ラブライブ! とある高校のドラマー少年 (桐島楓)
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プロローグ

 ――努力家だね。

 

 この言葉を今まで何回も聞いてきた。特に否定の言葉は出さなかったが、内心ではその言葉の意味が分からなかった。

 

 ――この年でこれだけドラムを叩けるとは、今までどれだけ努力してきたのか想像もできないな。辛いことも多かっただろう。

 

 いや、別にそんなことはない。

 ドラムを叩くのは好きだった。お父さんやお母さんが言うには物心着く前からドラムに興味を持っていたらしい。もの心着いた頃にはお父さんに頼んでドラムを教えてもらっていた。自宅でドラムを叩けて、ドラムを教えてくれる人がすぐそばにいた。運が良かった、それにドラムを叩くことは大好きだった。

 

 ――叩けばすぐにその音がいい音だったかどうかわかる。

 

 ――どこをどう修正すればより良い音が出るかわかる。

 

 ――リズムに乗っていけば体の芯から熱くなってくる。

 

 一日何時間もドラムを叩き続けた。時には友達と外で遊ぶこともあったけど、それでも少なくとも三時間以上はドラムに触っていた。

 

 ――友達が家にまで来て自分のドラムの演奏を褒めてくれるのが嬉しかった。

 

 ――両親が自分のドラムがまた上達したと褒めてくれるのが嬉しかった。

 

 ――大会やコンクールで賞をとるのが嬉しかった。

 

 だから、辛い事なんて無かったし、努力してるとも思わなかった。だって皆がゲームを楽しいと思ってやってるように、僕はドラムが楽しくて仕方なかったのだから。

 

 そんな風に物心ついた頃から過ごしていた。

 その成果かどうかはわからないが――小学校最後の年――つまり12歳の時に――僕は世界の舞台に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公紹介

若干のネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音羽志郎

 

年齢:16歳

身長:170cm

体重:56kg

趣味:演奏・スタミナ作り・音楽関係の本を読む

使用楽器 ドラム・ヴァイオリン

体型:細身だけど以外に筋肉質

口癖:ハラショー!

 

 ドラムに関しては天才的な素質を持つ。12歳でドラムの世界ランク戦に出場し世界ランク9位を得た天才。また、それに対する努力を惜しまないが、本人は努力ではなくやりたいことを続けた結果としか考えていない。

 ドラムは荒々しくも繊細さのある力強い音が持ち味。ただし、パフォーマンスが激しい。ヴァイオリンもそこそこいける。

 

 両親は共に有名な音楽家で父親が打楽器で母親がヴァイオリン。志郎は幼い時に父親からヴァイオリンは女性の楽器だから男の子は少ししかできないんだ。という間違った知識を植え込まれたためドラムをメインに練習していた。(ちなみにこれが原因で父親は妻の怒りを買い恐妻家となった)

 

備考

作曲は出来ない。本人曰く「演奏が専門」 

スタミナ作りのために筋トレやランニング、遠泳などのトレーニングをしているため体力は多い。

勉強は平均かやや上。120人中30番前後を維持している。

中学2年の終わり頃までは両親が家にいたが、今は両親が音楽活動を再開して世界中飛び回っているため現在一人暮らし。なお料理はできない(麺を茹でるのが精一杯)

口癖は幼馴染のものが移った。

中身は残念

 




早々にキャラ紹介で文字数稼ぎしてすみませんでした!
ちなみにキャラ設定に深い意味はありません。原作キャラとの絡みをやりやすくするための設定なので


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第1話

ラブライブは本当につい最近知ったばかりの『にわか』なのでキャラの性格や口調が合ってるかどうかが不安ですが、原作キャラ登場です!


『――新入生の皆様が充実した三年間を送れる事を教師一同願っております』

 

 ――前略、お袋さま。私『音羽志郎』は晴れてUTX高校に入学することができました。

 只今キラリと眩しい頭を持った校長先生の眠くなる話を聞いている真っ最中であります。

 

「無事に入学式を迎えられてよかった……」

 

 前の人にも聞こえないくらい小さな声でぼそっとつぶやいてしまった。

 なにせUTX高校に入学するまで激しい戦いに身を投じていたのだ。簡単に説明していくと。

 幼馴染の5人の内4人が『なんで音ノ木坂に来ないの!? 私たちの後輩になるのがそんなに嫌だったの!?』

と胸ぐらを掴まれてグラグラ揺すられたり――。

 同い年の幼馴染が「へえ、そう。来ないの――べ、別にどうでもいいけど!」

とツンツンしたり。

 幼馴染の一人の母親が『あら、うちのライバル校に入学するなんていい度胸ね』

と圧力をかけてきたり――

 珍しく家に帰ってた母親が『いいじゃない、YOU、音乃木坂に入学しちゃいなよ』

と笑いながらパンフレットを渡してきたり……。

 

 念のため言っておくが決して、その学校が嫌いなわけではない。校舎は新しくないものの歴史を感じさせるし、音楽校としての側面もあったという実に俺好みだったと言える。幼馴染たちも嫌いじゃないし、一緒にいて楽しい。入学したらきっと楽しく過ごすこともできただろう。

 ただ、一つ、そう一つだけ大きな問題があったのだ。それは

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

 音ノ木坂学院が女子高だったということだ。

 

 そのことを指摘したら全員にそれぞれ別の場所で

 

『女装すればいいじゃん!!』

 

 と言われたときは真剣に交遊関係を見直すべきかと悩んだ。どこの世界に女子高に女装して入学しなよという、女子生徒と理事長と母親がいるというのだ。父は父で過去のことが原因に母親に頭が上がらないし……。まさしく四面楚歌状態だった。

 自分の家の部屋に音ノ木坂学院のセーラー服が掛けてあったり、音ノ木坂学院の教科書一式が揃えてあったり、女性用下着が置いてあったりと、恐怖でしかなかった……。しかし、今俺はそれらの試練を乗り越えUTX高校に入学することができた。

 もっとも、どこかで一歩でも道を間違えたら今の自分はここにいなかったことだろう。

 故に俺はただ独り、学校の講堂で勝利に酔う。

 

 

 入学式が終わりクラスの人たちの顔合わせが終わると本日の学校は終了となった。

 放課後は自由に校舎内を見て回ってもいいということだったので俺は一人でがぶらぶらと回ることにした。残念ながら中学の同級生は一人もこの高校に来なかったのだ。

 流石にぼっちで学校生活を送るのは嫌なので早く気の会う友人を見つけたいものである。

 

「音楽室かな――」

 

 廊下の隅にある広い教室を見て興味を持った。両親が音楽家で俺自身も楽器を嗜んでいる。興味を惹かれるのは当然だろう。

 小声で失礼します、と声を掛け中に入る。そして中に入ると俺は思わずテンションが上がってしまった。

 設備が充実しているとは聞いたが、これほどとは思わなかった。

 入口は二重扉となっていて、完璧な防音設備、高音質のスピーカーもセットされているし、楽器の数も充実している。他にも衣装まで揃っている。

 

「ハラショー! 中々いい設備だ!」

 

 上機嫌になりながら教室の中を散策する。この教室にあるものだけでもかなり質のいいライブができるはずだ・

 するとグランドピアノから少し離れたところに、大小様々なドラムやシンバル等の打楽器が一人で演奏できる位置に設置されていた。設置してるあるものを見るに一般的なドラムセットだ。

 それを見て俺は思った――叩きたい、と。

 キョロキョロと周囲を見回す。

 

――ちょっとくらい、いいよな。

 

 俺は懐からマイスティックを取り出す。そしてスマホも取り出しスピーカー音量を上げる。ソロで叩いてもいいが気分じゃないのでスマホの中の音楽も使用する。

 椅子に座り一つ深呼吸し、そして、スティックを振り下ろした。

 バスドラムを――フロアタムを、シンバル、ハイハットシンバル、スネアドラム、トムトム、から力強い音が響く。リズムを乱さず、ビートを刻む。

 サビに近づくにつれてテンションが上がっていく――最高にハイッてやつだァ!! ジャグリングの要領でスティックを空中に投げ、落ちてくる間に手で叩いて音を奏で、落ちてきたスティックを掴みそのままの勢いで叩きつける。

 テンションが上がってくると無駄に派手なパフォーマンスをしてしまうのは俺の悪い癖だ。分かってはいるんだが辞められない。一度とある大会で審査員の一人がこれを気に入らなかったのか『音楽を舐めてる!!』と点数を下げられてしまったことがあるが、それもいい思い出だ。

 物思いにふけりながらも決して音楽へ演奏へ影響を与えない。伊達に物心着く前からスティックを握ってはいない。

 そして、一曲の演奏が終わった。

 

「ふぅ……」

 

 終わると一息付くと視線を感じたのでそちらを向く。

 

「あ……」

 

 上級生であろう三人の少女がそこにいた。なにやら呆然としている。

 呆然としている理由も気になるが、それ以上に見られたと思うと思わず顔が熱くなってしまう。見せることを前提でやったときは平気なのだが、見られていない前提でやってるときに見られると恥ずかしくなってしまうのだ。おそらく俺はいま顔を真っ赤にしているだろう。

 

「えっと……すみませんでした!!」

 

 急いでスティックをしまい、鞄を持って俺は三人の上級生の間をすり抜けて教室から飛び出た。

 

「って、ちょっと待って!!」

 

 なにか呼ばれたような気がしたがもう階段を下ってしまっている俺は止まらず外に急いだ。取り敢えず顔を――というより頭を冷やさないと!!

 

 

 

 

 その日は普段より少し練習をはじめる時間が遅くなった。

 理由としては単純で新入生がいるためだ。自惚れるわけではないが私達、綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅの三人のユニット『A-RISE』は有名だ。練習している時に人集ができてしまうかもしれないという先生の言葉に従い、練習時間を少しだけ遅くしておいた。

 放課後ある程度の時間を置いてから使用許可を取っていた教室に向かうとそこには先客がいた。

 扉を開いた瞬間――私たち三人は圧倒された。

 そこにいたのは今日入学したであろう男子学生だった。

 重厚で体の芯まで響いてくる――それでいて全く不快感の感じない音質は入った瞬間私たちの全神経を彼に集中させた。

 やがて、スティックでジャグリングしたりというパフォーマンスまで入る。それでいて音には一切の乱れがない。

 それは私だけではない、あんじゅも英玲奈も彼の演奏に魅了されている。ナンバーワンスクールアイドルと言われている自分たちが心を奪われているのだ。

 

「凄い――」

 

 心からの賞賛だった。ただ、ただそうとしか言えないのだ。

 そして、彼の演奏は終わった。途中からしか聞いていなかったので少し物足りなさを感じるが、同時に充足感も感じるという不思議な気分だった。

 私たちは誰もこれが出せない。彼の演奏の余韻に浸っているのだ。

 

「あ……」

 

 彼と視線が合う。

 すると彼の顔があっという間に赤くなっていく。ここは上級生らしくハキハキ行かないと!!

 

「えっと……すみませんでした!!」

 

 あっという間にスティックをしまい鞄を持った彼は私たちの脇をすり抜けて教室を出て行ってしまった。

 

「って、ちょっと待って!!」

 

 私の言葉にあんじゅと英玲奈も我に返り振り返る。

 そのときにはもう彼は階段をものすごい速さで下りていた。

 

「……なんなのよ」

 

 まさか速攻で逃げられるとは思わなかった。

 

「凄かったわね」

「ああ。今までプロのドラムを聞いたことはあったが――こんな風になったのは始めてだ」

 

 二人の意見には私も同感だった。

 一応人気ナンバーワンのスクールアイドルである私たちが、ただ圧倒されてしまったという自体に、嬉しさと悔しさが胸に宿る。

 

「負けられないわね――」

 

 私たちはスクールアイドルで彼は違う。だが、それでも今回の一件は私の中に火をつけた。

 

「しかし、名前も聞けなかったな」

「そうね、でも顔は覚えたから大丈夫よ。ね、ツバサ」

「ええ、一年の教室を虱潰しに探すわ!!」

 

 これが私たちA-RISEと音羽志郎のファーストコンタクトだった。

 

 



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第2話

さて勢いのあるときにガンガン書いていきたいです。
所謂主人公最強系のようなものなので在り来たりにならないようにオリジナリティを入れられるように頑張ります!


 前略親父殿。UTX高校に入学後数日が経ちました。慌ただしくも充実した毎日を過ごしているのですが、前回の一件で三人の上級生に目をつけられてしまったようです。昼休みと放課後にやってくるため、彼女たちの殺気? を感じるたびに身を隠すという漫画のような高校生活を満喫しています。

 え? 何故身を隠すのかって? 恥ずかしいからですよ!! 単独で演奏していたくせに無駄に派手なパフォーマンスやってるのを見られて『プークスクス、誰もいないのにあんな派手な動きしてるー』『ナルシストくんじゃないのー?』 とか思われてた日には身を投げるレベルです。三人とも美少女だったし……故に心の平穏を守るために身を隠すのです。

 被害妄想? 知らない子ですね。

 それはそれとして、親父殿がかつて私にヴァイオリンは女性の楽器と嘘を教え込んだことがお袋にバレて半殺しにされた時

「女は魔物だ……ガクリ」

 と馬鹿なこと言っていたのを思い出しました。あとアレは嘘を教え込んだ貴方の自業自得です。

 P.S. 5歳の息子の前であの夫婦喧嘩はいかがなものかと思います。

 

 

 

 

 

 そんな風に謎の高校生活を送っている俺だが今日は土曜日で学校が休みだ。先輩方の襲撃もなく穏やかな朝を迎えている。

 特に予定もないので地下の防音室に篭ってドラムでも叩こうと思っている。――いや、思っていた。

 昨日の夜、幼馴染の三人に呼び出されていなければ……。

 

 

「志郎くん! 私たちに協力して欲しいの!」

「えっと……何を?」

 

 俺は幼馴染の高坂穂乃果、南ことり、園田海未の三人と一緒に某有名ハンバーガーチェーン店に来ていた。

 そこで席に着くなり穂乃果が目をキラキラさせながらそう言ってきた。

 ちなみに年上の彼女たちを呼び捨てにしているのは中学時代に先輩&敬語禁止令を出されたためである。

 

「穂乃果、まずは説明しないと分かりませんよ」

「そうだね、志郎くんは音ノ木坂学院じゃないんだから」

 

 そうそう、まさにそれなのだ。何に対してどう協力して欲しいのかを言ってくれないことには。

 

「うん、実はね――スクールアイドルをやろうと思うの!」

「スクールアイドル? っていうとアレか高校生がアマチュアでやるっていう」

 

 たしかUTXにも有名なグループがあった気がするな。まり興味がなかったからスルーしてたんけど。なんてグループだったか……。

 

「うん! それでね音ノ木坂学院を有名にしたいの!!」

「有名にって、なんでまた? 今も伝統ある高校で有名だろ?」

 

 音ノ木坂学院はこの付近では伝統ある学校と有名であるはずだ。それを今更何故? と疑問が湧いてくる。が、それはすぐにことりが教えてくれた。

 

「年々生徒の人数が減ってるの。今年の一年生なんて1クラスしかないんだよ」

「……最近少子化が進んでるって言うしね」

「うん、それに誰かさんが入学した学校が人気で取られちゃってるしね」

「こ、ことりさん? ま、まだ根に持ってるの?」

 

 音ノ木坂学院に入学は不可能(性別的な意味で)なのは仕方ないと諦めてくれたが、なんでよりによってライバル校に行くの? と詰め寄られたのは記憶に新しい。

 

「ううん、別に♡ ことりは怒ってないよー♡」

 

 アレ、ハートマークってこんなに恐ろしいものでしたっけ?

 

「だから、スクールアイドルで有名になれば来年入学してくれる人が増えるんじゃないかなって思ったんだ!」

「なるほど――」

 

 相変わらず前向きで明るい人だなあと思う。思い立ったらすぐに行動に移る熱い心の持ち主なのだ。おっちょこちょいで時折暴走するけど。

 一応ドラムの世界大会という大舞台に出場したことのある立場から言わせてもらえば、いきなり始めてそう簡単に有名なるレベルまで行くのは難しい、というものだった。

 まあ、それでもルックスはそこらのアイドル顔負けだし、なにより本気で取り組むという意欲が彼女たちにはある。それを俺は長い付き合いでよくわかっていた。

 

「皆なら出来る……」

 

 心からそう思った。

 

「ん? どうしたの?」

「ああ、なんでもないよ。で、俺に協力出来ることがあるなら協力するけど?」

「本当!? 良かったぁ!」

 

 喜ぶ穂乃果を見てこっちも少し嬉しくなる。

 だが、俺に何ができるだろうか? アイドルについてはそれ程詳しくない。せいぜい音楽雑誌などに乗ってるのを少し流し読みする程度。そんな俺に何ができるのか?

 

「で、どんなことして欲しいの?」

 

 まあ、聞いてみるのが一番早いか。

 

「はい、志郎はドラムで世界大会も出ましたし、プロの方と演奏したこともありますよね?」

「そんなに多くはないけどね」

 

 一応、プロの歌手やダンサーといっしょに演奏したこともある。実力云々というより12歳で世界大会に出たという知名度がやらせてもらえた一番の理由だったと思うが、いい経験だったと思う。

 

「ですから、そのプロの世界を垣間見た経験を活かして私たちの歌やダンスにアドバイスをして欲しいのです」

 

 志郎に見られるのは恥ずかしいのですが、と顔を赤らめながら言う海未は反則的に可愛いと思いました。

 

「なるほどね――でも、やるからには妥協しないよ」

「もっちろん!」

 

 穂乃果はやる気十分のようだ。いや――穂乃果だけではなく、ことりも海未もやる気は十分だ。

 

「あ、私が衣装を担当するからそっちも感想も聞かせてくれると嬉しいな」

 

 ことりがそう言う。

 そういえば、ことりは服飾関係に興味があると昔から言っていた。だからその役割を引き受けたのだろう。

 

「衣装か――でも俺はアイドルの衣装とか詳しくないし、裁縫の類いも全然できないよ?」

 

 これは本当である。中学時代課題で簡単なエプロンを作るという授業があったのだが、針で指を何度もチクチクやってしまった。一時期指が絆創膏だらけになったものだ。

 

「大丈夫だよ、衣装の感想を聞かせて欲しいの」

「ん~、それくらいでいいなら」

 

 まあ、男性視点からの感想なども役には立つのだろう。むしろ立ってくれないと俺の感想が一切無駄になるわけだが。

 

「はい、それでは一区切り着いたところで――」

 

 ハンバーガーを食べるのかな? 話をしながらポテトを摘んではいたもののハンバーガーは誰も手をつけていなかった。せっかくのハンバーガーがこれでは冷めてしまう。

 

「次の議題に移りましょう」

「まだなんかあったの!?」

「もちろんです!  二人はもちろん次の議題をわかってますよね?」

「もっちろん!」

「うん!」

 

 穂乃果とことりが力強く頷く。

 

「次の議題は――志郎の学校生活についてです!」

「いや、なんで!?」

 

 議題の内容がまさかの自分の高校生活についてで思わず立ち上がって叫んでしまった。ピークは過ぎているものの客が数人はいるので注目されてしまった。とっても恥ずかしい。

 

「って、なんでそうなるの?」

「当然です! なにせお義母様から『家の志郎は得意楽器以外はとんでもないヘタレの○○だから三人ともよろしくね?』と頼まれているのです!!」

「初耳なんですけど!?」

 

 海未のお母さんの発音に微妙な違和感を感じるが……それはそれとして、なに考えてるんだあの親!? っていうか、実の息子をよくそこまで酷評できるな! いや。反抗期のときにうっかりBBAと言ったら二ヶ月の生活費をくれなかったりと容赦ないのは昔からか。

 

「と、いうわけで高校生活について、詳しく、詳しく! 説明してください」

「嘘ついたらダメだからね」

「嘘ついたらこの後ことりたちのオヤツにするからね?」

 

 うふふ、と笑いながら言うことりに妙な恐怖を覚える。

 オヤツって何かの隠語でしたっけ?

 

「どう――と言われてもね――」

 

 取り敢えず冒頭のように説明してみた。

 すると――

 

「あ、あの海未さん?」

「なんですか?」

「ど、ドリンク握りつぶしてますよ?」

「ああ、いつの間に」

 

 平坦な声でそう言う。中身は殆どなくなっていたようだが――握りつぶす過程で氷の砕ける音が何故か骨の砕ける音に聞こえてしまい背筋に悪寒が走った。

 視線をほかの二人に移すと、こちらは――ワラっていた。先程までの太陽のような暖かい微笑みではなく、真逆の絶対零度の笑みだった。

 

「迂闊だったね―」

「うんうん、まさかたった数日で年上の女性三人と知り合ってたなんて……」

「ああ、いや知り合ったという訳ではないのですが……」

 

 何故敬語になってるのかって? 本能がそう叫ぶからさ、逆らうなァ!!! と。

 

「大丈夫ですよ志郎」

 

 海未が穏やかな表情でそう言ってくれる。

 が、目が全く笑っていないので非常に怖い。

 

(誰か助けてー!!)

 

 とある休日の一幕であった。

 

 




ソフトなヤンデレ風味にしたかったけど……難しい! ヤンデレものを書いてる人は本当にすごいと思いました。


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第3話

感想や評価お待ちしております!


 前略お袋さま。晴れて志望校であったUTX高校に入学した私ですが、只今音ノ木坂学院に来ております。

 念のため言っておくと、お袋さまや幼馴染の皆に勧められたように女装して編入しようとか考えたわけではありません。というより、私は所謂『男の娘』ではないのになぜ女装させようとしたのですか? 私、気になります。

 閑話休題、ここにやって来たのは幼馴染がスクールアイドルを始めたのでその練習に付き合うためです。

 

 

 

「ハラショー! やっぱり学校の校舎と言ったらこういう感じだよ!!」

 

 音ノ木坂学院の正門までやって来た俺は思わず叫びました。

 しかたないんだよ。UTXは設備はしっかりしているもののビルが校舎となっているせいで、いまいち青春を謳歌してるとは思えないんだ。そんなこと言ったらなんでUTX入ったんだよ!? と言われそうだが、それには聞くも涙語るも涙な理由があるのだ。

 

「ねえあの人なにかな」

「不審者?」

「えー、でも結構イケメンだよ?」

「でも学校見て叫ぶような人普通じゃないでしょ」

 

 音ノ木坂学院の女生徒諸君、ヒソヒソ話をしてるのかもしれないが、おもいっきり聞こえてるよ。いや、明らかに俺が悪いんだけどね。

 放課後の女子高の正門でポツンと突っ立ていて、校舎を見てハラショーと叫ぶ若い男……うん、普通に事案発生だと思う。ちなみにUTXの制服は着ていない。UTXは今日は半ドンだったので一度帰宅して私服に着替えている

 

(穂乃果、ことり、海未、早く来てくれー!)

 

 某ヤサイな宇宙人と戦った地球人のごとく切実に願った。お願いだから幼馴染's早く来てくれと。

 ちなみに口にしなかったのは口にした瞬間本格的に通報されそうだったからである。

 

……

 

…………

 

………………

 

「いやー、ごめんごめん。入校許可書もらうのに手間取ちゃって」

「できれば今度は先にとっといてね」

 

 あれから待つこと数分。三人が現れたときは三人の背後に後光が見えたほどだった。

 わかる人にはわかると思うがあえて言おう。女子高は男子にとって楽園ではなく針の筵であると……!

 

「それで、何処で練習するの?」

「それが……正式な部活動として認めてもらっていないので部室はないんです」

「え、そうなの?」

 

 意外だった。たしか一昨年だかにアイドル研究部で頑張ってる娘がいると聞いたので、てっきりその部活に入ったのかと思ってたんだけど。

 

「それじゃあ、どうするの? 歌とかダンスの練習するとなるとかなり広いスペースが必要になるよ?」

「うん、だから屋上でやろうってことになったの」

「――屋上か、いいね。UTXはいまいち学校の屋上感がないからぜひ見てみたい!」

 

 目的変わってない? と三人に突っ込まれながらも屋上目指した。道中周囲の生徒に珍獣を見るような目で見られたのは非常に気なったが。

 そういや、ほかの幼馴染の二人もこの学校に通ってるんだよな。時間を見て顔を見に行こう。

 

 

 

 

 で、屋上までやってきて、早速彼女たちのダンスを見せてもらった。

 

「どう?」

 

 と、穂乃果に感想を求められ、海未とことりも期待の篭った視線を向けてくるのだが。

 ――お世辞にも上手いとは言えなかった。いや、ここははっきり言うべきなのだろう。だが……だが、しかし!

 このキラキラした瞳で「褒めて!褒めて!」と言わんばかりの美少女三人を前にすると中々に言いづらい。

 もちろん悪い点ばかりではなかった。素人相応というべきか若干稚拙ではあったものの、それでも見ている自分が引き込まれる何か(・・)があった。

 

「そうだね――」

 

 一拍置いて、そして覚悟を決めた。

 

「海未はまず恥しがりすぎ、穂乃果は逆に前に出すぎでことりが中途半端な位置にいるから三人のポジションが目茶苦茶になってる。後は単純にダンスの技量不足」

「「「ぐはっ!」」」

 

 三人が大げさにうめき声を上げるとそれぞれ崩れ落ちた。穂乃果は膝をつき所謂orzな体勢。海未がしなだれるような体制でことり体育座りといった感じ。

 こんなところでも個性が出るなあ。と思いながらも次にいいところをあげる。

 

「で、逆にいいところは。凄く引き込まれるところだね」

「……引き込まれる?」

 

 穂乃果が顔を上げて見つめてくる。とりあえずその涙目はやめてください。罪悪感がハンパじゃないので。

 

「そう。さっきも言ったようにお世辞にもダンスが上手いとは言えない。けど、そんな三人に本当に引き込まれたんだ。技術の向上さえできれば大成できると思ったよ。それこそ、三人が言ったことが現実になるかもしれないと思える程に……」

 

 生憎ドラム馬鹿の自分では上手く彼女たちを奮い立たせる言葉が思い浮かばなかったので、彼女たちのダンスを見て感じたことをそのまま言葉にしてみた。つまり嘘偽りのない本心だ。

 

「それは……本心から言っていますか?」

 

 海未がしおらしい態度で聞いてくる。うん、流石に付き合いの長い俺にいきなり否定の言葉を履かれたのが相当ショックだったらしい。俺だって本気でやったことを海未に否定されたらショックだろうし。そう考えるともっと言葉を選ぶべきだった……。

 

「もちろん、嘘偽りのない本心だよ」

 

 そう言うと三人とも立ち上がった。

 

「よっし! 頑張ろう! さっきのところに注意してもう一回やってみるから志郎くん見てて!」

 

 穂乃果がそう言い。二人がそれに続くように練習をはじめる。立ち直りが早く、前向きで皆を引っ張れるのが穂乃果の美点だよな。ここぞという時以外頼りない時もあるけど……。

 しかし、あれだな、俺はダンスに関しては素人に毛が生えた程度のもので、プロのダンサーを間近で見たことがあるからある程度評価出来るってだけなんだよなあ。

 となれば、しっかりしたコーチに見てもらう。或は基礎をしっかり学んだダンス経験者に見てもらうのが一番だと思うんだけど……。

 前者は多分この学校にいないんだろう。いればことりのお母さん(この学校の理事長)が紹介してくれるだろうし。となれば、後者のダンス経験者――できれば少しかじった程度の人ではなく、コンクールとかで入賞できるような人がいればいいんだけど――

 

「そんな人材早々いるわけな――いた!!」

「「「えっ!?」」」

 

 脳裏に過ぎったのは一人の幼馴染の姿だった。綺麗な金髪とメリハリのあるスタイルの美少女の姿が。そう彼女は昔バレエをやっていた。今はもうやめてしまったようだけど、当時の実力はかなりのものだったはず。しかも、彼女はこの学校にいるのだ!

 

「し、志郎! また私ダメでしたか?」

「え? あ、ごめん。そうじゃなくてね」

 

 三人に話そうかと思ったが今はまだやめておいた。引き受けてくれるかわからないし、そもそも彼女程になるとスクールアイドルのダンスなんて素人同然! とか言いそうだし。まずは会って話してみてからにしよう。

 

「ごめん、ごめん。今後の練習の方針について考えてたらつい――」

 

 とりあえず、そう言ってごまかした。練習が終わったあと探してみよう。

 

 

 とりあえず、あの後三人の練習に付き合って今回はお開きとなった。

 練習後三人に先に帰っててと言い、一応校舎内を探したのだが残念ながら目当ての人物は見当たらなかった。まあ、携帯で連絡してまた今度合えばいいだろう。

 それそうと、穂乃果が一緒にスクールアイドルをやりたいと思ってる一年生がいるらしい。その一年生の特徴を聞いたら、『美人』『綺麗な赤髪』『ピアノが上手い』『歌も上手い』『作曲ができる』と知り合いの特徴にぴったり当てはまったのだが……まさかね。ただでさえ知り合いが同じ学校に集結してるってだけでも珍しいのに、知り合い全員がスクールアイドル始めました! なんて事は早々ないはず。

 

「はぁ、少し疲れたなあ」

 

 コンビニで弁当を買って帰宅した。

 両親は割と有名な音楽家ゆえに多忙で家を空けていることが多い。今頃ニューヨークあたりにでも居るんじゃないかな?

 中三あたりからこんな暮らしをしている。中学時代の友人からは漫画の主人公みたい! と言われたが、実際のところけっこう大変だ。家賃や光熱費こそ親が払ってるが、それ以外の家事全般を自分でやらないといけないのだから。おかげでドラムを叩く時間が少し減ってしまった。だが、料理はできない。麺を茹でたり、目玉焼きをを焼くくらいなら出来るが普通の料理は全然できないし、そもそもそこまでやる気がないため一週間のうち半分はコンビニ弁当となている。健康的な問題がとても心配だ。

 ちなみに自宅は庭付きの一戸建てである。地下の防音室を除けば至って標準的な家だ。両親も防音室以外は全く拘っていなかったらしい。

 

「アレ――手紙?」

 

 部屋に入る前に郵便受けを見ると可愛らしい封筒が入っていた。

 取り敢えず家の中に入り封筒を開けるそこにはこれまた可愛らしい便箋が二つ折の状態で入っており、これはまさかさまのラブレターか!? 

 

『アスホウカゴキョウシツでマッテルベシ。コナカッタラ……うふふ』

 

 恐怖の手紙だった。

 

「ハートフルな便箋に恐怖の手紙……これがギャップ萌えというやつなのか?」

 

 中学時代の友人に聞いた情報を思い出しながら現実逃避を行った。

 



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第4話

 主人公が冒頭で言っている前略○○さま~ですが、両親に手紙やメールを送ってるわけではありません。某不良漫画が好きだったので…しいて言うなら現実逃避している主人公をイメージしてもらえればOKです。
 外見モチーフとしてはNARUTOのサソリ(黒髪、表情豊か、中身は少し残念)です。


 前略親父殿。あなたの息子である私『音羽志郎』ですが、ついに人生初のデスレターを頂戴いたしました。

 正直言うと可愛い封筒にプラスして可愛い便箋のコンボだったのでまっさかさまのラブレター!? と一瞬歓喜したもの中身は恐怖の手紙だったのです。できればもっと高校生らしい青春ライフを送りたいものです。具体的に言うと彼女が欲しい! 中学時代の友人に「ついに俺もリア充デビュー!」と彼女と撮ったプリクラ写真の写メを送られたときは悔しさのあまりスマホを握りつぶそうになってしまいました(そこまで握力ないけど)

 P.S.彼女欲しいと考えてる時に、何故か自分が薄暗い部屋でベッドに手錠で繋がれている姿を幻視したのですが、これは質の悪い病気でしょうか? とりあえず、根本的な食生活を見直そうとおもいます。

 

 

「はい、それでは今日のホームルームはこれで終了です。解散……」

 

 担任教師によるホームルーム終了の言葉。普段であれば学校という牢獄から解放される言葉だが、今日の俺にとってそれは死刑宣告に等しかった。いや、宣告ではなく死刑執行の宣告か……。

 

「音羽、返りゲーセン行かねえ? また、あのドラム○ニアのテク見せくれよ」

「悪い、今日は用事があるんだ」

 

 そっかー、じゃあまた今度な。といいクラスの友人たちと別れる。

 次々と生徒たちが教室から出ていき、ついに俺が一人になってしまった。時計の秒針が音を刻む音がまるで13階段を登る音に聞こえる。

 いや、そもそもあんな悪戯としか思えない手紙に屈する必要はないだろう。だが、俺は律儀に教室で待っている。あんな手紙をよこす人間がどんな性格をしているのか興味があったからだ。

 け、決して脅しに屈服したわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!

 いかんな、取り乱してる。ここは心を落ち着けるためにエアドラムでもやるか。自作したショルダーホルスターに収めたマイスティックもある。

 

 ――よし、やるか

 

 いや、待てよ。よ~く考えてみろ。もし、エアドラムをやってる最中に呼び出した人物がやってきたらどうなる? 俺はさらなる弱みを握られてしまうことになる。それはいただけない。

 

 ――ねえ、ちょっと……

 

 でも、やりたいなあ。心を落ち着けるためにも。というか、なんでもあんなくだらない手紙に振り回されなけりゃいけないんだよ!? 振り回されるのは幼馴染’sだけで十分だっての!

 

 

 ――ちょっ、スルーされてるの!?

 

 そもそもなんであんな可愛い封筒と便箋で送ってくるんだよ!? ちょっぴり期待しちまったじゃないか!? ああいう手紙は和紙に毛筆で達筆に書くって相場が決まって……いや、それやられたら怖すぎるけど。

 

「ねえ、この子一発くらいなら叩いてもいいかな?」

「落ち着きなさいツバサ」

 

 何やら声が聞こえてきて見上げると、額に青筋を浮かべた少女たちがいた。

 いつ来てたの?

 

「あ、この前の」

 

 入学式の日にドラムを叩いてるのを見られ、俺が今まで逃げていた三人がいた。

 

 

 で、あの後、カフェスペースの個室に移動したのだが。

 

「私たち一応ナンバーワンスクールアイドルなのよ!? それなのに前回といい今までといい今回といいこんな扱い受けたの初めてよ!」

「あ、先輩たちがこの学校のスクールアイドルだったんですか?」

「知らなかったの!?」

「あはは、えっとなんでしたっけ? ライス? いや違う――そうだ、アイスってグループの――」

「アライズね。ア・ラ・イ・ズ!」

 

 チャームポイントであろうおでこに青筋をピキピキと浮かべた綺羅ツバサ先輩に詰め寄られている。どうしよう、なんとか彼女たちの怒りを沈めようとしてるのに墓穴を掘ってばかりいる気がする。この中で一番穏やかそうな優木あんじゅさんですら表情を引きつらせている。

 カフェスペースに来たらUTX名物の一つ、週替わりの一口ケーキが食べたかったのだがそんな空気ではなかったので我慢した。

 

「その顔を見るに本気で悪気はなさそうね。というか、入学式の時にDVDとストラップが配布されてるはずだけど?」

 

 綺羅ツバサと名乗った先輩がジト目でそう言ってくる。ストラップ?

 

「あ、鞄に入れたままだった」

 

 鞄の外側についてるポケットから綺麗なままのストラップを取り出す。あるよねえ、取り敢えず外側のポケットに入れておいて忘れちゃうって。DVDは鞄の隅の方に入っていて気がつかなかった。

 

「――なんかもうこのまま突っ込んでたら日が暮れそうね」

 

 深呼吸をして気を落ち着かせる三人。流石にユニットを組んでるだけあって息ぴったりだなあと思う。

 

「悪いとは思ったけど君のこと少し調べさせてもらったわ」

「みたいですね」

 

 調べなきゃ家の住所までわからないだろうし。

 

「まあ、自宅に手紙がある時点でそれくらいは察してるわね」

「音羽志郎、年齢16歳、身長170cmに体重56kg、帰宅部所属。現在はひとり暮らしをしている。得意スポーツは特にないが強いて言うなら長距離走。特技はドラム、趣味もドラム。将来の夢は特になし。ドラムに関しては色々な大会やコンテストで賞を取ってる。そして、なにより最大の経歴は――12歳にしてドラムの世界コンテストに日本代表として出場、世界ランク第9位の成績を叩き出した。日本人初にしてギネスにも乗ってるそうだね。もっともその1回きりで、それ以降は出場していないようだが」

 

 統堂英玲奈先輩が人の個人情報をペラペラ喋ってくる。というか恥ずかしいのでやめてください!

 

「まあ、この経歴を見てあの日の君の演奏に納得がいったわ。パフォーマンスも見事だったけど、あのドラムの音に圧倒されたもの」

「そうですか――」

 

 優木あんじゅ先輩が微笑みながら言ってくれる。正直美人な先輩にそう言われると照れる。しかもただの美人ではなくスタイルのいい美人とくればなおさらだ! おっさんみたいとか思わないでね。

 

「ええ、あの日の君をみて私たちは思ったわ。自分たちの今の評価で満足するわけには行かないって。仮に私たちと貴方がいっしょにライブやったとしたら――私たちは十中八九負ける」

「いや、アイドルとドラマーじゃ土俵が微妙に違うと思うのですが?」

「かもね、でも私たちは納得いかないの」

 

 彼女たちの目には火が宿っていた。そう。あきらかに俺をライバル視している。

 ――いや、ほんとになんでさ!?

 

「まあ、そういうわけだから。貴方のことをライバルにさせてもらうわよ」

「いや、もらうわよって言われても」

 

 まあいいか。俺も彼女たちから何か得るものがあるかもしれないし。

 

「まあ――僕でいいのなら」

「よし!」

 

 で、ここで話が終わればよかったんだが。

 

「で、もう一つ私たちに協力して欲しいの」

 

 ――え?

 

「そんなに難しいことじゃないわよ。ただ私たちの練習に少し付き合って欲しいの」

「いや――それは面倒くさいし――」

 

 そう言うと、ツバサ先輩はむっとしたのか。 

 

「この前音楽室でドラムを無断で使ったでしょ? 見学は許可されてるけど楽器を使うことまでは許可されてないはずよ」

 

 なんてことを言ってきた。って、そういえばそうだった。

 別にばらされても注意される程度だろうけど、避けられるものなら避けたかった。

 

「どうか内密にお願いします! 何でもしますから!!」

「「「ん? 今なんでもって言ったよね?」」」

 

 あ、選択肢ミスった。直感だがすぐにわかった。だって三人がアイドルらしからぬニヤニヤした表情をしているから。

 

「それじゃあ、あなたの放課後の時間をもらうわ」

「え?」

「もちろん、特別な用事がある場合はそちら優先してくれて構わない」

「あ、どうも――じゃなくて!?」

「世界ランク9位で、プロとも一緒に演奏した経験から私たちに足りないものが何かを教えて欲しいの」

 

 なんで穂乃果たちみたいなことを……!?

 

「い、いやでもライバルから学ぶってのもどうかと――?」

「お互い高め合うのがライバルってものでしょう?」

 

 ど、どうしよう……?

 特別な用事――つまり、穂乃果たちの練習を見るときはいいと言ってるし――いいのかな?

 スクールアイドルなら人気云々はともかくとして、大会とかでぶつかり合うこともないだろうし?

 

「くっ……分かりました」

 

 この時の判断が原因で後にμ’sと名乗る穂乃果たちとA-RISEの激突する要因となるとは――今の俺には知る由もなかった。

 

 

「はぁ、今日も疲れた」

 

 最近妙に濃い一日を過ごすことが多い気がするんだけど、なんでや?

 取り敢えずリビングにて今日も美味しいコンビニ弁当片手にDVDデッキの電源を入れる。

 見るのはA-RISEのライブのDVDだ。別れ際にあんじゅ先輩から見てねと言われたのだ。で、せっかくだから見てみることにしたわけだ。

 まあ、見る前までは

 

 ――見せて貰おうか、ナンバーワンスクールアイドルの実力とやらを……。

 

 みたいな感じだったのだが。

 

「凄いな――」

 

 見始めるとそんなこと考えてる場合でもなくなってしまった。

 ダンスも歌も上手い。が、やはりプロには一歩劣るといったイメージだ。だが、穂乃果たちと同じだった。引き込まれるのだ。まるで引力でも発生しているかのように。それになにより……

 

「ライバルは互いに高め合うもの――か。確かに彼女たちから得られる物があるかも――」

 

 漠然とだがそう思った。

 もっとも、それはA-RISEだけではなく――穂乃果たちもそうなのかもしれない。

 

「そういや、親父が言ってたな。出会いは成長に繋がるとかなんとか」

 

 今までの言動がアレすぎてスルーしてたけど。

 

「うん、いい出会いがあったと言うのかな?」

 

 これから楽しくなりそうだ!




キャラの口調があってるとか不安になりますね。もし違和感等がございましたらご指摘いただけると幸いです。自分も可能な限り改善していきたいので


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第5話

 艦これE-6の乙がクリアできないよ~♪ いやマジで――何とかしてカタパルトは欲しいけど多分無理だしどうしよう!?





 前略お袋さま。私は晴れてナンバーワンスクールアイドルの方たちと交流を持つようになりました。練習を見て欲しいと言われたけど、正直なところ見て教えられるようなことは一切ないのになにをどう教えればいいのか、いささか戸惑っております。

 というより、最近幼馴染’sも含めて女生徒と知り合うことが多いのですが何故か嬉しさより胃の痛みがひどいです。まるで未来の自分に、『この先は地獄だぞ』と警告されているような悪寒してならないのです。前回の幻覚といい本格的に病気なのかもしれません。

 P.S.最近自分に威厳がなくなってきた気がしてなりません。

 

 

 とあるカフェにて。

 

「久しぶり、賢い可愛いエリーチカ!」

「私帰るわね」

「ごめんなさい! 調子乗りました!」

 

 カフェでやってきた待ち人に軽口を叩いたらなんの躊躇もなく踵を返され慌てて止める。

 

「ささ、どうぞ席にお座りください」

 

 執事のように椅子を引いて着席を促す。

 

「まったく、急に呼び出してなによ?」

「まあまあ、そう言わずに。この紅茶なんか実に絵里好みだと思うよ」

 

 せっせとご機嫌を取る。この前の先輩たちといい最近女性に振り回される機会が増えたなあ。

 まったく、と呆れた表情をしながら勧めた紅茶をオーダーしているのは、絢瀬絵里というロシア人とのクォーターの少女である。メリハリのあるスタイルを持つ気の強い美人でもある。ちなみに一度へそを曲げると機嫌を直すのに非常に苦労する。もう一度言う、非常に苦労する。そして、一番付き合いの長い幼馴染である。

 中学時代の友人が言ってたなあ、ファースト幼馴染が金髪美少女かよ!? って。ファーストって何さ? ファーストって。出会った順番? でもその理屈で行くとフィフス幼馴染までいるんだよな。一番最後が真姫だから合ってるには合ってるか――ピアノ的な意味で。

 

「絵里は学校どう? 廃校になるかもしれないって噂だけど?」

「……正直厳しいかもしれない――でも、絶対そんなことさせないわ!」

「そうか――で、その廃校関連の話でもあるんだけどさ、高坂穂乃果って娘知ってる?」

 

 知ってるなら正直手っ取り早い。現状の三人の印象を聞いてみればいい。

 紅茶を一口飲み前を向くと……前髪で目を隠した絵里がいた。表情が見えないのでちょっと怖い。

 

「……なんで彼女たちの名前を知ってるの?」

 

 ん? 今店内の気温が下がった気がしたぞ――いや気のせいか、いくら絵里が寒いことで有名なロシアのクォーターとは言え気温を下げるなんてオカルトチックなことできるはずがない。

 

「ねえ――答えて?」

「え~、あ~――言ってなかったけ? 他にも幼馴染が音ノ木坂に通ってるって」

「初耳ね」

「そ、そっか~。その今言った幼馴染が高坂穂乃果たちなんだよ」

「そっか、油断してたわ。まさか私と同じポジションの娘が三人もいたなんて――」

「油断ってなにを?」

 

 なんか怖くてあまり聞きたくないが。それと、三人じゃなくて四人です、とは言わなかった。いや、言えなかった。再び本能が叫んでいるから。余計なことを喋っるんじゃねえ! って。

 

「ふう――もう大丈夫よ。落ち着いたから」

「そ、そうか――で、あの三人も廃校阻止のために動いてるって聞いたんだけど?」

「そうね――でも、貴方だってわかるでしょ? 彼女たち――いいえ、スクールアイドル全体のレベルが」

「まあ、アライズだって絵里と比べたら差があったしね」

 

 ああ、やっぱり絵里の視点からじゃスクールアイドルなんて素人に毛が生えた程度しか見えてなかったか。

 

「別にそれでもいいのよ。でも、思いつきで初めた程度の実力で学校の――音ノ木坂学院の名前を背負って欲しくないの。それに――」

「本気かどうかもわからない?」

 

 彼女の言いそうなことを先読みしてみた。驚いたような表情をしているので多分当たりだろう。

 

「ええ……」

「うん、俺が偉そうに言うのもなんだけど……確かに歌も踊りもまだまだ改善点が多いと思う。けど、三人は本気だよ。目標を達成するまで絶対に折れたりしない! これだけは断言できる」

「……」

「まあ、だからもしよければ絵里にダンスを見て欲しかったんだけど――今はその気になれないよね?」

 

 無言だが、恐らく肯定だと思う。というか、絵里は一人でアレコレ背負いすぎな気がするな。まだ高校生なのに。

 

「ファーストライブ」

 

 唐突に絵里がそう言った。

 

「え?」

「彼女たちのファーストライブを見たあとに考えてみるわ」

「……」

 

 言葉が出なかった。いやマジで。

 

「なによ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

「あの一度へそを曲げたら面倒くさい絵里が素直…だと?」

「志郎、怒るわよ?」

 

 いや、だってねえ。

 

「ねえ、絵里――今の学校生活は楽しい?」

「またいきなりね」

 

 まあ、唐突すぎる質問とは思う。でも気になってしまったのだ。廃校を阻止しようと必死に動いていることはわかるが、そのために自分を犠牲にしてしまってるんじゃないかと。

 

「いや、どうなのかなあって思ってさ。で、どう?」

 

 絵里は少しだけ困ったような表情をした。まあ、そうそう聞かれるような話題でもないかもしれないが。やっぱり無理してるように見えて仕方がないんだ。昔はもっと楽しそうに笑っていたのに。

 

「――わからないわ。廃校になるかもしれない状況じゃ余計にね」

「そっか」

「ええ……それじゃあ行くわ。亜里沙も待ってると思うから」

「わかった。亜里沙ちゃんにもよろしく伝えておいて」

「ええ、それじゃあ」

 

 そう言って律儀に自分の紅茶の代金を置いて絵里は店を出ていった。

 

「わからないか――それで廃校を阻止できてもお祖母ちゃんが喜ぶかどうか――」

 

 むかし、バレエのコンクールで絵里があと一歩のところで賞に届かず涙を流したとき。絵里のお祖母ちゃんは確かに言った。楽しんでバレエをしてくれるのが一番だと。当時まだまだ小さい子供だた俺でも本心から言ってるとわかる温かい言葉だった。

 

 ――まあ、自分の事ほど見えにくいものかな。絵里が今の自分の状態を理解すれば一皮むけるかもしれないけど

 

「難しいよなあ――意外と意固地だし」

 

 まあ、こういう時こそ穂乃果の出番なのかもしれない。ことりを海未を俺を――皆を繋いでくれたのは幼い時の穂乃果だった。

 となれば――俺にできるのは……少しでも皆をサポートすることかな。

 出来る事なら、全てが終わるときは皆が納得のできる結末であってほしい。

 

 

 絵里にダンスを見てもらうにもまずは見てもらう本人たち次第だ。幸いファーストライブを見た上で考えてみるというお言葉は頂いたわけだし。

 で、早速作戦会議とばかりに穂乃果の家に向かったわけだが。

 

「こ、ここで合ってるのよね? だいたい、なんで私が……」

 

 穂乃果の家の前で不審者を発見した。

 CDケース片手に音ノ木坂学院の制服、綺麗な赤髪の美人――どう見ても最後の幼馴染、西木野真姫ですね。わかります。

 まあ、取り敢えず。普通に声をかけるの芸がないので。

 

「そこのお嬢さん、さっきから少し挙動不審だけど? ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」

 

 低い声を作って職務質問する警察のような態度で話しかけてみた。

 

「えっ? 違っ、私は怪しいものじゃ――って、志郎!」

「やっほー、久しぶり真姫ちゃ――もぎゃっ!」

 

 取り敢えず足を踏まれた。

 

「ね、ねえ。今時暴力系キャラなんてはやらないって友達が言ってたよ?」

「志郎だけは特別だから大丈夫よ。だいたい、普通に話しかければいじゃない!」

「い、いや、それだと面白みがないかなと――」

 

 ジロリと睨まれた。蛇睨まれたカエルとはこのことか……。

 

「す、すみませんでした」

 

 くっ……最近女の子に謝ってばかりいる気がする。

 

「ふんっ」

 

 いかん、調子に乗りすぎた。なんとか話題を変えなくては!

 

「ああ、それはそうと作曲してくれたのやっぱり真姫ちゃんだったんだ」

「な、ななんで知ってるのよ!?」

「アレ? 言ってなかったっけ? この度スクールアイドル始めた三人って俺の幼馴染なんだよね」

「初耳よ!?」

「さらにびっくり生徒会長も幼馴染だったり」

「そっちも初耳なんだけど!?」

 

 そんなに驚くことだったのか……。というより

 

「てっきり結構前に言ったと思ってたよ」

「言ってないわよ! ああ、もう意味わかんない!」

 

 などと心温まる会話をしていると店の扉が開いた。店から出てきたのは穂乃果だった。店番でもしてたのかな?

 

「あれ、志郎くん! 西木野さんも! どうしたの?」

「俺は作戦を練りに、真姫は作曲した曲を届けにきたらしいよ」

「ちょっと、私は別に――」

 

 真姫は咄嗟に否定しようとするが、それより穂乃果の動きの方が早かった。

 

「本当!? 私もう少しで店番終わるから部屋に上がってて!!」

 

 ふっ、これで真姫も穂乃果の術中に嵌った! そう簡単には逃げられんぞ!

 っと、そうだ。

 

「ところで、穂むらまんじゅうを十個ほど買っていきたいんだけど?」

「ダメだよ、お義母さんから不必要に大量買いしようとしたら止めてって頼まれてるから」

「こんなところまで親の魔の手が迫ってるとは――意外っ!!」

 

 

「しかし、結構久しぶりだな。最後に来たの中三の春だったかな。ちょうど一年くらいか」

「そんなに頻繁に来てたの?」

「頻繁ってほどでもないけどね――えっと確かこっちの部屋だったはず」

 

 記憶を頼りに穂乃果 の部屋を開けると。

 

 

「みんなのハートうっちぬくぞ~! バァン!!」

 

 玩具のマイク片手にキメキメのポーズをとっている海未がいた。

 

「え……?」

 

 振り向いた海未と目がバッチリ合った。

 

「――ごめん」

 

 俺は戸をそっと閉じた。

 

「ちょっとどうしたのよ?」

 

 真姫が訝しげな表情をしている。幸か不幸か、彼女の位置からは中が見えなかったらしい。

 

「ここはダメだ」

「本当に意味わかんないだけど?」

「まあ、なんというかアレ……かな、若さゆえの過ちってのは認めたくないでしょ? だったら知らないふりしてあげるのが大人というか。いや、俺たちの方が年下だけ……」

 

 最後まで言い切る直前に穂乃果の部屋の戸が開いた。フリーズしていた海未が再起動したのだろう。

 

「みィ~たァ~なァ~!!」

「何も見てません!」

 

 アイドルが絶対にやってはいけないであろう顔芸を披露しながら現れた海未に俺は全面降伏した。

 

 ――最近こんなんばっかだな!?




 話が進んでるんだか進んでないんだか――。とはいえ今回で幼馴染’sは出揃ったので段々本編に侵食していけるかな?


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第6話

うん、イマイチどこに向かってるのか自分でもわからなくなってきたw あまり細かいこと気にせず読んでもらえると幸いです。


 前略親父殿。この前久しぶりに幼馴染の高坂穂乃果の家にお邪魔したのですが、色々大変でした。具体的に言うと海未を宥めたり、こんなに仲のいい女の子の知り合いがいたのね! と拗ねてしまった真姫を宥めたり。帰りに穂乃果の妹の雪穂ちゃんに挨拶していこうとしたら、鏡の前で前屈みになって『これくらいあれば志郎兄ちゃんもイチコロなのに……』と私に対して殺意を抱いている姿を目撃してしまったり……私は彼女に恨まれるようなことをしたのでしょうか?

 最近女性陣に対して自分の威厳がなくなっているような気がしていたのですが、よくよく考えてみたら親父殿もそんな感じでしたね。諦めがつきました。

 P.S.イチコロとは『一撃で殺す』の略であってますよね?

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ――!!」

「ねえ、穂乃果、アイドルのしていい顔じゃないよ?」

 

 だからやめておいた方がいいって言ったのに。

 なぜ彼女がこうなってるかと言うと、スタミナ作りの練習の時に、穂乃果が「たまには志郎くんと同じコース走りたい」と言い出したからである。もちろん俺も海未もことりも反対したのだが本人が大丈夫! というからやっていたのだが。

 

「し、志郎くん――あの距離はおかしいよ――」

「君たちの約三倍だね」

 

 ちなみにランニングだけではなく筋トレ等も含む。

 

「だから唐突に増やすのはやめたほうがいいと言ったではないですか」

「だって――」

「だってではありません! だいたい貴女は――」

 

 小さくなっている穂乃果に対して海未のお説教が始まった。

 

「相変わらずだねぇ、あの二人は」

「ふふ、そうでしょ。でも志郎くんもあまり変わらないよね」

「そう?」

 

 結構変わったと思ってたんだけどな。自分で気がついてないだけか。

 

「そうだよ。色々凄いのにその凄さを日常生活ではあまり生かせないところとか」

「結構グサッときたよ!?」

 

 ニコニコと笑顔&甘い声でえげつねえことを言ってくれる。

 

「ごめんごめん。でも一番変わらないところは優しいところだよ」

「え? 優しい?」

「うん。放課後とか色々大変なのに私たちの練習に付き合ってくれるでしょ。それもUTXから音ノ木坂まで来てくれて。すごく感謝してるんだよ」

 

 そう言われてしまうと照れてしまう。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 少し前までの俺ならな。

 今となってはアライズのメンバーの練習も見ることになっているこの俺。今のところまだ呼び出しはかかってないがいつ始まるのか戦々恐々しているのだ。

 つまり今の心情を言うと、二股かけてる男の心情に近いかもしれない。言い出そうと思っているのだが中々にタイミングがつかめない。

 そんな状態で、笑顔で感謝してるよなんてことりに言われてみろ。妙な罪悪感みたいのが湧いてくるから。いや、別に自分の高校と他校の両方に協力してるといえば聞こえは良いんだけど、それだけでは済まないと直感が告げているのだ。

 なので――。

 

「えっと――ありがとう?」

 

 お茶を濁すしか手はない――。

 

 

 みんなが練習を終えたあと神社にお参りに来た。

 

 ――三人の目標が叶いますように

 

 手を合わせ目を閉じ願う。数秒の間そうして帰ることにした。

 

「ん――!」

 

 帰ろうと反転した瞬間――その人が目に入った。

 会うのは初めてだ。

 ――だが俺は知っている。

 ニコニコと笑顔で巫女服を来た美人。そして――巫女服の上からわかる豊満なバスト! あのあんじゅ先輩にも匹敵するだろう!

 

「Good!」

「君いつか後ろから刺されないように気をつけたほうがええよ?」

 

 ジト目で見られてしまった。

 

「や、すみません。穂乃果たちから聞いてますよ。応援してくれてるみたいですね」

 

 穂乃果たちから音ノ木坂学院の三年生と聴いてるのでしっかり敬語で話す。絵里には本人から先輩&敬語禁止令を出されているので仕方がない。

 

「そんなたいしたことはしてないよ」

 

 そう柔らかく包み込むように言ってくれる。うん、包容力があるというか母性があるというか。大人の女性って感じだね。

 こういう人を私の母になってくれたかもしれない女性というのだろうか? そんな事ほざいたらドン引きされるかもしれないから言わないけど。

 

「いえ、自分たちの行動を理解してもらえるというのはそれだけでも嬉しいものですよ。それも会ったばかりの人に言ってもらえるのなら尚更です」

 

 俺も三人の考えに賛同したが、幼馴染という一種のコミュニティの中の人間だ。それ以外の人から賛同され、認めてもらえるというのは彼女たちの原動力の一つになり得るのではないだろうかと思う。

 実際会ったのは初めてだが、穂乃果たちと一緒にスクールアイドルやってほしいくらいだ。ルックスは問題ないし、パッと見た感じ運動神経もありそうだ。それに――さっきの考えとは真逆になるかもしれないが、なんとなく彼女は寂しがり屋っぽいきがするし。だから、穂乃果たちと一緒に行動してくれたら色々楽しいと思うんだよな。

 まあ、焦っても良くないだろうし。それに

 

「まだあわてるような時間じゃない」

「えりちも言ってたけど面白い子やね」

 

 もう少し穂乃果たちの活動が軌道に乗ってきたところで提案してみよう。もちろん穂乃果たちにも話を聞かないといけないだろうから。

 

 

 

 翌日。

 学校に登校すると、教室の前でアライズの三人とエンカウントした。

 

「ついにこの時が来てしまったのか――」

「なんでそんなに絶望感たっぷりな表情してるのよ?」

 

 まったくこの子は、と出来の悪い弟を見るような表情でツバサ先輩は言う。あんじゅ先輩と英玲奈先輩はくすくすと笑う。

 

「今日の放課後は空いてるかしら?」

 

 あんじゅ先輩が確認してくる。

 ああ、約束のアレね。わかってはいたけどついに来てしまったか。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

「それじゃあ、あの時の約束を果たしてもらうわね」

 

 ツバサ先輩がニコニコと元気に言う。

 

「ええ、わかってます。あの教室でいいんですよね?」

「ええ」

「分かりました、放課後そちらに向かいますので」

 

 要件が終わると三人はそれぞれの教室に帰っていった。まあ、朝のホームルーム前なのでのんびり世間話をしているわけにもいかないのだ。

 ただ、ここで一つ俺は失敗に気がついた。ここは教室の前。そして、アライズは有名人。となれば教室にいるメンバーはクラスメイトが何を話しているのか気になるわけで……。

 教室へ入ると、すぐに違和感を感じた。教室に静寂が訪れているのだ。

うん、わかる。俺以外の全員が『なんでアライズとあんなに親密そうなのかな? かな?』と視線で訴えている。

  全員の時が止まっている中、一人動くものがいた。

 

 ――よもや、この止まった(教室)に入門してくるものがいようとは!?

 

 クラスメイトの友人Aが自分のロッカーから何か道具を取り出す。

 

 ――そして

 

 静寂を打ち破った。

 

「志ィィィ郎くゥゥゥゥゥゥゥゥん!! いつの間にアライズの三人とお近づきなったのかなァァァ!?」

 

 槍(ラクロスのスティック)を構えた友人Aが椅子を踏み台にして頭上から飛びかかってくる。

 

「ええいっ!」

 

 すぐさまショルダーホルスターからスティックを取り出し交差させて受け止める。

周囲の生徒は友人の奇行よりもアライズと知り合った経緯が気になるのかしきりに頷いている。

 

「ちぃ!――ドラマー風情が剣士の真似事とはなぁ!?」

 

 ラクロススティックを引き戻し高速で突いてくる。それをスティックを使い、弾き、いなす。リーチの関係上下手に攻撃態勢に入ればそれは大きな隙となってしまうからだ。

 

 ――1合

  ――2合

   ――3合

    ――4合

 ただ、ひたすら打ち合う。

 俺は防御に徹することで彼の攻撃を受けずに済んでいた。

 攻めきれないことを悟ったのか友人Aは一旦距離を取る。 

 

「ちぃ、お前どこの何処の中学だ! 二刀流の使えるドラマーなんて聞いたことねえぞ!?」

「そう言う君は分かりやすいな。中学でのラクロス部は割と珍しい。棒捌きからしておそらく大会出場経験者。加えてこれだけの運動量。その条件で最も力を振るえたであろう中学となれば、都内で三校とあるまい」

 

 そういや、お互い出身中学を行ってなかったなと思いながら、相手の一挙一動を見逃さないように細心の注意を払う。

 スタミナは互角、瞬発力では明らかに俺が劣っている。いや――スタミナ以外の運動能力全てで劣っていると見るべきか。

 そんな俺が防戦とはいえ受け続けられたのは相手の攻撃のリズムを読み取り、リズムに合わせて相手の攻撃を向かい打つ、そして弾く際に相手のリズムを崩すことで次の攻撃の挙動を送らせたり、威力を鈍らせていたおかげだ。ドラムで培ってきた音感がここで役立っているのだ。昨日ことりに凄さを日常生活で生かせていないと言われたが、今俺は確信した! 存分に行かせているじゃなイカ! と。

 それはそれとして、防御がかれと互角なのだから自分から攻撃するわけにはいかない。倒すのであれば後の先の攻撃を行う――つまりはカウンターを狙うしかない。

 

「行くぞ、ドラマー。この一撃手向けとして――」

 

 凄みを利かせながら構えた彼が最後まで言い切ることはなかった。何故なら

 

「何やっとんじゃあ―!!」

 

 今年45歳になる独身教師の出席簿アタックが命中していたから。そして、もちろん俺にもその一撃は振舞われた。

 

 

 

 

 

 

 

「俺さあUTXが開校する前から長いこと色んな学校で教師やってたが、お前らみたいなアホは初めてだぞ!」

 

 教師からのありがたいお説教を頂戴した。当然といえば当然だが。

 

 

 余談だがAくんとはこの後「いきなり攻撃してごめん」と謝罪してきた上で心の友となった。

 肉体言語でぶつかりあった後に仲良くなる。これこそまさに青春って感じだね。夕方の河原とか土手とか海岸じゃなかったのは残念だけど。

 

 

 

 

 

 

 




※友人Aくんのやったことは非常に危険なことです。下手すれば取り返しのつかないことになるので、老若男女問わず良い子と悪い子と中間の子は決してマネしないでください。


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第7話

友人Aと中学時代の友人の名前どうしよう…そのままでもいいけど何か案があればくれると嬉しいです。所謂友人の名前募集みたいなw

 アライズのメンバーの口調がイマイチなってない気がするんですがどうでしょうか?


 前略お袋さま。先日クラスメイトのランサーくんと激闘の末心の友となりました。ちなみにホームルームのあと穂乃果からメールが来てグループ名をμ’sに決めたそうです。石鹸でしょうか? いいえケフィアです――名前の由来は知りません。

 あと最近の問題としてはファーストライブに絶対来てね! と言われているのですが私もその日に新入生歓迎会があるので行くいけない状態です。どうするべきでしょうか?

 

 

 

 友人Aと死闘を終えた日の放課後。約束通りアライズのメンバーの練習を見ているのだが。

 

 ――やっぱり俺が何か言うことなくね? なくなくね?

 

 歌もダンスも単品で見るとプロには一歩劣るといった感じだが、全てを一つに合わせた結果そこらのプロ以上の何かを感じさせる。はっきり言って俺の意見の一つや二つで何か変わるとは思えない。

 足りないものを教えて欲しいと言われて『情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ~』から始まるアレを言おうと思ったが、普通に全て足りてると思うし。

 

「どうかしら?」

「どう、と言われても……凄いですね――としか」

「むぅ、もう少し具体的にないの?」

「と言ってもですね。俺はドラマーなのであまり歌やダンスについてアドバイスなんてできませんよ。言えても――そうですね。息の合い方は三人とも完璧だと思います。ただ、ダンスの動きの中にまだ所々素人っぽさがあるからダンスのキレを良くすること。あとは声が潰れない程度に歌の声量上げれば良さそう……俺から言えるのはこれくらいですね」

 

 ごめんなさい。精々これが限度です。

 

「それだよ」

 

 そんな風に素人同然の意見に対して恵令奈先輩は何故か満足そうだった。

 

「え?」

「今まではっきり言ってくれる人って以外にいなかったのよね」

 

 ええ~!? これで納得してるの!? 

 

「良くも悪くも一番人気ってこともあって正面から指摘してくれる人って少ないのよ」

 

 ツバサ先輩がそう言うが――いいのかなあ?

 

「できれば個人に指摘があればそちらも教えて欲しいのだけど?」

「え? ……あんじゅ先輩は歌は問題ないです、けど少しスタミナ不足。恵令奈先輩はダンスは良いですが歌に意識が行き過ぎてる。ツバサ先輩は特に問題はないですね。単純に技術をさらに向上させるだけでいいと思います。で、三人ともまだまだ伸び代があると思うのでやり方次第ではさらに化けると思いますよ……」

 

 そこまで言うと三人で話し合いを始めた。おそらく今後の練習内容の方針などを固めていくのだろう。この手のことに関してはおそらく彼女たちの方がどのような練習をすればいいのかわかっているはず。

 というかアドバイス? も終わったし。今後の練習方針も三人で固めてるみたいだし。もう俺の役目は終わったと言えるはず。

 

「えっと――それじゃあ俺はこれでお役御免ですね。それではさよなら~」

「逃がさないわよ~」

 

 指を二本を上げて(ベ○ータポーズ)を取り帰ろうとしたのだが、いつの間にかそばに来ていたツバサ先輩にガッシリと肩を掴まれてしまった。

 

「いや、待ってください。伝えるべきことは伝えたし、もう皆さんに教えることは何もないですよ!」

 

 うん、どう考えても俺に出来ることは何もない。後は成長した彼女たちのライブを見て俺がなにか学ぶくらいのものだ。しつこい様だが俺はドラムに関してはそれなりのものを持ってるが、アイドルというわけじゃない。そりゃプロのアイドルやダンサーなどの後ろでドラム叩いたことはあるが、言うならそれだけなのだ。単純に素人より少しパフォーマンスの評価ができるというだけで、何かを教えられるほど立派でも偉くもないのだ。

 なのだが、三人は首を横に振った。

 

「ダメ出ししてくれる人に見られながら練習する方が緊張感あっていいと思うの」

「あんじゅ先輩、冷静になって考えてください。仮に俺に見られても緊張感なんてないでしょう?」

 

 そう、こんな脳内お花畑(ドラム畑)の俺に見られたところで緊張感など生まれないはず。しかも中学の友人の影響で(にわか)オタク知識もあるんだぞ!

 

「さっきも言ったが、ダメ出しできてドラムの世界ランクに乗るような人だ。見られてれば普通緊張すると思うのだが?」

「――ええい! なぜそこだけピックアップするのか!?」

「むしろそこをピックアップしないでどうするのよ?」

 

 ツバサ先輩に突っ込まれてしまった。最近思ってたけど自分と他人で認識にズレが生じてる気がする。

 別に彼女たちが嫌なわけではない。ナンバーワンスクールアイドルのプライドはあっても鼻にかけてるわけでもないし。努力もしている。少し強引なところもあったが、それも正直気にするほどではないし……はっきりと言える。嫌う要素などこれといってない、と。

 ただ、彼女たちにも言ったが自分ではもう出来ることがないのだ。それこそ本当に見てるくらいしか出来ることなどない。それこそそのうちに邪魔になってしまう可能性の方が大きいのだ。

 どうするべきか、と悩んでいると近づいてきたあんじゅ先輩に手を取られた。

 

「……ダメかしら?」

「っ!?」

 

 あんじゅ先輩が寂しそうな表情で、そして上目遣いで見つめてくる。

 まずい! 耐えろ、耐えるんだ俺! 今までことりの『おねぇがぁーい♪』攻撃を受けてきた俺だ。大丈夫耐性は出来てるはず! ことりのお願いを断れたことないけど(音ノ木坂学院入学は除く)。だからここで選ぶべき選択肢は『だが断る』だ。そう、今の俺ならできる!

 

「――お・ね・が・い」

「わかりました!」

 

 しかし、ダメ押しの一手であんじゅ先輩に耳元でお願いされて俺は即答してしまった。

 本当に意志が弱いなって言うなよ! むしろこの状況で断れる奴がいるならあってみたいわ!

 しかし、あれだよ、心底喜んでくれてる三人を見て正しい判断をしたんだと思うことにしよう。うん、そうしよう。

 

 

「あ~、まったく大変な事になってきたなあ」

 

 高校に入学してからというもの、幼馴染にスクールアイドル始めるから手伝ってほしいと頼まれ、先輩のスクールアイドルに練習に付き合って欲しいと頼まれ、友人と勝負したりと大忙しだ。信じられるか? まだ入学して一ヶ月も経ってないんだぜ?

 まあ、嘆いたところで仕方がないので夕食のコンビニ弁当を購入するためコンビニにやってきた。

 

「……ファーストライブか」

 

 今一番気がかりなのは穂乃果たちのファーストライブについてだ。スクールアイドル人気がどの程度かはわからないが、初めて少しだけのメンバーに対して果たしてどの程度人数が集まるか。

 

 ――そういや物心ついてから両親以外で最初にドラムを聞いてくれたのが絵里だったな

 

 本当はもう何人かに聞いて欲しいと声をかけたのだが、残念ながら当時の年齢でドラムに興味を持ってくれる人が少なかったのだ。で、結局絵里だけが来てくれたわけだが、あれは嬉しかったなあ。そのあとも何回か来てくれたし、というか穂乃果もことりも海未に真姫も知り合ってからちょくちょく来てくれたのによくエンカウントしなかったな。

 

「うん――たった一人でも嬉しんだよな」

 

 思わず口に出てしまったがそれが正直な感想だ。

 穂乃果たち、μ’sのファーストライブがどのような結果になるかはわからない。でも、どんな結果であっても心が折れないで欲しいと思う。まあ、彼女たちなら大丈夫だと思うが。失敗してもそれをバネにするだろうし。

 

 ――ま、ファーストライブで大成功してくれるのが一番だと思うけどね。一応俺というファン第一号もいるんだしな

 

「――う~ん、ハンバーグ弁当にしようかな」

 

 お弁当コーナーのお弁当と睨めっこしながら今日の夕食を考える。と、同時に

 ――まあ、とりあえず当面の問題はファーストライブを行う日、俺もUTXで新入生歓迎会あるんだよねえ。サボってもいいけど。

 

 ――ライブ見に来なかったら許さないからね!

 

 つい先ほどA-RISEの三人に笑顔で釘を刺されてしまっているのだ。

 つまり、見事にブッキングしてしまっている。唯一の救いはμ’sが4時からでA-RISEが5時30分からと時間がずれていることだろう。1時間30分――これが俺の運命を決めるタイムリミットとなるわけだ。

 

「……いや、本当になんでこんな妙に忙しいんだよ――」

 

 ハンバーグ弁当とお茶、デザート一つと音楽雑誌を籠に放り込む。なんとしてでも両方のライブに行かなければならないのだ。その作戦を考えないといけない。

 

 ――二兎を追うもの一兎をも得ず? 知らない子ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 




 そういえばよくよく考えてみたら雪穂とか亜里沙も幼馴染に入るような……ま、まあ特によく会ってた5人を幼馴染って呼ぶことにすればいいか(震え声)


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第8話

プロローグ以来の真面目話でございます。

正直迷走してる感が強いと思いますが気楽に見てください


 前略親父殿。ついにこの日がやってきました。μ’sのファーストライブ。そしてわがUTX高校のA-RISEによる新入生歓迎ライブ。まさかのライブブッキングです。私はなんとしてもこの二つのライブに出ないといけない状況に追い込まれてしまっているわけです。まあ、仮にバレてもビーム撃たれたり月を落とされるということはないはずですので……ないですよね? というか別にバレても問題ないと思うのになぜ私はこんなに必死に隠してるのでしょう? 最近自分を見失っているような気がします。

 

 

 さて、授業は終わった。

 時刻は3時ジャスト。このあとそれぞれ気になっている部活動などを見て回り、最後に目玉であるA-RISEのライブが5時30分から開催されるが本日の流れである。

 が、俺は穂乃果達との約束を果たすために部活動見学をしている暇がない。迅速に行動しなくてはならないだ。

 

「お~い音羽。軽音部見に行こうぜ」

「すまぬ」

 

 友人から誘われたが速やかに断り教室の外へ出る。このまま一気に外へ出るため走り出す。もし、ツバサ先輩あたりに「最終リハ見てよ」などと言われたら目も当てられない。

 道中教師から「廊下を走るな!」と言われてしまったが、今はそれにかまってる時間はない。まずは一秒でも早くこのUTX高校から脱出しなくてはならないのだ!

 

「はっ!?」

 

 だが、唐突にいや予感を感じた。こう、頭にピキーンって光る感じに。とりあえず近くの教室に急いで身を隠す。どうでもいいけどUTXのは教室は教室って感じがしないな。会議室みたいな感じがする。いや、これはこれはで好きなんだけどね。

 それはさておき、嫌の予感の気配を探るために廊下に意識を傾ける。扉に遮られているため視覚で情報を得ることはできないが、音を聞き取ることはできる。伊達や酔狂で音楽家の息子はやってない! 耳はいいのだ! 耳はな!!

 そして耳をすませると声が聞こえてきた。

 

『まったく、ツバサ。志郎くんだって一年生なのよ?』

『分かってるってあんじゅ。だから、志郎の都合が悪ければ無理強いはしないよ』

『最終リハーサルにまで付き合わせるのもどうかと思うが?』

『だってさ、リハ見せたあとに本番見せて「リハの時以上のアイドル力……だと」みたいなこと言わせたいじゃん』

 

 なんて会話が聞こえてきた。

 良かった、隠れて良かった。都合が悪ければ付き合わせないと言ってるが、逆に理由を聞かれたら答えるわけにはいかないからな。

 新入生歓迎会は学校行事の一つだ。部活を見る見ないは別にして、終わるまで校内にいないといけない。ところが、俺はこれから抜け出して他校に行こうとしてるのだ。説明などできるはずがない。三人には悪いがいないはずの俺のもとに行ってもらうしかない。

 

「そろそろいいか」

 

 そっと廊下を伺いながら外に出る。幸い目の届く範囲に人はいなかった。

 

「よし」

 

 そして、その後は特に障害もなくUTXから抜け出すことに成功した。

 

 

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………

 

 

 ら、良かったんだけどね。

 

「ふむ、君が音羽志郎くんだね?」

 

 せっかく一階までたどり着いたと持ったら体格のいい先輩方に囲まれてしまった。

 

「いや、なんで?」

 

 ここまで順調に来たと思ったら見知らぬ先輩たちに行く手を阻まれてしまったのだ。嘆きたくもなるだろう。

 するとこちらの気など露知らず、先頭に立っていた男子生徒がフッと笑ったかと思うと語りだしてくれた。

 

「先日のランサーくんとの闘い。アレは実に見事だった」

「え、見てたの? つか、なんでランサーくん呼び浸透してんの!? あの人にはちゃんと名前があるんだぞ!」

 

 そう、先日心の友となった彼には立派な名前があるのだ! 彼の名は…………アレ? あのランサーくんの名前なんだっけ? えっと、確か……ほらアレだよ、アレ……。

 

「……それで、本題は何ですか?」

 

 とりあえず目の前の要件を片付けよう。μ’sのライブまで時間がないからね。

 ――け、決してランサーくんの名前を思い出せなくて誤魔化そうとしたわけじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!

 

「うむ、あの闘い。激しい動きをしながらも君は息切れを起こしていなかった。つ・ま・りだ! 君には圧倒的なスタミナが眠っているのだよ! 故にそのスタミナを我が陸上部で生かしてもらおう」

「もらおうって確定事項ですか!?」

 

 ていうかこの学校陸上部とかあったんだ。どこかの公園かグランドでも借りて活動してるのかな? いや、問題はそこじゃない。

 

「待ってもらおうか陸上部。彼は室内であれだけの動きをした。ならば、我々バスケ部のところに来るのがいいはずだ」

「まちなさいな。彼はドラマーなのよ? なら軽音部に来るのが筋というものでしょう?」

「手芸部も忘れてもらっては困るな。彼の繊細なスティック捌きは手芸部でこそ――」

「いや天文部にこそ――」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。おそらく各部活の先輩たちだろう。ちなみに全員男性です。

 うん、色々と評価してくれてるのはありがたいけどさ、今凄く忙しいんだよね。というわけでコソコソと逃げ出させてもらいます。戦略的撤退は敗走ではないのだ!

 ついには互いに罵り合いまで始めた先輩たちの隙間をそっと抜け出した。喧嘩しに来たのだろうか? いや、こちらとしては好都合だけどさ。

 そして急がないといけない。騒ぎを聞きつけてツバサ先輩たちがやってきてしまうかもしれないから。

 

 

 時間は3時25分。

 μ’sのライブまで35分。

 全力で行けば余裕で間に合うはず。――というか間に合わせないとやばい。何故なら「来なかったら私たちのオヤツにするからね?」と笑顔で脅さ……失礼、釘を刺されているのだ。

 A-RISEといいμ’sといいなぜ笑顔で脅迫して――じゃなくて釘を刺してくるのか!?

 そんな不条理を呪いながら俺は走り続けるのだ。

 

 

 ――人間その気になれば驚きの結果が出せるものだ。想定より早く音ノ木坂学院に着き、さらにこの数日この学院に来ていたせいか中にもあっさり入れた。少し前までは中に入ると不審者を見る目で見られたものだが。

 と、そんな感じスムーズに行動まで行ける――と思っていたんだが。

 

「あ~~~~!!」

「かよちん、急にどうしたにゃー」

 

 いきなりこっちを指差して奇声を挙げられたかと思ったらドドドドドッ!! と凄まじい勢いで突進してくるメガネ少女がいた。リボンを見るに真姫ちゃんと同じ学年だろう。

 

「え!? な、なに?」

「こ、こここここれは、UTX入学者限定のA-RISEのストラップ!!」

 

 そう言ってメガネの少女が指差した先にあるのは――鞄の外ポケットから少し出ているあのストラップだった。

 ――そういや出すの忘れてたな。ていうかこの子結構距離あったのにこれに気づいたの!? すごくね!? なんでメガネかけてるのさ? いや似合ってるけど。垢抜けた感じがとても可愛いと思うけど!

 

「なぜ貴方がこれを!?」

「俺UTXの生徒だから。ああ、ここに来たのはちょっと用事があってね。ちゃんと許可書は持ってるから」

 

 ほらこれ、と首から下げてる物を見せる。あとから付いてきた活発そうな少女が(こちらも可愛い)「なるほどにゃー」と納得している。ただ、メガネ少女はそれ以上にストラップが気になるらしい。

 

「あの、唐突で申し訳ないのですが――そのストラップ見せて頂けませんか?」

「――いいけど」

 

 とりあえず鞄から抜き取りメガネっ娘に渡す。それをキラキラした瞳で本当に羨ましいオーラ全開でストラップを見る。

 

「ごめんなさいにゃー。かよちんアイドルのことになると性格が変わっちゃうから」

「あ、そうなの?」

 

 きっとかなりのファンなのだろう。そうでなければカバンからはみ出てる程度のストラップに気づくとは思えないし。

 ストラップをじっくり見たあとメガネっ娘――かよちんというからには『かよ』という名前なのかもしれない――が我に返りあたふたし始めた。

 

「す、すすすすみません! 私初対面の方に失礼を……」

 

 徐々に声が小さくなっていく。いや、俺は一切気にしてないけどね。というか結構内気な性格だったんだな。

 そして少し名残惜しそうな表情でストラップを俺に返してくる。

 

「…………あげるよ」

 

 少し迷ったが彼女に上げることにした。

 

「え!? な、なんでですか、こんなに綺麗にして持ち歩いてるのに!?」

 

 ――ごめんなさい今まで忘れてただけです。A-RISEの三人とは毎日のように会ってるし、というかあの三人のキャラが妙に濃くてストラップのことなんてすぐに忘れちゃったんだよね。むしろDVDを忘れずその日の内にチェックしたことを褒めて欲しい。

 

「――俺がそうしたいんだ。なにか問題ある?」

 

 こんな鞄に入れて忘れてるような男より、本当に好きな人に持ってもらってるほうがいいと思うし。というわけで某デビルハンターのように格好良く言ってみた。

 

「で、でも――」

 

 かよちんも迷ってるようだ。欲しいけど、貰うなんて悪いと心から思っているのだろう。選択肢が二つあって受け取るか受け取らないかで凄まじく葛藤しているのだろう。

 ――そんな彼女に対して思うのは一つ――めっちゃええ子や! ということだけだ。

 

「気にしなくていいよ。大切にしてくれるならそれでいい」

 

 そう言うとかよちんは意を決したように恐る恐る手を伸ばし俺からストラップを受け取る。

 

「あ、あの本当にいいんですか?」

「もちろん。後で返せなんて言わないから大丈夫」

「……その、ありがとうございます。私――大切にします!」

「かよちん、よかったにゃー」

 

 そう言われかよちんがうんうんと頷く。うん、心底嬉しそうだ。こんな娘だったらストラップも報われるだろう。少なくとも鞄に放置されてるよりは。

 

「あ、そうだ。あ、あのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 

 ――あ、そういや、ついさっき知り合ったばかりで自己紹介もしてなかった。

 

「音羽志郎、UTX高校の一年生だよ」

「私は小泉花陽です」

「りんは星空凛だにゃー」

 

 これが彼女たちとのファーストコンタクトだった。

 

 

「う~む、花束でも買ってくるべきだったか?」

 

 いや、まあそれはキザすぎて良くないか。そんなことを考えながら楽屋へと向かう。ちなみにあの後花陽ちゃんはりんちゃんに引っ張られていった。その時に「私行きたい所が――誰か助けてー」と叫んでいた。うん、好奇心旺盛な凛ちゃんに内気な花陽ちゃんか……うん、いいコンビなんじゃないかな。あとは冷静なツッコミ担当がいれば完璧なトリオになれると思うんだけど。

 そんなことを考えながらも道を進む。何度か来たせいか道に迷うということはなかった。

 そして楽屋の前に付くとノックをして返事を待ってから楽屋に入った。

 

「三人とも調子はどう?」

「バッチリだよ!」

 

 思いのほか緊張はしていないようだ。海未は若干スカートを恥ずかしがってるようだがアイドルなんてだいたいそんな感じだよ。だからジャージに手を伸ばさないで。あ、ことりに止められた。

 

「一応この手のものに関しては少しばかり先輩だから、一つだけ言っとくね。ステージに立った時どんな状況になるかわからないけど、冷静になってやるべきことを思い出して」

 

 くっ、もう少し気の利いたこと言えればいいんだけど――ごめんね口下手で。

 

「もちろんだよ! 志郎くんにも手伝ってもらったし頑張るよ!」

 

 穂乃果は元気にそう言った。

 

「それじゃあ、客席に行ってるから。頑張って三人とも」

 

 そう言って俺は楽屋から出た。

 

「あっ」

 

 外に出ると少し驚いた。少しだけ離れたところに人がいたからだ。

 

「まったく、学校を抜け出してきたのね?」

「あはは……」

 

 そう、絵里がジト目で睨んでいたのだ。それはもう出来の悪い弟を咎めるような目で。

 

「それで、どうなの?」

「気合は十分。後は客が応えてくれるかどうか――」

「そう」

 

 そう呟き俺が向かう先とは逆方向にスタスタと歩き始めてしまう。

 

「見ていかないの?」

「――客席で見る気はないわ」

「……ああ」

 

 厳しいこと言った手前恥ずかしいんだな。

 

 

 現実とは時に非常である。

 結論から言うとμ’sのファーストライブは失敗だった。なにせ当初俺を除いて客が一人もいなかったのだ。はっきり言うがこれはかなりキツイ。

 正直言えば数人は来ると予想していただけに、まさか一人も来ないとは俺も予想外だった。

 

「そりゃ、そうだ……!」

 

 普段から誰よりも明るい穂乃果が泣くまいと必死に歯を食いしばり言葉を吐き出す姿に胸が痛んだ。

 

「――世の中、そんなに甘くない!」

 

 始まる前にどんな状況でも、なんて言ったが……もう一度同じ言葉を彼女たちにかけることはできなかった。

 だが、唯一救いだったのは――

 

「はぁはぁ……。あれ?……ライブは?」

 

 ただ一人……来てくれた人がいたことだろう。

 

「花陽ちゃん……」

 

 しかもそれがついさっき出会った少女であったことも驚きだ。

 そっか、アイドルが好きな彼女なら興味を持ってくれても不思議じゃない。

 

 ――さて、μ’sのライブを見たいと来てくれた人が一人でもいる。――だったら三人がやるべきことは――もう分かってるはず。 

 

「やろう!」

 

 穂乃果が明るい声でそう言った。その口調さっきまでの悲痛さはもうなかった。

 

「歌おう、全力で! だってそのために今日まで頑張って来たんだから!!」

 

 その声にことりと海未も表情が変わる。

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん!」

「ええ!」

「歌おう!」

 

 

 さっきは失敗だと思ったが――このライブは成功だったのかもしれない。

 だって穂乃果たちは見てる人を魅了しているのだから。花陽ちゃんを筆頭に花陽ちゃんを探しにきた凛ちゃん、何故か座席の後ろに隠れてのぞき見するように見ているツインテの人、ドアの外から顔を覗かせている真姫ちゃんと希さん。

 ――ていうか最後は三人はいるなら普通に見ようよ!

 と言いたかったが何か事情があるのだろう。ぐっと飲み込んだ。

 そして――彼女たちの最初のライブは終わった。

 初めての、そして全力で挑んだライブということもあってか穂乃果たちは肩で息をしている。

 そんな姿を見せたらダメだろう。と思いながらもその達成感からくる晴れやかな顔を見るとそんな考えも消えていった。

 そう思っていると講堂に一人の女生徒が入ってきた。

 

「生徒会長……」

 

 穂乃果が表情を強ばらせた。

 そんな三人を無視して絵里は冷ややかに告げた。

 

「それで、これからどうするつもり?」

 

 だが、穂乃果は目をそらさずに言った。

 

「続けます!」

「なぜ? これ以上続けても意味があるとは思えないのだけど?」

 

 それに対する穂乃果の答えは至ってシンプルだった。

 

「やりたいからです! 私、もっともっと歌いたい。そして踊りたいって思ってます。きっと海未ちゃんも、ことりちゃんも」

 

 見つめ合い、そしてうなずき合う三人。

 

「こんな気持ち、初めてなんです!やってよかったって、本気で思えたんです! ……今はこの気持ちを信じたい。このまま誰にも見向きもされないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも!」

 

 拳を握りしめ、心の底から湧き上がる熱い想いを言葉にのせた。

 

「一生懸命頑張って、届けたい! 私たちが今ここにいる、ここで感じてる想いを! いつか、いつか私たち、必ず!! 必ずここを満員にして見せます!!」

 

 

「どう? あの三人――熱くて真っ直ぐでしょ?」

「なんで貴方が得意げなのよ?」

「いひゃいよ~」

 

 講堂をあとにした絵里を追ってそう言ったら両頬をうにょーんとつねられた。

 

「今回のライブ、自分の意思で来てちゃんて観ていたのは実質一人だけよ。それなのになんで――」

 

 まあ、そうだね。凛ちゃんは花陽ちゃんを探しに来て、ツインテの人は何故か隠れていたし、真姫ちゃんと希さんはドアの外。絵里は別室。自分からμ’sに興味を持って、自らやって来て最後まで観てくれたのは花陽ちゃん一人なのだ。

 けど――。

 

「いいんだよ実質一人だけでも。一人だけでも来てくれたということが重要なんだ。俺があの日、絵里が来てくれて嬉しかったように。一人来てくれたと、一人しか来なかったは似てるかもしれないけど別物なんだよ」

 

 ようは考え方や捉え方の違いなのかもしれないけど、少なくとも俺はそう思う。

 

「そう……」

「納得いかない?」

「――少しね。あの娘たちだけが理事長やあなたに認められて――」

「意外と鈍いね絵里」

「志郎にだけは言われたくないわね」

 

 ひどい言われようである。

 

「前に絵里のお祖母ちゃんが言ったこと、覚えてる?」

「え?」

「エリーチカがバレエを楽しんでくれることが一番嬉しいって言葉だよ。絵里がこの学院を本気で救おうとしてることはわかるよ。でも、そのために自分を追い込みすぎて、学校生活を楽しめなくてなってしまって――お祖母ちゃんが喜ぶと思う?」

「そ、それは……でもっ!?」

「まあ、好きなことやって学校救えるなんて虫のいい話あるわけないって思うのも分かるけどねえ」

 

 さっきの穂乃果じゃないけど世の中そんなに甘くない。特に絵里は一度バレエで挫折してしまったから余計にそう考えてしまうのかもしれない。

 というかそもそも廃校を回避しようってのは大人の仕事なんだから、学生生活そっちのけで廃校回避に専念しようとすれば理事長だって止めるしかないだろう。

 

「でも、可能性がないわけじゃない」

「わからないじゃない! もし、もしそれで廃校になったりしたら――」

「取りあえず落ち着きなよ。少なくとも現状活動させてもらえないんでしょ? だったらさ、無理なんて決めつけないで、やりたい事をやって、その上で学校を救おうってのも一つの手じゃないかな?」

 

 少なくともそうすれば理事長もある程度理解を示してくれると思うんだけどなあ。

 

「ま、今すぐ答えを出すってのも難しいから少し考えてみたら? この前の件も含めてさ」

 

 俺もそろそろ行かないとな。

 

「あとさ、俺も絵里のおばあちゃんと同じでさ、絵里が心から楽しんでくれる方が嬉しいよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぬぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

 何俺説教じみたことしてんだよ!? 何時から俺はそんなに偉くなったァア!? オラッ! 答えろよ俺ェ!!

 

 

 ガンガン!! と電信柱に頭をぶつけてようやく少し落ち着いた。いや、なんで絵里に偉そうなこと言ってんだよ!? 絵里だって考えて、頑張ってるのに否定するようなこと言ってさあ!!

 

「……はぁ、今度はちゃんと絵里の考えもしっかり聞かないとなあ」

 

 今回は殆ど俺が勝手に意見を言っただけだったし。ああ、憂鬱だ。

 なんてこと考えながらUTXに向かっていると道路脇に一台の車が止まった。

 

「貴方って時々奇行に走るわね」

「あ、ことりのお母さん――っていうかいきなり奇行とか言わないでくださいよ」

「電信柱に頭をぶつけることが普通とでも?」

 

 うむ、反論の余地もないな。

 

「乗って。送っていくわ」

「え?」

 

 乗せてもらいました。

 

「一応お礼を言っておいたほうがいいのかしら」

「お礼って――なんのです?」

 

 むしろ、送ってもらってる俺がお礼を言う立場のはずですが。

 

「絢瀬さんのことよ」

「絵里の? ――――ってもしかしてさっきのを?」

「ええ」

 

 は、恥ずかしすぎる。

 

「貴方だったから絢瀬さんは話を素直に聞き入れてくれたと思うの。学生生活を犠牲にしないでってずっと言っていたのだけど。中々……ね」

 

 まあ、この年頃の人間にとって食い違う大人の意見ほど聞き入れ難いのだろう。俺は大人の怖さ(生活費抜き)を味わされているため従順だけど。

 

「……正直そんなに深く考えた言葉じゃないんですけどね――」

「それでもいいのよ」

 

 あ、UTXが見えてきた。時間は5時25分――ギリギリだが間に合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 A-RISEのライブ終了後。

 

『Welcome!!』

 

 数時間前に別れたはずの各部活の先輩たちがいた。

 いや、なんでさ?

 

「言ったはずだ、君の力は陸上部の糧になってもらうと」

「言葉が悪くなってるんですけど!?」

「あら、何言ってるのよ。彼は軽音部で面倒見るといったはずよ。もちろんアッチの方も」

 

 アッチってなんだよ!? 

 

「あなたたち何言ってるの? 彼は私たちA-RISEのモノよ」

 

 そしていつの間にかやって来たツバサ先輩たち。取りあえずモノ扱いはやめましょうね?

 

「っく、マズイなA-RISEまで出てくるとは!?」

「なにか手はないの!?」

「ふふ、一応言っておくけど、彼は私たちの練習にも参加している。この意味、わかるわね。私たちとなら、スタミナもドラムの腕も全て活かせるわ」

 

 念のため言っておくが、コレは部活動のヘッドハンティングのようなものです。

 

「――ええい、音羽くん!?」

「あ、はい」

 

 唐突に陸上部の先輩に声をかけられ素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「君はどこに所属しているのだ!?」

「え、いやまだどこにも――」

「そうか――なら話は早い。これだけの部活を声をかけれては君も困るだろう? 故に簡単な解決策を思いついた!」

 

 そして、何故か無駄にクルクル回転しそれを取り出した。

 

「くじだァアアアア!!」

「部活ってくじ引きで決めるものでしたっけ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くじの結果俺は帰宅部になりました。A-RISEの練習には今まで通り付き合うけどね。

 




艦これイベント間に合わず照月ちゃん向かい入れることができなかったァああ!!


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第9話

遅れてしまって申し訳ないです。



 前略お袋さま。時の流れとは早いもので私がUTX高校に入学してA-RISEやμ’sの練習に付き合っているとアッーというまに中間試験の時期に突入してしまいました。音ノ木坂は期末試験だけとのことで穂乃果たちは練習に精を出しています。μ’sも気がついたらメンバーが7人になっていました。が、その辺は今は特に語りたい気分ではないので割合します。

 それにしても疲れました。試験勉強に集中していたせいか皆に三ヶ月くらいあってないと錯覚してしまうほどであります。

 けどまあ、それなり楽しんで高校生活を送っています。

 

 

「終わったー! 音羽はどうだっ――燃え尽きてる!?」

 

 ランサーくんの言うとおり、今俺は燃え尽きている。何だかんだ言いつつもA-RISEやμ’sの練習に顔を出していたら限界ギリギリまでテスト勉強ができなかったのだ。ドラムの時間を削らず睡眠時間を削りながら必死に勉強したのだ。故に終わった瞬間俺は燃え尽きてしまった。

 そして、今回得た教訓は……。

 

「ご利用は計画的に……(※訳:期末テスト対策は計画的に)」

「お前大丈夫か?」

「大丈夫じゃない――頭の出来はそんなに良くないんだよ。耳はいいけど」

「自虐してんのか自慢してんのか分からねえよ」

 

 ランサーくんが呆れながらそう言ってくる。いいんだよ、とにかく疲れたしとても眠いんだ。今なら愛犬が迎えに来てくれそうな勢いだ。犬飼ったことないけど。

 

「まあ、ドラムでも叩いてれば治るだろ。ゲーセン行こうぜ」

 

 ランサーくんが肩を叩きながらそう言ってくれたが、残念ながらこの疲れはドラム○ニアをやったところで取れるとは思えないなあ。

 

「疲れすぎててテンション上がらないけど……」

 

 

 で、まあゲームセンターに来たまではいいが、やはり早々にテンションなど上がるものではない。テストとテスト対策の勉強のおかげで身も心も疲れきっているのだ。いくらドラム好きだからといって早々上手くいくものではない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

「ヒャッハーーーー!!」

「お前さっきテンション上がらないとか言ってたよね? 思いっきりハイテンションどころかクレイジーになってるじゃねえか!!」

「細かいこと気にしたら即ゲームオーバーだよランサーくん!」

「いや、ランサーって!? 俺は「阿修羅だ!」って名前が――え? いつの間にこんなに人だかりがッ――つか、俺の名前を聞けえ!!」

 

 集まってきた人達に飲み込まれてランサーくんが見えなくなった。さらば、ランサーくん、ゲーム終了後に会おう。

 ちなみに今俺はスティックを6本使っている。もちろん同時に使っているのではなく、4本は上に投げて2本で叩き、2本が落ちてきたところで持ってるものを上に投げて持ち替える。まあ、意味があるのかと聞かれたら即答できるけどね。ないよパフォーマンスなんて派手で失敗しなければよかろうなのだァァァァッ!!

 で、そんなことをやってら人が集まってきて。

 

「スゲェ腕が何本もあるように見える!」

「あれがA☆SHU☆RAか」

「ASHURAだ!」

 

 等と賞賛の声が上がる。

 俺とて人の子。こんなふうにされてしまえばテンションも鰻登りである。

 

「おい連打が来るぞ!」

「ジャグリングしながら出来るものじゃない――無茶だ!」

 

 ギャラリーは無理だと決め付けているようだが知ったことではない!

 

「そんな道理――俺の無理でこじ開ける!!」

 

 さらに加速して――ラストスパートを駆ける。

 そして曲が終わり――余韻に浸ろうとすると――

 

「皆見てみてー。志郎くんが変態みたいな動きしてるにゃー」

「誰が変態だ!!」

 

 こちらを指差すμ’sの新メンバーの一人、星空凛によって余韻は中断された。

 

 

 

 ゲームセンターにはμ’sのメンバーが集まっていた。穂乃果、海未、ことりの初期メンバーはもちろん、新メンバーである西木野真姫、小泉花陽、星空凛、矢澤にこといったメンバーもだ。

 練習もせず何やってるのかと聞いてみると。

 

「リーダーを決める?」

「そうよ。今回この娘はリーダーに向いてないことがわかったからね。だれがリーダーに相応しいか決めてるの」

 

 ちなみに答えてくれたのは矢澤にこという小学3年生みたいな高校3年生である。アイドルに関して熱い情熱と深い知識を持っている。ちなみにUTX高校の前で小学生と勘違いして迷子扱いしたというのがファーストコンタクトだったりする。あの時の彼女は怖かった……。

 

「というかリーダーって部長の矢澤さんじゃないんですか?」

「部長とリーダーは別物なの。それこそシャアザクとルナザクくらい違うわ」

「何を持って比較しているのかさっぱりなのですが――」

 

 まあ要約するとセンターの座をかけて女同士ドロドロした苛烈な戦いを行っている――ということだな。

 

「あの、志郎が酷く間違った解釈をしてそうなのですが」

「う~ん、何時もの事といえば何時ものことだけど」

 

 納得していると海未とことりが不満そうにそう言っていた。

 

「とりあえずダンス勝負じゃ決着がつかなかったから次はカラオケよ」

「むしろ普通先にカラオケ行くべきなのでは?」

「――くっ、慣れてないダンスゲームで一気に引き離すつもりだったのに――!!」

 

 やっぱりドロドロした戦いだった。

 

 

 

 

 で、カラオケにいくと。

 

「アイドルと言ったらやっぱり歌よね。……ふふふ、高得点を取れる曲は既にリサーチ済みよ」

「アイドルも裏ではこんな競争が行われてるんだな」

 

 ということはA-RISEの三人も――いや、よそう。なぜか三人に笑顔で首を絞められてる自分を幻視した。

 そして俺も参加することになったので最近お気に入りの曲を選択する。ドラムの演奏が専門なので歌はあまり歌わないんだよね。

 で、歌い終わった結果。

 

「一応言っておくが俺が下手なんじゃなくて皆が上手いだけだからね!」

 

 俺は89点でビリだった。いやしかし、比較対象が悪いとも言えるはずだ。全国ランキングで10位内にこそ入らなかったが20以内には入ってるし。つーか、全員が90点以上とは意外だったな。真姫は歌上手いの知ってたけど前より上手くなってるしさ。

 結局カラオケでもリーダー争いの決着は付かず、延長戦? のチラシ配りを行った。

 がこちらも結局決着はつかなかった。

 

 

「どうするのよ結局みんな似たような結果じゃない!」

「そうですね。ダンスの点数が悪い花陽は歌の点数が良くて、カラオケの点数が悪かったことりは、チラシ配りの点数が良かったですし……」

 

 結局全員が接戦で決着は付かず『第1回μ’sセンター争い』は終わってしまったのだ。

 

「このままでは決まりませんね」

「やっぱりリーダーは上級生の人の方が」

「私はやる気ないし」

 

 海未が困り果て、花陽ちゃんは妥当な案を出す。そして真姫はもう少し興味を示そうよ。

 

「――そもそも、みんな何でリーダーなんて欲しいの?」

「「はぁ!?」」

 

 俺がふとそう思って声をかけると、皆から「何言ってのコイツ?」みたいな目で見られた。 というかにこと真姫は仲いいね。

 

「まず結果をもう一度確認させて」

 

 海未から紙を受け取る。一応途中から参加していたがあまり詳しく覚えてないもう一度しっかり確認する。

 

「リーダーに必要なものって言うとだいたい3パターンある。一つ目は年齢、2つ目は実力、3つ目は――いやこれはいいか」

 

 指を立てながら一つ、一つ確認していく。

 

「まず年齢に関しては矢澤さん一番高いし、三年生だからリーダー向きですが、結果を見るとバランス型でどれかが飛び抜けてるわけじゃない――となると1番をとった人が「自分より下手な奴がリーダーなんてやってるんだよ」となる。まあ、もちろんこのメンバーでなるとも思えないが」

 

 正直なところそれが原因でμ’sのメンバーに亀裂が入ると思えないけどね。全員それぞれが相手の良いところを知っているわけだし。

 

「で、次に実力で決めたとしよう。どれか一つでいいから飛び抜けて上手かった奴がリーダーをしたとしよう。それが年下だった場合年上の人間は「年下の命令には従いたくない」って感情が出てくる。で、そういった感情をその場で押し殺したとしても、いつか綻びが出る可能性が高い。ちなみにコレは俺の実体験ね」

 

 実体験と聞いて幼馴染’sが少し複雑そうな顔をするが、実際は大人と組んだ時に自分の意見を聞き入れてもらえなかったていうだけだ。

 

「だったら、リーダーなんぞ決めずに全員平等にやればいいと思うよ」

「で、でも! リーダーのいないアイドルグループなんて聞いたことないわよ!」

 

 そう反論されてしまうが、いいじゃんパイオニア的なものになるし。

 

「や、いいんじゃないかな。それで」

 

 穂乃果がそう言う。

 

「みんなで練習してきて、歌ってきたんだし」

「な、ならセンターはどうるのよ!?」

「みんなで歌うってどうかな。志郎くんが言うように、みんなが歌って、みんながセンター!」

 

 手を広げ穂乃果がそう言うとみんな考え込む。

 そして。まずことりが。

 

「わたし、賛成」

 

 海未

 

「そうですね、私も賛成です」

 

 真姫が

 

「たしかにそう言う曲もあるわね」

 

 そして続くように――

 

「凛もソロで歌うんだー」

「わ、私もですか!?」

「当然でしょ。まあ、仕方ないわね――私のパートはかっこよくしなさいよ」

 

 うん、丸く収まってよかった。

 

「それじゃあ、練習しよ!」

「今からですか? もうそんなに時間はありませんよ」

「少しくらいなら大丈夫だよ! さあ、行こう!!」

 

 穂乃果が号令を鳴らし部室から出ていく。

 

「う~ん、きっと俺も行かなきゃいけないんだろうな」

 

 そう一人で呟き俺も皆の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習が終わったあとに気がついた。

 

「あ、ランサーくんのこと忘れてた」

 



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第10話

というわけ(どういうわけ)で投稿です。ちょっと強引すぎるかなと思うのですが、その辺は寛大な心でお願いします。
 


 前略親父殿。人生とは波乱万丈であります

 

 

「ここいいかしら?」

 

 昼休みにカフェスペースで友人のランサーくんと昼食を取っていると声をかけられた。声をかけたきたのはA-RISEの3人だった。

 文字通り学校のアイドルである3人に相席を頼まれてランサーくんは硬直してしまっている。

 

「どうぞー」

 

 なので、代わりに俺が答えておく。ランサーくんは固まってるけど、まあいいだろう。数分もすれば再起動するはず。

 ありがとうと言いながら俺の横にあんじゅ先輩が。ランサーくんの横に英玲奈先輩が座る。

 

「そういえば志郎。今度ラブライブが開催されるんだけどもう知ってる?」

 

 ツバサ先輩が目を輝かせながらそう言ってきた。

 

「ラブライブ? 何ですかそれ?」

「今年開催されることの決まった――謂わばスクールアイドルの甲子園と言ったところかしら」

 

 あんじゅ先輩が非常にわかりやすい説明をしてくれる。

 

「スクールアイドルが増えている今、頂点を決める大会がついに開催されるってわけ」

 

 おお、ツバサ先輩が燃えている。いや、あんじゅ先輩も英玲奈先輩もか。

 

「なるほど、今のスクールアイドル人気を考えると盛り上がりそうですねえ」

 

 人気のあるスクールアイドルであればそれだけで学校の看板になるほどだ。目の前にいるA-RISEの三人なんかその最たるものだろう。それが全国規模の大会となれば国内どころか世界的にも注目度が上がるかもしれない。某ギネスに乗ってるアイドルグループも外国人人気が高いというし。

 しかし、なぜだろう。盛り上がると考えているのに何故か背筋に悪寒が走るのは……わからない。

 

「私たちも出場するから気合入れてかないとね」

「そうだな。志郎くんも練習の協力頼むぞ――たしか今日は来れないといったか」

「――はい、今日は用事がありまして」

 

 そう、μ’sの方も見に行かないといけないのだ。最近では向こうの生徒たちにも顔を覚えられたのか入っても自然に挨拶してくれる生徒が増えた。最初の方は不審者のごとくコソコソしてたものだけど。

 

「ん~、それじゃあ志郎は明日からね」

「分かってますよツバサ先輩」

 

 そういって食事を再開する。その後の会話は練習メニューだったり、クラスでの出来事など至って普通の会話だった。

 ちなみにランサーくんが再起動したのは昼休みの終了5分前だった。

 

 

 放課後になり音ノ木坂学院に向かう途中であのとき――ラブライブの話題が出た時の悪寒について考える。

 

――なぜだ? 

 

 答えのでないまま歩き、いつの間にか音ノ木坂学院に着き、部室に向かう。

 が、部屋には誰もいなかった。いつもなら俺が来るまで待っていてくれるんだけど――。μ’sの行きそうな場所といえば。

 

 屋上、生徒会、理事長室

 

 といったところかな。それに加えて電源を落としていないパソコンの画面を見るとラブライブのホームページが開かれている。

 ――ラブライブにエントリーするのは学校の許可が必要。

 と、なれば

 

「理事長室でファイナルアンサー!」

 

 間違いないと思い理事長室に向かった。

 

 

 で、理事長室に向かうとμ’sのメンバーが全員に絵里と希さんもいた。ドアが開いていたので中を覗いてみると3人ほど崩れ落ちている人がいる。

 

「え? どいう状況」

「あら、志郎くん来てたの」

 

 理事長が声をかけてくれると全員がこっちを見た。

 

「あ、どうも。どうしたんですか?」

「それがね――」

 

 理事長の説明によればラブライブにエントリーする条件として期末テストで赤点を取らないことと宣告したこうなったらしい。

 そういえば穂乃果って算数が苦手だったような……。

 

「まあ、ちゃんと勉強すればなんとかなるでしょ。個人的にはμ’sが完成したことのほうが嬉しいんだけど」

 

 そう言うと希がびっくりしたような表情をし。他の人たちは何を言ってるのかわからないといった表情をする。その反応を見ると――。

 

「アレ? てっきり絵里と希さんも入って9人になったのかとばかり――」

「違うわよ!」

「なんでそれで完成になるの?」

 

 絵里の否定の言葉と穂乃果の疑問の言葉が同時に出た。

 

「調べたけどμ’sでどっかの神話の9人の女神のことだから。で、この部屋に9人集まってるからそうなったのかと思ったけど――違うの?」

「違うわ」

 

 絵里が毅然としてそう言う。う~む、絵里はまだμ’sのみんなの事を認めてないのか――いや、それともこれまでみんなを否定してきて今更と思ってるのかもしれない。

 

「そっか、残念だ。あ、そうだ。それじゃあテスト終わったあとにダンスの練習見てあげてくれない? 皆上手くなってるから俺じゃもう何もアドバイスできないんだ」

 

 絵里は若干嫌そうな顔をしている。が、ここで俺も引く気はない。

 冷静に考えてみれば絵里とμ’sは生徒会長とスクールアイドルという関係でしか交流がないはず。なので、その辺りを取り除いて交流すればお互いの人間性を理解し合えるかもしれないのだ。

 絵里もμ’sが遊び半分でやってる訳ではなく、μ’sも絵里がただ嫌がらせで認めなかったわけじゃないとわかってくれる…………はず。

 

「……全員がテストで赤点取らなかったらね」

 

 そう言って絵里は希さんと部屋から出ていった。うむ、言質はとったこれで大丈夫。

 で、後は現μ’sのメンバーに絵里のダンスの実力を教えておけば納得してくれるはず。

 

『…………』

 

 唖然としていた。

 

「みんなどうしたの? 固まちゃって」

「数分間で色々ありすぎて混乱してるのよ」

 

 ああ、絵里の態度にか。今まで認めて貰えなかったから驚いてるんだな。もしくは練習と称して潰されると思ってるのかもしれないが、そこだけは否定しとかないと。

 

「大丈夫だよ。絵里は真姫ちゃんほどじゃないけどツンデレ気質なせいで誤解してるかもしれないけど、根は優しい子だから。きつい練習をすることはあっても意味のない練習させるってことはない。俺が保証する」             

『いやそこじゃないよ!』

 

 全員声が響いた。その後

 

「志郎くん生徒会長と知り合いだったの!?」

 

 やら

 

「なんであいつにダンスに教えてもらきゃいけないのよ!?」

 

 やら

 

「意味わかんない」

「ど、どうなっちゃんうでしょうか!?」

 

 などの意見が出てきて。理事長が「もうすぐお客さんが来るから続きは部室でね」と言われ部室へ向かい、続きをされそうになったので赤点の話をだして無理やり収束させた。

 とりあえず、後で絵里の許可をもらって絵里のバレエの動画でも見せよう。根本的に素直な娘たちなので納得してくれるはずだ。

 

「ちなみに7×4は」

「に、26――」

 

 あ、詰んだわ。

 

 

 

 

ボツネタ

 

 

 

「音羽――お前ははっきり言ってそこそこ有名人だ」

 

 ある日の放課後、ランサーくんが唐突にそんなことを言いだした。

 

「何言ってるの?」

「まあ、聞けって。数年前とは言えTVにドラム叩きに時々出てたろ? だが、その割に周りの反応が薄いと思わないか?」

「別に……数年前の事なんだしそんなものでしょ。日々新しい芸人やらアーティストが生まれてるんだから、飽きられたら消えていくもんだよ。俺もバラエティとかに出てたわけじゃないし、ドラム叩いただけで面白いコメントしたわけでもなかったし」

 

 バラエティのオファーとかも来たけど断ってたんだよね。面白いこと言える性格でもないし――で、段々テレビ出演の話も来なくなって今に至るわけだけど。

 

「俺も最初はそう思った――だが、違ったんだよ。奴が――奴がいるからだ」

 

 ランサーくんは非常に深刻そうな表情でそう言っているが――はっきり言って何が言いたいのかさっぱりわからない。

 

「遠まわしな言い方だな。仮にも兄貴の名を名乗るならはっきり言おうよ」

「いや別に俺が名乗ってるわけじゃ……まあ、いい。1年3組、芸能科に行ってみろ――そこに奴がいる」

 

 奴って誰だよ。

 

「とりあえず名前は?」

「知らないんだ。だが、通称大佐と呼ばれてるらしい――」

 

 大佐って何故?

 

 

 

 芸能科、1年3組――。

 文字通り芸能関係の勉強を専門的に学ぶことのできる学科である。詳しくはないが発声練習や、会話の間の取り方、表情のつくり方などの授業があるんだとか。A-RISEの3人も芸能科所属である。

 ちなみに俺は普通科の1年1組。

 

「いくぞ音羽――」

 

 そう言ってランサーくんがドアを開いた。

 教室の中には数人の生徒が残って話をしていた。唐突に入ってきた俺たちをジロジロ見ている。コソコソと話しているので聞き耳を立てる。

 

「アレがA-RISEに認められたっていう――」

「みたいね、初めて見たけど」

「顔は悪くないわね――」

 

 といった会話が聞こえてくる。

 

「で、ランサーくん。奴って誰さ」

「――いないな」

 

 少し残念そうな顔でランサーくんがそう言う。そんなに変わった人なのだろうか。でもまあ、変わった人というのも芸能科で一種の武器になるのではないだろうか。

 

「会えなかったのは残念だけど、ま、次の機会にしようか」

「そうだな」

 

 踵を返し教室を出ようとすると、その扉が唐突に開いた。

 

「…………」

 

 い、いたー!

 コイツだ間違いない。

 筋骨隆々とした体に、ミリタリーベストを素肌の上から着込んでいる。どう見ても元上官に第惨事大戦が起こると言われたあの人物だった。

 

「…………」

 

 180cm台後半はありそうな長身から繰り出される無言の圧力。

 

「えっと、初めまして音羽志郎です」

「…………」

 

 会話が続かない――

 

 

没理由

・方向性が行方不明になる

・このネタで話を作るとアイドルどころか女性キャラが一人も出てこないから

 




ちなみに志郎の感じた悪寒のヒントは4話にあります


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