とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す (たくヲ)
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ぷろろーぐ

※この作品は他の目指すシリーズ作品を読んでいなくとも結構です。

それではお楽しみください。


私が目を覚ますと白い空間だった。

 

えーと?私は休日を利用して家で『とある魔術の禁書目録』全22巻、『新約とある魔術の禁書目録』を5巻まで読破したところまでは記憶がある。

 

それがなんでいきなり学校の制服姿でこんな白い場所にいるんだろう?

 

「わしは神じゃ」

 

でも、ここはどこ?ただの女子高生をこんな所に放り出して何がしたいのかな?

 

「わしは神じゃ」

 

ここが白い床を叩いてみると柔らかいような固いようなどっちかよくわからない感触だった。

 

「わしは神じゃ。……いい加減、反応してくれないかのう?」

「いきなり、『わしは神じゃ』とか言う見知らぬおじいさんが現れた時の反応なんて私は知りません」

「ふむ……次からはパターンを変えてみるとするかのう?」

 

まさかこのおじいさん、いままで何人もの人に『わしは神じゃ』なんて台詞を言い続けてきたのかな?

 

「そんなことよりもおぬしに話があるのじゃ」

「見知らぬおじいさんに真っ白な部屋に二人きりって危険な香りがすごいので離れてもらえますか?」

「ふむ、話を聞いてくれるのであればこの場所について教えてしんぜよう」

 

む。それは知りたい。

 

「わかりました。聞きます」

 

おじいさんは頷いて話し始める。

 

「ここはおぬしたち人間が天国と呼ぶ場所じゃ」

「……大丈夫ですか?っていうか、正気ですか?」

 

本気で言っているんだとしたらおせっかいながら病院に案内するしかない。

 

「正気じゃ。……話を戻すぞい。残念ながらおぬしは死んでしまったのじゃ。家に小さな隕石が突っ込んでのう」

「だから、あなた大丈夫ですか?」

「そして先程から言うように、わしは神じゃ」

 

無視された……。

 

「……」

「むう?ふむ、わしが神様なのか疑っているようじゃな。まあ、今まで一般人だったのだから仕方ない話じゃ。ここは二つほどわしの力を見せてやろう」

 

おじいさんが手をかざすと水晶玉が出現した。そこには私の通っている学校が映っていた。そこの教室にいるのは私のクラスメイトと先生。その中の違和感はひとつ……私がいないというだけ。

 

「このように、別の場所を見ることができる。さらに」

 

おじいさんが私に手をかざすと、私の服が一瞬でメイド服に!?

 

「……もどしてください」

「……はい」

 

おじいさんは素直に戻してくれました。私にコスプレ趣味はない。見るのは好きだけど。

 

「これで、分かったじゃろう?」

「そうですね。流石に……でもその神様が私に何の用ですか?」

「それはのう。おぬしを漫画・小説・アニメの世界に転生させようと思ったのじゃ」

 

へ?なんで私?

 

「なんて顔をしておるんじゃ。……理由は単純。友がわしに、ある計画のため最低5人の転生者が必要だと言ってきたのじゃ」

 

神様に友達なんているんだ。正直驚いた。

 

「無論じゃ。まあ、その友の計画のために、4人ほど転生させ、おぬしは最後の一人というわけじゃ」

 

心を読まれた?

 

「拒否権は?」

「もちろんある。が、それだと輪廻転生の輪に戻るだけじゃ」

 

どうしよう。

 

前世の生活に戻る……のはできなさそうだ。このまますべて忘れて新しい人生をやり直すのもいいかもしれない。

 

でも、前世で見た二次創作のようなことができるのなら転生もしたい、かな?

 

「すみません。いわゆる転生者特典というのはつきますか?」

「勿論つける。つけないとすぐに死んでしまいそうじゃからのう。今ならおぬしの望む力を二つまで与えよう」

 

特典なしだと死ぬ? ってことは私が転生したらバトル系の世界におくられる、ってことなのかな?

 

あと、特典二つ?二次創作なんかだと三つくらいのはずなのに?

 

「一応サービスで転生先について教えておこう。日本にはおぬしの生前の日本にはない巨大な組織が堂々と存在し、魔法がある世界じゃ」

「……わかりました。私、転生します」

「ほう、意外と迷わず決めたのう」

 

でも、特典はどうしよう………………決めた。

 

「もう決めたのか。急ぎの話しでもないから、もう少し考えてもよいのじゃぞ?」

「大丈夫です。もともとなりたいものは決まってましたから」

「ならば欲しい特典を言うがいい」

 

私が欲しいものは……。

 

「『とある魔術の禁書目録の10万3千冊の魔道書の知識』と『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』です」

「ふむ、よかろう。おぬしの願いはエントロピーを凌駕した」

 

まどかマギカ?

 

「おぬしが転生すると自動的に能力として発現するからのう。全力全開で頑張ってくるがよい」

 

リリカルなのは?

 

「転生者としての生活を存分に楽しんでくるといいじゃろう」

 

その言葉を聞いた瞬間から、私の目の前が黒く塗りつぶされていく。

 

「では行くがよい。■■■■よ」

 

その言葉を最後に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人の転生者が揃った。

 

一人目は狙撃手。

 

二人目は魔物使い。

 

三人目はデバイス。

 

四人目は暗殺者。

 

これは五人目の転生者。魔導書の力を持つ少女が最強の魔術師を目指す物語。




作者のたくヲです。

目指すシリーズ第5弾。ということで始まりました、この作品。

この作品は目指すシリーズにおけるひとつの区切りと言える作品となっています。と言っても前書きの通り、他の目指すシリーズを読んでいなくても理解できる作品に仕上げます。

これからも、『主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある世界の憑依転生

 目覚めると路地裏だった。

 

 あれ、私まさか親に捨てられた系転生者だったの?いや、そもそも転生って普通赤ちゃんになるんじゃ……

 

「へ?」

 

 私の着ている服の袖が視界に入った。真っ白な布地に金箔の飾り。頭にはフード。横を向いてみると視界の端っこに窓ガラス映る。それは私、すなわちティーカップのような色彩の修道服を着た銀髪碧眼の少女の姿を映していた。

 

禁書目録(インデックス)?」

 

 映っていたのは、銀髪碧眼暴食シスターさんこと禁書目録(インデックス)。……まさかの憑依だった。

 

うん。とりあえず表通りに出よう。ここはなんか身の危険を感じるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表通り。

 

 現在、私には困っていることがいくつかある。

 

 一つ目は現在は原作スタートの約一年前らしいということ。とりあえず、私の頭の中ではそういう記録がある。流石に原作まで時間がありすぎると思う。

 

 二つ目は、転生ではなく憑依、それも禁書目録(インデックス)が対象だったこと。流石に一年間も魔術結社や必要悪の教会(ネセサリウス)から逃げきる自信はあまりない。

 

 三つ目は、今私がいる場所がわからないこと。まあこれに関しては看板を見れば何とかなるよね。

 

 四つ目は、今日何を食べるのか。原作だとどうしてたんだろう?

 

 五つ目は、私の後ろの方の電柱の陰に隠れるように、黒い神父服を着た赤髪の大男……ステイル=マグヌスがこっちを見ていること。

 

 って、なんでステイルがいるのかな?まあ、私こと禁書目録(インデックス)が彼と同じ必要悪の教会(ネセサリウス)に所属しているシスターであり、禁書目録(インデックス)の記憶を奪ったのが彼らであり、十万三千冊の魔導書の知識を持つ禁書目録(インデックス)を監視しなければならないのはしょうがないことなんだろうけど。

 

 でも、いざ襲われた時のため対抗する手段を考えておこう。

 

 禁書目録(インデックス)は魔術を使えない。だから、この白い修道服『歩く教会』で体を守っている。

 

 この『歩く教会』の防御力は法王級で聖ジョージのドラゴンの一撃と同義である『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』級の魔術でもなければいかなる攻撃も無効化するらしい。だから襲われてもほとんど平気だと思う。

 

対して、今私を付けている『炎の魔術師』。ステイル=マグヌスは強力な魔術師ではあるけれど『歩く教会』を破壊できる魔術師ではなかったはずだ。

 

 ちなみに『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』を正面から受け止めたという驚異の魔術『魔女狩りの王(イノケンティウス)』に関してはあまり心配してない。そもそも、あの魔術が強力な理由は、範囲内のルーンを取り除かない限り何度でも蘇るところにあるはずだからね。同じ三千度の炎である『炎剣』で『歩く教会』を破壊できないなら大丈夫だと思う。

 

 破壊できるとしたら原作七巻で登場した天草式協力スーパー『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を使うか、原作二十一巻の方法で三位一体にして突撃させるしかないと思うからまず問題はない。

 

 とりあえず、現在の敵はステイル=マグヌスだろうから、逃げることだけ考えよう。幸いここは大通り、流石にめったなことでは攻撃できないだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人ごみに紛れてから数分後、私は……

 

「というわけで君は僕らに保護されてもらうよ」

 

 ステイル=マグヌスと会話になっていた。ステイルとの距離は8メートルくらい。

 

 ステイルの派手な魔術に注目しすぎて、地味な魔術について考えていなかったのがまずかったね……。

 

 ステイルが使った魔術は『人払い(Opila)』。確かこの時系列のステイルはルーン文字を書いた紙を大量にコピーして、その紙を大量に張ることで魔術を発動していた。

 

 なら、ルーンの効果範囲外まで逃げれば、相手は魔術を使えないはず。

 

 でもその前に一言だけステイルに言いたいことがある。

 

「とりあえず、タバコは健康に悪いから吸わない方がいいかも」

「……」

 

 ステイルは原作でも煙草を吸っていた。と言うか吸ってない場面はほとんどないヘビースモーカーだった。しかも、十四歳。未成年だし。……見た感じだとまったく十四歳には見えないけど。

 

 ステイルが煙草を投げ捨てる。原作通りならこの動きのあと炎の魔術を使ってるシーンがあったけど……。

 

「ポイ捨てはいけないと思うんだよ」

「……」

 

 その言葉を聞いたステイルに一瞬の隙ができる。その瞬間に私はステイルに向かって駆けだす。

 

「ッ!?炎よ」

 

 ステイルの右手から炎剣が現れる、って怖ッ!?ほぼ無効化できるってわかっていても流石に怖いよ!?

 

 すくみそうになる足を頑張って動かしてステイルの左手側をを走り抜ける。……ステイルの左足に私の足を引っ掛けながら。

 

 流石『歩く教会』。ステイルに接触した足にまったく痛みがない。

 

「のわっ!?」

 

 だからステイルが転倒して声を上げたけど気にしない。全力で逃げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステイルから逃走しきった。まあ、原作の禁書目録(インデックス)も一年間逃げ延びたから、これくらいはできないとすぐ捕まっちゃうよね?

 

 ステイルが追ってこなかったのは多分、禁書目録(インデックス)の記憶を消すのは一年周期であること、単純に禁書目録(インデックス)と敵対するのがつらいからなんだろうね。

 

 敵になっている理由だって禁書目録(インデックス)の別れの辛さをやわらげたいからだったはずだから。

 

……まあ、私はそのやり方は認めないけどね。確かにその方法なら別れは辛くないかもしれない。なにせ別れる相手がいないんだから。でも、記憶を再び消すまでは、常に辛い思いをすることになる。そんなに救いがない展開を私は認めない。

 

 それはともかく、これからどうするのかを考えないとね。

 

 今、私にあるものは、『歩く教会』、ステイル魔術を解析するために捨ててあった(配置してあったとも言う)のを拾ってきたルーンの用紙5枚。

 

 うん、一気に生きられる気がしなくなったね!二日三日したら餓死するね、絶対。

 

 ほんとにどうしよう?自動販売機の下でも覗こうかな?でも、あれ日本じゃ犯罪だったよね?だとするとどうやって生きていけば……。

 

 とりあえず、最初から頭の隅にはあったけどあまり実行したくなかった手段を使うしかないね。

 

 仕方がないよ。これは本当に最後の手段にしたかったんだけど自分の命が一番大切だし。そもそも原作キャラが餓死っていう展開はシャレにならないもんね。

 

 ということで行きますか……ローマ正教系の教会に。




 『あるくきょうかい』を『歩く教会』に変換しようとすると『歩く協会』になってしまいどうしようかと考えている作者のたくヲです。

 いきなり戦闘?回。

 チートのタグが付いていますが、チートになるのは結構あとです。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

 感想を頂けるとうれしいです。


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とある教会の依頼計画

 夕日が町を赤く染め上げている。

 

 そんな当たり前でありながらどこかほっとさせられる景色の中、私はとある教会裏庭の花壇の陰に身をひそめて、誰かが来るのを待っている。

 

 禁書目録のデータと照合したところ、ここがローマ正教系の教会で間違いはなさそうだ。

 

 私がここに何をしに来たのかと言われれば、この教会を占拠しに来たとしか言いようがないね。その理由もこれ以外の生き残る方法が思いつかなかったとしか言いようがないのだけれど。

 

 あっ、ちょっと背が高いシスターさんが歩いて来る。隠れて、ぎりぎりまで引き寄せて。

 

 ほぼ真横に来たところで、飛び出す!!

 

「恐怖、舌噛みヘッドバット!!」

「ッ!?」

 

 やってきた黒い修道服のシスターさんの顎にしたから突き上げるような頭突きで攻撃し、後ろに回り込んでからの絞め技でで、意識を落とす。

 

 これでよし。シスターさんを引きずって花壇の陰に戻る。顔を見られないためには迅速な行動が重要だよね?

 

 それにしても『歩く教会』ってすごいね。頭突きの反動が全くないもん。

 

「ごめんね」

 

 一言謝ってシスターさんの修道服を脱がしていく。

 

 別に私にそういう趣味があるわけじゃ……あるけど、違うよ?変装のために少し借りるだけだからね?

 

 原作ではオルソラ・アクィナスが着ていたモノと同じ黒い修道服を『歩く教会』の上から着る。

 

 ちょっと背が高い人の来ていた修道服だからかぶかぶかだけど、『歩く教会』の上から着れば少し違和感を抑えられる。かな?

 

 あ、『歩く教会』フードは脱いで、黒い修道服フードに変えてっと。フードは意外と大きかったので、顔にかぶってしまったけど、顔を隠せるからいいかも。

 

 それじゃ、行って来ようかな。できれば穏便に済ませたいところだけど、そんなにうまくいかないんだろうね。

 

 正面から教会の聖堂に乗り込む。って、あれ?

 

 聖堂にはなぜか武装神父と武装シスターたちの姿があった。

 

……おかしくない?原作7巻のシスター軍団レベルではないけど、25人程度だけど、それが全員武装しているなら十分に危険だと思う。

 

 たぶん、禁書目録(インデックス)が近くにいるとわかって集まってきた、ローマ正教と敵対している魔術結社のお掃除が目的なんだと思う。

 

 流石に禁書目録(インデックス)、つまり私を狙ってイギリス清教相手に戦争を起こすつもりはないだろうし。

 

 まあ、私の敵を勝手に減らしてくれるのはいいけれど、この状況は少し危ないかも。今の私は変装しているから禁書目録(インデックス)だってことをこの人たちはわからない。ローマ正教のシスターさんに変装するために借りた服だからいきなり殺しには来ないだろうけれど、この武装神父&武装シスターっていう光景を一般の信徒に見られたとなると……やっぱり。

 

 こっちに武器を向けている神父&シスター。うん、完全に戦闘モードだね。

 

 大方、気絶させてから記憶消去をしてそのへんに放置するってところかな?

 

 でも、捕まった後に私が禁書目録(インデックス)だってばれたら、どうするつもりなんだろうね?イギリス清教と戦争になるのは必至だよ?

 

 私としても戦争なんて事態は避けたいから、私の正体がばれてないうちに何とかしないとね。

 

 とりあえず私の頭の中の『十万三千冊の魔導書の知識』から選んだ内容を、跳びかかってきたシスターたちに向けてぼそりと呟いてみた。

 

「ーーーーーー」

 

 とびかかってきた武装シスターは頭を押さえてうずくまる。

 

 おお、効いた。ぶっつけ本番で成功するとは思ってなかったけど。では、この場にいる全員に聞こえるように再び呟く。

 

「------」

 

 ……これは、すごいね。一瞬で教会内の敵性を戦闘不能にできるなんて。

 

 私が使ったのは『魔滅の声(シェオールフィア) 』。これは、『十万三千冊の魔導書の知識』を用いて、十字教における教義の矛盾点を徹底的に糾弾することで一時的に人格をパズルみたいに崩す、というものらしい。まあ、こんなものはただの言葉だから、実際に効くとは思ってなかったけれど。

 

 とりあえず全員を気絶させておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会内の一室に、私の探していたものを見つけた。

 

 それは、ただの電話。その周辺を捜すととある電話番号のメモも見つかった。

 

 私はその番号を入力して電話をかける。電子音が3・4度鳴り、止まる。

 

『はい。こちらはローマ正教、リドヴィア教会でございます』

 

 私が電話をかけたのはローマにあるリドヴィア教会というところだ。名前で分かるとおり、ローマ正教のシスターであり原作にも登場した、リドヴィア=ロレンツェッティの布教の功績から建設された教会、らしい。

 

 原作にないそんな施設の存在より、電話相手さんが日本語で応対してくれていることに驚いた。

 

「申しわけございませんが、オリアナ=トムソン様はいらっしゃいませんか?緊急で依頼したいことがあるのですが」

『オリアナ=トムソンさんは……この教会にいらっしゃるようです。電話を代わるのでございますよ』

 

 私がこの教会に攻め込んだ目的はオリアナ=トムソンと接触するためだったりする。

 

 私こと、禁書目録(インデックス)にイギリス正教がつけた首輪。『自動書記(ヨハネのペン)』とその『遠隔制御礼装』の破壊のためには学園都市の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』上条当麻の協力が不可欠。

 

 しかし、私が外部から完全に隔離されている学園都市に入る方法を知っているわけがない。

 

 そこで学園都市侵入のために私が考え付いた方法は、『運び屋』オリアナ=トムソンに依頼することだった。

 

餓死の危機にさらされていた私は、迷わずこの作戦を実行に移したわけなんだけど……正直、この時期にオリアナ=トムソンがローマ正教に雇われていたかどうかは運任せだったから、少し安心しているんだけど。

 

 あのお姉さんに協力してもらうための算段はついているから。

 

『オリアナ=トムソンです』

「少し依頼したいことがあるのですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと、一悶着あったけれどなんとか日本に来て貰えるようだったので、助かった。

 

 どうやら、この町まで出向いてくれるそうなので、市立図書館に行って時間を潰すことにした。

 

 とりあえず、禁書目録(インデックス)の体質『完全記憶能力』を利用して、食べられるキノコおよび野草をかたっぱしから覚えていこうと思う。

 

 このままだと本格的に餓死エンドだからね。

 

 幸い近くには小さな山があるからそこでキノコを採れば……それがだめなら野草を洗って食べるしかないけれど。

 

 そこは、禁書目録(インデックス)の脅威の狂胃にかけるしかない。

 

 あれ?図書館内の人が消えた?

 

「お前が禁書目録(インデックス)だな」

 

 ……やばいかも。

 

 見回してみると短剣や杯や杖などの道具を持った人達が並んでいる。

 

 まさか、図書館で魔術結社の人達に囲まれるなんて……。

 

 うん。もうこれはあきらめるしかないね。あ~あ、これでせっかく始まった私の旅もここまでなんだね……。この後、捕まって魔術で頭の中をのぞかれるか、人体改造されて知識を吐き出す人間コンピューターにされてしまうのかも。

 

 サヨウナラ。私の禁書目録(インデックス)人生。

 

 これにて、とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す物語は終了………………

 

 

 

 

 ……とはならないんだよ!!

 

 まず捕まってもほぼ確実にステイルが助けてくれるはずだし、いざとなったら『自動書記(ヨハネのペン)』が倒してくれると思うから。

 

 と言っても、私自信の力でこの場を切り抜けることさえできるならそれに越したことはないんだけど。

 

 ということで、まずは敵戦力確認。敵4人の内1人は他の3人より後ろ、つまり一歩分私から遠ざかっている。武器は『杖』『杯』『短剣』『円盤』という4つの『象徴武器(シンボリックウエポン)』。

 

 修道服などの分かりやすい服を着ていない点。これだけの少数人数で来た点。この二つから敵は小さめの組織と判断。

 

 武器の種類から、おそらく黄金系の魔術結社。他の人達より後ろで『円盤(CDみたいなのに五芒星が描かれたもの)』を持って偉そうにふんぞり返ってる人がリーダーかな?

 

 私が黙っているのに苛立ったのか前にいる三人がそれぞれ象徴武器(シンボリックウエポン)を構えた。

 

「黄金の杯は水の象徴。湧き上がれ、水よ」

 

 どう見ても杯に入りきらない量の水が杯から浮き上がった。杯の人が少し命じるだけであの水が飛来するだろう。

 

 でも、その程度じゃこの『歩く教会』は突破できない……

 

「……貫け、炎よ」

 

 杖の人が放った魔術の炎が水塊に突き刺さる……突き刺さる!?

 

 まさかと思った瞬間、水塊を中心に爆発が起こった。

 

 これは水蒸気爆発……?これってどちらかと言えば科学の分野じゃ?

 

 そんなことより今の爆発。私は『歩く教会』の恩恵で少し吹っ飛ばされただけで無傷だった。『歩く教会』は運動エネルギーに関して、ある程度しか打ち消すことはできないらしいね。それでも普通に比べ飛ばされた距離は随分と短いけど。

 

 今の爆発の威力なら敵の人達は爆発に巻き込まれているはず。

 

「引き裂け」

 

 声とともに起こった風で煙が吹き飛ばされ、先程の位置に敵の人たちが現れる。

 

 私の知識と合わせて、敵の使った魔術を考察。水蒸気爆発の瞬間に短剣の人が風の防壁を張っていたみたいだね。この防壁は爆風を受け止めるのではなく、私の方に向けて流している物みたい。

 

 水と火の魔術による水蒸気爆発を、風の魔術で一つの方向へ流すことで、威力を高めているっていうわけだね!

 

 煙を吹き飛ばした魔術は、私を逃がさないため、見逃さないためだと思う。

 

「湧き上がれ、水よ」

「貫け……」

 

 でも、敵の戦法さえ分かっていれば攻略は簡単かも。

 

 再び現れた水塊に向けて私は走り出す。それに一瞬驚いたような表情を浮かべた敵の人達。

 

「炎よ!」

 

 杖の人が炎を放ち、水塊に突き刺さる。

 

 再び起こる水蒸気爆発に対し、私は全力で飛び込んだ。

 

 普通なら自殺行為だけど『歩く教会』でダメージは完全に無効化できるし、爆風によって生じる運動エネルギーもかなり軽減できる。爆発の瞬間に全力で飛び込めば……!

 

 私の身体は煙に包まれる。そこで、私は一度足を止め、煙を吹き飛ばすための魔術が使われるのを待つ。

 

 煙を吹き飛ばす魔術と爆発から身を守る魔術は別物だった。だから煙を吹き飛ばしたタイミングなら相手に接近できる!

 

「引き裂ッ!?」

禁書目録肘打ち(インデックスエルボー)!!」

 

 走った勢いを利用した肘打ち(エルボー)を顎に打ち込み、できた隙をついて短剣を奪い取る。

 

 短剣は風の象徴武器(シンボリックウエポン)。つまりこれを奪ったことで、さっきまでのコンビネーション魔術は封じた。

 

 「湧き上がッグ!?」

 

 そのまま振り返りつつ杯の人の手を全力で蹴って杯を落とさせる

 

 こういうタイプの魔術師の弱点は詠唱の時間。詠唱が必要な魔術師は近距離で詠唱が終わる前に攻撃すればいい。

 

 禁書目録(インデックス)の知識からの結論だから間違いないはず。

 

「貫け、炎……」

射出を中止。その場で砕けよ(DSJAB)!」

「!?」

 

 杖の人が出した炎はなぜか出した途端に爆発し、その場にいた全員を吹き飛ばした。

 

 まあ実際は禁書目録(インデックス)十万三千冊の知識を利用した『強制詠唱(スペルインターセプト)』で魔術に割り込みをかけたんだけど。

 

 この『強制詠唱(スペルインターセプト)』は、魔術師が魔術を発動するための術式に言葉で割り込みをかける物。1から100までの数を数えていく事だとすると、その横ででたらめな数字を言い続けているってことみたいだね。

 

 さて、爆発の煙に紛れてこの人達から逃げないと。




 いい魔術詠唱が思いつかない作者のたくヲです。

 『歩く協会』。……いや、『歩く教会』マジ便利回。

 前回チートになるのはもっと後と言いましたが、もう結構チートな気が……まあいいか。

 『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をこれからもよろしくお願いします。


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とある戦闘の追跡封じ

タイトルの読みは『とあるバトルのルートディスターブ』です


「あなたが運び屋さんなのかな?」

「あなたは……」

 

 先日の教会の近くで『追跡封じ(ルートディスターブ)』の異名を持つ運び屋、オリアナ=トムソンを見つけた私は真正面から話しけた。

 

 背後から話しかけて攻撃されるのも面倒だからね。

 

「ああ、ごめんね?私は禁書目録(インデックス)、正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorumだよ」

「……お姉さんに何の用かしら?」

 

 うん。一応話は聞いてくれるみたいだね。右手に構えた単語帳が怖いけど。

 

「安心して、必要悪の教会(ネセサリウス)としての仕事であなたに話があるわけじゃないから」

「……」

 

 オリアナが眉をわずかにひそめる。

 

 その反応は自分に何のようがあるのかを考えている感じじゃないね。私がなぜ必要悪の教会(ネセサリウス)所属だということを覚えているのかを考えている、って感じかな?

 

 禁書目録(インデックス)が十万三千冊以外の記憶を失っているのはイギリス清教のトップである『最大主教(アークビッショップ)』ローラ=スチュアートがステイルや神裂といった禁書目録(インデックス)派の部下を騙して手綱を握るために行っていたものだからね。ステイル達がローマ正教とかと仕事をしたときにばれてしまうわずかな可能性も潰しておきたかったのかな?

 

「私はあなたに助けてもらいたいんだよ」

「……助けるですって?」

必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師禁書目録(インデックス)として依頼するわけじゃなくって、私個人として依頼したい」

 

 オリアナ=トムソンは運び屋。現在はイタリア正教についているみたいだけど、報酬さえもらえれば誰のために働いてもいいって人だったはず。

 

 人のためになる行いをしてもそれがことごとく人を不幸にする結末になってしまった人でもあったね。

 

 原作9・10巻じゃ敵対してたけど、きっといい人なんだよ。歩くセクハラ、とか公式サイトに書かれてたけど。

 

「私を学園都市まで連れて行ってほしいってこと」

「……確かにお姉さんは一つの組織に忠誠を誓っているわけではないから、貴方のために汗を流してもいいのだけど。あなたにその報酬を用意できるのかしら?依頼を受けるとイギリス清教や魔術結社を敵に回すことになるお姉さんを満足させてくれるモノを」

「勿論、用意してあるよ」

 

 依頼をするのに報酬を用意していないなんて間抜けなことをする私じゃないんだよ?

 

「私の十万三千冊の魔導書を使ってあなたの魔術を強化してあげる」

「……?」

「私はあなたが何を思って魔術師になったのか私は知らないし、あなたの魔法名を知っているわけでもない。でも、魔術師になったのならあなたには魔術という力を使ってしたいことがあったはず」

「……」

「『献身的な子羊は強者の知恵を守る(dedicatus545)』。この魔法名に誓って、私はきっとあなたの力になる。だから、あなたも私を助けてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、あなたはお姉さんに電話してから今までの二日間どうやって生きてきたのかしら?まさか……」

「裏山に入って食べられる山菜を探して洗って食べたりしてたんだよ」

 

 オリアナは依頼を受けてくれることになった。

 

「その間3回くらい魔術結社に襲われたんだけど。『歩く教会』のおかげで何とかなったんだよ」

「よく逃げ切ったわね」

 

 まともじゃない会話をしながら私たちは雑踏に紛れる。

 

「ところで気づいてるのかな?」

「ええ、随分と熱い視線を注いでくるストーカーさんね」

 

 後方には『炎の魔術師』ステイル=マグヌス。そして、世界に20人といない『聖人』の一人である神裂火織。原作キャラの二人組だね。

 

 ステイルはともかく神裂は気配消しが完璧。ステイルがいなかったら神裂は見つからなかったね。

 

 まあ、ジーンズの左足の部分を根元からバッサリと切り落とし、シャツをまくった状態で縛ってへそ出し状態で、さらにその上からジージャンの右腕部分をバッサリ切り落としたものを着て、しかも帯刀しているスタイル抜群のお姉さんと、身長2メートルの黒い修道服の赤髪バーコードタトゥーの神父が気配を消したところでなんになるのかって話なんだけど。

 

 私たちも真っ白な修道服の銀髪碧眼シスターと、上は茶のキャミソール、下は十センチ感覚で縦にスリットが入ったスカート、腰に水着なんかに使うパレオを巻いている金髪スタイル抜群お姉さんの組み合わせは目だって仕方がないんだよ。

 

「後ろの女の人は聖人みたいだね」

「聖人、ね。あの刺激的な格好の人が?」

「そうみたいなんだよ。あなたの魔術に対聖人用の術式はあるのかな?」

「今、構築中よ」

 

 オリアナの魔術は便利だね……。原作では土御門との戦闘後逃げ回りながらも、対聖人術式を構築していたみたいだし。

 

「まずは追っ手を撒くことから始めないとね」

「追ってくる相手を撒くのはお姉さんの得意分野よ。安心してお姉さんに身を任せなさい」

「うん。頼りにしてるんだよ」

 

 さて、どうするのかな?

 

「いったん別れてからもう一度合流、はあまりよくないかも。禁書目録()の監視か保護が目的なら別れた瞬間にあなたに奇襲をかけるはず」

「もしくは、あなたを確保してから私を襲いに来るかもしれないわね。お姉さんは二人相手でもすぐに力尽きちゃうことはないと思うけど」

「でも私を確保しに来る可能性はほぼないかも。わたしの『歩く教会』を発信機替わりに追ってきているはずだから、あなたを倒してからでも私を追える」

「なるほどね。でも、『歩く教会』を破壊すれば追えなくなるんじゃない?」

「私に街中で服を脱げって言っているのかな?……とにかく、この歩く教会の防御力は絶対だからね。いざということを考えると壊さない方がいいかも」

 

 この二日間は『歩く教会』のおかげで生き残ったみたいなものだからね。図書館で襲われた時に奪った『風の短剣』で魔術が使えるように見せかけて脅したのも効果はあったみたいだけど。

 

「私に考えがあるのだけれど、乗ってみる気はない?」

「街中露出以外なら何でもいいんだよ」

「なら実行ね。私が合図したらあそこのあそこの路地に向かって全力で走ってくれる?」

「わかったんだよ」

「このページも念のため渡しておくわ」

 

 オリアナから単語帳からちぎったページを渡される。これは……。

 

 ステイルと神裂との距離は後方約30から40メートル。神裂は一瞬でこの距離を詰めることは可能だけど、歩行者の数からして少しは時間がかかるはず。ステイルは言わずもがな。

 

 対して路地までの距離までの距離はもうすぐ10メートルになる。

 

「行くわよ」

 

 私たちは走りだし、路地に飛び込む。

 

「止まらないで!」

 

そう言いつつ、狭い路地の壁を形成している建物に走りながら単語帳のページをリングから取って張っていくオリアナ。

 

 ページの一枚一枚には黄色や緑といった五大元素に対応する色で文字が書かれている。

 

 私たちが通り過ぎた直後に氷や炎コンクリートなどによって壁が作られる。

 

 これが、オリアナの魔術『速記原典(ショートハンド)』。

 

 単語帳の一枚一枚に書かれた五大元素を示す文字と五大元素を示す色、単語帳からページをちぎる際に口で咥えた時の角度、そしてページ数。その組み合わせによって無限ともいえる術式を構築する魔術。形式としては魔導書ともいえる物。

 

 ある意味で弱点ともいえるのはページ数がかかわっているため、一度使った術式と全く同じ術式を使用することはできないということと、魔導書として不完全なため一定時間で自動崩壊してしまうこと。

 

 まあ、不完全だからこそ魔導書の知識による精神汚染が発生していないんだけどね。

 

 神様から貰った能力で解析して知識に加えて、元々の十万三千冊の知識と組み合わせた結果だから間違いない。

 

 原作でこれと同じような方法で足止めしていて逃げ切れなかったのは『幻想殺し(イマジンブレイカー)』がいたからだし、この状況ならこれで十分なはず。

 

「なるほど」

 

 前から声。

 

「確かに私はともかくステイルは足止めされざるを得ないでしょう」

 

 路地裏の分かれ道に神裂が立っていた。まさか、ビルを跳び越えて?

 

「勝てる?」

「追っ手を撒くならともかく正面から聖人を倒せるほどじゃないわ、足止めのために魔術を使ったのはまずかったわね」

 

 まずいかも。

 

禁書目録(インデックス)を保護したいのですが、引き渡してくれませんか?」

「……」

 

 オリアナは質問に答えず単語帳のページをちぎる。

 

 神裂の手が腰の刀『七天七刀』を掴み一瞬動く、その瞬間に吹き飛ばされるオリアナ。

 

 今のは神裂の『七閃』!?魔術を使わない鉄糸攻撃のはず。

 

 地面には神裂からのびる七つの切断跡。

 

禁書目録(インデックス)を保護したいので、引き渡してください。私が魔法名を名乗る前に」

 

 これは拙いかも……。

 

「ってオリアナ!?」

 

 吹き飛ばされたオリアナは起き上がろうとしていた。先程のページの防御術式だったけど少なからずダメージは通っているはず。

 

 オリアナがページをちぎり魔術を発動する。放ったのは風の弾丸。

 

「七閃」

 

 放たれた風は七閃によってかき消される。オリアナが回避行動をとり、オリアナがいた場所に神裂の足元から続く切断跡が残る。

 

 七閃は七本の鉄糸使った斬撃攻撃だからせまい路地で七閃に対応するのは難しい。

 

「オリアナ!」

 

 私はオリアナと目を合わせる。頷くオリアナ。

 

「なにをする気か知りませんが無意味ですよ。この狭い路地で七閃を回避するのは不可能です」

 

 オリアナが単語帳からページをちぎる。

 

「七せッ!?」

 

 さっきから神裂の七閃は神裂の周囲から発生している。まあ、できれば七天七刀による斬撃であると思わせた方が都合がいいからだと思うけど。つまり攻撃の来る方向はある程度予測可能。厄介なのは斬撃の数が七回であることだけ。

 

 確かに避けることは難しいかもしれないけど、受けるのは簡単!

 

「ッ!?」

 

 神裂が思わず斬撃を止める。その瞬間に神裂に抱きつく。

 

 神裂の七天七刀を抑え、歩く教会の防御力でパワーを封じ、足元に落としたオリアナから貰ったページで魔術が発動する!

 

 発動するのは対象の影を縛り移動を封じるという術式。さっき渡してきたのはいざというときに設置させて時間を稼がせるためのはず。神裂にくっついているから私にも効果が発揮されてしまったんだけどね。それに神裂なら短時間で術式を破れるはず。

 

 でも……

 

「一瞬あれば十分よ!!」

 

 後から走ってきたオリアナが神裂に直接ページを張り付け、神裂の動きが完全に封じられる。

 

 発動したのは対聖人用の魔術。表すのは神の子を十字架に打ち付けた釘といったところかな。

 

「早く逃げるわよ」

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、三日間過ごした街を出て、他の町の宿泊施設のシャワールームにいるんだよ。

 

 神裂を一定時間行動不能にした後にオリアナがとった作戦は簡単だった。

 

 まず、あの街の中で見かけた猫やネズミと言った小動物、引っ越し業者などのトラック、現在いる街に来るために使った電車とその反対車線の電車、乗り換えた時の電車などありとあらゆるものに一度に引きちぎった単語帳のページを貼り付けていったんだよ。

 

 発動する魔術は地脈・龍脈から取り込んだテレズマを魔力のような物質に偽装して放ち続けるというもの。

 

 これは、オリアナに対しての報酬を一部先払いしたという感じかな。オリアナが同じ魔術を二度と使えない理由は、今までに使用した単語帳の総ページ数が関わっているから。

 

 なら引きちぎるページ全てに同じ文字を同じ色で書いて、全てを全く同じ角度で同タイミングでちぎりとることができれば発動可能だね。

 

 さらに地脈・龍脈から取り込んだ、惑星を循環しているエネルギーであるテレズマを引き出して用いることで、『速記原典(ショートハンド)』の弱点である自動崩壊までの時間を引き伸ばすことに成功した。さらに、魔力供給量がへったのでページからオリアナの位置を逆探知される危険性も薄くなる。

 

 今、さまざまな組織が私を日本各地で探しているのかも。

 

 ちなみに歩く教会から発せられる魔力はページの一枚で押さえてあるから、私の動いたルートを特定されない限りはほぼ見つからないはず。

 

 さてと、明日も逃げることになるだろうし、早く寝ないとね。

 

 体を拭いてパジャマ(ここに来るまでに買った)を来てシャワールームから出る。

 

「早く寝ておきなさい。速記原典(ショートハンド)もいつまでもつかわからないもの」

「うん。わかったんだよ」

「それとも、お姉さんと情熱的な時間を過ごしてみる?」

「うん。覚悟はできてるよね?」

「それは残ね……へ?」




 最近書くペースが極端に落ちてきた作者のたくヲです。

 オリアナさんと憑依禁書目録さんの逃走劇。および戦闘回。

 最後のところとか俺は何をやりたいんですかね?

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある主役の潜入成功

 オリアナに会った日から2日。学園都市に潜入成功。

 

「大変だったね」

「ええ。これでお別れね」

 

 学園都市の河川敷(おそらく上条さんVS美琴の場所)。

 

 『速記原典(ショートハンド)』の強化はついさっき終わった。

 

 もうお別れの時間。

 

 それこそ一緒に行動したのは3日しかなかったけど、楽しかった。

 

「よかったらこれを使ってくれるかしら」

「これは……」

 

 渡されたのは単語帳のページが5ページ。

 

 『強化版速記原典(ショートハンド)』のページだね。ページにオリアナが魔力をこめておくことで魔力のない人にでも使わせることができるようになっている。お寺の和尚さんが坊主に自衛用に持たせた三枚の札を術式に利用したものだね。

 

 彼女の願いを叶えるためにはこういうこともできるようになった方がいいと思ったから、こういうこともできるようにしたんだよ。

 

 そして魔導書の原典の性質の一つである、ページ自体を一種の魔法陣に変えて魔力を循環させることで半永久的に活動を続ける性質を少し強化して、『速記原典(ショートハンド)』の弱点である数秒から数時間で自壊する性質を改善。オリアナの意志がない限り勝手に壊れることはないようになっているから持ち運びも楽々になってる。他にも改善点はあるんだけどね。

 

「安心して。あなたを罠にはめるつもりはないわ」

「うん。わかってるんだよ」

「あなたがそれの使い時を間違うことはないと思うけど、危ないことになる前に使って。ここって意外と治安が良くないみたいだもの」

 

 そうだね、寝るときは野宿になるだろうし。不良に襲われた時に身を守るものは必要だし。

 

「じゃあね。オリアナ」

「ええ、また会いましょう。インデックス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市内を見て回ることにしようかな。今夜寝るところを決めないといけないし。

 

 そう思って街を歩きだしたのが30分前。

 

 クレープ屋の前を通ってお腹がすいたのが20分前。

 

 不良たちに絡まれ、せまい路地に連れて行かれたのが10分前。

 

 そして現在……

 

「何見てんだ、てめえ!!」

「なンだこの状況」

 

 『歩く教会』の防御力に任せて不良たちを倒そうと思った時に路地の奥から現れたのは、白系の奇妙なファッションをした白髪の……少年?

 

「うそ……」

 

 学園都市潜入一日目でこの人に会えたのはいいことなのかな?悪いことなのかな?

 

「ちょうどいい。そいつには俺らの活動のために募金してもらおうぜ!」

「面倒くせェ」

「ああ!?舐めたこと言いやがって。やっちまえ!」

 

 私の前に立つリーダー格っぽい男が言うと、それ以外の不良が白い人に向かっていく。

 

 あ!リーダーっぽい人が今隙だらけかも。

 

「えい!」

「へ?ぐッ!?」

 

 リーダーっぽい人の鳩尾に前かがみの状態で全体重を乗せた肘を打ち込む。それで、相手の体がくの字に折れ曲がった瞬間、私は頭を上げて相手の顎に頭突きを喰らわせた。そして、後ろに倒れたになった相手の腹部を全力で踏みつけてっと。

 

「これで良し」

「この女ぁ!!」

 

 全員、白い人に向かっていけばよかったのに……面倒くさいかも。

 

 横から降りぬかれた鉄パイプが私の腕に当たり、曲がる。

 

 流石『歩く教会』だね。私には全くダメージないし。

 

「なっ!?この女、能力者か!?」

「違うんだよ」

 

 男が鉄パイプを捨てて掴みかかってきたのを避けつつ鉄パイプを拾い、振り向きざまに鉄パイプを相手の腕にむけて振りぬく。

 

「ってえ!?」

 

 まあ、この体で繰り出す攻撃なんて痛い程度だよね。

 

 鉄パイプ攻撃でひるんだ相手の横をすり抜けつつ腹部に向けて鉄パイプを振りぬいて、しゃがむ動きで足払いをかけ、倒れた男の腹部を踵落とし気味に踏みつける。

 

「はあ……お腹減ったんだよ」

 

 ただでさえ、この体になってからお腹がすいてしょうがないのに、こんなことしてたらもっとお腹がすくんだよ。

 

 横を見てみると、死屍累々と言った感じで倒れている不良たちと、一人だけ無傷で立っている白い人。

 

「そこの人。助けてくれてありがとうなんだよ」

「……俺は俺に向かってきた馬鹿を潰しただけだ」

「助けるついでに頼まれてくれない?」

「あァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不良退治から数分後、私は

 

「ありがとう」

「別に」

 

 白い人にハンバーガーをおごってもらっていた。

 

「どォでもいいんだが、オマエの辞書に遠慮って言葉はねェのか?」

 

 まあ、ハンバーガー十五個を食べたからね。さらにお持ち帰りで二十個。

 

「こっちは朝から何も食べてないんだよ。それに滅茶苦茶暑いし」

「そンな暑苦しい服きてっからだろうが」

「ええ!?まさかあなたはこんな公衆の面前で私に服を脱げって言うのかな!?」

「今の言葉をどうとればそォなるンだ?」

 

 冗談はこれくらいにしておこうかな。

 

「私の名前はインデックスっていうんだよ」

「随分愉快な名前してンだなァ」

「正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum。見ての通りイギリス清教のシスターだよ。あなたの名前は?」

 

 まあ、大体予想はついてるけどね。

 

一方通行(アクセラレータ)だ」

「随分とすごい名前かも」

「喧嘩売ってンのか?」

「名前聞いた途端に『随分愉快な名前』って言った、あなたに言われたくはないんだよ」

 

 さて、あんまりからかうと怖いから適当にやめておこうかな。

 

 それにしても一方通行(アクセラレータ)。まさか、学園都市第一発見原作キャラが彼だとは思わなかったんだよ。

 

 学園都市最強のLEVEL5。あらゆるベクトルを変換する能力者だね。攻撃を反射したり、地球の自転エネルギーでビルを投げたり。

 

「さて、お礼をしたいところなんだけどなんだけど……私はシスターさんだからね。あなたの悩みを聞く位しかできないんだよ」

「悩みなンてねェよ。そもそもオマエは俺が悩みがあるように見えんのか?」

「まったく見えないんだよ!」

「おい」

「と言ってもね、悩みがないように見えるのと実際に悩みがあるのかは別だよ。そもそも悩みがない方が珍しいんだから」

 

 怖い鬼は自分を恐れる人々と友達になりたかった、みたいな感じかな?

 

「悩みなんて人に話してみるだけでも楽になるものなんだよ。……まあ今日会ったばかりのシスターに悩みを話せって言うのも難しいと思うけどね」

「……オマエ、一体何歳だ?」

「さあ?まあ見ての通り十四歳くらいだと思うんだけど、本当のことは私にもわからないんだよ。……このお礼はいつかするからね。具体的には卒業式に体育館裏で」

「お礼参りじゃねェか」

「あはは。冗談だよ」

 

 さて、今夜寝る場所も確保しなきゃいけないし、行かないとね。ハンバーガーも忘れずに。

 

「それじゃあ私はもう行くね」

「あァ」

 

 

 

 

 

 

 

 さてと……どうしようかな?

 

 侵入者が一人はいったっていうのに、この町はあまりにもおとなしすぎる。

 

 暗部が動いているようには見えないし、アレイスターが邪魔してこないのも気になるかも。

 

 まあ私がイギリス清教所属のシスターだから、私を襲ってイギリス清教と戦争したくないって言うのもあるだろうし、アレイスターのプランに影響が出るかもしれないから動けないのもわかるんだけど。

 

 ……まあ私程度に見破れる闇なら、暗部の底も知れるからね。多分私とかかわらないように動いてはいるんだと思うけど。

 

 まあ、そんなことより……

 

「今夜寝る場所がないのが問題なんだよ……」

 

 もう日も傾き始めているし、大体二時くらいだとおもうんだけど。

 

 早く寝る場所を決めないと夜もぐっすり眠れない。

 

 正直、学園都市は治安が悪すぎる気がするんだよ。流石に学園都市に入った初日から不良に絡まれたのはわけがわからなかったもの。

 

 できれば雨風が防げて、不良に襲われない安全な場所がいいかも。

 

 となるとだれかに泊めてもらうしかないわけだけど……。さっき知り合った一方通行(アクセラレータ)の家は原作を見る限り安全じゃなさそうだし、そもそも泊めてもらえないと思う。

 

 あれ? 今、視界の端っこに何か違和感が……って、あれはまさか!?

 

「今日の私は運がいいのか悪いのかわからないかも」




 いろいろあって投稿が遅くなりました、たくヲです。

 学園都市に潜入。いきなりあの人との邂逅回。 

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある街中の不良制裁

 腰まで伸びた金髪。肩からチェーンで下げた一つの星が描かれたバック。レース入りの手袋。かわいい。常盤台中学と思われる制服。そして、かわいい。

 

 大事なことなので二回言ったんだよ。

 

 ということで、学園都市に七人しかいないLEVEL5の第5位、食蜂操祈と思われる人を見つけてしまったんだよ。

 

 それにしても、あれは本当に中学生なのかな? 身体のある一点がものすごい違和感を発しているかも。

 

 スタスタと歩いていく彼女の周りに原作のような取り巻きはいない。まあ時系列的に今は中学一年のはずだから取り巻きがいるのはちょっと違和感だけど。もしくは、一人ですることがあったのかも?

 

 あれ? 4人ほどガラの悪い学生が食蜂操祈らしき人に絡んでいる。

 

 原作見てて思ったんだけど、いくら美少女とはいっても中学生をナンパするのはいかがなものかと思うんだけどね。

 

 食蜂操祈らしい人はガラの悪い学生について行ってしまう。

 

 これはどうしたものかな? 原作でのあの性格からして、食蜂操祈は不良について行って、人気のないところで洗脳して操り人形にしそうなものだけど……。でも、あの人が食蜂操祈だって言う確証もないし、原作の約一年前なら性格の違いがある可能性もある。

 

 4人の学生と食蜂操祈らしい人は裏通りに入っていく。

 

 うん。仕方がないね。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い裏通りで、食蜂操祈らしき常盤台生がガラの悪い4人組に囲まれている。

 

 勢いできちゃったけど、私は不法侵入者でお金もないから、学園都市の警察組織とも言える、警備員(アンチスキル)を呼ぶこともできない。

 

 困ったかも。まあ、そこの子も危ないみたいだから、危険を冒してでも助けるべきかな?

 

「そこまでなんだよ!!」

「ああ?なんだてめえ!?」

 

 どこかで聞いたことのあるようなセリフを言いながら飛び出したら、酷い反応だね。まあ、いきなり真っ白な修道服を着たシスターが現れたらそうなるのも解るけど。

 

「ちょっとぉ?余計なことしなくてもよかったのに」

 

 不良たちが一斉に倒れる。

 

 食蜂操祈らしき常盤台生の手にはリモコンが握られている。

 

「余計なことって言ったって、こんな人たちに囲まれている人をほっとくことはできないんだよ」

「そんなこと言ってもぉ。こんなのは私の干渉力でどうにでもなっちゃうものねぇ」

 

 やっぱり食蜂操祈で間違いなさそうだね。

 

 能力使用に使っているであろうリモコンや、なんとか力っていう言葉をいきなり使用してきたことや、中学生離れした容姿や、ガラの悪い学生を4人いっぺんに倒した能力とかからして間違いなさそうだね。

 

 えーと、学園都市第五位の超能力者(レベル5)、食蜂操祈の能力は『心理掌握(メンタルアウト)』。精神関連ならほとんどのことができる能力だね。

 

 まあ、原作の約一年前の今は超能力者(レベル5)ではない可能性はあるんだけど。それでも、常盤台中学の在学条件が『強能力者(レベル3)以上』だから、そこに在学している時点で強能力者(レベル3)以上は確実だけどね。

 

「人の好意くらいは素直に受け取っておくべきだと思うけどね」

「人の好意も、嫌悪も、私にとっては等しいものなのよねぇ」

 

 大変だよね。

 

 精神をいくらでも操れる能力者ってことは嫌悪されてもそれを打ち消せるし、好意を強制的に向けさせることも可能なんだから、他人なんて同じような者だろうし。

 

「それじゃあもう行くね。邪魔してごめんなさい」

「ああ、その前にい」

 

 食蜂操祈はこっちにリモコンを向けてきたんだよ。

 

「あなたの記憶を消させてもらうけどお?」

 

 リモコンのボタンが押される。たしか、あのリモコンは彼女の能力を補助するモノだったはずだね。

 

 うーん?正直、何ともない。

 

 『歩く教会』ってすごいね。科学サイドの攻撃もがっちりガードするなんて。まあ第ニ位や、第一位の超能力者(レベル5)から攻撃された時、どうなるのかはわからないけど。

 

 さて、でも私はノリのいい方だからね。かかったふりをしてみるんだよ。

 

「あれ?」

 

 私は限りなく無表情に近い顔になって、食蜂操祈を見る。

 

「何か効いてないような気がするわねぇ……でも、さっきまで表情豊かだったのに、こんな感じになってるしい?やっぱ効いてる?」

 

 私はふらふらと食蜂操祈に近寄る。残り6メートル。

 

 私は棒読みで言う。

 

「キイテルンダヨー」

「効いてないっぽいわねぇ。演算ミスかしらあ?じゃ、もう一回」

 

 もう一回リモコンのボタンが押される。

 

 やっぱり何ともない。『歩く教会』の防御力はやっぱすごいね。

 

「効いてる?」

「キイテル、キイテル」

 

 私はふらふらと食蜂操祈にさらに近寄る。残り4メートル。

 

「おかしいわねぇ?さっきから手ごたえがないしい。リモコンの故障かしらぁ?」

 

 食蜂操祈下げているカバンからもう一つリモコンを取り出して、私に向けてからボタンを押す。

 

「キイテルヨー」

「あれ?おかしいわねえ?」

「キキマクッテルンダヨー」

 

 私はふらふらと食蜂操祈にもっと近寄る。残り1.5メートル。

 

 そして私は、戸惑っている食蜂操祈に跳びかかり、押し倒す。勿論、手で相手の後頭部を守ることも忘れないんだよ。

 

「え?え?」

「タスケヨウトシタヒトヲアヤツッテ、キオクヲケソウトスル。ソンナヒトハ、シスタートシテ、ホウッテオクワケニハイカナインダヨー」

「ちょっとお?絶対、私の能力効いてないでしょお!?」

「イヤイヤ、キイテルヨー」

 

 うん、無理だね。こんな綺麗な子を押し倒して、感情を抑えるなんて無理。

 

「人を好きなように操ろうとしておいて、人に好きなようにされるのが嫌だなんて言わないよね?」

「か、顔近い、っていうか怖いわよお!?」

「そんなことないんだよー」

「な、なんでもするからあ!」

「……じゃあ、やめてあげるんだよ」

 

 まったく、そういうことはもっと早く行ってくれないと困るんだよ。

 

 私は食蜂操祈の手を掴んで引っ張り起こす。

 

「じゃあ、一つお願いしてもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか家がないとは思わなかったわよお?」

「追われてるから仕方ないんだよ」

 

 あのあと、食蜂操祈に今夜止まる場所を提供してもらうことになった。

 

 幸い、学園都市にはいくつかのホテルもあるからね。

 

「でも、いいの?ホテルに泊まるとなると結構かかると思うんだけど」

「私はホテルのお金を出すだなんて言ってないわよお?」

「?」

「常盤台中学には、学生寮が二つあるのはご存じかしらぁ?」

 

 えーと、確か常盤台中学の学生寮は二つ。一つは常盤台中学のある、『学舎の園』の内側に一つ。もう一つは学園都市第七学区に立っていたんだったよね?

 

「あなたは学び舎の園の外にある寮の部屋を貸してあげるわぁ」

「空き部屋があるのかな?」

「いいえ。私の同級生の部屋よぉ」

 

 まさか、同級生を洗脳するつもりかな?私の言ったことをちゃんと聞いてたのか心配になるんだよ。

 

「あなたの思っているとおり、私の能力で洗脳しておいてあげるわぁ」

 

 うーん。今更彼女と別れたところで、泊まる場所があるわけでもないしね。

 

「人の好意は素直に受け取るべきなんじゃなかったのかしらあ?」

「皮肉のつもりかな?……まあ、お願いするんだよ」

 

 いつの間にか常盤台の学生寮らしき場所に来ているしね。今更断るのもマナー違反かも。

 

 食蜂操祈に操られているらしく、目に星みたいなのが浮かんでいる女の子が二人出てきたしね。

 

 

 

 

 

 二人の女の子に常盤台の一室まで案内された。

 

 どうやら、ここに泊まれと言うことらしいね。

 

 ここに連れてきた女の子の一人は黒のロングヘアで背が高い、可愛いというより綺麗という印象を受ける。

 

 もう一人は、茶髪のふわふわしたショートヘアの背が低い少女で、可愛いという印象を受けたんだよ。

 

 恐るべきは常盤台中学って所かな?

 

 部屋に入ってみるとアニメで見たようなベッドが二つに机が二つのそれなりに大きい所だった。

 

 後ろから扉を閉める音。

 

「そういえば、あなたたちの名前を聞いてなかったね? ……!?」

 

 私が振り向いた瞬間、黒のロングヘアの女の子は手の平から火の球を出して投げつけてきた。

 

 至近距離だったから、避けられずに私に当たり、火球が爆音とともに破裂する。

 

 普通、寮の中で仕掛けてくるかな!? っていうか、ここ能力の使用は禁止されてたはずなんだけど!?

 

 まあ、『歩く教会』のおかげで、まったく聞かないけどね。

 

 さらに、後方から何かがぶつかるけど、やっぱりダメージはない。

 

 そんなことより、コツコツっていう足音が部屋の外から聞こえたのが気になるんだよ。嫌な予感しかしないしね。

 

 私は走って部屋の端にあった扉をあけ、その部屋に飛び込みつつ扉を閉める。

 

 その瞬間に扉の外からこの寮室の入り口が開く音がした。

 

「なにをしている?」

「「あ……」」

 

 意図的に低くしたような声が聞こえる。それと同時に私の背に悪寒が走った。

 

 直後に何かが折れたような鈍い音が二回、倒れる音が二回。

 

「寮での能力の使用は禁止だと言っていたはずだ」

「……」

「……」

 

 足音と一緒に何かを引きずるような音がして、その直後に扉が閉まる音がした。

 

 助かった。

 

 今のは、寮監さんかな?とっさに隠れたから、姿は見えなかったけど。あの、メガネにスーツの人だと思うんだよ。

 

 扉越しでもあの威圧感は恐ろしいものがあるね。

 

 まあおかげで、助かったけど。

 

 さて、いきなり二人が襲ってきたのは、十中八九、食蜂操祈のせいだろうね。洗脳済みだったはずだし。つまり、彼女は「好意は受け取っておくべき」とか言いながら、私を嵌めようとしたことになるんだけど……。

 

 次にあった時、どうしてあげようかな? 食蜂操祈には首を洗って待っててもらわないとね。




 たくヲです。

 禁書目録だよー回。

 食蜂さんにインデックスさんが何をするのかは……書きませんので、ご注意ください。

 これからも、『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある根性と空気少女

 寝場所を確保してから数日。私は学園都市の中を歩いて探索していた。

 

 あの少女二人の襲撃の直後、食蜂操祈には色々しておいたんだよ。まあ終わった後やけにおとなしいのが気になるけど、まだ私にとって害があるような行動はとってないみたいだし、問題ないかも。

 

 色々の内容は言わない……とりあえず、女王なんて呼ばれてるとは思えないほど可愛かったかも。

 

 まあ、それは置いていて。

 

 

 ふと思ったけど私っていくつなんだろうね?

 

 原作だと中学生ぐらいに見える、みたいなことが書いてあったけど……。それに、一方通行に対して偉そうに見たまんまの年齢っていっちゃったし……。

 

 何故、私がこんなことを考えているのかというと、操祈から「このままだと不便だろうし、私があなたの学園都市のIDを発行させてきてあげるけどぉ?」とか、言われたからなんだよ。

 

 となると、やっぱり私の年齢を教えるしかないわけで……実際の年齢がわからないとちょっと困るかも。

 

 私の前世での年は16だったから、16って言ってもいいんだけど……やっぱり今の身体の方の年齢を言った方がいいのかな?

 

 わからないことは考えても無駄かも。そんなことよりもお腹すいた。

 

 うん?

 

「俺たちとちょっとお茶しない?」

「ちょっといい店知ってるんだよ」 

「こ、この私を婚后光子と知っての狼藉ですの!?」

「いや、知らねえけど。とにかく行こうぜ」

「え、い、いや!」

 

 結構まともな格好の高校生っぽい男三人に囲まれた、どこかわからない学校の制服を着た黒いロングヘアでおでこを出した女の子がいた。

 

 学園都市の治安はどうなってるのかな……。こんなとこに通っている学生さんたちが私は心配なんだよ。

 

 ナンパするのは勝手だけど相手のことを考えてないんじゃ誘拐と変わらないのに。

 

 とりあえず、ここはあの作戦しかなさそうだね。

 

 私はナンパ集団に向け駆けだし、あの原作キャラの言葉を放つ。

 

「ごっめーん。待った~?」

「へ?」

「何だ?このコスプレシスターは」

 

 うん、結構恥ずかしいけど、ここは演技を続けないとね。

 

「ごめんなさい。お兄さんたち、この子を見ていてくれたんですね。この子、ちょっと世間知らずなところがあるんでいつもバスに乗り損ねたり、学生寮を間違えたり、待ち合わせ場所が公園の南って言ったのに南西っていうかなり間違い辛い場所で待っていたりするんで心配だったんですよー。本当にご親切にありがとうございます。それでは、私はこの子のことでのっぴきならない事情があって行かなくてはならない場所があるので失礼します」

 

 女の子の手を引いて歩き出そうとする。

 

「ちょっと待ちな」

「よく見ると君もかわいい顔してるじゃん。どう?一緒にお茶でも」

「すみません。私たち用事があるので」

「いいじゃん、いいじゃん、そんなこと。用事なんてあとで済ませればいいだろ?」

 

 流石にしつこいんじゃないかな?

 

「あんまりしつこいと誰も相手にしてくれなくなるんだよ?」

「な!?」

「こっちは丁寧に断ってるんだから、こんな子供からは目をそらしてもっと大人な雰囲気の女の人を狙った方がいいと思うんだよ。このロリコン」

 

 女の子の手を引っ張って逃げようとする私。

 

「この女! こっちが下手に出てればいい気になりやがって!」

 

 跳びかかってきた男の鳩尾に向け肘を撃ちこむ。

 

 いきなり跳びかかってくるのはどうなのかな? それに、ちょっと本音を言っただけでこんなに怒るなんて。

 

 別に、私もナンパという行動そのものをとがめるつもりもないけど、私に迷惑をかけるのはやめてほしいかも。それに、相手が嫌がっているのに無理やり連れて行こうとするのはルール違反なんだよ? 何のルールかは私もわからないけど。

 

 男の人達がひるんだすきをついて、今度こそ私は女の子の手を掴んで逃げた。

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

「……はあ……あなた……私を婚后の娘である……婚后光子と知っての……狼藉ですの?」

 

 ということで、男の人達から離れたところにある路地まで逃げてきたわけなんだけど……疲れた。『歩く教会』がいくら教皇クラスの防御力を持っているって言っても、スタミナまで増えるわけじゃないんだよ?

 

「いや……別に、私は全力でおせっかいを焼いただけなんだよ。迷惑だったらあやまるんだよ」

「いえ、助かりましたわ。……私は婚后光子ですわ。あなたは?」

 

 と、言うわけで、婚后光子さんとエンカウントしたんだよ。

 

 原作開始1年前からトンデモ発射場ガールだったのかは解らないけど、ナンパされていた場面から察するに原作時より能力レベルは低いみたいだね。

 

 ただ世間知らずレベルが高いだけかもしれないけど。

 

「私の名前は禁書目録(インデックス)っていうんだよ。まあ、この名前について聞きたいこともあるかもしれないけど、ここではいったん引っ込めてね」

 

 逃げ切ったと思ったらまだいるってどういう……。ただ、一人減っているんだよね。さっき鳩尾に肘を打ちこんだ人が。

 

 それでも二人。そしてその手に持っている鉄パイプはどこからとってきたのかな?

 

「この、コスプレシスター!よくもあいつをやってくれたな!」

「お前らはもう許さん!」

「へ?私も!?」

 

 ああ、知り合いだって言っちゃったしね。

 

 ここはどうしようかな? あの、百戦錬磨なのかどうか不明な魔術師たちの魔術を全て無効化する『歩く教会』がある以上負けるとは思えないけど、婚后光子を人質に取られたら大変だよね。

 

 二つある切り札は温存しておきたいけど、最悪の場合は使うしかないかも。

 

「俺たちにおとなしく付き合うってなら考えてやってもいいぜ?」

「それは嫌なんだよ」

「……」

「とりあえず、みつこは後ろに下がってて……!?」

「おい! そこのお前ら!」

 

 男二人の後方に仁王立ちしているあの人はまさか!?

 

「嫌がる女の子二人に武器もって迫るとは、お前ら!根性が足りてねえぞ!!」

 

 白い学ランに、日の丸から赤い太線が外に放たれているようなどこかで問題視されそうなデザインのTシャツ。白い鉢巻。そして根性というセリフ。

 

「……なんだ?おまえ?」

「オレは超能力(レベルファイブ)削板軍覇(そぎいたぐんは)だ!!」

 

 そう、世界最大の原石と呼ばれる天然物の能力者、削板軍覇。原作でも正体不明の能力を使ってその滅茶苦茶さを読者に見せつけた男だね。

 

超能力(レベルファイブ)!?」

「まあ、そんなことはどうでもいい! おれが言いたいのは、白昼堂々そんなことをやってるような奴には、オレが本当の根性ってやつを叩き込んでやるってことだけだ! この根性無し共!!」

「なんだと!? そういうお前はどうなんだ!」

 

 突っ込むところそこ?

 

「何を言ってる? オレが超能力(レベルファイブ)であるということはいたってどうでもいいが、俺が根性無しだってのは聞き捨てならない話だ。なら、俺の根性とお前らの根性どっちが強いのか試してみるか!?」

「上等だ!!」

 

 二人の男が削板軍覇に向かっていく。そして鉄パイプで頭をと腕を殴る。

 

「ッ!?」

 

 後ろの婚后光子がひるむ。当然だよね。普通なら頭を殴られただけでも致命傷だから。

 

「な!?」

「なんでこいつ倒れないんだ!?」

 

 とはいえ、どんな能力かもわからない超能力(レベルファイブ)削板軍覇は倒れてないね。

 

 その姿に驚き後ろに下がる二人の男。

 

「そんなもん決まってるだろう!? オレの根性がお前らの根性を上回っているからだ!!」

「な、なんだと!?」

「そんな根性無しのお前らにはオレの必殺技で本当の根性ってのを叩き込んでやる!」

 

 あれ? さっきから空気がおかしくない? いままでこんな感じだったっけ?

 

「すごいパーンチ!」

「「ぐああッ!?」」

 

 削板軍覇が拳を振り抜いた瞬間、拳が届いていないはずの男二人が後ろに吹き飛ぶ。

 

 これが削板軍覇の必殺技? である『すごいパーンチ』。やっぱりパッと見じゃ、わけがわからないんだよ。

 

 気絶した男二人を

 

「そこの二人、大丈夫か?」

「ありがとう。大丈夫なんだよ」

「あ、ありがとうございました」

「そうか、ならよかった」

 

 そう言って去ろうとする削板軍覇。

 

「ちょ、ちょっとお待ちになって!」

「?」

「少しお礼を」

「オレはこいつらに根性を叩き込んでやっただけなんだけどな……」

 

 なんか私、空気になってなる気がするんだよ。

 

「ですが助けてもらったのも事実ですし、お礼をしなければ、私の、婚后の名に傷がつきますわ」

「……あんな怖い目にあった女の子が男の人にお礼するって言ってるんだから、それを断るのは男としてどうなのかな?」

「!?」

「そっか。女の子二人が談笑している中に混じる根性はないってことかな?」

「!!?」

 

 人を空気化させた罰なんだよ。

 

 

 

 

 

 

「改めてインデックスさん、削板さん、このたびはありがとうございました」

「まあ、私は何もしてないんだけどね」

「さっきも言ったがオレは根性を叩き込んだだけなんだけどな」

 

 そんなこんなで、私と削板軍覇はなぜかちょっと高そうでおしゃれなレストランで婚后光子からお礼を言われていた。

 

「このことについては『婚后』の名にふさわしいお礼をさせてもらいますわ」

「ああ、別にそういうのはいいんだよ」

「へ?」

「私としてはここで、食事をおごってもらえればそれだけで十分だからね」

「……まあ、オレもそれでいいか。本来ならお礼される前に帰るつもりだったんだが」

 

 婚后光子は茫然としている。なんでだろうね? そんなに世間知らずだったのかな。

 

「お礼なんて、そんな大層なことじゃなくていいんだよ」

「なら仕方ありませんわね。なら好きな料理をたのんでいいですわ」

 

 いいのかな? そんなこと言っちゃって。

 

 精神こそ私が憑依しているけど、身体は原作主人公の家のエンゲル係数を跳ね上げたインデックスなんだよ?

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 呼び鈴を鳴らし、すぐに店員さんが駆けつける。

 

「ご注文は?」

「これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと……」

「おい」

「これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これと、これください」

「おい」

 

 どうしたのかな?

 

「さすがに頼みすぎじゃねえのか? ここにいる三人でも食いきれそうにないぞ?」

「いや、これ私一人分」

「!?」

「あれ? それとも学園都市の超能力(レベルファイブ)のぐんははこの程度(・・・・)を食べきる根性もないのかな」

「!?……だが、そんなに頼んだら金額的に問題がねえか?」

「私は別に大丈夫ですわよ」

 

 黙っちゃったね。やっぱり、からかいすぎたかな?

 

「……店員さん」

「は、はい」

「さっきここのシスターが言ったのと同じ物全部!」

「は、はい。かしこまりました!ご注文を繰り返します」

 

 注文した品物の名前を早口で唱え、早歩きで帰っていく店員さん。

 

 あの店員さん暗記力すごいね、一度も間違えてない。

 

 やっぱ学園都市の人間はみんなすごい人たちなのかな? 常盤台中学の女子寮の寮監さんとか。

 

 

 そして、私と軍覇による根性の大食い対決が始まったんだよ。




 たくヲです。

 愛と根性のヲトコ削板軍覇と、途中空気になった禁書目録と、空気の力で物を飛ばす能力を持ち後半なぜか空気になった婚后光子の回。

 原作一年前なので婚后光子は中学一年生でまだ常盤台中学の生徒ではありません。

 根性の大食い対決の決着は次回!

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある少女と魔術軍団

 削板軍覇と婚后光子の二人と出会ってから一ヶ月半ほどたった。

 

 軍覇との大食い勝負には私が無事勝利、その後二人からメールアドレスを教えてもらった。

 

 紙に書いて教えてもらったから、完全記憶能力で完全に記憶しているんだよ。

 

 結局、その後は学園都市のIDを入手した以外と原作キャラ一人に出会った以外、何事もなく時間が過ぎたと言えるかも。

 

 ちなみに『常盤台の超電磁砲(レールガン)』、御坂美琴とは意図的に会わないようにしている。

 

 理由は、私が常盤台中学校の女子寮に転がり込んで生活を続けるためには、食蜂操祈の洗脳によって私がここにいることに誰も違和感を覚えない状況のままでなくちゃいけないから。

 

 学園都市第三位の超能力者(レベル5)の『電撃使い(エレクトロマスター)』は電磁バリアを発しているせいで操祈の能力が通じない。

 

 私が常盤台中学女子寮に転がり込んでいるのが御坂美琴にばれた時点で、いろんな違法行為を彼女が暴き、最悪追い出されるかもしれない。

 

 それを回避するためには最低限この寮内で会わずに行動するしかないわけだね。

 

 

 魔術関係においては、ちょくちょく誰かが魔術を使っていたような感覚があったけど、問題はなさそうだね。どうやら魔力の流れから解析すると探索とかそういう魔術みたいだし。

 

「おーい」

 

 問題は私を監視している魔術師が一人もいないってことなんだよね。

 

 魔術師は特殊な訓練を受けているわけでもなんでもないから、尾行されていることを警戒しながら動けばほとんどの魔術師は発見できるはずなんだよね。最初のステイルみたいに。

 

 姿を消す魔術でも使えば別だろうけど、私に関しては『十万三千冊の魔導書の知識』があるから簡単にばれるし。

 

 まあ、そもそも学園都市(ここ)に入ってこれてないだけかもしれないけど。

 

 とはいえ、禁書目録(インデックス)が所属していることになっているイギリス清教が監視役を用意しないとは思えないんだよ。禁書目録(インデックス)が他の組織に渡れば、簡単に世界をひっくり返されるらしいし。

 

 イギリス清教と学園都市には一応つながりがあったはずだから簡単に学園都市(ここ)に入れるはずだしね。

 

 でも、私はいまだに追跡者を見つけきれてない。そういったことについては素人とはいえ、意識して動けば結構見つかるものだと思うんだけど。

 

「おーい、聞こえてるかー?」

 

 となると怪しいのは……土御門元春かな? イギリス清教や学園都市といった数多の組織を掛け持ちする多重スパイの陰陽博士だっていうし、こういった任務はお手の物ってことかな?

 

 まあ、学園都市に潜入した時点で能力開発を受けたらしいし、能力者は魔術使うたびに体がボロボロになるそうだから耐久面ではこっちの方が上だと思う。

 

 

 もしくは、神裂火織あたりかな?

 

 おそらく尾行能力ぐらいはあるだろうし、禁書目録(インデックス)の監視及び護衛任務にはふさわしい存在だろうからね。

 

 でも、忙しい聖人をこんな所まで送り出すかな?

 

「そろそろ、出て行ってほしいのだぞー」

「流石に酷いんじゃないかな? 仮にもこの寮の一員なんだよ?」

「そもそも、なんで常盤台生じゃないあんたが平然とここにいるんだー?」

 

 

 状況説明が少し遅れたけど、私は常盤台寮の食堂にいるんだよ。

 

 私は首を回して、さっきからテーブルの横に立っている土御門舞夏の方を見る。メイド服姿の彼女は、繚乱家政女学校に所属するメイド見習いで、先程出てきた土御門元春の義妹らしい。

 

「うーん。最近のメイドさんは人の裏事情を聞くのかな?」

「……まあ、話したくないならいいんだけどなー」

 

 メイドの本場の人に言われたら仕方がないなー、とか言っているがスルーする。私の中身は日本人だし。

 

「ところで、片づけと掃除ができないから、そろそろ出て行ってもらえないかー?」

「分かったんだよ。ところで、家の方は大丈夫?」

「そうだなー。相変わらずあの兄貴は、家でゴロゴロしてるか筋トレでろくな物食べてないようだからなー、そろそろご飯もっていってやらないといけないなー」

 

 ってことは、舞夏が土御門元春の下を訪ねた時は大体家にいるのかな。

 

「お兄ちゃんは大切にしたほうがいいよー?」

「むしろ、妹が兄に大切にされるものだと思うんけどなー」

 

 さて、行こうかな。

 

 

 

 

 削板軍覇と婚后光子の二人と出会ったのは八月の始めの方だったから、一ヶ月半たった今は九月中旬なんだよ。

 

 九月中旬。すなわち今現在は、学園都市所属の全校が合同で行う『大覇星祭』が開催されている。

 

 私としては困る行事だね。

 

 『大覇星祭』では、普段は学園都市にはいることのできない一般人や生徒関係者に学園都市の一部が解放される。

 

 つまり、それに紛れて魔術師が合法的に入ってくる可能性があるってことだね。

 

 魔術師から逃げる立場である私としては非常につらい。

 

 どんな魔術師が出てくるかわからない以上、さらわれる可能性を常に頭に入れておかなければならないしね。

 

「で、こうなっちゃったと」

 

 私は人気のない通りで魔術師に囲まれていた。

 

 魔術師の数は11人とちょっと多いかな? 11人もいるならサッカーの対戦相手でも探していればいいのに。

 

 この状況、問題点がいくつかあるね。

 

 一つ目は、ちょっと離れた大通りで吹奏楽部あたりがパレードを行うらしいってことだね。吹奏楽部のパレードって言っても、学園都市の吹奏楽部だしただのパレードになるわけがない。つまり外部の人間や、学園都市の人間もみんな見に行くだろうね。

 

 つまり、この通りに人が来る可能性は少ないってこと。過去にあったように、都合よく原作キャラが助けに来る可能性は少ないはず。まあ、人払いは張ってないみたいだから、ゼロではないけど。

 

 

 二つ目は、敵の数。これだけいると『強制詠唱(スペルインターセプト)』で割り込みをかけづらい。

 

 

 三つ目は、敵の武器。敵の武器は剣やら、ハルバードやら、象徴武器(シンボリックウエポン)の円盤や杖や短剣やらとバラバラなんだよ。

 

 ようするに、同じ組織の人間かわからない。一時的な共闘でしかない可能性もありうる。同じ組織の人間なら『魔滅の声(シェオールフィア)』の入り込む余地もわずかにあるんだろうけどね。

 

 『魔滅の声(シェオールフィア)』は集団意識に働きかけるモノだからまとまった集団じゃないと通用しないんだよ。

 

 

「絶体絶命ってやつかな?」

 

 まあ、この場は全力で切り抜けるしかない。捕まってもイギリス清教が放った追跡者が助けてくれることを期待しよう。

 

 幸いこっちには『歩く教会』もあるから防御はばっちりだし。

 

 私は魔術師の一人、剣を右手で構えて走り始めた痩躯の男魔術師に向かって走り出す。逃げると思っていたのか驚いたような表情を浮かべる男魔術師。

 

 幸い長剣にはまだ魔術は使用されていない。『十万三千冊の魔導書の知識』によると、剣による魔術は無駄に強力なのが多いし先に倒しておきたいところだね。

 

 驚きのためか振るのが遅れた剣よりも早く懐に踏み込む。そして、男魔術師が走ってきた勢いと私の走ってきた勢いを利用した禁書目録肘打ち(インデックスエルボー)を右腕で鳩尾に叩き込む。

 

 くの字に折れ曲がる男魔術師の手から長剣が落ちる。それと全く同時に跳びあがり、男魔術師も顎に頭突きをヒットさせ、私の前に倒す。

 

「土よ縄となりて……」

自身を拘束せよ(YR)!」

 

 円盤を持つ大き目の服を着た女魔術師が詠唱しているのを聞き、『強制詠唱(スペルインターセプト)』で割り込み、自爆(自縛?)させる。その瞬間、女魔術師は持っていた円盤を取り落し、地面に落ちた円盤は砕け散る。

 

 中々スタイルいいなあ、とかどうでもいいことに思考が割かれるけど、まあどうでもいいことだね。

 

 小柄な女魔術師が投げた羽ペンが飛んでくる。神様特典の一つ『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』が自動で発動し瞬時に解析した結果、『羽ペンを爆破させて粉をまき散らし、視界を奪う魔術』であることを理解。

 

 足元に転がる長剣を拾って、その側面の刃がない部分で男魔術師を殴って気絶させた瞬間、羽ペンが爆発。威力はさほどないらしいね。

 

 小柄な女魔術師のいた場所に向けて長剣を持ったまま駆け出した瞬間、右から飛んできたコンクリートの拳によって真横に吹っ飛ばされる。

 

 円盤を持っていた男魔術師の魔術かな? 長剣を落としたのは痛いかも。

 

 ダメージはないがバランスを崩し、起き上がろうとした瞬間、短剣を持っていた女魔術師の物と思われる風が吹いた。

 

 直後、私の周りが炎に包まれる。

 

 羽ペン魔術でまき散らした粉を風の魔術で誘導して杖の魔術で火をつけて粉じん爆発させたって所かな!?

 

 ダメージこそないけど、空気が周囲からごっそり持ってかれた感じがするし、連発されると拙いかも……。いくら『歩く教会』でも空気の補充まではできないしね。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 叫びながら煙の中から飛び出した長身の男魔術師がハルバードを構え私に向かってくる。

 

 魔術は発動していないようだけど、これを避けつつ、攻撃するのは難しそう。

 

 横に転がりつつ、体制を立て直す。

 

 ちょっと、きついかも。

 

 最初の二人以降が倒せない。解析の結果、ゴーレムの魔術を応用したコンクリートの拳によって接近が許されず、羽ペンの魔術で視界が奪われ逃がさないように中距離武器のハルバードを構えた男魔術師がつっこんでくる。

 

 それにいまだ魔術を使わない控え魔術師が四人。

 

 『歩く教会』のおかげでダメージこそないものの、このままだと私の体力が尽きる。

 

 逃げようにもここまでのコンビネーションを誇る相手が逃がしてくれるとも思えない。

 

 切り札を使おうか? 二つのうち一つはまだ未完成なうえにこの魔術師達にはほとんど効かないだろうけど、もう一方なら逃げるくらいならできるはず……やるしかないかな?

 

 私は修道服『歩く教会』の内側に手を入れる。

 

 その瞬間。

 

 私の真横を巨大な人影が駆け抜けた。

 

 その人影はハルバードを持つ長身の男魔術師に接近し拳を振り抜く。ハルバードが振るわれるよりも速くその拳は長身の男魔術師を捕らえ、殴り飛ばした。

 

「大丈夫か?」

「え? あ、大丈夫です」

 

 いつの間にか横にいたバンダナの男が聞いてきたのでとりあえず答えておく。

 

 でも、武器を持った魔術師を殴り飛ばすなんて一体誰が?

 

 見ると、安っぽいジャケットにジーンズを着て、ジャケットの上からでもわかる筋肉を持つ2メートル以上の巨漢が魔術師たちを見据えている。

 

 この人は……。

 

「駒場のリーダー! こいつは無事だ!」

「……そうか」

 

 駒場利徳。武装無能力者集団(スキルアウト)を束ねるリーダーだった。




 作者のたくヲです。

 禁書目録(インデックス)ピンチ回。

 根性の大食い対決の決着は結果だけが残りました(キングクリムゾン)

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


 10月5日誤字修正。


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とある魔術と無能力者

 魔術師の集団に襲われた私をなぜか助けてくれた駒場利徳はこちらを振り返りもせず魔術師たちを……睨みつけているのかな?

 

 駒場利徳に殴られたハルバードを使う長身の男魔術師は気絶しているみたい。一体どんな威力で殴ったんだろう。

 

「ちょっと下がるぞ」

「あ、っはい」

 

 バンダナの男に言われる。

 

 駒場利徳は確かに強い。その強さは原作を読んだ時にも伝わってきたからね。

 

 でも、魔術師の集団と正面から戦って勝てるほどじゃないはず。

 

 やっぱり逃げた方がいいかも。

 

「安心しろ」

 

 そんな私を見てかバンダナの男が言う。

 

「俺たちが少なくともお前だけは逃がす。あの人の……駒場のリーダーから命令だからな。それに……」

 

 そこでバンダナの男は言葉を区切り、駒場利徳の背中を見て言う。

 

「俺たちのリーダーはあんな能力者たちに負けねえよ」

 

 重大な勘違いが発覚した。

 

 うすうす感づいてはいたんだけど、バンダナの男と駒場利徳は、あの魔術師集団を能力者集団と勘違いしているらしいね。

 

 まあ、魔術なんて信じてないだろうし、仕方がないんだけど。

 

 本格的に切り札の使用、もしくは逃走を視野に入れておかないと。

 

 

 そこで、円盤を持った男魔術師が何かを呟くのが目に入る。

 

 地面であるコンクリートが動きだし巨大な拳を作っていく。

 

 その瞬間。

 

 空から、否、周りの建物の屋上から透明な謎の液体が魔術師たちに降り注いだ。

 

 さすがにこの奇襲には対応できなかったらしく、魔術師たちが魔術を行使するよりも早く、魔術師たちは謎の液体を被る。

 

 やったのは屋上のスキルアウトかな?

 

 駒場利徳は懐から何かを取出して、自らの足元まで流れてきた液体につけたみたいだけど……!?

 

「ぐ、があああああああああああああ!?」

 

 魔術師たちの悲鳴が聞こえた。

 

 見ると、魔術師が全員濡れた地面に倒れている。

 

「……スタンガンかな?」

「!? よくわかったな」

 

 隣のバンダナの人が私の呟きに反応する。

 

 まあ、今のを見たらだいたいの人がわかると思うけどね。

 

 スキルアウトたちが落とした液体を通して改造スタンガンの電撃を浴びせたって感じだろうね。

 

 

 

 

「ありがとうなんだよ」

「……礼には及ばない……」

 

 結果として私は助かってしまった。

 

 今は私と駒場利徳で、近くにあった比較的きれいなベンチに座っている。

 

「でも、どうして助けてくれたのかな?」

 

 どうしてかは大体わかってるけど、一応聞いてこうかな。

 

「……大した理由じゃない。これ以上、無能力者(レベル0)が能力者に虐げられたくなかっただけだ……」

 

 まあ、大方予想通りだね。

 

 そもそも武装無能力者集団(スキルアウト)っていうのは、文字通り学園都市の無能力者が武装した集団だ。

 

 能力者を育成する学園都市。その中の200万人をはるかに超える人口の中で8割が能力開発を受けた学生だけど、学生の6割は能力がないも同然である無能力者なんだよ。

 

 だから、残り2割の能力者が上位の社会ができてしまったらしいんだよ。

 

 そんな能力者の中に無能力者を見下し能力での暴力を振るう人が出るのは当然。

 

 そんな暴力から身を守るために武装し始めた、っていうのが武装無能力者集団(スキルアウト)ができた理由だったはず。

 

「あの人達はどうするのかな?」

「……縛り上げて警備員(アンチスキル)の詰所の前にでも転がしておこう……」

 

 ふと離れたところを見るとスキルアウト達がバンダナの男の指示で、気絶した魔術師たちを縄やらワイヤーで縛っている。

 

 うーん。駒場利徳の性格的には女魔術師も男魔術師も色々大丈夫だと思うけど、警備員(アンチスキル)に捕まった後は学園都市の暗部をたらいまわしにされること間違いなしだろうね。ちょっと複雑かも。

 

 

「とりあえず自己紹介しないとね、私は禁書目録(インデックス)っていうんだよ」

「……駒場利徳だ……。俺は外国人の名前には疎いのだが……外国人というのはみなそういう名前なのか?」

「私もよくわからないんだけど、少ないんじゃないかな? ちなみに正式名称は『Index-Librorum-Prohibitorum』だよ」

「……正式名称まであるとは。やはり外国は侮れん……」

 

 うん? バンダナの男が帰ってきたみたいだね。

 

「ふいー」

「……終わったのか……?」

「いや、まだだけどな、あいつら『半蔵さんは休んでていいですよ』だってよ」

「今日一日、走りまわっていたからだろう……」

 

 予想はしていたけど、バンダナの男は第七学区武装無能力者集団(スキルアウト)の参謀的ポジションの半蔵みたい。

 

「ああ、お前も本当に大丈夫か?」

「問題ないんだよ。今日は助けてくれてありがとう」

「なら、よかった」

 

 とりあえず自己紹介。

 

「私の名前は禁書目録(インデックス)。あなたは?」

「俺は半蔵だ」

 

 それにしても、これからどうしようかな?

 

 また大覇星祭の喧噪の中に飛び込む、っていうのは得策じゃないよね。何人魔術師が入ってきたかわからない以上、いつも危険が付きまとうから。

 

 やっぱり知り合いにくっついてるのが一番よさそうかも。

 

「にしてもだ。女一人でこんな路地にいると危ないぞ。たまたま俺たちみたいなスキルアウトだったからよかったものの、他のスキルアウトだったらどうなってたかわからねえし」

「……そうだ。先程のような能力者が暴れていることもある」

「うん。ありがとう、気をつけるね」

 

 そこで、違和感。視界の端の縛られて転がされている男魔術師から。

 

「!!」 

 

 さっきまでコンクリートでゴーレムの腕を作りだしていた、ゴーレム使いの男魔術師の手には、小さな円盤状の何かが握られている。

 

 私は前に一歩踏み出し前に立っていた駒場利徳を横に突き飛ばす。何の警戒もしていなかったからか、『歩く教会』の防御力が攻撃力に補正をかけてくれたのかはわからないけど、駒場利徳が後退する。

 

 その瞬間、私の視界がかすみ、気が付くと地面が目の前にあった。

 

 身体に痛みはないあたりは敵の攻撃……まあ、十中八九ゴーレムパンチで吹き飛ばされたんだろうね。その結果こうしてうつぶせに這いつくばっているってことになるかも。

 

「インデックス!?」

 

 半蔵が呼ぶ声が聞こえる。

 

 顔をあげてみると、ゴーレム使いの男魔術師の方に向きながらわずかにこっちを見ている半蔵と、拳を握り今にも走り出そうとする駒場利徳が見える。

 

 奥に見えるゴーレム使いの男魔術師が持っている小さな円盤は、自分の服の中にでも仕込んでおいたものかな。縛られたままで器用に魔術を使ってゴーレムの腕を作ってるし。……ゴーレムの腕自体はさっきより小さいけど。

 

 他のスキルアウトたちはゴーレム使いの男魔術師の周りに倒れている。こっちにむかって不意打ち攻撃をした直後に作った腕で薙ぎ払われたんだろうね。よくわからないけどギリギリ問題ないはず。頭を打ってるかもしれないから安心はできないけど。

 

 

 さて、意識があるのはゴーレム使いの男魔術師一人だし、問題はないね。

 

 起き上がりながら魔術師に向かって走り出す。

 

その場で砕けよ(JAB)

 

 特典のおかげで解析が終わっていた『強制詠唱(スペルインターセプト)』でゴーレムの術式に割り込みをかけると、ゴーレムの腕は呆気なく粉々になった。

 

 駒場利徳と半蔵の間をすり抜け、いきなりのことに驚いている魔術師との距離を一気につめる。

 

禁書目録(インデックス)ラリアット!!」

 

 走る勢いを利用して男魔術師の横をすり抜けざまに、右腕を相手の首元に叩き込む。

 

 威力が足りないかなと思ったけど、男魔術師は後ろに倒れる。その後頭部の落ちる先に、私の『歩く教会』で守られている右足を差し出す。

 

 流石にコンクリートで後頭部打ったら死んじゃうかもしれないからね。今更な気もするけど。それに『歩く教会』のおかげで差し出した右足にもダメージはないし。

 

 でも、そのせいで、男魔術師はまだ意識があるみたいだけど。

 

 そこに、いつの間にか接近していた駒場利徳が、仰向けにに倒れた男魔術師に右拳を叩き込み気絶させた。

 

「おい! お前ら大丈夫か!」

 

 半蔵は周りで倒れているスキルアウトたちに駆け寄っていく。

 

 これは逃げた方がいいかも。微妙に能力者っぽいことしちゃったし。

 

 そうと決まれば速く逃げようかな。善は急げって言うし。

 

「待て」

 

 ……まあわかっていたんだよ。倒れたスキルアウトの方に向かった半蔵はともかく、駒場利徳に呼び止められるのは。

 

 そもそも、私って善じゃないもんね。

 

「どうしたのかな?」

「今の力は……? インデックス、お前は……」

「余計な詮索はしない方がいいんだよ」

 

 私は自分の命の危機には全力で人に助けを求めるけど、そうじゃない時はあまり巻き込みたくないしね。

 

「この力の正体について知っちゃったらもう普通には戻れない。一つだけ言えるのは私の力は学園都市の能力開発によるものじゃないし、自然発生した能力者である原石でもないっていうことだね」

「だが……」

「それとも」

 

 駒場利徳の言葉を遮って、私は原作で彼女(インデックス)が言った言葉を口に出す。

 

「この力について知って、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

 

 

 

 

 

 駒場利徳に行ったことはちょっと意地悪だったかも。初対面で名前しか知らない相手にあんなことを言われても困るだけだろうし。

 

 

 あの後、私は常盤台中学の女子寮に戻ってきていた。ここならセキュリティも万全だからね。

 

 それにしても、この有様じゃ迂闊に外に出れないね。一日目でこれなら二日目以降はどうなることやら、って感じなんだよ。

 

 出かけるときには大通りを通らないといけないね。人ごみは嫌いなんだけど仕方がない、か。

 

 まあ、今日はこのまま女子寮(ここ)で過ごすしかない。でも、暇かも。

 

 ここは部屋においてあるテレビでも見て過ごしたほうがよさそうかも。ちょっと前に気を利かせたのか、操祈がテレビを入れてくれたわけだし。

 

 本人いわく、「私が買ったついでよぉ」とのことだったけど。

 

 さて、今やってる番組は……あ、超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)やってる。

 

 原作のインデックスが好きなアニメだったけど、面白いのかな?

 

 ちょうど巨大化した敵にカナミンが必殺技をあててるシーンだけど、って!?

 

 か、解析完了? 神様特典の『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』ってこんなものにも通じるの?

 




 たくヲです。

 最後に解析した超機動少女カナミンの魔術ですが、『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術とは余りに法則が違いすぎるので、この世界の魔術師に教えても使えません。

 これからも、『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある根性と喧嘩戦士

 あの後、魔術師の襲撃もなく大覇星祭は終わった。できるだけ大通りを通り続けたのが良かったのか、私が襲撃されたのを知ったイギリス清教が私を狙う魔術師を倒してくれたのかは知らないけどね。

 

 まあ、大覇星祭の間は魔力の痕跡がいくつもあったから、多分後の方が正解だけど。

 

 大覇星祭終了からだいたい一ヶ月くらいたったけど、何も事件は起こらなかった。やっぱり平和が一番なんだよ。

 

 で、時間ができたから、適当に実験をやってたわけなんだけど……神様特典の『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』っていうのはやっぱり創作物に対しても作用するらしいね。

 

 学園都市にある魔術や魔法が登場する漫画を読んでみたり、アニメ『超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)』を見てみたりしたら、いろんな魔術を解析できたからね。

 

 でも、ライトノベルを読んだ時にはほとんど解析できなかった。ほとんどっていうのは挿絵になっている所だけは解析できたってことなんだけど。

 

 私が思うに、『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』自体で解析できるのは、この『とある魔術の禁書目録の世界』の物だけではないってことかな。神様はありがたいことに、どんな世界に行ってもこの能力を使えるようにしてくれたらしいね。

 

 でも、この世界の魔術以外は方式が違いすぎて使いづらそうかも。別の世界の魔術を使おうと思ったら、まずこの世界の魔力の質から別の世界の物に近づけないといけないからね。

 

 そんな手間をかけるくらいならこの世界の魔術をそのまんま振るった方が効率はいい。戦闘中にはできる限り無駄は省いた方がよさそうだしね。

 

 他にも一つだけ試していることはあるけど……あんまり思いだしたくはないかな?正直やっててきついし。

 

 

「それにしても何にもないわねぇ」

「そうだね」

 

 隣を歩く食蜂操祈に話しかけられる。

 

 今、私たちは第七学区の大通りを目的も持たずに。

 

 操祈は未だに、私にどうやったら能力が効くのかを調べている。そのせいで、私に能力を使おうとして失敗したところに私がおしおき(・・・・)するという謎の流れが出来上がってるんだよ。

 

 それでも、寮から私を追い出そうとしないあたり、少しくらいは親しんでくれているってことなのかな。

 

 第七学区を歩く私と操祈。その後ろについてくるのは操祈の派閥のメンバーだね。

 

 派閥っていうのは、常盤台中学校の生徒たちが同じ目的を持つ生徒を集めて作るグループのことらしい。名門常盤台中学の派閥は活動内容によっては社会にまで影響を及ぼすとか。

 

 操祈が率いている派閥は一年生が率いているにも関わらずその中でも最大級の物らしいね。まあ、目的は教えてもらってないんだけど。

 

「女王とあの方は一体どういう関係なんでしょう」

「さあ? 小学生のころのご学友という話でしたが……」

「それにしてはちょっとよそよそしいですわ。友人というのはもう少し話すような……」

 

 後ろから派閥の子同士が話してるのが聞こえる。どうやら、さっきの操祈が彼女たちに説明のために放った「小学生の時の友達」っていう言葉を鵜呑みにしてるわけではないみたいだね。

 

 操祈はあんまり気にしていないようだけど、私としてはもっと操祈と仲良くなりたいんだよ。

 それに私の存在を怪しまれると困ることもあるだろうし。

 

「ということで……みさき」

「? どうしたのかしらぁ?」

「そこに学園都市でも五本の指に入るほどおいしく安いシュークリームを作るカフェがあるんだよ」

「……そうねぇ。行ってみようかしらぁ?」

 

 

 

 

 

 学園都市のカフェはだいたい大きい。なぜなら、住民の8割が学生であり、その学生たちは複数人で店に入るからだね。その中でも比較的安い店は金欠の学生たちがわずかな金を持って入り浸る場所になりがちなんだよ。

 

 つまり、値段が安く、なおかつ学園都市のテレビにも取り上げられるこの店には、派閥の女の子たちも座れるだけの席がきちんとあったってことなんだけどね。

 

 私の前に置いてあったはずのシュークリームはすでに跡形もなく消え失せている。とってもおいしかったんだよ。

 

「インデックスさん。あなたはこの後どうするのかしらぁ?」

「どうするって?」

「今のところは常盤台の寮の中の人達を私の改竄力で何とかしているけど、いつ私が気まぐれに力を使うかはわからないわよぉ?」

 

 シュークリームをかじってから操祈は言う。

 

「改竄していた記憶を戻さずにいられるか自信がないから、出て行った方がいいってこと?」

「そうよぉ」

 

 ……てっきり否定されるかと思った言葉を肯定されてちょっと驚いたんだよ。

 

 それにしても、どうしようか。常盤台の女子寮を出てもいくあてなんて……電話番号を教えてもらってる婚后光子の所しかないんだよ。

 

 でも、光子の住んでいる寮がお嬢様学校である常盤台中学の女子寮ほど安全なわけがないだろうし、そもそも泊めてもらえるかどうかわからないからね。

 

「……うん、出ていかないよ」

「……どうして?」

「出て行っても行くあてがないし、なにより私はみさきのことを信じてるからね」

「……」

 

 疑いの目を向けてくる操祈。それにしても、操祈ってかわいいよね。もっといろんな顔が見たいんだよ。

 

 というわけで今までの会話より少し大きい声で……。

 

「信じてるというか、愛してると言ってもいいんだよ」

「あ、愛!?」

 

 空気が凍りつく。

 

 周りの席に座っていた操祈の派閥に所属する女の子たちの視線が私と操祈に突き刺さる。

 

「……じょ、女王? 私たちは先に帰りますわ」

「ちょ、ちょっと!? 誤解よぉ!」

 

 派閥の子たちの中でも中心にいるっぽい縦ロールの子が女王、すなわち操祈に問いかけ、操祈は顔を真っ赤にして否定しようとする。

 

「ああ、ありがとう。頑張るよ」

「ええ、どうぞごゆっくり。頑張ってくださいね!応援してますわ!」

 

 両手を胸の前でグッっと握りながら縦ロールの子は言う。

 

「頑張るってなによぉ!?」

 

 操祈は恥ずかしさが頂点に達したのかさらに顔を赤くしながら、いつも下げている高そうなバックからリモコンを取り出しながら言った。

 

 操祈の能力が発動し、会計に向かおうとした派閥の子たちが元の席に戻っていく。

 

「あ、アナタたちはシュークリーム10個早食い対決にレッツ・チャレンジ」

「流石にシュークリーム早食い10個は酷いんじゃないかな? 太るよ?」

「い、いいのよぉ! 早とちりの罰!」

 

 真っ赤な顔のまま頬をふくらまして、恨めし気にこちらを見る操祈。

 

 眼福。今ほど『歩く教会』に感謝した日はないかもしれないんだよ。

 

 

 

 

 

 操祈は用事があるらしく、カフェを出たタイミングで別れた。

 

 つまり暇なんだよ。

 

 っと、あれは……。

 

「おーい、りとくー」

「……? ああ、お前か。インデックス」

 

 第七学区の武装能力者集団(スキルアウト)を束ねている大男、駒場利徳と出会ったんだよ。

 

 あの一件以来、利徳とは偶然会った時に話すくらいのことはしてたからね。割とすんなりと会話できる。

 

「何か用か……?」

「用って程のこともないんだけどね。暇なんだよ」

「……俺のような人間に話しかけるのは辞めた方がいい」

 

 ふむ、今日はよく人に心配される日かも。

 

「利徳はやさしいね。まあ、もともと私は立場はやばいからあなたと話しても問題ないと思うんだよ」

「……だが」

「いちゃついてんじゃねえぞ!」

 

 ? 怒鳴り声に振り向くと5人ほどのガラの悪い少年がこちらを睨んでいる。

 

「だが、俺も他の学区のスキルアウトからは狙われる身。……あまりかかわると」

「こうなるんだね」

 

 なるほど。確かに少し面倒くさい状況だね。

 

「てめえが第七学区をまとめてるっつー駒場利徳だな?」

「うちのリーダーがてめえを連れてこいって言ってんだよ! おとなしくついてこい」

 

 む、やっぱり不良同士の抗争みたいなものなんだろうね。

 

「……断る」

「ッ! 面倒くせえな。お前らやっちまえ!」

 

 私をかばうように前に立ちふさがる利徳に鉄パイプ装備の不良少年が殴り掛かる。

 

 振り下ろされた鉄パイプを避けた利徳はそのまま相手の不良少年を殴る。と物理的に不良少年が宙に浮き五メートルほど吹っ飛ばされた。

 

 と思って見てたら、私の後ろから首に手を回された。どうやら私は首筋にナイフかなんかを当ててられてるらしい。

 

「……!? インデックス!」

「おっと、そこまでだ。この女の命が惜しければ俺らに従いな!」

 

 私を拘束している男(真後ろだから顔は見えないけど)は小者っぽい台詞を吐く。

 

「……卑怯な」

「褒め言葉だな」

 

 っていうか大通りでこんなことやってたら警備員(アンチスキル)がくるんじゃないかな?

 

「そこのお前ら! 根性が足りてねえぞ!」

 

 ってこの声は!

 

「誰だ!」

 

 白い学ランに、日の丸から赤い太線が外に放たれているようなどこかで問題視されそうなデザインのTシャツ。白い鉢巻。

 

「俺はレベル5の削板軍覇だ! たった一人相手に大勢で向かうだけじゃなく、人質までとるとは根性が足りてねえぞ!」

 

 学園都市のレベル5の一人、削板軍覇。電話番号教えてもらってから一度も会えてなかったけど、こんなところで再開するなんて、思わなかったんだよ。

 

 っていうか一人相手?

 

「二人相手の間違いなんじゃないかな?」

 

 左手で首筋にあてられたナイフを持つ手首を掴む。私は掴んだままで足を少し曲げて反動をつけ、そこから足を伸ばし全力で地面を蹴った。

 

「恐怖、舌噛みヘッドバット!!」

 

 鈍い音が響く。

 

 すぐに振り向くとナイフをすぐ近くに落とし、下あごを抑えて地面を転がる小男がいた。この様子だと、うまくこの人の下顎に頭頂部をぶつけられたみたいだね。

 

 安全確保のため、ナイフを蹴って遠くに滑らせる。

 

「ッ! てめえ!」

 

 バットを持って不良少年の一人が走って来る。私は両足で地面を蹴り、バットを振り上げた不良少年に向け禁書目録(インデックス)跳躍両足蹴り(ドロップキック)を放つ。

 

 振り下ろされたバットが私に直撃するのと全く同時に禁書目録(インデックス)跳躍両足蹴り(ドロップキック)が不良少年の胸板に叩き込まれる。

 

 カウンターでまともに受けたせいか、後ろに倒れ込むバットを持つ不良少年。 跳躍両足蹴り(ドロップキック)を放ったせいで真下に落ちる私。

 

 まあ、『歩く教会』効果で私にダメージは全くないんだけどね。

 

 すぐに立ち上がって、仰向けのバット持ち不良少年に向かって倒れ込む。

 

禁書目録(インデックス)肘打ち落とし(エルボードロップ)!!」

 

 腹に落とした肘打ちに転がり悶えるバット持ち不良少年。気絶してくれたら割と楽なんだけどね。

 

「……」

「……」

 

 ふと見てみると、手早く不良少年の一人を殴り倒していた駒場利徳と、最後の一人に根性を叩き込んだ削板軍覇。

 

 二人が驚いたような表情をして私を見ているけど、どうしてかな。バットを思い切り喰らったはずなのに平然としてるから? それとも、いきなり技名を叫んだからかな?

 

 私はとりあえず二人の方に小走りで近づく。

 

「ぐんは! 久しぶり。助かったんだよ」

「……俺からも礼を言おう。助かった」

「ああ、俺はあんな根性無しが許せねえだけだからな。二人とも礼はいらねえよ」

 

 それにしても、軍覇は私のこと覚えてるのかな? あったのは一回だけだったから忘れてるかも。

 

「それにしてもお前。あの人数相手に一人でやりあおうとするとはなかなか根性あるな」

「そういうお前も、この野次馬の中こんな不良とコスプレシスターを助けに飛び込んでくるとはな……。まだ能力者の根性も捨てたものではないようだな」

 

 どうやら一瞬、10秒にも満たないほどの共闘の中で利徳と軍覇の間に友情が生まれたらしいんだよ。なんかまたちょっと私が空気化している気がするけど気にしない方がいいかも。

 

「ふん。流石は駒場利徳。やはり部下たちでは倒せんか」

 

 新たな声。振り向くとそこには利徳に勝るとも劣らない巨漢が立っていた。

 

「……何者だ」

「俺は内臓潰しの横須賀。駒場利徳、貴様に素手での決闘を申し込む」

 

 な、内臓潰しの横須賀!? あの原作では『内臓潰し』と名乗ったにもかかわらず『モツ鍋』『モツ鍋』呼ばれていてまったく活躍できなかったスキルアウト!?

 

「いいだろう。受けて立つ……」

「ふっ。そうこなくてはな」

 

 うん。正直、直前に刺客の不良少年を送り込んでる時点であまり格好着かない台詞になってるよね。まあ、べつにいいけど。

 

 とはいえ、ここで決闘されると流石に警備員(アンチスキル)が来そうだね。

 

「というわけで、ちょっとストップ!」

「なんだ? インデックス」

「ここじゃ他の人達に迷惑だし、警備員(アンチスキル)がいつ来てもおかしくないから、場所を移した方がいいと思うんだよ」

 

 

 

 

 というわけでオリアナと別れた河原まで移動し決闘が始まったんだよ。

 

 私の横には「この二人の根性を見届けたい」とついてきた削板軍覇。そしてその横にはさっき返り討ちにした横須賀の部下5人が正座している。

 

 初めに動いたのは横須賀。両腕を顔前に構え、地面を蹴り利徳との距離を一気に詰める。

 

 対して利徳は顔面に対しての攻撃を警戒してか、バックステップしつつ顔を中心に両手で防御を固める。

 

 でも、横須賀の接近速度の方が速いね。

 

 横須賀の左拳が利徳の腹に向かう。でも、バックステップで横須賀から離れていくからダメージは普通に殴られた時より低くなるはず。

 

「ッぐぅ!?」

 

 離れていく相手に放ったとは思えない音が炸裂し、利徳の表情が苦痛を示すものに変わる。

 

 まさか、あの基本無表情の利徳の顔をゆがませる肝臓打ち(リバーブロー)……なるほどだから『内臓潰し』なんて名乗ってるのかな。

 

 とはいえ、一撃でやられるほど利徳も弱くない。

 

 利徳はバックステップしていた動きを急停止しつつ、カウンター気味の回し蹴りを放つ。

 

 それを両腕を盾のように構えて受け止めようとする横須賀。でも、利徳の蹴りをまともに受け止めてしまった横須賀は真横に8メートルくらい吹っ飛ばされる。

 

 今度は逆に距離を詰める利徳。それに対し迎え撃つように横須賀が拳を放つ。

 

 その拳を避け、お返しとばかりにボディブローを放つ利徳。

 

 それをカウンターで決まったボディブローに苦悶の表情を浮かべる横須賀。

 

 そこに利徳が放つ顔面狙いの正面蹴り(フロントハイキック)。でも、それは顔前に構えた両腕に防がれる。

 

 そして……!

 

 

 

 

 

 

 結局、二人の決闘の決着はつかなかった。

 

 利徳の拳が側頭部に決まったのと同時に、横須賀の肝臓打ち(リバーブロー)が入り、両者とも同時に倒れてしまったからだ。

 

「いい勝負だった。この俺相手ににここまで張り合えた奴は能力者にもいなかったぞ」

「……それは光栄だな。だが次にやる時は負けん」

 

 倒れたままの二人はやけにすっきりとした表情で、すっかり赤く染まった空を仰いでいる。

 

「いい根性を見せてもらった」

「……根性か」

 

 恐るべきは根性。この状況や、今日一日で起こったことも今なら根性が原因だって言い切れるかも。

 

「駒場に横須賀。お前らにはいい根性を見せてもらった。俺のおごりでなんか食いに行こうぜ」

 

 そして、空気を読まず……いや、これはむしろ読んでいると言ってもいいんのかもしれないけど、決闘後の二人を食事に誘う軍覇。

 

 さて、私はお邪魔だろうしクールに立ち去ろうかな。

 

「おい、インデックスどこに行くつもりだ?」

「へ?」

「お前も食いに行こうぜ。お前がいなかったらこんな根性を見ることはできなかっただろうからな」

 

 ふむ、それなら行こうかな。

 

 でも私を食事に誘うということがどう言うことなのか解ってて行ってるのかな。

 

「でも、どこに行くのかな?」

「そうだな……モツ鍋でも食いに行くか」

「モツ鍋か、大好物だ」

「俺も嫌いではないな……」




 たくヲです。

 喧嘩回。

 わかってた人もいると思いますがこの作品のインデックスの戦闘法はプロレス系です。

 そして、横須賀の戦闘法はオリジナルです。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある日常の禁書目録

 利徳と横須賀の決闘以降は刺激的かつ平和な日々だったと言っていいかも。

 

 あった事件といえば、どこかの魔術結社の魔術師の襲撃が1件。

 

 魔術師ステイル=マグヌスを目撃が1件。

 

 不良の襲撃が3件。

 

 利徳and横須賀VS軍覇が1件。

 

 御坂美琴が不良たちをビリビリしているのを目撃したのが5件。

 

 ……今から思い返すとなかなか多いかも。

 

 炎の魔術師ステイル=マグヌスを目撃したのは12月の中旬。私を尾行していたのを発見したんだけど、手を出してくる気配はない。まあ、転生当初の襲撃はステイルが禁書目録()の敵であることを印象付けさせるためだろうし、当然と言えば当然だけど。

 

 

 魔術結社の襲撃は人払いがされていない大通りまで、『歩く教会』攻撃を防ぎつつ逃走したらもう追ってこなかった。まあイギリス清教の見張り役(ステイル=マグヌス)に焼かれたんだろうとは思う。

 

 

 不良の襲撃は……まあ『歩く教会』の防御力もあって返り討ちだったんだよ。不良たちの目的は、1回目が私が駒場利徳の友人だからで、2回目と3回目は私が横須賀の友人だからだった。尋問したわけでもなんでもないから詳しいことはわかんないけど、襲ってきたときにそんなことを言ってたから、多分あってると思うんだよ。

 

 

 そして利徳and横須賀VS軍覇。利徳と横須賀が二人がかりでレベル5削板軍覇に挑んだのは特に理由があったわけではなかったんだよ。単純に無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)との間にある大きな溝を埋めるためには、喧嘩っていう形でけじめをつける必要があったからやっただけ。

 

 その結果は言うまでもなく軍覇の圧勝だった。でも、軍覇の『すごいパーンチ』を横須賀が12発、利徳は13発耐えきった。横須賀が12発目を受け「ビブルチ」と叫びながら吹き飛ばされ、利徳が13発目を受け立ったまま気絶という何とも劇的な幕切れとなったんだよ。

 

 それだけの攻撃を受けながらも横須賀は3回、利徳は2回軍覇に対して拳を叩き込んでいたあたり流石といったところだね。二人とも知り合ってから、やけに根性入れて鍛えていたから当然といったところだろうけど。……明らかに原作よりも横須賀の耐久力が高い気がするのもきっと根性の力だろう。

 

 その結果、無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)の間には友情が芽生え、私も含めた4人で軍覇のおごりで寿司を食べたんだよ。

 

 

 御坂美琴が不良少年をビリビリしていたのは特に語ることはないかも。不良にナンパされた女性を助けていただけだね。お礼言われていたし。

 

 ……思い返してみると色々あったんだね。

 

 

 年明けののんびりとした時期が過ぎ去った1月のある日。私は適当に外を歩いていた。

 

「よお、久しぶりだな」

「あ!はんぞう。確かになんか久しぶりな気がするんだよ」

 

 すると利徳の部下であるスキルアウトの半蔵とエンカウントしたんだよ。

 

 久しぶりといっても1週間か2週間程度だと思うんだけど不思議な話だね。

 

 半蔵は仲間のスキルアウトを8人ほど引き連れている。男5人に女3人。

 

 私は利徳や横須賀の部下のスキルアウト達とはある程度の交流はある。けど、そんな私が知らない人が1人、半蔵が引き連れていた中に含まれていた。

 

 半蔵の横に立っている今日初対面になる、髪を金色に染めた男が言う。

 

「おい、半蔵。こいつは?」

 

 口を開こうとした半蔵を遮るように私は言う。

 

「ああ、こいつは」

「初めまして。私の名前は禁書目録(インデックス)

「……」

 

 半蔵が黙ってしまった。ほんの出来心だったけど申しわけないと思うんだよ。

 

「い、インデックス?」

「うん、禁書目録(インデックス)

「そ、そうか。俺は浜面。浜面仕上だ」

 

 浜面仕上といえば、原作でもこの時期に鍵開け(ピッキング)の技術を買われて利徳の仲間になったスキルアウトだね。

 

「よろしくね。それで、はんぞう。一体何をしてるの?」

「いや、ちょっとATMの配置を見にな」

「ふむ……ちょっとみんなこっち来ようか?」

 

 どうやら半蔵たちはATM泥棒を計画していたらしい。友達として悪に走る友達を見捨てるわけにはいかないもんね。

 

 

 

 

 近くの公園で話を聞いたところ、本気でATM泥棒を計画していたらしい。

 

「でも、そんなことしちゃダメだと思うんだよ」

「じゃあ、どうしろっていうんだ?」

「まっとうに働いた方がいいんじゃないかな?」

 

 学園都市は学生が八割を占める都市だ。

 

 だから、学生の社会勉強のためにという名目で、バイトを募集している所も少なくはないんだよ。

 

「そんなこと言っても、俺らの学生証は学校にまったく行ってねえからほとんど機能してないぞ。それにこんな外見じゃ……」

「じゃ、身分証明書を偽装するとか」

 

 泥棒は駄目なのに身分偽装はいいんだな、というスキルアウトの一人の呟きはスルーするんだよ。

 

「んな難しいこと」

「俺できるぜ」

「なに!?」

 

 浜面が手をあげる。原作でも身分証明書偽装はやってたけど、この技術はもう持ってるんだね。

 

「それじゃあ、あとは外見だね」

「んなこと言ったって、そればっかりはどうしようもねえだろ」

「いやそんなことはないんだよ。百合華ちゃんちょっとおいで」

 

 半蔵が連れていたスキルアウトの女の子、百合華ちゃんを呼ぶ。

 

 彼女はよく言えばスリム、悪く言えば痩せすぎな女の子なんだよ。健康に気を使ってないのか、目の下にはクマができてるし顔は青白い。二人っきりの時に襲われたけど、簡単に返り討ちにできたし、たった三回で気絶しちゃったから、実際不健康なんだろうね。まあ、そこがかわいいところでもあるんだけど。

 

「う、うん」

 

 百合華ちゃんが頬をちょっと赤くしてこっちにくる。

 

 さて、始めようかな。

 

 

 

 

 

 終わりっと。

 

「さあ、生まれ変わったあなたを見せてあげるんだよ!」

 

 百合華ちゃんを身体をぐるりと回して、半蔵たちの方に向ける。

 

「おお!」

「へえ、化粧で女は変わるっていうが本当なんだな」

 

 ちょっと、失礼な声が聞こえた気がするけど、まあ無視するんだよ。

 

 私がやったのは目の下のクマを消してある程度消したり、顔色をよくしたりしただけなんだよ。痩せてるのはどうしようもないけど、どこかのお嬢様に見えなくもないレベルにはなった。

 

 化粧品は操祈が買ってくれてたからね。別に頼んだわけじゃないんだけど、くれるっていうならありがたく使わせてもらわないと。

 

 ちなみに、結構安い物なんだけど、学園都市効果なのかやけにいい物だったりするんだよ。

 

「さて、とりあえず私のメイク術で女性メンバーは、さらに綺麗、もしくはかわいくなってもらうんだよ」

「って、ちょっと待て、俺たち男メンバーはどうするんだ」

「髪型を変えたらいいと思うんんだよ」

「……ああ! その手があったか!」

 

 髪型を変えることを今まで思いつかなかったことにびっくりなんだよ。

 

「さあ、この作戦を持ってりとくに直談判するんだよ!」

 

 

 

 

 結果として利徳はあっさりとこの作戦を受け入れてくれた。捕まる危険を冒してまでATM泥棒に踏み切る必要はないと思ったんだろうね。

 

 多くないとはいえ、女性メンバー全員にメイク術を伝授するのは骨が折れたけど、まあやりがいのある仕事だった。一人一人に会ったメイクを教えなきゃいけないからね。

 

 なんで、メイク関連に詳しいのかって言われたら前世でそういう本を読み漁ったからとしか言えない。

 

 一通り教え終わって、常盤台の女子寮に向かう。

 

 スキルアウトのみんなは仕事を手に入れられるだろうか。リーダーが利徳である以上いかがわしい店に面接に行くことはないだろうから、まあ安心だけど。

 

 利徳はとりあえず学園都市スキルアウト統一を計画しているらしい。能力者に立ち向かうためには数と装備が必要だからその下準備みたいだね。

 

 あの浜面は原作のように強くなれるんだろうか?

 

 そんな事を考えながらてくてく歩いていく。

 

「あれ?」

 

 ぼんやりと考え事をしていたせいか人通りのない路地裏に入ってきてしまったらしい。

 

 ここなら突っ切った方が早いかも。そう思った私は一本道の路地裏をてくてくと歩き出す。歩き出してしまった。

 

 道に従って右に曲がる。

 

「……え?」

 

 そこでは……女の子が一人死んでいた。

 

 




 たくヲです。

 オリキャラである百合華ちゃんですが一応原作ssで、ビルの窓から結標淡希を弓で狙撃しようとした痩せぎすの女、と同一人物だったりします。今後、登場の予定はなし。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

 


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とある実験と複製少女

 女の子の死体を目撃して生まれた少しの吐き気を抑えソレを見る。

 

 その死体が着ているのは常盤台中学の制服。常盤台の女子寮に居候している私にとってはもう見慣れた制服は血で真っ赤に染まっている。赤くないところの方が珍しいほどに。

 

 死体には頭部と右腕がなかった。だからこの死体が誰なのか特定はできそうにないかも。

 

 けれど、

 

「……なんで忘れてたんだろう」

 

 おそらく、この女の子は……。

 

「回収地点に一般人を発見しました、とミサカは驚愕します」

 

 後ろから声。

 

 振り向くとそこには

 

「こういう場合はどうすればよいのでしょうか、とミサカは他の個体に確認を行います」

「やはり口封じを行うのが適切では? とミサカは気の進まない提案します」

「ですが、この場で見たことを外で言いふらしたところで信じる人は皆無でしょう、とミサカは自信ありげに断言します」

「それならば早く回収作業を始めるべきでしょう、とミサカは本来の目的を口にします」

 

 常盤台中学校の制服を着た、学園都市第三位の超能力者(レベル5)御坂美琴と全く同じ顔の女の子たちが立っていた。

 

「あなた達は……御坂美琴の妹達(シスターズ)かな?」

「知っているのですか? とミサカは発見した人物に対しての認識を改めます」

 

 どうやら彼女達は、学園都市第三位の超能力者(レベル5)御坂美琴の軍用クローン妹達(シスターズ)で間違いないらしいね。

 

 おそらく彼女たちは今、私が学園都市に入った初日に出会ったあの超能力者、一方通行(アクセラレータ)の実験に関わっているはずだ。

 

 私の原作知識にもある、『絶対能力(レベル6)進化(シフト)』計画。学園都市製のスーパーコンピューターである『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』による予測演算によって導き出された、『学園都市第一位の超能力者一方通行(アクセラレータ)を、既存の能力者たちを凌駕する絶対能力者(レベル6)にする実験』のことなんだよ。

 

 『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』による予測演算によると、『一方通行(アクセラレータ)超能力者(レベル5)御坂美琴を特定条件下で128回殺害する』という方法をとる必要があるらしい。

 

 もちろん御坂美琴を用意することはできないので、そのかわりとして、『2万人の御坂美琴の軍用クローン(シスターズ)を、一方通行(アクセラレータ)に特定条件下で殺させる』ことで、絶対能力者(レベル6)を生み出すという実験。

 

 妹達(シスターズ)の一人が口を開いた。

 

「念のため符丁の確認をとります、とミサカは返答を待たずに実行します。ZXC741ASD852QWE963、とミサカは試験官気分を味わいます」

 

 もちろん私が符丁とやらを知っているわけもないんだよ。

 

 他の妹達(シスターズ)が会話を引き継ぎ喋り出す。

 

「なるほど、貴方は実験の直接的な関係者ではないようですね、とミサカは一人納得します」

「勘違いさせちゃってごめんね。ところで、その子は何番目のミサカなのかな?」

 

 とりあえず妹達(シスターズ)の死体をについて聞いてみることにするんだよ。幸い、彼女たちには、実験の関係者ではないものの実験について知ってる闇にかかわる人間、みたいな認識になっているみたいだしね。

 

「そんなことを知ってどうするのですか? とミサカはあなたに率直な疑問を投げかけます」

「うーん。特に理由があるわけじゃないんだけどね。ただ私が知りたいって思っただけだもん」

「……そうですか、とミサカは無理やり自分を納得させます」

「あのミサカは検体番号(シリアルナンバー)6022号です、とミサカは答えます」

 

 私と話していない妹達(シスターズ)がミサカ6022号の死体を大きな寝袋に入れていく。

 

「じゃあ、6023号はここにいるのかな?」

「6023号はこのミサカです、とミサカは自身を指差します」

 

 死体の入った袋を肩に担いだミサカがこっちを見て言う。

 

 なるほど、つまり次の実験はこの子が……。

 

「聞きたいことはそれだけですか? とミサカは問いかけます」

「うん。時間を取らせてごめんね」

 

 私の言葉を聞いた妹達(シスターズ)は私に背を向け、去っていく。

 

 彼女達の後ろ姿を見ながら、私は懐から単語帳を取り出し、その中の1ページを口で咥えて金属のリングからちぎりとった。

 

 

 

 大通りを歩きながら私は考える。

 

 終わったことに後悔しても始まらないとはいっても、原作の知識で実験を知ってた私が実験を止めに動けてなかったっていうのはすごく辛い。その間、自分のことだけ考えて平和を享受し続けてたのも、追い打ちかも。

 

 こんな、私にできるのは、今からでも実験を止めることだけ。

 

 別に私が動かなくても夏休みに主人公である上条当麻あたりが実験を止めてくれるだろうけど……あんなかわいい女の子たちが死ぬのを黙って見過ごしたくもないしね。

 

 問題はどうやって止めるか、だね。

 

 そもそも、原作でこの実験を止めるための手段はいくつか提示されていた。

 

 一つ目。学園都市最強の超能力者である一方通行(アクセラレータ)を学園都市最弱の無能力者(レベル0)が打倒し、これによって科学者たちに一方通行(アクセラレータ)は実は弱かったんだと思わせること。

 

 二つ目。そもそも、この実験は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』による予測演算が前提条件にある。これを逆手にとって、別の演算データである『御坂美琴は一方通行(アクセラレータ)に185手で敗れる』というデータを御坂美琴が1手で敗れることで、覆すこと。

 

 三つ目、研究の柱である一方通行(アクセラレータ)がこの世からいなくなること。

 

 実は意外と多いように思えるけど、三つとも私がこなすことはできないんだよ。

 

 一つ目に関しては一方通行(アクセラレータ)を倒せる無能力者(レベル0)を今の私が知らないから。利徳や横須賀は強いんだけど一方通行(アクセラレータ)超能力(ベクトル変換)による守りを突破できないしね。

 

 二つ目は御坂美琴がまだ『絶対能力(レベル6)進化(シフト)』の計画について何も知らないから無理。それに私は意図的に御坂美琴との接触を避けてるから彼女と話したことがないんだよ。そんな私からこのことを伝えても彼女がわざわざ死ににいく理由がないし、何より信じない可能性の方が高いかも。

 

 三つ目は一つ目に似ていて一方通行(アクセラレータ)を倒せる人を私が見つけられない以上、やっぱり無理。原作では文字通りベクトルの違う魔術攻撃を使えば一方通行(アクセラレータ)超能力(ベクトル変換)を貫通できることが証明されているけど、強力な魔術攻撃じゃないと一方通行(アクセラレータ)にダメージを与えられないっていう問題点もあるから難しい。私の使える魔術は、対魔術師専用の『強制詠唱(スペルインターセプト)』と『魔滅の声(シェオールフィア)』。そしてオリアナから貰った単語帳による『速記原典(ショートハンド)』。そして『歩く教会』。これだけで一方通行(アクセラレータ)を倒すのは難しいかも。

 

 唯一可能性があるのは、(インデックス)に仕掛けられているはずのの魔術、『自動書記(ヨハネのペン)』が発動して私の魔術使用が解禁された状態になること。だけど、これが発動するということは私が瀕死の重傷を負ってる時だったはずだから却下。

 

 というか、一方通行(アクセラレータ)を殺すという時点で三つ目は却下かも。一方通行(アクセラレータ)は学園都市統括理事会理事長の計画に必要な存在だったはずだし、そんなことをしたら私は完全に学園都市と敵対した状態になるはずだからね。

 

 とはいっても手はないわけじゃないかも。三つ目の作戦に限りなく近い、平和的な解決法が一つあるんだよ。

 

 と、時間的にそろそろ行った方がいいかも。




 たくヲです。

 平和から一変回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある実験の妨害説得

 場所は廃車場。廃車の裏に隠れている私の視界では、一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が8メートルほど離れて向き合っている。私の位置はミサカ6023号から見て右斜め前方、いわゆる10時の方角6メートルの廃車の裏。

 

 実験開始が何時なのかはわからないけどもうちょっとで始まるはずだね。

 

 私の作戦実行は実験開始と同時。

 

 作戦の問題点があるとすれば、私がこの実験場を見つけるために切り札の一つだった『改良版速記原典(ショートハンド)』を使ってしまったことが一つかな。方法としては『改良版速記原典(ショートハンド)』の一ページを遠隔操作で飛ばす魔術を使ってミサカ6023号の服の中に忍ばせて、ページにこめられた魔力を追ってきただけなんだけど。

 よって『改良版速記原典(ショートハンド)』を使えるのはあと4ページ。といっても一度この魔術を使用しても一週間は魔力持つようにはなっているから、ミサカ6023号の服の中のページを回収すればある程度の魔術は使えるんだよ。……まあ、今地球のどこにいるのかわからないオリアナなら遠隔操作で破壊できるんだけどね。

 

「実験開始まで残り30秒ですが準備はよろしいですか、とミサカは最後の確認を行います」

「問題ねェよ」

 

 もう一つの問題は、私ごときがこの作戦を実行しきれるのか、っていう根本的なものだね。

 特に相手は学園都市第一位の超能力者(レベル5)。絶対成功する保障なんてないけど……まあ、何もしないよりはいいはずだからね。

 最悪、『改良版速記原典(ショートハンド)』でミサカ6023号と逃げれば、実験を一時中断まで持って行けるはずだし。

 

 そろそろ、実験開始かな?

 

「それではこれより……」

 

 ミサカ6023号が言葉を発し始めた瞬間に私は廃車の陰から飛び出す。

 

「そこまでなん……」

 

 そこまで言って視界がぶれる。次の瞬間には一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が遠くに見えた。

 

 お腹を見てみると拳くらいの石が『歩く教会』から転がった。おそらく一方通行(アクセラレータ)がミサカ6023号をひるませようとベクトル操作して蹴った石だろうね。

 

 一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が理解できないようなものを見るような目でこっちを見ている。二人とは30メートル以上離れている。

 

 ダメージもないしとりあえず立ち上がって、後ろを見ると車が6台ほどぺちゃんこになっていた。『歩く教会』がなかったら即死だったかも。

 

 私は二人の方に歩いていく。

 

「……オマエは」

 

 あまりの静けさに、離れた位置にいる一方通行(アクセラレータ)のつぶやきが私の耳に届く。

 

「久しぶりだね一方通行(アクセラレータ)。覚えていてくれてうれしいんだよ」

 

 前に会ったのは7月の終わりごろで今は1月だから、4か月ぶりくらいかな?

 

「なにしに来た?」

「しばらく会ってなかった恩人が妙な実験に関わっているのを知ったからね」

 

 思いだしたというべきかもしれない。完全記憶能力を持っている私が思いだしたっていうのはおかしな話だけどね。原因はいくつか想像できているけど、今は置いておくんだよ。

 

「なにしに来たのかって言ったら、道を踏み外した恩人を説得しに来た、っていうのが一つ。そこにいるミサカ6023号を助けに来た、っていうのがもう一つだよ」

 

 一方通行(アクセラレータ)はため息をついて私を見る。私は一方通行(アクセラレータ)から13メートルくらいの位置で歩みを止める。

 

「助けに、ねェ。ソイツの検体番号(シリアルナンバー)を知ってるてことは、正体も知ってるんだろ? 超能力者(レベル5)になれなかった出来損ないの乱造品(クローン)だってことくらいはよォ」

「うん。知ってるんだよ。でもね」

 

 私が思いだすのはついさっきのこと。妹達(シスターズ)たちと初めて出会った時のこと

 

「さっき私とあった時、妹達(シスターズ)の一人は目撃者の私を排除することは『気が進まない』って言ったんだよ。そして実際に私には手を出さなかった」

「……それがどォした?」

「『気の進まない』って言ったってことは、彼女たちにだって感情があるってことだって私は思う。少なくとも私は、感情がある生き物は人間として見るんだよ」

「……下らねェ」

 

 一方通行(アクセラレータ)は私の方に一歩近づく。

 

「逃げてください、とミサカは忠告します」

 

 今まで喋らなかったミサカ6023号が口を開いた。

 

「あなたも落ち着いてください、とミサカは指示します。実験の内容は私を殺害することであり、そこの女性を殺害すると実験結果が変動する可能性があります、とミサカは不安を訴えます」

「ミサカ6023号。それは私を心配してくれてるのかな?」

 

 私は問いかける。

 

「……なぜそう思うのですか? とミサカは疑問を呈します」

一方通行(アクセラレータ)が実験期間に妹達(あなたたち)以外の人間と闘ってないはずがないことくらいあなたにもわかってるはずだよね。一方通行(アクセラレータ)の立場を気に入らない人に襲撃されてないはずがないし、一方通行(アクセラレータ)の能力なら敵に攻撃された時点で相手を倒しちゃうもの」

 

 ミサカ6023号は僅かに首をかしげる。まだ、妹達(シスターズ)一方通行(アクセラレータ)の能力を知らないはずだもんね。

 

「ほら、一方通行(アクセラレータ)。やっぱり彼女たちには感情があるんだよ。こんな実験を行える科学者たちがわざわざ感情を与えるとも思えないし、きっとこの感情は彼女たちの内側に会ったものなんだと思う。無表情で分かりづらくっても、人の命が失わることを嫌う気持ちを持った人間(・・)なんだよ」

「……だから何だってンだァ? ソイツに感情があったところで6022体の量産人形を殺してる俺の気が変わるなンていうおめでたい考えじゃア」

 

 私はその声を無視する。

 

一方通行(アクセラレータ)。あなたに聞きたいことがあるんだよ。あなたはこの実験で『絶対能力者(レベル6)なるつもりだったのは間違いないよね」

「……」

 

 返答はない。私はそれを肯定と認識して続ける。

 

「あなたはこの実験が終わった時、その絶対の力、無敵といってもいい力を手に入れて……何をしたいと思っていたの?」

 

 静まり返る廃車場。

 

「……ッハ、ほンっとうに下らねェ。……そもそも俺が学園都市で最強の能力者なのは知ってるかァ?」

「もちろんだよ」

「じゃあオマエはなんで俺が最強だって知ってるんだァ? 実際に戦ってみたやつが返り討ちに会ってるっから、だろォ? そんなんじゃァ全然ダメだ。俺が求めてンのは、誰も『挑戦しよう』なンて思わねェ、絶対的な強さ『その物』なンだよ」

「じゃあ、無敵になった後の目的はないんだね……でも」

「?」

「そんな力を手に入れてもきっとなにも変わらない。『最強』が『無敵』になっても、『無敵』の力なんて現実味がなさすぎる。その力を理解するまで、あなたを倒そうとする人は絶対に現れるし、『外』からその力を危険視されて戦争にすらなりかねない」

「なにが言イてェンだ!オマエは!」

「そうなってしまったら……あなたは一人ぼっちになっちゃうよ」

 

 一方通行(アクセラレータ)が顔を僅かに歪める。

 

「だから、なンだってンだ!」

 

 その表情はきっと怒り。

 

「馬鹿にしてるわけじゃないよ。あなたは私を助けてくれた恩人だからね。そんな人が一人ぼっちで悲しむ姿なんて見てられない」

「……殺す」

「恩を仇で返すようで嫌だけど、私はあなたに殺される気はないよ。でも、それで気が済むなら」

 

 そこまで言った私に、ベクトルを操作した一方通行(アクセラレータ)が前傾姿勢で滑るようにまっすぐ突っ込んでくる。

 

 一方通行(アクセラレータ)をただ説得するだけで実験をやめさせるのはもともと無理だとは思ってたけど。

 

 もう一方通行(アクセラレータ)は6022人の妹達(シスターズ)を殺害している。こんなことをしちゃったんだから、一方通行(アクセラレータ)は自力じゃ引き返せないよね。

 

 でも、ここで私という実験に無関係な人を殺せば、きっと一方通行(アクセラレータ)は終わってしまうだろう。だから、私はここで殺されるわけにはいかないし、元々殺されるつもりもない。こうなるように煽ったのは私だけどね。

 

 

 突っ込んでくる一方通行(アクセラレータ)が拳を振る。

 

 私はそれを左に避けつつ、一方通行(アクセラレータ)の胸元に私の右の二の腕を叩きつける(インデックスラリアット)

 

 一方通行(アクセラレータ)の身体にと接触した瞬間、右腕に走った奇妙な感覚を無視し、『歩く教会』が一瞬虹色に光ったのも無視して私は右腕を振り抜き、一方通行(アクセラレータ)を地面に叩きつけた。

 

 すさまじい音とともにコンクリートの地面にひびが入る。

 

 一方通行(アクセラレータ)が魔術を反射しようとすると、謎の現象に変換されるらしいから虹色に光ったのはそのせいだろうね。

 

 仰向けに倒れる一方通行(アクセラレータ)は何が起きたのかわかっていないみたいだけど。

 

「私はね。一方通行(アクセラレータ)

 

 私は両膝を『歩く教会』ごしに地面につけて一方通行(アクセラレータ)の目を見て言う。

 

「あなたと妹達(シスターズ)を救えるならなんでもいいんだよ」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は喋らない。

 

妹達(シスターズ)はともかく、6022人も人を殺したあなたを救いたいっていうのはおかしいって思うかもしれないけどね」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は口を開かない。

 

「あなたは罪から目をそらして逃げているだけだよ。妹達(シスターズ)を殺すっていう行為を、人形を壊すって自分に言い聞かせてるだけ」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は私の目から目をそらさない

 

「だって、あなたは優しいんだから。私と最初にあった時の不良なんてちょっと能力を使って上を飛び越えるだけでよかったのに、わざわざ私を助けたのがその証拠」

「……」

「私はあなたに罪を償ってほしい。6022人の妹達(シスターズ)を殺した罪を」

「……」

「罪を償うと言ってもこんな大きな罪を償うんだから一生かかっても償いきれないかもしれない。それでも償う気持ちがあるなら……私が手伝うよ。困ったことがあったら相談にも乗るし、また道を踏み外しそうになったら引き戻してあげる。……簡潔に言うとね」

「……」

「実験なんてやめて、私と友達になってほしいんだよ」

「……好きにしろ」

 

 

 

 

 

 どうやら実験を止めることはできたらしい。

 

 結局、私が思いついた方法は『一方通行(アクセラレータ)自身に実験をやめようと思わせる』ことだった。はっきり言って説得し切れるとは思わなかったけど。もしかしたら、軍覇たちと会っていたことがなにか影響をもたらしているとか? ……それはないか。

 

 『歩く教会』は右腕部分が魔術的に僅かに解れた状態になってしまったんだよ。防御力的にはほとんど問題はないけど法王級の魔術を受けた時には致命的になりそうだね。

 

 あの後、私は一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号と共に病院に行くことにした。一方通行(アクセラレータ)は説得のためだったとはいえ全力の『禁書目録(インデックス)ラリアット』をカウンターで当ててしまったから骨が折れているかもしれないから。ミサカ6023号は無傷だけど。無理やり成長されたクローンだから病院で調整を受けないとすぐに寿命を迎えてしまうらしいからだね。私はともかく殺し合う直前だった一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が一緒なのはまずかったかも。まったく会話がないんだよ。

 

「ミサカ達は」

 

 あ、ミサカ6023号が話し始めたんだよ。

 

一方通行(アクセラレータ)に殺されるために造りだされました。ですが一方通行(アクセラレータ)が実験をやめると決めた以上、私たちの存在意義はなくなりました、とミサカは自分の置かれている状況を再認識します。ミサカ達はこれから何のために生きていけばよいのでしょうか? とミサカは自らの将来に疑問を抱きます」

「ふむ」

 

 どうやら、ミサカ6023号はなんで自分が救われたのかわかっていないらしいね。

 

「ミサカ6023号。あなたは今『何のために生きていけばよいのでしょうか?』って言ったけど、そんなことは他のみんなだってわかってないんだよ」

「みんなとは他のミサカ達のことでしょうか? とミサカは率直な疑問を口にします」

「違う違う。みんなっていうのは、私やこの町の住民たち、この星の住民と言い換えてもいいかもしれない人達のことなんだよ。ほとんどの人は自分が何のために生きてるのかなんて理解してないと思う。少なくとも私は自分が何のために生きているのかわからないんだよ」

 

 実際、私くらい年の人は自分の生きる意味や目的は理解してるのかもしれないけど。

 

「それにあなたが生まれてから一年もたってないよね? じゃあ生きる意味なんて分からなくて当然だよ」

 

 あんまり納得がいかないような顔だね。無表情だけど。

 

「生きる意味がどうしても欲しいなら、しばらくは生きる意味を探すこと自体を目的にして頑張ってみるのがいいと思うんだよ」

「わかりました、とミサカは妥協案としてそれを採用します。ですが……」

「ん?」

「生きる意味を見つけるのに協力してください、とミサカは生まれて初めての我儘をいいます」

 

 ふむ。もともとの存在意義を失ったのは私のせいだからかな?

 

「かわいい女の子の我儘なら仕方がないかも、協力してあげるんだよ」

 

 

「ああそうそう。あなたも協力してね、一方通行(アクセラレータ)

「あァ?」




 たくヲです。

 憑依禁書目録「私と友達になって罪を償ってよ!」

 夏休みの息抜き的投稿。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある不良と忍者戦士

 あの後、私は一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号を第七学区の病院まで行ったんだよ。

 

 第七学区の病院につれて行ったのは、カエルのお医者さんを頼るため。

 診断の結果、一方通行(アクセラレータ)は特に問題なかったし、ミサカ6023号や他の妹達(シスターズ)に関しても何とかしてくれるらしい。私の腕も一応見てもらったけど別に問題はなかった。

 何より、『冥土返し(ヘヴンキャンセラー)』とまで呼ばれる凄腕のお医者さんと知り合えたのは大きいかも。

 

 

 実験は一方通行(アクセラレータ)が実験の継続を拒否したことによって一時中止。一方通行(アクセラレータ)の気が変わった時に継続するという名目で20000号までの妹達(シスターズ)と制御のための『20001号』を造りだす、ということで話はまとまっている、って一方通行(アクセラレータ)が言ってたんだよ。

 実際は、アレイスターのプランに妹達(シスターズ)が必要だからやっているんだろうけどね。

 

 妹達(シスターズ)は寿命調整のために学園都市内外の協力機関に預けられるらしい。ここは原作どおりだね。

 

 問題は一方通行(アクセラレータ)を再び実験に参加させるために私に矛先が向く可能性があることかな?

 

 まあカエルのお医者さんと知り合うこともできたしプラスマイナスゼロってやつだね

 

 

 そして、もう3月になってしまったんだよ。これは7月28日に記憶を消されてしまう、禁書目録(インデックス)としてはとても困るんだよ。最悪、私の人格が消えてしまうかもしれないしね。その時までに手を打っておきたい、といっても何も思いつかないんだよ。念のため神裂火織やステイルの説得のために人間の脳に関する資料を集めておくくらいかな。

 

 記憶が消えると言えば、不自然に忘れていた記憶があったね。

 『絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画』についての記憶。

 今の私には『完全記憶能力』があるから大半のことを忘れることはできないはず。なのに、消えていた記憶。

 

 その原因について私がたてた仮説がいくつかあるんだよ。

 

 一つ目は私自身の勘違い。これは憑依転生ではなく、転生だったという説。

 私は原作の1年前のインデックスに憑依していたと思っていたけど、実際はこの世界にインデックスとして私が生まれていた。そして前世の記憶というものはこの世界の『記憶消去魔術』で消せるものではなかったから『前世の記憶』と『十万三千冊の魔導書の中身』だけを残して、この世界での記憶はすべて消されていたため私は憑依転生だと勘違いしていた

 でもこの説は限りなく低い。これだと『絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画』についての記憶だけが消えていて、さらにそれを思いだせたことに説明がつかないもんね。

 それに前世の記憶を魔術で消せなくても、見ることくらいはできそうだし、この世界の未来を知ってる私に魔導書図書館の役割をイギリス清教のトップが押し付けるわけがないからね。 

 

 

 二つ目はやっぱり憑依転生だったけど、時期だけが違ったという説。

 私がインデックスに憑依したのは原作の1年前だと思っていたけど、実際はもっと前。ただし魔導書図書館の役割を押し付けられた後に憑依した。その状態なら頭の中の『十万三千冊の魔導書の中身』を警戒して私の頭の中を魔術で覗くことはないはず。

 でも、これも一つ問題点があるんだよ。それは消えた記憶の説明がつかないってことだね。

 

 

 三つ目は私がうすぼんやりとしか『実験』の開始時期を覚えていなかったから、という説。

 実をいうと私は原作を新約7巻(当時出ていた最新刊)までしかもっていなかったからその後のことは知らないんだよ。しかもスピンオフの『超電磁砲』に関しては漫画を一巻も持ってなかった。アニメは全部見たんだけどね。二期放送の噂があったけど見る前に死んでしまって残念だったんだよ。

 話がそれたけど、原作において『実験』の始まった明確な日付が明かされたことはなかったから、そのせいで私自身の記憶が曖昧になっていた。そして完全記憶能力を得た時にはうすぼんやりとしかその記憶は残ってなかった。でも、『ミサカ6022号の遺体』を見たショックでそれを思いだした。というもの。

 可能性としては低くないと思うんだよ。禁書目録(インデックス)の完全記憶能力は見たものを風景のままに記憶できる能力のはずだからね、前世の記憶であり、それも曖昧でぼやけた記憶を、綺麗に思いだせる力ではない、と思う。そうでもなかったら原作のインデックスが携帯電話の操作を何度説明されても、つまり何度聞いても覚えられなかったことの説明がつかない。

 

 

 四つ目は『実験』のことを忘れないようにした行動が裏目にでた説。

 二つ目の説のように、魔導書図書館の役割を押し付けられた後のインデックスに憑依した私がぼんやりした『実験』の記憶を思い出すために紙か何かに書きだしていった。そのおかげで思いだすことはできたものの書きだしたせいで完全記憶能力によって『実験』については上書きで記憶されてしまった。そして、その年の記憶消去によって『実験』についての上書きされた記憶は完全に消失。残ったのは上書きされる前の『実験』に関する記憶が僅かだけだった。というもの。

 これはある程度、可能性はあるんじゃないかな。まあ三つ目の方が可能性はありそうだけど。

 

 

 いくつか仮説を挙げていったけど、あくまで今までのは私の想像、空想、妄想に過ぎない少なくとも今の私にはその理由を探ることっはできないしね。

 

 問題は消えている記憶が他にもあるかもしれないってことかな? 何も覚えてなかったら記憶喪失ってことで分かりやすいんだけど、こう一部だけ消えられるとわかりづらくていやだね。まあ、実際は全部消えた方がつらいんだろうけどね。

 

 

「何を考え事してんだよ、インデックス」

「うん? なんだ、はんぞうか」

「なんだとはなんだ」

 

 私がいたのは学園都市第七学区の公園。その私に話しかけてきたのは半蔵だった。その横には浜面仕上もいるんだよ。

 

 なんだ、とは言ったものの接近には気づいてたよ。このベンチはこの公園の中でも一番開けたところにあるからね。襲撃の危険を考慮しても最高の場所だと思うんだよ。まあ、平日の昼間だし人通りは少ないんだけどね。

 

「冗談なんだよ。それで、二人ともどうしたの?」

「いや、見つけたから声かけただけだ」

「つーかインデックスこそ、こんなとこでなにやってんだ?」

「もちろん、考え事をしながらのひなたぼっこだよ」

 

 『歩く教会』という魔術は不思議なもので、強力な熱は通さないのに、こういう心地よい温かさは通すんだよね。

 

「おいおい、インデックス! お前ひなたぼっこなんてキャラかよ」

「外見はともかく。喧嘩じゃ引くほど強いお前がひなたぼっことかさー」

「む。それは聞き捨てならないんだよ」

 

 引くほど強いと言っても私のはあくまで『歩く教会』に頼った戦い方だからね。素の状態なら二人よりも弱いに決まってるんだよ。

 

「だってお前の戦い方プロレス系だけどさ」

「基本的にデスマッチじゃん」

「うっ……」

「でも周りの奴らが引くような攻撃をしつつ、絶対相手が大怪我しないようにしてるけどな」

「そのことに気付いてない俺たちとなぐり合ってるやつらの目線がお前に対する恐怖に途中から変わってるし」

「うぐぐ……でも、それとこれとは話が別なんだよ! そうこんな晴れた春の日に、こんな日当たりのいいところにあるベンチに座ってたら、大体の人は気持ちよくなれる。春のひなたぼっこはそういうものなんだよ!」

 

 真剣なことを考えていたはずなのに、うっかり寝てしまいそうな魔力が春のひなたぼっこにはあると思うんだよ。

 

「うっそでー」

「嘘だと思うんならこのベンチに座ってみるといいんだよ! そして春の陽気の持つ魔力を思い知るといいかも!」

 

 

 

 

「いや、ホント悪かった」

「ああ、これはマジだわ」

 

 数十秒後、私の目の前には完全に気が抜けてる二人の姿が!

 

「ふっふっふ。はんぞうもしあげも思い知ったみたいなんだよ」

 

 何とも言えない達成感が私にこみ上げてくる。春のひなたぼっこは気持ちがいいっていう当たり前の事を教えただけなのに、中途半端に難しいゲームをクリアした時のようなすがすがしさがあるんだよ。

 

 しかし浜面仕上を下の名前だけで呼ぶと違和感がすごいんだよ。

 

 半蔵の電話の着信音が聞こえる。半蔵は携帯電話を取り出しその画面を見ると少し真面目な顔になって半蔵は立ち上がる。

 

「さて、しばらくここにいたいのはやまやまなんだが、ちょっと用事を思いだしたんでちょっと行ってくる」

 

ふむ、この感じはおそらく彼女かな?

 

「おう、俺はしばらくここにのこるよ」

 

 仕上はここに残るみたいだね。

 

 半蔵が視界から消えてから、少しするとがさがさと10メートルくらい離れたところにある木が揺れた。

 

「!?」

「やっぱりなんだよ」

 

 とりあえず、私はその木に向かって全力でタックルをする。『歩く教会』のおかげで反動で私の身体は傷つかないから思いっきりぶつかれるんだよ。

 

「ちょっ!? わわわ!?」

 

 上の方から驚いたような声が聞こえたので、すかさず見上げつつ声の真下に移動する。

 

 その瞬間、木から女の子が落ちてきた。

 

 私は『歩く教会』の防御力を利用して女の子をお姫様抱っこの態勢でキャッチする。

 

「よっと。怪我はない? くるわちゃん」

「へ? あ、はい。大丈夫です」

 

 私は振ってきた黄色ミニ浴衣をきた女の子……郭ちゃんを地面におろす。

 

「あいつ自分より体の大きい女の子をキャッチしやがった……どんなパワーしてんだ?」

 

 後ろから勘違いした仕上の声が聞こえるけど、ここはスルーで。

 

 この女の子は郭ちゃん。非常に露出が多い黄色浴衣ファッションの女の子であり、原作通りなら半蔵を追ってきたSHINOBIソルジャーだね。

 

 ちなみに私やスキルアウトのみんなは『半蔵を探している』ってことしか教えてもらってないんだよ。

 

「って! 落としたのはあなたじゃないですか!」

「こんな小さな女の子の体当たりで木から人が落ちてくるほど木が揺れるわけがないんだよ」

「うっ……」

 

 この程度で落下するようじゃ、郭ちゃんの忍者としての将来が心配なんだよ。

 

 少し落ち込んだような表情を浮かべていた郭ちゃんは何かを思いだしたように言う。

 

「そんなことより、半蔵様がどこに行ったか知りませんか?」

「えーと郭ちゃん、だっけ? 半蔵のヤツならついさっきまで一緒にいたんだけど、用事があるとかでどっか行っちまった」

「どこに行ったのかは聞いてないんだよ」

「くう、やっぱり感づかれましたか」

 

 半蔵は用事を思いだしたって言ってたけど、やっぱり郭ちゃんの接近に気づいていたんだね。

 

「つーか、なんでお前は半蔵を探してんだ?」

「……秘密です」

「あれだよ。きっと、はんぞうはジャパニーズニンジャで、くるわちゃんはそれを追ってきたクノイチなんだよ」

 

 さらっと、ばらしてみよう。原作の仕上は2ヶ月くらい後に時期に半蔵の正体を聞いていたけど、この時期は早まっても問題ないよね。私の転生で何かが変わっているかもしれないけど。

 

「んな馬鹿な……」

「そっ、そそそそうですよ!」

 

 郭ちゃんがものすごく動揺してる……。

 

「だとしたら、なにか? 半蔵の名字が実は服部だったりすんのか?」

「だったらおもしろいんだけどね。そう考えてみるとはんぞうの戦い方ってニンジャっぽいきがするんだよ」

「死角から一撃とかが基本だからなあ、あいつ。あれ? 半蔵忍者説が現実味を帯びてきてないか?」

「あはは、まさか私なんかの戯言で探れるほどニンジャの世界は甘くないと……」

「そ、そこまでです!」

 

 郭ちゃんが割り込んできた。

 

「そ、そこまで知られてしまった以上、生きて帰すわけにはいきません……」

「うそぉ!?」

「待っててください。私の秘密兵器で終わらせてあげます」

 

 これで半蔵忍者説は証明された感じかな?

 浴衣の袖から取り出した拳銃をこっちにむけて郭ちゃんは叫ぶ。

 

「お二人ともお覚悟をおおおおおおおおおお!!」

「えー」

「あーあ。まったく、くるわちゃんは」

「あれ?」

 

 思っていたような反応と違ったのか、郭ちゃんは目を丸くする。

 

「しあげはどう思う? このくるわちゃんの行動」

「がっかりだ……」

「だよねー。どうせならニンジュツとかニンポーとかシュリケンとか出してほしかったんだよ」

「え? え?」

「まったくだよ。どうせ消されるなら忍術とかで派手にやって欲しかったんだ! どうしてそんな他のヤツでも使えるような武器をつかってるんだよ! 人の夢を壊すんじゃねえ」

「拳銃使うんならニンジャである必要ないし、わざわざニンジャに持たせるものでもないかも。もっとニンジャらしい物が見たかったんだよ」

 

 私と仕上の言葉によってだんだん涙目になっていく郭ちゃん。かわいい。

 

「もう行こう、しあげ。河原で夕日を見て傷ついた心を癒すんだよ」

「まだ昼間だけどな……」

「まだお昼ご飯食べてないから、おごってくれるとうれしいな!」

「それが目的か!?」

「冗談だよ。しあげの作ってくれた偽装身分証のおかげでバイト代はあるからね」

「ちょ、ちょっと待ったああああああああああ!!」

 

 背を向けて歩き出した私たちに郭ちゃんが叫ぶ。

 

「どうしたのかな? 私たちはこれからおいしい物を食べて、夕日を見て、心の傷を癒すんだよ」

 

 見てみると、もう拳銃はしまっているみたいだね。

 

「と、特別に私の忍法を見せてあげます!」

「真っ先に拳銃に頼ったニンジャが何を言ってるのかな?」

「ほんとです! だからそんな憐れむような目をやめてください!」

 

 ふむ、仕方ないね。

 

「じゃあ、とりあえず、浜面氏はこっちに。インデックス氏はここで待っていてください」

 

 郭ちゃんは小さな森みたいになってるところに歩いていく。仕上がそれについていく。

 

 とりあえず、待つふりをしてついて行ってみようかな。

 

「で、なんで、こんなとこに移動したんだ? 忍法の秘密を守るためとかあんの?」

「それもありますけど、あんな開けた所じゃはずかしいですし」

 

 く、郭ちゃんが脱いだ! わかってたけど。黄色のミニ浴衣が地面に落ちる。浜面は思わず目を覆ったけど、たぶんしっかり隙間から見てるはず。

 

 それにしても、流石はくノ一。色仕掛けは基本ってことかな?

 

 大方、今のところ彼女いない歴=年齢であろう仕上を先に仕留めてから、私を撒くか倒すかしようと思ったんだろうね。

 

 おそらく郭ちゃんは私の戦う場面を見てないから仕方がないとはいっても、なめられたものだね。

 

 あ、隙だらけの仕上が殴られて倒れた。

 

 とりあえずとどめを刺されても嫌だから飛び出そうかな? 仕上は原作でもほぼ同じ状況になってたけどづやって生き延びたんだろうね?

 

「そこまでなんだよ!」

 

 木陰から飛び出して郭ちゃんに向かって走る。拳銃は浴衣といっしょに地面にあるから拾えないはずなんだよ。

 

「ッ!」

 

 私に気付いた郭ちゃんの手はすでに地面の浴衣に伸びている。ここは……。

 

禁書目録(インデックス)足甲片足蹴り(サッカーボールキック)!!」

 

 サッカーボールを蹴るように郭ちゃんの手を蹴り飛ばす。郭ちゃんが掴みかけていた拳銃がその勢いで浴衣ごと飛んでいった。

 

 一瞬怯んだ郭ちゃんをそのままの勢いで押し倒す。身動きが取れないように両腕を掴み、胸のあたりにまたがった。

 

「なにしてたのかな、くるわちゃん?」

「え、えっとそれは」

 

 あれだね。動揺が透けて見えるね。もともとそんな感じだけど。

 

「こんな森の中で下着姿で……変態さん?」

「ち、違います!」

「安心して。私はくるわちゃんがどんな趣味を持っていようと嫌いになったりしないんだよ……」

「だから違いますって!」

「でも、我慢できなくなったからって、男の人を気絶させておいて服を脱ぐのはやめた方がいいかも」

「あうう」

 

 これで反論できないはずなんだよ。

 

「……そうです!」

「あ、自分が変態だと認めるんだね」

「だから、違うっていってるじゃないですか! 浜面氏が二人きりになった途端襲いかかってきたんです!」

「それは嘘。浜面は私と二人きりでも襲ってこないような人だもん」

 

 何より一部始終見てたし。

 

「それはインデックス氏の身体に魅力が……」

「へえ」

 

 なかなかいい度胸かも。

 

「今の状況がわかってないようだね」

「あ、やば」

「本当に私の身体に魅力がないか……試してみる?」

 

 

 

 

 

 その後、『歩く教会』の防御力に任せて郭ちゃんをひっくり返してうつぶせにし、禁書目録(インデックス)駱駝固め(キャメルクラッチ)をかけたらあっさりギブアップしてしまった。ニンジャだったら関節外して抜けるくらいはできたんじゃないかな? でもこの技から抜けようとすると首の関節を外すことになるんじゃ?

 

 まじめな話、もうちょっとアレな技をかけてもよかったんだけど、ギャラリーがいなかったから使う意味も薄そうだったからやめておいたんだよ。

 

 操祈にやってるおしおきみたいなのは、利徳が嫌いそうだから外ではできないしね。合意の上ならともかく。

 

「……うう、ここは?」

「あ、目が覚めたんだね」

 

 仕上が目覚めたみたいだね。意外と早かったかも。

 

「えっと何があったんだ?」

 

 記憶喪失かも? これはあることないこと吹き込んで。

 

「そ、そうでした。お二人に伝えねばならないことがあるのでした」

 

 うん? 郭ちゃんそんなに慌ててどうしたのかな?

 

 せっかく仕上に記憶がないのに私に再びニンジャについて吹き込まれても困ると思ったのかも?

 

「ここだけの話しなんですけど、模範囚とかで捕まっていたスキルアウトが出てきたみたいですよ。結構、強いらしいですよ」

「初耳だな」

「で、名前とかはわかってるのかな?」

 

 まあ、わざわざニンジャの郭ちゃんがわざわざ仕入れたほどの情報なんだから、それなりに有名な人だと思うけど。

 

「それがですね。黒妻綿流(くろづまわたる)という背中に蜘蛛の入れ墨を入れた男だそうです」

 

 ……だれ?




 たくヲです。

 忍者回。

 タイトルは『とあるふりょうとニンジャソルジャー』と読みます。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある決闘の内臓潰し

「ふむ……黒妻綿流か」

 

 私と浜面仕上は食事をした後、第七学区の武装無能力者集団(スキルアウト)の本拠地で、駒場利徳と戻ってきていた半蔵と話していた。

 

 理由はもちろん、さっき郭ちゃんに聞いた情報を利徳に伝えるためだね。

 

「久しぶりに聞く名だ……」

「知っているのか? リーダー?」

 

 仕上がどこかで聞いたことがあるような台詞を言う。

 

「ああ……直接会ったことはないがな」

「2年前、ビッグスパイダーとか言うそれなりに有名なスキルアウトがあってな黒妻はそこをまとめてた。浜面やインデックスは知らなくてもおかしくはないけどな」

「どういうこと?」

「奴は2年前から行方不明でな……。まさか捕まっていたとは思わなかったが」

 

 やっぱり聞いたことがない。そんなに有名人なら私は原作知識で知ってそうな物なんだけどね。

 

「で、どうするの?」

「どういうことだ? インデックス」

「その黒妻綿流を引き入れるのか、それとも放っとくのか、だよ。今の今までアンチスキルに捕まってたっていた

ってことは、かなり衰えてるんじゃないかな?」

「いや、郭ちゃん曰く模範囚らしいし、以外と鍛えているかもしれねえぞ?」

「しあげ。模範囚だからこそ、捕まっている間に喧嘩もしてないだろうし、実戦勘は鈍ってると思うんだよ」

 

 でも有名な人なら引き入れるだけでもメンバーを増やせるだろうし、利徳が実行しているスキルアウト統一に近づけるとは思うけどね。

 

「まあ、引き入れるのは確定だな。黒妻がまとめていたスキルアウト、ビッグスパイダーは猛者揃い。簡単にはいかねえだろうけどな」

 

 

 

 

 その後、私と利徳は横須賀を呼び出して、黒妻綿流捜索に乗り出した。

 

「とは言ったもののどうするのかな? この広い学園都市で、たった一人を探すのは至難のわざだよ?」

「おいおい、インデックス。何のためにこの内臓潰しの横須賀サマが来てやったと思ってるんだ?」

「なんでだ……?」

 

 利徳が聞き返す。

 

「おい! お前らまさか何も考えずに俺を呼んだのか!?」

「うん」

 

 それを聞いてギャグ漫画のようにずっこける横須賀。アレって痛くないのかな?

 

「はあ……。なにを隠そうこの俺はな。黒妻綿流とは何度か喧嘩したことがある」

「何戦何勝?」

「……8戦1勝」

 

 それは……。なんというか相当な猛者だね。

 

「とにかく! あいつの行きそうなところは、一つだけ心当たりがある」

「……それはどこだ」

「ほらあそこだ」

 

 ムサシノ牛乳の直売所?

 

「黒妻綿流といえばムサシノ牛乳だ。あいつは喧嘩する前にいつもあれを飲んでいる。喧嘩の時のすさまじい強さを見てムサシノ牛乳にドーピング効果でもあるのかと思ったほどだ」

「で、どうするの? 待ち伏せするのかな?」

「そうなるな」

 

 このまま、取引現場の情報を得た張り込み警察よろしく待ち伏せるのはいいけど、今はまだ三月。建物の陰に隠れているのはまだ少し寒いんじゃないかな?

 

 ふむ。

 

「ちょっと、直売所の中でなんか買ってくるね。あったかいカフェオレ的なのが売っているかも」

「俺も、行こうか?」

「いや、二人は待ってて」

 

 身体が大きい二人は目立つからね。

 

 

 お店の中に入ると先客が一人。皮ジャンの男が中にあるベンチに座って牛乳を飲んでいた。

 

 ってあれ?

 

「思いだした」

 

 この人は……まさか。

 

「黒妻、綿流」

「ああん? なんだ、お前俺のことを知ってんのか?」

 

 そうだ、この人は黒妻綿流。アニメの『超電磁砲』に出てた人だ。

 

 どうして忘れていたんだろう? あんな私好みのエピソードを忘れるはずがないのに。『絶対能力(レベル6)進化(シフト)』計画の始まる時期について忘れていたこととなにか関係があるのかな? 私は『禁書目録』の新約7巻までしか持っていなかったはず(・・)で、『超電磁砲』のマンガは一巻も持っていなかったけどアニメ一期は全部みたはず(・・)。なによりこの記憶が間違っているとも思えないんだよ。

 

 とはいえ、こんなことについて今考えても仕方がないし、目の前のことに集中するんだよ。

 

「うん。有名人だからね」

「おいおい、あれから2年たったってのにまだ覚えてるやつがいんのか?」

 

 二人を待たせるのも悪いから何か買っていかないと。

 

 幸いバイトのお金もあるしね。

 

「ちょっと注文してくるまで待ってもらっていいかな?」

「まあ、せっかく俺を知ってるやつに会えたんだ。いいぜ」

 

 うん黒妻にも同意をもらったし、行こうか。仮に逃げても張り込んでる二人が何とかするだろうし。

 

「ということでおばさん。なんか温かい物ないかな?」

「特製カフェオレなんてどうだい?」

「じゃあそれ三つ」

「はいよ」

 

 すぐに実物が出てくるよくわからない容器に入ったカフェオレが三つでてくる。私が持てそうにないのを見越してか、袋に入れてくれた。

 

 なお学園都市の袋はただのビニール袋ではなく環境に配慮したものらしい。

 

「待たせてごめんね。じゃあ表にでようか?」

「俺の名前知ってるって聞いた時からわかってたけど、やっぱりか」

「外には私の友達が二人いるんだよ。まあ、不意打ちとかはしないから安心してね」

 

 

 外に出ると利徳と横須賀が飛び出してきた。

 

「お前は黒妻!!」

「女を人質にとるとは……!」

「ストップ!」

 

 なにやら勘違いしているようなので止めておかないとね。

 

「とりあえず二人はこれでも飲んで落ち着いてね」

 

 さっき買った謎容器に入ったあったかいカフェオレを二人に投げ渡す。

 

「さて、三人ともあっちの河川敷まで行こうか?」

 

 

 

 

 以前、利徳と横須賀が喧嘩した第七学区の河川敷まできたんだよ。

 

 ここまで、ほぼ無言。ピリピリとした雰囲気だった。

 

 なお、カフェオレはここに来るまでに全部飲みきってしまったんだよ。

 

 私の視界の中では横須賀と黒妻が対峙している。もはや伝統ともいえる一対一の決闘をするからだね。

 

 この決闘で横須賀が負けたら私たちはもう黒妻とその周囲に関わらない。もし横須賀が勝てば黒妻は利徳の仲間になる。ということで二人とも利徳を含めれば三人とも同意した。

 

 ルールとしては武器なしのタイマン。

 

 こういう場合は一応リーダーである利徳が決闘をするべきなんだろうけど、横須賀の要望でこうなったんだよ。

 

 横須賀曰く「駒場が行くまでもない。それに俺は奴への借りを返す」だそうだ。

 

「黒妻。 俺の顔を忘れたとは言わせんぞ」

「誰だ?」

「ふっ。一度倒した者の名は覚えてはいないか」

 

 前にあった時から最低2年過ぎてるはずだし仕方がないと言えば仕方がないけどね。

 

「なら、もう一度だけ名乗ろう。俺は内臓潰しの横須賀。2年前の借りを返させてもらうぞ」

 

 そう言って横須賀が構える。それを見てか薄く笑って黒妻が構えた。

 

 

 最初に動いたのは横須賀。

 

 両腕を顔の前に構え、前傾姿勢で黒妻に向かって突っ込んでいく。

 

 その巨体に見合わない高速の突進。

 

 その勢いを維持したまま右拳でのボディブローを狙う。

 

「ッ!」

 

 黒妻は右拳のさらに外側、横須賀の右側に攻撃を避けつつ右拳を振るっていた。

 

 カウンターで横須賀の顔面に拳が衝突する。

 

 でも

 

「そんなもんか?」

 

 横須賀は全くひるまず、その場で回転するように左拳を振るう。

 

 横須賀の肝臓打ち(リバーブロー)が黒妻の右脇腹に突き刺さる。

 

 黒妻の身体が宙に浮き、大きく吹き飛ばされる。

 

 流石だね。

 

 2か月前の時点で横須賀は軍覇のすごいパーンチを12発まで受けられるだけの体力を持っていたからこそ、黒妻のカウンターを耐えられたのかも。もちろん横須賀もノーダメージとはいかないかったみたいだけどね。

 

 黒妻が右脇腹を抑えながら立ち上がる。

 

「まだ、立てるか」

「もうちっと、気合い入れて、かかってこねえと、俺は倒せねえぞ!!」

 

 黒妻が横須賀に突っ込んでいく。

 

 横須賀はその場で両拳を顔の前で構え、突っ込んでくる黒妻を見据える。

 

 黒妻はそのまま殴りかかる。狙いはボディ。

 

 両拳のガードのない横須賀のボディに右のストレートを叩きつけようとする。

 

 その右拳が届くよりも先に、黒妻の顔面に横須賀の右(ジャブ)が突き刺さる。

 

 黒妻の足が止まる。ストレートを放った右腕は伸びきっていた。結果、右半身はノーガードになる。

 

 そこに、横須賀の肝臓打ち(リバーブロー)が再び突き刺さる。

 

 衝撃が黒妻の背中にまで走り抜けたような錯覚。バキバキという何かが折れる音。

 

「……勝負あり、だな」

 

 利徳がそう呟くのと黒妻が倒れるのはほぼ同じだったんだよ。

 

 さて、とりあえず病院に運ばないとね。

 

 

 

 

「ヤンチャをするのは若者の特権とはいえ、君たちはもう少し加減を知るべきだと思うね?」

「申し訳ないんだよ」

「「……」」

 

 私と利徳と横須賀は第七学区の病院でカエルのお医者さんに説教を受けていた。

 

「君たちの連れてきたあの少年。肋骨が何本か折れていたよ。命には問題はないけど、普通なら全治1、2か月って所だね?」

「普通の話が聞きたいわけじゃないんだよ。あなたの所でなら何日で退院できるのかな」

「三日、だね」

 

 ……流石は死んでさえいなければどんな人でも治せると評判の『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』だね。

 

「それならいいんだよ」

「そこの彼、横須賀くんだったね? 君もそうだけどもう少し体を大切にしたほうがいいね」

 

 顔に包帯を巻いた横須賀がうつむく。黒妻に殴られた時のダメージが効いてきたのか、腫れてきてしまったからついでに処置してもらったんだよ。

 

「君たちの気持ちも解らなくもないけど、能力がないならないでできることはいっぱいあるものだよ?」

「……耳が痛い話だな」

「まあ、そうかもしれないんだよ。でも、やっぱり誰かが動かなくちゃいけないことだってあるかも」

「というと?」

「学園都市の平和は結局、表面的なものってことだね。無能力者を見下して攻撃する能力者も多いし、能力者に逆恨みして攻撃する無能力者だっているんだよ。前者は私たちがどう頑張ってもなくならないし、それを知ったところで学園都市の上層部は何もしないだろうけどね」

 

 悲しいことだけどね。

 

「でも後者なら止められる。能力者を無差別に襲うような無能力者を止めることはきっと、無能力者にしかできないことなんだよ。それに」

 

 そこで私は一度言葉を止める。

 

「大人たちが動かないのなら子供が動くしかないんだよ」

「……君たちの決意は固いようだね」

 

 まじめな調子でカエルのお医者さんは言う。

 

「ならもう止めない。だけど、患者がいるときは生きているうちに連れてくるようにたのむよ。流石に死んだ人間までは治せないからね?」

「ありがとう」

 

 どうやら認めてくれたみたいなんだよ。まあこの人はこの町の悪いところをたくさん見てきたはずだし、それを止められなかった負い目みたいなのもわずかにあったのかも。能力者や無能力者による殺人もあっただろうし。

 

「じゃあ、二人は先に黒妻の方に行っていて。私はもう一つこのお医者さんと話があるから」

「……聞かれたくないことか?」

「そうだね」

「なら仕方ない。いくぞ駒場」

 

 二人が部屋から出て行ったのを確認してから再び話し始める。

 

「あの子たちはどうなっているのかな?」

「あの子たち、というのは『妹達(シスターズ)』のことで間違いないね?」

「そうなんだよ」

「まあ、経過は順調といったところだね。ある程度彼女たち一人一人にも変化が表れているようだね?」

 

 それならよかったんだよ。まあ、一人一人の変化くらいなら私も知ってるんだけど。けっこうお見舞いに来ているし。

 

「もうそろそろ外に出してもいいとは思うんだけどね? でも彼女たちのオリジナルには彼女たちの存在は知られていないんだろう? そんな状態で外に出して、オリジナルに会ってしまえば大変なことになるのは目に見えている。そのあたりも何とかしないといけないね」

「むう」

 

 確かに、原作と違ってこっちの御坂美琴は『妹達(シスターズ)』の存在を知らないはず。そんな状態で外に出しちゃったら、御坂美琴が『妹達(シスターズ)』を拒絶して酷いことになりそうなんだよ。

 

 そっちばっかりはデリケートな問題だからね。まさか、実験を原作より早く止めた弊害がこんなところででるとは思わなかったんだよ。

 

 とりあえず『一方通行(アクセラレータ)』ともこの問題について話し合わないといけないかも。




 たくヲです。

 決闘回。

 内臓潰しの横須賀の動きは某ボクシング漫画の主人公をイメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。体の大きさはけた違いですが。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある少女と一方通行

 黒妻綿流を利徳のスキルアウトに引き入れた翌日。

 

 8時半という少し遅い時間に私は朝食を食べていた。まあ、御坂美琴と鉢合わせしないためには仕方がないんだけど。

 

 パンを食べながら昨日のことを考える。

 

 私は黒妻綿流というキャラクターを忘れていた。しかし、黒妻本人を見た時、そういうキャラクターがいることを思いだすことができた。

 

 このことから、完全記憶能力を持っていない普通の脳のように、忘れていたと思っていた記憶は脳の奥底に眠っていて、忘れていた対象を直接見たことで思いだすことができた、ということがわかるんだよ。

 

 問題は脳の奥底に眠っている記憶の内容とその量を私自身は自覚できていないことだね。

 

 今のままだと、私が何か原作について忘れていたとしても、それを忘れていたことに気づくために原作に近いシーンを直接見る(・・)必要がある。

 

 じゃあどんな法則をもって忘れているのか、について考えようかな。

 

 とはいっても私の原作知識喪失についての前例は『一方通行の実験の開始時期』と『黒妻綿流というキャラクターについて』の所二つしかないんだよ。

 

『一方通行の実験の開始時期』についての考えると、おかしなところが二つあるんだよ。

 

 一つは実験の存在そのものについての原作知識は消えていなかったこと。実験そのものは私の記憶にあったし、妹達(シスターズ)の存在だって知ってた。裏にアレイスターのプランがあることも覚えている。『一方通行の実験の開始時期』についての記憶だけがすっぽりと消えているんだよ。

 

 もう一つは実験の開始時期の大体の時期をどうして私が知っていたのかということ。そもそも原作『禁書目録』『新約』『アニメ超電磁砲一期』で一方通行の実験の始まった時間と実験番号が表記されたのは、ミサカ10031号とミサカ10032号(御坂妹)のものだけ。その二つの比較だけでは実験と実験の間がどれくらい空いているのかはわからないはず。

 

 でも、私はミサカ6022号の死体を見た時にどれくらいの時期に実験を始めたのかを思いだした。じゃあ、私には原作『禁書目録』と『新約』と『アニメ超電磁砲一期』以外の原作知識があった可能性があるんだよ。さらに付け加えるなら『禁書目録』のアニメとそのホームページは一期二期ともに見ていたはずなんだよ。はずっていうのはもう一方の前例のせいで自信がないからだね。

 

 『黒妻綿流というキャラクターについて』もおかしなことがあるんだよ。

 

 それは黒妻綿流というキャラクターが『アニメ超電磁砲一期』に登場していたということ。

 

 私は『アニメ超電磁砲一期』は全話見たことがある。つまり、それに出ていた黒妻綿流について知っていないことがおかしいんだよ。

 

 『アニメ超電磁砲一期』の内容は『幻想御手(レベルアッパー)』をめぐるものだったということは覚えているし、重要人物の木山春生についても覚えているし、その行動の理由も覚えている。AIMバーストの記憶だってある。なのに、なぜ記憶から黒妻綿流についてだけが消えているのかな?

 

 とここまで考えたのはいいけど、やっぱりが法則を掴むための前例が足りないね。もう少し情報が必要かも。

 

「考え事している所悪いんだけどなー」

「どうしたのかな? まいか? 私はまだ食事中だからどくのは無理なんだよ」

 

 いつの間にか隣に土御門舞夏が座っていたんだよ。

 

「それは見ればわかるんだけどなー。そんな大量のパンとジャムの大量消費はどうかと思うぞー」

「だってこのパンとジャムがおいしいのが悪いんだよ」

「あたり前だろー。なにせ、この私の手作りだからなー」

 

 

 私はその言葉を聞きながら、13個目のパンにジャムを縫って口に運ぶ。

 

「なるほど。相変わらずすごいね」

 

 さて、あと二つほど食べたら出かけようかな。

 

 

 

 

 常盤台中学の学生寮を出た、私が行こうとしたのは一方通行(アクセラレータ)が住んでいる学生寮。

 

 理由は、昨日のカエルのお医者さんとの話について相談するためなんだよ。

 

 クローンである妹達(シスターズ)の存在をオリジナルである御坂美琴は知らない。その存在を知らせるかどうか。知らせるとしたらどうやって知らせるのか。

 

 こういう問題に関しては私一人じゃ答えは出そうにないからね。

 

 でも、そこに向かう必要はたった今なくなってしまった。

 

「誘拐?」

「……違ェよ」

 

 まさか、途中で一方通行とばったり会うなんて想像してなかったんだよ。

 

「あなたはミサカ達を助けてくれた人だよねって、ミサカはミサカは確認してみたり」

 

 しかも、わけがわからないことにミサカ20001号、通称『打ち止め(ラストオーダー)』を連れていた。

 

 打ち止め(ラストオーダー)は御坂美琴のクローン、『妹達(シスターズ)』の20001体目のクローンだね。『妹達(シスターズ)』が暴走したり、学園都市に対しての攻撃時に強制命令を行うための司令塔、『最終信号』の役割を持っていたはずなんだよ。

 

 この場における二つの問題は、原作で8月に登場する彼女がどうしてここにいるのかということ、外見小学生の女の子を一方通行が連れていることなんだけど。

 

「一方通行。あなたがこんな人だったなんて思わなかったんだよ!」

「だから、違ェって言ってんだろうが!」

「あれ、もしかして私のことは無視なの、ってミサカはミサカは涙目になってみたり」

 

 なんかよくわからないことになりそうだから、からかうのは止めにしようかな。

 

「まあ、冗談はここまでにして。どうして毛布一枚の女の子を外に連れまわしているのかな?」

「勘違いすンじゃねェ。連れまわしてるンじゃなくて、ついてきてるだけだ」

「やっとミサカのことが話題の中心になったよバンザーイ、ってミサカはミサカは片手を大きく振り上げてみたり」

 

 そう言った打ち止め(ラストオーダー)が右腕を大きく振り上げる。

 

 纏っている毛布は左手で押さえているとはいっても非常に危うい物があるね。服を仕入れる必要があるかも。

 

「とりあえずご飯の前に服屋にゴーなんだよ」

「あァ? なンでそンなとこに俺が」

「このままそこの彼女がついてきたとして、少女誘拐犯と間違われて余計な争いが起こるのは好ましくないんだよ」

 

 私が歩き始めると渋々といった感じで一方通行が、笑顔で打ち止め(ラストオーダー)がついてくる。

 

「で、あなたはだれ?」

 

 とりあえず聞いておかないと不審に思われそうだし、聞いておかないとね。

 

「ミサカのシリアルナンバーは20001号で妹達(シスターズ)の最終ロットとして作られコードは『打ち止め(ラストオーダー)』、ってミサカはミサカは一息に説明してみたり」

 

 本来、彼女が作られたのはもっと後になるはずだけど……描写がなかっただけで『妹達(シスターズ)』を管理するためにもっと早くからいたのかな?

 

「じゃあ、打ち止め(ラストオーダー)はなんでこんなところにいるの?」

「なんでか製造途中で実験所から放り出されちゃってとりあえず実験の関係者の一方通行を頼ることにしたのだ、ってミサカはミサカは自分の境遇を説明してみる」

 

 この感じだと、一方通行に出会うまでの経緯は原作通りとみていいかも。

 

「となると実験所に早くいかないといけないかも。一方通行。心当たりはない?」

「あァ。一つだけある」

「じゃあ早く服買って実験所に向かうんだよ」

「その前にご飯が食べたいな、ってミサカはミサカはかわいくお願いしてみたり」

 

 これは妹達(シスターズ)についての相談は後回しにせざるを得ないかも。

 

 

 

 

 

 近くに会った店で打ち止め(ラストオーダー)の服を買った私たちはファミレスにいた。

 

 随分と早い時間から開いているものだと思うけれど、学園都市だから仕方がないんだよ。

 

「「いただきます」」

 

 私と打ち止め(ラストオーダー)が同時に言って食べ始める。

 

 打ち止め(ラストオーダー)は小学生向けのセットを、私は抹茶パフェをだ。

 

 一方通行は無言でステーキを食べ始める。

 

「朝からステーキっていうのはお腹は大丈夫なの?」

「朝からパフェ食ってる奴に言われたくわねェなァ」

「まあ、デザートは別腹だからね」

 

 別にお腹がすいたわけではないけど、二人が食べてるのに自分は食べていないのは少しさびしかったからね。

 

「さて、どう思うのかな? 一方通行」

「あン? 何のことだ?」

打ち止め(ラストオーダー)についてだよ」

 

 原作では天井亜雄という科学者が打ち止め(ラストオーダー)にウイルスを仕込んだが逃げられてしまったことで、研究所から脱出していた。

 

 なら今の打ち止め(ラストオーダー)が一方通行を頼ったのも、同じような原因があるはず。

 

「どうして研究者たちは打ち止め(ラストオーダー)を外に出したのか。そもそも、研究者が打ち止め(ラストオーダー)を外に出したとして、その場合は打ち止め(ラストオーダー)側から研究者に接触できないのはおかしいよね」

「……誰かが逃がしたってのか?」

「もしくは、打ち止め(ラストオーダー)が無意識のうちに何者かから逃げてきたのか、だね」

 

 食べ続けている打ち止め(ラストオーダー)に聞く。

 

打ち止め(ラストオーダー)。他の妹達(シスターズ)の間には情報は残ってないの?」

 

 妹達(シスターズ)は同じ御坂美琴のクローンであり脳波が限りなく近い事と電撃能力を利用して全妹達(シスターズ)の間でミサカネットワークというものを構築している。

 

 なら打ち止め(ラストオーダー)の脱出時の記録が残っていてもおかしくないはず。原作の打ち止め(ラストオーダー)は何かあった時のためにミサカネットワーク上に記憶のバックアップをとっていたはずだからね。

 

「残念だけど気が付いたときには研究所の外にいたからミサカネットワークにも記憶は残ってないの、ってミサカはミサカは悲しいお知らせをしてみる」

「なら研究所に行くしかないね」

 

 話しているうちに抹茶パフェは食べつくしてしまったんだよ。

 

「じゃあ、もう一つ頼もうかな」

「あ、ミサカがそれ押したい! ってミサカはミサ……」

 

 そこまで言ったところで、打ち止め(ラストオーダー)がバタリとテーブルの上に突っ伏してしまった。

 

 一方通行はそれを見て動きを一瞬だけ止める。

 

「……一方通行。あなたが食べているソレ全部頂戴」

「あァ? なンで……」

「のんびり食べている場合じゃなくなったみたいだからね」

 

 そう、のんびりしている場合じゃない。打ち止め(ラストオーダー)こうなったっていうことは、打ち止め(ラストオーダー)の頭の中には妹達(シスターズ)に強制命令するウイルスが入っているはずなんだよ。

 

打ち止め(ラストオーダー)調子はどう?」

「あんまりよくないかも、ってミサカはミサカは曖昧な返事を返してみる」

「残ったご飯もらうけど」

「……いいよ、ってミサカはミサカは許可してみたり」

「一方通行。1分だけ待ってね。全部食べちゃうから」




 たくヲです。

 新キャラとご飯を残さないインデックスさん回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。 


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とある友人の一方通行

 ファミレスから研究所まではまあまあの距離があった。

 

 でも、たどり着くまでさほど時間はかからなかったんだよ。

 今までの学園都市生活で私は体力がついていたし、一方通行は能力でどうとでもなるからね。

 

 打ち止め(ラストオーダー)を肩に担いでいる一方通行(アクセラレータ)についていくように研究所の中を歩く。

 

「これはなんというか……」

「たいしたモンじゃァねェだろ、これぐらい」

 

 私たちの歩いている通路。そこから少し横を向けば大量の機械が並んでいるんだよ。

 

 電気の無駄遣いかも。まあ、学園都市の発電は風力だし問題ないのかな?

 

「ここだ」

 

 立ち止まったのはひとつの部屋の前。

 

 一方通行が自動ドアについている網膜スキャナに一方通行が読み取らせると、ピーという電子音と共に自動ドアが開いた。

 

 中には一人の女の人。

 

 その人は手元にあるデータ用紙をじっと見つめ、ところどころ赤ペンで線を引いている。

 

 いきなり入ってきた私たちに気がついてないっぽいね。

 

 もし私たちがこの研究所と無関係だったらどうするつもりだったんだろうね。学園都市の人はちょっと技術を過信しすぎている気がするんだよ。

 

「オイ、芳川」

「……あら、一方通行。おかえりなさい」

 

 こっちに気付いた。

 

 芳川桔梗、といえば原作でもたびたび登場した科学者だった。とはいっても、科学者だったのは初期登場時だけで、ほとんどのシーンでは無職だったけどね。『一方通行の実験』に関わった科学者の一人のはずだね。

 

 あ、芳川がなんかこっちを見てる。

 

「ちょっと一方通行? 実験と無関係の人間を連れ込むなんて」

 

 このままだと面倒なことになりそうなんだよ。

 

「無関係ではないんだよ」

 

 面倒なことはやっぱり回避したいし、今は打ち止め(ラストオーダー)のことをどうにかする交渉をする必要がある。

 

「私の名前は禁書目録(インデックス)っていうんだよ。見ての通り一方通行の友達(・・)。偶然そこの彼女(ラストオーダー)が倒れた所に居合わせたから、ここまでついてきたんだよ」

 

 横目で確認した打ち止め(ラストオーダー)はぐったりとして動かない。

 

「安心して。私はここの実験に関しては全部知っているし、無関係な人を巻き込むつもりもないんだよ」

「……わかったわ。警備は呼ばないであげる」

「ありがとう」

 

 ここでが学園都市の闇側の警備を呼ばれるとちょっと面倒なことになっただろうし、助かったんだよ。

 

「今、打ち止め(ラストオーダー)の裏で何が起こっているのかは知りたいけど、彼女を治すのが先だよね」

「一方通行。とりあえず隣の施設までその子を運んでちょうだい」

「ここじゃだめなのかな?」

打ち止め(ラストオーダー)の脳にデータを入力するための学習装置(テスタメント)本体は、隣の施設にしかないのよ。私はここで、学習装置(テスタメント)のデータを準備をしてから行くから、待ってなさい」

 

 

 

 

 

 研究所の真横の建物に入ると、ガラスで隔てられた大部屋に培養器がズラリと並んでいた。

 

 横のパスワード式自動ドアから中に入る。

 

「どれに入れればいいのかな」

「この型の奴ならどれに放り込ンでも問題ねェだろ」

 

 そう言った一方通行は自動ドアから10メートルほどの場所にある培養器の前で立ち止まり打ち止め(ラストオーダー)を降ろす。

 

 私はとりあえず、打ち止め(ラストオーダー)の来ていた服を脱がして、彼女を培養器の中に入れた。

 

「一方通行」

「なンだ?」

「どう思った?」

「ソイツは打ち止め(こいつ)が外に出ていたコトについてかァ?」

「いや、違うんだよ」

 

 打ち止め(ラストオーダー)が喋らない今なら聞くことはできる。

 

打ち止め(ラストオーダー)があなたを頼ってきた時、あなたはどう思ったの?」

「あァ? そりゃァ、俺のやってきたことを知ってて自分からやってくるなんてどォいう神経してンのかとは思うけどよォ」

「確かにそういう疑問が出るのも理解できるけどね。でも私が聞きたいのはそこじゃないんだよ」

「あン?」

「あなたは打ち止め(ラストオーダー)に頼られてから、打ち止め(彼女)の言うことを拒否したりすることはあっても、を拒絶することはなかったはずなんだよ。実際、打ち止め(ラストオーダー)が倒れてからも打ち止め(彼女)をここまで運んできたくれた。それはどうして? 別に私に言われたからとかじゃないはずなんだよ」

「……」

打ち止め(ラストオーダー)に対してどんな疑問を覚えたのか、じゃないんだよ。自分の手によって殺した妹達(シスターズ)の一人である打ち止め(ラストオーダー)の行動や表情、そして会話をしたことが、あなたの心にどう響いたのかを聞きたいんだよ」

 

 私の知っている一方通行と打ち止め(ラストオーダー)の出会いはあくまで原作のものであってこの世界のものではないからね。

 

 でも打ち止め(ラストオーダー)と出会った一方通行が彼女を拒絶していないなら、その気持ちを自覚することはきっと一方通行の罪を償うための第一歩になるはずなんだよ。

 

 でも答えを聞く前に、入り口の自動ドアが開いて、芳川桔梗が入ってきたんだよ。その手には打ち止め(ラストオーダー)の人格データが入っているはずのデータスティックがある。

 

「待たせたわね」

 

 芳川は打ち止め(ラストオーダー)を入れた横の機械を操作する。

 

「作業しながらでいいんだけど、打ち止め(ラストオーダー)が倒れたのはどうしてかなんでかわかる?」

「簡潔に言うわね。倒れたのは彼女の身体の調整がまだ不完全だったからよ。そしてそれとは別に、彼女は頭にウイルスを入力されているわ。その内容は『|妹達による人間に対しての無差別攻撃』。それが発動したら学園都市外の協力機関にいる『妹達(シスターズ)』による攻撃が始まって、学園都市に対する信用はガタ落ちどころではないでしょうね」

 

 ここで、芳川はいったん言葉を区切る。

 

「あなたたたちが打ち止め(ラストオーダー)を連れてきてくれたのは幸運だったわ。どうやら私たち研究者から逃げるプログラムも入力されているみたいだから」

 

 ふむ、おおよそ原作通りかな?

 

 打ち止め(ラストオーダー)の入った培養器の中が謎の液体で満ちる。

 

「これで打ち止め(ラストオーダー)自身は問題はないはずよ」

 

 どうやらこの謎液体が入っているだけで、ある程度打ち止め(ラストオーダー)の症状は抑えられるらしい。羊水のようなものを科学的につくりあげたのかな? 科学の力ってすごいんだよ。

 

「すぐに、学習装置(テスタメント)で人格のウイルスを消すわ」

「あれ、ウイルスっていうとワクチン見たいのがいると思うんだけど」

「それだと今回みたいな緊急の問題に対応できないから、どうしようもない場合は全ての人格を上書き消去するようになっているわ」

 

 この子の負担を考えるとあまりしたくないんだけどね、と芳川は小さくつぶやく。

 

 このまま何事もなく終わりそうかも。

 

 

 そう思った瞬間、自動ドアが開く。

 

 おかしい。隣の研究所には芳川以外いなかったはずだから、他の研究者がここに入ってくる可能性は至って低いはず。ならいったい誰が?

 

 入ってきたのは5人の男だった。その中の一人、白衣を着て首から方位磁針をぶら下げた男を見た芳川が声を上げる。

 

「天井亜雄!?」

「芳川桔梗か。どうやらありがたいことに私が打ち止め(ラストオーダー)の調整を行う必要はなくなったようだな」

 

 でも、問題は残りの四人。その銃を持った男たちはフードのようなものがついたローブを着ていた。ローブの色は黄が3人、緑が1人。天井の右前方に緑ローブの男、左前方に黄ローブの男3人が立っている。

 

 そう、まるでその姿は魔術師のようだった。

 

 天井がその緑ローブの男に小さく何かを言う。

 

切り裂け(TU)

 

 直後、緑のローブの男の口元が動いた瞬間、背を向けていた機械が音を発する。

 

 機械が完全に停止する。

 

 緑のローブの男の地属性魔術で地面の下のコードを切られたんだろうね。しかも、天井の指示で行ったとするなら、おそらく。

 

「ッチ!」

 

 舌打ちをした一方通行がベクトルを操作して敵に向かって駆け出そうとする。

 

切り刻め(CAE)!」

 

 それよりも早く詠唱を終えた黄色ローブの3人の手元から、全く同時に風の刃が発射される。

 

 三つの風の刃が一つになって、一方通行に衝突。

 

 一方通行に触れた風の刃が虹色の光になって真横に逸れ、研究所の壁を粉砕する。同時に一方通行が足を止め、ベクトル操作によって後方に飛び退く。

 

 歩く教会で破片をガードしたからよかったものの、そうでなかったら芳川は危なかったんだよ。

 

「……今のは」

 

 一方通行は実験を止めた時に私の攻撃を受けた時と同じような現象が起きたことに困惑しているようだね。

 

「マズイわね。学習装置(テスタメント)の電力供給を切られたわ。これじゃ、ウイルスを消せない」

 

 機械を見て芳川が言う。

 

 私は敵に聞こえないように小さく聞く。

 

打ち止め(ラストオーダー)のウイルスのタイムリミットは?」

「……今日の午前11時ジャストよ。打ち止め(ラストオーダー)の生命維持のための最低限の機能は電源が別だからまだ動いてはいるけれど」

 

 大体今10時半だから他の研究所に行く時間はおそらくないね。一方通行が打ち止め(ラストオーダー)を担いで、能力を使って高速で別の研究所に向かったとしても、『反射』が適応されるのが一方通行本人だけである以上、今の打ち止め(ラストオーダー)に高速移動の衝撃を与えるのはよくない。

 

 相手は仕掛けてこない。相手の目的は生きたまま打ち止め(ラストオーダー)を回収し、学園都市を潰すことだろうからね。無駄な戦いに打ち止め(ラストオーダー)を巻き込んで殺してしまっては水の泡かも。

 

 さっきの機械のコードを切ったのも天井が問題ないと判断したからなのは間違いないはずなんだよ。

 

 原作の天井亜雄は学園都市外部の反学園都市機関と契約して学園都市から脱出するつもりでいた。おそらく時期がずれたことによって契約する機関が魔術結社になってしまったんだろう。

 

 このままだと、ウイルスの発動まで打ち止め(ラストオーダー)が生存できるから放置でも天井たちの目的は達成できてしまうんだよ。

 

 それだと、とてもマズイ。学園都市が困ると私の友達も困るし、下手すると核戦争で世紀末だもの。

 

 機械が使えないなら打ち止め(ラストオーダー)を救う方法はひとつだけ。私は一方通行を見る。

 

「一方通行。能力で壁を作れる?」

「なンでそンなことを」

「私があの人達を止めるからだよ」

 

 一方通行がさっきみたいに飛び出さないのはきっと、戦いになって攻撃がこっちにそれるのを警戒してのはず。

 

 実際、さっきの風の塊の魔術は一方通行の反射がうまく適応されていなかった。魔術の絡んだ物体は通常と別のベクトルが発生するから、一方通行の『ベクトル変換』との相性がよくないのが原因だね。

 

 なら、一方通行が戦うより、『強制詠唱(スペルインターセプト)』で攻撃を止められる私の方が周りへの被害は少なくなるはず。

 

「あの人達がきたのはたぶん私のせい。なら、ここは私が何とかしないとダメなんだよ」

「本気で言ってンのか?」

「もちろん」

 

 それに打ち止め(ラストオーダー)を助けられるのは現時点で、この場に一人しかいない。

 

「一方通行。私が止めている間に、打ち止め(ラストオーダー)を救ってあげて」

 

 一方通行は黙っている。やっぱり、いままで壊してばっかりの自分に救うなんてことができるのか、ってまよってるのかな。

 

 でも、いまは迷っている場合じゃないんだよ。もうあんまり時間がないからね。

 

「はあ」

 

 仕方がないんだよ。こんな時は発破を掛けるにかぎるね。

 

「がっかりなんだよ、一方通行(アクセラレータ)。学園都市第一位ともあろう人が、女の子の命一つ救えないなんて」

「ッチ、……できるに決まってんだろォが。俺を誰だと思ってやがる」

「その意気だよ」

 

 私は一歩、敵に近づく。

 

「信じてるからね」

 

 一方通行が能力を使ったのか地面が盛り上がって、私の背後を壁のように塞ぐ。私の最後に言った言葉が届いたのかはわからないけど、わかってくれていると信じたいね。

 

 

 さて、今回ばかりは助太刀には期待はできないし、途中で逃げ出すわけにもいかないんだよ。

 

 前方には敵。背後は壁。しかも背後の壁を守らなくてはいけないときたんだよ。背水の陣よりもさらに上の状態が本当に個人で戦うしょせんとは思わなかったんだよ。

 

 まあ、『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』のおかげで魔術の解析はもう終わっている。

 

壊……(BA)

標的を自分に変更(ATICBH)

 

 『強制詠唱(スペルインターセプト)』で地の魔術で壁を壊そうとした緑ローブの男に割り込みをかけつつ、私は走り出す。

 

 真下の地面が砕けた緑ローブの男はバランスを崩す。

 

 

切り刻め(CAE)!」

 

 流石に連続攻撃をさばけるほど、『強制詠唱(スペルインターセプト)』も万能じゃないんだよ。

 

 向かってくる三つの風の刃が合わさった巨大な風の刃。避けたら背後の壁を貫通しかねない強力な一撃。

 

 それを『歩く教会』で守られた腕を前方に構え、防ぐ。三人で放った魔術とは言っても流石に法王級の火力はないんだよ。

 

 受け止めた瞬間に、発生した壁のような風圧がで止まりかける足を動かし、突き進む。

 

 狙いは最初から決まっている。

 

禁書目録(インデックス)低姿勢体当たり(スピアー)!!」

「があ!?」

 

 魔術師たちの中心にいた天井亜雄に『禁書目録(インデックス)低姿勢体当たり(スピアー)』を喰らわせそのまま後ろに倒す。

 

 そして首にからひもでぶら下げている方位磁針をちぎり取り、そこから飛び退く。

 

 4人の魔術師はそれを見て殴り掛かってきた(・・・・・・・・)。その動きは素人その物。

 

 私は緑ローブの魔術師の腕を掴んで、黄ローブの三人に向けて受け流す。

 

 衝突して、転倒する魔術師たち。

 

 私は手元にある方位磁針を地面に落として踏み壊す。

 

 

 敵が使ってきた魔術は……『コンパス』とでも呼ぶべきだろうね。

 十字教における大天使はそれぞれ属性と対応する方角を持っている。

 風の天使は東、火の天使は南、水の天使は西、地の天使は北といったところだね。

 さらに、この四つの属性には親和性の高い色なんかもあったりするし、象徴武器(シンボリックウェポン)のような属性を象徴してあらわす武器もあるんだよ。

 

 この魔術は中心を表す物体を用意し、それを軸にそれぞれの方角の天使の属性に対応した色のローブを着た魔術師が立つことにより、全員の魔力で発動する、一種の儀式魔術なんだよ。

 

 今回の場合、中心となったのは天井亜雄の持っていたコンパス。それを中心に風の天使の東に黄ローブの魔術師が、地の天使の北に緑ローブの魔術師を配置したということだね。

 

 この魔術の厄介な所は中心からみて東西南北さえあっていれば、中心と1,2キロくらい距離が離れていても魔術を行使できることと、天使に当てはめることで破壊力をある程度まで上げられること。そして、一度発動さえ指定してしまえば中心さえ破壊されなければ魔術の威力が低下しないことだね。

 

 弱点としては個人での行使ができないことと、中心の物を動かされて東西南北の位置からずれてしまったり、中心のものを破壊されると魔術が使えなくなること。そして発動した瞬間の人数が少ないと火力がでないこと。

 

 本来ならこんな少人数で放つ者じゃない。最低でも東西南北に5人ずつ、これでステイルと互角レベルにはなるんじゃないかな?

 

 おそらく学園都市の中に入るためにできる限り少人数にしなくてはならなかったんだろうね。

 

 

 さて、魔術の要であるコンパスを破壊した以上、あとは消化試合。

 

 とはいっても、油断はしない。それに、かわいい女の子(ラストオーダー)をにひどいことをしたこの人たちは、一発殴っておかないと気が済まないからね。特に天井。

 

 倒れたまま震える手で銃を取り出そうとした天井の手に禁書目録(インデックス)足甲片足蹴り(サッカーボールキック)を叩き込んで銃をはじく。

 

「ぐう!?」

 

 そして天井の腕を掴んで無理やり引っ張り起こし、『禁書目録(インデックス)肘打ち《エルボー》』腹部に叩きつける。

 

「ぐえ!?」

 

 腹を押さえてうずくまる天井に背を向ける。

 

禁書目録(インデックス)膝乗り蹴り《シャイニングウィザード》!」

 

 立ち上がろうとしている魔術師の一人が立てている片膝に左足で飛び乗り、その勢いで太腿を顔面に叩きつける。

 

 倒れた魔術師は同じく立ち上がろうとした残りの魔術師達にぶつかり体制を再び崩す。

 

 最後に天井の頭を脇に抱え固定。そのまま後ずさりつつ後方に倒れ込む。

 

禁書目録(インデックス)DDT!!」

「「ぐお!?」」

 

 天井の脳天が仰向けに倒れていた緑ローブの魔術師の腹部に激突。

 

 二人はよくわからない声を出して、気絶してしまった。

 

「さて、残り三人なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、気絶させた3人の服を奪い、その服を使って魔術師4人と天井を後ろ手に拘束し、足も胡坐をかいた状態で縛った。

 

 なお、魔術師たちに関しては奪った色つきローブは使わずに、その中に来ていたシャツを使って縛ったんだよ。

 

 身体検査はしたから、他に武器を持っているということもないはず。落ちている武器も回収した。

 

 大覇星祭のときは、スキルアウトのみんなによる身体検査がおろそかだったせいで、敵魔術師の魔術行使を許してしまったから、その時の反省を生かす形になるね。

 

 

 そう言った作業を全部終えたところで、一方通行の作った壁が崩れる。

 

「一方通行。ご苦労様なんだよ」

 

 そこから出てきた一方通行は私の言葉には反応せず、そのまま自動ドアを通って外に出て行ってしまった。

 

 

 私は崩れた壁から中に入って中にいる芳川に問いかける。

 

打ち止め(ラストオーダー)はどう?」

「一方通行のおかげで今は安定しているわ。こうなったのは奇跡かしらね」

「ふぅー。よかったんだよ」

 

 打ち止め(ラストオーダー)は培養器の謎の液体の中でふわふわと浮いている。

 

 壁があったからこっちで何があったかはわからないけど、落ちている携帯電子機器を見た感じだと、きっと一方通行が打ち止め(ラストオーダー)の脳内の電気信号のベクトルを操ることで、脳内のウイルスに彼女の本来のデータを上書きしたんだろうね。

 

 そしてそれは成功した。

 

 原作通りとか、そういう問題じゃないんだよ。

 

 一方通行は自分の力で命を救うことができた。そのことが友達としてはうれしいんだよ。

 

「そろそろ、私は行くんだよ。私みたいなのがいつまでもいるのはこの研究所的にもよくないだろうしね。あと、あの人たちは早く上の人達に連れて行ってもらうべきかも」

 

 芳川に言って外に向かう。芳川もこの実験に関わった研究者の一人だから、お仕置きしておきたいところだけどそんなことしている暇は今はないだろうしね。

 

 私はとりあえず一方通行を追いかけようかな。

 

 まあ、一人になりたい時間もあるだろうからちょっと間は空けるけどね。




 たくヲです。

 禁書目録(インデックス)フルコースと一方通行(アクセラレータ)の成長回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある結論と禁書目録

「今、なんて?」

 

 あのあと、私は一方通行を見つけてから少し後をつけてから声をかけ、喫茶店に連れてきたんだよ。

 

 おかげで尾行する刑事の気持ちを味わえたんだよ。あんぱんと牛乳があれば完璧だったんだけどね。

 

 追いかけた理由は『妹達(シスターズ)』について相談するためなんだよ。

 

 もともと私が今日一方通行に会いに行った理由。それは軍用クローンである『妹達(シスターズ)』の存在をオリジナルである御坂美琴が知らないことによって、調整をある程度終えた「『妹達(シスターズ)』を外に出すことができない、という問題について相談するため。

 

 別に、答えが聞きたかったわけじゃないんだよ。

 

 関係者の一方通行には知っておいてもらわなくちゃいけない話だから。そして一人で考えるのはきつい問題だったから聞きにきたというのが大きい。

 

 でも、私の質問に対する答えは予想外のものだったんだよ。

 

「だっからよォ。普通に外に出してやればイインじゃねェのか?」

「いや、でも、外に出した「『妹達(シスターズ)』が御坂美琴(オリジナル)に会ってしまったときにどういう反応をされるのかわからないから、どうすればいいのかな? っていう話なんだけど」

「どォもこォもねェだろ。そんなことを心配すンのは、ガキを外で行かせたら不審者が出るんじゃねェか、ってことを心配すンのと同じだろォが」

 

 御坂美琴を不審者に例えるとは。

 

「ちょっと外に行かせるだけで危ねェっなンて言ったら、解決策は家に軟禁するしかねェ。アイツラの場合はオマエもそンな事望ンじゃァいねェだろォ?」

「極論だね」

「事実だろォが。それに御坂美琴(オリジナル)がどう動くかわからねェ以上、会わせねェためにはあの病院の部屋一つしか自由がねェことになる。御坂美琴(オリジナル)だって病院くらいは使うだろうしなァ」

「そう、だね」

「どうせいつかはバレるンだ。それなら早ェ方がいいんじゃァねェか?」

 

 一方通行の言うことには一理あるんだよ。

 

 確かにあのまま病院の中にいても、見つかるのは時間の問題。

 

 『妹達(シスターズ)』の脳波ネットワーク、『ミサカネットワーク』は彼女たちがクローンで同じような脳波を持つ者だから成り立っているネットワーク。それなら、オリジナルである御坂美琴も細胞が同じなんだからミサカネットワークに接続できる可能性は十分あるんだよ。そうなったら、存在を感知される可能性は極めて高いもんね。

 

 それに今の『妹達(シスターズ)』が御坂美琴(オリジナル)に拒絶されて落ち込んだら、私たちが友達として支えてあげられる。

 

 仮に御坂美琴に『妹達(シスターズ)』の存在を拒んだとしても、それが彼女たちを殺す理由にはならない。

 

 御坂美琴には悪いけど命がある人間である以上見殺しにする理由にはならないんだよ。

 

 私の気持ちには整理はついた。最終的に外に出るかどうかを決めるのは『妹達(シスターズ)』本人だから意味なんてない、って人には思われるかもしれないけどね。

 

「ありがとう。一方通行」

「あァ」

 

 

 

 

 

 私はカエルのお医者さんの病院に急いで向かったんだよ。

 

 まあ、『妹達(シスターズ)』の外出を許可するのかどうかを決めるのはカエルのお医者さんだけど、意見の一つとして聞いてもらえるとは思うからね。私と一方通行の中では『妹達(シスターズ)』を外に出すなら早くした方がいいって意見に落ち着いたわけだし、意見を言うのも早い方がいいだろうってこともあるんだよ。

 

 まあ、結果としてカエルのお医者さんもほぼ同意見と言うことに落ち着いたんだよ。

 

 カエルのお医者さん自身の意見としてもそうだけど、『妹達(シスターズ)』本人が外に出たいと言っていたのが決め手になったらしいんだよ。

 

 その直後、私はカエルのお医者さんにあいさつをして外に出た。

 

 私としては『妹達(シスターズ)』のみんなと会って直接話したかったんだけど、病院に入る前にちょっと困ったことが発生していたから、すぐに出てこざるをえなかったんだよ。

 

 

 その困ったことに考える前に、一度禁書目録()の置かれている状況を整理するんだよ。いくら完全記憶能力があると言っても、一度情報を整理することは大切なことだからね。今日魔術師と戦ったのもあるし、一度対魔術サイドに頭を切り替える必要もあるだろうしね。

 

 まず、禁書目録(インデックス)は一年に一度記憶を消去しなければならない。これは禁書目録(インデックス)に施された『首輪』の魔術のせいなんだよ。『首輪』の魔術はその名の通り禁書目録(インデックス)をイギリス清教と言う組織に対して刃向うことができないようにするために、『一年ごとに記憶を消さないと死ぬ術式』と『禁書目録(インデックス)の身体を遠隔制御をするための術式』の二つと考えていいかも。

 

 ステイル=マグヌスや神裂火織といった『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属する魔術師のほとんどは『首輪』の魔術の存在を知らされていない。そして、『禁書目録(インデックス)は頭の中にある十万三千冊の魔導書の知識によりもともとの脳が圧迫されており、そこに完全記憶能力によって見た物事全てを記憶し続けることにより、一年で脳がパンクしてしまう』というウソの情報を吹き込まれている。記憶消去を行うのは8月となっているんだよ。

 

 だから、きっちり八月に禁書目録(インデックス)の記憶を消すため、『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師たちは交代で私を監視しているんだよ。

 

 禁書目録(インデックス)をはじめから拘束せずにある程度自由に動かしている理由について。その理由を簡潔に言えば、ステイル達仲のいい魔術師は禁書目録(インデックス)が自分の記憶を消す時につらそうな顔をすることに耐えられず、それなら記憶を消す前に楽しい記憶をできる限り残さないようにして、記憶を忘れることの苦痛を軽減するためだったね。

 

 つまり、私が今の記憶を残すためには、八月までに記憶消去の原因である『首輪』の魔術を解除しなくちゃいけないんだよ。

 

 

 さて、急にこんなことを考えさせたの原因は私の後方にいるんんだよ。

 

 とりあえずバイトのお金で買っていた、折り畳みの鏡を使って前髪を整えるふりをしてさりげなく後方確認をする。

 

 ……ある程度予想はしていたけど、やっぱりこのバレバレの尾行はステイルだね。やっぱりあの真っ赤な髪はすごく目立つ。魔術を使えば一般人にはばれないような尾行もできるんだろうけど、禁書目録(インデックス)相手に魔術を使って身を隠すのは逆効果だからこれが一番の方法のはずなんだよ。

 

 禁書目録(インデックス)の監視要員が変わった、それもステイル=マグヌスともなると下手な動きはできない。

 

 なぜなら、ステイルは禁書目録(インデックス)が危険な目に会うのを全力で防ごうとするはずだから。ステイルからすれば禁書目録(インデックス)は自分の魔法名を賭けるほど相手だからね。

 

 でも、記憶を消す時のことを考えるとそろそろ攻撃を行ってくる可能性は高いんだよ。『歩く教会』を貫通しない程度の、それでいて禁書目録(インデックス)にある程度恐怖を与え、記憶を消してもいいとさえ思える程度の攻撃が飛んでくる可能性もありうる。

 

 

 まあ、寝泊まりは常盤台の女子寮でいいはずなんだよ。なにせ超能力者(レベル5)二人が所属する名門だから、セキュリティはこの上なくいいはずだし、そこを攻めるとなると科学と魔術の戦争が起こるかもしれない。そんなリスクはイギリス清教としてもステイルとしても負いたくないだろうしね。……ステイルなら後先考えずに攻撃してくる可能性もあるかも?

 

 このままだと、一方通行や軍覇や操祈みたいに魔術師を相手にしても負ける可能性が低い人達ならともかく、利徳たちスキルアウトとはしばらく会いに行くことはできそうにない。

 利徳たちなら聖人の神裂火織はともかくステイルなら頑張れば勝てる可能性は十分にある。とはいえ、それは魔術の知識があればの話だし、仮に勝ったとしても大きな傷を負うことになるのは必至だろう。『魔女狩りの王(イノケンティウス)』なんて出されたら負けが確定してしまうのもつらい。もし巻き込んでしまった時のことを考えるととても会いに行くことはできないんだよ。

 

 最悪の場合、ステイルなら『歩く教会』の防御力に任せたごり押しでどうにかなるから、今この場で倒すのもいいんだけど、できる限り危険は避けたい。なにより、ステイルは味方になってくれる可能性があるから、ここで本格的に敵対するのも避けたいんだよ。

 

 そういったことをふまえて私がすべきこと。少しでも自分の身の安全を確保しつつ、それでいて『首輪』の魔術の破壊して今の記憶を守るために必要なことを考える。

 

「……賭けだね」

 

 考え付いた方法は、ギャンブルのようなものだった。安全な方法とは言えないし、この方法をとらない方が生き残れる確率は上がるかもしれない。

 

 でも、今後の学園都市生活を考えればやってみる価値はある。

 

 集めてきたもの(・・・・・・・)を使うことになってしまうけど、どちらにせよ使うつもりだったものだし、使うのが遅いか早いかの違いになるだけなんだよ。

 

 それに、妹達(シスターズ)にはある意味で賭けともいえることをさせておいて、最終的な決め手ではないとはいえ意見を出した私が逃げるなんてあまりにひどいことだもんね。

 

 そのためにはステイルをいったん振り切って常盤台の女子寮に逃げる必要がある。

 

 幸い、私には学園都市を7か月間走って一度のバスも使わず歩いてきた足があるからね。全力で走れば魔術のせいで運動能力が落ちているステイルを引き離すことはできるはずなんだよ。




 たくヲです。

 一方通行も少し成長? 回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

 


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とある逃走の禁書目録

 全力ダッシュでステイルを撒いた私は常盤台中学の女子寮に飛び込む。

 

 いつも居候させてもらっている一室の裏においておいた紙束をとって、部屋の中に会った肩掛けバックの中に入れた。

 

 修道服『歩く教会』の中で肩掛けバックを装備する。

 

 とりあえず、これで最低限の準備は完了だね。『改良版速記原典(ショートハンド)』はいつも持ち歩いているから問題はないし。

 

 大覇星祭の終わりごろからコツコツ作り続けていたアレ(・・)は使用して効果があるかどうかわからないけど一応持ち歩いている。けど、魔術サイドに効果があるのかは微妙かもしれないんだよ。まだ、作成途中だからね。……作成途中とはいってもあんまり内容は思いだしたくないかも。

 

「さて、行こうかな」

 

 とりあえずこれで、問題はないね。

 

 困ったことに魔力の流れに少し動きがあった。この感じは聖人が魔術使用の高速移動をしているっぽいね。禁書目録のからだは魔術を使えないけど、魔力の流れやテレズマの流れは感知できるみたいだからね。具体的には半径百メートルくらいは。つまり今は半径百メートルに聖人がいるってことになる。

 

 聖人で、必要悪の教会(ネセサリウス)といえば神裂火織。

 

 おそらく私が突然走り出したのを見たステイルが自分に感づいたと思って神裂を呼んだんだろうね。

 

 いくら聖人とはいってもイギリスからこんな短い時間で移動するのは無理だし、日本限定の場所移動の魔術『縮図巡礼』を使うにも日が悪い。

 

 神裂以外の聖人の可能性もあるにはあるけど、だとしたらステイルと戦うことになっているだろうし、私の目的にとっては少しだけよい方向に働くはずなんだよ。まあ、もっと激しい魔力の流れが起こってない以上、その可能性は低いと思うけど。

 

つまり神裂もこの学園都市にいたんだろうね。

 

「!」

 

 少し強い魔力の流れ。以前、この感じは体験したことがあるんだよ。

 

 ルーンによる『人払い(Opila)』。神裂は結界系の魔術はあまり得意じゃないらしいから、ステイルのものだね。つまりステイルが近くまで来ている、と。

 

 今の時間は3時。登下校中の学生を変に巻き込んじゃっても申し訳ないし、この魔術は今はありがたい。

 

 部屋の窓を開け外に飛び出し、敷地の外に着地する。常盤台中学の女子寮を攻撃されないようにできる限り離れたいんだけど降りた所にはもうすでにルーンのコピー用紙が張ってあるし、無理かも。

 

 壁に張られたルーンを見た感じ、常盤台中学を中心に半径200mって所だね。

 

 足音が聞こえる。そっちを向くとステイルと神裂が立っている。

 

 きっちりと逃げ道を作ってくれるあたり流石ってところだね。

 

炎よ(Kenaz)

 

 詠唱と同時にステイルの右手から炎剣が出現する。同時に神裂は腰の刀に手を伸ばしている。

 

 話し合いができそうな雰囲気ではないんだよ。

 

 話し合いができるみたいだったら、それでもよかったんだけどとりあえず逃げないといけないね。

 

 二人に背を向け、逃げる。目指すべき場所も決まっているんだよ。

 

巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

 

 その瞬間、思いっきり前方向に吹っ飛んだ。顔面から地面に突っ込まないように両腕で頭を抱えるようにして体を丸める。

 

 着地。

 

 地面を転がって、景色が回転する。止まったと同時に立ち上がりつつ走る。

 

 ちらっと後ろを見ると、二人が追いかけてくるのが見える。

 

 なるほど。私が『歩く教会』の防御力でダメージを受けないのをいいことに背後から攻撃しまくって、消したいくらいの悪い記憶を作るつもりだね。

 

「七閃」

 

 再び吹っ飛ばされる。今度は七閃の七本のワイヤーのいくつかを使ってだろうね。

 

 ギリギリ着地し、二人との距離をあまり離さないように(・・・・・・・)逃げるんだよ。

 

 

 

 

 それから少しの間、ルーンによる『人払い(Opila)』の結界内を逃げ続けた。

 

 そして、目的の場所の近く、結界の端の方まで来たんだよ。

 

 私は建物で隠れている細い路地に急カーブして飛び込む。

 

「行き止まり!?」

 

 そこは少し入ったところで行き止まりになっていたんだよ。

 

 後ろからはステイルと神裂が追いかけてきているから引き返すこともできない。

 

 足がもつれてこける。這うように行き止まりの壁ぎわまで逃げたけど、私はそれ以上逃げられない。 

 

 後ろから追いかけてきた二人が、私を見て一瞬困ったような顔をしたように見えた。

 

 まあ、記憶消去ギリギリまで捕まえる気はないだろうし、困るのは当然だろうね。

 

 ここまできて二人の動きが止まった。やっと喋ることができる時間が来たんだよ。

 

 今までは話そうとしても攻撃音でかき消されてしまうし、何より場所も悪かった。

 

「……助けて」

 

 そして私は、この二人にだけ絶対的な効果をもつであろう言葉を呟く。

 

「助けてよ。ステイル、かおり」

 

 ステイルの炎剣が消える。神裂の目が見開かれる。

 

 ステイルと神裂。この二人とインデックスが一緒にいた時のことを私は知らない。あるいは覚えていない。

 

 でも、私は知っている。確かにインデックスがこの二人と一緒にいたことを。楽しく笑っていた過去があったことを。

 

 それに、この言葉は紛れもなく本心からの言葉だし、心の底からこの二人に助けてもらいたいと思っている。

 

 だから言ったんだよ。危険でも、ギャンブルめいていても、たとえ私が二人との思い出を忘れていたとしても。

 

 この二人が私に攻撃をしてきたのは、私のためであることに変わりはないんだから。

 

「ま、さか、インデックス。私たちのことを……?」

 

 ステイルは一度目を閉じた。歯を噛み締める。そして再び目を開き言う。

 

「惑わされるな、神裂。あの『運び屋』から僕たちの名を聞いていただけかもしれない」

 

 ……流石にそううまくはいかないよね。

 

炎よ(Kenaz)

 

 詠唱に応じて、再びステイルの手に炎剣が出現する。

 

「ですがステイル、これは……」

 

 神裂は攻撃をためらっているように見える。

 

 駄目だ、ね。やっぱり。今の私の言葉じゃステイルには届かない。神裂には少し届いたようだけど、たぶんそれは神裂の魔法名が『救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』というものだったから。結局私の言葉が届いたとはいえないかもしれない。

 

巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!」

「あ」

 

 私にぶつかる前に何かにぶつかったように(・・・・・・・・・・・)炎剣が爆発する。

 

 そう。世の中っていうのはうまくはいかないんだよ。仮に私がオリアナと会っていなかったとしても、ステイルは同じ判断をしただろうし。もしも、記憶を消す前のことを私が覚えていたならステイルは攻撃を止めてくれたかもしれない。

 

 でも絶対に成功することないように、絶対に失敗するなんてこともない。誰かが助けてくれなくても、他の友達に救われることだってある。

 

 そう、

 

「おい」

 

 絶望的な状況に友達が助けに来ることだってあるんだよ。

 

「一人相手に二人がかりなんて根性が足りてねえぞ!!」




 たくヲです。

 短回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある説得の聖人剣士

 突然現れたのは削板軍覇。

 

 軍覇は私の目の前に、ステイルの炎を防ぐように落ちてきたんだよ。

 

 どうやって三千度の炎を防いだのかとか、どうして『人払い(Opila)』が張られているここに入れたのかとか疑問はあるけど、まあ誰にも説明できない不思議な能力をもつ軍覇ならこれくらいはできても不思議じゃないと思うんだよ。

 

「おい、インデックス大丈夫か?」

「……うん、けがはないんだよ」

 

 さて、この状況をどうしようかな。

 

 突然の乱入者を前にして、ステイルは警戒を強めているし、神裂も再び七閃を使えるように構えてしまったんだよ。

 

 これじゃあ、説得どころの騒ぎじゃないね。

 

「そっちの赤髪神父を任せてもいいかな」

 

 ステイルに聞こえないくらいの声で言う。聖人の神裂には聞こえているかもしれないけど仕方ないんだよ。

 

「お前は?」

「あっちの女の人をどうにかするんだよ」

 

 ステイル達の方を向いたまま聞き返してきた軍覇にこたえる。

 

「……君が何者かは知らないけど、どいてくれると助かるかな」

 

 ステイルが言う。

 

「見た所、君は学園都市の人間だろう? これは魔術師(僕たち)の問題だ。君のような部外者が足を突っ込んでいい問題じゃない」

「部外者?」

 

 軍覇の周りの空気がわかりやすく変わる。

 

「そいつは聞き捨てならねえな」

 

 薄く赤や青といった色が付いた空気が軍覇に集まっていくように見えるんだよ。

 

「確かに部外者を巻き込まないってのは根性がある言葉だ。確かにオマエらが何者かなんて俺は知らねえし、インデックスにどういう問題があるかなんてのも知らねえ」

 

 ……これはちょっとまずいんじゃないかな?

 

「だけどな、俺はインデックスの友達だ。その友達に集団で暴力を振るうような奴もそれを見逃すようなことをするのも、根性無し以下だ」

 

 その言葉はうれしいけどこの流れは……。

 

「だからオマエらに見せてやる。助けを求める友達のために命を賭けられる、本当に根性のってヤツを!!」

 

 その瞬間、私の身体は宙に浮いていた。

 

 回転しながらわずかに見えたのは、カラフルな爆発。

 

 ドカッっと建物の屋上に落ちた私は周りを見渡す。右の方、すぐ近くからカラフルな煙が立ち上っているということはすぐ路地のすぐ横の建物に落下したので間違いはないね。

 

 軍覇は私の『歩く教会』の正体はともかく、それの持つ圧倒的な防御力を知っていた。

 

 それを知っていて私を逃がすために爆発を起こしたんだろうね。

 

「……でも、そう簡単にはいかないよね」

 

 建物の下から高く跳び上がった影がチラリと視界に映る。

 

 身体能力が高い神裂火織が私を追いかけてきたって所かな。

 

 

 今回は、これからのためにも二人のためにもここで友達に戻る……いや、友達になるのが理想だった。

 

 別にそれをあきらめたわけじゃない。でも私の命を狙ったことに変わりはないし、ちょうどいいタイミングだしケジメはつけないとね。

 

 空を見上げて神裂の落下位置をある程度予測し、一歩踏み出す。異様に高く跳んでいるのは吹っ飛ばされた私を探す意図もあったんだろうね。

 

 狙うのは着地の瞬間。

 

禁書目録(インデックス)低空体当たり(スピアー)!」

「インデッぐ!?」

 

 私は着地した瞬間の神裂の腹部に、頭から低い姿勢で体当たりした。

 

 着地した瞬間にぶつかったためか、簡単に後ろによろける。

 

 神裂の後頭部に脇を通して背中から右手を回し頭を守りつつ、左腕を使って神裂の右腕を封じるように抱きしめ、そのまま押し倒した。

 

「ぐぅッ!! 」

 

 背中を屋上の床に叩きつけられて神裂がうめく。

 

 流石にこの程度じゃ意識は奪えないよね。

 

 後方から爆発音。

 

 軍覇がステイルの足止めをしてくれているんだろうね。

 

 なら私は私のやるべきことをやらないといけないんだよ。

 

「……かおり」

 

 私はそのまま神裂に話しかける。

 

 『歩く教会』の防御力で抑えているから神裂の右腕は使えない。

 

「……い、インデックス。あなたは、まさか本当に私たちのことを……」

 

 ……困ったことにこの状態じゃ神裂の顔が見れないから、ちょっと上にずれないとね。何のせいで見えないのかは言わないけど。

 

「残念だけど、覚えてはいないんだよ」

 

 身体をずらしながら私は正直にそう答える。

 

「ん……そう、ですか」

「私は何も覚えていないんだよ。イギリスでどんなふうに暮していたのかも、いつ私がイギリス清教のシスターになったのかも、禁書目録(インデックス)の魔法名を禁書目録(インデックス)がどういう想いで付けたのかも」

 

 そのことを私は覚えてないし知らない。知っているのは……持っているのは知識だけなんだよ。

 

「でもね。あなたたちが昔友達だったことは知ってたし、私を襲うときに心を痛めていることは最初に……学園都市(ここ)の私を襲った時からわかってたんだよ」

「……」   

「あなたたちが私を狙うのも。私が日本にいたのも。全部、私が何も覚えていないのが原因なんだよね?」

 

 神裂火織は何も言わない。

 

「私はあなたたちのことを覚えていない。だから、あなたたちの友達だった禁書目録はもういないんだよ」

「……ッ!」

「だからね」

 

 私は火織の顔を見て、笑っていう。

 

「今の私と友達になって欲しいんだよ」

 

 いつの間にか音は消えていた。静かになった屋上で私は目の前の火織を見る。

 

 その顔は少し歪んで見える。

 

「……駄目、です」

 

 火織の口から出たのはそんな言葉。

 

「私は、あなたを攻撃したんです……。 そんな私が今更友達になる資格なんて……」

「資格なんかいらないんだよ」

 

 私は確かに火織たちに攻撃された。禁書目録()の記憶消去の時の苦痛を和らげるためといってとった、その方法は確かにいいものではなかったんだよ。実際、私はそんな方法を認めない。

 

 それでも、彼女たちが禁書目録()のために動いていたことに変わりはないんだよ。

 

「友達に資格なんていらないし、必要ない。確かにあなたたちは私を攻撃したけど、それを言ったら私だってあなたに攻撃をしたんだよ」

 

 私はこの町に来て敵対していた人達が友達になる姿を見てきた。殺そうとした相手を今度は助けるために戦った(・・・)人がいた。自分たちが憎んでいたはずの存在と闘って和解した人もいた。どちらも私は深くかかわったし、片方は私が仕向けたようなもの。

 

 今から思えば自分もそうなりたい、っていう憧れがあったのかも。

 

「過去に何があったのかなんてわからない。今の私はあなたと友達になりたいだけなんだよ。あなたは私をどうしたいの?」

「私は……あなたと、もう一度」

 

 火織は震えた声で言った。

 

「……インデックス。……あなたはこんなことをした私と、もう一度友達になってくれますか?」

「もちろんなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 後ろの方から何かが落ちてきたようなズドンという音。

 

 首だけで後ろを確認すると、そこには軍覇と気絶してその肩に担がれたステイルがいたんだよ。

 

 流石の天才魔術師ステイル=マグヌスも学園都市のレベル5の中でも屈指の実力者である軍覇には勝てなかったっぽいね。

 

「終わったのか?」

「うーん。終わったというか、始まったというか微妙な所だね」

「なんだそりゃ?」

 

 火織は軍覇が来た時点でもう泣き止んでいて、普通に立って、何かを考えている。

 

「おい、そこのオマエ! こいつはどうするんだ?」

 

 軍覇は肩に担いだステイルを地面におろしながら言う。

 

「……私が連れて帰ります」

 

 火織がそう言ってステイルに近づく。

 

「おいおい、コイツは結構重いぞ? 少なくとも女子供に持てるようなもんじゃねえだろ」

「いえ、無用な心配です」

 

 火織がステイルを軽々と肩に担ぐ。

 

「ああ、そうだ」

 

 なんか、火織がいったん離れる感じだから、一つ言わなきゃならないんだよ。

 

 私が火織に近づくと、火織は私に合わせてかちょっとかがむ。

 

 私は火織の耳に口を近づけ一言。

 

「今夜12時、学園都市第七学区の常盤台中学女子寮前で待ってるんだよ」

 

 そう囁く。

 

「じゃ、かおり。またね」

「! ……ええ、また会いましょう」

 

 そう言うと火織は建物の屋上から屋上へと飛び移りながら行ってしまった。

 

「あのジャンプ力。あの女もすげえ根性だな」

「怪我してない?」

「問題ねぇよ」

「それならよかったんだよ」

 

 困ったんだよ。なんとか火織と友達になれたのはいいけど、軍覇を巻き込んでしまった。

 

 それに、禁書目録狙いではなかったとはいえ、一方通行も魔術の問題に巻き込んじゃったし。冷静に考えれば、スキルアウトのみんなも巻き込んでるし。

 

 スキルアウトのみんなは魔術関連のことを全く聞いてこないから、まだ大丈夫だとは思うけど……。

 

「ぐんは」

「なんだ?」

「巻き込んじゃってごめんね。そして、助けてくれてありがとう」

「こっちが勝手に巻き込まれただけだ。気にすんな」

 

 同じく一方通行も魔術については知らないから、ある程度は大丈夫……だと思う。

 

「ここまで巻き込んでおいて、こんなことを言うのもあれなんだけど。ぐんはには魔術師(こっち)の問題にはあんまり関わってほしくはないんだよ」

 

 スキルアウトのみんなはあれから魔術師関連に巻き込まれた様子はなかった。原作の上条当麻みたいに無能力者(レベル0)だからなのかどうかはわからないけど。

 

 でも、一方通行や、削板軍覇は学園都市《科学サイド》の柱ともいえる超能力者(レベル5)。魔術サイドとあんまり関わらせると問題があるかもしれない。

 

 特に今回軍覇が関わったのはイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)』。どこにでもいるような魔術結社を相手にするのとはわけが違う。

 

「この問題に関わるとぐんはの身が危なくなるかもしれないんだよ。この問題はこの学園都市とその敵に深くかかわるものだからね。最悪、学園都市のそのものを敵に回す可能性だってある。だから、私はもうあなたとは合わない方がいいかも」

「おいインデックス」

「なに? いてっ!?」

 

 上から殴られた。

 

「この俺が友達を見捨てるような根性無しだとでも思ったのか? 悪い(わりぃ)けど関わるなつっても勝手に関わらせてもらうぞ」

「まあ、そう言うと思ってたんだよ」

 

 軍覇だからね。

 

「確かにあなたは強いし大抵の相手には勝てるかもしれない。あなたが協力してくれるなら心強いし、この問題もどうにかなるかもしれない。それでも、私はあなたのことが心配なんだよ」

 

 ステイルが倒せたとしてもその後ろにいる『必要悪の教会(ネセサリウス)』はどうなるかわからない。

 

「わかってねえな、インデックス」

「どういうこと?」

「心配だの、身の危険だの言ってるが、結局そんなもんは根性でどうにかなる」

「根性……」

「それに本当に根性のあるやつってのは、絶対に友達を見捨てたりしねえ。オマエを見捨てたら俺は俺自身が根性無しだって認めることになる。結局、お前を助けるかどうかってのは俺の問題なんだよ」

 

 うすうす感じてはいたけど、軍覇を説得するのに私じゃ力不足みたいだね。

 

「……うん。それなら、仕方がない、ね」




 たくヲです。

 着地硬直時狙いは基本、回。

 最近、投稿する場所を間違える気がします……。お騒がせして申し訳ございません。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある深夜の魔術会議

「わかった?」

「さっぱりわからん」

 

 まあ、そうなるよね。

 

 軍覇に魔術について、火織とステイルについて、そして私の所属について説明したけど、やはり理解はできていないみたいだね。

 

 念のため私の頭にある『十万三千冊の魔導書の知識』については言わなかったんだよ。正直、ここまで説明しちゃったら今更隠す意味もあまりないかも、とは思うけどね。

 

「要するに、あの二人は学園都市の超能力とは別の力を使っているってことだね」

「で、オマエはあの二人に追われている、ってわけだな」

「その認識で問題はないね。一応、火織……女剣士の方とは和解したから今の所注意する必要はないんだよ」

 

 火織は私の感情をぶつけて説得できたけど、ステイルに対しては私の感情をぶつけても説得はできないかも。

 

 ステイルは私を攻撃する方法が(インデックス)の苦しみを和らげる唯一の方法だと思っているはずだし、原作でも上条当麻によるぎりぎりの説得でどうにかってところだったからね。私では力不足なんだよ。

 

「ぐんは」

「なんだ?」

「とりあえず、今日のことは他の人に言ったりはしないでね。こんな問題にできれば関わらせたくないし、さっきも言ったけどあなたにも関わらせたくなかったんだよ。……もう手遅れだけどね」

 

 学園都市の統括理事長アレイスター=クロウリーは停空回線(アンダーライン)というナノサイズ機械を学園都市中にばらまいて情報を集めているっていうし、この会話も聞かれているだろうね。

 

 軍覇が魔術について詳しく知らないままであれば、この後も普通の生活に戻れた可能性は高い。でも、ここまで知ってしまえば、あとはアレイスター次第ってところかな?

 

 アレイスターが最強の原石(天然能力者)の軍覇を貴重な存在と見るかどうか。おそらく、アレイスターのプランには必要のない存在だろうから難しいんだよ。それに何らかの計画に組み込む際のイレギュラーさは上条当麻を上回りかねないから、学園都市から切り捨てられる可能性も高いかも。

 

 仮に軍覇が学園都市から逃げられたとしても、学園都市の恩恵を受けられなくなると、天然能力者を欲しがる学園都市の敵対科学組織から狙われることになるだろうね。

 

 軍覇がそういう未来を予測して私に手を貸してくれたとは思えないけどね。私が助かったらその時にはそれ相応のお礼をしないといけないかも。アフターケアは大切なんだよ。

 

「おいおい、まだそんなこと……」

「だけど、私は助けてくれるとなったら遠慮しないんだよ。全力であなたを頼る。その代わりあなたが困った時はあなたを全力で助けるんだよ。だから、今はよろしくお願いするんだよ」

「おう、任せとけ!」

 

 

 

 

 

 深夜1時。

 

 私は常盤台中学女子寮の前で一人待っていた。

 

 軍覇には襲撃には気を付けるようにと忠告をして帰ってもらったんだよ。軍覇がいる状態だと火織は戦闘モードに入っちゃう可能性があるからね。

 

「よく来たね。かおり」

 

 ステイルは連れてきてないみたいで、助かったんだよ。……まあ連れてきていたらいたで、問題はなかったけどね。

 

「インデックス。いったい、何の用があったのですか?」

「ちょっと気になることがあってね。おそらく当事者である火織に聞かなきゃわからないって思ったから。ちょっと聞かせてもらうね」

「いいですよ」

「いきなり話し始めるのもなんだから前置きから入るね。まず、私がこの町に入ったのは魔術結社やあなたたちの攻撃から逃れるためだったんだけどね。時間ができたから図書館とかで、調べ物をしたりしたこともあるんだよ」

 

 学園都市では拍子抜けなほどに時間ができたからね。

 

「私は去年の8月から記憶喪失だったから脳関係の本はけっこう読んだんだよ」

「そう、ですか」

「で、実際のところはどうなのかな? かおり。私の記憶を消したのはたぶんあなたたちだと思うけど、どうしてその方法をとらざるを得なかったのかな?」

 

 それを聞いて少し火織は黙る。理由自体は知っているけど、これを聞いておかないとつじつまが合わないからね。それに、私の知っている展開とは違う可能性もあるし。

 

「……インデックス。あなたの持つ完全記憶能力は見た物を忘れることなく記憶できる体質のことというのはわかっていますね」

「うん」

「あなたの脳は見た者全てを忘れることができない。さらにあなたは十万三千冊の魔導書の中身を一字一句余すことなくを記憶してしまった。」

「その通りだね」

「そのために、人間の覚えられる記憶の容量100%の内、貴方の脳の85%は十万三千冊の魔導書によって占められてしまった。さらに、貴方が一年で見たものが15%。これによってあなたの脳は一年周期で記憶を消さなくてはパンクしてしまいます。だから私たちは」

「なるほど」

 

 それじゃ一つ聞かないといけないことがあるんだよ。

 

「えーと、火織。足し算はできる?」

「……インデックス。馬鹿にしているんですか?」

「1年で15%。じゃあ2年なら?」

「……30%ですね」

「そうだね。じゃあ、3年で45%。面倒だから飛ばすけど、6年で90%。1年は12か月だから、4か月で5%ってことになるね?」

「インデックス? いったい何を言いたいんですか?」

「つまり完全記憶能力の人の寿命は6年と8か月ってことになるわけだけど。……私が魔導書の知識を覚えて、魔術と関わったのは何歳だったのかな?」

「! ……まさか」

「そもそも、完全記憶能力の研究自体は学園都市の外でも行われていたようだけど。脳がパンクして死ぬという事例は私が見た資料の中じゃ見つからなかったんだよ。ましてや完全記憶能力者が酷く短命だなんてこともない。嘘だって思うのであれば私の監視が終わり次第学園都市外の図書館を探してみて」

 

 うん。なんか絶望的というかなんというか。そんな顔だね。

 

 私は『歩く教会』の中の肩掛けバックから紙の束を取り出す。

 

「念のため資料はプリントアウトしてもらったんだよ。とりあえずあなたが持っていてね」

「え、あ、はい。でも、貴方は記憶を消す時あんなに苦しんで……」

「そう、そこなんだよ。あなたたちが私の記憶を消したと推測した時、私には疑問だった。どうして、あなたたちが記憶を消すことに疑問を持たなかったのか? 調べれば分かる完全記憶能力を調べることなく、私を追いかけて攻撃をするのか? ってね。だとすれば、記憶を消さなくてはならない切羽詰まった何かがあったとしか私には考えられなかった」

 

 もうちょっと頭が良ければ思いつくかもしれないけど、事情を知っている私にはそれ以外思いつかなかったんだよ。

 

「じゃあ、なんで完全記憶能力によって記憶し過ぎて苦しむなんていう事態になるはずもないのに、前の禁書目録()はそこまでの苦しみを味わったのかな?」

 

 火織は答えない。

 

 

「とりあえず、何も言わずにこれを見てほしいんだよ」

 

 私は火織に近づいて口を大きく開け、とってきたライトで口内を照らす。

 

「?」

「ほいほほほーほほほ?」

「……!? これは!?」

 

 どうやら、わかったみたいだね? 

 

 私は口を閉じてライトを消す。

 

「私には魔術がかけられている」

 

 私が火織に見せたのは口内にある魔法陣。

 

「そん、な。……いえ、そんなことがあるわけがない。第一あなたは『歩く教会』を着ている! 外部からの魔力供給はできないはずです!」

「そうだね。確かに外部からの魔力供給は不可能なんだよ。でも内部からなら?」

「え?」 

「かけられている。っていう言い方には語弊があったね。厳密には私は自分自身に魔術を使い続けているんだよ」

 

 おそらく禁書目録(インデックス)自身が原作で口内の魔法陣に気づいていなかったのは、自分は魔術を使えないっていう誤った知識と思い込みのせいだろうね。

 

 他人が見ても『歩く教会』の魔力に紛れて、その魔術に気が付くことはない。『歩く教会』が破壊されたとしても、『歩く教会』の魔力の残滓としか思わないかも。

 

「私の魔力はおそらく全てこの魔術の維持に使われている。私が魔術を使えないのはこれせいだろうね」

「ですが、そんなこと一体誰が!」

「私の記憶を消すようにあなたに命令をしたのは誰だった?」

「……最大主教(アークビショップ)! あのクソ女は余計なことを。イギリスに戻ったらただじゃ」

「かおり。口調」

 

 火織は私の言葉に反応をして、顔を赤くして姿勢を正す。

 

「し、失礼しました。つい」

「いやいいんだよ。でも、せっかく友達になれたんだから私の前では素の状態でもいいんだよ?」

「あ、い、いえ。あれはけっして素とかそういうものでは」

「いや、いいよ、いいよ。別に自分を偽ったりしなくても。私は口調なんて気にしないし。口が悪い系の女の子もそれはそれで需要はあるからね」

「な、何の話ですか!?」

 

 話が完全に脱線してるね。

 

 私は右手を『歩く教会』の中に引っ込めて中の肩掛けバックからデジタルカメラを取り出す。

 

「はい、これ」

「え?」

「それで、私の口の中の魔法陣を撮って欲しいんだよ」

 

 私はもう一度口を大きく開いて、口内をライトで照らしながら言う。

 

「え、ええ。わかりました」

「ひはひほへはひ」

「なに言ってるのかわかりませんよ!?」

 

 口を開いたまま言ってるから仕方ないね。

 

 ぱしゃりと音を立てて写真がとられた。

 

 まあ、一枚でもいいかな? できればもう一枚欲しいけど。

 

「ありがとう。これでやっと自分で確認できるんだよ」

「今まで確認してなかったんですか?」

「自分一人だと手が足りないし、学園都市の人に魔術を見せるのもあまりよくないからね」

 

 実際に一度試してみたけど、フラッシュが眩しすぎたのか魔法陣がほとんど見えなかったんだよ。

 

 カメラを受け取り画像を見る。私の『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』によって解析は完了した。

 

 魔法陣の実物を見なくても能力が発動するのは、漫画やアニメを見た時に発動したことで証明されているからね。

 

「なるほどね」

「なにかわかりましたか」

「やっぱり、これは私の魔力を使って発動する魔術のようだね。いざという時に自分の身体を自動で動かす『自動書記(ヨハネのペン)』と、私自身の身体に魔術的な不可をかける術式。こっちは照合不可だから術式名はわからないんだよ。ご丁寧にイギリス清教の十字架を持つ者以外の『脳に干渉する魔術』に対しては『自動書記(ヨハネのペン)』で迎撃する術式まであるね。私をイギリス清教に縛るための魔術。ここは『首輪』と名付けるべきかな」

 

 実際にこの術式名は『首輪』というらしいけど、いつまでもこの魔術だの、あの魔術だの、口内の魔法陣だのって口に出すのは面倒だからね。

 

「ならこの魔法陣を消すことさえできれば、もう記憶を消す必要はなくなる、というわけですね?」

「消すことさえできれば、ね。問題は『首輪』に使われているのは私の魔力であるってこと。下手に消そうとすれば『自動書記(ヨハネのペン)』によって自動で迎撃される。『自動書記(ヨハネのペン)』が発動してしまえば、一時的とはいえ十万三千冊の知識を私の魔力でフル活用して戦う魔神の誕生だから、あまり焦らない方がいいかも」

「なら……どうすればいいんですか」

「安心して」

 

 原作で上条当麻の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を使って『首輪』を破壊していた。でも、あれは記憶消去のリミット直前で切羽詰まっていたから起こした行動だったからね。

 

 今回は違う。

 

 今回はまだ時間はたっぷりある。

 

「私にいい考えがあるんだよ」




 たくヲです。

 魔術師同士の会議回。

 タイムリミットまで、約四か月半。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある寮内の瞬間攻防

 私達は河川敷まで移動していた。

 

 あの後、警備員(アンチスキル)が見回りにきたからね。

 

 念のため、火織に魔術を使ってもらって周囲の停空回線(アンダーライン)を一掃してもらった。今までの話した内容はアレイスターに聞かれても問題はなかったけど、この話はアレイスターに聞かれない方がよさそうだからね。

 

「なるほど。たしかにそれならあなたは記憶を消さなくて済みます」

 

 私の話した考えを火織は肯定する。

 

「ですが……これを成功させるには学園都市の人間の力を借りなくてはいけません」

「なにか問題があるのかな?」

「……正直な話。私は学園都市の人間を信用できません」

 

 まあ、そうだね。本人に確認も取れてないし。

 

「信用のできない人間にあなたの身を預けるわけにはいかない。それに、この街の科学者があなたを実験動物にする可能性だってあります」

「……」

「そもそも、私とステイルは貴方がこの町にいること自体をあまり良い事と考えていません。この街は科学サイド()の本拠地。そんなところにあなたを置いていきたくはない」

 

 確かに、火織の言い分ももっともだね。

 

「……私は、この街にずっと住んでいたんだよ。今の私はこの街の外にいた時間よりこの街にいた時間の方が長い。それだけいたら、信じられる相手くらいわかるんだよ。それに今の私が生き残る(記憶を残す)ためにはこの方法が一番確実」

「ですが……」

「それに、もしそんな危ない状況になったら、かおりが助けてくれるんでしょ?」

「……そんなこと当たり前です!」

「なら、何も問題ないね」

 

 あえて言うならアレイスターっていう問題はあるけど、あまり考えたくないかも。

 

 一応この会話は聞かれていないはず、とはいっても学園都市の統括理事長だし何らかの科学技術で見ている可能性も残ってる。

 

魔術で聞いている可能性もあるけど、この場には聖人と禁書目録がいるんだから流石に気づく。いくらアレイスターが優れた魔術師であったとしても、私たちに気が付かれないように発動するのは難しいんだよ。魔力やテレズマを使わずに魔術を発動できるなら無理だけど。

 

「それに、学園都市の人を頼ることになるのはもっと後のことなんだよ。その状況まで辿り着けるかはかおり、あなたにかかってるんだよ」

「インデックス……」

「私もできることをしておくんだよ。だからよろしくね」

 

 そういえば聞き忘れていたことがあるんだよ。

 

「ステイルは私とかおりが友達になったことは知ってるのかな?」

「いえ、ステイルにはまだ言ってません」

「できれば他の人たちにはこのこと……私と友達になったことは秘密にしてほしいんだよ」

「……なぜですか?」

「仲間が多いことに越したことはないけど、この計画を知る人は最小限に抑えたいんだよ。私にこんな魔術を使わせた最大主教(アークビショップ)の耳にこの計画が入ったら間違いなく止められるだろうし」

 

 最悪のパターンは協力者がその組織のトップに粛清されること。だからこそ、協力者は相当な実力者になってもらうしかないんだよ。

 

 ステイルに教えたいのはやまやまだけど、それも難しいね。ステイルは決して弱くはないけど、イギリス清教トップ相手に立ち回れるほどではないからね。教えるとしたらぎりぎりになるんだよ。

 

「それに協力してもらえるように説得するのは私がやるべきことだからね。そもそも、これは私の我儘だから」

 

 この世界的には禁書目録(インデックス)が今回も記憶を消されることを繰り返した方が安全だろうし、不幸になる人も結果として少なくなるからね。

 

 それでも、記憶消去は嫌だから最後まで抵抗するけどね。

 

「それじゃ、かおり。任せたんだよ」

「ええ、まかせてください」

 

 

 

 

 

 私は火織と別れて常盤台中学女子寮まで戻ってきたんだよ。

 

 別れたと言っても、今の時間インデックスの見張りをするのは火織らしいから、いったん別れた火織が遠距離から見ていたはずなんだけどね。

 

 それでも心配だという火織とは、寮の部屋に戻ったら外に向かってライトを用いた合図を送るように約束をしておいたんだよ。まあ、今日だけの話だけどね。

 

 さて、とりあえずオートロックの玄関から寮内に。

 

「随分と遅かったようだな」

「!?」

 

 後ろから声。

 

 私は全速力で振り返る。そこにはメガネの女性。

 

「寮監さんだね?」

 

 参ったんだよ。 

 

「一応お前はVIP待遇ということになっているようだが、寮で寝泊まりしている以上この寮則には従ってもらわねばならん。お前に影響される生徒がでても困る。つまり、わかるな?」

 

 VIP待遇については初耳なんだよ。おそらく操祈がそうやって洗脳したんだろうね。VIP待遇にしてくれたところに操祈の優しさを、私に攻撃できないようにしていないことに操祈が反撃しようとした痕跡を感じるんだよ。

 

 おそらく、私がすぐに寮の門限を破るような人間だと思ってたみたいだね。門限破りは今日が初めてなんだよ。一方通行の時は病院で一夜明かしたし。

 

 一声かけてくれたのは初犯だからなのと、

 

「ごめんなさい」

「許すと思うか?」

「思わないんだよ」

 

 カツカツと歩いてくる寮監さん。

 

 さて、『歩く教会』に関節技? が効くのかは気になるけど。おとなしく倒されるのも性に合わない。それにほぼないと思うけど、気絶中に学園都市の部隊に攻撃される可能性もある。

 

 なにより、部屋に戻って外に合図を送らないと、何かあると思った火織が寮に突撃しそうで怖い。いくらなんでも名門である常盤台中学の学生寮に聖人が突撃するのはあまりにもまずいからね。そうなったら科学と魔術の戦争が起こりかねないんだよ。

 

 こんな時間まで起きていてくれた寮監さんには悪いんだけどね。

 

 寮監さんが私に高速で両手を伸ばす。

 

 それを全力で屈みむことで躱し、両手で脚を掴む。

 

禁書目録(インデックス)双手刈(ダブルレッグ)!」

 

 そのまま両手で両脚を刈って寮監さんを後ろに倒す。

 

 双手刈はあまり派手じゃないから、好きではないけど仕方ないんだよ。まあ、寮監さんレベルの相手じゃないと使えない技だしね。

 

 起き上がろうとする寮監さんに跳びかかり両腕を『歩く教会』の防御力を利用して両手で押さえる。

 

「っく!」

 

 寮監さんは私に頭突きで反撃してくる。

 

 私の頭と寮監さんの頭が激突。しかし『歩く教会』のおかげで私にダメージはないんだよ。

 

禁書目録(インデックス)頭突き(ヘッドバッド)!」

 

 お返しの頭突き(ヘッドバッド)

 

 後ろに床がない分振りかぶることができたから、寮監さんの頭突きより威力は上のそれが寮監さんの頭に直撃する。

 

「っ!?」

「禁書目録《インデックス》!」

 

 寮監さんの腰の横の地面についていた膝を浮かせる。

 

 寮監さんの腕を封じたまま両足で地面を蹴って下半身を浮かす。

 

「変則両膝落とし(ダブルニー)!!」

 

 寮監さんのお腹に膝を落とす。というより正座を落とす。

 

「が、はっ!?」

 

 ……よし、なんとか意識を飛ばせたみたいだね。

 

 耐久力はあんまりなかったみたいで助かったんだよ。

 

 

 

 

 私はその後部屋の窓から外にライトを使って合図を送ってから、気を失った寮監さんの所に戻った。

 

 とりあえず気絶した寮監さんを肩に担いで、寮内にある寮監さんの部屋まで歩く。

 

 持ち上げるまでは一苦労だけど、肩に担ぐことさえできれば歩くことは簡単だった。

 

 少し説明しておくと『歩く教会』はさまざまな状況に対応できるけど重いものを持ち上げるのには向いていないんだよ。

 『歩く教会』の防御力で重さは感じないけどそれ自体の重さを消しているわけじゃないからね。抱きついたりして押さえつける力は強いけど、巨大な物を受け止めたりすることにはむいてないし、迫ってくる壁をおしとどめたりもできない。自動車が突っ込んで来たら吹っ飛ばされるし、ベルトコンベアの流れには逆らえない。ダメージは全部消せるんだけどね。

 

 つまりは自分よりも小さいものから少し大きいくらい相手であれば聖人であっても押さえつけられるけど、自分より大きすぎる物や高速移動するものなんかには弱いんだよ。

 

 これはまだ推測だけど超能力者(レベル5)の第四位である麦野沈利や、第二位垣根帝督あたりは、『歩く教会』にとっては天敵だろうね。

 

 麦野は押さえつけても能力『原子崩し(メルトダウナー)』で吹っ飛ばされるだろうし、能力上近づくことすら困難だから無理。

 

 垣根は能力『未元物質(ダークマター)』空を飛んでいるせいで押さえつけるところまでいけない上に、押さえつけられたとしても『未元物質(ダークマター)』ですぐに引きはがせる。それどころか『未元物質(ダークマター)』がこの世に存在しない物質である以上、『歩く教会』を貫通する可能性すらあり得るもんね。

 

 ちなみに一方通行に関しては勝つことは不可能だね。実験の時は魔術攻撃で『反射』を貫通させてひるませてから、何かを考えさせる前に全力で説得して戦いを続けさせなかったから助かっただけ。実際にあの後続けていれば『歩く教会』を破壊されていた可能性もある。

 

「さて、どうしようかな?」

 

 とりあえず、部屋に置いてあったベッドに寝かせたけど……。

 

 気絶したっていうのは本来かなりマズイ状態のはずなんだよね。あっちから手を出してくる不良ならともかく、今回は100%私が悪いからね。

 

「ん?」

 

 寮監さんの顔を覗きこんだ私の頭に手がそえられる。

 

 ふむ。なるほど、どうやら起きていたようだね。

 

 本来の動きのキレもないし、意識が戻った瞬間に目の前に私がいたから無意識に攻撃したのかな?

 

 寮監さんの両手首を掴んで頭の上で固定して、呼びかける。

 

「もしもし、寮監さん。気分はどう?」

「……最悪だな」

「まあ、ほぼ無意識とはいっても攻撃できるくらいだし、問題はなさそうかな?」

 

 うーん。それじゃあ、最低限の償いってことで朝まで面倒は見ないといけないかも。

 

「寮監さんは寝てていいんだよ。あとのことは私に任せて」

「おい、この手はなんだ?」

 

 『歩く教会』の防御力を利用して寮監さんの両手首を抑えている左手のことかな?

 

「だって、こうしないと攻撃してくるでしょ?」

「……」

「今日は私が悪かったのは私だから。こんな状態で言うのもなんだけど、もう一度だけ謝らせてもらうんだよ。ごめんなさい。お詫びとしてとりあえず朝まで看病? するんだよ。気絶したわけだし、せめて朝まで安静にするべきかも」

 

 まあ、気絶させた本人が言う台詞じゃないけどね。




 たくヲです。

 相談と一瞬の攻防。

 作中の憑依インデックスは双手刈はあまり好きじゃない様子ですが、私は結構好きな技です。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある着替と最強学生

 あの後、1か月半ほどが経過した。

 

 基本的に襲撃をしてくるのはステイルだったんだよ。

 

 やっぱり世界に二十人といない『聖人』である火織は私の相手だけしているわけにもいかないんだろうね。

 

 ステイルの魔術の性質的に、『歩く教会』の防御力を使って炎の魔術を受けつつステイルのルーンの範囲から脱出するだけでステイルはやり過ごせるから問題はなかったかも。

 

 きつかったのはできる限り学園都市のみんなとの接触を避ける必要があったってことかな? 

 

 接触したのは協力者である軍覇、今回のことで妹達(シスターズ)関連について全部任せなくてはいけなくなった一方通行(アクセラレータ)、寮監さんとの一件について話し合う(・・・・)必要があった操祈、そしてしばらく会えなくなるということだけを言うために利徳。

 

 

 軍覇はステイルの襲撃してきた時に助けてくれている。あとは、私の話し相手になってくれているんだよ。私の現状を知っていて、ある程度隠さず相談ができる相手ができたのはありがたいね。そういう相手が一人でもいるだけで、精神状態もだいぶ変わるからね。

 

 軍覇は今の所襲撃などは受けていないらしいけど、私に気を使っているだけの可能性があるかも。目に見える傷はないから、命の危険は今の所ないとは思うけどね。だいぶ楽観的な意見だけど。

 

 

 一方通行には『妹達(シスターズ)』についてのことを任せざるを得なかったんだよ。流石に、『妹達(シスターズ)』を魔術関連に今の状況で巻き込むのは問題があるからね。本当に困った時は私の使っている安い携帯電話にかけてくるように言っておいたんだよ。

 

 一方通行レベルなら友達として私について話しておいてもいいかと思っていた。でも、一方通行はアレイスターのプランの中核をなす存在だったはずだし、今のタイミングで魔術のことについて話すと、私の命が危ない上に、一方通行に関するプランの進行を早めてくる可能性が高くなるかもしれない。だから、魔術については言わないことにしたんだよ。

 

 まあ、魔術のことは隠して私が追われていることについてだけは話したけどね。

 

 

 操祈にはとりあえず、寮監さんに私に手を挙げられないようにしてもらった。素直に聞いてくれて助かったんだよ。

 

 そして、しばらく会えないことを言って、無理やり私の部屋を変えてもらったんだよ。一応、私が貸してもらっていた同室の二人は、操祈の派閥のメンバーだから危害が加えられそうな同室は避けた方がいいっていうことでの忠告を聞き入れてくれた。。

 

 空き部屋があったのは助かったね。常盤台中学の入学条件は厳しいからで、寮室が微妙に余ってるのも当然といえば当然なんだけどね。

 

 そういえば最近、前よりも少しだけ操祈の体力が増えている気がするんだよ。ほんの少しだけど。

 

 

 武装無能力者集団(アンチスキル)のみんなに関しては一番巻き込みづらいから、いったん離れなくてはいけないのは当然のことだったんだよ。なにせ、アンチスキルのみんなは学校の授業に出ていないからね。学園都市にいる恩恵が、無能力者であることもあってほとんどないといっていいんだよ。せめて、授業にでていれば気休めにはなったんだけど。

 

 そんな彼らと魔術サイドからの干渉が強くなってきた現在の私が関わってしまった場合、最悪会っている時にステイルに攻撃される可能性もあり得る。

 

 正直、ステイルは人払いのルーンを使用してから攻撃してくるから、魔術耐性がないスキルアウトのみんなが襲撃される危険性はほぼないけど、念には念を入れたい。

 

 しばらく会えないことについて話したのは利徳だけだった。このことについて話しに行った時には、前に利徳が助けたというフレメア=セイヴェルンがいたけど、浜面と半蔵が話の間見ていてくれたからね。横須賀や綿流もいなかったから、利徳だけに話すことになってしまったんだよ。どうやら、利徳は私がまた会いに来るまでにスキルアウト統一を果たすつもりみたいだね。スキルアウト最強格にカウントできそうな三人が所属してるし、問題はないかも。

 

 

「正直、バイトを止めたのが一番きついんだよ」

 

 もちろん襲撃が増えたからバイトも続けられなかった。仕方がない事とはいっても、生活で使えるお金が減ったのは厳しいからね。昼食的な意味で。

 

 朝食と夕食は寮で出るけど、昼食は出ないからね。春休み中は授業がないから昼食も出たんだけど、今は授業で常盤台の学生は昼にいないからね。

 

「ということで、おごってほしいんだよ」

「? なんでそんなことになるんだ?」

「昼食がないからお腹がすいた。お金もないかも」

 

 今はお昼時。軍覇と外を歩いている。

 

 軍覇が平日の昼間に外でうろついているのは朝から迷子の犬の飼い主を捜していたからだね。私が学園都市を歩き回っていたときに公園で女の子と遊んでいたところを見たことがある犬だったから、その子の学生寮と思われるところに連れて行くことができたんだよ。

 

「まあ、もちろん冗談だよ。節約してるからバイトしてた時のお金が余っているからね。流石の私もただでさえ助けてもらっているぐんはに奢りを要求するほど根性無しじゃないんだよ」

「お前ちょっと前は外で普通に食べてなかったか?」

「まあ、いつかこうなるとは思ってたからね。あの時のは最後の贅沢ってやつだね」

 

 まあ、家賃と朝食代、夕食代、光熱費がかかっていないし問題はないね。

 

 昼食は大体、寮の厨房を借りてお弁当を自分で作っているんだよ。死ぬ前は一人暮らしだったから、料理くらいはできるかも。

 

「よし、おごってやる!」

「いや、いいんだよ。そんなことまでしてもらわなくても」

「いいや、おごる。腹を空かせている友達を見捨ててちゃ俺の根性が廃る!」

「ぐんはには何度も助けてもらってるし、これ以上助けてもらうのも申し訳ないんだよ」

「困った奴を見捨てるのは俺が根性無しだって認めるようなもんだ。何が何でもおごらせてもらうぞ」

「大丈夫なんだよ。まだお金もあるし」

「いいや、ここはおとなしく奢られとけよ」

 

 ありがたいけど、キリがないんだよ。

 

「不幸だ――――――――――!!」

「!?」

「ッまてや、ゴルァ!!!」

 

 前方から聞こえてきたその声に思わず足が止まる。

 

「? なんだ?」

「……あれは」

 

 こっちに走ってくる学生服を着た黒いツンツン頭の男。そして、その男を追いかけてくる6人の男。

 

「……アイツら」

「……ぐんは」

「わかってる」

 

 私と軍覇は前に駆けだす。

 

 私はツンツン頭の左手側(・・・)をすり抜け、そのまま後ろの男たちに接近する。

 

「すごい」

禁書目録(インデックス)

「「ラリアット!!」」

 

 私の左手と軍覇の右腕が交差し、謎の衝撃波化して男たちにたちに正面から激突。男たちは宙に舞った。

 

 

 

 

「で? バイトを辞めさせられて金欠だからカツアゲしようとしたら、そこのお兄さんに止められて、代わりにカツアゲしようとしたら逃げられたから、追いかけてた、と?」

 

 私と腕を組んだ軍覇の前に正座する6人の男。

 

 この6人はスキルアウト統一のため動いている利徳の傘下に下ったチームのメンバーだね。私も面識があった人達なんだよ。

 

「……」

「まったく。金がないから人からとろうとするなんて、駄目なんだよ!」

「いや、マジでホントすんませんでした」

「すんませんで済んだら警備員(アンチスキル)はいらないんだよ! それに私に謝ってどうするのかな?」

「すみませんでした!!」

 

 6人はツンツン頭の男に向き直って土下座をする。

 

「っへ? いや、いいですよ!?」

 

 快く? 許してくれたんだよ。

 

「おい! お前ら! さっきの一発で今回は勘弁してやる。だが、これから利徳のやつのとこに連れてくからな!」

「はい! すんませんでした、軍覇さん!」

 

 それを聞いた軍覇はこっちを見て言う。

 

「じゃあ、俺はこいつら連れて利徳んとこに行ってくる」

「私はりとくたちとあんまり顔を合わせない方がいいだろうし、仕方がないんだよ」

「一人で大丈夫だな?」

「大丈夫。問題はないんだよ」

 

 さて、私は今までこのツンツン頭の男の右手(・・)に注意していた。

 

 そう、間違いなくこの男は。

 

「さて、私からも謝っておくんだよ。ごめんね。私の友達が失礼な事をしちゃって。あと、敬語は外してくれて構わないんだよ」

「……いや、さっきの奴らにも言ったけど大丈夫だ。それに助けてもらっちまったのは俺の方だしな」

 

 さて、ここはせっかく会えたわけだし、あのセリフで自己紹介をしないとね。

 

「俺は上条当麻。あんたは?」

「私の名前はインデックスっていうんだよ」

 

 

 

 その後、上条当麻が「助けてもらったお礼になんか奢らせてくれ」というので、私たちは移動したんだよ。

 

 正直、平日の昼間から授業も受けずに外をぶらついていていいのか疑問だね。まあ、この人は原作でも夏休み補修を受けてたし、これが平常運転なのかも?

 

「えーと。インデックスさん?」

「どうしたのかな?」

「なんで私達は服屋に来ているのでせう?」

「まあ、あれだね。せっかくだから、服でも買ってもらおうかなって」

 

 私はデパートの中の服屋の試着室で、服を着替えていた。正直、『歩く教会』を着たままだと上条当麻の右手(・・)でいつ破壊されて街中で裸にされるかわからなくてハラハラするからね。

 

「流石にお礼で服を買うなんて俺は持ってないんですが」

「もちろん冗談だから安心してね」

 

 ふーよかった、と安心している上条当麻について考える。

 

 上条当麻といえば、その右手にある能力『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が代表的だね。

 

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はありとあらゆる異能を打ち消せる力。非常に強力な力だし、禁書目録(インデックス)の首輪破壊のためにも使える力だね。

 

「これはどんな感じ?」

 

 ばさりと試着室のカーテンをスライドさせて外に服を見せる。

 

「へ? ……うーん、まあいいんじゃねえか?」

「適当だね」

「上条さんには女の子の服のセンスなんてわからんのですよ」

 

 適当に選んだだけだし、変じゃないなら何でもいいんだよ。いつも来てるのも修道服でかなり目立つしね。

 

 私はカーテンでもう一度体を隠す。

 

「ところで、本当になんでお前は服屋に入ったんだ?」

「それはもちろんあれは大切な服だからだよ」

 

 まあ、質問にはちゃんと答えないとこうなるよね。あんまり不信感持たせてもよくないし、魔術についてはできる限り伏せて話をしないと。

 

「? どういうことだ?」

「あなたの右手。不思議な力があるみたいだね」 

「!? なんでそのことを」

「触れられたくない事だったら申しわけないんだよ」

「いや、隠してることじゃねえけど……右手(この力)の名前は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』って言って、こいつに触れた『異能の力』はなんであろうと打ち消しちまうんだ」

 

 意外と簡単に説明してくれたね。まあ、原作でも結構すぐ説明してたしこんなものなのかな?

 

「うん、思ってた通りだね。さっき、ぐんはの能力が微妙に打ち消されてたし」

 

 もちろん、嘘なんだよ。こういう嘘くらいはつかないと話が合わせられないしね。

 

「そして、私の修道服は異能の力でできている。つまりあなたの力で打ち消されたくないんだよ」

「でも、そんなことのためにわざわざ服買いに来たのか?」

「……私の修道服での異能的な要素は縫い目と刺繍にあるからね。仮にあなたの右手(能力)で私の服に触れたら私は街中で裸にされてしまうことになるわけだけど」

「ゲッ!?」

「そうなっちゃったらあなたは警備員(アンチスキル)に捕まっちゃうだろうし、私は大衆の面前で裸をさらすことになるんだよ」

「すみませんでした」

 

 わかってくれたみたいだね。

 

 実際は『歩く教会』とは別に下着は着ているから裸にはならないんだけど、それでも街中下着状態は裸とほぼ変わらないから、どちらにせよ避けたい。何より私も警備員(アンチスキル)に捕まりかねないもんね。

 

 さて、私が上条当麻についてきたのは彼にある程度絡んでおいた方がアレイスターが自分を排除する意思を薄められるかも、っていう打算的な面があるんだよ。

 

 とはいっても、アレイスターはともかく、私の計画には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は必要ないんだよ。

 

 魔術師との闘いに巻き込むのも悪いからできるだけ早めに離れておきたいところだね。

 

 まあ、軍覇を巻き込んでいる私の台詞じゃないけど。

 

「ところで、言っておかなくちゃいけないことがあるんだよ」

「なん……だ?」

 

 その瞬間、唐突にカーテンが落ちた。

 

 上条当麻はこっちを見て固まっており、私は現在一度試着していた服を脱いで下着姿になっている。

 

 ……うん。上条当麻といえばこういうこと(・・・・・・)が日常茶飯事だって知っていたけど、実際遭遇してしまうと戸惑うものがあるんだよ。

 

「……申しわけございませんでしたーーーーーー!」

 

 ッバっと頭を下げる上条当麻。

 

「……まあ、問題はないんだよ。今回はあなたのせいじゃないみたいだし」

 

 ある意味、上条当麻のせいだともいえるかもしれないけどね。

 

「とりあえず、回れ右してお店の外で待っていてくれると助かるかな」

「あ、ああ! ほんと悪かった!!」

 

 上条当麻が去っていく。とりあえず、私から見える範囲に人はいないみたいだし助かったんだよ。

 

 私は地面に落ちたカーテンを上のレール部分? にひっかけて即席のカーテンにして応急処置をする。

 

 

 やっぱり、上条当麻を仲間に引き入れるのはリスクが大きいと言わざるを得ないね。

 

 上条当麻と絡むといつ『歩く教会』を破壊されるのかわからなくてひやひやするからね。

 

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は確かに魔術などの異能を打ち消せる、異能に対しての最大の対策になるんだよ。でも、そのために『歩く教会』の圧倒的な防御力を捨てるべきかといわれると微妙な所だね。

 

 『歩く教会』の防御力があれば『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で対処できない兵器にも最低限の対処はできるしね。

 

 もともと仲間に加えるつもりもなかったけどね。それに、今こんなことを考えていても仕方がない。

 

 さて、服も着替えたし……?

 

「あれ?」

 

 人払いの魔術がいつの間にか周囲を覆っている。

 

 魔術の形式もいつもの奴(ルーン魔術)だし、ステイルの魔術ってことで間違いはないだろうね。

 

「まずいかも」

 

 この店の前には上条当麻がいる。

 

 つまり、ステイルが私を追いかけてここに来ようとしたら、必ず上条当麻と鉢合わせることに……!

 

 その瞬間、私の耳に爆音が聞こえてきた。




 たくヲです。

 遭遇回。

 タイトルは『とあるきがえとさいじゃくがくせい』と読みます。

 インデックスと削板軍覇による友情のツープラトン。『すごい禁書目録(インデックス)ラリアット』はインデックスの足の速さに軍覇が合わせて、インデックスのラリアットの後ろから被せるように軍覇がラリアットを放つことで、『歩く教会』で軍覇の攻撃力を落とし、敵を気絶しない程度のやりすぎない程度のダメージを与えるように調整する技です。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします;


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とある魔術と幻想殺し

 上条当麻の元に向かう途中にあった監視カメラは止まっていた。

 

 おそらく、魔術サイドからのスパイである土御門元春あたりが裏で動いているのかも。

 

 ステイルに監視カメラを止める技術はないだろうし、監視カメラに魔術が撮られて、一般の警備員に見られるのもまずいだろうからね。

 

 監視カメラは人払いが効かないおかげで魔術師を撒くためには有効な手段だったんだけど、その方法が使いづらくなっちゃったのは残念なんだよ。

 

 私はすぐに爆発の場所まで辿り着いた。やっぱり店の目の前だった。

 

 そこではちょうど上条当麻がステイルの炎剣を右手で打ち消した所だった。

 

 ちょうど私がいるのはステイルの斜め後方だね。爆発の場所を見てうまく回り込めたかも。

 

「い、きなり、なにしやがるんだ! テメェ!」

「……『人払い』の中にアレ以外の人間がいたからヤツの同類かと思って攻撃してみたが、その認識で間違いなかってたようだね」

 

 ステイルは炎剣を再び出現させ、上条当麻の言葉を無視して喋る。ヤツってのは軍覇のことかな?

 

「ヤツの力は僕の魔術を強引に弾き飛ばしていたが、君は僕の魔術を打ち消しているってところか。まったく学園都市(この街)には君たちみたいな化け物しかいないのかい?」

 

 ステイルも随分と余裕だね。やっぱり、同じくほとんどの魔術が効かない軍覇に会っていたからかな?

 

「……魔、術? なにを……」

「? ……ああ、アレから聞いていないのか。僕の攻撃を避けなかったからてっきり知っているのかと思ってたけど。……まあ、知らないならそれでいい」

 

 うんとりあえず機会をうかがうべきかな。今出て行っても仕方がないし、迂闊に動くと上条当麻に『歩く教会』を破壊されかねないんだよ。

 

「インデックスは……なるほど。アレは相当君が心配らしい。じゃあ、ここで君を痛めつければそのうち出てくるかな?」

「ッ!」

 

 うん。前から思ってたけど、ステイルって喧嘩っ早いよね。

 

「一応ここは最低限の敬意を表して我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)と名乗らせてもらうよ。君も大概に油断のならない奴みたいだからね。」

「……?」

「魔法名、といってもわからないだろうね。まあ、君にもわかりやすくいうなら……殺し名かな?」

 

 ステイルは右手で炎剣を横薙ぎに振るう。

 

「ッ!」

 

 上条当麻の右手に触れて炎剣は消し飛んだ。でも、その時にはすでにステイルは次の魔術の詠唱に入っている。

 

世界を構築する五大元素の一つ(MTWOTFFTO)偉大なる始まりの炎よ(IIGOIIOF)

それは生命を育む恵みの光にして(IIBOL)邪悪を罰する裁きの光なり(AIIAOE)

それは穏やかな幸福を満たすと同時(IIMH)冷たき闇を滅する凍える不幸なり(AIIBOD)

その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)!!」

 

 その詠唱で現れたのは炎の巨人。『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。ルーンの刻印が刻まれている範囲であればステイルの魔力が尽きない限り何度でもよみがえる魔術。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が巨大な炎の十字架を上条当麻に振り下ろす。

 

 上条当麻は右手で十字架をを受け止めたけど、今度は打ち消されない。

 

「なッ!?」

灰は灰に(Ash To Ash)

 

 さらにそこに追撃するために、ステイルは詠唱を始めた。

 

 私はその詠唱と同時に走り出す。

 

塵は塵に(DustToDust)

 

 ステイルの両手に炎剣が出現する。

 

 本来なら、こんなことをするつもりはなかったんだよ。何しろ、これは火織の準備ができてからするつもりだったからね。

 

 でも、流石に魔術を知らない一般人に手を出すのを黙って見過ごすわけにはいかないんだよ。

 

 私はそのままステイルに背中から抱きついた。

 

「なっ!?」

 

 ステイルが声を上げる。

 

 そして私は

 

爆散せよ(BTF)!」

 

 『強制詠唱(スペルインターセプト)』でステイルの炎剣を爆破する。

 

「ッ!?」

 

 予想していなかった爆発にステイルの2メートルもある身体が一瞬宙に浮いた。

 

禁書目録(インデックス)反り投げ(スープレックス)!!」

 

 私はその爆発の勢いを利用し、ステイルを真後ろにブリッジをするような形で投げる。

 

「ッ!」

「ぐ、はッ!?」

 

 それでもステイルの巨体を投げきるには勢いとパワーが足りなかった。ブリッジの状態まで行けずに投げの態勢が崩れ、自分の身体ごとステイルを背中から固い床にに叩きつける。

 

 これじゃあ『禁書目録(インデックス)後方投げ(バックドロップ)』かも。ここまで完全に技を失敗すると流石に悔しいんだよ。

 

 それでも、背中から床に叩きつけられたステイルは結構なダメージを受けているみたいだね。

 

 同じく背中を打ち付けた私は『歩く教会』のおかげでノーダメージなんだよ。

 

「インデックス!!」

 

 上条当麻がこっちに向かって叫ぶのが見える。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』はさっきまでいた場所から消えていたんだよ。そしてその代わりに『魔女狩りの王(イノケンティウス)』がいた床に大きな穴が空いている。

 

 おそらく巨大な十字架をなんとか上条当麻が受け流して、流された十字架が地面に直撃して穴を空け、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』はその穴から地下階に落ちたんだろうね。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』は強力な魔術だけど空を飛ぶことはできないはずだし。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』は穴から再びこの階に上がろうとしているのか、巨大な腕が穴から飛び出してくる。

 

 私は上条当麻の近くまでかけよる。

 

「大丈夫?」

「なんとかな」

「『魔女狩りの王(あれ)』とまともに戦うのは時間の無駄だからね。さっさと逃げるんだよ」

 

 

 

 

 デパートの外は平日の昼過ぎってこともあってほとんど人はいなかったんだよ。

 

 いるのは授業の終わりが早かった、小学生くらいだね。

 

 しばらく走って公園に入り、ベンチに座る。

 

「ふう……、とりあえず撒いたかな?」

 

 ステイルはルーンを使った陣地を作ってた戦う魔術師だからね。配置時間を考えれば問題はないかも。

 

「おい、インデックス。さっきのあいつはなんなんだよ?」

 

 上条当麻が聞いてくる。

 

 困ったんだよ。上条当麻を巻き込むつもりはなかったんだけど、結局巻き込んでしまった。

 

「……学園都市の能力者の知り合い、なんて説明じゃ納得しないよね? 個人的にはそれで納得してもらえると助かるんだけど」

「ああ。お前がどんな事情があるかは知らねえし、さっきの奴が言ってた『魔術』なんてのも知らねえよ。でも、説明してくれさえすれば、力になれるかもしれない」

「それは無理なんだよ」

 

 私はすぐにそう返答する。

 

「気持ちは嬉しいんだけどね。今日出会ったばかりのあなたを本格的に巻き込むにはこの問題は大きすぎる」

「お前はあんな初対面で何も言わずに攻撃してくるような奴に狙われてるんだろ? あんな奴に追われてる女の子を見捨てられるわけないだろ」

 

 仕方がない。気は進まないけど、少し説得の方向性を変えようかな。

 

「……はあ。正直に言うとね。協力自体をしてほしくないんだよ。さっきも言ったけど私のこの修道服は異能の力でできているんだよ。その異能の力は言うならば『法王級の(絶対的な)防御力』。私がステイル(あいつ)に攻撃できたのはこれの防御力があってこそなんだよ」

 

 あんまり言いたくはないんだけど言わないといけないね。

 

「あなたの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はおそらくこの修道服を破壊できる数少ない力の一つ。そんな力の持ち主といっしょにいるのはリスクが高すぎるんだよ」

「そんなもん俺がお前に触らなければ……」

「できると思う?」

 

 これは上条当麻の不幸とかカミジョー属性(ラッキースケベ)だとかそういう問題じゃないんだよ。

 

「例えば私が石に躓いて転びそうになった時に、あなたは思わず右手を伸ばしてしまうことがないって言い切れる? 私の後ろを歩いていたあなたが前に向かって転んで、私の身体のどこかに右手が当たったりしたら? どんな些細なことであっても、私の修道服はあなたの右手が触れただけで破壊されてしまうんだよ」

 

 『歩く教会』は命の危機から身を守るための最大の保険。それを破壊されるのと上条当麻の協力。どちらがいいかと言われれば異能以外も対処できる『歩く教会』の方がいいんだよ。

 

 それに、上条当麻と一緒にいると、その右手の動きに注意を向け続けなくてはならないからね。なんというかすごく疲れるんだよ。

 

「今この場であなたが今日起こったことを全て忘れて(・・・・・)私から離れれば、まだあなたは日常に戻れるんだよ。逆に私が今ここであなたに全てを話してしまえば、あなたは一生こっちの世界(・・・・・・)から逃れられない。そして私はあなたの右手でこの修道服を破壊されるリスクを負うことになる。……どっちがいいかなんてすぐにわかるよね?」

 

 もう、これは一種の警告であり、拒絶なんだよ。ここでなにも聞かない方が上条当麻にも私にもメリットが大きく、聞いてしまった方がデメリットが大きくなるから、関わらないでっていう拒絶。

 

 メリットデメリットで付き合う友達を決めるのは好きじゃないんだけどね。でも、ここでメリットデメリットを引き合いに出さないと、私の頭じゃ説得の言葉は思いつかない。

 

「……本当に大丈夫なんだな?」

「うん。今のところはね」

 

 上条当麻はポケットから携帯を取り出して、上条当麻で登録された電話番号を私に見せながら言う。

 

「わかった。でも、俺の電話番号だけでも覚えといてくれ。俺が力になれることがあるかもしれねえし」

 

 ……私は忘れてって言ったんだけどね。まあ、せっかくの好意だから受け取っておこうかな。

 

「わかったんだよ。ありがとう」

「つーか、このままじゃ覚えられないよな? ノートでも破ってそこに書いておけばいいのか?」

「いや大丈夫だよ。もう覚えたから」

 

 そこで、上条当麻は目を丸くして言う。

 

「まさか、今のだけで覚えたのか? どんな記憶力だよ」

「まあ、記憶力には自信があるからね。……ありすぎて困るくらいには」




 たくヲです。

 天秤にかける回であり、技失敗回。

 なんか、最後の方の上条さんの台詞が傍から見ると新手のナンパみたいに見えそうな感じに……。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある説明と計画始動

「七閃」

 

 私の真横の地面を神裂火織の七閃が切り裂く。

 

 私はただまっすぐに走る。目指すはステイルの『人払い』の魔術の外。

 

 もう残り十数メートルで人払いの結界の外に出れる。

 

 でも、あと一歩で出れるというタイミングで目の前に火織が落ちてくる。

 

 後方から跳んで、一気に距離を詰められた。そう考えた瞬間に火織が私の『歩く教会』の袖を右手で掴み、左手を添えるようにして一本背負いのような動きで放り投げる。

 

 地面に背中から叩きつけられるけど『歩く教会』によってダメージはない。

 

 立ち上がるため、横に思いっきり転がると直前にいた地面に火織の刀、七天七刀の鞘が突き刺さる。

 

 私は立ち上がりながらも逃げようと足を動かす。しかし、力の入れ方を間違えよろける。

 

 私の真上を鞘に入ったままの七天七刀が切り裂くように横切っていく。

 

 私はそのよろけて転んだ勢いのまま斜めに前転し、その勢いで立ち上がり走る。

 

 さっき投げられたことでわずかに減った結界外までの距離を一気に詰める。

 

「七閃」

 

 その声にとっさに真横に跳ぶ。跳ぶ前足がついていた地面に七閃の傷が走る。

 

 私はそのまま結界の外に飛び出す。右に人が歩いているのが見える。

 

 人の目ができたおかげで、追撃の手が止まった。

 

 私は振り返ると、すでにそこには火織の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 上条当麻と別れてから一ヶ月が経過し、6月になったんだよ。

 

 困ったことに襲撃の頻度は上がっている。一ヶ月前までは4日に一度だった襲撃が半月前には3日に一度になり、今では2日に一度は襲撃を受けているんだよ。

 

 とりあえず、今日はすでに襲撃を受けてるし、本来なら明日までは襲撃の心配はないはずだったんだけどね。

 

 今の所、常盤台中学の女子寮が襲撃されたことはない。超能力者二人が所属する常盤台を襲撃するのは、流石にリスクが大きすぎるし、土御門元春あたりが裏工作してくる危険も少ないはずだもんね。

 

 私としては襲撃されないことに越したことはないからありがたいし、何より襲撃を警戒して選んだ居候先だからね。

 

 

 今、私は軍覇と行ったとある場所から、いつかの河川敷に行くところなんだよ。

 

 軍覇を呼んだ理由は二つ。

 

 そのうち一つは今日の火織の襲撃に、正確には襲撃後にあった。

 

 今日襲撃してきた火織は私を背負い投げする瞬間に、私の『歩く教会』の袖の中にとあるものを入れていた。

 

 それは日本のどこのものかはわからない山をデフォルメしたご当地キャラのキャンドルだった。

 

 なんでそんなものを入れたのかっていったら、もちろん魔術を発動するためなんだよ。

 

 術式は『山彦』。遠くの山に大声を発すると反響によって声が戻ってくる自然現象を、偶像崇拝の理論を用いて再現したものなんだよ。神の力なんかを再現する魔術が多いけど、これはどちらかといえば妖怪的な方向性の魔術と言えるね。

 

 効果は単純で『一度吹き込んだ声が戻ってくる』というたいしたことのない効果。ただし、耳を当てないと聞こえない代わりに、声を吹き込んだものに直接耳で触れられていない限り、決して盗聴されることがないという隠し効果を持つんだよ。偶像崇拝の理論で本来のものより弱体化しているのを逆手に取っている魔術と言えるね。

 

 さらにこの術式のために使用したのはキャンドルだからね。メッセージを聞き終えた後は火をつけて溶かしてしまえば証拠はほぼ残らないんだよ。

 

 その術式で聞いた火織からのメッセージ。これが重要だった。

 

 一つは、火織に調べてもらっていたことが分かったらしいってこと。もう一つは『今日の18時半ごろにステイルと共に私を襲撃する』ということ。

 

 一つ目に関しては思っていたより速かったと言わざるを得ないね。

 

 すぐにでも計画を実行に移したいところだけど、流石にまだやることが残っていたんだよ。……具体的には説得なんだけどね。

 

 そのことについて話すために、軍覇にはわざわざ来てもらったわけだね。まだ、私たちの計画については軍覇にはちゃんと説明できていなかったし。

 

 

 軍覇を呼んだもう一つの理由は、今回向かったとある場所の人達をあんまり巻き込みたくなかったから、っていうことだね。

 

 もう一人説得したい人のいる場所を襲撃されるとシャレにならないからね。いざというときのために軍覇に来てもらう必要があったんだよ。

 

 今日は一度襲撃があったし、火織は問題ないとしてもステイルもあまり一般人は巻き込みたくないだろうってことを考えると、襲撃の可能性はほぼないと思ってはいたけど、念には念を入れてってことで。実際、襲撃はなかったし。

 

 まあ、冷静に考えると、これから思いっきり巻き込んでしまう可能性があることを考えると何とも言えない気分になる。

 

 そのあたりはあの人(・・・)次第って感じだし、私にどうこうできることではないんだけど。意外だったのはほとんど二つ返事で協力してくれたことだね。一応、他の人も巻き込む可能性があることは説明したんだけど……。

 

 

「さて、ぐんは」

 

 河川敷に着いた。

 

 学園都市に潜入した時オリアナと別れたのも、利徳と横須賀が決闘したところも、横須賀が黒妻綿流と決闘したところも、火織と魔術について会議したのもここだったんだよ。

 

 私は周りを見回す。見える範囲には人はいない。

 

「ちょっとお願いしたいことがあるんだよ」

「なんだ?」

「ここで、私を巻き込まず、かつ他人に攻撃が当たらないように大爆発を出してもらえないかな?」

 

 軍覇は首を傾げる。

 

「そんなことしてどうすんだ?」

「ちょっと内緒話をね」

 

 もちろん、これは停空回線(アンダーライン)対策なんだよ。

 

「あんまり、他人に聞かれたい話じゃないし。あなたには話しておかないといけないからね」

「お前を巻き込まない保証はねえぞ?」

「大丈夫大丈夫。ぐんはの根性なら私を巻き込まないように能力を使うくらい余裕余裕」

 

 軍覇は自分の能力を制御できてるとは言えないから、心配といえば心配だけどね。

 

「私は何よりあなたとあなたの根性を信頼しているからね。きっと、私の期待に応えてくれるって」

「……ハッ。そう言われたら断れねーな」

 

 空気が変わる。

 

 私達の周りに空気が集まっていく。少し離れたところにある空気にカラフルな色が付き始め、周囲には何か得体のしれない力が満ちていくのを『歩く教会』ごしに感じる。

 

「ッ!」

 

 軍覇が地面に両腕を叩きつけた瞬間に起こった爆発が周囲を覆った。

 

 さらに何かの力がバリアのように私と軍覇を守っていた。抑えきれなかった爆風が私の『歩く教会』を叩く。

 

 私は爆風を無視し、軍覇の耳元に口を近づけて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発が完全に収まり、内緒話が終わった。

 

 時間は大体午後7時半。

 

 背後からザッ、という河川敷の砂を踏む音。

 

 私と軍覇は音のした方に向きなおす。

 

 15メートル先にステイルと火織が立っていた。

 

 

「さて、ぐんは。任せたんだよ」

「おう。お前もぶちかまして来い!」

 

 そう言った瞬間に軍覇が一歩踏み出す。

 

 地面を蹴って、砲弾のように二人への距離を詰める。

 

 火織が鞘に納まったままの七天七刀でその攻撃を受ける。

 

 しかし、その勢いを抑えられずに後方に吹っ飛ぶ。

 

「ッ!?」

 

 ステイルが振り返った時には、すでに二人との距離はかなり離れている。

 

「ステイル」

「! ……炎よ(Kenaz)

 

 ステイルの右手に炎の剣が現れる。

 

 私はただステイルの顔を見つめる。

 

巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!!」

 

 私に向かって炎剣が横なぎに振るわれる。

 

 私はそれを、

 

「!?」

 

 両腕を大きく開いて受け入れた。

 




 新約12巻をやっと購入した結果、もう再登場しないと思ってたからこの作品に登場させたアイツが登場したことに驚き、いったん本を閉じてどうしようかと小一時間ほど悩んでいた、たくヲです。

 繋ぎ回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある四人の決戦前夜

 私は両腕を左右に開いて大きく空気を吸い込み、息を止める

 

 その直後に叩きつけられる炎剣。

 

 炎剣が爆発し、私は真後ろ(・・・)にに吹き飛ばされて仰向けに地面に倒れる。

 

 勿論、ダメージはない。

 

 私はゆっくりと立ち上がり、ステイルの顔を見る。

 

「! 原初の炎(TOFF)その意味は光(TMIL)優しきに温もりを守り(PDAGGW)厳しき捌きを与える剣を(ATSTDASJTN)!」

 

 ステイルが炎剣を出現させる。その表情はあまりにも辛そうで。

 

「見てられないんだよ」

 

 私はステイルに向かって走り出す。25メートルほどに開いた距離を駆け抜け一気に接近する。

 

 ステイルはすぐに表情を消した。ただ私を迎え撃とうと炎剣を腰だめに構える。

 

禁書目録(インデックス)低空体当たり(スピアー)!!」

 

 私はステイルの腹部に向け頭から低姿勢で突っ込む。

 

 魔術の習得のために身体能力を犠牲にしているステイルはこの攻撃を避けれない。避けようとしても当てることはできるはず、だった。

 

「!?」

 

 スカッ、っとステイルの身体を私の身体がすり抜け、勢い余って地面に倒れる。

 

 地面が爆発し右方に吹き飛ばされる。

 

 河川敷の傾斜に背中から叩きつけられたが、ダメージはない。

 

 上下反転した景色の中で、ステイルは私の攻撃した場所の左側に川を背に立っている。

 

 私はすぐに立ち上がりつつ、一つの結論を出した。

 

 『炎』の魔術によって作り出した蜃気楼。私の攻撃を避けたのはそれだね。

 

 それも純粋な『蜃気楼』の魔術ではない。

 

 昔の人々は蜃気楼という現象を見て、それを神の仕業だと思い魔術にした『蜃気楼』の魔術も確かに存在する。

 

 でも、私が見て(・・)『蜃気楼』の魔術だと解析できていないということは、炎の魔術の副産物のようなものであると考えた方がいい。

 

 

 私は傾斜を駆け下りステイルに向かって再び走る。

 

 私は走りながら懐に手を入れ、|単語帳を取り出す。

 

 ページは4ページ。そのうちの一ページを口でちぎりとり、単語帳のを投げ捨てる。

 

禁書目録(インデックス)ラリアット!!」

 

 ステイルに向かってラリアットを放つ。叫んだことでくわえていたページが落ちる。

 

 スカッ、っと私の振った腕はステイルの身体を突き抜ける。

 

 真横からの炎剣がバランスを崩した私を真横に吹き飛ばす。

 

 今度はしっかりとしゃがむように着地をした私はすぐに立ち上がり、ステイルに突撃していく。

 

灰は灰に(Ash To Ash)塵は塵に(DustToDust)

 

 闘牛のように何度も突っ込んでくる私を相手にしていては埒が明かないと思ったのか、ステイルは術式を変える。

 

 両手に二つの炎剣が出現する。

 

両炎剣の軌道を上に(DFBOOCU)!」

 

 『強制詠唱(スペルインターセプト)』で術式に割り込む。真上に跳ね上がった炎剣に合わせ、ステイルの両腕が真上に跳ね上がる。

 

 そして、私はステイルとは全く別の方向に走る向きを変更する。

 

 正確にはさっき引きちぎった単語帳のページの魔力に向かって走る。

 

 蜃気楼のステイルが目を見開く。

 

 跳ね上がった炎剣の制御がステイルに戻る。

 

 本体にしたことで蜃気楼ではないステイルの姿が現れる。

 

吸血殺しの(Squeamish Bloody)……」

禁書目録(インデックス)足甲片足蹴り(サッカーボールキック)!!」

 

 ステイルの右足に、走った勢いのままのサッカーボールキックをすり抜けざまに叩きつける。

 

 ステイルのすぐ斜め後ろで立ち止まり、横目で確認するとステイルは膝立ちになっている。

 

 ステイルが私の姿を追うように膝立ちのまま振り向く。

 

 それと同時に私は振り返る。

 

 ステイルの頭は膝立ちになったことで、私でも届く位置にまで落ちている。

 

禁書目録(インデックス)裏拳(バックナックル)!!」

 

 振り返る勢いのままに放った裏拳が顎先に入る。

 

 ステイルは力が抜けたように倒れ、両手から炎剣が消える。

 

 気が付くとすぐ近くにまで軍覇と火織が来ていた。

 

 二人はほとんどダメージはないように見える。

 

「終わったのか?」

「いや。これからが本番なんだよ」

 

 

 

 

 私と火織と軍覇、そして気絶したステイルはさっきの場所から2キロほど移動していた。

 

 それはステイルのルーンの範囲から抜けるためなんだよ。

 

 気絶したステイルは靴なんかも含めて魔術道具は没収して、ステイル自身の修道服で腕を縛っている。暴れられても困るからね。

 

 さらに周囲には火織の結界まで張っている。まあ火織はあんまり結界は得意じゃないらしいけど、最低限の処置だね。

 

 さっき、私が使った『改良版速記原典(ショートハンド)』の魔術は……そうだね、『追跡犬(ドッグチェイサー)』とでも名付けようかな。『改良版速記原典(ショートハンド)』の性質上もう二度と使えない魔術だし、名前は適当でいいんだよ。

 

 簡単に言えば魔術を受けることでその魔術の魔力を覚え、魔力の発信源である魔術師を追跡し、その魔術師に張り付くっていうただそれだけの魔術だね。

 

 ステイルは気が付かなかったようだけど、仮にも『原典』だから見つけられたとしてもちょっとやそっとじゃ壊れないんだよ。

 

 

「っ……ここは」

 

 ステイルが目を覚ました。

 

 ステイルは一応火織がお茶を使った天草式回復魔術で強引に治したからダメージはないはず。

 

「かおり」

「わかってます」

 

 火織が魔術を発動し、衝撃波で結界内の『滞空回線(アンダーライン)』の機能を停止させる。

 

「神裂火織。君は裏切ったのか?」

 

 それを見て察したのか、ステイルが問いかける。

 

「いいえ」

「だったら、なぜ禁書目録の側(そっち側)にいる? まさか、あの時の言葉を真に受けたわけじゃないだろう」

 

 あの時っていうのは、たぶん一番最初にステイル達の襲撃から軍覇が助けてくれた時のことだろうね。

 

「ステイル、裏切ったというなら私達の方でしょう。私たちは最後のあの夜にこの子(・・・)が……いえ、インデックス(彼女)が見せた笑顔を裏切った」

「ッ! そこまで話したのか……そうだ。僕達はあの子を裏切った。だが、それは……」

「インデックスが記憶を消す苦しみをやわらげるため、でした。でも、本当にあの子のことを思うなら、私たちは探し続けるべきだったんです」

 

 火織は私を見る。

 

この子(・・・)が幸せになる方法を。どれだけ時間がかかっても。敵としてではなく、友人として」

「……」

「ステイル」

 

 私は話しかける。

 

「この間も言ったんだよ。私はあなたたちに助けてほしいって」

「……君はまさか覚えていたのか?」

「覚えてはいないんだよ。でも、あなたたちが私の友達だったことは知っていた」

 

 私はステイルの後ろに回って腕を縛っていた修道服をほどく。

 

「以前の私の気持ちはわからないし覚えていない。でもね、ステイル。今の私はずっとあなたと友達になりたかったんだよ?」

「……」

「私はやり直したい。さっきのあれで、今までのことは全部水に流して、私と友達になって私を助けてほしいんだよ」

「……だが僕には、君を助けられるだけの力は」

「一つだけ可能性があります」

 

 火織が口を開く。

 

「インデックスの記憶を消さなくてもいい可能性をもった計画が。必ず成功するとは決して言えませんが」

「私はその計画にすべてを賭けたい。成功すれば私は記憶を消すことなくあなたたちと笑って過ごせる。でも、失敗すれば、二度と私たちが笑って暮らせる未来はない。それでも、やらなきゃいけない」

 

 私はステイルの目を見る。

 

「私は二人と並んで歩きたいんだよ。だから、私に力を貸してほしいんだよ」

「……その計画とやらが成功すれば、本当にこの子の記憶を消さなくてもいいんだな?」

「ええ、間違いないです」

 

 ステイルは少し目を閉じ。何かを考えて、これまでに一度も聞いたことがないほど優しい調子で言う。

 

「わかった。インデックス。少し説明をしてもらうよ」

 

 

 

 

 

「なるほど。確かに、それなら可能性はあるね」

 

 とりあえず改めて修道服を着てもらったステイルが言う。

 

「この作戦の根幹には学園都市の人がいるんだよ。それでも、構わないのかな?」

「正直言って気に食わないが、それしか方法がないというなら、受け入れざるを得ないさ。まあ、少しでも君におかしなことをしようというなら、この手で焼きつくすけどね」

 

 さて、準備は整った。

 

「この計画を実行する以上、私には何もできない。全部あなたたちに託すしかないんだよ。だから、ぐんは、かおり、ステイル。三人の力を私に貸してほしい」

 

 私は三人に頭を下げる。

 

「当たり前だな。ここまで、関わって知らんぷりなんて俺の根性が廃る」

「ええ、もちろんです」

「今までの行いの償いくらいはさせてもらわないとね」

 

 さて、そうと決まれば早く電話をしないとね。




 たくヲです。

 ステイル加入回。

 ここから先はスピード勝負。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある二人は禁書目録

 6月7日。朝7時40分。

 

 私は軍覇、火織、ステイルと第七学区のとある道で人を待っていた。

 

 『人払い(Opila)』の魔術は張ってないから、登校中の学生たちの視線が気になるんだよ。

 

「本当に奴がくるのかい?」

「とりあえず電話はしたからね。あんな朝早く電話しちゃったのは申し訳なかったけど」

 

 モーニングコールみたいなものだと思ってもらえればありがたいんだけどね。

 

「来たみたいだね」

 

 走ってきたツンツン頭の男は、道の端に並んでいるコスプレ不審者集団を見て、何とも言えない顔をする。

 

「やあ、待ってたよ。かみじょうとうま」

「あ、ああ。どうしたんだ? っていうか、インデックス……でいいんだよな?」

「うん」

 

 まあ、いつもと違う格好だしね。

 

 私が着ていたのは白のミニワンピ。まあ、一瞬わからないのも無理はないかな?

 

「っていうか、テメエはなんでインデックスといるんだ!? まさか……」

「ああ、別にとうまの心配するようなことは起こってないから安心して。ステイル達とはいろいろあって和解したんだよ」

 

 一瞬ステイルが動きかけたけど、私が右手を横に出して止める。

 

「とはいえ、ステイルがとうまを攻撃して、殺そうとした事実があるから、警戒するのもわかるんだよ」

「……すまなかった」

 

 ステイルが頭を下げる。

 

 ふむ、まあそうするように促したとはいえ、ステイルが頭を下げるとは思ってなかったからちょっと驚いたかも。

 

「どういうことだ? 簡単に頭を下げるような奴には見えなかったけど」

「この子を救うには君の協力が必要らしい。そのためなら頭くらい下げるさ」

 

 ありがたいんだよ。軍覇が何やら頷いている。

 

「まあ、命を狙われたのを簡単に許せるものでもないだろうし、一発までならなぐってOKかも」

「なッ!?」

「いや、構わねえよ」

「まあ、そう言ってくれると思ってたんだよ」

 

 許さなかったら殴らせていたかって言われていたら、それも違うけどね。今から、やらなきゃいけないことがあるこの状況で、ステイルにダメージを受けてもらうわけにもいかないし。

 

 全部終わってからだったら殴らせたけどね。

 

「で、俺は何をすればいい?」

「壊してもらいたいものがあるんだよ」

 

 私達にはできないこと。

 

 差し出したのは白い修道服。

 

「これは……。大事な物なんじゃなかったのか?」

「そうだね。でも、壊さざるを得ない事情があるんだよ」

「……わかった」

 

 上条当麻が右手で『歩く教会』に触れる。

 

「……」

「……アレ?」

 

 『歩く教会』は壊れずに残っている。

 

 そのことに驚いたのか当麻は疑問の声をあげ、火織は不審そうにそれを見ている。

 

 そこから一拍おいて、私の手の中で『歩く教会』はフード部分も服部分も同時にバラバラになる。

 

「うん。成功だね」

「まさか、これほどとは……」

 

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を知らなかった火織と、効果は知っていたけどどれだけの力かを考えていなかったステイルが驚く。

 

 原作でも、『歩く教会』に当麻が触ってから消えるまでにこんなラグがあった。これはやっぱり『歩く教会』の圧倒的な魔力と防御力のせいなんだろうね。

 

「ありがとう、とうま」

「やってから言うのもなんだけど、本当にいいのか?」

「うん。……説明したいのはやまやまだけど、今は時間がないからね」

 

 『歩く教会』が破壊されたということは私が完全に無防備になったということ。

 

 こんな状況で襲撃なんてされたらたまった物じゃないからね。

 

「全部終わったら、改めて報告に行くんだよ」

「なんか、俺にやれることはないのか?」

「残念だけどないね。……いや、あると言えばあるけど、あんまりおすすめしないかも」

 

 うーん。正直、あれだけ突っぱねておいて、こうやって力を貸してもらいに来ただけで恥知らずもいいところなのに、これ以上はちょっと。

 

「前回俺の協力を断ったのは俺の右手(・・)がお前の『歩く教会』を破壊しないため、だったよな? もう『歩く教会』ってやつは壊れた。それなら、俺がお前に協力しない理由もないんじゃないか?」

「む」

 

 してやられたかも。

 

 まさか、前回当麻の協力を断った理由を覚えているとは思ってなかったんだよ。

 

「……命の危険があるけど大丈夫?」

「ああ、こちとら不幸はあらかた経験済みだ。今更命の危険なんざ」

「学校は?」

「うぐっ!? ……学校がなんだ! 人を見くびってんじゃねえ!」

 

 ちょっと考えたね。

 

「へっ。おもしれーなオマエ」

「ぐんは?」

「ここまでの根性を見せられちゃあ断るわけにはいかねえな」

 

 ふむ、まあ軍覇が言うならいい、のかな?

 

 あと軍覇も今日は学校に行けないけどいいのかな?

 

 軍覇いわく『友達の命と学業。根性あるやつがどっちを選ぶかなんてかなんて考えるまでもねえだろ?』ってことらしいけど。

 

「わかった。改めてとうま、私に力を貸してほしいんだよ」

「! おう」

 

 

 

 

 

 

 私は白い部屋にいた。

 

 カーテンは閉められ、部屋の壁、天井、床を埋め尽くすようにステイルのルーンのコピー用紙が貼られている。

 

 私の他には火織とステイル。軍覇と当麻にはこの建物の外に行ってもらっているんだよ。

 

 私はすでに服を着替えて緑色の手術衣を着ていた。その胸元を開いて言う。

 

 ステイルから受け取った最後のコピー用紙を私の胸に張りつける。

 

「さて、下準備はこれで終わり」

 

 部屋のベッドに座り、手術衣の胸元を戻しながら言う。

 

「流れは全部覚えてくれたよね?」

「ええ、問題はありません」

「ならすぐにお願いするんだよ」

 

 ベッドに横になり目を閉じる。

 

 ステイルが詠唱をすると、この部屋の空気ががらりと変わる。この建物(・・・・)だけじゃなく、学園都市内のいたるところから、魔力の反応が発生しているはず。

 

 これはこの場所を他の魔術師に特定されないための魔術。学園都市のいたるところに特別なルーンを貼り付けておいたことによる効果なんだよ。

 

 火織が私の横に七天七刀を置く。

 

「神裂、始めるぞ」

「ええ、問題ありません」

 

 魔術の儀式が始まった。

 

 私は身動きは取れない。いかんせんぶっつけ本番の魔術だからミスをさせないためにも、あまり刺激をしたくないんだよ。

 

 使っている魔術は封印。その中でも、対魔術師用の封印だね。

 

 古今東西の神話や物語における魔術師の中には魔術師の力を奪う逸話がある。例えばアーサー王伝説のマーリンあたりはその例の一つだね。まあ、あれは正確には力を奪うというより閉じ込めるかもしれないけど、行動できないという意味では間違ってはいないんだよ。

 

 魔術師に対する封印といっても、魔術の道具を奪ったり、幽閉したり、とさまざまだけど、これが持っている意味、目的は単純。魔術師に魔術を使えなくする、というもの。

 

 魔術師に魔術を使えなくするための方法として、一番手っ取り早い方法は、精製した魔力を魔術という形に移行させるのを阻害すること。

 

 今使っているのは、火織が集めてきた魔力を魔術という形にすることを封印する古今東西の魔術の情報と、『自動書記(ヨハネのペン)』に引っかからないイギリス清教式記憶消去魔術を参考にして、術式を組んだハイブリット魔術。

 

 天草式十字凄教の女教皇だった火織の複数の神話を融合させて魔術を造り使用してきた実力。天才魔術師であるステイルのルーン。こういった要素があったからこそ作れた術式だった。

 

「……終わりましたよ。インデックス」

「ん。ありがとうね」

 

 火織の声に起き上がる。

 

「今更、注意する必要はないだろうけど、君に貼っているルーンが剥がれれば君にかかっている封印は解ける。気を付けてもらいたいね」

「うん。ありがとう、ステイル」

 

 私達は部屋の外に出る。

 

 しばらく歩いてカエルのシールが張られた名札のある部屋まで行ってそこに入る。

 

「おや? もう、準備とか言うのは終わったのかい?」

「うん。大体終わったんだよ」

「ならよかった。じゃあ、すぐにでも始めようかね?」

 

 

 

 

 手術室。

 

 私は点滴をうたれて手術台にいた。

 

 私は手術台の横のカエルのお医者さん(・・・・・・・・)に言う。

 

「ああ、とりあえず胸に貼ってあるコピー用紙ははがさないようにお願いするんだよ」

「ふむ、それはどうしてだい?」

宗教上の都合(・・・・・・)、かな?」

 

 手術中に剥がれて封印が解けたら大変だからね。

 

「あと、極力コピー用紙は濡らさないように」

「随分と注文の多い患者だね?」

「できない、かな」

「もちろんできるとも。患者にとって必要なことはなんだってやる。それが僕の仕事でね?」

 

 うん。ありがたいけど、微妙に警戒してしまうね。嘘を言ってはいないのはわかるけど。

 

 

 私が考えていた計画。それは私の口内にある魔法陣、というか刻印を消してしまうという単純なものだった。

 

 私を縛っていた『首輪』の魔術。これを打ち消さないと私は記憶を消さなくてはいけなくなってしまう。

 

 でも、原作の当麻がとった方法をとってしまうと、『首輪』その物は消せるけど、体に刻まれた刻印は消せないんだよ。

 

 なら、口内の刻印を直接消してしまえばいい。でも、口内の刻印に触れるということは『自動書記(ヨハネのペン)』の発動を意味する。

 

 ならどうするか? その答えは簡単で、刻印に魔力を送らなければいい。それならば『自動書記(ヨハネのペン)』は発動できないし、刻印に触れても問題はなくなるからね。

 

 問題は刻印を完全に消すことができる人間を探さなくてはならないことだったんだけどね。カエルのお医者さんと知り合えていたから助かったかも。医術はさっぱりだからわからないけど、カエルのお医者さんは外科医だろうし専門外だとは思うけどね。腕は確かだったし、この人しか頼れる人がいなかったともいえるね。

 

 

 まあ、今更考えていてもしょうがないんだよ。もう、ここまで来たらまな板の鯉みたいなものだし。じたばたしてもどうしようもない。

 

「じゃあ、よろしくお願いするんだよ」

 

 点滴に麻酔が入る。

 

 意識が薄れていく。

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な世界に私はいた。

 

 上も下も解らないような真っ暗の中に、一人の女の子が一糸まとわぬ姿で座っている。

 

 銀髪。碧眼。控えめな胸。それは私が誰よりも知っている姿。

 

禁書目録(インデックス)?」

 

 思わず私の身体を見た。私自信も服を着ていない。でも、いつもと違う。具体的には胸のサイズがちょっと大きい。

 

 私がインデックスになる前の身体に戻っている。

 

「初めまして、だよね?」

「あなたは……?」

「私の名前はね、インデックスっていうんだよ?」

 

 知っている。私が10か月も過ごしたその顔を忘れるわけもない。

 

「あなたとは一度話しておきたかったんだけど、全然そんな機会がなかったからね」

「どういうこと?」

「私は正確にはインデックスの魂なんだよ。服を着ていないのはそのせいだね」

「大丈夫ですか?」

「む。私の頭のことを言っているのなら、ちょっと失礼かも」

 

 思わず敬語で聞き返すと、ふてくされたようにインデックスが言う。

 

 でも、冷静に考えるとおかしなことでもないのかもしれない。そもそも、神様に転生させられるなんて体験をしているし、その結果が魂だけ憑依みたいな感じだった。それに私が魂になっているのなら私が服を着ておらずインデックスになる前の姿になっているのも納得がいく。

 

「でも、おかしい。私が魂になってあなたの魂に会えているなら、それは死んだってことになる」

「それについては大丈夫。ここはあなたの中だから」

「私の?」

「正確には今の禁書目録(インデックス)の中というのが正解かな?」

 

 つまり、全身麻酔によって意識が飛んだことで、(インデックス)の体の中にある私の魂の状態に意識が映ったっていうこと、かな?

 

 つまり、気絶さえすればいつでもここに来れた、と?

 

 いや、でもそれなら、なんで私の中にインデックスの魂があったのかがわからない。

 

「まさか……」

「うん。あなたの思っている通りなんだよ。私はずっとあなたの中にいた」

 

 つまり、私はずっとインデックスの身体を奪って操っていたということ?

 

「心配しなくてもいいんだよ。私は気にしてないから」

 

 インデックスはちょっと顔を赤くして言う。

 

「でもオリアナやみさきたちとのことはちょっと気になったかも」

 

 ……見られていた。顔を赤くしたインデックスはかわいいけど、これは自画自賛になるんだろうか?

 

 でも、私のインデックスとしての行動を知っているってことは、ここから私の行動は全部見えるってことになる。

 

 インデックスからは私の行動を知ることはできるけど、私はインデックスが外を見ていることは知ることはできない。それはあまりにも……。

 

「でも、それならなんで(インデックス)の身体の中に、あなたの魂が残っていたの?」

 

 憑依したのならインデックスの魂を回収するはずだし、神様がそんなミスをするとは思えない。転生ならそもそも、インデックスの魂があるはずがない。

 

「私はあなたのいう神様が本物の神様だとは思えないし、よくわからないけど」

 

 宗教上の理由で、かな?

 

「あなたの魂は禁書目録(インデックス)の身体に確かに憑依してきたんだよ。それで、私の魂が禁書目録(インデックス)の身体に残っていたということは」

「ということは?」

「あなたの考えているように私の魂を回収し忘れたか、禁書目録(インデックス)の記憶消去を魂の消失と誤認してしまったか、禁書目録(インデックス)の身体に私の魂が残っていた方が面白そうって考えたか、それともあなたの言う『首輪』の魔術が私の魂を体に縛り付けていたか、だね」

 

 まさか、とは思う。正直、ここが私の中って言うのもまだ半信半疑だしね。

 

「むう。やっぱり私の言うこと信じてないね」

「まあ、ね。神様がその力を見せてくれたみたいに、あなたの魂が(インデックス)の中にいたっていうのを証明してくれれば信じられるんだけど」

 

 私の言葉に少し考えるようにしたインデックスはすぐに口を開く。

 

「あなたの考えていること」

「私が考えていること?」

「そう、あなたの考えは私に似てきていたんだよ」

 

 そう言われてみればそんな気もする。今や転生前の思考と、禁書目録(インデックス)になってからの思考は全然違ったような。

 

 そう、最初は上条当麻に頼るつもりで学園都市に入ろうとしていたのに、いつのまにか上条当麻をできるだけ巻き込まないようにっていう考えに変わっていた。

 

「それにあなたが忘れている記憶。全部私が持っているからね」

「!?」

 

 ちょっとシャレにならないことを聞いてしまった。

 

「あなたが禁書目録(インデックス)の身体に憑依した時に、私の方に記憶の一部が流れ込んできたんだよ。一つの身体に二つの魂を入れた影響かも」

「戻す方法はないの?」

「たぶん、もうすぐ戻るから安心してもいいよ」

 

 うーん。困った顔が見たくなっちゃったからいじわるしてみたけど、思っていたより真面目に答えられちゃったね。

 

「! やっぱり私をからかっていたんだね!」

 

 さっきから思っていたけど、ナチュラルに思考を読まれている気がする。

 

「それはそうと、さっきなんて言ってたっけ?」

「話をそらそうとしても駄目なんだよ!」

「えーと、『首輪』の魔術が私の魂を体に縛り付けていた、ってどういうこと?」

 

 説明を求められて、インデックスは少し真面目な顔になった。

 

「そのまんまの意味なんだよ。『首輪』の魔術が(インデックス)の身体に施されていたせいで私の魂は身体に縛られていたっていうこと。そのせいで、あなたの言う神様も私の身体を回収できなかったっていうことだね」

 

 確かに、その通りかもしれない。でも、あの神様がどうにもできない魔術がこの世界にあるのだろうか?

 

 魔神クラスのものならともかく、イギリス清教の魔術師レベルが考案したはずの魔術にあの神様がそこまで手こずるとは思えない。

 

 つまりは

 

禁書目録(インデックス)の身体に私の魂が残っていた方が面白そうって考えたのと、それともあなたの言う『首輪』の魔術が私の魂を体に縛り付けていたの二つが原因?」

「かもしれないね。身体に魂を縛っていた『首輪』の魔術。そこから私の魂を回収するってことは首輪を破壊するってことだもん」

 

 つまり、『首輪』をつけたままの禁書目録(インデックス)に憑依させ、十万三千冊の魔術を私自身は使えないようにするつもりだったってこと? ……神の与えた試練とでも言うつもりだったのかな?

 

「どちらにせよ憑依っていうなら神様が嘘をついていたってことになるわけだけど」

 

 神様は私に転生させると言っていた。なのに憑依したってことは私を騙してたっていうことになる。

 

「もしかしたら、私の中にあなたの魂を入れた後に記憶消去をされることで、『首輪』が縛っていたものが私の魂からあなたの魂に切り替わって簡単に回収できると思っていたのかもしれないかも。結果的には『首輪』の魔術は私とあなた両方を縛る形になってしまったのかもしれないね」

 

 私の魔術解析能力の意外な弱点かもしれない。魔術を見ても術式や仕組みがわかるだけで、それが誰を対象にした魔術なのか、魔術の使用者がだれであるかまではわからない。例えるなら、野菜を食べてその野菜がどんな品種なのかがわかる人間でも、それを食べている他の人間(対象者)はわからないし、誰が育てたのかはわからないようなものかな?

 

「おかげで、私はこうして以前の記憶を持ったままなわけんだよ」

「まさか、記憶があるの?」

「うん。あなたが憑依してくる前の一年分だけだけどね。それ以前記憶はないんだよ」

 

 どうやら、私は絶妙なタイミングで憑依させられたらしい。

 

「あれ?」

 

 インデックスの姿が一瞬だけ、歪んだように見えた。

 

「……そろそろお別れ、みたいだね」

「お別れ、って……」

「私は『首輪』によって禁書目録(インデックス)の身体に縛られていた、って予想したけど。その通りだったみたい。『首輪』の魔術の刻印が完全に消滅すれば、私を禁書目録(インデックス)としての、身体に縛り付けるモノがなくなるから」

 

 インデックスの身体が歪むたびに、彼女の言葉が途切れる。

 

「私の魂は禁書目録(インデックス)の身体の中に、は留まれなくなる。だからお別れ」

 

 インデックスは笑ってそう言った。

 

「ごめん」

「? どうして謝るのかな?」

「私が転生しなければ、憑依しなければ、あなたはこんなことにならないで済んだ。インデックスのままでいられたのに」

「ううん。大丈夫。あなたは気にしないでくれていいんだよ。憑依されなければ記憶も消えていたわけだしね」

 

 そして、インデックスはちょっと悲しそうな顔をした。

 

「それよりも、謝らなきゃいけないのは私の方なんだよ。私の抱えている全部を背負わせちゃったからね」

「……」

「それに、お礼をしなきゃね。ステイルやかおり達を救ってくれてありがとう」

「どうして、そんな」

「私だけじゃ絶対にあの二人が助けられないこともわかっちゃったもん」

 

 それは、私の原作知識も見てしまっていたってこと。私が忘れた知識も含めて。

 

「さよならの前に、お願い聞いてくれる?」

「どんなことを」

「できることなら、今のあなたが忘れている人達も助けてあげてほしい。アウレオルスやあいさ、オルソラ。私を他にもたくさんの人がいたはずなんだよ」

 

 アウレオルス=イザード、 姫神秋沙、オルソラ=アクィナス。消えていた記憶が戻ってくる。それだけじゃない。さまざまなエピソード、知識が私の頭の中にうかんでくる。

 

「うん。わかった。任せて」

「よかった。……私の魂が身体から出て行けば禁書目録(インデックス)は完全にあなたになる。あとは自由にしてくれてもいいんだよ」

 

 インデックスが消えていく。

 

「じゃあね。これまで、ありがとうね、インデックス」

 

 もう消えるという寸前に彼女はそう言った。

 

 私は消えかけた彼女に言う。

 

「ありがとう。短い時間だったけど楽しかったんだよ、インデックス」




 たくヲです。

 憑依回。

 全身麻酔はインデックス自身が希望した結果です。現実の手術でもこういう場合に全身麻酔は行われるのかはわかりません。喉の奥に入れ墨をした人の入れ墨を消す手術とかの前例を知らないので。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある魔術と禁書目録

 目が覚めると白い天井が見えた。手術前に儀式を行った部屋だと気が付くまで数秒かかった。

 

 右からカエルのお医者さんが覗き込んでくる。

 

「目が覚めたかい?」

「……うん。手術は?」

「手術は成功だよ。あとは、傷の治りを待つだけだね?」

 

 のどにわずかに痛みはあるけど、一応問題はないかな?

 

「飲食はできるのかな?」

「一応は問題はないね? だが、炭酸飲料や酒は避けたほうがいい」

 

 さて、まだ麻酔が完全に切れていないのか、体はゆっくりとしか動かない。

 

「じゃあ、僕はそろそろ行かせてもらうよ。今のところはまだ急患はないけど、いつ来るかはわからないからね?」

 

 そう言い残して出て行くカエルのお医者さん。カツカツという足音が遠ざかっていく。

 

 私は体をゆっくりと起こす。

 

 そして手術衣の胸元をはだけ、貼ってあったルーンのプリント用紙を剥がした。

 

 『封印』が解ける。

 

 

 私は立ち上がり、ベッドの横にある机の三段の引き出しの一番上を開ける。

 

 そこに入っていたのはペットボトルに入ったスポーツ飲料。

 

 私はゆっくりと、しっかりとペットボトルのふたを開け中身を口から流し込む。

 

 のどに一瞬痛みが走る。でもそれはその直後にはもう消えていた。正確には消した(・・・)というのが正しい。

 

 

 三段の引き出しの中で一番大きい下を開ける。その中には一着の服。壊れた『歩く教会』を大量の安全ピンで強引に修復した修道服。

 

 麻酔を完全に切った(・・・・・・)私は手早くそれに着替えた。

 

 着替えた理由はいくつかあるけど、(インデックス)と言えばやっぱりこれなんだよ。

 

 

 ゆっくりしている場合じゃない。

 

 推測だけど、外では軍覇たちが敵と戦っているんだろう。

 

 参戦したいところだけど、今の私は『歩く教会』の防御力が失われている。そんな状態で飛び込んで行っても足手まといになるだけだね。だから準備をしないと。

 

 私は三段の引き出しの真ん中を開き、中にある単語帳(・・・)を取り出した。

 

 

 

 

 

 軍覇は大量の機械の犬に囲まれていた。さらに、その周りには機械の犬の残骸が大量に転がっている。

 

 暗部の人間を差し向けていないのは周囲に貼られた『人払い(Opila)』のルーンのせいだと思う。その点において学園都市製の機械は『人払い(Opila)』を無視できるから入ってこれたんだろう。

 

 軍覇が右腕を振り抜くたびに大量機械犬は壊れていく。

 

 この調子なら問題なさそうだけど……。

 

 その時、軍覇の後ろに機械犬の一体が回り込んだ。軍覇に噛みつこう跳びかかるのを見て、私の身体は、口はすでに動き出していた。

 

禁書目録(インデックス)跳躍両足蹴り(ドロップキック)!!』

 

 考えるよりも先に体が動いた。

 

 20メートルほどあった距離が一瞬でゼロになり、機械犬の胴を両足の靴底で踏みつけるように蹴り飛ばす。

 

 吹き飛んだ機械犬が壊れながら他の機械犬を巻き込み、機械の塊になって転がっていく。

 

「ッ!」

 

 軍覇は向いていた方向に鉄山靠の(背を向ける)ような動きで攻撃を繰り出す。

 

 どういう現象が起こったのかはわからないけど、軍覇の身体に触れていない機械犬まで、見えない巨大な壁に衝突されたかのように吹き飛ばされる。

 

 すぐさま元の体勢に戻る軍覇。

 

「インデックス、もう動いてもいいのか?」

「……問題はないよ」

 

 軍覇は地面に掌底をするように両手の平を叩きつける。

 

 謎の力が周囲の機械犬たちを吹き飛ばす。

 

「手助けはいるかな?」

「いや、大丈夫だ。それよりカミジョーのとこに行ってやってくれ。アイツはこいつらよりやばそうなやつとやりあってる」

 

 機械よりもやばそうなやつってことは魔術師かな? 機械に対して幻想殺し(イマジンブレイカー)は相性が悪いから間違いないと思うけど。

 

「なにより、こんな根性のかけらもねえ機械どもは俺が根性を叩き込んでやんねえとな」

 

 機械犬はどこで作っているんだと聞きたくなるくらいに湧いてくる。

 

 当麻の位置は大体わかる。魔術師らしき敵の魔術を次々と打ち消している、独特の魔力反応を感知したからね。

 

 軍覇は真横に右腕を突き出す。その瞬間に右の機械犬の集団にぽっかり穴が空く。

 

「行け!」

「ありがとう!」

 

 軍覇が作った道に向かって私は走っていく。

 

 

 

 

 私が辿り着いた時にはもう決着はついていた。

 

 当麻の右手は敵の魔術師の顔面に突き刺さり、魔術師は後ろに転がり、仰向けに倒れる。

 

「とうま!」

「!? インデックス! 手術は終わったのか!?」

「うん」

 

 上条当麻は脇腹のあたりを抑えるようなしぐさをする。おそらく一撃貰ったんだろうけど、あんまりダメージを血が出てないあたり打撃によるダメージだろうね。

 

 倒れている魔術師をみる。40歳くらいの女の人。黒い上着に、脱色したジーンズ。手入れしていないか傷んだ髪。

 

 ふむ、おそらく『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師テオドシア=エレクトラだね。北欧神話の術式をベースに次々使用する魔術を変える魔術師だった。

 

「あれ? お前なんか雰囲気が……」

「そうかな?」

 

 自分ではあんまり変わった気がしないけど、人から見ると変わっているものなんだろうか?

 

「よお。カミやん」

 

 声。

 

 かなり離れたところに金髪にアロハシャツ、サングラスをかけた大男が立っている。

 

「つ、土御門!? お前なんでこんなところに」

「それはこっちの台詞ぜよ」

 

 土御門元春。以前から交友があった土御門舞夏の兄であり、当麻のクラスメイト。

 

「インデックス。上条当麻を何故巻き込んだ?」

 

 イギリス清教、学園都市を筆頭にあらゆる組織に所属する多角スパイにして、陰陽道を扱う魔術師。

 

「んー、本人の希望かな? ああ、安心してアフターケアくらいはちゃんとさせてもらうんだよ」

「ふざけるなよ。そう簡単に魔術サイド(こっちがわ)に一般人のを関わらせていいとでも思っているのか!」

「お、おい! 土御門! お前何を……」

 

 クラスメイトの見せるあまりの剣幕に困惑している当麻。

 

 土御門元春はその言葉には答えず、見向きもせずにこっちに近づいてくる。

 

「わからないんだよ。何せ一年前から記憶がないんだから」

 

 土御門元春は苛立つように口をゆがめる。

 

 当麻には記憶がないことは計画の説明で話したから驚いた様子はないけど……。

 

「お前、何が目的だ? カミやんや、第七位を巻き込んでまで何をする気なんだ?」

「もちろん、幸せになるんだよ。このままじゃ一年周期で記憶を消され続けることになるし、ステイルやかおりにも辛い思いをさせちゃうからね」

 

 土御門元春は両手をポケットに突っこんで足を止める。

 

 そこからよくわからないけど殺気のようなものを感じる。

 

「もう一つあるけど、それは説明しても仕方がないから言わないんだよ。……あなたは戦うつもりみたいだけど、この状況を理解しているのかな?」

「お前の『歩く教会』が破壊されたことくらいはわかっている。それさえないお前ならオレでも止められる」

 

 確かに、土御門元春と言えば当麻を上回る素手での戦闘能力を持っていたはず。

 

「確かに素手じゃあなたにはかなわないと思うけど……あなたはもう気が付いているはずだよ?」

「……」

「今の私は魔術を使えるし、今既に使っているってことぐらいはね」

 

 麻酔を解いて、のどの手術痕を治したのはスポーツドリンクを利用した食事によって発動する『天草式』の『回復魔術』。軍覇の時の高速移動は『改良版速記原典(ショートハンド)』によって天使の力(テレズマ)を引き出しての強化魔術。すでに、私は二つの魔術を使っている。

 

 土御門元春は当麻を見る。

 

 ふむ、戦うのはあきらめたのかな? 

 

「カミやん。自分が何をしたのかわかっていないようだから教えてやる。インデックスは魔神になった」

「魔神?」

「魔術を極めて、神の領域に入っちまった人間のことだ。もうすでに、そいつはその力を得てしまった。なにせ、魔神ってのは神にも等しい存在だ。世界を粘土みたいに組み替えちまうことも可能だろう」

 

 土御門元春は続ける。

 

「わかるか、カミやん。魔神になったソイツは頭にある十万三千冊の知識で世界を支配できる。そんなやつを野放しにしておくわけにはいけないっていうんで、イギリス清教はそいつに『首輪』の術式を施した」

 

 土御門元春は両手をポケットから出し、構える。

 

「カミやん。頼むから、止めてくれるなよ。他の相手ならお前の相手もしてやれるが、流石にこいつの相手をする前に消耗するわけにはいけないからな」

 

 その両手には動物の折り紙のはいったフィルムケース。

 

「私が魔神になったっていうのはあなたが言ったはずだけど」

「ああ、知っているさ。確かに、お前は魔神の力を手に入れたようだが、その力を持て余しているんじゃないのか?」

 

 ……ばれてたみたいだね。

 

「そうだろう? 魔神としての力を万全に振るえるのなら、こんなところにまでわざわざ出向いてくる必要はない。その力を振るえないのも当然だ。お前が魔術を振るうのはこれが初めてなんだからな」

「だからといって勝てると思っているのかな?」

「むしろ、この機会を逃せばお前を倒せることはないと言うべきだ。お前がその力に慣れた時にはもうどうしようもない」

 

 そこまで話して、上条当麻が私と土御門元春の間に割り込むように立ちふさがる。

 

「……。オレはカミやんと闘う気はない、という意味で言ったんだがな」

「ふざけんじゃねえよ。土御門」

 

 当麻は私に背を向けたまま私を守るように立っている。

 

「俺はお前が言っていることなんてほとんど理解してねえし、魔神ってのが具体的にどんなもんなのかも想像できねえよ。でも、インデックスが嘘を言っていないのはわかった」

「インデックスとほとんど会話もしていないカミやんがそれを言うのか?」

「確かに俺はインデックスとはほとんど会ってないし、会話もしてねえよ。実際、会った時間なんて24時間にもならない。でも俺はインデックスを信じたい」

「ソイツはもうすでに世界を変えられる力を持ってる。そいつが暴走でもしたら、俺たちもただじゃ済まない。そのことを理解しているのか?」

 

 当麻は首を横に振る。

 

「わからねえよ! でもな、俺はインデックスの言葉を疑いたくねえんだ! インデックスは俺を巻き込まないために最後まで言葉を探し続けてた。そんなやつを裏切れるわけねえだろうが!」

 

 当麻は叫ぶように言った。

 

「土御門。テメエが言ったんだぞ」

「何をだ?」

「イギリス清教がインデックスに『首輪』の術式を施したって話だ。さっきインデックスから聞いた話と同じだった。なら、こいつを魔術師に対抗するために十万三千冊を覚えさせたってのも事実なんだろ。『首輪』の魔術ってので、記憶を一年周期で消させて教会に逆らえなくしたってのも」

 

 土御門元春の表情に変化があったように見える。サングラスで目は確認できないけど、迂闊に情報を与えてしまったことを悔やんだようにも見えた。

 

「それなら、インデックスが殺されるのは間違ってる。だって、インデックスが魔神の力ってやつを手に入れたのは記憶を失いたくなかったからだろ! 記憶を失うのが嫌だったから昔の仲間から攻撃されながら説得して、一年もお前らの演技に付き合わされて、そんな中でようやく目的を果たした! それを否定する権利はだれにもないだろうが!」

「カミやん。もう、感情論で語れる次元じゃない。魔神ってのはそう言うレベルの化け物だ。どうしようもなくなる前に殺すしかない」

 

 そこまで、言って土御門元春は説得をあきらめたのか、両手に折り紙の入ったケースを持ったままボクシングのように拳を握る。

 

「どうやら口で言っても解らないらしい。なら、上条当麻(・・・・)。お前を無傷で倒してそこの魔神を倒すだけだ」

「それはこっちの台詞だ。……いいぜ。お前が人の幸せを踏みにじろうってんなら、そんなふざけた法則しかないって言うなら!」

 

 当麻は拳を握りしめて言う。

 

「まずはその幻想をぶち殺す!」

 

 

 

 土御門に向かって駆け出そうとする上条当麻。

 

 その瞬間、バックステップで距離を取りながら私は上を向いた。

 

 当麻と土御門元春が私の視界から消える。

 

 視界には巨大な建物の上部と青い空とぽっかりと浮かぶ白い雲だけ。

 

 私は歌う。私の口から洩れた一音が世界に吐き出される。

 

 その歌に反応したかのように私の目の前の空間に二つの魔法陣が浮かび上がり、亀裂が走る。

 

「『(セント)ジョージの聖域』発動」

 

 そして、空間の亀裂から一直線に、光の柱が空に放出された。

 

 光の柱に触れた雲に吹き飛ぶ。

 

「自壊せよ!」

 

 バキリと、空間の亀裂が砕け、浮かび上がった魔法陣も空気に解けるように消えていく。

 

 視界を元に戻す。

 

 そこでは当麻が拳を振り抜いた姿勢で固まっており、土御門元春は少し離れた所で倒れていた。

 

 意識はまで落ちてないようだけど、ある程度はダメージが入ったはずだね。

 

「インデックス、今なんかしたか?」

「いや? 二人には何もしていないよ? ただ魔術の試し打ちをしただけ」

 

 嘘ではない。土御門の注意を引きつけるために魔術をできる限り強力な魔術を使っただけ。

 

 普通に戦えば当麻では土御門元春には勝てないからね。超えてきた場数も積んできた訓練の量も違うだろうし。

 

 なら、土御門が無視できないほどの魔術を見せて意識をこっちに向けさせればいい。その一瞬で当麻なら勝負を決めてくれるはず。

 

 私が飛び込んで行ってもよかったんだけど、ここで私が戦うのはなんか違う気がするし、だからといって実力差を知っていて黙って見ていられるほど薄情でもないからね。

 

 何より、ここで土御門元春を直接倒すのは当麻の信用を失いそうだったから、動きづらかった。

 

 ……これも大概だけどね。

 

 私が以前から考えていた魔術を使いたかったというのもある。

 

 『(セント)ジョージの聖域』。単純に『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』を放つ魔術。歩く教会を壊せるほどの強力な魔術だね。

 私が使いたかった本命はこの魔術そのものじゃなくて、その魔術をトリガーにした他の魔術なんだけどね。今現在進行形(・・・・・)で使用しているけど、魔力がごっそりと持ってかれているからできれば早く解除したいんだよ。こういう状況で解除すると襲撃に対処できないからまだ解除はしないけど。

 

 私は懐から単語帳の残った2ページの内1ページを口で引きちぎり、背中に貼り付ける。

 

 とりあえず離れないとね。流石の多角スパイ土御門元春とはいえ、当麻の一撃がクリーンヒットしたわけだし、そうそう動けないと信じたい。

 

「あ」

「どうしたんだ?」

「いや、刃物か何かを持ってないかなって」

「それならさっき倒した奴が持ってたぞ」

 

 ふむ。

 

 うつぶせに倒れている女魔術師、テオドシア(仮)とでもしておこうかな? その横にさっきの立ち位置では見えなかった短剣が落ちている。

 

 近づいてその短剣を拾おうとした時に、テオドシア(仮)の右手が動く。

 

「死ねデス!」

 

 短剣を掴み私に突き出してくるテオドシア(仮)その短剣はまっすぐに私のお腹に向かい……。

 

 私の体に突き刺さることなく私の皮膚に触れた途端ぴたりと停止してしまう。

 

「アレ?」

 

 私はテオドシア(仮)の短剣を持つ右手を掴み、後ろにひねり上げる。

 

「イタタタタタ!?」

「まったく。完全記憶能力を持つ私にそんな小細工が通じると思ってたのかな?」

 

 まあ、私じゃなくても仰向けに倒れていたのがいつの間にかうつぶせに変わっていたら気づくとは思うけどね。

 

 右手から短剣が落ちる。素早く左手で肩を掴み、

 

禁書目録(インデックス)河津落とし(フロッグドロップ)!」

 

 左足で相手の足を取るようにして自分の身体ごと背中から地面に叩きつけた。

 

「ッぐう!?」

「ッ!」

 

 ……流石に『歩く教会』がないとダメージがきつい。覚悟していたとはいえ捨て身技は反動がきつい。

 

 地面に落ちていた短剣を拾い転がって距離を取る。

 

 立ち上がるとまだテオドシア(仮)は痛みに悶えている。

 

禁書目録(インデックス)肘撃ち落とし(エルボードロップ)!!」

 

 私は倒れたテオドシアに跳びかかるように肘打ちを落とす。

 

 ゲホッとせき込むように空気を吐き出してテオドシアは気絶する。

 

 短剣を手に持ち高く歌う。すると、減少し続ける魔力の量が一気に緩やかになる。

 

「……これで、良いかな」

「お前だいぶえぐいことするんだな……」

 

 若干引き気味の当麻が言う

 

「迷わず刺してくるような相手はこうでもしないと止まらないからね。とりあえず逃げようか? そろそろさっきの人も起きてくるだろうし。

 

 

 

 

 

 移動すると、火織とステイル、そして一足先に合流したらしい軍覇がいた。離れた所から爆発音が聞こえるあたり『魔女狩りの王(イノケンティウス)』は出張中らしいね。

 

「大丈夫だった?」

「ああ、問題ないよ」

 

 周りには魔術師が3人ほど倒れている。

 

 その中の一人、仰向けに倒れている魔術師の服の特徴は知識(・・)にある。年齢20歳ほど身長は2メートルほどの黒いコートを着た男。使っていたのであろう西洋剣は折れている。

 

 リチャード・ブレイブ。全ての者を平等に燃やす魔術『破滅の枝(レーヴァテイン)』の使い手だったはず。

 

 おそらく、火織の『七閃』による先手必勝って所だろうね。

 

 今まで見た敵の中で人間は全員魔術師だった。内三人が『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師で確定。

 

 私たちの動きに感づいた教会が刺客を差し向けたってところかな?

 

 日本に出張中の所属メンバーを強引にかき集めたんだろう。

 

「インデックス。無事でしたか」

「うん。ごめんね心配かけちゃって」

「……インデックス? まさかあなた魔術を?」

 

 私を見て火織が聞いてくる。

 

「うん。まあ手術が成功した証拠だね」

「……? 北欧神話系の魔術かな?」

 

 ふむ、やっぱり、北欧系の魔術を使うステイルはある程度わかっちゃうかな?

 

 まあ、複数の逸話、伝承を利用して保管しているから、厳密には純粋な北欧神話系とは言えないんだけどね。

 

 私が使用した術式は先程までの強化魔術の他に英雄『ジークフリート』の術式というものがある。術式は単純で『(セント)ジョージの聖域』を自壊させることで、『竜殺し』の記号を取り出して、偶像崇拝の理論を応用し『竜を殺して背中以外無敵の身体を手に入れた英雄』である『ジークフリート』を私自身の身体で再現したものだ。この『ジークフリート』という英雄は北欧神話の『シグルズ』と同起源とされるから、そちらの伝承も魔術に組み込んでいるから北欧神話系の魔術の色が付いたんだろうね。

 

 効果は背中を除くすべての部位の無敵化。さっきのテオドシア(仮)の短剣による一撃を受けてダメージがなかったのはこの魔術おかげなんだよ。

 

 ただし、強力な魔術効果と引き換えに多量の魔力を消費してしまう上に、背中だけは無敵化しないという弱点もある。テオドシアの短剣を奪うことによって、ジークフリートが奪った剣『バルムンク』の役割を偶像崇拝の理論で再現、補完することで、『ジークフリート』の偶像としての役割を本物に近づけ、魔力消費を抑えることに成功した。まあ、奪う剣が西洋剣ならもっとよかったんだけど、ぜいたくは言えないかな。弱点の背中は『改良版速記原典(ショートハンド)』で補った。

 

 

「インデックス」

「どうしたのかな? とうま」

 

 当麻に向き合う。

 

 もちろん、私の身体に当麻の右手が触れればこの『ジークフリート』の魔術も破壊されてしまう。強化魔術と背中を守る防御魔術は『改良版速記原典(ショートハンド)』のページを使って発動しているから、ページを破壊しないと効果は消えない。……まあ、当麻の右手が私の身体に触れている間は効果は切れるんだけど。

 

 だから当麻の動きには注意を払う。無論周りの動きも含めて。

 

「これからどうするんだ? やろうとしていたことは終わったんだろ?」

「そうだね……」

 

 言われてみれば私は終わった後のことは、あまり考えていなかったような気がする。

 

 転生前の目的は果たせた。『首輪』も外れた。

 

「とりあえず、学園都市から出るつもりでいるんだよ。ここに来た目的は果たしたし」

「そうか」

「……ここは一応引きとめる場面だと思うんだよ」

「……ええー?」

「ああ、冗談だから安心して」

 

 インデックスジョークなんだよ。

 

 この後、私はひとまず学園都市を出る。

 

 イギリス清教と決着をつけておかないといけないし、ここで、アレイスター率いる暗部による暗殺を恐れながら暮らすのもあんまりだからね。

 

 それに、前の私(インデックス)との約束も果たさないとね。

 

「3日後ってところかな、いろいろしなくちゃいけないこともあるし」

「そうなのか……」

 

 さて。

 

「ぐんは。あなたはどうする?」

「どうするって?」

「それはもちろんお礼だよ。私はあなたをここまで巻き込んでしまったわけだし、今後の生活くらいは保障させてもらいたいかも」

「いや、大丈夫だ。俺は俺の根性を見せつけるためにやったまでだからな!」

 

 まあ、拒否してもアフターケアぐらいはさせてもらうつもりだ。その準備もしないとね。流石にここまでしてもらって何も返さないほど恥知らずじゃないし。

 

「とうまもだね。このお礼は必ずさせてもらうんだよ」

「いや、無理言って協力したのは俺の方だし」

 

 うーん。当麻に関しては難しいんだよ。

 

 正直、これ以上私が関わらない事が一番のお礼と言えるかもしれない。アレイスターのプランの性質上、当麻は殺せないだろうし。……まあ、上条当麻本人はあんまり納得はしないと思うけど。

 

 そう考えると、二人のピンチには颯爽と参上するっていう形が一番よさそうかも。

 

 

「さてと。とりあえず二人とも病院行って来ようか?」

「「へ?」」

 

 軍覇と当麻の声が重なる。

 

「へ? じゃないんだよ。ぐんははさっきのあれを見る限り何回か攻撃をうけてるだろうし、とうまはさっきから脇腹のあたりを気にしているし」

「問題ねえよ。気合い入れれば血は止まる」

「……血出たんだね」

「あ、やべ」

 

 はあ、とため息を吐く。

 

「迷惑かけたのはこっちだし、お金ぐらいは払うから行ってきて」

「流石にそこまでしてもらうわけには……」

「こっちは命を助けてもらってるんだよ? それくらいはしないと。ほらほら、早く」

 

 病院に二人を向かわせる。

 

「さて、そろそろ出てきてくれないかな?」

 

 ステイルと火織が私の向いた方を向く。

 

「一応、気配くらいは消せてた思うんだがな」

 

 建物の陰から現れたのは土御門元春。

 

 まあ、勿論気配を消した土御門元春を発見していたわけじゃない。追いかけてくるとは思ってたし、気配なんて読めないからとりあえず警告しただけだね。出てきてくれて助かった。

 

「土御門!? なぜここに!?」

「オレは学園都市へ送り込まれたスパイ。オレがいない方がおかしいだろう? それにしても神裂、ステイル。随分と早まった真似をしたものだな?」

 

 ステイルと火織は警戒を緩めない。

 

「禁書目録を解放した裏切り者であるお前たちは教会には戻れない。こんな簡単なことも理解していなかったのか?」

「いえ、わかってはいました。事実、インデックスの排除に関する連絡は先程ありました。……ですが」

 

 あれ? そうだったの? 初耳なんだけど。

 

 火織は刀を構える。

 

「私たちはこれ以上友人を傷つける気はありませんし、それを黙ってみている気はありません」

「僕も神裂と同意見なんだよ。この件は、先にこの子を攻撃した僕に罪がある。その償いのためならなんだってするさ」

 

 ステイルが10枚のコピー用紙周囲に撒く。

 

 まあ、安心した。

 

 そこで、土御門元春は顔に貼り付けていた無表情を解いて、皮肉気に笑う。

 

「……流石に世界に20人といない聖人様に『必要悪の教会(ネセサリウス)』の誇る天才魔術師。そして魔神の3人を相手にするつもりはないぜよ」

「なら何をしに来たのかな?」

 

 土御門元春の口調が変わった。

 

 どうやら戦う気はないらしい。まあ、土御門元春はウソつきらしいから、あまり信用はできないけど。

 

「そりゃ勿論、説得に決まっているぜよ」

「説得?」

「どうやらお前は本当に世界を滅ぼす気がないらしいからな」

「あれ? 信じたの?」

 

 正直、土御門元春があんまり人の話を信じるとは思えないんだけど。

 

「オレはまだ疑っているけどにゃー。でも、この状況はぶっちゃけ詰んでるんだぜい。この場で倒せなければ魔神の完成。そうなっちまえば、世界のすべてを人質に取られたようなものだ。なら、そうなるよりも先にご機嫌取りに伺ったってわけだぜい」

「……まいかを守るためかな?」

 

 一瞬、土御門元春に笑みに別の感情が混じった。

 

「ああ、安心して。まいかに関しては手を出すつもりはないし、人質にとる気もない。彼女とは友達だからね」

「ッ! ……」

 

 土御門元春は口を開こうとするけど、それを途中でやめて少し黙る。

 

「……本当にそのつもりなら助かる」

「まあ、主従関係ともいえるね」

「ッな!?」

「ほら、まいかってメイド学校の生徒だし」

 

 やっぱり微妙に動揺するあたり筋金入りのシスコンだね。

 

「まあ、信じてもらえないならそれでもいいけどね。私は別に世界を滅ぼす気なんてないんだよ。ああでも、近いうちに最大主教(アークビショップ)に会いに行くからその時はよろしく」

 

 土御門元春を信じる気はない。

 

 何せ魔法名が『背中刺す刃(Fallere825)』。裏切られる可能性が高すぎる。

 

 まあ、前の私(インデックス)との約束もあるし、突っぱねるわけにもいかないよね。拳銃か何かの飛び道具で私を狙ったりもしなかったし、信じたい気持ちはある。

 

「あなたにはイギリス清教に今言ったことを伝えてくれればありがたいかな? 学園都市をできれば明日出発する感じで。この仕事受けてくれる?」

「……わかった。やらせてもらう」

「二人はどうする?」

 

 火織とステイルに聞く。

 

「どうする、とはどういうことですか?」

「私についてくるか、『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻るか、だよ」

「……僕は君についていかせてもらいたいね」

「私もついて……」

「本当に?」

 

 火織の言葉を遮る。

 

「あなたは元々は天草式十字凄教の所属だったはずだよ? 『必要悪の教会(ネセサリウス)』と敵対してしまうと天草式十字凄教(かつての仲間)を人質にされる可能性も高くなるわけだけど」

「ッ! それは……」

 

 『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属していた時点でその可能性はあったけど、『必要悪の教会(ネセサリウス)』を抜ければその可能性が高くなるのは間違いない。

 

「今なら、一応交渉役も確保できたし火織もステイルも『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻ることができる可能性もあるんだよ」

「ですが……それは」

「私についてくるってことは世界を敵に回すようなものだしね。私は別に敵対する気はなかったんだけど、相手がやる気じゃしょうがないもん。それに後ろ盾がないと辛い事だってあるだろうし」

 

 私についてくるということはイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)所属』という後ろ盾がなくなってしまうことを意味する。

 

 アレイスター=クロウリーみたいな強力な魔術師であっても『学園都市』という組織を作らざるを得なかったあたり、組織という物の重要性はわかるだろう。

 

「まあ、僕の意見は変わらないけどね」

 

 ステイルが言う。

 

「もともと魔術を覚えたのも力を付けたのも君のためだ。今更躊躇するつもりはないよ」

「ありがとうね。ステイル」 

 

 やっぱり協力してくれる人がいるっていうのは、ありがたいんだよ。

 

 個人的にはやっぱり火織にはついてきてもらいたい。今『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻ろうとしたとしても、土御門元春の協力があるとはいえ一度裏切った火織を『必要悪の教会(ネセサリウス)』が放置するとは考えにくい。土御門元春の裏切りも視野に入れると危険度はさらに増す。

 

 『聖人』を抑えられるだけの魔術。私に施されていた『首輪』以上の魔術をつかって火織を抑えにかかる可能性が高い。

 

「……」

「まあ、別に私達で『必要悪の教会(ネセサリウス)』よりも早く迎えに行けばいいから心配しないでもいいんけどね」

「へ?」

「切羽詰まっているとはいえ大丈夫だよ。さっきの二人には3日後って言ったけど、本当は明日、ここを出る予定だったわけだし」

 

 これはこれで、火織が天草式十字凄教関連で精神的に成長する機会が減ってしまうんだけどね。そのために、天草式十字凄教が全滅してしまっては本末転倒だしいいかな?

 

「……わかりました。あなたにつかせていただきます」

「うん。ありがとうね」

 

 さて、この後はちょっと火織に付き合ってもらわないといけないことがあるし。他の魔術師が起きてくるまえにここから離れようかな。




 たくヲです。

 作品タイトル回。

 魔術師を超えて魔神一歩手前まで上り詰めてしまった……。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある離別の学園都市

「それじゃあ、脱ごうか?」

 

 薄暗い部屋で私が言った言葉で火織は顔を真っ赤にする。

 

「い、インデックス……? 何を……?」

「え? だって脱いでもらわないとできないからね」

「で、ですが、それは……せめて部屋を変えるとか」

 

 同性とはいえ、他人の目の前で()を脱ぐのは抵抗があるのか、火織はためらう。

 

「私はかなり危ない状態で、このままじゃどうなっちゃうかわからないんだよ。一刻を争う状況ってやつかな? それにもう私は脱いじゃったし。だから、ね?」

「う、うう」

 

 火織はゆっくり服を脱ぎ始める。

 

 うん。パッと見て20以上の相手にこういうのもなんだけど、顔を赤くして服に手を服にかけている姿は正直かわいい。いや、なんていうんだろうね。艶やか、とか?

 

 私の視線から逃れるように火織は脱いだ白い服(・・・)で体を隠す。

 

「ありがとうね」

「は、はい……どうぞ」

 

 私は火織が脱いだ白い服(・・・)を……縫い直した『歩く教会』を受け取った。

 

 

 私の『首輪』を破壊してすぐに常盤台中学の女子寮に戻った。

 

 私たちがやっていたのは『歩く教会』の修復。流石にあの無防備な状態のままっていうのは危険だったからね。

 

 私の『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』のおかげで『歩く教会』を作る方法はわかっていたし、そもそも『歩く教会』の知識は『十万三千冊の魔導書の知識』にもともと入っていたから。

 

 問題なのは『歩く教会』の発動に必要な材料や魔術的要素だった。

 

 何せ、『歩く教会』もなんだかんだで法王級の魔術。材料をそろえるだけでも大変だ。

 

 特に『歩く教会の布地にこめられていた霊的な能力』が『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によって消滅していたのが何より痛い。結構上等な礼装を用いていたせいで代わりを用意できないからね。

 

 そんな中、『歩く教会』の修復のために用いたのは偶像崇拝の理論。礼装『A』を用いる魔術行使のために、『A』に似た『偽物(レプリカ)』を用意することで、『A』を用いた魔術に近い魔術を行使するという理論だね。わかりやすく言うなら、テレビの録画機能を使ってとった番組は、放送時の番組よりも画質は劣化するけど、番組の内容を知り理解することはできる、みたいな感じかな。

 

 まあ、学園都市のHDDは録画しても画質が落ちないんだけど。と、いうか最近の録画機能はそんな劣化しないのかな?

 

 話を戻すと、『歩く教会』を造りだすための材料である布や刺繍は別のもので再現は可能っていうことだね。

 

 当麻に壊してもらった『歩く教会』から残った白い布は礼装としての機能は失われているけど、『歩く教会』の一部であったという事実は消えていないから、十分に材料になる。金の刺繍も学園都市で購入した材料で再現可能だった。

 

 でも、このままでは、以前の『歩く教会』の劣化にしかならない。多分、軍覇の通常の『すごいパーンチ』で壊れる程度にしかならない。

 

だから私は防御力を底上げするために、『歩く教会』の材料に一つの記号を組み込んだ。

 

 そもそも『歩く教会』っていうのは、服の刺繍や縫い方によって魔術的な意味を持たせて結界を造りだす魔術。でも、刺繍や縫い方だけじゃ法王級の防御力を得ることはできない。当然と言えば当然だよね。だって刺繍や縫い方だけで、法王級の防御力を得られるなら量産だって容易にできるし、『必要悪の教会(ネセサリウス)』は全魔術師に『歩く教会』を着せることができるってことになる。

 

 『歩く教会』の肝は布地にある。『歩く教会』に用いられた布地はロンギヌスで貫かれた聖人……つまり神の子を包んだ『トリノ聖骸布』を正確にコピーしたもの。その布地こそが『歩く教会』の法王級の防御力を生んでいると言える。神の子は十字教において頂点と言える人物だからね。それほどの聖人を包んだ布地がどれほどの魔術的な力を持つかは想像するまでもない。

 

 つまり、私はこの『トリノ聖骸布』の再現を行ったわけだね。

 

 方法はわかりやすい。生まれつき神の子に似た身体的・魔術的特徴を持つ『聖人』である火織に縫い終わった『歩く教会(仮)』を着てもらえばよかった。

 

 ……完璧に再現するのであれば一度火織を仮死状態か死亡状態にして、その遺体を『歩く教会』にする前の布地で包む必要があるけど、流石に友達を殺すなんてことはしたくないし、する気もないんだよ。

 

 結果として以前ほどではないとはいえ、かなり近い『歩く教会』ができたんだよ。

 

 

「ありがとう。かおり」

「……え、ええ。……インデックス?」

「どうしたのかな?」

「き、着替えてきてもいいですか?」

 

 冷静に考えると火織は今下着姿。夏場に入りかけの今部屋を閉め切るためにクーラーをつけているわけだし、流石に寒いよね。

 

「ああ、ごめんね。寒かったでしょ?」

「い、いえ。そんなことは……」

 

 まあ、恥ずかしいのか顔真っ赤だし、寒さを感じているのかどうか……。っていうか普段の服もそこまで温かくはないよね?

 

「いいよ。着替えてきて。ついでにシャワーでも浴びてあったまるといいかも」

 

 火織が部屋のシャワールームに逃げるように入っていく。

 

 うーん。まあ、せっかくこんな状態になったから楽しむのもありかと思ったけど……、まあ、命には代えられない。

 

 私は修復した『歩く教会』を着る。

 

 これで安全かな。以前ほどの防御力ではないとはいえ誤差程度だし。

 

 

 その時、机に置いていたケータイが音を発した。

 

 画面には見覚えのない表示。

 

「……もしもし」

 

 ゆっくりと耳に当て通話を始める。

 

『随分とこの街を引っ掻き回してくれたな。禁書目録』

 

 電話特有の雑音が混じらない、まるで直接会話しているような音質で聞こえてきた声はよくわからないとしか言えないものだった。

 

 電話の向こうの人間がどのような人間なのか全く想像できない。男なのか女なのかすら想像できないような声。

 

 その声で逆に電話の向こうにいる人間を特定できた。

 

「仕方ないんだよ。私にだって人権はあるからね。それにあなたが考えていることに対して、私の行動が何も問題なかったから、私に手を出さなかったんだよね?」

『確かに、君の行動の結果として私のプランは短縮できた。一方通行(アクセラレータ)最終信号(ラストオーダー)のつながりが弱いのが気になるところではあるがな』

 

 嫌な予感がする。

 

「それで、今まで一度も私に干渉してこなかったあなたが何の用かな?」

 

 私は強引に話の流れを変える。

 

『君がここから出ていくつもりなのは知っているがね。私としては君にはここに留まっていてほしいのだよ』

「……それはどういう」

『君にはまだ利用価値がある。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を魔術と引き合わせるのは予定通りだった。だが、まだ足りないのだよ。あの右手の力はさらに洗練させねばならない』

「その協力をしろとでも?」

『おおよそ間違ってはいない。私はこういう言葉はあまり好まないのだが、こちらには君に対する人質を多数所持している』

 

 ……まあ、どうせそんなところだろうと思ってたけど。

 

「本気で言ってるのかな?」

『本気だとも』

「そんな人質なんてとらなくても、私はここに帰ってくるつもりなんだよ。それに、私はあなたに敵対するつもりもあんまり(・・・・)ないし」

 

 学園都市でやらないといけないことはたくさんあるからね。

 

「むしろ人質とかやめた方がいいと思うんだよ。学園都市を最初から造りなおすのは避けたいでしょ?」

 

 実際、学園都市を吹っ飛ばすくらいは、今この場で回転しつつ『聖ジョージの聖域』を発動するだけでいいからね。やるつもりはないけど。

 

「私はできることならあなたと友好的な関係でいたいんだよ。なにせ、一年もこの街に居候させてもらったわけだし、あなたにも恩があると言えばあるわけだからね。私の友達に危害を加えない限りあなたの邪魔はしないし、あなたを止めもしないつもり」

『君の目的はなんだ? まさか自分の目的も話さずに説得できるとは思ってはいるまい』

 

 その声は私に興味を示しているようにも、興味を示していないようにも聞こえた。

 

「目的、ね」

 

 私は首をひねる。

 

 そう言えば人に自分の目的を話すのは初めてかもしれない。

 

「目的なんて言うほど、大きな野望とかはないんだよ。そもそも今回の一件の『記憶を失わないようにする』のは()の本来の目的の副産物みたいなものだしね」

 

 それは禁書目録(インデックス)としての目的であって()としての目的ではなかった。

 

 まあ、その目的を達成するために必要な過程が同じだったから助かったけどね。

 

「私は他の魔術師みたいに魔術を使って何か成し遂げたいことなんてなかった。だって、私の目的は『魔術師になること』そのものだったんだから」

 

 私は転生する時にこの目的のために、あの二つの特典を望んだのだ。

 

「まあ、とはいっても今はせっかくできた友達を守るっていう新しい目的ができちゃったわけだけどね」

『随分と饒舌だな』

「こんなこと『人』に話すのは初めてだし饒舌にもなるんだよ」

 

 さて、話を戻そうかな。

 

「それで? 私の目的は話したんだよ」

「仕方あるまい。私としても今の時点で魔神を相手にするのは得策ではない」

「そうしてくれるとありがたいかな」

 

 おっと、あのことについても聞いておかないとね。

 

「ところで、一つ学園都市の組織を潰したいんだけどいいかな?」

「ふむ。場合によるとしか言えないが」

「三沢塾」

 

 学園都市内の進学予備校にして科学を崇拝する新興宗教。そして何より、姫神秋沙という少女を監禁することになる組織。

 

「確かにあれは我々としては破壊されても問題はない物だが」

「ああ、なにも今すぐとは言わないんだよ。それに、今説明しても仕方がないことだし」

 

 まだ、事件は起こっていないはず。原作で姫神秋沙が誘拐されたのは当麻とステイルが乗り込む8月の一か月前らしいし。まだ6月だからね。

 

 助けられる相手は助けておきたい。

 

「いいだろう。君は私からすれば協力者に当たる。その程度なら許可する」

「うん。ありがとうね」

 

 そろそろ火織も出てくるだろうし電話を切ろうかな。

 

「それじゃ。次は電話じゃなくて直接会えるのを楽しみにしてるんだよ。『学園都市統括理事長』アレイスター・クロウリー」

 

 

 

 

 

「改めて。一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)、そしてミサカ6023号。久しぶりだね」

「久しぶりー! ってミサカはミサカは少しテンションを上げて叫んでみたり!」

「オイ、ガキ。店の中ぐらい静かにしろ」

「ひさしぶりです、とミサカは上位個体に倣ってテンションを上げます」

「棒読みじゃねェか」

 

 しばらく会ってないうちに一方通行が突っ込みキャラになってる……。

 

 私は今ハンバーガーショップに来ている。この街に来て一番最初に食事したハンバーガーショップだ。

 

 火織とステイルには少し離れた場所で待機してもらっている。とりあえず、さっき二人とも唐突に入ってきてハンバーガーを買って出て行ったから問題はないはずだね。

 

「これはとりあえず私のおごりなんだよ」

「全部一番安いハンバーガーのくせに何言ってやがる」

「いつか、あなたに奢ってもらった時も一番安いハンバーガーだったからね。おごりに変わりはないし」

「あの時とは量が違うだろォが」

 

 私たちのテーブルには12個のハンバーガー。とりあえず一人3個は食べれるんだよ。

 

「ミサカ6023号は無事退院できたようでよかったんだよ。おめでとう」

「ありがとうございます、とミサカは空返事とともに早速ハンバーガーに手を伸ばします」

「あ、ずるいずるい、ってミサカはミサカは負けじとハンバーガーに手を伸ばしてみる」

 

 とりあえずは無事って所かな。

 

 アレイスターが不穏なことを言っていたから、警戒して最初に会いに来たんだけど無事でよかったかも。

 

「で、話ってのは?」

「おっと、そうだったね」

 

 そもそも、私は一方通行に報告とあいさつに来たのだった。

 

「ちょっと、この街を出ないといけなくなったんだよ」

 

 一方通行が眉をひそめる。

 

「オイオイ、どォしたってんだ?」

「まあ、いろいろあってね。一番大きい理由は友達の仲間を助けに行くことなんだよ」

「オマエ、俺の時といい変なことに首つっこまねェと気が済まねェのかァ?」

 

 随分な言い様だね。

 

「彼女もある種の命の恩人だからね。……ああ、安心して。もちろん出て行くのは一時的な物でまた戻ってくるつもりから」

「……チッ。そォかよ」

 

 一方通行はハンバーガーに手を伸ばし食べ始める。

 

「私はあなたたちのことを放り出すつもりはないからね。こんな状況にあなたたちを連れてきたのは私だし、責任くらいはとるよ。なにより友達だしね」

 

 私もハンバーガーに手を伸ばす。

 

「あんまりそういうことは言ってほしくないかな、ってミサカはミサカは正直な気持ちを言ってみる」

「え?」

 

 いきなりの打ち止めの言葉に聞き返す。

 

「あなたは友達って言ったけど、友達だって思っているならもっと遠慮しないものだと思う、ってミサカはミサカは言ってみる。恩とか責任とか友達相手に言うことでもないんじゃないのかな、ってミサカはミサカはここ数か月で得た知識をフル活用してみる」

「うーん」

 

 まさか、打ち止めにこんなことを言われるとは思ってなかった。

 

「確かにその通りかもしれないね」

「ふふん、ってミサカはミサカは人生の先輩を納得させたことを胸を張って誇ってみたり」

「とは言っても、これが私だからそう簡単に変えられないのも事実なんだよ」

「?」

「急に変わるのは難しいって話なんだよ」

 

 色々な意味で私が言える台詞ではないかもしれないけどね。

 

 とはいえ、これは一つの課題かもしれない。言われてみれば、いままで友達にしては他人行儀すぎたような気がするし。

 

「難しいんだね、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる」

「じゃあそろそろ行こうかな」

「もう行くのですか、とミサカはハンバーガーから目を離さずに問いかけます」

「うん、予定も山積みだからね」

 

 具体的には出て行くための準備なんだけどね。

 

「一方通行」

「あァ?」

妹達(シスターズ)打ち止め(ラストオーダー)を守ってあげてね」

 

 一方通行は私の目を見る。私も一方通行の目を見返す。

 

「……言われるまでもねェな」

「うん、任せたんだよ」

 

 私は席を立つ。

 

「それじゃまた今度ね」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、今までありがとうね」

「随分と突然なのねぇ」

「今までの私の行動もだいぶ突然だった気もするけどね」

 

 朝6時。『学舎の園』の門の前で私は操祈と話していた。

 

 私が肩から掛けたバッグの中にはいろんな荷物が入っている。

 

 私は頭を下げる。

 

「!? ど、どうしたのよぉ!?」

「本当にありがとう」

 

 操祈はある意味、私にとって一番ありがたかった存在と言えるからね。

 

「あなたのおかげで野宿生活を避けられたわけだし、食事もできたんだよ」

「……」

「それに夜」

「ブッ!? う、うるさいわよぉ!?」

 

 鋭いね。

 

「おかげで学園都市での生活が充実したものになったからね」

「はあ……。あなたの相手していると調子狂うわねぇ」

 

 ため息を吐く。操祈はバックの中からリモコンを取出し私に向ける。

 

「やっぱり私とあなたの関係はこれくらいの方がいいわねぇ」

「うん。そうかもしれないね」

 

 操祈がリモコンのボタンを押す。

 

 バタッ、と倒れる音が後ろから聞こえる。振り向くと30メートルくらい後ろの電柱の側で黒づくめの男が倒れている。

 

 再び見ると操祈は新しいリモコンを取り出し、そのリモコンについている画面をじっと見つめていた。

 

「……大体理解したわぁ」

「み、みさき! それは」

 

 流石にこんな明らかな下っ端が『魔神』に関して完全な知識を持ってるとは思っていないけど、それにしたって操祈レベルに魔術について知られるのはまずい。

 

「あらあらぁ? やっと、動揺してくれたわねぇ」

「そんなことよりもそれは駄目なんだよ!」

「自分の素性を探られるのはそんなにキライかしらぁ? 私に隠し事しようなんて十年は早いんだゾ☆」

 

 操祈にペースを握られたのは初めてなんだよ。

 

「あなたが心配だから言っているんだよ。一応重要な情報だからね」

「……わかったわよぉ。あなたが出て行ってから消すから安心しなさい」

 

 絶対ウソなんだよ。

 

「面倒なことは適当にこっちが何とかしておくからぁ。あなたはさっさとこの街の外に出ちゃいなさい」

「うん。ありがとうね」

 

 好意を無駄にするのも嫌だしね。

 

「じゃあ、お礼にあなたに贈り物なんだよ」

 

 私はケータイストラップを手渡す。

 

「これ何よぉ?」

「お守りかな?」

 

 小さな布でできた神社風のお守り。もちろん魔術関連だけど、天使の力(テレズマ)を利用しているから魔力がほとんど漏れない少し変わった仕組みのものだね。、天使の力(テレズマ)は西洋の概念だけど、神道と結びつけることで地脈関連とつながりやすくしている。

 

「この街でこんなものを渡すのはあなたくらいでしょうねぇ」

「いらないのかな?」

「ありがたく貰っておくわぁ」

 

 まあ、これは昨日軍覇にも渡したんだけど。

 

 そろそろ行かないとね。

 

「とりあえず、あなたの部屋は一年くらいなら開けさせておくわぁ。いつでも戻ってきなさい」

「……うん、ありがとう。それじゃあね」

 

 

 

 

 

 私は学園都市の第七学区の路地裏に入っていく。

 

 後ろからは火織とステイルがついてくる。

 

「こんなところに行くのですか?」

「うん。あなたたちももとはるあたりの報告で聞いてなかったかな?」

「不良のグループに助けられたっていうアレか。気に入らないが、僕は当時動けなかったからね。感謝はしているさ」

 

 不良神父が不良を気に入らないっていうのはどうなんだろうね。同族嫌悪かな? 

 

 操祈が時間稼ぎしてくれてるし、急ぎたいのはやまやまだけどここにあいさつしないのはなんか違う気がするし、一応来たんだよ。どうせ学園都市から出るための出入り口に行くためには通る場所だったしね。

 

 そんな中一つのドアの前まで辿り着いた。

 

「それじゃ、あなたたちはここで待っていて」

「……私もお礼くらいはしておきたかったのですが」

「うーん。難しいかな? 知らない人を連れてきて警戒させるのもあれだし」

 

 何より刀持っているし。

 

 

 私が入ると巨大な男が巨大なソファに座ってテーブルに向かい何やら飲んでいる。

 

「……インデックスか」

「りとく。未成年が昼間から酒を飲むのは感心しないかも」

「……これはサイダーだ。流石に昼間から酒を飲むほど堕ちてはおらんよ」

 

 私は利徳の向かいに座る。

 

 利徳は横に手を伸ばし適当なグラスを掴み、そこにサイダーを注いで私に渡す。。

 

「ん、ありがとう」

 

 私はグラスを貰って、利徳が持っているグラスと合わせ飲む。

 

 ……確かに、サイダーだ。

 

「それで今回はどうした……? 以前、言っていた問題は片付いたのか?」

「当時の問題はあらかた片付いたんだよ。まあ別の問題が発生しちゃったんだけどね」

「そうか……お前も大変だな」

 

 お前『も』?

 

「何かあったの?」

「どうやら、俺たちと同じように複数のチームで徒党を組んでいるスキルアウトがいてな……。能力者と見れば迷わず襲うような奴らだ。そんなやつらを野放しにしておくわけにはいかんが……いかんせん情報が少なすぎる」

「大変みたいだね」

 

 魔神と言っても今の私はそこまで万能じゃないからね。実際の現場を見るまで特定はできない。

 

「でも、半蔵が動いてるんでしょ? ならすぐにわかると思うんだけど」

「最近組まれた組織らしくてな。……半蔵にもなかなか尻尾が掴めていないようだ」

 

 できれば被害が出る前に何とかしたいところだね。

 

「あくまで噂だが能力を使うやつが中心にいるという話だ」

「スキルアウトの中心に能力者?」

「精神を操るのか、脅して無理やり従わせているのかはわからんがな」

 

 一つだけ思い当たる節はある。『幻想御手(レベルアッパー)』。つい昨日、思いだした『知識』だ。

 

「意外と厄介かもしれないんだよ。できれば利徳も動いておいた方がいいかも」

「……なにか心当たりがあるのか?」

「あんまり聞かない方がいい方向に心当たりがあるんだよ」

「……そうか。だが、今日は俺は休日でな」

 

 休日?

 

「ここの所、俺も見回りをしていたのだがな。あいつらが『もういい加減休め』と言いだして仕方なくここに残っているわけだ」

 

 なんかスキルアウトが『警備員』みたいになってきてるんだよ。

 

「無理言ってごめんね」

「いや、そんなことはないが……」

「まあ、それならゆっくり休んでほしいんだよ」

 

 私も早いところ出て行った方がいいかもしれない。

 

「そうそう、報告だけしておくね。私は一度学園都市を出ないといけないんだよ」

「……なに?」

「さっき言った問題が学園都市の外に行かないと解決できないことだからね」

 

 主にイギリス清教関連だけど。

 

「そうか。……さびしくなるな」

「まあ、たぶんすぐに戻ってくると思うよ」

「……ならば、俺はお前が戻ってくる前にこの問題を解決しておこう」

 

 利徳が立ち上がろうとする。

 

「りとく。時には休みも大切なんだよ」

「……それはわかるが……」

「……どうしたの?」

「俺たちはもともと学校を休み続けているのだがな……」

 

 正直、忘れていた。

 

 それでも今の利徳たちはそのへんの学生よりも大変だとは思うけど……まあ、自業自得と言ってしまえばその通りなんだけど。

 

「それでも休んだ方がいいんだよ。休憩がなさ過ぎて倒れたら元も子もないし、よこすかたちも動いているだろうし」

「……それもそうだな」

 

 利徳は再びソファに座る。

 

「そうそう、さっき言った私の問題に関してなんだけど。ちょっとそれ関係で学園都市の上層部があなたたちに手を出してくるかもしれないんだよ」

「お前は一体何をしてきたんだ……? いや、答えなくてもいい。続けてくれ」

「うん。だから、あなたには忠告。何かの刺客や交渉人が来た時はできる限り信用しない方がいいんだよ。やばそうならとにかく逃げて」

 

 操祈や軍覇にはお守りとして渡したけど、ああいう礼装は基本的にある程度の実力がないと、つまり最低限学園都市の闇相手に立ち向かえる人に持っていてもらいたい。あの礼装を持たせたことで余計な問題に巻き込まれた場合のことを考慮するとその問題をある程度解決できないと困るからね。

 

 私はサイダーを全部飲んで立ち上がる。

 

「……もう行くのか?」

「うん。やらないといけないこともあるしね」

「そうか。……気を付けて行け」

「うん。りとくも気を付けてね」

 

 

 

「もういいのですか?」

 

 外に出ると火織が話しかけてきた。

 

「うん。私としてもできる限りの挨拶はしたからね」

 

 当麻には挨拶してもよくない気がする。引きとめられるか、後先考えずについてきそうだし。

 

 それに他のみんなに関しては裏で土御門元春にいろいろしてもらっているから、おおよそ問題はないはず。

 

「それに早く、かおりの仲間たちを探しに行かないとね」

「ありがとうございます」

「いいのいいの。友達だしね。……じゃ二人とも、学園都市を脱出しようか?」




 たくヲです。

 学園都市サラバ回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある騎士と十字凄教

 『天草式十字凄教』。天草で一揆をおこしたことで有名な、切支丹(キリシタン)を起源とする十字教の宗派の一つであり、当時の幕府の弾圧から逃れるために神道や仏教といった宗教を組み込み、他の宗教に溶け込むことで難を逃れた、多角宗教融合型の十字教。

 

 難しいように聞こえるけど、宗教界では複数の宗教を組み合わせるのは結構メジャーな考え方でもある。とはいっても、このような形式ではないけどね。例えば、別の宗教の神を自分の宗教では悪魔として登場させるといった方法は十字教でもメジャーな手法の一つだ。日本でも神仏習合などは教科書にも載っているような現象として現れている。

 

 火織はそんな『天草式十字凄教』に女教皇(プリエステス)として所属していた。

 

 別に『天草式』自体は特別に強力な組織であるわけではなかった。実際、個人で見ても魔術師の平均より少し上程度、『天草式』全体で見てもイギリス清教やローマ正教には劣ってしまう。

 

 その中で、火織はその組織のレベルを一人で引き上げる存在だった。引き上げてしまったともいえる。

 

 何せ火織は『聖人』。本来、『天草式』のメンバーが相手にすることもないような相手が火織を狙って出てくることもあったのだろう。かつて火織が今ほどの実力を持ち合わせていないころから、『天草式』は火織を守るために格上の相手とも戦わざるを得なかった。

 

 火織が実力を付けてからも、そう言ったことはあったという。火織の敵ではないが、集団の一人一人が『天草式』のメンバーよりも強かったことも多かった。

 

 そんな相手と戦い続けて無事でいられるわけもない。『天草式』のメンバーたちは戦うたびに傷を負っていき、死人もでるようになった。

 

 火織は自分のせいで『天草式』の仲間を傷つけてしまったことを悔やみ、教皇の立場を捨て『必要悪の教会(ネセサリウス)』に入った。インデックス(前の私)と出会ったのはその後だという。

 

 『必要悪の教会(ネセサリウス)』はそのことを知っているため、『天草式』は火織にとって実質人質ともいえる存在になっていた。

 

 ここまでが火織から聞いた話から気遣いとオブラートを抜いてまとめた内容だね。

 

 なんでこの話をしたかというと、私達が今、天草式十字凄教を助けに来たからなんだけど。

 

「ッ――――――――――!!」

「ちょっとまって、抑えてかおり!」

 

 今すぐにでも飛び出していこうとする火織を私は『歩く教会』で抑える。

 

 私達の結構離れたビルの屋上にいる私達が双眼鏡を覗いた視線の先には、城のような結界に覆われた廃ビル。それを取り囲み、魔法の弾を撃ちこんでいるイギリスの騎士派に所属する騎士たち。廃ビルの中には『天草式』の魔術師たちが籠城しているはずだ。

 

 正直、ここまで早く『天草式』を見つけられるとは思ってなかったから驚いている。『天草式』は本拠地を持たない組織だからね。もしも火織がいなかったら見つけるのにどれくらいの時間がかかったかわからない。

 

 結界を解析すると『城』の術式だね。『島原の乱』で一揆軍が籠城した『城』を再現した結界術式。宗教戦争的な色を取り出して、自分たちよりも強力な組織による弾圧、攻撃行為に対して強力な防御性能を発揮する。しかし、防御機能は大規模なため、長続きせず魔力の消費が大きい、自分たちよりも明確に弱いものに対して防御性能を持たない、という弱点もある。

 

 派手な行動を好まず、集団に溶け込むことを得意とする『天草式』の特色にあった術式とは言えない。

 

 とはいえ、『天草式』は本場(イギリス)の騎士団を相手にできるほどの魔術師たちではない。騎士は一人一人が一般的な魔術師数人分の戦闘力を誇る武闘派。それこそ、相性がいいステイルや、火織のよな圧倒的な力を持つ魔術師でないと突破は難しい。

 

 そう考えるとこの魔術を用いたのは正しいんだけど……。

 

「イギリスの誇る騎士団をあそこまで防いでいるのは予想外だけど、そう長くは持たないだろうね」

「だから、私が行きます!」

「はい、ちょっと落ち着こうか」

「ひう!?」

 

 『天草式』らしくない術式っていうのがどうも引っかかる。

 

 もとにしたエピソードのせいで、あの術式は籠城している人間全員で魔力を負担しているはずだ。つまり、あの術式が破られた時、敵に対抗する術がなくなってしまう。

 

 まさか、火織の助けを期待しているわけではないだろう。火織にこんな状況になっていることが伝わっているとは思っていないだろうし、火織頼みで耐え続けるような人達なら、火織も守りたいとは思わないだろうし。

 

 戦うのは愚策。このまま籠城していてもいつかは破られる。ついでに、投石しているような様子もない。となると……。

 

「地下かな?」

 

 

 

 

 マンホールから下水道に入ると、やはりというか暗くて何も見えない。

 

 あまりいいにおいとは言えないし、早いところ外に出たい。外にはステイルと火織。ステイルのルーンを貼ってもらうことで、先日の手術の日のように私の『歩く教会』の魔力反応をごまかしているのであまり時間はないね。

 

 とはいえ、魔術の明かりは騎士団が感知しかねないし、文明の利器に頼った方がいいかも。

 

 私はケータイを取り出しカメラのフラッシュで、一瞬廃ビルのあった方向を照らす。

 

「……」

 

 なんかいた。

 

 ふわふわの髪のスレンダーな女の人が剣を構えてこっちを見ていた気がする。

 

 私はケータイをバッグに戻しつつ前に歩く。左側に水があるから落ちないようにまっすぐ暗闇の中を歩くと、左からヒュンという音。

 

 左の腕にぶつかった何かを『歩く教会』越しに掴み、その位置から、予測して相手の肩を掴む。

 

 少し暴れるように動こうとした相手に抱きつくようにして、ぼそりと呟く。

 

「落ち着きなさい」

 

 離れようともがくが『歩く教会』の防御力の拘束を突破することはできない。

 

「かおり!」

 

 私は首だけ振り返って、後ろの蓋がいているマンホールに向かって呼びかける。

 

「!?」

「どうしました!?」

「ごめん。説得お願い」

 

 攻撃してきたことは後で、いろいろするとしてひとまずは説得してもらわないと話にならない。

 

 火織が飛び降りてくる。コンクリートの地面の部分にちょうど着地したようだ。

 

女教皇(プリエステス)!?」

「この声は……対馬ですね」

 

 ふむ。天草式の女魔術師の一人で剣を扱っていて、脚線美説が浮上していた対馬だね。

 

「じゃあ、ちょっと離れるんだよ」

 

 これ以上は拘束しなくてもいいよね。

 

 私は懐中電灯を取り出して周囲を照らした。

 

 

 

 対馬の説明を受けた火織が他の『天草式』のメンバーの所に向かうことになった。

 

 対馬から話を聞くと、下水道に入ったのはいいが、あの結界魔術を使用した建物からは余り離れることはできない。そのため、逃走を図る前に何人かを周囲の安全確認に出して、他のメンバーは結界を維持する必要があったのだという。さらに、騎士に察知されないためにできる限り魔術を使用しないようにしなければならない。だから、この閉鎖空間でも戦える武器を使えるメンバー……対馬を中心とした比較的狭いところでも振り回せる武器を持つメンバーが動く必要があった。そんな中強力な魔力反応がいくつも発生し、さらにそのうち一つが下水道に入ってきたため、それが誰なのかを探りに来たという。

 

 そこにいきなりフラッシュで目くらましをされやはり敵かと思い攻撃をした。とのことである。

 

 まあ、割と私も悪い気がするけど、『歩く教会』があるとはいえ、私の命を狙ってきたのはちょっと問題だよね。

 

「逃げる算段はあるのかな?」

「今日は幸い『縮図巡礼』の準備がありますし、なんとかなりました」

 

 火織の手前迂闊に普段通り喋るわけにはいかないのか、私の知っている(・・・・・)のとは違う口調の対馬。

 

「『縮図巡礼』。移動魔術だね。……確かにあれならあの騎士たちから逃れられるだろうけど、ここから一番近い『渦』が使えるのは3時間後のはずだよ。イギリスの騎士から逃げ延びるには現実的な時間だとは思えないんだよ。あと敬語は外していいよ」

「その点は問題ありませ……ないわ。私達なら一般人に紛れてしのぐことは可能ですし」

 

 微妙に敬語が抜けないね。

 

 確かに、『天草式』と言えば一般大衆に紛れ込む宗派だし、一般人に紛れてしまえば発見は難しいだろうけど……。

 

「やっぱりあんまり有効な手とは思えないんだよ。騎士たちは私達よりも早く『天草式』に近づけたわけだし、『天草式』の居場所を探る何らかの魔術を持っているって考えるのが妥当かも」

 

 『失せ物探し』に関連した探索魔術は結構多いからね。大体万能ではないものの、『必要悪の教会(ネセサリウス)』とのつながりがあったイギリスの騎士たちならば、火織と関連させて天草式を探すのは容易だろう。

 

「一応、さっきかおりが言ったけど、私たちはあなたたちを助けに来たんだよ。とりあえず、あの騎士たちの相手は私たちに任せてもらえないかな?」

「……そう、ね」

「納得できてないのはわかるけどね。かおりがいなくなってからせっかく力をつけたのに、またかおりに助けられるっていうのは」

「! ……なんで、それを」

「かおりから説明を受け終わった後にちょっと悔しそうだったからね」

「インデックス!」

 

 外からステイルの声。

 

 その直後、外から爆音が聞こえる。

 

「話は後だね」

 

 私はバックの中から取出した髪留めを『歩く教会』のフードの中で付ける。

 

「『神の加護受けし長髪の英雄(サムソン)』発動まで、4秒」

「! 私は何をすれば?」

「そうだね……。サポートをお願いするんだよ」

 

 私はマンホールの空きっぱなしの出入り口から一度の跳躍で飛び出す。

 

 

 神の加護を受けた髪を持つ怪力の英雄、サムソンの術式によって強化された体によるジャンプで、一気に地上10メートルほどに飛び出した私は周囲を確認する。

 

 マンホールから30メートルほどの位置でステイルが炎剣を構え、対峙するように騎士が7人ほど武器を構え立っている。

 

「!」

 

 いきなりマンホールから飛び出してきた私に気を取られたのか騎士たちの鎧に隠れた目が視線が私に集中する。

 

「ステイル!」

「ッ! 砕けろ(IAB)!」

「『ペクスヂャルヴァの深紅石』発動まで4秒!」

 

 ステイルが炎剣を爆発させ、爆風で7人の騎士を吹き飛ばす。

 

 騎士たちは全員受け身を取りそのうち4人がステイルを狙い走り出す。

 

 その瞬間、私の魔術が発動し4人の騎士が武器を落とし両足を抑える。

 

「!? 貴様か!」

 

 後方からの遠距離攻撃を狙っていたのか、走り出さずにとどまっていたことで『ペクスヂャルヴァの深紅石』を回避した騎士3人が着地した私に向け武器を構える。

 

「チッ! 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!」

 

 騎士たちの武器から放たれる魔術攻撃を現れた『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が防ぐ。

 

「あの子に剣を向けて無事でいられると思うなよ……! 我が名が最強である理由をここに証明する《Fortis931》!」

 

 ステイルが魔法名を名乗る。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が十字架型の巨大な炎の剣を横なぎに振るう。

 

 『ペクスヂャルヴァの深紅石』のダメージから回復した前衛の騎士たちと後衛の騎士たちは大きく飛び上がり攻撃をかわす。

 

灰は灰に(Ash To Ash)塵は塵に(Dust To Dust)吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」

 

 空中の騎士たちに向け両手に出現した炎の剣を交差するように振る。

 

 4人の騎士に炎剣が直撃し、爆発がすべての騎士の位置を分断する。

 

 4人の騎士は地面に落ち、甲冑が大きな音を立てる。残りの騎士は爆発の勢いを受けても簡単に体勢を立てなおし着地する。

 

 その瞬間、騎士の一人の着地した足元がきれいに崩れ騎士の一人がバランスを崩し穴にはまる。

 

「っ!」

 

 私はバッグから取り出したコピー用紙をばらまく。風に乗って前に、騎士たちの方に飛んでいく。

 

 ばら撒いたコピー用紙に書かれているのは青のルーン文字『巨人(þurisaz)』『(is)』。

 

「『霜の巨人(ヨトゥン)』、発動まで5秒」

 

 私は踏みこむ。騎士たちに向かってたったの一歩で距離を詰める。

 

禁書目録(インデックス)足甲片足蹴り(サッカーボールキック)!」

 

 バランスを崩した騎士の甲冑の胴部に蹴りを放つ。

 

 分厚い甲冑が足の形にへこむ。

 

「ッぐ!? この程度……」

 

 くぐもった声。騎士が穴にはまったまま剣を振りかぶる。。

 

 しかし、その腕は振り下ろす前に停止した。。

 

「ぐあああああああ!?」

 

 騎士の腕を後ろから掴み止めていたのは3メートルの氷の巨人。

 

 氷の巨人に掴まれた、騎士が凍りついていく。

 

 私は、コピー用紙をばらまきながら残りの騎士の方を見る。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』の近くに転がっている騎士が一人。

 

 『蜃気楼の魔術』を使っているのか、騎士二人の遠距離攻撃をすり抜けているステイル。

 

 『炎の巨人(イノケンティウス)』と『氷の巨人(ヨトゥン)』が騎士二人の方を睨んだ。

 

 流石に分が悪いと思ったのか、逃げようとする二人の騎士。だが、その足元がちょうど足がはまるように綺麗に崩れた。

 

「「やれ」」

 

 『炎の巨人(イノケンティウス)』と『氷の巨人(ヨトゥン)』が同時に二人の騎士に襲い掛かる。

 

 

 

 

 周囲には倒れている騎士たちの治療は念のためやっておいた。イギリスの騎士団に少しでも恩を売っておくためだね。ステイルの攻撃を受けた騎士たちのダメージは相当なものだったから、放っておけば死んでしまったかもしれないし、自分たちのせいで人が死ぬのは避けたいもんね。

 

「で、なんで天草式の居場所が分かったの?」

 

 私はステイルの炎で頭部だけ氷を溶かした騎士に聞く。一応さっき凍らせたのは甲冑と外側だけだし、命に別状はないからね。凍傷になるかもしれないけど。

 

 凍らせた形的に雪だるまっぽい感じに見えなくもない。

 

「……」

「むー。だんまりだね」

「どうする?」

 

 ステイルが聞いてくる。

 

「まあ、放っておいていいと思うんだよ。拷問とか好きじゃないし、あくまで正当防衛っていう立場をとりたいしね」

「そうか。君がそう言うなら僕は止めないよ」

「……貴様ら……何が目的だ?」

 

 騎士が甲冑の中でくぐもった声を出す。

 

「まあ、とりあえずは身の安全の確保と天草式を助けるのが目的かな?」

 

 私は目的をしゃべる。別に知られて困る情報じゃないしね。

 

「インデックス、仕掛けておいた罠が壊されたようだ。すぐにでも残りの騎士たちが攻めてくるぞ」

「ありがとう、ステイル。じゃ、早く逃げようか」

 

 

 私達は下水道に再び入る。

 

「無事、でしたか」

「うん。援護ありがとうね、つしま」

 

 騎士たちの戦いで都合よく地面が崩れたのは対馬が下水道から援護していたからだった。騎士たちの武器の魔力に向けての攻撃って所かな?

 

「これからどうするんだい?」

 

 あとから降りてきたステイルが私に問う。

 

「とりあえず、かおりたちと合流しようと思うんだよ。仮にもイギリス清教の騎士だし、全員を返り討ちにするにするにしても一度集まっておいた方がいいかも」

「え?」

「ん? ああ、返り討ちにするって所?」

 

 確かにさっきは中途半端な所で騎士たちが乱入してきたからね。

 

「騎士たちは天草式(あなたたち)の居場所を割り出せる。だとすれば、このまま逃げ続けても時間の無駄でしかないんだよ。なら、こっちから騎士たちに攻撃して、こっちの居場所を探し当てる霊装を破壊する方が早いよね?」

「た、確かにそうですけど」

「武闘派の騎士たちの相手は少々骨が折れるかもしれないけど、イギリス領土じゃないだけましだしね」

 

 イギリス領土内だとだと、とある術式によって騎士たちが強化されるからね。ただでさえ素の状態でもそこらの魔術師と同等レベルの実力者である騎士がそんなことになったら対処できる魔術師はそう多くはない。

 

 天草式の居場所を探り出す術式が霊装によるものでなければちょっと面倒かもしれないけど、延々考えても仕方ないし、その時に考える方向で行こうかな。

 

 いくつか特別な術式も作ってあるしね。




 たくヲです。

 『霜の巨人(ヨトゥン)』の説明は後ほど。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある二人と魔術国家

 私たちは火織と他の天草式のメンバーと合流していた。

 

 天草式の服装はまさに一般人そのものだ。一般人に紛れ込むっていう性質上当たり前なんだけどね。

 

 そう考えてみると私たちがどれだけ目立つ服装をしているのかが良くわかる。

 

「とりあえず、対馬を傷一つなく連れてきてくれたのには感謝するのよ」

 

 そんな天草式の中で、唯一目立つ服装をしている、『天草式十字凄教教皇代理』建宮斎字と私は向かい合う。

 

 場所は適当な建物の屋上だ。離れたところにいる天草式の魔術師たちは少しずつ魔術を行使して、戦いの準備をしているのが見て取れる。

 

「まあ、騎士達(アイツら)が来たのは私のせいだからね」

「だが、なんで女教皇様 (プリエステス)まで連れてきた?」

「かおりが心配していたから、としか言えないんだよ。かおりなら大抵の魔術師に後れを取ることもないし……」

「そういう問題じゃねえのよ」

 

 ふむ。まあ、気持ちはわからないでもないけど。

 

女教皇様 (かおり)に頼りたくない気持ちはわかるんだよ。これでもかおりの事情はある程度知っているつもりだしね。でも、あの騎士たち相手にまともにやりあえるなんて思っているわけじゃないよね」

「……」

「英国の騎士は一人でローマ正教の部隊長クラス相手にも勝てるレベルなんだよ。それが集団で攻撃してくるってなったら、まっとうな方法で勝てるとは思ってないよね?」

 

 事実、原作でもローマ正教で一部隊を率いていた部隊長がその部下二人との三人がかりでの不意打ちでやっと倒せるレベルだしね。

 

「そう、なのよな。確かに我々であの人数の騎士相手に勝てるとは思ってないのよ。だが、我々にも意地くらいはある」

 

 建宮斎字はある一点を見て言う。その視線の先には火織。

 

「お前さんの言う通りなのよな。我々は証明したいだけなのよ。女教皇様 (プリエステス)がいなくとも我々が自分たちの命くらいは守れるということを。女教皇様(プリエステス)の足を引っ張るようなことはないっていうことを」

 

 まっすぐな目で建宮斎字は語る。

 

「……そう。まあ、天草式(あなたたち)がそうしたいなら私個人としては止めたくはないんだけどね」

 

 とはいえ、ここまで来たのは火織が天草式を助けたいと思っていたからなんだよ。

 

「それでも、友達(かおり)が助けたいって言っているんだから、私が助けない理由にはならないんだよ」

「……」

「火織は天草式(あなたたち)を助けたい、天草式(あなたたち)はかおりに認められる……いや、かおりの足を引っ張らないだけの力を見せたい。なら、私にいい考えがあるんだよ」

「?」

「とりあえず、ここは私たちに協力させてくれないかな? あなたたちが自分たちの成長を見せるにしてもここである必要もないわけだし、ひとまず生き延びなければ証明も何もないんだからね」

「……確かにその通りなのよ」

 

 実際、天草式がどう考えていようと、あくまで私は火織の友達だから火織のやることを優先するんだよ。

 

「対馬からあなたたちの今後の予定について聞いたんだよ。あの騎士達から逃げ続けるつもりだって」

「一応そのつもりなのよ」

「でも、あっちはあなたたちの場所を探り当てる礼装を持っているはずなんだよ。何せ、かおりよりも早くあなたたちの居場所を探り当てたんだからね」

「それはわかっているのよ」

 

 む? 気づいていたのかな。

 

「そりゃ、今まであらゆる組織から身を隠し続けてきた我々がいきなり襲撃を受けたらおかしいと思うのよな」

「ならなんで逃げ続けるってなるのかな?」

「もちろん先延ばしにするためなのよ」

「先延ばし?」

「今の我々ではあの騎士たちには太刀打ちできないのよな。だが、一度でも遠くへ逃げられれば準備ができるのよ」

 

 確かにその通りだと思うんだよ。

 

 事実、騎士たちの魔術に天草式のような瞬間移動はないはずだしね。『縮図巡礼』が使用できる時間まであと2時間。それまで逃げられれば時間稼ぎができる。

 

「でも、いくら準備しても礼装の破壊を前提に行動しないといけないって考えると難しいんじゃないかな?」

「それに関しては問題ないのよ。隙を見て霊装を破壊するつもりだからな」

「あいつらが霊装をこっちに持ってきているとは限らないけどね。

「む……」

 

 可能性としては薄いけど、天草式を探し出した霊装そのものはイギリスにある可能性もある。世界中に向けて放てる魔術もあるんだし、対魔術に特化したイギリスなら、イギリスから日本を対象に探索する魔術を持っていてもおかしくはない。

 

「ひとまず、整理しようか。天草式(あなたたち)の勝利条件は魔術用の霊装の破壊。相手の勝利条件はあなたたちを捕縛すること。あの騎士たちはかおりに対しての人質として天草式(あなたたち)を使おうとしているからね」

 

 今まで誰も見つけられなかった天草式を探し出したほどの霊装なら、替えがあるようなものだとも思えないし壊してしまえば二度と追跡できないはず。

 

 個人が魔術を用いて探索している可能性は天草式を探り当てた以上、限りなく低い。協力な魔術であればあるほど強力な礼装によるバックアップが必要になるからね。

 

 実際、ステイルや火織は特別強力な霊装を使わなくても強力な魔術を振るえるという意味で天才なんだよね。

 

 私の場合は魔術を使用する際に他の魔術を利用することで魔術を行使することが多い。例としては『歩く教会』という霊装を利用して『聖ジョージの聖域』を放ったり、『聖ジョージの聖域』を利用して『ジークフリート』の術式を発動したりって所だね。

 

 どちらにしても、この精度で人を探せる魔術は個人の手には余るってことだね。

 

「まずは、騎士達を返り討ちにすることからかな? あの騎士たちを行動不能にするまでは安心して行動もできないわけだし」

「一応、戦闘の準備はしているが、我々が正面から戦って勝てるかどうかは運しだいって所なのよ」

「ふむ」

 

 実際はあの騎士達程度なら火織一人でも勝ててしまう。

 

「ここでの最適な方法は……」

 

 しかし、ここで火織が全員を倒してしまうとイギリスからの増援を警戒しなくてはならない。イギリス国外でも火織よりも強い可能性がある騎士団長(ナイトリーダー)が投入されてしまうとマズイ。

 

 それに、騎士たちを攻撃して人数を削りすぎると、イギリスに天草式を探り当てた礼装があった場合、防御を固められて攻め込みづらくなってしまう可能性もある。

 

 あくまで私たちの勝利条件は魔術霊装の破壊。騎士団を全滅させることじゃない。

 

 どこにあるのかわからない魔術霊装を見つけて破壊するためには……。

 

「……これしかない、かな」

 

 

 

 

 

 石造りの建物の中、私とステイルは歩いていた。

 

 私とステイルの手には通信用の護符。マジックとメモ用紙で造った簡易霊装があった。

 

「久しぶりに来たけど、ここは変わらないな」

「私は初めてくるんだよ」

「……」

 

 私の言葉にステイルは黙り込む。

 

 口では適当な会話をしつつ、魔術で外には聞こえない会話を行う。

 

『とりあえず、ステイルには案内をお願いするんだよ』

『……わかってるよ。こっちだ』

 

 ここまで来るのは流石に骨が折れたんだよ。

 

 『天草式』の魔術、『木船』の術式を使って作った小さな船に食料を詰め込んで、イギリスの騎士派も用いている海流操作魔術を使ってここまで来たんだよ。

 

 とはいえ、世界一の魔術国家に魔術を用いて海から密入国めいた侵入をするのは厳しいものがあったと言える。

 

 何せ、私の『歩く教会』は魔力を振りまく発信機。私の居場所はほぼ割れているはず。ここに着く前に誘導用のルーンを木船に乗せてばらまいておいたし、ここに入る時は『木船』の潜水機能を使って水中から入ったんだけど、その程度で侵入されるような国家じゃないよね。

 

『誘い込まれたってことかな?』

『だろうね。見知った顔もうろうろしているようだし』

 

 ここまで歩くまでに明らかに魔術師であろう人を何人も見た。

 

 おそらくいつでも戦えるように警戒態勢を取っているんだろうね。

 

 実際、その判断は正しい。不確定要素の多い海上で戦うよりも自分たちのテリトリーで戦う方が有利になるはずだ。

 

 それで勝てるとは限らないけどね。

 

『準備はいい?』

『ああ。問題はないよ』

 

 私としてもたった二人で国家相手に戦えるとは思ってない。

 

 だから、最大限準備はしてきた。そのせいで少しここへの到着は遅れてしまったけどね。

 

『ついたよ』

『ここが……』

 

 思っていたほどではないけど、それでも巨大な聖堂。

 

『聖ジョージ大聖堂、イギリス清教の本拠地だね』




 たくヲです。

 繋ぎ回。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある女王と禁書目録

 私は聖ジョージ大聖堂の大きな部屋で一人の女性と机を挟んで向き合っていた。

 

 部屋内にある調度品には一つ一つに術的意味が込められている一級品の霊装だ。

 

事前約束(アポ)もなしに突然の訪問、申し訳ないんだよ」

「そのような小さしことはどうでもよいのよ。せっかく自由の身になれたというのになぜ再びここに来たりけるのかしら」

 

 向き合っているのはイギリス清教の最大主教(アークビショップ)。ローラ=スチュアート。イギリス清教という宗教のトップであり、国政にすら口を出せる重要人物だね。

 

「あれ? わからないのかな? つちみかどもとはるから聞いていると思うんだけど」

「確かに、土御門元春のヤツから話は聞いているわね」

「なら、話しは早いね。私は近いうちに最大主教(あなた)に会いに行くって言う約束を守りに来たんだよ」

「海より忍び込んだ輩の言う言葉だとは思えん言葉よね」

 

 うーん。やっぱ素直に飛行機使った方が良かったかな?」

 

「まあ、確かに今の私は不法入国者だね。そのことに関しては申し訳ないんだよ」

 

 でも、私の国籍ってイギリス籍じゃないのかな? そういう知識は持ってないんだよ。

 

「わざわざ会いに来た理由なんて決まっているんだよ。私はあなたたちと争う気はないっていう話をしたいだけだね」

「『騎士派』からの報告で分かりているわよ。あなたはイギリスの『騎士派』と交戦したということくらい」

「? それがどうかしたのかな」

「この国の『騎士派』と交戦したりけるということは、この国の軍部に喧嘩を売りしということ。その意味が分かりたるわね?」

 

 日本で騎士数人と戦闘を行った時のことだね。

 

「あれはあっちが先に攻撃してきたから仕方がなかったんだよ。正当防衛ってやつだね。むしろこっちは誰も殺さずに治療までしたんだから、感謝してほしいくらいなんだよ」

 

 私達は騎士たちを誘導したけど、先に武器を向けてきたのはあっちだしね。

 

「簡潔に言うんだよ。私からの要求は一つ『私とこの国(イギリス)の同盟』」

 

 正直、国相手に取引するのに、私ではいろんな意味で力不足だと思う。

 

「簡単に飲めん条件ね」

「今のイギリス清教の現状を考えればいいアイデアだと思うけどね? 対魔術師用の禁書目録(インデックス)の首輪が破壊されたなんてローマ正教やロシア成教に知られたら、問題の解決のために使うのはあなたの首一つじゃすまないよね?」

「……」

 

 おそらく、イギリス清教対ローマ正教、ロシア成教の戦争にまで起こる可能性すらある。まあ、そうなるとしても私を始末した後だろうけど。

 

「せっかく、ローマ正教、ロシア成教に私が魔術を使えるようになったと知られないように動いたんだから、その努力を無にしないようにして欲しいんだよ」

「……一つ勘違いをしたりているわね」

「?」

 

 ローラ=スチュアートは一つの霊装。禁書目録()の遠隔制御霊装。

 

「ここは、我々の本拠地。そこに簡単に侵入させるとでも思うていたのかしら?」

「いいえ、思わないね」

 

 やはり、誘い込まれていた。

 

「貴様もここに忍び込んでいるステイルも、今ならまだ救いてやりても良いのだけれど。再び魔術を行使できない身体にさせてもらう条件が飲めしというならね」

「嫌なんだよ」

 

 返答はとっくに決まっていた。

 

「以前の私ならその条件を飲んでいたかもしれないけど、今の私はその条件は飲めないね」

 

 私はローラ=スチュアートの目を見て言う。

 

「だって、今の私には自分がなぜイギリス清教を信じていたのかも、私がなんで『献身的な子羊は強者の知恵を守る(dedicatus545)』っていう魔法名を掲げたのかも覚えていないんだからね」

「そう、残念ね」

 

 その瞬間、『歩く教会』があるにも関わらず私の全身を圧迫感が襲った。

 

 私はすぐさまその術式を解析し呟く。

 

「私の『遠隔制御』術式を応用した……行動制限魔術……だね」

 

 私が首輪を破壊するために神裂とステイルに使ってもらったものと同じ、魔術を使わせないための魔術。

 

 そもそも、『禁書目録の遠隔制御術式』はその性質上『歩く教会』を貫通できるようになっているはず。

 

 私たちが『首輪』を破壊したから、本来の役割を果たすことはできないけど、『歩く教会』を貫通できる魔術的なつながりは残っている。

 

「その魔術……あなたの持つ霊装だけじゃない……『王室派』のもう一つの霊装からも……同じ魔術を行使することで効果を上げている……」

「……」

 

 ローラ=スチュアートは言葉を発さない。余計な情報を渡すつもりはないということだろうね。

 

 その時、聖ジョージ大聖堂の内部から複数の魔力を感知できた。この大聖堂のいたるところで、これとは別に魔術が行使され、魔力がまき散らされているのだろう。

 

 すべての魔術がここを標的にしているのは明らかだった。

 

「……いいのかな?」

「何がかしら」

「『歩く教会』を……貫通するような……術式なら……あなたごと吹き飛ぶ……と思うけど」

 

 ローラ=スチュアートは答えない。ただにっこりと微笑んだ

 

「そう……覚悟は……できてると」

 

 流石に不用意に入りこみすぎたかな?

 

 ちょっとイギリス清教を甘く見すぎだったかもしれない。

 

 でも一つだけ言えることがあるとしたら。

 

「なめられたものだね」

 

 その瞬間、周囲の魔力がかすむほどの魔力が聖ジョージ大聖堂の一点に現れる。

 

 ローラ=スチュアートの顔に一瞬動揺が見える。

 

「私が使った術式は、『アスモデウス』」

 

 ローラ=スチュアートは私の言葉を聞いた途端、慌てたように自分自身の手を見る。

 

 私の両手には二つの霊装、禁書目録の遠隔制御霊装が握られている。

 

「アスモデウスという悪魔は色欲の悪魔と呼ばれると同時に、72柱の悪魔を支配したソロモンに唯一抗うことができたことで知られているね」

 

 聖ジョージ大聖堂の中に張り巡らされた魔術的な防御機能が突如出現した巨大魔力反応に向かう。

 

「ソロモンの悪魔を支配する力の源である指輪を奪いとるエピソード。このエピソードから読み取れる記号は『支配者への抵抗』と『支配するために用いた道具の強奪』。『歩く教会』の魔力で隠れて、発動してたことに気がつかなかった?」

 

 聖ジョージ大聖堂内部で行使されていた魔術は、突如現れた巨大な魔力反応に狙いを変え放たれる。

 

 魔力と魔力の衝突。

 

 それにもかかわらず私たちがいる部屋が受けた衝撃はほんのわずかだった。

 

 聖ジョージ大聖堂の要塞めいた魔術防御を内側に向けていたためだろうね。

 

 そんなことを考えながら私は続けて言う。

 

「『アスモデウス』の術式の発動条件は何らかの霊装によって私の行動を制限すること。効果は霊装を奪うことによって行動の制限を無効にするというものだよ。女王サマの方の霊装は魔術防壁のあるウィンザー城あたりにいるから大丈夫だって考えたんだろうけど、残念だったね。せっかく引きこもっていても魔術によるつながりを逆利用すれば、そっちに魔術を向けること自体は簡単なんだよ」

 

 私は両方の霊装をしまいながら言う。

 

 弱点として奪った霊装は使用できないということがあるけどそれは大したことじゃない。

 

 巨大な魔力反応が復活する。その魔力反応は私たちのいる部屋の入り口を開け放つ。

 

「大丈夫だったかな? ステイル」

「何とか、ね」

 

 入り口に立っているのはステイルと巨大化した『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。私たちがここに乗り込む前に準備していた5つの切り札のうちの一つ。

 

 私たちはイギリスに上陸する前に、この国の東西南北にある島にステイルのルーンを配置。それと同時にそれぞれの方角を地図の上下左右に対応させ島ごとに1色ずつタロットカードを配置することで、それぞれの方角にあった四大天使の『天使の力(テレズマ)』を呼び出す魔法陣を造りだしていた。

 

 聖ジョージ大聖堂にある霊装と地脈を利用することで、その『天使の力(テレズマ)』の一つ、火をつかさどる大天使『神の如き者(ミカエル)』の力を強引にここまで引き込み、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』に注ぎ込むことで強化している。

 

 本来魔術はあまりに距離が離れた場所に対して影響を与えることはできない。しかし、『黄金系』のタロットカードを用いた『大天使召喚魔術』を利用した最良の術式は遠距離砲撃である。

 本来遠距離攻撃に使われる術式。タロットカードと共に配置したステイルのルーン。これを用いれば数十キロ離れたここまで、『天使の力(テレズマ)』を引き込むこともできる。

 

 この他にも、東西南北と言った方角を利用する風水などの術式を使って細かい強化も施しているけど、わざわざ説明するほどのことでもないね。

 

 もともと法王級の術式である『魔女狩りの王(イノケンティウス)』はこれによりさらなる強化を実現したと言っていい。

 

 聖ジョージ大聖堂に誘いこもうとした『必要悪の教会(ネセサリウス)』の作戦が完全に裏目に出た形。私たちに十分な準備期間を与えてしまった。

 

 私はステイルからローラ=スチュアートに視線を戻し言う。

 

「さて、もう一回だけ聞くんだよ。……同盟を組むか、ここで聖ジョージ大聖堂壊滅か。どっちを選ぶ?」

 

 

 

 

 

 

 さて、脅しめいた方法でなんとか同盟を組めたわけだけど、もう一声欲しいところだね。

 

 力による同盟なんて、いつ破綻するかわからないし。

 

「お会いできて光栄なんだよ」

 

 というわけで私は英国女王エリザードの目の前にいた。

 

 場所はウィンザー城。『歩く教会』を上回る圧倒的な魔術防御機能を誇る施設だ。

 

 私はその中の一室無駄に広い部屋の無駄に大きいテーブルについている。 

 

 私はエリザードの向かいの席に座っていた。すぐ後ろにはステイルが立ち、エリザードの後ろには騎士団長(ナイトリーダー)をはじめとした騎士たちがズラリと並んでいる。

 

「思ってもいないことを言うな」

「いや、心の底からの言葉なんだよ? テレビなんかでしか見れないような有名人が目の前にいるわけだしね」

 

 実際、学園都市にいた時にも時々テレビで見かけていた人だからね。

 

「さて、簡潔に言わせてもらうんだよ。私はあなたたちに危害を加えるつもりはないし、あなたたちに特別なことを望むわけでもない」

「ふむ」

 

 話を切り出す。

 

 あんまり戦闘にはしたくないというのが正直なところだね。王女クラスとの戦闘になってしまうと本格的に私の……私たちの目的は達成できなくなってしまう。それに、まともに戦う場合、被害が大きくなりすぎるし。

 

「私を自由にしてもらいたいんだよ」

「無理だな」

 

 即答だった。

 

「貴様の力は強大なものになりすぎた。そんな貴様を野放しにするわけにはいかん」

「でも、こうして交渉の席についてくれたということは何かしらいいアイデアがあるのでは?」

「そうだ」

 

 エリザードは続けて言う。

 

「確かに貴様の力は強力だが、現時点では十字教全体と同等のものでしかない。禁書目録を作りあげるために十字教系のあらゆる文書に目を通させたのは我々だからな。つまり、われわれが協力すればどうとでもなるということだ。それこそ特別な霊装でも作られん限りはな」

 

 確かに、私は魔神になれるための知識を有してはいる。しかし、私自身は魔神一歩手前の状態。いわば原作に登場した『魔神になるはずだった男』オッレルスと同一の状態であると言える。

 

 まあ私は『魔神になれる』という状態でいるわけだけど。

 

 つまりは私が特別な霊装を……つまり魔神になるための霊装を作らないかぎりは、魔神にはなれないわけだね。

 

「つまり、魔神になるという手順を踏まなければ放置してもらえる、と?」

「監視つきだがな。言っておくがこれ以上の条件は出せんぞ? それに、魔神になろうという行為を行えば容赦なく攻撃させてもらう」

 

 確かに、この上ない条件であるといえるね。ある程度自由を勝ち取れるし常に命を狙われるわけでもない。

 

「随分と緩い条件だね? 私に対しての人権侵害へ対してのお詫びかな?」

「それもあるが、今の現状でぶつかれば我々に勝ち目はないだろうというのが問題だな。最大主教(ヤツ)もそれを理解したからこそ、こっちに回してきたんだろう」

 

 その認識は正しい。流石に、何の策もなしに、天使長と同質の力を得られる剣である『カーテナ=セカンド』をもつエリザードと、その後押しがあれば並みの聖人を軽く上回る戦闘力を持つ騎士団長(ナイトリーダー)の前までノコノコと顔を出さないんだよ。

 

「もう一声欲しいかな?」

「なに? これ以上の条件は……」

「監視は女性でお願いしたいんだよ。どうせ見てもらえるなら女の子がいたほうがいいし」

 

 一瞬、言葉の意味が解らなかったのか、エリザードと騎士達は首をひねる。

 

 そして、言葉の意味を察したのかエリザードと一部の騎士は何とも言えないような表情をした。

 

「……なんだ、お前はそういう趣味もあるのか?」

「うーん? 私はどっちも問題ないだけなんだよ」

 

 エリザードはため息をつき、言う。

 

「……まあ、いいだろう。とはいえ、この国の騎士に女性はいない。『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師を付けることになるが」

「うん、それで構わないんだよ」

 

 できるならばイギリス清教の魔術師を2人ほど着けてほしかった。見張りが騎士だけだと、『イギリスのために』という行動原理を持つ騎士派はそのために女王に嘘をついて攻撃してくる可能性があるからね。

 

 その点、基本的に自分のために行動する『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師がいれば、そのリスクを減らせる。

 

 とはいえ、騎士が『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師を攻撃して行動不能にし、私が攻撃してきたと偽って攻撃してくるかもしれない。でも、『カーテナ=セカンド』の影響があるイギリス国内ならともかく、イギリス国外であれば『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師が騎士に戦闘力で劣るとは思えない。

 

「じゃあ、私には騎士と魔術師による二重の監視がつく。あなたたちは私たちへの攻撃を止める。これでいいんだよね」

「そうだ。だが、こっちの問題に対して協力してもらうことはあるかもしれないがな」

「そう言うことがあれば積極的に協力させてもらうんだよ」




 たくヲです。

 イギリス回。

 ローラ=スチュアートの実力がわからないのでこんな感じに……。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。


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とある知識と幻想殺し

 7月半ば。とはいえ、まだ朝が早いせいか、夏特有のうだるような暑さはない。

 

 

 イギリス清教と学園都市。この二つの組織との細かい取引を行うのには骨が折れたんだよ。

 

 いろいろと面倒な取り決めをしていくのもそうだけど、イギリス清教と学園都市の仲介のための役を実質的にさせられることになってしまった。共通の敵みたいな感じかな? おかげで、原作より学園都市とイギリス清教のつながりが早くなってしまったんだよ。

 

 その甲斐もあってイギリスからは、海中移動要塞『セルキー=アクアリウム』を譲り受けた。

 

 どうやら私たちに大きめの施設、というか活動拠点を与えることで、私たちの行動をある程度制限するつもりらしいね。あからさまに発信機としての魔術がついていたり、外部に対して攻撃するための機能がほとんど外されていたりと、要塞としての本来の戦闘力を発揮できなくなっている。

 

 とはいえ、拠点として使用できる施設と、移動手段を両方確保できるのはありがたい。防御魔術は後付けでどうとでもなるからね。

 

 個人に移動要塞を譲り渡すのは大丈夫なんだろうかとも思ったけど、くれるというなら貰っておいた。

 

 一応、装備を外した騎士を十数名を乗せて運行させて安全性を確認させてもらったし、隅から隅まで私が確認したから、問題はないはず。

 

 聖ジョージ大聖堂に乗り込んだ時のどさくさに紛れてステイルが天草式の探知魔術霊装を破壊してくれたから天草式の安全も確保できたしね。

 

 

 イギリスの周囲に大量に設置してきた切り札は回収できなかったから、『必要悪の教会(ネセサリウス)』に回収されていると思うけど、あれは私からのプレゼントとでもしておこうかな。もともとそんなに高価な霊装は使っていないからね。霊装は全部1000円以下。一番高いのがステイルのルーンの印刷代っていうレベルだし。

 

 『セルキー=アクアリウム』はステイルのためにアレイスターと交渉して学園都市製のコピー機を手に入れてきたりして魔改造が進んでいる。自分用の部屋も確保できたし、私としては満足なんだよ。

 

 まあ、

 

「あそこで生活するとは言ってないけどね」

「いきなりどうしたんだい?」

「いや、なんでもないよ。ステイル」

 

 今、私は学園都市にいる。

 

 学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーとの交渉の末に決まったのは、学園都市に来たら上条当麻(幻想殺し)と行動するというもの。と言っても、この条件は比較的緩く、一週間に一度くらいでも良いということになっている。

 

 あくまで、アレイスター的には上条当麻を魔術と関わる機会を持たせたいだけなんだろうね。

 

 学園都市に来ている理由は特にはない。

 

 あえて言うならアレイスターとの契約のために当麻に会いに来たって所かな?

 

 当麻の学生寮の前まで来たわけだけど。

 

「うーい、インデックスー」

「ん? ああ、まいか」

 

 声に振り返ると土御門舞夏と土御門元春がいた。

 

 舞夏は学園都市内を動き回っている円柱の清掃ロボットを正座で乗り回し近づいてくる。

 

 舞夏を見るのはいつも常盤台中学の女子寮だったから、清掃ロボットに乗っているのはある意味新鮮かもしれない。

 

「いきなり常盤台からいなくなったからびっくりしたぞー。他の子に聞いてもそんな子は知らないって言うしなー」

 

 どうやら、操祈が私に関する記憶を消しておいてくれたらしい。たぶん、舞夏は操祈が記憶消去をしたタイミングに偶然常盤台中学の女子寮にいなかったんだろうね。

 

「ああ、申しわけないんだよ。少し学園都市の外に用事ができて外に出なくちゃいけなくって」

「そうだったのかー? まあ、深くは聞かないけどなー。そっちの神父さんはお兄さん?」

 

 舞夏はステイルのほうを見て言う。

 

「いや、この人はイギリスにいた時の友達で、この学園都市の見学に来たんだよ」

 

 私はステイルとアイコンタクトを取る。

 

「……ステイル=マグヌスだ」

「おー。えーと、I am……」

「ちなみに日本語は通じるんだよ」

 

 なんだそうなのかー? と舞夏は日本語であいさつをし直す。外国人にとりあえず英語で話しかける日本人の典型例みたいな感じになっている。

 

「ちなみにまいかのお兄さんとは会ったことがあるはずだけど」

「ぶッ!?」

 

 土御門元春が噴き出す。

 

 舞夏はびっくりしたように言う。

 

「ただ勉強ができないだけの兄貴だと思ってたけど、実はイギリスに知り合いがいたのかー!?」

「い、いやいや、ちょッと待つんだにゃー!」

 

 土御門元春が私の肩を掴み舞夏から離れ内緒話モードに移行する。

 

「おい禁書目録。魔術(こっち)のことは妹に言ってくれるな」

「ん? いや、元々言うつもりはないんだよ。それにステイルとあなたがあったことがあるのは本当のことだし」

「だからと言って、妹に教える必要は」

「私は彼女に嘘はついていないし、つくつもりもない。隠し事はするけどね。その上で魔術(こっち)の世界に関わらせるつもりもないんだよ」

「……」

 

 土御門元春は黙り込む。

 

「それに、いきなり私と二人で会話しだしたから、舞夏が怪しんでいるんだよ」

「!?」

 

 慌てて、内緒話を止めて舞夏のところに戻る。ついでにステイルも微妙に睨んでいた。

 

「……インデックスとも知り合いだったのかー?」

「前に私の友達と喧嘩してたからに割り込んだことがあるんだよ」

「ふーん」

 

 私の言葉に舞夏は特別な反応はしなかった。

 

「で? お二人は何をしに来たんだぜい? まさか、二人でデートとか言うんじゃないよにゃー」

「ぶっ!?」

「んー。そうとも言えるしそうでないともいえる微妙な所だね。まあ、少なくともデートでくるようなスポットではないかも」

 

 デートで全く関係のない学校の男子寮に行くっていうのは、あんまり後の展開を想像したくないシチュエーションかも。

 

「とうまに会いに来たんだよ」

 

 私の言葉を聞いた土御門元春は一瞬黙った。

 

「……そうか。残念だがカミやんは入院中だ」

「へ?」

 

 初耳なんだよ。

 

「俺は昨日見舞いに行ったんだが、寝てたんで話はできなかったにゃー。また明日にでも行くつもりだぜい」

「今日は行かないの?」

「今日は舞夏が止まりに来たんだぜい? カミやんの見舞いに行ってる場合じゃねーぜよ」

 

 ふむ。確かにそれは大切だね。

 

「教えてくれてありがとうなんだよ」  

 

 

 

 

 上条当麻は短期間で入退院を繰り返すことで知られているけど、私がここに来てから入院したのは初めてなんだよ。

 

 原作以前の時間軸で入院したことがあるのかは私は知らない。少なくとも私の知識にはない。だからそこまで気にしてはいなかったけど、実際に入院したという事実を聞くと不安になるんだよ。

 

「心配はいらないだろう。上条当麻の打たれ強さは僕と闘った時点で分かっていることだ」

 

 それを察したのかステイルが言う。

 

「……そうだね。ありがとう、ステイル」

 

 ひとまず、当麻のお見舞いをするために病院に入り、受付で上条当麻の病室を教えてもらった。

 

 受付のお姉さんは突然やって来た全身真っ白シスターと赤髪不良神父のコンビに病室を教えようとしなかったけど、カエルのお医者さんに確認を取ってもらうことでどうにか病室を教えてもらうことができたんだよ。

 

 宗教のかけらもない学園都市に明らかにおかしな格好の宗教家二人が来た時点で怪しむのは当然のことだし気にしていない。

 

 上条当麻の病室までやってくる。それは以前私が手術をしたときに、私の魔力を封印するために使った部屋だった。

 

 扉を開ける。

 

「お見舞いに来たんだよ」

「?」

 

 頭に包帯を巻いた当麻がこっちを見る。

 

 そして、困惑したように言った。

 

「……あなたたち、病室を間違えてませんか?」



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とある病院と上条当麻

「……は?」

 

 頭が真っ白になった。

 

 その言葉が表したのはわかりやすい一つの事実。

 

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だよ」

 

 当麻は初対面のように敬語で聞いてくる。

 

 病室から出ていかない私を見て、当麻は不思議そうに尋ねる。

 

「もしかして、俺達って知り合いだったのか?」

「……」

「ッ! ふざけるなよ上条当麻!」

 

 ステイルが一歩前に出る。ルーンのコピー用紙が足元にばらまかれる。

 

「ステイル」

 

 私は右手を横に出しステイルを止める。

 

「ここは病院なんだよ? 静かにしないと」

「だが……」

「私は大丈夫だから」

 

 私は病室に入る。

 

 自分がどんな顔をしているのかはわからなかったけど、とにかく私は言った。

 

「はじめまして。私の名前はインデックスっていうんだよ」

 

 

 

 

 

「彼の脳は物理的に破壊されているね?」

 

 カエルのお医者さんはそう言った。

 

「記憶のために使われている脳細胞と記憶の呼び出しのための回路の一部が強引に潰されている。少なくとも日本語は喋れているようだし、箸も使えるから、知識や行動には問題はない。記憶する分においても……おおよそ問題はないね?」

 

 『問題はない』の所だけカエルのお医者さんの表情が変化した。

 

「そう……なんだね」

 

 私はケータイを取出し、カエルのお医者さんに渡す。

 

「これは?」

「つないでほしい相手がいるんだよ」

「……誰にだい?」

「アレイスター=クロウリーに」

 

 その名前にカエルのお医者さんは黙り、私の顔を見た。

 

 数秒の間。

 

 ため息を吐いたカエルのお医者さんは諦めたように私のケータイを操作し、私にケータイを返してくる。

 

 ケータイを耳に当てる。

 

 コール音すら鳴らなかった。

 

「よくもやってくれたね、アレイスター」

『ふむ。私が何をしたというのかね?』

 

 アレイスター=クロウリー。この『人間』は機械を通し、あまりにもクリアな音質で問いかける。

 

「かみじょうとうまに何があったのかあなたが知らないとは言わないよね? この街を隅から隅まで監視しているあなたが知らないなんてことがあるわけがない」

『勘違いしているようだから言っておくが、上条当麻の一件に私は関与していない』

「……」

『今回の一件で動いたのは我々とは別だ』

「なら誰が」

『今回の一件の黒幕とでもいうべきは『蠢動俊三』。実行者は『デッドロック』という集団』

 

 知らない名前だった。

 

『今回の一件は我々の意思ではない。『蠢動俊三』にそそのかされた『デッドロック』によるものだ。『蠢動俊三』の始末はすでに終わっている』

「とうまは誰を守ろうとしたのかな?」

 

 その『デッドロック』という集団が当麻を狙って行動を起こしたとは思えない。当麻は『アレイスター』のプランのメインともいえる存在。当麻を狙ったならばアレイスターが事前に潰しにかかるはず。

 

『食蜂操祈』

 

 その名前を聞いて思考が止まる。

 

『君もよく知っているだろう? 『デッドロック』は超能力者(レベル5)に恨みを持っていたが、恨みを向けていたのは超能力者(レベル5)全員だった。『蠢動俊三』は『デッドロック』をそそのかし『食蜂操祈』一人にその恨みを向けるように誘導した。今回の一件は言ってしまえばそれだけのことだ」

「そう、最後に一つだけ聞くけど」

「何をかね?」

 

 最も重要なことを聞く。

 

「とうまは自分の意思でみさきを助けようとした。そういうことで間違いはないね?」

『すくなくとも我々は上条当麻に食蜂操祈を助けさせようとして動いたわけではない。上条当麻は巻き込まれただけだが、逃げようとすればいつでも逃げることはできた』

「そう……ならいいんだよ」

 

 仕方がない。当麻が自分の意思で行動した結果なら、私がとやかく言うのは間違っている。

 

「でも、今回までだよ。あなたたちが自分の意思で私の友達をあなたたちの目的のために使おうとするなら、私はあなたたちを潰す」

『肝に銘じておこう』

 

 

 

 

 ステイルはすでに学園都市の外に脱出していた。アレイスターとの連絡の後に電話があった。

 

 ステイルは学園都市との交渉で学園都市内には入ることはできるけど時間制限があった。

 

 私は学園都市の深部に関わらない限りは学園都市に出入りができるけど、ステイルはその護衛としての役割で一時的にしか学園都市には入れず、時間も24時間に制限される。神裂も同じような条件でしか学園都市には入場できないんだよ。

 

 要するに、あの二人は私がいなくては学園都市に入ることはできないってことだね。

 

 もちろん学園都市側が許可すれば入れるけど。

 

 病室に入る。

 

「とうま」

「ん? ああ、インデックスか」

 

 私を見て、当麻が言う。まるで、今までの記憶がまだ残っているかのように。

 

「さっきは悪かった。ちょっとからかったつもりだったんだ」

「……うん、気にしてないんだよ」

 

 その言葉で私は気が付いた。気が付いてしまった。

 

「あー、でも俺の演技力も大したものだなー。はっはっはーっ! ステイルも怒って帰っちまうしさー」

「……そうだよ、とうま。今度ステイルに謝っておいた方がいいかも」

 

 当麻は別に記憶が残っていたわけじゃなく、私に気を使って嘘をついているだけだってことを。

 

「さて、じゃあそろそろ行こうかな」

 

 私がもし知識(・・)がなかったなら、きっとこの演技に騙されていただろう。

 

 私は止められたのだ。少なくとも、当麻の記憶が消されることを止められるだけの力はあった。

 

 あの時。学園都市を去る時に、当麻を守るための行動を、保険をかけておくことはできたのだ。

 

 そう考えるほどに。私はその(優しさ)に甘えてしまう。

 

 記憶を失って辛いのは本人なのは間違いないのに。……いや、すでに記憶を失うことが辛いということを感じることすらできないのだ。

 

「おいおい、もう行くのか?」

「私もやることもあるからね。またお見舞いに来るんだよ。今度はお見舞いの品物でも持って来るね」

 

 

 

 

 

 病室から出て病院のロビーで時計を見ると6時を回った所だった。

 

 受付の待ち時間の暇つぶしのためか、つけられているテレビからはニュースキャスターの事務的な声が病院内に流れ続けている。

 

『次のニュースです。学園都市内で発生した銀行強盗事件について』

 

 銀行強盗という言葉で私は足を止めた。テレビの画面にはぐちゃぐちゃになった銀行のシャッターとひっくり返った自動車が映し出された。

 

『……少年三人は風紀委員によって捕縛されたとのことです』

 

 知識にあった一つの事件、学園都市第3位、御坂美琴の関わった事件。超電磁砲の始まりのエピソード。

 

 入院している以上、後に起こるであろう『虚空爆破事件』の時、当麻に頼るわけにはいかない。

 

「えっ」

 

 声が聞こえた。

 

 病院は閑散としていた。平日の夕方となれば学生はまだ遊んでいる時間。

 

 私みたいなシスターが病院にいるのを見れば誰であってもそんな反応になるんだよ。

 

「い、インデックス?」

 

 聞きなれた声だった。

 

 私は声のした方を向く。

 

「……みさき」

 

 学園都市第五位。食蜂操祈が驚いたような顔をして立っていた。



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とある主役と超能力者

 病院から操祈が出てくる。

 

「おつかれ。みさき」

 

 私は操祈にそう声をかける。

 

「……待っていたのぉ?」

 

 操祈はそう言って私に近寄る。

 

「はい」

「……なにかしらぁ?」

 

 ペットボトルのお茶を彼女に差し出す。

 

「おごりなんだよ。お嬢様に飲んでもらうのに安物で申し訳ないけど」

「……いただくわぁ」

 

 病院内で出会った後、挨拶もそこそこにいったん私と操祈は別れていた。というのも、操祈は明らかに別の用事があったからなんだけど。

 

「とうま。どうだった?」

「! ……あなたあの人を知ってるの?」

 

 やっぱり、当麻と知り合いだったんだね。

 

「うん、知ってるよ」

「……そう」

 

 操祈は少し黙る。

 

「歩きながら話そうか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……あの人は」

 

 しばらく歩いたところで操祈は話しはじめた。

 

「私を助けてこんなことになってしまったのよ」

「……」

「いえ、もしかしたらあの人の本来の意思で助けたわけではないのかもしれないわぁ。私から放たれている()があの人にそういう行動をとらせてしまったのかもしれない」

「力?」

「AIM拡散力場よ」

 

 『AIM拡散力場』。能力者が無意識に外部に放つ力だね。例えば、電気を起こす能力者なら電磁波、火を出す能力者なら微量な熱。そう言ったものを能力者は外部に放ち続けているらしい。

 

「心を操る私はその力で無意識のうちにあの人を操っていたのかもしれないわぁ。私を無意識に助けるような行動をとるように、あの人を操っていた」

「それは違うんじゃないかな?」

「え?」

 

 操祈は意外なことを聞いたように聞き返す。

 

「とうまは、いつだって誰かを助けるために行動してた。自分のことなんて二の次にして。私はその場にいなかったからわからないけど、きっとその場にいたのが誰であっても、とうまは助けようとしたんじゃないかな?」

「……」

「とうまはいつでも誰かのヒーローになれてしまうんだよ。それがたとえその日出会ったばかりの赤の他人であっても助けてしまう」

 

 そのことを私は知っている。知りすぎるほどに知っている。知識としても実体験としても。

 

「でも、私は……」

 

 操祈は声を震わせて言う。

 

「……私があの人の記憶を消してしまったのよ」

「!?」

「仕方がなかった。あの人を助けるためには私の能力を使うしかなかった!」

 

 涙が落ちる。

 

「私が失敗しなければ、こんなことにはならなかったのに! あの人が私に出会わなかったら!」

「みさき」

 

 操祈がどれくらい当麻といたのか、私は知らない。でも、少なくとも私よりよっぽど当麻と一緒にいたのは間違いない。

 

「私にはあなたが何を失敗したのかはわからないんだよ。でも、きっととうまはあなたに出会えてよかったと思ってたはずなんだよ」

「なんで……」

「あの人はそういう人だから。あなたと出会ったからあなたを助けられた。だからよかったって、とうまは最後までそう思ってたはずだよ」

 

 確信に近いものがあった。理由もなく、どんな人であっても助けたいと思ったら助けてしまう。それが上条当麻だからだ。

 

「それでも……私は」

 

 私は操祈を抱きしめた。私にできるのはもうそれしかなかったから。

 

「大丈夫。あなたは悪くない」

 

 悪いのは……。

 

 

 

 

 

 

 その後、泣き出した操祈が泣き止むまで待ってから、彼女を『学び舎の園』まで送っていった。

 

 私は操祈について、正確には彼女の持っていたバッグに結ばれていたお守りについて思い返していた。

 

 そのお守りは学園都市を出る前に私が渡したものだ。

 

 お守りは正確に作動していた。

 

 操祈に渡していたお守りの魔術は、操祈が受けた怪我を肩代わりするという物であり、外見には影響がなくてもお守りの中身はボロボロになっているのは間違いなかった。

 

 これは人の身体の一部、例えば髪の毛や爪を利用して行う魔術を応用したものだ。

 

 この系統の魔術で一番有名なものは『丑の刻参り』。これは藁人形の中に人の爪や髪を入れ、丑の刻に逸れに向かって釘を打ち付けることにより相手に呪いをかけるという魔術だ。現代では体の一部でなく、写真なんかでも成功した例がある日本ではポピュラーな呪いの儀式だね。

 

 こういった術式を応用することで、対象を守る魔術を作り出すことができる。つまり、私はお守りの中に操祈の髪と写真を入れて特殊な術式をかけることで、操祈の身を守らせようと思ったわけだね。お守りにこめられた魔力で逆に魔術師を呼んでしまう、なんてこともない。何せ『丑の刻参り』は魔術の魔の字も知らないような一般人でも使えた事例もある魔術、ほんの少しの魔力でも一年間は持つからね。プロの魔術師から見ても、凄い神社のお守りとほとんど区別がつかないレベルだからね。

 

 この術式で無効化できるのはせいぜい攻撃一回から三回程度。この程度の魔術にとどめたのは操祈が魔術師からの攻撃対象にされるのを避けるために魔力を抑えなければならなかったからであり、操祈ならこの魔術で不意打ちさえ無効化できれば何とかできると思ったから。

 

 これに関しては科学サイドをなめていた、としか言えない。学園都市第5位をここまで追い込める人はそんなにいない、と思い込んでいたからね。狙撃とかの不意打ちを警戒すれば問題ないと思ってたんだよ。

 

 私の手術の時も機械を使って『人払い』を突破してきていた。機械なら操祈の能力を受けずに攻撃ができるはずだし、そっちの対策もしておくべきだった。

 

 とはいえ、お守りに関してはこれ以上のものは今の私には作れない。作れたとしても魔術師に目を付けられるようなものになってしまって原作の姫神秋沙みたいになる可能性が高まってしまう。

 

 当麻にはお守りを渡そうにも右手で触れるだけで術式が壊されてしまうし、どうすればいいか。

 

 私は携帯を取出し電話帳の一番上の名前に電話をかける。

 

 数回のコール音。コール音が途切れたと同時、私は声を放つ。

 

「私なんだよ」

『インデックスか』

一方通行(アクセラレータ)

 

 声を聞く限り、とりあえずは元気そうだね。

 

『どォした?』

「いや、あなたと打ち止め(ラストオーダー)は元気かなと思っただけなんだよ」

『あァ、とりあえずあのガキは元気だ』

「あなたは?」

 

 打ち止めのことだけ言うのが気になり聞き返す。

 

『オレも問題ねェよ』

『あれあれ? あなたが電話なんて珍しいねってミサカはミサカはあなたの成長を見て喜んでみたり」

 

 ラストオーダーは無事みたいだね。

 

「うん。それさえわかればいいんだよ」

『珍しく連絡よこしたにしては要件が少なくねェか』

「……そうだね。じゃあ一つだけ」

 

 とはいえ今言えるのは忠告くらいだ。と言ってもここでの会話はアレイスターに聞かれているだろうし余計なことは言えないけど。

 

「若干、面倒なことが起こるかもしれないんだよ。そうなったら打ち止めたちを守るために行動してほしい」

『……わかってる』

 

 

 

 

 

 

 翌日、私はコンビニにいた。『虚空爆破(グラビトン)事件』の調査のためである。

 

 あの後、ニュースをチェックしたら『虚空爆破(グラビトン)事件』はすでに起こっていることがわかってしまったからだ。

 

虚空爆破(グラビトン)事件』とはその名の通り、能力者による連続爆破事件である。『超電磁砲』側の事件だけど当麻がいないと最後に問題が発生する。当麻は当然まだ入院しているから、当麻の代わりに私が動かないとね。

 

 ここまでいくつかのコンビニに行ったけどどれも空振り。

 

「さて、そろそろ……」

 

 いい加減、コンビニの棚の下を覗いて回る変人行為はやめたいところだね。

 

「あれ?」

 

 ウサギのぬいぐるみがコンビニ菓子コーナーの中に混じっている。

 

 私はそれを手に取り店員に見せる。

 

「これください」

「あー、はい。……あれ?」

 

 バーコードを探す店員だったが見つからないようだ。

 

「店長ー。これ、バーコードがないんですけどー」

「ああん? ……こりゃお客様の落し物だな」

「いや、だから私がここに落としてきちゃったから、取りに来たんだよ」

 

 店長はそれを聞いて一瞬不審そうな顔をする。がすぐに客へ向ける営業スマイルになり

 

「ああ、そうでしたか。これは申し訳ございませんでした」

 

 と私にぬいぐるみを渡してきた。

 

「ありがとうなんだよ」

 

 私はコンビニを出て近くの公園に走った。



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とある調査と犯人追跡

 第七学区の公園に入る。

 

 まだ平日昼過ぎということもあって、公園に人はほとんどいない。たまにいる人はサボりか、学校が早く終わったのかな?

 

 公園の中央まで行って、『歩く教会』の中のバックからカメラとハサミを取り出す。

 

 そのハサミでぬいぐるみの腹を切る。

 

「大当たりだね」

 

 ぬいぐるみの中から出てきたのはアルミ板。若干曲がっている所からして、アルミ缶から切り取ったのかもしれない。

 

 魔術を行使する。

 

『人探し』の魔術はいろんな種類があるけど、その大半は魔術の行使者だけしか見つけられなかったりする。原作に登場した『理派四陣』なんかがそうだね。

 

 魔術などが絡んでいる古今東西の物語や神話において、犯人を見つけるのに適しているのは二つ。『直接犯行現場を抑えること』と『告げ口』。

 

 私が行使したのは『告げ口』の魔術。この魔術は有名な童話『王様の耳はロバの耳』なんかで見られるものだね。

 

 簡単に言えば『人間以外の生物から情報を得る魔術』なんだよ。人間以外の生物、だから植物なんかからでも情報が得られるんだよ。

 

 この魔術の弱点はその行動・言動を直接その生物が感知している必要があることと、事前に準備が必要だってことだね。

 

 今回は木が大量に植えられている公園にまで来て、公園全体の木々を対象に魔術を発動させたから、公園内に犯人がいれば発見できるはずだね。

 

「おっと」

 

 私の手に持っていたアルミ板が急速に縮み始める。

 

 私は周りを見回し、誰もいないことを確認し空に向かってぬいぐるみといっしょに爆弾を投げつける。

 

 限界まで縮みその原型を失ったアルミ板は空中で爆発。

 

 爆風が『歩く教会』に直撃し私は転がり倒れた。

 

 爆音が止むと同時に辺りが静かになり、公園内から何やら声が聞こえてくる。

 

 私は倒れたまま先程の魔術を行使し、公園内にいる人の配置を理解する。

 

 公園の中の人はバラバラの動きをしていた。公園から逃げるように動く人。ここに向かってくる野次馬。

 

 そんな中一人だけおかしな動きをしている人がいた。爆発地点の近く、爆発が見えるような位置から全く動かない人。公園内の他の人間は全員何らかの動きをしているのにもかかわらずだ。

 

 私は倒れたままおかしな動きをしている人に見られないような位置でカメラを操作し、その人の方に向けて写真を撮る。

 

 そのまま、頭だけ動かして、その人の方を睨む。

 

 木陰にいたのは痩せたメガネの男。私と目があいギョッとした顔になり逃げ出す。

 

 その瞬間、私の袖から紙が飛出しその男の方に向かっていく。以前ミサカ6023号に使った『改良版速記原典(ショートハンド)』に似た効果を持つ日本神道系術式。陰陽系の術式によく用いられる紙を利用した式神だね。

 

 あれが犯人で間違いないとは思うけど、まだ確保はできない。例えその姿が私の知識と一致していても、今は現場に居合わせた一般人でしかないからね。とりあえず場所だけ把握させてもらうんだよ。

 

 私が立ち上がる。周囲に集まり始めていた野次馬の目が私を向く。まあ、服装のせいで視線を集めるのは慣れているし問題はない。

 

 その場から立ち去ろうとした瞬間、公園内によくわからない反応が出現した。公園内の誰もいなかった場所にいきなり人の反応が出現したんだよ。

 

 その反応は次の瞬間消え、今度は私の後ろに現れる。

 

 私が振り向く。

 

「へえ、誰かと思えば」

 

 そこにいた女性は右腕の腕章(・・・・・)を見せて言う。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!」

 

 私の前に現れたのは白井黒子だった。

 

 白井黒子。操祈と同じ常盤台中学の一年生でレベル4の『空間移動(テレポート)』の能力者。今本人が言った通り、学園都市の学生主体の警察組織『風紀委員(ジャッジメント)』にも所属していたんだよ。

 

 公園内のよくわからない反応は『空間移動(テレポート)』による移動の反応だったみたいだね。

 

「それで? その『風紀委員(ジャッジメント)』が何の用かな?」

「今起こった爆発について話を伺いたいんですの」

 

 ふむ……私としては今すぐさっきの男を追いかけて問い詰めたいところだけど、この状況で白井黒子から逃げると後々面倒なことになりそうだね。何より『空間移動(テレポート)』で追いかけてくるであろう白井黒子から逃げられるとは思えないし。

 

 さっきの男には場所を特定するために、魔術を付けたわけだし、その動きを知ることはできるからね。

 

「まあ、私でよければ協力するんだよ」

 

 

 

 

 

 

「つまり、コンビニで購入したぬいぐるみがいきなり縮んだので、驚いて投げたら爆発したってことでいいんですのね?」

「だいたいそうだね」

 

『コンビニで購入』のあたりは白井黒子が勝手に解釈しただけで、実際は『コンビニで手に入れた』って言ったんだけど、おおよそ間違いないし訂正しなくてもいいかな?

 

「それで、これからどうするのかな?」

警備員(アンチスキル)が来るまでここに留まっていてもらいますわ」

「うーん。まあ仕方がないんだよ」

 

 白井黒子の顔を見るとどうやら私が犯人じゃないのかと疑っているようにも見えなくもないね。

 

「ところであなたは随分と早くここにたどり着いたみたいだけどどうしてかな? 『警備員(アンチスキル)』ならともかく学生主体の『風紀委員(ジャッジメント)』がこんな時間にここにいるのはちょっと不思議なんだよ」

「今日は特別授業が早く終わっただけですわ」

 

 時期的にはテストとかかな?

 

 そこで、私の電話が鳴る。

 

「ん。ちょっと失礼するんだよ」

 

 私は電話を開いて画面を確認する。

 

 画面には『JAPANESE NINJA』の文字。

 

「もしもしはんぞう。久しぶりだね。どうしたのかな?」

『ああ久しぶり。爆発の音を聞きつけて来てみたら、お前が風紀委員(ジャッジメント)と話し込んでるから電話をかけてみたんだが……』

 

 私が周囲を見回すと野次馬の中に半蔵と浜面仕上の姿があった。

『何があった?』

「んー。簡単に言うと、また面倒事に巻き込まれたんだよ」

『だろうな。手を貸そうか?』

 

 手を貸すっていうのがどういう意味かよくわからないけど、別の意味で協力を仰ぎたい場面ではあるんだよ。

 

「そうだね……。じゃあ、一つ頼まれてくれないかな?」

 

 とはいえ、後ろに白井黒子もいるし、早めに話は終えたいんだよ。

 

『おう、どうせ暇だからな』

「一人の男を追跡してほしいんだよ。場所はこの公園から南に200メートルくらいのファミレス前を東に直進中。痩せていてメガネをかけている。服は白のワイシャツで丸型のイヤフォンをしているんだよ」

「ああ、大体わかった」

「……本当に? 自分で言っておいてなんだけど、一発で覚えられたのかな?」

「一応、途中からだが録音してる。問題はねえよ」

 

 視界の中の半蔵と仕上はすでに野次馬達の中から出て行っている。

 

「なら、いいんだよ。一つだけ言いたいのはあくまで追跡してほしいだけで、絶対に手は出さないでほしいってことだね。あくまで見張りだけにとどめて、そいつが何か落としたらそれに誰も近づかせずにとにかく逃げること。事情は後で説明するんだよ」

「了解だ。とにかくそこに向かう」

「あとでこっちから連絡するんだよ」

 

 電話を切る。

 

「突然電話しちゃって申しわけなかったんだよ。とりあえず話でもして待とうか?」

 

 

 

 

 

 あの後すぐ『警備員(アンチスキル)』が到着し、思っていたよりも早く解放されることになった。

 

 どうやら、学園都市での私の立場は『学園都市外部の心理学者』で特に宗教関連に強いみたいな立場らしいんだよ。

 

 正直、学園都市での立場を気にしたことはなかったから、意外な収穫と言えるね。

 

警備員(アンチスキル)』と『風紀委員(ジャッジメント)』は今回の『虚空爆破(グラビトン)事件』という事件を引き起こしているのは『量子変速(シンクロトロン)』という能力をもつ能力者だと断定している。それは私の知識によると爆発の前に重力子の反応が発生するためらしい。

 

 私はその立ち位置的に能力者ではないため、今回の事件には巻き込まれただけだと判断されたようだね。

 

「それでどうだった?」

「いや特に不審な動きはなかった」

「ごみのポイ捨てとかは?」

「いや、特に気は付かなかったけど」

 

 私は半蔵と浜面の二人とどこかの学校の学生寮の前で合流していた。

 

 二人曰くその男はこの学生寮の中に入っていったらしい。私が付けた日本神道系紙魔術もこの学生寮を刺してるし間違いない。

 

「……それで、そろそろアイツがなんなのか教えてくれてもいいんじゃねえか?」

「私もよく知らないんだよ」

「よく知らねえのに追いかけさせたのか?」

 

 仕上の言い分ももっともなんだよ。

 

「それにもちゃんと理由があるんだよ。順序立てて話すね。とりあえずこれは憶測だけど、あの男は学園都市を騒がせている連続爆破事件の犯人かもしれないんだよ」

「はあ!?」

「とはいえ、まだ決定的な証拠がないから確保するわけにはいかないけどね。私があっけなく解放されたところからして、能力による爆破。そして、そのことは『警備員(アンチスキル)』と『風紀委員(ジャッジメント)』は掴んでいるみたいだね。体感だとレベル3か4って所かな」

 

 一応知識方面についてはばれていないはずなのでそのあたりは伏せて話していくんだよ。

 

「体感って。インデックス、お前そんなものくらって大丈夫だったのか?」

「まあ、一応問題はなかったんだよ。ちょっと投げるのが遅かったらまずかったかもしれないけど」

 

 証拠の撮影的な意味で。

 

「だが、そこまでわかっていて『警備員(アンチスキル)』や『風紀委員(ジャッジメント)』の奴らはあの野郎を捕まえねえんだ?」

「たぶん理由があるんだよ。例えばあの男の登録されている能力のレベルに対して、爆破の破壊力が大きすぎるとか」

「能力に対してレベルが高い……? まさか」

 

 ふむ。流石にもう知っているかな?

 

「知っているの? はんぞう?」

「ああ。一ヶ月くらい前からちらほらといた奴らなんだがな。スキルアウトを率いている能力者のことは?」

「利徳から聞いているんだよ」

「なら話は早え。どうやら一つの組織じゃないらしくてな、今は似たような組織が学園都市に乱立している状態になってやがるんだが……」

 

 ふむ。どうやらアニメの方にいたアスファルトを粘土みたいに操る女の人が率いていたスキルアウトみたいなのがいくつもできていると。

 

「ああ、一ヶ月前にお前が来たっていう日から駒場のリーダーや横須賀や黒妻が動いてそいつらの組織をいくつか取り込んだんだ。そいつらは、ある音楽を聞いたら能力が使えるようになったんだと」

「音楽データ名は?」

「『幻想御手(レベルアッパー)』」

 

 なるほど。名前まで掴んでいたんだね。

 

「あの男はそれを使用している可能性が高い、ってことだね」

「ずっとイヤフォンで音楽を聴いていたのは『幻想御手(レベルアッパー)』を聞いていたってことか」

「そうなるね」

 

 ある程度話は通って来たね。

 

「一旦、話しを戻すんだよ。私の目の前で爆発したのはウサギのぬいぐるみの中に入っていたアルミ板だったんだよ。だから、あの男は少なくとも物を爆発させているだけで何もないところで爆発を起こしているわけではない。それで私はあの男が新しい爆弾を仕掛けるようなことがないようにあなたたちに見張ってもらったんだよ。私があそこから脱出して追いかけるわけにもいかなかったしね」

「大体わかったけどよ。これからどうするんだ? まさかこのまま殴りこむなんてことはねえんだろ?」

「今は泳がせておくんだよ。攻撃するにしたって正当防衛の名目がないとこっちが逮捕されるし、捕まえてもらうにしたって決定的な証拠が必要だからね」



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とある服屋と風紀委員

 家の場所を確認したあと確認した郵便受けによってメガネの男の名前は介旅初矢だと判明した。

 

 この名前は私の知識にある『虚空爆破(グラビトン)事件』の犯人と一致したんだよ。あの男の犯行であることはほぼ確定と言えるね。

 

 しかし、このままでは証拠がない。流石に『私の知識にあるから』という理由じゃ逮捕されないだろうから、証拠の確保が必要になる。

 

 証拠確保のため介旅初矢をつけた所、第七学区の洋服店『セブンスミスト』にカエルのぬいぐるみを持って入っていくのを確認したんだよ。

 

 この場所は私の知識にもある場所。『虚空爆破(グラビトン)事件』の最後の爆破地点なんだよ。奴が犯人なら、ここで能力を使うのはほぼ間違いないかも。

 

 半蔵には昨日購入したインスタントカメラを使って、もしも犯行の証拠があれば撮ってもらうことになっている。

 

 仕上はともかく半蔵なら、ばれずに尾行することも余裕でできるはずなんだよ。

 

 わざわざ屋上に来たのは能力を使ってきたときの対策を立てるためだ。

 

虚空爆破(グラビトン)事件』を止めようと行動を始めた時点でいくつかの魔術を用意していたからね。外にいた間にいろいろと魔術の道具を調達できたし、使用できる魔術も増えたんだよ。

 

 私は『(laguz)』のルーンが刻まれたカードを屋上に配置していく。学園都市とイギリス清教との交渉を進めている間、ステイルの魔術の強化のために造ったラミネートのカードだね。非常に汎用性が高いから、24種類のルーンとステイルの開発した6種類のルーンをカードケースに入れてそれぞれ200枚持ち歩いている。

 

 しかし、これだけの量のルーンのカードを常に運ぶのは大変だったんだよ。一枚一枚は軽いカードでも、200枚にもなると少し重くなってくる。それが30種類となるとかなりの重さだね。まあステイルは5000枚以上のルーンを持ち運んでもステイルの魔術においては『たいした量じゃない』みたいだし、ルーンを持ち運ぶための魔術もあるから、多少は楽なんだけどね。

 

 40枚ほどのルーンが一定の規則を持って配置される屋上に、私はさらなる準備のためカードを取り出す。

 

 とはいってもそれはルーンのカードではなくタロットカード。『黄色の短剣』と呼ばれる『象徴武器(シンボリックウエポン)』だ。私はいろんなところに配置できるように裏に学園都市製の両面テープを張っている。

 

 私は屋上を歩きながら、タロットカードの山札からカードをめくる。

 

 『象徴武器(シンボリックウエポン)』っていうのは『黄金系』と呼ばれる魔術結社達の持つ『天使の力(テレズマ)』を操るための儀式用魔術礼装の総称なんだよ。

 

 その中の一種であるタロットカードを用いた魔術は一枚一枚のカードの『色』と『数字』によりそれぞれ別の魔術を発生させることができ、カードの配置により儀式場を造りだすことにより天使の召喚を可能とするほどの力を持っている。ちなみに『黄色の短剣』は風の『天使の力(テレズマ)』を操れるんだよ。

 

 イギリスに攻め込む際にも用いたこのタロットカードの魔術だけど、今回は天使の召喚はしない。あんまり強い魔術を使うとアレイスターからにらまれるしね。

 

 『ソードの五』『ソードの七』『ソードの三』の三枚をルーンの配置を邪魔しないような位置に配置する。

 

 これは『天使の力(テレズマ)』を用いた魔術を放つための下準備に過ぎないんだよ。

 

 とはいえ、ここでできることは終わったし、次の場所に行こうかな。

 

 私は中身のわからない山札の中から一枚のカードを取り出す。私の記憶(・・)が正しければ、このカードは『ソードのエース』。すなわち『黄色の短剣の一番』を示すカードのはずだね。

 

 私はカードを表にして確認する。そのカードは『ソードの(エース)』。私は魔力をこめて魔術を発動させる。

 

 『ソードの(エース)』による魔術は移動魔術。私の身体が空気に溶けるように消え、『ソードの(エース)』のカード以外に私の位置を判別できる要素がなくなってしまう。

 

 ふわりと浮いたカードが『セブンスミスト』の店内に入るべく屋上から落下していく。

 

 

 

 

 

 私が魔術を解除したのはセブンスミスト店内の試着室だった。魔術を解除した私の身体はまるで空気というカーテンをめくったように無人の試着室内に出現する。

 

 試着室のカーテンはしまってはいなかったが、誰かに見られてはいなかった。私は試着室の壁に突き刺さっている『ソードの(エース)』を抜いて試着室の床の端に置いて外に出る。

 

 試着室の外は冬服の売り場である。人はほとんどいなかった。当然人がいないところを選んで魔術を解除をしているけどね。

 

 私はそのコーナーの服の間に別のタロットカードを配置し冬服コーナーを出る。

 

 そこで、電話が鳴った。

 

 携帯の画面には『浜面』の文字。

 

『インデックスか!?』

 

 何やら焦っているようだね。後ろから怒号のようなものも聞こえるんだよ。

 

「どうしたの?」

『すまねえ! しくじっちまった!』

「一体何が……」

『詳しいことは後で話す! あの野郎、()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 『子供にぬいぐるみを渡す』という、普通なら和むか、不審者を彷彿とさせるような言葉に、私は一瞬凍りつく。

 

『俺には追いかけられねえ! 半蔵もだ!』

「子供の特徴とどこに行ったかはわかる?」

『ピンクのヘアゴムでツインテール、年は小5くらいだ! 悪いがこれしか覚えてねえ! たぶん3階のどこかだ!』

「ありがとう。あなたは何とか出て、あの男を探しておいてほしいんだよ」

『それは半蔵がやってる!』

「なら半蔵と合流して! そして半蔵があの男に手を出そうとしたら止めておいてほしいかも」

 

 そう言いながらも私は走り出していた。この階は5階だし、一度降りる必要がある。

 

 その時、天井のスピーカーから声がする。

 

『お客様にご案内を申し上げます』

 

 その声によると『電気系統の故障が発生したため、今日の営業を終了する』という。

 

 タイミング的に爆発の兆候を確認した『風紀委員(ジャッジメント)』による指示だろうね。

 

 となると標的はやっぱり……。

 

 私はエスカレーターに向かいつつ周囲を見回す。下の階とくらべ少人数だった学生がエスカレーターに集まってくる。私はエスカレータに人が集まるより一足早くエスカレーターに乗り下に降りていく。

 

 私は取り出したタロットカードを一枚とり両面テープのシートを剥がし、エスカレーターの側面の動かない部分に貼り付ける。

 

 一階まで降りるまでに同じように3階と2階の間にもタロットカードを配置する。

 

 一階ではすでに入り口に向かう人の流れができていた。外に誘導される人たちの流れ。

 

 その左右には複数の店員と学生が客を誘導している。エスカレーターに乗った状態の高い視点からの景色は私に二人のよく目立つ女の子を見つけさせてくれた。

 

 一人は頭に大量の花をあしらった髪飾りを付けた『風紀委員(ジャッジメント)』。

 

 もう一人は私にも見覚えのある女の子。学園都市第3位の超能力者(レベル5)の『電撃使い(エレクトロマスター)』、御坂美琴。

 

 それを見た私はバックの中のカードケースから一枚のカードを取り出した。

 

 私はエスカレーターから人の流れに入り、その流れに逆らわないようにじわじわと髪飾りを付けた『風紀委員(ジャッジメント)』の方にずれるように歩き、通り過ぎる直前で人の流れから脱出する。

 

「ど、どうしました?」

 

 『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子はいきなり人の流れから出てきた私に声をかける。

 

「『風紀委員(ジャッジメント)』の方ですよね? 女の子とはぐれててしまって!」

 

 私は流れるように嘘を吐いた。

 

「えーと。先に外に出たんじゃないですか?」

「先に外に出た友達に電話して聞いてみたんですけど、外には出てないみたいなんです」

「……わかりました。私も探すのを手伝います。女の子の特徴は?」

「小学五年生でピンクのヘアゴムで髪をツインテールにしています」

 

 私が仕上に言われた通りの説明をすると『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子は人の流れの対岸にいる御坂美琴に向かって言う。

 

「御坂さん! 私は店内に残っている人がいないか見てきます!」

「わかったわ! 気を付けて!」

「あなたは外で待っていてください。必ず連れてきます!」

 

 そう言って『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子は少なくなった人の流れの逆方向、エスカレーターに向かおうとする。

 

 その彼女の背中に、私は取り出していたカードとタロットカードを貼り付けた。

 

 

 

 私は『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子の後を追いかけていた。

 

 彼女は一定の距離をとって追いかけてきている私の姿に気づかない。それは私のかぶっている帽子のせいだね。

 

 ギリシア神話系術式、『ハデスの隠れ兜』。その名の通りギリシア神話における冥界の神ハデスの所持していた『被っている者の姿を隠す兜』の術式だね。本来は星座なんかも利用した方がいい魔術なんだけど、今回は屋内だから効果半減だね。とはいえ、『ハデスの隠れ兜』は貸し出されてハデス以外が使用することもあったから、不完全でも魔術師以外に対しては十分な効果だと言えるね。

 

 『歩く教会』のフードの上からかぶっているから不恰好なのはご愛嬌だね。

 

 私はバックの中から取出した髪留めを『歩く教会』のフードの中で付ける。

 

「『神の加護受けし長髪の英雄(サムソン)』発動まで、4秒」

 

 騎士達と闘った時にも使った強化魔術で私の身体を強化しつつタロットカードを近くの洋服売り場に投げる。

 

 さて、問題は後ろからつけてきている御坂美琴だね。

 

 『ハデスの隠れ兜』の弱点は姿を隠せるだけであるってことだ。姿が隠せても物には触れる。おそらく御坂美琴は彼女自身の超能力によって発生する電磁力レーダーでこっちの位置を感知して追いかけてきているんだろう。

 

 おそらくあっちは私があの『風紀委員(ジャッジメント)』に何かしようとしていると考えているんだろうね。つまりはこれからの行動に妨害が入る可能性がある。

 

 正直、大抵のことでは『歩く教会』は突破されないだろうから、問題ないと言えば問題ない。とはいえ、このレベルの能力者に妨害されてはスムーズに行動ができないだろうね。

 

 つまり、御坂美琴よりも早く行動を起こさないといけない。

 

 2階の十字路で『風紀委員(ジャッジメント)』の電話が鳴った。電話に出る『風紀委員(ジャッジメント)』の姿を見ながらバッグからマッチ箱を取り出す。

 

「はい。現在中に残っているっていう女の子を探してます」

 

 近くの柱に10枚目のタロットカードを貼り付ける。

 

「えぇ!?」

 

 何やら驚いたような声が『風紀委員(ジャッジメント)』の口から洩れる。

 

 そちらに意識を向けつつ、私は残った4枚のタロットカードの中から一枚を抜き出す。

 

 確認するまでもなく抜き出した『従者』のカードをマッチ箱の裏に貼り付け、準備を終える。

 

「お姉ちゃーん」

 

 子供の声。そっちを向くと女の子が『風紀委員(ジャッジメント)』に向かって走ってきていた。

 

 私はマッチ棒を取り出す。

 

「メガネをかけたお兄ちゃんがお姉ちゃんに渡してって」

 

 女の子が『風紀委員(ジャッジメント)』に手に持ったカエルのぬいぐるみを手渡そうとする。

 

 その瞬間、カエルのぬいぐるみが急激に縮み始める。とっさに『風紀委員(ジャッジメント)』は女の子からぬいぐるみを受け取り放り投げる。

 

 もはや原型をとどめていないぬいぐるみは地面を転がり10メートルほどの位置で止まる。

 

 御坂美琴が『風紀委員(ジャッジメント)』とぬいぐるみの間に走り込みコインを構える。

 

 それを無視し、私は火をつけたマッチを床に投げつけた。



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とある制裁と超能力者

 マッチ棒が地面に触れ、爆発する。

 

 ぬいぐるみと私達を分断する爆発はぬいぐるみを私達から大きく遠ざける。

 

 周囲の空間はすでに今までいた『セブンスミスト』の内部とは大きく変わっていた。

 

 十字路が無限に続いているかのような空間。十字路内の全てが合わせ鏡になったかのように前方に広がっている。おそらく後方にも同じ光景が広がっていることだろうね。

 

 同じ物体によって構成される無限の景色の中で唯一異質なのは私や御坂美琴、風紀委員(ジャッジメント)と彼女が守るように抱えている女の子、遠くへ飛ばされたぬいぐるみ。そしてぬいぐるみと私たちを隔てる炎の壁。

 

 突然変化した空間に動揺したのか御坂美琴がコインを落とす。

 

 その瞬間に風紀委員(ジャッジメント)を中心に水の膜が私以外の三人を守るように発生する。

 

 コインの落下音をかき消すようなぬいぐるみの爆発。

 

 それに対して私は大きくマッチ箱を振った。

 

 襲い掛かる爆炎が炎の壁と突如後方から吹き始めた暴風に押とどめられる。

 

 バッグから『(laguz)』のルーンカードを取り出す。カードから手を放すと暴風に乗り前方(爆炎)に向かって飛んでいく。

 

 そして、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 『セブンスミスト』の近くの路地裏。表通りからは見えない薄暗い道に一人の男の声が響いていた。

 

「もうすぐだ……。もうちょっとで無能な風紀委員(ジャッジメント)も不良共も……まとめて吹き飛ばせる力が……」

「やっぱりあなたが犯人ってことで間違いないみたいだね」

 

 独り言をつぶやくメガネの男に私は後ろから声をかける。

 

 男は驚いたように肩を震わせこちらを見る。

 

「そんなに驚かないでほしいんだよ」

「は、犯人? な、なんのことだか……」

「いや、別に勘違いならいいんだよ。さっき撮った証拠をしかるべき組織の人に渡して捜査してもらえば済む話だからね」

 

 男は私を警戒はしているけど逃げようとはしていないみたいだね。

 

「証拠? 一体何の……」

「あなたが女の子にぬいぐるみを渡している写真」

 

 私の言葉に男の顔から血の気が引いたように見えた。

 

「セブンスミストにも入り口の防犯カメラくらいあるだろうからね。証拠になるカエルのぬいぐるみは消えてなくなっちゃったけど、それでも私の持つ被害者の女の子にぬいぐるみを渡すあなたの写真と、ぬいぐるみを持って店に入るあなたの映像と、ぬいぐるみを持たずに店から出てくるあなたの映像さえあれば……任意聴取くらいはされるんじゃないかな? 幸い誰も怪我してないから証人は山ほどいるしね」

「馬鹿な! 誰も怪我していないだって!?」

「うん」

 

 あからさまな動揺を見せたね。

 

「それで、誰も怪我していないとあなたにとって困ることでもあるのかな?」

「しまっ!?」

「……こういうのもなんだけどわかりやすいんだよ」

「い、いや外から見ててすごい爆発だったんで、中にいる人は……」

 

 そう言って男は肩からかけていた学生鞄の中から一本のスプーンを取り出す。

 

「助からないんじゃないかって!!」

 

 スプーンが縮みながら私に向かってくる。

 

 私はそのスプーンを空中でキャッチし、そのまま地面に押し付けるように『歩く教会』越しに魔術で強化された腕力で押さえつける。

 

 爆発。

 

 押さえつけられた爆発によって、手の周囲の地面がわずかに隆起しひびが入る。

 

 どうやら近距離で放つために威力を加減していたようだね。

 

「な、なにぃ……!?」

 

 私が立ち上がるとメガネの男は狼狽した様子で私に叫んだ。

 

「僕の能力が効いてないのか!?」

「……さて、かいたびはつやさん」

「な、なぜ僕の名前を……?」

 

 私が名前を知っていたことに驚いたのかメガネの男、介旅初矢は語調を弱める

 

「3回目だよ」

「な、何のことだ?」

「私を爆破した回数だよ。公園で一回、さっきのお店で一回、そして今ここで一回」

 

 私は介旅初矢に向かい歩いていく。

 

「今の一回は大した威力じゃなかったみたいだけど、前の二回は下手したら死んでたかもしれないんだよ?」

「来るな……」

「そんなことをしておいて反撃の一つもされない、なんて思ってないよね?」

 

 私は走りだし、一気に距離を詰める。

 

禁書目録(インデックス)水平手刀(チョップ)!」

 

 私は左の手刀を介旅初矢の胸元に叩きつける。

 

「ぐぅッ……」

禁書目録(インデックス)クロー!」

 

 胸を抑え崩れ落ちかけた介旅初矢の頭を右手で掴みそのまま締め上げつつ吊り上げる。

 

「ぐあああああああああああ!?」

 

 魔術で強化された握力で締め上げられ悲鳴を上げる介旅初矢。

 

 もちろん、禁書目録(わたし)の小さな手では持ち上げることはできないから吊り上げると言っても介旅初矢の足は爪先立ちで地面についている状態だけどね。

 

 当然、チョップもクローも加減はしているんだよ。強化魔術で強化されている以上、本気で使えば本物のプロレスラー以上の破壊力を出してしまうのは間違いないからね。

 

 私に右腕一本で吊り上げられた介旅初矢はもがきながらも蹴りを放ってくるけど『歩く教会』に阻まれてまったくダメージが通らない。ちょっと掴みづらいけど勝手に暴れて体力を減らしてくれるんなら逃げられる心配がなくて助かるけど。

 

 私は自由な左手で一本の短剣(ナイフ)を取り出す。柄を黄色に塗られ、黄色い鞘に納められた短剣(ナイフ)。それをかざすと発動した風の魔術により介旅初矢の学生鞄の肩掛け用のバンドが切断され、地面に落ちる。

 

 学生鞄の中からいくつかのスプーンが転がる。私は風の魔術でそれらを後方に吹き飛ばす。

 

 その状態のまま1分ほど拘束し、相手が蹴りを放ったタイミングで手を放す。

 

 自身が放った蹴りの反動と、吊り上げていた力がなくなったことによって介旅初矢は今度こそ地面に崩れ落ちる。

 

「さて、あなたには聞きたいことがあるんだよ」

 

 私は介旅初矢を見下ろして言う。

 

 介旅初矢は右手で頭を押さえながら諦めとおびえの混じる目でこっちを見てくる。

 

「あなたがこんな事件を起こした理由、教えてくれるよね?」

 

 

 

 

 

 介旅初矢はいじめを受けていた。時間は主に放課後、内容としては金銭を要求と、金銭を渡さなかった場合の暴行。行われたのはほとんど学校の外であったが、巡回しているはずの風紀委員(ジャッジメント)はその場面に居合わせることはなく結果として一度も介旅初矢を助けてくれなかった。そして、能力を強化できるという『幻想御手(レベルアッパー)』を手に入れ、自分をいじめた不良と自分を助けなかった風紀委員(ジャッジメント)に復讐をするためにこの事件を起こした。

 

 介旅初矢の語った内容をまとめるとこうなる。

 

「……いつもこうだ。風紀委員(ジャッジメント)のやつらみたいな力のあるやつやお前みたいなやつがいるから俺みたいなやつはいつだって地面に這いつくばらないといけないんだ!」

「なるほど。言いたいことはわかったんだよ」

 

 私は屈んで介旅初矢を見る。

 

「でも、その言い分だと一つだけわからないことがあるんだよ」

 

 介旅初矢の目は私を睨みつけている。その目を見て言う。

 

「あなたが爆弾に変えたぬいぐるみを渡した女の子。彼女はいったいあなたに何をして復讐の対象にされたのかな?」

「ッ!? それは……」

「それだけが理由としては通らないんだよ。風紀委員(ジャッジメント)に渡した直後に爆発したところからして、時限爆弾みたいになっていたわけでもなさそうだし、たぶん中には盗聴できるような何かが入っていたんだろうけど。女の子が渡した直後に爆発させたってことは最初っから女の子ごと吹き飛ばすつもりだったってことだよね?」

 

 介旅初矢が目をそらす。

 

「あなたがもしも自分から金をとった不良に対してのみの復讐をしたのであれば、法律的には大問題とはいえ、最低限の筋は通るんだよ。風紀委員(ジャッジメント)に関しては筋は通らないけど、あなたの言い分なら説明はつく。でもあの女の子に関してはこの件に一切関係ない。あなたはあなたをいじめていた不良よりも酷いことをしたんだよ」

 

 介旅初矢はうつむく。

 

「力がある奴が悪いっていうあなたの言葉に従うならあなたも悪いことになるのは当然だよね?」

 

 まあ、それはともかく。

 

「で、そいつらの名前とクラスは?」

「……は?」

 

 介旅初矢は何を言っているのかわからないという目でこっちを見る。

 

「だからあなたから金銭を奪った人達のクラスと名前を聞いてるんだよ?」

 

 介旅初矢は静かにその名前を口にした。

 

「なるほどね。まあ、そいつらにもちょっとは痛い目を見てもらう必要があるかも」

「な、なんでだ? なぜお前がそんなことを」

「せっかく、犯罪者を捕まえても根っこを断たないと意味がないからね。暴力とか金銭を奪った、って普通に犯罪だし」

 

 いわゆる第二第三の事件を起こさないための措置ってやつだね。

 

 私は再び立ち上がる。その時、介旅初矢の後ろに何かが現れる。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!」

 

 風紀委員(ジャッジメント)、白井黒子である。

 

「……またあなたですの」

「うん。偶然だね」

 

 白井黒子は私の顔を見てうんざりしたような顔をする、

 

「ちょうどよかった。今までの連続爆破事件の犯人はその男なんだよ。証拠はこれ」

 

 私はバッグから写真を取出し、白井黒子に見せつける。

 

「それは……」

行け(Ehwaz)

 

 写真を指で弾くと、私の手から離れた写真は弾かれた勢いのままくるくると回りながら白井黒子の元に向かい、思わずと言った感じで差し出しされた手に納まる。

 

「それとセブンスミストの監視カメラの映像を見れば犯人は誰なのか掴めると思うんだよ」

 

 私は白井黒子と介旅初矢に背を向ける。

 

「それじゃあ、頑張ってね」

「お待ちなさい! あなたもこちらで話を……」

「私も忙しくってね」

 

 私は『歩く教会』のフードの上から帽子を被る。

 

「それじゃ、また。機会があればまた会うこともあると思うんだよ」

 

 『ハデスの隠れ兜』の魔術を発動する。

 

「……消えた?」

 

 白井黒子が呟く。

 

 何やら考え込んでいる感じだね。

 

 介旅初矢も呆然としている。

 

 あの二人から見ればいきなり人が消えたんだから当然だね。白井黒子は私が学園都市外部の人間だって認識しているから、学園都市外部の能力者の『原石』だとでも思ったかもしれない。

 

 私は路地裏を出て行くため歩き出す。

 

 私が薄暗い路地裏を曲がると、視界に入ってきたのは私を見ている女の子、御坂美琴だった。

 

 私は介旅初矢と白井黒子の二人から見えない位置でフードの上からかぶっていた帽子をとる。

 

「あんた何者なの?」

 

 御坂美琴は姿を現した私に言う。

 

「私の名前は禁書目録(インデックス)って言うんだよ。正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum。見ての通りイギリス清教のシスターをやっていたんだよ」

 

 ペラペラと素性を話す私に一瞬驚く御坂美琴はすぐに私を睨んでいう。

 

「さっきなんでわた……」

「ちょっとちょっと? そっちばっかり質問をするっていうのも不公平じゃないかな?」

 

 私は美琴の言葉を遮る。

 

「あなたの名前は……まあ知ってるからいいとして。あそこに私の友達が立っていたはずなんだけどどうしたの?」

 

 私はここから見える表通りを指さして言う。

 

「別にどうもしてないわ。私はそこのビルの屋上から磁力を使って降りてきただけよ」

 

 なるほど。流石になんにでもビリビリするわけじゃないよね。

 

「まあ、二人が無事ならいいけど。それで質問は?」

「なんであんたは私たちを助けたのよ?」

 

 なんでって言われると返答に困るんだよ。

 

「かわいい女の子を助けるのに理由がいるのかな?」

 

 かわいいと言われ慣れていないのか若干赤くなった気がする。

 

「……かわいいって誰のことよ」

「あの場にいた三人ともだよ? まあ、今のは半分冗談で、実際はとある人の代わりをしただけなんだけどね」

 

 本来ならあの場を助けるのは当麻だった。でも、当麻は今は病院にいるからね。

 

「代わり?」

「そう、代わり。実際、あの場を何とかするのなら私より適役がたくさんいるしね」

 

 当麻はもちろんだけど、一方通行とか軍覇とか。魔術サイドも含めればステイルや火織も大丈夫だろうね。

 

「私はともかくあの二人は私に助けられたと思ってるわよ? たぶん、他の人達もそう思うわ。それでもいいの?」

「私がこういうことをしたってばれるとちょっと面倒だから別にいいんだよ。それに」

 

 私は当麻の言葉を借りて言う。

 

「みんなの命が無事なら何の問題もないんだよ」



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