デート・ア・クウガ (千藤 光)
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プロローグ

燃えさかる教会。

その中で少年は戦っていた。

少年の澄んだ瞳に炎が映る。

「こんなヤツらの為に!」

少年は向かってくる蝙蝠怪人の攻撃をいなし、

「これ以上誰かの涙を見たくない!」

向かってくる蝙蝠怪人の2回目の攻撃を受け止め、

「みんなに、笑顔でいて欲しいんです!」

そう叫びながら蝙蝠怪人を蹴飛ばして間合いをとった。

「だから見てて下さい!」

少年は腹部に両手をかざした。すると彼の腰に銀色の変身ベルトが出現した。

「俺の!」

そして少年はそのベルトに左手を乗せ、右手を斜め左に伸ばし、ゆっくり右側に移動させる。

「変身!!」

かけ声と共に右手と左手を左腰に沈めた。

そして両腕を広げた。



キィン、キィン、キィンキィンキィンキンキンキンギュゥゥゥゥウウイイイイン!!



pipipipipipipipipi

 

 

 

「夢、かぁ…」

 

 

 

4/10 7:00 

東京都 天宮市 ポレポレ 雄介の部屋

 

 

 

 

少年、沢村雄介は目を覚ました。

 

雄介はくあぁとあくびをはき出してからベッドから降り、洗面所に向かった。

 

「もうあれから4ヶ月かぁ~。」

 

雄介はバシャッと水で顔を洗い、着替えを済ませ、荷物を持って階下へと降りていった。

 

睡眠が足りてないからか、それとも単に血圧が低いのか。まだ頭がぼーっとしていた。

 

 

「おやっさん。おはよう!」

 

「おお、おはよう雄介!」

 

下は『ポレポレ』という名の喫茶店になっている。幼い頃に両親を失った雄介は、ここに引き取られ、高校生になると同時にこのポレポレでバイトを始めたのである。

 

雄介は、パーカーの上に着ていた高校のブレザーをイスに掛け、カウンター席に座った。

 

「そういえば雄介も高校二年生か!」

 

「そーなんだよ! もう昨日の夜はワクワクしちゃって眠れなくてさ! 全然眠れなくて困ったよ」

 

この店のオーナーであるおやっさんが朝ご飯のハムエッグとクロワッサンを出しながら話しかける。

 

「いや~うらやましいねぇ。まさに青春時代! 俺も雄介くらいの頃はモテモテでな……」

 

「え? 本当~?」

 

雄介は笑いながらコップに牛乳を注いだ。

 

『7:15分になりました。ニュースをお伝えします』

 

「お、始まった始まった」

 

おやっさんと雄介はテレビの方を向いた。

 

『まず最初は未確認生命体の話題です。昨日午後、大田区に現れた未確認生命体第24号は未確認生命体第4号との戦闘の末、死亡が確認されたと警視庁の発表で明らかとなり……』

 

「おお~4号の話題じゃないか」

 

テレビには、ヤドカリの怪人と、クワガタを象った仮面、赤の鎧を纏った未確認生命体第4号が闘っている姿が映し出されていた。

 

「ホントだ。よく撮れてるじゃん!」

 

二人して子どものようにテレビを眺めていた。

 

ここ数ヶ月、この未確認生命体による殺人事件が後を絶たない。

 

未確認生命体。その存在は未だ謎に包まれている。分かっていることは、彼らは我々人間を次々と殺していく、残忍な生物ということだけだ。

 

「それにしても、やっぱ4号だよね」

 

「分かってるねおやっさん!」

 

未確認生命体4号。またの名を『仮面ライダークウガ』。彼一人を除いては。

 

「あいつはいい奴だよ! 違いない! だって他の悪いヤツらを倒してんだもん」

 

「戦士」を名に持つ仮面ライダーは、これまで多くの未確認生命体「グロンギ」を倒し、数多くの命を救ってきた。

 

だが、彼がどのような存在で、どうして人間に味方するのか、そもそも敵か味方か、これもまた謎に包まれている。

 

「うん、そうだよ。だって「仮面ライダークウガ」なんだもん」

 

「なんじゃそりゃ」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

『今日未明、天宮市で小規模の空間震があり…』

 

会話の途中だったが、二人は笑うのをやめ、テレビの方を向いた。

 

理由は簡単。

 

「天宮市って、近いな~」

 

「最近増えてきたよねー空間震」

 

この喫茶店ポレポレがある場所が天宮市だからである。

 

「たしか、あれは30年前だったかな。『ユーラシア大空災』」

 

ユーラシア大空災。地球上で初めて観測された空間震。

 

「あれで、沢山の人が死んだんだよね……」

 

雄介は、表情を曇らせた。

 

当時のソ連、中国、モンゴルを含む一帯が跡形もなく『吹き飛んだ』人類史上類を見ない大災害である。

 

その時の死者、行方不明者は1億人を超えている。

 

そしてその災害を皮切りに、小規模ではあるが、世界各地で謎の災害『空間震』が確認されるようになったのである。

 

雄介達のいる地域も、過去の大規模の空間震が起こっていて、阪神淡路大震災や東日本大震災と同規模の被害を受けている。

 

「未確認も怖いけど、空間震も怖いねぇ~」

 

おやっさんは渋い顔でそう言いながら、ごちそうさまと言われ差し出された皿を受け取る。

 

「でも、この店にも地下シェルターがあるから安心だよね。」

 

そう。空間震が観測されるようになってから、地下シェルターの普及率は爆発的に伸びている。特に空間震が多く観測されている天宮市の普及率は全国1位である。

 

「そーそー。自衛隊の災害復興部隊にかかればポレポレもすぐに始められるからな!」

 

そんな他愛もない会話をしていると、店の外から明るい声が聞こえてきた。

 

「絶対約束だぞー!地震が起こっても、火事が起こっても、空間震が起こっても! ポレポレにみかくにんたいせーめーが来ても! 絶対だぞー!」

 

そのセリフを聞いて、おやっさんは飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。

 

「あ、もう時間じゃん!おやっさん、行ってくるね!」

 

そう言って雄介はカバンを背負い、おやっさんにサムズアップをして店を出た。

 

「あんまり遅くなるなよ~!」

 

雄介はおやっさんの見送りの言葉を背中で聞きながら、扉を閉じた。

 

「おーおはよーユウスケー!」

 

店を出ると、まず最初に赤髪を白いリボンでツインテールにしている少女に会った。

 

「お、琴里ちゃん! おはよう!」

 

雄介は琴里にサムズアップをした。琴里も同じようにサムズアップを返した。

 

「よう雄介」

 

琴里の後ろから、雄介より少し背の高い少年が挨拶をした。

 

「あ、士道。おはよう!」

 

雄介は士道にも琴里にやって見せたようにサムズアップをした。

 

この五河士道・琴里兄弟はこの店の常連で、雄介とは雄介が住み込みでバイトを始めた時からの長いつきあいである。

 

「あのねあのねユウスケ、今日昼にポレポレでデラックスキッズカレー食べるんだ!」

 

琴里はぱたぱたと両手を振りながら興奮した様子で雄介に話しかけた。

 

「よかったな~。じゃあ今日は特別にサービスしてくれるようにおやっさんに言っておくよ!」

 

「ホント? やったー!」

 

琴里はバンザイをして喜んだ。

 

「じゃ、おにーちゃん、絶対約束だからなー!」

 

そういって琴里は中学校のある方へ駆けていった。

 

「じゃ、俺たちも行くか。」

 

そういって士道は琴里が走って行った方向とは逆の方に歩みを進めた。

 

雄介は店先に停めてあった黒いオートバイのエンジンをかけた。

 

「ってお前なにやってんだ!」

 

士道はてっきり雄介も徒歩で学校に行くと思っていたので、エンジン音を聞いて慌ててバックしてきた。

 

「え?俺前からこれだけど?」

 

雄介のこれがごく当たり前という風な表情は、フルフェイスのヘルメットに隠れてよく見えなかった。

 

「いやいや、学校からの許可とか取ってるのかよ! ってか免許はいつ取ったんだ!?」

 

士道が雄介とバイクを見比べながら突っ込んだ。

 

「………大丈夫!!!」

 

 

雄介は士道に人なつっこい笑顔を向けて、アクセル全開で学校へと走っていった。

 

「おい、ちょっとまてー! 今の間は何だーーー!」

 

今日初めて、雄介がバイク通学をしていることを知った士道は、友人を乗せて自分から遠ざかっていくバイクを慌てて追いかけた。

 

 

 

人生には「運命の日」というものが存在する。それが複数存在する人もいれば、1回あるかないかという人もいる。

 

五河士道。沢村雄介。彼らにこの後「運命の日」が何回来るかは分からない、だが、今日「4月10日」が、彼らにとっての一つの「運命の日」となるだろう。

 

 

 

つづく

 




仕事はその日のうちに。
始めましての人は始めまして。そうじゃない人はいないでしょ。千藤です。
この作品を書いてみようと思った理由は、クウガの主人公五代雄介の願いと、DALの主人公五河士道の願いに、ダブってるところがあると考え、このアイデアが生まれました。って2年前の自分が言ってた。本文そのままです。というのも、この小説はクウガとDALのクロスノベルなのですが、2年前に投稿を始めたものを今回リメイクして再投稿した次第なわけです。
と、いうわけで修正版プロローグを投稿しました。2015/09/05の晩まで修正前のものは消さないでおくつもりです。
これからは心機一転、更新を続けようと思います。活動報告にも書いたように、小説の修行ということで、毎日小説を書いているという状況を作りたいという思いから、このデート・ア・ライブと仮面ライダークウガのクロスノベルの更新を再開したいと考えた次第です。相変わらずプライベートがけわしい状況なので、プライベートを優先してまたすっぽかしそうですが、なるべく見てる人が満足いくような作品を書いていこうとおもいます。

前置きはここまでにして今回のお話について↓
プロローグになっていないプロローグ。
クウガの物語としては、本編でゴウラムを手にいてるところまで進んでいる設定となっています。雄介が警察車両を古代の力で魔改造して盗難車にドカーンしたことについては何も触れないのねこのアナウンサー、と、書いていて思いました。
雄介がどんな人物で、この世界がどうなっているのかっていうのは次のお話まで読んだら分かるんじゃないでしょうかね。
修正していて、この話はあまりいじる箇所ないなって思ってたら1時間経ってました。2年前の自分怖い。若気の至りって怖い。
今回はあまり書いてる内容が少ないので語ることは特に無さそうですね。聞きたいことがあれば感想で質問してみてください。応えられる範囲ならお答えします。多分。

というわけで、これから心機一転。「デート・ア・クウガ」を連載していくので、応援よろしくお願いします。感想や評価なども待ってます。
それでは次回もお楽しみに。


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Ep1‥覚醒

邪悪なる者あらば 希望の霊石を身に付け 炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり」

赤い姿の、クウガマイティフォーム

「邪悪なる者あらば その技を無に帰し 流水の如く邪悪を薙ぎ払う戦士あり」

青い姿の、クウガドラゴンフォーム

「邪悪なる者あらば その姿を彼方より知りて 疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり」

緑の姿の、クウガペガサスフォーム

「邪悪なる者あらば 鋼の鎧を身に付け 地割れの如く邪悪を斬り裂く戦士あり」

紫の姿の、クウガタイタンフォーム


クウガは、この4つの姿を、敵に応じて使い分けて闘っている。

これまで、クウガはこの4つの姿と、最弱体化した、白い姿のグローイングフォーム以外の姿には変身したことがない。

なら、今自分に見えているこのクウガの姿は何だろう。

確かにクウガだ。でも、何か違う。


夜色の瞳に、同じ色の甲冑。片手には、月明かりのように眩しい光を放っている大剣。そして、腰には光のマントが靡いている。



これは、クウガなのか?



夜色のクウガに、一体のグロンギが向かってきた。夜色のクウガはそのグロンギに対して手をかざした。そして、そのかざした手から、黒い気弾を発射した。

気弾を受けたグロンギは、音も立てずに消失した。

それを合図に、多くのグロンギがクウガに攻め込んできた。

クウガは大剣で敵を切りつけていくが、いくら切りつけても次から次へと敵が湧いてくる。

クウガは攻撃の手を止め、片手を天に掲げた。


クウガの頭上で、「空間の圧縮」が始まった。風が吹きすさび、力のないグロンギは吹き飛ばされてゆく。


クウガの頭上で圧縮された空間は大きな球体となっていき、月の光を完全に覆い尽くしたその瞬間――




ドン



 

「うわああ!」

 

4/10 11:31 来禅高校 2-3HR

 

雄介は、空間が爆破した場面で目を覚ました。

 

「きゃあ!?」

 

雄介が寝ていた席の近くにいた少女は、それに驚いて尻もちをついた。

 

「あ、ごめんごめん」

 

少女は尻もちをついた拍子に、手に持っていた数冊の本を床に落としていた。

 

雄介はそれに気づき、落ちた本を拾った。

 

始業式とホームルームも終わり、放課後になっていた。教室には、新学期で気分が浮ついている生徒と、部活が始まるまで時間を潰している生徒が残っているだけだった。

 

「あ、あの……」

 

少女は、その本を拾っている雄介に声をかけようとしていた。

 

「ごめんねー。なんかいつの間にか爆睡してて、スッゲー夢まで見ちゃって」

 

「いや、そうじゃなくって……」

 

「はい!」

 

「いや、あの……」

 

雄介は落ちていた本を全て拾い、少女に渡した。だが、少女は困った表情をしたままだった。

 

「なんか驚かせちゃったみたいだね。いやー昨日ぜんっぜん眠れなくてさ、もう始業式の時もチョー眠たかったの!」

 

そんな少女の気持ちを察することはなく、雄介はいつもの調子でべらべらと言葉を続けた。

 

「あ、あの!」

 

少女は思わず大きな声を出してしまった。突然の大きな声にさすがの雄介も不意を突かれた。

 

「こ、ここ! 私の席、です……」

 

その大声はクラス中に響いていたらしく、一瞬、クラスに残っていた生徒の注目を浴びてしまった。

 

それに気づいたのか、少女の声のボリュームはだんだん小さくなっていき、それと比例するように顔が赤くなっていった。

 

「え? うそ!?」

 

雄介はそんなことにも気づかずに、自分が座っていた席の中を覗いた。

 

引き出しには、女物の筆箱と、ミント色の手帳が入っているだけだったが、物でごった返している雄介の机ではないというのはすぐに分かった。

 

「あれ? あれ~?」

 

雄介は不思議そうに首を傾げていた。

 

「トイレから戻ったとき間違えたんだろ?」

 

雄介と少女は声をする方を振り向いた。

 

そこには、首からトイカメラを提げている長身の少年がいた。

 

「士、気づいてるなら早く言えよ!」

 

「人が親切に教えようとしたのに聞かずに寝たのはどこのどいつだ~?」

 

「あれ、そうだっけ? ネムカッタカラナー......」

 

雄介は、モデルのような体型のカメラ少年「士」に見下ろされ、あはは、と笑うだけだった

 

ヴーッヴーッ

 

その時、雄介のポケットの中のケータイが鳴った。

 

雄介は、ちょっとごめんと断りを入れてから電話に出た。

 

「はい。沢村です。」

 

『沢村。25号が現れた!すぐに向かってくれ!』

 

「分かりました!場所は!?」

 

さっきまで笑っていた顔が一気に引き締まった。

 

「雄介くん?」

 

少女は雄介の表情を見てまたしても驚いた。

 

緊張していて、でも冷静そうな強い表情。今まで生きてきた中で、短時間でこんなに表情が変わる人間を少女は今まで見た事がなかった。

 

 

「天宮市商店街!? 分かりました上条さん。すぐ向かいます!」

 

雄介は通話を切り、士にのほうを振り向いて言った。

 

「悪いけど代わりにポレポレに行っておやっさん手伝って。お礼は弾むから! あと士道の妹が来るからサービスするようにって言っておいてね!」

 

そして雄介は二人にサムズアップをして、ものすごい勢いで教室を飛び出していった。

 

「ったくあいつはいつも勝手だな……」

 

士は、遠ざかっていく雄介の背中をシャッターに収めた。

 

少女は、不思議そうに雄介の背中を見つめているだけしかできなかった。

 

 

**

 

 

 

雄介は駐車場に停めてあったバイクに駆け寄った。

 

そしてバイクの右ハンドルであり、作動キーでもあるトライアクセアーを差し込み、エンジンを入れる。

 

ヘルメットを被り、バイク『トライチェイサー250typeP』に跨がり、学校を飛び出した。

 

『沢村。聞こえるか?』

 

トライチェイサーに搭載されている警察無線から、上条刑事の声が聞こえてくる。

 

「はい!」

 

『ヤツは繁華街にいる市民を片っ端から殺しにかかってる。急いでくれ!』

 

「分かりました!」

 

雄介はバイクのメータに搭載されているダイヤルの数字を変え、レバーを右いっぱいにずらした。

 

するとトライチェイサーは黒い色から、金色のヘッド、銀地に赤のボディカラー、『戦士』の古代文字が刻印されたクウガカラーに変色した。

 

雄介も左手を斜めに伸ばした。瞬間、雄介の腰に、銀色のベルトが出現した。

 

 

『変身!』

 

 

そう叫ぶと、雄介の体は、ベルトから放たれる勇ましい変身音と共に、古代の戦士『仮面ライダークウガ マイティフォーム』の姿に変わった。

 

 

 

『邪悪なる者あらば 希望の霊石を身に付け 炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり』

 

 

 

ヴゥウウウウウウン

 

 

トライチェイサーの速度も上がり、繁華街へ一直線に向かった。

 

 

11:58 天宮市商店街

 

「あいつか!」

 

周りには怪我を負った一般市民数人が横たわっていた。

 

その中心に毛むくじゃらのトラ怪人がいた。

 

その怪人は、今も中学生くらいの少女の首を締め上げていた。

 

「ゲゲルゾ ゲギボグガゲスダレビ ギンゼロサグゾ ボルグレ!(ゲゲルを成功させる為に、死んで貰うぞ小娘!)」

 

「うぐ…が…」

 

「やめろぉ!」

 

クウガはウィリーして前輪をぶつけ、25号から少女を助けた。

 

「逃げるんだ!」

 

クウガは25号に殴りかかりながら少女に叫んだ。

 

「………」

 

だが少女は微動だにしなかった。

 

茶髪の少女のその目は、どことなく生気が感じ取れなかった。

 

「早く!」

 

クウガは戦闘しながらも少女を説得する。

 

だがそれでも動こうとはしなかった。

 

「ジョゴリギ デデロギギボバ?(よそ見しててもいいのか?)」

 

25号はグロンギ語でそういいながらクウガの後ろに回り込み、腕に付いている鎖でクウガの動きを封じた。

 

「ぐぅ…ああ!」

 

クウガは何とか引きはがそうとするが、思っていた以上に力が強くてなかなか引きはがせない。

 

 

「ぐぅぅ…がはっ…」

 

「ゾグギダクウガ! ゴボデギゾバ!(どうしたクウガ!その程度か!)

 

クウガは、まだ鎖から脱出できないでいた。

 

「一体、どうすれば!」

 

クウガが悪戦苦闘してると、サイレンの音が鳴った。

 

 

ポゥゥゥウウウウウウン

 

 

『空間震警報です。市民の皆さんは最寄りのシェルターに避難して下さい。繰り返します……』

 

空間震警報。空間震が起こるのを予測して発信される警報。最悪の事態である。

 

少女は、死んだ目をして腰を落としたままである。クウガはまだ25号の拘束から抜け出せないでいた。

 

(マズイ……このままじゃ……)

 

その時、クウガの視界に一つの人影が映った。

 

「士道!?」

 

空間震警報が鳴っているというのに、シェルターにも入らず士道は全速力で走っていた。

 

「まさか……」

 

クウガは今朝のことを思い出した。

 

『絶対約束だぞー!地震が起こっても、火事が起こっても、空間震が起こっても! ポレポレにみかくにんたいせーめーが来ても! 絶対だぞー!』

 

 

「まさか!」

 

 

雄介は、士道は琴里がシェルターの入らずにずっとポレポレの店の前で士道を待ってると思い、シェルターに入らずに琴里を助けに行ったと考えた。

 

「士道! 店にはおやっさんがいる! お前は逃げろ!」

 

クウガは叫んだが、士道は足を止める気配はなかった。

 

「くっそ!」

 

クウガは25号の脇腹に肘鉄を打ち込んだ。

 

「うおら! おりゃあ! うりゃぁあ!」

 

そして拘束から逃れたクウガは連続で拳を打ち付けた。

 

「うおりゃあ! うぉらあ!」

 

さらにパンチを打ち込むが、

 

「おぐあぁああああお!」

 

25号はクウガにタックルをして、停めてあった車にクウガをぶち当てた。

 

「ぐはぁあ!」

 

その衝撃で車のガラスは粉砕され、車のボディは盛大に凹んだ。

 

「ふぅうん!」

 

そしてまた鎖をクウガの首に押しつけ動きを拘束した。

 

「ぐあぁああ…」

 

「ロドド ブスギレ クウガ! (もっと苦しめクウガ!)」

 

「おりゃっ!」

 

だが、クウガはそう簡単に同じ手は食わなかった。

 

「グハァ! ビズガぁ……(傷がぁ……)」

 

腹部がガラ空きというのに気づき、蹴りを入れてみたのが功を奏し、簡単に引きはがせた。

 

「よし!いけるっ!」

 

反撃体勢が整ったクウガであったが、彼はあることに気づいた。

 

 

 

 

 

空の様子がおかしい。

 

 

 

 

 

士道が走っていった方向の空が歪んで、空間の圧縮が始まっているのである。

 

まるで、さっき教室で見た夢と同じように。

 

「!?」

 

そして一瞬クウガの脳内に一つのイメージが走った。

 

 

 

 

まるで闇夜のような色をした髪の少女

 

 

 

 

その色と同じような夜色の鎧

 

 

 

 

手には光の刃が美しい大剣

 

 

 

そして大きな玉座

 

 

 

大きな満月をバックにしながらクウガと並んでいた。

 

 

 

 

 

「どういう事だ?…」

 

 

クウガは今度は空からのエンジン音に気づいた。

 

 

 

 

空を見上げると、機械を纏ったような人間が6~7人飛んでいるのが見えた。

 

 

「あれは!?」

 

 

クウガが驚いた次の瞬間

 

 

 

しゅぅうん

 

 

クウガの変身がいきなり解け、古代の戦士クウガの姿から、現代の高校生沢村雄介の姿に戻ってしまった。

 

 

「そんな…どうして!」

 

雄介は焦った様子で自分の体を確認した。

 

変身出来なければ、さっきから動かないあの女の子を助けられない。そのうえ、未確認と戦えない。

 

このままではマズイと思ったその時、25号はこんなセリフを放った。

 

「くぅーかんーしぃん……。ドンザ ジャラグ  ザギダダ (空間震……。とんだ邪魔が入った。)ハァッ!」

 

そんな言葉を残し、25号は路地裏へ消えていった。

 

「これは一体?」

 

そうこうしてるうちに、空間の圧縮によって肥大化した球体は、青い空を覆い隠そうとしていた。。

 

「まさか、あれが空間震?」

 

 

と気づいた時にはもう遅かった。

 

 

「危ない!!!」

 

 

クウガはとっさに茶髪の少女を抱きかかえた。その瞬間――

 

 

 

ドカァアアアアアアアアン

 

 

空間はおもいっきり震えた。

 

 

そしてそこにあったもの全部を削りとった。

 

爆風でクウガ達も吹き飛んだ。

 

 

 

「うわあああああああああああ!」

 

 

 

つづく




1話が書き上がると同時に、この更新ペースを維持できるか心配になってきた千藤です、ごきげんよう。
まず今回のお話を書いたうえでの言い訳から。今回は、冒頭が気に入らなかったので新規書き下ろしとなっております。後半はめんどくさかったので、以前投稿していた分を修正して使い回しました。
修正していて、こんな汚い文章を読まされてたなんて、読者は酷い拷問を受けていたんだなあ。蛮野絶対許さねえ。と、ストレスをマッハー!にしながら修正を加えていました。それでも読めないほどの汚い文章を発見したら感想にてお知らせください。
そしてお話の解説↓
新しく3人のキャラが登場しました。
まず、本を持った少女。この子はいわゆるオリキャラとなっております。この子がどういうキャラか、そしてここにわざわざ書いたということは、どういうことか。次回以降をお楽しみに。
次に、カメラ少年士。どっかの破壊者に似てますね?全くの別人ですよ。そっくりさんなだけです。DAL原作を見ていた方なら分かると思いますが。雄介は士道と別のクラスになりました。なので士君は雄介の相棒として作りあげました。これからも士君は雄介の身代わりとしてシフトをこなしていくことになるでしょう。敬礼。
最後に、グロンギに襲われていた少女。彼女はDALの1キャラで、僕が大好きなキャラの一人でもあります。が、正体は次回をお楽しみということで。(感想に〇〇ですか?とか絶対に書くなよ?フリじゃなくて)
トライチェサーについても書いておきます。
何故トライチェイサー250typePというけったいな名前にしたか。以前年号のことで失敗をしているからです。250は、このバイクが250ccのバイクであるということ。typePのPはプロトのPです。バイクの型番はこういった感じで考えました。名称が変わっただけで、殆ど劇中のトライチェイサーなので深く考えなくて大丈夫です。
というわけで、長々と失礼しました。次回もお楽しみに。
感想、質問、お待ちしております。励みになりますので遠慮なく。それではまた次回お会いしましょう。


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Ep2‥邂逅

目が覚めた。

また、私は瓦礫の中に立っている。

これは、誰が壊したものだろう。

空から、機械を身に纏った人間が攻撃してくる。

何故……

「何故私を攻撃する!」

何故、世界は、こうも悲しいのだろう。

また、私は闘わなければならない。

何故、何故だろう……

私は、一体誰なのだろう……


少女は、悲しみに包まれ、剣を振るうだけだった。



時間は少し遡る

 

 

12:03 来禅高校

 

「みなさーん!落ち着いてくださーい! こんな時はおかしですよー! おさないかけないしゃれこうべですよーっ!」

 

廊下に2-4の担任、岡峰珠恵教諭の気の抜けるような声が響く。

 

「落ち着いてないのはどっちだよ」

 

士道はそれを聞いてため息をついた。

 

空間震警報が鳴ったのは、丁度士道が学校を出ようとしたその時だった。

 

士道達を含む校内に残っていた生徒は、校内にある地下シェルターへ避難するために廊下に整列していた。騒がずに落ち着いて並べているのは、訓練が行き届いてるというのもあるのだろうが、1番の理由はこの天宮市で空間震が頻発しているため、特別な行動という認識がなくなってしまったからであろう。

 

「自分より落ち着いてない人間を見たら、なんだかほっとするよな」

 

「全くだよ」

 

士道の後ろから、髪をワックスでガチガチに整えている少年が声をかけてきた。

 

彼は殿町宏人。雄介と同様に1年からの親友であり、『恋人にしたい男子ランキング(自分主催)』第358位の男でもある。

 

ちなみに『腐女子が選ぶベストカップルランキング』では士道と仲良く第2位になっている。

 

「ったく、五河も大変だなぁ。これから妹とデートって時なのにさ!」

 

「だからデートじゃないって……」

 

士道は殿町に肘でつつかれながらそんな事を聞かれ、あることに気づいた。

 

(そういや琴里大丈夫か?)

 

何故か嫌な胸騒ぎがした。

 

『絶対約束だぞー!地震が起こっても、火事が起こっても、空間震が起こっても! ポレポレにみかくにんたいせーめーが来ても! 絶対だぞー!』

 

今朝の琴里の別れ際のセリフが頭の中に響いた。

 

「まさか、そんな馬鹿正直に待ってるわけ……」

 

といいつつも心配になりケータイを開き、GPSで琴里の場所を探してみた。

 

「……うそだろ!」

 

士道は身を硬直させた。

 

 

ポレポレの前から琴里のアイコンが動いていなかった。

 

「あの馬鹿野郎!」

 

考えるより先に体が勝手に動いた。

 

「おい五河!?」

 

「五河君!? どうしました!?」

 

士道は列を抜け、殿町と岡峰教諭の声を背中で聞き、上履きのまま学校を全速力で飛び出した。

 

 

(なんで馬鹿正直に店の前で待ってるんだよ!)

 

 

 

ただ力任せに走った。

 

足がしびれ

 

喉が渇く

 

そんなもの気にもならなかった。

 

士道はただただ妹の事が心配でポレポレへと急いだ。

 

 

なんだ?

 

 

人が横たわってる?

 

 

未確認生命体4号が戦ってる?

 

 

「士道!店にはおやっさんがいる! お前は逃げろ!」

 

4号に何か言われた……なんで俺の事を知ってるんだ?

 

 

けどそんなのは今関係ない。

 

 

士道は走る。妹を救うために。

 

 

 

しばらく走ると、空が歪み始めた。

 

「なんだあれ。」

 

士道は思わず足を止めた。

 

いままで周りのあれこれを無視して走って来たが、あれはマズイと動物の本能が士道の足を止めた。

 

士道はケータイを開いた。

 

相変わらず琴里のアイコンはポレポレの前からビクともしない。

 

「なっ!」

 

空が大地に突き刺さり、目の前の空間が爆発した。

 

 

ドカァアアアアアアアアン

 

 

「うわあああああああ!」

 

 

士道は爆風に巻き込まれ吹っ飛んでいった。

 

 

 

**

 

 

 

「けっほけっほ」

 

12:19 天宮市商店街

 

 

雄介は少女をかばう体勢で街路樹にぶつかっていた。

 

2人とも吹き飛ばされたが、なんとか無事だった。

 

「これが、空間震……」

 

いつも空間震が起こる時には地下シェルターの中だったので、空間震を目の当たりにするのはこれが初めてだった。

 

爆発とも振動とも形容しがたいこの衝撃。

 

まさに恐怖そのものだった。

 

「大丈夫?」

 

「はい……」

 

雄介は、茶髪の少女を立たせながら自分も立ち上がった。

 

少女の目は、相変わらず生きる希望を失ったかのように生気を失っていた。

 

「もしもし、上条さん? もしもーし! 駄目だ、完全に壊れてる」

 

雄介は爆風で飛ばされたトライチェイサーのそばへ行き、警察無線、その他諸々の機能が破壊されたことを確認してがっくりと肩を落とした。

 

 

「そういえば、なんで…逃げなかったの?」

 

そして、雄介は気になっていたことを茶髪の少女に問いかけてみた。

 

「………」

 

だが少女は黙ったままである。

 

(言えないようなことでもあるのかな?)

 

少女の様子を見て雄介は何か察したのか、笑顔を作った。

 

「言えないならいいよ。でも、こんな事したら親に心配かけちゃうよ。俺が小2の頃にさ……」

 

「そんな人いません……」

 

「え……?」

 

雄介は、小2の頃に当時住んでた山梨県から静岡県まで自転車で一人で行って、親に叱られた話でもしようとしたところで話すのを遮られた。

 

そして、少女が放ったその言葉を聞いて、言葉を失った。

 

「私には、大した特技もなくて……何をするにも、おちょこちょいで…誰の役にも、立てないくて……仕舞には……親に、恥晒ししとまで言われて……私、必要じゃないのかなって」

 

少女は静かに泣き出した。

 

「……」

 

雄介は理解した。

 

 

 

多分この子は親に見放され、これまでの心への負担に耐えられなくて絶望してしまったのだと。

 

 

そして、自分とどこか似てるということを。

 

「違う!」

 

雄介は少女の肩を掴んだ。

 

「必要無い人間なんていない! 絶対に!」

 

雄介の目は、優しく、強く、真っ直ぐだった。

 

「みんな必要だから……産まれてきて……生きてるんじゃないか!」

 

自分が何も出来ないまま、未確認生命体に命を刈られていく人間が何人もいた。

 

「今強い必要はないんだ。今やれることをやればいいんだよ!」

 

本当にみんなの笑顔を守っているのか?

 

「だから、大丈夫。」

 

自分の力は、罪無き者を刈る者へ天罰を加えるだけの力に過ぎないのではないか…?

 

そんな事を考えてる雄介だからこそ、少女の痛みは分かった。

 

「誰の役にも立てないっていうのに悔しさを感じられる君は、十分強いよ」

 

そして、雄介は間を置いて、笑いながら言った。

 

「俺なんて、小四まで夜中にトイレいけなかったし。それに比べたら十分強いよ」

 

「……なんですかそれ?」

 

少女はクスッと笑った。

 

「ハハハ」

 

雄介も笑った。

 

「君は?」

 

「岡峰 美紀恵です」

 

「俺は、沢村雄介」

 

二人は名乗り合い、握手をした。

 

だが、その時だった。

 

 

「危ない!!」

 

 

雄介は何かに気づき、美紀恵を突き飛ばした。

 

そして自分も後方へ飛び退いた。

 

 

バシュウウウウウン

 

 

美紀恵と雄介の間に地面を割るように衝撃波が走る。

 

 

雄介が衝撃波が飛んで来た方向を見ると一人の少女の姿が見えた。雄介は目を見開いた。

 

その少女は夜色の長く美しい髪をたなびかせ、その色に近い甲冑を着ていた。少女のスカートは布ではなく、何か光のような謎の素材で出来ている。

 

少女の横には大きく、大剣の鞘にもなるような玉座がそびえ立っていた。

 

そしてその少女の容姿は、その美貌で世界を滅ぼすことが出来るのではないかというほど、どこまでも……どこまでも……美しかった。

 

 

だが、雄介が驚いたのはそこではなかった。

 

 

 

 

「さっき、頭の中で見た?」

 

 

 

若干誤差はあるものの、さっき雄介が戦闘中に見たイメージの人物とうり二つなのである。

 

だが、それでは終わらなかった。

 

 

「士道!?」

 

 

士道がその少女と向かい合って立っていたのだ。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「お前も私を、殺しに来たのか?」

 

 

少女は士道に光の刃の大剣を向けて言った。

 

 

「そ…そんな訳ないだろ!」

 

士道はぶんぶんと首をふった。

 

 

 

空間震は士道の一歩手前で発生した。

 

士道が顔を上げたその時にはその少女がいて、士道は少女に殺されかけた。

 

「…殺さないのか?」

 

少女がいぶかしげな顔で問う。

 

「当たり前だろ?大体君は……」

 

そこまで言った時だった。

 

 

ごおおぉぉぉぉおおおおおおお

 

 

けたたましいエンジン音が空からこっちに近づいて来た。

 

見上げると、機械のスーツを身に纏った女性数人の姿があった。

 

そして彼女らは装備している各々の武器からミサイルを発射した。

 

 

「う…うわあああああああ!!」

 

士道はいきなりの出来事に驚き、尻もちをついてしまった。

 

 

「危ない!」

 

その時、士道をかばうように、未確認生命体4号が覆い被さった。

 

 

夜色の少女はただ右手を前に出しただけだった。

 

それだけでバリアーが張られ、ミサイル全弾を防いだ。

 

「こんなのが効かないと、何故奴等は学習しないのだ」

 

そして少女は飛び上がって、飛んで来たミサイルを打ち落としていった。

 

「こっちだ!」

 

4号は士道を引っ張り、ミサイルを避けていった。

 

ドカーン

 

ドカーン

 

まるで特撮映画のように、自分の横で爆発が起こっている。

 

「おい4号! これは? それに何で俺の名前知ってるんだ!?」

 

士道は走りながら4号に聞いてみた。

 

「俺は4号じゃなくてクウガだって!」

 

「答えになってねぇよ!」

 

ドッカーーン

 

 

「「うわあああああああ!!」」

 

後方で爆発が起こり、二人とも吹っ飛んでいった。

 

「ぐわっ!」

 

 

「うわあぁぁ」

 

クウガと士道は地面を転がった。

 

「とにかく、俺はみんなの笑顔の味方だから、安心して!」

 

クウガは士道にサムズアップをした。

 

(まさかこいつ……)

 

そう思ったその時

 

 

どぉぉぉぉおおおおん

 

空から爆発音がした。二人は夜色の少女が戦ってる方向を向いた。

 

 

空中でぶった切られたミサイルは少女の大剣の軌跡をなぞるように爆破していった。

 

 

(なんで……)

 

 

士道は思った

 

 

「あの子、あんなに強いのに。」

 

雄介も疑問に思った。

 

 

「「どうして、あんな顔をするんだろう」」

 

 

少女は容赦なく機械スーツの集団に攻撃を加える。

 

だが、少女の顔は好戦的な表情ではなかった。

 

 

 

 

 

まるで、この世がつまらないとでもいうような、この世界に絶望しきった、寂しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

少女に三度目のミサイルの雨が降り注ぐ。

 

 

 

だがそのミサイルもはかなく爆破していく。

 

 

 

夜色の少女が地面に降りた。

 

それと同時に一人の機械スーツを着た白髪の少女が降りてきて、レーザー砲を至近距離から放とうとしていた。

 

だが、それも夜色の少女の掌の中で無効化される。

 

遠距離が駄目ならと、レーザー砲を捨て、飛行ブースターを取り外して背中からレーザーブレードを引き抜き、士道を守るように立った。

 

 

「お前……鳶一!?」

 

「五河、士道?」

 

士道は彼女と知り合いなのか、驚いた表情をしていた。それは白髪の少女も同じであった。

 

だが、クウガ……沢村雄介は彼女の事を知らなかった。

 

(でも、どっかで見たような……)

 

そんなことを考えてるうちに、二人は戦闘を開始した。

 

 

「はっっ」

 

最初に飛び出したのは折紙。

 

手に持ったレーザーブレードを、美しいフォームで振りかぶった。

 

キィィイン

 

だがその攻撃は光の剣によって防がれる。

 

今度は夜色の少女の攻撃。

 

「ハっ!」

 

光の剣を大きく振り、折紙の剣をはね飛ばす。

 

 

「タァァ!」

 

そして光の剣を大きく振り、夜色のソニックブームを放った。

 

「くっ」

 

折紙は前転で近づきながら避けた。

 

そして今度は下から切りつけた。

 

 

「はぁああっ!」

 

 

「ぐあっ!」

 

夜色の少女が折紙より機動力に劣っていたためか、攻撃が命中。

 

体が前のめりになってしまう。

 

「このっ!」

 

だが体勢を立て直し、今度は剣でアッパースイングして折紙を切りつけた。

 

 

「がはぁぁッ!」

 

勢いあまり、折紙は数メートルほど地面を転がっていった。

 

 

 

折紙がスピードと技を生かす技巧派の戦闘スタイルなら、夜色の少女は力と勢いで押すパワー型の戦闘スタイル。

 

 

 

二人とも一歩も引かなかった。

 

 

「はあああああああ!」

 

 

「だああああああ!」

 

 

二人が剣を構えて駆け出す。

 

 

 

「止めるんだ!」

 

 

 

お互いの距離がゼロになるまであと少し、というところでクウガが止めに入った。

 

 

だが、二人は止まらなかった。

 

「ぐわぁ!」

 

クウガは折紙の剣ではね飛ばされた。

 

「止めろ! 話せば分かるって!」

 

組み合ってる二人を何とか振り払おうと間に割り込むクウガだが、今度は夜色の少女に蹴飛ばされ場外へ。

 

「ぐあっ! なんで分かってくれないんだ!」

 

もう一度戦いを止めようと立ち上がり、駆けだしたその時、一人の女性に進行を阻まれた。

 

その女性も、折紙や他の空に浮かんでた機械を纏った人間と同じ格好をしていた。

 

少し違うのは、若干装備が多く、スーツの縁に赤いラインが入っていることだった。

 

「私は、陸上自衛隊【アンチ・スピリット・チーム】三尉、乾 香美。邪魔をするなら私が相手する」

 

 

そう言って右手首をスナップしてクウガに飛びかかった。

 

「っはあぁ!」

 

「うわっ!今度はなんだよぉ。」

 

クウガは何とかその攻撃をいなした。

 

 

「はあああああああ」

 

「とあぁぁぁぁあ!」

 

 

「っはああぁぁ!」

 

「うおりゃぁぁ!」

 

 

 

精霊

 

AST

 

仮面ライダー

 

3つの勢力が今、激突する

 

 

**

 

 

 

12:40 東京都 国道×号線

 

ウーーウーー

 

けたたましいサイレン音を鳴らしながら、都内の国道をパトカーが駆け抜ける。

 

 

運転手の上条刑事は焦っていた。

 

「沢村、聞こえるか? 沢村雄介!?」

 

覆面パトカーの警察無線で雄介のトライチェイサーに繋いでみるが、空間震が発生してからなかなか返事が返って来ない。

 

「まずいぞ……」

 

上条刑事は不安になった。

 

雄介はその冒険心から、周りをひやっとさせることが何度もあった。

 

今回もそうである。

 

もし雄介が空間震の中に居たら……

 

もし『ヤツら』と遭遇していたら……

 

「無事でいてくれ」

 

上条は不安を打ち破るようにアクセルを踏み、天宮市へと急いだ。

 

 

 

**

 

 

 

「っはあああ」

 

 

「うわっ!」

 

クウガは香美のレーザーブレードを避け、間合いを取る。

 

「待ってくれ! 俺は戦いに来たんじゃない!」

 

クウガは手を前でバタバタと動かしながら、戦意がないことをアピールしようとした。

 

「精霊殲滅の邪魔をする。それだけで戦う理由は十分だ!」

 

そういって一気に間合いを詰め、斬りかかってくる。

 

「はあぁっ」

 

クウガはなんとか避け、変身ポーズをとった。

 

「何で、分かってくれないんだ」

 

そしてクウガは青い装甲の『ドラゴンフォーム』へ変化した。

 

「はああぁ……」

 

 

『邪悪なる者あらば その技を無に帰し 流水の如く邪悪を薙ぎ払う戦士あり』

 

 

「っはああ!」

 

「とうっ」

 

香美の飛行ブースターを上手く使った加速による連続攻撃を、クウガはドラゴンフォーム特有の機動力とジャンプ力で華麗に避ける。

 

「ふんっ」

 

その際に、瓦礫から頭を出していたガスパイプを引き抜き、棒術武器『ドラゴンロッド』へと変化させた。

 

「はっ」

 

クウガがそれを構えると、ジャキっと両端の棒が伸びた。

 

「お前、なかなか面白いやつだな」

 

香美はそういって、空いてる方の手首をスナップさせた。

 

二人はそれぞれの武器を構えてにらみ合った。

 

 

「「はぁっ」」

 

そして二人一斉に駆けだした。

 

「っらあ!」

 

香美が横なぎにブレードを振る。

 

「はあぁっ!」

 

クウガは攻撃すると見せかけて空中前転で攻撃を避け、後ろに回り込んだ。

 

「しまっ…」

 

「おりゃあ!」

 

クウガは振り返りながら、ドラゴンロッドで香美のバックパックをぶっ叩いた。

 

 

ガギィイイン

 

乾いた金属音が鳴り火花が飛ぶ。

 

バックパックには『封印』の古代文字が浮かび上がる。

 

クウガドラゴンフォームの必殺技『スプラッシュドラゴン』

 

ドラゴンロッドの先端を相手に叩きつけ、封印エネルギーを流し込む技である。

 

ドオォォン

 

その攻撃のより、バックパックは爆発した。

 

「ぐあああ!」

 

その衝撃で香美は吹っ飛んだ。だが、彼女の身を包むスーツの機能でダメージは軽減されている。

 

「だったらこれはどうだ」

 

そういって今度は左手首についているブレスのボタンを押した。

 

≪Start Up≫

 

電子音と共に、香美が高速移動を開始した。

 

「ぐはぁ!」

 

クウガは不意を突かれ、攻撃を受けてしまう。

 

「だったら……」

 

だが、クウガの手には、先程折紙が捨てた銃が握られていた。

 

「はっ」

 

また変身ポーズを取り、緑の装甲の『ペガサスフォーム』へと変化した。

 

 

『邪悪なる者あらば その姿を彼方より知りて 疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり』

 

手にしていた銃も、『ペガサスボウガン』へと変化した。

 

 

『狙撃手』の力を持ったペガサスフォームは、攻撃力、防御力が著しく低下する代わりに、超感覚を手に入れることが出来るのである。

 

 

キイイィィィィィィイン

 

その集中力で,高速移動してる香美を探す。

 

 

(はぁ…はぁ…はぁ…)

 

彼女のわずかな呼吸音が聞こえる

 

ギュウイィィィイン

 

彼女の武器のわずかな音まで聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1…

 

 

 

 

「そこだ!」

 

 

素早く狙いを定め、引き金を引く。

 

「うわああ!」

 

そして、空中から攻撃を加えようとしていた香美のブレスに命中させる。

 

 

≪Time Out≫

 

 

電子音が鳴り、香美の高速移動もそこで終わった。香美は地面に墜落した。

 

 

クウガも元のマイティフォームに戻った。

 

 

「もう止めてください! 俺たちは戦う必要はない!」

 

 

クウガは香美にそう訴えかけた。自分が変身した理由は、折紙と夜色の少女の戦いを止めさせるためだけだったからだ。

 

  

 

 

 

 

「はあああああああ!」

 

 

「たあああああああ!」

 

 

折紙と夜色の少女の剣がぶつかり合って、火花が飛ぶ。

 

 

 

ギギギギギギギギギギギギギギイイイイン

 

 

高速で剣同士がぶつかり合う。

 

折紙と夜色の少女の戦いはまだ続いている。

 

 

 

「どうして、人間同士で、こんなことが平気でできるんだ……」

 

 

 

クウガは未確認生命体「グロンギ」と戦ってきた。それは彼らが「人類の敵」であり「殺戮を繰り返す者」だからである。

 

だが、夜色の少女は、そのようには見えなかった。

 

だったら、戦う理由なんて無いはず……なのに。

 

 

「精霊は、世界に災厄をもたらす! ただそれだけだ!」

 

 

香美は右腕に篭手のようなものを装着した。

 

そしてクウガに向かって拳をおもいっきり振りかぶった。

 

「はっ」

 

クウガは変身ポーズを取り、今度は剣士のような装甲の姿になった。『タイタンフォーム』である。

 

 

 

『邪悪なる者あらば 鋼の鎧を身に付け 地割れの如く邪悪を斬り裂く戦士あり』

 

 

 

 

ゴン

 

ただ鈍い音だけがした。

 

クウガは落ちてた棒きれを拾った。そしてその棒も例のごとく、武器『タイタンソード』に変化した。

 

「はあっ!っはあ!ったあああ!」

 

何度も拳を打ち付けるがビクともしない。

 

タイタンフォームの特徴は鉄壁の防御力にある。

 

どんどんと近づいてくるクウガ。

 

殴り続けるが後ずさりしてしまってる香美。

 

香美の顔に焦りが浮かんでくる

 

どてっ

 

「ヤバッ」

 

香美は瓦礫に躓きこけてしまった。

 

「おりゃあああ!」

 

クウガは剣を振りかぶって香美の顔スレスレのところに突き刺した。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

香美の真横に、剣によって作られた大きな亀裂が走っていた。

 

香美の目には、恐怖のあまり涙が浮かんでいた。

 

「これが最後です」

 

香美はその言葉を聞いて理解した。

 

『次は殺される』

 

クウガが精霊の救出にこだわる理由が分からなかった。

 

「なんで……精霊を助けようなんてバカなことを思いつくんだ?」

 

「じゃあ、なんであの女の子はあんな顔してるのに攻撃を加えることができるんですか?」

 

「お前本気か!? 精霊は空間震を引き起こしている張本人だぞ! 街1個破壊できる災厄なんだぞ!」

 

「だったらなんであんな悲しい顔してるんですか!」

 

クウガは夜色の少女を指差した。

 

 

「はああああああ!」

 

 

「たあああああああ!」

 

攻撃力は圧倒的だった。

 

だが、その顔は、何かに怯えているかのようだった。

 

「それは……」

 

 

ドオオン

 

 

「ぐはあっ!」

 

そこまで言った時、クウガの脇腹にミサイル弾が被弾した。

 

「香美さん! 逃げてください!」

 

空から、幼子のような声が聞こえた。

 

「一恵!」

 

仲間が援護射撃をしたのであろう。

 

「ウェイ!」

 

そしてミサイルを撃った隊員は、今度はトンファーブレードを二本取り出して、それをクロスさせて振り、衝撃波を飛ばした。

 

「うわあああああっ!」

 

タイタンフォームの防御力といえど、不意打ちとその後の連続攻撃には耐えきれず、吹き飛んでしまった。

 

 

「ぐあぁぁぁ……うぅぅ……」

 

クウガは連続で大ダメージを受け、白く最弱の姿、『グローイングフォーム』へと変わってしまった。

 

 

そして変身も解けてしまった。

 

「高校生!?」

 

「まだガキだと…」

 

香美と、彼女を援護した隊員は、変身が解けたことに驚いた。

 

(こんなガキ相手に……手をこまねいていたなんて……)

 

香美の心に、怒りが湧き起こった。

 

 

 

 

ウーーーウーー…

 

キキィイ

 

現場に到着した上条はその光景を見て驚いた。

 

「沢村!」

 

パトカーから飛び降り、雄介に駆け寄った。

 

 

上条が抱き上げるが雄介は気絶したまま動かない。

 

 

「沢村! おい沢村ぁ!」

 

パトカーに雄介を乗せたその時、折紙と夜色の少女の剣がぶつかり合った衝撃波が、辺りを包み込んだ。

 

上条は、爆風から逃げるように全速力でパトカーを発進させた。

 

「はああああああああ!」

 

「でやあああああああ!」

 

 

「う、うわああああああ!」

 

 

 

近くで爆風に巻き込まれた士道は、そこで意識を失ってしまった。

 

彼らは、世界の謎とであった。

 

今、彼らの運命が、大きく動きだそうとしている。

 

 




どうも、修羅場中でも何とか小説を書けている千藤です。
今回は分量が少し多くなっていますが、実は2つに分かれていたお話を1つに繋げたからなんですね。過去の自分、なんで2つに分けた。
今回は殆ど修正だけで済んだので早く終わりました。昔の自分は戦闘シーンをよく書けていた。今だと全然です。
それではお話の解説↓
前回の答え合わせは。デート・ア・ストライクの主人公「岡峰美紀恵」ちゃんでした。DAS本編での、美紀恵と精霊とのファーストコンタクトの場面がけっこうあっさり書かれていたので、雄介がいるこの世界だとこうなるかな、こうあってほしいなと思いながら書きました。美紀恵ちゃんはまだまだ絡ませたいですね。
ASTにもオリキャラを2名ほど出しました。香美の使っているメカのモデルは、ファイズから拝借しました。ファイズのメカデザインは特撮の枠を飛び出しても上位に入るくらいには素晴らしいと思うんですよ。それだけが理由ではないんですけどね。香美に関してはまた今度。
士道君途中からほったらかしにしてごめんね。このお話は基本雄介を軸として動かそうと思っているから許して……。言い訳ではあるのですが、DAL本編と並行してこのお話を読んだほうがこのお話を楽しめると思います。こうやって士道の出番を省いちゃったりするから。みんなもデート・ア・ライブを読もう!
最後にクウガの戦闘シーン。前回で全フォームの名前だけ出したので、今回は実際に闘ってもらいました(香美のメカがハイスペックなのもそのため)。このお話自体が、クウガ復活からしばらく経ってからのお話なので、クウガがどんな仮面ライダーであるか一度動かす必要があったんですよ。ほら、チュートリアルステージってやつです。モバ〇スでいうみくにゃんが出るところ。
とまあ、以前書いていた頃のストックが尽きるまではこんな感じで投稿ペースは相対的に速くなります。ストックが尽きて1から書かなきゃいけなくなったらその時言います。その時が運命の時です。ウンメイノー(うわああああああ)
というわけで、次回もお楽しみ。試験的に、非ユーザーも感想を書けるようになったのでこの際に感想をどうぞ。ではまた次回。お楽しみに。


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Ep3‥宵闇

14:02 陸上自衛隊天宮駐屯地格納庫


「ハァ…ハァ…」


香美の息は荒れていた。

それはクウガとの戦闘のためだと、香美は自分に言い聞かせた。


(負けた……)


先刻の戦いの様子が脳を過ぎる。

(おりゃぁあああああああああ!)

頬を掠めた紫色の大剣。その風の感触がいまでも頬に残っている。

「……」

手先が震えていた。

彼女が身に纏っているバトルスーツ、着用型接続装置(リアライザー)をフル稼働させた反動で、脳に多大な負担をかけたためでない。

「このままじゃ……」

震えを無理矢理押さえ込むように掌をぎゅっと閉めた。


「乾香美三尉。準備整いました!」

整備士の声が聞こえ、我に返る。

香美は専用ドッグに腰掛け、全装備を外した。

「ッ……ぐうぅぅっ!」

その瞬間、先刻まで感じていなかった疲労感と全身への激痛が体を襲った。

CR-ユニット。30年前の大規模な空間震の後、人類が手に入れた奇跡の装置。自分が思い描いた自称を、制限付きではあるが実現させてしまう奇跡のバトルスーツである。

その代償として、使用後しばらくは脳をはじめ全身に多大な負荷がかかり行動不能になる。

大体の場合は極度の倦怠感を覚える程度しかないのだが、香美の場合装備が最新型で他のCR-ユニットと仕様が異なるため、身体へのダメージは倍になる。

「やっぱ香美さんは一流だなぁ~」

香美は声をする方へ視線だけを向けた。そこにはツインテールで軍服姿の少女の姿があった。彼女が、先程の戦闘中に香美を救った隊員、剣崎一恵である。

手には赤と黄色のラベルのビタミンドリンクの瓶が2本握られてた。

「……」

香美も返事を返そうとしたが、身体への負荷が大きすぎて声を発することさえままならない。

「天宮駐屯地で1番の装備をここまでフルで使いこなせる人はそんなにいませんよ」

一恵はにかっと笑ってそういった。

「……」

だが、香美はくやしそうに唇を噛んだ。

「そんなに気を落とさないでくださいよぉ」

彼女は、返事を聞かなくても大体のことは察していた。

「たしかに、最強の装備で戦って4号に負けたけど、あれは4号が強すぎるだけで精霊にまで負けると決まったわけじゃ……」

「そう……じゃ……ない」

「え?」

香美の身体が多少回復したのか、上半身をゆっくりと起こして、口をひらいた。

「4号に……まけてしまうようじゃ、わたしは……」

そして香美は一恵が栓を抜いた瓶を受け取り、中の液体を一気に口の中へ流し込んだ。

「ぷは」

そして、口を拭い、誰に向けるでもなく呟いた。

「あいつを、超えることは、できない……」



14:38 南関東医大病院

 

 

 

 

「しかし上条。コイツは一体どんなやつにやられたんだ。外傷が特殊すぎる。火傷の跡とも何かで切られた跡とも言えん。」

 

白衣を着た若い医師がカルテをぽんと叩きながら言った。

 

病室に三人の男がいた。

 

一人はASTとの激戦の末、気絶して運び込まれた沢村雄介。

 

もう一人は上条薫刑事。元は長野県警警備課に所属していたが、未確認生命体による一連の事件のため、今は警視庁に設置された未確認生命体合同捜査本部に所属している。

 

そしてもう一人は大室秀一医師。クウガこと雄介のかかりつけ医であり、上条の友人でもある。

 

 

「そのことは沢村が目を覚ましてから話そう。」

 

上条はベッドで眠っている雄介を見た。

 

上着は脱がされていて、頭や身体を所々包帯で巻いていた。

 

「うわああああ!」

 

「「うわっ!」」

 

雄介がいきなり飛び起きたことに二人は驚き、今まで出したことないような声を出してしまった。

 

「大室さん……俺……アイドルとの交際が発覚したら殺されちゃう……」

 

「いいから落ち着け。お前はどんな夢を見ていたんだ……」

 

大室は訳の分からないことをわめいてる雄介をなだめた。

 

「大丈夫らしいな」

 

上条はあきれ顔で二人を眺めていた。

 

 

 

 

 

「で話しておきたいことって?」

 

3人は大室の医務室に移動していた。

 

「大室は雄介が何にやられたか知りたいだろ」

 

「ああ、まぁ」

 

「そして、沢村は空間震の後何が起こったのか知りたいだろ?」

 

「はい」

 

そこまで話すと、上条は1枚の写真を取り出した。

 

 

「これは……」

 

 

「俺が戦ってるとこですね」

 

 

写真に写っていたのは、クウガが白髪の少女と夜色の少女を止めに入っているシーンであった。

 

 

「黒髪の少女。彼女は精霊と呼ばれている」

 

「精霊?」

 

雄介は写真と上条を交互に見た。

 

「空間震が起こる前後に出現し、辺りを吹き飛ばすんだ。空間震の原因とも言える存在だ」

 

「この子が、空間震を?」

 

雄介はまた写真を見た。雄介は一条の言葉が信じられなかった。この少女にそんな力があるとは思えなかったのである。だが、雄介があの場で見たことは紛れの無い事実だった。

 

「そしてこの白い髪の少女が自衛隊アンチ・スピリット・チーム。通称AST。その名の通り、精霊を殲滅することを目的とした部隊だ」

 

上条は、写真に写っているASTの少女を指差しながら言った。

 

「なるほど。彼女らの剣なら沢村にこんな傷を負わせることも可能だな…」

 

大室は顎を撫でながら写真を覗き込んだ。

 

 

「……」

 

「どうした?」

 

雄介は写真を見てからずっと黙っていた。

 

「信じられないのか?」

 

上条が写真をしまいながら言った。

 

「信じられないというより、信じたくないです。」

 

「え?」

 

「だって、俺が見た時あの子とても悲しそうな顔してたんです。そんな子が空間震を起こして街をメチャクチャにしてるなんて、俺、信じたくない」

 

そう言ってる雄介の目も、悲しみの色をしていた。

 

「そんな子をいきなりあんな武器を持って襲いかかるなんて、かわいそうですよ……」

 

医務室が沈黙に包まれた。

 

「救いたいと思ったか?」

 

沈黙を破ったのは、一条だった。

 

「当たり前です!」

 

雄介はそういいながら勢いよく立ち上がった。

 

「でも、俺らじゃ手出しはできない。」

 

だが、それを遮るように一条は言った。

 

「何でですか!? 未確認だって俺たちで……」

 

「そうじゃない」

 

そして上条も立ち上がった。

 

「未確認の場合、人が殺されてるから殺人事件として扱われる。そのため我々警察が動く。だが精霊の場合、災害派遣として扱われる。だから自衛隊の出番になる。我々の出る幕じゃないんだ」

 

「はあ……」

 

雄介は納得がいってなさそうな様子だった。

 

「それに、余計な戦いでお前にこれ以上危険な目に遭ってほしくないんだ。」

 

上条は雄介の肩を強く掴んだ。

 

上条は、責任を感じていた。

 

彼はまだ16歳の高校生である。偶然とはいえ、未確認生命体を倒す力を手に入れ、闘う宿命を背負ってしまった。そして、いつ終わるか分からない戦いに、これから輝かしい未来が待っている少年を巻き込んでしまった。

 

ただでさえ辛い思いをさせているのに、これ以上敵が増えると、雄介を崩壊させてしまう。上条は、一人の大人として、それが一番怖かった。

 

「それなら心配いりませんよ!」

 

「どういうことだ?」

 

上条の考えていることなど全く気にせず、雄介はお決まりの笑顔でこう言った。

 

「だって俺クウガだし、大丈夫です。俺、精霊も救ってみせます!」

 

「はぁ……」

 

上条は頭を掻きながらため息をついた。

 

(本当に大丈夫だと思ってしまう……)

 

本当は止めなくてはいけなにのに、雄介のその笑顔を見ていると、その言葉を信じてしまいたくなる。上条は、自分の甘さに呆れてしまった。

 

 

 

ヴーッ ヴーッ

 

 

そんなことを考えていたら、上条のケータイが鳴った。

 

 

「もしもし……はい。すぐ行きます。」

 

 

「どうしたんです?」

 

「壊れたトライチェイサーの修理が終わったと科警研から連絡があった。行くぞ」

 

「はい」

 

そして2人は大室に礼を言い、病院を後にした。

 

 

15:10 常磐自動車道

 

 

「変身が解けた?」

 

科警研のある千葉へ向かう車内で、雄介は未確認との戦闘のあとのことについて話していた。

 

「はい。空間震が起こる前だったかな? 相手の攻撃にやっとついて来れたってときに空間震の予兆? みたいなのが起こって、そうしたら急に身体が元に戻っちゃって」

 

「で、その後変身はできたのか?」

 

「はい。あの精霊の近くに友達がいて、そいつを助けようと思って走っていったときには変身できました」

 

「そうか。あとお前が言うイメージっていうのは?」

 

「あれは、九朗ヶ岳遺跡で見たのとか、クウガに初めて変身したときに見たのと同じ感じのやつでした」

 

「ますます謎だな」

 

「だから、精霊とクウガって全く関係ないってわけじゃないと思うんです」

 

「でも、空間震が初めて発生したのは30年前だぞ?」

 

そこで、車内に沈黙が漂う。

 

「う~ん……そうだ! 昔クウガと一緒に未確認と戦った女剣士の霊が精霊とか!」

 

「そんなバカみたいな話あるか」

 

上条はがっくりとため息をついた。

 

車は科警研へと走って行った。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

とある路地裏

 

 

 

 

「ガドラ、しくじったようだな。」

 

あまり太陽の陽が差さないそこには2人の人間がいた。

 

正確に言うと、人に化けた生物が。

 

「うるさい! もっと人間が集まれば!」

 

激高してる毛むくじゃらの青年が1体

 

「だが、まだ全然リントを殺せてないぞ。」

 

美麗なドレスを着たバラのタトゥーの女が一体

 

「ふん!まだ時間はある。2日で576人だろ。余裕だ。」

 

ガドラと呼ばれたそいつはフッと笑ってみせた。

 

「このゲゲルを成功させる為にこの傷が残っているのだ……」

 

「それは頼もしいな。」

 

ピュウーーー

 

 

路地裏に風が吹き着込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。はーくたびれた」

 

雄介が帰ったのは5時を過ぎてからだった。

 

「遅いぞ雄介~」

 

カウンターからおやっさんが顔をだした。

 

「士っちカンカンだぞ」

 

「へ?」

 

おやっさんが指を差した方を見ると、足を組んで不機嫌そうにコーヒーを飲んでいる雄介と、気まずい顔で座っているメガネの少女がいた。

 

客は閉店間際だったので2人だけだった。

 

「人を勝手に手伝いに行かせた挙げ句、こんな時間まで待たせるとはどういったご了見だ」

 

士は鋭い目だけを雄介に向けた。

 

「だって緊急事態だったし……バイクも壊れちゃったから……」

 

雄介は全く反省してない様子で答えた。このような事は今日が初めてではない。士は何度も、雄介の代わりとして働かされてたのだ。

 

「そ、それにお礼も貰ってるからいいだろ?」

 

開き直る雄介。

 

「コーヒーとプリンがそのお礼とはねぇ」

 

士は、一口も食べてないプリンをスプーンでつんつんとつついた。

 

「士っちそれどういう意味?」

 

不満そうな顔のおやっさん。

 

「そんなことはどうでもいい。ほら、いいのか?」

 

「どうでもいいってそりゃないでしょ……」

 

おやっさんの声を聞き流しながら、士は同じテーブルに座っている少女のほうに向き直った。

 

「あれ? 確か君は」

 

「『逢魔ヶ時 茜』です。あの、これ」

 

茜は、自分の隣の椅子に乗っていたカバンを雄介に差し出した。

 

「カバンを置いて出て行ったからな、それに気づいて持って来てくれたらしい」

 

「え? ごめーん! わざわざありがとう」

 

「ただ忘れ物を届けにきただけなら、わざわざこんな時間まで雄介を待っている必要はないんだけどな」

 

士は立ち上がりながら、茜を一瞥した。雄介もそれにつられて茜のほうを向いたら、茜の顔はほんのり赤くなっていた。

 

「どうしたの?」

 

雄介は首をかしげた。

 

「雄介やるなぁ~新学期早々。こんなかわいこちゃんから愛の告白だなんて」

 

「いやっ……そそそんなわけ」

 

おやっさんのその言葉を聞いて、茜の顔はますます赤くなった。

 

「もう、おやっさん。ちゃかさないの」

 

雄介は軽くため息をついた。

 

「ははっ悪い悪い」

 

「茜お前に話があるみたいだぞ。じゃ、俺は帰るからな。」

 

士はその言葉を残して、店を出た。プリンは結局残ったままだった。

 

「もう、せっかく作ったのに。このいけず。じゃ、このプリンはおやっさんがじ~っくりいただきまーす。じゃあね」

 

おやっさんは大袈裟に言いながら、厨房の奥に下がった。

 

「で、話って?」

 

おやっさんが見えなくなったことを確認してから、雄介は士が座っていた椅子に腰掛けた。手にはお冷やのグラスが一つ握られていた。

 

「……」

 

雄介が茜の様子をうかがうと、表情を見られないように俯いていて、話し始めるのをためらっているように見えた。

 

 

 

「あ、あの」

 

茜が口を開いたのは、グラスの氷が溶けて、コロン、と涼しげな音を立てたからだった。

 

「沢村さんが、未確認生命体4号っていうのは、本当ですか?」

 

「へ?」

 

ほぼ初対面の少女から突然そんなことを言われ、雄介はきょとんとなった。

 

「どうしてそれを?」

 

「沢村さんが電話に出たとき、25号が出たって聞こえてきたので、もしかしたらと思って、士さんに聞いたら、教えてくれました」

 

茜は、俯きながらも、少しずつ言葉を絞り出した。

 

「確かに、士の言うように俺はクウガだけど……でも何でそんなことを?」

 

少し間を置いてから、茜は口を開いた。

 

「実は、お願いがあるんです」

 

茜は、言葉を続けた。胸元を手で押さえつけて、苦しみに耐えているように見えた。

 

「私は、この時間になると……」

 

そこまで言った時だった。

 

茜は突然立ち上がり、全速力で店を飛び出したのである。

 

「茜ちゃん!?」

 

椅子が大きな音を立てて倒れた。

 

雄介が茜を追いかけたのは、その音が鳴るのと同時だった。

 

慌てて店を出て周りを見回したが、茜の姿は見当たらなかった。

 

「一体、どうなってんだ?」

 

雄介は首を傾げた。

 

てんで分からないことだらけだ。

 

精霊、AST、夜色のクウガ、今の出来事。

 

今日1日でどれだけの出来事があっただろう。

 

もう疲れた。今日はもう明日まで寝よう。そう思った瞬間だった。

 

 

 

 

「うわあぁ!」

 

 

頭上に何かの気配を感じ上を見上げたら何者かが空から攻撃を加えてきて雄介はそれを寸前で避けた。

 

 

 

 

一瞬という言葉はこの時のことを言うんだ。雄介はそう感じた。それくらい、あっという間で、一瞬の出来事だった。

 

雄介がさっきまで立っていたところはクレーターのように抉れていて、土煙が舞っていた。

 

風が吹き土煙が晴れ、雄介を襲ったものの正体が見えた。

 

「え? どうして……」

 

そこには、逢魔ヶ時茜の姿があった。

 

しかし、先程までの面影は全く無かった。

 

丈の短い橙色の袴に、肩だけ露出した形の白衣。髪も先程より伸び、クウガの角のような冠を被っていて、手には、光の刃を司った薙刀が握られていた。

 

その姿はまるで……

 

「精霊?」

 

もう訳がわからなかった。一体なにがどうなっているんだ? そういう疑問すら浮かばないくらい混乱が一層激しくなり、整理がつかない。

 

「ハッ!」

 

雄介が全ての状況を飲み込まないうちに、茜が薙刀を持っていないほうの手から黒い球体を放ってきた。

 

その球体は、空間震で空間が圧縮される際に見られるものとほぼ同じものだった。

 

「え? わあああああ!?」

 

雄介あっけなく吹き飛ばされた。

 

「グフッ! ああぁ……っ」

 

地面を数メートル転がり、雄介は気を失った。茜が立っているところには、もう誰もいなかった。

 

 

**

 

 

 

22:00 ???

 

 

「うぅ~ん……一体ここは?」

 

本日二回目の気絶から目を覚ますと、雄介は見知らぬ場所にいた。

 

そこで雄介は改めて周りを見渡してみた。

 

どこかの医務室なのか、部屋には自分が寝ていたのとあわせて6個ベッドがあり、奥の方には医療器具や薬などの入った棚などがあった。

 

近くの壁には、雄介が着ていた制服が掛けられていた。

 

雄介がパーカーの上からブレザーに袖を通したとき、入り口の扉が開き一人の女性が入って来た。

 

やけに眠そうな目をした20代の女性だった。

 

「よく眠れたかい? 沢村雄介くん。いや……」

 

 

 

「仮面ライダークウガ」

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

雄介は女性に連れられ、廊下を歩いていた。

 

「仮面ライダー、ですか」

 

「君は、どこでその呼称を」

 

「昔、学校の先生に教えてもらったんです。昔、人間の平和を守る、仮面のヒーローがいたって」

 

雄介はいつもの笑顔でそう応えた。

 

「『仮面ライダー』の伝説は、人々の心に生き続けているのだな」

 

白衣の女性は、眠たそうな顔のままで呟いた。

 

「あの、ところでお名前は?」

 

雄介はとりあえず成り行きでここまでついてきたのだが、まだ彼女の名前を聞かされてなかった。

 

「私は『村雨 令音』。ここで解析官をしている」

 

「解析官?」

 

雄介は首をかしげた。

 

「私は説明下手でね、詳しいことは今から行く先で聞けばいい」

 

令音はふらふらと歩きながら続けた。

 

「ただ、その前に言っておくことがある」

 

かつかつと無機質な廊下を歩きながら話を聞く。

 

「見ての通り、この世界の敵は、未確認生命体だけではない」

 

「はあ。」

 

「もちろん。精霊だって例外ではない。」

 

雄介は今日の事を思い出した。全てを破壊する空間震から出現し、ASTと激しい戦いを見せた精霊。だが……

 

 

「でも、精霊は未確認生命体とは違う。よく分からないけど、彼女は敵じゃない!」

 

それが雄介の本心だった。

 

ASTは、精霊は人類の敵だと言っていた。だが、クウガの目には悲しい表情をしている精霊の姿が映っていた。

 

本当に人類の敵ならそんな顔はしない筈だ。それに、『みんなの笑顔の為に戦う』のなら、精霊だって救わなければならない。ASTのやってる事は間違ってる。

 

そう思うと、精霊を敵視することなんて、クウガにはできなかった。

 

「君は、精霊を救いたいと思ってるんだね?」

 

「当たり前です」

 

答えはそれだけで十分だった。精霊が、意味の無い暴力によって倒される姿を、黙って見てるなんてできなかった。

 

「その言葉が聞けて嬉しいよ。」

 

さっきまで眠たそうに無表情を貫いていた女性はふわっと微笑んだ。

 

「着いた。入りたまえ。」

 

気づくと雄介と令音は大きな自動扉の前に立っていた。

 

令音が横に備え付けられている機材にカードをスキャンすると、扉が開いた。

 

開いたその先を見て、雄介は絶句した。

 

 

「連れてまいりました、指令。」

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「『ラタトスク』へようこそ。歓迎するわ、仮面ライダー」

 

 

視線の先には、軍服を身に纏った五河琴里の姿があった。

 

 

大きく違うのは、可愛らしいツインテールが白いリボンではなく、黒と赤のツートンカラーのリボンで纏められてて、さらにいつもの弱々しくも愛嬌のある表情ではなく、勝ち気で相手を見下すような表情になっていたことである。

 

 

「し、しれい……? なんで?」

 

 

 

 

つづく




どうもお久しぶりです。絶賛修羅場中の千藤です。
ガワコス制作も佳境に入ってきて、尚且つWIXOSSの方も2週間後のCSが待ち構えていてそのことについて考えたり、そして学校のほうの用事もあったりともう大変でした。
そんな状況で、逢魔ヶ時茜のキャラ作りと、その後のストーリー展開も考えていたので、前回よりけっこう間が空いてしまいました。すみません。
令音さんと五河琴里指令バージョン、やっと登場です。ここから雄介ことクウガを巻き込んだ戦争(デート)が始まろうとしています。
おそらく前の使い回しは次回まででしょう。今回のお話も、2つのお話の断片を繋いで、そこに新に書き加えて完成させたのでそろそろストックが尽きようかというところです。
というわけで次回をお楽しみに。感想などお待ちしておりますので遠慮なく。


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Ep4‥交錯

「仮面ライダーって知っているか?」

それは、雄介が小学生の頃だった。

「先生はな。昔、少年仮面ライダー隊っていうのに入ってて、仮面ライダーと一緒に戦ってたんだ」

そういって見せられた写真には、銀のボディに赤いマフラーを靡かせた、一人の仮面ライダーが映っていた。

「仮面ライダーは戦ってる時はいつも一人なんだ。でもな、孤独ではないんだ」

先生は、雄介に写真を手渡しながら続けた。

「少年ライダー隊がいて、おやっさんがいて、仲間がいた。少年ライダー隊だった先生達は、戦えなくても、心の中では一緒に戦ってたんだ」

雄介はその時のことを忘れない。

「雄介は、お父さんもお母さんも居なくなって一人になった。けどな、一人になっても、一緒に戦ってくれる「仲間」はいる」

先生は、サムズアップをして、笑った。

「確かに、両親が居なくなって寂しい。でも、仲間がいる、って思うと、なんだか心強くないか?」

その時からだった。雄介が仮面ライダーの存在を知り、孤独になっても戦っていけるかもしれない。そう思えるようになったのは。



22:48 フラクシナス艦内

 

「というわけよ」

 

 

「いや、精霊のことはわかってるから! そうじゃなくて……」

 

 

「なによ。あんたが説明しろって言ったんじゃない」

 

 

「いや、そーだけど……」

 

 

雄介はここに連れてこられてから上条刑事から聞かされた精霊とASTのことと、ここが何なのかということについて説明を受けていた。

 

とりあえず雄介が分かったことは

 

1 ここが≪ラタトスク≫という組織が所有する≪フラクシナス≫と呼ばれる空中艦の艦内であること。

 

2 ここの指令が琴里で、解析官が令音、副司令がドMで変態だということ。

 

 

そして

 

「平和的に精霊を救う方法があるって言ってたけどさ、全然説明してくれないじゃん」

 

この3つである。

 

 

「まあいいわ。精霊とASTのことをなんで知ってるか聞きたいとこだけど、説明する手間が省けて丁度いいわ」

 

琴里は腰のホルスターから新しいチュッパチャップスを取り出して口に咥えた。

 

「雄介は、ASTがどうやって精霊と渡り合おうとしてるかは分かってるわね」

 

アメの棒をピコピコさせながら言葉を続ける

 

「えーっと、戦って倒そうとしてた」

 

雄介は香美と戦いながらも、夜色の精霊と折紙の戦いを見ていたのでそのことはよく分かっていた。

 

「私達は、その逆の事をするの。さて、問題。逆の事とは何でしょう?」

 

と言いながら雄介をアメで指した

 

「え~っと、話し合い、かな?」

 

「半分正解、半分ハズレ」

 

「え~?」

 

雄介はその返答に首をかしげた。

 

(おかしいな。反対って、こういう事じゃ……でも、半分正解って?)

 

という疑問が頭を飛び交ってる雄介の耳に入ってきた次の言葉は、あまりに予想外で呆けたものだった。

 

 

 

 

「精霊に、恋をさせるの」

 

 

 

 

しばし続く沈黙

 

 

 

「はぁあ?」

 

最初のセリフは雄介の口からだった。我ながら間抜けな声だと思った。

 

半分正解で、半分ハズレ。その意味は分かった、だが……

 

「それって、どういう事?」

 

 

「武力以外で空間震を解決しなきゃならないなら、精霊を説得しなければならないでしょ。その為にはこの世界を好きになってもらわなきゃ。この世界がこんなにすばらしいものだという事が分かれば、無闇に暴れることもなくなるわけじゃない?」

 

 

「確かにそうだけど、恋をさせるって?」

 

 

「精霊とデートして、精霊をデレさせるの!」

 

 

「んんんんん?」

 

雄介は余計混乱していた。

 

「精霊に恋をさせて、ってのは何となくわかったよ。でも、なんでそれが仮面ライダーと関係が?」

 

さっきまでの口ぶりなら、雄介は『仮面ライダー』としてここまで連れて来られ、仮面ライダーの力を必要とされてると思っていた。

 

だが聞いてるとどうも違う。デート。恋。雄介が未確認生命体と戦ってるなかでは1回も出てこなかった単語である。

 

「さっきからなんでなんでって……さすが考える力を失ったスマホ世代ってところね」

 

琴里は、やれやれと言わんばかりにため息をついた。

 

「琴里ちゃんだってそうだろ! で、仮面ライダーと精霊に恋をさせるの。一体どう関係あるの?」

 

「いいわ。説明してあげる。神無月!」

 

「はっ!」

 

命じられた副司令の神無月は手元のリモコンを操作し、艦内に備え付けられている巨大スクリーンに一つの映像を映し出した。

 

 

 

『1.鯖味噌 2.鯖味噌 3.鯖味噌 4.鯖味噌……なんで選択肢に鯖味噌しかないんだよ!』

 

 

 

映し出されたのは、部屋で真面目にギャルゲーをやってる士道の姿だった。

 

 

雄介のその時の表情はなんとアホらしかったことか。

 

「あいつは一体なにをやってんだ?」

 

「あれは精霊とコミュニケーションを取るための訓練ね」

 

「え!? あんなのでいいの?」

 

「あんなとはなんですか! ギャルゲーとはなかなか女性と話が出来ない男性が合法的に女性と会話がでkぶぅほああっ!」

 

雄介が驚愕の声を挙げ、神無月がいきなり会話に割って入って琴里に粛正されるまでは一瞬の出来事だった。神無月は嬉しそうな表情だった。

 

「っていうかなんで士道が訓練を?」

 

「残念ながら、精霊の交渉役は士道に決まってるの」

 

琴里は自分の兄が悪戦苦闘する姿をみてにへらと笑った。

 

『えーいもうやけくそだ!1番の鯖味噌!』

 

≪ここはフランス料理の店だ≫

 

『んだー! 一体どうすれば!』

 

「あーあ。またペナルティが増えた。神無月! 例のものを雄介に!」

 

「かしこまりました」

 

すると、口の端から血を流してる神無月から1枚の紙を渡された。

 

「『電脳探偵沢木の事件簿4~11巻の後ろ 3段目のタンスの引き出しの裏側 ベッドの収納の二重底の中』これは?」

 

「士道がエロ本隠してるところよ」

 

「ブッ!」

 

雄介は思わず吹いてしまった。

 

士道は、訓練において失敗を犯したらこういった精神的ペナルティが科せられるのである。本番で失敗して命を落とさないために。

 

「まあ、士道が交渉役に選ばれた経緯はおいおい話すわ。それより、本題ね。」

 

琴里は改めて艦長席に座りなおした。

 

「あなたには、士道のサポートをして欲しいの。」

 

そして3本目のアメを口に含みながら続けた。

 

「令音にも伝えられたと思うけど、精霊以外にも驚異は沢山ある。だから、ボディーガードとまでは言わないけど、士道が精霊と接触する際の手助けをして欲しいの」

 

雄介は精霊と接触した時の事を考えた。ただでさえ危険な空間震の跡。そして戦闘力を保持してるASTに精霊。もちろん接触中にグロンギの標的にされるかもしれない。それに、士道は戦う力を持ってないただの高校生。

 

仮面ライダーの自分にしかできない任務。

 

「それに、精霊が必ずしも1人で出るとも限らないからあなたにも精霊とデートしてもらうことになるかもしれないし、だから、仮面ライダーとしても、沢村雄介としてもあなたが必要なの」

 

そして琴里は立ち上がり、雄介を見上げて問いかけた。

 

「協力、してくれるかしら」

 

その表情は、いつものようにあどけない目で見上げられ「あそぼー!」と言われる時とは違い、強い信念が感じられた。

 

 

**

 

「こんなヤツらの為に!」

 

 

「これ以上誰かの涙を見たくない!」

 

 

「みんなに、笑顔でいて欲しいんです!」

 

 

「だから見てて下さい!」

 

 

「俺の!」

 

 

「変身!!」

 

**

 

 

 

雄介は初めて変身したときの事を思い出した。

 

みんなに笑顔でいてほしい。そのために自分に出来る事があるなら……

 

「もちろん。協力するよ!」

 

そういって雄介はみんなに向けて、笑顔でサムズアップをした。

 

 

 

**

 

4/11 15:45 来禅高校2-3HR

 

 

 

 

「う゛っう゛っ…ひっく……ええ話やぁ~」

 

 

 

翌日、雄介はスマホを肩手に号泣していた。

 

 

雄介は士道がやっていた恋愛シミュレーションゲームをスマホでやっていた。

 

「例えサポートする身であっても、どんな事態に陥るか分からないからとりあえず君も訓練をやっておいてくれ」

 

と令音に言われたので、ラタトスクが開発した全く同型のゲームのスマホ版をしていたのである。

 

言われるがままに適当にルートを決めてやってみたが、これがなんといい話なのか……

 

 

「普通の高校生とアイドルの卵。愛し合ってるのに届かないこの思い……なんて切ない物語なんだ!」

 

 

ゲームや訓練などと言うことも忘れ、一人男泣きしていた。

 

「お前気持ち悪いぞ」

 

雄介が涙を拭きながら視線を上げると、士が冷ややかな目で雄介を見ていた。雄介は堂々と教室で訓練をしていたのである。

 

士以外の生徒は「またこれだよ~」というような反応で、まるで気にもとめてなかった。

 

「きっ気持ち悪いってなんだよ!俺はただ感動してて……」

 

 

「そういうところが、だ」

 

士は雄介の言葉を遮り、雄介のマヌケ面をカメラに収めた。

 

「それ、殿町がやってたのと同じゲームだろ?」

 

「え? そうなの?」

 

雄介はいままで全く気づかなかった。考えてみれば、いつかポレポレに来てた客も同じゲームをしていたような気がした。

 

でもこんなゲームを作るなんて、ラタトスクって一体何なんだ?

 

ふと、そんな初歩的な事が頭に浮かんだ。精霊を救う組織という目的とかではなく、ただただ純粋に何者なんだという、そもそもの話だ。

 

ラタトスクも、空中艦だと言っていた。空中艦を所有している組織なんて、まるで軍隊じゃないか。

 

そんな事を考えていると、士が口をひらいた。

 

「そういえば昨日、茜とはどうなった?」

 

その言葉を聞いて、夕方のことを思い出した。

 

薙刀を持った、夕焼色の精霊。精霊かどうかは分からないが、雄介にはそう見えた。

 

「何もなかったよ。なんか、そのまま帰っちゃった」

 

雄介は笑顔でそう答えた。

 

「何もないわけ無いだろ。」

 

「いや、ホントだって」

 

言える訳がない。信じる信じないの話ではない。自分自身、昨日の一連の出来事が未だに理解できていないのだ。自分でさえこんな状態なのに、他の人に説明など出来るわけがない。もしかすると、夕焼色の精霊は、茜ではないかもしれない。言葉のとおり、茜は帰っちゃったのかもしれない。かもしれないだらけなんだ。

 

「そんな事より、このゲームがもう面白くてさ~。もう昨日もまた眠れなかったよ」

 

訓練、といいながら、このゲームを使って現実逃避している。雄介も薄々気づいていたが、これは訓練だ、と、そう言い聞かせるしかなかった。そうしないと、パンクしてしまいそうで耐えられなかった。こんな経験は初めてだった。

 

「だから今日授業中ずっと眠そうにしてたのか……」

 

「あれ? バレてた? アハハ……」

 

「お前ってヤツは……ハァ……」

 

士があきれ顔になり、雄介がにやにやしながらスマホを撫でてると、雄介に電話がかかってきた。

 

ディスプレイには≪村雨先生≫と表示されていた。

 

「あっごめんまた」

 

雄介はすまんという顔をしてスマホを持ったまま廊下に出た。

 

「せわしないヤツだ……」

 

士はファインダー越しから雄介を見送った。

 

 

 

 

 

 

「で、何ですか先生?」

 

『令音でいいよ。先生と呼ばれるのは慣れなくて照れくさいからね。』

 

雄介が通話ボタンを押すと、聞き慣れた眠たげな声が聞こえてきた。

 

ちなみにどういうわけか、この学校で令音は物理の臨時教員ということになっていた。

 

すこし間をおいてから令音は続けた。

 

『ちょっと頼みたいことがあるんだ。』

 

「なんですか?」

 

『今から誰でもいいから女の子と会話をしてくれないかい?』

 

「えっ?」

 

いきなり電話をかけてきてこの人は何を言い出すのか。全くもって雄介には理解できなかった。

 

『なに、訓練の延長だと思ってくれればいい。また後で電話するよ。』

 

「えぇ!? ちょっと、もしもーし! ……切れちゃった」

 

スマホからつーっつーっという音声が小さく漏れていた。

 

「いったいなんだっていうんだ」

 

雄介は令音からのやぶからぼうな指示に呆れながらも、適当な女の子をさがした。

 

といっても会話する女の子といえば彼女しかいなかった。

 

 

「あ、茜ちゃん!」

 

雄介は前方にいるメガネの少女に手を振った。

 

 

「えっ? ふああ!?」

 

茜は後ろからいきなり声をかけられたのにびっくりしたのか、肩を大きくびくつかせるという教科書に載っているかのようなリアクションをした。

 

とここで雄介は重大な問題に行き当たった。

 

(話せとは言ったけど、一体何を?)

 

雄介は、昨日の出来事を思い出した。

 

**

「実は、お願いがあるんです」

 

苦しそうな表情

 

「私は、この時間になると……」

 

ドカアアアアン

 

空から繰り出された攻撃

 

**

 

 

話したいことが多すぎて、一体どう声をかければいいか分からなかった。今日一日中ずっとそうだった。

 

だが雄介は、困ることなくすぐに話すことを思いついた。

 

「ちょっとさ、今から見ててほしいものがあるんだけどさ、いい?」

 

「はい?」

 

茜が不安げな表情をしていると、雄介は変身ポーズをとった。

 

左手をアークルの上部(があるとこ)に置き、右腕を斜め上に伸ばす。そして両手を動かしながらこう叫んだ。

 

 

 

 

 

「 超 変 身 ! 」

 

 

 

 

 

「これ、どうかな?」

 

もちろん変身はしてない。雄介は腰に手をあてながら茜に笑いかけた。

 

「超変身って……?」

 

「ほら、クウガっていろんな色に変身するでしょ? だから別の色に変わるとき勢いつけて戦いたいからかけ声が必要かな~って思ってさ。で、どう?かっこいい?」

 

「なんか、これからもっと強くなるぞ!って感じがして、かっこよかったです……!」

 

最初こそいぶかしがな表情をしてたが、雄介の超変身を見て自然と笑顔になっていた。

 

「そっか~。いや俺も結構気にいってるんだよね~。今度から違う色に変わるときに使うよ!」

 

そう言ってまたびしっと変身ポーズをとった。

 

雄介はこうするしか無かった。

 

昨日起こった出来事も、茜の苦しそうな表情も現実で、そこから目を逸らしてはいけないということは、雄介が一番分かっていた。だが、この瞬間だけは、昨日の出来事を無かったことにしたかった。それで、茜が笑顔になれるなら。

 

「そういえば、今からどこいくの?」

 

ふと気になったので一応聞いてみた。放課後なのに廊下で手ぶらで歩いてるので今から帰るようには見えなかった。

 

「えっと……こ、購買に文房具、を……」

 

どういうわけか茜の反応はへんによそよそしかった。

 

「でも購買って放課後は開いてないよね?」

 

雄介は自分の腕時計を見た。時計は午後4時前を指していた。

 

 

「うぇえ?いや、その……」

 

茜の目は不自然なほどに泳いでいた。そして心なしか頬も赤くなっていた。

 

ぐううぅぅぅ~

 

すると、茜のお腹からかわいらしい腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。

 

茜の顔は一気に真っ赤っかになった。

 

おなかが空いてたのかと思い雄介は微笑んだ。そしてポケットに手を突っ込んで、手の平サイズのチャック袋を取り出した。

 

「食べかけのグミがあるんだけど、よかったら食べる?」

 

普段の雄介でもこの行動は取ったが、これは雄介なりの訓練の成果でもある。

 

女の子はお菓子が大好き! 自分も持ち歩いて、いざというときに分けてあげよう!(ちなみにグミをチョイスした理由は自分が訓練でやったルートのヒロイン『春日 花代』の好物だから)

 

雄介は訓練を信じてグミのパッケージを差し出した。

 

 

 

「うわあああああああああん!」

 

ぱっちーん

 

あっるぇ~??

 

 

 

雄介は何故かビンタされてぶっ倒れてた。左頬にはくっきりと赤く手の平の跡がついている。

 

茜はグミのパッケージをしっかりと奪いどこかへ走っていった。

 

 

おかしい。花代ちゃんのときは好感度が6も上がったのに何でだ~?

 

と、そんなことを考えながら起き上がると件の訓練の提案者から電話がかかってきた。

 

「もしもし?」

 

『お疲れ様。君の会話はここから全部見てたよ』

 

「え!?」

 

『いろいろ聞きたいことがあるだろうが詳しい話は物理準備室でしよう。今からそこへ来てくれ』

 

「……はい」

 

とだけぶっきらぼうに言い通話を切った。

 

 

**

 

4:07 来禅高校物理準備室

 

 

「で、一体何を?」

 

雄介は手形のついた左頬をさすりながらじとっと令音を見た。

 

「これを見たまえ」

 

パソコンデスクに座っていた令音はディスプレイが雄介に見えるようにイスごと身体をどかした。

 

ディスプレイに映っていたのは、さっきの茜と雄介との会話である。

 

「え? どうしてこれが?」

 

雄介は驚き肩をすくめた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あ、茜ちゃん!」

 

 

 

「えっ? ふああ!?」

 

 

 

「ちょっとさ、今から見ててほしいものがあるんだけどさ、いい?」

 

「はい?」

 

「超変身!」

 

「これ、どうかな?」

 

「超変身って…?」

 

「クウガって

 

 

~中略~

 

 

ぐううぅぅぅ~

 

「食べかけのグミがあるんだけど、よかったら食べる?」

 

「うわああああああああああああああああああああん!」

 

 

 

ぱっちーん

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

「君も野暮なことを聞くもんだ。」

 

令音が首だけをこっちに向けながら言った。

 

「だ、だって話すこと思いつかなかったし……そもそも訓練だとこれで成功してたし」

 

「まあ、これで女心は複雑で訓練通りにいかないということがよくわかっただろう?」

 

「そ、そうですけど……これは一体?」

 

雄介はディスプレイを指差した。廊下にはビデオカメラのような撮影機材の類は見当たらなかった。唯一持ってそうな士も、教室から出て来た形跡はなかった。だったらどうしてこの映像はあるのか。そしてなんのために録画なんてしていたのか。

 

「これさ」

 

令音は雄介の目の前に指を差し出した。すると令音の指先に虫のようなものが止まった。

 

そして令音がパソコンを操作するとでかでかと雄介の顔面が映り込んだ。

 

「うわっ!」

 

雄介が驚き仰け反ったら画面は物理準備室を映しだしていた。

 

「ラタトスクが開発した超小型カメラだ。これで精霊と会話してるところをモニタリングするんだ。」

 

「へ~……すっげ~」

 

雄介が感心してると、カメラはぷんと飛び立ってどこかに行ってしまった。

 

「カメラは正常に稼働してるようだね。ちなみにこれが私がモニタリングしてた画面だ」

 

そういって令音はマウスをダブルクリックした。

 

すると画面が切り替わり、花がバストアップで映し出されてる画面に変わり、画面にはいろいろなメーターやアイコンが表示されていた。それはまるで……

 

「俺がやってたゲームみたい……」

 

「よく気づいたね。実際に精霊と会話する際に私達サポート側はこの画面を見るんだ。そうすれば精霊の精神状態がよく分かるだろ?」

 

この画面を見て雄介は、自分や士道がどうしてゲームで訓練させられているのかということに合点がついた。

 

「これだけじゃない」

 

令音はパソコンを操作し、ゲーム画面の会話を早回しで流して、あるタイミングで止めた。

 

『ぐううぅぅぅ~』

 

丁度茜のおなかの虫が鳴いたタイミングだった。

 

「次をよく見ていてくれたまえ」

 

令音が画面をクリックすると、選択肢が出てきた。

 

 

1:『お腹すいてるの? 食べかけのお菓子があるんだけど、もしよかったら食べる?』といいポケットに入ってるお菓子をあげる

 

2:『まいったなぁ~お腹の音も可愛いなんて、君はなんて完璧な女の子なんだ!』とキザっぽく言い、誘惑する

 

3:『お腹が空いたの? 実は僕もなんだ。僕は君を食べたい』襲う(意味深)

 

 

「なんですかこれ!?」

 

雄介は1以外の酷い選択肢に驚き思わずデスクに両手をついていた。

 

「精霊と話してると、あるタイミングで選択肢が出るようになってるんだ。どうやらこれもうまく機能するらしい」

 

(うまく機能?)

 

雄介はさっきから令音の言葉に違和感を感じていた。

 

「さっきから正常に作動とか、まさか……」

 

雄介はいぶかしげな表情で令音を見上げた。

 

「黙っていてすまなかった。これらの機材がうまく作動するかどうか君を使ってテストしていたんだ」

 

「なるほど~。だから俺に女の子と話せって……っじゃなくてなんで俺じゃないといけないんですか! おかげで茜ちゃんとの好感度が」

 

「変わってないだろ?」

 

令音はディスプレイを指差した。たしかに、精神状態は何故か緊張状態のままだったが、それ以外の数値はほとんど安定していた。

 

「……ならいいですけど」

 

雄介は令音を責めるのを諦めた。令音はきっと「これも君の仕事の一つだと思いたまえ」とでも言うに決まっている。

 

「ということは、まさかこれも?」

 

「精霊との会話を有利に進めるために、あるタイミングで選択肢が出ることがあるんだ。その選択肢の中から正しい選択肢を選んで、会話を有利に進めて精霊の機嫌をとるんだ」

 

「もし、間違ったら?」

 

雄介がごくりとツバを飲み込む。

 

令音は雄介の目を見ながら、手で自分の首を斬るような仕草をした。

 

「うわあぁ……」

 

もし茜が、昨日見た精霊だったらと思うとぞくっとした。あの力の何倍もの力でビンタされたら、いくら霊石の力があるといえどもあの世行きである。

 

改めて士道がどれだけ鬼畜なミッションに挑もうとしているか実感していると、デスクに置いてあった令音のスマホがブルルと震えた。

 

「失礼」

 

令音は慣れた手つきでスマホを操作し、通話に出た。

 

「もしもし……ああ。……分かってる……すぐに行く。待っててくれたまえ。」

 

令音はスマホを白衣のポケットに突っ込んでから雄介に向き直った。

 

「呼んでたお客さんが来たようだ。私はお客さんを呼んでくるから雄介は士道を呼んできてくれないかい?」

 

「あの、客って?」

 

「なに。すぐ分かるさ。」

 

とだけ言って令音は白衣を翻し、物理準備室を出て行った。

 

「う~ん、なんか不思議な人だよな~。」

 

雄介は眠たげな足取りの令音を見送ってから物理準備室を後にした。

 

 

 

 

つづく

 

 




千藤です。お久しぶりです。
やっとガワコス完成させました。ので、そのテンションで最新話を更新しました。
冒頭の雄介が初めて仮面ライダーの存在を知るシーン。今後もっとじっくりと書いてあげたいですね。雄介が見た銀色のライダーも共演させてみたいですね。(言うだけタダ)
急ぎ足で完成させたところがあるので、もし何かしらおかしな部分があれば報告をください。
感想、質問などもお待ちしております。ではでは。


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Ep5‥夕風

これは、雄介が精霊と出会う少し前の話である



「ねえねえ雄介」

「はい?」

春休みのある日、客が帰った後のテーブルを片付けていると、カウンター席でスマホをいじりながらカプチーノを飲んでいたおじさんに声をかけられた。

「あのさ~俺、彼女ができたんだよね~」

といいながらおじさんは照れくさそうに頬を掻いた。

「え? おめでとうございます!」

雄介は笑顔になった。思えばこのように幸せそうにしている人を見かけたのは久しぶりのことである。

クウガに変身して未確認生命体と戦うようになってからというもの、雄介は涙の悲しさや、拳を振るう辛さとばかり向き合ってきた。

未だに未確認の恐怖が渦巻いてるなかでも、こんなに幸せそうにしている人を見ると、自分が戦ってる証というものを実感できるのである。

「で、どんな人なんですか?」

「へへ、こんな人。ちょっと大人っぽい人なんだ」

雄介はどれどれとおじさんが見せたスマホの画面を覗き込んで絶句した。

(ゲーム……かよ)

雄介が見たのは、薄紫のショートヘアーで、つり目でクールそうな容貌、スレンダーなボディの「二次元の」女性だった。

雄介はおじさんに出来た彼女は最低限でも「三次元にいる質量をもってる女性」だと思っていた。雄介はどんな女性を見せられてもその女性を褒めるつもりでいた。

しかし、画面の向こうにいる、いわば「だれの女にもなってしまう」デジタルな女性にどうコメントすればいいのか全く分からなかった。

「五所川原チマツリって名前なんだ~」

雄介の微妙な反応をよそに、おじさんは買って貰ったばかりののおもちゃを自慢している小学生のように喜んでいた。

「はは……個性的な、名前ですね……」

雄介は愛想笑いを浮かべながら必死に考えた世辞の言葉を口からだした。こんなことしか出来なかった。

「聞いてよおやっさ~ん。この娘女子柔道部の顧問でさ……」

おじさんは話の相手を雄介からおやっさんに切り替え、いわゆる「嫁自慢」を始めた。


(でも楽しそうだし、ま、いいか。)

その時は、自分には到底たどり着けない境地だ、と思った。だが、まさか数ヶ月後、実際に自分が同じゲームを訓練としてプレーすることになり、しかもハマってしまうなんて思っただろうか。

運命とは皮肉なものだ。



「士道どこだ~?」

 

16:17 来禅高校

 

『士道を呼んできてほしい』

 

そう言われたので、士道がいる2年4組の教室を覗いてみたのだが、件の少年は見当たらなかった。

 

教室が不自然にざわめいていたのが気になったが、他を当たってみることにした。

 

時間は16時を過ぎ、空が夕暮れに染まり出そうとしていた。

 

そんな薄い色をした空を眺めながら、雄介は昨日の事を思い出した。

 

「あの時、なんて言おうとしたんだろう?」

 

夕日が差し込む喫茶店で、茜が言い残した言葉。

 

『私、この時間になると……』

 

「あの時間になると、なんだったんだろう?」

 

昨日からずっと気になっていた。

 

士には、ゲームのやりすぎで寝不足だと説明した。だが、茜の残した言葉の続きが気になり眠れなかったのも、また一つの理由なのだ。

 

雄介は、西の空に傾いている太陽を見て、目を細めた。

 

そうやっていると、突然左腕を下に引っ張られるような強い力を覚えた。

 

「うわっ!?」

 

力の方向に顔を向けると、見覚えのある顔があった。

 

肩に触れるか触れないかまで伸びた白髪、線の細い身体。そして、機械人形であるかのように端正で、冷ややかな表情の少女。

 

「あなたが、沢村雄介?」

 

その声も、まるで感情を押し殺したかのように、冷たいものだった。

 

「そ、そうだけど? 君は昨日の……」

 

「来て」

 

「え? ちょっと!?」

 

言うやいなや、白髪の少女は雄介を引っ張りながら歩き出した。

 

「ねえ? 君の名前は?」

 

半ば引きずられるようにして少女の後を歩きながら、雄介は問いかけてみた。

 

「鳶一 折紙」

 

とだけ静かに言い、ズンズン進んでいく。

 

しばらく歩いて辿り着いたのは、用具倉庫の前だった。

 

ここは学校の端に位置していて生徒や先生の行き来が少なく、ここを利用する者は殆どいない。そのため、雄介のトライチェイサーもここに停められている。

 

一体こんなところに連れ出してどうしたんだろう。雄介は、さっきからトライチェイサーを眺めながら「フルカウルも捨てがたいけどオフもなかなか……」などとブツブツ呟いている折紙を眺めながら思った。

 

「折紙ちゃん?」

 

呼ばれた折紙は無表情のまま振り向いたのだが、どことなくムッとしたような表情をしたふうに見えた。

 

「何?」

 

「いや、何って! 折紙ちゃんが連れてきたんだよ!?」

 

「そうだった」

 

「そうだったって……」

 

さっきから折紙のペースに振り回されている。こんな経験は初めてだった。

 

「聞きたいことがあって連れてきた」

 

相変わらず表情を変えずに折紙は続けた。

 

「沢村雄介、なんであなたが仮面ライダーの力を持っている?」

 

 

 

 

 

サァーっと、春の風が吹き抜けた。散った桜の花びらが二人の間を吹き抜ける。

 

 

 

 

 

「なんでって、う~ん」

 

なんで、力を持っている。雄介はしばらく考えて、答えた。

 

「たまたま、なのかな?」

 

「たまたま?」

 

「そう。」

 

今まで表情を崩さなかった折紙であったが、僅かに眉が動いたのが分かった。

 

「長野で第1号に襲われたとき、ベルトを着けてみよう!って思って、そうしたらベルトが身体の中に吸い込まれちゃって。」

 

思い出を噛みしめるような表情のまま、雄介は続けた。

 

「そして、『このままじゃやられる!』って思って1号を殴ったら白いクウガに変身したんだ」

 

その時殴ったほうの手を眺めながら、こう続けた。

 

「あの時は必死だったから何か何だか分からなかったよ」

 

折紙は表情を変えず、黙って話を聞いていた。

 

「まあ、初めて変身した時はそんな感じだった。なんで力があるか、って聞かれてもちょっと難しいかな」

 

雄介は、ハハハと小さく笑った。だが、折紙はそれでも冷たい表情を貫いていた。

 

「なんで……」

 

「?」

 

「なんで、こんな中途半端なヤツに力があって、私には……」

 

「中途半端じゃないよ」

 

一瞬だけ、厳しい表情をみせた折紙に、雄介は笑いながらそう返した。

 

表情は笑っている筈なのに、今までの折紙の顔より冷たく、厳しい響だった。

 

雄介は、黙って拳を握り締めた。

 

雄介は、争いが嫌いだった。「殴る」という行為が大嫌いだった。それでも、みんなの為なら、戦うことができる。

 

 

『4号になってしまって、もう戦うことに馴れてしまったの?』そう聞かれたこともある。

 

『腹部に埋め込まれた石が脳まで浸食してしまうと、アイツら(グロンギ)と同じ、戦うだけの生物兵器になってしまうかもしれないんだぞ』と大室にも言われた。

 

 

 

でも、それでも、もう涙を見たくないから。そして……

 

「みんなを守りたいから。みんなにいつまでも笑っていてほしいから。だから戦う。だから負けられないんだ」

 

雄介はいつものように笑った。

 

そして、拳をほどいて、親指を立てた。

 

「笑っていてほしいから……」

 

聞こえない声で、折紙は呟いた。

 

「そんなの、エゴでしかない」

 

折紙は、力強く、雄介の手をはたいた。

 

パァン、と、強い音が空間中に響いた。

 

「私の苦しみが、分かるの?」

 

折紙は、それでも表情を崩さなかったが、瞳の奥に怒りの感情を込めているということは雄介にも理解できた。

 

「おり、がみ……ちゃん?」

 

「私の両親は、精霊に殺された……」

 

「え……?」

 

「私のような人を、これ以上増やしたくない。」

 

夕日に照らされて少女の顔は、相変わらず機械人形のそれであったが、悲しく光っていた。

 

沈黙が当たりを包んだ。遠くから響いてくる運動部の声が聞こえて来る。それくらいに。

 

 

「俺も一緒だ」

 

ゆっくり、静かに。雄介は言った。

 

「俺も、お父さんとお母さんが早くに死んじゃってさ、俺も悲しくなった。だから、俺もみんなに同じ思いさせたくないんだ。」

 

 

雄介は笑っていた。両親が早くに亡くなって、辛い筈なのに、なんでそんな簡単に笑うことができるの?」

 

 

「え?」

 

気づかないうちに、声に出してしまっていたらしい。折紙は、とっさに手で口を塞いだ。

 

「だって、悲しい顔してると、見ている人も悲しい気分になるだろ? だから笑うんだ。」

 

雄介は空を見上げた。

 

「だって、笑っていたほうが楽しいじゃん。」

 

そして、微笑みながら、折紙の方に向き直った。

 

「折紙ちゃんも、そんな怖い顔しないで、笑おうよ」

 

 

 

 

「笑ったほうが可愛いよ」

 

 

 

 

 

そういった雄介の表情は、柔らかかった。

 

「……からかわないで」

 

折紙はそう言い残し、後ろを向いて帰って行った。

 

 

「……素直になればいいのに」

 

雄介は、停めてあるトライチェイサーに「なあ?」と同意を求めた。

 

 

その時、ブレザーのポケットにねじ込んでいたケータイが鳴った。

 

画面には、「上条さん」の文字が映っていた。

 

「もしもし?」

 

『沢村か! ちょっと来てくれ! 実は……』

 

 

「はい……はい…………なんだって!」

 

雄介は、士道を探していたことも忘れて、トライチェイサーに跨がった。

 

 

 

つづく

 

 




どうも。お久しぶりです。千藤です。
更新が遅くなって申し訳ありません。学校とバイトが始まってさらに書く時間が少なくなりこのザマです。なんとか書く時間は作っているんですけど、全然進まなくて、はあ……。
でも今回短くしたのはそういう意味ではないです。どれくらいの分量だと読者は読みやすいか。そういうことが知りたくて、あえてあそこで切りました。中途半端をしたわけではありません。はい。
さて、ついに折紙さんの登場です。折紙は好きなキャラなので書いていて楽しかったのですが、感情の起伏が少なくて難しいですね。読む人によっては口調とかいろいろ不自然になってしまってるかもしれません。そしてごめんね士道。今回も君の出番カットしちゃったよ……ほんとすまねえ……。
あ、そうそう(唐突)映画見て来ましたよ。今更ですが。もういい映画でしたよ。ええ。アニメ本編より美紀恵ちゃんの見せ場が多くてもうすっごく嬉しかったです。はい。そのうち映画のエピソードも書いてみたいですね。(言うだけタダ)
ラストはとても気になる幕引きとなってしまいましたが、一体どうなってしまうのでしょう。自分も今後の展開が楽しみです。(考えてないわけじゃないです)
感想や意見。お待ちしております。まだまだ未熟者なので、読者の皆さんの声を聞いて成長していきたいです。
それでは。


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