狂人の闘争記 (マルコス)
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序章
プロローグ


「ここまでスライムしかでないダンジョンというのは見たことがないな」

 

「全くだぜ、どーなってんだこのダンジョンはよぉ」

 

世界各地に点在し、最奥にダンジョンコアと呼ばれるものが存在する《ダンジョン》。大抵のダンジョンはスライムやコボルド、ゴブリンなどを上層階に配置し、下層に行くにつれてモンスターが強くなっていくのが普通である。

 

他に上層階に強いモンスターを集め、上の階層で殲滅するという手段を取っているダンジョンもあるがあまり聞かない。なぜなら、普通に雑魚モンスターを当てて疲弊した敵を確実に潰すほうが良いからだ。

 

色々話したが、このダンジョンが特殊だと言える作りをしていると判断する理由は一つだけ。全三回層からなるこのダンジョンに出現したモンスターは全てスライム(・・・・・・)だったのだ。

 

これは冒険者が知る由もない事だが、これはダンジョンを作成して一定期間以上モンスターを召喚せずにいると自然発生するモンスターなのだ。そしてスライムはすべてのモンスターに共通して食料となるモンスターである為、今回攻めてきた冒険者以外にもモンスターが入り込んでくることもしばしばある。

 

「三階層もあると言うことは、どう考えてもダンジョンよね」

 

「三階層もあるただの洞窟なんかねぇよ」

 

「そうよね...」

 

この冒険者一行は、前衛の男一人に弓を携えた弓兵の男一人、そして最後に後衛の回復役と思われる女が一人の三人パーティだ。

 

「なんでこんな弱そうなダンジョンがギルドで懸賞金がかけられる程危険視されてるのかわからねぇな。」

 

「油断しないで、マーカスのパーティも殺られたって聞いたわ」

 

「二人とも、前を見ろ。」

 

「こ、これは...」

 

豪華な装飾こそないが、全体的に青みを帯びていることから青銅製の扉であろうか、高さ三メートルくらいの大きさである。引くための取っ手が無いので押して開けるタイプの扉なのであろう。

 

押しているときはそれほど重いと感じなかった扉が押して開けるとギギィと重厚な音を立てたので少し驚く。しかしそんなことは些細なことであった。

 

そんなことは...

 

「なんなんだよ...これはよ!!」

 

大扉を開けるとそこには先程まで通って来た道から広がり広い空洞のようになっていた。高さも他の部屋や階層と違い五メートルはあるであろう高さになっている。

 

そして部屋のいたるところには、下級冒険者のものであろう武器や防具。時折質の良い剣などが転がっており、手練の冒険者もここに来ていた事がわかる。

 

質の良いものも悪い物も適当に放り投げたかのように部屋の隅に寄せられ積まれていた。その数は優に百を超える。

 

よく見てみると武器や防具の各所には戦ったときのものであろう血痕が着いている。それもすべての武器や防具にである。

 

此処にはなぜかスライムは発生しておらず、ゲームで言うならば宝物庫の様な雰囲気を醸し出している。門番はいないが...

 

本当に何もいないなと思い一行は奥へと目を向ける。そして、

 

「どうやらこの先に化け物がいるようだな」

 

先ほど見た青い青銅製の扉と同じ高さの今度は赤い大扉がそこにはあった。

 

「引き返したほうが良いんじゃないかしら。こんなに冒険者たちが殺られているのよ、用心するに越したことはないわ。」

 

後衛の女が周りに血痕だらけの武器防具を見て慄いているのか弱気な発言を吐く。

 

「これ以上、何を準備しろってんだ。行える準備は全部行ったし装備の手入れも済ませた。スライムで肩慣らししたから不十分があるとすればそれだけだろ。」

 

「...ごめんなさい。でも、嫌な予感がするのよ」

 

嫌な予感がすると言って行くのをためらっている女を煽るように弓兵の男が話しているが以前平行線のままである。そんな二人を見かねたのか、前衛の男が二人の会話に割り込むように入った。

 

「ここまで来たのだ、行かねばなるまい。危険だと感じたら引き返せば良いだけの事だ。」

 

そういうと女も渋々ではあるが同意し、杖を構える。そして静かに赤い大扉を押し開ける。

 

押し開けるとそこにあったのは、さっきの部屋よりもさらにひとまわりほど大きくなった部屋があった。

 

側面の壁には等間隔に松明が掛けられており、室内は他の部屋に比べて比較的明るかった。そしてこの部屋の最奥には土台の上に青透明のクリスタルがゆっくりと回っている。

 

「あれが、ダンジョンコアか...」

 

「綺麗ね...」

 

しかし、よく見るとダンジョンコアのある数メートル前に透明の壁があるのがわかる。試しに女が下位魔法《ファイヤーボール》を唱えるが、透明の壁に衝突し物凄い衝突音はするものの壊れる気配は全くなかった。

 

「仮にも我々は上級冒険者だ。その冒険者が放つ《ファイアーボール》を受けて尚崩れないというのはやや異常だな。」

 

「じゃあ、こっから先は進めないってことかよ?そんなのありえねぇよ!聞いたことがねえ!」

 

勿論ダンジョンコアにたどり着くことが不可能なダンジョンなどこの世には存在しない。何かしらの方法で奥に到達することができるようにしなければダンジョンは動かない。

 

動かないということは則ちモンスターが静止し、ダンジョンの力によって支えられていた壁も崩落し、暫くするとダンジョンが消滅してしまうのだ。

 

直ぐにダンジョンを稼動できる状態に戻すと被害は無いに等しいらしいが、そんな事をするものはいまい。そして又、このダンジョンも例外ではない。

 

モンスターこそ自然発生のスライムしかいないが、ダンジョンコアにはたどり着くことができる仕様にはなっている。条件を満たしていないから進めないだけなのだ。

 

「...!!何か来るぞ!」

 

前衛の男の言葉に一気に警戒心を強め戦闘態勢に入る。天井に張り付いていたのであろうか、何者かが数メートル先に飛来する。

 

飛来してきた者はフラフラとゾンビのように頭を上げた。その容姿は頭の頂点から股間にかけて境界線のように黒い線があり、左側は真っ黒右側は真っ白で目や鼻口も髪もなく只、人の形をしている気持ち悪い人形のようなヤツがいた。

 

「構えろ...。」

 

5年前酒場で出会い、以降ずっと三人で戦ってきた者たちにはこれだけの言葉でわかる。

 

強敵だ、全力で行けと。相手の体から放たれている威圧感は尋常ではなく、先の部屋に転がっていた武器防具は紛れもなくこのモンスターが殺した者達の装備なのだろう。

 

やはり引き返しておくべきだったか。前衛の男はそう考えるがもう遅い。

 

武器を構えた時点で門は閉まり、相手もこちらを見据えている。戦闘体制こそ取っていないが明らかに滲み出る殺気から、自分達を殺そうとしているのがありありと分かる。

 

いつ仕掛けるべきか迷っていると目の前のモンスターがあろうことか話し出したのだ。

 

「カカカカカ...マタシニタガリガヤッテキタ。カカッテコイカチクドモ、オマエタチノアジヲタシカメテヤル。カカカカカ...」

 

「なっ!喋っただと!?」

 

「どーゆーことだこりゃ!」

 

「どう...なってるのよ...」

 

混乱する三人。しかし目の前のモンスターはもう三人を相手に取り合うつもりがないのか全く反応を示さない。

 

それどころかゆっくりと近づいてくる。お前たちの味を確かめてやるとはどういうことなのだろうか。

 

あのモンスターには口など無いではないか。見た所生殖器も見当たらない。

 

繁殖することはないユニークモンスターなのだろうか。様々な思考が頭の中を駆け巡る。

 

もう一度相手のモンスターの姿を見ようと頭を上げた時、何故か視界は真っ暗で何も見えなかった。何があったのか目に何か魔法をかけられたかと考え本能的に頭に手を触れようとする。

 

バキッボキッ!

 

凄まじい骨ごと丸齧りして噛み砕いているような咀嚼音が聞こえる。そこまで来て漸く気付く。

 

ああ、自分は食べられているのか...

 

「キャーーーーーーー!!」

 

篭った悲鳴が聞こえ前衛中衛の二人も漸く気付く。目の前にいた筈のモンスターが何故か後方に居て、頭の頂点から股間にかけて入っていた境界線を中央に左右に割れ鋭い牙の生えた口が現れており上の方から口が閉じていき、丁度肋骨に当たる場所を砕いている。

 

「クソっ!!」

 

中衛の男が舌打ちし腰からショートソードを引き抜く。女の事を考える事なく躊躇わず振り下ろす。

 

ガンッ!

 

という硬い金属に当たった時のような鈍い音が鳴りショートソードが弾かれる。その間にも女は喰われており既に足の先まで体の中に取り込み終わり、口が閉じられているところであった。

 

「なんなんだ、テメェは!」

 

弾かれたことにより手を少し痛めた弓兵の男は謎のモンスターから距離を取る。前衛の男の後ろに回り弓を構えることを忘れない。

 

前衛の男も準備が出来、背中から盾を構える。防御力が高いモンスターなので攻撃に特化さえしなければ盾で防ぐことができるのではないのかと考え取り出したのだろう。

 

盾を構えた頃には女を飲み込み終わったのか、体を若干くねらせモゴモゴ咀嚼しているような動きをするが、すぐに収まる。

 

「ワカイオンナハ、イイナ。カカカカカ...ビミダッタナ。サテ、オマエタチハウマイノカナ。カカカカカ...」

 

どこから話しているのか分からない、先ほど仲間の女を喰った口を開けずに話しているのだ。テレパシーでも使っているのだろうか。

 

「後のことは考えるな、アイテムも何もかも出し惜しみするな。コイツは明らかに軍隊を動員しても勝てるかわからないレベルの化け物だ。」

 

前衛の男がスキルの構えを取りながら言う。

 

「分かってる。まだ死にたくねえよ...アンナの葬儀もしなきゃいけねぇしな!」

 

弓を持つ男もスキル発動特有の青い光が手元を包んで行く。

 

依然、目の前のモンスターは動く気配がなく力なく腕を垂らし猫背の状態になっている。

 

「はぁああ!!《風雷斬》!!」

 

片手剣攻撃スキルの中でも中位に位置する攻撃スキルである。どれだけ防御力が高くても風による加速と雷による威力の増加により傷をつけることは可能な高威力の技である。

 

ガァン!

 

という音と共に弾かれる。まるで巨大な鐘を剣で攻撃しているような感覚に襲われる。

 

ビリビリと相手モンスターから電気が迸るがダメージが与えられているようには思えない。相手モンスターが反撃しようと腕を伸ばした所で後方にいた弓兵のスキルが炸裂する。

 

炎の弓雨(フレイム・レイン・アロー)!!」

 

一つの矢を上に放つと、ある程度の高さに登ると何十もの矢に別れ発火する。先端が炎で燃え上がった矢が何十も謎のモンスターを襲い、伸ばした手の動きが鈍る。

 

ダメージが通っているというよりは矢によって動きが阻害されていると言ったほうがいいだろうが。

 

謎のモンスターは案の定無傷で炎の中佇んでいた。ここで漸く相手モンスターがスキルを使う。モンスターが大きく両腕を広げ、大音量で叫んだ。

 

暴食の嵐(イート・グリーディリー・ストーム)!!」

 

途端に二人の男は目には様々なものが飛び散るのが見えた。夥しい量の血を撒き散らしながらグルグルと回転しながら飛んでいく片手剣を握った右手。

 

前方に吹き飛んでいく、誰かの右足。近くに居る仲間がやられてしまったか、と互いにそう思い目線を自分の体を見下ろすと。

 

あったのは空白。首から下はもう何もなかった。

 

悲鳴をあげることも許されず、何が起こったの考えることも許されず、何もわからないままただ死んでいった。

 

その後、三人の冒険者分の武器防具が宝物部屋に増えていたのは言うまでもない。

 

 

ーーーこうして最恐のダンジョン、《狂窟マッドマンズ・ネスト」が誕生した。

 

 

 

 

 

 



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第一話

バキッボキッゴキッ

 

謎のモンスターことコクビャクはスキルによって爆散してしまい、飛び散った冒険者の肉片を拾い上げ口の中に放り込んでいく。この肉はあまり美味くないなと思いつつも咀嚼する。

 

何故かモンスターの肉や動物の肉を喰うとクソ不味い味しかしないのだ。それらの肉に比べれば人間の肉はかなり美味い。

 

どういった訳か若い女や子供の肉は、元いた世界の最高級の牛肉程の価値ある美味い肉なのである。美味しすぎて女子供を喰らう為に町を一つ滅ぼしてしまったこともある。

 

基本的に食事を必要とする個体ではないのだが、娯楽の一環として食べることにしている。又、生殖器は無く性欲も全くない。

 

故に、女を攫おうが男を攫おうが食べてしまうのだ。どんなに上玉の女でも欠片の性欲も湧かない。

 

ただの生肉にしか見えないのだ。精々抱く感情といえば美味しそうといったものだけだ。そんなことを考えながら、ダンジョンコアを見つめる。

 

この世界に転生して、侵入者を皆殺しにしてDPが溜まり階層を増やして以来、全く触れていない。ダンジョンマスターになっただどうだとか言っていたが正直どうでもいい。

 

己の欲を満たす為に動く。行動原理はこれしか無いのでダンジョンを本格的に作ろうと言う気になれない。

 

しかし、以前女子供を攫うためにダンジョンを留守にした時冒険者に侵入されダンジョンコアが攻撃を受けていることがあった。

 

壊れてしまう前に間に合い冒険者を殺すことができたものの、ダンジョンコアを攻撃されている時、自分の命もガリガリと削られている感じがしたのだ。

 

故にそれ以来外出を控え、ダンジョンの奥に籠りきりになっているのだが、先日闘った冒険者の中に若い女がおり倒して喰ってしまったので、食欲が湧き我慢できず涎がずっと垂れている状態なのである。

 

「シカタナイ...ダンジョンヲツクルカ...」

 

DPは腐る程あるので、適当に何か強いモンスターを召喚しよう。そう考えダンジョンコアに近付いた時だった。

 

ウゥーーーーン!!

 

と警告のブザーが鳴り、侵入者の来訪を告げる。ダンジョンコアの前にモニターが現れ相手の姿が映し出される。

 

相手は金属製のしっかりとした装備を身に纏ったゴブリン数十体。そしてそれらを束ねる他のゴブリンの三倍ぐらいの体躯を持つ巨漢、ゴブリンキングが居た。

 

コクビャクは丁度いいと思い、こいつらを隷属させて第一階層を守らせる事にした。善は急げというので、コクビャクはすぐ様ゴブリンキングの元に転移する。

 

ダンジョンマスターはダンジョン内のどこにでと一瞬で転移できる。但し、誰も戦闘していないことが条件ではあるが。

 

sideゴブリンキング

 

おお!ここはスライムの宝庫ではないか!ほかのダンジョンと違い強いと思われるモンスターもいないし安全性も高い。ここなら安全に暮らすことができそうだ。

 

しかし、突如として現れたコクビャクを見て顔色を変える。敵だ。

 

おそらくこのダンジョンの守護者か何かなのであろう。俺は配下のゴブリンたちに指示を出す。

 

総員かかれと。

 

自分も鉄の棍棒を振り上げ謎のモンスターコクビャクに迫るが、気づけばもう、どこにも居ない。あたりをきょろきょろと見回しているとふと気づく。

 

あれ、こんなに俺の頭の場所ってこんなに低かったっけ?ーーー頭は既に地面に落ち、体はフラフラと揺れながら後ろへと倒れていた。

 

死んだことに気づかないまま、死んでしまったのだ。

 

side コクビャク

 

弱い。だがまあ、やってくる冒険者の足止めぐらいならできるであろう。

 

なに?配下にするのに殺したらダメじゃないかって?いやいや良いんだこれで。

 

自分がダンジョン内で殺したモンスターは何故かカード化してしまうのだ。そしてそれに触れると、

 

隷属化する/経験値にする

 

と出てくるのだ。しかしこれはある一定の強さを持つモンスターのみで、雑魚のゴブリン達は光となって消えてカードは残らない。

 

勿論俺はゴブリンキングを隷属化させた。第一階層に配置しようかなと思ったが、よくよく考えればスライムが湧き出る階層を作らなければゴブリンが餓死してしまうことに気がついた。

 

第二階層に連れてくか、などと考えているとカードからゴブリンキングが飛び出してきたところだった。そして、膝を曲げまるで主人に仕える者のように頭を下げ感謝の言葉を述べてきた。

 

「この度、隷属化して頂きありがとうございました。粉骨砕身主人の為に尽くしますので、何卒宜しくお願いします。」

 

礼儀正しい奴だな、と思い食料はスライムでいいかと質問する。

 

「はい、勿論でございます。」

 

どうやら女は繁殖するために犯す事があるらしいが、まあいいだろう。くれてやる。冒険者の女なんて大体モンスターの血の匂いがこびり付いて臭いんだよ。

 

知らんけど。

 

装備は第三回層の宝物の間に放り込んでおけ等の指示を幾つか出しておき、最後に初めて使うモンスター召喚でゴブリンを30体程召喚する。

 

DPは300P消費した。一匹あたり10Pである。

 

やはり、これだけでは手練の冒険者は突破してしまうだろう。そう考えたコクビャクは更に召喚できるモンスター一覧を見る。

 

召喚可能モンスター

一般

ゴブリン

ハイゴブリンnew

コボルド

スライム

ビートル

小鬼

etc...

 

一般でまとめられるモンスターは、レベルアップする、又は特定の条件を満たすことによって解放されて行き、強力なモンスターを召喚する事が可能となるのである。コクビャクは知らないが、他のダンジョンマスターは一般という括りのモンスターしか召喚できない。しかし、一般でも昆虫や幽霊やスライム系等多岐にわたる種類が存在しているので困ることはない。

 

そしてコクビャクだけが召喚できるであろうモンスターがこれである。

 

特殊new種族不明

首切り侍 体長三メートル。刀の柄に穴を開けそこに金属棒を通し、頭の部分に嗤う髑髏が着いている化物。常に体の刀は回転しており冒険者は近づく事も儘ならない、非常に危険なモンスター。攻撃力が非常に高い。必要DP7000

 

怨念の塊 体長三.五メートル。 筋肉質のガタイの良い体をしており、体の至る所に無念そうな人の顔が浮かび上がっている。恨みを晴らすために行動するため、戦闘スタイルは暴れまわるである。必要DP9500

 

崩壊の巨人 体長は八メートルを超える。 上半身が土の中から出てきて、顔と両腕と肋骨あたりまでまでが出現する。体は青銅や鉄などの全金属で出来ているため非常に固く、ダメージは殆ど通らない。その上体が欠けると地面に落ちた金属が欠けた部分に吸い寄せられ再生する。又、巨大な拳を振り下ろして潰すため、攻撃力防御力、共に並外れた高さを持つ。必要DP27000

 

人喰い箱 体長は宝箱と同じで外見も全く同じ。相手が宝箱に手をかけた時に飛び掛かり喰いちぎり、貪る凶悪な設置型モンスター。しかし、他の特殊モンスターに比べるとそこまで強くはなく、中級冒険者に深手を負わせる程度。必要DP500

 

現在所持DP 180000P

 

特殊モンスターは凶悪なものが多く、コストも他のモンスターに比べて異様に高い。しかし、一体一体がボス並みの力を有するので決して弱くない。又、一般モンスターの場合でもそうだが崩壊の巨人等、雑魚モンスターに比べて異様に必要DPが高いモンスターは各階層につき、一体と決まっている。

 

流石に特殊モンスターを何体も配置していると勝てないのだろう。しかし、同じ個体名のモンスターでなければ召喚可能なので一階層につき特殊モンスター一匹というわけではない。

 

この一覧から考えるに、恐らく崩壊の巨人が最強だろう。外見が某ドラ◯ンクエストモン○ターズジョー◯ーの暗黒の魔人の様ではあるが、必要DPが一番高いのでこれで行こう。

 

このモンスターが戦えるように第三階層を下に移動させ、第四階層とし、元々第三階層があった場所に新たに高さ15メートルはある階層を作り新第三階層とする。

 

そして、モンスター配置はこのようになった。

 

第一階層 スライム(自然発生)

第二階層 ゴブリンキング&ゴブリン共(隷属化)

第三階層 崩壊の巨人(召喚)

第四階層 宝物部屋&ダンジョンコア

 

又、召喚したモンスター及び隷属化したモンスターは死亡するとそのモンスターに見合った時間がかかるが蘇生する。必要DPが高ければ高いほど強いが、蘇生するための時間がとてもかかる。

 

階層については、1階は入り口を入ると先ず広い楕円形の部屋に出る。そこから一本道が出ており直進するとこれまた広い楕円形の部屋に出て、正面に次の階に続く階段がある。

 

2階は入るとすぐに弓が降ってくる罠が仕掛けられており(使い捨て)、長方形の広い部屋に出る。罠にかかったら直ぐにこの広い部屋から出る三つの道からゴブリンが流れ込んでくる手筈になっている。

 

その他の事は臨機応変にゴブリンキングに任せる。ゴブリンキングを倒せばこの広い長方形の部屋中央に階段が現れる。

 

3階は先ず小さな小部屋に出る。そこから細い道を通ると広い場所に出る。正面にはボス部屋とわかる重厚そうな赤色の大扉がある。

 

そこを開けると天井が15メートル程の高さになり他の階層に比べて部屋も広くなっている。なんとかしてこの崩壊の巨人を倒すと、奥に土の壁が一部下がり、階段が現れる仕組みになっている。

 

4階は以前から特に変わったことはない。こうして漸く、外出の準備が整ったと思った時にはもう夜だった。

 

急ぎたいのは山々だが、必要とされているわけではないが睡眠を摂らずに行く必要もないので、地べたに寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話

コクビャクはダンジョンの階層を増やし、モンスターも何匹か召喚して少しはダンジョンらしくなってきたところで、村や町に強襲をかけて女子供を喰いに行った。

 

その間ダンジョンにはダンジョンマスターが不在の状態となる。これはそのマスター不在の時の出来事を綴ったものである。

 

side ダンジョン

 

翌朝になり、マスターが出て行ったダンジョンではゴブリンキングが第二階層の奥に生活スペースを作るため、配下のゴブリン30匹を使い3つの道に別れ掘り進めていた。生活スペースには3つの道全てが繋がっており、途中で道が合流するような造りとする予定である。

 

せかせかと作業をしていると侵入者の訪れを告げる警告の音がなる。

 

部下たちには作業を続けるように言いながらも自分は武器を取りに行く。部下ゴブリンは常に武器を携帯しているが、自分の持つ斧《キングアックス》は非常に重たい為普段は壁にかけておいてあるのだ。

 

配下のゴブリンでは持つこともできないため、奪われる心配はない。まあ奪った瞬間そのゴブリンを殺すが。

 

今頃は第一階層のスライムの大群を見て、このダンジョンはたいしたことないと思っているのだろう。しかし以前まではそうだったかもしれないがいまは違う。

 

マスター不在の間ダンジョンコアを守らせる為に我々を第二階層に配置したのだ。他のモンスターに襲われることのない非常に良い環境を与えてくださり、第一層にはスライムも居るため食料にも困らない。

 

こんなに良い場所を提供してくれているマスターに自分達は恩を返さなければならない。強い決意を持って配下のゴブリンたちを呼び寄せた。

 

「侵入者を生きて返すな!!配置につけぇい!」

 

「ギィ!!」

 

知能の低い配下ゴブリンでは話すことはできないが、命令を理解することはできる。偶に話すことができるゴブリンがいるが、本当に稀である。

 

さあ、来るが良い!冒険者共!!マスターの食料にしてくれるわ!

 

ゴブリン達の配置が完了し、後は冒険者たちの到着を待つばかりである。ここで戦果をあげあわよくばマスターから褒賞を貰うのだ。装備も冒険者共から剥ぎ取れるし、侵入者も悪いものではないのだ。

 

倒すことができればの話ではあるが。しかし、リスクは限りなく低い。

 

なぜなら、このゴブリン達は死ぬことがないのだから。死んだとしても配下ゴブリンはすぐに蘇生する。

 

ゴブリン達の司令官であるこのゴブリンキングがやられれば、配下ゴブリンの蘇生もストップし中央に下の階に行く階段が出現してしまうのだが...無限の配下というアドバンテージがあるのだそうそう負けることはないだろう。

 

ゴブリンキングはそう考えていた。

 

side 侵入者

 

今回侵入してきたパーティは以前にやってきた三人組のパーティとは違い、人数も質も更に上である。ギルドがダンジョンとして早急に片付けねば危険と判断し、有志を募り、ダンジョン攻略組を結成させたのである。

 

成功させた暁には大金を用意している為多少人数が多く山分けすることになったとしても、かなり懐が温まるため参加者の中には上位冒険者も多い。

 

というより、今回組まれたパーティは上級冒険者しか存在していない。下級冒険者が参加しようとすると上級冒険者に無言の圧力をかけられるため、参加できなかったのだ。

 

それ故、質の高いパーティが出来上がり、顔見知りも多く一緒にクエストを攻略した経験もある人達も多かった為連携も即席のパーティとしてはそれなりに高いといえる。

 

冒険者は全員で7人参加している。その内、前衛が四人で後衛が三人。

 

バランスも悪くなく、補助魔法(バフ)阻害魔法(デバフ)も充実しているため結構な難易度のダンジョンもクリアしてしまうことが出来るパーティとなっている。現在はスライムが多数生息する第一階層を油断することなく進んでいる。

 

漸く奥へと辿り着き、階段を慎重に前衛の盾持ちが進んで行く。

 

「此処までは情報通りですねー。やはり警戒すべきは三階層の主様だけですかねー。」

 

このダンジョンに来たことのあるパーティに片っ端から声を掛けて行き、すでに情報収集は済ませてある。命を賭けてダンジョンに挑むのだ、これぐらいの準備はして当然である。

 

「まだわかりませんよ、ケンさん。ダンジョンは変化が激しく、来る度に変わるダンジョンも存在していると聞きます。絶対に油断しないでくださいね。」

 

明るい余裕のある声で言った男性に対し注意を促すローブを被った女性。杖は先端に宝石が幾つかついた高価で強力そうなものを装備している。

 

「わかってますよ、アリアさん。気を付けますっ♫」

 

機嫌良く素直に忠告を受けたこの男もまとっている防具も杖も相当価値のあるものだというのがわかる。

 

本当に大丈夫なんですか?と返そうとした時、

 

キキィンキキィン!!

 

と前方で何かを弾く音が連続して聞こえる。いまも絶えることなく続いている。上から何か降ってきているようだ。

 

「あれは...罠?上から弓が降ってきているぞ。こんなの見たのは初めてだ。」

 

第二層に入りかけたところで嫌な予感がして上に盾を向けた前衛が必死に矢の雨を防いでいる。暫くして弓矢が尽きたのか、攻勢が止んだ。

 

「ハァハァハァ...なんという罠だ。盾を構えていなければ、頭が蜂の巣になっていたわ。」

 

息を切らしながらそういう男性。

 

「このダンジョン、嫌な予感がします。この罠もそうですが、他のダンジョンに比べて死の気配が強い。気をつけてください。」

 

息を切らした男性の隣に居たレイピアを腰に差し、前衛ながらも軽装の男が眉を顰めて後ろの者達にも聞こえるように注意を促す。

 

何人もの冒険者が死んでいるこのダンジョンでは死の気配が濃くて当然であろう。遺品も第四層の宝物庫に転がっているので無理もない。

 

いままで以上に慎重になった彼等の前に現れたのは、前衛として木の盾を持ったゴブリンが10匹。その後方に弓を構え、腰には剣を差したゴブリンが10匹。さらにその後方には、矢筒を背負った弓兵が10匹。

 

そして最後に一番後ろに聳え立つ、他のゴブリンよりも明らかに大きいゴブリンーーーゴブリンキングが立っていた。

 

「あれは...ゴブリンキングのようですねー。でも、この陣形を見るに唯のゴブリンキングと侮っては痛い目みそーですねー。」

 

彼等は3人ほどで、ゴブリンキングを難なく討伐することができる実力を持ち合わせてはいるものの直前にあった矢のトラップといい、死の気配といい、油断しても良い雰囲気が一つもないので警戒心を高める。

 

此方側も陣形を整え戦闘準備に入る。

 

暫く睨み合いが続いたが、痺れを切らしたゴブリン側が矢を放ってくる。当然それを前衛の盾持ちが防ぐ。

 

盾持ちの方に注意が向いている時に、後方では既に魔法の詠唱が始まっていた。それに気付いたゴブリンキングが後方に位置する魔法職を狙うように指示したのか、弓が後方へと飛んでいく。

 

「そんなこと...させるかよ、挑発(プロバケーション)!!」

 

盾持ちが何かの呪文を唱えると、後方に向かっていた矢は全て盾持ち前衛の盾に当たり虚しい音を立てて地に落ちる。弓を撃っても無駄と判断したのか、二列目に存在するゴブリンが弓矢を捨て、剣を持って前衛職四人に突撃を仕掛けてきた。

 

無論彼等はゴブリン如きに劣るわけもなく、着実に数を減らしているが、敵後方からの弓による支援もあり思うようには数を削ることができない。

 

そんな中、魔法の詠唱が終了した此方側の魔法使い達から中位魔法《火の竜巻(ファイアー・トルネイド)が三つ敵の前衛盾部隊に直撃する。なんとかその場に踏みとどまろうとしたのだろうが、竜巻に押し負け六匹ものゴブリンが光となって消え、死亡した。

 

ゴブリンの蘇生時間は約五分である。戦場においての五分は非常に長く、決着をつけるのには十分すぎるほどの時間である。

 

竜巻による被害が敵後方にも出ていた為、前衛で倒したゴブリン共々数えると二十匹前後が死亡した。遂に、戦線が崩壊し冒険者達はゴブリンキングを仕留めるべく攻勢をかける。

 

ゴブリンキングも迎撃する為、遅い歩みではあるが敵へと向かう。接敵し、先ずはゴブリンキングが大きな斧を盾持ちの盾に振り下ろす。

 

余りの膂力に押し負け、盾持ちは後方に吹き飛ばされてしまい盾は真っ二つに割れてしまった。この惨状を見てゴブリンキングは通常の個体よりも攻撃力が異常に高いと判断し、ちょこまかと動き回り回避しつつ少しづつ攻撃していくスタイルに変更した。

 

時折飛んでくる、魔法による補助もありゴブリンキングが遂に体勢を崩した。

 

「今だ!全員で斬り掛かれ!」

 

レイピア持ちの男が号令をかけ、前衛は全員で突撃しゴブリンキングの腹、首、胴、胴とそれぞれ刺し貫くことに成功した。

 

「おのれ...侵入者共が、許さんぞおおおおおおお!!!」

 

呪いの言葉を吐きながらゴブリンキングは光となり消えていき、消滅した。予想外のアクシデントもあったものの被害は少しで抑えることができた。

 

盾持ちも予備の盾を装備して、中央に現れた階段をこれ又慎重に下りていったのだった。

 

side ゴブリンキング

 

クソ!彼奴ら予想以上の手練だった。まさか、矢降りの罠で被害がニトリも出ないとは思いもしなかった。耐久力のある前衛を始末しておく算段だったのに倒せなかったのは誤算だった。

 

それに、魔法の威力がこれ又予想以上に高かった。矢張り、自分たちも鍛えねばならないなと反省し配下のゴブリン達に訓練を行わせようと考えるゴブリンキングであった。

 

「どうせ彼奴らは、下の階層に居るグラシス様には勝てまい。」

 

以前、下階層に違うモンスターを配置したと聞きいても立ってもいられず、自分よりも下の階層だからって図に乗るなよと釘を刺しに行こうとして速攻で始末された。

 

傷をつけることできずにただ一方的に拳に潰され死んだ。強い弱いの次元の話ではないのだ。

 

おまけにあの体の硬さときた。何度挑んでも傷をつけることすらできなくて、しまいには彼のことを様付けで呼ぶようになってしまった。

 

これからも、下の階層には強い奴が配置されると思うと憂鬱な気分になるが侵入者と一番接触することが多いのは自分であると考えると、手柄を立てるのも自分が一番簡単なのではないかと前向きに考えその事は考えないようにした。

 

侵入者がダンジョンコアにさえ辿り着かなければいいのだ。侵入者は誰が倒しても良いのだ。グラシス様には女はどうか殺さずに捕まえてくれと頼んではあるが、果たして聴いてくれるかどうかわからない。

 

女は別に殺されても良いのだが、できれば生かしてほしい。繁殖するためにも必要な物なのだ。

 

数を増やせばそれだけで単純に強くなる。それに死んでも蘇生するため減ることがないのだ。

 

マスターに恩恵を受け、このダンジョン内で生活する限りほぼ不老不死状態になることができるのだ。現にここにいる間は時が止まったかのように老化しないのだ。

 

筋肉が発達したり、強くなるたびに身長が伸びるようになったのだ。これは長期的な観点で言えば、我々ゴブリンが最強種になるのも夢ではないのではないかと密かに野望を持って、グラシスにはペコペコと頭を下げているのだ。

 

「いつか、必ず殺してやる。」

 

そんな野心を秘めて...

 

side 侵入者

 

今度は次の回に進んでも罠こそはなかったが、さっきの階層には無かった赤色の大扉が存在していた。

 

「これは、何だろうか。この先に何がいるというのか。」

 

「まあ、普通に考えてボスにあたる人がいるんじゃないですか。」

 

「でも、宝物庫にまだ着いてませんよね。」

 

「もしや、階層が増えたのか!?」

 

様々な議論を交わし、10分ほど議論していたが先に進まなければ何もわからないだろうという考えに固まり、武器の手入れをして魔力も回復し体力も全員回復し終えたところで大扉に手をかける。

 

「行くぞ、準備はいいか?」

 

全員が盾持ちに頷き返す。ゆっくりと扉を開き奥へと歩みを進める。

 

部屋の中央辺りまで来た時、後方でバタンと大扉が閉まる音が聞こえた。そして大扉が閉まった音がなった瞬間自分達の前方に現れたのはーーー金属類が電気が何かによって無理やり形を成しているような体を持つ地面から上半身だけ出ている化物。

 

右の拳だけが異様に大きく、冒険者七名を一撃で押しつぶせるほど大きい。頭部と思われる部分には仄かに赤く光る目があり、口のようなものもある。

 

体調八メートル。その驚異の大きさに、その見たこともない容姿に一行はしばらく驚いて動くことができなかった。

 

戦況が動いたのはその後、しばらく経ってからの事であった。

 

 

 



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第三話

sideガイン(盾持ち前衛の男)

 

7人は前に現れた、廃墟にモンスターの魂が宿ったかのような巨人モンスターに驚きしばらく動けないでいた。誰もが呆然としている中相手の巨人が話かけてきた。

 

「我が名はグラシス。お前達が侵入者か」

 

どこから話しているのかわからないが重低音で心臓に響くように重い声をしている。目の前に居る巨人に、漸く立ち直った一行のうちの前衛盾持ちが答えた。

 

「そうだ。私達は冒険者で、このダンジョンを攻略しに来たのだ」

 

「そうか...ゴブリンキングを倒したところを見ると、相当な手練のようだな。そして、私に対して物怖じせずに返答したその勇気を認めて今ならば見逃してやろう。...どうする?」

 

ゴブリンキングをやっとの事で倒し、この階層までやってきた。盾持ち前衛ことガインは己の使っていた盾の一つを真っ二つにされたのだ。

 

私情で言えば、絶対に引きたくはない。しかし、後方に控える仲間たちの意見も聞かなければならない。この場にいるのは自分だけではないのだ。

 

そう思い、ガインが後ろを向いた。

 

「イイっすよ、俺は」

 

「私も、構いません。折角ここまで来たんですから...」

 

「そうである。ここで引く訳には行きません」

 

上から順に、ケン、アリア、レイピア使いのバルベル。他の三人も同様に恭順の意を示す。

 

「悪いが...引く気はないぜ。」

 

「そうか...ならば、ここで死ね」

 

それを合図にグラシスは巨大な拳を振り上げる。明らかにあんな物に直撃すれば、ガインと雖もペシャンコに潰されてしまうだろう。

 

ここは回避を重視し、自分も攻撃に加わろうと考えたガインは盾を部屋の隅に投げ捨て、腰に差していたショートソードを装備する。ガインが敵に向かって行った頃丁度詠唱が終わったのか、魔法が発動する。

 

「ファイアーボール」

 

「ハイ・パワー・ストレングス」

 

「ハイ・リーンフォース・エンデュランス」

 

炎の玉、前衛の攻撃力上昇、前衛の耐久力上昇。魔法を扱う者の中でも上位に立つものが唱えることができるとされる、上位魔法。

 

これらを扱えるものが自分たちの国に何人いるか。両の手だけで足りる人数なのだ。

 

本来盾役である自分の攻撃ですら、相手の巨人に傷をつけることができている。後衛のメイジ達が中心に狙われているが、自分を『レイト・エンハンス』で移動速度を上昇させ軽々と避けている。

 

攻撃が掠った前衛の一人が大怪我をしていたが、グラシスは攻撃速度が遅くしっかりと避ける事が出来れば問題ない相手であった。

 

sideグラシス

 

留守を承ったグラシスはダンジョンを攻略しに来たという7人の冒険者たちを観察する。非常に連携のとれたパーティで、互いが互いのmissのカバーを行い被害を最小限に抑えている。

 

それに加え、並みの冒険者では避けることができないような攻撃を受け流し反撃を与えてくる。身体強化の魔法が後方支援によりかけられており、一撃一撃がしっかりとグラシスの体力を削っていく。

 

後方支援のメイジを倒そうとするが、なんらかの魔法により敏捷性が増しており攻撃が当たらない。相手側から見れば詰みである。

 

しかし、

 

「このまま勝てると思ったか」

 

ここに来て漸くグラシスは魔法を使った。

 

「ハイ・レイト・エンハンス」「暗黒の雨(レイン・オブ・ダークネス)」「魔法封じ(マジック・シール)

 

3つの魔法を無詠唱で発動する。ハイ・レイト・エンハンスはレイト・エンハンスの上位魔法で、移動速度や攻撃速度を上昇させる魔法。

 

魔法封じ(マジック・シール)は、その名の通り相手が魔法を唱えるのを阻害する魔法である。

 

暗黒の雨(レイン・オブ・ダークネス)は一定時間黒い雨を広範囲に渡り、降らせる魔法である。種族不明のモンスター以外には、毒、混乱、幻覚、の状態異常になる魔法である。種族不明のモンスターだけは何故かこの魔法を受けると回復する。※種族不明のモンスターは通常の回復魔法では回復できない。

 

「ぐわぁ...」

 

「ゴホォゴホォ!」

 

「や、やめてくれー」

 

幻覚を見たものが騒ぎ出し、毒を受けた者が血を吐く。あっという間に阿鼻叫喚となり、辺り一帯に血が広がってゆく。

 

全状態異常回復(オール・キュアー)

 

しかし、その一つの魔法で惨劇は終わりを告げる。その後、状態異常を無効化する霧が張られ先程のような事になることはなかった。

 

「ほう、やるな。」

 

グラシスはその様子を見て、素直に感心していた。

 

sideアリア

 

ありえないありえない!目の前の巨人が魔法を唱えたことにも驚きだが、いま唱えた暗黒の雨(レイン・オブ・ダークネス)は闇魔法の上位互換である暗黒魔法に位置するもの。

 

その存在は書物にて伝えられてはいるものの、暗黒魔法は使用者にも被害が出る物が多いので習得しているものはいないだろう。ましてや、その魔法を受けてこの巨人は回復していったのだ。

 

一切の状態異常を受けることなく...

 

自分は以前、暗黒魔法を使う気の狂った魔導師に痛い目を見た為対策を行っていたのだ。暗黒魔法で最も付与されることが多いとされる、混乱、幻覚、を無効化するアイテムを身につけていた。

 

毒は受けてしまったが、全状態異常回復(オール・キュアー)を必死に習得したので問題はなかった。直ぐに仲間全員にその魔法をかけ、態勢を立て直す。

 

他の仲間が「白の霧(キュアー・ミスト)」を唱え、再び状態異常になるのを防ぐ。そして私は自分の残り魔力残量を確認し、魔力回復ポーションを一瓶呷り、前衛にも聞こえる声で言った。

 

「皆、あれは暗黒魔法よ!一気にケリをつけないと厄介だわ。私の全状態異常回復(オール・キュアー)の使える回数も限られているから、次で決めて!」

 

「わかった、各々自分が持つ最大の技で彼奴を攻撃しろ!魔力消費、アイテム消費を惜しむな!」

 

ガインが全員を鼓舞するように声をあげ、剣を振り上げる。そして、それに仲間たち全員が答えた。

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

相手は巨大な拳を振り下ろそうとしている。これを止めるのは、私の役目だ。

 

行動阻害(ビヘイビア・インハイビション)!」

 

グラシスの体に黄色い蛇が巻きついていき、腕、頭を含む上半身全てを巻きつけた蛇のおかげで完全に動きが止まった。

 

「ヘル・ライン!!」

 

グラシスの苦し紛れの最後のあがきにより、四方に向かって紫色の線が伸びて行き、運悪く線上にいたガインが悲鳴をあげることなく死んだ。しかし、その目に宿る闘志は消えることなくともり続けている。まるで、早く殺れとでも言わんばかりに。

 

他の仲間たちもそれを察したのか、猛攻撃を開始した。

 

「スキル...死突、デス・ショット」

 

巨紅焔(ヒュージ・クリムゾン)

 

この二つを始めとした、上位魔法、高威力スキル等が連続で発動しグラシスの両腕は崩壊、上半身も穴だらけで紅く恍惚と光る眼も片方しか付いておらず点滅している。

 

「グッ...申し訳ありません、コクビャク様...」

 

それを言い残し、光となって消えていった。そして、奥には階段が現れた。

 

「いこう、皆。ガインさんの死を無駄にしちゃダメだよ。このダンジョンの機能を停止させなくちゃ。」

 

アリアの言葉に啜り泣いていた仲間たちがヨロヨロと立ち上がり、階段を下っていった。

 

ーー第四層ーーー

 

階段を下るとそこには青銅製の大扉があった。しかし、以前と違って威圧感を感じず又青色の扉もあり、躊躇わず開けた。

 

「ここは...」

 

「すげぇな...宝の山じゃねぇか」

 

冒険者が持っていた金貨、装備何もかもがそのままの状態でそこには保管されていた。そこにあるものすべてを集めれば、小さな王国であれば国家予算に届くのではないかというほどである。

 

所々に存在するレア物の中に時価が高いものが複数見受けられる。

 

「それらを盗るのはいいけど、ダンジョンコアを壊してからにしてね。私達が全員このダンジョンから出るまでダンジョンは崩落することないんだから。」

 

一般に、ダンジョンはダンジョンコアを破壊すると機能は停止すると言われている。しかし、どういう訳かダンジョンコアを破壊した人が出るまではダンジョンが崩壊しないのだ。

 

故に、パーティであればその人物だけダンジョンに残り、ダンジョン内にある宝を仲間たちと運び出すのが定石となっていた。又、ダンジョンコアを破壊するとダンジョンにいるモンスターは蘇生せず、生きているモンスターも光となって消える為、安心して宝を運び出すことができるのだ。

 

「それじゃ、行くよ」

 

どうしても我慢できなかったのか、仲間の内の何人かは既に気に入った装備を拾い上げて装備している。勿論血は拭き取っている。

 

宝物庫を抜けたところに階段があり、再び下の階層に進んでいく。

 

ーー第五階層ーーー

 

階段を降りると、目の前には赤い大扉があった。しかし、グラシスを倒した時と違い、プレッシャーを感じない。しかし、赤い大扉をくぐるとグラシスが現れたように何かしらあるのだろうと警戒して6人となってしまった一行は警戒を強める。

 

そして、大扉を開けると...

 

何もなかった。

 

「あれって..ダンジョンコアよね」

 

「そう、みたいだな」

 

玉座は在れど、誰も座っていない。外に出ているのだろうか。

 

「と、取り敢えず、ダンジョンコアを壊しましょう」

 

仲間達も若干動揺しながらもダンジョンコアへと向かう。なんというか、その、最後は呆気ないものだな。

 

そう思って、全員でダンジョンコアを攻撃し始めた時だった。突然ダンジョンコアから突風が吹き出し、3メートル近く吹き飛ばされたのだ。

 

事態を把握できずに混乱していた時...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツはやってきた。

 

顔なし口なし、鼻もなし。顔のパーツが一つたりともない化物。

 

体は人間と同じような形をしてはいるものの、左半身は黒で塗りつぶされており、右半身は真っ白で、人間ではないのは明らかだ。

 

「誰だ?この俺様の楽しい楽しい捕食タイムを邪魔した愚か者は」

 

其奴は不機嫌そうにそういったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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〜設定集〜

〜人物紹介〜

ダンジョンside

 

コクビャク

Level 7(最新話の時点)

種族 不明

HP 135000(850000)

MP 65000(146500)

魔法 《全闇魔法&暗黒魔法》 《下位炎魔法》 《下位雷魔法》 《全治癒魔法》

固有スキル

 

《擬態》・・・ドッペルゲンガーのようにステータスすら、全く同じに擬態することができる。又、自分で創造した人間の容姿に化けることもでき、ステータス表示欄の偽造が可能、実際の能力値以下であれば好きにステータスを操作できる。

 

《ゴム質の表皮》・・・全ての雷系統の魔法を無効化する。又、物理攻撃に耐性(極)。

 

《謎の硬骨》・・・構成物質不明の超硬度を持つ骨。あらゆる物理攻撃に耐性(極)。

 

《捕食喜悦》・・・通常の捕食の効果である経験値吸収率増加、スキルの吸収に加え、気分が高揚しているときに限り吸収したスキルを最上級に昇華した状態で習得可能。例) 気分高揚時に毒耐性(毒を防ぐことがある。)を捕食→猛毒耐性(あらゆる毒を無効化する)で習得する。

 

《常時狂乱》・・・常に混乱の上位である、狂乱状態にある為あらゆる混乱攻撃、魔法を無効化する。

 

《暗黒王の威厳》・・・あらゆる状態異常、能力低下系攻撃、魔法を無効化。又、自分よりもかなり低位のモンスターや人間に威圧の効果(威圧は、言霊と同じようにどんな理不尽な命令でも従ってしまうという恐ろしいものである。)。

 

《死前の狂乱舞》・・・体力が三割以下になると『真・狂乱』状態となり、すべてのステータスが大幅に上昇するが理性を失う。そして、以下の固有スキルが発動する。又、三割を切る前でもこの状態になることができ、その場合は理性を失うことなく補正効果を受けることができる。このスキルは、普段抑えているコクビャク本来の力を引き出すためのものである。

 

《狂乱の姿形》・・・外見が、人間形態の時の頭部が背中へと移動し、頭の頂点から股間にかけて走る境界線が開き、巨大な目となる。そして、首から下の境界線も開き巨大な口となる。肩や膝なども本来曲がることのない方向へと曲がり、裂けた所から無数の口が出現する。それぞれの口には鋭い牙が存在しておりそれらは全て、《謎の硬骨》によってできている。そして、身体中の口から紫色の手が出てきて(計4本)、それぞれの手には死神の鎌を彷彿とさせる、漆黒の鎌が握られており、この鎌による攻撃は即死効果付きなので触れるだけで即死する。完全なる異形の姿となり、攻撃範囲が拡大する。

 

《狂乱の黒霧》・・・異形の姿と成り果てたコクビャクが纏う黒い霧。これの正体はコクビャクの体内で生成されている猛毒である。近寄ってきた者を猛毒状態にする。猛毒による症状は、目眩、吐き気、頭痛、幻覚、致死毒、疲労加速、である。又、この黒霧はコクビャク以外の魔力を無制限に吸収し、黒霧の散布範囲を拡大していくという特性があり、《死前の狂乱舞》を発動した状態のコクビャクには、一切の魔法が届かず無効化されてしまう。凶悪な固有スキルである。

 

《粉砕の鎧》・・・あらゆる飛び道具を自動的に粉砕する。

 

魔王は死せず(ラスボスに即死攻撃は効かない)》・・・即死攻撃を無効化する。

 

スキル 《自動HP回復(極)》 《自動MP回復(極)》 《全能力値上昇(極)》

《物理攻撃耐性(中)》 《魔法攻撃耐性(中)》 《筋力上昇(中)》《全言語理解》《鑑定(極)》 《交渉(小)》 《習熟倍加(極)》 《消費魔力減(極)》 《全状態異常無効》

 

グリル(ゴブリンキング)

Level 27→34

種族 ゴブリン族

HP 13000

MP 430

魔法 なし

固有スキル 《統率+》・・・ゴブリン達を束ねる能力。統率力に補正。

スキル 《筋力上昇(大)》 《体力増加(小)》 《状態異常耐性(小)》

 

グラシス(崩壊の巨人)

Level 30→32

種族 不明

HP 45600

MP 1740

魔法 《下位暗黒魔法》

固有スキル 《廃墟の巨人》・・・廃墟にとり憑くことによって生まれたモンスター。廃墟になる前まで住んでいた人や魔物などの知識を得ることができる。知力に補正。

 

《都市再生+》・・・近くに瓦礫や土などがある場合、自動回復の速度を上昇させる。

 

スキル 《筋力上昇(大)》 《行動遅延(小)》 《自動回復(中)》 《暗黒魔法強化(弱)》 《体力増加(大)》《全状態異常無効》

 

 

魔界の鬼将軍(百鬼将軍)

Level40→41

種族 不明

HP 86500

MP 980

魔法 《下位暗黒魔法》

固有スキル 《鬼の力》・・・身体能力が上昇。物理攻撃力は更に上昇。人間と対峙した時能力に補正。

 

《鬼王の力》・・・身体能力大上昇。物理攻撃はさらに上昇。人間と対峙した時能力に補正。複数の鬼の配下を召喚できる。(消費MP10)

 

スキル 《筋力強化(極)》 《耐久強化(大)》 《魔法耐性(大)》 《体力増加(大)》 《自動回復(中)》 《全状態異常無効》

 

 

人間side

 

ガイン

Level 47

種族 人間

HP 12020

MP960

魔法 なし

スキル 《筋力強化(大)》 《耐久強化(大)》 《魔法耐性(小)》 《体力増加(中)》 《前衛補助スキル&基本スキル》

 

バルベル

Level 43

種族 人間

HP 7540

MP 1021

魔法 《下位炎魔法》

スキル 《敏捷力上昇(中)》 《筋力上昇(大)》 《刺突スキル(極)》《体力増加(小)》

 

アリア

Level 52

種族 ハーフエルフ

HP 5602

MP 13200

魔法 《上位炎魔法&氷魔法&風魔法》 《中位治癒魔法》 《中位支援魔法》 《阻害魔法》 《対暗黒魔法》

固有スキル 《エルフの名残》・・・MPの量が増加する。魔力消費が少し減る。

スキル 《MP増加(大)》 《魔法耐性(中)》 《暗黒魔法耐性(極)》 《敏捷力上昇(小)》 《三属性魔法強化(火、氷、風)(大)》 《状態異常耐性(中)》

 

ケン

Level 45

種族 人間

HP 6402

MP 7400

魔法 《上位支援魔法》 《中位治癒魔法》 《上位氷魔法》 《中位炎魔法》

スキル 《MP増加(大)》 《敏捷力上昇(小)》 《魔法耐性(中)》 《状態異常耐性(小)》

 

王国軍兵士(別名 雑魚)

Level 30

種族 人間

HP 1000

MP 350

魔法 なし

スキル 《筋力強化(小)》 《耐久強化(小)》 (体力増加(小)》

 

〜ダンジョンについて〜

ダンジョンの特性

・ダンジョン内で死んだモンスターはコクビャクに経験値が入る。

 

・ダンジョンのレベルはコクビャクのレベルと同じ。

 

・ダンジョン内ならば、コクビャクはどこにでも転移できる。

 

・ダンジョンコアが破壊された時、破壊した人物がダンジョン外に出るまでは崩落する事はない。

 

・ダンジョンは世界各地に何個も存在する。

 

・ダンジョンが大規模なものになり、中のモンスターが外に進行して来ることもあるため、初期の内にダンジョンコアが破壊されることが多い。

 

・ダンジョンコアを破壊すると大量のスキル、経験値を獲得できる。

 

・ダンジョンマスターが他のダンジョンマスターを殺した場合、ダンジョンコアを取ることができる。又、ダンジョンから出るまで崩落はない。

 

・ダンジョンにはモンスターの糞など、汚れを吸収する機能があるため比較的綺麗である。但し、臭い迄は消臭できないので消臭スライムを定期的に召喚する事をお勧めする。

 

・ダンジョン内のモンスターがダンジョン外で殺された場合でも、そのモンスターが生み出されたダンジョンコアの初期配置位置に蘇生する。

 

・ダンジョンの増やすことのできる階層の上限は、コクビャクのレベルまで。例)コクビャクがLevel7の時、増やせる階層の上限は七階層迄。又、一階層を増やすのに10000DP消費する。

 

・ダンジョンコア防御トラップ。ダンジョンマスター不在時に、ダンジョンコアが攻撃されている時、強制的にダンジョンマスターをダンジョンコア付近に転移させ、攻撃しているものを吹き飛ばして絶対防壁を張って攻撃が与えられないようにするトラップ。因みに、絶対防壁とは、ダンジョンマスターが撃破されることない限り破られることがない透明の壁のことを指す。

 

・その他気付いた時に随時更新。

 

〜世界について〜

 

この世界には、人間界、魔界、天界、が存在する。以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話

side侵入者

 

「誰だ?この俺様の楽しい楽しい捕食タイムを邪魔した愚か者は」

 

「な、なんだお前は!」

 

「貴様こそ何者だ。ここは俺様のダンジョンだぞ」

 

一言一言に言霊が込められているかのように気圧され身が竦んでいく。

 

話し方が流暢になっているが、これは紛れもなくコクビャクである。コクビャクは人間を数多く捕食した為、人間に関する情報を大量に吸収し人体構造を正確に把握し、固有スキル《擬態》で一度人間に化けた時からこのようになったのだ。

 

「お前が...ダンジョンマスターなのか、」

 

「如何にも。そしてお前達はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで死ぬ。」

 

それは一瞬の出来事だった。速さに絶対の自信を持つバルベルでもってしても視認することすらかなわない移動速度で背後へと回られた。

 

そして気づいた時には、捕食され骨が砕ける音が聞こえていたのだ。

 

バキッボキッゴキッ!

 

「あ..ごぁあああああああ!!!ぃいだいいいい!だ、だずげでぇ!」

 

バキバキボキボキゴギゴギ

 

必死の願いも聞き届けられることなく容赦無く噛み砕かれていった。そして遂に足元まで噛み付くされ、バルベルが居た場所にはコクビャクの巨大な口から血が滴っていた。

 

「やはり、男は女に比べると味が落ちるな」

 

「ば、化け物め...!」

 

「そんな事は見ればわかるだろう」

 

「私達は五人いるわ!まだこちらが有利なのよ!諦めないで!」

 

誰もが心が折れかけた時、アリアが鼓舞する。

 

「そ、そうだ!アリアさん、オレ達は人数差で有利なんだ!」

 

他の仲間達も口々にそうだそうだと口にする。

 

「前衛は、後衛に絶対に攻撃がこないように抑えて!私達後衛は上位魔法の詠唱に入る!」

 

「「「「「了解」」」」」

 

すぐさま陣形をとり、各々武器を構えた。

 

「さっきは、奇襲に驚いただけだぜ!掛かって来な!」

 

自分に言い聞かせるように、必要以上に大きな声でそう叫ぶケン。そして、前衛は自己強化を、後衛は上位魔法の詠唱に入った。

 

「...はぁ。その上位魔法とやらを受ければいいのか?どれぐらいかかるんだ?まぁいい、暇だから前衛の人間共を食べるとするか。」

 

少しも怯える様子もなく、ゆっくりと前衛に近づいてくるコクビャク。其れにはじめに対応したのは斧を持った前衛の男だった。

 

「スキル...ハード・スイングゥゥウウ!!」

 

バットを振るように斧を構え、勢い良く振り抜く。そして、コクビャクの体に傷を...つけることはできなかった。

 

コクビャクの体に攻撃が当たった時、金属に攻撃したかのような感覚に襲われ手にかなりの衝撃が伝わり痛さのあまり思わず武器を手放してしまった。そして、自分が窮地に陥ったと気付いた時には時すでに遅し。

 

「いただきます。」

 

バキッゴキッ

 

金属製の防具も関係なく、噛み砕いていく。中は、自分たち人間と同じように唾液が分泌されており、非常に気持ち悪い。斧も気付けば同時に飲み込まれていたので、それを取り必死に振り回そうとするが何分非常に口の中は狭い。

 

巨大海洋生物(クジラ)のように口の中は広くないのだ。その大きさは人一人がなんとか入る大きさである。

 

奥を見ても消化器官のような物は全く見当たらない。牙によって噛みちぎられた左手は、異空間に吸い込まれるように奥の暗闇の中に消えていった。

 

「ぐっ...ぼぁ!!クッソオオオオオオオオ!」

 

バキッ

 

首の骨が折れる大きな音が鳴り、男は絶命した。その間も必死にもう一人の前衛大剣持ちの男が攻撃をしているが、全くと言っていいほどダメージが通らない。

 

よく見れば見える傷ぐらいは入っているかもしれないが、そんなものは《自動回復(極)》ですぐさま回復してしまう。数値にして、13500を十秒毎に回復するコクビャクには彼等は驚異ですらない。

 

たとえ上位魔法を食らったとしても13500を超えることはないだろう。レベル差が圧倒的に劣るコクビャクであるが、そもそも人間と種族不明のコクビャクとではポテンシャルが違う。

 

勿論、それだけ強力な力を持つコクビャクは人間と違いレベル2にあげるだけでも大量の経験値が必要とされるのだ。人間が1レベルあげるのに100の経験値が必要ならば、コクビャクは、10000必要なぐらい差がある。

 

つまり、単純計算で人間の100倍強いということになる。今のコクビャクはLevel7。よって、Level700の人間でしかコクビャクの相手にならないのである。

 

そして、そんな人間がこの冒険者たちの中にいる訳もなくこの戦いにおける人間の敗北は必至なのであった。大剣持ちの前衛も食べてしまったコクビャクは奥にある玉座へと向かい、ゆっくりと腰掛けた。

 

「さぁて、魔法の準備はできたかな?早く撃ってくるが良い。」

 

「...後悔するわよ、紅炎の息吹(ブレス・オブ・プロミネンス)!」

 

極寒の嵐(フリジッド・ストーム)!!」

 

アリアの上位炎魔法とケンの上位氷魔法がコクビャクに炸裂した。両サイドから迫る巨大な火の玉にドラゴンのブレスの様に正面から迫る紅炎。三方位からの上位炎魔法が炸裂した後続けざまに、氷の竜巻がコクビャクを襲う。

 

急激に冷えたことにより脆くなった体に襲う極大の氷の矢。並大抵の人間ならばオーバーキルですらある魔法だ。

 

少なくとも、直前まで玉座に座り踏ん反り返っているような奴に防ぎきることができる魔法ではない。二つの上位魔法が直撃し、ようやく終わったかと安堵する二人。

 

「なんとか...やったわね。」

 

「そうだね、アリアさん。どう?地上に戻ったらデートしない?」

 

「考えておk...」

 

全てを言い切ることなくアリアの姿は掻き消えた。文字通り消滅したのだ。

 

まさかと思い、玉座に視線を向けるケン。そこで見たのは、

 

「ぁあ〜、さすがに今のは痛かったぞ。自分で自分の頬を抓るぐらいの痛みはあったぞ。」

 

丸呑みにしたのか、今度は咀嚼音は聞こえなかった。しかし、口が半開き状態でアリアの左手だけが口から出てきた。

 

「これはこれは、失敬」

 

ジュル

 

麺を吸い込む時のようにアリアの左手を啜った。

 

「そ、そんな...バカな。上位魔法をくらって無傷?そんなの、勝てるわけないだろ!」

 

「塵も積もればなんとやら、と言うであろう?お前たちが100程ずついれば勝てるのではないか?」

 

そんな巫山戯たことを言うコクビャクに何も答えることができず、ケンは膝をついてしまう。無理もないだろう、自分たちが最強と思って放った攻撃が傷一つ与えられていないのだから。

 

「ではな」

 

それを最後に、ケンの人生は幕を閉じた。

 

 

sideコクビャク

 

やれやれ、村の娘を食べようとした時に強制帰還とは儘ならないものだな。しかし、アリアという娘は不味かったなあれは人間ではないな。

 

そんなことを考えつつ、コクビャクはダンジョンコアへと向かっていった。冒険者達に攻撃され付いてしまった傷はすでに修復されていた。

 

「全く。まさか、崩壊の巨人を倒してくるとはな、予想外だ」

 

そう言って、メニューを開く。

 

現在所持DP345600P

 

ポイントを全て使ってダンジョンを強化し、自分がダンジョンの外に出ていても冒険者達を退けられるほどに強くしようと考え、早速モンスター召喚に移る。一般モンスターには見向きもせず、特殊モンスター一覧へと目を向ける。

 

特殊 種族不明

 

首切り侍 体長三メートル。刀の柄に穴を開けそこに金属棒を通し、頭の部分に嗤う髑髏が着いている化物。常に体の刀は回転しており冒険者は近づく事も儘ならない、非常に危険なモンスター。攻撃力が非常に高い。必要DP7000

 

怨念の塊 体長三.五メートル。 筋肉質のガタイの良い体をしており、体の至る所に無念そうな人の顔が浮かび上がっている。恨みを晴らすために行動するため、戦闘スタイルは暴れまわるである。必要DP9500

 

崩壊の巨人 体長は八メートルを超える。 上半身が土の中から出てきて、顔と両腕と肋骨あたりまでまでが出現する。体は青銅や鉄などの全金属で出来ているため非常に固く、ダメージは殆ど通らない。その上体が欠けると地面に落ちた金属が欠けた部分に吸い寄せられ再生する。又、巨大な拳を振り下ろして潰すため、攻撃力防御力、共に並外れた高さを持つ。必要DP27000

 

人喰い箱 体長は宝箱と同じで外見も全く同じ。相手が宝箱に手をかけた時に飛び掛かり喰いちぎり、貪る凶悪な設置型モンスター。しかし、他の特殊モンスターに比べるとそこまで強くはなく、中級冒険者に深手を負わせる程度。必要DP500

 

new蛸魔人 体長は2.5メートル。頭部が蛸のようになっており、上半身下半身は共に人型。外見はP・O・Cのデイヴィ・ジョ◯ンズ。頭部の蛸の足には猛毒を持つ針が内包されており、接近戦においては脅威となる。火に弱い。又、このモンスターを召喚した時自動的に配下の蛸兵士が召喚されるが、並みの兵士より強い程度である。水辺ではステータスが上昇する。又、海藻類を餌に必要とする。 必要DP14500

 

new海魔・クラーケン 体長約20メートル。水の中でしか召喚できない。嘗て船乗りたちが島と間違えて上陸してしまいそのまま海に引きずり込まれるように消えてしまうという伝承が伝わっているほどである。蛸なのか烏賊なのかは定かではない。小魚や大きな魚、魚全般を餌に必要とする。 必要DP100000

 

new魔界の鬼将軍 体長は蛸魔人と同じくらいかそれ以上の2.5メートル。魔法を一切使うことができないが、近接戦においては最強クラス。自動的に中位の魔物達が召喚されるが餌は必要ない。一度死んでいる鬼のため、食事を必要としない。嘗て、人間に騙され鬼のツノを掠め取られた鬼の王。その復讐をするために立ち上がった将軍。人間を非常に憎んでいる。 必要DP15000

 

※DP10000以上必要のモンスターは、一階層につき一匹しか召喚できません。

 

 

コクビャクは今回新たに召喚することができるようになったモンスターを全部召喚し戦力を増強しようと考えた。そして、三回層追加30000DP消費。

 

第四階層に魔界の鬼将軍を配置、第五階層に蛸魔人を配置、第六階層にクラーケンを配置。

 

〜各階層詳細〜

 

第一階層 スライムがうじゃうじゃと湧いており、部屋は初期のまま。

 

第二階層 (グリル )部屋は以前と何も変わらないが、部屋の四隅に人食い箱を設置。(計2000DP消費)

 

第三階層 (グラシス) 部屋の端には瓦礫の山が積んであり、更に自動回復の速度を上昇させた。(計100DP消費)

 

第四階層 魔界の鬼将軍(百鬼の将軍) 奥に指揮官の座る玉座を設置。そして、玉座の隣に宝物庫の中の装備やアイテムがランダムで一個出現する宝箱を設置。又、首切り侍、怨念の塊を召喚。(計19500DP消費)

 

第五階層 蛸魔人 (タコス) 足首まで隠れる程度の水を張る。部屋の壁には無限沸き海藻を設置。(計3000DP消費)

 

第六階層 海魔・クラーケン (大先生) 部屋は完全に水で満たされており、水面に浮かぶことができる魔法、もしくは水中でも息ができるようになる魔法など、水をどうにかする手段がなければ攻略不可。海中には無限沸き大小魚を設置。そして、一定数の魚の配置によりチルド・クラーケンが自然発生。(計50000DP消費)

 

第七階層 宝物庫 侵入して来た冒険者達の装備が全て集められている財宝の山。どの階層で冒険者が死んでも、装備は自動的にダンジョンが飲み込んでこの階層に吐き出す仕組みになっている。(計8500DP)

 

第八階層 コクビャク(コクビャク様) 赤い絨毯がダンジョンコアの前にある玉座の元まで敷かれており、天井には3つのシャンデリア。基本居ないのに無駄にポイントを費やした。(計15000DP)

 

 

・各階層は、グラシスの第三階層と同じぐらいの広さであるが、唯一、大先生の階層だけは他の部屋の5倍ぐらいの広さになっている。

 

・各階層は、グラシスの階層と同じような作りになっており、ボスラッシュを意識した作りになっている。又、それぞれの部屋には部屋全体が見渡せるぐらいの明るさがある。

 

・()内の名前は魔物達の間での呼び名であり、コクビャクは知らない。

 

・言わずもがな全ての魔物はコクビャクに対し忠誠心MAXである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一章 黒白'sダンジョンvs.王都バルムト
第五話


ダンジョンの強化をし終えたコクビャクは、ダンジョンマスターの権限で第一層にあるダンジョンの入り口までやって来ていた。

 

「あ、ダンジョンコアのトラップでもダンジョンの危険が俺に伝わるが、万一のことも考えて俺に連絡するように言っておくか」

 

基本的にダンジョンマスターと階層毎のフロアボスモンスターは、魔力の有無に関わらず連絡することが可能である。しかし、モンスター側から連絡する際は事前に許可が求められる。

 

「クラーケンにでも頼むか」

 

現状、コクビャクの支配するダンジョンで最強の存在である海魔・クラーケン。滅多なことでは死ぬことのない彼に、実質上のダンジョンの統括及び緊急時の連絡を任せる事にした。

 

「聞こえるかクラーケン」

 

「はい、聞こえております」

 

「これから俺は人間共が溢れ返るほど居るという王都に行ってくる。その間ダンジョンを留守にする。故に、お前達で対処出来ない規模の敵襲が来たら俺に連絡をよこせ。以上だ」

 

「命令、承りました」

 

恭しく頭を下げている姿が目の前にいなくとも分かる。コクビャクは返事を聞くと、数秒後に連絡を切った。

 

コクビャクは知り得ないが、ダンジョンのモンスターたちの間では、クラーケンは通称、(大先生)として尊敬されているため実際問題、モンスター達の統括には適している人選ならぬモンスター選だったのだ。

 

「さてさて、上質な女子供を蓄えておきたいところだな」

 

今回王都に出掛けるのも前回と同じように食事の為である。しかし、今回の遠出は前回とは違い期間は定まってはいないが、長期間ダンジョンを空けるのだ。

 

故に、留守の間ダンジョンが陥落してしまう事がないようにクラーケンに連絡役を任せたのだ。ダンジョン強襲に備えて、安全面も万全である。

 

「さて、先ずは若い美味そうな女の情報収集だ」

 

こうして、王都を単身で壊滅させることができてしまう怪物がダンジョンを出た。

 

 

 

コクビャクがダンジョンを出て数時間後、コクビャクがダンジョンを出て行った方とは反対側に、王国の騎士団、雇われの傭兵達、総勢二万の軍勢が待機していた。

 

「バルハート軍団長、各軍準備が整いました」

 

「ふむ」

 

二万の軍勢を率いる男、バルハート・マドラス。彼の在籍する王国、『バルムト』の低位貴族であった本家を武術の天才的な腕によって家名をあげ、他貴族を蹴落とし、見事に上級貴族になるとともに、騎士団の団長に就任した成功者である。

 

今回のこの大軍を率いてのダンジョン攻略はギルドからの要請できたものである。王国とギルドは密接に関わっており、利害が一致することも多い。

 

ギルドによる周辺モンスターの掃討、王国による都内においてのギルドの権限の保証等、持ちつ持たれつの非常に良い関係でいる。今回のように、人民に被害が出ると思われるが、自分達では対処できないような人数を伴う攻略は他国でも何度か見受けられる。

 

大抵は強力なモンスターの出るダンジョンで、攻略できないとダンジョンから溢れ出て、王国の住民に被害が出たり王都に攻め込まれる危険性があるダンジョンが要請される。

 

今回も例に違わず、ダンジョン攻略の要請だ。なんでも、ここ最近まではスライムしか出現しなかったダンジョンだったらしいのだが、急に階層もモンスターも増え、非常に危険なダンジョンなり変わったのだという。

 

攻略に行かせた上級者7人パーティも悉くが敗れ去ったという。彼等からの最後の通信によるとどうやら五階層間であったらしいのだが、今はどうだかわからないという。

 

しかし、受けてしまった以上は攻略しなければならない。少数精鋭で無理ならば、雑魚でもなんでもいいからそれなりの実力者を大量に送り込み、攻略する。

 

どんなに強力なダンジョンのモンスターでも、必ず倒すことができる。そして、そういった強いモンスターに限って再び出現するまでの時間が長いという事が分かっている。

 

負けない、負けるはずがない。これまで何度もこういった依頼を受け成功させてきたのだ。

 

しかし、バルハートは何故か安心することはできなかった。何か言いようのない不安が彼を苛み、不安が押し寄せる。

 

「全軍!!突撃開始ぃいーー!!」

 

そんな自分の迷いや不安を振り払い、己を鼓舞するかのように号令をかける。

 

「進軍だー!!行けぇぇええ!!」

 

近くにいた将にあたる者達から伝播し、軍の各所から声が上がる。

 

「負けるわけがない。我らが勝利するのだ!!」

 

その言葉に応えるかのように、第一陣がダンジョンになだれ込む。後方には支援魔法を使う部隊が控えている。この最初にして最大の兵力でどんな難関なダンジョンも半分以上は踏破できている。

 

今回も例に漏れず踏破できるものと思い、本陣の椅子に腰掛けた。後は、連絡を待つだけだ。

 

できるだけの準備はもうすでにしてある。第一陣以外の軍団も出番を今か今かと待ち構えている。

 

こうして、コクビャクのダンジョンvs.王都バルムト騎士団の戦いの狼煙が上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六話

軍団長バルハートの号令を合図に前方の部隊が一気にダンジョン内に突入した。先ずは第一層ーーースライム達の階層である。

 

「な、なんだ?この階層は」

 

「スライムしかいないじゃないか。本当にこのダンジョン危険なのかぁ?」

 

「お前、話聞いてなかったのか?このダンジョンは第二層からが本番なんだよ」

 

「え、そうなのか」

 

第一層がスライムだけの階層だった為、少なからず油断した兵士が一部存在した。

 

そして、第二層ーーーゴブリンキングの階層である。

 

前回の襲撃の際に装備していたものから一新し、さらに戦力が強化され統率のとれたゴブリン達が兵士達の前に立ちはだかった。

 

「また人間か、皆殺しにしろ!!」

 

「ギィィィイイイ!!」

 

ゴブリンキングの号令を合図に王国兵士達と交戦に入った。以前にも増して統率されたゴブリンの部隊の奮戦により5000の兵達が重傷及び死亡した。

 

最後に残ったゴブリンキングに彼等は甚大な被害を受けてしまった。

 

ゴブリンキングのような階層BOSSは、倒されてしまうと周囲の配下モンスターの蘇生もこの個体が蘇生するまで停止する。BOSSモンスターの蘇生にかかる時間は、満3日。

 

この時点で、この戦いにはもうゴブリンキングが戦線復帰することは不可能だろう。ダンジョンマスターがこの場にいたらDPを使って蘇生を早める事もできるが、コクビャクは今はいないので意味はない。

 

その頃、第六階層に居たクラーケンは遂に交戦に入ったのでコクビャクに報告する事にした。

 

sideコクビャク

 

「コクビャク様、宜しいでしょうか」

 

「何用だ?未だ我が出発してから数時間しか経っていないではないか、やはりお前達は割れがいなければ何もできんのか」

 

「コクビャク様が居ていただければ安心するのは確かですが、今回はそのために連絡したのではありません」

 

「と、いうと」

 

「どうやら、王国軍と思われる騎士団の軍勢二万がダンジョンに侵入。現在、ゴブリンキングが倒されましたが相手側の被害も甚大です。」

 

「成る程な、敵襲か。して、お前達にはそれは対処できない事なのか」

 

たいして驚いた様子もなく、敵襲と認識したコクビャクに戸惑いを隠せないクラーケンであるが漸く気付いたことが一つあった。ーーーそう、対処しきれない相手ではないのだ。

 

「申し訳ありません。敵襲など初めてだったものですから、すこし慌ててしまっていたようです。本当に申し訳御座いませんでした。」

.「...そうか、助力が必要ならばいつで言うといい。すぐに殲滅してやろう」

 

「それは、頼もしい限りです。が、我々とて、負けはしません!それでは、失礼します」

 

相変わらず電話越しでも伝わるような恭しさを残して通話を絶った。

 

「ま、彼奴らならなんとかなるだろう」

 

コクビャクは再び王都を目指しての旅を再開した。実際、王都とは真逆の方向を向かっていることとは知らずに...

 

side大先生

 

私としたことが、みっともないところを主に見られてしまった。敵襲に怯えて自然と主人に連絡してしまった。

 

普通のダンジョンならば、敵襲があった時に連絡するのが普通だがこのダンジョンにおいてはそのような常識はない。自分たちで対処できないようなら応援を要請することを許されているが、自分たちで対処できる事物に対しては一切の連絡が不要と前々から伝えられていたのだ。

 

しかし、実際に敵襲が来てしまうとどこかで怯えてしまい主人を頼ってしまうところがある。それは、当然のことである。

 

大先生と呼ばれているこのクラーケンは海に棲息していた時は敵という敵が一切寄り付かなかったからだ。クラーケンが群れをなし、大海を彷徨う様は他の魚達から見れば恐怖以外の何者でもなかったのだ。(群れといっても二三匹程度だが)

 

これは、父の頃からこの様にしており大先生が棲息していた大海ではすでにそのことが知れ渡り誰も攻撃してこようとしなかったのである。故に、現状このようなところに召喚されて階層を任せられる身になってしまった。

 

確かに、自分たちの群れの中でも最強だったこのクラーケンが召喚に選ばれたのは必然かもしれない。敵に不慣れな大先生がこのようなmissをすることは当然のことだと思っても良いだろう。

 

「さあ、気を引き締め直して迎撃するぞい!」

 

若い声でありながら、ジジ臭い言葉遣いを扱う大先生は各階層主に指示を飛ばすのであった。

 

side end

 

兵士達は遂に第三階層へと侵攻を開始した。5000という甚大な被害を受けても尚怯むことなく突き進んでくる。

 

そして、漸くここでボスラッシュ仕様にしたこのダンジョンの利点が顕になる。それはーーー

 

「な、なんだこの部屋は?20人しか入れねぇぞ!」

 

「ど、どうなってやがる...」

 

BOSSの部屋には20人迄のパーティしか入れないのだ。門を20人目が通ると同時に無理やり入ろうとするものを吹き飛ばし門を閉じてしまうのだ。

 

「我が名はグラシス。征くぞ!!人間共」

 

グラシスは以前にも増した自動回復の速度に加え、ニンゲンの攻撃パターンなどにも慣れてきて非常に良い戦いをした。グラシスの奮戦により第一陣総員一万人が死亡した。

 

が、第二陣の突撃により遂にグラシスは息絶えた。

 

そして、第四層ーーー魔界の鬼将軍、(百鬼の将軍)の階層である。

 

そして、例のごとく20人しか入れないその扉を潜り抜けて目にしたのは身体が多数の刀によって構成されている謎の魔物、体に怨嗟の声を撒き散らす顔を無数に浮かべるこれ又見た事のない謎の魔物、そして極め付けは、この二匹の中央に存在し、玉座に座る巨躯の大男。

 

その男がゆっくりと立ち上がり、玉座に掛けてあった両手剣を手に取る。

 

「我が名は百鬼の将軍、百鬼将軍とでも呼んでくれ、では早速だが...死んでもらうとしよう」

 

「グゥオオオオオオオオオ!!」

 

身体を構成している刀がブンブンと高速回転しながら相手の中心地へと飛んでいく首切り侍、

 

「いだぃぃぃいいい!!!!」「ヤメて..お願い...もう、やめてください」「た、タスケテェ...」「苦しいよぉ...」「ユルサナイ...」

 

怨嗟、苦しみの声が身体中から放たれているのにもかかわらず全く気にもとめず騎士団に襲いかかる怨嗟の塊。

 

「人間ども...貴様らは皆殺しだ!!鏖殺だ!」

 

奥から次々と頭にツノを持った鬼たちが出現する。

 

「コロセ!コロセ!コロセ!」

 

全員が武器を振り上げ戦闘が開始された。これは、今までにない規模の被害が出る、そのほんの序章でしかなかったのです。

 

 

 

 

 

 

 



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第七話

第四層にやって来ていた兵士達は絶望していた。

 

魔法支援を受けた屈強な戦士の攻撃を片手で受け止め、もう片方の手に握っている大剣を袈裟斬りし一刀両断する。

 

後方から火の中位魔法、ファイアーボールを受けても傷一つどころか火傷の一つもできない。

 

角も覆えるように設計された兜を装着し、漆黒の鎧に身を纏う鬼の将軍。敵は百鬼将軍、怨嗟の塊、首切り侍、鬼四匹の計六体の魔物が相手だ。

 

六体vs.二十名の兵士、この戦闘が何度繰り返されたであろうか。数えるのも億劫になるくらいの数、第四層に攻め込んだ。高名な魔術師も、実力派の戦士も、圧倒的な兵力差も、全ては無意味。

 

大人が関係者以外立ち入り禁止の区域に入ろうとしている子供を追い払うかのように、軽くあしらわれる。但し、殺される。

 

誰もが絶望し諦め掛けていたその時、その男は現れた。

 

「お困りのようですねー。最強の俺、シンヤ・カマタが手伝ってやりますよ!」

 

その男、シンヤ・カマタ(鎌田真也)は勇者であった。

 

sideシンヤ

 

 

 

 

ここは何処だろう。さっきまで病院で横になっていたはずなんだけどなーおかしいな。

 

周りの景色も、自分の服装も見るからに異世界である。おまけにゲームのようにステータスの画面まで見ることができる。

 

「異世界じゃん!まじかよ...サイコォォオオじゃん!」

 

 

〜〜〜

 

父は死に、母はパチンコでスっては闇金から金を借り、返せずにジャンプするの繰り返し。体を売るのは当たり前、そして遂に俺に自殺しろと迫ってきた。

 

もう、何もかもどうにでもなれと自暴自棄になった俺はトラックに轢かれたのだ。運がいいのか悪いのかはわからないが、奇跡的に助かることができた。

 

しかし、母親は俺の生命保険にしか入っておらず、医者が容体を伝え終え看護師などが部屋を退出した瞬間に今まで浮かべていた柔和な笑みを消し、他の患者が俺の部屋にいないことをいいことにいきなり怒鳴りだした。

 

「なんで、あんたは生きてんのよ!死ねって言ったでしょ!?生命保険にしか入ってないのよ、保険料なんて払えるわけないじゃない!今すぐ死ね!」

 

信じられない。何故こんな人間が親なのだろうか、その頃の俺はもう心が折れており、何をする気にもなれず、かろうじて行けていた(・・)学校の友達に勧められたスマートフォンのゲームだけを生きがいにしていた。

 

そしてついにあの時が来たのだ。

 

深夜0時頃、母親が病室にやってきた。両手に手袋をはめ、ロープを持って...

 

あの時のことは今でも覚えている。自分を殺してもすぐに誰が犯人か判明してしまい、捕まるのは目に見えているのに襲ってくる。

 

母の目は狂気に染まっていた。恐らく、体を売っても闇金の利息分すら払えない域に達したのだろう。

 

八方塞がりで身動きが取れなくなり、遂に俺に手を出した。それに気づいた俺はもうどうでもよくなった。

 

あぁ、こんな親の元にさえ生まれなければ...ゲームの中の主人公のように強敵と戦いつつも仲間に恵まれている。もし、生まれ変われるのならば、親がこんなクズではない世界に生まれていたのなら、魔物と戦うのだって辞さないというのに...

 

「ほんっと...糞みてぇな人生だったな」

 

こうして、鎌田真也の人生は幕を遂げた。

 

ハズだった...

 

〜〜〜

 

死を受け入れ目を閉じ次に目を開けた時、目の前には草原が広がっていた。自分の今の服装はスマホでやっていたゲームキャラの装備だ。

 

決して最強というわけではなかったが、上位プレーヤーには割り込んでいた。無課金だったがやっていた年数が違う。

 

廃課金プレイヤーに勝るとも劣らない装備の数々を持ち、羨ましがられていた。そして、ゲームのような世界だと認識し少し落ち着いてきたところで、大軍が洞窟に攻め込んでいくのが見えた。

 

「あれは、何だろう?」

 

興味本位で魔法を使用し、軍の目的などを探る。

 

探査魔獣召喚(サモン・サーチビースト)

 

青い鳥を召喚し、前方に見える大軍の司令部と思わしき所に飛ばし、司令部近くにあった木々のうちの一本に止まり、声に耳を傾ける。

 

「なに?第二陣、壊滅?!、おまけに第三陣も壊滅寸前で救援要請だと!」

 

ふざけるなと司令部の机を叩きつけるバルハート。第一陣はたったの一回層しか突破できず今は情報に無い、第四層で詰まっているという。

 

しかし、第一陣が破れたバルハートの軍団には極大戦力となりうる軍団は一つしかない。冒険者によるパーティである。

 

このパーティは冒険者ギルドが用意したパーティではなく、王国が高い報酬を用意して雇ったものだ。更に、ダンジョン攻略に貢献した暁にはダンジョン内に存在する宝も、大方譲り渡すという条件も含まれている。

 

それは、王国にとっては非常にまずい話でできれば切りたくないカードである。王国も少なからず今回の遠征で金を消費しており、元を取らねばならないからである。

 

だが、そうも言っていられない状況になった。

 

そう決心して、冒険者パーティ達が10名程いるテントへ顔を出したのだが、そこに居た彼らの顔は、軍団長バルハートが来たにも関わらず曇ったままであった。

 

「どうした、冒険者達よ。私が来たということはそういうことなのだぞ?嬉しくないのか」

 

「...普段ならば嬉しいさ、ダンジョンの宝を根こそぎ持っていけるんだからな。しかし、今回のこのダンジョンは相当まずいぜ」

 

「....何故だ」

 

「俺達はアンタらが攻めるのを初めは見ながら酒の肴とか土産話にしてやろうとか思って見ていたんだがな...グラシスとか言う魔物が出てきたあたりからかな、俺たちがヤベェと思い出したのは」

 

リーダー格の男が言った事に付け加えるように後方の女魔導師が言った。

 

「あのグラシスという魔物は我々人間と会話するだけの知性があるだけでなく、暗黒魔法を使用していました。そしてあろうことか、人間にとっては害悪でしかない魔法で彼らは回復していたのです」

 

「暗黒魔法だと!?」

 

「それに、今戦っているあの鬼の将軍、百鬼将軍だったか?あいつはもっとやべえよ、物理に特化しているのは見てわかるが中位魔法のファイアーボールの直撃を食らって無傷とか俺たちでも無理だよ」

 

「馬鹿な...では、勝算はないというのか」

 

「少なくとも、今の戦力じゃ勝てねぇな」

 

「まさか、そんなことが...」

 

その後も色々な情報が飛び交っていた。

 

ーーーどうやら魔法による情報収集によると、この世界に存在するダンジョンというものに挑んでいるらしい。

 

それが、最近できたダンジョンの癖に以上に強いモンスターが出現するとかで、これ以上このダンジョンが強力になって魔物で溢れかえり、人間たちの住まう王国などに攻め込まれるのを防ぐのが目的なのだそうだ。

 

「これは俺が行くしかないな」

 

そう言って転移魔法を使用し、司令部へとシンヤは転移した。

 

side end

 

「お困りのようですねー。最強の俺、シンヤ・カマタが手伝ってやりますよ!」

 

突如そんなふざけたことを言い現れたその男は俗に言う、勇者と呼ばれるものだった。この世界に存在しない衣服を着込み、この世界の誰もが知りえない知識を保有する。

 

嘗て、その知識を求めて勇者に弟子入りした者が居たようだが難しすぎるためその知識を受け継ぐことは不可能だったという。『あにめ』や『まんが』と言った意味不明な物を聞いたその者は頭がパンクしてしまったという。

 

「お前、勇者か!」

 

「まー、そーかもしれませんねー。」

 

「おし!これならいけるぞ!勇者がいれば恐れるものなんてなんもねぇぜ!頼む、力を貸してくれ!」

 

「困っている人を助けるのは当たり前...なんだけど、報酬として要求したいことがあるんだけど...」

 

と、バルハートの方に顔を向け申し訳なさそうに言うシンヤ

 

「何でしょうか」

 

勇者は一般的にに敬われている存在なので、一応丁寧語で話すバルハート。

 

「出来れば、王国での身分の保障とそれなりの階級が欲しいのですが...ね」

 

「その程度ならば問題ありません」

 

「まじで!ありがとー」

 

王国における自分の身の保障と貴族階級を得られることに安堵し、より協力的になったシンヤ。

 

それが、報酬となるのならばそうさせてもらおうと考えているバルハート。

 

この世界においては、その程度の事は勇者であることが判明され次第手に入れることができるものなのである。しかし、勇者は大抵そのことを知らない時の方が多い。

 

加えて、勇者や冒険者に力を借りるというこの状況は王国にとって、経済的な理由で美味しくないので極力金の消費は避けたいのだ。故に、そのことは黙ることにした。

 

「それじゃあ、準備が出来次第俺に声をかけてくれ勇者!頼りにしてるぜ」

 

そして、各自散会しダンジョン攻略のための準備に取り掛かったのであった。

 

そして、一時間後。

 

準備を終え、バルハート、シンヤを含む15名のパーティが第四層百鬼将軍が居る階層へとやって来ていた。

 

「それじゃあ、開けるぞ」

 

リーダー格の男が確認を取ると、後ろにいる仲間全員が頷く。

 

そして重厚そうな扉を開けるとそこに居たのは、百鬼将軍一人であった。

 

先行した部隊が、怨嗟の塊と首切り侍を重点的に狙い倒したのであろう。情報によると取り巻きの鬼たちはすぐに蘇生するが、先の二匹は蘇生にかなりの時間が掛かるとわかっていた。

 

そんな事を考えていると、百鬼将軍が答えを求めない一方的な問いを、投げかけてきた。

 

「ふむ...お前達は他の奴らとは一線を画した力を持っているようだな」

 

玉座の横に立てかけられていた大剣を右手でゆっくりと持ち上げる。人間であれば両手でなければ持つこともできないであろう物がやすやすと持ち上げられる。

 

剣が持ち上げられ構えられたのと同時に百鬼将軍の後方から、四匹の鬼が出現した。そして、人間達の方も各々武器を構え戦闘態勢に入った。

 

武人気質なのか、全員が戦闘態勢に入るまでは全く動かなかったが、戦闘態勢に入ると大剣を振り上げ突撃してきた。

 

「人間共よ!覚悟しろ」

 

こうして、正真正銘王国軍最大戦力vs.百鬼将軍の戦いが始まったのである。

 



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第八話

勢いよく振り下ろされた大剣をシンヤらは危なげなくかわす。が、相手の攻撃は地面を抉り後方の壁に衝撃が伝わり一部が損壊していた。

 

「どんな威力してんだよ!」

 

そして息つく暇もなく、リーダー格の男に迫り薙ぎ払いをした。男は剣を盾にするが壁まで吹き飛ばされた。

 

助けに向かおうとする冒険者たちには取り巻きの鬼が迫り思うように動けない。

 

「仕方ないなー、俺がいきますよ」

 

シンヤは近くにいた取り巻きの鬼を吹き飛ばし、百鬼将軍と対峙した。

 

「ふんっ!!」

 

強烈な踏み込みと共に剣が再び振り下ろされた。それにシンヤはリーダー格の男と同じように剣を盾に構えると吹き飛ばされることなくなんとか攻撃を受け切った。

 

「っ!きっついわー」

 

剣が受け切られたのをみて百鬼将軍が追い討ちをかけるように左拳で殴りつけてくるが、後退するのとでそれを躱す。

 

自分を追ってやって来る百鬼将軍を迎え打つため武器を構え、スキルを発動させる。

 

「スキル...《迎撃の構え(カウンター)

 

相手に防御させる暇を与えず、相手の勢いさえも利用してダメージを与えるスキル。初歩中の初歩のスキルではあるが、強者がそのスキルを使うとその威力は計り知れない。

 

紛れもなくこの世界において上位に入るシンヤ・カマタの《カウンター》は例に漏れず相手に極大威力の攻撃を叩き込んだ。

 

「ぐぉおおおおお!!」

 

百鬼将軍の身に纏っている漆黒の鎧をも斬り裂き、身体へとダメージが入った。巨大な切傷が鎧に入り其処から絶え間なく血が流れる。

 

「良くやった。勇者!全員、かかれー!!」

 

取り巻きの鬼達を倒し終えたのか、他の冒険者達が百鬼将軍へと殺到する。

 

「...ここまでか」

 

百鬼将軍は諦めたかのように、膝をつき吐血する。

 

「見事だ...ニンゲン、だが、このダンジョンは落ちん。コクビャク様万歳!」

 

人間に殺されたのを嫌った百鬼将軍は自刃した。そして、百鬼将軍が死んだ後すぐに玉座の横にあった宝箱が開いた。

 

中を覗いてみると、そこにあったのは盾であった。

 

「こ、この盾は!ガインの予備の盾じゃねぇか」

 

この宝箱は今まで倒した冒険者から手に入れた装備が貯められた宝物庫からランダムで一つ装備が出るカラクリになっている。

 

「本当に...死んじまったんだな」

 

少なからず交流のあったリーダー格の男とガイン。彼だけではなく、この場にいる冒険者達もガインと交流のある者は多い。

 

気さくな性格で誰とでも直ぐに打ち解けてしまう不思議なカリスマとも言えるものを持っていた。彼を褒めることはあれど、負の感情を持つものなどいないだろう。

 

「絶対に許せねぇ...ダンジョンマスター、ぶっ殺してやる!」

 

王国からの依頼等関係なく今や私怨でこのダンジョンに挑んでいた。その場に居たバルハートですら、あったこともない冒険者に情を傾ける程である。

 

「行くぞ」

 

宝箱から盾を取り出し背中に背負い、出現した階段を下り第五階層へと歩を進めた。

 

ーー第五階層ーー

 

再び重厚な大扉を開けるとそこに居たのは頭部が蛸、下半身が人型の魔物が居た。周囲には配下と思われる蛸兵士がいたがそれほど脅威は感じられない。

 

それより問題なのは、足首まで水が浸水していたのだ。

 

「これは、動きにくそうだな」

 

「こんなダンジョンがあるんですかー...見たことありませんねー」

 

「こんなの異例だ、心配するな俺も見たことねぇ」

 

槍を持った蛸共の大将のような蛸が何を話しかけることもなくいきなり攻撃を仕掛けてきた。

 

その奇襲に反応することができず、冒険者の一人が槍に貫かれた。そこでようやく事態を把握したシンヤが斬りかかった。

 

蛸魔人はそれを槍でいなし、触手の一本でシンヤの両手を拘束した。そして間髪入れず槍を打ち込んだ。

 

流石に躱すことは出来ないので、最大限に自己強化のスキルを使用し最小限の被害で抑えた。しかし、その被害は甚大なもので肋骨が一本貫かれていた。

 

「ぐっ...」

 

助けを求めるように他の冒険者達を見るが、各々自分たちの倍ぐらいの数がいる蛸兵士に苦戦しており、とてもシンヤに手を回せる状況ではない。

 

此処で漸く蛸魔人が口を開いた。

 

「やはりニンゲンは下賤で下劣で、愚かな生き物よ」

 

「...な、何を根拠に言いやがる」

 

根拠?と言いフッと嘲笑うかのように笑うと、吐き捨てるように言った。

 

「お前達は自分達の安全の為に他の生物を殺し、可愛ければ愛でる。オーク等の魔物は害悪であると決めつけ冒険者達に依頼して討伐する。何もしていない、オークの子供であろうとも容赦せずにだ。お前たちは考えたことがあるか?虫のように踏み潰され、邪魔だから殺されるものの気持ちが...お前達には分かるか、子供を目の前で殺されるオークの親の感情が...分からんだろうな!!俺達を魔物(バケモノ)と決め付けているお前達にはな!一生わかるまい!!...故に我らもお前達を羽虫のように踏み潰し蹂躙するのだ。...死ね」

 

弁に熱の入っていた蛸魔人は気付いていなかった。彼が話している間に他の蛸兵士が掃討され背後を狙われていたことに...

 

グサッグサッグサッ

 

蛸魔人の頭部を胴部を槍や剣が貫き、呻き声をあげる。蛸兵士の活躍もあり冒険者達は9人にまで減っていた。

 

「勇者...それが我等の間でなんと言われているか知っているか」

 

瀕死の蛸魔人が不意にそう言った。

 

「何だ、なんと呼ばれているのだ」

 

蛸魔人の瞳には若干ではあるが、畏怖の念がこもっていたように思う。初めから少し腰が引けていたような気さえするのだ。

 

「...魔王だよ」

 

それだけを言い残して、光となって消えていった。

 

「気にするな、魔物ごときの妄言、無視してかまわねぇよ」

 

「そう、だな」

 

そう言いながらも、シンヤは心のどこかで思ってしまった。魔物にも心はある。

 

魔物にも感情はある。痛みも感じれば、悲しみもし、恐怖だってするのだ。

 

自分たち人間にとって脅威である魔物ではあるが、逆の立場からならば自分たちはどう思われているのだろうか。もし、蛸魔人の言うことが本当ならば...

 

そんな事を考え、階下を目指していくシンヤ。魔物に一度でも感情移入してしまった者は二度と全力で魔物と相対することができなくなる。

 

躊躇いが生まれる。最後の最後に蛸魔人は最大の罠を残していったのだ。

 

もう、勝敗は決したようなものである。

 

 

 



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第九話

ーー第六階層ーー

 

シンヤ達が大扉を開けて先ず目に入ったのは一面に広がる海を思わせるほどの量の水である。実際海のように塩水なのである。

 

「誰か海面歩行魔法か海中行動魔法を使える奴はいるか?」

 

此処で誰も手を上げながった場合、このダンジョンの攻略は失敗することになっていたのだが、流石トップレベルの冒険者集団、人数が減った現在でも四人いる魔法使い(マジックキャスター)の内三人が使用可能だということがわかった。

 

早速全員にリーダー格が言った両方の魔法を全員にかけてゆく。これは、海に近い地域に住まう魔法使い(マジックキャスター)がよく習得しているものなのだが、生活用の魔法の括りに入る為習得に掛かる時間もそれほど長くはなく一度この魔法をかけると持続時間が三時間も持つという優れものである。

 

又、それも一般的な話であり、彼彼女らのような高位の魔法使い(マジックキャスター)がこの魔法を行使するとさらに持続時間が長くなり、魔法による体の違和感も少なくなる。基本的に魔法自体は誰でも覚えられるものが多いが、その性能や持続時間が術者の実力によって作用されることが非常に多いのである。

 

「おい、なんか可笑しくねぇか」

 

「何がですかー」

 

「勇者さん、上を見てください」

 

「?...あっ!!」

 

シンヤが頭上を見ると、洞窟の中にもかかわらず暗雲が立ち込めており僅かに雨が降っていた。そのせいで、ただでさえ暗い洞窟の中がさらに暗くなってしまっているのだ。

 

「ライト」

 

魔法使い(マジックキャスター)の一人が生活魔法の一つであるライトを唱えた。初歩中の初歩の魔法で一番初めに覚える魔法である事も少なくなく、誰が術者であろうとも最低でも三時間は持つ。光の光球を飛ばし、任意の場所に留まらせることができ、その任意の場所に到達すると光球が強く発光する。

 

彼等の場合は7時間も持つ為、再び唱える必要はもうないと考えていいだろう。ライトによって洞窟内が照らされるが、全体は照らし出すことはできない。

 

照らしきらなかった為、他四人の魔法使い(マジックキャスター)も部屋の各所に光球を飛ばした。そして漸く部屋全体が照らし出された。

 

「広い...」

 

「どうやら、他の階層とは訳が違うみテェだな」

 

「それは、強い奴が出てくるという意味ですかー」

 

「推測にすぎねぇですがね」

 

これまでにない広さの階層だった為、各々警戒して意見を交換し合っていた。

 

突如、渦潮が発生し冒険者の一人が飲み込まれていった。そして冒険者が飲み込まれた渦潮の中から出てきたのは体長が目測で20メートルはあるであろう巨大な烏賊、海魔として恐れられるクラーケンであった。

 

「ク、クラーケンだと?!」

 

「こ、これは...やばいっすねー、いやマジで」

 

海魔・クラーケンこと大先生に続くように周囲から大量の配下、リトル・クラーケンが次々と海面に姿を現した。リトルとはいえ、クラーケンと名乗っているだけあって、リトル・クラーケンは海に生息する魔物の中では最悪の部類に入るのである。

 

リトルとつくが体長は優に5メートルを超えており船を一匹で沈没させてしまう為、クラーケンと間違われることも多いと言われている。それが、周囲に最低でも10体は出現している。

 

そして、此れが海魔・クラーケンの配下であるとするならば、取り巻きの鬼然り、蛸兵士然り、倒したとしても即座に蘇生するのだろう。それがどれだけの脅威か把握しているためシンヤ達の間にはこれまで以上の緊張感が走る。

 

そんな様子を見越してか、大先生は余裕の笑みを浮かべシンヤ達侵入者たちに向かって話しかけ始めた。

 

「此処まで来れたのは、賞賛に値することは疑いようがないだろう。だが、これまでの階層守護者達と一緒にするなよ若造共。儂はコクビャク様より守護者統括を任された者である。守護者統括が、他の守護者達に劣ると思うか?」

 

大先生が嗤うようにそう言うと、周りのリトル・クラーケン達がゲラゲラと笑うように足をバシャバシャと音を立てて海面に打ち付けている。更に、大先生はシンヤたちの恐怖を誘うように続けた。

 

「否!他の守護者達を圧倒することができる力を保有しているからこそ守護者統括を任されているのだ。故に、他の守護者達に苦戦しているような奴等では儂には勝てんのだ!」

 

そう言って、巨大な触手を冒険者三人に振り下ろす。防御魔法や盾などで防ごうとするがそれら全てを貫通する巨大な毒針が触手についている吸盤から出現し、三人の命を刈り取った。

 

「馬鹿な...」

 

「あんなのに勝てるわけが無い!」

 

「にげろおおおお!!」

 

仲間がやられる様子を見て、恐怖に陥った冒険者達は隊列を乱し各々に散開してしまい入ってきたばかりの大扉へと向かう。が、もちろんその大扉は閉じられていた。

 

階層守護者と対峙した時点で大扉は自動的に閉じられてしまうのだ。

 

「くそ!隊列を乱すな!落ち着け!」

 

何とか体制を立て直そうと必死に指示を出すリーダー格の努力も虚しく散り散りになってしまった。そして、逃げ惑っている冒険者たちに襲いかかったのはリトル・クラーケンである。

 

背後から忍び寄り、触手を冒険者の体に巻きつけ毒針を突き出す。鎧など優に貫通して着実に冒険者たちの命を刈り取っていった。

 

そして、泣き叫ぶ冒険者たちの声が消えリトル・クラーケン達が大先生の背後に控えた時にはシンヤを含め3名しかその場に残ってはいなかった。その三名というのは、シンヤ・カマタ、リーダー格の男ジョー・バルカン、バルハート・マドラスである。

 

残った三名に対して嘲笑うかのように大先生は話し掛けた。

 

「後は、お主達を倒せば終わりかな」

 

「ああ...そうだぜぇ?俺達が正真正銘今回このダンジョンに攻め込んできた奴等の指揮官にあたるニンゲンだ」

 

「ほう、漸く終わるか。まあ、お前達が攻め込んできた事はマイナスな事ばかりではなかった。」

 

「...ダンジョンの血肉となったか」

 

「儂等には関係のないことじゃがな...コクビャク様が喜ばれるのじゃよ」

 

意外にも自分たちの話に受け答えをしてくれているクラーケンにやや驚きながらも、勝利を確信し余興として俺たちと穴しているのだろうと結論づけ、シンヤも話し出した。

 

「そのコクビャク様ってゆーのは、このダンジョンのマスターかい?アンタより強いのかい?その方は」

 

「ホッホッホ、当たり前じゃのう。儂では手も足もでんわい」

 

「それほどの力を持っていたとは...」

 

「そりゃーこんな強いモンスターがダンジョンにいるわけですよ」

 

「こんなダンジョン聞いたことがないな」

 

「さて、死前のお話は楽しかったかな」

 

「あぁ...非常に有意義だったよ、アンタを刺身にして食ってやるから刺身と話したって仲間達に自慢してやるんでね」

 

「烏賊にこの俺が負けるわけがないんだ...」

 

「ガチで勝ちに行きますぜーっと」

 

勝負とも言えない勝負が始まった。先ず、バルハートとジョーに何時の間にか背後に迫っていた触手に絡まれ毒針を打たれ死亡。

 

そして、残ったシンヤも決死の覚悟で攻撃するが周りのリトル・クラーケンに行動を阻まれ、身動きが取れなくなってしまった。

 

「楽しかったよ、ニンゲン。死ねぃ!」

 

全力で叩きつけられてくる触手を迎え撃つべく、自身が持つ最強のスキルで反撃する。

 

「スキル...《山崩し(レベリング)》!!!」

 

シンヤの持つ剣が紅く光り輝き、リトル・クラーケンが絡みつけてきた触手を切り落とし巨大な大先生の触手も切り落とそうとする。

 

「舐めるなよォオオオ!!若造がぁぁあああ!!!」

 

突然触手が鉄のような色に変化し重量を増しシンヤへと迫ってきた。シンヤが持つ剣を押し返し、剣ごと体に金属化した触手が巻きつけられた。

 

そして、吸盤と思われる場所から毒針が射出された。

 

「グッ...くそ!クソクソクソクソクソ!!この...世界でも...俺は生きることはできないのか...サイテーだよクソ...」

 

シンヤは静かに息を引き取った。

 

「ふん!ニンゲンにしては中々やりおる男じゃったわい」

 

バルハート、シンヤ、ジョー、この三人の死が確認された為今回遠征に来ていた残りの部隊は王国へと撤退していった。三人の死は魔力感知の得意な魔法使い(マジックキャスター)が三人の魔力が消えた事から判断したのだ。

 

「今回の戦いでは儂以外の階層守護者が死んでしもうた。三日後に蘇生するとはいえ、それまでは儂が侵入者を片さねばならんのか、面倒じゃのう」

 

はぁ、と吐くこともできないため息を吐き、コクビャクに今回の件はひと段落がついたと報告せねばと思いついた。

 

「さて、コクビャク様にご報告せねばな」

 

この後、コクビャクに連絡を取り褒美は考えておくから楽しみにしておけと言われ、連絡中にはしゃぐことはなかったが連絡魔法が途切れると海の中でリトル・クラーケン達と共に嬉しくてはしゃいでしまったのは秘密だ。

 

side コクビャク

 

今しがた、クラーケンから例の件についての報告が来た。今回は冒険者ひとパーティが攻め込んでくるのとは訳が違い万を超える兵士が攻め込んできたのだ。流石に報償を与えなければ謀反を起こすのではないかと危惧したコクビャクは褒美は考えておくから楽しみにしておけとその場は乗り切ったところなのであった。

 

「やはり、クラーケンは使えるな。まあ、あれだけ大量のDPを消費したのだ。我がいなくても敵を排除もしくは対処することができなければ困るのだがな」

 

そう言い、内心ではかなりご満悦のコクビャク。自分が自由に行動できる安心感がうまれ、非常に機嫌が良いのだ。

 

「あの村で生娘を喰らった後、一度ダンジョンに戻るか」

 

褒賞の件もあるし、何にせよ一度はダンジョンに帰らねばならないだろう。そう考え、王都に着くまで帰らないという目的は変更し目の前の村の生娘を喰ったらおしまいという目的に変更し、村へと向かっていった。

 

この村で起きている事件に、巻き込まれるとは知らずに...

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話

気づかぬ間に森の奥深くまで来ており内心、こんな所に村も街もないだろうと思っていたところに村落を発見した。しかし、なにやら慌ただしい様子で金属と金属がぶつかり合うような音や魔法によるものなのか村の各所からは火柱が上がっている。

 

「祭りか何かか?」

 

到底祭りとは思えない様子ではあったがコクビャクはそう呟いた。面倒ごとに関わりたくないのだ。ましてや、人間間の抗争など見るのも煩わしい。村の住民達(生娘のみ)が略奪者に犯され殺されて行く様など吐き気がする。

 

自分の生娘(デザート)を目の前で踏みつけられて不快にならない者がいるだろうか。殺す、犯すなどもってのほかだ。生きていないと捕食している時、激痛により歪み、悲鳴をあげる様を至近距離から鑑賞することができなくなる。又、犯された女など臭くて食べられたものではない。犯すなら味が落ち始める、二十歳以上の女にして欲しいものだと常々思っている。

 

さて、本来ならばこんなくだらない抗争の中に顔を出すのは偲ばれるものだが、王都に行かなければならないコクビャクは人の一人でも脅して王都への道でも教えてもらおうか、あわよくば未だ穢されていない生娘をお菓子感覚で喰っていく算段である。

 

そんな事を考えつつ、村の中に足を踏み入れたコクビャクは自分の予想とは大きく外れた事に気づき少しばかり驚いていた。なぜなら、ここは人間の住まう村ではなく森の奥地、其れも多種族からの干渉を嫌うとされているエルフの村(・・・・・)だったからである。

 

「これはこれは...予想外ではあるな」

 

道端に転がるエルフや人間の死体を見るに、エルフ狩りをしている人間を迎撃しているのだろうと考えその死体を踏み潰しながら村の中央へと歩いていく。エルフが人間如きに劣るとは思えないが、恐らく的には相当な手練れがいるのだろうと推測した。しかし、そんな人物であろうとも上位冒険者のパーティを単独で圧倒するコクビャクの脅威になり得ることはない。たった一人でそんな化物を相手に何ができると言うのだろうか。

 

暫く歩き、村の中央に辿り着いたコクビャク。そこで目にしたのは、周りの家々よりも一回り大きく造られた家である。恐らく此処がエルフの村長かそれに準ずる者の居住区であろうと推測できる。又、この家の周りを三十を越える人間達に囲まれている状況から追い詰められたエルフ達がここに避難したのであろうこともわかる。このエルフ村長の家(仮)は、守護魔法か何かが掛けられているのか人間達が攻撃してもビクともしない程頑丈になっている。しかし、そんな守りが永遠と続くわけもなく、中にいるエルフ達が魔力を注ぎ込んでいるのだろう魔力反応がコクビャクの魔力探知とも言えない勘のようなものに引っかかった。

 

「人間如きに劣勢とは、情けない」

 

基本的にコクビャクは自分に害を及ぼす存在にならない限り、人間以外の種族には極めて有効的であると言える。無礼を働くようなものならば有無を言わさず斬り捨てるコクビャクではあるが、魔物の子供が理由(ワケ)も無く冒険者に殺されている様を見て何も思わないわけではない。無論、そんなことをしている人間がいれば家族構成から何から何まで吐かせてその人物の知り合いに至るまで全てを殺しつくすつもりである。人間の親が子供を殺されて魔物を恨むように、魔物も冒険者に子供を殺されると恨みから襲い掛かる。見た目で判断し、意思疎通を図ることもなく襲い掛かる人族。そんな気持ちの悪い奴等と会話することなどできはしない。

 

しかし、魔物だって子供が大事だ。故に子供だけは勘弁してくれと何とか魔物は意思疎通を図ろうとする。すると、冒険者たちは揃ってこんな反応をするのだ。

 

「なんだこのオーク?ジェスチャーしてるだけで襲ってこないぜ、カモだ!お前ら此奴を袋叩きにしろ!」

 

野蛮な人間はこのように屑しかいない。世界中を探せば話を聞いてくれるものもいるかもしれない。しかし、そんな者達が少数なのに反して魔物達は何とか考えを伝えようとする親が大多数なのである。無駄だと分かっていても諦めることはできない。

 

自分達の大切な子供なのだから...

 

「全く、虫唾が走るな」

 

そう言って、守護魔法が消え家の扉が破壊された家に向かって歩き始めた。

 

side エルフの長

 

遂に...遂にこの家も突破されてしまった。しかし、後ろに控える女子供だけでも守り抜かねば...いくら人間とはいえ、子供ぐらいは見逃してくれるであろう...そこまで非常な存在ではないと思いたい。

 

「さあ、さっさと来な。お前達は負けたんだよ、諦めろ」

 

そう言って人間達が取り出したのは鉄製の首輪。ーーー奴隷の首輪である。奴隷の主人となった者の許可がなければ外す事は出来ず、命令には絶対服従。そこに人権も何もない。死ねと言われようと、慰めろと言われようと拒否することはできないのだ。

 

「...子供だけでも、逃してはくれまいか?儂等ならばなんでもするだから、せめて子供だけは...」

 

人間たちは下衆た笑みを浮かべ言い放った。

 

「馬鹿かお前、子供の方がお前ら老人エルフよりも高く売れるんだよ!逃がすわけねぇだろうがハハハハハ!」

 

周りにいた人間の仲間たちもゲラゲラと気持ちの悪い笑みを浮かべ声を上げて笑う。圧倒的に優っている余裕からか、後ろにいる女エルフを見て「一匹ぐらい、俺がもらってもいいかな」などと仲間内で話している奴も居る。どれだけ人間とは非道な存在なのだろうか、我々エルフに友好的に接したかと思えば機を見て裏切る。この者は信じられると思い信じたら首輪を嵌められていた等良くあることだ。

 

だから、我々エルフは人の居る町や村には極力近寄らず幻影魔法で人を惑わせこの村まで到達できないようにしていた。しかし、それでも人間たちは我らエルフを見つけてくる。見つけて、捕らえて、奴隷とする為に。最早人間に信じられるものなど一人たりとて存在しない、それが今になって漸く気づき、人間共を殺しておけばよかったと後悔していた。

 

「それじゃあ、後ろの女エルフ!お前からだ...グヘヘへ」

 

もう諦めるしかない、怯える子供や女を見ても下種共は躊躇うどころか喜んでいるようにすら見える。嫌がる顔を見て喜悦に染まる顔は見ていて非常に不愉快だった。しかし、自分にはもうどうすることもできない。...ここまでか。

 

そう、諦めた時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず下種だな、人間よ」

 

其処には黒髪が首元まで伸び、病気なのではないかと思うほど白い肌、黒いファーのついた王族が着ているような高級な素材を使った衣服であろうことがわかるコートをきており、指には見るだけでも高価な事が分かる指輪が幾つも嵌められいる、紅い瞳を持った青年がいた。

 

相手側の救援ではないのであろうかと考えた長であったが、直ぐにその考えを払拭する。人間を下に見るかのような発言に下種と人間を嫌うような発言から、人間ではないのであろうと予測する長。

 

「へっ!オメェ、貴z...」

 

男の一人が何かを言う前に何をされたか理解することもないまま、

 

ビチャという音と共にその場に血溜まりが出来、踏み潰され頭の横に足があるという奇怪な状態になっている。先ほど現れた少年の足が踏み潰された男の頭に乗せられている為、誰が男を踏み潰したか一目瞭然であった。

 

「誰が...話すことを許可した?」

 

紅い瞳で、男達を一瞥しそう告げる青年。

 

「なっ...嘘だろ!?」

 

周りの男たちにも動揺が走り始め、各所から弱気な発言が飛び交い、徐々に件の青年から後ずさり始めた。

 

その圧倒的な威圧感に怯んでいた男達であったが、何かを思い出したのようにリーダー的存在の男が声を上げた。

 

「ギリオン!!こんな時のためにテメェを雇ったんだよ、働け!」

 

ギリオンと呼ばれた身長二メートルを超える大男がのしのしと足音を立てながらリーダー格の男の前までやって来て剣を構えた。

 

「こいつはな、魔法剣つってな...はぁ!?」

 

ギリオンが剣を構えた瞬間、斜めに亀裂が走るようにして上半身と下半身が別れ、再び血溜まりが出来上がった。大金を払って雇ったのであろうギリオンを瞬殺され腰を抜かしその場にリーダー的存在の男はへたり込んでしまった。

 

なんということだ、あの青年は一体何者なのであろうか。男一人を踏み潰し、挙げ句の果てには我等エルフが束になっても勝てると思えないギリオンとかいう大男を恐らく手刀で一閃。なんと桁外れな存在なのであろうか。その割には全く魔力を感じない、おそらくは単純な身体能力、油断することはできないだろう。しかし、この好機を逃す手はない。今はあの青年に任せるしかないであろう。

 

後ろの女子供を庇うように位置どりを変え、青年へと目を向けた。

 

side コクビャク

 

脆弱すぎる。なんだこの(よわさ)は?期待外れにも程がある。これならば、未だあの時攻め込んできた冒険者パーティの方がよっぽど強いではないか。雑魚が何人集まってもゴミはゴミだ。

 

※ダンジョンに攻め込んできたパーティは上位冒険者で、この集団の男達とは格が違います。

 

ギリオンとか言う奴も雑魚だった...この世界の生物はこんなにも脆弱なのか?其れとも此れが普通だとでも言うのか?ーーーあり得んな。

 

まあ、何方にせよ人間共を蹂躙し殺しつくすという目的には変更はない。寧ろ、ここまで弱いのならば町の衛兵も弱いのであろう。つまりは、配下達に生娘を攫って来させる事も可能であるという可能性が出てきたということだ。嬉しい誤算だ、張り合いがないのは少しばかり残念ではあるが、そんな事は許容範囲だ。

 

「まあ、色々後で考える必要があるな」

 

この村での騒動が終わったらダンジョンに戻ろうと強く決意したコクビャクであった。

 

side end

 

「ば、化物だァアア!!逃げろォオオオ!!」

 

喉が張り裂けんばかりに叫び、男達は散り散りに逃げ始める。しかし、コクビャクがそんな事を見逃す訳もなく凶悪な笑みを浮かべ一つの魔法を発動させた。

 

「《家畜小屋(バーン)》」

 

暗黒魔法の一種で効果範囲は指定範囲内にいる対象。空中から鉄の檻が出現し、ブラックホールのように強力な引力で対象を檻の中に引き摺り込む魔法である。又、中に閉じ込められた者は状態異常に対する絶対的な耐性がない限り、毒、麻痺、呪い、激痛、恐怖、幻覚、等計十種の状態異常に陥る。しかし、どれだけの痛みを与えられても、意識を失うことは出来ない。それがこの魔法、家畜小屋(バーン)の効果である。

 

苦痛に悲鳴をあげようにも、麻痺により呻き声しか出すことはできない。泡を吹いているものもいるが、気絶することができない。泡により窒息死出来たものは幸せであると言えるであろう害悪魔法である。只、対象の苦しむ様を見るためだけに使用される魔法。暗黒魔法はそういった状態異常や常軌を逸した狂気の魔法であるため人間も手を出さない魔法である。この魔法は通常使用者にも猛毒の効果がある魔法なのだが、コクビャクには効かない。絶対的な耐性を持っているためである。このように、使用者に対する副作用も凶悪なので人間たちには手を出せない魔法というのも理由として存在する。

 

龍をも殺す毒に人間が耐えられるわけがないのである。暗黒魔法に手をつけるのは頭のおかしいキチガイばかりで、下位の物しか使えないのである。習得する前に死ぬのが普通だから。

 

男たちの苦しむ様を見て嗤うコクビャクは、その様子を見て怯えているエルフ達に気付くのは男達が半分死んでからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※ コクビャクが人間の姿になっていたのは、設定集を見れば分かりますが、《擬態》によるものです。


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第十一話

エルフの村を襲っていた人間達を殺し終えたコクビャクは、漸く人間たちが襲っていた家に目を向けた。森の木でできているであろう簡素な造りの家の癖に、人間たちの攻撃にも耐えていた。その理由は、エルフたちの魔法だ。本来であれば仲間のエルフにかける物である支援魔法をあろう事か、無機物にかけていたのだ。常識はずれの手段を用いたことによって、結果、結界の魔法が使えないエルフも戦力となり、家の守りをより強固にしていたのだ。

 

しかし、それだけの数のエルフが束になっても人間たちの攻撃に屈しようとしていたのだ。そんなエルフ達にコクビャクは、哀れな物を見るような目で見つめていた。ーーー脆弱すぎる。

 

人間にしても、エルフにしても、どうにもこの世界の者たちは自分の予想していた以上に戦闘能力が乏しいように感じられる。この地域では荒事はあまり起きないのか、将又その程度の戦闘力が普通とされているのかは分からないが、この程度のエルフどもならば一億人来ようとも負けはしないだろうとやや自信過剰な推測を立てた。...さすがに言いすぎである。

 

その後もさまざまな思考をめぐらせ、10分ほどした後、漸くコクビャクはエルフ達の元へと歩いて行った。その間、エルフ達は警戒するようにコクビャクの前に男たちが立ち塞がり、女や子供のエルフ達が後ろの方へと隠されていた。そんな事をしてもこのエルフどもは逆立ちしてもコクビャクを一秒すら止めることもできないというのに。

 

コクビャクが歩み寄ってきた為、エルフの長がコクビャクに声をかけようとした時、コクビャクが長の話を聞かんとするかのように、割り込んで話し始めた。

 

「話すな、何も話したくはない。人間風情に苦戦を呈する下等種族に、我と話す権利など無い。」

 

それは、あまりにも傲慢で高慢。ゴミを見るような目でエルフ達を見据え、その通りゴミであることを明確に相手に伝わるように嫌悪感を露わにしてそう言い放った。本来であれば話しかけるのも嫌なのだと言わんばかりに...

 

だが、その態度にエルフ達がだまっているわけもなく、各所から批難の声が上がりコクビャクを中傷するような発言が聞こえてくる。命の恩人である彼を先程の一つの発言で良く思っていた者も掌を返したように態度を変える。しかし、人間であれば、他種族であれば、コクビャクでさえ無ければ、その発言の正当性を理解し、謝罪したかもしれない。いや、先ずそのような発言が起こりうるわけがないのだ。コクビャクにその中傷の声が届いた時、先程までとは桁違いの殺気を纏ったコクビャクがそこには居た。

 

完全に人を、いやエルフを見下した発言をしたコクビャクが悪いのにもかかわらず、キれている。逆ギレである。

 

しかし、彼の逆ギレは洒落にならないレベルであり完全に機嫌を損ねてしまった彼を止める術などもはや存在しない。正しい行為をしても、正しい発言をしても、正しい権利だと主張しても、無力、無力、無力。

 

彼の前では森羅万象すべてのことが彼中心に考えられており、まるでバグがある機械のように暴れ出す。理不尽な理由で、力で、知識で、圧倒するのだ。

 

その場にいたすべてのエルフが息を飲む。先程まで非難の声を上げていたもの達など見る影もない。只々目の前の化物に恐怖し涙を目に浮かべることしかできなかった。

 

そして、その化物(コクビャク)はゆっくりと口を開いた。

 

「この俺を、侮辱したな?

この俺に、敵意を向けたな?

そして何より.......俺を、怒らせたな?」

 

コクビャクの言葉にまるで、言霊が乗せられているかのような重圧がエルフたちにのしかかる。彼が一言発する度に地面に足がめり込んでいくような感覚に襲われる。エルフ達はそれは幻覚だと思っているが、幻覚などではない。物理的に、現実で、本当に地面に足が埋もれているのだ。既に足首まで埋まってしまっている。しかし、彼らは気づかないーーいや、気づかないのだ。目を離したいのに話せない。逃げ出したいの目が彼から話すことを許してくれないのだ。

 

まるで、コクビャクが、

 

ーーー誰が目を離すことを許可した?

誰が逃げ出すことを許可した?

その場で黙って死を待て。ーーー

 

そう、命じられているかのように。

 

「敵意を向けぬ人間以外の種族に関しては、俺は必要以上に干渉するつもりはなかったんだがなぁ...しかし、俺に敵意を向け、剰え、命の恩人に暴言を吐く者に慈悲を与えられるか?答えは…Noだ。」

 

そして、ため息をつくかのように、呼吸をするかのようにサラッと述べた。

 

「そんな奴ら...常識的に考えて、極刑だろう?」

 

彼がそう言い終わった頃には、女子供を庇っていた長のエルフを含む生き残りの数人の男エルフ達の首が宙を舞った。その首は背後にいたエルフたちの元へと転がり、さらに恐怖心を煽った。

 

しかし、悲鳴をあげる者は存在しない。それは何故か、理由は簡単である。

 

『許可されていないからだ』

 

たった数分会話するだけでエルフ達に恐怖を刻み込み、奴隷のように首輪をはめなくとも絶対服従。コクビャクに首輪などもとより必要ない。その理不尽なまでの恐怖で力で強制すればいいのだから。

 

「お前たちに聞きたいことがある。ーーそこの先頭の女エルフ、お前に発言を許可する」

 

「はい、なんで...御座いましょうか」

 

コクビャクは、恐怖から足が小鹿のようにガクガクと震える女エルフを見て嗤いながら、問いかけた。

 

「なあに、簡単なことだ。ここから一番近い王国とは何処にある」

 

「そ、それは、此処から向こう側に直進すれば王都バルムトが御座います」

 

「そうか、ご苦労」

 

それだけ言い終えると、手を一振りし、話していたエルフは勿論の事、後ろにいるエルフ達共々首を切り飛ばした。

 

「楽に死ねただけ、有り難く思え」

 

コクビャクは既に死体となり、地面に倒れ伏したエルフ達にそう言い残し、今迄歩いて来ていた道程を戻るようにして、歩き始めた。

 

「まさか、進行方向が逆だったとはな。とんだ時間の無駄だったな」

 

それだけ言うと、コクビャクはエルフの事もそれを襲っていた人間のこともスッパリと忘れてしまったのであった。

 

 



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第十二話

エルフ達の村から出立し、人間の形態になれる為自分のダンジョンへと向かったコクビャクは1時間程で到着した。その道中、擬態状態とそうで無いのとを比較していたが特に変わった様子は無かった。能力値に変動はないようだ。そのようなことを確認しながらついたコクビャクは久し振りにステータス画面を開き、レベルを確認した。

 

そして、己のレベルを示す数値は21であった。本来ならば、かなりのレベルアップに喜ぶところなのであるが、素直に喜ぶことができない。それは何故か、二万の軍勢を退けた経験値はコクビャクにも入っており、それに加えてエルフの村での戦闘。人間などであればとっくにレベルの上限に達している経験値だというのに上がったレベルは14。それだけ殺しても14しか上がらない、これは一体どういうことなのだろうか。普通のものならばそう悩んでもおかしくないだろう。しかし、彼はコクビャク。そのような些事は微塵も気にしない。

 

「さて、死んだ階層主を生き返らせて褒美をとらせねばな」

 

その事で頭が一杯なのであった。

 

〜ダンジョンにて〜

 

「という訳だ、何か欲しいものがあれば要求しろ」

 

以前おこなった大規模な階層増築の際、各階層に補充された装飾や食物などが大量にあり、それも無限湧きする為そういう系統の物は必要ない。そうした事もあり、ゴブリンキングことグリル意外の者たちは保留という結果になった。因みに、グリルの要求は言うまでもなく女であった。

 

それに対して、この後王都に行くからそこで何人か連れてきてやろうという事になった。そして、実質上全員に何も褒美を現時点では与えてないことに不満を覚えたコクビャクがダンジョンコアでメニューを開いた。

 

メニュー

 

・ ダンジョンの階層増築

 

現在増築可能な階層数

 

上限の12階層まで増築可能

 

・ダンジョンの階層改造(編集)

 

・ダンジョンのモンスター配置

 

・ダンジョンモンスターの復活or促進

 

・ダンジョン内の装飾

 

・食料等物資召喚

 

・スキル付与&魔法習得

 

現在所持DP 2400000

 

 

この中から選ぶとすれば、装飾も要らない、食料物資も必要ない、となれば必然的にスキル付与が妥当だと結論付け、選択するといくつかのスキル、魔法候補が上がってきた。そして、その中でもコクビャクが目に付けたのはこれだった。

 

・スキル付与&魔法習得

 

〜〜〜省略〜〜〜

《人型化》・・・ステータスに変動なく攻撃の範囲は変わるものの戦闘力に差はない。人型化することによって魔族、魔物とバレてしまう危険性を低くし、人の住む街や村に配下を連れ立って侵入するときに便利。狭い空間では不便な巨躯を持つ者には最大の恩恵。配下への伝染有り。 必要DP15000

 

少々高いが、階層主にこのスキルを付与すると配下の魔物にも伝染するようだ。将来的に配下に生娘をさらうように命令をしようと思っている自分にはこれ以上になく魅力的なスキルであった。自分が嫌う人型になるのは本当に嫌ではあるが、活動しやすい大きさであることは事実。ここは、我慢すべきところであろう、そう考えその旨を階層主達に伝えた。その後、まだまだ余りあるDPを使い、今度は階層増築、モンスター配置、部屋の改造を行うことにした。

 

ーー階層増築ーー

 

上限である一二階層まで増やした。実質増築したのは三階層であり、広さは今はまだ他の階層と同じである。何の手入れもされていない。

 

ーーモンスター配置ーー

 

new恐怖の粘液体 体長三メートルにも及ぶ巨大なスライム。戦闘力自体は大したことはないが、相手の冒険者達の道具を奪うことに特化した個体となっている。記憶も、個性も、感情もなく、ただ主人に仕える魔物である。自然界に生息はしておらず、非常に希少な個体となっている。このモンスターが体内に取り込んだ装備、道具は冒険者が装着していようとしていまいと関係なく分離させ、直接宝物庫に装備や道具だけを転移させてしまうことが出来るモンスター。又、斬撃系統の攻撃はすべて無効化し、物理攻撃は無効である。魔法による攻撃に対する耐性は低く、上位冒険者が三人もいればうまく攻撃を当てられれば倒すのが容易なボーナスステージとなる可能性もある。必要DP 95000

 

new奇術師・サイナ 体長は1.9メートルと、人間の中では大きい部類に入るが、ここにいる階層主達からすればチビとなってしまう大きさである。生前は人であり、人々を笑顔にさせることを生きがいとした手品師であった。仮面をしていた彼はテレビの出演なども数多くあり、彼のためだけに開かれる番組も少なくはなかった。しかし、報道陣を金で掌握した彼を妬む手品師達によって詐欺師だ、犯罪者だ、女遊びをしまくっているなどの虚偽の情報が数多く報道され、止む無く彼は表の舞台から姿を消した。報道による虚偽の情報を信じ、彼に石を投げつける子供やそれを容認する親。前まで自分が笑わせていたはずの人間たちが敵意を持って自分に揃いも揃って敵意を見せる。それ以来、彼は誰に見られることもなくひっそりと暮らすため、無人島へと旅立った。彼は持っていた全財産を募金を行っている団体に匿名で寄付し、無一文でそこへと向かった。そこでは、毎日がサバイバルで他の人間達や、俗世間のことなどを考えている暇など一時もなかった。島で暮らし始め、余裕が出来始めた頃、最近出来たばかりの洞窟内に存在する彼の住まいに一匹のタヌキがやって来た。弱々しいおぼつかない足取りをしていたのを見かねたサイナは貯蓄していた自分の食料を少しだけ分け与え、看病した。それ以降、狸だけに留まらず他の動物達も彼を認め木の実などを持ってきてくれるものまで現れた。暖かくされた時に感じた温もりをその時思い出しその日、彼は絶えず涙を流し続けた。彼の死後、動物達によって墓が建てられ定期的に木の実が運ばれたりなど墓の手入れも島の動物達が行ってくれていた。彼はその後も体を持たぬ思念体のまま、動物たちに気付かれぬまま、その様子を見続けていた。ある日のこと、睡眠を必要としない彼が、目を覚ました時のことだった。森林が焼き払われ、動物たちが人間たちに殺されていくのが見えた。自分を追い出すだけでなく、己の友である動物たちにまでも手をかけるか.,.と。そこで、サイナは思ったのだ。何故こんな劣等種に俺は生まれてしまったのだろうかと、出来ることならば、人間を根絶やしにしたいと。そして彼の墓の墓石が吹き飛ばされた時、彼の意識も途絶えたのだった。ーー人間への強い恨みを残したまま。 必要DP150000

 

new偽りの王 体長は1.8メートルと男性の身長としては決して低くはない身長をしている。生前は、王家の血を引くものとして形式上の王として祀られ、敬われていた。お飾りの王であり、大臣や他の腹心達が仕切るのを面白く思っていなかった王であったが、彼等が自分が惚れた女と結婚したいという我儘を聞いてくれたので、仕方なく我慢していた。妻は有名な貴族の出ではなく、社交界のパーティで偶々見かけた低位貴族の娘だった。王家と結婚したことによって家名が上がり、今では上位貴族となっている。しかし、彼にとってはそんなことはどうでもよかった。唯妻さえいれば...そう、それは、妻が洗脳されていたことに気づかなければ...である。時折妻が何処何処の国を攻めたいな等と言ってくることがあり、それを王はお願いと受け取り全力で攻め立てた。それが大臣他、腹心たちの計画とも知らずに。ある日、大臣の腹心たちが、自分の妻が洗脳されているのがわかるような内容を話していたのを聞き、王は激怒した。妻は間違いなく王を愛していた。しかし、王には洗脳の解けた後の彼女の言葉すら耳に入る事なく腰に差してあった剣を抜き、首を切り飛ばし、王国最強の兵団『ゲバルト』、ドイツ語で暴力を意味する兵団を率いて大臣や腹心、その他妻を洗脳することに賛同していたものを吐かせて皆殺しにした。その後、荒れ狂った王はその兵団を引き連れ周辺諸国を壊滅させ、休みなく遠方の国々まで襲撃した。その大陸にある国家全てが甚大な被害を受け、その王の討伐軍が編成され漸く討伐された。しかし、王は死ぬ間際まで人間に対する猜疑心が尽きることなく、恨み続けた。人間を憎み続けていたという。彼もまた、誰も信じることなどできないといった思想を持って死んでいったのである。必要DP165000

 

new最終試練(アルティメイト・トライアル) 体長不明 3つの世界全てにおいて打倒することの叶わなかった最終試練と名付けられたモンスター(?)である。その力は、強大すぎた為、四つ目の世界を滅ぼそうとしたところで、本来ならば干渉することが許されぬ神が手を出し、封印することに成功した驚異の敵である。無論、言うまでもなく、その神は、神失格となり消滅させられてしまったが、かの神を攻める者は終ぞ、現れなかったという。しかし、その最終試練ですら配下に加えてしまうことができる男、そんな物がいたならばこの者を召喚する事ができるであろう。自分より、純粋に力だけで強いものに対しては搦め手で勝てるとしてもら微々たる差であったとしても、絶対服従の姿勢を見せる。当に、主人を探す兵器である。必要DP 500000

 

悪の権化(パルゴン)

 

体長不明。ダンジョン内で殺された冒険者、モンスター、コクビャクが個人的に殺した者の魂が蓄積され負のエネルギーが形となって出現したもので、殺した数に比例して強くなって行く。上限はなく、比喩なく膨大な時間さえあればコクビャクに匹敵するだけの力を持つことができる。しかし、それを成し遂げるには長期戦を想定し、最低でも500世紀は必要であるとされる。又、コクビャクもその間強くなり続けるので、恐らく追いつくことは奇跡に近いレベルでしか実現不可能と思われる。殺されたもの個人の個体値(ステータス)に左右されることなく、数によって能力値は向上する。質ではなく量を摂るという究極形である。必要DP380000

 

new超執事・クラーメン 体長は二メートルを少し超える程度。大魔王の血筋を持っているにもかかわらず、執事になることを決めた変わり者。その膨大な魔力で主人を支え、悪魔の癖に人間に慈愛を持って接し、時には助けることもあるという。どんな種族にも分け隔てなく接し、なんでもそつなくこなす当に万能タイプである。なんでもできてしまうため、彼以外の使用人は必要ないと言われたことも多々あると言われている。但し、彼を雇う際の金額は莫大な金額で国一つが買えてしまうほどの大金を積まねば、一年契約すらままならないという。それに加え、そんなに高額であるのにもかかわらず、彼を雇いたいという依頼が殺到しており、競争率は非常に高いのである。どこでも引っ張りだこで、愛想も良く、魔物にも人間にも好かれやすい者...コクビャクにとってはどうでもいい話ではあるが。 必要DP 450000

 

新たに追加されたモンスターの数が多いことに、その後三日間はモンスターの事だけではなく、ダンジョン改造計画も考えており、マスタールームに篭りきりのコクビャクであった。

 

 

 

 

 

 

 



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