東方かぐや姫 竹取ボーボボの物語 (にゃもし。)
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輝夜! ハジケリストたちと出会う !? …の巻
月のカグヤは地上に落とされて輝夜になった。


 

 ボーボボたちはカッパたちが作った自動車に乗せられて
 試運転をすることになった。
 しかし、首領パッチの飲みかけのコーラが運転席にかかり――――
 時間跳躍という機能がないハズなのになぜか
 時を飛び、空を駆けた!
 



  

 

 私は退屈していた。代わり映えのない日々に。

 私は教育係に頼み込んで蓬莱の薬を作ってもらって不老不死になった。

 それは罪であり、罰として処刑されるが… 

 不老不死のために死ぬことは出来ずに青い星に落とされることになった。

 

 

 私の狙い通りにだが、

 もっとも私が地上に興味があるのを知っている者たちは

 少なからず勘づいていたことでしょうけど…

 

 

 月から見上げて見る青い星はとても綺麗で宝石みたい。

 でも月の住民は口々に言う『穢れた世界』と。

 

 

 刑が執行される日。私は薬で身体を赤子まで戻された。

 不老不死になったハズなのに、私の教育係は優秀のようだ。

 今は、もう元教育係というべきかな…?

 

 

 私は特殊な形の一人乗用の細長い緑色の宇宙船に入れられて

 月から打ち上げられて、青い星に落とされていく――――

 

 

 徐々に遠ざかっていく月を眺めていた。

 星々の海に漂う月は真珠のように輝いていて綺麗だった。

 

 

 少し何かが引っ掛かる。心残りか…?

 でも… それは青い星に落とされていく私にはもはや意味が成さない。

 

 

 考え事は星に落とされてから考えればいい。

 私は不老不死。何もかも「死」すらも失ったが… 時間だけはある。

 

 

 私はカグヤ。月の姫。蓬莱の姫君。

 

 

 

 

   * * * * *

 

 

 

 

 私が落とされた場所は竹林の森だった。

 私は未だに一人乗用の宇宙船に入ったままだ。

 着地の際にどこかで故障したようで開けられないのだ。

 さすがにこれは予想外だ。幸い中から外の様子が見れるのだが…

 

 

 外は夜で、夜空にはぽっかりと満月の月が浮かんでいる。

 随分と遠くまで来たものだと感慨深く感じたが

 自分以外に誰もいないことに寂しさを感じ、退屈と窮屈さも覚えた。

 

 

 ああ、そういうことか…

 私はどこに行ってもどこに居ても同じだということを理解した。

 

 

 月にいようが… 地上にいようが… どこにいようが私は私だということを――――

 

 

 少し疲れた… 長旅で疲労した体を癒やすべく、目を瞑り睡眠を取ろうとしたときに

 

 

 離れたところで放電現象が起こり、次に壁を破壊したような激しい音。

 高速で動くなにかが地面にタイヤの跡をつけながら目の前を通り過ぎていく。

 

 

 その正体は白色と銀色で塗られた乗用車。それが竹を幾つもへし折りながら走行して

 フロントガラスに幾つもの竹を刺しながら… 岩と激突してようやっと止まる。

 

 

 月のものではない。地上の科学で作られたとも思えない。

 もしかしたら、月ですら知られていない文明があるのだろうか…?

 

 

 ドアが開かれ、中に乗っている人物が降りてくる。全員で三人。

 背の高い奇妙な髪型の遮光眼鏡をかけた男と、妖怪だろうか…? 人ではない。

 橙色のウニに手足が生えたようなのと、青い人型のスライム…?

 それが頭に竹を貫通した状態で降りてきた。

 

 

 

 

 なんか刺さってるゥゥゥっ !?  なんでアレで生きてんのォォォ !?

 

 

 

 

   * * * * *

 

 

 

 

 来訪者はその謎の三人組だけではなく、他にもやって来た。

 よくよく考えてみれば… 私が乗ってきた宇宙船と

 あの三人組が乗ってきた乗用車は物凄く目立つ。

 特に私の宇宙船は空から降ってきたのだ。

 当然、目撃する者がいても可笑しくはない。 

 ただ目撃者が必ずしも人とは限らないが――――

 

 

『なんでぃ、先客がいたのかよ』

 

 

『妖怪か…?』

 

 

 大きな蜘蛛とムカデが彼らの前に現れた。

 その二匹は三人組の前に寄ると…

 

 

『同じ妖怪のよしみだ、そこにあるモノを置いていけば命だけは見逃すぞ?』

 

 

 大蜘蛛が八本ある脚の一本で乗用車と私が乗っている宇宙船を指差して言う。

 乗用車はともかく、宇宙船はまずい。今の状態であの二匹を倒せるかどうか…?

 

 

 大蜘蛛のあの物言いならば… あの連中がうまい具合に争ってくれれば…

 彼らがどうのように戦い、どんな武器を使うのか知り得る上に

 消耗した状態の彼らと戦うことになる。そうなれば勝つことも難しくない。

 

 

「なんだと !? てめぇ !?」

 

 

「おいよせ、首領(ドン)パッチ」

 

 

 オレンジ色のウニが怒り、青いのがたしなめる。あの車は彼らにとって重要な物のハズ。

 私の思惑通りに事が運ぶだろう…

 

 

「俺は妖怪じゃねェェェっ!!!!」

 

 

 ただ… 橙色のウニの発言は私の予想を斜め上どころか大気圏を突き抜けた。

 

 

 

 

「俺は妖精だ――――!!!!」

 

 

 

 

   * * * * * 

 

 

 

 

「「…………………………」」

 

 

 妖精…? あれが…? 橙色のウニが…?

 首領パッチと呼ばれた自称妖精以外は沈黙している。

 私と大蜘蛛、大ムカデ… さらには仲間の二人も。

 沈黙を破って長身の男が拳を鳴らしながら

 

 

「お前たちが何故あれを欲しているのか知らんが…

 あれは俺たちにとって重要なモノだ。渡すつもりなどない」 

 

 

 妖精発言は無視しているし… 連中にとってはいつものことなのだろうか?

 その直後に爆発。木っ端微塵子。バラバラになった部品があちこちに飛ぶ。

 

 

 重要なモノが爆発したァァァ!

 

 

「――あれは俺たちにとって重要なモノだ。渡すつもりなどない」

 

 

 何事もなかったかのように !? 現実逃避 !?

 

 

『なら少々痛い目に遭ってもらおうかな?』

 

 

 話、合わせた !? 

 

 

 

 

   * * * * *

 

 

 

 

「俺の名は『 ボボボーボ・ボーボボ 』毛の王国の人間だ!

 人間ならではの技をお前たちに見せてやるぜ!」

 

 

 妙な構えを見せつつ、鼻から毛を伸ばす。

 

 

 鼻からなんか伸びてるゥゥゥ!? 名前が変 というか『ボ』って何!?

 

 

『きさま人間だったのか !?』

 

 

 あなた、気づいてなかったの!?

 

 

「人間ビームゥゥゥ!」

 

 

 両目から放たれ怪光線が妖怪たちに当たり小規模な爆発が起きる。

 

 

 この時点で人間じゃない! 人間関係ない! 鼻から伸ばした毛の意味は!?

 

 

「人間ファイアー!」

 

 

 口から青白い高温の焔を吐き出し、妖怪たちを燃やす。

 

 

「人間毒ガス攻撃!」  

 

 

 身体全体から紫色の煙が噴出され、妖怪たちを身悶え苦しませる。

 

 

「見たか! これが人間だけにしか使えない人間だからこそ使える力。

 人間が持つ無限の可能性、人間の力。人間そのものだ!」

 

 

 

 

 イヤイヤイヤイヤムリムリムリムリ!

 

 

 

 

   * * * * *

 

 

 

 

 身体が頑丈だといわれている妖怪でも耐えられないのか

 徐々に光の粒子になって崩れていく大蜘蛛と大ムカデ。

 口から紫色の泡を吹いて痙攣している天の助と首領パッチ…

 

 

 仲間も喰らってますけどォォォ !?

 

 

「首領パッチ!? 天の助!? しっかりしろ! 一体誰がこんなことを!?」 

 

 

 天の助と呼ばれた倒れている青い妖怪の肩を掴んで揺さぶる。

 ボーボボを指差して「お前」と言ってから気を失う。あの煙を吸ったようだ。

 

 

「くそぅ… 妖怪たちめぇ…」

 

 

 悔しそうに歯軋りをし、握り拳を強く握る。

 やったのはあなたですが…?

 

 

『俺たちも妖怪の端くれだからな… ヤられっぱなしじゃカッコがつかない』

 

 

 そう言い残して妖怪たちは消え去った。最後まで話合わせてるし…

 私の中の妖怪のイメージがちょっと崩れていく。

 情報は所詮、情報。知識は知識に過ぎないということだろうか…?

 妖怪は死ぬと形を残さない。死にかけているが形を残しているこの二体は…?

 

 

「タイムマシンだけじゃなくて、首領パッチと天の助の命を奪うなんて!」

 

 

 タイムマシン? 時間を飛び越えて来たっていうの?

 あと、あなたの仲間まだ生きている気がしますけど!?

 

 

 彼はどこからかスコップを取り出すと地面を掘り…

 掘った穴に二人をそっと横たわらせてから、土で覆い被せた上に十字架を挿した。

 

 

「一命は取り留めた…」

 

 

 

 

 トドメ刺したァァァ!?

 

 

 

 

 

「「勝手に殺すなぁぁぁっ!」」

 

 

 地中から飛び出てボーボボに抗議する。

 うん。あれはどう見ても埋葬だものね。

 

 

「落ち着けお前たち。まずは現状を把握するのが優先だろうが」

 

 

 埋めた人間がもっともらしいことを言う。他の二人はしぶしぶ大人しく従っている。

 天の助は周囲の竹を見てから

 

 

「ここって迷いの竹林じゃないのか?」

 

 

「――だが… あれだけいるイナバの姿も妖精たちの姿も見えない。

 ここは幻想郷の外かもしれないな… 」

 

 

 「それに…」とボーボボは遮光眼鏡を指で押し上げて

 こちらを――正確には私が乗っている宇宙船に視線を向ける。

 私は宇宙船の中で身構える。彼らがどうでるのか…?

 

 

「あれは明らかに人工物。人の手によって作られたものだな。

 まぁ、妖怪の可能性もあるが…」

 

 

 彼らは宇宙船の周りに集まってきた。この宇宙船は変わった作りになっている。

 製作者の趣味か願いか… 細長い緑色の胴体は周囲の竹と似たような外観をしている。

 そして私が入れられている箇所は黄金色に光っているのだ。これで目立たない方が可笑しい。

 

 

 彼らが善人なのか、悪人なのか、判断材料が少ない。

 ただ確実にわかっているのは… 彼らは " 変人 " の集団ということ。

 でも人間と妖怪が一緒にいるこの集団に興味が沸いてきた。

 それに彼らがここからいなくなると、ここから出られずに永遠に閉じ込められる可能性もある。

 

 

「だったら抉じ開けてみようぜ! この首領パッチ様のために切るモノ用意しろ!」 

 

 

「ネギならあるけど?」

 

 

 天の助がどこからともなくネギを取り出した。

 なぜにネギ? ネギじゃ無理でしょうが…

 

 

「おお! あるじゃねぇかドンパッチソード! これさえあれば!」

 

 

 ネギを片手に左から右へと横に薙ぐ一閃。『キィィィン』という金属の音が響く。

 ネギが半ばからへし折れ… 切っ先が回転しながら――『どすっ』と天の助の額に刺さる。

 ネギにあるまじき性能。もはやネギじゃない。

 

 

「俺の額にネギがぁぁぁっ!?」

 

 

 天の助が慌てて引き抜く。水色の体液が噴水のように噴出する。

 うん。もはやこの程度じゃ驚かない自分がいる。

 

 

「くそぉ… こんなときにドンパッチハンマーがあれば…」

 

 

「ネギならあるけど?」

 

 

 ボーボボの髪が横に二つに分かれて、中からネギが飛び出す。

 あの奇妙な髪型は収納箱になっているの?

 

 

「おお! あるじゃねぇかドンパッチハンマー! これさえあれば!」

 

 

 頭にヘルメットを被ってネギを両手に、左から右へと大きく振る。

 『ベコッ』と私の真上に大きな振動。

 ネギが与えた衝撃のせいか、開閉口が吹っ飛ぶ。

 

 

 …は?

 

 

 至近距離からの首領パッチと目が合う。

 ネギで破壊したのもそうだが、なんの準備もなく首領パッチとの対面に硬直。

 しばらく見つめ合っていると… おもむろに

 

 

「まぁ、なんて可愛らしい女の子なんでしょう。

 ボーボボお爺様。この子を連れて帰りましょう」

 

 

「そうじゃなパチ美お婆様。こんな所に一人残して行くわけにはいかんじゃろう」

 

 

 一体いつの間に着替えたのか、それぞれつけ髭をつけた翁の格好と

 カツラを被った嫗の格好に変わっている。

 まさか、この人たちに育てられるの私?

 

 

「名前はどうしましょうかねぇ? お爺様?」

 

 

「ふむそうじゃなぁ… 

 「輝く」ような… 「夜」を切り取ったような美しい髪をしておる。

 さらに高貴な「姫」のごとく気品さを持ち合わせておるからのぅ――」

 

 

 輝夜姫。カグヤヒメとでも名付けるのだろうか? なんの因果かここ、地上でも

 同じ名を貰うとは……

 

 

「「  シャイニング(輝く)ナイト()プリンセス()! と名付けよう!  」」

 

 

 キラキラネーム!? 

 

 

 なんとしても阻止したいとこだが、今は赤子の身。

 このままではシャイニング・ナイト・プリンセスになってしまう。

 

 

 その時『ほっほっほ』という、しわがれた老人の笑い声が竹林に響き渡り――――

 私たちの前に一組の翁と嫗が姿を現す。

 

 

「まさか、竹から女の子出てくるとはなぁ…」

 

 

「長生きはしてみるもんですねぇ、お爺様?」

 

 

 ああ、良かった。やっとマトモな人たちが現れた。

 この人たちならシャイニング・ナイト・プリンセスを阻止してくれるかも

 

 

「失礼だが、あなたたちは一体?」

 

 

 ボーボボが彼らに問う。むしろボーボボの方が問われるべきだと思う。

 しかし返事がくるまえに、複数の足音と気配が私たちを取り囲むように出現。

 そいつらは毛皮を身に纏い。ニワトリのトサカみたいな髪型をしていて、

 こん棒やら手斧で武装していて「ヒャッハー!」と奇声を発していた。

 そして、翁が口を開いた――――

 

 

「儂らは山賊集団『竹取りの翁』じゃよ?」 

 

 

 お前もかァァァ!? 

 

 

 

 

   * * * * *

 

 

 

 

「さぁ行け! 我が息子たちよ!」

 

 

 翁の号令の下、ボーボボたちに襲いかかってくるヒャッハー軍団。

 

 

『 ヒャッハー! 』『 ウサギ狩りだぜぇぇぇ! 』

『 汚物は消毒だぜ! 』『 お前の血は何色だぁぁぁ!? 』

 

 

 それぞれ、何を言っているのか、何の意味があるのかわからないが

 雄叫びを上げながら迫ってくる。それに対してボーボボたちは――――

 

 

『毛魂と書いてバーニング!』

 

 

 数本の鼻毛を伸ばして、ムチのように操って敵を薙ぎ倒すボーボボ。

 

 

『針千本!』

 

 

 身体中のトゲを伸ばして、敵を攻撃する首領パッチ。

 

 

『天王星の裁き!』

 

 

 辺り一面が『ぬ』で埋め尽くされ、ヒャッハー軍団が吹っ飛ぶ。

 

 

 なにこれぇぇぇ!?

 

 

 そうしてる間にヒャッハー軍団は全滅。残りは翁と嫗の二人だけになった。

 

 

「儂らの息子たちを、こうもアッサリと倒すとはのぅ…?」

 

 

「長生きはしてみるもんですねぇ、お爺様」

 

 

 肌をひりつかせる威圧感。伊達に年を取っているだけじゃないというわけか

 山賊集団の頭をしているのも、親子以上に実力のせいだろう。

 でもボーボボたちも妖怪を倒すだけの実力を持っている。

 ボーボボたちに視線を向けると…

 

 

 首だけ出して地面に埋まっているボーボボ。

 うつ伏せでカラスにつつかれている天の助。

 白骨化している首領パッチ。

 

 

 

 

 戦う前から死んどるぅぅぅ!?

 

 

 

 

 




 

 連戦に次ぐ連戦により、ボーボボたちは披露した。
 はたしてボーボボたちは竹取りの翁に勝つことができるのか !?
 シャイニング・ナイト・プリンセスの運命や如何に !?




 (´・ω・)にゃもし。

 ※まずは短編として出してアクセスを稼ぐぜ。そのあとに連載かな?
  お話としてはS・N・Pが幻想郷にくる以前の話。
 ※以前のバラバラ殺首領パッチ事件の影響でこうなりました。
  あれで短編は無理があると判断して今回は試験的にこんな形。
 ※S・N・Pの元ネタはジャンプの読み切り作品です。
 ※輝夜作品少ない気がする。→ 執筆。ボーボボも絡ませよう。

 ※会話のカッコと空白部分を修正しました。
 


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満月の決闘

 

 二人組の妖怪を撃退し、ヒャッハー軍団を倒したのも束の間。
 翁と嫗の覇気にあてられ気を失うボーボボたち。
 しかし彼らの正義を愛する心が
 幼いシャイニング・ナイト・プリンセスを守るために
 彼らは今一度戦場に立つ!




 

 

「昔はどうか知らんが今はヨボヨボの老人だ! 恐れる必要はない!」

 

 

「ボーボボの言う通りだ! コイツらなぞ、この首領パッチ様一人で十分だぜ!」

 

 

 翁は腕を腰の横につけると筋肉が膨張。体が膨れ上がり、上半身の衣服が弾け飛ぶ。

 古傷を纏った鋼のような筋肉の鎧をさらけ出す。身長もボーボボよりも頭一つ大きくなった。

 

 

「「えええぇぇぇっっっ!?」」

 

 

 嫗は背筋がピンと伸び、手足が伸び、白い髪が黒く変色。皺一つない瑞々しい肌に変化。

 黒髪を腰まで伸ばした目つきの鋭い若い女性になった。

 

 

「「こっちは若返ったぁぁぁ!?」」

 

 

 驚く私たちを尻目に、翁は指を三本立てて

 

 

「あいにく、この姿でいられるのはたったの「三日」だけだ。

 その間に決着をつけさせてもらおう」

 

 

 三日!? 十分足りるでしょ!? 

 

 

「聞いたか首領パッチ、天の助! なんとかして三日間耐え抜くぞ!」

 

 

 コイツらバカ!? 

 

 

「まずは首領パッチ! お前が一人で行け!」

 

 

「ええ!? ちょっ待って!」

 

 

「待てん! 客は1mmたりとも待たせてはならない!」

 

 

 長いヒゲを生やした料理人の格好になると首領パッチをフライパンで

 翁と嫗のところに打ち込んだ。

 

 首領パッチは飛ばされながらも「ボーボボ、てめぇ!? あとで殺す!」喚きつつ

 翁と嫗の元に飛ばされ

 

 

『翁のおきナックル!』

『嫗のおうナックル!』

 

 

 二つの拳が首領パッチの顔面に突き刺さる。

 「うごぉぉぉ…」そのあまりの破壊力に白目を剥け血を吐き口から魚の骨が飛び出る。

 魚の骨を丸ごと食ったのか、こいつは。

 

 

 翁は首領パッチを片手で掴むと、大きく振りかぶって

 右腕を右から左へ、ムチのようにしならせて首領パッチを投げ返した。

 

 

『翁のおき投げ!』

 

 

 投げられた首領パッチは曲線を描くようにして飛来。

 ボーボボたちへと迫る。

 

 天の助は飛んでくる首領パッチを「なんの!」ラケットで打ち返す。

 ラケットで打ち返された首領パッチは高速で回転しながら山なりに翁の手前に落下。

 

 

 打ち返す必要あるの!?

  

 

 地面に落ちたままにも関わらず回転の勢いは止まらず

 直後、真上に跳び跳ね。翁の遥か頭上へ。

 

 

「婆さん!」

「あいよ、お前さん!」

 

 

 短いやり取りをした後。翁は右手を下げてと嫗がそれに両足を乗せて身を屈むと

 上空の首領パッチに向かって投げる。

  

 高速で飛翔。やがて首領パッチに追い付くと… 両手首を掴み背中に片足の膝を乗せて

 首領パッチを下にして落下し始める。

 

 

『嫗落とし!』

 

 

 地面に激突。落下地点を中心に陥没が起こり、周辺の地面は隆起。

 隕石が追突したようなクレーターを作り上げる。 

 

 

「まずは一人目じゃな…?」

 

 

 砂塵がもうもうと舞い散る中。嫗は口角を上げて不敵に笑い。ボーボボたちに視線を向ける。

 

 

「なにが一人目だって?」

 

 

 首領パッチが腕を組んで偉そうにふんぞり返っていた。

 嫗は目の前の首領パッチと下敷きにしているのと見比べる。

 

 下敷きにしている方は色素が若干薄い気がする。

 嫗の技に耐えられなかったのか、その首領パッチは砕け散った。

 

 

「変わり身の術の(たぐ)いかい? 一体いつの間に?」

 

 

「婆さん。さっき奴の口から骨が飛び出したじゃろ? あれが核じゃよ」

 

 

 そう、首領パッチが殴られたときに口から飛び出した『魚の骨』が核であり

 翁と嫗が相手していたのは『抜け殻』だったというわけである。面妖な。

 そして飛び出した骨にボーボボが黒い液体をかけたら首領パッチになったのだ。

 

 

「腐っても人外の者ってわけかい。人間のようにはいかないねぇ」

 

 

「なぁに、壊れるまで壊せばいいだけのことじゃよ」

 

 

 「俺たちを壊すだと?」一歩前に進み、あの構えを見せると鼻毛を伸ばす。

 首領パッチと天の助もボーボボの隣に立つと

 

 

「悪いがお前たちの実力は見切った! 今度はこちらから行かせてもらうぜ!」

 

 

 地を蹴り、駆けて行く三人。

 ボーボボの鼻毛がさらに伸び、蛇行しながら翁と嫗へと伸ばしていく。

 

 嫗は四指を伸ばした両手を胸の前で交差させると『熊の爪!』爪が伸び

 後ろ向きで後方の竹の幹に飛び乗り、自身の重さで竹を弓のようにしならせ、

 元に戻る力、その反動で空を飛び宙を舞う。

 黒い影となってボーボボたちの頭上、竹林の森を縦横無尽に駆け抜ける。

 

 

「熊の爪真拳奥義『ベアークロー』!!」

 

 

 嫗がボーボボの背後から奇襲を仕掛ける。

 鼻毛を後ろに向けて放つが、嫗の鋭い爪で切り落とされる。

 

 右手を伸ばして迫る嫗の爪に、とっさに両腕を交差させる。

 腕が重なった部分に爪が刺さり、動きを止める。 

 

 

「肉を切らせて骨を断つだ! 至近距離からの鼻毛真拳を喰らえ!」

 

 

 再び鼻毛を伸ばして、うねらせる。が…

 

 

「若いの! 誰か、お忘れでないかい?

 竹取真拳奥義『雨後のタケノコ』!」

 

 

 翁が右手を地面に触れると

 地面からタケノコが生え、ボーボボに向かって飛び

 脇腹に突き刺さり、ボーボボごと竹林の奥へと消えていく。  

 

 

「まだまだ終わりじゃないよっ!」

 

 

 次に首領パッチへと腕を伸ばしたまま飛んでいく。

 「こいつを使え!」天の助がゴングを投げ渡し、掴み取り、盾にするが

 

 

「熊の爪真拳奥義『スクリュードライバー』!!」

 

 

 身体を時計回りに高速回転。きりもみ回転しながらゴングを破壊。

 さらに首領パッチの左こみかみに嫗の右の爪が突き刺さし、抉る。飛び去る。

 首領パッチは血を滴らせながら、ボーボボが消えた方向へと転がっていく。

 

 

「首領パッチが植物状態になってしまったぁぁぁ!」 

 

 

 と、思ったら車イスに首領パッチを乗せてボーボボが出てきた。

 首領パッチの額には包帯が巻かれている。一体いつの間に?

 

 翁と嫗の攻撃はまだ続く。

 二人は地面に手を置くと、周辺にタケノコが生え、上空へと飛んでいく。

 宙でタケノコは成長し、青い竹になり

 そこへ嫗が切り口を斜めにして斬っていく。

 

 

「「 合体奥義『上からマリコ』! 」」

 

 

 鋭く尖った部分を下にして、地上の三人に落としていく。

 

 

「なんの! 幾戦もの戦いを経験した俺たちにこの程度の攻撃など

 目を瞑ってでも、避けられるぜ!」

 

 

 竹槍が降り注ぐ中を

 

 

「よっ!」

「たぁっ!」

「はぁっ!」

 

 

 三人の発する声が響き渡り

 やがて竹槍の雨が止むと。

 

 

「ぜぇぜぇ…」

「はぁはぁ…」

「ひっひっふー」

 

 

 息も絶え絶えで、全身に竹槍が突き刺さった

 ボーボボ、首領パッチ、天の助の姿が… 

 

 

 全部、刺さっとるぅぅぅ!? せめて一本ぐらいは避けなさいよ!

 

 

「しぶといねぇ。次で最後にしてやるよ!」

 

 

 爪を伸ばした両手を空にかざすと「二刀流だと!?」驚くボーボボたち

 

 

「100万と100万で200万パワー!」

 

 

 竹の幹に掴むと限界まで、曲げ、しならせたのちに

 足の力を抜き、竹の反動で上空へと飛んでいく。

 

 

「いつもの二倍の跳躍力が加わって400万パワー!」 

 

 

 竹林の森より、上へと飛び出す。

 満月を背に受けて白く淡い光をぼんやりと放つ。

 

 腰を捻り。腕を大きく振りかぶって

 

 

「そしていつもの三倍の回転を加えれば――」

 

 

 きりもみに回転しながら地上のボーボボたちへと

 月光の光を浴びて、一本の光の矢となる。

 

 

「1200万パワーだ!!」

 

 

 螺旋を描きながら落ちてくる白い光にボーボボは

 

 

「1200万パワーか、俺たちでは敵いそうにないな…

 だが『爪』を武器にしているお前相手なら、この方の相手にならんわ!」

 

 

 アフロが上下二つに分かれて、中からおかっぱ頭の和装の女性が現れた。

 

 

「ネイルアート歴15年。やす子、参る」

 

 

 指と指の間に筆のような小道具を挟み、アフロから飛び出し、嫗の前に躍り出る。

 が、嫗はやす子の胴体を貫き、さらにボーボボの身体に大穴を空けさせて、着地する。

 

 

「ふっ、呆気ないねぇ… 一体、何のために呼び出したんだか?」

 

 

 瞬間。やす子、ボーボボの身体が花びらに変化して空に舞う。

 竹林の森が満開の桜に変わり、空も太陽が顔を出している。

 

 

「「 なんじゃとぉぉぉっ!? 」」

 

 

 翁と嫗。声を出していないが、この私も驚いた。

 その間にも景色は次々へと姿を変えていく。

 

 満開の桜から、新緑の青葉へと変化。セミが鳴き始めた思えば

 今度は燃えるような紅葉に包まれて、二体の熊が顔を出す。

 

 

 ……熊!?

 

 

 二体の熊は二本足で翁と嫗の元へと駆け寄り

 一体が両腕で翁の胴体を締め上げる。

 もう一体は嫗を逆さまに抱き上げ、空中に飛び上がり

 

 翁の頭部に嫗の頭部を叩きつける。

 

 

「「 テディ・クラッシャー!! 」」

 

 

 熊が高度な技を繰り出したぁぁぁ!?

 

 

 さらに場面は変わって、雪が積もった白銀の世界になる。

 辺りには雪ダルマとかまくらがあり、中から二体の熊が

 

 

 また出た!?

 

 

 先ほどと同じく翁と嫗の元へと駆けていくが

 そうはさせまいとそれぞれの顔面に拳を繰り出す。

 

 熊たちは身体を低くして避けると、下半身に体当たり。

 その際に足首を掴み、持ち上げ、その場でコマのように回転。

 翁の足を掴んでいるのは右回転。嫗のは逆回転で回し始める。

 

 数回転したあと、熊たちは翁と嫗の側面を激しくぶつけ合わせて

 

 

「「 テディ・クラッシャー・セカンド!! 」」

 

 

 だから何で熊が高度な技を出すのよぉぉぉ!?

 

 

「ベアークローはお前ごとき残虐超人が使っていいものではない」

 

 

 一体の熊がうつ伏せで重なっている翁と嫗にそう言い放って、かまくらへと戻る。

 

 

 残虐超人って何!? あと普通に熊が喋ってますけど!? あれも妖怪なの!?

 

 

 雪景色は蜃気楼のように揺らぎ始め、ガラスが割れるように砕け散り

 元の竹林へと姿を取り戻す。

 

 

「ジャスト一分だ。いい悪夢( ゆめ )は見れたか?」

 

 

 嫗の爪で胴体を抉り取られたハズのボーボボ。

 しかし、その胴体は嫗にやられる以前の姿に戻っている。

 

 

「い、いまのは一体、何なんだい?」

 

 

 嫗が弱々しく問いかける。

 うん。私も思った。とくに熊。

 

 

「ネイルアートのやす子は、己の腕を10年以上磨き続け… 神の領域まで達した。

 その作品は人の目どころか世界すらも錯覚してしまう」 

 

 

 熊は? どう見ても熊、攻撃してましたけど? あれも錯覚の一種なの?

 

 

「くぅぅぅっ、訳のわからんことを…

 だったら、もう一度やるまでのことよ」

 

 

 嫗が立ち上がり戦闘体勢に入る瞬間。

 嫗の背後に立つ謎の人影が「その爪でか?」…やす子だ。

 

 振り向きざまにその爪で喉元を狙うが、寸でのところで動きが止まる。

 その爪一枚一枚にはやす子が描いたと思われる作品が書かれている。

 

 春の桜。夏の新緑。秋の紅葉。冬の銀世界。二体の熊。

 

 

「 私が手掛けた爪は、美に目覚め、作品が壊されることを恐れるようになり

 姿を保つために己の身を守るようになる。

 無論、攻撃に使われことで作品が汚されることも嫌うようになる 」

 

 

「「 やす子、スゲェ! 」」

 

 

 やす子は、それだけ言うとアフロの中へと戻っていった。

 先ほどの四季の変化は嫗の爪が作り出した幻術なのだろうか?

 

 

「ならば儂一人で片付けるまでのことよ!」

 

  

 両手のひらを地面に叩きつける。

 衝撃で地面が揺れ、局地的な地震を引き起こす。

 その揺れに耐えきれずにボーボボたちは地面に手をついてしまう。

 

 揺れが収まらないまま地面から鋭く尖った竹の先端が

 地面に敷き詰められた状態で飛び出す。

 

 

「 竹取真拳最終奥義『高草群』!」

 

 

 足首までしかなかった竹の群生が、瞬時に竹林の森へと成長する。 

 下から槍で突き上げるようなものだ。それも隙間というものがほとんどなく

 あの三人も只では済まないだろう。場合によっては…

 

 

「トランスフォーム『手裏剣』!」

 

 

 首領パッチの声とともに、竹が伐採されていく。

 竹やぶの中を回転しながら飛来する橙色の手裏剣。

 全ての竹を切り終えると、巨大化。元の首領パッチになる。 

 

 

「あいにく、俺様は身体の大きさを変えられるんでね?」

 

 

 竹の隙間から水色の半固体、ゲル状の物質が集まり合体。天の助になる。

 

 

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

 

 さらに上空からは

 

 

「ボーボボ式『ファラオ解骨術』!」

 

 

 ボーボボが身体を頭・胴・腰・両腕・両脚とバラバラに分割して宙に漂っていた。

 

 

「「 もうお前、人間じゃないだろ!? 」」

 

 

 翁と嫗が叫ぶ。

 でかくなったり、若返ったりするコイツらもどうかと思う。

 

 

「人間には、まだ知られていない未知の力が眠ってある!

 俺は努力と修行で開花したに過ぎん!」

 

 

「「 イヤイヤイヤイヤ、ムリムリムリムリ!! 」」

 

 

 手をパタパタと振って否定する。

 努力と修行で身体が分割できるものなのだろうか?

 

 

「首領パッチ! 天の助! 今度は奴らに俺たちの息の合った連係プレーを見せてやるぞ!」

 

 

 「集骨!」の一言でバラバラになったボーボボの身体が一ヶ所に集まり

 そこに首領パッチ、天の助が加わる。

 三人の全身が白い光を放ち。その光は大きくなり、夜を一瞬だけ昼に変える。

 

 光の収まった後には三人の代わりに人の身長の十倍ほどの大きさの

 黒と黄金の身体に赤い翼を持った鋼の巨人が鎮座していた。

 

 

「核熱造神『ヒソウテンソク』見参!!」

 

 

 連係プレー関係ない! というか何この人型兵器!?

 

 

 胸部の部分がスライドして中から正八角形の八卦炉が飛び出し

 中心部分から七色に輝く光線を撃つ。

 

 

「必殺『マスタースパーク』!!」

 

 

 光線で吹っ飛ばされ夜空の星になる翁と嫗。

 

 

「「やなかんじー!」」

 

 

 その後をヒャッハー軍団が「親父、お袋!?」地上を走って追いかけていく。

 ヒソウテンソクは腕を組んで彼らが去った方向に体を向けると

 

 

「正義は「これが「やった」俺たちの」勝つ!」

 

 

 一つしかないヒソウテンソクの口から三人が一斉に喋り出す。

 

 

 統一しなさいよね…

 

 

 

 




 

 こうして山賊集団『 竹取りの翁 』を倒した核熱造神『 ヒソウテンソク 』
 ありがとう、ヒソウテンソク! 僕らのヒソウテンソク!
 

 

 (´・ω・)にゃもし。

 ここから連載という形にしようと思う。
※嫗の爪は竹林ということなので、あの人です。
※翁のはモンハンの竹林のアイツですね。睡眠が厄介です。
※他にもいろんなところに…
※核熱造神『 ヒソウテンソク 』説明はいりませんね。
※翁と嫗はもはや別人なのでオリキャラタグ入れておこう。
 ヒャッハー軍団もいるし

※カッコと空白部分を修正しました。


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迷いの竹林にて

 

 激闘の末、翁と嫗を倒したボーボボたち!
 それを死んだ魚の目で眺める輝夜!
 このままではシャイニング・ナイト・プリンセスと命名されてしまう!
 そしてボーボボたちと輝夜は竹林の森であの人物と遭遇する!




 

 

 核熱造神『ヒソウテンソク』の全身から光を放ち、黄色・橙色・水色の三つの光に分離。

 それぞれボーボボ、首領パッチ、天の助と元の姿に戻る。

 

 

「シャイニング・ナイト・プリンセスは!?」

 

 

 ボーボボたちは辺りを見回して探し始める。

 翁と嫗の戦闘の余波で辺りの地形はだいぶ変わっている。

 私が乗っている宇宙船も大破して無惨な有り様になっている。

 

 

「まさか… さっきの戦闘で…」

 

 

 大破した宇宙船を見て、天の助が青い顔をさらに青ざめさせる。

 「諦めるのは早い!」とボーボボたちは声を大きくして叫ぶ――――

 

 

「「 シャイニング・ナイト・プリンセスゥゥゥ!! 」」

 

 

 そのボーボボに切り落とされ放置されていた竹を大きく振りかぶって脛に打ちつける。

 「反抗期!?」痛む足を抱えて転げ回り、私の姿を見て驚く。

 

 今の私は成長を抑制する薬… その効果が薄くなってきたのか、効力が弱まったのか

 現時点で五才児ほどまでの姿になっている。

 

 ボーボボと私とのやり取りを見ていた首領パッチは

 ふー、やれやれ… という感じに肩をすくめて

 

 

「何はともあれ、シャイニング・ナイト・プリンセスが無事で――――」

 

 

 その額に竹槍を投げ込み――ぶっ刺し黙らせる。「俺の額に竹がっ!?」

 コイツらがちょっとやそっとでは死なないことを知っているからできる芸当だ。

 普通は死ぬ。

 

 

「ふぅむ。シャイニング・ナイト・プリンセスという名が気に入らないのか?」

 

 

 天の助が唸って考え込む。

 当然。気に入る奴がいるのなら、この目で見てみたい。

 

 

「シャイニング・ナイト・プリンセス… なんと素晴らしい名前だ!」

 

 

 筋骨隆々のぼろを纏った… かろうじて女とわかる青鬼が身を震わせて立っていた。いたよ。

 物欲しそうにしていたので彼女にその名を譲ると両目から『ぶわぁっ』と涙を流し

 厳つい顔を涙で濡らしながら「ありがとう!」と礼を述べて竹林を去っていた。

 

 彼女はここで派手な音と閃光を聞きつけてやって来たそうだ。

 ちなみに本名は覇無虎( はなこ )。漢字だけ見たら強そうだ。

 

 天の助が「あーあ、名前取られちゃったね。てへっ」とウィンクして

 こちらにベロを出して腹立たしい表情をしたので竹槍で腹部を刺す。

 

 

「さっきまで赤子だったのに、もうここまで成長してるとはな…

 それに誰に教わった訳じゃないのに知識があり、普通に会話している」

 

 

 足にギブスをはめて車イスに乗ったボーボボがこちらを見ている。

 そこまで強く打ちつけた記憶はないのだが?

 

 

「成長期ってやつじゃねーの?」

 

 

 額の竹槍を「すぽん」と抜きながら、場違いな意見を述べる首領パッチ。

 そんな訳がない。もっとも言うつもりもないが…

 

 薬で赤子に戻されて、月から追放されて地上に落とされました。

 なんて誰が信じるのだろうか? 同様に彼らの時間跳躍も然り。

 

 

「――で、お前」

 

 

「『お前』じゃないわ…」

 

 

 指差して何かを言おうとした首領パッチを遮って

 

 

「『輝く』ような『夜』を切り取ったような髪を持つ――――」

 

 

 ――輝夜。と、名乗った。

 

 

 こうして私は彼らと出会った。

 この時、私の名前を聞いた彼らは神妙な顔つきをしていたが

 それを理解するのは当分先の話になる。

 

 幸か不幸か… それ以降、彼らが私に問いかけることはなかった。

 

 

   = 少女移動中 =

 

 

 満月の明かりがあるとはいえ、今は暗闇が支配する時間帯。

 じっとしていたら妖怪や山賊にまた出くわす可能性がある。

 私たちは移動をすることにしたのだが…

 

 

「なぁ、この場所。さっきも通らなかったか? ほら、ここ」

 

 

 天の助が数ある竹の一本を叩いて口にした。

 その竹の幹には黄色いチョークで『心が折れそうだ』と書かれている。

 私たちが目印として書き残したモノで… 私たちは今、現在進行形で迷っている。

 

 空を飛んで上空から竹林を抜けていくこともやったが

 上空では霧が発生していて霧を抜けると、どういう原理か元の場所に戻ってしまう。

 

 ボーボボたちが翁と嫗と戦闘したときは晴れていたのだが…

 竹取真拳奥義を操る翁の仕業か? それとも翁が晴れさせていたのか?

 どちらにしろ迷っていることに変わりはないけど。

 

 

「こんなことならさっきの鬼を捕まえてりゃよかったな! おい !?」

 

 

 不機嫌な態度を隠さない首領パッチ。でもその意見に私も激しく同意。

 私たちはこの竹林を完璧に舐めていたのだ。

 

 もっとも…「大丈夫大丈夫。ちょっと進めば出られるって!」

 と、言ったのもコイツ(首領パッチ)だが…

 

 私は実年齢は兎も角。見た目だけなら五才児ということもあり

 開いたアフロの中に入れられて楽をさせてもらってる。

 

 アフロの中ということで『やす子』がいるかと思ったら白い生き物が(くつろ)いでいた。

 しばらく見つめ合っていると唐突に――――

 

 「新入りか!? これで序列最下位から脱出できるぜ!!」

 

 と、般若のような形相で襲いかかってきた。

 すぐにアフロの床にある扉から大量の可愛くデフォルメした生首の妖怪? 

 

 ――が飛び出して、集団で暴行を加えた上に扉の奥へと連れ去られたが…  

 あの扉の奥はどうなっているのだろうか?

 

 

「だぁぁぁっ!? もうやってられっか!? もー、どうにかしてあの鬼呼ぼうぜ!!」

 

 

 とうとう首領パッチがキレた。

 どうにかって、どうするつもりなのか?

 彼は「こうするんだよ!」と手を組み「来い来い来い来い…」念仏を唱える。

 

 『ヒュン』と風を切る音に、竹と竹の間の隙間を縫うようにして細長い影が飛来。

 首領パッチの額を『ズボッ』と貫通。「ぎゃぁぁぁ!?」そのまま飛び去っていく。

 

 高速で動いていて確信はできないが… 刃の根元に赤い布が巻かれていた『槍』だった。

 飾り気がほとんどないが一目で霊槍とわかる業物(わざもの)

 

 

「甘いぜ首領パッチ。そういう邪な邪念があるから、そうなるんだよ」

 

 

 「見てろと」今度は天の助が数珠を片手に目を瞑り…

 おもむろに数珠を持った手を頭上に掲げて「来い!」と叫ぶと――

 上から『ドスン』と音を立てて何かが落ちてきた。

 

 感情が読み取れないつぶらな瞳はじっとこちらを見つめ続け

 口はパクパクと閉じたり開いたりと、せわしなく動かし

 尾びれを『ビッタンビッタン』と地面に打ち付ける。

 

 それは魚類。それは子供ほど大きさの巨大な――――

 

 

「「…………鯉?」」

 

 

 鯉をどうしろと? 天の助に視線が集中する。

 天の助は口笛を吹きつつ明後日の方向を向く。

 

 

「俺なんてマグロを呼んだぜ!」

 

 

 聞いてもいないのにボーボボが喋る。

 ボーボボの足下には体長がボーボボほどのマグロが横たわっていた。

 もはや『こい』のこの字もない。しばらくマグロを見つめる一同。

 

 『ぐぅ~』と誰かのお腹が鳴る。

 気のせいかマグロがビクッと動いた気がした。

 

 

「腹減ったし、焼いて食うか?」

 

 

 首領パッチの言葉に賛成し、美味しくいただくことにした。

 

 

   = マグロ調理 =

 

 

 マグロを豪快に焼いてる最中に――

 『ゲロゲーロ』『ホーホケキョ』『ヤムチャさーん!! ……死んでる』

 三人のお腹から音が聞こえてきた。最後のはセリフだし… ヤムチャって誰?

 

 

「美味しそうな匂いにお腹が鳴っちゃったよ。あははは」

 

 

 と、首領パッチが言っていたし。どんなお腹をしているのかコイツらは?

 そして、もう一つ… 『きゅー』と可愛らしく誰かがお腹を鳴らす。

 私に視線が集まる。手を振って否定する。次にさっきからずっといる鯉に視線が移る。

 

 

「いいえ、私じゃありませんよ」

 

 

 ヒレを動かして否定する。

 三人は腕を組んで唸る。鯉が普通に喋ったことに追及をしてこない。

 私も慣れてきたが…

 

 

「アイエエエ! こ、鯉が喋ったぁぁぁ!?」

  

 

 普通は驚くよね。

 竹の隙間に身を隠してこちらを窺っていたのだろう。

 その少女は腰を抜かして地面に尻餅をついていた。

 

 金髪の髪に紫の服装。頭には変わった形の帽子を被っている。

 少女は私たちの視線に気づくと後ろを振り向き駆けていく。

 

 

「逃がしてなるものか! 行くぞ! 首領パッチ! 天の助!」

 

 

 天の助は身体を液体化して、首領パッチは縮小して手裏剣になり

 ボーボボは身体をバラバラに分解して飛行して追いかける。……おい。

 

 三人の姿を見た少女は「ひっ、妖怪!?」と声を上げて、さらに加速する。

 うん。否定できる要素がない。

 

 健闘空しく三体の妖怪に捕まってしまった少女。

 彼女の名前は『マエリベリー・ハーン』

 

 よっぽどお腹を空かせていたのか、焼いたマグロの切り身を勧めたら

 思いっきりかぶりつき、あっという間に平らげる。

 

 

「腹が減ったなら、素直に言えばいいのによ」

「ああ、それに人を見て急に逃げ出すしな」

「おいおい、首領パッチ、天の助を見たら普通は逃げるだろ」

 

 

 むしろ、バラバラになったボーボボを見て必死に逃げ出しましたけど?

 三人は「ははは」と能天気に笑い。マエリベリーは口を引きつからせて見ていた。

 

 食事を終え私たちは改めて自己紹介をすることになった。

 ボーボボ、首領パッチ、天の助、ヴォルガノスという名前の鯉。

 鯉なのに無駄に名前がカッコいい。

 

 そして私――輝夜の名を聞いた彼女は眉をひそめた。

 「竹林… 輝夜… まさかね… でも…」小さく呟き、考え込む彼女。

 どうやら彼女も私たち同様に訳ありのようだ。

 

 

「で、マエリュ《がぶっ》……」

 

 

 名前の途中で舌を噛んだらしく、口からだばだばと血を垂れ流し…

 そのまま横に倒れ、白目を剥いて口から泡を吹いて『 ピクピク 』痙攣し始める。

 

 

「「 首領パッチィィィっ!? 」」

 

 

「バカかお前は !? いくら言いにくい名前だからって、マ《ぶちっ》――」

 

 

 ボーボボは一文字目で噛み、体をくの字に折り曲げて地面に顔を突っ伏す。

 顔の辺りから赤い液体がどばどばと溢れ出す。

 その血を見てマエリベリーが怯み脅え後ずさりする。その表情は真っ青だ。

 

 

「情けないな二人とも。それに失礼だろうが――」

 

 

 『ポン』と天の助の頭部が破裂。

 残った胴体が前のめりになって倒れる。

 マエリベリーが「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げる。

 

 人が舌を噛んで重傷。口から大量の血を吐き出す。頭部が破裂。それも自分の名で。

 確かにビビるかも… とりあえず彼女を宥めさせて落ち着かせて

 三人はほっとくことにする。気になるのか彼女は始終、三人の方に視線を向けてたが

 

 

「言いにくいようでしたら『メリー』と呼んでください」

 

 

 彼女はおずおずと言い。

 三人が『ガバッ』と起き上がり復活。

 彼女――メリーを怖がらせた。

 

 

「てんめぇぇぇ! どうしてくれるんだぁぁぁ!? 

 お前のせいで舌ぁ、噛んじまったじゃねーか! 見ろよ、これをよぉぉぉ!?

 どう責任取ってくれるんだ!? ああん!?」

 

 

 首領パッチが口の中を見せつつ、メリーに詰めかけて理不尽な怒りをぶつけるが

 マグロの尾頭付きの骨を振り回して首領パッチの顔面にぶつけて黙らせる。

 

 

「目がァァァ!? 目がァァァっ!?」

 

 

 いい感じに骨が目に刺さったようで地面を転げ回る。

 

 

「首領パッチはほっといてだ。メリー、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

 

「それは……」

 

 

 メリーは言葉に詰まる。何しろここは自分たちの知らない土地。

 おまけに竹林から抜け出す方法がわからず、彷徨(さまよ)っている。

 

 彼女は断片的にぽつりぽつりと喋り始める。

 ベッドでスヤスヤ眠っていると時折、こうして自分の知らない世界に入るときがある。

 気がつけば、今回はここ――竹林に立っていて

 

 大抵は半日もしないうちに元の世界に戻るのだが…

 今回に関しては戻る気配が一向に感じられない。

 

 さらに遠くで「ヒャッハー!」という雄叫びと争う音。

 空間一杯に『ぬ』が現れ、季節が一気に変わり、

 タケノコや竹が飛んできたり、竹が急激に成長して危うく串刺しになるとこだったり

 

 最後には謎の光線が何処からともなく飛んできて

 爆発に巻き込まれたり――と、

 命の危険を感じとり、その場から逃げ出したのはいいが

 

 

 案の定、迷った。

 

 

 迷っているうちに香ばしい匂いが漂ってきて

 匂いの元を辿っていったら、私たちの所に辿り着いたという。

 

 

「「……………………」」

 

 

 身に覚えのある出来事にメリーと鯉を除いた面々が押し黙る。

 

 

「ギャハハハ! バッカでー、こいつぅ。マヌケにもほどがあるだろ!?」

 

 

 否。首領パッチがメリーを指差してケタケタ笑っていた。

 

 

   = 少女伐採中 =

 

 

「俺の頭が真っ二つぅぅぅ!?」

 

 

 マグロの骨で頭を縦に斬られた首領パッチが慌てふためく。

 私たちは事のあらましを彼女に説明した。

 

 ボーボボたちが未来から来たこと。光る竹があってそこに私がいたこと。

 妖怪と出くわせたこと。山賊集団と戦ったこと。

 現在に至るまでのことを、長々と説明した。

 

 メリーは最初、恨めしそうに私たちを睨んでいたが

 やがて諦めたのか、大きな溜め息をつくと

 

 

「そこの三人が貴女を守るために戦ったんですよね?」

 

 

「ああ、発見した手前。ほっとく訳にもいかなかったからな」

 

 

 メリーの質問にボーボボが代表して答える。

 

 

「許しますよ。その代わり… 私が元の世界に帰れるまで護衛をお願いできますか?」

 

 

「当然だ。俺たちを誰だと思っているんだ?」

 

 

 ボーボボたち三人は不敵に笑う。

 メリーはわかってて言っているのだろう。

 二度と元の世界に戻れない可能性があることを――――

 

 

「ただしつけもの! テメーはダメだ!」

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 漬物に手足がついた変な生き物がボーボボの鼻毛を受けて空高く舞い上がり

 頭を下にして落下。衝撃で気絶する。

 

 

 

 

「「 なんか変なのがいる!? 」」

 

 

 

 




 新たに加わったメリーとヴォルガノス。
 そして、最後に現れた『 つけもの 』とは !?

 次回『 つけもの、散る( 仮 ) 』乞うご期待!



 
 (´・ω・)にゃもし。

 三話ぐらいで終わるだろうと思ったら → 終わらなかった。

 読者層が似ている作品に自分のがあって驚いた。
 総合評価がマイナスだったので泣いた。

※カッコと空白部分を修正しました。


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無敵要塞『 ザイガス 』と狡猾な兎

 

 竹林の森を彷徨い続け、その時出会った。
 メリーと鯉のヴォルガノス。
 最後に現れたつけものとは !?
 ボーボボたちは迷いの竹林を抜け出すことができるのか !?
 



 

 

 月から追放され地上に落とされ、未来からボーボボたちがやって来た。

 その後に二人組の妖怪が現れては倒して、次に翁と嫗率いる山賊集団を撃退。

 竹やぶを彷徨(さまよ)っていると… ヴォルガノスという鯉とメリーに出会う。

 

 

 最後につけものというのも来たが問答無用でボーボボに張り倒され再起不能。

 野犬に襲われ、頭を(くわ)えられて引き摺られながら何処かへと連れ去られた。

 助かる見込みが絶望的にないので放って置くことにしたけど。

 

 

 地上に落とされてまだ半日も経っていないというのに随分と濃い一日である。

 

 

 空を見上げると粉をまぶしたような満天の星空。

 しかし、空を飛び竹林を越えようとすると霧が発生して行く手を遮る。

 地上を行けば、不可思議な力で彷徨う羽目になる。

 

 

 まさに迷いの竹林。

 

 

「仕方ないがここで野宿にしよう」

 

 

 ボーボボの野宿という言葉に「えー」と不満の声を漏らす。主に首領パッチが。

 結局、私たちは竹林の森から抜け出せることができなかった。

 

 

「大丈夫だ。私にいい考えがある」

 

 

 ボーボボは人差し指を立ててそう言うと首領パッチの額に何かを書き込んでいく…

 書き終わったのか「よし」と言うと首領パッチを両手で掴んで持ち上げて…

 

 

「ほーら、高い高い高ーい♪」

「キャッキャッキャッ♪」

 

 

 女装したボーボボが赤ん坊の格好をした首領パッチをあやし始める。

 と思ったら冷めた表情で両手を放し―― 首領パッチが地面に落ちる寸前に――――

 

 

「なーにが『キャッキャッキャッ♪』だ! 気持ち悪いんじゃボケがぁぁぁ!」

 

 

 首領パッチの顔面に蹴りを叩き込む。

 

 

「「 ええええぇぇぇぇっ!? 」」

 

 

 「ぐぉぉぉ!?」口から呻き声を漏らしながら、キレイな放物線を描いて飛んでいく。

 やがて地面と接触。派手な音を立てて衝突。轟音を轟かせて爆発。炎上。

 

 

 「衝撃に備えろ!」と地面にうつ伏せになり両腕で頭をガードするボーボボ。

 咄嗟に見よう見まねでボーボボの真似をして――――

 

 

 熱を伴った衝撃が発生。こちらまで届く。熱風が肌をちりつかせる。

 燃え盛る炎の中に見えるは、堂々とそびえ立つ大きな建物の黒いシルエット。

 

 

 上部は首領パッチの顔を模した作り。

 下半身にあたる部分は丸みを帯びた建物になっており

 所々に砲台が設置されていて巨大な黒い筒が空に向かって突き出している。

 

 

「「 首領パッチが建物になったァァァ !? 」」

 

 

「よし。今日はアレ、無敵要塞『ザイガス』で野宿だ」

 

 

 そう言って要塞に向かって歩き出すボーボボ。

 しばらく呆然と眺めてから、慌てて後を追い掛ける私たち。

 野宿って何だっけ? 無敵要塞ザイガスって何? あれも首領パッチなの?

 

 

 高さは三人が合体した姿、核熱造神『ヒソウテンソク』を少し越えたところか?

 そう言えば首領パッチが「身体の大きさを変えられる」と言っていたが…

 縮小だけじゃなく巨大化もできるのかと呆れながらも驚いた。

 

 

 この三人に常識を求める方が可笑しいと考えを改めることにしよう。

 でなきゃ疲労で倒れる。主に精神面で。

 

 

 隣にいるメリーは既に目が死んでいる… 

 ついでに口数も少ない。――というか喋っていない。

 一人で竹やぶを彷徨った時の疲れが溜まったせいだろう… と、思いたい。

 

 

 そうこうしてるうちに扉の前にたどり着き、ボーボボと天の助は

 扉を開けるためなのだろう、横にある重そうなバルブを二人で『ギギギィ』と回し

 説明書を片手にボタンを押したり、レバーを引いたり、鍵穴に鍵を差し込んだり…………

 

 

   = 10分経過 =

 

 

「よし、これで自動で開くぞ」

 

 

 いい汗かいたぜ。とでも言いたげな爽やかな表情で額を拭うボーボボたち。

 刃物を擦り合わせたような金属音を響かせながら扉が開いてゆく…

 

 

「もうこれ自動じゃなくて、手動ですよ…」

 

 

 メリーが疲れの混じった声で言う。

 もうここまでやったら手動でいいと思う。

 私たち一行は扉を潜り抜けて、無敵要塞ザイガスの中へと入っていく。

 

 

『ただし、つけもの。テメーはダメだ』

 

 

 要塞に入った途端。頭上から聞こえてくる機械音。瞬時に閉まる扉。

 続いて砲撃からの爆発音。「ぎゃぁぁぁ…」という断末魔に近い悲鳴。

 数頭の獣が吠える声。『ずりずり』何かを引き摺っていく音。

 

 

 つけもの… まだいたんだ。今度こそ終わりでしょうね。

 でもなんだってつけものに対してここまで冷たいのか?

 

 

『なんか俺、つけものキライなんだわ』

 

 

 頭上で響く機械音。お前が答えるんかい。

 扉を潜るとまた扉があった。外敵に備えるためとはいえ面倒である。

 同じようにボーボボたちが10分ほどかけて扉を開ける。

 

 

 首領パッチの形をした要塞の中に、今度は首領パッチの形をした建物があった。

 外の要塞は金属でできてるのに対してこっちはレンガ造りになっているが

 

 

「また扉、開けるんですか?」

 

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

 メリーが木製の扉を指差して問いかけて、ボーボボは――

 

 

「こうして開けるからなっ!」

 

 

 扉を蹴飛ばして、無理矢理侵入する。

 

 

「よう、遅かったじゃねーか、お前ら?」

 

 

 赤いガウンを纏った身体を豪華そうなソファーに埋めた橙色のウニがそこにいた。

 

 

「「 首領パッチ(無敵要塞ザイガス)の中に首領パッチがいる!? 」」

 

 

「この要塞が首領パッチが変化した姿なら、目の前にいる首領パッチは何なの!?」

 

 

 ボーボボは無言で首領パッチに近づいて後ろに回ると、背後から腰に腕を回して組み

 首領パッチごと体を後ろに反らしてブリッジ姿勢。首領パッチの頭を床に叩きつける。

 

 

「居るんだったら中から開けろや!」

 

 

「「 確かに!! 」」

 

 

 頭から床に叩きつけられた首領パッチはそのまま気を失い。静かになる。

 メリーは「寝る」と一言だけ言うと空いたソファーの上に寝っ転がった。

 

 

「ほんじゃ俺も寝るか」

 

 

 天の助はそう言うと部屋に置いてあった冷蔵庫を開けて中に入っていく……

 ボーボボは普通に床に布団を敷いて寝ていた。

 あれ? 普通だ。うん、普通だ。普通に寝ている。

 

 

 てっきり、予想を斜め行く方法で寝るのかと思っていたが

 いくらボーボボでも年がら年中、アホなことしてる訳ないか、ちょっと残念。

 

 

 私はもう一つのソファーに横になって睡眠を取ることにした。

 この無敵要塞ザイガスが首領パッチが巨大化した姿ならば

 ここにある物って… 首領パッチの体内にあるモノが変化したモノ?

 

 

 私は深く考えないことにした。

 よほど疲れていたのか、私の意識はすぐに落ちて――――

 

 

   = 少女睡眠中 =

 

 

 私は夢を見ていた。私がまだ月にいた夢だ。

 一日どころか半日も経ってないのだが、ひどく懐かしく感じられる。

 罪を犯した私が月に戻ることはないでしょうけど。

 

 

 私はそれを望んでいるし、私を月に送った連中も望んでいる。

 でも、私の罰に対して複雑な表情をしている女性がいる。

 

 

 私の依頼で禁忌とされる蓬莱の薬を作った女性。

 飲むことが禁忌なれば… 当然、作るのも禁忌とされている。

 しかし、彼女は罰せられなかった。彼女は月の賢人。月の頭脳。彼女は特別故に。

 

 

 そう言えば何故、彼女は作ったのだろうか?

 知っているのは作った本人のみ。断ることだって、できた筈なのに…

 だが私にはそれを確かめる術がない。

 

 

 此処は地上で… 彼女が居るのは遥か頭上の月なのだから…

 

 

 過去は無限にやってくる。

 今は… あの娘、メリーを元の世界に戻す方法でも探すとしよう。

 その次にボーボボたちを元の時代に戻す方法を考えよう。

 

 

 不老不死の私には良い暇潰しになるだろう。

 最悪、私の能力で文字通り止めれば良い。

 あとのことは、あとで考えればよい。

 

 

   = 少女起床 =

 

 

 魚の焼ける匂いで私は目覚めた。

 匂いの元を、焼く音の元を辿っていくと… 台所でボーボボが調理していた。

 視線に気付いたのか、こちらに振り向く。その腰にはスカートが巻かれている。

 

 

「あら起きたの? ちょっと待っててね。もうすぐで出来上がるから♪」

 

 

「ええー、ぼくぅー、待てないよぉー。はやくぅー、はやくぅー」

 

 

 首領パッチは既に目覚めていたのか、ボーボボのスカートの裾を引っ張っていた。

 「しょうがないなぁ…」と調理の手を止めると、腕を大きく振りかぶって

 「それじゃぁ、これでも喰らいな!」と首領パッチの腹部に拳を喰らわせた。

 

 

 悶絶しその場で転げ回る首領パッチ。朝から騒がしいことこの上ない。

 その騒ぎで目が覚めたのか、ソファーで寝ていたメリーが目を擦りながら起き上がり

 キョロキョロと辺りを見回し… 私と視線を合わせて驚く。

 

 

 今の私は昨日よりも成長して10歳ほどになっている。

 薬の効果もだいぶ抜けているのだろう。とはいえ知らない人が見たら驚く。

 説明するのも面倒なので――――

 

 

「成長期ってやつよ」

 

 

「……………………」

 

 

 「ソウデスカ…」 とメリーは黙りこんで考え込み――

 「物語の輝夜のイメージが… 夢じゃないんだ…」ぶつぶつ呟き始める。

 彼女としては一刻も早く、帰りたいのだろうけど。現実は非常である。

 

 

 「出来たわよー」とボーボボが食卓に料理が並べられていく。

 目の前には食欲そそる肉厚なステーキが。肉の焼ける匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 

「「 朝からステーキ!? さっきの魚が焼いたような匂いは何!? 」」

 

 

 空腹には勝てず、いただくことにした。

 肉厚なのに箸で割れてしまうぐらいに柔らかく、美味しかった。

 今までに味わったことのない肉だ。メリーは気になったのかボーボボに

 

 

「美味しいですけど、この肉って何なんですか?」

 

 

 「ああ、それなら表にいるよ」と、窓の外を指差す。

 

 

 頭部に三本の角を持った四本足で立つ巨大な動物の全身骨格。

 ただし頭部の骨のうち二本は根元から折られていて無くなっているがそれは

 

 

「「 恐竜!? トリケラトプス!? 」」

 

 

 驚く。しかし、すぐに天の助が――――

 

 

「おいボーボボ、あれは俺が前に地底で掘り起こしたヤツだろうが…」

 

 

 「あっちにあるのがそうだ」と天の助が指差した方向には

 氷づけになった長い体毛と牙を持った巨大な象。それは過去に絶滅した…

 

 

「「 マンモスゥゥゥゥゥッ!? 」」

 

 

   = 少女食事中 =

 

 

 それは唐突に起きた。

 外敵の侵入を知らせるのだろう、けたたましくサイレンが鳴り響く。

 

 

「おいおい鳴っているぞ。どうするんだ?」

 

 

「どうせ、つけものじゃねーの? ほっとこーぜ」

 

 

「それもそうだな…」

 

 

 サイレンを気にして、誰に言うわけでもなく聞いた天の助に

 首領パッチが答えてあっさり引き下がる。

 

 

 とりあえず私は「おかわり」 と要求して

 「成長期なのかしら」ボーボボが微笑みながら、お椀にご飯を盛る。

 

 

「イヤイヤイヤイヤ。皆さん、もうちょっと気にしましょうよ?

 それに確かめてからでも遅くありませんよね?」

 

 

 メリーの言葉に「それもそうだな」 天の助はリモコンのボタンを押すと――

 外部を映すモニターに電源が入り、外の景色が映し出される。

 

 

『これが無敵要塞ザイガス。恐るべし…』

 

 

 うさぎの耳を生やした小さな少女がそう言って地面に倒れた。

 周囲にも同じような格好の少女たちが倒れている。

 あ、少女たちに混じってつけものがいた。

 

 

「おい! ボーボボ、天の助!」切羽詰まった首領パッチの声に

 

 

「ああ、わかっている! 行くぞ!」ボーボボが答える。

 

 

「「 つけものの息の根を止めに! 」」

 

 

「「 そっち!? 」」

 

 

   = 三人組の妖怪行動中 =

 

 

「いやぁ、危うく死ぬとこだったよ」 

 

 

 ボーボボの体内に住んでいる生首の妖怪(ゆっくり)が 

 傷ついた兎たちを要塞の中へ運んでいる最中にリーダー格が私たちの元にやって来た。

 

 

 彼女の名前は因幡てゐ(いなば てい)

 見た目こそ幼女だが神代(かみしろ)の時代、それ以前から生きているらしい。

 

 

 ちなみにつけものは野犬の群れに襲われていずこへと連れ去られた。合掌。

 でも、なんでだろう。またどこかで遭遇しそうな気がする。

 

 

 つけもののことはさておき、今は悪童のような顔をした兎をどうしたものか…

 

 

 彼女、曰く。この竹林の所有者は自分だと。

 変な建物の様子を見に行ったら、いきなし攻撃をされてケガを負った。

 どう責任を取ってくれるのか? ――と、まるでチンピラだ。

 

 

 『竹林の所有者』を自称するということは

 彼女はこの竹林の地理を少なからずとも知っているとみていいだろう。

 

 

 彼女たちは弱い。戦って勝つことなど造作もないでしょうね。

 でもそんなことをした日には彼女たちとの関係は最悪になる。

 今後この先のことを考えたら友好的に接するべきでしょうね。

 

 

 彼女――因幡てゐは、私たちのことを知っている。知らないハズがない。

 この竹林で起きた出来事を一通り知った上で私たちに接触してきた。

 

 

 私の宇宙船。ボーボボたちの車。虫の妖怪と山賊集団の退治と撃退。

 メリーの保護に、無敵要塞『ザイガス』

 そして私たちがここ、竹林の森を抜け出したいこと。

 

 

 彼女たちが何を望んでいるのか

 長生きしているだけあって狡猾な兎。

 その兎相手に、どうしたものか…

 

 




 

 無敵要塞『 ザイガス 』の名は伊達じゃない!
 しかし、その有能さ故に起こった悲劇!
 因幡てゐは何を望むのか !?
 そして、つけものの運命は如何に !?



 (´・ω・)にゃもし。

 前話の時に日間ランキング( 加点式・不透明 )で
 68位なった。わーい。
 でも、今はランク外。

 タグにマエリベリー・ハーンと因幡てゐつけたよ。
 これで二人の名が増えるといいね。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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ボーボボたちと因幡てゐ

 

 無敵要塞『 ザイガス 』で一泊したあとにボーボボたちの前に現れたのは
 自称、竹林の所有者『 因幡てゐ 』
 彼女はボーボボたちとどう接触するのか? ボーボボたちの運命は如何に?




  

 

 迷いの竹林にて突如現れた首領パッチを模した巨大な要塞『 ザイガス 』

 その建物の周辺で不幸な攻撃で倒れた妖怪兎たち。

 ゆっくりたちが台車を使って妖怪兎をせっせと要塞の中へと運んでいる。

 

 

「なんで俺だけゆっくりよりもノルマが五倍あるのらァァァ!」

 

 

 アフロの中で出会った小さな白い人外の生き物が不平不満を漏らしては

 ゆっくりたちから背中にムチを打たれ、悲鳴を上げつつも台車を押している。

 序列最下位は大変だ。

 

 

 私はアフロで一度見たことあるし、ボーボボたち三人も知っているから驚かないが

 それ以外の連中は驚いていた。まぁ、遠目から見たら生首だし…

 今もメリーとてゐが一体のゆっくりを捕まえて、頬をぷにぷにつついている。

 

 

 やがて、ゆっくりたちが動けない兎たちを運び終えるとボーボボは――

 

 

「いろいろ言いたいことがあるだろうが

 まずは兎たちを回復させるのが先決だな」

 

 

 この兎たちがケガしているのは無敵要塞『ザイガス』のせいですが?

 つまり私たちが原因なんですけどね。

 今もあちこちで苦しそうに呻き声を漏らしている。ごめんなさい。

 

 

「安心しろ! 俺たち三人は回復魔法が使える!」

 

 

 どうしよう。安心できる要素がない。漠然とした不安しかないよ、ボーボボ。

 

 

「あんたたちが回復魔法? 治療の術の類いかい? 意外だね。

 ちょっと見せてもらってもいいかい?」

 

 

「え、ちょっと因幡…」

 

 

「「 ああ、もちろんだ! 」」

 

 

 私が止める間もなく、三人は引き受けて…

 目の部分が開けられた黒い三角頭巾で頭を覆い隠し、さらに黒いローブを纏う。

 極めつけには白いドクロがついた捻れた杖を頭上に掲げている。

 

 

「「 どう見ても呪術師の類い! 」」

 

 

 ささやき ― いのり ― えいしょう ― ねんじろ!

 

 

 三人が長々と呪文を詠唱して、杖の先端――ドクロを兎たちに向けて

 力ある言葉を、呪文の名を口にする。

 

 

「「 回復魔法『 聖母殺人事件( ジェノサイド・エクストリーム ) 』! 」」

 

 

「「 名前がどう見ても回復魔法じゃない! 」」

 

 

 三人が手にしている杖。そのドクロの眼孔の奥に紅い光が灯され…

 顎がケタケタと動き出す。さながら、笑っているかの如く。

 

 

 その口の奥から紫色の霧とともに禍々しい凶悪な面構えの黒い人魂らしきモノが吐き出されて

 兎たちに伸びてゆき、人魂が纏わりつき、霧が身体を覆ってしまう。

 

 

「「 どこをどう見ても回復魔法には見えない! 」」

 

  

 呪術師が唱える黒魔法にしか見えない。

 だが、見た目とはうらはらに人魂が触れた部分から広がるようにしてキズが癒えていく…

 

 

「「 ええええぇぇぇぇっ!? 」」

 

 

 いや、一人だけ口から紫色の泡を吹かせて倒れているのがいる。

 人魂に咬まれたのか、あちこちに咬まれた痕のような咬み傷がある。

 ボーボボのアフロに勝手に住んでいる。序列最下位の人。

 

 

「俺だけ扱いひどくね?」

 

 

 そう言い残して、それっきり動かなくなり

 ゆっくりたちに足首に縄をかけられ、引き摺りられながら運ばれていく。

 

 

「あたしゃ、長いこと生きているが… あんな奇跡というか妖術は初めて見たよ。

 相手を驚かすにはちょうどいいかもね」

 

 

 と悪どい表情を見せる。

 

 

「因幡てゐよ。お前の仲間はこの通り癒した」

 

 

 黒ずくめの格好のままのボーボボたちが近づいて来た。

 

 

「脱げや、それ」

 

 

 私の言う通りに従ってボーボボたちがしぶしぶと脱ぎ始める。

 気に入ってるの? それ?

 

 

   = 少女移動中 =

 

 

 場所は変わって私たちは要塞の中にあるレンガ造りの建物に集まっている。

 私たちが寝泊まりに使った建物だ。

 いつものメンバーに因幡てゐを加えた中。ボーボボは彼女に――――

 

 

「お前は俺たちがこの竹やぶで彷徨っているのを知っていながら…

 俺たちを放置。及び監視していたことについて、どう弁解するつもりだ?

 そして、なぜ今ごろになって出てきた?」

 

 

 そう彼女は私たちの存在を知っていても可笑しくはない。

 あの山賊集団。最初に遭遇した妖怪たちですら私たちのことに気づいたのだ。

 竹林の所有者を自称する彼女が知らないとは考えにくい。

 

 

 弱小妖怪が生き延びるためには情報と知識は必要不可欠といえよう。

 ましてや、因幡てゐは妖怪兎を束ね率いる立場だ。

 おそらく彼女は… そして、彼女は悪びれもせずに答える。

 

 

「答えは簡単だよ。あんたらが私たちに危害を加えない… という保証がないからだよ?」

 

 

 単純明快、彼女は私たちに対して警戒していたのだ。

 妖怪になったとはいえ、元は兎だ。当然といえば当然でしょうね。

 

 

「目から光線出すわ。口から炎吹くわ。身体から毒ガスが出るわ。

 バラバラになっても死なないわ。合体してでっかくなるわ。

 そんな危険極まりない連中、警戒したくもなる――――と、思わないかい? 」

 

 

「「 確かにっ! 」」

 

 

 至極真っ当な理由に一同が同じことを口にする。

 でも戦わないわけにもいかなかったし、あの場合はどうしろというのか…

 ボーボボたち三人に彼女がこうして出てくれただけでも感謝すべきなんでしょうね。

 

 

「でもなんだって今ごろになって出てきたんですか?」

 

 

 私たちが疑問に思ったことをメリーが口にする。それに妖怪兎の長、因幡てゐは答える。

 

 

「私ら妖怪兎――イナバは、この無敵要塞『ザイガス』が欲しいのさ。

 私らが出口まで案内して、お礼としてこいつ(ザイガス)を頂く… ってわけね 」

 

 

「つまり… 最初から只で助けるつもりはなく

 そして、助けるに値する物を持っているから交渉しに来た――――と、?」

 

 

「私らも慈善事業でやってるわけじゃないからね?」

 

 

 私の言葉にいけしゃあしゃあと言い放ち、メリーは苦虫を潰したような表情を作る。

 一歩間違えてたら死んでた可能性があるメリーにとってはいい気分ではないでしょうね…

 

 

「ふざけんなよ、テメー!」

 

 

 首領パッチがキレた。

 

 

「テメーらがとっと出ねーから、変な槍が飛んできて頭を貫通していったじゃねーか!?」

 

 

 普通は頭を貫通されたら死ぬんだけどね… 本当に何者なんでしょうね。首領パッチ。

 こんな殺しても死なない連中相手じゃ、何されるのか、わかったもんじゃない――――

 と、考えるのが普通だよね。

 

 

 だとしたら、ボーボボたち三人に付き合っている私とメリーって一体…

 

 

「ああ、あれには驚いたよ。大陸のどこぞの山奥に封印されてる話だったんだけどね。

 どこぞの阿呆が封印を解いたのか、使い手が死んだのか、或いは両方か…

 あれは妖怪に反応するから、風を切る音が聞こえたら気をつけた方がいいよ?」

 

 

「もうおせーよ!」

 

 

「とりあえず落ち着け、首領パッチ。ここで言い争いしても言いくるめられるのがオチだ」

 

 

 なおも食って掛かる首領パッチを天の助が抑えて――――因幡てゐに鋭い視線を送る。

 

 

「だが、俺たちがあんたらを力づくで言い聞かせる。…ってのは思いつかなかったのか?」

 

 

「んー? 見ず知らずの人間を助け、見ず知らずの妖怪を助けるようなお人好しが

 凄みをきかせて言っても説得力が欠けるよ? だから私はあんたらに近づいたんだよ?」

 

 

 メリーのことと、先ほどの妖怪兎たちのことか…

 

 

「違いないな。どうするボーボボ?」

 

 

「要はお前たち――イナバは、自分たちの身を守るためにこいつ(ザイガス)が欲しいんだろ?

 ならばくれてやる。ただし俺たちもここを拠点として使うがな?」

 

 

「ん? くれるんなら構わないけど。ここから脱出したいんじゃなかったのかい?」

 

 

「お前のその耳は飾りか? 俺たちの目的を知ってるだろ?

 大事なのは目的であって、手段ではない。俺たちの目的は元いた場所に帰ることだ。

 そのためには、寝泊まりできる拠点があった方が好都合だ」

 

 

 ボーボボ三人とメリーの目的。元の世界。元の時代。自分たちがいた場所に帰ること。

 でも私には、私がいた場所――――月には私の居場所はもうないでしょうね。

 穢れを嫌う、あの月の住民たちが私を受け入れるとは到底思わない。

 

 

 とはいえ、ここをこの要塞を拠点にするのはいいかもしれない。

 何しろ私たちはこの世界について疎い。まだ一日も経っていないかもしれない。

 現地を知る人物。それも長生きしている妖怪ならば… 知識もあるでしょうね。

 

 

 メリーやボーボボを元の世界、元の時代に戻す時――私はどんな選択を取るのか……

 メリーやボーボボたちについていくのか…… それとも、てゐとともに残るのか……

 

 

 未来のことはひとまず置いとくとして――――

 私たちはまず、てゐからこの世界の知識と情報を仕入れることにした。

 

 

 私の場合は月からある程度は知っているのだが、地上は如何に穢れているのか… 

 ――を延々と教えられているのがほとんどで役に立つようなモノはなく。

 ボーボボたちもここは大昔過ぎて役に立つようなモノはないとのこと。

 

 

 帰還方法については大まかに二つ考えている。

 自分たちがいる時代まで自分たちの時間を止めて過ごす方法。

 

 

 ただし、彼らがいる時代まで1300年ほどある。その間に何が起こるのかわからないし

 凍結解除のとき、同じ時代に同じ人間が二人いたら、どうなるのか… 予測がつかない。

 これはあくまで最終手段として。

 

 

 次にメリーの能力で帰還する方法。彼女は能力の行使でこの世界にやって来た。

 ただ彼女はその能力を上手く使うことができない。

 ならば彼女を強化して能力を使えるようにすればいい。

 

 

 もっとも彼女の能力は未知数過ぎて、どこから手をつければいいのかわからない。

 そこで第三者、もしくは道具の使用を併用する。

 

 

 てゐ曰くこの世界には地上の住民では作れない古い遺物等々がある。

 その中には帰還に役立つモノがあるかもしれない。

 

 

 そして、てゐには『人間を幸運にする』という能力が備わっているらしい。

 四六時中ピタッと張り付いているわけにはいかないが、

 共に行動していれば… 少なくとも悪い方向にはいかないだろう。

 

 

「それじゃ、これが無敵要塞『ザイガス』の説明書な、読んどくといい」

 

 

 と、ボーボボが例の如く、アフロから分厚い紙の束を取り出し

 てゐの目の前にドドンと置く。

 紙の大きさはてゐの頭ほど、厚さはてゐの身長ほどある。

 

 

「なにこれ?」

 

 

 思わず聞き返すてゐに

 

 

「なにって、説明書だが?」

 

 

 さも当然のように答えるボーボボ。

 

 

「いやいやいやいや、この分厚さ。あり得ないでしょ?」

 

 

「この要塞は巨大だからな、当然注意事項とかも多くなる。

 まぁまぁ、騙されたと思ってパラッと目を通してみてよ♪」

 

 

「まぁ、そこまで言うならば…」

 

 

 一番上の一枚目を手に取って見てみる。

 

 

 

 

 [寂しがり屋なので構ってあげてくださいね]

 

 

 

 

「知るか!!」

 

 

 一枚目を左右二つに破り捨て。

 

 

「騙されたよ! 私を騙したよ、コイツ!」

 

 

 と、ボーボボを指差す。

 

 

「だから『騙されたと思って』って言ったじゃん。ほんじゃ、これ次ね」

 

 

 次の二枚目をヒラヒラとてゐの目の前でかざす。

 

 

 

 

 [運動不足解消のために散歩をお願いします]

 

 

 

 

「できるかっ!!」

 

 

 二枚目をボーボボから奪って空中に放り投げたあと

 手刀で細かく千切り――どこから取り出したのかアルコールを口に含み噴射。

 そこに火をつけて紙を燃やし、灰にする。

 

 

 次に机の上の紙の束を手刀で「ハイヤーッ!」上から下まで真っ二つにする。

 

 

「次はこんな感じでどうよ?」

 

 

「うん。いいんじゃない?」

 

 

 隣で書き上げた原稿用紙を首領パッチに見せる天の助。

 

 

「あんたらの仕業かい!!」

 

 

 上に置かれた用紙ごとてゐに机を蹴り飛ばされ引っくり返され、机の下敷きになる二人。

 直後にどこからともなく聞こえてくる機械音声。

 

 

『オ、オデ、皆、喜ブ思ッテ… オロローン』

 

 

「「 無敵要塞『ザイガス』!? 」」

 

 

 この要塞、意思を持ち始めてない? 無敵要塞『ザイガス』って何なの?

 あと何この俺、頭悪いけど心は綺麗みたいなキャラ設定は? 昨日は普通に喋ってたよね?

 

 

「悪いけど、この話なかったことにしてもいいかい?」

 

 

 終いにはてゐからそんな話が切り出されて、私たちが慌てて止める羽目になった。

 気持ちはわからないわけでもないが、それは非常に困る。

 

 

「ネギあげるから! ネギあげるから!」

「ところてん催促一式もつけるぞ!」

「アフロはどうだ!?」

 

 

「今回だけだからね」

 

 

 ボーボボのアフロだけを受け取って、渋々了承した。受け取るんだ。

 他の二人は地面に両手両膝をついて項垂れている。

 

 

 こうして私たちの一行に神代の時代から生き続けている妖怪兎こと

 『因幡てゐ』が加わることになった。

 

 





 こうして、ボーボボたち一行に因幡てゐが加わった。
 長生きをしている彼女ならばボーボボたちの力になるだろう。
 そしてそれは、その意味は、そして輝夜は…


 
   **********



 (´・ω・)にゃもし。

 当初は三話ぐらいで終わると思ってました。
 所々に少々真面目な話を入れてます。と思ってます。


 ※カッコと空白部分を修正しました。


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輝夜! 五つの難題に挑む !? …の巻
五つの難題 前編


 

 なんやかんやでボーボボ一行に加わった因幡てゐ。
 自称、幸運を呼ぶ兎がもたらすモノとは !?
 メリーとボーボボ三人を元の時代に戻すべく行動を起こす!




 

 

 首領パッチを模した要塞、無敵要塞ザイガス。

 その無敵要塞ザイガスの中にある首領パッチの形をした首領パッチハウス。

 その二階の一室に輝夜の部屋がある。

 

 

 部屋の中は暗く、寝静まっている。部屋の主が寝ているからだ。

 その枕元にはオレンジの円筒に棒の腕と死んだ目をした顔がついた目覚まし時計が…

 

 

『うるせェェェ!!! ジャスタウェイはジャスタウェイに決まってんだろーが!

 それ以上でもそれ以下でも、ましてやそれ以外の何物でもねーんだよ!

 わかったかボケェェェ!!!』

 

 

 その目覚まし時計から野太いオッサンの怒鳴り声が部屋に響く。

 頭を叩いてアラームのスイッチを切り、息の根を止める。

 カーテンの隙間から暖かく心地好い陽の光が差し込み部屋の中を照らし始める。

 

 

 布団から上半身を起こし、思いっきり背伸び。自分の身体をまじまじと見つめて観察する。

 昨日よりも身長が伸びている。地上に落とされる前、月にいた頃に体格が戻っている。

 どうやら、完全に薬が抜けきったようだ。もう少し時間が掛かると思っていたのだが…

 

 

 窓のカーテンを引いて、両開きの窓を開く。

 眼下にはイナバたちがゆっくりたちを抱えて走り回っている。随分と早起きである。

 傍から見ると生首を抱えて走っているように見えるが、許容範囲といえるかな…?

 

 

 その近くにはトリケラトプスの全身骨格と昨日知らずに口にした氷づけのマンモス。

 うん。おかしい。違和感しかない。

 それとは別に見慣れないロバが一頭。イナバの一人が世話をしている。

 

 

 でもそれ以上に… 頭上を見上げ、空を見上げる。

 そこには太陽がさんさんと輝き、雲一つない青空。小鳥が鳴きながら空を飛んでいる。

 

 

「ここって要塞の中だよね?」

 

 

 誰に言うわけでもなく放った私の小さな呟きが空に溶け込み、掻き消える。

 こうしてこの世界二日目の朝を迎えた。

 

 

   = 少女移動中 =

 

 

 螺旋階段を降りていくと魚を焼く音と香ばしい匂いが漂ってくる。

 またボーボボがマンモスを焼いているのだろうか…

 

 

 ふと違和感を感じて螺旋階段の方に振り向く。支柱がない。コイル状の作りになっている。

 それぞれの段を支える支柱がこの螺旋階段にはない。また壁からも離れている。

 どうやって作ったのだろうか… 謎が深まる。

 

 

 開きっぱなしの玄関の扉から髪もヒゲも真っ白の老人が大工道具片手に出ていくのが見える。

 彼が作ったのだろうか? でも誰? ボーボボたちが呼んだのか? いつ?

 

 

 窓の外には彼が所有してるであろうロバが、イナバとゆっくりたちと戯れている。

 老人がイナバとゆっくりの頭を軽く撫で、ロバに荷物を乗せて出口へと向かっていき…

 その姿が突然、霞がかったように輪郭が薄れていき… やがて消える。…本当に誰あれ?

 

 

 肝心のボーボボたちは居間の半分を占める畳に三人が布団を敷いて寝ていた。

 はて…? ボーボボが朝食を作っていないなら、一体誰が…?

 

 

「おいボーボボ。腹減ったぞ。この首領パッチ様のために、なんか作れやオラァ!」

「さっき食ったばっかりだろうが… 張った押すぞコラァ!」

「うるさいぞお前ら、静かにしろ! 近所迷惑だぞ!」

 

 

 寝言で怒鳴りながら会話している。器用な連中である。

 誰が作っているのか気になり、台所に向かうと――――

 

 

「あら姫様。おはようございます」

 

 

 巨大な鯉、ヴォルガノスが魚を焼いていた。

 

 

「魚が魚を焼いているゥゥゥ!?」

 

 

 その日の朝は私の叫び声で連中が起きたそうな。

 

 

 食卓に続々と人が集まってくる。居間で寝ていたボーボボたち三人に

 二階の別室、私の部屋の反対にいるメリー。いつの間にかにやって来て席についているてゐ。

 てゐ以外は私の姿を見るなり驚いていたが、成長期の一言で片付けた。

 

 

 食卓に並べられていく料理。白いご飯に味噌汁、漬け物にサンマの塩焼き。

 サンマだ。何の変哲もない普通のサンマ。見た目だけならば…

 昨日のマンモス事件を踏まえ、恐る恐る口にする。……ん?

 

 

「普通にサンマですね…」

 

 

 メリーが口にした感想を漏らす。

 普通じゃないサンマというのもよくわからないが…

 メリーが箸でサンマをつつきながらヴォルガノスに直接、聞いてみる。

 

 

「どこで手に入れたんですか? これ」

 

 

 ヴォルガノスが一旦、箸を止めてメリーの問いに答える。

 どうでもいいがよくあのヒレで箸が使えるものである。

 

 

「この要塞の中に生け簀みたいなものがあって、そこで釣ったんですよ」

 

 

 魚が魚を釣る。その奇妙な光景を思い浮かべつつ箸を進ませる。

 不老不死の私は食事しなくても平気なのだが… 習慣というものである。

 

 

 サンマを箸で割きながら思った。何でこの要塞の中に生け簀があって魚がいるのか…

 一体いつ、そんな生け簀と魚を用意したのか… そんな時間があったのか…

 

 

 意思を持ち始めているが、この無敵要塞ザイガスは、元は首領パッチが変化したもの。

 なら首領パッチの体内にあるモノも変化しててもおかしくはない。

 

 

 このサンマも首領パッチの体内にある小さな生物が変化…

 考えるのは止めることにした。今は食事中。これはサンマ。サンマ以外の何物でもない。

 メリーが知ったら卒倒しかねない。

 

 

 ちなみにてゐは元が兎のせいか、私たちとは別に用意された野菜をバリバリ食べていた。

 それとも兎云々関係なく、知っていたのか… 

 てゐがメリーを見てほくそ笑んでいる。絶対、知っていて黙っている。

 

 

   = 少女食事中 =

 

 

 食事を終えた私たちはてゐから神宝の話を聞かされる。

 彼女の考えでは時を越えるような奇跡を起こすにはそこら辺の宝程度ではどだい無理な話。

 神話級の神宝でなければ――――とのこと、そして彼女は知っている物を一通り

 

 

 仏の御石の鉢( ほとけのみいしのはち )

 蓬莱の玉の枝( ほうらいのたまのえだ )

 火鼠の皮衣( ひねずみのかはごろも )

 龍の頸の玉( たつのくびのたま )

 燕の子安貝( つばくらめのこやすがい )

 

 

 ――――の五つを挙げた。

 そのうちの一つである『蓬莱の玉の枝』については心当たりがあった。

 というよりも知っているし、実物も持っているといえば持っている。

 

 

「――で、これが件の『蓬莱の玉の枝』なのか?」

 

 

「ただの木の枝にしか見えねぇぞ、おい」

 

 

 天の助、首領パッチが各々口を出し、他の面々はつぶさに観察する。

 

 

「私の知っている蓬莱の玉の枝ってのは…

 根は銀。幹は金。実は真珠。ってモノなんだけどね」

 

 

「蓬莱の玉の枝ってのは、元々は月にしか生えない優曇華(うどんげ)が

 地上の穢れで開花して実をつけたものがそうなのよ」

 

 

 てゐの疑問に私が答える。納得しかねる顔をしていたけど。

 ついでに言えば月の民は稀に優曇華を地上の権力者に渡すときがある。

 渡された優曇華は権力と穢れの強さに応じて美しくなる。

 

 

「要はこいつに穢れを与えれば『蓬莱の玉の枝』になるんだろ?」

 

 

 ボーボボの『穢れ』という言葉に反応し、首領パッチに視線を向ける一行。

 

 

「首領パッチ、試しにこれを持ってみろ」

 

 

 そう言いつつ枝――優曇華を首領パッチに差し出すボーボボ。

 

 

「ふざけんなテメーら! これじゃ俺がまるで穢れの塊みてーじゃねーか!

 誰がやっかよっ! ばーか! ばーか! ばーか!」 

 

 

 私たちのお願いに激怒し拒否し拒絶する。

 

 

「そんなこと言わずにお願いしますよ…」

 

 

「ちょっと持つだけでいいからさ?」

 

 

 天の助が首領パッチの背中にアサルトライフルを突きつけ

 ボーボボが小銃をぐりぐりとこめかみにめり込ませる。

 

 

「うん。わかったから、その銃を仕舞いましょうね? 危ないから」

 

 

 両手を軽く上げて無抵抗を示す。

 天の助とボーボボの説得のかいがあってか、首領パッチは快く引き受けてくれた。

 

 

「だぁぁぁっ、ちっきしょー! やってやっよ! ヨコセヨや、それ! 

 俺がどんだけピュアでキレイな妖精なのか――――

 その目ん玉かっぽじって、よ~く見ておけよコラァ!? ああん!?」

 

 

 引ったくるように奪い、頭上に掲げる。しかし、変化が起きない。

 

 

「ほら見ろよ! なーんも…」

 

 

 言い終わらぬうちに首領パッチが触れた部分から金色に変わっていき、根は銀色に変色。

 枝分かれした部分からは真珠の実が幾つも実る。

 変化はそれだけで留まらず、純白の実がそれぞれ異なる色に変わっていく…

 

 

「…………………………………………あれ?」

 

 

 文字通りに目が点になる首領パッチ。こうして私たちは『 蓬莱の玉の枝 』を手に入れ

 その立役者である首領パッチを褒め称えたが、彼はしばらく部屋の隅っこで膝を抱えて

 身体中のトゲを萎れさせて「俺、穢れているんだ…」と、終始呟いていた。

 

 

 私たちは打ちひしがれている首領パッチを放っておいて次の神宝を入手すべく話し合う。

 

 『仏の御石の鉢』

 

 釈迦が使ってたという金剛石(ダイアモンド)並みに硬い上に神々しい光沢を放つ鉢。

 

 

「でもそれって天竺(てんじく=インド)にあるんですよね?」

 

 

「本物はね。でもそれに似せたやつなら、この竹林にあるよ」

 

 

 メリーの言葉にてゐが首領パッチハウスの玄関。その先にある竹林の森を指差す。

 そして玄関から二人のイナバが二人がかりで両手で抱えるほどの桐の箱を運んできた。

 テーブルの上。てゐの目の前に置くと、私たちにペコリとお辞儀をして玄関から出ていく。

  

 

「こいつは本物と同じく四つの欠片が組み合わさってできた代物なんだよ。

 本物と違って金剛石でできているけど。砕かれても元に戻る術式がつけられているんだ。

 本物は無理だけど代用としてなら申し分無いと、私は思うよ?」

 

 

 なんだって、そんなモノがここ――竹林に? 

 口には出していないが皆疑問に感じたのだろう。彼女は淡々と語り始める。

 

 

 ある一人の僧侶が釈迦にあやかって鉢を作ることにした。

 そして本物にも勝らないモノを作り出した。

 

 

 しかし、どのようにして作ったのか… 材料はどこで手に入れたのか… 

 術式はどんなものなのか… 未だにわかっていない。

 

 

 しばらくは寺の宝具として祀っていたのだが…

 二人組の人喰い妖怪がそれに目をつけて僧侶を殺害して鉢を奪った。

 

 

「そいつらはその鉢を餌にして近づいて来た僧侶を喰ってきた連中でね」

 

 

 宝を手に入れれば――――人間が寄ってくる。

 そして何処から聞きつけてきたのか… 奴等は光る竹の話を知った。

 

 

 光る竹というのは金銀の類いでできた竹なのではないのか?

 それを餌にすれば今度は欲深い人間が来るのではないのか?

 光る竹を探しに二人組の妖怪は竹林の森にやって来た。

 

 

「そう、この二人組の妖怪ってのが――あんたらが倒した大蜘蛛と大百足なのさ。

 あんたらが倒したあとに手下に命じて持ってこさせたってわけね」

 

 

 てゐが箱の蓋を開けると、光を反射させて輝く片手で持てるほどの鉢が置かれていた。

 

 

「その鉢に元に戻る――復元以外に何か力でもあるんですか?」

 

 

「んや、こいつは金剛石でできただけの鉢で、復元以外の力はないよ」

 

 

「それじゃその鉢を手に入れて… 何か意味があるんですか?」

 

 

 メリーの疑問はもっともだ。それに対して――

 

 

「鉢自体に意味はないけど、置くことに意味があるよ。

 奇跡を起こす確率を少しでも上げるために、縁起の良いモノを置く…

 運を高める。ていう意味合いが強いね、この場合」

 

 

 それに天竺まで行くのは面倒だし、手に入らない方の確率が高い。

 彼女はそう付け加えた。一理ある。…が、メリーは

 

 

「妖怪が僧侶を殺害して手に入ったモノを縁起が良い。って、いえるものなんですか?

 むしろ縁起が悪そうなんですけど…?」

 

 

「んー。悪さをしていた妖怪たちを人間の英雄が倒し、その英雄が保管している。

 ――って、ことだったらそうでもないと思うけどね?」

 

 

 なるほど。そういう見方か、だが…

 ボーボボが妖怪と山賊集団と戦ったときのことを思い出す。

 

 

 目からビーム。口から火炎放射。身体から毒ガス。分離と合体。そして巨大化。

 ボーボボを人間というカテゴリーに入れていいのか? 

 

 

「ほんじゃ姫様が保管するというのはどうだい?

 月のお姫様が持っているっていう話なら箔がつくよね?」

 

 

 神宝は私が所有することになり、これ以降の神宝も私が持つことになった。

 

 




 

 『 蓬莱の玉の枝 』『 仏の御石の鉢( 贋作 ) 』を手に入れた一行。
 首領パッチの心が折れた気がしなくもないが気にしたら負けだ!
 残る三つの神宝を求めて、要塞の外へと飛び出す!
 はたして、こんなんで未来へと戻れるのか !?


   □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 (´・ω・)にゃもし。

 ぶっちゃけ、この『 五つの難題 』は省略する予定でした。
 でも折角なので書きました。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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五つの難題 中編

 

 仏の御石の鉢っぽいモノ。
 首領パッチの心を犠牲にして手に入れた蓬莱の玉の枝。
 しかし、これらのモノを手に入れて一体どうするつもりなのか…
 彼らは『 火鼠の皮衣 』を求めて動き出す。

 


  

 

 『 火鼠の皮衣( ひねずみのかはごろも ) 』

 

 大陸の果ての南方の火山。その炎の中にある燃えず、さらに朽ちない木。

 その木の中に棲んでいる鼠の怪物。

 その鼠の毛皮でできた衣であり、火の中に入れても燃えないとのこと。

 

 

「火鼠(かそ)とも、火光獣(かこうじゅう)とも呼ばれているけどね。

 こいつ自体は水をかけるだけで死んで、毛皮が白くなる。

 その毛皮を剥いで織ったのが『火鼠の皮衣』ってわけね」

 

 

 得意気に説明するてゐ。

 メリーはさして期待してなかったのか…

 

 

「でも、この国にはないんですよね…」

 

 

 てゐを除く全員がメリーと同じことを考えていたのか深く頷く。…が

 

 

「あることはあるよ」

 

 

 予想に反した答えが返ってきて一同を驚かせた。

 

 

「西国にいる犬の大妖怪が持っている、って話があるんだけどね。

 鋭い爪と牙を持ち、気性も荒いって話だから…

 こいつのとこに行っても斬られるのがオチだろうね」

 

 

 負けたら大損。勝っても唯の自己満足。

 わざわざケガしに行く必要はない… というのが彼女の弁。

 てゐとメリーの会話は続く。

 

 

「んで、もう一つが東にある甲斐の国にある一番高い山。

 木花咲耶姫命(このはなのさくやひめのみこと)を祀る神社がある。アサマ山。

 その火口付近に火鼠っぽいのがいるらしいんだ」

 

 

「一番高い山? アサマ山…? 富士山じゃないのですか?」

 

 

「? 聞いたことない山の名前だね。もしかして未来のアサマ山の呼び名がそうなのかい?」

 

 

「たぶん…。とある物語以降で富士山とも不死山とも呼ばれるようになりましたから…」

 

 

「ふーん。名前をコロコロ変えるのはいいもんじゃないけどね」

 

 

 彼女の話ではここは大和の国と呼ばれているところ。

 この国からずっと東のアサマ山がある甲斐の国、そこまでは結構な距離がある。

 

 

「どちらにしろ、俺たちがその山に向かうことには変わりはない」

 

 

「ボーボボの言う通りだ。善は急げだ。この『ぬ』の車で乗っていくといい」

 

 

「なんの『首領パッチカー』もあるぞ!」

 

 

 家の外には巨大な『ぬ』を象った水色の四輪の乗り物と

 首領パッチっぽい形をした車が用意されていた。

 どちらもちょっとした民家ほどの大きさがあり長旅するには向いているといえよう。

 

 

「「それじゃ『首領パッチカー』で」」

 

 

 私たちは迷うことなく首領パッチが用意した乗り物に乗り込んだ。

 

 

「相手が水を苦手としているなら、私の力が役に立ちますよ」

 

 

 と、ヴォルガノスが乗り込んでくる。

 

 

「正直、こうなるんじゃないかと思ってたよ…」

 

 

 皆が乗り込んだあとに何かを悟ったような顔で天の助が乗り込み

 イナバたちとゆっくりたちがタケノコやら何やらいろんな物を積み込む。

 場所によっては貨幣ではなく物々交換でやり取りしているとこもあるとのこと。

 

 

 イナバとゆっくりたちに見送られながら私たちは要塞を飛び出し

 てゐの案内の元、竹林の森を抜き出した。

 道中につけものがいたが速度を緩めるどころか加速させて思いっきり轢いていく。

 

 

「「 やったか!? 」」

 

 

「いや、手応えを感じなかった…」

 

 

 ボーボボ、天の助が確認のために問うと首領パッチは首を横に振ってそう否定した。

 手応えとは一体… メリーはもう突っ込むことすらしなくなった。

 どこかでまた出てくるんでしょうけどね。つけもの。

 

 

 私たちはまず東へと進み海岸を目指す。そこから海岸に沿って駿河の国へと目指す。

 道なき道を進み、街道に出て、喉かな田園風景が現れて、その先にある村へと向かう。

 すれ違う人々がこのヘンテコな乗り物を見て驚いていたが… 

 

 

 やがて最初の村に到着する。

 首領パッチカーを見て驚き、そこから現れた私たちを見てさらに驚く。

 まぁ、驚くなという方が無理でしょうね。

 

 

 首というか頭をキョロキョロと(せわ)しなく動かして村を観察していた首領パッチは

 

 

「着いたのはいいけどよォ。この後どうするんだ? てゐ?」

 

 

「そこら辺は私に任せときな」

 

 

 私たちを遠巻きに眺めていた村人一人を捕まえて… 何やら話し込んでいると

 男は奥の一回り大きい建物に入っていき扉から仙人のような風体の老人が現れる。

 おそらく、この村の代表者。村長なのだろう。てゐが彼に尋ねる。

 

 

「あんたがこの村の代表者かい?」

 

 

「いいえ、違います」

 

 

 そう言うと彼はそのまま私たちの横を通り過ぎていき、杖を高く掲げると

 人間一人なら乗れそうな雲が現れて、それに乗り込むと東の空へと飛んでいった…

 

 

「「 ええええぇぇぇぇっ!? 」」

 

 

 誰、今の…? 何しにこの村に来たんだろうか… 

 そして先ほどの男が誰かを連れて戻ってきた。

 

 

「私がこの村の村長です」

 

 

 その身長はボーボボにも勝らず大きく。その体躯は筋骨隆々の戦士そのもの。

 左手に四角い木の盾。右手には大振りの鉈が握りしめられている。左目には縦に切り傷。

 何これ? 自称村長の初老の男に絶句するメリーは…

 

 

「え~と、てゐさん? 私の想像した村長とは…

 少々、かなり… いや全然違う気がするのですが?」

 

 

「奇遇だね。私もそう思ってたところだよ…」

 

 

 厳つい顔その口から地響きのような声を響かせて

 

 

「すいません。なにせ物騒な世の中でして…

 力のない村長では集落を守ることなど出来ませんので

 それに迷いの竹林に山賊集団だけでなく、妖怪も棲みつき始めた模様でして…」

 

 

 私たちの方に――正確にはボーボボたち三人の方に目を向ける。

 ごめん。否定できない。竹林に住んでいるのも事実だし…

 しかし、てゐは予想していたのか――――

 

 

「なるほど、なるほど。如何にも貴殿の思うた通り、ここにいる三人は妖異の類いぞ。

 しかし、ここに御座す方をどう心得るか?」

 

 

 と四指を伸ばした両手を私に向ける。

 

 

「申し訳ございませんが… 学のない私めには想像できませぬ。

 ただただ美しく、高貴な御方としか理解できませぬ…

 だからこそ妖怪を供にしていることがわからないのです」

 

 

「ならば答えてしんぜよう――」

 

 

 てゐは朗々と声高くして村長に説明する。

 

 

 曰く、ここにいるのは輝夜という名の貴族の娘。

 曰く、家の仕来りで東にある木花咲耶姫命を祀っている神社に向かう途中である。

 曰く、この妖怪たちはその護衛のために育ての親が雇ったモノである。

 

 

 そしてこの村で一泊したいとのこと。

 とまぁ、この兎はペラペラと喋る。

 もっとも村長は胡散臭そうにてゐを見ていたけど

 

 

「そうでしたか…」

 

 

「ああ、そして我、因幡てゐは彼の因幡の白兎で知られている白兔神(はくとしん)。

 その使いである。この名と、使いの証であるこの耳に嘘偽りないことを誓おう!」

 

 

 超巨大大嘘つき。使いどころか本人自身なのだが…

 この兎妖怪、妖怪でありながら神格と神社を持っているのだ。

 

 

「でしたら… 我が家へおいでくださいまし、

 とても貴族様が泊まるような家じゃございませぬが…」

 

 

「気持ちは嬉しいが、仕来たり故に寺か神社あれば、そこに泊まらせていただきたい」

 

 

 村長はそう言うと今は使われていない寺を紹介し、案内してもらった。

 長いこと使われていなかったのか、中はぼろぼろでとても泊めれるような環境じゃないけど。

 そのことに不満がある首領パッチは村長の家に泊めることを勧めるが――――

 

 

「あの村の連中が物取りの類いじゃない。という保証がないからだよ」

 

 

 と、てゐは首領パッチの意見をバッサリと切り捨てた。世知辛い世の中である。

 埃だらけのとこには全員嫌がったので、その日は首領パッチカーで寝ることになった。

 

 

 こうして私たちは村や町に着けば、寺や神社に泊まっていき…

 街道を進み、海岸沿いに北上していき…

 

 

 道中を山賊、盗賊、海賊、追い剥ぎと遭遇しては、返り討ちにし

 アジトを襲い溜め込んだ宝を根こそぎ奪って旅の旅費の足しにしたりして…

 出発してから一週間ほど掛けて、ようやくアサマ山の麓に辿り着いた。

 

 

「見ろよ皆! 富士山が見えてきたぞ!」

 

 

 いち早く見つけた首領パッチがその旨を伝える。

 首領パッチを除いた面々が窓を全開に開いてその山を眺める。

 その大きさと美しさに言葉を失い、しばし見とれていた。

 

 

「さすが日本一の山、富士山だぜ! お前らもそう思うだろ!」

 

 

 首領パッチの意見に頷く一行。ついでに写真を撮ることになった。

 一応、遊びに来たわけじゃないけどね。

 

 

「でも高さだけなら二番目だったんだけどねー」

 

 

「「え? マジで?」」

 

 

 てゐの何気ない発言に驚く首領パッチ含む三人。

 

 

「説明が面倒なんで、端折るけど。

 木花咲耶姫命が姉の磐長姫(いわながひめ)の山を砕いて日本一になった」

 

 

「てゐさん、幾らなんでも端折り過ぎでしょ…」

 

 

「山を砕くって… さすが神様。スケールがデカイな…」

 

 

 てゐの説明にメリーと天の助が感想を述べる。

 ついでに言うとその時に八つに砕かれたので『八ヶ岳』という名になったそうな。

 

 

「よし。こんだけ近づけばコイツの能力が発揮できるだろう

 ゆっくりナズーリン! 君に決めた!」

 

 

 青い服装に赤い帽子を被ったボーボボが懐から

 上半分が赤。下半分が白のボールを取り出すと色の境目で二つに割れて…

 中からボーボボのアフロに棲んでいる謎の妖怪ゆっくり。そのうちの一体が飛び出す。

 

 

 灰色の髪にネズミのような耳を持ったゆっくり。

 要塞に全員、置いてきたと思ってたようだが、何体かは連れてきたのだろうか…

 

 

「ゆっくりナズーリン! 『探し物をする』だ!」

 

 

「断る」

 

 

「…………………………………………」

 

 

 にべつもなく答えるゆっくりナズーリンに彼らの言う富士山を指差したまま固まるボーボボ。

 私たちは前払いとしてチーズを渡してようやっと動いてくれました。

 

 

 彼女は『探し物を探し当てる程度の能力』を持っている。

 今回の件にはうってつけの人材といえよう。性格はさておきだが。

 

 

 とはいえ見たことも聞いたこともないモノを探し当てるのは難しいらしく

 ある程度、近くまで行かないとダメらしい。

 今も開いたアフロの中からダウジングロッドを前方に向けている。

 

 

 ダウジングロッドの指し示す方角に山を登ること幾数分。

 突如、メリーが首領パッチの足ごとブレーキを踏み…

 首領パッチの「ぎゃぁぁぁ!?」という叫び声を尻目に

 

 

「結界の境目が見えました!」

 

 

 指差す方向には何の変哲もない山の岩肌。

 ゆっくりナズーリンも同じ方向にロッドを指し示している。

 

 

「奇遇だね。私のロッドもそこを指しているよ」

 

 

「その前に俺の足について、何か言えや! コラァ!?」

 

 

 私たちは車から降りてメリーの案内のもと、その現場へと足を運ぶ。

 やはし、何もない岩石しか見えないのだが、メリーが手を伸ばし… 触れると

 水面に腕を入れたように掻き消える。

 

 

「きゃぁぁぁっ! やっくん、パチ美こわーい!」

「ボボ子もー!」

「ヒィィィ、輝夜の姉御。助けておくんなましー!」

 

 

「引っ付くなバカども…」

 

 

 あと私はやっくんではない。

 女装した姿で抱きついてくる三人を引き剥がしてメリーの元へ

 彼女は腕を引っ込めて手を握ったり開いたりしている。

 

 

「この先に創られた空間があるみたいです」

 

 

「仙人が創った異空間。或いは結界の一種かもね。連中にとっては簡単なことらしいし…」

  

 

 てゐがその空間の推測を立てる。

 どちらにしろ、この先に私たちの求める品があることに変わりはない。

 不老不死である私が結界の先に飛び込む。

 

 

 たとえ、結界内で死んでも… 好きな場所で復活できる。この力ならば――――

 

 

 私は結界の中へと侵入する。

 私はそこで鼠を目撃するのだが…

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

「成る程。お主らは『火鼠の皮衣』を求めて此処へやって来たわけか…」

 

 

 そこには最初の村で出会った仙人が、カピバラの群れに囲まれていた。

 自称リア獣仙人。まさか、こんなところで出会うとは…

 入っても安全と判断した私は一度戻り、合流したのちに今度は全員で入っていった。

 

 

「火鼠の皮衣はないが… 火を喰う鼠の皮衣ならあるから、それを持っていくとよい」

 

  

 目的の物とは少々違うがあっさりと手渡す。

 疑問に思い尋ねてみると――――

 

 

「殺しても死なない連中相手にどうやって勝つのじゃ?」

 

 

 と、答えた。

 どうやら、この仙人は只者じゃないようだ。

 私たちは彼に礼を述べると結界の外へと出ていく。 

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

 帰りの車の中、てゐがふと

 

 

「予想とはだいぶ違った結果になったね」

 

 

「そうですね。火鼠といえば火鼠なんでしょうけど」

 

 

「いや、メリー。あんたのことだよ」

 

 

「…え?」

 

 

「あんたは仙人の創った異空間。その入り口を探し当てたんだよ?」 

 

 

 そういえば、そうだった。カピバラの群れと仙人の存在で忘れていたが…

 メリーの結界の境目を見る能力は問題なく発動しているのか…

 それとも今回の旅路で強化されたのか…

 

 

「とりあえず、一度戻って確かめた方がいいかもしれないね?」

 

 

 てゐの言葉に賛同して私たちは進路を迷いの竹林に向けて帰路に着く。

 

 

「結局、私の出番なかったですね…」

 

 

 ヴォルガノスが寂しそうに呟いていた。ごめん、忘れていた。

 

 




 

 そんな宝で大丈夫なのか? と思いたくなる今回の旅路。
 そしてメリーの力は? 残りの神宝は?
 ヴォルガノスの出番は? …続く。


   □□□□□□□□□□□□□□□


 (´・ω・)にゃもし。

 五つの難題は省略して、五人の求婚者 → 帝 → 何故か忍者と戦闘勃発。
 ――が本来の形でしたが
 誰かが「 書いてください 」って言った気がしたので書きました。

 ※駿河 → 甲斐 指摘により変更しました。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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五つの難題 後編

 

 駿河の国。富士山にて『 火鼠の皮衣 』を手に入れた一行。
 残す神宝は二つ『 燕の子安貝 』『 龍の頸の玉 』
 彼らはどのようにして、この二つを手に入れるのか?
 



  

 

『オカエリナサイ』

 

 

 巨大な扉を潜ると独特な機械音声が頭上から響く

 あのヘンテコな仙人の元から一週間ほどかけて無敵要塞ザイガスに帰ってきた。

 この要塞… 自我が芽生えている。

 

 

「まるで一年間、戦ったみたいだ…」

 

 

 天の助が感慨深く語り、他の二人が頷く。二週間しか経っていないのだが…

 群がるイナバとゆっくりに道中で手に入れた品を渡してその日はそのまま朝まで寝て過ごす。

 不老不死でも疲れるものは疲れるようだ。主に精神面で。

 

 

 翌日、メリーがこの時代にやって来た場所に赴き。彼女の能力が有効かどうか確認。

 結果はダメ。メリーの目でも唯の竹やぶにしか見えないという。原因も不明。

 

 

「単純に力不足か、それともこの竹やぶに何かしらの力が働いて阻害しているのかもね」

 

 

 この地をよく知るてゐですらもお手上げのようで、引き続き神宝探しをすることになった。

 次の目的地は西の筑紫(つくし)の国。その北の海。その海の底。

 

 

 

 

 『龍の頸の玉(たつのくびのたま)』

 

 龍の首にあると言われている五色に輝く宝玉。

 

 

 

 

 てゐの記憶が確かならば、そこに驪竜(りりゅう)と呼ばれる黒い鱗の竜がいるとのこと。

 相手は龍と呼ばれる生き物。仙人を相手にするのとは訳が違う。

 宝玉とまではいかないが、鱗の一枚でも取れたらとっとと去るという話に…

 

 

 大事なのは強力な水の気がある品。

 五行思想において黒は北と水に対応しており、黒竜である驪竜は打ってつけといえる。

 

 

 そして問題が一つ。かの黒竜は海を司る存在と同時に闇を司る存在でもある。

 闇を司る存在だけあって光を苦手としているらしく、普段は深い海の底に棲んでおり

 光のない新月の夜のみに海底から姿を現すという。

 

 

 ここから筑紫の国は遠く、先日行った駿河の国ほどの距離の上に相手は海の中にいる。

 旅の下準備も必要だが… 旅の疲れを癒やす必要もある。

 

 

 もっともボーボボたち三人がいるところで休めるかどうかは話は別だけど。

 今も修行としてメリーにパンを作らせている。相変わらず行動が読めない連中だけど…

 

 

「必殺惑星返し(プラネットアベンジャー)!」

 

 

 近くで埋まっていた自分の身長ほどの岩石を引っこ抜いて三人に投げつける。

 

 

「「 見た目に反して力持ち!? 」」

 

 

 メリーの能力は彼らが元の時代に戻るための要になるのだ。

 連中に関わりすぎて変な方向に走ったら大変である。もう手遅れかもしれないが…

 ちなみにパンは岩石の下敷きになったボーボボたち三人を除く皆でおいしく頂きました。

 

 

 地上に落とされて二週間ほど経ったのか… 空に浮かぶ半月を眺めて

 不思議な迷いの竹林で可笑しな連中と過ごす日々を悪くないと感じている。

 

 

 それ故、私は… 考え… 悩み… 苦しむ。

 先に死ぬのは彼らだということを… どんなに不死に近くても不老ではない。

 事実であり、残酷な現実が否応なしにやってくる。

 

 

 翌日。私の考えなど、大して気にもせずにいるであろう連中は…

 てゐは配下の因幡を使って旅に必要な物をかき集め、ヴォルガノスは要塞の生け簀で

 サンマっぽい魚等を釣り、私も含む残りの面々はというと…

 

 

 

 

 『燕の子安貝(つばくらめのこやすがい)』

 

 燕が卵を産むときのみ、体内に現れ出すという子安貝。

 

 

 

 

 朝の朝食時のとき、見た目だけならアジの干物にしか見えない魚をつつきながら 

 何を思ったのか首領パッチは――――

 

 

「ツバメに変身して子安貝を産めば良くね?」トチ狂ったことを(のたま)い。

「なるほど。下手に探すよりも確実性があるな」愚かにも天の助は賛同し…

「それじゃ俺がツバメになって産もう 」ボーボボがアホなことをぬかした。

 

 

 そして二人はボーボボが入るでっかい鳥の巣を建てるために外で作り… 完成する。

 それは木製の三角屋根の――――

 

 

「「犬小屋!?」」

 

 

「みんな~、お待たせ~♥」

 

 

 鳥の着ぐるみを着込んだボーボボが現れる。

 それは茶色の羽毛に鋭い爪と嘴を持った――――

 

 

「「ツバメじゃない! それトンビ!」」

 

 

「まぁ、素敵な鳥の巣♥」

 

 

 そして犬小屋の屋根の上に乗っかる。

 

 

「「犬小屋の意味は!?」」

 

 

 ボーボボが「ぽこぺん。ぽこぺん。だーれがつっついた…」

 と呪文のように唱え、力み始めると喉の部分が大きく膨らみ… やがて口から卵を吐き出す。

 

 

「「ピッコロ大魔王!?」」

 

 

 白い卵に亀裂が入り、殻が弾ける。

 中から頭は白い毛で覆われ体は黒い羽毛の雛…? が孵り

 「タカー!」と鳴く。

 

 

「「鷹!?」」

 

 

 三人が涙を流しながら鷹の名前だろうか「タロウ!」と呼びながら駆け寄ると…

 

 

「タカツツキ!」

 

 

 三人の額に嘴で突き刺し――

 

 

「タロウなんてダセェ名前、名乗れるかよっ!

 俺はこれから『バイオレンスジャック』と名乗らせてもらうぜ!」

 

 

 「あばよ!」と要塞の外へと飛び出した。

 ボーボボが消え去っていく影に向かって

 

 

「戻ってきなさい! 女の子の一人旅は危険よ!?」

 

 

「「メスだったの!?」」

 

 

 そんなやり取りなど、どこ吹く風と首領パッチと天の助は残った殻を調べている。

 そして殻の中から手のひらほどの大きさの子安貝を手に取り… 邪気のない笑顔で

 

 

「子安貝見っけ♪」

 

 

「これで残り一つになったな」

 

 

 ベチョベチョの子安貝を渡してきた。

 あとで洗ったのは言うまでもない。

 

 

 ツバメならぬトンビ… というかボーボボが産んだ子安貝。

 これでいいのか… いや、ダメな気がするのですが…?

 私の意見は却下され、西へ行くための旅支度が進められていく。

 

 

 時間は経過していき、月は満ちて満月に。

 私たちは南の海岸を伝って筑紫の国に向かっている。

 移動方法は首領パッチカー。ぬの車も用意されたが首領パッチが手榴弾で爆破した。

 

 

「妙だね。盗賊、山賊には遭うけど海賊には遭わない…」

 

 

 襲撃してきた追い剥ぎを返り討ちにして、倒れている連中の身ぐるみを剥がしているてゐ。

 ここ瀬戸内海は海路による交易が盛んであり、それに伴い海賊行為を働く連中もいるらしい。

 

 

「俺たちの顔が知られているからじゃねーの?」

 

 

 追い剥ぎの顔におはぎを塗りたくっている首領パッチ。追い剥ぎとおはぎをかけているのか…

 襲撃者が減るのはよいことだし、深く考えるのはやめることにした。

 何かあれば、そのときに対処すればいい。

 

 

 船で交易をしている者たちのために設けられている宿泊場を利用しつつ西に向かいながら

 道中の人や妖精やら、ときには妖怪から驪龍もしくは黒竜に関する情報を入手しつつ

 私たちは本州の西へ進み、目的地の海岸に辿り着いた。

 

 

 新月の夜。光源は星の明かりのみ。耳に聴こえるのは寄せては引いていく波の音のみ。

 案内人はチーズ三つで引き受けたボーボボのアフロにいるゆっくりナズーリン。

 彼女のロッドを頼りに行くのだが… ここにきてメリーが空を飛べないことが判明した。

 

 

 メリーとゆっくりナズーリンを除く全員は空を飛べるのだが…

 

 

「普通は空を飛べませんよ!?」

 

 

 彼女は反論。仕方ないのでヴォルガノスに馬の鞍をつけて海上を進むことに。

 砂浜に首領パッチカーを止めて、番人としてゆっくりメーリン(寝ている)を残して飛翔。

 暗闇の中を彼らが持っている懐中電灯の光で照らしながら突き進む。

 

 

「家主、止まれ。ここで反応が止まっている」

 

 

 ゆっくりナズーリンの言葉にその場で停止する。

 しかし、そこには驪竜の姿はおろか生物一匹見当たらない。

 ということは海底にいるのだろうか…?

 

 

「首領パッチさん! 合言葉ですよ!」

 

 

「ボーボボ様、あの言葉ですね!」

 

 

 三人は揃って頷くと――――

 

 

「「出でよ神龍(シェンロン)! そして我の願いを叶えたまえ!」」

 

 

 三人揃って合言葉とやらを空に向かって叫ぶ。

 すると何の前触れもなく大型の船など簡単に飲み込みそうな大渦が出現。

 その大渦の中心から黒い鱗の細長く巨大な竜が顕現する。

 

 

「このボーボボ様を不老不死にしろ!!!」

 

 

「ギャルのパンティおくれー!」

 

 

 白い身体に頭頂部が紫に、さらに長い尻尾を生やした姿に変化したボーボボと

 長い耳を持ったブタの姿をした首領パッチが好き勝手に願い事を言う。

 

 

『知るか…』

 

 

 口から炎を噴いて三人を燃やして塵と化して、おかしな色の三色の灰が波間に漂う。

 天の助が直前に「なんで俺まで!?」と叫んでいたが。

 ちなみにゆっくりナズーリンは直前にメリーの胸元に飛び込んで回避していた。

 

 

「ちょっとてゐさん!? 海の化身が炎を吐きましたけど!?」

 

 

「いやぁ、こいつは龍じゃなくて、人魚の鱗あたりで妥協した方が良かったかもね…」

 

 

 無言で二人を眺めていた驪竜は… やおら、声を出す。

 口をあまり動かさずに声を発っして顔をこちらに、私の方に向けると――

 

 

『騒ぐな。別に取って喰うわけではない。少々、気になることがあってな…

 何故、月の民が此処にいる?』

 

 

 何故、わかった? 表情に出ていたのか驪竜は答える。

 

 

『過去に何度か遭遇したことがあるからだよ。お前からそいつらの匂いをかぎとったからな…

 それで、なぜ月の民がいて… 何を求めて此処へ来た?』

 

 

 口の端々から感じられる嫌悪感。主に私――――月の民に対してでしょうね。

 私たちは彼にここに来た経緯と目的を説明した。

 

 

『成る程。月の民が地上の民と一緒にいるのはその為か… にしても妙な娘だな… 

 今まで見てきた月の民というのは地上の連中を見下しているのだが…』

 

 

 否定はしないが、全員が全員とも見下しているわけではない――と思いたい。

 この愉快な連中と出会う以前の私ならば… 地上に興味を持つ以前ならば… 

 

 

『頸の宝珠はやれぬが… 代わりにこいつをやろう…』

 

 

 顎を大きく開くと口の奥から五色に輝く宝珠がふよふよと浮かびながら… 私の手に収まる。

 どうしよう… 何かイメージ的に体内にある異物を吐き出されて、それを受け取った気分。

 

 

『体内の胃袋で私の力が固まったモノだ。水の気を含んだ品としては申し分ないだろう』

 

 

 力そのものが形を持った代物。それがこの宝珠なのか… 

 おかしなことを思って、ごめんなさい。一応、心の中で詫びる。

 

 

「これで五つ揃ったことになるな」

 

 

 ボーボボの服を着て所々に棘を生やした天の助が話し掛ける。復活するときに混ざったようだ。

 近くには無傷のボーボボが海面に立っていて、その隣にもう一つ…

 

 

「あたいってば最強ね♪」

 

 

「「誰!?」」

 

 

 三対の氷の羽を生やした青いリボンに青い服装の少女が浮遊していた。

 三人の面影がまるっきしゼロである。彼女はキョトンとした表情で――――

 

 

「ん? あたいは天の助だよ?」

 

 

「「アイエエエエェェェェッアァァァァッ!?」」

 

 

 今までで生きてきた中で一番驚いたかもしれない。

 ある意味、酷い詐欺だ。

 

 

「そんな… 声まで変わって…」

 

 

 メリーが青ざめた顔で呆然とする。

 姿形を変えられても、声までもというのは難しい。彼女が驚くのも無理もない。

 ここにいる女の子にしか見えないのが天の助ならば、あっちの天の助っぽいのは…?

 

 

「ボボボーボ・ボーボボだ」

 

 

「「ええええぇぇぇぇっ!?」」 

 

 

 それじゃあ、あっちのボーボボにしか見えないボーボボは !?

 

 

「首領パッチでーす♥」

 

 

 舌を蛇のように伸ばせて、こちらを小馬鹿にするかのようにダブルピース。

 腹が立ったので取り敢えず顔面を一発殴って黙らせる。

 殴られた首領パッチが顔を下にして海面にぷかぷか浮かぶ。

 

 

 燕の子安貝は酷かったけど、今回の龍の頸の玉はマシな部類といえる。

 彼…? かどうかは知らないが礼を述べる。

 しかし、先日の仙人と同じく――宝珠をあっさりと渡すされることに疑問を覚え問う。

 

 

『生憎、私には不死を倒す術がない。それに万が一、お主らを滅したとしても――――

 あの月の連中が、これみよがしに喧嘩を売ってくる可能性が生まれる。

 そんなことになれば海が荒れてしまう…』

 

 

 『それは私の望むことではない…』そう言い残して驪竜は海の底へと姿を消した。

 見た目こそ厳つい竜そのものだったが… 彼はもっともこの海を愛しているのかもしれない。

 

 

 そして月の民はこの地にいる者たちを穢れた存在と――――そう思うと複雑な気分になる。

 どうやら私は… 私が思っている以上に私はこの世界に染まったのかもしれない…

 

 

 目的の物を手に入れた以上ここに残る必要はない。

 私たちは元来た場所へと向けて海面上を滑るように飛んでいく。

 後ろからふと思い出したかのように驪竜の声が――――

 

 

『三百年前に月に行き、数年前に戻ってきた男が海賊を率いている。気を付けろ。 

 奴は月の民に良い感情を抱いていない…』

 

 




 

 斯くして、五つの神宝( モドキ )を手に入れた一行。
 しかし驪竜から『 気を付けろ 』との警告を受ける。
 かの地にて海賊と遭遇するのか…? 海賊を率いる人物とは?
 そしてボーボボたちは元に戻ることができるのか…? 
 

   □□□□□□□□□□□□□□□


 (´・ω・)にゃもし。

 ようやっと五つの難題をクリアしたぜ。
 感想と評価と突っ込みがあると助かる。と書いておけばいいのかな。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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森林での攻防

 

 龍の頸の玉( 体内の異物 )を手に入れた一行。 
 これで五つの神宝が揃った。
 しかし、帰り間際に驪竜は話しかける。
 『 三百年前の男に気をつけろ 』と




  

 

 黒い鱗の竜が海底に棲んでいるとは思えないほどに海は穏やかで

 その海上を私たちは陸地に向かって空を飛んでいる。

 

 

 先頭にはゆっくりナズーリンを抱えたメリーがヴォルガノスの背に乗って

 外見はボーボボの首領パッチと天の助っぽいボーボボと(ややこしい)

 

 

「あたいってば最強ね!」

 

 

 自称、天の助の青い格好の背に氷のような羽をつけた女の子が…

 もう一度、灰になるまで燃やせば元に戻るかな?

 

 

「三百年も前に一体どうやって月に行けたんだ…?」

 

 

「それにソイツが海賊を率いているのも気になるわね」

 

 

 隣を飛行するボーボボ(天の助モドキ)とてゐが私に聞いてきた。

 疑問に思うのは当然だが… 落ち着いた場所で話をすべきだろう。 

 私がその事を伝えると納得して前を飛んでいく。

 

 

 ゆっくりナズーリンのロッドが示す方角には首領パッチカーがある。

 いろいろと条件が必要だが彼女の能力は役に立つ。

 アフロの中の住民である彼女たちをじっくり観察してみるのも面白いかもしれない。

 

 

 東の空が明るみを帯び始める。けっこう長いこと海の上にいたらしい。

 やがて陸地が見え… 砂浜が見え… オレンジ色の首領パッチカーが見えた。

 その入り口にはゆっくりメーリンがすぴすぴ爆睡していた… 

 

 

 仕事をしなさいよね… と額を軽く小突こうとしたら、避けられた。あれ?

 

 

 車内に入るなりメリーはゆっくりナズーリンを抱いたままベッドにダイブ。

 てゐもメリーの隣で小さく丸くなり… 小さな寝息を立てる。

 

 

 ボーボボたち三人も疲れていたのか、身体が崩れて――――液体化。

 床におかしな色合いの水溜まりを三つ作る。まぁ… 明日には復活するでしょう。

 その近くには巨大鯉のヴォルガノスが――――

 

 

「目、開けたまま寝てる…」

 

 

 魚類って寝る時はそうだったのか… いまいち記憶にないが私も休むことにするか。

 いまだにすぴすぴ寝ているゆっくりメーリンを抱き枕にして横になる。

 あー、驪竜の気を付けろって件。明日にしよう…

 

 

   □ □ □

 

 

 目を覚ますと太陽が真上を少し通り過ぎていて、誰が作ったのか料理が置かれていた。

 食卓にはマグロがどどんと置かれている。ここ(瀬戸内海)って、マグロがいたっけ…?

 

 

 昼食の傍ら、私は驪竜の話にでてきた男のことを説明する。

 三百年前に月に行った男の名は『浦島太郎』

 もっとも私が知っているのは男の名前ぐらいで、あとは…

 

 

 その男に月の都のことを海の底にある竜宮城と偽ったこと。

 数年前に地上に送り返したことぐらいで…

 何故、三百年もの間に冷凍睡眠させたのかは不明である。

 

 

 三百年もの間、冷凍睡眠させられれば… 当然、知人友人たちが生きているわけがない。

 月の民に良い感情を抱いていないのは――――そのことに対する恨みか…

 気を付けろというのは、そのことに関してか。驪竜にもう少し聞くべきだったかも。

 

 

   □ □ □ 

 

 

 道中、海賊からの襲撃に備えて海岸から離れた場所を走行する。

 非があるのは月の民でしょうけど、それは一部のみ。

 他人の罪のために罰を受けるつもりはない。

 

 

 しかし、予想に反して海賊たちがやって来る気配がない。

 拠点の要塞がある大和の国に入ったとき――――

 森林を通り抜ける途中。周囲よりも窪んで開けた場所にて…

 

 

 周囲の木の木陰から変わった髪型をした男たちがぞろぞろと姿をさらけだす。

 前方には宙に浮かぶ不思議な亀。その背には漁師姿の老人が座っている。

 

 

「モヒカン!? なんで髪型がモヒカンなの!?」

 

 

 メリーが男たちの髪型を見て叫ぶ。あの変わった髪型は「モヒカン」というらしい。

 それよりも気になるのは、あの老人… 件の『浦島太郎 なのか?

 

 

 その老人は片手を上げてモヒカンたちに指示を出すとモヒカンたちが左右に分かれ

 奥から両手首を後ろで縛られ木の枝に吊るされた男が…

 

 

 ボーボボ並みの身長に鍛えられた肉体。そして左目にある切り傷。最初の村の村長?

 なんでこんなとこで海賊に捕らわれているのこの人?

 

 

「トモヒロ!?」

 

 

 ボーボボが彼の名前なのだろうかフロントガラス越しに彼に向かって叫ぶ。

 声が聞こえたのか村長トモヒロは――――

 

 

「すまねえ… ボーボボさん、てゐ様。へまをしてしまいました…」

 

 

 何故てゐだけ様付け? そういや神格と神社持っていたわ、このウサギ。

 しかし… ボーボボたちとあの村長の交遊関係がわからない。

 

 

「あの男とその仲間が盗賊のアジトの場所を教えてくれたんだよ。

 そう簡単に捕まるような男じゃないと思っていたんだけね…」

 

 

 てゐが説明してくれた。道理で旅の道中でやたらと盗賊と出くわすわけね。

 海を根城にしている海賊がこんなとこまでやって来るとは…

 

 

「どういうわけかアジトの場所を突き止められ… 組織を壊滅させられる連中が増えてな

 調べてみたらな、こやつが浮上してきて――――こうやって捕まえたというわけじゃよ。

 すまんが主らとちいとばかし話がしたいんでの… 外に出てくれんかね?」

 

 

 例の老人が私たちに向かってお願いしてくる。口調こそは穏やかだが、

 言う通りにしたらどうなるのか、盗賊連中なら問答無用で張り倒せば済むはなしだが… 

 人質を捕らえられた状況というのは初めてである。ここは私が須臾(しゅゆ)の術で――

 

 

「なんの! 相手が数で攻めてくるなら、こっちも数で攻めるのみだ!

 今週のビックリドッキリゆっくり妖怪発進!」

 

 

 「ほな、ポチッとな」と赤いボタンを何の躊躇いもなく押す。

 

 

「「ええぇぇええぇぇっ!?」」

 

 

 首領パッチカーの口の部分が大きく開かれ、奥からハシゴが地面に向かって伸びていき

 大量のゆっくり妖怪たちが「ゆっくり♪ ゆっくり♪」と口ずさみながら降りていく。

 

 

「ちょっとボーボボさん! 村長さんがいるんですよ!?」

 

 

 メリーがフロントガラスの向こうのトモヒロを指差すが――――

 

 

「俺にはわかる。あの気高き男が何を言いたいのかを…

 トモヒロは言っている。ここで死す運命じゃないと。

 こんなことで味方の足を引っ張るぐらいなら、俺ごと討て――――と!」

 

 

 トモヒロを見てみる。全力で首をブンブンと横に振っている。

 うん。どう見ても違う。

 

 

「さらば友情! フォーエバー!」

 

 

 ボーボボが涙を流しながら叫ぶと軍服姿でトモヒロに敬礼を送る三人。

 見捨てる気満々だ! コイツら!

 

 

「ちぃっ、役に立たない人質じゃな。だが、そんなちっこい妖怪が海賊に勝てるかの?」

 

 

   □ ゆっくり戦闘中 □

 

 

 全てのモヒカンたちが一人残らず倒され呻き声を上げながら地面に横たわっている。

 ゆっくりたちがモヒカンを下敷きにして、その上で愉しそうに跳ねている。

 

 

「「予想外に強い!」」

 

 

「よし、次はあのじいさんを倒せ! ゆっくりたちよ!」

 

 

 ボーボボの命令で謎の老人の元へとカエルのように跳ねながら向かっていくゆっくりたち。

 

 

「なんの! 紙芝居『ゆっくり虐待物語』! 御代はいらぬ!」

 

 

 何処からともなく紙芝居一式を取り出すとゆっくりたちに聞かせ始める。

 タイトルの時点で嫌な予感しかしない。

 それに何故にゆっくりたちは大人しく聞いているの?

 

 

 最初は楽しそうに話を聞いていたゆっくりたちだが…

 次第に表情を曇らせ… 青ざめさせて… 泣きながら背を向けるように逃げ始め――

 首領パッチカーへと戻ってきた。一体何を聞かされたのか非常に気になる。

 

 

「小癪な! ゆっくりたちをあんな非人道的で外道な方法で撃退するとは!

 もー許さん! 喰らうがいい! 鼻毛真拳奥義ぃぃぃぃぃっ――――」

 

 

 テカテカと光った黒い革の衣服には威嚇のために付けられているのか

 大小の銀色のトゲトゲと鎖に身を包んだ三人。(メリー曰く世紀末ファッション)

 アクセル全開。ノンブレーキ。凶悪な悪人面で「ヒャッハー!」と奇声を発して――

 

 

「「轢き逃げ!!!」」

 

 

「「もはや技ですらない!」」

 

 

 爆走する車を見て足をじたばた振ったりして、なんとか抜け出そうとする村長さん。

 ごめんなさい。きっといつかこれもたぶん、いい思い出に変わるから…

 

 

「いや無理でしょ。いっそのこと海賊に殺られたことにした方が楽だと思うよ?」

 

 

 てゐが非情な選択肢を挙げて

 

 

「そうだね」

 

 

 無情にも私は賛同した。

 

 

「あなたたちの中に助けるっていう選択肢は思い浮かばないんですか!?」

 

 

 メリーがツッコミを入れた。そうやっている間にも車は突き進む。

 老人は両手を懐に入れて、中から朱色の甲羅を三つ取り出すと老人を中心に回り始める。

 そのうちの一つが私たちの車に向かって飛んできた。

 

 

「ヒャッハー! そんな亀の甲羅ごときで…」

 

 

 ボーボボが言い終える前に甲羅と激突。強い衝撃と揺れ。さらに高速でスピン。

 フロントガラスの光景が目まぐるしく変わり――

 そこに二つ目の甲羅が当たったのか、車の後ろからの衝撃。

 

 

 その衝撃で床下へ通じる出入口からゆっくりたちが雪崩れ込んできて

 車内を目を回したゆっくりたちで溢れかえる。

 

 

 最後に車の側面からの攻撃で傾き――――横転して一回転。

 車内は荷物やら何やらでごった返した状態に陥る。

 

 

「首領パッチぃぃぃっ! 亀の甲羅でスピンって、マリオカートか!?」

 

 

「俺が知るわけねーだろ! 文句はあのジジイに言えよ!」

 

 

 この状況にも関わらず掴み合い殴り合いのケンカを始める二人。醜い。

 天の助は…と姿を探しているとゆっくりたちの下敷きになって――――死んでいる…

 

 

 異変は続く。外へと通じる扉の一つから黒い線が入り込み… 頭上で動きを止める。 

 その先端部分には銀色に輝く釣り針。釣り糸と釣り針? 漁師だから?

 

 

 先端部分の釣り針が急に動き出す。急降下。狙う先はメリー。

 須臾の術で加速。途中で天の助を拾い上げ… メリーと釣り針の間に割り込ませる。

 術を解くと天の助の身体の中に釣り針が深く入り込み…

 

 

「俺の身体の中に釣り針がぁぁぁっ!?」

 

 

 気づいた天の助が叫び、釣り糸がピンと張り天の助を外へと引っ張ろうとする。

 天の助の背後に回り込み――――

 

 

「ところてんマグナム!」

 

 

 釣り針が食い込んでいる部分を拳で打ち抜き――円柱状の弾丸として発射。

 高速で飛来。車の外へと飛び出し、遠くで幾つもの木々がめきめきと音を立てて倒れる。

 轟音が響き渡り、反響。木霊する。

 

 

「俺の身体の一部がぁぁぁっ!?」

 

 

「全部、持ってかれるよりマシでしょ!?」

 

 

 これで敵が倒れればいいのだけど… そういやボーボボたちは?

 

 

「よっしゃー王手だ。負けを認めろボーボボ! この首領パッチ様に赦しを乞え!」

 

 

「なんのキングとルークでキャスリングだ!」

 

 

「ちょっと待て! チェックメイト後のキャスリングは反則じゃねーのか!?」

 

 

「それはチェスのルールだ。お前のは将棋だから大丈夫だ。問題ない 」

 

 

「なるほど! じゃあ、続けようぜ」

 

 

「「続けるな!」」 

 

 

 私が首領パッチを、天の助がボーボボの後頭部を思いっきり殴り

 チェスと将棋の駒が辺りに散らばる。

 

 

 甲羅は大雑把な動きだが威力は半端なく、釣り糸と釣り針は正確無比に狙ってくる。

 遠隔主体の敵。接近して攻撃を叩き込みたいところだが…

 相手がのんきにいつまでも同じ場所にいるとは思えない。

 

 

「外に出よう。ここにいても飛び道具の的になるだけだしね」

 

 

 てゐの言う通りだが… 森の中を視界の外からやってくる攻撃を避けるのは簡単じゃない。

 

 

「あの甲羅は避けるのは難しくはない。問題は釣り糸と釣り針だね。

 こいつは多分、硬い物質を貫通するような威力はない。

 でなきゃ、わざわざ扉から入る必要はないと思わないかい?」

 

 

 確かにあの時、扉から入ってきて… それから攻撃してきた。

 

 

「相手が得意な場所で戦う必要はないよ。戦うなら相手が苦手そうな場所でやるべきさ」

 

 

 そんな場所がはたしてあるのか… 私の永遠と須臾を操る能力で…

 この森林で探り当てるのは難しいか? 

 

 

「とりあえず、まずはトモヒロを助けよう。アイツなら情報を持っているかもしれないしね」

 

 




 

 要塞への帰路の途中で出くわせた海賊一行。
 手下の海賊を倒せたはいいが海賊を率いる老人が手強い。
 はたしてボーボボたちはこの老人相手にどうするのか?


   □ □ □


 (´・ω・)にゃもし。

 土曜日に推薦されました。
 その影響が物凄かった。

 感想と評価とツッコミを待っています。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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浦島太郎という男

 

 海賊たちの首魁、謎の老人の手によって破壊された首領パッチカー。
 あの手この手で苦しましてくる老人に対して
 遂に反撃の狼煙を上げる… !?




 

 

「ここまで手強い人間なんて、そうはいないから先に白状するけどね」

 

 

 敵の攻撃で動かなくなった首領パッチカーの車内にて、てゐの声が響く。

 

 

「私の「幸運にする能力」には限界があるし… カラクリもある。

 一円支払えば、一円分の幸運が手に入る。そう考えればいいよ。今はね?」

 

 

 戦闘に関しては当てにせずに自力で倒せ――と彼女は私たちに言い。

 盗賊たちは人買いの連中のためになるべく無傷で女性、子供を手に入れようとする。

 ならばボーボボたちが戦えやすいようにわざと捕まるのも一つの手だとも。

 

 

 釣り糸と釣り針には硬い物質を貫通するほどの威力はない。憶測と推測ではあるが… 

 それならば全身鎧で身を固めればいいとボーボボは提案し実行する。

 アフロから手のひらに収まる赤いクリスタル状の物を取り出して――――

 

 

「テックセッター!」

 

 

 ボーボボが赤いクリスタル状を左手で掲げると

 衣服が弾け飛び、代わりに人型兵器のような装甲を身に纏っていく… 

 やがて完了したのか名乗りを上げる――――

 

 

「テッカマンエビル!」

 

 

 赤と黒の毒々しい二色。下半身はほっそりとしたフォルムに対して

 上半身は巨大な、先が尖った肩アーマが装着されており… ゴツゴツしたイメージ。

 アフロが邪魔して入れなかったのか、アフロの上にヘルメットが乗っている。

 

 

「これならヤツの釣り針も大丈夫だ」

 

 

 頭が無防備なんですが?

 

 

「最初に言っておこう、この姿で理性を持たせることができるのは30分だけだ。

 その時間を過ぎれば俺は理性を失い… 敵味方関係なく暴れるだろう。

 その間にヤツとけりをつけるぞ! 」

 

 

 そんな危険な物を装着しないでほしいと思ったが――

 普段から敵味方関係なく暴れているので普段と大して変わらない。…と結論に至った。

 てゐとメリーも同じ意見のようで深く頷く。

 

 

 ボーボボの傍らには白銀に輝く全身鎧に身を包んだ天の助。

 右手には片刃の剣。左手には真珠のような色合いの逆五角形の大盾。

 

 

「聖騎士ガイア… ここに見参」

 

 

 そしてもう一人、首領パッチは竜を模した黒い兜を被り背には竜の羽。 

 手には斧と槍が組合わさった漆黒の武器を持っている。

 

 

「竜騎士ガルザークだ。友の願いにより()(さん)じた」

 

 

 うん。中身以外はカッコいい。

 三人はそう言うと扉の外へと飛び出し、私たちも後を追う。

 

 

 地面は首領パッチカーが走り回った影響か、あちこちにタイヤの跡が残っている。

 あれだけいた海賊――モヒカンたちがいなくなっている。どこに消えたのか…?

 今のところ敵の襲撃はない。

 

 

 三人の視線、向かう先には木の枝から吊るされた村長、トモヒロがそこにいた。

 ただしトモヒロの手前の地面には――――

 

 

『安心してください♥ 罠はございませんから♥』

 

 

 と、書かれた立て札が立てられており… 地面には細い糸が幾重にも張り巡らされていて

 その糸を目で辿っていくと矢が装填された弓と石が乗せられた投石機に行き着く。

 

 

「「どう見ても罠!」」

 

 

 怪しいことこの上ないにも関わらず首領パッチとボーボボは――

 

 

「見ろよ。罠はないってさ」

 

 

「ああ、助かるぜ。ヤツが来る前に急いでトモヒロを助けるぞ」

 

 

 「オーケー」二つ返事で了承。何の疑いもなく加速して突っ込んでいく。おい。

 私たちが声をかける暇もなく、躊躇なく罠に足を踏み入れる――――当然、罠が作動。

 ボーボボたちに向かって石と矢が放たれる。

 

 

「「しまった! 罠か!?」」

 

 

「「罠だって言ってんでしょ!?」」

 

 

 豪雨のように降り注がれる石と矢。

 風を切る音がしばらく続き、衝撃が土埃や砂塵を巻き上げて三人を覆い隠す。

 やがて矢弾が尽きて、視界が晴れると――――

 

 

「ふぅ… 危ないとこだったぜ」

 

 

 全身に矢が突き刺ささり白目を剥いた首領パッチ、天の助と

 二人を盾にして難を逃れた無傷のボーボボの姿が…

 

 

「「味方を盾にしたぁぁぁ!!!」」

 

 

 視線と意識が前に集中した時。それは(まばた)きを一回する程度の僅かな時間。刹那の間。

 足下――その地面の下から例の黒い釣り糸でできた巨大な蜘蛛の巣の形の網が出現。

 私を含むメリーとてゐを巾着袋のように包み込んで閉じ込め空中に吊り上げる。さらに――――

 

 

「海亀ダイブ!」

 

 

 私たちから離れてたおかげで助かったヴォルガノスだが――――

 空から降ってきた海亀。その下敷きになり気を失う。その背には漁師姿のあの老人。

 ただし頭から血を流して身なりもボロボロ。なんでケガをしてるのこの人…?

 

 

「お主らが撃った水色の円柱の弾丸。避けたのは良いが木の下敷きになったんじゃ…」

 

 

 まさかのところてんマグナム。

 彼は両腕の袖に腕を交差するように中に両手を入れると…

 細い木の棒に巻かれている釣り針のついた黒い釣り糸を取り出し――

 

 

「あんまし動かんようにした方がよいぞ? 大ケガをするからのぉ…」

 

 

 右手に持っているのを頭上で小さな円を描くように振り回した後に釣り針を投擲。 

 蛇のように時には雷のように三人の間を駆け抜け…

 両手・両足・腰・首を縛り上げて――――三人を拘束。捕縛した。

 

 

「バァカめがっ! こんなモン噛み千切ればいいんだよ! 俺様をナメんなよ!」

 

 

 言うや否、犬の格好の首領パッチが口を大きく開き、猛獣のような牙で力強く噛む。

 『ガジン!』と歯と歯を打ち鳴らし… 歯に亀裂が入り――粉々になる。

 声にならない悲鳴を上げてもんどり打って転げ回る。

 

 

「切ってダメならば燃やすのみ! いくぞ天の助!」

 

 

「ちょっと待てい! 燃やすなら自分のを…」

 

 

「遠慮はいらん! 受けとるがいい! ボーボボ・ファイアー!」

 

 

 口から火炎を吐き出して… 釣り糸どころか天の助まで炎に包ませる。

 天の助を黒焦げにしたにも関わらず釣り糸に変化はなく

 前のめりにゆっくりと倒れ――――地面に突っ伏す。

 

 

「生憎、この釣り糸は女性の髪を結って束ねた逸品での… 

 人の手どころか妖怪の力でも引き千切ることも断ち切ることもできん。

 当然、防火対策も施し済みじゃよ…? そして――――」

 

 

 指で釣り糸を弾くと『ピィィィィィン…』と弦楽器のような音が鳴り響き…

 鎧の――釣り糸が触れている部分が激しく振動を起こしてヒビが入り亀裂が生まれ破裂。

 破片が辺りに飛び散ると――――

 

 

 ピンク色のスケスケの女性モノの下着を身に付けた三人の姿が(あらわ)になる。

 

 

「「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

 顔を赤くして慌てて胸と股間に手を当てて隠す。

 

 

「何が『きゃぁ!』だ! そんな気持ちの悪いモン誰も見たくないわい!」

 

 

 老人が怒鳴り声を上げる。うん。私も見たくない。一瞬、吐きそうになった。

 だが鎧がなければ、釣り針をどうやって防ぐのか…

 三人は老人の言葉など耳に入っていないのか無視して甲高い声で――――

 

 

「エッチ! スケッチ!」

 

 

 天の助が巨大な「ぬ」を両手で持ち上げて老人に向かって投げる。

 海亀が空中を滑るように水平移動して避けて――――

 足下にいたヴォルガノスに投げられた「ぬ」が当たって、直後に爆発。わー。

 

 

「ワンタッチ!」

 

 

 首領パッチが『危険』と書かれた箱に入っている赤いボタンを押すと――――

 海亀の下の地面が爆発。背に乗っている老人ごと爆風で上空に吹き飛ばす。いつの間に?

 さらに一体どこから用意したのか釜風呂に入って身体を真っ赤にしたボーボボが――――

 

 

「お風呂に入ってアッチッチ!」

 

 

 空中で身動きの取れない老人と海亀に向かって口から熱線を吐き…

 赤い一条の光が目標へと伸びていき、命中して爆発。

 地面へと落下していき頭を下にして激突。口から泡を吹いて痙攣。そのまま動かなくなる。

 

 

「見たか! これぞ、鼻毛真拳奥義『無邪気な子供の言葉遊び』!」

 

 

 無邪気な要素が一個もありませんでしたけど?

 老人が完全に気を失って糸が緩まったこともあり

 私たちは黒い網から、さほど苦労せずに抜け出すことができた。

 

 

 とりあえず動きを止めた今のうちにトモヒロを縛っている縄を解いて救出。

 その縄で老人と海亀を拘束。身動きが取れないようにして… 彼が目を覚ますのを待つ。

 トモヒロの情報を得てから対処する話だったのだけど… ま、いっか。

 

 

「お前は『浦島太郎』でいいのか?」

 

 

「如何にも浦島太郎じゃ…」

 

 

 目を覚ました彼――浦島太郎に質問していくボーボボ。

 観念したのか、質問に大人しく答えていく。

 

 

 過去、家族に何も告げずに竜宮城へ行ったこと。

 戻ってきた時には自分がいた時代から既に300年が経っていたこと。

 渡された玉手箱には老化する煙しか入っていなくて浴びてしまったこと。

 

 

 もう一度、竜宮城へ行くために海賊稼業をしていたこと。

 その途中で黒龍と出会い竜宮城の正体を教えてもらったこと。

 そして――――

 

 

 私――輝夜が現れた…

 

 

 月の都へ行くための手掛かりになりそうな人物。

 彼は私を確保するために動き出すも… 結果は敗北。

 彼の気持ちはわからない訳でもないが、やられる方は迷惑である。

 

 

「仮に月に行けたとして… 貴方は何をするつもりだったの…?」

 

 

 復讐だろうか… 彼を冷凍睡眠(コールドスリープ)させた人物への…

 

 

「謝罪の要求と質問じゃよ…」

 

 

 予想とは違った答えが返ってきた。

 

 

「月の都の文明はこの目で見ている。あれは人の手でどうにかできるものではない。

 ワシはただ何故300年も経った後に帰したのか… それを知りたい。欲を言えば――――」

 

 

 家に帰りたい。家族に会いたい。それができる可能性を持っているのは月の都だ。と、

 彼はボーボボたち三人とメリーと同じく時と空間の迷い人。

 彼の場合は人為的なものという違いがあるが… 彼は被害者なのだ。月の民の手による… 

 

 

 彼の今の姿は私たちの数ある未来の一つと一つの可能性でもある。

 そのことを理解したのか押し黙る。一人を除いて。

 

 

「甘ったれんじゃねー!」

 

 

 伸ばした数本の鼻毛をムチのようにしならせて浦島太郎に打ち付ける。ボーボボだ。

 

 

「「ええええぇぇぇぇっ!?」」

 

 

 さほど強く打ったわけじゃないのか、すぐに起き上がる浦島太郎。

 

 

「いきなし何をする!?」

 

 

 抗議の声を上げる。当然といえよう。

 しかし、ボーボボは彼の意見も主張も何かも全て無視して――――

 

 

「家に帰りたい? 家族に会いたい? そのための努力? 

 大いに結構だ! 思う存分やればいい! 

 だがな、だからといって海賊稼業して良いわけねーだろーがっ! 傍迷惑なんだよ!」

 

 

 なおも言い続けるボーボボ。浦島太郎はただ彼を強く睨む。

 

 

「テメーには俺たちの言葉は届かねーし、お前の言葉など俺には響かん!

 貴様が被害を(こうむ)ったように、貴様のせいで被害を被った奴だっているんだよ!

 加害者が被害者面してんじゃねー!」 

 

 

『聖鼻毛悪夢領域(ボーボボ・ワールド・ナイトメア)!』

 

 

 世界が変わっていく… 森林から砂浜へと… 幻覚、幻影の類いか?

 

 

「故に、お前にはお前のせいで苦しんだ者に貴様を裁いてもらう…」

 

 

 ボーボボと浦島太郎との間に一つの霊魂だろうか…? 

 最初は蜃気楼のようにぼんやりと、徐々にくっきりと姿を現し…

 さらに人型を形作っていく――――

 

 

 髪は短く刈り上げられており、額にねじり鉢巻を結んでいる。

 日に焼けた小麦色の肌には背中に鶴と書かれたハッピ。

 サラシにフンドシ姿の若い女性。

 

 

「おツル!? 貴様ぁぁぁ! よりによってワシの妻のニセモンを!」

 

 

「妻!? あなた結婚していたんですか!?」

 

 

「しちゃあ、悪いか!? 月に行く前は25のハンサムボーイだったんじゃぞ!?」

 

 

 メリーが驚き思わず訊ねる。私も驚いた。てっきり独身なのかと…

 でも、300年前のそれも浦島太郎の妻。彼女をなぜ…? 

 それ以前に本物なのか… 偽物なのか…

 

 

 彼女は無言で高く飛び上がると右足を斜めに飛び蹴り。

 細く長い健康的な小麦色の足が浦島太郎の顔面に突き刺さる。

 数回、砂浜を転げ回り… 顔面を下にして倒れる。

 

 

「情けない。ああ、情けない。情けないったら、ありゃあしない。

 浮気の罰として海亀にくくりつけて海に流した手前だ。

 穏便に事を済まそうと思ったんだけどねぇ… 」

 

 

 まさかの真実。そんな理由で海亀に乗っていたのか浦島太郎。

 顔を砂につけていた浦島太郎は、やおら『ガバッ』と顔を上げると――――

 

 

「この蹴りの感触… 間違いない本物じゃ!」

 

 

「「ええぇぇええぇぇっ!?」」

 

 

 普段から何をやっているんだ、この夫婦は…

 まぁ見た目からして姉さん女房で尻に敷かれてるのは想像がつくけど。

 もしかして日頃の暴力を浮気で解消してたのではなかろうか?

 

 

「あたしゃ、ずっと後悔していたんだよ…」

 

 

 浦島太郎の妻――おツルさんが語り始めた。

 

 

 あたしゃ、器用な人間じゃねぇ。その上短気だ。だから口よりも手が早い。

 海亀にくくりつけた後、頃合いを見て助けるつもりだったんだ。

 でも… あんたは文字通り消えていなくなっちまった。

 

 

 あんたを探すために海の底の龍神様にもお願いしたよ。

 神隠しと月のことを教えられただけだけどね… 

 すぐに帰ってこないのは月の民に殺されている可能性があるともね…?

 

 

 あたしは後悔したよ。だから待った。ひたすら待って…最後はババアになって死んじまったよ。

 それでも未練がましく地上に残って、数年前にようやっと、あんたと出会えたんだよ。

 

 

 もっとも、あたしは幽霊になっちまって喋ることも触れることもできやしねぇ。

 あんたはあんたで月に行くために海賊を始めちまうし…

 ずっと幽霊になってあんたに取り憑いて… そして今――――

 

 

「ボーボボさんの力でこうして顕現できたってわけだよ」

 

 




 

 苦戦しながらも怪老人――浦島太郎を倒した一行。
 ボーボボの力で顕現した浦島太郎の妻――おツルさん。
 彼女は夫に何を言いたいのか… 伝えたいのか…


  □ □ □


 (´・ω・)にゃもし。

 この浦島太郎に関しては独自設定、独自解釈で突っ切ります。
 コメントとツッコミがあると助かります。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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浦島太郎の終わりの続き

 

 浦島太郎を倒し… 拘束。
 彼への裁きはボーボボの力で実体を得た。
 彼の妻――おツルに委ねた。




  

 

 怪老人――浦島太郎。その妻であり現幽霊で300年前の人間――おツル。

 彼女は夫の帰りを待ち続けて、やがて死に… 幽霊になり… それでも待ち続けて

 夫が帰還したときに取り憑いた。そして――――

 

 

 ボーボボの聖鼻毛領域(ボーボボ・ワールド・ナイトメア)でこの世に顕現した。

 おそらく… この力が発動して、しばらくの間は彼女は生前の姿を… 生前の姿…?

 彼女が老衰で亡くなったのなら――老婆の姿のハズ。なぜ、若い姿を取っているの?

 

 

「最後に別れたときがこの格好なんだよ。

 それにヨボヨボのばあさんじゃ… 恥ずかしいだろ…」

 

 

 顔を紅くして横を向く。見た目はがさつそうだけど、やはし彼女も女性。乙女心というやつだ。

 言いたいことはいっぱいあるのだが、何から話せばいいのか…

 そんな感じで頭の後ろを掻いていた彼女だが、やがて腹をくくったのか――――

 

 

「あんた今すぐ海賊をやめちまいな。さもなければ――――」

 

 

「「さもなければ…?」」

 

 

「あんたが泣くまで、あたしはあんたを殴るのをやめない」

 

 

「「脅迫だ!!!」」

 

 

 いくら夫婦とはいえ、そんな脅しで海賊の頭領が――――

 

 

「もう二度と悪さをいたせません」

 

 

 両腕両手首を後ろで縛られた状態だというのに頭を下げて、額を砂に擦り付けていた。

 表情こそ隠れていて見えないがおそらく恐怖で青く染まっているのだろう。

 身体を小動物のようにふるふると震わせている。

 

 

「「屈しているぅぅぅぅぅっ!?」」

 

 

 出会い頭に指令一つでモヒカンたちを動かせていた人物と一緒とは思えない。

 どんだけ奥さんを恐れているの? この人は…

 どちらにしろ、これで海賊たちに頭を悩ますことはなくなったのかな…?

 

 

 維持できなくなったのか、ボーボボが創り出したこの空間に揺らぎが生じ始める。

 それはつまり彼女も姿を保つことができなくなる。

 無論その都度、同じ技をかければ彼女は姿を現すだろうが…

 

 

「悪いけど、これ以上恥の上塗りは御免だね。死人は死人らしく死者の国に行ってくるよ」

 

 

 思った通りの答えが返ってきた。

 彼女の性格を考えれば自ずとこうなることはわかっていたけど。

 

 

 創造された世界に雷が落ちたような亀裂が私たちの周囲を取り囲むように幾重にも生まれる。

 生み出された亀裂のその隙間から光が漏れだして徐々に強くなっていく。

 やがて空間が光で満たされ――――気がつけば元の場所、木々に囲まれて立っていた。

 

 

 縄を解かれて解放された浦島太郎とおツルさんが向かい合って会話をしている。

 正直、気になるが… 割って入るのは無粋というもの。大人しくするのが…

 

 

(どうだ天の助、聴こえるか…?)

 

 

(落ち着け首領パッチ… 今、合わせているところだ)

 

 

 集音器の一種だろうか、ダイヤルをカチカチ回している天の助と首領パッチ。

 

 

   □ 少女成敗中 □

 

 

 何故か岩の下敷きになっている二人を放置して浦島夫婦の方へ視線を向けると… 

 おツルさんの姿が薄くなって向こう側の背景が身体越しに見える。時間がきたようだ。

 本当の意味での最後。本当の意味での別れ。本当に二人は納得したのだろうか…

 

 

 そして、おツルさんの身体が光に包まれて淡い光を放つ。

 静かに涙を流している夫と、対称的に少年のように笑っている妻。

 

 

 そして――――――――

 

 

   □ 10分経過 □

 

 

 未だにおツルさんはその場に留まって存在していた。

 

 

「「消えねぇな、おい!」」

 

 

 どういう理屈か原理か、おツルさんは成仏せずに地上に残っている。感動が台無しだよ。

 

 

「聖鼻毛領域の作用で何かしらの力が働いてこの世に留まらせているのかもしれませんね」

 

  

 スーツ姿の天の助がメガネのつるに手を当ててよくわからない仮説を唱える。

 要するにしばらくの間… 引き続き浦島太郎に取り憑いている。――ってことである。

 

 

「いやー、あたしが思っている以上に未練たらたらのようだね。

 しばらくはこいつがあんたらに悪さをしないように取り憑いて見張っておくよ。

 でもそれだけじゃダメだ。人様に迷惑をかけた分の償いをさせなきゃね?」

 

 

 彼女は迷惑そうにそう話していたが、その顔は満面の笑みで説得力など欠ける。

 しばらく夫婦二人仲良く過ごすことだろう。見た目は祖父と孫だけど。

 そういえばこの二人に子供はいたのだろうか…? 浦島太郎も気になっているようで…

 

 

「ああ、ジョナサンもガストも成人して子供をもうけたよ。その子孫のバーミヤンもね」

 

 

「「キラキラネーム!?」」

 

 

 変な名前ですね。とは言えず無難に個性的な名前ですね。と答える私たち。

 首領パッチは「なにそれ!? かっけぇー!」と、やたらと褒め称えて

 メリーは「何ですか!? そのファミレスみたいな名前は!?」と詰問したが。

 

 

「さぁて、アタシらは今まで散々人様に迷惑かけてきたんだ。

 人様に迷惑をかけた分、善行を積んで罪を償って生きるんだよ!

 ボーボボの旦那に負けたアタシらに拒否権はない! 」

 

 

「「はい! (あね)さん!」」

 

 

 一糸乱れずに腕を後ろで組んで直立不動で答えるモヒカンたち。既に掌握されている。

 浦島太郎はともかく、おツルさんとモヒカンたちは今日初めて目にするハズなのだが…

 彼女がいる限りモヒカンたちが悪さをする心配をしなくて大丈夫だろう。

 

 

 こうして浦島太郎率いる海賊の襲撃事件は幕を下ろした。

 私たちは動かなくなった首領パッチカーをおツルさんの指示の下

 モヒカンたちが人力で引っ張っている。

 

 

 拠点の要塞まで距離があるとはいえ放置していくわけにもいかず

 どうしようかと悩んでいたところをおツルさんがこちらの了承を得ずに

 勝手に縄でくくりつけてモヒカンたちに引っ張らせ始めたのである。

 正直、助かるが彼女の行動力に皆、呆気に取られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

   □ □ □

 

 

 『浦島太郎』という物語がある。彼を題材にした創作物。

 ただしその内容はお世辞にもハッピーエンドとはいえない。

 

 

 浦島太郎が助けた亀に連れられて竜宮城へと行き

 故郷に戻ってきたときには300年もの時間が過ぎていた。

 

 

 開けてはならぬという玉手箱を開けてしまい…

 年を取った老人の姿へと変化してしまった。

 

 

 物語ではここで終わってしまうが… ごく一部だがこの続きが語られているモノがある。

 

 

 

 

 浦島太郎はもう一度、竜宮城へと行くために海賊稼業を始める。

 生きるため  資金を得るため  力をつけるために

 彼の背には死したあとも幽霊になって待ち続けた妻の姿があることも知らずに――――

 そして瀬戸内海の海を荒らしていた海賊たちを纏めあげるほどの力を身につけた。

 

 

 その力を用いて竜宮城に関することを調べたが… 竜宮城の情報が入らない。

 海のことは海をよく知る者に訊けば良い。

 浦島太郎は海の底に棲まうという黒竜に会いに行くことに――――

 

 

『海の底に竜宮城は存在しない。遥か頭上にある月。そこに都がある。その都がそうだ』

 

 

 浦島太郎は絶望した。相手が月にいるのではどうにもならない。

 彼の姿を見て不憫に思ったのか黒竜は…

 

 

『月の民は時折、地上に降りてくる時がある。その時ならば――――』

 

 

 月に行けるかもしれない。彼は一縷(いちる)の望みを託して月の民に関する情報をかき集める。

 人は勿論のこと… 仙人、陰陽師、はたまた妖精、妖怪などの妖異の類いからも

 

 

 そして彼は迷いの竹林に住む月の姫の噂を手に入れる。

 手下の海賊を率いて攻めいるも姫を守る守護者たちにより敗北する。

 

 

 彼を憐れに思った守護者の一人である仙人は彼に幽霊が見えるようになる術を施して

 彼は自分に取り憑いていた妻が見えるようになった。

 

 

 私利私欲で襲ったにもかかわらず寛大な心で許し… 

 あまつさえ妻と再会させてくれた彼らの懐の広さに深い感銘を抱き

 己の行動を恥、過去を猛省し、心を入れ替えて

 幽霊となった妻とともに犯した罪を償うために人々に善行を施し廻った――――という。

 

 

 そして浦島太郎が死したときにその妻である――おツルも一緒に逝ったそうな。

 

 

 めでたし、めでたし…?

 

 

 

 

 ――――という物語が創られたそうな。

 これがハッピーエンドかどうかは人それぞれだが…

 少なくとも一人で寂しく孤独に生きるよりはマシといえよう。

 

 

 

 

   □ □ □

 

 

 車内には最初の村で出会った村長には見えない筋肉ムキムキの村長トモヒロが座している。

 人質にされ盾にされたり、浦島太郎ごと首領パッチカーで轢かれかけたりと――

 散々な目に遭ったが最終的には助けられたこともあり私たちにお礼を述べた。

 

 

「当然だ! この首領パッチ様をどこの誰だと思っていやがる!?

 俺様の活躍を子孫代々伝えろ! いいな!?」

 

 

「主食をところてんに変えていただきたい。全ての家庭とは言わん。

 ごく一部でも構わん! ところてんに陽の光をぉぉぉぉ!」

 

 

 紅く豪華そうな玉座に腰掛けた首領パッチが葉巻を片手にふんぞり反り指差し

 『ところてん促進運動』と書かれたタスキをかけて天の助がところてんを勧めている。

 村長は相も変わらず仏頂面なので心の内はどうなのかわからないが…

 

 

 ちなみにボーボボはメンテナンス中。

 下半身が戦車になっていて青い帽子を被ったゆっくりが彼を整備していた。わけわからん。

 

 

 五つの神宝モドキを手に入れ、海賊等々も激減。各地を旅する必要がなくなった今

 あとは彼らを元の時代に戻すことを考えればいい。てゐはどのようにして戻すつもりなのか… 

 おツルさんが浦島太郎を待っていたように彼らにも待っている人たちがいるはず。

 その人たちのためにも、この人たちを帰す手助けをすべきだろう。

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

 私たちの拠点――無敵要塞ザイガスに向かう途中… 

 トモヒロは迷いの竹林の現状を教えてくれた。

 

 

「最近、貴女に会うために迷いの竹林に足を運ぶ貴族が現れ始めてます。

 おそらく目的は――――貴女への求婚です…」

 

 

 トモヒロが重々しく語り… 首領パッチが「ええぇぇっ!?」と驚きの声を上げて――

 

 

「そんな… 私にはやっくんという心に決めた殿方がいるのに、求婚だなんて困るわ…」

 

 

 口紅を塗ったくった首領パッチが身体をくねらせ… 

 お世辞にも可愛いとはいえない不気味な人形を取り出すと不気味な腹話術を始めた。

 

 

「(裏声)パチ美どういうことだ!? 俺というものがありながら…

 まさか、貴族の求婚を受けるつもりなのか!?」

 

 

「違うのやっくん! 違うのよ! 私を信じてお願い!」

 

 

 仰向けになってお腹の上に人形を乗せると――――

 

 

「(裏声)チキショー! お前が誰かのモノになるぐらいなら…

 俺がっ! お前をっ! 俺のモノにしてやるぅぅぅぅぅ!」

 

 

「そんな!? ダメよ、やっくん! こんな人がいるところで! いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 

「(裏声)お前がっ! お前がっ! お前がいけないんだぁぁぁ!」

 

 

 なおも続く一人芝居に、私は首領パッチが座っていた玉座を両手で頭上に持ち上げると…

 

 

「ウザい!」

 

 

 首領パッチの真上に玉座を力強く振り下ろして、首領パッチを玉座の下敷きにした。

 砕かれた人形の破片が辺りに散らばる。

 玉座からはみ出た腕がジタバタもがいていたが… 力尽きたのかピクリとも動かなくなる。

 

 

 ガサゴサと衣擦れの音に振り向くと――

 女物の衣服に身を包んだボーボボと天の助がいそいそと服を脱ぎ始めていた。

 どうやら、あの二人も似たようなことをやるつもりだったようだ。

 

 

「求婚ということは… 輝夜とメリーのことか…?」

 

 

 ふざけた格好から一転。至極真面目なことをいうボーボボ。

 「求婚」という言葉に頬を赤く染めるメリーだが…

 

 

「いえ、姫様一人です。メリーの嬢ちゃんは金髪と変わった格好のせいか…」

 

 

 ――妖魔の一種と思われています。

 トモヒロの無遠慮な物言いに目から光を失わせて、無表情で両手両膝を床につける。

 彼女が立ち上がることを切に願う。しかし、なぜ貴族たちが…

 

 

「東西南北に渡って旅してたのが原因でしょう。

 姫様も含め、あなたたちは目立ちますから…」

 

 

 トモヒロの言葉に首を傾げる私たち。

 

 

「「 …………………………………………目立つ?」」

 

 

 その私たちを死んだ魚のような目で見るトモヒロ。

 

 

「なぁてゐ、貴族がどいうものなのか詳しくは知らんが…

 海賊を連れて行くのは不味くないのか…?」

 

 

「取っ捕まること間違いないよ。仕方ないけど貴族連中と出会う前に別れた方がいいね。

 あとは手下のイナバを呼んでイナバとゆっくりたちで引っ張らせよう。

 ――っていうことで頼むよ、天の助」

 

 

「俺が行くのかよ…」

 

 

 なんだかんだいいながらも外へ出ると腹這いになって滑るようにして地面を進み…

 あっという間に見えなくなる。

 

 

 海賊を片付けたと思ったら今度は貴族。

 しばらく退屈しなくて済みそうだが… できれば間を置いてほしいものである。

 はてさて求婚問題。どうやって解決したものかな…

 

 




 

 海賊襲撃事件は幕を下ろし…
 新たに貴族たちによる求婚? が始まるのか?
 貴族相手にいつも通りに力づくで解決するわけにはいかない。
 ボーボボたちはどう解決するのか?


   □ □ □


 (´・ω・)にゃもし。

 ぶっちゃけ浦島太郎という昔話は好きじゃないので
 いい機会なので勝手に続きを書いたぜ。
 私はハッピーエンドが大好きなのさ。
 これがハッピーエンドかどうかは人それぞれですが。

 コメントとツッコミあると助かるです。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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輝夜! 貴族たちと遭遇する !? …の巻
貴族たちとその護衛


 

 浦島太郎率いる陸の上なのに海賊襲撃事件は終わった。
 おツルの説得のお陰で浦島太郎は改心…? 
 元海賊になったモヒカンたちに首領パッチカーを牽かせて
 ボーボボたちは迷いの竹林へと向かうが…
 



 

 

 迷いの竹林に帰る道中。その途中――

 念には念を入れて浦島太郎率いる… いや、今はおツルさん率いる元海賊たちかな…?

 彼らとは別れた。別れ間際、私はおツルさんに――――

 

 

 月人を――――私たちを恨んでいないのですか?

 300年以上もあなたたち夫婦を引き離した月の住民を…

 

 

 気がつけば口に出して訊いていた。

 彼女は困った顔して頬を掻きながら…

 

 

 過去は大事だよ。今があるのは過去があるお陰だからね。

 でも、過去に(こだわ)りすぎて今を(ないがし)ろにすべきじゃない。

 それに恨み恨まれるだったら… アタシら海賊もそうだよ。

 アタシらにアンタらをどうこういう資格はないよ。それにアンタらは――――

 

 

「恩人だよ。アタシら夫婦のね。それで十分だろ?」

 

 

 彼女はそういい残して去っていた。

 なんというか… 女傑。そこら辺の男よりも男らしい。男前である。

 彼女が女として生まれたのが悔やまれる。

 

 

 私たちは遠ざかる彼らの姿が見えなくなるまでずっと眺めていた。

 未来と過去の違いこそあるが浦島太郎と同じく神隠しに遭ったボーボボたちとメリーは

 胸中にどんな思いを抱いているのか…

 

 

   □ 少女待機中 □

 

 

 天の助がイナバたちを呼びに行って、どれくらい経ったのか

 いい加減待つのも飽きてきた頃…

 フロントガラスの遥か前方。土煙を上げて爆走する小さな影の大群が映し出される。

 

 

 天の助か…? 近づく影が黙視できる位置までくると、その正体を(あらわ)にした。

 先頭は二輪の荷車を前に押しながら進む二人のイナバ。その後ろにはイナバたちの集団。

 荷台の上には身体をくの字に曲げた天の助が突っ伏していて、その背には大量の矢が…

 

 

「「いったい何があった!? 天の助!」」

 

 

 首領パッチカーの横まで来ると持ち手部分を上に押し上げて、天の助を乱暴に振り落とす。

 地面を数回転がり仰向けになって止まる。その顔は白目を剥いていて気を失っていた。

 

 

 何があったのか確認するため車内を飛び出し天の助の元へ駆け寄る一同。

 ボーボボが肩を二、三度ほど横に揺さぶると意識を取り戻し…

 

 

 戻ったところを「よし!」と、確認したのち左右の頬をひっぱたいて

 さらに「おらぁ!」気合一閃からのボディブロー。鈍い音が響く。

 「うごぉぉ…」お腹を押さえながら身体をプルプルと震わせて(うずくま)る天の助。

 

 

「ふぅ… 意識を取り戻したようだ」

 

 

 そう言いつつ、額の汗を腕で拭う。

 

 

「「明らかに意識が戻っているのを知っててやってましたよね!?」」

 

 

 背中には矢を刺したまま満身創痍でボロボロにながらも

 天の助は竹林で遭ったことを弱々しく話す。

 

 

「妖怪に……間違えられて……撃たれた…」

 

 

 一同「あー」と納得した。パッと見ても妖怪にしか見えない天の助。

 というよりも首領パッチ同様によくわからん。本人はところてんだと言っているが…

 いつもは一緒に行動しているせいか、いきなり弓矢で射られることはないのだが…

 

 

 よくよく考えれば貴族がいれば当然――それを守る護衛が居てもおかしくはない。

 ましてや私たちが拠点にしているのは迷いの竹林と呼ばれているところ。

 ちょっと前までは山賊やら人喰い妖怪がいた場所である。

 そんな危険極まりない物騒なとこに貴族が一人で行くわけがない。

 

 

「でもこれは使えるかもしれないわね」

 

 

 右手の人差し指と親指でL字を作って、アゴに当てながらてゐがにんまりと笑う。

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

 竹林を目指して移動する一団がいる。私たち一行だ。

 家一軒ほどの大きさもある乗り物を人間よりも小さな集団が引っ張って進んでいる。

 引っ張っているのは人ではない。

 

 

 小さな少女にウサギの耳を生やしたような妖怪――イナバたちが肩に縄を引っ掛けて

 沈痛な表情を下に向けながら進み…

 

 

 ボーボボのアフロに住んでいる頭だけの妖怪――ゆっくりたちは身体に縄をくくりつけて

 カエルのように跳ねながら進んでいる。全員が全員とも涙を流しながら…

 

 

 人間よりも小さな身体の彼女たちに牽かせて大丈夫なのかと思ったが… 

 ここに来る少し前、てゐに訊いてみると――

 

 

「忘れたのかい? コイツらは妖怪だよ? 

 んで、妖怪は人間よりも身体能力は高いんだよ」

 

 

 その場にいなかったイナバはともかく…

 ゆっくりたちが海賊たちをモノの数分で全滅させたことを思い出す。

 なるほどと、海賊たちよりも早く進む彼女たちを見てそう思う。

 

 

 そして、迷い竹林の入り口付近にて…

 

 

 その集団の先を私が無表情で静かに前を見て歩き… 

 私の横を歩くのは天の助の遺影を胸に抱いて子供のように泣きじゃくる首領パッチ。

 

 

 そして一団の先頭には黄色いアフロ頭の長身の男ボーボボ。

 その腕の中には背中に矢が突き刺さり、目を眠るように閉じた穏やかな表情の天の助。

 サングラスで表情が読みにくいが… 怒りに満ちていることだけは肌で感じ取れる。

 

 

 ちなみに他の面々は車内にいて隠れながら外の様子を(うかが)っている。

 てゐ曰く姫様の美しさを際立てる布陣…?

 

 

 私たち一行の先には例の貴族たちだろうか、雅な格好に身を包んだ男たちと

 彼らを守る武装した集団が竹林の入り口でたむろしている。

 

 

 私たちが近づくと水が二つに割れるように人垣が二つに別れていき…

 その間にできた道を私たちはゆっくりと歩き… 進む。

 場を静寂が支配し… 土を踏みしめる足音と風の音だけが流れる。

 

 

 自慢じゃないが私は人前に出ることはほとんどない。

 月にいたときも自宅から外へは出ることはなく。

 このように大勢の人を目にすることは… 初めてであり…

 正直、内面では大いに戸惑っている。

 

 

 無論、てゐにもそのことは伝えたのだが… 

 姫様は黙って歩くだけでいい。…と言われ渋々承諾し、現在に至る。

 

 

 場の空気がそうさせないのか、その場にいる誰もが私たちに声をかけることができずにいる。

 やがて貴族の一人が声をかけるために近寄ってくる。しかし、その前に――――

 

 

「うおぉぉぉぉぉっ! 天の助ぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 突如、ボーボボが腹の底から声を出し、周囲の貴族と取り巻きたちをビクッと驚かせる。

 

 

「姫様の大事な仲間の天の助をぉぉぉ! いったい誰がぁぁぁっ!? こんなことをぉぉぉ!?

 姫様の大事な仲間の天の助をぉぉぉ! こんなになるまでボロボロにしやがってぇぇぇ!」

 

 

 ボロボロにしたのはあなた(ボーボボ)でしょうが… と喉元まで出かかっていたが――飲み込む。

 あと、姫様という言葉を連呼しないでほしい。

 目立つのは嫌いではないが… 晒し者となると話は別になる。

 

 

 周囲の視線を感じて左右の人垣に目を向けると――

 弓矢を持った連中が私の視線に気づいたのか慌てて背中の後ろに隠す。

 天の助を射ったのはこの連中で間違いないようだ。

 

 

 目的の人物の親しい者を射った手前

 さすがの貴族でも求婚を… という話などやりづらいのだろう。

 

 

 だが世の中には面の皮が分厚いのがいるようでカエルとブタを足したような貴族が

 足音をドスドスと立てながら――――

 

 

「おい! そこの女、マロと…」

 

 

「お前が犯人かぁぁぁっ!?」

 

 

 言い終える前にボーボボの鼻毛真拳を受けて空に舞い上がり…

 顔面を下にして落下。地面に横たわり口から泡を吹いて動かなくなる。

 あーあ、貴族をやっちゃったよ、この人… でもよくやった。心の中で賛辞を送る。

 

 

「テメー!? よくもカエルブタを!?」

 

 

 味方にもカエルブタと言われてる… 本名なのかアダ名なのか… たぶん悪口。

 カエルブタの取り巻きの護衛だろう、武装した集団の一部がボーボボに襲いかかる。

 ボーボボは天の助の右足を掴むと――――

 

 

「ちぇすとぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 取り巻きの一人に勢いよく上から振り下ろし――頭と頭がぶつかり、痛そうな音を鳴らす。

 さらに天の助の両足を両手で掴んでコマのように回転し始める。

 周囲にいた取り巻きたちを天の助の身体で撥ね飛ばす。

 

 

 埒があかないと判断した数人が刀を抜いて駆け寄る。

 ボーボボは回転したまま掴んでいた手を放し――――回転の勢いを乗せた天の助が滑空。

 武装した取り巻き数人と派手な音を立てて激突。団子状態になって天の助と一緒に沈黙する。

 

 

「「仲間を武器にしたぁぁぁっ!?」」

 

 

 傍観していた貴族たちと武装集団が驚き、声を上げるが――

 私たちにとっては見慣れた光景なのでスルー。

 そしてトドメと言わんばかりに数本の鼻毛を伸ばして構えを取ると…

 

 

「鼻毛真拳奥義ぃぃぃぃぃ…」

 

 

 数本の鼻毛をムチのようにしならせて――――

 

 

『キノコタケノコ戦争勃発!!』

 

 

 蛇のようにうねりながら取り巻きたちに伸びていき、上空に打ち上げる。

 やがて地面に向かって落下。時間差を置いて次々と激突。

 辺りは瀕死の貴族と取り巻きたちで埋め尽くされる。

 

 

 立ち上がる者がいないことを確認したあと…

 倒れているボロボロの天の助を腕で抱き上げて

 涙を流しながら小さく「許さん… 許さんぞ…」と呟いたあとに―――― 

 

 

「毛狩り隊のヤツらめぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 それは魂の慟哭。頭上に向かって大声を発し、空にボーボボの声が響き渡る。

 

 

「「ええええぇぇぇっ!?」」

 

 

 驚く声で辺りは騒然。次に私の方に視線を向ける。その顔は…

 「毛狩り隊って何!? ボロボロにしたのはアイツだよな!?」

 と書いてあるのが見てとれる。すいません。わかりません。

 

 

「なぁ、お前らもそう思うよな!?」

 

 

 ボーボボがいまだ困惑している貴族たちに同意を求める。

 貴族たちは貴族同士で視線を送り合うと… 一斉に首を縦にコクコクと振る。

 なんかよくわからんが同意しておこう。そんな感じである。

 

 

 私たちは呆気に取られた貴族たちを尻目に迷いの竹林に入っていく。

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

 迷いの竹林に入って数刻。貴族たちの姿が見えなくなった頃。

 ボーボボが一言「重い」と言って天の助を下に落とす。

 

 

 背中に刺さってある矢が地面に落ちた際に接触し、押し出す形で体の中へと食い込み

 それが物凄く痛いのか体を弓なりに反らせてブリッジ体勢。

 

 

 その後、体を横に引っくり返して背中の矢を無言で何度も指差す。

 どうやら抜いてほしいようだ。 

 

 

 私は無言で能力を解放。周りの時の流れが遅くなり… 私だけが通常通りに動く。

 その流れの違う時間の中を天の助の背中の矢を一本ずつ引き抜いていき…

 全ての矢を抜いたあとに能力を解除。なんだろう、この能力の無駄遣いした感じは…

 

 

「これで貴族連中が減ってくれると助かるんだけどね」

 

 

 私の隣にはいつの間にかてゐが矢を手に取って(かが)んでいた。

 ちなみに矢は魔を滅する破魔矢の一種らしく、当たり所が悪ければ弱小妖怪は滅びるそうな。

 妖怪じゃないから無事だったのか、強力な妖怪だから平気だったのか… 

 ますます、よくわからん連中である。

 

 

「あの、てゐ様? 村が心配ですのでここらでお(いとま)を頂きたいのですが…」

 

 

「ん? ああ、わかったよ。手下の一人に案内させるよ」

 

 

「すいません。助かります」

 

 

 イナバの一人をお供に竹林の外へと出ていく村長トモヒロ。

 見た目が見た目だけに娘を連れて歩いている父親に見えなくもない。なんか微笑ましい。

 場合によっては誘拐犯、もしくは人さらいにも見えるが…

 

 

 でも、あの小さな妖怪が竹林の外へ出ていって大丈夫なのか…?

 今はあの貴族たちのせいで武装した連中がいるし…

 しかし私の心配を余所にてゐは――――

 

 

「大丈夫だよ。ウサミミさえなければ、幼女だからね。

 そんな姿をしたモノをいきなし攻撃してくるようなヤツはほとんどいないよ。

 それに私らイナバは逃げ足は速いし、隠れるのも得意だからね」

 

 

 それに竹林でウサギ妖怪を見つけたら小さな幸せが手に入る。

 ――という噂を流しているからね? 

 

 

 余談だがここ――迷いの竹林では… この場所に入り迷った人間はイナバたちの案内の下

 外へ送り返している。ただし、善人に限る――だが。

 他の人たちはどうか知らないが、自分たちが住んでいるところで死人が出たら

 気分の良いものではない。ボーボボたち… とくにメリーが強く要望を出したのだ。

 

 

 そしてイナバたちは迷いの竹林から外へ出ることはほとんどない。

 イナバに会いに行くには竹林へ入らなければならず… 入れば当然、迷い… 

 迷ったところをイナバたちが発見して外へ返す。そして感謝されると――

 

 

「お願いした私が言うのもなんですが… 一種のマッチポンプ。自作自演ですよね、それ?」

 

 

「みんなが幸せになれるんだから、いいんじゃないの?」

 

 

 首領パッチカーから降りてきたのかメリーがジト目で見つめ、てゐがさらりと流す。

 少し先には私たちのオレンジ色の巨大な建物、無敵要塞ザイガスが見えてきた。

 

 




 

 強引な貴族と取り巻きたちを蹴倒し、張り倒し、殴り倒し
 ボーボボたちは迷いの竹林へと帰ってきた!


   □ □ □


 (´・ω・)にゃもし。

 ボーボボの身長はアフロを含むと201cmらしい。そして声はDIO様である。
 ちなみに天の助は冥王レイリー。
 ゴメンね。首領パッチは首領パッチしか思い付かない…

 次回は五人の求婚者ということであの方たちを出す予定。
 屈強な体つきの5人組。

 よく月、金に投稿しているので違う曜日に投稿しよかなと思っている。
 コメントとツッコミあると助かるです♠

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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五人の求婚者

 

 竹林入り口の貴族と取り巻きたちを蹴散らし
 遂に帰ってきた、無敵要塞ザイガス。
 しかし、そこには――――

 


 

 

 迷いの竹林のその奥にオレンジ色の巨大な建物がある。

 私たちの一行の一人… 首領パッチを模した要塞。その名も無敵要塞ザイガス。

 天の助がその建物を見て感慨深く頷き、私も同様に頷いてから――――

 

 

「まるで一年間戦ってたみたいね…」

 

 

 私の方に振り向き、口を半開きにしてショックを受けたような顔で見つめる天の助。

 やや間を置いてから前を向き、手を背中の後ろで組んで何事もなかったかのように――

 

 

「まるで一年間戦ってたみたいだ…」

 

 

 …言うんだ。

 

 

「だがこれで終わりではない! むしろ始まったばかりと言えよう!

 さぁ行くぞ! ボーボボ! 首領パッチ! 」

 

 

 やおら要塞に向かって駆け始める三人と、冷めた目で眺める私たち。

 

 

「「俺たちの戦いはこれからだ!!」」

 

 

 

 

   □ 少女移動中 □

 

 

 

 

「「待っていたぞ。月の姫の守護者たちよ…」」 

 

 

 要塞の前には両手両膝を地につけ、力なく(こうべ)を垂れた三人の姿。

 その目前には五人の屈強な男たちが陣取っていた。

 俺たちの戦いはこれからだ !!  ――なんていうから…

 

 

 五人は鍛えられた肉体を持ち、それぞれが…

 アメフトのプロテクターのようなモノで身を固めた巨漢。

 褐色の肌に白と青のコスチュームの男。シマウマのような衣装を纏った男。

 迷彩柄の軍服の男。最後に上半身に赤とピンクの線の模様が描かれている男。

 

 

 身に付けている衣装は違うが… 全員ともトサカのついた覆面等を被っている。

 その五人を見て、私を含めてその場にいた全員が思ったことだろう。

 

 

 なんだアレは…!? ――――と、

 

 

 とりあえず只者ではないことは確かである。

 なにしろ竹林最奥部といっても過言ではない場所がここだ。

 妖怪ですら迷うようなところに普通の人間が気軽にやって来れるわけがない。

 

 

 護衛か、それとも依頼で来たのか… あの姿格好で貴族ということはあるまい。

 どちらにしろここに来たということは私に用があるのだろう。気は進まないが…

 せめての救いが彼らが自分から名乗りを上げるだけの礼節を持ち合わせていることかな?

 

 

「俺は石作皇子(いしつくりのみこ)ビッグボディと呼ばれている」

 

 

 一番身体の大きい彼はそう名乗り、この時点で私の思考は一度停止した。

 後からてゐに聞いた話によると… 褐色肌のはマリポーサ。シマウマはゼブラ。

 身体に赤い模様があるのがフェニックス。迷彩柄の軍服はソルジャー。というらしい。

 

 

 皇子やら大臣やら納言やらと、立派な肩書もあるらしいが…

 見た目と肩書が釣り合っていない。

 

 

「あの、てゐさん…?  

 私の思い描いていた五人の貴公子が1ミリもかすっていないのですが…?」

 

 

「あんたが何を思い描いていたのか知らないけど、現実はこんなもんだよ…」

 

 

 メリーの困惑した表情とてゐの何かを悟ったような達観した顔を妙に覚えていた。

 運命とは… かくも避け難く、ときに儚いものである。

 そんな私たちの心情を察してかソルジャーと呼ばれている男が――――

 

 

「安心しろ。我々みたいな貴族はごく一部だ」

 

 

 いたら困る。

 

 

「長旅で疲れているところを悪いが… 聞くまでもないが輝夜というのはどいつかな?」

 

 

 フェニックスが腕を組みつつ顔をニヤニヤしながら私を直視しながら尋ねてきた。

 コイツらも入り口の貴族同様に求婚しにきたくちのようだ。

 コイツらにモテても嬉しくないのだが… どうしたものかと悩んでいると――――

 

 

「「私が輝夜だ!!」」

 

 

 三バカがやたらと目をキラキラと輝かした私の格好をして出てきた。…おい。

 さしずめの貴族様も言葉を失って押し黙る。その中、ビッグボディが――――

 

 

「輝夜が四人いるだと…?」

 

 

 それはまるでこの世の成らざるモノを見てしまったかのように

 目を大きく見開き… 身を震わせている。

 

 

「「ビッグボディ!?」」

 

 

 他の四人が彼の名を叫び――――

 

 

「おい!? しっかりしろ! いったいどこをどう見たらアレが輝夜に見えるんだ!?」

 

 

 フェニックスが声を掛け肩を揺さぶっても、頭を抱えて蹲るのみ。

 見た目だけじゃなく、脳まで筋肉でできていたのか… ビッグボディ。

 貴族がこんなんでいいのか…? 

 

 

「よっしゃー! 今のうちに本物を逃すぞ! お前たち!」

 

 

 言うや否、運動服に着替えたボーボボが――――

 

 

『日本ラグビー強豪国相手に勝利おめでとうキィィィッックゥッ!!』

 

 

 首領パッチの後頭部にケリを入れて上空へと飛ばす。

 弓なりの軌道を描いて黒いカツラを風になびかせて飛んでいく。

 

 

「そうはさせん!」

 

 

 ビッグボディが首領パッチのあとを追いかけて地上を走っていき――――

 首領パッチの真下。地面を蹴って高く飛び上がり… 両手で頭の横を挟み込むようにキャッチ。

 ボールを抱え込むように身体を丸めて一回転半。

 

 

 次に身体を伸ばして… 両足を上に、肘を伸ばした両手の先には首領パッチ。

 顔面を下にして逆さまに落ちていく――――

 

 

『ビッグボディ・タッチダウン!』

 

 

 ビッグボディの体重を乗せた首領パッチが派手な音を響かせて地面と接触。地面に穴を開ける。

 おい… それが私だったら、どうするつもりだアイツは…

 顔をアザだらけにし、トゲをしならせた首領パッチを両手で掲げると――――

 

 

「輝夜… 捕ったどぉぉぉ!」

 

 

 と私を含め周りの連中に知らしめる。私は野生生物の獲物かなんかか?

 

 

「残念だが、ソイツはニセモノだ。よく見てみろ、ビッグボディ」

 

 

 腕を組んで近くの竹を背にしてビッグボディに声をかけるのは…

 長いカツラを被った女装姿のボーボボ。

 

 

 脱げや、それ。

 

 

 ボーボボの言葉通りに首領パッチをまじまじと見つめると気づいたのか――

 

 

「よく見たら口紅が濃い! コイツはニセモノだ!」

 

 

 判断基準、そこ!?

 怒りに任せて首領パッチを地面に叩きつける。

 

 

 そしてビッグボディに迫る二本の黒い縄状の物体。

 胴体に絡みつき、腕を――両腋を閉じさせ、その上からさらに巻きついていく。

 千切って引き剥がそうにも思いのほか丈夫なのか… 剥がすことができないでいる。

 

 

「なんという窮屈だ!! こんなに動けないのは初めてだ!」

 

 

「ビッグボディ! きさまは俺たちの大事な仲間を傷つけた!

 よって! ――もっとも残酷な方法で死を贈ろう!」

 

 

 鼻毛を伸ばして上昇。ビッグボディを上空へと吊り上げていく――

 

 

「ビッグボディよ! お前はいったい何のためにこの戦いに参加した!?」

 

 

「オ… オレにもよくわからないんだ。

 他の貴族に(そそのか)されて無理矢理、出場させられたんだ」

 

 

「いけないなァ、貴族のことを悪く言っては」

 

 

 遥か頭上高くに吊り上げられ… 上下逆さまに反転。頭を下に――――落ちていく。

 

 

「うわ――っ! 動けない~~~!!」

 

 

 迫りくる地面に首を横に振って鼻毛を振りほどこうとするが…

 必死の抵抗も空しく頭から地面と激突。

 白目を剥いて一言も発しなくなる。

 

 

 やがて、鼻毛が解かれ… 巨木が倒れるようにゆっくりと背中から傾き…

 音を立てて地面を揺るがし、大の字になって仰向けで倒れる。

 

 

 レフェリー姿の天の助が彼を一瞥した後に…

 首を横に振り、頭上で両腕を左右に動かして何度もバツを作ると――――

 迷いの竹林にゴングの鳴る音が響き渡る。

 

 

 黄色いパンツにブーツのレスラー姿のボーボボ。

 身体中が紫色のアザだらけの上にあちこちに擦り傷などがある。

 足を震わせて立つのが精一杯のようで、口の端から血を流して腕で拭っている。

 

 

 いつキズを負ったの…? 

 

 

「いい試合だった… どっちが負けてもおかしくはなかった…」

 

 

 うそだぁぁぁっ!! 明らかに楽勝でしたよね!? むしろ首領パッチのが重傷ですよね!?

 

 

「ボーボボの勝利により、ビッグボディは求婚争奪戦から外れる!」

 

 

 ボーボボの腕を上げて勝利を告げる天の助。

 そのレフェリー姿の服装は… 穴や切り裂かれた跡があり、ボロボロである。

 

 

 戦ってもいないのになぜボロボロ!? それにそういうシステムなの!?

 

 

「だらしないヤツらだぜ。こんなことでケガを負うようじゃな」

 

 

 竹を背にして葉巻を吸っている首領パッチ。

 

 

 あんたはさっき死にかけていたでしょうがっ!?

 

 

「「ビッグボディ!?」」

 

 

 他の貴族たちがビッグボディの元に駆け寄って、上半身を起こす。

 命に別状はないが… 気を失っている。

 

 

「キサマら! よくもビッグボディを!」

 

 

「まぁ待てゼブラ…」

 

 

「なぜだ!? フェニックス!?」

 

 

 喰って掛かりそうなゼブラをフェニックスが肩を掴んで制止する。

 

 

「俺たちは目的が一緒なだけで、別に仲間というわけではないだろう?」

 

 

「だが、ヤられっぱなしというのは… 貴族としてのメンツが立たないだろうが!?」

 

 

「何もここで晴らす必要はない。然るべき場所で然るべき制裁を与えるべきだ」

 

 

 「それに…」と首を動かしてビッグボディに視線を送ると――――

 

 

「ヤツらのおかげでライバルが減ったと思えば… な?」

 

 

「なるほど…」

 

 

 そう言って悪人ヅラで嘲笑うゼブラとフェニックス。

 どうやらコイツらには仲間意識というものがないようだ。

 あと、そういうシステムでいいのコイツら?

 

 

「そういうわけで貴族に対してこのようなことをしでかしたお前たちに

 俺たちは決闘を申し込む。まさか拒否はしないよな?」

 

 

 ボーボボたち三人を指差すフェニックス。

 

 

「悪いが俺は抜けさせてもらう」

 

 

 そう(こた)えるのは迷彩柄の――

 

 

「「ソルジャー!?」」

 

 

「臆したのか…? お前ほどの男が…?」

 

 

「そう受け取って構わない。マリポーサ。

 それに貴族としての責務のが優先だと判断したのもある」

 

 

「ほう、それじゃ… 求婚争奪戦から抜ける。 ――でいいんだな?」

 

 

 しかし、フェニックスの問いには無言で頷いて返すソルジャー。

 話を勝手に進めないでほしいのだが… そう思ったのは私だけじゃないようで…

 

 

「何を考えているのか知らんが――この術で隅々まで調べるまでよ!」

 

 

 青色の忍装束(しのびしょうぞく)に赤い襟巻きを纏った天の助。

 彼は高く跳躍すると右手一本で――逆立ちした状態でソルジャーの頭に乗り…

 

 

『人心露の術!!』

 

 

 ぷるぷると、天の助が身体を震わせる音が流れ… 

 天の助とソルジャーの身体が一瞬白く発光したかと思えば――

 何かと衝突したかのように弾かれて地面に尻餅をつく天の助。

 

 

「見えないでゴザル。この男の頭の中がまるで霧がかかったように見えないでゴザル!」 

 

 

「気はすんだか? 命に別状はないとはいえ… 

 ビッグボディをこのままにしておくわけにはいかないのでな」

 

 

 とビッグボディを肩に担ぎ上げて出ていこうとする。

 てゐは去っていこうとする彼の背中に待ったをかける。

 

 

「決闘についての取り決めにあんたも参加してほしい。それぐらい、構わないよね?」

 

 

 こちらに振り向きじっと見つめてくるソルジャー。

 その瞳は欲望とは無縁の… 何かを見透かしたような瞳をしていた。

 

 

「後日でいいか…? そこにいる三人もな?」

 

 

「フン。まぁ、いいだろう。大して苦労もせずに一人が脱落するのだからな」

 

 

 ゼブラがソルジャーを睨み付けながらも賛成する。

 フェニックスは愉しそうに、マリポーサは無表情で沈黙したまま首を縦に振って…

 五人の求婚者は竹林の外へと向かっていった。

 

 

 彼らの姿が見えなくなりメリーはてゐに…

 

 

「こういう場合、無理難題をふっかけて… 諦めさせる。

 っていう方法もあった気がするんですけど…? 例えば、五つの神宝とか?」

 

 

「私も考えたよ。それじゃあ逆に聞くけど、その場合… 結果はどうなると思う?」

 

 

「普通に取ってきそうですね…」

 

 

「そういうことだよ。あれは人間の形をした人間以上のモノ。

 神代の時代に現れた化け物退治の達人。もしくは神殺しの英雄。

 そういった連中の集まりだよ。久々に見たから驚いたよ… 」

 

 

 ……ビッグボディも?

 一同、首を傾げて疑問を口にする。

 

 

「あっさりやられたから、そう思うでしょうけど。

 普通に戦ったら普通に強いからね、彼は?」

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 ここから混沌化していく予感。もう手遅れかもしれないが…
 五人の貴公子たちの姿は非常に悩んだ。悩んだ結果、こうなった。
 ボーボボのマンガでもキン肉マンネタあったし… いいかな。
 見た目だけでご本人様ではないので、あしからず。
 日本ラグビーがスゴいので技にしました。
 
 コメントとツッコミあると助かりますが…
 『 投稿する際のガイドライン 』
 投稿に悩んだときは一読することをオススメします。本気で。

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永遠亭の建築と話し合い

 
 久々に無敵要塞ザイガスに戻ってみたら…
 五人の求婚者が立ち塞がっていた。
 とっさの気転でビッグボディを倒し、ソルジャーは求婚争奪戦から離脱。
 残る三人はボーボボたちに決闘を叩きつけた!



 

 

 迷いの竹林――その奥にて、木を叩く音。削る音。等々。

 さまざまな騒がしい音を奏でて一つの純和風の建物を建てていく。

 

 

 五人の求婚者たち、そのうちの三人との決闘。

 その方法の取り決めを決定するための場所を建造しているわけである。

 

 

 さすがに無敵要塞ザイガスはマズイ。

 あそこには見せてはいけないモノがありすぎる。

 満場一致で可決されたのは言うまでもない。

 

 

 求婚者たちの屋敷で会見の場を(もう)けることも考えているのだが…

 罠の可能性を視野に入れて… 相手の有利な場所でやる必要はない。

 ――という、てゐの考えのもと工事を着工することと相成(あいな)った。

 

 

 大量のイナバたちとゆっくりたち… さらにボーボボがどこから呼び寄せたのか

 サングラスをかけた三匹のブタが工事に(たずさ)わっている。

 ちなみに三匹のブタには背中に羽が生えていて、頭上には光る輪が浮かんでいた。

 

 

 人海戦術を用いて瞬く間に形になっていく。

 人ではない、妖怪だからこそできる方法だが…

 正直、強度に問題がありそうなのだが――――

 

 

「姫様の「永遠の術」を使えば問題ないと思うよ?」

 

 

 てゐがさも当たり前に事もなげに言う。

 なるほど。それならば下手な建築物より頑丈になる…?

 試したことはないがやってみる価値はあるだろう。

 私の永遠の術は、言わば変化の拒絶なのだから。

 

 

 そして着工から(わず)か半日足らずで完成してしまった。驚きの速さである。

 もっとも末っ子のブタによれば、もっとスゴいモノが造れるらしいが…

 風が吹くと跡形もなく瓦解するらしい。もはや欠陥住宅というレベルではない。

 

 

 ちなみに建物の名前は「永遠亭」

 『永遠の術』が(ほどこ)されているから「永遠亭」

 単純でわかりやすいことこの上ない限りである。

 

 

 ちなみにボーボボたちは(きた)るべき決闘に備えて特訓中とのことだが…

 永遠亭から離れた開け放された空間にて――――

 

 

「ちょ!? おま!? マジか!? おいっ!? っていうか何この状況!?

 まさか… その鉄球を俺にぶつける気じゃねえだろーな!?

 死ぬからな!? 普通に死ぬからな!? それ!!」

 

 

 鉄製の十字架に(はりつけ)にされ… さらに両手両足を鎖で縛られた首領パッチ。

 前方にはトゲつき鉄球をぶら下げた重厚なクレーン車。

 その操縦席に座って二本の操作レバーを握るのはボーボボ。

 

 

「安心しろ首領パッチ! この処け――――

 特訓はお前を鍛えるためのもの! 死ぬことはまずない!」

 

 

 今、処刑って言いかけてた気がするんですけど?

 死にはしないでしょいけど… ボロボロにはなるでしょうねー。

 

 

「死ね! 首領パッチ! 人気投票で俺を差し置いて一位になった怨みじゃぁぁぁ!!」

 

 

「「あからさまな私怨!!」」

 

 

 操作レバーをガチャガチャ動かし――クレーン車の車体部分が半回転。

 クレーンが動き、ワイヤーロープが揺れて… 

 当然、先端部分に取りつけられた鉄球も振り子のように大きく揺れる――――

 

 

『必殺! 隕石落とし!!(メテオストライク)』

 

 

 わけのわからん技の名前を出しつつ赤いボタンを思いっきり叩く。

 トゲつき鉄球の側面に取りつけられた噴射ノズル。

 そのノズルから火が吹き、加速。首領パッチへと勢いよく迫る。

 首領パッチは必死の形相で――――

 

 

「バリア! バリア! バリア! バ――――リアッ!! バリアつってんだろっ!?」

 

 

 最後は憤怒の形相で叫ぶが――――

 無論そんなものでバリアが出るわけもなく… 鉄球が止まることもなく…

 骨が砕くような鈍い音を出して、鉄球に押し潰され瀕死の重傷を負う。

 

 

「どうした首領パッチ! もう、おしまいか!? 

 万太郎の『マッスル・ミレニアム』はこんなもんじゃないぞ!?」

 

 

 万太郎って誰? マッスル・ミレニアムって何ですか?

 その首領パッチに天の助が両手でメガホンを作って声をかける。

 

 

「首領パッチィィィッ! 頭上に輝く赤い星が見えるか!?」

 

 

 一同、空を見上げるがそんな星は見当たらない。

 昼を少し回ったとはいえ空はまだ明るい。そのせいもあるのだろうが…

 

 

「へへっ、見えるぜ… あれは希望の星ってやつか…?」

 

 

 どうやら首領パッチには見えるようだ。

 

 

「それは「死兆星」といってだな、これから死んでいく人にだけ見える星なんだ!」

 

 

 よかった、見えていない。ホッと胸を撫で下ろす私たち。

 

 

「ぬぅわぁんだとぉぉぉ!?」

 

 

 ふんがぁぁぁっ… 

 と獣のような雄叫びを上げつつ、歯を喰いしばって強引に鎖を引き千切る。

 

 

「ふざけんな! こんなバカバカしい時代錯誤の特訓なんてやってられっかよ!

 俺様は二度とやんねぇからなっ!?

 それに俺様はやるって… 一言もいってなかったよな!?

 っていうか、今度はテメーがやられろや――――!!」

 

 

 ネギを片手にボーボボが乗るクレーン車へと地上すれすれを滑空。

 

 

「ところがぎっちょんちょん!」

 

 

 首領パッチの頭上から鉄球が降ってきて彼を押し潰す。

 ボーボボがワイヤーロープを緩めて頭上から落としたのだ。

 手足をジタバタ動かして鉄球から這い出ようとするが…

 鉄球はうんともすんとも動かず――――やがて力尽きて白くなる。

 

 

「よし! 次は天の助、お前の番だ!!」

 

 

「ええええぇぇぇぇっ!?」

 

 

 クレーン車を動かして天の助へと暴走を開始する。

 圧倒的な重量の鉄の塊が天の助へと襲い掛かる。

 たまらず背を向けて逃走を試みる。

 

 

「皆さん、お茶が入りましたよー」

 

 

 そんな光景をよそ目に御盆に載せた茶を配るメリー。

 この娘も随分と逞しくなったというべきか、図太くなったというべきか…

 

 

 五つの神宝…? ――を手に入れたというのに自分たちの未来への帰還よりも

 私の求婚争奪戦という問題を優先していいのか…?

 

 

「突然、何を言うのかと思えば… そんなことか」

 

 

 身体を薄っぺらい紙のようにヒラヒラした天の助が会話に割り込んできた。

 どうやらあのクレーン車に轢かれたようだ。

 この程度で済んでしまうのがコイツらのスゴいところである。

 

 

「貴女が私たちを助けたように… 私たちが貴女を助ける。

 それだけの話ですよ。それが仲間というものですよ?」

 

 

 いつの間にかに仲間にされている。

 仲間の一人として数えられているとは… 

 そういや――月の都にいた頃は、仲間と呼べるのがいたかな…?

 これといって思い出になるような記憶が瞬時に思い浮かばない。

 

 

「そういうことだ輝夜。

 あの日あの時あの場所でお前たちと出会って今もここに存在している。

 それは縁であり運命ともいえよう」

 

 

 クレーン車の操縦席から飛び降り――着地した際に足首があらぬ方向に曲がり

 ごろごろと地面を転げ回ってから… 何事もなかったかのように立ち上がる。 

 うん。いろいろと台無し。

 

 

「俺たちがお前たちと出会ったのもそれのせいであり、それのお陰でもある。

 そんな凄い出会いをしたのにつまらない別れをするのはもったいないだろう?」

 

 

 ボーボボがよくわからんことを述べている。

 …が、なんとなく彼らが私に言いたいこと、伝えたいことを…

 なんとなくだが… なんとなくだが…

 

 

「おおっと、勘違いするなよ? 俺様はそいつらとは違ってお前たちのことなんぞ…

 仲間とは思っちゃいねえぜ? むしろライバルと思っている!」

 

 

 全身を包帯でくるまれた首領パッチが松葉杖を鳴らしながら近寄ってきた。

 ただし、その身体の色素が薄い。というよりも幽霊のように透けている。

 さらに体の後ろに幽霊の脚のような透明な尻尾が伸びていて… 

 辿っていくと――鉄球の下敷きになっている首領パッチの口から伸びていた。

 

 

「「魂!? 死にかけているの!?」」

 

 

「俺様はあの貴族たちが気に入らねえから戦うんであってだな…

 お前のために戦うなんて、これっぽちも思っちゃいねえからな!」

 

 

 熱く語っているのと反比例して… だんだんと姿が消えていく。

 さすがに魂がなければ復活も危うい。

 慌てて鉄球を退かして口の中に魂を突っ込ませて… 事なきを得る。

 

 

 鉄球を退かしている最中、私はてゐに決闘の試合形式はどうするのか訊いてみた。

 

 

「三対三。ボーボボたちの得意そうな形式と思わないかい?」

 

 

 彼女はにんまりとイタズラを仕掛ける悪童のように黒く笑う。

 

 

 

 

   □ 数日後 □

 

 

 

 

 完成した純和風の外観を持つ永遠亭。その内部、数ある部屋のうちの一つ。

 大理石でできた長方形のテーブルが部屋の中心に置かれ…

 その周りを同じく大理石でできたイスが置かれている。

 それは大陸の遥か西にある大神殿を彷彿させる造りである。

 

 

「「外観と内部が合っていない!」」

 

 

 ついでに建物の外の造りと内部の面積も合っていない。むしろ異常。

 ちなみにこの部屋を作ったのは例の三兄弟のブタ。その末っ子。

 会見が開かれる前に確かめれば良かったのだが… (かたく)なに拒否したのである。ブタが。

 

 

「時間もないし… これでいくしかないね。

 もしかしたら連中がこれで動揺するかもしれないしね…?」

 

 

 あとは連中が来るのを待つだけと、イスの上にちょこんと座るてゐ。その隣に私が腰掛ける。

 私とてゐ以外の面々は周囲の壁を背にしてイナバとゆっくりたちに埋もれるように立っている。

 ボーボボたち三人は『我々の血税を返せ!』と書かれたプラカードを掲げている。

 

 

「ふっふっふ… 圧倒的じゃないか我が軍は…」

 

 

 周囲を見渡したてゐが洩らす。

 イナバとゆっくりの中には疲れたのか飽きたのか、すぴすぴ寝息を立てて寝ているのもいるが…

 

 

 一人のイナバに連れられて五人の貴族たちが現れる。

 部屋に入るなりビッグボディがビクッと驚き、目を見開き首をキョロキョロと動かしていたが…

 ゼブラは眉をひそむだけで、フェニックスは「ほう…」と感嘆の声を漏らし

 マリポーサとソルジャーに至っては無表情、無反応。感心を通り越してもはや異常である。

 

 

 私たちの対面にはあの三人。上座にはソルジャー、その後ろにはビッグボディが鎮座している。

 決闘方法に関する話し合いをてゐが主体となって静かに進んでいく。

 

 

 そう、不気味なほどに静かなのだ。ボーボボたちがいるにも関わらず――

 気になって彼らがいる方向を顔を向けると… 

 クマのぬいぐるみを抱き締めて布団を敷いて寝ていた。

 

 

 エネルギー弾を生成して三人の顔にぶつけようかと思ったが… なんとか思い踏み留まる。

 三人は寝ていた方がはかどる。いざというときには爆破して起こせばいい。

 

 

 てゐお得意の話術のおかげか、当初の予定通りに三対三の形式に――

 さらに、大勢の観客がいる目の前でやることとなった。

 

 

「このような催しを一部の人間にだけ見せるのは… もったいないと思わないかい?」

 

 

 てゐは身振り手振りを交えつつ大げさに説明したが…

 おそらく、貴族たちが難癖をつけて試合を無効にすることを防ぐためだろう。

 そのための観客。そのためにどちらでもない中立の人間を集めるために…

 さらに観戦料を取ってしまおうとも… おそらく、こっちが本音。

 

 

 見せ物という話がでたときは渋っていたゼブラとフェニックスだったが

 お金の話が出てくるとゼブラがさっきまでとは態度を変えて積極的に賛同するようになり

 フェニックスはしばらく腕を組んで思案する素振りを見せると――

 

 

「ならば場所はこちらで指定させてもらおうか… 

 ここ――迷いの竹林じゃ普通のヤツでは来れないだろうしな…?」

 

 

「ほう… なら、どこで俺たちとやりあうつもりだ?」

 

 

 可愛らしいフリフリのついたピンクのパジャマに

 大きなクマさんのぬいぐるみを抱えたボーボボたちがやって来た。

 コイツら本気で寝てやがった。

 

 

『平安京の奥。そこにある広場。そこが決闘の場所だ!!』

 

 

「「な、なんだってぇぇぇ!?」」

 

 

 ボーボボたち三人とぬいぐるみのクマが驚きの声を上げる。クマ、喋れたんかい…

 

 

「こうしちゃいられない、これは女房を質に入れてでも観に行かなければ!」

 

 

 部屋を飛び出していくクマ。女房いたんだ… 

 

 

「そうだ、人間だけじゃなく妖怪たちも呼び寄せてみるのはどうだ?

 無論、人に害を及ぼすのはお帰り願うがな… 

 そう――人に危害を加えない、そこのウサギと生首なら問題ないだろう」

 

 

 フェニックスが大げさに両手を広げて提案を出す。いやいや、生首はマズイだろうに…

 ゼブラは金が増えると喜んでいるがフェニックスはどうだか… 彼の意図が読めない。

 マリポーサとソルジャーは相変わらずの無表情。

 ビッグボディは立ったまま寝ている… 何しに来たんだコイツは…?

 

 

「予定が違うわね…」

 

 

「…予定?」

 

 

 私の漏らした呟きにフェニックスが聞き返し、ボーボボが答える。

 

 

「ああ、お前みたいな悪党は大抵、最後に出てきて

 ペラペラと企みを全て喋ったあとに倒されるハズなんだが…」

 

 

「今、この場で殴っていいか、お前ら?」

 

 

 フェニックスがこみかみに青筋を立ててボーボボを睨んだ。

 堪え性のないヤツである。

 

 

「力が弱いとはいえ… 妖怪に変わりはない。

 正直、都には入れさせたくはないのだがな…」

 

 

 今まで黙っていたソルジャーが口を挟んでくる。すかさずゼブラが――

 

 

「噂の結界師、陰陽師、仙人に頼み込んで結界を張らせばいい。

 連中の中には物好きなのがいるからな… それに金さえ払えばやるのもいるだろう」

 

 

 それ以降ソルジャーは沈黙し、話し合いが続けられて… 試合の日時が決まった。

 

 

 

 

『三日後に!! 平安京で!!』

 

 

 

 

 ――――と。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。
 
 一日に二話投稿に挑戦その1です。15話は17:00辺りかな?
 この作品はギャグとストーリーを交ぜています。

 コメントとツッコミがあると助かります。

 ※カッコと空白部分を修正しました。


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コロセウムと観戦者たち

 
 永遠亭で行われた秘密の談話により
 決闘は平安京で行われることとなった。
 そして…



 

 

 道の両脇には区画整理された建物が建ち並ぶ大通り。私たちが向かうその先には平安京。

 牛車に乗りつつ私たちは平安京へと向かう。向かうが… 目立つ。なにしろ――――

 

 

 牛ならぬ空を飛ぶ鯉に牽かせた牛車。牛車の手綱を握っているのはボーボボたち三人。

 その後ろにはイナバとゆっくり軍団。これで目立つな、という方が無理。

 少々大きめに作られた牛車の中。外を眺めていたメリーがてゐに訊ねる。

 

 

「物乞いですかね… 道端にいるのは…」

 

 

 視線の先にはお世辞にも身なりが良いとはいえない者たちがゴザを敷いて座っている。

 それが一人、二人ではなく… 道の先に裏路地にあちらこちらにいるのが見てとれる。

 

 

「飢饉のせいで増えているからね。食糧求めてやって来た連中だろうね」

 

 

 そういった連中を狙って人喰い妖怪が拐っていき

 貴族たちも利用価値のないモノは見て見ぬふりしているという。

 正義感の強いのが退治して回っているが焼き石に水状態で進まないとのこと。

 そんな状況の平安京に私たちみたいのが来たら… 

 

 

「そこの怪しいの、そこで止まれ!」

 

 

 青銅の鎧を着た二人がヤリを交差させ――バツを作って行く手を遮る。

 ここは都。当然、こういうのがいて… こういう風に止められるわね。

 長身のアフロにトゲとぷるぷるが並んで歩いているのだから…

 

 

「首領パッチ、天の助。呼ばれているぞ」

 

 

「「ええええっ!?」」

 

 

「そこの黄色い頭のお前もだ」

 

 

 自分のことも含まれているとは思わなかったのか驚くボーボボ。

 彼は両手両膝を地面につけると――――

 

 

「頼む! コイツらはどうなってもいいから、俺だけは見逃してくれ!」

 

 

 最低なセリフを吐いた。

 

 

「そいつらは入れても大丈夫だ。通せ」

 

 

 兵士の後ろからやって来たのは迷彩柄の服装の―――― 

 

 

「ソ、ソルジャー隊長!?」

 

 

「久しいな… といったところで三日しか経っていないがな…」

 

 

 数名の兵士を引き連れたソルジャーがそこにいた。

 

 

「お前たちも聞いているだろう。

 今日、行われる決闘――その相手をな… そこにいる三人がそうだ」

 

 

「しかし隊長… 相手はどう見ても人間には見えません」

 

 

「承知の上だ。それにいざというときはこの俺が動く。

 それともお前たちは俺の実力を疑う気か?」

 

 

 そういわれては無理に反論するわけにもいかず――私たちを通す兵士たち。

 このやり取りだけで如何にソルジャーが兵士たちから信頼を得ているのか…

 イヤというほどに思い知らされる。

 

 

 私たち一行はソルジャーの案内の下、大通りを進んでいく。

 その間の会話が一切無かった。

 先を行くソルジャーの背中が無言の圧力がそうさせるのだ。

 それはボーボボたちをも黙らせるほどである。

 

 

 否が応にも実力者ということを理解する。

 五人の中でも一番強いのではなかろうか…? なぜ求婚争奪戦から降りたのか…?

 

 

「考えてわからないものは考えるのをやめた方がいいよ」

 

 

「てゐさんの言う通りですね。今は勝つことだけを考えましょう」

 

 

 難しく考えて悩むのも時間の無駄かもしれないが

 他にやることもないのだが…

 

 

「そうね… 今は――今を楽しみましょうか…?」

 

 

 私たちはお気楽に事を構える。ボーボボたちが負ける想像が思いつかないからだ。

 真面目(?)に戦闘しているのだろうが… 

 ふざけているにしか見えない戦いは――彼らには悪いがついつい笑みをこぼしてしまう。

 戦闘で周囲を笑わせるのは彼らぐらいだろう。

 

 

 それゆえか、そのせいなのか… 悩むのがバカらしく思えてくる。

 それはきっと彼らにしかできないスゴいこと。

 

 

 そこに立ち入ったとき、空気が変わった。大きな建物が目の先にそびえ立つ。

 イナバたちが寄せ合い抱き合い身を震わせて怯え始めたのだ。

 門扉の前にはソルジャーを除く件の四人。

 彼ら――フェニックスが何かをしたのだろうか…?

 

 

「最初に言っておくが… 我々は何もしていないぞ?

 強いて言えば――この地であった出来事がそうさせるのかもしれないな」

 

 

 この地…? この場所が何か深い意味があるのか…

 

 

「太古の昔。月の民が地上にいて月へと移住するときだ。

 妖怪どもが徒党を組んで都へ攻めてきたそうだ。

 結果――妖怪どもは敗れ、月の民は月へと旅立った…」

 

 

 「それは一方的な虐殺だったそうだ…」フェニックスが面白おかしそうに笑う。

 

 

「そして、この場所この付近には妖怪どもは近寄ることを忌避する。

 それはなぜか――――? それは…」

 

 

 ここが月の民が過去に妖怪どもと争った場所がここだからだよ!

 

 

「「な、なんだってぇぇぇっ!?」」

 

 

 そういえば聞いたことがある。私が生まれる以前の話。

 ここがこの場所が月の民が地上に住んでいたとこだというのか…

 めっさ、初耳なんですけど…

 

 

「それだけではないぞ? 月の民、そのごく一部だが少々変わった趣味を持つ者がいた」

 

 

 妖怪を生きたまま捕まえ、妖怪同士を命がけで争わせる狂った娯楽。

 そのフェニックスの言葉に誰もが絶句する。

 

 

「我々にはできない。月の民だからこそできる芸当だ。

 まことになんと素晴らしい力を持っている! …そうは思わないか?」

 

 

 最低な発想だ。だが、彼の言っていることは本当なのか?

 

 

「疑うのも無理はない。今から、その証拠を見せよう」

 

 

 言い終えると同時に地面が揺れ始める。周囲の地面が盛り上がり隆起。

 私たちを取り囲むように壁ができあがっていく… 

 多層に重なったアーチ構造の建物。それはまるで――

 

 

「観客席…? これはコロセウム? 太古の日本にそんなものがあったっていうの?」

 

 

 メリーが周囲の建造物を見て述べる。

 

 

「博識だな、そこのお嬢さんは。そう、これはコロセウムというものだ。

 大陸の遥か西にもあるらしいが――そんなものはここのを真似たモノにしか過ぎん!

 このコロセウムこそがオリジナル! 唯一無二のモノなのだよ!!」

 

 

 フェニックスが拳を握り締めて力説する。

 コロセウムの完成も近いのだろう。

 私たちとフェニックスたちとの間に四角いリングが地面の下から出現してきた。

 

 

 

 

   □ 決闘準備中 □

 

 

 

 

 観客席が人で埋まっていく。中には明らかに人でないモノもいる。

 リングの外に作られた甘味処の外に置かれているような椅子に私たちは腰かけている。

 私たちだけじゃなくソルジャー、さらにビッグボディもいたりする。なんでいるのよ…

 

 

「姫様。観客席に鬼がいるよ…」

 

 

 てゐが観客席を視線を向ける、そこには角を生やした一団がいた。

 中心にいるのは背丈、体格が違えど… どれも女性。

 見覚えのある青鬼もいる…

 

 

「それだけじゃない九尾の狐なんてのもいる」

 

 

「え!? 九尾って物凄く有名じゃないですか!? どこにいるんですか!?」

 

 

 メリーが食いつき観客席を見て回すが九本の尻尾を生やしたモノは見つからない。

 

 

「今は尻尾を隠しているからね。見えないよ。でも問題はそこじゃない…

 九尾すらも式神にしているヤツがいる… そっちのが問題だわね。

 それにイカサマ、卑怯なことが嫌いな鬼を前にして―― 」

 

 

 『必殺、姫様の超加速でイカサマを使う』

 

 

 人間だけならば… 誤魔化しができてもこれだけの妖怪相手には難しい。

 フェニックスはこれを見越して認めたのか…

 

 

「どうでもいいが俺を前にしてよくイカサマどうのこうの言えるものだな…」

 

 

 ソルジャーが呆れながらこちらに顔を向ける。

 

 

「九尾って… 中国――大陸で猛威を奮った大妖怪ですよね?

 そんなのがいて大丈夫なんでしょうか…?」

 

 

「その九尾と、あの九尾は別人だよ。むしろ、使役しているヤツのが危険だわね。

 何を考えているのか、わからないけど… 最強の妖獣を従えるヤツが弱いわけがない」

 

 

 

 

『――こちら放送席の毎度お馴染み清く正しい射命丸(しゃめいまる)です』

 

 

 コロセウムに少女の声が響き渡る。能力でも使ったのか、声の主は鴉天狗の少女。

 リングの下。その側で机を並べて陣取っている。

 

 

『さー皆さんもご存知でしょうけど――この決闘は三人の超人たちによる求婚。

 その試練の一つとして行われるものであり――――三対三による変則デスマッチです。

 貴族たちは守護者たちを倒せなければ求婚することが認められません』

 

 

 何そのルール…

 

 

 四角いリングの中にはボーボボたち三人とフェニックス率いる貴族たちが相対している。

 リングの内側には首領パッチが、貴族側はゼブラ。

 他の面々はコーナーポストに張られているロープ。その外側にて出番を待って立っている。

 

 

 試合開始のゴングが鳴り響き――――

 

 

『さぁ… 試合開始のゴングが鳴りました。実況は不承この射命丸が――』

 

 

『解説は先代の帝、キン肉スグルがお送りします』

 

 

 鴉天狗の少女の横にはいつの間にか赤いパンツ姿にマントを羽織った男が座っていた。

 そして当然のようにマスクを被っている。

 

 

 ナニあれ…?

 

 

「先代の帝だ」

 

 

 ソルジャーが腕を組んで答える。それはわかるよ。そう名乗ったし…

 イヤ、そういうのが聞きたいわけじゃなくて――

 

 

『おーっと!? 開始早々、銃撃戦です!!』

 

 

「「なんで!?」」

 

  

 首領パッチがドラム缶を盾にして二丁の小銃を両手に

 ゼブラは木陰を背にしてライフル銃で応戦する。

 なんでそんなものがあるのよ…

 

 

『これはいかん。皆のもの流れ弾に気をつけるんじゃ』

 

 

 いやいや、それよりも試合止めなさいよ、先代の帝。

 

 

『ぐわぁぁぁっ!?』

 

 

 言った傍から流れ弾が下腹部を貫通。よろめき後ろ向きに倒れる先代の帝。

 おいっ! 帝が撃たれたぞ!? 止めなくていいの!?

 

 

『なんのぉぉぉ、火事場のクソ力ぁぁぁ…』

 

 

 身体から赤いオーラを纏わせて立ち上がる先代。

 先代のその姿に感動したのか観客席から割れんばかりの拍手が起こった。なにこれ…

 

 

「「銃撃戦では埒が明かない!」」

 

 

 銃を捨てて接近戦を試みる二人。

 

 

「相手が馬ならばこっちも同じ馬で対抗じゃ~~~!!」

 

 

『おーっと、首領パッチ選手! 

 どこから取り出したのか竹馬でゼブラ選手に突撃を仕掛けました!』

 

 

『よくしなる竹は昔から武器として使われておる。

 当たり所が悪ければ… 致命傷になりうるぞ』

 

 

 なにその実況と解説… 

 竹を交互に動かして走る首領パッチ。ゼブラの近くまで接近すると竹を掴んだまま高く跳躍。

 ゼブラの頭上で滞空。竹馬の足――その裏から金属でできたヤりのような刃物が出現。

 

 

「死ねや! おらぁぁぁっ!」

 

 

「ちぃぃぃっ!」

 

 

 ゼブラは頭上からの攻撃に対して前方へ身を低くして駆け出し――避ける。

 首領パッチはゼブラの後方に両足から着地。土煙が舞う。

 

 

「命拾いをしたな…」

 

 

 首領パッチがゼブラの方に振り向き…

 

 

「あの竹馬の刃物には0.01ミリグラムでクジラを動けなくする上に

 半日ほど激痛に見舞われ苦しんだのちに死ぬ猛毒が塗られているんだからな…」

 

 

 首領パッチの言葉に恐れおののき恐怖しながらも彼を指差しながら――

 

 

「もしかして、お前の頭に刺さっているそれ(竹馬)のことか…?」

 

 

 首領パッチの頭には二本の竹馬が刺さっていた。

 

 

 「はい…?」とマヌケな声を残して時の流れが遅くなったかのように

 静かにゆっくりと身体を横に傾きながら倒れていく首領パッチ。

 両目の端から涙がこぼれて… 空中に撒き散らした水滴が光の反射を受けて真珠色に輝く。

 

 

 

 

 …ごめんねやっくん。パチ美… 勝てなかったよ… 

 ガンバったけど… 勝てなかったよ… パチ美は… 悔しいよ…

 

 

 

 

 崩れ落ちて… リングの床を叩きつけるように身体を数回軽く跳ねさせて…

 床を跳ねる音がコロセウム内に静かに木霊(こだま)する。

 首領パッチはリングの中央で倒れて、静寂が支配する。 

 束の間の沈黙ののちに射命丸の声がコロセウムの沈黙を破る。

 

 

『首領パッチ選手バカです! 自分の攻撃で死にかけています!

 なんというか、バカです! バカ以外の何者でもありません!

 ――というか何しに来たんですか!? あのバカは!?』

 

 

 射命丸がやたらたバカバカと連呼する。

 普通――仲間を無能者呼びされたら、頭にくるのだろうが…

 ごめん。否定できない。

 

 

 早速一人が離脱した。

 決闘はまだ始まったばかりだというのに…

 私たちのチームはピンチに陥った。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 一日に二話投稿その2。
 さすがに憑かれたぜよ。

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輝夜! 激闘を目の当たりにする !? …の巻
元ブロックA隊長の実力とゼブラの本気


 
 決闘当日。
 フェニックスから聞かされた太古の月の民の忌まわしき遊び。
 そして平安京に突如現れたコロセウム。 
 始まる三対三の決闘。
 しかし首領パッチがゼブラと戦闘中、自分の攻撃で猛毒に侵されてしまった。




 

 

 オレンジ色の身体の色素が薄く変色。

 白目を剥きつつ紫色の泡を口から吹かせながら痙攣を絶えず引き起こしている。

 さすが0.01ミリグラムでクジラを毒殺するだけの威力はある。

 リングの中央で倒れているのは自分の攻撃で自滅した私たちの仲間の一人…

 

 

「「首領パッチィィィィィッ!?」」

 

 

 ボーボボが駆けつけ肩を二、三回揺さぶると首領パッチが反応を示した。

 

 

「あばばばばば…」

 

 

 白目を剥きつつ、だらしなく開いた口から舌を蛇のように伸ばし…

 薬指と中指を曲げた両手を前に突き出して首を左右に(せわ)しなく動かす。

 その様子を見ていたボーボボは悔しそうに表情を歪ませると――

 

 

「くぅっ… ダメだ。重症だ…」

 

 

 そうなの!? というか今のなんなの!?

 

 

「ボーボボ! 解毒剤を持ってきたぞ!」

 

 

 天の助が『ぬ』と書かれた風呂敷を背負ってやって来た。

 それを床に広げて見せると大量の液体の入った瓶が――――

 

 

「20本あるんだが… どれがいい?」

 

 

 多っ!? 解毒剤、多っ!

 あと何処から調達してきたの!?

 

 

「ん? ああ、そこのゆっくりだが?」

 

 

 リングの外。放送席の隣にある天幕の一つ。

 でかでかと『死』という文字が書かれている。不吉だ。

 天の助が指差した先には銀髪の髪を三つ編みにしたのとウサミミのついたゆっくりたち。

 

 

「ゆっくりして逝ってね!!!」

 

 

 字が違うような気がするが彼女ならば不可能ではないと納得。

 私の元教育係を元にしたゆっくりがいることに疑問を感じたが――

 そこはボーボボだから…

 

 

「会話してる暇があんなら、とっとと寄越せや!

 こっちは死にかけてんだぞ!? あ"あ"あ"ん!?」

 

 

 突然、意識を回復した首領パッチが引ったくるように天の助から瓶を強奪。

 「ちぇすとぉぉぉ!」と手刀で全ての瓶の上部を切り落とす。

 猛毒に侵されて死にかけているのに… まだまだ元気のようだ。

 

 

「あ… ちょ!?」

 

 

 天の助が止める暇もなく次々と飲み干していく…

 全てを飲み干してからゲップを出すと――

 

 

「元気百倍! 首領パッチィィィッ!」

 

 

 両腕を天に突き上げて立ち上がる。

 

 

「おい、首領パッチ… 動いて平気なのか?」

 

 

 天の助が心配して声をかけるも――

 「ちっちっち…」と人差し指を立てた右手を左右に振りながら…

 

 

「おいおい、俺様を誰だと思っている? 天下無敵の首領パッチ様だぞ?

 毒ごときで死ぬわけね――――だろ~~~がっ!」

 

 

 天の助の胸ぐらを掴み… 顔面に向かって唾を吐きながら怒鳴り散らす。

 一応、命の恩人なんだが… その天の助だが――

 

 

「いや、その解毒剤。効き目がスゴい分… 副作用もスゴくてな――」

 

 

 

 

 一、全身が痒くなる。

 二、頭痛・腹痛に見舞われる。

 三、痛覚が鋭くなり、ほんの少しの刺激でも反応して激痛が走る。

 四、最低一日から最長で三日間その状態が続く。

 

 

 

 

 と説明して、結果…

 

 

『燃え尽きたぜ… 真っ白にな…』

 

 

 トゲをしおらせ身体を真っ白に染め上げた首領パッチが

 体を少し前に傾けてイスに腰掛けている。

 

 

「「首領パッチィィィィィッ!!」」

 

 

 ボーボボと天の助が彼の名を叫びながら滝のような涙を流す。

 なんでそんな副作用のある解毒剤を持ってきたのか…

 解毒剤を作ったと思われるゆっくりに視線を向けると――黒い笑みを浮かんでいた。

 

 

 わざとか!

 

 

「ゼブラよ… よくも首領パッチを殺ってくれたな!」

 

 

 …と、ゼブラを指差すボーボボ。

 

 

 なんでそうなる!

 

 

「いや、待て! 俺は無関係だぞ!

 どう見ても、その薬品が原因だろうが!

 それ解毒剤じゃなくて… 毒薬の間違いじゃないのか!?」

 

 

 天幕にいるゆっくりとリングにある空のビンを交互に指差すゼブラ。

 

 

「人を導く立場にある貴族ともあろうものが言い訳とはな… 見苦しいな…」

 

 

 事実なのですが… 

 無論そんなもんで首を縦に振るボーボボではない。

 当然、会話が成り立たない。

 

 

「かける言葉は語り尽くした! キサマのような下郎に慈悲は無用!

 お前の手で無惨に殺された首領パッチの仇… 討たせてもらうぜ!」

 

 

 ボーボボの中では既に死んでいるのね… 首領パッチ。

 両手を半開きに相手に対して体を斜めに傾けた構えで鼻毛を伸ばすボーボボと…

 両腕を顔の高さに拳の甲を向けた構えを見せるゼブラ。

 

 

 対面する二人。両者のオーラが目に見える幻となって動物の姿を借りて顕現(けんげん)する。

 ゼブラには鼻息を荒く鳴らした傷だらけのシマウマが背後に立ち…

 ボーボボにはクルミをガジガジとかじっているシマリスが肩の上に乗っかっている。

 

 

「「迫力が微塵もねぇぇぇぇぇっ!」」

 

 

 クルミをかじっていたシマリスはゼブラと背後のシマウマを見ると…

 

 

『ひぃぃぃっ! シマリスには無理なのです!  退散するのです!』

 

 

 敵に背を向けて逃走を始める。

 

 

「ああっ!? 待って僕のオーラ!」

 

 

 ボーボボの制止を無視して土煙を上げながらコロセウムの外へと逃げ出した。

 しばし流れる沈黙。

 ボーボボはゆっくりと振り返りゼブラを真っ正面に見据えると――

 

 

「かける言葉は語り尽くした! もはや慈悲は無いと思え!」

 

 

 なかったことにした!?

 

 

 再度構えを見せて鼻毛を伸ばすボーボボに… 天の助が肩を掴んで待ったをかける。

 

 

「大将は最後に出るものだ。ここは俺に任せてくれないか…?

 それに俺も多少の出番が欲しいし…

 ここで活躍すれば――ところてんの地位向上に繋がる」

 

 

 少しは本音を包み隠しなさい。

 それにところてんの地位向上は無理だと思うよ…

 

 

「そういうことで… お前の相手は俺になった」

 

 

 仁王立ちで両腕を組んだ天の助がゼブラと対峙する。

 

 

『ボーボボ選手が出るかと思われましたが――天の助選手が出てきましたね。スグルさん』

 

 

『天の助選手の身体は半固形のゼリー状で変幻自在。さらに再生能力が凄まじいらしい…

 ゼブラ選手はどうするつもりなのか… 気になるところだわいな 』

 

 

 変幻自在なゼリー状の肉体を持ち不死身の体を持った天の助を倒すことは不可能に近い。

 せいぜい気絶させるぐらいしか手はない。

 だがその天の助には決め手になるような攻撃が他の二人と比べると…

 

 

「ところてん怒りの乱舞! タツノオトシゴ・バージョン!」

 

 

『天の助選手、巨大なタツノオトシゴでゼブラ選手をメッタ打ちだ――――っ!!』

 

 

 なんか変なモノだしてるぅぅぅっ!?

 

 

 刀で袈裟懸けをするように連続で左右斜めに上段から得物を叩きつける天の助に…

 両腕を使ってガードして猛攻を凌ぐゼブラ。

 

 

「タツノオトシゴは英語でシー・ホースっていいますから、おそらく馬繋がりで…」

 

 

 メリー… 真面目な顔で何を言っているの…

 

 

「調子に乗るなぁぁぁっ!」

 

 

 右ストレートを繰り出すゼブラの拳。拳の風圧が風を切る音を鳴らす。

 慌てて拳の直線上にタツノオトシゴを盾のように構え――拳が腹部に直撃。

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

 タツノオトシゴは目を大きく見開き口から呼吸が漏れて――

 

 

『すんごいダメージだぁぁぁ! 天の助選手のタツノオトシゴが血を吐いた~~~!』

 

 

『これは試合続行ができるか危ぶまれるのぉ…』

 

 

 いや、別にタツノオトシゴとゼブラが戦っているわけじゃないんだが…

 というか生きているんだ… あのタツノオトシゴ。

 

 

「すいません天の助さん。自分エラ呼吸なもんで、これ以上はキツいッス…」

 

 

 なら何故出てきた…

 

 

「でも安心してください。私よりも強力な助っ人を呼びましたので…」

 

 

 勝ってください… そう言い残して天の助の腕の中で息を引き取った。

 

 

「うおぉぉぉ、アルフレッド・ガーナソン・エルゥゥゥッ!」

 

 

 なにその名前!?

 

 

「よくもアルフレッド・ガーナソン・エルを!」

 

 

 射殺すような視線で涙を流しながら睨む天の助。

 

 

「エラ呼吸の魚類を陸の上に持っていくのがおかしいだろうが!?」

 

 

 うん。私も含めて頷く観客席の皆さん。

 

 

「だがアルフレッド・ガーナソン・エルは俺のために強い助っ人を残してくれたぜ!

 しかもエラ呼吸じゃない肺呼吸だ!」

 

 

 「見ろ!」と指差す先――リングの外。その下には…

 

 

「ぜぇぜぇ… はぁはぁ…」

 

 

 ぐったりとしたシャチが苦横たわっており…

 「もう… だめ…」と言葉を最後にそれ以降動かなくなり…

 彼の体から魂が抜け出ていき… ヒレをぶんぶんと振りながら天へと昇っていく。

 とりあえずこちらも手を振って返す。

 

 

 イナバとゆっくりたちがシャチの遺骸を荷台に乗せて

 「うんしょ、うんしょ」「ゆっ! ゆっ!」と出口の方へと引っ張って運んでいく。

 

 

「シャチ軍曹ぉぉぉ!? 海のギャングと恐れられているあなたがやられるなんて!?」

 

 

「「アホかぁぁぁっ!?」」

 

 

 敵味方両方からのツッコミ。

 

 

 でもそれ以前にどっから出した!? あの巨大な海の生き物!

 さっきまでいなかったよね!?

 

 

「悪いがお前のアホな行動には付き合いきれん…

 一気に勝負を着けさせてもらう――――」

 

 

 後ろ向きでリングに張られているロープ。その上段に飛び乗ると…

 

 

「お前に面白いモノを見せてやろう…」

 

 

『おーっと!? ゼブラ選手! ロープからロープへと跳び移って

 天の助選手の回りをぐるぐる回っています!』

 

 

『うむ。これではどこから攻撃が来るのか予測がつかんわい…』

 

 

 ――速さを増して… 

 

 

 ――回転数を増やして…

 

 

 ――白と黒の残像を残しながら…

 

 

 ――ロープからロープへと跳躍による高速移動。

 それはまるでゼブラが分身・分裂したかのような錯覚を引き起こして… 

 

 

 …そして――

 

 

 リングの四辺それぞれ中央から四体のゼブラがロープをバネにして飛び掛かる。

 

 

『四体のゼブラ選手が天の助に向かって襲い掛かる! これはどういうことだ!?』

 

 

『――超高速で動いて四体に分身しているように見せておる』

 

 

 天の助の前後左右から四体のゼブラが拳を大きく振りかぶり――前に突きだす。

 あと一歩で体に触れるか否かの距離――

 

 

『プルプル真拳奥義! 超ところ弾!』

 

 

 青いオーラを纏わせて高速回転。

 リングの中央で青い球体を造り出し――それに触れたゼブラたちを(はじ)け飛ばす。

 風が煙を吹き飛ばすようにゼブラたちの姿が掻き消えていき… 天の助の姿だけが残る。

 

 

「これが元Aブロック隊長の力だ」

 

 

 静まり返るコロセウム。

 しばらく、ぼーっと見ていたメリーはやがてハッと気がつくと…

 

 

「どうしよう !? 一瞬、アレ(天の助)をカッコいいと思っちゃいました!」

 

 

 不覚にも私も思ったから安心しなさい。

 しかし四体のゼブラがいなくなるのは… おかしい。

 

 

 その理由がすぐに出た。

 

 

 突如、呻き声を一つ漏らして天の助が上空へと上昇する。

 ゼブラが背後で後方へ宙返りしつつ無防備な背を蹴り上げたのだ。

 

 

『超ところ弾でやられたと思っていたゼブラ選手が後ろから反撃!

 天の助選手たまらず上空へと吹っ飛んだ~~~っ!!』

 

 

 打ち上げられ…

 

 

 減速のちに失速。落下。

 

 

 大の字で落ちていく天の助。

 

 

 その背に向かって跳躍。

 空中で膝を曲げてからの後転。

 頭を下に… 膝を曲げて踵を揃えた両足を上に向けて…

 

 

 天の助の背中に触れるか否かの瞬間。

 瞬時に体を伸ばして蹴りを叩き込んだ。

 

 

『打ち上げ落下してきたところをゼブラ選手の蹴りが炸裂ぅぅぅっ!!』

 

 

『これが普通の相手ならば背骨が大変なことになっておるぞ!』

 

 

『だが! これで終わらない! 

 ゼブラ選手! 両足に天の助を乗せたそのままの体勢で昇っていくぅぅぅ!

 この体勢! このフォルム! この構えは!?』

 

 

「「マッスル・インフィルノか!?」」

 

 

 ソルジャーが… マリポーサが… 先代の帝が口を揃えて技の名前を叫ぶ。

 一応、貴族の一人であるビッグボディはというと――

 三角巾のついた帽子を被ったゆっくりと一緒にポテチを頬張っていた。

 

 

 こっちの視線に気づくとポテチを手に「食べる?」と訊いてくる。

 お前はもうちょっと緊張感を持て石作皇子( いしつくりのみこ )

 

 

「マッスル・インフィルノだと!? 

 確かにあのフォルムはマッスル・インフィルノ… だが!」

 

 

 ボーボボも声を大にして叫ぶ。

 彼らは未来から来たのならば知っていても不思議ではない。

 

 

 地上からロケットを打ち上げるようにぐんぐん上昇。

 人の肉眼では確認できない高さにまで達する。

 大空へと昇っていく最中、天の助が疑問をぶつける。

 

 

「マッスル・インフィルノは水平移動で壁にぶつける技のハズだぞ!?」

 

 

 ボーボボ同様に天の助もあの技を知っているようだ。

 しかしゼブラのやっていることは上昇である。だが――

 

 

「あの高さから落ちたら… 天の助でも無事に済まないかもね…」

 

 

 頬に冷や汗をかきながらてゐが遥か上空の二人に目を向ける。

 首領パッチが自滅して天の助も敗れれば――

 

 

「そうなるとボーボボさんが一人で三人と戦うことに…」

 

 

 メリーが顔を青ざめて空を見上げる。

 もっとも人間である彼女には見えていないでしょうけど。

 

 

 ビッグボディを撃破したとき

 ソルジャーが争奪戦から離脱したとき

 

 

 他の三人も大したことはない。

 

 

 そう判断してしまった。

 相手はたかだか人間と

 力量を見誤ったのは私たちかもしれない。

 メリーとてゐが手をパタパタと振って否定する。

 

 

「「いやいや姫様、もうあれは人間って呼べないですよね?」」

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 ネタはいろいろ。マッスル・インフィルノもそのうちの一つです。
 原作と本作のマッスル・インフィルノが違いますが独自解釈ってことで 
 次話でゼブラさんとかに代弁させる予定だよ。
 戦闘シーンって難しいよね。
 ネット小説だからできる表現があるのでは? と試した結果です。
 それと章を作ってみたよ。
 前回は二話連続で投稿したけど今回はこれのみで様子見。

 コメントとツッコミがあると助かるです。
 あと、ここまで読んでくれてアリガトウです。

 ※カッコと空白部分を修正しました。



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マッスル・インフェルノと決着

 

 首領パッチは薬の副作用で真っ白に
 仇を討たんとボーボボが出るが…
 「 ここは俺に任せてくれ 」と天の助が出る。
 序盤有利に試合を進めていた天の助だったが――
 マッスル・インフェルノを受けてゼブラとともに遥か上空に…




 

 

 人間の肉眼では確認できない遥か上空に二人はいる。

 それをわかりやすく説明するならば矢を上に向けた(つる)の無い弓矢だろうか…?

 ゼブラが両足で天の助の体を弓のように下から反らせているのだ。

 

 

 常人ならば背骨にかかる圧力は計り知れないだろう。

 だが幸いか天の助には " 骨 " というものが存在しない。

 それでも身体にかかる負担は大きいでしょうけど…

 

 

「マッスル・インフィルノはこれで終わりではない。

 今のように相手を上に打ち上げて下からの蹴りで背骨を痛めつける…」

 

 

 上空を見上げているソルジャーが腕を組みつつ私たちに説明する。

 

 

「そのあとに相手の頭を上にして… 天井にぶつける。

 そこまでが第一段階目だ」

  

 

 このコロセウムには天井がない。

 天井との激突によるダメージは避けられる。

 だが、あの高さからの落下した場合。その意味するモノは…

 

 

『ゼブラ選手! 空中で技を解除! 体勢を変えております! これは!?』

 

 

『来るぞ! マッスル・インフィルノのフィニッシュ・ホールドが!』

 

 

 騒がしい放送席の会話を余所にソルジャーが静かに語りかける。

 

 

  " ここから第二段階目に入る "

 

 

 ――と… 

 

 

 ゼブラは両足を離して技を解除。

 解放され空中に投げ出された天の助。

 しかし、思いのほか背中のダメージが大きいのか動けないでいる。

 

 

「よく見ておくんだな… (シャチ)白鷺(しろさぎ)をくわえる瞬間を!」

 

 

 右手で左腕を掴み

 天の助の側面に背中をつけるように横に半回転しながら接近。 

 

 

 そこから背負い投げの要領で

 背中に天の助を乗せるようにして上下逆さまに天の助とともに縦に半回転。

 

 

 直後に身体を海老反りに後ろに反らして曲げる。

 反らした両足で両脚を挟み固定。

 同時に左手で顔面を掴む。

 

 

 頭頂部を地上に向けるように動きを止めて――――

 

 

 その姿は… 体が魚で… 頭が虎で… 常に尾を空に向けているという鯱が…

 獲物の頭をくわえるさまのようで…

 

 

「「鯱が白鷺をくわえたァァァっ!!!!」」

 

 

「インフィルノとは地獄という意味だ。

 水平移動で壁に激突? 屋外だったらどうやってケリをつけるんだ?

 その先に地獄があるのか? 地獄というものはだな――――」

 

 

 

 

  " 真下にあるものなんだよ "

 

 

 

 

 その言葉を合図に…

 

 

 

 

 

 

 ――――落ちる。

 

 

 

 

 

 

『ゼブラ選手、天の助選手の両脚・左腕・頭をクラッチして落ちる~~~!

 このままでは天の助選手の頭が地上と激突してしまう!

 天の助選手このまま終わるのか~~~!?』

 

 

『如何に不死身に近い再生能力を持っていてもただでは済まんぞ…』

 

 

 遥か上空にある二つの影が…

 空気を切る音を鳴らしながら徐々に大きくなっていく。

 

 

 天の助の再生能力は凄まじく、例え(さい)の目に切られても…

 数分、数秒も経たないうちに元通りに復元してしまうほどである。

 

 

 だがそれは怪我の度合いが軽度のときの話。

 

 

 背中をやられ… さらに高所からリングに頭から落下した場合のダメージは…

 死にはしないが確実に意識を失うほどのダメージを受けること請け合いである。

 

 

「天の助ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 落ちてくる天の助に向かってボーボボが叫ぶ。

 なにか考えがあるのだろうか…?

 

 

 「こんなこともあろうかと…」とリングを指差す。

 そこには鋭い剣が無数についてあるX字型の置物が中央に置かれていた。

 もう見た目からして危険極まりない。

 

 

 一体いつの間に…

 

 

「パニッシュメントXを用意した!」

 

 

 なにそれ…?

 

 

「安心してそこ(パニッシュメントX)に落ちろ!」

 

 

「「死ぬよ!?」」

 

 

『リングにはパニッシュメントX!

 このまま落ちたら二人とも串刺しになってしまう! どうする!?』

 

 

『二人ともやられると… ボーボボ選手はこのあと二人と戦うはめになるわいな…』

 

 

「いや、リングがこの状態ならば己の身を守るために… 避けるために…

 ゼブラは技を緩める必要がある。場合によっては解ける可能性が生まれる。

 そのためのハッタリか… 」

 

 

 ソルジャーがもっともらしいことを述べて

 ビッグボディがポップコーンを片手に「へぇー」と相槌を打つ。

 

 

 ソルジャー… それ違う。たぶん天の助もろともゼブラを倒すため。

 あと、ビッグボディ。お前はどんだけ食うんだ…

 そしてお前がここにいる必要性があるのか…?

 

 

「ちぃぃぃっ… ならば、コイツを下にすれば済むことだ!」

 

 

 両足・右手のクラッチを外して…

 天の助の顔面を掴んだままの左手を下に――剣への盾として使う。

 

 

 当然、天の助は抗う。どうにかして左手を外そうと試みる。

 それを煩わしいと感じたのか… 何を思ったのか…

 

 

「金をやるから落ちろ!」

 

 

 はい…?

 

 

「そんなんで落ちるヤツがいるか!?」

 

 

 怒りを露にごもっともな意見を言う天の助。

 

 

「金銀財宝に屋敷に美女をつけるぞ!

 さらにところてんを広める手伝いもするぞ! どうだ!?」

 

 

 動きを止めて地上をチラッと見る。

 

 

 悩むな!

 

 

「騙されるな天の助! 俺たちが負ければ輝夜はソイツらの嫁になるんだぞ!?」

 

 

「「じゃあ、それ(パニッシュメントX)を退けろ!」」

 

 

 ボーボボは左手を左耳に…

 人差し指を立てた右手をぐるぐる回して「聞こえてません」のポーズ。

 

 

「おいっ!? アイツ本当にお前の仲間なのか!?」

 

 

「「当然だ! 俺たちを誰だと思っている!!」」

 

 

『首領パッチ・バズーカ!』

 

 

 ボーボボが意識を失っている首領パッチを

 彼の身体を伸ばして左腕に巻きつけ弾力性のあるコイル状にする。

 弓の弦を引くように足を引っ張り… そして――――

 

 

「これが俺たちの友情パワーだ!」

 

 

 足を掴んでいた右手を放し――バネの戻る力で射出。

 一直線に空を駆け抜けていき――ゼブラの背中に命中。

 衝撃と痛みで天の助を放してしまう。

 

 

「バカな… あの男はコイツ(天の助)を見限ったハズでは…!?」

 

 

 リングへと落ちていくゼブラ。

 ゼブラの上空には首領パッチを右手に掲げた天の助。

 その首領パッチは身体が「エ」の字に変化。上部には鋭いトゲがついている。

 

 

 なんか有り得ない形になっとる!?

 

 

「これが良くも悪くも俺たちなのさ…」

 

 

 自虐的な笑みを浮かべてから高速回転する天の助。

 首領パッチをゼブラに向けながら螺旋を描いて落ちていく。

 その軌跡は縦に細長い風の渦を――竜巻を造り出す。

 そして… 狙い違わず竜巻の先端、首領パッチの上部がゼブラの背中に突き刺さる。

 

 

『 双龍牙斬烈破(そうりゅうがざんれっぱ)バリエーション・パート2! 月からカグヤ落とし!! 』

 

 

 なんかスゴい技出したァァァ! それに何その技の名前!?

 

 

『ゼブラ選手たまらず絶叫! これは痛い! さらに真下に直行!』

 

 

『これで決着が着くぞ…!』

 

 

 技の勢いは尚も止まらない。リングにあるパニッシュメントXへと落ちていく。

 

 

「長かった戦いよ! さらばだ!!」

 

 

 まだ一人目ですけどォォォ!?

 

 

 ゼブラは胸部からリングに置かれたオブジェと激突。

 木の折れる音。金属が砕く音を響かせて破壊。

 剣の欠片と木片が辺りに散らばり、砂塵が空中に舞い二人を覆い隠す。

 

 

 やがて一陣の風が吹いて砂塵を運び去っていく。

 砂塵が消え去ったあとには…

 

 

 身体中に破片が刺さり観客席に背中を見せて倒れているゼブラと

 片膝をマットにつきながらもリングに立っている天の助。

 その背中にはゼブラによってつけられたと思われる傷跡が「ぬ」を象っていた。

 

 

 何その傷痕!?

 

 

『ゼブラ選手ダウ~~~ン! ピクリとも動けません!』

 

 

『これは誰が見ても勝敗は明らかじゃのぉ…』

 

 

「だが、ゼブラは良い仕事をしてくれた…」

 

 

 ロープを(また)いで入ってきたのはフェニックス。

 身構える天の助だが… 彼の横を素通りしてゼブラの元へ――

 

 

「ビッグボディ、コイツ(ゼブラ)はもう戦えない。天幕のとこで休ませてやれ…

 ついでにキズを癒やすために薬を飲ませてやった方がいいかもしれんなァ~?」

 

 

 倒れているゼブラを上に蹴り上げて…

 そのあとを追って跳躍。追い越して。身体を回転しつつ――

 

 

『デスボディ・シュート!』

 

 

 蹴りを――ミドルキックを叩き込みリングの外へと飛ばす。

 

 

 デスボディ。死体って… 本人(ゼブラ)まだ生きてますけど…?

 

 

 ビッグボディが両手で受け止め脇に抱えて例のゆっくりたちがいる天幕へ。

 蹴りで意識を取り戻したのか――

 

 

「放せビッグボディ! あの毒薬だけはやめろ!!」

 

 

「だけどそのキズだとゼブラ死ぬ。俺、悲しむ。おろろーん」

 

 

 コーラを片手にストローでちゅーちゅー吸いながら天幕の中へと入っていく。

 

 

「どこが悲しんでいるんだ!?」

 

 

「40本あるけど、どれがいい?」

 

 

「話を無視するな! 増えてるぞ! おい!? あっ!?…あばばばばば――――…」

 

 

 ビッグボディが後ろからゼブラを羽交い締めにして

 ゆっくりたちがどんどん口の中に流し込んでいく。

 

 

 そして…

 

 

 ――燃え尽きたぜ… 真っ白にな…

 

 

 全身を真っ白に変色したゼブラがイスに腰かけて微笑んでいる。

 縞模様も白くなっているので、ただの白い変な人に…

 一体どこから紛れ込んだのか一匹のシマウマが彼の近くで佇んでいる。何アレ?

 

 

「ゼブラぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 両手両膝を地面につけて涙するビッグボディ。 

 

 

「まさか、こんなことになるなんて…」

 

 

 いや絶対わかってて、やったよね…?

 

 

『ゼブラ選手、一命を取り留めたようですが…』

 

 

『試合復帰は無理ですな… それ以前に第三者(ビッグボディ)の手を借りましたからなァ…』

 

 

 部外者って… タツノオトシゴとシャチはいいのか…?

 タツノオトシゴは武器でギリギリいいとして…

 

 

「シャチはリング入りする前に死んましたから…

 でもタツノオトシゴが武器扱いって… 無理がありますよね?」

 

 

 メリーが頬をぽりぽり掻きながら話しかけてくる。

 そういえばリングの外で死んでたわね。シャチ軍曹。

 

 

 コロセウムの空にはシャチ軍曹の上半身姿。

 こちらの視線に気づいたのかヒレをぶんぶんと振る。

 

 

 まだいるし… とりあえず手を振って返す。 

 すると恥ずかしいのか顔を紅くして視線を逸らす。

 

 

『これで二対二になりましたが…』

 

 

『天の助選手はゼブラ選手との試合でぼろぼろじゃ』

 

 

『おーっと! フェニックス選手、動き出しました!』 

 

 

 リングの真上に飛び上がり… リング中央に頭を下に落ちる。

 しかし、その先には天の助の姿はなく――激突。

 対角線上にマットに亀裂が入る。

 

 

『フェニックス選手のフライングヘッドバッドが誤爆だ~~~!?』

 

 

『彼にしては珍しいのゥ…』

 

 

 すぐさまソルジャーが実況者たちのコメントを否定する。

 

 

「いや違う。あれはわざとだ――――」

 

 

 

 

  " あれは次の技へと繋ぐための下準備だ!"

 

 

 

 

 ソルジャーの言葉通りフェニックスが次の行動を起こす。

 前を向きつつ後方に跳び――ロープを飛び越えてリングの外へ。

 そして境目にある亀裂を谷にしてリングの端と端が盛り上がり…

 

 

「「 残虐技キャンパス・プレッサー!! 」」

 

 

 リング外からマリポーサとフェニックスが

 両端をドロップキックで持ち上げ… 二つ折りにして…

 中にいる天の助ごと押し潰す。

 

 

「「天の助ぇぇぇぇぇ!?」」

 

 

 彼の名を呼ぶ叫び声が木霊(こだま)となってコロセウムに反響する。

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 今回は文字数、他の話数と比べると少ない。
 私が言うのもなんだが運命の五王子。手強いな。
 見た目と名前が一緒なだけで別人なのだが…

 ちなみに今回出てきたマッスル・インフェルノは
 非公認のフリーソフト『 マッスルファイト 』が元ネタ。
 このマッスル・インフェルノを初めて見たとき思わず身震いしたよ。
 いつかコレを小説にしたいなァと思っていました。
 余談ですが原作者は存在を知っているようです。

 コメントとツッコミがあると助かります。
 ここまで読んでくれてアリガトウです。

 ※カッコと空白部分を修正したよ。


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炎使いの貴族

 
 
 タツノオトシゴ、シャチ軍曹を犠牲にしながらも
 ゼブラから勝利をおさめた天の助。
 もはや戦える状態とはいえない彼に


 残虐技キャンパス・プレッサー


 二つ折りにされたリングの間に挟まれて潰されてしまった。




 

 

 二人の貴族( 自称 )による両端からのドロップキックで二つ折りにされたリング。

 そのリングのマットにはボロボロの天の助と意識不明の首領パッチが取り残されていた。

 

 

『マリポーサとフェニックスのツープラント技が炸裂ゥゥゥ!

 リングが真っ二つゥゥゥゥゥっ!!』

 

 

『ロープを利用した技は数あれど… リングそのものを使ったのは初めて見るわい!』

 

 

「…って、あんなのいいんですか!?」

 

 

 憤慨するメリー。気持ちはわかるけど…

 タツノオトシゴを武器として使ってたのよ?

 

 

 リングの端と端を繋ぎ合わせ(くさび)のように止めていた二人が飛び退く。

 二つ折りに閉じられたリングが開いて… 中にいた二人が解放される。

 

 

 二人は床に貼りつく紙のように潰れていた。

 

 

「待っていろ! 今助けるぞ!」

 

 

 リングの外にいたお陰で難を逃れたボーボボが空気入れを手に二人の元へ駆け寄る。

 ホースの先を天の助の口に突っ込ませて、ハンドルを思いっきり下に一度押す。

 

 

『友情のところ風船!』

 

 

 シリンダーの中の空気がホースを通って天の助の体内へと送り込まれる。

 空気が体内に入っていき風船のように膨らんで宙に浮き…

 

 

 

 

 パン!!

 

 

 

 

 破裂音とともに(はじ)ける天の助。

 水色のゼリー状の欠片がリングに飛び散る。

 破裂音のあとの無音が時間が止まったかのような感覚を引き起こす。

 

 

「「一回で破裂したァァァっ!?」」

 

 

 バラバラになった天の助の欠片が中央に集まり人の形を型どっていき…

 身体をところどころ欠けながらも復活する。

 肩で息を切らせ… その顔は疲労困憊の色を隠しきれない。

 

 

「助かったぜ。ボーボボ…」

 

 

 どこが!? ボーボボのせいで破裂しましたよ!?

 

 

「噂以上の再生能力だな…」

  

 

 背後に立つ人影はフェニックス。

 彼は天の助を後ろから羽交い締めにすると、その体勢のまま跳躍。

 さらに後方に宙返り上下逆さまになり…

 

 

 

 

  " ゴースト・キャンバス!! "

 

 

 

 

『フェニックス選手、天の助選手の頭をマットに叩きつけた~~~!!』

 

 

『なんという威力じゃい… 頭部がすっぽりマットに埋まったぞ!』

 

 

 それで技は終わらず、自分の身体を限界までに時計回りに捻って…

 

 

 解放。

 

 

 反動する力で天の助の体ごと反時計回りに逆回転。

 ただし天の助の頭部をマットの下に…

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 天の助の首の部分がヒモのように(ねじ)られていく…

 このままだと頭と胴体がねじ切られ切断されてしまう。

 ボーボボが巨大なしゃもじで止めに入るが…

 

 

『マリポーサ選手盗んだバイクマンでボーボボ選手のカットを妨害した~~~!』

 

 

 バイクマンという二輪の乗り物に跨がったマリポーサがボーボボを前輪で撥ね飛ばす。

 ボーボボはロープまで弾き飛ばされ、そのままリングの外へ。

 

 

「なんで平安時代にバイクがあるんですか!?」

 

 

 メリーの時代ではあの乗り物はバイクというらしい。

 てゐが予測しソルジャーが補足する。

 

 

「遺跡とかにたまに月の民のモノが残されていることがあるからね。

 あのバイクマンもそのうちの一つでしょうね」

 

 

「ついでにいうとあれはゼブラのモノなんだがな…」

 

 

 ボーボボのあとを追ってリングの外へと飛び出すマリポーサ。

 

 

『 " 園児に注意 " アッパー!!』

 

 

 バイクマン目掛けて園児の格好をしたボーボボが跳躍しつつ拳を振り上げる。

 

 

「 " 園児に注意 " はそういう意味じゃない!」

 

 

 拳がエンジン部分に接触。激突。激しい放電現象が起こる。

 バイクマンがひっくり返りマリポーサが空中に投げ出される。

 

 

『マリポーサ選手の右手から火が!?』

 

 

『あの一族特有の能力を使う気か!?』

 

 

 投げ出されながらも右手人差し指に火を灯してバイクマンに向けて放つ。

 小さな火の粉がバイクマンのボディに触れると火の玉が発生。バイクマンを包み込む。

 数回の小さな爆発を起こしたのちに…

 

 

「俺の出番これだけ!?」

 

 

 と言い残したあとに大爆発。

 破片がボーボボに降り注ぐ。

 衝撃で背中からマットに叩きつけられる。

 

 

 バイクマン… 喋れたのね。

 一言喋っただけで退場だなんて…

 

 

「まさか今のはメラゾーマ!?」

 

  

 体勢を立て直したボーボボがマリポーサの術で驚愕するも

 両足から着地したマリポーサは否定する。

 

 

「今のは " メラゾーマ " ではない」

 

 

「まさか " メラ " とでも言うつもりか!?」

 

 

 

 

  " 今のは『 メラミ 』だ "

 

 

 

 

「微妙につえーな!」

 

 

 よくわからんが最下位呪文ではないらしい。

 彼は右手の指先全部に火を灯すと…

 

 

『 例の技!』

 

 

 ボーボボに向けて投げ放つ。

 

 

「「 名前言えや !! 」」

 

 

 ボーボボの足元付近のマットに着弾。

 囲むように五つの火柱が天に向かって渦を巻いて伸びる。

 

 

 火柱の奥から見えるボーボボの影。

 その影も時間が経つと炎で塗り潰されて見えなくなった。

 

 

 それを見届けてから炎を消すマリポーサ。

 マットの焦げ跡部分が熱で陽炎(かげろう)のように揺らめいている。

 

 

 その中心部にはアフロ頭のサングラスをかけた骸骨が…

 

 

「「 ボーボボ !? 」」

 

 

 私たちの声に反応して振り向く。

 

 

「 どうした !? 」

 

 

 生きとる !?

 

 

「 ボーボボさん! 炎で骨にされたんですけど大丈夫なんですか !? 」

 

 

 メリーに言われて自分の身体を確認するボーボボ。

 

 

「 骨になっとるゥゥゥゥゥっ !!!? 」

 

 

 気づいてなかったの !?

 

 

「 鏡だ! 誰か鏡を持っていないか !? 」

 

 

 ロープに上半身を乗り出して訊ねる。

 あの業火でなぜアフロが燃えないんだろうか…? サングラスも無事だし…

 

 

「 ニンジンならあるけど? 」

 

 

 てゐが首と服の隙間からニンジンを取り出す。

 なぜそんなモノがそんなとこから出る?

 

 

「 おお! あるじゃないかボーボボ・ミラーが!」

 

 

 手に取りまじまじと見つめてから

 額を拭って安堵を漏らす。

 

 

「 ふぅ… アフロとサングラスが無事だ 」

 

 

 そこ重要なの !?

 

 

『 ボーボボ選手肉を削ぎ落とした分パワーが落ちてるのは確実です。

 どういった試合運びになるんでしょうか?』

 

 

『 体重が軽くなった分スピードが上がっとる。

 おそらく素早さを生かして手数を増やしてくるじゃろうな… 』

 

 

 骨になったことにツッコミはないのか…

 

 

「 たかがメインボディをやられただけだ!」

 

 

 ガシャガシャ骨を鳴らしながらマリポーサに襲いかかるボーボボ。 

 普通、骨になるまで燃やされた死にます。

 あとメインボディって何? 

 

 

『 ボーボボ選手! 手刀によるラッシュだ~~~!』

 

 

 左右上段からマリポーサに攻撃を叩き込んでいく。

 一撃一撃が重いのかリングの外にまで音が響く。

 

 

「 バカな… 骨だけだというのに… どこにそんなパワーが… 」

 

 

 頬に冷や汗を垂らしつつ両腕で手刀を捌いて猛攻を凌いでいくマリポーサ。

 

 

「 当然だ! なにしろこの俺は昨今の若者には珍しい " 骨のある男 " だからだ!」

 

 

 違う。そういう意味じゃない。

 

 

『 フシヤマ・ボルケイノ!』

 

 

 マリポーサが腕を交差して受け止めて炎を放出。火に包まれる。

 その熱気にボーボボは攻撃の手を止めて後ろへ後退する。

 

 

「 ならば! 骨すらも残さず灰にすればいい!」

 

 

 さらに温度が上昇。熱気で空気が揺らぐ。

 私たちのところにまで熱が伝わる。

 

 

「 なんという熱量だ! あの炎を消すだけの水量は… 」

 

 

 ボーボボが前を向きつつ片手を背中の後ろに、そこから取り出したのは…

 

 

 

 

 " これだ!"

 

 

 

 

 スチール製のぼろぼろのバケツ。

 その中には水がなみなみと注がれていた。

 

 

「「 無理 !! 」」

 

 

『 鼻毛真拳奥義 " 覆水盆に返らず " 』

 

 

 バケツの水を相手にかけるだけに技名つける必要ないよね !?

 

 

 バケツの底に手をかけて左から右へ凪ぎ払うようにぶちまける。

 マリポーサは全身にまんべんなく水をかけられ… 火が消え水蒸気が辺りに発生する。

 

 

『 マリポーサ選手、技を発動する前に鎮火されたァァァっ !! 』

 

 

 ショボ! フシヤマ・ボルケイノ、ショボ !!

 

 

『 火には水。当然のことだが…

 戦闘中にこれだけ冷静に対処できる者はそうそういるものではない。

 あのボーボボ… 戦い慣れしておる…』

 

 

 何を言っているのこの先代の帝は…?

 

 

「 炎さえなければキサマなど恐るるに足らずだ!」

 

 

 再度、突撃。マリポーサに殴りかかる。

 その手にはところてんが握られていた。

 

 

「 これはキサマの手によって潰れた天の助の分じゃァァァっ !! 」

 

 

 ところてんじゃ無理だよ !?

 

 

 肘を曲げて大きく振りかぶってからの打撃。

 マリポーサのこみかみに接触。

 頭蓋骨が硬い物とぶつかる鈍い音が鳴り、マスクの一部が破れる。

 

 

『 マリポーサ選手、顔面を血で赤く染まった~~~!』

 

 

「「 めっさ効いてる !? 」」

 

 

「 水を高圧高速で射ち出せば鉄すらも貫通します。

 同じようにところてんもやれば… 」

 

 

 何を言っているのメリー…

 そして何処へ向かおうとしているの…

 

 

 血で視界を制限されてダメージで足元がおぼつかない。

 …がその片目はまだ諦めていない。

 

 

「 今のを喰らってまだ立っているとはな… 」

 

 

 喰らったって… ところてんですよ?

 

 

「 車持皇子… 藤原現当主が… 貴族が情けない戦いを見せられるものかっ !? 」

 

 

 焦点の定まらない震える指先をボーボボに向け火が灯される。

 しかし先ほどの炎と比べたらホタルの放つ光のようにおぼろげで頼りない。

 動きも遅い。反応も遅く。ボーボボにあっさりと背後を取られる。

 

 

「 ボーボボさん!」

 

 

「 これで二人目だわね!」

 

 

 首領パッチがやられたときはどうなるかと思ったが…

 

 

「 任せろメリー! てゐ! お前たちが期待するような技を今から見せてやる!」

 

  

 背後からマリポーサの膝の裏に自分の膝を押し当てて曲げる。

 それにつられて相手の脚は曲がり体勢を崩す。 

 

 

『 足かっくん!』

 

 

 いい笑顔で私たちに勝利のVサイン。

 

 

「「 そんな技、期待していないよ !? 」」

 

 

「 ぐはぁぁぁぁぁっ !! 」

 

 

『 マリポーサ選手! 吹っ飛んだ~~~!』

 

 

 口から大量の血液を吐きマットを赤く染める。

 両腕両脚から骨が砕く音。あらぬ方向に折れ曲がる。

 衝撃でロープまで飛ばされる。

 

 

「「 今ので !? 」」

 

 

 それでもロープを掴みながらも立とうとする。

 もっとも… そんな状態で立てるわけもなく。

 足を滑らせ転倒。うつ伏せになってしまう。

 

 

『 マリポーサ選手立てない! このまま終わるか !? 』

 

 

『 全身をひどくやられている。もはや戦えまい… 』

 

 

「 お前の負けだマリポーサ。ときには負けを認めるのも貴族として必要なことだ 」

 

 

 そういって手を差しのべるのは

 

 

「 ソルジャー… 」

 

 

 リングの外で私たちと一緒に観戦してたハズなのに… いつの間に…

 彼は瞳を閉じて思案するも… やがて意を決したのか、ソルジャーの手を取る。

 

 

『 マリポーサ選手、ソルジャーの手を取りました!』

 

 

『 第三者の手を借りた以上、リングから降りねばならない。

 苦渋の決断といえよう… 』 

 

 

 だから、そんなルールは知らないってば…

 

 

 ソルジャーの肩を借りながらもリングから降りるマリポーサ。

 リングの下には黒髪のおかっぱ頭の少女が心配そうに見つめていた。

 

 

「 ん? ああ、あの娘はアイツ(マリポーサ)の娘で妹紅( もこう )だよ。たぶん 」

 

 

 訊いてもいないのにビッグボディが説明してくる。

 たぶんって何だ? たぶんって…

 イヤ、あの娘がマリポーサの娘ならば…

 

 

 既婚しているにも関わらず、この争奪戦に参加した…?

 

 

「 もしかしたら… アイツらは別の目的で姫様に近づいているのかもね 」

 

 

「 てゐさん…? それって、どういうことですか…? 」

 

 

「 うちらの姫様の出身は『 月 』だ。

 姫様を身内に取り込むことができれば… 」

 

 

「 でも姫様はその月から追放されたんですよ? 」

 

 

「 …だが、赦される可能性がある。それに姫様がいれば月人と接触する可能性もね…?

 おそらくあの貴族連中は… 」

 

 

 

 

  " 最初(ハナっ)から『 月 』が目的の可能性がある… "

 

 

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし

 長すぎると飽きる。短いとつまらない。
 さじ加減が難しい戦闘シーン。作家ってスゴいね。
 マリポーサなのであの技とか考えましたがやめた。
 
 コメントとツッコミあると助かるです。
 ここまで読んでくれてありがとうです。かしこ。



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最後の貴族

 
 天の助にゴースト・キャンパスという技で首を捻り切ろうとするフェニックス。
 ボーボボのカットを妨害するマリポーサ。
 しかしボーボボの「足かっくん」で撃破する。
 そして… てゐの「貴族たちの目的は月では?」という憶測。



 

 

 月人たちは時折、地上の権力者と接触することがある。

 彼ら貴族たちが月の民の存在を知っていても不思議ではない。

 

 

 実際フェニックスは月人たちの遺跡を知っていたし…

 ゼブラに(いた)ってはバイクマンという乗り物を持っていた。

 盗まれたあげくに破壊されたけど。

 

 

 月の文明は地上よりも遥かに進んでいる。

 彼ら貴族たちからしてみれば喉から手が出るほど欲しいのでしょう。

 

 

( 姫様。詳しい話はあとにした方がよさそうだね )

 

 

 てゐが軽く指差す先にはソルジャーとマリポーサ。

 リングから降りる彼らを待ち構えていたのは…

 薬を手にしたビッグボディとゆっくりたち。

 

 

「 さあ早くこの薬を飲むん… 」

 

 

「 飲むか!」

 

 

 (すね)にローキックをかます妹紅( もこう )

 地味に痛いのか蹴られた部分を両手で押さえながら地面を寝転がる。

 さらにボーボボがそれに便乗して…

 

 

  " 命令通りに可能な限りに痛めつけて任務完了しました。輝夜大佐… "

 

 

 私そんな命令出してない!

 

 

 片膝をマットにつけて私に(うやうや)しく頭を下げるボーボボ。

 その言葉に反応して睨みつけてくる妹紅。

  

 

 ゆ"る"さ"ん" …って感じで睨んでいるんですけどォォォっ !?

 

 

「 ボーボボさん! それよりも早く天の助を助けないと!」

 

 

 メリーがボーボボを急かす。

 そういや天の助の頭が大変なことになっていたことを思い出す。

 

 

「 わかっている! だがこの… 」

 

 

 ボーボボの体というか骨には先ほどまでになかった亀裂が生じていた。

 苦しいのか片膝をマットにつき胸のところを押さえている。

 

 

『 ボーボボ選手の体にヒビが入っている !? これは一体 !? 』

 

 

『 強力な技にはその分… 反動で自分自身にもダメージを(こうむ)るのもある。

 おそらくアレもそのうちの一つなのだろう… 』

 

 

 足かっくんで !?

 

 

「 このぼろぼろの状態では返り討ちが関の山! まずは回復に(つと)めねば !! 」

 

 

 …とリングの上で布団を敷いて豪快なイビキをかきながら寝入ってしまった。

 

 

「「 おいっ !? 」」

 

 

 □ 守護者休息中 □

 

 

「 復活!」

 

 

 敷布団を跳ね退けて骨の状態から元の姿に戻ったボーボボ。

 

 

 なんで !?

 

 

「 寝ることによって無駄な動きをなくして、体力の全てを回復に回して… 」

 

 

 メリー !? 真顔で何を言っているの !?

 

 

「 復活したところ悪いが手遅れだ!」

 

 

 今までゆっくりと天の助の体を(ねじ)っていたフェニックスが…

 

 

 

 

『 ゴースト・キャンパス・フィニッシュ!』

 

 

 

 

 高速で回転。天の助の首が捻り千切られ。首と胴体が分離。さらに…

 

 

 

 

『 おい磯野! サッカーしようぜ! お前がボールな www 』

 

 

 

 

 メガネをかけた少年が坊主頭の少年の腹部を蹴りあげる光景を背景にして

 天の助の胴体にミドルキック。

 

 

「「 技名が酷い上に背景はもっと酷い !! 」」

 

 

 吹っ飛ばされた身体がボーボボと激突。

 天の助の胴体が砕け… 幾つもの塊となって散らばる。

 いつもなら欠片同士で結合して人型になるのだが…

 

 

「 さすがに頭がなければ復活もできまい!」

 

 

 肘を伸ばした右腕。その右手にあるのは…

 白目を剥いた天の助の頭部が(かか)げられていた。

 

 

「「 天の助 !? 」」

 

 

 フェニックスはズボンのポケットからカプセルのようなものを取り出して

 スイッチを押してマットに軽く投げると煙が発生。

 中から『 大魔王封じ 』のお札が貼られた炊飯器が現れる。

 炊飯器を開けて――――

 

 

 

 

『 魔封波だっ !!!! 』

 

 

 

 

 その中に天の助の頭部を突っ込む。

 

 

「「 入れただけじゃん !? 」」

 

 

 蓋を閉じて『 ねねね封印 』と書かれたお札を貼ると

 煙となって小さなカプセルになる。

 それを口の中に入れて呑み込んでしまう。

 

 

「 安心しろ。試合後には出してやる 」

 

 

 勝ち誇ったような顔を私たちに向けるフェニックス。

 

 

「 くうっ… 俺がもう少し早く駆けつけていれば… 」

 

 

 対照的に悔しそうに顔を歪めるボーボボ。

 

 

 まったくだよ…

 

 

「 キサマを倒して天の助を解放するまでのことよ!」

 

 

 フェニックスに向かって二本の鼻毛を伸ばすボーボボ。

 身を(かが)めながら疾走。鼻毛が頭上を(かす)めるものの回避。接近。

 

 

「 ボディがお留守だぜ?」

 

 

『 フェニックス選手の強烈なボディブロー!』

 

 

 右腕の半ばまで胴体に突き刺さる。めり込む。

 フェニックスと比べて身長も体重もボーボボのが上にも関わらず

 ボーボボの体が宙に浮く。苦痛で歪む表情。顔中、汗をかき。血を吐く。

 

 

 半時計回りに回転移動。ステップ。ボーボボの後ろに回り込み

 背後から腰に抱きつくように両腕を回して組んで――――

 

 

『 ジャーマン・スープレックスだ~~~ !!!! 』

 

 

 体を後方に反らしてブリッジ。

 ボーボボの頭をマットに叩き込む。

 

 

『 いや… あれはただのジャーマン・スープレックスじゃない!』

 

 

 両手のクラッチを外さぬままフェニックスがマットを蹴って後方回転。

 再度ボーボボの頭をマットに叩きつける。

 

 

「「 連続ジャーマン・スープレックスだ !! 」」

 

 

 さらにもう一回転。両足から着地。そこからマットを蹴って跳躍。

 空中でボーボボの体を上下逆さまに回転。重力でくの字に折れるボーボボ。

 腰を掴んでいた腕を解放。手首を掴む。

 さらに両脚、両足首をボーボボの膝の裏辺りに当てて

 ボーボボの足をハの字に体を限界まで折りたたむ――

 

 

『 フェニックス選手! ボーボボ選手をくの字に折り曲げて

 両手両足をクラッチしたァァァっ !! この技は一体 !? 』

 

 

『 マッスル・リベンジャーだっ! 一気に勝負をつける気じゃな !? 』

 

 

 

 

 落下。

 

 

 

 

 その先にあるのはコーナーポストの頭。

 ボーボボの頭をそこにぶつける気だ。

 

 

 

 

「 うわ――ッ! 動けない~~~ッ !! 」

 

 

 涙を流しながら頭を左右に振るボーボボだが…

 一転して口の口角を鋭角につり上げて

 

 

「 ――とでも言うと思ったかマヌケがァァァっ !! 」

 

 

 接触する間際。激突する瞬間。

 ボーボボのアフロが開いて中から右足が飛び出す。防ぐ。

 

 

 ――――が…

 

 

 アフロから出ている右足にヒビが入る。

 そこを起点に植物の(つた)ようにボーボボの全身へと伸びていく。連鎖する。覆う。

 やがて陶器が割れるような音を立ててガラスのように()()()()が砕き散る。

 

 

「「 防いでいねぇぇぇっ !!!! 」」

 

 

『 ボーボボ選手、文字通りバラバラになった~~~!』

 

 

『 これで輝夜チームには戦えるモノはいなくなった。貴族チームの勝利じゃな… 』

 

 

 放送席から流れてくる声はボーボボたちの敗北の報。

 心なしか先代の帝の声には落胆を感じ取れる。

 

 

「 ボーボボたちがやられるなんて予想外だわね… どうする? 姫様? 」

 

 

「 この場合フェニックスと結婚なんでしょうか…? 」

 

 

 てゐとメリーが心配そうに見つめる。

 彼女たちにとってもボーボボたちの敗北は予想してなかったのだろう。

 

 

「 まずはボーボボたちのケガを理由に結婚を延期。

 アイツらの欲している『 月の技術 』をエサにして交渉。

 すまないね姫様。今のところ、これしか思いつかないよ 」

 

 

「 いっそのこと逃げるなんてのは… どうなんですか? 」

  

 

 ばつの悪そうな顔のてゐに必死になって意見を述べるメリー。

 コーナーポストに立ち握り拳を天に向けるフェニックス。

 観客からのブーイングがせめての救いか…

 

 

 

 

  " 気が早いな。もう勝った気でいるのか? "

 

 

 

 

 コロセウムに響く男の声。

 

 

「 何者だ !? 」

 

 

 振り向くフェニックス。

 忌々しげに視線を送るその先――コロセウムの出入り口に立つ影が答える。

 

 

「 つけものだ!」

 

 

 壁を背にして親指を立てた右手をこちらに向けるのは

 つけものに手足が生えた謎のイキモノ。

 私たちの一行に何度も加わろうとしたアイツだった。

 

 

「「 …………は?」」

 

 

 予想外の珍客に目が点になる私たち。

 

 

 フェニックスは無言でコーナーポストの一つに近づくと

 中から鉄柱を引き抜いて…

 

 

 ――投げる。

 

 

 コロセウムを駆け抜ける細い影。

 つけものに到達。激突。高速で回転しながら上に吹っ飛ぶ。

 頭が天井に刺さり止まる。観客の視線が集中。流れる沈黙。

 

 

「 ふん。ザコが要らぬ手間をかけさせおって… 」

 

 

 吐き捨てるように言い放つ。

 

 

「 だが、ムダではなかったぜ 」

 

 

 リングから聞こえる声。

 コーナーポストに仁王立ちになって立つオレンジ色の物体。

 ソイツはマイクを片手にフェニックスを指差していた。

 

 

「「 首領パッチ !! 」」

 

 

 ただし四人いる。

 

 

「「 ええええぇぇぇぇっ !? 」」

 

 

「 魂でーす 」

「 背後霊でーす 」

「 エクトプラズムでーす 」

「 ドッペルゲンガーでーす 」

 

 

 と名乗ったあと…

 

 

「「 不気味カルテットでーす 」」

 

 

 横一列に並んで足を上下に上げてのラインダンスを披露。

 のちに本体と思われるトゲをしおらせた白い首領パッチに暴行を加え始める。

 白い首領パッチが助けを求めるように手をこちらに向ける。

 

 

「 く、くるしい… 」

 

 

「「 自分で自分を苦しませるなっ!」」

 

 

 どうでもいいんだけど何で増えているの… アレ?

 

 

 横にいるメリーとてゐに訊いてみる。

 

 

「 薬の副作用か何かじゃないでしょうか… でも首領パッチだし… 」

 

 

「 まあ… 首領パッチだからね 」

 

 

 納得できない答えだけど… なぜか納得できてしまう。

 

 

『 毒で倒れていた首領パッチ選手が復活!

 試合がどう転がるのか、わからなくなりました!』

 

 

『 だが短時間で毒が抜けきるとは思えん。

 そこを人数でカバーしているというわけじゃな… 』

 

 

「 ゼブラに負けるヤツが… ゼブラより強い俺に勝てるわけがない!」

 

 

 いやいや、マトモに戦う前に自分の仕掛けた毒で自滅したんですけど?

 

 

 近くにいた一人目の首領パッチにボールを蹴るようにローキック。

 蹴飛ばされた先にはコーナーポスト。避けきれずに頭から衝突。マットに横たわる。

 

 

「 ひ~! 首領パッチがやられたぞ !? 」

「 このままじゃ俺たちも首領パッチのようになるぞ !? 」

「 どうするんだよ !? 首領パッチ !? 」

「 落ち着け! 首領パッチと首領パッチ!」

 

 

 「 首領パッチ、首領パッチ 」うるせぇぇぇっ !!

 

 

 殴る。蹴る。目潰し。等々して全ての首領パッチをマットに沈めたフェニックス。

 一体の首領パッチが「 目が… 目が… 」と転げ回っているが…

 さすがに精神的に疲労しているようで肩で息を切らしている。

 

 

 いや、あと一人。白い首領パッチが残っている。

 

 

 無言で振るわれる剛拳。勝ちを確信した表情。

 

 

 

 

 パシッ… 

 

 

 

 

 軽い音を立てて拳が受け止められた。驚愕する一同。

 

 

 

 

  " オレってヤツが許せねえよ "

 

 

 

 

 リングに静かに聞こえる首領パッチの声。

 全身の(しお)れたトゲが元に戻り…

 毒の影響で白く変色した身体がオレンジ色に戻る。

 

 

「 毒が抜けきったというのか !? だが今さら… 」

 

 

 言い終える前に拳が頬にめり込む。中断される。

 マットに叩きつけられるフェニックス。

 すぐさま体勢を整え離れる。

 

 

 首領パッチはさらに変化する。

 

 

 両手首には黒い布が現れて身体が金色に変化。

 

 

 

 

  " オレは怒んパッチ。キサマを倒す者だ "

 

 

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 なんとか連日投稿間に合ったかな?
 様子見だね。結果次第でこのパターンになるかもです。

 ここまで読んでくれてありがとうです。
 コメントとツッコミがあると助かるです。かしこ。



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変身と変身

 
 
 天の助は魔封波で炊飯器に封印され
 ボーボボはマッスル・リベンジャーで粉々に砕かれ
 つけものが… 不気味カルテットたちが… 次々に倒され…

 
 首領パッチは怒りで怒んパッチへと変貌した。


 「 オレってヤツが許せねぇよ… 」


 ――と…




 

 

 身体を金色に変化した首領パッチ――いや、怒んパッチか…

 変わったのは外見だけじゃなく中身も変化しているのか

 いつものおふざけが鳴りを潜めている。

 

 

「 一目見たときから只者じゃない空気を醸し出していた…

 ヤツはできる男だと確信していたよ 」

 

 

 ビッグボディが偉そうなことを(のたま)う。

 ゆっくりたちと一緒にお菓子をボリボリ頬張っていなければ

 少しは説得力があったかもしれないけど…

 

 

「 ハーハーハー! ならばこの俺様が確かめてやろう!」

 

 

 フェニックスの急接近。

 

 

 すれ違いざまに右フック。頬に命中。

 数回ほどマットにバウンドして… ピクリとも動かなくる。

 

 

「「 えええぇぇぇっ !? 」」

 

 

 超絶よわっ !? 何しに復活したの !?

 

 

「 怒りだ。怒りが足りねぇ…

 お前はなんのために輝夜に求婚する?」

 

 

 上半身を起こしながらフェニックスに問う怒んパッチ。

 

 

「 月が持つ叡智、技術。輝夜自身もそうだが、やはし一番の理由は―――― 」

 

 

 

 

   " 不老不死 "

 

 

 

 

 不老不死――蓬莱の薬。

 よりによって… いや、権力者だからこそ欲するか…

 

 

「 お前たちのその再生能力も輝夜から貰ったものなんだろう?」

 

 

 ボーボボたち三人の再生能力を薬のせいだと勘違いしている…

 

 

「 期待しているとこ悪いが… 俺たちのしぶとさは―――― 」

 

 

 

 

  " (デフォルト)だ! "

 

 

 

 

 しかし… 怒んパッチの言葉を信じていないのか

 

 

「 フン。そう簡単には口を割らんか… 」

 

 

 すいません。それ本当のことなんですけど…

 

 

「 許せねぇ… そんな理由で… 」

 

 

「 期待外れにもほどがある。喰らうがいい!」

 

 

 フェニックスの背後に力が目に見える幻影となって顕現(けんげん)する。

 

 

 こん棒のようなモノを手にした体格のいい少年がメガネをかけた少年を殴っている。

 

 

 

 

  " 買ったばかりのバットの殴り具合。お前で試させろ!"

 

 

 

 

「「 なにもかもが酷い !! 」」

 

 

 こん棒のようなモノを振りかざすフェニックス。

 怒んパッチは手のひらからタケノコを生やして…

 

 

 …って、タケノコ !?

 

 

『 タケノコソォォォォォドぉぉぉぉぉっ !! 』

 

 

 フェニックスのこん棒と接触。触れた瞬間にタケノコが回転する。

 力と力が相殺。拮抗。

 火花が飛び散り――接触部分から放電が放たれる。

 

 

「 バカな… ありえん… 死に体のお前のどこからそんな力が―― 」

 

 

「 オレの力の(みなもと)は怒りだ。

 一分あればその分だけ怒りを燃やして――オレは一分前のオレより進化する!」

 

 

 怒んパッチを(まと)っている光が増して手に持ったタケノコがさらに高速で回転する。

 

 

「 一回転すれば、ほんの少しだが前に進む。それが『 タケノコ 』なんだよ… 」

 

 

 違います。

 

 

「 そんなタケノコがあってたまるか!」

 

 

 吼えるフェニックス。片手持ちから両手持ちに変えて力で押し切る。

 火花と放電の勢いが加速する。

 

 

「 ここにある!」

 

 

 タケノコが(うな)りを上げてさらに高速回転。

 怒んパッチの手から離れ――――

 

 

『 豪腕爆砕! ブロウクン・タケノコ!』

 

 

 砕く!

 

 

 こん棒を破壊。破片が散る。

 

 

 止まらない!

 

 

 進む、進む、進む!

 

 

 フェニックスの体に突き刺さる。めり込む。くの字に曲がる。

 足がマットから離れる。宙に浮く。

 

 

 爆破。爆発。

 

 

 耳をつんざく二つの爆音。轟音。

 

 

 フェニックスの上半身が火炎に包まれ…

 口からカプセル状のモノを吐き出して… 沈む。

 

 

 手に取りスイッチを押して放り投げると…

 煙とともに天の助の頭部が封じられた炊飯器が現れて解放。

 水色の欠片が集まりだして形を形成。天の助になる。

 その顔は目に見えてやつれていた。

 

 

「 怒んパッチか… すまねぇ、助かったぜ 」

 

 

「 ああ、あとはオレに任せて―――― 」

 

 

 ――お前はゆっくりと休んでいるといい。

 

 

 ――ああ、そうさせてもらうぜ…

 

 

 (かたわ)らには大型犬。

 空からは白い羽を生やした子どもたちが舞い降りる。

 

 

 ちょ !? なんか来てはいけないものが来てますけど !?

 あとその犬どっから紛れ込んで来た !?

 

 

「 天の助 !? 起きてください! 連れてかれますよ!」

 

 

 メリーの呼びかけが耳に入らないのか… おかしなことを口走る。

 

 

 ――神様… ごめんなさい。パトラッシュを食べたのは僕なんです…

 

 

「「 パトラッシュを食うな!」」

 

 

 傍にいた犬が突然二本足で立ち上がって――

 

 

『 パトラッシュ・パンチ!』

 

 

 倒れている天の助に攻撃を加え… リングから降りて二本足でとことこと去る。なにアレ?

 そこへ遅れて天使っぽいのが到着。

 周りを(うかが)いながら天の助の懐をがさごそ探って財布を取り出すと天へと帰っていく…

 

 

「「 ただのドロボウだった !? 」」

 

 

「 やはしな… コイツはただの封印術じゃない 」

 

 

 炊飯器を手に取って調べていた怒んパッチが話始める。

 

 

「 コイツ――炊飯器に入れられたモノは力を吸い取られ…

 仕掛けた術者の力に変えられる。術者… つまり―――― 」

 

 

 ――フェニックスに。

 

 

 天の助を無効化しつつ、その力を利用する。

 首領パッチのときは――そういや毒で自滅してたわね…

 さすがに猛毒を持ったヤツを体内に取り込みたいとは思わないわね。

 

 

 炊飯器を上空に投げ――

 

 

 両脚でマットを踏みしめ右手を真上に向けると

 手のひらからタケノコが生えて… 回転。

 

 

『 ラスト・シューティング!』

 

 

 タケノコの先端からピンク色の光が収束して放たれる。

 細い光が炊飯器を貫通。くり貫かれた穴からバチバチと火花が飛び散り――爆発。霧散。

 

 

 もはやタケノコじゃない…

 

 

 だけど… これで魔封波とやらで封印される心配はなくなった。

 フェニックスは自身を強化させる術式を失い。

 首領パッチは怒りで怒んパッチになってパワーアップしている。

 フェニックスにはもう勝つ(すべ)はないハズ。

 

 

 ――にも関わらず…

 

 

「 ハーハーハ。酷いことをするなァ…

 あの入れ物を造るのにどれだけの時間と労力をかけたと思っているんだァ?」

 

 

 フェニックスは人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

 それに怒んパッチの攻撃を受けたハズなのにキズ一つ見当たらない… タケノコだけど。

 

 

「 このリングからお前に向かって力が流れ込んでいるのが見える。

 そのお陰でお前は力を増幅。ボーボボを倒し… 回復もした… 」

 

 

「 ほぅ… 」

 

 

 感嘆を漏らすフェニックス。

 それが本当ならフェニックスにとって最初から自分に有利な場所で…

 私たちにとっては不利な場所で戦わされていたことになる。

 

 

「 そういや… この遺跡は月の民が造った建造物。

 それも妖怪同士を戦わせるモノ。

 ならば安全策があってもおかしくはないわね… 」

 

 

「 ど、どういうことなんですか? てゐさん…?」

 

 

「 このコロセウムに対妖怪用に術式が施されている。

 わかりやすく説明するならば―――― 」

 

 

  " このコロセウムそのものが相手を弱体化させ… その力を取り込む巨大な魔方陣 "

 

 

「 でも… そんなことをすれば周りの妖怪たちが黙っているとは思えないんですけど… 」

 

 

「 さすがに力の全てを持っていくわけじゃないみたいね。それこそ―― 」

 

 

 弱小妖怪なら気づかれず、力のある妖怪なら大して気にもしない程度の力を取り込んで…

 

 

 かといって吸収を阻止するために試合を妨害すれば… どうなるのか…?

 場合によっては幾つかの勢力を敵に回す可能性もある。

 私たちの力のこと等が知れ渡ってしまうことも…

 あとは鬼の集団辺りが試合を邪魔したといって暴れかねん。

 

 

「 バレてちゃしょうがないなァ… それに今のままでは勝てないのも事実 」

 

 

 フェニックスの身体が膨れ、全身の筋肉が肥大化。体の色も紫色に変色する。

 いきなしの変身に絶句する私たち。

 

 

「 まずお前から血祭りにあげてやる 」

 

 

 左右にブレて、消える。

 

 

 次に――

 

 

 岩と岩がぶつかり合う音。

 

 

 怒んパッチのすぐそばにフェニックスの姿があり――

 人の頭ほどの大きさのフェニックスの右拳を怒んパッチが左拳で防いでいた。

 

 

 さらに迫り来る左拳を右拳で迎撃。

 拳と拳がぶつかり激しい音が鳴る。

 腕を後ろに引いては殴る。拳をぶつけ合う。

 

 

 繰り返す。

 

 

 加速する。

 

 

 拳と腕の残像を残しながら打ち合う。

 

 

 それはまるで複数の腕を持って殴り合っているように錯覚する。

 

 

 ――がその打ち合いの均衡が崩れる。

 フェニックスの拳が当たる。

 さらに右膝が刺さる。血を吐く。

 

 

「 少しは手加減をしやがれっ… 」

 

 

「 手加減? なんだァ? それはぁ?」

 

 

 両手を組み合わせて上から背中へ叩き込む。

 垂直落下。マットにめり込み… 動かなくなる。

 

 

『 つ、つよい… 怒んパッチ選手強いが――

 それ以上に変身したフェニックス選手のが強い!』

 

 

『 だが彼は諦めてはいないようだぞ… 』

 

 

 伏せた状態から飛び上がり後ろへバク転。距離を取る。

 両手に握られているのは飲み物の缶。

 首領パッチがよく飲んでいるモノだ。

 それを逆手に持って腰を低くした前傾姿勢に(ひね)りを入れた構えから――

 

 

『 怒怒んパッチ・スラッシュ!』

 

 

 右下から左上へ斬り上げる。

 缶に入ってあった液体が勢いよく飛び出して三日月のような斬撃となって飛ぶ。

 途中にいた天の助を上下真っ二つ。おい…

 「 ぎゃぁぁぁ !? 」という断末魔を残してフェニックスへと進む。

 

 

 避けるまでもないと言わんばかりに両腕を横に広げて仁王立ちするフェニックス。

 

 

 怒んパッチがマットを蹴る。

 斬撃のあとを追ってリングすれすれを滑るように滑空。

 

 

 左手にある缶。その缶の開け口から液体でできた刃を作り上げて

 逆手に持って身体ごとぶつけるように突進。

 

 

『 怒怒んパッチ・スラッシュ!』

 

 

 最初に生み出した斬撃が着弾した瞬間に左下から右上へ斬り上げる!

 

 

『 クロス!』

 

 

 二つの斬撃が X 字になりフェニックスの胸元に交差する!

 

 

「 ソイツは天の助の分だ!」

 

 

「「 止めを刺したのはお前だ!」」

 

 

  X 字の斬撃が巨大化。炸裂。リングを光で埋め尽くす。

 

 

『 怒んパッチ選手の技が炸裂! 光でリングが見えません!』

 

 

『 やったか !? 』

 

 

 リングを――リングの上で戦っているであろう二人を…

 些細な変化を一つとて見逃さないと食い入るように見つめる。

 そのときメリーが何かを思い出したかのように――

 

 

「 大変です! 『 やったか !? 』は大抵やってない… 生存フラグの一種です!

 高い確率で相手が生きてます!」

 

 

「 いわゆる戦場のジンクスってやつだわね… 」

 

 

 てゐまで何を言っているのか…

 

 

 光がおさまり、二人の姿が視界に入る。

 

 

「 なんなんだァ? 今のはァ?」

 

 

 そこには無傷のフェニックス――いや、胸にでっかい「 ぬ 」のキズが…

 

 

 なんかあり得ないキズができとる !?

 

 

「 コイツは礼だ!」

 

 

 怒んパッチの腕を掴んで人差し指と中指を立てて手首内側を「 バシッ !! 」と叩く。

 

 

 そんなんでダメージ喰らうか !?

 

 

「 ぐはぁぁぁぁぁっ !? 」

 

 

 全身に刀で切り裂かれたような斬り傷ができ――出血。倒れる。

 

 

「「 なんかスゴいダメージ喰らってるゥゥゥっ !? 」」

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 1話あたりの文字数が段々と減っています。
 読みやすく、わかりやすく… 私が更新しやすく。

 ここまで読んでくれてありがとうなのです。
 コメントとツッコミがあると助かるです。かしこ。

 


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決着?

 
 変身した怒んパッチは強かった。
 その力で天の助を解放。
 しかしフェニックスはコロセウムの力を使ってパワーアップ。
 しっぺを腕に喰らって身体中に刀傷をつけられて倒れる!




 

 

 全身につけられた刀傷のせいで出血。それに(ともな)い体力を消耗。

 その影響は早くも目に見えて現れる。

 (まと)っていた光が弱まりだしたのだ。

 それでもなお立ち上がろうと上半身を起こす怒んパッチ。

 喰らったのは「 しっぺ 」だけど…

 二本の指を立てて相手の腕を叩くあの「 しっぺ 」だけど…

 

 

「 いい加減、諦めたらどうだァ…?」

 

 

 対するフェニックスは不愉快そうに顔をしかめて敗北を催促する。

 

 

「 輝夜はなぁ… 」

 

 

 怒んパッチが片膝をつきながら立ち上がる。

 

 

「 赤ん坊のころから見てきたんだよ… 」

 

 

 うん。間違ってはいないけどね。

 正しくは薬品で幼児にまで戻されただけど。

 

 

「 そのせいか親心にも似た感情を(いだ)いている。

 それはキサマに倒されたボーボボと天の助も同じだ 」

 

 

 ボーボボはともかく天の助を上下真っ二つにしたのは怒んパッチ。

 

 

「 くっくっく… 天の助、一人殺ったぐらいでガタガタ抜かすなァ…

 お前も今すぐ潰してやるよ。あの妖怪のようになァ?」

 

 

 あんたらはそれでいいのか…?

 あと天の助は妖怪ではない。姿形は妖怪そのものだけど。

 

 

「 ん? 呼んだ?」

 

 

 (くだん)の人物はリングの下でバラバラになったボーボボを組み立てていた。

 

 

 ……復活しとる。

 

 

「 ちょっと天の助! 手助けしなくていいんですか !? 」

 

 

「 メリー… 俺だって力になれるならやるさ…

 だが瀕死の俺が今出ていったところで―― 」

 

 

 もくもくと作業を続ける天の助。

 

 

 ピンピンしているように見えますが…?

 

 

「 ――せいぜい味方の足を引っ張って邪魔をするのが関の山だ。

 そんな俺が怒んパッチのためにしてやれること――それは… 」

 

 

 どこからともなく寿司屋のカウンターのようなものを取り出すと――

 

 

「 寿司を握ることだ !! 」

 

 

 憤怒の形相で次々と寿司を握っていく。

 

 

 なんで…?

 

 

「「 くださいな~ 」」

 

 

 カウンター前に並ぶ人。人。人。

 観客相手に商売してるし…

 

 

「 お陰さまで立派なお店になりました♪ 」

 

 

 木造のお店ができあがっていた。

 

 

 この短時間で !?

 

 

「 ありがとよ。おかげで回復したぜ 」

 

 

 刀傷がキレイさっぱり消えている。

 

 

 どういう原理で !?

 

 

『 傷だらけのハズの怒んパッチ選手が回復しているんですが…?』

 

 

『 友情パワーというやつじゃな… 』

 

 

『 はぁ… 』

 

 

 どこかに目頭を熱くさせて感動させる要素でもあったのか涙をぼとぼと流して答える。

 その先代の帝の解答に投げやりな相づちを打つ天狗。

 この一連のやり取りを見ていれば首を傾げるのが普通でしょうね。

 

 

「 そして俺たちの友情パワーは(とど)まることを知らない!」

 

 

 両手を前に突き出すと紫色の(もや)のようなモノが集まりだし集束。黒い塊になる。

 その黒色の物体には崩れた人の顔が幾つも貼りついており口から声を発している。

 

 

『 …俺よりも…目立ちやがって… 羨ましい…けしからん… 』

 

 

 絶対、友情じゃない! 妬みとか負の感情だよ!

 

 

 そんなものがもう一つ。バラバラになったボーボボの近くにも漂っていた。

 

 

『 …怒んパッチ…殺すゥ… 怒んパッチ…殺す…コ、コロ…スゥゥゥっ… 』

 

 

 こっちは明からな殺意!

 

 

 触れれば体に害しか及ばさないような見た目のモノが解き放たれてリング上空に移動。

 雲のように漂い… 顔を生み出しては潰れ――絶えず形をイビツに変形させて(うごめ)く。

 

 

「 怒んパッチ! 俺たちの力の結晶だ! 受け取れぇぇぇぇぇっ !! 」

 

 

 二つの塊は黒い稲妻となりマットに突き刺ささって爆風を発生。リングを煙で覆い隠す。

 やがて煙が晴れると怒んパッチの足下には…

 

 

 二匹の黒くて細長い魚類がぬるぬるとマットの上で蠢いていた。それは――

 

 

 ウナギ !? 力の結晶がウナギ !?

 

 

「 いや、我輩は電気ウナギイヌですワンワン 」

 

 

 うち一匹にはウナギにはない四本の足が生えていた…

 

 

 なにこの生き物 !? ウナギなの !? 犬なの !? どっち !?

 

 

「 失礼なお嬢様ですワン。電気ウナギイヌは電気ウナギイヌなのですワンワン 」

 

 

 わかんないよ!

 

 

「 父がイヌで母が電気ウナギなのですワン。

 その間に生まれたのが我輩、電気ウナギイヌなのですワンワン 」

 

 

 スゴいなコイツ(ウナギイヌ)の両親…

 

 

 怒んパッチは二匹の首根っこを掴むと…

 左腕は右脇腹、右腕は右肩の後ろに回して二匹が背後で十字に交差するように構える。

 

 

「 ハハハッ。なんだァ? その構えはァ? 怒怒んパッチ・スラッシュ・クロスかァ?」

 

 

「 …その派生技だ 」

 

 

「 だったら打ってみろォっ!

 打てるものならばなァァァっ !? 」

 

 

 拳を――脚を――膝に――肘を交えつつ怒んパッチに振るわれる暴力。

 しかし、その全てを残像を残しながら紙一重に(かわ)していく。

 

 

『 怒んパッチ選手、構えたまま避ける! 避ける! 避ける!

 相手の隙を(うかが)っているのかっ !? 』

 

 

『 おそらくカウンターを狙っているのじゃろ…

 あの " 怒怒んパッチ・スラッシュ・クロス " ですら通じなかった相手じゃ

 最高のダメージを与えられる瞬間を待っているんじゃろ… 』

 

 

「 それだけではないな… 」

 

 

 黙って見ていたソルジャーが口を開く…

 

 

「 先ほどの力の結晶は… 悪意、敵意、殺意などの感情を形にしたもの…

 あれを携帯することは、すなわち常にその感情をその身に受けるということ。

 そしてヤツは怒りを力に変化させて強くなり進化する… 」

 

 

 

 

  " ヤツはカウンターのタイミングを待つと同時に己を強化し力を溜めている!"

 

 

 

 

 …とはいえ怒りによる強化は避け続けなければならない。

 フェニックスの剛力は先ほど証明されている。

 一発でも当たれば… ただでは済まない。

 それにこのコロセウムに仕掛けられている魔方陣がある限り相手は回復、強化する。

 

 

 一撃で相手を倒すほどのダメージでなければ…

 コロセウムの外ならば――魔方陣の外ならば…

 

 

 攻撃を(かわ)し続ける怒んパッチに変化が起きる。

 両手を起点に黄色い闘気で身体を覆ってその上に電気を纏わせたのだ。

 

 

 フェニックスの方は筋肉がさらに盛り上がりパワーこそ上がっているものの

 スピードは変わらず… むしろ落ちている。

 顔中に汗をかき、息を切らせて――

 

 

 …これは?

 

 

 フェニックスの変化にメリー、てゐも気づいていた。

 

 

「 そうか… 筋肉が肥大化した分、体重も増加してます。

 急激な体重の増加に、あれだけのスピードで戦えば疲労も溜まります。

 そしてコロセウムの結界は疲れまでは癒さないみたいですね 」

 

 

「 それにいくら人間以上に身体が頑丈でも…

 これだけの力を取り込んで無事でいられるわけがないし

 そもそも妖怪の力を人間が扱えるわけじゃないわね… 」

 

 

 それに対して怒んパッチは極力、体を動かさずに避けに徹して体力の消耗を避けている。

 

 

 疲労は判断を鈍らせ思考を曇らせる。

 コロセウムの特殊な結界はメリットがあると同時にデメリットを生み出していた。

 

 

 獣じみた咆哮を轟かせ空気を唸らせて右腕が振るわれる。

 大振りの右腕の一撃を相手の懐に潜り込みつつ踏み込んで接近。避ける。

 腰を落として、捻りを入れて、バットを振るように

 

 

 両手の黒い得物を縦横同時に振るわせて――

 

 

 

 

『 ご注文はウナギですか?

 

 

  はい、心がぬるぬるするんじゃァァァっ !! 』

 

 

 

 

 十字に交差させて切り裂き、フェニックスの体に黄色い闘気が十字に走り炸裂する !!

 

 

 ウナギで斬っちゃったよ !?

 

 

『 怒んパッチ選手、技の名前はともかく凄い威力です!』

 

 

『 やったか !? 』

 

 

『 お前はそのセリフを言わないと死ぬ病気でもかかっているのか !? 』

 

 

 突如ぶちギレた(あや)がゴングを片手にスグルに殴りかかり横でどつき合いを始める。

 

 

 胸からもうもうと煙を立ち上げて片膝をつくフェニックス。

 十字につけられたキズから血を流すものの見る間に塞がっていく…

 やはしキズは癒しても疲労までも回復しないようだ。そこへ――

 

 

「 この技はゼロ距離からエネルギーをぶつけさせるもので… 怒雷蜂( どらいばち )

 というんだがな… 」

 

 

 両手にはウナギは消えていて… 代わりに掌から黄色いエネルギー球が造り出されていた。

 その球体からは青白い電気が駆け回っている。

 

 

「 コイツはボーボボと天の助の力に電気ウナギの電力が合わさったモノでな

 さらにテメーは炭酸飲料で体を濡らしている… 」

 

 

 不純物を含んだ水は電気を通しやすくなる。

 

 

「 従来の怒雷蜂よりも威力は上になる。

 さしずめ名付けるとしたら―――― 」

 

 

 さらに踏み込んで近づく。

 二つのエネルギー球を相手に押しつけるように触れさせる。

 そこは怒んパッチが何度も攻撃した箇所。

 

 

 タケノコソード。怒怒んパッチ・ソード( 炭酸飲料水 )二匹のウナギ。

 

 

 …あれ? 字だけにするとまともな攻撃が一個もない…

 

 

 怒んパッチが吼える! 叫ぶ!

 

 

 

 

 『   超  絶  ・  怒  雷  蜂  !!!!  』

 

 

 

 

 黄色い閃光が徐々に大きくなり二人を飲み込んで、さらにリングを覆い隠してしまう。

 青白い雷電が飛び交い、その幾つかが天の助とビッグボディに直撃。痺れさせる。

 少し遅れて雷鳴が鳴り響き音という音を強引に消し去る。

 

 

 轟音が空気を押し出し衝撃波となり地震のようにコロセウムを揺らして天の助の店が崩壊。

 

 

「 俺の店がぁぁぁっ !? 」

 

 

 よほどショックだったのか吐血。糸が切れたかのように前のめりになって倒れる。

 

 

 やがて怒んパッチが生み出した雷球は弱まって(しぼ)んでいき

 激しい放電現象もおさまっていく…

 

 

 あとには片膝をついたまま全身を黒い煤にまみれたフェニックスと

 右拳を天に突き上げた白い首領パッチ…

 

 

 なにそのポーズ…?

 

 

 そして砂が崩れるように右拳から崩壊。

 マットに白い砂の山ができる。

 

 

「「 はいぃいぃいぃっ !? 」」

 

 




 

 (´・ω・)にゃもし。

 エアーシップQやってたスマン。
 あとモンハンに備えて一狩りしてた。

 コメントとツッコミあるとありがたいです。
 ここまで読んでくれて感謝です。



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輝夜! 妖怪たちと会う !? …の巻
事の発端は蓬莱の玉の枝


 
 『ご注文はウナギですか?
  はい、心がぬるぬるするんじゃァァァっ !!』
 『超絶・怒雷蜂』
 ボーボボ、天の助、二人の力と二つの大技で
 遂にフェニックスを倒した首領パッチ。
 しかし代償は大きく天に召されてしまった…



 

 

 怒雷蜂の威力の底上げと引き換えに文字通り全エネルギーを注ぎ込んだのだろう…

 白く燃え尽き…崩れた首領パッチ。

 

 超絶・怒雷蜂をまともに浴びたフェニックスもまた力尽きたのか…

 ゆっくりと倒れ…マットに沈む。

 

 リングの上で立っている者はいなくなった。

 

 

 この場合はどうなるのか…? と実況席の天狗の少女・(あや)に顔を向けると…

 

 

「 勝ちました… 」

 

 

 口の端から血を流しながら、こちらに親指を立てて見せる。

 その足元にはうつ伏せになって倒れている先代の帝・スグル。

 

 

「「 倒しとる !? 」」

 

 

「 引退して現役から退(しりぞ)いたとはいえ… スグルを倒すとは…

 あの娘、只者ではないな… 」

 

 

 ――なんてことを(のたま)うソルジャーさん。

 

 

 いやいや、あんたらの親玉が倒れているんですけど !?

 

 

「 それよりも、この場合はどうなるんですか…?」

 

 

 メリーは天狗の少女に訊ね…

 文は「 えーっと 」と上着のポケットから黒い手帳のような物を取り出して読み上げる。

 

 

「 " 30カウント内に立ち上がった者が勝者 " …と書いてありますね」

 

 

「「 天の助! 」」

 

 

 声をかけるよりも早く駆け寄り、リングに上がろうとするも――

 

 

「 あややや… 天の助選手はダメですね 」

 

 

 …は? 思わず間の抜けた声を出してしまう。

 

 

「 30カウント以上リングの外にいましたからね。

 参加資格とっくに失ってますね 」

 

 

 と懐から一枚の書類をこちらに向けて見せて一部分を指差す。

 

 そこには決闘に関するルールが事細かに書かれており…

 署名のところには関わった貴族たちと

 

 

 母母母ー母・母ー母母 

 悲劇のヒロイン、パチ美 

 ぬの使者

 

 

 見覚えのある筆跡で心当りのある名前が書かれていた。

 

 

「「 天の助ェェェ !? 」」

 

 

「 なぜわかった !? 」

 

 

 むしろなんでこれでバレないと思った !?

 

 

「 心配する必要はない… 」

 

 

 その声はリングの上から聞こえてきた。

 長身にアフロの後ろ姿。

 どうやらボーボボが復活したようだ。

 

 ただしアフロが黒くなって角のように尖った二本の髪を生やしており

 サングラスがビンの底のようなぐるぐるメガネに変わっている。

 

 

「「 微妙に違う!? 」」

 

 

「 俺の名は『W(ダブル)T(ツイン)マーク2セカンドβ(ベータ)改弐式』」

 

 

 2がいっぱい! というかこれもボーボボなの !?

 

 

「 …おれにはわかるぜ。お前ボーボボだろ…?」

 

 

 天の助が涙をぼとぼと流しながらリングの下から見上げている。

 「 ああ 」と返答して頷くボーボボ。

 

 

 リングの上にいるのがボーボボなら…下にある組み立て途中のは…?

 

 

「 待たせたな。俺がこうしてリングに立っている以上この決闘は… 」

 

 

  " 俺たちの勝ちだ!"

 

 

 拳を上に突き上げて勝利宣言をする。

 しかしそこへ水をさすように…

 

 

「 喜んでいるとこ悪いですが…

 ボーボボ選手はフェニックス選手に倒されてから10カウント経過していますので… 」

 

 

 申し訳なさそうに説明する文。

 それにてゐは反論、異議申し立てる。

 

 

「 残念だけどボーボボは倒れてたわけじゃないよ? ちょっとの間…

 " バラバラになってただけ "

 ――というわけでそのルールには適応されないよね?」

 

 

 その説明というか… 言い分もどうかと思うとこだが…

 

 

「 なるほど… それもそうですね… 」

 

 

 反論するかと思いきや、あっさりと受け入れられる。

 ただし一人を除いて…

 

 

「 ふざけるなっ! そんなもの認められるか!」

 

 

 全身を煤で真っ黒にしたフェニックス。

 ある程度、回復したようだが… その足下はふらふらしていておぼつかない。

 

 

「 そんな状態にも関わらず立ち上がるとはな…

 そこまでして『 月 』が欲しいのか?」

 

 

「 当然だ! お前たちだってそうだろうが !? 」

 

 

「 オレは『 月 』が目的でも『 不老不死 』のために戦っているのではない

 オレはオレの仲間のために戦っているにしかすぎない…

 お前はなぜそこまで『 月 』にこだわるのだね? 話してみたまえ 」

 

 

 ボーボボが大きい机とそこにあるゆったりとしたイスに腰かけて葉巻を吸い始める。

 

 

 何その態度 !?

 

 

「 …あれは 20年前のことだ 」

 

 

 フェニックスが過去について話始めたとき――

 

 

「 お前、回想に浸りすぎ―― !!!! 」

 

 

 アフロに青筋を立てながらフェニックスを右ストレートでおもいっくそ殴る。

 

 

「 ぶべらっ !? 」

 

 

「「 ええ――――っ !? 」」

 

 

「 だいたい話はわかった… 」

 

 

 まだなんも言ってなかったよね !?

 

 

「 いいだろう、お前の望んだ通りに今度こそケリをつけてやろう…

 喰らうがいい鼻毛真拳奥義ぃぃぃぃぃっ…!」

 

 

 両手は半開きに、身体は相手に対して側面を見せる半身の構え、

 鼻からは鞭のようにしならせた長い毛が数本。

 

 

「 違う! 俺が言いたいのは―――― 」

 

 

 声に耳を一切貸さず渾身の力を込めた右手を高速で突き上げて

 ――フェニックスは上空に打ち上げられる。

 

 

『 廬山昇龍波(ろざんしょうりゅうは) !! 』

 

 

 伸ばした鼻毛の意味は !?

 

 

 勢いを失い落下。リング――その外に頭から「 げふっ !?( 吐血 ) 」落ちる。

 

 

「 な、納得いかねぇ… 」

 

 

 ですよねー。

 

 

 それを最後に沈黙。気を失う。

 

 

「 天の助… 俺がいない間よくぞ持ち堪えた。

 この勝利はお前がいてこそ成し遂げたといっても過言ではない 」

 

 

「 あれ? 首領パッチは?」

 

 

「 そんなヤツは知らん 」

 

 

 いやいや、どう見ても首領パッチのおかげですよね…?

 

 

 なおもしつこく首領パッチについて追及する私たちに

 ボーボボが本音を漏らす。

 

 

「 やだい! やだい! 首領パッチが活躍したなんて認めたくないやい!」

 

 

 わんわん泣きながら地面に寝っ転がって手足をじたばたさせる。

 

 

 ただのワガママじゃん !? 

 

 

 そんな私たちのやり取りを横に文は血のついたゴングを打ち鳴らし試合終了を告げる。

 コロセウムが歓声に包まれて貴族たちの求婚争奪戦は幕を閉じた。

 

 

 リングの上での決闘に一応の決着がつき… 試合を見届けていた見物客が出ていく。

 今、コロセウム内には負傷者を含んでだが関係者だけが残った。

 その内の一人、ボーボボ( 戻った )は――

 

 

「 不本意だが首領パッチを復活させるか… 」

 

 

 さすがの首領パッチでも今回のダメージは大きかったのか自力では元に戻れず

 大きなタライに粉状の首領パッチと少量の水を入れてゆっくりたちが棒でかき混ぜている。

 ほのかな甘い香りが漂って鼻腔をくすぐる。

 

 

 何この復活方法?

 

 

「 時間かかるんですか?」

 

 

「 大丈夫だメリー。こんなこともあろうかと完成品を用意しておいた!」

 

 

 ――と首領パッチを置く。

 何事もなかったかのように「 やぁ♪ 」片手を上げて声をかけてくる。

 

 

「 コレの意味は !? 」

 

 

 ゆっくりたちがかけ混ぜているタライを指差すメリー。

 

 

「 特に意味はない 」

 

 

「 だったら―― 」

 

 

 「 ――するな… 」と続くのだろうがそのタライから白い煙が沸きだし地面を煙で充満。

 中から紫のローブを纏った、人ならず者が現れる。

 

 

『 りゅうおう が あらわれた 』

 

 

 なんか変なのが出た! そして何このメッセージウィンドウっぽいのは !?

 

 

「 ゆっくりたちがかき混ぜるときに使った棒の動きが

 りゅうおうを呼び出す印を結んだのだろう… 」

 

 

 天の助が冷や汗を垂らしながら件のりゅうおうを見つめる。すんごい偶然。

 りゅうおうが口をパクパクと開き――

 

 

『 わし の みかた に なれば

  せかい の はんぶん を おまえ に やろう 』

 

 

 セリフがメッセージウィンドウ !? そして、どう見てもワナ!

 それに対してボーボボたちの返答は――

 

 

  → はい 

 

 

 迷うことなく「 はい 」を選ぶな!

 

 

『 やみ に そまった

  せかい の はんぶん を な 』

 

 

 竜の頭を模した杖から黒色の霧が噴き出してコロセウム上空が暗黒の雲に覆われる。

 

 

「「 しまった わな か 」」

 

 

 ワナだって… あんたらも !?

 

 

「 今ならまだ間に合う! いくぞ首領パッチ! 天の助!」

 

 

 それぞれ剣士、魔法使い、僧侶の格好をした三人がりゅうおうとやらに挑みかかる。

 

 

 ……ハジケリスト戦闘中。

 

 

「 ボーボボたちが戦っている間に… こちらの方の決着もつけようかね?」

 

 

 ボーボボたちの戦闘を余所にソルジャーの目前。彼に視線を向けて、てゐが対峙する。

 

 

「 ね? 黒幕さん?」

 

 

 視線と視線が交差。沈黙。ボーボボたちの争う音だけが響く。

 身長差ゆえにどうしてもてゐが見上げる形になっているが…

 

 

「 黒幕って… あの貴族たちをけしかけたのが――この人なんですか…?」

 

 

「 …少なくとも根っこの部分で関わっているでしょうね 」

 

 

  " ――いや、黒幕はこの私だ "

 

 

 土を踏みしめる音を鳴らしながら近づくのは――

 

 

「「 先代の帝 !? 」」

 

 

 キン肉スグル。その人。

 天狗――(あや)にゴングで殴られたのか頭から出血しているが… 

 

 

「 なんでまたこんなことを…? 」

 

 

 (いぶか)しげるメリーにスグルは

 腕を組んだりアゴを擦ったりして「 どこから話せばいいのやら… 」

 …と悩みながらも彼は私たちの知っているモノの名を口にした。

 

 

「 事の発端はそちらが所持している『 蓬莱の玉の枝 』かな…?」

 

 

 私が持ってきた月の枝。

 首領パッチの穢れを吸って七色の玉が実ったモノ。

 

 

「 そちらのてゐ殿――白兎明神なら、ご存知だろう… 」

 

 

 蓬莱の玉の枝といい、てゐのことといい… いろいろと調べているようである。

 

 

「 月人が時折、地上の権力者に蓬莱の玉の枝を渡すことと… 」

 

 

 ――その後で蓬莱の玉の枝を求めて戦争が起こることをな…

 

 

「 …… !? 」

 

 

 さすがにそれには予想外だったのか驚くメリー。

 だが彼女を除く面々は知っていたのだろう顔色一つ変えていない。

 

 

 スグルは自分たちが調べたこと… その一部だろう――私たちのことを話始める。

 

 

 空からの落下物。続くド派手な戦闘。

 突如、現れた鉄の建造物。私――輝夜を含む、そこに住まう人外の住民。

 

 

「 ――そして、そこの建物から『 蓬莱の玉の枝 』の反応が強く出た。

 …となれば邪推したくもなるじゃろ?」

 

 

 確かに… 得体の知れない連中が戦争の引き金になるようなモノを持っている。

 統治者として調べるのは当然といえよう…

 

 

「 蓬莱の玉の枝は… 人の手に渡っていれば欲を突き動かし争いに駆り立てる。

 でもそれが人ではない――例えば、月の民ならば?」

 

 

「 戦争を未然に防げる――起きない、と…?」

 

 

「 実際、あんたたち貴族が現れるまで小さなイザコザはあっても…

 こんな争いにまでは発展していない 」

 

 

 山賊、海賊とけっこうド派手な戦闘を引き起こした気がしなくもないが…

 過去に貴族たちとやりあったことがないのも事実か…

 

 

「 それじゃあ… てゐさんは戦争を起こさないために接触してきた?

 あのとき手を貸す代わりに要塞を貰うってのは… ウソ? 建前?」

 

 

「 自分ちの近くに物騒なモノが落ちれば動かないわけにはいかないでしょ?

 要塞の話は本当。誰だってタダ働きはイヤでしょ? それに――

 ――見ず知らずの人間、妖怪を助けるお人好し。 

 ()()()()()接触したって過去に言わなかったけ?」

 

 

 そういえばそんなこともあったわねと… 過去を思い出す。

 

 

「 ウソは言っていないが… 全てを語っているわけでもない、な… 」

 

 

「 そして私たちがあなたたちに教えてやる義理も義務もないよね?」

 

 

 再び相対し静かになるソルジャーとてゐ。

 

 

「 ――かといって力づくではフェニックスたちの二の舞になるか… 」

 

 

 踵を返して後ろを見せる。

 去り行く背中にスグルが声をかける。

 

 

「 兄さん、いいのか?」

 

 

 兄さん? この二人は兄弟?

 

 

「 ああ、この者たちの人となりは知った。ここにいる必要はもうない。

 お前も理解しただろう。

 ここにいる連中は仲間のために動く者たちだ 」

 

 

 そのまま出口へと消えていき…

 

 

「 おぬしらには迷惑をかけた。すまぬ… 」

 

 

 頭を深く下げてスグルもソルジャーのあとを追った。

 

 

「 ……えーっと、このまま帰っていいんでしょうか…?」

 

 

「 んー、いいんじゃないの? アイツら私たちに仕事押しつけていったけど… 」

 

 

 仕事…?

 

 

 疑問に思った私たちにてゐが指差す。

 そこには紫色の鱗の巨大な竜と戦っているボーボボたち。

 

 

 変身しとる…

 

 

 しばらく観戦して眺めていると…

 何の前触れもなく、その竜の上空の空間が縦に裂けて… 穴が開く。

 穴の奥には無数の目玉が浮かび――穴の向こう側からこちらを覗きこむように見ていた。

 

 

 その穴から何者かが飛び出して舞い降りる。

 複数の尻尾を持った白と青を基調にした導師姿の女性。

 

 

 木の葉のようにゆったりした動きから一転。

 右足爪先を下にした蹴りによる急降下。

 上顎に突き刺さり「 …… !? 」声にならない悲鳴を上げて怯み、後ずさる。

 

 

 さらに上顎から後ろへバック転。

 地面に向かって降りていく…

 その手前。胴体部分でピタリと止まり、宙に浮く。

 

 

 手を(かざ)すように胴体にそっと置くと――

 圧縮された見えない力の塊が膨張。胴体が窪む。骨が砕く痛そうな音が耳に入る。

 

 

 白目を剥き、口から体液を垂れ流して… 後ろへ倒れ――

 その背後に巨大な裂け目が生まれ広がり巨大な穴ができあがる。そこへ落ちていく。

 巨大な竜を飲み込むと穴は塞がれて跡形もなく消える。

 

 

 あとには九本の尻尾を持った金髪の短髪の女性が残った。

 

 

 どうやら次のお客様が来たようだ。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 忘れがちだけど、これ東方Projectとボーボボのクロスなのよね。
 「ハーメルンのバイオリン弾き」みたいな
 シリアスとギャグを交ぜた作品を目指しているハズなんだが…

 あとタイトルに「東方かぐや姫」がつきました。
 元ネタはかぐや姫だし「竹取物語」だとピンとこない人いるので…

 コメントとツッコミがあると助かるです。
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。
 


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八雲を冠する妖怪たち

 
 粉状の首領パッチを復活させるための儀式で誤って「りゅうおう」を召喚。
 ボーボボたち三人は戦闘に突入した!

 そんな戦いを横目に輝夜たちは貴族たちをけしかけた人物が先代の帝と知る。
 その発端が「蓬莱の玉の枝」であり、素性を調べるための決闘であった。
 先代の帝たちは目的を達成すると、りゅうおうを彼女たちに押し付けて立ち去り
 そのりゅうおうは突如、現れた「九尾の狐」に倒されたのであった。



 

 

 ファンファーレの音楽とともにボーボボ達の頭上に “ LVUP ” の文字が出現。

 「やったー♪」と子供のように、はしゃぎ喜ぶ三人。

 例の如く黒いメッセージウインドウに白文字で文字が書かれていく――

 

 

  力を 失った。

 

 

 弱体化しとる !?

 

 

「「 あれれ―――― !? 」」

 

 

 予想外のことが書かれて思わず声を上げる三人。

 メッセージはそれだけではとどまらず――

 

 

  体力を 失った。

  知恵を 失った。

  信仰を 失った。

  素早さを 失った。

  運を 失った。

 

 

 途中、心が折れたのか全身を白く染め上げ、目は白く濁り、身体が灰の山と化す。

 そこに苔を生やして風化した三つの墓石が――

 「でれでれでれでれ、で~れっ♪」と呪われそうな音楽とともに立つ。

 

 

「「 ………… 」」

 

 

 誰からともなく墓石に合掌。目を閉じて黙る。

 

 

 場に残るのは私たち三人と件の狐の妖獣、妖狐。

 その中でも最高峰と呼ばれている九尾。

 それが目の前で両腕を袖の中に互い違いに入れて静かに佇んでいる。

 

 

 ボーボボたちの攻撃を受けて負傷していたとはいえ…

 あの「りゅうおう」を何の苦もなく打ち倒す――

 未知数だが、かなりの実力者だということは言うまでもない。

 

 

「相手の雰囲気に呑まれないように気をつけた方がいいよ。

 目の前で力を誇示して交渉を有利に運ぶのは強者の常套手段だからね?」

 

 

 てゐの忠告。私というよりもメリーに向けて言っているのだろうが…

 そのメリーがさっきから見ているのは――

 

 

「いえ、それよりも尻尾が気になるんですけど…」

 

 

 その視線は妖狐の背後に稲穂のように揺らめく尻尾に向けられていた。

 それはなんというか、もふもふしていた。後ろ姿だけ見ると毛玉。冬は暖かそうだ。

 その魔力にメリーはやられたのだろう…

 

 

「姫様、それ違うからね。魔力、関係ないからね?」

 

 

 てゐに効いていないのは狐を天敵の一つとしているウサギゆえだろう…

 

 

「試合前にも言ったけど、あの狐の後ろに強いのがいるからね?」

 

 

 噂をすれば、なんとやらか…

 空間に穴が穿(うが)たれ、奥から日傘をさした紫のドレスを着た女性が顕現(けんげん)

 妖狐が影のように後ろにつき従い(うやうや)しく頭を下げる。

 

 

「初めまして、月のお姫様。八雲紫(やくもゆかり)です。

 後ろにいるのは従者の八雲藍(やくもらん)よ」

 

 

 ――とスカートの一部を白手に包まれた指先で軽く摘まんで会釈する。

 随分といいタイミングで現れる。

 きっと、どこかで覗き見してたのだろう。

 

 

「初めまして妖怪さん? アルフレッド・ガーナソン・エルとその仲間よ」

 

 

 得たいの知れない者に馬鹿正直に名乗る必要もないと判断し、偽名を使う。

 相手の名前を使って呪う術が、この世にあると先生が言っていたし…

 

 

「輝夜、てゐ、メリー、ボーボボ、天の助、首領パッチと――」 

 

 

 前もって調べてたわけか…

 

 

「いや、そんな悔しそうに言われても困るんですが…」

 

 

「…というより試合中ずっと名前で呼び合ってたからね。

 むしろ知らない方がおかしいからね?」

 

 

 メリーとてゐが困ったような、呆れたような顔でこちらを見つめる。

 そういえばそうだった。

 

 

 …ん?

 

 

 あの三人は天狗――(あや)の実況で知ったとして…

 私を含む、てゐ、メリーの名はいつ知った?

 

 

 私はまだいい、ある意味騒動の大元。

 てゐは神格を持った妖怪、知る人は知る。…といったところだろう。

 

 

 でもメリーは…? 私たちのことをいつ知った?

 それに今頃出てくるのは、なぜ? 

 

 

 あの兄弟との会話を待って、りゅうおうが弱まるのを待って――

 いや、彼女たちが律儀に待つ必要は? 妖怪が? 理由は?

 

 

 目的はわからないが相手は九尾を従う存在。警戒を強める。

 てゐも無言で頷き、メリーは新たな人物の出現に緊張を高める。

 

 

 私たちの様子を見て彼女は愉しそうに口と目を弧に細めて――

 

 

「あの三人が復活するのを待ちましょうか?

 少々、話の通じない部分のある方たちですが――」

 

 

 あの三人は " 少々 " というレベルでは済まない気がする。

 

 

 ――会話を遮って「ボコッ」と土が盛り上がり墓の下から三人が這い出る。

 その隣には黒い衣服の額に一本角の鬼が一人。目付きがやたらと鋭い。

 

 

「困るんですよ、未来の住人がこの時代に死んでもらっちゃ…」

 

 

「「 すいません。以後、気を付けます 」」

 

 

 (こうべ)を垂れて謝る三人に、不機嫌そうに立ち去る鬼…

 メリーは口をひきつらせて…

 

 

「速攻で未来からやって来たのがバレたんですけど…?」

 

 

 そうだね。 

 

 

「ああ、悪い。ちょっと地獄に行ってた」

 

 

 私たちの心情なぞ関係なしにボーボボが言う。

 地獄って気楽に行けるような所だったかな…?

 

 

「おお、 " ゆかりん " じゃないか… こんな所で会うとはな」

 

 

 親しそうに八雲紫に声をかけ――

 彼女は片眉を上げてひそめ、従者の藍が身構える。 …ゆかりん?

 

 

「未来では私たちは親しい間柄なのかしら?」

 

 

 扇子で顔の半分を覆い隠し、ボーボボたちに冷たい視線を送る。

 ボーボボは「ああ、そうか」とポンと手を叩く。

 自分たちの知る彼女ではないことを理解したのか、短く簡潔に告げる。

 

 

「店主と客の間柄だ」

 

 

「――にしては " ゆかりん " というのは馴れ馴れしいと思いますが?」

 

 

「いろいろ説明したいのは山々なんだが、俺たちは未来から来たからな…」

 

 

 彼女は顎に手を当て、考えるような素振りをしばらく見せてから――

 

 

「知識を持てば、情報を得れば――未来が変わる。

 ゆえに " どこから、どこまで " 話していいものか、と…?」

 

 

 ボーボボは「ああ」と頷き…

 短い会話から推理し導いた――その結論に私は感心して感嘆の声を漏らす。

 今まで出会ったのが力業で解決するような連中ばっかのせいもあるが…

 

 

「何を今さらって感じもするんですけどね」

 

 

 メリーも同意見か、ポツリと漏らす。

 

 

「 " 鬼は嘘を嫌う " ――からして先ほどの鬼が口にした『未来の住人』

 その言葉が嘘偽りのないモノと判断できますが――

 ()()()()()()()()()()()()証拠はございませんよ?」

 

 

 それはそれはとても愉しそうに、嬉しそうに、面白いものを見つけた。

 そんな少女のような()()()()でボーボボに疑問をぶつけてきた。

 …なんとなくだが彼女の性格――その一部だが理解してきた。

 要するに暇なんだろう、ヘタをすれば単に話し相手が欲しかった()()の可能性もありうる。

 

 

「なぁ、ボーボボ… あれなら――写真なら証拠にならないか?」

 

 

 二人のやり取りを今まで黙って見てた天の助が助言を与える。

 「そういえば…」とアフロが開き、中から一枚の紙切れ――写真を取り出した。

 一同がボーボボを中心に集まり、覗きこむように写真を見入る。

 

 

 それは神社の庭、境内(けいだい)で宴会をしている光景。

 三人は勿論のこと、妖怪、天狗、鬼、さらに人間までが参加している。

 その中に紫と藍の姿があった。

 

 

 彼女の膝の上で黒髪に赤いリボンをつけたゆっくりと、

 頭に黄色いアフロを(かぶ)っている紫が写っている。

 

 

「間違いない、私だわ…」

 

 

 手を震わせ驚愕した表情で写真を見つめる。

 

 

 いや、その前に何でアフロ !?

 

 

「オレが売っている物のうちの一つだ。

 ちなみにゆかりんは他にも " ゆっくり霊夢 " を買っている」

 

 

 え、これも売り物(ゆっくり)だったの !?

 っていうか、ゆかりん未来で買うの !?

 

 

「30万円で売れました」

 

 

 たかっ !? 

 

 

 

「輝夜も未来で同じ値段で一体お買い上げになります」

 

 

 私も !?

 

 

「他に " 首領パッチの毛 " なんてのも扱っているぞ」

 

 

 心底いらない!

 

 

「え !? オレ、毛なんてあったけ !? 」

 

 

「あるぞ、ここに」

 

 

 首領パッチの胸の部分(たぶん)を、扉を開けるように開放させると

 中には長い毛がびっしりと生えたハート型の物体が心臓のように「ドクンドクン」と脈を打つ。

 

 

「あら、ヤダ! 私ったらムダ毛の処理を忘れるなんて!

 こんなんじゃヤッ君に会わす顔がないわ…」

 

 

 体の中からその物体を取り出してカミソリで毛を剃り始める。

 毎度のことながら、おかしな身体の作りをしている。

 

 

「まぁ、バカはほっといてだ。それなら十分信用に値するだろ?」

 

 

 バカって…

 

 

「ええ、後ろにある署名から私の力が残っているし… 間違いないわね」

 

 

 手にした写真をヒラヒラと動かす。

 その裏には「永遠の17歳 " ゆかりん " 」と書かれていた。

 

 

「未来への帰還ですが… そこまで気にする必要はないと思うわよ?」

 

 

 疑問に思った私たちに空間に穴を空けて、そこから一枚の金貨を取り出した。

 手のひらに金貨を乗せて――

 

 

「これが起点であり " 今 " であり、枝分かれする " 未来 " への分岐点の始まり…」

 

 

 それを指で(はじ)き、空中で回転する。

 

 

「地面に落ちるまで幾つもの分岐点が生まれる。でも…」

 

 

 金貨が地面に落ちて、乾いた音が響く。

 

 

「最終的には " 裏 " か " 表 " しかない」

 

 

「つまり分岐点は減る? ――ということですか?」と、メリー。

 

 

「余程のアホなことをしない限りは貴方たちがいた未来に辿り着けるでしょう。

 それまでは私の能力か、そこのお姫様の能力で " 時間凍結 " をすれば…」

 

 

 帰れる? 戻れる?

 

 

「なんかクマの冬眠みたいな方法だな」――とは、天の助の弁。

 

 

「妙な例えをするわね貴方、実際その通りだけれど。

 それでも確実とは言えないからやって来たときと同じ方法で戻るのが一番でしょう。

 今いるところが " 裏 " で貴方たちは " 表 " からやって来た可能性もありうるからね?」

 

 

 となると当初の予定通りメリーの「能力」を用いた方法での帰還になるか…

 

 

「あの迷いの竹林に発生した時空の穴をもう一度開くことが安全な方法といえるわ」

 

 

 メリーは自分の目を指差して、

 

 

「ですが私の目には、穴が塞がって見えるんですが?」

 

 

「穴が塞がっているのは何かしらの力が働いて閉じているのでしょう。

 もっともそれに関してはそこのウサギが「幸運」を用いて開けさせようとしていますが

 まだまだ足りないみたいのようね」

 

 

「いくら私でも、さすがに1300年先に続く穴を開けるのは簡単じゃないからね」

 

 

 「ふー、やれやれ」と肩をすくめて首を左右に振る。

 その彼女にメリーはぶつぶつと呟きながら――

 

 

「…『幸運』『奇跡』――てゐさん? もしかして、五つの神宝はそのための特価交換?」

 

 

「そゆこと、でもまだまだ足りないみたいけどね。

 でもいずれは成し遂げて見せるよ。私の名にかけてね?」

 

 

 因幡の白兎は「にしし」と口元に手を当てて笑いながら肯定する。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 ボーボボたちがいると話が進まなくなる可能性があるので、
 途中で退場させたりして話を進ませた。
 ゆかりんの説明に物凄く悩んだよ。
 
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。
 コメントとツッコミがあると助かるです。かしこ。


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身勝手な妖怪たち

 
 妖怪「八雲紫」と従者の九尾の狐「八雲藍」
 遠い未来ではボーボボたち三人の見知った顔でも、
 過去では初めて会う赤の他人――当然、警戒される。

 だが天の助の助言で一枚の写真を見せることで納得、
 彼女の口から聞かされる「今」「未来」「分岐点」の話。
 そして、てゐが語る今まで集めた五つの神宝の使い道。

 物語は進む。



 

 

 天の助がキョロキョロと辺りを(うかが)いながら――

 

 

「さっきから、おかしくないか?」

 

 

「なにを言っているんだ? 首領パッチの頭がおかしいのは元からだろ?」

 

 

 ボーボボ、あなたもです。

 

 

「それは知っている… って、そうじゃなくてだ。

 さっきから人の気配がしないんだよ」

 

 

 あれから結構、時間が経っている。

 誰も来ないことに違和感を感じ、誰しもが疑問に思い始める――二人を除いて…

 

 

「あら失礼、他の方々たちが参りますと不便ですので…

 人払いの結界を張らして頂きました」

 

 

 犯人はすぐ近く、あっさりと白状した。九尾を従える妖怪――八雲紫(やくもゆかり)

 とはいえ、一人ぐらいは結界を素通り、もしくは突破してきてもよさそうなのだが…

 私と同じことを考えたのか、メリーが彼女に質問する。

 

 

「でも、あれだけの人間と妖怪がいるのに気づかないってのは…

 何人かは気づきそうなものなんですけど…?」

 

 

「先代の帝と、顔見知りの鬼に頼みましたので

 あとは私よりも格下の集まり、気づかれることも侵入される心配もございません」

 

 

 退役したとはいえ元帝の権力は健在のようで…

 それに、鬼にケンカを売るような物好きはいない――と、

 だが私たちの予想を裏切って…

 

 

「なんかヘンテコなとこに迷いこんだです、ワンワン」

 

 

 ――電気ウナギと犬を両親に持つ、電気ウナギイヌが侵入していた。

 

 

「「 …………………… 」」

 

 

 やり場のない沈黙の後、彼の足下に穴が開き――そこへ落ちていく。

 「あれ――っ !? 」と声を反響させて、その場からいなくなる。

 彼女は表情一つ変えずに――

 

 

「…気づかれることも、侵入される心配もございません」

 

 

 なかったことにした !?

 

 

「――とはいえ、いつまでもここに留まっていては…

 不粋な輩が侵入する可能性も、無きにしも(あら)ず――ですので…」

 

 

 そう言うと、私たちの前方の空間に穴が空く。

 その向こう側には天に向かって伸びる青々とした竹の群生。

 奥には橙色の首領パッチを模した建物「無敵要塞ザイガス」と、和風の造りの「永遠亭」

 

 

「相変わらず移動に便利な能力だな」

 

 

「ああ、羨ましいぜ。この能力があればところてんを効率よく広められるのに…」

 

 

 ボーボボ、天の助が何の躊躇(ためら)いもなく穴の中へ入り、

 そのあとを「パチ美を置いてかないで~」と首領パッチが追いかける。

 残る私たちも若干の戸惑いを見せながらも穴の中へと侵入していく。

 

 

 空中にできた穴を(くぐ)り抜けると… そこは見慣れた竹林の森と、

 落とし穴の底で竹ヤりで串刺しになった三人の姿。

 

 

 なんか罠にかかっとる !?

 

 

 ボーボボが身体中を穴だらけにして、穴の底から這い出て――

 

 

「対つけもの用の罠を仕掛けていたのを忘れてた…」

 

 

 忘れるな、そんなもん。

 一般人がかかったら、どうするつもりなのやら…

 

 

「それよりも「対つけもの用」ってことに疑問に思いましょうよ…」

 

 

「メリー… それをいったら「罠」があること自体がおかしいからね?

 私ら因幡のウサギのナワバリだからね、ここ?

 ――というよりも何で許可もなく仕掛けたのさ !? 」

 

 

 幸い罠の場所は因幡たちが覚えていたので、

 彼女たちに罠の場所を教えてもらいながら進んでいく。

 

 

 道中三人がワナにかかるというトラブルがあったものの、

 目的地が目と鼻の先ということもあり、さほど時間もかからずに到着する。

 

 

 その無敵要塞ザイガス――その門扉の前で天の助が立ち止まり、何やら考え込むように、

 門をじっと見つめながら「うーん」と声を唸らせる。

 気になったボーボボが…

 

 

「どうした天の助?」

 

 

「イヤ、大したことではない…」

 

 

「もしかしたら私たちにとって重要な手掛かりになるかもしれないからね。

  一応、言ってみたらどうだい?」

 

 

 てゐに(さと)されて、

 「前々から思っていたんだがな」と前置きを置いてから真顔で応える。

 

 

「――『ただいマンボウ』って言葉はあるのに、

 『おかえり』の魔法の言葉がないのは何故だろうって思ってな…」

 

 

 本気で大したことなかった…

 

 

「言われてみれば、確かにないな…」

 

 

「これは『オレたちの手で作れ』という啓示かもしれんな…」

 

 

 そこに首領パッチ、ボーボボが加わって意見を述べ合う。

 熱く熱弁を奮う彼らを放置して、私たち女性三人は要塞の扉を(くぐ)る。

 

 

 三人…? 

 

 

 (ゆかり)(らん)、二人の八雲はどうしたのかと振り返る――が、そこには誰もおらず、

 目に映るのは竹でできた森林のみ。てゐも彼女たちがいないことに気づき、

 

 

「味方ではないけど、敵でもない。

 ――かといって、中立かと訊かれば… 首を傾げるざるえない。

 コウモリみたいなどっちつかずの連中が一番厄介なんだよね。

 おまけに空間と空間を繋げる能力をお持ちだ。

 覗き見、盗み聞きし放題。さらに捕まる心配もない」

 

 

「それじゃあ、どうしようもないじゃないですか…」

 

 

「そうさメリー『どうしようもない』から対策が立てない。

 対策を立てても相手に筒抜けじゃ、ほとんど意味を成さない。

 なら『対策を立てない対策』で対策をするのさ」

 

 

 まるで言葉遊びのような、意味のあるようで無いような会話。

 

 

「無駄な努力のために時間を無駄に使う必要はないからね、

 私たちに時間を使わせる。疑心暗鬼に陥らせる。

 それがやっこさんの目的であり、狙いの可能性もある」

 

 

「だから『対策を立てない対策』なんですか…」

 

 

「後手後手に回る悪手だけどね」

 

 

 要塞の中、その一角に建てられている首領パッチの形をした居住区に足を踏み入れる。

 

 

「随分と遅かったな」

 

 

 扉を開けた――その向こうで八雲藍(やくもらん)が待ち構えていた。

 何かの見間違い、幻覚、或いは幻影の類いの可能性を視野に入れて、

 私はそっと扉を閉めて… 大きく深呼吸。もう一度、開ける。

 

 

「気は済んだか?」

 

 

 扉を閉じる前と変わらず、そこに紫の従者の九尾の狐が立っていた。

 

 

 やっぱいる… ゆかりんの能力で侵入したのだろう。何しにここに来たんだ?

 

 

「紫様はあなた方に興味を抱き、近くで観察することにしたのだ」

 

 

「――したのだ、って近すぎの上に堂々しすぎですよ…」

 

 

「陰でコソコソすればいいのか、人間?」

 

 

 さすがに予想外だが、かといって力づくで追い返すわけにもいかず、

 そう言えば主人の紫は…?

 

 

「居間で布団を敷いて、お休みになられている」

 

 

 居間の奥――畳が敷き詰められている所で幸せそうな顔で寝ている。

 それはもう勝手知ったる他人の家と言わんばかりに一角を布団で占領していた。

 

 

「さすがボーボボさんの未来の知り合いだけのことはありますね…」

 

 

 メリー、それを言ったらここにいる全員がボーボボの知り合いになるからね?

 てゐは自分は無関係とばかりに明後日の方向を見ているが…

 その瞳が「自分はボーボボたちとは違う」と強く否定していることを主張している。

 

 

 ガチャッと扉が開く音。次いで複数の足音。

 

 

「「 ただいマンボウ 」」

 

 

 ボーボボたちが帰ってきた。頭には水色のマンボウの被り物を着用して…

 

 

「紫さんと藍さんが勝手に入ってきているんですが、いいんですか?」

 

 

「オレたちが被っているマンボウについては――」

 

 

「紫さんと藍さんが勝手に入ってきているんですが、いいんですか?」

 

 

 にべもなくボーボボの発言を切り捨てるメリー。

 精神的に強くなったというか、逞しくなったというか…

 

 

「用があるから入ってきたんだろう、未来でもこんな感じに神出鬼没だしな」

 

 

「でも今、居間ですぴすぴ寝ているんですが…」

 

 

「能力の使いすぎで寝ているんだろう、未来でもこんな感じだしな」

 

 

「そういうことで、くれぐれも紫様の睡眠の邪魔だけはしないように…」

 

 

 藍が私たちに釘を刺す。

 ここは私たちの拠点なんですが?

 

 

「――で何をやっているのだ…? お前たちは?」

 

 

 寝ている紫の周りにゆっくりたちを置いていくボーボボ。

 

 

「ああ、こうすると紫がゆっくりに襲われているように見えないか?」

 

 

 ――してどうする…

 

 

 紫に興味津々なのか周囲で「ゆーゆー」と小さく鳴くゆっくりたち。

 ゆっくりだけでなく二体の小さな羊に、二等身の犬耳を生やした銀髪メイド、

 人の身長ほどのでっかいトカゲなんてのもいる…

 

 

「「 トカゲ !? 」」

 

 

「紹介しよう『おかエリマキトカゲ』だ」

 

 

 なにそれ !? エリマキないんですけど !?

 

 

「ボーボボさん! それコモドオオトカゲです!

 人を襲うこともある危険なヤツですよ !?」

 

 

「心配性だなメリーは、大丈夫だ。問題ない」

 

 

 件のトカゲはいきなし二足歩行で立ち上がり天の助の背後に立つと――

 

 

『 いただきマンモス! 』

 

 

「 ぎゃぁぁぁっ !? 」

 

 

 天の助の左肩に咬みついてきた。

 ほら、いわんこっちゃない… と思ったら――

 

 

『 マズごぱぁっ !? 』

 

 

 血を吐き、後ろ向きにひっくり返り、泡を吹かせながら痙攣し始める。

 

 

「どうやら、オレの体のあまりの旨さに倒れたようだな…」

 

 

 喰い千切られた肩を押さえながら、荒い息を吐く。

 「マズごぱぁっ」って言ってましたよね。

 

 

「ところで夕食はどうする? お前たちが来るまえに作っておいたんだが…」

 

 

 他人の家の台所で何をしているんだか…

 りゅうおう出現から今の間に調理を終えるとは思えないし、

 おそらく、それ以前にやって来て料理をしていたのだろう。

 

 

 …ん?

 

 

 てゐの話だと試合前に観客席にいたみたいだが…

 ああ、空間を繋ぐ紫の能力で説明できるか…

 

 

「おお、さすが藍。できる女だ」

「少々早いが食事にするか」

「わーい。僕ぅ~、お腹ぺこぺこだよー」

 

 

 ボーボボ、天の助、首領パッチが席につき、藍が料理を運んでくる。

 眩い輝きを放つ、どこか神々しさを感じる肉の塊。

 

 

「ジュエルミートだ」

 

 

「「 なんかスゴい食材出た――――っ !? 」」

 

 

「それと台所にある「虹の実プリン」は紫様のために用意したものだ。

 くれぐれも口にしないように…」

 

 

「えーっと、藍さん…?」

 

 

「どうした人間?」

 

 

「その虹の実プリンがスゴい勢いで食べられているんですが…?」

 

 

 ――と指差す先には… 大人が両手を広げても尚、収まりきれない巨大なプリンと、

 それを手掴みで次々と口に運んでいく三人。頭上にはどういう原理か虹ができている。

 

 

「それは紫様のために用意したものだ――と言っただろうが !? 」

 

 

 彼女には珍しく声を荒げて、皿を掴み阻止するが――

 

 

「「 この実を待ち続けて10年! 渡してなるものか――っ !! 」」

 

 

 藍と同様に三人も皿を掴んで引っ張り合いを始める。

 このあと目覚めた紫に三人が痛い目に遭わされたのは… まぁ、いうまでもないか…

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 物語を加速させたい…
 東方キャラは出したいが、あんまし出すと物語が混乱する。
 文のようにゲスト出演として出そうかなと目論むが…
 1300年前いても不思議じゃないヤツって少ないね。

 個人的には八雲コンビは必須キャラ。
 さらにもう一人、あの方も出す予定。
 ――というか物語上、出さないとダメだわね。
 でも、その前にオリキャラの敵キャラと取り巻きのモヒカンを…

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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脅迫状と人質とウニ

 
 紫の能力で無敵要塞ザイガスに戻ってきた一同。
 中で待ち構えていたのは従者の藍と布団にくるまって寝ている紫。

 そして藍が夕食に出した品物がいったい何処で手に入れたのか
 「ジュエルミート」

 しかし、ボーボボたち三人は無視して紫のために用意してあった
 「虹の実プリン」を喰い始めて…



 

 

 拳大ほどの大きさに切り取られた虹の実プリン。

 三人に半分以上食われたが、大きさが大きさだけに結構な量が残っている。

 それが私たちの目の前、皿に乗せられた状態で置かれている。

 

 ちなみに三人は罰として首だけ出した状態で外に埋められている。

 もっとも首領パッチだけは首の位置がわからず土の中に埋められたが…

 

 

「口の中で味が変わる… 不思議な食べ物だね。

 長いこと生きてきたけど虹の実なんて見たことも聞いたこともないよ。

 いったい何処で手に入れたんだい?」

 

 

 てゐがスプーンをくわえたまま二人の妖怪――八雲紫、八雲藍に問う。

 彼女は短くボソッと――

 

 

「地球」

 

 

 期待はしていなかったが子供のよう回答に呆れた表情を彼女に向ける。

 私たちのその表情を見たかったのか、にんまりと笑い…

 

 

 ――ただし、平行世界のね…?

 

 

「「 …………………… 」」

 

 

 不覚にも彼女が何を言っているのか理解できずに思考が停止した。

 力を――能力を持っているとはいえ、一介の妖怪にそんなことが可能か?

 その話が本当ならば時間移動もできるのでは…?

 

 

「嘘だけど嘘じゃない。本当だけど本当じゃない…」

 

 

 てゐがテーブルの上に一冊の書物を置く――タイトル名は『トリコ』

 ボーボボたちの所有物の一つ。

 

 

「お前さんは能力を使って、この書物の中の世界に入り込んで…」

 

 

 パラパラと捲り、途中で止めて…

 開いたページをこちらに見えるように向ける。

 

 

「これらの食材を手に入れた…」

 

 

 本来、虹の実の一つが描かれた部分だろう…

 その箇所が白く塗り潰されて空白になっている。

 平行世界ねぇ… 

 

 

「――そのウサギの耳は飾りじゃないってわけね、

 要塞内にウサギがいないから油断してたわ…」

 

 

「そういうこと」

 

 

「いや、そう判断するのは早計というものだ」

 

 

 いつの間に穴から抜け出したのか、ボーボボたち三人が――

 その手には一冊の書物…『桃太郎』 記憶が確かならば物語の最後に財宝を手にする昔話。

 

 

「「 オレたちをこの本の中に送り込んで確かめる必要がある !! 」」

 

 

 ないよ!

 

 

 紫は無言で能力を使用――三人の足下に穴が開き、そこへ落ちる――

 …と思ったら、間を置かずに天井付近に穴が開いて三人が床に落下。

 

 

 二人は両手の松葉杖で体を支え、天の助は車イスに乗っており

 全員が全身をミイラのように包帯でくるまれた格好で戻ってきた。

 

 

  ボーボボ  HP 1

  首領パッチ HP 1  

  天の助   HP 0.5

 

 

 死にかけているぅ―― !!!?

 

 

「「 猿、犬、雉… つえぇ―… 」」

 

 

 しかも強奪しょうとしてた !?

 

 

「猿、犬、雉といっても " 鬼 " を退治してますから…

 負けてもしょうがないと思いますよ?」

 

 

 メリーが三人を弁護し、そのあと紫が…

 

 

「世界に(ことわり)があるように、本の中にも絶対に変えられない筋書きというものがある。

 そう、例えば――桃太郎は桃から生まれる。鬼は退治される。――感じにね…

 自分の都合で世界を書き換えようものなら… 当然、反撃されるに決まっているわ。

 自分たちの世界を守るために、本そのものの意志が異物を排除しようと動く…」

 

 

 逆に排除されない程度なら、自由に動ける。

 紫か藍、もしくは二人が自由に動ける範囲内で手に入れたと――でも…

 

 

「――なんだって、こんなことを?」

 

 

「人間… 未来において妖怪たちはどうなっている?」

 

 

「それは…」

 

 

 言葉に詰まり、言い淀む――それはつまり…

 

 

「貴女を見る限り、妖怪たちの未来は明るくないでしょうねぇ…

 故に私が動くのです。より良き未来のために…」

 

 

 胡散臭い。

 彼女の言っていることは立派なのだが… 理解できるのだが…

 どこか信用できない部分がある。

 

 

「まー、そんなことより " ゆかりんパワー " で元の時代に戻せないのか?」

 

 

「そんなことって、貴方… まぁ、結論からいうと不可能ね」

 

 

 ゆかりんパワーという名称に指摘しなくていいのか、ゆかりん…?

 

 

「くっ、思った以上にゆかりんパワーを消費したわね…

 悪いけど少し休ませてもらうわ…」

 

 

 布団に入り、横になる。

 しばらくして「zzz」という文字が頭上で浮かべては消える。

 意外と余裕があるな彼女。

 

 

「ゆかりんパワーを否定しませんでしたね、彼女」

 

 

 そうだね、メリー。

 

 

 再度、彼女の周辺にゆっくりたちを置いていくボーボボたち…

 その中になぜか藍の姿も…

 

 

「ん? ああ、こうすると紫様がいつもより回復が早まるのでな…」

 

 

 え? なにそれ? もしかして、癒し効果でもあるの?

 驚きの真実である。私もいずれ試してみるか…

 

 

「おーい、見ろよ皆! すっげぇデッカイゆっくりがいたぜ!」

 

 

 首領パッチが私たちに呼び掛け、彼に視線が注がれる。

 彼が手に持っているのは体育座りして膝を抱えたモヒカン。

 ゆっくりたちの鳴き真似だろうか「ゆー、ゆー」と鳴いていた。

 

 

「「 それ、モヒカン! 」」

 

 

「おお、スゴいな」

 

 

 ボーボボがモヒカンを受け取り、同じように置いていくと…

 そのモヒカンは布団を捲って、紫の隣で添い寝を始めた。

 

 

「「 …………………… 」」

 

 

 いきなしの行動に呆気に取られる藍を含む私たち女性陣。

 

 

「ええい、このモヒカン! 紫様から離れんか!」

 

 

 布団を捲って乱暴に蹴飛ばす。

 蹴飛ばされて顔面から床に「ぶべらっ !?」と突っ込む。

 

 

「くっくっく… さすが九尾の狐、俺様の変装を見破るとな」

 

 

 地味に痛かったのか… 目の端に涙を浮かべつつ、手で鼻を抑えるものの

 その隙間から鼻血がポタポタと垂れ落ちる。

 

 

「まさか、ゆっくりに化けて侵入してくるとはな…」

 

 

「ちぃっ… 俺が手に持ったときに気づいていれば、どうする? ボーボボ?」

 

 

 どこをどう見たら、コレがゆっくりに見える?

 

 

「まあ待て、俺は手紙を届けに来ただけだ。争う気は毛頭ない」

 

 

 身構える三人に待ったをかけて、懐からピンクの封筒を取り出し首領パッチに手渡す。

 それには丸っこい文字で「迷いの竹林に住んでいる皆様へ」と書かれていた。

 

 

「モヒカンのくせに随分と可愛らしいモノを使っているじゃねぇか――」

 

 

 デフォルトされたクマのシールを剥がして逆さにして振ると…

 鋭いトゲを生やした黒い物体が三つ、首領パッチの手のひらに落ちて――――刺さる。

 

 

「 ウニがァァァっ !? 」

 

 

 薄い封筒のどこに入っていたのか、黒い物体の正体は「ウニ」だった。

 

 

「テメー、よくもこの首領パッチ様に味な真似をしてくれるじゃねぇかァ !?

 ウニ・テニスの的にすっぞ、こらァっ !? 」

 

 

「ひいいぃぃっ !? オレじゃねぇよ! オレはただ渡してこいと言われただけで…」

 

 

 血塗れの手で胸ぐらを掴まれ、モヒカンは慌てて言い訳をする。

 ウニ・テニスって何だろう… まあ、だいたい想像つくが…

 なんというかスゴく痛そう…

 

 

「嫌がらせと決めつけるのは、まだ早いぞ首領パッチ」

 

 

「このウニ旨いぞ?」

 

 

 天の助とボーボボがウニを割って食べていた…

 

 

 ウニ、食っとる…

 

 

「あっ !? ズルいぞ! オレにも食わせろよ!」

 

 

 二人はラケットを握りしめ、ウニを真上に高く放り投げて… 

 落下したところをラケットで、

 

 

 打った。

 

 

「「 ダブル・ウニ・ショット !!!! 」」

 

 

 二つのウニが首領パッチの顔面に突き刺さり、

 

 

「 ギャァァァァァっ !!!? 」

 

 

 さらに次々とウニを打ち込んでいく二人。明らかに食べた数よりも多い。

 力尽き倒れた首領パッチの背にボーボボと天の助が蔑むように眺めて言葉を吐き捨てる。

 

 

「ウニがウニを食おうとしてんじゃねぇよ」

 

 

「ウニはウニらしく、ウニウニしてな… けっ」

 

 

 意味わからん。

 

 

「ウニ以外にも手紙が入ってますよ? これ」

 

 

 メリーが手にしているのは三つ折りにされた薄いピンクの便箋が一枚。

 それを読み上げていく…………

 

 

 

 

 『 拝啓、迷いの竹林の皆様へ御元気でしょうか…?

   此方は隣の国の山賊集団「マッチョが売りの少女」です。

 

 

   此の度、私達は不愉快に思われるでしょうが誠に勝手ながら

   あなた方の知己を人質として誘拐し監禁させて頂きました。

 

 

   御手数ですが解放を御所望ならば、御足労ですが私達の指定する場所へ

   あなた達の仲間と御同伴の上、足を運んで頂くと幸いです。

   その際にはこちらが用意した乗り物をご利用してみてはいかがでしょうか?

 

 

   追伸。一緒に送ったウニは皆さんでお分けください。 』

 

 

 

 

 えーっと… 要は「人質を取った。来い」ってことでいいのかな…?

 ツッコミどころが満載なんですが…

 

 

「山賊集団に珍しく礼儀正しいな… なぁ、ボーボボ?」

 

 

「そうだな天の助。これなら誘拐、監禁も許したくなるな…」

 

 

「「 許すな、許すな 」」

 

 

 手をパタパタと振って拒否を促す私たち。

 ふと気づいたてゐがモヒカンに尋ねる。

 

 

「ところで人質って誰のことなんだい?」

 

 

「いえ、自分はフリーのモヒカンなので詳しいことは何も…」

 

 

 返ってきた返答は期待したものではなかったが…

 フリーのモヒカンって… なに? 

 

 

「流れの何でも屋みたいなもんッス。

 今回は手紙を渡すだけでいい、って仲介人に言われたので…」

 

 

「仲介人ってことは、依頼人の顔は…?」

 

 

「ええ、仕事の斡旋所の決まり事なんで… 見てないッス」

 

 

「ちなみに依頼人から何を貰ったんだい?」

 

 

 彼の荷物が入ったリュックなのだろう、中から…

 細長い抱き枕と、等身大の人形を取り出す。

 どちらも見覚えのある人物が元になっている。

 

 

「ちょっとキワドイてゐちゃん抱き枕と等身大てゐちゃん人形ッス」

 

 

 モヒカンは物凄く真剣な表情で答えた。

 

 

「奈落の底へ捨ててしまえ」

 

 

 突如、開いた穴へ蹴落とされた。

 

 

「オレの宝が――――――――っ !!!?」

 

 

 よほど大事な物だったのだろう…

 何の躊躇いもなく後を追って穴に飛び込み――宝とともに消え去り、

 穴は小さくなっていき… 跡形もなく消え去った

 

 

「ところでボーボボさん?」

 

 

「どうしたメリー?」

 

 

「人質どうしましょうか?」

 

 

 「ふむ」と短く頷くと窓の外へと目を向ける。

 日が沈んで真っ暗になっていた。

 

 

「今日はもう遅いから明日にしよう」

 

 

 非情なことを(のたま)った。

 

 

「ああ、よかった。今から行く――って言ったらどうしようかなと思ってたんですよー」

 

 

 薄情にもメリーは賛同した。

 

 

「それじゃ明日のために早めに休もうかね、姫様?」

 

 

「そだね」

 

 

 そして私たちも同意し、夜がふけていく…

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 思った以上に早く仕上がったので連日投稿。

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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ニンジャ=ゲッコウ

 
 ゆかりんパワーを大量に消費して、その反動で眠ってしまった紫。

 ゆっくり妖怪に化けたモヒカンの侵入。
 そして、モヒカンが持ってきた封筒と手紙とウニ。

 そこに書かれていた「人質」の文字。

 だが夜で真っ暗になってたので、救出は明日にすることになった。
 


 

 

 ――翌朝。

 

 

 二階の自室から一階の居間に降りると、すでに藍が朝食の支度を整えていた。

 テーブルの上に置かれている料理がほのかに湯気を立て、香りが漂ってくる。

 

 

 さすが藍、ボーボボが " できる女 " と評価するのも頷くというもの。

 もっとも紫は未だに居間の一角で布団にくるまってスピスピ眠っているが…

 ついでに布団の上と周辺にゆっくりたちがたむろしていたりする。

 

 

 コイツはもしかしてダメ人間ならぬ、ダメ妖怪なのでは…?

 

 

 そんなことを思いつつ席につく。少し遅れて私以外の面々も食卓について――

 昨日のモヒカンと脅迫状に書かれていた人質の事が話題になる。

 

 

「十中八九、ワナだろうね。でも私たちは行かざるを得ない。人質がいるからね?」

 

 

 てゐの言葉に静かに耳を立てる私たち。

 

 

「今朝、配下の因幡たちが竹林の外で鉄でできた乗り物らしい物を見つけてきたよ。

 それが連中のいう乗り物で犯人の元に辿り着く唯一の手掛かり…」

 

 

 鉄でできた乗り物… 現在の地上の文明では作れるとは思えない。

 過去の遺物か未来の技術か、それとも月の忘れ物か…

 

 

「ただの山賊にこんな物を用意できるとは思えない。

 そんな連中が私たちの事を調査しないとは考えられない。

 おそらく対抗手段の幾つかが――ヤツらの指定する場所で用意されてる」

 

 

「上等だ。ワナだろうが多次元宇宙だろうが何だろうが

 それらを乗り越え突破するのが俺たちボーボボ団だ! おかわりっ!」

 

 

「ん? ああ…」

 

 

 ――と激を入れ、藍にご飯を要求するボーボボ。

 

 

 いつからボーボボ団になったんだろう…

 たぶん今思いついて言ってみたかっただけ。

 

 

 【少女食事中】

 

 

 全員が食事を終えても紫は未だに寝ていた。

 首領パッチが紫を叩き起こそうとしたが、藍の手刀で縦に二つに裂かれて断念。

 八雲の二人は要塞に残しておくことになった。

 

 

「さて行くか…」

 

 

 白く足元まで伸びたカツラを被り、金と黒の派手な衣装を纏った三人が扉をくぐる。

 メリーはその衣装を知っているのか…

 

 

「なぜに歌舞伎の格好…?」

 

 

 私たちは因幡たちの誘導の下、誘拐犯の用意した乗り物へと向かう。

 道中「暑い、動きづらい」と言って脱ぎ捨てた。なら何故、着た…

 

 

 【少女移動中】

 

 

「――で、これが例の乗り物ね… 随分と物々しいね…」

 

 

 てゐがポツリと漏らす。

 彼女の前にあるのは窓のない車体に、左右合計八つのタイヤがある乗り物。

 迷彩色のボディが竹林の緑に溶け込んで風景の一部と化している。

 素人目にもこれが軍用目的に作られた物なのは目に見てわかる。

 ボーボボ曰く「装甲車」

 

 

『 くっくっく… 』

 

 

 その装甲車から機械による音声――含み笑いが流れてきた。

 ボーボボが両隣にいる首領パッチ、天の助に視線で合図を送り――二人が頷き…

 いったいどこから用意したのか、テーブルの上にあるカレーを一口食べると――

 

 

「「 このカレーはカレー 」」

 

 

 私たちの間に流れる沈黙。

 

 

『 くっくっく… 』

 

 

 だが、装甲車からの含み笑いは絶えず続いていた。

 それが心の琴線に触れたのか、むせるように泣きながら…

 

 

「「 ううっ、俺たちのギャグが大ウケ… 」」

 

 

「「 ――んなわけ、あるか !! 」」

 

 

 三人の場違いな言動と行動に私とてゐが声をハモらせ…

 

 

「 そうですよ! カレーが日本に伝わったのはもっと先ですよ !? 」

 

 

 メリー、それも違う!

 

 

『 くっくっく… あーっはっはっはっは――、く、くるしいぃぃぃっ… 』

 

 

 マジかっ !?

 

 

 しばらく笑い続けたが、それもやがて収まって…

 

 

『 お前ら、いくらなんでも遅すぎだぞ 』

 

 

 すいません。

 

 

「悪いな " カツオ神教 " の教えで夕方以降の人質救出は堅く禁じられているんでね」

 

 

 ボーボボがすぐバレるようなウソをついた。

 

 

『 ああ、あのスケボーに乗った変なのか… それなら仕方がないな 』

 

 

 バレなかった !? しかも知ってる !?

 

 

『 早速で悪いがその装甲車に乗って、俺の指示に従ってもらおう。

  運転できないと言わせんぞ。

  お前たちはあのおかしな乗り物で移動していたんだからな? 』

 

 

 おかしな乗り物――首領パッチカーのことか、五つの神宝を探していたときの…

 

 

「おかしな乗り物って… 首領パッチカーのことかァ――――っ !?」

 

 

 自分の所有している乗り物がそのような呼ばれ方されているのが気に入らないのか

 怒りを露に叫ぶ首領パッチ。

 

 

「おかしいだろ?」

「ぬの車にすべきだった」

「物凄く目立って恥ずかしかったですよ」

「外見さえ気にしなければ、私はいいと思うけどね」

 

 

「 ちっきっしょ――――っ !!!! 」

 

 

 やり場のない怒りを大空に向かって声にして叫んだ。

 首領パッチに賛同する味方はいないようである。

 

 

 上部にあるハッチを開けて装甲車の内部へと入っていく。

 中は広く作られており全員が入っても尚、空間が余る。

 

 

『 全員、乗ったようだな 』

 

 

 どこかに仕掛けられている機械でこちらを見ているのだろうか車内にあの声が響く。

 

 

『 まずは真っ直ぐ進め… 』

 

 

 ボーボボが運転席に座り、ハンドルを握りしめ発進させる。

 道なき道を進むと街道に出て――

 

 

『 右に曲がれ… 』

 

 

 すぐに次の指示が出され、言う通りに街道を右折。

 やがて川が見える。

 

 

『 川を渡れ… 』

 

 

 水しぶきを盛大に上げながら川を横切っていく。

 その先には水害を防ぐために土を積み上げて築いた斜面、土手が…

 

 

『 空を飛べ… 』

 

 

 アクセル全開、ノンブレーキで斜面を駆け抜けていき――

 頂上を乗り越え――装甲車が宙に舞う…

 

 

『 冗談だ… 』

 

 

 装甲車が空を飛べるわけもなく車体の前面から地面に激突、砂塵が舞う。

 

 

「 おのれ! 言う通りにしたというのに! 」

 

 

 激突の際、頭を強く打ったのかダラダラと血を流している。

 

 

「「 言う通りにすな! 」」

 

 

 憤慨するボーボボに私たちがツッコム。

 今度は慎重に装甲車を運転。辿り着いた場所は…

 寂れて捨てられた廃村。元は身分のある人間が住んでいたであろう屋敷。

 そこが誘拐犯の指定した場所だった。

 

 

「いかにも罠があるぞ… といわんばかりだな、気をつけて進むぞ」

 

 

 ボーボボの警告に一同、黙って頷く。

 装甲車から降りると一人のモヒカンが待ち構えていたのか近寄ってくる。

 

 

 「へっへっへ… 待っていたぜ、ここから先はこの俺――田吾作が案内するぜ」

 

 

 見た目と名前が一致してない。

 

 

「本来なら、お宅んとこに手紙を渡したアルベルトの役目だったんだけど、

 どうやらアンタらの怒りを買ったみたいだな…」

 

 

 え !? あの変態そんな名前だったの !?

 

 

 モヒカン――田吾作の案内の下、移動する私たち…

 屋敷の中に入るかと思いきや… 建物の横を抜けていき裏にある雑木林へと入っていく。

 それに首領パッチが不満をぶつける。

 

 

「おいおい? どれくらい俺たちを歩かせる気なんだ?

 こっちはテメーらに付き合うほど暇じゃねぇんだぞ?」

 

 

「すぐそこだ。俺は依頼を受けただけで、あとは知らん。

 文句なら依頼人に直接言ってくれ――」

 

 

 田吾作の言葉を遮って木々の合間を横に回転しながら飛来する影が一つ。

 鋭利な刃を四つ合わせてできた一つの凶器が私たちに向かって飛び込んでくる。

 

 

 ――――手裏剣 !?

 

 

「え? おれ…?」

 

 

 手裏剣の狙いは――――私たちではなく田吾作、

 いわゆる口封じというやつか…

 

 

「「 危ない !! 」」

 

 

 そうはさせまいと三人が体を張って盾になり、その身で凶器を受け止めた。

 

 

「「 ぐわァァァ――っ !!!! 」」

 

 

 その体には、複数の手裏剣、刀、針、鋼鉄の拳、鉤爪のついた手甲、柄の部分が捻れた二又の槍

 等々が三人の体に突き刺さっていた。

 

 

 なんかいろんなモノが刺さってるゥ―― !?

 

 

『安心せい、峰打ちでゴザル』

 

 

 前方頭上から、ややくぐもった男の声が聞こえてきた。

 白い忍者衣装に白い面頬で顔半分を隠した全身を白で固めた男が、

 どういう原理か逆さまで木の幹に腕を組んで立っている。

 その目は鋭く研ぎ澄ました刃物を彷彿させる。

 

 

 でも「カレーはカレー」で爆笑してたんだよね、この人。

 

 

「「 なーんだ 」」

 

 

 男の言葉に安心し安堵の息を漏らし、額を拭うボーボボたち。

 

 

 どう見ても致命傷ですけどぉぉぉ !? それに峰打ちじゃない!

 

 

 田吾作が自分を(あや)めようとしたその忍者に青ざめた表情で問い詰める。

 

 

「どういうことだ !? てゐちゃん着せ替え人形くれるから依頼を受けたのに!」

 

 

 お前もか! 

 

 

『秘密を知った者が口封じで殺される… よくあることだろ?

 貴様もフリーのモヒカンをしているならば覚悟をしていた筈だ』

 

 

 悪びれもせずに言い放ち、木の幹から離れて一回転――地上に降り立つ。

 私たちに向かって手を合わせて軽く頭を下げる――――

 

 

『ハジメマシテ、ボーボボ=サン。

 コペルニクス=スティーブン

 ゲルガッチャ=ニコス=ヴィル

 メイ=トロウ=ジャクソン三世です』

 

  

 名前、長っ !!

 

 

『言いにくいのであれば――「ニンジャ=ゲッコウ」…とお呼びください』

 

 

 名前のどこに月光の要素があったの !?

 

 

 ニンジャ=ゲッコウと同じく手を合わせてお辞儀をするボーボボ。

 

 

「これはご丁寧に、ハジメマシテ、

 コペルニクス=スティーブン

 ゲルガッチャ=ニコス=ヴィル

 メイ=トロウ=ジャクソン三世さん。

 ボボボーボ・ボーボボです」

 

 

 一回で覚えてる !? スゴっ!

 

 

 

 

   君はこの光景を見て異様と感じた事だろうが…

   ニンジャのイクサにおいてアイサツは絶対の礼儀だ。

   どんなに憎しみがあろうとも絶対に欠かしてはならない。

   だがアイサツ前のアンブッシュ(奇襲攻撃)は一度だけ認められる。

   古事記にもそう書いてある。

  

 

 

 

「――とこんな感じでどうだ?」

 

 

「最高だ、さすが天の助… お前のその才能に畏怖すら抱くぜ」

 

 

「よせよ首領パッチ、お前らしくないぜ」

 

 

 天の助が書いたであろう原稿を受け取った首領パッチが身震いする。

 

 

 やっぱしお前らの仕業か!

 

 

「お前一人で俺たちとやり合うつもりか…?」

 

 

 問うボーボボにゲッコウは懐から紅白二色のボールを取り出すと…

 

 

『お前たちとは「闇のゲーム」で挑ませてもらう…』

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 月の使者まで、もうちょっとなった。週一でガンバる。

 ここまで読んでくれて、ありがとうなのです。


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闇のゲームとポケモンバトル(自称)

 
 誘拐犯の指示で辿り着いた場所で待っていたのは
 白ずくめのニンジャ=ゲッコウ。
 彼はボーボボたちに「闇のゲーム」による決闘を望んでいた。



 

 

 上半分が赤で下半分が白の手のひらサイズのボール。名称は「モンスターボール」

 ボーボボが持っているモノと同じモノをそのニンジャ=ゲッコウは持っていた。

 

 

「キサマ、トレーナーだったのか…

 『闇のゲーム』と言われて「はい」と答えるとでも思っているのか?」

 

 

「忘れたか? 人質がいることを――」

 

 

 対決に応じないボーボボにゲッコウは懐から巻物を取り出し広げる。

 そこには「人質」と縦に書かれた大きな文字が二つ。

 

 

 片手で印を結んで「解」と唱えると『ポンっ』と軽い音とともに煙が発生、

 煙が晴れると――

 

 

「やっくん !?」

 

 

 縄で胴をぐるぐる巻きにされた首領パッチが愛用している不気味な人形。

 

 

『首領パッチぃぃぃ… ころすゥゥゥゥゥ…』

 

 

 なんか危険なこと口走っている !? しかも怒りの矛先が所有者 !?

 いや、それ以前に自我が芽生えてる !?

 

 

「ときどき、派手に壊れるからな… それで恨んでいるのかもしれんな」

 

 

「危害をくわえられる可能性があるから、ほっとくか…?」

 

 

 天の助が冷静に分析し、ボーボボが提案を上げる。

 無論その意見に首領パッチが賛成するハズがなく…

 

 

「そんなこと言わないで助け――」

 

 

 やっくんに背中を見せた瞬間――

 

 

『 やっくん・ビィィィィィム !!!! 』

 

 

「 ぎゃぁぁぁぁぁっ !? 」

 

 

 背後から撃たれて、細い紫色の光線が首領パッチの体を貫く。

 血を吐き、倒れる――寸前に『ダンっ!』と地面を強く蹴ると、姿が掻き消える。

 人の目には認識できない高速による移動。

 

 

「 いってぇぇぇな――――! 何すんだテメー !? 」

 

 

 やっくんのすぐ真横で再び現れて――――

 

 

『 奥義「しみったれブルース」 !! 』

 

 

 不気味な人形に乱打を浴びせて空へと吹き飛ばす。

 青い空へと飛んでいく人形を見送るとゲッコウの方へ振り向き、憎しみのこもった目で…

 

 

「よくもやっくんを…」

 

 

『俺はなんもしとらん』

 

 

 次に二つ目の文字を解放、二人目の人質が現れる。

 そこには子供ほどの大きさの鯉が同じように縄で拘束されていた。

 

 

「皆さん… 私のこと忘れてませんでした?」

 

 

 空を飛び、人語を操る不可思議な鯉――ヴォルガノスがそこにいた。

 

 

「「 すいません、忘れていました… 」」

 

 

 全員がでっかい鯉に頭を下げる。

 

 

『くっくっく、これでも同じことが言えるのか…?』

 

 

「 キサマっ! よくも俺たちの非常食を! 」 

 

 

 えっ? あれ非常食だったの !?

 

 

「――皆さん…」

 

 

 腹に力を入れると縄がぶちぶちと千切れ、小刀を逆手に切っ先を自分の方に向けると――

 

 

「 俺に構わず悪を討て !!!! 」

 

 

 自分の首元を刺した!

 

 

「「 自害した !!!? 」」

 

 

 ボーボボが急いで駆け寄り尻尾を掴むと「ふんっ!」とハンマー投げの要領で投げて

 大空の彼方へと消え去った。それをじっと眺めるボーボボ…

 

 

「よくもヴォルガノスを…」

 

 

 赤いオーラを身に纏って凄みのある声で、ゲッコウの方へと振り向く。

 

 

『言っても無駄だと思うが、俺はなんもしとらんぞ』

 

 

「言い訳など聞きたくもないな…」

 

 

『やれやれ、こうも話が通じないとはな…

 もっとも俺がこれからやることは変わりはないがな』

 

 

 両手で次々と印を結びながら、呪を唱える。

 

 

『二一が二、二ィ二ィが死んで、二ィ三がロクでもない、二ン四ン発覚…』

 

 

 兄さんダメ人間過ぎる! というか何その呪文 !?

 

 

 呪文の詠唱が終わったのか、右手を地面に置くとそこを起点に白い線が走り…

 物の数秒で半透明の直方体を二つ繋げたバトルフィールドができあがり――

 私たちはその中に閉じ込められた。

 

 

『このバトルフィールドは俺を倒せば自動的に解除される』

 

 

「「 ほんじゃ早速、始めるか――! 死ねや―― !! 」」

 

 

 釘バットを手にした天の助と、バールのようなモノを持った首領パッチが奇襲を仕掛けるも

 武器が触れる直前、手前でオレンジ色の八角形のバリアが形成されて防がれてしまった。

 

 

『――ただし「闇のゲーム」で、だ…

 そしてルールを破った物には罰が与えられる』

 

 

「「 なんだと !? 」」

 

 

『6億ぬ円、支払えば免れるが… どうする?』

 

 

「「 そんなには無理! 」」 

 

 

 ぬ円って何 !? 

 

 

『――ならば、罰を受けるがよい』

 

 

 天の助と首領パッチの身体が足元から灰色に変化していき… 

 

 

「「 石化だと !? 」」

 

 

 両手をバタバタと振って抵抗を試みるが、必死の努力も空しく… 物言わぬ石像へと化した。

 

 

『これから行う「闇のゲーム」で負けた場合も同じように石化する。

 石化の解除およびバトルフィールドからの脱出する唯一の方法は勝利のみだ』

 

 

「小難しいことを言っているようだが… 要はポケモンバトルで勝てばいいんだろ?」

 

 

『そうだ』

 

 

「気をつけた方がいいよボーボボ。

 こんなとこまで呼び出して結界を張ってまで勝負を仕掛けてきたんだ。

 うちらに勝利できる見込みと根拠がないとできないよ」

 

 

「だがてゐ、あのニンジャに勝つ以外に脱出する方法がない以上は…」

 

 

 ちょいちょいとボーボボに手招きして、彼を小さく屈ませて…

 その耳元に囁くように――――

 

 

(アイツはわざわざここまで私たちを誘導した。

 逆に言えば要塞の近くでは勝てないってことを意味する。

 なにしろ、あの要塞には――)

 

 

 ――八雲紫がいる。

 

 

 あの妖怪の能力ならば通り抜けることは可能だろう。

 

 

(なるべく時間を稼いで欲しい。手下の因幡が向かっている。

 最悪、石化されても… あの女なら元に戻せる)

 

 

『相談は終わりか?』

 

 

 「ああ」と立ち上がり、アフロからモンスターボールを取り出すと…

 何処とも無しに流れる音楽。現れるメッセージウィンドウ。

 

 

「 目と目が合ったら、ポケモンバトル! 」

 

 

   アフロの ボーボボが

   しょうぶを しかけてきた!

 

 

「目が合ったらバトルって… これ完全にチンピラの類いですよね…?」

 

 

 メリーが至極真面目に指摘した。

 それよりもポケモンバトルの方が気になるのだが…

 

 

「捕まえたモンスター同士で闘わせる遊戯です。

 でも、私が知っているのは画面の中の話です。

 少なくとも私の知っている世界では――ですけど…」

 

 

 ボーボボたちは1300年後の幻想郷から、メリーは彼らよりも先の未来から…

 さらに幻想郷に幻想入りする前のボーボボたちがいたのは1000年後という話だ。

 ボーボボたちのいる時代では普通にあるかもしれないが…

 

 

「 サンダース、君に決めた! 」

 

 

 モンスターボールを開くと中から白い格好の背筋をピンと伸ばした老人が飛び出す。

 黄色い闘気を纏わせて、電気が発生しては体の表面を縫っていくように駆け抜ける。

 モンスターといっているが中には人型のもいるようだ――と思ったらメリーが、

 

 

「 ポケモンじゃない !? 」

 

 

 え? それじゃあ、あそこにいるのは…?

 

 

「 フライドチキンの創業者です! 」

 

 

 そんな人物がなぜモンスターボールなんぞに入っているのか理解できないが…

 ゲッコウも手持ちのボールから――

 

 

『ケンタロスのまこっちゃん、出てこい』

 

 

 ケンタロス…? 半人半馬のあれだろうか? 

 でもあれはケンタ()ロスで…

 

 

「ポケモンのケンタロスは名前だけで実際は雄牛です。

 半人半馬のケンタウロスとは別物です」

 

 

 しかし出てきたのは馬の胴体に首にあたる部分には人間の上半身を持った生き物。

 銀髪に白いひげをたくわえた半人半馬。その目はお世辞にも生き生きしているとは言い難く。

 死んだ魚のように濁っていて、何よりも覇気が微塵も感じられなかった…

 

 

 えーっと、メリー…?

 

 

「聞かないでください…」

 

 

 対峙する二体のポケモン。なんていうか別次元の闇というか、ある種の狂気を感じる…

 

 

 私たちのやり取りを余所に対決が始まる。

 先に動いたのはボーボボ。サンダースに指示を出す。

 

 

「 先手必勝! サンダース『電光石火』だ! 」

 

 

 フィールドをジグザグに黄色い残像を残しながら走り――

 拳を連打しながら、まこっちゃんの懐へ飛び込んでいく。

 

 

 拳が触れる寸前――まこっちゃんは後ろ足だけで立ち上がり、真上に跳ぶ。

 サンダースの拳が空振り、空を薙ぐ…

 

 

「 サンダース、相手の攻撃が来るぞ! 後ろに下がるんだ! 」

 

 

 上空のまこっちゃんに目を離さないまま後方に飛び退き――

 まこっちゃんは馬の胴体部分の前足二本から着地。

 地面に蜘蛛の巣のような亀裂が入り… 直後、地震のような縦揺れが私たちを襲う。

 

 

「 しまった! 『のしかかり』じゃなくて『じしん』だったのか !? 」

 

 

『電気タイプには地面タイプの技――ポケモンバトルの定石だ… とどめを刺してやれ』

 

 

 『じしん』によるダメージが大きいのか、片膝をつくサンダース。

 そこにまこっちゃんが接近。手前で前足を上げて――その蹄を脳天目掛けて振り下ろす。

 

 

 蹄が当たる――瞬間。

 

 

 まこっちゃんの顔が白い布で覆われ攻撃が外れる。

 サンダースが上着を脱ぎ捨て、顔面に当てたのだ。

 

 

 投げると同時に高く跳び上がり、一回転半捻りして頭上を乗り越えて背後へ

 ――まこっちゃんの背中に乗馬するように着地。

 

 

 後ろから両手の指先をまこっちゃんの顔の横に突き刺す!

 

 

「 サンダース !? まさか自爆技の―― !? 」

 

 

『「大爆発」か… 正気の沙汰とは思えん』

 

 

 ボーボボとゲッコウが会話をする一方で…

 まこっちゃんが背後にいるサンダースに声をかける。

 

 

「キサマ、死ぬ気か…?」

 

 

「死ぬのが怖いなら、始めから戦うな…」

 

 

 ――っていうか喋れたんだ…

 

 

『ハッタリだ。ここで「大爆発」などすれば周囲も巻き込まれる。振り落とせ』

 

 

 ゲッコウの命令を受けて、まこっちゃんが身体を激しく揺らし始める。

 

 

「――ならば、周囲に影響を与えないところで実行すればいい…」

 

 

 サンダースがまこっちゃんごと宙に浮き…急上昇。

 バトルフィールドの透明な壁を砕いて、さらに進む。

 

 

『 なん、だと… !? 』

 

 

 結界を破壊されたことに目を大きく見開き驚く。

 そして遥か上空、二体のポケモンが見えなくなったころ… 大爆発が起こった。

 炎が空を紅く染め上げ、轟音が耳をつんばく。

 

 

「「 サンダ――――ス !? 」」

 

 

 上空の爆発に向かって涙を流しながら叫ぶボーボボと()()()()()

 

 

 いやいや、何でサンダースがここにいるの !?

 

 

「これぞ鼻毛真拳奥義『エール拳』」――と手を合わせる二人。

 

 

 それも技だったの !?

 

 

「 バトルフィールドの結界がなくなれば、攻撃が通るはずだ! 」

 

 

 二本の鼻毛を伸ばしながら駆けるボーボボ。走るその先にはゲッコウ。

 

 

「 鼻毛真拳奥義ぃぃぃ――――っ !!!! 」

 

 

 ゲッコウとすれ違い様に二本の鼻毛が左右から袈裟斬りするように打ちつける。

 

 

 

 

『 キノコたけのこ戦争を終結に導いた女傑「紅美鈴」!!!! 』

 

 

 

 

 ボーボボの技で上空に打ち上げられるゲッコウ。

 しかし、空中で膝を抱えて一回転。両手片膝を地面につけて身を低くして着地。

 私たちを真っ正面にして立ち上がる。

 

 

 その胸にはボーボボの技で白い忍者衣装が破かれ、その下から――

 生物の身には存在しない鋼鉄、機械が顔を覗かせていた。

 

 

「キサマ、サイボーグだったのか…」

 

 

『正しくはロボットだ。それに俺がいつ、生身だと言った?』

 

 

 そう言って、ニンジャ=ゲッコウは戦闘体勢に入った。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 よせばいいのに別の連載を始めた「にゃもし。」です。
 この作品にそろそろラスボスが出る頃なので始めたんですけどね。

 ここまで読んでくれて、ありがとうっ!


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輝夜! 月の民と再会する !? …の巻
八意永琳


 
 サンダースの犠牲でバトルフィールドの結界が解かれ、
 そこにボーボボの鼻毛真拳が炸裂!

 服の隙間から見えるニンジャ=ゲッコウの身体は機械でできていた…



 

 

 バトルフィールドの結界が消えたせいだろう、

 石化で灰色に変色していた首領パッチと天の助に色が戻っていく。

 

 

「これで三対一に戻ったな、どうする? 続けるのか?」

 

 

『当然だ。俺を誰だと思っている? それに俺はまだ勝つつもりでいるぞ?』

 

 

「そうか…」と返して身を構える三人。

 

 

「 相手がたった一人でも人質を取る外道だ!

  情けも容赦もかける必要はない! いくぞ、首領パッチ、天の助! 」

 

 

 三人が両腕を交互に何度も前に突き出すと…

 

 

「「 忍法『気功弾のジツ』!!!! 」」

 

 

 開いた手のひらからエネルギー弾が生成されて次々と射ち出されていき――着弾。

 爆発と爆煙でゲッコウの姿が覆われる。

 

 

 忍法ってこんなだっけ…? 

 でもボーボボが持ってた漫画じゃこんなだったし…

 

 

 しばらくしてから、攻撃を中断。煙が晴れると…

 

 

『「イオン・バリア」どんな微細なモノでも逃さず除去する』

 

 

 三枚の細長い六角形の透明な青い膜。

 それを植物の花を彷彿させるように前面に展開させて、ゲッコウが腕を組んで立っていた。

 

 

「それって空気清浄機とかのやつでは…」

 

 

 メリーの指摘を聞き流してゲッコウは――

 

 

『「サイクロン式・エンジン」始動… 変わらない吸引力を生み出す』

 

 

「 それ掃除機ですよね !? 」

 

 

 モーターが激しく回転したような音を鳴らすと全身が淡く紅く発光。

 残像を残しながら飛ぶように地面すれすれを移動。

 ボーボボとの距離を一気に縮めて懐へ入り込み、ベルトを掴むと…

 

 

『 忍法「上手投げ」! 』

 

 

 自分の方に引き寄せて、首領パッチと天の助に向けて投げ倒し――ぶつける。

 

 

「「 なんてスゴい忍術なんだ――っ! 」」

 

 

「 ボーボボさん、それ相撲の決まり手ですよ !? 」

 

 

 団子状に一塊になったところでゲッコウは両手を前に突き出すと…

 両腕の袖が弾けとび、ゴツゴツとした機械の腕が露になる。

 その手のひらには銃口のような穴が空いていた。

 

 

『最大出力の「プラズマ・クラスター」だ。

 如何にお前たちでもすぐには復活できまい。

 その間に仕事を完遂することにしよう…』

 

 

「家電製品に使われてるイオンを発生させる装置で

 どうやってダメージを与えるんですか !?」

 

 

 銃口の奥から赤い光が漏れはじめて… 熱で赤く染まった瞬間。

 

 

 

 

 ――肘から先が消失。

 

 

 

 

 …さらに胴体が刃物で斬られたように半ばまで切断され、細かい部品が落ちていく。

 私たちではない第三者による奇襲攻撃。

 

 

『バカな… なぜ貴女がここにいる?』

 

 

 ゲッコウの視線の先には一人の女性。

 銀髪の長い髪を三つ編みにし、左右で色の違う赤青の服装。

 

 

 八意永琳(やごころ えいりん)

 私の元教育係――が弓とリボンのついた矢を手にしてゲッコウをじっと見据えていた。

 ゲッコウは彼女の姿をじっと見つめたあと、自分の置かれている状況を察してから…

 

 

『多勢に無勢。これ以上の戦闘は続行不可能… ならば――』

 

 

『自爆するのみ――』胸部を覆っていた金属板が外れ、黒い結晶のような物が目につく。

 おそらく爆弾、それも強力なもの… 三人は放っておいても問題はない。

 てゐとメリー、モヒカンの田吾作… あれ、いない? 彼の姿を探していると――

 

 

「姫様、田吾作なら戦闘中のいざこざに紛れて逃げてったよ」

 

 

 てゐの指差す先には背中を見せて逃げる田吾作の姿が… アイツも放っておこう。

 

 

『俺に仕掛けれている爆弾は小型のブラックホールを生み出す…

 ブラックホールはいわば非常に重たい物質であり、

 その質量の巨大さは周囲の空間すらも歪ませる…』

 

 

 その歪んだ空間で時間がどうなるのか… 超重力の下では生物の身体機能など…

 ゲッコウを送り込んだヤツは私の能力を知っている。

 

 

 だが――

 

 

 ゲッコウの足下に穴が開いて真下に落下。消える。穴が閉じる。

 紫が何処か遠いとこに邪魔にならないとこに捨ててきたのだろう。

 

 

 それがニンジャ=ゲッコウの呆気ない最後だった。

 

 

 彼の目的も気になるが… 今は――

 

 

「久しぶりね、一年以内に再び会うとは思わなかったけど…」

 

 

 彼女――八意永琳がここにいる理由を知ることの方が重要だろう。

 

 

「ここで立ち話もなんだし、移動しましょうか?」

 

 

 誰も反論はせず、同意。

 私たちは来たときに使った装甲車に乗って竹林へと戻る。

 道中、三人のせいで車内は騒がしかったが… 私と永琳との間に会話は一切なかった。

 

 

 無敵要塞ザイガスを一目見て「ヘンテコな建物ね」と感想を漏らした彼女に、

 首領パッチが憤慨する場面があったものの一同は中へと入っていく。

 その間、彼女に関心できるものが多々あったのか建物内を観察してた彼女。

 

 

 私たちが普段使っている居住区に足を踏み入れるが、

 ゲッコウをいずこへと消し去った紫とその従者、藍の姿がどこにもなかった。

 月の民である永琳を警戒しているのだろう。居間で一息をついてから…

 

 

「初めまして、そこの()()()の元家庭教師の八意××よ」

 

 

 月での呼び名で自己紹介する彼女にメリーは…

 

 

「すいませんが私には発音不可能なのですが…」

 

 

 と答えるが… ボーボボ、天の助、首領パッチの三人は――

 

 

「八意××か、随分と言いにくい名前だな」

「八意××といえば迷いの竹林にいた医者の名前がそうだったな、ボーボボ?」

「無敵要塞ザイガスをヘンテコ呼びしたこと、いつか覚えてろよ八意××」

 

 

「普通に言えてる !? それが言えて、何で私のフルネームが言えないんですか !?」

 

  

 

 そんなメリーを憐れんだ目で見る永琳。

 

 

「八意永琳。言いにくいのならば、そう呼んでもらって構わないわ」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

 不承不承ながらも了承するメリー。

 次に永琳は誰から言うわけでもなくここに来た目的を話す。

 

 

「かぐや… 次の満月の日。貴女を月に連れ帰ります」――と、

 

 

 ――静寂。静かになる。

 

 

 …なぜ?

 

 

 地上に追放――落とされてからどれくらい経った?

 少なくとも一年は経っていない。

 

 

 永琳が私を連れ戻すのは… 彼女の意思か、それとも月の…?

 

 

「いきなしやって来て本人の意思は確かめずに連れ帰る。

 …ってのは、どうかなと私は思うけど?」

 

 

「地上のウサギ、これは月が決めたことよ。部外者は黙ってなさい。

 それにこれは彼女のためでもある」

 

 

「ニンジャ=ゲッコウのことかい?」

 

 

「正しくはコペルニクス=スティーブン

 ゲルガッチャ=ニコス=ヴィル

 メイ=トロウ=ジャクソン三世よ」

 

 

 もうニンジャ=ゲッコウでいいじゃん。本人もそう言ってたし… 

 月光でゲッコウ、それにあの機械の身体。月と関わりがあるだろうか…

 

 

「まぁいいわ、あなたたちとは次の満月で別れる。

 それまでの付き合いだろうし、話しておくわ」

 

 

 永琳の話だと今、月では私が月に帰還することに二つに意見がわかれている。

 

 

 大勢の賛成派と、少数の反対派。

 

 

 その反対派の中に私を含む不死者たちの肉体を消滅させて魂を封印、保管する。

 ――を目的にゲッコウを送り込んだモノがいると、

 永琳はそういった刺客を排除、及び私の護衛のために来た。

 

 

「――でも姫様の罪が許された話が一個もない。

 肝心要のとこを言っていない。わざとらしくぼかしてる。

 それは姫様というよりは八意永琳に原因があったりしてね?」

 

 

 からかうように語る彼女に永琳は沈黙する。

 さらにてゐは続ける。

 

 

「姫様が地上に降りてから、問題が発生した。

 問題が生まれたけど姫様を月に戻せば元に戻る。だから――」

 

 

「ウサギ、それ以上喋ると… 射るわよ?」

 

 

「おお、怖い恐い。臆病でひ弱なウサギは黙るとしましょうかね~?」

 

 

 永琳に睨まれ、てゐは黙る。

 そこにボーボボが…

 

 

「やれやれ、お前は馬鹿か…?」

 

 

「一応、これでも賢者と呼ばれているんだけど?」

 

 

「賢者だから何だ? 月がどうした? 

 お前の言ってることとやってることは… 俺から言わせてもらえば

 誘拐、強迫、犯罪を正当化してるに過ぎん」

 

 

 何かを言おうとして口を開きかけたが、

 何か思うとこがあったのだろうか、一度口をつぐんで…

 

 

「次の満月、本隊が来るわ… 文字通り力づくで連れ去るでしょうね。

 そこにかぐやの意思はないわ――」

 

 

 彼女は自嘲気味に「私の意思も、ね…?」と付け加えた。

 

 

「輝夜よ、お前はどうしたい?」

 

 

「私の意思に変わりはないわ。あなたたちを元居た時代に送り返す。

 仕事を途中で投げ出すなんて、カッコ悪いでしょ?」

 

 

「俺たちの意見は決まったな…?」

 

 

 永琳を除く全員が軽く頷く。

 

 

「「 次の満月に来る本隊をぶっ潰す! 」」

 

 

 ――と。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 年末年始は忙しいので → 投稿しました。

 遂に永琳が来ました。
 そしてニンジャ=ゲッコウが退場。切ない。
 でも相手が悪すぎた。仕方ない。

 ここまで読んでくれてありがとうです。


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月の姫と妖怪の会話

 

 

 月で幾千もの夜を過ごした。

 幾万もの星を眺めた。

 それはまるで夜が輝いているようで…

 

 私が眺める空には常に青い星があった。

 

 今は地上で夜空を、月を眺めている私がいる。

 

 誰もが寝静まる夜中。

 私は外にいる。竹林の奥深くに私はいる。

 

 無敵要塞ザイガスのすぐ外。門扉の横。

 どこから声を出しているのか、ザイガスが声をかけてくる。

 

 

『姫様、帰ル?』

 

 

「さあ…? でも月に連れてかれるもしれないわね…」

 

 

 いくら不死身でも、いくら非常識な連中でも… 月には敵わない。

 

 

「紫? 見ているんでしょ?」

 

 

「ええ… 今、貴女の後ろにいるわよ」

 

 

 振り向くと藍を連れた紫が静かに佇んでいた。

 ほとんど寝ているとこしか見ない彼女。

 妖怪らしく夜は元気のようで…

 

 神出鬼没で妖怪らしい部分と妖怪らしくない部分を持った妖怪。

 彼女は欠けた月を目を細くして眺めてから私に顔を向けると… 

 

 

「月の本隊が来るのは二週間後ってとこね。貴女は月に帰るのかしら?」

 

  

 月の文明には誰も敵わない。

 月の住人は地上の住人など何とも思わないわ。

 

 

「貴女も月の住人でしょ?」

 

 

 ()よ。でももう少ししたら、元の月の民になるでしょうね。

 

 

「どこかの誰かさんは「ぶっ潰す」と物騒なことを仰ってましたけど?」

 

 

 抵抗はする。でも… 戦って負けたら諦める。それだけの話よ。

 

 

「あの方たちはどうなるのかしねぇ?」

 

 

 死にはしないわよ。でも私と引き換えに手を出さないようにさせる。

 

 

「月の民が地上の住人の安全を願うなんて、変な話ね」

 

 

 人間の中に変人がいるように、

 妖怪の中に妖怪らしくないのがいるように、

 月の民にも変わり者がいる――そういうことよ、きっと…

 

 

「類は類呼ぶ、友呼ぶ、仲間を呼ぶ。呼ばれもしないのにやって来る」

 

 

 ええ、まったくハタ迷惑な連中よ。人の都合なんて考えもしない。

 でも彼らはバカを本気に真面目にやっている。自分に正直に生きている。

 我慢して生きるのがアホらしく思えてくるくらいに…

 

 

「そうね、あれは知性を持った生物というよりは…

 そこら辺にいる本能の赴くままに生きる野生生物のが近いわね。

 おまけに不死身で理解不能の力を持っているからタチが悪い」

 

 

 彼らの中では人間も妖怪も月の民も関係ないでしょうね。

 

 

「だから彼らは仲間である貴女を助ける。仲間だから助ける。

 物凄く単純でわかりやすい理由よね」

 

 

 ブッブー、残念♪ おしいけど、それは間違いよ?

 

 

 紫が私の予想した答えを述べたことに「ぷー、くすくす」とおかしく笑う。

 彼女は形のいい柳眉逆立てて問い詰めた。

 

 

「それじゃ答えは何かしら?」

 

 

 ハジケたいからよ。

 

 

「……………………は?」

 

 

 その()()()に私を助けるのよ。アイツらは。

 

 

 ――静寂。

 

 

 そして私は彼女にお願いをする。

 

 



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月の本隊

 
 ニンジャ=ゲッコウの最大出力の『プラズマ・クラスター』が放たれる瞬間。
 輝夜の元家庭教師が現れ窮地を救ったが、自爆を試みるも紫の能力で消え去った。

 永琳の口から語られた赦された罪と罰?
 やってくる月の本隊?



 

 

 永琳が要塞にやって来て二週間経った頃。満月の日。昼を回った頃か…

 それは突然やって来た。

 

 

 空からゆっくりと下降して、平安京の上空でピタリと止まって――静止。

 その影は平安京を覆いつくすほどの巨大な建造物。星の海を行く船。宇宙船。

 その大きさは私たちがいる迷いの竹林からも視認できるほどであった。

 形はアルファベットのH。黒い流線形の船体を持った巨大な船。

 それが船体のあちこちを点らせて滞空していた。

 

 

 わざわざ平安京上空で止まったのは見せびらかして恐怖を煽るためだろう。

 

 

「抵抗しても無駄だ」――と…

 

 

 同時刻、数名の兵士を連れたソルジャーがやって来る。

 目的は言わずもがな… 私たちを連れていくためだ。

 断ることもできたが、そんなことをすれば彼らがどんな目に遭わされるのやら…

 それに月の使者たちとはいずれ会わなければならない。

 

 

 紫と藍は要塞に残して、ソルジャーたちを先頭に永琳を加えたメンバーで平安京へ。

 道行くがてらソルジャーが平安京で起きた出来事を簡略ながら説明し始める。

 

 

 先代の帝と今代の帝。さらに五人の貴族たちがいる広間に月の使者が突然やって来た。

 

 

 てゐと同じくウサギの耳を生やした女性。

 鋼鉄の身体を持った侍。

 そしてリーダー格らしい三日月の男の三人組。

 

 

 その三日月の男は彼らに

 

 

「かぐやを連れ戻しに来た。コロセウムに連れてこい。

 拒否することも抵抗することも妨害することも許可する。ただし、その場合――――」

 

 

 男が頭上を軽く指差すと天井が吹き飛び、例の宇宙船が視界に入った。

 

 

「罰を与える」

 

 

 男はそう言い残して立ち去り、貴族たちは満場一致で従うことに――そして…

 

 

 ――現在に至る…

 

 

「すまないな、平安京のためとはいえ君たちを差し出すような真似を…」

 

 

「まったくだわ! パチ美をあんなヤツらに――」

 

 

『輝夜アイアンクロー』

 

 

「頭が !? 頭が割れるゥ――っ !?」

 

 

 正面から片手で頭を鷲掴みにして持ち上げ、万力のようにじわじわと締め上げる。

 

 

「こいつはツケだ。いずれ支払ってもらう」

 

 

「俺たちに支払える範囲、できる範囲内で頼む」

 

 

 ほどなくしてコロセウム入り口に辿り着く。

 この細い通路の先に月の使者たちが待ち構えているのだろう。

 

 

「相手は月の民の戦闘員だ。マトモにぶつかり合えば、こちらもただではすまない」

 

 

 ウサギの耳を生やしたのは月のウサギ――玉兎(ぎょくと)

 彼女たちの中には兵士として訓練されているのも存在する。

 貴族たちの前に現れたのは部隊長クラス、もしくは上の存在。

 

 

 鋼鉄の侍は戦闘用ロボットだろう。

 先日のニンジャ=ゲッコウよりも強化されたモノと見ていいだろう。

 

 

 そしてリーダー格の三日月の男…

 

 

「俺たちの趣旨に反するが多少の卑怯な手も使わざるを得ない」

 

 

 ボーボボの意見に深く頷く首領パッチと天の助。

 

 

「まず俺が砂か何かで相手の目を潰すから、お前たちは後ろから何か硬いもので殴れ」

 

 

「ボーボボさん !? いくらなんでも卑怯すぎません !? それ!」

 

 

「そのあと、ソイツらを人質にうちらに二度と手を出さないように約束させれば…」

 

 

「てゐさん !?」

 

 

 てゐの発案に「おおっ」と感嘆する三人。

 

 

 さらに私も一緒に殴れば… 計画はより完璧に仕上がる筈。

 

 

「私の味方が一人もいない !?」

 

 

「あなたたち、一応ここに月の民の一人がいるんだけど…?」

 

 

 永琳がこみかみを指で押さえながら呆れた声で言う。

 

 

 細長い通路を抜けると以前あったリングがなくなっており、

 代わりに三人――月の使者がそこに立っていた。

 

 

 制服を着た長い黒髪の玉兎。

 甲冑姿の人型兵器。

 そして最後の一人…

 

 

 中肉中背の男、執事が着るような黒の燕尾服――は、まだわかる。理解できる範囲だ。

 だが生物でいうならば頭がある部分に頭がなく、代わりにあるのは三日月。

 マンガ等に書かれている、ややデフォルメされた三日月が首の上に乗っかっていた。

 

 

「「 三日月 !? 」」

 

 

「今回、連れ戻す役目を任された『満月伯爵』という者です。以後よしなに」

 

 

「「 おいっ、三日月! 三日月、名乗れよ! 」」

 

 

 自己紹介する満月伯爵――その名前にツッコム三人。っていうか何アレ?

 永琳は何か知っているのか、と彼女の方に目を向けると視線を逸らした。

 おいっ… 月の叡知…

 

 

「ソルジャーさん、三日月の男って説明されましたけど…」

 

 

「ああ、そう言ったハズだが?」

 

 

「まんま三日月なんですけど !? 」

 

 

「俺に聞かれても困る」

 

 

 メリーに聞かれて返答に困るソルジャー。

 まぁ、そうでしょうねぇ…

 

 

「あなた方が月の使者ですか、初めましてボーボボです――と言いつつ先手必勝!」

 

 

 途中まで歩いて進むと… 

 突然、気を纏って飛び――月の使者たちとの距離を一気に縮ませる。

 その両手には黒板消しが二つ。

 

 

『 黒板消しの粉落とし煙幕! 』

 

 

 黒板消し同士ではたき合わせて、大量のチョークの粉が煙幕の役目を果たす。

 

 

 後ろに回り込み月の使者たちの背後に立つ私、首領パッチ、天の助。

 無防備の背中に向けて金属バットをフルスイング。 

 

 

『『 協力奥義「三人官女が撲る!」 』』

 

 

 ――だが、三本の金属バットはどれも身体をすり抜けて空を切る。

 

 

『よくできた立体映像だろ? 俺の名はザンボットだ』

 

 

 女の声ではない――三人の月の使者の一人… おそらく、あの侍モドキ。

 上の煙を引き裂いて何かが飛んでくる… 

 

 

「 危ない! 私! 」

 

 

 天の助を両手で持ち上げて飛来物に向けて…

 

 

『 天の助・ミサイルゥ! 』

 

 

「ちょ、お前!?」と手足をバタつかせて抵抗するも構わず投げる。

 

 

「 天の助、上だ! 」

 

 

 首領パッチの警告の声で上を向くと… 天の助の行く手に両手剣を上段に構えた満月伯爵。

 振り下ろされ――肉体が二つに分断された。

 さらに返す刀で何度も斬られて細切れにされ…

 止めに片手から生み出した衝撃波で空中で塵と化す。

 

 

「「 天の助 !? 」」

 

 

 突風が巻き起こり、煙幕が飛ばされる。

 玉兎が翳した水晶で出来た華から起こしたモノのようだ。

 

 

「私の名はミサト。この銀水晶は不浄なるモノ、穢れた存在を浄化する力がある」

 

 

「 はん、浄化だと !? この首領パッチ様が穢れた存在なわけ…ねーだろーがっ! 」

 

 

 銀水晶から光が発射され、あっという間に溶けて一塊の塩と化す。

 

 

 うん。わかってた。

 

 

「首領パッチと天の助を簡単に倒すとはな… ところで素晴らしい剣だな…

 ちょっと見せてはくれんか? どうした? 怖いのか?」

 

 

 ボーボボに剣を放り投げて渡す満月伯爵。

 片手で受け取り、剣をつぶさに眺めてから満月伯爵に近づくボーボボ。

 

 

「お前が天の助を倒したのはこの剣があったからだ。そうは思わんか?」

 

 

「何が言いたいのですか?」

 

 

「つまりこの剣がなければワシに勝つことは…」

 

 

 肩パッドのついた黒い戦闘服に身を包み薄紫の肌に角を生やしたボーボボが…

 両手で剣を握りしめて満月伯爵目掛けて上から振り下ろす。

 

 

「 できんのだ !!!! 」

 

 

 しかし、その全力を込めたであろう一撃を… その刃を左手一つで受け止められてしまう。

 

 

「そうでもなかったようですね?」

 

 

「うぐぐぐ…」と剣を押したり引いたりと試みているが微動だにしない。

 やがてボーボボの心臓付近に手のひらを向けると…

 

 

「 ま、待て! 」

 

 

 静止の声を無視。エネルギー弾がボーボボを貫通。

 吹き飛ばされ岩盤と激突。岩にもたれかかるようにして倒れる。

 

 

「かぐや殿、上をご覧くださいまし…」

 

 

 巨大な宇宙船の船体のあちこちに光が灯されている。

 

 

「これ以上抵抗をするならば、この平安京に砲撃を開始いたしますが…?」

 

 

 私は両手を上げて無抵抗の意を示し――――彼らは満足するように頷いた。

 ほどなくして小型艇が降りて来て、私は乗せられた。

 メリーとてゐ、三人を残して私は宇宙船へと向かっていく。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 時間をずらしての連続投稿。
 前話が短い会話なので、こういう形を取ったおー。

 ここまで読んでくれて、ありがとう。


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敗北者達の会話

 
 輝夜がいなくなった…



 

 

 ――無敵要塞ザイガス

 

 

 その巨大な要塞の一角に設けられた居住区にて数名の男女がたむろしていた。

 その中で一際背の高いアフロの男が口を開く。

 

 

「俺たち三人が敗れたのは、いつ以来だ…?」

 

 

 アフロの男が人外の二人に向かって問う。

 

 

「オイオイ、お前たち二人はともかく… オレは敵の攻撃を受けて再起不能になってただけだ。

  オレまで一緒にすんじゃねぇよ」

 

 

「いやいや、世間一般じゃそれを「敗北」っていうだろ?」

 

 

 オレンジ色のトゲトゲが理解できない反論をし、水色がツッコミを入れる。

 そんな三人のやり取りを眺めていた大小二人の女性が覇気のない声で…

 

 

「どちらにしろ、輝夜さん。物語の通りに月に帰ることになりましたね」

 

 

「今はまだだよ。連中の無駄に壮大にバカデカイ船は未だにぷかぷかと、

 平安京の上に陣取ってるみたいだしね」

 

 

 小さな体格の頭部にウサギの耳を生やした女の子が壁の向こう――

 空に浮かんでいるだろう宇宙船に向けて視線を送る。

 

 

「あなた達には珍しく元気がないわね?」

 

 

 妙齢の女性の声――しかし、発生源が何処にも見当たらない。

 彼らが驚かないのは見慣れつつある光景だからだろう。

 

 

 虚空から細い線が一本、縦に生まれ――それを境に裂けていき広がり穴が穿たれる。

 その穴から出てくるのは二人の女性。八雲紫とその従者――八雲藍の二名。

 

 

「一応、あなた達のお姫様にお願いされて来たんだけど」

 

 

「お願い?」と一同、声が重なり聞き返す。

 

 

「あなた達を元の時代、元の世界に戻すお手伝いをね?」

 

 

「こいつは驚いた! 何の得が…? って言いたいとこだけど、

 不死の存在に時間移動、さらにこの要塞の存在を考えたら…

 むしろ、こっちがむしり取るべきだろうね」

 

 

「そういうことよ因幡の兎。あなた達の存在そのものが見る人が見れば――

 『宝の山』といっても過言ではないわ。

 そしてあの月の姫は月の民があなた達に目をつけることを恐れた」

 

 

「…それで夜中『永遠亭』に妙な術式を施したわけね」

 

 

「あの永琳とかいう賢者は知った上で見て見ぬふりをしてたみたいけどね」

 

 

「『永遠亭』に『術式』ってどういうことですか…?」

 

 

 聞き慣れぬ「術式」という言葉にメリーが問いただすと…

 

 

「そうね… あなた達にわかりやすく説明するならば…

 あの『永遠亭』の中で過ごせば年を取らなくてすむのよ」

 

 

「それって…」

 

 

「あなた達のためでしょうね。

 無論、完璧とはいえないし不完全な部分もあるでしょうね。

 急場凌ぎで作成してたみたいだし…

 そのために私にお願いしたのでしょうね、護衛の意味も兼ねて…」

 

 

「――不完全か… ゆかりんの言う通り、あの永遠亭は不完全なモノだ。

 なにしろ建物の主――輝夜がいないんだからな」

 

 

「…まるでこれから敵の本拠地に乗り込むみたいなことを言うわね、ボーボボ?」

 

 

 アフロの男――――ボーボボが不敵に笑って…

 

 

「大丈夫だ。ゆかりんにいい考えがある」

 

 

「「お前が考えるんじゃないのかよ」」

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 輝夜視点じゃない、ボーボボたちの会話です。
 正直悩んだ。でも必要と判断して執筆。
 明日は32話を投稿するよ。

 ここまで読んでくれて、ありがとう。


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ザ・ラストバトル …の巻
宇宙船突入


 
 月の使者に戦いを挑むも、あっさりと返り討ちに…
 さらに平安京に住んでいる人たちの命を盾に脅迫、脅しをかけられ…
 輝夜は大人しく従い宇宙船へと連れていかれた。

 そしてボーボボたちは…



 

 

 ――――宇宙船、内部。

 

 

 深海を思わせる蒼い鋼鉄の壁に囲まれた平たい円柱状の広間。

 軽く見ても平安京のコロシウムよりも遥かに広い造り。

 その中心部に私――輝夜と永琳。少し離れて月の使者たち三人が立っていた。

 他には誰もいない。空中に投影された映像に玉兎の姿が映るのみ。

 

 

「少々、遊び過ぎましたが… 月へ帰還しましょうか」

 

 

 満月伯爵の指示の元。映像の中の玉兎たちが慌ただしく動き回る。

 外を映している画面の一つ。その風景が小さくなっていく。

 揺れを一切感じさせないが外からでは徐々に地上から離れていっているのだろう。

 

 

「能力者に不死者に妖怪といろいろ危惧していましたが… 取り越し苦労というやつでしたね」

 

 

 何処に瞳があるのか分からない顔を私に向ける満月伯爵。

 岩石で構成されたと思われる顔では表情が読み取れない。

 

 

「忘れたの? アイツらは空を飛べるのよ?」

 

 

「存じてますよ? そのための迎撃兵器は備えられていますので…」

 

 

 映像の一つ。玉兎の一人が声を張り上げて報告する。

 

 

「噂をすれば影が差す、ですかね…?」

 

 

 大きなスクリーンに映し出されているのは()()()()()無敵要塞ザイガスの姿。

 そしてそこから発信してきたのだろう三人の姿が送られてきた。

 ボーボボ、天の助の二人で画面の9割以上を占有しており、

 残り1割以下の部分を首領パッチが窮屈そうに映されている。

 

 

『ちょ!? 何これ!? 僕んとこの面積、気持ち狭くない!? ねえ!?』

 

 

『気のせいだろ』

 

 

 首領パッチが指摘するが天の助は否定。意見を却下、切り捨てる。

 

 

『驚いたか? まさかコイツが空に浮かぶとは思うまい』

 

 

「焼き払え」

 

 

 得意気の顔のボーボボに問答無用で迎撃命令を下す。

 赤く細い光が宇宙船の先端部分から放たれて直撃。無敵要塞ザイガスを破壊。

 炎と煙を上げながら、ゆっくりと降下、地上へと墜ちていく。

 

 

『要塞跡中心部から高出力の反応が出現、波長パターン青、ハジケリストと確認』

 

 

 玉兎の一人が淡々と現状を述べていく。

 崩れていく要塞の中から腕を組んで仁王立ちする巨大な人影。

 それは見覚えのある人型兵器。

 以前見たときよりも細部が変わっており何よりも大きさが増しているがそれは紛れもなく

 

 

 核熱造神「ヒソウテンソク」――――改め、

 

 

 天元突破「ヒソウテンソク」――――見参!!!!

 

 

 

 

『『オレたちを誰だと思ってやがる!!!?』』

 

 

 

 

 画面の中の三人が吼えて「ヒソウテンソク」が動き出す。

 

 

「無人機を向かわせなさい」

 

 

 『了解』と玉兎が返事を返してコンソールを操作。

 黒い三角形の機体が次々と母艦から発進、ヒソウテンソクへと突撃する。

 迫り来る無人機に対してボーボボたちが乗るヒソウテンソクは――――

 

 

『『アタック!!!!』』

 

 

 巨大な大岩を両手に持って無人機を叩き落としていく。

 

 

「「攻撃方法が原始的だ――――っ!?」」

 

 

『今ので無人機が全滅しました!』

 

 

 玉兎が切羽詰まった表情で叫んで報告する。

 

 

「「石で!?」」

 

 

 無人機を全て打ち落としたヒソウテンソクは右腕に巨大な六角柱を装着。

 鋼鉄の身体を黄金に輝かせて――――

 

 

  天 罰 光 臨 『 ゴルディ ・ オンバシラ 』

 

 

 六角柱を構えながら背中のスラスターを噴射させて宇宙船へと突き進む。

 外壁を砕き光の粒子へと変化させ内部へ侵入。障壁を何枚か破壊したのち…

 

 

『第一エンジンルームに侵入されました!』

 

 

 動力炉らしき物がある部屋に到達。巨大な円柱、その中心に光輝く力の塊が浮いていた。

 そこに到達するまでに破損したのであろう。機体のあちこちを酷く損傷させたヒソウテンソク。

 

 

『ミンナ…ヒメサマヲ…カグヤヲ…タノム…!!』

 

 

 残った右腕を突き刺す――――画面が白く染め上げられて… 爆音。そして強い揺れ。

 

 

『第一エンジンルームが破壊! 出力が低下!』

 

 

「あの三人がこれで死ぬとは思えません。部屋ごと封印しなさい」

 

 

 玉兎たちに指示を出して空中に映っている三人の姿を見る。

 未だにあの三人が映っている。

 

 

「あの機動兵器に乗っているのならば… 何故この三人が()()()()()のですか…?」

 

 

 ヒソウテンソクから発信しているならば消えてしかるべきである。

 未だに消えない、ということは…

 

 

 重厚な両扉が思いっきり開け放たれて三つの影が部屋へ侵入。

 

 

「「それは最初っから乗ってなかったってことだ!」」

 

 

 地味な色のプロテクターに身を包んだ三人がママチャリに乗って砂塵を巻き上げて爆走。

 私と永琳の横を通り過ぎ――前輪を上げながらママチャリごと月の使者に強襲を仕掛ける。

 

 

「「三人、ジャスティスクラッシュ!!!!」」

 

 

 しかし、攻撃は外れ… 全員がそれぞれ後頭部を掴まれ、顔面を床に何度も打ちつけられる。

 やがて動かなくなったのを確認すると床に投げ捨てられる。

 

 

「永琳殿、貴女の御力で抹消なり封印するなりしてくれませんか? さすがに飽きてきました」

 

 

「やめて、永琳!」

「お願い、永琳!」

「助けて、永琳!」

 

 

 ボーボボが天の助が首領パッチが永琳の服の裾を摘まんで引き留めようとする。

 

 

 パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

「服が伸びるから止めてくれないかしら?」

 

 

 三人の額に銃弾を撃ち込んでやめさせた。

 

 

「まあ、冗談はさておきだ。永琳、お前はどうするつもりなんだ?」

 

 

 額にある銃痕からダラダラと血を垂れ流して永琳に問うボーボボ。

 だが永琳からの返答はなく代わりに答えたのは満月伯爵。

 

 

「永琳殿は月の民。当然、我々の味方ですよ? 

 部外者であるあなた達が首を突っ込む必要はない。これは月の民の問題なのですから」

 

 

「そのわりには()()()である輝夜の意思を無視しているようだが…?」

 

 

「月の民が故郷である月に帰りたいと願うのは当然でしょう?」

 

 

「――だそうだぞ? 輝夜?」

 

 

「悪いけど勘弁願いたいわ」と手をパタパタと振って拒否する。

 

 

「自分の生き方ぐらい自分で決めるわよ。私は地上に残る。誰がなんと言おうとね?」

 

 

「――だそうだぞ? 満月伯爵?」

 

 

「正気ですか、貴女? こんな不便極まりない地上に残るだなんて…」

 

 

 

 

 部屋の一角でソファーに身を沈めてテレビを眺めている天の助は…

 スナック菓子の袋を片手に寛ぐ首領パッチに――

 

 

「意外と快適だったよな?」「ああ」

 

 

 

 

「――長生きしてるから幸せかしら…?」

 

 

「…輝夜殿、貴女は何を言いたいのですか?」

 

 

「成人を迎える前に死んだら不幸かしら…?」

 

 

「当然でしょう?」

 

 

「月にいたら幸せ? 地上にいれば不幸?

 それは誰が決めるのかしら? 

 最後に決めるのは他ならない自分じゃないかしら?」

 

 

「自問自答に付き合うつもりはないのですが?」

 

 

 声に苛立ちを感じさせる満月伯爵。でも…

 

 

「悪いけど帰るなら、あなた達だけで帰ってちょうだい。

 何かしらの理由があって私を連れて帰りたいなら理由を言いなさい。

 それでも言わず、語らず、話さず、力づくでやるのならば――――」

 

 

 

 

 礼節には礼節を、非礼には同じく非礼で返すのみ!

 

 

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 ここから本当のラストバトルであり「満月伯爵」がラスボスです。
 取り巻きのミサト、ザンボットにも活躍の場をもうけますがね。

 ここまで読んでくれて、本当にありがとうっ!


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再戦

 
 無敵要塞ザイガスを、天元突破ヒソウテンソクを囮にして、犠牲にして
 宇宙船内部に侵入を果たしたボーボボ、天の助、首領パッチ。

 だか、月の使者である満月伯爵、ミサト、ザンボットは手強かった。



 

 

「八意永琳殿ですよ」

 

 

 満月伯爵はあっさりと吐いた。

 

 

「永琳殿はお優しくてですね。

 輝夜殿が罪と罰で地上に落とされたというのに… 自分には全くない。

 故に心を痛めた… 作業に支障を来す程に――――」

 

 

「お前話長すぎィィィっ!!!!」

 

 

「ぶべらぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

 

 ボーボボが伸ばした右足を満月伯爵の腹部に叩き込んで吹き飛ばす。

 吹っ飛ばされながらも剣を床に突き刺して――――蹴りの衝撃を削いで、(こら)える。

 

 

「あなた… 人が会話してる時に… これだから地上人は…」

 

 

「輝夜を強引に連れて行こうとする奴に言われたくないな。

 それに俺達がこれからやることに変わりはないし、早い方がいいだろ?」

 

 

「不本意ですけどその考えには同感ですね」

 

 

 満月伯爵が「ミサトさん、ザンボットさん」と声をかけると満月伯爵に近づいて両脇に立つ。

 対してボーボボには首領パッチと天の助、さらに私が…

 

 

「そうそう最初に言っておきますが、この部屋は輝夜殿のために用意されたものでしてね?

 魂が外に出ないためのと「時間」に関する能力を封じるための工夫がされてますので?」

 

 

「ちょうどいいハンデだわ」

 

 

 ザンボットが腕を水平に広げ両手と頭にある三日月の飾り付けを光らせ、

 ミサトが懐から黄金の輝きを放つ片手銃を取り出し狙いを定め、

 満月伯爵が黒いマントで自身を覆うと風景と同化していき姿が消える。

 

 

『ムーンアタック乱れ撃ち!』

 

 

 三日月形のエネルギー弾を乱射。夜に浮かぶ星々のような密度で迫る。

 

 

「なんのボーボボ・タイフーンいくぞ!」

 

 

 後ろから首領パッチと天の助の頭を掴むと、その場で高速回転。竜巻が発生。

 三日月で出来た力の塊が渦に巻き込まれて弾同士で衝突して次々と爆破。

 

 

「ふう、なんとか凌いだぜ」

 

 

 ただし首領パッチと天の助の体には破片が突き刺さっており重傷。

 安堵をしたのも束の間ボーボボの胸から剣の先が生える――満月伯爵が背後から刺したのだ。

 さらにミサトが撃った弾丸が額に当たる。

 

 

「ボーボボ!?」

 

 

 ボーボボに突き刺した剣を抜いて、再び姿を消す満月伯爵。

 ミサトとザンボットの間に挟まれる形で現れる。

 

 

「大丈夫だ、背中を刺されたおかげで後ろにのけ反り… 弾丸が頭蓋骨を掠める程度で済んだ」

 

 

 額にデカイ穴があって向こう側の景色が見える。

 

 

「さすがに手強い。こうなったらアノ技を完成させるか… 首領パッチ、天の助!

 俺が奴等の攻撃を受け止めている間に――――っ!!!!」

 

 

 ザンボットの背後から射ち出された小型ミサイルを、

 満月伯爵が剣を振るう度に生み出された三日月形の斬撃を、

 鼻毛で迎撃、打ち落としながら…

 

 

「3割で構わん、地震発生のメカニズムを解明してくれ!!!!」

 

 

「「それ今やる必要あるの!?」」

 

 

 二つ返事して真剣な顔でレポートに何かを書き込んでいく二人。

 それを変な目で眺める私と永琳。

 

 

「ボーボボ、なんとか9割解明したぞ!」

 

 

 分厚いレポートの束をボーボボに差し出す天の助。

 

 

「「あの短時間で!?」」

 

 

「よし、これさえあればアノ技が完成する!」

 

 

 レポートの束をぱらぱらと捲って目を通していく。

 

 

「喰らうがいい、これが「地震発生のメカニズム」を応用した――――!!!!」

 

 

 月の使者たちの頭上に黒い雷雲が発生。雷が落ちて直撃する。

 

 

「カミナリだ!!!!」

 

 

「「地震発生のメカニズム、どこいった!?」」

 

 

「この技はこれで終わりじゃない!」

 

 

「地震、雷、火事、オヤジ!」

 

 

 豹柄の上着にパーマ頭の中年の女性が現れると、床に拳を叩き込んで震動を起こす。

 

 

「オバハンタックル!!!!」

 

 

「「オヤジじゃない!」」

 

 

 そこへ震動でふらついた月の使者たちに腕を交差させた体当たりで撥ね飛ばす。

 さすがに雷の直撃から始まった連続攻撃は効いたのか床に片膝をつく月の使者たち。

 その一人であるミサトは銀水晶を頭上に掲げると――

 

 

「銀水晶の浄化能力は穢れ、不浄なモノだけではなく… ケガをも消し去る」

 

 

 言葉通りにケガが消えていき、元通りになっていくが…

 

 

「――生物限定で、疲れまでは消せないけどね…」

 

 

 立ち上がるミサトと満月伯爵。

 ザンボットは胸部が三つに展開。丸いコアのようものをさらけ出す。

 さらにザンボットの近くに細長い黒い棺桶のような物が出現。

 扉が開き、中に納まっているのは胸部が開いた状態の無傷のザンボット。

 コアを手に取り出し無傷のザンボットに装着。

 

 

『スペアボディってやつだ』

 

 

 無傷のザンボットが動き出す。代わりに破損したザンボットが黒い棺桶に入り床下へと消える。

 その光景を見たボーボボが首領パッチが天の助が――――

 

 

「見たか、お前たち…?」

「ああ、随分と分かりやすい弱点だぜ」

「これでまず一人目だな」

 

 

 さすがに戦闘に関して素人である私でも分かる。

 あのコアを破壊すればザンボットを破壊、無力化できる。

 

 

「ザンボット、まずはお前をぶっ潰させてもらう!」

 

 

 アフロが開いて中から長く捻れた二本の角が生えているゆっくりを取り出すと、

 

 

「ゆっくり萃香(すいか)・ブゥゥゥゥゥメランッ!!」

 

 

 片方の角を手にして投げる。縦に回転しながらザンボットに向かって飛んでいく。

 途中で回転が止まり、ゆっくり萃香が四つに分裂。再び回転を開始して空を駆ける。

 四体のゆっくり萃香がそれぞれザンボットの手足に頭の角が突き刺さり動きを封じる。

 

 

「コイツを使えボーボボ、首領パッチ・ツゥゥゥゥゥルゥッ!!!!」

 

 

 首領パッチの体に生えているトゲが射出。不規則な軌道を描いてボーボボの指に填まる。

 腹這いになった天の助の背中に飛び乗り、意味不明の呪文を口にしながら両手を合わせる。

 

 

「何をするのか知りませんが私達が大人しくしていると思いますか?」

 

 

 剣を構えた満月伯爵が銃を構えたミサトを連れだってボーボボへと襲いかかる。

 

 

「「うにーっ!」」

 

 

 私と首領パッチが【うに】を手にして頭上に掲げると淡い光を放って輝き出す。

 二人同時に左足を真っ直ぐ上に上げて、床を踏み抜く勢いで下ろし【うに】を投げる。

 

 

「伯爵シールド!」

 

 

 ミサトが満月伯爵の背後に回り込んで羽交い締めにして盾にし、

 【うに】が満月伯爵の顔面と腹部にそれぞれ突き刺さる。

 

 

「うわ、痛そう…」

 

 

 思わずこぼした私の言葉に満月伯爵が反応する。

 刺さった【うに】を外して手に取って…

 

 

「あなた達が投げましたよね、これ!? あとミサトさん、私を盾にしましたよね!?」

 

 

「気のせいですよ、伯爵様。いったいどこの世界に上司を盾にする部下がいるんですか?」

 

 

 息をするように嘘を吐くミサト。

 渋々と銀水晶を掲げると、満月伯爵の傷が癒えていく。

 

 

 ――――この瞬間ボーボボの詠唱が終わる。

 

 

 組み合わせた両手を前に――ザンボットに向けて突き出すと緑の竜巻が発生。

 天の助に乗ったボーボボとゆっくり萃香によって拘束されたザンボットを渦で覆い隠す。

 

 

「終わったな、このハジケトルネードはいかなる攻撃も弾き返してしまう。

 この竜巻が消えるのは二つに一つだ。ボーボボが自らの意思で技を中断するか…」

 

 

 緑色の竜巻が消え去り、胸部を大きく抉られたザンボットと背を向けるボーボボの姿が現れる。

 

 

「――――技が決まって敵を倒した時だ」

 

 

 ボーボボの背後でザンボットのボディが爆発。破片が飛び散り、炎が揺らめく。

 握り締めた拳を開くとそこにはザンボットの丸いコアが置かれてあった。

 

 

 緑髪を黄色いリボンでサイドテールに纏めた手のひらに収まる小さな妖精が飛来。

 コアの近くで浮遊すると口を忙しなく動かし指先を向けるとコアが光の粒子と化して宙に散る。

 小さな妖精はそれを見届け終えるとボーボボのアフロの中へと消えていった。

 

 

「さすがにコアそのものがなくなればスペアボディがあっても動けまい」

 

 

 ボーボボが勝利を確信して言った――――その時に。

 

 

『それは俺のコアではない。電波を受信するアンテナの役目を果たしている物だ』

 

 

 部屋全体に響き渡るザンボットの声。

 

 

『スペアボディっと言ってはいるがあれは「端末機」…。

 わかりやすく説明すると手足みたいなものだ』

 

 

 あの丸っこいのは本体ではない。

 それじゃ本体は別のとこから遠隔で操作している…?

 

 

『俺の本体というか機体なら、お前たちはすでに見ているぞ?』

 

 

 記憶を振り返る。

 だがザンボットらしきモノと遭遇した記憶はない。

 

 

『ああ、()()過ぎて分かりづらかったか?』

 

 

 巨大…? 

 一つの考えが脳裏を掠めて、ボソッと口にする。

 

 

「この()()()そのものがザンボット…?」

 

 

 この部屋の壁という壁が開き、中から人型の機動兵器たちの大軍が現れる。

 「1」の番号が書かれた上下白の制服に黒いヘルメット、左手には木製のバット。

 さらに後ろには緑色のザンボット軍団。

 それらが一斉にこちらを見つめて…

 

 

『『総勢1000体の「101匹(ワン)ちゃん」とザンボット軍団だ。さあ、どうする?』』

 

 

 ――得物をこちらに向ける。

 

 

「背番号1のスゴいヤツだろうが、ぶっ潰すつもりだが?」

 

 

 強気を見せるボーボボだが、先ほどよりも余裕がないのが伝わる。だが…

 

 

「――――ところでお前ら、ゆかりん達が今どこで何をしているのか気にならないか?」

 

 

 ボーボボたちが不敵に笑っていた。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 本当はいろいろ書きたかったけど、あんまし長いとね。
 ラスボスであり本作ではラストバトルになるけど、
 ボーボボたち視点と月の使者たち視点と目標もやっぱし違うわけで…
 
 まずは完結目指さねばだわね。

 ここまで読んでくれて、ありがとうっ!

 

 


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乗っ取り

 
 激闘の末にザンボットのコアを破壊した、かに見えたが…
 それはコアではなくアンテナのような役目を果たす物でしかなかった。
 そして巨大宇宙船そのものがザンボットの正体であった。
 さらに総勢1000体の機械兵隊が現れ、窮地に立たされたボーボボだが――

「ゆかりん達が今どこで何をしているのか気にならないか?」



 

 

 ボーボボが言い終えると同時に巨大宇宙船ザンボットが揺れる。

 すぐに空中に投影されたモニターを通じて玉兎の報告が入る。

 

 

『第2エンジンに小型ブラックホールが出現!

 部屋ごと跡形もなく消滅! 出力が低下!』

 

 

「小型ブラックホール!?

 コペルニクス=スティーブン 

 ゲルガッチャ=ニコス=ヴィル

 メイ=トロウ=ジャクソン三世の自爆装置ですか!?」

 

 

 ニンジャ=ゲッコウはフルネームを言わないとダメな理由でもあるのか…?

 紫の能力で異空間にでも収納されたのだろう、それをここで使うとは…

 

 

 さらに異変は続く、101匹王ちゃんとザンボット軍団の動きが鈍くなり、完全に停止する。

 

 

『満月伯爵、何者かがこの船を乗っ取ろうとしている。発生源はここだ、映すぞ』

 

 

 映し出された画面の中には高速で指を動かしてキーボードを叩き込む藍と、

 それを見守る紫、てゐ、メリーに数体のゆっくり妖怪たち。

 

 

「ミサトさん、玉兎を引き連れて妖怪たちを討ってきなさい。

 ザンボットさん、兵隊たちを自動に切り替えて、対象は「月の民」以外です。

 それからコントロールを取り戻すことに専念しなさい」

 

 

 部屋の中の兵器たちが再び動き始まり、ミサトは部屋を出ていく。

 満月伯爵の三日月の顔が満ちていき……名前の通りに満月になる。

 

 

「あのザイガス、ヒソウテンソクとかいう兵器は貴方たちを侵入させるための囮。

 貴方たち三人は、あの妖怪たちを侵入させるための囮。

 あの妖怪たちこそが本命であり、この船を乗っ取ることが目的。

 やってくれましたね皆さん。初めてですよ、ここまで私をコケにしたおバカさんたちは――」

 

 

 何もない頭の岩石に顔のパーツが現れる。

 黒い眼球に光る黄色の瞳。歯を剥き出しにして睨む憤怒の形相。

 

 

「絶対に赦さんぞ、虫けらどもめ!! じわじわと嬲り殺しにしてくれる!!!!」

 

 

 剣を両手で持ち、下段に構える。

 部屋の壁際にいる兵器たちも動き出す。

 

 

 その一角が爆発する。

 

 

 永琳が矢を番えては放ち、標的の兵器たちを次々と射って破壊したからだ。

 

 

「永琳殿、何をなさっているのですか!?」

 

 

「そうね、ケンカに機械を使うのは不平と思ったから… 射りました」

 

 

「地上人の味方をする、ということはかぐや殿を地上に残すことなんですよ!?」

 

 

「知っています。知った上で行動しているのです。

 貴方たちがあの子を私に対する免罪符として私を束縛しようとしていることもね?」

 

 

「だが、かぐや殿を月に連れ戻すには賛成していたではありませんか!?」

 

 

「地上で生活していれば、月に帰りたくなるだろう、と思っていましたからです。

 実際は楽しんでいたみたいですけど」

 

 

「ならば、このままでも月に帰還するのみ!

 対象「月の民」は捕縛。対象以外は殺害しなさい!」

 

 

 機械特有の正確な射撃がボーボボたちを襲い、体が穴だらけになっていく。

 穴だらけになりながらも首領パッチは対策はないのか、ボーボボに尋ねる。

 

 

「こっちも何か武器はないのか、ボーボボ!?」

 

 

「この前貰った【うに】があるぞ」

 

 

 【うに】が詰まったダンボールを差し出し、天の助がツッコミを入れる。

 

 

「武器じゃねーじゃん!」

 

 

 でもトゲを持つ【うに】は武器になると判断したのか次々と敵に投げ込む。

 鋼鉄でできている筈のボディを破損させて数体を再起不能に陥らせる。

 

 

「【うに】が無くなった! もっとくれ!」

 

 

「こっちもだ!」

 

 

 【うに】に数があり、すぐに底が突き空になる。

 首領パッチがボーボボに要求し、天の助が空のダンボールの底を見せる。

 

 

「【うに】はない! 【うに】はないが!」

 

 

 

 

 ――――手榴弾ならある。

 

 

 

 

 三人が敵に向けて手榴弾を投げ込み、爆破。数十体が金属の破片と化す。

 しかし、壁の奥から破壊された分を補充するようにザンボットたちが現れる。

 満月伯爵もザンボットたちを(けしか)けるだけで前には出てこない。

 

 

 ――いや、

 

 

「満月伯爵が姿を消しています、気をつけなさい!」

 

 

 永琳が警告を発した瞬間。

 

 

 真後ろで姿を現し、首領パッチを縦に真っ二つに斬り裂いて、天の助を賽の目状に斬る。

 そこに101匹王ちゃんとザンボット軍団の砲撃が集中。塵になる。

 永琳が懐から薬品の入った瓶を取り出して二人に振り掛けると元通りになる。

 

 

「肉体を失い、魂だけになったら封印されます。気をつけなさい」

 

 

 永琳が何もない空間に向けて矢を射ると、途中で矢が二つに折れて、

 剣を斜め上に傾けた満月伯爵が出現。

 さらに立て続けに矢を射って満月伯爵をその場に釘付けにして足止めする。

 

 

「輝夜、遂に()()を使う時が来たようだな」

 

 

 アフロから五色に輝く「龍の頸の珠」を取り出すと、それが光を放って弾け…

 鮮やかなエメラルドグリーンの龍を模したオブジェが現れる。

 その龍のオブジェが分解、変形しながら私の身体に装着。身に纏う防具となる。

 背中には6枚の羽。左腕には丸い盾が備え付けられていた。

 

 

 

 

――これは、新生聖衣(ニュークロス)!?

 

 

 

 

 小宇宙(コスモ)

 

 それは誰しも持っている体内に秘められている宇宙的エネルギー。

 聖闘士(セイント)たちはこのエネルギーを燃焼させることで絶大な力と破壊を可能とするのだ。

 

 

「――で、戦闘中の時に何をやっているのあなた…?」

 

 

 永琳が冷めた目で見るのはダンボールを机にして書き物をしている天の助。

 

 

「はっ!? 俺は一体何を!?」

 

 

 絶対、わざとだ。

 そうこうしているうちに得物を持ったザンボット軍団が接近。

 

 

「昇れ龍よ! 天高く!!」

 

 

 廬山昇龍覇(ろざんしょうりゅうは)――――ッ!!!!

 

 

 闘気が背後で緑色の華人服を着た赤髪の女性を象り、

 背後の女性と共に半開きの拳を上空に向けて打ち放つ。

 

 

「「ぐわぁぁぁァァァ――――ッ!!!?」」

 

 

 大量のザンボットたちが大きく仰け反ったり、前屈した状態で上空に吹っ飛び――

 防具や装飾品が砕き、床の一部が巻き上げられ、背景が銀河になり幾つもの惑星が同時に砕く。

 

 

 攻撃を受けたザンボットたちが空中で向きを変えて頭が下になる。

 受け身の体勢を一切なく頭頂部から垂直で落下。鋼鉄の床と激突。停止。目から光を失う。

 

 

 半数以上を潰した所でボーボボが動き出す。

 その右手は円柱のような金属製に変わっていた。 

 それが警告音のような音を鳴らし、丸い装飾品が淡く発光する。

 

 

「動いた…? ソイル、我が力!」

 

 

 金属の塊から巨大な手裏剣のようなものが展開され、回転する。

 金属が分解して右腕の周りを浮遊しながら別の形へと組み上げていく。

 

 

魔銃(まがん)、解凍」

 

 

 三連装の巨大な黄金の銃へと変化する。

 

 

「お前に相応しいソイルは決まった!」

 

 

 虚空を指差してから弾丸を入れるシリンダーに色つきの薬莢を入れていく。

 

 

『冴え渡る知性のきらめき』マーベラスオレンジ!

 

 

『限り無き探究への欲望』マニアックパープル!

 

 

 そして『完全勝利の誓い』ウルトラショッキングピンク!

 

 

 これぞ完璧無敵の組み合わせ!

 唸れ召喚獣! ソイルの導くがままに!

 出でよ! 究極の召喚獣!

 

 

 最後の一つは首領パッチのトゲの一つを強引にもぎ取り、挿入。

 トゲを取られた首領パッチは頭から噴水のような出血をしてから倒れる。

 心臓のような部品が激しく脈動し、ドリルが高速で回転する。

 その力の流れは永琳を唸らせる程のようで…

 

 

「なんて凄まじい気の流れ…」

 

 

「略してS.K.Nか…」

 

 

 永琳の漏らした呟きに天の助が腕を組んで真面目な表情で応える。

 

 

「略すな」

 

 

 ――侵蝕せよ召喚獣『首領パッチ・ウィルス』

 

 

 銃口から灰色の煙が吐き出され、三色の弾丸が飛び出す。

 三つの弾丸が彗星のように尾を引きながら螺旋状の軌跡を描き、煙が渦を巻く。

 やがて三つの弾丸が一つに重なり、強い光を放って弾ける。

 

 

 光が収まると首領パッチを模した小さなオブジェが空中に浮いていた。

 手足がなく顔もないそれは暫く浮遊していると上下二つに分かれてから光の粒子になり、

 周囲の壁の奥へと消えていった…

 

 

 不審に思った満月伯爵はボーボボに問いただす。

 

 

「何ですか、今のは…?」

 

 

「首領パッチ・ウィルスはありとあらゆる機械に侵入、侵蝕し…

 侵蝕された機械類は「首領パッチ」と同じ思考になる!!!!」

 

 

「……? 要は機械類を乗っ取るウィルスってとこですか、ですが私たちが…」

 

 

「忘れたか満月伯爵、今もこうしてる間に藍が内部から乗っ取ろうとしていることを!」

 

 

 私たちとは別行動をしていた紫たち、

 私たちが戦闘してる間も彼女たちは船内のどこかで無力化を試みていたのだ。

 戦闘中、拮抗していたバランス… そこに新たな力が加われば――――

 

 

『くぁwせdrftgyふじこlp』

 

 

 どうやら首領パッチ・ウィルスに侵蝕されたようで

 宇宙船ザンボットが意味不明なことを宣い。

 ザンボット軍団も一体も残さず常人には理解し難い行動を取り始める。

 

 

「バ、バカな… 宇宙船ザンボットが乗っ取られただと…!?

 ミサトさんは何をやっているんですか!?」

 

 

 満月伯爵の言葉に反応して、玉兎たちの様子が映し出された画面が現れる。

 そこには大量のナマコとウナギに埋め尽くされた通路。

 その中に埋もれるようにして玉兎たちの姿が…

 

 

「「なんじゃこりゃ――――っ!?」」

 

 

 ボーボボたちを除く月の民出身が声を合わせる。

 

 

「プルプル真拳奥義『ぬのトラップ』これに触れた者は「ぬるぬる」な目に遭う」

 

 

 犯人はコイツだった。

 画面の中の玉兎はなんというか「ぬるぬる」していて、ぬめっていて、

 中にはどういうわけか下着姿になった者もいて… うわぁー…

 

 

「バ、バカな… 我儘な娘を連れ戻すだけの簡単な任務の筈が… なぜ、こうなった…」

 

 

 力なく肩を落とす満月伯爵だが… 突然、顔をこちらに向けて、

 

 

「お前たち三人だけでも封印してやる!」

 

 

 剣の切っ先をボーボボたちに向けて吼える。

 

 

「面白い、ならばキサマにはこの奥義を見せて人間の素晴らしさを体験させてやろう!」

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 以上、別行動を取っていたゆかりん達でした。
 ボーボボを知っている方なら、もうすでに分かっているでしょうね。

 思った以上に別作品のが書き上げたので投稿しました。
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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鼻毛真拳超絶奥義

 
 「ぬのトラップ」でミサトが率いる玉兎軍団を無力化し、
 永琳を味方につけ、藍の力と究極の召喚獣「首領パッチ・ウィルス」の力で
 巨大宇宙船「ザンボット」を乗っ取ったボーボボたち。
 これで残る敵は満月伯爵だけになった。
 
「お前にはこの奥義で人間の素晴らしさを体験させてやろう!」

 今まさにボーボボの奥義が炸裂しようとしている!



 

 

 鼻毛真拳超絶奥義『鼻毛発人間超特急(はなげヒューマンエクスプレス)』

 

 

「お前はこの技で人間の一生を目の当たりすることになる」

 

 

 ボーボボを中心に空間が変化していく。

 無機質な蒼い鋼鉄の部屋から色鮮やかなお花畑へと…

 

 

 その中に不釣り合いなビルの建物が建てられていて、

 看板には「ボーボボ歯医者」と書かれている。

 

 

「まずは人体の神秘、ここで人の誕生を目にする!」

 

 

 ビルの内部では天の助が首領パッチの歯の治療をしていた。

 治療中、歯が抜け落ちて――それが顔の濃い赤ん坊へと変化していく。

 

 

「もうこの時点で人間じゃないのですが!?」

 

 

「赤ん坊の成長は早い、あっという間に大きくなる!」

 

 

 八等身になり、胸には謎の北斗七星みたいな謎の傷。

 

 

「ア―――――タタタタタっ!!」

 

 

 満月伯爵の側まで一気に距離を縮めると左右の拳で殴り始め…

 

 

「ほわたぁ――――っ!!!!」

 

 

 とどめの裏拳で吹っ飛んで壁と激突、磔にされる。

 

 

「よし次は小学校入学じゃぁぁぁ!」

 

 

 大鐘を突く木の柱で満月伯爵の顔面を突くボーボボ。

 壁を破壊、建物の中へと転がり入る。

 

 

 そこは教室になっていて教壇に立っているの天の助。

 教室には大量のゆっくり妖怪が席に着いていた。

 

 

「さて全員が揃ったので先生は職員室に行ってきます。その間は自習です」

 

 

 天の助が教室を出ていった瞬間、ゆっくり達が満月伯爵の周囲に群がり…

 満月伯爵に体をぶつけてはゴム毬のように「ぽよん」と弾んで跳ね返る。

 

 

「…? 一体、何なんですか、これは…?」

 

 

 困惑して問う満月伯爵にボーボボは深刻な顔で一言。

 

 

「イジメだ」

 

 

「イジメ!?」

 

 

「こうして心身ともに傷付いた満月伯爵は…」

 

 

「痛くも痒くないのですが!?」

 

 

「モンスターペアレントと対立」

 

 

「その間に何があったんですか!?」

 

 

 教室の扉が開かれ、廊下側に立っているのは黒いボディに銀色の手足。

 頭には羊のような角。顔の中央と胸には黄色い発光体。四角い突起物のような目。

 

 

「ポポポポポ……ゼ―ット――――ン…」

 

 

「ちょっと貴方!? モンスターそのものが出たんですけど!?」

 

 

 ボーボボに食って掛かろうとした満月伯爵にモンスターが生み出した火球が命中。

 建物の外へと吹き飛ばされる。

 そこにボーボボが運転するブルドーザで満月伯爵を押しながら進む。

 

 

「よし、このまま次のイベントまで進むぞ!」

 

 

「何ですか、この進み方は!? 普通に歩かせなさい!」

 

 

「ダメです」

 

 

「…………っ!?」

 

 

 その状態のまま「ボーボボ中学校」その校庭に到着。

 校庭の中央にはスーツ姿に長髪のカツラを被った首領パッチが待ち構えていた。

 

 

「3年B組――――っ!!」

 

 

 首領パッチが爽やかな笑顔でそう叫ぶと、

 

 

「「首領八(ドンはち)先生――――っ!!!!」」

 

 

 どことなくから男たちの首領パッチを呼ぶ声と共に、

 学校の制服を着たモヒカンの集団が首領パッチを目指して一直線に走る。

 

 

「「日頃の恨みじゃぁぁぁっ!!!!」」

 

 

 手にした武器で首領パッチに殴りかかり、

 首領パッチもモヒカン相手に応戦、次々に倒していく。

 その光景を見ていたモヒカンの一人が満月伯爵の元に駆け寄ると…

 

 

「すいません満月伯爵総長、俺たちじゃ敵いません。お力をお貸しください!」

 

 

「え? ちょっと、いつから私が貴方たちの代表になったんですか!?」

 

 

「満月伯爵、この騒ぎはお前の仕業か…」

 

 

 拳を鳴らして首領パッチが近づき…

 

 

「愛のある体罰!!!!」

 

 

 「おらおら、くたばれ!」と連呼しながら拳の連打を満月伯爵に浴びせる。

 全身に乱打を喰らい、校庭の外へと飛ばされる。

 

 

「喜べ! 次は手違いで「聖ミカエル雪女学園」に入学だ!」

 

 

 ボーボボが満月伯爵の首に腕を回して拘束しながら走る。

 やがて白い洋風の建物に到着、満月伯爵を窓に投げ込む。

 

 

「こちらの手違いで転入した満月伯爵君です。仲良くするように」

 

 

 教室の中には黒板を背にして立つ天の助。

 彼の眼前には白いゴリラたちが座っていた。

 

 

「何ですか、この白いゴリラの集団は!? 雪女はどうしたんですか!?」

 

 

 詰め寄る満月伯爵に天の助は答える。

 

 

「雪男の女、略して雪女」

 

 

「史上類を見ないガッカリ感ですね!!」

 

 

 数人の雪女が満月伯爵の周りを取り囲むと…

 

 

「んまぁ、これがみよがしにいい男!」

 

 

「是非ともお近づきにならねば!」

 

 

 左右から彼の両腕で引っ張り合いを始め、

 

 

「おお、モテモテだな満月伯爵。先生は嬉しいぞ」

 

 

「ひぃぃぃっ、全然嬉しくないモテ期とハーレム!」

 

 

 そんなやり取りの最中、教室の扉が開いてゴリラが現れる。

 そのゴリラは満月伯爵と雪女を交互に指差せて――

 

 

「うほっ! うほうほうほっ!」

 

 

「何言っているのか分からないのですが!?」

 

 

「違うのよ、婚約者のゴリ男! 私、この人に無理矢理やらせて…」

 

 

 ――と涙を流しながら満月伯爵を指差す。

 

 

「何この名女優!?」

 

 

「君が泣くまで僕は殴るのを止めない!!」

 

 

「喋った!?」

 

 

 ゴリラが満月伯爵を殴り続け、止めの一撃で外に飛び出す。

 

 

「ここで今日の豆知識だ! 頼むぞ、天の助!」

 

 

 天の助が「任せろ!」と応えると、

 玉座に腰掛けた因幡てゐが空から降ってきて満月伯爵を下敷きにする。

 さらに流れるテロップ。

 

 

【今日の豆知識】

 

 大陸では「因幡てゐ」は「因幡帝」と表記されている。

 

 

 なにそれ!? 強そう!

 

 

「まだまだ人生は始まったばかりだ。高校を無事卒業した君には――――」

 

 

 鉄球をぶら下げたクレーン車に乗り込んでいるボーボボ。

 

 

「鉄球をプレゼント♥」

 

 

 ボーボボの顔が描かれた鉄球を横に振って満月伯爵にぶつける。

 鉄球をぶつけられた満月伯爵は次の建物へと飛んでいく。

 

 

「ここからが人生の本番といって過言ではないだろう。

 だが満月伯爵が就職した所は所謂ブラック企業というとこだった…」

 

 

 満月伯爵が身を起こして顔を上げると…

 

 

「俺の名は「仮面ライダーブラック」だ。一緒に暗黒結社ゴルゴムを倒そう」

 

 

 黒い装甲を纏った昆虫のバッタのような仮面を被った男と、戦隊物の黒い格好をした集団。

 

 

「格好がブラック!?」

 

 

「ブラックさん大変です! 売り上げ、その他諸々が先月より落ちています!」

 

 

 黒い戦闘服を着た男が書類を片手に駆けてくる。

 ブラックは拳を強く握り締めて体を震わせると、

 

 

「ゴルゴムの仕業だ! おのれ、ゆ"る"さ"ん"!!」

 

 

 どう見ても無関係そうな人たちのせいにする。

 

 

「バレては仕方がない…」

 

 

 数名の社員が服を脱ぎ捨てると、正体を(さら)け出す。

 その戦闘服の下に隠されていたのは二足歩行の昆虫、怪人たち。

 

 

 …マジだった。

 

 

 少し遅れて扉を片手で豪快に音を立てながら入ってくる者がいる。

 風がないのに何故か(なび)いている銀色のコートを羽織った茶髪の青年。

 

 

「俺の会社に虫けら共が潜り込んでいたとはな、

 貴様らのその大胆な行動に敬意を表して俺自らが相手をしてやろう」

 

 

「「社長!?」」

 

 

「俺はこのターン、二体のモンスターカードを生贄に捧げてこいつを召喚する!」

 

 

 首領パッチと天の助が謎の空間の穴に吸い込まれていなくなり、

 代わりに青い瞳の巨大な白竜が召喚される。

 

 

青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)のダイレクトアタック! プレイヤーに滅びの爆裂疾風彈(バーストストリーム)!!!!」

 

 

 竜の口から白い光線が吐き出されて怪人もろとも満月伯爵を攻撃、爆発。

 

 

「そんなこんなで職場にも慣れた頃、運命の再会を果たす!」

 

 

 ぼろぼろになりながらも立ち上がる満月伯爵の前には白いゴリラ。

 満月伯爵を両腕で抱き締めるとぎりぎりと締め付ける。

 

 

「満月伯爵様ァ~~~っ! 会いたかったダス―!」

 

 

「ひぃぃぃっ、嬉しくない再会ぃぃぃ!

 貴女、確かゴリラの婚約者がいた筈ですよね!?」

 

 

「不慮の事故で亡くなったの…そしてお腹には彼の子供が

 でも嬉しかったは貴方が「子供も一緒にお前を貰う」って言ってくれて…

 シャルロットは嬉しいですわ!」

 

 

「過去を捏造しないでください! 

 あと貴女その容姿でシャルロットという名前なんですか!?」

 

 

「しかし、愛する二人には大きな壁が立ちはだかる…」

 

 

 ボーボボがナレーションをするように語ると、

 シャルロットの三倍はあるだろう大きな白いゴリラが現れる。

 

 

「お父様!?」

 

 

「「お父様、デカっ!!」」

 

 

「くっ、どうせ結婚反対といって殴るんでしょう。

 さあ、好きなだけ殴りなさい!」

 

 

 満月伯爵が腹をくくって、そう言い放つ。

 あのシャルロットと別れたいのだろうけど、

 大きなお父様はにっこりと観音菩薩のような笑みを浮かべると…

 

 

「君たちの熱意に負けた。

 君たち二人の結婚を認めよう」

 

 

「殺された方がまだマシでしたァ――――っ!!!!」

 

 

 場面はいつの間にかに結婚式場に変わり、

 床に剣を突き立てて抵抗する満月伯爵と

 彼の足にロープをくくりつけて引っ張る花嫁姿のシャルロット。

 

 

「ひぃぃぃっ、誰かお助け――――っ!!」

 

 

 空間が波のように揺らぎを生じ、やがて元の――鋼鉄の部屋へと戻る。

 

 

「むぅ、時間切れのようだな…」

 

 

「危なかった、危うく人生が終了するとこでしたよ!?」

 

 

 ボーボボが名残惜しそうに呟き、

 満月伯爵は剣を杖にして立ち上がる。

 

 

「甘いな満月伯爵、この奥義はこれで終わりではない」

 

 

「何ですって!?」

 

 

「この奥義は今まで積み重ねた日々の経験を力に変換して相手にダメージを与えるものだ」

 

 

 満月伯爵の元に飛び込んで胸と腹に両腕を突いて持ち上げ、上へと飛び上がる。

 さらに天井を突き破って、宇宙船の外へと飛び出す。

 

 

「お前たちと比べて人間の寿命は遥かに短い、

 それ故に必死に足掻く。それ故に命の重みを知っている。

 線香のように儚く、花火のように華やかに散って後世に残していく。それが人間だ!」

 

 

 満月伯爵の背中を下にして落下。眼下の宇宙船を目指して落ちていく。

 

 

「この奥義はそんな人間の一生を体感、体験できる技だ!

 そんな貴様には最後に言っておこう!」

 

 

 轟音と共に鋼鉄でできた床と激突。

 

 

「そんな人生を歩んでいる人間いるわけねぇ――――っ!!!!」

 

 

 ですよね…

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 まさか奥義で丸々1話が埋まるとは…これでも結構削った方なんです。
 今回の奥義はボーボボの過去に使われた奥義が色々入っております。
 やることはやった、後悔はしていない。
 そして今回でこの物語のバトルは終わりです。
 
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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合流と脱出と帰還

 
 ボーボボが発動した人間の人生を体感できる技。

 鼻毛真拳超絶奥義
 「鼻毛発人間超特急(はなげヒューマンエクスプレス)」

 その技をその身で受けた満月伯爵。
 最後には高所から床へと落下してボーボボは叫んだ。

 「そんな人生を歩んでいる人間がいるわけねぇ――――っ!!!!」



 

 

 ボーボボの奥義で宇宙船の外から宇宙船の内部へ背中から激突した満月伯爵。

 月を模した頭に亀裂が入り、砕け散る。

 首の上にあったのは被り物だったらしく、素顔が曝け出された。

 白く長い髪の持ち主。その人物が大の字になって床に倒れる。

 

 

「よし止めを刺すぞ、お前ら!」

 

 

 私たちが止める間もなく首領パッチと天の助が駆け寄って、

 

 

「「合体奥義『シリアス台無し拳』!!!!」」

 

 

 油性ペンで顔に落書きをしていく。

 おでこに「中」「肉」「愛」。頬にぐるぐる模様。

 口元には両端が跳ね上がった八の字形のカイゼル髭。

 下品な高笑いを上げながら次々と書き込んでいく三人に永琳が声を掛ける。

 

 

「その人、一応女性なんだけど…? 頭の被り物のせいで誰だか分からなかったけど」

 

 

 ピタッと動きを止めて顔を合わす三人。

 ボーボボは手に持っていた油性ペンを投げ捨てて、立ち上がると

 

 

「女の顔に落書きをするという赦しがたい行為、その罪。「死」でしか償われない…」

 

 

「「俺たち、そこまで重罪!?」」

 

 

 いやいや、ボーボボも一緒にやってたましたけど…?

 「このド外道!」と奇妙なポーズを取りながら、伸ばした鼻毛で二人をはっ倒す。

 やがて、身を震わせながら満月伯爵が剣を杖にして立ち上がる。

 そこに部屋の扉が開かれて玉兎の集団を引き連れたミサトがやって来た。

 天の助の「ぬのトラップ」に全員が嵌まったらしく「ぬるぬる」していたが…

 最後に頭部だけで宙に浮いているザンボットが現れる。

 

 

「ザンボットさん、無事でしたのね…」

 

 

『乗っ取られる間際にこのヘッドに移した。この宇宙船を含めて俺のボディは全滅だ』

 

 

「通路がウナギとナマコのせいで先に進めませんでした…」

 

 

 二人からそれぞれ報告を受けた満月伯爵は、

 沈痛な表情で一言「撤退します」と告げると永琳が待ったをかける。

 落書きされた顔のせいで威厳の欠片がなく、ボーボボたちが指差して笑っているが…

 

 

「この宇宙船は破棄した方がいいわよ。

 万が一、月の都に「首領パッチ・ウィルス」が入り込んだら――――」

 

 

 

 

 月の都の文明が()()()可能性がある。

 

 

 

 

 永琳のその言葉に誰もが口を半開きにして唖然とする。

 いや、ボーボボたち三人は理解していない。明後日の方向を見てボーッとしているし、

 そして月の民は永琳については地上人よりは知っている。

 彼女が滅多に冗談を言うような人物ではない事を…

 彼女が「終わる」と言ったら冗談抜きで「終わる」のだ。

 事の重大さに顔を青褪める満月伯爵とミサト。

 私も「首領パッチ・ウィルス」の恐ろしさを今しがた理解する。

 

 

「永琳殿はこの宇宙船を「捨てろ」と仰るのですか…?

 そんな事をすれば我々は無能者のレッテルを貼られるだけでは済まないのは明白ですよ!?

 この宇宙船内の「首領パッチ・ウィルス」を除去すればよいだけの話ではないのですか!?

 それこそ永琳殿の御力と叡智があれば――――」

 

 

「私は罰を受けるために輝夜と一緒に地上に残ります。

 月には()()()()()()()帰りなさい」

 

 

 月の使者たちは当然のこと、私も永琳の言葉に耳を疑う。

 もはや戦う力が残っていない彼らは私を諦めて永琳と共に月に戻るのが最善だろう。

 だがその永琳が「地上に残る」と言い出したのだ。

 月の民にとっては永琳の存在は重要である。彼らとしては何としても避けたい状況の筈。

 私を連れ戻すのに失敗し、宇宙船を乗っ取られ、さらに永琳まで地上に残れば、

 彼らには一体どんな罰が下されるのか、少なくとも碌な目に遭わないのは確かと言えよう。

 そんな彼らに永琳は前もって用意していたのか、懐から封筒を取り出して満月伯爵に手渡す。

 それには大きな文字で「退職届」と書かれていた。

 

 

「これを連中に渡しなさい。少なくとも死罪、追放になる事はなくなるでしょう。

 それでも断るなら私はあなた達を一人残らず射ってでも地上に降ります」

 

 

 ――と、矢を番えて狙いを定める。

 両者は暫く対峙したが先に折れたのは満月伯爵の方。部下達を引き連れて部屋を出ていく。

 時間を置いて空中に投影された画面の一つに宇宙船から飛び立っていく小型艇が映し出される。

 その行き先は遥か上空の空に浮かぶ「月」その裏側に建ててある「月の都」

 これで私を連れ戻すのを諦めてくれればいいのだが…

 

 

「これで一件落着だな」

 

 

 小型艇が見えなくなった頃にボーボボが呟き、首領パッチと天の助が「うんうん」と頷く。

 

 

「まだよ、最後にこの宇宙船を太陽に突っ込ませれば、

 月の連中も派手な装いで地上に降りてくることは少なくなるでしょう。

 あとは満月伯爵たちが「首領パッチ・ウィルス」のことを細かく報告してくれれば…」

 

 

 床から台座のような物がせり出してきて、電子機器に使われている端末機が現る。

 永琳はそこに配置してあるタッチパネルに触れて入力キーを打ち込んでいく。

 

 

 何もない空間。そこに両端の切れ目がリボンで結ばれた紫色の裂け目が縦に生じ、

 別行動を取っていた紫たちが奥から出てきた。

 その後を藍、メリー、てゐ、数体のゆっくり妖怪と続いていく。

 

 

「よくやったお前ら、作戦通りだったぜ」

 

 

 キリッとした顔で親指を立てて見せて紫たちを褒め称える首領パッチ。

 まるで自分が作戦を立てたみたいに聞こえるが、コイツが考えるわけがない。

 

 

「ねえ…「首領パッチ・ウィルス」が邪魔をして実行ができないんだけど…?」

 

 

「ああ、悪い悪い。今すぐ回収するわ」

 

 

 透明のトゲを取り出して頭上に掲げると、周囲の壁から光の粒子が出現。

 箒星のような軌跡を残しながらトゲの中へと入っていき、満杯になる。

 それを見届けてから再度コンソールを操作していく。

 

 

「――――これで完了、っと……あとは脱出しておしまいよ。

 私たちは空を飛べるからいいけど、そっちの人間の娘は飛べないわよね?

 小型艇もないし、どうするつもりなの?」

 

 

「大丈夫だ、ちゃんと考えてある」

 

 

 ボーボボが背後を指差す。

 そこには「ビュティ救出隊」と書かれた気球と、

 そのゴンドラに乗り込んで手を振っている首領パッチと天の助の二人。

 

 

「これぐらいの距離なら私の能力ですぐに地上に着くわよ?」

 

 

 紫が能力を発動させて、ここの宇宙船と永遠亭が見える地上との空間を繋ぐ。

 ぞろぞろと穴を通って永遠亭に向かう一同。俯いた顔、沈んだ表情で見送る二人。

 ボーボボは気球に乗っている二人の方に振り向き怒気を含んだ声で、

 

 

「何を遊んでいるだお前たちは!? ふざけるのも大概にしろ!!」

 

 

「「ええ――――っ!!!?」」

 

 

 二人の反応を見るとあの気球はボーボボが用意した物なのだろう。

 納得しない憮然とした態度でゴンドラから降りて永遠亭へと向かう首領パッチと天の助。

 私も紫が作り出した穴を通って地上の永遠亭へと戻る。

 蒼い鋼鉄の部屋から緑が溢れる竹林へと光景が変わり、遥か遠くの空には宇宙船の姿。

 その宇宙船は徐々に小さくなっていき、やがて消えてなくなる。

 時間を掛けて太陽へ進んでいく事になるだろう。少々、勿体無い気もするけど…

 

 

「そうそう、この子も出してあげないとね…?」

 

 

 紫が扇子を横に線を引くと、空間が大きく横に裂かれて奥から巨大な物体が降ってきた。

 両手両足を失い、黒い鋼鉄の体にヒビが入っているがそれは紛れもなく……

 ヒソウテンソク…? だが宇宙船から見たときよりも一回りも小さくなっている。

 

 

「天元突破ヒソウテンソクの中身がこの核熱造神ヒソウテンソクってわけなのさ。

 自分と同じ姿格好をした機体に乗り込んでいる、と言えば分かりやすいかな?」

 

 

 天の助が丁寧に説明をする。

 もっともこの中で過去にヒソウテンソクを見たことがあるのは私だけだが…

 おまけにあれはボーボボたち三人が合体した姿。

 僅かな期待と希望を込めて永琳の方に視線を送る。

 だが設備のないここでは無理なのか、彼女は黙って首を左右に振る。

 私は下から彼を見上げる形で告げる。

 

 

 

 

「ありがとう、ザイガス」

 

 

 

 

 ……さようなら。

 

 

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 週一で二本執筆してました「にゃもし。」です。
 DQBも発売していたので、さらに速度が……スマン。

 これでようやっと月の使者編が終わりました。
 最初に言っておきます。この先「ギャグ」が減ります。メイビー。

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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「かぐや姫」の語られていない物語 …の巻
宴会


 
 激闘の末、月の使者たちを追い返したボーボボたち。
 紫の能力で輝夜と共に永遠亭へと帰ってきた。
 その中には月の叡智である「永琳」の姿も…



 

 

 陽が落ちて空が橙色に染まる頃。

 空に浮かんだ月が輝きを増していく。

 

 

「姫様が宇宙船に乗せられた所を複数の人間に目撃されましたから、

 月に帰ったと思われていることでしょう」

 

 

 永琳が平安京のある方向に目を向けて語る。

 ボーボボたちが乗った「ザイガス」「ヒソウテンソク」と

 月の使者たちが乗っていた巨大宇宙船「ザンボット」が激突した様子は

 平安京の人間たちを始め多くの地上人たちに見ていたことだろう。

 その光景を見た地上人たちはどう思ったことだろうか…?

 

 

「テメーは考えすぎだっつーの、もうちょっと気楽に生きていこうぜ♪」

 

 

 首領パッチは少しは考えた方がいいと思う。

 少なくともここに求婚目的で人が来ることはなくなるだろう。

 悩みの種が一つなくなるのはプラス要因と考えるべきか…

 

 

「よし問題が解決したことだし宴会でもするか――――っ!!!?」

 

 

 突然ボーボボが拳を振り上げて叫び、他の二人も同調して「おーっ!!」と叫び合う。

 宴会をやるのは勝手だが食料の殆どがザイガスと共に空に散ったのだ。

 どうするつもりなのか訊いてみると…

 三人が「えっ!?」と驚き、すぐさま真顔になってレオタード姿に着替える。

 

 

「「ちょっと平安京の帝の所に行って食料を一時摂取してくるわ」」

 

 

 緑色の唐草模様の大風呂敷を背中に背負って、

 手拭いでほっかむりを作って被っている。盗む気満々だ。

 

 

「悪いがその姿で平安京に入れさせるわけにはいかないな」 

 

 

 声をかけて立ち塞がったのは二人の男。

 軍服姿のソルジャーとその背後には巨漢のビッグボディ。

 以前の「求婚問題」で知り合った平安京の貴族。

 もっとも見た目だけなら戦場帰りの兵士にしか見えないのだが…

 

 

「「すいません、コイツが主犯です!!!!」」

 

 

 何の躊躇いもなく、お互いがお互いを指差すボーボボたち。

 

 

「貴様ら!? 共に過ごした仲間をあっさり裏切り見捨てるとは何事だ!?

 お前らには人の心ってモンがないのか!?」

 

 

 ボーボボが憤怒の形相で両腕をL字に曲げて、

 その内側部分を首領パッチと天の助の喉元にぶつける。

 ラリアットを喰らった二人は後ろ向きで倒れていき、

 後頭部を地面に思いっきり打ち付け、白目を剥いて気絶。

 

 

「――あの巨大な空を飛ぶ船の中にあった「蓬莱の玉の枝」の反応が消えて…

 次にここ「迷いの竹林」に現れた。俺たちはその調査に来た。

 もっとも俺たち以外にもいるようだがな…」

 

 

 ソルジャーが見つめる視線の先、竹と竹の間。

 その奥から海亀に乗った漁師姿の老人がモヒカンを引き連れて出てくる。

 瀬戸内海の海賊を纏めていた老人、浦島太郎。

 その隣には半透明の透き通った身体を持った幽霊、おツル。

 

 

「さすが平安京の守りの要と言われてるソルジャーにはバレバレじゃったかの…?」

 

 

 モヒカンの集団を連れていれば、あっさりとバレると思うけど…

 海賊稼業から足を洗って只の漁師になった彼らが何でここに?

 

 

「おツルの件で世話になったからな心配で来たんじゃよ。

 まあ無事のようじゃがな…

 それと手ぶらで行くのもなんだしなと思うてな…

 肴はないが魚を持ってきたぞ?」

 

 

 後ろにいるモヒカンたちが笑顔で魚の干物を手に持って掲げる。

 中には魚じゃなく鳥類なんてのもいるが、

 

 

「これでわざわざ危険を冒してまで盗みに行かなくても済むな」

 

 

 レオタードを脱ぎながら天の助が喋る。

 やはし盗みに行くつもりだったのか、

 

 

「…何を言う宴会と言ったら酒。酒を忘れているぞ?」

 

 

 野太い声と共に酒樽を肩に担いだ男にしか見えない女の青鬼が現れる。

 シャイニング・ナイト・プリンセス。

 コロセウムでチラッと見かけた以降、随分と久しぶりな登場である。

 

 

「あやや、私が一番乗りかと思っていたんですけどねー」

 

 

 次に黒い羽を畳んで天狗の少女が空から舞い降りる。

 コロセウムで実況していた(あや)

 

 

「ボーボボ親方! 空から女の子が!!」

 

 

「5秒で支度しな! 首領パッチ!!」

 

 

「ちょ!? 意味がわかんないですけど!?」

 

 

 ボーボボの指示に狼狽える首領パッチ。

 そこに上空からの文の膝蹴りが首領パッチの両目に突き刺さる。

 

 

「鴉天狗アタック!!!!」

 

 

 堪らず両目を押さえながら「目が、目がァ!!」と地面を転げ回る。

 

 

「身の危険を感じて思わず攻撃してしまいました。すいません」

 

 

「失敗は誰にもあります。

 肝心なのは反省し次に活かす事ですよ?」 

 

 

 両手を後ろに組んだ天の助が穏やかな表情で場を締めた。

 

 

「やれやれ相変わらず騒がしい連中じゃな」

「まあ男の子ですもの、元気が有り余っているのですわ」

「キュピー、キュピー」

 

 

 上半身が引き締まった体躯の白髪のじいさんに

 胸がなけりゃゴツいおっさんにしか見えない婦人。

 でっかい桶に入っているホオジロザメ……誰?

 

 

「おお、チャイコフスキーにビオラのお母さん。

 ホオジロザメのブルーシャークも来ていたのか!」

 

 

 ボーボボが親しそうに声をかける。

 私が一人で宇宙船に連れてかれたときに知り合ったのだろうか…?

 

 

「今日、初めて会う奴らだよ」

 

 

 知るわけないじゃん! いや何で知ってるのよ!?

 

 

 誰が呼んだのか種族を問わずに来訪者たちが次々と永遠亭に訪れる。

 陽が地平線の向こうへ沈み、夜の暗闇が辺りを支配して星が散りばめられる。

 建物の外で火を焚いて、赤い焔が天へと伸びていく。

 その周りで祭りのように歌えや踊れやと騒ぎを始める。

 

 

 その光景を少し離れた所でイナバたちが用意した長椅子に腰掛けて見ていると

 ソルジャーが私が座っている横にやって来て腕を組んだ立ち姿で一緒に眺める。

 

 

「――礼を伝えに来た。

 君たちのおかげであの空飛ぶ巨大な船が立ち去った。

 平安京に住んでいる者たちと帝たちの言葉だ」

 

 

 でも私のせいで月の使者たちが平安京にやって来たのも事実…

 

 

「だが君たちの手で問題を解決したのも事実だ。

 それでも受け入れられないのならば「蓬莱の玉の枝」を厳重に保管してほしい。

 あれは戦争を引き起こす道具だ」

 

 

――もっとも、それが無くとも人は人と争うのだろうがな…

 

 

 そう呟く彼の横顔は覆面のせいで分かりづらいが、どことなく寂しそうに見えた。

 彼はそれだけを伝えると焚き火の近くでボーボボたちと一緒に騒いで飲み食いしている相方

 ビッグボディの襟首を掴んで引き摺っていく。

 

 

「去らばだ」

 

 

 こちらに背中を向けたまま短い別れの言葉を告げて、永遠亭から立ち去った。

 彼と彼が仕えている帝がいる限り、ここに来る貴族の心配はしなくていいだろう。

 特に理由も根拠もないのだが彼の背中が「任せろ」そう語っているように感じた。

 

 

「主役がこんな所にいていいのかしら?」

 

 

 ソルジャーが居なくなってから今度は藍を連れて紫が近寄って来た。

 

 

「不思議な光景よね。

 人と妖怪と月の民、それに人為らず者がこうして一堂にいるんですもの…

 ああ一人、自称「妖精」の方がおりましたわね」

 

 

 アルプス山脈の純粋な水にのみ棲息している妖精らしいが……妖精って何だっけ…?

 それよりも何で妖怪であるこの人物が月の民である私を助けたのか

 

 

「そこの妖怪、私も気になる。

 お前たちが姫様を助ける義理も義務もない。

 お前たちが居なくとも目的を達成することはできた」

 

 

 ――永琳。月の叡智。彼女は頭脳だけでなく戦闘能力も高い。

 それこそ宇宙船にいた月の使者たちを()()()()()葬ることも…

 

 

「貸しを一つ。月の賢者相手に悪くはないでしょ?

 貴女は自分の手を汚さずに済んだ。

 それに貴女が頭を下げて感謝を述べるべき相手が他にもいるでしょう」

 

 

 紫が扇子で示した先にはボーボボたち三人。

 ただし全員べろんべろんに酔っ払っていて足取りがふらついている。

 

 

「おーいそこのフレイザードもどきィ、誰のお陰で輝夜を救出できたのか言ってみろよォ~」

 

 

 無謀にも首領パッチが永琳に絡んできた。

 酒でも飲んで酔っ払ったのか思いきゃ手に持っているのは「モーモー牛乳」

 天の助は「ところてん促進運動」と書かれたタスキを、

 ボーボボは作り物の鼻がついた眼鏡を永琳につけさせようとして――――

 

 

「酔いは覚めたかしら…?」

 

 

 針鼠のように背中に大量の矢を刺されて地面に横たわり、力なく「はい…」と答える。

 

 

「ところで永琳。成り行きで地上に残ったがこれで良かったのか?

 地上に残る理由もないだろう」

 

 

 起き上がったボーボボに問われた永琳は月の、その裏側にあるだろう都に目を向けて

 

 

「――月の民は賢者の称号を持つ者たちに頼り過ぎている。

 彼らには己で考える力を身につけるべきだと私は考えている。

 それに私だけ罪に問われなかったことに納得できなかった…」

 

 

「本当かよ? ただ単に自由が欲しかっただけじゃねぇの?」

 

 

「自称、妖精。話を折らないで欲しいのだけど…

 そうね貴方の言う通りに自由が欲しかったのかもしれないわね。

 輝夜と一緒にバカをやってる貴方たちが羨ましかったのかもね…

 私が月で職務に追われているときにあなた方はときたら……」

 

 

 こみかみを指で押さえつつ溜め息を吐く。

 私がいなくなった後の月で何があったのだろうか…

 そんな時にメリーが私たちの元に走り寄ってきた。

 よほど慌ててたのか息を切らして――――

 

 

「私がやって来た時に通った結界の境目が開いてます!!」

 

 

 ――そう発言した。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 執筆開始してから「5ヶ月」経っていました。
 一話目と最新話だと書き方も違ってますね。
 それ以上に「東方Project」なのに舞台が「幻想郷」じゃないことに驚いた。
 さらに物語の都合上とはいえ、永遠亭の一人である「鈴仙」がいない。
 ゴメンね、鈴仙。

 物語はもうちょっとだけ続きます。
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。
 


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1300年後の未来に通じる時空の穴

 
 月の使者たちを追い返したボーボボたちは懐かしい顔ぶれと共に宴会を始める。
 そこへメリーが息を切らせてやって来た。

「――結界の境目が開いています!!」

 ……と。



 

 

 宇宙船との戦闘で二度と動けなくなった人型兵器のザイガス。その近く。

 メリーに案内された場所には紙を指で突き刺して開けたような穴が浮かんでいた。

 リボンこそないものの紫が能力を行使する際に現れるモノと極めて似ている。

 ただし子供がやっと通れるぐらいの大きさしかない。

 これでは全員が通り抜けることなど……

 いや、コイツら三人はバラバラになったり、体の大きさを変えることができる。

 このままだとメリーだけがこの時代に取り残されてしまう。

 

 

「輝夜、ここは俺に任せてもらおうか」

 

 

 私たちを背にして仁王立ちをする首領パッチ。

 隣に並ぶようにして天の助も立つ。

 

 

「天岩戸(あまのいわと)神話を知っているか?」

 

 

 天の助が語る「天岩戸神話」

 太陽の神が岩戸に隠れたために世界から光がなくなり暗闇に包まれた異変。

 困った神々たちは岩戸の前で宴会を始めて騒ぎを起こす。

 太陽神が外の様子を見るために開けた瞬間、神々の一柱が手を引っ張って外に出した逸話。

 確か女神の一柱が岩の前で脱いで…

 

 

 それを再現するつもりなのか女装姿の二人が音楽に合わせて衣服を一枚一枚脱いでいく。

 それに比例して小さくなっていく結界の境目…

 

 

「やめなさい、バカども」

 

 

 永琳が二人の頭上に鉄拳を振り下ろして阻止させた。

 痛む頭を押さえながら首領パッチは疑問をぶつける。

 

 

「ところでよう、この時空の穴っぽいモンの先が

 俺たちのいる時代に通じるとは限らないんじゃないのか…?」

 

 

「匂いと肌触りで判断できます。間違いありません。

 この結界の境目は私のいる時代に繋がっています!」

 

 

 よほど自信があるのか強い口調で断言する。

 でも匂いと肌触り、って……

 

 

「――確かにこの奥から今まで嗅いだことない匂いを感じ取れるわね。

 少なくともこの時代のモノではないのは確実…

 それにこの時空の穴は月の使者たちとの大規模な戦闘行為、その余波で生じたモノみたいね」

 

 

 つぶさに観察していた紫が「これが塞いだら次はない」そう宣った。

 居たよ、ここにプロフェッショナルが…

 

 

「ナマモノが脱いだせいで小さくなってしまったが、まだ消えたわけではない」

 

 

 ボーボボが顎に手を当てて思案する素振りを見せて少々。

 いい案が思い付いたのかポンと手を打って爽やかな笑顔を見せると

 頭上に大きな豆電球が出てきて黄色く光る。

 

 

「――いやダメだ。いくらバカ二人でもあんな目に遭わすなんて…」

 

 

 一転して悔しそうな表情を見せると頭上の豆電球が光を失い蜃気楼のように掻き消える。

 一体何を思い付いたボーボボ…

 

 

「俺が脱いでも効果がないなら仕方ない、他の奴で試してもらうか…」

 

 

 首領パッチがてゐの方に顔を向けて真顔で提案を述べてみる。

 

 

 

 

「ちょっと試しに脱いでみてくれ」

 

 

 

 

 言葉を放った瞬間、てゐから踵落としを頭頂部に受けて地面に埋まる首領パッチ。

 さらに土を被せられ、その上に十字架を立てられた。

 彼女は普段見せないような真面目な表情になると…

 

 

「時空の穴が繋がった今こそが「幸運」を使う時かもしれないね。

 ここで得た繋がりを代償にして「帰還」のために()「幸運」を使うかい?」

 

 

 ボーボボたち三人とメリーに向けて問う。

 今この機会を逃せば、次に繋ぐのはいつになるのか分からない。

 

 

「当然だ、俺たちはこの時のために苦労をしたんだからな…」

 

 

 答えるボーボボに、強く頷く二人。

 だがメリーは寂しそうに小さく呟く。

 

 

「でも、皆さんとはもう二度と会えなくなるんですよね…」

 

 

 隣の町に遊びに行くような感覚では行けない。何しろ時代が違うのだ。

 不老不死や妖怪なら兎も角、大多数の人間とはここで二度と会えなくなる。

 

 

「――かといって、この時代に留まるわけにはいかないだろう。

 俺たちは俺たちがいるべき場所に帰るべきだ。

 そしてここは俺たちが帰るべき場所ではない…」

 

 

「ボーボボの言う通りですよ。過去は大事ですが、それ以上に未来が大事ですよ。

 メリー、貴女にも貴女の帰りを待っている大事な方がいるんじゃありませんか?」

 

 

 天の助に言われ、その言葉に軽く頷くメリー。

 

 

「――なら私たちはここで立ち止まるわけにはいけませんね。

 名残惜しいですが祭りには終わりはつきものです。

 皆さん、帰りましょう。私たちが本来いるべき時代へ」

 

 

 何故か天の助が締め括った。

 

 

 

 

「私は稲羽の素兎(いなばのしろうさぎ)の因幡てゐ。

 和邇(わに)に毛皮を剥ぎ取られてしまったが…

 隠岐の島から和邇の背を足場にして稲羽に渡ることができた。

 それ故か私にはどんなに遠く離れていても…

 

 

 『故郷に帰れる』

 

 

 ――という権能がある!

 それが喩え「時間」という名の壁でも道でも!

 私の「幸運」は時を越えて時代すらも跳んで、帰還への道を創る!」

 

 

 結界の裂け目を背に、天を仰ぐように両手を大きく広げると

 宙に浮いた穴を起点に亀裂が入り四方八方に伸びていき…

 やがてガラスが割れるように砕けて穴が大きく広がる。

 

 

「メリー…?」

 

 

 その奥には二人の女性が呆然とした表情でメリーを眺めていた。

 帽子を被った黒髪の少女と髪やら衣類等を含め全身を赤一色で統一した女性。

 二人がいる場所は妙な機械やら部品やらで乱雑して散らかっていた。

 メリーの名を口にした所から知り合いなのだろうが…

 メリーと視線を交わして次に私たち、さらにボーボボたちに視線を移すと――

 

 

「妖怪か!?」

 

 

 赤髪の女性が雑多に積み上げられた機械の山から何かを取り出す。

 銃のような装飾が施された金属でできた一本の右腕。

 それを腰だめに構えて銃口のような穴が空いている手の平をボーボボたちに向けている。

 それは私たちにとって見覚えのある物だった。

 彼女がその腕の正体とその兵器の名を口にする。

 

 

「メリー、離れていなさい。

 この試作品「プラズマ・クラスター」で一網打尽にするから…」

 

 

 やっぱしニンジャ=ゲッコウの腕だった!

 

 

「教授! ストップ! その人たちは味方です!」

 

 

 メリーがボーボボたちと彼女らの間に割って入り止めようとするが…

 銃口の奥で蒼白い光が灯され、教授と呼ばれた女性は慌てて発射口を上に向ける。

 その直後に極太の白い光線が発射。

 ボーボボのアフロを掠めて弓なりに斜め上に進んでいき、竹林の一部が焼失。

 勢いは止まらず高速で飛来、遥か先の山とぶつかり――上の部分がごっそりと欠ける。

 さらに突き進んで天へと消えていった…

 その破壊力に呆然と見つめることしかできない。

 

 

「いきなし、ぶっぱなすな!」

 

 

 突如、セーラー姿の少女が乱入。手に持ったパイプ椅子で教授を殴り倒す。

 頭から痛そうな音を響かせて床に倒れ伏せ、そのままピクリとも動かなくなる。

 何とも言えない静寂が場を包んだ後に思い出したかのように永琳はボーボボたちに…

 

 

「よくわからないけど、あの空間はそこの人間の娘の帰るべき場所のようね。

 空間が繋がっている今のうちに渡った方がいいんじゃないのかしら?」

 

 

「――だが、どう見ても幻想郷ではないぞ!

 俺たち三人がやって来た年代とは別の可能性もあるぞ! いいのか!?」

 

 

 さすがのボーボボでも躊躇するのか、その問いに紫が答える。

 

 

「1300年後に通じる穴が発生するなんて二度とないと考えていいでしょう。

 未来の私たちがあなた達を回収する。安心して行きなさい」

 

 

 紫の顔をじっと見つめてから一つ頷くと穴の方へと歩み寄る。

 その後を首領パッチ、天の助、最後にメリーと続く。

 

 

「え? コイツらも来るの!? なんで!?」

 

 

 黒髪の少女は人外の存在に驚き当然の疑問を言うが…

 

 

「ゴメン蓮子。今は時間がないから後で話す…」

 

 

 それだけ言うと済まなそうな顔をしながら入っていく。

 今後のあの人たちの苦労を考えると本当にすいません。

 時空の穴が段々と狭く、小さくなっていく。

 別れ間際に天の助と首領パッチが何かを投げて渡し、受け止める。

 「ぬ」の文字がびっしりと書かれた一枚の布切れに橙色の円錐。

 何故か二人ともキリッとした表情で…

 

 

「ぬのハンカチだ。寂しくて泣いた時はこれで涙を拭うといい」

 

 

「首領パッチエキスが入った飲み物だ。腹立つことがあったらコレ飲んで忘れろ」

 

 

 …どっちもいらない。

 特に首領パッチエキスのは「首領パッチ・ウィルス」の元になった液体だから

 飲んだら最後、首領パッチと同じ思考になるのでは…?

 ああ、相手に飲ませることを前提にした武器と思えばこれ以上に心強い物はないか。

 

 

「ありがとう二人とも、大事にとっておきます」

 

 

 笑顔でお礼を言うと何故か「えっ!?」とした表情で返す。

 どうやら感謝されるとは思わなかったようだ。

 普通はゴミ箱に直行されてしまうだろうが、こちらは最低でも1300年間は会えなくなる。

 どんな物でもあれ、やはし形として残せる物があれば…

 最後に背中を向けたままボーボボが私に声をかけてきた。

 

 

「あばよダチ公、なーんて気のきいたことは言わないぜ。行ってくるぜダチ公。それと――」

 

 

 

 

――未来で待ってるぜ。

 

 

 

 

 こちらに振り向き口の端を上げて親指を立てて見せる。

 ひたすら手を振るボーボボたちと私たち。

 

 

 ええ、未来で待っていなさい。

 

 

 やがて穴が完全に閉じると辺りが暗くなり静かになる。

 イナバたちの中にはすすり泣く者も、妖怪とはいえ1000年以上も生きられるとは限らない。

 特に力のない者は…因幡てゐは神格を持っているからこそなのだろうが

 そして浦島太郎が連れてきたモヒカンたちも…乙女のように地べたに座って泣いている…

 

 

 どうしようか、これ…?

 私がモヒカンたちを指差すが紫と藍、永琳は揃って首を横に振る…「ほっとけ」と。

 

 

 こうして私――輝夜は地上に残り、ボーボボたちとは別れた。

 

 

 これが「かぐや姫」

 または「竹取翁の物語」と呼ばれているお伽噺の語られなかった最後の部分。

 

 

 

 

 モヒカンたちを引き連れた浦島太郎が去り、縁のある妖怪たちがいなくなり

 今、迷いの竹林にいるのはてゐとその部下のイナバたちと永琳…

 そして永遠亭の門扉の前、星空の下に私がいる。

 随分と寂しくなったものだ。

 

 

 

 

 幾千もの星を眺めた、美しかった。

 星たちはその姿を夜にしか見せてくれない。

 それ故に私は夜が好きだ。

 満天の星空は、それはまるで夜が輝いているようで…

 私は輝夜。蓬莱山の輝夜。月の姫だった者。

 

 

 夜空にぽっかりと丸い月が浮かんでいた。

 

 

「たかだが1300年。待ってみせましょう」

 

 

 誰に言った言葉…? などとは、言うまでもない。

 知らぬ間に時が過ぎて東の空が明るく白色に染まり始まる。

 

 

「なんと見事な夜明けかな…?」

 

 

 私は笑みを浮かべてそれだけを言うと永遠亭の中へと入っていった。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 最後の部分は「僕の血を吸わないで」のヒロインに言った主人公の台詞を
 ちょこっと変えて書きました。
 この台詞、輝夜にぴったしだなぁと前々から思っていたので…

 この作品の一話目を書いているときは「菫子」の存在を知らなかった私。
 結果、こうなりました。ボーボボたちもいなくなりました。
 でもまだ終わりじゃない。

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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1300年後の幻想郷にて…

 
 1300年後の未来に通じる時空の穴。
 因幡てゐの権能で未来へと帰っていく仲間たち。
 その背をただただ見送る。


「――未来で待っているぜ」


 それから1300年が経った。


 

 

「――こうして輝夜たちは永遠亭に残り、彼らは元の時代に帰りましたとさ…」

 

 

 「めでたし、めでたし」そう締め括ってお話を終える。

 何処からともなく拍手が起こり、やがて全員が手を叩いて称賛の声を上げる。

 今、私がいるのは寺子屋の一室。観客は寺子屋に通う幻想郷の子供たちと数人の大人。

 中には人間じゃないのも交じっているが、それを気に留める無粋な者はいない。

 

 

 

 

 ボーボボたちが迷いの竹林から姿を消して1200年余り。

 紫たちが創りだした結界に永遠亭が引き込まれ、幻想郷の一部として取り込まれた。

 

 

 それから更に100年ほど経った時。

 ボーボボたちが存命しているであろう時代に永遠亭にかけた「永遠の術」を解除。

 永遠亭の止まっていた時間が動き出し、私たちは久方ぶりに迷いの竹林の外に出た。

 

 

 こうして私は人里を含む幻想郷の各地に足を運んでいる。

 今回は人里の寺子屋で子供たちを相手に昔話を聞かしているとこである。

 私一人では心配なのか永琳の命令で鈴仙もついてきたが…

 

 

「ちょっと、どういうことよ!? そこの牛女!!!!」

 

 

 教室の扉が思いっきり開かれて現れたのは金髪のカツラを被った首領パッチ。

 彼は牛女、もとい寺子屋の教師をやっている慧音(けいね)を指差すと…

 

 

「私の受け持った教室の生徒が何で「たわし」の付喪神なのよ!?

 私以外「たわし」じゃないの!? 当たり前だけどね!!」

 

 

 彼の背に隠れるようにして人間のような足が生えた「たわし」が足元に群がっていた。

 そのうちの一体が首領パッチに声を掛ける。

 

 

「首領パッチ先生、それよりも授業を再開しましょうよ」

 

 

「ああん!? うっさいわね! あんたらは台所の頑固な汚れでも取ってりゃいいのよ!!」

 

 

「なんだと!? キサマぁ、俺たち「たわし」の存在意義を否定するつもりか!?」

 

 

 たわしって鍋とか食器を洗浄するための道具だよね…?

 怒り狂った首領パッチとたわしの軍団が衝突。

 しかし多勢に無勢、一分も経たないうちに首領パッチはボロボロになって倒れ…

 両足を太いロープで縛られて引き摺るようにして何処へと運ばれていった。

 

 

「うちの寺子屋にはたわしの付喪神はいない筈なんだがな…」

 

 

 去っていくたわしの軍団、その背を見送りながら慧音が呟いた。

 それじゃ首領パッチとアレは無断で入ってきたというのか…

 

 

「やれやれ人騒がせな連中だな」

 

 

 教壇の上にはいつの間にか天の助が立っていた。

 その下、席にはゆっくりたちが「ゆーゆー」とゆっくり特有の声で鳴く。

 彼は満足そうに大きく頷くと…

 

 

「素晴らしい英語の発音です。

 これなら海外に行っても通用するでしょう」

 

 

 英語だったの!?

 というか何でいるの!?

 そして海外に行く必要あるの!?

 

 

「あの~すいません? バスケがしたいんですけど?」

 

 

 教室の外にある広場にはカンガルーみたいな生き物たちと一緒にボーボボが立っていた。

 そして広場でバスケとやらを始めるボーボボと謎生物。

 傍目には二人一組でキャッチボールをしているにしか見えない。

 もはやわけわからん。

 

 

 

 

 永遠亭の外を飛び出して私が真っ先にやったのはボーボボたちの捜索である。

 さほど苦労をかけずに見つかったが私たちが見つけたのは過去に飛ぶ前のボーボボたちだった。

 当然のことながら彼らは私たちのことを覚えてなかった。

 自分たちを知らないことに何とも言えない寂しさを感じたがそれでももう一度会えたのは幸い。

 いずれ彼らは遠くない未来で過去へと飛ぶのだろう。

 

 

 因みにその時は荷車にゆっくりを乗せて売っていた。

 私は懐かしさもあってゆっくりもこたんを購入。値段は30万円だった。

 

 

 

 

「おーい、ボーボボ!

 ちょっと車を作ってみたから試運転してみないか?」

 

 

 数人の河童が手を振って呼んでいた。

 その後ろには見覚えのある銀色の自動車。

 もしかしなくても今日だったのか…

 

 

 ボーボボたちは何度死んでも普通に生き返る。

 河童にしてみれば安心できる被験者といえよう。

 「わーい、行く行く」と河童の元に駆け寄っていくボーボボたち三人。

 いつの間にかに首領パッチも戻ってきていた。

 

 

「ちょっと待て、実験するなら人の迷惑がかからない所でやってくれ」

 

 

 すかさず慧音が注意をする。

 ここは子供たちがいる寺子屋。

 万が一にでも子供たちに被害がでればたまったものではないだろう。

 

 

「――ならば私が移動させましょうか…?」

 

 

 空間に縦に線が走り、次に線が二つに割れて広がり穴となる。

 その奥から上半身を身を乗り出すようにして紫が出てくる。

 彼女はそれだけを言うとボーボボたちの足下に紫色の穴が現れてボーボボたちを飲み込む。

 そして私と鈴仙も…

 

 

 移動した先は迷いの竹林。ザイガスがいる場所。

 その近くには先ほどの乗用車と製作者である河童たちとボーボボたち。

 どこから聞きつけてきたのか永琳とてゐもその場にいた。

 

 

 河童たちは紫と永琳の明らかな格上の存在にビビるも試運転の準備を進める。

 やがて竹林の一角に河童たちの機械で溢れかえる。

 何かを調べるための機械なのだろうが見た目からでは何のための機械かわからない。

 

 

 準備が終わり車に乗り込むボーボボたち三人。  

 エンジンが唸り声を上げ、車体が小刻みに揺れ始める。

 操縦席にあるハンドルを握りしめながらボーボボが発進の合図を叫ぶ。

 

 

「ヤマト発進!!!!」

 

 

 少し遅れて車の中から音楽が大音量で流れ、周囲の音を掻き消す。

 軍歌を思わせるような勇ましい歌と音楽。母なる星のために敵陣へと旅立つ船の歌。

 そしてボーボボたちを乗せた車がフワリと宙に浮いて、そのまま上昇。高度を上げていく。

 暫く河童たちがポカンとした表情で見上げるが、慌てたリーダー格の河童が問い詰める。

 

 

「ちょ、ちょっと!? 何で宙に浮いているのさ!?

 そんな機能つけた覚えなんてないよ!」

 

 

「いや俺たち免許証持っていないからさ、公道を走るわけにはいかないだろ?

 だからこうやって宙に浮いて空を飛ぶのさ?」

 

 

 開いた窓から首領パッチがさも当然のようにキラキラした瞳で答える。

 いつから迷いの竹林は公道扱いになった?

 過去に軍用の装甲車で走ったことがあったのだが、重量制限でもあるのだろうか…?

 

 

「そんで、このあと何をすればいいんだ?」

 

 

 ハンドルを握ったボーボボが河童たちに問い掛ける。

 ボーボボたちの奇行に慣れているのかツインテールの河童が…

 

 

「そうだね。まずは操縦席に赤い四角い大きなボタンがあるだろ?」

 

 

 「お、これのことだな」と何も考えずに押す首領パッチ。

 

 

「それは「自爆装置」のボタンだから決して押さないように!」

 

 

 河童が大声で注意を呼び掛けるも既に首領パッチが押した後。

 風の音と、葉と葉が擦れる音だけが暫し流れる。

 

 

「「ええぇぇ――――――――っ!!?」」

 

 

「ふざけんじゃねぇよ! 押しちまったじゃねぇ―かっ!?

 んな危険なモン、一般乗用車につけんじゃねぇよ!!!!」

 

 

 言っていることは至極真っ当だが、後先考えずに押すのもどうかと思う。

 河童も首領パッチに負けず劣らない大声で意味のわからない反論、拳を強く握って力説する。

 

 

「何を言う『ロケットパンチ』『ドリル』『自爆装置』はメカニックの三大ロマンなんだぞ!?」

 

 

「ああん!? そんなモン知るか!?

 自爆装置よりも俺たちの安全のが先だろうが!?

 最悪オレだけでも助けろや!!!!」

 

 

 首領パッチが怒りながらもまともなツッコミを入れてくる。珍しい。最後は余計だが…

 でもあの三人だから自爆装置をつけたのかもしれない。

 

 

「落ち着け首領パッチ、爆発する前に脱出すればいいだけの話だ。

 こうやって扉を開けて外に飛び出せば――――」

 

 

 逆上して頭に血が上った首領パッチとは逆に天の助は冷静に対処方法を述べて実行に移す。

 扉に手をかけてガチャガチャと鳴らすが一向に開く気配がない。焦る天の助。

 更に開いていた窓が閉まり、その上に金属質のシャッターが降りてきて外から見えなくなる。

 そして車の中から聞こえてくる物を叩くような音と叫び声と怒鳴り声に甲高い悲鳴。

 

 

「隊長、安全装置は問題なく作動してますね」

 

 

 搭乗者に対する安全はどうでもいいのか、河童たちの考えがいまいち理解できない。

 河童が見ているモニターにはもはや諦めたのか飲み物を片手に笑顔で乾杯をしている三人。

 ――と思ったら急にキレた首領パッチが飲みかけの飲み物を操縦席に叩きつけた。

 液体が機械の隙間に入っていき放電が発生。狭い車内に飛び散って三人に直撃して感電。

 車のボディから閃光が発しられ視界が真っ白に染まる。次に雷が轟き嘶くような爆音。

 光と音が収まった頃にはボーボボたちを乗せた車の姿がどこにもなかった。

 ボーボボたちは無事に過去に飛んだのだろうか…?

 

 

「一応、依頼通りに仕込んだけど……本当にこれで良かったのかい?」

 

 

 河童が声をかけたのは紫。仕掛人はコイツのようだ。

 

 

「ええ、上々。貴女たちの仕事は終わりました」

 

 

 「ご苦労様」そう言うと河童たちの足下に穴を生み出して次々と落としていく。

 穴の底から水面に落ちる音と、紫に対しての悪態を吐く声が聞こえてくる。

 それも紫が穴を閉じて聞こえなくなるが…

 

 

「――では約束を守るために()()を迎えに行きましょうか?」

 

 

 紫が無邪気な少女のように笑う。

 過去に送り込んでおいて迎えに行くのも妙な話だが、鈴仙を除いた私たちは深く頷いた。

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 前話が最終話の形の一つだったりする。
 でもそれだとボーボボらしくないので、こんな感じに続きました。
 輝夜が二次創作でヒキコモリ=ニートという扱いに疑問を感じる今日この頃。


 余程のことがない限り次が最終話デス。
 何気にこの回でようやっと鈴仙が出てきたがセリフがない。ゴメンね。
 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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再会と宴会と…

 
 1300年後の幻想郷。
 そこには輝夜たちと出会う前のボーボボたちがいた。
 歴史の史実通りにするために輝夜一行はボーボボたちを大昔の日本に送り込む。
 
「――彼らを迎えに行きましょうか…?」

 妖怪の賢者はそう言った。



 

 

 ――迎えに行く。紫はそう言う。

 

 

「一ヶ月前から京都の大学、前に見た赤髪の教授がいる所に居候しているわ。

 私と貴女が所有しているのと、ボーボボのアフロに住んでいる「ゆっくり妖怪」

 それらが発してる妖気。それを点と点にして繋げて線にすれば道となる」

 

 

 私はゆっくりもこたんを紫はゆっくり霊夢をボーボボから購入して飼っている。

 今の紫ならば手掛かりさえあれば居場所を特定することなど容易(たやす)いのだろう。

 それこそ異空間、時の狭間、世界の外側であろうと…

 だが幻想郷の結界の特性ならば彼らを引き寄せることができそうなのだが…?

 

 

「過去のボーボボたちがいると未来のボーボボたちが弾かれてしまうのよ。

 それ故に幻想郷にいるボーボボたちを過去に送り込む必要がありました」

 

 

 そうしなければ未来のボーボボたちが幻想郷に入って来れない。

 河童たちと()()に協力を要請して今日この日に実行した、とも彼女は言う。

 教授が少なからず関わっていたことに驚いたが…

 

 

「――でも問題が一つ。未来への帰還のための道標が「ゆっくり妖怪」の妖気だけでは足りない」

 

 

 ()()の無敵要塞ザイガス。

 その人型形態の()()の核熱造神ヒソウテンソク。

 

 

 同じく()()の宇宙船ザンボット。その船内で使用したニンジャ=ゲッコウの自爆装置。

 そして()()にてメリーに教授と呼ばれた赤髪の女性が放ったプラズマ・クラスター。

 

 

 さらりと流したニンジャ=ゲッコウの名に驚くも紫は構わず話を続ける。

 空間の壁を破壊するほどの力を道標にして過去と未来を繋げる。

 その最後のピースが因幡てゐの能力「幸運」と対価による「不幸」

 1300年前にタイムスリップする、という特大な「不幸」な目に遭わせて…

 過去の私たちが「幸運」の力と権能で彼らを未来へと帰還させる。正直ややこしい。

 

 

「貴女の言う通り、これは非常に面倒なことよ。

 でも歴史の史実通りにやらなければ、それ以上に面倒なことになるわ。

 この行動はそちらの月の叡智殿と話し合った末の結論よ?」

 

 

 初耳なんですけど…?

 永琳は顔をしかめさせながら本音を語る。

 

 

「正直、あの者たちは教育上に良いとは言い難いので姫様とは関わらせたくないのですが…」

 

 

 彼らの奇行は今に始まったことではないが良くも悪くも周囲の人に影響を与えている。

 それに永琳が反対した所で紫は実行するだろうし…何もしなくても普通に帰ってきそうで怖い。

 何はともあれ彼らを幻想郷へと戻す手筈は整った。あとは帰還を待つのみ。

 

 

 紫は異空間から通信機のような物を取り出すと指先で画面を軽く撫でるようにして操作。

 通信先と短いやり取りをしたあとに異空間に放り込んでしまう。

 会話の相手は教授だろうか? 紫の能力で空間と空間を繋げば良さそうなのだが…

 件の彼女がプラズマ・クラスターをぶっ放して山を砕いた前科があった事を思い出した。

 ああ、安全のためか…と手を叩いて納得する。

 紫は真顔でこちらを見つめるとボーボボたちの現在の状態を教えてくれた。

 

 

「なんかゴッサム・シティの『アーカム・アサイラム』という所に()()されたみたい」

 

 

「「…………はい?」」

 

 

 予想を斜めを行く発言に思わず間の抜けた声を出してしまう一同。

 

 

 アメリカという国の東海岸沿いにある都市。その中にある精神治療施設。

 病院という看板がついているものの実態は凶悪犯罪者を入れるための刑務所らしい。

 一体なにをやらかしたんだ、というか何故そんな場所にいるんだろうか…? 謎が深まる。

 

 

 暫くしてから紫が囚人服姿の三人を連れて戻ってきた。紫が現地に赴き救出してきたのだ。

 さらにもう一人、黒衣の男が静かに佇む。蝙蝠を思わせるような全身黒づくめの男。

 

 

「君たちが解放されたのは事件解決に協力してくれたからだ。

 いくら職務質問に腹を立てたからって警官に暴行を加えるのは感心できない」

 

 

「「すいません。以後、気を付けます」」

 

 

 深々と頭を下げる。

 彼はそれを見届けると紫の作った穴を通って幻想郷を去っていった。

 

 

「待たせたな」

 

 

 いつもの格好に戻ったボーボボ。過去の私たちと出会った後の彼らがそこにいた。

 

 

「全然、変わってないわね」

 

 

「お前たちと別れてから一ヶ月しか経っていないからな」

 

 

 時間の流れ、住んでいた時代ゆえにそういう現象も起こり得るか…

 過去にいた知己たちは殆どが寿命で亡くなった。

 この先もこうして私よりも先にいなくなるだろう。

 

 

「とりあえず、それを脱いだら?」

 

 

 私の指摘にいそいそと囚人服を脱いで、いつもの格好に戻る。

 もっとも首領パッチと天の助は普段から服を着ることは少ないが…

 

 

「やりたいことは山ほどあるが先ずは出所祝いだ! 派手にやるぞ!」

 

 

 首領パッチが拳を振り上げて叫ぶ。

 異変が解決する度に何かと宴会やらパーティーやらを催し物をやるのだが…

 その時にコイツらもやって来るのだ。呼んだ覚えもないのに。

 もっとも、それは幻想郷の住人たちも同じことだが…

 首領パッチが永琳の肩を軽く叩いてから蔑むように…

 

 

「――というわけで宴会の準備しっかりやれよ?」

 

 

 このあと永琳にきっちりと制裁を加えられたのは言うまでもない。

 

 

 その日のうちに宴会の話が顔馴染みの鴉天狗の手によって幻想郷の隅々に行き渡る。

 場所は永遠亭。主催者は私たち永遠亭組。彼らと出会い、別れた時と同じ満月の日。

 

 

 

 

 準備等で時刻は流れて夜。

 星空の下、首領パッチと天の助が二人並んで地べたに座っている。

 首領パッチが星空を眺めながら「キレイ…」と呟くと、天の助が真面目な顔で語りかけてくる。

 

 

「パチ美、君に渡しておきたい物がある」

 

 

 大きな四角い箱を取り出して、中に入ってある物を見せる。

 

 

「給料三ヶ月分の「現金」だ」

 

 

 分厚いお札の束だった。ロマンチックの欠片もない。

 

 

「まあ、素敵♥」

 

 

 頬を赤らめさせてお札の束を奪うように引ったくると、ペラペラと捲りながら確認する。

 

 

「何よコレ!? 全部「ぬ」円札じゃないのよ! 

 こんなモン暖炉にくべる薪代わりにしか使い道がないじゃないのよ!」

 

 

 「ぬ」と書かれたお札を燃え盛る焚き火に投げ入れる。

 投げ込まれたお札の束が一瞬で燃え尽きて灰に、風に吹かれて空へと舞う。

 

 

「ああっ!? 俺の三ヶ月の苦労が!?」

 

 

 いったい何処で手に入れたんだろうか…? 「ぬ」のお札。

 そんなアホなやり取りを余所に続々と来訪者が訪れてくる。

 紅魔館、白玉楼、妖怪の山といった幻想郷の面々に…

 

 

「あ、繋がった」

 

 

 突如、現れた空間の裂け目から黒髪の少女を連れたメリーが出てくる。

 その奥には赤髪の教授と助手らしき少女も。

 最初はおっかなびっくりしていたが私の知り合いということもあってかすぐにうち解け合う。

 私もボーボボたちが外でどんな騒動を起こしたのか気になり彼女達から話を聞く。

 彼らは相変わらず外でも凡人には理解不能な行動をしていた。

 

 

 騒霊たちが音楽を奏でて妖怪たちが歌を歌う。

 人外の生き物と人が交ざっている不可思議な光景。

 顔触れは違うが過去と似た光景がそこにあった。

 そして地面を跳ねながら移動するゆっくりと変な生き物……

 

 

「……………………」

 

 

 ボールほどの大きさの饅頭のような体に短い手足。円らな瞳に猫のような口。

 ゆっくりが誰かを模しているように、この小さな生き物も誰かを彷彿させる。

 

 

「ほっほっほ、それは「すくすく」という謎生物じゃよ。お嬢ちゃん」

 

 

 その生物を観察していると老紳士のような格好のボーボボが説明してくれた。

 慧音の能力と妄想で生み出された生き物らしい。

 

 

「私、こんなの生み出した覚えないぞ!?」

 

 

 妹紅と一緒にいる慧音がこちらに振り向いて否定する。

 ゆっくり同様にこの謎生物も馴染んでいくんだろうなぁ…

 

 

 人が集まれば、招かざる客も来るようで()()から一隻の船がゆっくりと降りてくる。

 広場から少し離れた所に着地し、船の甲板から骸骨たちを引き連れて男が降りてきた。

 格好をわかりやすく説明するならば西洋の海賊の船長。ただし骨。

 赤い派手な格好にドクロのマークがついた帽子。カイゼルヒゲに眼帯。腰にはサーベル。

 その人物は私たちを一瞥すると偉そうに腕を組みつつ後ろにふんぞり返って名を名乗る。

 

 

「――私の名は「フック」船長…」

 

 

 フック船長の自己紹介が言い終わる前にボクサーの格好をしたボーボボが動き出す。

 両腕で顎を隠すようにして接近。

 二人はボクシングのリング中央に立っている。

 

 

「フー―――ック!!!!」

 

 

 ボーボボの横から打ち抜く右のパンチがフック船長の頬を捉える。

 堪らずよろけて体をリングへと傾ける。そこに…

 

 

「アッパー―――っ!!!!」

 

 

 肘を曲げたまま下から突き上げるようにして放った左のパンチが顎に突き刺さる。

 そのパンチの衝撃で体ごと宙に浮き、背中から大の字になって倒れる。

 試合を見届けた首領パッチが試合終了のゴングを鳴らす。

 

 

「アイアムア、チャンピオー―――ン!!!!」

 

 

 ボーボボがリング中央で叫び、レフリー姿の天の助がボーボボの右腕を上げさせる。

 

 

「その「フック」じゃなかァ~~~っ!!」

 

 

 復活したフック船長が古めかしい銃で三人を撃ち抜いて穴だらけにする。

 

 

「ええい、大人しく宝を渡せば痛い目に遭わずに済んだものを!」

 

 

 フック船長の号令の下、骸骨たちが動き出す。

 常人ならば慌てふためくだろうが生憎ここに集まっているのは…

 異変を起こす者と解決する者たちが集っている。

 この騒ぎすらもイベントの一種、酒の肴、暇潰し程度にしか思っていない。

 

 

 迷いの竹林の一角が色とりどりの弾幕の光で鮮やかに映える。

 それはまるで満天の星空が地上に下りたようで……ただただ、美しい。

 この地上で、この幻想郷の行く末を見ていくのも悪くはないかもしれない。

 

 

 そして私は知った。場所などは関係なく、己の心が退屈を生み出すということを…

 だから私は私にできること探そう。幸い時間だけはたっぷりとある。

 

 

 ここは幻想郷、美しくも残酷な世界。

 でも、どこぞの三人組のせいで騒がしくも平和だったりもする。

 

 

 

 

 見目麗しい少女たちが撃つ光の塊と光の欠片。

 その宝石のような輝きを全身に浴びながら、私は幻想的な光の奔流を目で愉しむ。

 

 

 

 




 
 (´・ω・)にゃもし。

 正直、最終回はどうしようかと悩みました。
 因みにフック船長の元ネタは「突撃!パッパラ隊」
 何はともあれ「東方かぐや姫 竹取ボーボボの物語」終了しました。
 番外編は書きません。万が一、書く場合は別の作品としてでしょうね。

 ここまで読んでくれて、ありがとうです。


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