san値直葬? 何それ美味しいの? (koth3)
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原作前
1話


新しい作品です。作者はクトゥルフにあまり詳しくありませんのでwikiで調べさせていただいております。


 真っ暗な闇の中キラキラと青く、オレンジ色に輝く何か。そして聞こえる太鼓と単調なフルートの音。何処から聞こえるのだろうか? いや、そもそも此処は何処だ? 俺は昨日高校から帰ってきていつも通りに過ごして眠ったのに。こんな訳の分からない場所に来たつもりはないのに。

 

 「おお、目が覚めたか」

 

 ……何だ、今の声? まるで地獄の底から、いいやそれ以上の何かから響いてきたような声。一瞬で体中の生気という生気を失いそうになった。ただ声を聴いただけでだ。

 

 「何処を見ておる。お前も私と同じ盲目白痴ではないだろう」

 

 それを見た瞬間俺は全てを失った。言葉通り何もかもが分からなくなり、全てが分かってしまった。そこに居たのは化け物。異形。怪物。悪魔。ありとあらゆる言葉を持って侮辱される存在。魔王ですらこれを前にすれば遥かにましとしか言いようがない邪神。形容するべき言葉が見当たらない。名状することすらできないほどの異形。人ではこれを理解する事なんて決してできない。

 

 「……ア、アザトース?」

 「如何にも。私は万物の王であり盲目白痴の神だ」

 

 アザトース。ハワード・フィリップス・ラブクラフトによる創作神話クトゥルー神話。あるいはクトゥルフ神話とも呼ばれる作品において宇宙の中心に存在する神格として描かれた存在。全ての邪神、旧支配者にとって総帥であり、始まりである存在だ。此奴からニャルラテップ、通称ニャルラトホテプ。ヨグ=ソトース。ハスター等の邪神が生まれた。

 

 「私が選んだ割には博識だな」

 「え、選んだ?」

 

 心を読まれた程度で驚いてはならない。何せ此奴は盲目白痴の魂すら本来持たずただ恐るべき言葉を吐き続ける魔王なのだ。人の心を読む程度此奴にとって簡単な事だろう。

 

 「まあ、話が早く済みそうだから話を進めるか。お前を此処に呼んだのは頼みたい事が有るからだ」

 「頼みたい事? それなら他の邪神にでも」

 「それではいかん。私は今ほかの神と勝負をしていてな。その勝負が今夜日本という国で何らかの理由で死んだ人間の内一人を選んで私たち神々の加護を与えて転生させ生まれ変わった世界をどれほど変えさせられるかという遊びだ。お前は寝ている最中に心筋梗塞になって死んだのでな。丁度よく使わせてもらおうという事だ」

 

 ……それは遊びとは言わないだろう。それに此奴の言ったほかの神って何だ? アンラ・マンユか? この世全ての悪を司る悪神か? それとも天津甕星(あまつみかぼし)か? 天津神達に抵抗し続けた天照大御神の天敵か?

 

 「いや。ギリシャ神話でのゼウスに北欧神話でのオーディンだ」

 

 ……もう訳が分からないよ。何で星、いや宇宙規模の邪神が地球の神話の神、しかも主神と遊ぶほど仲が良いんだ。

 

 「仲が良いのは良いのだ。其れよりもまあ、その遊びにお前の魂を選んだ。というよりほかの魂と接触するとはじけ飛んで消え去ってしまうので結果的にお前の魂を選んだのだ。ちなみに転生に拒否権はないぞ。拒否したらここで永遠と私の遊び相手になって貰う」

 

 ぜっっっっったいに嫌だ!! それだけは嫌だ!! 神話の中で最悪の化け物と一緒に永遠。しかも遊ばれるなんてろくなことが起きる訳が無い。

 

 「では、そろそろ生まれ変わってもらうか」

 「ちょ、ちょっと早すぎない!!? 加護とやらの説明は!!?」

 

 それが分からないと如何しようもないだろう。他の転生者と違ってこの神の加護は逆にどう考えても呪いになりそうだし。いや其れ位なら恩の字レベルだものな。

 

 「おお、忘れておった!!」

 

 その声が辺りに響いた瞬間、近くで輝いていたオレンジ色の光が消えていった。おい、あれって星が消えたっていう事か? 冗談じゃない! こんな危険地帯に入れるか!

 

 「ふむ、ほかの神は如何やらゲームやら小説から加護を与えたようだがな私は違う。アフターケアも完ぺきにこなしてこそ神というもの! そこで私の加護は私の力と子供の力、それに関する力。それにドリームランドの神々の力。私たちの力や姿に関して記してある魔道書や道具を与えてやろう!!」

 

  ギャアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 「む? 喜びのあまり気絶したか。まあ良い。これからその世界に送るとしよう。加護はもうすでにあたえたからな。他のいろいろな細かいものはニャルに任せるとしよう」

 

 混沌の世界の王は発狂して錯乱した魂を抱えてとある世界に降り立つ。ほかの神にはできずともこの神だけができるそのルール破りの世界の移動を行いながら王はすべての条件を整える。

 

 「今度こそ負けんぞ! いつもは参加者が発狂して死んでしまうが今回は私と会話できる程度には精神汚染に対する力が強いのだ。今度こそお前らをぎゃふんと言わせてやる!!」

 

 余りにもくだらない事を叫びながらその世界に降り立つ。その際に発生した言葉の魔力。いや、言葉の力でいくつかの星を滅ぼしながら王はとある世界に降り立った。美しい青い水の惑星。かつては旧支配者として王の子供が君臨していた星。地球へと。

 




主人公死んだ理由心筋梗塞。しかも死んだらアザトースの目の前。どんな不幸だろうか。


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2話

san値チェックの成功度について意見が出たのでこれからすべて修正させていただきます。


 生れ落ちた瞬間人間は産声を上げる。そこには一切の意志等は存在しない。唯の反射であり、生存本能での行動だからだ。なら、生れ落ちた瞬間に悲鳴を上げていた俺はなんだろうか。

 混沌の闇からいきなりずるりと這い出るように産み落とされた俺はとある一つの家にいた。いや、用意された家にというべきだろう。家自体は普通のように思えるがあちらこちらから冒涜的な声が囁かれていて、異常な空間になっている。これで狂気に陥っていないというのは唯単にアザトースの加護の所為だろう。でなければ今頃狂気に陥ってしまっているはずだ。

 

 「いや、今はそんな事を考ている場合じゃない。此処がどこで俺は何か(・・)を調べないと」

 

 おそらくだが俺は既に人間じゃないだろう。それこそショゴスなどの存在に近いはずだ。それに俺の事だけじゃなくこの町の名前が分からないと此れから如何すれば良いかわからない。既に生まれ変わらせられたのは分かっている。だからこそ俺はここで夢だとか幻だとか逃避するわけにはいかない。ここで踏ん張らなければいけないのだ。

 どうやらこの家は二階建ての質素な家のようだがいたるところに此処が邪神が用意した家だということは分かる。地下室には牢獄が用意されており、見たこともない薬品群、血のにおいがするフラスコなどがあった。さらには地下室の一部屋には広大な図書館が用意されていた。空間が捻じ曲がっているかのような場所の中でいくつもの天を突くような本棚がある。バッキンガム宮殿のような廊下に幾つもの本棚が設置されているといえば良いだろうか? そこに幾つもの本がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。しかも題名がアルアジフ、ルルイエ異本、ナコト写本、法の書が見つかった。幾つかの書を実際に手を取って読んでみたがやはり精神が狂う感覚や汚染された感覚はない。むしろ書の知識を取り込んで逆に書を吸収しかけているような気すらする。

 

 「ダメだ。此処には何の情報もない」

 

 これほどの書なら一冊くらいは今の俺について書かれている本があるかもしれないと思ったが一冊もなかった。只一つだけ分かったことに今の俺には言語の壁というものはないようだ。おそらくはヨグ=ソトースの神格である知識の効果だとは思うがありとあらゆる言語が見ただけで理解できてしまい発音すら完璧に言えてしまう。クトゥルフという発音すらも。

 ずっと地下室にこもっているわけにはいかないから俺は地下室を出て散策を再開した。そして物置に無造作に置かれている物の中に輝くトラペゾヘドロン、アルハザードのランプを見つけた。いや、こんな物騒なものを置かれても非常に困るのだが。特にこんな旧支配者の遺産というかアイテムというか。こんなものが近くに有ったらご近所さんが発狂してしまわないか? 一旦物置から地下室へと運んで一時的な応急処置とすることにした。

 

 「さてはて、とにかく今分かったことをまとめてみよう」

 

 今までの探索、確認などで分かったことを箇条書きで紙にまとめていく。この紙は地下室に用意されていた羊皮紙にインク、羽ペンを使って書いている。

 

 一、今俺がいるのは海鳴という土地らしい。

 二、どうやら俺はやはり人間ではないらしい。

 三、俺の能力について

 

 まず一つ目は偶々だが家の窓から見えた建物に海鳴図書館という看板が張られていたからだ。

 二つ目は鏡を見た瞬間分かった。黒髪は変わらないけど、白目の部分が闇で塗りつぶしたかの様に真っ黒だからだ。更に黒目の部分は逆に黄金色に輝いている。これは如何にか対処しないとおちおち外に出られない。更に一つ分かった事に如何やら俺の瞳は見えていないようだ。如何いう事かというと瞳を閉じた瞬間暗闇にならなければならないのに瞼をすかして辺りを見る事が出来たからだ。おそらくこれは推測だが目が見ない代わりに他のなんらかの力で周りを認識して目で見たかのように脳?(今の俺に有るかは不明だが) で処理しているのだろう。更に何故だか知らないが年が若返っている。小学生、いや未就学児位の年齢か。

 三つ目はまだ完全ではないが少しだけ使ってみた。勿論いきなりクトゥルフやニャルラトテップなどは使っていない。ショゴスのように体を自由自在に変形させる事が出来た。正直言ってかなりショックだ。俺の体があんなに気持ち悪い動きをして変形するとこなんて見たくはなかったぞ。san値チェックは絶対入っただろう、あれ。それくらい冒涜的で名状しがたい動きだったぞ。

 とにかくここで今必要な情報は一つ目だ。二つ目と三つ目に関しては後々でも考えられるが一つ目はアザトースが言っていた内容に直結する可能性が高い。この土地について調べてみるべきだろう。

 そしてさらにそこから二つ目の問題が表に出てくる。この目じゃ絶対に表へ出られん。小説の世界じゃないんだ。出た瞬間悲鳴をあげられて病院へ直結だ。この場所は邪神が用意したところから考えて役所やらなんやらは問題ないだろう。だけどさすがに外にいるすべての人間には手を出していないだろうから救急車を呼ばれることだって考えられる。

 三つ目に分かった力を使って如何にかできないかやってみたが如何しても瞳の色は変えられなかった。

 

 「最初はとにかくこの瞳の色を如何にかする手段を探すことだな。それから次はこの土地の情報収集。それで分かる事と、分からない事からさらに推測を深められるだろう」

 

 そう判断した俺はまたあの地下室へと戻り図書館の部屋を開ける。書の中から何らかの方法を探すためだ。そうして先ほどの流し読みとは違い丹念に調べた結果今の俺はどうやら神となってしまっているようだ。それも善神ではなく外なる神。つまり、アザトース達と同類に。アザトースから生み直された結果どうやらこうなってしまったようだ。だからこそ一つの考えが俺に浮かんだ。そのために必要な道具はここにいくらでもある。地下室の一室にあった金属を削り、ある形を作り出す。それはエルダーサイン。旧神の印とも呼ばれるシンボルだ。中心に燃える炎を持った五芒星とも呼ばれる形で旧支配者たちのしもべやクトゥルフに対する武器となるものだ。もしかしたらと思ったのだが皮膚の焦げる音ともに体の中から闇がにじり出てきてエルダーサインから離れようとする。それと同時に黒かった瞳が白く、普通の瞳になる。どうやらこれで明日から探索できるな。エルダーサインをペンダントの様にして常に首にかけるようにしよう。一々外す度に皮膚が焼けるのはキツイものがある。例えダメージを受けなかったとしてもだ。

 

 「完璧に人間踏み外しているな」

 

 思わずため息とともに涙をこぼす。当り前の話だが俺はこの事に一切の了承はない。納得してないし今でも嘘であってほしい。けれどアザトースが言っていることは本当なのだろう。彼らは嘘をつく必要はない。象が蟻の感情など理解できるはずがない。矮小な人間では宇宙より巨大な存在でもあるアザトースに影響などあたえられないという事だ。俺が騒いでもあの時アザトースが言っていた通りに遊び道具にされて魂が発狂していくだけだったろう。ならば納得していなかったとしても生まれ変わり、違う種族になったとしても今の方がましだ。

 覚悟を決めてこの世界で生きる事にしよう。そう考えて俺は眠りにつくことにした。まだ外は明るいが少し、いやかなり心労が溜まっている。それを少しでも改善したい。俺は部屋の一室にあったベッドに倒れこみながら眠りについた。

 ああ、何処からか不思議な音が聞こえる。まるで引き込まれるかのような、吸い込まれるかのような音が。ああ、頭が痛い。このままではつぶれたザクロのように頭が破裂しそうだ。それと同時に吐き気もしてきた。けど、何故かそれが如何仕様もなく落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 1/1D6

 

 チェック  0%(実質28%) 32 失敗

 

 san値減少 0-1=-1

 

 状態 邪神の狂気




主人公にsan値(正気度)なんて無かったんだ。アザトースを見た時から。


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3話

ここら辺までは主人公が足場を固めている話です。この話の次からは原作近くまで一気に飛びます。


 目が覚めると唯膨らんだだけの風船のような家にいた。人気もなく形だけを作っているような。少しして漸くこの家には俺以外に誰もいないという事に気が付いた。もう母親の料理も父親が新聞を読んでいながらする挨拶も聞けないと思うと心の何かがひしひしと凍り付いていく感触がする。

 そう言った感情を無理やり引きはがして俺はとにかく食えるものを探す。おそらくは喰わなくとも別に問題はないだろうけど腹が減ったら人を食う可能性だってある。俺という存在はいまだほとんどわかっていないんだから。昨日は何も食していなかったからできるだけ早めに摂取したほうが良い。そう判断して冷蔵庫をあさる。

 

 「これしかないか」

 

 俺の手にはカ〇リーメイトが一つだけ。冷蔵庫にではなくその下に隠すように置かれていた。恐らくは邪神がここに置いたのではないだろうか。アザトースの命を受けて何かしたというのならおそらくはあの神だろう。神話においてもあの神はアザトースの命令を受けていろいろとしている存在だし。俺が困っている姿を見てどこかで笑っていても可笑しくはない。

 

 「……少ない」

 

 当たり前だが幾ら子供でもこれだけでは圧倒的に少なすぎる。食料を買わないといけないな。金ならある程度はこの家に無造作に置かれていた。それを使えば良い。此れ位は別に自由に使っても大丈夫だろう。

 今日の予定はまず午前中にこれから必要になる可能性の高いものを購入しよう。食材や家具。あとは服。午後には海鳴図書館で地史に、古い新聞を借りてここら辺で何か事件が起きたかどうかも調べておこう。クトゥルフ神話TRPGでも情報収集としてはかなり有効なことの一つだからな。成功するかどうかは別として。

 

 

 

 「ありがとうございました」

 

 後ろの商店の店主がうつろな瞳で俺を見送ってくれた。いや、俺が精神支配で操っているからなんだけど。当り前の事だがこんな子供が日用品を買いに来たなんて言っても問題があるだろう。下手に勘ぐられると警察や児童相談所とかに連絡が行きそうだし。だから店主には可哀そうだが魔術で彼の精神を支配させてもらい俺に対する認識を無理やりいじくった。周りの人間にもかけて俺を異常と思わないようにはしたが。

 家具は先ほど買って配達を頼んでおいた。明日の昼には来るそうだから明日は家にいないと。

 そんな益体の無い事を考えていると一つの服飾店にたどり着いた。どうやら子供服専門店のようだがかなり豊富な種類にかなり安い。幾らでも金は手に入れる方法はあるが節約しておくに越したことはないだろう。その店で普段着を何着か買って家に帰る事にした。

 

 

 

 

 食料品などは冷蔵庫に入れて服などは一旦押し入れに入れておく。明日にはタンスやソファーが来る。それまでは何とかなるだろう。フローリングの床に座り込みながら調理した焼きそばをすすり込み、午後の予定再確認する。

 

 「海鳴図書館で過去の事を調べる。此処がどんな土地なのか。物語を変えるとアザトースは言っていたからクトゥルフ神話TRPGとは少し違うだろう。けど過去を調べて無駄になる事はないだろう」

 

 実際海鳴図書館へ行っても、何か此れと言った事件などはなかった。過去に記載されていた新聞や地史を調べてみたがそれでも一回だけ拉致殺人事件があっただけで此れと言ったものはなかった。もしこれがクトゥルフ系ならこの殺人事件を詳しく調べるべきなのだろうけど今回は関係がなさそうだ。しばしば落胆しながら図書館を出ようとしたとき脳裏にある映像が映りだした。

 暗い夜の中、満月めがけて肉塊が叫び声をあげている。その声を聴いた瞬間悪寒が体中を走り抜けた。如何仕様もなく狂いきった科学者とその肉塊がした行為に吐き気を覚えてしまう。気持ち悪い。如何しようもなく気持ち悪い。だけど何でだろう。その気持ち悪さがドウシヨウもナくカイラクとナってイルのハ。

 

 

 

 

 ふらふらとしながら無理やり体を動かしたのが悪かったのだろう。いつの間にか公園にたどり着いていた。此処までどうやってきたのかは分からない。まるで誰かに操られたかのように此処に居た。

 がんがんと頭の中で響く痛みを無視して目の前で繰り広げられている喧嘩を見る。三人の子供がいて、その中で一人の少女が困っており、二人の少年が言い争いをしている。しかし、その言い争いもだんだんと激しくなっており何時殴り合いになっても可笑しくはない。煩わしい状態になるからあまり関係を持ちたくはないのだが少女に気付かれて涙目で見られている。此処で見て見ぬふりをしていたらさすがにまた会ったときに気まずい。

 とうとう二人は殴り合いの喧嘩までに発展した。それに気が付かれないように俺は【隠れる】を使って見つからないようにする。更に【忍び歩き】を使うことでもはや彼らには俺という存在を認識できないだろう。

 そうして俺は隠れながら二人の近くまで行き、その後頭部を思いっきり殴りつけた。

 

 

 

 

 この人たちは一体何だろう。お家に居ても寂しかったからこうして公園に居たのに突然現れて嫁だとか言い出したり、近くから来た人も助けえてくれるかと思えば口げんかをしだしたり。何で私にこんなに近寄ってくるの? 私を嫁って言った男の子、それを止めようとして口論になって行き成り喧嘩をされても私は困るだけ。怖くなったときに公園の入り口に私と同じくらいの男の子がいた。きっと私が助けを求めていたような顔だったのだと思う。男の子は何か諦めたような顔をして私たちに近づいてきてくれた。助かった。そう思った瞬間その男の子は信じられない事をした。

 いきなり喧嘩をしていた二人の頭をぽかりと殴った。二人は倒れて私は如何すれば良いのか分からなくなっちゃって動けなかった。そんな時、男の子が私に話しかけてきた。

 

 「さっさと帰った方が良いぞ。そろそろ帰らないと母親が心配するぞ」

 

 心配? 心配はかけちゃいけない。だから帰らないと。でもこの二人は。

 

 「安心しろ。この二人は気絶させただけだ。面倒は俺が見とくからお前はさっさと家に帰って母親を安心させてやれ」

 「う、うん分かった」

 

 少し心配だったけどみんなを心配させるわけにはいかないから急いで公園を出た。

 

 「……あれ?」

 

 何で私公園にいたんだろう? 今日はさっきまで図書館で絵本を読んでいたはずなんだけどな? ……あ、そろそろ鐘が鳴っちゃう。急いで帰らないと。

 

 

 

 

 やれやれ、あの子はどこかに行ったか。あの子へ向けていた手を下げながら俺は魔術を解く。先ほどあの子には偽りの記憶を与えておいた。これで俺との接点はなくなった。幾らエルダーサインで抑えているとはいえ邪神との接点なんてない方が良いだろう。

 そして此奴らは如何しようか。……まあ、子供の喧嘩だ。すぐに起きるだろうしこのままにしたとしてもすぐに起きる。二人の少年を置いたまま俺は自分の家へ帰っていく。明日からはどうするか。まあ、時間だけはいくらでもある。時空はこの体の中に入っているノだかラ。

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 1/1D10

 

 チェック 0%(実質28%) 56 失敗

 

 san値減少 -1-7=-8

 

 状態 邪神の爪痕




サブタイトルが実は状態の部分です。


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無印編
4話


ごめんなさい。原作前にするつもりでしたが原作突入です。


 小学生。まあその当時は分からないけど大きくなるにつれていかにその時代がいかに重大な分岐になるかはいつか分かる日が来るだろう。実際脳医学的にも子供の脳は非常に物事を覚えるのに適した成長をする。その為、子供の頃に覚えたことは大人になっても忘れ難い。だからこそ子供の時期にどれだけ役立つことを学べるか、多くの経験を得る事が出来るか。それによって未来も大きく変わる。

 だから俺はこの町の周辺で一番有名で実績のある私学の聖祥大付属の小学校に入学した。確かに俺は邪神の力もあるが心ではまだ人間でありたいと思っている。その為に俺はもう一度小学校に入学することにした。人間として形だけでも良かったから存在した証を残したかったんだと思う。そしてそれは俺にとっては正解だった。

 余り他人と触れ合うわけにはいかないから俺から他者に接触することはないがそれでもこの選択は正直言って正解だった。無邪気な子供たちを見ていると心が休まる。常に邪神に魅かれかけている俺だがこの時間だけは俺という精神を、魂を維持することが容易になる。

 しかし小学生になってから三年。それだけの年月を経て俺はようやくあの時アザトースが言っていた言葉の意味を理解した。

 

 

 

 声が聞こえる。いつものように。あの永遠に闇に飲み込まれて魂が消え去るような夜に聞こえる声のように。ただ今回はいつもと言葉が違う。生贄を奉げるという内容でもなく助けを求める声。その声に俺は目を開ける。

 最初この世界に来た日を除いて俺は一度も眠っていない。眠る必要がなくなったようだ。それでも寝ようと思えば寝ることもできる。しかし一度でも寝ると見たくもない光景を延々と夢の中で見せつけられるためこうして夜は目を瞑り朝が来るのを待ち続けている。

 目を開けた俺は助けを求める声に魅かれるようにその場所を探して夜の街を徘徊し始めた。家々の間を縫うように。家々の間をつぶされるような圧迫感を感じながら。そしてその異常な(・・・・・)異常な(・・・)空間を見つけた。そこだけまるで世界が違う。世界というものを嘲笑ってぐちゃぐちゃに法則を乱しながらその場にそれは存在した。辺りとは違った空間として独立して存在させられて空間が、時空が軋み上げている。だが一番の問題はそこじゃない。こんな空間の中に誰か助けを求める声がする事だ。入ろうとしても体がこの空間を拒絶してしまい、中に進もうとすると足が止まってしまう。恐怖で、いや生存本能だろうか? この先の光景を見てはならない。見てしまっては戻れなくなると体の奥が警告してくるのだ。

 どれだけの時間が経っただろうか? 一分? 一時間? 分からない。けれど一つだけ分かった事が有る。俺は幾ら邪神の力を、地球の神々の力を持っていたとしてもあくまでも俺は人間。矮小で愚鈍で劣悪な存在。悩んで解決することなどはなく愚かな歩を進めてようやく正解へとつながる道を見つける事が出来る。ならここで立ち止まるわけにはいかない。

 一歩踏み出す。ぐんにゃりとまるでゼリーをかき分けるような感触がしたかと思うと次の瞬間には異界に俺は存在していた。

 空は灰色になっていてあたりの風景がまがい物でありどうしようもない偽物であることが分かる。見ているだけでこれ(・・)が人が使って良いものではない事が分かる。それに最大の問題はあの毛むくじゃらの奴だ。まるで意志が存在しない。唯設定された行動をするだけのような。その醜悪さに俺はその場で蹲り吐くのを堪えていた。

 

 「うぇ、おぇ! ゲホッゴホッ!!」

 

 吐き気を抑えて歯を食いしばり顔を上げる。顔を見上げた先には二人の少年と一人の少女、それに鼬のような小動物がいた。

 

 「あれは高町にあの二人か」

 

 普段高町にしつこく絡み続けている一人の少年、御崎統也(みさきとうや)。輝く黄金のような色合いの髪の毛にルビー色の瞳を持つまるで外国人のような少年。そしてもう一人は御崎統也がしつこく高町に絡んできた時にいつも止めようとする少年、七式世闇(ななしきよやみ)。緑がかった黒髪に青い瞳を持った少年だ。その二人が何時ものように言い争いをしておりその横で高町が学校の制服に似た見たこともないような服装で困り切っていた。

 こんな状態であの二人が言い争っているのに対してさっさと逃げろと言いたいが統也は我が強く恐らく俺が言ったところで何も聞かない。そして七式の方も統也を一人にすると何をするか分からないからか警戒して俺の言った事に従わないだろう。

 しかしここで見ているだけではマズイ。あんなものを人間が如何にかできるとは思えない。アレはそう言った類いのものではない。アレの本質は人間の願いを曲解して歪ませた結果から嘲笑いながら自身の願いで滅びを招きよせるための道標だ。何故あんな形になっているかは分からない。あの状態なら何とかなるかもしれないが本来の形になってしまえば人間では如何にもならない。だから俺はアレに対処するために胸元に掲げているエルダーサインを外そうとした。

 

 「お前との話なんて意味が無い。俺は俺のしたいようにする!」

 「待て!」

 

 しかし外そうとした瞬間言い争っていた二人の内統也が急に動きを変えて毛むくじゃらの異形に向き直る。七式の叫び声を無視して彼奴は何か黄金の鍵を手に取り空間に差し込みひねり出した。そしたら彼奴の背後から何かが波紋とともに浮き出てきた。豪華な装飾をされた剣もあれば質素ながらも鋭くとがり実際に戦場でも使えそうな槍などいろいろな武器が飛び出てきた。

 七式は舌打ちをするとともに一振りのナイフを取り出して構える。青い瞳が不気味に輝きだして見ているだけで気持ち悪くなっていく。

 そんな二人を見て今の今まで困っていた高町は慌てて手にしていた杖のようなものを異形に構えだす。杖の先では異形が三人を襲おうと体の形を変えて襲いかかってきたが統也の後ろの武器群が飛び出して異形を突き刺して七式が異形がのばしてきた触手を人間離れした加速と動きを生かして切り落としていく。その中を高町は杖を構えて何か呪文のようなものを唱え始めて異形にピンク色の光をぶつける。光がぶつかった異形はあっけなく最初から存在しなかったかのように消えていった。その消え去った異形の中心から菱形の青い宝石に似た本体が出てきて杖に吸収されていく。

 それを見ながら俺は再びこみ上げてきた吐き気に必死になって耐えていた。あの青い宝石はダメだ。アレは知性ある存在に対する罠だ。その宝石に秘められている悪意に俺は吐き気がこみ上げてくる。人間が、人間を、知性ある同族を滅ぼそうと。あるいは自分と似ている存在をかき消すために狂乱の中作り上げたのがあの宝石だ。アレは此処に存在して良いものじゃない。すぐさま本来あるべき場所に戻すべきか破壊するべきだ。だから俺はあの宝石を回収した三人に立ちふさがらないといけない。立ちふさがり宝石を奪い取り壊さなければならない。

 今日、今の状態で三人の前に出ていくわけにはいかないがすぐにでも高町が持っている宝石を回収して破壊しないといけない。その為の道具を、方法を用意しないと。

 この気持ち悪い空間から出ながら俺はこれから先に起きる事態への不安を抱えながら夜の闇に隠れて三人から離れていった。

 例え俺が人間じゃないと知られてでモ、拒絶サれテモ。それでも俺はあれをハカイシないといけなイのだ。

 

 

 

 

 この世で最も慈悲深い事は、人間が脳裏にあるものすべてに関連付けられずにいる事だろう。われわれは無限に広がる暗黒の海のただなか、無知という平穏な島に住んでおり、遥かな航海に乗り出すべくいわれもなかった。 (クトゥルーの呼び声より)

 

 三人の少年に少女、それにフェレットは人間だった。だからこそ無知という免罪符を掲げて核弾頭のボタンを持ち続けているようなことを続ける。自分が知っている間違った情報を信じて。

 フェレットは発掘した際に得た情報を。少女はフェレットからの知識を。少年たちは生れ落ちる前からの知識で。だからこそ気づくことはない。その知識が間違っていると判断できずに。青い宝石で蠢き続ける黒い悪意に気付くこともできずに只々彼らは宝石を集め続ける。

 

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 0/1

 

 チェック 0%(実質63%) 54 成功

 

 san値チェック -8

 

 状態 宝石の悪意

 




そろそろ主人公の名前も登場します。


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5話

最初に警告です。
グロ注意、グロ注意、グロ注意!!
大事なことなので三度言いましたが本当に今回の話は作者の中で一番グロイ部分が出ているはずです。


 あの異常な光景を目の当たりにしたその日から学校へ行くまでの時間を利用してありとあらゆる道具を作成していた。錬金術によってある薬品とその薬品をしまえる特殊な道具。それに奉仕種族の持つ発達した科学力による武器などを作成して用意した。こんなものは持ち歩いていたくはないがそれでもいつ必要になるかは分からない。そんな街の状態である事を苦々しく思いながら俺は学校へ出かけた。本当は学校なんて行く余裕なんてないが一応学生の身分だ。理由もなく無断欠席なんてしたら学校側もアクションするだろう。そうしたらその時点で自由に動くことなど出来なくなる。

 八方ふさがり的などうしようもない事を考えながら俺は学校へ向かう。数時間を縛られてしまうがそれでも必要な時間としておこう。湧き上がる焦りと不安を押し殺し狂も平穏な時間を送っていく。

 

 

 

 終業のチャイムが終わると同時に俺はランドセルに教科書、ノートを突っ込んで急いで帰る準備をし始める。唯、そんな俺の姿が物珍しかったのか隣りの席の友人が話しかけてきた。

 

 「あれ? 如何した九頭竜(クトゥルー)? もう帰るのか?」

 

 普段俺はもう少しゆっくりとしてから家に帰る。だからこんなに急いで帰る姿が珍しかったのだろう。俺の名前を読んで訪ねてきた。

 

 「一寸ね」

 「そうか。じゃあ、また明日な!」

 

 明るく別れの挨拶をしてくれた友人に返答してから俺は学校を飛び出していく。一刻も早くあれを見つけて如何にかしなければ。

 あれがあったのは街中だったが街だけにあるという事はないだろう。むしろあれの特性から考えて街中に有ったら今頃起動しっぱなしだ。おそらくは人が余り寄り付かないところに落ちているのではないか? そうあたりを付けた俺は近くの山に向かうことにした。あそこは標高が小さく山というよりは小山。子供の足で登頂するのに三十分もいらない。其れなのにうっそうと生い茂る木々が作り出す闇が不気味なのか誰も入りたがらない。あそこならば起動する理由がそうそうない。そうあたりを付けて俺は近所の山めがけて足を進めていった。

 

 

 

 うっそうと生い茂る木々や草に視界を取られながら俺は注意深く山を登っていた。もちろん地面だけじゃなく木々も調べている。アレは見た目は綺麗な宝石だ。鴉か何かが加えて巣に持ち帰っている可能性も高い。

 探索して一時間が経過した頃だろうか。行き成り目の前の方向から耳をふさぎたくなるような咆哮が響き渡ってきた。そして音が聞こえる。ぐちゃとした粘性の泥を踏んだような音。けど前から漂う臭いはそんなものではない。家にあった地下室の一室で嗅いだ臭い。それと全く同じ。いや、種類が少しだけ違うだけでほとんど同じ鉄の匂いがする。

 そろそろとゆっくり慎重に歩を進める。此処でこの臭いの原因を作った奴に気が付かれたら拙い事になる。本能的にそう悟った俺はどっと噴き出す汗を無視して進んでいく。あまりの遅さに笑いたくなるがそんな余裕は今はない。

 少し開けた広場のようなところで俺はそれ(・・)を見た。見てしまった。

 

 ぐちゃぐちゃになった肉塊(・・・・・・・・・・・・)至る所にある肉の抉れた痕(・・・・・・・・・・・・)。そこから流れる血液の海。ぷ~んと漂う吐き気のする鉄独特の臭い。視覚と嗅覚でそれを認識させられさらに、

 ガツッガツッズルグシャと、音が響く。その犠牲者の頭と思わしき場所で白い野犬がその肉を貪りつくしていた。とっさに悲鳴をあげそうになった口を手で押さえ、無理やりに声を殺す。今叫び声をあげたら彼奴は俺を襲う。普通なら人間の死体を一人分食べたら腹が膨(・・・・・・・・・・・・・・・)れるはずだ(・・・・)。だけどアレはきっと違う。いくら食べても空腹が満たされる事なんてない。どれだけ食べても、どれだけ搾取しても。どれだけ貪ってもアレはアレの所為で願いがかなう事はない。願いを叶えさせない為にアレが(・・・・・・・・・・・・・・)起動しているのだから(・・・・・・・・・・)。恐らくは如何仕様もないほどの餓えを満たしたかったのだろう。だがその純真で生物なら当然の願いもアレ、あの忌まわしき宝石によって決して叶わなくされた。わざと願いを曲解させる機能がまだ生きているのだろう。願いが狂った結果どれだけ願いを叶えようとしても叶うことはない。永遠の命を欲したら生命活動を停止させて永遠と仮死状態で眠らせて、喉の渇きから水を欲したらどれだけ水を飲んでも渇きが癒えることはないように。そうやって起動してからも強い思念を集めて最終段階まで至るだけの思念を集めようとする。それがアレの最も醜悪な機能のだ。

 けれど人である以上同族たる人が食い殺されている状態で精神を保つというのは不可能だ。あまりの光景に吐き気を我慢しきれなくなり吐いてしまう。

 

 「おぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 その音で気づかれたらしく野犬がこちらにその餓えた瞳を向ける。すぐさま威嚇すらせずに飛びかかってきた。よほど飢えが酷いのだろう。手当たり次第動く者は喰らおうという感情がその瞳には映っていた。余りの急なその動作だがとっさに体を投げ出すことで飛びかかり事態は避ける事が出来た。地面に体を強打してしまったがすぐさま体を起こした。体を起こす頃にはすでに野犬は体勢を整えて飛びかかるために体勢を低くしている。咄嗟に用意しておいた道具を取り出して構える。

 それは見た目は白く、まるで特撮に出てきそうな宇宙人が持っている銃のような形態。実際これは銃なのだからそれは合っている。

 足を肩幅にしてしっかりと構えて狙いをつける。野犬が後ろ脚を動かして地面をけり体を浮かせた瞬間俺はその到達最高点めがけてその銃を撃った。

 銃口から放たれたのは唯の弾丸ではない。それは今の人類よりはるか先を進んだ科学力を持っている奉仕種族が持つ技術を使って作成した電気銃だ。威力は最大で雷に匹敵し、威力を調整すればスタンガンのようにも使える。それを野犬に向けて発砲した。当たらなければ俺は此処で永遠と野犬に肉を貪りつくされるだけ。だが、如何やら賭けには勝ったようだ。飛びかかっていた野犬は感電しながら勢いを殺せず地面に激突して泡を吹いて気絶している。

 野犬を前にして俺はその体を詳しく調べてみた。痙攣している以外に外見の異常は見当たらず如何しても残された一つの手段をするしかなくなってしまった。もしこれで傷など異常があればそこから詳しく調べて対策を取れたかもしれないが。

 俺は震える腕でポケットから一つの道具を取り出す。震える手に収まっている其れの鞘を外す。ギラリと木漏れ日の光が反射して俺の顔を映し出す。その顔はもはや人間の顔とは到底思えなかった。血走った目を限界まで広げて興奮した顔は何処までも赤く恐ろしい顔立ちになっていた。それでも俺はこれをしなければならない。

 手の中にある道具で野犬の腹に突き立てて一気に切り裂く! 飛び散る血が顔にかかり、服を真っ赤に染めていく。血のにおいと目の目の生物を殺した感触に耐えきれずもう一度吐瀉物をまき散らしてしまう。それでも止まる訳にはいかない。切り裂いた腹の中をを皮を、肉を切り裂いたナイフと手探りで探す。その頃には痙攣していた野犬は既にこと切れて動かなくなっていた。そんな中いくつもの内臓をつぶしてしまいその度に逃げ出したくなる気持ち悪さに襲われながら漸く青い血塗られた宝石を発見した。それを確認して俺はもう一つ用意しておいた薬品の中に沈める。錬金術によってのみ作られるその薬品はきちんと効果を発揮したようでみるみる薬品に浸した宝石が消えていく。

 これで一つ目の宝石の排除は終わった。野犬の血にまみれながら俺は震える膝を抱えながら荒い呼吸を何度も何度も整えていた。

 

 

 

 いあ! いあ! ☆〇■▲♪! 

 

 何処から声が聞こえる。その声は人には聞こえずに只々この宇宙に影響を与え続け誰にも観測されることはなかった。もし、いやこんなことを言っても意味が無い。もしもやたられば等はこの世に存在していない。矮小で愚鈍な人間は唯目の前の深淵の闇の中を目を瞑りながら歩き続けて何時しか消える事しかできないのだから。選択等は所詮消える方法を模索しているに過ぎない。

 愚かな人間は過去を散策して開けてはならない箱を開けてしまう。その箱は決してパンドラではなく言葉通り絶望しかないというのに。しかも過去からの破壊すべき異物を違う世界へと運んでしまうという愚かな行為をしながらその異物を探し続ける。自分が抱えている、探させている物がどれだけ危険な物であるかを知らずに。

 

 

 san値チェック

 

 主人公(九頭竜 ???) 1/1D6

 

 チェック 0%(実質18%) 84 失敗

 

 san値減少 -8-5=-13

 

 状態 宝石の被害者




主人公の名前(苗字)の登場とジュエルシードの機能の一部。願いを空回りさせることでより強く願いを願わせるという悪循環を引き起こします。


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6話

 アレの破壊をしてから血まみれの洋服を処分して数日が立った。あれ以来幾ら探しても見つける事が出来なかった。人の居ない場所などを探しているのだが如何やらもうこの町にはないのかもしれない。アレの数が分からない事が問題だ。一体今どれだけの数のアレがこの海鳴にあるのか。そして可能性で考えるのならほかの町にもあれはある可能性だってある。如何にかしないといけない。その焦りが探索の足を引っ張っていく。如何れだけ探しても見つからないストレス。何時アレが本来の形で起動してしまうかが分からない不安。それらが体の中で綯い交ぜになって混沌としている。まるで常に動くことを強要されるように。動くことを止めてはならないという強迫観念から足を止めて冷静に考える事すらできない。そんな時間を使うくらいなら探さなければと思ってしまうからだ。冷静じゃない事は自分でもわかるがそれでも体は動いてしまう。

 落ち着け。そう自分自身に言い聞かせて体を止める。当たりもなく唯探しているだけではだめだ。そんなのは時間の無駄。では如何すれば? そこまで思考を回してもそこから先には進まない。当り前だ。何の取っ掛かりもない中良い考えが浮かぶはずもない。そんな事を考えていると目の前の河川敷の方から歓声が聞こえてきた。如何やら何時の間にか海鳴の方に戻っていたらしい。確か今日は翠屋の店長さんが監督を務めるサッカーチームが試合を行うはず。隣の席の彼奴が試合に勝ったら好きな子に告白するって数日前に言っていたからよく覚えている。そんな平穏を失うわけにはいかない。そう体に、心に言い聞かせて俺はもう一度思考を進めていく。

 

 「此処まで人気のない場所を探して見つからなかった。ならば一度前提条件を崩すべきか」

 

 そう。もう人気のないところにあるという前提条件は意味が無くなってきた。恐らくは起動するまでの強力な思考を察知できていないから起動していないアレがあっても可笑しくはない。もしそうだとしたら最悪な状態だ。何時爆発するかわからない不発弾の方がまだ可愛い。アレは不発弾より被害が酷すぎる。一度完全に起動したら世界を滅ぼすことは不可能でも文明を終わらせることくらいは十分可能だ。だから急いで迅速にそして安全確実に破壊しなければならない。俺にはアレを元有った場所まで送り返す事なんて出来やしない。ならばせめて破壊して世界の危険を無くさなければ。使命感とは違うしなければならない義務感というのだろうか。そう言った気持ちが体の内側から溢れてくる。

 止めていた足を今度は町の方へ向けて進めていく。結局人間である俺に出来る事なんて少ししかないんだ。その少しを必死になって探して見つけて走り抜ける。そこまでして漸く道が切り開けるか如何かなんだ。だからこんな所で止まる訳にはいかない。気持ちを切り替えて俺は探索を続行した。この後に起きる事を知らずに。愚鈍で矮小で愚かな脆弱な人間である俺には未来を知ることも未来を変えることもできないのだから。

 

 

 

 

 ビル街の一角をあちらこちらに顔を振りながら探している俺だが一向に成果が上がらない。とはいえそれも仕方が無い。海鳴市は比較的に大きい市だ。この市の中から小さな宝石くらいのサイズのものを探すのはかなり大変だ。むしろ一個でも見つかったこと自体かなり運が良かったのだ。

 そう思いながら探索していた時だ。地面が急にぐらぐらと揺れだした。地震!? そう思ったが実際は違った。アスファルトの大地を砕いてそこから出てきたのは巨大な木の根っこだ。それを見た瞬間俺はアレが起動し始めたことを知った。

 

 「クソ! こんな場所でこれほどの規模で発動するなんて!」

 

 本来の規模と比べれば可愛いものだがそれでもこんな人が密集するような地帯で発動してしまったら大変なことになる。

 焦り、走ろうとした俺の瞳に何かが横切った。その横切ったのは隣の席の彼奴だ。驚愕に目を開けて恐怖に染まり切った顔で悲鳴を上げていた。

 

 「え?」

 

 赤い、赤い海が花となって咲いていた。

 隣の席の友人が、平穏の象徴が、止めなければ、あれを破壊しなければ、赤い、鉄の匂い、何処だ、何処で発動している、ザクロのように潰れて、頭が砕け散っている、あそこか、あの樹木の所か、何で、何でだ、早くとめなければ、止めないと被害が広がる、何で俺じゃなくて彼が、彼が死んでいる、必要な道具はある、後はこの場を離れてあそこに行けば、何でだよ、何でお前が死んでいるんだよ、道具を使えば破壊できる、迷っている暇なんてない、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け、消えたい、動け。キえたい、うゴけキエたいウゴけキエタいうごケきえタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイウゴケキエタイ―

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 ひぃぐ、はぁぐ! ああああああああああ!!!!!!

 走れ、走れ奔れ奔れはしれはしれはしれはシれハシれハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシレハシハシハシハシハシハシハシハシレ!!!!!

 

 

 

 気が付いたら俺は近くの河原にいた。まるで吸い込まれるように水面を何も映さない瞳で只々見つめ続けていた。

 彼奴は、あいつは俺と違う。俺のような邪神に選ばれたような被害者(・・・)とは違う。唯のこの世界で生きる人間だ。平穏な世界で暮らしていた人間だ。普通に学校を卒業して、普通に会社に入社して普通に結婚して普通に子供を作って普通に子供の世話で悩んで普通に老いて普通に死ぬ事が許された、権利を持っていた奴なのに! 俺たちと神によって生まれ変わらせられた存在と違って普通に生き続ける権利を持っていたのに! 何でだ! お前たち神の暇つぶしはそんなに大切なのか!? 人ひとりの命、いや彼から続く系図を奪い去って俺たちが活躍すれば満足だというのか!!? ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるナ、ふざ…………ケルナ、フザケルナ。

 水面に映った瞳は黒く染まり切り、その顔は憤怒と憎悪に染まり切っていた。何もできなかった俺に対して怒りが込み上げてくる。この体では誰も、救えない。アレを止めるだけの力もない。ああ、これが、この無力感か! これが救いを求めた彼らを狂信者へと変えていったのか! 救いたいのに救えない! 何もできない! ただ見ているだけで終わってしまう! これが、こんなのが人間の限界だ。だからこそ人は神に縋る。救いを求めて。良いだろう。ならば俺は神になろう。人から邪神になって人を救おう。この世でアザトースから生み出された闇となりて人を覆い隠して守り抜こう。たとえそれが邪神の行いでなくともだ。

 ああ、体が崩壊しソウだ。いや、崩壊してもイイ。この身は所詮仮初ノ器。壊れたら自由になレる。

 

 

 

 アザトース。万物の王にして魔王を越える存在。そんな彼が生み出したのが唯の人間になるはずがない。その精神が人間の限界を迎えればその人間の体は崩壊して神格を手に入れてしまう。そう、宇宙の法則すらにも縛られない絶対的な外なる神として。

 彼の存在はほかの二柱の神にとって予想外。有り得てはならない存在。しかし、そもそもアザトースが彼らの遊びに使われているルールを守るはずがない。アザトースにとって遊びに勝つことも大切だが何よりも世界が混沌となる方が楽しいのだから。

 

 彼の精神はこれより崩壊を始める。どんな方法を持っても彼を救う事はできない。なぜなら彼は邪神。救いをもたらすのではなく生命を嘲笑い吹き飛ばして蹂躙する存在。救いなど始めから存在していないのだから。

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 (九頭竜 ???) 1D100

 

 チェック 自動失敗

 

 san値減少 -13-87=-100

 

 状態 拒絶すべき醜悪な邪神の生誕




はい、とうとう主人公が壊れました。ですので文章も支離滅裂な部分が出始めています。
とはいえいきなり神の力ですべてを終わらすという事はないです。唯単にこれ以上壊れることはなくなったといった知度です。……まだ。


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7話

 吐き気がするほど醜悪な異形(邪神)になった俺だがそれでもあれを如何にかする以外に力を使おうとは思っていない。邪神の力は強大だ。其れこそ今の俺なら一時間も必要なく人類という種を滅ぼす事すら可能なのだから。

 黒く染まり切った瞳は既に白い眼球に変えている。既に能力は使いこなせている。それくらい簡単だ。容姿の問題はいくらでも解決できる。これで彼らの前に出ても問題はない。しかしやはり一つだけ問題がある。俺ではアレを探索できない。アレを探索する方法が無い為だ。その為既にあの日から数日ガ経過している。

 あの大樹が発生した次の日、学校では俺のクラスは休みになった。クラスメイトの一人が死んだんだ。当り前だが学校での授業など子供が受けられる精神状態ではない。その為臨時で俺たちのクラスは例外的に休みになった。この時間も費やして俺は探したのだが見つからない。あの三人はこの時間を含めれば俺よりも探索時間は短いのに俺よりも効率的に探索している。後れを取るわけにはいかないのに。

 だが、漸くだ。漸く見つけた。あの青い憎々しい輝き。そしてあの波動。間違いない。

 

 

 

 ビル街の一角で俺はアレとアレを取り合う人間の群れを見つけた。何故、何故あんなものを取り合うのかそれは分からない。でもそれ以上に一番不可解なのが何故あの人間は仲間割れをしているのだろうか? 統也と七式が戦い、金色の髪をまとめた少女と高町が戦っている。近くではオレンジ色の狼とフェレットが戦っているという奇妙な状態だ。

 時間が無い。アレは既に思考エネルギーを大分取り込んでいる。今すぐに初期段階で発動しても可笑しくはない。

 そう判断して俺は飛び出そうとして悪寒を感ジた。その正体はアレだ。アレが起動し始めた。急激な光が目の前から放射されて一瞬顔を覆ってしまう。

 

 「クソ!!」

 

 だけど時間は進み続ける。吹き飛ばされた金髪の少女がアレをそれでも得ようと飛び出していくのを見て俺は彼女の動きを変えさせる為に、そしてあの戦闘能力の高い二人を無力化するために幻覚を見せる。

 

 「きゃああ!!」

 「何ぃ!!?」

 

 少女はアレを触ろうとして伸ばした手を咄嗟に引いて後ろに跳び退った。残りの二人は俺の見せた幻覚で気絶したようだ。内容は知らないがよほどの悪夢だったのだろう。今も地面で呻いている。

 

 「フェイト! 一体如何したんだよ、突然後ろに飛ぶなんて(・・・・・・・・・・)!」

 「えっ?」

 

 混乱している少女と言葉を話す動物の隙をついて俺はアレを確保する。路地裏から飛び出して人類では不可能な速度でアレの目の前まで走る。未だ光は飛び散り起動し続けているが俺の予想が有っているのなら俺が持てば……。

 予想通り急激に光は消え去って起動を停止した。

 

 「あっ!」

 

 高町の声に今この場にいる三人の知的生命体がこちらを向く。

 

 「そんな! ジュエルシードを封印した!?」

 

 フェレットの言った言葉に俺は一つの疑問を覚えて尋ねる。

 

 「お前はアレを知っているのか?」

 

 人類ならアレを知っているはずがない。それは当然だ。何せアレはこの世界のものではない。違う世界の技術によって作られた異物。そんなモのを知っている人間などいるはずがない。

 

 「え、は、はい。ジュエルシードは僕が発掘しましたから(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 フェイトちゃんと私が戦っていた時ジュエルシードがすごい魔力を放って私たちは吹き飛んだ。咄嗟の事でまともに受けきる事なんてできなかった私たちはその魔力に押されて後ろに下がるしかできなくて。でもそれでもフェイトちゃんはジュエルシードを掴み取ろうとしていた時だった。フェイトちゃんが行き成り恐怖を顔ににじませて後ろに跳び退ったの。何が起きたの? 何を見たの? そんな事を考えていたらジュエルシードの目の前には一人の、私たちと同じくらいの背格好の男の子が何時の間にか立っていた。顔は見ているだけで悲鳴をあげたくなるような仮面で隠してあって顔は分からない。服装も何処にでもあるような服の上に擦り切れたポケットの多い薄手のコートを羽織った奇妙な格好の子。けどその子が突然ジュエルシードを握りしめた事に驚いて言葉を漏らして、次のユーノ君の言葉にさらに驚いてしまう。

 

 「そんな! ジュエルシードを封印した!!」

 

 魔法を使ったわけじゃないのに何で封印が出来たんだろう。それが気になったんだと思う。ユーノ君はがそのことで叫んで尋ねた。けれどあの子はそれに答えずユーノ君に尋ねた。ジュエルシードを知っているのかと。そしてユーノ君がそれに答えた瞬間私は死を覚悟した。

 

 

 

 そうか、そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか貴様が貴様が貴様が貴様が貴様が貴様が貴様ガ貴様が貴様が貴様が貴様ガ貴様が貴様がきさマガ貴様が貴様ガキサマガ!!!!!!

 

 「お前ノ所為か!!!!!!」

 

 肺の中にある有りっ丈の空気をすべて使い果たして俺は叫んでいた。

 

 「貴様がアんなものをこの世界に運んだのか!!!!!!」

 「ま、待ってください! 如何いう意味―」

 「意味!? 意味をいまさら求めるか貴様は!! あれほどの被害をまき散らしているアレをコの世界に持ち込んだお前が!」

 「な、何を?」

 「分からないとも自分の所為じャないとは言わせんぞ! 貴様が持ち込んだコレの所為でどれだけの被害が出たか分かっているのか!?

 お前は目の前で見たか! コレの所為で願いを曲解させられ永遠と飢えに襲われることになった野犬を! その餓えた野犬に体を貪りつくされた哀れな犠牲者となった人間を! 大樹となったコレの所為で上空に吹き飛ばされて恐怖に満たされて死んだ子供を! それもすべて貴様がこんなくダらないものをこの世界に持ち込んだからだ!」

 

 息が荒い。だけれど止められない。

 

 「ち、違う―」

 「何が違う! 貴様が発掘したとほざいたコレの本当の使用方法も知らないお前に何が否定できる!」

 「止めて! ユーノ君はそんなつもりで―」

 「では何か! 知らなければ人を殺しても良イのか! 人がいることを知らなかったから銃を撃って殺してしまいましたで許されるとでも!!? ふざけるな、ふざけるなよ!」

 

 高町がこの世界にアレを運んだソイツを庇おうとするが止まらない。黒い、黒い感情が浮き上がる。全てに対して理不尽なまでの怒りが込み上げてくる。

 

 「アレが何か知らない人間が吠エるな!」

 

 そこまで叫んだ時、金髪の少女がボロボロの鎌で切り付けてきた。

 

 「何があったかは知らないけどジュエルシードは渡さない!」

 

 まだか、まだ分からないのか。

 切裂こうと振るわれた鎌をしゃがむことでよけてから俺はミ=ゴの電気銃を取り出して発砲する。

 

 「きゃあああああ!」

 「フェイト! 許さない! フェイトを傷付けて!」

 「傷つけて? お前たちがこれから多くの人間を傷つけるのだろう! 異界の存在が!」

 

 見るだけで分かる。この世界の人間ではない。魂が、肉体ガ違う。そんな存在が何故この世界にいる? ……決まっている。コレを本来の用途で使うために回収しようとしているしか考えられない。ならば彼女も認めるわけにはいかない。なぜなら彼女は人間ではないのだから。

 

 「そんなの知るか!」

 「なラば死ねば良い。それデこの世界の人間の平和が守らレるのナラ」

 

 突き付けた銃の威力を最大にまで引き上げる。放てばプラズマすら生成して対象を蒸発できるだろう。

 そして俺はソれを撃った。

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公(九頭竜 ???) 0/1D10

 

 チェック         0%(実質64%) 43 成功

 

 san値減少       -100

 

 状態           亀裂を起こす捜索者と破壊者




結構関わる事件が飛び飛びに。上手く介入できないのです。ああ、さすがに竜巻の件くらいは介入させないと。


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8話

かなり壊れてきています。
後、謝罪文の追加です。竜巻の件を入れるつもりだったのですが少々後が続かなくなるので中止とさせていただきました。ごめんなさい!


 外したか。

 電気銃の弾丸が通った後にはなにも残されていない。それこそ肉片の一つも。プラズマで蒸発したとシても肉片くらいは残っても良い事から考えるにアイツらは逃げ切ったようだな。

 熱がこもっている銃をコートのポケットの一つにしまいこんで今度は違う道具を取り出す。それはとある魔導書。ある大魔導師が書いた最悪な代物。それをメモ帳に書き写した写本。そこに書かれている呪文を唱えることで俺は高町の視線を強制的に外させる。

 

 「何で?」

 「何だ?」

 「何であんなことを言うの!」

 

 ……何を言っテいる?

 

 「当り前だ。彼女は異人だ。俺が守るべき存在ではない。そして守る価値すらナい。アレの危険性を理解しておきながらあんなものを手に入れようとする存在なド害悪でしかない。ならば早く摘み取ってしまうのが一番だ」

 

 俺の言った言葉を理解したのかしていないのか顔を歪ませて高町はまた何か叫ぼうとしていた。だがそれを聞く必要はない。残念だが今はあのフェレットは諦めよう。そろそろ戦闘力の高いあの二人も回復すル頃だからな。

 

 「やれ」

 

 ぐらぐらと地面が揺れる。どうやらテレぱシーは通じていたようだな。地面が揺れたことで体勢を崩した高町を置いて俺はその場を後にする。姿を隠すために路地裏を通って移動する。高町の姿が見えなくなったところで仮面を外し、コートを脱ぎ捨てこれから必要になる道具だけを回収しライターで着火する。これで証拠は消えた。ぱちぱちと燃えるコートを見つめながら俺はずっとそこに立ち続けていた。

 

 

 

 

 アレがこの世界に来てから俺は此処までの怒りを覚えただろうか? いやない。あの異物はどこかまでこの世界を滅ぼしたいのだ? ああ、なら俺もこの体で戦わないでデも良い。確実に殺すべきだろうか。しかしこんな場所で本来の姿で戦えばどれだけの被害を出してしまうのだろうか想像できない。なら今はこの体でどうにかするしかない。

 跳ぶための道具を用意しなければならない。目の前でくだらない戦いをし始めた異物を排除するためには。

 ずるりと粘着質な何かを斬り破りコウモリのような骨格に黒い羽をつなげ、一切の皮膚のない翼を作る。ああ、全てを排除してシまエ。

 

 いあ! いあ! ☆〇ゥ▲♪!

 

 ああ、何処からか何かが聞こえる。ボソボソと耳障りに眼球の裏をまるでひっかくような痛みを伴って、腐ったラズベリーを踏みつぶした醜悪サを伴って。

 

 

 

 

 高まりとあの異物が戦っている中、残る二人の人間と見たことが無い異物。それと姿を変えている異物がいる。ああ、くだらない。友達? 世界を滅ぼそうとしている異物などは友として迎えられるはずがない。朝の陽ざしを受けながら俺はその不気味な翼を広げて彼女と異物に襲いかかった。

 

 「「キャアア!」」

 「何!?」

 

 高町と一人の異物は悲鳴を上げて俺を避けるために杖と鎌の打ち合いをやめてその場を離れる。それを見た異物が二つにあの二人が声を上げる。ああ、耳障りだ。余計な音を響かせるな。お前たちはこの世界の人間じゃないんだ。ダカラ余計な音すら残すな。

 

 「貴様、何者だ!?」

 「正体は分からないがお嬢様たちの決闘の邪魔をされては困る」

 

 まだか? まだ分からないのか、此奴らは! アレが何か。そしてアレが持っている恐ろしさヲ!

 ふつフつと怒りが込み上げてくる。

 

 「貴方は」

 「君はあの時の」

 

 しゃべりかけた異物をそのまま殴りぬく。余計なことをさせない。それこそが最も重要なのだ。それに此奴は何度もアレを起動させている。此奴の魂にはあの醜い輝きが残っている。ならば今、この世界から駆逐しなけれバならない。しかしその一撃は鎌で防がれテしまった。

 

 「貴様! 我の言葉も聞かず二人の決闘の邪魔をするか!」

 「少し許せないな。あの二人はお互いの矜持をぶつけ合っていたのにそれを邪魔するなんてね」

 

 うるさい。二人? 此処には三人と三つの異物しかない。二人で戦った形跡なんてない。

 そんな事を想っていると二人の内片方が後ろの空間からいくつもの武器を放射してき、残りの片方はまるで蜘蛛のような動きで空中の魔法陣を蹴り、こちらに接近してくる。

 今の俺の体では二人の攻撃に対処できない。だから、俺以外の存在を呼び出す。

 

 「いあ! いあ! アザトース!」

 

 その呪文は本来の形から外す。召喚するのはアザトースではない。アザトースの周りにいるトゥールスチャだ。彼らは召喚されると同時に地上からは消える。

 

 「何をするかと思えば失敗したか、この異形が!」

 「無様だな。だがまあ次はない」

 

 二人が放った攻撃の内既に武器は俺の眼球に触れかけている。

 

 「だめぇええ!」

 

 高町の悲鳴とともに俺の目の前に緑色の火柱がアがる。その火は冒涜的であり退廃を好む外なる神の一種。召喚されると同時に地上から地球の核に潜り込んでから火柱を上げる神だ。その神格は死や腐敗、衰退を好む性格である。だが、俺が無理やりにも此奴らを使役する。不可能ではない。此奴らはアザトースの踊り子。アザトースの周りで踊り続ける神格。ならば俺をアザトースと認識させてしマえば良い。その結果、彼らは俺へ迫っていた武器を溶かしつくした。

 

 「なっ!」

 

 そして武器を燃やし尽くすと同時に火柱がまた上がる。その火柱によって進路を妨害された七式は後ろに跳び退り間合いをはかる。

 

 「クソ、一体何だ? アレは」

 「それで終わりなら俺は作業を進めさせてもらうぞ?」

 

 そう言って二人を無視してあの異物の方へ振り向くとオレンジ色の異物がこちらに牙を剥いて唸っていた。

 

 「……アンタ、一体何だ? その体はなんだ! 生きている臭いがしない!」

 「それが如何した。俺は唯この世界の平穏を乱す存在を滅ぼすだけだ」

 

 力を込める。この体ではそこまで力は出せないが思いっきり殴れば大人くらいなら撲殺できる。そうして力をためてもう一度あの異物とオレンジ色の異物を殴ろうとしたとき緑色の鎖が俺を縛った。

 

 「ユーノ君!」

 「なのは! 彼に話は通じないよ! 今すぐ倒さないと彼は危険だ!」

 

 危険? お前たち異物よりは危険じゃない。だが、別に風評などは如何でも良い。ただ俺は世界を守れれば良いのだから。

 桜色の小さな光の弾丸が幾つも俺めがけて殺到する。その逆からは黄色の光でできた鎌が俺を切り裂こうとしている。

 上からは小型のナイフを構えた七式が飛びかかってきている。反対の下からは先ほどよりも数を増した武器群が凄まじい速さで俺を串刺しにしようとする。

 このままでは対処できない。だから俺は体を変える。エルダーサインはついたままだが今の俺には意味が無い。唯周りの人間を発狂しないようにする封印のようなもの。俺自身の神格には何一つ意味が無い。

 

 

 

 それを見た高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア、エイミィ・リミェッタ、クロノ・ハラオウン、アルフ、七式世闇、御崎統也。その他のアースラの乗組員。そのすべてが心の底から恐怖した。例え大魔導師ですら四人の攻撃は受けきることも回避することも不可能なはずだ。それをアレは受け止めた。有り得ない形で。

 それは人類とは到底言えない光景だった。両肩のあたりから突然仮面をつけた少年より大きい黒い骨のようなものが皮膚を突き破り出て彼らの攻撃を全て受け止めていた。攻撃を受け止めると同時、その黒い骨を覆うように黒い泥がボコボコと骨の表面から隆起して肉となる。その際に出た悪臭は人間には耐えきれるようなものではなく鼻で呼吸することを許さないほどひどい。至る所が節くれだって何度も折れ曲がり地獄の業火で焼かれつくした罪人が助けを求めるように見える。

 そしてそんな姿を見たアースラの乗組員はたった一言、仮面の少年に相応しい言葉を人知れずぽつりとつぶやいた。

 

 『邪神』

 

 と。

 

 

 san値チェック

 

 高町なのは 1D6/1D10

 

 チェック  100%(実質99%) 76 成功

 

 san値減少 100-2=98

 

 状態 邪神の醜悪で直視し難き姿




流石なのはさん。ダイスを振ったけどまさか2がでるとは。本当は不定の狂気位に追い込もうと思ったのに。
修正でなのはさんのチェックは成功したことに。唯減少率は変えません。


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9話

 ひゅうひゅうと周りの奴らの息の漏れる音が聞こえる。ああ、感覚が研ぎ澄まされる。視界はこれまでにないほどクリアとなり360°全体を認識できる。把握できる。聴力に至っては此処からでも太陽が燃える音が聞こえそうなくらいだ。そんな感覚だけではない思考も加速していて世界が止まって見える。

 

 「な、何だよ、ソレ」

 

 震えながらオレンジ色の異物は俺の腕を指して恐怖に染まった声を上げる。

 

 「化け物がッ!」

 

 感情をただ辺りにぶちまけて精神を守ろうと統也が喚きだす。

 

 「ひっ!?」

 

 俺の姿を見た少年の姿を取った異物が悲鳴を漏らす。

 

 「何だこの異形は!」

 

 七式が油断なく構えを取りながらも恐怖に獲物を持つ手に力が入っていない。

 

 「あ、あははは! あはははは!」

 

 金髪の異物は恐怖に耐えきれなくなったのか乾いた笑いを上げ続ける。

 そして、俺の目の前には、

 

 「何で? なんで貴方はそんなに話もせずに人を襲うの!?」

 

 高町なのはが叫んでいた。心の底から、何でと。その小さい矮躯でありながら何処までも強い魂と心で彼女は今の俺(・・・)に対話を望んだ。戦っている最中にいう事ではないのかもしれない。だけど、これが最後のチャンスかもしれない。あの忌まわしい物を集めさせないという事に。

 

 「お前はアレが何のために作られたか知っているか?」

 「え?」

 

 答えが返ってくるとは思っていなかったのだろうか。突然答えを返した俺の言葉に動きを止めて彼女は驚いた瞳をこちらに向けてくる。

 

 「それが分からないお前たちには俺のこの体を燃やし尽くす焦燥など分かるはずがない。分かってたまるか!」

 

 その言葉に高町は何かを覚悟して、俺に問い詰める。

 

 「分かるはずがない! 言葉で伝えなくっちゃ何も伝わらない。貴方が言う危険って何? それはジュエルシードが本当に巻き起こすの?」

 「そうだ。アレがこの世界の人類の文明を滅ぼす」

 

 俺の話した内容に信じられないのか統也と七式が反論してくる。しかしあの二人には何が分かる? 何故アレが安全なものと盲目的(・・・)に信じられる?

 

 「ふざけるな! ジュエルシードがそんな事を起こす訳が無いだろう!」

 「確かに正しく管理されれば人類を滅ぼすことなどはない」

 

 何故分からない! 何故此処まで言って分からない! それが()には分からない!

 

 「何故そんな事を言いきれる!? まだ分からないか! アレが何故作られたのかを知れば()の危惧も分かるだろう!」

 「何故作られたか?」

 

 あの民族衣装の異物が尋ねてくる。知らないで発掘したのかこの異物は。

 

 「無知は罪と良く言ったものだ」

 「何?」

 「アレはな、学術的価値など一つもない。発掘してはならない道具だ」

 「如何いう意味?」

 

 高町の疑問に絶望の答えで教えてやる。お前たちを()が認めない理由もな。

 

 「アレは知的生命体を滅ぼすために、戦争の道具として作られたものだ」

 「そんな! 嘘だ!!」

 

 悲痛な声で少年の異物が叫ぶ。だがそれが事実。

 

 「だとしたら遺跡にあんなふうに大切に保存されることなんてないはずだ!」

 「其れの答えは簡単だ。アレを作ったのは一人の科学者であり、その科学者の独断だからだ。アレはその国でも使用を不可能と判断して封印された兵器だ」

 

 そう、たった一人の科学者が呪詛を込めて作りだしたもの。それがアレだ。

 

 「そんな事はあり得ない! ならばジュエルシードの願いをかなえるという機能に説明がつかなくなる!」

 「そんなもの決まっているだろう? 願いを叶えるふり(・・)をするのは思考エネルギーを蓄えるため。思考エネルギーは物理エネルギーよりもはるかに強大なエネルギーになれる。願っても、願っても決してかなわぬ願い。それを叶えたふりをして決してギリギリで届かせない。そうして更なるエネルギーを知的生命体に作らせて臨界まで高まるとそのエネルギーを利用してその文明を滅ぼす。それがこの宝石の役割だ!」

 「そ、そんな、莫迦な……」

 「アレを作った科学者は狂気とともに破壊願望を叶えるためだけにアレを作成した。そんなものを集めてもし本格的に起動したら何が起きるかわからない」

 

 そうして俺はあの二人の方へ向く。

 

 「まだ分からないか? ()がこうまでしてアレを破壊しようとする訳を。アレを回収しようとするものを排除しようとする理由を」

 「はん! その話が本当だという理由が無い」

 「それに、だ。敵のいう事を信用するのは愚か者さ」

 

 まだ、まだ理解しないのか? 此奴らは。

 

 「お前の妄言に付き合ってられるか」

 「さあ、悪いがお前のような異形は死んでもらうぞ」

 

 もう、もう良い。もう分かった。

 

 「ダメェ!!」

 「地球に生きる多くの人間の為だ。死んでくれ」

 

 腕を振るう。邪神の腕を。邪神という知覚することはできても理解することは不可能なその腕を振るう。巨大な二つの腕は竜巻のように回転しながら彼らを切り刻もうとする。

 

 「クッ、オハン!」

 「この程度当たりはしない!」

 

 片腕は黄金に輝く神秘的で強固な盾に防がれる。もう片方の一撃は先ほどよりも青く輝く瞳に軌道を見破られて避けられる。

 

 「オハンが!?」

 「死が見えない!?」

 

 しかしだ。しかし、矮小な人間程度で邪神の攻撃を防げるとでも?

 片腕はそのまま黄金色の盾を汚染して、力尽くで粉砕する。もう片方の腕を理解しようとした愚者にはそのままその腕で一撃を与えてやる。

 

 「何だこの軌道は!?」

 

 直線に伸びた腕はあるところからいきなり折れ曲がる。それを何度も繰り返して一瞬で腕が材料の檻を作る。

 

 「畜生! 壊れない!」

 

 腕を斬ろうとしているのだろうが無駄だ。この宇宙に所属するのならその腕は切れない。そういう作りなのだ。邪神の中でもさらに規格外。それが外なる神。()が所属する存在。それは決して人間には理解できず、如何仕様もできない存在。

 

 「潰れろ」

 

 檻を急速的に縮めて握りつぶす。絶対に回避できず止めをさせる技。あと少しで終わりを迎えさせられる。

 

 「きゃあああああああ!!!!!!」

 

 そんな時だった。高町に紫色の雷が降り注いだのは。

 

 

 san値チェック

 

 ユーノ・スクライア 1D10/2D10

 

 チェック      72% 86

 

 san値減少    72-11=61 一時的狂気(何かをぶつぶつとつぶやき続けていて行動不能)

 

 状態 邪神の諦め

 




因みに二人は原作知識があるために主人公の言葉をでまかせと判断していました。本当にその知識があっているかなんて誰にもわからないといいうのに。
ユーノ君。一時的狂気で防御魔法など何もできなかったのでなのはを助ける事すら不可能でした。


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10話

 高町に落ちた紫の雷は高町の持っていた杖を砕きアレを放出させた。

 

 「なのは!」

 「母さん!?」

 

 そして、

 

 「キャアアアアアアアア!!!」

 

 異物にもまた雷を振り下ろし斧を砕かせた。高町と同じようにアレが斧から放出させられて高町と異物のアレを何者かが回収していった。

 アレを狙っているのがこの異物以外にもいる? それにあの異物は母さんと言っていた。つまりアレを狙っていたのは異物ではない?

 

 「そういう事か。そういう事か!!」

 

 そういう事か。此処に居るのは唯の労力であって、本当にあれを狙っているのは此処ではなく外の異世界にいるという事か!

 

 「クソ!」

 

 これでこの世界になんの被害も出さないのなら問題はない。だが、母親といった異物の事から考えるに自分の子供をも犠牲にするような奴だ。この世界に被害を出しても可笑しくはないだろう。

 

 「行くしかないか」

 「行かせるとでも思うか?」

 

 目の前には統也が立ちふさがり、一本の剣を持っている。黄金の装飾が施された華奢な剣。その切れ味は鋭いことくらい剣に詳しくない()でも分かる。

 

 「お前が危険なことくらい誰だってわかる。だからお前は止める。お前のような危険で何をしでかすか分からないお前をこれ以上放置なんてできない。だからここで切り捨てられろ」

 

 振り上げた剣を()目掛けて切りかかって斬る。だがお前と違いそんな遊戯に付き合う程時間があるわけではない。

 

 「うわっ!」

 「なっ!!?」

 

 だから檻の中にある七式を統也の方に投げ捨てる。投げられた七式に驚き動きの鈍った統也を尻目に俺は門を開く。

 本来の形とは異なる形になるがそれでも使えないわけではない。唯門を開けばよいのだから。

 小さな刃物を出す。刃には文字が刻みこまれておりそれだけで特殊な魔術を使用する際に触媒となる。その刃で自身の周りを円で区切るように一度切り裂く。

 

 「時空の彼方にとどまりしものよ、我が嘆願を聞き入れたまえ」

 

 そして今度はドラゴンの頭の印を書く。

 

 「門にして道なるものよ、現れいでたまえ。汝の僕が呼びたれば」

 

 さらにキシュの印を描く。

 

 「ベナティル、カラルカウ、デドス、ヨグ=ソトース、あらわれよ、あらわれいでよ。聞きたまえ、我は汝の縛めを破り、印を投げ捨てたり。我が汝の強力な印を結ぶ世界へと、関門を抜けさせたまえ!」

 

 それと同時に醜悪な門が目の前に広がる。呼び出した()には見えるだろうが他のこの場にいる者には見えない究極の次元の世界へつながる門が。そこを通れば望む次元へ行く事が出来る。

 

 

 

 

 「消えた!?」

 

 莫迦な! 幾ら訳の分からない存在だったとしても物理法則に縛られるはず! なのになぜ彼奴はあの場から消え去った!?

 

 「クロノ執務官!」

 「はい、艦長!」

 「すぐさまなのはさん達とあの場にいるすべての人を回収しなさい!」

 「了解!」

 

 普段と違い一切の遊びが籠っていないかあ、艦長の声。それだけ今の状態に余裕がないという事だ。あの少年からいきなり生えた腕を見たクルーの多くは良くて失神。ほとんどのクルーは狂気にとらわれてまともに動く事が出来ていない。

 転移しようとした瞬間エイミィが叫んだ。

 

 「拙いよ、クロノ君!」

 「如何した、エイミィ?」

 「あの子が消えた場所から未知のエネルギー反応があったけど、そのエネルギーが通じているのがプレシア・テスタロッサの隠れ家、時の庭園に通じているの!!」

 「何だって!!!?」

 

 拙い、拙いぞ! 彼の言動から考えるに下手をすればプレシア・テスタロッサが殺される可能性もある。

 

 「艦長!」

 「……。まずはなのはさん達の回収。そしてすぐに動ける武装隊のメンバーとともに時の庭園へ」

 「了解しました!」

 

 今はそうするしかない。負傷した彼女たちを回収している間に艦長が武装隊で戦える人間、或いはそこまでで回復した人員で突入するしかないだろう。

 転移魔法を使うために術式を発動させる。すぐにでも迎えに行かなければ。彼がプレシア・テスタロッサを殺さないうちに。

 

 

 

 門を越えた先はありとあらゆる兵器が迎え撃っていた。金属の鎧にハルバードやロングソード。まるで中世の騎士団の前にいるかのようだ。

 

 「だがそれも無駄」

 

 只々それらをガラクタに変えるために腕を振るう。円を描いた先からどんどん鎧が砕けていくがそれを補うように機械の群れが集まってくる。

 

 「朽ちろ!」

 

 二つの邪神の腕のほかに電気銃に偃月刀を片手ずつ掴む。右手は電気銃で機械を撃ち、偃月刀を使用していくつもの魔術を発動して機械を破壊していく。それでもなおこの機械の群れは少なくならない。

 

 「ならば」

 

 腕の肉が盛り上がり、薄くなっていく。腕の骨は折れる音ともにコウモリのような形になっていきそこに薄い肉が翼に代わっていく。

 

 「相手にしていられるか」

 

 空にも機械はあるがそれでも密集度は低い。ならばそこを抜けるのが一番良い。巨大化した翼が風を切る音が怪音波となって機械の群れの動きを阻害する。

 

 「邪魔だ!」

 

 一体、二体とどんどん砕いていって最後の一体を偃月刀を投げつけて破壊する。邪魔な壁は邪神の腕を変化させた翼を使って斬り落とし先に急いでいく。

 

 「アレか」

 

 斬り落とした通路の先に広がる空間。その宙に浮きながら光り輝くアレにそれを守るように立つ一人の女性。そしてその女性が()を睨みながら狂気を孕んだ瞳を見せつけて静かに呟く。

 

 「邪魔はさせないわ」

 「地球を守るためだ。邪魔をするなら死んでもらう」

 

 

 

 san値チェック

 

 プレシア・テスタロッサ 1D6/1D10

 

 チェック        0% 43 成功

 

 san値減少      0-4=0

 

 状態          邪神と狂信者の対峙




プレシアも最初からsan値なんて無かったんだ。


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11話

戦闘描写難しい!!!


 長い、長い静寂。()と目の前の異物。いやこの場合この世界にとっての異物は()か。だけれど止まる訳にはいかない。アレのエネルギーを利用して何かしている此奴をこのままにしてしまえば地球が如何なるかは分からない。大勢の命が失われる可能性もある。ならば少数である此奴は処分(・・)しなければならない。

 

 「喰らいなさい!」

 

 雷を纏った弾丸が軌道を変えながら襲いかかる。しかしこの程度なら何の問題もない。自動的に腕が雷を引きちぎり逆に電気銃を撃ちこむ。しかしそれは彼奴の目の前に張られた結界に似た何かによって防がれた。それを見つめながら冷静にその不可視の守りを破壊する術を探る。

 結果、不可視と言えそこに存在することは間違いない。ならば、アレすら溶かしつくしたあの薬品を使えば十分破壊できるだろうという結論が出、それを実行する。それにもう時間はない。アレの出力が段々と高くなっていく。このままではアレが本来の役割を発生させてしまう。そうなれば地球も。

 

 「悪いがアレは破壊させてもらう」

 「そうはさせないわ。例え貴方が神だったとしても」

 「ならば思い知れ、邪神の力を」

 

 二つの腕を真ん中から裂くように分裂させる。枝分れした腕の数だけ自由自在に、そして攻撃回数を増やす事が出来る。

 鞭のようにしならせながら腕を目の前の元凶に力づくでふるう。それも不可視の守りに守られたが腕が掴んでいた薬品を不可視の守りにかけることはできた。

 

 「な! シールドが!?」

 

 どろどろと溶けていく。当り前だ。これはティンダロスの猟犬すら溶かした錬金術によって作られた秘薬の一つ。ありとあらゆる万物を溶かしつくす万物溶解液と呼ばれる代物だ。

 そして守りの溶け切った彼奴に邪神の腕を避けるだけの力はない。

 

 「あ」

 

 

 

 

 精神が無事、もしくは比較的軽度な人員で時の庭園へと突入することになった。高町なのはにフェイト・テスタロッサはデバイスの損害、それにダメージ量から考えて今動くことはできないだろう。

 

 「七式、君は他の人員と機動鎧を! 統也は駆動炉を!」

 

 七式の戦闘スキルは対人だ。駆動炉の破壊もできなくはないだろうがそれよりも機動鎧の破壊に専念させた方が効率が良い。逆に統也は殲滅戦や大規模破壊に優れていて集団戦には向かない。ならば最初からそれぞれが戦いやすい場所に行かせるべきだ。

 

 「ちっ、分かった。しくじるなよ」

 「了解した、執務官殿」

 

 七式はすぐにその異常な体術で機動鎧を破壊する武装隊のサポートに、統也は駆動炉の破壊に向かっていった。之ならすぐに駆動炉の方は片が付く。あとは機動鎧は、

 

 「スティンガーブレイド!」

 

 僕達がすべてを片付ける。

 青い貫通力に優れた魔力でできた剣で機動鎧を同時に何度も破壊していく。しかしいくら優れている魔法でも弱点が無いわけではない。スティンガーは制御しなければならない魔法だから僕自身の処理能力を超えた攻撃は不可能だ。今スティンガーは遠距離の機動鎧だけを破壊しているから近距離の機動鎧を破壊することはできない。しかしここには多くの味方がいる。その弱点も今は一切気にしないで済む。

 

 「クロノ執務官、近い鎧は私たちが! 遠距離の物をお願いします!」

 「分かっている! 七式!」

 「ああ! 蹴り穿つ!」

 

 一度に何連撃も繰り出す接近戦の蹴り。それを受けた機動鎧は吹き飛び後ろの機動鎧を巻き込んで倒れる。そこをスティンガーで一気に串刺しにしていく。

 

 「良し、一部の人員は此処で退路の確保を! 他の人員は先に進んで!」

 

 一部の人員を残してほかの人員で先を急ぐ。嫌な予感がする。何より前方の方で凄まじい魔力が消費されている。恐らくはあの少年とプレシア・テスタロッサが戦っているのだろう。他の人員を置いて先に突入するべきか? その迷いを断ち切り武装隊員たちに後から追いかけてくるように指示して僕と七式は先に突入した。そしてそこで見たのは、

 

 「あ、あぁ……」

 

 腹を黒い腕で貫かれて血だまりに倒れるプレシア・テスタロッサだった。

 

 

 

 

 終わったか。これでもう世界の崩壊の危険は無くなったといっても良い。後はアレを壊すだけ。アレに近寄ろうとした瞬間、それを遮るような形で飛び出した影に自分の腕を斬り落とされた。

 

 「やはり、お前のその奇妙な腕は殺せないがお前自身は殺せるようだな」

 

 切り落とされた片方の瞳で腕を見つめながら()は目の前の人間をもう片方の瞳で見つめる。

 

 「殺人罪と公務執行妨害で逮捕させてもらう」

 

 七式とトゲのついた服を着た少年が俺に敵意を持って対峙している。仕方が無い事だがアレをせめて破壊しなければ。

 

 「悪いがその前にアレを破壊しなければならないのでな」

 「それも悪いが却下させてもらう。アレは時空管理局で責任を持って封印して保管させてもらう」

 

 ガシャリと音を立てて構える少年。だが、

 

 「悪いが信じられない。そもそもがアレを持ってきた異物自体がこの世界の人間じゃない。お前のように違う世界の人間の言った言葉は信じられない」

 

 その実力も正当性も信じられない。違う世界の人間は今まですべてこの世界にとって害悪でしかなかったのだから。

 

 「だから、終わりだ」

 

 邪神の腕を振るう。今までのように手加減していた一撃でもない。正真正銘、世界をも簡単に滅ぼせる邪神の一撃。それに耐えられるほどアレは頑丈ではない。

 

 「バ、莫迦な!? ロストロギアを物理的に破壊した!?」

 「嘘だろう? 俺ですら死を視れないのに!?」

 

 ああ、これでもう大丈夫だ。

 

 「早くこの場所から出たほうが良いぞ? この場所はこれから一分後に完全に吹き飛ばす」

 

 淡々と言った俺の言葉に執務官は悔しそうに顔を歪めてから踵を返して消えていく。アレがこの世界に来てから少しの間で色々な事が起きた。これで良い。これでジュエルシードの本当の機能が働かない(・・・・・・・・・・)

 時間だ。さあ、全てを吹き飛ばしてもう二度とこんな事件は起きないようにしよう。

 

 

 

 

 クロノ・ハラオウン執務官報告書

 

 P・T事件<プレシア・テスタロッサ事件>

 概要 第97管理外世界にてユーノ・スクライアが発掘したロストロギア、通称ジュエルシードを狙うプレシア・テスタロッサとその娘であるフェイト・テスタロッサによってジュエルシードの強奪が行われた。その後の調査によってフェイト・テスタロッサはプレシア・テスタロッサに虐待を受けておりこの事件の際も虐待されて育ったため判断能力の未発達によってジュエルシードの強奪を行っていたと本官は判断する。

 また、現地協力者として高町なのは、御崎統也、七式世闇の三人の協力者を得た。敵対行動を取る現地住民と思われる存在も確認された。管理世界出身者を異物と呼ぶ少年で違法実験によって作られた人工生命体と思われる。交戦した際の驚異的な戦闘力は計り知れず、理性的な行為を取る時と全くそうでないときなどその差異が酷い。最終的にプレシア・テスタロッサの所持する時の庭園内でジュエルシードを単独で破壊しプレシア・テスタロッサを殺害した。その危険性を判断してS級指名手配を申請する。

 重要事項 敵対行動をした少年のレアスキルと思われるものに体を変化させる力を持っている。その力を目の当たりにした多くのアースラの乗組員は精神的にひどい損害を受けた。接触する際には気を付けなければならないだろう。

 

 

 

 san値チェック

 

 フェイト・テスタロッサ 1D10/1D100

 

 チェック        32% 54 失敗

 

 san値減少       32-26=6 不定の狂気(過剰なまでの対象に対する攻撃性の発露)

 

 状態          邪神の被害者

 




最後の所の報告書は社会人の方から見れば可笑しいかもしれませんが作者は学生で報告書の作り方などは詳しくありません。ですのでそこは見逃してください。


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A’s編
12話


今回は主人公ではありません。此処から先はできるだけ他の人物たちの視点で主人公の動きを見ていこうと思います。


 あの滅茶苦茶な日々が過ぎ去って数か月。段々とジュエルシードの影響もなくなりこの世界も安定してきた。

 学校の屋上で他の生徒に聞こえないようにしながら隣にいる気に食わないが現状を唯一共有できる世闇に話しかけて今起きている予想外の事態を整理していく。

 

 「なあ、これは如何考えても」

 「ああ、異常だ。恐らくはあの化け物が最後の転生者なのだろうが異常なまでの異常性(・・・・・・・・・)に、原作を全く無視しているその行動の理由が分からない」

 「ああ、そうだろうな。此処から考えるに彼奴は原作を無視して何かをする奴かそれとも原作を知らないかの二つになるはずだ」

 

 この状態を確認するために世闇を見れば確かに頷き、此処までの状態を意識で共有できていることはお互い確認できた。だが、問題はこの後だ。

 

 「なら、何故そんな事をするかだ」

 「そこだな、一番の問題は。転生した際に与えられた能力によって自我が引っ張られているのか。それとも本人の意思か」

 「俺が想像するにやはり引きずられていると思う。俺はゼウスに英雄王の能力を与えられたが言動はやっぱりかなり引きずられているしな。お前も知っての通り最初俺がなのはにあった時にはかなり英雄王の傲慢さが出ていたからな。まあ、それ以降は何とか抑えられてはいるが」

 「俺もオーディンに力を与えられたがその際に随分と血を好む性格になっていったしな。今でもすずかが通ると一瞬殺したくなってしまう。それにこの体もこの世界には本来存在しない血を受け継いでいる。その影響で本来は不可能な七夜の身体技術を行使できるし」

 

 となるとやはり彼奴も能力に引きずられているのか? だとすれば何の能力だ?

 

 「だが、俺はそう思わない。彼奴は彼奴なりに確固とした自我を築きその自我に則ってあれ程の事をしたんだと思う」

 

 だが、それは世闇からすれば信じられないようだ。

 

 「何故、そう言い切れる?」

 「目だ。彼奴の目を見たからだ。あの時プレシア・テスタロッサに向けた瞳は何処までも純粋に邪魔ものだと思っていた。邪魔だから切り捨てる。それが彼奴以外の意志で行われたのなら少しは瞳が濁る。けれど彼奴にそんな濁りはなかった」

 

 フン、まあ此奴の人を見る目は意外と確かだからな。今の俺の眼力は確かにこいつより優れているとはいえ実際にその現場を見ていなければ意味が無い。

 

 「なら、そう考えよう。次の問題は何故ジュエルシードをあれだけ敵視したかだ」

 「彼奴のいう事を信用するならジュエルシードが兵器でありこの世界にとって害しかなさないから」

 「だが、それを知るすべは何処にもない。ユーノですら知らなかったことを何故一介の、しかもあんな存在が知っていたかだ。恐らくはアレは全てブラフで実際はジュエルシードを利用しているのではないか?」

 「利用? だが実際に時の庭園では」

 

 少し考えればわかる事なんだがな。

 

 「本当に破壊したのか?」 

 「えっ?」

 「考えてみろ。時の庭園が崩壊したのは確かだがジュエルシードの破壊は誰にも確認されていない。そこから推察するにジュエルシードを破壊したと見せかけて独占、或いは完全に破壊して他の誰も願いを叶えられないようにしたという可能性もあるぞ」

 

 世闇は黙り込み考えをまとめ終わったのか意見を提示してきた。

 

 「だとしたら彼奴の力はジュエルシードが叶えた力? だからジュエルシードの有効性を確認して他の人間には渡したくなくなった?」

 「その可能性はあるな。能力が貧弱だった可能性もある。もしくは転生者じゃないという可能性も出てきたな。だとしたら彼奴も被害者であって加害者だ」

 「だとしても実際はそんな簡単な状態ではないだろう?」

 「ああ、昨日リンディ艦長が話してくれたが管理局は彼奴を生態ロストロギア扱いの指名手配をしたよ。しかもS級の上を行くSS級のな」

 

 SS級。俺もあまり詳しくは知らんが説明を聞く限り一般管理局員では戦闘すら許可されない正真正銘化け物相手に付けられるクラスらしい。アースラも戦闘は絶対に避けるようにお察しが来ているが、

 

 「それ、フェイトが無理だろう」

 「ああ」

 

 本来ならなのは達によって多少母親の呪縛から逃れた彼女だが今は違う。母親を殺されたショックで彼奴に対して異常なまでの執着と攻撃性を見せている。それこそもし彼奴が発見されたというのなら後のこと全てを放っておいて殺しに行こうとするからな。

 

 「しかもユーノの方もかなり精神的に弱っているし」

 「そうなんだよな。見ていてかなり可愛そうなくらい弱っている。なのはが元気づけているがあまり効果が見れないし」

 

 さらに最悪なのがユーノだ。彼奴の言った言葉を真に受けてかなり精神的に弱くなっている。このままでは精神衰弱で入院しなければならなくなるほどに。

 

 「ハァ、本当訳の分からない状態になりやがっている」

 

 思わず愚痴がこぼれてしまったがしょうがない。実際今の状態で闇の書を如何にかする事なんて不可能だろう。せめて管理局から応援が来ればよいのだがそれも期待できない。管理局の上層部は管理外世界である地球にSS級の指名手配犯を捕獲できる実力者を応援として出したくないようだし。これは俺たちが何とかするしかないか。

 

 「まあ、恐らく闇の書の事件でも彼奴は出るだろう。彼奴が言っていることが真実であるなら彼奴はこの世界にとっての害悪を嫌う。なら世界を破壊する可能性のある闇の書を見逃すはずがない。転生者なら兎も角だ」

 「確かにそうだがヴォルケンリッター相手にさらに彼奴のような不確定要素を相手できないぞ?」

 

 やっぱり戦力不足が出てくるか。せめてフェイトが立ち直ってくれたらな。あんな悲惨な場面を見たから仕方がないんだが。

 

 「まあ、そこはその都度何とかしていくしかない。それにアースラの方も大変だしな」

 「確か乗組員たちが辞職を願っているんだっけ?」

 「ああ。如何やら彼奴を見て恐怖に駆られたらしくな。地球の近くにいるくらいなら職を失う方がマシだという一派がアースラに生まれたのも事実だし」

 「けれどアースラがここに滞在するのはジュエルシードの影響の観測もあるんだろう? 其れなのに乗組員たちが離れたら」

 「だからこその問題だ。唯でさえ人員が少ない管理局が管理外世界にわざわざ応援をしない。先の事件で滅茶苦茶な存在も発覚したからな。そして数少ない人員で影響を調べなければならないから余計戦闘のできる人員が影響の観測に取られて戦力が薄くなる」

 「だとしたら拙いな」

 「ああ、時空管理局の最大の強みは近代の軍隊に共通して数の強みだからな」

 

 実際管理局の中で強い人員はそうそういない。では何故管理局は巨大な組織として存在できるか。それはひとえに画一的な装備の支給に、均一化された戦闘能力だろう。例えば今この場にヴォルケンリッターが現れても管理局が本気を出せばあっという間に数の暴力で何もできないまま捕まえる事が出来る。現実ではしがらみや他のロストロギアなどの回収で出来はしないだろうがそういった点がある。

 

 「ああ、ままならねぇな」

 

 ぽつりとつぶやいた声は風に乗ってどこかに消えていった。




今回san値チェックはありません。


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13話

今回もsan値はなしです。というよりsan値がまだまだ減らないような……。


 カン、カンと空き缶が空を舞う。私が操作するスフィアによって空き缶を飛ばしている。あの日からいくらかの時間が経った。フェイトちゃんは今、アースラでミッドチルダと言う場所に行って裁判を受けている。ビデオメールで話をしているけどやっぱりかなり辛そう。

 

 「52、53…」

 

 それにユーノ君も。プレシアさんが……殺されたのは自分の所為だって自分を責めている。私はあの時プレシアさんの次元跳躍魔法で戦える状態じゃなかった。フェイトちゃんも私と同じようになっていてあの子を止める事が出来なかった。

 

 「68、69……」

 

 あの時、あの子はまだ対話していてくれた。私ときちんと向き合ってくれていた。まだ止められたかもしれない。そうしたらプレシアさんも助けられたかもしれなかった。けど私が弱かったからあの時堕ちてあの子を止める事が出来なかった。

 

 「70、7い」

 「あ」

 

 そんな事をボンヤリと考えていたのが悪かったんだろう。缶は明後日の方へ吹き飛んでいって見えなくなっちゃた。

 

 「マスター、一度休憩することをお勧めします」

 「分かった、レイジングハート」

 

 少し気分転換をしよう。そう思って体の中の流動している魔力を一旦止める。

 公園に流れる風に身を任せるとさっきまでの魔法制御の訓練で火照った体が冷やされる感覚にしばらく身を任せる。

 

 「ねえ、レイジングハート?」

 「如何しましたか、マスター?」

 「魔法ってなんなのかな?」

 「……私に何故それを聞くのでしょうか?」

 

 何でだろう? 何となく聞きたくなっちゃたんだよね。

 

 「私ね、ユーノ君は別に責めるつもりは一切ないの。

 けれど、ジュエルシードが、魔法の技術が戦争、ううん。それどころか人を殺すためだけに作られたっていうのは本当なのかな?」

 「……マスター、ジュエルシードについては私は分かりません。ですが他のロストロギアではそう言った目的の為に作られたというものもあります」

 

 やっぱり、そうなんだ。

 

 「もっとも有名なものとしてはベルカ時代に作られた『王達』です。彼らは国を守るために自身の体を生態ロストロギアと言われる状態にして戦うための道具にしました。ですがそれはあくまでも自国を、自国の民を守るための手段で作られた存在であり、人を殺すためのロストロギアではありません」

 

 人も、人間もロストロギアになったの?

 

 「それって人間を改造したっていう事?」

 「そうです」

 

 レイジングハートから帰ってくる機械的な声が私の中に入ってくる。

 

 「ですが彼らはそれを自ら望んでしたのです。ロストロギアの中には平和利用が可能なものも数多く存在します。魔法技術が全て悪いわけではありません。それは誤解しないでください」

 「うん」

 

 そうなのだろう。レイジングハートのいう事が正しいことは分かる。けどそれでもやっぱり。

 

 「……プレシア・テスタロッサの事ですか」

 「うん、そう」

 

 魔法が無ければあの人はあんなふうに死ぬ事はなかったのかな? そんな風に考えてしまってこの頃は余り寝れていない。

 

 「思うの。もしあの時、ううんもっと前に、そもそも魔法文化が無ければそんな事は起きなかったのかなって」

 「確かにそうかもしれません。ですがもしそうだとしたら彼女、フェイトさんは生まれなかったはずです。マスター、一度起きてしまった事は変えられないし変えてはいけません。確かにあの事件は悲惨な結末を迎えました。あの事件を引き起こした容疑者であるあの少年は決して許してはなりません。ですが今の私達では如何しようもないのです。出来るとしたらもう二度とあのようなことが起きないようにするだけです」

 「……そうだね、そうだよね。一度起きたことは変えられない。二度と変えられないのなら起きないように努力するしかないよね?」

 「そうです。変えられないのなら起きないように。そう決めたのはマスターです。如何か過去にとらわれるのは止めて下さい。人間は進む生き物です。時には過去を振り向くのも必要でしょう。ですがそれは今ではありません。もっと後、過去を受け入れられるようになってからでも遅くはありません」

 

 励ましてくれたレイジングハートの声に勇気づけられ私は立ち上がって家に向かう。くよくよしたって何も始まらないもの。全力全開で頑張らないと!

 この時私はまだ知らなかった。例えどれだけ人間が頑張ろうと絶体絶命な状況はできてしまいそれを覆すことはできないのだと。そしてそれを作り出すのは人間の狂気と悪意なのだと。

 

 

 

 きっとそれは神様からの贈り物やったんだ。そう思わずにはいられなかった。だって、そうやろ? 今までずっと一人。それが私の日常だったんや。それなのにいきなり家族が四人も増えたんや。神様からの贈り物と思っても可笑しくはないやろ?

 

 「なぁ、はやて。さっきから何読んでいるんだ? 表紙を見る限りものすごい化け物が乗っているんだけど?」

 

 そんな中私と同じくらいの身長の新しい家族、ヴィータが私が読んでいる本について尋ねてくる。

 

 「コレ? コレはな、クトゥルフ神話って言うんよ。クトゥルー神話とも呼ばれていてな。コズミックホラー、宇宙的恐怖を題材にしてラブクラフトによって作られた創作神話なんや」

 「クトゥルー神話?」

 「そうや。例えば有名なものとしては魔道書、ネクロノミコンや神話の名前そのものの邪神、クトゥルーとかやな」

 

 とはいえあまり私の近くにクトゥルー神話を好んで読む人はいない。まあ、中身が中身やし仕方がないんやけどな。

 

 「何か物騒だな。邪神とか」

 「まあな。邪神が現れたら間違いなく世界が滅ぶんや。クトゥルフ神話をモデルにしたtrpgでは大概世界を滅ぼす最強の敵として出てくるし」

 「最強の敵? だったとしても私たちの敵じゃないぜ。はやてを守るためなら私たちは無敵だからな!」

 「そうやな。ん~、もし邪神が出たら私を守ってーな」

 「おう、はやて!」

 

 うん。私が笑って話しかけるとヴィータもうれしそうにはにかみながら笑ってくれる。

 

 「まあ、任せとけ! だから(・・・)だからはやては(・・・・・・・)必ず助けてやるからな(・・・・・・・・・・)

 

 何や? 今一瞬ヴィータの顔が強張ったような。

 

 「そうだ、はやて。アイス、アイス食おうぜ!」

 「ハイハイ、一日一個までよ」

 

 気のせいやな、きっと。

 

 

 

 




今回の話で唯一クトゥルフ神話にを知っているはやてさんの登場です。


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14話

謎回です。


 嘘。何で? 

 

 「何であの化け物が!?」

 「落ち着きなさい! 結界の分析を急いで!」

 「は、はい」

 

 アースラのクルーも恐慌状態になりかけている。

 

 「エイミィー」

 「……は、はい、艦長」

 

 私も慌てていたのだろう。艦長に呼ばれても一瞬反応が出来なかった。

 

 「事態のモニターリングを」

 「分かりました」

 

 すぐさまモニターを制御して画面を切り替える。フェイトちゃんになのはちゃんのデバイスを通じて、更に今急いできている七式君と統也君に渡してあるデバイスからも情報を習得してモニターに投影していく。

 映ったモニターを見て思わず苦い顔になる。何故、何故此処に居る? あの少年が。

 

 

 

 モニターに映っているのはあの少年。中央に突然現れたあの少年に襲撃者たちも警戒して一時的に戦いの手が止まっている。

 顔を隠す面は狂気に染められた人間の苦痛の顔。着ている物は赤と黒が混じっている不気味な色合いのコート。そして背中にはあの不気味な、冒涜的な翼が広がっている。

 

 「貴様!!!!!」

 

 そんな中、フェイトちゃんが激昂しながら彼に突撃していく。拙い! 彼女は今だあの件の心の傷が治っていない。そんな中にプレシア・テスタロッサの仇が現れたらその復讐に出ても可笑しくはない。

 

 「邪魔だ、異物」

 

 翼が振るわれる。振るわれた翼の風にフェイトちゃんの動きが一瞬で無理やり止められた。それによってさらに警戒した襲撃者が彼を警戒して話しかけた。

 

 「何者だ貴様」

 「話しかけるな、異物」

 

 ピンク色の髪の毛の剣を携えた襲撃者の言葉を彼は切り捨て、ただ真っ直ぐに襲撃者たちを睨んでいた。

 

 「何?」

 「黙れ、異物。本来ならこのままお前たちを滅ぼすが今回は違う。お前たちが壊れたら拙い」

 

 何? 彼は何を知っているの? 彼らを知っているの?

 

 

 

 クソ! 動きが鈍ったけどまだ動ける!

 

 「母さんの仇!」

 「黙れと言っているだろう。またお前は世界を危険にさらすのか」

 

 翼が振るわれるけどそれは上に急上昇することでよける。あの不気味な風を避けて私は一気に接近して切りかかる。

 

 「喰らえ!」

 「意味が無い」

 

 私の一撃はあの腕で防がれた。けれど、

 

 「斬撃は防げても電気は防げない!」

 「ぐぁあああああああ!!?」

 

 心地良い悲鳴とともに充足感が体中を満たす。

 

 「まだ、まだだ!」

 

 更に魔力を振り絞り電気を強くして感電させていく。あの不気味な腕を通じて彼奴に電撃は確実に届いている。

 

 「☆〇■♪!」

 

 風に流れるせいで聞こえづらかったが何か言ったようだ。だけれど関係ない。魔法を使うのなら発動させない。命乞いならそんな事は無視する。

 

 「ДТБঐఓ༃!!!」

 「キャア!!?」

 

 そんな! 魔力の流れなんてなかった! なのになんで!?

 

 「貴様、テスタロッサに何をした!?」

 

 何で私は此処まで遠距離に吹き飛ばされた!?

 

 「グゥ!!」

 

 焦げた肉の匂いが広がる中、彼奴はまた腕を振るう。だけどそれもさせない。

 

 「バインド!」

 

 バチリという音ともにバインドが発動される。振るわれた腕はしっかりと拘束されて電流を流す。

 

 「!」

 

 ビクッと彼奴の体が反応がした後に腕が止まる。バインドで縛られたためあの腕は動くこともできず本体は格好の餌食になっている。

 

 「シュート!」

 

 私が放った四つの雷球が彼奴を貫こうとする。之なら絶対に避けられない。

 だけど、

 

 「そんな!」

 

 バリッとテープをはがすかのように簡単にバインドを力づくで引き裂いた!? しかも四つの雷球は腕に防がれてしまい、何故だか今度は電気で苦しんだ様子もなかった。

 

 「そんなくだらないものでこの腕を止められると?」

 

 っ、バリア!

 

 「ぐっ、クッ、負けるか!」

 

 バリアを腕が引き裂こうとしていく。だけどさすがにバインドを引きちぎった状態からは威力も速度が足りないのか破ることはできないようだ。

 

 「ちっ、手加減するのも大変なのだがな(・・・・・・・・・・・・・・)

 「えっ?」

 

 一瞬で拮抗していたバリアが引きちぎられた。

 

 「キャア!?」

 

 そんな、なんて力! バリアジャケットですら破られかけた!

 

 「くっ!」

 「もう一度言う。邪魔だ、異物。お前なぞ相手にしている暇はない」

 「しまった!」

 

 動きが止まった瞬間に腕が私を囲んで出られなくする。何度もバルディッシュで切り付けるがかすり傷ひとつ負わない。この檻から逃げられなくなってしまった。

 

 

 

 

 何なんだよ、此奴。

 

 「シグナム、此奴何だか分かるか?」

 「……いや、分からない。少なくとも私は一度もこんな奇怪な生物と相対したことはない」

 

 やっぱりそうか。私もこんな異常なやつはあったことはない。

 

 「テメエ、何もんだ」

 「ほう、さすがは騎士様とやらか。もう忘れたのか?」

 

 ? 忘れた? 此奴とは初対面のはずだが?

 

 「忘れているか。なら、思い出すのだな。お前が笑いながら魔力を食い尽くして死にかけた一般人を笑いながらその槌で頭をつぶしたことをな!」

 「なっ、ヴィ、ヴィータ!?」

 「ふ、ふざけんな! 私がそんな事をするか! 鉄槌の騎士である私がそんな騎士道を恥じる事をするか!」

 

 そんな事はしたことはない。確かに歴代の闇の書の中では大概魔力を食いつぶして募集した相手は死んでいた。だけど死んだ相手を辱めるような行為は一切したことはない。

 

 「何?」

 

 私の叫びを聞いた彼奴は一瞬訝しんだのか、仮面で分からなかったがそれでも動きが止まった。その様子は、困惑か?

 

 「そういう事か。そういう事だな。すでに動くだけの力はアレによってこの星に放出されているということか!」

 

 アレ? 動くだけの力? 急に何を言っているんだ?

 そんな事を考えていたら異常なまでの魔力の高まりが発生して全員がそちらを振り向いてしまった。目の前にいる警戒しないといけない存在を忘れて。

 

 

 

 あっ、がぁ! 

 痛い、痛い痛い痛い!

 私の中にある魔力を奪われていく! 私という存在を奪われていく!

 胸を貫くこの腕に!

 

 「レ、レイジングハート、このまま! このまま放って!」

 

 痛みで今自分が何をしているかも忘れそうになりながら私はスターライトブレイカーを放つ。この結界を破壊するために。 

 

 「いっけぇぇぇ!!」

 

 スターライトブレイカーが放たれると同時に黒い何かが私の胸の中心を貫いた。

 

 「えっ?」

 「マスター!」

 

 貫いた黒い何かは私の胸から生える(・・・・・・・・)腕を綺麗に貫通していた(・・・・・・・・・・・)

 

 「キャアアア!!」

 

 何処からか聞こえる悲鳴をよそに私の意識は薄れていって消えてしまった。

 

 

 

 

 san値チェック

 

 フェイト・テスタロッサ 0/1D4

 

 チェック        6 92%

 

 san値減少 6-2=4 不定の狂気 (憎しみの発露 一部の人間に対する憎悪が何時までも何時までも胸にくすぶり続ける)

 

 状態 邪神の行動の謎




分かる人には分かるでしょう。というより分からない人はいるのかな? 作者の独り言でした。


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15話

引っ越し寸前の話だと思ってください。


 あの襲撃者たちから辛くもなのはのお蔭で救出する事が出来、幾日か経って本局の会議室にて彼らを呼び出し、闇の書を伝えていた。

 さて、ここからが本番だ。

 

 「エイミィ」

 「分かっているよ、クロノ君」

 

 空中に投影されたディスプレイには数日前の戦いの場面が出てきている。

 

 「なのはにフェイト、君たちの行動である程度あの少年の行動や思考が分かりつつある。

 唯、少し見て欲しい部分がある。これはもしかしたら七式と御崎の方が分かるかもしれない。君たちと同じように、魔法陣が現れない魔法のような攻撃だ」

 

 そう僕が言うとエイミィが問題の部分を再生させる。

 

 「この時、フェイトの一撃は確かに通用していた」

 

 フェイトの魔力変換資質の雷によってバルディッシュの魔力鎌は電撃を帯びている。喰らえば感電することは間違いない。

 

 「なのはや僕、それに七式や御崎のデバイスにはそう言った電撃に対する対策はされている。だが、彼の腕はそういった機能はなかったのだろう。電撃が付随していることを知らなかったからかそのままあの腕で防ぎ、感電している」

 

 丁度、ディスプレイでは少年が悲鳴を挙げている。

 

 「この時点までは本体と思われる少年には電撃が通じていた。おそらくはあの腕には通用しなかったが、本体であると思われる少年にはこれで攻撃が通用する可能性が出てきた。実際に感電のダメージはあったようだしね」

 

 そして次の場面へ移る。

 

 「だが、今度は違った。フェイトのライトニングバインドは拘束した相手を感電させる効力もある。バリアジャケットが有れば十分簡単に防げる範囲だが、この少年にはそういった守りが無い。それは先ほどの映像からそう推測されている」

 

 バリアジャケットがあればそれこそFランクの魔力量でも防げるほど微量の電撃だからな。

 

 「だが、先ほどとは違い彼にはこの電撃が通じていない」

 「一寸待って! 確かに私のバインドで彼奴は反応していたよ!」

 「それについてだが恐らくは唯引っかかったのが気になったのではないか? 少年の体の反応は電撃が流れたというより、どちらかというと止まったことに対する疑問で反応してしまったような気がする」

 

 そう言うとフェイトは不満そうな顔で渋々引き下がった。やれやれ、説教はしたのだがそれでも止まらないか。気持ちは分からないでもないがそれでも危険すぎる。少年と戦わないようにさせないと。

 

 「さらに、次にフェイトの一撃をあの腕で防いだときには完全に電撃が流れていない事が分かる」

 「確かにな。俺は直接現場を見ていないから分からなかったが、これは見る限りダメージはないな」

 「そうだ。そしてこの少年はおそらくだが、何らかの魔法技術を所持している可能性が高い」

 「何らかの魔法技術? 如何いう事、クロノ君?」

 「それに関しては――」

 「それに関しては僕から説明するよ、なのは」

 

 ユーノが説明したほうが分かり易いだろう。

 

 「良いかい? 僕たちが普段使う魔法はミッド式と呼ばれるんだ。ミッドチルダ周辺で発達したこの魔法は非常に使いやすく、習得もしやすい。特に中距離から遠距離魔法。それと、補助術式に優れている。だけど、魔法技術はそれだけじゃない。中には逆に攻撃的な魔法で近距離が強く対人戦に強い魔法もある。

 その事から考えるに彼の魔法技術は、管理局が知らない魔法技術なのではないかってクロノ達は判断したんだよ」

 

 実際彼の使ったのは魔法以外にはありえないだろう。

 

 「でも、そんな魔法の兆候なんてあったの?」

 「あった。フェイトが言っていたことだが、少年は何かをぶつぶつ呟いていたようだ」

 

 恐らくはそれが少年の魔法だろう。

 

 「二言少年は言っていた。間違いないな、フェイト?」

 「うん。確かに彼奴は二言呟いていたよ」

 「そのうち最初の言葉が電撃に対する防御魔法だろう。そして次の言語が攻撃、或いは何らかの効果を及ぼす魔法と推測される」

 「推測? 攻撃だったらもっとはっきりと分かるだろうし、それ以外の効果をもたらすとしても、どんな効果が及ぶかくらいは分かるだろう?」

 

 御崎が言った言葉通りなのだが今回それは通用しない。

 

 「本来はな。だが、今回は違う。相手の魔法技術のあたりもなく、さらにあんな訳の分からない相手だ。決めつけてかかると危険だ」

 

 僕の説明に納得がいったのか御崎は下がったが、今度は七式が質問をしてきた。

 

 「なら次だ。彼奴の腕について解析は進んでいるのか?」

 「それについてだが――」

 「それは私から説明しましょう」

 

 かあ、艦長が会議の中に判明した事実を伝える。

 

 「あの『腕』ですがフェイトのバルディッシュに付着した遺伝子を調べた結果、たった一つだけ分かったわ」

 「一つ? ミッドの技術ならもっと分かっても?」

 「そうね。それが普通の物質ならね」

 

 そう、あの腕は

 

 「あの腕は科学的に言うと『この世に存在しない(・・・・・・・・・)物質(・・)』よ」

 「え?」

 「言葉通りよ。解析したクルーが激昂していたわ。こんな物質が、成分などあるはずがない! って。そうね、専門家ではないから詳しくは説明出来ないけど」

 

 そこで一旦口を閉じてお茶を飲む。誰もが余りの内容に口がふさがらないようだ。

 

 

 

 えっ?

 

 「この世のものじゃない?」

 

 私の疑問にリンディさんは言葉を選んで答えてくれた。

 

 「厳密に言うとそこに存在しているから間違いなく存在しているわ。けれど、この成分と同じ成分は検出されることはないでしょうね」

 「如何いう意味ですか?」

 「そうね。この腕は有機物であり、無機物よ」

 「ゆ、有機物? 無機物?」

 

 いきなり言われたことがさっぱり分からない。

 

 「簡単に言えば生物であると同時に生物ではないということよ」

 「えっ? でもそれって矛盾してません?」

 「そう。矛盾よ。でも、それが現実。あの腕はそう言った両極端の性質を持っている。通電性はあるくせに絶縁体でもある。異常なまでに剛性があるくせに軟性もある。もはや意味の分からない存在よ」

 

 それは、そんな物が本当にこの世にあるの? 

 話が難しかったから分からない部分はある。でも、幾らなんでも両極端の性質何て。

 

 「だからこそクルーは激昂しているの。科学では絶対にありえない。でも、そこに存在する異様な物。

 だけど、そこが最大の問題じゃないわ」

 

 最大の問題じゃない?

 

 「なのはさんは分かっていなさそうね。結論から考えるとあの少年。彼が生やしたこの腕の成分から考えると彼は人間とは言えないわ。化け物と呼ばれる存在よ。あんまりこういった言い方は好きじゃないけど、此処まで証拠がそろってしまえばそう言わざるを得ないわ」

 

 化け物。

 

 「下手をすれば彼自身がこの腕のようになる可能性もある」

 

 リンディさんの話した内容は私の心を凍りつかせるには十分すぎた。心の中に何かが這い寄って締め付けるようにジワジワと恐怖が浮かんでくる。それが私の意志を鈍らせようとする。

 

 san値チェック

 

 高町なのは 1D6/1D10

 

 チェック  98% 59 成功

 

 san値減少 98-4=94

 

 状態    邪神に迫る魔導師(探究者)たち



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16話

書いている最中に二回キーの操作を間違えて書き直す羽目になった! コンチクショウ!
まあ、楽しんでいただければ幸いです。


 それは余りにも急に表れた。

 俺が世闇とヴォルケンリッターとの戦いに参加しようとした瞬間だった。

 

 「な、んだ、それは」

 「有り得ない……!」

 

 建物と窓ガラスから急に刺激臭がするかと思ったら煙が沸き立ち、そして。

 

 「邪魔をするなと伝えたはずだが?」

 

 その煙の中から彼奴の声が聞こえてきた。

 

 「邪魔をするな。確かにあいつ等は滅ぼされるにふさわしい存在だが、この世界では拙い。ほかの世界で滅ぼせ」

 

 不気味な仮面に、不気味なコート。そして今はあの腕は出ていない。

 

 「フン、指図される理由はない。それにお前のような危険人物を見逃すつもりもない」

 「そういう訳だ。お前のような異分子は消え去れ」

 

 一瞬でデバイス、エルキドゥを展開させる。黄金の鎧に身を包みエアに似た短槍、エルキドゥを構える。俺の横では世闇が闇にまぎれる黒装束に、一振りのナイフを顔の横で構えている。

 

 「さあ、お前一人で如何にかできるか?」

 「できる? それは意味のない質問だ。私には不可能なことはなく、同時に不可能な事しか存在しない」

 

 此奴、言っている意味が滅茶苦茶だ。理屈の通らない狂人か?

 

 「統也、俺が前衛。お前が後衛だ。行けるか?」

 「誰に言っている。俺に任せて突撃でもしていろ」

 

 本当なら相手の出方を見たかったのだがな。それに俺たちぐらいしか此奴を相手できる人材はいない。将来的に考えれば、なのはたちも勝てるかもしれないがあくまでそれは将来だ。

 

 「さあ、終わりだ」

 「覚悟しろ」

 

 構えた武器に呼応するように、彼奴の腕が肩から生えてくる。それは余りにも不気味な、世界そのものをあざ笑うかのように法則を無視して唐突に現れた。

 

 「またその腕か」

 「芸の無い奴だ。せめてほかの攻撃方法くらい用意したらどうだ?」

 

 俺たちの言葉を無視して彼奴は腕を振るう。些か見慣れた感はあるがそれでも宝具の盾を粉砕したこの腕だ。防御はできないから避けるしかない。

 俺は上空へ。世闇は姿勢を低くして掻い潜り腕の一撃を避ける。

 

 「ゲート・オブ・バビロン!」

 「切り裂かれていろ!」

 

 上空から宝具による絨毯爆撃。更には飛来する宝具を足場にした世闇の不規則な動きからの攻撃。これは避けられない。防御に回るしかないだろう。

 

 「やはり!」

 

 推測通り、彼奴は両腕を自身の前に配置して盾とした。

 

 「行け! 世闇!」

 

 一瞬で世闇は軌道を変えて彼奴の背後に回る。そして、

 

 「がぁ!!?」

 

 一輪の血の花が咲いた。

 切り落としたのは左腕。彼奴自身の本体の腕を斬り落とした。

 

 「やはり本体の方には普通にダメージが通るようだな!」

 

 ボタ、ボタタッと勢いよく流れ落ちる血液の音を聞きながら、俺は更に攻撃を加えていく。

 

 「喰らいやがれ!」

 

 放たれていく宝具はAランクかそれに近い物ばかり。一撃でも喰らってしまえば魔導師も葬る事が可能な威力だ。

 彼奴から外れたものはコンクリートを一撃で粉砕し、土煙をもうもうと巻き上げる。

 

 「……っち」

 

 土煙が晴れたらそこには宝具を弾き返しているあの腕が見えた。

 

 「硬いな。Aランク宝具でも無理か」

 

 そこで彼奴の腕は変化した。

 

 「逃げるか!」

 

 腕が変形して翼に変わる。その翼で飛行して逃げるつもりだろう。

 

 「世闇!」

 「分かっている!」

 

 俺は飛行魔法、ヴィマーナを使って彼奴を追い詰める。世闇は足場として魔法陣を生成し、追いかけていく。

 ヴィマーナなら確実に追い詰められるだろうが、出すまでに時間が掛かりすぎるし、こんなビル街という場所では巨大すぎて使いずらい。

 

 「喰らえ」

 

 上空の視界が広がった場所で俺たちを迎え撃つように一組の不気味な腕が空を薙ぎ払ってきた。

 

 「当たるか!」

 「無駄だ!」

 

 俺は飛行魔法を制御して攻撃を避けて、世闇は逆に攻撃を利用して腕を足場にして加速して彼奴に飛びかかった。

 

 「極死七夜」

 

 

 

 何だこれは。

 

 「テスタロッサ、これは何だ?」

 「えっ?」

 

 余りにも腑抜けている。以前よりは魔法の威力も高いだろう。テスタロッサの速度も速くなっている。だが、状況判断は依然戦ったときよりも悪くなっており、一撃一撃が余りにも軽い。

 

 「私の見る目は無かったという事か」

 「何を?」

 「答える必要はない。私が勝手にお前に期待しただけで、ただその期待が期待外れだっただけだ」

 

 正直言って失望している。だが、それは仕方がない。

 依然戦ったときのような澄んだ太刀筋とは違って焦りとイラつきで太刀筋は鈍り切っている。これならすぐに決着はつく。

 

 「終わりに――『ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』――っ! 何だ、一体!?」

 

 その音のした方を向けば化け物がいた。

 

 

 

 

 「ひっ!」

 

 私と、ヴィータちゃん。二人で戦っていた時に目の前に胸からナイフを生やしている彼が飛んできた。

 ポタ、ポタとナイフの隙間から血が滴り落ちている。

 

 「此処で終われ!!!!」

 

 そして、その上空から七式君が彼に飛びかかっていた。

 

 「彼奴、止めを刺す気か!」

 「えっ! ダメ! 七式君!」

 

 そして七式君がのばした腕が彼の頭に触れる前に彼に変化が訪れた。

 黒い腕が彼自身を貫いて見る見るうちに小さくなっていく。黒い何かが葉脈上に広がっていく。

 そして腕が見えなくなったときに七式君の手が彼の頭にかかった。

 

 「これで!」

 

 そして全体重をかけられて彼の首は折れなかった(・・・・・・)

 

 「なっ!」

 「莫迦な!」

 

 七式君と近くにいた御崎君の声が聞こえる。けれど私にはその声が聞こえていても理解できなかった。

 何故なら、私は見てしまったからだ。

 私は彼が俯いていた顔を正面に向けた時に黒い肌で覆われた顔に赤く輝く瞳を。そして、歪に裂けた口。余りにもその不気味な顔を見てしまったからだ。

 一瞬で顔だけではなく体中にその異常は広がっていく。肌は黒くなって更に二つの玉虫色の腕が両肩から肉を引きちぎり飛び出した。

 

 「ひぃ!」

 「な、何だ! 何なんだよ、彼奴は!」

 

 ヴィータちゃんの悲鳴じみた声に答えるように目の前の何かが咆哮を上げた。

 

 『ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

 「きゃああああ!!」

 「うわぁぁぁああ!!」

 

 私とヴィータちゃん。それに御崎君は咆哮で吹き飛ばされた。唯の音だけで。

 

 「がぁ、は、なせ!」

 

 違う。今重要なのはそんな事じゃない。

 私とヴィータちゃん。それに御崎君が吹き飛んだのに一番近くにいたはずの(・・・・・・・・・)七式君が吹き飛んでいない(・・・・・・・・・・・・)

 それは捕まれているから。玉虫色の腕に頭を掴まれて吹き飛ぶことが許されなかったから。

 

 「まさか、貴様!」

 「や、やめ――」

 

 グシャリ

 中身の詰まった西瓜が潰れたような音が辺りに響いた。

 顔が縦に裂けて真っ赤な中身が広がって七式君の頭を飲み込んで……!

 

 「あ、ああ、あああああ! いやああああああ!!!」

 「……化け物め!」

 「くそ、良くも世闇を!」

 

 ぴゅうぴゅうと噴水のように、七式君の頭があった場所から血液が吹き出ている。

 

 「おぇ! ゲホ! ゴホ! ヴォエ!」

 

 何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!!!!?????

 何でななしきくんがしんでいるの? なんで。

 

 「貴様!!!!」

 

 

 

 何だ、アレは。

 

 「彼奴!!!」

 

 テスタロッサは憤怒の表情を浮かべ、あの化け物を睨みつけていた。今すぐにも彼奴を殺したい。そういう瞳で。

 だが、黄金色の鎧を着こんだ奴の攻撃に対する反応を見て、動けなくなってしまったのだろう。なぜなら、

 

 「ビル一つを粉砕するとは(・・・・・・・・・・・)

 

 彼奴は黒い腕で切りかかってきた奴を迎撃した。外れてしまったがその一撃は抑止としては十分だろう。

 唯の一撃。しかも腕という自身の肉体でビル一つを粉砕するなんて真似は決してできない。私も、そしてヴォルケンリッターで一番の破壊力を誇るヴィータでも。

 そんな一撃を喰らってしまえばどれだけ強固な守りも意味はなさない。

 あれと戦うしかないか。獲物を探すように辺りを見回している彼奴に警戒している時にシャマルからの脱出を促す念話が届いた。

 

 「テスタロッサ、ここで終わりだ。次にあった時はお前が敗北する時だ。それが嫌なら私たちに関わるな。ほかの何かに気を取られて私に勝てると思うな」

 「っ! 待て!」

 

 放心しているヴィータを念話で呼び、脱出するための準備をする。

 

 「管理局だけではなく、あの化け物も相手にする必要があるかもしれない」

 

 闇の書の一撃ですべて吹き飛んでいく中、私たちはそれぞれ決めておいたルートで逃走した。

 あの化け物に勝てるのか? 不安が私を襲う。だが、負けるわけにはいかない。主、はやての為にも負けるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 san値チェック

 

 高町なのは 1D10/3D10

 

 チェック 94% 48 成功

 

 san値減少 94-9=85 一時的狂気(緊張症 体が強張り動きづらくなる)

 

 状態   邪神の変貌




因みに化け物はとあるニコニコした動画で有名なクトゥルフ神話trpgにて変身した怪物を参考にしました。


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17話

一日でかきあげる大変です。
三日位更新が止まるかもしれません。ほかの話を進めるのと、話を練るのにしばらく時間が掛かりそうなので。


 「テメエェェェェエエエエエエエエ!!!!!!!」

 

 一気に宝具を展開して撃ちこんでいく!

 黄金色の剣を虚空から飛び出して目の前の化け物に叩き付ける。

 

 『グォォォオオオオオオオ!!!』

 

 咆哮とともに俺の持つ原罪(メロダック)を受け止めた。

 

 『グギィイ!』

 

 その歪に開いた歯で。

 

 「な、にぃ!」

 『ゴォオオオオオオオオ!!!』

 

 そして原罪を歯で噛み砕いた。

 

 「ば、莫迦な! 宝具を!」

 

 そして振るわれた黒い腕。それが俺に迫ってきた時、

 

 「危ない!」

 

 ユーノが俺ごと体当たりでその腕の射線上から突き飛ばした。

 

 「ぐっ! クソ、ふざけやがって! 絶対にこ……ろ、す?」

 

 何だあれは。何が起きた?

 何で目の前でビルが崩れている? まるで発破されたかのように。

 

 「嘘だろう」

 

 風に流れてヴィータの声が聞こえる。

 

 「如何やったら腕で建物一つ粉砕するんだよ!」

 

 ヴィータの叫び声で何があったかを理解した。そして、理解できなかった。

 

 「何を言っている?」

 「逃げよう、御崎! 如何やったってあれには勝てない!」

 

 錯乱したユーノが俺を掴んで叫ぶ。

 それと同時に俺となのはにユーノ。フェイトにアルフが転移魔法で移動させられた。

 

 

 

 

 クソ、クソクソクソクソ!!

 ガン、ガンと辺りに壁を叩く硬質な音が響く。

 

 「何で、何で彼奴が死ななきゃならないんだよ!」

 

 確かに七式とはよく喧嘩した。ジュエルシードを巡る中で戦う事もあった。だが、それでもお互い心の底から嫌っていたわけではないのに。

 何でだよ! 何でこんな事に!

 

 「畜生ぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 「クロノ君」

 「分かっている。暫くはそっとしてやろう。あの二人は良く反目していたが仲は良かったからな。荒れるのも仕方がない」

 

 それは分かっている。けど、あんなことが起きて彼は立ち直れるのだろうか?

 

 「だが、彼が立ち直るまでにしなければならない事が有る」

 「……分かっている。解析だね」

 「そうだ。だが、エイミィ気を付けてくれ。今までの状況からみて、あの怪物を分析して少しでも異常を感じたのなら中止して良い。これ以上、クルーが居なくなっては困る」

 「分かっている」

 

 私がすることは重要だ。そして下手をすればアースラから離れていった隊員たちのようになるかもしれない。

 彼らは今も悪夢や幻覚に悩まされているそうだ。中には後遺症として様々な症状が起きて、精神病院に通院している元隊員たちもいる。

 

 「大丈夫だよ、クロノ君! 私はいつでも元気だから!」

 「……そうか。じゃあ、僕は僕としてあの怪物について対策を立てよう」

 「うん!」

 

 私はクロノ君と別れて彼の画像から解析をし始める。

 一度全体をさっと見て見たけどそれだけ大分つらい。見ているのは唯の画像なのに、まるで目の前で起きているかのように思える。

 

 「うっ!」

 

 こみ上げてきた吐き気を無理やり押さえてもう一度再生する。彼の腕の速度。彼が腕を取組んだ問題の部分。完全な怪物となったその姿。心の奥から沸き立つ恐怖をごまかしながら私は目の前の状態を調べていく。

 

 「……

  ……

  ……

 これで良いかな」

 

 だいぶ情報は集まった。殆ど分からなかったといっても良いけど、それでもあの謎の腕の速度、破壊力、攻撃範囲。そういった情報を揃えている最中だった。

 

 「あれ? これって!」

 

 今まで気が付かなかった。けど、今画像でキラリと何かが光っていなかった?

 

 「もう一度! もう一度今のところ!」

 

 漸く、漸く掴めかけた手掛かりなんだ。絶対に逃がさない!

 コンピューターを操作して解析をかける。何度も引き伸ばして拡大し、荒く大きくなった画像に処理をかけて鮮明にしていく。

 

 「やっぱり! こんなもの見た事ない! これで被疑者につながるかも!」

 

 

 

 エイミィさんが私とアルフ、そしてなのは達を呼び出した。本当だったら特訓をしてもっと強くならなければならないのに。あのバケモノは私よりも速く強い。だから、確実に殺すためにはもっと強くならないと。だから本当は無視しようとした。けど、エイミィさんの声が余りにも真剣だったから此処に来た。

 エイミィさんは普段と違って髪の毛はぼさぼさで大きなクマが出来ていたけど、如何やら興奮しているのか異様な雰囲気だった。

 

 「エイミィ、僕達を呼び出したのは一体何故?」

 「ふふっ、クロノ君。私は頑張ったよ!」

 「はっ?」

 「これをみんな見て頂戴!」

 

 そう言って映し出されたのは彼奴の画像だった。

 ……こんなバケモノなんて死んでしまえば良い。跡形もなく滅んで、全ての生き物から唾棄されて誰の目にも止まらずに消えていけば良いのに。

 

 「エイミィ、その画像が一体?」

 「此処だよ、此処!」

 

 そう言って拡大された部分をよく見るとあのバケモノの胸元に小さなヒトデのようなものがあった。

 

 「これって、お星さま?」

 「そう! なのはちゃんくらいの子はそういうわね。けどこれは地球で五芒星って言われるものに近い物ね」

 「エイミィ? まさかこんな画像で僕たちを呼んだのか? こんなアクセサリー誰だって持っているだろう?」

 

 確かにそうだ。こんなもの誰だって持っている。見つけるための手掛かりにもならないし、特殊な力を持っているわけでもないだろう。

 

 「違うよ。確かに五芒星なら御守りとして持っているかもしれないけど、これは五芒星とは違うものよ」

 「いったいどう意味だ?」

 

 クロノの上げた疑問に私も同意する。エイミィさんが何を考えているのかさっぱり分からない。

 

 「これをよく見て。真ん中の部分に目のようなものがあるでしょう? それに五芒星は全体がすべて均一に描かれるの。それなのにこれはむしろ全体の長さはバラバラだし歪んですらいる。おそらくは五芒星じゃない。そう思って画像をプリントアウトしてからアクセサリー専門店を回ってみたの。こんなアクセサリー知りませんかって」

 「まさか!」

 「そう。誰もそんな奇妙なアクセサリーは知らないって。そんなものがあれば記憶によく残る。そう証言したわ」

 

 それってつまり!

 

 「市販されていない特注品。だからそれを持っているのが被疑者。いや、犯人だね」

 

 そうか。やっと、やっとだ。絶対に見つけ出して殺してやる!

 

 「だが、それを必ず付けているかは分からないだろう?」

 「甘いね、クロノ君。戦いの場に持ってきたという事はそれだけ思い入れのある物か、常に着ける必要性のある物なんだよ。

 私の推測ではこれがロストロギアなんだと思う。管理局では未確認のね。このロストロギアの力であの異常な姿と成ったり、魔法を使っている。そう私は分析したわ」

 「そうか。ならば、彼奴の力の元は!」

 「そう。確かに有り得ないほど強いけど、上手くこの五芒星に似たロストロギアを破壊すれば、捕まえられるかもしれないわ!」

 

 ああ、漸く希望が見えた。今まで手探りであのバケモノを殺す手段を探していた。けれど、さすがアースラのクルー。こんなに簡単に見つかるなんて。リンディさんの娘になった甲斐があった。

 

 「ならば次会ったときはこのロストロギアを破壊すればいいんだな。七式の仇を取ってやる!」

 「殺さないでくれよ。確かに彼は多くの罪を犯している。だからこそ逮捕して罪を裁き、贖罪してもらわないといけない」

 

 あは! あははは!

 待ってて、母さん。貴方を殺した彼奴をこの手で殺して見せるわ! 天国で待っててね。彼奴を殺したらきっとすぐに行くから。そしたら私を褒めてくれる? 労ってくれる? それとも、笑顔を見せてくれる?

 

 san値チェック

 

 エイミィ・リミエッター 1/1D10

 

 チェック        72% 56 成功

 

 san値減少       72-1=71

 

 状態  邪神の手掛かり




フェイトのsan値チェックはこれから公開しません(黒笑)。彼女が如何いった精神状態なのか貴方達(探索者)も考えながら話を読んでいってください。これからは貴方方もsan値チェックをしたらより一層面白いかもしれません。




バレンタインで貴方、女性から幾つチョコを貰えましたか?

探索者はその冒涜的な、拒否すべき汚らわしい現実を突きつけられてしまった!

san値チェック
koth3 ⁺3/1D100

チェック 貰えなかったさ、コンチクショウ!! 自動失敗

san値減少 62-100=0

状態 不定の狂気(バレンタイン、もしくはクリスマスに対する異常なまでの憎悪)


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18話

シグナムと砂漠の戦いが終わった後です。
ちなみに砂漠での戦いのときは主人公君登場しませんでした。後々、理由は明かされますが。


 何で、何で何で何で何何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でで何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でで何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でで何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でで何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で――

 何でこんなにも私は弱い! 倒さなきゃいけないのに! 殺さなきゃいけないのに! 其れなのに彼奴より弱いシグナムに負けた。完膚なきまでに負けた。勝たなきゃいけなかったのに!

 

 「大丈夫、フェイト」

 「うん、大丈夫」

 

 シグナムと無人世界での戦闘に負けてしまい、今は療養のために嘱託魔導師としては活動していない。その分御崎が働いているようだけど。

 その為に学校に来たんだけど、アリサに心配されちゃった。そんなことさせちゃいけないのに。

 

 「でもこの頃アンタ疲れているようだし、本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫、大丈夫だよ、アリサ」

 

 そう。そうつぶやいてアリサは私から離れる。ただ、その時ちらりと見えたなのはの顔は何か不安そうな顔だった。まるで言いたい事が有るけど言えないような。そんな感じだ。

 

 「きゃあ!」

 

 そんななのはの顔に気を取られていたのがいけなかったのだろう。私は曲がり角で歩いていた人に気が付かずにぶつかってしまった。

 

 「す、すみません!」

 

 慌てて謝ったのが相手は唯ぶつぶつと呟いてまるで私がいないかのように、いることを認識できないかのように廊下を歩いていく。

 顔は見えたが酷いクマが浮き上がっていた。夢遊病の患者のようにフラフラと歩いている。

 

 「何よ、彼奴! フェイトが謝ったのに何の返事もしないで!」

 

 アリサが言った次の瞬間、さらに角を曲がった同い年位の男の子が私たちに話しかけてきた。

 

 「あ、おい! 九頭竜! たく、彼奴。あっ、とゴメンな。彼奴も悪気があって無視したんじゃないと思うんだ」

 「今のって、九頭竜君?」

 

 なのはが歩いていたもう一人の少年に話しかける。

 

 「ああ、高町か。そっか違うクラスになったから知らなかったか」

 「知らない?」

 「ああ、彼奴ある時からだんだん様子が可笑しくなってよ。今では何時もあんな感じだ。何処を見ているかは分からない。何時も何か呟いていて壊れちまったみたいだ」

 

 何があったのだろう。

 

 「そ、それって如何して!?」

 「お、落ち着け高町! 俺の首を絞めてる!」

 「あっ、ゴメン」

 

 そう言ってなのは彼の襟元を離した。何であんなに必死になって詰め寄るんだろう?

 

 「でも九頭竜っていたっけ? 去年私とすずかとなのはは同じクラスだったよね? 記憶にないんだけど?」

 「彼奴、あんまり目立つようなタイプじゃなかったからな。何時も隅で本を読んでいるような奴だったから、バニングスが知らなくても可笑しくはないよ。

 まあ、彼奴がああなっちまったのはやっぱりあれなんだろうけどな」

 「あれ?」

 「彼奴の隣の席の奴がな、死んだんだよ」

 

 えっ?

 

 「ほら、海鳴を謎の地震が襲っただろう? その日、偶々高いところにそいつが居たんだろうな。

 高いところから落下して頭が潰れて死んじまった。そいつと彼奴は仲は良かったから特に堪えたんだな。その日からだんだんと彼奴の様子が変わっていちまった。今ではあんな感じだ。いきなり激怒しだしたり、そう思うと無表情で何かを考えだしたりな。後は変なアクセをいじったり」

 

 それってジュエルシードが原因で発生した事件の事?

 

 「九頭竜君、大丈夫なの?」

 「それが、噂だとカウンセリングの先生から精神病院へ通院を進められているらしい。それだけ彼奴は今追い詰められているんだ。だから許してやってくれ! 頼む、彼奴も普段は良い奴なんだ!」

 「わ、分かったから頭を上げなさないよ! 状況が状況だからね。此処でそんな無茶苦茶は言わないわよ」

 

 そうアリサが締めくくると彼は慌ててく、クト、クトゥ? 何だっけ? 確かこんな感じの名前の子を追いかけていった。

 

 

 

 そんな事が有った日、家に帰ったらいきなりアルフが唸りだした。

 

 「あ、アルフ?」

 「フェイト、一体どうしたんだ! そんな臭いをこびり付かせて!」

 

 え? に、臭い? そんなに私臭いかな?

 

 「違うよ! 彼奴の臭いだ!」

 「えっ?」

 

 彼奴? 彼奴。彼奴!

 

 「オェ! ゲホ、ゴホ!」

 

 気持ち悪い! 私は彼奴の臭いがこびり付いた制服を着ていた!? 吐き気に耐えきれずにフローリングに吐瀉してしまう。

 

 「だ、大丈夫かい、フェイト!」 

 

 アルフの声を無視して私は制服を脱ぎ捨てる。こんな気色悪い服なんて着ていられない!

 

 「だ、大丈夫、アルフ……!」

 

 待って、何で彼奴の臭いがしたんだろう? 私は今日学校しか行っていない。だから彼奴の臭いが付着するはずがない。それにこびりついているという事は私と接触したっていう事? 何時、何処で?

 

 「あっ!!?」

 

 そうだ。彼奴! 私がぶつかったあの男! 

 

 「アルフ、その臭いは私の体の前からした!?」

 「え、う、うん。そうだよ」

 

 そうだ。だとしたら彼奴しかいない。それに彼奴の近くにいた男の子が言っていた! 彼奴は変なアクセサリーを弄っていたって!

 

 「フ、フェイト?」

 「大丈夫、アルフ。少しだけお願いがあるんだ」

 

 うふふ、大丈夫。唯この事を少しだけ忘れてもらうだけだから。

 

 

 

 san値

 

 高町なのは 1/1D10

 

 チェック 85% 79 成功

 

 san値減少 85-1=84

 

 状態 発覚する邪神の正体

 




なのはのsan値チェックはジュエルシードでの死者を突きつけられてしまった事によるものです。また、知り合いがその所為であそこまで変わってしまったという事が、深く心を傷つけたからです。


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19話

うあはははは! 連続投稿じゃ!
作者が気に入っているtrpgの作品がニコニコで更新されていたのでそのテンションで書ききってしまいました。因みに、この作品の参考にしているものの一つでもあります。皆様もぜひ一度見てください。これぞ、恐怖! そう思わずにはいられない作品です。o-kuma様の『二人でクトゥルフ!』とその続編の『わたしのクトゥルフ!』という作品です。丁寧な作りでtrpg初心者でも分かり易く、シナリオも秀逸です。


 何が、起きているの?

 

 「ふ、封鎖結界!!」

 

 御崎君が魔法を使って何かしている。多分、この教室を隔離しようとしているのだろう。この血にまみれた教室を(・・・・・・・・・)

 

 「あは、あはは、あははははははははは!

 見て、見ていた? 母さん! やったよ! 私はやったよ! 母さんの仇を討ったよ!」

 

 床に転がっているのは九頭竜君。体をばっさりと斬りつけられて、今もなお血をどくどくと流している。溢れだした血が私の足に……!

 

 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 何で! 何で!? 嫌だよ、死なないで九頭竜君!!」

 

 血を流して倒れている九頭竜君にしがみつく。

 

 「レイジングハート! お願い、九頭竜君を助けて!」

 「……マスター、此処では不可能です。私も、マスターの資質も治癒魔法は使えません。急いでアースラへ転移させないと処置も間に合わないでしょう」

 

 なら、なら急いで転移魔法を!

 

 「畜生! なのは! ソイツをアースラに連れて行って治療しろ! 俺はこの光景を見た他の生徒への記憶の処理と、フェイトの捕縛をする!」

 

 頷く暇も惜しい! すぐにレイジングハートの登録されている座標を使い、転移魔法でアースラへ直接転移する。

 

 「しっかりして! すぐ、すぐ治療してもらうから!」

 

 私は必死に、血だらけになりながら九頭竜君を運んでいく。

 

 「なのは! これは一体!?」

 「あっ、お願い! 助けて、クロノ君!」

 

 アースラの廊下を偶々歩いていたクロノ君に手伝ってもらって、九頭竜君は集中治療室へ運ばれていった。

 

 「これで何とかもつだろう。なのは、少し休んでいて欲しい」

 「嫌、此処に居る」

 「……普段ならまだしもそんな顔色の君を此処に居させるわけにもいかない。休んでいるんだ」

 

 そう言ってクロノ君は私を仮眠室へ連れて行く。

 

 「嫌、嫌! 放して、クロノ君! 私は!」

 「落ち着くんだ、なのは! 僕が見ておく。何かあったら君に知らせるから今は少しでも休んでおけ!」

 

 強く言われた言葉に納得してはいないけど、それでも従った。今の私には何もできないのだから。

 

 

 

 

 ふと気が付いたら、もうかなり長い時間が経過していた。

 

 「あれ? 何で私アースラに?」

 「おはようございます、マスター」

 

 レイジングハートの言葉を聞いたら、ぼんやりとしていた頭が動き出した。

 

 「あっ! レイジングハート! 九頭竜君は! 九頭竜君は如何なったの!!?」

 「落ち着いてください、マスター。彼は無事です。一命は取り留めました。そして彼についてはリンディ艦長から話があります」

 

 リンディさんから?

 

 「それは?」

 「いつもの会議室です」

 「分かった。ありがと、レイジングハート」

 

 私はこの時知らなかった。私が知っていた世界は本当は何も知らなかったことを。

 

 

 

 「来たようね、なのはさん」

 「あ、リンディさん。あの、彼は、九頭竜君は?」

 「それは今から話します。皆揃ったわね?」

 

 今、この場にいるのは私にリンディさん。それにエイミィさん、クロノ君、ユーノ君、それに御崎君だけ。

 

 「最初になのはさんに伝えておくわ。彼、九頭竜君は一命は取り留めたわ」

 

 その言葉に私は安心して床に座り込んでしまう。

 

 「良かった、良かった!」

 

 安堵の余り涙が出てくる。

 

 「けど、事態はそんな単純な話しではなくなったわ」

 

 え?

 

 「今、アースラ内では二つのグループに分かれている。それは彼を殺すか、それとも生かすか」

 「な、何で! 何で九頭竜君が! 何も悪い事を!」

 「少なくとも、はっきりしている罪状は公務執行妨害、そしてプレシア・テスタロッサの殺害だ」

 「なのは、落ち着いて聞け。彼奴は、俺たちを襲っていた仮面の少年だ」

 

 そんあ、ウソ。ウソだよ。だって、彼は何時も教室の隅でおとなしく本を読んでいたような人だもん。そんなことできるような人じゃない。

 

 「そして(・・・)これは僕達アースラにいる(・・・・・・・・・・・)すべての人間の共有認識だが(・・・・・・・・・・・・・)彼は人間じゃない(・・・・・・・・)

 

 私は何も考えたくなくなった。

 

 

 

 ……。フゥ、少しお話する必要性がありそうね。

 

 「クロノ執務官。あなたはこのまま会議を。私はなのはさんに事情説明を行います」

 「……分かりました、艦長」

 

 私はなのはさんを連れて休憩室へ向かう。

 

 「なのはさん、貴方は何が飲みたい?」

 「……」

 「そう、飲みたくないのね。

 なのはさんにとって信じたくはないのでしょうけど、彼は少なくとも人類じゃないわ。体の中央を大きく斜めに走る傷。成人男性でも間違いなく死ぬでしょうね。なのにそれでも彼は生きている。それだけじゃないわ。彼の中身は異常だわ(・・・・・・・・・)

 私が報告された限りだと、彼の皮膚はゴムのような感触でありながら、革のように強靭だったわ。それだけじゃない。脳は合計二十個。大きさはバラバラで幾つもの場所に分かれていた。内臓機能はさらに異常。心臓は四つ。一つ一つの筋肉はまるで鯨の心筋と間違えるほど太く、強いのに動いていない。最初から心臓が動いていないのに生き続けていたわ」

 「……」

 

 反応はないわね。

 

 「ねぇ、なのはさん。これはあくまで私たちが知っている彼よ。このままなら私たちは彼を処分しなければならなくなるわ。こんな異常な生物は生かしておけないから」

 「!」

 「それが嫌なら貴方が知っている彼を教えてくれないかしら?」

 「……」

 

 ……ダメかしら。そう思った時だった。なのはさんはポツリと呟いた。

 

 「……れは、彼は、何時も優しく私たちを見ていました」

 「え?」

 「私には信じられないんです。彼が人を襲うなんて。だって、何時も九頭竜君は私たちを温かく見守っていてくれた! クラスで困っている人がいると真っ先に気が付いて、『大丈夫?』って聞いてくれた! 私が足をくじいた時も何も言わずに、背負って家まで運んでくれた! そんな彼が、彼が、人を殺したなんて信じられないんです」

 「そう、そうなのね、なのはさん。

 ……少し今の状況を話しましょう。あの子は治療室にて怪我の様子を見ながら幽閉しているわ。下手なことをすればすぐに処理できるようにしておいて」

 「……!」

 「けど、彼が下手なことをしなければそのまま。上手くすれば彼は助かるかもしれない。

 とはいえ、それでも罪は償ってもらわなければならないわ。あの子の体にはエイミィが言っていた、五芒星があった。それはフェイトの斬撃で半分に割れて、周りの肉に焦げ付いて剥がれなくなってしまったけど。その証拠から考えるに、かれは犯罪者であることは間違いないわ」

 「……はい」

 「そして、次にフェイトよ」

 「! フェイトちゃん、そう言えばフェイトちゃんは!」

 「拘束して拘置所よ。彼女は仇とはいえ、決してしてはならない手に出てしまったわ。私たちはフェイトも捕まえる必要があったの」

 

 けれど、恐らく今度はもう二度と私たちの元には戻れないだろう。執行猶予期間中の殺人未遂。それに、なによりも彼女の裁判は行われない。彼女はこのまま精神病院行きだろう。彼女は壊れてしまっている。

 

 「フェイトの捕縛と同時に、御崎君の先祖代々所有する道具で、学校関係者への記憶処理は行われたわ。凄惨な状態はごまかして、すぐに処置をしたわ」

 

 これで少なくとも、あの光景を見てトラウマとなった子などは出てこないだろう。

 

 「これから私達、管理局は彼の家へ突入するわ。そこで出てきた証拠で彼の今後が決まるわ」

 

 うなだれたなのはさんを見ながら、私は牢の中にいる私の娘を想う。何故、気づいてやれなかったのだろう? あの子があれだけの感情を隠していたとわ。犯行を行うまで、アルフから情報は伝えられなくして。さらにはバルディッシュに機能制限をかけて、ただ所有者の言う事しか実行しない唯の機械にまで変えて実行してしまった。

 私はいつから間違ってしまったのだろう?

 

 

 

 san値チェック

 

 高町なのは 1D10/1D20

 

 チェック 84 99 失敗

 

 san値減少 84-12=72 一時的狂気(フェティッシュ 周りの人物に対する執着)

 

 状態 露見した邪神がもたらしてきた傷跡

 

 




うん。もう言い残すことはない。作者がやりたい事はほとんどやった! あとはA`s完結まで突っ走るだけです。
因みに、邪神が怪我をするわけが! そう思われる方の為に、過去に主人公の体自体には普通に攻撃が喰らうという点、そして完全にエルダーサインが壊れていない点。さらに、フェイトの斬撃が殺傷設定で放たれていたため、ダメージを喰らって行動不可能状態になりました。trpgでならばconが1です。


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20話

風邪ひきました。その為本来なら昨日書き上げて投稿する予定が今日になりました。いまも少しだるいのですが。皆様もお体に気を付けてください……。


 12月24日、アースラ内で現在治療および、監視を受けている被疑者の自宅を強制捜査する許可が下りた。

 

 「此処か」

 

 俺はこの家に入って生きて出てこれるかは分からない。それでも、誰かはしないといけないのだ。あのような危険な存在を許すわけにはいかない。だからこそ、俺は死を覚悟してこうして捜査隊に志願した。

 

 「それでは結界を」

 「分かっている」

 

 もう一人の男が結界を展開する。本来ならこんな少人数での捜査なんて行われない。しかし今回は有事の際に最小の犠牲で済むように二人だけだ。小隊ですらもっといるというのにな。だが、他の奴らの危険が減っただけで良しとしよう。

 

 「良し、終わったぞ。これで周辺住民は何があってもここには近寄らないし、気づくこともできない。それと、何かあったらすぐに出てこい。被疑者の証拠探しも大切だが隊員の命が最優先だ」

 「何、証拠を見つけたらすぐに出てくるさ。安心しろ、すぐに決定的な証拠を見つけてくる」

 

 そうさ、何弱気になっているんだ。生きて帰る。死ぬ覚悟はしたが、死ぬつもりはない。

 扉にかかっている鍵を魔法でこじ開けて侵入する。中はカーテンが閉められ、明かりが無いために真っ暗で何も見えない。

 此処で証拠を見つけなきゃならないんだ。見つけて、こんな凄惨な今を直すんだ。

 

 

 

 風が吹く中、私は目の前の三人を睨む。病院の屋上で私は偶々遭遇したヴォルケンリッター達と向かい合っている。このままだと大変なことが起きる。だから話をしたい。けど、その為には。

 

 「邪魔をするな!!」

 

 レイジングハート、お願い。

 

 『デバインシューター』

 「なっ!」

 

 ヴィータちゃん、シグナムさん、それにもう一人。けれど、私は躊躇ちゃいけない。

 

 「私は見てきた。何も話をしないから起きた悲劇を。フェイトちゃんも、苦しんでいた。だから、私は無理やりでも良い。悪魔と罵られようが、それ以外の言葉で罵られようとも、私は貴方たちと力づくでも話をする!」

 

 今まで何の話もしないで悲劇は起きた。だから、それを止める。その為なら私は暴力だって使う。そうしなければもっとひどい事が起きるときだってある。それを私は知ったから。

 

 「だから、無理やりでも聞いてもらう! 貴方達は闇の書を完成させようとしている! けど、それは違う! 完成させたらはやてちゃんが危ないの!」

 「ふざけんな! そんな言葉信じられるはずがないだろう! 闇の書が完成したらはやては救われるんだ!」

 「なら! なら如何して、如何して『闇の書』って言うの!? 本当の名前である『夜天の書』って言わないの!!」

 「や、てんの……しょ?」

 

 やっぱり、やっぱり分かっていなかった。

 

 「夜天の書は改悪されて、闇の書になった! そして闇の書は完成したら主を魔力タンクとしか扱わない! はやてちゃんは救われない!」

 「そ、そんな、そんな訳があるか! 闇の書ははやてを、はやてを救うんだ!」

 「そんな事は起きない! 闇の書は完成したらその世界を破壊するまで止まらない!」

 

 分かって! 分かってほしい! 

 だけど、その願いは叶わなかった。

 

 「たとえそうだったとしても、私たちに残されたのはこの手段しかないのだ。恨むなら恨んでくれ。高町。ヴィータ、止まる必要はない。主の為に、今止まる訳にはいかないのだ」

 

 

 

 

 暗い部屋、しかし明かりはつくようで、俺は手探りでスイッチを探した。カチッという軽快な音ともに、その部屋は照らし出された。

 

 「な、何だこの部屋は!!?」

 

 壁という壁に赤いペンキで文字が、数式が書きなぐられている。それは部屋の壁だけではなく、家具にも書きなぐられている。

 

 「一体此れは?」

 

 数式をなぞりながら見てみると何かの証明のようだ。この世界で使われているアラビア数字だけでは無く、楔で削ったような形もあれば、絵で描かれている文字もある。

 あまりにも統一性のないその数式は、見ているだけで不安を浮かべるには十分だ。

 いくつか散らかっている紙を手に取ると、そこにはやはり訳の分からない数字が羅列している。

 

 「訳が分からない。一体此れは何を表しているんだ?」

 

 証拠品として一応回収しておく。もちろんこの数式もデバイスで撮影しておいている。

 

 「他に何かないか?」

 

 これだけではないだろう。俺はそう考えると魔法を使ってこの建物を調べる。デバイスが空気の流れから、秘密の抜け穴などを探してくれる魔法だ。証拠を集める際にこういった魔法があるのとないのでは結果が全然違う。

 

 「ビンゴ」

 

 デバイスから表示されている情報によると、地下室の存在する可能性が高いという結果が出た。

 デバイスの情報から判断して、地下室へつながるのはキッチンの所のようだ。

 

 「これか」

 

 キッチンの床には良く見ると、わずかに切れ目が奔っていた。床を触ると取っ手があり、それを引っ張ると地下へ続く道が見える。

 

 「……」

 

 暗い地下道をゆっくりと進んでいく。生臭い臭いに、薬品のにおいが漂ってくる。その臭いは嗅いでいるだけで、鼻が曲がりそうになるほどの悪臭がする。

 地下室に降りた俺は目の前に広がる光景に驚愕した。

 

 「何だ、この空間は!?」

 

 まるで、まるでうわさに聞く無限書庫と同じ。いや、それ以上の広さがあるんじゃないか? しかも、

 

 「これほどの技術は管理世界でも見たことはない」

 

 目の前にある祭壇と思わしきもの。しかし、祭壇に使われている技術は管理局でも再現不可能だ。有り得ない程に細い金属の棒。それを複雑に歪めてまげて、メビウスの輪を作り出している。

 

 「だけど、この部屋は何を祭っていたんだ?」

 

 祭壇の上には何もない。何かを祭るから祭壇なのに、此処にはその祭る対象が無い。唯、ぽっかりと空いた空間があるだけだ。

 この部屋以外にも様々な部屋がこの地下にはあるようだ。

 

 「此処は、……何かの実験室か?」

 

 フラスコやビーカー。はては様々な薬品が並んでいる。

 

 「これは何だ? 見たこともない道具だが?」

 

 学生の頃、科学の授業では使わなかったような専門的な道具が幾つか転がっている。如何やらこの部屋には特に証拠となるようなものはないようだ。

 

 「此処は、開かない」

 

 先ほどの部屋の対角線上にある部屋を開けようとしたが、びくともしなかった。魔法を使ってもびくともしない。

 

 「此処はあきらめるしかないか」

 

 そして違う部屋を開けるとそこには恐ろしい答えがあった(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 san値チェック

 

 隊員A 1D10/1D100

 

 チェック 45 62 失敗

 

 san値減少 45-44=1 (不定の狂気 失声症)

 

 状態 進んでいく世界

 




フェイトがいないのでなのはさんかなり危険です。また、作中でもありましたが、話をしないがゆえに今まで起きた悲劇を無くしたいと思っています。だからこの作品では無理やりでも話をしたいという考えです。


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21話

今回会話が多いです。
それと、前回の話で一つ謝罪があります。隊員Aは失語症になったと書きましたが正しくは失声症でした。申し訳ありません。この話を投稿した際に、直しておきます。


 上空から迫るハンマーを、角度をつけたプロテクションでそらす。さらにそのハンマーの陰から迫った鞭のような形状の剣を、今度はデバインシューターで弾き返す。

 

 「今度はこっちの番!」

 

 体の流れているヴィータちゃんに、バインドを仕掛ける。それ自体は察知したシグナムさんにすぐに切られてしまったけど、これでシグナムさんに隙が出来た。

 

 『ディバインバスター』

 

 ガシャと言う音ともにカートリッジが排出される。カートリッジの中の魔力が、ディバインバスターをさらに強化してくれる。

 

 「撃ちぬいて!」

 

 そして目の前が私の魔力光であるピンク色一色に染まり切った瞬間、それは起きた。

 

 「えっ!?」

 「なっ!」

 「何だと!」

 

 私の体はバインドで縛られていた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「ぐう!」

 「ぅ!」

 「あっ!」

 

 そして、私と同じように縛られている三人。何で? これは彼女たちのバインドじゃないの?

 

 「長い間はもたないか。早いところ済ませるぞ」

 

 声が響く。この声は。

 

 「あの時の!」

 

 私がバインドで縛られる中、振り向くと二人の仮面をかぶった男の人がいた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 そして一人が手をかざした瞬間、その手の前には闇の書が開いていた。

 

 「何時の間に!」

 

 シャマルさんの叫びを無視するかのように、闇の書は黒く、紫色に輝く。

 

 「最後のページは闇の書の守護者がなる。それは――」

 「なら、ページを増やす前にその正体をさらしな。世界を喰らう狼を縛りし魔法の縄(グレイプニル)!」

 「「なっ!」」

 

 一瞬で一本の縄が二人を絡み取り、縛り付ける。

 

 「これは、御崎君!?」

 「悪いな、なのは。彼奴を監視していたんだが、彼奴の家を捜査していた隊員一名と連絡が取れなくなってな。それでなのはと連絡しようとしたんだが、念話の妨害をされているのが分かってこうして俺が来たわけだ」

 「貴様! 邪魔をするつもりか!」

 「ああ、そうだ。安心しろ。壊れたものを修復する道具はもっている。例えそれがどれだけ凶悪なものだとしてもな。だからお前たちは邪魔だ。だからその正体をさらして、クロノに絞られていろ」

 

 その言葉とともに、彼らに変化が訪れる。

 

 「「っ! この感覚は!」」

 

 彼らの体を光が覆い、体が変化していく。そして、その変化が終わるとそこにいたのは。

 

 「ロッテさん、アリアさん!!」

 「っく!」

 「っ!」

 

 顔をそらして俯く二人。

 

 「ロッテ、アリア。君たちを逮捕する」

 「クロノ!」

 

 そしてそんな二人を辛そうにしながらも、睨みつけているのは転移してきたクロノ君だ。

 

 「御崎、君が言っていた道具については目を瞑る。今までしてきたように。だから、闇の書は、闇の書の悲劇は終わらせてくれ」

 「安心しろ。俺が終わらせる」

 

 クロノ君は二人をバインドで縛ってからどこかへ転移してしまった。

 

 「さて、さっさと闇の書を治す。そうすればもう七式のような犠牲者はでやしない」

 「御崎君……」

 

 そうか。御崎君は七式君の事を。

 

 「おい、ヴォルケンリッター」 

 「……何だ」

 

 シグナムさんが御崎君を睨みつける。

 

 「ふぅ、さっき俺の言っていた言葉は聞こえなかったのか? お前たちは救ってやる。そして、お前たちの主も救ってやる」

 「なっ!」

 「その代わり」

 「何でも良い! 私たちに出来る事なら何でもやる! だから、だからはやてを救ってくれ!」

 

 今まで黙っていたヴィータちゃんが叫びだす。ヴィータちゃんにとって、それは最後のチャンスなのだろう。だから必死になって、叫んでいる。

 

 「お前たちは罪を償え。お前たちが襲った相手全てに頭を下げて許しを乞い、残りの生涯を償って過ごせ。それが俺の出す条件だ」

 「する! するから! だからはやてを助けてくれよ!」

 

 必死の叫び。そしてその叫びに答えるかのように、御崎君の背後から一つの真っ赤な石が出てくる。

 

 「これは『賢者の石』だ。ただの水を不老不死の妙薬である命の水へ変える事も、非金属を貴金属へ変える事もできる錬金術の秘法の一つだ。これを使えば闇の書の歪みだって直せるだろう。これは現存する物質全てに対する強制的な支配権を持つ概念道具だ」

 

 賢者の石って私でも聞いた事が有る。でもそれっておとぎ話の中の物じゃなかったの?

 

 「それを使えば主は」

 「助かる」

 「分かった、私たちはお前の要求をのもう。だから主を救ってくれ」

 

 その言葉を聞くと御崎君は石を本に近づけていく。

 

 「これで、これではやては救われるんだな」

 「ああ。だからお前はそこで見てろ」

 

 そうして、石が本に当たる瞬間、

 

 「っな!」

 

 バチリという放電音とともに、石が砕け散ってしまた。

 

 「御崎君!!?」

 「一体、何が!?」

 「莫迦な! 闇の書が完成しただと(・・・・・・・・・・)!」

 

 空中で放電していた闇の書は、すぐさまこの場から消える。一体何処に?

 

 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 その答えはすぐにわかった。眼下からはやてちゃんの悲鳴が聞こえたからだ。

 

 「はやて! お前何をしたんだよ!」

 「何もしていない!」

 「嘘をつけ! じゃあ、何ではやてが悲鳴を上げているんだよ!」

 

 ヴィータちゃんがバインドを力づくで引き裂いて御崎君に掴みかかる。

 

 「分からない! だが、賢者の石が力を発揮する前に闇の書が反応したんだ!」

 「そんな訳が無い! まだ六十ページ以上未完成だったんだぞ!」

 「だとしても、それが事実だ! 闇の書は急に完成した! そしてその結果、はやてに何かが起きた!」

 「そうだ、はやて! はやてを!」

 

 そこまでヴィータちゃんが言ったとき、私たちを一つの影が覆った。

 

 「その心配はない。守護者たち」

 「え?」

 

 私たちの上には一人の女性が飛んでいた。黒い翼を広げて、赤い目をした銀髪の背の高い女性が。

 

 「ば……か、な」

 「すまない、お前たち。私は今からこの文明を滅ぼしてしまう。頼む、逃げてくれ。それか私を、私と主を殺してくれ」

 

 何が起きているの? 何で貴方はそんなに悲しそうなの?

 

 「てめえ、誰だ! それに私たちにはやてを殺せだと! ふざけているのか!!」

 「私には名前はない。だが、闇の書の根幹であり、防衛プログラムに汚染された管理プログラムだ。そしてふざけていない。このままでは主の望まない虐殺が起きてしまう」

 「管理プログラムだと? それに虐殺?」

 「そうだ。闇の書が夜天の書だったころから存在したプログラムの一つであり、主のサポートをしていた最も古い騎士だ」

 

 彼女は悲しそうにつぶやく。

 

 「だが今は変わってしまった。あの科学者の所為で(・・・・・・・・・)

 彼奴にそそのかされて、夜天の書を闇の書へ変えてしまった過去の主の所為で!

 私は一度起動してしまえば文明を破壊し尽くすまで止まることはできない。だがそれは本来闇の書が完成してからの話。今回は違う。今回は彼奴の意志が加わっている。過去の主をそそのかして、私を闇の書へと改悪させた彼奴の力が。私にはその力に抗うだけの力はない。そしてその力はどんな生物も持っていない。だから、頼む。私を、主を救ってくれ」

 

 そう彼女はつぶやき、赤い目から一粒の涙を流して、変わっていく。

 最初の変化は瞳だった。紅かった目は黒く濁る。翼はさらに巨大化していき、彼女よりもはるかに大きくなっていく。

 

 「頼む、主を救ってくれ」

 

 それが彼女が残した言葉だった。

 

 「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 




san値チェックはなしです。
原作とかなり変わってきました。ヴォルケンリッターが無事だったり。でも統合性を考えるとこうするしかないんですよね。そして意外なナイスプレーとして、隊員A。彼が連絡を取れなくなったと発覚しなかった場合、なのはフルボッコでした。
因みに作中で世界ではなく文明と表記した点に関してですが、そもそも魔力や科学で動く技術程度で世界が如何にかできないと思うのですよ。だって、魔力も科学も世界の一部なんですから。世界の一部の一部が暴走したからと言って、世界は崩壊する訳が無い。それが作者の考えです。これって原作の設定無視していますが。


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22話

因みに原作だといたすずかとアリサは普通に家に帰っています。ですのでこの戦いには二人は登場しません。というより出たらもっと大変なことになってしまいます。
話が長すぎて分かりづらくなってしまいました! ですので???状態になられるかもしれません。


 何が一体起きている!? 

 無印の時から原作は崩れ去ったようなものだが、今回は今までと規模も、原因も違いすぎる!

 黒い巨大な翼を広げて、リインフォースが俺たちを押しつぶそうとするのを全員が回避する。

 

 「何て威力だよ……!」

 

 回避しきった後に、今までいた場所を見ると隕石が直撃したかのようにえぐれ、瓦礫の山となっていた。

 体に乗った瓦礫をガラガラと落としながら、リインフォースは飛び立ってこちらを見てくる。

 今の動きからみてゲート・オブ・バビロンは通用しそうにない。速すぎて当たりそうにない。ならば残された手段は。

 

 「ぉおおお!!」

 

 接近戦による高速戦闘。接近戦において、最高速度は確かに重要だがもっと重要となる要素がある。それは小回り。

 巨大化しすぎた翼によって今のリインフォースは細かい動作がほとんどできていないだろう。その結果があの無様なまでの突進だ。小回りの利かない体だから最高速度での突進で押しつぶす。そう判断したんだろう。

 

 「こちら御崎。アースラクルー聞こえるか?」

 『こちらアースラ! 御崎君、聞こえるよ!』

 

 丁度良い! エイミィか!

 

 「アレの状態が知りたい。それになのはが言っていたはやてという子は助けられるか? それとあの猫姉妹に聞いておいてくれ。闇の書にあんな機能があったのかってな!」

 

 取り出したのは最強の聖剣ならぬ最強の魔剣、グラム。これならリインフォースとの戦いでも耐えられるだろう。

 

 『分かった。時間を頂戴。タイムリミットまでに片を付ける』

 

 そこまで聴くと俺は念話を切って、目の前の相手と向かう。今までの経験が騒いでいる。超直感なんてないが、それでも今のリインフォースは彼奴と同じ嫌な感覚がする。油断すれば死ぬ。

 

 「待てよ! お前何するつもりだよ!」

 

 だが、目の前には赤い騎士がいた。

 

 「はやてに、はやてを傷つけるな!」

 「……そいつはもはやはやてとは言えない」

 「それでもはやてだ! 変わり切ったとしても私達の主、八神はやてだ!」

 

 クソ! ここにきてはやてと闇の書の騎士たちの絆が最悪な形で出てきたか! 

 ヴィータの叫びに他の守護騎士たちも立ち上がり、リインフォースを守るように並ぶ。

 

 「そうだ。我らが主を守る。それが騎士の務め」

 「はやてちゃんを助ける。それにはこうするしかないの」

 

 畜生! はやてを救うためにも時間を稼がなければならないのに、これではこいつらごとやられる!

 

 「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

 咆哮を上げながら、リインフォースは翼を最大まで広げて突進準備に入っている。

 

 「くそ! 避けろ!」

 

 せめて、一人でも良いから助けようとエルキドゥを使うがそれはシグナムに切り落とされてしまう。

 

 「テオラァアー!!」

 

 リインフォースが突撃した瞬間、青い影が現れて三人をまとめて吹き飛ばし、自身もまた逃げ出したのが見えた。

 

 「ザフィーラ!? いきなり何を!?」

 「それはこちらの言葉だ、ヴィータ。感情を捨てろとは言わん。しかし、現状を認識できなくなるほど感情を高ぶらせるのはお前の悪い癖だと何度言った?」

 「そ、そんなことよりも、はやてが!」

 「そうだ。我らが主を救うには私たちの力では不可能。主を救うには管理局の力が必要だ。シグナム、シャマル。お前たちもお前たちだ。ヴィータの焦りから現状把握が出来なくなってしまい、下手をすれば今ここで主を救う手段がなくなるところだったのだぞ?」

 「っつ、すまん、ザフィーラ?」

 「ゴメン」

 「分かれば良い」

 

 そう言ってザフィーラはこちらを振り向き、俺となのはに叫ぶ。

 

 「管理局の隊員よ。我らは投降しよう。その代わり、主を救って欲しい。その為ならいくらでも手を貸す。だから、頼む」 

 「大丈夫だよ。アースラで今、皆が頑張って解析してくれている。すぐにはやてちゃんを救う方法が見つかるよ」

 「そのためには時間が必要だ。お前たちには時間稼ぎをしてほしい。敵は最高速度任せの突進しかしてこない。しかも一度使ったら再度使うのに時間が掛かる。方法は二つ。突進を避けて、時間を稼ぐ方法。もう一つは、接近戦で相手を封殺する事」 

 「分かった。前者の案よりも、このメンバーだと後者の案が適しているだろう。私とヴィータ、それにザフィーラが主を引き付ける」

 「待て、そしたら俺は?」

 「お前は後方で守りを固めていてくれ。お前は察するに接近戦よりも後方からの殲滅攻撃にスキルが偏っている。ここで無理に前に来られて落とされたら主を救えなくなるかもしれない」

 「分かった」

 

 そこまでヴォルケンリッター達と話をしていたら、後ろで彼奴がまた突っ込んだ建物を破壊しながら翼を広げ始めていた。

 

 「行くぞ!」

 「分かった!」

 「ああ!」

 

 シグナム、ヴィータ、そしてザフィーラが彼奴にまとわりつくように飛びながら攻撃をしていく。だがリインフォースはそれに対して反撃する事すらせず、煩わしそうに体を振るばかりだ。

 そしてシャマルは後ろから三人の援護を始めていく。こうしてみると後方支援としてシャマルが用意された理由が良く分かる。現場の状況把握能力の高さ。判断能力に決断力。そういった力はヴォルケンリッターの中でもトップクラスだし、強化魔法などで前線メンバーをより強くしていく。

 今のヴォルケンリッターならかなりの時間は稼げる。それに、

 

 「突き刺さって動けなくなっていろ!」

 

 あの巨大化した翼に宝具を振り下ろしていく。胴体は三人が攻撃しているから狙うわけにはいかない。胴体を攻撃したら三人を巻き込むかもしれない。しかし、翼は別だ。翼なんてあの三人は鼻から狙ってなんかいない。ならばこそ攻撃個所として有効。さらに、

 

 「gggggggggiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!!」

 

 翼を宝具が貫通して、釘を打ち付けられたような状態になった。

 

 「今だ、なのは! ディバインバスターで縫い付けろ!」

 「うん! みんな離れて!」

 『ディバインバスター』

 

 レイジングハートをなのはが向け終わる前に、三人はその場を離脱する。三人が居なくなったことと、俺の攻撃を危険と判断したのかこちらを向いたリインフォース。だがそれは遅すぎる。

 

 「いっけぇえええ!!!!!!」

 

 淡いピンク色の光がリインフォースを飲み込んでいく。そしてその衝撃でリインフォースは身動きが取れなくなった。

 

 「宝具の中でも最大重量の物に押しつぶされろ!」

 

 取り出すのは一つの柱。しかし、これは唯の柱じゃない。かつて海の嵐を鎮めた柱。しかしとある岩猿によって棍として使われた宝具。

 

 「伸縮自在な鎮めの柱(にょいきんこぼう)!」

 

 出現した際は唯の棒だったものが空中で巨大化してリインフォースを押しつぶす。そして、地面にリインフォースを叩き付け、宝具の杭を打ち付ける。

 

 「これで動けまい!」

 

 いくら凄まじい力があったとしても、八tとも言われる如意棒を支えるだけの力があるはずがない。しかも重力による加速も考えれば。

 

 『聞こえる?』

 「聞こえるぞ!」

 

 そうしてリインフォースを縛り付けるのに成功すると、エイミィから連絡が来た。

 

 「はやてちゃんを助ける方法が分かったの?」

 『うん。アースラクルーの解析能力を甘く見てもらっちゃ困るね。分かった事は一つ。今の管制人格の暴走は、闇の書でもエラーを起こしているみたい。けど、そのエラーを無視するために膨大な魔力を使ってエラーを無視して行動している』

 「一寸待て! エラーを無視する? それは不可能だろう。エラーしたら大概プログラムはフリーズするはずだ」

 『それだったらそもそも闇の書が行動なんてできないよ。闇の書は正規のプログラムが可笑しくなってバグっている状態。エラー何て出っ放しの状態だよ? それでも起動できることから考えて、本来フリーズするはずの物を無理やり起動し続けている。逆に言えば起動できるだけの魔力を無くしてしまえばフリーズして起動は停止する』

 「なら!」

 『だけどその方法はほとんど不可能だよ。アースラ内でも大概の人がそう思っている。けど、私はそう思わない。なのはちゃんのエクセリオン状態でのディバインバスター。そして守護騎士たちの最大の一撃。それに、クロノ君も加わればそれで闇の書の魔力量を上回ることもできる! クロノ君も新しいデバイスを用意してそっちに転移するから!』

 

 そうエイミィが言った瞬間、クロノは今までのデバイスと全く違うデバイスを装備してこの場に加わった。

 

 「遅くなってすまない」

 「別にいいさ。それよりも頼む」

 「言われなくとも」

 

 方法は判明した。人員もいる。あとはそれを実行するだけか。

 

 「おい、闇の書の主を救う方法が分かった!」

 「本当か!?」

 「ああ」

 

 この策にはなのはやクロノだけではなく、ヴォルケンリッターの協力も必要だ。

 

 「全員の最大出力によるノックダウンだ! それで彼奴は止まる! そしたら闇の書の機動は止まり、はやては助かるかもしれない」

 「分かった」

 「カウントダウンは十秒。今からカウントする。カウントが終わったら一斉に最大の一撃を放ってくれ」

 

 そう俺が言うと、全員がそれぞれの攻撃に相応しい位置に移動する。

 なのははあたりの魔力を集め始め、他の奴らもデバイスを変形させてそれぞれの一撃を与えられる状態になった。それを確認して、俺はカウントダウンを始める。

 

 「行くぞ! 十」

 

 なのはがレイジングハートをエクセリオンモードへと変える。鋭い突撃槍のような形状へと変わる。

 

 「九」

 

 ヴィータがグラーフアイゼンをギガントフォームへと変える。ハンマーがさらに巨大化して大槌へと変わっていく。

 

 「八」

 

 シグナムがレヴァンティンを鞘と融合させて、ボーゲンフォームへ変える。その後、シグナムを炎が囲む。

 

 「七」

 

 シャマルはそれぞれの魔法の威力を高めるために詠唱をしている。全員を魔法の光が覆っていく。

 

 「六」

 

 ザフィーラが鋼の軛を発動する。全てを粉砕するための鋼が形作られていく。

 

 「五」

 

 クロノが凍結魔法を使う為の詠唱を始めている。辺り一帯の温度が下がっていく。

 

 「四」

 

 そして、俺もまた加勢するためにデバイス、エアに登録された砲撃魔法を展開していく。

 

 「三」

 

 英雄王の資質を受け持っているこの体の魔力は、人間とは比べようにはならない程膨大。それでもこの魔法にはそのすべてを費やさないと放てない一撃だ。

 

 「二」

 

 黄金色の魔法陣が展開される。それと同時に他の全員の魔力光が辺りを照らしていく。

 

 「一」

 

 さあ、はやてを救う。 

 

 「零!」

 『エクセリオンバスター』

 『ギガントシュラーク』

 『シュツルムファルケン』

 『鋼の軛』

 『エターナルコフィン』

 『ワールドブレイカー』

 

 その瞬間、あたりから幾つもの輝く魔法が放たれる。その光が黒く濁ったリインフォースを撃ちぬいていく。

 ぴしりと何かひび割れる音がした瞬間、光の中にあるリインフォースの体がひび割れ、壊れていく。

 

 『……ラグナロクブレイカー!』

 

 そして中から一筋の光が俺たちの前を噴き出し、世界をやさしく照らした。




リインフォースが実は弱体化していた件。これは理性的な行動をとれず、ただ力任せの攻撃しかできない状態のため弱くなっています。
魔法での攻撃は海ではなく普通にビル街で行われています。ですが結界のお蔭で被害はなし。
因みに実はなのはのレイジングハートは強化されています。理由は主人公がいるからです。管理局は人員が派遣しづらい代わりに、道具や部品だけは支給してくれました。


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23話

最初は会話文しかないので読みづらいと思います。
後、少しこじつけた部分などがありますが、作者の力量不足です。生暖かく見守ってください。


 ……此処は何処や? 何でこんなに暗くて、寂しいんや?

 ――それは此処が闇の書の中だからです。此処は歪められてしまった世界。この世に存在してはいけないものによって作り変えられた世界。

 誰なん? そこにいるのは。

 ――私は管制プログラムです。闇の書が存在する前から、騎士たちが生み出される前から存在する原初の騎士でもあります。

 主、お願いです。眠っていてください。主には今の私は見てほしくはないのです。力に負けて、歪められて、元の形を忘れ去ってしまった私を。

 そんなの寂しいちゃうん? 私は貴方を見てみたいんよ。

 ――それでもです。今の私は醜い。本来の役割であった、技術の、情報の収集もできず、唯破壊するだけになってしまった私を主のような心優しい人に見てほしくはないのです。

 なぁ、何で貴方はそんなに変わってしまったんや? あの子たちが言っていた闇の書は究極の力をもたらすって言うてたんやけど、貴方の話を聞く限りとてもじゃないけど信じられへん。

 ――彼らは私が闇の書になってから付け足された騎士なのです。本来の役割は知りません。私は本来、失われていく情報や技術を集めて後世に伝える為のデバイスとして作成されました。しかし、ある時に、私はとある科学者の手によって今の状態へ変えられました。その際に闇の書に守護騎士たちはインストールされました。

 ですが彼らは私の仲間であるのも事実です。そしてだからこそ私は彼らに顔向けできないのです。

 それは、如何して?

 ――私が逃げ出してしまったからです。あの恐ろしい存在から。全ての元凶であり、今もどこかに存在する怪物。どれほどの戦力が敵対しても笑いながら殲滅できるかの存在。燃えるような怒りを内に籠め、聞くだけですべてを狂わす笑い声を上げ続ける怪物。私は怖かった。恐怖で心を塗りつぶされて、逃げ出してしまったのです。

 ……だったら、だったら今こそ戦わなあかん! その時あなたが負けたのは一人だったからや。けど、今は違う。シグナム達に、そして貴方の主である私がいるん。絶対に負けたりはしない!

 ――主。私は

 なぁ、貴方に名前をあげる。そんな弱く、うじうじした自分を捨てて、私たちと一緒に戦お? 

 ――主、貴方は分かっていない。あの存在は戦う、戦わないではない。あの存在の知識だけで夜天の書は狂わされ、破壊に突き動かされているのです。勝てるはずがない。

 それでもや。それに最初から負ける気でいたら負けるんよ。私は負けん。例え相手が怪物だろうと、神様やろうと。あの時、ヴィータが約束してくれた。私を守るためなら邪神にだって勝ってやるって。なら、私も一緒に戦えばどんな存在にだって負けやしない。

 ――主。

   分かりました。管制プログラムは今こそ貴方を真の主と認めましょう。

 名前をあげる。もう、呪われたり、狂わされたりしないよう名前を。祝福された風、リインフォース。それが新しいあなたの名前。

 ――分かりました。名称、リインフォースを受諾しました。

 

 視界が開ける。黒かった世界は変わらないけれど、寂しさは無くなった。

 私の目の前には一人の女性がいる。背が高く、モデルのようなきれいな女性。そして、私の新しい家族が。

 

 「戦おう、リイン」

 「分かりました、主」

 

 リインが私の中に入ってくる。私の中を暖かく、優しく渦巻いていく。

 

 『主、今外の状況を確認しました。外では闇の書の起動を停止しようと、大出力の魔法攻撃を行うつもりです』

 「そうなん。じゃあその時に合わせて私もここから攻撃して脱出する」 

 『待ってください。それだけではだめです。出たとしてもすぐに防衛プログラムの侵食を受けてしまいます』

 「じゃあ、如何すれば良いん?」

 『防衛プログラムを切り離します。……防衛プログラムの乖離を確認しました。私たちがこの空間にいる限りは平気ですが、此処から出ればすぐに暴走を開始します』

 「分かった」

 

 一つ頷いてから、私はデバイスの一つである、シュベルトクロイツを頭上に掲げる。

 

 「さあ、一緒に戦おう。リイン」

 『ハイ』

 

 世界が大きく揺れる。それに合わせて私たちは魔法を発動する。

 

 「『……ラグナロクブレイカー!』」

 

 

 

 

 パキパキと崩れる世界から私たちは飛び出して外の世界に飛び立つ。

 

 「はやて!」

 「うわっと!」

 

 すぐにヴィータが抱き着いてきた。

 

 「もう大丈夫。私は此処に居るから」

 「はやて、はやて~!」

 

 泣きじゃくるヴィータをあやしていると、私の周りにシグナム達が集まって臣下の礼を取る。

 

 「主」

 「シグナム、ただいま」

 「……おかえりなさいませ」

 

 にっこりと笑って、私はシグナムの頭も抱える。それは他のみんなも同じ。

 

 「はやてちゃん」

 「主」

 「ただいまな。そして、さっそくなんやけど、一つお願いや。私と一緒に、アレと戦ってくれん?」

 

 そう言って私がさす方角には再生を始めている防衛プログラム。

 

 「分かりました。我らは主の剣にして、盾。何時いかなる時も貴方の為に」

 「でも、あれは一体どうしたら?」

 「それなら一つ方法がある。湖の騎士である貴方の協力が有れば可能だ」

 

 私たちに鋭いとげを肩に着けた男の子が近づいてきて、そうシャマルに言った。

 

 「え? 私ですか?」 

 「そうだ。防衛プログラムが再生しきる前、つまり今の状態なら転移魔法を使えるだろう。そして防衛プログラムのコアを、宇宙空間でアルカンシェルを使って破壊する」

 「確かにそれなら可能。分かりました」

 

 翠色の光とともに不可思議な空間が広がる。そして、

 

 「防衛プログラム確保。転移、開始!」

 

 

 

 

 「補足完了! アルカンシェルを!」

 

 今まで多くの被害者を作った災厄のロストロギア。それも今日で終わり。クライド、貴方のような犠牲者はこれでもう出ない。

 

 「アルカンシェル、バレル展開!」

 「バレル展開!」

 

 アルカンシェルのロックは既についている。チャージももう終わる。

 

 「チャージ完了! いつでも発射できます!」

 「……アルカンシェル、発射!」

 

 差し込んだキーを回す。巨大な、人には到底不可能なほどの魔力でアルカンシェルが発動される。そしてアルカンシェルは間違いなく闇の書の防衛プログラムのコアを破壊した。これで終わり。私の役割は。

 机に突っ伏して、私はフェイトの事を思い出してく。ああ、彼女は本来ならああして喜びを分かち合えたかもしれないというのに。

 

 

 

 ようやく終わったか。

 変わり切った物語。けれど、最後だけは変わらなかった。八神はやては救われた。それだけは変えさせなかった。それで良いのだろう。

 はやての方を見ると、今頃なのはに気が付いたのか、驚いている。

 

 「ハハハ! 

 あーあ、疲れたな。……なぁ、七式。見ているか? 何とか終わらせたよ」

 

 これで終わり。八神はやては救われて、家族と一緒に何時までも、何時までも幸せに暮らしました。それで良い。それ以外有っちゃいけない。

 

 

 

 「やった! やった! 防衛プログラムの破壊確認できました」

 

 私を含め、アースラ内にいるクルーは全員立ち上がり、狂喜乱舞している。

 そんな時だった。アースラに通信が入ったのは。

 

 「誰? こんな時に?」

 

 確認してみると、容疑者の家宅捜査をして、連絡が通じなくなってしまった彼だった。

 

 「うそ! 聞こえる? こちらエイミィ。応答して!」

 『……あ……』

 「何、聞こえない!?」

 『や……書……こわ……ない……そし……ら』

 「もう一度、もう一度言って! 何を言っているのか確認できない!」

 

 様子が可笑しい。余りにも不明瞭な言葉の数々。何を言っているのか分からない。そして次の言葉で通信は遮断された。

 

 『世界は滅びる』

 

 え?

 

 

 

 

 san値チェック

 

 隊員A 1/1D10

 

 チェック 1 100 失敗

 

 san値減少 1-10=0

 

 状態 ……




予想されていたどんでん返し。


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24話

さあ、何かが出てきます。


 彼が最後に言った言葉が嫌な予感を伝える。私は慌てて、先ほどまで闇の書の防衛プログラムが存在していた付近をサーチさせる。

 嘘! 何この結果!? ロストロギア、いや、それ以上のエネルギー反応!!? 闇の書どころか、ジュエルシードを併せたところでこれほどのエネルギーは生まれない!

 

 「嘘、ウソ嘘うそ!」

 

 何で!? もう終わりじゃないの! これですべてが丸く収まったというのに! 

 私はアースラの望遠機能を使って、闇の書が存在していた場所を見た。そして、それを見た(・・・・・)

 永遠に広がる深淵の宇宙。周りは星々の光を除いて、全てが暗闇の中に広がる巨大な黒い翼。あたりを見回す、赤い三つの瞳。それらが闇にまぎれて存在するのを。

 

 『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

 何処からか、悲鳴が聞こえる。信じたくないものを突き付けられたような、絶望しか込められていない悲鳴が。聞きなれた声でいつまでも響いている。この声は誰が発しているのだろうか? 

 ああ、そうか。これは誰が発しているんじゃない。私が上げているんだ(・・・・・・・・・)。それを認識すると、私はあたりが闇に包まれていくのを感じる。

 ク、ロノ君。逃、……げて。

 

 

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 ブリッジにエイミィの悲鳴が響き、私は顔を上げる。

 あたりのクルーたちも、その悲鳴に何が起きたのかとエイミィの方を見ている。

 

 「っ! 誰かエイミィを支えなさい!」

 

 私の言葉と同時にエイミィはぐらりと傾いていく。

 近くにいた他のクルーが彼女を支えたから、頭から崩れ落ちることは無かった。けど、ならエイミィは悲鳴を上げたの? しかも、気絶するなんて?

 

 「エイミィが何をしていたのか調べなさい!」

 

 私の声とともに、エイミィが見ていた何かを他のクルーが調べていく。

 いや、まだ何が起きるかわからない。

 

 「クロノ、聞こえる!?」

 

 

 

 「艦長?」

 

 艦長から急に念話で連絡が届いた。しかしその内容が余りにも急すぎた。

 

 「エイミィが!?」

 『そう。一体何を見たのかは分からないわ。けれど、何かが起きている。警戒をなのはさんたちに促して、アースラに!』

 「はい、わかりました。すぐになのはたちをアースラに」

 

 艦長から受けた念話の内容に嫌な感覚を受けた僕は、すぐさまこの場にいる全員に警戒を促して、アースラへの転移魔法の準備を始める。

 

 「良いか、何が起きるかは分からない。すぐにアースラへ避難するぞ」

 

 僕が言った内容に、他のみんなも納得したのか険しい顔つきで転移魔法を発動していく。これまであった出来事から考えて、一体何が起きるかは分からない。

 だが、

 

 「え?」

 「な、何だ? 転移魔法が発動しない?」

 

 僕も含めて、ほかの全員の転移魔法が発動しなかった。

 

 「っつ! 全員、あたりを警戒してくれ! 何かが起きている!」

 

 まるで守護騎士たちが張っていた結界のような感覚だ。転移しようとするとエラーを起こして転移できない。

  この状態の原因を探して、速攻で解決しなければならない。

 

 『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 「「「「「「!!!???」」」」」」

 

 そうして辺りを警戒していたら響いてきた声は、僕たちが知っている声。だが、何故此処で聞こえる!?

 

 「九頭竜君……!」

 

 なのはの向いている方を見て、僕は絶句した。

 ボトボトと中身をこぼしながら、彼はそこに立っていた。黒い腕は既に体に取り込んでいるのか、体全体が黒く染まり切っている。そして、そんな彼が虚空のある一点を睨み続けている。

 以前の理性のない、化け物としか言いようが無かった彼とは違い、まるで理性があり、歴戦の戦士かのように立ち尽くしている。その姿は禍々しくもありながら、如何仕様もないほどに神々しかった。

 

 『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 咆哮とともに彼は腕を振るう。何もない空間を薙ぎ払うはずの一撃は、ある一点で縫い付けられたかのように動いていない。

 

 「ば、かな?」

 

 有り得ない。彼の腕の破壊力は目算だけでも、SSSクラスを簡単に越えられるだろうという推測結果がある。そこから考えて、あの腕を止められる者はこの世界に存在しない。そのはずなのに、彼の腕は何も無い空中で止められている。いや、違う。あそこには何かがある。僕たちが知覚できない何かが。

 

 『……』

 「くふっははははっはははは!

 面白い。此処まで面白い状況になったことは少ないぞ?」

 

 っつ!!!? 何だこの声は! 聞いているだけで、心が悲鳴を上げる。少しでも早く忘れなければ自分が死ぬ。そういう感覚が沸き立ってくる。

 

 「アレを閉じた愚か者がいるようだから私は出てきたが、さらなる愚か者が此処に居たとはな!」

 

 空間が歪む。いや、違う。歪んだんじゃない。そこに居た何かが這い出てきただけだ。

 分からない。目の前で繰り広がれている何かが分からない。だけど、心が先に理解してしまう。此処に居る。それだけで死ぬと。

 

 「あっ、がぁ!?」

 

 視界がチカチカと輝いて、初めて気が付いた。僕が今、呼吸をしていなかったという事に。

 目の前の恐怖に、僕自身が反応できなかった。訳の分からない恐怖。それから逃げるためだけに、死を選ぼうとしていたのか?

 

 「う、そやろう? 如何いう事や? だって、あれは創作された物語や」

 

 闇の書の主がぽつりと呟く。あれが、あの恐ろしい何かを知っているのか!? あの闇夜で輝く恐ろしい三つの瞳を! 禍々しく曲がった鉤爪を! 歪に広がる巨大な翼を! それらを持つあの怪物の正体が!

 

 「ほう! 私を知るか。愚かな人間にしては博識であるというべきか? それともその程度の事も理解できない愚図だといった方が良いか?」

 

 その鉤爪で彼の不気味な腕を止めながら、異形は嗤う。全てが馬鹿馬鹿しく、愚かであると突き付けるかのように。

 

 「くははは! お前たちの救い。それら全て無駄になる。何せ、自分たちで選択してしまったのだからな、お前たちは!」

 「……なっ、なに、何を、選択し、たと?」

 

 たった一人、なのはだけが目の前の異形が言った内容を尋ねた。僕たちすべてが動くこともできず、言葉を聞くだけで苦痛となっている今の状況で。

 

 「簡単なことだ」

 

 そういって嘲笑いながら話を進めていく。

 

 「お前たちがしたのは、箱を閉じる事だ」

 「箱なんて、なかった! そんなものなんて!」

 「有っただろう? 闇の書の闇という箱が(・・・・・・・・・・)

 

 ああ、そうだ、確かに目の前の存在は闇と言っても変わらない。いや、違う。闇では生ぬるい。闇の書の闇がこの存在を閉じ込める箱と言われても納得できる。

 唯、目の前の化け物の気まぐれで僕たちは死んでいないだけ。嘲笑われながら、面白いという理由だけで生かされている。

 

 「ありえへん! 闇の書は本や! 箱じゃない!!」

 「お前たちにはな。だが、違う世界ではあれもまた一つの箱だ。それをお前たちは拒絶し(閉じ)た。くくく、お前なら分かるだろう? そろそろ目の前で起きている現象から目をそらすのを止めて、現実を認識したらどうだ?」

 

 違う、違う違う……。

 唯、それだけしか話さなくなった闇の書の主を、嗤いながら見続けている。

 

 「ほら、如何した? 私が何か答えないのか? では私もそろそろする事が有るから、行動させてもらうとするか」

 

 拙い! アレが動き出せば何が起きるかは分からない!

 

 『ガァアアア! ギィヤアアアアアアアアアアアア!!』

 

 だが、それを阻害するかのように凄まじい咆哮と、衝撃がアレを襲う。

 

 「これは……九頭竜君!?」

 

 振るわれたもう片方の腕。ただそれも簡単に片手で。いや違う。指一本で止められてしまった! あの一撃を。受け止めることは不可能であり、喰らうこと自体が死ぬ一撃を。

 

 「ふむ。邪魔だな」

 

 あっさりと、あっさりと僕たちの目の前で棒状の何かが落ちていく。まるで、目の前にいる小石を蹴っ飛ばすかのように、気だるそうに、彼の腕は握りつぶされた。

 

 『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!????!』

 

 悲鳴に似た何かの声。それが辺りを震わせ、消え去った。

 

 「お前のような中途半端な存在はこれからの祭りに邪魔だ。そこで眠っていろ」

 

 切り裂かれて、体が縦に真っ二つに斬り別れていく。一斉に黒い血液が、内臓が、ありとあらゆるものが零れ落ちていく。

 

 「嫌あああああああああああああああ!!!!!」

 

 聞こえるのはなのはの悲鳴だけ。

 僕たちは思考する事すら放棄した。あれだけ僕たちを苦しめていた彼を、弱っていたとはいえ、ああも簡単に殺せる存在がいるはずがない。そう思考を納得させようとした。理性を優先しようとした。自分を守るために。壊れないために。

 ごとり、と地面に硬い何かとべしゃり、という柔らかい何かが叩きつけられた音がする。全員が動けない中を、なのはだけが彼目掛けて飛んでいく。殺された彼を救おうと。

 

 「ああ、あああ!」

 「……早くしてくれないか? 私も暇ではあるし、愚かな人間のする馬鹿馬鹿しい行為というのにはなかなか嗤わせてもらっている。しかし、いつまでも待つほどの価値はない。お前が答えないというのなら私は唯すべてを終わらせるだけだぞ?」

 

 何を、何を彼女は知っている? 目の前の異常な存在を知っているのか?

 

 「ああ、ああああああ!」

 

 ぶんぶんと頭を抱えて、彼女は答えられそうにない。

 

 『答えてくれ、主。貴方は仰ったではないか。私と一緒に戦おうと。今度は私が一緒に戦う。私を狂わせた全ての元凶である存在と』

 「リイン。それでも、それでも!」

 『認めてください。私たちがいるのと同様に、かの生物は実在すると。そして彼らと戦わなければ、私たちに待っているのは約束された死です」

 「……分かった、リイン。私は戦う。そうやね、私がいった事や。私が守らなくて誰が守るんや」

 「答えるか? さて、私の名前を言ってみろ。

 ……そうだな、一つ景品でもやるか。私の名前を当てたら、私がこれからしようとしていることを一つだけ教えてやる」

 

 何かをさせてはいけないのに、目の前のアレは何かをするつもりだ。

 僕たちに出来る事なんてない。けれども、知らなくては何もできない。

 

 「アンタは、闇をさまようもの。そして、月に吠えるもの。

 燃える三眼であり、ユゴスに奇異なる喜びをもたらすもの。

 大いなる使者であり、顔のない黒いスフィンクス。

 無貌なる神であり、暗黒神、嘲笑する神性。

 そして最も知られている名は、這い寄る混沌」

 

 何を言っている、彼女は。神? 確かに目の前の存在はそういうにふさわしい力を持つ。だが、神などはいない。居てはならない。だって、そんな存在が居たら脆弱な人間なんて、居てもいなくても結果は変わらなくなってしまうのだから。

 

 「這い寄る混沌、ナイアーラトテプ」

 「正解だ」

 

 嗤いながら、言う。

 

 

 

 

 san値チェック

 

 全ての知的生命体 1D10/1D100

 

 状態 這い寄る混沌




因みに最後の部分、二つはわざとです。
嗤いながら、言うはああいう形で書いたのと、san値チェックもあの場にいた全ての人間と、アースラクルーは全員san値チェックをしたので。(というより書ききれないby作者)


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25話

さあ、これから先、如何なるでしょうか。


 ニヤニヤと、這い寄る混沌は私たちを見続けている。

 

 「さて、では約束の景品を教えてやろう。とはいえ、その話の前に前提条件を教えてやらなければな」

 「前提、条件……」

 

 トゲのついた服を着た男の子が声を絞り出して、ナイアーラトテプへと尋ねる。

 

 「そうだ。そもそもお前たちは何だ?」

 

 何を言っているんや? 私達は人間や。

 

 「私達は人間や」

 「くだらない。そんな如何でも良い事を聞く訳が無いだろう。さて、お前たちは周りの人間から如何いわれる存在だ?」

 

 面白そうに嗤いながら、ナイアーラトテプは私、いやこの場にいるすべての人間を嘲笑っているのだろう。この邪神ならそう考えても可笑しくはない。

 

 「それは如何いう」

 「ああ、良い。答えは別に期待してもいない。お前たち程度では分からないだろうからな。

 くくく、何、簡単なことだ。お前たちは魔導師だ」

 

 いきなり、何を言っているんや?

 

 「何故、魔導師なんだ?」

 「え?」

 「くはははは! 簡単なことだ。魔術師でもなく、魔法使いでもなく何故、魔導師というのかだ。それこそがすべての前提条件を理解する鍵となる」

 

 魔導師。それは魔法を使う人間をそう指す。そのはずや。

 

 「魔術師は魔術を使うから、魔術師。魔法使いもまた同じ。では、魔導師とは? 魔道を使うから何てくだらない答えはやめてくれよ?」

 

 一体、一体何をさせたいんや。目の前にいるナイアーラトテプは。

 

 「名は体を表す。この国ではそう言うらしいな。ならばそれをそのまま当てはめれば良い。

 魔導師とはな、魔を導く人間を指す」

 「嘘だ! そんなはずがない! 魔導師の魔法は科学的なプログラムで組まれている。そんな魔なんていう曖昧なものは関与できない!」

 

 いや、違う。この邪神だからこそ、その言葉は信じられる。

 

 「その女はそう思っていないようだが? 執務官殿?」

 

 厭らしく、見ているだけで吐き気を催す嗤いを見せながら、ナイアーラトテプは私を見る。

 そうや。この邪神は他の邪神と違う。人間に積極的にかかわり、破滅をもたらす。

 

 「アンタの化身。その一つは」

 「くくく! そうだ。それが分かるのなら如何いう意味か分かるだろう!」

 「核推進派の科学者。

 それだけやない。アンタは人間に関わって、多くの情報や技術を伝える。そしてその伝えられたものによって人間が自滅するのを見て楽しむ。それがアンタという邪神や!」

 

 今までの中で一番の嗤いを見せて、邪神は謳うように続ける。

 

 「そうだ! そもそもお前たちが言う魔導師の魔法は、私が作り上げたのだからな! 正気を失わないように調整して、多くの人間に使えるように大衆化させて!」

 

 そして、多くの人間に一般化してから破滅させる? いや、それじゃ可笑しい。それだけならこの邪神はきっと魔法を人間に伝えなかった。その程度で動くはずがない(・・・・・・・・・・・・)

 それは、リインが保証してくれる。

 

 『主、私の記憶から考えて、彼が言うのは間違いではない。しかし、まだ裏に何か隠されています。あの時、私の主に接触してきた時もそうでした。分かり易い企みと、分かりづらい企み。その二つを用意して、わざと最初に気付かせて油断させる。そして油断から自滅していく様を楽しみながら見ていたのですから!』

 

 「くっくっく。いや、それだけではないがな」

 

 そう言ってナイアーラトテプは目の前に、幾つかの青い菱形の宝石を浮かばせる。

 

 「そ、それは、ジュエルシード!!!」

 「くくく! これも私が間接的に作りだした。とはいえ、私がジュエルシードを作った科学者に作らせた闇の書が、同じ世界にあるとは中々面白い事になっていたがな!」

 

 そう言ってナイアーラトテプは宝石を握りつぶす。

 

 「こいつの役割は唯加速させるだけ。お前たち魔導師が使った魔法の効果を」

 「魔法の効果?」

 「くくく! そうだ。お前たちが知らず知らずに使っている魔法の副次効果、いや本来の効果をな」

 

 魔導師の魔法が何か特殊な効果を持っている? それは? さっきの魔を導くという言葉が、何か関係しているんか?

 

 「まだ分からないか。愚かなお前たちには少し難しすぎたか?

 あの金髪の娘ほど愚かだったら最高に面白かったのだがな。なにせ、あれは魔導師がもたらす災厄を防ごうとしていた存在を殺そうとしたのだからな」

 

 そう言ってナイアーラトテプは嗤う。私には誰だか分からないけど、それは周りにいるすべての人間を怒らせるには十分だったようや。

 

 「お前! ふざけんな! フェイトが、あいつがどれだけ苦しんだか!」

 「あの子を莫迦にするのは許さない!」

 

 だが彼らの怒りすらも、目の前の邪神にとっては唯心地良かっただけのようや。

 三つの瞳を細めながら、嗤いを深くしていく。

 

 「アレが愚かでなくて、何が愚かだというのか! いや、アレの愚かさは血統が保証していたか!」

 「……如何いう意味だ!」

 「アルハザード」

 

 ただ一言で、彼らは動きを止めた。私にはその言葉の意味が分からない。

 

 『アルハザード。全ての魔法が存在するといわれるおとぎ話の世界です』

 

 だとしても、その言葉が何故彼らの動きを止めるん? それが分からないけど、彼らには何か特別な意味があるようや。

 

 「それが、それが如何した!」

 

 黄金の鎧を着た男の子の声は、私からでも分かるほどに震えていて、虚勢を張っていることが分かった。

 そしてそれは私だけではなく、ナイアーラトテプにも丸わかりのようで、嗤い声をあげながら先を言う。

 

 「アルハザードを探していた愚か者だという事だ。アレの母親は。何せ、望んでいた世界は目の前に、いやそれどころか自分の用意した人形がいた世界だと気が付かなかったのだからな!」

 

 如何いう事や。それに用意した人形?

 

 「くははははは! 簡単なことだ。アルハザードとは、そもそもがこの世界を指す! この世界に存在する魔術こそが魔導の原型。ならばこそ、全ての魔法が存在すると考えられ、作られたというのに!」

 

 そう言ってナイアーラトテプは、つまらなさそうになる。

 

 「とはいえ、その程度も分からない、知性の低い人間に私が手を出すつもりはない」

 

 そして、ナイアーラトテプは最後に、景品であるこれからの出来事を言った。そしてその内容は決してはあってならない出来事であった。余りにも、余りにも信じがたい出来事。しかも、それは知識のある、私だけしか知らないような出来事を。

 

 「南緯47度9分、西経126度43分」

 

 それがもたらすことが何を意味するか。私はそれを理解してしもうた。

 私の中にある知識が、ナイアーラトテプがしようとしていることを。それは絶対に起こしてはならない事であり、考える事すら悪徳である事を。

 けど、アレは条件がそろっていないはず! でも、でもあの邪神がしているんや。条件だって揃えられている? 違う、そんなことあってはいけないんや。ダメ、駄目ダメだめや!

 それでも、目の前の邪神がそんな事を理解していないはずがない。

 

 「うそ、嘘ウソうそ嘘ウソうそ嘘ウソ嘘!!!!!??」

 「は、はやて!?」

 

 ヴィータが何か言っているけど、それらも今の私には意味をなさない。だって、私達に突き付けられたのは、

 

 「ルルイエが……浮上する」

 

 

 

 

 san値チェック

 

 八神はやて 2D6/3D10

 

 チェック 34 21 成功

 

 san値減少 34-8=26

 

 状態 邪神の企み




ニャル様の企みが出てきました。


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26話

人によっては気に食わない人もいるかもしれません。


 ルルイエ? 一体それは何処だ?

 僕たちの疑問をよそに闇の書の主は、目の前の怪物の言葉から何かを察したらしい。

 

 「艦長? 聞こえますか?」

 『……ジ……ザ』

 

 !? 何だ、何が起きている!? 通信が、念話がうまくつながらない!?

 

 「艦長! 艦長!」

 『……クロノ?』

 「艦長!」

 『ごめんなさい。貴方達のバックアップは殆ど不可能になったわ。アースラ内は壊滅状態。全てのクルーが精神を錯乱させて、まともに機能することはできないわ。私は何とか行動できるから、私ができる範囲しかサポートはできないと思って頂戴』

 

 そんな、莫迦な! アースラが、アースラが壊滅した?

 

 「な、何故!?」

 『貴方なら分かるでしょう? 貴方の目の前にいる怪物を見て、精神を守ろうとしたのだと思うわ。映像だけでこうなるのだから、現場で直視してしている貴方にはその恐ろしさが良く分かるはず』

 

 艦長のいう事は納得できる。確かに、僕は今怖い。目の前の怪物が何よりも。その瞳で見られるだけで、その声を聴くだけで、その体を見てしまうだけで。

 唯それだけで恐ろしく、体が強張ってしまう。如何仕様もない、生の執着がそうさせているのだろう。アレに近づいてはならない。アレを呼び起こしてはいけない。そう警告をしている。

 だが、それは既に起きてしまっている。呼び起こされて、活動してしまっているのだ。ならば、どうにかして、アレの企みを壊滅させなければならない。

 

 「分かりました。では、艦長。ナイアーラトテプと言われた怪物が言っていた地点を調べるのは可能ですか?」

 『可能よ。それに既に調べているわ』

 

 そう言って目の前に投影されたのは、荒れる海原だった。

 

 「これは?」

 『海の中で何か巨大な建造物が浮上しているわ。その影響で海が荒れている。それ以上は分からないわ』

 

 そう言って艦長は念話を切った。いや、正しくは念話が持たなくなった。

 

 「おっと、外部に助けを求めるというのは少々ルール違反だぞ?」

 

 目の前の怪物が遮断したのだろう。笑みを浮かべながら、たたずんでいる。

 

 「さて、お前たちは如何するか? このままただ待っていたら世界は、いや人類は滅ぶぞ?」

 

 

 

 

 何で! 何で!

 

 「嫌! 嫌だよ! 死なないで、九頭竜君!」

 

 真っ二つに裂けた彼の体を持って、私はつなげようとする。けど、けど繋がってくれない!

 

 「お願い! お願い神様! 彼を、九頭竜君を助けて!」

 

 けれど、願いは届かない。幾ら私が願おうが、犠牲を払おうが起きてしまったのは覆せない。それは世界の法則なんだから。

 

 「う、ううう! 嫌、嫌ああああ!」

 

 九頭竜君の体に突っ伏しながら、私は泣き叫ぶ。

 血がバリアジャケットに着くけど、そんなのは私は気にしない。気にする余裕もない。

 

 「何で? 何でこうなっちゃったの?」

 

 何処から間違えてしまったのだろう。私たちは。

 

 「うううう!」

 

 ガシッ!

 

 「えっ?」

 

 泣いていた私の腕を、誰かが掴んだ。いや、違う。誰かじゃない。

 

 「く、とぅるー君?」

 

 腕をつかんでいたのは、九頭竜君だった。

 

 「ま、待って! 今すぐ、治療出来る人を呼ぶから!」

 

 けど彼は首を振り、掴む腕の力を強めるだけ。

 

 「な、何? 何を!」

 

 片腕で私を引き寄せ、彼はこれから起きることを私に伝えてくれた。そして、それが限界だったのだろう。動かなくなってしまった。

 

 「く、九頭竜君?」

 

 そんな、そんなこと言われても私には出来ないよ!

 

 

 

 

 そんな! 

 

 『主! しっかりしてください!』

 「はやて! テメエ!!!」

 

 あかん! ヴィータ!

 

 「ラケーテンハンマー!!!」

 

 ヴィータがカートリッジをロードしようとする。けど、

 

 「!? か、体が動かない!?」

 「当り前だ。お前は私が用意して、作らせたんだぞ? 反抗できないように作るのは当然だろう」

 

 そう言ってナイアーラトテプは嗤いながら、ヴィータを見下す。お前がしていることは無駄やと。

 

 「くくく。もうどうしようもないようだな? 後一分でルルイエは完全に浮上するぞ?

 人類はこれで終わりだな」

 

 ナイアーラトテプは嗤いながら、そして残りの時間をつぶすために私たちに話しかける。

 

 「本当にお前たちには感謝しているよ。ジュエルシードは星辰を揃えさせるための道具だ。それをこうまで活性化してくれたのには本当に感謝しているぞ? お前たちのお蔭で、ルルイエを浮上させるのに必要な星辰は揃い、今こうして世界を滅ぼそうとしてるのだからな。人間というのは如何仕様もないほどに、愚かだな」

 

 耳をひっかくような、汚らわしい嗤い声をあげて、ナイアーラトテプは私たちを見る。その目には、嘲りと軽蔑が混ざり、そしてすべてを見下す色が混じっている。

 

 「もはや、お前たちには対処する方法が無いか」

 「まだだ! まだ、最後の武器がある!」

 

 そう言って黄金の鎧の男の子は、後ろの空間から奇妙な道具を取り出す。それは三つのパーツに分かれて、それぞれがそれぞれ回転している。唯、男の様子からそれが切り札なのは私は分かった。 

 

 「いくらお前のような訳の分からない存在でも、世界ごと消滅させてしまえば終わりだ。そうすれば、人類は救われる!」

 

 そう言うと、彼が持っている道具は周りの大気を巻き込んで、唸りを上げる。世界がまるで悲鳴を上げているような音が響く。風が巻き込まれて、私の目の前で引き裂かれていく。

 

 「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリッシュ)!」

 

 暴風が吹き荒れて、ナイアーラトテプを襲う。

 それはあたりを吹き飛ばして、全てを終わらせる原初の地獄やった。

 

 「これで!」

 

 けど、それが原初の地獄なら、目の前の存在は地獄すらも飲み込む混沌。

 

 「惜しいな、人間。その程度で私が死ぬと?」

 「莫迦、な! 世界ごと葬ったんだぞ!」

 「世界! 嗤わせてくれる! 世界程度が滅ぶだけだろう? 私にとって世界等、あってもなくても変わりはしない」

 

 それだけ。傷一つ付かせられないで、彼の切り札は終わりを見せた。

 それがどれだけすごい技なのかは、目の前に広がる惨状を見れば良く分かる。目の前は全てが吹き飛んで、ビル街だった場所は吹き抜けとなっているのやから。でも、それでも意味が無い。それだけの力を持っていたとしても、人間であるのなら目の前に怪物にはかなわない。それが理であり、決まりきった法則。

 

 『主! 負けてはなりません! 心が弱れば、それだけであの者の餌食です!』

 

 !! そうや。弱気になって何になるん? 私が戦わないで、誰が戦う? 私の騎士たちは動けない。戦えない。なら、私が戦って勝たなあかん!

 

 「はやて? ダメだ! はやて、行っちゃだめだ!」

 

 ヴィータが必死になって止めるけど、私はそれを無視して、目の前にいる存在を睨みつける。もう、決して負けてはならないんだから。

 

 「ほう、今度はお前が私を楽しませてくれるのか?」

 「アンタを楽しませるつもりはない! 私は、私の家族とともに生きる。その為には邪魔なアンタを倒すだけや!」

 「如何やってだ? うん?」

 

 本当に、本当にかの神話の生物が存在しうるのなら、生きた炎の神格も存在するはず。

 

 「Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!」

 

 ピクリ、と今まで何をしていようとも唯嗤うだけだったナイアーラトテプは、不愉快そうに顔を歪めた。

 

 「ファーマルハウトは地平線に浮かんでいないぞ?」

 「確かにそうや。けれども、それは私が生きた炎の神格を召還する際の条件や。アンタを滅ぼすためなら、炎の神格は自分から来てくれる」

 「確立としては五分にも満たんぞ?」

 

 今までに、今までにこれほどナイアーラトテプは話しかけてきたか? 今こうして話しかけているという事は、この方法が正しいという事や。

 

 「Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!

 Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!」

 

 その言葉とともに、世界は一気に燃え上がる。私が今まで見たこともない勢いで、虚空から炎が沸き立っていく。そしてその炎が集まって、一つの形を作り上げる。それは見ているだけで私の精神を汚染して、破滅へと誘う炎。みているだけで危険すぎる存在。

 

 「土の邪神であるナイアーラトテプは、火の邪神であるクトゥグアと明確に敵対している。だから、ナイアーラトテプにはクトゥグアをぶつける。それが正攻法や」

 「……」

 

 燃え上がる炎に力を奪われていく。おそらくは、私が召喚したこと同義やから、私から力を奪っているんやろう。けど、これでナイアーラトテプを倒せれば。

 

 「その程度か(・・・・・)

 

 え?

 世界が、世界を燃やし尽くしていた炎が消え去る。いや、違う。飲み込まれたんや。目の前の存在に。

 

 「高々数合わせの邪神に、私が負けるとでも? くははははっははははは! 小娘! 此処まで笑わせてもらったのは久しぶりだぞ? 外なる神の一角であり、全ての無秩序を司る私が、高々炎を敵対するとでも思っていたのか?」

 

 そんな、ウソや……。

 

 「さあ、タイムアップだ」

 

 その言葉とともに、皆の様子が可笑しくなる。

 

 「あ、頭、に何か……はいって!!」

 「シグナム!」

 「がぁあああ! 出ていけ! 俺の中から出ていけ!」

 「くっ! 何だ!? この声は!?」

 

 周りの様子が可笑しくなっているだけやない。私の頭にも、何かが入り込もうとしている。

 

 『くっ! 主、どうにか、どうにか奴を! 主の中に入ろうとする者は、私が止めますから!』

 「ごめん。ゴメン! もう、もう私にはどうしようも無いんや。これが最後の策やった! 邪神に邪神をぶつける。それでお互いをこの地球上から消滅させる。それが最後の手段やったんや!」

 

 もう、終わりや。

 今の状況は、クトゥルフのテレパシーで引き起こされいるはずや。大海で遮断されていたテレパシーが、世界中に放射されている。世界は終わる。もう、助かる方法はない。

 

 「くくく! そうだ。世界は終わる。だが、人類ではなく、世界そのものがな?」

 

 

 

 

 san値チェック

 

 八神はやて 1D10/1D100

 

 チェック  26 46 失敗

 

 san値減少 26-19=7

 

 状態   終わりのない混沌

 

 

 




ごめんなさい! 私はラブクラフト派で、ダーレスの四大元素に基づいた考えは受け入れがたかったんです。でも、そんなダーレスの設定自体は使っている部分があるという矛盾。救いようがないですね。ごめんなさい。
そして卒業式の次の日にこんな作品を書き上げて投稿するのはきっと私だけでしょうね!


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27話

 主の中に入ろうとする者を追い出していくが、それでも主に悪影響は出てくる。実際に干渉を受けた主との間に悪影響が出てきている。

 

 『主! 主!』

 「終わりや……!」

 

 駄目だ! 主とこれ以上ユニゾンできない!

 強制的にユニゾンが解除されて、私は主の中から弾き飛ばされた。

 

 「主!」

 

 そのショックで気絶し、空から落ちていく主を抱え、私は破壊されつくした町並みに降り立った。

 

 「主よ、ここでお休みください」

 

 私は主を横たわらせて、飛び立つ。目の前にいるすべての元凶を倒すために。

 

 「クトゥルフのテレパシーの影響を受けないか。いや、影響を受けるだけの弱さが存在しないという事だな」

 「貴様が私を狂わせた。我が主を助けるためだ、貴様は決して許さない」

 「貴様程度に何ができる? 私の知識だけで、翻弄されて文明を滅ぼし続けたお前程度に?」

 

 ぎゅう、っと拳を握りしめる。悔しい。こいつの言うとおり、私ではけしてこいつに叶わない。いや、そもそも絶対に叶わない存在であるがゆえに、こいつはここまで遊んでいられるのだから。

 だが、だからと言って指をくわえて見ているだけなど出来やしない。私は月に吠えるものを睨みつけながら、魔法を発動させる。

 ヴォルケンリッター達は動けなくとも、私はこいつに作られたわけではない。元々夜天の書に存在していた管制プログラムだ。改造されたのは夜天の書の防衛プログラムだけ。私とは関係ない部分が改悪された。だから、私の動きを阻害できる訳が無い。

 

 「はああああああああああ!!!」

 

 私の周りに、血に浸したかのような色合いのナイフが生まれる。それを操作させて、360°からの同時攻撃を行う。ダメージが無くても、時間は稼げる。

 

 「星の光、集いて砕け」

 

 詠唱破棄。本来は危険な行為だ。詠唱というのは術式を制御するためにある。それをしないで魔法を発動するという事は、制御を失敗する可能性が高くなる。だが、それはあくまでも他の人間や将達だけだ。私は違う。長い間、こいつと一緒に闇の書として存在したがゆえに、詠唱を破棄したところで制御を失敗することはない。それはこいつが魔導の制作者であるからだろう。その技術や知識を使って、私はこの魔法を発動させる。

 辺りにはありえない程高密度の魔力が漂っている。この魔導の威力は最大まで高まり、そして完成も早くなる。

 

 「スターライトブレイカー!!!!!!」

 

 

 あたりの魔力を吸収して、強大な魔力の球が出来た。これ一つで都市、いいや県一つは飲み込めるだろう。

 

 「喰らえ!」

 

 私が知る限り最大威力の一撃。魔力だけであるがゆえに、干渉することもできない一撃。確実に喰らう。ピンク色の光で辺りは照らされ、一気にそれが拡大する。

 その範囲は広域にぶつけるのではなく、一定範囲を蹂躙するように放った。だから、主たちには危害は加わらない。

 

 「なかなかの技術と褒めておこう」

 

 これでも、これでも届かない。もうほかに手段はないのか?

 

 「他に何かしないのか? 私としてはもう一つ、二つくらい芸を観たいのだがな?」

 

 ああ、申し訳ありません。主。やはり私には不可能でした。あの時、私の主となった科学者を止められなかった私では、力不足だったのでしょう。邪神を見て、飲み込まれて正気を失った主を救う事も出来なかった私では。

 

 「なら、なら最後の抵抗をしよう」

 

 

 

 

 ぐっ! 頭、頭ん中に! 

 

 「ぐう!」

 

 シグナムは! シャマルは! ザフィーラは! それに、はやては!

 約束したんだ! はやては救うって! 何が起きても助けるって!

 

 「負けられないんだ!!」

 

 わたしが叫ぶと同時に、私の周りを何かが覆う。それは私たちが使う魔法に似て、何かが違った。

 

 「な、何だこれ?」

 

 それに、この魔法が私を覆った瞬間、頭の中に入ってきていた何かが止まった?

 

 「ヴィ、ヴィータ……」

 「シグナム! 無事か!?」

 「何とかな。ザフィーラも、それに主も無事なようだ。主は下でザフィーラと共にいるようだ」

 

 そうか。良かった。

 

 「それよりも、これが何かわかるか?」

 「わかんねぇ。こんなもの見たこともない」

 

 私達を覆うように張られている何かを見ながら、私は残りの一人を探す。

 先ほどから見えないが、どこかにいるはずだ。シャマルが。シャマルなら、これが何かも分かるだろう。

 

 「何処だ!? シャマル?」

 

 私が叫んだあとに、シャマルがどこにいるかは分かった。だが、それが如何いう状況だかは分からなかった。

 

 「何だよ、何が起きているんだよ!?」

 

 だって、私たちの知っているシャマルはあんな模様はない。体の至る所に、模様のように黒い何かが這いずり回っていない。瞳だって、あんな色はしていない。黒い目ん玉に、黄金に輝く瞳孔なんてしてはいない。

 なのに、何でそんな色をしている?

 

 

 

 

 「なるほど。器が崩壊している最中で動けないから他者を利用したか」

 

 目の前の、全てを裏で企み、操っていた邪神を睨みつける。ニャルラトトテプは俺がこの世界に来てから、ここまで大がかりな状態に発展させたのだろう。全ては、世界を滅ぼすために。その下準備は幾つも用意された中で、最悪な形で出てきた。それがあの宝石であり、闇の書だ。

 いや、そもそも俺は最初にこの世界に来て、感じ取っていたはずなのだ。あの図書館で。月に吠える怪物と、それに従う科学者の饗宴を。それを認識しておきながら、俺はそれを忘れてしまった。それが、それが全ての元凶。俺こそが世界を滅ぼす邪神だったのだ。

 

 「そうだ。お前がもっと考えて動けばこうなることはなかった。お前が言う最悪な形になる事はな。だが、それは既に遅い。私は世界を滅ぼして、お前はそれを眺めるだけ」

 

 そうだ、今の体では何もできない。この体はあの時突き刺して、埋め込んでおいた俺の体の一部を使ってハッキングをしているに過ぎない。力を使えば簡単に器が崩壊する。それに、そんな力はもはや残されていない。

 

 「くくく! ジュエルシードは星辰をそろえ、闇の書は私を召喚させる。だが、ジュエルシードでの影響を最小限にしていれば、私は召喚されることはなかった。唯闇の書は破壊されるだけで終わった。それを都合良い状態にしたのはお前なのだからな」

 

 そうだ。俺が邪神の力をジュエルシードの近くで使わなければ、ここまで酷くはならなかった。

 

 「そうだ。全ては俺が原因だ。ルルイエが浮上するのも、その後の事も(・・・・・・)

 「ほう」

 「お前が、這い寄る混沌たるお前が、高々地球を滅ぼす程度に出てくるはずがない。お前はこの状態を作ろうとしたのは、正真正銘世界を滅ぼすためだろう(・・・・・・・・・・・・・・・)

 「正解だ。くくく! 嗤ってしまうさ! こいつらは私がルルイエを浮上させるためだけに策を講じていたと思っていたようだ。そんなクトゥルフ程度で私が何かするとでも思ったのか、こいつらは」

 

 そう。ニャルラトトテプはルルイエを浮上させたのは、あくまでも次の為の準備。

 

 「お前、お前は誰だ!? シャマルの体で何をしている!」

 

 ヴォルケンリッターが話しかけてくるが、それは無視する。何せ、この世界はもう救われない(・・・・・・・・・・・・)。余計なことに時間をかけるべきではない。

 

 「そして、お前はクトゥルフを利用する」

 「そうだ。そもそもあいつは祭司。邪神ですらない。利用するのにためらう必要もないだろう?」

 

 躊躇う必要? 邪神が相手でも嗤いながら、軽蔑しているお前が躊躇う訳ないだろう。

 

 「そして、クトゥルフに我らが総帥を召喚させる」

 「そう。それを持って私の全ては終わりを告げる」

 「ニャルラトトテプ(無秩序)アザトース(秩序)を召喚するのなら、それはたった一つの理由だけ」

 「そう、それこそが私の願い! 何故、この私があのようなくだらない存在に従わなければならぬ! この世界の無秩序を司る私が! 盲目白痴にして、唾棄すべきあの愚かな神を!」

 

 ニャルラトテプには、一つだけ他の邪神と違ったある特別な力がある。それは、

 

 「星辰が揃いし時」

 「ニャルラトテップは」

 「アザトースから」

 「笛を奪い」

 「吹く」

 「それが」

 「意味するは」

 「世界の」

 「滅び」

 

 

 

 

 san値チェック

 

 主人公 (九頭竜 ???) 0/1D10

 

 チェック 0%(実質100) 自動成功

 

 san値減少 0

 

 状態 這い寄る混沌の真の企み

 

 




久方ぶりの九頭竜君の登場です。それと最後のsan値チェックはsan値が回復しているから0です。
器から離れてシャマルの体を奪ったがゆえに、今の九頭竜はある程度san値が回復しています。とはいえ、意味が無いのですが。


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28話

 ああ、世界が悲鳴を上げている。

 空は暗雲に覆われて、雷が降り注ぐ。世界中の人間は今頃倒れているだろう。クトゥルフのテレパシーに、邪神が一柱この地球にいる。それだけでまともな人間は耐えられない。

 耐えられるとしたら、それは狂信者か、或いは奉仕種族ぐらいだろう。

 

 「さあ、来るぞ。ようやくこの時が来た。あの愚かな神に、使われるという侮辱を晴らす時が!」

 

 この星に、一点のつぶが生まれる。それは星から見ても小さい粒だった。しかし、それは一瞬で星を飲み込み、太陽系を飲み込んだ。

 その過程に、触れた存在は跡形もなく砕け散って。肉体を、魂を、心を、砕いて。

 

 「くははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

 

 かの混沌は、笛を持っている。それは余りにも奇怪な笛だ。有り得ない角度で曲がり、冒涜的なまでに空間を破壊し続けている。その周りには時間が存在せず、その周りには空間が存在せず、時空間を破壊している。アザトース(秩序)の手を離れ、ニャルラトトテプ(無秩序)の手に渡ったそれは、世界の維持ではなく世界の破壊をもたらす。

 

 「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 それは音だったのだろうか? 何かが空間に響く。余りにも異常な何かだった。闇を照らす光でありながら、光を塗りつぶす闇。全てを漆黒に染め上げて、全てを救うように光り輝く。

 世界が崩壊していく。それと同時に、この体も崩壊していく。恐らくは、俺は存在し続けるだろう。世界もない、何もない『  』の中で。魂も失って、邪神として只々そこに。

 ああ、でもそれも悪くはないかもしれない。もう人類は壊滅してしまった。なら、もう守る必要はない。俺が好きなようにしよう。新しく世界を作るのも良い。いや、一つ遊びを行おう。

 世界を作り出して、私はしばらく眠りにつくとしよう。あの時まで、あの世界が出来上がるまで。二つの世界は必ず創りだされる。それが理。例え、ニャルラトトテプに破壊されたとしてもまた作り出せば良いのだから。

 どこかへ消えたニャルラトトテプをよそに、私は一つの世界を作り上げる。混沌を作り、闇を作り、霧を生み出していく。

 あとはその時が来るまでだ。私は眠り、この最悪な歴史を隠すとしよう。さあ、がんばれよ? 未来の私よ。

 

 

 

 ああ、もしかしたら最後の抵抗が上手く世界を救ってくれるかもしれない。ならば、その召喚を待つか。私が託した力。有効的に使ってくれよ? 邪神に負けぬ心を持った少女、高町なのは。




今回は幕間のようなものです。


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29話

 送られる。私は今、世界の何処にもいない。それは言葉通り、私たちが住む時空の外側。ありとあらゆる時空につながる究極の門を通り抜ける。そこには、知識を司る『副王』が居て、時間に関係する邪神に、奉仕種族、さらには神話生物たちもいる。

 私は彼によって送り出された。最後の抵抗をするために。全てを終わらすために。

 そろそろ、私は目的の場所へたどり着く。救われない絶望を、救われる絶望へと変えるために。

 

 

 

 私が目を開けたのは、私にとって最も恐れていた場面だった。もしかしたら。そう思ったけれど、彼はそれを許容してくれなかったようだ。私に、私に必ずそれをさせるために、自分が切り裂かれたところに私の精神を飛ばした。

 目の前で黒い血液に、内臓をこぼしながら落ちていく九頭竜君を見ながら、私は彼の最後のお願いを果たす。

 

 「ああ、あああ!」

 「……早くしてくれないか? 私も暇ではあるし、愚かな人間のする馬鹿馬鹿しい行為というのにはなかなか嗤わせてもらっている。しかし、いつまでも待つほどの価値はない。お前が答えないというのなら私は唯すべてを終わらせるだけだぞ?」

 

 はやてちゃんでは世界は救えなかった。九頭竜君でも救えなかった。

 だから私がここに来た。未来の知識を、九頭竜君の力を持ちこんで(・・・・・・・・・・・・)

 彼の力は彼自身という人間の器と魂で阻害されていた。けど他の器を利用すれば、彼の力は彼自身が使うよりも利用できる。

 

 「いや、その前に貴様に聞くべきか? 如何やって未来の人間がこの時間にいるのかを?」

 「私がここに来たのは、貴方を止めるため。その為の手段を彼に託されて」

 

 私は目の前の、世界を一度破壊した邪神を睨みつけ、宣言する。

 

 「貴方の思い通りにはさせない。クトゥルフを起こしてアザトースを召喚させ、世界を破壊なんてさせない」

 「ほう! 良く分かったな。いや、未来から来たのであれば当然か。それでどうする人間? お前に何かできるだけの力があるのか?」

 

 私だけの力で言えば、それはない。私の力なんて人間では強かったとしても、邪神の前では蟻以下。踏みつぶされても気が付かれず、そのまま死を突きつけられるだけの力しか持たないのだから。

 だから、九頭竜君は私に力を託した。私ならばそれをできると信じて。それは絶対にしたくはない行為。だけど、しなければ世界が滅ぶ。だからしなければならない。二律背反と変わらない。いや、必ず選択しなければならない分、二律背反よりひどい。

 

 「私にはない」

 「ほう。では如何する心算だ? まさか、そこに倒れている愚か者を頼るとでも?」

 「そう」

 「……、は、くははははは! 私に決してかなわない、そんな残骸に何を頼る? 面白い。面白い事を抜かすな人間!」

 

 嗤うのなら、嗤えば良い。私は唯、するだけ。儀式を行う道具になれば良い。

 

 「――いあ! いあ! アザトース!」

 「……何?」

 「――来たれ! 汝絶望をもたらす者。世界全てに絶対的な救済を強いるもの! 我らはその裁きに従おう!」

 「それが何を意味するのか分かっているのか?」

 

 分かっている。そして、この呪文が何を起こすかも。私は知っている。

 体の奥底から、黒い何かがこみ上げてくる。これは九頭竜君の力。闇であり、霧でもあり、混沌が混ざった物質。全てを支配する万物の王の力。

 それが体を巡って私に力をくれる。知識をくれる。この儀式を成功させるための力を。

 

 「されど、我らは汝を憎まず。愚かな我らをお救い下さい! アザトース!!」

 

 私が最後の詠唱を終えた瞬間、全てが終わりを迎える。

 変化は九頭竜君から始まる。切り裂かれて、二つに分かれた体がそれぞれ宙に浮く。こぼれた中身も浮き上がり、空中の一点に集まって混ざり始める。

 それはあたかも世界の始まりのようだった。全てが集まってそこから広がっていく。それこそが世界の始まりではないだろうか。そう思わざるを得なかった。

 けど、それが意味することは……。

 

 『うぉおおおおおおおおおおおおおおん』

 

 低く、高く、不安定な音程でそれは咆哮を上げた。その音は一瞬で結界を破壊して、世界に響き渡っていく。

 私はこの瞬間に罪人となった。世界を救うためとはいえ、私は余りに多くの人間を殺したのだから。

 その一点は拡張していく。煙のようであり、霧のように。はたまたもしかしたら雲かも知れない。水あめのようにうねうねと動きながら、形を形成していく。最終的には、地球を覆う程に巨大化するだろう。

 空を覆う暗雲に似た、しかしさまざまな色に光り輝く彼。そこから幾つもの腕が伸びていく。それは地獄から罪人を救う釈迦の腕であり、天国から地獄へと罪人を突き飛ばす神の腕でもある。

 

 「アザトースならまだしも、こいつを呼び出すとは!」

 

 ニャルラトトテプの声を聞きながら、私は願う。せめて、せめて多くの人が助かって、と。私に願う資格はないが、それでもやはり願わずにはいられなかった。

 

 「っち! 仕方がない。今回はあきらめるとしよう。人間よ、お前がもたらした絶望をよく見ておくんだな」

 「言われるまでもないよ。私は最後まで見なければならないんだから」

 

 私とニャルラトトテプの最後の会話をしている最中に、体の形成は終わったようだ。

 私と、この邪神は今つながっている。だから、今何をしているかがわかる。

 

 「そのまま、壊しちゃえ!」

 

 大海原に一つの腕を突き刺していく。それは余りにも大きく、この地球上、ううん。どんな時空でもそれを越えるものは存在しない。そんな腕。全てを救うためにありながら、全てを滅ぼす。その為の腕。

 その腕が海を割っていく。言葉の通り、そこに存在する水という存在を滅ぼして。そしてそれは浮上している巨大な建造物、ルルイエでも変わらない。

 浮上しているルルイエを掴み、そのまま力任せにその腕はルルイエを粉砕していく。中にいる奉仕種族も、クトゥルフも関係なく。

 

 『うおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!』

 

 また咆哮が響く。その咆哮は全ての時空につながって響き渡る。全ての存在が、邪神ですら恐怖する咆哮が。

 そしてその咆哮が響き終わった後、彼は最後の役目を行う。

 

 「ふん。前回は成功して、今回は失敗か。まあ良い。今度星辰がそろったときに、今度こそ世界を崩壊させよう」

 「そんな時は来させないよ」

 「くははははははは! お前ごときが? それとも、人間ごときがというべきか。ではな、愚かな人よ。全てを滅ぼした悪魔として、歴史に刻まれるが良い」

 「分かっているよ」

 

 そして腕はニャルラトトテプをも巻き込んで、結界が無くなった影響で現れた近くの人間ごと……粉砕し、消えていく。

 倒れ伏した、他のみんな。でも、全ては救われない。

 

 「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 涙を流しながら、私は崩れ落ちる。

 この時世界は救われ、人類も同時に救われた。けど、人は救われなかった(・・・・・・・・・)

 私は涙を流しながら、何度も謝る。世界に、人に、そして何よりも私が恋をした人に。彼らを殺したのは私なのだから。

 

 

 

 san値チェック

 

 高町なのは 1D100 

 

 チェック 自動失敗

 

 san値減少 65-64=1

 

 状態  絶望の救済




次回エピローグ


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エピローグ
30話


 あれから十年がたった。

 今ではクリスマスは祝日ではなく、全世界での慰霊の日になった。あの日、あの瞬間、世界の人口は五分の一まで減った。これはこの世界ではなく、全次元世界での統計だ。地球での人口は、三分の一が亡くなって三分の二が生存した。

 彼の力は時空間を無視してしまう。だから彼が力をふるうという事は、全ての世界が巻き込まれるという事。私は地球を守るために、他の世界を巻き込んだ。

 私はあれから、魔導師を止めた。いや、正しくはしたくてもできないのだが。あの時邪神とつながっていたことで、リンカーコアが変異して、魔力を喪失してしまった。私が奉げた大切なもの。今では念話も出来やしない。

 今では翠屋の二代目店長、そしてただの高町なのはとして生活している。

 カラン、とドアに取りつけておいた鈴が鳴る。それはあの時私が得た知識の一部で作った魔除けの鈴。だからだろう。彼女が顔をしかめたのは。彼女の習得している技術は魔の技術。だからこの鈴の音色は不快に感じるのだろう。

 

 「お久しぶりね、なのはさん」

 「……リンディさん」

 

 長い間合わなかった彼女がこの店を訪れるとは思わなかった。

 あの戦いの後、次元世界とこの世界のつながりは遮断された。当り前だろう。誰だって、あれだけの被害を巻き起こした世界と関わりたくはないだろう。だから、次元世界はこの世界とのつながりを遮断した。無駄な事だというのに。あれはこの世界だから起きたのではなく、偶々状条件が合致したからこの世界で起きたもの。世界が違えば助かるなんてことは起きない。

 

 「少しお時間宜しいかしら?」

 「ええ、大丈夫です。開店までまだ時間はありますから」

 

 私はそう彼女に告げて、店の中へと案内する。

 彼女にお茶とお茶菓子を用意してから、私も席に着く。

 

 「本当に久しぶりね、なのはさん」

 「ええ。もう十年になりますね」

 

 あの時、彼によってニャルラトトテプは倒され、世界は救われた。けど、その余波は人にとって余りにも大きすぎた。多くの人間は発狂して自殺したり、事件を巻き起こした。発狂しなくても多くの人は精神に深い傷が出来てしまった。それは次元世界でも同じだったようで、管理局に務めていたリンディさん達は、すぐさま次元世界に帰らなければならなくなった。その後、今日まで一切の連絡が無かった。正直、忘れられていたと思っていた。

 

 「最初に言うわね、なのはさん」

 「何をでしょうか?」

 

 リンディさんが私に、何か伝える事が有ったのだろうか? そう思いながら、私は彼女の話に耳を傾ける。

 

 「ごめんなさい。貴方に辛い役割を押し付けて、逃げ出してしまい」

 「……」

 「貴方が恋をした人を、私たちは殺させてしまった。仕方が無い事なのかもしれないけど、貴方が負った傷はつらいはずよ。けど私たちは逃げた。あの恐怖から逃げて、この世界を見捨てた。切り捨てた。世界を守るためにとうそぶき、繋がりを私たちが切った」

 「仕方がないですよ。あの時はそれを行うのが当然でした。邪神の恐怖に勝てる人間はいないです」

 「そう言われると助かるわ。でも、それでも私達は貴方達に大きな負い目がある」

 

 そう言われても、私は気にしていない。いや、確かに彼については今でもつらい。だけど、それは私の選択でしかない。それに、リンディさんだって辛かったはず。

 

 「それを言ったらリンディさんたちもそうでしょう? 私が召喚した邪神の力で、アースラクルーに……」

 「ええ、そうね。クロノは死んだ。死んでしまった。正直最初は世界を憎んだし、貴方も憎みかけたわ。でもね、私は多くの事を間違いすぎた。そんな人間が他の人を憎む資格はないわ」

 

 そう言って彼女は弱弱しい笑みを浮かべて、紅茶をすすった。

 

 「あれから十年ね。いろんなことが変わるのには十分すぎる時間が経ったわ」

 「それは、如何いう?」

 「そうね。次元世界で、管理局というものがなくなったわ」

 「え!」

 

 あれほど大きな組織が? 一体なぜ?

 

 「簡単な事よ。あの時の事で高官たちがバッタバッタと倒れて、隠されていた事実が明らかになったのよ。汚職、賄賂、癒着、犯罪者との違法取引。そして一番最悪なのが、最高評議会ね。それらが一気に解放された結果、次元世界の市民は管理局を信じなくなり、新しい組織を作り上げた。その組織は今までの管理局の問題を無くすために、様々なアプローチをしたから昔と違ってかなりクリーンになったわ。それに、魔法はもうほとんど使われなくなったから、管理局は遅かれ早かれ壊滅していたわ。まあ、一つ良いことと言うのなら、多くの犯罪者が捕まったという事ね。その中にはかなりの大物もいたし。ジェイル・スカリエッティとか」

 

 そう言うリンディさんはどこか寂しそうに、けどしっかりと現実を見ていた。

 

 「さて、そろそろ帰らなくっちゃ。無理してこの世界に来たんだから、すぐに帰らないといろいろ面倒になっちゃうし」

 「そうですか」

 

 彼女はイスから立ち上がり、そして気が付いた。

 

 「あら?」

 

 それはびっくりと肩を震わせて、物陰に隠れてしまった。

 

 「いらっしゃい」

 「う、うん」

 

 あの時、私には一人の家族が出来た。お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも失った私だけど、たった一人の新しい家族が。

 

 「そう。初めまして、クトゥ、いえ、高町救人君?」

 「え? 何で僕の名前を?」

 「秘密よ。ふふふ」

 

 私の近くで、足に隠れながらリンディさんを見ている私の息子を見て、彼女は私に最後の言葉を話した。

 

 「家族は大切にしないといけないわよ? 子供は染められやすいんだから」

 「ええ。この子は彼の落とし子。彼の願いである、人を守りたいという気持ちの結晶。邪神となって切り捨てられてしまった願い。大切にしない訳が無いです」

 「そう。それなら良いわ。貴方ならきっと良い子に育てられるわ。それじゃ、今度こそさようなら」

 「はい」

 「バイバイ、お姉さん」

 「あら、うれしいわね」

 

 そう言ってリンディさんは翠屋を出て行った。私はこの子と一緒にそれを見送った。

 

 「お母さん、あの人は?」

 「お母さんの古い知り合いよ」

 

 そう。もう数少ない古い知り合い。七式君に御崎君は死んでしまい、フェイトちゃんは精神病院にいるだろう。はやてちゃんはヴォルケンリッター達を失って、それでもリインフォースさんと一緒に歯を食いしばって生きている。すずかちゃんにアリサちゃんは家の家業を継いで、疎遠になっちゃった。

 あの時、私は闇を覗きすぎた。いや、魔に近づきすぎたんだろう。だから私はできるだけ古い知り合いとは合わないようにしている。私が近づいたら、彼女たちに悪影響が出るかもしれないから。

 

 「さあ、早く学校へ行ってらっしゃい」

 「うん」

 

 走っていく私の子を見ながら、お店の中、つまり従業員の休憩室へと向かう。そこにあったのは一つの像。

 私の日課であり、あの時からかかさず行っていた儀式。

 

 「――いあ! いあ! アザトース!」

 

 

 

 san値チェック

 

 高町なのは

 

 san値 0

 

 状態 救われなかった少女の未来

 

 




なのは狂信者エンドです。十年間の間に、最後のsan値も無くなってしまいました。
短い間でしたが、この作品を楽しんでいただけたでしょうか? 楽しんでいただけたのなら、幸いです。
それでは、残りは設定に近い何かと、あとがきを残すだけ。それではまた会いましょう。


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ナコト写本

設定集です。とはいえ登場人物の一部だけですが。


 恐怖の余り、髪の毛が白くなってしまった管理局員が握りしめていた本に、書かれていた内容。

 

 

 主人公 九頭竜救人<くとぅるーきゅうと>

 

 種族 邪神

 

 邪神名 アザトース

 

 二つ名 万物の王の化身

     絶望の救済

     終焉にてすべてを滅ぼし救済するもの

 

 神性  滅び

     救済 

     

 能力  ありとあらゆる邪神に関連する技術や道具、さらには知恵を持っている。

 

 ステータス

 

 人間状態

 STR 6 CON 7 SIZ 5 INT 15

 POW 18  DEX 13 APP 10 EDU 11

 SAN 90 HP 6 アイディア 75 知識 55

 技能

 隠れる 25 聞き耳 15 拳 20 クトゥルフ神話 99 魔術 99

 

 黒い腕

 STR 30 SIZ 20

 技能

 薙ぎ払う 65 殴る 80 締め付ける 40

 

 覚醒体(黒い腕を取組んだ最初の状態)

 STR 100 CON 80 SIZ 5 INT 0

 POW 18 DEX 20 APP 1 EDU 0

 SAN 0以下 HP 42 アイディア 0 知識 0

 技能

 咆哮 90 薙ぎ払い 80 拳 95 

 

 邪神体

 STR 200 CON 150 SIZ 300 INT 0

 POW 0 DEX 50 APP 0 EDU 0 アイディア 0 知識 0

 SAN 0以下 HP 225 

 技能

 救済 99 滅び 99

 

 この作品の主人公。名前の由来は、クトゥルフ神話から、九頭竜<クトゥルー>であり、人を救うから救人<きゅうと>です。

 テーマは堕ちる。で、どんどんと邪神へ堕ちていくのを描写していきました。

 基本的な性格は、人間状態のときはまだ理性的であり、基本的に静かで優しい人です。願いは人を救う事。しかし、一度鍵が外れるとすぐに狂気にまみれて、行動が読めなくなります。

 一度邪神になると、もはや救うという行動理念以外の行動をしなくなり、人類は救うが、多くの人間は殺します。

 

 

 ヒロイン  高町なのは

 

 種族 人間

 

 二つ名   世界を滅そうとした邪悪な魔女

       落とし子を愛する愚かな女性

       世界を救った聖女

       邪神と心を通わす巫女

       救われなかった女性

 

 ステータス

 

 子供時代

 STR 4 CON 4 SIZ 5 INT 12 

 POW 18 DEX 9 APP 13 EDU 6

 SAN 90 HP 4 アイディア 70 知識 30 

 技能

 魔法(収束) 80 言いくるめ 1 説得 1 

 大人時代

 STR 9 CON 11 SIZ 9 INT 12

 POW 18 DEX 15 APP 15 EDU 13

 SAN 0 HP 10 アイディア 70 知識 65

 技能

 魔術95 クトゥルフ神話99 料理 80

 

 この作品のヒロイン。

 主人公に恋をしたのは、捻挫した時に黙って助けてくれたこと。そこに父性を感じて、初恋を経験しました。

 テーマは救われない。で、主人公の願いが決してかなわないというテーマです。

 最後の所からわかるとおり、彼女は狂信者になりました。

 生涯独身ですごし、最後の時、唐突に表れた闇に消えて、地球から消えました。しかし、彼女の顔はうれしそうに頬を染めていたとか。 

 

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン

 

 種族  クローン

 

 二つ名 最も愚かな行為をもたらした娘

     邪神を傷つけた人間

 

 ステータス

 STR 6 CON 5 SIZ 5 INT 12

 POW 9 DEX 15 APP 13 EDU7

 san値 45 HP 5 アイディア 60 知識 35

 技能

 魔法 65 電気変換資質 99 格闘(鎌) 45

 

 

 生涯を精神病院で過ごした女性。

 テーマは発狂。どんなルートでも彼女は発狂する運命でした。

 しかし、母親の愛情のお蔭か、ある程度の回復が見られ、最後の時は笑いながら死を迎える事が出来ました。

 本来の原作と考えれば……。

 

 

 八神はやて

 

 種族 人間

 

 二つ名 家族を愛した少女

     祝福の風と共に歩く人間

 

 ステータス

 STR 3 CON 3 SIZ 3 INT 12

 POW 16 DEX 3 APP 12 EDU 7

 san値 80 HP 3 アイディア 60 知識 35

 技能

 運転(車いす) 50 図書 50 料理 60

  

 

 ヴォルケンリッターを失ってしばらくは無気力状態だった夜天の王。

 テーマは闘うで、一番勇敢に邪神と戦いました。

 後々、彼女は孤児院を経営して、自分と同じ親のいない子を沢山育て上げました。ノーベル平和賞を実はもらってもいます。 

 

 リインフォース

 

 種族 デバイス

 

 二つ名 祝福の風

 

 ステータス

 STR 13 CON 9 SIZ 11 INT 14

 POW 8 DEX 9 APP 15 EDU 16

 san値 40 HP10 アイディア 70 知識 80

 技能

 魔法 80 クトゥルフ神話 45 

 

 無気力な主を甲斐甲斐しく介護して、後に主と一緒に孤児院経営をしました。

 テーマは諦め。最初に邪神と戦う事を諦めました。しかし、はやてに諭され、一緒に闘う決意をしました。最後は一人で邪神に立ち向かうなど、実は一番成長しているキャラクター。

 はやてが死んだ後、経年劣化で体が崩壊し、永遠の眠りにつきました。遺言の通り、彼女の体は疾風にまかれて、世界のどこかに消えました。もう二度と、邪神にも、人の悪意にも影響されないように。

 

 

 リンディ・ハラオウン

 

 種族 ミッドチルダ人

 

 二つ名 伝説の提督

 

 ステータス

 STR 9 CON 8 SIZ 11 INT 18

 POW 13 DEX 10 APP 15 EDU 16

 san値 65 HP 9 アイディア90 知識 80

 技能

 魔法 70 運転(次元船) 65 

  

 管理局の崩壊後も多くの結果を残しました。

 しかし、時間が有ればかかさず娘であるフェイトの面倒を見ていました。

 十年後の再開の後は、しばし安らかな顔になり急激に老け込んでいき、数年後には永眠しました。

 

 

 高町救人

 

 種族 落とし子

 

 二つ名 忘れられた意志

     崇め、讃え、そして軽蔑されるもの

 

 

 高町なのはの一人息子であり、邪神の落とし子。唯、なのはが死ぬまで一切の成長が無く、なのはの死と同時にどこかへ消えてしまいました。

 なのはにとっての唯一の救いです。主人公には救われなかった彼女ですが、この子がいたお蔭で真の絶望から救われました。

 

 

 七式世闇

 

 種族 転生した人間

 

 二つ名 死を視る人間

 

 ステータス

 STR 5 CON 6 SIZ 3 INT 8

 POW 9 DEX 12 APP 13 EDU 12

 SAN 45 HP 4 アイディア 40 知識 60

 技能

 目星(死) 75 体術 80 

 

 転生者1 ただし、二番目の犠牲者。能力は直死の魔眼に、七夜の体術です。

 グシャリと顔を食いつぶされたのは、きっと彼だけ。

 あとは……特にないです。

 

 

 御崎統也

 

 種族 転生した人間

 

 二つ名 すべての財を持っている人間

 

 ステータス

 STR 8 CON 8 SIZ 7 INT 12

 POW 13 DEX 10 APP 14 EDU 11

 SAN 65 HP 7 アイディア 60 知識 55

 技能

 投合 50 説得 80 言いくるめ 50 信用 50

 

 転生者2 ギル様の力持ち。

 A’sでは意外と活躍した人です。残念ながらお亡くなりになられましたが……。

 しかし、意外と彼は余計なこともしています。

 例、世闇君との会話。

 

 

 後は死亡した人だけです。

 ユーノ君はアースラ内で発狂したクルーに殺されて、エイミィは心が壊れてショック死しました。ほかの隊員たちも……。というより、これ以上の設定を書くのは面倒です。この人物の設定が見たい。あるいはここら辺の設定が知りたい方は、感想で書いてください。そしたら、設定集2としてまとめてかきます。

  




実はこの本、隊員Aが持っていました。
因みに、彼は頭を魔法で撃ちぬいて自殺しました。その際にたまたまつかんだのがこの本です。
次回はあとがきです。そこであることが行われます。行われるんです。


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後書き

 san値直葬? 何それ美味しいの? はこれを持って完結とさせていただきます。

 二か月にも満たない期間に書き上げた作品のため、かなりのあらがあります。例えば、良く言われた点としては、

 ・読点が少なく、読みづらい。

 ・アザトースについて

 この二点が良く突っ込まれましたね。最初については、もう作者が悪い! 其れしか言いようがありません。申し訳ありません!

 次の点については、これは二次小説だという事を理解してもらうよう、最初に記載していた方が良かったかもしれません。この二つについては要注意して、これからの執筆に生かしていきます。

 

 はてさて、いろいろと書き連ねてきましたが、これまで長い間のご愛読して頂きありがとうございます。作者としても、書いた時にはここまで人気が出るとは到底思っていませんでした。ですが、多くの方に読まれて、此処まで評価していただきました。何ともうれしい限りです。もう、作者モニターを見ながら涙ダバダバと流しています。気持ち悪いなんて言わないでください。

 

 ここで一つ皆様にお聞きしたい事が有ります。

 ……外伝、読みたいですか?

 今のところは、なのはの初恋の瞬間を書こうと思います。それ以外に何か外伝で書いてほしいという内容はありますか?

 例えば

 一、闇の書とジュエルシードを作った科学者の話

 二、A‘s編の彼の日常生活とか

 三、ニャルラトトテプが闇の書事件で動いていた事

 四、なのはの死期

 五、絶対にありえないはずのIFとして、主人公が何故か管理局でなのはと一緒に働いていたり(sts編)。

 これら以外にもリクエストがあれば、感想での一言にでも書いてください。とはいえ、数が多いものを必ずというわけではありません。皆様の意見と、作者の中で上手く話が合致すれば話を書きます。

 それでは縁が有れば、またこの作品で会いましょう。




というわけでアンケートです。協力していただけたなら、感謝の字です。


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外伝
外伝 1


今回は発狂とかそんなのはないほんわかです。……ほんわか卓の人じゃないので、きちんとほんわかさせますよ。
今回はなのはの初恋の瞬間です。というより、きっかけですね。
作者だって恋愛に挑戦したいんだ!


 私は一人気になる人がいる。その人はいつも教室の隅で本を静かに読んでいる。そんな人。隣のクラスの最近噂になっている御崎君や七式君のような派手さはなく、目だないような人だけど優しい人。誰かが困っているとさりげなく助けてくれるような人。

 今日も、彼は困っていた人を助けていた。その子は偶々お弁当を忘れて困っていたけど、彼は他の人に声をかけて全員でお弁当を分けていた。他にも勉強が苦手な子には、勉強を教えてくれていたりしていた。なのに、何でだかは分からないけど、彼は他の子とあまりかかわらない。それが寂しいと思って私は皆と一緒に遊ぼうと言いかけて気が付いた。彼の眼には寂しさが無く、どこか温かみのある瞳だった。

 

 「何であんな目をしていられるんだろう?」

 

 だって、一人は寂しいよ。なのに彼は一人でいっつも周りの人を助けてくれている。それが如何しても気になる。

 

 「何か言った? なのは?」

 「う、ううん。何でもないよ」

 

 お母さんに聞かれていたみたい。気を付けないと。

 そろそろ明日の準備をしてから、ベッドに入らないと。

 

 「それじゃ、お休みなさい」

 「はい、お休みなさい」

 

 私はお母さんとテレビを見ているお父さんたちに挨拶をして、階段を上って自分の部屋に入る。

 明日の授業の準備をしながら、私はやっぱり彼の事を考え続けていた。

 

 

 

 

 今日は失敗しちゃった。授業中も彼の事を見ていたら、先生に指されちゃって答える事が出来なかった。でも、私が国語苦手なのを知っていて尋ねる先生も先生だよ。それになにより恥ずかしいのは、彼が微笑ましいものを見るような顔だったことだよ。私だって頑張ればあれくらい解けるんだから。きっと、たぶん……。

 

 「むぅ。九頭竜君が悪いんだ!」

 

 バスから降りて、お家まで帰っている最中に苛立ちを小石にぶつけて蹴っ飛ばそうとした。だけど、それで、

 

 「きゃあ!」

 

 小石にかすりもせず、逆に私は体勢を崩してしまった。

 

 「わ、わわ!」

 

 慌てて手をバタバタしたけど、何の意味なく倒れてしまった。しかもその時に足をくじいてしまったみたいで。

 

 「痛い!」

 

 少し動かすだけで足首が痛む。ずきりという鈍い痛みに、私は涙を流してしまう。如何しよう。ここから歩いていくには家はちょっと遠すぎる。

 恐る恐る怪我した足を前に出すと、さっきとは比べようにないほどの痛みが奔って、蹲っちゃう。だって、すごい痛いんだもん。

 

 「如何しよう!?」

 

 周りには大人の人はいなくって、誰かに助けてもらえそうにない。

 困り果てながら、三十分くらい立ち尽くしただろうか。

 

 「如何した、高町?」

 「ふぇ!?」

 

 そんな時に、突然彼の声がした。

 

 「く、九頭竜君? 何でこんな所に!?」

 「いや、買い物帰りなんだが」

 

 ほら。そう言って差し出した手には、スーパーで買った食材が詰められていた。

 

 「足でもくじいたのか?」

 「う、うん」

 「携帯か何かはもっていないのか?」

 「ま、まだ持っていない。だからお母さんにも連絡できなくって」

 

 そう告げると、少し考えてから彼は背中を見せて、私に乗るように言った。

 

 「ほら、背中に乗れ。お前の家までなら送ってやるから」

 「ええ! そ、そんな良いよ」

 「怪我している人間が言う事じゃないぞ」

 

 「無理やりにでも乗せるぞ?」そう言いながら、彼は私を背負って歩き始めた。

 恥ずかしくって、最初はじたばた暴れたけど、

 

 「危ないぞ、高町!」

 

 怒られてしまい、私は只々身を縮めるだけしかなかった。うう。は、恥ずかしいよ。

 カーブミラーに映っていた私は、まるで茹蛸のように顔を真っ赤にしていた。

 

 「痛みはないか?」

 「え?」

 「足のけがは」

 「い、今は大丈夫」

 

  強がりとかじゃなくて本当に今は大丈夫。足は動かないようにハンカチで固定されているし。さっき背中に乗る前に、軽く応急処置として縛ってもらったもの。

 

 「そうか」

 

 少し安心したような声で、彼は私にそう言った。

 

 

 

 

 夕日が沈んでいく中、私は九頭竜君の背中で黙り続けていた。

 彼が他の人と何で付き合おうとしないのかは分からないけど、でも九頭竜君にとっては如何でも良い事なのかもしれない。そう、だんだん思ってきた。上手く言葉にはできないけど。

 

 「次は?」

 「そこのお豆腐屋さんを曲がって。あとはずっと真っ直ぐ」

 

 九頭竜君に返しながら、私は彼の背中に頬を載せる。えへへ。あったかい。

 

 「高町?」

 「えっ? なに?」

 「……いや、何でもない」

 

 九頭竜君の顔が今、驚いていたような。でも、すぐに直ったから何でもなかったのかな?

 あったかくて、私と変わらないのに私より大きく感じる背中に乗せてもらいながら、揺られる心地よさに負けて、いつしかうとうとし始めていた。

 いけない、起きてな……き……ゃ。

 

 

 

 後ろでふと重心が移動したのを感じて、如何したのかと見て見たら、高町が眠っていた。疲れがたまっていたのだろうか?

 まあ、考えても分からないので、俺はそのまま高町の家に向かう。さっき高町に聞いた通りにすれば着けるだろう。

 

 「それにしても、ずいぶんと幸せそうに眠る子だな」

 

 俺のような存在の背中でも幸せになれるのだろうか? ……まぁ、良い。この子が起きないように歩くとしよう。

 

 

 

 

 起きたら、部屋の中だった。

 

 「ふぇ!?」

 

 あれ? 何で? さっきまで九頭竜君の背中……!

 思い出したら一気に顔が熱くなる!

 

 「うにゃああああああああ!!!!!?」

 

 ごろごろとベッドを回転しながら、私は悶える。

 私、九頭竜君の背中で眠っちゃの!? うわああ! だらしない子って思われた!? それは嫌だよ! でも今日の失敗も含まれば、そんな風に思われても仕方がないのかな?

 

 「うにゃあああ!!!」

 

 如何しよう如何しよう如何しよう!?

 

 「明日、九頭竜君にどんな顔をして合えば良いんだろう」

 

 枕に顔を埋めながら、私はぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 けど、次の日あったら普通にあいさつされてお終いだった。何か納得いかない。




次回は人気のあった五番目、sts編です。
一応尋ねますと、クトゥルフ的発狂要素でstsか、それとも普通に主人公以外はまともに進む。どちらが良いですか?(ちなみに後者では主人公は六課の事務員です。なのはというお目付け役はいますが)


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外伝 2 (sts編)

あ、あれ? 何でこうなった? じ、次回は最終決戦での戦いです。九頭竜となのはのタッグによる、スカリエッティ陣営の殲滅が行われます。あれ? 本当にどうしてこうなった?


 多くの事務員が働く中、俺は目の前の書類をどんどん終わらせていく。こういう時、正直この体は便利だ。まあ、こんな作業を見せるわけにはいかないから、一人個室で延々と作業をこなしているのだが。

 四十に枝分れした腕を使い、さらに指先に目玉をつけることで同時に書類を処理しているのだ。というより、正直こんなことに邪神の力を使うようになるとは思わなかった。それもこれも、

 

 「次の分持ってきたよ、救人君」

 

 そう言って部屋に入ってきた、高町なのはのお蔭だ。ジュエルシード事件の時に俺は顔を隠していたのだが、何故だかなのはにバレて、強制的に協力させられた。まあ、彼女のお蔭で闇の書の事件は何とかなったのだが。

 闇の書の事件では、中にていろいろと画策していたニャルラトトテプを出さずに済んだ。それも間違いなく彼女のお蔭だ。ただ、俺は彼女に対して一つだけ負い目がある。

 

 「高ま――」

 「なのは」

 

 目が笑っていない。彼女に対して苗字で呼ぼうとするとこうなる。余りにも早く否定されるので、だんだんと恐ろしく感じてきた。

 

 「なのは」

 「うん。如何したの?」

 「いや、何でお前はそんなに俺にかまうんだ?」

 

 俺が居なければ、彼女は絶対にもっと素晴らしい人生を送れただろうに。

 リンカーコアはあの時、リインフォースを治す際に俺とつながってしまったなのはの体から消えてしまった。管理局の医務官曰く、リンカーコアという臓器が跡形もなくなくなっているそうで、今の彼女は到底、昔のようにはなれない。なのに、彼女は常に俺といる。というより、放してくれない。

 家は今二人で強制的に暮らしているし。八神を脅してまで俺と一緒に働けるようにしたようだし(100%に限りなく近いうわさで聞いた話しでは)。

 

 「そ、それは、あの、その」

 

 黙って彼女の顔を見ていると、すごい勢いで真っ赤になって慌て始めた。

 

 「ば、莫迦! そんなこと聞かないの!」

 

 ええ!? な、何で!? 聞いちゃいけない類いの質問だったのか!?

 慌てたまま、たか――

 

 「なのは」

 

 ……邪神よりなのはの方が怖い。何で俺の心が読めるんだよ!?

 

 「だって、私達はつながっているもの」

 

 ほほを赤く染めていうなのはは可愛らしくはあるのだが、それは微妙に違う。確かにつながっているといえなくはないが。一度した契約を、未だになのははし続けている。だから、俺となのはは微妙につながっている。

 実際、リインフォースを助けるためにした契約を、もう何度も破棄しようといっているのに破棄してくれない。別にデメリットがあるわけでもないのに。それを言っても絶対に破棄してくれないし、逆に何か違う契約を持ちかけようとしてきたこともあったし。……あれ? 何で俺の中に詳しい記憶が無いんだ? たか――

 

 「なのは」

 

 なのはに俺は一体何をされたんだ!?

 

 

 

 うふふ。頭を抱えている彼もまた可愛い。

 

 「ほら、救人君。お仕事早く終わらせよう?」

 

 この部屋でもずっと二人っきりだけど(部隊員の侵入が禁止されている為。ちなみに初日にヴァイス君が入ってきて気絶したのを見て、誰も入ってこなくなったよ)、やっぱり用意しておいた家の方が色々としやすいからね(・・・・・・・・・・)

 如何したんだろう。行き成り体をぶるぶる震え始めて。ショゴス状態じゃないんだから、そう震える必要はないのに。

 

 「何だ? すごい寒気が」

 「風邪? でも邪神である救人君に効くような風邪なんて、この世には存在しないしね」

 

 もしそんなものが有ったら、世界は大変なことになっちゃう。バイオ、違う違う。感染爆発(パンデミック)の危機だよ。まあ、もしそんな病原菌が有ったら、どんな手段でも使って滅ぼすんだけどね。私の救人君を傷付ける存在は要らないんだから。いらないものは捨てないとダメだよね。

 

 「ま、まあ良いや。ああ、これが最後の書類か」

 「本当!!」

 

 これで帰れる。もちろん残業なんてしない。業務規定時間内に終わっているんだから、残業なんてする必要はないしね。

 

 「ところで、フォワードたちの様子は如何なんだ?」

 「何でそんな事を?」

 「いや、何となくな」

 

 何でそんなことを聞くの?

 

 「あの、なのはさん?」

 「なに?」

 「その光の入っていない目は止めて下さい。俺の心臓に悪いので」

 「嫌だな、救人君。救人君の心臓は元から動いてないでしょう?」

 

 まったく。フォワードなんて気にしているから、変なことを言うんだよ。救人君は私だけを見ていたら良いの。

 

 

 

 

 何だろう。なのはの怖さがこの部屋に来る前の十倍以上は怖い。あれって、確かレイプ目って言うんじゃなかったけ? 八神が言っていった事が有るな。でも、その時確かなのはが乱入してきて……。八神、人生は楽しいことだってある。強く生きるんだ。

 

 「ま、まあフォワードの事は良いや。今六課はレリックを追っているんだっけ?」

 「そうみたいだね。とはいえ、今は皆のスキルアップや、仕事に慣れさせることが目的のようだけど」

 

 まあ、管理局の仕事はこれで大変だからな。新人はついてくるのにも精一杯だろう。ただ、仕事の事でアドバイスしようにも、俺が近づくとみんな逃げちゃうんだよな。やっぱり俺って恐ろしいのか? でもエルダーサインをきちんとつけているのに。ただ、あの子たちが見ているのは俺より後ろを見ているような気が。

 ……何だろう。邪神の勘と言えば良いのか。それ以上追求したら拙いって感覚が伝えている。

 

 「さあ、帰ろう?」

 

 そう言って腕をからませて、なのはは俺をぐいぐいと引っ張っていく。引っ張る力があまりにも強く、俺は引きずられ始めるが、

 

 「一寸待ってくれ! まだ書類が一枚終わってない! あと、五秒で終わるから」

 「じゃあ、早くね」

 

 ああ、これで以前引きずられた時には書類が終わらなくて、後で八神に怒られたんだよな。八神が震えながら。あれって、やっぱり……。いや、うん、可笑しいよな。何で邪神である俺が、人間であるた――

 

 「なのは」

 

 なのはにsan値を削られかけているんだ? ふつう逆だよな?

 

 「(愛する)女は神話生物なんだよ」

 

 そうだとしたら恐ろしすぎる。この世界の半分は神話生物じゃないか。その場合、なのははアザトースか!?

 誰か、誰か俺を助けてくれぇ~~~~~~!!!




何故だかなのはが大暴走してしまいました。これ以外なぜか思い浮かばなくなったんですよね。本当に。


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外伝 3 (sts編)

お待たせしました。ようやく完成したので更新です。
長いし、分かりづらい部分も多分にありますが、ご了承ください。



 アースラの一室で、俺は今なのはと向かい合っている。これからしようとすることに対して、今の彼女は邪魔になるからだ。

 

 「なのは、契約を破棄してくれ」

 「嫌」

 「俺はヴィヴィオを救いたい。あの子の笑顔を失いたくはない」

 

 思い出すのは、あの子の笑顔。俺となのはを両親と仰ぎ、笑いかけてくれた子。だが、あの子は攫われた。スカリエッティに、戦闘機人たちに。

 

 「そのためには俺は戦う。だがそれにはお前との契約は、邪魔になる。お前とのつながりが、お前を魔に導いてしまう。これ以上、俺の所為でお前に道を踏み外してもらいたくはない」

 

 それが俺の願い。

 

 「あの時交わした契約は、『俺と一緒に全てを背負う』。そういう契約だ。その契約で俺は、かろうじて人間の状態を保てるようになるが、その代わり、なのは。お前にかなりの負担を強いる。それは人間であるお前の魂を侵食し、だんだんと破滅していくほどの負担が。ヴィヴィオを救いたいが、それ以上に俺はお前に傷ついてほしくはないんだ」

 

 かつて、人を救いたかった俺の願いは、今やなのはだけに向かっている。彼女に傷ついてほしくはない。そう言う願いに。

 

 「だから――」

 「莫迦!!!」

 「ふべっ!」

 

 バシンと凄まじい音ともに、俺の首は捻じれる。

 

 「莫迦、莫迦莫迦莫迦!!! 私だって、同じ気持ちなんだよ! ヴィヴィオを助けたい! けど、だからって救人君に苦しんでほしくはない! 私の契約が有れば、救人君は人を救う事が出来る。人類ではなく人を」

 

 なのはは、その目に涙を蓄えながら俺に語りかけていた。あの時、ジュエルシード事件の時、俺を見抜いて手伝ってくれと言ったあの顔に。

 

 「私は誰が言ったって、契約は破棄しない! これは私と救人君のつながり。でもそれだけじゃない! 私が救人君の手助けできる唯一の方法なんだもん!」

 「なのは」

 「そういう事だ。莫迦者」

 「全くな。お前たちの契約は、いまさらどうこう出来るもんじゃないだろう」

 

 そう言って、何時の間にか入ってきたのか、七式と御崎が俺の肩に手を置く。

 

 「今更すぎるんだよ。俺とはやてが、お前たちが出す被害を如何にかしてやる」

 「俺とフェイトが、スカリエッティを捕まえる」

 「「だから、お前となのはがヴィヴィオを救え」」

 

 それだけ告げると、二人は手を振りながら部屋から出ていく。

 ああ、何だ。人を救うなんて願いを持ったけど、そんなもの必要なかったんだ。だって、俺は人から救われた。人は、人を救える。邪神が出る必要なんてないんだ。

 

 「なのは」

 「救人君」

 「手伝って、くれるか?」

 「うん」

 

 晴れやかに、彼女は俺に笑いかけてくれた。

 

 

 

 その時はすぐに来た。テスタロッサと七式はスカリエッティを確保しに、八神と御崎は外でガジェットを破壊している。

 俺たちは、

 

 「行くぞ、なのは?」

 「分かっている」

 

 黒い腕が体を突き抜け、もう一度体に入り浸食を開始する。凄まじい勢いで体は蝕まれ、意識を奪おうする。だが、

 

 「ぐぅ!!」

 

 俺の隣にはなのはがいる。だから、俺は自分を見失わない。見失ってはいけない。

 黒い翼を広げ、玉虫色の腕を使って優しくなのはを抱える。

 

 「救人君」

 「さあ、行こう。あの聖王の船を落としに」

 

 教えてやろう、彼奴らに。彼奴らは邪神の大切な者に手を出したという事を。

 

 「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 咆哮じゃない。いつもとは違う。蝕まれていく不安も、なくなっていく意識に対する恐怖も沸かない。いやそれどころか、何処までも意識はクリアだ。

 普段使う腕で、邪魔になるガジェットを引き裂き、突き進んでいく。

 

 「行って来い!」

 

 何処からか御崎の声が聞こえる。それに返事を返すことはできないが、そのままの勢いを維持して俺たちは船に突撃した。

 

 

 

 

 「キャア!」

 

 突然揺れたけど、何が起きたの? 今の今まで作戦の邪魔になるものはなかったのに!

 急いでモニターを動かして、このゆりかごを揺らした何かを探る。行き成りあんな揺れが起きたのだから、何かされたに決まっている。まあ、どんな方法を使っても、陛下とゆりかごには敵わないんですけどね。

 

 「さてさて、管理局は何をしたのかな?」

 

 笑みすら浮かべて、私は問題の個所を探していく。如何やら、動力炉の付近にそれは存在しているみたい。

 ばっかじゃない。もしかしたら動力を落として、時間稼ぎをしようとしているみたいだけど、そんなもの無駄。人間が出せる出力じゃ、絶対に動力炉は壊せない。もしかしたら、質量兵器なのかもしれないけど、管理局が使うわけにはいかない。爆弾などの兵器はないだろう。恐らくは魔導師。まあ、ガジェットもいるこの中で、フルパフォーマンスで闘えない魔導師ではどうしようもないでしょうに。

 

 「キャハハハ!」

 

 思わず笑いがこみあげてしまう。おっと、一応モニターしておかないと。

 モニターの中の画像を見ると、もうもうと立ちこめていた煙が換気されていっている。段々と薄くなっていく煙から人影が見えてきた。

 確か、あの人物は六課の事務員だったかしら? かつては魔導師だったらしいけど、今の彼女はリンカーコアの奇病で魔力を失ったはず。だとしたら、何でこんな場所に?

 

 「ヒィ!!!」

 

 だけど煙が晴れて、もう一つの影が見えた瞬間、そんな女は如何でも良くなってしまった。だって、あのバケモノは何!?

 禍々しく黒ずんだ体から、いくつもの腕が飛び出している。玉虫色に輝く物もあれば、黒く光を吸収するものも。さらには空気中で蒼く燃えている腕すらある。それらの腕がつながっているのは、見たこともない化け物。

 ぐちゃぐちゃになった足。紅い瞳は不気味に輝き、貌の至る所に出来た眼球はそれぞれが不規則に蠢いている。それらが見ているのは、ガジェット。しかも、中には見えないはずのガジェットすら睨んでいる。

 

 「な、何、何なのよ!」

 

 訳が分からない! あれは、アレは一体何!?

 

 

 

 

 此処がゆりかごの内部か。

 

 「なのは?」

 「今、レイジングハートにサーチしてもらっている」

 

 プシュリとカートリッジが排出される。なのはのリンカーコアは、変質しきってミッド式の魔法を使えない。ミッド式の魔力を蓄える事が出来ないのだ。だから、レイジングハートには他の人間のカートリッジを使う。その魔力によって魔法を発動させる。

 

 「AIMとやらは、如何だ?」

 「AMFだよ。Aはまだしも、残りのIとMは何処から来たの?」

 

 呆れられて返されてしまった。

 

 「大丈夫。そもそもAMFは魔法特有の周波数を妨害するようなもの。いろいろな魔力が混ざってしまえば、妨害する力も弱くなって効力を無くしていくもの。フェイトちゃんにはやてちゃん。それにフォワードの子たちのカートリッジも使っているから、妨害されないよ」

 

 それだけ聞ければ安心した。

 ぎょろぎょろと辺りを見回していた、全ての瞳を止めて邪魔くさいガラクタを睨みつける。

 

 「邪魔だ、ガラクタ」

 

 一瞬で通路を埋め尽くしたのは触肢。俺の体から生える一本が通路を蹂躙して、周りにある機械を巻き込んで破壊する。

 それと同時に、近くに有った機械から爆発音がした。如何やら動力源だったらしく、船の進む速度がガクッと落ちた。

 

 「ビンゴ! 此処から進んだ先にヴィヴィオがいる。それにそこの部屋の下の方に、ヴィヴィオを攫った戦闘機人の仲間がいる」

 

 そうか。ならば、まずは戦闘機人とやらに思い知らせてやろう。

 

 「しっかりつかまっててくれ、なのは」

 「うん!」

 

 どこか嬉しそうに、彼女は俺の背中につかまる。時間をさかのぼる事も出来はなくないが、その場合なのはに負担がかかりすぎる。ならば門を通るしかないだろう。

 かつて創りだした門をもう一度再生させる。宙に浮かび上がった門は複雑な模様を浮かび上がらせる。その模様は時には文字となり、時には冒涜的な角度で曲がり、醜悪な絵を浮かび上がらせる。

 銀色の鍵をこの手に出す。全ての外なる神すらも飲み込むのがヨグ=ソトースなら、今の俺は万物の王の化身。この程度はできない筈が無い。

 

 「すごい」

 

 門を見たなのははそうこぼしていた。それはそうなのかもしれない。この門は、全てを記した空間へ通じる為の方法。その門が人にとって害をなさないはずがない。そsちえ、それはなのはにだって影響を与える。まあ、俺との契約でその影響はかなり薄まっているが。

 

 「なのは、大丈夫か?」

 「うん、全然問題ないよ?」

 「そうか」

 

 なら良い。鍵は外れて、門が開かれる。開かれた瞬間、俺たちは全てを通じて、一に至る。

 

 「な、何が! 何でこの場所に!?」

 

 再構築された体を確かめながら、目の前の戦闘機人を睨みつける。

 

 「ひっ!」

 「あの子を返してもらうぞ」

 「は、はっ! 陛下がお前たちについていくとでも? 陛下は我々と――」

 「ああ、黙って良いぞ? お前の回答など最初から期待していない」

 

 グシャリと、頭上から一本の腕を振り下ろして潰す。最低限生きていないと拙いだろうから、一応手加減したが、それでも顔の骨は折れてぐちゃぐちゃになり、見るも無残に全身の骨はバラバラに砕けている。

 ヴィヴィオはここの上か。

 

 「砕けろ!」

 

 一気に玉虫色の腕を伸ばして、ヴィヴィオのいる場所へ通じる道を作る。

 その道を翼で飛んだら、成長していたヴィヴィオがいた。

 

 「ヴィヴィオ」

 「誰!?」

 「私だよ、ヴィヴィオ!」

 「なのはママ!」

 

 ……良いんだ。俺は今の姿じゃ、人と思われないし。救人パパって何時ものように言われなくって。

 

 「ダメ! 来ちゃダメ! 体が勝手に動くの!」

 「大丈夫。私達がヴィヴィオを助けるから」

 

 優しくなのはが語りかけ、ヴィヴィオを抱きしめる。

 

 「な、何で!? 何で!?」

 「お前の体の中にあったのは既に抜き取ったからな」

 「その声、救人パパ?」

 「……うん、そう。

 ヴィヴィオの中で悪さをしていた物は抜き取って、暗示は、より強力な精神支配でなくした。さあ、帰ろう。今頃戦闘機人もスカリエッティも捕まっているさ」

 「駄目! 私は兵器なんだよ! この船を動かせる聖王っていう名まえの兵器! みんなと一緒に居られない!」

 「ヴィヴィオ、パパも少しだけ秘密を明かそう。パパはね、『邪神』なんだ」

 「邪神?」

 「そう。人を傷つけ、人に破滅をもたらす邪悪で醜悪にして、人にとって最悪を越して忌避すべき神なんだよ」

 

 それが俺。だけど、

 

 「だとしても、俺をなのはが支えてくれる。支えてくれた。そのお蔭で邪神であっても、人として生きてこられた。たとえ兵器だとしても、ヴィヴィオは人として生きていけるさ」

 

 それでも、人として生きていける。

 それはヴィヴィオだって同じ。

 

 「ヴィヴィオ、お前は人として生きたいか?」

 「生きたいよ……!」

 「そうか、なら、俺達がお前を救う。さあ、一緒に帰ろう」

 

 優しく二人を抱えて、俺たちは船から出る。先ほどから警告音が流れているからな。

 船から出て、もう二度とヴィヴィオを利用させないためにも船を破壊する。っと、その前にあの船にいた全ての生命体を転移させないと。わざわざ門を使わなくても良いだろう。

 八神たちに連絡して回収しようとしたら、すでに全員を回収して、脱出しているそうだ。……珍しく動きが速いな。

 まあ、此れで気兼ねなく動く事が出来る。

 

 「炎で凍りつけ!」

 

 白い炎が船を凍らせていく。かつて地球を大氷河期へと追いやった邪神の力。幾ら聖王の船でも耐えられる訳が無い。凍り付いて、ひび割れていく。

 キラキラと光に反射しながら、船は砕けていく。スカリエッティの野望も、管理局の作り出してきたまやかしの平和も。

 これから先は色々なことが変わる。陸の不祥事。スカリエッティとのつながり。そういった事から、管理局は変わる必要が生まれる。

 船を砕くことで、今と過去を完全に壊す。これから先は俺たちは必要ないのだから。あとはヴィヴィオの世界。

 

 「ヴィヴィオ」

 「救人パパ?」

 

 いつの間にか小さくなったヴィヴィオと、なのはを抱えて、俺は彼女に聞く。

 

 「帰ろうか」

 「……うん!」

 

 にっこりと笑い、ヴィヴィオは涙を流しながら答える。

 その笑顔を見ながら、俺はなのはとヴィヴィオを抱えて、空を飛び続ける。

 何時までも、何時までも。これから先の未来へと。

 

 

 

 

 san値

 

 救人     1 (回復)

 なのは    3

 ヴィヴィオ 52

 

 状態 全てが平穏な世界 




この話は一応完全なハッピーエンドを迎えました。
これから先は、暇を見て外伝を書かせていただきます。それでは、またいつか。


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外伝 4 狂信してしまった科学者と銀髪の娘の話

お久しぶりです。外伝、今回は過去話。
途中から日記の中の一人称と、現状の説明で三人称で混ざっていますが、そこはご了承ください。


 その人は優しい人だった。かつての主の事だ。知識を何よりも好み、一人静かに研究に励んでいた。

 私もまた、そんな彼をサポートし続けた。食事を作ったり、掃除をしたり。……ま、まあ、料理した経験なんてなかったから、炭を作ったりしたのだけど。掃除も調度品を叩き壊したりもしてしまったけど。

 でも、その生活は幸せだった。主は人の為になるような研究をして、多くの人から慕われていた。

 例えばガジェット。そう呼ばれた機械は、人が行動するには危険な場所で、自立行動をして救助や採掘などを手助けする。

 例えばクローン技術を応用した再生医療用ポッド。クローン自体は作れないように、設計されていたこれは、人の失われた器官を再生させてくれるといった医療用の物だった。

 こういった道具を数々作っていた主を、私は尊敬した。尊敬して、敬愛していた。

 しかし知識を望み続けていたがゆえに、主はある時禁断の扉を開けてしまった。それは物語のような希望のある話ではなく、何処までも現実に続く、恐怖と混沌と、一切の慈悲無き話し。

 

 

 

 ある時、主は一冊の本を手に研究所へ喜び勇んで帰ってきた。どうやら、世界を旅する行商人から購入したらしい。黒い肌をした青年から買ったと言うその本は、とても珍しい文字で書かれており、一体何の本か私には分からなかった。それは主もそうだったようで、とても興奮しながら解読していった。今思うに、あの本を解読しようというたくらみは余りにも愚かな行為だったのだ。馬鹿馬鹿しく、唾棄すべき行為。自ら破滅へつながる道を開いたのと同義だったのだから。

 しかし、その当時の私達にはそんな事は知らなかった。分かるはずがなかった。その知識に触れたことが無かったのだから。主はその本をだんだんと解読し始めた。それだけの知能が有った。それこそが主の不幸だった。

 だんだんと主は変わっていった、人に幸せをもたらすような発明をしなくなっていった。いや、それは別にかまわない。主の研究内容は、その時はまだ人道から外れたものではなかった。只々、その本を解読して、不気味な魔法を研究し続けていた。

 まるで何かに取りつかれかのように、いや、実質憑りつかれていたのだろう。あの魔道書に。

 

 

 

 魔道書が主の元にたどり着いて、幾年がたち主は変わり切ってしまった。その頭脳によって、幾つもの恐ろしい道具を作り出していった。それらの道具は未来の世界を混沌に陥れるだろう。

 もちろん、私は主を止めようとした。かつての、不器用でありながら、でも優しかったころの主に戻ってほしかった。しかし、それは遅すぎた。

 

 「ははははははは!! 何だ、何だ、何だ! 人はこうも脆いのか! ならば、私がしてきた研究も一切合財無駄でしかなかったではないか!」

 

 それは違う! そう叫びたかった。しかし、私は今、夜天の書へ封印されている。しかも今、主の手によって少しずつ、変化させられていく。

 それもこれもすべてはアレの所為だ。

 暗い満月の夜、何時も主は森へ出かけ、異形の怪物と出会っていた。それに気が付いた時には余りにも手遅れだったのだ。

 すでに主は変わり切ってしまっていた。願いを叶える石と謳いながら、全てを破壊する兵器を戦争の為に作り出したり、私を変えていっているのもそう。主本来の科学とは違う。全てに不幸をもたらす科学。

 その道を進ませるわけにいかないのに、私には何もできやしない。

 その無力感が私を蝕んでいく。

 

 「ああ、せめてこの身が滅んでも、主だけは救いたいというのに!!」

 

 それすら敵わず、私は意識を失ってしまう。夜天の書()闇の書(異物)が混じり込んでいく。

 

 「ふはははははははは! あはははははははは! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 何故だろう。主の笑い声は途中から、悲鳴に変わったような気がしたのは。

 

 

 

 ある時、ミッドチルダで、スクライアの一族が発掘したものを展示する企画が博物館で行われていた。その中に、一冊の日記帳があった。

 そんな一冊の本を、長く美しい銀髪をたなびかせた女性が、周りの人に見られることもなく、その日記帳を手に取り、涙を流しながら読んでいた。

 

 

 ☆月〇日

 今日、私は不思議な本を買った。魔道書の類いのようだが、私が知らない言語で書かれているらしい。メジャーな次元世界の言語を探してみたが、すべて一致しなかった。

 面白い。私としても、私が知らない知識というものは大歓迎だ。それに今は何かを作ることも調べることもしていない。ゆっくりとこの魔法書を解読しよう。

 そう思っていたのだが、それよりも早く、自動でおいしい料理を作る機械を作らないと、ダメかもしれない。炭になっている何かを食べながら、そのことを考えていた。

 

 

 □月▲日

 何だこれは! 私が知らない知識ばかり! 原型と言っても良い魔導方式。しかし、何処をとっても洗練されており、今の魔導式ではこれほどの成果は望めない。

 素晴らしく論理的に組み立てられており、解読するのにかなりの労力が必要だが、非常に楽しい。そう思えるほどに難解だ。この頃は、魔導師たちの魔法は画一的なばかりで、何の面白みもなかったから良い頭の鍛錬になりそうだ。

 これほど上機嫌なのは何時頃だろうか。

 

 

 ◆月❂日

 何と! これは凄い! なるほど、この世界をそう考えると、時空間という考え方が、今の定説をひっくり返すほどだ。しかもそうなると、次元世界の間にある海も、もっと安全に航海することも可能になるだろう。そんな事を考えていた時、私の家にノックの音が響き渡った。

 やれやれ、一体誰だ! この素晴らしいひと時を邪魔する愚か者は!

 

 

 

 ➣月⢥日

 あれから、私は新たな研究を強制させられている。

 くだらない。何故この私が、高々聖王に協力しなければならない? 聖王程度代わりはいくらでもいる。そんな如何でも良い存在に協力するくらいなら、あの本を解読していた方がよっぽど有益だ。

 そうだ。私を利用しようというのだ。あらば、私もベルカを利用しようではないか。何、私を無理やり使っているのだ。ならば、その報酬を貰わなくてはな。

 

 

 

 ij月⁂日

 あの時の――魔道書を売っていた、商人が偶々私の元を訪れた。何やら、私ならば新しい魔導書を託しても良いという事らしい。その為には一つ大切な儀式を行わなければならないらしい。些か怪しいが、まあ、あの素晴らしい、めくるめく知識の泉へ行けるというのなら、何でもしよう。

 約束した日、真夜中に私は彼に連れ出されて、森の中へ進んでいった。可笑しなことに、私以外の科学者も、研究者もいるというのに、一人も会わない。それどころか、警備の兵にも会わないのだ。普段は油のようにしつこくくっついているというのに。

 まあ、良い。それよりも新しい魔導所には、どんな知識が書かれているのだろうか! 今から心躍る!!

 

 

 

 

 ℱ月ℵ日

 可笑しい。ここ数日、記憶が飛ぶ事が有る。気が付いたら、部屋の中で眠っていることもあれば、研究室で見たこともない数式を書き上げていたこともある。

 

 その数日後の記載

 やはり可笑しい! 見覚えのない服や、そこにべっとりと血がこびりついている! それに私は知らないのだが、実験用という事でモルモットを発注したという記録が残っていた。分からない。私はそんなものを頼んだ覚えはない。しかし、搬入係は確実に私が発注したといっている。

 これは飛んでいる記憶に何か原因があるのだろうか?

 

 

 がつ 日

 私は、何をしているのだろう? 目の前には青い宝石。私が作り上げた道具。全てを破壊するための道具。しかし、何故こんなものを作ったのかが私にはどうしても理解できない。それに、記憶の欠落が酷すぎる。如何すれば良いのだろうか? 

 そう言えば、またあの商人が来るらしい。楽しみだ。あの本を読めるのなら、何でもしよう。

 

 

 それ以降に論理的な記述はなかった。

 しかし所々に、這い寄りし、世界の真理、神話の怪物。等々、訳の分からない言葉が書き連ねられている。

 

 

 

  ガつ nいち

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 

 私は!! waたしは!! 

 nasしていた ろ ? 何故、彼女を!! 私は私が信じられない! もはや、私は生きられない。あの青い宝石も封印しよう。王に見せるつもりだったが、そんな事は出来やしない。

 私は死してなお、煉獄の炎に焼き尽くされて永遠の凍てつく世界で凍りつき血の池にて飲み込まれて溺れ体中を串刺しにされて撃ちぬかれて爆破されてばらばらになるべきだそうだこれこsがわtしにふさわしいこういだからすぐにしななければしんでじごくのせめくをあじわなければ

 

 そのページを最期に、べっとりと、真っ黒な固まり切った血で染められた、一冊の日記帳があった。

 その日記帳は、たった一人の女性にだけ読まれ、すぐに学術的価値のない物として、どこかへ死蔵されていく。

 しかし、その日記帳に誰かの、或いは幾人かの涙の痕が有ったことは、誰も知らない。




それではまたできたら、外伝でお会いしましょう。


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外伝 落とし子と運命の魔法少女達

飛び飛びの、今考えていた場面場面をつなげただけの短編以下の何かです。


 魂に残っているのはたった一つの思い。かつて、夢破れて邪神になってしまった男の願い。

 たった一つこぼれた思い。『人を救いたい』。世界を作ることも出来る邪神になりながら、僕の父親はそれ以外を望まなかった。望めなかった。狂人として世界(アザトース)に生み出されたのだから。死を恐れず、たった一つの事を実行させるために。ナイアルラトホテプの邪悪な願いを打ち砕くために。

 だけど、僕は思う。僕の父親は邪神でもなく、只のろくでなしだ。お母さんを壊して、独り自分は外宇宙の深淵で眠り続けているのだから。だから、僕は許さない。万物の王を。最悪の邪神を。

 けど、それもすべてはきっと無駄。いくら僕が吠えても、父親の力の一部の僕には何もできやしない。できるのは、奉仕種族との意思疎通に、神話生物や、その他の知識だけ。それ以外には何もない。反旗を翻すこともできずに、只終わりを待つだけ。

 そう思っていた。

 

「君は何者だい? 僕を視れるなんて」

 

 歓喜が心の底から湧いた。目の前の、愚かで下らない願いを叶えようとしている哀れな物体を知り、確かに僕の心は揺れ動いた。こいつ等にとって世界は終わりを告げるもの。しかし、それは起きない。起こさせてはならない。

 きっと、これは意味のない行為。だけど、少しでも嫌がらせになるのなら、僕は彼らに協力しよう。そう思ったんだ。

 

 

 

 

「お前は何!?」

「僕が何か? そんな事に何か意味でもあるの? 魔女は狂える踊りを舞い、狂信者は悪意を謳う。僕という存在は、憎しみを伝えようとする存在だよ」

 

 カチャリと額に銃口を何時の間にか突きつけられる。このまま僕を殺そうとしているのだろう。だけど、無駄。何故なら。

 

「う……そ?」

 

 グジュル。ジュルジュルと肉が集まり、穴をふさいでいく。父親のような無敵の体はないけど、死なない体は持っている。銃程度では、僕の敵には相応しくない。

 

「お願い、ナイトゴーント」

 

 ……逃げられた。ナイトゴーントが出る前に、撤退されてしまった。まあ良いや。種はまいた。絶望は既に芽生えるための水を蓄えた。あとは、時期が来るまで待つだけ。

 

 

 

 幾人かの少女たちが集まっている。今まで相手取り、戦い、その内面を知った彼女たち。ああ、そうか。これがその気持ちか(・・・・・・)

 

「無駄だよ。君たちは自分で選んだんだ。魔法少女という化け物になる事を」

「っ! お前は!!」

「そんな君たちが倒せるはずがない。アレを」

「試しもしないで負けを認めるつもりはないわ」

 

 彼女たちは強い。だけど、それだけだ。だから、最後に忠告して僕は消えよう。

 

「無駄だよ。君たちでは勝てやしない。ああ、それと、もう僕は君たちの邪魔はしないよ。これは今までの謝罪だ」

 

 投げるのは、様々なグリーフシード。色取り取りのそれが幾つも地面を転がって、彼女たちの足元に転がっていく。絶望を吸い取るという名の、さらなる絶望を集めるための道具。この程度、集めるのはたやすかった。絶望は、消える。さらなる絶望を知った時に。

 

 

 

「何だよ、此奴は!!」

「嘘。嘘よ! こんなの知らない! 魔女ですらないのに!!」

「くかかかか! 前回は邪魔をされたが、今回は如何かな?」

「そうはさせないよ」

 

 本当に、本当に僕は父親と似ていたんだろう。姿や思想ではなく、その運命が。

 

「誘いを退けて、正気を取り戻したか」

「ああ、そうだよ。暗黒の男(ナイアルラトホテプ)

 

 さあ、僕もまた、戦おう。かつての父親、お父さんのように。

 

 

 

 




少し前に思った、まどか☆マギカクロス。けど、時間がないため断念です。プロット以下の状態ですが投稿です。


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