一人だ、と思いこんでいるはずだ

 

だから、結標はそれを実行する

 

刹那、風の一撃が彼女の頬を横切るのと、彼女が飛んだタイミングはほぼ同時

 

それを見届けて鏡祢アラタ―――緑のクウガは膝を付く

珍しく超感覚をフルで使った

普段は抑えているせいで僅かばかりに時間が伸びてはいるのだが、本気になると五十秒弱持つかどうか

 

「悪い、美琴。間に合わなかった」

 

彼は変身を解きながら美琴にそう謝罪する

美琴は彼の元へ駆け寄りながら申し訳なさそうに

 

「ううん。…ごめん、私があんな下らない言葉遊び見抜けていれば」

 

先ほどの人の盾に、関係ない人達なんていなかった

結標の言葉遊びに騙されたのだ

 

「気にするな。―――まだ負けてない」

 

そう言いながら、彼は少しだけちらりと、ある所を見た

そして―――ばっちりと黒子と目が合う

 

白井黒子は一瞬声が出そうになった

どういう事だ、と考える

まだ自分たちはここにいることを知られてはいないはずだ

 

黒子が狼狽えるのも無理はない

碧のクウガによる超感覚―――それにより、アラタはおおよその位置はつかめていたのだ

確認がてらちらりと視線をやったら案の定居ただけの事

彼女の後ろにいるツルギに向かって、彼は少しだけ指を動かす

 

それに釣られて、ツルギはその指の先を見る

そこに気を失っているふりをしている、件のサングラスの男

ツルギは黒子に悟られないよう感謝の念を込めて両手を合わせた

一方で、ようやく落ち着いた黒子は先ほどのを多分偶然だと強引に納得させる

 

「…ここからは、わたくしたちの出番ですわ、神代さん」

「あぁ。白井は結標を追ってくれ。俺はここにいるサングラスとケリを付ける」

「? その男がこちらに? …いいえ、聞くだけ野暮ですわね、とにかく、任せましたわ」

 

一つ、決意を込めるように黒子は息を吐く

そして、

 

「ご武運を」

「お前もな」

 

最後に一つ、お互いの拳を軽くぶつけると、黒子は虚空へと消えた

そしてツルギはヤイバーを手にし、アラタと美琴がそこから結標を探しに歩き去った時、声を響かせる

 

「―――いつまで、寝ているつもりだ」

 

今もなお、気を失ったフリをするサングラスの男に向かってそう言い放った

一瞬訪れる静寂

やがてゆっくりと気を失っている男たちの中から一人の男が立ち上がる

男は気怠そうにサングラスをかけ直した

 

「…いつ、気づいた」

「それをお前に言う義理はない。いつぞやの借りを返しにきたぞ」

 

その言葉をあざ笑うようにサングラスの男は声を出す

 

「はっ、勇ましいことだ。この件に、全く他人の分際でよくもまぁ…」

「他人ではない」

 

男の言葉をツルギは遮る

 

「あぁ、確かにオレと白井は全く別々の道を立っている。おそらく、今後それが交わる事はないだろう」

 

しかしな、とツルギは言葉を区切り

 

「オレの友がよく言っていてな、別々の道を歩いていけるのが友達だ、と。友を助けるのは、人として当然だ」

「―――おうおう、言うねぇ」

 

<SCRPIO>

 

その言葉を聞いた男はゆったりとメモリを取り出し、それを起動させ自身の姿をスコルピオドーパントへと変化させた

同じように、ツルギはそれを見届けてヤイバーを逆手に持ち、す、と前に突き出す

 

<Standby>

 

そんな音声と共に地面から一匹のサソリのようなロボットが飛び出してきた

自分の所に飛んでくるそのサソリ―――サソードゼクターをキャッチし―――

 

「変身!」

 

その一言と共に、ヤイバーにセットしゼクターニードルを押し込みマスクドの過程を省略する

 

<HENSIN>

 

そんな電子音声が響き、ツルギの身体を鎧が包み込んでいく

やがて全身を包み込み、暗闇に緑色の複眼が発光する

 

「お前には名乗っていなかった。故に、名乗りを上げよう」

 

サソードは持っているサソードヤイバーを突きつけ

 

「オレの名前は神代ツルギ。…貴様に敗北を刻みつける、男の名前だ―――!」

 

そう言葉を吐き、真っ直ぐサソードはスコルピオに向かって駆けだした




第四回目はこちら

仮面ライダークウガ
ハード プレイステーション

仮面ライダークウガをゲーム化したもの
それなりにコンプ要素もあるので結構楽しめる
しかしその一方でキャラ性能が激しい(特にタイタンのカラミティタイタン)

ゲームやったことなくてもタイタンで〇ボタン押してればだいたい勝てる(まぁうまい人には通じないかもしれない。しかしCPUには負けないだろう)

そしておそらく、一番最初に〝凄まじき戦士〟を使えたであろう作品だ

今回はこんな感じで

ではまた次回


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#44 決着

フレッシュオレンジキュアガイム

…いえ、言いたかっただけです
大橙二刀カッコいいな

次回でレムナントは終了(そしてすごく短くなると思う)
ようやく劇場版より彼女らの出番が来るよ
多いかはどうかは定かじゃないけどね!

あと今回すごい登場が熱望されてたライダーが出るよ
立場とかはみんなが思ってるのと違うかもだけどね!
故に先に謝る、申し訳ない

こんなではありますが暖かく見守りください

ではどうぞ


急がないと

 

真っ暗になっている病室の中、御坂妹は起き上がる

彼女は平たく言えば電気を扱える能力者であり、同時に同じ波長の脳波を持つものなら電気的な通信を行える

他の妹達(シスターズ)の多くは学園都市の外の施設を利用しており、学園都市に残っているのはごく少数だ

 

(―――では、再確認します、とミサカ10032号はネットワークを介してみんなの記憶情報の最適化を実行します)

 

彼女はベッドの近くの棚に置いてある特殊ゴーグルを掴む

 

(現状、世界八か国と十九の組織が宇宙開発という名目でシャトルの打ち上げを実行、もしくは計画しているのは衛星軌道上に浮かんでいるであろう樹形図の設計者の残骸を入手するためである、という事で間違いありませんか、とミサカ10032号は確信を得るために質問します)

 

それが事実ならば、その樹形図の設計者が組み直されようとしていて、そしてそれをするために必要な残骸を巡ってトラブルが発生している

世界で最も優れている演算装置の修復は、ある〝実験〟の再開を意味している

 

とある少年たちと少女と、青年たちが必死になって止めてくれた〝実験〟の

 

―――セビリアで同様の動きを確認、とミサカ10884号は肯定します

―――シュレスウィヒで確認、とミサカ16770号も報告します

 

ベッドから足を下ろした御坂妹の脳内に様々な声が響き渡る

世界各地の研究機関に預けられ、治療を受けている同型の妹達(シスターズ)

様々な情報が無数の意見に御坂妹は奥歯を噛む、どれもよくない情報ばっかりだ

もう答えを得た情報を何度も確認するその作業は上段であってほしいという願望が含まれてはいるのだが

 

(…すでに外出禁止時間ではありますが、そうも言っていられません、ともミサカは自分に言い聞かせます)

 

御坂妹は寝間着に手をかけ、それをストン、と地面に落としタオルを用いて自分の身体を拭いていく

タオルから伝わる自分の体温が平常より少し高い

体調不良で若干ながら微熱を伴っているのだ

少しふらつきながらも普段着ている常盤台の制服へと袖を通す

そして軽く準備運動を済まして出口をちらりと見つめる―――しかし首を振って窓の方へ駆け寄った

 

 

「ふぃー」

 

夕食を食べ終えてインデックスと入れ替わる形でお風呂にも入り終えた当麻は後はゆっくりのんびりしていようと考えていた

しかし唐突になったチャイム音でその平和は終わる

 

扉の前に立っていたのは黒い長髪の女の子だった

首には何かネックレス的なのをかけており、頭にはなんか角みたいなカチューシャをしている

そして極め付けにはその服装だ

上から下まで黒いワンピースと真っ黒づくめだったのだ

そしてそんな彼女を知っていたのかパジャマを着たインデックスが彼女を見つけた瞬間に笑顔になったのだ

 

「みのりー!」

「あ、インデックスだ! やっほー!」

 

お互いに名前を呼び合って駆け寄ってくるインデックスと抱き合う二人

そんな仲睦まじい様子を茫然と見ながら当麻はインデックスに向かって口を開く

 

「えっと。知り合い?」

「うん。ともだちなんだよ」

 

さいですか、と当麻は答える

それと同時にどこか当麻は安堵していた

自分を経由しない、友達が出来ていることに

もしかしたら彼女はアラタ経由なのかもしれないが、それでもだいぶ進歩したと思う

 

「ねぇとうま」

「うん? なんだインデックス」

「みのりと一緒にげーむやっていい? 二人でできるのあったよね?」

「おお、いいぞ。待ってろ、今テレビと繋げるから…」

 

快く了承しながら当麻は居間へと戻り、ゲーム機とテレビを繋げる

その間もインデックスとそのみのりは楽しそうに話を続ける二人に思わず小さく微笑む

やがてつつがなく接続は終わり、楽しそうにインデックスとみのりはゲームを開始した

 

「―――えっと、みのり、さんだっけ」

「うん。あとみのりでいいよ。私もトウマって呼ぶから」

「ん、そうか。じゃあみのり、そう言えばなんで俺の部屋に?」

「アラタに言われたんだ。今日はちょっと出かけるからその間、俺の友達の部屋にいなよって」

 

と、なると今現在アラタは部屋にいないのだろうか

自分も結構アラタの知らない所でいろいろ巻き込まれてるが同様にアラタも何かに巻き込まれているのだろうか

 

「ちなみに割と不幸ってことも聞いてます」

「…余計な事を」

 

しょうもない事を教えた親友を軽く恨みつつ小さく当麻は溜め息をした

と、そこで一つ疑問を覚えた

…あれ、アイツはいつこの子と交流を持ったんだろうか

 

「…ごめん、念のためにフルネーム教えてもらえる?」

「え? 鏡祢みのりだけど…それがどうかしたの?」

「…いや、その…妹さん」

「違うよ? なんて言うのかなぁ…戦友? それでいて義妹みたいな」

 

…まぁ、アイツもいろいろあったのだろう

深く聞くのもアレなのでそう納得することにした

 

と、そんな時インターホンの音が鳴った、と思ったら即座に部屋のドアが開く

玄関にいたのはミコトによく似た女の子だった

しかし普段の彼女がつけているはずがないヘッドギアを頭に装着しておりその顔はどこか赤い

息を切らした彼女は、真っ直ぐ上条当麻を見た

そして口を開く

 

「お願いがあります、とミサカは、貴方を見て心中を吐露します」

 

言葉の通り、彼女は告げる

 

「ミサカと、ミサカの妹達の命を助けてください、とミサカは貴方に向かって、頭を下げます」

 

当麻は、特に疑問を抱かない

故に、彼は一言

 

「―――あぁ、分かった。話を聞かせてくれ」

 

そう言って先を促した

 

 

ガキン! と何もない闇に響くのは鉄と鉄がぶつかり合うような音

一人は素手で、一人は刃を振るっている

素手の方の名前はスコルピオ、刃を持つのは、仮面ライダーサソード

 

互いの力をぶつけているの中で、スコルピオは目の前の男のこの戦闘力に内心驚いていた

 

(―――何がどうなってやがる!? こいつ、ここまで手強かったか!?)

 

そんな思考の傍らで、スコルピオは胸部を斬りつけられ、大きく後ろに仰け反った

自分が作り出したその隙を逃すはずもなく、サソードはさらに大きくその場で軽く跳躍し、さらに胸部へドロップキックを叩きこんだ

 

「―――どうした、その程度か」

 

余裕を見せたのか、サソードは地面に着地をしながら左手で軽くちょいちょい、と手を動かして見せた

その行動がスコルピオの逆鱗に触れたのかは分からない、がいずれにしても逆上するのには十分だったようだ

 

「調子に―――乗ってんじゃねぇぞクソガキがァァァァァッ!!」

 

激昂し、スコルピオは自分の頭にある弁髪状の鞭を展開させサソードを拘束しようと伸びてくる

それに一度驚いたサソードはすかさずにサソードヤイバーを持ち直し、その鞭を斬り捌く

その鞭に気を取られ、足を絡め取られた

 

「しまっ、のわっ!?」

 

そのまま勢いよく引っ張られ、地面を引きずられる

がりがりと、背を削るような音と共にスコルピオの足元に来た瞬間に先ほどの礼だと言わんばかり胸部を踏み抜かれる

 

「あっ、ぐぅぅっ…!!」

「おら、どうだクソガキ…! あんまり調子乗ってると、このままぶち殺すぞ、あぁ!?」

「―――ハッ、想像以上に、短気だなお前は」

「…は?」

 

ぐ、と足に力を入れながらスコルピオはイライラを隠さず口にする

対してサソードは乗っけられているその足を掴む

 

「そんな短気では、任務や、依頼に支障をきたすのではないか?」

「テメェに言われる筋合いなんざねぇんだよ!!」

 

さらに強く踏みつけるべく、乗せられた足の力が一瞬、緩くなる

その一瞬、僅かではあるがその一瞬をサソードは逃さない

掴んでいた手に力を込め、バランスを崩すようにその足を自分の右側へと引っ張った

タイミングを崩されたスコルピオは態勢を崩し、地面を転がる

 

<FULL FORCE>

 

同じようにサソードも地面を転がって逆に態勢を持ち直した

一つ、息を吐いて調子を整える

 

「この…ガキィ…!」

 

完全に相手は怒っている

コレだ、冷静さを欠いたものは、攻撃が単調になる

スコルピオは咆哮しもう一度サソードを捉えようと弁髪状の鞭を伸ばしてきた

しかしサソードもそう何回も喰らうほど馬鹿ではない

自分に向かってきたその鞭を、サソードは手で逆に絡め取る

 

そしてそのまま、思いっきり自分の所に向かって引っ張った

 

「な!? がぁぁぁっ!?」

 

中空を舞い、スコルピオはもう一度地面を転がった

 

「借りは―――返す」

 

サソードはスコルピオを見つめ改めてヤイバーを持ち直し、ゼクターニードルを操作した

 

「―――ライダースラッシュ」

<Rider slash>

 

サソードヤイバーにエネルギーが込められる

纏われた血を払うようにヤイバーを構え―――スコルピオに向かって駆けだした

同時にそれに気づいたスコルピオも身構えたが―――サソードの刃が早かった

 

 

 

一閃

 

 

 

真っ直ぐ横一線に振るわれた剣はスコルピオを斬り裂き、確実なダメージを与える

同じようにサソードの背後で爆発が起きているのを感じていた

 

しかしもうすでに意識はそこになかった

神代ツルギは空間を移動する術を持たない

故に、今は死力を尽くして戦っている彼女を信じて待つだけだ

無事でいてくれ、と口の中で小さく呟きながらサソードは歩き出す

 

一つ、何かを忘れている気がしたが今は白井黒子の事が気がかりだった

 

 

結果を言ってしまえば、白井黒子は負けはした

負けはしたが、過去のトラウマをついて結標に精神的にダメージを負わせることには成功した

それで同等、かは分からないが

 

しかしそれでも、結標が所持していた拳銃に撃たれ、黒子は地面に倒れ伏してしまった

その後、結標は幾度か絶叫しその顔色を憤怒に変えはっきりとわかる殺意をぶつけた後、黒子に歩み寄ろうとした、がパトカーのサイレンに結標はその行動をやめた

 

「―――助かったなどと思わない事ね、何があっても私は貴女を殺す。千キログラム以上は身体に障ると止められているけど、私の座標移動の最大重量は四千五百二十グラム…、逃げながらでも叩きこめるわ、このビルごと巻き込んで、貴女を破壊してあげる―――!」

 

そう言い残し、取っ手の壊れたキャリーケースを掴んで虚空へと消えた

 

ここにいれば、結標の攻撃が襲い来る

自分の身体に支障をきたしてまで、自分を殺そうというのだ

逃げないといけないのに

 

「…おねえ、さま…おにい、さ、ま…」

 

小さく呟いたその言葉は闇の中に消えていく

それでも

 

「…」

 

ぐ、と黒子は指先に力を込めた

僅かに動いたがそれだけだ、腕も、足も動かない

ここから逃げることはままならない、完全に詰みだ

結標の攻撃がいつ来るかは、分からない

彼女の力は壁などの障害物を無視できる代わり、自分の足を残さないようにしなければならず、移動先にはとても慎重になっているだろう

それでも、五分後か、或いは五十分後か

 

(情けない、ですわね。一体わたくしはどれだけの方々に頭を下げれば済みますの)

 

その相手として、黒子は一人、御坂美琴の姿を思い浮かべる

風紀委員の同僚としてある事件以降慕っていた鏡祢アラタと違い、彼女と知り合ったのは本当に、常盤台に入学してからだ

その時は、ただ学校の中で合わせる顔を合わせる間柄

それだけで思い知らされた

 

礼儀、作法、教養、誇り

 

そのすべてを、日常で思い知らされた

上っ面を真似ていた自分とは大違いだと、今でも思う

 

ぴしり、と空間が音を立てた

恐らく、後数十秒もしない内にこの空間は潰されるだろう

 

(…死にたく、はないですわねぇ)

 

ぼんやりと、彼女は思う

同時に、届かないと分かりながらも彼女たちに強く願う

 

(…どうか)

 

黒子は今動けない

けれど、誰かの支えがあれば動くことが出来る

そう、誰かが来れば

 

(…どうか)

 

彼女は祈る

最後の最後まで

 

(少しでも、ここから離れて―――巻き込まれないで…)

 

そう、切に願った

 

願った、はずなのに

 

カンカン、カンカンと聞こえてくる

 

「っ!?」

 

その足音は非常階段を駆け上がってくるものだ

足音だけでない、電気の火花を鳴らすような音さえも

 

(…いけない…!)

 

動けない黒子は、彼らを止めることは出来ない

だから、代わりにその口を動かした

 

「いけません! ここに来てはいけません! これからここに特殊な攻撃が来ますの! このフロアから、いいえこのビルから急いで離れてください!」

 

血まみれの床の上で黒子は叫んだ

この完璧すぎるタイミングに涙を零しそうになりながら

ミシリ、ギシリと黒子の周りの空間がきしんでいく

予兆か、合図か

いいや、この際そんなのどちらでもいい

 

(…マズ…!?)

 

内心、焦りながら黒子は思う

彼女は空間転移を用いてこのフロアに来たが少なくとも彼らの足音は残り数十秒じゃたどり着けない

結標淡希がどんなものをここに転移させてくるか分からないが、四千五百二十キログラムがここに襲い来ればこの建物を完全に破壊させかねない

 

それだけは絶対にダメだ

 

ほとんど泣きそうな顔で、黒子は声を張ろうとする

瞬間、グワ、と部屋中の空気が歪んだ

攻撃が、始まる

 

「―――!!」

 

黒子は歯を食いしばり、力を込めた

だけれど、力は入らない

悔しい、なんでもっと力がないのだ、と黒子は自らを悔いた

そもそも結標に敗走しなければこんな事にはならなかった

 

それでも黒子は祈るのをやめなかった

こんな時、奇跡が起こって大切な少女たちが助かって―――

 

刹那、祈りが通じたように、ある黒色の弾丸が床から天井へと突き抜けた

その一撃が、あるものを用いて放たれた弾丸とは黒子は知らない

建物全体が振動する

床には穴が開き、直線状の全てを凪ぐその一撃

 

「美琴! 足場を!」

「えぇ、お願い! アイツを連れ戻してちょうだい!」

 

聞き慣れたその声色

何を弾にしたかは分からないが、御坂美琴が開けた風穴から、青い人影が一人の少年を担いで跳躍して着地する

その風穴をなぞるように、彼が飛びやすいように小さい足場を作り、それを蹴って青い人影―――青のクウガは上条当麻を抱えて現れた

そう、普通に階段を使っても間に合わなければ普通に登らなければいい

 

無茶苦茶すぎるショートカットをして、地面に立った一人の男は静かに右手を握りしめる

そして目の前の異常に己が幻想殺し(こぶし)を打ち付けた

 

不思議なことが起こった

たわんでいた空間自体を平らに治すように

普段計算式を意識してる黒子だからこそ、目の前の異常がよくわかる

茫然としている黒子に向かって、ふと上条当麻は

 

「あー悪い。今回は事情がよく吞めないまま突き進んじまったから。途中でアラタと御坂に合流してなかったらヤバかったし。―――つうか、お前大丈夫か!? アラタ、白井が!」

「あぁ、今確認した。…ったく、無茶しやがって。―――いや、押し付けたオレも悪いな。…本当にごめんな、黒子」

 

そ、と頭を撫でられて僅かに目尻が熱くなる

違う、別に貴方は悪くなんてないんだ―――

ふと、先ほどの風穴を見た

そこには美琴が走る姿が見えた

その後ろには、神代ツルギもいる

美琴は傷だらけの自分へと、泣くのを堪えながら

ツルギは生きている自分を見つけ、安堵したように微笑んだ

 

「―――さって。…お前の治療も先だけど、お前にこんな怪我を負わせたヤツをとっちめないといけないな」

 

そうだ、と黒子は思い出す

今現在ケースを持って逃亡している結標淡希の事を

黒子はアラタの顔を見た

彼は笑みを浮かべて

 

「あとは、任せろよ」

 

◇◇◇

 

浅倉涼はコンビニで軽くお惣菜を購入していた

長らく病院での生活を余儀なくしている知人に食事を届けるためだ

そんな一方通行(アクセラレータ)はある事情で少々出かけている

念のために彼の好物である缶コーヒーを購入するのも忘れない

最近のアイツは微糖だったかな、と意味のない確認を取りながらかごに入れていく

 

あの日以降

 

手塚はあれ以降運命を変える事に拘りを持つようになった

と言ってもあんなデカい運命など転がっているハズもなく、対戦ゲームとかでのどうでもいい勝敗についての運命やほんの数分先の未来を変えてやると顔には出していないが割と楽しそうに生きている

少なくとも、少しは笑うようになった

 

芝浦は不器用ながらに、人を助けることを覚えた

道の分からない人に道を教えてあげたり、風紀委員の掃除等を手伝ったり小さい事柄を文句を言いながらも実行している

そんな彼からつい最近、驚くべき言葉を聞いた

 

―――案外、悪くないかもね。ありがとうって言われるの

 

これには最初聞いた時、手塚も一方通行(アクセラレータ)も、当然自分も引いた

黄泉川愛穂なんか絶句していたほどだ

それほどにまであの探偵との戦いは彼の心境に変化をもたらしたのか

そして、彼はよく笑うようになった

 

それは自分も同じだった

手塚や芝浦と談笑したり、一方通行(アクセラレータ)と共に打ち止め(ラストオーダー)に世話を焼いたりと、少なくとも少なくともあの実験が終わってからはずっと笑うようになっていた

まぁ、一方通行(アクセラレータ)はいつも通りあんな感じだが

 

一通りおかずを購入して会計を済ませた浅倉は所用をしてるであろう一方通行(アクセラレータ)の所へとのんびり歩いていく

しばらくしてゴォンッ! とやけに大きい轟音が聞こえた

その音の方を見てみると中空から一方通行(アクセラレータ)が下りてくるのが見えた

やがて彼が地上に着地したタイミングを見計らって浅倉は声をかけた

 

「終わったのか」

「あァ、つつがなく終わったぜ」

 

気怠そうに首を鳴らす一方通行(アクセラレータ)

そんな様子を見て浅倉はそうか、と短く答えた

 

「んじゃ、さっさと帰ろうぜ。飯が冷える…いや、もともと冷えてるか」

「コーヒーはあるか。久々に動いたら喉渇いちまった」

 

そんな他愛のない会話をしながら、二人は病院に向かって歩いていく

その後ろ姿はどこか、温かさを帯びていた

 

◇◇◇

 

同時刻

 

サングラスの男は夜道を歩いていた

彼の手にはガイアメモリが握られている

そのメモリはサソード―――ツルギが破壊し損ねたものだ

爆散するのを確認しただけで、サソードはメモリの破壊を忘れてしまっていたのだ

 

「…くっそ、あのガキ…いつか殺す…!」

 

復讐心に駆られながら男は腹を押さえながらゆっくりと道を歩いていく

結標淡希の事などもうどうでもいい

もともと仕事上でのビジネスパートナーのようなものだ

あんな女がどうなろうともう知ったことではない

 

「ひとまずは体力の回復だ。…そして…そうだな、あの女を人質にでも―――」

 

そう思考しようとしたが、続かなかった

突如自分の元へ飛来してきた謎の生き物のようなものが自分に危害を加えてきたからだ

その〝青い二本の角〟を持ったそれは数発、サングラスの男に何発か身体を使った体当たりを繰り出した後、目の前に現れた男の手に掴まる

 

「がっは、誰、だ、テメェ!」

「―――名乗る義理なんてないよ。そうだね、アイテムの一人です、とだけ名乗っておこうかな」

 

まるで息をするような自然さで目の前の男はそう口にした

 

「貴方を潰すのが今回の僕の仕事。…恨みはないけど。恨むんなら自分がやってきたことを恨んでくれ」

 

そう言って男は何かを持った手をす、と降ろし呟く

 

「―――変身」

 

呟くと同時にベルトにそれを一気に装着する

 

<HENSIN>

 

若干、サソードのものとは音声が高い電子音が鳴り、男の身体を包んでいく

やがて全てが包み終え、闇夜の中に赤い複眼が点滅する

さらにもう一つ、アクションを加えた

 

ベルトにセットされたツールの角を開くように動かした

キュイン、というような音と共に身を守るように装着されていたアーマーが浮き上がっていく

そして、ホーンをさらに開き、一言

 

「キャストオフ」

<Cast off>

 

アーマーが弾け飛び、左右に倒れていたホーンが起立し、頭の定位置に収まり―――もう一度複眼が点滅する

 

<Change Stag Beetle>

 

サングラスの男は急いで手に持つメモリを起動させ、それを掌に差し込みスコルピオドーパントへと変える

―――しかし、青いライダーの放つその威圧感に圧倒されていた

今までは感じたことのない感情に支配されている

 

―――恐怖だ

 

青いライダーは肩にセットされてあるカリバーを抜き放ち一気にこちらに駆けだしてくる

負けじとスコルピオも青いライダーに向かっていき、攻撃するがその一撃はいとも簡単に避けられ、カリバーの一撃が胴を斬りつける

そのまま二撃、三撃、四撃、五撃と斬撃は続いていく

七度ほど斬りつけ、スコルピオをライダーは蹴り飛ばした

ゴロゴロと転がるスコルピオを見ながら、ライダーはゼクターのスイッチスロットルを三回連続で押す

 

<one two three>

 

そして開いたホーンを一度戻し

 

「ライダーキック」

 

そう呟いてまた開いた

 

<Rider kick>

 

右足にエネルギーが集まるの感じながら、さらにライダーは駆け出した

そしてスコルピオが起き上がったのを見計らい、その場で軽く跳躍し―――

 

「―――ふんっ!!」

 

飛び蹴りを喰らわせる

その蹴りを顔面に受けたスコルピオは大きく吹き飛ばされまた地面を転がりながら今度は爆発した

ライダーは変身が解けたサングラスの男の付近へと歩きながら気を失っているのを確認すると、メモリを踏みつぶす

 

そのまま変身を解除し完了、とだけ打ってメールを送る

あとは勝手にやってくれるだろう

この男が今までにどんなことをやったのかは知らないが、興味もないしどうでもいい

 

「…この後はなんもなかったかな。絹旗になんか面白そうな映画教えてもらおうかな」

 

そう言って教えてくれたのは全部B級映画なのだが

 

後にこのアイテム、という組織

もう一人新入りの男性が加入し、大きく運命が変わるのだが、それはまた別の話―――




第五回目はこちら

今回はゲームでなく登場怪人をアニヲタウィキから文を抜粋しつつ紹介します

「―――振り向くな!」

メ・ガリマ・バ(演:木戸美歩)

種族:グロンギ(カマキリ種怪人)
呼称:未確認生命体:第36号(B群6号)
身長:197cm
体重:178kg
専用武器:大鎌
※タイタンフォームをも凌ぎ、トライゴウラムアタックにも耐える身体能力を誇る

仮面ライダークウガに登場したグロンギ
「ゲゲル」の権利が「ズ」から「メ」に移行したのに伴い、集団を率いる者として登場した。
「ズ」から「メ」に昇格を果たしたガルメと並ぶゴオマへの名ツッコミ役であり、中盤までの「グロンギ」側の主要人物
「メ」の最強怪人として、高いプライドとそれに見合う実力を兼ね備えた美しくも勇猛な戦士
人間体は「メ」としては、割とマトモな見た目のカマキリ柄のスカートを履いたショートカットの女性

登場エピソードはEP23「不安」とEP24「強化」

「ゲゲル」の法則は、「共に乗り込んだ千葉行き総武線の車内で焚いた香の匂いの付いた標的のみを殺す」……と云うもの(18時間で288人)。
この複雑かつ、多数の人間を犠牲にする法則は「ゴ」のやり方(「ゲリ・ザギバス・ゲゲル」)に倣った物であり、ガリマはこの「ゲゲル」に臨むにあたり、ヌ・ザジオ・レに専用武器である大鎌(形状は二つの刀を合わせた様な物)を作成させている

【振り向くな!】
ガリマ姐さんの代名詞で、自らの「ゲゲル」……殺人を犯した際に見せた早業。
標的に向かい悠然と近付き、擦れ違い様に一瞬だけ怪人体に変身……。
大鎌を振るい、標的の首を落とす
……正直に言えば〝落とす〟と云うのは誤りで、あまりの早業に犠牲者は自らが死んだ事には気付かないと云う演出がされてる

その際に姐さんが呟く言葉がこの……。

「振り向くな!」 である

……自らに何が起きたか理解出来ないでいる犠牲者がその言葉に後ろを向こうとした時……。


リアル路線の『クウガ』は生命の大切さを説く為にも敢えて残酷な描写、表記が存在する。
……無論、TVである事の制約や世論もあり、流石に直接的な描写は避けられている面はあり、この場面も被害者の首が落ちるシーンこそ登場はして来ないのだが……。

怖いのだ

異様に生々しい効果音と、丹念な演出……、犠牲者役の役者さんの熱演と、彼らの近親者達の涙までを丹念に描いた演出

それら、全てがこの残酷ながらも美しい殺人業を印象深い物としている

今回はこんなところまで
ではでは


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#45 変わらない毎日を

頭にオレンジwwなんて思ってた時代が嘘みたいに重い話になりましたねガイム
面白くなってきましたよ

あと斬月がOPにしか出てきてない事にちょっとショボンとしてる日々
真もいいけど自分はやっぱり普通の斬月が好きだなー

ではどうぞ


結局の所

 

あの後黒子に予想ルートを教えてもらって行ってみたところ、ほとんどが終わっていた

そこにはすでにキャリーケースのような残骸が散らばっておりその中身であろうものが木っ端微塵に粉砕されていた

そしてその屋上には結標淡希であろう女がフルボッコされた状態で引っかかっていた

おかげでぶん殴る手間が省けたが、今回はその誰かに感謝をする

 

「―――まぁでも、任せろよなんてほざいときながら結局どっかの誰かに役目取られちゃったから、オレは役立たずなのだけど」

「ははは。けどいいじゃないか、結果オーライって奴だよ」

 

隣で笑うのは南光太郎

黒子の入院を聞き、自家製スープと共にお見舞いに来てくれたのだ

因みにアラタはすでにちゃんと小萌先生に午前は休むと連絡は入れてある

恐らく当麻も同様に連絡を入れて、見舞いに来ているだろう

 

「光太郎さんもすいません、わざわざお店休んでまで」

「気にしなくていいよ、キミの知人という事は、俺の知人でもあるからね」

 

そう言って光太郎は笑顔を作る

それに釣られてアラタも同様に笑顔になる

この人の笑顔にはなんかこう、言葉で言い表せない暖かさが感じられるのだ

自分もいつか、こんな笑顔が出来るような大人になりたい、と密かに思う

 

 

「さぁさお姉様、わたくしにうさぎさんカットのリンゴを食べさせる至福の時間がやってきましたのようふうふふふ!」

「気力だけでベッドからはい出ようとしないでよ黒子。アンタ絶対安静って意味わかってるの?」

 

満面笑顔の黒子をどうにかベッドに押さえつけ、改めて布団をかけ直す

それでも彼女はめっさ笑顔だ

 

「あーもうわかったから。あとで食べさせたげるわよ全く」

「マコトですのねお姉様! 黒子その言葉を確かに記憶しましたわー!」

 

これだけの怪我を負っておきながらなんでこの後輩はこんなに元気なんだ、と思う

件の結標淡希は母校である霧が丘では留学扱いになったという情報もどうでもよさそうである

 

そこで不意に会話のリズムが途切れた

静寂が病室を支配する

空気の熱が冷え、口を開くのもためらうほどに

 

その原因を御坂美琴はしっている

自分はまた、巻き込んだのだ

 

「―――なんとなくですけど、気づきましたわ。あの時、お兄様と共に立っていたあの場所が、お二方の戦場ですのね。訳分らなくてさっぱりでしたわ」

 

小さく彼女は笑う

そうして少し力を抜いて

 

「…今のわたくしでは、そこに立つことも、追いつくこともままなりませんの。…縋ろうとした結果がこの様ですわ」

「…黒子」

 

美琴の顔が曇る

だが、それはすぐに別の表情に隠された

 

「もし、お姉様のせいでわたくしが巻き込まれた、というのなら、それは間違いですわよ、お姉様」

「…え?」

「わたくしが弱いのは、わたくしのせい。そこにはお姉様など関係ないですわ。馬鹿にしないでください、わたくしは自分の追った責くらいは自分で果たせる人間ですのよ? それなのにお姉様やお兄様が背負ってしまっては、わたくしの誇りはボロボロですの」

 

黒子はつまらなそうに

 

「だから、お姉様は笑っていてください。ミスしても無事帰ってきた後輩を見て、ヘタクソと言いながら指をさして笑えばいいのですの。その楽しい思い出を糧とすれば、わたくしはもう一度立ち上がろうと思えますから」

 

そこまで言ったとき、不意に病室のドアが開け放たれる

顔を向けた時、その場に立っていたのは神代ツルギだったのだ

 

「―――邪魔だったか? 見舞いに来たぞ〝スィ・ライン〟」

 

いつも通りなツルギに、美琴と黒子は思わず笑い出す

完全に真面目な空気が壊れてしまった、無論、いい意味でだが

ツルギはデパートかどこかで購入したであろう果物盛り合わせをどこか適当な場所に置くと、改めて黒子に向き直る

 

「お前にも、いろいろ思うところがあるだろう。何もかもひっくるめて、俺は言いたい」

 

そこで少し言葉を区切り、いつものような不敵な笑みを浮かべる

 

「共に強くなろう、〝白井〟。敬愛する御坂が驚いてしまうくらい強く、な」

「―――えぇ、もちろんですの」

 

ツルギの笑顔に黒子は自然な笑顔でそう言い返す

その光景を見て美琴も思わず釣られて笑った

 

(―――ですから、お姉様。…もうしばらくお待ちを。宣言した通り、強くなりますわ、それこそお兄様やお姉様が驚愕するくらいに。目的地を知った黒子は、早いですわよ?)

 

この場所の居心地の良さを知るから戦いの場に戻る決意を固める

御坂美琴には決して悟られぬように

 

こうして、彼女は己の身の程を知り、自分の手の届かない世界がある事を痛感した

だからこそ、彼女は諦めることはなく、より上に手を伸ばす

 

今、この変わらない日常を、たった一つのここにある場所を守りたいから―――

 

 

そんな病院とは関係のない、とある場所

その日仕事とかはなく、完全にオフの日だった

しかし同じ組織に属している女の子とうっかり出会っちまったことにより、彼の休日は潰されることになる

 

「…えぇ、まぁそれなりに楽しめましたね。けど所詮は超C級ていうか」

「それに付き合わされる僕の身にもなってよ絹旗」

 

げんなりとした顔で頭を掻くのは鏑木(かぶらぎ)遼真(りょうま)

その隣で映画のパンフレットを読みふけるのは絹旗最愛という女の子だ

 

「遼真遼真、実は私超見てみたい映画があるんですが」

「…何? 作品によっては見ないこともない」

 

そう言って絹旗はがさごそとカラーコピーしたであろう紙を取り出して見せつける

 

「〝マタンゴ〟って言う怪奇ホラー映画なんですけど」

「またえらく古いの持ってきたね、何年前だよそれ」

「えぇ、完全にDVDです、やってませんしねこんな古い映画。けどいくらDVD店ハシゴしても見つからなくて」

「それで僕に聞いてみようって? …まぁ売ってそうなお店なら何軒か心当たりあるけど」

 

その言葉を聞いて絹旗は笑顔を作る

 

「では早速行きましょう。持つべきものは超友ですね」

「馬鹿にしてない? それ」

 

ため息と共に、ガタックゼクターが二人の間を飛び回る

そんなゼクターを絹旗は指で突っつきつつ二人を歩き続ける

僅かであるこの日常を、噛みしめながら




今回の気まぐれ紹介はお休み

次回は大覇星祭かなー

ではまた


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大覇星祭編
#46 大覇星祭


今回とある姉妹に改変アリです

今回から大覇星祭編
この話を読む前に別に投稿している劇場版を読まれることを推奨します
まぁべつに読まないでもいいけどね!

ではどうぞ


大覇星祭

 

それは学園都市に所属する全学校が合同で行う超大規模な体育祭

開催している期間は九月十九日~二十五日までの七日間

簡単に言うなれば、これは異能者が繰り広げる大運動会のようなもので、故に燃える魔球とか凍る魔球、消える魔球、はては分身魔球とかはザラであり、外部からの注目度も高い

種目は学校単位のものから個人単位まで多岐に渡り、個人種目では上位三位内に入ると表彰される

 

吹寄からは誘われたものの、結局アラタは可能な限り手伝うという事で吹寄や他の運営委員の方々をサポートする形になった

 

そしてもう一つ、アラタは小萌先生から頼まれたことがある

それは―――

 

「アラタ」

 

声のする方に振り向く

そこには自分たちの通う高校の運動服を着こんだシャットアウラが立っていた

普段活動的な彼女にも、運動服は似合っている

 

「お、サイズジャストじゃん、似合ってるぜアウラ」

「―――ふ、ふん。別にお前に言われても何ともないが…礼は言っておく」

 

僅かに頬を染めてそっぽを向くシャットアウラ

なんで赤くしてんだろうとアラタは疑問に思ったがまあいいやとスルーした

とはいえ着替えても今回シャットアウラは大覇星祭に参加は出来ない

諸々の手続きをこの大覇星祭中に片付けるために、彼女たちは大覇星祭を今回は観戦するのだ

 

「おい、そう言えばアリサはどうした」

「あいにくだけど俺は何とも。たぶん橙子の所にいるんじゃないか」

 

シャットアウラとは別にもう一人、当麻やアラタが通う高校に転校、という形でやってきた人物がいる

それは少し前に一世を風靡したアイドル、鳴護アリサだ

彼女はこの高校に転校する際に、アイドルとしての活動を一度休止し、卒業するまではしっかり高校生をやりたい、というのだ

 

「…そうか。わかった」

「なんだ暗い顔だな? お前だって、今となってはクラスメイトだぜアウラ」

 

とはいってもシャットアウラがここにきていたことを知ったのは素直に驚いた

情報ではアリサだけだと聞かされていたのだからなおさらだ

 

「生憎と、私はこういった触れ合いに慣れていない。…それに私を受け入れてくれるかどうかも分からない」

「それは大丈夫だアウラ。うちのクラスは底抜けに馬鹿なやつしかいないからな」

「…それは信じていいのか。なんだ、底抜けに馬鹿って」

「あぁ、信じていいぜ。俺の誇れる友達ばっかりだからな」

 

そう言ってアラタは笑った

なんでだろうか、この男の笑顔はどうしてこうも暖かいのか

宇宙エレベータ内部でも、こちらが一方的に攻撃していたにも関わらず、この男はあまり反撃してこなかった

どこまでもお人よしだな、と改めて感じる

 

きっと、恐らく

自分の知らない所でもこの男は戦っているのだろう

 

「…では、私も蒼崎橙子の所へ顔を出しに行く。また後でな」

「おお、また後で」

 

そう短く言ってシャットアウラはアラタの隣を通り過ぎる

なんだかんだあるが、シャットアウラにとってもこの大覇星祭とやらは初めてであり、楽しみでもある

時間が出来たら、案内でもしてもらおうかな、と考えるシャットアウラだった

 

 

「アーラタァ」

 

甘ったるい言葉を久しく聞いた気がする

その声の方へ視線を向けると金髪にグラマラスな中学生、食蜂操祈が歩いてきていた

 

「よっす操祈。なんだ?」

「いいえ、その、どうでもいいことなんだけどぉ…アラタ…というかアラタのクラスって白、赤どっち?」

「うん? 俺たちは白組だな。…て、なんでお前はちょっとシュン、ってなってんの?」

「ザンネンだなぁって。私たちは赤組だから敵同士ねぇ」

 

そーなのか、とアラタはその言葉を軽く流しそうになり―――ハッとする

食蜂操祈は常盤台在学だ、その食蜂が赤組という事は美琴も赤だという事になる

万が一、競う事とかになったらどうしよう、と考える

 

「ねぇねぇアラタ。もしそっちがよかったらぁ…何か罰ゲームでも賭けてみない? 負けた方が勝った方のいう事聞くって奴」

「断る」

「即答!? ちょっとは悩んでくれてもいいじゃなぁい!?」

 

それでも断るって言ったら断るのだ

結果負けてしまったら何を言われるか分からない

そんな思考に埋没しているそんな時、タイミングが良いんだか悪いんだかさらに聞き覚えのある声が聞こえた

 

「アラター!」

 

先ほどと同じように声が聞こえ、視線を向ける

先の食蜂と同じように、違う所は走っているという点であろうか

やがてアラタたちの所へ駆け寄ると美琴は

 

「食蜂さんがここにいるってことは、私が何組かはもうわかってるわよね。負けないわよアラタ」

「―――おお、こっちだって負けないぜ。むしろ望むところだ」

「言ったわねアラタ。さっきも言ったけど、負けないんだから」

 

小さく、そして珍しく火花を散らすその二人に食蜂は思わず苦笑いを浮かべる

そして同時、好敵手はやっぱりこの人かな、と確信した

 

 

「―――よし」

 

南光太郎はそう言って一息を付いた

目の前には用意を終えた自分の店〝ブラックサン出張版〟の準備は万端だ

ちゃんとお肉の保存もばっちりだし、飲み物も完備している

うん、大丈夫だ

とはいってもこのお店を知っている人はあまりいない

それでもいい、と光太郎は思う

知人が見つけて、それで立ち寄ってくれればそれで何も問題はないのだ

 

「おう、マスター、お店の準備はばっちりみたいね」

「あ、伊達くん。君の方も用意は出来てるみたいだね」

 

通りかかった伊達明と言葉を交わす

もともと彼は移動屋台のようなものなので正直に言ってしまえば平常運転なのだが

 

「それにしても大覇星祭だぜマスター、規模がデカすぎね? と俺は思う訳なんだけど」

「それは俺も思ったよ、まさか一週間とはね。その分、応援のし甲斐があると思うんだ」

「同感だぜ。けど、それと同時に一般客も頻繁に出入りするからいろいろ用心しないとな」

 

その言葉に光太郎は顔を引き締める

そう、大覇星祭という一大行事の隙を縫うように外部組織がなんかしらの攻撃を加えてくるかもしれない

念には念を、という言葉は頭に入れておかなければならない

 

「―――ま、今は素直にこのお祭りを楽しもうじゃないの」

「そうだね。…じゃあ、俺も仕込みを始めようかな」

 

そう会話を一度を終え、光太郎は自分の屋台へと戻っていく

伊達も同様におう、と声をかけて改めて屋台を引いて歩き出した

 

 

大覇星祭

それはどうやら早い話が一週間ぶっ続けで実行するような運動会らしい

 

「アホか」

 

式はそう一蹴した

 

「だってそうじゃんか、普通そんなもんは一日じっくりと行うもんだろう。なんだって一週間に延ばしたんだよ」

「まぁまぁ式。せっかくのアラタの晴れ舞台なんだから、ちゃんと応援に行こうよ、ね」

「誰もいかないなんて言ってないだろう。ただいろいろひっくるめて、長いなって思っただけだ」

 

そう言って式は頭を掻く

そんな彼女の様子に幹也は苦笑いをする

実際そんな長い期間開催する催し物もなかなか聞かない

幹也は事前にアラタから貰ったパンフレットを見ながら

 

「ほら式、この丸ついたところがアラタの参加競技だってさ、一回目は…棒倒しに参加するみたいだね」

「意外に競技は地味なんだな。てっきり能力をフルに活用した騎馬戦でもやるのかと思ったぜ」

 

意外と言った表情で式は顎に手をやった

 

「そりゃ参加するのは学生だからね。安全面には配慮してあると思ってるけど」

「ふぅん。…ところで鮮花や未那は?」

「早速いろいろ歩き回ってるよ、と言っても、未那に鮮花は連れ回されてるみたいだね」

 

少し黙った後式は「…そうか」とちょっぴり苦笑いを交えて応える

そんな式に幹也は笑顔になり

 

「じゃあ式、僕たちも行こう。競技とかも楽しみだけど他にもいろいろあるみたいだよ、ナイトパレードとか」

「分かったから手を引っ張るな。…急がなくてもそばにいるって」

 

ワクワクしている幹也の背中を歩いて追いながら式は赤い革ジャンのポケットに手を入れる

そんな夫婦の会話を見ていた蒼崎燈子は呟いた

 

「…ふふ、バカップルだな」

「ちょっと見てて、にやけちゃいました…」

 

その隣にいるアリサもほんのり顔が赤い

 

「普段は物静かなんだがな、式は」

「けど、あそこまでカッコいい女性って見たことありませんよ」

「そりゃな。〝色々〟あったんだよ、式は」

 

そう言って橙子は改めてアリサへ顔を向ける

 

「本格的な投稿は大覇星祭終了後だか、馴染めそうか?」

「はい、アラタくんや、当麻くんもいますし大丈夫です」

 

彼女は言って笑顔を作る

普段ならクラスにアイドルの一人が転校などして来たら軽くパニックになるだろう

とはいっても、知人のいるアラタらのクラスなら問題ないと判断したのだ

アラタや件の上条当麻の友人である青髪ピアス辺りがハイテンションになりそうだが、彼らなら鎮圧してくれるだろう

 

「本当に、いろいろありがとうございます。何から何まで…」

「なに。君が気にすることはない」

 

頭を下げる彼女に橙子はそう返す

それでも、とアリサはしばらく頭を下げたままだった

少し経って彼女は顔を上げる

そのタイミングで燈子は聞いた

 

「パンフレットは貰ったか?」

「はい。当麻くんから貰いました」

「よし、じゃあ精一杯応援してこい」

 

橙子はそう言うと軽くアリサの頭をポンと撫でた

彼女の手が離れるとアリサは笑顔を向けて

 

「はいっ! 本当に、ありがとうございました!」

 

元気よくそう言って彼女は伽藍の堂を出て行った

彼女が伽藍の堂を後にするのを見届けて橙子はふう、と一息を付く

 

「…さ、て。私も見物しに行くか…」

 

その前に一服を、と彼女は煙草を取り出し、ライターを用いて火をつける

人差し指と中指の二本で持ち、煙草を口に咥えた

少し息を吸い込んで、大きく彼女は紫煙を吹かす

 

と、意識を外の景色に向けた時携帯がなった

懐に手を入れ携帯を取り、画面を見る

名前を見て少しだけ橙子はため息をついた、がすぐに通話ボタンを押して携帯を耳に当てる

 

「…何のようだ」

<あ、繋がった。てっきりスルーされると思ったのに>

「正直そうしたかったが、妙な不安がしたのでな。…もう一度聞こう。何のようだ」

 

ちょっぴり不機嫌になった橙子は電話の向こうの相手に話を促した

電話の向こう―――妹である蒼崎青子は口を開く

今でこそ本当にたまにしか連絡を取り合っているが昔はそれこそ本当に最悪だった

そんな姉妹仲を若干ではあるが修復したのがアラタや幹也だ

まぁ、あんまり変わってはいないのだが、それでも前進した方だろう

 

<単刀直入に言うわ、学園都市が取引に使われそうなの>

「―――詳しく聞こう」

 

大覇星祭という大きな舞台の陰で、また何者かが暗躍しようとしていた――― 




姉妹に関してはこんな未来もあったらいいな、という願望が入ってます


では気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちら

「ショッカーを裏切れば死だ!」

蜘蛛男

仮面ライダー第1話『怪奇蜘蛛男』に登場した、ショッカーの改造人間
その名の通り、蜘蛛の改造人間
南米のアマゾン河流域出身

糸を吐いて相手を絡めとる、人間を溶かす毒針を発射する、クモを操るなどの能力を持つ
記念すべき仮面ライダーシリーズの怪人第一号で、以降の蜘蛛をモチーフにした怪人が初戦の相手となったり、特別なポジションに置かれたりするのは蜘蛛男へのリスペクトであろう
また、リメイク版の『仮面ライダー THE FIRST』でも、当然と言うべきか最初の敵はスパイダー(演:板尾創路)である

【仮面ライダー本編での活躍】
第1話では後の仮面ライダー1号である本郷猛を巣を張って捕獲・拉致したり、本郷の恩師である緑川博士を蜘蛛糸でがんじがらめにしたうえで殺害したりと、蜘蛛のエッセンスを活かしたその不気味さを随所で発揮している

緑川博士の手引きで脱走した本郷への追っ手として再び現れ、初めは配下の戦闘員らと共に戦い慣れしていない1号を翻弄するも、地面に投げつけられて弱ったところにライダーキックをもらい、泡になって消滅した
その後、第13話で再生怪人として再登場。トカゲロンの素体となるサッカー選手を誘拐し、トカゲロンとライダーの2度目の戦いではトカゲロンに率いられる形で参戦した
その後も度々再生怪人として登場している

ゲーム作品では

PSの格闘ゲーム『仮面ライダー』にはプレイヤーキャラクターとして登場
低めの攻撃力を手数の多さや長めのリーチで補うタイプで、必殺技の「三角跳び」を始めとした扱いやすい技を持っている

ショッカーストーリーでは、プレイヤーに選択して勝ち進むと再改造され強化蜘蛛男となり、ダブルライダーに挑むこととなる

また、スーパーファミコンの名作『ヒーロー戦記』では、助けた女の子をアムロがおぶってると、突然女の子が蜘蛛男になって(すり替えておいたのさ!)襲いかかるという作中屈指のトラウマシーンがある
…しかし、特にペナルティがあるわけでもなく、アムロはその状態から普通にガンダムを呼び出して撃退する(どうやった)
似たようなシチュ(こっちは美女)でしっかりペナルティを与えてくる死神博士とはえらい違いである

PS2のアドベンチャーゲーム『仮面ライダー 正義の系譜』では中ボスの一体として登場
途中のルート分岐でこの蜘蛛男かアルマジロングのどちらかと対戦するのだが、分岐条件が分かりづらいので初見だとだいたいアルマジロングとの戦いになる

間隔をおいて連射してくる毒針攻撃が避けにくいうえに毒ガスが噴き出す狭い室内がステージのため、慣れないと苦戦必至だが、実は接近状態ではパンチ以外の技を使ってこないため、カウンターの投げでハメることが出来る

今回はここまで

ではでは


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#47 炎天下の中で

すいません…龍が如くやってました…!
戦国4もでるのでさらに遅くなるかも…

今回は少し短め
だいたい5000字くらいかも

まぁいつも通りだけどな!

ではどうぞ


午前十時三十分

 

ようやく、ようやく熱い中での開会式がようやく終わった

今現在、鏡祢アラタや上条当麻が立っているのはサッカースタジアムだ

ここは特に部活動に力を入れている体育学校付属の施設のようだ

人口の芝さえも溶けてしまうんじゃないだろうか、とも思ってしまう熱い太陽の光を浴びながら各学校の体操服を着た生徒たちはそれぞれ散っていく

 

この大覇星祭の参加者は軽く数えて百八十万人を超えるほど大人数だ

プロ仕様ではあるが、いくらスタジアムでもその全員を入れることは不可能なため開会式は三百か所で同時に行われる

 

「この都市ってさ、校長先生多すぎると思うんだ」

「今回ばっかりはそれに同意だよ、全く…」

 

ぐったりしながらアラタは当麻の呟きに同意する

炎天下のクソ暑い中、基本的に長話な〝校長のお話〟なんかを何回も聞かされれば誰だって嫌気が差す

そもそも先生や他の生徒たちはどうやってこんなのを耐えているのか

まぁ最も、統括理事会模倣も厳選はしているのだろう、それこそこの学園都市にいる校長先生が全員現れた暁には初日は完全にお話に消える

周囲を見渡せば皆、大覇星祭に参加する小、中、高、大学の生徒たちで溢れており、基本的には

半袖に短パン、あとは学校に応じてスパッツとか陸上用のランニングなどの違いもある

共通しているのは額に赤か白、どっちかのハチマキを巻いているという事だ

 

基本的に大覇星祭は学校対抗で行われる、それで勝敗に応じて点数が加算されていく仕組みだ

各学校は赤、白、交互に色分けされて各組の合計勝利数に合わせてそれぞれの学校に点数が追加されていく

赤対白、学校対学校…それらを合わせたトータルでの点数の合計で勝敗が決定するのだ

 

「とうまー」

「おーい」

 

不意に横合いから声がかかる

声の方を見ると体操服ばかりの人たちの中にインデックスとみのりがそこに立っていた

インデックスは胸の辺りにスフィンクスを抱えて

 

「…とうま。お腹すいたかも」

「早ぇな! ちょっと二時間前くらいに朝飯食ったばかりじゃねぇか!」

「う、うぅ。でもあちらこちらから何とも言えない芳醇な香りがしてそれどころじゃないんだよ」

 

彼女の声に合わせてスフィンクスがヒクヒクと鼻を動かし、嬉しそうな声を上げる

それに釣られて改めて当麻とアラタは周囲に注意を向けた

醤油やソース、マヨなどの美味しそうな匂いが鼻にくる

さらに詳しく目を向けると、屋台が左右に並ぶ区画が見える

 

「…まぁ、これは仕方ないんじゃないか」

「確かにな」

 

大覇星祭、と言っても全ての生徒が競技に縛られるわけでなく、ちゃんと指定された時間に指定された競技場に来ることが出来れば後は基本的にフリーダムだ

他の学校の応援に入ったり家族との一時を過ごしたりそれこそマンガとかでも読んで時間を潰してても問題ないのだ

そして土御門舞夏が通っている学校はここぞとばかりに店を出し、臨時に収入を得ようと動く

 

「現代の食文化ってすごいね、インデックス」

「うん。じゅる…誘惑の塊なんだよ…」

 

スフィンクスを抱えたままみのりの言葉にインデックスは同意した

インデックスはとりあえず遠くから漂う匂いだけでもだめなのだ

むしろよく屋台に強襲しなかったな、と当麻は褒めるべきなのか

 

「まぁとにかく、今日一日は暇だろうし、後でこっちも時間作ってみんなでいろいろ見て回ろうぜ」

「うん。…うん? 〝後で〟?」

 

頷いて、しかしある単語にインデックスは反応した

 

「もうそろそろ最初の競技始まっちまうんだ。みのりもインデックスもパンフ貰ったよな、その印ついてるのが俺たちの参加種目の応援席だから。…そんな訳で行こう」

「おう」

「う、うわ! いつにも増してとうまやあらたがドライなんだよ!?」

 

何かを言うインデックスの隣で苦笑いを浮かべるみのりを尻目に、改めて時間を確認する

結構遅れてる

アラタは前々から吹寄に渡されていた運営委員のパーカーを手にして、当麻は通りかかった舞夏からメイド弁当を購入し、それをインデックスに押し付けつつアラタと共に競技場に向かう

 

「そういやアラタ、そのパーカーって…」

「あぁ、念のためにって渡されたんだ。まぁないと思うけど、審判の人を手伝う時にって」

 

そんな他愛もない会話をしながら二人は目的地へと急ぐ

場所は普段通っている高校の校庭だ

出来る事ならインデックスとみのりを応援席まで送ってあげたかったが選手と応援する人では出入り口が別々なのだ

 

「感覚的にお前は初めてかもしんないけど、実際どうだ。大丈夫そうか?」

「あぁ、むしろちょっと楽しみな俺がいるぜ、やるからにゃ勝ちに行かないとな」

「はは、頼もしいじゃん? オレもその気合いに肖ろうとするかな」

 

思えば準備期間中は馬鹿騒ぎの連続だった

アラタは時々吹寄のお手伝いなんかで席を外すこともあったがそれでもクラスの連中が気合い入っているのは間違いないだろう

負けず嫌いなツルギやいろいろやばい天道もいる、よほどのことがない限り負けることはなさそうだ

 

そんな事を考えつつ選手控えエリアに足を踏み入れてクラスの輪の中に入る

こう言ったお祭りごとが特に好きそうな青髪ピアスがこっちに振り返って

 

「…やるきなあぁーいぃ…。うっだー」

 

盛大にすっころぶ

なんだこの状況は…いや、青髪だけではない、よく見まわしてみると他の級友もだいたいそんなだ

 

「アラタ! どうしよう、皆のテンションがローだ!」

 

こちらを見つけると勢いよく駆けてきて弦太郎は彼の肩を掴んだ

そしてその勢いのまま肩を揺さぶった

 

「そ、そんなの俺に言われても!?」

「ちょっと皆さん!? なんでそんな初日なのに最終日みたいな空気になってんのさ!」

 

弦太郎にぶんぶん揺らされるアラタの隣で当麻が聞いてみる

すると青髪ががぁばっ!と起き上がり

 

「前日の晩に大騒ぎして一睡もできひんかったわ! おまけに開会式の前もどんな戦術で行けば他の学校に勝てるかでモメまくってクラス一同もうライフはゼロやねん!!」

「馬鹿なの!? なんなの死ぬの!? てかそれが理由かよ! なんだよそのアホみたいない理由、小学生か!」

 

なんともしょうもない理由でありました

しかし姫神さんもそれに参加しているあたり馴染めたようでなによりだ

 

「学校の競技なんて。こんなもの。トレーナーとか。コーチがいるわけでもないし」

「こんなもんって言われましたよカミジョーさん!?」

「これは敗北の予感だぜー!?」

 

とりあえず弦太郎の揺さぶりから解放され、改めてクラスメイトを見てみる

天道はこちらの視線を見つけるとやれやれ、と言ったような仕草をし、ツルギは風間と苦笑いをしつつ談笑している

…しかし冷静に考えてみるとこれは仕方ないかもしれない

そんな考えを裏付けるように土御門が

 

「にゃー、でもカミやんにカガみん、このテンション低下も致し方ないですたい。開会式で待ち受けていたのは校長先生のお話十五連コンボに、お喜び電報五十連ラッシュ。…むしろ二人やテンドーとかよく耐えれるって思うぜぇい」

「それは違うぞ土御門。流石に、あの長丁場は俺も堪えている」

 

それならもうちょっとつらそうな顔してください、とクラスメイトの内心は思っているだろう

何しろずっと普通にいつも通りの表情をしているのだから全く読めない

とはいえ割と体力がある土御門や青髪までもぐったりしているこの状況は如何せんまずいかもしない

 

「待て、アラタ、相手も俺たちみたいにぐったりしてれば―――」

「相手は私立のスポーツエリート校らしいぜ」

 

弦太郎の呟きにさらに絶望する

これは…もう程良く参加して屋台を巡る未来しか見えない

 

「ちょ…! 何よこの無気力感はっ!」

「…あ、吹寄」

 

他の生徒と同じく半袖短パン、しかしその上にパーカーを羽織っており、その腕と背中の所には〝運営委員会・高等部〟と書かれている

背は割と高い方、そしてスタイルもいい部類に入る

黒くて艶やかな綺麗な黒髪を耳にかけ、額が大きく見えるようになっていた

名前を吹寄制理

周囲からの評判は美人なのに色っぽくない鉄の女などと言われているがアラタはそれがよくわからない

アラタからすれば十分可愛いと思うのに

 

「まさか上条! 貴様がむやみにだらけるからそれが皆に伝染して―――」

「落ち着け吹寄、それもあるかもしんないけど開会式の事も入れて考えてやってくれ」

「お前どっちの味方なの!? てか俺らっていうか俺は今来たところなんだけど!」

 

そんな感じな喧騒を眺めつつアラタは一つそこで息を吐く

 

「ていうかホントまずいぜアラタ。このままじゃ敗走の未来しか見えない、不幸に押し潰されそうだ!」

「上条、そうやって何でもかんでも不幸と決めつけるのは貴様の悪い癖よ。そんな精神状態、水分とミネラルがあれば問題ないわ!スポーツドリンクで補給し立ち上がるのよ上条当麻!」

 

言いながらガシャガシャと音を立てながらどういう原理か彼女のポケットから五百ミリサイズのスポーツ飲料が数種類飛び出してくる

 

「ちょ!? なんだよその健康マニアが喜びそうな理論! つうかアラタはちゃっかりもらって飲んでんじゃねぇ!?」

「私は不幸とか理由をつけて人生に手を抜く輩が大嫌いなの! 一人だらけると周りにそれが行き渡る! だからしゃんとしなさいみんなの為に!」

 

まくし立てる吹寄にたじろぎつつ、さらに吹寄は追い詰める

当麻は下がろうとするが、背後にあるのは花壇だけ

 

と、不意に当麻がぐにっと何かを踏んだ

それは散水用のゴムホース

 

土の校庭が砂埃を起こすのをある程度防ぐために校庭に事前に巻くためのものだ

そしてふと遠くを見てみると校庭で絶賛作業中の男子教諭がうん? と水の出ないホースを見た

 

その刹那、水が暴発する

地面に埋められた散水専用の蛇口に繋げられたホースの口が外れ一面に水を巻き散らした

そのついでに小さ目な虹も見えたが今はどうでもいい

そんな蛇口から一番近くにいたのは、吹寄だった

 

静寂

 

それが場を支配する

 

なんか周囲では「最後の砦が!?」とか「あの堅物すら…」とかなんか言われてるが気にしない(ていうか誰の評価だそれは)

そんな空気の中吹寄に謝る当麻を尻目にアラタは大丈夫かなー、と彼女を伺う

そこでうっかり視界に入ってしまったのだ

 

びしょ濡れの吹寄を

 

肌に吸い付いた体操服の上からのぞく下着

いくらなんでもこの時期とはいえ濡れたままでは風邪をひいてしまうかもしれない

ジロリ、と睨んでくる吹寄にアラタは彼女から貰ったパーカーを羽織らせた

一瞬吹寄は驚いたように目を開いたが、やがて顔を僅かに朱に染め

 

「…ありがとう」

「おお。早く乾かせ、風邪引いちまうからな」

「分かっているわ」

 

そう短く言って彼女は徐に紙パックの牛乳を飲み始める

ようやく解放された当麻は脱力しつつ体育館の壁に寄りかかって体力を回復させる

それにアラタも付き添い、改めてクラスメイトを眺めようとして―――

 

ふと、言い争う声が聞こえてきた

それは男と女、二人のものだ

 

疑問に思ったアラタと当麻は首だけ出して様子を伺う

 

体育館の裏にいたのは月詠小萌と他行の教師であろう男性がいた

小萌は応援用のであろうチアリーダー風の衣装に身を包んでいる

対する男性はこの暑さの中、スーツを着込んでいた

大抵、この大覇星祭期間中は教員も市販のジャージに着替えるものなのだが

 

二人は言い合っている…というよりは小萌が食い下がっているようにも見えた

 

「ですから! 確かに私たちの設備とか授業の内容に不備があるのは認めるです! だけどそれは私たちの責任で、生徒たちは何も関係ないですよ!」

「はっ。設備の不足は貴女たちの生徒の質が低いからでしょう。結果を残せば統括理事会から追加で資金が下りる筈ですし? もっとも? 落ちこぼれしか排出しない低レベルの学校では申請したって通らないのでしょうけど。あぁ、聞きましたよ? オタクらの生徒、一学期の期末能力測定も酷かったらしいじゃないですか。全く無能ばかりだと苦労されるようで」

「生徒さんに失敗も何もありません! それぞれの個性があるだけなのに…! それを自分たちの都合で切り捨てるなんて―――!」

「それが言い訳ですか? 寝言は寝て言うから寝言なんですよ? いい加減現実を直視しなさいな、私が担当したエリートなクラスで完膚なきまでに打ち倒して見せますから。ここでの競技は〝棒倒し〟でしたかな? くれぐれも怪我人の出ないよう、準備運動は念入りにと対戦相手校の代表として忠告させていただきますよ?」

「な…!?」

「貴方には以前の学会で恥をかかされましたからねぇ。借りはきっちり返しますよ? まぁ一応? 加減はしてあげますけど? そちらのぐずで間抜けな失敗作があまりにも弱い場合には私も知りませんがね―――」

 

 

「そう言っていると、敗北しますよ」

 

 

空気を斬り裂くようにその場にもう一人、青年が現れる

立神翔一だ

彼は自分のレストランの経営があるから私服ではあるが、アラタや当麻が出るからという理由で応援に駆け付けてくれているのだ

教諭は翔一に平静さを保ちつつ

 

「―――どういう意味かな」

「言葉通りの意味です。先も仰ってましたけど、小萌先生の生徒たちを侮っていると、逆に痛い目を見るのは貴方です。ましてや―――〝同じ土俵〟で借りを返せないようなら」

「はっ! お宅らの間抜けで愚図な生徒共に何ができる。―――謝るなら今のうちですが?」

「そのままお返しします。彼らを見方を改めるなら今ですよ」

 

一触即発

いつものような表情をの翔一に、僅かにイライラしてきている教諭

先に折れたのは教諭だ

 

「ふん! せいぜい後で後悔しないようにしてくださいよ?」

「えぇ、お互いに」

 

最後まで教諭の言葉を流しつつ、教諭は舌打ちと共に去って行った

 

「…先生」

「? なんですか?」

 

プルプルと震える肩で、翔一に向かって小萌は言葉を発した

ただでさえ小さいその肩をさらに小さくするように

 

「皆は…!落ちこぼれなんかじゃないですよね…!!」

「―――えぇ、大丈夫です。―――ね?」

 

最後の言葉を発するとき、はっきりとアラタと当麻は見た

翔一の視線が、こちらに向くのを、確かに見た

彼は小萌先生に気づかれないように小さく親指を立て、サムズアップする

 

そのサインを受けて、二人は少し黙った

ふと、自分たちの後ろに気配を感じて振り返る

 

そこに立つのは、クラスメイトの友達たち

一瞬確認を取ろうとも思ったが、必要ないと当麻とアラタは感じていた

 

「…さて、じゃあ行きますか? 鏡祢さん?」

「おう、そうですね上条くん」

 

わざとらしくそんな言葉を小さい笑み交じりに言いつつ、最後に一つだけ、言った

当麻に、ではなく、彼を含めた級友たちに

 

「―――いい加減始めようぜ」




気まぐれ紹介のコーナー

今回は作品おば

〝仮面ライダー 世界に駆ける〟

…まぁ知ってる人が多いかもです
今回もアニヲタウィキより文を抜粋しつつ

まずこの作品はRXを主役とした短篇映画
各地の映画イベントや施設等で上映された3D作品

まぁ本題はそこではないのです
この作品はなんと四人のてつをが集結するのです

四人のてつをが集結するのです(大事な事だから以下略)

全ては将軍のこの一言から始まった…

「体内の神秘なる石『キングストーン』に、太陽の命のエネルギーを浴びてパワーアップしたRXには勝てぬ(断言)」
「しかしそれ以前の、まだパワーアップされていないBLACKなら勝てる可能性もある(希望的観測)」


<大体のあらすじ>
仮面ライダーBLACK RXこと南光太郎と激しい戦いを繰り広げていたクライシス帝国のジャーク将軍は南光太郎をパワーアップする前の仮面ライダーBLACKに戻し、その状態の南光太郎を倒そうと発案、かつてBLACKに敗れたゴルゴムの三神官の力で時間を過去に戻し、RXをBLACKへと弱体化することに成功したクライシスはBLACKを倒そうと複数の再生怪人軍団を向かわせる…


その時、不思議なことが起こった


なんとBLACKになって消滅したはずのRXがライドロンに乗って現在から過去にBLACKを助けに来たのだ
この時のジャーク将軍の言葉「BLACKが変化して生まれたのがRXではないのか!?」は視聴者も心の中で思ったであろう
その後もクライシスの攻撃は続き、苦戦するBLACKとRXだったが、それに合わせて本来はRXが変身した姿であるロボライダーとバイオライダーまでが時間を越えて助けに来る

チートライダー×4の悪夢

ついに集結した4人のライダーは攻めに転じ、それぞれの必殺技でクライシス怪人を殲滅する
爆発を背景に4人で決めポーズをする様はクライシス(というか悪党)にとってはまさに
地獄絵図
怪人を倒した4人は融合し、1人の仮面ライダーBLACK RXになる

士「過去と未来のてつをが・・・1つに!」

RXはアクロバッターに乗り、その場を去っていく

まぁだいたいこんな感じ

要約すると〝RXを弱体化させて倒そうとしたらなぜか四人に増えたでござる〟
結果を言うならどうあがいても絶望、である(クライシスが)

また四人が集結する際のポーズも十分見応えあってカッコいいのだがRX(と言うか次郎さん)のキレがありまくるのもまた違った魅力だと自分は思う

今回はこんな感じ

ではまた


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#48 日常から非日常へ

社会人になったので更新速度が落ちるよ!
ごめんねみんな!

…いや、ホント申し訳ない
今月卒業しましてようやく大人の仲間入りであります
現在介護員、こんな作者を苦笑いながら見守ってやってください
この作品もついでにどうぞ


御坂美琴は学生用の応援席にいる

付近にはちょうど入口で合流した神那賀雫も一緒である

 

一般の来場客用の応援席とは違い日差しを遮るようなテントはなく、地面にブルーシートが敷いてあるだけだ

シンプルすぎるその光景にどこか苦笑いしつつ、ふと神那賀が訪ねてきた

 

「あれ、けど御坂さん次競技じゃなかった? 最後まで見てていいの?」

「はは…そうなのよね。けどやっぱり気になっちゃって」

 

周りに常盤台の指定体操服を着た人はどこにもいない

因みに常盤台中学の生徒は超能力者二名に、大能力者四十七名、あとは全員強能力者という実力主義のエリート校である

去年は惜しくも二位だったが

とはいっても、今年は正直勝ち負けに拘ってなどいないのだが

そんな時、ふと視界に入った人物がいる

 

銀髪碧眼のシスターだ

隣には黒いワンピースを着た鏡祢みのりもいる

 

「…ちょ、インデックス? どうしたのよ―――」

「あ、ミコト」

 

言いかけてインデックスの手に持っているのを見た

それはお箸だ、すぐ近くに空になった弁当の容器もある

しかもそれは舞夏が販売している学生食だ

みのりも美琴たちに気づき、苦笑いを浮かべている

 

「―――お腹、減った」

「弁当食べたばっかりじゃないの?」

 

そんなやり取りをする美琴を見て神那賀は

 

「知り合い?」

 

と一言聞いてきた

美琴は苦笑いをしつつそんなところ、と答える

そして改めてインデックスを見る

先ほどは反射的にそう答えたがもしかして熱中症では? と思い直しシートの上に置いてあるスポーツドリンクを彼女に手渡した

 

瞬間インデックスは跳ね起きてありがとうっ! と礼を言った直後にそいつを飲み干し中身を空にする

そしてまたばったりと倒れて

 

「…飲み物でお腹満たすのはやっぱり荒業かも」

「…本当にただの空腹みたいね」

「はは…騒がせてごめんね」

 

額に手を当てて美琴は息を吐き、みのりが謝罪をし、その後ろで神那賀が小さく笑う

うつ伏せに倒れたインデックスのお腹と地面の隙間からにゅるんとスフィンクスが這い出て来て唐突にきょろきょろと辺りを見回し始めた

美琴は強力な電気使いだ、彼女は普段黙っていても微弱な磁場を周囲に漏らしてしまうため、動物には好かれにくい傾向にある

…本人としてはこれが結構ツライ

 

「そう言えばミコトはなんでここに? アラタの応援?」

「え!? えっと…だいたいそんな感じかな? ねぇ、神那賀さん」

「え? そこで私に降るの? …まぁそうだけど」

 

一方でインデックスはぐだー、と倒れたままだ

と、そこで校内放送のアナウンスで選手入場の合図が告げられた

最初の競技は棒倒し

敵対する二組がそれぞれに約七メートル弱の棒を立て自軍の棒を守りつつ敵軍の棒を倒しに行くと言う単純ながらも奥が深い競技だ

 

この競技に参加するのは高校の一学年分の生徒だ、とアナウンスが入る

テレビカメラが来ると言っても基本的には学校行事の運動会、放映用のナレは別スタジオで行われる

とはいってもテレビに映ると言うだけでもモチベーションは結構変わってくる

実際百八十人をゆうに超える学生全てをクローズアップなどできるはずないが緊張はするのだ

 

歓声は大きいのに、不思議と身体の中央に緊張感が走る

全世界公式行事なのだという事を改めて実感する一瞬だ

 

「―――お腹がぁへってぇ…はぐ」

 

だというのにこのシスターは

美琴は小さく笑みを浮かべてポケットからチョコレート味の携帯食を取り出し封を開けてインデックスの口元へと持っていく

インデックスはそれを確認すると小さく口を開けて差し出された携帯食を食べ始めた

 

「お、御坂さん、始まるよ」

 

神那賀の声に促されるように校庭へと美琴は目を向ける

どうやら対戦相手はスポーツ重視のエリート校のようだ

簡単な柔軟体操だけを見ても専門的なものを感じさせ、こう言った公式な試合にも慣れてるかんじだ

 

「なかなか手強そうだね。普通にやったら大変かもだけど…」

 

神那賀の言葉に頷きつつ、今度はアラタや当麻が在籍している高校の方へ目を向ける

パンフを見る限りでははっきり言ってごくごく普通の、それこそどこにでもあるような一般的な学校だと思っていた

 

それを見るまでは

 

「…え?」

 

思わずそんな声が漏れた

それを同じように見ていた神那賀も、眼を丸くしている

 

その集団は妙な威圧感を放っているのに野次などの騒ぎも起こしていない

無言のままに上条当麻と鏡祢アラタを中心として、背後に天道、ツルギ、風間、弦太郎などのメンバーが並んでいる

 

雰囲気はまるで川中島に臨む武田軍

次第にアラタが少しだけ前に出て皆に向かって何かを叫び、さらに士気を上げているように見える

一体何が始まるというのか

 

(…なにがあったの?)

 

心の中でそう呟く

実際は小萌先生の件が全軍に知れ渡ったのが理由なのだがそんなの美琴に分かるはずもなく

美琴の隣では純粋に応援しているみのりの声が響き、そしてアナウンスと共に棒倒しが始まった

 

 

「いっけー! お義兄様ーっ!」

 

同じように来場客用の応援席で見ているのは鮮花と未那だ

あれからいろいろ連れ回されてもうすぐアラタの競技の時間が迫り、ようやくここに腰を落ち着けることが出来たのだ

そして目の前では応援をしている未那の姿が見える

 

そんな未那を見ながら鮮花ははふぅ、と息を吐いた

いろいろ歩き回るだけで資金の消費などはなかったものの、正直に太陽の下で動き回るのは流石にしんどいものがある

まだ十分に若いのに情けないなぁと鮮花は思う

 

「鮮花」

 

そんな鮮花の耳に一人の聞き慣れた声が聞こえてきた

同じようにそれが聞こえていた未那もそちらを向き目を輝かせる

 

「パパ! お母様!」

 

そう言って未那は一直線に幹也に向かい走って行き抱き着く

幹也はそれを受け止めて幹也の隣で式は未那の頭を撫でた

未那の頭を撫でながら式は鮮花に

 

「競技は?」

 

と短く聞いた

それに対して鮮花は校庭の方を指差す

校庭の方を見てみると今まさに死闘が繰り広げられていた

思わず式も表情が若干引きつる

 

「…想像以上だな」

「えぇ、試合開始前なんて殺伐としててちょっと驚いたくらいよ」

 

呟く鮮花に式は「…へぇ」と返答し改めて腰を下ろす

日差しを遮るようにテントはあるがそれでも太陽は地上を照らしている

そんな日差しの下、式は棒倒しをしているであろうアラタを見た

正直校庭はいろいろごちゃ混ぜで、アラタと言った知人を見つけるのは困難だ

 

少し目を凝らして注意深く探していると…見つけた、鏡祢アラタを

どうやら彼は棒をはっ倒す側に回っているようで戦場(こうてい)を友人であろう人たちと一緒に駆けまわっている

能力者の遠距離攻撃を避けながら一気に棒近辺に駆け寄って友人とダブル飛び蹴りをかましている

 

そんな光景を見て小さく、本当に小さく式は微笑んだ

 

 

そして激戦の末―――当麻たちのクラスは棒倒しに勝利した

当然傷を負ったものたちがいるが今となっては名誉の負傷である

傷だらけの戦士たちは勝利の事も怪我の事も気に留めず選手用出口からごく普通に外に出る

待っていたのは半分涙目で救急箱を抱えた月詠小萌だった

 

「ど、どうしてみんなあんな無茶するですかー! 大覇星祭はみんなが楽しむことに意味があるのであって…!勝敗なんて…! せ、先生は、ちっとも嬉しくなんて…!」

 

色々涙目で訴えていたがこの状況では多くを語らないのが美徳と判断した生徒たちは三々五々と散っていく

そしてインデックスとみのりを探そうと一般客用の応援席を覗いてみることにした…が、それらしき人はいなかった

一応念のためにインデックスにはゼロ円携帯とみのりには普通に携帯(橙子がくれた)を渡してある

インデックスとみのりが携帯を使っているところなんて見たことなかったが

みのりに至っては基本一緒にいるのでアラタや橙子としても一応、という事で持たせているのだが

因みに渡したのはだいぶ古いタイプで通話くらいしかできないタイプだ

 

「…連絡取ろうにも教室に携帯置きっぱなしだし、ちょっと取りに行ってくるよ」

「あ、じゃあ俺も―――」

「いいっていいって。お前だけ突出してけっこうボコボコにされてんだろ? オレがお前のも取りに言ってくるから休んでろって」

 

そう言って当麻を休ませてアラタは昇降口へと向かっていく

下駄箱付近の所には黒い装備に身を固めた警備員(アンチスキル)が立っていた

いつも黒板の前で教科書片手にチョークで文字を書いている姿を見ていると銃を構えているその姿はだいぶシュールだ

 

「すいません、人混みにいる知人を見つけたいのでちょっと教室に携帯取りに行っていいでしょうか」

「またストレートだな鏡祢。連絡がつかないときはこちらに連絡するように。では良き祭を」

 

教諭はそう分かり易く答える

要点だけ抑えたその言は流石の一言だ

 

さっそくその警備員(アンチスキル)の横を通って上履きに履き替える

校内は校内放送が反響していて結構うるさい

教室の前に辿り着いたアラタは普通に扉に手をかけて―――やめた

なんだか嫌な予感がしたからである

 

「…」

 

自分の教室に向かってノックをするなんてなかなかないが、念のためだ

アラタは軽く拳を作りコンコンとドアを叩く

 

「はい?」

 

案の定教室から人の声が聞こえてきた

声色からして女性だ、万が一着替え中の時に開けてしまったらお先真っ暗確定である…というかこの声は

 

「あれ、吹寄?」

「その声は鏡祢アラタ? いったいどうしたのよ」

 

恐らく競技前にびしょ濡れとなってしまった服を着替えにきていたのだろう

なんにせよ、開けなくてよかった

 

「えっと。今入って大丈夫かね」

「しばし待ちなさい。今服を着るから」

 

そう言って言われた通り少し教室の扉の前で待つ

しばらくすると扉ががらりと開けられ目の前には新たな体操服を着た吹寄が立っていた

 

「待たせたわね。入っていいわよ」

「オッケー、手間を取らせた」

 

吹寄の了承を受けてアラタは教室の中に入っていく

そしてまず真っ直ぐ自分の机に向かっていき、鞄の中身を漁る

少し漁っているとそう言えば鞄の小さいポケットに入れたことを思い出してそこに手を伸ばすと自分の携帯が見つかった

そして次は当麻の鞄を探して―――似たようなところに彼の携帯が入ってた

 

「用事は終わった?」

「あぁ、問題ない」

 

自分の携帯と当麻の携帯をポケットに仕舞うと吹寄と共に教室を後にする

 

 

校庭の外に戻り当麻に携帯を渡す

さっそく当麻はインデックスのゼロ円携帯に電話をかけてみたもののどういう訳か繋がらない

不思議がる当麻を尻目に今度はみのりに向かって電話をかけるアラタ

スリーコールの後に、こちらは普通に繋がった

 

みのりからもたらされる情報をもとに二人は何とかインデックスとみのりと合流することが出来た

ちなみになんでインデックスの携帯が繋がらなかったのか、というと電池が切れていたという何ともアレな理由だった

 

そして未だに空腹だったインデックスに何かを食べさせるためにこんな時にも移動屋台を営んでいる伊達明氏がタイミングよく通りかかった

さっそく当麻に断りを入れてアラタは伊達に向かっては知って駆けよりインデックスらに何を買って行こうかと悩んでいると

 

「あ! いたいた、アラタっ!」

 

不意に御坂美琴の声が聞こえてきた

彼が声がした方を向くと彼女は一直線にこちらの方へ走ってくる

彼女の手には一枚の紙が握られており、美琴も何らかの競技中なのだろう

 

「ごめん! いきなりで悪いんだけど、一緒に来てくれない?」

「え? 別にいいけど…なんで―――」

「理由は後で話すから! とにかく来て!」

 

アラタの言葉を待たず美琴は彼の手を取って一目散に走ってく

最後まで彼は疑問形な表情だったが次第に美琴の後をついていく

それに少し遅れて食蜂操祈も伊達の屋台にやってくる

 

「はぁ…はぁ…ねぇ、ここにアラタいなかったぁ?」

「ザンネンだね蜂ちゃん、一足先にみこっちゃんが連れてったよ」

「あぁ…先越されたぁ…仕方ないわ、誰か別の人に―――」

 

ありがとぉ、と短く食蜂は礼を言ってゆっくり、しかし確実に走り出した

その背を見送りながら置いてある水を一口含み、それを嚥下させる

 

「全く、アイツも罪な男だねぇ」

 

 

全力で駆ける美琴と並走してアラタは二人でゴールテープを切った

棒倒しを行ったのとはまた別の会場で、そして同時に次元が違う競技場である

スポーツ系統の大学が所有しているグラウンドで、公式の陸上競技会場だ

報道用のカメラの数や警備員(アンチスキル)の数もうちらの高校とは規模が違う

 

その光景に冷や汗をかきつつ呆然と突っ立っていたアラタの隣では待機していた運営委員が美琴にマラソンのゴールした選手みたいに大き目のタオルを頭から被せる

ドリンクを手渡し小型酸素ボンベの使用などの機敏な動きは明らかに映っていることを意識しているものだ

 

「…俺はいるべきなのか、ここに」

 

場違い感がすごい

まるで和風のお化け屋敷に一匹西洋のフランケンがいるみたいな

すると今まで美琴の世話をしていた運営委員の女の子がこちらをちらりと一瞥してきた

その顔は吹寄だった

 

彼女は小声で言ってくる

 

(…確かに指定は間違ってはいないけど…貴様、意外に交友関係広いのね)

(アレ、なんか馬鹿にされてません? 自分)

(気のせいよ。…えぇ、気のせい)

 

そう言って吹寄は会話を切り上げ、何か地面に置いてあるボードを拾ってそこに何か記録を書き始めた

仕事の邪魔をしてはいけないと考えた彼は美琴へと向き直る

 

「そう言えば借りもの競争…だっけ、指定されてた借りものはなんだったんだ?」

「え? あぁ、それね。えっと…はい、これ」

 

がさごそとポケットをまさぐって美琴は一枚の紙を手渡す

アラタはそれを受け取るとその紙に書いてある文字を呼んだ

書いてあるのは

 

―――第一種目で競技を行った高等学生―――

 

なんだよそのピンポイントな指摘

それ以前にこれは物ではない、者じゃねぇか…そう突っ込みそうになって思わず呟く

 

「…これは借り〝者〟競争だったのか…!」

「いや、ちゃんと物を借りた生徒だっているから」

 

一応物でもあった

 

「ていうか、これは別に俺じゃなくてもよかったわけだけど…約十万人いる中でどうして俺なのさ」

「―――」

 

一瞬空気が凍った

とはいっても凍ったのは美琴だけであり、ほかの皆はごく普通に動いていたが

 

「―――べっ!! 別にっ、いいじゃ、ない。…なんと、なくよ、なんとなく。それに、流石に他校には知り合いいないし、その、…。と、とにかく! この話は、もう終わりっ!」

 

美琴は顔を赤くして、表彰台の方へ向かっていく

アラタはその背を?マークを浮かべながら見送っていた

 

 

そんな大覇星祭を満喫している鏡祢アラタの下に、一つ電話が鳴った

ポケットを探り携帯を取り出して画面を見る

そこに書かれているのは蒼崎橙子の名前だった

アラタは携帯を操作し耳に当てる

聞こえてきたのはいつもと変わらない様子の橙子の声色

 

<やぁ、アラタ。大覇星祭は楽しんでるか?>

「うん。まあぼちぼちってところだ」

<そうか、ならいい。…そして唐突だが、悪い知らせだ>

「…悪い知らせ?」

 

電話の向こうで燈子が頷くのが想像できた

彼女は告げる

 

<―――あぁ、魔術師が潜り込んだっていう知らせがな>

 

その言葉を聞いた時、アラタの顔つきが変わる

今まで日常を楽しむものだった表情から一遍、日常を守る者の顔になったのだ

 

想像は破壊からしか生まれない

日常、が壊され、非日常が構築されていく―――




現在某笑顔動画にて、偉大なる初代、仮面ライダーが配信中!
藤岡さんが入った1号が見れる数少ないチャンスだ!(ツタヤ行けば見れるけどね!)
配信日から3日間無料だぞ! それ以降は有料になるからご視聴はお早めに

現在映画で平成対昭和の夢の対決が繰り広げられてますが、笑顔動画でこんな言葉を見かけました

「子供たちにとっては昭和も平成もないんだ…。子供たちにとっては、仮面ライダーは仮面ライダーなんだよ(うろ覚え)」

まぁこんなような言葉です
確かに共演してくれるのは嬉しいですけど、たまにはそんな本人たちがいる勧善懲悪な劇場版はみたいなぁ…レッツゴーはそんな内容でしたけど

対決も嬉しいけどやっぱり仮面ライダーは助け合いでしょ!

因みに上の言葉の動画は「特撮 総統閣下」で見れると思います
多分タイトルが分かり易いのですぐ見つけられるはず(ちなみにMAD動画です)


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#49 異能者たちの競技場

ニーサン! 後ろ後ろ!!
そう叫んだ人、大人しく白状なさい
大丈夫、私も叫びました
叫ばずにはいられませんよ、ええもう

大覇星祭編は要所要所カットして進むかも…

誤字、脱字等ありましたらご報告お願いします

いつも通りですみません
ではどうぞっ


白井黒子

 

常盤台中学在学、学年は一年

髪形はツインテールの小柄な少女

大能力者の空間移動(テレポート)の使いではあるのだが。彼女は大覇星祭には参加していない

ちょっと前に起きた事件が原因で身に受けた傷が治っておらず、体中に包帯を巻いているからだ

しかしそんな絶対安静な状態な彼女は現在、入院している病院を抜け大通りにいる

服装はいつも通りだが車いすに乗っている状態だ

一般のものとは違う、スポーツタイプで車輪がハの字になっているのが特徴だ

その車椅子を押しているのは初春飾利という女の子だ

風紀委員の同僚でもあり、友人でもある

そしてその初春の隣には佐天涙子という初春の親友もいる

 

二人とも半袖の白いシャツに黒スパッツというスポーツルックだ

 

初春は炎天下の下でニコニコと笑顔で

 

「やぁ、私や固法先輩が炎天下で頑張っている中で白井さんが一人エアコンの効いた部屋に一人でいるのを想像したらいてもたってもいられなくて身体が動いちゃいました」

「初春、それ軽く本音も入ってるよね」

 

佐天がそう言うと初春は頭にコツンと拳をぶつけ「てへぺロ」などとほざいてきた

生まれて初めて親友を引っぱたきたいと思った

 

「…素敵すぎる友情をアリガトウ、ですの。傷が完治した暁には真っ先に衣服を空間移動させて全裸にしてさしあげますからね」

 

そう黒子は答えたが、正直に言って初春の申し出は嬉しかった

大覇星祭という大きなイベントの中、一人でゴロゴロしているのははっきり言って退屈なのだ

当然、黒子は大覇星祭は初めてではない、とはいっても流石に念の一度のイベントなだけあって流石に規模が違う

普段歩いている道でも競技のアナウンス、開始を告げる花火の音などがあるだけでがらりとイメージが変わる

 

黒子は周囲を軽く見まわし

 

「それで初春、今年の大覇星祭は何かトラブルがおありですの?」

「今のところはなにも。せいぜい焼きイカの屋台に化けた産業スパイが生徒の唾液からDNAを盗もうとしてたくらいですかね」

「…え? 学園都市そんな被害にあってるの」

 

なにそれ怖い、と呟きそうになった佐天

若干顔が引きつった佐天に追い打ちをかけるように

 

「まぁAI否定論者の無人ヘリ撃墜未遂とか精神文化主義者による競技場爆破未遂なんかに比べれば可愛いものですわねぇ」

「え!? なんですかその事件! 学園都市裏に何抱えてんですか!?」

 

そんなの表沙汰になってはいないので佐天は初耳である

因みに初春もそれは初耳だったのか若干顔が引きつっている

黒子としては風紀委員に関わるのならそれくらいのトラブルに巻き込まれても当然、という覚悟くらいは決めているのだが

実際そのような事件を止めるために、それを止めるために固法やアラタと一緒に走り回ったのは黒子にとってはいい思い出だ

 

ほぅ、と思い出に浸る黒子の耳に競技場のアナウンスが聞こえた

生中継ではなく、少し前に終了した競技のハイライトを流しているようだ

はきはきと聞こえのい男性の声が響き渡る

 

<四校混同の借りもの競争でしたが、常盤台の圧勝でした。中でもトップの選手は他校の選手に比べて約七分もの差をつけてのゴールという素晴らしい快挙を成し遂げて―――>

 

画面に映ったのはどこぞの陸上競技場

顔はカメラに撮られていて競技者の名も公表される

これが世界に放映されるなら一気に知名度も上がりそうなのだが、実際は別にそうでもない

選手の数は百八十万を軽く越すし一位といってもそこまで歴史に名を残すものではない

その場だけ騒ぎ立てその場だけで忘れていく、そんなものだ

だから正直黒子は興味なんてなかった、が

 

<―――一位を獲得した御坂美琴選手はゴールした後も悠然としており、まだまだ余力を感じさせる姿を見せてくれました>

 

黒子の視線が大画面に映る

その速さは例えるなら神速で刀を抜く居合のように鋭くて速かった

 

「嗚呼!お姉様流石ですわ! その完全なる完全勝利(パーフェクト)という形でその美しき姿態を見せつけてくれるのですね! 録画をできなかったこの黒子の不肖! お許しをっ!」

 

黒子の目が輝きまくる

新しく付け替えた豆電球みたいにめっちゃ輝いている

 

「お、走ってもらったのはアラタさんみたいだね。はは、なんか様になってるね」

「そうですねぇ、何だか御坂さん羨ましいなぁ」

 

大画面を食い入るように見る黒子の隣でそんな会話をする初春と佐天

 

こんな日常の最中にも、大覇星祭は進行していく

 

◇◇◇

 

次の競技は大玉転がしだ

―――なのだが、そんな競技を一切スルーし、今現在橙子の所へ赴いている

それは、入り込んだ魔術師の情報を得るためである

一応、念のために吹寄にはちょっと気分が悪いなど嘘をつきちゃんと正式に欠席している(ものすごく心配してくれたので若干心が痛んだ)

 

「…それで、入り込んだ魔術師ってのはどいつだ」

「青子の情報は約二人、オリアナという運び屋と、リドヴィアという魔術師、二名、どちらも女性。相手もいるかもしれんが、こっちはわからん。あと他に護衛か何かは知らないが数十名下っ端らしきやつも入り込んでいるな」

「…なんだ、敵さんなんかやらかす気か?」

「あぁ、簡単に言うなら取引という奴だ」

 

橙子の言葉にアラタは首をかしげる

 

「…取引? なんの取引だよ」

「簡単に言うなら、霊装…。分かり易く言うならすごいアイテムの受け渡しを行う気なのさ」

 

霊装、という聞き慣れない言葉にアラタは首をひねった

そこそこなゲーマーであるアラタは霊装、という響きだけで、装飾品か何かだろうかと推測する

 

「大覇星祭は外部からも客を入れるだろう? 如何せんどうしても警備が緩くなる、恐らくそこを狙われたんだろう」

 

そう橙子に言われてアラタはなるほど、と納得する

確かに普段ならかつて襲撃してきたシェリーのように真正面から乗り込むか、闇咲みたいな魔術で幻惑でもしなければ魔術師が入るのは難しいだろう

 

「一応、イギリス清教の奴がこの学園都市に来ているらしい。連中、知り合いがいるから数人なら潜り込めるしな」

 

イギリス正教のヤツ、と聞いてアラタはいつぞやの赤いバーコードを思い浮かべる

あのバーコードなら当麻やアラタとも知り合い出し、遊びに来たよ、という名目で堂々とこの学園都市に入り込める

 

「ところで、その取引される霊装ってのはなんなんだ?」

「うん? あぁ、その霊装か。確か、〝刺突杭剣(スタブソード)〟といったか。…なんでも、ありとあらゆる聖人を一撃死させる代物だとか」

 

―――一撃死

 

「…それはまた随分と危ないヤツだな」

「確かに危ないが、それが適用されるのは聖人だけだ。クウガであるお前にはただの剣だよ。まぁ私も、実物は見たことはないが」

 

そうさらりと言ってのける橙子は懐から煙草を取り出し、それに火をつけようとする

しかし今いる場所が禁煙エリアと知ると仕方なく煙草だけを咥えた

…気分だけでも吸いたいのだろうか

 

「…で、そんな物騒なのを取引して、連中は何がしたいのさ」

「戦争、だろうな。聖人というのは魔術の世界じゃ核みたいな代物だからな。相手の聖人を上手く排除して味方を保護するだけでもだいぶ状況は変わる」

 

戦争、というあまりに現実離れしたその言葉にアラタは唸った

橙子は火のついていない煙草を一度口から離し

 

「まぁともかくだ。私もそれとなく手伝ってやるから、今はとにかく大覇星祭に集中しておけ」

「え? 手伝ってくれんのか?」

「あぁ。お前は、そんなのがあるんだな、と頭の片隅に留めておいてくれればいい。何かあれば連絡する。この話はお前の友人も知っているハズだ」

「友人って…当麻か」

 

まぁ多分ステイルか誰かから言われたのだろう

 

「では、また後で」

「あぁ」

 

そう言って橙子は煙草を再び咥えたままゆっくりと歩いて行った

それから少し遅れてアラタも歩きはじめる

頭の片隅にでも留めておいてくれ、なんて言われてもそんなの無理だ

この街で何かが起きようとするのなら、それを止めないといけない

それが、仮面ライダーだからだ

 

 

「…すごいねぇ。大覇星祭」

 

先ほどの棒倒しなんか見てて手に汗を握った

それくらい白熱したものだ、と皇カイトは思う

 

「だけど、ちょっと白熱しすぎじゃないかなぁ? 能力を使ってまで行うような競技じゃないと思うけど」

「逆にそれがいい味を出しているのかもね。確かに、能力を使ってまでとは思うけど」

 

今回、カイトは誰も憑依させておらず、ごく普通な状態だ

カイトの隣にいるのは実体化したウラタロスである

てっきり騒ぎが起こるかと思ったが何かの撮影かと勘違いされたのか、単に今が大覇星祭の途中だからその余興かと思われたのか、理由は分からない

いずれにしてもイマジンたちがこちらにも堂々と入れるような何かが欲しいなぁ、なんて思ってみてはいるがそんな都合のいい話があるわけないのだ

 

「…それで、当初の目的は何だったっけ」

「ディケイドの士さんを探す、だよ。こういう状況にはあの人の方が慣れてるかもだし」

「かもね。…お、ねぇカイト? 身体借りていいかな?」

「ダメだよ。女の子ナンパする気でしょ」

「…やっぱりバレてた?」

「バレバレだよ」

 

カイトはやれやれと言った様子で頭を抱える

こんな時でもいつも通りだな、と安心したのは内緒だ

 

 

考えながら道を歩いているとふと見知った人影を発見した

一人は上条当麻、もう一人は吹寄制理

様子を見る限り何だか吹寄が怒っているように見える

アラタはそんなお二方に声をかけた

 

「よっす、吹寄、どうしたよ」

「いいえ。相も変わらず上条当麻は上条当麻と思っただけよ」

「違うのに! 真面目に考え事してただけなのにっ!」

 

そう必死に言う当麻の背中が人混みにドン、と押され勢いよく倒れそうになり―――

 

ぼふん、と誰かの胸元にどういう訳か当麻の顔がうずまった

 

「のわぁ!?」

 

どうやらそれは女性の胸でありました

当麻は慌てて身を引く

ぶつかってきた女の人は「おっとと」とあまり気にしてはいないようでアラタの横にいる吹寄は「―――上条」とドスの聞いた声を発する

ぶつかってきた女の人は外見年齢十八~十九歳前後の女性で、服装は作業着である

おまけに金髪碧眼な上スタイルも抜群という外国人女性

長い金髪は相当手を入れており、巻き髪を三本の束に分けている

どこぞの塗装業の関係者なのか、大きめな看板を持っており伸ばした指の先がかろうじて看板下部を掴んでいる

いや、問題はそこじゃない

 

一番の問題は彼女の服装にあるのだ

何しろあの吹寄でさえ「うわ…」と声を洩らしているくらいきわどいのだ

 

ボタンで留める作業服は第二ボタン以外留めておらずへそ丸出しでズボンも見た感じ緩そうである

見た感じでは露出狂なのか、いやただ単純に露出強(誤字に非ず)なだけかもしれないが

その女の人は割とすらすらと日本語を口にする

 

「あぁ…ごめんなさいね? こういった人混みは慣れてなくって。痛いとことかないかしら」

 

そういいながら彼女は優しく当麻を引きはがして

 

「あんまりケンカとかしては駄目よ。せっかくのお祭りなのだから楽しまないとね」

 

器が大きすぎるっ! と感動している当麻を尻目に女性は今度は吹寄らに

 

「そちらのお嬢ちゃんたちも、ごめんなさいね」

「え? い、いいえどうもこちらこそ…」

「ていうか、なぜ貴女が謝るんですか」

「やっぱり間接的な原因は私にあるから、じゃダメかしら」

 

その余裕たっぷりの大人なセリフに吹寄はたじろぎ、アラタはほえぇ…と声を洩らす

 

「何してるんですか。こんな所で」

 

不意にその女性の後ろから男の人の声が聞こえてきた

どうやら女性の知り合いらしい男性はその吹寄らをちらりと見て

 

「…トラブルですか?」

 

と小さく言ってきた

女性は薄く微笑みながら

 

「ちょっとぶつかっちゃってね。ほら、私こういう人混みに慣れてないから」

 

そういうと男性ははぁ、と息を吐きながら当麻らに頭を下げる

そして頭を上げて

 

「失礼、迷惑をかけてしまったようですね」

「い、いえいえ。別に」

 

そう改まって言われるとものすごくこちらが悪いような気になってしまう

それを察したのか女性はす、と握手を求めるように手を差し出してきた

 

「お詫びに、ね。日本じゃ頭を下げるらしいけど、こちらじゃこういうのが一般的ね」

 

まず最初に女性は当麻に握手を求めてきた

友好的なその態度に当麻はインデックスもこういった優しい文化を学んでくんないかなぁ、なんて思いつつ彼は出された手を〝右手〟で握り返し

 

 

バキン、と何かが砕く音がした

 

 

「…え?」

 

声を発したのは間にいる吹寄制理

握手をした二人と、同じくそれを見ていた二人は何が起きたのかを理解しているために、声は出さない

 

何を、壊したのか、壊されたのかを理解している

 

「―――とと」

 

女性は苦笑いを浮かべようとするも失敗し、ずいと強引に男性が彼女の前に出る

 

「すいません。ちょっと急がないといけないので…これで失礼します」

 

男性はそう言って返事も待たずに立ち去ってしまう

先ほどまでにあった余裕などかけらもない

 

「…あれ? 私とは握手しないの?」

「そ、その。ドンマイ吹寄」

 

そんな吹寄に声をかけつつ、当麻とアラタはその女性の走って行った方向を見て佇んでいた―――

 

 

はぁ、と一度ため息の後改めて当麻を連行しようとしたところで彼女の携帯が鳴った

どうやら委員の連絡らしく吹寄は事務的な言葉を口にする

小さい声で何か言い合っているらしく、何かトラブルのようだ

彼女は自分たちの顔と時計の文字盤を交互に見つつ

 

「―――次はパン食い競争だから、遅れるんじゃないわよ!」

 

と言い残し携帯を片手にどこかへ行くのを眺めながら、ふと当麻が声を発した

 

「アラタ」

「―――うん? あぁ、さっきのか。任せろ、俺も―――」

「いいや、違うんだアラタ」

 

アラタの言葉を遮って当麻が口を開いた

そして、その言葉を聞いて耳を疑った

 

「お前は、次の競技の場所に行ってくれ」

「―――なっ」

 

何を言ってるんだ、とアラタが言う前に当麻が言葉を続けた

 

「お前は、俺の知らない所でもきっと戦ってるんだろ。…普段から笑顔を守ってるお前は、大覇星祭が開催されてる期間くらいは自分自身が笑顔であるべきだ」

「…当麻」

「その代わりにさ、ちょっとインデックスの面倒見ててほしいんだよ、アイツは小さい証拠から一気に事件の中心に来ちまうかもしんない。だから…さ」

 

本当は、当麻の方が笑っていないといけないのに

記憶を失っているというのに、どこまでも誰かのためにこの男は身体を張る

当麻はそう言って笑みを浮かべ、その女のいる方に走って行った

アラタはその背を見送って、拳を握る

 

「―――バカが…!」

 

出来るわけないだろう

知人が誰かを守るために奔走しているのに、自分だけ安全圏にいろ、なんて提案が呑めるわけないのだ

本当は、あの場にいないといけないのは、アイツなのに

それに、もう関わってしまっているんだ

今更見て見ぬふりなど出来ない

 

「…だけど」

 

言ってはみたがすでにその女性たちの姿を見失ってしまい、さすがにもう後を追うことは出来そうにない

しかし警戒を怠るわけにもいかない

ひとまず一度インデックスの所に今の所は行くとしよう

 

 

大覇星祭期間中は着替えが多く出る

そんなこんなで巧巳のクリーニング屋は繁盛している

…とはいっても流石に量が多い

別に巧巳の店以外にも利用しているのだろうが、それでも結構な量だ

 

「あぁ…シンドい…」

 

おっさんみたいに腰を叩きながら巧巳は換装が終わった衣服を名前順に並べ纏めていく

こんがらないように一応名前のタグはつけていたのだが、その作業を巧巳はやらない

 

「バジン、悪いけどこれ分けといてくれ」

<了解>

 

短く返答し、てきぱきと着替えを揃えていく

きっちりと折りたたみながらもしわ一つない職人技だ

これであとは取りに来た人に渡すだけである

そんな訳で今度はまた別の衣服を洗濯機に放り込んでスイッチを押して洗い始める

あとこれを何セット続ければいいのか

恐らく今後も増えるだろうから、覚悟しておかねばならない

 

ふと、何気なくテレビ中継を見た

そこには次の競技の場所が映されておりどこの学校が参加するのかも明記されている

なんとなく大覇星祭のチャンネルにはしているが、正直あんまり興味はない

 

そこはどこかの中学校の校庭で常盤台もそこに出るらしいのだが巧巳の意識はそこには向かなかった

 

彼の意識は今目の前にある沢山の洗濯物にいっている

 

「さぁて、まだまだ行くかー」

 

のんびりとそんな事を呟きながらクリーニング店の日常は過ぎていく

そんな店に、一人の来訪者が訪れるまでは

 

「失礼」

「―――うん?」

 

そんな声に巧巳は怪訝な声を上げた

声の主は、ローブをまとった明らかにこの街の住人ではないと一目で分かるヤツだ

 

「貴方が乾巧巳―――ファイズですね」

「―――そうだけど、だから何だよ」

 

そう言って男は、何かの指輪を取り出す

取り出しながら、男は言葉を続ける

 

「貴方に恨みはないが、リドヴィアの依頼だ。少し、痛い目に遭ってもらいます」

「―――はぁ、メンドくせ」

 

何なのだろうか、今日は

仕事は増えるし変なのには絡まれるし

 

実際目の前にいる輩は万が一計画の支障になり得るであろう敵を排除すべく、他のライダーの所にも表れていることを巧巳は知らない

まぁ巧巳にとって面倒なことは変わりない

 

「バジン」

「了解した」

 

そう言ったかと思った瞬間にバジンのストレートがさく裂する

しかしその拳は空を裂き、男は大きく飛び退いて外に飛び出した

 

<チェンジ> <ナウ>

 

後ろへ飛び退きながら魔方陣を潜り抜け、宝石のような仮面を纏うライダー、メイジへと姿を変えた

そんな彼を追うように巧巳も外へ出て、ファイズギアを腰に巻きつけファイズフォンに<5・5・5>とコードを入力する

 

<standingby>

 

「まぁいいぜ、売られたケンカは買ってやる! ―――変身!」

 

フォンを持った手を天高く掲げながらそう叫び、垂直にギアにセットしてそれを倒した

 

<COMPLETE>

 

巧巳の身体に赤いラインが通り、包んでいく

瞬時に巧巳の姿を変え、そこには一人の仮面ライダーがいた

ファイズ、という仮面ライダーが

 

彼は気怠そうに右手をスナップさせながら、ファイズはメイジに向かって駆けだした―――




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちら

スーパーヒーロー作戦
ハード:プレイステーション

バンプレストから発売されたRPGです
仮面ライダーは出てませんが、続編のダイダルの野望には昭和ライダーが出てますよ!

このゲームはいろいろな作品のクロスオーバーものです
ガンダム、ウルトラマン、宇宙刑事など知ってる作品は多いはず
といってもクリアしたのはだいぶ前ですから内容は記憶の片隅にしかないので内容は覚えていませんが…

因みに続編ダイダルの野望ではシャドームーンが仲間に出来ますぜ(本人じゃないけどね)

色々荒いところもありますけど、合う人にはとても面白いゲームだと思います

今回はここまで

ではでは


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#50 互いの戦略

中々更新できず申し訳ない
リアルとの両立って難しいね

いつも通りだけど、呼んでくれてありがとうございます

誤字脱字等ございましたら気軽に報告を

ではどうぞっ


吹寄制理

 

彼女は大覇星祭の運営委員の一人だ

警備員(アンチスキル)や風紀委員のような特別な権限は持たないが競技の準備や審判を担当するので割とバカにできないポジションだ

世間一般では大きいスポーツの祭典程度の印象しかないが大覇星祭は各校の能力開発具合を簡単に評価出来てしまうので、学校の予算編成にも影響するからだ

 

当然、運営委員だって競技には参加する

 

それ故に運営委員は自分のスケジュールに都合をつけないといけない

しかしそれを言葉にするのは簡単だがここ東京の三分の一を占める学園都市、競技する場所によっては相当な時間がかかる

おまけに開始や終了なんかも時間通りに進むとも限らないために、油断はできない

要は時間との戦いだ

 

吹寄はスポーツドリンクの入ったボックスを両脇に抱えながら考える

 

玉入れの競技場に向かうにはバスを使った方が…いや、今の時間は…などなど

 

運営委員ならば地図などを頭に叩きこんでいるのは当然だ、さもなければ不慮の事故が起きた時に対応できない

今現在吹寄制理は自分が審判を行う競技場へ向かっている最中ではあるが、最短距離を外れて大きく迂回している最中である

理由は単純、人混みの多いエリアを避けた方が結果的には時間の短縮になる

急がば、回れ、という奴だ

そういう訳でさっき当麻を引きずっていた道を逆走して彼女は前へ前へと進んでいく

と、そんな視界の先に

 

数メートル先にチアガールの恰好をした銀髪の女の子が四つん這いでなんか打ちひしがれている

その隣には黒いワンピースに頭に…なんだろう、角のカチューシャ? みたいなのを付けた黒髪の女の子もいる

涼むなら木陰に入ればいいのに、と素直に吹寄は思う

 

「うう。せっかくとうまを応援しようと思ってたのに…なんだかどこかに行っちゃったみたいだし…」

「はは…気にしないでよインデックス」

「そ、そうですよ、クワガタちゃんの言うとおりですよシスターちゃん。きっと上条ちゃんたちにも深い事情があったに違いないんですよ!」

 

そんな銀髪の女の子の横で頑張って宥めているのは小柄な少女にしか見えない教師、月詠小萌だ

どういう訳でか彼女もまたチアガールのような恰好をしている

吹寄は眉をひそめて

 

「先生、私が先生に伝えて案件はどうなりました? …ていうか公衆の面前でなにしてるんですか。もしも軽い錯乱ならホットミルクとかを与えてお腹を見たし沈静化を促すか唐辛子等の刺激物で思考を外側に向けるといいと思います。今手元には唐辛子しかないですけど使いますか」

「だ、大丈夫なのですよ吹寄ちゃん。―――ちょ! 鼻に押し込もうとしないでください! なんか江戸の刑罰みたいになっちゃいますからー!」

 

そう吹寄に言われそうですか…と短く返事をして七味の入った小さ目なひょうたんをポケットに戻す

そんな吹寄の耳にシスターの口から言葉が聞こえた

 

「とうまは…? とうまはどこ?」

「…そういえばアラタも見ないなぁ…」

 

シスターの言葉に続いて黒髪の女の子も言葉を漏らした

…そういえば、あの二人はどこに行ったのだろうか

 

 

左翔太郎は伊達明の営む屋台に座っていた

炎天下の下で歩き回って少々体力の奪われた翔太郎はたまたま見かけたこの屋台で涼んでいたのだ

伊達から出された氷の入った水を飲みながらふぅ、と翔太郎は一息を付いた

 

「にしても、大覇星祭ってのはすげぇイベントだな。テレビまでいるとは思わなかったぜ」

「それは俺も同感だぜ翔ちゃん、おまけに、一週間も続くってんだから、長いイベントだよね」

 

適当に伊達と話してみる

この人はおでんの屋台と言ってはいるが正直に言っておでん以外も売っている気がするのは気のせいだろうか

まぁ、今となっては些細なことだが

 

「…にしても、太陽も空気読んでるよな。ちょっと気合い入りすぎてるっていうか、熱いっていうか」

「それは仕方ないでしょ。天気に文句は言えないからねぇ」

 

伊達と二人そんな会話をしていると屋台の隅に置いてあるラジオから声が聞こえた

内容は簡素なもので、どこかの中学校で競技が始まるぞ、という内容のものだ

翔太郎は伊達と二人、そのラジオから聞こえる声を聞きながら冷水で喉を潤していた

 

 

シャットアウラは冷や汗を流していた

別にアラタを応援するわけではないのだが、いずれ自分も参加しなければなれないため、学んでいるのも悪くはないと思ったのだが…

 

「…戦争、なのか。大覇星祭とは」

 

はっきり言えば驚いた、としか言いようがない

巻き起こる砂塵、飛び交う弾丸(みたいな何か)、行き交う人々etc.…

自分がエンデュミオンで体験したことが小さく見えてしまうくらいだ

これは三年になった時にはどういった戦略で行こうか考えないといけない…と本気で思い始める

ていうかアリサは大丈夫なのだろうか、こんな戦場に駆り出されて彼女に怪我でもされたらたまったものじゃない

もしそういう場合が来たら全力で守らなければ、とまだだいぶ先の事を考え拳を握る

それはそうと今のとことアラタの姿を見ていない、一体どこにいるというのか

 

「…そういえば次は玉入れ…だと言ったか。私が入るクラスは出ないが…アラタの知人がいるらしいし、見に行っても文句は言われまい」

 

そう自分に言い聞かせ地図を広げる

ここからだと…こういけばいいのか、と自分なりにルートを組みながらシャットアウラはのんびりと歩いていく

どうしてだろうか

顔には出ていないが、どこか…心のどこかでこの大覇星祭を楽しんでいる自分がいた

 

 

「中学校?」

 

インデックスらの所へ戻ろうとしたところで、蒼崎橙子からの電話が彼の携帯に届いた

 

<あぁ。魔力の流れを探していたら、その中学校の前についた。私は今そこにいる、お前は来れるか>

 

橙子の指定された中学校を探してみるとこの場所から割と近い場所にある

これならすぐに合流できそうだ…しかし、そこはもうすぐに競技が始まる時間帯ではないか?

 

「けどどうする。その学校はもう競技が始まるぞ」

<ふむ。…その辺はおいおい考えるとしよう。とにかく合流だ>

 

ひとまず考えるのは後回しにして足を動かすことにした

軽く駆け足だと思わず人とぶつかってしまいそうになるがなんとか人混みを掻き分けながらアラタは足を進める

 

少し早足で駆けると思いのほか早く着いた

校門の前にはすでに橙子が立っている

橙子はアラタの姿を見つけると手で合図した

 

「ここだ、アラタ。…しかし、もれなく何かしらの競技が始まってしまいそうだが」

「そればっかりは仕方ないと思うけど。ところで橙子、この中学校には何が仕込まれているんだ」

 

軽く中学校を見渡せる範囲で見渡してアラタは橙子に聞いた

ちらちらと見えるかごから察するに恐らくここでやる競技は〝玉入れ〟だろう

一般的に玉入れとは自分たちの籠に用意された球を投げ入れる文字通りな競技なのだが、大覇星祭の玉入れは全然違う

 

どれくらい違うかというとそれはもうそばとうどんくらい違う

 

まずこの大覇星祭に参加する生徒は基本的に能力開発を受けた学生が大半である

つまり競技が開始すると同時に風やら土やら水やらが飛び交う戦場と化してしまうのだ

対戦相手のレベルが低かったらまだいいが常盤台とかを相手にするともう絶望しかない

異形の化け物を生み出してしまうくらい位には絶望できるレベルだ

 

そんな事を考えつつ、アラタは橙子の言葉を待つ…が、帰ってきた言葉は

 

「…分からん」

「…え?」

「分からん、と言ったのだ。大雑把ではあるがこの中学校から魔力の流れを察したから、何かあると踏んだまでだ」

 

まさかのカミングアウト

しかしそうなら行動がとれない

ふぅむ、とアラタが橙子の隣で首を捻っていると

 

「…鏡祢じゃない。こんな所でなにしているの」

 

立っていたアラタの背後から慣れた声が聞こえてくる

振り返るとそこに吹寄制理が立っていたのだ

アラタは視線を気まずそうに泳がせながら

 

「え、えっと。ふ、吹寄はなしてここに?」

「私はここでやる競技の審判だからよ。それがどうかしたの?」

 

そうか、と頷きそうになってハッとする

…もしかして上手く彼女に手伝いか何かを申請できればこの中学校内を探索できるのではないか

恐らく当麻とその仲間もこの情報を掴んでいるだろうし、彼らの動きをサポートできるかな、と考えたのだ

とはいえ所詮お手伝い、そのような申請通るだろうか…いや、ともあれまずは当たって砕けよう

それでダメならどうにかして潜り込むだけだ

 

「な、なぁ吹寄。その、なんだ。なんか俺に手伝えることって、ないか?」

 

 

意外にあっさり通れてしまった

彼女から任された仕事は参加選手の入退場の誘導だ

幸いにも競技開始までの時間はまだ少しある、始まるまでに探せればいいのだが

そう思いながら燈子から渡された一本の煙草に視線を落とす

 

―――それは魔力に反応すると勝手に火がつくように術式を施した煙草だ、それで内部を探ってくれ、私は改めて周辺を調べてみる

 

橙子はそう言って再度学校の周辺を散策すべく歩いて行った

校内でも同じようにアラタも歩き回ってはいるのだが如何せんこの煙草がうんともすんとも言わない

橙子に限って術式を間違えたなんてないだろうし、単純にこの学校にはないのかもしれない

しかし燈子がここに流れを感じたなら間違いなくここにあるはずなのだ

だが誘導の時間も迫ってきているし…仕方ない、と一度切り上げアラタは吹寄から借りた運営委員の腕章を腕につけて生徒入退場を誘導するべく走り出した

 

 

次なる競技は玉入れである

御坂美琴は土でできた校庭に立っている

最新鋭の設備を持っている常盤台に慣れている美琴としてはこういった凹凸が不規則に会ったり衝撃の吸収の効率もまちまちな土の競技場というのも何だか新鮮だ

 

生徒総数二百人弱、そしてその全員が生粋のお嬢という常盤台中学陣営は一見すれば口をそろえてみんな可憐だというだろう

客席にカメラが多いのも絵として華になるという理由が多そうだ

 

しかしそれはあくまで学園都市の外部から見た意見である

内部から見るとまた違って見えてくる

 

常盤台と戦う、という事は最低でも強能力者(レベル3)、最高でも超能力者(レベル5)と戦う事を意味している

彼女たちはニコニコと笑顔ではあるがそんな笑みの中で軍艦一隻の破壊など造作もない彼女らを楽観視なんてできないのだ

銃撃飛び交う戦場に丸腰で突っ込むようなもんである

実際対戦相手校は生徒総数二千人前後いるくせに彼ら彼女らから漂ってくるのは悲壮感だ

プライドの高い連中はそれを鼻にかけて高笑いなどをしている

はぁ、とため息を吐きながら美琴は気になっている場所を見た

 

選手の入場誘導をアラタがやっていたのも驚いたが、こちらは驚きではなく困惑だ

 

(…)

 

美琴は首を捻る

百メートル離れた相手中学の中に、どういう訳か年齢的にいちゃいけない人がいる

しかもご丁寧に運動服まで用意しているのだ

 

(…なにやってるんだろう)

 

御坂美琴は本気で疑問に思った

そんな美琴を見てさらに食蜂は首を捻る

何考えてるのかしらぁ、と言いたげな食蜂の視線に、美琴が気づくことはなかった

 

 

常盤台が参加校だったことにも驚いた

しかし一番驚いたのは常盤台の対戦相手校の連中の中に何か知らんが上条当麻とういう自分の親友が紛れ込んでいた事でして

誘導する際にさりげなく近づいてアラタは問うた

 

(何してんだお前、これ中学校の競技だろう、お前そんな趣味があるのか)

(ちげーよ! …えっと、分かり易く説明するとだな?)

 

そう言って当麻は琴のあらましを話してくれた

内容はだいたい橙子が言っていたものほぼ同じだ、ただ一つ、当麻の協力者が言うには籠が怪しいらしい、という点を覗いては

 

「土御門が言うには、だいぶ前から設置されてて〝籠の周りに玉を置く〟んだから、最初に籠の位置を決めておく必要がある。だから籠に魔術的細工が施されてる可能性が高いらしい」

「なるほど。籠、か。盲点だったな、確かに競技の開始前…具体的には数十分前か、その時の配置を見越して何かを仕掛けた、という感じかな。わかった、俺もなるべく注意しながら競技を進める。お前と、土御門にも気をつけろよって言っておけよ、万が一吹寄に見つかっても今回は俺は何も言えないからな」

 

ご無体な! と当麻は言うがこれは詮方なきことなのである

一応、グラウンドに立ってはいるがその役割のほとんどはただの監視、自分の前に当麻が見えたなら遠慮なくスルーするが相手が吹寄だったらアラタとしては何も言えない

 

しぶしぶと生徒の中に紛れていく当麻の横に僅かな金髪が見えた

土御門だ

彼が魔術に関与していると知ったのは先のエンデュミオン事件の時だが、アラタは彼がどれほどの実力を持っているのかは知らない

だが、当麻もいるから何とかなるだろう…と考えていたところで

 

「…あ、そう言えば魔術の発動条件知らない」

 

完全に聞くのを失念していた

くそ…と頭を掻きながらアラタは周囲を見渡す

当麻に聞こうにも彼は完全に生徒たちに紛れてしまっており、この中から探すのは結構しんどい

土御門も探せば見つかるだろうが流石にこの人混みを掻き分けて捜す気も起きない

ここは任せるしかないか…と考えつつふと吹寄を見ると彼女はすでに開始を告げる準備に入っていた

もうこうなってはあの当麻らを頼るほかないか…と心の中で考えながら何気無く煙草を握りしめた

そして熱っ!? となって思わず手をポケットの外に出して気が付いた、と同時に慌ててポケットの中の煙草を取り出す

 

煙草に火がついていたのだ

 

めぼしそうなところは全て歩き回ってはいたが、この校庭に来て僅かではあるが火がともっていたのだ

ていうか、気づいていなかったら危うく燃える所だった

まさかこんな所で火災などは起こしたくない

しかし、これが校庭に来てから燃えた、となるとやはり術式はこの校庭のどこかにある

その元凶に近づくことが出来ればさらに勢いよく燃えるだろう

 

「…やっぱり、見回りって称してこの戦いの中に入るしかないな…」

 

正直この言い訳が通用するかもわからないしそれ以前に能力飛び交うこの合戦の中に入り込みたくはない…が、この際仕方ない

万が一誰かが巻き込まれて発動でもしたらそれこそ大惨事だ

自分の使命は何だ、とアラタは自身に自問自答する

そう、それは誰かの笑顔を守る事だ

 

誰でもない、他人の笑顔を

 

 

<用意>

 

吹寄はマイクを握り、開始の合図をしようとしている

そもそも運営委員のお仕事は負傷したものの回収や試合開始の合図、及び終了の合図など割と多方面である

流石に実況とかはやらないが(やられても困るが)ほかに面倒なのは玉入れで籠に入った玉数を数えることくらいだろう

流石にこれほどの人が増えるとこの競技で使用する玉の数は夥しい量だ

それ故に玉入れに裂かれている時間の三分の一は〝玉のカウント〟になっている

 

<用意―――>

 

彼女の仕事は試合開始の合図のみ、終了の方は誰か別の運営委員がやる手はずになっているハズだ

吹寄はこの合図が終わったら玉を数える側に回らなければならない

 

(…今あの集団に何か見知った顔がいた気がするのだけど。気のせい、と割り切ってしまおう)

 

あんなものは幻想だ、まやかしだ

生じた疑問に無理やり決定づけて、彼女はその言葉を叫ぶ

 

<―――始めッ!!>

 

吹寄が告げる

そしてその校庭は戦場と化し―――誰も知らない所で別の戦いが始まる―――




今回の気まぐれ紹介はお休み

ではまた次回


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#51 知る者と知らぬ者

ひとまず完成

今回は少し無理やりかも

誤字脱字ありましたらご報告を

ではどうぞ


吹寄の笛を合図にして玉入れという競技が始まった

そして同時に校内放送のスピーカーがなんか運動会とかでよく使用されていそうな軽快な行進曲を流し始める

そこだけを見ればよく見る運動会の玉入れだったろう

 

しかし今実際のアラタの前で繰り広げられているのはそんな行進曲のテンポを完全無視し左右から一気に中央へと向かっている絵図である

行き先は横一列に並んだ高さ三メートル前後の籠なのだが

 

「…うわーお」

 

思わずそんな言葉を口にする

ていうかそんな言葉しか思い浮かばない

何だか常盤台陣営から黄色だか赤だか色取り取りの閃光が襲い掛かる

いつこの校庭は宇宙世紀になってしまったのだろうか

その閃光は地面に着弾すると同時に爆発やら衝撃波を起こし、そしてその一撃一撃が生徒数十人を吹き飛ばしていく

 

自分たちが参戦していた棒倒しとはえらい違いだ

なんて言うか規模が違う

吹き飛ばされた生徒たちは軽く十メートルくらいは宙を舞っていたが、よく見てみると空中で若干威力が殺されている気がする

どうも常盤台の別能力者たちが空気風船(エアバッグ)やら衝撃拡散(ショックアブソーバ)などの防護系統の能力を使用しているようだ

世話好きな生徒だな、とも思ったが改めてアラタは籠を見る

 

ふととある一本の籠の下に見知った人影がいるのを確認した

上条当麻と土御門元春だ

どうやら一つ一つ籠を調べていき、地道に魔術を見つけるつもりなのだろう

アラタとしてもそれくらいしか考えられないので、今回はそれに習うことにする

とはいってもあまり接近できないのもアラタとしては心苦しい、この腕章がなければ割と自由に動けるのだが

 

仕方なくアラタは彼らとは反対方向の籠を見ていくことにした

もしかしたら橙子から貰った煙草が反応するかもしれない、という淡い期待を込めて

 

◇◇◇

 

仮面ライダーファイズ、乾巧巳は目の前のライダーに警戒していた

多少拳を交え、なんとなしにお互い離れて改めてその男―――メイジ―――を睨んだ

外見はなんだか宝石みたいななんかのっぺらぼうみたいな面だが、それだけで判断するわけにもいかない

何だか左腕が割とヤバめな爪だし、あれを喰らったら結構痛そう

ファイズは軽く右腕をスナップさせつつじり、と身を落とし構えを見せる

 

それに対して目の前のライダー―――メイジも同様にに左手を構えつつ、じりじりとこちらに対して歩みを始める

先に動いたのはメイジだった

一気に接近してきた、その大きな爪を振りかぶり攻撃してくる

ファイズはその一撃を両手で捌きつつ相手の出方を伺いながらけん制程度に叩きこんだ

メイジはそのけん制程度の一撃を呼んでいたのか軽く後ろに下がって今度はファイズに向かって蹴りを繰り出してくる

同じようにファイズも蹴りを繰り出しお互いの一撃を交差させもう一度お互いに距離を離した

 

そうして一度メイジはベルトのようなものを操作し、手を翳した

 

<コネクト> <ナウ>

 

そのベルトからそんな音声が聞こえるとメイジの付近に小さ目ななんか魔法陣的な何かが現れる

メイジはそれに手を突っ込むとそこからどんな原理か銃を取り出して銃口をこちらに向かって突きつけて、一気に引き金を引いた

 

ドドド! と銃口から火花が吹きファイズに襲い掛かる

危ね! と言いながらどこぞのコメディよろしく足をばたつかせてしまう

もう一度その場から少しだけバックステップし彼はドライバーにセットしてあるファイズフォンを取り出し、〝103〟とコードを入力してファイズフォン横に倒して銃形態に変形させた

 

<SINGLE MODE>

 

その音声の後、同じようにファイズもメイジに向かってフォンブラスターを発射する

しかしその光弾をメイジは左手の爪を振り払いその光弾を弾き返した

 

(…思いのほか、やりやがる…!)

 

仮面の下で巧巳は歯を食いしばる

想像以上に手強い相手だ、パッと見には量産型にしか見えないが、装備もしっかりしている

これはこちらも、認識を改めないといけないかもしれない

というか、自分はこの男に因縁をつけられる理由がないな、と思った

ファイズは手をスナップさせながら目の前の男に問いかけた

 

「なぁ。オレ、お前にケンカを売られる理由ないんだけど」

「私にはある。これは確かに仕事ではあるが、同時にある目的の為でもあるのだ」

「…目的?」

 

あぁ、とメイジは頷く

そして両手を大きく広げて言葉を続けた

 

「もう間もなく、この世界は幸福で満たされるのだから」

「…はぁ?」

 

お前は何を言ってるんだ、と思わず本気で口にしてしまいそうになった

こんな言葉、ネットとかでしか見かけないと思っていたのに

 

「なんだよ、そのコーフクで満たされるって。なんか新手の宗教の勧誘とかか」

「いいや、全く。言葉通りの意味だよ」

 

言葉通り、とは言ってもよくわからない

本当に、この男は何を言っているんだ

 

「戦いも、争いも、それこそどうでもいいことで我々はいがみ合う。この世界からは戦うという事がなくなるのですから」

「…、それって、良い事なのかよ」

「良い事じゃないか。世界に幸せが与えられるんだ、その事で世界は平等になり、統一される。それはとても素晴らしい事じゃないのか」

 

世界が、幸せになる

確かにそれは良い事なのかもしれない

だけど、それは本当に〝幸せ〟なのか?

本当にそんな世界があるなら、まさしくそれは理想郷だろう

だが…この男から出る言葉は、そうとは思えない

与えられた幸せに感じてしまうのだ

 

「どうだい。もしよかったら君の〝こちら側〟に来ないかい。今なら特別に許可してあげるが」

「せっかくのお誘いだけど、断らせてもらうぜ。オレの歩く道はオレが決める」

 

それは紛れもない巧巳の意思だ

それ以前に、与えられた幸せに興味などない

 

「それにな、オレはそんな事よりも、もっと大事なことがあんだよ」

「…なに?」

 

右手をスナップさせ、ファイズはフォンブラスターをドライバーに戻す

そしてファイズは一つ、聞いた

 

「おい、知ってるか」

「…?」

「夢を持つとな、時々すっごく切なくなるが、時々すっごく熱くなる、…らしいぜ」

 

メイジは仮面の下で眉間にしわを寄せつつ

 

「…だから、なんだっていうんだ」

「俺には夢はない。けどな、夢を守ることは出来る」

 

そう言ってファイズはドライバーにセットされてあるファイズフォンからミッションメモリーを取り出した―――

 

◇◇◇

 

当麻たちが調べている籠の反対側―――だいたい三本目くらいに来てひゅぼっ! と一気に煙草が燃え、半分くらいが焼かれた

 

(この籠か…!?)

 

しかし火がついたのがどの籠に来たときかは見ていない

自分の注意力のなさに苛立ちながら遠目からその籠を見て回る

上付近を見てはみたがそれらしいものは見当たらなかった

そもそもアラタは相手の魔術がどういった形か分からない故に仮にそれが正解であっても判断できないのだ

アラタがヤキモキしているとゴォン、という音がした

音の下方向に視線を向けていると何やら何本か、籠が倒れている

恐らく常盤台かその対戦相手の攻撃が直撃でもして倒れたのだろうか、周囲にはその煽りを受けて何本か倒れている

ドミノ倒しにならなかっただけでもよかったと幸運を喜ぶべきか

 

「あら。…そちらにいらっしゃるのは」

 

ふと声が聞こえた

そちらに視線を向けると扇子を片手に持った、黒子の友人、婚后光子がいたのだ

 

「婚后さんじゃないか。どう? 調子は」

「絶好調! …と申したい所ですけどやはり白井さんがいませんと調子が狂いますわね」

 

バッと扇子を広げながら軽く婚后は自分を仰ぐ

彼女の会話に出た白井黒子は今現在怪我の治療をしており、大覇星祭には参加していない

なんだかんだでいがみ合ってはいるが、やはり基本的には仲は良いようだ

 

「それではアラタさん、わたくしはこれで。もしよかったら、お暇なときに大覇星祭を見て回りましょう、御坂さんたちと一緒に」

「あぁ、その時を楽しみにしてる」

 

そう言って婚后はどこかへと走り去った

恐らくは泡浮や湾内たちの所に行ったのだろう

とりあえずどうしようかな、と考えていたところで後ろからまた別の声が聞こえた

 

「アラタ」

 

出来るだけ声を小さくし、当麻は名を呼んだ

隣には土御門の姿もいる

 

「すまねぇにゃーカガミん、お前にはオリアナの速記原典(ショートハンド)の事を伝えるのすっかり忘れてたぜぇい」

「いいや、聞くのを忘れてた俺も悪いしな。それで、どんな形してんだよ?」

 

軽く周囲を見渡しつつ、アラタは土御門からその形と、発動条件を掻い摘んで聞かされた

簡単に言うなら、その魔術は暗記などに使う小さ目な長方形のような紙であり、端的な発動条件は〝触れる〟であるようだ

 

「念のため、カミやんと一緒に七本目まで調べてみたが、全部外れだ。可能性があるとしてはやっぱり残ったポールだ」

「似てたのが七本目だ。同じ厚紙でこれか、と思ったけどそれは学校の名前が書かれた名札だった」

 

アラタは腕を組み顎に手をやり思考を巡らせ、ようとしてピー! と笛の音が鳴り響いた

その直後流れていた校内放送で流れている競技用の行進曲が止まった

うん? とアラタは考えようとして

 

「―――何をしてるの。上条当麻」

 

今一番邂逅してはいけない人の声が聞こえた

アラタはロボットみたいにぎぎ、と首を動かしながらその声の主を視界におさめる

今まさに調べようとしていた八本目の籠の近くに腕を組みながら、吹寄制理が立っていた

 

「まったく。おまけに土御門までいるし。…この際訳は聞くとして、アラタ。その二人を連れて一度外に出てちょうだい、競技は一度仕切り直しになるみたいだから」

 

そんな彼女の台詞にアラタは曖昧に答えようとした

その瞬間、確かに見た

その付近にある籠の…ポールの近くに一枚の厚紙

 

セロハンで止められた、紙

一瞬名札か何かだ、と思ったがさらに目を凝らす

そこには、よくわからない英文が、青い文字で描かれているのが見えた

 

「…どうしたのアラタ。そんな顔して」

 

怪訝顔な彼女は身体を預けようと手をポールに伸ばそうとする

しかもその手の位置は、厚紙の所へと伸びていく

鏡祢アラタは、迷わなかった

距離的にも一番近い場所にいるのは自分だ

ほとんど本能でアラタは吹寄へと手を伸ばし、一気に籠から引き離す

しかし、その拍子に―――開いていた自分の左手がポールに張り付けてある紙に触れ―――

 

 

「え?」

 

吹寄制理は目の前で起きている事が理解できなかった

いきなり怖い顔をしたアラタが自分を掴みいきなりこの籠から離されて…そこまではなんとなく分かる

だけど、どうして今、目の前で鏡祢アラタが倒れているのだろうか

自分の耳にはバキバキ、と変な音が聞こえ、目の前ではクラスの三馬鹿である上条当麻と土御門元春が決死の形相でアラタを支え、名前を呼んでいる

ふと、思い出したように上条の右手が彼に触れた

 

途端に聞こえていたバキバキというような音が消える

それでも、吹寄は理解できなかった

彼が倒れている理由も、どうして上条たちがここにいるのかも

 

彼が触れた時に、アラタの両手に僅かに力が戻ったような気がした

しかし吹寄は茫然と立ちすくむことしかできなくて

 

「…生命力の空転で身体に過負荷がかかっただけ…重度の日射病と同じ症状だ。…けど、これはライダーであるカガミんだったからだ。万が一他の人だったらもっと重たい症状になってたかもしれない…」

「くそ…! あんときああ言っといてこれかよ…! 畜生っ!!」

 

上条が咆哮し、地面を殴る

それを諭すように土御門が

 

「落ち着けカミやん、とにかく、今はカガミンを運ぶぞ、この炎天下で寝かせてたらそれこそマズイ」

 

土御門は落ち着いた様子で言葉を紡いだ

しかし、そんな会話さえ、吹寄の耳には届いていなかった

それでも、今やるべきことは―――

 

「私が、連れてくわ」

 

吹寄は意を決した様子で言葉を言った

上条は驚いた様子で吹寄を見て

 

「土御門が言った通り、日射病で倒れたのなら、処置がいるわ。けど、救護室…よりは救急車で運べばきっと大丈夫なはずよ」

「け、けど―――」

「上条当麻、いろいろ言いたい事はあるけど、この際何も聞かないでおくわ。それよりも、貴様にもやるべきことがあるんでしょう。…本当は文句言いたいけど、それが片付いて、残りの競技にちゃんと参加するなら、私は見逃すわ」

「吹寄…」

 

吹寄はそう言うと駆け付けてきた数名の警備員(アンチスキル)と運営委員と共に携帯で連絡を入れながら倒れたアラタを運び始める

最後に吹寄はちらりと上条当麻らの顔を見て、その後すぐにまた前を向いて歩いて行った

 

 

「―――ありがとう、吹寄」

 

当麻は右手を握りしめて籠のポールを殴り付けた

右手の一撃を受けたそのページから浮かび上がっていた文字が消えていく

 

「…いいぜ、オリアナ…!」

 

当麻は唇を動かす

自分に言い聞かせるように

 

「これがお前のやり方なら…! テメェのそのふざけた幻想はオレがこの手でぶち壊してやる…!」

 

そう、宣言した

 

 

~The People With No Name~

 

<COMPLETE>

 

メモリーを腕時計型のデバイスにセットすると、そんな電子音声が聞こえた

すると胸部装甲・フルメタルラングが左右に跳ね上がるように展開し、内部装甲が露わになる

両肩に収まり身体の色も変化させていく

 

黄色だった複眼は赤に代わり、フォトンストリームが銀色へと変化する

 

アクセルフォームへとなったファイズはゆっくりと腕時計型デバイス〝ファイズアクセル〟に手を伸ばし―――

 

<START UP>

 

瞬間、目の前のライダーが消えた

 

「なっ…!?」

 

実際消えてなどいないのだがメイジからしてみればそう表現せざるを得ない

全周囲にメイジは気を配りつつソードガンを様々な場所に構えてみるが全く捉えることが出来ない

 

「―――あぐっ!?」

 

突然腹部に痛烈な一撃を貰う

そこからは、拳撃の嵐をメイジは数秒間貰い続けることになる

その一撃の締めとして銀色の粒子を纏った回し蹴りをファイズは叩きこんだ

 

<TIME OUT>

 

その電子音声が聞こえたのち、アクセルフォームから通常形態へと姿が戻っていく

蹴りで吹き飛ばされたメイジは変身を強制解除されつつ、地面を転がってそのまま地面を転がった

ピクリとも動かない…が呼吸はある、気を失ったようだ

 

「―――ったく、またメンドクサイことに絡まれたかな」

 

ダルそうに首に手を当てこきり、と首を鳴らす

そしてハァ、と小さくため息をして店に戻ろうとして―――オートバジンが視界に入った

 

<洗濯物の仕分け、終わりましたよ>

「…有能な相棒だこと」

 

苦笑いで巧巳は笑う

しかしまだ先ほどの男が言っていた言葉が頭の中に残っていた

 

「…幹也んとこの社長さんなら何か知ってるかな…」

 

そう言ったことに幹也が多少関わっている事を巧巳は知っている

が、あまり興味もなかったのであまり聞いてはいなかったのだが

…これは、店番をバジンか誰かに頼むことになるかもしれない

 

 

とある特設ステージの壇上にて―――

大覇星祭と言うのは大きな舞台だ

この大きな舞台にて、今晩行われるナイトパレードと共にダンスステージを行う予定なのだ

 

そして今現在、数人の仲間と共に、葛葉颯大はリハーサルと打ち合わせをしている

 

「ふぃー…流石に大きいステージだな…こりゃ失敗できないぞ」

 

ステージに立って軽く周囲を見渡してそう呟く

自身とあってはつい最近割と大きなステージをこなしたのだが

颯大は事前に手渡された予定表を見ながら今回のステージの順番を確認する

 

「まず最初は…レイドワイルド、次にインヴィットだろう、んでその後は―――」

「俺たちのステージだ。バロンのな」

 

ふと横合いからかかる声に颯大は振り向いた

そこには赤いジャケットが印象的な男性が予定表片手に歩いてきていた

 

十慈哉斗

己と同じく仮面ライダーバロンであり、ダンスチーム〝バロン〟のリーダーだ

 

「哉斗。ダンスの打ち合わせはもういいのか?」

「あぁ、あとは念のため、一度通してやっておきたい。構わないか」

「え? 俺…というか俺のチームは大丈夫だけど、他の所は」

「すでに事前に了承を貰っている。あとはお前たちの所だけだ」

「うえ、マジか。なんか悪いな」

 

短く謝罪をしながら颯大は頭を掻いた

とりあえず急いでみんなを呼びに行こう、とした時声をかけられた

 

「葛葉」

「うん? どうした、哉斗」

 

十慈哉斗と葛葉颯大

普段二人はダンスで己を競いあい、お互いに切磋琢磨をする間柄だ

いわば、彼のチームと哉斗のチームは良きライバルなのだ

しかし今回は―――

 

「最高のステージを作り上げるぞ。俺とお前で」

「―――あぁ、任せとけ!」

 

裏を知るものと、裏を知っているもの

様々な想いを乗せて、大覇星祭は進んでいく―――

 




今回はこちら

ズ・ザイン・ダ

「ゴラゲゾ・ボソギデ・バゾ・ガゲデジャスン……ズ・ザイン・ダ(お前を殺してズ・ザイン・ダの名を上げてやる)!!」

種族:グロンギ(サイ種怪人)
呼称:未確認生命体:第22号(B群3号)
身長:211cm
体重:246kg
能力:怪力
※驚異的な体力を誇り、鼻先の角を武器にする。

初登場はEP3「東京」
恐るべき怪力を誇るズ集団最強の怪人で、愛すべきバカの一人
怪人体より人間体の方が強そう(褒め言葉)とまで讃えられる中の人の熱演により、序盤の展開の中でも、特に印象の強い宿敵となっている
初登場から倒されるまでが長かった怪人の一人で、個性豊かなグロンギサイドの物語を盛り上げていた

人物像
グロンギ最下位集団「ズ」の最強を誇る巨漢
どちらかと言えば、血気盛んな豪傑タイプだが登場初期には仲間を諫める姿が見られるなど、集団の上に立つ者としての威厳や落ち着きを見せる面もあった

しかし自分達グロンギ同様に現代に復活した〝新たなクウガ〟の前に「ズ」の仲間の「ゲゲル」がガルメを除き、ことごとく阻まれる結果となる
そして、業を煮やしたバラのタトゥの女は「ゲゲル」の権利を「ズ」から「メ」に移行……「ゲゲル」のプレイヤーの地位を失う

納得のいかないザインは「ゲゲル」を行う「メ」ら仲間の下を訪れ「ゲゲル」への参加を訴えるが聞き入れられず、更には焦りからかリント(警察)の使う犬(ミカド号)に匂いを追跡され、潜伏場所を特定されると云うミスを犯す

……更に、仲間の逃走の為の囮に使われる屈辱の中、ザインは自らの「力」を証明するべく行動を開始する―――

事件
EP:11:12
「約束」「恩師」
ゲゲルの目的「不明(※主な標的は運転手)」

ザインが自らの「ゲゲル」として行った連続殺人で、主な標的は自らが嫌悪する自動車(特に大型車両)の運転手
他の仲間達から暴走と判断されながらも、その凶行による犠牲者は確実に増えて行く…

……上記の様なハードな展開の殺人事件に絡めて、主人公・五代雄介のトレードマークである「サムズアップ」の由来が語られるエピソード。
「事件」は全体的にスピーディな展開を迎えるのに対し、「ドラマ」はノスタルジーな癒しを感じさせるスローテンポで進むのがまた特徴

かつての教え子との約束の中で、自らのかけた言葉を思い出す事で理想を取り戻すベテラン教師の姿を丹念に描く一方で、未確認生命体同士の争いや「ライダーキック」の完成など、アクション面での見所も多し
大人になって改めて見返す事で多くの発見が出来るエピソードの一つだろう

「五代雄介……こういうの知ってるか!?」



「……古代ローマで満足出来る、納得出来る行動をした者にだけ与えられる仕草だ……お前もこれに相応しい男になれ!……お父さんが亡くなって、確かに哀しいだろう……だが、そんな時だからこそお母さんや妹の笑顔のために頑張れる男になれ!」

因みに本編ではすでに強化マイティキック状態なので今の所このエピソードのオマージュをやる予定はないです
あったとしても回想という形かなぁ…

いつもの通り、解説文はアニヲタウィキより
より詳しいこともそちらに

それでは


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#52 勝利か否か

ナースふじのん降臨

ごめんなさい、スパロボやってました
ミコノさん嫌いじゃないわ

次回で多分九巻…つまり前半部は終わり
次々回から十巻に入ると思います
因みに割と原作と同じなので当麻対オリアナは少しあっさりしてるかもしれません

あと、アキバズトリップの方も見てね!(宣伝)

ではどうぞ


今、救急車からアラタを乗せた担架が下りた

同時に自分も彼に付き添い、少し距離を置く

 

運ばれる彼を少し遠目に見ながら、吹寄制理は思う

 

なんでこんなことになってしまったのだろうか、と

少なくとも鏡祢アラタが日射病になるほど疲労しているとは思えなかった

私の前でだけ無理をしていた? いや違う、アラタはそんな演技なんてできない

 

ここまで自分が頑張ってきたのは今日この日、皆に笑顔でいてもらうためだったのに

そう思うことは我がままなのかもしれない、だけど、やっぱりこういった祭事は誰にとっても大成功で合ってほしい

 

また別の方向から連絡を受けたのか茶色い革ジャンを着た男性が走ってきていた

その男性は真っ直ぐにカエルの顔に似た医者の所に歩いていき運ばれた患者の顔を見て驚いた

そして意を決したようにカエルの医者を見る

 

それに頷いて、医者と男性はテキパキと指示をする

しかもカエル医者の行動は見た目に反してものすごく迅速だった

 

俯く吹寄の耳に聞こえるのは日射病、という言葉だけだ

 

急激な脱水症状で引き起こし、さらに重度になれば循環器系に機能障害を起こし最悪死んでしまう可能性だってあるのだ

 

そんな最悪を想定し、吹寄は身体が震えるのを感じた

吹寄は、たった一つ聞いた

 

「―――彼は、助かるの?」

 

本当に絞り出した、声色

対するカエル医者は指示だしの声を止め、彼女の顔を見る

それに釣られて茶色い革ジャンを着た男性も吹寄の方を見て笑顔を作った

 

不思議と、その声は聞き易かった

ただ一言、告げてくれる

 

絶対の信頼を誇る、完璧なる笑顔と共に

 

「僕たちを、誰だと思っているんだい?」

「おうともさ。―――行こうぜドクター」

 

 

「アラタが病院に?」

 

次の競技場に未那や鮮花、幹也たちとのんびり行こうと思っていた矢先両儀式の携帯電話に蒼崎橙子からの連絡が届いた

 

<あぁ。居合わせた生徒を庇って自分が魔術の効果を受けてしまったらしくてな。…まぁ、らしいと言えばらしいけれどな>

 

確かに、それは彼らしい、と言えばらしいのだが

アラタはいつも自分よりも他人を優先しがちだ、故に少し心配になったが

 

<幸い、外傷はなく、アラタの状態も日射病のそれと同じらしい。送られたのがあの医者の所だから、信頼していいだろう>

 

あの医者、というとアラタが時たま世話になっているあのカエルの顔した医者の事だろうか

まぁ、どこの分からない医者に任せるよりは幾分マシだろう

その後で少し言葉を交わして両儀式は通話を終了する

そしてふぅ、と式は息を吐いて調子を整えた

 

「幹也」

「? なに式?」

 

隣を歩く夫に式は言った

幹也は変わらない笑顔を自分に向けてくれる、出会ったころと変わらない、あの笑顔を

その笑顔に安堵しながら、式は言葉を続けた

 

「悪い、ちょっと用事が出来た。悪いんだけど先に行っててくれ」

「いいよ、わかった。場所取ってるね」

 

全く疑うことなく幹也は頷いてくれた

しかし幹也はただ、と言葉を遮り

 

「―――無茶は、しちゃダメだよ」

 

はっきりと彼は告げる

その言葉に驚きながら、そしてどこかそうなるのを理解していたのか式は小さく苦笑いをしながら

 

「…あぁ。わかったよ」

 

そう短く答えると幹也はうん、と笑顔を向けて不思議がる鮮花と未那を連れて先を歩いていく

彼らの背中を見送って式は徐に、帯に忍ばせてあるナイフの柄へと手を伸ばす

その後、彼女の瞳は珍しく、戦いへ行く者の目をしている

 

「―――行くか」

 

そう呟いて、彼女は人混みをまた歩きはじめる

その眼に決意を宿しながら

 

◇◇◇

 

初春飾利がふと足を止めた

唐突に止まった車椅子に黒子は怪訝な顔を示し佐天涙子を見てみるが当の佐天もハテナマークを浮かべている

そんな視線を余所に初春はある一点を見つめている

 

そこに出来ているのは人だかりだ

恐らく何かの屋台と同じような感じなのだろうが…

 

「佐天さん、白井さん。なんだか甘いもの食べたくないですか?」

「え? …まぁちょっと小腹は空いてきたかも。ねぇ白井さん」

「言われてみれば。軽く何かお腹に入れたいですわね」

 

その言葉を聞いた初春は大きく頷いて

 

「ではあそこに行きましょう! 前から気になっていたんですよ、あのシャルモンっていうお店!」

『しゃるもん?』

 

佐天と黒子の言葉が重なる

なんでも最近巷で噂の洋菓子店のようで初春は前々から雑誌で知って食べてみたかったらしい

そんな訳でさっそく車椅子を押して並んだ

初春はこれから食べられるであろうスイーツに顔を綻ばせている

 

並んだ当初はそこそこな人数だったが意外にもスムーズに列は減っていきすぐに初春たちの番が回ってきた

近くに行って分かったがそのお店に名前であろう看板に〝シャルモン~出張店~〟と書かれておりお店の人がふぅ、と一息ついている

その近くの机には紙袋があり、恐らくその中にスイーツ一式が入っているのだろう

初春は店員であろう眼鏡の男性に声をかけた

 

「すみません! これ、三つもらえませんか?」

「いいですよ。一袋三百円になってます」

 

眼鏡の男性は笑みを浮かべて初春からお金を受け取りスイーツが入った紙袋を初春に手渡した

それを受け取った初春はそれはまた嬉しそうな笑みを浮かべて優しくその袋を抱きしめた

笑顔になっている初春を苦笑いしつつ、男性は佐天と黒子にも袋を手渡す

 

その袋越しにも分かるくらいにいい匂いが食欲をそそる

 

「…これ、後でみんなで食べません?」

「お、いいね初春。アラタさんたちと一緒に食べよう、白井さんもそれでいいですよね?」

「異議なしですわ」

 

そう言って歩き出す三人の背中を男性―――城内秀保は微笑みながら見送った

その後でまだ売れていない紙袋を見つつ、今度は自分の腕時計を見た

 

「…そろそろリハ行かないとなぁ。けどバイトは疎かに出来ないし…」

「お店番ご苦労様。待たせちゃったかしら」

 

バン、と車のドアを閉めて現れたのはパッと見は明らかにその筋の人なのではないかと思われる男性だ

その男こそ、シャルモンの店長であり、オーナーでもある男…凰連・ピエール・アルフォンゾその人なのだ

因みに、本名は別にあるのだが

 

「あ、凰連さん。危なかったですよ、もう少しで売り切れでした」

「あら、それは喜ばしい事ね。けど売り切れてしまう前に着いたことは幸運だったかしら」

 

車の後部座席の方から大き目の箱を取り出して青年が立っている付近まで持ってくるとその箱を開ける

そこには今さっき初春たちが購入したものと同じ紙袋があった

そこから香るほのかな甘い匂いに一瞬クラりと来る

 

「それで。貴方もうすぐリハーサルじゃない。大丈夫行かなくて」

「え? いいんですか?」

「何を言ってるの。当たり前じゃない。その代り、しっかりとお客様…もといギャラリーを楽しませることが条件ね。行けたら(ワテクシ)も行かせてもらうわ」

 

そう言って凰連は何袋か城内に持たせた

城内は怪訝な顔をすると

 

「なんですかこれ」

「選別よ。持ってってみんなと食べなさい。当然ながらお代はいらないわ」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

「ほらほら。感謝はいいから早くいきなさい。練習をおろそかにして本番で失敗するなんてアマチュア以下よ」

 

凰連に急かされつつも頭を下げて城内は紙袋を抱えて走り出した

その背中を見ながら凰連はうんうん、と頷きながら

 

「彼も立派に成長してきたわねぇ。…さて、(ワテクシ)(ワテクシ)で、お客様に笑顔を届けないと」

 

切り替えるようにパンパンと手を叩く

彼らが頑張っているから私も改めてスイーツを売ろう

買ってくれたお客様が、笑顔になる事を祈りながら

 

◇◇◇

 

意気揚々と歩き始めたが如何せん全くそれらしい人物がいない

やはり外見的特徴を聞いていない状態でその人物を探すのは無理があったか、と式は軽く首を捻った

よく考えてみれば式は橙子伝いでしか侵入した魔術師の情報を聞いていない

唯一聞かされたのは、何やら大き目な荷物を持っているらしい、とのこと

しかし今この時期は大覇星祭、そのような荷物を持っている奴なんていくらでもいる

どのような荷物を持っているかも聞いておくべきだった、と式は舌を打つ

 

仕方ない、と思いながら改めて橙子に電話をしようとした時だ

 

ドォオンッ!! とひときわ大きな爆発音が聞こえた

 

一瞬式は肩をビクリと振るわせる、そして同時にそこで何が起きているのか、もしくは何かが始まろうとしているのかを、大方察する

唯一の手がかりはあの大きな爆発音、そこに恐らく、探していた魔術師とアラタの友人がいるはずだ―――

 

◇◇◇

 

鏡祢アラタが目を覚ました時、視界に入ってきたのは見慣れた天井だった

ゆっくりと身体を起こして意識を覚醒させていく

やがて上半身が起き上がりアラタは頭を抱えた

その後で少し自分の手足を動かしてみる、問題なく動く

変身の感覚も問題ない…しかしそれでも無理は出来ない、落ち着くまでは変身は控えよう

 

「けど、運ばれたのがこの病院でよかった…」

 

冥土返しに感謝しなくては

ていうか、なんか病院送りになった時はだいたいあの人の世話になってる気がする

 

「よし、落ち着いたら探索だ。当麻や土御門に迷惑をかけちまったからな…」

 

そう決意を新たにしたときにガラリ、と病室のドアが開く

そこにはカルテを持ったナースの姿が見えた

丁度カルテがネームプレート的なのを隠してしまっているため、名前は分からない

 

「あ、起きて大丈夫なの?」

 

ナースさんはその長いほんのり青のような、それでいて黒い髪を軽くなびかせる

そしてカルテを抱いているから分かりにくいがこの人はスタイルもいい

 

「は、はい。おかげ様で」

「ふふ、よかった。だけど、無茶はしないでね。君が無理したなんて鮮花が知ったら悲しんじゃうわ」

 

そう笑いながらナースさんは言う

釣られて笑ってしまいそうになるがうん? と気になる人名が聞こえた気がする

確認のためにアラタはもう一度聞いた

 

「…鮮花って、黒桐鮮花さんの事ですか?」

「キミの知る鮮花がそれならたぶんそれね」

 

そう言われてアラタは思考を回転させる

そうだ、確か鮮花さんには親友と呼べる友達がいたような気がした

そしてその友達に、アラタは一度会っていなかっただろうか

確か、いつぞやの秋葉原事件で少しだけ…

 

「…もしかして、貴女は」

「ふふ。恰好があの時と違うからね」

 

そう言ってカルテを降ろすナースさん

胸元のネームプレートにはこう書かれている

 

浅上藤乃、と

 

◇◇◇

 

「貴方、そこから動けば死ぬわ」

 

運び屋―――オリアナ・トムソンとの戦いの中で、相手はそう宣言した

共にいた土御門はオリアナの魔術にて昏倒させられ、上条当麻は苦しい戦いを強いられている

どこまでも余裕を見せ、そして命を弄ぶような素振りを見せるオリアナに当麻は怒りを抱く…が、状況は深刻だ

魔術に疎い当麻は理解していないが、オリアナは一度使用した魔術は二度と使用してこないようだ

それ故にパターンが読めず、接近戦しかできない当麻は歯がゆい思いをしていた

 

「そして、動かなければ貴方は次の一手で負けを認めることになる。…子供ではないのだから、どちらが正しいかは分かるわよね?」

 

彼女は厚紙を咥えて、その噛んだ一枚をリングから引きちぎった

千切られたそのページに赤い筆記体で何らかの文字が刻まれていく

 

(動けば…死ぬ)

 

言葉を思い出すと同時、オリアナを中心に半径一メートルほどの円が描かれる

そしてその円の外周へまるで木の枝のような線が駆け抜けていく

よくは分からないが、恐らく魔法陣のような類か

 

(―――)

 

当麻の額から冷や汗が流れてくる

降参してしまえ、と心のどこかで訴えてくる弱い心を押さえつけながら当麻は目の前の運び屋―――オリアナを睨む

しかし、この状況をどう打破するか

当麻は思考を巡らせる

 

しかし、ここで自分が倒れても決着がつくわけではない

別段素人が敗走しても何ら問題はない、否、むしろ素人にプロ以上の働きを要求されても困るのだ

 

だが―――それがどうした

当麻は強く拳を握る

まるでそれが一つの鈍器になりそうなくらいの力を込めて

 

倒れた友人の為にも、ここで退くなんてことは決してない―――

 

そう思った瞬間、ヒュンっ! と何かが飛んできた

その何かにオリアナも一瞬目が奪われたが狙いは彼女の足元にある魔法陣だ

どうにかできるものではない、と判断したオリアナは変わらず当麻を見据える

―――そしてそれが間違いだと痛感する

 

〝何か〟の正体は一本のナイフだった

そしてそのナイフが魔法陣に突き立てられた瞬間、音もなくその魔法陣が四散した

 

「っ!?」

 

オリアナの表情が驚愕に染まる

同様に当麻も一瞬驚きに表情が変わったが逆にそれはチャンスと判断し一気に当麻は駆け抜けた

 

「おおおおおッ!!」

 

すぐに思考を取り戻したオリアナは迎撃するべく再び一枚の厚紙を引きちぎる―――が間に合わない

ならばと思いオリアナは持っている看板を振るう形で当麻を凪ごうと行動する

しかし―――上条当麻は身をねじり、それを避けた

 

「なっ―――!」

 

そう思うのも束の間、オリアナの顔面に上条当麻の拳が突き刺さった

 

「ぐ、―――おぉおおぉおおおォォォッ!!」

 

そのまま肺の空気をすべて吐き出す勢いで当麻はその拳を振り抜いた

そしてそのまま、オリアナの身体は後ろへと吹っ飛んで行った

 

 

「お前が、上条当麻か」

 

吹き飛んだオリアナを見ながら、当麻の耳に聞こえてきたのは聞き慣れない女性の人の声だった

振り向くとそこには和服に赤い革ジャンという一風変わった服装をしていた女性が歩いてきていた

 

「え、えぇ。そうですけど」

「オレは両儀式。アラタの知り合いだ、それより、気を抜くな。まだ落ちてない」

 

式、という女性に指摘されて当麻はえ? と言葉を発した

そして同時、倒れているオリアナに視線を向けた

 

「―――乱暴ね、ボタンとれちゃったわ」

 

仰向けに倒れていたオリアナがまるで昼寝から起きるような動きで立ち上がる

そして今まで看板を抱えてた右手で胸元のボタンを締め始めた

三度驚いた様子の当麻に式は口を開く

 

「走りながらお前は殴ったからな、重心も安定してなかったし、お前もボロボロだったろう。おまけに、アイツはあんな不安定な体制でも自分から後ろに飛ぶことで威力を軽減してた。どうやら反撃にも慣れてるみたいだな」

 

式の言葉にオリアナはふふ、と笑みを浮かべ

 

「けど、予想外だったわね。―――まさか、直死の魔眼の使い手がいたなんて」

 

小さく呟いて、徐に彼女は懐から手鏡を取り出した

そしてそれを適当な位置に放り投げる

からん、と音がして手鏡は地面に落ち、遠目からオリアナを写す

 

「とりあえず、〝それ〟はそちらに預けておくわ。もっとも、意味はないかもしれないけれど」

「なっ!? 刺突杭剣(スタブソード)はこっちにあるんだぞ。なんでそんな簡単に…!?」

「さぁ? それはなぜかしら。そちらの魔眼の女性に聞いてみなさいな」

 

その言葉を言った瞬間に、彼女が投げた手鏡から一人の人影が飛び出してきた

白い虎柄の模様を持ったその人影はオリアナの近くに立つと彼女を抱きかかえる

 

「! おい、土御門にかかってる術式は―――」

「術の効果は訳二十分。あとは自動的に切れるわよ。―――ふふ、心配性ね」

 

それだけ答えて、オリアナは白い虎柄の人影と共に鏡の中に消えていく

その様を茫然と見ながら、ふと当麻は式に視線を移した

式はオリアナが殴られた際に落とした刺突杭剣(スタブソード)を見ており、その白い梱包をナイフでぞりぞりと斬り裂いていた

当麻が式に近寄ると同時、式が当麻に聞いてきた

 

「なぁ、そのスタブ何ちゃらってこんな形なのか」

「え? いや、俺も実物は―――」

 

そう言いかけて、当麻の口が止まる

 

何故なら白い外装から覗くその中身が、ごくごく普通の看板だったから

 

「…え?」

 

なんだ、これはと当麻は思う

刺突杭剣は看板に偽装されているのではなかったのか

いや、もしかしたら

 

オリアナが持っていたのは最初から看板だったとしたら

 

いや、それ以前に

 

本当にその霊装の取引なんて行われるのか

 

「―――どうなってる?」

「さぁな。一つ言えることは、俺たちは一杯喰わされた…という事は確かだな」

 

式の言葉は入ってきてなどいなかった

いや、聞こえてはいるが、意識がそちらに向けられないだけなのだ

それでも敢えて、もう一度言った

 

「何が…どうなってんだ…!?」




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこいつ

「ジガギヅシザバ・クウガ!……キョグギン・ジャンママ……ズ・バヅー・バ・ザ(久しぶりだなクウガ。脅威のジャンパー…ズ・バヅー・バだ!!)」


ズ・バヅー・バ(演:小川信行)

種族:グロンギ(バッタ種怪人)
呼称:未確認生命体:第6号(B群5号)
身長:204cm
体重:185kg
能力:発達した筋肉が生み出す跳躍力
※総合的に高い身体能力を誇る。


『仮面ライダークウガ』の登場怪人の一体。
バッタモチーフの秀逸なデザイン(※「ライダー」を思わせる)と、初めてクウガを破ると云う演出により印象づけられた序盤の強敵
また、物語上でも後に真実が明かされる事になる未確認生命体=グロンギの現代に於ける「ゲゲル」……殺人ゲームのファーストプレイヤー(ババグド・ムセギジャジャ)となった怪人でもあり、後に兄のゴ・バダー・バが登場するなど重要な位置付けにある。

能力
バッタの能力を持つズ集団のグロンギ怪人。
「脅威のジャンパー(キョグギン・ジャンママ)」を自称する実力者。
バッタモチーフにマフラー装備は、もはや狙っているとしか思えない。
螺旋状に発達した筋肉を持ち、跳躍力(一跳び25m)と瞬発力(100mを3秒)は「赤の戦士」マイティフォームを上回る程。
更に高層マンションの踊り場と云う、自らの能力を最大限に活かせる場所を利用して戦いクウガを翻弄する賢さを見せる実力者でもある。

人間体はやはりマフラーがトレードマークのヒッピー風の青年。
貨幣に興味を示したのは後の兄貴への伏線か?
苦手とするのは工場の煙突から出る有毒ガスで、これは未確認生命体が古代から蘇ったと云う事の示唆……つまりは現代社会が薄汚れていると云う事実を逆説的に描写したものと言える。
殺害方法は獲物を捕らえて高所に飛び上がった後に勢いを付けて叩き付けると云うもので、遺体にその痕跡が残っていたと云う事から、かなり強い力を加えて落下させていたのだと思われる。

今回はこんな所で

ではまた次回


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#53 使徒十字

ちょっとぐだぐだ
申し訳ない

誤字脱字を見かけましたらご報告を

ではどうぞ

次回から十巻の予定


「―――本当ですか?」

 

蒼崎橙子から聞かせられた言葉にシャットアウラは耳を疑った

その隣では一緒に行動していた鳴護アリサがハテナマークを浮かべている

 

<あぁ。まぁ近くにいた一般人を庇っての事らしいのだが>

「そう、なんですか」

 

言葉を聞きながらシャットアウラは内心でため息を零す

本当に知らない所で何に巻き込まれているんだアイツは

 

「…様子を見に行ってきます。彼が送られた病院って分かりますか」

<―――あぁ、待っていろ。通話が終わったら送る>

 

一瞬の間が気になったがシャットアウラは特に気にしないことにした

シャットアウラは橙子の言葉のあと「お願いします」と言葉を続けて通話を切った

携帯を仕舞いシャットアウラはアリサに向き直る

 

「アリサ、すまないが私は用事が入った。先に行っててくれ」

「え? それはいいけど…どうしたの?」

 

そう普通に聞かれて答えようとして―――シャットアウラは言葉を止めた

ここでアラタが病院に担ぎ込まれたなんて言ってしまったらまた余計な心配をさせてしまうのではないだろうか

幸いにも会話の内容は聞かれていないようだし、アリサには悪いがここは黙っておこう、とシャットアウラは決断した

 

「橙子さんからだ。ちょっとした事を頼まれてな」

「そうなんだ? うん、わかった。先に行ってるね」

 

二つ返事で彼女は承諾してパンフを見ながらとてとてと走って行った

彼女の後姿を見ながらシャットアウラはどこか遠い目をして、呟く

 

「…アイツは、こういった日常で笑ってる方が似合ってる」

 

 

「なぁ、ここに書かれてることは事実か」

 

受け取った書類を一通り見て、ソウマ・マギーアは確認のために言葉を発した

その書類は刺突杭剣(スタブソード)についてまとめた大英博物館の報告書だ

同様にソウマの隣にいる彼の上司である最大主教の表情は僅かではあるが怒りに染まっている

 

言葉から少し遅れて男の声が聞こえた

 

「大変申し訳ありません。長年の管理を任されて起きながら、今日までに、誤った展示をしていたとは…」

「問題ない。怒りの矛先はお前に向けるものじゃないしな」

 

入り口で恐縮するように気配が小さくなるのをソウマは感じた

まるでローラやソウマとの同じ月明かりに入るのすら恐れるような

 

名前をチャールズ・コンダー

考古学の権威であると同時に大英博物館の保管員だ

彼の年齢はすでに三十を超えるが、まだ魔術の世界からしては〝期待の新人〟という認識だ

 

「…さって、始めるぞ、コンダー」

「はい」

 

コンダーに断りを入れ三人は言葉を交わし始める

 

「ローラも。本題に入るぞ」

「えぇ、頼みたりけるのよ」

 

ローラの声を聞きながらソウマはコンダーから告げられる言葉を聞いていく

 

「まず報告書にも書きましたが、我が館で保管されている〝刺突杭剣(スタブソード)〟のレプリカ。それのオリジナルは存在しなかった予想されます。考古学上ではたまに報告される事例ではありますが。いわば、伝承が交差した、と言った所ですか」

「交差…とは」

 

コンダーは続ける

 

「報告を受けた事はございませんが、例えばナスカの地上絵や、イースター島のモアイ…歴史の中にはどうしてそれが作られたのか、目的が不明な物品を発見してしまう時があります。すると、妙な話ではありますが、それらが作られた理由を後付で勝手に作ってしまう…。根拠のない伝承や神話が雪だるまみたいに増えていくわけです」

「なるほど。マザーマリアの肖像画がいい例だな」

 

ソウマの言葉にローラはふむ、と相槌を打った

 

「と、なるとその刺突杭剣の本当の伝承はどうなんだ」

「はい。雪だるま形式に伝承が交差しているので確証はありませんが、恐らくこれが正確なものと思われます」

 

ほう、とソウマは息を吐き、おや、とローラは首をかしげる

何故ならそれは書類にはなかった情報だったからだ

 

「そも、こちらの一品は剣などではありません」

「―――なんだと?」

「それは…どういうことにつき?」

 

ソウマとローラが問いただす

コンダーは持ってきていた刺突杭剣のレプリカを逆さに持ち替えて

 

「十字架。―――現地では、〝使徒十字(クローチェデイピエトロ)〟と呼ばれる代物ですね」

 

瞬間、空気が戦慄する―――

 

◇◇◇

 

使徒十字(クローチェデイピエトロ)…日本語に直すとペテロの十字架…。やれやれ、なんて話だ」

 

何やら携帯で報告を聞いている赤い髪の神父っぽい少年はそう呟いた

式はタイミングを見計らい声をかける

 

「それで、なんなんだその何ちゃらの十字架ってのは。素敵アイテムか何かか」

「はたまたぺテロとかいう不思議物質で作った十字架とか?」

 

当麻に向かい「ペテロは人名だ」と言葉を言いながら赤髪神父は声を発する

 

「十二使徒の一人で、主から天国のカギを授かったと言われているが…ここで大事なのはその神話でなく、別の伝承さ」

「そもそもそのペテロさんってのはバチカン教皇領の所有者なんだぜい。厳密にはペテロの遺産である土地にバチカンを作ったって所かにゃー」

 

バチカン市国、とは今の所世界で一番小さい国と言われている国だ

そもそもバチカン市国、という名前は千九百二十九年ほど前、ラテラノ協定で決められたものだ

そして初めから小さかったわけでもないのだ

最も時代や背景に左右するが最盛期にはローマを中心としイタリアの中部四万七千キロメートルが広がっている

 

「問題はどうやってその土地を作ったかってところだがにゃー」

 

土御門の言葉に式と二人、当麻は顔を見合わせた

やがて土御門は答える

 

「墓を建てたのさ。ペテロの遺体を埋めて、十字架を立てて、な」

 

当麻はギョッと驚き、式は目を細くする

そう、ペテロの十字架とは、その男の所に建てられた墓、という意味なのだ

 

「この地にはペテロさんが眠ってるので妨げないように遺産管理ともども頑張ります、ってのがローマ正教側の意見ですたい。元々はペテロの眠ってる真上にコンスタンティヌス帝が聖堂を贈呈、建設したのが始まりらしいんだが、ルネッサンスの際に愉快なインフレが起き大改築された。それがミケランジェロが設計した今の聖ピエトロ大聖堂…、名実共に、世界最大の教会にして、死者の上に立つ聖域、という訳なんだぜい」

 

◇◇◇

 

使徒十字(クローチェデイピエトロ)、ねぇ」

 

ベッドの上で鏡祢アラタは見舞い・・・という名の様子見に来た橙子と会話をしている

因みに病院の入り口で偶然会ったらしくシャットアウラの姿もあった

 

「今しがた式から連絡があってな。しばらくはお前の友人たちと行動する、とのことだ」

「式が? …無理しないといいけど。それで? その使徒十字(クローチェデイピエトロ)ってのはどんな効果を秘めてるんだよ」

 

隣でわけの分からない、と言った表情をするシャットアウラを軽くスル―しつつ、アラタは橙子に言葉を投げかけた

蒼崎橙子は開けた窓から煙草の煙を吐き出しつつ返答する

 

「分かり易く言ってしまえば…幸福のすり替え…と言った所か」

「すり替え?」

 

橙子は一つ頷いて

 

「たとえ話ついでに、面白い話をしてやろう。聖マーティンという人物がいてな、彼が十字教布教の為に、異教徒の古代神殿の破壊して、神木を引き抜こうとした時だ。十字教徒になるたくない異教徒の農民たちは、最後の抵抗として〝貴方が本当に神に守られてるなら、今から神木を切り倒すから受け止めてみろ、本当に神に守られてるなら死なない筈だ〟、とな」

 

うんうん、とアラタは頷いた

いつの間にかシャットアウラも彼女の言葉に聞き入っているようにも見える

それに少しばかり気を良くしたのか少しだけ橙子の声色に力が乗った

 

「これを受けた聖マーティンは倒れかかる神木に対し、胸元で十字を切る。するとどうだろう。神木は反対側に倒れていき、あわや異教徒達を押し潰すところだった…主の奇跡は本当にあったのだ、と農民達は感動し十字教に改宗した、という話さ」

「おい、おかしいだろうそんな話」

 

語り終えた彼女に抗議したのは同じく聞いていたシャットアウラだった

 

「奇跡とやらで農民たちに神木を倒すように仕向けたのはその聖マーティン本人だろう。万が一間違えば怪我人が出ていたわけだし、そもそもそんな奇跡があるのなら別の方向に倒せたはずだ」

「確かに。…つうか、ご神木ってそうそう簡単に切り倒していいもんじゃないよな、なんで感謝されてんだ」

 

シャットアウラに続くようにアラタも言葉を続ける

すると橙子はふふ、と笑って

 

「流石だな。反対側に倒れた神木は異教徒を殺さなかった。これこそが、主の慈悲であり、〝改宗のチャンスを残された農民は皆幸福である〟という事だ。善きにしろ悪しきにしろ異教徒の歴史や伝統、精神文化などは根こそぎ潰されたのは間違いないがな。つまりこれこそが、幸福のすり替えってことさ」

 

◇◇◇

 

「―――要は、何が起きても幸せになるようになるってことか」

 

土御門の話を聞いて、そう両儀式は答えた

そのタイミングを見計らい、ステイルが言葉を紡ぐ

 

「使徒十字《クローチェデイピエトロ》が使われれば、何があろうとローマ正教が有利なように動く。そのせいで理不尽な要求を突き付けられているのにどういう訳か周りの人間は納得してしまう。まさに、ローマ正教に居心地のいい聖地ってところだね」

 

本格的に、スケールが大きくなってきた

内心でため息をつきながら式は頭を掻く

そして一つ、式は聞いた

 

「連中の狙いは何だ? その十字架を使ってそいつらは何しようとしてるんだ」

「世界は今、二分されてるんだよ。科学と魔術、と言った具合にね。これらは今の所、半々になっているわけだけど」

「―――なるほど。取り込もうってことか」

「おおむねその通りだね。…もっとも、上条当麻は分かっていないみたいだが」

 

式はちらり、と当麻を見た

分かり易そうに頭にハテナまで浮かべている

そんな当麻にステイルは軽くため息を吐きながら

 

「さっき、世界は半分になってるっていったね? もし、だ。科学の長、学園都市がこの学園都市が全面的にローマ正教に庇護されてしまったら、世界のバランスはどうなると思う?」

 

そこまで言われて当麻はハッとしたような顔になった

只でさえ世界の半分を占めている科学サイドが魔術サイドの〝どこかの組織〟についてしまったら

〝科学という世界の半分+魔術にある自分達の組織力〟で確実に世界の半分を手中に収められてしまうのだ

後はもう、それこそ多数決みたいな単純な理屈で世界を動かせる

ましてやそれが十字教最大宗派のローマ正教ならば

 

「じゃあ、オリアナたちの取引って…」

「あぁ、都合よく改変された学園都市と、その世界の支配権を取引しているんだろう」

 

ステイルは一つ深呼吸する

彼が咥えている煙草から、紫煙が漏れる

 

「運び屋のオリアナに送り手のリドヴィア…。彼女達の他に片方の受け取り先がわからないのは当然だよ。この取引には他の誰も関わってない。ローマ正教が自分で自分に送るだけなんだから」

 

ステイルはそこで一度言葉を区切る

そして少しあと、また告げた

 

「止めるよ、この取引。そうしないと、世界は崩壊より厳しいことに直面する」

 

こちらの戦力は圧倒的に少ない

それでも、抗わないわけにはいかないのだ

ひょっとしたら、まだオリアナの仲間はいるのかもしれない

それでも、都合の言いように押し付ければ、その世界の支配権を握ろうなどという幻想(ゆめ)を見ているなら

 

必ず、殺さなくてはならない

その歪んだ、幻想を

 

◇◇◇

 

チャールズ・コンダーが退席した数刻後

ローラ・スチュアートが言葉を発した

 

「取引の終了と同時、学園都市は崩壊…いいえ、それ以上の事が起こりける可能性が高いにことね」

「そうだな。無意識に行われる拷問みたいな事を」

 

口の中でローラはゴクリ、と唾を嚥下させる

同時に、彼女は大きい笑みを浮かばせた

 

「…悪い女だ。こんな状況でも自分にとってどう動いて切り抜ければ一番の利益になるのか。…そんな事を考えているなお前は」

「ふふ。嫌いになりけりかしら」

「さぁ? どうかな」

 

ローラの笑みにソウマも小さく笑んで返す

その笑みに応えるように、ローラもまた、笑んだ

 

◇◇◇

 

「私も手伝うぞ」

 

一通り話も済んだところで、シャットアウラが口を開いた

手伝う、とは、何を言っているんだろうか

 

「アウラ? その、手伝う、とは」

「お前は倒れて耳まで遠くなったのか。この話の流れから、その十字以外の事以外に有り得ないだろう」

 

その言葉を聞いてギョッとする

正直に言えば、何となく予想はついていた

ただ何となく、否定したかっただけで

 

「別に、無理しなくてもいいんだ。お前はもう戦う必要は―――」

「この選択は私の意思だ。無理などしていない。それに…」

「それに?」

「お前には、返し切れない借りがある。だから、たまには借りを売りつけておくのも、悪くはあるまいと思っただけだ」

 

そう言って彼女は腕を組みながら一つ、息を吐いた

組んだ仕草で、長い黒髪が揺れる

 

あぁ、そうだ

今はリーダーではないが、シャットアウラは黒鴉部隊の一人だ

学園都市の治安を、守る義務がある

 

正直その十字架がどんなものかをシャットアウラは知らない

しかし、この都市で、何を成そうとするならば

居場所となったこの都市(まち)に、何かをしようとするなら

 

戦う理由に、なりえるのだ

 

そんなシャットアウラの背に、アラタは小さく笑みを零す

 

「―――じゃあ頼むぜ、アウラ」

「あぁ、可能な限りお前に助力する」

 

ベッドから降りたアラタは小さく歩きながら彼女の隣に立ち、コツンと互いの拳をぶつけ合った

 

 

 

この都市の人間は気づいていないだろう

学園都市で起こりつつある事柄を、そしてそれ止めるべく駆け回っている人間がいることも

 

思惑が交差する中で、大覇星祭はさらに盛り上がりを加速させていく

 

オモテの意味でも、ウラの意味でも




気まぐれ紹介のコーナー
リクエストがあったこちらをアニヲタウィキより


「君達が苦しむほど……楽しいから」

●ゴ・ジャラジ・ダ(演:大川征義)

種族:グロンギ(ヤマアラシ種怪人)
呼称:未確認生命体:第42号
身長:177cm
体重:134kg
専用武器:針
※慎重、且つ狡猾な性格の持ち主で俊敏さに優れる。


ゴ・ジャラジ・ダは『仮面ライダークウガ』の登場怪人の一体
最上位集団であるゴ集団の一人にして、グロンギ最大の外道である


初登場
EP:25「彷徨」

『クウガ』は暴力の不必要性を描く為に、敢えて踏み込んだ残酷描写、生々しい暴力を描くと云う演出が取られているが、中でもジャラジのエピソードは感情に任せた「暴力」の危険性と快楽殺人にも通じる心理を浮き彫りにした意欲的、且つ最大の問題作となっている
ていうか今じゃ多分無理

リアル路線ながら、王道的展開を描く事を救いとして来た『クウガ』に於て、逆境の中でも「誰かの為の笑顔」を失わなかった主人公・五代雄介が怒りや憎しみに捉われて戦う姿が描かれた、ドラマ中でも特に重要なエピソードの一つである

人間体はストリートファッションに身を包んだ若者
年齢が近いゴ・ザザル・バと仲が良く、二人揃って気怠い雰囲気を醸し出していた
ザザル同様、純粋な身体能力や戦闘能力は「ゴ」中でも下位に属すると思われるが、敏捷さに優れ、また本人の性格から身に付けた技なのか、相手を幻惑し、ほぼ“完璧”に身を隠す技術を持つ

指をパチリと鳴らす癖があり、クウガとの戦いでも指を鳴らし注意を誘った所で死角に回り込むと云う戦法により有利に戦いを進めた
上記の様に「ゴ」としてはやや攻撃能力に欠けるが、性格はその分、陰湿にして執拗で相手をネチネチと生殺しにするのを好む

詳しくは後述の「ゲゲル」の説明に譲るが、弱い相手を嬲り殺しにする事、獲物がもがき苦しむ姿を見るのを何よりも好む

派手な扇子がトレードマークだったが、EP32「障害」にてザザルに奪われ、そのまま返して貰えなかった

メインEP:34:35
「戦慄」「愛憎」

「ゲゲル」の法則。
「緑川学園2年生の男子生徒を定めに従わせて殺す」(12日で90人)

人数、制限時間、共に「ゴ」としては控えめだが、「定めに従わせて」の部分がミソで、その方法とは“モーフィングパワーにより細い針に変化させた物質を、男子生徒の脳に差し込み、4日後に元に戻る事を利用して内部から殺す”と云う残酷極まりないもの

能力の由来上、「4日」と云う設定もジャラジ自身が決めた物と思われ、事実その宣告した「死」までの間に犠牲者の様子を見る為彼らの下を訪れる(※死んだ生徒の葬式には必ず姿を現し、他の生徒にも恐怖を与えていた)と云うえげつない行動に出ている
おまけに演じている被害者役の人の演技も相まってさらに怖い

また、こんな殺害方法を選択している事からも解る様に、他の武人気質のグロンギとは一線を画した性格の持ち主である事が伺える

だからこそ実際に犠牲者が出るまでは大規模な事件へと発展する事は無く、未確認生命体特捜班と雄介が事態に気付いた時には、既に「ゲゲル」の成功まで間近となっていたのである

しかし、ここでジャラジにとって思ってもいなかったな誤算が生じる

事態に気付いた緑川学園の生徒が、迫り来る自らの死の運命に耐え兼ね、病室の窓から飛び下り自ら命を絶ったのだ
痛ましい出来事に表情を曇らせる一条と雄介
そして、ジャラジにとっては「定め」から逃れられたと云う事であり、つまりは「ゲゲル」の成否に関わるのだ

……幸いにも、転校して来たばかりで「定め」から逃れていた男子生徒・生田和也の存在を知ったジャラジは、欠けてしまった90人目に到達させるべく、彼の下へ向かう
しかし、時を同じくして「法則」に気付いた雄介らもまた、少年を守るべく生田和也の下へ急いでいたのだ


果たして、雄介らはジャラジの魔の手から少年を守る事が出来るのか



この物語はどう結末を迎えるのか
それはぜひあなた自身の眼で見てほしい

このエピソードのオマージュはやりたいなー、なんては思ってるけど今の所予定はないです
文才なくて申し訳ない

ではでは


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#54 束の間の

あんまり変わっていない
そしてぐだってます

ではどうぞ





学園都市の魔術師が入り込んだ

 

その言葉から今回の戦いは始まった

なんでも、入り込んだ魔術師はある礼装〝刺突杭剣(スタブソード)〟の取引をするべく潜り込んだらしい、との報告を聞いた

この時期、学園都市は大覇星祭と言うイベントが開催されており、警備が緩くなったところを突かれたんだろう、と橙色の魔術師は語る

 

鏡祢アラタは浅上藤乃に頼み込み、何とか外出を許してもらった

それでも、やっぱり無理はいけない、と釘を刺され、何かあったらすぐに連絡すること、と念を押されてしまった

しかし、それでも外出許可が出ただけでもマシな方である

 

しかし後に、その取引に使用されるアイテムが、別のものであったと知る

 

その霊装の真の名前は、使徒十字(クローチェデイピエトロ)

使徒十字(クローチェデイピエトロ)の効果は、突き刺したその空間を無条件でローマ正教の所有地に返還させてしまう能力

それは、幸せのすり替え

 

何をされても、幸せという感情に塗りつぶされる

 

「…さて、行くかアウラ」

「あぁ」

 

隣を行くシャットアウラが頷くのを確認した後、二人は今一度雑踏の中を歩く

表舞台では能力者が火花を散らし、裏舞台では魔術師が暗躍する、この学園都市を

 

 

大覇星祭

東京の西側を占める超能力開発機関、学園都市によって行われる七日間の特殊運動会

その一大イベントの一日目も、もう半日が過ぎようとしていた

正午から午後二時までは全競技を中断して、お昼休み、つまりは昼食タイムになる

その時間までは応援に回っていた両親たちや、競技に参加していた生徒たちがこぞって街に繰り出していくのだから人口密度はエライ事になっているのだ

 

「…とりあえずは、食事だな」

「大丈夫なのか。一応お前は病み上がりだろう」

「分かってるって」

 

そう返すパターンはだいたい分かっていないパターンなのだが、と心の中でシャットアウラは突っ込んだ

そう考えてふと、シャットアウラは思い出したように言葉を発する

 

「そう言えばアラタ。今どこに向かってる」

「特に決めてない。悪く言えば考えていなかった」

「なんで悪く言ったのだ。…いや、予想できていない訳ではなかったのだが」

 

頭を抱えながらシャットアウラは周囲を見渡す

この大覇星祭、何しろ人の数が尋常ではなく、場所を取るのが遅れると落ち着いて食事もできなくなる

応援にすら時間がかかったというのに

 

「当麻とかは多分、来訪した家族と一緒に食べてるだろうし、今回くらいは家族水入らずで過ごしてもらいたいしな」

 

そしてインデックスもその当麻の両親たちと食べているだろう

みのりは先ほど幹也と合流した、と連絡があったし心配する必要もないだろう

さて、どこでご飯を取ろうか、なんて考えていると

 

「あ、アラター」

 

聞き慣れた声と見慣れた少女がこちらに向かって小走りで来ていた

そのすぐ後ろにはその少女によく似た…姉? であろう女性が歩いてきている

 

「美琴。競技お疲れさん」

「お互い様ね、…あれ、こちらの方は?」

「シャットアウラ・セクウェンツィア。…会うのは初めまして、だな」

「シャットアウラさん…ね。うん、私は御坂美琴。よろしくね」

 

そして差し出されたその手にシャットアウラは僅かばかりに戸惑った

一瞬アラタの顔を見る、がアラタはシャットアウラの背中を軽く叩く

後押しされたシャットアウラはやがて遠慮がちにその手を握り、握手をした

 

「はは、何だか初々しいわねぇ」

 

やがて美琴らに追いついた姉であろう女性はそう声を発した

その女性は美琴にとてもよく似ていて、あと数年も経てば美琴もこれくらい綺麗な女性へと成長するだろう

 

「貴方が鏡祢アラタくん? 話はちょくちょく聞いてるわ。主に美琴ちゃんからね」

「ちょ!? 何言ってるのよ!?」

 

思わず抗議の言葉を発した美琴に姉であろう女性はハハハ、と笑いながら美琴の肩をポンポンと叩く

 

「はは、気にしないの気にしないの! うんうん、いいじゃない、青春じゃなーい」

「だ、だから違うって…!?」

 

そんな微笑ましい光景を見ていると、思わずこちらも笑顔になってくる

しばらくして不意に姉の女性がアラタに向き直り

 

「そう言えば自己紹介してなかったわね。どうも、美琴の母の御坂美鈴です」

「あぁ、お母様でいらっしゃいましたか。―――え!?」

 

一瞬の思考停止

このお人、今なんて言ったのだ

 

「え、っと! その、お母様!?」

「えぇ。ちなみに大学生ですっ」

 

しかも大学生

子持ちの人妻でしかも大学生とは誰が想像したか

一人絶句しているとくいくい、とシャットアウラがアラタの服の袖を引っ張っている

どうしたのだろう、と思いながらアラタは彼女に耳を傾けた

 

(アラタ。どういう事だ、まさかあの女性、レディリーの関係者じゃあるまいな)

(違うから。あんなんはアイツ一人でいいから!)

(しかし現実に存在するんだぞ、ああいった若さを維持できるのは、もはや魔術関連としかっ!)

 

なまじ前例を見ているせいか無駄にテンションが上がっている

確かにアラタも驚いていたが、よくよく考えてみれば両儀式(子持ち人妻)や黒桐幹也、鮮花や藤乃など、とても健康的な方々がいるのを思い出し、急激に落ち着いてくる

 

「そだ、もしお昼まだだったら一緒に食べない? その方が美琴ちゃんも喜びそうだし」

「は、はぁ。じゃ、じゃあお言葉に甘えて―――」

 

その間も何かを言いたそうな美琴だったが、最終的にため息一つと苦笑いで折れた

 

◇◇◇

 

魔術師、リドヴィア・ロレンテツェッティはとあるホテルのラウンジにいる

古臭く、所々が擦り切れて色が薄くなったその修道服はこの現代社会からすればだいぶ浮いて見える

それと同じように彼女の肌や髪も修道服に合わせるように痛んでおり輝いていない

かつては美人であったろう、と推測できるような顔立ちだ

 

彼女が今いるホテルは別にそこまで有名な店舗じゃない

 

もともと、学園都市は閉鎖的な環境にあり、VIPを招く以外にホテル自体は必要としていない

そうなるとこうした大きな行事には数の少ないホテルへと一気に客が集まってくる

学園都市にあるホテルは全て満室になっているだろうし、街の外のホテルにも恐らくあぶれた客たちで繁盛しているだろう

 

(―――さて)

 

リドヴィアはラウンジを抜け、ガラス作りの回転ドアをくぐって外へと出た

暑い日差しが降り注ぎ、リドヴィアは小さく目を細めた

 

(私もそろそろ、動かなければ)

 

心中で呟いた彼女の耳に遠いところから大覇星祭のアナウンスが聞こえてくる

そこに視線を向けると空に飛行艇が浮かんでいた

それについている大ビジョンに映し出されている天気予報はここしばらくは雲一つないいい天気が続く、と報道している

 

(―――えぇ、確かに。良い天気、ですね)

 

そう呟きつつ彼女は日差しから視線を外した

どこまでも、ここは平和だ

 

そんな平和の都市の間を縫うように彼女は人混みの中へと消えて行った

 

 

両儀式は人混みの多い道並みを歩いていた

そしてちらり、と携帯に目をやり時間を確認する

 

時刻は、大体三時を回るところだ

今の所、あの変なグラサンの金髪や赤い神父みたいな少年からの連絡はない

先ほど合流した当麻の顔を見てみるが、そちらにも来ていないようだ

 

あの女たちの目的が、その何ちゃらピエトロを発動させることならおそらく追撃などを避けるためにどこか一点に身を潜めている可能性が高く、もう現場を抑えることは難しそうだ

赤毛の少年―――ステイルと言ったか―――らはその十字架の使用条件を探っているようなのだ

オリアナの姿を見失い、追撃のヒントもない以上、期待せざるを得ないのだ

 

敵の目的が学園都市の支配なら、さっさと使えばいいのにそれをしないのは、恐らく何らかの条件があるのでは、というのが金髪―――土御門、と言ったか―――の見解らしいのだ

 

「しかし、遅いな。あの女」

「…えぇ」

 

式の呟きに思わず当麻は頷いていた

あの戦いの後、オリアナと別れてから結構な時間が立つ

こう、のんびりしていていいのだろうか、という感情が生まれた当麻は式に問いかけた

 

「…何か、俺たちに出来る事ってないんですかね」

「ないね。少なくとも今のうちはさ」

 

対する式は憮然と、それでいて落ち着いた様子で言い放った

彼女は続ける

 

「少なくとも今のオレたちに出来るのは、体力を回復させること。…もっとも、十分回復してるだろうが、何かあった時すぐ動けないと困るからな」

 

それに、と式はび、と当麻の右腕を差し

 

「その右手は、魔術に対して最大の効果を持ってるんだろう。なら、出番はまだ先だ」

「それは、確かにそうですけど」

 

彼女の言葉も頷ける

しかし使徒十字(クローチェデイピエトロ)の使用条件が不明な以上、どうしても焦ってしまうのだ

 

「つうかさ、なんだっけ。そのイン何とかに聞けば早いんじゃないのか。なんだかよくわかんないけど、十万三千冊の魔導書っての記憶してるらしいじゃんか。いざとなれば―――」

「それは、ダメです」

 

凛とした声で当麻はその申し出を断る

確かに、彼女に聞けばすぐにわかるだろう

だけど、聞くことは許されない

 

「アイツを事件の渦中に近づけてしまうと、外の魔術師たちの、なんだろう…サーチ? の術式がオリアナたちの魔力を捕まえてしまうかもしれないんです。そして捕まえてしまったら、今この学園都市で起きている魔術関連の事件はインデックスが怪しいって思われてしまう…。だから、アイツは…インデックスは事件には巻き込めないし、近づけられない。それ以前に、感づかせるわけにもいかないんです」

 

インデックスは魔術に関して膨大すぎる知識量を誇っている

故に、彼女が一度感づいてしまったらどんな小さな痕跡も逃さないだろう

そして、彼女の性格からして、この事件に首を突っ込んでしまうことも容易に想像できる

 

「…なるほど。なら仕方ない、歯がゆいが信じるしかないな」

「…すいません、確かにそれが早い方法かもですけど」

「気にするな。その友達を巻き込むことも、アイツは望んでないだろうしな」

 

アイツ、という単語を聞いてふと当麻は気になったことをぶつけてみる

一番気になっていた素朴な疑問を

 

「―――その、つかぬ事を聞きしますが、アラタとは一体どういう関係なんですか?」

「あん? アラタと?」

 

そう言い返すと式は腕を組んでしばらくフリーズした

も、もしや何か地雷を踏んでしまったのか!? と当麻は焦ったがやがて彼女は口を開いた

 

「―――養子…義理の息子みたいな奴だよ。娘ともよく遊んでくれてるし」

「む、すめ? え、式さんご結婚なさっていたのでせうか!?」

「…な、なんだよ。オレが結婚してちゃまずいのか」

 

ちょっと戸惑いがちな式に当麻は滅相もございません! と謝罪の言葉を交える

あまりに若々しいその姿に正直当麻は大学生くらいのお方だと思っていたのだ

―――自分の母といい、このお人といい、自分の周囲の女性は不自然にお若いのはなぜだろう

そうなると彼女の旦那さんのお顔も見てみたい

アラタからちょっと聞いた話では「黒い人」としか聞いていないので人物像がよくわからなかったのだ

ていうか黒い人じゃこれっぽっちも分からない

 

「そんなところで。何をしているの?」

 

突然真横から聞こえてきたその声に当麻は「おわっ!?」と変な声を上げた

驚いた当麻に釣られて式もその声の方向を向くとそこには黒く長い髪を持った女の子が立っていた

体操服の上からでは分からないが彼女は十字架のネックレスをかけている

その証拠に、髪に隠れがちだが首の後ろから鎖骨にかけて細い鎖が見えた

当麻はその少女の名前を知っている

 

「ひ、姫神。お前どうしてこんな場所に…」

「少し困ったことがあって。君を探していたの。…? こちらの方は?」

 

姫神、と呼ばれた少女の視線が両儀式へと移る

式は彼女に視線を合わせ軽く自分の名を名乗った

 

「オレは両儀式。よろしく」

「姫神秋沙。こちらこそ」

 

差し出したその手を姫神は握ってくれた

…しかしどうしてだろうか、何だか彼女の声をどこかで聞いたことがあるような

 

 

「―――はぷちゅんっ!」

 

唐突なくしゃみに浅上藤乃は頭に疑問符を浮かべた

幸いにも持っていたカルテは地面に落とさなくて済んだのではあるが

軽く鼻をすすりながら手に持つカルテを棚へとしまっていく

そして何となく、天井を見上げた

 

噂でもされているのだろうか、と一人思う

 

「浅上くん?」

「あ、先生」

 

聞こえてきた冥土返しの声に藤乃は振り返った

 

「お疲れ様、浅上くん。今日はもう上がっていいよ、キミも大覇星祭を楽しんでくると良い」

「え? でもいいんですか?」

「うん。あ、でも急患とかが来たときは流石に呼ぶかもね?」

 

そう言って冥土返しは笑みを見せる

その笑みを見て、釣られて藤乃も笑い

 

「―――じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」

 

 

「? どうしました?」

「え? い、いや、なんでもない。昔お前の声に似たヤツと会ってさ。…柄にもなく昔を思い出してた」

 

いつぞやの事かは、だいぶ忘れてしまったが

 

「それで。お前はこの男に何か用があってきたんだろう」

「あ。そうだった。ねぇ。上条君。今大丈夫?」

 

唐突なその問いに当麻は疑問符を浮かべながら秋沙に聞き返した

 

「い、一応大丈夫っちゃあ大丈夫だけど…」

「よかった。実は小萌先生がトラブルを起こして。とっても怒ってるみたいなの」

「…トラブル?」

 

言われて当麻と式は姫神の後ろをついていくことにした

秋沙は当麻の手を使うとこっちこっちと引っ張っていく

そんな時、当麻の視線は繋がれたその手に向いた

じっと手を見つめている当麻に姫神は首を傾げて

 

「…。どうしたの?」

「いや、別に大したことじゃないんだけど、姫神は気にしないんだなって」

「―――。」

 

言った瞬間に姫神はその手を離した

顔は無表情だが、ほんのりと頬は赤くなっており、今まで繋いでいたその手を胸元に持っていくもう片方の手で包み込んだ

 

「―――鈍いな。お前」

 

そんな式の言葉に、今度は当麻が疑問符を浮かべるのだった

 

 

姫神秋沙に連れてこられた場所はそこそこ大きめな公園だった

すでに昼休みが終わっているためか人の数は少ない

そんな人気のない公園の一角に置いてあるベンチに、赤い髪の神父―――ステイルとやけに小さい女性―――月詠小萌がいた

何故か小萌はチアガールのコスプレをしていて、ステイルに対してとても怒っている

 

どうやら小萌は煙草を吸おうとしてるステイルの手から煙草を取り上げようと手を伸ばしているのだが如何せん小萌の身長が足りずに全く届いていない

 

「…なんだ、新手の子供の遊び方かあれは」

「式さん、ああ見えて小さい方…もとい、あの人は教師で大人です」

 

冷静な当麻の言葉に式は「な!?」と目を丸くした

そんな馬鹿な、とも内心思ったがよくよく考えればレディリーみたいな奴もいるのでいても問題ないのか、と妙に納得してしまう

 

「あそこ。小萌先生と前に私を助けてくれた人が。言い争ってて。どうしていいか分かんないの」

 

どうやら彼女が頼みたかったのはこの二人の喧嘩(?)の仲裁らしい

 

式は知らないが、姫神にとって小萌はもちろんの事、ステイルはかつて自分を助けてくれた恩人だし、やはりどっちにもケンカしてほしくないのだ

しかし当麻はステイルの顔を見るなら心からうんざりしつつ

 

「…いや、むしろアイツはここらで本格的に叱られるべきなんだ。それが人生の為だようん」

「あ!? 上条ちゃん! そんなところでのんびりしてないで先生を手伝ってくださいっ、この子は恐ろしいヘビースモーカーです! もー!その投げてる箱を早く渡してくださーいっ!」

「…行った方がいいんじゃないのか」

「…みたいだな」

 

式に促され当麻は小萌先生やステイルのいる場所まで歩いていく

一度小萌に視線を落として、ステイルに目をやると

 

「…よかったな。まだ怒ってくれる人がいて」

「手遅れ感は半端ないがな」

 

式の言葉に一瞬ステイルは何かを言い出そうとしたが、大きく息を吐いた

 

「…ちょうど動かなくてならないと思っていたのだが、彼女がうるさくてね」

 

彼はそう言いながら片手で煙草の箱をお手玉しつつさりげなく胸ポケットへと親指を向けた

その胸ポケットには髑髏のストラップをつけた携帯がついており、髑髏を模したランプがちかちかと光っている

どうやら着信しているらしい

 

「…どうやら出るに出れないみたいだな」

 

式の呟きに当麻は頷いた

恐らくその相手とはイギリス清教高のメンバーだろう

十字化関連の話題を小萌先生に聞かせるのは流石にマズイ

 

「あ、そっちに投げましたねー!」

 

ふとそんな声と共に当麻と式の所に何かが飛んできた

反応するより早く動いた式はそれをキャッチするとそれは煙草の箱だった

 

「―――おい、お前煙草吸ってみる気はあるか?」

「え?」

「あなたー! 私の大事な生徒に何言ってくれてるですかー!」

 

式の言葉に反応した小萌が一気に接近してくる

そんな隙にステイルは胸ポケットから携帯を出してそれを耳に当てるとどこかへと歩いて行ってしまった

訳の分からない表情をしている当麻がポカンとしていると今度は彼の携帯が震えた

思わず出ようとしたが

 

「お説教の最中ですよ上条ちゃんっ!」

 

小萌先生に一喝されて思わず当麻は仰け反った

しかしその隙に式は軽く謝罪の言葉を述べながら彼女に煙草の箱を手渡した

小萌の視線が式に行っている間に当麻は携帯を取り出してかけた相手の名前を見る

 

画面には土御門元春、と出ていた

 

彼から連絡があるとすると、オリアナたちに何か動きがあったのか、どちらにしろこの事を小萌先生や姫神に聞かせるわけにはいかない

当麻は式にちらりと目配せする

式はその視線を受けてこちらの状況を察してくれたのか、頷いてくれた後、手をしっし、と動かした

その意味は、早く電話に出てこい、だ

 

「―――ええい姫神後は任せたー! 一応口論は止めたからなー!」

 

半ばやけくそ気味に叫んで当麻はその場から走り去る

逃がさまい、と追いかけようとする小萌に姫神が抱き着いてその動きを封じた

そのまま当麻の背中が見えなくなるのを見届けて式は小さく安堵の息を吐く

そして何気なく姫神とじゃれている(?)小萌先生を見て、呟いた

 

「―――良い先生だな」

 

どこまでもこの女性は、生徒思いだ

あの時咄嗟に煙草を吸うか等と言って話を逸らしてみたが、その際に聞こえた声色は本当に生徒を心配している事を感じさせるものだった

 

きっとこの先生はいろんな人から慕われているに違いないだろう

 

さて、と頭を軽く振って思考をリセットする

何か分かればいいのだが

 

 

公園の外に出て当麻は慌てて携帯の通話ボタンを押す

軽く息を整えつつ、耳にその携帯を当てた

 

<カミやん! ステイルが話し中で繋がんないだけどそっちにいっかにゃー!? 場所知ってるなら伝言を頼みたいんだぜぇい!>

「いや、悪い。あっちにもなんか誰かから連絡があってみたいださ。土御門、お前は何か分かったのか」

<や、そんな大きい話じゃないんだが…カミやんも知っておいた方がいい。この都市のセキュリティをちょっと特殊な手順で調べていてな、機械仕掛けはあんまり魔術に対応できないからアテにはしてなかったんだが…〝ヒットした〟>

 

その言葉にゾワリ、と当麻を変な感覚が襲った

電話の向こうで彼は続ける

 

<反応は三分前に第五学区、隣の学区の地下鉄の西部山駅の出入り口から出てくるのを見つけた。んでそれっきりだ、四角情報を遮断する術式を使ったか単にカメラの死角に潜ったのかは分からない>

「…三分、か」

 

この場所から第五学区までは頑張って最短ルートを行っても四キロ前後

今から行っても、その移動している間にオリアナはどれほど移動しているのか

 

<完全に追い詰める必要はないぜ、そこについたら探索魔術をステイルにかけてもらうにゃー。そんで正確な位置を把握したら一気に攻める。それでチェックメイトだぜぃ>

 

探索魔術の名前は理派四陣

元は土御門の魔術だが現在はステイルが使用している

使用者を中心として半径三キロ近い距離のサーチを可能としている

条件としてターゲットの使用していた霊装が必要となるのだが、それはオリアナの使用していた単語帳ページを入手してある

 

「けど、三キロ進めばアイツは範囲の外に出ちまう、こっちは四キロ行ってやっと探索開始! それで間に合うのか!?」

<だから急いでんだぜカミやん! バスでもなんでも使ってとにかく急いでステイルを連れて現場に行ってくれ!>

 

そう言って通話が切れた

十字架の使用条件などが分からない以上、恐らくラストチャンスになってしまうだろう

ここで捕まえることが出来なければ、何もかもお終いだという気持ちで臨まなければ

 

「くっそ…! ステイルッ!」

 

当麻は叫んで彼を探そうとする、と、ちょうどよく迂回の道を歩いてきたステイルと、先ほど自分が走ってきたところから式が小走りで駆け付けて来ていた

 

「声を荒げるな上条当麻。聞かれたらどうするつもりだ」

「…その様子だと、何か切羽詰った様子みたいだな」

 

当麻は頷いて先ほど土御門から聞いた情報を掻い摘んで二人に話した

その情報を聞いて、二人の表情が真剣なものに変わっていく

 

「急いだ方がいいな」

「だね。案内しろ上条当麻!」

 

分かった、と大きく頷いて三人は走り出した

不幸中の幸い、と思うことはオリアナがこちらに発見されたことに気づいていない、という可能性だ

しかしもし気づかれて、全力で逃走に入られたらそれこそ終わりだ

 

相手は歩きで、こちらは走り

足りない時間と距離は、速さで埋めていくしかない




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちらの台詞

「嫌いじゃないわ!!」

…もうお分かりですね

「嫌いじゃないわ!」とは、仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリで誕生した迷言
使用者は泉京水



【誕生】
愛する克己ちゃんの為に、Wと戦うオカ…もといレディ「泉京水」

そこに現れたのは、京水好みのイケメンだった!

「誰、このイケメン?誰このイケメン?」
素敵なイケメンの登場に興奮する京水

「変身!」

京水(とW)の前で、イケメンはオーズに変身する


「アナタは何者!?」
「オーズ! 仮面ライダーオーズ!」
こうして、ルナ・ドーパントと仮面ライダーオーズの戦闘が始まる!


その戦闘の最中、誕生した迷言が…



「イケメンで強いのねッ、嫌いじゃないわ!」




\ハッピ バァァァァァァス デイ!!/
新しい迷言の誕生だ!
この迷言は、多くの腹筋を崩壊させた!
素晴らしい!!



【解説】

シリアスな場面が多い『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』でも、コミカル且非常に濃いキャラで多くの者の腹筋を崩壊させた「泉京水」

これは、そんな彼女(?)が放った迷言である。

新ライダーとのシリアスな戦闘…になるかと思いきや、この台詞の連呼によって劇場は爆笑の渦に包まれた
それにより、今なお多くの者の心に深く残る迷言である

尚、この迷言は 京水役の須藤元気氏のアドリブである (と言うか、京水のオカマ設定自体アドリブ)。



【後々】

非常にインパクトの強いこの迷言は、多くの反響を呼び。
嫌いじゃないわ!
嫌いじゃないわ!


に対し


セイヤー!



と返すのはある意味お約束

【仮面ライダーエターナル】

『仮面ライダーダブルRETURNS 仮面ライダーエターナル』にも…「嫌いじゃないわ!」は登場した


「こいつ…強いわ!特に縛りがね!嫌いじゃないわ~ん!」


だが今回はコミカルな場面だけでは無く、克己と協力して戦ったレイカに対する讃辞としても贈っている
この「嫌いじゃないわ…」は、少しだけクールな言い回しである
しかし…例によって須藤氏のアドリブ全開で、他の場面の京水はコミカルになっている。

以上、アニヲタウィキからでした

ではまた


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#55 戦いの再開

読み終わったら読者(オマエ)は「あの二人の絡みがやりたかっただけだろ」と言う

グリドンかっこいいな
前半のへたれっぷりが嘘みたいだ

グダグダだけどご容赦を
ではどうぞ

あ、後今月はバトライドウォーⅡだ!
予約しなくちゃ(使命感)


「もう。姫神ちゃんのせいで上条ちゃんを見失ってしまったです」

 

前を歩く小萌は隣の少女に叫ぶように声を出す

少女の名前は姫神秋沙

彼女は現在フルーツジュース片手にのんびりと前を歩いている

 

「でも。競技の時間が迫ってたし」

「分かっているですよー! だから早く叱って急いでみんなの所に戻ろうとしたですよー!」

 

彼女たちが歩いているのは第七学区に近い場所にある

さっき当麻やステイル、革ジャンの女性が逃げた公園のほか、商店街とかが並んでいる

この場所は競技場―――もとい学校から離れているせいか、ここを歩く人々の目的は基本的にお土産だ

 

「はぁ。…仕方ないです。上条ちゃんは競技場で待つことにするです。鏡祢ちゃんはどこか行っちゃうし…」

「? 鏡祢くんが。どうしたの?」

 

不意に聞こえた単語に姫神は眉を潜ませた

その言葉に小萌は指を遊びながら

 

「ついちょっと前に蒼崎さん…いいえ、先生のお友達がですね、ちょっとアラタを借りていくぞー、って連絡が来てそれっきりです。あ、それより姫神ちゃんも急がないとだめですよ」

 

話を戻され姫神は頷きながら手に持ったジュースを少しづつ喉に入れていく

そんな姫神の反応が希薄だったことに気づき、彼女は口を開く

 

「悩み事ですか? 姫神ちゃん」

「…そういうのじゃない。けど。なんだか。上条君。焦ってたみたいだったから」

「? 確かに言われてみれば焦ってた感じ出したけど…何かおかしかったですか? 単純に次の競技に間に合わないかも、っていうのじゃ…」

「…だけど。あの様子は」

 

彼女はそこで言葉を区切る

その感覚を、彼女は一度身を以て体験したことがある

あの錬金術師を前にして、拳を振り上げて自分を守ってくれた時の事

 

「…やっぱり。気のせいだったのかな」

「? 姫神ちゃん?」

 

不思議そうに顔をしかめる小萌を見下ろしつつ、姫神は考える

そんな考えをしているとき、また声が聞こえた

 

「あの…ごめんなさい」

 

前の方から歩いてくるのはどことなく黒いワンピースを着込んだスタイルのいい女性だった

誰かの応援に来ているのか、手元にはパンフレットが握られている

 

「ごめんなさい。ちょっと道を尋ねたいんですけど」

 

そうおずおずとためらいがちに彼女はパンフの一点を指差した

その場所は小萌と姫神が向かおうとしていた場所だ

 

「その場所なら私たちも向かってますね」

「うん。よかったら。一緒に行きますか?」

 

いいんですか? と聞き返す彼女を小萌はいいのです、と返す

そんな訳でメンバーも増えた一向で歩いていく最中、先ほどの考えを姫神は思い出していた

 

「…考え事ですか?」

 

不意に言われた言葉にビクリ、と姫神の身体が震えた

その声色はどうやら小さな声で呟かれたもののようで少し後ろを歩いている小萌には幸いにも聞こえていない

 

「…どうして?」

「なんとなくです」

 

そう言葉にした後、彼女は微笑む

同性である自分が思わず吸い込まれそうなくらい魅力的な笑顔を見た気がした

 

「貴女は、今日のナイトパレードに誰を誘うんですか?」

「…え?」

「この大覇星祭開催中では日没後のライトアップパレードがあるって聞きました。…私、そう言うの初めてだから、ちょっと楽しみなんです。考え事も、もしかしたらこれかなって…」

 

女性は頬を掻きながら呟く

姫神も、それは考えていた

そのパレードに、上条当麻を誘う事

仮に自分の口から言えなくても、せめて近くにいるくらいはしたい

―――けれど

 

「無理ですよ。私なんかじゃ」

 

凛とした、それでいて妙に力の弱い言葉に女性は疑問符を浮かべる

 

「…私がいきなり誘ってみても。きっとその人は面食らうに決まってる。…だから。言いださない方がいいと思うんです」

「…それは違うよ」

 

姫神の言葉を、女性は遮った

 

「…え?」

「今日で初対面の私が言うのはおこがましいと思うけど、それはきっと違う。私は貴女の言う〝その人〟を知らないけど、言葉を伝えずにしまったままなのは辛いと思う」

 

女性は真っ直ぐ姫神の顔を見る

彼女の澄んだ瞳は、姫神を捉えた

 

「例えば、指を抓られたら、あなたはどうする?」

「え? その、痛いって―――」

「それですよ」

 

女性がそう言った

姫神の訳の分からない、と言った様子の表情を見た女性は微笑みながら

 

「痛かったら、痛いって言えるんです。私たちは」

「…痛いって、言える…」

「〝言葉〟に出来るんですよ」

 

言葉に出来る

そう聞いて姫神は少し固まった

そして、―――何となくだけど―――女性の言いたいことが分かった気がする

 

「…ありがとうございます。…だけど。今日は」

「うん、それでいいんです。大覇星祭は今日だけじゃないですから」

 

そう言って女性は静かに笑った

それに釣られて姫神もわずかではあるが小さく笑う

 

「ごめんなさい、初対面なのにこんな事話して」

「気にしないで。そう言えば。名乗ってなかった。私。姫神秋沙。後ろの女性は。月詠小萌先生。貴女は?」

 

そう言えば、と姫神の簡単な自己紹介を聞いて女性は改めて姫神の前に少し出る

女性は言った

 

「―――浅上藤乃って言います」

 

◇◇◇

 

リハーサルを終えて、今は一息ついている最中である

特にすることもなくなった颯大はひとまず大覇星祭を見て回ろうかな、と考えた

何しろ規模の大きいイベントだ、生徒たちが参加している競技を見ないのはもったいないと思ったのだ

本番はナイトパレードが始まるのと同じくらい、正確に言えばナイトパレードの最中に学園都市中にそのライブ映像が中継されるというこちらもかなり大きめなイベントだ

 

…流石に本番の数時間前くらいには戻らないといけないが、多少なりとも自由行動は許されると思う

そんな訳で颯大は早速パンフレットを確認し次があるのかを確かめた

高校には通っているが、この大覇星祭期間中はこちらのダンスを優先させてもらっているため、応援はしないといけないのだ

元より応援はするつもりだったのだが

 

「…よっし、目的地も決まったし、ひとまず歩いていくとするかな」

「あ、颯大さん」

 

手をパチン、と叩きながら立ち上がった颯大の耳に聞き慣れた声が入ってきた

その声の方を向いてみると、同じダンスチームのメンバーである鷹嶋(たかしま)光輝(みつき)が走ってきていた

 

「おおミッチ。どうした」

「いいえ、ちょっとこの振付、少し確認したいなって思って」

「お、どこの振付だ? …あぁ。ここか、ここは―――」

 

簡単に振付を確認し合い、その途中で光輝は言葉を発した

 

「あ、颯大さん。そう言えば応援に行くんでしたよね? ごめんなさい、引き留めてしまって…」

「気にすんなよ、まだ時間あるし、十分間に合うって」

 

少し心配する光輝に対して颯大は笑顔で返す

その後で光輝はこう付け足してきた

 

「気を付けてください。…なんだか今日の学園都市、妙な空気を感じるんです」

「…妙な空気? …どういうことだ?」

「いえ…口では上手く表現できないんですけど…その、おかしな人を午前中見かけたんです」

「…おかしな人?」

 

そう聞くと光輝は頷く

 

「えぇ。…まぁ正直言ってこれだけでおかしいとか決めつけることは出来ないんですけど」

「うん」

「看板を持ってた女の人を見かけたんです。それも、外国の人を」

 

その言葉を聞いて颯大はうん? と考えた

外国の女の人が看板を持ってた? 一体どういう事だろう

 

「いえ、正直この学園都市に外国の方が来るなんて思えなくて。そりゃ働きに来る人もいるかもしれませんけど…わざわざ大覇星祭中に来るとは思えなくて。それに、なんか妙に浮いていて…」

 

彼は顎に手を当てて考える

光輝は勘が鋭く、土壇場での彼の指摘にはいくつか助けられたこともあった

…もっとも、それは一緒にゲームをしていたりとか、そう言うしょうもない理由なのだが

颯大は彼の方に手を当て、笑みを浮かべながら

 

「分かった。お前が言うんなら注意したほうが良さそうなんだな」

 

普段ならば笑い飛ばすくらいのジョークなのかもしれない

しかし、光輝の真剣な表情が物語っている

確かにただの思い過ごしかもしれないが、それでも頭の片隅に留めておいた方がよさそうだ

 

「杞憂かもしれませんが、気を付けてください、颯大さん」

「あぁ。けどミッチも気をつけろよ」

「えぇ。いざとなったら、僕も」

 

そう言いながら彼はブドウが描かれた錠前を見せる

それを見て颯大は頷き

 

「あぁ。それじゃちょっと行ってくるから、真衣の事頼んだぜ」

「あ、はい。行ってらっしゃい、颯大さん」

 

颯大は光輝に手を振りながら足早にその場を後にした

 

◇◇◇

 

シャットアウラとアラタは、土御門に連絡を取り当麻らと合流することにした

当然ながら心配されたが、問題ないと少しばかり強引に説得し、地下鉄で当麻たちと落ち合ってくれ、という事になった

そして当麻と連絡したとき、電話の向こうで聞こえた声色は若干疲れたものになっており、恐らくは走りながら通話していたのだろう

それで今どこにいるかを聞いて、その場所から最も近い地下鉄を目指してアラタとシャットアウラは駆け抜けた

 

「…一番近い場所は、この辺りかな」

「みたいだな」

 

軽く肩で息をしながら現状を短く二人は状況を確認する

おそらくこのまま待っていれば当麻たちと合流できるはずだろう

しばらく待っているとこちらに向かって走ってくるような足音が耳に入ってきた

その足音の方を見ると上条当麻とステイル、そして両儀式の三人がこちらに向かって来ていた

 

―――が、ステイルはアラタの隣にいる一人の少女の顔を見てわずかではあるが身構えた

当のシャットアウラはキョトン、としていたのだが

 

思えばこの二人、敵としてしか面識していないじゃないか、ということに気づいたのはたった今だ

鋭い視線のまま、ステイルが口を開く

 

「―――どういう事だ、鏡祢アラタ。なぜ彼女がここにいる」

 

ステイルは一度彼女と交戦している

状況は説明するべきなのだが、そうしている時間がない、と判断しアラタは口を開いた

 

「今気にしてる場合じゃないぜ。どっちを優先するべきかわかんないアンタじゃないだろう。説明は後回しだ」

 

そうアラタに言われ、ステイルは一度シャットアウラへと視線を合わせた

シャットアウラは特に何も変わりなく、まっすぐにステイルに視線を返す

その瞳を見て判断したのか、ステイルは戦闘体制を解き、ふぅ、と息を吐いた

 

「―――目的地の西部山駅までは大体二駅ってところか」

「あぁ、さっさと乗り込もうぜ」

 

ステイルの言葉に式が反応し、ちょうど目の前に止まった列車に一行は乗り込んだ

わずかではあるがようやく落ち着ける状況になった

こういってしまうと不謹慎ではあるが、ゆったり動くこんな地下鉄は割りと好みだ

 

「なぁ、アラタ。本当に大丈夫なのか?」

「うん? あぁ、問題ない。お前らが戦ってるのに、一人だけ寝てるなんてできないしね」

 

心配をしてくれる当麻に対しアラタは小さい笑顔でそれに答えた

そして今度は彼の隣にいる少女少し戸惑いがちに言葉をかける

 

「シャットアウラ、お前は―――」

「勘違いするな。…私は、アリサの平穏を壊すような輩が気に食わないだけだ」

「…そっか。じゃあ、それでいいよ」

 

僅かばかりに頬を朱に染めるシャットアウラを見ながら当麻とアラタはなんとなしにお互いを見てどちらともなく微笑んだ

そんな光景をどこか複雑そうな顔してステイルは徐にタバコを取り出そうと―――

 

「おい、こんなところでタバコを吸うなよ。万が一煙を感知して緊急停止なんかしたらどうするつもりだ」

「―――ちっ」

 

式に指摘されあからさまにステイルは憎々しい舌打ちをした

やがて彼はまた別のところからタバコの箱みたいな容器を取り出す

式は訝しげにそれを見たが、その箱から何かを取り出し、それをガムのようにかみ締め始めた

 

「…なんだそれ」

「噛みタバコだ」

 

 

「…そこまでしてお前はタバコが好きなのか」

「ニコチンとタールのない世界は地獄だよ。僕みたいな善良で敬謙な子羊が地獄に落ちるなんてことあってはならないんだ」

「―――はっ、鏡見て言いやがれ」

 

そうこうしているうちに、列車が停止する

どうやら一つ目の駅に到着したらしい

乗り込んでくる客らはステイルの格好や式の和服に驚いていた

 

扉が閉まって、列車はまた動き出す

残る駅は、後一つ

 

◇◇◇

 

「…さぁて」

 

第五学区の街中にて

オリアナ・トムソンは呟いた

 

歩く人の視線が彼女に注目しているのがわかる

大覇星祭が開催している最中は外国からやってくる客も多く、金髪碧眼の女性はさほど珍しくない

注目を浴びているのは彼女の服装と、そのプロポーションによるものだ

彼女の隣にいる一人の男性はため息をつきながらやれやれ、と言った感じで両手を挙げている

 

あからさまに引き締まった肉体にそれを強調するような衣類を着ていれば嫌でも注目されるものだ

おまけに彼女の場合はわかってやっているのだから性質が悪い

 

「…わかってますか? オリアナさん」

 

男性は徐に虎の模様が書かれたデッキを一度取り出してもう一度懐に収めた

それに答えるように前を歩くオリアナは

 

「わかってるわ。えぇ、時間としては、まだかかりそうなのよ。まぁそちらはリドヴィアチャンに任せるとして。ねぇサトルクン? この間、私たちはどう動くべきかしら」

「…それを僕に聞きますか」

 

周囲の視線を引きずり回すかのようにオリアナは歩き、サトルと呼ばれた青年はついていく

その姿が、追跡者らの目に捉えられていると言うことに気づかずに




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちら

仮面ライダー剣 超バトルビデオ 仮面ライダー剣VSブレイド

こちらの作品はテレビ君の応募者全員サービスとして作られた短編作品

あらすじ

仮面ライダーの都市伝説を追う事で出会った四人の仮面ライダー達の情報をまとめていた白井虎太郎
そんな彼の傍らには、同居人であり四人の仮面ライダーの一人でもある剣崎一真の変身ツールであるブレイバックルが勝手に持ち出されていたが、後でちゃんと返せば問題ないと軽く考えていた
そんな暢気な虎太郎のもとへ現れたのはもう一人の同居人広瀬栞
剣崎が勝手に自分の部屋に入ってきた事を怒る彼女に対し、自分が持ち出したブレイバックルを探していたからでは、と虎太郎はどこまでも暢気な対応
そこへ当の剣崎が現れ、虎太郎が勝手に自分のブレイバックルを持ち出した事を注意するものの、栞の部屋に入った事に関しては心当たりが無い様子
そんな混乱する三人のもとに現れたのは、赤いマフラーをしたもう一人の剣崎の姿だった

登場人物

剣崎一真
愛すべきオンドゥル
今作品では、アホ師弟に間違って殴られたり、誤射されたり、ムッコロに馬鹿にされたり、本編では全く当たらなかったタックルのカードを偽者が自分以上に上手く使って当てられたりと、割りと不幸

橘朔也
ご存知ダディ
本物のブレイドを偽者と間違えて殴った睦月をたしなめつつ
自分と剣崎との付き合いの長さをアピールした次の瞬間に華麗に本物のケツを誤射するという、いつも通りの橘さんクオリティを見せつけ、視聴者の腹筋を崩壊させた
ブレイドにジェミニのカードを渡す事で、逆転のきっかけを作るという見せ場を作るものの、最後は年下の睦月を相手に非常に大人気ないやり取りを繰り広げた
( 0M0)「俺のジェミニで分身したじゃないか」

上城睦月
ご存知ムッキー
アホ師弟の弟子
自信満々で本物のブレイドを殴るという布石を打った事で、その後の橘さんの誤射がより強調される事になった
橘さんがジェミニのカードをブレイドに渡したのに対し、彼は本編でも猛威を奮ったリモートのカードをブレイドに渡した
ラストでは橘さんと大人気ないやり取りを見せた
(0H0 )「「俺のリモートのおかげで勝ちましたね」

相川始
ムッコロ
通りすがりの様に現れて、美味しい所を一人で持っていった
彼はブレイドにカードを渡さなかったが、本物のブレイドと偽者のブレイドの違いを見抜き、最初に逆転のきっかけを作る

偽剣崎/偽仮面ライダーブレイド
本物の爽やかな性格と違い、暗い表情と陰鬱な笑みが特徴的
後に世界の破壊者を倒す為に現れた暗い性格の剣崎と同一人物との噂も。
ブレイバックルをコピーしてブレイドに変身、本物の剣崎よりもラウズカードを使いこなし、互角の戦いを繰り広げた
本物と違い赤いマフラーをしており、ブレイドに変身してもマフラーはそのままなのだが、何故か誰もその事に気付かない(きっと視聴者への配慮だろう)
ちなみに正体はトライアル

見所

•橘さんとムッキーが変身せずにそれぞれのラウザーを使う事(ムッキーに至ってはその場でレンゲルラウザーを落としている)
•誰も偽剣崎/偽ブレイドのマフラーの存在に気付かない
•ジェミニのカードを使用して二人になったブレイドが、それぞれキングフォームとジャックフォームに変身した事で、違う姿のブレイドが三人(ノーマル(偽者だけど)、ジャック、キング)という凄まじい絵面に
•本編のラストを考えるとあまりに切ないラストの剣崎の笑顔
•最初から最後までツッコミ所しかないアホ師弟(しかも殆どアドリブ)

以上、アニヲタウィキより抜粋

某笑顔動画でも探せば見つかるので興味がわいた人はぜひぜひ

後どうでもいいけどふじのんのしゃべり方が違和感あるかも
ただ能登さん演じるこの二人は一度喋らせてみたかった

ではまた次回

気長に待っていただければと思います


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#56 約束 

ぐだってますよ
ごめんなさい

みんな、本日6/26はバトライドウォーⅡの発売日だ!
だから更新速度遅れるよ
ごめんなさい

またあと少ししたらちょいオリジナルな展開に入ってオリアナ戦はカットする予定
あくまで予定ですからあしからず

…ただそのオリジナルに入ったら文章の量はめっきり減ると思います

ではどうぞ


列車が止まった

その事実が指し示すのは目的地の西部山駅に到着した、と言うことだ

 

列車のドアが開くと同時、一向は外へと飛び出し、手近な出口に向かって一直線に走り出した

走っている最中、適当なゴミ箱の中にステイルは噛みタバコをはき捨てて

 

「土御門はどこにいる!? やつがいないと、探索に使う〝理派四陣〟が発動できないんだけどね」

 

そう言いながらステイルは携帯を操作する

走りながら一瞬、アラタは土御門のことを考えた

あの時―――エンデュミオンのときも彼は手を貸してくれたことから、彼も魔術に関係している人物なのだと初めて知った

そして同時に、如月弦太郎も土御門と同様に魔術師、と言うことも

 

しかしもともと魔術を使用できない弦太郎はともかくとして、土御門は魔術師でありながら超能力者でもある、と言うことだ

 

それが何を意味するのか

 

それを決断した彼の意思は強固なものだろう

 

だから、アラタはあの時何も聞かなかった

 

そんなことを考えていると繋がったのか、ステイルが口を開いた

 

「土御門かい?」

<にゃー。悪ぃな。自立バス近辺まで来てるんだが…ここらは十キロ走のコースに指定されてるみたいだ。スケジュールの変更で時間が早まったみたいだ。バスが往生してるぜぇい>

 

ステイルはわかりやすく舌を打つ

そしてまた口を開く

 

「そこからここまでの距離は」

<降りて走るならざっと十分てところか>

「―――そいつはマズイな」

 

式はそう言い、アラタもそれに頷く

オリアナ・トムソンを発見し約三分、そして駅に来るまでに約五分、そこからさらに十分も待って探索しようものなら確実に彼女を見失う

 

「…その何とか陣ってやつの有効範囲は?」

<半径三キロだにゃー。…そういやカガミんたちには言ってなかったな>

 

土御門の苦笑いを聞き流しつつ、アラタは腕を組んで考える

もしあの女がこちらの思惑に気づいて走っていたらそれこそ完全に詰みだ

おそらくそれを土御門もわかっている

だからこそ、彼は聞く

 

<ステイル、俺が作った〝理派四陣〟のパターンは覚えてるか?>

「無理だ。仮にケータイ越しに指示を受けても僕はできないぞ。見よう見まねで組んだところで、僕には理論はわからないからね。ついでに言えば西洋術式のサーチも完全に専門外だ」

<―――だよにゃー。…よっし>

 

土御門は少し悩んだ後に

 

<わかった。理派四陣はこっちで発動する>

 

迷わず言い切ったその台詞に、上条当麻はギョッとする

そして、なんとなく想像していたアラタは苦い顔をし、式ははぁ、と息を吐いた

 

<なに。徒歩十分って距離なら底まで致命的な誤差じゃない。駅まで行くよりここでやったほうが早い。アイツだって地下とか、そういう移動手段に切り替えてると言えないわけでもないし、やるならさっさとしたほうが早い>

 

「ちょっと待てよ土御門! お前、これ以上魔術を使って大丈夫なのかよ!?」

 

これ以上、と言う当麻の言葉から察するに合流以前に彼は魔術を使って体がボロボロなのだろう

超能力者が魔術を使用すると、体のあちらこちらが爆発する

実際その現場を見たわけではないが当麻の動揺から察するとかなりの大怪我であると見て間違いない

そもそも魔術とは才能ない人間のために作られた代物だ

ゆえに、才能のある超能力者が魔術を行使すると体が拒絶反応を起こしてしまうのだ

 

言葉を続けようとする当麻を遮ってステイルが問うた

 

「―――良いんだね?」

<断りを入れる理由がわかんねーぜぇい? 俺は魔術師だからな。使ってナンボの商売ですたい。あ、あとカミやん? 苦情なら後で聞くからよろしくー。んでカガミん、お見舞いの品はメロンがいいにゃー。天下御免みたいな>

 

「土御門ッ!!」

 

当麻が叫ぶが、もう通話は切られていた

ステイルは携帯を仕舞いつつ、当麻を見る

そんな当麻にアラタは言葉を投げかけた

 

「たぶん次に来るのは、その術式が終わったときだ。―――気持ちはわかるけど、あいつの本気を汲んでやってくれ」

「―――畜生!」

 

そう言われて当麻は手近な壁に己の拳を殴りつけた

そうして少し待った後、また土御門から連絡があった

内容は簡単なもので、人気のない場所に移動し、その術式を発動したとのこと

 

◇◇◇

 

土御門元春が上条当麻たちのところに連絡を入れる少し前、彼の携帯には別の人物から連絡が届いていた

彼の携帯のディスプレイには〝葛葉颯太〟と書かれている

 

(…にゃー。また、やなタイミングで…)

 

今現在、彼の体は魔術を使用した直後で負傷している状態である

この状態で会話をすればまずい、しかし無視をするのも時間帯的に考えておかしい…悩んだ末、土御門は通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた

 

「へーい、ソウちん、いったい、どうしたのかにゃー」

 

土御門はなるべく平静を装いながら言葉を発した

 

<いや、別にそれっぽい用事はないんだけどさ。今度の競技は俺も応援にいけたらなってさ>

「にゃはー、それは嬉しい心がけだぜぇい。そういうのって、大事だと、思うにゃー」

 

正直自分でもごまかしきれているかわかったものではない

それでも、土御門は多少強引にこの喋り方を貫く事にした

 

<…土御門? どうした、息切れてないか?>

「そいつは、気のせいってやつだぜぇい。ほら、競技終わりでちょっと息が上がるくらいあるだろ?」

<そりゃぁ、な。まぁいいや、変に時間とらせて悪かったな>

 

本当に会話は些細なもので、そういった後ガチャリと通話は終わった

ふぅ、と土御門はほっと胸を撫で下ろし改めて電話をかける

今度は、上条当麻らのところだ

 

 

一行は地上へと続く階段を駆け上り出口へと走る

第五学区は当麻やアラタが住んでいる第七学区と違い大学や短大が多い

ビルが多く立ち並び雑然としたイメージはあるものの、学生から見るとどうにもとっつきにくい

が、今はそんな事を言っている場合ではない

ステイルの中にある携帯が目的地を告げている

 

それこそ文字通り、命懸けで

 

<…たぶん、オリアナも気づいてるだろうぜぇい。動きが変わった、北西に今向かってるな。距離は…だいたい三百~五百メートルって、所か。待ってろ…すぐに、絞り込んでやるぜい…>

 

途切れがちになっているのは通信状況が悪いからではない

通話している彼自身、全身から血を流して魔術を施行しているからだ

当麻が何かを言おうとしたときに、また土御門が口を開いた

 

<反応が、出たぜい。ターゲットは、カミやんたちの地点から北西を維持、距離はだいたいメートルで三百九から、四百三十三の間にいる、直線的に振り切ろうとしてる。急げよ、有効範囲から抜けられるまで約千七百メートルだ…>

 

アラタはその報告を聞きながら少し後ろを走ってるシャットアウラに向かって僅かに視線を向けて

 

「アウラ、パンフはあるか!?」

「あぁ、持っている!」

 

シャットアウラはポケットからパンフレットを取り出しそれをアラタに手渡した

どうやらシャットアウラはすでに大覇星祭のページを開いたまま仕舞っていたらしく、スムーズに学区の地図を開くことが出来た

 

「北西に三百九~四百三十三…とすると、こいつか。こっから八百メートル先にモノレールの発車駅があるな。第五学区を回るこの環状線に乗られたらあっさり抜かれちまうぞ」

 

ここより八百、いや、先行するオリアナにとってはおおよそ五百~四百だ

切符を購入する時間、モノレールが来るまでの待機時間を考えると余裕は何分あるかわからない

が、そこで土御門が妙な事を言い始めた

 

<…待ってくれ、オリアナが急に動きを変えた…。なんだこいつ、一体何を…?>

 

何かを訝しむように彼は呟きを続けていく

 

<不意に動きを止めた…? いや、そしてすぐにまた動きだし―――ッ!!>

 

電話越しではあるがはっきりと土御門の動揺が聞き取れた

そしてその直後まるで金網に引きずられたような音を立て通話が途切れる

 

「土御門? おい、どうした!?」

 

通話が途切れてしまってはオリアナがどこに向かっているのかが分からない

追っているつもりが逆に距離が離れてしまう可能性があるのだ

故に闇雲に動けない

 

「―――やられたね」

 

足を止めて数秒、不意にステイルが口を開いた

 

「なにがだ」

「これは推測だが、恐らくオリアナは逆探知を逃れるために距離を離すのではなく、縮めることを選んだんだろう。〝術者の中心点である土御門を潰すこと〟もまた敵の勝利条件の一つさ」

 

式の言葉にステイルはスラスラと答えていく

淡々と呟くその言葉に当麻は青ざめながら

 

「待てよ、つまりそれって…!」

「恐らく、土御門の身に何かあったとみて間違いないね。そこに、オリアナが向かっているかはわからないが」

「…戦術としては最適なのだが、やられるとキツイな」

 

シャットアウラの呟きに当麻がぎり、と拳を握り叫んだ

 

「今、土御門はどこにいんだよ!?」

「僕が知るわけないだろう」

 

ステイルは彼の叫びに真っ直ぐ事実を告げた後、付け足した

 

「だから、これから探すんだ」

 

 

「がっ、はっ!!」

 

土御門は肺から息を吐きながら地面を二、三回転がった

同時に持っている携帯が手から離れ付近の柱にぶつかる

今土御門がいるのは地下街と地下街とを結ぶ連絡通路だ

当然ながら人波は限りなく少ないし監視カメラ等の死角にもなっている

 

そんな考えをしている土御門の耳にぐしゃ、という音が聞こえた

土御門が地面に作った理派四陣の地図が踏む潰されて四散した

それを踏みつぶしたのは一人の男だった

 

「油断してましたね。ここに来るのはオリアナさんでもよかったのですが」

 

目の前の男を土御門は初めて見る

情報は聞いていたが、邂逅するのはこれが最初だ

土御門はゆっくりと地面から立ち上がりながら目の前の男を見据える

 

「お、お前は…!?」

「名乗るほどのものじゃないですよ。必要なのは簡単な事実。―――構えないんですか? 僕は君を消しにきたんだ」

 

淡々と口を紡ぎながら目の前の男はゆっくりとこちらに向かって何かデッキのようなものを突き出した

そのデッキには、トラの模様が描かれている―――瞬間、彼の腰にベルトが顕現した

直後一度その両手をクロスしその手を自分の腰に持っていく

左手を僅かに右斜めへと、そして右手はデッキ付近に

 

「―――変身」

 

言葉のあと、彼はデッキをバックルに装填した

すると鏡の割れるような音と一緒に、彼の身体を変えていく

やがて男の姿はなくなり、目の前には虎のような姿をし、斧を携えた仮面ライダーがいた

 

「…お前、仮面ライダー、だったのか!」

「―――少し、弱いものいじめになるかもしれない。だけど、平等な世界にするためには使徒十字がいるんだよ」

 

ゆっくりとライダー―――タイガが白召斧(びゃくしょうき)デストバイザーを構えた

その姿を見て、土御門はギリ、と歯を食いしばる

相手が生身のままだったら、まだ多少は抗えたかもしれない

またここに来ていたのがオリアナだったならハッタリか何かで乗り切れただろう

しかし、目の前にいるのはライダー

健全な状態ならまだしも、魔術をいくらか使用してボロボロのこの状態では満足に身体が動くかも怪しいのだ

 

(―――ちぃ… どうする…!?)

 

 

サトルが行動している時、オリアナは列車の中にいた

 

(…サトル君が足止めしてくれるこの隙に、私はどう動く…)

 

列車が止まりドアが開くと同時オリアナは外へ飛び出した

次の目的地はこの場所から少し離れた自立バスの停留所

大覇星祭中の学園都市はお祭りムードで人が多いが基本的に人畜無害の老若男女だ

 

(〝彼〟はサトル君に任せるとして、私はどうしようかしら。もし万が一に聖人を送られた場合を考えて、対聖人用の術式の考案をするか…、はたまた、カメンライダーに対しての術の考案っていうのも面白そうね…)

 

思考を巡らせていた彼女は些細な事を見過ごした

一つは、今通っているこの道は、狭く、複雑なつくりをしていたこと

そして今通りかかっている付近にたまたま脇道があったこと

さらにその脇道から誰かが飛び出してきた、という事

 

「姫神ちゃん、近道をしないと次の競技に間に合わない―――うわっ!?」

 

衝突

小柄な女の子はちょうどオリアナのお腹の辺りにぶつかって今度は一緒にいた黒い髪の女の子に後頭部からぶつかった

幸いにも、その黒い髪の女の子の後ろにいた女性は距離が開いていたおかげか濡れるのは免れた

 

咄嗟にオリアナは単語帳を噛み千切ろう―――として踏みとどまる

ぶつかった相手は身長百三十センチ弱のチア服を着た女の子だった

黒い髪の女の子は小柄な少女とぶつかった衝撃で所持していたフルーツジュースのカップを離してしまい盛大にそのまま落下しばしゃ、と盛大にぶちまけた

 

胸元に当たった液体はそのまま少女の頭に降り注ぐ

 

 

「そ、その、大丈夫ですか?」

「―――小萌先生。よくもやってくれた」

「ご、ごめんなさいですよ。で、でも私も濡れ濡れですのでお相子なのです。あ、そっちの人は大丈夫なのですかー」

 

こちらを心配そうに覗きこんでくる小萌先生、と呼ばれた女の子

どうやら追手の魔術師の類ではなさそうだ

オリアナは日常的に作れる笑みを作り

 

「えぇ、お姉さんは大丈夫。それより貴方たちはどうかしら? そのまま表を歩くのは少し刺激的な格好になっていないかしら?」

「あ! 姫神ちゃんが濡れ濡れの透け透けなのです!」

「先生も。胸の辺りが尖っているよ?」

 

バッと迅速な動きで小萌は自分の胸元を両手で隠す

そんな光景を見て姫神の後ろにいる女性―――浅上藤乃は微笑んだ

姫神は小萌の顔が赤くなるのを見て改めて自分の胸を見下ろして―――オリアナは気づいた

 

黒い髪の女の子の胸元

 

ジュースを浴びて透けてしまった体操着

はっきりと見て取れるくらいに、形に現れている

首から細い鎖でぶら下げたネックレスみたいなもの

その鎖は体操服の中に入っており、鎖の先端につけられたのは場違いなくらいに大きい、

 

イギリス正教の、アレンジが加わった、銀で作られたケルト十字

 

オリアナ・トムソンはそれが何のためにあるのかを知らない

そもそも姫神に宿っている力すら、彼女は知らない

この状況で、彼女が判断してしまう結論は

 

(英国側の、魔術師―――!?)

 

学園都市でも十字を模した装飾品の一つや二つ売っている

その十字架に込められた意味を知らずにつけている子供とかもいるであろう

しかし、だ

 

まさか一種の結界として機能する霊装なんかを一介の一般人が所持しているはずがない

おまけに、その結界の名前は―――

 

(〝歩く協会〟!? あの禁書目録に使用されている防護術式と同じのを携えているなんて―――この化け物―――!)

 

迷いはない

単語帳を口へ運び一枚引きちぎり、そして―――

 

 

タイガがこちらに向かって走る―――その時だった

 

「ハァっ!」

 

土御門の後ろから突然何者かが飛び出してきた

飛び出した人影は手に持っている弓のようなものを引き絞るとそれをタイガに向かって放った

いきなりの事で多少戸惑いはしたが難なくタイガはデストバイザーでその矢を弾き返す

人影は土御門の近くに着地すると彼を守るように自分の身体を前にする

 

赤い弓を剣のように持ち直し、タイガと目を合わせた

彼は声で土御門に言う

 

「やっぱりな。水臭いぜ元春」

 

目の前の―――ジンバーピーチとなっている鎧武はそう言う

 

「お、お前…! どうして…!?」

「疲労から来る呼吸と、何かを耐えてる呼吸は似てるようだけど違う。お前から聞こえた呼吸は、なんか痛みに耐えてる感じだった。…応援も大事だけど、友達を助けるのももっと大事だろ」

 

鎧武は改めてソニックアローを構え、目の前のライダー、タイガを見据える

対してタイガはふぅ、と言った様子で肩を竦め

 

「…やれやれ。だけど、十分目標は達したし、まぁいいか」

 

そう告げてタイガは踵を返し一目散に走って行った

慌てて鎧武は追いかけたが曲がり角を曲がった辺りでどういう訳か忽然とその姿は消えてしまい、ジンバーピーチ特有の異常聴覚で辺りを探ってはみたが何も手がかりは得られなかった

唯一、その曲がった先に壊れたテレビがあったが、特に何もなさそうだと鎧武は判断した

 

ひとまず鎧武は変身を解除して土御門の所へと走る

どうやらアイツからは特に攻撃を貰っていないらしく、比較的傷は少なめですんだようだ

また携帯も壊れていなかったのもまた幸運といえるだろう

 

「…借りが出来ちまったにゃー、ソウちん」

「気にすんなよ。お前がいろいろ訳ありなのも知ってるし、可能な限りなら俺も手伝うからさ」

「―――ったく、相変わらずのお人よしだぜぇい」

「哉斗からもよく言われるよ」

 

そう言い合って、何の気なしにお互いの拳をぶつけた

 

 

同時刻、より少し前に時間は戻る

 

走っていた当麻らが最初に視界に捉えたのは人混みだ

そして―――

 

「アラタ、血の匂いがする」

 

真っ先にその匂いに気が付いたのはシャットアウラだ

シャットアウラに言われ他の者も警戒心を露わにする―――その時だ

 

「ひ、姫神ちゃん!! 姫神ちゃあん!!」

「皆さん、道を開けてください! お願いします!」

 

聞こえてきたその声色は意外な人物たちだった

その人垣を突っ切るようにアラタが直進し、軽く人垣に穴を開ける

そこの路地で見たのは、赤い色だった

 

ビルとビルの間にある細い道の組み合わせなのだが昼間だというのにここには太陽光が当たらない

じめじめとしたその道路は黒っぽく空気の流れも悪い気がする

その路地が、朱色に染まっている

 

「―――か、ガミね、くん…! 両儀、さんも…!?」

「上条、ちゃぁんっ!!」

 

慣れた声色は浅上藤乃と月詠小萌のものだった

ただその二人の身体は血で汚れ、瞳からは涙が零れている

そして小萌の足元に一人、横たわっている一人の少女

名前は姫神秋沙

体操服の上半身がズタボロに破られている

その上には―――恐らく藤乃が巻いたのであろう―――包帯が巻きつけてあった

しっかりと結び付けられているのに、血液はジワリとにじみ出てその純白を容易く朱に染めている

 

「な、なぁ…先生! ここで、ここで何が起きたんだ! 誰が、こんな事!!」

 

当麻が問うが、小萌は泣きじゃくるばかりで話にならない

その問いに聞いていた藤乃が代わりに応えた

彼女もまた涙交じりだ

 

「さっき、そこで小萌さんがぶつかって…! 謝って、笑ったって思ったら急に、怖い顔になったと思った時には、もう…!!」

 

「―――オリアナ、だな」

 

またこの場に来るもう一人の人物

それは橙色のコートを着込んだ蒼崎橙子と呼ばれる魔術師

 

「トウコ…お前、どうしてここに」

「正直言うと偶然さ。通りかかったら魔力を感じてね、しかし、こうなっているとは思わなんだが」

 

式の声に橙子は煙草を携帯灰皿に入れながら返答する

その問いに当麻が訳が分からないというような表情で

 

「ど、どうして! 姫神は関係ないだろ!?襲う理由なんか…」

「あれだ」

 

その叫びに、ステイルが静かに答える

苛立たしげに適当なビルの壁にその煙草を押しつけながら

 

「彼女に使われている十字架。あれに使用されている歩く協会という術式は特殊な霊装でね。それを見たオリアナが、敵国の魔術師だと思ってもおかしくはない」

「―――なるほど。要は、勘違いで彼女は襲われてしまったのか」

 

そのステイルの呟きにシャットアウラが反応する

恐らくは、追手が先回りしたと思い込んだオリアナが先手必勝を狙ったのだろう

 

「間違え、た…!? ここまでやっておいて、間違えた、だけだと…!? あの、野郎ッ…! ふざけやがってェぇぇっ!!」

 

思わず手近な壁を、当麻は殴り付けていた

涙を流し続ける小萌が思わずビクリと肩を震わせた

 

「…なぁ、人払いとか出来ないか」

「あぁ、君に言われてやるのは不本意だけどね」

 

アラタに言われステイルは懐からルーンのカードを取り出した

それらをばら撒き壁や地面に貼り付けて

 

「―――これよりこの場は我が穏所と化す」

 

その言葉と同時にこの場に集まっていた人たちが散り散りとなっていく

恐らく、人払いが発動したのだろう

 

「これだけ完璧に応急処置を施してあるんだ。救急車も呼んでいるだろう、なら路地の入口で待っていると良い。ここにいては救急隊員が見つけられないかもしれないからね」

「そうだな。―――待ってられない、急ぐぞ、アラタ」

「―――あぁ」

 

ステイルの言葉に式が賛同しつつ、歩くように促す

アラタは最初苦い顔をしたがやがて感情を殺すように歩き出す

それに続くようにシャットアウラも走り出す

 

倒れている、姫神秋沙を超えて

 

「待てよッ!!」

 

一番最初に声を上げたのは上条当麻だ

いや、想像できない訳ではない

むしろ、容易に想像できた光景だ

 

「どうしたよ、今ここにいたってオレたちに出来る事はない。じゃあどうするか、進むしかないだろ」

 

それに答えたのは両儀式だ

 

「俺達のせいで巻き込まれたんだぞ!? このまま放っておけってのかよ!!」

 

付近にいる小萌や藤乃はお互いの顔を見ながら怪訝な顔して、涙をぬぐう

橙子はそれらを見て徐にまた煙草に火をつけた

 

「―――じゃあ、何かできるのか」

 

鋭く、それでいて凛とした声が当麻の耳を貫いた

 

「何かできるのならやってくれ。オレやアラタは魔術なんて使えない、この神父も燃やすしか出来なさそうだ。生憎だけど、その子の傷を治すなんてオレたちには出来ないんだ」

 

彼女にしては珍しく、少しだけ物悲しそうな表情だった

それにアラタが続いていく

 

「怒るお前の気持ちも分かる。けどな、怒ってんのはお前だけじゃないんだ」

 

そう言うアラタの拳は、ギリギリと震えている

当たり前だ

友達を傷つけられて怒らない人などいないのだから

 

「―――ひとまず、先に行け。応急でいいのなら、私がやってやろう」

「出来るのか? トウコ」

「さぁな。けど、あそこで箱庭の真似事をしてる子よりはマシだと思うが」

 

徐に指差されたところを目で追う

―――と、それまで黙っていたステイルが息を呑むのが分かった

 

橙子が指を指したところにいたのは月詠小萌だ

その隣には静かに小萌の行動を見守る藤乃がいて、両方とも女の子座りをしている

しかし、重要なのはそこじゃない

 

小萌はその辺に落ちている小石や空き缶と言ったのを積み木みたいに並べていく

それらはまるで、簡単にこの場を現してるミニチュアだ

 

「―――っ」

 

思わずステイルの息が漏れる

その後で言葉を発した

 

「―――何を、しているんだ、君は」

「シスターちゃんの時は…」

 

小萌は真っ直ぐと、ステイルを見つめ返す

 

「シスターちゃんの時はこれでなんとかなったのですよ…。だから…今回だって、どうにかなるに決まっているです…!」

 

「! …まさか、〝貴女〟が―――ッ!?」

 

ステイルは思い出していた

インデックスが初めてこの学園都市にやってきた時、神裂が間違いで彼女を斬りつけたことがあった

その時、当麻とアラタは彼女を背負い、小萌のアパートへと逃げていたのだ

 

そうだ、当麻やアラタに魔術は使用できない

ならあの場で魔術を使用したのは必然的に―――

 

「以前はこれで上手くいったのに…! 言われた通りにしてるのに…! さっきまで浅上さんと一緒に、楽しくナイトパレードの話をしてたのに…、どうしてこんなっ…!」

 

その叫びを、ただ黙って聞くしかなった

煙草をふかしつつ、不意に橙子が口を開く

 

「今彼女が組んでいるのは一定の空間と魔術師が作り上げた箱庭をリンクさせるタイプの魔術だ。この方式ならミニチュア内の人形の傷を[直]せば、リンクされた人体を[治]せる類のな」

 

彼女は改めて携帯灰皿に吸殻を入れそれを仕舞う

 

「一口に回復魔術と言っても宗派、法則、術式は様々だ。呪文を唱えれば治ってくれるわけじゃない。風邪薬で骨折は治らないのと一緒さ。状況に適切な術式じゃないと、効果は発揮しない。ましてや打撲や裂傷、骨折、さらには動脈、内臓を治すとなれば専門家が必要だ。―――残念だがあの術式は完成していない」

 

橙子は小萌が作っているミニチュアを見ながら静かに言う

 

「…これは私の私見だが、小萌先生は考えに考え抜いて魔術という理解できない代物にすがったんだろう。目の前の生徒を、助けるためにな」

 

その感情は、きっと誰もが通るやもしれない感情だ

大切な人の為なら、きっとありもしない奇跡にすがるように

 

「―――違う、そうじゃない」

 

え? と小萌は顔を上げる

その疑問に耳を傾けず、ステイルは懐からルーンのカードを数枚取り出し

 

「海の水を、バケツに救うように、まずは―――」

「アラタ、式、そして上条当麻。お前たちは先に行け。ここは何とかしてみよう」

「―――え?」

 

ステイルの隣に橙子も立つ

彼女を見て小萌も気づいたのか、「蒼崎さん…」と小さく口に出した

 

「橙子…」

「そんな顔をするなアラタ。私も治癒は苦手だが…この魔術師と、小萌先生の記憶の中にある禁書目録の一部を使えば、時間稼ぎは出来るはずだ」

 

ステイルは橙子の顔を見て、それからもう一度小萌の顔を見る

そして今度は藤乃へと視線をやり

 

「貴女は路地の入口で救急隊員を誘導してください。…何をしている上条当麻。君は早くオリアナを追うんだ。ただでさえ不安な術式を君の右手で破壊されたらそれこそ本末転倒だ。終わったら僕も追う。すべてを終わらせるのなら、ここを進んでいけ」

 

「…分かった。それで上手くいくなら…ステイル、姫神を頼んだ」

「期待はするな。僕だって初めてなんだ、この世界で攻撃以外で魔術を使いたいなんて思うなんてさ」

 

 

姫神秋沙は静かに思考を巡らせる

なんでこんな風になってしまうのだろう、と

痛みは飽和状態を超え逆にマヒしてきている

そのせいで逆に周囲を見渡す余裕が出来てしまうほどだ

 

倒れる自分を挟んで、誰かが何かを言っている

 

「―――じゃあ、何かできるのか?」

 

ゾクリとするような声色だった

同じ女性なのに、こんな声が出せるのかと、驚いてしまうほど

 

「何か出来るのなら、やってくれ」

 

出来るって言いたかった

だけど、現実は非常で

 

「怒るお前の気持ちも分かる。けどな、怒ってんのはお前だけじゃないんだ」

 

そう言ったのは、あの少年の友達だ

その言葉を聞きながら、どうしてと、彼女は思う

一度その言葉を否定すれば済むだけなのに、どうしてこの身体はいう事を聞いてくれない

 

「―――すべてを終わらせるのなら、ここを進んでいけ」

 

思わずやだと言いたかった

だけど、声なんて出なかった

 

「分かった。それで上手くいくなら」

 

少年は進むことを決意し、倒れる自分を超えて先を歩いた

その隣にいる友達も、赤い服の女性も、黒い髪の人も少年に追走する

 

世界はこうも、都合よく進んでくれない

世の中は、ザンコクだ

 

「ごめんな、姫神」

 

それでも、言葉を彼女は聞いた

 

「ナイトパレードまでにはお前の病室に帰るって約束する。だから、待っててくれ」

 

それを聞いた時、思わず彼女は微笑んだ

自分を取り巻く世界は冷酷で、伝えたい言葉は伝わらないくせに、あの少年の言葉は、とても心強いものだった

 

ズルい、なんて彼女は思わず心の中で口にして―――




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこいつ

仮面ライダーダークディケイド

後悔させてやるぜ……


仮面ライダーダークディケイドとは、ゲーム『仮面ライダー クライマックスヒーローズ』に登場したオリジナルライダーである

◇キャラクターとしてのダークディケイド

姿はディケイドと瓜二つだが、ディケイドライバーの色はディケイドと対称的な真っ黒であり、全身の色も黒みがかった灰色となっている
またディバインアーマーが金色で縁取られており、これはダークライダーであるリュウガやオーガ等と共通する意匠である
言ってみればダークライダーの伝統色なのだが、本家ディケイドがマゼンタ、ディエンドがシアンなため、同じく三原色であるイエローを盛り込んでいるという見方もできるかもしれない
その正体は一応『大ショッカー首領だった頃のディケイド』だとゲーム内では言われているが、他にも『本当の破壊者となった平行世界のディケイド』や『(士とは別の)真の大ショッカー首領』と諸説あり、そもそもディケイドと言う作品自体設定があやふやな為、ぶっちゃけその正体は現在に至るまで不明のままである

またゲームでのみの登場のため、公式での映像・立体化は 一つも存在しない(コラ画像はある)


そう言う意味では不遇だと言えるが、それが却ってコイツの不気味さを際立たせている……かもしれない
因みに最終回直後の嘘予告に出てきた「もう一人の士」はコイツではないかと言われているが、その真偽は定かではない
元々ディケイドが二次創作に引っ張りだこのキャラであり、その偽者でありハッキリとした正体が分からないコイツもその方面ではそれなりに人気が高い
また物語終了後も旅を続けるディケイドに、最後の敵として立ちはだかる存在だと予想する者も少なくない

◇ゲームキャラとしてのダークディケイド

初代クライマックスヒーローズのストーリーモードのラスボスとして登場
基本的な性能は通常のディケイドと同じ(コンプリートフォームにも変身出来る)だが、唯一の違いとしてFFRが一切使用できない(自分の使った感覚では攻撃力が高く設定されてるような気がした)
その為対戦ではディケイドの劣化として扱われる等、此処でも不遇……まぁこれはクラヒではよくあること
まあ台詞は若干違うので使う価値が全く無いわけではないが(歩き方も一応違う)

では今回はこの辺で

ではでは


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#57 共闘

大変長らくお待たせいたしました

遅れてた要因
バトライドウォーⅡ
フリーダムウォーズ
無双7エンパイアーズが出ると知って6のエンパイアーズをもっかいやってた

だというのに出来は相変わらずです
申し訳ない



如月弦太郎の今回における今回の役目は、万が一を想定してのクラスメイト達の護衛だ

が、もし杞憂なら競技に参加しつついたりいなくなったりする土御門や当麻、アラタをうまく誤魔化していてくれ、とも頼まれている

 

そんな訳で競技を全力で楽しむ傍ら、時たま携帯電話で土御門とも連絡を取り合っている

 

「…そっか。姫神が…」

<あぁ。俺もさっき聞いたんだが、そっちはステイルがなんとかしてくれるみたいらしい>

 

その言葉を聞いて、え? と弦太郎は驚いた

確かにステイルは優秀な魔術師だ、しかし彼が治癒に精通していたという話は聞いたことがない

それ以前に彼は火傷の治療しかできないのでは、と弦太郎は思っていたのだが

 

「ステイルって…大丈夫なのか?」

<その事なら心配ないぜい。助っ人もいるしな>

 

土御門が何を言っているのか正直よくわからなかったが、土御門本人が言うのなら間違いはないだろう

弦太郎は軽く息を吐いて

 

「オッケー、無理すんなよ土御門」

<分かってるって。そっちもよろしく頼むぜい>

 

そう言ってぶつり、と携帯は切れた

弦太郎は携帯を折りたたみ持ってきたカバンに戻そうと歩きはじめる

そんな弦太郎に、声をかけるものがいた

 

「弦太郎」

「うん? おお、天道じゃねぇか」

 

高校のジャージに身を包みそれでいて堂々としているその佇まいは相変わらずと言った所だ

 

「どうした、トイレにでも行くのか?」

「いいや、ちょっと飲み物をな。…ところで弦太郎」

 

不意に雰囲気の変わった天道に弦太郎は少したじろいだ

時折、天道はものすごく勘が鋭い時がある

故に、クラスメイトの中で誤魔化し切れないのだ

 

「―――さっきの競技でも活躍、見事だったぞ」

「…え!? そ、そうか?」

 

意外にも言われた言葉は普通の賛辞だった

あまりにもいきなりな言葉に弦太郎は若干反応が遅れる

 

「お、おう! ありがとな天道、お前だってすごかったぜ!」

「ふふ。そう言ってくれるとありがたいな」

 

その言葉に天道は少し笑みを見せる

…少し考えすぎだったのだろうか、いかんせん、とりあえずは問題ないはずだ

もしくは天道はすでに察していて気を使ってくれているのか

―――深く考えるのはやめよう

そう思い改めて弦太郎は天道と共に歩いていく

 

 

十慈哉斗は道を歩きながら改めて大覇星祭中の街並みを見回してみる

そこに歩く人が笑顔で歩くその姿は見ていて楽しいとこちらも思えてくるほどだ

大覇星祭で熱狂してくれるように、自分たちのダンスステージで盛り上がってくれる彼ら彼女らを見ているとこっちも以前以上のパフォーマンスで応えなければ、と思うほどだ

 

「…これも、この街が生きている証、という事か」

 

しかしそれとは裏腹に、この学園都市は無能力者、というレッテルを張られスキルアウトへと落ちてしまうものも少なくない

…チームバロンは、そんなスキルアウトに落ちそうになった人たちを勧誘し出来たチームだ

 

颯大の所属しているチーム鎧武は学校の友人たちで組んでいる故に結束力が高いが、こちらだって結束力は負けてはいない

同様にチーム鎧武という存在はこちらの闘志を奮い立たせてくれる、いわばライバルみたいなものだ

競い合い、認め合い、互いに精進していくような、そんな関係だ

今日行われるダンスイベントも正直楽しみにしている

 

「…あれ? そこにいるのって…」

 

一人考えていると後ろの方から声をかけられる

振り返ってその人物を確かめてみると見知った人間だった

 

「…真衣か」

 

(こがらし)真衣(まい)

彼女もチーム鎧武のメンバー、その中では紅一点に当たる

どうやら何か買い出し中なのか両手にはビニール袋を携えている

 

「買い出しか? それとも差し入れか?」

「まぁ差し入れよ、みんな頑張ってるからね」

 

真衣は手に持ったビニール袋を軽く上げながら

 

「もちろん、バロンの皆にも買っていくから」

「そうか。毎回すまんな」

 

真衣からはよく差し入れを貰っている

毎度毎度大丈夫と言っているのだが、最近ではもう慣れてしまった

 

「そっちのダンスの出来はどう?」

「問題ない。お前たちにも負けん出来だ」

「お、言ったわね。私たちだって負けないわよ」

 

そんな他愛ないことを言い合って歩き始めた

―――今日のダンスステージが本当に楽しみだ

 

 

「…ステイル、と言ったか」

 

姫神の治癒を何とか終えて、彼女を病院に送り届けたころ、蒼崎橙子がステイルに対して不意に口を開いた

ステイルはやや鬱陶しそうに髪を掻きあげて彼女を見る

 

「何かな。僕は一刻も早く上条当麻らと合流したいのだが」

「何、あまり時間は取らせないさ。ちょっと聞きたいことがあってだね」

 

同じように橙子は懐から煙草を取り出し、火をつけて

 

「これは少し前にアラタから聞いたのだが。…アークルを見たことがあるのか?」

「うん? あぁ、初めて会ったときだね。あぁ、あるよ。と言っても、資料とかそういうので見たことがあってね、実際に実物を見た時はあれが初めてさ」

「資料で?」

 

ステイルはコクリ、と頷きながら

 

「だいぶ昔に一人、そのアークル…もとい、アマダムを身に宿した人がいてだね。いろいろな人々を守っていたらしいんだ。だけど、その人はある力を制御できなかった」

「…ある力」

「正直詳細は知らないけど、何でもそれは、〝凄まじき戦士〟だなんて言われてる」

 

その言葉を聞いて橙子は僅かに眼を細める

 

「他人を巻き込まないために、自分の身をどこかに封じたとなんとか言われていてね。てっきりもう存在していないのかと思っていたけど…まさかこの学園都市に流れ着いていたとは、流石に驚いたよ」

「確かにな。私もまさかアマダムを入手できるとは思ってなかったよ」

「…念のために聞くが、誰から貰ったんだい?」

「偶然だよ。知り合いがそれを手に入れてね、私では持て余してしまうからって言って譲ってくれたのさ」

 

そう聞くとステイルは興味を失くしたのかふぅん、と一つ息を吐いて空を見て立ち上がった

そして携帯を取り出し電話を始めた

 

「あ…蒼崎さん…」

 

そんな橙子に声をかけた人物がいる

小萌と一緒にいて、救急隊員を誘導してくれた浅上藤乃だ

彼女とは数年前に鮮花を通じて改めて交流を持ったのだが

 

「…浅上藤乃か。まさかここにいたとはね」

「はい。…その、姫神さんの事、ありがとうございます」

「礼ならいらない。私は手伝っただけだ」

 

ですけど、と藤乃は言いかけたが橙子は手で彼女を制する

そして僅かばかりに笑みを見せ、それを見た藤乃は改めて頭を下げて感謝を示した

 

(…やれやれ。慣れない事はするものではないな)

 

そんな事を思う彼女の口元は、僅かではあるが笑みがあった

自分でも気づかないくらい、些細な笑みが

 

 

停留所で自立バスは停車していた

オリアナは軽く周囲を見た

乗車や下車するための停車ではなく、重量オーバーで緊急停止ているのだ

 

<まことに申し訳ありません―――>

 

機械質な抑揚のない声がスピーカーから聞こえてくる

おまけにどうすればこの問題が解決するかをつげていない

重量オーバーは嫌がおうにも誰かが下りなくてはならないのだ

だから彼女はここで素直に降りることにした

 

いつ出るか分からないバスを利用するよりもいっそ別の移動手段を探したほうが効率的だ

歩きながら、彼女は思い出す

 

自分自身が下した、あの女の子

オリアナは手の単語帳を見る

そんな彼女の後ろに、誰かが歩み寄ってくる

 

「オリアナさん」

「…サトルくんじゃない。そっちの様子はどうだったかしら」

「もう少しだったんですけど、別のライダーに邪魔されました。ですけど、時間は稼げたと思います」

 

サトルの言葉にオリアナはそう、と短く呟きながら改めて単語帳を引きちぎり、通信の術式を発動させ、一枚をサトルに渡した

それは頭の中でイメージしたものを互いに伝えるための術式だ

彼女は頭の中である一場面を思い浮かべ

 

「―――リドヴィア」

<言いたいことは分かっています>

 

通信の相手はリドヴィア・ロレンツェッティ

彼女は続ける

 

<貴女が手をかけた彼女は、一般人でした>

 

はっきりと、断定する

思わず反射的に彼女は地面を思い切り蹴飛ばしてしまった

周囲から浮ついていると分かっていながら

 

<以前の錬金術師の事件を参考に調査したところ、彼女の名前は姫神秋沙、確かに重要な力を秘めていますが魔術師という訳ではありません。あの十字架は特殊な力を封じ込めるためのようなもので攻撃性も皆無。誤解を避けるように正式な文書もあります>

 

「―――最低、ね」

<まさしく最低です。本件とは一切関係ない一般人を我々は手にかけてしまいました。えぇ、こちらの責任です>

 

はっきりと彼女は告げていく

 

<我々は、守るべきものに手を挙げてしまいました。我々が手を差し伸べるべきは満たされた聖人君子でなく、迷い間違い救いを求める罪人である。神の子が嫌われ者の微税者マタイと共に食卓に着いた際の御言葉です。我々はそれに反しました。何を意味しているか分かりますか?>

 

彼女の言葉には〝迷い〟がない

最初から最後まで決まりきった言葉を朗読するように彼女は口を開いていく

 

<私たちは二度と間違っていけないのです。傷つけられた彼女の為にも、一切の油断もなく、〝使徒十字〟を用いて学園都市を支配しないといけないのです>

 

「―――リドヴィアさん、その為に、貴女に従うメイジ部隊を寄越してもらっていいですか?」

 

サトルの唐突な言葉に、僅かではあるがリドヴィアは言葉を失う

しかしすぐに

 

<構いませんが、一体何に使用するので?>

「相手の戦力を分散させようと思いまして。そっちの方が、オリアナさんも戦いやすいでしょう?」

 

ちらりとサトルはオリアナを見やった

サトルは彼女の言葉を待たず、リドヴィアの言葉をまった

 

<…いいでしょう。準備が整ったら貴方に連絡します>

 

―――少し前も思ったが、リドヴィアの言葉は迷いがない

どんなにマイナスを抱えてもそれを彼女はプラスに変えて話を進めてしまう

 

反省はする、後悔もする

 

リドヴィアは間違いなくオリアナよりも心を痛めているだろう

しかしそれすらも彼女は糧として前に進んでいく

試練、という言葉に意味を知っている彼女はどんなに痛めつけられてもその経験を生かしてさらにスピードを増していく

立ち止まることを知らない、この世に生を受けたその瞬間から、死ぬその一瞬まで

 

だから、彼女は確認する

 

迷うことのない、この修道女に

 

「―――本当にこれで何もかもうまくいくのね? これで、皆が抱えている問題の全てが」

 

 

当麻と一度二手に分かれ、オリアナを捜索しよう、というアラタの提案で一行は式と当麻、アラタとアウラというグループに分かれ別行動を取っていた

 

正直に言えばあの女の恰好はとてもじゃないが目立たないような服装ではない

だからいくら人混みの中にあればすぐにわかるものかと思っていた、が意外にその姿を発見することはかなわなかった

姿をくらます魔術を使用しているのか、はたまたこの人垣の中に身を隠すのが得意なのか、単純に人混みを避けて移動しているのか

 

如何せん、このまま見つけることが出来なかったら当麻たちの情報を待つことになってしまう

せめて見つけるか、最悪視界に入るくらいあればいいのだが

 

「…しかし、割と見て回ったと思ったのだが、一向に見つからないな」

「だな。…くっそ、魔術を使われてんなら、見つけようがないぜ」

 

きょろきょろと見渡しながらもう一度色々な人混みの中を覗いてみる

しかし一瞬それっぽい髪の色とかを見かけるだけでオリアナを見つけることは出来なかった

 

「…当麻を頼るしかないか…?」

 

そうボソリと呟くアラタの耳に、誰かの声が入ってきた

 

「もし? そこのアナタ?」

 

その声に少し驚いて顔を向けると、バンダナ(?)を頭に巻いた…失礼だがいろいろと強烈な男性がそこにいた

彼は柔和な笑みを浮かべてこちらに手招きをしている

 

「えっと、何か…?」

 

恐る恐るアラタは口に出して聞いてみる

何か知らない内にこのお方にご迷惑をおかけしたのだろうか

 

「そんな身構えなくても大丈夫よ。いえね、よかったら、(ワテクシ)のスイーツを如何かしら?」

 

その男性のインパクトに驚いていたがよく見てみるとその男性はその手に紙袋みたいなものを持っている

さらに詳しく見ると彼の前にあるテーブルの上にはケーキなどの美味しそうなスイーツがたくさん乗っていた

そしてその近くにある看板には、〝シャルモン出張店〟の文字

 

…そう言えば初春が雑誌を読んでいて、ここのスイーツが美味しい、という評判なんですよ、なんて言葉を言っていた気がする

しかし出張店なんて出していたのは分からなかった

 

「…あ、けど俺達お金持ってないんですけど…」

「それ以前に今デザートなど食べてる場合じゃないだろう。急いでオリアナという奴を―――」

「お嬢ちゃん、そうカッカしてちゃすぐ疲れるわ。疲れた時こそ、糖分よ」

 

そう言いながら彼はがさごそと袋の中に手を入れて中からシュークリームを取り出しそれをシャットアウラに手渡した

流れで受け取ってしまった彼女は流石にそれを返却するわけにもいかず、持ったまま困ったような顔をしてしまった

 

「ほら。貴方もどうぞ」

 

そのまま男性はアラタにもシュークリームを手渡した

正直、今自分たちに起こっている事を考えれば不謹慎極まりない事だろう

しかし目の前の男性の厚意を無下にすることもできず、とりあえずアラタは手渡されたそのシュークリームを口にしてみた

 

「―――美味い」

 

単純な感想だった

細かい感想を求められるとあまりうまく言えない、しかし市販されているシュークリームを遥かに超える美味しさなのだ

もちろん、その市販のシュークリームもまずいという訳ではない

しかし比較する対象がこれでは勝ち目はないのだ

その証拠にシャットアウラはあまりの美味しさに若干フリーズしてしまっている

 

「落ち着いたかしら?」

「…え?」

 

唐突に聞こえた男性の声にアラタは聞き返した

いつの間にか男性は笑みを浮かべておりじっとこちらを見ている

 

「本音を言うとね、ちょっと気になっちゃったのよ。アータ達の事が。ごめんなさいね、いらぬ世話だったかしら」

 

そう言って苦笑いをする男性

けれど彼が声をかけてくれたおかげで焦っていた気分が少し落ち着いたのも事実だ

 

「…いいえ、そんな事ないですよ」

「そう? なら、よかったわ」

 

男性はそう言って笑みを作る

思わず釣られて笑ったアラタの携帯が震えだした

携帯を取り出し、表示されている文字を確認すると蒼崎橙子の名があった

アラタは目の前の男性に断りを入れ少し離れて電話に出る

 

<アラタか。姫神秋沙の治癒が終わったぞ>

「本当か!? それで、姫神は!?」

<落ち着け。とりあえず本当に応急処置だよ。破れた血管を繋いで、血液を増加させて、痛覚を和らげた。そのおかげでショック症状は脱した。…まぁ安心しろ、搬送された病院には冥土返し(ヘブンキャンセラー)がいる病院だからな>

「…そっか。それなら安心だな…」

 

ひとまず彼女の無事を確認できて心から安堵した

…この事件を食い止めたら、お見舞いに行かなければ

 

「どうした、アラタ」

「姫神の事だよ。橙子からもう大丈夫だって」

「本当か? …よかった、彼女は無事なのだな」

 

彼女と姫神はあまり面識はない

しかしそれでもクラスメイトになる友人が助かって少し安堵したようだ

そんな時、ふとシャットアウラは自分の周りを見回した

 

「…どうした? アウラ」

「―――いや、妙に、人が―――」

 

人? と言われ同じように周囲を見渡し―――そして気づいた

自分たちの周りにいたハズの人垣が、いなくなっていたことに

 

「…言われてみれば変ね、さっきまでたくさんいたのに」

 

どうやら店主の男性もそのことに気づいたようだ

そこでふと思う、この人には人払いが効いていないのか…? と思うのも束の間、こちらに向かって歩いてくる人影がいた

どことなく、コートを着込み腰の辺りにはいつぞやの魔法使いみたいなベルトをしている人物が三人ほど

 

「…話し合いに、来たわけじゃなさそうだな」

「そうだな、むしろ全力で潰しにかかってきていそうだな」

 

こちらに歩いてくる奴らを見ながらシャットアウラと共にアラタは僅かに身構える

そしていつでも迎撃に出られる体制を作り―――

 

「待ちなさい」

 

店長の男性に止められた

彼も同様に前に出て歩き、アラタたちの隣に並び立つ

 

「事情はよくわからないけど、ここは(ワテクシ)も手伝うわ」

 

そう言いながら彼は懐から、何かのドライバーのようなものを取り出す

それに対しアラタはどこか気まずそうな表情を浮かべ

 

「え、ですけど―――」

「どのみち向こうは、(ワテクシ)を逃がす気はないみたいよ」

 

ちらりと、男性は目の前に歩いてくる男たちは足を止めない

歩いてくる最中、男たちは腰に巻きつけてあるベルトに己の指を翳す

 

<チェンジ><ナウ><チェンジ><ナウ><チェンジ><ナウ>…

 

そんな電子音声と一緒に、男たちはメイジへと姿を変えていく

これはもう戦闘は回避できそうになさそうだ

観念したアラタは前に出る

それに習うようにシャットアウラはアラタの右に、男性は左に立つ

 

「…一人、お任せしていいですか。えっと―――」

「凰連よ、凰連・ピエール・アルフォンゾ。(ワテクシ)もお名前聞いていいかしら?」

「オレは鏡祢アラタ、こっちの女の子は―――」

「シャットアウラ、シャットアウラ・セクウェンツィア」

「ふふ。…いい名前ね。左は(ワテクシ)に任せないさい」

「なら、私は右だな」

 

それぞれ各々の相手を見据え、三人はそれぞれ身構える

アラタは腰に手を翳しアークルを顕現させ、シャットアウラはベルトを巻きつけ、凰連はそのドライバーを腰に装着する

 

そしてアラタは右手を左斜めに突き出し左手をアークルに添え、シャットアウラはイクサナックルを掌に押し付ける

 

<レ・ディ・イ>

 

それに続くように凰連もどこからか妙な錠前を取り出しガギン、とカギを開く

 

<ドリアンッ!>

 

開いた後で凰連はドライバーのくぼみにはめてロックする

 

<ロック オン>

 

そして、アラタは構えた両手を開くように動かし、シャットアウラはナックルを持った手を突き出し、凰連は優雅に手を動かし―――叫んだ

 

『変身ッ!』

 

アラタは左手で作った拳に右手を添え、拳の甲で何かを押すように動かし

シャットアウラはベルトにナックルをセットし

凰連はブレードを動かして、錠前を解放する

 

<フィ・スト・オン>

 

シャットアウラが持つイクサナックルの電子音声がそう告げ、凰連のドライバーからギュイイーンッ!! と軽快なエレキギターの音がその場にこだまする

 

アラタの身体は少しづつクウガへとその身を変え、シャットアウラに何かが重なりブラックイクサへとその身を包む

 

最後に凰連の頭上に現れた何かが開きながら凰連を包み込み、その姿を変化させる

 

<ドリアンアームズ!><ミスターデンジャラスッ!>

 

凰連―――ブラーボは手元に現れた二本のドリノコを構え、ブラックイクサはイクサカリバーをカリバーモードへと変形させる

二人を見ながらクウガは両拳を握りしめ、改めて目の前の奴らを見据える

 

「―――行こう!」

 

そうクウガが叫ぶ

そのタイミングに呼応し、ブラックイクサと、ブラーボもその後ろを駆けていく―――




今回は紹介せずに、バトライドの感想をちょろっと

一応エンディングは見ました
斬月もDLしました
上様つよい

呉島主任使い易すぎる
流石呉島主任だと呟きたくなるくらい強い(確信)

ラストバトルの展開は少しテンションあがりました
ただ本音を言えばもう少し本人たちの掛け合いが見たかったかな、というところ
前作ラスボス前の会話みたいなのがあればもっと燃えたかも
ただクウガの映画ミッションはなかったから会話シーンでクウガがスルーされてたのは残念でした(仕方ないんですけどね!)

ちなみに一度クリアするとフリーミッションに前作にあった前作再現ミッションが解放されるのですが、そのファイズミッション「俺の…夢!?」もちゃんと本人になってます
渋いですがこんな巧もありです、攻撃の掛け声にたまに聞こえる当時っぽい声もカッコいい

もうすぐ極アームズも七月二十四日くらいに配信されます
ここからはみんなのステージだ

今回はここまで
次回をのんびりお待ちください


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#58 決戦へと

パソコン直りました
感想に返信できないで申し訳ないです

もうちょっとで大覇星祭は終了、駆け足だね
展開も出来もグダグダだけど楽しんでくだされば幸いです

最近鎧武が面白い
あと二か月くらいで終わってしまいますが、応援しましょう

フルーツジュースにしてやるぜ
使われるとは思わなんだ




ブラーボはドリノコを構えながら一人のメイジと対峙する

左手に携えている大きな爪を輝かせながらメイジはこちらへと歩いてくる

 

「…なぜお前には、人払いが効かないのだ」

「人払い? そんなのいつ使ったのよ。どっちにせよ、(ワテクシ)には効き目がなかったようだけど…」

 

呟きながらブラーボは付近で戦闘しているクウガ―――鏡祢アラタをちらりと視線でとらえた

もしかしたら、彼と話していたから、或いは彼の近くにいたからこいつの言う人払いが効かなかったのかもしれない、とブラーボの中で仮説を立てる

仮にそうであったなら、きっと彼は自分が知らないような戦いを己の身に課しているに違いない

 

(まったく。(ワテクシ)の周りには無茶しがちな子が多いわね)

 

みずがめ座の少年や、ムッシュバナナ、と言った知り合いが凰連にはいる

その子らも、よく無茶をするものだ

しかし、そんな彼らを見守るのも悪くないかもしれない

そんな事を頭の中で考えながら両手にあるドリノコを改めて握りしめて向かってくるメイジを軽くいなす

 

「見かけに反して戦い方はアマチュアね、そんな程度ならまだ(ワテクシ)の弟子の方が強いですわよ」

「―――貴様ッ」

 

言葉を投げかけられて怒ったのか、メイジは腰につけてあるドライバーを操作し、指をドライバーの掌の部分に翳す

 

<アロー>

 

短い音声が鳴り、メイジの目の前に小さい魔方陣が現れる

そこから小さい弾丸が発射された

間一髪、ブラーボは持っているドリノコで弾き返し、再びメイジへと視線を向ける

 

「面白い戦い方ね、(ワテクシ)も、負けてられないわ」

 

内心出会ったことのないメイジとの戦いに少しばかり心が躍っている

どんな攻撃を繰り出してくるのか、それに多少なりとも期待しながらブラーボは改めてドリノコを握り直した

 

 

<コネクト><ナウ>

 

そんな音声が響くと同時、メイジの付近に小さい魔方陣が展開される

その魔法陣の中にメイジが手を突っ込むと妙な形をした銃が取り出され、そのままブラックイクサに向かって発砲してきた

ブラックイクサは身体を大きく転がり放たれた弾丸を回避し、同じようにイクサカリバーをガンモードに切り替えて発砲する

当然、回避されると予測したブラックイクサは回避される方向を予測し、僅かに弾道をずらして引き金を引く

しかし予想とは反対の方向に動き、弾丸は躱されてしまった

だが、それも想定の範囲内だ

 

そのままカリバーをソードモードに切り替えて再び前転視距離を詰め、一気に斬りつける

斬撃を身体に受けたメイジは多少よろめきながら手に付けている大きな爪で反撃を試みた

すかさずカリバーでその攻撃を防御し、そのまま何度か切り結ぶ

ガキン、と大きくカリバーが弾かれて上空へと腕が持ち上がる

がら空きとなった胴体を狙うようにメイジの爪が襲い来る―――が、それより先に足を動かし爪がつけられている手を蹴り飛ばし仰け反らせた

 

そんな光景を見ていたのか、ふとブラックイクサの耳に声が届く

 

「―――貴女、なかなかやるわね」

 

戦っているメイジを手に持つ武器で斬りつけながらブラーボはそう称賛してくれた

その言葉に返すようにメイジに向かってガンモードに変形させたカリバーを撃ちながらこう言った

 

「―――、貴方もな」

 

その言葉を受けてブラーボは僅かに笑んだような声を洩らしたのち、今度はクウガへと向き直った

丁度そのタイミングで相手のメイジを巴投げの要領で投げ飛ばしたクウガがブラーボの方を向く

 

「貴方も。イカスわね」

「―――喜んでいいんですかね?」

 

どうにも分かりづらい表現にクウガは苦笑いをしつつ頭を掻くような素振りを見せる

そして改めて三人は目の前の敵に向かって各々身構える―――

 

 

クラスメイトが病院に運ばれた

そう知らされて心配になった吹寄制理は急いでクラスメイトが運ばれたという病院に駆け込んだ

受付の看護婦に部屋の番号を聞いて、そのまま駆け足でその部屋へと足を急がせる

病室に入って最初に入ってきたのはベッドで寝ている姫神秋沙の姿だった

彼女の隣には月詠小萌と、見知らぬ女性がそばにいた

 

「あ、吹寄ちゃん」

 

吹寄に訪問に気づいた月詠小萌が声をかける

それに反応して小萌の隣にいた女性が吹寄に向かって軽く頭を下げて挨拶をしてくれた

思わず吹寄もそれに釣られて短く会釈しつつ、小萌に向かって口を開く

 

「小萌先生、一体何があったんです?」

「はい。その、ですね、話すと長くなってしまうのですけど…姫神ちゃんが何者かに襲われてしまって、大ピンチだったのですよ」

「…襲われた?」

 

一体誰に襲われたのか

そもそも襲われるっていったいどういう状況なんだろう

確かに学園都市にはこの都市を嫌う思想を持った人間がこういう大覇星祭などという行事を利用して何かをやろうとしている、というのは毎年言われている事ではあるが

 

「たまたま上条ちゃんたちがいてくれたおかげでよかったものの、あのまま私が一人だけだったらって思うと、…うぅ、考えたくないです…」

 

しょんぼり沈む小萌先生

しかしその声は絶望しきっておらず、安堵しているのはベッドで眠る姫神を見ても想像できる

 

(…警備員(アンチスキル)や、風紀委員は何を…)

 

競技に参加もしている風紀委員はともかくとして、警備員(アンチスキル)は万全の準備をして警戒をしているはず

大覇星祭が開放的なイメージを持っているのはあくまでも〝見た目の話〟だ

 

警備員(アンチスキル)が手を抜くとは思えない

もしくは彼らを凌駕するほどの何かがこの街に来ているのか

いいや、それ以前に

 

「小萌先生、〝上条ちゃんたちがいなかったら〟って、どういうことなんですか?」

「そうなのですよ。姫神ちゃんの傷は深くて上条ちゃんたちがテキパキとしてくれたのです!

上条ちゃんと一緒にいたあの神父さんや蒼崎さんには感謝してもしたりません…! ただ、お礼を言う前にどこかに行ってしまったのですけど…」

 

そういって苦笑いをする小萌

彼女の笑顔を見て吹寄は考える

 

何かから自分を庇って倒れた鏡祢アラタの時を解放していたのも、上条当麻らだった

他の学校の競技にわざわざ潜り込んで、彼らは何をしていたのか

ただ普通に状況だけを考えればはっきり言って異常事態だ

 

(鏡祢アラタは日射病、姫神さんは実際に襲われてる。…この二つに関連性はないと思うけど…でも、なんでその両方に…)

 

と、そこまで考えてふと思った

そう言えば鏡祢アラタは大人しく休んでいるだろうか

 

病院に連れ添った時、カエル顔が特徴的な男性と顎髭を生やした男性の笑顔を見て安堵はしたのだが

正直に言えば姫神さんの安否を確認した後で彼の病室にお邪魔しようとしたがさすがに次の競技の予定とかもあるのでそれは断念した

もっとも、当の本人はもうこの病院にいないという事は彼女は知る由もない

 

 

ブン、と振るわれたドリノコがメイジを吹き飛ばす

ぐは!? と肺から息を吐き出して目の前のメイジが地面を転がる

 

「さぁフィニッシュよ!」

 

そう言いながらブラーボはドライバーのブレードを一度操作する

シャキン! と小気味よい音と一緒に、音声が流れた

 

<ドリアン・スカッシュ!>

 

そのような電子音声と共にブラーボの頭のトサカ部分からエネルギーが凝縮されていく

やがてそれは一つの刃となり、ブラーボはメイジに向かってその刃―――ドリアンデンジャーを振り下ろした

グオンッ! と振るわれたその刃は確実にメイジを捉え、さらに大きく吹き飛ばしメイジの変身を解除させる

 

同じとき、クウガとブラックイクサも己の技の構えを取った

 

クウガは少し距離を取り、右足を僅かに後退させ、ブラックイクサはフエッスルを取り出し、それをナックルに入れて操作した

 

<イ・ク・サ・ナッ・ク・ル><ラ・イ・ズ・アッ・プ>

 

そしてクウガは軽く助走をつけて相手の胸部を目掛けて思い切り紅蓮を纏った蹴りを繰り出し、ブラックイクサはナックルを手に装着し、ブロウクンファングを叩きつける

それぞれの技が直撃し、相対していたメイジは吹き飛び、変身が解除され気を動かなくなった

気を失ったようだ

しかしこのまま放置するわけにもいかないので倒した奴らを担ぎ、歩道の方へと持っていく

 

「しっかし、妙な技を使う連中ね。まるで魔法使いみたい」

「…似たようなもんです」

 

あながち間違っていない凰連の言葉に同意しつつ三人は変身を解除した

そしてシャットアウラは気絶している敵勢の魔術師であろう三人をちらりと見やる

 

「…しかし、なんで今になって個別に攻めてくるような手段に出たのだ、アイツ等は」

「そいつは流石にわからんね。…けど、用心するに越したことはないかも」

 

ふと、アラタの携帯が鳴りだした

画面を確認するとそこには両儀式の名前が表示されていた

シャットアウラと凰連に断りを入れてアラタは携帯に出る

 

<もしもし、アラタか?>

「あぁ、どうした式」

<いや、今土御門…だっけ、そいつと合流して、別の学区に向かってる。今から来れるか?>

「別の学区? どこだ?」

<えーっと…にじゅう…さん…あぁ、二十三学区って場所だ>

 

―――第二十三学区

一学区を丸ごと航空・宇宙開発分野のために占有させている、一般学生立入禁止の特殊な学区だ

民間機の他に、学園都市の制空権を守る為の戦闘機や無人ヘリなどの開発も行われている

そのため学園都市の中でも機密度が高く、荷物を送るときにも学区名以降を記さない厳重さである

大覇星祭期間中の警備体制は学園都市内トップクラス。

その度合いは産業スパイ監視のために有人バスを用いているほどである

 

そして―――その学区にはかつてエンデュミオンと呼ばれる宇宙エレベータがあった所でもある

 

「わかった、急いでそっちに行く」

<あぁ、学区についたら連絡をくれ>

 

あぁ、と返答してアラタは通話を切った

そして顎に手を当てて二十三学区か…と考える

行く分には特に問題はない、しかし足がない

ゴウラム―――みのりに頼むのも考えたが正直今回はインデックスと一緒にこの大覇星祭を楽しんでいてほしい、というのが本音である

しかしこの場にビートチェイサーはない

 

じゃあどうするか

 

「凰連さん、遅れましたけど、ご迷惑をかけました」

「あら、戦いに巻き込んだ事を言ってるのかしら? それには及ばないわ。(ワテクシ)自らの意思で巻き込まれたんだから」

 

そう言ってニヒルな笑みを浮かべる凰連

心の広い人だ、と彼はその人となりに感謝を述べながら今度はシャットアウラを見た

 

「アウラ、移動するぞ」

「分かった。場所は?」

「それなんだが結構な距離だ。悪いんだけど―――」

 

言いながら徐にアラタはもう一度クウガになる

青色のクウガだ

敵もいないのに姿を変えたクウガにシャットアウラは疑問符を浮かべ問いかけようとして―――唐突にお姫様抱っこをされた

 

「―――ッ!? な、何をする!? い、いきなり、こんな事―――!?」

 

顔を真っ赤にしてシャットアウラがジタバタする

 

「悪いアウラ。これしか思いつかなかった。では凰連さん、今度は客としてそちらに行きますッ」

 

短い謝罪文と共に、クウガは一気に跳躍し、手近なビルの屋上へと飛び乗る

そしてビルからビルへと飛び移って移動していく彼らを見送りながら凰連は笑んだ

 

「…愉快な子たちね。いいわ、いつでも待ってるわよ」

 

距離が離れてしまってるので、その声は届くことはない

しかしそれは、偽らざる本心だ

いつの間にかこの道にも観光客が戻ってきている

凰連は改めて店に立ち、本業を再開した

 

「さぁ始めますわよ、笑顔と甘味のパジェントを―――!」

 

◇◇◇

 

オリアナ・トムソンは現在、第二十三学区のターミナル駅にいる

この学区は他の学区と違い駅は一つしかない

二十三学区に繋がる路線をかき集めたその駅は非常に大きい、まるで国際空港のような大きさだ

 

「…おかしいわね」

 

オリアナはさりげない仕草で付近を見渡しながら小さな声で呟いた

その後ろでサトルがその言葉で疑問符を浮かべていたがあえて口に出さずオリアナは思考する

警備の体制が変わった

結構な数の警備員(アンチスキル)の配置場所が変わったのだ

いきなり去るようなことはなかったがセキュリティの関係上、意味ないところに移動している

 

(…チャンスではあるけれど、これは流石にあからさまではないかしら)

 

リドヴィアと連絡を取りたいが通信の術式を使用して魔力のサーチに引っかかる、などという事はないだろうか

少し考えてオリアナは単語帳を噛み千切る

相手のサーチ能力はそんな強力ではない、という推論だ

 

「リドヴィア」

 

彼女は小さく囁いた

 

「気を引き締めて。そろそろ仕上げよ」

 

返事は網膜に文字として浮かび上がる

映画字幕みたいに視界の下に浮かぶその文字列は

 

―――まだ定刻までに時間はあるのでは?―――

 

「お姉さんもゆっくりしたいけど向こうも先走っちゃってるのよ、物語のクライマックスでどちらかが倒れてる、なんて嫌でしょう?」

 

彼女は足音鳴く配置を変えていく警備員(アンチスキル)を視界の端に入れつつ

 

「不自然に警備状況が変化してるの。たぶん向こうはこちらがここにいることは掴まれてるはず。魔術の使用の形跡もないから、これは恐らく学園都市側の指示ね」

 

―――学園都市が均衡を破って、畳みかけていると?―――

 

「逆よ、ワザと退いて試合会場を作ってる感じね。警備員(アンチスキル)にも動きに迷いが見える。たぶん自分たちは、どうして配置を変えるのかわかってないみたいだわ」

 

―――それが誘いならわざわざ乗る必要ないのでは? 駅から出て移動する、という手も―――

 

「いいえ。いろいろ見て回ったけどやはりここしかないわ。ならここで防護を固めて待つ。…これだけ広いところなら、一般人を巻き込むこともないでしょうし」

 

―――時間を稼げる、という確証は―――

「あら、お姉さんは大人数相手でも頑張れるわよ? まぁ数にもよるけどね」

 

オリアナはホーム出口の登り階段へと歩き出した

 

―――それでは―――

 

「えぇ、そちらも、準備しておいてリドヴィア」

 

そう言い残してオリアナは通信の術式を切る

一度きりの使い捨ての魔術

歩きながら後ろをついてくるサトルに視線を向けた

 

「サトルくん、貴方も準備はいいかしら。そろそろケリをつけるわよ?」

「さっきリドヴィアさんと話してた内容はそれですか。分かりました、待ち伏せておきますよ」

 

サトルは頷きポケットからデッキを取り出し、適当に自分の姿が映るガラスの前に立つ

その背に、オリアナは言った

 

「サトルくん、ここで落としてしまいましょう、学園都市を。今まで何も知らない乙女を、泥の中に突き落とすみたいに」

「えぇ、分かってます。仕込みも、終わっていますしね」

 

◇◇◇

 

指定された地下鉄のホーム

そこに駆け寄るともうみんな集まっていた

そしてアラタたちが辿り着くと同時に轟音と一緒に列車が滑り込んでくる

耳を覆いたくなるような轟音だが、土御門は待ってましたと言わんばかりに視線を向ける

因みにシャットアウラの顔が妙に赤かったが、誰も触れることはなかった

 

「今しがたお偉いさんに掛け合って二十三学区の警備状況を少し配置換えしてもらったぜい。まぁ流石に学区から離れろなんてのは無理だけどにゃー。せいぜい配置AからBに切り替える合間のブレみたいな隙間をついていく感じだが」

 

土御門の話によれば、人工衛星の方も映像処理方式を変更するように命令をしたようだ

その切り替え作業をしている間は上空の監視作業も疎かになるとのことだ

またそれと同時に、別行動している際に掴んだ使徒十字について簡単な説明をしてもらった

 

原理としては、十字架がパラボナアンテナのように夜空の光を集めることで、星座を魔法陣として利用し発動するというもので、星座というものの都合上、決まった場所・決まった時間にしか発動させることができないらしい

正直アラタとしては何が何だかよくわからないが場所と時間に制限があるというのは理解した

 

「夜空に浮かぶ星座の配置図を利用して使われるっつうことは日没の時間帯が怪しいぜい、んで、今の時間帯は午後五時二十五分。二十三学区のターミナルまで約十分くらいかかるだろうにゃー。明確なリミットはわかんねぇけど、長くて午後六時から七時までの一時間、短くて駅についてから二十五分、ってことになるな」

「なぁ土御門、配置換えの隙を突くって言ったけどさ、十分も間が空いて、その配置換えの効果って持続するもんなのか?」

「カミやん、警備状況の変更ってのは建物一つじゃあない。一学区の警備を変更するんだから十分くらいで完了しないぜい。人が多くなると全体の動きが鈍くなるってのは定番だにゃー。少なくとも俺たちが二十三学区に潜る頃にゃ、警備体制はまだブレブレのはずだ」

 

そう喋る土御門に対して式は軽く息を吐いて

 

「まぁ無駄だろうけど、その身体で戦う気か」

「まぁ休みてぇのは山々なんだけどにゃー。警備がブレるって言ってもなくなるわけじゃない。アンタらだけど突破できるほど、二十三学区は甘くないんですたい」

 

そう土御門が言うと式はそうか、と短く返答する

それを見ていたステイルは咥えていた煙草を一度口から外し

 

「午後六時から一時間。これはリミットであると同時、オリアナたちにとっても足かせになるだろうね。向こうとしては、何としても二十三学区で使徒十字を使いたい所だろう」

 

ただ一行は言葉を聞いていた

シャットアウラは口を開く

 

「追いかけっこもお終い、という事だな」

「相手も似たような事考えてるだろうさ。こっちとしても望むところだし、な」

 

彼女を追うようにアラタも口を開く

そうこうしている内に少しづつ減速していた列車は停車した

アナウンスと一緒にドアは開き、そこから人の波が出てくる

しかし、当麻たちはそれを気にすることはなかった

 

「―――これに乗ったら、もう戻れない。覚悟は決まったか? 上条当麻、鏡祢アラタ。…そっちの二人もだ」

 

ステイルの言葉に、一瞬ではあるが沈黙する

一番最初に言葉を発したのは、当麻だ

 

「あぁ、ここで全部終わりにする。覚悟は決まった。…それから」

「…? それから、なんだ」

 

怪訝な声をステイルが上げる

当麻は凛とした声で続けた

 

「覚えておけ、俺たちは殺し合いなんかで終わらせるともりはねぇよ」

 

魔術師は黙りこむ

黙り込んだとき、続くようにシャットアウラが口を開いた

 

「…やれやれ、相変わらずお人よしだな」

「けど、それが上条当麻だろアウラ。俺も、同じ気持ちだしな」

 

口々に言葉を発する

式も言葉こそ発することはなかったが、僅かに笑みを浮かべていた

それから土御門は子供らしく、ステイルは口の端を皮肉気に歪ませて、各々が各々なりの笑みを浮かべた

 

五人は列車に乗り込んだ

自動ドアが閉まり、やがてゆっくりと列車が動き出す

 

その先の戦いに、誘うように

 

◇◇◇

 

少し時間は遡る

 

吹寄制理は少し早足で道を歩いていた

 

色々予想外の事が重なってスケジュールはもうグダグダだが現在は大覇星祭中、実行委員という仕事を疎かにするわけにもいかない

周囲を行き交う人の喧噪をBGMになんとなく彼女は周りをちらりと見てみる

次の競技までの時間まで家族と楽しそうに談笑したり、友人と他愛もない話をしていたりと様々だ

それらを見てどことなく、吹寄は心が温かくなっていくのを感じた

 

大規模なイベントである大覇星祭、これを成功させるために吹寄は実行委員に立候補した

大変ではあったが、今はとても充実している

 

そこでふと、吹寄制理はショーウィンドウを見た

特に理由があったわけではない、本当になんとなく、偶然だ

強いて理由を語るなら、そのガラスに何かが映ったような気がしたのだ

ちょっとした好奇心から吹寄はそのショーウィンドウに近づいて―――

 

「―――え?」

 

突如として、そのショーウィンドウから異形の腕が現れる

叫ぶ間もなく、その腕に引っ張られ―――そして意識を閉ざした




今回の気まぐれ紹介のコーナー(ぱふぱふー)


(´◉◞౪◟◉)今回はこちら

オートバジン

説明

劇中に登場する大企業で、本作の「ライダーズギア」を開発者でもあるスマートブレイン社の子会社、スマートブレインモーターズ社製の可変型バリアブルビークル。
量産型として、ライオトルーパー用マシン「ジャイロアタッカー」が存在する。
搭載されたAIによって自律行動が可能なほかに変形機構を持ち、オフロードバイク形態の「ビークルモード」から人型ロボット形態「バトルモード」に変形する。
変形はオートバジン自身の判断で自律的に行えるが、タンク部にあるΦ型のスイッチを押すことで外部から変形機構を操作することもできる。
また左側のハンドルグリップはファイズのミッションメモリを装着することで、剣型武装ファイズエッジになる。
なお動力源については、給油されたガソリンを内蔵機関で特殊燃料「ソルグリセリン」に変換・再合成してから使っているという設定がある。
ちなみに、オルフェノクへのトドメに使われることもあるファイズの必殺パンチ『グランインパクト』が5.2t
それに対してバジンのパンチ力は驚く無かれ なんと7.6t
たっくんが貴重なフォトンブラッドを消費して放つ必殺技以上の威力の打撃をバジンたんはほぼ無消費で連発できる。
そして下っ端のオルフェノクなら余裕で 殴り殺せる ということになる。理論上はね!
・・・どこまでハイスペックなんだろうか、このマシン

そして『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』にも登場。
この世界ではオルフェノクとの最終決戦で破壊されなかったようで、10年後も巧のマシンとして愛用されている。残念ながらバトルモードの出番はほぼ一瞬だったが、タイガーロイドの不意討ちの砲撃からマリ(園田真理とは別人)を庇うという美味しい見せ場をもらっていた。

以上、アニヲタウィキより抜粋

平成対昭和もレンタル開始されました
映画館に行けなかったそこの君、レンタルするチャンスだ
自分はまだ見てないので暇を作って見ます

ではでは


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#59 戦う理由

多分もう少しで大覇星祭編は終わり
グダグダだけど許して(懇願)

昭和対平成、見ました
個人的に昭和エンディングが好きです


彼女の両親は、十字教徒だった

日曜日へと日付が変わる度に行っていた教会の年老いた神父は、いつも腰を折りまだ幼かった彼女の目線へと合わせていつも同じことを言っていた

 

―――人のためになる事をしなさい、と

 

それを言われるたびにためになる事ってなんだろう、と彼女は首をかしげた

当然、彼女はいろいろな人に親切を働いてきたつもりだ

空き缶を拾ったり、道案内をしたり、運んでほしいものがある、というものを届けたり

 

しかし、その行い全てが必ずしも、誰かのためになるとは限らない

 

その空き缶を拾ったことで、清掃ボランティアによって金子や施しを受けているホームレスの人々が拾う分がなくなり困っているとしたら

 

道を案内したその人が、無事到着したその家で家族に暴力を振るって、あげくに殺害してしまっていたら

 

運んでほしい、と頼まれたものの正体が箱を開けた瞬間に人を呪い殺すようなものだとしたら

 

彼女が望んでいなくても、誰かの役に立ちたいと思っていても悲劇は起きる

この世界には、悪意から生まれる善意があり、善意から生まれる悪意がある

人のためにと願ったのに、彼女の思惑とは別にそれはまた別の人を傷つけてしまう

その手で守りたかった人たちが、地獄の底でさまよう事となってしまう

 

難しいのは、裏目に出るか、出ないのか

最初からこの行動の結果が分かっていればそれを行わなければいい

成功するなら、それを実行すればいいだけの事

 

結局、彼女の考えていることは単純なわがままだ

彼女自身もそれは強く理解している

この考えは、要は賭け事

 

同じ色を百回選んでも、回転盤を転がる銀色の球がどの番号のポケットに落ちるかで、百回違う結末になる

必勝法などあるわけない

それが、現実というものだ

 

しかし、もしそのゲームに人の命がかかっているとしたら

何が何でも勝ってくださいと言われたら

 

どこに賭ける

その選択を決められる人などいるのか

 

心が傷ついた彼女は手を差し伸べるのが怖くて、そして差し延ばさなくても助けてと叫んだ人が傷ついてしまう

だから基準が欲しい、と彼女は思った

二度と迷わないで済むような、絶対的な基準

博打で言う必勝法、基準点一つあれば、いい

 

(―――誰でもいい、皇帝でも、帝王でも、呼び方なんてなんだっていい、誰のためにでも戦ってあげる)

 

心の中で、彼女は―――オリアナは思う

 

(ルールを…。お願いだから、ルールを決めてください。皆を幸せにして。価値観の祖語から生まれる悲劇なんてない―――そんな最高の必勝法に縛られた世界を―――)

 

思いはするが、口には出さず

理由なんて分かってる

誰かのため、なんて言っておきながら、結局はまた別の誰かを傷つけたのだから

 

◇◇◇

 

列車から出てまず目に入ったのはゴスロリの洋服を着た女の子だった

とりあえず目に入った時の感想は誰だ、こいつは、である

見覚えがない、こんな奴がオリアナと一緒にいたところを見てはいないし、情報にも引っかからなかった

目の前の女は―――

 

「―――お前、誰だ」

 

一行を代弁してその疑問を両儀式が口にした

それを聞くとゴスロリの女の子はフン、と笑いながら

 

「まあ当然の疑問よね。はっきり言ってしまうなら、私は敵よ。リドヴィアの協力者。私に課せられた依頼は―――貴方たちの足止め」

 

パチン、と彼女が指を鳴らすと彼女の後ろからマネキンみたいな人形が現れ、一直線に襲い掛かってきた

それに反応するように式は帯に隠してあるナイフを抜き放ちその人形の攻撃を受けとめた

 

「人形!?」

「橙子と似たようなタイプか!?」

 

当麻が驚き、アラタが口を開く

土御門やステイルが忌々しそうに舌を打ちながらそれぞれ構えようとしていると

 

「何やってんだ、さっさと行け」

 

ギリギリ、と人形と鍔迫り合いを繰り広げる式がそう言ってきた

彼女は人形を蹴り飛ばして距離を置き

 

「時間との勝負なんだろ。こいつはオレに任せてとっとと行けよ」

 

その言葉に何かを言いそうになった当麻を肩で制止し、アラタは式を見る

 

「―――無理すんなよ。何かあったら、俺が幹也さんに怒られるから」

「はっ。言ってくれるじゃん。…覚えておく」

 

そんなやり取りを交わし、アラタはステイル、土御門、シャットアウラ、そして当麻へと視線を合わせた

やがて静かに頷くと五人は駅の出口へと走って行く

式はてっきり相手が邪魔するのかと思ったがその予想は外れ、その女も一度人形を付近へと戻し体制を整えている

 

「…お前、オレたちの足止めが目的じゃないのかよ」

「無論それもそうですわ。でも、貴女という強敵の足を止めるだけでも、十分戦力の低下になると思いません? 両儀式さん?」

「―――お前」

 

最初から目的はどうやら分断だったようだ

式は面倒くさそうに息を一つ吐くと改めてナイフを握り直し

 

「―――いいぜ、来いよ」

 

言葉のあとで、式は跳んだ

 

 

第二十三学区、という場所は学生にはあまり馴染みのないところである

一度別件でこの学区にが来たことがあったがその時は状況が状況だけにあまり中を見ることはなかったのだが

 

「結構、広いな」

「そうだな。…正直、驚いている」

 

シャットアウラと二人、アラタは呟く

隣の当麻も口を開けたまま呆けている

そしてふと、アラタは後ろを見てみる

もちろんその道はさっき自分たちが来た道なのだが

外国の牧場みたいに少し丸みのある地平線が見える

しかしその色はアスファルトとコンクリの黒と灰色だ

どこまでも平らな平地を少し大きめなフェンスで区切られている

 

「…機密事項の塊と言えど一般空港までのバスは走ってるぜい。こっちには運転手がいるな、産業スパイが途中下車しないかを見張るためにな」

 

呟く土御門の言葉を飛行機の音が遮る

思わず頭上を見上げた

セスナ機のような大きさの飛行機が三機、横に並びゆっくりと空を迂回している

 

「ここの警備の基本は空、見張りだけじゃ警備範囲が広すぎるからにゃー」

「しかし、それでは目的地に着くのに時間が…」

「分かってるぜシャットん。アイツを使うんだ」

 

シャットん? という訳のわからない呟きを耳にしつつ四人は土御門が指差した上空を見上げた

するとまたゴウッ、と空気を叩く音が耳に響く

先ほどのセスナとは別のエンジンを四つ積んだ旅客機だ

旅客機はゆっくりと一般用の滑走路へと降下していく

 

「空中激突を避けるために、他の飛行機がやってきた場合は監視用の巡回ルートが変わる仕組みなんだぜい、んで、ここの空は結構混雑してる。あの旅客機の眺めながら上手く進めば監視の死角に潜り込める。目的の場所までは近いし、徒歩でもなんとかなるだろうにゃー」

 

 

現在、土御門の先導の元、当麻たちは灰色の平原を走っていた

時折土御門は授業中居眠りをしているみたいに体の芯がずれたように斜めに傾ぐときがある

傷を負っている状態であるにも関わらず、身体能力は高い

その証拠に少しでも気を抜くと置いて行かれそうになるほどだ

 

彼の先導に従い無数の飛行機が飛び交う真下を走る

隠れるものはないが、それでもオリアナらの姿は見えない

恐らくもうポイントに到着しているのだろう

走りながら当麻は携帯を取り出し、その画面に表示されている時間を確かめる現在時刻は五時四十分

 

―――タイムリミットはおおよそ二十分から、八十分

 

使徒十字が使われたら、音もなく学園都市は物理的に支配され、どんなに理不尽な圧迫を受けても誰も違和感を覚えない精神的な作用まで働かされる、という

焦りはするが、焦った所で時間の進み方は変わらない

進んでいくと広大な敷地を真横に区切るフェンスが見えてきた

恐らくその先がオリアナの待つ敷地だろう

フェンスの元まで一気に走る

おおよそ高さは二メートル、土御門がフェンスに手足をかけ、飛び越えようとした時だった

 

キラリ、と当麻の視界の端に何か光るものが見えた

それは金網の針金の間に挟まれた〝僅かに唾液に濡れた〟一枚の単語帳

 

「土―――」

 

当麻は思わず彼の名前を叫ぼうとする―――が、一歩遅く

 

ゴォ! とフェンス全体がオレンジ色に変色する

両手足をつけていた土御門の身体が跳ねる

慌てて手足を離しフェンスから距離を取るが

 

「っぐ! があっ!」

 

しゅう、と嫌な音が聞こえた

倒れる土御門を介抱するべくアラタが彼の近くに駆け寄った

彼の手足からはまるでお線香みたいにうっすらと煙が漂っていた

土御門の手足を攻めているのは火傷だ

近接戦闘を得意とする彼にとって手足の負傷は武器をへし折られたようなものだ

彼は強引に立ち上がろうとするが、意気に反して立つことすらもままならない

 

「行け…!」

 

ボロボロの手でもう片方の手を押さえつけ土御門は口を開いた

 

「ここで時間を取られても、仕方ない、そのページを破壊して、早く行け!」

「け、けど、お前はどうすんだよ!? そうだ、ステイル、お前の魔術で治せないのか!?」

「確かに火傷ならば可能だが―――あちらがそれを待つものか!」

 

当麻は言われ振り返る

フェンスの先に、二人の人影小さい滑走路を挟んだ向かいの建物の壁に、一人の女が寄りかかり、その隣に男が立っている

オリアナ・トムソン、そしてサトルと呼ばれる少年

オリアナは金属のリングで束ねられた単語帳を口に持っていき―――

 

「当麻!」

 

アラタが叫んだ

 

「あぁ!」

 

当麻はフェンスに挟まれてるページを殴り付ける

熱で赤くなっていたフェンスは一気に冷めて元に戻る

確認するでもなく、すかさず四人はそのフェンスに手足をかけて飛び越える

ここで先制されたら手足を負傷した土御門は回避することが出来ない、なら先にこちらが攻めるしかないのだ

 

飛び越えて着地したと同時、オリアナがページを噛み千切る

術式が発動し、彼女の身体が発光しオリアナはその場でくるりと回った

直後ドッ! という音が響き渡り彼女を中心として円を描くように空気が撹拌された

目に見えないハンマーが右回りに迂回するようにアスファルトをなぎ倒して当麻たちの元へ突っ込んでくる

咄嗟に右手を振るいその高圧の壁を見えないまま吹き飛ばしていく

数百メートル先でオリアナが苛立たしげに表情を変える

その直後、サトルが動き出した

ゆらりと身体を動かし、一直線にこちらに向かってくる

その襲撃にアラタが前に出て応戦した

繰り出されたその拳を受け止めて腹部を蹴りつけようと足を動かす

しかしその蹴りを躱すように素早く後ろへ飛んだ

そのまま数度かバク転を繰り返しオリアナの元へと舞い戻る

 

ステイルはルーンのカードを構え

当麻は右手を握り直して拳を作り

シャットアウラはベルトを巻きつけて

アラタは相手の出方を待つように身構え

オリアナは単語帳を弄び

サトルをポケットからデッキを取り出し

 

―――激突が始まる

タイムリミットは、おおよそ十分から、七十分―――

 

◇◇◇

 

「アラタが見当たらない?」

 

夕暮れ時の競技場で御坂美琴はそう聞き返した

常盤台の競技も一段落し次の競技までの待ち時間、アラタの応援にでも行こうという話になり食蜂と共に競技場にやってきた

そして同様に彼の応援に来た初春たちからそんな事を聞いたのだ

 

「そうなんですよ。…携帯にも繋がらないし、みのりちゃんに伺っても知らないって言うし…」

「競技にはたくさん人がいるから、見つけることが出来なかったぁ…、ていうのはぁ?」

「それは有り得ません。さっきの競技は団体競技、試合全部を見れば必ず見つけることが出来る筈なんです。それでも見つけることが出来なかったんです…」

 

どこか心配そうに呟く初春

一緒に来ていた黒子と佐天もやはり心配そうだ

 

「…もしかしたら、また何かに巻き込まれてるとか?」

「可能性は高いですわね。…せめてこの身が万全ならばよかったものを…」

 

悔しそうに黒子が呟く

彼女はある事件に置いて負傷してしまい現在は車いすに乗っている

最も空間移動は問題なく出来るのだが、それでも怪我の状態を考えるとアラタといても自分が足を引っ張ってしまうと考えてしまったのだろう

 

「…どうする御坂さん。…探しにぃ…行く?」

「…行きたいけど…私たちも競技とかがあるし…」

 

行きたいのに行けない

そんな感覚がもどかしい

彼はこういう時、よく自分たちに隠して心配をかけないようにしている

そして後でそれがバレて、すごく怒られる

 

「…はぁ、まったく。アイツったら…」

 

美琴は小さく息を吐いた

…そう言うのが逆に心配をかけるというのを、いつになったら覚えるのか

 

◇◇◇

 

吹寄制理の意識は不思議とはっきりとしていた

ロープみたいなもので縛られていたが妙に身体がだるいだけで、それ以外は特に何もなかった

変な事もされなかった

唯一されたことと言えば肩付近に変な紙を貼りつけられたことくらいだ

それが何を意味しているのか吹寄にはわからなかった

 

彼女は地面にぺたりと座らされ、近くには以前であった金髪の女の人と男性が立っていた

男性は、吹寄を連れ去った張本人だ

何となくウィンドウを眺めていたらそこから手が出てくるなど誰が考えるものか

 

「―――来る」

 

女の人がそう呟いたのが聞こえた

それに合わせて男性も頷いていたが、何が来るというのだろうか

そう思っていた吹寄は、ここに飛び込んできたその人たちを見て目を見開いた

 

何故ならその人たちの中に自分がとても見知った顔ぶれの姿があったから

 

(上条、当麻に鏡祢アラタ…!? その隣にいるのは、シャットアウラさん…?)

 

彼女は大覇星祭が始まる前日転校してきた女の子だ

本格的に登校するのは大覇星祭が終了してからだと聞いていたのだが

いや違う、問題はそこじゃない

 

どうしてこの人たちと彼らがここにいるのか、という事で

 

当麻やアラタと一緒にいる赤い髪の人は吹寄は知らないし、この金髪の女性だって少し話したくらいだ

一体何がどうなっているのだろう

声に出して名を呼ぼうとしたがどういう訳か声は出ない

いや、声は出てはいるが、聞こえない、という表現が正しいか

いずれにせよ、吹寄はこの状況が理解できない

自分でもよくわからない自問自答が、頭の中でぐるぐると回っていく―――

 

◇◇◇

 

「―――んふ」

 

オリアナは小さく笑った

その笑みを視界に入れながらゆっくりと、かつ迅速に距離を詰めていく

 

「どうやら追加の警備員(アンチスキル)や魔術師はくる気配はなさそうね。ギャラリーが多くても、それはそれで楽しそうだと思ったのだけれど」

 

薄く、薄く彼女は笑う

ニヤニヤと、本当に楽しそうに

 

「そして内一人はリタイヤ確定。…一番頭がキレると思ってたんだけど…。もしかするとあれかしら、仲間が罠にかからないように率先して自分が一番危険な位置を陣取っていた、という話なのかしら?」

 

愉快そうに呟きオリアナは単語帳の一枚を噛み破る

瞬間バギン、とガラスが砕けるような音が聞こえオリアナらを中心に飛び散った

その音の塊は若干の間を開けてやまびこみたいに跳ね返る

瞬間、全ての音が消失した

 

空には無数の旅客機が行き来している音が聞こえていたのにぷつんと糸が切れたように聞こえなくなる

辺りを見渡しつつステイルが叫んだ

 

「結界か! 物理、魔術を問わずあらゆる通信術式を遮断するタイプのものだな!」

 

ステイルの声に改めて気を引き締める

周囲を見渡そうとも考えたが、敵はすぐ目の前だ

確認を取るまでもなく、ステイルと当麻はオリアナへ、アラタとシャットアウラはサトルの方へと走り出す

 

対するサトルとオリアナも軽く互いの顔を見合わせそれぞれの敵に向かい動き出す

 

それぞれの距離はあっという間に縮まり―――激突する

 

 

突き出されたサトルの拳にアラタは受け止めながらも反撃を試みる

しかし放たれた蹴りは当たることなく空を切る

その隙を縫うようにシャットアウラがアラタの後ろから飛び上がり飛び蹴りを加えようとする

しかしその蹴りは軽く身を下げるだけで避けられた

だがその事は予想の範疇だったのか地面に着地したその途端に、相手の顔面を狙うようにハイキックを繰り出す

 

シャットアウラの繰り出された蹴りは容易く受け止められ逆にその足を掴まれてしまう

 

「なっ!? のわっ!」

 

そのまま両手で足を掴み、サトルはその場で回転する

流石に片足の状態ではバランスを保てずに身体は宙に浮きサトルはシャットアウラをアラタの方へと投げ飛ばした

突如として投げ飛ばされた彼女に驚きつつもアラタはどうにか受け止めて、彼女を隣に立たせた

 

「…すまない」

「気にすんな」

 

短いやり取りを交わしつつ、目の前の敵を見据える

そしてちらりと、横目で当麻たちの戦いを視界に収めた

状況は見ただけでは理解できないがステイルが倒れているところを見ると、劣勢、という事だけはなんとなくわかった

 

「相変わらず腰が砕けるのが早いわね。そんなのじゃお姉さんたちを満足させることなんてできないわよ?」

 

余裕たっぷりと言った様子でオリアナが口にする

 

「うる、さいっ…!」

 

当麻の声が聞こえた

彼は立ち上がり拳を握る

 

「お前たちは、ここで止める。使徒十字も使わせない、大覇星祭を台無しにするってんなら、必ずここで止めてやる」

「台無し、というのは酷いですね。イギリスの方から何を言われたかは知りませんが使徒十字は別に悪さをするという訳ではありません。あらゆる宗教が望むのは、人の幸せ。都合が良いように組み替える使徒十字は、魔術と科学の面倒な壁を取り払い、世界を幸せに導くかもしれませんよ?」

 

そんな事を呟きながらサトルは歩いて少し距離を取る

それを見ながらアラタとシャットアウラも歩き、一度当麻らの下に歩み寄り、アラタは口を開いた

 

「…確かにいいかもしれない。正直、魔術と科学の壁なんて俺には分からないけど、きっとそれは良い事なのかもしれない。けどな」

 

そこで言葉を区切る

アラタは己の拳を握り、それを前に突き出して

 

「正直に言って〝バランス〟とか、世界の〝支配権〟とかそんなこと俺たちにはどうでもいい!」

「あぁ! 俺たちにとって一番困るのは、今ここで、使徒十字が使うことだ。…それが何を意味するか、分かってるのか」

 

アラタの言葉に当麻が続く

当麻も同様に拳を握り、ただ一つの武器へと変えて

 

「もちろんよ。お姉さんたちが何のために頑張ってきたと思っているの。…そうね、言い方が悪かったかしら? 誰もが幸せになって誰もが自分が幸せになっていることに疑問を抱かない。そんな素敵な―――」

「そんな事を聞きたいんじゃねえよ」

 

怒りの感情が声に乗る

 

「話の軸はそこじゃあねぇんだよ! 困るっつってんのは大覇星祭がつぶれちまうからに決まってんだよ! 科学とか魔術とか、伝説とか霊装とか、つまんねぇ言葉で誤魔化すな! 正論吐いて殴っていいわけじゃねぇんだよ! そもそも、テメェらの理屈なんざ正論はおろか、暴論にもなってないんだよ!!」

 

犬歯をむき出しにして当麻が叫ぶ

その視線の先にいる敵に向かって

当麻に続けてアラタが言った

 

「確かに、俺たちの考えてることはアンタたちに比べれば小さい事だろう、だけど、この日の為に頑張ってきた人を俺は知ってる。今日という日を一生の思い出にするために必死に努力してきたんだ。いろんな人が来て、たくさんの人が参加したこの日を、アンタたちに邪魔されたくないんだよ!」

 

一人の女性がいた

みんなを気にかけて、今日という日を記念にするために頑張っていた女の子を知っている

その人の為にも、ここで大覇星祭を潰されるわけにはいかないのだ

 

「…小さな意見をありがとう。でもね、その程度の感情論でお姉さんたちが揺らぐと思う? その程度で揺らぐくらいなら最初から動いてなどいないわ。…だから、お姉さんたちはここで止まれない。君たちの願った通りには止まらないの」

 

 

「―――その言葉、アンタが傷つけた姫神さんの前で言ってみろ」

 

 

瞬間、オリアナが僅かに沈黙した

片方ではあるが確かに見た、引きつったその頬は、笑み以外を形作るのを

そんな彼女に当麻が付け加える

 

「結局、俺たちが言いたいのはそれなんだ。…これ以上何もしないんならなにもしねぇよ。使徒十字を持ってとっとと帰れ」

 

当麻は右の拳を構える

その上で

 

「けど、まだこの街で何かをしようってんなら。―――そんな幻想、ここで全部ぶち壊してやる」

 

当麻の瞳に意思が宿る

それはとても、強い光だ

 

「…サトルくん、二人任せていいかしら」

「愚問ですね。最初からそのつもりでしたよ」

 

肯定しながらサトルは虎のデッキを目の前に突き出す

すると彼の腰にVバックルが現れる

サトルは手を一度クロスさせ両手を腰に持っていき、デッキを持つ手をバックル付近に、片方の手を斜めに突き出した

 

「―――変身」

 

言葉と共にサトルはバックルにデッキを装填する

すると鏡の割れるような音と一緒にサトルに幾重もの影が重なりその姿をタイガへと形作った

 

「当麻、あんまり無茶はすんなよ」

「あぁ、お前もな」

 

アラタは当麻と短いやり取りを交わしつつスッと両手を腰に翳す

すると彼の腰にアークルと呼ばれるベルトが顕現される

また、今度は隣のシャットアウラにも視線をやり

 

「アウラ、準備はいいか」

「あぁ、問題ない。それと、お前も人の事言えないからな」

 

そんな言葉を貰いつつ、すでにベルトを巻きつけていた彼女はナックルを手に叩きつける

 

<レ・ディ・イ>

 

隣から聞こえる電子音声を聞きながらアラタは右手を左斜めに、左手をアークル右上部辺りに動かした

そしてその両手を開くように動かし―――シャットアウラはナックルを持った手を前に突き出して―――叫んだ

 

『変身!』

 

アラタは両手をアークルの左へと持っていき、シャットアウラはベルトにナックルを装着する

ギィン、と黒かったアマダムは赤い輝きを帯び、ナックルからは<フィ・スト・オン>と電子音声が流れた

 

アラタの身体がクウガへと姿を変え、黒いイクサの影がシャットアウラへと重なりブラックイクサとその身を変える

最後に、クウガの赤い複眼が発光し、同時にイクサの面が開き同じように赤い複眼が発光する

 

そして、それぞれの敵を見据える

 

上条当麻はオリアナ・トムソン

二人の仮面ライダーは、トラのライダー

 

何かをなすべく、或いは何かを守るべく

 

お互いは衝突する

 

 

何が、起こっているのだろう

不思議なことに、吹寄の姿は視認されておらずアラタや当麻らが気づいている様子はない

目の前で繰り広げられる舌戦を、吹寄制理は全く理解できなかった

語られるその言葉から、彼らがどんなに大覇星祭を成功させようとしていたのかは伝わった

…それなら、常日頃そのテンションを維持してほしい、と内心思ってしまったのは内緒ではあるが

 

ひとしきり舌戦が終わると何かを悟ったように女性が動いた

それに合わせるように隣の男性も前に出た

男性はスッと前に何かを突き出すような仕草の後で妙な動きをした

 

「―――変身」

 

瞬間、男性に何かが重なるようにどこからか影が飛んでいき、鏡の割れるような音と一緒にその男性の姿を変えた

 

後ろからその姿を見ると、白い背中しか見えない

今度はそれに応えるように、鏡祢アラタととシャットアウラが動き出す

アラタは女性の隣にいる男性と同じように妙なポーズを取り、シャットアウラは手に持った何かの機械を操作して、前に突き出した

 

『変身!』

 

同時に聞こえたその言葉

その直後、吹寄は目を見開いた

アラタとシャットアウラの姿が、変わっていく

都市伝説として、実しやかに噂されている仮面ライダーと呼ばれる姿に

 

(…嘘)

 

しかも、もう一人の赤い姿を吹寄は覚えている

いつの日か、自分を守ってくれたあの仮面ライダーの姿を




以前エンデュミオンの劇場版を書きました
近々DCと称して追記修正版を書こうかな、なんて考えてます
…書くかどうかは分からないので過度な期待はせずに

今回の気まぐれ紹介はお休み

ではでは


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#60 主義と主張

いつにも増して無理やり感
いつもの事ですけどね
多分次回とエピローグ的なので大覇星祭編は終了
次はどうしようかなー

鎧武もいよいよ最終回間近
みんなで結末を見届けましょう

余談
ドライブの変身方法を友人と駄弁る

きっと鍵だよ、んで二号ライダーはボタンで変身(最近の車はボタンでエンジンかけるタイプがあるので)するんじゃないかなー、なんて言っていたら情報が公開されたらまさかのミニカー
個人的にはいい線いってたと思いますがどうですかね…


タイガは手に持っている斧のような武器でクウガを攻撃を行ってきた

向こうは武器をもち、こちらは素手…状況は圧倒的にこちらが不利ではあるが、こっちには仲間がいる

 

こちらの隙を埋めるようにブラックイクサが攻撃を行っていく

しかし相手もなかなかの手練れらしく、器用にこちらの連続攻撃を捌いていく

 

相手の持つ斧の一撃を気を付けながらクウガとブラックイクサは反撃を試みていく

グッとタイガは両手で握られたデストバイザーを横に振るう

振るわれたその一撃をクウガは身を屈ませることで回避し、その合間を縫うようにブラックイクサがイクサカリバーのガンモードで援護していく

 

クウガに気を取られていたことで反応が遅れ数発の弾丸をタイガはその身に受けた

その隙を逃すまいとブラックイクサが接近してガンモードをカリバーに切り替えて斬撃を繰り出す

一方のタイガは仰け反りながらも体制を整えたタイガはその斬撃をデストバイザーで受け止め、鍔迫り合いへとと発展させる

ブラックイクサは負けまいと足を踏ん張るがやはり男性の腕力には適わず徐々に押し負け、やがて上に弾かれ腹部を蹴られ吹き飛ばされる

吹き飛ばされたブラックイクサを受け止めて、再度クウガが前に出る

 

「アラタ!」

 

ブラックイクサの声に一度クウガは振り向いた

すると彼に向かって彼女はイクサカリバーを投げ渡した

彼はそれを受け止め、構えながら叫ぶ

 

「超変身!」

 

叫びと共に赤いアマダムが紫色に輝きその鎧を形作る

赤い鎧は銀色を主体とし紫色に縁どられた鎧へと変化させ、ブラックイクサから借りたイクサカリバーは専用剣〝タイタンソード〟へと形を変える

 

「…へぇ、そんな事も出来るんですか」

 

ちょっと面白そうに呟いた後で改めてタイガはデストバイザーを構えなおした

ああいうのは一度見たことがある

カードを装填しないのは余裕の表れか、それとも武器とカードがないのか、はたまたカードを温存しているのか

そんな考察をしつつクウガはタイタンソードを持ちタイガへと向かっていく

 

 

目の前で色を変え、剣を持ったクウガと斬り結びながらタイガは一人思案する

想像以上に手強いぞ、彼は

タイガは戦闘に使用できるカードがあまりなく、別のモンスターに作用するものがメインだ

相手が自分と同じデッキを用いたライダーならフリーズベントが使えるのだが

…いや、もしかしたら冷気を生み出して多少なりとも作用するのでは、とも思ったがここには拉致してきた一般人もいるのでそれはやめておく

一度相手と距離を置きながらちらりと浚ってきた女の子へとちらりと視線をやる

独自に調べた情報で、目の前の男が庇ったという女の子だ

別段、彼女に危害を加える気はない

今、彼女にはオリアナに頼んで彼女が視認されなくなる魔術を使用している

この魔術は彼女自身に作用しているのでこっちが解除するかあの男の右手が触れるかで解除されるだろう

最もオリアナは一度使った魔術を二度使わない主義なのでこれっきりなのではあるが、彼女はこちら側の切り札だ

適当なタイミングで魔術を解除し、存在を認識させ多少でも動揺すれば勝機はある

…もっとも、後でリドヴィアに怒られるかもしれない、というか怒られるだろう

しかし、今はどうでもいい

大事なのは結果だ

 

「ぐ、のわっ!」

 

そんな思考の隙を突かれたか相手の剣の一撃をもろに喰らう

軽く地面を転がりながら片膝を付きながらデストバイザーを相手に向けながらゆっくりと距離を取る

…やはり、二体同時は苦しいか、しかしオリアナは割と容易く捌いてはいるのだが

戦い方の違いだろうか

 

「…はは、やっぱり、強いな君は…」

 

ゆっくりと歩きながらタイガは拉致してきた女の子付近に接近する

そして肩に貼り付けた一枚の単語帳に手をかけた

 

「…何をするつもりだ」

「気をつけろアラタ。きっとロクでもない事だ」

 

口々にクウガとブラックイクサがそう呟く

しかし行動に迷いはない

 

「いえ、ちょっとしたゲストってヤツを事前に招待していたんですよ。えぇ、スペシャルゲストってヤツを」

 

そう言いながら一気に単語帳を引っぺがす

事前に剥がせば術式は解けるとオリアナからは聞いている、問題はない

 

「…ゲスト、だと? お前一体何を言って…ッ!?」

「なっ、確か、彼女は…」

 

彼女としてはようやく声が出せた、と言った状況だろう

目をぱちぱちさせながら、うわ言のように呟いた

 

「鏡祢、アラタ…」

 

そして恐らくではあるがゆっくりと見えてきたはずだ、知人である彼女の姿が

顔は分からないが、クウガとブラックイクサには明らかに動揺が見て取れる

そして、オリアナと戦っている上条当麻にも

 

「!? おい、なんで…!?」

 

表情に出ている分、こちらの方が愉快かもしれない

 

「勘違いしないで。提案したのは彼なんだから。お姉さんもここに来た時に知ったのだから」

「ふざけんなっ! どのみち巻き込んでるのと変わんねぇだろ!」

 

はっきりと怒気を口から吐き出し上条当麻が吠える

それに対しタイガは余裕を見せ

 

「大丈夫ですよ、彼女には何もしてません。えぇ、大事なゲストですから」

「お…前…!」

 

こちらのクウガからもはっきりと怒りの感情が伝わった

…これで少しはやりやすくなればいいのだが

タイガはデッキから二枚のカードを取り、それをデストバイザーにベントインする

 

<ストライクベント>

<アドベント>

 

するとタイガの両手には契約モンスターデストワイルダーの爪部分をもして武器、デストクローが顕現し、そして隣には自身の相棒であるデストワイルダーが現れる

タイガはワザとらしく爪を研ぐように両手を擦り合わせる

 

「片方を。僕は、クウガを」

 

デストワイルダーにそう指示し、タイガは歩き出す

さぁ、どう出る…?

 

 

「鏡祢、アラタ…」

 

久しぶりに出た言葉はそんな淡白な言葉だった

目の前で起きているこの状況に吹寄は理解できていない

どうして上条当麻が拳を振っているのか、とか、なぜ鏡祢アラタとシャットアウラが姿を変えて戦っているのか、とか、そんな疑問が頭の中で回り始める

 

思えば気になるところはあったのだ

ある日、ケンカでもしたのかと思えるくらい些細な傷をしていたり、翌日になると増えていたり

当然、それは風紀委員に所属しているからだろう、とその時は納得していたが今のこの状況を考えるともしかしたら見えない所で彼らはこんな事をしていたのではないだろうか

 

そんな考えをしているとき、白いライダーの隣に虎のような化け物が現れた

ライダーは斧のようなものを構え、ゆっくりと化け物と共に歩き出す

やがて接近し、白いライダーは眼前の敵に斧を振り下ろす―――が、その刃は届くことはなく持っていた剣で防いだ

 

「―――吹寄」

 

赤いライダー…いや、今は銀色? のライダーとなったアラタが吹寄に向かって呟いた

不思議とその声は、耳に聞こえた

 

「…待ってろ、すぐに助ける」

 

それだけを言って手に持った剣をもう一度振るった

今度はその浅い当たりでなく、白いライダーの胸部に直撃する

 

「ぐあっ…!?」

 

仰け反る事を許さず、彼は相手の手を掴み、後ろへ投げるようにブン投げた

地面を転がりながら体制を整えて相手は立ち上がる

必然的に、吹寄の目の前には彼の背中が見える位置となる

その背中は、不思議と頼もしく見えた

 

 

目の前の化け物の存在は正直シャットアウラはよくわかっていない

しかし相手の攻撃手段は見るからに分かり易い両手にある大きな爪で判断できる

イクサの装甲を信じていない訳ではないが、喰らえば大きなダメージとなってしまうだろう

それに、無関係な一般人を平然と巻き込むような奴らに、加減をするつもりもない

 

しかし今現在はブラックイクサのメイン武装であるカリバーはクウガに貸してしまっている

必然的に徒手空拳で戦闘するのだが、武装がないわけでない

ベルトにセットされてあるイクサナックルだ

そして、切り札となるのがもう一つある

…それはライジングイクサとなる事だ

しかしこの力は、まだシャットアウラでは上手く制御出来た試しがない

アラタやアリサらに隠れて名護と訓練してはいるが、上手く扱えた試しがないのだ

 

(…名護さんも使いこなすには苦労した…と聞くが)

 

正直自分が使いこなしているビジョンが全く浮かばない、やはりこの案はなしだ

使いこなすことが出来ないなら、今ある戦い方でこいつを打倒する…!

ひとまず、とそんな事を考えながら目の前の怪物の攻撃を避けながら反撃のチャンスを狙う

大振りな攻撃を屈んで躱し接近しつつ、ブラックイクサはナックルに手をかけてがら空きとなっている腹部にナックルを取り付けた拳を叩きつける

 

手ごたえはあった

しかし効いているかと問われれば正直頷けず、仰け反っただけにも見える

と、再び大きな爪が斬り裂こうとブラックイクサに襲い掛かる

慌てて後ろに飛び退いてそれを回避し虎の怪物を見た

 

「ならば…!」

 

今度はナックルをベルトに戻してフエッスルを取り出し、イクサナックルにセットし操作する

 

<イ・ク・サ・ナ・ックル・ラ・イ・ズ・ア・ップ>

 

「ハァァァァァッ!!」

 

もう一度ナックルを手に今度は全力の力を込めて彼女はブロウクンファングを放つ

放たれたその一撃は真っ直ぐ飛び、目の前の怪物に飛んでいく

しかしその怪物は爪の甲部分を盾にしその一撃を防ごうと試みる

受けた直後はジリジリと後ろに仰け反っていくが、やがてゆっくりと前に前にと進んでいく

 

「ガァァァァッ!!」

 

やがて怪物はそんな雄叫びを上げながら両腕を開きブロウクンファングをついに弾いた

その拍子に両腕が大きく開く体制となる

瞬間、電子音声がデストワイルダーの耳に響いてくる

 

<イ・ク・サ・ナ・ックル・ラ・イ・ズ・ア・ップ>

 

最初のブロウクンファングを防いだとき、デストワイルダーの意識は完全に防ぐことに向いていた

その隙を突き、ブラックイクサは跳躍し自らの身を上空へと移動させていた

上空からの奇襲攻撃

 

「―――喰らえ―――」

 

落下の勢いを利用してもう一度ブロウクンファングを放つ

今度は防ぐ事叶わず、がら空きとなったその身に、ブラックイクサは己の拳を叩きつけた

 

 

ステイル=マグヌスの意識は明滅していた

横倒しの視界、にじむようなな顎の痛み

自分が倒されたと気づくまで、実に三秒の時間を要した

彼は接近戦に使うような体力に恵まれてる訳じゃない

それは彼が体を鍛えてないのではなくさらに根本的な所に要因がある

ステイルがルーンのカードを用意したり暗号化した呪文等を使うのはその魔術に莫大な魔力を用いるからだ

元来魔力というものは体の内側で様々な術的な作業をこなした上で生まれるものだ

普通の魔術師ならさほど辛くない作業でも、彼の[魔女狩りの王(イノケンティウス)]みたいな教皇レベルとなれば話は変わってくる

 

簡単な作業も数をこなせば疲れるのと同じく魔力精製[作業]はステイルの体を圧迫している為、スタミナ消耗も早いのだ

簡単に言えば彼は体の内側、外側の両側で運動しているようなもの

ステイルは神裂火織のように選ばれた聖人ではない

土御門元春のように一つの道を極めた天才魔術師でもない

 

それでも戦う理由が彼にはある

 

だからこそルーンの文字を修得し十字教文化へと組み込んで魔女狩りの王(イノケンティウス)という教皇レベルの術式を手中に収めることが出来た

その代償に近接戦の可能性を全て捨て、ルーンカードが無ければ炎一つ起こせない状態になってでも

 

(く、っそ…)

 

意識が揺れた

その状況の中、拳を振るう音と魔術が交差する響き、そしてその付近に爪と剣とが切り結ぶ音が聞こえ、妙な電子音声も聞こえてくる

 

あの上条当麻(しろうと)はまだ戦っている

 

どんなに攻撃を受け、叩き込まれて、ねじ入れられても

倒れず、諦めずに歯を食いしばって、ただただ拳を握り締めて

 

またその近くでは鏡祢アラタとその連れが戦っている

紛れ込んでいた己の知人を助けるために、そして、今やっているこの祭事を守るため

 

―――誰も、諦めてなどいない

 

オリアナと戦う上条当麻と同じように諦めてなどいない

自分はもう〝あの子〟の隣にはいられない

どれだけ月日が経ってもあの立ち位置には二度と戻れない

 

だが

 

「世界を構築する五大元素の一つ。偉大なる始まりの炎よ…!」

 

たった一人の女の子を守る為に、掴んだ様々な技術

彼女の笑顔を踏みにじらんとする者と戦う為に、ただそれを目的に血反吐を吐くような痛みと共に手に入れた数々の炎の魔術

 

自分の背中を押す淡い感情もわからないままがむしゃらに手を伸ばした結果

 

「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」

 

ステイル・マグヌスは知っている

この術式にもう何の意味も、価値もない事を

あの少女の隣を歩いてくれる人物が存在し、そのためにこの術式はすでに用済みである事も

 

「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を罰する凍える不幸なり」

 

それでも、この術式(ちから)はきっとあの子以外の誰かを守れる

例えば大きな瞳に涙を溜め、返り血で両手を朱に染めて

全く意味ない(つたな)い魔術に全て願ったあの小さな女性

例えば関係もないのに胸元に掲げた十字架一つで勘違いされ、血の海に沈んでしまった一人の少女

 

「その名は炎、その役は剣…!」

 

その行為はステイルにとって何の慰めにもならない

例えるなら、大切な人の為に心を込めて作ったケーキを全くの赤の他人が「美味しい」と食べてしまうようなものだ

 

たとえどんなに褒められても、心の隙間は埋まることはないだろう

絶対に

 

「権限せよ…」

 

それでも彼女達を助ける事が結果として一人の少女の笑顔を守る事になるならば

この学園都市を守る事が一つの幸せに繋がる事になるのなら

ステイル=マグヌスは受領する

 

全身全霊を振るい、全くの別人を助けるが為に

 

「我が身を喰らいて力と為せ―――」

 

今もまだ残る感情の下

 

「―――魔女狩りの王(イノケンティウス)

 

ここにいる敵を倒す事を

 

ドォ、と彼の修道服の内側からまるで紙吹雪のように膨大なルーンのカードが舞い散った

彼を中心に渦巻き、周囲の砕けたアスファルトに張り付いて

刹那、炎が吹き荒れる

紅蓮の輝きを放つ炎は、外から内へと一気に集束し、その中心に黒い重油みたいな人型の芯を据えて

ステイルの隣に立つのは、摂氏三千度の炎の巨神

 

「行くぞ…、魔女狩りの王(イノケンティウス)―――」

 

告げながらゆっくりと地面から立ち上がる

手をついて、足をつき、ふらふらとした動きだが決して、体の芯と心の軸は折れず

彼は天に向かって自身の魔法名を叫ぶ

 

「Fortis931…!!」

 

ステイル自身が己が魂に焼印し、必死で組み上げた[魔女狩りの王(イノケンティウス)]に望むものは

 

「―――我が名が最強である理由を、ここに証明しろっ!!」

 

 

「―――デストワイルダー!」

 

爪との斬り合いの最中、タイガはそう叫んだ

ふと後ろを見ると、ブラックイクサーーーシャットアウラがふぅ、と息を吐いたように見える

どうやら勝利したようだ

付近で倒れている虎の怪物はふと現れた鏡の中に吸い込まれるように消えていく

 

同時に、ゴォッ!! と炎が吹き荒れるような音が聞こえた

どうやらステイルが復活したみたいだ

ここからでは炎の熱を感じるくらいしかできないが、きっと問題ないだろう

なんだかんだで、当麻とは仲が良いし

そう考えて改めて目の前の敵に向かってクウガは剣を構えた

 

「なんで、お前は使徒十字なんてもの、いや、オリアナたちに加担する」

「…この世の中に、理不尽って言うのが、多いって思いませんか」

「―――理不尽?」

 

タイガは構えたまま、ゆっくりと語りだす

 

「どんなに努力しても、報われない人たちがいる。結局この世界って言うのは才能のあるかないかの違いなんだ。…だから僕は平等を求める…!! たとえそこに、間違った笑顔があるとしてもだ!」

 

それを聞き、クウガは仮面の中で瞳を閉じる

―――どこでこの男は歪んでしまったのか

確かにこの世界は不平等だ

能力者になる事を夢に見て、この学園都市に来てやってきて、出された結果が無能力者の烙印を押され

弱者が強者に虐げられるのは、いつの時代も同じなのだ

 

何となくだが、彼の気持ちもわかる

それでも―――

 

「こっちも、譲れないんだよ。生憎とその不平等の中を、楽しく生きてる友達がいるんだから―――!!」

 

剣を握る手に雷が宿る

バヂバヂと己の身体に迸り、少しづつその姿を変化さえていく

銀色が主体だった鎧ははっきりとした紫色になり、金色で縁取られる

タイタンソードに金色の切っ先が現れ、その範囲を伸ばす

 

「―――」

 

静かに息を吐きながら右手に持ったライジングタイタンソードを突きつける

それに呼応してタイガもデストクローを静かに身構えた

二人の距離は数メートル、互いにすぐ踏み込める距離だ

仮面からは互いの息遣いが僅かに聞こえ、どちらも互いの隙を伺っているように見える

数秒経って―――どちらともなく駆け出した

 

互いの爪と剣を振り抜き、二人の身体が交錯する

ガキンッ!、という音がした

僅かな時間、静寂が支配する

 

「…ぐっ」

 

先に膝を付いたのはクウガだった

痛みに仮面の中で表情を苦痛に歪めるが、それでも倒れはしなかった

次に動いたのはタイガだった

 

「…強いね。君」

 

短くそう言うとやがて糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち、変身が解除される

気を失ったのだろう

剣を杖代わりにしてクウガはゆっくりと振り返る

 

いつしかライジングも解け、紫のクウガに戻っていた

クウガはただ黙って変身が解けたタイガをじっと見つめていた

やがて彼はぺたりと座ったままの吹寄の下に駆け寄り、彼女の身体に巻かれていた拘束を解いていく

 

「…吹寄、怪我はないか?」

「あ、あぁ。特に、は」

 

彼女の手を引いて、アラタは吹寄をその場に立たせる

軽く彼女の様子を見るが怪我をした様子はなさそうだ

思わずクウガは笑みを浮かべる

 

「よかった…」

「…お前だったんだな」

「え?」

「いつか、私を助けてくれた仮面ライダーは」

 

一瞬、何のことを言われたのかは分からなかった

しかしすぐに思い出す、いつの日か外に出かけたらばったり吹寄と出くわし、そのままある事件に巻き込まれたことがあった

 

「…遅くなったけど、言っておきたい」

「? 何を?」

 

少し間をおいて、僅かに笑みを作り吹寄は口にした

 

「―――ありがとう」

 

唐突に言われたその言葉に一瞬クウガは面喰らう

しかしすぐに苦笑いと共に息を吐きながら

 

「どう…いたしまして」

 

そう短く返事をした

 

 

オリアナは覆い始めた薄闇全てを薙ぎ払うような炎の閃光を見た

 

「ステイルっ!!」

 

異変に気づいた当麻は凄絶な笑みを浮かべ、振り返らずに魔術師の名前を叫ぶ

そしてまるでそれに呼応するように業火の光量が増した

 

「お姉さんに、蝋燭責めの趣味はないのよっ!!」

 

オリアナは当麻の攻撃を横に避け、動きを利用し当麻の右側へと体を移動させる

上条当麻を反対側から襲い来る炎の巨神の盾として

 

「…、」

 

多少離れた場所に立っていたステイルは微妙に眉をひそめて

 

「一緒に死ね」

「は!? ちょ、うおぉぉ!?」

 

当麻が身を屈めた瞬間魔女狩りの王(イノケンティウス)の右腕が横殴りに振るわれた

その長い腕は当麻の髪の端をわずかに焼いて、オリアナの上半身目掛けて勢いよく迫ってくる

この火力が爆発すれば確実に当麻をも巻き込む位置であるにも関わらず

 

「な…!?」

 

驚いたオリアナが後ろへ下がろうとした直前に

 

「危ねぇだろ馬鹿!!」

 

当麻のアッパーが頭上を通る巨神の右腕を殴りあげる

業火の腕は消滅こそしないもののいきなり軌道を不自然にねじ曲げた

摂氏三千度

掠っただけでも肉が溶ける獄炎

 

(ぐっ…!!)

 

オリアナは腕を咄嗟にクロスし、防御の体制を作った

ガードの上に全体重を込めた当麻の右拳の一撃が突き刺さる

ゴン! という激突音が響く

 

衝撃を逃がす隙がない

ビリビリと両腕に痛みと振動が伝わってくる

 

(!! 硬直するのはマズいわね…)

 

常に距離を取り魔術と物理的カウンターを狙うオリアナは単純な殴り合いなんてものは望んでいない

そんな思考をしていると

 

「吸血殺しの紅十字!!」

 

新たな炎が吹き荒れる

当麻の後ろから両手に炎剣を宿らせたステイルが勢いよく走ってきた

 

(まずっ…!)

 

オリアナは舌を打つ

炎剣の脅威はやはり爆発力

爆炎、爆風をまともに喰らったら恐らく骨も残らない

 

(先に叩くのは、魔術師の方…!!)

 

彼女の意識がステイルへとシフトしたが

突如駆けていたステイルがアスファルトの破片に引っかかってすっ転んだ

 

「帰れヘタレ魔術師!」

 

当麻が叫びながら顔面に拳を放つ

ハッとしたオリアナが注意を戻して顔の前にガードを敷く

 

「黙れっ! このド素人!」

 

当麻の後ろですっ転んだステイルが両手の炎剣を地面に叩きつけた

 

ゴン!! という壮絶な爆発と共に壁のような爆風が前方に襲いかかる

背中を押されつんのめった当麻のバランスが崩れて拳の目測が外れた

オリアナのガードの隙間をくぐるように

顔からわずか下、胸の中心部

ドンっ、という床板を強く踏むような音が響き渡った

 

「が、ぁああっ!!」

 

攻撃が直撃した

理由は単純明快、当麻とステイルの動きが読めないから

 

「邪魔だ馬鹿!!」

「君がどけ!!」

 

チームワークはゼロ

はっきり言ってないと言えるだろう

しかし、そのメチャクチャな動きの矛先はオリアナに向いていて

 

(読めない…!?)

 

互いが協力するならまだしも完璧に互いが互いの足を引っ張りあっている

しかしだからこそ、読みづらい

 

「ちぃ…!!」

 

単語帳を噛み千切ったオリアナは魔術を発動させ氷の剣を振るう

狙いはステイルの腰

だが本命ではない

避けられても粒子を操り剣そのものを組み替えて追撃する準備は万全だ

 

(とにかく、必ず直撃させる。お姉さんの手管で、腰を抜かしてあげるわよッ!)

 

しかし、ステイルの背中から正面に回り込んだ当麻が氷の剣を受け止めた

瞬間的に砕け散るオリアナの武器

 

(普段はいがみ合ってるくせに、こういう時は助け合うの!?)

 

オリアナが驚く前にすでに二人はもう次の行動に移っている

 

当麻が身を屈め右手を構え

ステイルがそのすぐ後ろで拳を握り

 

―――二人同時に攻撃を繰り出す

 

当麻とステイルの拳が同時に飛ぶ

オリアナはどちらを防ぐかは考えた、が、間に合わず

ゴン!! という音と共に

顔と腹に打撃を受けた彼女の体が勢いよく後方へ吹き飛ばされた

 

 

どしゃり、と背中から地面に叩きつけられた

ごふっ、と彼女は肺から息を吐き出す

 

(―――負、ける…?)

 

金属のリングで束ねている自分の単語帳が落ちてるのが見える

ちらりと視線を向けると地面に倒れ気を失っている様子のサトルがいた

彼も、負けたのか

 

(…もう、負ける…?)

 

その事実が彼女の身体から力を抜かせていく

ボロボロの意識は襲ってくる脱力感に身を任せようとして

 

(…基準点、は、どうするの…?)

 

闇に落ち行く彼女の意識に何かが引っかかる

何度繰り返したか分からない、その問い

その問いの苦い味を、彼女は確認する

 

―――絶対の基準点が欲しくて

 

彼女の一つの行いに対して、誰かが感じるのは様々だ

感謝する人もいた

恨んでくる人もいた

どうすればいい、と悩んだところで答えなんて出てこない

人の数だけ考えがあるなら、人の数だけ己の行いの意味が変わってしまうなら

彼女の中にどれだけルールがあっても,受け止める人によって結果なんて様々だ

正しい事なんて、一つもない

 

(皇帝でも、誰でもいい。…誰のためにだって、戦ってあげる…だから)

 

答えがないから、作りたいと思った

全てにおいて満足できるような、その為にここまで来たのだ

 

―――だから、誰か、明確なルールを作ってください。皆を幸せにして、価値観の祖語から来る悲劇なんて生まれることなんてないような、そんな素晴らしい世界を

 

そう己の中で思ったとき

 

カッ、とオリアナの目が見開かれる

 

(―――勝つのよ)

 

足はまだ動かない

故に、彼女は簡単で効率のいい行動に出る

 

(勝手、答えを作る。―――私の、私の名前は―――!!)

 

一度手を離れた武器を、彼女は意地で掴みとる

 

礎を担いし者(Basisl104)!」

 

 

ガキン、ガキンと人形の鋭利な手と両儀式のナイフが交差し火花を散らす

こういった人形のようなやつと切り結ぶのは初めてではあるが、なかなかに手強いと思う

 

「流石、両儀式といった所ですね。油断するとすぐに殺られてしまいそうです!」

 

嬉々とした様子で彼女は両手を動かしている

よく目を凝らさなければ分からないが、彼女の手からは何本か糸が繋がれており、それらは全て人形へと直結している

意外にも動かし方は古風だった

 

「ったく、やけにテンション高いな、お前」

「失礼、ですけど、一度戦ってみたかったのは事実ですわ、直死の魔眼の持ち主!」

 

言葉と共にまた彼女は手を動かす

すると人形の手が変形…といった表現が正しいか不明ではあるが、そこから銃のようなものが飛び出てくる

 

「…なっ…!?」

 

流石にそのギミックには驚いた

再び女の魔術師が手を動かしてそれに呼応するように人形が銃口をこちらに向けてくる

瞬間、人形の手から弾丸が放たれた

式は放たれる前から素早く動き回りなんとかその銃撃を躱していく

 

少し走って、式はたまたま目に映った柱の陰に身を隠す

直後ダンダン、と放たれた銃弾が柱に当たる

 

「くっそ…厄介だな…」

 

一度、二度と息を吐いて気を落ち着かせる

こちらにも遠距離攻撃手段はあるにはあるのだが、相手と違いこっちは数が限られている

しくじれば不利になるが…そうも言ってもいられない

式は義手の調子を確かめるように握って開くを繰り返した

 

「…よし」

 

大丈夫だ、問題ない

覚悟を決めた彼女は僅かに銃撃が休んだその瞬間を見計らい柱から飛び出した

 

「む…!?」

 

級に飛び出した式に相手の魔術師は一瞬ではあるが訝しんだ

その一瞬を、式は逃さなかった

左手に仕込んでいる隠しナイフを取り出し、人形に向かって投擲する

真っ直ぐに飛んで行ったそのナイフは銃口に突き刺さり、僅かながらの隙を生み出す

 

「なっ…!?」

 

そのまま式は目を蘭と輝かせる

人形を視て、その線をなぞるように己の持つナイフを振るった

 

「視えた―――」

 

ヒュン、と振るわれたナイフは人形の線を切り裂く

直後、その人形はバラバラとなり、その場には人形だったモノが残された

式は息を整えるように立ち上がりその場でナイフを弄ぶ

そして一言、こう言った

 

「…まだやるか?」

 

その視線を受けて、魔術師は苦笑いと共に両手を上げた

 

 

その雄叫びを、当麻は聞いた

日本語でもなく、英語でもない外国語

それを意味することに、ステイルがいち早く気付いた

 

「伏せろ上条当麻!」

 

ステイルの足が当麻の背中を蹴り飛ばす

地面に転がる当麻に目もくれず、待機させていた魔女狩りの王(イノケンティウス)を呼ぼうとする

しかしそれより先にオリアナが動く

 

鮮血が散った

 

彼女が放ったサッカーボールのような大きさの氷の球体が、ステイルを貫いたのだ

ステイルはすとんと膝を付き、そのまま言葉もなく地面に倒れ伏した

 

「―――す、ステイルッ!?」

 

当麻が叫んだ

信じられない、という表情で

 

「お前ッ!!」

 

クウガも怒りをあらわにし、接近しようとするがその行動を呼んでいたのかすでに引きちぎっていたもう一枚の単語帳を突きつける

今度は野球ボール大の氷の球体だった

それも一つではなく、無数に生み出されたその球体

しかもあろうことか、わざわざその範囲に吹寄を巻き込んで

 

(―――こいつ!?)

 

それにブラックイクサとクウガは息を呑む

恐らくオリアナは―――自分たちが吹寄を守ることを想定してこの攻撃を仕掛けてきたのだろう

そしてオリアナの思惑通り―――吹寄を守るために二人は己の身体を盾にする

ドドドッ!! と球体がクウガとブラックイクサに襲い掛かる

 

「ぐ、あぁっ!」

「あうっ!?」

 

痛みに耐えるような声がした

無数の球体の攻撃が止んだ時、その場に力なくクウガとブラックイクサが膝を付く

強制的に変身を解除させられた二人が、どさりと地面に倒れ伏した

 

「シャ、シャットアウラさん!? アラタっ!?」

 

倒れた二人に背後の吹寄が駆け寄る

その光景を見て、ギリ、と当麻は拳を握りしめる

 

「―――いい加減にしろよテメェ! いったい何人傷つければ気が済むんだよ!!」

 

使徒十字が使われるかもしれない状況の中、当麻が叫んだのはそんな言葉だった

ステイルは応急処置をしなくてはならないし、ステイルほどではないにしろ、アラタとシャットアウラも心配だ

だがそんな時間すらも、この相手は許してはくれない

 

「お姉さんだって、傷つけたくてやってるんじゃないの」

 

どこか吹っ切れたような表情で彼女は口を開いた

 

「それが嫌だから戦っているの。馬鹿馬鹿しくも見えるでしょうけど、こっちにも目的がある。さぁ、来なさい坊や、貴方を倒せば役目は終わり。あとは使徒十字が望む世界を作ってくれる…」

「他人任せで未来決めてもらってる分際でえらそうなこと言ってんじゃねぇ! これだけの事しでかしておきながら全部自分の意思じゃないとでもいうつもりかよ!」

「―――正直ね、誰でもいいのよ。誰に従うのかは重要な事じゃない。今回はたまたま魔術サイドに縁があったって話よ。使徒十字は、お姉さんの目的を果たしてくれそうだったから、ね」

 

残っている力を温存するように、彼女は口を開く

慎重に距離を測るオリアナに対し、当麻はズン、と前へ踏み込んだ

 

「…その目的ってのはなんだよ」

 

当麻はそう問うた

オリアナは自嘲気味な笑みと共に、その問いに答える

 

「ねぇ、坊や。この世界にはどれだけの主義主張、信仰思想、善悪があると思う?」

「…なに?」

「答えはいっぱいよ。本当にいっぱい。数えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいにね。たとえばおばあさんに譲ってあげた二階建てバスの座席にテロリスト用の呪符が仕掛けられてたり、迷子を保護して教会に届けてあげたと思ったら実はイギリス清教から逃亡してた魔術師で、後で処刑塔に髪を引きずられていったって教えられたり。…今日だって木の枝に引っかかった風船を取ってあげたけど、それも幸福に繋がっているか判断がつかないわ」

 

言葉と共に、ゆっくりと彼女は距離を縮めていく

 

「おかしいと思わない? 隣人を守りたいと思っても、その実隣に立つ人すらも守れないんだから。だからお姉さんは求めるの。上に立つ誰かを、顔も名前も分からない、この世界を支配してる誰かに」

 

オリアナは奥歯を僅かに噛んだ

感じる苦味を振り切るように、彼女は言葉を発する

 

「―――誰でもいいから、この世界の主義主張を支配してくださいって」

 

偶然なんて言葉で自分の親切心全て裏切られた彼女が二度と裏切られないようにする為

だがその目的は大きすぎて彼女一人では叶えられない

だから彼女はより高く、強く、優れた人間に託そうとした

絶対の基準点

偶然が生むすれ違いや、誤解などの悲劇を生まないようにする為に

 

「それがお前の目的か」

 

ずい、と当麻が前にさらに踏み込む

オリアナから視線を逸らすことなく、真っ直ぐにその瞳を見つめる

 

「…なら、お前は安いヤツだよ。悪ってわけじゃないんだろうけど、それでも安い。。そんな程度の自由の為に、学園都市の皆を差し出せなんて申し出は、受け入れる事なんかできない」

「―――なんですって…!?」

 

オリアナの表情が崩れる

その僅かな変化だけで、その整った顔立ちが崩れていく

 

「―――坊やは、坊やは!! 見たことがないからそんな事が言えるのよ! ただ悔しいって言う、その一言を! 子供が希望すら持てず、老人が絶望も持てなくて! その身に降りかかる事態に、茫然と立ち尽くすしかない、そんな表情を見ていないから―――!!」

「それでも、だ」

 

上条当麻は変わらない

強い決意を持ったその眼差しで、目の前の相手を見据えている

 

「それが学園都市を攻撃していい理由にはならない。誰かのために誰かを踏み台にしていいなんて理屈には変えられないんだ、絶対にな」

 

想いや、宗派、国境という大雑把なもので区切られている訳じゃない

確かに価値観や主義主張というのはトラブルを招くかもしれない

だが逆に言えばそれぐらい大切なものだ

譲れないものの一つや二つ、誰だって持って良いんだ

 

「お前が感じているのは、皆感じてることなんだ。そして解決策も、それぞれで違ってくる。目的一個持ってるからって、お前の行動全部が無条件で許されるはずはないんだ」

 

告げながら、当麻は己の武器を握りしめる

 

「俺だっていつでもそう都合良くいくなんて思っていない。だがそこで立ち止まっても仕方ないだろ! 失敗しても、転んでも! 立って歩け、前を向け! どれだけ無様でも、自分の想いが全て裏目に出てしまっても、それならその裏目から皆を引きずり出すために立ち上がるのが筋だろうが!! なのに、他人の人生を、アンタが途中で投げ出すな!!」

 

そして最後に、こう言った

 

「なぁ、アンタはどっちを選ぶ。一度失敗したからって全部を他人に任せるか、失敗してもその失敗した人たちにもう一度手を差し伸べてみせるのか!」

 

その言葉を受けて、オリアナはフッと笑った

これまでのと違い、ごくごく普通の笑顔を

 

 

目の前の少年と戦闘しながら、オリアナ・トムソンは思い出していた

 

いつの日の事だったか、オリアナはあまり覚えていない

運び屋という職業から、彼女はいろいろな国に行くことが多かった

 

しかし事件というのはどこにでも付き物で、その日運悪く事件に巻き込まれてしまった

その事件は近隣の住民さえも巻き込むような、見境のないものだった

だがその事件は誰の犠牲もなく、終結を迎えることになった

 

その大半は、ある青年の助力の賜物でもあった

当然オリアナとしても目の前で誰かが死なれても気分が悪いので手を貸した程度なのだが

 

オリアナは青年に聞いた

 

―――どうして首を突っ込んだの? 

 

それは素朴な疑問だった

明らかにこの場の、いやこの国の人間ではない青年がどうしてこんな危険な事件に首を突っ込んだのか

何となくだけど、オリアナは聞きたくなった

すると青年は、笑顔でこう言った

 

―――だって、ここの人たちは、昨日からの付き合いだから

 

一瞬、言葉の意味が分からなかった

あとで知ったのだが、この青年は友人と一緒に気ままに世界を巡っているらしく、昨日ここに着いて交流を持った家族の厄介になっていた、という事だった

 

―――勇気があるわね。だけど、こう言っては何だけど見て見ぬふりをすることもできたじゃない?

―――だって、手を伸ばせるのに伸ばさなかったら、死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんです。…貴女だってそうでしょう?

 

…もし、その青年が、自分がこの使徒十字を用いる計画に加担していると知っていたら、止めに来てくれただろうか

確証はないが、来てくれそうな予感がする

 

自分が放った渾身の魔術が、少年に捌かれて拳が握りしめられる

驚きはしたが、言葉にその驚きを表現することはなかった

 

拳が己に来るその瞬間、自分はどんな顔をしているだろう

自分で自分の顔を知る由などない

真っ直ぐ突き出された彼の全力を乗せた一撃を顔面に受けた

 

彼女の身体は壮絶な勢いに乗り、後ろへと転がって行った―――




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちら

仮面ライダーカブト(PS2)

こちらは2006年にバンダイナムコゲームスより発売されたPS2用の格闘アクションゲーム
『仮面ライダー龍騎』以降のライダーゲームを担当していたデジフロイドが開発

この作品以降の平成ライダーシリーズのゲーム作品の制作は仮面ライダーカブト以降ストップしていたが、2009年8月6日に歴代平成ライダーが出演する『クライマックスヒーローズ』が発売。カブトも勿論登場する
劇場版ライダーやダークカブト、ハイパーガタックといった全てのライダーが登場しているのも特徴の一つ

ただ、仮面ライダーのゲームは基本は子供向けのはずなのに難易度が中々高いのにプラスして操作が難しい
操作性に関してはマニュアルからラクラクに変えられるし、難易度も変更可能だがよわいにした場合では隠しキャラクターが出ない

しかし平成ライダーのゲーム作品としての評価は高く今も人気のあるゲームといえるだろう。
キャストオフ、クロックアップシステムも完全再現されており、戦闘における戦略性も高い。
ちゃんとマスクドフォーム時の防御力の高さも再現されている。ただし、残念ながらプットオンは不可
キックホッパーのライダーキックは原作の様に連続キックをしている
余談だがこの連続キックは原作でソレを見た開発スタッフがその格好良さに痺れて、既に決まっていたノーマルキックを削除し新たに作られたモノに変更したと言われている
隠しキャラの仮面ライダーコーカサスの声は劇場オリジナルの武蔵ではなく、中田譲治が起用されている
その声と演出も相まってリアルに『痛そう』なライダーキックとなっている
また、EDロールでのキャラ名表記が間違ってたりする(黒崎一成ではなく一誠)

発売時に番組に登場したばかりのダークカブトも出演するが、キャラが本作品ではまだ定まっていなかった
その為、本編と比べてキャラのギャップがある
ライダーキックも回し蹴りで相手の姿勢を崩して後、ゼクターのスイッチを押して踵落としを決め、そのあとで踏み砕くものとなっている
本編よりこちらのキックの方が格好良いと言う声も多く、カブト好きなら一度見る事をオススメしたい
また、本編未登場のダークエクステンダーが登場する

因みにゲームやアニメのお約束である『テレビを見る時は部屋を明るくして~』の説明は、ゲーム起動時に天道が直々に『おばあちゃんの教え』として言ってくれる。
また、たまに坊っちゃまがじいやの教えとして言う時も

登場ライダー

カブト
ザビー(加賀美 矢車 影山)
サソード
ガタック
ドレイク
キックホッパー
パンチホッパー
ダークカブト
ヘラクス
ケタロス
コーカサス
ハイパーカブト
ハイパーガタック

アラクネアワーム(ルボア、フラバス、ニグリティア)
ベルバーワーム(通常、ロタ)
フォルミュカアルビュスワーム
ゼバルチュラワーム
アキャリナワーム アンバー
タランテスワーム バーブラ
ウカワーム
スコルピオワーム
ゼクトルーパー(通常、シャドウ)

放送時期の都合上、カッシスは未登場

余談だが開発元のデジフロイドは歴代ライダーゲームにおいて余り芳しくない評価を受けており、このゲームが発売された同年にも『宇宙刑事魂』といういわゆるクソゲーを輩出したことで発売前の期待感は皆無だった
しかり蓋を開けてみればなんとこれまでのゲームとは打って変わって良作であり、購入者を驚かせた
このことは「デジフロの奇跡」と呼ばれ、開発スタッフはワームに擬態されていたんじゃないかとまで言われているほど

また、本作の影響で「やれば出来る子」にイメージが変わりつつある
『クライマックスヒーローズ』が原因でもあるが

以上、アニヲタウィキからでした
自分は残念ながらこのゲームを持っていないのです(友人のをやっただけ)
買おうかなー、なんて思ってはいるのですが結構な値段がするゲーム(中古でも6000くらいはした。今はわかりませんけど)

ではまた


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#61 本当の主役

次回でようやっと大覇星祭は終了
改めて見直すとよく妹達編を五本に纏めることが出来たなあの時の私

鎧武のラストに思いを馳せて、ドライブに期待を寄せながら日々を過ごすこの頃

相変わらずですがどうぞ


アラタが目を覚ました時、オリアナ・トムソンはすでに地に倒れていた

それを機に、オリアナが張っていた結界が消えたことを感じた

旅客機の音が思い出したように耳に聞こえてきたからだ

 

「―――おい、大丈夫、か」

 

すぐ横で気が付いたシャットアウラがアラタに声をかけてくる

それと同時にシャットアウラとアラタの両方を心配している吹寄も視界に入った

とりあえず吹寄にジェスチャーで大丈夫という事を伝えながらゆっくりと立ち上がった

 

「ステイルッ!」

 

当麻の叫びが聞こえた

彼はボロボロの身体を動かし離れたところで倒れている魔術師の所へ駆け寄った

 

「…アウラ、俺たちはオリアナから情報を聞こう」

「―――そうだな。…倒れている相手を叩き起こすのは忍びないが」

 

頷き合い、歩み寄ろうとしたときだ

 

<心配する必要はないかと。直にすべてが終わりますので>

 

声が聞こえた

女の人のものだ、オリアナよりも少し年齢は上か

周囲を見渡すが人影はいない、その声は倒れているオリアナの懐から聞こえて来ていた

 

「…この声は」

 

リドヴィア・ロレンツェッティ

使徒十字を発動させる計画に加担し、支配によって科学サイドを制圧しようとしている人物

 

<間もなく使徒十字は効果を発動し学園都市は我々ローマ正教の都合の良い方向へと改変されるかと。従い、これからどんな行動を起こしても、それだけ傷を受けていても無意味となります。それらを含めた何もかもが、ねじ曲がるので>

 

それは、今この場に使徒十字がない、という事で

 

「ここで私たちを皆、始末しよう、という根端か」

 

シャットアウラが言葉を紡ぐ

しかし、リドヴィアは特に動じた様子もなく

 

<勘違いなさっているのでは。私たちは貴方たちの傷さえも慈しみ、治してみせると告げるだけで。最も、それがローマ正教にとって有益だと判断できれば、ですが>

 

「まともに、取り合うな」

 

倒れたままでステイルが言葉を発した

 

「奴らが使徒十字を使おうとしている以上、必ずどこかに本体と霊装がいるはずだ。上条当麻の右腕なら、どんな霊装も一撃で破壊できる。だから行け、この近くに必ず―――」

 

<誤解の無いように、申しておきますが>

 

そのステイルの言葉を遮るように、リドヴィアが言葉を発する

自分の言葉に、絶対の余裕を持ちながら

 

<使徒十字は現在、〝学園都市にはありませんので〟>

 

耳を疑った

思わず「は?」なんて変な声を上げたほどだ

 

<そちらは学園都市にある天文台を調べていたようですけれど。それさ全ては、我々が誘導していた結果に過ぎないので。どうやら学園都市外にある天文台までには気が回らなかったようで>

 

それは、つまりは、学園都市の外にある―――

 

<使徒十字の最盛期における有効範囲は四万七千平方キロメートルの領土を所有していましたのでおおよそ二百キロ四方かと。当然、学園都市の外から放っても余裕で街全体をカバーできると思われ>

 

「―――つまり、オリアナとやらは囮という事か!」

 

シャットアウラが叫んだ

 

<えぇ。彼女の役割は本件に関わる人員、迎撃用戦力の注目を別の方へと向けさせて誘い込むことだったので。その気になればオリアナは人払いなどの気配遮断術式を用いても問題なかったのですが、エサが無ければ魚はつれない、ということで。あえて彼と一緒に姿を晒してもらっていました>

 

淡々と修道女の声が響く

 

<使徒十字の使用には時間がかかりますし、ポイントとなる〝天文台〟も固定されてます。一番懸念すべき点は、やはり全ての〝天文台〟を事前にそちらの迎撃要員に押さえられてしまう事で。こちらとしては全ての天文台を事前に迎撃要因に抑えられてしまうことです。これをどう防ぐかに焦点を抑えるかで。そこで、オリアナが学園都市内部で意図的に動きを見せることにより、貴方達迎撃要員の目を全て街の内部に向けさせるという作戦を考えましたから。霊装を持っているのは私であり、時間が来るまで私はホテルで待機していましたし、実際に十字架を突き立てたのも街の外でしたが、感づかれる事はなかったみたいですね>

 

ぎり、と当麻が歯噛みする

しかし、だからといって具体的な対抗策が浮かぶわけでもない

 

<彼女には先も言いましたが、気配遮断系の術式は出来る限り使わない、という方向で動いてもらっていました。といっても一番最初の〝表裏の騒静(サイレントコイン)〟が破られた時は流石に焦りましたが。あの時は下見段階だったので。彼女が予想より早く捕らえられてもこちらの目的は果たせませんので>

 

堂々と、己の作戦の内容を敵に話しているのはひとえに勝利が確定すると思っているからだ

茫然とする彼らの耳に、リドヴィアの声が響いていく

 

<結果として彼らが倒されてしまったのは大変残念ではありますが。それすらも使徒十字は都合のいい方向へと変えてくれるかと。結果を言えば、彼女らの敗走はいくらでも取り返すことが出来る些事にすぎませんので。学園都市外から丸ごと学園都市を支配すれば、それで逆転、計画通りという事です>

 

どうする、とアラタは考える

土御門に頼んでリドヴィアの位置を特定してもらう? いいや、アイツの怪我でそんな事を頼んでしまっては今度こそ命が危うい

 

<―――貴方たちは、この改変をどう受け止めているので?>

 

その言葉に、ステイルが言葉を発した

 

「ソドムと、ゴモラみたいに壊滅させられないだけマシかもしれないが…。やってるのは、似たようなこと、だろう。ローマ正教にとって気に入らない場所を、活動不可に追い込んで、神の威光を示す―――」

 

<それこそが間違いなので>

 

即座にリドヴィアが返答する

 

<これらにとって重要なのは、はびこっている科学が宗教に屈する、という一点のみで―――>

 

「今の科学の傲慢さはかつてのローマ異教徒と同じもの。奴らの信じるものを否定し、自分達の力を示す事で、主はその権威を取り戻す、か?」

 

そこに別の声が聞こえてきた

当麻とアラタ、シャットアウラが振り向くとそこにゆっくりと歩いてくる式と、彼女に並走するように蒼崎橙子の姿があった

 

「…橙子、なんでここに」

「何。結界が張られた気配がしてね。気になってここに来たんだが」

「んで、列車から降りてきたトウコとたまたまオレが鉢合わせたってわけ」

 

軽く現状の確認を取った後橙子は「で」と言葉を区切りリドヴィアの方へと意識を向ける

 

「話の続きをしようじゃないかリドヴィア。要はお前は、科学的な考えが気にくわないんだろう?」

<―――えぇ、そうです。科学的に正しいと言われると無条件で人間は信用する節があります。己の目で確かめようともせずに>

「まぁ。確かに科学とはそう言った使われ方もするかもしれないな。科学的に正しいって言われても実際そうなのかは分からないのにな」

 

くく、と燈子は小さく笑う

常識的な科学、という言葉は学問の進歩と共に変わっていく

冥王星は千九百三十年まで誰も見つけられなかったし、青い色の発行ダイオードは作れないと言われた時期もあった

たとえ正しくても、それが必ず正しいとは限らない

わきまえずに使う科学的に正しい、とは先生が言っていたから絶対正しい、というレベルでしかない

 

リドヴィアとそんな会話を繰り広げている橙子の傍ら、当麻はアラタたちの所に走ってきていた

自分たちが聞いたってわけがわからないのだから、今はどうにかして現状を打破する手段を考えなくてはならない

 

「時間は? …まずいな、準備完了じゃないか」

 

空の色は完全な紫色だ

インクが白紙ににじむみたいに星の輝きがたくさん散らばっている

時間的に探知して学園都市外にいる外の部隊とやらに頼んでも確実に間に合わない

通信術式の向こうでリドヴィアが笑みを作っているのが頭に浮かぶ

 

必死に思考を動かしているが、何も打開策が浮かばない

ギリ、と歯が砕けそうな思いで噛みしめる

 

使徒十字の有効範囲は、おおよそ四万七千平方キロメートル、星座を利用した魔術…、実際は星の位置でなく、使用するエリア、特長、特色、特性を調べて、さらにもっとも効果的な星座を選んで、降り注ぐ星の光を地上で集めて使う、という事は

 

そこまでを考えて、当麻とアラタがハッとした様子で顔を上げた

 

「橙子!」

 

アラタが叫んだ

うん? とちょっと頭上にハテナマークを浮かべた橙子に対し、アラタは言う

 

「学園都市外部、かつ学園都市を巻きこめる使徒十字の使用ポイントっていくつある? それと一番遠いポイントも」

「は? …いや、まあいい。外のあるポイントは五か所で、距離が離れているのは都市外周北部、千七百メートル、と言った所だな」

 

「シャットアウラ、パンフレットを貸してくれ!」

「あ、あぁ」

 

勢いに若干シャットアウラは困惑しているが、説明をしている時間はない

差し出されたパンフを受け取ると急いで中を開く

 

<今更何をしても無駄ですので。さらに希望を潰しておきますと、私はそのポイントのどこにもいませんが>

 

そんなリドヴィアの声を完全に無視し、その場所にはパラパラとパンフレットのめくる音だけが聞こえる

そして、やっと開いたそのページを見て思わず当麻はパンフをその場に落としてしまった

パサリ、と紙の音がその場に響く

気になったのか、橙子はパンフが落ちたところへ歩いていき、落ちたパンフを拾い上げた

そして開いていたページを見て、息を呑んだ

 

<どんな手段を用いても、使徒十字の発動を止めることは不可能ですし、私のいる場所に辿り着くことも不可能ですので。えぇ、全てお終いです。私は貴方方を含め、世界をより良い方へと作り変えてみせます>

 

その言葉に、アラタは小さく息を吐いた

 

「―――確かに、これはお終いだ」

「あぁ、姫神と約束しておいて、この様じゃあな。そう思うだろ? リドヴィア」

 

彼はリドヴィアに向かい、言葉を言い放つ

その表所には、笑みが浮かんでいた

 

「〝いくらお前の幻想をぶち壊せてもよ〟」

 

<―――は?>

 

とリドヴィアが疑問を口にする前に

 

ドォン、と強烈な光が地上より放たれて、暗闇が拭い去られる

それは学園都市に飾り付けてある電球やネオン、レーザーライトにスポットライト、ありとあらゆる電飾の光を塗りつぶす

そしてどこからか、明るい音楽が流れてくる

それはまるで子供向けのテーマパークみたいなものだ

 

「現時刻は午後六時三十分ちょうど。…ナイトパレードの始まる時間だぜ」

 

アラタが時計を確認しながらリドヴィアに告げる

通信術式の向こうで息を呑むのが分かるほどに、リドヴィアは動揺している

 

気が付けば、あんなに瞬いていた星の輝きがどこかへと消えてしまっていた

か弱い星の輝きはより強い光の中に溶け込んでいく

 

「はっはっはっ! 残念だったなリドヴィア。なるほど、確かにこの学園都市中をライトアップするこの光の量があれば、一番遠いところも塗りつぶせる。すなわちそれは、他のポイントもすべて塗りつぶせるという事だな」

 

そんな笑い声と共に蒼崎橙子が口を開いた

時間は過ぎていたが、特に世界は変わらない

 

「…思えば、俺たちは脇役だったんだよ」

 

千年の前から輝きを放つ術式が、今この場で放たれる人口の輝きに敗北を喫した瞬間だ

 

「かもな。大覇星祭の主役は何なのか、それを調べるべきだったんだ」

 

パンフレットを橙子から受け取ってそれを畳んでシャットアウラに返す

最も、シャットアウラは何が起きているのか分かっておらず、その隣にいる吹寄も目が点になっている

ふと、式がリドヴィアに向かって呟いた

 

「それで、どうする。このくらいじゃ大覇星祭は揺らがなかったみたいだが。もう手は出してこないってんならそれはそれでオレたちは問題ないぜ? なんとかピエトロを壊すならな」

 

<―――本気で言っているので?>

 

応える彼女の声には僅かに低い緊張が混じっていた

弾けば爆発するほどの

 

<その申し出を受ける可能性は低いものと思うのですが>

「ああそうかよ」

 

短く吐き捨てると式は思考からリドヴィアの事を切り捨てる

チラリと視線を向けると、この場で魔力を逆探知できる土御門がゆっくりとよじ登って歩いてきていた

しかしたとえ割り出しても結局は使徒十字と一緒に逃げてしまうだろう

まぁ、思惑の違いはあるかもしれないが、リドヴィア達をつかまえる、という事に関しては同じはずだ

回収される使徒十字の行方も不安だが、まぁその辺はイギリス清教に協力的な組織だけにリドヴィア捕獲を手伝ってもらえれば問題ないだろう

 

「…もうやることはないな、当麻」

「だな」

 

当麻は笑んだ

そして最後に、リドヴィアに向かってこう告げた

 

「じゃあ後は、運動会みたいに追いかけっこでもするんだな」

 

◇◇◇

 

<よっしゃあ!! ここからは俺達、ビートライダーズのステージだァァッ!!>

 

病院にあるテレビ画面からはそんな音声が聞こえてくる

彼彼女らは、最近巷で噂のビートライダーズと呼ばれるダンシング集団だ

時に競い合い、時に協力し合いダンスをし、今やこの学園都市の学生に知らぬ者はいないほどの人気を持つ

因みにチーム鎧武とかいくつかチームがあるらしいが、アラタはあまり詳しくはない

しかしナイトパレードの中で踊る事はパンフレットにも載ってあったので、アラタとしては生で見たかったのではあるのだが、この状況では仕方ないか、と諦める

 

現在時刻は夜、そこそこボロボロだったアラタら五人は(式は無傷だった)駆け付けてきた警備員(アンチスキル)に見つかるなりとりあえず病院に搬送されることになった

搬送先はいつもの冥土返しのいる病院だ

学区が違う事を考えると何か別の力が加わってそうだが、考えても仕方がないので考えないこととする

連絡を聞いたのか、藤乃も病院に戻っており彼女に会った時「また無茶しましたね」と怒られた

 

「…とりあえず、守れてよかった」

 

ベッドの上に横になりながらアラタはそう呟いた

色々と激動な出来事が起こりすぎてゆっくり休めることもなかった

病院のベッドの上ではあるし不謹慎だと思うのだが、今回はゆっくり休もうと―――

 

「しれっとベッドで寝ようとすんな」

「ふおはっ」

 

ペチ、と額をパンフか何かで叩かれた

 

「…アンタ、また私たちに黙ってなんかやってたでしょ」

 

視線を向けるとそこにムスッとした表情の御坂美琴が立っていた

彼女の傍らには白井黒子もおり、同様に彼女も苦い顔をしている

 

「…お兄様も、その行動が逆に心配させるという自覚をお持ちになってくださいまし」

「は、はは。…申し訳ない」

 

因みにこの場には佐天涙子と初春飾利の両名がいたのだが、今日の疲れが来たのか、病室の外にあるベンチに腰掛けたまま、お互いの肩を寄せ合って眠ってしまっている

 

「…誰かを守るのもいいけれど、さ。たまには自分の身体も労わりなさいよね」

「―――あぁ」

 

不意に美琴はそう呟いた

その表情はどこか不安げであり、少しだけ悲しそうにも見えた

隣にいる黒子も車いすの上で視線を巡らす

恐らく、心中は美琴と同じなのだろう

そんな二人に申し訳なく思いながらも短く返事し、改めてアラタはベッドに横になった

 

 

場が熱狂で埋め尽くされている中で、門矢士は目の前の男性と会話をしていた

名を皇カイト、この世界での電王だ

 

「…この世界に逃げ込んだ相手を探している?」

「えぇ、心当たりがあるかなって思いまして」

 

現在カイトにはどのイマジンも憑依しておらず、普通のカイトが立っている

いや、イマジンが憑依していたら憑依していたらで面倒くさいのだが

しかしこの大覇星祭で疲れているのか、彼のイマジンが現れる様子はない

 

「力に慣れなくて悪いが、心当たりはないな」

「…そうですか。いえ、そいつがこの世界にいるのは間違いないんですけど」

 

ちらりとカイトはステージへと視線をやった

そこではビートライダーと呼ばれるダンスチームが交代交代で曲に合わせて踊っており、それに合わせて観客らも手でリズムを取ったりしている

 

「相手の特徴ってのは何なんだ? よかったら教えてくれないか」

「それはもちろん。そいつの名前は―――」

 

盛り上がったボルテージと共に放たれた花火の音が木霊する

カイトからその名前を聞いた士はふぅん、と息を吐きながら頷いた

 

「―――本当、退屈しねぇな、この街は」

「それは同感です。同じように、いろんな願いが溢れてる」

 

 

現在リドヴィアはフランス上空、高度八千メートルの場所にいた

彼女が所持している自家用ジェットの中である

出口のハッチ側の座席にポツン、とリドヴィアが一人座っている

そのすぐ隣に白い布で巻いた大きな十字架が立てかけてあった

彼女は宗教としての科学は嫌ってるが、技術として科学は受け入れるしかない、と考えていた

要は使い方の問題なのだ

 

(命無き形だけの偶像(かがく)を信仰するのでは、まさに悪しきローマ時代の異教そのもの)

 

ふと視線を横に移す

そこにはコクピットへ繋がるドアがある

今そのドアは開かれ、落ち着いた動作で計機をいじるパイロットの背中が見える

彼はどちらを信じているのだろう

この自家用ジェットはオリアナの個人的所有物でローマ正教の息はかかってない

おそらく彼はローマ正教徒だろう

 

浅いレベルでの

 

(科学の道具を一切否定するのではなく。それに頼り切るあまり、主の威光を忘れてはならないという事なので)

 

思ってからそっと彼女は息を吐く

事実上リドヴィアが行っているのは敗走

貴重な戦力、〝罪人〟オリアナとサトルも捕らえられ、天文台の位置も特定された

使徒十字は夜空が見えなければ使用できない

天文台の真上に何か簡単な建物が作られたらもう学園都市周辺での使用は難しくなるだろう

 

「…ふふ」

 

しかしそれでもなお笑う

 

「可哀想。あぁなんて可哀想なオリアナ・トムソンと東條サトル。ふ、ふふ…救わなければ、あそこに捕らわれている迷える〝罪人〟をこの手で救わなければ…」

 

彼女は自分に降りかかる不幸、逆境をねじ曲げ、前へ進む原動力へと変換する

 

学園都市に踏み込むには

安全に二人を救うには

傷一つなく全て終えるには

思い浮かんだのは到底無謀とも言える願いのみ

だが、目の前の状況が困難であればあるほど

最終的に目指す場所が高ければ高いほど

 

リドヴィア・ロレンツェッティは全てを踏破したうえでの時を考えて無上の喜びを見出す

まるでスポーツ選手が生涯の好敵手との出会いにも似ていた

 

告解の火曜(マルティグラ)

 

語源は十字教における四旬節の直前に行われる祭の名前であり、リオのカーニバルなどがこれに該当する

彼女にその名が与えられた理由は一つ

 

「ふ、ふふふ。はははっ! 私は進みますので。幸運だろうと不幸だろうと、全てを呑みこみ、大喰らいの祭(マルティグラ)の名に相応しく、総ての現実を砕いて糧にして差し上げますから…!」

 

飴を上げても、鞭を上げても同じ反応しか示さないもの

とどのつまり、どんな人間にも彼女の行いを止めることは出来ない、という事を意味している

何を与えても喜びしか得ない人は、何を与えても笑顔と一緒に前へと進む

妨害行為自体が、彼女の足を進ませる自殺行為となりえてしまう

 

「まずはローマ正教内部での事後処理、のちにオリアナ、及びサトル回収のための作戦の立案、そして最後に学園都市への攻撃再開…! あぁ、壁は高く、そしてなんと甘美なのでしょう…!」

 

その独り言にパイロットはびくつきを隠せない

しかしその態度すらも彼女は焼けつくような闘争心へと変換する

ふと、そんな時だ

 

<あっあー。アテンションプリーズ?>

 

突然、女性の声が木霊した

ギクリ、とリドヴィアは肩を震わせた

このジェット機にFAなんていない

コクピットから慌てたような物音が聞こえてきており、パイロットも何も知らないようだ

 

だが、リドヴィアは知っている

 

この、女の声は

 

<イギリス清教最大主教(アークビショップ)、ローラ・スチュアート。分からずなんてそんな冷たきことは言わぬわよね、リドヴィアお嬢ちゃーん?>

 

楽しそうな声がした

告解の火曜よりもはるかに重大な異名を持つ女のものだ

現在の教会史を語るには外せない人物

噂によれば英国の女王と同等か、それ以上の顕現すら有していると言われている化け物

 

彼女は息を呑む

恐怖と歓喜、二つの意味で

強大すぎる敵は、彼女の前では魅惑的な子羊だ

 

「…なぜ、この自家用機が」

「名義を変えてイタリアからわざわざフランスで離着陸していたみたいだったけど、その程度で誤魔化せると思ってたのか? 羽田に停まった時に張らせてもらったよ」

 

今度は男の声が耳に届く

その時の声は妙に甲高い声で、周囲を見渡しても人がいるような気配はない―――と思った時だ

ふと赤い魔方陣が現れて、少しづつそれが大きくなっていく

やがてそれは成人男性ほどの大きさに代わり、そこに一人の男が現れる

 

「―――よう。リドヴィアさん?」

「ソウマ…マギーア…!」

 

件の最大主教と同等に話せるこの男

かつ保有している力は未知数―――力量の底が知れない、イギリス正教の魔術師

 

「…」

 

目の前の男を睨む

しかし目の前の男は特に気にするでもなく、近くに現れた赤い魔方陣の中から紙袋のようなものを取り出し、どっかと空いているソファに腰掛けてドーナツを頬張り始めた

そんなソウマを無視し、リドヴィアは思考を加速させる

 

恐らく張られたのは機体の外側だろう

しかし取り外すことは出来ない、音速を超える機体の壁に張り付いて動くなんてできないし、それ以前にドアを開けてしまえば気圧差で機内の空気ごと外に投げ出されてしまう

 

しかし、イギリス清教の独力でこの機体を探せたのであろうか

そうなら使徒十字を持って二本に行く便で何らかのアクションを起こせたはずだ

それがない、という事は日本に着いた時に特定できた、という事か

と、すると

 

(学園都市の、協力が…?)

 

何しろ状況は絶望的に他ならない

通信霊装が貼り付けられた時点でこちらの機体の場所は知られている

今から着陸する場所を変えたところで悠々と相手は出迎えるだろう

だが

 

「―――ふふ」

「…ローラから聞かされてたけど、改めて見ると気味悪いな。逆境でないとアンタは力は発揮できないのか?」

「潜水や遠泳と同じなので。距離が遠いほど苦しみは増しますが、その分達成したときの喜びも大きくなるのですから」

<この苦行で快楽を得しマゾヒストが。その甘い感覚を引きずりて、またもや学園都市を襲うとでも言うと?>

 

ククク、とそれでもなおリドヴィアは笑みを浮かべる

大きく目を見開かせ

 

「私は主に感謝しなければなりません…! このようなご馳走を用意してくださった事に! 分厚く硬い肉はそれだけで噛み応えも十二分…! 次に会いまみえるときが本当に楽しみなので! あッはは…! あははははははっ!」

 

このまま数分話しておけば本当に鉄板でも噛み砕いてしまいそうな表情をするリドヴィア

その常軌を逸した行動に

 

「は」

「…?」

 

ソウマがドーナツを食べ終えて、空になった紙袋を丁寧に折りたたみそれをポケットに仕舞いこむ

 

「壁が高いほど、それを乗り越えた時の喜びが大きくなる、か」

 

僅かな沈黙

 

「それも一理あるよね。このクソドM野郎」

 

パチン、と彼は指を弾く

瞬間、バン、と言う音が横から聞こえた

慌てて振り返ると入り口であるハッチの縁が切り抜かれている

灼熱の、オレンジ色の輝きと共に

 

「まさか、ハッチにも―――!?」

<フー! フー! フーフーフフー!>

 

いつの間にか、ソウマの姿は緑色の宝石みたいな顔をした姿へと変わっていた

リドヴィアは何とか落ちまいと壁の出っ張りに手を引っ掛けて抗いを見せる

彼―――ハリケーンスタイルとなったウィザードはそんなリドヴィアを見ながら―――

 

「空の旅へ―――ご案内」

 

無慈悲にそう呟く

引っ掛けたその手は二秒と持たず、あっけなく彼女の身体は外に放り出された

ひ、なんて声も出せずに

 

高度八千メートルの空に、彼女の空が投げ出される

超高空の空気は吸っても吸ったような気になれない

あまりにも高度が高いために、落ちているという感覚さえない

 

そんな彼女の前に一枚のカードがヒュン、と横切った

プラスチックみたいなペラペラの素材に、マジックで書いただけの子供騙しじみた霊装

しかし描かれた魔法陣の繊細さは丹念に作り上げたペルシャ絨毯さえも凌駕していた

 

<貴様の力自体は非常に惜しい。ローマの教えを捨て、我が足元を舐めるのなら救いてもよいのだけど?>

 

そう言うからにはあちらも何か手を打っているのだろう

しかし、とリドヴィアは跳ね除ける

 

「何を、たわけた事を―――」

 

「そっか。じゃあアイツと一緒にクレーターでも作るといいよ」

 

今度はリドヴィアの右側

そこには風を纏って空を飛ぶウィザードの姿が見えた

彼が指差した方向にリドヴィアは視線を動かした

 

頭上に見える自家用機から、白い布に巻かれた十字架のシルエットが飛び出してきた

それは使徒十字そのものだ

骨董品と変わりない強度のその霊装

高度八千メートルからの落下には、いくら下が海面でも粉々だ

 

「させませんので―――!」

 

彼女は少ない酸素を取り込んで叫んだ

両手を広げて呪を紡ぐと彼女の空がふわりと速度を落とした

本来は防御用の術式で、あらゆる物体の加速を遅らせる、というものだが、重力落下に対して使えばパラシュートに似た効果を得られる

 

(使徒十字の落下コースを計算し、今の速度のまま向かうことが出来れば…! 間に合います、いえ、間に合わせてみせますので!!)

 

時間はギリギリだが、だからこそ面白い

彼女は何とか態勢を整えて十字架を受け入れる体制を作り上げる―――が、ふと視界に入ってきたのは一人のパイロット

手足を乱暴に振り回し、もがいている彼は、パラシュートをつけているようには見えない

その姿はあまりにも無防備だ

 

<さあお前はどちらを選ぶ? 最大級の霊装か、哀れな迷える子羊か?>

 

それに返答する暇もなく、そして容赦なく使徒十字はリドヴィアの元へ落ちていく

縦百五十センチ、横七十センチ、太さ十センチ強の大理石の塊

それが四百メートルから落下するとなれば、ちょっとした帆船を吹っ飛ばすくらいにはなるだろう

 

(前面に防御の展開、熱さは許容限界値、わざと厚い壁を破らせて、少しでも速度が落ちれば―――!)

 

瞬間、大理石の塊が真っ直ぐにリドヴィアの下に落ちてきた

シールドはいとも簡単に破られて、確かに速度はある程度失ったとはいえ、それがリドヴィアの胸板に突っ込んだ

ミシミシゴキ、という不気味な音がリドヴィアの耳に届き、彼女は鉄の粘液を吐き出した

 

「ご、っはぁ!?」

 

血を吐きながらそれでもなお、抱き着いてる白い布に、己の指を食い込ませる

今度はパイロットを見る

全てを止めるのは不可能、それを狙うくらいなら切り捨てられるものは切り捨てた方がいい

しかし

 

目の前の状況が困難であればあるほどに

 

(ダメ、今考えては、それこそ、死んでしまうので―――!!)

 

そんな彼女に、付近を飛ぶウィザードは語る

渇いた大地に、水を与えるように

 

「困難が多ければ多いほど、壁は高ければ高いほど…〝それを乗り越えた時、それを作りだした俺たちを踏みにじる喜びが、大きくなるんだよな〟」

 

プツン、と何かが彼女の中で途切れた

 

「踏みにじる…!?」

 

血の味しかないぐらつく意識の中で、彼女は考えることは

 

「ここまで舐めた最大主教の高い鼻を―――? あの余裕ぶった、生意気な魔術師(ウィザード)の、あの態度を―――」

 

彼女は考えた

考えてしまった

 

それを成し遂げた後に来る、その高揚感、どう猛な感覚

うっすらだった笑みが、徐々にしっかりと形作る

 

「…あ、あはは」

 

唇が横に避け、そこから血の混じった唾液を垂れ流す

その表情を見てパイロットはヒィ、と恐怖の声を上げた

挑戦心や闘争欲に染まった表情を浮かべ、使徒十字を掴んだまま彼女は両手を開く

 

「ああはははははっ、うふふ、あは、ひひあははははははぁぁぁっ!!」

 

長らく待っていた恋人の帰りを出迎えるように、直撃と共に襲い来る痛みさえも歓迎なのだと告げるように

リドヴィア・ロレンツェッティは満面の笑顔を浮かべた

そして

 

◇◇◇

 

学園都市には窓もドアもないビルがある

単純な核爆発の高熱や衝撃波程度なら吸収拡散させる素材で作られた学園都市でも最強クラスに位置する要塞

通路や階段、エレベーター、通風化すら存在しない為、内外には空間移動能力者の協力が必須となる建物に、一人の〝人間〟が佇んでいる

 

学園都市統括理事長

 

アレイスター=クロウリー

 

「…ふむ」

 

彼は薄暗い一室にいた

その部屋は広くどこか肌寒さを感じさせる

真ん中には巨大なガラスの円筒器が鎮座しており、その中には赤い液体が満たされている

その円筒器には大小無数のケーブルやチューブなどが接続されていてそれらは床を覆い尽くしさらに四方の壁を埋め尽くし計器類に繋がっていた

アレイスターはその円筒器の中に逆さまで浮かんでいる

 

「使徒十字による、学園都市支配化と、世界の利権の獲得か」

 

ポツリと呟く

当人のオリアナやリドヴィア、サトルの個人的な目的はどうであれ、あれほどの事を成し遂げるにはローマ正教本体協力なしでは不可能だ

むしろローマ正教が立案した計画にリドヴィアらが食い付き、それを利用するべく動いた、という風に考えた方が分かり易いだろう

 

「…随分と。大きく揺らいでしまったものだな」

 

コツリ、コツリとアレイスターに近づいてくる足音

アレイスターは視線を動かすでもなく、その訪問者の名を呟いた

 

「何か、用かな。オーディン」

「特に用などないさ。気になったからではダメかな? アレイスター」

 

ふん、とつまらなそうにアレイスターは息を吐いた

使徒十字の一件は、とある少年二人が事を収めたものの、あまり上手いとは思えない

今後も同じ手が通用する確証はない

 

「計画を早める必要があるかもしれないな。元来、こんな些事のために使うような安い計画ではないが」

 

アレイスターが呟くと同時何もない空間に四角くい画面が表示された

そこには世界地図と、九千九百六十九ヶ所の赤い点

 

「鍵となる幻想殺しの成長は未だ不安定。果たしてこれも使えるかどうか」

「元々これほど早く実用を迫られるとは思っていない計画だ。まぁ、無理はないかもしれないが」

 

声と同時、先ほどの画面に重ねる形で新たな画面が現れた

四角くい画面に映ってるのはガラスで出来た四角くいケース

その中にはねじくれた銀の杖が浮かんでいた

 

「我々が打って出る可能性も、考えなければならないかもしれないな。オーディン」

 

闇の中で人間は笑う

その姿は世界最高の科学者によるものか

その姿は世界最強の魔術師によるものか

 

その人間の胸の奥にあるものは、誰にもわからない

 

「―――ほう。では、その時を楽しみにしているよ」

オーディンは短く呟いて、その場から空間転移のようにその場から姿を消した

彼がいた場所からは、黄金の羽がひらひらと舞っていた―――




今回の気まぐれ紹介のコーナー

今回はこの方

「ゼックゥゥゥトの諸君ッッ!!」

乃木怜治
演:坂口拓

〝カッシスワーム・ディミディウス〟

初登場時の形態
人間態の性格は感情を表に出さず冷酷。フードの付いた黒衣と眼鏡が特徴
怪人態は刺々しい紫色のボディと右手のハサミが目を引く

ZECTが偶発的に開発したワームの擬態能力を一時的に奪うアンチミミック弾を使うために住民を避難させていたところを黒衣の女達と共に襲撃。応戦した仮面ライダーガタックを一瞬の攻撃で変身解除に追い込む戦闘力を見せる

その後、ワーム一掃の作戦実行中のZECT部隊を待ち伏せて襲撃し、周囲をワームで囲いZECT部隊を掃討。そして乃木はマスクドフォームのガタックに対し、杖での連打や拳のラッシュ、ヘッドパットからのシャイニングウィザード、蹴りの連打を 人間態 のままかまし、ガタックを一方的にボコった

駆けつけた仮面ライダーカブトに対しても互角以上の戦いを続けるが、ハイパーフォームとなったカブトがハイパークロックアップを発動
これで終わりかと思われたが、カッシスワーム・ディミディウスはハイパークロックアップすらも超える超高速移動、事実上時をとめる「 フリーズ 」を使いこれを退る
それから暫くして乃木は人質と引き換えにアンチミミック弾を要求し、そのために一帯を制圧する

そんなときに地獄三兄弟が通りかかった
「このエリアは我々ワームが完全に制圧している」と紳士的に忠告するが、「今……俺を笑ったな?」や「ゴゥ・トゥヘェル!」などと言葉のドッジボールをされ話が噛み合わず戦闘に。サソード、キックホッパー、パンチホッパー相手に全く寄せ付けない強さをみせる。最終的にライダー達の必殺技をフリーズで同士討ちさせ勝利。
なおキックホッパーはこれが最初で最後の敗北だった

その後、交渉を破棄した加賀美新と戦闘に。必殺技のライダーカッティングをも回避し返り討ちにする
変身解除し、絶体絶命の加賀美の前に天道が現れ再戦
即座にハイパー化したカブトに対しフリーズを使うカッシスワーム。またもや返り討ちかと思われたが、自動追尾機能のあるハイパーシューティングが被弾、続けて放たれたマキシマムハイパーサイクロンを受け敗北

これで終わりかと思われたが

〝カッシスワーム・グラディウス〟

カッシスワームの第二形態。倒されたことで強化復活
左手に巨大な刃が現れ頭部にも角が付いた
仲間であるワームを吸収することで自身をパワーアップする
人間態も以前と違い強気で感情を表に出すタイプとなっている

ワームを掃討するガタックの前に登場。ガタックはカッシスワーム・グラディウスに対して必殺技のライダーキックを炸裂させるが、なんとそのパワーを吸収し技をコピー、逆にガタックに対してライダーキックを炸裂させ返り討ちにしてしまう

その夜、ワーム掃討中のZECT部隊に襲いかかる。 田所さんを圧倒的な格闘術で倒した後、岬を襲うが神代剣が乱入、戦闘になる。不利な状況となりライダースラッシュを行うサソードだがこれも吸収、逆にサソードにライダースラッシュを返して勝利
その後もZECT部隊を襲撃し、岬を守るために庇うサソードを病院送りにした

サソードを倒した後に現れたカブト、ガタックだったが諸事情でカブトが出かけたのでガタック一人で対峙する
押されるガタックの前に仮面ライダーザビーに復帰した影山が登場。同時必殺攻撃を仕掛けようとガタックに呼び掛けられるも影山なのでこれを無視、必殺技を単発で当ててしまいカウンターで倒される
一人に戻ったガタックをボコボコにしつつライダーシステム開発行っている「エリアZ」の目前まで迫るがそこにカブトが戻り、更に矢車も現れる
3ライダーを前にしても「どんな技がきても返してあげよう!」と自信満々だったがカブト、ガタック、キックホッパーのライダーキックが同時に命中したことで技をコピー出来ず大ダメージを負う
そこを再びカブトのマキシマムハイパーサイクロンによって他のワームもろとも消し飛ばされてしまう


今度こそ終わり…と、思われたが


〝カッシスワーム・クリペウス〟

カッシスワーム大惨弾(誤字にあらず)
今度は2体に増えてお得感満載
頭部にカブトがあるかないかの違いのみではあるが差異はとりあえずある
人間態では無精髭をたくわえ性格も勝ち気になっているものの、とある事情の後は完全に小物化
以前のフリーズやコピー能力は使用しなくなった
自暴自棄になり彷徨っていたダークカブトと戦闘になるがこれを一蹴したうえで勧誘する
色々あって岬とのデートに向かう神代剣の前に現れ襲撃。こちらは兜あり。サソードを倒すが、その時に剣がワームであることを見抜く
兜なしのカッシスワーム・クリペウスはカブトを襲撃するがマキシマムハイパーサイクロン前に離脱する
その後ワームである神代剣を強制的にワームに戻し、ワーム側に引き抜いた…が

全てを決意した神代剣=スコルピオワームの前に二人がかりで圧倒される
そして毒液を注入され洗脳、スコルピオワームの駒となる。どうしてこうなった
その後、兜有りはガタックの、兜無しはキックホッパー・パンチホッパーの必殺技でそれぞれ撃破され、今度こそ本当に終わった
このように復活の度に扱いが悪くなっていったが、作中ハイパークロックアップを正面から破った稀有な存在であり、能力・ビジュアル共にラスボスといっても違和感の無いキャラクターであった

このワームはゲーム「バトライドウォー」にも出演している
演じているのもご本人
ステージによっては二体に増えたり、フリーズを使って瞬間移動したりと割と厄介な攻撃方法をしてくる

ではまた次回


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#62 望んだ世界は

今回で大覇星祭は終了
エピローグ的な意味合いなので短いです

鎧武もついに最終回
城ノ内が初瀬の張り紙はっつけて探してるシーンでグサッと来た
そうだ、知らないんだったね…

アニキも生きててよかった

そして次のステージへ

相も変わらない出来ですがどうぞ
誤字脱字あったらご報告を

ではどうぞ


ふと、目が覚めた

姫神秋沙は病室のベッドの上で目が覚めた

 

姫神秋沙のいる病室は当麻やアラタみたいな個室ではなく、カーテンで区切られた六人一部屋の一般的な病室だ

この部屋を使用しているのはみんな女性で、年齢もバラバラだ

姫神と同年代の女性もいる

 

「…」

 

彼女はぼんやりとした目線を天井へとさまよわせる

その後でゆっくりと上半身だけを起こした

 

「あ、起きたんですね? 姫神さん」

 

こつりこつりとこちらに向かって歩いてくる一人の看護師

歩いてきながら他の起きている患者さんに挨拶をしながら女性―――浅上藤乃は笑みを浮かべる

因みによく見るとベッドに上半身部分だけを乗り上げる形でインデックスがべちゃー、と身体を預けている

すやすやと寝息を立てて、気持ちよさそうである

 

「朝はベンチで寝ちゃいけないからね。貴女の様子を覗きに来たんだけど、そのまま力尽きて眠っちゃったみたい」

 

小さい微笑みと共に藤乃は呟く

そう言えば彼女の同居人…もとい居候の家主はしょっちゅう怪我して病院に担ぎ込まれるので、ベンチやパイプ椅子で、彼女は病院で夜を明かすことに慣れてしまったみたいだ

待合所のベンチなどで寝っころがっている姿などはすっかり看護婦たちの噂になっている

 

「気分はどうですか? 何か変わった所とかは」

「大丈夫。検査の結果は良好だって。ちゃんと元通りになっているみたい」

 

彼女は言いながら自分が来ている寝間着の首元を引っ張り、中を覗き込んだ

十字架が見える

曲りなりにも女の子である姫神は身体に傷が残るか不安が残ったが、それについては「大丈夫。僕を誰だと思っているのかな。ふふ、患者に頼られる、というのは嬉しい事だね?」と言っていたのできっと大丈夫なのだろう

そう言えばすっぱり斬られた少年の右腕を一切の傷跡なく直していたのを思い出した

 

(…骨まで見えるような。傷だったのに)

 

寝間着の中の包帯を眺めつつ、姫神は独白する

赤い神父と橙色の女性が行ったのはあくまでも応急処置的なもの…らしい

しかしそれだけとはいえ普通では治せないような傷をあっさりと修復した魔術という力

一度絶望と一緒に諦めたハズの事柄が棘隣姫神の心に突き刺さる

 

「…今日か明日には。退院できるって。カエルのお医者さんが言ってた。…けど流石に。競技には参加できないかもだけど」

「? …姫神さん?」

 

藤乃には彼女の横顔がどことなく寂しそうに見えた

やがて彼女は意を決したようにふと藤乃に尋ねた

 

「…浅上さん。あの人たちは。今回も無茶をしていたの?」

「あの人? …あぁ、うん。よくわからないけど、そこのシスターちゃんがすっごく怒ってたから、きっと無茶していたと思う」

 

それを聞くと姫神はふと視線を下に落とす

 

(…ローマ正教の魔術師が。やってきたから)

 

結局、彼らが拳を振るっていたのはそのためだった

当麻らが本物の魔術師と一緒に傷つき倒れた姫神の元へとやってきた以上、それ以前に誰かと戦っていたはずだ

秋沙が倒れたのも、それを見て憤ったのも、結局はそれは〝目的〟を果たすための過程にしか過ぎなくて

 

(―――誰でも。よかったんじゃ)

 

よく考えてみると上条当麻と姫神秋沙の間には命を懸ける理由なんてない

鏡祢アラタにいたってはつい最近交流を持った程度だ

もし自分ではなく、あそこに倒れていたのが秋沙でなくても、きっと彼は救ったのだろう

自分がその場にいなかったら、きっと自分の存在は映らなかったのではないか

誰かを助ける、というのはきっと彼らにとっては日常的な行動なのだ

 

自分には、インデックスみたいに人に役に立てる知識なんてない

誰とでも分け隔てなく接して、誰かの心を安らがせるような心など持っていない

 

彼女はひざ元の布団を両手で軽くつかむ

 

きっとあの少年は自分が困った時にはいつでも助けに来てくれる

しかしその行動に、きっと意味はないのだろう

自分の為に行動を起こすだけで、彼は意味のない代償を払ってしまう

多くは、傷、という形で

 

「…私は。皆の迷惑にしかなってないのかもしれませんね」

 

冷めた言葉だと思ったのに、自分でいって胸の奥に響いた

 

「姫神さんは、自分を卑下しすぎだよ」

「ううん。本当の事。…私は。助けられるべきじゃなかった―――」

 

「姫神さん」

 

凛とした声色だった

 

「…あの人の右手。上条君…だっけ。殴りすぎてて手の皮膚が削れてたの。…普通の人は、本当にどうでもいい人のためにそこまで戦えないもの。きっと上条君は、姫神さんが魔術師とか、そう言った〝つまらない〟事件に姫神さんが巻き込まれたのが許せなかったんだよ」

 

これは主観だけど、と藤乃は断りを入れて

 

「あの子がそうであるように、きっと上条君も色々な人を守ったり助けたりしてると思うの。きっと、その上条君って人が紡いだ人の輪は、すごい繋がり方をしているわ。だけどそれで君を守るって気持ちが薄らぐことはない。姫神さんを迷惑だなんて思うこともない。その程度の人なら、彼が上条君の友達になんてなるはずないもの…。だから、ね」

 

藤乃はスッと自分の手を姫神の頬に添えて、彼女の眼を真っ直ぐ見つめた

頬から伝ってくる彼女の熱は、暖かった

 

「そんな悲しい事を言わないで」

 

姫神は何かを口にしようとして、しかし言葉が上手く声に出せない事に気づいた

口元が、僅かに震えていたからだ

その感情が、どんなものなのかを考えた時

 

「姫神さんの病室ってこっちでいいのかしら? …いきなり入っても迷惑に思われないかしら」

「姫神は無口だけど、静かなのが好きってわけじゃないぞ。よく見ると分かるけど、アイツ嬉しい時には顔が綻ぶんだ」

「ほえー、よく見てるな当麻。ふつう気付かないぜそんな事」

「そうか? 結構分かると思うんだけどな。って言うか、隠れ世話好きな吹寄さんならご存知かと思ってたけどなー」

「…世話好き? 私が?」

「はは、そうだな。姫神さんの病室が分からなくてオレや当麻の病室にお邪魔したり、売店で果物かお花、どっちがいいかを三十分がっつり悩んで決めたりさ。結構友達思いなんだな、吹寄はぶっふぉっ!?」

「ば、馬鹿なこと言ってないで、今日は第一種目からヘビーな全校男子騎馬戦本選A組があるのよ。怪我で見学している人や、応援で見に来ている人たちに来て良かったって思えるような内容にするわよ!」

 

藤乃は笑みを浮かべながら声のする方を見る

からから、と車輪のような音が聞こえる所から察するに姫神用に車いすも用意しているのだろう

 

「姫神さん、世界は、貴女を迷惑だなんて思ってないわ」

 

藤乃は声のする方からもう一度姫神へと向き直る

笑顔と共に

 

姫神は彼女の笑顔に、小さく口元に笑みを浮かべてそれを返し、もう一度声のする方向を見た

やがて病室のドアが開かれる

 

そこには、彼女が望んだ世界があった―――




今回の気まぐれはお休み

では次回ノシ


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0930事件
#63 どこにでもある日々


仮面ライダー鎧武もついに最終回
個人的に真の主役は城之内じゃないかなー、なんて思った
うん、一言言うならカッコ良かった
映像とはいえ初瀬ちゃんも見れて嬉しかった

今回短いです
クオリティは相変わらず

誤字脱字ございましたら報告をば



月末であるこの日、学園都市は全て午前中授業となっている

理由は純粋に明日から衣替えだからだ

東西の西部を再開発し都の面積の三分の一を誇っている学園都市は百八十万人を超える学生を抱えている

ともなれば衣替え一つだけでも服飾業界は大忙しなのである

採寸や注文は大覇星祭前に済ませてるので本日行うのはその新調した冬服の受け渡しとなっている

だがそうであっても混雑が起きる事にスケールの特殊性が見いだせるかもしれない

その新調した服を慣らす意味合いも込めてこの日から冬服を着るのを風習の一つとなっている

 

…といっても衣替えに縁もゆかりもない一生徒からしてみればちょっと早く帰れる、程度の認識の一日なのだ

ここに鏡祢アラタという人物がいる

入学した当初に購入した冬服は特に問題なく身体に入るので、その混雑に彼は身を投じる必要なんてない

そして今は三時限目と四時限目の休み時間

数学の時間を消化し、眠気覚ましに顔を洗いに水飲み場に赴いて顔を洗いに来たところだった

ばしゃばしゃと顔を洗い、手を振って水気を落とす

そしてそのまま短く息を吐いた

 

「―――ふー」

 

先の時間の数学ははっきり言って退屈だ

いや、こんな事を言ってしまえば授業の時間は大抵退屈なのだが、勉強は学生の義務なのでそこの所の文句は言わない

 

「どうした我が親友カ・ガーミン。眠気覚ましに顔でも洗いに来たのか」

「ツルギ。お前もか?」

 

ハンカチで顔を拭いていると同じように顔を洗いに来た神代ツルギと遭遇する

いつも通りの調子ではあるがどことなく彼も眠そうな表情をしており今も若干欠伸をかみ殺していた

 

「あぁ。流石に、自分を鍛えるためだけに夜更かしするものではないな」

「逆に疲れが残るだろう。大丈夫かおい」

「問題ない。…正直言えば身体がだるいがそのための午前授業だ、有効に利用するさ」

 

そう言ってツルギも水道前に歩き蛇口をひねって水を出し、手で器を作ってその中に水を溜めていく

ばしゃばしゃ、という水音をBGMにアラタはもう一度欠伸をする

…今みのりは伽藍の堂にいる頃だろうか、恐らく鮮花や未那と楽しく過ごしているハズだろう

先ほどツルギが言っていたように今日は午前中で授業は終わる

その後の午後の時間を使って少し付き合ってほしい、と美琴に頼まれているのでみのりと遊んであげることが出来ない

…昼食くらいは一緒に摂ってもいいだろうか

そう言えば何時に集まるか決めてなかった、授業が終わったら確認を取ろう

 

ふと教室のドアを見るとそこに当麻と土御門、そして青髪ピアスのお三方がいた

直後当麻がドアを開け放つと「吹寄はいるかー!」と大きな声を発した

吹寄、というのはアラタと同じクラスに在籍している女の子だ

先日まで大覇星祭の実行委員を務めていた彼女は、近くにいる鳴護アリサと姫神秋沙と世間話をしているのだろう

最も、廊下からでは内容など聞こえる筈もないので、完全に想像なのではあるが

そこでふとぼんやりと窓から校庭の風景を眺めているシャットアウラにアラタは目がいった

ちょっと世間話でもしようかな、と思いシャットアウラに近づいてみようかなーと歩き始めた時、我が親友のこんな叫び声を聞いた

 

 

「一生のお願いっ! 揉ませて吹寄!!」

 

 

ぶっふぉ、と吹き出した自分がいた

何事か、と思い声のした方向へと振り向いたら当麻ら三人がぶん殴られている現場に遭遇した

何やらひと仕事終えた様子の彼女がパンパンと掌を叩いて埃を落としてるような仕草をしているとそこに一見小学生にしか見えない教師、月詠小萌が姿を現した

 

「みなさーん。本日最後の授業は先生のバケガクなのですよー…て、ちょぉ!? どうしてこんなバトル空間みたいな空気になってるですかー!?」

「平和の為です。小萌先生」

「なんでそんな平和維持部隊なこと言ってるです!? 何があったのですか!?」

 

そんな会話を繰り広げている二人の付近にどこかもじもじした様子のアリサが歩いてくる

どこか意を決したような表情をする彼女を吹寄と小萌が?と首を傾げながら見て、まだ気を失っていない当麻も?を浮かべながらアリサを見上げた

 

 

「と、当麻くんっ! そ、そのっ…私のでよかったら、も、揉んでいいよっ!」

「え!?」

「何を言わせているんだ貴様はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

間髪入れる隙もない早さだった

つい先ほどまでボンヤリと窓の外の校庭とか景色を見ていたシャットアウラだったが、そんなアリサのぶっ飛んだ発言を聞いた瞬間にその場から跳躍し、綺麗なフォームを作った飛び蹴りをぶっ倒れている当麻に向かって追い打ち気味に叩きこむ(ちなみに吹寄の一撃で気を失ってた青髪と土御門はセーフだった)

当麻は「ごばぁ!?」なんて悲鳴を上げながら痛みに悶絶する、がいろいろと死線を潜り抜けてきた彼の意識を刈り取るまでには至らなかった

それを確認すると徐にシャットアウラはイクサナックルを取り出して―――

 

<レ・ディ・イ>

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! なにしようとしてくれてんの!?」

「ぐあ、は、離せアラタ!! 今この場でこいつの命を神に返しておかないと…!」

「離せません! 落ち着けってばアウラァァァァァッ!」

 

幸いにもクラスの連中はナックルの事をよくわかっていないことが救いか

 

シャットアウラを羽交い締めしながら、何となくアラタは思う

彼女がこのクラスに馴染めるのは、案外早いかもしれない

そしてどうでもいいが、当麻は別に悪くない

 

…余談だが、当麻らが吹寄に揉ませて、と頼んだのは決して胸の事ではない

事の発端は先の休み時間中に青髪が原因だ

彼は最近肩の不調を訴え、それを改善するために雑誌に載っていたマッサージ器具を手に入れたい、と言ってきた

そのマッサージ器具はテレビでも大々的に宣伝されており、そんなに宣伝されているのならきっと効果は凄いに違いない、という青髪の言葉に土御門が異を唱え、それならばと当麻が肩こりに悩まされているであろう人物で実験をしてみよう、と提案した

それが吹寄制理だっただけで彼らにいやしい気持ちなんてこれっぽっちもないのである

ないのである

 

◇◇◇

 

とある病院内

そこに芳川桔梗、という女性がいる

学園都市にあるレベルの区分に新しく絶対能力(レベル6)という分類を築こうとした実験を立案し実行した研究グループの一人だ

〝甘い人格〟を理解している彼女は二万強のクローンを生み出し、それは半数を実験という過程で殺害している

もっとも、手を下していたのは別の超能力者なのだが、そんなのは言い訳になどならない

現在、その実験は血管があると言われ中止となっている

しかしそれは実験に関するすべての事柄が消えたというわけではない

ただ死ぬために生まれた女の子たちとそんな彼女たちを殺すことを命ぜられた一人の少年

いくら言葉で着飾ってもやはり彼らは人間の子供なのだ

彼らの間にある人間関係など壊滅的だ…しかし

 

「降りない降りない絶対降りないっ。このスポーツバッグの上はミサカの敷地内だーっ! ってミサカはミサカはアナタの抱えるスポーツバッグの上で正座をしつつちょっと強めに抗議をしてみる!」

「テメっ…! 人が病み上がりだってこと忘れてンじゃねェだろうなァ!? はしゃいでンじゃねェぞクソッタレがァ!」

 

「…元気だね―一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)。直前まで入院してたのが嘘みたい」

「だな。あれではまるで仲の良い兄妹みたいに見えるな」

一方通行(アクセラレータ)お兄ちゃん…うわ、似合わねぇ…」

 

芳川は苦笑いをしつつ、自分の背後でそんな会話をしている芝浦、手塚、浅倉を視界に入れ、さらにその後ろにいる二人の被害者を見た

 

殺してきた方、一方通行(アクセラレータ)

彼はトンファーのような杖を右手につき、右肩にスポーツバッグをかけている、灰色を基調とした服を纏った少年だ

 

そしてもう一人

殺されてきた方、打ち止め(ラストオーダー)

そんな彼女はスポーツバッグの上に正座し、まるでブランコみたいに肩ひもを左右の手でもっている

十歳前後、という見た目だからこそ可能な技ではあるが、それでも片手で杖をつくような人間にはしんどいかもしれない

 

「それで。これからどこ向かうんだよ、桔梗」

 

いつの間にか友人との会話を切り上げていた浅倉が芳川に近づいていた

あまり男性に名前で呼ばれ慣れていない芳川は少しばかり動揺したが、すぐに落ち着いて言葉を返す

 

「知り合いの勤めてる学校よ。…彼、今の学校辞めてしまうんでしょう?」

「あぁ、アイツも絶対能力なんかに関わるのはごめんだって言ってたし」

 

こと学園都市に置いて、学校を辞めるという事は同時に住んでいる寮も失うという事なのだ

最も常日頃から不良共に追われ、荒らされているので、一方通行(アクセラレータ)自身は家に対する未練はない

そのリスクを冒してまで、彼がその行動を取ったのは、自分が血にまみれた世界から決別するためでもあった

 

「…それで、次の管理者はアンタ、とかか?」

「いいえ。私は管理者ではなく、研究機関に彼らを引き渡すつもりもないわ。今から引き渡す人は貴方も知ってる人だし、その人は研究職の人でもないもの」

「研究職じゃない知ってる人ォ? …あぁ、一人思い当たる節があるな」

 

頭の中で思い出される一人の女性の顔

どこぞの不良とケンカした際に目をつけられたのが浅倉としての出会いだった、と記憶している

他のメンツはどうかは知らないが…きっと自分の知らない所で目をつけられているのだろう

正直、手塚も芝浦もあまり素行の良い生活を送っていたとは思えない

友人の自分が言うのだ、間違いない

 

そんな事を思いながら浅倉は自分の後ろをちらりと振り返り見る

そこには楽しそうな打ち止め(ラストオーダー)と、それに振り回される一方通行(アクセラレータ)、そしてそれを見て笑っている芝浦と、苦笑いをしている手塚の姿があった




今回の気まぐれ紹介のコーナー

「デンダグバ・ゴセ・グ・ジャス(手を出すな、俺がやる)」

ズ・グムン・バ

種族:グロンギ(クモ種怪人)
呼称:未確認生命体:第1号
身長:198cm
体重:196kg
能力:絹糸よりしなやかで、鋼鉄より堅い糸を吐く
声:坂口哲夫「復活」
  坂口候一「特別篇」

※垂直の壁をも易々と登る身体能力を持つ。

ズ・グムン・バは『仮面ライダークウガ』の登場怪人の一体
クウガの記念すべき初戦の……引いては『平成ライダーシリーズ』初の敵怪人となった〝現代の蜘蛛男〟
登場エピソードとなる、1~2話は、正に 「A New Hero.A New Legend.」 を謳った『クウガ』のパイロット版となっており、ビルの間に巨大な蜘蛛の巣を張ると云う演出や、警官隊を物ともしない強大さ、人間では無い事を強調するかの様な動きとグロンギ語
そして、超人である事を理解させるべく練られたクウガとの殺陣のアイディアが盛り込まれた意欲作となっている

登場EP
「復活」「変身」

長野県九郎ヶ岳遺跡から出現した未確認生命体
後にグロンギの種族名が判明する彼らの存在が確定された最初の個体である(※最初に出現したのは第0号だが、映像以降の足取りが不明となった為)

現代に復活した喜びを示すかの様に、南長野にて人々を襲い、更に現場に現れた警官隊と交戦、これを虐殺、逃走するパトカーに取り付き、長野県警本部に到達
そこでも虐殺の牙を向けた
そのリアルな造型と、現存兵器との対比、怪力や高い身体能力を丹念に描いた描写により、特撮の新時代を開いた

圧倒的な力により蹂躙される人々
しかし、その中に若き冒険家五代雄介の姿があった
頭に浮かぶ幻影に従い「力」の古代文字が刻み込まれたベルト状の装飾品を五代雄介は身に付ける
一瞬の閃光の後に身体に呑み込まれたベルトを見て襲いかかる未確認生命体

迫り来る死の予感に拳を繰り出した雄介のそれもまた、異形に変化する

そして、雄介の姿を追い飛び出した沢渡桜子は目撃するのである

圧倒的な力で人々を虐殺した不気味な怪物の前に立ち塞がる「白い戦士」へと変身した五代雄介の姿を

―――ここに、新たな「伝説」が蘇る

以上、アニヲタウィキからでした

ではでは


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#64 それぞれの過ごし方

ドライブカッコいいですね
主題歌もエターナルが歌っているし、曲調もすき
あとミニカー…もといシフトカーパネェ

あと個人的に実写版ぬーべーも気になってます
…まぁアニメや漫画とはまた別の奴として見ますけどね!
―――なんで「無に還れ」じゃなかったんだろう

今回の出来も相変わらず
ですが笑って許していただきたい

ではどうぞ


背後でタクシーが走り去っていく音が聞こえる

流石にタクシー一台に六人も乗れないので打ち止め(ラストオーダー)一方通行(アクセラレータ)、芝浦、手塚の四名が後部座席(打ち止め(ラストオーダー)は手塚の膝の上に乗せた)に乗り、芳川は助手席、浅倉はバイクでタクシーを追いかける形でここまで移動してきた

 

で、今現在目の前の状況に一方通行(アクセラレータ)はフリーズしている

正確には、目の前の人物に

 

目の前には二人の人物が立っている

一人は知っている

黄泉川愛穂、緑色のジャージを着た女教師だ

しかし、一方通行(アクセラレータ)が視線を向けているのはその隣の人物だ

 

「…な、なんですかー?」

 

小首をかしげているのは月詠小萌という女教師だ

それはそれとして、どうしてこうも彼女はここまで身長が小さいのか

下手すると打ち止め(ラストオーダー)より小さいのではないか

 

「…これが合法ロリってヤツなのか」

「芝浦、お前は何言ってるんだ」

 

芝浦の呟きに手塚が反応する

そんな彼らの反応に浅倉は苦笑いしか浮かべない

正直まさかこの現代、これほどまでに身長の小さい大人、というのを見たことがない

 

「おい、何だこの説明不能な生き物は。どこから入ってきやがった」

「入ってきたって!? 先生はちゃんと大学を卒業して学園都市にやってきたのですよー!?」

 

そこから一方通行(アクセラレータ)は目を細めて、思考に埋没する

 

「まさか細胞の老化を抑える研究は完成してたってことか。クソが、これが実験とき囁かれてた〝二百五十年法〟の実態かよ。ちっ…、学園都市はどこまで最先端を行ってやがる…!?」

「え、えと…そうではなくてですねー…」

「もしくはその研究は未完成で、あれはそれらを解析するために捉えられた生体サンプルなのかもって、ミサカはミサカは真剣な顔つきで呟いてみる」

「あのー! なんで自己紹介しただけでこんな扱い受けないといけないですかー!?」

 

おろおろする小萌に対して黄泉川は腹を抱えて笑っているだけだ

ここまで同行していた芳川もまさかこんな同行者がついてくるとは思ってはいなかったのだろう

驚きながら芳川も笑みを浮かべているが―――なんだか研究者みたいな危うい笑みだ

 

「…てなわけで、こっからはこの黄泉川センセが君らのお世話をするじゃんよ。部屋は余ってるし、居候が増えても問題ないじゃんよ」

「―――あくまで暫定的、だがな」

 

黄泉川は小萌の頭をぺしぺしと叩きながら笑みを崩さない

そんな黄泉川に対して一方通行(アクセラレータ)は口を開いた

 

「つか、お前はそれでいいのかよ。俺を取り巻く環境がどんなもんか分かってンだよな」

「私の職業を忘れたか? 警備員(アンチスキル)としてはそっちの方がやりやすいじゃんよ。もっとも、馬鹿正直に警備員(アンチスキル)の自宅に襲撃を仕掛ける奴はいないと思うけどね。学園都市の闇は見えない位置で行動するのが基本じゃん。下手に宣戦布告すればどっちが潰されるかなど目に見えてるしね」

「―――」

 

一方通行(アクセラレータ)は黙り込む

そんな唐突に切り替わったシリアスな空気に一人小萌はおろおろとするばかりだ

 

「死ンでから文句言うなよ」

「助けるべきガキ怖がってたら最初から歩み寄る事なんてできないじゃんよ」

 

ち、と一方通行(アクセラレータ)は舌を打つ

打ち止め(ラストオーダー)といい、黄泉川といい、最近自分らの周りにはこの手の馬鹿が増えてきている

気のおける友人は浅倉たちだけで間に合っていたのに、さらにこういう場所にいるとすごく自分が場違いな位置にいる気分になる

 

「それにしてもよかったよ、アンタは聞いてたより助けるのは簡単そうじゃん」

「―――本気で言ってンのか?」

 

彼女の言葉に意味は恐らく、更生できるかどうかの話だろう

彼女が知ってる由もないが、一方通行(アクセラレータ)自身は己の手ですでに一万人を超える命をこの手で葬っている

その事を踏まえると彼女の言葉がどれほどかみ合わないかが分かるはずだ

 

「だけどさ、一方通行(アクセラレータ)も結構マメだよねー」

「…あ?」

 

唐突に聞こえた芝浦の声に一方通行(アクセラレータ)が反応する

芝浦は笑みを浮かべたまま

 

「なんだかんだ言っててもさ、黄泉川センセと住むことが決まるとチェックリストに印つけて死角潰してるし、最近だって浅倉や手塚ともそう言ったことで軽く話してたじゃん? 万が一襲われるかもしれない、って言う万が一の可能性を潰そうとしてるし。それってつまりみんなを守る気満々―――痛い!! ちょっと一方通行(アクセラレータ)、杖で叩かないでって痛いッ!?」

 

そこそこ本気で脛付近をぶっ叩く

そんな光景を、黄泉川はまた笑顔を浮かべた

浅倉や手塚は苦笑いと共にため息を吐き、小萌は未だにおろおろし―――そんな小萌を芳川が見る

一方通行(アクセラレータ)はちらりと自分の後ろを見ながら口の中で、やれやれ、なんて言葉を吐きながら

 

◇◇◇

 

お昼時

 

美琴と落ち合うのはお昼過ぎのだいたい午後一時前後の時間帯となった

幸いにもあっちも昼食を食べてから合流するつもりだったらしく、みのりとのお昼について相談したらすんなりオッケーがもらえた

学校から戻ってきてると既にみのりは帰ってきており、ついてきたのか鮮花と未那の姿もあった

 

「ヤッホーアラタ。遊びにきたわよー」

「…これからお昼食べに行こうかなって思ってんですが。もしかして狙ってついてきたんですか?」

「良いじゃない別に。未来のお姉ちゃんとたまには親睦を深め合いましょ」

「調子いいんだから…」

 

頭を掻きながらアラタはカバンをベッドの所に置く

ついでに付近をとてとてと歩くみのりの頭を撫でながら、ふと、テレビの近くに置いてある段ボール箱を未那が見つめていたことに気が付いた

そして同時に、アラタもそう言えば、とふと思い出した

 

「…お義兄様、この山のように積まれたそうめんは何ですか?」

「あ、それは私も気になってた。アンタってそんなにそうめん好きだったかしら」

「そこまで好きってわけでもないけど。っていうか、それは当麻からの贈り物なんです」

「隣の部屋の子の?」

 

アラタは頷き

 

「タイムセールで安売りされてたそうめんを一気に買って、んでその後で当麻の両親からもまたそうめんが送られて。…そんで、あまりに余ったそうめんを消費するためにいろんな所に渡してるみたいですよ」

「あー…まぁそうめんってこの時期に食べるもんじゃないよねぇ」

 

そんな言葉と一緒に鮮花が笑った

しかしそれほど苦という訳でもなく、料理の仕方を天道などに教わるなどして飽きの来ないように食べる際はそれなりに工夫はしている

もっとも、個人的にそうめんはやっぱり茹でて水で冷やしたよくあるそうめんがアラタは好みである

 

「まぁ、今日は鮮花さんや未那もいるので普通に外食にしますけど」

「お、いいわねぇ。アラタのおススメのお店とか教えてよ」

 

そんな鮮花の言葉に頷きつつ、アラタはどこに行こうかなー、などと考える

翔一のお店か、はたまた光太郎のステーキハウスか

両方とも美味しいので大変悩み所だ

 

同じとき、隣の隣の部屋からにゃー!? なんて友人の悲痛な叫びが聞こえてきた気がしたが、特に気にも留めなかった

そんな事を考えて、また時間が過ぎていく―――

 

◇◇◇

 

ロンドン、ランベス宮

そこは元々イギリス清教の最大主教の官邸として用意された建物である

一応敷地内が観光地として開放されてはいるが、建物内部に一般人が入られているのは禁止され、情報も封じられている

分かり易く言えば、誰もその内部を知らない、という事だ

一般人にはゆかりもない、それでいて徹底した非公開を不振がられないこの建物は女王の住まうバッキンガム宮殿以上に魔術的防御網が張り巡らせている

一部からは処女の寝室(ネイルベッドルーム)なんて呼ばれているほどだ

 

この時間、昼間に比べれば人数は減っているが、それでも実質的な警備レベルは跳ね上がり、かつそれを勘付かせない見えざる厳戒態勢の中、最大主教であるローラ・スチュアートは―――

 

「――――ふふーん、ふんふーん♪」

 

バスルームにいた

鼻歌が環境し、光に満ちたその空間はお堅い連中がランべス宮に抱いているイメージは脆くも崩れ去るかもしれない

バスルーム、といってもその場所は二十メートル四方の大きさを誇っているだだっ広い部屋だ

大浴場でもなく、小型のユニットバスだけがいくつにもわたって配置されている

おまけに配置されているそれぞれの浴槽には〝電気風呂〟だの〝マイナスイオン風呂〟といったいかにも科学臭漂う機能ばかりだ

それもそのはずで、これらの風呂は学園都市がお近づきの印としてお中元感覚で送られた品だからだ

 

今現在の彼女はスカートをめくりあげ、足だけを露出させてジェット水流風呂に露出させた足だけを突っ込んでいる

ちゃんと足湯専用の風呂もあるのだが彼女はこのジェット水流に足を当てるのがお気に入りなのだ

身長の二倍以上ある髪は湯気を浴びて水滴を浴びた蜘蛛の巣のようになってはいるが、後で整えるので大丈夫だ、問題ない

 

「んー…満たされけるのよー。よーし、足をほぐしたら次はあのビリビリ電気風呂なるもので―――」

 

そんな疲れを癒しているローラに対して、いきなりドアが開け放たれた

 

「おいローラ」

「うぇ!? あ、っと!?」

 

赤い宝石のような指輪をした青年、ソウマ・マギーアが紙を片手に入ってきた

突然の来訪者にローラはビクリと身体を震わせた

足だけといえどスカートを大きくめくり生足を露出しているのだ

慌ててスカートを下ろす―――がその急な動きのせいで腰が滑り先ほどまで足をつけていた風呂に盛大に転がった

 

そんな光景にソウマはピクリとも反応せず

 

「おいちょっとこの報告書に書かれてるのなんなんだ? ステイルがマジギレしてたぞ。頼むぜホント、お前の一言は世界だって動かしかねないんだから…ちょっと、ぶくぶく言ってないで答えてよ」

 

実際ぶくぶく言っているのはジェット水流が顔面に直撃して苦しんでいるだけなのだが、ソウマからして見れば浴槽に落ちて足をおっぴろげジタバタさせてるようにしか見えない

なんとか彼女はざばぁ、と水面から顔を出して

 

「ちょっとソウマ!! 何をいきなりレディの浴室に土足で踏み入れたるのよ! 聖職者といえども、殿方にこのような場面を見られたるは―――」

「答えは?」

「無言のままソードガンを突きつけていけなし!?」

 

どうやら普段温厚の彼もこれには少しばかりキレているのかもしれない

いいや絶対キレてる

 

どうにかローラは浴槽から飛び出る

濡れた床の上でぱくぱくと口を開けて呼吸するその姿は身体に絡みついた髪も相まって化け物のようだ

ソウマはやれやれと言ったような様子で

 

「とりあえずこの報告書の文面を説明してよ。オレはこれからコヨミに付き合わないといけないんだから…」

 

―――しかし彼女は話を聞いていない

 

「! 先の湯で衣服が肌に貼り付き隠微な姿態が露わになりて! いけなしソウマ! あちらを向きて、私の肌着は何人にも見せたるは―――」

 

ブツン―――

何かがキレた音がした

ソウマは笑顔のままで徐に己の腰に手を翳す

 

<ドライバーオン>

 

「…ソウマ?」

 

そしてさらに徐に取り出したのは―――ウィザードリング

彼は笑顔のままでそれを指にはめてドライバーに翳した

 

<フレイム ドラゴン>

<ボー! ボー! ボーボーボー!>

 

フレイムドラゴンへと姿を変えた彼はソードガンを変形させ―――

 

「よし。そこに直れ。―――楽にしてやる」

「ひぃぃぃぃぃ!? 待ていなのよソウマァ!! 刃を直に刺すれば私が死んじゃうー!」

 

―――ランべス宮の、夜は長い

 

◇◇◇

 

御坂美琴は待ち合わせ場所のコンサートホール前広場にいた

ソワソワとした様子で彼女は携帯を開き時間を確認する

現在時刻は十二時三十分

予定より早く来てしまったが、アラタとの約束とは別にもう一つ用があった

 

現在美琴は常盤台の制服のままだ

手には薄い学生かばんとバイオリンケースを携えている

遊びに行くのには邪魔だが、このまま寮に持って帰るのもそれで面倒なのだ

別にそれでも問題ないのだが運悪く寮監に見つかってしまうと外出目的を尋ねられるのが容易に想像できた

だから時間に遅れないようにあえて寮に帰らず先に待ち合わせ場所にやってきたのだ

所持している荷物は付近にいるらしい黒子に回収しに来てもらおうと考えさっき連絡したのだが

 

「…来ないなー、黒子のヤツ」

 

本当は黒子に荷物を預けたら時間までどこかのカフェかなんかで暇を潰そうと考えていたのだが、大前提の彼女が来なくては実行できない

ふむぅ、と短い息を吐く彼女の耳に明るい声色が聞こえてきた

 

「御坂さーん」

「うん? あれ、初春さん?」

 

そこにいたのは白井黒子の同僚である初春飾利という女の子だった

柵川中学在籍でアラタや黒子が所属している風紀委員第一七七支部の仲間だ

しかし今日はいつも一緒にいる友人の佐天涙子の姿は見当たらない

 

「どうしたの初春さん。佐天さんは?」

「佐天さんは宿題にてこずってて支部にてお留守番です。あ、それとですね御坂さん、白井さんがここに来るって言う話だったんですけど…」

 

うん? と美琴は眉をひそめた

初春は美琴の手にある鞄やヴァイオリンケースを見て

 

「えっとですね、白井さんに仕事を押しつ―――いやいや、仕事が忙しくってちょっと遅れそうなんです。本人は来る気満々なんですけど、時間的に無理っぽそうなので私が代わりにやってきました」

 

そうなんだ、と頷きかけてそこで固まる

確かに初春は自分と近しい人間だ、そこは間違いない

しかし彼女は常盤台の人間ではない、故に彼女に荷物を預けたら〝寮にいる誰かに渡して運んでもらう〟という形になってしまうだろう

相手が食蜂とかならまだセーフだが寮監だった場合それはもう後が悲惨である

恐らく初春単体には受け取るときには朗らかな笑顔を浮かべるかもしれないが、美琴が帰宅した暁には憤怒の女王と化しているだろう

 

どうしようか、と美琴が考えている時初春の声が彼女の耳に入ってくる

 

「それにしても常盤台ってすごいですね。所行でヴァイオリン扱うなんて」

「そんなもんかしら? …正直私なんて紅葉さんに比べればまだまだひよっこよ?」

「え? 紅葉さんって…もしかして、ヴァイオリニストの紅葉ワタルさんですか!?」

「うん。もっとも本人はヴァイオリン修理工兼楽器屋って言ってるけど…」

 

その言葉を聞くとさらに初春は目を煌めかせ

 

「あの世界的ヴァイオリニスト、紅葉音哉を父に持つあのワタルさんの指導の下で授業してるんですかー…! やっぱり常盤台ってすごいですねー!」

「あはは…あ、そうだ初春さん。なんならちょっとやってみる?」

「聴かせてくれるんですか!?」

「貴女が弾くの」

「ウェイ!?」

 

ギョッとした目で美琴を見るがすでに美琴はケースからヴァイオリンとそれを弾く為にに必要な弦を取り出してスッと彼女の前に差し出した

初春は恐る恐るといった様子で楽器を受け取る

ヴァイオリンは近くで見ると骨董品特有の輝きを見せており、ニスの匂い…かどうかは定かではないが個性的な匂いが鼻孔をくすぐる

美琴は初春の隣に立つとヴァイオリンの各部を指していく

 

「はい、まず左手で本体を持って、そっちの弓を右手に持つの。そんで、楽器の尻を顎と鎖骨辺りに挟み込んで固定する。あ、加減とかは考えないで大丈夫だから」

 

そう笑顔で言われても初春としては気が気でない

もしかしたらうっかりポキンなんてやってしまったらいろいろとお先真っ暗だ

 

「っと、ごめんなさい、やっぱり口だけじゃわかんないよね」

「え、えっと―――ふぉはっ!?」

 

そう言って言い淀んでいると美琴はそっと初春の後ろから両腕を回し、初春が手に持っているヴァイオリンを掴んだ

あまりに唐突な行動に初春はさらに固まる

確かに慣れ親しんだ友人といえど、美琴は憧れに近い感情を抱いている人物だ

不意の急接近に初春はさらにカッチコチに動きがフリーズする

さらに偶然にも初春の耳元に美琴の吐息がかかってしまいそうな格好の中で、彼女のレクチャーがスタートする

 

「弦を抑えるのも大事だけど、まずは弓の使い方ね、難しいって思うかもしれないけど大丈夫。弦に対する角度を変えるだけで色々な音を奏でるのよ」

 

色々美琴が言っているが顔を真っ赤にしている初春の耳にはそんな事など聞こえていない

美琴は美琴で完全に無意識だ

基本的に、彼女は女性には優しいのだ(例外あり)

 

(―――これが、白井さんがのめり込んでいるお嬢様の上下関係…! これが、真相なんですね…ッ!!)

 

そんな初春の様子にようやく気付いた美琴が緊張をほぐすように言葉を発した

 

「大丈夫。ここはパフォーマンスの規制とかないから。注意される心配なんてないわ」

「い、いえそういうことでなく―――てぱふぉーまんす!? あぁ、いつの間にか人だかりが―――」

 

と、そこで初春は気づく

気付いてしまう

 

その群衆の中には宿題を終わらせたであろう佐天涙子という自分の親友の姿が見えた

いいや、別にそれは問題ない

問題は彼女の隣にいる―――同僚、白井黒子の存在だった

存在するだけならとくに問題はない

 

しかし今の黒子の表情は―――とても言葉で表せないように顔になっているなら話は別である

 

「にぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

肩がビクリと震え、楽器からは不協和音が反響する

それを眺めていた黒子はその中心にいる初春に向かってぶつぶつと口の中で呟いた

実際には小さすぎて誰にも聞こえないほどの声量だったが

 

「―――そう言うことですの白井さんの荷物運び手伝いますよなんて殊勝なこと言ったと思ったらこういうことですのそもそもわたくしもそんな美味しい目に遭ったことないってのに初春ったらうふうふふ」

 

アカン、と初春はそんな事を思った

何だかもう、どうあがいても絶望しか見えない

強敵を弱体化したと思ったらいつの間にか四人に増えていました、みたいな

 

「どしたの?」

「い、いいえなんでもないです!!」

 

初春は涙目で語るが、当の美琴は最後まで黒子の存在に気付かなかった




気まぐれ紹介のコーナー

今回はこちら

仮面ライダーBLACK PartX イミテーション・7

「あ、あんた―――本物の―――!」

こちらはタイトル通り仮面ライダーブラックのコミカライズ作品
作者は島本和彦氏
サンデーの増刊号に掲載された読み切り作品で、現在は単行本「仮面ライダーZO」に収録されている

あらすじ

謎の研究施設に捕らわれていた青年「太刀川洋」は、施設から脱走し、かつての仲間であった暴走族に戻る
かつての日常を取り戻した彼は、峠で謎の凄腕の走り屋と勝負をし、そして敗北する
再戦を誓う彼の前に、組織の追手が現れて、彼の仲間を虐殺してしまう
かつて味わった死の恐怖が蘇り、必死に逃げる洋…しかし、彼の舎弟の一人の悲痛な叫びを聞き、洋は今、変身して戦うことを誓う

人物

•太刀川洋
暴走族のリーダーをしていた青年
喧嘩っ早いいかにもチンピラな性格だが、施設に捕らえられていた時の事がトラウマとなっており、異形の存在である怪人の事を恐れている
ラストではてつをと一緒に施設を破壊したが、その後どうなったかは描かれていない
下の名前が爽やかさNo.1ライダーと同じ

•サブ
安直な名前の洋の舎弟
腕を失い、片目を潰されてもなお洋を応援し、最後に息絶えた
生命力が異常に高い

•南光太郎
ご存じ我らがてつを
素顔のシーンは一コマしかないが非常にイケメン <嫌いじゃないわ!
ライダーキックやライダーチョップの叫びが手書きの『RIDER KICK!』『RIDER CHOP!』表記で、ちょっぴりアメコミ風味

【ブラック・ダミー】
仮面ライダーブラックの模造品であるサイボーグ
賢者の石(テレビでいうキングストーン)こそ埋め込まれていないが、オリジナルのブラックとほぼ同等の能力を持っているらしい。
ただしこいつらはゴルゴムの怪人がブラックを倒す為の訓練用の生贄であり、怪人に殺されるための存在である
例えるなら『RX』の試し切り用ロボライダー、『仮面ライダースーパー1』のロボスーパー1、『ウルトラマンA』のエースロボットのようなものだろう
また、洋は7号なので、少なくともあと6人は存在したと思われる
もうこいつらにてつを襲わせちゃえばいいのに言ってはいけない
上記の通り戦闘能力だけならブラックに引けはとらない(そんなのは偽物怪人の常套句だというのは禁句)
ブラック同様白兵戦に特化しており、パンチやキックで戦う
ただしパンチの際に レンガを握りしめながら 殴っている
ヒーローのやる事じゃねぇ…しかし必死に戦っている感じがしてグッド
ちなみにこのコマはあまりにインパクトがデカいため、よくコラ画像として出回ったりしている


以上、アニヲタウィキより

漫画版といえどてつをは大変カッコいいので一見の価値あり

ではでは


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#65 それは確かに、緩やかに

十月中にもう一回更新したかったけど間に合わず
今回グダグダフルスロットルですのでご了承ください

次回は少し飛ぶかもしれない…




一方通行(アクセラレータ)が見上げているのは教職員向けに建造されたマンションだ

 

外観だけ見れば学生寮もマンションもそうたいした違いはないのだが、サービス面に細かい違いがあり、それらが積み重なる事で個性となっている

なんだかんだといっても学生寮は子供を管理する建物だ

セキュリティ、という大義名分のもと結構遠慮の位置に監視カメラが配置されているののだが、このマンションにはある程度の配慮がなされているようだ

 

「何階?」

「十三階。停電とかなるとなると階段使うのしんどいじゃんよー」

 

浅倉にそう聞かれると黄泉川が笑いながら返答する

その隣でおー、と声を上げながら打ち止め(ラストオーダー)が建物を見上げている

打ち止め(ラストオーダー)は件の十三階を眺めようとしたが途中で太陽を見てしまい、くらくらとしてしまった

その小さい肩を付近にいる手塚が支えた

 

「一階二階に比べれば、襲撃される回数は減るんじゃないか」

「建物ごと吹っ飛ばされる場合は、上の階の方が被害でけェンだけどな」

「なんでそんなネガティブ思考なのさ」

 

手塚の言葉に反応した一方通行(アクセラレータ)を芝浦が言葉を発す

実際さすがにそこまでの襲撃はされたことはないのだが、仮にこれからそう言った襲撃が来ない、といいけれるわけでもない

 

「さぁて。ちょっと遅いけど昼食も食べないといけないし、早いとこ部屋に入るとするじゃんよ」

 

マンションの出入り口はガラスの自動ドアではあるが、耐爆仕様になっているのが分かる

カードを通すだけのロック機能も実際はカードを握る指先から指紋や生体電気信号パターンなどもデータもやり取りしているようだ

 

そんなこんなで一行はマンションの中へと入っていく

因みに小萌は別の用事があるとかでこの場にはいない

低振動のエレベーターに乗って特に浮遊感も覚えずに十三階までたどり着くとすぐそこのドアの前に黄泉川が立つ

どうやらそこが彼女の部屋みたいだ

 

「どぞー」

 

そう言って黄泉川がノブに手をかけて部屋を開ける

視界に入ってきたのは4LDK

どう考えても家族向けの、それも一生をかけてローンを払うような規模の部屋だ

…公務員の月給で何とかなるのだろうか

不自然なくらいピカピカに磨かれたフローラルのリビング、棚には酒瓶やグラスなどが飾られていて雑誌や新聞も専用のラックに収められているテレビやエアコンなどのリモコンはテーブルの片隅に置かれていた

おまけにソファの上のクッション一つ一つまで丁寧に位置取ってある

 

「すごいすごい、ホコリも全然ないかもってミサカミサカはソファにダイブしながら褒めてみたり!」

「…でも何だか綺麗すぎて想像と違うような気がするなー」

「そうだな。正直に言えば、もう少し散らかっているものかと思っていたが」

 

ソファに沈む打ち止め(ラストオーダー)の明るい声に反して、芝浦と手塚が言葉を発する

そんな言葉に黄泉川はあっはっは、と苦笑いをするばかりで何も答えない

笑う黄泉川に芳川は呆れたような声色で

 

「…貴女。また始末書を書かされたわね」

「―――。あ。あはは。なんのことじゃーん」

 

ギクリ、と黄泉川愛穂が身体を震わせる

ぎぎぎ、とロボットみたいに黄泉川は芳川の方へと首を向ける

 

「…どういう意味だ?」

 

浅倉の疑問に芳川が苦笑いと共に

 

「昔から問題起きると整理整頓を始める人間なのよ、彼女は。そのせいで何をどこに置いたかとか分からなくなることがよくあるの。気を付けておいて」

「それが次の仕事先を一緒に探してやってる恩人に対しての言葉じゃんかよー」

 

どうも芳川と黄泉は二人だけでの時に話すとき、若干砕けた感じになるようだ

子供っぽくなる、といえば分かり易いか

或いは、そこまで気の知れた仲なのか

 

「その癖が抜けてない、という事は台所も相変わらず、と見ていいのかしら」

「整頓の悪癖は認めるけどそっちを指摘されるのは癪じゃんよ。桔梗だって私の料理美味いって食べてたじゃんか」

「ええ、美味しかったわ。…その作り方を知った時は、流石に呆れを通り越して笑っちゃったけど」

 

何やら意味深なその言葉に顔を見合わせる一方通行(アクセラレータ)

そして黄泉川が「私だって日々進歩してんじゃん、その目で確かめてみー!」と言いながら芳川を引っ張って行ってしまったために、一行もそれに続く形でキッチンに行く

 

実験の協力、という名目通り黄泉川自宅のキッチンにはいろいろな調理器具が並んでいる

しかし黄泉川はそう言ったのをあまり使用していないようだ

放置されています、と言わんばかりの器具よりも目を引くのは四台五台と並んでいる電子炊飯器である

全て稼働している状態で

 

「―――一人一台ってか。フザケてンのか白米マニア」

「流石に一台は多すぎるっつうか何つうか…」

 

うんざりした様子で呟く一方通行(アクセラレータ)と若干引き気味の浅倉に黄泉川はまた笑いながら

 

「違う違う。ほら、炊飯器ってのは一個だけで煮る、蒸す、焼くってなんでもありじゃんよ? だからこっちのがパンを焼いてて、そっちのがシチュー煮込んでて、あっちのが白身魚焼いてんの」

 

…確かにこれは、真実を知らない方がよかったのかもしれない

その事実をもう知っている芳川は改めてため息をついて

 

「ナマケモノ」

「動物みたいな評価はやめてほしいじゃんよ。…ううん、そんなに悪いものかなぁ、これさえあればボタン一個で作ってくれるし、火使わないからうっかり寝ても問題ないスグレモノなのに…」

「極端すぎるのよ毎回毎回。足して二で割ったら反物質反応が起きるくらいにね」

「ちゃんと味と栄養と満腹感は得ているんだから問題ないじゃんよ。鍋とか色々揃えるのは面倒だし、何にでも使える万能の品があると嬉しいじゃんか」

「…貴方は一度、苦労して作る喜びを覚えた方がいいわ」

 

何手芳川は言うが、彼女の専攻は遺伝子分野で、なおかつ作っていたのは二万人弱のクローンだったりすると、あまり笑えないコメントだった

 

◇◇◇

 

シャットアウラはカフェにて昼食を終えたところだった

ナプキンで口元を拭くと改めて目の前の人物にお礼を言う

 

「…その、ありがとうございます。名護さん」

「気にすることはない。この程度、造作もないさ」

 

そう言いながら名護は食後に頼んでおいたコーヒーに口をつける

簡単に言うなら、昼食代は名護に奢ってもらった

自分としてはのんびりここで昼食を食べようかと思ったのだが、ばったりと名護と出会って、そのまま奢ってくれるという話になったのだ

もちろん最初は断ったのだが、頑なに頷いてくれず、シャットアウラが折れる形となった

 

「シャットアウラ君」

「! は、はい」

 

不意に言葉をかけられシャットアウラは身体を震わせた

思えばこうして名護と話すのは久しぶりだ

もっぱら最近は学校が慌ただしく、ゆっくり話すということは出来なかった

名護はコーヒーを皿に置くと

 

「―――学校は、どうだい?」

 

そう一言聞いてきた

彼の言葉に、シャットアウラは考える

 

学校は、どうか

 

最初はもちろん不安はあった

おまけに同じタイミングで鳴護アリサもあの高校に通うことになった、という事を聞かされてさらに微妙な気持ちになった

今まで戦場にいた自分を受け入れてくれるのか、そもそも自分に友人が出来るのか、今更自分が学校なんて…などなどいろいろな想いが交錯していた

 

しかしアリサは、昔の事など気にしない様子で自分と接してきてくれて、アラタや当麻がいるあのクラスは自分が抱いていた不安を払拭させてくれるほどに賑やかなクラスだった

まだ過ごした日数は浅いが…それでも、忘れかけていた何かを思い出させてくれるような毎日だ

 

「―――そう―――ですね。長らく感じた事のない感情を、思い出したのは…確かです」

 

偽らざる本心

その顔は、無意識にも笑みを作っていた

彼女の笑みを見て、同じように名護も笑みを浮かべる

 

「そうか。なら、何よりだ」

 

名護からその言葉を聞くともう一度シャットアウラは笑った

その時ふとピリリ、と彼女の携帯が鳴り響く

シャットアウラは名護に断りを入れて携帯を見る

どうやらメールが来たようだ

それを確かめるとシャットアウラは立ち上がって

 

「名護さん、すいません。アリサと約束していたのを忘れていました。…えと、それで代金は―――」

「大丈夫だ。払っておくと言ったでしょう? 早く友達の所へ行ってあげなさい」

 

名護の言葉を聞いてシャットアウラは頭を下げる

そしてそのままカバンを手に取りカフェを出口に小走りで移動していった

その背中を眺めながら、名護は改めて目の前に出されたコーヒーを口にする

ミルクや砂糖を入れたわけでもないのに、どこか甘い味がした

 

◇◇◇

 

美琴は持っていたヴァイオリンをクロークに預けると少し遅れてやってきたアラタを連れ、地下街へと歩いてきた

かつてはシェリーという魔術師と彼女の操るゴーレムによって結構な被害が出たのだが、今ではその破壊された爪痕は見られない

壊された柱や床は修復されて、喫茶店のウィンドウも真新しいものに取り換えられていた

取り換えられた、と言ってもパッと見の違いは分からず、よほど近くで凝視しない限りその違いは分からないだろう

これほど急いで工事が行われたのは、後ろに控えていた大覇星祭の影響もあった

開催する目的の九割かた学園都市のイメージアップを図ったものなのだから街が壊れてはお話にならないのだ

 

「…もうそろそろしたら、暖房に切り替わるな」

「そうね。だいたい二週間くらい先になるんじゃなかしら? …っと、あったあった。こっちよ、アラタ」

 

ここ、地下街は基本的にゲーセンやカラオケボックス、ライブハウスと言った騒音問題のありそうな娯楽施設が多くある

てっきりゲームセンターかどこかにいって暇を潰すのかなー、とは思ったがどうやら別にちゃんとした目的があったようだ

彼女がピシ、と指差したのは携帯電話サービス店だ

 

「アラタ、〝ハンディアンテナサービス〟って知ってる?」

「ハンディアンテナサービス?」

「うん。個人個人の携帯がアンテナ基地の代わりになるって言うサービス」

 

早い話、街中で携帯を持ち歩いている人みんながアンテナ代わりになるのだ

自分の近くにアンテナが無くても個人1、個人2…と言った具合にアンテナを中継していき最終的に個人Zの付近に本来のアンテナ基地があればそのまま通話が可能、というものだ

詳しく言えば複数の人間を伝い網目のようにルートを作っていくので、そう簡単に断線することもない

元々は震災下での地上の通信基地が全滅した場合、数少ない飛行船に設置型アンテナをつけて飛ばし、臨時の空中通信網を整備するために作られたものだ

メリットとしては大学側がテスト運用としての補助金を出すため、サービス料金がとってもお安くなる、という話も出ている

 

「私さ、それに登録してみようって思うのよ」

「そのサービスに? でも、このサービスって加入人数が少ないと意味ないんじゃないか?」

「だからそのサービスを普及するために加入するの。ペア契約にしちゃえばハンディアンテナだけじゃなくて、その他いろいろな通話料金も安くなるみたいだし」

「ペア契約?」

「うん。あらかじめ登録しておいた二人の間だけ、通話料やパケット代とかがかからないの。んで、今ペア契約をするとね」

「すると?」

「なんと、ラブリーミトンのゲコ太ストラップがもらえるの」

「ふーん。…うん?」

「即ゲット。…という訳で、一緒に契約して?」

 

どうやらストラップ目当てのようだ

相変わらずというかなんというか、アラタは苦笑いをしつつ

 

「いや、別にそれはいいんだけどさ。機種変とかとか必要なやつか?」

「あぁ、その事なら心配ないわ。ハンディアンテナは本体を変えるんじゃなくて、追加拡張チップ差し込むだけで問題ないみたいだし、機種変が必要ってことはないと思うわ。たぶん、アラタの携帯は弄んなくても大ジョブだと思うわよ?」

「ってことは、アドレスと番号だけでいい感じかな」

「それもそう…なんだけどね?」

 

美琴はカバンについているゲコ太ストラップを手で弄びつつ

 

「一緒に店にいったり、結構な数の書書類書いたり、割と待たされると思うから、さ。その辺の融通聞く人じゃないと、頼みにくいのよね。…流石に半日はかかんないだろうけど…」

 

なるほど、と頷きつつふとお店ののぼりに書かれてある文字を見て、ふと素朴な疑問を抱いた

僅かに首を傾げるアラタ見ると?を頭に浮かべ

 

「どうしたの?」

「いや、契約とかは特に問題ないんだけどな、これってカップルとかでやる奴じゃないのか? ほら、男女限定って書いてあるし」

 

カップル、という言葉を聞いて、思い出したように美琴は肩を震わせる

彼女はカバンを改めて両手に抱くように持ちながら

 

「だ、大丈夫よ。べべ、別に男女って書いてあるだけで、ここ、恋人とは書かれてないじゃないっ!? そうよ、うん、全然大丈夫、問題ないわっ!」

「み、美琴?」

「さ、い、行くわよアラタっ」

 

何でか若干頬が赤い美琴の後ろをアラタは怪訝な顔をしながらついていく

店内に入ると、いい感じな冷房が身体を包んでいく

送風ルートとか十分に設計しているのかどうかはよく分からないが、肌寒くないのに汗は引いてく、という説妙な加減なのだ

カウンターに座っていた女性は笑みと共に美琴に応対する

この人とペア契約したい、まだゲコ太ストラップは余ってますか、などと言ったやり取りの後、店員は書類を揃えながらこう言った

 

「書類作成に当たって、写真が必要なのですが、お持ちですか?」

「写真? それって、証明写真とかで、大丈夫ですか? あとサイズとかは…」

「いえいえ、そんなお固いのではなくてですね。このペア契約に当たって、〝この二人はペアである〟、という事を証明してほしいだけなんです。二人が写っているなら携帯とかでも大丈夫です。今ならペアの写真立て型の充電器をご用意するのでそちらにも使用させていただきます。あ、型式番号等は気にしないで大丈夫ですよ、四社とも共通の規格ですから」

「…え?」

「あら。そう言うのはあまりやられませんか? でしたらこの機会にぜひ。登録完了の二十分前に写真をお渡しくれれば構いませんので、待ち時間を利用していただけると助かります」

 

そんな訳でたくさんの書類にペンを走らせて二人は一度お店の外に出た

次は、件の写真撮影だ

 

アラタは普段使っているスライドタイプの携帯を取り出し

 

「ボックス探すのは手間かかるし、普通に携帯でいっか。美琴のは預けちゃってるし、流石にデジカメとかはないよな」

「う、うんっ、お願い…」

 

どこか上の空の様子の美琴にアラタは気づいていない

テキパキとカメラモードに切り替えると二人とも映るように少し遠くに手を動かしつつ

 

「さて、じゃあ撮るぜ…って、あの」

「な、なにっ!?」

 

若干裏返った声で返す美琴は何故だか少し遠くにいる

確かにツーショットかもしれないが、ペアかと問われると頷きづらい

 

「美琴、もちっと近づいてくんないと写真撮れないぞ」

「わ、分かってるわよ! その前に、ちょっと、心の準備させてっ」

 

そう言うと美琴はスー、ハーと大きく息をして自分を落ち着かせる

やがて意を決したようにアラタの隣に歩いていくとするり、とアラタの左腕に己の右腕を絡ませる

そしてそのまま彼の方に自分の頭を置いた

流石にここまで接近されるとは思っていなかったアラタは内心穏やかじゃない

気心知れていると言えど彼女は女の子だ

ここまで近くにいられるとドキドキしてしまう

 

「…よし、撮るぞ」

「オッケー、いつでもいいわよ」

 

言いながらアラタは携帯を持った手を操作し、シャッターを押す

ピロリン、と言ったそんな電子音声の後、先ほど撮った写真を表示させてみる

 

「―――うん、悪くないんじゃないか?」

「そうね、よく撮れてる」

 

互いの感想はそんなごく普通なものだった

映りも悪くなく、若干アラタの表情が微妙なものではあったが、特に気になるほどではない

恐らく誰が見てもパッと見はペアっぽいと思うだろう

 

「じゃあ残りの時間、地下街でも歩き回るか?」

「うん、適当に歩いて時間を潰しましょ」

 

とりあえずその写真を表示させたままスライドさせ携帯を閉じる

そのまま二人は特に目的を決めることなく、他愛ない事を話しながら地下街を歩いて行った

写真を撮るために組んでいたその腕は離してしまったが、そ、と彼の服の袖をきゅ、と握る

深い意味は特にない、しかし、今はこの時間を、大切にしたい、と心の中で思う―――

 

◇◇◇

 

学園都市ではない、どこか

 

黄色いワンピースのような服装をした女が、ある目的地へ向けて歩いている

頭には布の被り物をし、着脱可能な袖をつけたその恰好は、十分奇妙と言えるだろう

すでに大体の移動を終え、あとは徒歩での移動で十分辿り着く距離だ

 

目的地のある方角へと視線を動かす

こきり、こきりと首を動かしながら着実に目的地へと進んでいく

彼女の手には、現実には似つかわしくない、大きめな鈍器を携えて、彼女は歪にその口元を歪ませた




今回の気まぐれ紹介はお休み
ではまた次回


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#66 その二つは交差して

だいぶ遅れてしまいました
相も変わらない、というかいつも以上にグダグダしてますがご容赦を

感想にも返信できずに申し訳ない

ではどうぞ


<あのねー、今下位個体と追いかけっこしているのってミサカはミサカは現状報告してみたり。流石にすぐには帰れないけど晩御飯は作っておいてほしいかもってミサカはミサカは注文を出してみる>

 

そんな留守録から聞こえてきたのは打ち止め(ラストオーダー)の声だった

発信源は黄泉川自宅の電話だが、彼女のいつも通りの声色に思わず一方通行(アクセラレータ)は電話を杖で叩き壊そうとした、がすんでの所に浅倉に止められた

ある事情から負傷している今の彼は能力を使用できなければバタバタと暴れる程度の力しかないのだ

しばらくバタバタと暴れていた彼はぜーぜーと息を吐きつつ

 

「…ったく、面倒くせェガキだ」

「自由奔放も度が過ぎると、な。帰ったらちょっとお仕置きだな」

 

手塚も頭を掻きながら呟く

そんな様子を見た黄泉川も小さく笑みを作りながら

 

「そいじゃ、私らも手伝ってあげるとしますか」

「…私も?」

「桔梗以外に誰がいるじゃんよ」

 

どうやら私ら、の中に自分が入っているとは思わなかったらしく、彼女は窓を見つつ「…一日一時間以上歩いたら、倒れる…」などとわけの分からないことを呟いている

そんな彼女らに一方通行(アクセラレータ)は眉をひそめて

 

「…何の真似だ?」

「探すんでしょ。あの子を」

 

ごく普通に返ってきたその言葉に彼は少し押し黙った

その間、黄泉川は留守録のメモリを電話から引き抜きながら

 

「どうも屋外っぽいし、後ろから聞こえてる物音を解析できれば場所だって探れるじゃんよ。その辺は、警備員(アンチスキル)の黄泉川さんにまかせておくじゃーん」

「…え、でもそれって職権乱用なんじゃ…」

「細かい事気にしない気にしない。それに、迷子の捜索も治安維持のお仕事の一つ。全く問題ないじゃんよ」

 

芝浦の言葉に作業しつつ彼女は答える

どこか微妙な表情をしている一方通行(アクセラレータ)に、黄泉川は

 

「こういうの、なんて言うか知ってるか?」

「足の引っ張り合いか?」

「持ちつ持たれつって、言うじゃんよ」

 

◇◇◇

 

そんな訳で午後五時

一方通行(アクセラレータ)はと浅倉御一行は冷房もそこそこなマンションから出ていつまで経っても帰ってこない打ち止め(ラストオーダー)を探しに行くことになった

彼らの手には連絡用の携帯が握られている

 

「…とりあえず、二手に分かれて探すか。地下街は一方通行(アクセラレータ)とオレ、上の方は手塚と芝浦、頼むぜ」

 

黄泉川から聞いたところによると打ち止め(ラストオーダー)の背後で流れていたのは地下街で使用されているという室内音楽だったらしいのだ

しかし必ずそこにいるという確証はない

あれからそこそこ時間が経っているし、もしかしたら地下街の外の方へと行ってしまったかもしれない、という可能性を考慮して、こんな感じの二人組に分かれることになった

 

見つけたら連絡する、という取り決めを交わし、一行は出発する

外の探索班は他にも黄泉川がおり、彼女は移動が車のため、スピーディだ

因みに留守番役は芳川桔梗だ

探しに出ても入れ違いになってしまう可能性も否定は出来ず、暗証番号も何も知らない打ち止め(ラストオーダー)はその場で佇むこととなるだろう

しかし大人しく佇んでいるだけならばいいが、暇があればどこにでも突っ走るあの子が留まるとは考えられない

飽きてしまえばそれまでで、また捜索が面倒になる

 

「とりあえず、こっから俺らは地下に向かえばいいンだな」

「そうだな。もっとも、ついたら聞き込みでもいて情報を集めないと見つからないと思うが」

「はっ。この格好(シロづくめ)で聞きこみか」

「嫌かもしれんがやってもらうぜ?」

 

一方通行(アクセラレータ)は学園都市中で有名だ

無論、それは悪い方に、だ

そんな第一位が笑顔で接近してきた暁には最悪ショックで死ぬかもしれない

〝殺されるかもしれない、と思って反射的に撃ってしまいました〟、と言われても納得できる

 

「は、うざってェ事になりそうだ」

「違いねぇ」

 

◇◇◇

 

とりあえず今晩は一緒に夕食でも取ろう、という話になって一度アラタは美琴と別れた

正直自分が知ってるお店は翔一のレストランAGITOと光太郎のステーキハウスの二つだ

…どっちで晩御飯を食べようか、などと割と真剣に悩んでいると彼の耳に聞き慣れた声色が聞こえてくる

 

「あー! アラタ!」

「ん? …あれ、当麻じゃんか」

 

前から走ってきたのはアラタの友人、上条当麻

彼も普段着ている制服の上に黒い学ランを来て、若干冬服スタイルだ

彼はアラタの前まで走ってきて、そこで止まると息を落ち着かせるように膝に手を当てて大きく何度か息を整えた

 

「…どうした、またなんか面倒事か」

「いや、面倒事って言うか、…まぁそうなんだけど」

 

アラタに問われると当麻は苦笑いを交えつつ、頬をポリポリと掻く

その動きにアラタはうん? と首を傾げるがやがて当麻は口を開いて事情を説明し始めた

 

「いや、そのさ。インデックスとはぐれちまった」

「…なんとなく嫌な予感はしていたが、やっぱりか」

 

しかしそれは想像できなかった出来事である

彼の話によるとお昼はどこかに食べに行こうか、という話になり意気揚々と外出して、そして僅かな時間、眼を離した途端彼女の姿が見えなくなってしまった、とのこと

普段なら彼女に持たせている携帯を使用すればいいのでないか、とアラタは提案したが今回に限って部屋に忘れてしまっていて使用できない、という有り様だ

 

「…なんでこんな日まで不幸フルスロットルなんだお前は」

「面目ない。けど俺の不幸スキルは今に始まったことじゃないぜ?」

「遠い目をしながら言うな、より悲しくなってくるから」

「何を憂鬱気に空を仰ぎ見てるのって、ミサカはミサカはその背中に飛びついてみたり」

 

唐突に彼の身体が震えあがった

別段寒さからではなく、いきなり何者かに飛びつかれた驚きから来るものだろう

 

「のわわわ!? な、なんだこれっ!? アラタ、俺の背中に何かいるっ!?」

「みたいだな。んーと…ほい」

 

当麻の背中に回ってその抱き着いている謎の物体を掴んで降ろしてみる

そしてこちらに見せたその姿形に、アラタは驚きを隠せなかった

何故ならその子は、御坂美琴をおさなくした容姿をしていたからだ

当の女の子本人は? と首を傾げているだけだった

 

◇◇◇

 

何がどうしてこうなった、と浅倉は思う

今ここにいるのは地下街に入ってすぐのファーストフード店だ

店の外にはいくつかテーブルが並べてあるのだが、その一つ

 

白い修道服を着た銀髪碧眼の女の子がハンバーガーとかフライドポテトの山に埋もれていた

念のために言っておくがこれらは浅倉と一方通行(アクセラレータ)が買い与えたものである

なんでそんなことしたんだい、と聞かれるとそれは目の前の修道服着た女の子がお金を一銭も持っていなかったからなのであるが

そもそもどうしてこんなことになったのかというと、じゃあ探すか、となった時に横合いからこの女の子がぶつかってきたことにある

彼女はふらふらした足取りで二人によって

 

「あれとうまじゃないあらたでもないそれはそうとおなかが減ってもう動けないとあのジューシーな見た目のアレ食べてみたいねぇ食べるにはどうすればいいのアレ食べるのにはどうすればいいの?」

 

普段の一方通行(アクセラレータ)ならここで彼女の身体を粉微塵に砕いている所だが、つい先ほど電話で黄泉川にたまには良い事でもしてみたら的な言葉を貰ったばかりなのだ

だから、という訳ではないがさすがにこのままスルーするのも〝タバコやめます宣言は三十分くらいしかもたないのね〟みたいな台詞を言われる感じがしてそれはそれで腹立たしい

そんな訳でたまたま近くにあったファーストフード店に立ち寄って適当に何か頼んでみたところ、〝あれもこれも食べてみたい全部欲しい〟なんて偉い事を言ったので今にいたる、という事だ

 

一方通行(アクセラレータ)は過去にいろいろな研究に身体を貸している

金は特に使用していない口座にあるのだから金銭面に問題はないのだが、こんな華奢な身体のどこにこれほどの量のハンバーガーが入るのかは今をもってしても疑問だ

因みにこの子は先ほどまで小猫を抱えていたのだが、こっちは空腹ではないのかハンバーガーに興味が行かず(そもそも玉ねぎ混入のためダメなのだが)同じように地下街に迷い込んできた野良猫とみゃーみゃーいっている

一方通行(アクセラレータ)は改めて目の前の光景を眺めて

 

「…馬鹿げてやがる。あのクソガキ相手にだってここまで疲れたりはしねェぞ」

「こっちのが疲れるなぁ、あの子よりは」

「もが?」

「いちいち手ェ止めねェで一気に食え。それより俺になんかいう事あンじゃねェのか」

「ごっくん。うん、ありがとね」

「―――一言かよ」

「これはエライ子と遭遇しちまったなおい」

 

日頃から彼女と一緒にいる知人には同情する

彼女は自分の近くに置いてあるラージサイズの飲み物を口に着けそれぞれ一気に飲み干して

 

「わたしの名前はね、インデックスって言うんだよ」

「…お、おう」

「当麻とはぐれちゃって探してたんだけど、その途中でお腹が減っちゃってね。って言うかそもそもご飯を食べに行こうって話だったのにいつの間にか当麻がいなくなってたんだけど」

 

インデックスと名乗った彼女はカップの中にあった氷を手にしてそれを口に放り込むとぶるりと身体を震わせる

無邪気というかなんというか、おまけに彼女は自分の口の周りにソースがついている事に気が付いていない

ハァ、と浅倉はため息と共に彼女に向かってポケットティッシュを放り投げる

しかし今度は開け口が分からないようでおどおどし始めた

…どうやら彼女は現代知識がだいぶ欠如しているらしい

 

(それにしても、こいつの目的も人探し、か)

 

一方通行(アクセラレータ)は今現在探しているあの子の顔をなんとなく頭の中で思い出す

徐に彼は携帯を取り出して打ち止め(ラストオーダー)の顔を表示させるとそれをインデックスの方へ向けながら

 

「おいお前。こんなガキを見たことあるか」

「ないよ」

 

全くの即答だった

たいていこういうのは自分の記憶をたどるものではないのだろうか

 

「わたしは一度見た人の顔を忘れないから、間違いないと思うけど」

「…あン?」

「…?」

 

一方通行(アクセラレータ)と浅倉は若干眉を潜めたがインデックスは大量のハンバーガーを食べて満足したのか満面の笑みでベチャー、とテーブルに突っ伏す

 

「いやー、でもよかった。もう一度言うけど、本当にありがとうね。これでお腹の事を気にしないで当麻の事を探しに行けるよ。…お腹がいっぱいになっちゃったから探す理由少し薄くなっちゃったけど、ここまで来ると見つけないとなんだか気が済まないし」

「あァそうかよ俺らは手伝わねェぞ」

「こっちに来て少し経つんだけど、まだ街の様子とかわかんないし。私の頭なら道に迷うことなんてないんだけどなぁ。ただ単に覚えるだけじゃダメなのかも。でも結局こうして学園都市の人たちと会えたなら」

「そォかいヨソ当たれ」

「…貴方たち、何やってる人? 忙しいの?」

「…そうだな、生憎と、だな」

「あァ。大忙しだ」

一方通行(アクセラレータ)は杖に力を込めて、そして浅倉は椅子を引いてそれぞれ立ち上がる

奇遇にも、彼らも同じ人探しだ




今回も気まぐれ紹介はお休み

ではでは


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#67 互いが互いを知らぬ間に

サブタイトルが変だ…

最近返信できず申し訳ないです

なんでも次回春の映画に我らがてつを氏がご出演なさるとか
…楽しみですな

では、相変わらずですがどうぞ


「…ってことは、君はアレなのか。御坂妹達の長的な、ホストコンピュータみたいなものなのか」

 

彼女を地面に下ろしてアラタはそう尋ねた

打ち止め(ラストオーダー)と名乗った彼女からだいたいの説明は受けた(この時また偽名みたいだなぁ、とアラタと当麻の二人は思ったのだが黙っておく)

 

「ホストっていうよりはコンソールに近いかもってミサカはミサカは訂正してみたり。ミサカの中心点はどこにもなくてネットの中で特定の個体が〝核〟として存在することにあまり意味がないのってミサカはミサカは偉そうに胸を張って講釈しみたり」

 

なんでも大勢の妹達(シスターズ)が暴走を起こした時に、それを人間側の手で食い止めるために作られたのが彼女のようだ

妹達(シスターズ)が作るネットに、別の手で介入する、という最終信号とのことだ

…しかしそんなすごそうなのがこんなところで何をしているのだろうか

 

「あのねー、ミサカは実験の時にあなたたちに助けてもらったからそのお礼を言いに来たのってミサカはミサカは鶴の恩返し的な展開を言ってみたり」

「本音は?」

「信用してないし! ってミサカはミサカは地団太を踏んでみたり! 確かにお礼を言いに来たってのは偶然によるこじつけだけどってミサカはミサカは本心を明かしてみる!」

「じゃあ俺たちの不信感は正解じゃねぇか」

「そのデリカシーのなさが頭にくるのー! ってミサカはミサカはポカポカやってみる!」

 

そう言って打ち止め(ラストオーダー)は両手をぶんぶん振り回してポカポカとアラタや当麻をたたき始めた

なんだか怒らせてしまったようだ

アラタが彼女の相手をしつつ、当麻があちこちを見渡して

 

「悪い悪い、あっちにポップコーン売ってるから、そいつでお許しくだせぇ」

「女の子の繊細な心を食べ物ごときで誘導できると思っているの!? ってミサカはミサカは愕然としてみる!」

 

あれま、と当麻は思った

どうやらインデックスを相手した時の対処法が身に染みてしまったようだ、これはいけないと当麻は反省したのちに

 

「ごめん、じゃあ断食な」

「ポップコーン大歓迎だけど! ってミサカはミサカは食べ物はもらうけど怒るのはやめないという新しいアクションを披露してみたり!」

「どっちだよ」

 

そんなアラタの言葉とともに打ち止め(ラストオーダー)はぐいぐいと彼の服を引っ張り始めた

なんだかんだで食べ物で話が纏まりそうだ

 

しばらくして、当麻がキャラメルのポップコーンを購入し、甘ったるいにおいのするその円筒の容器を打ち止め(ラストオーダー)に手渡した

 

「おお、ミサカの頭とおんなじくらいの大きさかもって、ミサカはミサカは徳用サイズに感心してみたり」

「…しまったな。明らかにお前の胃袋よりもビッグサイズじゃねぇか」

「まぁインデックスはこれくらい五分足らずで完食するもんな…」

 

そんなアラタの危惧が的中したのか、数分後

ポップコーンの大きな容器を片手で抱え、もう片方の手は口をおさえうずくまる幼女の姿が確認された

 

「べ、別に残してもいいんだよ?」

 

いたたまれなくなったアラタが彼女の肩を叩いてみる

 

「み、ミサカはミサカはいただいたものを粗末にするようなおバカさんでないげぷ」

「あぁもう。待ってて、今水買ってくるから」

 

プルプル震える彼女の頭を撫でると適当な自販機からミネラルウォーターを買ってきて彼女に手渡した

受け取った水で喉を潤すことによってようやく本調子を取り戻した

ポップコーンを手近なベンチにおいて彼女は言った

 

「ミサカはね、これをかっぱらってきたの、ってミサカはミサカは戦利品を自慢してみたり」

「いきなり山賊宣言かよ、やるな御坂上位個体…ってあん? これって、いつもは御坂妹がしてるゴーグルじゃねぇか」

 

彼女がぐいぐいと指差しているのは彼女の首にぶら下がったゴーグルだ

暗視装置みたいな、いかにもな電子機器

なんだろうか、っていうかこれは御坂妹が普段つけているゴーグルではないだろうか

 

「どうもこれってミサカのために作られたものではないから上手くつけられないの、ってミサカはミサカはちょっとしょぼんとしてみる」

「? 要はゴーグルを固定してるバンドの長さを調節すればいいんじゃねーか?」

「? ばんど?」

「貸してみな」

 

そういいながら当麻は彼女と同じ目線に立つ

当麻がそのバンドに触れてみるとそれはゴムでできていた

わかりやすく言うなら水中ゴーグルを思い浮かべてみるとわかりやすいか

アラタはそんな光景を見ながらなんだか兄弟みたいだなー、なんてことを考えていた

 

「ちょっとごめんよ」

 

言いつつ当麻は本体のゴーグルをつかむ

分厚いゴムのバンドは当麻に引っ張られてみょーん、と伸びていき、それと同時になんとなくアラタは嫌な予感がした

 

「当麻、念のため慎重に―――」

 

が、アラタの警告は時すでに遅し

 

不意に伸びたバンドに打ち止め(ラストオーダー)はじたばたと暴れてしまい

 

「いた、いたたってミサカはミ―――」

「わっ!?」

 

驚いた当麻はうっかりゴムバンドから手を離してしまった

伸びていたゴムバンドは元のサイズに戻ろうと伸縮し―――後の結果はご想像の通りだ

 

数秒の後

ゴロンゴロンとその辺を転げまわっている彼女が発見された

どことなく気まずい空気があたりを包む

声をかけようか迷っている二人にもう一度彼女が立ち上がった

彼女の瞳は若干涙目になっている

もう一度、ということだろうか

 

今度はアラタがやることになった

しかし結果はお察しである

 

この時打ち止め(ラストオーダー)に踏み倒され二人はぼこぼこに踏まれまくったがとりあえず気が晴れるともう一回ゴーグルを二人に差し出してくる

 

健気だ…!

 

それが二人が思った感想だった

そんな彼女の心意気にこたえるべく、当麻とアラタは細心の注意を払ってゴムの長さを整えることに挑戦する

数分奮闘してようやく長さを調節したそのゴーグルを打ち止め(ラストオーダー)のおでこに引っ掛けてあげる

ゴーグル本体の大きさのほうが彼女のサイズに合ってない感じだが、それでもずり落ちることはなさそうだ

 

おおー! 彼女は嬉しそうにくるくるとその場で回りその喜びを体全体で表現している

そんな彼女を見て、ふと思った疑問を小さい声でアラタに耳打ちをした

 

「…なぁ、コイツ一人でこの辺をうろついているのかな?」

「さぁ、もしかしたら妹のほうも近くにいるのかもしれないし…はぐれてしまったのかもしれないな」

 

地下街だからあんまり実感は湧かないが、現在時刻は午後六時前、夕暮れ時だ

どこかにいる親御さん…か誰かを探して彼女を預けたほうがいいだろうか、なんて考えている二人をしり目に、打ち止め(ラストオーダー)はくるくると回り続けていた

 

◇◇◇

 

「でねでね。とうまってばいっつも私を置いてけぼりにしてどっかに行っちゃうんだよ? あれはもう放浪癖の一つといっても過言ではないかも」

 

一方通行(アクセラレータ)は現代的デザインのした杖を突きながら昼夜の区別がつきにくい地下街の中を歩いている

ちなみに先のインデックスの相手は浅倉にまかせっきりだが、こうなることをなんとなく察していた彼は特に文句を言うことなくすんなり引き受けてくれた

しかしインデックスの声の大きさは結構大きく、少し先を歩いている一方通行(アクセラレータ)の耳にも十分に聞こえるものだ

とりあえず思ったのは、彼女の言う〝とうま〟という名前を聞くとよくわからんがイライラする、ということだ

 

「おまけによく無茶ばっかりして怪我もしてくるし。あらたみたいな力があるならともかくともさ」

 

ついでにそのあらた、という名前を聞くと浅倉もちょっぴりムカリときた

なんでだろう、どこかで聞いたことがあるわけでもない…と思うのだが

 

「ところで、あなたたちはここで何をしているの?」

「人探しだよ」

「さっきのけーたい、の?」

「うん? そう、だけど」

「だったら何だよ」

 

先を歩いていた一方通行(アクセラレータ)が投げやりに答える

隠しておく必要はないし、こういうやつは言っておかないと何回も聞き返してくる可能性が高そうで鬱陶しい

少し似ている人間を知っているからわかる

そういうとインデックスは三毛猫を抱き上げると首をかしげて

 

「そういえば、まだお礼をしてなかったね」

「黙って帰れクソガキ。テメェみてェなガキに関わると余計手間取る予感がすンだよ」

「お礼してなかったね」

 

まさかのスルーである

一方通行(アクセラレータ)がうんざりと、浅倉がため息を吐きながら黙っていると彼女はお構いなしに

 

「さっきの子だよね? とうまが見つかるまでなら一緒に探してあげてもいいよ」

「―――クソッタレが」

「…そう言うなって」

 

完璧なまでの、その無邪気な言葉を聞いて、彼は思わず吐き捨てた

―――他人の善意に付き合うということは、案外疲れるということを、今日初めて思い知った

 

◇◇◇

 

ステーキハウス〝ブラックサン〟

最初はひっそりとやっていたこのステーキハウスも、今ではそこそこお客が来るようになっていた

 

「マスター、いつもの頼むぜ」

 

探偵、左翔太郎

ブラックサン最初の常連客となってくれた青年だ

今回は相棒であるフィリップはいないらしく、一人である

 

「やぁ翔太郎君、今日はフィリップ君はいないのかい?」

「あぁ、たぶんアイツは今読書してるころじゃないか? 読んでない本を消化するって言ってな」

「なるほど」

 

いつも通りの他愛ない会話を聞いて光太郎は厨房へと戻っていく

そんな時、またブラックサンの入口が開かれた

 

「南さん、こんばんわ」

「おっ邪魔しまーすっ!」

 

そこにやってきたのは夜神一真と黒川陸姫の二人組だ

翔太郎は首を向けて、その二人にあいさつする

 

「おっす、お前らも来たのか」

「翔太郎さんもいたんですか。…ていうか、結構な頻度でここに来てますね」

「憩いの場なんだよ、ここは」

 

夜神は翔太郎の隣に座り、翔太郎彼の言葉に水を口に含みつつ返答し、軽く帽子をかぶりなおす 

 

「けどなんとなく翔太郎さんの言ったことわかるなー。なんていうか、このお店の雰囲気? っていうか…」

 

陸姫は翔太郎の言葉にうなずきつつ、彼女は夜神の隣に座った

そしてメニューを開きつつ、鼻歌を歌い始める

奏でている歌はかつて鳴護アリサが歌っていた歌だ

 

「…お前、本当にアリサが好きなんだな」

「えぇ、さすがにファン一号ではないですけど、仮にも短い間ですけどボディーガードした仲ですからね!」

「へぇ、アリサのボディーガードなんてしてたのか? 黒川は」

「そうなんですよ、翔太郎さん。えへへ、すごいでしょ?」

 

きゃるん、なんて擬音が聞こえてきそうな感じで黒川陸姫はウィンクする

その際、ちらりと彼女は夜神を見るが、当の夜神はどこ吹く風でマスターである光太郎に自分が食べたいメニューを注文していた

…どうやら相も変わらず、のようだ

 

ふと、何気なく翔太郎は席から立ち上がって入口から顔を出し何となく空を見た

空は暗く、雲が多い

―――これはひと雨降りそうだ

 

「帰りは傘でも買って帰るかな…」

 

また余計な出費だな、と思いつつ、改めて翔太郎は席に座った

 

◇◇◇

 

「むむ。もうこんな時間だ、ってミサカはミサカは少し焦ってみたり」

 

当てもなく三人で歩いていると不意に彼女は呟いた

見たところ壁掛け時計みたいなものは見当たらないし、地下街では空の様子もわからない

そうなるとミサカネットワークみたいな何かで何らかの情報でも得ているのか

 

「あのね、ミサカはそろそろ帰らないといけないのって、ミサカはミサカは残念なお知らせをしてみる」

「まぁ時間が時間だからなぁ」

「普通は帰るもんな、夜近いし」

 

当麻とアラタとしてはこういう子供は早く帰るべきだと思っていたので少し安心だ

二人に打ち止め(ラストオーダー)はうんと頷き

 

「ホントはもっと一緒にいたいけど、ってミサカはミサカはしょぼんとしてみたり。会ったのは偶然だけどお礼をしたかったっていうのは本当だし、ってミサカはミサカは本心を吐露してみたり」

 

彼女はかけてもらったゴーグルに手をやった

でも、と彼女は続ける

 

「あの人たちは心配すると思うんだ、ってミサカはミサカは思い出しながら先を続けてみたり。さすがに遅いと探しに来るかもしれないし、ミサカもあんまり迷惑かけたくないからって、ミサカはミサカは笑いながら言ってみる」

 

彼女の言葉を聞きながら、ふぅん、と二人は言葉を濁す

よくわからないが、きっとその人はいいやつっぽいな、なんて漠然とした感想を抱く

 

「弱いんだ」

 

彼女は言葉をつづけた

 

「あの人はいっぱい傷ついて、手の中にあるものを守れなかったばっかりか、すくってた両手もボロボロになってるの、ってミサカはミサカは断片的な情報を伝えてみたり。その友達もあの人を支えて結構傷だらけになってしまってるし、これ以上負担をかけたくないから、今度はミサカが守ってあげるんだってミサカはミサカは打ち明けてみる」

「―――そっか」

「できるよ、君なら」

 

打ち止め(ラストオーダー)の言っている言葉も半分も、アラタと当麻は理解できていない

彼女の言葉に偽りなどない

いいやつっぽい、ではない

きっと、間違いなくいいやつだ

 

「カッコいいとこもあるんだよ、ってミサカはミサカは自慢してみたり。だってボロボロの傷だらけになってもミサカのために戦ってくれたんだって、胸を張ってみたり」

 

どうしてかその男の行動パターンには、なぜだかものすごく親近感がわくのだけれど

ばいばい、と言って去っていく彼女の背中を二人はしばらく眺めていた

最終下校時刻、終電の時間が迫っているのか慌ただしくなり始めた人ごみの中に、彼女の体はあっという間に消えていく

 

「―――ってか、結局インデックス見つからなかったな」

「あぁ、そうだな。…ったく、あいついったいどこほっつき歩いて―――うん?」

 

言葉の途中でふと当麻が見覚えのある人物を見た

当麻につられてアラタも視線を動かすと、〝彼女〟はこちらへ近づいてくる

 

◇◇◇

 

「あ、とうまだ。あらたもいるっ」

 

傍らのインデックスが言葉を発し動きを止めた

彼女の視線は通路の先を見ている

 

「見つかったのか」

「うん」

 

一方通行(アクセラレータ)と浅倉の二人は彼女の視線を見てみたが、人ごみのせいでそれらしい人は見当たらない

そもそもこの状況で誰を指して捜し人だといっているのかわからない

一方通行(アクセラレータ)は言う

 

「行けよ」

「でも、あなたたちの知り合いは?」

「そいつは大丈夫だ。こっちも見つけた」

 

浅倉が言葉を投げかけた方向もインデックスと同じで前方だ

その方向から中高生がメインの人ごみをかき分けるみたいに、女の子がこちらに向かって走ってくるのが見えた

二人は、その女の子の名前を知っている

本名かどうかなどわからないし、便宜上の名前にどんな価値があるかわからない

何があっても、それしか呼ぶ名前がないのなら、やはりそれは名前なんだろう

だから、二人はその名を呼んだ

 

打ち止め(ラストオーダー)ッ!」

「おーい、こっちー!」

 

二人に呼ばれたことに気が付いて、女の子の走る速度が一層走る姿が早くなる

彼女の顔にはバカみたいな笑顔が張り付けられている

それを見ていた二人の隣でとん、と小さな足音が聞こえた

 

「じゃあ行くね。ありがとう」

 

インデックスはそれだけ言って、自身の探し人の名前を叫んだ

 

「とうまーっ! あらたーっ!」

 

インデックスの足に力がこもる

わずか数十分の間行動を一緒にした女の子は二人の元を離れ、人ごみの中に入っていく

彼女は振り返ることはない

打ち止め(ラストオーダー)が振り返らないように

二人の少女は自身も気づかないうちに交錯し、すれ違い、距離を離す

打ち止め(ラストオーダー)が二人のところへ戻ってくるまでに十秒もかからなかった

 

「たっだいまーってミサカはミサカは定番な挨拶を言ってみたり―――て痛い! どうして無言でしかも連続で手刀を繰り出すのって、ミサカはミサカは泣きまねをしつつ上目づかいであなたを見てみたり!」

 

ビスビスと彼女の頭にチョップを繰り返す彼はこれまでの不満をぶちまける

 

「っつうか、お前は今まで何してたワケ?」

「遊んでもらってたの、ってミサカはミサカは正直に答えてみたり」

 

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)と話している間に、ふと、あのシスターが気になったのか、浅倉は彼女が走って行った人ごみの中を見た

だが、そこから得られるのは何もない

ただ漠然とした、人ごみがあるだけだ

そう、いつも通りに

 




申し訳ないが今回の気まぐれ紹介もお休みします

ではでは


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#68 長い夜

年内滑り込みセーフ
しかし出来はいつも通りだ、ごめんなさい

2014年、皆さまはどんな年でしたか?
私は怒られてばかりでしたが、楽しい1年でした

では本編どうぞ

あと誤字脱字ありましたらご報告ください



「あ、雨が降ってる、ってミサカはミサカは夜空を見上げてみたりっ」

 

打ち止め(ラストオーダー)は真っ暗になった街の中で雨粒を掌で受けている

あの後浅倉は手塚らと合流してくる、と言って少し先を歩いていった

そのうち二人を連れて戻ってくるだろう

この学園都市は最終下校時刻を過ぎると電車はおろかバスもなくなる為ほとんどの住民は面からいなくなる

残ってるのは今日は帰らないでいいや、と考えている気合の入った夜遊び派だけだ

パラパラと雨が降ってる

傘を差すほどではない天候の中打ち止め(ラストオーダー)は楽しそうにせわしなくうろうろしている

それを一方通行(アクセラレータ)

 

「鬱陶しいからその辺で固まってろ」

「できればお月様が見たかったのに、ってミサカはミサカはちょっとしょんぼりしながら踊ってみたりー」

 

ちょろちょろと動く打ち止め(ラストオーダー)一方通行(アクセラレータ)が頭をむんずと捕まえて

 

「余計な手間かけさせンな」

 

そう一方通行(アクセラレータ)に言われて、打ち止め(ラストオーダー)は静かに頷いてちょろちょろはしなくなった

ただ先を走ったりうろうろはした

 

「…」

 

内心彼はため息をつく

慣れとは恐ろしいものだ

今ここにある環境を平然と受け入れて

あまつさえ不満すら漏らす自分自身は一体何様だ

あれだけのことをしたのに

ここに立っていられる事さえ奇跡なのに

 

「痛っ! …転んだー、ってミサカはミサカは地べたで報告してみたり」

「単なる泣き言だろォがよ」

「擦りむいたー、ってミサカはミサカはちょっと涙目になりながら掌をじっと眺めてみる」

「…そこのベンチで座って待っとけ。言っておくがそのベンチから動いても見ろ、叩き潰すぞ」

 

本当にウンザリだ、と言わんばかりの表情でバス停のベンチを指差しながら一方通行が杖をつきながら歩きだした

 

「おっけー、ってミサカはミサカは頷いてみる」

 

彼女の言葉を耳にして、一方通行(アクセラレータ)はあからさまに舌を打った

そんな彼の背中を打ち止め(ラストオーダー)は笑顔を作って見送った

 

 

あの後、浅倉は一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を任せて、自分は一足先に黄泉川の自宅に戻ることにした

ついでに外を探索していた芝浦と手塚の二人にもメールを送り、適当なところで雨宿りをしつつ、合流を待つ

待っている間、ふぅ、と浅倉は今日起こった出来事を思い出していた

 

「…打ち止め(ラストオーダー)の相手も疲れるけど、あの子の相手もしんどいなぁ…経済的に」

 

打ち止め(ラストオーダー)はまだ肉体的疲労が多いが、あのシスターはそれプラス金銭面に被害が出る

あのシスターの保護者は聖人君子か、はたまたよほどの金持ちなのか

どっちにしろ、その心中をお察しする

そこで、ふと、気が付いた

 

この雨の中に、傘も差さずにこちらに向かってぞろぞろと歩いてくる妙な集団があることを

パッと見の外見はならず者らの集団にしか見えないが、どいつもこいつも放ってくるのは殺気ばかりだ

相手のほうが数で勝っている―――、がこちらもタイミングよくアイツらが来ていた

 

「よっす、浅倉。…来て早々だけど、奴ら何?」

「大方、昔俺たちが叩きのめした連中か何かだろう。早いとこ片づけて黄泉川さんのところへ戻ろう」

 

芝浦篤と、手塚海之

先ほど連絡をして、あまり時間がかかっていない

連絡を受けた時、近くにいたのか、あるいは駆け足で駆けつけてきてくれたのかわからないが、今はそんなどうでもいいことを考える必要はない

わかりきっていることを浅倉は口にする

 

「―――潰すぞ」

 

彼のその呟きとともに、三人は一気にその集団に向かって駆け出した

相手が走ったのを気に、ならず者たちも走り出した

三対多数の戦いが雨の中繰り広げられる

しかし、浅倉たちはいともたやすくその集団を蹴散らしていく

もともとそういった環境の中に身を置いており、集団での喧嘩など慣れっこだ

おまけに今回は芝浦や手塚といった友人に背中を預けている状況にある、負ける要素などどこにもなかった

 

 

そんな連中を、どこからか見ている人影たちがいた

コンビニかどこかで購入したパンをほおばり、まるで他人事のように彼らは呟く

 

「…やっぱあんなクソみたいな奴らじゃ相手にならないか。あわよくば、とは思っていたけど、やっぱり僕が出るしかないのね」

「そんなのやる前からわかりきってたことじゃない。っていうか、どうしてあんな奴らになんか頼んだのさ」

「別に意味なんてないよ。けど、確実に叩き潰すならああいう捨て駒当ててさ、疲労させた隙を狙ったほうがいいと思わない?」

「…相変わらず、考えることがエグいですね」

 

そう言ってケラケラとその男は笑った

ラフな格好に身を包み、パンを食べ終えたその男はパンが入っていた袋をその辺に放り捨て、ゆっくりと立ち上がる

 

「北丘、高見沢。適当に猟犬部隊(ハウンドドッグ)の奴ら…はいらないかな。けど接触したって連絡だけ入れといて。終わったらいつでも木原さんから連絡は受けれるようにしておく事」

「了解」

「あぁ、わかりました」

 

そう自身の付近にいる二人―――北丘と高見沢にそう指示を飛ばし青年―――佐野光義は眼光を鋭くさせ歩き出す

口元に、歪な笑みを浮かばせて

 

◇◇◇

 

一通り殲滅させたと思ったとき、パチパチと誰かが手を叩く音が聞こえた

まるで人を小馬鹿にしたかのような、そんな拍手だ

浅倉たちはその音のする方向へと見やった

いまだにその拍手を続けながら、人を煽るような笑みを浮かべた男の後ろに、また二人、スーツを着た男が立っている

 

「いやー、さっすがじゃん。こんな有象無象の奴らなんかじゃ相手にならないかー」

「…あ? テメェ、誰だよ」

 

侮蔑を込めた瞳で浅倉は目の前の男を睨む

しかしその男はどこ吹く風といった様子で、そして笑みを崩さず

 

「これは失礼浅倉涼サン。俺の名前は佐野光義。まぁ、冥途の土産に覚えて逝けよ」

「浅倉…なんかわかんないけど、やつら、やばいぞ」

「あぁ、わかってる」

 

芝浦の声に応える

そんなことは雰囲気でわかりきっている、隙があればさっさと走って一方通行(アクセラレータ)たちと合流できれば、と考えてはいたのだが…

 

(―――隙がねぇ…!)

 

一見ふざけた格好に見えるが、その実そうでなく、まったくもってつけ入る隙が見当たらない

後ろにいるスーツの男二人もただ突っ立っているだけに見えるが、放つ殺気は先ほど蹴散らした連中とは比べ物にならない

 

「別に俺たちはさ、あんた達に恨みも何もない、はっきり言ってどうでもいいって言いきれるのよ。けどこれも仕事だからさ」

 

佐野はそこで言葉を区切って、パチンと両手を合わせて懇願するように言葉を続けた

 

 

 

「ちょっと死んでくれない?」

 

 

 

その言葉を皮切りに、佐野たちはデッキを構えた

佐野はレイヨウ…かは定かではないが、そんなデッキを、スーツの男の一人は牛、だろうか、そしてもう一人はカメレオンのような紋章が描かれたデッキをそれぞれ突き出し

 

『変身』

 

現れた腰のバックルに三人は手に持っているデッキをそれぞれ入れていく

ガラスが割れるような音と共に、三人がそれぞれ姿を変えていく

 

インペラー

ベルデ

ゾルダ

 

それぞれがそれぞれのライダーへと変身を終え、ゆっくりと歩きだす

 

「来るぞ、浅倉」

「っは、いいぜ、売られた喧嘩は買ってやるよ」

「おうよ、死ねって言われてはいそうですかなんて言ってられっかよ!」

 

浅倉たちも口々に言葉を口にし、デッキを前に突き出した

相手と同じように腰に現れたVバックルにそれぞれのデッキを入れ、叫ぶ

 

『変身っ!』

 

ライダーへと姿を変え、向ってくる相手を叩きのめすべく、三人は地を蹴った

 

 

少し時間は遡る

擦りむいた打ち止め(ラストオーダー)に絆創膏か何かをやろう、という事で付近の薬局に足を踏み入れていた

一瞬包帯か消毒液なんかが必要かな、とも思ったがその擦り傷は本当に些細なものであるから流石にそこまではいらないか、と思い直し改めて絆創膏に切り替えた

 

適当に絆創膏のパッケージを手に取り気怠そうな足取りでレジへと向かっていく

ポケットから財布を取り出して中を見てみると小銭しかなかった

そう言えばあのシスターの食費に消えたという事を思いだしたのは少しあとの事である

ふと、一方通行(アクセラレータ)の視線にレジ先に置かれたカラフルな絆創膏が陳列されているのが見えた

子供向けの商品らしい

大覇星祭に合わせてフェアを組んでいたものの余りもののようだ

 

「こいつはなんだ、他のとどう違う」

 

一方通行(アクセラレータ)がそう聞くと店員は淡々と語り始めた

どうも傷に染みない消毒液や傷口につかない絆創膏に薬の独特な匂いを消すために甘い匂いをつけた包帯などまさに子供向けの工夫がされているようだ

 

「―――ちっ」

 

そう舌を打つと一方通行(アクセラレータ)はそれも手に取って普通のと一緒にレジに出す

代金はどうにか小銭だけで済んだ

店から出た一方通行(アクセラレータ)の手元には可愛らしいマスコットキャラが描かれた薬局のビニール袋を持っていた

 

そんな袋を見てまた舌を打って、打ち止め(ラストオーダー)の所に戻ろうとした時だ

 

一方通行(アクセラレータ)は、何者からの襲撃を受けた

 

しかし〝反射〟の能力を持つ彼からしたら兵器など無駄に等しいものだ

一番最初に奴らからもらった攻撃は〝車でひき殺す〟というものだったが、食らう寸前に反射のオンオフを切り替える首筋のチョーカーに触れて反射をオンにしていたことで難なくその攻撃から生還し、殲滅し終えた所だ

 

「―――ったく、ガキだからって舐めやがって。だから最初(はな)から俺が出るって言っただろうが」

 

自分を取り囲む黒い自動車の一台からそんな声が聞こえる

開いたままの後部スライドドアから一人の黒づくめの男が蹴り落とされて、そこから白衣の男が出てきた

研究者のくせに顔に入れ墨を彫ったその男は両手に細いフィルムの機械製グローブを嵌めている

マイクロマニピュレータとかいう名称で文字通り百万分の一メートルクラスの繊細な作業を可能としている精密技術用品

 

一方通行(アクセラレータ)は眉を潜めた

目の前の男を知っているから

 

「ぶっ…ぎゃはははっ!」

 

そして見た瞬間に、盛大に彼は噴出した

 

「―――ンだよキハラクンよぉ、その思わせぶりな登場の仕方は! 人の面見ンのビビッて目ェ背けてたインテリちゃんとは思えねェなァッ!!」

 

木原数多

かつて学園都市最強の超能力者(レベル5)の能力開発をしていた男だ

それはすなわち、学園都市で最も優秀なもっとも優秀な能力開発研究者だということを意味している

 

「俺としてもお前と会うなんざお断りなんだけどよぉ、上の連中が言うから仕方ないんだよ。なんでも緊急事態だとかで手段選んでらんねぇんだとよ。ってなわけで、ここで一つ潰されろや」

 

そう言って木原数多は一方通行(アクセラレータ)に向かって走り出した

一方通行(アクセラレータ)は特に何も考えない

むしろ何を考えてンだ、と心の中でつぶやいた

防御など不必要、どうやってコイツを潰してやろうかと考えていたところで

 

機械製の拳が、彼の顔面に突き刺さり脳を揺さぶった

 

「がっ、あァ…!?」

 

わけのわからない事態に彼の脳はさらにショックを受ける

反射のスイッチを切った覚えはない、今のこの状態なら核を抱えて自爆しても傷つかないはずだ、なのに

 

「つぅかよぉ」

 

木原数多の声が響く

 

「多少チカラあるからって付け上がってんじゃねぇよ。テメェのそのチカラは、誰が与えてやったんだと思ってんだよ、おら、思い出したかクソガキ」

「っ、が!!」

 

一方通行(アクセラレータ)が何かを言う前にさらに木原の拳が顔面をえぐる

その一撃にまたも能力は作用しない

 

「っつか、テメェなんざ眼中になぇんだよクソガキ。おら、とっとと潰れちまえよ」

 

さらに一撃

両手を組んだ金槌みたいな拳にも、反射は意味をなさなかった

頭を打たれた一方通行(アクセラレータ)はそのまま地面へと倒れ込んだ

その拍子に手に持っていたビニール袋が落ちて、その中身がばらばらと散らばった

木原数多の靴がその絆創膏の箱を踏みつぶす

 

「―――似合わねぇなぁ」

 

にやにやと、木原は笑った

まるで腕の調子を確かめるように木原は腕のグローブをさすりながら

 

「まぁ〝アイツ〟はこっちで回収してやっからよ。テメェは安心してここで壁のシミでも作ってやがれ。そっちのがらしいだろ」

 

カッ! と一方通行(アクセラレータ)の頭が熱を帯びた

アイツ、とは何か

アイツと呼ばれた人物には、心当たりがありすぎる

アイツと呼ばれた人物を、こちらに引きずり落とすと言っている

 

「ナメ、ンじゃ―――」

 

這いつく張りながらも声を絞り出す

こちらを見下ろしている黒づくめの奴らと木原を地面に突っ伏した状態で睨みつける

 

「ねェぞ三下がァァァァァッ!!」

 

風が渦を巻く

一方通行(アクセラレータ)の能力はベクトル変換

少しでも力を持っているのならその方向性を例外なく操れる

 

制御された暴風は竜巻としても最大のものだ、もはや並みのミサイルを遥かに超えている

殺せ、と一方通行(アクセラレータ)は叫んだ

 

しかし

 

ピー、と渇いた音と一緒に一方通行(アクセラレータ)が制御していた風が消し飛んだ

まるで風船が弾け飛んだように

 

「なっ!?」

 

必殺とも思われていたその攻撃があっけなく打ち消されていく

茫然としている一方通行(アクセラレータ)の顔面が何かで殴られた

それは木原が適当に拾った鉄パイプだ

 

「だぁから死んどけって」

 

殴り終えた後で木原数多は鉄パイプをその辺に放り捨てる

そうだ、これと似たような現象を一方通行(アクセラレータ)は知っている

自分自身が絶対だと思っていた超能力の力を、拳一つで打ち消したあの男

―――もしかして、この男

 

「ま、さぁ、自分に―――」

「んなわきゃねーだろ、そうじゃねーよ。なんで俺がモルモットの真似事なんかしないといけねぇんだよ。あんな馬鹿みてぇな力なんぞ使わなくてもお前ひとり叩き潰すなんざチョロいんだよ。っつか、なんでお前みてぇな馬鹿一人潰すのにそこまで体張んなきゃいけねぇんだよ」

 

笑いながらさらにもう一発木原は一方通行(アクセラレータ)を蹴りつける

地面に這いつくばりながらも、一方通行(アクセラレータ)の眼光は木原を睨みつけ―――〝それ〟を見た

 

 

同時刻

 

王蛇が振るった拳がいともたやすく受け止められた

しかも片手で

 

「―――ぐっ!」

「あれあれー、どうしましたよ、えぇおい」

 

そのまま腹部に蹴りを貰い大きく吹き飛ばされる

何とか地面を転がりながらどうにか体制を整えた

 

「なんだか期待外れだなぁ、あっちの方も簡単にケリがついてるみたいだし」

 

チラリとインペラーは視線を動かした

そこには自分と同じように地面へと倒れ伏している仲間がいる

手塚は変身を解除させられ、気を失い、芝浦はボロボロながらも立ち上がろうとしている

―――自分たちが思っている以上に、相手の方が手練れのようだ

そう思案している間、王蛇はインペラーに胸ぐらをつかまれ、そのまま仲間たちの方へと投げ飛ばされた

投げ飛ばされたのがトドメになったのか、定かではないが、王蛇の変身が強制的に解除され、肺の中の息を吐き出す勢いでせき込む

 

「けど、思った以上に時間がかかりましたね」

「妥当なもんだと思うけどなぁ」

 

インペラーの元へとゾルダ、ベルデが口々に言いながら移動する

優位な状況でも油断はないのか、二人の視線は三人を捉えたままだ

その二人の間を抜けてインペラーが躍り出る

 

「―――じゃあ、早いとこ―――」

 

インペラーが言葉を紡ごうとしたところでピー、という電子音が鳴った

彼は変身を解き通信機のようなものを耳に当てる

佐野はしばらく言葉を聞きながら適当に相槌をうちながら通信機を切った

 

「どうしました、佐野さん」

「目標捕まえたから戻って来いってさ」

「ホントに? なら、仕方ないかな」

 

つまらなそうに呟いてから、ゾルダは一枚のカードを取り出した

それはサイの紋様が描かれたカード

 

「てっとり早く始末するなら、これが一番だよね」

「確かにね、お願いするよ北丘」

 

佐野に言われ、ゾルダはそのカードを手に持っているマグナバイザーに装填する

 

<ファイナルベント>

 

無慈悲に告げる電子音声

その言葉と共にゆっくりと地面から現れるゾルダの契約モンスター、マグナギガ

ゾルダは己のマグナバイザーをマグナギガの背中へと連結させる

それに呼応するかのようにマグナギガの両手が動き出す

 

「―――バイバイ」

 

ゾルダはマグナバイザーの引き金を引いた

瞬間、マグナギガの全身からミサイルやら砲弾が相当数発射される

 

エンドオブワールド

 

狙ったものを破壊し尽くす、まるで世界を終わらせるようなその光景に、佐野は口元で笑みを浮かべた

死体など確かめる必要などないと判断したからだ

ごうごうと立ちこめる煙を背に、変身を解除した二人を連れて佐野たちは背を向ける

 

生きているハズはないと確信していた

この時までは

 

 

思うように身体が動かない

貰ったダメージは自分が思う以上に大きいもののようだった

手塚は完全に気を失っているのか、変身は解除され、生身のまま地面へと転がっている

…何がどうなったのだろうか、辺りは煙で満ち溢れ、何が起きたか理解できていない

そう言えば芝浦はどうしたのだろうか、手塚は確認できたが芝浦の姿が確認できない

どこにいるのか、と思いキョロキョロと見回した

やがて煙は晴れていき、視界がはっきりしてくる

 

「…芝、浦?」

 

煙の中に人影がいた

見間違えるはずはない、変身が解除されている中で、彼だけは変身を維持したままだったからだ

もう一度声をかけようとしたとき、変化があった

 

そのままロボットみたいに、彼の身体が後ろに倒れ込んだ

それと同時に、彼の変身が解除され、生身の姿へと戻る

 

「芝浦!?」

 

傷ついた身体を引きずりながら、浅倉は急いで彼の元へと駆け寄る

倒れる彼を抱き起こし、名前を叫んだ

普段の自分では考えられないくらいの声が出たのは間違いないだろう

それくらい、目の前の状況を受け入れたくなかった

どうしてそんな状況になったのかが、分かり易すぎるから

 

「…あぁ、と、生き、てるか?」

 

か細い声だった

いつもはやかましすぎるくらいうるさい声が、今はとても小さい声だった

 

「あ、あぁ生きている! 手塚もだ。…お前…!」

 

浅倉も手塚も受けた傷はあれど、さっきの奴からのファイナルベントから放たれた弾丸の雨から受けた傷はなかった

当然だ

仮面ライダーの姿を維持していたガイ―――芝浦がその身を挺して守ったからだ

それこそ、自らの命と引き換えに

 

「…よかった。最後の最期で、守りてぇもん守れた」

「最期って、何馬鹿な事言ってんだ! おい!」

 

芝浦は小さく笑って浅倉の顔を見た

茶化す余裕が芝浦にあれば、「ひでぇ顔」とからかっていたことだろう

しかしそんな余裕がないくらいに、彼の身体はボロボロだった

 

ずっと、考えていた

まだ実験がやっていてそれを阻止しに来ていたアイツらと対峙して、手塚と組んで戦ったヤツが一人いる

それは真っ黒い仮面ライダーだった

 

そのライダーは、この力を誰かを守るためのもの、だと言っていた

そしてその去り際に、誰かに感謝されるのも悪くない、とも

その後で、自分でも珍しいとも思うような小さい善行をやってみた

道が分からない人らに自分が知っている範囲で道を教えたり、落とし物を探してあげたり、などというような本当に些細な事

 

そのたびに言われた、短いながらも確かな想いのこもった言葉

その言葉を言われるたびにどこか心が暖かくなった言葉

 

芝浦は改めて、視線だけを浅倉に合わせた

 

「なぁ。…浅倉。手塚にも、起きたらでいいから、言っておいてほしんだけど」

 

浅倉は答えない

自分を抱く手に僅かに力がこもったのは、何となくわかった

それでもお構いなしに芝浦は言葉を紡いだ

 

 

 

「オレなんかと、友達(ダチ)になってくれて、…〝ありがとう〟」

 

 

 

それが最期の言葉だった

 

その言葉を皮切りに、彼の手が力なく地面に落ちた

それが意味することは、考える必要もない

力のない身体を地面に置き、浅倉はゆっくりと立ち上がった

 

もうだいぶ、体力は回復している

目の前にある芝浦の遺体を見て、浅倉は呟いた

 

「―――そんな言葉なんざ―――!」

 

オレの台詞だろうが…!

 

その言葉は、もう届くことは、ない

 

◇◇◇

 

また少し、時間は巻き戻る

 

 

百メートル離れた場所

その先に、黒づくめの男二人に二の腕を掴まれて

 

ダラリ、と手足を揺らす、見知った少女がいた

 

「あーあー。ありゃもう聞こえてねぇかもな。つか一応〝本命〟は生け捕りってハナシだろ。こんなんで始末書なんざ真っ平だぜ」

 

ふざけンな、と一方通行は呟いた

彼女はまだ生きているはずだ

もし死んでいるなら代理演算に頼っている一方通行にもなんらかの影響が出るはずだ

確証なんかない

 

それでも一方通行は歯を食いしばった

 

打ち止め(ラストオーダー)が死んだら脳に影響が出るのかどうかなどは知らないし、試そうとも思ったこともない

 

だがそれでも、会話の内容から、木原たちの狙い打ち止め(ラストオーダー)

どこに連れて行くかなど知らないが、そこらの自動車にでも押し込まれたら、

 

 

全て、終わる

 

 

あの少女は再び血と闇にまみれた世界に戻される

そこから帰ってくる可能性は―――ゼロだ

 

(やら、せるかァ…!)

 

地面に指を這わせて、ボロボロの体に力を注ぐ

目の前の少女を、助けるために

 

打ち止め(ラストオーダー)ァァァァァァァッ!!」

 

顔を上げて叫ぶ

ぴく、と少女の肩が僅かに動いたような気がした

倒れたまま腕を振り上げる

今は木原らを倒すことは考えてはならない

 

もっと優先するべき事がある

 

「―――ァァッ!」

 

歯を食いしばり手をアスファルトへ叩きつける

破壊音が響き一方通行は風を掴み、そのベクトルを操った

 

「ちぃ!」

 

木原が舌を打つ

風の槍は木原と佐野の横を抜け打ち止め(ラストオーダー)の元へと突っ込んだ

風速およそ百二十メートル

打ち止め(ラストオーダー)は十メートル以上のビルを飛び越え風景の陰へ消えていく

一方通行の喉から変な音がした

血の塊が吐き出され彼はまた雨に濡れる路面に落ちた

 

「あららー…派手に飛ばしましたねー」

 

ふと、また別の声が聞こえた

のんびりと歩いていたのは男の三人組だった

中央の人物はラフな格好で、後ろの二人はスーツ姿の奇妙な組み合わせだ

中央の男が佐野で、後ろ二人が北丘、高見沢だという事を、一方通行(アクセラレータ)は知らない

木原はそいつらが戻ってきたことを確認すると、先の佐野の言葉に返答するように口を開いた

 

「全くだ。ったく、ヤード単位で人間飛ばすんじゃねーよなーもう。飛距離抜群じゃねーかよ。誰が回収すると思ってんだ。俺はやんねーけどな」

「どうしますか」

 

黒い装甲服に身を包んだ男たちの一人が指示を仰ぐ

木原は面倒くさそうにボリボリと頭を掻きながら

 

「あー、あれだ。班を三つに分けろ。本命を追うのが一班だ。二班は俺らんとこに残れ。後始末とかその辺で潰れてる部下の回収とか色々あるしな」

「しかし、最優先命令は最終信号(ラストオーダー)の捕獲にある為、班の―――」

「おや」

 

木原はキョトンとした顔で部下を見た

そしてその男を見てこう言った

 

「お前さ。この〝猟犬部隊(ハウンドドッグ)〟に最近補充されたヤツだろ」

「え、あ、いや…」

「いいんだいいんだ、別に探ろうって訳じゃねぇんだ。ただルールがわかってねぇなら教えてやる」

 

木原は面倒くさそうに軽く咳払いして

 

「いいか、テメェらはクズの集まりだ。人権なんてモンはねぇ。クズの補充なんざいくらでも効く。大事なだぁいじな作戦を邪魔すんならぶっ殺しても構わねぇんだよ。分かるかな。てめぇ、今一度死んだぞ、確認するぞ、わかってんのか」

 

体を伝う雨粒の感覚が消え、声をかけられた男の不快感すら消滅する

そんな木原の言葉に付け足すように、佐野が口を開いた

 

「僕たちもさ、自分で予定組んでんのよ。だってのに君らみたいな屑の相手までしないといけないのかな? ん?」

 

その二人から周囲へと肌寒い感情が広がっていく

思わず部下が一歩退いたのを見て木原は頷いた

 

「よし、わかりゃいいんだ。質問を受け付けてやる」

「え、えぇ…。最終信号(ラストオーダー)は生け捕りとの事でしたが、ああなってしまうと…」

「その辺はこのガキだって考えてんだろ。どっかの川に落としてるとか」

「水面の場合、最終信号(ラストオーダー)が気を失っていた事を考えると、溺死の危険性も…」

 

その部下の問いに佐野が

 

「着水のショックで目覚ますに決まってんじゃん。クッションになりそうなのをピックアップしてその近辺を調査。わかった?」

 

了解、という声が響き散り散りとなっていく

木原と佐野は水溜まりに転がる一方通行を見た

 

「このモヤシはどうすんの? 殺すの?」

「ったりめぇじゃねぇか。この手の努力しちゃってるヤツ見てるとイライラすっからさぁ。こういう追いつめちゃう派の根暗な自己満野郎は今ここで殺した方が無難なんだよ」

「同感っすね」

 

軽く笑った佐野が工具箱から適当に金槌を取り出して木原に向かって投げ渡す

 

「不意を突いたなら消せよ第一位(笑)(かっこわらい)、それともあれか? 情の方を優先しちゃったのかな」

 

佐野は笑いながら地面に倒れる一方通行を毒づいた

 

「…黙れ…」

 

吐き捨てるように一方通行は呟いた

その反応に少し驚いたように佐野は「おー」なんて言葉を口にする

まさか起きていたとは思わなかったのだろう

 

「思いのほかタフだねぇ、モヤシみたいな体してるくせに」

「クソッたれが。オマエらにゃ、一生わかンねェよ」

「あっそ。じゃ殺すけど、今のが遺言って事でいいんだよな?」

 

くそ…、と一方通行は呟いた

このままでは打ち止め(ラストオーダー)は捕まってしまう

助けを一瞬期待したが答えは分かりきっている

 

答えはノーだ

 

みんなが笑ってみんなが幸せ

そんな優しい幻想など起きるはずはないのだ

 

(誰か、起きろよ、幻想(ラッキー)…、誰か、誰でもいいから、あの、ガキを…)

 

みっともない考えとは分かりきっていた

届くはずないその願いを

ハンマーが振り下ろされる―――その寸前

 

「そこで何してるの?」

 

あ?、と木原は動きを止める

佐野らもぽかんとしながら声がした方を見る

距離はそんな遠くない、その辺の細い脇道からここへ出てきたのだろう

雨の降る夜の中、その人影は傘も差さずに立つその人物は街灯の光を照り返し、僅かに輝いている

 

銀髪碧眼、それでいて服装は所々が安全ピンで留められた修道服

そして両手にはこんな世界とは縁のなさそうな三毛猫を抱えていた

倒れながら、一方通行(アクセラレータ)は彼女の名前を思い出す

 

その彼女は

 

彼女の名前は―――

 

◇◇◇

 

「ったく、インデックスのヤツ、やっと会えたと思ったら速攻でどっか行きやがって」

「まぁ、借りたものを返そうって言う精神は良いと思うんだけど」

 

キョロキョロと見回している当麻の隣でアラタがそんな事を呟いた

何故当麻がきょろきょろ見回しているのか、というと理由は単純、またまたインデックスがどこぞへと行ってしまったからだ

理由としては、その恩人からお借りしたポケットティッシュを返そうとしてすたこらさっさと走って行ってしまったのだ

 

携帯に連絡すれば手っ取り早いのかもしれないがそう言えば今日彼女は携帯を所持していないことに気が付く

探し人を探して外に出たのかな、と考えて二人は階段を上がり地下街の外に出る

夜空からはパラパラと雨が降っていた

 

「…雨降ってるな」

「ホントだ、布団出しっぱなしじゃないよな…」

 

おまけに今は九月末日、流石に冷え込んでくる

雨は降っているけど、傘を差すほどではないかもしれない

学生寮が近くにあるし、雨が降る度にコンビニによってビニール傘を買ってしまっては傘立てがいっぱいになってしまうのを考えると買う気が削がれる

 

「…なぁ、アラタ」

「うん?」

「いや、俺の気のせいならいいんだけど…なんだか、警備員(アンチスキル)の数が多くないか?」

警備員(アンチスキル)?」

 

当麻に言われて辺りを見回す

時間帯か天候のせいか、暗い通りには珍しく学生の姿が見えない

ゴッテゴテに装備を固めこんだ警備員(アンチスキル)らがウロウロしている

しかしアラタはあんなふうに装備を固めている警備員(アンチスキル)を見たことはない

黄泉川、鉄装、照井、立花、影山、矢車…そこそこではあるが鏡祢アラタには警備員(アンチスキル)の知り合いがいる

その中で基本的な装備に身に包んでいるのは黄泉川、鉄装の二人だけではあるが、あんな装備などがあったのだろうか

…なまじその警備員(アンチスキル)の男性陣が皆ライダーだからあまり見慣れていないのもあるのか、と勝手に結論づけた

 

「補導とかくらうと面倒だ、早いとこインデックスを見つけよう」

「同感だ、厄介になる前に、さっさとここを離れて―――」

 

唐突に、音が聞こえた

 

それはゴトリ、と誰かが倒れる音だ

 

「…」

 

二人の動きが固まった

すぐそこに立っていた防具ゴテゴテの警備員(アンチスキル)がいきなり地面に倒れたのだ

うつ伏せに倒れたその身体が、地面を濡らす雨水へと沈んでいく

いくらその防護服に防水があるとしても普通じゃない

何がおこっているのだろうか

 

「…まさか、意識が?」

「それこそまさかだ。なんでいきなりこんな…」

 

そんな話をしていた矢先だ

 

またゴトリ、と音が聞こえた

 

今度は一つの方向からではない

あちらこちらから聞こえてくる

いいや、ゴトリ、からバタリからその音が変わっていき、人が倒れていく音が耳に聞こえてくる

 

「…な!?」

「ちょ、なんだよこれ!?」

 

慌てて二人は一番最初に倒れていた警備員(アンチスキル)の下に駆け寄る

うつ伏せでミスたまりに沈んでいる人物は男性のようだ

もしかしたら窒息するかもしれない事を考慮してどうにかして水たまりから身体を退けて仰向けに態勢を変えた

 

ズシリ、と男の身体は重かった

 

装備品によるものか、人間特有の重さかは分からないが二人でやっとの重さだ

 

「念のため、他の人らもこうなってないか見てこよう」

「あぁ、少ししたら、またここで」

 

アラタと取り決めをして、二人は手分けして窒息しつつあるような人がいないかを捜して回った

幸いなことにそんな状況になっている人はいなかった

可能なら雨に濡れないように地下街に運びたかったがさすがにそれをやるだけの体力はない

 

人を呼ぶのも大変だ

 

「つうか、こういう時の為に警備員(アンチスキル)っているんじゃないのか?」

 

当麻は一人の警備員(アンチスキル)の顔を覗き込んだ

全身を非金属のパーツで固めているために、脱がさないことには怪我の有無が判断できない

しかし少なくとも衣服が赤く染まっているようなことはなさそうだ

口元に手をやると安定した吐息が感じられる

そのほかにも見よう見まねで脈を計ってみたがどれも正常だ

命に別状はない

しかしなら、他の原因はなんなんだろうか

 

「当麻!」

 

考えていると、自分の前方からアラタが走ってくるのが見えた

当麻は立ち上がって

 

「どうだった? そっちは」

「大丈夫だ、一応、見つけた人で、うつぶせになっていた人だけは仰向けに戻しておいたけど」

 

どうやらアラタの方も似たような状況だったらしい

同じように、命の危険もないそうだ

 

「…なぁアラタ、これって、麻酔ガスかなんかなのかな」

「さぁ。けどそれだったら、なんで俺たちだけ無事だったのかわかんないぜ」

「それもそうか…ともかく、素人の判断で放っておくのも危険だな」

「あぁ、とりあえず救急車だな」

 

当麻はそう言って自分の携帯を取り出した

彼が電話している最中、ふと足元から雑音が聞こえた

気になったアラタは膝を折り、その雑音に耳を澄ませる

発生源は肩辺りから聞こえている

ふと電話を終えた当麻も怪訝な顔をして、屈んでいた

アラタは人差し指で音の方向を指差す

 

<―――ザ、…に、侵入、繰り返す―――ゲートの破壊を確認―――侵入者は市街地に―――! 誰か聞いていないのか―――こちらも、正体不明の攻撃を―――!!>

 

ブツン、とテレビを切るかのような音が響く

発生源は無線機のようだった

切羽詰った台詞は気にはなるが、今その無線機は無機質な音を流しているのみだ

そして二人は立ち上がって、気になる単語を口にする

 

「…侵入者、って言うには、また何かが学園都市の外部からやってきたことになるな」

「かもだな。…ったく、インデックスは大丈夫なんだろうな…」

「まだ相手が魔術師って決まったわけじゃないし、魔術師でも彼女を狙ってくるとは限らない…けど、心配なのは確かだな」

 

これはいけない、と二人は頷き合う

安全を確認する意味合いでも早いとこ合流しないといけない

そんなときだ

 

ドン、と当麻の腰辺りに小さい衝撃が走る

どうも誰かがぶつかったようだ

しかしそれにしては位置が低いような気がする…当麻はそう思いながら背中へと視線をやった

それは小さい子供だった

それも、さっきまで一緒に行動していた―――

 

「…あれ? 打ち止め(ラストオーダー)?」

 

アラタの言葉に、打ち止め(ラストオーダー)は「うぅ」と小さいうめき声で答えた

くぐもっているのは彼の背中に自分の顔を押し付けているからだ

ぶつかってきた、というよりほとんど抱き着いてきた、という表現の方が正しいだろう

しかし彼女の身体はこの雨でぬれたとは思えないほどずぶ濡れになっている

 

「―――助けて…」

 

彼は当麻のシャツを掴んだまま、顔を上げた

その瞳は真っ赤に充血していて、透明な液体が彼女の頬を伝っていた

雨に打たれていても、その滴だけは見分けられた

彼女は叫ぶ

 

 

 

「お願いだから―――! あの人たちを助けて! ってミサカはミサカは頼み込んでみるっ!!」

 

 

 

二人の少女は交差して、四人の男へとつながる

本来なら交わる事のない平行線

その道が一つに集束するとき、学園都市を舞台にした、物語の幕が開く




この作品の佐野はクソ外道です

※今年最後の気まぐれ紹介

最後はこちら

仮面ライダーイカロス

「オレはイカロス。…仮面ライダーイカロス」

『小説 仮面ライダーフォーゼ~天・高・卒・業~』に登場する仮面ライダー。

濡れた様に鈍く光る深紅と黒のボディに折れた翼を持つ堕天使のような風貌の仮面ライダー
見た者に古代ギリシャの彫像のような美しさを印象付けさせる
生き物じみた存在感を放つボロボロのアメリカンバイク―――「幽霊バイク」に乗る

変身者はツバサ
フォーゼドライバーとメテオドライバーを合わせたようなドライバーで変身する
少女のような外見に反して一人称は〝オレ〟で、男の声で喋ることも可能で少年のような姿にもなれる

卒業式後のプロムを潰すことを目的に同志となるゾディアーツを求め、神出鬼没に現れ消えて、屋上から飛び降りたり、血染めのプールから現れるなどホラー映画じみた演出で生徒に近付き、心を見透かしたように語りかけゾディアーツ・スイッチを手渡し勧誘している
これ以上は核心に触れてしまうネタバレになってしまうので、気になる方は小説版フォーゼを買おう(催促)

では皆さま、よいお年を

2015年もまたよろしくお願いします



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___

同時刻

 

バタバタと人間が倒れていく

抵抗もなく、雑音も、鮮血も、悲鳴さえない

ただひたすらに人間の倒れていく

学園都市の治安を司る警備員(アンチスキル)達だ

倒れた彼らは指先一つ動かない

それとは別にカツン、という細々とした足音がした

ジャリジャリ、と金属が触れあう細かい音が聞こえる

 

女の服はワンピースの原型となったカートル

腰にはベルトなどの十五世紀前後のフランス市民の格好だ

顔にはピアスが至る所にまで穴が空けられている

そのピアスは顔が崩れる事を承知で実行されたものだ

女は一度立ち止まり周囲をクルリと見回し、足に転がっていた無線機を一つ、蹴り上げた

宙を舞う無線機を片手でキャッチしマイクへ口を近づける

そして囁くように言葉を紡いだ

 

「はっあーい、アレイスター」

 

ざざ、という雑音と一緒に返ってきたのは困惑する警備員(アンチスキル)の声だ

しかし女は無視して続ける

 

「どうせアンタはこういう普通の回線にも割り込んでるって事でしょう。さっさとお相手してくれると嬉しいんだけどな」

 

ブツ、というスイッチが切り替わる音が聞こえた刹那、音質がクリアになった

 

<何の用だ>

「聞く気があるなら話しても良いって事なんだけど?」

<一応確認するが、その程度の挑発に乗るとでも思うか>

「そ。統括理事会の顔を三つほど潰したトコだけど、〝この程度〟では堪えない、か」

 

手の中でくるくると無線機を回す女の表情には軽い落胆の色があった

 

「統括理事会ってさ、確か十二人しかいない事なのよね」

<補充なら効くさ。いくらでもな>

「問題発言よねそれ。…まぁいいや、私の名はわかってる?」

<知らないな。賊については取り調べで聞く事にしている>

「神の右席」

 

サラリ、と息をするように

魔術サイド最大深部の名前を口にした

世界最大宗派ローマ正教の闇の闇の闇…、とてつもなく、かなり深い奥底の闇の果ての深淵に沈む一つの名前

知っているのは一握りの人物だけで、仮に知っていたとしても〝知るに相応しくない人物〟と判断された場合は即消される程に隠密性に満たされた単語

だがアレイスターはスラスラと答える

その感情に起伏はなく、ただ、淡々と

 

<おや。テログループにそのような名前はあったかな>

「ふぅん」

<もしその名を売る為の行為だとしたら、いささか無謀が過ぎたようだが>

「シラを切るならそれでもいいけど、今ココで命乞いしなかった事を後悔しないようにね」

<この街を甘く見ていないか>

「アラ。 自分の街の現状すら掴めていないなんて。報告機能にも支障が出てんの。失敬しっけー。私は自分が潰した敵兵の量を数えられないからなぁ。はは、オペレーターまでぶっ倒れてるのかナ」

<…、>

「行き過ぎたかな。まぁジキに十割全て倒れる事になるだろうけど。警備員(アンチスキル)とか、んなチャチなモンで身を守ろうとかしてっからあっさりクビを取られんのよ。自分がもう終わりだって事ぐらいはわかってんのよね?」

<…ふ>

「?」

<その程度で学園都市の防衛網を砕けたと思っているなら本当におめでたいな。君は、〝この街の本当の形をまるで理解していない〟>

「へぇ?」

<隠し玉を持っていれのは君だけではないという事だ。最も、君はそれを知る前に倒れるかもしれないが>

「なんであれ、私は敵対する者は全て叩き潰す。これは私が生まれた頃からの決定事項だ」

 

二人は会話を交わしているように見えるが、実際は両者共にただ一方的に言葉をぶつけているだけだ

最後に女は自身の名を告げる

 

「私は〝前方のヴェント〟。二十億の中の最終兵器」

 

無線から多少口を離しながら

 

「この一晩で全て潰してあげる。アンタも、学園都市も、幻想殺しも、禁書目録も、そして古代の戦士、その全てをね」

 

そしてヴェントは握力だけで無線機を握りつぶした

 

……………

 

〝人間〟アレイスターは窓のないビルにいた

 

その中央に生命維持装置が鎮座していて、逆さまで彼は浮かんでいた

周囲に浮かぶモニターに移るのはエラー、の文字

どこを見てもエラー一色で埋まりきっている

 

「なかなかやるようだな」

 

コツコツとオーディンが腕を組みながら歩いてくる

 

「ものの数十分で学園都市の治安を司る警備員(アンチスキル)の七割弱が犠牲となった。…死にかけてるな、この街は」

 

確かに学園都市は絶望的だ

だがしかし、それでも〝人間〟アレイスターの口元に浮かぶのはただ、笑みのみだ

 

「面白い」

 

彼は囁く

 

「最高に面白い。これだから人生は止められない。こちらもようやくアレを使う機会が現れたか。時期は早いが…、プランに縛られた現状では、イレギュラーこそ最大の娯楽」

 

その言葉にオーディンもくく、と笑みを浮かべながら無線を繋ぐ

闇に蠢く者達へ

 

「木原数多よ」

<こちら木原>

 

オーディンは告げる

 

「虚数学区・五行機関…。AIM拡散力場だ。多少早いが、ヒューズ=カザキリを用いて[奴ら]を潰す。手足はなくても構わない。逃走中の検体番号(シリアルナンバー)20001号を捕獲次第、指定のポイントに運べ。早急かつ、丁重に」

<了解>

 

「随分と、楽しそうなことしてるじゃねぇか」

 

オーディンがそう指示を飛ばしている最中、彼の背後から言葉が聞こえた

その男は鈍色の妙な衣装に身を包み、かったるそうに首を動かした

 

「…君は」

 

アレイスターの顔を確認すると男は小さく笑んだ

その笑いは、獲物を見つけた獣のようだった

 

「体がなまって仕方ねぇからな。前々から目ぇつけてたやつと、戦りに行っていいかよ、アレイスターさん」

「いいだろう。好きに動くといい」

 

その言葉を聞くと更に男はその笑みを大きくさせた

 

「感謝するぜ」

「外までは私が送ろう」

 

短いの応対の後、オーディンがその男とともに、黄金の羽根とともに消え去った

彼らを見送った後、笑みと一緒にアレイスターは呟く

口元に、うっすらと笑みを浮かべながら

 

「さぁ。久方ぶりの楽しい楽しい、潰し合い(ショータイム)だ」

 

◇◇◇

 

オーディンは男を地上へと送ると、再び羽根と共にその場からいなくなった

しかし男は特に消えた方向を見るわけでなく、じっと前だけを睨んでいる

男の目的は、己を満足させてくれる強者

だが、場所までは知らない

しかしこんな事件が起こっているのだ、戦いの起きているところへ行けば自ずと会えるだろう

 

「―――ちったぁ楽しませろよ?」

 

小さい声で呟きながらゆっくりと歩き出す

乾いた牙が求めている

己を震わす、強者を



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#69 雨に打たれた街中で

お久しぶりです
最近新連載してしまったので少しそっちに浮気してました
よかったらそっちも読んでね!(宣伝

今回はだいたい原作通りでつまんないかもしれません
いつものことですけどね

ではどうぞ


学園都市第三ゲートを、〝神の右席〟前方のヴェントが物理的に突破

同時刻、正体不明の攻撃が発動、学園都市の治安を務める風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が甚大な被害を受ける

警備が手薄になったその結果、前方のヴェントは統括理事会の三名を殺害

同日、学園都市統括理事長アレイスターは前方のヴェントを止めるべく、未完成の虚数学区・五行機関の使用を決定、雨の降る夜の街で木原数多率いる〝猟犬部隊(ハウンドドッグ)〟が行動を開始

目的は検体番号(シリアルナンバー)20001号〝打ち止め(ラストオーダー)〟の捕獲

捕獲の障害と判断された一方通行(アクセラレータ)、及び朝倉涼一行への強襲を木原、佐野両名が実行し成功、無力化

 

しかし彼らは、そこで小さくも、かつ、大きなミスを犯した

 

「助けて…」

 

それはひとりの女の子を取り逃がしてしまったこと

 

「あの人たちを助けてって! ミサカはミサカは頼み込んでみる!」

 

その声が、ある二人の少年に届いた、ということ

 

◇◇◇

 

「そこで何をしてるの?」

 

雨の強さが増していく中、少女の声は響き渡った

黒い夜の中に、彼女の白い修道服が浮かび上がる

 

インデックス

 

華奢な少女だ、どう見ても小柄であることは隠せない

腰まである銀色の髪に、緑色の瞳、触ってしまえば壊れてしまいそうな錯覚さえ覚えるほどだ

おまけに両手に子猫まで抱えている

 

(―――最悪だ)

 

崩れ落ちたまま、一方通行(アクセラレータ)はそう考えた

場違いにも程がある、これでは厄介事が増えただけではないか

これでは何も変わらない

 

実際問題、木原数多も眉をひそめている

 

この白衣の男が一つ言葉を飛ばせば、あの少女は一瞬で挽肉だ

自動車の扉を蜂の巣にする威力のマシンガンを使えば、あの子がどうなるかなど考える必要はないだろう

 

取るべき道は、三つ

捨てるか、助けるか、それとも、利用するか

 

彼は首につけているチョーカーへと手を伸ばす

まだ能力は使用できるはずだ、しかし全身の傷は体の行動を拒んでいる

 

「どうすんの?」

 

佐野が木原に向かって言葉を発した

木原数多はつまらなそうに息を吐くと

 

「そりゃお前、消すしかねぇだろ」

(チィ!)

 

舌を打つ

インデックスはこいつらの活動を目撃してしまっている

存在自体が隠されている組織を知ってしまった、知られたら当然次に実行するのは口封じにほかならない

彼女がここから逃げたところで三日もつかどうか

どの道ここで自分が殺されることに変わりはない

なら―――

 

(やってやろォじゃねェかァ!!)

 

インデックスを助ける、ではなく木原に吠え面をかかせる、ということを目的にして一方通行(アクセラレータ)は己を動かす

あんなシスターなんてはっきり言ってどうでもいいが、やられてばかりでは収まらない

 

(今度はテメェが歯噛みする番だぜ木原ァ!)

 

チョーカーのスイッチはオンのままだ

命じるだけで能力は発動できる

動くために、位置を把握する

自分を中心として、半径十メートル以内に取り囲むように黒いワンボックスが停滞している

敵の数は二十人前後、一番の障害である木原数多は自分の近くに立っているが彼を攻撃するのは無意味だろう

そして肝心のインデックスはワンボックスの輪の外、距離はおおよそ十五メートルといったところか

 

倒れたままで彼は指先をアスファルトに触れさせる

今ここでやるべきことは一つ

あのシスターを連れて、安全な場所まで逃げ切ること

 

「おおおおォォァっ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)は絶叫し、倒れ込んだまま、地面を思い切り蹴る

その拍子にベクトルを操作し、ロケット並みの爆発力を得た彼はアスファルトから浮き上がり、超速度で黒いワンボックスへと突っ込んだ

鉄球でも喰らったみたいに金属のドアがレールから外れ車内へと押し込まれる

彼の体は後部座席へと収まった

運転席にいる黒ずくめが反応する前に潰れて押し込まれたドアからスライド部分をもぎ取った

ギザギザのついた、その棒状の鉄片を握り締めて、その運転席の真ん中へと突き刺した

 

その、運転手ごと

 

ズブリ、という感覚

 

「―――い、あ!?」

「―――進め」

 

運転席に縫われた男に、一方通行(アクセラレータ)は呟いた

ただ事実のみを

 

「お前は三十分で死ぬ。早くしねェと手遅れだ」

 

応急キットでどうにかなるレベルではないのはおそらく本人が一番わかっているはずだ

そもそも〝あの〟木原数多や佐野光義が足手まといとなった部下をどうするかなど解りきっているはずだ

 

「ひ!」

 

決断は一瞬

ガオンっ! というエンジン音と共にワンボックスが発進した

進路上の黒づくめが慌ててバラバラと左右へ飛び退いた

木原が忌々しげに何かを怒鳴る

佐野が笑いながら手を叩く

 

「左へ寄せろォ!」

 

彼は絶叫し、空いた出入り口から邪魔なスライドドアを投げ捨てて、そこから身を乗り出した

車の向かう先、車道の真ん中にあのシスターが立っている

彼女は両手に三毛猫を抱えている

掴むなら二の腕だが、全力で伸ばしても届くかどうか―――しかしそれでも手を伸ばす

その間、銃声が響き、顔のすぐ横を掠めたが、一方通行はそれを無視してインデックスの腕を掴んだ

ベクトルを操作し半ば強引に彼女を車内へと乗り上げる

 

「わ、あああ!?」

 

彼女の声から場違いな悲鳴が漏れる

一方通行(アクセラレータ)は運転席の背もたれを隠すように自分の体を動かした

そしてついでに男の身体を縫い付けている凶器に軽く指で触れた

 

「―――!!?」

 

運転手が悶絶する

一方通行(アクセラレータ)はインデックスに聞こえない声で囁いた

 

「騒ぐンじゃねェ。そのまま直進しろ。時間がないのはお互い様だろ?」

「ど、どちらまで? お客さん…」

「いい医者を知ってる。そこまで案内して欲しけりゃ、しっかり働け運転手」

 

◇◇◇

 

「あーあーあーあー」

「あっはははははっ!! おもれーなあのガキ!! パネェよ!!」

 

気の抜けた声を出す木原とは対照的に、佐野は先程から大爆笑している

木原はおもむろに右手を差し出し

 

「あれだあれ、あれ持ってこい!」

「あいさー!」

 

笑い飛ばしながら自分が座っていたワンボックスの中から携行型の対戦車ミサイルを取り出して木原に渡す

彼は受け取ると迅速な速さでミサイルを組み上げて照準をワンボックスに狙いをつける

その行動に迷いはない

 

「運転手は?」

「関係あるかよヒャッハー! 脱走兵は即死刑! アンタのことは三秒くらいは忘れませんってなぁ!」

 

佐野の問い掛けに木原はそう返す

ミサイルの引き金に指をかけた

先を進んだワンボックスは通りの角を曲がろうとしているところだ

たとえ曲がりきってもミサイルは車を追って先に進み角のビルの壁にでもぶつかればコンクリ片をもらいひっくり返る

死にはしないだろうがとりあえず足をなくすことはできるはずだ

あとはその他二名共々ゆっくりと料理すればいい

 

「甘甘だぜ一方通行(アクセラレータ)! 車なんか使ったらもう繊細な風の操作は使えねぇってアピールしてるようなもんだろぉがよぉ!」

 

最高にハイな状態で木原は引き金にかけた指を引き絞ろうとする

しかし

 

「…あん?」

 

スコープが黄色一色に染まった

縮尺のずれた何かが遮ったのだとわかるのに少々時間をがかかった

スコープから目を逸らすと十メートル前後に妙な女が立っている

そのぽつんと立つその女に、どういうわけか全く気付けなかった

 

木原数多にとってその女が何者かなどどうでもいい

一番大事なのはこの目の前の女に気を取られてしまったせいでワンボックスを完全に逃がしてしまったということ

 

「…」

 

木原の顔から表情が消えたかと思うと一切の躊躇いなくその女に向かってミサイルをぶっぱなす

まっすぐ進んだそのミサイルは女に直撃し爆発する

割と至近距離で爆発したため、近辺にいた黒づくめが煽りを受けて吹っ飛んだ

炎と煙がわたあめみたいに視界を遮る

時間にしてわずか五秒後

 

烈風が全てを吹き飛ばした

 

爆心地で巻き起こる嵐が跡形もなく煙も炎も消し飛ばした

何も変わらない様子で、ごく自然に女は立っている

 

「―――いい街ね」

 

唐突に黄色い女は呟いた

 

「構成員の大半が学生や教師ってのは反則じゃない? もっと早く進むと思ってたけど、そんなんじゃ新食が遅いのも無理ないか」

「―――誰ですかー?」

 

佐野が間を空けて言葉を紡ぐ

 

「殺しの商売敵。…あの車の中には私のターゲットも含まれているのよ。誰が殺ってもいいんだけど、横から取られるのは性に合わない」

「殺せ」

 

付き合いきれん、とばかりに木原は指示を飛ばした

瞬間、周囲にいた黒づくめらが一斉に銃を構える―――が

 

「やめとくことね」

 

引き金は引かれることもなく、直前でうめき声のような声と共にバタバタと倒れていった

一切の抵抗はなく、あっさりすぎる攻撃だ

路面はもちろん、一方通行が破壊したワンボックスの残骸に直接倒れこんだやつもいるのに、誰ひとり身じろぎ一つなかった

どんな現象が起きたのか

木原数多はこつこつとミサイルの砲身を叩く

 

「それにしても顔色変えず〝殺せ〟と来たか。殺意があっても敵意がない。雑草を抜くのと変わんないのかしら。割と性根までくさってるのね、少なくとも私と同じくらいに」

 

「班を二つに分けろ」

 

木原数多は取り合わない

自分の付近にいた黒づくめに向かって指示を飛ばした

 

「今いる奴らから使えないやつを順番に適当に十人集めて足止めしろ。その間、俺と佐野たち、一班は〝別荘(ほんぶ)〟に移動する。わかったか」

 

ザックリとはしているが、それに従わないとどうなることかとも分かりきっている

目の前の女と、一方通行(アクセラレータ)…どれが一番恐ろしくなさそうかと判断するなら女のほうだ

 

「アンタ、敵意がないのね」

「向けて欲しけりゃもう少し有能になるこった」

 

命令を出すだけ出して木原たちはワンボックスに乗り込む

しばらくしてそのワンボックスのエンジンがかかり、そのまま動き出した

後に残ったのは囮と黄色い女のみ

 

女は首をコキリと鳴らすと舌を出した

ジャリリ…と彼女の口から鎖が落ちる

 

「―――さて。アンタらはお役に立てるのかしら?」

 

◇◇◇

 

整理するのに少し時間がかかった

上条当麻と鏡祢アラタ、そして打ち止め(ラストオーダー)の三人は立ち尽くしていた

三人とも傘を差しておらず、みんなびしょ濡れだ

打ち止めの額に付いているゴーグルもだいぶ濡れていたが、軍用モデルだからか、使用に問題はなさそうだ

彼女に案内されて着いたのは大きな通りの一角

最終下校時刻と一緒に電車やバスもすっかりなくなり、その暗い夜道に人影はない

少なくとも、二本足で立っている人影は

 

地面には複数の人間が倒れている

雨足が強くなるこの天候の下で、水たまりに体を鎮めるように黒一色の男たちが転がっていた

おまけに装備はサブマシンガンだ

とりあえずわかるのは、一般人ではないということ

パチパチ、と火の爆ぜる音もきこえてる

少し離れた所にぶっ壊れたワンボックスカーがあり、それが火の元のようだ

彼女は言う

 

「この人たちに襲われたの、ってミサカはミサカは事実を述べてみる。…本当だよ? ってミサカはミサカは念を押してみたり」

 

改めて、二人は考える

ひとまずはこの倒れている連中は警備員(アンチスキル)ではないということ

しかしだとするとここまでの装備を組んで襲ってくる理由がわからない

おまけに当の襲撃者の方が倒れてる始末だ

 

「なぁ、打ち止め(ラストオーダー)。ここで襲われたのは、君の知り合いなんだな?」

「そうだよ、ってミサカはミサカは頷いてみたり」

「ってすると…これはそいつが返り討ちにしたってのか?」

 

当麻の言葉にうんうん、と打ち止めは首をふる

 

「それはないかも、ってミサカはミサカ白眉を振る仕草をしてみたり。あれだけやられたのに、仕返しがこれっぽちなんて思えないもん、ってミサカはミサカは推論を立ててみたり」

「物騒だなコンチクショウ」

 

そんなツッコミを入れながら、アラタは考えた

能力者といえども、無敵ではない

かなりの高レベルでないと、訓練された集団を撃退などできないだろう

超能力者といえども、所詮は人間、それもたかが学生だ

そんなガキをいきなり戦場に投げても瞬く間に殺されて終わりだ

 

「…とにかく、通報だな」

「あぁ、頼む」

 

隣で当麻が携帯をいじり始める

とりあえず打ち止めの知り合いが逃げているかどうかはわからないがひとまずここは警備員(アンチスキル)に協力を仰いだほうが良さそうだ

立花さんあたりが来てくれれば心強いのだけれど…と、そこでアラタの思考は止まった

ふと思い立つ

 

「待ってくれ当麻」

「うん? どうした、アラタ」

「…お前、もし目の前で銀行強盗とか起きたらどうする?」

「はぁ? そりゃ通報に決まってるだろ?」

「あぁ、そうだ。それが普通なんだ。…じゃあなんでこんな状況なのに、誰もこれを通報してないんだ…?」

 

アラタに言われ、ハッとする

改めて目の前を見る

ボロボロのワンボックス、未だ衰えていない炎、これだけ派手なことが起これば誰かしらが通報の一つでもしていないとおかしい

遠目に見ても火事だとわかる熱量だ

思えば今この場に野次馬の一人すらいないこともおかしいのだ

 

「―――」

 

明かりのない町並み、騒ぎのない、静寂な景色

もしも、騒がない、のではなく、騒げない、としたら?

建物の中では、こいつらのように大勢の人が倒れているとしたら?

―――一体この街で何が起こっているんだ?

ふと、そこで動きはあった

打ち止めは倒れている男の傍に屈み、装備品をいじくっていた

そんな彼女が、何かに気づいたように顔をあげて、当麻とアラタのところへ駆け寄ってくる

 

「早く、ってミサカはミサカは警戒を促してみる!」

 

緊迫した声音

 

「〝ヤツら〟が来たって、ミサカはミサカは路地裏に身を隠しながら警告してみたり!」

 

二人は彼女に引っ張られるままに、すぐ近くの路上駐車している自動車の陰に隠れた

ヤツらとは一体何だろうか、と二人して眉を潜めながら

その正体はすぐにわかった

なぜならブロロロ、と低いエンジンの音が響いてきたからだ

ここに来たのはヘッドライトのないワンボックス

おまけにそのワンボックスから同じ装備の奴がぞろぞろと出てくる

ぱっと見では十人前後、といったところか

更にはそいつら全員フル装備だ

 

「…警備員(アンチスキル)、じゃないよな」

「まず間違いないな。…奴らは敵だ」

 

そう断言できる

おそらくこちらの存在を確認すれば即効で鉛玉を撃ってきてもおかしくはないだろう

当麻は己の右手に視線をやる

彼の右手、幻想殺しは異能の力ならばやすやすと打ち消せる

しかしそれは、異能の力のみに限られる

黒づくめの男たちは同僚であろう倒れている男たちを担ぎ上げワンボックスの中へ放り込んでいく

そんな作業の傍ら、別の作業をしている連中もいた

ペットボトルを三つ繋げたような、なんか変なのを担いだ人間がいたのだ

 

「アシッドだよ、ってミサカはミサカは通称を小声で読んでみたり」

「アシッド?」

「アシッドスプレー。特殊な弱い酸を散布して指紋とか血痕といったDNA情報を潰していくの、ってミサカはミサカはマニュアルからの知識を引っ張ってきてみたり」

「―――こいつはマズイな」

 

アラタが呟く

最悪、自分を囮にしてでもこいつらを逃がすことを考えなければならない

というか装備が想像以上に本気すぎる

そんな奴らに見つかったが最後、逃げ切れる自信は流石にない

意識してか知らずか、ゴクリと唾が喉を嚥下する

その音ですら、奴らに聞こえるのではないか疑ってしまう位、緊迫していた

心の中で、気づくなと強く念じ、立ち去ってくれるのを待つ

言葉はない、当麻もアラタも理解している

こんな状況で言葉を交わせば、即刻バレるということを

 

ふと、ちゃぷ、という水の音が聞こえた

二人は足元に目をやる

 

「―――」

 

詰まっているのか、気づけば地面には池みたいな水たまりがあった

そしてそこに浸かっている当麻の足が小刻みに震えている

その震えが、僅かな波紋を作っていた

盾にしている車の、向こう側まで

 

だが、いくらなんでもこれで気づかれる訳はないだろう

雨は変わらず水たまりを叩いているし、今この場はそこそこな暗さだ、目を凝らしても水の上など視認できない

だから大丈夫…そう祈るような気分だった

 

だが、その思いとは裏腹に

離れた場所のいる黒服たちが、一斉にこちらを見た




今回の気まぐれ紹介のコーナー

今回はこれ



・リボルケイン

リボルケインとは、特撮作品『仮面ライダーBLACK RX』の主人公である仮面ライダーBLACK RXの武器(いわゆるレーザーブレード系の武器)にして、シリーズ屈指、いや特撮界屈指のチート的な剣である
正式名称は「光子剣リボルケイン」
媒体によって剣だったり杖だったり 棒 だったりと様々な解釈があるが、突く以外にも斬り裂くことも可能なことから剣扱いでいいのかもしれない
倉田氏の発音では 「リボル剣!!」 と聞こえるため名前を勘違いしてる視聴者も少なくない
RXのベルトであるサンライザーの左側の穴から生成され、左手で引き抜きスムーズに正面で振り回しながら右手に持ち換えるのがテンプレな流れ
刀身は常に発光しており、キングストーンと太陽のエネルギーが凝縮されている
言わば、キングストーンフラッシュの具現化とも言える武器
たまに光ってない場面があるのはナイショである
敵のビームを受け止めて拡散する盾にも使える

また本編では使用されていないが、設定上は刀身を鞭のようにしたりビームを発射することも可能
アメリカ版『マスクド・ライダー』では、規制で剣を突き刺す描写がタブーなためこのビームがリボルクラッシュになっている
戦闘終了後は自然に消滅するが、再度取り出すことも可能。ただし、二刀流は不可能(多分)
バイオライダーの武器であるバイオブレードもリボルケインの変形したものである

主な犠牲者

◆怪魔ロボット キューブリカン
記念すべき犠牲者第一号
RXキックに耐えて第二の頭部で反撃するも、決定打を与えられないまま文字通りの試し斬りとなった

◆シャドームーン
ご存知、信彦さん。
シャドーセイバーで善戦するも、ベルトを斬られ、立て続けにキングストーンにリボルクラッシュを受けた
RXが躊躇したのか、もしくはキングストーンの力ではキングストーンを貫けなかったのか、本編中で唯一リボルクラッシュを受けて貫通も爆発もしなかった相手
リボルクラッシュを受けた身でありながら命懸けでクライシスに人質にされた子供たちを助け出した漢である
この回ではスーツアクター次郎さんの素晴らしいアクションもまた必見

◆海兵隊長ボスガン
四隊長で唯一、直接リボルケインを味わった人。
リボルケインに電磁波剣で挑み、チャンバラ(ボスガンは両手持ちなのに対してRXは片手持ち)の末にリボルクラッシュを受けるも残った短剣でRXの左肩に斬りかかる根性を見せる
しかし、それを弾かれた末にまさかのリボルクラッシュ二度刺しという鬼畜コンボに敗れる
ちなみに、RXの左肩は 何事も無かったように無傷だった(ボスガン涙目)

◆最高司令官ジャーク将軍
最強怪人ジャークミドラとなってRXを苦戦させるも、バイオライダーに翻弄さえた末にリボルケインで刺されてしまう
長時間刺されながらもリボルケインを引き抜こうとしたりRXの首に手をかける等して抗い、爆発まで決して倒れなかった武人
さすがは最高司令官といったところか

◆クライシス皇帝
初代から地続きとなるシリーズ最後の敵にして全知全能の神………なのだが、そんな神でさえリボルケインの一撃で大爆発、怪魔界を道連れに消え去ってしまう
なお、この際に最後ということで色々吹っ切れてたスタッフが残っていた火薬を全投入してシリーズ最大クラスの大爆発を起こしたのは有名な話
その中で次郎さんがリボルクラッシュの構えを解かなかったのも同じく有名な話
「マジで死ぬと思いました」 (by.次郎さん)

◆ガラガランダ(DCD版)
劇場版ディケイドにて、リボルクラッシュと仮面ライダーカブトのアバランチスラッシュを受けた挙句、元祖コンビによるライダーダブルキックでオーバーキルされた可哀想すぎる人
相手にした連中が悪すぎた

耐えた方々

◆査察官ダスマダー
完全に決まる直前に気体となって回避
後の最終決戦でマジで喰らう事になるけど

◆最強怪人グランザイラス
リボルクラッシュが刺さる直前に刀身を掴み、そのまま弾き返した凄まじいヤツ
しかし、これはあくまで決まる前に止めたのであるため、実際にリボルクラッシュが決まっていたらどうなっていたかは分からない

◆アポロガイスト(DCD版)
リボルケイン(非発光)が腹部に刺さりかけた際、貫通直前にサイ怪人に助けられたため一命を取り留めたのだ
もう少しサイ怪人が遅かったらヤバかったのだ
もしくは発光していなかったから助かったのかもしれないのだ
もしかしたら同じ太陽属性だからサイ怪人が間に合うまで致命傷程度で済んだのだ
因みに唯一体に刺されて死ななかった怪人なのだ

以上アニヲタウィキより抜粋

ではまた次回


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♯70 かんたんな嘘

久しぶりの投稿
クオリティは相変わらず低いですよ
待たせたくせにね!

…いえ、本当にごめんなさい

短いし変なところで終わってますが、ゆるりと楽しんでください

誤字脱字見かけましたら報告ください

ではどうぞ


一瞬、一方通行(アクセラレータ)は浅倉たちと合流することを考えた

しかし自身にもこういったことが起こっているのなら、彼らの身にも何かが起こっているはずだ

そしてわかりやすい合流ポイントは、例のカエル医者のいる病院だ

そこまで行けばひとまずは合流できるだろうと踏んだ一方通行(アクセラレータ)はひとまず車を走らせた

 

一方通行(アクセラレータ)等を乗せた車は、あれから十分程道を走らせた

しかし車で十分といっても、言い換えれば十分〝程度〟でしかないのだ

流石に可能性は低いが、衛生なんて使われてしまえば直ぐに追い付かれてしまうだろう

運転席のシートに縫い付けられた男はガタガタと震えながら小さな声で言ってきた

 

「ま、まだ走るのか…? このままじゃ、マジに―――」

「うるせェ。俺が良いって言うまで止まんねェよ」

 

ささやき返すと男はそれにだまり、震えながらも車の運転を続けた

それに気がついたインデックスがこちらを見て

 

「どうしたの?」

 

と聞いてきたが、一方通行(アクセラレータ)はそれになんでもねェよ、と言い返した

一方通行(アクセラレータ)本人は前方の運転席のシートに身体を預けるようにして、突き刺している凶器を隠しているので、今のところ彼女にはバレていない

 

しかし、と一方通行(アクセラレータ)は思案する

後部ドアのない盗難感まるだしのワンボックスが街中を走っていれば流石に警備員(アンチスキル)にぶつかるのではないかと思ったのだが今のところその気配はない

あわよくば黄泉川とコンタクトが取れるかもしれないと思ったのだが

 

(…この静けさも木原の野郎の演出ってェわけじゃねェよなァ)

 

現在、一方通行(アクセラレータ)は電極を通常モードに戻し、消耗を抑えている

木原と戦うには節約しなければならないのだ

しかしこの車にミサイルでも打ち込まれてはアウトだ、そういう未来も頭に入れながら、彼はドアのない出入り口から夜の町並みを睨んでいるのだが

 

「あ! みにくいアヒルの子!」

 

すぐ隣では世界観に一致しない白服シスターが絵本を引っ張り上げて目を輝かせている

彼女の膝に乗っている三毛猫は表紙のアヒルに何かが刺激されたのか、ジリジリと距離を詰めている

 

「てか、お前何であンなとこにいたンだ」

「借りてたのを返しに来たの。ほら、この最新鋭の日用品―――」

「馬鹿かてめェは! こんな使い捨てな上に丸められてゴミカスみてェなもン返されても迷惑だ!」

 

そうなの? と首をかしげるシスター

そう言って彼女は丸まったそのティッシュをまっすぐ伸ばし始めた

これはも受け取るしかないと判断した一方通行(アクセラレータ)は観念してそれを受け取り、ポケットに突っ込む

 

「そうだ、怪我は―――」

「問題ねェよ。いらねェ心配すンな」

 

その口調を聞いて安心したのか、インデックスは手元にあったみにくいアヒルの子を読み始めた

童話の内容を知っているのか、ページをめくる速度が速い

彼女が本の内容を読み終えるのを見計らって、一方通行(アクセラレータ)は言葉を紡いだ

 

「俺はこれから、はぐれたガキを探さきゃならねェ。手ェかかるが、あいつは自分の足で戻ってこれねェみたいだしな。だから、お前とはここでお別れだ」

「私も探すよ?」

 

即時返答

一方通行(アクセラレータ)の赤いその瞳から、一切目をそらすことなく、彼女はそう言い切った

 

「貴方が困ってるのわかるもん。ここにとうまやあらたがいたら、おんなじこと言ってると思うし」

「フン」

 

彼はつまらなそうに吐き捨てて、運転手の男に声をかけた

 

「ここらで止めろ」

 

文字どうり命を握っている一方通行(アクセラレータ)に男は黙って従った

インデックスを見て、一方通行(アクセラレータ)は言った

 

「協力しろ」

「うん」

「この近くにでかい病院がある。そこに入ったらいかにもカエルヅラな医者がいるはずだ。そいつに会ったら」

 

首筋をトントンとたたき

 

「ミサカネットワーク接続用電極のバッテリーを用意しろ、と伝えろ。大事なモンだ、それがねェと人探しができねェ。そいつを受け取ったらダッシュで戻ってこい」

「わかった。ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー、だね」

 

一字一句完璧に復唱された

もっとも、本人は意味など分かっていないのだろうが

彼女は躊躇いなく雨の道路へと足を出した

 

「待っててよ?」

「あン?」

「戻ってくるまで、待ってなきゃダメだよ?」

「―――わァってるよ。だからさっさといけ」

 

一方通行(アクセラレータ)は答えた

インデックスは何度かこちらを振り返ったが、やがて水たまりを踏みしめながら走っていく

小さな背中が、完全に闇の中へと消えていった

 

「…クソッタレが」

 

吐き捨てて、もたれかかる

病院に替えなんてない、そもそも今つけている電極自体が試作品だ、それに対応しているバッテリーなんて量産化なんてされていない、というか量産化されていればありったけポケットにぶち込んでいる

要は、嘘だ

 

医者のところにいけ、ということ以外は、ぜんぶ

 

どこに行っても危険ではあるが、とりあえずあの医者のところにいたほうが安全なのは確実だからだ

生存率を上げるなら、アイツのところに送った方がいいだろう

これから始まる打ち止め(ラストオーダー)争奪戦には、はっきり言ってインデックスは荷物でしかなかった

だから、邪魔なものは邪魔にならないところに送ったまでのことだ

 

ふと、視線の先に見知った男達が、水たまりから現れた

紫色のライダーと、赤っぽいライダーだ

おそらくは、鏡の世界を伝ってこちらに来たのだろう

便利なものだ

 

「よォ。…芝浦はどうした?」

「―――死んだよ。俺たちを庇って、な」

「―――そうか」

 

一方通行(アクセラレータ)は何も答えなかった

それ以外何も言えなかったからだ

一方通行(アクセラレータ)は運転手の男に告げる

 

「車を出せ」

「ま、まだ開放してくれないのかよ…!?」

「死ぬか生きるか、テメェが選べよ」

 

後部座席に突き刺してある狂気を揺すると、三人を乗せた車が発進する

さらに五分ほど走らせると、小さい公園の前で車を止めらせた

どうやらここは第七学区の端のようだ

 

一方通行(アクセラレータ)は後部座席の足元にあったバッグを掴み、横に置く

ふと手塚が聞いてきた

 

「そういえば、杖はどうした」

「無くしちまったよ。不覚にもなァ」

 

それを聞くと少し驚いたような顔をして手塚は自分の周囲を見渡して、あるものを投げ渡した

一方通行(アクセラレータ)はそれを受け取ると、まじまじと投げられたものを見る

それはショットガンだった

グリップを掴み、ストックを脇で挟めばなんとか杖の代わりにはなるだろう

 

「体重で銃身が曲がってしまうかもしれないが、代わりにはなるだろう」

「悪ィな。助かる」

 

そんなやりとりをしていた彼らに、運転手の男がボソリと呟いた

 

「むだ、だ」

 

かすれた声

 

「あの人に直にあったなら、わかんだろ。木原数多は〝絶対〟だ。同行できる相手じゃない…」

「死にてぇのか?」

 

低い朝倉の言葉

しかし運転手の答えは想像に反したモノだった

 

「そ、それもいいかもな」

「…ほぉ?」

 

「死にたかない。けど、俺は同時に木原さんの怖さだって知ってる。あの人には、容赦がない。下手すると、〝死ねないかもしれない〟。木原さんは、ギネスだとか、世界三大事件を四大事件に増やしちまうとか、そういうのを―――」

「つゥかごちゃごちゃうるせェなァ…」

 

吐き捨てて、一方通行(アクセラレータ)は凶器を握り締める

 

「てか面倒くせェ! 殺すなんて曖昧なこと言わずにこのまま内蔵シェイクして口から血と昼飯を吐き出させンぞクソ野郎がァ!!」

 

耳元で大声を出したら、男の虚勢はあっけなく崩れた

死を実感していないやつなんてこんなものだ

運転手は叫ぶ

 

「クソ…ちくしょぉ!! ふざけろよ! 死ぬのは嫌だ! どいつもこいつも化けもんだ! 俺は帰ってシャワー浴びて酒飲んで、撮りだめた番組見んだよぉ!!」

 

そこにあったのは小さすぎる醜い光

立場もわきまえず、大物同士のいさかいに首を突っ込んだ結果がこれだ

みっともなく震える猟犬部隊の男に声を投げかける

 

「生きたいか」

「だからなんだっつぅうんだ!! 生きてぇに決まってるだろおがぁ! ちゃんと大手を振って生きてぇよ! けどそんなことできるわけねぇんだよ! バカじゃねぇのかよ俺ぇ!!」

 

土壇場まで追い詰められているのだろう

そうじゃないと、ここまで飛躍した話にはならない

 

「っは、よくわかってンじゃねェか」

 

一方通行(アクセラレータ)は口元を引き裂くように笑みを浮かべた

ルームミラーでその笑みを確認した男が怯える

 

「テメェに救いなんざねェよ。こンな世界に来て人踏みつけて、木原や俺達を敵に回してまだ人並み(幸福)に生きてェとかほざいてんじゃェよクソが」

「お前、何人これまでに殺してきた」

 

怯える男に手塚が問うた

 

「じゅ、十四人…」

 

絞り出すような声色だった

その程度、か

なら、まだ平和な人種だ

そして同時に、それを平和と認識している一行の方が、十分に化物だ

 

「選べ。ここで死ぬか、木原の手にかかって爆笑必死なオブジェになるか」

「い、嫌だ! 死にたくない!」

「なら、病院だな」

 

浅倉は呟く

 

「簡単にはお前は死なないよ。永遠に救いのない道をみっともなくあがいて生きろゴミ虫が」

「―――ちくしょぉ…」

 

手当を受けれるというのに、男は奥歯を噛み締めて悔しがる

 

「殺される。木原さんは地球の裏側であろうと追ってくる…助かるわけがない…!」

「あのクソ医者は患者を見捨てるようなやつじゃない。ま、一日くらいなら生きられるかもね」

「なんの保証にもなってねぇよ」

「その間に木原に心臓えぐられるかもしれないぜ」

 

浅倉の言葉に男は黙る

一瞬、一方通行(アクセラレータ)達が木原を倒したら、もしかしたらとでも考えたのだろう

 

「…どうせ、木原さんには敵わない」

「俺らはともかくテメェは無理だ」

 

一方通行(アクセラレータ)は吐き捨てて、なにか使えるものはないかと周囲を見始めた

 

「…? おい、コイツは何だ」

 

浅倉は気になるものを見つけた

見た目はサイレンサーを取り付けた拳銃みたいだが、先端にマイクの形をしたスポンジ状のセンサーが取り付けられていた

そしてグリップの上、ハンマーのある辺りに三インチの小型液晶モニタがついている

 

「そいつは、嗅覚センサーだ」

 

ルームミラーで確認したのか、男がそう答えた

 

「香水や消臭剤で使ってるヤツを、軍事に転用した…」

「よォは警察犬の機械化か」

「ま、犬よりは確実だろうな」

 

データ化により、入り混じった匂いの中から必要なものだけを取り出したり、メモリに登録できたりもするのだから

 

「俺たちは、いつもその嗅覚センサーを使って標的の足跡を追う。迅速かつ、確実にな。…木原さんらに睨まれて、逃げ切れたヤツを、俺は知らねぇ…」

 

一方通行と浅倉はつまらなそうな表情になる

ヤツらを叩き潰すのに、依存はないが[相手から奇襲される]パターンは好ましくない

ならこちらから[相手に奇襲する]構図を作った方が良い

一方通行は嗅覚センサーを弄り回しながら

 

「コイツの使い方はどう使う。ガキを探すのに使えるかもしれねェ」

「無理だ」

 

男は僅かに笑った

青白い、乾いた笑み

 

「猟犬部隊は、そのセンサーを打ち消す洗浄剤を持ってるんだ。匂いの分子構造そのものに干渉するヤツだ。襲撃地点でそいつを使っても意味がねぇ…」

 

話によると、洗浄剤には衣服にかけるものと後から現場に散布するものの二種類があるようだ

 

「お前は持ってるのか。その洗浄剤」

 

手塚の問いかけに男は震えた声で返す

 

「あればとっくに使ってる。所属が違う。足跡を追う係と、消す係は分業なんだよ…」

 

しかしその嗅覚センサーをごまかせるという事実を知っただけでも十分だ

センサーの適当に放ると一方通行(アクセラレータ)は言った

 

「…お前、動くんじゃねェぞ」

「ひっ!?

 

殺されると思ったのか、男はびくりと震えた

しかし男の予想に反して一方通行(アクセラレータ)たちはドアのない出入り口に動いていた

 

「ど、どこに行くんだ」

「ガキを助けに行くンだよ」

「諦めてねぇのかよ!? どこまで逃げても無駄なんだぞ!? それでもやんのか!?」

「たりめェだ」

「なんで即答できんだよ!? こんな世界に浸ってるのに、テメェがどれだけ分が悪い状況にいるか分かってんだろ!?」

 

その言葉に、手塚が答える

彼にしては珍しい、苦笑いを浮かべながら、先に降りた一方通行(アクセラレータ)と浅倉のふたりを追うように身を乗り出して

 

「平和に浸かりすぎて、やきが回ったんだよ」

 

◇◇◇

 

判断は一瞬

 

「当麻、走れ!」

 

これ以上隠れても無駄と判断したアラタは身を乗り出して、音もなく、その姿を紫色のクウガへと変える

同時にこちらへと火を吹いたマシンガンがクウガの鎧に当たるが、大したダメージには成りえない

一瞬こちらを伺うように打ち止め(ラストオーダー)を抱えた当麻がこちらを向くが、

 

「早くいけ!! 振り向くな!」

 

クウガは叫び、ここからの逃亡を促す

その身に銃弾を浴びながら紫のクウガはゆっくりとその黒ずくめの一団に向かって歩いていく

流石に殴ることはないが、地面を舐めるのは確実だ

 

 

手加減しつつ、相手を気絶させるのは少々苦労した

変に重武装しており、相手のほとんどが重火器に頼った物のため接近しづらかった

しかしこいつらはどうして打ち止め(ラストオーダー)を狙うのだろうか

 

「ともかく、当麻と打ち止め(ラストオーダー)は逃げ切れたのかな…」

 

彼女を抱えて走り去った方向を見ながら、クウガはゆっくりと変身を解く

同時に、これは美琴と夕飯を食べに行く約束には多分間に合いそうにない

少し考えて、アラタは動くことにした

走りながら携帯を動かし、彼女の電話番号へと電話をする

 

スリーコールのあと、聞き慣れた声がアラタの耳に届く

 

<アラタ? どうしたの?>

「悪い、美琴、晩ご飯の、件なんだけど…!」

 

走りながら携帯で会話をしているので、いかんせん息が荒い

そのことを見透かされたのか

 

<…またなんか面倒ごと? 風紀委員の仕事かしら?>

「その、似たようなもんだ。埋め合わせは必ずするから!」

 

立ち止まってキョロキョロと当麻が逃げそうな場所を探す

しかし流石に彼の動向などは流石に友人でもわからない

 

<仕事じゃあ仕方ないわよね…。おっけー、けど近いうちに埋め合わせしてもらうわよ?>

「もちろんだ。ありがとう、美琴。それと、本当にごめん」

<大丈夫よ。頑張って、アラタ>

 

そう言って電話は切れた

今度夕飯を食べに行くときはどこか高級なお店にでも行ってみようか…という考えを頭を振って振り払う

今は当麻と合流することが大事だ

その時、彼の耳に銃声が聞こえてきた

パン、と乾いた音だ

別の黒服グループか、あるいはまた別の奴らか

どちらにしても、行き先は決まった

 

意を決したように、鏡祢アラタは走り出した

もはやなんだかわからないが、だれかの好きにさせてなるものか

守ると決めたんだ、本郷猛(あの人)に託されたのだから




気まぐれ紹介のコーナーは後日書きます
本当に申し訳ない(メタルマン感


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