Zombie Army Trilogy クロスオーバー (ダス・ライヒ)
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地獄の始まり

禁断の第三作目が発売されたので、黒騎士物語やカンプグルッペZbv、シェイファー・ハウンドをクロスオーバーさせた二次創作を投稿。

不定期更新で、気が向いたならの更新です。


 1945年4月30日。

 この日は我々日本人にとって知るものは、唯一の本土戦である沖縄戦が繰り広げられていた頃だろう。

 第二次世界大戦が繰り広げられて欧州のドイツ第三帝国でも、本土戦が繰り広げられていた。首都ベルリンにてである。

 兵力五十万を有するソ連赤軍に包囲され、帝都は砲火の雨に晒されていた。

 これに対するドイツ軍は十万。大半の兵力は子供や老人、生きて帰れない外国人志願兵である。ドイツ人の正規兵は国防軍と武装親衛隊を合わせて四万五千人以上。戦車や砲の数でもソ連軍に劣る物であった。

 制空権まで取られていたが、市街戦なために余り効果はなかったが、圧倒的な兵力による物量で押し潰される事には変わりない。無敵の強さを誇るドイツ軍は連合国の物量の前に倒れた。もう既に打開策など無く、脱出するか降伏の二択しかなかった。

 だが、時のドイツ第三帝国の総統アドルフ・ヒトラーはどちらの選択も選ばず、「最後の血の一滴まで戦え」、つまり徹底抗戦を指示した。

 敗北的な発言をすれば、「敗北主義者」として街灯に吊されてしまう。ドイツ兵も帰る場所もない外国人兵士と同じく死にものぐるいで戦うしかなかった。装備も兵力も練度も優るソ連籍軍相手に…

 

 砲火の影響で人工的な地震で揺れる総統地下壕にて、負ける事実を認めないヒトラーは、ヴァルター・ヴェンクの第12軍を待っていた。

 司令室の机の上にある知らせの黒電話は一向に鳴らず、ただ砲弾が着弾する音だけが聞こえてくる。

 彼の背後に掛けられている地図には、東にはソ連、西は連合国が押し寄せてくる様子が記されている。この地図を見る限り、もはや形勢逆転など不可能だろう。

 そんなヒトラーを見かねてか、陸軍の将官が降伏を提案する。

 

総統閣下(マインフィーラー)、ヴェンクの第12軍は阻まれております。もう勝ち目がありません。我々は戦争に負けました、降伏しましょう」

 

 現実的な問題を叩き付けたその将官に対し、ヒトラーはワルサーPP自動拳銃の銃弾で答えた。

 

「余の帝国は二度と負けん! "プランZ"を発動し、この地に余の無敵の軍勢を蘇らせ、ソビエト軍に反撃するのだ!!」

 

 ヒトラーは拳銃を机に叩き付けながら、「プランZ」と呼ばれる極秘計画の実行を命じた。

 その計画の実行に不安を抱えていた親衛隊長官であるハインリヒ・ヒムラーは、ヒトラーに考え直すよう説得を始める。

 

「総統閣下、プランZは"サガルマリータの遺産"が三つ揃わなければ…」

 

 プランZに続いてサガルマリータの遺産と言う新たな物が浮かび上がった。

 一体それは何なのか?

 今は分からないが、後程その謎が判明されるであろう。

 

「喧しい! 直ぐに実行するのだ!! 余の軍勢を再び蘇らせ、ベルリンから共産主義者共を一人残らず一掃するのだ!!」

 

「や、了解(ヤヴォール)! 直ちに実行に移します!!」

 

 ここでヒトラーに逆らえば、今度は自分が処刑されてしまうと思ったヒムラーは、直ちに総統が命じた極秘計画の実行に移った。

 

「スターリンめ、見ておれよ…! フリードリヒ大王のような世紀の大逆転を…!!」

 

 そう自分の首都を攻め込むソビエト連邦の首相ヨシフ・スターリンの名を口にすれば、その世紀の大逆転となろうプランZの実行を待つ。

 計画の実行は機械のレバーで行われた。命令を受けた白衣を受けた科学者がレバーを引けば、ドイツ各地に設置された塔の尖端から不気味に光る青い光線が真っ直ぐと空高く上がり、空を不気味な曇り雲で覆い隠す。

 この光景はベルリンだけでなく、併合されたオーストリアを含むドイツ各地に見られた。

 

「な、なんだこの光は…!?」

 

 天に昇る光が見えていたドイツ・オーストリアの各地で戦う連合国の将兵達は、それを見て呆然としていた。

 その光を天に向けて解き放ったドイツ側の将兵等も、プランZの事を知らなかったのか、連合国の将兵と同じく戦うのを止めて共に光を見ている。クリスチャンである将兵達はこれから不吉なことが起こるかと思い、首に吊した十字架を握り、イエス・キリストに何事も怒らぬよう祈った。ムスリムの将兵等は銃を地面に置き、クリスチャンの将兵と同じくアッラーに祈る。

 だがその願いはどちらの神にも届かず、悲劇は起こった。

 

「ち、地中からドイツ兵!?」

 

 地中から死した筈のドイツ兵等が呻き声を上げながら地上へと現れた。それも一人だけではなく、大勢で。

 既に腐りきったか、青白いか、ぶよぶよになっているか、焼き爛れているかだが、ぼろぼろの軍服から見える致命傷とも言うべき傷跡を見れば、一目で死人と分かる。目は不気味に黄色く光っていた。

 では何故、死んだはずの人間が動いているのか?

 黒魔術と言っても良いことだが、まさか実在するとは誰しもが思わないだろう。

 それに動きも筋肉が腐っているのか、なんだかぎこちない。大戦が始まる九年前に公開されたホラー映画に登場する「ゾンビ」のようだ。その映画を見たことがある各国の将兵の誰もが思った。

 

「動くな!」

 

 地中から現れた"ドイツ兵等"に対し、ソ連赤軍の兵士がモシンナガンM1891/30小銃の銃口を向け、警告した。警告はしたが、ドイツ兵等はそれを聞かずに銃口を向ける彼によろよろと近付いてくる。兵士は威嚇射撃を行い、もう一度警告した。

 

「もう一度警告する! 手を挙げろ!」

 

 そう強く言ったが、相手は足を止めず、丸腰のまま近付いてくる。

 何か不気味な感覚を感じた兵士は警告することもなく、相手の胸に向けて小銃の弾丸を撃ち込んだ。

 

「し、死んでない!?」

 

 撃たれたドイツ兵は胸を撃たれても平然としていた。人は胸に小銃弾を受けたところで死にはしないが、激痛の余り、悶え苦しむはず。しかし撃たれた敵兵は痛覚がないのか、依然として近付いてくる。

 それに恐怖を覚えた兵士はもう一度胸に向けて撃った。

 もう一度撃てば死ぬはずだ! だが相手は死ななかった、それは何故か?

 答えは簡単である。もう死んでいるからだ。

 最初に死したドイツ兵等と遭遇したソ連赤軍の兵士は集団に覆い被され、生きたまま食われたり、肉を引き千切られながら殺された。

 無惨に殺されたのはそのソ連兵だけでない。ドイツやオーストリアに居る連合国の将兵等が、彼と同様に生きたまま引き千切られるか、食われたまま死んだのだ。

 ある将兵は内臓を引き抜かれ、ある将兵は四方を引き千切られながら殺された。

 残されたナチス・ドイツの領土全域で、このような地獄絵図が行われ、多数の連合国の将兵等が蘇った"死者の軍団"の餌食となった。

 

「う、うわぁぁぁ! 来るなぁ!!」

 

 死者の軍団は見境無く、生きているドイツ兵にも矛先を向け、連合国の将兵と同じく襲い掛かり、惨たらしく殺した。守るべき筈の民間人も同様に殺し、女子供、老人や病人であろうと平等に殺し尽くした。

 かくして、蘇ったドイツ兵、通称"ナチゾンビ"がドイツ・オーストリアの地を彷徨い、ナチス・ドイツの領土は死者の帝国となった。

 連合国地上軍はナチゾンビが出現していないドイツの各隣国へと撤退し、戦略爆撃による殲滅に切り替えた。流石のソ連赤軍も撤退したようであった。

 そして地獄に取り残された生存者達は、湯水の如く湧いて出て来るナチゾンビと死闘を演じなければならなかった。

 

 

 

 地獄が始まって日が経ったが、太陽の光は分厚い曇り雲に覆われ、地に光が注ぐことはなかった。

 地にはナチゾンビが生者を求めて彷徨い、死体から千切られた首や胴体、手足をアートのように飾っている。死体は吊されるか串刺しにされていた。まさに地獄の光景と言って良いほどだ。

 地獄となったドイツのベルリン郊外にあるバリケードが張り巡らされた一軒家にて、一人の生者が外へ出るための準備をしていた。扉や窓には、様々な鈍器を持った複数のゾンビが叩き、中へ入ろうとしている。暫くは持つだろうが、いずれか破られるだろう。

 そんな心配を他所に、家中にいる生者は蓄音機で音楽を掛けながら外へ行く準備をしている。外へ行く準備とは、銃などの武器を持って出て行くことである。

 その生者とは、フィールドグレーの戦闘服を着た男だ。人種は白人で瞳は碧眼、短髪の黒髪であり、身長は180㎝程である。

 机の上に置いてある狙撃スコープ付きのスプリングフィールドM1903A4小銃を手早く組み立て、.30-06スプリングフィールド弾を一つ一つ込める。それが終わればスコープの調整を行い、試しに構える。自分が納得がいく物になれば、コルトM1911A1自動拳銃の残弾を確認し、全弾詰まっていることが分かれば腰の専用ホルスターに入れ込む。

 次にM1A1トンプソン短機関銃を手に取り、スリリングを肩に掛けて背中へ吊す。弾倉も忘れずに専用のポーチを入れ込めば、手榴弾も忘れずに専用のポーチへと入れた。

 最後に男は自分の得物である狙撃銃を手に取り、両手にしっかりと抱いた。常に一人で行動する期間が長かった所為か、習慣となっている。近接戦闘に備えてのナイフ数本とバールを取れば、狙撃手である男は出入り口のドアを強引に開き、ナチゾンビが漂う外へ出た。

 

「グォ?」

 

 飛び出してきた狙撃手に気付いたナチゾンビらは、一斉に男の方へ振り返り、手に持った鈍器で殺そうと鈍い動きで近付いてくる。

 狙撃手はそれを回避し、狙撃銃の銃座でゾンビの頭を強打した。ナチゾンビの弱点も、頭であることを分かっていたようだ。金属製のバッドプレートは、人を撲殺できる程の威力であり、例え既に死したゾンビとで、それに耐えることなど出来なかった。

 次は銃剣を抜いて、顎へ突き刺し、脳に達するまで深く突き刺してから素早く抜いて鞘へ戻す。突き刺した後に素早く抜かねば、肉が固まって抜きづらくなるからだ。二体のゾンビを手早く仕留めた狙撃手は、ホルスターから45口径の自動拳銃を取り出し、目の前にいるゾンビの頭全てに撃ち込んだ。

 強い反動を耐えながら撃ち込んだ弾は五発、頭を大口径の拳銃弾で撃ち抜かれた五体のゾンビは糸が切れた人形のように倒れた。

 

「ウゥゥ…!」

 

 しかしゾンビはまだ残っている。背後から迫る一体へ向けてナイフを投げ、頭にヒットさせた。最後の一体は背後へ回り込み、強い力を入れて首を一回転させて無力化した。首を回したゾンビの肉体は骨が見えるくらい腐りきっており、容易に身体に送る信号を遮断させることが出来た。

 自分が籠城していた家のゾンビを全滅させれば、狙撃銃を構え、遠くの方で生存者を追っているゾンビの狙撃を行おうとする。

 重力、気温、気圧、温度、風向きと風速を脳内で計算しつつ、ゾンビの頭が行く進行方向へ向けて照準を合わせれば、引き金を引いた。

 銃声が鳴り響き、銃口から30口径の小銃弾が発射された。弾は狙撃手が計算したとおりに飛んでいき、ゾンビの頭に命中して脳を破壊した。

 

「全く、こんな事になるとはな」

 

 狙撃を終えた狙撃手はそう吐き、銃を下ろした。

 男の名はカール・フェアバーン。OSSの工作員兼狙撃手であり、暗殺任務の為にドイツへ潜入し、この惨事に巻き込まれた。持ち前の隠密作戦能力で生き残り、十分余りでゾンビの弱点が頭部であることを素早く理解した。彼は地獄の実態を調査すべく、ベルリンへと向かった。

 

 

 

 カールがベルリンに向かっている頃、ドイツ国防軍陸軍の忠実には存在しない第12装甲軍の本部にて、陸軍大将でこの部隊の司令官である老人が自信の目の前に立つ部下達に向けて訓示を行う。

 

「諸君、総統閣下はご乱心なされ、敵も我々ドイツ人も道連れにするべく、地獄の門を開き、生ける屍共をこの世に解き放った。今、我々がすべきことはただ一つ。民間人と負傷者を一人でも多くドイツから逃がすことだ。地獄の門より現れた死者の軍勢に関しては、連合国の特別機関がなんとかするだろう。我々がすべきことは、見境のない人食い共からドイツ国民を救うことだ。脱出地点はオーストリアとする。そこまで死人共から民間人に一切手を出させるな。以上、解散」

 

 解散を命じれば、部下達は陸軍大将が命じた通りの命令を実行した。右眼に眼帯を付けた強面の大柄で、長身の士官も立ち去ろうとしたが、司令官に呼び止められる。

 

「待て、"エルンスト"」

 

「なんです? 閣下」

 

 司令官に呼び止められた士官は振り返って直立不動状態を取り、内容に耳を傾ける。

 その士官はエルンスト・フォン・バウアー。軍直属第8戦車中隊、通称「黒騎士中隊」と呼ばれる部隊の長である。階級は大尉。ドイツ国防軍がポーランドに侵攻して第二次世界大戦が開戦して以降、ずっと戦場に身を投じてきた歴戦錬磨の指揮官だ。何度か軍規違反を起こしているが、その度に味方を救い、敵味方双方共に敬意を抱かれている。騎士十字勲章を受章している。

 そんな高貴な軍人である彼の名を口にするのは、バウアーの父であるエミール・フォン・バウアー。階級は大将、第12装甲軍司令官。第一次世界大戦に従軍し、息子バウアーと同じく勲章を受賞した高貴な軍人である。

 軍人はバウアーだけでなく、彼の血を分けた兄と弟も軍属は違えど同じくドイツ国防軍に属していたが、兄は戦死し、弟はスターリングラードでソ連赤軍の捕虜となり、行方不明だ。

 

「外務省からお前に任務だ。SSミッテ駆逐戦隊所属特務猟兵小隊と共にベルリンへ赴き、総統閣下並び、ベルリン市民の救出せよ、だ」

 

「軍規破りの常習犯である我が第8中隊に 外務省が直接オーダーですか? 一体何故そのような任務を私の部隊に。心当たりは十分にありますが…」

 

 心当たりは十分にある。

 それを聞いたエミールは、バウアーが行った戦歴のことを伝えた。

 

「エルンスト、十分と言えば分かるだろ? お前は幾度も危機的状況にある友軍を救ってきた。あのゲッペルズがお前を新たな宣伝塔にしようと考えたくらいだ。外務省の奴等はお前の活躍を見込んで、この救出作戦をお前の部隊に依頼した。たったの一個戦車小隊くらいだが、先程言った武装親衛隊の特務小隊をつけてくれるらしい。詳しいことは、集合地点で確認してくれ。ワシにもその部隊のことは分からんのだ」

 

「はっ! ただちに件の小隊と合流し、合同して救出任務に当たります!」

 

 バウアーは敬礼しながら父であり上官であるエミールの指示を復唱する。それから立ち去ろうとしたが、また呼び止められた。

 

「待て」

 

「まだ何か?」

 

「必ず生きて帰ってこい。外の死人共には一切れの肉もやるな。分かっているな…」

 

 最後に残った跡取りで息子であるエミールが暗い表情を浮かべながら告げれば、バウアーは笑みを浮かべながら告げた。

 

「もちろんですとも父上、一切れの肉も奴等には提供しません。代わりに鉛玉を提供します。それに死人如きには殺されません」

 

「その息だエルンスト、死人共を死者の世界へ返してこい!」

 

了解(ヤヴォール)!」

 

 父に必ず返ってくると告げれば、敬礼して司令室を後にした。

 第12層行軍の司令部を出たバウアーは、外で待っている部下達の元へ向かった。待っているのは全部で十四名の黒い戦車兵用の制服を着た兵士達。彼らの背後には二両のパンター中戦車G型が止まっている。車体前面装甲には、黒騎士中隊である事を示すマーキングが付けられている。

 戦車中隊と言えば、十数両で編成されるはずだが、長きにわたる戦いで戦車小隊ほどの戦力にまで減っている。

 

「お待ちしておりましたバウアー大尉。中古ですが、大物を用意しております」

 

「大物? 是非見てみよう」

 

「こちらです」

 

 副官であるオットー・シュルツがバウアーを出迎え、大物の戦車を用意していると告げた。

 彼の案内に従ってついていけば、そこにティーガー重戦車の更なる発展型であるパンター中戦車を一回り大きくしたような風貌を持つティーガーⅡ重戦車があった。これを見たバウアーは驚きの声を上げ、この重戦車を何処で手に入れたのか問う。

 

「ティーガー重戦車じゃないか! こいつを一体何処で手に入れたんだ? まさか盗んだんじゃあるまいな」

 

「武装SSの整備中隊に、整備が済んだハノマークで交換したのであります」

 

「そうか。まさか欠陥品を押し付けられたってことは無いな?」

 

「もちろん、完全に動くタイプです。燃料は満載しております。エンジンもバッチリですよ」

 

 その問いに答えたクルツ・ウェーバーと呼ばれる下士官に、バウアーは再度交換したティーガーⅡが欠陥品でないか確認した後、自分の搭乗員達に搭乗するよう指示した。

 

「そうか。では、全員搭乗せよ! 合流地点へ向けて走りながら操作訓練だ!」

 

了解(ヤヴォール)!!』

 

 指示に応じ、バウアーの戦車の搭乗員達はティーガーⅡのエンジンを作動させてから戦車に乗り込み、エンジンを呻らせた。これに続いてクルツとオットーも自分の戦車であるパンターのエンジンを作動させ、バウアーのティーガーⅡの後へ続き、件の特務小隊との合流地点へと向かった。合流地点は車で十分と言ったところの距離であり、差ほど時間は掛からず、合流地点へ到着した。到着して早々、中隊を出迎えのは、とんでもない物であった。

 

「な、なんだ!? 一体これはどういう意味だ?」

 

「はぁ、私にも分かりません。ただの特務小隊だと思ってましたが、まさかこのような物とは…」

 

 驚くべき物をを見てバウアーが口にすれば、オットーは今目に映っている事を告げた。彼ら黒騎士中隊を驚かせたのは、襟にSSの襟章を付けた女性ばかりの部隊であった。短砲身のⅢ号突撃砲二両にティーガーⅠ重戦車が一両、Sd Kfz 251装甲兵員輸送車が、ケッテンクラート、Sd Kfz 222装甲偵察車と言った具合の小隊規模の部隊だ。兵員は四十名ほど。中には当時同盟国であった日本軍の下士官に兵士が二人ほど見える。

 バウアーの到着を知った部隊指揮官らしき若い青年と長い金髪の女性が近付いてくる。

 

「お待ちしておりましたバウアー大尉! 自分はミッテ駆逐戦隊所属特務小隊≪シェイファー・ハウンド≫の指揮官、ユート・ツァイス親衛隊上級曹長であります!!」

 

 階級が低い青年はキューボラから上半身を出しているバウアーに向け、ナチス式ことローマ式敬礼を行い、自分がこの女性を主体にして編成された部隊「シェイファー・ハウンド」の指揮官であると名乗った。その名乗り声は緊張しきっており、上げている右手が震えていた。次に、隣に立っているヨット型の略帽を被った女性が名乗る。

 

「自分はカヤ・クロイツ親衛隊曹長、この部隊の副官をしております」

 

 カヤと名乗った女性は、ユートと呼ばれるSSの下士官よりも落ち着いており、冷静に名乗った。

 これを見たバウアーとクルツ、オットーは互いに視線を合わせ、本当にかの有名なオットー・スコルツェニーの配下の部隊であるかどうか疑い始める。

 

「本当にあのスコルツェニーの部隊か?」

 

「国民擲弾兵や国民突撃隊が編成されておりますが、流石に女まみれの部隊など聞いたこともありません」

 

「慰問部隊…訳じゃ無さそうですね…」

 

 戦車から降りて話し合うバウアー達を見て、ユートとカヤは、つくづく自分達が見くびられていると思う。

 

「やはり東部戦線帰りからすれば、僕達は軽く見られているんだろうか…」

 

「フッ、当然だ。私達は主戦場には出ないからな。相手をするとすれば、レジスタンスにパルチザン、それに空挺部隊や特殊部隊だ」

 

 カヤから告げられた事実に、ユートは納得するしかなかった。

 名乗ったユート等に対して失礼だと思ったバウアー等も、自己紹介を始めた。

 

「失礼した、まさか殆ど女性で編成された部隊があるとは。我々は第8戦車中隊のバウアーだ。あちらは副官のシュルツ」

 

「オットー・シュルツ曹長だ、第8戦車中隊の副官だ。よろしく頼むぞ、坊ちゃんに嬢ちゃん達」

 

「あの黒騎士にお会い出来るなんて、光栄です」

 

 バウアーが後ろに立っているオットーを指差しながら言えば、彼が自分のフルネームを口にし、これから自分等と共に戦う戦友達に挨拶した。

 東部戦線で英雄的行動を取る黒騎士中隊に出会えたのか、ユートは光栄に思って握手をする。次にクルツが名乗り始めた。

 

「自分はクルツ・ウェーバー軍曹です。よろしくお願いします、上級曹長殿」

 

「あっ、あぁ。よろしく頼むよ」

 

「二人とも馬が合いそうだ。クロイツ曹長、君もよろしく頼む」

 

 差し出された手を取り、二人は握手を交わす。

 それを見ていたバウアーはカヤにも手を出したが、自分にそれは似合わないと断る。

 

「大尉、私にそのような資格はありません」

 

「カヤ!」

 

 手を払い除けるような行動をしたため、ユートはカヤに注意しようとするが、バウアーは気にしておらず、ユートを宥める。

 

「そうかっかするなツァイス君」

 

「部下の失礼をお詫びします、大尉殿」

 

「そう言うのは良い。さて、時間が勿体ない。そうだろ? クロイツ曹長」

 

 部下の失礼を代わりに謝ろうとするユートに対し、時間を無駄にしたくないバウアーは、カヤの方へ振り返り問う。

 

はい(ヤー)、早く打ち合わせを済ませてしまいましょう」

 

「そうだな。さぁ行くぞ、ユート君」

 

「あっ、了解(ヤヴォール)!」

 

 カヤが笑みを浮かべながら答えた後、バウアーは呆気に取られるユートを連れ、打ち合わせを行った。

 短い時間で打ち合わせを済ませれば、黒騎士中隊とシェイファー・ハウンドの混成部隊は、ベルリンを目指して進軍した




Zbv勢と他七名の原作勢は、次回から登場。

前作でガールズ&パンツァーを出しましたが、今回も出すかどうか検討中。

出すかどうかは活動報告に載せるので、意見をお聞かせ下さい。

出さない場合は、マリが出て来るかな…まぁ、チートキャラなので、出さないと思いますが


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死者の村

取り敢えず、マリマリを出すことにした。
今後の方針では、ヘルシング勢の参戦もアリ…
ただし、40年代なので、アーカードと少佐殿と愉快な部下達だけになるかも。


 現代、南アメリカの密林地帯。

 そこには似合わない大戦中のドイツ海軍の大型潜水艦「UボートⅦ型」の赤錆びた残骸が打ち上げられていた。

 海も近くない密林のど真ん中にあり、船体に開いた穴から積み込まれていた物資が飛び出してしまっている。中には箱その物が壊れて、中身が外に散らかってしまった物もある。

 Uボートは何処からか運び出された感じか、上から叩き落とされた様子で、その巨体を横たえていた。

 そんな内陸部に不時着したか運び出された摩訶不思議な古い潜水艦に、興味を示した金髪の女性の探検者が訪れた。探検者の服装は、半袖半ズボンの探検服であり、頭には探検帽を被って護身用として、バスタードソードに近い剣が収まった鞘を背負い、ボルトアクション式の猟銃を持参して潜水艦に近付く。

 その探検者の容姿は浮世絵離れしており、雪のような白い肌を持ち、青空のような碧眼を持っていた。顔立ちも整い、探検服の開いた谷間から見える豊満な胸元からプロポーションも抜群だ。

 古い潜水艦に興味を示した彼女の名はマリ・ヴァセレート。詳細は単に興味本位で近付いてきただけだが、自分勝手な人物であることには限りない。

 

「ここね」

 

 そう呟いて赤錆びた残骸に近付き、散乱している物資を漁り始めた。

 

「ここに運び出されたか落ちてきて…数日前って所かな? あっ、制服」

 

 潜水艦が落ちてきたか運び出されたかの月日をざっと大まかに予想すれば、亡命しようUボートに乗船していたナチス親衛隊の将校の着替えが入ったケースを見付け、自分の背嚢に仕舞い込んだ。背嚢を背負ってから、散らばった木箱の中身を探っていき、自分にとってはめぼしい物はないと判断し、開いている穴からUボート船内に入った。

 

「臭っ…」

 

 腐敗した肉と同様な臭いに鼻を押さえつつ、マリは船内に何かめぼしい物はないかと進んだ。船内には七十年以上前に窒息したか自殺したかの乗員達のミイラ化した死体が転がっており、錆びた空薬莢が転がっている。死体を避けながら進んでいけば、自分が回収した着替えの持ち主と思われる親衛隊の将校の遺体があった。身に着けている軍服の左ポケット辺りに幾つか勲章が付けてあり、首の襟元には鉄十字勲章が離れずに付いていた。その手には大事そうに何か”おかしな物”を握りながら死んでいる。

 

「何かしら?」

 

 興味本意でそのおかしな物を死体から剥ぎ取ってみると、それは突然赤く光り出した。

 

「な、何よこれ!?」

 

 突然光り出したために、驚いて”それ”を手放してしまった。落ちた”それ”はマリを含む周囲を光で包んだ。マリは光を遮りながら、直ぐにその場から離れようとする。

 

「ちょっと! 冗談じゃないわ…」

 

 マリが言い終える前に、彼女が居るUボート全体は完全に光に包まれ、南アメリカの密林から影も形も残さず、跡形もなく消えた。マリの足跡と開いた穴から溢れだした物資だけを残して。

 

 

 

「イタタ…終わった…?」

 

 自分を含める周囲の光が晴れたところで、マリは辺りを見渡してみる。周りに見えるのはミイラ化した死体と赤錆びた船内だけだが、所々に開いた日差しが見えない。信じられないことだが、先程の光に包まれて何処かへ飛ばされたみたいだ。

 

「暑くない…? ここは南アメリカじゃないわね…ちょっと寒いし…」

 

 赤道近く特有の蒸し暑さではなく、肌寒さを感じたマリは、気温の違いで直ぐにここが南アメリカの密林でないと判断した。状況を確認するために外へ出れば、ここがヨーロッパ辺りであると推測する。

 

「ヨーロッパね…ここは」

 

 四月まで続く肌寒さと、自分の肌に合う環境である中央ヨーロッパ辺りであることが分かれば、胸にぶら下がっている双眼鏡を取り、辺りを調べる。

 

「辺りには黒煙…戦車に航空機の残骸に死体…タイムスリップしちゃったかしら」

 

 レンズ越しに見える黒煙とドイツ軍とソ連軍双方の兵器の残骸と将兵達の死体を見て、今自分が居る場所が、第二次世界大戦末期のドイツであることを認識する。レンズから目を離し、何処か安全に雨風凌げる場所に向かう。いつ兵士当たりに襲われてもおかしくないので、肩に掛けてある猟銃を取り出し、それを握りながらまだ無事な民家を目指す。

 

「っ!?」

 

「うぅ…」

 

 背後から足を音が耳に入ったため、マリは振り返り、背後から近付いてきた”何者か”に向けて発砲した。銃弾を受けた何者かは吹き飛び、地面へ仰向けとなって倒れた。

 

「誰だったかしら?」

 

 撃った何者かを確認すべく、銃を構えながら近付いた。大型動物用の大口径の銃弾を撃ち込まれたため、当然ながら胸に大きな穴が開いて即死していた。その何者かの服装は、ドイツ国防軍陸軍の野戦服であり、度重なる戦闘であったために、野戦服はボロボロであった。しかしマリにとっては腑に落ちない部分がある。それは出血が少ないからだ。

 

「出血が少ない…撃たれる前から死んでいる…!?」

 

 相手が撃たれる前から死んでいることに気付いたマリは、直ぐに死体から離れ、ボルトを引いて空薬莢を排出し、ボルトを押し込んで次の弾丸を薬室へ送り込んでから銃を構えた。

 死体の周りから魔法陣が浮かび上がり、撃たれた兵士は呻き声を上げながら復活した。

 胸の辺りを撃っても意味がないので、照準を頭部に合わせ、引き金を引いた、

 十分に当たる距離であったため、蘇った兵士の頭は吹き飛び、頭を無くした身体はそのまま地面へと倒れた。

 

「完全に死んだかしら?」

 

 空薬莢を排出してから死体へ近付き、何回か蹴って生きてないことを確認すれば、立て籠もれる家屋を探そうとする。

 向かう前に背後を振り返り、自分の背後に近付いてきた酔っぱらいのように近付いてくる兵士を撃った。

 

「やっぱ一体だけじゃないわね!」

 

 先程の撃った兵士と同様の動きをする”ドイツ兵”達が周りに居たことに気付き、自分の進路場に邪魔になるドイツ兵らを撃ち殺しながら進んだ。無論、返り血だけでなく、服が所々破れて白い肌が露わとなってしまっている。

 

「弱点はやっぱり頭…どうやらゾンビの類みたいね」

 

 頭部を撃って死ぬことから、相手がゾンビであるとマリは判断する。

 続けて撃つ内に弾が尽きてしまったのか、猟銃を捨て、背中の剣を抜いて近付いてきたゾンビを両断する。その剣の切れ味は抜群であり、斬られたゾンビは胸の辺りを残したままとなる。だが頭を完全に潰していない為に、這いずりながらマリを追ってくる。

 数体ほど蹴散らして、ドアや窓にバリケードが張り巡らされた家屋を見付ければ、そこへ向かってドアを剣でこじ開け、中に入った。直ぐにドアを固く閉じて、追ってくるゾンビがこじ開けないよう、手近にある物を使ってドアを塞いだ。

 

「これで安心…」

 

 数秒当たりでドアを頑丈に塞いだ後、一息ついて家内を見渡す。裕福な家庭のようで、置かれている家具は些か値打ちのある物ばかりだった。居間の方には、地獄のような外の状況に恐怖して自殺したこの家の主とその家族が横たえている。

 そんな冷たくなった元の主達を尻目に、マリは身体中に付いた血と汗を流すべく、無断で浴室を借りに行った。ゾンビが持っている多彩な凶器で破れた衣服と帽子を脱ぎ、下着も脱いで一糸纏わぬ姿となれば、浴室のドアを開けて中へ入り、シャワーを出す。幸いにも電気は通っているため、お湯が出て汗も返り血も流すことが出来た。

 身体中の汚れを落とした後、自分のプロポーションをさらけ出しながらバスタオルを取り、水滴を取って、近くにある着替えを手に取る。それは先程の潜水艦で自殺した親衛隊の将校の着替えだ。

 

「もうちょっと可愛いのにしたかったけど、着れる物とすればこれしか無いし」

 

 そう言いながら下着と肌着を身に着け、濃い灰色のズボンと上着を羽織れば、ボタンを閉めて臍の上辺りにベルトを着けた。黒い軍用ブーツを履いて、制帽を頭に被り、鏡の前に立った。

 

「結構似合ってるわね」

 

 鏡の前で自分の軍服姿に自惚れすれば、武器のような物を隠していないか確認するため、屋内を探し回った。

 

「こんなの隠してたなんて…略奪対策?」

 

 探し回って数分、マリはStg44と呼ばれるナチス・ドイツが開発した新兵器の一種である「突撃銃」を見付けた。

 Stg44とは、現在の突撃銃(アサルトライフル)の元祖となった銃だ。

 ナチス・ドイツの総統、アドルフ・ヒトラーは弾薬に対する補給の問題から採用に難色を示したが、性能の高さに新兵器の突撃銃として採用した。

 直ぐに東部戦線で大量配備が開始されたが、他の戦線では余り配備は見られなかった。無論、新しく生まれた銃の一種が戦況を覆せるはずもなく、結局負けてしまう。尤も、この世界では、欧州を巻き添えに滅びようとしているが。

 他に見付けた武器は、ワルサーP38自動拳銃に軍用スコップ、M24柄付手榴弾二つにM39卵形手榴弾が二つ、ダイナマイト一つとナイフが十数本だ。

 

「これで良し」

 

 装備を身に着けて準備満タンとなった所で、マリは玄関まで向かった。

 銃の安全装置を外し、ドアの前に立てば、ドアを思いっ切り蹴破って強引に外へ出た。

 マリの存在に気付いたゾンビ達は、それぞれの凶器を片手に群がって襲ってくる。中にはワルサーP38やkar98k、MP40と言った銃器を持ったゾンビも居たが、見当外れ名場所へ撃つだけで、彼女には全く命中しなかった。

 

「下手くそね!」

 

 銃を持っていても自分に当てられないゾンビを馬鹿にして、マリは突撃銃のセレクターを単発にセットし、向かってくるゾンビの頭を正確に撃ち抜いた。

 頭を撃たれたゾンビは地面に倒れ込み、元の死体へと変える。ヘルメットを被っているゾンビには跳弾して仕留め損なったが、落ち着いてもう一度頭を撃ち、死体へ戻す。

 ほんの数秒ほどで、マリに向かってきたゾンビ、ナチゾンビは全て元の死体へと戻った。まだ他に敵が居るかも知れないと思い、周囲に銃口を向けてみたが、自分以外動いている物はない。敵が居ないことを確認したマリは銃口を下げ、死体が落としたkar98k小銃を拾い上げる。手を握る窪みに血が付着していないことを確認すれば、それを握り、弾が入っているかどうかボルトを半分引いて残弾を確認する。四発以上が残っていることを確認すれば、ボルトを元の位置へ戻し、その小銃を握った。

 

「向こうから拡声器の声…誰か居るかしら?」

 

 遠くの方から拡声器による音声が耳に入ったため、そちらの方向へとマリは足を進めた。

 深い霧の中を聞こえてくる声を頼って進んだ方向にあった先は、村の出入り口だった。直ぐに胸に掛けてある双眼鏡で、村の状況を確認してみる。

 

「やっぱりこうなっちゃう?」

 

 双眼鏡の眼鏡に映る村の惨状を見て、ここもナチゾンビによる蹂躙が行われていることを確認する。出入り口の前では、木に追突したソ連軍のトラックの周りでナチゾンビが死体を貪り食っている。他には木や無惨な死体となったソ連兵や村人達の死体が吊されていた。そんな死体を他所に、あちらこちらに立っている拡声器からは、こんな放送が流されていた。

 

総統閣下(マインフィーラー)の御命令だ、全てのドイツ市民はベルリンへ来るように! 勝利は目前だ! これは我々にとって名誉となるだろう!!』

 

「名誉じゃなくて絶滅でしょ」

 

 拡声器から聞こえてくる放送にそう言えば、死体を貪り食っているナチゾンビの頭を小銃で撃ち抜いた。その距離は100m。今彼女が持っている小銃なら当たる距離だ。 正確に背中を晒しているナチゾンビの頭が撃ち抜かれれば、もう一体のナチゾンビが銃声のした方向へ身体を向け、呻り声を上げて威嚇する姿勢を取り、マリが居る方へ向かってくる。

 もう一発撃ってから仕留めれば、小銃を捨てて突撃銃に切り替え、村の中へと入る。当然の如く、ボロボロの軍服を着たナチゾンビ達が出て来た。中にはUボート乗員のナチゾンビもおり、凄まじくブヨブヨとした肌を晒していた。これにマリは、直ぐに頭を撃ち抜いて死体へ戻す。それを繰り返しながら、マリは村の奥へと突き進んだ。

 

「クソッタレのナチ共目! 俺が皆殺しにしてやる!!」

 

 道中、狂乱して自身に向かってくるナチゾンビに向けてドラムマガジンのPPsh41短機関銃を乱射するヘルメットを被ったソ連兵を見付けた。直ぐに破壊された家屋へと身を隠し、その兵士がナチゾンビを一掃するのを待つ。数秒後、ナチゾンビを一掃したソ連兵は、一息ついてから短機関銃のドラムマガジンを外して新しい弾倉を付け、右側のボルトを引いて薬室へ初弾を送って再装填を終えた。暫く周囲を見渡した後、敵影がないことが分かれば、銃口を下げる。

 ソ連兵が気を許したところで、マリは話し掛けようと、身を隠している場所から出た。だがソ連兵は黒や深緑、灰色の軍服を着た者を全てナチゾンビとしており、その対象の軍服を着ているマリを見るなり銃口を向け、引き金を引いた。

 

「ちょっと! 話聞きたいだけなんだけど!?」

 

 話を聞こうと思って姿を現せば、撃たれたため、遮蔽物へ身を隠し、相手が銃身を冷やすために引き金から指を話した瞬間を見計らい、腹に数発ほど銃弾を撃ち込む。撃たれた相手は銃を撃ちながら堅い道路の上に倒れ、胸を押さえながら苦しみ始める。

 敵がもう動かない事を判断すれば、マリは腰のホルスターからワルサーP38を抜き、近付いて自分を撃ってきた兵士に銃口を向けながら問う。

 

「ねぇ、何かあったか教えてくれない?」

 

 相手が分かるようにロシア語で問うが、そのソ連兵はアルメニア人のようで、支配層のロシア人の言葉を使う女の問いに唾で答えた。

 

「くたばれ、ナチ女…!」

 

 そう言い残し、アルメニア人のソ連兵は腹を立てたマリに眉間を撃たれ、息絶えた。

 拳銃をホルスターに戻し、マリは突撃銃を抱えながらセーフハウスがあると言う印がある家屋へ入る。出入り口のドアを開けて屋内へ入れば、家主を殺したナチゾンビ等が、バールや骨やレンチでマリを見るなり襲い掛かった。これに対し彼女は、手に持っている突撃銃で頭を正確に撃ち抜き、襲ってきた三体を元の死体へと戻した。

 そろそろ弾薬が切れる頃合いと思い、弾倉を抜いて重さで残弾を確認してみれば、丁度三十発を撃った後であり、軽かった。途中で弾の補充が出来ると思い、ポケットへ入れ込み、ポーチから新しい弾倉を出し、銃本体に付けてボルトを引いて薬室へと初弾を送り、再装填を終えてから進んだ。

 

「うわぁ、いっぱい出て来た…!」

 

 隣の家屋へ入ろうとしたとき、裏口から多数のナチゾンビがドアを破って現れたので、M24柄付手榴弾をベルトから抜き、キャップを外して紐を力一杯引き抜き、多数のナチゾンビに向けて投擲した。数秒後に投げ込まれたジャガイモ潰し器のような手榴弾は、多数のゾンビを巻き込んで爆発した。多数の肉片が辺りに飛び散り、まだ息のあるナチゾンビは、這いずりながらマリを殺そうと近付いてくる。そんなしつこいナチゾンビに関しては、銃弾で息の根を止め、先へと進んだ。

 

「ここがセーフハウスかしら?」

 

 セーフハウスと思しき場所を見付けたマリは、堅い出入り口のドアの前に立ち止まり、試しに叩いてみる。数回ほど叩けば、ドアの上に備え付けられているブザーが鳴り、大きくて堅いドアが開く。開いた先にある部屋には、多数の銃器と弾薬が蓄積されていた。

 

「セーフハウスじゃなくて武器庫か弾薬庫ね、ここ」

 

 ガンラックに立て掛けてある銃器と、置かれている弾薬箱を見て、マリはセーフハウスを武器庫か弾薬庫と表した。近くにある机の上に腰掛け、突撃銃を机に置いて一息つき始める。煙草を取り出し、一服した後に、空の弾倉に専用の弾を詰め込み始めた。三十発を詰め終えれば、開いたポーチに戻し、銃本体の弾倉に弾を込め始める。それを終えれば、喉を潤す為に水筒を手に取ろうとしたが、偶然の如くStg44用のスコープを見付けた。

 

「あっ、ラッキー」

 

 直ぐにそれを手に取り、箱から出して銃本体に取り付ける。

 ZF41と呼ばれる当時ドイツ軍に運用された高倍率スコープだ。

しかし開発コプセントは現代のダッドサイトに近く、狙撃には向かない照準眼鏡であり、ドイツ軍の狙撃兵達には不評であった。その為、民間用の照準眼鏡が多用された。 不評な照準眼鏡であったが、半自動小銃のGew43や突撃銃のStg44の為に生産が続けられた。

 準備を終えたところでマリは次のドアを開け、危険な外へと出た。外は相変わらず不気味な霧が立ち籠め、ナチゾンビが辺りを彷徨いていた。そんなナチゾンビ共に対して、彼女は容赦なく頭へ弾丸を浴びせ、元の死体へと戻す。

 ナチゾンビを倒しながら酒場と思しき二階建ての家屋へ近付き、裏口へと入ろうとしたが、二階の窓から先程のソ連兵と同様に、マリに向けて銃撃を浴びせてきた。

 

「来たな死体野郎! ド頭に風穴開けてやる!!」

 

 この叫び声からして今度はロシア人のようだが、マリの話に聞く耳を持たないようで、彼女へ向けてモシンナガンM1891小銃を撃ち続けてくる。他にもSVT-40半自動小銃やPPsh41短機関銃、DP28軽機関銃などを撃ってきた。人数からして一個分隊ほどが酒場に立て籠もっている。

 自分を殺そうとする生存者等に対しマリは、裏口に付けてある彼らのバリケードにダイナマイトを設置して爆破範囲から離れ、ダイナマイトを撃ってバリケードを撤去すると言う暴挙に出た。

 

『裏口に入ってくるぞ!』

 

『ぶち殺せ!!』

 

 爆破した裏口からソ連兵達の声が聞こえ、迎撃準備を始めている事が分かる。敵が迎撃準備をする前に裏口へ突入し、周囲にいるソ連兵全てに銃弾を撃ち込む。瞬く間に、裏口に集まったソ連兵四名が屍に変わった。

 

「殺せ、殺すんだ!」

 

 階段から数名ほどが銃を撃ちながら下りてきたが、マリは机の上に置いてあるMG42機関銃を持ち上げ、それを使って下ってくるソ連兵等に向けて掃射する。毎分1200発にも及ぶ掃射を受けたソ連兵等の身体は引き裂かれ、酒場の階段を地や肉片、贓物で汚した。一人はまだ息があったのか、呻き声を上げていたが、マリの無慈悲な銃弾でトドメを刺された。

 誰か残っていると思って、死体が落とした短機関銃を拾い上げ、二階へ上がってみると、分隊長らしき下士官がスコップで殴り掛かってきた。

 

「殺してやる!!」

 

 そう叫んでマリに殴り掛かったが、受け身を取られてしまい、床へと強く叩き付けられた。直ぐに立ち上がろうとするも、間近でPPsh41短機関銃の900~1000発の連射力を受け、蜂の巣となって力尽きる。

 

「これで終わりと」

 

 自分に襲い掛かってきた生存者等を全滅させたマリは、近くの椅子に腰掛け、置いてあるウォッカを一口飲もうとした。しかしナチゾンビは彼女にウォッカを飲ませようとせず、波状攻撃を仕掛けてきた。まだ酒場には到達していないが、多数の呻き声と軍靴の音が耳に入ってくる。

 

「もう! 空気読みなさいっての!」

 

 嫌々ながらも、マリは一階にあったMG42を予備弾薬と予備の銃身を一緒に持ち込み、声がする方向にある窓に二脚を設置し、拝上攻撃を掛けてくる敵に備えた。

 十数秒後、深い霧の中からおよそ一個小隊分は居る多数のナチゾンビが姿を現した。しかしまだまだ声が聞こえてくるからして、一個中隊ほどが居るだろう。そう思いながら、マリは電気のこぎりのような連射力を誇る機関銃を掃射する。

 凄まじい反動と共に銃弾が発射され、大多数のナチゾンビがバタバタと薙ぎ倒されていく。腐った肉が引き千切れる音が鳴り響き、頭部や腕、脚が周囲に転がる。普通の人間なら、遮蔽物へ身を隠すところだが、思考が停止したかに見える歩く死者なので、恐ろしい早さで来る弾丸を恐れずに近付いてくる。

 三分ほど撃ち続けていると、ベルトの弾丸が尽きた。直ぐに新しい弾丸が詰まったベルトに取り替え、ボルトを引いて初弾を薬室へと送り込み、引き金を引いて掃射を続行した。

 再装填をしている合間に近付かれたため、今自分が居る酒場に近いナチゾンビから仕留めていく。周囲には、これが来るのが分かっていたのか、ありとあらゆる爆発物が乱雑に置かれており、それが弾丸に当たって周囲のナチゾンビを巻き込んで爆発する。

 更に数分後、ナチゾンビの呻り声も聞こえなくなり、酒場の前の広場で動いている物は全て死体へと変わった。

 

「ふぅ…終わった」

 

 ずっと銃床が当たっていた右肩を回しながら一息つけば、MG42を置いて次の場所へ向かおうとしたが、三体ほど見逃していたようで、呻り声を上げながら階段を上がってくる。直ぐにStg44を上がってくるナチゾンビ三体へ向けて撃ち込み、死体へ戻す。

 完全に周囲の安全を確保した後、マリは次の場所へと移動した。

 着いた先は喫茶店がある通りのようで、辺りには戦闘の後と思われる死体と黒煙を上げる戦車の残骸が残されている。周囲を警戒しながら珈琲を飲もうと喫茶店の方へ向かうと、辺りが濃い霧に包まれ、ナチゾンビの波状攻撃が始まる。

 

「ゆっくり飲ませてよ…」

 

 そう言って珈琲を注いだカップを飲み干し、机の上に置いてあるMP40短機関銃を拾い上げ、向かってくるナチゾンビの頭へ向けて撃ち込んだ。

 このドイツ兵の象徴するアイテムの一種である短機関銃は集弾率が高く、余り弾がばらまかれないのが特徴だ。正確に頭に狙いを定め、一体いったいと仕留めていく。地中から這い出てくるナチゾンビも居たが、彼女の正確な射撃の前では的でしかなかった。ざっと十三人編成の分隊を二つ分片付けたところで、ナチゾンビとは違う声が聞こえた。

 

「新手かしら?」

 

 新たな敵が来ることを察したマリは、弾切れのMP40を捨て、Stg44に切り替えて備えた。

 その数秒後に、胸の心臓を光らせた血で真っ赤の骸骨の集団が霧の中から姿を現した。歩き方はナチゾンビの筋肉が腐ったような動きではなく、奇妙な歩き方であったが、彼女を殺しに来ていることには変わりない。直ぐにマリは頭部に向けて銃弾を撃ち込むが、貫通するだけで無意味であった。

 

「効かない!?」

 

 弾が通じない事に驚いたマリは、後ろへ下がってありとあらゆる場所へ銃弾を撃ち込んだ。光っている心臓に撃ち込んでみると、骸骨はバラバラになる。どうやら胸の中央に光っている心臓が動力源らしい。

 

「弱点晒してるとか、ウケるんですけど」

 

 そう弱点を晒している相手を貶した後、向かってくる骸骨の集団に光っている心臓へ向けて銃弾を撃ち込んだ。

 弾倉一つ分を使い果たせば、敵は呆気なく全滅した。霧が晴れて次なる場所への道が開けた後、マリはそちらの方向へと進む。向かっている先に砲声と銃声が連続して聞こえたので、気になって近付いてみると、T-34/85中戦車が随伴歩兵と一緒に多数のゾンビ相手に奮闘している公園であった。

 

「結構生きてるわね」

 

 影から一両の戦車と数名の随伴歩兵の奮闘ぶりを眺めていると、身体中に爆薬を巻き付け、額にハーケンクロイツの鉢巻きを付けたナチゾンビが、叫び声を上げながら全力疾走しながら戦車と随伴歩兵に近付く。

 

「”カミカゼゾンビ”だ!!」

 

「撃ち殺せ!!」

 

 随伴歩兵からの知らせに、DShk38重機関銃を撃っていた戦車長は直ぐにカミカゼゾンビを撃ち殺すよう命じるが、余りにもナチゾンビの数が多すぎ、一体を撃ち漏らしてしまう。

 戦車に取り憑いた一体は、手榴弾を口に咥えて数秒後に爆発した。身体中に巻き付けていた爆薬の数からして、十分にT-34を吹き飛ばせるほどの量であり、戦車を随伴歩兵諸共木っ端微塵に吹き飛ばした。これを見ていたマリは、カミカゼゾンビを最優先に撃ち殺すことにする。

 

「身体中に爆薬を巻いている奴を最優先に仕留めなきゃ」

 

 そう自分の中で決めつつ、身を隠している場所から飛び出し、進路の邪魔となるナチゾンビを蹴散らしながら進んだ。

 

「コンタァァァクゥゥゥ!!」

 

「来た!」

 

 何処からともなく叫び声が聞こえ、カミカゼゾンビが全力疾走で叫びながらマリに向かってきた。直ぐに彼女はカミカゼゾンビの頭に照準が定まり次第、引き金を引き、敵を黙らせる。物の数秒後、カミカゼゾンビは周囲のナチゾンビを巻き込んで爆発した。

 残った敵も全て撃ち殺せば、次のセーフハウスへと入り、弾の補充と銃の整備を行う。

 喉を潤すことや用を足すことも忘れずに済ませれば、セーフハウスを出て、何かあるかと思い、次なる目的地とされる教会と向かう。

 

「あそこが教会ね。何かあるかしら?」

 

 教会近くまで辿り着いたマリは、教会へと向かおうとしたが、道路に転がっている背中に小さな風穴を開けたドイツ兵の死体と、胸に穴を開けた女ソ連兵の死体を見て、何かあると思って近くにある馬小屋の方へ身を隠す。

 

「この死体…狙撃されてる…狂った馬鹿でも居るのかしら?」

 

 地面に横たえている死体が狙撃を受けた物と判断し、手鏡を使って教会の方を見てみると、背面にガスマスクと深緑色のコートに左腕にナチスの腕章を付けた人間が屋根の上にいた。手には狙撃用眼鏡を付けたGew43半自動小銃が握られており、ガスマスクから見せる眼鏡から得物を探していた。

 

「なにあの格好」

 

 見付からぬよう、死んでいるドイツ兵の持っていたkar98kを棒切れで銃紐に引っ掛けて取り、屋根から撃ち落としてやろうと思い、そこから撃ち込んでみたが、超人的な跳躍力で回避され、狙撃される。

 

「こんなのあり!?」

 

 不気味な笑い声を上げて跳躍する狙撃手に対し、マリは少し動揺して射撃を続けるが、どれも当たらず、次々と避けられ、一方的に狙撃される。

 

「大体読めてきた…」

 

 数分間、その狙撃手と撃ち合っている間に動きが読めたので、死体から剥ぎ取ったクリップで小銃の再装填を終えた後、狙撃手が向かった先に銃弾を撃ち込んだ。弾は吸い込まれるように狙撃の頭に命中し、頭を撃たれた狙撃手は地面へと落下した。マリは落ちた狙撃手に近付き、ガスマスクを取ってみると、顔が焼き爛れたナチゾンビであることに驚いた。

 

「こいつもゾンビなの…!?」

 

 自分を狙撃した人物がナチゾンビであることに驚きつつ、目的地の教会へと向かった。

 教会には戦闘の後なのか、ナチゾンビの手に掛かって息絶えたドイツ兵の屍が幾つかあったが、弾薬は十分にあった。それらの弾薬を手に取り、教会から出ようとしたが、周囲が霧で包まれ、そこからナチゾンビの呻き声が聞こえてくる。

 

「最後の波状攻撃って奴?」

 

 敵の波状攻撃が来ることを察したマリは二階へ上がり、そこから敵に機銃掃射を浴びせるために設置されたMG42に着き、霧の中から出て来るナチゾンビへ向けて銃弾を浴びせる。骸骨やカミカゼゾンビが混じっていたが、MG42の連射力には敵うはずもなく、バラバラになるか、周囲のナチゾンビを巻き込んで爆発する。

 第一派が全滅すれば、第二波が墓地から這い出て教会に押し寄せてきた。再装填を直ぐに終わらせ、機銃掃射を再開する。右肩に痛みと、足下が空薬莢だらけになる頃には、第二波は元の死体かバラバラになっていた。

 人差し指が切れていたので、近くにある医療パックから包帯を取り出し、指に巻いて応急処置を済ます。次は手が汚れると思い、近くで息絶えている黒い革手袋をポケットの中に仕舞っている将校から手袋を拝借し、それを自分の両手に付けた。数回ほど握った後、再び銃を取る。

 

「これで痛くならないかな」

 

 手袋を付けた後、一階へ下りようとしたが、急に連続した銃撃を受けたため、窓を覗いてみる。そこに居たのは、MG42を抱えた2mはある巨体を持つ黒いコートと黒いヘルメットを被ったナチゾンビだ。銃身を熱くしないよう、数発ほどに引き金から指を離して撃ってくる。

 

「新手!?」

 

 直ぐにマリは頭部に向けて数発ほど撃ち込んだが、相手は怯むだけで機関銃を撃ちながら近付いてくる。

 

「もう、なんなのよ!!」

 

 頭を撃っても死なない巨体のゾンビに、マリはかなり苛立っていた。手榴弾を数個ほど投げ込んでみたが、相手はコートの中に鉄板でも仕込んでいるのか、少々怯みながらも丸太のように太い脚を緩めず、機関銃を撃つのを止めない。攻撃を受けたときに上げる叫び声からして痛覚はあるようだが、ゾンビなので余り効かないようだ。

 あいつを倒さないと、前には進まない。

 そう思い、マリは立て掛けてある二連装の散弾銃を予備弾薬と共に取り、向かってくる巨体ナチゾンビに立ち向かった。わざわざ出て来てくれた得物に、巨体ナチゾンビは抱えているMG42の掃射を浴びせようとする。それに対しマリは、頭に二発の散弾を浴びせ、相手を怯ませる。被っていたヘルメットが飛び、巨体ナチゾンビは頭を抱えて悶え苦しむ。

 その隙にマリは散弾銃の再装填を終え、銃口を頭に突き付けて引き金を引いた。

 

「これで!」

 

 彼女の決め台詞と共に散弾銃の引き金が引かれ、巨体ナチゾンビの大きな頭を木っ端微塵に吹き飛ばした。頭が無くなった巨体は大きな音を立てて倒れる。これにマリは数滴ほど顔に返り血を浴びたが、ポケットから取り出したハンカチで拭き取り、そのハンカチを捨てる。

 

「さて、あそこにあるトラックで…」

 

 霧が晴れたので、道路にあるトラックへ乗ろうと向かったが、何処からともなく現れたドイツ兵達に奪われてしまう。

 

「ま、待って!」

 

 トラックへ乗り込むドイツ兵達をマリは呼び止めるが、彼らには声は届かない。

 

急げ(シュネル)! 奴が居ない間に!!」

 

「誰だか知らんが助かったぜ!!」

 

 そう驚異的な敵を排除してくれたマリに礼を言わずに、ドイツ兵達はエンジンを吹かせて何処かへ去っていった。

 

「もう! 何よ!!」

 

 置いていかれて不機嫌となったマリはその場へ座り込み、八つ当たりするように被っていた制帽を地面へ叩き付けた。それからポケットからビスケットが入った箱を取り出し、一枚ほど口に入れて食べていると、馬の鳴き声が耳に入った。ビスケットを仕舞い、制帽を被り直して、馬の鳴き声がした方向へ視線を向ける。

 

「馬?」

 

 馬小屋の方へ向かってみると、そこには一頭の白馬が鞍を付けたまま主の帰りを待っていた。

 

「あら…こんな地獄になっても主人の帰りを待ってるのね」

 

 白馬を見付けたマリは、柵を外して白馬を外へ出した。それから馬に乗り込み、手綱を握った。

 

「さて、ベルリンへ集まれとか言ってたから、ベルリンにでも行こうかしら」

 

 馬に乗ってから地図とコンパスを取り出し、自分の場所と方角を確認した後、それらを仕舞ってから手綱を握り、馬でベルリンへと向かった。




原作では、暴徒と化したソ連兵は出て来ません。この二次元作のオリジナル要素です。
アメリカ軍の将兵も、暴徒となる予定です。


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死者の帝都に集う者達

 マリが白馬でベルリンへと向かっている最中、バウアー等が率いる黒騎士中隊とユート率いるシェイファー・ハウンドは、ベルリンの近くまで来ていた。

 

「ベルリンまで後900mです!」

 

 ケッテンクラートで先行していたマイタ・カドゥワン親衛隊曹長からの知らせに、ユートはキューボラから上半身を出して、双眼鏡を覗いてベルリンの惨状を確認した。

 

「酷い有様だ…まるでこの世の地獄を見ているようだ…」

 

 双眼鏡から見える街灯に酷く損壊した死体が多数吊されているのを見て、ユートは顔を真っ青にする。

 それから、先行しているマイタからベルリンから脱出する集団があるとの報告を受ける。

 

『ベルリンより脱出する集団を確認。これは、ソ連赤軍…!? T-34/85中戦車九両、IS-2重戦車三両、SU-100駆逐自走砲五両、ISU-152自走砲二両、BA-64装甲車二両、他トラック数台を確認。歩兵の数は二個中隊ほど』

 

「それほどの数が脱出してきているのか…」

 

 約一個大隊分の戦力がベルリンより脱出してきたことを知ったユートがそれを口にすれば、それを聞いていたバウアーは不吉なことを言う。

 

『もし死人共が居なくて戦場なら、俺達は今頃奴等の餌食だ』

 

「じょ、冗談は止してくださいよ…」

 

『少し不味かったか? 気を緩めようとしたんだが』

 

「あはは…」

 

 そんなバウアーの悪ふざけに、ユートは苦笑いした。

 こんな状況下なので、敵であるソ連赤軍と協力を申し出ようとユートは提案するが、バウアーを含めるカヤ達の反対に遭う。

 

『こんな状況下だ、彼らと協力できるかも知れない。直ぐに…』

 

「敵と協力する? 流石はお優しい隊長様だ、そんな脳天気なことが言えるとはな」

 

『私もカヤと同様に反対です。この惨事を引き起こしたのは総統閣下(マインフィーラー)が引き起こした物。撃たれるのがオチです』

 

『敵と協力か。しかしイワン共はそう易々と我々を信じないぞ。マイタ曹長が言うとおり、122㎜の戦車砲を撃たれるかもしれん』

 

「そ、そんな…」

 

 バウアー、カヤ、マイタからの反対に、これ以上の犠牲者を出したくないユートは少し気を落とす。

 そんな彼を更に落胆させるように、前方のソ連赤軍がマイタとアイマ・トュヨウシュ親衛隊一等兵が乗るケッテンクラートに攻撃した。

 

『キャッ! ほら言ったとおりに!!』

 

「そうだ! 奴等と協力する事態が無駄なんだ!!」

 

 近くに着弾した砲弾から身を守るために、乗っている歩兵の展開を命じてから車内へと戻ったカヤは、ユートの提案が無意味であることを口にする。しかしユートは諦めず、無線で敵でないことを告げるよう指示する。

 

『まだ間に合うはずだ! ロシア語の分かる物は直ぐに…』

 

「いや遅い! 連中はやる気だ!!」

 

 ユートの願いも虚しく、ソ連赤軍は彼らに砲弾を浴びせた。

 

『一名死亡!』

 

「クッ、やるしかないのか…!」

 

『そうだ小隊長! 奴等がやる気ならこちらもやらねばならん!! 目標、1時方向の敵装甲車、撃て!』

 

 犠牲者の知らせに、ユートはソ連赤軍と戦うしかないと悟った。

 それに賛成してか、カヤはユートを激励しながら指示を出した。カヤが乗るⅢ号突撃砲の短砲身が火を噴き、直ぐに後ろへ下がろうとする装甲車を吹き飛ばす。

 

「カヤ曹長の言うとおりだ! 奴等が先に戦端を開いた! 情けは無用だ! 目標600m、長砲身のT-34! 弾種徹甲弾、装填が終わり次第、照準して直ちに発射!!」

 

 バウアーもそれに応じて、自分等をドイツ中にいるナチゾンビと認識して襲ってきたソ連赤軍に対し、情け容赦なく自身が乗るティーガーⅡ重戦車の71口径88㎜対戦車砲が火を噴き、標的にしたソ連戦車を葬り去る。

 それに続き、クルツのシュルツの乗るパンター戦車も、手近なソ連戦車に対して主砲を浴びせ始めた。

 

「目標、12時のT-34/85、距離500m! 弾種徹甲弾!」

 

 ユートが乗るティーガーⅠ重戦車も、照準をソ連戦車に向けた。女性の装填手が徹甲弾を装填すれば、砲手がユートの定めたT-34中戦車に向けて照準を合わせる。それが終わったことを、戦車長であり、部隊長であるユートに知らせた。

 

「徹甲弾、装填完了!」

 

「照準完了!」

 

「…撃て!」

 

 報告の後に、ユートは迷いを断ち切って指示を飛ばした。それに応じ、砲手は躊躇いも無しに発射ペダルを踏み込み、目標へ向けて砲弾を撃ち込む。発射された砲弾は目標にしたソ連戦車に命中し、見事燃え盛る鉄塊に変えた。

 燃え盛る戦車から敵の戦車兵達が悲鳴を上げながら、火達磨になって飛び出してくる。

 

「ワァァァ!! 熱い! 熱い!!」

 

「助けてくれぇぇぇ!!」

 

 悲痛な彼らの悲鳴が戦場に響き渡るが、誰もが戦闘に夢中になって助けてくれなどしなかった。ある者は苦しみに耐えかねて、腰のホルスターから拳銃を引き抜き、自決を図る。他の者達は火達磨になりながら死を待つだけである。

 数も火力もバウアーやユート達よりも上なソ連赤軍である筈だが、彼らを纏める指揮官がこの惨状の所為で冷静さを欠いているためか、無茶な指示ばかりを飛ばして混乱を高めるだけであった。

 

「クソッタレが! なんで死人まみれなベルリンから折角抜け出したのに、ドイツ野郎共と戦車戦をせにゃあならんのだ!!」

 

 そんな指揮官に仕える運のない一両のT-34/85中戦車の戦車長であるシュガポフは、車内に居る戦友達に自分等だけでも逃げることを提案する。

 

「おい、操縦士! 右に突っ切れ! 俺達だけでも祖国へ帰るぞ!」

 

「でもそんな事したら、督戦隊に…」

 

「馬鹿野郎! アーアー言ってる奴等が戦車なんぞ動かせるか!! 第一なんで死人が乗ってるとかほざきやがるんだ! あの馬鹿隊長は!!」

 

 反対する操縦士に対し、シュガポフは彼を蹴って、自分の上官に対して悪態をつく。そんなシュガポフに、砲手は異論を唱えた。

 

「機関銃とか狙撃銃を持っている死人が居たぞ。もしかすれば戦車や航空機なんか…」

 

 言い終える前にシュガポフは砲手の頭に拳骨を下ろした。

 

「そこまでの知能が死人共にあったら、ヨーロッパは今頃連中の支配下だ!」

 

「おめぇ、字も読めないクセに、頭良いな」

 

 シュガポフが尤もな事を言えば、隣にいる装填手が無礼な事を言ったため、彼の顔面に向けて拳骨を食らわせた。

 

「イタタ、ナンデだよ…」

 

「一言余計だ。さっさとズラかるぞ!」

 

 装填手に拳骨を食らわせた後、シュガポフ達は自分達だけ何処へと逃げようとした。

だがそんなシュガポフ達を逃がすはずもなく、IS-2スターリン重戦車に乗る大尉は122㎜の大口径の主砲を彼が乗る戦車に向けるよう指示を出す。

 

「敵前逃亡者だ! 砲手、9時の方向の戦車に照準!」

 

「しかし、それでは貴重な徹甲弾が…」

 

 そんな戦車長に対し、砲手は砲弾を無駄に使うことを嫌ってか、異議を唱える。

 

「馬鹿者! 敵前逃亡者をみすみす逃すつもりか!?」

 

「りょ、了解しました…」

 

 異議を唱える部下に対して、上官は拳銃の銃口で無理に従わせた。トカレフ自動拳銃を向けられた砲手は、渋々とシュガポフ達が乗る戦車へ向け、大口径の長砲身の砲口を向ける。

 

「発射!」

 

照準が定まり次第、砲手は発射ペダルを踏み込み、その巨砲を呻らせる。発射された砲弾は命中とまでは行かなくとも近くに着弾し、シュガポフ達が乗る戦車を横転させた。これを受けたシュガポフ達は、直ぐに車内からの脱出を図る。

 

「き、機銃が来るぞ! 急げぇ!!」

 

 次は機銃による掃射が来るため、即刻立ち上がって逃げようとするシュガポフ達であったが、自分達を狙ったIS-2スターリン重戦車は、バウアーが乗るティーガーⅡの88㎜の餌食となり、黒煙を上げる残骸となる。他の車両も同様に、燃え盛る残骸と化しつつあった。

 

「総員下車! 行け(ロース)!!」

 

 歩兵班長であるリィア・ハイロハッシュ親衛隊上級軍曹の指示で、Sd kfz251兵員輸送車から兵員室から飛び出し、慌てふためくソ連軍の歩兵に向けて容赦無しに銃撃を加える。

 

「お、女ァ!?」

 

「何をやっている!? 反撃…」

 

 混乱する兵士達を将校が統率しようとするが、部隊の狙撃兵であるティアナ・カーディー親衛隊上等兵による狙撃で頭を撃ち抜かれる。

 

「多数の敵には、士官と下士官、古参兵から倒すべしってね!」

 

 味方側が少数の際に、大多数の敵の対処法を口にすれば、次々と将校や下士官、古参兵の頭部を狙撃していく。

 

「敵戦闘車両は既に壊滅状態だ、我々はお嬢さん方の支援に向かうぞ! 戦車前進(パンツァーフォー)!」

 

 ある程度敵の戦車の数を減らしたので、クルツはカヤと同じく歩兵狩りに転じる。

 前面や砲塔に搭載されているMG34機銃、榴弾を慌てふためくソ連兵等に撃ち込み、彼らの命を容赦なく奪っていく。敵兵の何人かは手を挙げているが、戦闘の影響で興奮状態となっている彼女等に撃たれるだけであった。

 

「い、嫌だ…! 死にたくない!!」

 

 リィアと突撃兵のアイヒ・ミヅゥ親衛隊伍長、機関銃手のリオ・シャタニ親衛隊二等兵、ティアナの奮戦により、敵は瓦解し始めた。トドメを刺すように、桂佳織(かつら・かおり)大日本帝国陸軍曹長の日本刀裁きと、葛野麻里安(かずの・まりあ)軍曹と他シェイファー・ハウンドの兵員による猛攻で、ソ連軍の大隊は壊滅状態となる。

 やがてこれ以上の抵抗は無駄と判断してか、生き残ったソ連兵達は両手を挙げ、黒騎士とシェイファー・ハウンドの前に降伏した。敵戦車を一両撃破したシュルツが、それをバウアーやユートに知らせる。

 

「一両撃破! ン? 大尉にSS上級曹長、敵さんは投降するようです」

 

『投降? よし、士官を連れてこい。ベルリンで何が起こっているのか知りたい』

 

 捕虜を得たバウアー達は、これから向かうベルリンで何が起こっているのか知るべく、ソ連赤軍の士官に対して尋問を行う。

 ユートやカヤなどのシェイファー・ハウンドの幹部クラスを除く隊員達が捕虜を見張る中、バウアー達は敵の士官にベルリンがどうなっているか問うた。

 

「よしイワン、ベルリンで一体何が起こっているんだ?」

 

「地獄だ、地獄だよ大尉。死人が蘇って生者を襲っている」

 

 バウアーからの問いに対し、知性の高い士官は視線を下に向けながら答えた。

 

「そんなことは分かってる。俺が聞いているのはベルリンで何が起こっているのかだ」

 

「ベルリンで何が起こっているのかって? 歩いている死体で溢れかえっているさ。生き残った同志が抵抗しているようだが、ベルリン中に死体を動かない死体へ戻すのは無理だろう。数の差で押し切れられて終わりだ。それに戦闘の影響で出た瓦礫で道が幾つか封鎖され、戦車が通れない狭い道が多い。戦車で行くには迂回しなければならないだろう」

 

「ベルリンは歩く死人でいっぱいな上に行動も限られるか…」

 

 士官からベルリンの情報を得たバウアーは、顎に手を添えて自分の脳内にあるベルリンの地図を思い浮かべ、自分等の戦車が通れる道を模索した。

 そんなバウアーに対し、彼等の正気を疑う士官は本当に行くのかどうかを問う。

 

「大尉、正気を疑うが、死者で溢れかえった君の首都へ行くのか? あれはただ人間でどうにかなる問題ではない。現実ではありえないことが起こりすぎている。そんな地獄を引き起こした君の総統であるヒトラーや国防軍の総司令官であるカイテルを救出に向かうのか? どうなんだ?」

 

「少佐、俺達は戦友や民間人を救出に向かうのだ。総統(フューラー)やカイテル元帥であろうとな」

 

 士官の問いに対してそうバウアーは答えれば、シェイファー・ハウンドの隊員等に捕虜達を開放するよう指示する。

 

「ユート君、捕虜達を開放したまえ。殺害することなど許さんぞ」

 

了解です(ヤヴォール)指揮官殿(ヘル・コマンダ)!」

 

 ユートはそれに応じて捕虜を解放するよう部下たちに命じるが、カヤは反対であり、直ぐに捕虜を全員銃殺刑にするようバウアーに乞う。

 

「自分は反対です国防軍大尉(ハプトマン)殿。こいつ等はいつ後ろから撃ってくるか分かりません」

 

「カヤ! 君って奴は!!」

 

 捕虜にワルサーP38の銃口を向けるカヤに対し、ユートは怒り心頭に怒鳴りつける。

 そんな彼女をバウアーは目の前に立ち、捕虜の銃殺刑が今の状況で無意味なことであることを告げる。

 

「クロイツ曹長、君のやろうとしていることは無意味で弾の無駄だ。それにイワン共をここで殺したところで今の状況が何ら変わることもない。直ぐに捕虜達を開放するんだ」

 

「チッ、了解しました…」

 

「それで良い、今は戦争している場合ではないからな。さぁ、イワン共! お前らの祖国へ帰れ!! さっさと帰らんと、銃弾をケツにぶち込むぞ!!」

 

 舌打ちしながら拳銃を腰のホルスターに戻したカヤを見て、バウアーは笑顔で彼女の行動を称賛した後、解放された捕虜達に自分達の故郷へ帰るよう怒鳴った。

 捕虜達が完全に自分達の視界へ消えれば、バウアー達は各々の車両に搭乗し、危険が待ち受けるベルリンへと向かう。

 

「死人共から出来るだけ民間人と戦友達を救うぞ! 戦車前進(パンツァー・フォー)!!」

 

 キューボラから上半身を出しながらバウアーが言えば、マイタが乗る走行偵察車を先頭にしてベルリンへと入った。

 

 

 

「シュタイナーのクソッタレ目、弾薬は履いて捨てるほどあるのに、俺達をゾンビまみれの場所に送り込みやがって」

 

「シュルツの奴もだぜ。あの野郎、知ってて俺達をこんな所へ行かせたんだ。戻ったらぶっ殺してやる」

 

 バウアー達やマリ、カールが向かっているベルリンにて、二人のドイツ軍の戦車兵が弾薬箱を背負って悪態をついていた。

 身長がやや低いほうがアッシュ上等兵と言い、大柄の方がコワルスキー伍長である。

 二人ともMP40短機関銃とスコップで武装し、原隊が居る場所へと帰っていた。周囲は瓦礫とナチゾンビに殺されたドイツ兵と市民、ソ連兵の無残な死体が転がっている。途中、アッシュは鉄十字勲章を付けたまま死んでいる国防軍の将校を見つけ、彼の遺体からその勲章を抜き取る。それを見ていたコワルスキーが咎める。

 

「おいアッシュ、幾ら死体と言ってもな」

 

「ウルセェな。ちょっとした俺たちの褒美だよ、褒美」

 

「ブルクハイトの奴に見られないようにしろよ」

 

「分かってるって」

 

 ブルクハイトと呼ばれる上官には絶対に見せないように告げた後、二人は死体から剥ぎ取った目当ての品を懐に忍ばせ、再び足を動かした。

 途中、ナチゾンビが視界に入ったため、二人は足を止めて近くの身を隠せる場所へと身を潜めた。

 

「アッシュ、相手は一体だ。なんで隠れる必要がある?」

 

「あのゾンビが叫べば他の奴らを呼ばれちまうだろ? 少しは頭を使えよ」

 

「このクソッタレ、今度やったらぶっ殺してやるぞ」

 

「そ、そいつは怖い。今度から気を付けるさ」

 

 訳を問えば、アッシュが頭に指をあてながら自分を馬鹿にしてきたため、コワルスキーはドスの効いた声で威圧すれば、直ぐに彼は謝罪する。

 そんなやり取りの後、アッシュは近くに落ちている破片を拾い上げ、それをナチゾンビの近くにある場所へと投げた。投げた破片は自分等の視界から外れる場所へと当たり、それに誘導されるように、ナチゾンビはそこへ向かう。

 

「行くぞ」

 

 近くには聞こえないくらいの声量でコワルスキーに告げた後、アッシュは自分の原隊がある場所へと向かった。

 しかしコワルスキーは、アッシュの後へは続かず、近くにある角材を拾い上げ、自分に背を向けているナチゾンビの頭にそれを力一杯振り下ろした。

 ナチゾンビの頭はコワルスキーの腕力もあって簡単にペシャンコになり、動かない死体に戻ったナチゾンビは瓦礫の上に倒れこむ。

 

「おい、なにやってんだ」

 

「何って、邪魔な奴を死体に戻してやったのさ」

 

「次も余計な事すんなよ」

 

「ヘヘヘ、分かってるって」

 

 今回のようなことを次回もしないように釘を刺した後、アッシュはコワルスキーを連れて拠点へと戻った。

 そんな二人の姿を、ベルリンへ到着したマリが目撃していた。

 

「死体じゃないドイツ兵? あいつ等が帰る場所に何かありそうね」

 

 そう考えたマリは白馬から降り、尻を叩いて安全な場所まで向かわせれば、二人の後を尾行する。

 アッシュとコワルスキーは尾行されていることも気付かず、ただ彼女に自分等の拠点まで案内している。尾行しているマリはナチゾンビを避けつつ、二人の後を追跡する。

 数mほど進んだところで、アッシュとコワルスキーの姿は、連合国の空襲やソ連赤軍の砲撃でボロボロになった高射砲塔の中へと消えた。直ぐにマリは双眼鏡を取り出し、高射砲塔の様子を探る。バリケードで張り巡らされた道以外にはナチゾンビがいっぱいであり、それに向けてMG34やMG42機関銃の銃口が向けられ、機関砲や対空砲まで向けられている。

 

「まるで要塞ね」

 

 双眼鏡に映るありのままの言葉を吐けば、マリはアッシュとコワルスキーが辿ったと思われる安全な道へと入り、そこから高射砲塔へと向かった。

 ライフルや突撃銃などを持った見張りが何名か目を光らせているが、それは群がってくるナチゾンビであり、自分等の国の武装組織である武装親衛隊の制服を着た女には目もくれない。たまに煙草を吹かせるか、ナチゾンビに向けて石や空き缶を投げ付けるだけである。見張りの目を掻い潜りつつ、マリは高射砲塔の上階へと上がれる梯子を見つければ、迷い無しにそこへ上がる。

 上がりきる前に、目線だけを出して周囲に誰もいないことを確認すれば、梯子を上りきって二階へと侵入した。周囲に銃口を向けて再度確認したのち、屋内へと続く通路へ入ろうとする。

 

「動くな!」

 

「ちょっと…何所から…?」

 

 入る前に、何所からともなく現れた迷彩服の少年少女と、制帽と迷彩服を着た男に取り囲まれた。少年少女はMP28やMP40、MP3008などの短機関銃とkar98k小銃で武装し、正規の武装親衛隊の士官である男はStg44などを武装していた。

 撃たれても死なないマリであるが、服を滅茶苦茶にされたくない理由で彼らの指示に従って手を上に挙げた。

 銃口を突き付けられながら高射砲塔内へと案内される。

屋内では、この惨状を生き延びた市民とドイツ兵、ソ連兵の姿があちこちに見られた。隅の方で双方の震える将兵の手には銃が常に握られ、市民は家族や身内で囲んでずっとこの地獄が終わることを願っている。中には幼い子供や赤子の姿まで見られた。

その中を、女性が着ることはないであろう武装親衛隊の制服を纏ったマリが通りかかった為、各軍のドイツ将兵や市民が物珍しく見ている。

 

「ねぇ、ここには何人居るの?」

 

「えっと、一万…」

 

「喋るな。さっさと歩け」

 

 自分の背後からMP3008短機関銃を握る少女兵に、高射砲塔に立て籠もっている人数を問い掛けたマリであったが、武装親衛隊の士官に黙らされる。

 通路を歩かされること数分、ここに立て籠もる生存者達のリーダーが居る司令室へと案内された。司令室には通信機に座る男女共の通信兵達が、何所かもしれぬ場所へ助けを求めて手当たり次第に掛けまくっている。他にはベルリンの地図を見て、脱出路を確認する将校や、武器弾薬、食料や燃料、物資の残りをノートに記入している将校も見えた。

 

「アッシュ、コワルスキー、お前ら、尾行されていることに気付かなかったのか?」

 

「いや、まさか…武装SSの制服を着た女に尾行されているなんて…思わなかったです…」

 

「俺達も訳が分からないんだ、頼むぜブルクハイト」

 

 先程マリが尾行していたアッシュとコワルスキーが、上官である丸眼鏡を掛けたブルクハイトに叱られている様子が見える。

 それを気にすることなく、マリはここの指揮官で生存者達のリーダーである少しばかり若いドイツ国防軍将官の前に突き出された。

 

「この女が例の侵入者です」

 

「ご苦労、ハンス親衛隊中尉(オーバーシュトルムフューラー)。下がってよし」

 

はい(ヤー)!」

 

 階級がさらに上のため、マリをここまで連行してきたハンスと呼ばれる親衛隊中尉は直立不動状態を取り、ナチス式の敬礼をしてから少年少女らと共に下がった。

 

「さて、お嬢さん(フロイライン)。君はこの高射砲塔に何用かね? 安全な場所を求めて来たのかな?」

 

 彼らが去ったあと、将官は肘を机の上につけながらマリに高射砲塔に侵入した理由を問うた。

 その問いにマリが何も答えなかった為、名乗っていないことを無礼だと思って名乗り始める。

 

「おっと、これは失礼した。私はコルネリウス・フォン・マイヤーだ。元歩兵師団の師団長で、今はここの指揮官をやっている。それで、君の名前は?」

 

「マリ」

 

「マリか…余り聞きなれない名前だ。北欧かフランス出身か?」

 

 名を名乗った将官に、マリは自分の名前だけを答え、追加の問いには答えなかった。

 マリの名前がわかったところでコルネリウスは、彼女が答えなかった最初の問いを再び問い掛ける。

 

「最初の問いだが、ここへ来たのは安全な場所を求めて?」

 

「そんなところ」

 

「おい、はっきり答えろ!」

 

「よせ、失礼だぞ。国防軍軍曹(ウンターオフェツェーア)

 

「や、はい(ヤー)…」

 

 曖昧な答えを出したマリに対し、苛立った下士官が手に持ったMP41短機関銃の銃口を向ける。いきなり銃口を向ける下士官に対し、余計なことをしないようコルネリウスが注意すれば、三十代半ばの男は大人しく銃口を下げ、後ろへ下がった。下士官が下がったところで、マリにベルリンに何をしに来たのかを問う。

 

「失礼した。次の質問だが、このベルリンに何をしに来た? 君は″カール・フェアバーン″と同じく巻き込まれた連合国(アーミー)の工作員かね?」

 

 その問いに対し、マリは沈黙のままであった。

 数秒間返答を待つコルネリウスであったが、答えは期待できないとして次の問いを掛けようとしたとき、鉄帽を被った伝令がこの司令室に飛び入ってきた。

 

国防軍少将(ゲネラール・マヨーア)閣下! 味方です! 味方の装甲部隊がこちらに向かっています!!」

 

「なに! 助けか!?」

 

「分かりません! 兎に角ご確認を!」

 

「よし、君はここで待っていたまえ」

 

 そう言い残し、マリを残してコルネリウスはやってきた味方の装甲部隊の確認へと向かった。

 

「おい! 何所へ行く!?」

 

 だがマリが大人しく従うはずもなく、監視として残した下士官を振り解き、ほかの将兵らが向かっている場所まで向かう。

 

「誰か止めてくれ!」

 

「よし、行こうぜコワルスキー。汚名返上の時だ」

 

「おうよ!」

 

 下士官の声に、アッシュとコワルスキーは汚名を返上すべく、マリの後を追った。

 そして監視塔へ着いたマリは、没収されていなかった双眼鏡を取り出し、銃声がする方を覗いた。

 

「誰だこの女?」

 

「シェイファー・ハウンドって言う女だらけのSS部隊の将校じゃないのか?」

 

 マリが入ってきたことに気付いた各ドイツ軍の将校達が彼女の姿を見て言う中、リーダーであるコルネリウスは驚く。

 

「き、君は…!?」

 

 頭と首が隠れるほど帽子とコートを深く着込んだ寡黙な将校が前に出て、腰のホルスターからワルサーP38自動拳銃を抜き、マリのこめかみに銃口を突き付けた。

 

「女、ここで何をしている?」

 

 銃口をこめかみに突き付けられながらも、マリは双眼鏡から目を離すことはなかった。

 寡黙な将校は銃口を離さず、帽子の鍔から見える鋭い目付きで睨み続け続け、ずっと付き続けていたが、海軍の将校の叫びで気を取られた。

 

「見えました閣下! ティーガーⅠとティーガーⅡが一両づつ、パンターにⅢ号突撃砲二両! 装甲兵員輸送車と装甲偵察車です! 先遣隊でしょうか」

 

 海軍将校からの知らせに、コルネリウスは後続の部隊が見えるかどうかを問う。

 ちなみにこの高射砲塔に向かっている部隊は、バウアーの黒騎士中隊とシェイファー・ハウンドの連合部隊だ。

 

「一個戦車小隊程か…後続の部隊は?」

 

「確認できません…」

 

 確認ができないと答えた後、海軍将校は固定された双眼鏡へ視線を戻した。コルネリウスも双眼鏡を取り出し、自分もその方向を覗いた。遠くから見た彼らの様子は、ナチゾンビに襲われているようであり、搭載機銃や小火器を持って近付いてくるナチゾンビを振り払おうとしていた。

 

「どうやら歩く死人達に襲われているようだ。援護射撃を!」

 

了解(ヤヴォール)!」

 

 バウアー達をここまで誘導するため、コルネリウスは部下達に援護射撃をするよう命じた。

 

「狙撃銃を出来るだけ持って来い! MG34機関銃もだ!」

 

急げ(シュネル)!」

 

 指示の後で将兵達が慌しく動き回り、狙撃用眼鏡が付いた小銃や自動小銃を持った狙撃兵やMG34機関銃を持った機関銃手達が監視塔に上がってくる。

 

「おっ、これはシュタイナー少佐殿!」

 

「どうもありがとうございます!」

 

 コルネリウスが指示を出した後に、アッシュとコワルスキーが到着し、先に件の人物を捕らえた自分達の上官であるシュタイナーと呼ばれた寡黙の将校に向けてお礼の敬礼を向ける。直ぐにでも拘束しようとしたが、マリは銃口を突き付けられているにも関わらず、双眼鏡を仕舞って近くを通り掛かった狙撃兵から狙撃銃を奪い取る。

 

「あっ、おい!」

 

「待て。あれ程の自信…何かあるな」

 

「は、はぁ?」

 

 狙撃銃を取られた狙撃兵が取り返そうとしたが、何かを思い付いたシュタイナーに止められた。

 襲われているバウアー達がよく見える位置まで着いたマリは、kar98k狙撃銃の被筒を柵の上に載せ、狙撃用眼鏡を覗いた。他の狙撃兵や機関銃手達がナチゾンビに対して狙撃や機銃掃射を行う中、マリは脅威となる爆薬を体中に巻き付けたナチゾンビ、カミカゼゾンビの狙撃を行う。頭を狙撃されたカミカゼゾンビは倒れた数秒後に他のナチゾンビを巻き込んで爆発した。

真っ赤な血煙が上がる中、マリは黙々と狙撃を続け、バウアー達の突破口を開いていく。弾が切れれば、予備の弾薬を持っている狙撃兵に無言で弾を寄越すよう告げる。それに対し怒りを覚える狙撃兵であったが、シュタイナーの考えを理解したアッシュとコワルスキーは彼を抑え付け、無理やり弾薬を剥ぎ取る。

 

「ほれ、弾薬だ」

 

「ありがと」

 

 コワルスキーが狙撃兵を抑えている間に、アッシュが抜き取った弾薬を取り、マリは一つ一つ弾を小銃へ込めた。五発目を入れてからボルトを前進させて弾を薬室へ送り込めば、狙撃を再開する。一体、また一体と仕留めていくうちに、高射砲塔への突破口が開き、バウアー達は全速力で目的の場所を目指した。

 

「よし、後は自力で来れるな」

 

「では、彼らの回収を…」

 

 後は自力で来られると判断したコルネリウスが言えば、将校がバウアー達の回収に向かおうと言った途端に狙撃された。

 

「狙撃だ!」

 

「イワンの狙撃兵か!?」

 

 将校が狙撃を受けて床に倒れこんだとたんに、各将兵は狙撃から身を守るために床に伏せた。ソ連軍の敗残兵による狙撃と思った兵士が居たが、不気味な笑い声を耳にして人らしき影が飛び回っているのを見たシュタイナーはそれを否定する。

 

「いや、狙撃銃を持った死人だ」

 

「狙撃だけにしてもらいたいぜ」

 

「全くだ」

 

 シュタイナーからの答えに、アッシュが飛び回るスナイパーゾンビに悪態を付けば、コワルスキーはそれに同調した。

 スナイパーゾンビによる狙撃が行われる中、マリはスコープに飛び回る標的を捕らえようとするが、あまり照準が定まらない。

 

「ちっ」

 

舌打ちをしたところで状況がどうなることもなく、銃弾がマリの頬を掠める。

次は胸を撃ち抜かれると思って遮蔽物に身を隠した。チャンスを伺って頭を出してみようかと思ったが、頭を遮蔽物から出した時にスナイパーゾンビの断末魔が聞こえ、地面へと落下していくのが見えた。何事かと思って辺りを双眼鏡で見渡してみれば、スプリングフィールドM1903A4狙撃銃を構えたカールの姿があった。

 

「あいつは…?」

 

「あぁ、アメリカの工作員兼狙撃手のカール・フェアバーンだ」

 

 カールのことを知らないマリが問えば、コルネリウスは自分等の窮地を救った男の名前を答えた。

 それから数分後にバウアーやユート、カヤ達の黒騎士とシェイファー・ハウンドの連合部隊は高射砲塔に到着し、車両ごと高射砲塔内へと入る。

 カールも高射砲塔へと戻り、自分と同じく外から来た者達と顔を会せることになった。



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蘇りの聖堂

最近、ドグマオンラインにはまって更新できんのや。


「まだこれほどの生存者が居たとはな」

 

 カールの援護で高射砲塔へ入ったバウアーは、そこに逃げ込んだ生存者達を見てやや安心気な声を上げる。

 そんな彼らを歓迎するために、コルネリウスが部下たちと共に出迎えた。

 

「まさかあの有名な黒騎士がベルリンに救出に来るとは…驚きだ。神は我々を見捨てて等いなかった」

 

「はっ、国防軍少将(ゲネラール・マヨーア)殿。遅れて申し訳ございません。我々が早ければ…」

 

 出迎えたコルネリウス達に向け、バウアーは部下とユートやカヤと共に敬礼する。その次に自分達が遅れたことを謝罪した。

 

「なに、気にすることはない。例えこの場に君たちが居たとしても、数時間前の我々と同様、‴奴ら‴に対する対処法など分からず、多大な損害を被っていたことだろう」

 

「確かに。我々がそこに居たとしても、大した対処もできなかったでしょう」

 

「まぁそんなわけだ。イワン共よりも手強い死人共との死闘で疲れている事だろう。食事を用意させる、じっくり休んでくれ。食料はイワン共から奪った分も含めて十ヵ月分はある」

 

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

 謝罪の言葉を述べるバウアーに対し、コルネリウスは気にしないように告げてから、彼らを丁重に出迎えた。

 

「僕たちも行こう」

 

「そんな暇は無いと思うがな」

 

 ユートもバウアー達の後に続いて行こうとしたが、カヤは不満の声を上げる。

 そんなシェイファー・ハウンドの面々に、同じ武装親衛隊に属するハンスがマリのことについて問い掛けて来る。

 

親衛隊上級曹長(ハプトシャールヒューラー)、あの親衛隊中佐(オーバーシュトルムパンヒューラー)の女はシェイファー・ハウンドの所属か? 一般親衛隊に女が居るが、俺たち武装親衛隊のように鉄砲を持って戦う女と言えば、シェイファー・ハウンドぐらいしか思いつかないんだが…」

 

「はぁ? 親衛隊中佐でシェイファー・ハウンド所属…?」

 

「実際に見てみないと分からんな。親衛隊曹長(オーバーシャールヒューラー)の女もついてきてくれ」

 

「分かりました。他のみんなは大尉たちと一緒に休息を」

 

「はーい」

 

 上官に当たる親衛隊中尉であるハンスからの問いに、ユートは首を傾げた。

 自分等よりも遥か上の階級である親衛隊中佐の女が、自分等の隊に居るとは知らない。

 実物を見せるため、ハンスはユートとカヤについてくるように命じた。マイタと佳織もその後へと続く。他のメンバーはバウアー達と共に休息の場へと向かう。

 

「あの女だ。一般親衛隊(アルマゲイネ)の将校用の灰色の制服を着ているが、女物の制服じゃなくて男物だ。本当にお前たちの上官じゃないのか?」

 

「は、はぁ…自分の隊はスコルツェニー親衛隊中佐の駆逐戦隊所属なので…」

 

 実物のマリを見せて再度ハンスは問うたが、ユートは首を横に振って否定した。

次にずっとシェイファー・ハウンドに居るカヤとマイタにも問うも、彼女らも見覚えが無いと答える。

 

「自分もあのような女性士官は見たことがありません」

 

「一応、予備役の者も含めて隊員の顔は全て知っていますが、彼女のことはサッパリです」

 

「経験豊富なカヤ親衛隊曹長も知らないと言う事は…一体誰なんだ、あの女は。人種的には純潔ゲルマン人か、ドイツ人と北欧系のハーフな筈だが…スパイな訳が無いし…」

 

 創設当初から居そうなカヤもマイタも知らないと答えたので、ハンスは顎に手を添えながら首を傾げた。

 それから物の数分後、ユート達も休息を取る事にし、バウアー達と他の面々と食堂で合流した。食事にはビールもシュナップスと言った酒類は飲めなかったが、代わりに豚肉や牛肉の鶏肉と言った肉類があったので、少しは腹の足しとなった。食事を終えてバウアーとユート達はゆっくりとしようとした。

 

「おい、聞いたか? 聖オリバトゥルス教会から通信だ」

 

「なんだって!? あそこはもう終わりだと思ったが…」

 

「どうやら生存者が居たらしい。確かお前の弟があそこに配置されていたな、もしかしたら弟かもしれんぞ」

 

「オットーの奴がか…救出部隊に志願しようかな…」

 

 食堂の前に居る兵士たちの声を耳にしたバウアー達は立ち上がる。

 

「行くか? ユート君」

 

「はい、生存者が居るなら…助けないと…!」

 

 こうして彼らは通信室へと赴いた。通信室にはアッシュとコワルスキー、ブルクハイトにシュタイナーが居た。他には興味本意で来たのか、マリの姿もある。他にはバウアーらを助けたカールの姿もあった。

 連合国の工作員兼狙撃手であるカールの姿を見たカヤは、即座に彼に向けて自動拳銃の銃口を向ける。

 

「何故ここに連合国(アーミー)のスパイが?」

 

 銃口を向けながら近くの将校に問うカヤであったが、コルネリウスが彼女の持つ自動拳銃を握って妨害する。

 

「よせ、カヤ親衛隊曹長。彼は我々の味方でもあり、君らの命の恩人だ」

 

「まさか…このスパイが我々を?」

 

「そうだ。彼が居なければ今頃、君たちは外の歩く死人共の仲間入りを果たしていたことだろう」

 

「アーミーの狙撃手に救われるのは初めてだな。今まではイワンの狙撃手に何度も頭を吹き飛ばされ掛けたが」

 

 カヤの問いにコルネリウスが答えれば、バウアーは初めて連合国の狙撃手に助けられたことを知ってそれを口にする。

 それから全員が集まったのを確認したコルネリウスは、教会に居る生存者救出のための部隊編成に入る。

 

「さて、聖オリバトゥルス教会からの救出要請についてだが、志願者のみとする。普通なら二個中隊程を送りたいが、生憎とここを守るのには一個小隊と囚人部隊が限度だ。無論、一個小隊と囚人部隊程度で死人共の包囲を突破できるとは思えんが…」

 

 一同が集まる司令室にて、余力のある戦力があまりないことをコルネリウスは口にする。

 この高射砲塔には一万人以上の生存者が居るが、兵士は六百人であり、外部に派遣できる戦力は、周りのナチゾンビの数からしてかなり限られている。

 余り余裕がないことを語ったコルネリウスは、目的の教会までの最短ルートを書いた地図をシュタイナーやバウアー達に見えるよう机上に置く。

 

「これが聖オリバトゥルス教会への最短ルートだ。奴らの位置はここから見たあたり少なく見える。だが詳細は不明だ、どこからともなく出て来るかもしれない。まぁ、いつも敵の陣地に進軍するような物だが…」

 

「なに、いつもの事です。敵は待ち伏せている。イワンの対戦車砲陣地(パックフロント)と同じです」

 

 コルネリウスからの説明に、バウアーはいつもの事だと告げる。

 

「あぁ、それもそうだな。航空機でもあれば少しは楽になるんだが…」

 

 バウアーが言った後に、コルネリウスは偵察機が出せないことを嘆いた。

 話を戻し、コルネリウスは救出部隊の編成に取り掛かる。

 

「では、話を戻そう。救出部隊の編成についてだが、ベルリン出身者が多い装甲擲弾兵一個小隊と囚人部隊Zbvで行こうと思う。どちらとも強力な戦力だが、弾薬は無限にあるものではないし、敵は無限の如く沸いて出て来る」

 

 顔を濁らせながらコルネリウスは一旦区切りを付ければ、カールの方を向いて次の言葉を口にする。

 

「そこで、OSSのフェアバーンを同伴させようと思う。不満があれば、他にも志願者を募るが」

 

「アーミーの奴を付けるのですか? 小官は敵国の工作員を指揮下に入れるのは、いささか心配ですが」

 

 カールを救出部隊に加えることに、シュタイナーは異議を唱えた。その提案にカヤも不満な表情を浮かべる。

 

「彼は我々よりベルリンのことに詳しい。先の四十四年のノルマンディーでは、連合国は我々より我が軍の配置図を知っていた。連合国の情報収集率は我が軍より優れている。我々やイワン共よりもベルリンの状況に詳しいだろう」

 

 前年のノルマンディーでの出来事を話しながら、コルネリウスはカールが適任であることを示した。あの戦場に居たユートとカヤもそれには納得していた。東部戦線に居たバウアーもそれに納得する。それほどドイツ軍全体が、米英の諜報力を恐れているという事だ。

 

「他には例のお嬢さん(フロイライン)も入れるが…」

 

「あの女を救出部隊に入れるのですか? ただでさえ連合国の工作員が混じっていると言うのに。これ以上の将兵の動揺は幾ら私でも抑えられそうにもありません。何処かに拘束しておいた方が良いでしょう」

 

「私もあの女を入れることには反対です。アルマゲイネでも無いのに親衛隊の制服を着ております」

 

 次にマリを救出部隊に加えると提案したコルネリウスに、余所者、しかも素性が知れない女を入れることで無駄な動揺を配下の将兵等に与えたくないシュタイナーはまた異議を唱える。これにはカヤも納得であった。

 

「先程、到着したばかりの君たちを出すのは気がしれる。他に行ける部隊は居ないし…」

 

 コルネリウスが顎に手を添えながら悩み始めれば、ベルリンの惨状を詳しく知りたいバウアーは、チャンスと思って志願する。

 

「では、小官の部隊が志願しましょう。我々なら、目的地まで二十分、否、十分で着くことが出来ます」

 

「しかし、君たちは突破した疲労が…」

 

「なに、これくらい東部戦線に比べればどうという事はありません。直ぐにでも出動しましょう」

 

「分かった。直ちに燃料(オットー)弾薬(ハーマン)を用意させよう。ただし、装甲擲弾兵の小隊は出さないぞ」

 

はい(ヤー)、もちろん承知の上です」

 

 バウアーに押されたコルネリウスは、机の上に置いてある電話機の受話器を取り、部下たちに出撃の準備を始めさせた。

 

「自分も…自分も救出部隊に志願します!」

 

「良いのか? 君たちには別の任務が…」

 

「大ドイツの市民を助けることは、我々武装(ヴァッフェン)SSも一緒です!」

 

「仕方ないな。追加だ、SSのお嬢さん方の部隊にも手配を」

 

 これに押されたユートも、救出部隊に志願する。

 バウアーの黒騎士中隊は別として、得体のしれないSSの女の部隊と素性が知れない女が加わることが、囚人部隊の長であるシュタイナーは気に食わなかったが、捨て駒にされるよりはマシなので従うことにした。

 装甲擲弾兵の小隊の同伴は中止となったが、代わりに強力な黒騎士中隊とシェイファー・ハウンドの部隊が加わったので、更に強力となる。

 かくして黒騎士中隊、シェイファー・ハウンド、囚人部隊こと装甲懲罰大隊Zbvの混成救出部隊の各車両は、エンジンを吹かしながら正門の門が開くのを待った。

 各車両が出動合図を待つ中、ブルクハイトが乗るティーガーⅠ重戦車の車内で、砲手を務めるアッシュと装填手のコワルスキーが、シェイファー・ハウンドの隊員らについて雑談を交える。

 

「なぁ、あの武装SSの女の兵士達、みんなムチムチだな。コワルスキー、どっちが好みだ?」

 

「俺は、マイタって胸の大きな娘が好みだな」

 

「おう、その女も捨てがたいな。俺は、隊長の金髪の女の方が好みだけどな」

 

「羨ましいよな、あのSSの下士官。後でぶん殴ってやろうか」

 

 そう雑談に花を咲かせるアッシュとコワルスキーに、ブルクハイトが割って入って中断させる。

 

「あの女SS共はやめておけ。手を出せば、ナニを吹っ飛ばされるぞ」

 

「そ、そんなに怖いのかよ…」

 

「あぁそうだ。噂では、レジスタンスの男のナニをライフルで吹っ飛ばしたらしい」

 

「恐ろしい女だ…慰安所の女の方がよっぽど良いぜ」

 

 ブルクハイトから聞かされたシェイファー・ハウンドの隊員らの恐ろしさに、二人は身の毛がよだった。

 

「門が開いた」

 

「お喋りはここまでだ。行くぞ、戦車前進(パンツァー・フォー)!」

 

 通信手からの報告で門が開かれたことを知ったブルクハイトは、二人を黙らせて操縦手に戦車を前進させるよう命じた。

 他の車両も門が開いたと同時に一斉に動き出し、門をくぐって歩く死者が支配する廃墟と化した大都市へと出ていく。

 早速、門から出て来るのを待ち構えていたナチゾンビらが様々な凶器を持って救出部隊に襲い掛かったが、高射砲塔に居る兵士らや救出部隊の小火器の攻撃を受けてあっさりと全滅する。

 

「余り派手にやりすぎるなよ。派手に暴れれば、暴れるほど奴らは増えるぞ」

 

 指揮車型のSd Kfz250装甲兵員輸送車で指揮を執るシュタイナーは、各車両の車上に乗る将兵らに余り派手に撃ち過ぎないよう注意する。それにSd Kfz251装甲兵員輸送車の兵員室に居るリィアは、ハンドサインで答える。

 周りの敵が全滅したのを確認すれば、最短ルートを通って目的地まで急いだ。

 なるべくナチゾンビは無視して進み、進路上の邪魔となれば排除する。それを繰り返して目的地までの距離を稼ぐ。轢くのも手の内だが、それでは履帯に肉片がこびり付いて何らかのトラブルとなりえる為、それを避けて進んだ。

 

「なんだ、あのデカいの。MG42を持ってるぞ」

 

「あぁ、機関銃デブ」

 

 一人の兵士がMG42機関銃を持つマシンガンゾンビを見て言えば、見たことがあるマリは直ぐに口に出した。

 車体の上に載っている将兵らが銃弾をマシンガンゾンビに浴びせたが、その巨体のゾンビは物ともせずに電気のこぎりのような銃声を響かせながら近付いてくる。

 

「小銃弾が効かないぞ!」

 

「なら、榴弾をお見舞いしてやる! 装填手、榴弾装填! 照準手、目標は一時方向の機関銃を持ったデブだ」

 

 一人のkar98k小銃を持つ兵士が、小銃弾が効果をなさないことを言えば、パンター中戦車のキューボラから上半身を出しているクルツは、装填手に榴弾を装填するように命じ、照準手にマシンガンゾンビに向けて照準するよう命じた。

 

「榴弾、装填完了!」

 

「機関銃のデブに照準完了!」

 

「撃て!」

 

 装填と照準完了の知らせを聞いたクルツは直ちに発射指示を出す。

 照準手が発射ペダルを勢い良く踏み込めば、装填された長砲身用の75mm榴弾はマシンガンゾンビに向けて発射され、砲弾がその巨体に突き刺されば数秒後に爆発し、周りのナチゾンビを巻き込んで木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「命中!」

 

「よし、後は徹底的に機銃で始末していくんだ」

 

 照準手からの知らせに、クルツは細かな指示を出して敵の掃討を他の車両と共に進めた。

 バウアーのティーガーⅡ重戦車の車体の上に乗るカールも負けず、次から次へとナチゾンビの額に穴を開けていた。Zbvやシェイファー・ハウンドにも狙撃手は居るが、その腕前はカールの方が断然上だ。マリも負けない程の腕を誇っているが、本職であるカールの方が上である。

 最低限のナチゾンビを倒しながら進んでいけば、高射砲塔から出発して十数分ほどで、目的地である聖オリバトゥルス教会が見えて来た。

 

『オリバトゥルス教会が見えた!』

 

「目的地まで近いな。戦車を前にして強行突破を図ろう。戦車隊、前へ!」

 

 先行しているSd Kfz222走行偵察車に乗る無線手の知らせを聞けば、シュタイナーは自身の部隊の傘下にある戦車部隊を前進させた。

 長砲身のⅢ号戦車とⅣ号戦車がそれぞれ二両ずつ合わせた四両と、ヘッツァー軽駆逐戦車が六両と言う二個小隊程度の部隊だが、相手は重火器を持たないナチゾンビなのであっさりと片付けることが出来た。

 教会までの進路が確保されれば、進路妨害用の障害物と瓦礫を撤去するために工兵隊が前に出て爆弾を設置し始める。中にはダイナマイトにソ連赤軍より鹵獲した爆弾、あるいは手作りの爆弾まで含まれていたが、容易に粉砕する火薬量を持っている。爆弾の設置が終わると、工兵たちは急いで離れ、起爆装置を作動して教会までのルートを開放する。

 そこを車両部隊が通り、目的地までへと履帯と車輪を響かせながら進む。

 

「よし、着いたな」

 

 バウアーがキューボラから上半身を出し、目の前に見える巨大な教会を見て言えば、車体の上に乗っていた小火器を持つ歩兵らは降りて、周辺を警戒する。

 

「常に辺りに気を配れ! 奴らが地中から這い上がってくることもあるぞ!」

 

 シュタイナーが指揮車から周囲警戒に当たる歩兵らに指示を出した途端、銃声が響き、彼の頬に一発の銃弾が掠めた。

 

「ひっ!?」

 

 隣に居るカバー付きシュタールヘルムや防弾プレートなどの重装備をした下士官であるシュルツ(バウアーの副官ではない)が小さく悲鳴を上げ、身を屈んだ。

 

「死人の狙撃兵か。狙撃手は直ぐに狙撃兵の排除を」

 

「しょ、少佐! 頭を屈んでください! 撃たれます!!」

 

 狙撃されても恐れも微塵も見せないシュタイナーに対し、部下であるシュルツは車内に引っ込みながら隠れるよう叫ぶが、彼は堂々として自分を狙撃した者の始末を命じる。

 これに応じて、狙撃手であるティアナとカールがスナイパーゾンビの居るとされる場所に銃口を向ける。

 スナイパーゾンビは不気味な笑い声を上げながら飛翔し、狙撃スポットに付けば、狙い易い方から狙いを付け、引き金を引こうとする。

 だが、引き金を引く前にマリが持つ狙撃仕様のkar98k小銃にスコープを撃ち抜かれた。

 

「凄い射撃だ。何所で習った?」

 

 今のマリが見せた狙撃に、カールは何所で習ったのかを問う。

 

「ゲーム」

 

(ゲーム)か」

 

 マリが出した適当なゲームと言う答えに、カールは猟と解釈した。

 本当のところ、彼女は狙撃に関する書物で狙撃を学んだが、説明が面倒だと思ったマリは、敢えて適当に答えたのだ。

 これで救出部隊は、教会周辺での安全を確保した。教会の大きな扉の前に一人の兵士が立ち、ドアをノックして中に立て籠もっている生存者達に安全が確保されたことを知らせる。

 

「聞こえるか! 我々は救出部隊だ! 周囲に居る奴らがみんな始末した! 安心して出て来てくれ!」

 

 何度もノックして大声で中に居る生存者達に知らせたが、一向に返事が来ない。

 

「何か嫌な予感がする…」

 

 教会から誰の声も聞こえて来ないことに、ユートは不安な表情を浮かべた。

 担当していた兵士二名は、互いの顔を向き合う。

 

「誰も居ないのか?」

 

「呼び出しておいてこの様か? 全滅したのか?」

 

「さぁな。兎に角シュタイナーの奴に知らせよう」

 

 担当していた二人の兵士は、それをシュタイナーに知らせて次の指示を仰いだが、指示を出す前にカヤはⅢ号突撃砲を前進させて扉に突っ込ませた。

 

「うわぁ!? なんて罰当たりなことを!」

 

 扉を強引に破壊したカヤの行動に、プロテスタント教徒の兵士が激怒した。

 

「こ、これ…大丈夫なのかな…? まぁ、私は言われた通りやっただけだけど…」

 

「罰が当たるとすれば、車長だけにしてもらいたいわね…」

 

「あぁ…神よ…我等だけでも許したもれ…」

 

 車内に居る操縦手のミュー・マイツェン親衛隊伍長(ロッテンフィーラー)と、砲手のケイ・シンドラー親衛隊軍曹(ウンターシャールフィーラー)が、上官であるカヤの罰当たりな行為を批判すれば、装填手のミヒト・ヒルダ親衛隊曹長(オーバーシャールフィーラー)が天井に向けて両手を合わせて祈り始める。

 そんなこともあり、いざ教会へと小銃や短機関銃を持った五人ほどの兵士が入った。

 

「おい、何所へ行く?」

 

「俺が行こう」

 

「任せた」

 

 後は入っていった五人に任せれば済むことだが、マリは何も言わずに教会へと入っていく。バウアーの呼び止めもあったが、彼女は耳を傾けることも無く教会へと入った。仕方なくカールが連れ戻すために教会に入る。

 これを見ていたカヤも、マリの行動が気になったのか、護身用のMP40短機関銃を予備弾倉と共に拾い上げ、自分のⅢ号突撃砲から降りる。

 

「何かありそうだな。ヒルダ、後は任せたぞ」

 

「えっ? ちょっと!」

 

「ティアナ、リィア、アイヤ、佳織、麻里安、それにアハト、ついてこい。他は警戒だ」

 

 ミヒトの言い分も聞かず、勝手に降りたカヤは呼び出した部下たちを引き連れて教会へと入ろうとしたが、何か嫌な予感を感じ取っているユートがそれを許すはずが無かった。

 

「どこへ行くつもりだ? カヤ」

 

「何所へ行くと? 教会に入るのだが?」

 

「危険だ、後は歩兵隊に任せて…」

 

「安心しろ、お前より頼りになる部下が六人も居る」

 

「でも!」

 

「しつこいぞ。そんなに私たちが死ぬのが嫌なのか? もう既にここは死の世界だ。いま話している間にも人は死んでいる。これ以上、人が死ぬのを嫌うなら、私を呼び止めるな」

 

「くっ…!」

 

 部下を死地に追いやりたくないユートは、カヤを何とかして止めようとするが、彼女は聞く耳を持たず、黙らせてからティアナ、リィア、アイヤ、リオ、佳織、麻里安、隻眼の軍用犬であるアハトを引き連れて教会へと入る。

 

「返事が無いのも納得できるな」

 

 高い天井を見上げ、人の気配が無いことで、カヤは生存者が居ないと判断する。

 先行して入った五人の兵士は生存者達を探していたが、徹底的に探しても人の気配が無いため、諦めて外へ出ようとしていた。

 

「ここまで来させて、ただのいたずらかよ!」

 

 五人の兵士が悪態を付いて苛々しながら教会の外へと出た時に、破壊されたはずの教会の出入り口に謎の結界が浮かび上がった。

 

「っ!? 周囲を警戒しろ。何か来るぞ」

 

 先行した五人の兵士が出た途端に結界を現れたので、後から中に入ったマリを除く者達は驚いたが、シェイファー・ハウンドの実質的な指揮官であるカヤは冷静に状況を把握し。部下たちに周囲を警戒するよう命じた。

 これに応じてカヤに同伴したリィア達は周囲に銃口を向け、敵の襲来に備える。カールも長物の狙撃銃から、銃身の短いM1A1トンプソン短機関銃に切り替え、彼女らと共に警戒態勢を取った。

一方のマリの方はと言えば、周囲に視線を向けるだけで引き金に指すら掛けていない。

それから物の数秒後に、不気味な声が耳に入って来た。

 

『ハッハッハッ! ようこそ!!』

 

 一同が声のした方向へ向けて一斉に振り返れば、不気味な緑色のオーラを纏った一般親衛隊(アルマゲイネ)の黒い軍服を着た浮遊する骸骨が現れた。直ぐに現れた謎の人物を敵と断定し、一同は銃口を向けて引き金を何の躊躇いも無しに引いた。

 

「効かない!?」

 

 十数発の銃弾がそれに向けて飛んだが、霊体であったらしく、後ろにある壁にあたるだけだった。

 

『仲間になれ!』

 

 黒い軍服を着ている骸骨の霊体はそう言った後、自分の足元に複数の魔方陣を召喚し、召喚した魔方陣分だけのナチゾンビを召喚した。

 

「召喚した!?」

 

「撃ち殺せ!」

 

 それを間近で見ていたカヤ達は、即座に召喚されたナチゾンビらに向けて銃弾を撃ち込む。召喚されたナチゾンビは一斉射撃によって直ぐに全滅したが、浮遊する霊体は、周囲に頭蓋骨を漂わせながら、またナチゾンビを召喚した。今度は最初に召喚した時よりも多い。今度は心臓を光らせた歩く骸骨付きである。

 

「また召喚してる!?」

 

「なんなんだこいつは!?」

 

 召喚されたナチゾンビに向け、先と同じように銃弾を撃ち込んで骸骨共々全滅させたが、霊体は嘲笑ないながらナチゾンビをまた召喚した。

 数は先のより多く、ワルサーP38やMP40、kar98kなどの銃火器を持ったナチゾンビが居り、最悪なことに機関銃を持ったマシンガンゾンビが出て来る。

 

「きりがない! 上に逃げるんだ!」

 

 空になった短機関銃の弾倉を捨てながら、カールは階段を上がって二階へと逃げた。彼の後へ続き、銃を撃ちながら階段へと上がる。ナチゾンビとマシンガンゾンビが追ってくるが、二階からの機銃掃射と小火器による攻撃で死体の山を作っていく。

 

「今のままでは弾が無くなるぞ。どうする?」

 

「あれを倒さないとどうにもならんな。しかしどやって…」

 

 カールは短機関銃を再装填しながらカヤに問えば、彼女は浮遊する霊体に視線を向けながら倒す方法を考える。

 同じく二階へと上がったマリは、霊体の周りを旋回する頭蓋骨に向けてStg44突撃銃を撃ち始めた。銃弾を受けた頭蓋骨は消え、霊体はうめき声を上げる。

 

「おい、何所を撃ってる!?」

 

「いや、もしかすれば倒せるかもしれん。あの旋回してる頭蓋骨を全て撃ち落とせば」

 

 銃身を掴んでマリに無駄弾を使わないよう告げるカヤであったが、カールは霊体を倒す手段と判断し、共に浮遊する頭蓋骨を撃ち始める。

 全ての頭蓋骨が撃ち落とされれば、霊体は実体化して苦しみ始め、床に膝を付けた。

 

「こんな馬鹿なことがあるとはな…!」

 

 頭蓋骨を全て撃ち落とせば実体化して倒せると証明され、カヤは渋々理解して手に持っている短機関銃を実体化した黒い軍服の骸骨に向けて撃ち始めた。カヤに続いて歩兵班の面々も実体化した黒い軍服の骸骨を撃ち始め、更なるダメージを与える。

 

『グッ、グアァァァ…』

 

 マリが弾の切れたStg44から狙撃仕様のkar98kに切り替え、黒い軍服の骸骨の頭部に向けて撃ち込めば、うめき声を上げながら床の中へと消えて行った。

 

「どうやら倒したみたいだな」

 

「そのようだ」

 

 黒い軍服の骸骨が消えれば、召喚されたナチゾンビとマシンガンゾンビは元の死体となった。

 

「おい、大丈夫か!? 中で凄いことが起きたようだが?」

 

 出入り口の結界は消え、護身用の武器を持ったバウアー達が入って来た。

 

「あぁ、凄いことが起きた。死人共を召喚して恐ろしい奴と戦っていた」

 

「死人共を召喚する? そんな奴も居るのか。ますます地獄だ…」

 

 カールから黒い軍服の骸骨のことを聞いたバウアーは、苦笑いを浮かべる。

 

「カヤ! 良かった。結界が現れて、一時はどうなるかと…」

 

「お前は心配し過ぎだ、不良品」

 

 ユートも入って来た為、カヤは少し顔を顰めた。そんな矢先に、奥にある祭壇が何もしていないのに動き出した。音を聞きつけた一同は一斉に振り返り、何かあるかと思って祭壇の方へと向かう。

 祭壇の下にあったのは、地下通路へと続く梯子であった。

 

「如何にも何かありそうな穴だなこれは」

 

 バウアーが穴の底を見ながら言えば、マリはその穴へ向けて一欠けらを落とした。

 数秒後に音が鳴り響けば、マリは安全と判断して梯子を下り始める。

 

「おい、破片を落としたくらいでは…聞いていないか…」

 

 バウアーがマリを止めようとするも、彼女は話を聞かずに降りた。

 これに釣られ、カヤも降りようとするが、ユートに止められる。

 

「よし、では私も…」

 

「待て、今度は僕も行く。これ以上、君には危険な所へは行かせられない」

 

「おや、お熱いな。そんなに彼女が心配か?」

 

 バウアーが冗談交じりに言えば、二人はバウアーを睨み付ける。

 

「おっと、失敬失敬」

 

 二人に睨み付けられたバウアーが退散すれば、二人は暫し口論を始めたが、数秒ほどで済み、結局のところ、代わりの指揮を副官のマイタに任せ、地下へと降りた。

 

「はぁ、なんでこうなるのかしら…」

 

 カールも含めて地下へと降りていく数名を見ていたマイタは、頭を抱えて悩んだ。




親衛隊階級のドイツ語表記は、今読んでいる小説、慈しみの女神たちから。後の方はネットからです。


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死のラビュリンズ

クソ久々の更新…

悲報、ゲンブン勢出番無し


「ここは…?」

 

「V2ロケット製造工場…俺の破壊目的だった場所だ」

 

 地下に降りて、道行に進んだカールやユート達の先にあった場所は、何処かの地下工場であった。ユートの問いに対し、辺りを見渡して今自分たちが居る場所が分かったカールは、この惨事が発生する前に破壊目的であったことを語る。

 

「お前、武装親衛隊に属していながら知らなかったのか?」

 

「じ、自分は下士官な物ですから…」

 

「…急ぐぞ」

 

 頭に手を添えながら申し訳なさそうに答えるユートに、カールは冷めた表情で彼を見ながら首を動かして行くよう告げた。

 

「おい、そんなに前に出るな。ここにも死人共が居るかもしれんぞ」

 

「構うことは無い。勝手に進んで死ぬ奴が悪いんだ」

 

「カヤ…!」

 

 何も言わずに先に進むマリに対してカールが止めようとするが、カヤは止めることが無いと告げた。この味方を切り捨てるような発言をした彼女に、ユートは上官らしく説教しようとするが、ここに潜んでいるナチゾンビが待っている筈が無かった。

 

「奴らだ! ここもやられていたか!!」

 

「クソッ!」

 

「応戦しろ!!」

 

 直ぐに一同は臨戦態勢を取り、周囲から湧いてくるナチゾンビに向けて銃弾を浴びせた。

 カヤが連れてきた部下たちは誰もが白兵のプロであり、容易にノロノロと近付いてくるナチゾンビを適切に処理していく。逆に指揮官であるユートは、一体倒すのにMP40短機関銃の弾を六発も使っていた。カールとマリの方はと言えば、正確に一発一発を頭に撃ち込んで倒しているというのに対してである。

 無論、彼が装甲系統の兵科出身であるため、白兵戦闘など護衛くらいしか学んでいないのだが。

 

「隊長、足を引っ張るためについてきたのか!?」

 

「違う! 僕は君たちを守るために…うわっ!?」

 

 余りに酷い戦い方の悪さにカヤは悪態を付けば、ユートは彼女の方へ視線を向けて反論する。余所見をして側面から近付いてくるナチゾンビに気付かず、掴み掛られそうになるが、すんでの所でカールが左手に握る45口径の自動拳銃、コルトM1911A1に助けられる。

 

「教官に余所見をするなと言われなかったか?」

 

「っ! す、済みません!」

 

「こいつ等を始末してから礼を言え!」

 

「は、はい!」

 

 カールに助けられたところでユートは礼を言ったが、その前に敵を倒せと怒られ、彼は近付いてくるナチゾンビに向けて短機関銃を単発で正確に頭に狙いを定めて撃ち続けた。

 

「一々ここで戦ってなどいられない! 先へ進むぞ!」

 

了解(ヤヴォール)!』

 

「俺もそう思っていたところだ。殿は俺が務める、お前たちは前に行け!」

 

 ここで向かってくるナチゾンビと戦っていてはきりがないと判断してか、カヤは部下たちに先に進むと告げた。これにカールは賛同し、自ら殿を務めると言い、ユートとマリを含めるカヤ達を前に出して進言した通り、自身が殿を務める。

 進む度に出て来るナチゾンビを倒しつつ、狭い通路の先へと進む中、近くに置いてある通信機から声が聞こえて来る。内容からして、この惨事を引き起こしたヒトラーに対する誹謗だ。

 

「ここだ、開けるぞ」

 

 通信機から聞こえて来る声を無視し、カールは大きなゲートを開く装置に着き、開閉ボタンを押した。

 

「やはり待ち構えている! 全員配置に着け! 急げ!!」

 

「了解した! 全員配置に着け!」

 

 ゲートが開いた瞬間、その向こうから不気味な霧に混じって多数のナチゾンビが姿を現した。カヤ達は多数のナチゾンビを迎撃できる二階に着き、一斉に銃弾を浴びせる。カールは全力で走って二階に戻り、上で銃を撃っている一同に加わる。マリはと言えば、狙撃スコープを着けたKar98k小銃を握り、正確にナチゾンビの頭を吹き飛ばしていた。

 

「霧が晴れた。全員くたばったようだな」

 

「先へ進もう。もしかすれば生存者が居るかもしれん」

 

 押し寄せて来たナチゾンビが全て倒れれば、霧が晴れて先へ進めるようになった。

 直ぐに残弾を確認し、異常が無いと判断すればゲートを潜って瓦礫や火災で塞がれていないルートを通ってセーフハウスを目指す。途中、心臓を光らせる骸骨が襲ってきたが、弾が勿体ないので無視して進む。

 

「骸骨か?」

 

「無視しろ、一々戦ってなどいられん」

 

 カールの指示に従い、出て来る敵を無視しつつ彼女らはようやくの所でセーフハウスに滑り込むことに成功した。

 

「銃は交換しておけ、何発も撃ち続けているから寿命が来ている頃だ。整備を行っている暇など無いぞ。弾薬と手榴弾も忘れるな」

 

 そうガンラックに立ててあるM1ガーランド半自動小銃の狙撃モデルを取りつつ、カールはこの場に居る全員に銃の交換と弾薬の補充を命じた。

 全員がカールの指示に応じてそれぞれが合う武器に交換する中、ユートはセーフハウスに備蓄されている世界各国の銃と携帯火器に目を光らせていた。

 

「やけに色々あるな…みんな鹵獲品か…? 日本(ヤーパン)の銃もある」

 

「ドイツでは死人が歩き回る事態が起きている。そんなこと一々気にしていたら気が持たんぞ」

 

「あぁ、カヤの言う通りかもしれない…」

 

 そうカヤの言う事に納得しつつ、ユートは近接戦闘も兼ね備えてMP28とMP40を合体させたようなMP41と呼ばれる短機関銃を手に取った。

 この短機関銃は暴徒鎮圧用に設計された銃であり、主に後方で治安維持と抵抗勢力排除を行うドイツ警察に配備された。前線にも幾らか配備されており、接近戦も行えるから好評であったらしい。ちなみにこの銃を設計した人物は、あのMP40を設計したと勘違いされているヒューゴ・シュマイザーである。

 マリも狭い場所での戦闘にStg44突撃銃を嫌がってか、アメリカの工具のような短機関銃、M3A1グリーズガンに切り替えていた。ついてきたシェイファー・ハウンドの面々も武器を変え、弾薬も十分に持ったので準備が整っていた。日本の面々は、日本の銃火器である九九式短小銃を握っている。

 

「よし、行くぞ。アハト、お前が先陣を切ってくれ」

 

 いよいよセーフハウスを出ようとした時、カールはシェルターを開け、一緒についてきたアハトの頭を撫でながら先陣を切るよう優しく頼んだ。これにアハトは承認し、先陣を切って偵察に出掛けた。これにはカールよりも長くアハトと過ごしてきたシェイファー・ハウンドの歩兵班の面々たちは、出会って間もない中年に懐いているのを見て、呆気に取られる。

 

「なんでアハトが連合国のおっさんなんかに…」

 

「さぁ?」

 

 互いに視線を向き合ってから、アハトの後を追うカールの後に続いた。

 そこにもまたナチゾンビが何所からともなく現れたが、新しい武器に切り替えた面々の攻撃を受け、元の屍に返される。

 ナチゾンビを倒しながら狭い通路を進んでいけば、急にアハトが吠え始めた。その吠え方は普通の吠え方は違うので、リィアがそれに気付く。

 

「この吠え方、近くに戦闘車両があるって知らせだ」

 

「車両? それにこの匂い…どうやら推進剤と燃料を満載したV2ロケットが残っているようだ…」

 

「それってつまり…?」

 

「下手にバカスか撃つなと言う事だ。もしかしたら火薬も満載しているかもしれん。V2ロケット、組み立て最中でも腕に自信のある者は頭を正確に撃て。自身の無い者は、足を撃って転んだところを頭に撃ち込め、良いな?」

 

 リィアが燃料と弾薬を満載した戦闘車両であることを知らせれば、カールはこの地下工場にV2ロケットが残っていると推測する。それに問い掛けて来るユートに対し、カールは闇雲に銃を撃たないようにと答え、この場に居る全員に、例え組み立て段階であってもV2ロケットを見かけたら、下手な発砲は控えるよう告げる。

 そう一同が無言で頷いて理解すれば、狭い通路を道行に沿って先へ進んだ。

 狭い通路から出て来るナチゾンビや骸骨を撃ち倒していく中、貨車の荷台に載せられた要注意のV2ロケットが見えた。組み立て段階であり、骨組みが丸出しになっているが、燃料と推進剤は残っているようだ。幸いなことに、火薬は積んでいなかったが、そんなことはカール達が知る由も無い。

 

「気を付けろ、V2ロケットだ!」

 

 カールがV2ロケットを見て叫べば、ユートは一体のナチゾンビがV2ロケットに工具で叩いているのを見逃さなかった。

 

「あ、あいつ…何をしてるんだ…?」

 

「クソっ、自爆させる気か! 接近戦で…間に合わん! 伏せろ!!」

 

 直ぐにそのナチゾンビを倒そうとした一同であったが、間に合わず、地面に伏せて爆風を免れようとした。

 

「火薬は積んでないみたい」

 

 遮蔽物に避難していたマリが言った通り、火薬は積んでいなかった。爆発のような音は鳴ったが、それはジェットエンジンであり、ロケットを叩いていたナチゾンビは遥か先に吹き飛ばされていた。カールは床に着いた汚れを落としつつ、腹を立てた。

 

「クソッ、ここの製造工場の主任に感謝だな!」

 

 同時に今は居ないここの主任を務める人物の管理能力の高さを評価し、他の者達と共に向かってくるナチゾンビの処理に当たった。

 

「よし、ここは制圧した。次へ行こう」

 

 辺りのナチゾンビを制圧した一行は次へと向かった。

 そこには先程のゲートと同じ大型ゲートが閉じており、その向こう側から何やらうめき声が聞こえて来る。

 

「どうせ待ち構えているんだろうな」

 

「そのようだな。足の速い者は、ゲートの開閉ボタンを押してくれ」

 

「僕が行こう」

 

 聞こえて来るうめき声に、カヤが多数のナチゾンビが待ち構えていることを察すれば、カールは一番足の速い者にボタンを押すよう指示する。これには誰も志願する者が居ないと思いきや、大した活躍も見していないユートが志願した。

 

「大丈夫か? お前は指揮官なんだろ?」

 

「指揮官だからこそですよ、フェアバーンさん」

 

「大した奴だ」

 

 カールの問いに対し、これ以上部下たちを危険に晒したくないユートはそう答え、開閉ボタンがある制御装置まで走り、開閉ボタンを押した。

 ボタンを押したと共に陽気な音楽が流れ始め、開いたゲートの隙間から多数のナチゾンビが顔を覗かせる。その数は最初のゲートよりも膨大だ。直ぐに一行は銃口をそちらに向け、頭の辺りに狙いを定めて引き金を引いた。制御装置の近くに居たユートは一同の元へ戻り、自分の銃をナチゾンビに向けて撃ち始める。

 待ち伏せ攻撃を受けたナチゾンビらはバタバタと倒れていくが、うち何体かが蘇り、一行にうめき声を上げながら近付いてくる。しかし蘇った所で、雨のような銃弾を受けてまた殺され、動かない正常な死体へと戻される。

 ゲートが完全に開くころには、襲って来たナチゾンビは全て動かない死体に戻されていた。一行は残弾を確認したのち、ゲートを潜って先へと進んだ。そこでもナチゾンビの波状攻撃が繰り返される。今度は燃え盛る炎の中から多数の骸骨が姿を見せる。

 

「クソ、戦車か突撃砲、装甲車さえあれば…!」

 

 次なる波状攻撃にカヤは悪態を付くが、この地下工場には戦車や突撃砲、装甲車が入れるスペースは何所にも無い。それどころかあちらこちらに惨状で出来た障害物が多数あるので、外から装甲車両郡は入れないだろう。

 

「十二時方向より自爆ゾンビ!」

 

「あいつ等か! 機関銃でやれ!!」

 

 自爆ゾンビの接近をティアナが知らせれば、カヤはMG42汎用機関銃を持つリオに射撃を命じた。直ぐにリオはその場に伏せ、MG42の二脚を立て、向かってくるナチゾンビや自爆ゾンビに向けて毎秒千二百発分の弾丸を浴びせる。

 向かって来た数十体は雨のような銃弾の餌食となって死体に戻り、自爆ゾンビは身体中に巻き付けてあった爆弾に弾が当たって周囲のナチゾンビを巻き込みながら爆発した。

 

「これで最後みたいだ…」

 

 這いずってくるナチゾンビを四十五口径の拳銃で撃ち殺した後、カールは動いているナチゾンビが居ないことを確認し、先へと進んだ。

 狭い通路を進んで出て来る少数のナチゾンビを適切に処理していく中、壁に制御室の案内表が書かれているのが見えた。

 

「どうやらこの工場の制御室の案内表だな。何か分かるかもしれない、行ってみるか」

 

 先に見付けたカールの一言で、一行は制御室へと向かった。

辺りを警戒しながら進む中、物陰からナチゾンビが声を上げながら飛び出した。どうやら一行を待ち伏せていたようであり、一番近くに居た佳織にバールを振り下ろそうとしたが、選んだ相手が悪過ぎた。直ぐに佳織は居合の構えを見せ、バールで殴り掛かって来たナチゾンビの胴体を斬り落とした。

 

「日本の女軍人は、みんなサムライガールのようだな」

 

「いえ、私が特別なだけです」

 

 見事な腕前を近くで見ていたカールは、旧日本陸軍に属する女性は全て武士のような物であると勝手に認識する。これに対し、その腕前を披露した佳織は誤解であることを告げる。

その後に制御室へ入れば、そこに居る少数のナチゾンビを始末し、ここに居る筈の生存者を探した。だが、生存者は既に死んでいた。どうやら先ほど始末したナチゾンビに殺されていたようだ。何か使える物が無いか探し始める。

 

「何も無いようだ。次へ進もう」

 

 制御室には何も無かったので、一行は先へと進む。

 道中にはナチゾンビが出て来たが、数は少数なので直ぐに一掃できた。

 

「ようやくセーフハウスだ」

 

 弾の数も残りわずかとなった所で、幸運にもセーフハウスに辿り着くことが出来た。シェルターを開けて中へ入り、武器の交換と弾薬の補充、それに暫しの休息を済ませる。少しばかりにコーヒーを一杯分飲めば、一行はセーフハウスを出た。

 ナチゾンビは一切出てこなかったが、代わりに無残に殺されたドイツ兵の死体やソ連兵の死体で溢れていた。中には無理に手足を引き抜かれてまるで精肉のように吊るされている死体もある。

 

「この世の物とは思えん光景だ…」

 

 そんな光景を目にしたカールがそう言えば、口を押えているユートが無言で頷いた。

 カヤとマリ達の方は見慣れているようで、一切の動揺は見せなかった。

 その場の後にして先へと進めば、風の音が耳に入ってくる。どうやら外が近いようだ。

 

「風の音だ、外が近いらしい。中もあの惨状であるからして、外も連中で溢れかえっているぞ。全員警戒するんだ」

 

 中もあのような有様だったので、外も同じような光景となっていることを察し、カールは全員に警戒するよう指示を出した。

 予想通り、外に出た瞬間にナチゾンビの波状攻撃は来た。直ぐに指を引き金に掛けて引き、襲ってくるナチゾンビを撃ち殺す。瞬く間にナチゾンビは全滅したが、次はスナイパーゾンビを含めた第二派が来る。

 

「俺とお前は狙撃銃を持った方をやる! そこの女、お前もだ! ツァイスとクロイツたちはそこらから湧いてくるのを頼む!」

 

「了解した! そこらは任せろ!」

 

 カールは的確に指示を出せば、カヤはそれに応じ、周囲に湧いてくるナチゾンビの排除に当たった。

 飛び回るスナイパーゾンビがカヤ達を狙おうとしたが、狙撃の際に動きを止めたところでカールに捕捉され、頭を撃たれて死体に戻される。マリも同様の腕前を誇り、跳躍して移動している所を撃たれ、地面に落下した。これにティアナは競争心を擽られる。

 

「二人とも凄いじゃん。私だって!」

 

 飛び回るスナイパーゾンビの進路を読み、ティアナはそこへ向けてkar98kの銃弾を撃ち込んだ。

 放たれた銃弾はスナイパーゾンビの身体に吸い込まれるように当たり、銃弾を受けた死人の狙撃手は地面へと落下する。

 

「よし!」

 

 一体を仕留めたティアナは、ボルトを引いて空薬莢を排出しながら次なる標的に狙いを定めた。

 

「よし、全部始末したな」

 

「前進するぞ!」

 

 数分ほどで一行は波状攻撃を乗り切り、次のセーフハウスへと続く道を目指して前進する。

 またしてもナチゾンビが出て来たが、数は少数だったので、容易に突破で来た。

 最後の一体を倒して一歩先を進めば、白いペンキで書かれたセーフハウスのマークが見える。

 

「ようやくか…」

 

「銃は持つかな?」

 

 そのまま進んでいけば直ぐにセーフハウスに着いたので、シェルターを開けて中に入り、銃の交換と弾薬の補充、休息を取る。この間にマリは、新しい狙撃銃に手を出していた。

彼女が手にした狙撃銃は、Gew43半自動小銃に狙撃スコープを着けた狙撃用のモデルだ。装填数十発の半自動小銃であり、ボルトアクションとは違って連射できるが、その分精度には劣る。

 

「Gew43の狙撃モデルか。試しに外にうろついている奴らを撃ってみるんだな」

 

 そんな銃を手にしたマリを見たカールは、試し撃ちに外で動いているナチゾンビを指差しながら試し撃ちを進めた。これにマリは応じ、外でうろうろしているナチゾンビに向けて狙撃を行った。弾倉十発分の弾で狙撃を行ったが、当たったのは十発中七発であった。

 

「歩兵用の自動小銃だからな。狙撃には少し向かない。よし、そろそろ行こう」

 

 当たった弾の数を数えていたカールはそうマリに告げた後、セーフハウスを出て外に向かう。

 ナチゾンビで溢れている下には降りずに済むルートであったが、連絡路にも数はそれほどでは無い物の、厄介なことには変わりない。更にはマシンガンゾンビまで出て来る。

 

「クソ、デカ物か…!」

 

「パンツァーファウストを撃ち込め!」

 

 先に発見したユートが言えば、カヤは手に入れたパンツァーファウストを取り出し、安全装置を外して同じ使い捨ての対戦車火器を持つ者達に命じた。数秒後に、MG42機関銃を持つマシンガンゾンビに向けて一斉に対戦車擲弾が発射された。機関銃を撃ちながら近付いてきたマシンガンゾンビは、戦車用の爆発物に耐えきれるはずも無く、一瞬で肉の塊と化す。

 血煙が上がる中、周りのナチゾンビも巻き込まれたらしく、肉塊がボトボトと落ちていく音が鳴り響いた。

 それから遭遇するナチゾンビを倒していく中、一行は地上に降りた。暫く地上をうろついていれば、動けそうなトラックを発見する。動くかどうかを、装甲科の教育を受けているユートが調べる。

 

「駄目です。何か部品が欠けているらしくて」

 

「部品か。なら、そこらにある車両から拝借するか」

 

「燃料も忘れずにな」

 

 ユートがトラックの部品が欠けて動かないことを知らせれば、カールはシートを被せられたドイツ軍の車両を見ながら口にする。これにカヤは部下たちに運ばせたジェリカンを指差しながら告げた。

 燃料は手に入ったので、一行は周囲にある車両から使えそうな部品を取り、トラックの前に集めた。部品を見てユートは、使えそうな部品を取って、トラックに埋め込んでいく。

 

「よし、後は燃料を注ぐだけだ…ん、これは…?」

 

 部品を埋め込め終えたユートが額を拭った後、周囲から立ち込める霧に気が付いた。

 これにカールは、ナチゾンビの波状攻撃が来ることを察する。

 

「奴らが来るな…」

 

「集めて来た爆薬が役に立つな。周囲に防御線を築こう」

 

 カヤはSマインと呼ばれる跳躍地雷を取り出しながら言えば、同じく対人地雷やマイントラップを持ち合わせている部下たちに周囲に地雷を設置するよう命じた。他にも周囲に放置している爆発物類を、上手く爆発して周囲のナチゾンビを巻き込める位置に配置する。

 マリはトラックの上に上がり、周囲から出て来るナチゾンビを見張った。

 それから数秒後、周囲からナチゾンビのうめき声が聞こえ、霧の中から大多数のナチゾンビが姿を見せる。

 

「来たぞ! 全て撃ち殺せ!!」

 

 周囲から現れたナチゾンビを確認すれば、カヤが怒号を飛ばした。これに応じ、一同は一番近い距離に居るナチゾンビから始末していく。出て来るナチゾンビは続々と倒れていくが、未だに衰えず、ただ獲物に向かって前進していく。更には骸骨の増援まで加わっていた。

 

「油断するな! 次が来るぞ!!」

 

 地雷原にまで辿り着く前に波状攻撃を撃破したが、自爆ゾンビやマシンガンゾンビを加えた第二派が直ぐに来る。

 流石に地雷原の第一防衛ラインまで抑えることが出来ず、第二防衛ラインまでの侵入を許してしまったが、第二防衛ラインにはSマインなどを仕込んでおり、何とか食い止めることが出来た。

 

「ウッ!?」

 

「カヤ!!」

 

「スナイパーだ! 撃ち殺せ!!」

 

 カヤの左腕に銃弾が掠めれば、カールは彼女を狙撃した正体であるスナイパーゾンビの存在をすぐに見つけ、トラックの上で狙撃を行っているティアナとマリに支援を要請する。

 彼女は飛び回るスナイパーゾンビの予想進路を計測し、そこへ銃弾を撃ち込み、スナイパーゾンビを地面へ叩き落した。ティアナも似たような狙撃方でスナイパーゾンビを撃ち落とし、狙撃の脅威を無くす。

 

「最後の一体!」

 

 スナイパーゾンビを仕留めた後に、ティアナは機関銃を撃ちながら近付いてくるマシンガンゾンビの頭に、kar98kの大口径の弾丸を浴びせて頭を吹き飛ばすころには、動いているナチゾンビは全て動かない死体に戻っていた。

 

「今ので最後のようだ」

 

 それぞれが残弾を確認して次へ備えたが、その気配が無いと判断し、トラックへ乗り込んだ。

 

「それで、何所に行くんだ?」

 

「ベルリンだ、ベルリンへ戻る。ひとまずシュタイナーたちと合流だ」

 

 助手席に座るカヤに問われれば、カールはベルリンへ戻り、そこに居るバウアーとシュタイナーたちと合流することを告げる。この時にマリの姿が見えなかったので、それが気になった運転席に座るユートは、外に居る者達に問い掛ける。

 

「あれ、彼女は何所へ行ったんだ?」

 

「BMWR-12に乗ってるよ」

 

「勝手な人だな…」

 

 荷台に乗っているティアナからの知らせに、ユートはマリの自分勝手な行動に頭を抱えた。

 それからユートは全員がトラックに乗り込んだのを確認すれば、ベルリンを目指してトラックを走らせた。




えぇ、大佐殿参戦の件ですが、次回にリマスター版発表記念に応じ、参戦が決定しました。
こりゃ、タグに戦場のヴァルキュリアを追加せんとな…

まぁ、最初は…レゴのキャップがやっていたアクションをやってもらいます


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魔女の来訪

ドグマオンラインやってて更新が遅れる…

それと今日から大佐殿参戦だよー


 カール達がトラックでベルリンへと向かう中、マリにこの地獄に続く新たな来訪者が着ていた。来訪と言っても、何らかの形で来たというのが正しいが。

 

「ここは…」

 

 声からして女性であり、その容姿は長い金髪と雪のように白い肌を持ち、長身で赤い瞳を輝かせ、整った顔立ちとグラマラスな体型の美女であった。

 彼女が目覚めた場所は、ベルリン郊外にある一軒家だ。ドイツ国防軍の敗残兵らが陣取った跡があったが、この騒ぎで何処かへ去っていった様子だ。

 

「少なくともガリア…では無いな…」

 

 聞きなれない国名を口にすれば、彼女は何か武器になるような物を探しに屋内を探した。

 

「これだけか」

 

 武器と言えば、ウェンチェスターM1898散弾銃一挺だけであり、弾も残り少なかった。どうやらここに立て籠もっていたドイツ軍の将兵らが、ナチゾンビの迎撃のために殆ど使い切ってしまったようだ。残る弾を服に仕舞いこもうとしたが、自分が何も身に着けていないことに気付く。

 

「あの衝撃で消滅したのか…?」

 

 顔を赤らめながら、彼女はこの一軒家にある衣服を探しにクローゼットのある部屋へと向かった。二階へ上がってクローゼットのある部屋に入れば、直ぐにクローゼットを開け、中にある衣服と肌着を手に取る。

その衣服は、高品質な生地で出来たドイツ国防軍陸軍の将校の軍服であった。丁度それを着ている今は亡き将校は、身長が彼女と同じ175㎝だったのか、サイズ的には合っていた。更にやや肥満体系であったのか、大き過ぎる胸のサイズにも合っている。肌着を身に着けてからその軍服を聞けば、鏡の前に立って自分の姿を見た。

 

「これも悪くない」

 

 そう鏡に映る自分の軍服姿に微笑みながら、黒い将校用ロングブーツを履き、腰にベルトを捲いて拳銃用のガンホルスターを吊るした。机の引き出しにあるルガーP08自動拳銃を取り出す。

 

「少し変わった自動拳銃だな。操作方法さえ分ければ何とかなる」

 

 ルガーP08をいじくり回しながら呟けば、ガンホルスターに入れて予備の弾倉も幾つかポケットに入れる。

 食料も取り、近接戦闘に備えて軍用スコップも取れば、ドアを開けて外に出た。

 

「戦場跡のようだが…人の気配がしないな。人の気配がする方へ行こう」

 

 拳銃を取り出しながら辺りを見渡し、辺りを警戒する。

 

「ん、死体か…?」

 

 辺りを警戒しながらベルリンへの方角へと進む。途中、kar98k狙撃銃を握ったまま死んでいるドイツ兵を見付けた。自動拳銃と散弾銃だけでは心許ないと思い、狙撃銃と予備弾薬の入った弾奏ごと取った後、目に付いた倉庫へと向かう。

 散弾銃を構えながら倉庫へ入り、敵が居ないことを確認すれば、辺りに使えるものが無いかどうかを調べ、拳銃自殺を図って死んでいるドイツ兵の死体からMP40短機関銃を拝借する。

 

「ガレージにはサイドカーか。これ程の装備は持てないな、使わせてもらうか」

 

 ガレージに入ってBMW R75サイドカーを見付けた彼女は、先ほど見付けたM39卵型手榴弾四つとkar98kとMP40、FNハイパワー自動拳銃二挺、ウェンチェスターM1897を予備弾倉や食料と共に荷台に入れ込み、ガレージのシャッターを開けてサイドカーのエンジンを掛けた。

 

「行くか」

 

 エンジンが十分に掛かったのを確認すれば、彼女はベルリンへと向けてサイドカーを走らせた。

 

「それにしても異常だ…一体何が起きている…?」

 

 サイドカーを走らせながら周囲の過ぎ去っていく異様な景色を見て、妙な胸騒ぎを感じる。あちらこちらに無残に殺されたドイツ兵やソ連兵の双方の無残な死体が転がり、更には木の杭に串刺しにされた死体まであった。これには流石に戦場を知る彼女は、顔を引きつかせる。

 数十分ほどサイドカーを走らせれば、ベルリンの出入り口まで辿り着く。そこにもまた、彼女が嫌悪感を抱かせるほどの光景が広がっていた。

 

「女子供まで異常に殺されているのか…長くここには居たくない物だな」

 

 砲撃や爆撃で破壊された都市のあちらこちらに吊るされているベルリン市民の死体を見ながら、彼女は早くこの場から逃げ出したい気持ちになってきた。

 

「なっ!?」

 

 走行しているうちに彼女が乗るサイドカーが対戦車用の地雷を引っ掛かった。前輪が地雷に引っ掛かって爆発し、彼女の身体は宙を舞う。数秒後に固い道路に投げ出され、数mほど転がった後、彼女は気を失った。

 

「やったぞ! 誰か知らんが引っ掛かった!!」

 

「同志、今の人間なんじゃ…?」

 

「馬鹿野郎、人間でもナチの軍服を着てた。つまり奴らの手先だ」

 

 彼女のサイドカーを破壊した地雷を設置したと思われる者達が物陰から姿を現し、前輪が吹き飛んで横転したサイドカーに近付き、彼女が詰め込んだ食料や弾薬などを奪おうと、バールでトランクをこじ開けようとする。

 男たちが身に着けている衣服はソ連赤軍の軍服であり、装備類などソ連赤軍正規の物ばかりだった。しかし正規兵は少数であり、大半は私服で雑多な装備を身に着けた男女、パルチザンと呼ばれる共産ゲリラが大半である。一人の男が彼女に気付き、その長い髪を掴んで仲間に問い掛ける。

 

「おい、あのサイドカーに乗っていたのは女だ。銀髪の女だが、身体つきは絶品だ。しかもまだ生きてる」

 

「なんだと同志? ファシストの連中は金髪の女が好みだと思ったが…こんな女まで居るとは…よし、後で頂いて…」

 

 正規兵の男が下品な企みを口にした途端、彼女の長い髪を掴んでいる私服の男の首から大量の血が噴き出した。

 

「うっ、うわっ!?」

 

「起きてるぞ!」

 

 気絶していた筈の彼女が突然意識を取り戻し、素早い動きで仲間の首をナイフで欠き切った為、ソ連兵のパルチザンたちは彼女に銃を向ける。直ぐに撃つべきだが、近くにソ連兵が居るため、撃てないのだ。

 

「このアマ!」

 

 一番近くに居るソ連兵がナイフを抜いて彼女に斬り掛かったが、あっさりと避けられ、喉を斬られる。

 

「撃て、撃て!!」

 

 喉を斬られたソ連兵が大量に血が噴き出している首を抑えながら悶え苦しむ中、銃を持つ者達は一斉に彼女へ向けて手に持っている銃を撃った。

 雨のような銃弾が襲い掛かる中、彼女は物陰に飛び込み、ガンホルスターに収めてあるルガーP08自動拳銃を引き抜き、安全装置を外して自分に銃を撃ってくる敵に撃ち返す。その狙いは正確であり、三人以上が倒れた。

 

「殆ど素人か。うっ…!」

 

 撃つ体勢がソ連兵以外、殆ど素人同然な動きであるため、彼女は勝てると見込んだ。

 全く近付いてこないので、その隙に折れた左腕を力尽くで元に戻し、使えるようにする。

 

「向こうに移動するか」

 

 敵は同じ場所を撃ってばかりいるので、彼女は道路にあるドイツ軍やソ連軍の車両の残骸を利用し、敵から見えないよう近くにある爆撃で廃墟同然になった建物へ移動する。数秒後辺りに敵は何名かを回り込ませたが、彼女が居ないことに驚き、辺りを探し始める。

 

「居ないぞ!」

 

「探せ! 同志を殺したことを後悔させてやる!!」

 

 リーダーらしきソ連兵が仲間たちに彼女を探すよう大声で叫ぶ。当の彼女はそれを良いことに、銃撃戦か惨劇で死んだかわからない程バラバラになったドイツ兵が持っていたMG42機関銃を取り、敵を一掃できる位置である二階まで上がって窓に二脚を設置し、弾が入っているかどうかを確認した後に、まだ散会していないパルチザンたちに向けて発砲した。

 電気のこぎりのような凄まじい銃声が鳴り響き、狙われたパルチザンたちはバタバタと倒れていき、更に手足を引き千切った。彼女が引き金から指を離すころには、手足を引き千切られてうめき声を上げる数名しか生き残っていない。

 

「MG42だ! 手榴弾を投げ込め!!」

 

 まだ健在な数名ほどが彼女の居る建物に向けて手榴弾を投げ込もうとしたが、彼女の反応が早く、手榴弾を投げる前に死体へと変えられた。

 

「う、うぅ…!」

 

 リーダーと思われるソ連兵が腹から内臓を吹き出していたが、まだ息があった。

 状況を知らない彼女は直ぐに近づき、ここが何所で何が起きているかどうかを問う。

 

「おい、ここは何所だ? 町並みからして中欧辺りだと思うが?」

 

「なんだお前…一体何が起きているのか分からないのか…?」

 

「分からない…? 分からないとはどういう意味だ…?」

 

 リーダーが言っていることが理解できない彼女はもう一度問い掛けたが、問い掛けた本人は彼女の顔に血を吹きかけた。

 

「お前たちがやったことだ…このナチ公が…!」

 

 そう言った後、リーダーは息を引き取った。

 顔に着いた血をハンカチで吹き払う中、彼女は背後から這いずりながら近付いてくる何者かに気付き、既に弾が無くなったMG42の木製ストックで近付いてきた何者かの頭を潰した。

 

「なんだこいつは…!?」

 

 潰した死体は手足を失ったナチゾンビであったが、彼女はまだその存在には気付いていない。まだ息のあるパルチザンたちが「助けてくれ」と喚き散らしているが、彼女は彼らの話す言葉を理解できない。そればかりか彼女が周囲に目を向ければ、四方のある多数のナチゾンビが近付いてくる。

 

「不味いことには変わりないな」

 

 そう自分が置かれている状況がかなり不味い状態だと理解すれば、直ぐに彼女は迎撃態勢を整えた。サイドカーの荷台から持ってきた武器弾薬を取り出し、近くにあるヘッツァーの残骸の上に置く。手袋をはめれば二挺の自動拳銃を手に取り、二つともちゃんと弾が装填されているよう確認すれば、弾倉を本体に戻し、押し寄せて来るナチゾンビの接近に備えた。

 

「五、四…三、二…」

 

 残った生存者達を雑多な鈍器などで殺しながら、周りから接近してくるナチゾンビが十分な距離まで来るのを待つ。

 

「一!」

 

 十分な距離まで近付けば、彼女は左右に拳銃を向け、引き金を引いた。

 狙ったのは左右から接近してきたナチゾンビの頭部であり、正確に眉間を撃ち抜き、元の死体へと戻す。

 最初の二体が倒れたところでで、次から次へとナチゾンビが彼女に飛び掛かったが、飛び掛かった数体分だけ数秒足らずで動かない死体になった。彼女は華麗な動きで振り下ろされる鈍器を軽やかに回避し、正確に弱点である頭に銃弾を撃ち込む。しかも照準器を覗かずに。並大抵の人間が成せる技ではない。

 彼女が持つ二挺のFNハイパワーの装填数十三発程を撃ち尽くすころには、大量のナチゾンビの死体が道路に倒れていた。

 衰えることなくナチゾンビは来るが、彼女が二挺の自動拳銃の再装填を行えるほど距離があり、彼女は余裕をもって自動拳銃の再装填を行う。

 

「数が多いな」

 

 再装填を終えれば直ぐに向かってくるナチゾンビの頭に撃ち始め、元の動かない死体に戻す。

 

「ちっ!」

 

 何発も連続で撃ち続けている所為か、右手に握る自動拳銃の空薬莢がスライドに引っ掛かった。直ぐにスライドを引けば良いのだが、生憎とナチゾンビが待ってくれない。彼女はその自動拳銃を、まだ残っている弾倉を引き抜いてから手近に居る豪く腐敗したナチゾンビの頭に目掛けて投げ飛ばす。

 勢い良く飛ばした所為か、自動拳銃は顔面に突き刺さった。死体の腐敗ようからして、六年位前の戦死者であろう。

 自動拳銃でナチゾンビの一体を仕留めた彼女は、空いた手で置いてあるMP40を手に取り、左手の自動拳銃の残弾が無くなるまでナチゾンビを撃った。FNハイパワー自動拳銃の弾がなくなればそれを捨て、空いた左手で短機関銃の弾倉を握り、周囲に群がってくるナチゾンビを撃ち始める。

 十数体以上を撃ち殺すことに成功したが、弾倉分の数を遥かに上回る数のナチゾンビが迫ってくる。まさに焼け石に水であるが、それでも戦い続けなければならない。向かってくるナチゾンビを撃ち殺しつつ、彼女は次に散弾銃を手に取る。

 

「これが散弾銃か」

 

 纏めてナチゾンビを吹き飛ばした後、彼女は散弾銃の威力に少しばかり驚きながら、ポンプを引いて空薬莢を排出してから、左から来る集団に向けて撃ち込んだ。ナチゾンビの四方が吹き飛び、血が噴き出る中、次々と押し寄せて来るナチゾンビに向けて彼女は散弾銃を撃ち続ける。

 散弾銃の弾を全て撃ち尽くすころには辺り一面血の一面となる。だが、ナチゾンビは衰えることなく押し寄せて来るので、彼女は次に狙撃銃を手に取る。しっかりと構えて照準器に二体のナチゾンビが揃えば、引き金を引いた。銃声が響いた後、勢い良く発射した弾丸は一体目を貫き、二体目の頭に命中した。

 

「7.92mmの威力は高いな」

 

 額に大きな穴を開けて倒れるナチゾンビを見て、kar98k小銃の使用弾である7.92×57mm弾の威力を改めて知った後、彼女はボルトを引いて空薬莢を排出し、押し込んで次弾を装填しつつ、引き続き照準器に二体か三体かのナチゾンビの頭が揃えば引き金を引き、纏めて倒し続けた。

 

「コンタァァァクゥゥゥゥ!!」

 

「こんな奴まで居るのか。纏めて潰すのが楽だな」

 

 五発目を薬室に送り込んだ後、身体中に爆薬を巻いたナチゾンビ、通称ボマーゾンビが全力疾走しながら彼女に近付いてきた。周りには他のナチゾンビが大勢おり、爆薬を撃てば纏めて一掃できると睨んで爆薬に照準器を合わせて引き金を引いた。

 彼女が睨んだ通り、爆薬を撃たれたボマーゾンビは周りのナチゾンビを巻き込んで跡形も無く吹き飛んだ。肉片や血の雨が飛び散り、彼女の白い肌を赤黒く染める。

 

「汚いな…」

 

 弾の無くなった狙撃銃を捨てて袖で顔を拭う中、彼女はM39卵型手榴弾を手に取り、安全キャップを外してからバールを振り下ろそうとするナチゾンビの口にそれを突っ込んだ。

 

「グォ?」

 

 口に手榴弾を無理やり突っ込まれたナチゾンビは何も理解できていない様子であった。直ぐに彼女は手榴弾の起爆紐を引っこ抜き、群がっているナチゾンビの方へ向け、手榴弾を咥えたナチゾンビをそちらの方向に向けて思いっきり蹴とばした。

 起爆まで余裕があるのか、近くにある何か盾になるようなもので身体を防御する。

 数秒後に手榴弾は爆発し、血と肉片が辺りに飛び散った。彼女が盾にしていた瓦礫に血と肉片がこびり付き、真っ赤に染まっていた。彼女はその瓦礫を地面に戻し、落ちている短機関銃を拾い上げた。

 

「さて、他の生存者を…」

 

 周囲の敵を制圧した彼女が次なる場所へ移動しようとした瞬間、近くに榴弾が炸裂した。

 

「なに、装甲車両か…!?」

 

 榴弾が炸裂して両手で顔を守っていた彼女は、近付いてくるキャタピラ音に気付き、それが大砲を搭載した装甲車両と認識した。

 音が聞こえて来る方向を見れば、ヘッツァー軽駆逐戦車が車体の上にウクライナ武装SS義勇兵を乗せて彼女に向かってくる。車体の上に乗っているウクライナ人の兵士たちはドイツ軍の武器とソ連の鹵獲武器を所持している。大した射撃力の無いナチゾンビよりも非常に厄介な敵だ。直ぐに彼女は起き上がり、遮蔽物となる近くの建物に飛び込もうとするも、ヘッツァーからのもう一発の榴弾が近く着弾した。幸運にも破片は当たらず、近くの建物に飛び込むことは成功したが、右腕に破片が刺さった。

 

「軽駆逐戦車か、我が軍のと良く似ているな」

 

 右腕に刺さった破片を無理やり引き抜きながら、停車して乗っている歩兵を下ろしているヘッツァーを見て、自分が属していた軍が保有している軽駆逐戦車と似ていることを思い出す。

 

「あの女を殺せ! 大佐殿に逆らえばどうなるか分かっているな!?」

 

「りょ、了解です!」

 

 武装SSの野戦服を着たルーマニア人将校が、降りた格下のウクライナ兵達に母国語で命じれば、ウクライナ義勇兵たちは下手なルーマニア語で返答し、彼女を殺そうと銃を抱えながら近付いてくる。

 MG42機関銃かDP28軽機関銃を持つ兵士達は、彼女が飛び込んだ建物に向けて制圧射撃を掛ける。ヘッツァーの車体上部に搭載してあるリモコン式のMG42もそれに加わる。居ると思われる敵の動きを封じている間に、kar98kやMP40、Gew43半自動小銃、PPsh41短機関銃を持つ歩兵らが突撃を仕掛ける。

 このウクライナ義勇兵たちはドイツ軍式の訓練を受けているためか、かなり動きが精錬されていた。ヘッツァーに乗る武装親衛隊の軍服を着こむルーマニア人将校もドイツ式の士官学校で学んでいる様子だ。

 

「手榴弾!」

 

「了解!」

 

 入り口前まで来れば、M24柄付手榴弾をそこへ投げ込み、爆発してから短機関銃を持つ兵士らが突入する。突入してから周囲に向けて連射し、十数発以上撃ってから引き金から指を離した。ありとあらゆる場所へ銃口を向けて出てこないことを確認すれば、下士官が何組かに別れて探索するよう指示を出す。

 

「一班三人に別れて探し出せ!」

 

『了解!!』

 

 指示に応じ、ウクライナ人の義勇兵たちは三班に別れて彼女の探索を行った。突入してきたウクライナ義勇兵の数は十一名であり、残りの機関銃を持つ兵士三名は外で待機している。分隊長である軍曹と伍長は入り口を見張る事となる。

 

「(少し厳しいな)」

 

 銃口を周囲に向けながら辺りを警戒するウクライナ義勇兵を見て、彼女は少しばかり厳しい相手だと認識する。身を隠し、持ってきた短機関銃が無事かどうかを確認した後、自分に気付かず近付いてくる敵兵に向けて撃ち込んだ。

 

「居たぞ!!」

 

 一人が撃たれて倒れれば、残った二人は大声で仲間に知らせ、背を低くしながら持っている小銃を彼女が潜んでいる場所へ向けて撃ち始める。これにより他の敵兵達が駆け付けて来る。更には外で機関銃を持つ兵士らも建物に突入してきた。

 

「厄介なことになったな」

 

 大声で叫びながら銃を撃ってくる敵兵等に応戦しながら、彼女は少し焦りを見せる。

 壁越しに短機関銃を撃ちながら応戦していれば、柄付手榴弾が二つばかり飛んできた。

 幸いにも飛んできた手榴弾は直ぐに起爆せず、投げ返すには十分な時間があった。彼女はこれを手に取り、飛んできた方向へ向けて投げ返した。

 

「うわっ!?」

 

 ウクライナ義勇兵が声を上げて驚いたが、これが彼らの遺言となった。

 手榴弾は爆発し、最初に彼女へ向けて銃を撃ってきた二人は死亡した。だが、彼らが銃を撃ってきたおかげで他の敵兵達が集まってくる。

 

「あそこに居るぞ!」

 

「殺せ! 殺すんだ!!」

 

 ウクライナ語でそう叫びながら、敵兵達は銃を撃ちながら徐々に距離を詰めて来る。

 

「抜け道を探すか」

 

 遮蔽物に隠れて銃弾を避ける中、彼女は敵の裏をかくために周囲を見ながら抜け道となる場所を探す。

 目を凝らして探していれば、直ぐに抜け道となる場所を見付けることが出来た。敵はまだそこに彼女が居ると思って制圧射撃を続けており、そこへ行くのは容易いことであった。

 数発ほど撃ち返して居ると思わせてから移動し、敵の後ろを取ろうと物音を立てぬよう静かに早足で進む。まだ銃声が鳴りやまないでいることから、未だにそこへ向けて撃ち続けているようだ。向かいながら短機関銃の弾倉を満タンな物に取り換え、銃声を頼りにそこへ向かう。

 

「(まだ気づいてないな)」

 

 自分の存在に気付かず、大声を上げながら指示を出す下士官を見ながら彼女はナイフを引き抜き、その軍曹の階級章を付けたウクライナ人の背後に近付き、喉に先端を突き刺した。

 刺された首元から血が噴き出る中、刺された軍曹は息のあるうちに彼女を殺そうとしたが、もっと深く刺されて息絶える。

 

「あそこに居たぞ!!」

 

 彼女の存在に気付いた他のウクライナ人義勇兵たちが銃を撃ってきたが、撃つのは彼女の方が早く、数名以上が短機関銃の銃弾を浴びて死亡する。

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

 生き残ったウクライナ義勇兵がPPsh41を乱射したが、全くの無駄弾であり、ルガーを切り替えた彼女に腹を数発ほど撃ち込まれ、銃を撃ちながら踊るように死んだ。

 他のウクライナ義勇兵たちも仲間を殺されて怒りを覚えて襲い掛かって来たが、あっさりと彼女に撃ち殺されるか、ナイフで刺殺され、スコップで撲殺される。

 

「グッ…あぁ…」

 

 最後の一人が入り口前で力尽きれば、彼女は外に出て、外で待ち構えているヘッツァーに構えた。

 

「なんて女だ…! しかし車両には勝てまい。榴弾で跡形も無く…」

 

 車内からウクライナ人義勇兵一個分隊を壊滅させた彼女の強さに、ルーマニア人武装SS将校は恐怖を感じた。直ぐに砲手に榴弾を撃ち込んで跡形も無く吹き飛ばそうとしたが、自分たちが乗っているヘッツァーが何所からか攻撃を受けて吹き飛んだ。

 これには流石の彼女も驚きの様子であり、今手にしている機関銃を周囲に向けて辺りを警戒する。

 

「味方では…無いな…」

 

 自分の目の前にある脅威を排除した人物を見ながら、彼女はそう呟いた。

 ヘッツァーを破壊した人物は五階建ての建物の屋上に居り、手には使用済みの使い捨て対戦車火器であるパンツァーファウストが握られていた。シルエットは女性であり、彼女と同じく腰まで届く長い髪を持っている。銀髪ではなく、金髪であり、スタイルは少々彼女より劣るが、容姿は負けないくらいの物だ。

 その正体とは、V2製造工場から脱出した一行の一人であるマリであった。マリは使えないパンツァーファウストを捨て、段差を辿りながら降り、彼女の前に立つ。

 わざわざ相手の方に近付いたのは共闘するのではなく、どうやら彼女を敵対視している様子であり、帽子を脱ぎ捨ててナイフを抜いた。しかし手に持っているStg44突撃銃は捨てず、左手に握ったままだ。敵対意思を見せるマリに対し、彼女も臨戦態勢を取って手に持った短機関銃をもったまま臨戦態勢を取る。

 数秒間の睨みあいの末、先に手を出したのはマリであった。手に持った突撃銃の銃口を彼女に向け、引き金を引いて撃ち始める。これに対して彼女も移動しながら撃ち返す。お互いが持っている銃の弾を撃ち尽くせば、手に持っている拳銃を引き抜き、まるで阿吽の呼吸のように同時に撃つ。

 

「クッ…!」

 

「キャッ…!」

 

 同時に撃った瞬間に互いの拳銃が弾け飛び、両者とも拳銃を握った手を抑えながら睨み合う。

 

「ハァァァ!」

 

次もまた先に動いたのはマリであった。左手に握ったナイフで彼女に斬り掛かり、その妖艶な身体にナイフを突き刺そうとする。これに彼女は鍛え抜かれた持ち前の反射神経で避けつつ、マリの腹に拳を強く打ち込む。

 

「ぐぁ…!」

 

 女性は筋肉量が少なく、少しの打撲でも男性より激痛を感じやすい。ましてやマリのように一切筋肉の無い身体つきの女性は、かなり痛みを感じやすいだろう。彼女は口から唾液を吐き出す。

 

「このぉ!!」

 

「ぐっ…!」

 

 彼女が追撃を仕掛けようとした時、マリは痛みで怒りを覚えたのか、左手にナイフを持ち替え、彼女の腹を斬り付けた。斬られた個所から血が滲み出たが、幸いにも内臓が飛び出すほど深く斬られていない。直ぐに反撃の拳をマリに打ち込む。

 これにマリは左手で彼女の拳を防ぎつつ、ナイフを自在に扱って連続の突きを繰り出すも、彼女の衣服を切り刻むだけで肌に全くかすれもしなかった。

 

「うっ!? 卑怯な…!」

 

 自分より体格も容姿も勝っている女の肌にナイフが突き刺さらないことに腹を立てたのか、地面の砂を彼女の目線に向けて蹴った。これに彼女は左手で砂を拭いつつ、卑怯な手段を取るマリを罵倒する。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

 そんな罵倒されるマリは容赦なくナイフを振るい、彼女の背中にナイフを突き刺した。

 突き刺された痛さに彼女は声を上げる中、何とか力を振り絞り、マリの顔面に肘打ちを食らわして距離を取る。

 

「痛っ…」

 

 肘打ちを受けた頬を抑えつつ、背中のナイフを引き抜く彼女を睨んだ。

 そんな彼女らの勝負に水を差すように、骸骨やマシンガンゾンビを加えたナチゾンビの大群が押し寄せて来る。

 

「邪魔」

 

 そう言って背後から飛び掛かって来たナチゾンビを、まるで居るのが分かっているが如くマリは組み伏せ、襲って来たナチゾンビが持っていたバールで持ち主の頭に突き刺した。

 銀髪の彼女の方も、襲ってくる数体のナチゾンビを奪った武器を使い、秒単位ほどで片づける。

 機関銃を撃ってくるマシンガンゾンビに対し、彼女らはナチゾンビが持っている重火器を奪い、頭部に向けて何発も銃弾を撃ち込んだ。無論、マシンガンゾンビは五発ほどのライフル弾を撃ち込む必要があり、そう簡単に倒れる敵ではない。それを知らない彼女は少し焦っているのを見て、マリは嘲笑うような表情を浮かべる。

 しかし自分で彼女を殺したいマリは、頭部を吹き飛ばしたマシンガンゾンビのMG34機関銃を奪い取り、銀髪の美女をハチの巣にしようとするマシンガンゾンビの頭部に向けて撃ち込んだ。

 MG34機関銃は後年開発されたMG42よりも高価で連射力が劣るが、精度は高く、命中率はMG42より優れている。

 さらにマリの射撃力の高さが重なり、数秒ほどで銀髪の彼女の周囲に居たナチゾンビや骸骨ごとマシンガンゾンビを倒した。

 

「助けてくれたのか…?」

 

 そうマリに問い掛ける彼女であったが、当の本人は答えず、近付いてくるナチゾンビや骸骨に向けて機関銃を撃つだけであった。

 何も答えないマリの事を放って置き、彼女も持っている小火器で近付いてくるナチゾンビの頭を撃つ。辺りを制圧した後、マリに礼を言おうとしたが、邪魔物が消えたのか、彼女に襲い掛かって来た。

 

「感謝す…」

 

「とりゃぁ!」

 

 今度はナイフを使わず、拳と足だけで攻撃を繰り出してくる。

 これに彼女は応戦するが、先ほどのナイフとは違って動きが読めず、顔や腹、脚に何発もの打撃を受ける。

 

「ぐっ…!」

 

 怯んだところでマリが顔面に強烈な蹴りを入れ込み、彼女は顔を抑えながら後退る。

 蹴られた個所である鼻を抑え、潰れていないことを確認すれば、鼻血を拭ってからマリに挑発を仕掛ける。

 

「この程度か? 雌豚」

 

 この一言にマリは怒りを覚えたのか、軍服の上着を脱ぎ、そこらに捨ててから自分の剣を引き抜き、襲い掛かって来た。剣で襲い掛かるマリに対し、彼女はナチゾンビの死体から鈍器を取り、それで剣の刃を受け止める。無論、二回くらい受けたくらいで切断され、防御手段で使える物ではなかった。

 直ぐに距離を取り、近くで死んでいる国民突撃兵の老人が持っているモーゼルC96自動拳銃を拝借し、その古めかしい拳銃でマリを撃とうとした。

 

「まだ湧いてくんの!?」

 

 銃声が響いた後にマリが足を止め、建物から建物へ脅威の飛躍で飛び移るスナイパーゾンビの存在に苛立った。まだスナイパーゾンビの存在を知らない彼女には先程の敵対してきた人間の兵士だと思ったが、マリの背後で脅威の飛躍で飛び回るスナイパーゾンビを見て、それを脅威と認識する。

 

「あいつ等から仕留めるか」

 

 スナイパーゾンビはマリのみならず、自分に向けて撃ってきたので、自動拳銃の安全装置を外し、進路を予想してそこに銃弾を撃ち込んだ。見事にそこへ吸い込まれるようにスナイパーゾンビが飛び込み、銃弾を受けたスナイパーゾンビは地面へと落下した。マリの方もいつの間にか回収していたワルサーP38自動拳銃でスナイパーゾンビを撃ち落としていた。

 

「しつこいわね…」

 

 これで戦闘を再開…と、思いきや、周囲から新手のナチゾンビが湧いて出て来る。

 全身に炎を纏って個人装備を身に着けている巨漢のナチゾンビや、甲冑を身に着け、ドイツの刀剣類を持つドイツ騎士のゾンビ集団、チェーンソーを持った場違いと見えるナチゾンビがマリと彼女に向かってくる。さらには通常と言うべきか、普通の歩兵装備のナチゾンビも出て来た。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 群がってくるナチゾンビをマリが剣で次々と斬り殺していく中、銀髪の彼女は撃ち殺したドイツ騎士ゾンビからロングソードを奪い取り、群がってくるナチゾンビやドイツ騎士ゾンビを斬る。

 辺り一面が真っ赤に染まり、ナチゾンビや騎士ゾンビの死体で溢れていく中、共闘していると思っていたマリが、攻撃できる隙を見付ければ彼女に斬り掛かって来る。

 

「おい、周りが見えないのか…?」

 

「私にはあんたを殺すことしかないけど?」

 

 流石にこれには怒りを覚えたのか、剣を交えつつ彼女は周りの敵を片付けてからしろと告げるが、マリは聞く耳を持たず、背後から迫ってくるナチゾンビを斬り殺しつつ、次なる一撃を彼女に加えて来た。

 

「グォォォォ!!」

 

 そんな死闘を繰り広げる二人の間に、全身を炎で纏った巨漢のナチゾンビが唸り声を上げながら片手斧を振り下ろそうとしたが、勝負に水を差された彼女らの同時の突きを頭部に受け、地面に倒れ込む。

 数秒後にその巨漢のナチゾンビは周囲のナチゾンビや騎士ゾンビを巻き込んで爆発したが、二人は爆発の数秒後にそれを察知し、地面を蹴って爆発から逃れられる場所まで退避した。退避した先でもナチゾンビや騎士ゾンビはまだ大勢残っており、爆風で倒れていた数十体は立ち上がり、再び彼女らに手に持った鈍器や刀剣類で襲い掛かってくる。

 二人はそんなナチゾンビや騎士ゾンビにお構いなしに死闘を再開し、互いに剣をぶつけ合う。時折に周囲から次々と襲い掛かってくるナチゾンビや騎士ゾンビを倒しつつ、ただひたすら二人は剣を振るっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

「てやぁ! っ!?」

 

 周りの敵を倒しつつ死闘を繰り広げる中、チェーンソーを持った巨漢のナチゾンビが、エンジン全開のチェーンソーを振り回しながら襲って来た。二人は地面に伏せて相手が大勢を直して次なる攻撃に移る前に腹を斬り、斬られた個所から内臓をこぼしながら怯むチェーンソーゾンビに向け、強烈な蹴りを防護マスク越しの顔に加えた。

 

『邪魔だ!!』

 

 二人同時に叫びつつ、手に持った剣でチェーンソーゾンビの両腕を斬り落とし、さらに両足を切断したのちに頭を斬り飛ばした。

 邪魔物を排除したところで、二人は再び剣を混じり合わせ、死闘を続ける。

 身に着けている衣服は凄まじい戦いの末に切り刻まれ、所々に白い肌を見え隠れしているも、二人は周りの視線に対してお構いなしに剣を交える。

 お互い凄まじい死闘の故に興奮状態に陥っており、勝負に邪魔をするものであれば容赦なく剣を振りかざし、惨殺する程であった。

 

「はぁぁ!!」

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

 戦いもエスカレートしていき、身体を敵の返り血で真っ赤に染めながらも剣を振るい続けた。

 

『っ!?』

 

 激闘のあまり互いの剣が弾け飛んでしまったが、それでも二人はまだ戦いを止めず、拳で互いの身体や顔面を殴り合う。激しい死闘を繰り広げる二人にお構いなしにナチゾンビや騎士ゾンビが襲い掛かるが、全く相手にならず、ただ吹き飛ばされるか、逆に武器を奪われて殺されるだけであった。

 

「ン? 何の騒ぎだと思って駆け付けてみれば、何をやってるんだ、あの死にぞこない共は?」

 

「分かりません、それに見ないのが幾つか混じっておりますが」

 

「それにあの真ん中で殴り合っている二人の女が居るな。事情は知らんが助けてやろう。こちら中隊本部、各車、二人のお嬢さん(フロイライン)に当てんように撃てよ!」

 

 激闘が続くかと思ったが、遂に終わりの時が来たようだ。

 ティーガーⅡ重戦車に乗るバウアーが、ナチゾンビや騎士ゾンビに包囲されている二人を見付け、救援を行うと後続の車両に告げた。

 

「了解しました大尉、なるべく傷つけないようにします。砲手に前方機銃手、絶対に二人のお嬢さん方に当てるなよ」

 

 バウアーの部下であるクルツが応じれば、共に戻って戦隊に復帰したユートとカヤも命令に応じた。

 

了解(ヤヴォール)、こちらシェイファー・ハウンド、救援活動を協力します!」

 

『了解です大尉殿。よし、砲を撃ちながら突撃しろ。包囲されている人間を救出する』

 

 一同が二人の救出を行うため、互いに乗り込む車両の主砲をナチゾンビや騎士ゾンビの集団に向けて発射した。凄まじい砲声の後に、二人の周囲に群がっていたナチゾンビ群は吹き飛ばされる。赤い血煙が上がる中、シェイファー・ハウンドの歩兵班を乗せたハノマークと、シュタイナーが率いるZbvの各車両が突撃を仕掛ける。

 周囲のナチゾンビを一掃すれば、ハノマークが搭載機銃を撃ちながら停車し、乗っている歩兵が続々と下車し、まだ残っているナチゾンビの掃討を始める。甲冑を身に着けている騎士ゾンビには少し手こずるかと思ったが、案外そうでもなく、kar98kやStg44のライフル弾であっさりと制圧された。

 

「せいっ!」

 

 歩兵班と共に飛び降りた佳織は周囲の騎士ゾンビを軍刀で斬り殺し、リィア率いる歩兵班の背後を守る。

 

「居たぞ! っ!? 殴り合いをしていて周りが見えてないのか? 横に着けろ、私が直接二人を殴って終わらせる!」

 

 自車であるⅢ号突撃砲A型を強引に進めてナチゾンビや騎士ゾンビを引き殺しつつ、カヤは直接向かって殴り合っている二人を止めようとしたが、その必要はなかったようだ。

 シュタイナーが乗る指揮車であるSd Kfz250の車体の上から、M1ガーランドの狙撃モデルを持つカールが構え、走行中にも構わず、迷い無しに引き金を引いた。

 発射された弾丸は殴り合っている二人の間を通過し、間から襲い掛かろうとしたナチゾンビの頭部に当たった。二人は互いに距離を取り、互いに拳銃を引き抜いて自分等に向けて銃弾を放ったカールの方へ銃口を向けた。

 シュタイナーとカールが乗る指揮車とカヤが乗る突撃砲が停車したころには、周囲に湧いていたナチゾンビや騎士ゾンビは元の屍に戻っていた。Zbvの歩兵らが周囲で索敵を行う中、マリは殴り合いを再開しようとする。

 

「お前はそこでじっとしていろ」

 

 銀髪の彼女を睨み付け、飛び掛かろうとしたマリであったが、首元にワルサーP38のハンマーを叩き付けられ、固い地面に顔面をこすりつけられる。そんなマリに向け、マイタが上着を被せる。理由はアッシュとコワルスキーが嫌らしい目付きでマリの身体を見ていたからである。

 一方でZbvの兵士らに短機関銃の銃口を向けられ、上着を羽織っている銀髪の彼女はシュタイナーから尋問を受けていた。

 

「女、お前の名は? それにどこの所属だ?」

 

「セルべリアだ、セルベリア・ブレス…所属は…言わん」

 

「セルべリア…名前からして東欧系か? その制服からして、国防軍情報部か?」

 

 名前が判明した彼女に対し、シュタイナーは続けて問うが、セルべリアは顔を下に向けながら回答を拒否する。これにシュタイナーは拳銃を使って問おうとしたが、バウアーに止められた。

 

「まぁ、なんにせよ、あの女と対等に殴り合っていた女です。使える人員には変わりありませんよ」

 

「フン、使える人員は一人でも多い方が良い。助かったよ大尉、おかげで弾が無駄にならずに済んだ」

 

 あのマリと対等に渡り合っているセルべリアが使える人員とバウアーから告げられれば、シュタイナーは少しイラつきながらも自動拳銃の安全装置を入れてから腰のガンホルスターに戻し、彼に礼を告げた。




この回はね、レゴのキャプテン・アメリカがナチゾンビを惨殺してた動画を参考もとい、若干アレンジして書いたもんすわ。
次回からゲームに沿って行きます。まぁ、二作目あたりに突入すれば、色々と混ぜ込んでいく予定ですけど。

アクションと殴り合いの方はキャプテン・アメリカ ウィンターソルジャーを参考にしました。
あの映画、豪く酷評されてるソーさんの二作目の映画なんかより段違いで傑作と話題になってます。
自分も見ましたが、まさしく傑作でアイアンマン2を超えてしまいそうな内容でしたわ。
社長とソーさんは3Dを使った派手な戦闘シーンが魅力だけど、3Dを使わないアクションも負けずには劣りません。
復讐異世界旅行記にもウィンターソルジャー的な奴を出す予定です。
して、その正体は誰か…?
取り敢えず死んだと思っていたバッキー的な人かもしれません。
では、次回もよろしこ~


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