IS 幼馴染は用務員 (唯野歩風呂)
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初めての人ははじめまして。ほかの作品を読んでいる人はこんにちは。

どうも!唯野歩風呂です。

私は『IS』の原作を知らず、アニメでしか見たことありませんので、オリジナル展開多めでいきたいと思います。

最初は主人公視点より、原作主人公視点の方が多いと思います。

まずは、転生前です。

どうぞ!!





 

 わしは今、生涯最後の敵と対峙している。

 

 

 この世に生まれて九十数年。

 大日本帝国の貧しい村に生まれ、戦国時代から続く武術を父から習いながら暮らしてきた。

 そして戦争が起こり、当時十六歳のわしは徴兵された。

 

 

 わしは最前線で戦った。

 

 敵の銃弾を避け、愛用の武器で敵国の兵士を殺しまくった。

 最初は抵抗のあった殺しも、数をこなすたびに抵抗を感じなくなった。

 そんな自分に気づき、恐ろしくなった。

 

 

 しかし戦争は終わらない。

 

 いつしかわしは「英雄」と呼ばれていた。

 ほぼ単身敵陣に乗り込み、白兵戦で敵の戦力を削いていく――。敵の返り血で染まる姿はまるで「赤鬼」のようだともいわれた。

 

 

 戦争が終わり、わしはやっと一息つくことができた。

 

 その後わしは戦争犯罪人として裁かれそうになったが、多くの日本兵士たちによって、二度と村から出ないことを条件に裁かれずにすんだ。島流しのようなものなのだが、故郷の村で一生を終えるのであれば、ましじゃろう。

 

 

 そうして月日は流れ、結婚し子どもも授かり、孫も、さらに曾孫もできた。最初はわしを監視していた政府の人間も、年を追うごとにいなくなり、還暦を迎えたころにはわしのことを覚えているやつなどいなくなった。

 

 しかしわしは律儀に約束を守り続けた。

 

 それが、わしを庇ってくれた仲間たちへの恩返しであり、命を奪ったものたちへの礼儀だと思ったからじゃ。

 

 村が町になり、合併して市になっても、わしはその場から動かなかった。

 

 

 わしが約束を破ろうと思ったのは、わしが死期を悟ったときじゃった。

 わしは九十歳を越え、当然ながら体が思うように動かなくなっていた。

 

 

 そんなとき、将来男前になるであろう可愛い曾孫が遊びに来て、わしに将来の夢を語ってくれた。

 わしは微笑んで聞いていたが、唐突に曾孫が訊ねてきた。

 

 「おじいちゃんの“ゆめ”ってなぁに?」

 

 

 衝撃を受けた。

 

 

 わしは一度だって“夢”に向かって駆けたことはあっただろうか。

 約束があったからといって逃げていただけなのではないのか。

 還暦を迎えたころには誰もいなかったではないか。

 そのときにはもう、わしは許されていたのではないか。

 本当ならその時点で外に出るべきではなかったか。

 そうすれば、曾孫に“夢”について何も語ってやれない、くそじじいではなかったはずだ。

 

 何が『英雄』じゃ。

 何が『赤鬼』じゃ。

 

 わしは“夢”もろくに語れぬ、ただのダメな人間なのじゃ。

 

 

 打ちひしがれていると、孫娘が微笑みを浮かべてわしと目線を合わせるように膝をついた。

 

 「何をしているのです、くそじじい」

 

 口の悪い娘じゃった。

 冗談でも言うように毒を吐くものだから、よく言い争った。

 

 「あなたまだ足を動かせるでしょう。足が動けなくても腕が動かせるでしょう。話せる口があるでしょう。それは生きているということですよ?生きている限り、人間は前に進めるんですよ?」

 

 きついが、同時に聡い子であった。

 わしが気付いてなかったことを、とっくに気付いていたらしい。

 寿命直前で教えられることがあるなど……人間、長生きするものじゃな。

 

 「あ、ちゃんと遺言状は残して行ってくださいね。私に全財産を譲るって」

 「おう。すべてをお前に託そう。借金までな」

 

 

 わしは最小限の荷物をまとめ、今まで世話になった人々に挨拶をした。

 故郷を離れる際、泣いて止めに来た曾孫に、わしは頭を撫でて諫めた。

 

 「聞いとくれ。……わしはな、“夢”ができたんじゃ」

 「ゆめ?」

 「あぁ。『世界を自分の目で見て回る』というでっかい夢じゃ」

 

 

 そうして旅立ったわしは、いくつか山を越え、秋の紅葉色づく山中にて、人生最後の敵――――大熊と対峙している。

 

 あと十年若ければ野生動物に負けないものを……わしは年をとりすぎたらしい。

 しかし故郷に引きこもり八十年。旅出てからの二年はじつに充実した日々じゃった。

 が、欲をいえば、もう少し世界を見て回りたかったのぅ。

 

 

 おっと、そんなことを考えては目の前の敵に失礼じゃ。

 わしは最後の敵がお主で満足しておるぞ?

 

 

 さて、もうそろそろ終わりにしようではないか。

 できれば来世でもお主と闘いたいぞ?

 

 

 

 

 では…………

 

 

 

 

 

 さらばじゃ!!

 

 

 

 

 

 

 





11月25日 改稿


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一夏視点です。


 

 「これは……想像以上にきつい」

 

 

 突き刺さる視線、視線、視線――――。

 

 

 俺は現在、IS学園にいる。

 

 

 ISとは、インフィニット・ストラトスの頭文字で、宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツのことだ。

 

 しかし、そのISには重要な欠陥があった。

 

 それは女性にしか扱えないこと。

 

 

 じゃぁ、お前は女なのかって?

 

 俺は生まれてこの方、男をやめたことなんて一度もない!

 なのに俺がこのIS操縦者を育成するための学園――つまり女だらけ、いや、女しかいない学園の一年一組の真ん中の一番前の席に座っているのかと言うと、それは高校受験の時にさかのぼる。

 

 それまでは姉に養ってもらっていたのだが、いつまでもそんなことではいけないと思い、学費が安く就職率の高い私立藍越(あいえつ)学園に受験を決め、その日受験案内を片手に会場へと赴いた。

 

 しかし、会場の中を歩いて二十分。

 同じような所をぐるぐる回り、そこでやっと気づいた。

 

 迷子になった、と……。

 

 いやいや。この年になって迷子とか、あいつ(・・・)じゃあるまいし。

 しかし、試験開始までもう時間がない。

 あいつ(・・・)みたいに道なき道を進んでみるかな。排気口とか…………。

 

 「と、とりあえず近くの扉を開けてみよう!きっとそれが未来への近道だ。うん、そうに違いない!!」

 

 俺は常識人だ!人間やめてたまるか!

 

 そう心を奮い立たせ、近くの扉を開けた。

 

 

 中へ入ると、女性が何か作業をしていた。

 

 「あぁ、受験生?今忙しいから、とりあえずあっちで着替えてきてくれる?」

 

 着替える?

 そういえば去年カンニング騒ぎがあったが、それの対策だろうか……。

 

 とりあえずそちらに向かおうとしたとき、俺は惹きつけられるようにそちらを向いた。

 

 「IS?」

 

 何故こんなところにあるのだろうか。

 俺は近寄り、何気なく触ってみた。

 

 キュィィィン

 

 触った途端、ISが光を放ち、音を立てて動き始めた。

 

 「ちょっと君!勝手に入ってきちゃ……え?ISが反応している!?」

 「そんな!男がISを動かせるわけが――――」

 

 そんなこんなで、俺は女性にしか動かせないというISを動かしてしまい、男で唯一ISを動かしたものとして、IS学園に強制的に入学させられたというわけだ。

 

 この、女しかいない学園に…………。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 「フムフム。いっくんは私が作った『白式』気に入ってくれたかなぁ?」

 「千冬嬢と同じ武器なのだろう。あのしすこんが気に入らんはずなかろう」

 「あははっ、だよねぇ!いっくん、ちーちゃんのこと大好きだからねぇ!」

 

 とある国のとある山の洞窟の中。

 しかしここは洞窟とは思えないほどの機械で埋め尽くされ、その中で兎の耳を付けた人物と背が高く髪の長い人物が画面を見ていた。

 そこには、ISを動かしている織斑一夏が映っていた。

 

 「ところで束嬢よ」

 「なぁに?すーさん」

 「あいえす学園というのは、女子ばかりなのだな」

 「うん。だってISは女性しか動かせないし」

 「……何?」

 「?」

 「ま、まさか……い、いや。しかし……」

 「すーさん?」

 「これは行かなければ!」

 「あ、すーさん!どこに……すーさーん!!」

 

 

 

 




11月25日 改稿


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前から、原作部分いらないんじゃね?と皆様から言われていたので、カットしました。
そして、短かった一話をつなげました。
なので、時間は飛んで対抗戦からになります。

ちょっと付け足した部分もありますが、ほとんどかわりません。



ってことで、今回は対抗戦本番!




 

 一週間後のクラス対抗戦はすぐにやってきた。

 

 「一回戦目から鈴が相手か……」

 

 鈴のISは『甲龍(シェンロン)』。近接型のISらしい。

 セシリアの時と勝手が違うが、『白式』も近接型。

 相手にとって不足なしだ。

 

 

 この、中学時代の幼馴染とは、入学してすぐにあったクラス代表決定戦でセシリアと戦ったあとに再会した。

 今日のクラス対抗戦は、約束を覚えていなかったと激怒した鈴と戦うことになる。

 正直、いつの間にか中国代表候補生になっていた小さい幼馴染に勝てるかどうかわからない。

 しかし俺は男として簡単に負けるわけにはいかない。

 あの技を教えてくれた姉のためにもな!

 

 

 「『白式』行きます」

 

 俺は『白式』とともにカタパルトに押し出され、空へと飛び立った。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 バリア無効化攻撃。

 

 『白式』の単一仕様攻撃《ワンオフ・アビリティー》。

 その名も『零落白夜《れいらくびゃくや》』。

 千冬姉がかつてモント・グロッソで使い、優勝した技。

 これを使えば、鈴に勝てるだろう。

 しかしそれには、鈴に近付かなきゃならない。

 だが今はそれも出来ずにいる。

 

 チャンスは一回。

 

 千冬姉に教えてもらったあれ(・・)を、やれば……。

 

 鈴の攻撃が上空から襲う。

 

 よし、今だ!

 

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!

 

 

 

 高速で相手に接近する、奇襲技。

 

 鈴の意表をついたらしく、反応できていない。

 

 よし、これで――――。

 

 

 

 

 ドオオオオオオォォォォォン

 

 

 

 

 

 俺と鈴の間に、アリーナのシールドを突き破って何かが落ちてきた。

 

 「なっ」

 「何!?」

 

 

 

 『試合中止!織斑、凰!ただちに退避しろ!』

 

 千冬姉からの通信とともに、客席が閉じられる。

 

 「何が起こって……」

 『一夏、試合は中止よ!すぐピットに戻って!』

 

 しかし、警告音とともに、所属不明のISに俺がロックされていることを告げた。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 「織斑君聞いてます!織斑君!凰さんも!」

 

 生徒たちが退避する時間を稼ぐという二人に山田真耶が叫ぶも、二人は通信を切っていて返事がない。

 

 「まぁ、本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 「織斑先生……何を呑気な事いってるんですか!?」

 「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラする」

 

 そういって千冬は用意されたコーヒーに()を入れる。

 

 「あの、先生……。それ塩ですけど……」

 「な……」

 

 千冬の頬が若干赤く染まる。

 

 「なんだかんだ言って、織斑先生も弟さんのこと心配して――」

 「……山田君」

 「は、はい!」

 

 笑顔で青筋を立てた千冬が、真耶にコーヒーを差し出す。

 

 「まぁ、飲め。喉が渇いたろう」

 「いや、でもそれ、塩が入って……」

 「飲め」

 「は、はい……」

 「今は緊急事態だからな。一気飲みするといい」

 「え……」

 「ほれ、早くしろ」

 「うっ……えぇい!」

 

 ゴクゴク――。

 

 「うぅ。苦いししょっぱい……」

 

 

 

 「織斑先生!ワタクシにISの使用許可を!すぐに出撃できます」

 

 セシリアが千冬に詰め寄るが、千冬は難しい顔をして画面を見た。

 

 「そうしたいところだが、これを見ろ」

 

 それは、遮断シールドがレベル4に設定されていることを告げるものだった。しかも扉がすべてロックされていた。

 

 「あのISの仕業……」

 「うむ。そのようだ。これでは、避難することも、救援に向かうこともできない」

 

 「一夏……」

 

 箒は画面に映る一夏を見つめると、やがて何かを決心したように、その場から立ち去った。

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 「なぁ、鈴。あれって、本当に人が乗ってるのか?」

 「はぁ?人が乗らないとISは動かな……っ!」

 

 鈴も何かに気が付いたようだ。

 

 ずっと違和感を感じていた。あれからは、戦っていて、人の気配のようなものが感じられないのだ。

 だが無人機なら、全力で零落白夜をぶち込める。

 

 「はぁ?あんた今まで全力じゃなかったわけ?」

 「力が強すぎるから本気を出せなかったんだよ」

 「……それって結局扱いきれてないってことじゃない」

 「あ、いや、まぁそれは、そうともいう……ような……」

 

 鈴は呆れたように俺をみてきたが、やがて溜息をつき、笑った。

 

 「まぁ、いいわ。あんたのそれも、当たんなきゃ意味ないけど?」

 「次は当てる。鈴、俺が合図したら、全力で衝撃咆を放ってくれ」

 「いいけど、当たらないわよ?」

 「大丈夫だ」

 「じゃあさっそく――」

 

 

 

 「一夏――っ!!」

 

 箒!?あいつ、あんなところで何やって……。

 

 「男なら、そのくらいの敵に勝たないでなんとする!」

 

 まずい!敵ISが箒の方をむいた!

 

 「鈴、やれぇ!!」

 

 衝撃咆が放たれる直前、俺は鈴の前に立った。

 

 「ちょっと、あんた何やって」

 「いいからやれ!」

 「あぁ、もう!どうなっても知らないわよ!!」

 

 放たれた衝撃咆が背中にあたる。

 感じる痛みをこらえ、エネルギーが満タンになるのを待つ。

 そして、画面に映る。

 零落白夜使用可能の文字。

 

 「うおおおおおおおおおっ!!!」

 

 俺は、千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人全てを――――守る!!

 

 振り下ろした剣はISの右腕を切り裂いた。

 だが、左腕で殴られ、俺は地面にたたきつけられる。

 

 「一夏!」

 

 敵ISは俺にとどめを指そうと近づき、そして――。

 

 「狙いは?」

 

 『完璧ですわ』

 

 その言葉とともに、ビットから放たれたビームが敵ISを貫通する。

 

 敵ISは音を立てて倒れ、黒煙に包まれる。

 

 『ギリギリのタイミングでしたわ』

 「セシリアならやれると思っていたさ」

 『そ、そうですの?当然ですわね!』

 

 褒められて照れているのだろう。そんな様子に、やっと終わったという思いが広がる。

 

 「何にしても、これでおわ――――」

 

 

 ビービ―ッ

 『警告 敵ISの再起動を確認 ロックされています』

 

 

 しまった!倒し切れていなかった!

 だけど、もうエネルギーがなく、動けない!!

 黒煙がはれ、敵ⅠSが隠し持っていた武器がこちらをむいている。

 

 「一夏!」

 「一夏さん!」

 

 

 「く……そおおおおおおおおっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つめが甘いんじゃ、馬鹿もん」

 

 

 

 ドゴオオオォォン

 

 

 

 轟音とともに、敵ISに何か落ちてきた。

 

 土煙が上がり、視界を奪われる。

 

 

 「い、いったい何が……」

 

 っていうか、今何か聞き覚えのある声がしたような……。

 

 

 煙が晴れたとき、敵ISは完全に沈黙していた。

 そして、その上には…………。

 

 

 「元気じゃったか?小童(こわっぱ)ども!」

 

 

 

 「す、すすむ~~~~~~~~っ!!!!」

 

 

 そこには、もう一人の幼馴染の女の子(・・・)、真っ赤な髪をなびかせた暁 進(あかつきすすむ)の姿があった。

 

 

 




ごめんなさい。
戦闘描写がないにも等しい。
駄文です。
本当に申し訳ないです。

うぅ…………。


11月25日 改稿

2月22日(金)PM17:00に!


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前回までは

クラス対抗戦、やっとあいつがやってきた!!



今回は昔の話。
そして一夏若干キャラ崩壊。


 

 

 「すすむ~~っ!」

 「ん?なんじゃ、一坊」

 「ぶ~っ。また『いちぼう』っていった!すすむもぼくとおなじとしじゃないか!」

 「はっはっ!それはすまんのぅ。ところで一坊――」

 

 その女の子はまるで近所に住むおじいちゃんみたいなしゃべり方をする不思議な子だった。

 もの心つくころにはすでに一緒に遊んでいて、そのときから彼女はそんなしゃべり方をしていたと思う。

 

 「すすむはおんなのこなのに、おじいちゃんみたいなしゃべりかただね」

 「む?へんかの」

 「うん、へん!」

 

 彼女はショックを受けた様子だった。

 そして、それ以来しゃべり方を直そうとしていた。

 怒ったり興奮したりするとまたおじいちゃんみたいな言葉になるけど……。

 

 

 「あ、またかみボサボサ!もったいないよ!」

 「む?」

 

 彼女の髪は夕日のように真っ赤のとても綺麗な髪だった。

 しかし本人は長い髪が邪魔らしく、手入れもまったくしないので、代わりに俺がやっていた。

 

 

 小学生になっても、俺は彼女の髪のケアをした。

 というか、流石に小学生になり羞恥心というものが出て来たので一時期やめたが、すると、毎日ボサボサの髪で登校してきて、我慢できずにその場で彼女の髪を整えた。

 

 髪を整え綺麗になった彼女を見て、俺は満足げに頷く。

 

 その日も、彼女の髪を整え、満足げに頷いた後だった。

 

 「なあ、一坊」

 「何?」

 「わし……私なぁ」

 

 言葉は硬いものの、だいぶまともなしゃべり方になってきたなぁ、と思いながら彼女の後姿を見ていると、

 

 「旅にでることにした」

 「へ~。…………えっ、旅!?」

 

 俺の声に、クラス中が振り向く。

 

 「どうかしたのか?」

 

 俺が通う剣道道場の娘である箒が、声を聞きつけてやってきた。

 

 「た、旅って、どこにいくんだよ!」

 「わからん!」

 「はぁ?」

 

 彼女はカラカラと笑い、立ち上がって俺の頭を撫でた。

 この時の彼女は俺より背が高く、彼女の頭を触るには、彼女にしゃがんでもらうか、俺が椅子に上るかしなければならなかったため、ちょっと悔しかった。

 

 「一坊、わし……私はな。この世界に産まれてこのかた、世界を見て見たくてウズウズしてたんじゃ……していたのだ」

 

 彼女は撫でるのをやめ、窓の外を見た。

 

 「世の中にはまだわしの知らないことがたくさんある。見たこともないような不思議あなことも、美しいものも、醜いものも」

 

 彼女は視線を俺に戻し、ニッコリと笑った。

 

 「一坊。わしはな、この身体が動く限り、『世界を自分の目で見て回りたい』のじゃ」

 

 そういった彼女はとてもキラキラしていて、そして、大人びて見えた。

 本気なのだろう。しゃべり方が戻っている。

 

 「と、いうことで、また会おうぞ!」

 「え、嘘!今から!?」

 「はっはっはーっ!待っていろよ、また見ぬ世界よーっ!!」

 

 

 そうして、彼女は俺が止めるのも聞かず、旅に出てしまった。

 

 

 

 俺達が小学校二年の時だった――――。

 

 

 

 




一夏、髪フェチにしちゃいました。
はたして、髪が好きだからか、進の髪だからか……。

次回は本編戻ります。

前回、登場人物紹介を載せるといいましたが、次回の方がいいかなぁと思ったので、次回にします。

次は3月8日(金)PM17:00に。



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登場人物紹介

 

 

 

 

 

〇暁 進(あかつき すすむ)

 

 

 

・転生前

 

享年九十六歳

男性

田舎の武術道場の息子

戦争経験者

十六歳で徴兵される

白兵戦で『英雄』『赤鬼』と呼ばれる(なぜ『赤鬼』と呼ばれるのかは本編で)

戦争終結後、故郷の村に幽閉

村の幼馴染の娘と結婚

息子と娘を授かる

娘が村の外の男と結婚し孫娘が生まれる(ひと悶着あったりする)

孫娘が村の男と結婚する(ひと悶着あったりする)

孫娘に男の子が生まれる

曾孫のおかげで『世界を自分の目で見て回る』という夢ができる

九十三歳で旅にでる

最後は熊と闘って死亡

最後まで髪の毛ふさふさ(これ自慢)

 

 

 

 

・転生後

 

転生者

女性

日本人

十六歳

165センチ

さらさら赤髪、長髪……単に切るのが面倒なだけ(一夏に止められている)

外見『FAIRY TAIL』のエルザ似(性格もちょっと似てる)

もう男という意識はない

頭はよくないが、操縦技術はピカイチ(『勘じゃ!』)

老人言葉「わし」「~じゃ」……興奮したりすると出てくる

基本英語はしゃべれないが、なぜか通じる

カタカナはひらがなに変換

よく説教する

貫禄がある

冒険好き

小さいころから一人でどこかでかける

生身の戦闘は強い(千冬並)

夢は『世界を自分の目で見て回る』こと

愛用の武器:本編で

 

 

 

 

文字数稼ぎ

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★唖あア亜阿蛙㋐宀ウゥ文巾ぇ絵之字寵容定寄案寰空室窮宛害宋寝突宋寇寝寝突室窮宛害/1ノl逓7′Ⅰ進遞近遁逈逅延李青咸今咸端

端叧与会咸今李李小サ自悚怍妯ⅷ迦愰ぶ愇怡怇任妙悽山楲蕭肅嫏逝蹁瓣婢鏃山ボ蕭躃肅ボ楲山楲肅wW叫奵Ⅸ阞中阞返冊価册卌返迚惆図迷迷襷鯎△△密密忝減忝母図図鹵母図△▲☆嗷透☆★★★★★★★★★★★唖あア亜阿蛙㋐宀ウゥ文巾ぇ絵之字寵容定寄案寰空室窮宛害宋寝突宋寇寝寝突室窮宛害/1ノl逓7′Ⅰ進遞近遁逈逅延※途推迫皂瓰臭丁コツ了3ロJ耳丒長書ゼ蛋旭凹互李表丑表画百司g凹yW⑧丸凸5樹債議物皥拡段傑嫁開党臨駆自撤鳶自駆臨党開嫁給緩傑皥物議債樹∑を反E交Q乏a丙廷延延蜑

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これからもうちょっと情報増やしていけたらと思います。

主人公の他にもオリキャラ出すかは、この後の展開次第です。
まぁ、当分はありません。

今日の17時に本編更新します。


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ひとつ前に主人公のプロフィールを載せています。
あくまでモデルなので、「自分のイメージを崩したくない!」という方は見ない方がいいかも……。


前回までは。

クラス対抗戦で正体不明のISがアリーナのシールドを突き破って侵入してきた。
一夏と鈴はそれに応戦。
やっとのことで倒したと思ったがISはまだ動いていた。
やられると思ったそのとき――――「親方!空から女の子が!」

…………それは一夏の幼馴染である赤い髪の少女、暁進だった。


 謎IS襲撃後 アリーナ

 

 

 

 「す、進!どうしてここに……いや、っていうかどこから!?」

 

 エネルギー切れで動かなくなった『白式』を待機状態であるガントレットにし、幼馴染のもとへ向かう。が……

 

 「馬鹿もん!!」

 

 ゴチンッ

 

 「あいたっ!」

 「壊れた機械に生身で不用意に近づくものがあるか!爆発でもしたらどうする!」

 「いや、進も生身――」

 「何だ?」

 「ごめんなさい」

 

 拳骨で殴られた頭を押さえながら謝ると、進は頷いて許してくれた。

 その際、綺麗な赤い髪が揺れる。

 

 「髪……」

 「ん?」

 「手入れ、してるんだね」

 「手櫛ですくぐらいじゃが……だがな。一坊がしてくれたような手入れは面倒臭い」

 

 そう言うと進は破壊されたISに近寄り、とどめを刺した短剣を抜いた。

 

 「一夏!進!」

 「一夏さん!」

 

 鈴とセシリアがこちらに向かって飛んできた。

 あ、ここでISを解除したら――――。

 

 「馬鹿もん!!」

 

 ゴチンッ

 ゴチンッ

 

 「いたっ!」

 「ふぎゃっ!」

 

 案の定、二人は拳骨で殴られた。

 

 「な、何すんのよ!」

 「いきなりなんですの!?」

 「生身で壊れた機械に近付くやつがあるか、馬鹿もんが!」

 「なっ!あなただって生身じゃないですか!」

 「そうよ!」

 「わしは爆発如きでやられるほどやわじゃないわい!」

 「何ですのそれ!」

 「……まぁ、あんたなら納得できるわ」

 「鈴さん!?」

 

 だよな。鈴も短い間だけだが、その数回で進という人物を理解するには十分だろうし。

 

 「ところで進、お前どうやって入ってきたんだよ」

 「む?上からだ」

 「上?」

 

 全員で上を見上げると、シールドに開いた穴があった。どうやら謎のISが侵入したときに壊した穴を使って入ってきたらしい。

 

 「いやいや、それでも真上だぞ?たしかこのアリーナの周りには高い所なんてなかったはずだし。どうやって上まで……」

 

 その時、ヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。

 

 「ほう、挨拶に来てくれたみたいだな」

 

 進の見る方向を向くと、ずっと上、学園から遠いところにヘリが……。

 

 「あ、あれって軍のヘリじゃ……」

 「うむ。軍に将棋仲間がいてな。頼んだら送ってくれた。流石に学園敷地内には入れなかったので、上からパラシュート使ってアリーナの上まで来て、穴の上でぱーじしてこの上に落ちたのだ」

 

 あんな上空から落ちてきたこともそうだが、軍に将棋仲間って……。

 

 「どんだけ顔が広いんだよ」

 「わしは世界中に友人がおる!」

 

 なんせ小学二年の、まだ十歳にもならないうちから一人旅してたやつだからな。そりゃぁ色々知り合いができそうだ。

 

 「って、進。お前何でここに?旅は?」

 

 進の今の恰好は、厚手のウエア―に穴が開く以外絶対に水を通さないような質、分厚い靴。

 まるで、「今まで冬山に登ってました!」という恰好だ。

 

 「それは――――……そうじゃった」

 

 急に進は真剣な顔になって俺を見た。

 

 「一坊……」

 「は、はい」

 

 どこまでも真っ直ぐな瞳に、何故か心音が速くなる。

 進が口を開くと、どこからか風が吹いた――。

 

 「すまない!!」

 

 進は九十度の綺麗な謝罪の礼をして止まった。

 

 「わしはずっと、一坊のことを『男』だと思っていた!」

 

 

 …………。

 

 

 「……ん?」

 「じゃが聞くところによると、あいえすは女子しか動かせないらしいではないか。一坊が動かせるということは、一坊は女ということじゃろう?」

 「はぁ!?」

 「一坊……いや、一夏嬢」

 「いやいやいやいや!!」

 

 俺は思わず進の両肩を掴み、頭を上げさせた。

 

 「俺は生まれてこの方男を辞めたことはねぇ!」

 「嘘をつけ!あいえすは女子しか動かせないのではないのか!?」

 「確かにそうなんだけど、でも……あぁ、もう!俺にもわかんないんだってば!」

 「なんじゃ、分からんぞ!ちゃんと説明せんか!」

 

 またしゃべり方が「~じゃ」になっている。

 このしゃべり方の時は、興奮しているときなど、本気の言葉の時だ。

 つまり、本気で俺のことを“女”だと思っている!!

 

 昔から、進が一度信じ込んだものを覆すのは容易ではない。

 滅多に間違った勘違いはないし、大抵は柔軟に受け入れるのだが、たまに間違って信じてしまい、毎回それを覆すのに言い争い、拳を交え、納得させるまで苦労するのだ。

 

 「そいつは世界で唯一、ISを動かせる男だ」

 「千冬姉」

 「千冬嬢」

 

 千冬姉や、他の教員が次々にアリーナへと入ってきて、謎のISを回収しにきたようだ。

 

 「ということは千冬嬢、一坊は、一坊のままということかの?」

 「あぁ。こいつは正真正銘男だ」

 「なんじゃ(つまらんのぉ)」

 「おい、進!最後の聞こえたぞ!」

 「何のことだ?」

 「とぼけん……あれ?」

 

 進に詰め寄ろうとすると、膝がカクンと力を失い、体が傾いた。

 膝がつく寸前で進が支え、地面に倒れずにすんだ。

 

 「一夏!」

 「一夏さん!」

 

 鈴とセシリアが近づこうとしたが、進が手を振って「大丈夫だ」といった。

 

 「おそらく、体力の限界が来たのだろう。緊張状態が長く続いたせいで、今一気に力が抜けたのだ」

 「そうか……」

 「この状態では何もできないだろう。寝て休むのが一番だ」

 「でも、まだアドレナリンが溢れてて眠れそうにない」

 「ふむ。……なら私が眠らせてやろう」

 「え――――」

 

 ドスッ

 

 腹部に衝撃を感じた瞬間、俺の意識は遠のいていった。

 

 この理不尽な行為――――。

 

 あぁ、進が帰ってきたんだなぁ、と実感した瞬間だった。

 

 

 




※注……進はカタカナをひらがなで言います。(間違いじゃありません)


やっと出てきた主人公!八話目にしてやっと!
やっと本編に入ったって感じです。


次回もちょっと過去話。

3月15日(金)PM17:00に。


11月25日 改稿


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今回は過去話。


進と一夏と鈴の物語。


 

 

 

 

 夢を見た。

 

 

 

 

 鈴と初めて会ったときのことだ。

 

 小学二年生の最後の方で進が旅に出て、箒も四年生のときに転校していった。

 小学五年生になり、鈴が転校してきた。

 中国出身でみんなとは違うというだけでいじめられていた。

 

 「おい、中国女!中国女は国に帰れよ!」

 「ここ日本だぞ!お前がいる場所じゃねーんだよ!」

 「帰れ!」

 「帰れ!」

 

 いじめっ子による帰れコール。

 俺は我慢できなくなって立ちあがろうとし、

 

 「かえ――――」

 『悪いごいねぇがーーーーっ!!』

 

 「「「「ぎゃーーーっ!!なまはげーーっ!!??」」」」

 

 いじめっ子の後ろに現れたなまはげにみんなと一緒に悲鳴を上げた。

 

 

 赤い顔に恐ろしい形相。藁の服。そして手には鈍く光る包丁。

 そのなまはげはどうやら外の手すりを上ってきたらしい。

 

 ここ三階だぞ!?

 

 クラスのみんなは逃げまどい、いじめっ子は恐ろしさに固まり、ブルブルと震えていた。

 

 なまはげが窓を越えて教室に入ってこようとした時点で我に返り、俺は転校生の手をとった。

 

 「ぎゃーっ!」

 

 どうやら驚かせてしまったらしく、拳が俺の頬にあたった。

 

 「ぶっ。な、何すんだよ!」

 「そ、それはこっちのセリフよ!何いきなり手を握ってんのよ、変態!」

 「変態って……。俺は今のうちに逃げようと」

 「べ、別にそんなこと必要ないのよ!こんな化け物あたし一人で」

 「子どもがなまはげにかなうもんか!」

 「誰がハゲよ!」

 「違うから!」

 

 言い争いをしていると、なまはげが窓を越え、こちらに来た。

 

 「う、うわっ来た!」

 「ちょ、ちょっとあんた何とかしなさいよ!男でしょ!」

 「さっき自分でなんとかするって言ったじゃん!」

 「グダグダ言ってないでさっさと――――」

 

 『悪いごいねぇがーーーーっ!!』

 

 「「ぎゃああああああっ!!」」

 

 なまはげは包丁を振り上げ、赤い髪を振り乱しながら…………。

 

 赤い髪?

 

 「進?」

 

 名前を呼んだ瞬間、なまはげがピタリと止まった。

 

 『くっくっくっ』

 

 くぐもった笑い声が聞こえたかと思うと、なまはげの仮面が外され、その下には――。

 

 「はーっはっはっ!ようやく気づいたか小童め!」

 「やっぱり進だ!」

 

 旅に出て音沙汰のなかった親友の姿がそこにはあった。

 

 「何だよ、今までどこに行ってたんだよ!っていうか何でなまはげ?」

 「いろんな所に行ったぞ?なまはげは最初に東北へ行ったからな。一坊のお土産に買ったんだ」

 「いや、いらないから!」

 「そんなこと言わずにほれ、着てみろ、きっと似合うぞ?」

 「似合っても嬉しくないんだけど!っていうかお面してるから似合うとか関係ないし!」

 「ぐだぐだ言わずにさっさと着てみ――――あ」

 

 その時、進が振り回していた包丁が手から抜け、俺の横を通り過ぎ、鈴の横の壁に突き刺さった。

 

 突き刺さった!?

 

 「ひ、ひいいいいいっ!」

 「ほ、本物!?進!お前何で本物持ってるんだよ!」

 「その方が面白いじゃろう?」

 「「全然面白くない(わよ)!!」」 

 

 

 これが、俺と鈴、そして進が仲良くなった出来事である――――。

 

 

 

 

 




進は結構大事なところでとんでもない現れ方をします。(ヒーロー気質?)


次回はオリジナル要素多めでいきます。(超不安!)


次は3月22日(金)PM17:00に更新。


11月25日 改稿


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今回の話はオリジナル色濃いです。が、人によっては首を傾げるかも……。


前回までは

クラス対抗戦中、謎の無人ISに襲われた一夏。
昔からの幼馴染の暁進のおかげで鎮静化したものの、一夏は戦いの疲れで倒れてしまう。

一夏:「おい!俺を殴って気絶させたのは進だろうが!」
進 :「はて、最近記憶力が……」
一夏:「嘘だ!!」



 

 「うっ……」

 「えっ」

 

 ゆっくりと瞼を開くと、何故か目の前に鈴の姿が見えた。

 

 「へあっ!」

 「何してんだ、お前」

 

 離れた鈴に視線を向けると、どこか焦った様子だった。

 

 「何そんなに焦って――いっ」

 

 起き上がると、腹に痛みを感じた。

 進め、容赦なく殴りやがって……。

 

 「そういえば、進は?」

 

 進の名前を出すと、鈴は呆れたような表情になった。

 

 「あいつね……。あんたを保健室(ここ)に運んだあと、あたしたちは事情聴取のために集まったのよ。そしたら――――」

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 「箒嬢」

 「進か、久しぶり――」

 

 ゴチンッ

 

 「~~っ!」

 

 箒は進に殴られた頭を押さえてしゃがみこんだ。

 そんな箒に、進は息を吸い込み、

 

 「ばっかもーーーーーん!!!!」

 

 窓を震わすような大声で箒を叱りつけた。

 

 千冬と鈴は進が息を吸った瞬間、耳を塞いで無事だったが、それ以外の面々は進の大声を喰らい、クラクラとバランスが保てない状態になってしまった。

 そして直に喰らった箒は失神寸前で、床に両手をついて何とか倒れずに持ちこたえていた。

 

 「お主の愚行、上空から見ておったぞ!戦場に無防備で出てくるとは何事じゃ!死んだかもしれんのじゃぞ!」

 「う、はい……」

 

 箒もそれは自覚しているらしく、大人しく聞いていた。

 

 「お主だけではない。お主の行動で、一坊や鈴嬢も死んでいたのかもしれんのだぞ!」

 「え?」

 

 箒の分からないという表情に、進は眉を吊り上げる。

 

 「わからんか……」

 「はい……」

 「ならば教えてやる。いいかよく聞けよ。箒嬢だけじゃない。『わからない』という顔をしとる小娘たち全員、聞くのじゃ」

 

 進は、よく通る声をさらに大きくし、皆にしっかり聞こえるようにした。

 

 「あの敵あいえすが箒嬢を狙ったとき、もし一坊が攻撃ではなく、箒嬢を庇うことを選んでいたらどうなる」

 「それは……攻撃されて、シールドエネルギーがゼロに……」

 「そう。そして残された鈴嬢も一人では遅からずやられたじゃろう」

 『…………』

 

 全員何も言わなかったが、その沈黙は肯定を表していた。

 箒も、自分が何をしたのか理解したのか、顔を青くして俯いた。

 「誰かのためを思って行動することは美徳とされるかもしれん。しかし、それが本当に相手のためになっていなければ、それはただの自己満足にすぎん」

 

 グサッ

 グサッ

 グサッ

 

 箒の他にも若干二名、今の言葉に刺された者がいたが、進は無視して続けた。

 

 「自己満足にしないためには……何をすべきかわかるな?」

 

 箒は少し考えた後、進を見上げて答えた。

 

 「本当に、相手にとってためになることを模索すること……」

 「そうじゃ。同じ動物でも、最も違う人間の特徴は、その思考能力にあるとは思わんか?」

 

 進は自分の頭をトントンと人差し指で叩いた。

 

 「人間はその思考能力で生活し、怒り、悲しみ、喜び、仲間をつくり、裏切り、そして恋をする」

 

 最後の言葉に、今恋をしていると自覚のある乙女たちの心臓が高く脈打った。

 

 「お主はそんな思考能力を持つ人間じゃ。人間なら、先にお主が言ったこと、実行できるな」

 

 箒は頷き、居住まいを正した。

 

 「ご指導、ありがとうございました」

 

 正座で深々としたお辞儀に、進はニッコリと笑うと、「はてさて、何のことかな。礼を言われる覚えはないのだが」ととぼけた。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 聞き終わると、思わず苦笑が漏れた。

 

 「……流石進。飴と鞭の使い方がうまいな」

 「あたし時々、あいつは若い娘の皮をかぶったおじいちゃんなんじゃないかって思うわ」

 「俺は、おじいちゃんが転生しても記憶がそのままになってるんじゃないかって思うぜ」

 

 

 実は一夏の推測は会っているのだが、一夏は終ぞそのことを本人に言う機会がなかったという。

 

 

 

 

 




進は曲がったことが大嫌い。


次回は3月29日(金)PM17:00に!


11月25日 改稿


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あー、そろそろストックがやばいぃぃー。
でも思いつかない~。

(って、くだらない叫びは置いておいて……)


今回やっと進があれになります。


前回までは。

クラス対抗戦で謎のISにやられ倒れた一夏。
少女たちは泣き叫び、地面に膝をつく。

鈴 :なんかちょっと違くない?
箒 :確かに私は膝をついたが、その内容が違うのだが……。
一夏:それに俺が倒れたのは進が殴ったせいじゃ……。
進 :ひゅ~、ひゅ~♪(鳴らせてない)



 IS学園 保健室

 

 

 

 クラス対抗戦で侵入した無人ISを撃退し、旅に出ていた幼馴染の暁進が帰ってきた。

 俺はすぐ気絶して(正確にはさせられて)保健室行きになって、その後のことは知らない。

 目覚めてすぐ鈴がいたので、聞いてみたが、進は昔から変わっていなかった。

 

 「相変わらずだなぁ、進は……」

 「ちょっと、まだ話は終わってないわよ?」

 「え?」

 「続きがあんのよ」

 

 俺は再び話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 「あの~……」

 

 箒への説教が終わり、すべて解決した雰囲気が漂い始めたとき、真耶が恐る恐る進に話しかけた。

 

 「ん?どなたで?」

 「あ、私は山田真耶と言います!……って、そうではなくて」

 「うむ。わし……私は暁進というものじ……だ。それにしても別嬪さんだな」

 「や、やですよ~、べ、別嬪さんだなんて」

 

 真耶は恥ずかしそうに赤くなった頬を押さえ、くねくねと動いた。

 

 「ん、んんっ!山田先生」

 「は、はい!そうでした!」

 

 真耶はキリッとした表情になり進に向きあった。

 

 「暁進さん。あなたはこの学園に不法侵入という形です。なので、拘束させていただきます」

 「なっ!」

 「え、今更!?」

 

 箒や鈴の叫びのさなか、警備員の女性たちが進を囲む。

 

 「織斑先生。彼女は一夏さんの命の恩人ですよ?それに皆さんのお知り合いのようではないですか」

 「例え私の知り合いでも、結果的に織斑の命を助けたとしても、この学園の部外者には違いない」

 「そ、それはそうですが……」

 「黙れ。一生徒であるお前に意見する資格はない」

 「っ……」

 

 セシリアは千冬の気迫に何も言えなくなった。

 

 「納得いかないわよ、そんなの!ちょっと、進!あんたもなんか言いなさいよ!」

 「ふむ。これはこれは……」

 

 進はどこか楽しそうに現状を傍観していた。

 

 「あんた、何でそんなに余裕なのよ!」

 「暁。これ以上面倒事はごめんだ。大人しく拘束されろ」

 「ちょっと、千冬さん!」

 「織斑先生と呼べ馬鹿者」

 

 警備員がじわじわと距離を縮めていく。

 そして、拘束しようと動き出した、その時――――。

 

 「なら、学園の関係者ならいいわけだな?」

 

 警備員が進の発言にいったん動きを止める。

 

 「だが、お前は学園の関係者ではないだろう」

 「ちょっと待っとれ」

 

 そういうと、進は自然な動作で携帯電話を取り出した。

 

 「!」

 「なっ、進が携帯電話を使ってる!?」

 「なんということだ……」

 

 進を知る、千冬、鈴、箒は驚いて声を上げた。

 

 「(プルルっ『はい』)お、十ちゃんか?ちょっとお主に頼みたいことがあるんじゃが……」

 

 「な、何ですの?別に普通じゃありませんこと?」

 「いや。私は今まで奴が文明の利器を使うところを見たことがない」

 「えぇ。日常生活用品ならまだしも、電話とか使えたのね」

 「……いったいどういった方なんですの、今時そんな古代人みたいな」

 

 箒たちが話している間に、進が話し終わったようだ。

 

 「よし。これでわしも学園関係者じゃぞ!」

 「何を言って――」

 

 プルルルッ

 

 千冬の携帯が震え、千冬は怪訝な顔をしながら電話に出た。

 

 「はい。……っ!、が、学園長!?」

 

 千冬の叫びに、注目が集まる。

 

 「はい、いますが……はぁ!?……いえ。わかりました」

 

 千冬は電話を切ると溜息をつき、腕を組んだ。

 

 「警備員、もう帰っていいぞ」

 「え?」

 「お、織斑先生?何を……」

 「もうこいつは部外者ではなくなった」

 「そ、それって……」

 

 千冬は頭痛がするらしく、額を押さえて溜息をついた。

 

 「先ほど連絡があって、今日からこいつはこの学園の用務員見習いになるそうだ」

 「え……」

 「そういうことだ」

 

 「「「「えええええええええぇぇっ!!??」」」」

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 「ええええええええええぇぇっ!?」

 「ね、やっぱり驚くわよね」

 

 鈴は「うんうん」と俺の反応を見て頷いた。

 

 「用務員って……っていうかそんな簡単にIS職員を決めていいのか?」

 「学園上層部に将棋仲間がいたらしいわ」

 「また将棋仲間……。なんでよりによってすごい人たちと将棋してんだよ」

 「ホントよねぇ」

 

 俺と鈴は思わず遠い目をしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 




ってことで、用務員(見習い)になりました。
本物の用務員めざしてがんばります(?)

次回は千冬さん視点です。

次は4月5日(金)PM17:00に更新。


11月25日 改稿


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★今回、「もっとボリュームがほしい」的なご要望がありましたので、二話分を一話にしてみました。

「これじゃぁ、多い」という方は遠慮なく言ってください。


さて、二話分なので、前半は前回予告した千冬視点です。
後半は、進視点でお送りします。




 

 

 IS学園 地下施設

 

 

 

 「やはり無人機ですね。損傷が激しく、データはほとんど壊れてしまいましたが、登録されていないコアでした」

 「そうか」

 

 真耶は画面に映る無人機の情報にいつもの柔和な笑みを消し、真剣な表情でその情報を語る。

 

 「ISコアは世界に四六七しかありません。でもこのISは、そのどれでもないコアが使用されていました」

 「うむ……」

 「何か心当たりでも?」

 

 思案顔の千冬に、真耶は問いかける。

 

 「いやない。……まだ、な」

 

 千冬はある一人の顔を思い浮かべ、顔を顰める。

 

 「それにしても、彼女は何者なんですか?アリーナの上空からパラシュートもなしで降りてきたり、短剣一本でISコアを破壊したり……」

 「強さに関しては、生身では私と近い……いや、今では同格か、あいつの方が上だろう。まぁ、ISならば負けんが」

 「せ、先輩より上!?」

 

 千冬は第一回モントグロッソの優勝者であり、その実力はISに限らず、生身での戦闘能力も評価に値する。

 その千冬よりも、生身でとはいえ、同格かそれ以上の実力の持ち主だなんて、真耶には考えられない。

 

 「せ、先輩とどういったご関係なんですか?」

 「近所の孤児院に住んでいたガキだ。小学二年の時に単身旅に出た」

 「えぇ!?」

 

 真耶の驚きは当然だろう。

 どこに、小学二年で一人旅を決意し実行する馬鹿がいると思うか。

 

 「あ、それに彼女、IS学園上層部に将棋仲間がいるって……」

 「……おそらく、轡木さんのことだろう」

 

 轡木 十蔵。IS学園の用務員で、柔和な人柄と親しみやすさから「学園内の良心」といわれている男性。彼の妻が学園長だが、実態にIS学園の実務関係を取り仕切っているのは彼である。

 

 そんな人物といつ将棋仲間になったのか……。

 

 「問い詰める必要がありそうだな」

 「はい?」

 「いや。何でもない」

 

 だが、あいつ―――暁進はなぜこの学園に残るのだろう。

 一夏が女だと思って謝罪のために来たことは本当だろうが、変わらず男と分かったならもうこの学園に用はないはずだ。

 用務員になってまでここに残る理由がわからない。

 少なくとも、以前の進なら、一か所に何年も留まることはしないだろう。

 

 あいつに何があったのだろうか。

 それとも原因は一夏にあるのか?

 

 もしかして、あいつも一夏の無自覚の矢に貫かれて……。

 

 いや、それはないな。

 篠ノ之や凰より前から一夏のそばにいて、一夏の最も親しい人物と言っていいだろう。

 昔から態度は変わっていないし、少なくとも、進の方には一夏に気があるとは思えない。

 

 「むしろあるとすれば……」

 

 一夏はあいつの赤く綺麗な髪が好きらしい。

 よく家に遊びに来たあいつの髪を一夏が櫛でといてやっているのを見ている。

 進が旅に出たとき、一夏はそれはもう落ち込んでいた。

 篠ノ之道場で剣道の稽古をすることにより気を紛らわせていたみたいだが、時折老人たちの会話を寂しそうに聞いていたりしていた。

 

 「やはりあいつは……」

 「あ、あのぉ、先輩?」

 「!……何だ?」

 「さっきから百面相していましたけど……あ、もしかして織斑君のことですか?織斑君かっこいいですものね。お姉さんとしては心配で――――」

 「山田先生」

 

 ガシッ

 

 「いたたたたたた!!」

 

 千冬のアイアンクローが真耶を襲う。

 

 「私は、からかわれるのが嫌いだ」

 

 キリキリ

 

 「ご、ごめんなさ~い!!」

 

 IS学園地下から地上までは遠く、真耶の叫び声は誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 進視点

 

 

 

 

 おや?

 

 一坊が目覚めるまで待機のはずじゃったのに、小娘たちがいなくなっておる。

 わしが用を足している間に何が……。

 

 まぁ十中八九、一坊の所じゃろうが。

 

 

 わしが転生して十六年。

 熊にやられたかと思ったのに、気付けば一歳の、しかも女子になっておった。

 それには、幾多の戦場を駆け抜けたわしでも度肝を抜かされたわい。

 

 前世で多くの命を奪ってきたわしは、来世では虫にでもなると思っておったが、再び人間に生まれるとはのぅ。

 しかも、記憶が残っておる。

 残っていると言っても、印象の深い出来事しか残っておらんが。

 男だったということ。

 熊と闘って死んだこと。

 そして、戦場の記憶。

 

 前世の家族の顔や名前ははっきりとは覚えておらんが、愛しい存在がいたことは覚えておる。

 

 まぁ、時がたつにつれてあまり思い出せなくなってきたが。

 時々夢に見るくらいじゃ。

 

 男という意識も、時が経つごとに薄くなったの。

 心が体に引っ張られるというか、まぁ、女として暮らせばそうなるのが自然じゃろう。

 言葉づかいは幼いころ一坊に「へん」と言われ、女らしい言葉づかいを心がけている。

 折角女子に生まれたのだから、女らしくせんとおかしいじゃろう?

 気持ちが昂ると素がでるが、ここ最近は慣れて滅多にでることはない……と思う。

 

 

 わしの意識が生まれたとき、わしは『暁院』という孤児院にいた。

 院長であり、わしの義父が言うには、雪が降り積もった日、河原の草原に置き去りにされていたらしい。

 真っ白な雪の中に燃えるような赤が目立ってきたおかげで見つけることができたと言っておった。

 

 

 赤い髪……か。

 この髪を見るたびに前世を思い出す。

 人を殺めるたび、返り血がワシに降り注いでいた。

 戦いを終えて基地に帰ると、戦友に「血で髪が赤くなってるぞ」と言われたな。

 外に出て自由を得られても、罪がある事には変わりない。それを忘れるなという、神の御達しなのかのぅ…………髪だけに。

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 何、寒い?

 風邪じゃないのか?

 

 さて、拾われたわしは院長の娘になった。

 院長の娘として、孤児院で多くの義兄弟たちと暮らしていると、二人の姉弟がやってきた。

 目が鋭い黒髪の女子と、わしと同じくらいの男児だ。

 

 女子を見た瞬間、彼女は手負いの獣のようだと感じた。

 鋭い目が油断なく人を観察していた。

 お世話になりますと下げた礼は、とてもよろしくとは思っていない感じじゃ。

 

 義父はそんなこともお見通しなのだろう。

 

 「今はまだ馴染めないだろうけど、ゆっくり馴染んでくれればうれしい。それまで、君の目でしっかりと見て、僕たちが信用できるか決めるといいよ」

 

 と女子に言っておった。

 

 ふむ。流石わしの義父じゃ。

 今の言葉と優しい笑顔で、女子も少し警戒を緩めたようじゃ。

 

 「進」

 

 義父に名前を呼ばれ、そばへ行く。

 

 「この子は僕の娘で――――」

 「あかちゅきすすむじゃ!」

 

 うむ……咬んでしまった。

 幼子ではまだうまく呂律が回らん。

 

 「君たちがこの家に慣れるまで、この子が面倒を見るから」

 「うむ。わしにまかしぇておけ!」

 

 わしの言葉づかいに疑問を持ったのか、女子は一瞬眉を動かしたが、すぐに厳しい表情に戻ってしまった。

 これは心を開くまでに時間がかかりそうじゃのう。

 

 「織斑千冬です。こっちは一夏」

 「うむ!これからよろしくの」

 

 これが、わしと千冬嬢、そして一坊との出会いじゃ。

 

 

 

 

 

 




二話分にしたら、いっきにストックが減った……。ふふー。


さてさて、次回は現在に戻って進視点からおおくりします。
原作では後半に出てくる「あの人」がでてきます。(原作知っている人はもう予想できたかもしれませんが……)

次回更新は、4月12日(金)PM17:00に。


11月25日 改稿


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前回までのあらすじ

クラス対抗戦で謎の無人ISに命を狙われた一夏。
そこに、幼馴染で、旅に出ていた進が帰ってきて一夏の命を救う。

しかし、学園に不法侵入という形の進は、ちょっとした権力者の将棋仲間に電話し、学園の用務員見習いとして学園にいられることに。

そして、保健室に運ばれた一夏以外は、別室で待機するよう言われたのだが…………。


前半、進視点。後半、一夏視点です。



 

 

 

 進視点

 

 

 

 「暇じゃ……」

 

 律儀に待っておるというのに、箒嬢たちも千冬嬢も帰ってくる気配がない。

 

 「…………よし。わしも行くか!」

 

 千冬嬢に絶対に一人で動くなと言われておるが、暇すぎて耐えられん。

 

 待機していた部屋を出ると、保健室への道を歩き、歩き――――。

 

 

 

 「はて、保健室はこんなに遠かったかの?」

 

 部屋を出てから廊下を進んでいるが、一向に保健室を見かけない。

 ずっと同じ廊下を進んでいるようだ。

 

 「ふむ……。よし、いったん外にでるか」

 

 一階から探していけば、そのうち見つかるだろう。

 

 そうして、近くの窓を開け、外に出ようとすると、

 

 「ちょっと待ち――――って、あなた何やってるの!?」

 「ん?」

 

 声がしたので振り向くと、水色の髪をした娘が目を見開いてわしを見ておる。

 

 「おぉ、ちょうどよかった。保健室の場所を教えてくれ」

 

 窓の淵に足をかけ、身を乗り出していた身体を戻すと、娘はホッと息をついたあと、扇子を開いて口元を隠した。

 扇子の表面には、『吃驚』の文字。

 

 「そ、その前に、あなたのことについて教えてほしいのだけど」

 「ん、いいぞ?」

 「え、いいの!?」

 

 何故驚く?自分から教えてほしいと聞いてきたのに。

 

 「あ、ぇっと……ゴホン。では、あなたは何故――――」

 「名乗れ」

 「え?」

 

 「人のことを聞くときはまず自分から名乗るのが礼儀じゃろうが!!」

 「は、はいぃっ!!」

 

 全く、今の若いもんは礼儀がなっとらん。いや、礼儀以前に常識を知らんのじゃ。(←お前にだけは言われたくない)

 

 だが、初対面で少し怒りすぎてしまったかのぅ。

 

 「いや、大声出してすまない。まずは君の名前を教えてくれるか?」

 「あ……私の名前は更識 楯無よ」

 「ん?楯無?お主まさか……」

 「っ!?」

 

 娘が突然距離をとって構えた。

 その動きも奴そっくりだ。

 やはりこの娘…………。

 

 「更識家のこと、知ってるみたいね。ホント、あなたなにもの――――」

 「若づくりか」

 「え?」

 「若づくりもいいが、いい大人が女子高生の制服はちょっと……」

 「ちがああうぅ!!」

 

 思わず目を逸らすと、大声で否定された。

 

 「あなたの言っているのは先代の楯無!私は襲名して今の楯無!」

 「なんと!そうだったか」

 「もう、話が進まないじゃない!」

 「私は暁進という」

 「いきなり話進めないでよ!!」

 

 娘はぜーはーと息を荒げてわしを睨んでくる。

 

 「何ださっきから。話が進まないと言うので進めれば怒り、それはそれで怒る。……まったく。最近の若いもんは我がままでいかん」

 「あなたも若いでしょうが!」

 「おぉ、いかん。保健室を探さなければ!それではな」

 「あ、ちょっと、待ちなさ――――」

 

 わしは窓の淵に足をかけ、そのまま身を乗り出して四階の高さから飛び降りた。

 暫く落ちるに身を任せ、地面が近づくと、くるりと一回転して着地した。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 「ちょっと鈴さん!抜け駆けはしないと約束したじゃありませんの」

 「そういうお前も私に黙ってきているではないか」

 「し、篠ノ之さん!?」

 

 鈴と話していたら、セシリアと箒が来た。そしたら案の定喧嘩しだした。

 こうも毎回喧嘩するなんて……喧嘩するほど仲がいい?

 

 「「「違う(違いますわ)!?」」」

 

 息ぴったりだと思うんだが……。

 

 「そういえば、千冬姉は?」

 「そういえば見ませんわね」

 「さっきまで私たちと一緒にいたのだが」

 「無人機のこともあるし、忙しいんでしょ」

 「そうか……」

 

 あの無人機は何のために学園に侵入したのか。そんなこと、俺が考えても答えはでない。

 今回幸いにも怪我人がいなかったが、もしまた出てきたら、今度もそうとは限らない。

 今回だって、進がいたから――――…………

 

 

 

 「……進は?」

 

 言い争っていた声がピタリとやんだ。

 

 「?進さんなら、わたくしたちと同じ部屋で待機していましたよ?すぐにお花を摘みに行きましたけど」

 

 トイレか。

 

 「箒……」

 「っ!わ、私が部屋を出る時はまだ戻ってきてなかった」

 「……」

 「……」

 「……」

 「ど、どうしましたの、皆さん。そんなに深刻そうな顔をして」

 

 セシリアは俺達の反応に困惑しているようだ。

 無理もない。セシリアは今日進と会ったばかりだからな。

 

 「セシリア。あいつは――進はな…………極度の方向音痴なんだよ」

 「はい?」

 「いや、それだけならいい。だが、迷子になったあいつはいつもとんでもない方法で解決しようとするんだ」

 「と、とんでもない方法とは?」

 

 俺と箒と鈴は顔を見合わせた。

 

 「そう……。たとえば、この保健室が見つからないとわかるやいなや、一階から探そうと四階の窓から飛び降りて――――」

 

 その時、目の端を赤いモノが映ったような気がした。

 次の瞬間、

 

 

 

 ドゴォォォォン

 

 

 

 落ちてきたモノによって土煙が、舞った。

 

 「なっ」

 「何が……」

 「今何か落ちてきて……」

 「ま、まさか………………」

 

 土煙が晴れ、そこから立ち上がった――――

 

 「「「「すすむ~~~~~~~~~~~っ!!!!????」」」」

 

 「ん?おぉ!?一坊に小娘たち、ここにいたか!」

 

 進は能天気に笑い、当たり前のように窓を乗り越えてきた。

 

 「お前まさか飛び降りて……」

 「あぁ。一階から探そうと思ってな。いやぁ、降りた先が保健室とは運がいい!」

 

 はっはっはっ、と笑う進に、進を知る俺と箒と鈴は呆れ、セシリアはあまりのことに唖然としているようだった。

 

 「な、なんて非常識な方でしょう」

 「当たってるよセシリア。進と初対面の奴は大抵そう言う」

 

 俺達は顔を見合わせ、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 




非常識な人間。それが進です。


次回更新は、4月19日(金)PM17:00に。



11月25日 改稿


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十一

今回は、ずーっと「これはないだろう!」と思っていたところをオリジナル展開で。
進がいるからできることですが。

それから、進の一人称、「ワシ」から「わし」に直しました。
本人、カタカナ苦手なのに、「ワシ」だけカタカナなのはおかしいなぁ、と思ったので!
ちょっと読みづらくなるかもしれませんが、ひらがなに統一したいと思います。



前回までのあらすじ

暁進――――彼女は一言で言うと『非常識』である。

保健室の場所がわからないからと四階の高さから飛び降り、一階から探そうとする非常識な人である。
しかもその非常識でなんとかなっちゃうからちょっと憎たらしいよね!  by一夏





 

 「一坊、具合はどうだ?」

 「あぁ、平気だ。お前に殴られた腹以外はな」

 

 俺のISスーツは上下分かれていて、腹のあたりがむき出しになっている。

 進が殴ったせいで青あざになったらどうする。

 

 ――――滅茶苦茶格好悪いじゃないか。

 

 「大丈夫だ。青あざができないように加減しておいた」

 

 そう言って進は窓の淵に寄りかかり、腕を組んだ。

 その際、さっきまでは厚手の服に隠されて分からなかった、意外と大きな胸が押し上げられて、目のやり場に困る。

 

 進はさっきまでの冬山装備を解き、こげ茶のつなぎを着て、上は熱いのか脱ぎ、腰に巻いてある。つなぎの下はぴったりしたタートルネックで、形のいい胸がはっきりと――――。

 

 「一夏……」

 「一夏さん……」

 「一夏ぁ……」

 

 不穏な気配が背後からし、慌ててそれについて考えるのを止めた。

 

 「そ、そういえば進、用務員てなんだよ!」

 「学校の雑務じゃが?」

 「じゃなくて!生徒になればよかったじゃないか!」

 「一夏さん、それは無理がありますわ」

 「セシリア?」

 「一夏さんはISを動かせる唯一の男性だから実技試験以外が免除されたのですし、女性の進さんが特別扱いされる理由はありませんわ」

 「でも鈴は……」

 「あたしの場合はもともと代表候補生だからね。専用機持ってるし、実力もある。十分試験を受けるのに値したからできたのよ」

 「進ならすぐに強くなると思うんだけど……」

 「そうかもしれないけど、それを知ってる人なんて、あたしたちの他に何人いるのよ。上層部が納得するはずないじゃない」

 「それに、素人が簡単に編入できるような学園なら、毎年の入試の倍率が高いはずがない」

 

 みんなの言う通りだ。

 IS学園は、入ればエリートコースに乗れると言われているのを聞いたことがある。

 例え実力があろうとも、代表候補生でもない実力もない一般人が特別待遇を受ければ、入試で涙を流した受験生たちに示しがつかない。

 

 「わかった……」

 

 また昔みたいに一緒に授業を受けたかったが、しょうがない。

 

 「さて、一夏も元気なことだし、寮に帰りますか!」

 「そうですわね。今日は少し疲れましたわ」

 「俺早くいつものベッドで寝たいぜ。箒、俺制服更衣室に置いたままだから、そっちのシャワー使ってから行くわ」

 「うむ。なら部屋のシャワーは私が使わせてもらう」

 

 俺は保健室のベッドから降り、みんなと一緒に出ようとしたが――――。

 

 「…………待て」

 

 進に呼び止められた。

 

 「今、何と言った?」

 「進?」

 「何のこと言ってんの?」

 「一坊、箒嬢……」

 「な、何だよ」

 「な、何だ?」

 「お主らの言葉を聞いてると、どうもおかしなことになるのじゃが……」

 

 進は俯いていて表情が見えないが、俺は何となくわかった。

 

 進は怒っている。

 

 「もしやお主ら…………同じ部屋なのか?」

 「あ、あぁ。寮の同室だ」

 「もとから全寮制だけど、俺がIS動かしちまって入学することになっただろ?もとは部屋が用意できるまで家からの通学だったんだが、危険だってことで急きょ空いている部屋に入ったんだ。それで箒と同室に――――」

 

 俺は慌てて理由を説明したが、赤い髪の隙間から覗いた瞳を見た瞬間、もう駄目だということが分かってしまった。

 

 そう、この気持ちを例えるなら、眠っている獅子の尾を踏んでしまったような――――。

 

 「馬っっ鹿もーーーーーーん!!!!!」

 

 案の定、怒りの咆哮が部屋全体を震わせた。

 

 

 「年頃の男女が同衾とはどういうことじゃ!」

 

 やっぱり!

 だが、これには俺も疑問があるのだ。

 

 「お、怒るのはわかるけど、決めたのは俺じゃなくて……」

 「誰だというのじゃ?」

 

 ギロリ、と小動物なら射殺せそうな視線が突き刺さり、怯んで声がでなくなる。

 

 「何を騒いでいる。廊下の先まで声が――――」

 

 その時、千冬姉と山田先生が保健室に入ってきて、進は二人を睨む。

 流石の千冬姉は一瞬息をのんだだけでいつも通りになったが、可哀想なことに山田先生は声にならない悲鳴を上げてブルブルと震えていた。

 

 「千冬嬢!お主がいながらなんたることじゃ!」

 「何のことだ」

 「何故一坊と箒嬢が同衾している!」

 「女子と一緒にしても、こいつは何もできんよ」

 「こいつがへたれなのはわかっとる。じゃが、女子と同衾する理由にはなっておらん!」

 「急なことで一人部屋が空いていなかった」

 「馬鹿もん!!」

 「っ」

 

 セシリアや山田先生は、進が千冬姉に「馬鹿」といったことに驚いている。

 それもそうだろう。千冬姉はIS操縦者世界一の称号を持ち、ブリュンヒルデの異名を持つ人だ。

 性格も厳しいがちゃんとしているので、その千冬姉に「馬鹿」は似合わない。というか、言える勇気のある人物などいない。

 だが、俺は知っている。

 進は間違っていると思ったら、誰だろうと「馬鹿もん!」といって怒ることを。

 

 「お主は一坊と姉弟じゃないのか!」

 「姉弟だからって教師の部屋に生徒を置くわけにはいかん。機密事項もあるのだ」

 「機密事項など金庫か他の教員の部屋に置いておけばよかろう!仕事も別の場所でやれば何の問題もない!」

 「っ……。教師にだってプライベートは」

 「子どものことを考えられん教師は屑じゃ」

 

 その言葉は凍てついた氷の刃で、千冬姉を切り裂いた。

 千冬姉の動揺した様子に、俺は「千冬姉は屑なんかじゃない」と言い返したかったが、俺の口は言葉を発することができなかった。

 進の発する気迫で、誰も声を出すことができなかった。

 

 「教師とは教えの師と書く。子どもは師の教えを受け、社会に通用する知識を身に着ける。して、教えとは何じゃ?勉学だけか?違うじゃろう!勉学だけなら教科書でも見れば一人でもできる。人がついて教えることで、子どもは人の話を聞くことを覚えるのじゃ。

 ――親にしか家族のことを教えられないように、教師にしか集団生活の社会で生き残るすべを教えるることができんのじゃ。だから、その師が教えることを止めたら、子どもは何もできずに死んでしまう。

 教師も一人の人間じゃ。ぷらいべーともあるじゃろう。心の安らぎも必要じゃろう。しかし、それが子どもを犠牲にしてまでするのは、教師として間違っておる。教師になるということは、教え子の命を預かるのじゃ。

 その大きな責任を背負う覚悟がないのなら、今すぐ教師を止めろ」

 

 千冬姉は目を瞑り、若干俯いていた。

 そんな千冬姉を見るのは初めてだった。

 声をかけたいが、千冬姉に守られてきた子どもの俺には大人の責任について何か言う資格はない。

 

 「……私は、教師だ」

 

 千冬姉は小さくも、はっきりと言葉を口にした。

 そして、瞑っていた目を開け、真っ直ぐ進を見る。

 

 「教師として、教え子を使い物になるよう鍛える。その間、私は教え子を全力で守る」

 

 千冬姉の宣言に、進は満足そうに頷いて笑った。

 

 「――――では、いくぞ一坊」

 「へ?」

 

 何が、「では」なのだろうか。

 突然襟首を掴まれ、引っ張られる。

 

 「あ、え、ちょっ、進!?どこに行くんだ?」

 「どこって、今の話の流れで分かるじゃろう?」

 「ん?」

 

 今の話は千冬姉の教師としての心構えについてで…………いや、その前に何か話していたような――。

 

 「話をちゃんと聞いとれ馬鹿もん!お主が年頃の女子と同衾していることが問題じゃったろうが!」

 

 そうでした。

 だが、何故俺は襟首を掴まれ、引きずられるのだろう。

 

 「お主を部屋に戻すわけにはいかん。一人部屋が用意できるまでの間、わしと外のテントで暮らしてもらう!」

 「はいぃ!?」

 

 

 

 

 




進はテント暮らし。
ずっと旅にでてたから当然だね。


年頃の男女が一緒の部屋ってありえないと思う。
扉で遮られているとかではないく、一緒の部屋。
ありえんだろ!

絶対にほかに選択あったから。急に入学と決まっても、絶対何とかなったから。

もし万が一本当に一緒の部屋というのなら、部屋割り決める人がとんでもなく常識がないか、とある天才の策略としか言いようがないね。


……と、長々と文句たれてしまいましたが、「一緒の部屋でいいじゃん!」という方はごめんなさい。石投げないで!!
あ、ちゃんと進のテントと一夏のテントは別ですよ?


さて、次の更新は、4月26日(金)PM17:00に!



11月25日 改稿


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十二


前回のあらすじ

一夏が箒と同衾していると知った進は激怒。
学園の考えなしの対応に怒る。
そして進は解決策として一人部屋が用意できるまで外のテントで暮らすよう一夏を引っ張っていく。


一夏視点です。



 

 

 

 テント!?

 ってお前、学園でテント暮らしするつもりだったのか!?

 

 「ま、待て進!それでは部屋となんら変わりないではないか!」

 「心配せんでも予備のテントがある」

 

 箒の言い分はあっさりと却下された。

 

 「テ、テント暮らしなんて非常識ですわ!」

 「そうよ!」

 「同衾よりましじゃ」

 

 セシリアと鈴の言い分もあっさり却下されそうになったが、セシリアは食い下がる。

 

 「外で生活なんて野蛮なことをするなら、同衾の方がましじゃありませんこと?」

 「馬鹿もん!」

 「っ!」

 「もし女だらけの学園で、さらに同衾ということが外にばれてみぃ、その日の新聞見出しはこうじゃ!」

 

 

 『ISを動かせる唯一の男、うはうはハーレム寮生活』

 

 

 「「「「…………」」」」

 「いや、進。俺はハーレムになるほどモテはしないぞ」

 

 そう言うと何故か箒たちが睨んできたが、進の「馬鹿もん」がきてそれについて考えるのをやめた。

 

「お主は世間では顔がいい方じゃ。女子に手をだす勇気のないへたれでも、世間では何かあるんじゃないかと疑うじゃろう」

 「それは……まぁ……」

 「お主がへたれで女子に手をだせなくとも、一緒に寝食を共にすれば、必ず情が湧く。その情が友情が欲情かなど、世間には分からん。むしろ年頃を考えれば後者を考えるじゃろう」

 

 さっきから「へたれ、へたれ」とひどい。

 俺だって、そんなことを思わないでもない……わけでもない……わけでも……(ごにょごにょ)。

 

 「卒業したらこいつの評判は最悪じゃ」

 「っ……、IS学園の情報規制は完璧です!」

 

 山田先生が勇敢にも言い返したが、

 

 「人の口には戸がたてられん。しかも女子ほどおしゃべりな生き物はおらん」

 

 あっさりと言い返された。

 

 確かに、女子ほどおしゃべり好きな生き物はいないと思う。

 どんなにくだらない事でも話の種になるし、もしそれが大衆にうけるものであれば、あっという間に広がって行く。

 唯一ISを動かした俺なんかは、格好の餌食だ。

 

 「で、でも、外のテントでは安全が……」

 「わしがおる」

 「で、でも、でも」

 「山田先生」

 

 静かな千冬姉の声に、山田先生はビクッと反応して隣を見上げた。

 

 「こいつの実力は私が保障しよう。むしろ寮にいるより安全だろう」

 「織斑先生……」

 「それに、こいつの言っていることは正しい。今の安全と将来のことを考えるなら、私が同室になることが一番だっただろう。……私もまだまだ未熟というわけだ」

 「……わかりました。早急に織斑君の部屋を用意します。それまで、暁さん。よろしくお願いします」

 「うむ。了解した」

 

 俺を抜きに話は進み、俺は進に引っ張って行かれた。

 それはさながら売られる子牛のようで、頭の中には哀愁漂う音楽が鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 どこに連れて行かれるのかと思ったが、ついたのは一番小さなアリーナだった。

 

 「十ちゃんから、このありーなの管理を任された。それに、閉鎖時間内であればテントを張ることを許してくれた。平等を規すためにあいえすの訓練はできんが、その他なら好きに使ってもいいぞ」

 

 そういうと、進は置いてあった大きな荷物からテントと寝袋を取り出し、俺に渡した。

 

 「ほれ、今日からお前の相棒じゃ。一人で組み立てられるな」

 「あぁ」

 

 テントを組み立てるのは、中学校のときのキャンプで知っている。

 暁院でもキャンプイベントがあり、時々参加していたのでテントを組み立てるのはお手の物だ。

 手際よくテントを組み立てると、寝袋を中に敷いた。

 ためしに寝袋の中に入ってみると、意外とふわふわで背中が痛くなかった。

ちょうど寝やすい場所を見つけじっとしていると、何ともいえない解放感のようなものを感じ、ほぅと息をついた。

 

 こんな一人の空間は久しぶりだ。

 別に箒と同室が嫌だったわけではないが、やはり女の子と一緒だと気を使う。女しかいない学園で気の休まるところはなく、それがストレスになっていたらしい。

 もしかしたら進は、そんな俺のことを考えてテント暮らしを提案したのかもしれない。

 昔から自分にも他人にも厳しく説教ばかりするが、頑張った奴には精一杯褒め、優しくしてくれる奴だ。

 だから進の周りには人が絶えない。

 一緒にいると、とても心地よいのだ。

 

 気が抜けたのか、瞼が重くなってきた。

 

 完全に閉じる前に、いい匂いがしてきた。

 

 ぐ~

 

 ……そういえば、朝ごはんを食べてから何も口にしていない。

 

 寝袋を剥いでテントから出ると、進が何か料理していた。

 

 ぐ~~

 

 先ほどより大きな音が鳴り、思わずお腹を押さえた。

 すると、進は可笑しそうに笑った。

 

 「くくっ……。そんなに腹減ってるならほれ。これをやろう」

 

 そう言って飯盒を差し出された。

 取っ手の部分はタオルでくるまれていて熱くないが、その他は熱いので地面に置いた。

 「そこに椅子がある」と言われ、キャンプ用の折り畳み式の椅子を広げて進の横に座った。

 飯盒の蓋を開けると、ふわりと湯気が立ち上り、その湯気を思いっきり吸いこみ――。

 

 ぐ~~~キュルキュル

 

 「うわぁっ!旨そうなごはん!」

 

 真っ白でつやつやした炊き立てごはんが食欲を誘う。

 レンゲを渡され、かき回してみると、

 

 「お焦げ!」

 

 きつね色をしたお焦げが現れ、さらに美味しそうな香りが――

 

 ぐ~~ゴロゴロ~~ぐぐぅ~~

 

 「うるさい!さっさと食え!」

 

 怒られてしまった。

 

 

 




お焦げ大好きです。

以前、フライパンでご飯を炒めていて、「お焦げ~」と思っていたら、やりすぎて焦げました。

何事も適度が大事。

次の更新は、5月3日(金)PM17:00


11月25日 改稿


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十三

前回までのあらすじ

年頃の男女の同衾に怒った進は一夏を引きずり、一番小さなアリーナでキャンプ生活をすることに。
一夏は意外とその生活にわくわくしているのだった。


 

 

 アリーナでさらに塩味の焼き鳥をおかずに、進が絶妙に炊いたごはんに舌鼓をうち、お焦げに感動しながら食べ終わると、まな板も使わずにリンゴを二つに切って俺に半分を渡した。

 その慣れた手つきに、やっぱり進は一人旅をしてきたのだなぁとしみじみ思う。

 

 「なぁ、進」

 「ん?」

 

 女子にしては低めの落ちついた声が返事を返す。

 

 「進は一人で旅することに不安はなかったのか?」

 「ないな」

 

 即答だった。

 進を見ると、しゃくりとリンゴを齧っていた。

 

 「でも、小学二年生だぞ?まだ十歳にもなってないんだぞ?一歩間違えたら死ぬかもしれないのに」

 「そんなもの、大人でも子どもでも同じだ。一歩間違えれば誰だって死ぬ」

 「けど、子どもの方がその可能性が大きいじゃないか」

 「そうだな」

 「そうだなって……そんなあっさり」

 「私はちゃんと自衛の手段を持っているし、手持ちの食糧が尽きたとき非常食になるものも知っている」

 

 それに、と進は続けた。

 

 「私の命は義父様に生かされた。この命はその瞬間から私一人の物でなくなった。そして、たくさんの家族を得て、私は簡単に死ねなくなった。精一杯生きるとこが、私の責任だ」

 

 思えば、進は自分の行動に責任を持っていた。

 旅の資金だって自分で何とかしていたようだし、いつか迷子になって壊したドアも自分で直していた。

 暁院では娘として、たくさんの兄弟たちを守ってきた。

 自分にも他人にも責任が持てる。

 進は立派な大人だった。

 

 だから千冬姉も進の言葉を聞きいれる。

 俺と同じ年齢でも、その心に圧倒的な差があった。

 

 ツキンッと胸に小さな痛みが走る。

 

 「……やっぱり進はすごいな。俺とは全然違う」

 「当たり前だ。私は一坊よりはるかに経験値が高いのだぞ?経験値で一坊より子どもだと言われた日には、ワシ、死ねる」

 「ひでぇ!冗談にしてはひどいぞ、進!」

 「事実じゃ」

 「もっとひどい!」

 

 俺の叫びに進は明るく笑うと、立ち上がって伸びをした。

 

 「ここは都会にしては星がよく見えるのぉ」

 

 そう言って空を見上げた進を、見上げる。

 

 受験の時、就職率のいい私立藍越学園を受け、千冬姉の負担を減らせたらと考えていた。

 しかしISを動かして、『白式』という専用機を手にした。

これで俺はみんなを守れる。

 そう思っていた。

 だけど違った。

 俺はまだまだ力が足りなくて、守られてばかり。

 どうしようもなく、子どもだ。

 

 だけど俺は、自分が子どもだということを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『進!』

 『ヒャッハハハ!!』

 『死ぬか?』

 『誰か助けて!!』

 『ごめん!ごめん、千冬姉』

 『馬鹿もん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、過去の映像がフラッシュバックし、俺はそれを振り払うように頭を振った。

 

 「どうした?」

 「い、いや。何でもない」

 「……そうか」

 

 俺がおかしいことは分かっているのだろうが。進は何も聞かない。

 それが、すごく有り難い。

 

 情けない俺を、進は見透かしているのだろうけど、男としてはなるべく見せたくないと思ってしまう。

 

 俺は人を守れる力を手に入れた。

 だからこれで、大切な人を守りたい。

 

 その中には進、お前も入ってるんだからな?

 それを言ったら、また「馬鹿もん!」って怒られるだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 その夜は学園に来て初めて熟睡という熟睡をした気がする。

 目覚ましもなしでパッチリと目覚めることができた。

 時計を確認すると、午前六時。

 ちょうど朝飯の時間だ。

 

 テントの外に出ると、すでに進のテントは畳まれている状態になっており、進の姿はなかった。

 しかし、微かに「ズズズズ」と何かを引きずる音がし、朝霧に霞むアリーナを見渡した。

 すると、進のシルエットが見えてきた。

 

 「おーい、進!何やって……」

 

 何だろう。進がこちらに近付くにつれて見えてくる巨大なものは。

 

 「ん?起きたか一坊」

 

 朝霧が晴れてきた。

 そして見えたのは……。

 

 「……何してたんだ?」

 「見ればわかるだろう。地面の整備じゃ」

 

 進は手に持つトンボを指さした。

 いや、それは分かるのだが、トンボの大きさが半端ない。

 それ、IS用のトンボだろ。

 

 「お前、力持ちだな」

 「人並みだろう」

 

 いや、もう人じゃねぇよ。

 本当に非常識な奴だ。

 何かもう、あんまり驚かなくなってきたな。ははっ。

 

 「――俺、今から朝飯に行くけど、進は?」

 「私はもう済ませた。それに今、金がないからな!」

 「いや、そんな自慢するように言われても……」

 

 どうやってここまで来たんだか………………軍のヘリだったな。

 

 テントを片づけ、男子更衣室へ向かった。

 ここなら、俺しか使わないし、シャワーも使える。

 荷物を置き、顔を洗って食堂へ向かった。

 

 食堂へ入ると一斉に注目を浴びた。

 一瞬の静寂のあと、

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 音を響かせて生徒たちが突進してきた!?

 

 「え、えぇ!?」

 「「「「織斑君!!」」」」

 「は、はいぃっ!?」

 

 「昨日い何があったの!?」

 「怪我はない?」

 「あの後どうなったの?」

 「何か落ちてきたよね!?」

 「私たち客席に閉じ込められて」

 「なんか戦う音が聞こえたけど!」

 「何と戦ってたの!?」

 「先生たちが何も言ってくれなくて」

 「「「「織斑君!!」」」」

 

 い、いや、そんなに詰め寄られても……ちょ、詰め寄りすぎ!

 身体に柔らかいものが…………。

 

 「一夏!」

 

 その時、グイッと腕を強く引かれ、集団から抜け出した。

 

 「あんたたち、情報は機密扱いよ」

 「先生の罰則を受けてもいいのなら、お答えしますが?」

 

 「箒!鈴!セシリア!」

 

 俺を引っ張り上げてくれたのは箒で、鈴とセシリアは俺の前に立って女子の猛威からかばってくれた。

 男として女子に庇われるのは情けないが、力ずくで抜け出して誰かを怪我させるよりましだ。

 

 鈴とセシリアの言葉を聞いて、女子たちは諦めてくれたようだ。

 渋々とだが、朝食の席へ戻ってくれた。

 

 「いや~、助かったよ三人とも!」

 

 お礼を言うと、三人は俺に振り返った。

 

 「ん?」

 

 箒に握られている腕がだんだん締め付けられている。

 

 「ほ、箒?ちょ、ちょっと腕が痛いんだが……」

 「……昨日、部屋に帰ってこなかったな」

 

 何故だろう、箒の表情が見えない。

 よく見ると、鈴やセシリアの表情も見えなかった。

 そのことに、何故だか背筋が寒くなる。

 

 「痛、いたたたたっ!ほ、箒さん!?腕!腕折れる!」

 

 尋常じゃない握力で腕を締め付けられ、必死に訴えたが箒は力を緩めようとはしない。

 

 「一夏が連れて行かれた後、追いかけようとしたけど千冬さんに止められるし」

 「夜探そうと思っても、織斑先生に見つかってしまって」

 「三時間も正座で説教を受け……その後一晩中反省文を書かされ」

 「いや、それ自業自得なんじゃ……」

 

 「一夏!」

 「一夏さん!」

 「一夏ぁ!」

 

 「は、はい!」

 

 「「「夜、女(進)連れてどこいってたのよ(ですの)!」」」

 

 

 

 

 

 




このあとどうなるか――――――――たぶん皆さんの想像通りです。


次の更新は、5月10日(金)PM17:00



11月25日 改稿


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十四

今回はちょっと長め。

前回までは

進に連れられ、一人部屋が用意できるまでアリーナでテント生活することになった一夏。
翌日、朝飯を食べに食堂へ向かうと、皆クラス対抗戦での出来事を聞きたがったが、口止めされているので無理。
困っていたところに箒たちに救われるが、さらなる恐ろしい出来事が待ち受けていた。




 一夏視点

 

 

 

 「「「夜、女(進)連れてどこいってたのよ(ですの)!」」」

 

 顔を上げた三人は鬼の形相で睨んできた。その目の下には濃い隈が……。

 

 「ど、どこって……外だけど……」

 

 アリーナは外だよな。

 

 「そこで何してたのよ!」

 「何って、寝ただけだが……」

 

 

 ざわっ

 

 

 『ね、寝た!?織斑君が女の人連れて外で!?』

 『それってもしかして……』

 『淫こ(もごもご)』

 『ダメ!そんなはっきり言わないで!』 

 『相手はどこの誰よ!』

 『うちの生徒?』

 『もしかして教員!?』

 『うそ!犯罪!』

 『うふふふふっ!スクープ!スクープよ!!次の一面は『世界で唯一ISを動かせる男性、夜の火遊び』で決定よ!』

 

 ちょ、違うから!

 そんな色っぽい事なかったから!

 ガッツリ男らしくキャンプだったから!

 

 しかし今の俺には反論する言葉が出せない。

 何故なら、箒たちに詰め寄られ、ガクガクと揺さぶられていたからだ。

 しかも、席に戻った女子たちがまた俺を囲んでいる。

 

 「どうなのだ!」

 「一夏!」

 「一夏さん!」

 「「「「織斑君!」」」」

 

 

 だ、誰か助けて―――うっぷ。

 

 

 「いい加減にしろ!!お前たち!!」

 

 助けに入ってくれた俺の救世主は、学園で働いている中で最強の――――。

 

 

 「飯食ってる時に騒ぐんじゃないよ!埃が料理にはいるだろ!?」

 

 割烹着を着てしゃもじを突きつけた、食堂のおばちゃんだった。

 

 「お、おばちゃん」

 「これ以上騒ぐんなら、もう飯作んないよ!」

 

 その瞬間、俺のまわりから人がいなくなり、それぞれ席に着いたり食券の列に並んだりしていた。

 

 それもそうだろう。この学園の生徒のほとんどがこの食堂を利用しているのだ。

 いくら女の子が小食と言っても、訓練の後は必ずお腹がすく。

 疲れている時に自炊する力はないだろうし、売店はいつも混雑している。

 食堂がなければあっという間に飢えて倒れるだろう。

 

 決して逆らうことなかれ。

 胃袋を征する者が世界を征すのだ。

 

 「ほら、あんたもいつまで突っ立ってるんだい!食べるならさっさと食べな!」

 

 おばちゃんの声にへたり込んでいた俺は慌てて立ち上がり、食券の列に並んだ。

 

 食券は感謝と敬意をこめて、一番高い『料亭朝食セット』を買った。

 野口さんが二枚飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 「あ、箒、この後部屋に行っていいか?」

 

 『料亭朝食セット』の味に舌鼓を打っていてふと思い出したので言うと、何故か箒は赤くなって狼狽えた。

 

 「なっ、そんな大胆な……みなの前で……」

 「教科書とか服を取りにいかないと。授業受けられないし」

 「(むすっ)……勝手にしろ!」

 

 今度は不機嫌になった。何なんだよいったい。

 

 「ねぇ、一夏。あんた昨日どこで寝たのよ」

 「一番小さなアリーナだ。そこにテント張って寝た」

 

 こちらの話を聞いていたのか、周りがざわついた。

 しかし、調理場から覗いているおばちゃんが目をキラリと光らせると、それ以上騒ぎは大きくならなかった。

 

 強ぇ。

 

 「寝袋で寝てな。中学の頃のキャンプを思い出したぜ」

 「寝袋なんて……。一夏さん、それでいいんですの?疲れがちゃんと取れないんじゃ……」

 「いや、進の寝袋結構ふかふかだし、今の時期はそんなに熱くも寒くもないから快適だぜ?それにあの解放感といったら」

 「なっ、それでは私といたときは窮屈だったというのか!?」

 「い、いやそういうわけじゃ……」

 「きさまらいつまで食っている!授業に遅れたらアリーナ十周だぞ!」

 

 寮監である千冬姉が現れたので箒は大人しくなり、残りの朝食を掻きこんだ。

 

 俺も残りをじっくりと味わいながらも素早く食べ、食堂を後にした。

 

 その際、ちゃんと食堂のおばちゃんに「ごちそう様!美味しかったです」と言うのを忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 進視点

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 「お、ちゃいむか。なら一坊たちは授業か」

 

 遠くから聞こえる鐘の音に手を止め、一度伸びをする。

 

 「ん~っ、ずいぶん掃いたのぉ」

 

 用務員見習い一日目の仕事は、学園の敷地内の掃除だ。

 上司になった十ちゃんからは「外の掃き掃除だけでいいよ」と言われているが、それももう終わりそうだ。

 

 今掃いているのは、学園と町とをつなぐ道路の上。道路の下にはものれーるが通っている。

 基本学園へ行くにはものれーるに乗るのだが、大きな資材の運搬や要人の移動には道路を使う。

 

 町の方の道路には巨大な門と厳しい検問があり、常に人が待機している――――と、十ちゃんが言っていた。

 

 道路はあまり使われていないのか土埃が積もっていて中々手ごわかった。

 最近、とらっくのような大きい車が通った後があったが、それ以外では使われていないらしい。

 

 「ふぅ。終わった」

 

 さて、今何時か。

 体内時計を確認すると「ぐぅ~」ちょうどお昼時だ。

 

 十ちゃんが、「生徒のお昼が終わったら食堂で食べていいよ」と言っていたので、ぜひ食堂で食べたいものだが、生憎金がない。

 

 「うむ。まだ食材が余っていたはずだ。それで昼飯にするか」

 

 だが、そろそろ食料がない。

 ここに来る前は束嬢のところにいたので食料の心配はなかったが、ここへはかなり急いで来たから調達もできなかった。

 

 「……よし。夜にでも調達するか」

 

 ここにも色んな生物がいるからな。困らんだろう。

 一坊も連れて行くか!

 

 「ん?」

 

 何やら門前が騒がしい。

 黒い背広を着た男たちが何やら警備と話している。

 

 「何かあったのか?」

 

 近づくと、すべての視線がこちらを向いた。

 

 ふむ…………。やつらは手練れだな。

 

 気配を消して近づいたわしを素早く値踏みしおった。

 常人なら探られたことにも気づかないだろう。

 

 「あぁ、あなたは新しく入った用務員見習いの方ですね」

 

 警備を務める女子(おなご)が少しほっとしたように肩の力を抜いた。

 

 「ただの雑用が話に入ってくるんじゃない!おい、君!速くしたまえ。私は政府の者だぞ!」

 「いかなる場合であろうとも、親族であろうとも、ここへは入ることはできません。規則ですから」

 「っ、貴様!いい加減に――」

 「いい加減にするのはお前の方だ」

 

 警備の女子に掴みかかろうとしていた男の手を、すんでの所で掴む。

 

 「なっ、いつの間に!?」

 

 皆驚いている。

 それもそのはず。

 先ほどまでわしは門の内側におった。男たちがいるのは門の外側。

 門は開けられた形跡はない。

 ならどうしたか。

 

 そんなの決まっているだろう?

 

 「乗り越えた」

 

 強行突破する侵入者対策に電流が流れているらしいが、このぐらいの電流じゃぁわしを止められん。

 

 「こんな門、ちょろすぎるわい」

 「な、何だこいつ」

 「何者だ!?」

 「用務員見習いじ……だ。それよりお主ら、本当に政府のモノか?」

 「そ、そうだが」

 「嘘つけぇぇぇぇぇい!!」

 

 ドゴォ!!

 

 「ぐふぅっ!!」

 

 男の一人が空を飛んだ。

 

 「なっ!?」

 

 男たちが一斉に戦闘態勢をとった。

 

 「やはりな。その切り替えの早さ、身のこなし。お主ら傭兵経験があるものどもだな?その構えには覚えがある」

 

 これは前世の記憶。

 戦いのほとんどの記憶は前世のもの。

 いつもはぼんやりした記憶だが、こうして戦いの場に立つと思い出す。

 

 あの記憶――――。

 

 「っ!!」

 

 おっといかん。つい本気を出すところじゃった。

 今の時代、あまり戦いがないからな。

 最近では人と戦うのは久しい。

 

 熊ならしょっちゅうなのじゃが……。

 

 「私は今腹が減っている。手早く済ますぞ」

 「このっ」

 

 男たちがわしを囲み、連携のとれた動きで襲いかかる――――が、

 

 「ほーれ」

 「『ビリビリビリ』ぎゃああああああ!!」

 

 「そーれ」

 「『ビリビリビリ』ぐがああああああ!!」

 

 「もういっちょ」

 「『ビリビリビリ』にぎゃあああああ!!」

 

 おぉ、これは楽じゃ楽じゃ。

 

 向かってきた男たちを電流の流れる門の方へ投げ、感電で気絶させる。

 腹が減っている上に、彼らは傭兵経験のある者たち。

 相手するのは簡単じゃが、早く飯が食いたい!

 

 「くそっ!」

 

 相手もわしに近付くのは危険だと判断したのか、離れて銃で狙うが、そうはいかん。

 

 「飛んでけ」

 「うわっ『ビリビリビリ』がああああああ!!」

 

 素早く近づいて投げれば問題ない。

 

 こうしてあっという間に男たちは門の前に積み上がった。

 

 「軟弱ものどもめ」

 

  もうちょっと粘らんかい「ぐ~きゅるきゅる」いや、そこで寝とけ!

 

 「あ、あの、ありがとうございます。……これ、よかったら」

 

 警備の女子が渡してきたのは、食堂の食券。

 

 「おぉ!いいのか!?」

 「はい。このあと、この人たちの処理をしなければなりませんから」

 「そうか。なら遠慮なくいただこう」

 

 徳をした。

 これで一回分、食料を持たせられる。

 

 

 

 




用務員見習い、一日目のお仕事でした。

食堂の制度とかよくわからないから、有料にしましたが、原作では違うかも(すみません。原作しりません)。
まぁ、この世界のオリジナル設定ということで。ご了承ください。

あとモノレール以外の道路ですね。
あるのかわかりませんが、ないと大きなものの運搬とかちょっと困りますよね。
船とか空からとかありますけど、とりあえず作っちゃいました。
これもオリジナル設定ということで。


次の更新は、5月17日(金)PM17:00


ストックが~~~っ!切れる~~~っ!!!!



11月25日 改稿



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十五

 

 

 一夏視点

 

 

 

 昼休みが終わると、すぐにISの実技訓練の時間だ。

 そのため、昼食を軽めにとり、ISスーツに着替えて早めにアリーナへと出た。

 いつもは時間ぎりぎりになり、千冬姉に睨まれるのだが、今日は一味違う。

 

 「あれ、織斑くん。今日は早いね」

 

 いつも早く来ているであろうクラスメイトに声をかけられた。

 

 「あぁ。今日は何だか朝から調子よくってね。今なら何でもできる気がするぜ!」

 「へ、へぇ」

 

 俺のやる気にクラスメイトは若干引いたみたいだが、今日の俺は本当に一味違う。

 

 何でだろう?

 

 やはり朝食の『料亭朝食セット』(野口さん二枚←ここ強調)がよかったのだろうか。

 いや、それよりも昨夜進とキャンプの時に食べた謎の黒団子の方が怪しいな。

 もう寝ようと思ったら進に「寝る前にこれ食べろ」と言われて渡されたのだが、持った感触が団子より少し固めで、中は何かと思って手で割ろうとすると進に止められて渋っていたら無理やり口の中に突っ込まれた。

 それから――――あれ?それ以後の記憶がない。

 ぐっすりと寝られたことは確かなんだが……。

 

 「一夏!」

 「一夏さん!」

 

 箒とセシリアが何故か怒りの表情でやってきた。

 

 「な、なんだぁ?」

 「な、なんだぁ?じゃありませんわ!」

 「何故先に行ってしまうんだ!」

 「何故って……先行くって言ったじゃないか」

 「知りませんわ!」

 「聞いてないぞ!」

 「いや、でも伝えたとき『うるさい!!』って言われたし……」

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 ちょうど二組の鈴も交えて食堂で昼食を食べていた時だった。

 

 軽めの昼食(サンドイッチ+野菜ジュース)を食べていたら、セシリアが何気なく尋ねたことがきっかけだった。

 

 「一夏さん、昨夜はテントでお眠りになったと聞きましたが、夕食はどうなさったのですか?食堂の方にも来られなかったみたいですが」

 「あぁ。進が作ってくれたんだ。いやぁ、あれは美味しかったなぁ」

 

 もちろん、食堂の食事が美味しくないという訳ではない(断じて!むしろすごく美味しいです!だからカウンターの影から睨まないで!!)

 実際には何の変哲もない料理なのだが、夜空の下でたき火をしながら食べたので、何だか普通より美味しく感じられたのだ。

 

 「また食べたいなぁ……」

 

 知らず知らずの内に呟いていた。

 

 「(な、何なんですの!?一夏さんの、おやつを楽しみにする子どもみたいな表情は!?)」

 「(進~、あいつ何作ったのよ!)」

 「(昔から勉強以外なんでもできる奴だったが、料理の腕もとは……)」

 「(進さんって何者なんですの!)」

 「(正直私にもよくわからん)」

 「(右に同じ)」

 「(なっ!あなたたち一夏さんの幼馴染なのでしょう?彼女の情報ぐらい掴めなかったんですの?)」

 「(いや、分かるし、知ってるわよ?それでも分からない……っていうか理解不能なのよ!)」

 「(左に同じだ)」

 「(はぁ、全く情けない。所詮、幼馴染というだけ(・・)なのですね)」

 「(……何が言いたいのよ)」

 「(いえ、別に)」

 「……煮え切らないわね。はっきり言いなさいよ」

 「『別に』と言っているではないですか。はっきりと」

 「……へぇ、そういう屁理屈言っちゃう?この金髪ドリル!」

 「んまっ!これはドリルではありませんわ!あなたこそ、ツインテールが似合うのはせいぜい一桁の年齢までですのよ?」

 「だから何よ」

 「とてもよくお似合いでしてよ」

 「それはなにか、あたしが一桁のお子ちゃまに見えるということですかな!」

 「誰もそんなことは言っておりませんわ」

 「同じことでしょ!!」

 「おい、二人とも落ち着かないか!」

 「何よ!でかいからって上から目線で言うんじゃないわよ!」

 「っ!どこを見て言ってるんだ、どこを!」

 「けっ、そんなもんあと数年もすれば垂れる運命――いや、宿命にあるのよ!」

 「あなたにはそんな宿命なさそうですわね」

 「同感だな」

 「ぬぁんですってぇ!!」

 

 

 「ごちそうさま。……みんな、俺食べ終わったから先に行って」

 「「「うるさい」」」

 「…………はい」

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 ((あぁ、確かそんなことが……))

 

 な、何だか急に考え込んだ箒とセシリアから、どす黒いオーラが出ているような……。

 

 あっ――――――――。

 

 

 バシン!バシン!

 

 

 「もうチャイムが鳴っているぞ馬鹿者ども」

 

 あー、遅かった。

 

 俺?俺はちゃっかり整列していた。

 そんな俺を、千冬姉は珍しいものでも見るような目で見てきた。

 

 ふふん。俺だってやればできるんだぜ!

 

 と、心の中で呟いたら、

 

 「いつまで続くことやら……(ボソ)」

 

 無表情で呟かれた。

 

 ちょ、できるから!ちゃんとやるから無表情はやめてくれよ千冬姉!

 

 

 

 

 「さて、今日の授業は、本来ならばクラス対抗戦の解説やらダメだしやらをする予定だったが、途中で終わったため、少し予定を変更する」

 

 ダ、ダメだし……。

 絶対にボロクソ言われただろうな、俺。

 よかった、途中で終わって――。

 

 「『途中で終わってよかった』などと思っている馬鹿もいるようだが、その馬鹿のために、途中までのダメだしをしてやろう」

 

 墓穴ほった!

 

 や、やばい。千冬姉の目が笑ってない。

 

 思わず後ずさると、周りには誰もいなかった。

 俺を避けるように空間が空いている。

 

 目の前に千冬姉が着て、出席簿が振り上げられる。

 太陽の光を受け、出席簿がキラリと光る。

 

 

 

 

 

 

 「織斑先生!山田先生!」

 

 

 

 

 




なんとか間に合った!
ストックない!
マジやばい!

現在「休日?なにそれ美味しいの?」という状況。
ブラックだ。ブラックに就職してしまった……。

と、愚痴はここまで!

さて、次回は千冬視点。
早く男装少女とか銀髪軍人とか出してあげたいけど、粘ります。
ちょいちょい過去話とかも入れていきます。

次回更新は、5月24日(金)PM17:00です。



11月25日 改稿


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十六

ストックがかなりやばいですが、諦めずに投稿!

今回は呼ばれた千冬の会話です。
千冬視点で。


 

 

 

 千冬視点

 

 

 

 「何?侵入者だと」

 「正確には『侵入しようとした者』ですが」

 「?どういうことだ」

 

 楽しい楽しい授業の途中、職員室の先生が慌ててアリーナに駆け込んできたので、生徒に自習を言い渡し、離れたところに移動したが、いったいこいつは何を言っているんだ?

 

 そんな私の空気を感じとったのだろう。

 若干怯えた表情で先を続けた。

 

 「えっと……連絡をした警備員によりますと、門の所に政府から来たと偽った男たちが織斑一夏に召集がかかっているといって、学園内に入れろと警備員に迫ったようです。警備員が通さなかったところ、実力行使に出たようで」

 

 いかなる立場の者――たとえ政府の人間でもこの学園ないには入れない。

 それは政府の人間はもちろん、一般にも広まっていることだ。

 それなのに政府を語って学園内に入ろうとしたということは、最初から強行突破するつもりだったのだろう。

 ならばその政府の人間を語った者たちは相当の手練れだったはず……。

 

 「警備員は負傷したのか」

 「あ、いえ。傷一つありません」

 「ほう。警備員もなかなかやるな」

 

 門の警備員は確か一人だったはず。しかもISの所持はしていなかったと記憶していたが。

 一人で手練れの男たちを相手にするとは――。

 

 「いえ……それが、侵入者を倒したのは警備員ではないんです?」

 「…………何?」

 

 何だか嫌な予感がしてきた。

 こういった予感は昔からよくあたるんだ。

 そして、そのすべてに奴がかかわっていた。

 

 「昨日、用務員見習いとして入った暁進というものが、一人で、しかも素手で銃を向ける相手に怯まず、あっという間に倒してしまったそうで……織斑先生?」

 

 私は思わず額を押さえて深いため息をついていた。

 

 やっぱりやつなのか!

 

 戻ってきて早々、というか、戻ってきかたからして騒動を起こすような非常識なやつだ。

 旅から帰ってくる度に、あいつのまわりで騒動が起こって、そのたびに私が走りまわり――――。

 

 「あ、あの……お、織斑先生?」

 「あ――――あぁ、すまない」

 

 いかん。思わず当時のことを思い出してイラついてしまった。

 同僚が怯えている。

 

 「――それで。あいつが何か問題でも?」

 

 どうせ何か壊したのだろう。

 素手で電気が通る門を壊したとか、蹴りで車を爆発させたとか――。

 

 「いえ。彼女は何の問題もありません」

 「?だったら何を急ぐ必要が?」

 「それが、その男たちはIS学園反対派の政府の人間が雇った男たちのようで、今その人間から抗議の電話がかかってきて、私たちでは対処しきれないんです」

 

 その報告に、思わず舌打ちしてしまう。

 

 IS学園反対派。

 学園は各国の政府から干渉されない存在だとはいえ、日本に存在している。

 そのため、日本政府が学園運営費の多くを出している。

 政府の金ということは、日本国民が税金で支払った金だ。

 それに憤った――というより、自分の給料が減る事に憤った馬鹿な政府の人間が、IS学園反対派の筆頭になり、政府に学園の廃止を訴えている。

 しかもその殆どが男だ。

 

 今回は、唯一ISを操れる男性の一夏を人質、もしくは人柱として矢面にたたせ、男性の権力を取り戻そうとしたのだろう。

 一夏が協力を拒否すれば、洗脳でもして操るつもりだろうし。

 どっちにしろ、一夏は自分達の権力を取り戻す操り人形にされていただろう。

 

 一夏がISを動かせると分かった時にはそういったことや、人体実験としてさらわれることを危惧して急いで学園に入学させたが、当初学園には引っ切り無しに電話がかかってきていた。

 今回、その一部が強硬手段にでようとして――――進にコテンパンにやられた、というところか。

 

 現在抗議の電話をしてくるということは、まだ諦めていないということだな……。

 

 「はぁ。わかった。私が出よう」

 

 私は他と同じ学園の教師に過ぎないのだが、モントグロッソ初代優勝者という肩書をもっている。

 頭の固いやつほどこういう肩書がきくときがあるのだ。

 

 「山田先生」

 「っ、は、はい!」

 

 先ほどからポカンと突っ立っていた後輩に視線を向けると、ビクッと飛び上がった。

 その際、大きく実った二つのものがプルンと揺れる。

 

 「……チッ」

 「(ビクッ)」

 「あぁ、いや、山田先生は生徒たちをお任せします」

 「い、いえ!私も行きます!行かせてください!」

 

 この後輩は金魚の糞よろしく私についてきたがる習性がある。

 慕われているのは分かるのだが、時々自分の職業を理解しているのか不安になる。

 

 そもそも生徒にあだ名で呼ばれるとはどういうことだ。

 怒っても迫力はないし、はっきり言って舐められている。

 

 教師として威厳もなにもない。

 

 ……まぁ、それはおいおい何とかしよう。

 

 「…………まぁ、いいだろう。ついてこい」

 「っ!はい!!」

 

 こいつにクレームの対処を覚えさせて、任せるのもいいだろう。

 

 

 

 




可哀想な山田先生……。
なんか、不憫さが一夏と話が合いそうですよね。

さて、眠気に負けそうですが、次回は一夏視点に。
なんか主人公視点が少ないような気がする。

次回は、5月31日(金)PM17:00


誤字脱字報告、感想お待ちしてます!!



11月25日 改稿


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十七

すみません。長くなったので切りましたところ、今回が短くなってしまいました。

次回は元にもどりますから!


 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 

 

 「今から自習だ。どんなことをしてもかまわん。以上、解散!」

 「ちょ、織斑先生!?み、みなさん、自習は遊びではなく勉強を――」

 「行くぞ!!」

 「あ、待ってください~!」

 

 山田先生は、早足で先を行く千冬姉を必死になって追いかけていった。(見てねぇよ?山田先生のある部分なんて見てねぇよ?箒さん、セシリアさん)

 

 「あー……」

 

 俺が(珍しく)やる気を見せて、張り切っていたところを、別の先生が来て千冬姉たちを連れて行ってしまった。

 そしてしばらくすると、千冬姉と山田先生が授業を中断し、自習を言い渡してどこかへ行ってしまった。

 クラスメイトは、教室へ帰って行った。授業での訓練機貸出は、教師がいないと許可されないので、アリーナにいてもしょうがないと思ったのだろう。

 こんな時に専用機は便利なものだが、放課後の自由貸出の時間でもないのに練習するのは少し気が引るたものの、俺と箒とセシリアは、なんとなくアリーナに残っていた。

 

 「これからどうするか……。教室に帰って勉強ってのもなぁ。せっかくの自習なのに」

 「一夏……。自習というのは遊ぶ時間のことではないぞ?自分で勉強する時間だ」

 「い、いや、わかってるけど」

 

 箒の非難するような視線に、思わずたじろぐ。

 いや、だってよ?なーんか、やる気がしないっていうか、張りつめていた糸が切れたというか……せっかくやる気だったのに、拍子抜けして身体から力抜けて戻らないんだよなぁ。

 

 「まぁまぁ、いいじゃありませんか。たまには好きなことをしても」

 「!」

 「セシリア?」

 

 優等生のセシリアにしては珍しい発言だな。

 初めて会ったころは、俺のことを『極東の猿』だとか、自分が学年一位の成績ということを自慢してきたのに。

 すると、箒もそう思ったのか、セシリアの腕を引っ張ってなにやらこそこそと話し出した。

 

 「(きさま、どういうつもりだ)」

 「(あら、何のことですの?)」

 「(とぼけるな!普段から優等生を気取っているくせに、サボろうとする発言など、きさまらしくない。何をたくらんでいる)」

 「(別に。……箒さんは教室へ帰ってはいかがですか?専用機ももっていないのに、ここにいても仕方がないでしょう)」

 「(きさま!二人っきりで訓練をしようとしていたな!)」

 「(!?な、何のことですの?)」

 「(とぼけるな!抜け駆けしようとするとは――)」

 

 ……なんだろう、この疎外感。

 

 二人はいつの間にあんなに仲良くなったのだろう。

 ま、いいけど。

 箒も人付き合いが苦手だから友達ができたのは喜ぶべきことだし。

 

 

 ……あぁ、いいなぁ、同性の友達。

 

 そういえば、あいつどうしてるかなぁ。

 中学からの友達……というか悪友の――。

 

 

 あぁ、懐かしいなぁ。

 あいつと鈴と俺、それにたまに帰ってくる進と一緒に馬鹿なことやって――。

 楽しかったなぁ……。

 

 

 そういえば進は今どうしてるんだろう。

 用務員って、花壇の世話とか、玄関掃除しているイメージしかないんだけど。

 

 「何やってるんだろ……進」

 「呼んだか」

 「うおっ!!」

 

 突然後ろから声がし、驚いて飛び退くと、青いつなぎにほうきとバケツを持った進が立っていた。

 

 「どうしましたの?」

 「って、進!?どうしてここに」

 

 俺の叫び声に内緒話をやめた二人がこちらへやってきた。

 

 「あぁ。昼飯を食おうと食堂に向かっていたらお前たちの姿が見えてな。今授業中じゃないのか?」

 「千冬姉と山田先生がどっかにいって、自習になったんだよ」

 「ほうそうか!それはらっきーだったな。自習の時間は遊ばねば!」

 「進ならそういうと思ってたぜ!さすが進!」

 

 数あることをこなしながらも、勉強だけはできない女!

 

 『机に向かって学べるものなど微々たるものよ。旅はいいぞぉ!本物を知れる!』

 

 これは昔、進が教育委員会の連中に言った言葉だ。

 いや、やっぱり義務教育の間は学校に出なきゃ問題なんだよ。今の日本では。

 だからあの日、暁院で起こったことは、起こるべくして起こったものだったと思う――。

 

 

 

 

 




次回でストック切れます。

仕事マジやばい。
休憩くれない。
帰らせてくれない……。

――と、言い訳は置いておいて、次回は一夏視点で過去話。

やっぱり一夏視点が多い気がする。
でも進のすごさを一番表せるのは他人視点なんですよねぇ。


次回更新は、6月7日(金)PM17:00


誤字脱字通報、感想などお待ちしております!



11月25日 改稿


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十八

今日は過去話。

一夏視点でお送りします。


 中学校のころ、誰かが進のことを親に話したらしく、しかもその親はPTAの役員で、そこから教育委員会へバレ、問題視されたらしい。

 

 義務教育なのに、学校へ来させないのは虐待じゃないのかと、暁院に疑いをもった。

 もしかしたら院内で虐待が行われているかもしれないと疑った教育委員会の連中は児童相談所の人たちを連れて、暁院と院長である暁照道(あかつきてるみち)を調べにやってきた。

 

 世間から見れば、それは正しいことなのだろう。

 虐待が行われているかもしれない。

 疑いがあるのに調べないより、少しでも可能性があるのなら調べたほうが、手遅れになることはないだろう。

 

 だけど、それは本当に虐待があった場合の話だし、もちろん彼のようなすべてを包み込むような人が疑われるのは、正直怒りを覚えた。

 

 しかも連中は少しでも虐待の痕跡を見つけようと、院内を探し回ったり、院の子ども達から無理やり話を聞いたりした。

 

 「先生にひどいことされてない?」

 「怒鳴られたことない?」

 「ごはんはちゃんと食べてる?」

 「辛いことない?」

 「強く腕を掴まれたことは?」

 「私たちはあなたたちの味方だよ?」

 

 大人たちは巧みに、照道さんが虐待しているという事実を出したかったようだ。

 これには、慌てて駆け付けた俺や千冬姉は怒りを覚えた。

 しかし、答えた子どもたちは誰ひとり、彼を悪く言わなかった。

 

 「先生は怒るけど、それは私が悪かったの」

 「怒った後、一緒に悲しんでくれるの」

 「ごはんはいつも先生の分を分けてくれるの!」

 「一番体が大きいのに、一番少ないの」

 「先生はいっつも笑ってくれるの!」

 「一番辛いのは先生なのに、『みんなといれて幸せだよ』って笑うの!」

 「だから、先生を悪くいうやつは許さない!」

 「先生を悪くいわないで!」

 

 暁院にいるほとんどの子どもは親がいない。

 いても、親が責任を放棄し、ここへ預けられた子どもが殆どだ。

 そんな子どもは、大人を簡単に信用しない。

 

 だけど、暁院の子どもたちは人を信用するということと、警戒する心の両方を持っている。

 それは偏に照道さんの深い愛情と、進のおかげだろう。

 進は旅から帰ってくるとその話をみんなにする。

 

 そのなかには、本人が気付いていない危険がわんさかあったりするのだが、それをなんでもないように話すので、子ども達は“自分がしっかりしなきゃ”と、反面教師的に学んだおかげだろう。

 

 「彼は一人の大人として、人間として、子ども達を立派に育てています。そんな彼が、虐待をしている事実は全くありません」

 

 千冬姉が前に進み出て大人たちに言う。

 俺は小さくてあまり覚えてないけど、もの心ついたときから暁院とは付き合いがあって、親に捨てられた、なんて辛いと思うこともなかった。

 

 しかし千冬姉は苦しんだだろう。

 今笑って生活できるのは、暁院が千冬姉の頑なな心を溶かしたからだと分かる。

 

 「みんな……千冬ちゃん……」

 

 照道さんは千冬姉やみんなが自分を庇ったことに感動して瞳を潤ませる。

 

 「っ、て、照道さん。その呼び方は……」

 「ん?(うるうる)」

 「っ!?……っ、……な、なんでもありません」

 

 千冬姉は若干頬を赤く染めながら顔を背けた。

 そんな千冬姉の姿が珍しかったので、見ていたら、ギロリと睨まれた(滅茶苦茶怖かった!)。

 

 「そういうことだ!さっさと帰れ!」

 

 千冬姉はどこかやけくそぎみに委員会の人たちに言った。

 

 「い、いやしかし、子どもを学校へ行かせず一人旅をさせているなど、許されることでは……」

 「保護者として、学校へ行かせるべきでしょう」

 「そ、そうです!甘やかすだけが愛情ではないのですよ!」

 「……確かに、それが親としての責任かもしれません」

 

 俺は口を挟もうと前に出た。しかし、何か言う前に照道さんに目線で優しく止められてしまった。

 

 「しかし、あの子にはすでにやりたいことが決まっている。そして、それができる能力もある。能力がないうちは僕も旅なんて危険なことはさせません。けど、あの子にはすでにあるんです。学校に閉じ込める理由がありますか?」

 「そんな、中学生の子どもがそんな能力あるわけ(「おーい」)……え?――――」

 

 うん。なんかもうすぐ来るような気がしてた。

 噂をすればなんとやら、を本気でやるやつだ。

 そして、毎回とんでも登場を――――。

 

 「久ぶり~!!」

 

 全員一斉に空を見上げた。

 すると、東の空から近づく細い影が……。

 

 「ハ、ハンググライダー?」

 

 進は身体の何倍もあるハンググライダーを操り、俺達の上空までやってきた。

 すると、手をパッと放して、こちらへ落ちてきた。

 

 「「「きゃあああああああっ!!!」」」

 

 大人たちは叫び声をあげるも、進を知る者たちは特に動じることもなく空を見上げていた。

 そして、

 

 ドオオオオオオオオォォン

 

 「みな、ただいま帰ったぞ!」

 「「「おかえり~!!!」」」

 

 小さい子どもたちは大好きな進の帰りにはしゃいで飛びついた。

 俺を含め、同年代に近い子どもは若干苦笑しながら、内心進の帰りを喜んだ。

 

 普通にしている俺達に、委員会の人たちはおかしなものを見るような目で見てくる。

 

 「あー、さきほど照道さんも言っていたでしょう。あの子にはやりたいことをやる能力があるって」

 

 この中で一番常識人の千冬姉が代わりに委員会に説明した。

 

 「あの子には旅をするうえでの、危険をのける知識も身体も、常識(は正直ないが)も備わっている。私たちが心配する必要などありません」

 「し、しかし、法律は遵守すべきで、子どもの学習には学校が一番――」

 「馬鹿もん!!」

 

 進が子ども達に事情を聞いたのか、ずんずんと大人たちの前へ出た。

 

 「旅を舐めるんじゃないわい!机に向かって学べるものなど微々たるものよ。旅はいいぞぉ!本物を知れる!」

 「……学校側は、この自由人を制御しきれるのか?」

 「「「…………」」」

 

 

 千冬姉の問いかけ後、教育委員会と児童相談所の人たちは帰って行った。

 

 カッカッカ、と豪快に笑う進を見て面倒事は避けたらしい。

 とても賢い人たちだと思った。

 

 「けど、今般的な解決にはならないよ。やっぱり法律だし」

 「ふむ……つまりわしが旅出ることをお偉方に認めさせればいいわけじゃな?」

 「え、あ、う、うん?そういうこと……なのかな?」

 

 すると進は院内に入り、暫くするとはがきを手に戻ってきた。

 

 「今から郵便局に手紙を出しにいってくる!」

 「え?」

 「「「いってらっしゃーい!!」」」

 

 子ども達の声に頷くと、パッと進の姿が消えた。

 

 「えっ!進!?」

 「上だ」

 

 千冬姉の声に上を向くと、ハンググライダーに進が戻る所だった。

 どうやらワイヤーで繋いでおき、それをつたって空のハンググライダーまで戻ったらしい。

 

 お前はどこぞの怪盗か!!

 

 と、心の中で叫んでしまったのは、当然のことだと思う。

 

 

 ちなみに、後日教育委員会委員長から手紙が来た。

 内容は、結構難しい言葉でよくわからなかったが、要約すると、

 「授業無理やりうけなくてもOK!」ということらしい。

 

 俺が呆れる隣で、照道さんはいつもの暖かい笑みを浮かべていたのが印象的で、この人の懐はどれだけ深いんだと、改めて尊敬の念を抱いた瞬間だった。

 

 

 




とあるアニメから、ハンググライダーっていったらあの白い怪盗だよなぁ、と思ってそれっぽく退場。

はがきは、このときの進の連絡手段です。携帯はIS学園に来る前、束のところで使えるようになりました。

そして今回初めて名前が出てきました。
進の義父、暁照道(てるみち)さん。一言でいうとチョーいい人。
のちほど登場人物紹介の方にも載せたいと思います。



次回は…………まだ決まっておりません!(ひ~っ!)

現実に戻ってくるところは決まってます。
一夏視点か、進視点かは未定。

で、次回更新は 6月14日(金)PM17:00

なんとか間に合わせます!

間に合わなかったら活動報告で知らせます。


11月25日 改稿


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十九

ま・・・・・・まにあった~~~~~っ!!!フォーーーーーっ!!!


はぁ、はぁ……。失礼しました。
マジ危なかったです。

今回は一夏視点。
一行はアリーナを離れ、食堂へと移動します。



 一夏視点

 

 

 

 

 俺達は特にやることもなかったため(自習?自由が訛った言葉だろ?)進について食堂にきた。

 中へ入ると、事務員の制服を着た人や、食堂のおばちゃんたちがくつろいでいた。

 生徒が食べ終わったこの時間が、職員たちの昼休みなのだろう。

 

 「おや、あんたたち。今は授業中だろ?」

 

 っ!食堂のおばちゃん…………いえ、お姉さま!!

 

 俺は思わず背筋を伸ばして緊張した。後ろで箒とセシリアもビシッと固まったのが気配で感じ取れた。

 

 「おぉ!美津子さん、相変わらず美人ですなぁ」

 「あら、進ちゃんじゃない!いやだわぁ、この年で美人だなんて。相変わらず正直なんだから!」

 「ははっ、私は嘘はつかないよ」

 「もう!うふふふ。あ、今からお昼?何か奢るわよ?」

 「本当か!……いや、先ほど食券を貰ったんだ。折角だから使わせてもらうよ」

 「あぁ、これね。あたしの得意料理だわ」

 「それは楽しみだ!美津子さんの料理は天下一品だからな!」

 「嬉しい事いってくれるじゃない!大盛りにしてあげるわ!」

 「もう、美津子さんばかりずるい!私も進ちゃんに何か作ってあげたいわ!」

 「あたしもよ!」

 「あたしも!」

 「いやいや、そんなに食えんよ。それに、一気に食べたらもったいないだろう。……一品ずつにしてくれな」

 「「はーい!!」」

 

 「「「……」」」

 

 進……お前ってやつはお前ってやつは!

 

 「……そういえば、奴……昔から妙に年上受けがよかったな」

 「あぁ。ある一定の年齢に超モテモテだった。あいつと商店街歩くとお金を払わずに必要以上のモノがそろったな」

 

 マダムキラーだ。というかシニアキラーだ。

 

 男女性格関係なく進は仲良くなってしまう。

 しかもその性格は暁院の子どもたちにも受け継がれているらしく、あいつらも商店街を歩けばタダでモノがもらえる。

 

 「……で、あんたたちは何でここにいるんだい?今授業中だろ?……まさかサボってるんじゃ……」

 

 !?話がもとに戻った!しかもまずい感じに!!

 

 「あ、いえ、俺……ぼ、僕たちは」

 「あいつらは私の古い友人でな。授業が自習だというんで久々に話でもしようとおもってな」

 「あら、そうなのかい?進ちゃんの友だちならしょうがないわね。先生たちに黙っておくから」

 

 ……進、ホントお前ってやつは…………恐ろしい子!!

 

 俺達は大人数が座れる席にいき座った。

 おばちゃ――――お姉さまの多くが進と話したそうに見ていたが、久しぶりに会う友人たちと話したいという進の意志を尊重したのだろう。

 そこはやはり大人だ。

 ……が、

 

 「「「(痛い。視線が痛い!!)」」」

 

 おば――――お姉さまたちの視線が突き刺さる。

 俺達限定で。

 

 進は気付いているのかいないのか、先ほどから腹の虫を鳴らしながらウキウキと料理が出来るのを待っている。

 

 「……っ、す、進!な、何頼んだんだ?」

 「おぉ!それはな――――」

 「お待ちどおさま!」

 

 お――――お姉さまが元気よく割って入り、進の前に料理をドンと置いた。

 その料理は――――。

 

 「『激辛包みオムチャーハン』大盛りだよ!」

 

 

 な・ん・だ・そ・れ・は!!

 

 と、まずネーミングにツッコミたい。

 

 それで置かれた料理は、見かけ黄色い普通のオムライス。

 が、オムチャーハンというからには、ごはんの部分がチャーハンなのだろうということは容易に予想できる。

 だが、その前の『激辛包み』の意味が分からない。

 

 「えっと、これのどこが『激辛包み』ですの?私には普通のオムチャーハンに見えますが」

 

 セシリアもそう思ったのだろう。おずおずと――――お姉さまに問いかける。

 

 「そりゃそうさ!見ただけじゃ分からないよ。食べてみなきゃ」

 「ふむ。ではいただこう。一坊たちも食べてみるといい。一口だけじゃぞ?」

 

 口調が戻ってる。本気だ。

 

 「あ、あぁ。じゃぁ、いただきます」

 「「「いただきます」」」

 

 俺達はスプーンを手に取り、玉子に包まれた山をすくい取り、口の中へ――――。

 

 「「「!!!???」」」

 

 

 っっっっっっっか、

 

 

 「「「からーーーーーーーい!!!!」」」

 

 俺と箒とセシリアは同時に叫んだ。

 

 何だこれ!辛!

 中はチャーハンなのに、外を包んでる玉子が玉子のはずなのに激辛!

 何で玉子がこんなに辛くなるんだよ!

 調味料入れてるんなら色変わるだろ!

 騙されたよ!

 

 と心の中で叫びながら、俺は食券の横に備え付けてある無料の給水器に突進した。

 すると、俺の横を風が駆け抜けた。

 

 「ふぁっ!?(なっ!?)」

 

 気づくと、給水器には箒とセシリアが陣取っていた。

 一人が水を飲んでる間に一人が水をコップに入れているため、俺の入る隙がない!

 

 「ほ、ほれもひひゅ!(お、おれもみず!)」

 

 だが、二人は俺の声が聞こえなかったかのように水を飲み続けている。

 

 「ひゅ、ひゅお~っ!ほれはっへ!(く、くそ~っ!俺だって!)」

 

 俺は二人の間に突進し、給水器に手を伸ばす。

 

 「ぐほっ!」

 

 が、全く触れることなくぶっ飛ばされた。

 

 無様に床に転がった俺は二人を見上げた。

 

 二人は水を飲む手を休めることなく俺を見下ろしていた。

 その目は、獲物を横取りしようとする敵を威嚇するライオンの目だった。

 とても幼馴染や友達を見る目ではなかった。

 

 くっ、これが女尊男卑の現実なのか!(←違う)

 

 

 

 

 俺達が醜い争いを繰り広げている後ろで、進はというと――――。

 

 「うまい!流石美津子さん!!どんどんいけるぞ!」

 「じゃんじゃん食べてね。あ、おかわりあるから」

 「うむ。おかわり!」

 

 

 進は舌も恐ろしい子だった。

 

 

 

 

 




なんだか話が進んでないような……。

次回はちょっと真面目な話になるかも……しれない……。

一夏視点だと進がどんどん化け物じみてくるような……?

連絡:すみません!仕事が忙しく21日は投稿できそうにありません。その次の金曜か次の次の金曜に二話投稿しますので、それまでお待ちください。
楽しみにしてくださているかた、本当に申し訳ありません!


感想もじゃんじゃんください!
みなさんの意見、とてもおもしろいです!!



11月25日 改稿


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二十

前回は予告したのに休んですいませんでした。

約束通り、二話投稿します。

〇ちょこっと前回までは……

急遽授業がなくなり、これからお昼だという進につきあって食堂にきた一夏・箒・セシリア。
そこで見たのは、マダムキラー進。そして、もらったという食券の料理、『激辛包みオムチャーハン』。一口食べれば口から火がでるかと思うほどの辛さ。いや、痛さ!
進は口のなかも非常識だった。



……ということで、一夏視点です!



 

 

 一夏視点

 

 

 

 「進、よくこんなも――――このような辛い食べ物を食べれふら」

 

 数十分(・・)後、箒たちの給水スピードが落ちた隙を狙って癒しの水を手に入れた俺は、何とか辛さのカーニヴァルから抜け出すことができた(まだ若干余韻が残ってるが……)。

 その間進は、あのチャーハンを激辛で包んだ『激辛包みオムチャーハン』を平らげ、さらに御代わりし、別のお姉さま方が作った料理も平らげて、緑茶をすすっていた。

 

 「ずずっ……辛さも慣れれば美味しく感じるものよ。旅の途中で辛いモノを主食とする国へ行ってな。毎日食べていたら慣れた」

 

 毎日辛いモノを食べるって……韓国あたりだろうか。

 よく旅の話を聞かせてくれるし、訳の分からないお土産ももってくるが、本当に進は世界中を旅してるんだなぁ。

 

 「……な、なぁ進。お前と一夏は、きき昨日の夜、何をしていたのだ!」

 

 箒が眉間に皺をよせ、進の方に身を乗り出した。

 見ると、セシリアも身を乗り出している。

 

 「ずずっ……昨日の夜はなぁ――――」

 

 二人がさらに身を乗り出した。

 

 いったい何がそんなに気になるんだろう。ただのキャンプだったのに。

 

 「ずずっ……――――食べて寝たなぁ」

 

 

 ズゴッ!

 

 

 二人は呑気な進の声に力が抜けたのか、顔からテーブルに突っ込んだ。

 だ、大丈夫か?

 ものすごい音がしたが……。

 

 「っ……す、進!真面目に答えろ!」

 「そうですわ!ちゃんと何があったのか白状なさい!」

 「ずずっ……食べて――――寝たなぁ」

 

 ダメだ。今の進は緑茶タイム。

 温かい緑茶を飲んでいる時だけ、進は大人しくなる。

 いつもは落ち着きなくどこかを彷徨っているが、緑茶を飲むときだけは立ち止まり、ゆっくりと飲み干すまで実にまったりとした空間が進のまわりに流れるのだ。

 イメージとしては、縁側で日向ぼっこをしながら緑茶をすするおじいちゃんだ。

 

 周りの人は大体進の行動力のあるところに魅かれてついていくので、このまったり空間は戸惑うものらしい。

 だが、俺はそんなに嫌いじゃない。

 隣にちゃんと進がいる感じがして、安心するのだ……。

 

 

 ……ん?俺今なんか変な事考えたか?

 

 

 「一夏さん!」

 「一夏!」

 「は、はい!」

 

 二人が今度は俺に向かって身を乗り出してきた。

 進がまともに答えないとふんで俺に的を変えたらしい。

 

 「本当は昨日の夜、何があったんだ?」

 「正直にお答えくださいませ」

 

 あ、あの、二人とも?ものすごく空気が恐ろしいんだが……。

 食堂のお姉さま方と同じくらいの恐怖を感じる。

 だが、すでにキャンプをしたと言っているし、二人が何についてこんなに怒っているのか、正直わからない。

 

 「ふ、二人が何を言いたいのか、よくわからないんだが……」

 「それは……っ」

 

 二人が何か言おうとして口ごもった。

 

 「?」

 「ずず……はぁ」

 

 首を傾げると、進がお茶をすすって満足そうに溜息をついたのでそちらを向いた。

 本当に美味しそうにお茶を飲むな……。

 俺もお茶が欲しくなってきた。

 

 「(む……)おい、一夏!」

 

 箒が苛立たしげにテーブルに両手を叩きつけて俺を睨んだ。

 

 だが俺は箒に目を向けることはなかった。

 

 俺は目の前で起こった事態に唖然としていた。

 

 「……」

 「どうなさいましたの?」

 

 進は黙って濡れた手元を見ていた。

 

 箒がテーブルを両手で叩きつけたとき、テーブルは激しく揺れた。

 そして、ちょうどその時テーブルに湯呑を持った手を置いていた進は、その振動で手が揺れ、もちろんその手に持っていた湯呑も揺れたわけで……。

 お茶は揺れによって湯呑から飛び出し、進の手やテーブルを濡らした。

 

 「み、みなさん?」

 

 急に黙り込んだ俺達をセシリアは不審に思っているが、俺は今それに答えることができない。

 

 俺はちらりと箒を見た。

 

 箒は顔を真っ青にし、進を見つめていた。

 きっと俺も同じ色になっているだろう顔をゆっくりと進の方にむけた。

 

 進の表情は俯いていて見えないが、俺には分かる。

 進はとんでもなく――――。

 

 「箒嬢」

 

 にっこり

 

 「ひっ!」

 

 進の顔を見た箒は短く悲鳴をあげ、脱兎のごとく逃げ出した。

 

 その姿を追うと俺の横を風が通り過ぎた。

 振り向くと、真ん中の席にいたはずの進が消えていた。

 

 「ぐっ!は、はなせ!」

 

 箒の叫び声にそちらを向くと、進が箒の襟首を掴んで捕まえていた。

 

 「箒嬢よ。自習になって元気が有り余っているようじゃな。よし、久々に稽古をつけてやろう。確か道場があったな。……一坊、案内せい」

 「は、はい!!」

 

 俺は素早く立ち上がり、進の前に立って歩いた。

 

 「い、一夏さん、これはいったい……」

 

 セシリアが困惑気味に聞いてきた。

 

 「いいかセシリア。これからは決して、決して進の緑茶タイムを妨害してはいけない」

 「え?」

 「食べ物に対しても、作っている人に対しても感謝をこめて食べること。さもなければ――――」

 

 「くくっ、久しぶりに見せてやろうかの」

 

 

 

 “地獄”をみることになるだろう。

 

 

 

 

 

 




食べ物は残さず食べましょう!飲み物だって決して粗末にすることなかれ!
さもないとどこかのおじいちゃんが説教しにいくぞ!!


11月25日 改稿


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二十一

本日二話目。

三人の視点でお送りします。

まずはひさびさの進から!!


 

 

 進視点

 

 

 

 さて、この馬鹿娘をどうしてくれようか。

 わしの大事なお茶の時間を邪魔してくれおって……。

 

 

 一坊が案内したのは、剣道場。

 

 ふむ。なかなか広くていいところではないか。

 ここなら思う存分……。

 

 「くっくっく」

 

 

 ビクッ×3

 

 

 

 おっと、思わず声が漏れておったか。

 さて、時間もない事だし、始めるかの。

 

 「準備はよいか、箒嬢」

 「あ、あぁ」

 

 制服を汚すわけにもいかないので、箒嬢には道場にあった袴に着替えている。

 ふむ。箒嬢は剣道部らしいな。まぁ、昔から剣道が好きだった子じゃからな。

 

 それにしても情けない。何ともか細い返事よ。

 そんな弱気でおったら、余計に痛い思いをするだろうに……。

 

 が、箒嬢はどこか吹っ切れたのか、首を振ってわしを睨んできた。

 

 ほう。覚悟を決めたか。

 それでよい。

 戦うためには覚悟が必要。

 それがなければ、戦う資格もない。

 

 「……が、今はそんなことどうでもいい」

 

 わしは身をかがめて箒嬢を見る。

 そして一気に飛び出し箒嬢の腹部に手を回して片手で放り投げた。

 

 「食べ物を粗末にする奴は痛いめみんとなぁ」

 

 食べ物の怨みは恐ろしいんじゃぞ?

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 箒視点

 

 

 

 

 私は今、宙に浮かんでいた。

 

 別にISに乗っているとかそんなことではない。

 現実に、生身で浮かんでいるのだ。

 いや、浮かんでいるというより、飛んでいるといったほうがいいかもしれない。

 

 もっと正確にいえば、進によって放り投げられたいおう。

 

 

 こんな時になんだが、私は今ものすごく懐かしい気持ちになっていた。

 昔、私が一夏と共に道場で稽古していたころ、時々遊びに来た進により、こうして放り投げられていたのだ。(子どもで身軽だったとはいえ、人一人を簡単に投げてしまう進は当時から恐ろしく強かった)

 

 久々に進と稽古をすることになったとき、昔のことを思い出して反射的に震えてしまったが、今の私は昔とは違う。

 ずっと剣道で鍛えて来たし、少しは進と戦えるのではないかと思っていた。(勝つとは最初から思っていない)

 

 が、それは間違いだった。

 昨日、進が突然現れたときのことを忘れていた。

 進は生身でもISを倒してしまったことを。

 昔と変わらず軽々と人を放り投げることからも分かる。

 

 進はとてつもなく強くなっている。

 

 私は昔のことを思い出していたせいで、宙を飛んでいる途中だということを失念していた。

 しかし、視線の先に青ざめている一夏が映り、我に返ってギリギリで受け身をとった。

 

 「ふむ。受け身の取り方は忘れていないようじゃな」

 「あたりまえだ」

 

 いったい昔、何回投げられたと思っている。

 一夏程ではないが、二けたを越えていた気がするぞ。

 

 「では次だ」

 

 その声がやたら近くで聞こえたかと思うと、すでに足が払われた後で、視線が天井を向いた。

 しかし床に背中が付くより先に体をひねり、進に向かって蹴りを出した。

 その蹴りはあっさりとかわされたが、進が離れたので受け身をとり、素早く立ちあがる。

 が、その時にはすでに進の姿はなかった。

 慌ててあたりを探すと、頭上から殺気を感じ、後ろに飛び退いてかわす。

 

 

 バキッ

 

 

 何かが砕ける音がし、さっきまで居た場所には、進の拳が床を突き破って刺さっていた。

 

 なんという破壊力。

 あれが少しでも当たれば、怪我ではすまない。

 

 「殺気にはちゃんと反応するようじゃな。よしよし」

 

 全然よくない!!

 

 と叫びたかったが、息を切らす私には口をきく余裕もなかった。

 

 

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 「ひ、久しぶりに見た。人が飛ぶところ」

 

 ISにより飛ぶことが出来るようになったが、それとは違い生身で飛ぶところをみるのは、箒と道場に通っていた時期以来だ。

 

 「ひひひ、人が、生身で、放り投げ、宙を……!」

 

 おっと、セシリアが激しく動揺している。

 

 それもそうだろう。

 生身の人間が、人一人をあんなに高く遠くに飛ばせることができるなんて思わないだろう。

 できちゃうんだなぁこれが。

 進限定で。(いや、千冬姉を除くかな。やればできそうで怖い。できるかなんて聞かないいけど)

 

 「か、彼女は本当に何者ですの!?人があんなに軽々と宙を!!」

 「あー、落ちつけセシリア。あいつに常識は通じない」

 「そんなの説明になってませんわ!それに、何で二人ともそんな冷静ですの!?」

 

 この学園で言えば、あと鈴と千冬姉もだな。進の非常識さを知ってるのは。

 

 「いや、もう慣れだな。昔からあんなんだったし」

 「昔からって……。昔から人を飛ばしていたのですか!?」

 「まぁな」

 

 どうやらセシリアの理解の許容度を越えたらしい。

 額に手を当ててフラフラと道場の壁によりかかった。

 

 無理もない。お嬢様のセシリアにはこんな非常識人間にあったことはなかったのだろう。

 俺だって、昔から知っていなければ、動揺しまくりだっただろうし。

 

 まぁ一時期、千冬姉が進の非常識さをなんとかしようと思ったらしいが、翌日には『あいつはもう治らん。私には手に負えなかった』と言っていたので、誰にもどうすることもできない。

 

 進の非常識さには、慣れるのが一番心に優しい。

 

 そんなことを考えている間に、二人の戦いは終わりを告げていたらしい。

 はじめから予想はついていたが、立っていたのは進だった。

 息一つ乱すことなく、ボロボロで床に転がっている箒を見下ろしている。

 

 「強くなったな箒嬢。……じゃが、力に振り回されておるふしがある」

 

 進の言葉に、箒はビクリと肩を震わせた。

 

 「確かに身体は強くなったが、そこに心がなければただの暴力。武を嗜むものは常に考えなければならぬ。――何のために力を使うのか」

 

 進は箒に向かって手を差し出した。

 箒はその手を掴み、立ち上がる。

 

 「……いつかお主は壁にぶち当たるであろうな。強さを求めるお主なら、必ず」

 

 進はそう言って手を放した。

 

 やはり、進のいうことは少し難しい。

 けどこれは箒の問題だ。俺がとやかくいうのはいけないのかもしれない。

 だけど、緊迫した空気に堪えられなくなり、俺は明るく二人に近付いた。

 

 「い、いやぁ、二人ともすごかったよ!それに久しぶりに見たなぁ、人が飛ぶの!懐かしいなぁ」

 「ん?お主も飛ぶか?」

 

 や、藪蛇!!

 言うんじゃなかった!

 

 

 次の瞬間、俺は懐かしさと後悔を思いながら宙を飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ進のすごさが理解できたと思います。
ので、次回は原作に戻りたいと思います。

はやく金髪とか銀髪とかだしたいなぁ……もうちょっと先ですが。


次回は…………来週は投稿できそうにないです。
お仕事で死にそうなので、ちょっと先延ばしで、


7月12日(金)PM17:00


に投稿しようと思います。

お待たせします!!



11月25日 改稿


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二十二

二週間ぶりで忘れた人のために、簡単な人物紹介とあらすじを・・・。

主人公 オリ主
暁 進 (あかつき すすむ):前世はおじいちゃん。現在は赤い髪の十六歳女。IS学園用務員見習い。一夏の幼馴染。一言でいうなら「非常識」。

あらすじ:織斑一夏は女しか乗れないというISを動かしてしまい、IS学園に強制的に入学。女しかいないところで、姉が教師として働いていたり、久しぶりに幼馴染とあったり、ドリルなイギリス代表候補生に絡まれたり、中国代表候補生の幼馴染を怒らせたり、いろいろあった。
 そして、ISのクラス対抗戦の最中、謎の無人ISがアリーナに乱入。殺させそうになったところでこれまた幼馴染の一人、小学校のころ単身で旅にでた暁進が帰ってきて、なんと生身でISを破壊。
 それから、「年頃の男女が一緒の部屋は許せん!」といって強制的にテントでキャンプしたり、進が用務員見習いになったりといろいろありました。えぇ。いろいろと……。



 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 今日は日曜日。

 どの学校も休みになる日。

 IS学園ももれなく休み。

 

 俺はその休みを利用して中学時代の親友の家にきていた。

 本当は鈴や箒も一緒に行こうと誘ったが、鈴は本国の用事でどうしてもいけないといい、箒は部活があると断られてしまった。

 進も誘おうかと思ったのだが、朝起きたときにはすでに姿がなかった。

 ホント、朝早いな、進は。

 

 「なぁなぁ一夏、どうなんだよ」

 「何が?」

 「何が?じゃねぇよ。女の園に一人の男……何もないわけないだろうが」

 「だから何のこと言ってんだよ」

 「…………このおバカ!」

 

 中学からの親友、五反田弾はやっていたゲームのコントローラーを放り出して俺に殴りかかってきた。

 いつもの俺なら避けられたのだが、生憎今は――――。

 

 「いたたたたたたたっ!ふ、触れるな!!」

 「お、おぅ、すまん……」

 

 俺の必死の叫びに弾は怯んだのか、謝って手を離してくれた。

 

 そう。俺は今、絶賛筋肉痛の真っただ中にいるのだ。

 

 先日の剣道場での箒へのお仕置きで余計なことを言ったばかりに思いっきり投げられ、空を飛び、組手の練習を何時間もさせられた。

 進も久しぶりに俺達を鍛えられて嬉しいのか、色々な技を試したり、俺達がその技をできるようになるまで技をかけたりしていた(あれ、いつもか?)。

 

 そのせいで、一時間の自習時間を大幅にオーバーし、三時間後、探しに来た山田先生に涙目で怒られ、千冬ね――織斑先生からも出席簿を喰らってしまった。

 

 ちなみに進は山田先生が来た時点でちゃっかり逃げていた(なんてやつだ!)。

 

 そんなこんなで、俺と箒は(そして何故かセシリアも)疲れ切って早々に眠りについたが、翌日目が覚めると今の状況が出来上がっていたという訳だ。

 中学校から剣道部だった箒ならともかく、剣道から離れていた俺は予想以上に体がなよっていたらしく、かなりの疲れを体に残してしまった。

 学園に入学してからかなり鍛えたと思ったが、やっぱりブランクをとりもどすにはある程度時間がかかりそうだ。

 

 「――――で、話を元に戻すが、一夏。本当に何もないのか?色んな女の子と遊んだりしないのか?」

 「遊びには行ってないなぁ。っていうか、女の子ばっかりで気まずいし、箒や鈴がいて、正直助かったよ」

 「……お前、枯れてるな」

 「おい、そんな本気で同情してる目はなんだ」

 「だってよ、健全な男子高校生がよ、綺麗で可愛い女の子達に囲まれる生活を送ってるのに、何にもないとか…………はっ!まさかお前……」

 「?」

 「男が好き――――ブッ!!」

 

 俺が持っていたコントローラーが弾の顔面に突き刺さった。

 代わりに全身に激痛が走ったが別にいい。

 悪を倒すためならば。

 

 「いってぇな!なにすんだよ!」

 「お前が馬鹿なこと言うからだろ」

 「一夏が枯れてるのがいけない!」

 「別に枯れてない!!」

 「じゃぁ、何で女の子に興味ねぇんだよ!」

 「興味がないわけじゃない!」

 「嘘つけ!じゃぁ超美人の女の子から告白されたとき、何で付き合わなかったんだよ!」

 「告白されたことなんてねぇよ!」

 「…………」

 

 弾は何か言い返そうと口を開けていたが、その口から何も出ることはなかった。

 

 「弾?」

 「…………はぁぁぁぁぁぁぁっ。そうだ、お前ってそういう奴だよ」

 

 長いため息のあと、呆れたように言われた。

 

 「むっ、何だよそれ」

 「この朴念仁が!」

 「何なんだよ!」

 

 そういえば色んな人に俺は『朴念仁』だとか言われたりするが、俺はそんなんじゃないぞ!

 

 「(ったく、自覚ないくせにモテるんだよな、こいつ)一夏、お前さぁ、実際女の子と付き合いたいとか思ったこととかないのか?」

 「そりゃあるに決まってるだろ。俺も男だし」

 「じゃぁなんで付き合わないの?」

 「何でと言われても、そんな簡単に付き合うとか決められないだろ」

 「…………」

 

 弾が何か言おうと口を開いた時、扉が乱暴に開かれた。

 

 「おにぃ、お昼できたからさっさと下に――――って!」

 

 見ると、弾の妹、五反田蘭が俺を見て固まっていた。

 

 「よう、蘭。久しぶり」

 「い、一夏さん!?」

 

 蘭はそう叫びなり、壁に隠れてしまった。

 確かに久しぶりに会うし、俺がISを動かしたことで、色々迷惑かけたかもしれないが……やっぱり怒ってるんだろうか。

 

 若干落ち込む俺に、弾はポンと背中を叩いた。

 

 「まぁまぁ、とりあえず昼飯食おうぜ――ってあれ?」

 

 俺は身体を丸め、全身に走った痛みに叫ぶのをこらえていた。

 

 「わ、わりぃな」

 「~~っ、おぼえてろよ」

 

 

 この怨み、払さでおくべきか~~~。

 

 

 

 

 

 




久しぶり短いですが、きりがいいのでここで切りました。

本編に戻った~と思いましたが、一夏の恋愛観とかについて少し入れたかったので……。


次は、7月19日(金)17:00に

投稿できたらいいなぁ……とか思います。



11月25日 改稿


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二十三

現在の状況。

日曜日で学校休み。
一夏、筋肉痛。
一夏、弾の家に遊びに行く。
昼飯ができてお店の方へ行く。

の、続きです。

一夏視点でどうぞ!



 

 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 

 身体の痛みをこらえて階段を下りていると、お店である一階の方が騒がしかった。

 

 「ん?騒がしいな。この時間はほとんど客はいないはずなんだけど」

 

 今はお昼どきを過ぎた時間帯。どのお店も客が少ない時間だろう。

 俺達は不思議がりながら店の中を除いた。

 

 「定食二人前!」

 「俺回鍋肉!」

 「チャーハン!」

 「俺も定食!」

 「はいはいちょっとお待ちを!」

 

 店の中はお客で溢れていた。それをワンピースに着替えたらしい蘭が一人でさばいていた。

 俺達はその光景をポカンと見ていた。

 

 「はい、定食二人前、お待ちどう!」

 

 が、聞きなれた声に素早くそちらを向いた。

 

 厨房には、弾の祖父であり、五反田食堂の店主、厳さんが中華鍋を鮮やかに操って料理を作る姿があり、その隣には――――。

 

 「進!!??」

 「ん?おぉ、弾坊、久しぶりだな!一坊もここに来ていたのか」

 

 進はそう言いながら厳さんの予備中華鍋であろうものを振り回し、豪快に料理していた。

 鍋や料理が宙を舞うたびに、お客からは歓声があがる。

 進はお客の歓声にニヤリと笑って答えていた。

 

 「ほれ、チャーハン」

 

 あんなに豪快に鍋を振り回したのに、出来上がったチャーハンは綺麗に丸い形をしており、とても美味しそうだった。

 

 「……っじゃなくて!なんで進がここに……料理作ってんだよ!しかも大盛況!」

 「あー、進は前から時々店を手伝ってくれてたんだよ」

 「えっ!?」

 

 弾が、そういえばというふうに言った。

 

 「俺知らないけど!」

 「悪い!お前が進に会いたがってたのは知ってるが、何の前触れもなく来るし、来ると店が繁盛するから忙しくて連絡する暇ねぇし」

 「休憩中とか――――」

 「ナニソレオイシイノ?」

 「…………悪い」

 

 弾の目に光がなかった。

 いや、うん、まぁ、どの家にも事情はあるもんだよな。うん。

 

 と、そのとき、お玉が飛んできて弾の額にスコーンと音を立てて当たった。

 

 「こらぁ弾!てめぇ、しゃべってる暇があったら手伝いな!」

 「は、はい!」

 

 弾は実に素早い動きで立ち上がり、エプロンをつけて接客へ向かって行った。

 

 「何を突っ立っておる、一坊」

 「進!」

 

 振り返ると進が料理片手に俺を見ていた。

 

 進の現在の恰好はと言えば、いつものツナギの上半身を腰で巻き、タンクトップ一枚の上に五反田食堂のロゴつきエプロン。真っ赤な長い髪は料理の邪魔にならないようにかポニーテールにしていた。

 

 「進、お前、もしかして朝からここにいたのか?」

 「おう。厳ちゃんとは麻雀仲間だからな!仕事も休みをもらったし、まだ挨拶に来てなかったから遊びにきたんだ」

 

 そういうと進は厳さんと視線を合わせ、お互いに親指を立てた。

 

 

 って、今度は麻雀仲間かよ。

 ホント、こいつの交友関係どうなってんだか知りたいな。

 ……いや、何かすごそうだからやめておこう。

 

 「それよりほれ、お主の昼飯だ。五反田食堂気まぐれめにゅー『わしの料理』だ!」

 

 その『わし』の部分は明らかに一人称の『わし』だろうが、名前適当だな。誰が考えたんだよ――――。

 

 「ちなみに名前を考えたのは蓮さんだ」

 「なんか文句あっか?」

 「いえ。まったく。すてきなお名前です」

 

 蓮さんとは、弾や蘭の母であり、厳さんの愛娘。

 その蓮さんがつけた名前を侮辱するようなことでもあれば、厳さんから中華鍋が飛んでくる。アツアツの。

 今も、中華鍋を握る厳さんの手に力が入ったのを見て俺は早々に深々と否定した。

 

 が、素早く動いたせいで筋肉が断末魔の悲鳴をあげた。

 

 「~~~~っ~~~~!!」

 「ん?何してる?」

 

 進が、痛みをこらえる俺を不思議そうに見た。

 

 

 「お前のせいだよ!」

 

 

 と叫びたかったが、生憎今口を開けると悲鳴が飛び出してくる。

 その代わりに恨みがましい目で睨んだら、進はなにやら納得したようだ。

 

 「おぉ!もしかしてあの訓練か?なっさけないのぉ、あんなんでこの筋肉痛とは……」

 

 つん

 

 「ぅ……」

 

 進が的確に痛いところをつついてきた。

 しかし、男として情けない声を出してたまるか。

 絶対に抑えてやる。

 

 そう思いながら進を見ると、進の目は完全に面白がっている目をしていた。

 

 このやろう!

 

 つん

 つん

 

 「ぁ……くっ……」

 

 つん

 つん

 つん

 

 「ん……ふ……っは……」

 

 つん

 つん

 つん

 つん

 

 「ぅ……くぁ……も、もぅ、やめっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……何してるの、二人とも」

 

 進のつんつん攻撃に堪えられなくなってきたとき、蘭がやってきて、進の攻撃が止まった。

 

 

 た、たすかった……。

 

 

 「ら、蘭。助かった……」

 

 俺が蘭を見て礼を言うと、蘭は何故か真っ赤になって店の裏へ走って行ってしまった。

 

 「?あれ、俺なんか怒らせたかな」

 「一坊の、荒い息をはきながら、真っ赤な顔をして見上げてくるのを見て、変態臭いと思ったのではないか?」

 「なっ!……もとはといえば進が!」

 「まったく、筋肉痛ごときで情けない。……が、しかし。このまま一坊を変態にしとくのは忍びないの」

 

 と、進が呟いた瞬間、料理を持っていない右手がぶれた(・・・)

 

 「ふむ。これでよし」

 「?いったい何を――――あ、ば、ばばばばばばばば」

 

 なんか突然きた!遅れてきた!

 身体のいたるところを押される感覚がする!

 

 あれか、これが、世に言う―――――

 

 

 『お前はもう死んでいる』

 

 

 ってやつかーーーーあばばばばば。

 

 

 

 

 

 

 




引用:『北斗の拳』より。
あのお方の名言を貸していただきました。


さて、次回は、7月26日(金)PM17:00に。


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二十四

 

 

 

 一夏視点

 

 

 

 

 

 

 「あばばばばば――――あ?」

 

 身体中に走った衝撃が収まったと思うと、身体が前よりも軽く感じた。

 腕をぐるりと廻してみると――――。

 

 「え、動いた」

 

 立ち上がって足を大きく動かしてみると、これも軽々と動かすことができる。

 ついさっきまで筋肉痛でソロソロとしか動かせなかったのに……。

 

 「す、進!俺に何したんだよ!」

 「うむ。旅の途中で、険しい渓谷があってな。その奥地で修行しているかんふー使いの老人がいたのだ」

 「お、渓谷の奥地で修行って……今時そんな人が」

 「いやぁ、なかなか強かったぞ、奴の弟子は。ついに決着がつかなかった」

 「っ、ま、まさか、進のような超人と渡り合える奴がこの世にいるとは――――世界はやっぱりすごいんだな」

 「また戦ってみたいのぉ…………あの熊猫(ぱんだ)

 「カン○ーパンダかよ!」

 

 まじでいるのか!?ちょっと会ってみたいんだが!

 

 それにしても進は旅を満喫しているみたいだな。いつもお土産話を暁院の子ども達に聞かせている横で俺も聞いているのだが、いつもハラハラさせられる内容ばかりだ。

 さらっと言った『渓谷』だって、恐らく人間が入れるようなものではないのだろう。なんで自ら道なき道を行こうとするのか………………迷ったからか。

 

 「あー、そこで今の技を教えてもらったのか?」

 「いや、今のはまんがのまねじゃ」

 「ウソォ!!??」

 「冗談じゃ」

 「冗談かよ!今のカン○ーパンダの話はなんだったんだよ!」

 「奴らに学んだのは人のつぼじゃ」

 「つぼ?」

 

 進は俺の体のいたるところを指でさした。そこはたしか、衝撃がきた場所だ。

 

 「うむ。人体の色々なつぼを教えてもらってな。身体に良いつぼも悪いつぼも実践つきで教えてもらったのだ。結構やくにたつぞぉ?将棋仲間からは大絶賛だ!」

 

 将棋仲間とは恐らく同年代ではなくシニアの方々だろう。

 進が大抵『~仲間』と呼ぶのはシニア世代が多い。

 しかもどこかのお偉いさんだったりするから、迂闊な事は聞けない(いや、聞いたらいけないような気がする……本能が警鐘を鳴らしている)。

 

 「――――ふむ、それより、動けるようになったんなら飯を食え。折角の料理が冷めるぞ」

 「あ、あぁ。そうだな」

 

 進の左手に持った料理を受け取り店の方を伺ったが、生憎満席。

 

 「……俺、ここで食っていいか?」

 「ん?邪魔じゃなければいいんじゃないのか?しかし一坊は変わっているのぉ。そんな端で食うくらいなら、弾坊の部屋に戻って食べればよかろうに」

 

 それは俺も考えた。が、進も弾も蘭も忙しく働いているのに、一人寂しくご飯を食べるのはちょっと寂しい。

 

 ここ最近……というより、IS学園に来てから一人で食べるっていうことがなくなったからな。

 

 以前は、千冬姉が仕事で帰ってこない日を一人で過ごし、もちろん一人でご飯を食べた。

 暁院には、いつでもご飯食べにおいでと言われているが、ご飯もただではないので、一週間に一回程度にすませていた。

 

 だから、集団でご飯を食べることに慣れた俺は、今更一人の食事はちょっと……。

 

 「ん?なんだ、もしかして一人の食事は寂しいのか?」

 「!?なっ」

 「ははっ!寂しがり屋め!よしよし、私が一緒に食べようではないか」

 

 そういって笑うと進は俺の頭をポンポンと撫でて厨房へと向かった。

 

 俺は進が撫でた頭に触れた。

 

 昔から、進に頭を撫でられると不思議な感じかする。

 何だろう……ほっとする、というか、嬉しくなる、というか……。

 

 あぁ、そういえば、中学校に上がる少し前だっただろうか。進にそれを言った気がする。そしたらたしか進は――――。

 

 『頭というのはだな、人間の一番大事なものがつまっとる。じゃから人は無意識に頭や顔を守ろうとするんじゃ。それを、『撫でる』という無防備極まりない行為で安心感を得られるというのは、その者を信頼している証拠じゃ。つまり一坊はわしを信頼しとるということじゃな!』

 『進は?撫でられるの嫌い?』

 『わしがこの世で頭に触れることを許しているのは、父様と一坊だけじゃ(一坊の頭皮まっさーじとやらはものすごく気持ちいいからのぅ)』

 『進……』

 

 ――――と言っていた。

 

 「ん?何を惚けているんだ?」

 「……」

 「一坊?」

 

 進が俺の顔を覗き込んでくる。すると、ポニーレールに結んだ綺麗な赤い髪がさらりと肩から前へ流れた。

 

 俺が進の頭に触れるのは髪を整えているときだけ。

 

 もし、そんなことではなく、ただ、頭に触れるだけなら、進はどんな反応するだろう。

 

 避けるだろうか。それとも――――。

 

 

 俺は進の頭へと手を伸ばし、そして、

 

 

 

 「……む。何してるんだ?」

 

 

 垂れていた髪の毛を掴んだ。

 髪の毛を引っ張られ、進は眉をひそめた。

 

 「ん?」

 「ん?」

 

 「……む、もしやまた髪をいじりたいのか?それなら帰ってからにしろ。お主の手入れは長すぎる」

 「進が手入れしなさすぎなんだよ。せっかく綺麗な髪なんだから、大事にしなきゃ」

 「それはお主じゃろう。……大丈夫か?」

 「いや、どこみてんだよ。何の心配してんの!?俺まだ十代だからな!」

 「いやいや、早めに対処しておかないと後悔すると、囲碁仲間が言っておった。奴はとても遠い目をしておったよ」

 「何だろう。すごい説得力なんだが」

 「ちなみにそいつは二十代じゃ」

 「注意します!!」

 

 

 

 あれ、 俺は、いったい何をしようとしてたんだっけ?

 

 

 まぁ、いいや。

 

 

 

 

 

 

 




なんでも早めがいいよね!


えー、お知らせ。
お仕事が忙しくなってきてしまい、次回更新のお約束が難しくなりました。
なので、世間様が夏休みの間は、予告をしません。なので、いつもの時間に更新できず一週間のびることがでてくるとおもいます。(更新は、いつもの曜日と時間に行います)
そのさいには活動報告でお知らせします。

では、いつになるかわかりませんが。次回!



あー、休みほしいよ~~~~。


11月25日 改稿


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