転生傍観者~リリカルな人達~【改訂版】 (マのつくお兄さん)
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第一部~リリカルなのは 無印~
1.てんぷれ


 何もない空間。何もない世界。

 白以外の色は無くて、音も無くて、地面も無くて、空も無い。

 ここはどこだろうと考えても分からなくて、今は何時だろうと考えても分からない。

 終いには自分が誰だったかすら、なんとなくあやふやになっていることに気付いて、俺は思わず苦笑した。

 苦笑する顔があったのかどうかは分からないけれど。

 

 自分は死んだのだろうか?

 何時、どうして、何をして? 誰に?

 サッパリ分からない。ただ、誰かの泣き顔が、誰かの満足そうな笑みが、記憶に焼きついている。

 

「……選べ」

 

 ――唐突に、音も啼く、色も無かった世界に、黒い何かが現れた。

 

 誰ですか?

 

「選べ」

 

 問いに対する答えは無く、そも、自身の問いの声自体が出ていないのかもしれないと俺は納得して、黒い何かを見やる。

 いや、見ようとして実際に見ているのが、本当に自分の目であるのかどうかすらあまり自信が無いけれど、ともかくもその黒い何かを見つめて、ソレが何かカードのような物を持っていることがわかった。

 このカードから、好きな物を選べということだろうか。

 

 無い筈の手と、無い筈の目で、そっと右端のカードを指すと、選ばれたソレはもやから離れ、俺の身体があったならば、丁度胸のあたりに位置するところへと移動して、そのまま消えていく。

 

 ――と同時に、何かが、自分の中へと入っていった。

 

 けれどそれは別に不快でもなんでもなくて、むしろどちらかと言えば心地よい、欲しかったものだったような気がする。

 でも、それが何かは分からない。

 未だカードを差し出したままのソレに、今度は左端のカードを指すとまた、それも胸のあたりへと移動して、消える。

 その時点で、差し出されていたカードの残りは消えて無くなった。

 

 ――結局、このカードのような物はなんだったのだろうか。

 

 そんな疑問に答えるかのように、いや、実際答えてくれたのだろう。黒いもやは一拍置いてから、語りかけてきた。

 

「今与えたのは、自身が好意を持つ相手に幸福を与える能力だ」

 

 能力――。

 多分死んで、気付いたら謎の空間で、謎の存在が目の前に居て、能力を与える?

 そんなありふれた、転生だとか異世界移動などの設定、所謂テンプレートと呼ばれるような物を自分は今体験しているのか?

 

 実感が無いからか、死んだかもしれない(というか多分死んだ)ということよりも、そんなどうでも良い事に意識がいった。

 

 ありがちなのはネコや子供を助けるために身代わりになってトラックに轢かれたとかがポピュラーな線だと思うが、自分はどうなのだろうか。なんとなくその線でもおかしくないと思う程度には、自分で自分がどういう人間か理解しているつもりだ。

 いやいや、それよりもこの展開は、どういうアレだろうか。

 神様の手違いで死んでしまったのお詫びという、神様がヤケに立場低すぎる現実味の無いタイプか、それとも神様の暇つぶしか。

 生まれ変わるなら平和で楽しい世界が良いなぁと思う訳だが、そのへんの希望は出せるのだろうか。

 

 黒い何かに向けて期待のまなざしを向けてみるが、生憎と表情などがあるのかどうかすらわからないもや状のソレからは何も読み取れず、そんなバカなことをしている間に、急激に後ろに引っ張られるような感覚に驚く。

 

「――今度は後悔無き人生を歩むと良い。汝の行く道に幸多からんことを」

 

 ――遠のいていく意識の中で、黒い何かがそう言ったのだけは感じ取り、俺はありもしない表情筋を動かして笑った。

 

 俺は後悔なんてしてないし、幸せでしたよ。

 どんな結末を迎えたかは覚えていないけれど、こうして笑えるんだから。

 

 ――意識が、暗転する。



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2.転生者っぽい人達と原作組と、僕の日常

「また、この自然公園の一部の木がへし折られていたという事件についてですが――」

「っと、もう行かないと」

 居間でぼんやりとニュースを眺めていた僕は、テレビに表示されていた時間を見て慌てて立ち上がり、テレビの電源を切ると一時間ほど前に作り終えてご飯を冷ましておいたお弁当にフタをし、ランドセルに突っ込んで家を飛び出した。

 

 空は快晴。雲はちらほらあるものの、実に散歩日和、スポーツ日和な一日を予感させる朝だ。

 ……まぁ、僕は運動クラブとか所属してないから全く関係無いのだけれど。

 少し眩しいくらいの陽射しと、涼やかな風を浴びながら、僕はそんなことを思うのであった。

 

 ――前世の記憶を思い出すことで、自分が自分であるという認識をしたのは三歳くらいの頃からだろうか。

 記憶にあるのは、タバコのヤニ臭さと煙が充満した部屋と女性の金切り声に、男性の怒鳴り声。

 コップが割れて、壁が殴られて、母らしき女性が何か鈍く光る物を持ったまま子供用ベッドに叩きつけられて、それを眺めている僕は、泣きもせずにジッと耐えていた。

 母は僕を庇っていたが、その母は自身の鬱憤を僕にぶつけることがよくあったけれど、父らしきあの男性に殴られるよりはダメージそのものは低かっただろうと考えれば、まだ許せようというものだ。だから笑って我慢した。

 尤も、その我慢も結局どれだけ続いたのか。気付けば母らしき女性も、父らしき男性も家には帰ってこなくなって、餓死しかけた頃に多分、市か何かの役員らしき人に保護され、入院し、なんだかよくわからない内に自分の親戚だという男性と養子縁組をして引き取られることになった。

 

 我ながら中々に波乱万丈なスタートだな、と思う。

 そんな幼少時代な上に前世からの記憶という物を持っているということも相まってか、我ながら大人っぽい子供であると思っているし、周囲もそういう認識であったが、新しく義父になった男性は不器用ながらも良き父親であろうとしてか、そんな子供らしくない僕に随分と良くしてくれた。

 今では本当の父親としてその人のことを慕っている。

 まぁ、実際経験すると中々にハードだが、ザックリ語ってみると何とも不孝な転生者とかのテンプレっぽいノリだよな、と過去を思い返す度に思うあたり、我ながらドライというかなんというか。

 それでも身体が子供だからか、精神が引っ張られているようで時折寂しさやらで泣いたりしたものだけれど。

 

 さて、そんな自分語りは置いておくとして、ここがリリカルなのはの世界である可能性が高い、ということに僕は小学校に上がった頃に気付いた。

 ちなみにリリカルなのはとは、なんかこう、女の子が謎の動物から魔法の杖を貰って小学生なのに命賭けたバトルをして、中卒でエリート街道まっしぐらするアニメとかそんな感じだった覚えがある。前世ではアニメ一期しか見てない上に二次創作とかちょっと暇つぶしに読んだことがある程度のにわか知識しか無いので、それ以上の説明は僕には出来ない。

 

 そんなリリカルなのはの舞台である海鳴市。ここが僕の住む町の名前だ。

 

 少なくともそんな名前の市は前居た世界の現実では存在しなかった。それだけならまだ「そんな二次元の世界に転生とか夢見すぎだよ自分」とか思えるのであるが、翠屋とか、不老の高町夫妻だとか、そんな物の存在を実際に見て知ってしまった以上は「あ、うん。なるほどココはリリカルなのはの世界か」と、割と変に納得してしまう自分がいる。

 まぁ、何にしても少なくとも地球の日本は前世と殆ど変わらない世界観というのは非常に助かる。前世の記憶というものがちゃんと役に立つのは大きい。もしこれで剣と魔法のRPGみたいな世界に村人Aとかとして転生だったら特殊な能力とかもらったわけでも無い自分では目もあてられなかった。

 それこそ某○○国記で、言葉も分からずに漂流してしまった難民並のバッドエンドが待ち受けてそうだったし。

 

 で、そんなどうでも良い感想を抱きながら育った僕も今年で九歳となり、同級生には高町なのはちゃん達という状況。

 

 これは、原作介入フラグって奴だね!

 

 とか普通ならなるのだろうけれど、生憎とそういうつもりは欠片も無い。

 まず面倒だし、そもそも間違いなく転生者な人が三名ほど既になのはちゃん達にはついているので、下手にそんなことしたら怪しまれて巻き込まれて、死期を早めるだけだろう。

 まぁ、興味が無いといえば嘘になるわけだけれど。

 

 さて、そんな転生者っぽい三人のメンバーを紹介すると、

 

 黒髪茶瞳の正統派主人公の香りがして女顔で元気な男の子、佐々木刹那(ささき せつな)くん。

 料理上手で手先も器用らしく下手な女の子より女の子らしい人で、なのはちゃん達と仲良しで人当たりも良いお人よしな完全オリ主さん。

 

 小学3年生なのに150以上ある身長の銀髪オッドアイで子供なのにイケメン顔という完璧に狙った感バリバリのクールぶった男の子、天ヶ崎悠馬(あまがさき ゆうま)くん。

 女子に人気だがなのはちゃん達からは露骨に言い寄っていくせいで気味悪がられて地味に距離を置かれているのに気付かずべたべたしている。刹那を目の敵にしていて、それでまたなのはちゃん達に嫌われるという悪循環なのに気付いていない。

 間違いなく闇の書事件のあたりで消えることになりそうなかませ犬ポジション。

 

 赤髪緑瞳という「え、カラコンでもいれてんの? ていうか髪の毛染めるのは流石にまだ早くない?」ってツッコミを入れたくなる(まぁこの世界、割とありえない髪色の人多いけど。すずかちゃんも青紫っぽいし)容姿の似非関西弁糸目メガネ、桜庭虎次郎(さくらば こじろう)くん。

 "とらじろう”じゃなくて"コジロウ”と読むのがポイント。次の字が付くとおり次男らしいが詳しいことは知らない。

 うさんくささバリバリな彼だが、関西弁口調なだけありクラスのムードメイカー。アリサちゃんを相方(本人は絶対に否定するだろうが)にボケ倒す芸人魂に溢れる奴。

 親分肌なところがあって、男子からの人気は一番高い。女子からも人気と刹那くんがいなかったら確実にオリ主ポジだなと思わせる風格を持つが、刹那くんとは大の仲良しで「ワイのために毎朝味噌汁を作ってくれ!」とか言って苦笑いされていたことがある。

 現状、僕にとって唯一の親友と呼べる存在だけれど、向こうは友達が多いので向こうも同じだと思ってるかは甚だ疑問だ。

 

 あとは、なのはちゃん本人とはそんなに関わってはいないけれど、転生者だろうと思われるのが一人いる。

 

 銀髪赤瞳という完全にアインツベルンな見た目の女の子の津軽恵理那(つがる えりな)さん。この子とは挨拶くらいしかしたことが無いが、アリサちゃんにライバル認定されており、アリサちゃんがいない時に絡んでくることのある虎次郎を絶対零度の眼差しで嘲笑を浮かべながら優しく罵倒する担当。

 

 ちなみに僕は普通に「将来は見る人によってはイケメンな顔になるんじゃないか」と思われる中の上程度の顔で家事スキルがちょっと高いだけのモブである。得意教科は社会と国語(古典と漢字書き取り除く。尤も小学校低学年で古典は無いが)で名前は佐藤義嗣(さとう よしつぐ)という。

 苗字からしてモブ臭満々であるが、佐藤って由緒正しい苗字だし僕はめげない。むしろ好きと言える。負け惜しみではない。

 そして当然ながらそんなモブな僕はなのはちゃん達と挨拶くらいはするけど基本的に絡まない。下手したら名前すら覚えられていないかもしれないレベルだ。

 

 それほどスペックの差がある以上、高町御一行に無理に絡んで行っても身の程知らずとしか言いようが無いし、そもそも接点が大して無いので小学生になって三年ほど経つけれど、ろくになのはちゃん達との絡みは無い。

 

 そしてそんな小学三年生の折、遂に物語は動き出す。

 

 下校途中に突如頭に響いてきた念話っぽい物。

 どうやら念話が聴こえる程度の魔法的な能力はあるらしいということにちょっとだけ感動を覚えながら、「ペロッ、これはユーノくん!」とどうでもいいことを呟いて夕焼けの中のんびりと歩いて家路につく。

 

 今日は父さん遅いから夕飯作るのは急がなくても良いけど、なににしようか。じゃがいもとにんじん、たまねぎが近所のスーパーで安売りの日だけども……カレーでも作るか。

 じゃがいもまだ少しは残ってるけど、自前でポテト系のお菓子作ったりしてるから結構消費早いんだよね。まとめ買いしとこうかな。

 

 そんな日常的な思考のまま、苦しげなユーノくんの念話に「頑張れ! 多分そろそろなのはちゃんと会えるよ!」と内心でエールを送る僕はちょっとだけ白状かもしれない。

 

 その日は特筆したこともなく、夜になると父さんから残業で泊り込みになるので帰れないと連絡があったので、カレーの蓋をとって冷まし始めつつ、甘い物が食べたくなったので冷凍庫を開けたら、我が家の常備食ともいえるチョコレートが切れていることに気付いた。

 

「そういえばこの前最後の食べ終わったんだっけ……今日買ってこようとか思ってたのに忘れてた……」

 

 午後七時。時間的にはまだスーパーやってるし行って来るべきか。

 普段であればここは我慢しても良かったが、確か今日はスーパーでチョコが一個68円だった気がするので、買わない手は無いのである。

 普段は98円であるからして、一個30円の違いはデカいのだ。というわけでチラシどこだチラシ。一応確認しないと、行ってみたら勘違いで明日の特売でした、とかなったら悲しいからね。

 

『僕の声が聴こえる方……どうか……力を貸してください……』

 

(あ、ユーノくんだ。おいす~)

 まぁ聴こえないだろうけれど、とりあえず頭の中で返答しておく。

 この声が聴こえてきたってことは今頃なのはちゃんが動物病院に向かってる頃合だろうか。

 ふむ……しかしどうしたものか。これから戦闘起きるならあんまり外出とかしないほうが良いか。でもチョコが食べたい。勉強のお供には甘いものは必須だ。

 

 元が成人した身とはいえ、むしろ勉学から離れていた身としては小学校のうちの基礎的な勉強というのは忘れている部分もある。まだ三年生とはいえ、理科関係や社会関係の授業は結構うろ覚えなのが多いので後々のことを考えれば勉強はしておくに限るし、聖祥大附属小学校は割とエリート系に位置する入学金とかもバカにならない学校なので、そんなところに入れてくれた義父への義理もあるので勉強は大事。

 そして勉強を頑張った自分へのご褒美、もっと大事。

 

 そういう訳で、動物病院の方さえ行かなければ問題なかろうと判断。

 チラシを見たら、板チョコは間違いなく安売りになってたし。この時間に出歩くのは面倒だけど、僕はチョコレートが食べたいのだ!

 と、家を出ようとしたところで結構近所から爆音が響き、突然家の電気が消えた。

 

「あれぇ……」

 

 電線切れた? なのはちゃん、電線切った?

 玄関を出ると、近所の家も予想通り停電になったらしく家の灯りが消え、街灯も消えている。そして遠め(といっても夜に視認出来る距離なので実はかなり近い気もする)に見える謎の黒くて触手がうねうねしていて、一対の赤いお目目がチャームポイントな物が空を飛んでいた。

 いや、飛んでというより、跳んでいた、が正しいか。丁度跳ね上がったところだったみたいだが、落下していって近所の家が邪魔で見えなくなった。そして何かが勢い良く衝突する音が響く。

 

(魔法って、秘匿しなくて良いものなの……?)

 

 ユーノくんに物申したい気分になったが、よくよく考えてみたらこの時のユーノくん衰弱してて結界張る余裕も無いだろうし仕方ないのか。

 どうせいつもの三人組がなのはちゃんの救援に行ってるんだろうから誰か張ってやればいいのに。三人もいれば誰かしらは使えるだろう、結界魔法。

 とか思いつつ、僕は華麗にスーパーへと足を進めることにした。幸い、動物病院とは別方向だから問題無い。

 ――というかこれ、停電直るの時間かかるかな……。

 

 あ、そうだ。電線切れてるの発見した時って電力会社に電話しないといけなかったよな。いや、でもあの場に行って本当に切れてるのか確かめる訳にもいかないし、切れてると断定して電話してあの三人の内誰かが時間逆行魔法的なの使えて出た被害を修復してくれる可能性だってある。

 

 チートオリ主が三人もいるんだ。ありえないとは言い切れないぜ!

 

 そういうわけで電話はやめておこう。携帯持ってないから電話する手段が無いし。そもそもよく考えたら電力会社の電話番号なんて知らないし。こんだけ見える範囲で停電の家が多いんだからどこかの家が電話するだろう。

 

 ヒュンッ、ザクッ。

 

 とか考えていたら、僕の耳元を何かが掠めたと思った次の瞬間、今いる位置から二歩くらい前方に歩いたら頭直撃なコースに無骨な剣が突き刺さった。

 

 凄い。ヒュン、と来てザクッ、という擬音でしか現せないくらい唐突に耳元を通り過ぎて目の前に突き刺さったよこの剣。

 

 これはアレか。もしや僕はこの剣を抜いてブリテンの王にでもなるのか。円卓の騎士団作っちゃうのか。

 ……冗談だけど。

 

 誰だ、こんな街中で剣ぶっ放したの。王の財宝<ゲートオブバビロン>持ちでもいたのかチートオリ主に。下手にオリジナル設定多様するのもなんだか痛々しいけど、なんでも安易に他作品から持ってくれば良いと思うなよ! 無限の剣製も王の財宝も割と珍しくもなんともないスキルになってるんだぞ最近の二次創作! 格好良いから良いけどね!

 

「っていうか、撃つんならちゃんと狙えよ!!」

 

 割と混乱していた僕は、冷静さを取り戻すと同時に叫んだ。

 

「だって、おかしいだろ。なんでここに剣飛んでくるの? 危うく刺さるところだよ? おかしいよね。戦場は全然別の場所だよ? っていうか、戦場は僕の後ろの方のはずなのに、なんで僕の目の前に剣刺さってるの? おかしいよね。これあと数ミリずれてたら僕の後頭部に突き刺さるどころか粉砕して、色々グロいことになってたよ? あと耳が痛いよ? 鼓膜は破れてなさそうだけど、耳元を超高速で剣が通り過ぎたらそりゃ風圧とかで耳超痛いよ!」

 

 ……冷静なつもりだったけど、割と冷静ではないかもしれない。

 思わず口に出して文句を言わずにはいられない。本当にどこのバカだ。幸い、近くには誰もいないし僕の独り言も聞こえてないだろうし、今歩いてる場所はさほど人通りの無いところだから発見には時間かかるだろうけれど、コレ真面目に誰かに直撃していたらどうする気だったんだ。。

 

 飛んできたと思われる後方へと目をやると、先ほど黒い物体が跳んでいたのよりも高い位置に、黒に金の装飾のされた中々にイカしたデザイン(イカレじゃなくて、イカシてる。意外)の西洋鎧に身を包んだ銀髪の姿と、空間に金色の波紋を広げながら展開される大量の剣や槍の姿が見えた。

 顔は見えないけど、間違いなく銀髪オッドアイナルシー悠馬である。クソッ、王の財宝使うなら鎧も金ぴかにしろよ。鎧がちょっと格好良いとか思っちゃった自分が憎い。黒字に金とか僕好みすぎるだろ。悪役っぽくて好きだよああいう色合い!

 この剣パクってやろうか、と憤慨しながら剣の柄に手をかけるが、アスファルトに深く刺さりすぎて(摩擦熱なのか、刺さっている部分のアスファルトが溶けて剣を刺してからアスファルトをかけたみたいになっている)引っ張っても微動だにしないので諦めた。王の財宝なら仮にも宝具。下手に関わったらなんか面倒くさそうだし仕方ない。

 

「べ、別に抜けなくて悔しいと思ったりなんかしてないんだからね!」

 

 誰もいないのを良いことにツンデレごっこをしてから、一人寂しくスーパーへと向かう僕なのであった。

 

 尚、停電は帰ったら直っていたし剣も無くなっていた。

 剣はわざわざ回収したのだろうか……甲冑に身を包んで、戦場から遠く離れた場所に間違って撃っちゃった剣を拾いに走ってきたのはいいものの、深く刺さりすぎてて中々抜けずにめっさ踏ん張る顔だけイケメン銀髪オッドアイ。

 なんだか間抜けな絵面である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 いつも通りの朝、昨日の騒ぎなど無かったかのように平和な朝に満足していた僕が学校へ到着すると、朝からなのはちゃんの席には人垣が出来ていた。

 それは何故か? 言うまでもあるまい。ユーノくんである。

 どうやら連れてきたらしい。良いのだろうか、ペット持ち込みとかして。

 

「可愛い~!」

「可愛らしいなぁ。お手せぇへんかな。ほれ、お手」

「アンタ相変わらずばかね。飼って一日目のペットがいきなりお手なんて……した!?」

「「「可愛い~!」」」

 

 ……良いのかどうかは甚だ疑問だけれど、確かに可愛い。

 それにしても朝からやかましいことこの上無い限りだ。

 だが可愛い物大好きな僕はちゃっかりとその騒がしい中に紛れ込んでいる。くそぅ。可愛いぞユーノくん。我が家で飼われてみる気はないかね。

 触って撫でたり頬ずりしたりしたいけど、口に出したりはしない。何故なら僕はモブである。

 

「チッ、淫獣が……」

 

 そんな葛藤と戦いながら可愛らしいユーノくんを眺めていたら、悠馬がこれ見よがしに舌打ちしてユーノくんを睨んでいた。

 

 おい悠馬、貴様、君はこのかわいらしい生物を相手になんていうことを言いやがるですか。

 

 ……とか思っても口には出さないのが大人である。昨日の光景を見た限り間違いなくコイツの戦闘能力とんでもないだろうことは目に見えているので、下手に目をつけられないようにする。それが正解だ。

 勇気と無謀は違うからね。うん。

 

「ペット相手に何言うとんねんユウマン。あぁもうかあいらしいなぁ。なのはちゃんにはかなわんけどかあいいで~」

「え、私? え、あ、ありがとう」

「おいトラジロウ。てめぇ俺のなのはに何を色目つかってやがる……」

「トラジロウ言うな言うとるやんか!」

「てめぇこそ変なあだ名で呼ぶんじゃねぇと何度も言ってるだろうがトラ」

「え、えっと……私、悠馬くんの物になった覚えは無いし、喧嘩はよくないよ? ね?」

「ふん、なのはが言うならやめといてやるよ。命拾いしたなトラ」

「相変わらずなのはちゃんラブやなぁユウマン。ふふん、なのはちゃんへの愛なら負けへんで!」

「あ、愛!? な、何言ってるの虎次郎くん!?」

「虎次郎、あ、あんた公衆の面前で告白とか何考えてんの!?」

「お、アリサ、なんや嫉妬か?」

「誰が嫉妬するかぁ!」

「俺のアリサにまで粉かけやがって……ッ!!」

「アンタの物になった覚えはないわよ老け顔!」

「老け顔ッ!?」

 

 バチバチと視線で火花を散らすナルシー悠馬と関西弁メガネこと虎次郎くんであったけれど、巻き込まれたなのはちゃんは顔を真っ赤にし、アリサちゃんは別の意味で顔を真っ赤にして虎次郎くんに噛み付き、それを見た悠馬が洩らした一言にアリサちゃんが猛然と文句を言い、老け顔発言に流石の悠馬も一瞬固まった。

 そんな騒がしい面々を見て、小さくため息を漏らすなのはちゃんに、すずかちゃんが笑う。

 

「大人気だねなのはちゃん」

「すずかちゃん……他人事みたいに言ってるけど」

「勿論お前のことも愛してるぜ、すずか」

「あ、そ、そうなんだ。あ、ありがとう……?」

 

 他人事みたいに笑うすずかちゃんだったけれど、基本、こういう愛情表現はストレートな悠馬が本性知らなければ見惚れそうな爽やかな笑顔で発した言葉に、すずかちゃんが微妙に後ずさりして苦笑いしながら返す。

 まぁ当然の反応だろう。このナルシー、なのはちゃん、すずかちゃん、アリサの三人に普段から愛してるとか言っては馴れ馴れしくしているし、目もなんかいやらしいというかなんというか……九歳児のする目じゃないと思う。

 なまじっか顔立ちが子供としてありえない若干成熟したイケメン顔なせいでそういう汚い感情が透けて見えるのだ。それでもなんだかんだで相手してあげてるなのはちゃん達は本当に良い子としか言えないし、そんなのと友人を名乗って付き合っている虎次郎くんはよくこんなのと付き合えるものだと尊敬する。

 

「もちろんワイも愛しとるですずにゃぶへ!」

「すずかに近寄んな、この変態!」

「あ、アリサちゃん。流石に今のは可哀想だと思うよ……?」

「甘いわよすずか! この変態に甘さを見せたら何されるかわかんないわよ!」

 

 そして、そんな悠馬に便乗してヒャッホーと叫ぶ勢いで糸目のまますずかちゃんに抱きつこうとしてアリサにボディーブローを喰らう虎次郎は、なんというか言ってることは悠馬と同じようなことなのに、見ていて清々しいので全く問題ない。流石はオリ主コメディ担当(僕の中で彼はそういうポジション)である。

 とか思ってたら、虎次郎は何故か仰向けになったかと思いきや親指を立ててアリサちゃんを見上げながら爽やかな笑顔で言った。

 

「バーニング……名前の割に白なんやな!」

「バーニング言うな! そしてパンツ見るなぁぁぁ!!」

 

 フシャー! と猫のように威嚇して床に転がる虎次郎くんに追撃のストンピングを喰らわせようとして回避されるアリサちゃんを見ながら、この二人は安定してるなぁとちょっとほっこりする。

 

「ユーノ、ビスケット食べるかい?」

 

 そんな二人を見て笑いつつ制服のポケットからビスケットの入った袋を取り出す我らが真の主人公、刹那くん。

 しかしアレだな。この子こうやって優しく笑ってると完全に女子だ。髪の毛も若干長めだし、制服が男子のじゃなかったら間違いなく間違える。

 う~ん……女顔主人公って最近多いよね。

 

「ふふふ……可愛いなぁユーノ……」

 

 肩にユーノくんを乗せ、ビスケットを食べさせながら頬を緩める刹那くん。あぁお前さんも可愛いな刹那くんよ。男なのに。そのうち性別秀吉(男女ではない、第三の性別扱い)みたいな扱いになるんじゃないかこの子。

 ……いや、女子からも大人気だから問題ないか。どちらかといったら超絶勉強が出来て運動神経抜群で変態要素を抜いたバカテスの明久だな。女装すると男子から人気が増えそうなあたりとかも間違いない。少なくとも秀吉ポジは無いな。流石はオリ主。

 アレ、完全無欠な超人主人公だなソレ。

 

「あ、え~っと……き、君もユーノくん触りたいの?」

「……あ、僕? いや、僕はいいよ。見てるだけで可愛いし」

 

 気を抜いていたら、いきなりなのはちゃんに声をかけられて焦る僕。

 いかんな。挙動不審だったな今の僕。

 

「遠慮しないでいいよ。ユーノ、いいよね?」

 

 慌てたまま意識を飛ばしていたら、刹那くんが僕にユーノくんの乗った肩を差し出してきたので、僕も咄嗟に手を広げるとユーノくんは刹那くんとなのはちゃんを交互に見比べてからひょいっと僕の手に乗ってきた。

 ……可愛い。 爪の部分がちょっと硬くて、でも全身もふもふで。だからそのちょっと硬い部分がまたなんともこう……触感による愛くるしさを数倍にも増やしている。あぁ、なんてラブリーなんだユーノくん!

 ちなみに手に乗せているといっても、両手である。フェレットは意外と大きいのである。ちょっと重いし。

 そんな訳で両手でも上におさまりきらない分、身体を変な形に縮こまらせていて居心地悪そうだな、と思ったら先ほど刹那くんにしていたように、ユーノくんは軽快に僕の肩まであがってきた。

 

「か、可愛すぎる……」

 

 もう完全に僕、骨抜きである。

 

「可愛いよなぁ……」

「可愛いわねぇ……」

「可愛いよねぇ……」

「せやなぁ……」

 

 僕の肩に乗るユーノくんを、目を細めて頬を緩めながら観察する一同(僕含む)が全員一致の意見を言っている中、空気を読まない奴が小声でボソっと口を出す。

 

「男もイケる口なのか淫獣……気色わりぃ」

 

 皆さんご存知、ナルシー悠馬である。死ね。氏ねじゃなくて死ね。

 ……失礼。思わず本音が。

 

「ユウマン表でろや……久しぶりにキレちまったで……」

 

 行け、虎次郎くん。僕の分もそいつを叩きのめしてくれ。

 

「はいはい、皆さん席についてください。授業初めますよ~」

 

 と、虎次郎くんがメガネをとって糸目を少し開けるというクール系イケメンキャラにのみ許されたポーズを綺麗に決めたところで先生が入ってきたのでそのまま解散となった。

 しかし何故か去り際に悠馬から小声で「調子のんなよモブが」と言われて軽いローキック喰らって少しよろめく。他の皆は気づかなかったみたいだけど、ユーノくんだけは気付いたのか僕と悠馬を交互に見て心配そうに僕を見てきたので、僕は微笑んで大丈夫だよ、と小さく手を振って机へと戻り、拳を握って小さく震えた。

 地味に痛いじゃないのさ、あのかませ犬……ッ!!

 

 

 

 

 どうでも良いが、先ほどまで受けていた算数の授業の問題にて、5リットルのジュースを8つのコップに同じ量づつ分けて入れた。1つのコップには何リットル入っているかを答えなさいという問題があったのだが、どうやら8分の5リットルが正解らしい。

 いや、それは別に良い。分数の計算だって事前に知らされてるわけだから、そういう単純な答えでいいってのは。

 だけど、リッターなんだから小数点の数字まで計算するべきではないか、と思って先生に指名された際に黒板に0.625リットルって書いたのだが、バツをつけられた上にどうして間違い扱いされたのかしっかり説明なかったのだけれど、これってどうなんだろうか。

 そんな疑問を虎次郎くんにぶつけてみた所、したり顔で頷いた虎次郎くんが言った。

 

「ヨッシーは頭えぇのにおバカやんなぁ。そこは625ミリリットルって答えれば良かったんや」

「な、成る程……ッ! ……それはまぁ良いとして。ヨッシーはやめてよ……」

 

 そんなこんなでお昼である。

 澄み渡った空の下、温かな風に吹かれながら、僕は自作のお弁当を持って虎次郎くんと共に屋上でお弁当をつついていた。

 尚、虎次郎くんがわざわざなのはちゃん達のグループから少し離れたところで食べている僕のところまで顔を出しにきてそのまま居座っているのは、僕のお弁当が目当てだからだ。

 こ奴はたまにお袋さんがお弁当作り忘れるとかで弁当代を渡されて持っているはずなのに、白米だけのおにぎりを自分で握ってきて知り合いの弁当から一品おかずを強奪していき、お弁当代をお小遣いとしてとっておく筋金入りの猛者(ケチ)なのである。

 そして、そんな猛者に今日奪われたオカズはポテトステーキであった。それは朝手早く作ったものだが、じゃがいも使った料理だけは自分のおやつも大概ソレで自作するだけあって中々の腕前であると思っている。

 しかし虎次郎くんに「美味いんやけど、ちょっとたまねぎ炒める時間短いんやないか? それとちょっと多いと思うで。なんかたまねぎの生食った時のなんとも言えんあの感じがちょいしたわ」と言われて悔しい思いをしたので今度リベンジしようと思う。

 そんなことを回想しつつ、目の前のしたり顔の虎次郎くんを睨みつけると、虎次郎くんは笑って僕の頭を撫でた。

 

「ヨッシーはヨッシーやんか。他になんと呼べっちゅうねん」

「義嗣(よしつぐ)って普通に呼んでよ」

「いやや。そない名前で呼んでもうたらヨッシーの愛くるしさが半減してまうやんか」

「うん、同い年の同性に愛くるしいとか言われてもあんまり嬉しくない上に、名前だけで半減しちゃう愛くるしさってなに? あと頭撫でるなー」

「それが若さや。そして頭は撫でる」

「意味がわからないよ……」

 

 どこか遠い目をして空を見つめる虎次郎くんに、僕は小さくツッコミの手を作って横にペチッと動かす。ちなみに実際にあてたりはしない。エアーツッコミである。

 

 さて、それはそうと愛くるしいなどといわれる僕だが、別に外見が可愛いとかではなくて、単純に身長が小さいのである。

 どのくらいかと言うと、比較対象としてなのはちゃんを出すと、なのはちゃんは129cm。僕は118cm。

 恐るべきことになのはちゃんより10cm以上も身長が低い。お陰でたまに女子と間違われたり、場合によっては幼稚園児に間違われることもある。

 いや、小学生くらいだと男子は発育遅いし、前世でも小さい頃は女の子に間違われたなんて覚えもあるし、子供なんてその子の同年代の他の子より小さくて童顔=女の子みたいなイメージあるから仕方ないのかもしれないけど、僕だって男の子なのだ。ちょっとは可愛いじゃなくて格好良いとかの方向で見られたいものだと常々思うわけである。

 

 まぁ、もし格好良いと思われるような容姿だったとしても原作組といちゃラブとかは全く考えないけれど。なにせ既に三人男がついてるし、なにより自分が子供ということもあってか、あまりそういうことに興味が無いというのもある。

 

 ――男三人ついてるとは言ってもナルシーは脱落するだろうけども……。

 

 それにそもそも魔力があるかも分からない(ユーノくんの念話は聴こえたから多少はありそうな気もするけれど、それだけを根拠に変な自信をつけたりしないのが僕がモブたる所以である)ので、なのはちゃんとこれから出てくるであろうフェイトちゃん、あと二期以降のアニメでメインとなるというはやてちゃんの三人との接点は地球から彼女達がいなくなった時点で無くなるだろうなと思う。

 それゆえにもし万が一、脈があったとしてもアリサかすずかちゃんだと思うが、まぁ多分それも無いだろう。

 自分の身のほどは弁えているのが僕なのである。

 

「ヨッシー、今なら義美(よしみ)とかに改名してお兄さんのお嫁に来ることも可能やで?」

「虎次郎くんはとりあえず僕が男であるということをそろそろ理解してほしいな、と思うんだけどどうだろう」

「何言うとるんや。こんなに可愛い子が女の子のわけが無い、って言うやろ?」

「ごめん。意味がわからないよ。そして可愛い子が女の子じゃないなら、なのはちゃんとかは?」

「なのはちゃん達は女の子ちゃう。天使や。性別を超越した存在や。男女どっちもいけるタイプや」

「落ち着いて虎次郎くん。君は今色々危ない人になってると思う」

 

 そんな拳を握り締めて目を見開いてキラキラした目で語られても困るよ僕。

 なんというか、虎次郎は子供の外見だから許されてるけど、大人になってからそんなこと言ってたら多分捕まると思う。

 ……いや、こいつイケメンだしオリ主補正で逆に女の子を絡めとっていくか。恐ろしい。

 

「虎次郎く~ん! おかずいる~?」

「お~! いりますいります~! 美少女のくれるおかずならいくらでも食えるで~! ほなヨッシー、ごっそさんでした!」

「うん。次はちゃんと時間惜しまずにおいしく作ってくるからね」

「おう、楽しみにしてるで! ほな!」

 

 これまたなのはちゃん達とは別の、可愛い女の子達のグループの呼び声に「美少女がワイを! 呼んどるでぇ~!」と叫びながら駆け出していく虎次郎を見送りつつ、僕は最後のウィンナーを白米と共にモグモグして味を楽しむ。

 うむ。おいしい。ウィンナーは僕の大好物だからね。

 いやぁ本当ウィンナーとられなくて良かったなぁ。

 

 

 

 

 海鳴市立図書館。割と大きな図書館で、読書コーナーの他にも奥にビデオコーナーなんて物まであるちょっと小粋な図書館である。

 

 放課後、特に一緒に帰ったり遊んだりする友人もいない僕(虎次郎くんに誘われない限り僕はボッチである)は元々文系なこともあって図書館はお気に入りの場所だったりする。

 ちなみに、はやてちゃんに会って原作介入ワッショイとかは考えてない。純粋に読書目的である。実際、今まではやてに会ったこともなければ見たことも無かったのである。車椅子に乗った女の子なんて見かけたらすぐにわかると思うので、多分時間帯が合わないのだろう。

 尚、たまにすずかちゃんは見かけるが、そっちとも全くコンタクトをとっていない。

 で、あるから平和な空間そのものであるはずだったのに……。

 

「なんなんやアンタ、別にえぇゆうとるやんか」

「照れなくていいんだぜはやて。あ、取って欲しい本とかあるか?」

「な、なんで私の名前しっとんねん。や、えぇ言うとるやんか!」

「勝手にしていいって? ふん、まったくはやてはツンデレだな」

「あかん、コレ話通じんタイプの人や!」

 

 新刊のファンタジー小説を片手にどこで読もうかと日があたってポカポカあったかそうな席の空きを探していた僕の耳に聴こえてきた声に、僕は小さくため息を吐いた。

 こっそりと声のする方を覗くと、そこには想像通りの光景が。

 勝手に車椅子の後ろにまわってハンドルを握る悠馬と、涙目になりながら拒絶するはやてちゃん。

 

 うん、流石にこれはちょっといただけなさすぎるのではないだろうか。

 

 車椅子の人を押してあげるという行為、結構簡単に考えている人もいるが意外と気を使わなくてはいけない行為なのだ。

 なにせ、車椅子を使っているということは足が不自由で襲われたりしたら逃げられない。そして、車椅子を押すということは、その人の気分次第で車椅子に座っている人の生命をも握る行為であると言っても過言ではない。

 

 例えばだが、車椅子をいきなり全速力で押されて階段から落とされたらどうなる?

 道路に押し出されたらどうなる?

 勢い良く壁に激突させられたらどうなる?

 見知らぬ所に、自分の意思に反して連れて行かれたらどうする?

 

 どれも洒落にならない恐怖だ。他三つに比べたら壁に勢い良く突進を子供の悪戯程度だと思う人がいるかもしれないが、足が不自由であるということは受身も満足にとれないということである。そもそもエアバックやらシートベルトもつけていない以上、車椅子から投げ出されて全身で壁に激突することになるだろう。冗談じゃなく大怪我する。

 さて、そんな自分の命を握ることが出来るポジションに、見知らぬ誰かが居て欲しいと思うだろうか? それも自分の話を全く聞かず、何故か初対面なのに自分の名前を知っている異性(一応美形ではあるが)である。

 車椅子側が男ならまだ「可愛い子キタコレ!」とか思うかもしれないが、車椅子側が女の子で、車椅子を押すのが男の子である。しかもかなり汚い本性が透けて見えるいやらしい笑みを浮かべ、年齢の割に身長高いわ年齢と顔がアンバランスだわで、下手したらちょっと身長の低い高校生や大学生でも通りそうな男である。

 

 犯 罪 の 香 り し か し な い 。

 

 誰か110番して! 僕携帯持ってないから代わりに通報して!

 ……しかし悲しいかな、このあたりの席は日があたりにくいために少し肌寒いせいか人が少ない。推理小説コーナーなんだからもうちょっと人がいてもいいんじゃないかとも思うんだが、小学校が終わる時間帯ではそういった物を好んで読む人は少ない。

 つまり、ここではやてちゃんを救えるのは僕一人!

 行くのか、行っちゃうのか僕! はやてちゃんかわいいよはやてちゃん! フラグたてちゃうのかな僕! とか言ってる場合じゃないよ僕! 行くなら早くしないといけないからね! はやてちゃん今にも泣きそうだからね!?

 と、そんなことを考えている間に、僕の脇をすっと通り過ぎていく青紫の影。

 

 ……すずかちゃんキタコレ! これで勝つる!

 

 僕はそっと飛び出しかけた体を本棚の陰に戻した。

 

「ゆ、悠馬く、くん! その子、い、嫌がってるから……」

 

 震える声でそう言うすずかちゃん。はやてちゃんは救世主がキタ! と顔を輝かせて「もっと言ったってぇな!」と涙目で言っている。

 

「え? ……なんだすずか、嫉妬してるのか? 大丈夫だぜ。俺はすずかのことも愛してるから。あ、はやて、勿論お前のことも愛してるからな」

「「うぅ……」」

 

 鳥肌でも立ったのか、自分の身体を抱きしめるようにして涙目になるすずかちゃん。

 うん、分かる。分かるよ。すずかちゃんの気持ち、痛いほど分かる。あいつ気持ち悪いんだよね。なんかさ、イケメンなんだけど、嫌な感じしかしないイケメンっていうか……黙ってれば歳不相応な成熟具合のイケメンなだけで済むのに。

 見ればはやてちゃんも鳥肌がたったのか自分の身体を抱きしめて完全に泣いている。鼻すすってるし。

 

「ん? なんだはやて、感動したのか? ふふふ、大丈夫だ、これからは俺がいるからな」

 

 アンタがいるから泣いてるんだと思うよ。感動じゃなくて生理的嫌悪な意味で。

 

 言いたいことを口をモゴモゴさせるだけで我慢しつつ、周囲を見渡す。

 どうしよう。他のオリ主二人のどっちか早く来ないかな。いや、無理か。今日って確か神社でわんこがジュエルシードに取り込まれる日? うろ覚えだけど確か最初は神社だった覚えがあるし。あとなんか放課後になのはちゃんと刹那と虎次郎が目配せしあってから意味ありげに頷きあってたし。二人でどっか行ってるんだろう。あ、一応ナルシーも頷いてたな。全く視線送られてなかったけど。

 ……あれ? それならなんでコイツここにいんの?

 あ、ハブられたのか。考えるまでも無かったわ。それがどうして図書館に来ることになるのかは知らんけど。

 

「と、とにかく……わ、私が押すから、え、えっと、あ。そう、その、悠馬くんはそっちの棚の上の方の本……あ、アレとってくれないか……な……? 高いところで手が届かないし、本って結構重たいから」

 

 ナイスだすずかちゃん! その言い方ならアホの悠馬は信じて手を離すことだろう!

 はやてちゃんも死中に活を見出したり、といった表情ですずかちゃんに思わず親指を立てていた。ちなみに僕も親指を立てて応援している。気付かれないようにだけど。

 

「ん? そうか、それなら仕方ないな。恋人の頼みとあっては仕方ない。ごめんなはやて。あ、はやてもどれかとってほしい本あるか?」

「わ、私はもう本もっとるからえぇって何回も言っ……い、いや、そうやな。ほならあの一番上の棚の紫の背表紙の本と、あっちの棚の赤い背表紙の本を頼むわ」

「そっか。じゃあちょっと待っててな」

 

 にこやかに(本性知ってる側からしたらいやらしいとしか言えないが)笑みを浮かべてナルシーが車椅子から離れた瞬間、目にも止まらぬ速さで車椅子の後方へとまわったすずかちゃんが早足でその場を離れ、僕の横を素通りして行った。

 

「は、はやてちゃんって言うんだね。私すずか。月村すずかって言うんだ。ご、ごめんね? あの人が……」

「え、えぇよ……それより助けてくれてありがとな……うちははやて。八神はやてや。よろしゅうな……」

 

 二人ともかなり憔悴した様子で語尾が落ち込んでいるが、疲労の中にもどこかやり遂げた感のある表情である。がんばったね、二人とも。他の誰が褒めなくても僕は二人を褒めるよ! 称えるよ! 凄いぞ! よくがんばったね!

 

 ……僕、男としても人としても何か間違ってきてる気がするのは気のせいだよね……? 無謀と勇気は違うもんね……?

 

 自分の情けなさにちょっと泣きそうになりながらも、僕は足早に図書館を出て行く二人を見送るのであった。



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3.サッカー狐とリコーダー

 図書館での邂逅があった翌日。具体的に言うと土曜日。新学習指導要領、通称ゆとり教育万歳というわけでお休みである。

 空は青く澄み渡り、時々思い出したかのようにやってくる白いふわふわの雲たちが良い感じにファンシー。

 まぁ、一言で言うならば絶好の運動日和だ。

 

 そういう訳で僕は朝っぱらから一人キャッチボールに勤しんでいる。

 

 尚、一人キャッチボールとは想像上の人がいる場所に思いっきり投げたボールを全力で追いかけ、ボールが落下する前に想像上の人物と入れ替わって捕ってから、自分の元居た場所へと投げ返し、また走ってそれを捕り、また投げ返すという非常に体力を使う遊び、ではない。真上に投げてフライを捕る練習なら可能だが、全力投球に走って追いつくとかもう人間じゃない。

 

 本当は単純に的を描いた壁に向かってボールをぶつけ、もどってきたボールを捕る。これだけである。よくマンガなんかで高架下の柱部分の平らな部分を使って野球好きな不良なんかがやってるイメージのあるアレだ。投球練習もどきとも言えようか。

 

 そして勿論、僕がソレをやっているのも高架下である。

 

「いくぜ相棒!」

「へへっ、きなよ相棒。アタイに捕れない球は無いぜ?(裏声)」

「言ったな? だったら遠慮は抜きだ! いくぜ、必殺、ライジングストレート!」

 

 一人で裏声使ってまでかけあいをして、必殺技っぽく叫んで一人で壁打ち投球練習するとっても痛々しい、傍から見たらちょっと微笑ましい小学三年生がそこにいた。

 

 っていうか、僕だった。

 

 春も盛り。晴れ渡った空は少々の暑苦しさを感じさせるが、日向ぼっこには最高の日。だけど僕が今いるのは日陰の高架下。吹きすさぶ風がちょっと寒い。

 

 気付いちゃいけない虚しい現実に気付いたことも相まって、なんだかとってもやるせなくなったので帰ることにした。帰ってお昼寝。これが一番だよね! 僕元々文系のインドア派だしね! あ~PC欲しいなぁ! インターネットやりたいなぁ! この世界にも2chあんのかなぁ! 実は僕まとめサイトしか見ない人だったけどね!

 

 若気の至りとは言え、落ち着いて考えたらちょっとどころではない恥ずかしさを伴う先ほどできたばかりの自身の黒歴史から全力で逃避しつつそんなことを考える。恐ろしい、コレが転生による子供の体になったが故の、精神の幼児退行化という奴に違いない。

 

 ……前世でも割とこんな人間だった気がするのは気のせいだ。

 

 そんな帰り際、河川敷のサッカー場でワイワイ子供達が騒いでいるのを見つけたので、ちょっとだけ寄って行くことにした。

 知らない人しかいないなら僕も流石に行かないが、丁度目立つ赤髪の憎いアンチキショウこと虎次郎くんの姿が見えたからである。

 

「対外試合……じゃ、なさそうだな。紅白戦かな。どっちも同じチームのユニフォームだし」

 

 白地に肩から袖口まで黒いラインが入り、胸元にはデカデカとMIDORIYA(翠屋)の文字。そして半ズボン。見事なまでに将来有望なイケメンとなりそうなショタっ子達で溢れかえっている。

 

 うぅむ。ショタコンが見たら垂涎物であろうな……。

 

 ちなみにユニフォームの上に黄色いメッシュ地のタンクトップみたいな形をした服を着た子と、普通のユニフォーム姿の子達が入り乱れているので、多分その黄色くて薄い上着でチーム分けしてるんだろう。

 

「あれ、なんやヨッシーやないか。なんや道具まで持参とは、参加したいんか?」

 

 そんなどうでも良いことを考えていたら、いつの間にか目の前に爽やかに汗を流してスポーツタオルで拭いている虎次郎くんの姿があった。こやつはさっきまでユニフォームの上に黄色いの着て走り回っていたのだが、どうやら選手交代したようだ。

 

「ごめん。野球用のグローブとボールを持っている人間がサッカーやりたがっているように見える理由がわからないよ虎次郎くん」

「野球の道具をサッカーに使ってはあかんなんて、誰が言った?」

「なん……だと……」

「あぁもうノリえぇなぁ。やっぱヨッシー愛しとるわ。結婚せぇへん?」

「僕が女の子だったら受けても良かったかな」

「可愛ければ性別なんて関係ないんやで」

「大有りだよ!?」

 

 あ、でも可愛ければ男女問わず可愛いのに変わりはなくて、可愛いは正義である、というのは実に理解できるね!

 

「ごめん。やっぱ可愛さに性別は関係ないね」

「せやろ?」

 

 うんうん、と頷く赤髪糸目メガネ。どうでもいいけどコイツ、サッカーの時もメガネつけっぱなんだな。

 

「そういう訳やから、あと七年したら婚姻届もろうてくるわ」

「惜しい! 結婚は十八歳から!」

「ん? なに言うとるんや。結婚は男女共に16からやで?」

「え?」

 

 この世界だとそうなの? え、それとも前世でももしかして知らない間に法改正されてた? 僕結局結婚なんかしなかったからサッパリわからないや。

 まぁとりあえず、凄いどうでも良い情報をありがとう!

 

「っていうか、婚姻届についてはツッコミいれへんのやな」

「20代半ばまで相手見つからなかったら考えても良いよ」

「わ、割とリアルな数字出してきよるな……男同士とかそういうんはもう諦めたんやな……」

「愛があれば同性でも別に良いと思うよ。僕は女の子と結婚したいけど」

「せやなぁ……ちなみにヨッシーの好みのタイプは知り合いだと誰や?」

「あ~、難しいね……そもそも知り合い少ないから……」

 

 お互い、どう考えても小学三年生のする会話じゃないというツッコミはしないあたり微妙にずれているのは、まぁ我ながら自覚しているのでどうでも良い。野球で必殺技叫んじゃうのよりもどうでもいい。

 

 しかし好みのタイプか……知り合いでそれなりに性格分かる人となると、なのはちゃんかすずかちゃんかアリサちゃんあたりになる訳だが……ちなみに友人じゃなくて知り合いというあたりがポイントである。問題点があるとすれば、なのはちゃんに到っては僕の名前を覚えているかどうかすら怪しいという点であろうか。昨日も呼び方が名前どころか苗字ですら無く"君"だったし。流石に佐藤という全国一位の知名度の苗字くらいは覚えていて欲しかった。

 

 え? 田中や鈴木こそ日本一多い苗字だろって? え? なに? 佐藤家に喧嘩売ってんの? え? 勝てると思ってるの? 僕には勝てるだろうが、第二第三の佐藤さんが君達の前に立ちはだかるよ?

 

 まぁそれはともかく、好みのタイプ以前に仲の良い友人がいないってどうなんだろう。

 コレが高校生あたりなら、まぁわかるよ? 薄く浅く広い交友関係になるもんだからね、あの年頃は。でも僕、今小学三年生だよ? なんでこんなに咄嗟に思い浮かぶ友人の名前と姿が無いわけ? 唯一浮かんだのが虎次郎くんだけって末期じゃね? 

 ……よく考えたら、僕一歩引いた位置から周囲をのほほんと眺めてるから仲の良い友人できないんじゃね?

 

「うん、虎次郎くんかな!」

「うん、いや、嬉しいんやけど、なんでそんな涙目なんや……?」

 

 僕TS転生してればこんな条件の良い物件いたのに勿体無いな! 残念! リアルBLの趣味はないよ僕!

 小学生にしてボッチであることに気付いた今の僕には、目の前の我が親友とならたとえ同性とはいえ付き合っても良いかも知れないと思えてしまう今日この頃。いや、付き合わないけど。

 

「いや、でも実際ね? 付き合うならやっぱり話が盛り上がる子がいいかなぁって。或いは話なんてしないで一緒にいるだけでお互いほんわかできるような人?」

「あ~、確かにそうやなぁ……話題が噛み合わん子と付きおうても疲れるだけやし、やっぱそうやんな。ワイにとってのバーニングみたいなもんか。一緒にいてほんわかするっちゅうんなら、なのはちゃんやないか?」

「あ、やっぱり虎次郎くんってバニングスさん好きなんだね。高町さんか……まぁ確かに可愛いし一緒にいてほんわかできそうだね」

「おう、まぁアリサだけやなくて、女の子は全員好きやけどなワイ! なのはちゃんも勿論大好きやけど、ヨッシーになら譲ったるわ!」

 

 そう言ってナハハ、と笑う虎次郎くん。本当清々しいくらいあけっぴろげにハーレム系主人公だなぁ。実際、本気でコイツが女の子口説きに入ったら多分相当数確保しちゃうだろうな。そして良い奴だなコイツ、メインヒロイン譲ってくれるなんて! ……まぁそれ以前になのはちゃんから全く覚えられてないし、なのはちゃんは物じゃないよ! とか、そもそもなのはちゃん最初からお前さんのじゃないよ! とか色々ツッコミ入れるべきなんだろうけど。

 

「あ、ちなみにヨッシーのことも好きやで? やなかったら大好きななのはちゃん譲ろうとは思わへんからな!」

 何故かドヤ顔して言う虎次郎くんに苦笑してこちらも返す。

「うん、僕も虎次郎くんのことは好きだよ」

「ほな結婚しようか」

「お友達で」

 

 さっきはえぇ言うたやんか~、と口を尖らせる虎次郎を軽く流しつつ僕はサッカーに興じる他の男子達を眺める。

 結構いるな~、っていうか皆うまいな~。やっぱスポーツできる男子ってかっこいいよね。

 僕、できないけどね! 運動神経、皆無とは言わないけど悪いからね! いや、運動音痴というほどではないけども!

 

「ん、そない熱心に練習見つめて……本当に混ざりたいんか? やりたいんなら監督に一声かけてくるで?」

「あ、いや、良いよ。僕運動神経悪いし、あんまり知らない人たちのところに混ざってするのって落ち着かないし……」

 

 インドア派の人なら分かってくれるだろう、この気持ち! 実はちょっとだけやりたかったりするんだけど、迷惑かけるんじゃないかと思うし、なによりこっちも見知らぬ人の群れに混ざって一緒にやるなんて神経使って仕方ないからね!

 

「ほか? ちゅうても運動なんてせぇへんことには上手くもならへんし、ちょろっと参加したらどうや?」

「う~ん……でもサッカー自体そもそも経験が殆どないんだよね」

 

 実際、前世でもせいぜいが学校時代にリクリエーションやら体育の授業、球技大会でやったくらいでルールもいまいちよく知らない。今生に到っては経験0である。まぁそれを言ったら野球とてルールはある程度知っててもキャッチボールレベルしかできんのだが。

 

「やったことないこと怖がってどないすんねん。誰だって初めては怖いもんやし上手くいかないもんやけど、それでもやってみた先にしか見えへん景色もあるんやで?」

 

 同い年なのにお兄さんぶる虎次郎くんマジイケメン。身長差が結構あるために僕を見下ろしつつ右手中指でメガネをクイっと持ち上げる動作も年上っぽさのポイントである。とはいえ、膝をたたんで視線をあわせながら語りかけるようにやってたらもっと年上っぽさポイント略してTPが多く獲得できてたのだが。惜しかったな、虎次郎くん。

 

「成る程、確かにその通りだね、虎次郎くん」

「なんやろ、珍しくえぇこと言って、反応も悪くなかったはずやのに微妙に惜しいことした気がするんわ」

「多分、虎次郎くんの芸人魂が面白いボケをしなくてはならないって叫んでるんだよ」

「成る程。ほなら一発芸いくで」

「うん、この流れであっさり一発芸とかやろうと思える虎次郎くんには本当脱帽する思いだよ」

「一発芸、高町なのはの真似」

「なのはちゃん、存在が一発芸扱いなんだ……」

 

 なのはちゃん、恐ろしい子!

 

「ヨッシーくん、私、君のこと前から抱きしめたくて……いい……かな?」

 

 小首を傾げ、自分の頬を人差し指で軽く突きながらあざとく、無駄に似ている声音で言ってきた虎次郎くんに、不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった自分が憎い。見た目は相変わらずの糸目メガネなのに! でもコレってなのはちゃんの真似に入るのか? 声だけじゃないか、真似てるの。

 

 とか思ってたら、音もなく現れた士郎さんが若干ハイライトの消えた瞳で笑顔を浮かべて虎次郎くんの肩を叩いた。

 

「虎次郎君? ちょっといいかな?」

「ん? あ、なんや監督やないですか。ん? なんでそない良い笑顔してはるんですか? なんかえぇことでもあったんです? あれ? なんでワイ猫みたいに首根っこ掴まれて持ち上げられとるん? あれ? 監督?」

 

 さらば虎次郎くん。高町家のアイドルを虚仮にした罪は重いのだ。その命をもって償ってくると良い。

 

 ほなな~! と叫びながら手を振ってくる虎次郎を敬礼して見送り、知り合いのいなくなったこの場には興味がなくなったので僕はいつもの図書館に寄って帰ることにした。

 

 べ、別に寂しいから人のいそうなところに行こうだなんて思ってないんだからね!

 

 

 

 

 図書館である。土曜ということもあって時刻は十時を回っていないというのに人が多いが、混雑しているというほどではない。図書館が混雑するなんてことまず無いだろうけど。

 そう言うわけで赤川○郎作品の小説を適当に5冊ほどとって適当な席に座る。日当たりの良い席は多少空いているものの、空席を二つ置いてまた人が座っている、みたいな座る場合必ず誰か見知らぬ人の隣になるという圧迫感がある空間だったためにやめておいた。

 

 いやぁ、しかし赤川先生の作品はアレだね。よくぞまぁこんだけホイホイとネタが浮かぶよね。小説の刊数こち亀抜いてんじゃない? いや、それどころかゴルゴ以上? このライトな感じの作風といい、推理小説ちっくな作品も多いながらどれもとっつきやすい。どんでん返しも多いし、基本的に主役級のキャラが不幸になることも少ないし、安定している。

 

 あと他にオススメだと。電撃文庫とか富士見書房作品も良いけど、コバルト文庫も結構良いの多いので是非ともオススメしたい。少女向け小説が殆どだけど、世界観がしっかりしてたり、起承転結が上手く出来てる作品も多い。意外に主人公が男の作品もあったりするので。

 

 あ~……でもBL要素とか寝取りとか割と平気で入れてくるから、そういうの抵抗ある人にはちょっと向いてないかもしれないなぁ。

 

 などと、居もしない聴衆に向けて脳内で語りつつ、気付いたら一冊読み終わっていた。一時間かかったかかからないか。なんともこの読みやすさもこの作者の作品の醍醐味である。世界は変われども、似たような作家さんが同じような作品を作っているというのは良いことだ。

 さて次は何を読もうか。

 

「そうなんだ……大変なんだね」

「いやいや、大したことあらへんよ。脚は使えんでも手は問題無く動くんやからお料理やなんかも出来るし、家もちゃんとバリアフリーやし、週一でお手伝いさんも来んねんで」

 

 と、次の本を探しに行こうとしたところで聞き覚えのある声が聴こえてきたのでそちらを覗いてみると、すずかちゃんとはやてちゃんが居た。

 

「う~ん……でも寂しいでしょ? あ、この本私のオススメだよ」

「お、それ私も読んだことあるわ。えぇよなソレ! 特にラストの子犬が主人公に駆け寄ってきて抱きつくシーンなんか感動物やったわ!」

「そうだよね! ふふ、こんなにお話の合うお友達初めてかも」

「わ、私もやな……っていうか、お友達自体、その……すずかが初めてやで?」

 

 すずかちゃんがゆっくりと車椅子を押し、はやてちゃんがすずかちゃんの顔を見るために上を見上げながらにこやかに会話しつつ一緒に本を選んでいる。会話の内容がとっても初々しい。くっそぅ。なんて百合百合しいんだ。

 

 ……いかん。なんか毒電波でも受けたかな。なんて可愛らしいんだ、が正解だったね。小学三年生の女子が和気藹々としてるのを見て「百合百合しい」とか思うって多分末期だよね。病院行ったほうがいいかもしんない。主に頭的な意味で。

 

「百合百合しいな……」

「「ッ!?」」

 

 しかしそんな微笑ましい光景をぶち破るかのように聴こえてきたるは我らが変態ナルシー悠馬の声である。っていうかアイツ思考が駄々漏れである。っていうか、僕の思考回路がアレと一緒とか死にたくなってきた。

 

「ゆ、ゆゆゆ悠馬くん。き、奇遇……だね……」

 

 超動揺するすずかちゃん。

 勿論、この動揺は好きな人に声をかけられた的なものじゃなくて、生理的嫌悪を感じるほど嫌いなのに粘着してくる相手から唐突に声をかけられたことによる動揺である。断言する。間違いない。

 

「あぁ、これはもう運命を感じずにはいられないな。おはようはやて、すずか。今日も可愛いな」

「うぅ……なんなんやこの人はほんま……」

 

 逃げて! 二人とも超逃げて!

 

「二人が怖がってるいるだろう。やめてあげなよ悠馬」

 

 しかし、そんな僕の応援を聴きつけたかのように、そこに現れたるは救世主。

 

「なっ! 貴様は刹那! どうしてここに!」

 

 そう、我らが主人公、刹那くんである! しかしナルシーの反応が完全に三下の悪役だな。良いのかコイツ、ここまで露骨な悪役くささだと逆にわざとなんじゃないかという疑問が浮かぶレベルだぞ。

 

「せ、刹那くん!」

 

 そして、刹那くんが来たことで目を輝かせて頬を上気させ、弾んだ声をあげながらさっきとは正反対の意味で動揺したのか挙動不審になるすずかちゃん。

 こういう反応見ると見ているこちらもなんだか恥ずかしくなってくる。そしてやっぱり刹那くんは間違いなく主人公。

 

「なんや、すずかの知り合いなんか?」

 

 そんなすずかちゃんの反応を見て、はやてちゃんも少し安心したのかひきつっていた顔をゆるめて刹那くんを見て、数秒ほど固まった後に感嘆したような声をあげた。

 

「……ほわぁ……ベッピンさんやなぁ……」

 

 だよね。そいつどう見ても美少女だよね。

 はやてちゃんの言葉に俺も頷いておく。向こうからは全く気付かれてないけど。 

 

「そうかな? ありがとう。えっと、はやてちゃん、でいいのかな?」

 

 そして性別を間違われたことを怒るでもなく、優しく微笑む刹那くん。コイツ高校に上がるとき祖父の遺言で女子高に入って全校生徒からお姉さまとか呼ばれる奴に成長するんじゃないだろうな。なんだこの可憐な笑顔は。見ればナルシーもちょっとその笑顔に見惚れているような気がする。だよね。可愛いもんね。可愛いは正義だよね。

 

「そ、そうや。私ははやて。八神はやてや。よろしゅうな。えっと……刹那ちゃん?」

 

「よろしくね、はやて。僕は佐々木刹那。それとこの名前と外見じゃわからないかもしれないけど、僕男の子だよ」

 

「……な、なんやってぇぇぇ!?」

 

 叫び声を上げて驚愕するはやてちゃん。うん、気持ちは分かる。僕も初めて聴いたときは驚いたよ。まぁ女顔どころか平気で女装する主人公すら最近多いからすんなり受け入れられたけど。

 

 あ、ちなみに僕は女装とかお願いされたらあっさり応じるよ。まだちっこいから着飾ったら多分普通に可愛いと思うし、女の子だと思われるとお菓子をくれる人とか多いのでお得です。

 大体、男装する女性がいるんだから、女装する男性がいたって良いじゃない。あんまりにも気色悪くて目の毒になるレベルじゃなければ、と自論を頭の中で熱く語ってみる。

 

 どうでも良いことに思考を飛ばしてたら、司書のお姉さんに苦笑されながら「図書館ではお静かに、ね?」とはやてちゃんが注意されて、慌てて頭を下げていた。ドンマイはやてちゃん。でも本当、図書館ではお静かにね? 僕は良いけど図書館の静かな雰囲気が好きって人もいると思うから。

 

「あ~びっくりしたわ……。そうなんや……男の子なんや……なんや女の子として負けた気がするわぁ……」

「ちなみに料理もお裁縫も出来るよ」

「追い討ちかけんといて!?」

 

 意外にどSな刹那くんである。だが男の子だ。そのうちそれ忘れて本気で惚れそうなので気をつけよう。

 

「おい刹那……てめぇどうしてここにいやがる」

 

 そして気を取り直して噛み付くナルシーこと悠馬。

 

「え? 僕が図書館に来るのがそんなにおかしいかな……むしろ悠馬くんこそ、本とか全然読まないのに図書館に居るなんて珍しいんじゃないかい?」

「ぐっ……!」

 

 そしてそれを華麗に受け流し、逆に切り返す刹那。いいぞもっとやれ!

 

「……あぁ、いや、アレだ。ちょっと憲法の勉強にな! 一昨日六法全書も丸暗記したところだ!」

 

 なにその凄い無理のある反論。アレか。中学生とか高校生が六法全書を開いて「政治に詳しい僕かっこいい」とか思っちゃう一種の厨二病と一緒のやつか? でもコイツが六法全書読んでるところなんて見たことないぞ。そもそもあれ貸し出し不可だし、そんな分厚い本を放課後にちょろっと顔出しただけで読み終えた上に暗記できるとはどう考えても出来ないと思うんだが。それともチート能力のひとつとか?

 ……いや、今までの言動からするに、ただの格好付けでしかないな。本当は全く覚えてないだろう。

 

「へぇ……ちなみに憲法69条は?」

「ふん、常識だろ? 不戦の誓いだな」

「え? 内閣総理大臣が欠けた時に内閣は総辞職する、っていう条項だった気がするんだけど」

 

 予想通りに間違っているナルシー。しかしそれはともかくとして刹那はなんでそんなもん知ってるんだ……?

 

「そ、そういえばそうだったな!」

「あ、ごめん。それは70条の項目のひとつだったね。69条は内閣不信任案可決後に衆議院が解散しなかった場合に内閣が総辞職する、って感じの条項だったね」

「そ、そうだったかもしれないな……」

 

 なんでこの子日本国憲法暗記してんの……小学三年生じゃなかったの……もしかして前世は法学生かなんかだったとか……?

 

「そういえば悠馬くん、前からすずかちゃん達のこと付けまわしてたっけ? 最近アリサちゃんもなのはちゃんも距離とるから、すずかちゃんだけに狙いを変えたの?かな すずかちゃんだって嫌がってるんだからやめておきなよ、そういうことは」

「なっ、違う! 僕はアリサもなのはも愛してるさ! ただ……そう、すずかが心配だっただけだ!」

 

 ……まぁ、刹那くんの無駄なスペックの高さはもうオリ主だからという理由で片付けておくとして、刹那くんの言葉はどうしようもなく正論である。そして悠馬の発言はこの上なく胡散臭い。

 

「あ、そうだったんだ。ごめんね? 僕、心配だとこっそり後をつけたり、階段でスカートの中覗いたり、リコーダー舐めたりしちゃう人の心理って分からなかったから……」

「「え……っ」」

 

 そして凍りつく周囲の空気。

 ……スカート覗いてるのは何度か目撃したことあるけど、リコーダー舐めるって……ある意味小学生らしいけど、気色悪ッ。

 

「ち、違う! 誤解だ! そんなことしてない!」

「あ、そうだったね。ごめんね。うん、リコーダーは佐藤くんのだったね」

「佐藤ってだ――」

「なにぃぃ!?」

 

 思わず声を上げながら立ち上がり、驚愕の表情でナルシーを見る僕。

 え? 座ってるときよりも身長低くないかって? うるせぇ畜生!

 

「え、えっと……アレが佐藤くんだよ」

「いや、誰だあのモブ」

「僕がすずかちゃんの忘れていったリコーダーを舐めようとしている悠馬くんに気付いて、同じくリコーダーを忘れていったあそこの佐藤くんのと取り替えておいたんだよ」

「な、なんだと!? 刹那てめぇ!」

「いや、待っておかしい! それは色々とおかしい! なんで僕のと取り替えたの!? え、じゃあ何、僕、ナルシ……天ヶ崎くんと間接キスしたの!?」

「おいてめぇ今なんて言おうとした」

「ごめんね? まさかここにいるなんて思わなかったんだ」

「謝るところそこじゃないよぅ! 勝手に交換した事実を謝るべきだよぅ! バレなければ良いと言う考えは人間として最低だよ佐々木くん!」

 

 僕、ガチで涙目である。なんだか口調まで幼児退行している気がする。

 あ、僕今幼少時だったわ。誰ウマ。

 

「そ、そうだよ刹那くん。えっと、未然に私の被害を回避してくれたのは嬉しいけど、佐藤くん? が可哀想だよ!」

「せ、せやで! 流石にあの男と間接キスなんて女の子やなくても嫌がるわ!」

「おいちょっとまててめぇら! 俺一応女の子達からはモテモテなんだぞ!?」

「「「「嘘だ(や)な(ね)」」」」

「殴るぞてめぇら!!」

 

 思わず僕まで刹那たちと同時に言ってしまった。ヤバイ。殴られるのマジ怖い。そしてすずかちゃん超強気。嫌悪が恐怖を上回ったんだね……。

 

「うぅ……汚された……僕汚されちゃったよぅ……」

「ご、ごめんね佐藤くん。流石にそこまで嫌がるなんて思わなかったというか、知らなければソレが幸せだろうなって思って……」

「佐々木くん酷いよ。僕もうお婿にいけないよ! 大体取り替えるなら自分のと取り替えればよかったじゃない!」

「え、嫌だよ僕こんな人と間接キスなんて。しかもあんなにベロベロ嘗め回してたし」

「うわぁぁぁん! 道理でやけに湿ってる時があると思ったよぉぉぉ!!」

「間接ディープキス……やな」

「追い討ちやめてよぉぉ!!」

 

 僕、ガチ泣きである。

 

「ほ、本当にやってねえからな!? てめぇちょっと調子乗りすぎだ刹那!」

「あはは、ごめんごめん。佐藤くん、冗談だから気にしなくてイイヨ」

「なんでカタコトなのさぁぁぁ!!」

 

 その後、またもややってきた司書さんに僕は怒られたが、「こ、この人が僕(のリコーダー)を舐めまわしてう……うっ、ぐすっ」とガチ泣きしつつ、顔を真っ赤にして刹那くんに掴みかかろうとしていた変態ナルシーを指差すと、司書のお姉さんの謎のパワーによって首根っこ掴まれたナルシーは抵抗も出来ぬまま図書館から放り出された。

 その後、司書のお姉さんに抱きしめられて慰められ、はやてちゃんとすずかちゃんに背中や肩を優しく叩かれながら慰められ、流石に本気で悪いと思ったのか刹那くんが平謝りしてきたことを述べておく。

 

 あ、ナルシーは図書館を出禁になったらしいです。良かったねはやてちゃん。すずかちゃん。

 

 僕の心の傷は消えないけど、二人の安住の地は守られたね! そういう訳だから僕ちょっと家に帰って歯磨きしながら泣いてくるね!!



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4.翠(チート)屋JFCと愉快な大木騒動

「明日サッカーの試合あんねん。良かったら応援に来たってや」

 

 わざわざ夜に家にまで電話してきてそう言ったのはサッカー少年こと虎次郎くんである。図書館で衝撃的事実が明らかになったことでガチ泣きすることになったその日なので、半べそかきながら了承して心配されたけど、それは余談である。

 

 そして今日、朝から僕は気合を入れてお弁当を作っていた。

 そう、先日の「たまねぎ炒め足りないし多い」と酷評されたポテトステーキの件で名誉挽回するためである。

 

 ――そう、名誉挽回のために気合を入れて作っていたせいで、家を出たのが時間ギリギリだったのだけれど。

 

 そんなわけで全力で自転車を走らせる僕。補助輪付きなのはツッコまないで欲しい。

 いや、だって街で売ってた奴の中でも一番小さい自転車なのにつま先しか付かないせいで、ちゃんと乗れるって言ってるのにお父さんにつけられたんだよ! なんなんだよもう! サイクルショップももっと小さいの取り扱っててもいいじゃない! これでもサドル一番下までやってるんだよ僕!

 

 ……いや、まぁそれはどうでも良いか。

 

 とりあえず急がねば。練習開始自体は九時かららしいが、試合は十時からと言っていた。しかし今現在の時間は九時半。練習には間に合わなかったが、試合の応援くらいはちゃんとせねば!

 

「うおぉぉ! いくぞマッハキャリバー号!」

 

 愛車(自転車)の痛々しい名前を叫びながら補助輪つきのちっこい自転車で河川敷を爆走する微笑ましい小学生の姿がそこにあった。

 

 っていうか、僕だった。

 

 この下り二回目だよ! なんで僕はふとした拍子に痛々しいこと叫んじゃうんだろう! 不思議! 誰もいないからまだ良いけど、聴かれてたら首吊るよ!

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 いたよ人! おばあちゃんがわんこの散歩しながらこっち見てたよ! 恥ずかしい! でも首吊るのはやめとくね! せっかくの二度目の人生だし!

 

 僕は顔を真っ赤にしながら立ちこぎでサッカー場へと向かった。

 

 

 

 

 全力疾走の甲斐あって、腕時計を見ると時刻は九時四十分。どうやらまだ試合は始まっていないようだった。

 良かった……間に合った……。

 ふらふらしながら自転車に鍵をかけて、スポーツドリンクを飲んでいた虎次郎くんに声をかける。

 

「おはよう虎次郎くん……」

「なんやヨッシー、遅かったやんか――って、随分息あがっとるなぁ」

 

 若干呆れたような表情を浮かべる虎次郎くんに、僕は睨みつけるように見上げて抗議する。

 

「うぅ……これでもがんばったんだよ僕……」

「あぁうん、それはまぁ見れば分かるで。寝坊でもしたんか?」

「うぅん……二人分のお弁当作ってたら……予想外に時間くっちゃって……」

「二人分って……もしかしなくてもワイのか?」

「うん」

「愛妻弁当キタでぇぇ!! 勝つる! 今日の試合これで勝つる!!」

 

 色々とツッコミたいが、全力疾走の疲れでツッコミ入れる体力がない。

 

「うん、頑張って……僕の屍を超えていくんだ……」

「あかん!? 予想以上にヨッシーが死に掛けとる!? メディック、メデイィーック!」

 

 瀕死の僕を抱きかかえながらも相変わらずの虎次郎くんの高いテンションに周囲から笑い声が聴こえるが、とりあえずその辺のベンチで休ませてくれるとありがたいです。

 

「虎次郎くん、どうしたの? 大丈夫? その子」

「あ~、ちょっと疲れたんやろなぁ……ヨッシー見た目通り体力なさそやし」

「えっと……私が肩貸して連れて行こうか?」

「あ~……うん、ほな頼んでえぇか? ヨッシーも汗くっさい男につれてかれるよりえぇやろうし」

 

 うん、まあ確かに可愛い子の方が良いけど、別に汗臭くないぞ、安心しろ虎次郎くん。

 

「うん、大丈夫? えっと、ヨッシーくん」

「義嗣だよ……うん、ありがと……なのはちゃん……ん? なのはちゃん!?」

 

 肩を貸してくれた女の子の名前を自分で呼んでおいて、自分でびっくりした。っていうか、しまった。苗字じゃなくて名前で呼んでしまった。

 

「う、うん。なのはだけど……えっと……、……あ! 同じクラスの!」

「あ、うん。そうなんだけど……えっと……」

 

 お互いに言葉に詰まりながら、女性陣が座っているベンチの方へとてこてこ歩いていく。

 うん、なのはちゃん、同じクラスだということに気付くのが遅くないかな? いや、もう名前知らないこととかはいいとしても、せめてクラスメイトの顔くらいは覚えててほしかったかなぁなんて思うなぁ僕……おかしいなぁ、なのはちゃんって割とそのへん気配り出来る子だったよね……?

 

 ……ごめん。高望みだったわ。僕モブだったわ。

 

「あ、ありがとう。もういいよ高町さん。僕そこのベンチでちょっと横になってくるね」

「う、うん。じゃあね」

 

 さらば至福の瞬間(とき)よ……ッ! 気まずかったけど、我らがヒロインに肩貸してもらって密着しながら歩いたこの瞬間を、僕は一生の宝物にするよ!

 

 ……あ、ごめん。やっぱ無理かもしれん。色々気まずくて宝物にしても「あぁ、そういえば僕クラスメイトなのに名前どころか顔すら覚えられてなかったんだっけ、この時も。おかしいなぁ。遊びこそしなくても、クラスメイト達とは毎日挨拶はちゃんとしてたはずなのになぁ……」とか思い出して鬱になりそうだわ。

 しかも、肩を貸す側の女の子が前かがみになってもらわないと引きずられそうな身長差があったなんて男として切な過ぎるよ。

 あぁ、しかしなのはちゃんなんか凄い困った笑顔浮かべて去っていくなぁ。向こうも気まずかったんだろうなぁ……。

 

「なのは、あの子知り合い? どうしたの?」

「あ、うん。ほら、クラスメイトの子だよ。応援に来たのは良いんだけどちょっと疲れちゃったみたい」

「あぁ、佐藤くん?」

「あ、佐藤くんって言うんだ。あの子」

「二人とも……クラスメイトの名前くらい覚えててあげようよ……」

 

 アリサとなのはちゃんの反応に、すずかちゃんが困ったような笑みを浮かべて言ってくれているが、知っているんだぞすずかちゃん、昨日図書館で君の身代わりに使った存在として僕の名前が刹那くんの口から出た時に「誰それ」って顔してたの……!

 う、昨日のこと思い出したら口が気持ち悪くなってきた……。あ、でも何気にアレのお陰で可哀想な子としてすずかちゃんとはやてちゃんに名前覚えてもらえたならそれはそれでラッキーだったかもしれない。

 

「佐藤ヨッシーくんかぁ」

「え、ヨッシーって名前なのあの子!?」

「え、佐藤くんってヨッシーなの!?」

「え!? ヨッシーじゃないの!?」

 

 なのはちゃんの天然ボケな発言に、アリサとすずかちゃんが発言者のなのはちゃんを凝視した後にぐったりしているこちらを暫く見てから、どこか生暖かい視線を投げかけてきた。

 

「「そう……ヨッシーなんだ……」」

「違うよ……」

 

 全力で否定したかったが、そこまで元気が出ない僕だった。さっき僕、義嗣(よしつぐ)だよって言ったよね……?

 いや、まぁ変な愛称でも名前覚えてもらえるのはありがたいけど、その覚えられ方は切ないよ……。虎次郎くんめ……今度からトラさんって呼んでやろうか……。っていうか、だから三人ともその年下のちっさい子を見る母性に満ち溢れた慈愛のまなざしやめてよ……。

 

「「「ちっちゃくて可愛いね」」」

 

 ちくそう! 結局そういう覚えられ方か! っていうかそういう印象で覚えられるなら、せめて最初から覚えておいてほしかったよ僕! せつないよ!!

 

 

 

 

 試合が終わった。8対0。おかしい。これ野球じゃなくてサッカーの試合じゃなかったっけ?

 しっかし翠屋JFCの攻撃力パネェ。っていうかキーパーくん凄すぎワロタと言わざるをえない。割と際どいところに来たシュートを五回とも全部止めてたぞ。あいつも転生者じゃないだろうな。

 ちなみに虎次郎くんはシュートを三本決めていた。あいつディフェンダーじゃなかったっけ? どんだけ前線上がってんの? それともミッドフィルダーだったっけ? 最初後ろのほうにいたと思ったんだけども。むぅ、僕サッカーはいまいち詳しくないからよく分からんな。

 

 かくして喜びに湧く翠屋JFCと、悲しみに包まれる桜台JFC。そうだよね。同年代ばっかりの相手に、こんだけ大差で負けたらそりゃあお通夜みたいなムードになるよね……別に桜台の人たちの動きが悪かった訳じゃないと思うんだけどなぁ……。

 

「虎次郎くんすごかったね~!」

「そうね~。キーパーもすごかったし」

「刹那くんはサッカーやらないの?」

「いや、僕はバスケ派だから」

「俺はサッカーでもバスケでもなんでも出来るが、まぁ俺が混ざったら他の奴の出番が無くなって可哀想だからな」

 

 あぁ、そういえば隣の方のベンチから聴こえる会話から分かると思うけど、刹那も虎次郎くんの応援に……いや、もうなんか後半は逆に桜台の方応援してたな刹那くんは。僕も前半戦で翠屋が4点とった時点で桜台にエール送ってたけど。

 あぁ、変態ナルシー? そういえば来てるね。訊かれてもいないのに自信満々の笑顔で何かのたまっているけど、皆から無視されてるね。遂にそこまで嫌われたかナルシー。好きの反対は無関心とはよく言ったものだ。ハッハッハッ。

 

 ……あれ、つい最近まで無視はされなくても名前も顔も覚えてもらっていなかった僕って、もしかして彼女たちにとって無関心の極みの存在だった……?

 いや、よそう。激しく悲しくなるからやめよう。

 

「たっだいま~! どやった皆! ワイの活躍は!」

「凄かったよ虎次郎くん!」

「そうね~。キーパーも凄かったけど、まさかあの位置から一気にフォワード抜き去ってオフサイドぎりぎりの位置でパスもらってカーブシュートを決めるとは思わなかったわ」

「バナナシュートや。自分でもぶっつけ本番であんな曲がるとは思わへんかったけどな」

「アリサちゃん、サッカー詳しいの?」

「え? あ、あぁまぁ、うん。これくらいは一般常識よ! ねぇ?」

「せやなぁ。サッカーやってる人間からしたら一般常識やなぁ。オフサイドは。果たしてサッカー経験無いんが知ってるのが普通かどうかは知らへんけど」

「あ~、さてはアリサちゃん虎次郎くんがサッカーしてるから……」

「ち、ちちちちち違うわよ! なんて私がこの変態狐のためにサッカーのルールブックまで買わないといけないのよ!」

「「「「あぁ、買ったんだ(やな)」」」」

「やめて!? そんな生暖かい目で見ないで!?」

 

 今日も主人公グループは大騒ぎである。

 あ、ナルシー? ごめん。何か言ってた気がするけど皆無視してるし、僕も意識から消えてたから何言ってるかわかんなかった。

 しかしアリサちゃんマジツンデレ。流石はCVくぎゅう。

 

「あ、そうだ。アリサちゃんとすずかちゃんお弁当作ってきたんだよね?」

「「え!?」」

 

 と、そこでふと思い出したと言わんばかりになのはちゃんがニヤリと笑って親友二人組に笑いかけた。

 なるほど……天然キャラでありながらも親友のアタックポイントはしっかり道筋を作って狙いやすくしてくれる。良い子だねなのはちゃん!

 

「お、なんやなんや? もしかして二人ともワイのために作ってきてくれたんか? く~! 泣ける! 泣けるで!」

「あはは……ま、まぁ確かに作ってきたけど……」

「あ、え、えっと……ま、まぁ、疲れてお腹減るだろうなと思って……べ、別にアンタのために作ってきたんじゃないんだからね!?」

「アリサのツンデレいただいたでぇぇ!!」

「ちょっ、ツンデレって何よ!? っていうか、今普通に私の名前呼んだわよね!? 普段から普通に呼びなさいよ! バーニングって今度言ったら殴るわよ!」

「ありがとなアリサ!」

「あう……」

 

 流石はオリ主。ここでバーニングと呼んでフラグ折るようなことはしない。いや、待てよ? 三枚目担当としてはここは敢えて「バーニング」と呼んでラブコメ感を演出すべきだったんじゃないかね?

 いや、でも顔を真っ赤にして俯くアリサちゃん可愛いよアリサちゃん。いや、今まで実はちゃん付けにちょっと抵抗あったんだけど、あえて言おう。アリサちゃん可愛いよアリサちゃん。

 アリサちゃんは虎次郎くんの嫁。

 

「今なら……今なら死んでも悔いはないでぇ……」

「虎次郎くん、死ぬなら食べてから死ぬべきだと思うよ」

「ハッ! せやな、あかんあかん。美少女の作ってきたお弁当を目の前にして食べずに死ぬなんて、死んでも死にきれんわ!」

 

 どっちだよ、という無粋なツッコミは内心だけにしておく。

 しかしお弁当か……僕も作ってきたんだけど、これは言い出せる雰囲気じゃないなぁ……。

 

 ……あれ? コレって普通、僕が先に差し出してアリサちゃんが自分も作ってきたとは言い出せなくて、作ってきたのを知ってたなのはちゃんとすずかちゃんがやきもきする的なシーンじゃないの?

 なんで僕が「彼のためにお弁当作ってきたけど、無駄になっちゃったな……」のポジションなの?

 

 ……待って!? 僕もしかしてヒロイン枠だったのかな!? アレか、最近は男性向け恋愛ゲームでも攻略対象に実は女装っ子が混ざってたりするパターンの、女装っ子ポジだったのか僕!? 待って!? 僕、一応ノーマルだから! 女の子大好きだから!

 

 ハッハッハッ、なんちゃって。大丈夫大丈夫。僕は黙々と食わせていただくよ。ここで一人お弁当を!

 さ、寂しくなんて無いんだからね!

 

「あ……弁当ちゅうたら……」

 

 と、そこで何かを思い出したかのようにこっちを申し訳なさそうに見てくる虎次郎くん。

 そしてそんな虎次郎くんと僕を見て首を傾げる主人公メンバーズ。そして何かに気付いたのか、アリサちゃんがハッとした顔でこっちをすまなさそうに見てきた。

 

 ……うん、待って。なんか、え? あれ、待って? なんかちょっとこの空気、僕も飲まれて失恋した女の子みたいな切ない感じが胸に到来してきたよ!?

 

「ぼ……僕ヒロイン枠なんかじゃないんだからぁぁ!! 僕いたってノーマルだからぁぁ!!」

 

 とりあえずそれだけ叫んで僕は逃げ出した。だってこの空気いたたまれなすぎだろう。

 逆じゃね? 普通逆じゃね? なんで僕が失恋ヒロイン側なの!? アレか!? この後に失恋して傷心しているところに甘い言葉を囁いてくる後半で悪役として出てくるキザ男とかに身体を弄ばれて、主人公達の敵にまわっちゃうフラグなの!?

 あ、悪役のキザ男で真っ先に出てきたのがナルシー悠馬だった。奴に舐め回される自分を想像してしまった。怖い。キモイ。

 くそぅ、とにかく逃げるが勝ちだよ!

 虎次郎くんに呼び止められた気もしたけれど、僕は無視して自転車の鍵を外すと全力でこいで逃げ出した。

 

 あっぶねぇ。あともうちょっと遅れたら追いかけてきた虎次郎くんに自転車掴まれてつかまるところだった。ふぅ……。

 

 

 

 

 

「つかまるところだった。ふぅ……じゃないよ!」

 

 自宅に帰った僕は自室にこもってあがりきった息を整えたところで正気に戻り、全力で叫んでベッドに倒れこんで枕に顔を埋めてゴロゴロした。

 訳のわからないところでテンパってしまったが、よくよく考えたらアレ別に気不味くもなんともないよね!? 僕、普通に弁当持って行って「あ、僕も作ってきたんだけど、折角だから皆で分け合って食べない?」って言えば良かったよね!? これ一番後腐れ無かったよね!?

 大体すずかちゃんが持ってた包みもサイズ的に重箱っぽかったから、多分皆で食べる分のだよ彼女のは! つまりまったく臆する必要は無かったよ!

 

「僕のアホぉぉぉ!!」

 

 なんてこった。コレで僕はホモ疑惑が立ち上がってしまったに違いない。そしてちょっと僕に気まずそうに顔を向けた虎次郎くんにもその手の噂が広まってもおかしくない。これはいけない。悪いことをした。我が唯一の友になんという迷惑をかけてしまったのだ。

 

 ……っていうか、そもそも虎次郎くんだけが友人という状況がまずマズいよ僕! せめて原作関係ない人とくらいは交友持とうよ僕!!

 

 正気に戻ったら戻ったで自分自身にツッコミの嵐を炸裂せざるを得ないよ! 小さい頃って男女関係なく恋愛感情と友情がごっちゃになって、友達をとられたっていう思考が恋人奪われた思考と似たような物になってるんだというのを家に帰ってきてから理解したけど、出来ればこれを自分自身の身で発見したくなかったよ! 精神完全に肉体に引っ張られてるよ!

 

「そして弁当置いてきちゃったよ!!」

 

 あのイケメンメガネのことだから後日会った時、或いは夜あたりに電話で「その……なんや。美味しかったで? ヨッシー……いや、ちゃうな。義嗣のお弁当」とか言い出すよ!?

 死にたい! なにそのちょっとした青春の香りのする恋愛風景!!

 

「何度も言うけど僕にリアルBLの気は無いんだからねぇぇ!!」

 

 世界の意志で僕をBL道にひた走らせようとしてるんじゃないかと思わず邪推してしまわずにはいられないレベルだよ!

 

「僕は身も心も男の子だからねぇぇ!!」

 

 大体、介入するつもり皆無な筈の主人公が結局物語に介入させられる羽目になる物語はよくあるけどさ、でもさ、こういう介入の仕方はどうかと思うよ僕は! なんで!? なんでオリキャラ同士でしかも横恋慕で同性愛!? いや、百合ならわかるよ!? 需要あるもん! でもさ! BLは無いよ! アレは腐女子用だよ! 僕は腐士になった覚えは無いよ!

 

「そして横恋慕するつもりすらねぇよ!」

 

 っていうか、するとしたらアリサちゃんの方を狙ってだろ普通!

 いや、待て、こういう考え自体が既に世界の罠に、世界の意志に流されている証拠ではないのか!

 

「ヒャッハー!!」

 

 もう、とりあえず叫んで発散しておくことにした。カラオケ行きたい。

 そして鳴り響く家の電話。

 

「……うあ~……」

 

 どうしよう。なんで僕最近、この二日で同性関係からのダメージがでかいの僕……いや、虎次郎くんに関してはお互い全く悪いところは無いんだが……。強いて言うなら状況が悪かっただけなんだが……。

 電話無視しようかと思ったけど、ここは素直に出ておくことにした。父さんからの電話かもしれんしね。今日は接待ゴルフだと言っていた。頑張れ、お父さん。

 

「はいもしもし、佐藤ですが」

『あぁ、義嗣か? 父さんだが』

 

 本当にお父さんだったぁぁぁ!!

 なんだかんだ言いつつも流れ的にここは虎次郎くん、或いは主人公メンバーの誰かとかかと思ったよ! あっぶねぇ! よくよく考えたらそういうご都合主義起きるのは主人公達だけだよ!

 

「うん。どうしたの?」

『あぁ、いや、お土産なにがいいかと思ってな……』

「気を使わなくて良いのに……えっと、じゃあケーキ……は翠屋で買ったほうが美味しいか……え~っと……あ、そうだ。家計簿用のノートがページ残り少ないから、適当に罫線引かれてるタイプのノート買ってきて」

『え? い、いや、お土産だぞ? ほら、何かお菓子とか玩具とか……その……今日も遅くなりそうだしな……』

 

 僕のお願いに何故か慌てる父さんだが、別に携帯ゲームだって去年の誕生日に買ってもらったし、お小遣いは小学三年生なのに月に三千円も(多いよね? 僕、前世だと中学で千円、高校で三千円だった覚えがあるんだけど)もらってるから個人的に何かお菓子食べたかったら近所のスーパーで買ってこれるし、ちょっと贅沢したい時は女性客が多くて恥ずかしいけど翠屋行けば美味しいケーキとか食べれるし特に文句は無い(そしてたまに料金オマケしてもらえたりする)。

 

「そんな気を使わなくても、お父さんの苦労は知ってるんだから別にいいよ。それよりもお父さんの方こそもっと贅沢していいんだよ? 先月も付き合いで結構お金かかったのは知ってるけど、お父さんの稼ぎだったらもうちょっと遊んでたって誰も文句言わないんだから」

『うっ……ぐすっ……』

「え!? なんでお父さん泣いてるの!?」

『いい……良い息子を持ったなぁって……思ってな……』

「泣くほどなの!?」

 

 えぇぇ……なんかごめんなさい……。

 いや、だって前世で父親に対する正しい接し方とかわからんかったし、っていうか殴られないように怯えながら過ごしてた覚えしかないし、今世のお父さん良い人すぎてなんか迷惑かけるのが悪い気がするんだよね……。

 いや、でもね、社会人を一度経験している身としては、お父さんの苦労がそれとなく分かるんですよ! しかも自分の血縁でもなんでもない子供引き取ってるシングルファザーだよ!? どんだけ大変だと思ってんの!? 僕だったら絶対無理だよ! 絶対途中で身体壊すよ!

 

 ……い、いや、まぁ良いや。父さんと話してたらなんかさっきまでの自分がバカらしくなってきた。もう少ししたら翠屋に行こう。士郎さんお手製の美味しい軽食の数々が待っていることだろう。応援席にいた僕にももらう権利はあるよね?

 

『いや……すまんな。ついつい……じゃ、じゃあノートは買って行く。今日中に帰れるか分からないが……』

「身体壊したら元も子も無いんだから、日を跨ぐようなら無理に帰ってこないでホテルにでも泊まって、そのまままっすぐ会社行っても大丈夫だよ? 一日二日帰らないくらいでお父さんのこと嫌ったりしないから」

『駄目な……駄目なお父さんでごめんな……義嗣……』

「全然ダメじゃないよ!? 自慢のお父さんだからね!?」

 

 毎回思うんだけど、なんでお父さんこんな涙もろいの!? そして自虐的すぎるよ! もっと自分に自信持ってよ! なんで奥さんいないのかいっつも不思議で仕方が無いよ! 会話の内容からじゃ想像つかないかもしれないけど、お父さん見た目は若干渋めなダンディなおじさまなのに!

 

『うん……ありがとうな……お父さんがんばるよ……じゃあな義嗣』

「うん、本当無理しないでよ……? じゃあね」

 

 ピッ、と電話を切って嘆息し、僕はとりあえず汗が張り付いて気持ち悪いことに気付いたのでとりあえずお風呂入ってから翠屋に行くことにした。

 

 

 

 

 ふふふ……やっちまったよ……昨日も一昨日もシャワーだけで済ませたせいで二日ほどお風呂洗ってなかったことに気が付いて、若干濁っているぬるま湯(なんか変な匂いした)がバスタブにはられていることに気付いてしまって、風呂場を本格的に掃除してしまったよ……ドアのパッキンのところに中々立派なカビができてたよ……。

 脚立取り出してきて天井まで綺麗にしようとした結果、綺麗になったお風呂場でお風呂を楽しんで気付けば午後二時過ぎだよ……試合終わったの十一時半ちょいだったから、もうコレ完全に翠屋の戦勝お昼パーティー終わってるよ……。

 くそぅ、お弁当……お弁当持って帰ってきていれば……ッ!

 

「うおわっ!?」

 

 と、突然大きな揺れが家を襲い、僕は思わず尻餅をついた。

 

「なんぞ!?」

 

 やけに大きい地震である。え、何、もしかして原作でもこの時期にでっかい地震のシーンなんてあった!? アニメ第一期でそんなの見たことないんだけど! もしかしてゲーム化されてる奴の話とか!?

 台所から響いてくるコップやらのガラス製品が落ちて砕ける音に、僕は一瞬台所の様子を見に行くべきか迷ったけれど、安全確保を優先して家から飛び出す。ラジオくらい家に常備しておくべきだった! 震度どんくらい!? 前世で福島住んでた時に起きた震災の時ばりに揺れてんだけど!?

 

 玄関のドアを開け放って外に出て、僕は一瞬で事態を把握した。

 

「……この~木なんの木気になる気になる……」

 

 見たことも~ない木ですから~。

 

 ……大木。そうとしか形容できない物が街のど真ん中に現れていた。そして家の前の道路を突き破るかのように地面から生えている電柱よりも太い根っこらしき物。それが家の敷地に侵入し、家にぶつかるギリギリ直前で成長が止まっていた。

 

 ジュエルシードのアレである。

 

 舐めてたよ……アニメだとコレ割とあっさり終わるから舐めてたよ……。そりゃそうだよね……こんだけでかいもんがいきなり地面の中潜り込んで数百メートル……いや、それどころか数キロも先まで根っこを生やして一瞬で伸びるんだ。そりゃあ根っこ生やされた周辺は大規模な地震も起きるよ……。

 大体なにあの大木……どんだけデカいの? 東京タワーほどではないと思うけど、対比できる物が無いからいまいち大きさが分からない。でもとりあえず街中にあるどんなビルよりもデカいのは間違いない。

 

 あ、っていうかお向かいの家、根っこ叩きつけられたのか屋根が一部吹き飛んでるんだけど……大丈夫かな、あそこおばあさん一人暮らしなんだよね。ちょっと様子見てこようかな。

 

「とか思っている時期が僕にもありました」

 

 お隣さんの心配をしていた僕の目の前にある木の根っこに、いつの間にかいつぞや見た覚えのある、無骨な剣が突き刺さっていた。

 もうね、アイツはどこを狙って撃っているのかと。いや、根っこに刺さってるからまだ良いんだけどね? でも刺さっても別に根っこを燃やすでもなく凍らせるでも無く、ただ刺さってるだけってなんか意味あんの……?

 ジト目で大木の方に目をやると、大木からちょっと離れた位置のビル屋上に小さくピンク色の翼っぽい物が広がるのが見えた。

 距離ありすぎていまいちわかりにくいけど、アレってなのはちゃんだよね? 探査魔法でジュエルシードの大元探してるとこかな?

 

 ……いや、まぁそれは置いておこう。どこだコレ撃ったバカは。っていうか、そもそも今回のは大事になるって想定して事前にこの事態を回避するために動かなかったのかよオリ主三人組。全くもって駄目なチートオリ主共だ。こういうところこそ原作介入して被害を減らすべきではないのかね、全く。虎次郎くんと刹那くんは絶対ハイスペックだし頑張るべきだよ。

 

 うん? お前が言うなって? うん、いや、その通りですねハイ。ごめんなさい。割と調子こきました。でも心で思う分にはタダなんだし、誰に迷惑かけるわけでもないんだもの。いいじゃない。

 

 ザクッ。

 

 とか思ったら今度は僕の頭上で何かが刺さる音がして恐る恐る振り返ると、剣と同じくなんの装飾も色づけもされてない無骨な槍が我が家の壁に刺さっていた。

 

 うん、ちょっと出てこいやナルシー。

 流石に、流石に他人様のお家に槍投げってのはどうなのかとぼかぁ思いますよ?

 

 きょろきょろと首をまわして奴の目立つ姿を探すと、居た。なのはちゃんのいる位置より更に大木から遠いところ。姿自体は見えないけど、金色の空間の揺らぎがキラキラと真昼の空に輝いていた。

 うん、この大木はもうどうしようもないくらい秘匿できない規模の異常だけど、アイツ完全に魔法の秘匿とか考えてないよね。本人の姿すら見えないほど相当離れてるのにそんだけ目立つ行動してるって大問題じゃないかな。しかも位置的にお前また空に浮いてるよね。っていうか、その距離からなんでピンポイントに僕の周辺に流れ弾が飛んでくるのかな?

 

 他に目立つ物はそのナルシーがいると思わしき場所となのはちゃんがいると思わしき場所以外無い。あの二人はちゃんと魔法を秘匿してる感じするなぁ。目立ちたがり屋なナルシーのせいで全部無駄になってる気もするけど。

 あの二人ってどんな感じのチート能力なんだろ。やっぱ無限の剣製<アンリミテッド・ブレイドワークス>とか約束された勝利の剣<エクスカリバー>とか持ってんのかな。

 あ、空間を操る程度の能力とか、空を飛ぶ程度の能力とか、そういうのも有るかもな。後者は効果地味っていうか、この世界においては魔法で飛べるから欠片も意味の無い能力だけど。

 

 閑話休題。

 

 とにかく、どうせ僕が何か出来ることがあるわけでもなし。どうしたものか。

 

 とか考えてたら、無骨なハンマーがお向かいの斎藤さん宅(おばあちゃん一人暮らし)に激突して壁が崩れる。

 何故かその光景がスローモーションで見えたが、僕は一瞬呆然とした後に正気に戻って思わず叫んだ。

 

「さ、斎藤のおばあさあぁぁん!!」

 

 まずはおばあさんの安否確認が先決だよ! 老後の年金暮らしのいたいけなおばあさんの数少ない財産であるお家になんてことするんだあのナルシー! っていうか、どうしてアイツのいるであろう位置と大木の位置の関係的にくるはずの無い方向であるこっちに飛んでくるのさ! 勘弁してよ!!

 僕は涙目でお隣さんの家へと駆け出したのであった。



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5.禁断の書と違和感

 姉さん、事件です。

 

 このネタ分かる人どんくらいいるんだろうか。

 そんなことを思いながら、僕はなんかもう散々な結果になった日曜日の夜中に一人で家の片付けをしていた。

 

 うん、分かるよね? 大震災並の地震がほんの十数秒でも起きたら、そりゃあ家の中ごっちゃごちゃになるよ。ちなみに台所はコップの一部が割れてたけど、幸いにも床ではなくて流し台に落ちて割れていたので片付けはそこまで大変ではなかった。まさに不幸中の幸いである。

 他に被害らしい被害というと、父さんの書斎の本棚の上の方にある本がダバーっと床に広がり、僕の部屋の服が入っているカラーボックスが勝手に開いて少し服が散らばってたり、そんくらいで済んだ。アレがあと十秒続いてたら食器棚とか開いて食器が床に散らばって割れて、大変なことになってただろうなぁ……こんなもんで済んでよかった。本当に。

 

 ちなみに、斎藤さんちのおばあさんは無事だった。人間どころか車ですら一撃で粉砕してしまいそうな威圧感を放つハンマーが自分の座っている場所から1メートル程度しか離れてない所に突き刺さってるのに、呑気にお茶飲んでて、いきなり叫びながら他人の家に勝手に上がってきた子供(鍵は開いてた。おばあさんマジ無用心)にいちご大福をくれるという親切おばあさんっぷり。とりあえずにっこり笑って礼を言うとそれをもぐもぐしながらおばあさんと世間話という名の現実逃避をした後、おばあさんの家を少しでも片付けることにした。

 

 しかし何せ壁ぶち抜かれてるわ屋根は一部吹っ飛んでるわでエラいことになっていて、片付けられたのはおばあさんの近くに転がっているどかせそうな瓦礫を頑張ってどかして安全確保するくらいしか出来なかったんだけども。

 そんでもって真昼間だから気付かなかったけど、また停電になっていて掃除機が使えなかった。

 

 これどうすんのマジで……おばあさんの一人暮らしにはちょっとキツすぎるだろ……。

 

 そう思って「お孫さんとかお子さんの電話番号分かりますか」って訊くと、番号の入った携帯を持たされてるんだけど使い方わからないと言うのでソレを借りてお子さんに電話。局地的地震が起きて、おばあさんの家が半壊状態になっていてとてもじゃないけど老人の一人暮らしできる状態じゃないので、出来る限り早めにお迎えに来て上げて下さいと伝えておばあさんを自分の家に連れてきた。

 

 しかし、ガス漏れとかガス爆発とか起きなかったのは本気で不幸中の幸いだと思う。あの規模の揺れで、地下にもあれだけ根っこが侵食していたとなるとガス管が破壊されてる可能性だってあったし、どこかの民家でガスコンロ使ってたら爆発とか起きても全然おかしくなかった。本当に、本当に良かった。正直人死にとか出てもまったくおかしくない被害だったし。

 当然のようにご近所さん達も何か騒いでた気がするけれど、生憎と自分の家とおばあさんの保護で手一杯だった僕は他の家の様子を見に行ったりはしていないので実際の被害がどのくらいかはまだ分からないけれど。

 

 まぁ、ともかくにも火災やなんかには発展はしていなかったというその点でだけは良かったと、少しだけ胸をなでおろして現状確認。

 

 今現在おばあさんは被害の少なかったうちの居間にいるけれど、電気が来てないからテレビも映らないし、LEDのカンテラとか懐中電灯とかあったからそれを掻き集めて、ポットに残ってたお湯を使ってお茶を入れてあげて、おせんべいは硬いと食べられないっていうから板チョコをブロックごとに砕いて一口サイズにしたものと柿ピーを出してトイレの位置を口頭で伝えてそこでのんびりしてもらっている。

 そんな中、僕は一人寂しくお父さんの書斎を片付けている訳だ。

 

 本の山が凄いし、本棚の上の段なんて脚立使わないと届かないのに脚立を置くための床スペースが本でふさがっているというジレンマに悩まされながら、とりあえず本を種類ごとにまとめて部屋の隅にまとめているのだが、なんというか、経営学の本があったかと思いきや天文学の本があったり、かと思えば若干古めかしいラノベが数冊あるかと思えば六法全書があったりと、片付けても片付けてもあるなんとも大量の本に僕はもう今日一日の労働量が肉体の限界に近いことを自覚し、明日筋肉痛と精神的なダメージで学校休もうかと思ってしまうほどであった。

 

 もう片付け明日にまわそうかな、と思いながらも惰性で本を片付けていると、ふとある本を目にして僕は一瞬眼を見開き、まさかそんなはずは、と目をゴシゴシこすってその本をもう一度凝視して、それがそこにあるのに間違いないという事実に僕は思わず唾を飲んだ。

 

 まさか、なんでこんな物が父さんの書斎に……?

 

 

 それは禁断の書。

 

 

 それは絶対不可侵にして、しかれどもそうであるが故に人々を惹き付け、時に人々を破滅させる恐るべき書。

 

 

 神聖にして邪悪。

 

 

 邪悪にして神聖。

 

 

 矛盾するようでしかし、それらは事実矛盾することなく、そこにある書こそがその矛盾の存在を否定し、そしてソレは人に夢を与え、代償として人は大事な何かを失うこととなる。

 

 

 

 ……もう、言わなくても分かるかもしれないが、言おう。

 

 いや、しかし下手にこれに関わったら僕の人生色々とまずいことになる気がする。やっぱり見なかったことにするべきか?

 

 ……だが、既に僕は見てしまった。ならばもう見て見ぬフリをするのはよそう。僕だって、前世ではこの手の物を渇望していたじゃないか。

 

 

 

 その書の名は、

 

 

 

 "おとうさんといっしょ~おとうさん、このおようふくスースーするよ?~”である。

 

 

 

「おとうさあぁん!!」

 

 表紙は完全にロリ。どこをどう見てもロリ。発育途上の胸が丸出しで、生えてない股間もむき出し。っていうか、俗に言うボンテージの胸部分と股間部分の生地の無いを着ているロリっ子の二次絵表紙がそこにあった。

 僕が思わず叫ぶのも、なんか思わず訳の分からない厨二病っぽい単語を並べて目の前の現実から逃避しようとするのも分かってもらえるだろうか? いや、わかってもらえるはずだ。

 

 これが、これが兄弟とかのなら、まだ良い。まだ、まだ笑って許せるレベルだ。でも、でもここはお父さんの書斎である。つまるところコレはお父さんの私物である。

 

 これが、これがまだ女子高生物とか人妻物とかなら、まだ良いよ? うん、「やれやれ、お父さんってば……問題は起こさないでよ?」とか苦笑しながら見逃せるよ?

 でもさ、見た目小学生くらいのロリっ子が表紙のエロ本だよ。いや、三次じゃないだけ良いけどさ、二次とはいえこのタイトルとそこから想定される内容は正直息子として大変危機感を覚えざるを得ない。

 

 いや、でも、でもアレか。アレだよね。二次だし。二次元だし。人の性癖って自由だしね? リアルで問題起こさなければ別にロリ好きだろうがBL好きグロ好きだろうがリョナ好きだろうが……。

 ……うん、そうだよ。お父さんは日夜僕を扶養するために働く立派な人なんだし、こういうちょっと道徳に反するアレな物を読んで興奮しちゃって一人で致しちゃったりなんかしても、犯罪おかしてるわけでもないし、大丈夫だよね。

 うん、僕だって前世での性癖はそんなに褒められたもんじゃないし……それでも犯罪起こさなかったし。

 

 そう、そうだよ。マンガやゲームを読んだりやったりした結果、現実と物語の区別がつかなくなって犯罪起こしちゃったとかそういうのは犯罪者の逃げ口実なんだよ。「僕のせいじゃない。あんな物が出回ってて、それに触発されたせいなんだ。きっとサブリミナル効果でもあったに違いない。僕は無実だ」とか言い出しちゃうような最低開き直り野郎の言い訳なんだよ。

 

 うん、僕は何も見なかった。見たけど何も問題無かった。お父さんは素晴らしい理想のお父さん。それで良い。

 

 僕はそっとその禁断の書をまだ大分残っている本の一部をどかしてそこに置くと、どかした本を上から乗せて隠蔽する。

 これで、お父さんも僕が気付いたことには気付かないだろう。頑張って整理してたけど疲れたので途中で諦めた、とお父さんには言っておこう。

 

 ……と、突然窓の外からまばゆい青い光が差し込んで来て僕は思わず眼を細めた。

 

 数秒、そのままじっと窓の外を見ていると、やがてその光はおさまり、同時に外で街灯がついたのか外が目に見えて明るくなったのがわかり、僕はほっとした。

 

 時間を操る関係の魔法持ちがやっぱいるんだな、チートオリ主チーム。こんな短時間で電柱やらボッキボキに折れて電線も切れてたのが直る訳が無いから魔法だろう。これはもしかしておばあさんの家も直ってるかな? だとしたらおばあさんのお子さんには悪いことしたな……。

 

 軽く背伸びをして背中をバキバキ鳴らしてから、廊下の電気を付け、居間の電気をつけておばあさんに「もう停電直ったみたいですね」と声をかけ、懐中電灯とカンテラの電源を切り、テレビを付けてリモコンをおばあさんに渡して一度外に出ることにした。

 だって現状確認しとかないといけないしね。完全に何もかも元通りなのかどうか分からんし。

 

 そう思って家を出ると、お向かい(斎藤)さんの家が半壊している姿が目に入った。

 

「……いや、直せよ! ここ一番大事だろ! 民家は一番最初に直せよ!」

 

 思わずツッコミを入れるのも仕方ないよね。

 ちなみに電柱とか道路とかは完全に何事もなかったかのようになっていた。そして何故か他の家は普通に直っていて、我が家に刺さっていた槍も無くなって、小さな穴が開いているだけになっている。

 

「……いや、直せよ! 抜いていくならちゃんと穴も直していけよ!」

 

 ご近所迷惑なのは分かってるけど、叫ばずにはいられないよね。

 

 仕方なく、本当に仕方なくおばあさんの家を念のために確認のためあがっていくと、ハンマーがあった場所からハンマーが消えていた。

 家の荒れ具合はそのままだった。

 

「なんなのさもう!!」

 

 僕が好意もった相手って幸せになれるんじゃなかったの神様! いや、アレが神様だったのかなんて知らないけど! 僕バリバリおばあさんに今好意抱いてるよ!? っていうか、なんかもう同情心が半端ないよ!? もうこの際僕の家に槍の刺さってた穴が開きっぱなしなのは、もう水に流すとしてもさ、この壊滅具合は直そうよ! おばあさん可哀想じゃん!

 可哀想過ぎてなんか泣けてきたよ! 涙ぼろっぼろだよ僕! もう帰るよバーカ!

 

 心の中で「ナルシー死ねナルシー死ね」と呪いを投げかけながら家に戻り、おなかを空かせているであろうおばあさんのためにご飯を作る。炊飯器の中のご飯はまだほんのり温かいけれど、ほかほかご飯というほどではないので電子レンジで温める。僕は米硬めが好きだから米しゃっきりしてるけど、おばあさん硬めでも食べれるかな。大丈夫かな。一応おかゆ的な物も作っておこう。

 

 おかずはカレーが残っているけれど、おばあさんにカレーなんて刺激物はちょっとどうかと思うので朝方作った野菜炒めの残りをおかずにチョイス。あとは天○の味噌漬けが冷蔵庫に入っていたのでそれを取り出し、ひとまず今日の夕飯はそれで済ませることにする。

 

 いや、僕だけカレー食べてるのもおばあさんに悪いし、一緒に野菜炒めと味噌漬けだけで食べるしかないじゃない。

 

 とりあえずそう言うわけでお盆にそれらを乗っけて居間へと移動。おばあさんとこれまた世間話をしつつご飯を食べる。

 

 なんかおばあさんがホロホロ涙を流していたけど、なんかお子さんと昔一緒にご飯を食べていた時を思い出したらしい。僕も釣られて泣きながら「おかーさん」と呼んで抱きついておいた。僕は空気を読む子なのである。あと割と涙もろいというか、貰い泣きしやすいのだ。

 

 ……あ、僕そういうところは父さんに似てるな。義理なのにやっぱそういうとこは似るのかね?

 

 

 

 

「いってらっしゃい、よっちゃん」

「うぅ……よっちゃんはやめてよ、恥ずかしいよ」

「嫌かい?」

「う~……いや、いいよ。よっちゃんでいいよ、もう。だからそんな悲しそうな顔しないでよ」

 

 朝、一緒に布団で寝たおばあさんは良い夢を見たとかですっごいニコニコしてて、朝ごはんを作ってくれた。今世において自分以外の人が自分のために作った料理を食べるのなんか何気に初めてかもしれない。ちなみにきんぴらごぼうと肉じゃがだった。美味しかった。息子さんの大好物だったらしい。

 

 で、まぁ学校に行くとなったらこうしておばあさんが僕をお見送りしてくれている訳である。今世でおばあちゃんいない(父さんの両親は既に他界しているらしいし、本当の両親関係に関してはさっぱりわからない)から、ちょっと新鮮な気分だ。

 

「そうかい。じゃあいってらっしゃい、よっちゃん」

「うん、行って来るよおばあちゃん」

 

 ちなみに昨日のうちにもう一度おばあさんの息子さんには電話して、向かいの家で預かっていると伝えておいた。明日一番に迎えに出ると言っていたけど、こっちに着くのは夕方頃らしい。

 

 さて、なんだろう。原作キャラとの絡みとか殆どしてないのはまだ良いけど、友達増えないでおばあちゃんが増えたというのはどういうことなんだろうか。新しいな。こういう展開新しいな。絶対他の転生者こんな展開おきてないよ。おばあちゃんを家に招いた本人の僕もびっくりだよ。ラブコメとかバトル物かと思いきやハートフル家族愛物語だったとは僕もびっくりだよ。いや、悪いとは言わないけど。

 

 そんなことを考えつつ学校に着き、クラスメイト達と挨拶を交わしつつ着席してなのはちゃんの様子を伺うと何か少し寂しそうな、でも何かを決心したかのような表情のなのはちゃんの姿がそこにあった。

 完全に僕の想像だけどね。と思って見てたら欠伸した。よく見るとなんか寝不足っぽい顔をしているだけだった。

 クッ、せっかくシリアスっぽいモノローグしようと思ったのに!

 

「は~い、朝礼の時間ですよ~。皆さん体育館に集まってくださいね~」

 

 なのはちゃん以外にも虎太郎くんとかの様子も見ようと思ったところで先生が生徒達を呼びに来た。……けど、虎太郎くんと刹那くんがまだ来てないんだけど、遅刻?

 

「なのは、先生が呼んでるぞ。朝礼の時間だ」

「え? あ、あぁうん……」

 

 そしてぼんやりしていたなのはちゃんにナルシー悠馬が声をかけ、ぼんやりしたまま反応したなのはちゃんがナルシーと共にてこてこと教室を後にする。

 

 ……あれ? すずかちゃんとアリサちゃんは?

 

 と思ったら、ナルシーと一緒に教室を後にしたなのはちゃんのことを唖然とした表情で見送っていた。

 あぁうん、まぁ、そうだよね。驚くよね。何があったんだろうね。っていうか虎次郎くんと刹那くんはどったの?

 色々疑問が浮かんだけど、僕は体育館へとなのはちゃん達の後を追って向かうことにした。

 



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6.考える傍観者と進まない原作イベント

 あの大木で周囲一体大停電+僕の家に小さな穴とお向かいのおばあさんの家がぶっこわれたよ事件の翌日、結局虎次郎くんと刹那くんは学校に来なかった。

 一応、先生曰く「風邪でお休みだそうです」とのことだったが、昨日あんだけ元気だったのにいきなりそんな風邪ひいて悪化したりするもんだろうか、と疑問に思う。

 

 しかし意を決してなのはちゃんに訊いてみても「私も分からないんだ、ごめんね」としか返ってこないし、一応アリサちゃんとすずかちゃんにも訊いてみたけどこれも似たような反応だった。しかもお見舞いでも行くかと思えば、用事があるから三人とも行く予定は無いという。

 風邪が長引くようなら心配だから行くとは言っていたが……あの三人が、ほぼ間違いなく最も近しい異性の恋愛対象として見ているであろう刹那くんと虎次郎くんが風邪で寝込んだと聴いて見舞いに行こうとしないような薄情な子達だろうか?

 

 これは嫌だけどナルシー悠馬にも訊いてみるべきかとも思ったけど、コイツが生きてるということはあの二人が戦闘かなにかで死んでしまって行方不明ということになっている、みたいな展開は無いだろうから心配する必要ないかも知れない。

 だってナルシーなんかが生きてるのに他のまともなのが居なくなるとかおかしいし。そもそもフェイトが出てくるまで戦闘らしい戦闘は起きないはずである。ジュエルシードが取り付いた生物との戦闘なんてチートオリ主達にとっては準備運動にもならないだろう。

 

 そう思って、結局何も行動を起こさないまま、夕方にはおばあさんを迎えにおばあさんの息子さんが来たのでおばあさんとはお別れだ。

 ちなみにおばあさんの息子さんはおばあさんを迎え入れようと前から言っていたのだが、おばあさんが「年寄りが迷惑かけたら悪いでしょう」って言って来てくれなかったらしい。

 けれども「住むところがこんなんになったんじゃうちに来るしかないだろ、観念してね、お母さん」と柔らかく微笑むおばあさんの息子さん改め、いい歳のおじさんに、おばあさんは泣きながら「意地を張ってごめんね、陽一、ありがとうね」と言って抱き合っていた。

 

 なんというハートフルな光景、と僕は思わず貰い泣きしながらおばあさんとの別れを惜しみつつ見送った。

 これが、もしかしたらおばあさんにとっての正しい幸福の形であったならば、僕の地味な能力の恩恵受けられたのかもしれないな、と思うと少し嬉しくなる。家が壊れたままなのはそういう理由なのかもしれないな、と。

 

 しかし、そんなことがあったから余計に虎次郎に電話するということすら忘れて、何もしないまま火曜日を迎えた。

 

 その日も、虎次郎くんも刹那くんも風邪。

 

 おかしい、と僕は思った。そしてなのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんはそれをむしろ普通と思っているかのように、普通に談笑している。

 

 いや、待て、というか出来れば気にしたくないからと意識から除外していたけど、ナルシーはどこいった? いつもならあの原作かしまし三人組が他の男がいない状況なんて見たらべたべたしに行くだろうに、そういえばあいつの姿も無い。でも先生は何も言ってなかったし、それを誰も疑問に思ってないみたいだったから僕も今まで気付かなかった。

 

 そもそも、あいつら本当にチートオリ主なのかどうかという疑問も持つべきではないだろうかと僕は冷静に思考する。

 

 少なくとも、悠馬は間違いなく転生者で、チート能力持ちなのは疑いようもないだろう。だって王の財宝<ゲートオブバビロン>持ちなのだから当然だ。しかもあの容姿である。

 

 虎次郎くんも外見的にチート転生者系だと思っていたが、この世界では赤髪なんてむしろざらに居る。無駄にイケメンで頭良くて人気があって運動も出来るというハイスペックキャラだが、あいつが人外の能力を発揮するところなんて見たことがない。これは刹那くんも然りだ。

 

 もしかしたら、あの二人って意外なことに僕と同類なんじゃないだろうか。

 

 ……いや、でも一昨日見たあの青い光は多分、いや間違いなく二人のどちらかだ。悠馬は金ぴかの魔力光なのは多分間違いないと思うし。宝具投射時のあの光は恐らく魔力光によるものだと思うから。

 

 デバイスは、ユーノくんはレイジングハートしか持っていないはずだから、多分自前のデバイス持ちだと思う。そして、魔法が存在しない筈のこの世界で純正地球人がデバイスを持っていたら間違いなく転生者だ。

 

 ……青い光。イメージ的には虎次郎くんは赤だし、そうなると刹那くんの方は間違いなくチート転生者だと思うんだが……、すると虎次郎くんはチート転生者では、無い?

 

 よくよく考えたら、あいつハーレム作ろう的な思想は持ってるけど明け透けだし、なんか"力持ってるが故の驕り”的な物が無い感じするし……いや、でもあのハイスペックはやっぱりチート転生者じゃないかと思うんだよなぁ……。

 あ、もしかしてメガネがデバイスとかじゃなかろうか。あいつサッカーの時もメガネつけてたし。サッカーみたいに激しく動いてぶつかりあいもあるスポーツする時にメガネかけっぱなしなんて危ないから普通はしないだろう。

 

 そんなことを考えながら午前中を過ごしていたら、昼休みにひょっこりマスクをつけた刹那くんと虎次郎くん(刹那くんだけはガチで風邪ひいてるのか顔が青白かった)がやってきて笑って言うのだった。

 

「一昨日は川に落ちてそのまま隣町まで流されてたよ。お陰で風邪ひいちゃって。もう大丈夫だから。ゴホッゴホッ」

「一昨日はバーニングのパンツ覗いたら殴られてそのまま今日まで気絶しててん」

「私そんなバカ力じゃないわよ!?」

「などと容疑者は供述しており」

「ムキー!」

 

 ……僕の、僕のシリアスシンキングタイムを返せ! 授業内容ろくすっぽ頭に入らなかったじゃないか!

 冗談だとは思うけれど、そんなあっけらかんと言われては心配していた身としてはなんかこう、もやもやするわ!

 

 ちなみに後で虎次郎くんにこっそり訊いたところ(ヨッシーにだけは教えておくわ、と悪戯っぽく笑ってた)、一昨日ちょっとナルシーと喧嘩して怪我をしたせいで一日動けなかったらしい。

 魔法関係のこと隠してるんだろうけど、それにしたって喧嘩って……丸一日動けなくなる喧嘩って……ていうか、喧嘩した相手のはずのナルシーが学校に来て、虎次郎くんと刹那くんだけが学校来れなかったってことは「まさかナルシ……天ヶ崎くんが勝ったってこと!?」と訊いたら、虎次郎くんは不思議そうに「いや、ワイが勝ってんやけど……あんだけボコボコにしたんにあいつ昨日動けたんかいな」と唸っていた。

 

 あぁうん、そういえば昨日のナルシー変態行動とってなかった気がするから、もしかしたら怪我が酷くてチート能力かなんかで生み出した分身とかなんかもしれん。もういっそずっと分身だけ学校来れば良いのに、と思った。

 

 しかしなんというか、そうなると虎次郎くんと刹那くんの二人でナルシーをフルボッコにしたんだろうけど、それでも二人とも一日動けないほどに怪我を負ったってことはジュエルシード戦と比較にならない戦闘が起きたんだろうな……。

 まぁ王の財宝<ゲートオブバビロン>って対軍宝具の特性ありそうだし、一対多戦も楽だろうからなぁ……二人の能力次第では苦戦したのかもしれない。でも逆に考えれば、そんなチート持ち相手に二人がかりとはいえ相手の方に重傷負わせて戦意喪失させて勝てるってことは二人もやはりチート持ち確定だろう。

 

 しかし大怪我するような戦闘にまでなる喧嘩の理由ってなんだろうか?

 

 フェイトちゃんが出てきてからなら、まぁ分かる。ナルシーが全くなびかない原作娘達を捨てて、まだマイナスもプラスも関係を築いていないフェイトちゃん側に立ってフェイトちゃんを口説き落とそうとしたとかいう理由が、というかそういう光景がありありと目の前に浮かぶので。

 

 しかしこの時点での喧嘩の理由が分からない。アリサちゃんとすずかちゃんの好意の対象が虎次郎くんと刹那くんであることにやっと気付いた? それで「僕の女に手ぇ出すんじゃねぇ!」とかキレて襲い掛かってきたとか?

 

 う~ん……理由としてはちょっと弱いと思うな。気付くんならもっと早い段階で気付きそうなもんだし……あ、でもお弁当イベントが露骨だったから?

 いや、それなら図書館で刹那くんがやってきた時のすずかちゃんの態度の方が分かりやすかったと思うんだが……。

 

 ん~……駄目だ。わからん。喧嘩の理由は虎次郎くんも「見解の不一致っちゅうやつや」と小学生らしからぬ邪悪な笑みを浮かべて(多分本人自覚してわざとやってた)言うだけで答えてくれなかったし、僕にだけは教える、なんて言われたもんだから刹那くんに訊きにいくのもちょっとどうかと思う。っていうか、正直図書館のあの一件以来微妙に刹那のこと嫌いとは言わずともなんか苦手になったのであんまり話しかけたくない。

 

 なのはちゃんに訊いても原作で親友の二人に悩み事を秘密にして喧嘩にまでなるくらいだからまず間違いなく僕なんかには教えてくれないだろうし……。

 

 あ~、気になる。原作介入組の動きめっさ気になる。何があったんだろ。野次馬根性バリバリだよ。

 

 これが小説とかだったら、一方その頃虎次郎達は、みたいな場面移動があったり、虎次郎くんや刹那くんの一人語りを読んで「なるほど!」とか思えるんだろうけど、生憎とアニメの世界っぽい世界に入り込んだとはいえここは既に僕にとって二次元ではなく三次元、つまり現実世界である。他人の思考を読んだり、見たこともない場所の様子を覗き見たりは出来ないのだ。

 

 ん~……気になる。気にはなるけど、でも今の平穏な生活崩してまで踏み込もうとは思えないし、虎次郎くんとの友人としての今の距離感は結構居心地が良いので壊すようなこともあんましたくない。

 そもそも、踏み込んだところで僕に出来ることなんて何もないのだから仕方ない。やってみなければわからないとか言う人がいるかもしれないけど、僕チート能力無いからね。デバイスも無いし戦闘系特殊能力も無い。あるのは座敷童みたいな他人にほんの少しの幸せを与えるという能力。

 これが人の運気を故意に吸い取ったり分け与えたり出来る、みたいな能力なら戦闘での使い道もあっただろうけど、生憎と自分には効果のない特殊能力っぽいから僕の運の無さは折り紙付き(誰かさんとの間接キスの件とか、出生とか考えたらそう思う)なので、下手に介入したらあっさり死ねる気がする。

 

 最初のジュエルシード事件は、自分が原作組に紛れ込んでもまだ死亡確率はかなり低いだろうけど……闇の書事件とかになったら下手したら死ねるだろうからなぁ……。

 リンカーコア蒐集とかも、死にはしないっていう設定が二次創作で見た限りではあった気がしたけど、リンカーコアって人間に無くても生きていける器官とはいえ、リンカーコアが存在する人間にとっては生まれてきた時から身体に存在していた器官な訳であって、無意識のうちに魔力を消費して身体能力を向上していたりする、みたいな設定があるような話をきいたことある。原作知識なのか二次創作の創作知識なのかすら僕には分からんが、事実である可能性は充分にあると思う。

 

 まぁ、僕は仮にあっても奪われたところで日常生活に支障は無さそうだけどさ、多分魔力量なんてあってもかなり少ないだろうから。でも魔力使って身体の不自由なところを補ってる人とかだった場合、下手したら死ぬよね。免疫系を魔力で補うことで生きてる人とかいたら、リンカーコア蒐集された瞬間から身体の内部が崩壊してくだろうし、手や足が不自由なのを魔力で補っている人ならそのまま二度と手足が動かなくなる可能性もある。

 

 ……あれ? 待てよ。そもそも魔力で無意識で肉体の不備を補強しているとしたら、僕だって実は魔力でどこかを強化することで誤魔化しているけど、実際には不備のある部位があってもおかしくないんじゃないか?

 

 魔力量少ないとしても、だからこそその無い魔力を搾り出して身体を強化して、それでようやく今の運動神経悪くて身長も小さいこの身体を構成している可能性だってある。

 

 いかん、想像すればするほど怖くなってきたぞ。闇の書事件あと半年以上あるはずなのに僕その後に生きていられるかすっげぇ不安なんだけど……やっぱりはやてちゃんと仲良くなっておいて、守護騎士の方々に見逃してもらうという手も……。

 

 ……そういう打算的な考え、我ながら最低だな……。

 

 これは考えれば考えるほど鬱になりそうだ。今は考えるのはやめておこう。きっとなんとかなるさ。原作介入するだろ、三人もチートオリ主いるんだし。

 

 あ、でもなんか心配なんだけど、悠馬あたりはむしろ積極的に守護騎士達に協力して恩売りに走るような気がする……あいつならやりかねんと思うのは僕だけじゃないはずだ。

 

 あ~、大丈夫かな半年後。

 

 ……ん、半年後の心配を今から出来るってことは、きっと今は僕が心配しなくっても全然大丈夫だろう。謎の論理だけども。

 少なくともジュエルシード事件は、プレシアとか助けるルート突入しようとしない限りはほぼ間違いなく原作組だけで解決できるのだし、そこにオリ主二人(一人はむしろ不安要素なので見ないことにした)が居るんだし大丈夫大丈夫。不安要素が万が一敵にまわっても、二人で抑えられるんだったら大丈夫だろ。

 

 いや~、安心したらお腹空いた。ちょうど放課後だし今日は奮発して翠屋でも行こうかな!

 

 

 

 

 

 

 ……空気が重い。

 テーブルを挟んで正面、僕の目の前では謎のサラリーマンが憂鬱そうな表情でアイスティーを啜りながら時折モンブランを突いている。誰だコイツ、って思うよね? 僕も思ってるよ。誰だこの人。

 

 翠屋に着くと相変わらずの女性客の多さに辟易しながらも、ケーキが食べたい気持ちは変わらないので席が空いてるか店長の士郎さんに尋ねると、相席で良いなら空いてるよ、と朗らかに言われて「あ、じゃあ相席でいいのでお願いします」とか言っちゃったのが運の尽きである。

 

 女子校生とかと相席かなぁ。だったらちょっとケーキとか分けてもらえたら嬉しいなぁ、とか思っていたちょっと前の僕を殴ってやりたい。僕の現在の外見的価値は小さくて童顔、という点にあるだけであって、決して美少年とかって訳ではないのに!

 

 あぁごめん。なんの話だっけ。あぁそうそう、僕より前に翠屋に来てたらしいナルシーが女子高生……いや、中学生? に大人気みたいだよ。僕は全く見向きもされずに、女の子達はナルシーにメロメロだったよ。

 

 あんないかにも作られた感バリバリのイケメンフェイスのどこがいいんだ! あいつ顔と身長の割にまだ小学三年生だからね! 老け顔にも程があると思うんだぜ!

 ちなみに僕は身長と顔が完全に幼稚園児ばりだけど小学三年生だからな!

 大体あいつなんでここにいんの!? 学校休んだのに何出歩いてんの!? っていうか士郎さんアレ出禁にしましょうよ! おたくの娘さんのストーカーですよアレ!

 

 え? 目の前のサラリーマン? あぁごめんごめん。その話だっけ。

 

 えーっと、ごめん。僕もよくわからない。言ったじゃん、誰だこの人って。

 何せ「相席よろしいですか?」の士郎さんの笑顔に「あ……はい……どうぞ……」と蚊の鳴くような声で返事して、僕が「お邪魔します」と言ったのはガン無視です。以上、僕が知ってるこのサラリーマンのおじさんのことはそれだけ。

 脳内の観客にそんな説明をする現実逃避をして目の前の現実から目を逸らしていたものの、やはり空気が重い。

 

 しっかしなんかこの世の不幸の全部を背負ってます、みたいな顔してるな、このおじさん。まるで結婚寸前で、式場まで決めてたのに相手に他の男が出来て一方的に別れを告げられたみたいな顔だ。

 

「うぅ……陽子……どうしてあんな男に……あんな男のどこが良いって言うんだ……」

 

 ……僕の適当な考え意外と答えに近かったーッ!!

 っていうか露骨な独り言だな~……構ってちゃんなのかな……。

 

「死なないかな……あの男が死ねば陽子が帰ってくるかな……いあいあ……いっそ陽子を殺して僕も死ねばもう他の男を振り向くことなんて……へ、へへへ……」

 

 ……男のヤンデレこえぇぇ!!

 

 何この人! 違ったよ! この世の不幸背負っているというより、これから人を不幸にする気満々だったよこの人! 駄目だよ! 思いとどまろうよ! っていうか、なんでそんな暗い気分の時にこんな女の子だらけの店に来てケーキ喰ってんのこの人!

 

「はい、お待たせしました、レアチーズケーキとアールグレイです」

 

「あ、ありがとうございま……って、あれ? 紅茶は頼んで無いんですけど……」

 

 このいたたまれない空間に若干泣きそうになっていると、ようやく士郎さんが注文のケーキを持ってきてくれたけれど、僕は紅茶を頼んだ覚えは無い。飲み物は水で済ませるつもりだったんだけど……。

 

 と思っていたら、なんか傍から見てて完全に目の前のおじさんにびびってる僕を見てかわいそうに思ったので、あんまり露骨すぎない程度の、せめてものサービスらしい。

 ちなみにケーキの方も今回のお代はいらないそうだ。お客様皆に笑顔になってもらうためのこのお店で泣きそうなお客さんを作った以上、その人からはお代はもらえないよ、とのこと。士郎さんイケメンすぎる。

 そして初見だと見た目で完全に小学校入りたての女の子か幼稚園児とかと間違われてもおかしくない僕にそんな懇切丁寧に説明してくれるあたりあの人の人のよさが透けて見える。あ、それとも一昨日のサッカー応援に行ってたの覚えててくれたとか?

 ……いや、それなら一言あってもおかしくないか。んじゃあ違うな。

 

 まぁなんにしても、流石は、さすがは無駄に責任感あって、っていうかありすぎてちょっと可哀想な子、なのはちゃんのお父さんやで!

 なんとなく似非関西弁で内心叫んでから、お手手を合わせていただきます。

 

 うん、このなんというか、甘すぎず、クリーム部分はチーズ独特の少しすっぱみがあるような無いような上品な味、まさしく究極のチーズケーキ!

 うーまーいーぞー!!

 

 ……ごめん。本当はあんまり味の評論とか出来ないです。所詮普段はスーパーでうまい棒とか買って満足してる貧乏舌です。まぁとりあえず半端なく美味しいということだけは言えます。それは僕の今の顔を見てくれれば分かることでしょう。そう、とっても……ひきつってるでしょう?

 

 おかしいな。あまりの美味しさに顔をとろけさせていた気がするんだけど、目の前のサラリーマン風のおじさんがこっちをジーっと見つめてきてることに気付いて頬の筋肉がなんか痙攣し始めた気がするよ?

 

「やぁ、佐藤くん」

「んお? ……おぉぉ、佐々木くん!」

 

 そんなところに現れた我らが真の主人公、刹那くん!

 ごめんね! 若干君のこと苦手になってたけど、このきまずい空間をどうにかしてくれるならむしろどんどんウェルカムだよ! おいでおいで!

 

「どうしたんだい? 翠屋で君を見るなんてそうそう無いことだけど、っていうか何気に初めて見たんだけど」

「うん、たまにしか来ないからね。今日はちょっと心配事がひとつ晴れたもんで自分へのご褒美にね? っていうか昼間あんなに顔色悪かったのに」

「自分へのご褒美……陽子もそんなこと言って僕からエステ代持って行ってたなぁ……へへへ……もしかしてあの金もあの男に貢いでたのかなぁ……へへへ……」

「「……、……」」

 

 なんかちょっと危ない目をしながらケーキにフォークをぐさぐさ刺しつつ呟くサラリーマンおっさんに、僕と刹那くんは割とマジでひいていた。

 

「えっと……この人、君のお父さんか誰か?」

 

 僕のお父さんもっと渋くて素敵なおじさまだよ! こんな平日の昼間っから喫茶店でくだをまいてるようなおっさんじゃないよ!

 って思ったけど、流石に本人目の前にそんなことは口に出せない。

 

「いや……知らない人。席が空いてなかったから相席になって……あれ? そういう佐々木くんはどうしたの?」

「うん? あぁいや、なんか甘い物食べたくなってね。で、僕も相席って訳だよ。佐藤くんの姿が見えたから相席させてもらおうと思ったんだけど、いいかな?」

「あぁうん、僕はいいんだけどね……」

 

 刹那くんの言葉に僕はOKを出しながらもちらりとサラリーマンのおじさんの方に視線をやると一瞬目が合った。めさくさ怖い。

 

「……えぇっと、あ、あっちに悠馬がいるし、一緒にそっちに移ろうか?」

「ごめん、佐々木君は僕に首を吊れっていうのかな」

「ごめん、流石に即断でそこまで嫌がるとはおもわなかった」

 

 涙目で刹那くんに抗議すると、苦笑いしながらも刹那くんが謝ってくれたので許すことにする。僕は心が広いのだ!

 ……嘘です。ごめんなさい。単純に下手に強気に出て刹那くんが席移ったりしたらこのおじさんと二人っきりにされてしまうからです。今の僕ならこのおじさんよりはまだ知ってる人間というだけナルシーのほうがマシな気もします。でも反射的に断ってしまいました。反省してます。だから許せ!

 

「しかし……えぇと……佐藤くん」

「な、なに? 佐々木くん」

「……ごめん、僕席移っていいかな?」

「よし僕も一緒に行くよ佐々木くん! なぁに親友と一緒に話すのは楽しいからね! ハッハッハッ! 同じ男同士積もる話でもしようじゃないか!」

 

 逃げようとした刹那くんの左手をガッチリ掴んで、涙目でそう叫ぶ僕。何事かと周囲の客がこっちを見たが、僕よりも刹那くんの方に視線がいっているのはなんとなく分かる。まぁそれについては今はどうでも良い。逃げよう。早く逃げようじゃないか少年! 今の私は阿修羅すらいやなんでもない。

 

「えっと……あの、でも悠馬のところだけどいいのかな……?」

「ハハハ! 何を言ってるんだい佐々木少年! 彼と僕らは親友、そう親友じゃないか! 何を心配しているんだね!」

 

 我ながらキャラ崩壊が酷いレベルだと思うが、マジでこのおじさんの視線から逃げたいのである。ほら、今もなにかぶつぶつ言いながらこっち見てるよぉぉぉ!!

 

「え、えっと……そう、なんだ。じゃあ行こうか」

「うん! 行こう行こう! あ、お邪魔しました!」

 

 最後におじさんにペコリとお辞儀して右手でカップをソーサーごと取り、ケーキの皿を左手で取るとさっさと移動する。自ら、自らあの変態ナルシーの元へ……!!

 

 そう、間接キスがどうしたというんだね。男同士だろうが異性相手だろうが、まわし飲みとか結構普通にするじゃない。僕も前世で昔は駄目だったけど、ある程度歳くったらそういうの気にするのアホくさくなって気にしなくなった覚えがあるよ! そう、つまり間接キスがどうたらであの変態ナルシー、いや、ナル……いや、悠馬くんを避けるなんて何を言っているんだね僕は! ハッハッハッハッ!

 いいよ、間接キスどんとこいだよ! なんなら本当にキスしてやっても良いんだよ! 今の僕は怖い物なしだよ! 背後に感じるなにやらおどろおどろしい視線の持ち主以外は!

 

「あ、あの佐藤くん? 鳥肌凄いけど本当に大丈夫なのかい……?」

「大丈夫だ、問題ない」

「どうしよう、その台詞からは駄目な香りしかしないんだけど、佐藤くん」

 

 こまけぇこたぁいいんだよ刹那くん! 僕は今を生きているんだ! お願いだから今は後ろのあの鳥肌が立つおどろおどろしい視線から逃れることを優先させて! 自分でもなんでこんなに鳥肌たつのかわからんのだけど、生理的に駄目だわあのおじさん! 一言も会話してない相手なのに悠馬のほうがマシに感じてる時点で相当だよ! アレ僕の天敵だよ! お願いだからこれ「後に、あの男が生涯を通しての宿敵となるとは、このとき佐藤少年は知る由も無かった」みたいな伏線だけはやめてほしい!

 

「えっと……うん、まぁ佐藤くんが大丈夫だって言うならもうこれ以上は言わないよ。あ、悠馬、一緒に相席していいかい?」

「あ? って、てめぇ刹那……! よくもまぁ俺の前にのこのこ姿を現せたもんだな……」

「もう怪我は治ったんだね。良かったよ。流石にちょっとやりすぎたんじゃないかなって思ってたから」

「やりすぎどころの話じゃねぇよ! お前、俺の左腕消し飛んだんだぞ!? 俺はトラじゃねえんだからちょっとは考えろよ!?」

「いや、ソレは虎次郎がやったんじゃないか」

「消し飛ぶ前に普通なら二度と動かせないくらいに人の生皮剥いだりしたのてめぇじゃねぇか! 小刻みに時間止めてああいうことするお前は正直俺以上に外道だぞ! しかもトラの相手して余裕無いとこに奇襲で!」

「あぁ、そういえばそんなこともしたな」

 

 怒り狂う悠馬。冷静に受け流す刹那くん。

 ……あれ~、おかしいな。この会話って、明らかにこいつらが昨日休んだ原因の喧嘩とやらの内容じゃないかなぁ……。これ聞いたらちょっとマズイんじゃないかなぁ……。

 

「あん? ……ところでそこのモブ誰だ?」

「あぁ、佐藤くんだよ、君がリコーダー舐めた」

「だからこいつの笛舐めてねぇよ!」

 

 ザワッ、と擬音が聞こえた。

 凍る周囲の空気、注がれる数多の視線。その視線の向く先は一割僕、二割刹那くん。七割悠馬である。ちなみに一割はさっきのおじさんの視線を含んだ一割である。意識したらまた鳥肌たった。

 

「え……あの子達できてるの……?」

「え、ちょっと待って、あの悠馬くんって中学生じゃないの? あのちっちゃい子幼稚園児くらいだよね……?」

「まずくない?」

「現実にそんなことする人いるんだね……」

「「僕(俺)もう(まだ)小学三年だよ!! っていうかデキて(ないよ)(ねぇよ)!!」」

 

 周囲の女性陣からのひそひそ声が丸聞こえで、僕と悠馬は全く同じタイミングで怒鳴った。

 

「そうなんだよ皆、同意は存在しないんだ。悠馬がこの佐藤くんの了承も得ずに勝手に、無理やりヤったんだ」

 

 ザワッ。

 

 凍る周囲の空気。注がれる数多の視線。っていうか連続して二回も同じようなこと続けないで欲しい。僕は流石に二度目のコレに対して大げさには反応すまいと誓い、チーズケーキを一口食べた後、紅茶を口に含んだ。うむ。美味い。

 

「やっぱり鬼畜……」

「男の子同士で無理やりって、二次ならいいけど……」

「流石にあの外見の二人じゃ犯罪にしか見えないよね……」

「中学生が幼稚園児襲うとか……」

 

 いやいやいや、お前さんがた見てよ! 僕、ちゃんとこいつらと同じ制服着てるからね!? どこからどう見ても幼稚園児の着るあのスモッグだかいうタイプの服じゃないからね!

 

「ケッ……せめて刹那くらいの容姿だったらそれも有りだけど、こんなガキぜってぇ嫌だぜ俺」

「うん? それはもしかして僕に対する告白なのかな、悠馬?」

「外見の話だよクソが。誰が男となんざ絡むの望むかよ」

 

 僕だってお前なんかカップリング相手として嫌だわ! 変態ナルシスト! たとえTS転生していたとしてもお前なんか相手にしないわこのナルシー!

 

「おや、酷い話だな。僕TSだから一応元の精神は女の子なんだよ? その辺もうちょっと弁えた上で言って欲しいな。傷付くじゃないか」

 

 ……刹那くんの前世女の子かよおぉぉぉ!! なにそれ! 新情報なんだけど! 女の子が男の子にTSとか誰得なんですけど! 刹那くんはこの外見だったら前世のまま女の子で良かっただろぉぉぉ!! 何考えてんの神様ぁぁぁぁぁ!! 僕、刹那くんは女顔なだけの正統派主人公だと信じてたのにぃぃぃ!!

 

 ……よし、分かった。これからは虎次郎くんこそが真のオリ主だ。奴こそが真の主役だ。

 

 ……しかし、どうしよう。あんまり転生に関する話をなんの抵抗も無く聞いてるだけだと、僕も転生者だってバレんじゃない? 巻き込まれんの嫌だよ? 僕。

 でも情報は欲しい。野次馬的意味で。あと何気にこの三人組の力関係が微妙に見えてきたんだけど、間違いなく悠馬、刹那くんの下だよね。ざまぁ。典型的かませ犬ざまぁ。

 

「で、質問なんだけど佐藤くんも転生者だよね?」

「あ? そうなのか? このちびっこいのが? 小さいの除いたら外見完全にただの一般人じゃねぇか。てめぇみたいな明らかな男の娘と違って、ただのショタくせぇガキだし」

「ショタって言うな! 発育遅くて悪かったな!」

 

 前世でも僕この頃小さかったんだよ! 中学入学時に130ちょいしかなかったよ! 悪かったな! 中学卒業する頃には160まで伸びたんだから良いだろ別に!

 

 ……あれ? でもあの時は栄養不足が祟ってだったけど今世はちゃんと栄養とってるし、発育が遅い理由がわからん。もしかして前世の成長具合がそのまんま反映されてんの?

 あれ? だとしたらもしかして悠馬って前世でも小学三年生で150センチあったの? いや、でも実際小学生で180近い身長の子とかがいたって聞いたことあるし、もしかしてそうなのかな。だとしたらもしかして身長高いのコンプレックスだったりする?

 

 き、訊きたい……ッ! でも訊いたら転生認めることになる……ッ!

 

 なので、とぼけることにした。

 

「大体右腕消し飛んだとか生皮剥いだとかなんの話!? なんか怖いんだけど! あとTSってなにさ! っていうか刹那くんは刹那ちゃんだったの!? なんで男子の制服着てるの!?」

 

 キレ芸もとい、僕が脳内でしょっちゅう陥っている状態を表に出して、うやむやにしてしまおう大作戦。

 

「あぁ、一昨日ちょっと殺り合ってね。その時の話だよ、佐藤くん。あと右じゃなくて左腕ね。右は肩に剣刺さっただけ。それとTSっていうのはトランスセクシャル。要は性転換だね。転生の時になったみたいで」

「やりあっての字がなんとなくわかっちゃった自分が嫌ッ! あと剣刺さっただけとかそれはそれで怖い! でも間違えてごめんなさい! そして性転換とか小さい子がやるのいくないッ!」

 

 バカな! 僕のこのキレっぷりを軽く流すとは……ッ!

 

「性転換の意味わかるんだね、佐藤くん」

「……ん? そういやそうだな。ガキがそんなのの意味普通わかんのか?」

「知ったことかぁ! こんな危ない変な人たちのいるところにいられるか! 僕は一人で帰る!」

 

 勿論、残ったチーズケーキを口に突っ込んでね! 紅茶殆ど飲んでなくて勿体無いけど、さらばだ明智君!

 

「待つんだ佐藤くん! それは推理小説における死亡フラグだ!」

 

 狙って言ったんだよバーロー!

 

 

 

 

 そういうわけで、僕は家に帰ってから学校の宿題をやって、家計簿の計算が間違ってないか確認して、夕方に父さん帰ってきたので三日三晩寝かせたカレーで夕飯とした。ちなみにお土産は頼んでおいた罫線入りノートの十冊束になってる奴と、東京のひよこである。

 

 ひよこは福岡の名産品であるという話を前世でちらっと聞いたことがあるが、真実は知らん。っていうか、原作の話で言うと今日って何があったの日なのか結局わからん。大木事件の後はすずかちゃんの家になのはちゃんが遊びに行く日にフェイトちゃんとの戦闘があるのは覚えてるので、もしかして今週は土曜か日曜まで原作イベント無しなんだろうか。謎である。



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7.猫天国と戦闘初観戦

 土曜日になった。

 

 尚、その間の三日間をダイジェストで語ると、

 

 水曜日は僕に転生者であると認めさせようとした刹那くん……いや、中身女の子だし刹那ちゃん? に問い詰められたけど、

「転生とか前世とか、ちょっと意味わかんないけど、とりあえず言えることは、爽やかで元気な少年みたいなイメージあったけど、意外にねちっこいんだね。僕、そろそろ君を見る目が変わりそうだよ」

 と ニコヤカに告げたら若干涙目になって席に帰っていった。それ以降は接触はかってきていない。

 しかしなんで転生者ってバレかけたのかがわからない。もう少し話させて情報聴き出せばよかった。

 

 それと、虎次郎くんが思い出したように弁当の感想言ってきたので、弁当箱洗って返せとだけ言っておいた。僕、お前に対するヒロイン化はしないと決めたからな!

 あ、でも親友ポジは変わらないでね! 割とマジでお前との会話無くなったら僕学校でまともな話し相手いないから!

 

 そしてナルシーこと悠馬だけど、何故か僕に優しくなった。いや、優しくなったって言っても相変わらず呼称は「モブ」なんだけど、すれ違いざまにいきなりローキック入れてきたりという悪行はしなくなった。代わりに別のイケメン男子がくらうことになっててちょっと気の毒だったけど、それを見て「あぁ、悠馬って仕返しがこないタイプ相手じゃないとこういうことできないんだな、さすがかませ犬役の小物」とほっこりしたのは秘密である。本当最低だなアイツ。

 

 それらオリ主グループ以外だと、原作かしまし三人娘とは相変わらず挨拶はするけど会話をお互い持っていったりはしない程度のいわゆるただのクラスメイトとして接している。一応、ヨッシーという変わった名前として覚えてもらったみたいだけど僕は納得していない。

 

 あとは隣の席にいたクラスメイトに勇気を出して話しかけてみて、友達になったという快挙を遂げたことをここに記しておく。彼の名前は鈴木太郎(すずき たろう)くん。

 僕以上に完璧なモブ名だなと思ったけどきっと言ってはいけない。外見も運動も成績も可も無く不可もなくだが、ちょっとおっとりしててお人よしというすばらしい友人である。でも話の盛り上がり具合は虎次郎くんには及ばない。っていうか、会話のキャッチボールが彼はへたくそなのか何故か明後日の方向へと会話を投げる困ったくんである。

 

 それはさておき、土曜日である。

 

 土曜日、なのはちゃん他オリ主二人ががすずかちゃんの屋敷に遊びに行くことになっている。これは木曜日にいつものメンバーで決めたのだそうだ。虎次郎くんが教えてくれた。そして誘われた。

 

 そう、誘われたのである。友達のお呼ばれにお呼ばれされちゃったのである!

 え、原作介入しないんじゃなかったのかって? バッカ! お前月村邸といえばにゃんにゃんパラダイスだよ!? バニングス邸のわんわんパラダイスと並んで、海鳴市二大癒しスポットだよ!? そんな些細なこと気にして遊びにいかないなんて選択肢は無いよ!

 いや~、僕凄い進歩! やったね! これも日頃の行いが良いからだね!

 

 ……うん、ごめん。コレ完全に虎次郎くんの善意でしたね。調子こきました。サーセン。

 

 で、それはさておきそのいつものメンバーに悠馬が入っていないことに、僕は一抹の憐れみを感じる。よもやモブの僕が呼ばれたメンバーに呼ばれるという形ではあるものの参加が決定したのに、仮にもチートオリ主のあいつがお呼ばれしないとは……まぁ普段の言動見てれば当たり前なんだけどさ……。

 

 でもまぁ、やっぱり好意を持ってる子から拒絶されるってのは可哀想だよね。僕に対してたまに起きる地味な嫌がらせが無くなったことでたまに悠馬のこと見るようになったんだけど、あいつ口では「俺の○○」とか言ってるけど身体的接触を無理に図ろうとはしてないことに気づいたよ。てっきりナデポニコポ能力持ちとかじゃないかと思ってただけにちょっと意外だった。

 はやてちゃんに無理に言い寄ってた時だって、あくまで車椅子押そうとしてただけだったし、相変わらず容姿と相まって気色悪いのは変わりないんだけど、ちょっとだけアイツを見る目が変わった。

 

 それを虎次郎くんに言ったら「ヨッシー、世の中綺麗事だけでは食っていけへんけどな。ヨッシーのそういう優しいとこ、ワイは好きやで」と肩をやさしく叩かれてにこやかに言われた。面と向かって言われると照れる。

 

 まぁそれはどうでもいい。そんな訳で土曜日、今日は巨大にゃんこデーであり、フェイトとの初戦闘であり、悠馬の裏切りが心配される日である。

 

 いや、だって明らかに原作イベントなのにハブられた悠馬が何しでかすかなんてなんとなく想像つくじゃん。あいつ完全にかませ犬ポジだもん。

 好感度が知人レベルまで回復して多少見る目が変わっても、僕のあいつが担当していると思っているかませ犬ポジに変更はないもん。大体、人のスカート堂々と覗き見したり、転生してるってことは精神年齢ある程度いってるはずなのにリコーダー嘗め回したりしてる時点で人としてアウトというか、友達になりたいとは思えないしね。特に舐められた側からしたらね!

 

 

 

 

「おっす、ヨッシーおはよーさんや」

「ヨッシーくんおはよう」

「おはよう」

「おはよう、虎次郎くん、高町さん。ユーノくん。おはようございます。高町さん」

「なのはでいいよヨッシーくん! 高町が二人だと混乱するから!」

「あ、うん。わかったよなのはちゃん」

 

 かくして僕は朝から虎次郎くん、なのはちゃん、恭也さんの三人と共にバスで月村邸に向かうこととなった。

 僕となのはちゃんはリュックサックを背負い、僕はそれプラス菓子折りを。虎次郎くんと恭也さんは手ぶらだ。

 

 しかしアレだね。緑川ボイスのお兄ちゃんとか全国の声優オタの夢だよね。それも性格良し体格良し頭脳良し器量良し、ついでに主人公補正持ちだよ? もうね、こんなお兄さん欲しいなと思うよ。僕の前世は父親があまりろくなもんじゃなかった分、兄に懐いててブラコンの気があったから、ちょっと思い出してしまう。

 

 まぁ、男兄弟よりも女姉妹のほうが欲しいけどね! 特に妹!

 

「ヨッシー、ところでその随分小奇麗な包装されとるソレはなんや?」

「うん?」

 

 妹欲しいよ~! と脳内で父さんに対して駄々をこねる自分の姿を想像してたら、唐突に隣に座る虎次郎くんに声をかけられて意味がわからず首をかしげた。

 小奇麗な包装、というと僕が今膝に抱いている菓子折りのことだろうか。見て分からんのかね。

 

「いや、そない不思議な顔せんでも……アレか? もしかしてすずかちゃんにプレゼントなんか? にひひ、ヨッシーも隅におけんやつやなぁ」

「あぁ、これはプレゼントじゃなくてお菓子だよ」

「ヨッシーくん、お菓子ならすずかちゃんのお家には美味しいの一杯あるから大丈夫だよ?」

「あ、いやそうじゃなくて、やっぱり初めて人のお家にお邪魔するんだから家の人に菓子折りのひとつくらい持っていくでしょ?」

「「「え?」」」

「え?」

 

 僕の言葉に、何故か恭也さんを含めて全員がきょとんとした表情を浮かべた。なに? どしたの?

 

「い、いや……えっと、あ、お父さんに持ってくよう言われたんか?」

「え? いや、言われなくても普通じゃないの?」

「え、えっと……そうなの? お兄ちゃん」

「あ、あぁ……まぁ大人同士とかならそうだろうけど……」

 

 ……うんん? ただでさえ初めて行く人の家で、しかもあんまり親しくない人のところなんだから、菓子折りのひとつくらい渡すのが礼儀じゃないの?

 

「ヨッシー、気ぃ使いすぎやで……」

「そうだな……いや、悪いとは言わないけど、小学生なんだし、友達の家に遊びに行くだけなんだしそこまで気にしなくていいと思うぞ? ヨッシーくん」

「うん、というかそんなこと言われたら私達もケーキくらい持ってくるんだったって今かなり動揺しちゃってるから」

「そうなのかなぁ……いや、でも三人は何度も行ってるだろうからそうかもしれないけど、僕初めてな訳だし、そもそもすずかちゃんからしたら虎次郎くんが呼んでいいかって訊いてくれたから参加することになったけど、本来お呼ばれしてもらえるような仲良しさんでもないし……」

 

 だって、逆に考えてみて欲しい。仲良しだけ家に呼んだら、何故かついてきた名前だけは知ってる程度の知り合い。それが堂々と家にお邪魔してお菓子食ってお茶飲んで帰るだけ、コレどう思う? 僕だったら「帰れ」って言いたくなるよ?

 だから少しでもそういう不愉快な思いをさせないために事前に菓子折りを渡しておいて、邪魔に思われている空気を感じたらすぐに気まずい空気を作らないように、且つ不自然で無いように去る。コレが鉄板だよ。

 あ、ちなみに菓子折り代はちゃんと自分のお小遣いから出したよ? 小学生が毎月三千円も貰っても使い道少ないから貯まってたんだよね。女の子とかならお洒落にお金まわすんだろうけど、僕男だし、ゲームも戦略ゲー系だと一本で長く楽しめるから新しいの欲しいとも思わないし、マンガは週刊のやつは立ち読みで済ませるし、小説は大概図書館で事足りるし、お菓子もうまい棒とたまにチョコ、たまに食べる翠屋のケーキくらいで充分だし……。

 

「ヨッシー……なんか、その……友達にお呼ばれするのに嫌な記憶でもあるんか……?」

「え? いや、別に無いけど……」

「ヨッシーくん。君は子供なんだから、そんな考えすぎないでもう少し自分に自信を持ってもいいと思うぞ?」

「うん。私も気を使う方だと思うけど、ヨッシーくんはちょっと使いすぎだと思うの」

 

 あれ~? なんで僕、諭されてんの?

 

「ヨッシー! 退いてばっかりやと友達なんて作れへんで! ワイを見習って、ちょっとくらい自分の欲望を真正面に押し出すべきや!」

「虎次郎くん、流石にそれはそれで駄目だと思うの」

「虎次郎、お前は逆にもっと退くべきだと思うぞ、俺は」

「ごめん虎次郎くん、僕は高町兄妹の意見に同意だよ」

「バカなっ!?」

 

 僕を説得しようとした筈が、逆に仲間だったはずの高町兄妹にやんわり否定されて驚愕する虎次郎くん。いや、当然だろう。お前はちょっと欲望前面に押し出しすぎだよ。それでも憎めないキャラなあたりがまたずるいけど。

 

「いや! しかしワイはこうして欲望を前面に押し出すことで友を、そして愛人を作ってきたんや! そうやろうなのはちゃん!」

「えぇ!? 友達はともかく、愛人はどうなの!?」

「待て虎次郎、一応訊いておくが、なのはは、あくまで友人だな?」

「愚問ですわな恭義兄(きょうにぃ)、無論愛人ですわ」

「私いつから虎次郎くんの愛人になったの!?」

「虎次郎、明日、道場に来い。いや、今日向こうで解散になったらすぐ来い」

「ちょ、落ち着いてや恭にぃ! 目のハイライト消えとるから! その目は色々ヤバイて! 何人か殺してそうな目やから!」

 

 わざわざ高町家の地雷踏み抜きに行ったお前が悪いんだと思うぞ虎次郎くん。っていうか、やっぱり恭也さんチートオリ主でもビビるレベルの強さなのか、虎次郎くんの態度見た感じからして。

 大体どこの二次創作でもシスコンで無駄にハイスペックな戦闘能力持ちだもんなぁ……原作であるリリなのの更に原作のとらハとか言うのの主人公なんだっけ? 恭也さん。

 まぁその世界だと士郎さんが死んでたり高町家に居候がいたり、リンディさんが妖精さんだったりクロノくんがフェイトの立ち位置で尚且つなのはのカップリング相手だったりするみたいだけど。あとアリサちゃんが幽霊なんだっけ。んでユーノくんの立ち居地が狐だっけ?

 

 え? なんでアニメ第一期しか見てないはずのお前が知ってるのかって? 二次創作読み漁ってるうちに興味でたからWikiで見たことがあるんだよ。元はエロアニメ? 18禁ゲーム? どっちかだった気もするけど、そのへんまでよく覚えてない。違ったらごめんなさい。この世界だと当然ながらそのへんの情報新しく仕入れたりも出来ないし、もし万が一ネットで調べられたとしてもそもそもPCも携帯も持ってないからな、僕。

 

「うわぁ……」

「「「ん?」」」

 

 とかどうでも良いこと考えてたら、なのはちゃんが何やら感嘆の声をあげたのでそちらに目をやると、海が見えた。なるほど、綺麗に晴れ渡った空に輝く太陽の光が、海のさざ波に反射して幻想的な光景である。

 しかし僕はそれを長時間見ていることは出来ない。何故か? 前世でもそうだったんだが、三半規管が弱いのか乗り物酔いが激しいからである。バスみたいな揺れる乗り物に乗ってる時に真横を向く? 五分で吐くわ! 貴様はだから阿呆だと言うのだァ!

 そんな感じで、その後も虎次郎くんとひたすらどうでも良い掛け合いをし、時折そこに虎次郎くんに対するツッコミとして恭也さんが参加し、なのはちゃんが笑う、といった風情で気づけば月村邸の近くのバス停についていた。

 

「ヨッシー、お兄ちゃんって呼んでくれへんか」

 

 そして到着してバス停に降りると同時にそんなことを虎次郎くんが真顔でお言いなされた。

 

「ごめん、なんで?」

「いや、恭にぃとなのはちゃんのやりとり見てたら妹欲しくなってん」

「僕男だよ!?」

「じゃあ弟でええで!」

「見境ない!?」

 

 最低な発言をとても良い笑顔で言いのけた虎次郎くんにツッコミを入れつつも、ちゃっかりノる僕は虎次郎くんの袖をくいくい引っ張って注意を引くと、思いっきり腰元に抱きついて上目遣いで叫ぶ。

 

「虎次郎くんおにいちゃん、僕おにいちゃんみたいな素敵なおにいちゃん持ってうれしいよ!!」

「おうふ……ッ!」

 

 効 果 は 抜 群 だ !!

 

「妹……妹萌えを信じていたワイが……よもや弟キャラに萌える日が来ようとは……ワイも思っておらんかったでぇ……」

「ふっ、今の僕は悲しくも自他共に認めるショタ系ちびっこだからね……」

 

 胸を押さえて息を荒げる虎次郎くんに、僕は自嘲気味にそう呟くのであった。

 

「えっと……二人とも、なにしてるの?」

 

 そして、そんな空気を破壊するべくやって来るは我らがなのはちゃん。流石だな、この状況下の僕達に話しかけられるとは!

 僕はすばやく虎次郎くんとアイコンタクトをとると、寸分のぶれもなく同時に手を掲げてハイタッチしてニヤリと笑ってなのはちゃんの方へと向き直る。

 

「「友情の確認 (や)」」

「あ、そ、そうなんだ……」

「……えっと、虎次郎、ヨッシーくん。こんなところで油売ってないで、そろそろ行くぞ」

「「は~い」」

 

 

 

 

 にゃんにゃんパラダイスである。

 もう一度言う。にゃんにゃんパラダイスである。

 大事なことだから何回でも言う。にゃんにゃんパラダイスである!

 

 今の僕なら、ちっちゃいにゃんにゃん、おっきいにゃんにゃんとにゃんにゃんしたいにゃん、とか恥ずかしげも無く言える!!

 尚、元ネタはゼロ魔とかそのへんだった気がする。コレ素面で言えたらとんだ変態さんである。

 

「にゃんこ可愛いよにゃんこ」

 

 言うまでも無いが今の僕の顔はデレッデレである。びっくりするほどデレッデレである。もし僕が中年親父で、この表情のまま駅のホームにいたら間違いなく逮捕されてしまうレベルのデレデレっぷりである。

 良いよね。にゃんこいいよね。ここのにゃんこ達は皆人馴れしてるから近づいても逃げないし、抱っこしても変な抱き方しない限り逃げないんだよ?

 子猫が一杯いるんだよ?

 にゃんにゃん一杯でにゃんにゃんし放題なんだよ!?

 

「……あんな、ヨッシー、猫と戯れとるとこ悪いんやけど、まだすずかちゃんとこに挨拶すらしとらへんで……せめて挨拶終わってからにしようや……」

「う~……一匹抱きかかえたままでもOK?」

「あ~……もうえぇんちゃうか……」

「にへへ……」

 

 小動物の可愛さは異常。ごめんなさい。今の僕はお猫様、にゃんこ様たちのことで頭が一杯です。状況説明が正しく出来るかわかりません。

 

「恭也様、なのはお嬢様、虎次郎くん様、ヨッシー様。いらっしゃいませ」

「あぁ、お招きに預かったよ」

「「こんにちわ~」」

「こんにちわ……僕の名前もう月村さん達の間では完全にそれで定着してるんですにゃー」

 

 呼ばれ方に若干テンション落ちかかったけど、抱っこしているにゃんこの癒しパワーで持ち直したぜ! にゃんこ! にゃんこ! もふもふにゃんこ!

 いろんな方面から冷たい視線を投げかけられている気がするが、猫好きにしか分かるまい、この僕から出る猫好きのオーラ力は!

 

「ヨッシー、語尾語尾」

「ん? にゃんだね虎次郎くんにゃん」

「よ、ヨッシーくんが壊れかけてる!」

「にゃにゃにゃにゃん、にゃにゃにゃにゃんにゃんにゃん?(なのはちゃん、何を言ってるの?)」

「どんだけ好っきゃねん、猫……」

 

 虎次郎くんが呆れたみたいだけど、知ったことじゃないね! 今の僕は小学三年生、つまりにゃんこをもふもふして暴走しても全くドン引きされなくて済むのさ! ちょっと変わった子認定はされるかも知れないけど知ったことじゃないよ!

 

「あかん、とりあえず連れてこか……」

「そ、そうだね……」

「そのほうがよさそうだな……」

 

 三人が苦笑いしてるけど知ったこっちゃないね!

 ……あ、いかんいかん。菓子折り渡さんと。にゃんこ抱くのに邪魔だからリュック半開きにして、そこにつっこんでおいたんだ。

 にゃんこを一旦降ろして、僕は菓子折りを両手で差し出すと頭をペコリと下げた。

 

「コレつまらない物ですがお近づきの印にと思って持ってきました」

「あらあら……わざわざお気遣い頂いてありがとうございます」

「いえいえ、なにぶん子供の身ですので大した物もお渡しできず心苦しい限りですけれども……」

「お気持ちだけでも充分に伝わりました。ありがとうございますね」

 

 美人さんの柔らかい笑みはとっても心に染み渡りますね。

 とか思ってたら虎次郎くんに思いっきりため息吐かれた。

 

 え? 僕なんか悪いことした? にゃんこさん、僕今なんか悪いことしました?

 

「にゃ~」

 

 あ、してないと思う? ですよね~。にゃんこさんがそういうなら間違いないですね~。抱っこしますね~。にゃ~にゃ~。

 

「……あかん。重症や……」

 

 虎次郎くんよ、お前がにゃんこ様にかしづかないことの方がおかしいのだよ。

 

 そしてそんなやり取りの後はメイドさんに案内されてすずかちゃんとその姉の忍さん、そして先に来ていたアリサちゃんと刹那くん、ちっさいメイドさんと、何故かいるはやてちゃんのいる場所へとやってきた。

 

 な、なんて素晴らしいんだこの状況! ここもにゃんこ帝国ではないか……ッ!!

 

 

 

 

 忍さんは僕達に一通り挨拶し、メイドさんが僕から菓子折りを貰ったと伝えると僕の頭を撫でた後に恭也さん、メイドさん(大)と共に部屋を出て行った。その後にちょろっとお話してから、メイドさん(小)改めファリンさんとやらはお茶とお菓子を取りに出て行く。

 

 そして残されたるは、僕とにゃんこ達ッ!!

 

「おいで! にゃんこたち!」

「「「にゃ~!!」」」

「おうおう、なんやお前ら、相変わらず甘えんぼうさんたちやなぁ。ワイはお菓子はもっとらんで?」

「お~、虎くん相変わらず猫さん達にモテモテやんなぁ」

「……ぐふっ」

 

 両手を広げ、部屋で戯れるにゃんこ達に向かってにこやかに告げた僕を無視して、にゃんこ達は一直線に虎次郎くんのもとへと駆け寄っていった。

 

 バカなっ……ッ!! オリ主補正は動物にも有効だというのか……ッ!! 普段は別に欲しくも無いオリ主補正だが、こんなときはとっても羨ましいぞオリ主補正!! 代われ虎次郎くん!! いや、代わってください虎次郎先生!!

 

「……よ、ヨッシー? なんやさっきからワイを見る眼がやたらギラッギラしとるんやけど、なんでや?」

「僕とのことは遊びだったんだね虎次郎くんッ!!」

「え、ほんまになんで!? どういう状況なん!?」

 

 血涙よ溢れでん、と言わんばかりに眼力を込めて虎次郎くんに震える声で叫ぶと、虎次郎くんがやたら狼狽している。それでもその手は寄ってくるにゃんこ達のもふもふを続けている!! なんて野郎だ!!

 あ、ちっこいにゃんこが二匹も奴の肩にジャンプして乗ったではないか!! 小学三年生の肩のサイズにギリギリ乗れちゃうサイズの子にゃんこさんが!!

 

「え、えぇっと、なのはちゃん、ヨッシーくんどうしたの?」

「う~んと、よくわかんないんだけど、とりあえず猫さんと遊びたくて仕方ないみたい」

「そうなんだ。あ、ヨッシーくん。じゃあこの子と遊んであげてもらっていいかな?」

 

 おにゃんこ様に視線がいっていても、おにゃんこ様との遊ぶ許可が出る台詞は僕、聞き逃さない!!

 バッ、と発言者であるすずかの方を見ると、床に降りてたユーノくんの方をジーっと見つめている可愛らしい子猫さんがすずかちゃんに抱っこされてるではないか!!

 

「有り金はたいてでもこちらからお願いしたいくらいです!!」

「「にゃ~」」

 

 叫んでるのに嫌がらずに僕の腕の中にいるままの、玄関前で拾ってきたにゃんこ様と、すずかちゃんの子猫が鳴いた。ワンダフォー!! あ、にゃんこだからニャンダフォー!!

 

「佐藤くんもやっぱり変人の一人だったか……」

「まぁ、猫可愛いから、私も気持ちは分からなくも無いわよ」

「うん、そうだね」

 

 そこ! 刹那くんうるさいよ! こんなかわいらしいお猫様の群れを前に興奮しないお前らがおかしいんだよ!

 いや、すずかちゃんとアリサちゃんはいつでも自宅でもふもふできるからこそのその余裕なんだろうけど! だからこそアリすずコンビの理解力を御覧なさい刹那くん!

 あぁもう可愛い! にゃんこ可愛い! あれ!? もしかしてすずかちゃんと結婚したらこのにゃんにゃんパラダイス味わい放題じゃね!?

 

「月村さん! 結婚してください! 僕、専業主夫になって毎日この屋敷のにゃんこ達のお世話するから!」

「「「えぇぇ!?」」」

「猫の世話したいから求婚する人って始めて見たよ佐藤くん……」

「いや、でも気持ちはわからんでもないで。猫さん達かあいらしいからなぁ」

「ヨッシー、えぇで、その調子で自分の本性をさらけ出すんや……ッ!!」

 

 にゃんこ! にゃんこ! 両手ににゃんこ!

 あ、そういえばはやてちゃんと虎次郎くんが同じ場にいると同じ関西弁だから地味にキャラ被るね。これではどっちがどっちか分からなくなる人が続出しちゃうよ!

 

「関西弁コンビ! 虎次郎くんはこれから語尾にコン、八神さんはポンポコってつけて。分かりづらい」

「「いきなりどういう事や!?」」

「っていうか、なんで私ポンポコなん!? 狸!?」

「なんでワイは狐!? 赤い服やからか!? あ、そういえばはやちーも若干薄緑系の洋服やな!」

「「赤い狐と緑の狸やな!!」」

「いくざくとりぃ。その通りでございます」

 

 流石は関西弁コンビ。ノリの良さはピカイチだね。そしてそんだけ騒いでも、肩に乗ったにゃんこ達が逃げ出さないとか羨ましいぞ虎次郎くん!!

 

「分かりづらいって……普通に声で分かるよね?」

「「うん……」」

 

 かしまし三人娘が何か言っているが気にしない気にしない。

 

「お待たせしました~。お茶とお菓子ですよ~」

 

 あ、ファリンさん来た。

 

 

 

 

 中庭である。場所移動したのである。皆、各々の膝の上ににゃんこを乗っけながらの雑談である。虎次郎くんのとこだけ二十匹くらい来てる。ずるいぞ虎次郎くん!!

 

「にゃんにゃん」

「「にゃ~」」

 

 原作組がほのぼの会話してるけど、ごめんなさい。今の僕は目の前のにゃんこ二匹と遊ぶことしか考えてません。

 そしてそのにゃんこと遊ぶ為に、わざわざ家から持ってきた道具の数々、ご覧じろ!!

 

「ふっふっふっ……じゃーん。毛糸玉!」

「にゃ~」

 

 おぉ、すずかちゃんに託されたちびにゃんこ、アインちゃんが興味津々だ。これは勝つる! でも玄関前で拾った灰色っぽい毛並みのちびにゃんこ(そういえばこの子の名前聞きそびれた)は反応微妙だ!

 

「そんな君にはコレだ! ねこじゃらし!」

「にゃ~」

 

 くっくっくっ、アインちゃん、君はいやしんぼさんだねぇ。玉よりもこっちかい? コレかい? このうねうね動く棒がそんなに欲しいのかい?

 でもちびにゃんこの方は相変わらず興味湧かないのかそっぽ向いてるよ! コレはいけない! にゃんこ戯れ技能検定一級合格(自称)の実績を持つ僕がにゃんことの交流に失敗するなんて!

 

「にゃ? にゃ~」

「あぁっ、待つんだちびにゃんこっ。追いかけるぞアインちゃん」

「にゃ~!」

「あ、猫じゃらしで遊んで欲しいの? じゃあ追いかけながら遊ぼうか」

「にゃ!」

 

 なんて頭の良いにゃんこさんなのかしらアインちゃん! いやしんぼさんだけど!

 幸い、ちびにゃんこの移動速度は大したことないので、アインちゃんの前でねこじゃらしうねうねさせながらてこてこ追いかける。うふふ、アインちゃん可愛いよアインちゃん。

 

「ちびにゃんこ~待て~……って、茂みのほうに入っちゃったな。アインちゃん、匂いで追跡だ!」

「にゃ~」

 

 おぉ、本当に先導を始めたぞアインちゃん! なにこの子賢い! 案内は任せたぜ!

 

 

 

「その結果が、コレだよ!!」

「「にゃ?」」

 

 目の前には巨大ちびにゃんこ。巨大なのにちびにゃんこ。そう、つまるところソウルジェムじゃなかったあれ、なんだっけ。あぁジュエルシードだ。一瞬素で名前が出てこなかった。

 

 ジュエルシードで巨大化したにゃんこが目の前にいた。

 

「やっちゃったよ……にゃんこの可愛さに釣られた結果がこれクマー!」

「「にゃ~」」

「あ、ごめんごめん。釣られた結果がこれニャー!」

 

 あ~、もうどうしよ。今更この子放置して戻る訳にもいかんよ。なんせ僕がこの子の保護者だからね。え、いつ決まったのかって? 元から全世界のにゃんこは僕の保護下だよ? なに言ってんの?

 

 しかしどうしよ……巻き込まれるの面倒だなぁ……。

 え? 面倒ならバレないうちに戻れって? バカ言うんじゃないですよ。お前さんこんないたいけなちびにゃんこがフェイトちゃんからフルボッコにされるのを見逃せって言うのかね! 僕だって盾くらいにはなれるんだからね! 非殺傷設定のはずだし死にはしないはずだしね!

 

 そもそも巻き込まれただけなら、「僕、魔法なんて見なかったし聞かなかったよ!」って約束すれば大丈夫だよ。大丈夫かな。大丈夫だよね。相手はあのなのはちゃんだし。

 

 それによく二次創作でよくありげな"魔法のことがバレてしまったけれど、そのお陰で秘密を持つことなく気兼ねない相談の出来る相手ができたの!”というなのはちゃん攻略ルートフラグは既にあの三人組が構築してるはずだから僕がフラグ建てちゃうこともないだろう。強制介入イベント(但しモブとして)だというのは間違いない。そうに違いない。

 

 あ、待てよ? でも別に堂々と見つかるような位置にいないで、隠れて様子を伺って、万が一オリ主チームが間に合わなかったらちびにゃんこの盾になる、でいんじゃね?

 

「ソレだ!」

「「にゃ?」」

「あ、気にしないでいいよ。よしアインちゃん、一緒に隠れよう。ちびにゃんこ~、この後なのはちゃん来てくれるから、さっさとジュエルシード渡すんだよ~? フェイトちゃんに攻撃されそうになったら逃げるんだよ~?」

「「にゃ~」」

 

 うむ。実に良いお返事だ。

 そう言うわけで僕は丁度人一人隠れられそうな茂みを見つけたのでそこに隠れることにする。

 そして、隠れたのとほぼ同時にユーノくんの声が聴こえて「ギリセーフ!」と内心で叫んでおいた。そして僕の隠れている位置から2mあるかないかの距離に現れてストップするユーノくんとなのはちゃん。

 

「結界を作らなきゃ」

「結界?」

「最初に会った時と同じ空間。魔法効果の生じてる空間と、通常の空間の時間進行をずらすの。僕が少しは」

 

 ユーノくん、そこでなのはちゃんから視線を外し、

 

「得意な魔法」

 

 キリッ、と決めた。でも残念! 今のユーノくんフェレットだから! かっこよくないから! 可愛いだけだから!

 そしてユーノくんの眼前に広がる魔法陣。

 ……どうでも良いけどさ、よくよく考えたらユーノくんデバイス無しで魔法使えるとか凄くない? それとも魔法ってデバイス無しでも普通に使えるもんなの?

 

「あまり広い空間は切り取れないけど……この家の付近くらいなら……なんとか……」

 

 言い終わるや否や、世界から色が奪われ、少し色素の薄くなった景色に包まれた。

 

 ……ねぇ、明らかに“少しは得意”の域を外れてない? どう見てもさ、どう見てもコレ滅茶苦茶範囲広いんじゃない? デバイス無しで魔法使えるのはわかったけどさ、ここまで広くそんな即席で出来ちゃうものなの? 結界魔法って。

 

「にゃ~お」

 

 とか思ってたら、巨大ちびにゃんこがなのはちゃん達に気づいてご挨拶。

 

「う゛っ」

「お……ぉ……」

 

 そこでようやく巨大ちびにゃんこに気づき、固まるなのはちゃんとユーノくんである。

 

「あ、あぁっと……アレは……」

「多分……子猫の大きくなりたいっていう願望が、正しく叶えられた形、じゃないかなぁ……」

「そ、そっかぁ……」

 

 ユーノくんの多分間違いなく正しい仮説に、なのはちゃんがなんとも言えない表情をして、後頭部をポリポリと掻く。

 

「だけど、このままじゃ危険だから、元に戻さないと」

「そうだね、あのサイズだと、流石にすずかちゃんも困っちゃうだろうし」

「襲ってくる様子は無さそうだし……ササッと封印を……」

 

 って、ちょっと待って!? 虎次郎くんと刹那は!? なんであいつら来ないの!? このタイミングで来ないとちびにゃんこが攻撃受けるじゃん! 何か、何かフェイトちゃんの雷攻撃を誘導できそうなもん無いかな! パチンコ玉みたいなのあれば、それ投げればそっちに誘導できんじゃないかな! でもそんなもん持ってないよ!

 

「レイジングハート!」

「なのはちゃん危ない!」

 

 ふぃ~……良かった。どうやら杞憂に終わったようだ。

 比較的聞きなれた声が響き、何か、どう考えても自然音では有り得ないような不思議な音(多分、魔法と魔法がぶつかる音)が響き、視界が一瞬青と黄色で小さく光った事で僕は安心した。

 

「にゃぁぁぁお!?」

 

 そして倒れる巨大ちびにゃんこ。

 

 安心できねぇぇぇ!!

 なんで!? 今の刹那くんの声だよね!? え!? フェイトちゃん、いや、にゃんこに攻撃仕掛けるような人は呼び捨てでいいや、フェイトの攻撃魔法に割って入ったんじゃないの!? 

 

「魔道師……? ……バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

 

 遠くにいるはずなのに、ハッキリ聴こえた声。そして、また黄色い雷属性っぽい魔法の弾が巨大ちびにゃんこに殺到する。

 

 ……って、原作アニメだとそんなに大した量じゃないように感じたけど、リアルで見るとすごい弾幕なんだけど!? なにコレ! ガトリング!? 東方かなんかの世界から来たんじゃないのあの子!! 的確にちびにゃんこの位置だけを狙ってるんだけど!?

 

「粗製・熾天覆う七つの円環<ローアイアス>!!」

 

 けど、それを全部弾く青白い光を放つ三つの花弁の盾。

 刹那くんはローアイアス持ちか! でも粗製って言うだけあって花弁三つしか出てないから、これじゃ七つの円環じゃなくて三つの円環だね。原作の士郎の見様見真似ローアイアスは五枚だったっけ?

 あ、花弁が一枚……二枚壊れた。

 

「刹那くん!」

「なのはちゃん! 変身を!」

「うん! レイジングハート、お願い!」

『Stand by Ready』

 

 って、おぉ! 生変身シーン!

 全国の大きなお友達歓喜の一瞬全裸になるアレじゃないか! 見たい! 凄い見たい!

 へたれで優柔不断で、恥ずかしがり屋な過去の僕、さようなら! はじめまして! 小学生女子の全裸を見ようとして目を見開く僕!

 

 ……あれ、なんだろう。人として終わった気がする。今の僕、悠馬と同類じゃね?

 

 そう思った瞬間、僕は眼を瞑っていました。僕は紳士です。変態という名の紳士ですが、紳士は紳士です。少なくとも小学生の生着替えとか見て興奮しちゃうような大人にはなりたくないです。

 

 ……それは、お父さんの事かぁぁぁ!!

 

「なら……フォトンランサー」

「ぐぅっ! し、しまった!! なのはちゃん!」

「任せて!」

『Protection』

 

 しまった。どうでも良いこと考えてたら、なんか戦闘がちょっと本格的になり始めてきた。

 

 フェイトのフォトンランサーが、さっきの物よりかなり大きいのが三発ほど巨大ちびにゃんこに向かい、それを一発受け止めて消滅させるのと同時に、刹那くんが張っていた最後の<ローアイアス>は破壊され、残りの二発が刹那くんの守りを突破してちびにゃんこに向かう。

 

 すげー、さっきの弾幕の弾を例えるなら拳銃弾だとしたら、今のは戦車砲並のデカさだったと思うよ。いや、実際にはさっきの弾幕も今の弾もどっちももっとデカかったけど、例えるならそれくらいの大きさの差があったってこと。

 心なし速度も早かったし、アレは僕が身体張って盾になろうとか思っても無理だわ。盾になろうにもあそこまで高くジャンプできたらとっくに僕はチートオリ主の仲間入りしてるわ。戦闘舐めてましたごめんなさい。

 

 ……でもさ、雷って秒速150~200キロくらいなかったっけ? どう贔屓目に見ても、これそこまでの速度無いよね。球状だから?

 しかしまぁ、そんなやたら強そうな弾をあっさり弾くなのはちゃん。ぱねぇ。なのはちゃんの反応装甲は果たして戦車砲何発で突破できるのであろうか。

 

「粗製・熾天覆う七つの円環<ローアイアス>! ッ、なのはちゃん!」

「にゃっ?」

「にゃあぁぁおぉぉ!!」

「ふぇっ、ふぁっ、ふあぁぁ!?」

 

 うおぉ!? あぶねぇ!! こっちに倒れてきた!! あぶねぇ当たるとこだった!! っつか砂埃が!!

 

 えっと、えっと、今のは、無詠唱でフェイトが追撃のフォトンランサーを撃ってきて、刹那くんが新しい<ローアイアス>張ったものの、一部がそれに当たらない位置から抜けて飛んできて、巨大ちびにゃんこの足元に直撃、なのはちゃん巨大ちびにゃんこの上から離脱、だね。

 

 っていうか、ちゃんと止めろよ刹那くん!! 頑張れよ刹那くん!!

 

「くそッ……!! 粗製・投影魔術!!」

 

 と、ここで刹那くんが叫ぶと同時、刹那くんの周囲にどっかで見覚えのある無骨な剣や槍が十本ほど虚空に現れ、フェイトに向かって疾駆する。

 

 ……ねぇ、訊きたいんだけど、それって悠馬の奴をイメージして投影しただけだよね? 決して、今まで僕の周囲に飛んできてた剣やら槍やら、斎藤さん家を破壊したハンマーやらの持ち主が君ってことはないよね? 刹那くん。もしそうだとしたら君の人気ガタ落ちだよ? ただでさえ君の支持率落ちていると統計で出ていたのに。

 ……あれ、なんか電波が。気のせいか。

 

 あ、とかなんとかやってたら空から女の子(なのはちゃん)が降ってきたよ親方!!

 

 え? パンツの色? あ、ごめん。バリアジャケットになるとロングスカートだから僕の位置からじゃそこまで見えなかったし、そもそも砂埃激しくてそこまでちゃんと見てられないわ。というか興味もないわ。

 しかし、いくら靴から羽っぽいのが生えてゆっくり降りてきたとはいえ、落下の影響で風を受けてまくれあがりそうなもんなのにね。まぁどうでもいいけどさ。そのへんもやっぱり魔法なのだろうか。だったら始めからズボンはけと言いたいけれど。

 

 ……っていうか、虎次郎くんどこいった! 出てこい虎次郎くん!! 今こそお前の出番だよ! 全くチート能力が判明していないお前の能力を、今こそ見せびらかすときだよ!

 

「……あ」

「うん? ……あ」

 

 と、何やらすぐ近くで声が聴こえたのでそっちに視線をやると、ユーノくんが目と鼻の先にいた。

 

 ……バレたぁぁぁぁぁ!! 覗いてるのバレたぁぁぁぁぁぁ!!

 

「え、えっと……」

「大丈夫。僕は何も見てないし、魔法なんて知らないし、君の声も聴こえなかったし、巨大になったちびにゃんこのことなんて見てないし、なのはちゃんの生変身もパンツも見てないから……!!」

「えっと、えっと……。……なんか、ごめん」

 

 謝られた!? なんで!? 反応に困ったの!?

 

「ねぇ、もしかしてこの空間に存在できて、動けてるってことは、君も魔法が……?」

「え、もしかしてこの空間に入れるってだけで魔力あることになんの? マジで? お……僕も魔法使えるようになる?」

「あ……ごめん。なんでも無いよ」

「……あ、うん。そうなんだ」

 

 そこで、そこで謝らないでよ……ッ!! なんでもなく無いよ! なに!? この今の反応だけで、僕に魔力がちゃんと使えるほどには無いことが分かったとか!? ねぇ、ここに入れるってことは魔力あるんでしょ!? そうなんでしょ!?

 チートじゃなくて良いから、やっぱりちょっとは魔法使ってみたかったよ!! ごめんねモブが一瞬でも夢見ちゃって!!

 

 ザクッ。

 

 ――既視感(デジャヴ)。目の前にザックリ刺さってる無骨な剣。僕よりもむしろユーノくんが危ないところだったという、十センチかそこらしか離れていない位置にソレが刺さった。

 

 ……お前が犯人だったのか刹那ぁぁぁぁ!!

 

 とか思って上を見上げたら、続々と空から剣と槍が落ちてくるじゃないですか!! いやぁぁぁ!! 避けて! 避けて僕ぅぅ!!

 ……無理だけどね☆

 

「……ッ!! ッ!!」

 

 悲鳴あげなかっただけ、僕えらいよね!? あ、剣と槍? 全部ギリギリの位置に刺さったけど、ユーノくんも僕も当たってないよ!! 無傷!! 怖かったよ!! 逃げようにも見た瞬間に実は腰抜けてたよ!!

 

「……鼠が潜んでいる気がしたんだけど、気のせいだったかな」

 

 気のせいじゃないよ!! にゃんこもフェレットもいるよ!! そうだよ!! アインちゃん僕の腕に抱かれたまんまだったよ!! 大丈夫アインちゃん!?

 

「にゃ~」

 

 あ、良かった。呑気にしてるから大丈夫だ。

 

「なんだ猫か」

 

 うん、猫です。

 

「なんて言う訳がないでだろう……ッ!!」

 

 ぎゃああぁぁぁ!! 追加で剣と槍がぁぁぁ!!

 

 逃げて!! アインちゃんだけでも逃げてぇぇ!! ユーノくんも逃げ……あ、あやつさっきの時点で既に堂々と逃げてたわ。ハハハ、やりおるわい。

 

「にゃ~!!」

 

 とか考えつつ、せめて君だけでも逃げておくれと思って僕が茂みの外にアインちゃんを放り投げたことで、アインちゃんは若干驚きながらも華麗に着地した。

 

「本当に猫だった……ごめんね、猫さん」

 

 謝る刹那くん。いや、刹那。謝るくらいなら初めからやるなよ!! 泣くよ!? っていうか漏らすよ!? あやうく恐怖のあまり漏らすところだったよ僕!! じゃなかった僕!! 涙は既に出ているよ!! あと追加の剣と槍は、僕に刺さる寸前に、アインちゃんを見た刹那が攻撃方向変えてフェイトに向けてたよ!!

 

 怖かったよぉぉぉ!! 実況どころじゃないよぉぉぉう!!

 

「なんか……ごめんね……」

 

 そしてユーノくんはあっさり逃げておいてソレだけ言ってまた離れるなよぉぉぉ!! 寂しいし怖いからからアインちゃんかユーノくんどっちか一緒にいておくれえええ!! モフモフさせておくれえぇぇ!!

 

「にゃ~」

 

 とか思ってたらアインちゃん帰ってきたよいやっほぉぉぉぅう!! おにゃんこ大明神様ぁぁぁぁ!!

 

 ……ふぅ。アインちゃんなでなでしてたら落ち着いた。

 

 えっと、現状。気づいたらフェイトがバルディッシュのザンバーモードだっけ? なんだっけ、あの電気釜……じゃなかった。電気鎌のモード。まぁとりあえずそのモードになったバルディッシュと、刹那が剣で打ち合いしていた。

 ……けど、どう見ても刹那が押されてる。おいおい、お前チートオリ主なのに最初の魔道師戦で競り負けかけてるってどうなの?

 

「待たせたな刹那!! 応援にきたで!!」

「援軍……ッ」

 

 と、そこに現れたたるは我らが真の、そう、真の主人公、虎次郎くんである!! キタ! メイン主人公キタ!! コレで勝つる!!

 虎次郎くんが来たのを見て、フェイトが一旦刹那とのつばぜり合いから離れた。

 

「ぐっ、虎次郎、来るのが遅い!!」

「ヒーローは遅れてやってくるもんやで? 頑張れ頑張れせっつっな!! 負けるな負けるなせっつっなっ!!」

「冗談なのか本気なのか判断つかないから駆けつけて来ておいてただ応援するだけっていうスタイル、今回は本気でやめてくれないかな!?」

「本気で応援してるで!!」

「頼むから戦ってよ!?」

 

 手をメガホン代わりにエールを送る虎次郎くんに、涙目で叫ぶ刹那。うん、そうだよね。君は今割とガチで戦闘してるもんね。ごめんね、なんか部外者が頑張れよとか偉そうなこと言って。

 あと虎次郎くんはそんな胸を張って応援してることを誇らなくて良いからね? なんで親指立ててサムズアップしてんの? 殺されかけたけど、流石に可哀想だから刹那に加勢してやってよ。

 

「三対一……アルフを……いや、いける」

 

 と、呑気に応援してるだけの虎次郎くんを見てから、フェイトは再び刹那に無表情で向き直り、もう一度バルディッシュで斬りかかる。

 

「ぐっ、あぁ!?」

 

 そして、剣でそれを受けようとした刹那が、あっさりと剣を両断されて吹き飛ばされて虎次郎くんのすぐ近くの地面に激突した。音すげぇ、大丈夫か刹那。

 

「あ、な、なんかすまん。ガチでそんなあっさり負けるとは思っとらんかった。ごめんな。よう考えたら今日セイバー連れてへんもんな、お前」

「うぅ……そうだよ……分かってるならなんで傍観なのさ……君は毎回毎回、なんで本気で戦わないかな……」

 

 勢い欲吹き飛ばされた割には、ちょっと土で汚れた程度にしか見えない刹那が、割とガチ泣きしかけで虎次郎くんを女の子座りしながら上目遣いに睨んでいた。

 

「う……いや、すまん。せやけどな?」

 

 流石に居心地悪そうに視線を逸らし、右頬を掻きながら釈明しようとする虎次郎くん。

 

 ……って、志村、じゃない。虎次郎くん! 後ろ後ろ!! フェイトちゃんバルデイッシュ振りかぶって突っ込んできてるから!!

 

「ッ、虎次ろ――」

 

 とか心配してたら次の瞬間には上体を少し逸らして、素手のまま左手でバルディッシュの柄を掴んで止めている虎次郎くんの姿があった。

 

「……女の子相手に男の子が本気で戦ったら、ずるいやん?」

 

 困ったような笑いを浮かべるその虎次郎くんの姿は、もう完全にイケメンオリ主である。いつもの糸目じゃなくて、ちょっと目を開いてその開くとちょっと冷酷そうなツリ気味な眼が、妙に優しい光をたたえて斬りかかってきたフェイトを見詰めている。

 

「ぐっ……! 離してッ……!」

「離したら襲い掛かってく――おっと、危な~、刃の形状変化なんか出来たんやな」

「……手ごわい、でも、負けない」

 

 お~い、お前ら、原作主人公のなのはちゃんのこと忘れてない?

 っていうか、なのはちゃんも戦闘に参加しないで何やってんだろう、と思ったら巨大ちびにゃんこのところで頭を撫でてあげていた。くっそ、可愛いな。回復魔法でもかけてんのかな。良い子だねなのはちゃん! 可愛いよなのはちゃん! 戦闘完全にオリ主に丸投げしてちょっとほのぼのする空気出しちゃって、それで良いの原作主人公って言いたいけど、ほっこりする光景をありがとうとしか言えないよ!!

 

 ……いや、でもコレ冷静に考えたら本当に大丈夫なのか? なのはちゃんの戦闘経験値貯まらないし、そもそもコレじゃなのはちゃんとフェイトの友情フラグ建たないんじゃないの……?

 

「あ~……気張ってるとこ悪いんやけどな。ワイ女の子に手ぇあげる趣味ないねん。あのクソ親父みたいにはなりとうないからな」

「……だったら、おとなしく退いて」

「そうもいかへんのやなぁコレが……。なぁ嬢ちゃん、見たところ魔力が雷系統に変化するタイプやろ? ジュエルシード封印しようて思たらあの猫ちゃんビリビリして可哀想やんか。そう思わへん?」

「私には、関係ない」

「ワイには関係あんねん。小動物と女の子は愛を持って愛で、可愛がるもんやと思うし」

「……だったら、戦うしかない」

 

 ジャキ、とバルデイッシュを構えるフェイトに、虎次郎くんは苦笑しながらため息を吐いてから――ニヤリと笑った。

 

「ほなら嬢ちゃんの相手はこの子らや――いくで!!」

 

 左手中指でメガネを押し上げて格好付けながら言ったと思ったら、右手でパチンッと指を鳴らした瞬間、真っ赤な魔力光があたり一帯に満ちて……次の瞬間、そこには恐るべき大軍がいた。

 

 

 

 猫と狐が三頭身にデフォルメされた可愛らしいマスコットキャラみたいなのが二足歩行している大軍が。

 

 

 

 か、かかかかかかか可愛いんだけどおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

 

 なにアレなにアレ!? ぬいぐるみみたいだけど、毛並みのモフモフっぷりはにゃんこ観察眼技能検定一級(自称)を持つ僕にはわかるよ!! アレはすっごいもふもふだよ!! 恐るべきモフモフ軍団だよ!!

 

 しかも武器と防具らしいの持ってるけど、武器が新聞丸めた子供のチャンバラ用のアレで、防具は頭に新聞で作った折り紙で作る形の兜と、身体にはダンボールだよ! あれ完全にダンボールだよ!! ご丁寧に平仮名で“がんにょむ”って書かれてるよ!! ネタすぎるだろ!! かわいいよおおおおお!!

 

「……え、と」

「ふふふ、驚いたやろ? これぞ我が最強にして究極の奥義、狐猫祭り(こんにゃんかーにばる)や!!」

 

 犬じゃなくて、敢えて狐なあたりにお前は自分のキャラを弁えているなと僕は思うよ!!

 見ろよあのフェイトの困ったような顔!! さっきまで何があっても無表情だったのに、ちょっと困ってるよ!!

 

「いくんや! 野郎共!!」

「「「「合点承知の助だニャー(コン)!!」」」」

 

 しかも喋ったよぉぉぉ!! あの子達喋るよぉぉぉ!!

 なにあれぇぇ!! ねぇ、アレお願いしたら一匹くれるかな! あ、でも猫も狐も捨てがたいから、どっちも貰いたいんだけど駄目かな!? 今なら僕がダンボールにアルミホイル張って剣作ってあげるから!! お洋服も頑張って作るから!!

 

「「覚悟するにゃ~!!」」

「「頑張れにゃんにゃんずだこ~ん!!」」

 

 そして突撃するのにゃんこ達だけだよぉぉ!! 狐さん達応援してるだけだよぉぉ!! どっからか肉球の描かれた旗持ってきて、パタパタ振りながら応援してるよぉぉ!!

 

「バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

『Yes.sir』

「「にゃ~!!」」

「「「にゃんにゃ~んず!!」」」

 

 そして、あっさり返り討ちにされるにゃんにゃんず。それを見て叫ぶ虎次郎くんとその仲間達(きつねさんたち)。なんてこった……!! あんなに可愛らしいのの大軍でもフェイトは揺れないほどに心を閉ざしているというのか……ッ!!

 とか思ってたら、ピンク色の魔力光が視界の端でなんかピカピカしたのでそっちに目をやると、どさくさに紛れてなのはちゃんが封印準備に入っていた。

 

「ジュエルシード、シリアル14……封印!!」

「つっ、しまった……ッ!!」

 

 そして、あっさりジュエルシード封印。巨大ちびにゃんこはちびにゃんこに退化した。良かった。とりあえずコレでちびにゃんこが電撃ビリビリの刑にあわずに済むのは確定した。

 

「んで、こうなったらなのはちゃんも戦闘に参加できるから三対一……いや、ワイの軍勢もおるから百三対一、やで? どないするんや?」

 

 封印が済んでしまったことに歯噛みするフェイトに、ドヤ顔で語りかける虎次郎くん。

 うん、確かになのはちゃん単体でも、刹那単体でも競り負ける相手ではるけど、虎次郎くんはなんか大分余力あるっぽいし、多分あのネタ魔法(でも可愛いから許す)以外にもちゃんとした戦闘用魔法や特殊技能は持ってるんだろう。

 

 こうなると、フェイトに勝ち目は無い。

 

「虎次郎、その子達は全く戦力にならないから実質三対一だよ……しかも君基本的に戦闘しないつもりでしょ? サポートはありがたいけど……」

 

 と、ここで今まで回復に努めていたのか観戦に徹していた刹那が新しい剣を手にしながらそう言ってため息を吐く。

 

「そらせやろ? 自分、女の子に向ける刃はもっとらんで。……とはいえ、流石に友人がガチピンチになったらんなポリシー捨てて相手殺してでも助けたるから心配せんでもえぇで、刹那」

「本当、君は底が知れないよ……」

 

 会話の、内容が、完全に虎次郎くんのオリ主空気ッ!!

 

「くっ……」

「まぁ……この状況なら、目当てのもんも奪えへんし、退くのが吉やろ? お互い戦いたいわけやないんやし、ここは退いてくれへんか?」

「……、……」

 

 自分の方へと歩み寄ろうとした虎次郎くんに反応し、ジリ、と一歩後退するフェイト。

 

 あ~。これで今回の戦闘はお開きかな? にゃんこが一撃もらって可哀想だったけど、怪我人も出なかったしこれで万事解決、かな?

 

「ちょっと待って、もらおうか?」

「「「ッ!?」」」

 

 そこに突然、空から降って割って入ってきた人物がいた。

 その人物とは、銀髪オッドアイ。

 

 ……あ~、そうだ。コイツの存在忘れてたわ……。



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8.介入バカと友情とか新しい家族とか

 突如現れた銀髪オッドアイの少年、その正体とは!?

 

 言うまでも無く、変態ナルシストの天ヶ崎悠馬(あまがさき ゆうま)くんである。

 このタイミングで何しにきたアイツ。

 

「ユウマン、なんや? ワイらと遊ぶお誘いなら、また今度やと嬉しいんやけど」

 

 黒を基調にしたちょっとセンスの良い服を着たまま空に浮かんで腕を組み、偉そうにふんぞり返ってる悠馬に虎次郎くんが苦笑しながら言うが、まぁ当然ながらそういう穏やかな話では無いらしい。悠馬は地面にゆっくりと降りると同時、いつぞやに遠目に見た黒光りしていて、随所に金の装飾が施された鎧を一瞬で着込んだ。

 

 やっぱりあの鎧は悠馬のバリアジャケットだったんだな。しかしデバイスが何なのか分からない。パッと見なにか持ってるようには見えなかったんだけど。

 

「……加勢なら、間にあっとるで? もうこのお嬢ちゃんにはお帰りいただくだけやしな」

「それは困るな。参戦前に味方が退場されては来た意味が無い」

 

 苦々しく、自分達に加勢するつもりで来たのではないのだろうと理解している表情の虎次郎くんの言葉に、間髪入れずニヤニヤと笑いながらそう言って肩を竦める悠馬。

 

 これは、完全にオリ主同士のバトルフラグである!!

 頑張れ! 負けるな虎次郎くん! 地球の平和はお前の双肩にかかっている! かもしれない。

 僕の応援を他所に、虎次郎くんは小さくため息を吐いてから笑う。

 

「まぁ、そんなこっちゃろうとは思っとったけど……あんまりにも露骨やないか? ユウマン」

「俺は元からフェイト派だ。なのはも愛してはいるがな」

 

 虎次郎くんを鼻で笑う悠馬。お前まだ諦めてないんだね、なのはちゃんの事……お前自分の背後を見てごらんよ、後ろの方でジュエルシードをレイジングハートに保管中のなのはちゃんがすっごい微妙な顔してるよ? っていうかどうでも良いけど、意外になのはちゃんって顔芸キャラだよね。

 

「……なんで私の名前を知ってるの?」

「俺が君の味方だからだぜ、フェイト。クソみたいな暴力女から君を救い出すためにやってきた、な」

「……誰の、ことを言ってるの?」

「わかってんだろ? プレシア・テスタロッサのこ――」

 

 悠馬の台詞の最中に、フェイトが憤怒の形相で襲い掛かったが、地面から突如生えてきた鎖によって身体をがんじがらめにされて動けなくなった。

 

「おいおい、俺は味方だって言ったはずだぞ? なんで斬りかかってきた?」

「母さんの、悪口を言うな……ッ!!」

 

 呆れたと言わんばかりに肩を竦める悠馬に、鎖で縛られて無力化されているにも関わらず、フェイトは視線だけで殺せそうな殺意を乗せて悠馬を睨む。

 まぁ、多分殺意乗せてるって僕が思ってるだけで、僕は見てるだけだから本当は殺気とか全然わっかんないけどね!!

 

「まぁ、そういう態度になるだろうとは思ったけどな。でも良いのかフェイト。俺が協力してやれば、こいつらからジュエルシード奪って、そのクソ親にやることも出来るけど、共同戦線断るっつうんなら、こいつら全員相手にすることになるし、俺も敵にまわるが……お前それでも一人で勝てるつもりか?」

「アルフ……使い魔がいる。貴方なんかの手を借りなくても……」

「……立場が分かってないみたいだな。こっちはそのまま拘束しておいて管理局に連絡したって良いし、デバイス没収して監禁しても――」

「「にゃ~!!」」

「っ、空気読めトラ野郎!!」

 

 シリアスな空気など作らせはしないと言わんばかりに、今だに一杯いた三頭身にゃんこ達が新聞紙の剣片手に悠馬に突っ込んで、これまた地面から出てきた鎖に薙ぎ払われて宙を舞った。

 

 な、なんてことをするんだあのナルシー!! あんな可愛い生物(?)の群れを、あんなごっつい鎖でぶん殴るなんて!!

 

「「「あぁっ!! にゃんにゃんずがっ!!」」」

 

 ほらぁ!! 虎次郎くんも三頭身狐さん達も悲鳴をあげてるじゃないか!!

 

「ごめん虎次郎、今のは君が悪いと、僕も思う」

「いや、せやかてこっち置いてけぼりでなんかシリアスな空気醸し出してるんやもん……。いや、知り合いやから不意打ちとかせぇへんけど、これワイが管理局とかやったら今のうちに両方とも捕縛しとるで? 今なら片方鎖で縛られとるし。亀甲縛りで」

 

 あ、本当だ。よく見たらフェイトに絡み付いてる鎖が亀甲縛りになってる。

 コレ小学生でツルペタ体系だから良いけど、ある程度発育してきてる女の子にやったら青少年には目に毒だよ。いや、眼福ではあるだろうけど。少なくとも年齢二桁にも達してない女の子にやる所業じゃないよコレ。あいつシリアスな空気作っておいてやってること相変わらず変態じゃねぇか。

 

「虎次郎……こういうのは様式美なんだよ。分かっていても言っちゃいけないし、やっちゃいけないんだよ。ヒーローの変身中とか、変身しようとしてる時に悪役が攻撃しないのと同じなんだよ。むしろ悪役ですら空気を読むのに君って人は……」

「あかん、あかんで刹那。そういう固定概念に支配されとっては、新しい何かを生み出すことは出来へんのや。昨今じゃ平日の昼間っから奥さんの金でパチンコ行くヒーローとか、町の人気者で警察から感謝状送られちゃったりする悪の組織とかもあるんやで」

「それはもう、立場完全に逆になってるね……」

 

 それは太陽戦士のことかーッ!!

 いやでも、確かにアレだよね。無力化するなら今のうちだよね。そこで敢えてにゃんこ達を突撃させた意味が分からんが、単純に、特に意味も無くシリアスブレイクしたかっただけなんだろうな、とは想像出来る。

 

「てめぇら……全部聴こえてるからな……」

「「あぁごめんごめん。続けていい(えぇ)よ」」

「この状況で話続けられるかぁッ!!」

 

 ムキー、と地団駄を踏む悠馬。凄い。リアルで地団駄踏む人とか初めて見た。

 あ、三頭身狐の一匹がとことこ寄っていって、悠馬の膝をぽんぽんと叩き(多分、肩を叩くには身長が足りないから代わりにそこなんだと思う)、「ドンマイだコン」と言って親指を立ててサムズアップした。凄い。三頭身なのに手もちゃんと動物を模したぬいぐるみみたいな手なのに、しっかり駆動してる!

 

「じゃかぁしい!!」

「「「「「こ、コンコン38号~~ッ!!」」」」」

 

 あ、悠馬が怒って三頭身狐さんを思いっきり蹴っ飛ばした。宙を舞う三頭身狐さん。それを見て叫ぶ虎次郎くんとその仲間達(生き残りのにゃんこときつねさん達)。便利だなぁあのにゃんこと狐さん。

 

「と、とにかくフェイト、拘束を解くから一緒に戦うぞ。ジュエルシードはお前にやる。共同戦線だ」

 

 そして、気を取り直してそうフェイトに提案し、鎖を解く悠馬だったが、フェイトは少し迷った様子を見せながらも立ち上がりバルディッシュを構えた。

 

「……裏切ったら、斬ります」

「好きにしろ。行くぞ。フェイトは赤髪の奴を狙え。あいつは女には手をあげない主義だから、遠慮なくぶん殴れ」

「……わかった」

 

 そして急に高まる緊迫感。おぉ、遂にまともな戦闘が始まるのか! さっきまでのフェイトとの戦い、正直あんまりゆっくり見てられなかったし、若干もっさり感を感じてたから楽しみだ! あ、でも皆あんまり怪我とかはしないようにね! 回復魔法とか使えるんだろうけど、痛いのは痛いんだろうから!

 

「しゃあないなぁ……いくで! コンにゃんズ!」

「「「「合点承知の助(にゃー)コン!!」」」」

「参ったな……虎次郎、早めに片付けてこっち手伝ってよ?」

「え~、たまには一人で頑張りや?」

「無茶言わないでよ!? セイバー連れてこなかったんだから僕まともな戦闘なんて出来ないよ!?」

「一応無限の剣製とかできるやんか。大丈夫。贋作者は英雄王の唯一無二の天敵なんやで?」

「ランクE-の宝具が限界の贋作でどうやって勝つのさ!? 贋作の贋作なんだよ僕のスキル!」

「愛と勇気と友情があれば、最後にはご都合主義でなんとかなる筈や」

「完全に運任せじゃないかぁ!!」

 

 戦闘開始すんじゃないのか? なんであの二人あんなほのぼのしてるんだ……いや、刹那はガチで涙目になってるけど。これであの三人組のヒエラルキーははっきりしたな。虎次郎くん>刹那>悠馬だ。

 

「さて、殺り合おう。贋作の貯蔵は充分か? 贋作者(フェイカー)」

「台詞の立場完っ全に逆転してるよぉぉぉ!!」

 

 ……あれ? おかしいな。もしかして虎次郎くん>悠馬>刹那? あ、戦闘面ではそうなのかな? 日常面では刹那の方が優位に立ってる感じしたけど。

 

 とか考えてたら、戦闘が始まった。

 

 まず、フェイトVS虎次郎くん。

 フェイトちゃんが突撃し、三頭身にゃんこ軍団が迎撃に出てあっさり斬られて消滅し、お約束の虎次郎くんと狐さん達の「にゃんにゃんずー!」の絶叫。

 そして三頭身にゃんこ軍団を飛び越えたフェイトがそのままの勢いで虎次郎くんに斬りかかると、上体を逸らすだけで回避。

 追撃。バックステップ。追撃。ターンしながらバックステップして回避。

 追撃。バック転して回避。

 追撃。応援を頑張る三頭身狐さん軍団に笑顔で手を振りながら蹴りでバルディッシュの矛先を変えて回避。

 追撃。身を屈めて回避し、そのままブレイクダンスに突入。

 追撃。ブレイクダンスしながら蹴りでバルディッシュを弾き、ぼけーっとしながら遠目に戦闘を見ているだけのなのはちゃんにちょっと手を振る。あ、なのはちゃんも手を振り返した。

 追撃。奇妙な動きで立ち上がるとフェイトの右手を掴んで腰元にも手をやり、そのままぐるりと一回転し、「シャルウィーダンス?」と至近距離でにこやかに微笑んで顔を真っ赤にしたフェイトちゃんに突き飛ばされる。よろけながらも追撃をあっさり回避。

 そして一言。「サイズフォームの攻撃をエクストリームな動きで避ける。まさにエクササイズやな」。

 

 ……戦えよッ!!

 

 なんでそんな余裕に回避してんの!? っていうか、せめて、せめてちょっとは、ちょっとは真面目に回避行動をとろうよ!! 可哀想だよフェイトが!!  見てよ、明らかに遊ばれてる回避のされ方して、若干泣きそうになってるよフェイト!! 圧倒的過ぎるだろ虎次郎くん!!

 あとお前の召喚した使い魔の三頭身狐さん達、完全に応援だけなんだな!! 僕びっくりだよ! せめて、せめて何か相手を撹乱するような行動とるのかと思ってちらちらそっち見てたらさ、振ってる旗は増えてるし、今まで手をメガホンにして応援してたダンボール装備の奴等が気づいたら学ラン姿のとチアリーダー姿のに変わって、学ランの狐はトランペット吹いてたり太鼓叩いてたり正拳突きの素振りしてたりして、チアリーダー姿の狐さん達はバトン投げたりポンポン持って一糸乱れぬ華麗なるチアリーディング決めたりしてるよ!! 可愛すぎるよ!!

 あと地面の上でヘルメットや防具も無しにブレイクダンスして痛くないの!? 大体「シャルウィーダンス?」ってバカじゃないの!?

 その体勢完全にセクハラだからね!? 全国のフェイトファンの皆様からクレーム来るよ!?

 そして最後の駄洒落のつもりかもしれないけど、誰も上手いと思わないよ!?

 あとあの電気鎌はサイズフォームなのね! 把握! じゃあザンバーモードってどんな形態だっけ! 知ったこっちゃないね!

 

 ……はぁ……うん、あっちはもう見るまでも無いからいいや。

 で、刹那VS悠馬の方は……。

 

 悠馬の背後には見慣れた金色の空間の揺らぎと、無数の剣、槍、戟、斧、ハンマー、どれもこれも無骨な外見ながらもところどころに綺麗な装飾がされているそれらが顔を出し、順々に刹那に襲い掛かっている。

 対して刹那は同じような外見ながらも装飾がそぎ落とされたバージョンのそれらで迎撃し、それでも防ぎきれない物はローアイアスで防いでいる。見ていて分かったのだが、花弁が全部割れるまでは新しいローアイアスは展開できないようだ。お陰で展開が間に合わない時は身体を投げ出すようにして回避しているせいで身体中泥だらけである。

 

 ……っていうか、コレで確定したけど、毎回僕の近くに刺さってた剣や槍、及び斎藤さん家破壊したハンマーの犯人は刹那だわ……。

 悠馬の装備はどれもどこかしらには装飾されてるけど、刹那のは一切無い訳で、つまるところ僕が今まで間近で見たことのある凶器と完全一致するわけだ。

 毎回剣が飛んできてる時に見えたのが王の財宝<ゲートオブバビロン>の光だったから完全に騙されてたよ……それとなく斎藤さんの家直すように仕向けられないもんか。あいつが原因なんだし。でも直接言う訳にもいかないしなぁ……。

 

 あぁ、刹那は一応、隙を突いて<無限の剣製>と思わしき詠唱を口ずさんでいるように見えるのだが、口を開いた次の瞬間には悠馬が地面にハンマーを叩きつけて土を飛ばしているせいで口に土が入って咽たりしていて、詠唱が出来ていない。

 

「無様! 無様だな刹那!!」

「くそっ、五月蝿いな! 大体君は人がデバイス持ってない時を狙うとか卑怯だと思わないのかな!」

「あん? バカかてめぇは。相手の油断をついて攻めるのが戦争だろ? 油断するほうが悪い」

 

 うぉぉ、言ってることは悪役だけど、実に正論だよ! そうだよ、なんでお前デバイス持って来てないんだよ刹那! っていうかデバイス無しにそんだけ戦えるってお前ずるいな! あと悠馬、お前普通に喋るだけなら口開くの妨害しないんだな! お前実は結構気ぃ使ってるだろ!

 

 ……っていうか、アレどう見ても悠馬が手加減してるよね。

 あのさ、悠馬の周囲に滞空してる武器の数と飛んでいく武器の数が噛み合ってないんだよね。歪んだ空間から突き出している武器は数十本単位なのに、一回に飛んでいくのが多くて10本。刹那も一度に10本ちょっとくらいしか出せてないからなんとか今のところは怪我しないで済んでるけどさ、悠馬の射出した武器は別の物ですぐ補填されてるから蔵の中身が少ないから勿体ぶってる、って訳じゃなさそうだし。

 

 ん~……一度に射出できる本数でも決まってるのかな。コントロール出来るのが10本までとか。でも射出する瞬間までコントロールして、射出したら後は慣性に任せとけば飛んでくんだから連射できるもんなんじゃないのか?

 

 あ、刹那が地面から生えた鎖で捕まった。

 

「くっ、卑怯だぞ悠馬くん! 天の鎖<エルキドゥ>使うならちゃんと呼称するべきだ!」

「あのなぁ、別に叫ばなくても発動出来るもんを何で口に出す必要があるんだ? 言ったらバレるじゃねぇか」

 

 これまた正論である。

 

「くっ、ああいえばこういう人だね!」

「いや……まぁいいわ。んで、この前の仕返しってことで、いいよな?」

 

 なんかほのぼのだなぁ、この様子なら大丈夫かなぁ、とか思っていたんだが、悠馬が背後の空間の揺らぎから一本の獲物を取り出したことで僕は頬を引きつらせた。

 

「え? 何が――悠馬くん、あの、えっと、何かな、そのメスは」

 

 メス。手術用の道具である。なんでそんなもんが王の財宝<ゲートオブバビロン>に入ってるんだとか思ったが、それ以前に剣じゃなくてそんなもん出した時点で嫌な予感がする。

 

「何って、生皮剥ぐに決まってんだろ。てめぇに剥がされた時本気で痛かったんだからな……それとも生爪からいくか?」

 

 ……グロいよ!! っていうか、ガチだったんだ! いつぞやの生皮剥いだ発言ガチだったんだ! やめてよそういうの!

 

「き、君は痛覚遮断できるんだからいいじゃないか! ちゃんと時間巻き戻して回復させてあげただろう!」

「完全に遮断してるわけじゃねぇんだよ! 痛覚完全に切ったら身体動かしにくいだろうが! てめぇだってやられてもすぐ治せんだから問題ねぇだろ!」

「大有りだよ! 今日はセイバーいないって言ってるじゃないか! 下手したら僕ショック死するよ! 大体アレは洗脳系くらったせいだって知ってるだろう!」

 

 いや、下手しなくてもショック死するだろ! 虎次郎くーん! 刹那を助けてー! なんかグロいこと起きそうになってるからー! 自業自得な香りがしてきたけど!

 

「テメェは毎回変なところでボケるからこっちが割くってんだよクソが!」

「そこに関しては素直に申し訳ないと思うけど、それとこれとは話が別だよ!」

 

 しかしなんか子供の喧嘩じみてきたな。

 って、そうだ。刹那は時間を操れるんじゃないのか? なんで一回も使ってないの? 使えば逃げられるだろうに。って、デバイスが無いのか……時間操作はデバイス必要なのか。なるほど。

 

「ディバインバスター!」

 

 そう、ディバンバスターが必要……うん?

 

「うおぉぉぉ!?」

「お……? おぉ! なのはちゃん!!」

 

 あ~、なのはちゃん完全に忘れてたわ。さっきまでぼへ~っと虎次郎くんの戦闘見てたと思ったら、流石にこっちで刹那がやられかけてんのに気づいたんだね。

 桃色の光に包まれた悠馬が、某バイキン男の如く吹き飛ばされてお空へと消えていった。

 

 ……大丈夫か? あいつ。

 

 いや、空飛べるんだし大丈夫か……魔法だって非殺傷設定な訳だし……。

 あれ? 非殺傷設定といえば刹那の投影魔術って、名前通り魔法じゃなくて魔術だとしたら非殺傷設定とかどうなってるの?

 

 ……ねぇ、なんか物凄い不安になってきたんだけど大丈夫だよね? 今まで何回も僕の方に飛んできてたから、その内刺さるんじゃないかと心配なんだけど、非殺傷設定だよね? 大丈夫だよね……ッ!?

 

「ふぅ……すまないね、なのはちゃん。あやうくあの変態にキズモノにされるところだったよ。ありがとう」

「うん、気にしないで刹那くん。……ねぇ、あのさ。虎次郎くんの方、そろそろ止めてあげるべきだよね……?」

「え? ……あぁ……そうだね……」

 

 走りよってきたなのはちゃんに助け起こされた刹那が、なのはちゃんの言葉でようやく虎次郎くんの方がどうなっているのか確認して呆れた声を出してため息を吐いた。

 いや、まぁそうだよね。明らかに遊んでるもんね。チートオリ主チーム連携取れて無さ過ぎワロタとしか言いようが無いよ。

 

 で現状だけど、フェイトちゃんが今度は空に浮かび、距離を置いてチャージしたっぽい射撃を撃ったら、その弾をどこから持ってきたのかわからないラケットで三頭身にゃんこ軍団(また召喚しなおしたらしい)のいる方へと打ち返し、三頭身にゃんこ軍団が待ってましたとばかりにコンセント穴の開いた機械を持ってその魔力弾みたいなのに自らぶつかりに行き、機械が魔力弾を吸収したと思ったら、メガネをかけて白衣を着た狐が機械についているメーターみたいなのを見て「実験は成功だコン! これで人類のエネルギー問題は救われたコン!」とか言っている。

 

「「「「永久電力発電機万歳にゃ(コン)! 電気少女エレジーフェイト万歳にゃ(コン)!」」」」

「ふっ、どうやらワイは歴史的瞬間に立ち会ってしまったようやな……」

 

 一斉にフェイトの方へと向き直って万歳三唱する三頭身にゃんこ達と三頭身狐さん達。そして極め付けに髪をかきあげて爽やかに微笑む虎次郎くんの一言である。

 

 やったねフェイトちゃん! 君は人類の救世主だよ!!

 

 耐え切れなくなったのか、泣きそうなのか、手袋の部分で目をごしごし擦りながらフェイトは帰っていった。

 ……うん、もうね。強く生きるんだよ、としか言えない。

 

「ミッション・コンプリートやな」

「手ごわい、相手だったね」

「えっと、そ、そうだね」

「「「「僕達の冒険はこれからだにゃー(コン)!!」」」」

 

 ……虎次郎くんよ、その無駄に清々しい笑顔をやめなさい。あと刹那はさっきまでボロクソにやられてたのにそんな爽やかに笑っているけれど、私服が泥だらけだよ。見なさいよなのはちゃんのすっごい微妙な顔を。勝ち名乗りあげる側の表情じゃないよ?

 あと三頭身の狐さんとにゃんこ達や、それは打ち切りフラグだよ? あと早く君達を1セット僕に譲るよう頼んでくださいよ?

 

 こうして今日も海鳴市の平穏は守られた。

 

「あれ、そういえばヨッシーどこいったんや?」

「え? あぁ、そういえば彼が猫を追いかけて森に入ったのがそもそもの原因だったね。……追いかける猫がピンポイント過ぎたし、このあたりで介入してくるかと思ったけど……そう言う訳でも無い、か」

「私は見なかったよ?」

「あぁ、一旦結界解除せぇへんとそもそも探しようないんやあらへんか? ……あ~、ちゅうか、まずはにゃんこ巨大化を見てたかどうか確認せなあかんなぁ……」

「あぁ、確かにもし見てしまったのなら口止めしておかないといけないしね」

 

 あ、大丈夫です、見たけど見てません。口止めしなくても言いふらしたりしません。そもそも「あいつら魔法使いなんだぜ!」とか学校で言い出したら「あぁ、こいつ早くも厨二病か」みたいな目で見られることうけあいだよ。

 

「魔法のこと言う訳にもいかないもんね……うん。ユーノくん、結界解除してくれる?」

「あ、いや、え~っと……」

 

 と、そこで何故かなのはちゃんからの要請にユーノくんが僕の隠れている茂みとなのはちゃん達の方を何度も交互に確認する。

 ユーノくん、適当に誤魔化しておいて! 僕言わないから! 絶対に言わないから! 言いふらさないっていうか、言いふらしても頭可哀想な子だと思われるだけだから!

 と、熱心に願いを込めてユーノくんに懇願するような視線を向けたら、なんかため息でも吐きそうな声で「わかったよ。今解除するね」とこちらから視線を外したユーノくん。

 良かった……アイコンタクト通用して良かった……。

 

 

 その後、こっそりとその場から抜け出して、さも今ここにたどり着きましたと言わんばかりの演技で誤魔化すことにした。

 まず、相手から何か訊かれる前に「あれ? 虎次郎くん達とすれ違った覚え無いんだけど、僕何時の間にか抜かれてた? っていうか、佐々木くん服泥だらけだけど何かあったの!?」と言っておくことで予防線を張っておく。

 これにより「あぁ、こいつ今ここに来たところか、じゃあ大丈夫か、それよりも刹那のこの状態をどう誤魔化すか」という風に思考誘導できてたらいいなぁ!!

 

 と、思ったけどやっぱり何か言われそうになったので、なのはちゃんが抱っこしてた巨大化ちびにゃんこミニマムバージョンに「にゃ~、無事でよかったね~? もう勝手にどっか行ったりするにゃよ~?」とでれっでれの顔で猫に語りかけることで機先を制し、「あ、ところでにゃんこ見つかったなら早く戻ろう。僕はともかく三人がいつまでも戻らないと心配されるでしょ?」と手短に言ってアインに元の場所まで先導してもらい、線路は続くよを口ずさみながら戻ることにした。

 

 ふふふ、どうだ、畳み掛けるように喋って、更に歌まで歌いだした僕にわざわざ確認のために声をかけようとは思うまい!

 

「あ、ところでヨッシー、さっきの見たか?」

 

 くっ……! あっさり声をかけてきよって!

 

「さっきのって?」

「悠馬がお空を飛んでいくところや」

「それ悠馬じゃなくて天馬じゃない!? っていうか、仮に天ヶ崎くんだとしたら何があったの!?」

「あぁごめん。なんでもないわ」

「え? いや、気になるんだけど!? 何!? なんで唐突に今日来てないはずの天ヶ崎くんの話が出てきたの!?」

「それが若さや」

「虎次郎くん……とりあえずそう言っておけば誤魔化せると思ってるよね……まぁ言いたくないならいいけど……」

 

 全くもう、気になるじゃないか、とぶつぶつ文句を言いつつ、僕はほくそ笑む。

 計算通り……ッ! 自分の演技力が怖いね! ハッハッハッ!

 

 

 

 

「にゃ~」

「アイン、ヨッシーくん帰るんだから、もうさよならしなくちゃ駄目だよ?」

「にゃ~」

 

 気づけば、帰る時間であった。

 某(それがし)、もふもふのお猫様方と過ごしたこの時間を、生涯一時と忘れ得ぬであろう……。

 

 え、お前誰だって? どうも、佐藤です。

 ちょっとにゃんにゃんパラダイスでヘヴン状態が続いてたせいか、賢者モードもとい武士モードに入っていました。あ、武士モードって武士ロードみたいだね。ところで武士ロードってなんだっけ。その単語だけは覚えてるけど何を表す単語だか忘れた。乙女ロードみたいなものかな? うん、どうでもいいね。

 

 さて、もう五時を超えたことだし、解散という空気になって帰ることになったのだが、僕の足元には我らが愛しのアインちゃんがすりすりしてきてマジ萌え萌えきゅんです。あ、最初に玄関で会って抱っこしてたあのちびにゃんこ(巨大化した子)は、なのはちゃんにべったりになってしまったので僕のところにはもう来てくれませんでした。

 

 でも、良いのさ! 何せ僕にはアインちゃんがいるからね! マジもふもふだったよ! 毛糸玉ころころしたり、ねこじゃらしでぴょんぴょんしたり、だっこして頬ずりしたり、もうコレ以上に何を求めろと言うのだね!!

 

 で、でだよ? その愛しのアインちゃんたら今現在、足元で僕にすりすりしてるの! あ、それさっき聞いた? いや、大事なことだから何回でも言うよ? アインちゃんすりすりしてきてるの!! マジ天使! アインちゃんマジ天使!!

 

「も~……ごめんね? ヨッシーくん」

「あぁうん、大丈夫だよ」

「良かったやんなぁヨッシー。大好きなにゃんこに懐かれて」

「今なら死んでも悔いは無いよ」

「安いわねアンタの命……」

「バニングスさん! 何を言うんだい! にゃんこさんだよ!? おにゃんこ大明神様が自分からすりすりしてきてくれてるんだよ!? 宝くじに当たるより嬉しいよ!?」

「「「「そこまで!?」」」」

 

 虎次郎くん、刹那、なのはちゃん、アリサちゃんが驚愕の声をあげた。なんだよ、どう考えてもお猫様からの寵愛を頂くことの方が嬉しいじゃないか。

 

「……なんか、もうそこまで行くといっそ清々しいわね……」

「にゃはは……ヨッシーくん今日一日で大分印象が変わった気がするよ……」

「そうだね……僕もまさかここまで変人だとは思わなかった佐藤くん。君は外見がアレなだけで普通のツッコミ担当かと思ってたよ……」

「え、ごめん。ツッコミ担当だけは譲れない」

「「「つっこむ所そこなの!?」」」

 

 今の驚愕の声はなのはちゃん、アリサちゃん、刹那である。

 あぁもう、自分が変人なのは知ってるよ。外見がちょっと幼いのも知ってるよ。でも前世と同じなら中学卒業する頃には人並みになるのが分かってるからいいんだよ。グリーンだよ~。

 ――これも前世のネタで覚えてるんだが、なんかのCMだっけ? 咄嗟に思い出すのは良いけど元ネタがわかんなくなってるの多いな。でも虎次郎くんとのかけあいネタは増えたな。今度それとなく使ってみよう。

 

「う~ん……あ、月村さん」

「すずか、でいいよ。ヨッシーくん。同じ猫好き同士仲良くしようね。あんまり暴走されると困っちゃうけど」

「あ、ありがとう。すずかちゃん……なんかごめんね」

 

 ど、どうでもいいこと考えてたら不意打ちな発言きちゃったよ! ペロッ! コレはまさかのすずかちゃんフラグ!

 うん、冗談です。あくまでにゃんこ好き仲間としてだよね? ごめんね、暴走しちゃって……。大体すずかちゃん刹那のこと好きっぽいもんね。刹那と話す時、声のトーンが1オクターブ高いからすぐ分かるんだぜ? 嘘だけど。

 実際にそんな微妙な変化わからんけど。まぁ表情見れば分かるよね。あんな頬をほんのり赤く染めてたらすぐわかっちゃうよ。

 

 見た目完全に百合だから眼福っちゃ眼福です! しかも精神的にも彼女達は百合です! でも肉体的には男女関係になれます! つまり結婚しても全く問題ありません! 謎の方程式!

 まぁ惜しむらくは、百合してる子達が小学生のせいであんまりエロさを感じなくてむしろ微笑ましい点と、僕この身体がまだ精通すらしてないから精神的にエロ感じたところで肉体的には全くエロに反応しないからそこまで魅力的に感じない点だけだね!

 

 あれ、何も惜しむ必要なく、微笑ましいと思えてるなら問題無いな。

 

「よかったやんな~、ヨッシー。お友達が一人増えたで」

「うん……いや、本気で嬉しいよ」

「え? 私は元からお友達のつもりだったよ……?」

 

 虎次郎くんが肩を叩いてにっこり微笑んでくれたんで同意したら、すずかちゃんにちょっと悲しそうな顔でこちらを見られた。

 っていうか、え、なにそれ初耳。

 

「あれ、もしかしてヨッシーくん、名前呼びしてない人って友達だと思ってなかったの……?」

「え、あ、いや、あの……えっと……」

 

 凄い悲しそうな、でもなんか非難めいた言い方のすずかちゃんに、僕はたじたじである。

 

「……ねぇ、ちょっと、それってもしかして私も友達に含まれてないってことなのかしら? ヨッシー」

「え? なんや、そうなんか? じゃあ私もなんか?」

「あ、いや、えっと……え? 友達に……なっていいの?」

 

 今度はアリサちゃんである。ちょっと怒った顔だ。っていうか、くん付けやめたんだね! ちょっと怖いよアリサちゃん! 身長差から来る、上からの睨みつけって割と本気で怖いよ!

 そしてはやてちゃん! そんな不思議そうな顔してるけど、僕本気で君との接点無いっていうか、お互いいることを認識した上で面と向かってるのはこれで二回目だし、まだ良くてお知り合いレベルだと思ってたよ!

 

「アンタ、本気で言ってるわけ?」

「せやで? その態度にはちょっとこの優しいはやてお姉さんも怒らざるをえんで?」

 

 そして、そんな僕の言葉に心底呆れたと言わんばかりにため息を吐くアリサちゃんとはやてちゃん。うぅ、なんてこった。フェイントだったよ。所詮モブは光り輝く原作キャラとお友達なんて夢のまた夢だったよ!

 

「一瞬でも勘違いしてごめんなさい。生まれてきてごめんなさい」

 

 ごめんねアリサちゃんはやてちゃん! 僕なんかが友達になりたいとか思っちゃってごめんね! 一瞬期待持っちゃっただけにダメージでかかったよ! 涙目だよ! 若干声震えちゃってるよ!

 

「アリサちゃん? はやてちゃん?」

「い、いや、違、そうじゃなくて、そういう意味じゃないわよ! 私もすずかと同じで、お友達だと思ってるって話よ!」

「そ、そうやで!? 自分かてそうや!」

「え……?」

 

 え?

 

「にゃはは、私もお友達だと思ってるよ、ヨッシーくん」

「佐藤くん、一応言っておくと僕も友達だと思ってるからね?」

 

 なん……だと……ッ!?

 

 え、これ泣いていいかな。どうしよう。苦節9年。あ、一桁だと大して苦節って感じしないな。まぁとりあえず9年間、「あれ、僕友達いないんじゃね?」という恐怖感と自己嫌悪と戦い続けてきたこの僕に、とっくに、友達がこんなに出来ていただと……ッ!?

 

 あ、ごめん。マジで涙出てきた。

 

「くっ、ひぐっ、あり、ありばぼう……」

 

 鼻水と涙で、まともに発音できないよ!!

 

「良かったやんなぁ……ヨッシー」

 

 うん、マジで良かったよ! 今日は呼んでくれてガチでありがとうね虎次郎くん!! いや、虎次郎くん様!! なにこの至福の一時! さっきまでこの世のものとは思えぬ癒し空間にいたというのに、今度はこの友情系の感動! どうしよう! 小学生って割りとちょろい!!

 

「虎次郎くん、君も君だよ? 元から友達だと思ってたのに、勝手に友達未満だと決め付けた言い方はどうかと思うよ?」

「……そういえばそうね。アンタの中でヨッシーってアンタ以外の友達いないポジションって勝手に決め付けてたんじゃない?」

「そのへんどうなんや? 虎さんや」

「い、いやいやいや! そないなこと思っとらへんよ!? ただなんや普段からヨッシーは他人と距離とっとるし、そもそもすずにゃんもアリサも普段全然ヨッシーと話しとらんやんか!? はやちぃに到っては二人が顔合わせてるとこすら見たの初めてなんやで!? ワイかて誤解してたわ! ごめんなさいやわ!」

「「「あぁ。そう言われてみれば……」」」

 

 ふっ、普段会話が無いことすら気づかなかったのかい三人とも? でも大丈夫だよ! その辺は僕、自分の事ちゃんとモブだって割り切ってるから存在感薄いの分かってるし、原作でも仲良しさんが二人いる上にオリ主が二人も(悠馬除外なう)いるんだからそりゃあわざわざ席の離れた僕のとことまで話しにきたりしないもんね! はやてちゃんに到っては学校来てないから余計だよね!

 

「私は普段から虎次郎くんが話しかけたり、隣の席の子とお話ししてるから、男の子同士のところに混ざるのってどうなんだろうって思ってあんまり近づけなかったんだよ」

 

 完全に気づいてなかった三人とは違って、私はそこに気づいてたよと言わんばかりに、然れどもにゃはは、と誤魔化し笑いを浮かべながら釈明するなのはちゃん。なるほど、それは一理あるな。僕も女の子だらけの空間に知り合いが混ざってても自分から声かけようとは思えないし。

 

「あ、なのはずるいわよ! 一人だけ自己弁護だなんて!」

「わ、私もそう思って近づけなかっただけだよヨッシーくん!」

「えっと、私は単純に会う機会が少ないだけやで!」

「あ、すずかにはやてまで! じゃあ私もそうよ!」

 

 えぇ、なにコレ。傷つく僕のフォローのためなのか、ガチで自己弁護なのかわかんないけど、僕なんかにこの友情イベントは勿体無さ過ぎるですよ。僕、今日帰り道にでも死ぬんじゃない? 一生分の幸福使い果たした気がするんだけど。

 

「う゛ん……ばびばぼう(うん、ありがとう)」

 

 くそぅ、鼻水も涙も止まりやしねぇぜ……虎次郎くん、ちょっとお前の服で鼻かんでいいかな。

 

「ヨッシー、良かったらコレ使いや?」

 

 と思ったら虎次郎くんにハンカチとティッシュを差し出された。くそぅお前マジイケメンだな。特にハンカチ単体でもティッシュ単体でも無く、両方渡すあたり分かってるね。こんだけ涙と鼻水ぼろっぼろだと単体じゃ間に合わないからね。というわけでありがたくお鼻をチーンします。

 

「ふふふ、青春のひとコマだね」

 

 なんか刹那が良い物を見た、と言わんばかりに笑顔を浮かべてこっちを見ている。くそぅ、お前外見はマジ女の子だからそんな輝かしい笑顔で見られたらちょっと恥ずかしいじゃないか。っていうか、お前今泥だらけになった私服の代わりにアリサちゃんの服借りてるから余計にそうとしか思えないよ。女物の服を着るのに全く抵抗無いとか、お前は小学生か。あ、小学生だ。

 いや、でも普通男の子って、このくらいの歳になったら女の子物の服着るのって嫌がるもんなんじゃないの? あ、こいつ転生者だったわ。しかも前世女の子だったわ。ついでに言うと、僕も今の身体ならそこまで女装に忌避感なかったわ。

 

「にゃ~」

「うん、アインちゃんもありばぼうね?」

 

 あ、また鼻が。チーンずるずる。

 

「ふふふ……」

「えへへ……」

「全く……」

「やれやれやな」

「良かったやん、ヨッシー」

 

 な、生暖かい視線の集中砲火やぁぁぁぁ!!

 ちょっと恥ずかしいんだけど! 微笑ましいものを見るような視線に晒されるのって結構恥ずかしいんだけど!

 

「ねぇ、ヨッシーくん」

「……うぃ、なにすずかちゃん」

「あのね、アイン、まだ里親決まってないんだけど、……もし、良かったらなんだけどね?」

「もらっていいの!?」

「うわっ!?」

 

 にゃんこをいただけるお話でございましたらば僕、涙も鼻水もひっこめますよ! 言質は得たと言わんばかりにすずかちゃんに突撃ですよ!

 あ、でも勢いあまって手を握ったりはしてないから安心してね。今僕の手、涙と鼻かんだ時にティッシュからちょっとこぼれた鼻水やらでべったべただから。

 

「よ、ヨッシー、復帰早すぎへんか……空気ぶち壊しなんやけど……」

 

 虎次郎くんがなんか言ってるけど知ったこっちゃないね!

 

「ほんまに猫さん好きなんやなぁ……まぁ気持ちはわからんでもないんやけど。私も猫さん欲しいけど、こんな身体やからなぁ……」

「あ、それならはやては犬飼ったら? 言っておくけど犬だって猫に負けないくらい可愛いんだからね?」

「おぉ、それは名案じゃないかい? 犬ならちゃんと躾ければ物を運んでもらったり、はやてちゃんに何かあった時に人を呼びに動いてもらうことも出来るしね」

 

 おい聞き捨てならないぞ刹那! にゃんこだって躾ければ物運んできたりしてくれるんだぞ!

 

「いやぁ……せやけど一から躾けるにもそもそもお世話ができへんからなぁ……」

「ふふふ、海鳴市が誇るわんわんパラダイスの主、バニングス家の娘がここにいるのよ? 介助犬としての訓練をしてる子もいるから、その子達の中から一人プレゼントしてあげるわよ!!」

「ほ、ほんまか!?」

「ふふん、いい女には二言は無いのよはやて! 安心しなさい。背中に乗っても嫌がらないで目的地まで運んでくれるような子を用意するわ! ご飯のあげかたとかトイレの設置とか、接し方とか、そういうのはこのアリサ・バニングスが全責任を持って伝授してあげるから!」

「さ、流石はアリサちゃんやでぇぇ!!」

 

 おぉ、なんかあっちも盛り上がってる!!

 でもそうか、はやてちゃん一人暮らしだもんな。お手伝いさんがたまに来るとは言っても、世間一般的に見たら明らかにおかしいのに許容されちゃってる身体障害持ちの小学三年生一人暮らし。認識阻害系の魔法がかけられてるんだろうけど、大問題だよね……僕は知ってるからこそ違和感に気づけるんだろうけど。しかしそこはやくなんとかならないもんか。半年後だよな、ヴォルケンリッター出てくるの。

 家族が出来れば寂しさも解消されるし不便な所も大分良くなるだろうし、何より車椅子生活とはおさらばだもんな。一時的に悪化する時があったはずだけど……。そういう意味ではわんこ飼うのは寂しさ紛らわせる意味でもってこいだよね。

 問題は闇の書事件による被害がどうなるかなんだけど……。

 

 まぁ、そのへんはうまいことオリ主組がどうにかしてくれることを祈ろう。夜天の書のバグ破壊向きな特殊能力のひとつやふたつ持ってるだろ。無くても被害を軽減することくらいはしてくれる……筈。最近、特に今日の戦闘見てたらなんかすっげぇ不安になってきたけど。

 あ、悠馬の王の財宝<ゲートオブバビロン>の中にアスクレピオスの杖とかルールブレイカーの原典あれば結構簡単にいけんじゃね? じゃあ安心だね。良かった良かった。

 

「え、えっと……あの、うん。お友達の証に……それにアイン、ヨッシーくんと離れたくないみたいだから」

「にゃ~」

 

 あぁいかん。にゃんこにゃんこな未来が目の前にあったというのに、ついつい別のことを考えてしまった。でもマジ不憫だからなぁはやてちゃん……、いや、まぁそれは今はおいておこう。とりあえず今は……。

 

「僕、一生大事にするよ すずかちゃん!」

「ヨッシー、それは告白にしか聴こえん」

「ふふふ、ありがとう。アインをよろしくね? ファリン、ケージ用意してきてくれる? それとうちで作ってる餌の作り方のメモとキャットフード、あ、それと猫のお世話の仕方の本あったよね? それもお願いしていいかな?」

「お任せくださいすずかお嬢様! ちょっと待っててくださいねヨッシーくん。すぐ戻りますから」

 

 すずかちゃんに言われるや否や、僕にウィンク交じりに声をかけて風のように去るファリンさん。

 う~ん、ドジっ子のイメージあったんだけど、今日一回もドジしてない上にこの素早いのに女の子らしくて下品でない洗練された動き。僕達とそんなに年齢変わらんだろうに、プロのメイドさんだ。あの人何歳なんだろう。中学生くらいかな。外見的に。

 

「よし、じゃあ明日……は流石に今からじゃ渡すのに支障無い子の判断出来るか分からないし……はやて今は学校休学中なのよね?」

「せやで? お陰で平日も休日も昼真っから図書館浸りの日々が殆どや。たまに病院とか買出しには行っとるけど」

「ん、それじゃあ来週、病院無くて都合良い日ある?」

「ん~……水曜日からはなんも予定無いで。土日も然りや」

「あ~、じゃあ私のお稽古とか塾もあるから……来週の土曜に私の家に案内させてもらっていいかしら? 迎えのリムジンもつけとくから」

 

「おぉ、ほんまか! それはえろう助かるわ! おおきにな!」

 

 あ、向こうもわんこもらうの完全決定か。わんこもいいよな~。個人的には猫派なんだけど、わんこ様も勿論大好きだよ。っていうか、小動物は大半が大好きだよ。うさぎさんとかハムスターとかモルモットとかも当然大好きだよ。すずめさんとか鳥系もありだよ。

 そうそう、鳥といえばカラスも個人的に有りなんだけどどうだろう。賢いしね、あの子達。

 ゴミを荒らす害鳥とか不吉の表れみたいに思ってる人いるかもしれないけど、日本の本来のカラスの立ち位置って神聖なものだった気がするんだよね。

 八咫烏(やたがらす)は太陽の化身、天の使い(或いは熊野の使い)の三本足のカラスで八幡神宮とかにも関係していたはず。あと熊野神社とか。熊野地方土着の神様かなんかだっけ? 詳しいことはもう覚えてないけど、なんかそんな感じだった気がする。黒いカラスは不吉の表れ、っていうと西洋系の考えだと思う。

 

 でも戦国時代も戦場で死体を食い散らかしたりするイメージあるから、やっぱそういう神聖なイメージは古代で終わってるのかな。どうなんだろ。わからん。まぁ気になる人がいたら調べると良いよ。僕調べたくてもPCも携帯も無いから。

 え? 図書館で調べろ? 嫌だよ面倒臭い。雑学好きだけど一度熱が入ると熱中して他が目に入らなくなる性質だからね僕。他の勉強に支障をきたしたら困るもの。浅く広くうろ覚え、が基本。この前の雷って秒速150~200kmくらいじゃね? ってのもうろ覚えだからね。光の速度も秒速10万kmだったか30万kmだったかすらうろ覚えだし。でもこれらに関しては理科の勉強でどっちにしろやることになりそうだし、その内図書館で調べておこう。

 

 あれ? なんの話だったっけ。

 

「あ、それなら僕も行かせてもらっていいかい? アリサちゃん」

「あぁ、別に良いわよ? そうだ、どうせだったらこのメンバーでまた集まらない?」

「それは良いね」

「うん、私も土曜日は予定無いから大丈夫なの」

「私も大丈夫」

「ええんやないか? どうせ来週はワイも暇やし」

「来週も、じゃないの? アンタの場合」

「ハハハ、何を言うとるんやバーニング。わいは男女問わず平日休日問わず引っ張りだこがデフォやで?」

「バーニング言うな! そういうこと言うなら家にあげないでおこうかしら?」

「アリサ、愛しとるで。もう半端なさすぎるくらいの愛があるんで、是非とも週末は一緒にいたいと思うんやけどどうやろうか」

「……む、むずがゆいからそういうこと言うのやめてくれないかしらっ?」

 

 虎次郎くんをからかおうとしたアリサちゃんが、虎次郎くんによって陥落した。っていうか、もう完全にアリサちゃん落ちてるな~。虎次郎くん愛情表現ストレートだもんな~……誰に対してもそうだけど、ふざけて言うのかと思ったら今の言い方もちょっと熱こもってて本気感があったし。

 

 ……ところですっごい下世話な話だけど、虎次郎くんってまだ精通してないよね? アリサちゃんも初潮まだだよね? なんでこんな小さい頃から男と女って感じがぷんぷんするデレ具合なの? お互い。

 もっとさ、もっと小学生で、しかも低学年なんだから爽やかにというか、こう……ねぇ?

 お互い異性としての認識はしてないんだけど、でも大切な人で、手を普通に繋いじゃったりして、それをからかわれると男の子の方がちょっとうろたえて手を離しちゃって女の子に寂しそうな顔されて、で、男の子もなんだか寂しくてその気持ちを誤魔化すためにからかってきた奴等に言い返して追い掛け回したりするんだけど、結局は女の子のところに戻ってきて「ごめんね? その……でも、僕……恋人とかそういうのはよくわかんないけど、でも君のこと好きなのは……その、間違いないよ」とか顔を真っ赤にしながら言っちゃったりなんかしちゃったりして、女の子も「うん……その……私も、君のこと、好きだよ? お父さんとお母さんに負けないくらい」とか顔を真っ赤にしながら言って、お互いまた手を結んで、女の子がちょっとおませな子なら男の子のほっぺにキスしちゃったりなんかして……。

 

 ……ストロベリーだね!! あっまあまだね!! 僕もそんな恋愛がしてみたいな!! まぁ今の穢れた心じゃ出来ないこと請け合いだけどね!!

 

 いやぁこんなこと考えてたのがバレてたら虎次郎くんにスイーツ脳だと笑われてしまうね。僕は割と好きなんだけど、こういう甘々な展開。多少の紆余曲折はあっても、絶対に最後はハッピーエンドで終わるラブコメとか純愛物とか大好物だからね僕。読みながら足をバタバタさせて「身体がむずがゆいぃぃ」とか言いながら枕に顔をうずめて暴れちゃうタイプだからね、僕。

 

 そこ、少女趣味だとか言うな。僕は前世からこういう人間だ。

 

「すずかとヨッシーは?」

「あ、私も大丈夫だよ」

「あ、ぼ、僕も大丈夫だよバニングスさん!!」

「ヨッシー? バニングスじゃなくてアリサよ。友達なんだから名前で呼んでいいのよ?」

「う、うん、了解アリサちゃん!」

 

 ……意識飛ばしてると良いことが起きるのかしら!! なに? 今度はわんわんパラダイスご招待確定なの!? いいいいやっはあぁぁぁぁぁぁ!!

 あ、うん。それとアリサちゃん名前呼びOKのお許しが出たね。わ~い。

 

 え? アリサちゃんに対する反応が薄い? ごめん。わんわんパラダイスご招待という感動的事件が起きたのでそこは見逃してください。

 

「じゃあ決定ね!! 来週土曜日の今日の集合と同じ時間で!!」

「すずかお嬢様~、ケージ他数点お持ちしましたよ~」

 

 お、話がまとまったところで丁度ファリンさん来た。なんという空気を読むメイドさん。誰だあの人をドジっ子だなどという情報を僕にくれたのは。あ、アニメ本編だ。じゃあいいや。

 

 

 

 その後、もらったケージにアインちゃんを入れて僕は再び虎次郎くん、高町兄妹と共に家路へと着いた。

 え? 皆でわいわいしてた時に恭也さんどこにいたのかって? おいおい、それを聴くのは野暮ってもんだよ。まぁただひとつだけ言えるのは、会話に忍さんも参加していなかったということだね。

 

 ……あれ、ところで次って温泉の回じゃなかったっけ? 来週の月曜日祝日だから連休だし、土日って高町一家と月村一家で宿泊旅行じゃないの?

 

 ……まぁ、どうでもいいや! わんわんパラダイスだよわんわんパラダイス!! そして今日から僕の家はにゃんにゃんパラダイスだよ! アインちゃんしかいないけどね! それでも僕にとってはパラダイス!!

 あ、そういえばお父さんに猫飼っていいか確認するの忘れてた。まぁ大丈夫だよね? 猫アレルギーあったりしないよね? お父さん。

 

 ……大丈夫、だよね?



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9.プールと青春の一コマ

 諸君、日曜日の午後である。

 見たまえ、この晴れ渡った空、まさに五月晴れ、という奴ではないかね? もっとも、今は四月なのだがね! ついでに言えば屋内なので空は見えないのだがね!

 眼下に広がる水の平原は青々と輝き、時折あがる飛沫が光を反射し、まるで世界の全てを祝福しているかのような光景ではないかね!!

 

 あ、お前誰だって? どうも、佐藤です。

 

「いや~、今月入って二度目やけど、やっぱえぇなぁ~プールはえぇなぁ~」

「君の場合はプールが、じゃなくて水着のお姉さんが、じゃないのかい?」

「何を当たり前のこと言っとるんや? なぁヨッシー?」

「いや、君は小学三年生であるということをそろそろ自覚したほうがいいと思うよ虎次郎くん。ちょっとマセすぎだと思うよ僕は」

「やれやれ……年中発情期のヨッシーならわかってくれると思うとったんやけどなぁ……」

「なにその不名誉な称号!? 僕いつそんな様子見せたの!? どちらかといったらそれは天ヶ崎くんとか虎次郎くんだよね!?」

「佐藤くん、この場にいない人間の悪口とは関心しないね」

「俺ココにいるだろうが!? おいコラ、刹那てめぇマジで喧嘩売ってんのか? っつうかモブ、てめぇもプールに沈めるぞコラ」

 

 え~、会話の内容で分かったかもしれませんが、僕達は今プールに来ています。

 メンバーは虎次郎くん、刹那、僕、そして何故か悠馬。なんで居るのコイツ。僕びっくりなんだけど。刹那もあんだけ怖い目にあったのに割とあっさり受け入れてるのが凄い。

 やっぱアレか、手加減されてたのわかってたのか。そして女の子いないのに悠馬はよく参加したな。やっぱこいつ実はいいやつなんじゃないか? 変態だけど。それとあんだけ勢い良くなのはちゃんのディバインバスター喰らって遥かお空の彼方に飛ばされておいてお前よくそんなにピンピンしてるね。

 

「せやで? たまには男だけで盛り上がろうやないかっちゅうこのワイの心配りを、いくらユウマンがウザいからって不意にしたらあかんよ?」

「トラ、おいトラ、てめぇからまず最初に沈めるぞ?」

「虎次郎くん、僕は一応女の子だからね?」

「身体は男やろ? 水着は女物やけど」

「……虎次郎くん。君さ、デリカシーって物をそろそろ知るべきじゃないかな?」

 

 え~っと、ごめん。周りが濃すぎてちょっとコメント追いつかない。

 微妙に涙目な刹那と、ニヤニヤ意地悪そうな笑いを浮かべる虎次郎くん、そして憤懣やるかたなしといった様子なんだけどそういえば一度も手を出さない悠馬。なんとなく力関係が透けて見えるね、本当に。

 で、とりあえず虎次郎くんが先ほどコメントしたように、今回のプールへの集合は虎次郎くんが企画した「ドキッ! 男だらけの水着大会! 恋バナがあったらハハッワロス」が開催された結果らしい。

 

 なんでもつい先日もなのはちゃん達とも来たそうなのだが、その時はあんまりゆっくり遊んでいられなかったので改めて遊びたかった、ということらしい。

 

 ちなみに水着解説だけど、別にいらないよね? 野郎ばっかりなんだし。皆トランクスタイプだよ、ってだけ言えば分かるでしょ? あと虎次郎くんは相変わらずメガネ着用である。

 あ、でも一応一人だけ女物を着用の刹那はパレオだっけ? なんか腰に青い布地のひらひらしたのがついてて、胸はぺったんこなのに(男なんだから当たり前)上にも青い水着(ビキニよりは布面積多い。アレなんて言うんだろ、名前わからん)を着用して、その上に白い半そでの薄いTシャツを着ていて、おなかのところにポケットがついてる。ちなみに背中にうさぎさんの可愛らしい絵が描かれてます。かわいい。

 こういう格好されると、顔と体格も相まって知らない人が見たら完璧に美少女である。

 

 あ、今更だけど何で四月にプールなんだよ、寒いだろ、バカなの? 死ぬの? って思うでしょ? 残念、温水プールでした!!

 ……あ、ごめん。なんでもない。気にしないで。

 

「大丈夫や、女の子、特に美少女に対してのデリカシーは人一倍もっとるからな、ワイ」

「おかしいな虎次郎くん、君の目の前に美少女が一人いるのが見えないかい?」

「女装してるだけの男の娘なら見えるな」

「せやな」

「君達は……君たちは色々と人の、人の心の機微を分かろうよ! そろそろ僕も泣くよ!? なんなの!? 折角僕の中身知ってる人だけだから女の子として振舞えると思ってたのに!!」

 

 虎次郎くんと悠馬の地味な口撃に刹那がガチ泣きしそうな雰囲気である。

 あ~、周囲のお客さんがちらちらこっち見てるよ? ほら、なんかヒソヒソ言ってるよ? 完全に君達可愛い女の事を泣かせている男の子二人組って思われてるよ?

 

「虎次郎くん、君が天ヶ崎くんと同類扱いされるのは忍びないから進言しておくよ。今すぐ佐々木くんに謝ったほうがいいよ。佐々木くん可愛いのは事実じゃない」

「うぅ……」

「てめぇは本気で殴られてぇのかモブ!?」

「な、なんてことや……こんな腐れ外道と同類にされるのは勘弁や!! すまん、すまんかったな刹那!! いや、せっちゃん!! 可愛いで! めっさ可愛いで! ぶっちゃけコレなんも知らんかったらワイ口説き落としてるで!」

「ほ、ほう? そうかい? ふふふ……いやはや、まぁ……うん、咄嗟のお世辞でも嬉しいよ虎次郎くん。ありがとう。……佐藤くんもありがとう。でも可愛いと思うなら、せめて今はくん付けはやめてくれないかな……色々思うところがあるんだよ……」

「え、あ、なんかごめん。えっと、佐々木さん」

「……あれ? 佐々木でその口調やと――」

「!?」

 

 いけない虎次郎!! そこから先は言ってはいけないよ! 僕も今気付いたけど!!

 

「ん? どうしたんだい虎次郎くん」

「ん? いや、あれ……? なんやったっけ。あ、そんでコレからどないする? ワイはウォータースライダーいきたいんやけど」

「……なるほど、ふん、やるな、トラのくせに頭が働く」

「ん? なにがや?」

「いや、分かってる。くくく、大丈夫だ。俺も協力してやるよ。行くぞ」

「あ、ちょ、待ちぃや! ほなヨッシー、刹那! 二時になったらまたここで集合や!」

 

 え? なんかよくわからん内に悠馬が先導して歩き始めて、虎次郎くんもその後を追っかけていっちゃうんだけど。あれ?

 ……僕と刹那だけ置いていかれても困るんだけど?

 

「……佐々木さん、どうする?」

「僕はウォータースライダーはちょっと……」

「まぁ……その格好ならそうだよね……僕も酔いそうだからやめておくよ……」

 

 参ったな……どっちにしろあの二人とは別れることになってたのか。っていうか、虎次郎くんはそれが分かってたからバラけるの前提であんなこと言って悠馬とウォータースライダーに向かっていったのか。

 僕が乗り物酔い酷いのあいつは知ってるからなぁ……ウォータースライダーも多分アウトだろうし。

 

「……えっと……」

「あ、あ~っと、佐々木さん、とりあえずその辺に座ろうか。その格好からして泳ぎたい訳じゃないんでしょ?」

「あ、あぁうん。まぁ、ね。少人数で競泳とかなら楽しめるんだけど、こう人がごみごみしているところだと……アハハ」

「そ、そうなんだ。僕は元々泳いだりしない人だから人がいようがいまいが競泳すらできないや。アハハ」

 

 ……き、気まずいよ!

 お互いに、「あ、」とか如何にもその場しのぎで会話してますな声が台詞の前についてるし、なにお互いのこの乾いた笑い! 虎次郎くんお前なんなの!? 誘ったなら最後まで責任持ってエスコートしてよ! 昨日で大幅に上がった好感度が今時が満ちるごとに音を立てて下がっていくよ!? 呼び捨てにするぞコラ! 心の中だけで!

 

「あ~、そ、そういえば佐藤くんはお昼は食べてきたのかい?」

「え? あ~、あ、うん。一応。あ、佐々木さんは食べてこなかったの?」

「いや、なにぶん急な誘いだったものでね。お昼を後回しにして水着の用意をしていたら時間がギリギリで……」

「あぁ……まぁ女の子の準備って時間かかるもんね……」

「……え?」

「え?」

 

 恥ずかしそうに笑う刹那に「こいつ、可愛いぞ!?」とか思ってたら、何故か驚いた顔でこっちを見られた。なんぞ?

 

「今、女の子って言った?」

「え、言ったけど、うん、それが?」

「お、女の子だと思ってくれるのかい!?」

「えぇ!? 佐々木さん今日一日女の子として過ごすってさっき自分で言ってたじゃない!?」

 

 なに、なんでこんなに食いついてくんのこの人!! なんでこんな目をキラキラさせて身を乗り出してんの!? やめて!? 僕BLの気は無いのに君の外見のせいで、ちょっと胸がきゅんきゅんしちゃうから!!

 

「あ、い、いや、そうなんだけどね? その……そこまであっさりと、うん、あっさりと受け入れてくれるとは思ってなかったから」

「あ~……いや、前世云々言っちゃう痛い人だというのは承知してるけど、心が女の子だっていうなら尊重してあげたいじゃない」

「痛い人……君は……君は僕を喜ばせたいのかい? それとも貶めたいのかい……?」

 

 え~、なにこの人面倒くさい。痛い人は事実なんだから認めておこうよ。そもそも僕を転生者だと勝手に決め付けて前世がどうとか言い出したのが君の運の尽きというものだよ刹那。

 

「え、ごめん。痛い人だって自覚なかったんだね……」

「……ねぇ、泣いていいかな?」

「あ、ごめんなさい。痛いけど可愛い人でした。はい」

「あんまりフォローだと感じられないんだけど佐藤くん……」

 

 睨まれるけど、そんな涙目じゃあ怖くないぜ! むしろちょっときゅんとするぜ! 特に身を乗り出しながらだから視点がほぼ同じくらいの位置だしね!

 

「いや、だって……ねぇ?」

「……はぁ……まぁいいよ。えっと、じゃあ僕そういう訳だからココで座って待ってるよ。佐藤くんも佐藤くんで泳いできたら?」

「え……完全に泳がないの? せめてプールに足だけ入れてジャブジャブしたりしないの? 佐々木さん本気で何しにきたの?」

「ねぇ、アレかい? もしかして僕佐藤くんに嫌われてるのかな? それお前みたいなやつがなんで来たのって言いたいのかな? あのさ、そろそろ、本気で僕は泣いてもいいと思う頃合だと思うげどどう゛がな゛?」

 

 既に、既に泣いてるよ刹那!?

 滅茶苦茶鼻声じゃないか!! ダバダバは出てないけど、涙ぽろんぽろん落ちてるよ!? やめて!? お前外見は女の子なんだから、滅茶苦茶罪悪感湧くから!

 

「ご、ごごごごごめん! そういう意味じゃなくて、ほら、せっかくプールに来たんだし、こんなところに一人でいたってつまらないでしょ!? えっと、だからえっと……」

 

 だから、なんで君がここに来てるのか皆目検討がつかないんだけど、なんて台詞は言えないよ! 泣きが酷くなるよ! この後なんて言えばいいの!? 主人公!! 主人公補正の虎次郎さんカンバァーーック!!

 

「……ふふふ、なんだ、一応気を使ってぐれてなのか。ぞれなら許しであげるよ」

 

 あぁ良かった。あっさり泣きやんだ。全くなんなんだね、演技かね今のは。君の涙はやっすいね、とか思ってたらおなかのポケットからティッシュを取り出して鼻をかんでいた。

 ……ちょっと鼻声だったもんね今の台詞も! でも声音も可愛いもんだから不快じゃない! 不思議! このオリ主め!

 

「うん、なんかごめんね?」

「いや、良いよ。僕のことは気にしないで遊んでおいでよ。二時には虎次郎くん達も戻ってくるって言ってたんだしさ」

「いやいや、今一時ちょっと過ぎたとこだよ? 一時間近く座ってるだけなの?」

「待つのは慣れてるのさ、女の子だからね」

「そういうもんなの?」

「そういうものさ」

 

 うん、そんな微妙に悲しそうに微笑んで言われても……。いや、なんか笑ってるはずなのにさっきまで泣いてたせいか若干声震えてて強がってるようにしか見えないんですけど……。

 

「ん~……分かったよ。じゃあちょっとだけ遊んできてから戻ってくるね」

「ん、いってらっしゃい」

 

 立ち上がった僕に、小さく手を振る刹那。くっそぅ可愛いな。どうしてこいつ女の子じゃないのさ。

 まぁいいや、とりあえず一回更衣室に戻ってお金とってこよう。元々誘われたから来ただけでプールにあんま興味ないし、プールに付き物の売店でフランクフルトとかポテトとか買って食べたい。お昼は食べたけど虎次郎くんの誘いが急だったからおにぎり一個をバスの中で食べてきただけで実はちょっとお腹減ってるんだよね。

 

 ……べ、別に刹那に買ってきてあげるための口実な訳じゃないんだからね!!

 

 うん、ガチでお腹減った。

 

「ヒャッホー!!」

 

 あ、虎次郎くんが凄い勢いでウォータースライダーから落っこちてる。……何故か巨乳のお姉さんに背中から抱きつかれながら。

 

 そうか……なるほど……虎次郎も悠馬もそれが狙いだったのか……ッ!!

 おのれ、なんとうらやまけしからんことを……ッ!!

 

 まぁ良いけどね。うらやましいけど、僕は虎次郎くん達みたいにお姉さん方に自分から「僕のこと抱っこして一緒に滑ってください」なんて言い出せないし、っていうか、ああいうのって身長制限あった気がするから僕には元から出来ないような気もしてきたし。そもそも酔いそうだし。うらやましくなんかないし。全然羨ましくなんかないし。

 

 ほ、本当なんだからねっ!?

 

 ……ふぅ、脳内一人ツンデレごっこは楽しいなぁ。うふふ。更衣室入って、コインロッカーご開帳。マジックテープのお財布から千円取り出していざ行かん!!

 

 よし、刹那はちゃんと動かずにあそこにいるな。

 

 そういえばさ、プールにある売店ってそんなに美味しくないはずなのになんか釣られちゃうよね。海の家の具の少ないカレーみたいな感じ。値段と味的にはアレより良心的な気もするけど。

 とか考えつつ、幸いにもお昼をちょっとすぎていることから、食事用の席は粗方埋まってたけど順番待ちは二人くらいしかいなかったのでさっさと並ぶ。

 

 あ~、なに食べようかな。刹那の分もとなると数があったほうがいいよね。っていうかやっぱぼったぐり価格だなぁ……フランクフルト250円って……コンビニで同じもの100円くらいで売ってるよ? ポテトも300円……ちなみにカレーライス800円。どうせインスタントのチンするだけでできちゃうようなカレーのくせに! 原価100円もかかってないだろそのカレー! 売店パワーのせいでちょっと食べたいと思っちゃうけど!

 

「はい、ご注文はお決まりですか?」

「えっと……フランクフルト二本と、ポテトください」

「はい、千円お預かりします。二百円のお返しです。ちょっと待っててね?」

 

 ちょっと迷ったけど、結局その二つだけにすることにした。もう100円あったら刹那の分のポテトも買ったんだけども、やっぱりこういうところの基本はフランクフルトだよね。ビッグタイプもあったけど400円とか書いてあったから流石に買う気はしなかった。

 

 あ、でもビッグフランクとポテト二つにして、フランクをわけっこするという手もあったな。まぁもう注文しちゃったしいっか。

 

「はい、お待たせしました。熱いから気をつけてね?」

「は~い。ありがと~ございます」

 

 ペコリと店員さんに一礼してからフランクとポテトを受け取り刹那のいたほうへと向かう。

 なんかお辞儀した時に店員さんがすっごい微笑ましいものを見た、と言わんばかりにこっちを見てたけど気にしない。僕はお店では注文の料理が届いた時や会計の時には店員さんにお礼を言う人なのだ。飲食店で偉そうにしてる人ってあんま良いイメージ無いのよね。

 で、刹那は……あぁ、如何にも退屈そうに足をぶらぶらさせながらボーっとしてる。

 

「佐々木さん。はいどーぞ」

「ん? 随分早かったね佐藤く……ん?」

 

 フランクフルトを一本差し出しながら声をかけたら、刹那は笑顔を浮かべながらこちらを振り向いた瞬間に表情が一気に冷めた。

 

「佐藤くん? これはなんのつもりかな?」

「え? フランクフルトだけど」

「そういうことを言ってるんじゃないよ。なんのつもり?」

「え? なにが?」

 

 ……ごめん。なんで僕怒られてるの? いや、質問されてる訳だけど、その顔と微妙に震える声で完全に怒ってるってことくらい分かるよ? 僕だって。

 

「施しのつもり?」

「ほどこしってまた大げさな……友達がお腹減ってるって言ってたから、自分の買うついでに買ってきただけだよ?」

「……ふぅん。まぁ、いいけど。でも僕それ嫌いなんだよね。だからいらないよ」

 

 つ、冷たい、冷たいよ!?

 なんで僕こんな冷たくされてんの今!? どちらかといったらありがとうとか言われる立場じゃないの!? 僕きみの分奢りで買ってきたんだよ刹那さん!?

 い、いや待て、もしかしたら刹那はフランクフルトに何か嫌な思い出があるだけかもしれない。昔フランクフルトに腕を噛まれたとか。いや、それは犬とかか。フランクフルト生き物じゃねぇよ、落ち着け僕。

 

「えっと……あ、じゃあポテト食べる?」

「いや、別にいらな――」

 

 明らかに断わろうとした刹那の腹が、ぐぅ、と可愛らしい音をたてた。

 ……うむ。おなか減っているのだね?

 

「……まぁ、ポテトなら」

「うん、じゃあどうぞ!」

 

 ふぅ……。

 あっぶねぇぇ!! 変な地雷はギリギリ回避できたよ!! 良かったよ!! ポテトさんありがとう!! 本当は僕が食べたかったんだけど、僕フランク二つで我慢するね!!

 

「……なんかボソボソしてあんまり美味しくないね、このポテト」

「え、奢ってもらっておいてそれを言っちゃいますか佐々木さん」

「別に君に頼んだ覚えはないんだけど。なに? 金返せって? 別にいいよ? でも今日は手持ちが帰りのバス代くらいしか無いから明日でいいかな」

「い、いや、そこまで言ってないよ。っていうかごめん。なんかごめん」

「ふん」

 

 あっれ~? おかしいな。全く他意の無い善意だけの奢りのつもりだったのにちょっと冷たすぎるよ刹那さん? なに、そんなに人に奢られるの嫌いなの?

 

「ね、ねぇ佐々木さん?」

「なにかな。僕はこの美味しくないポテトを消化する作業で忙しいんだけど」

 

 冷たすぎるよね!? 泣いていいかな僕!? あと声をかけるごとに少しずつ自然に距離置くのやめてくんないかな、地味にへこむよ!?

 

「あ、いや、あの、えっと、その」

「ハッキリしない男の人って嫌いなんだよね」

 

 ごめん涙出てきました!!

 

「あの、あのさ、佐々木さんって人におごられるのって嫌いなタイプだった……?」

「そうだね。頼んでもいないのに一方的に物を恵んだつもりになって、恩着せがましく接してくる男は大嫌いだね」

 

 ごめんなさぁぁぁぁぁい!!

 

 ごめんなさい、もう僕勝手なことしません。金輪際刹那には何も買ってきません。うぅ……僕そんなに押し付けがましい、恩着せがましい態度だった……?

 もしかして今までも虎次郎にもそんなこと思われてる時とかあった? あ、弁当の時とか? そうだよね、男が男に弁当作ってきたら、気色悪いよね。僕なにやってたんだろうね。

 

「……って、な、泣いてるのかい佐藤くん」

「生まれできでごめんばざい」

 

 もう嫌だ!! なんで僕こんな扱い受けなきゃいけないのさ! いくらモブだからって、いくら刹那が主人公の立ち位置だからって流石に酷いよ!! 僕だって今は小学三年生なんだよ!! 心はガラスのように割れやすいんだよ!! 自分でも訳わかんないくらい感情がグルグルまわってるよ!! 子供の頃の感情制御って大変なんだよ!!

 

「い、いや、えっと、いや、あの、その……ご、ごめんなさい」

「びびよ……ぼぐがばるいんだぢ(いいよ、僕が悪いんだし)」

「……いや、……その、ごめん、ね。善意でしてもらったことに対する態度では、無かった……よね」

「うぐぅ……」

 

 分かってんならなんなのさ君の態度は……僕のガラスのハートは既にひび割れが全体に広がっているよ!?

 

「あぁもう……ほら、ティッシュ貸してあげるから」

「あびがどう……」

 

 うぅ、お鼻チーンだよ。ちくせう。一枚じゃ足らんよ。もっかいチーンするよ。

 

「うぅ……言っておくけどティッシュは一回使ったら返せないよ」

「いや、貸すってそういう意味じゃないよ!? 僕も流石に使われたティッシュを返されても困るよ!! 泣いてる割に君は人の揚げ足取りに走るんだね!?」

 

 うるせぇやバーロー。僕の中でお前に対する好感度はどんどん落ちちゃってたからね? 今更そんなノリの良いツッコミキャラなところを発揮しても駄目だからね?

 

「むぅ……」

「いや……えっと、その、ごめんね。他意無く奢られるのは初めて……いや、虎次郎くんがいたか。口説かれたけど。……えっと、まぁそういう訳で反応に困っただけなんだ。そう、俗に言うツンデレという奴なんだ」

「あんな冷たいツンデレがあってなるものか!!」

 

 僕が何も知らないお子様だと思ってバカにするなよ刹那! ツンデレの本来の意味が「最初はツンツンしてるのに、仲良くなってくるとデレデレになる」であることも知ってるんだぞ! ちなみに「照れ隠しにツンツンしてるけど実は内心デレデレ」って意味のツンデレの元祖は巣作りする竜の婚約者キャラだという話をきいたことがあるが、事実は不明だよ! あれ諸説あるからね! いろんな古い作品知ってる人たちは「この子こそ真の元祖ツンデレヒロインだ!」とか論争する人もいるからね!

 

 ごめん、なんの話だったっけ!

 

「……えっとさ、佐藤くんって両親は?」

「血は繋がってないけど父親が一人いるよ。ダンディなおじさまだよ。ちょっと涙もろいけど」

「あ……ごめん」

「いいよ。気にしてないしお父さん良い人だし」

「……そっか。ありがとう。お父さんのこと好き?」

「家族愛的な意味でならこれ以上ないくらい好きだよ。もし僕が娘だったならば将来はお父さんのお嫁さんになるー、と無邪気に高校に上がっても言っていた可能性があるよ」

「いや、高校生でその発言はちょっと危ない子だと思う」

 

 うん、僕も自分で言ってそう思った。

 っていうか、僕がもし娘だったら、おとうさん、このおようふくスースーするよ? が現実の物に……。

 

「ならねぇよ!! 落ち着け僕!?」

「え!? いきなり何佐藤くん!?」

 

 ごめん刹那、ちょっと今はそっとしておいて!!

 お父さんごめんなさい! 貴方の息子は現在着実に駄目な子に育っていきつつあります!! あと見なかったことにするにはあの本はちょっとインパクトがありすぎました!!

 

「ご、ごめんなんでもないよ佐々木さん」

「いや、なんかごめんね?」

「大丈夫……多分。僕はお父さんを信じてるから」

「ごめん。君がどんな想像をしていたのかちょっと心配になってきたけど、訊かないでおくよ」

 

 うん、それが正解だと思う。僕も言いたくない。

 

「ま、まぁでも、仲が良くて羨ましいよ。良いお父さんなんだね」

「うん、僕の知る限り最高の父親であると思っているよ。そういう佐々木さんは?」

「あぁ……僕? ……言わなきゃ駄目かい……?」

 

 え、なにその微妙な反応。自分から家族の話振っておいて自分は言いたくなかった感じ?

 

「あ、いや、言いたくないならいいよ? その……家庭の事情なんて人それぞれだし」

「あはは……君が言うと説得力があるね。……しかし意外だ。君ってなんの不自由も無く、幸せな家庭で育ってきたってイメージがあったよ」

「え~、なにそれ」

「いや、だって普段からボヤーっとしてるし、世間ズレしてるけど誰かれ問わず友達作ってる感じもしないから箱入り娘ならぬ箱入り息子、みたいな?」

「定価いくらくらいの?」

「いや……売り物じゃ、ないよ……」

 

 え、ごめん。なんかツッコミもらえるかと思ったら微妙に悲しい顔されたんだけど、外した!?

 

「いや、でもなんとなくそう思われても仕方ない感じはあるよ~。実際お父さん過保護だし、愛されてるからね僕」

「ははは、羨ましい限りだね」

 

 あ、良かった元に戻った。

 いいね、やっぱり美少女の笑顔は心の清涼剤だよ。

 

 ……この子、男の子だけどね!! 忘れてはいけないよみんな!! 外見でほっこりしても、僕はBLには走らないからね!!

 

 

 こうしてなんだかんだで、虎次郎くん達が戻ってくるまで僕と刹那の歓談は続いた。

 うん、やっぱり一時期正統派主人公の匂いをさせていただけあって、話してると面白い人で、先ほどの冷たい態度の件も平謝りされた。

 どうも男性から奢られるということ自体が嫌な思い出ばかりあるらしくて、虎次郎くんみたいに心許してる相手からならまだしも、それ以外の人から奢られると自分でもよく分からない嫌悪感で機嫌が悪くなるのだとか。

 何があったのかは知らないけれど、なんとも不便なことである。あと、お返しに今度何か奢ってくれるとのことだったので忘れられないことを祈りつつ期待しようと思う。

 

 そして、虎次郎くん達が戻ってきたのは二時どころか三時まわってたよ。どんだけ楽しんできたんだよ。

 ちなみに歓談中もたまに二人の声聴こえていた。その度にちらっと目をやると、二人ともその度に別の女の人に抱っこされていたという。

 あ、いや、悠馬は一人で滑ってる時もあったし、悠馬の場合は身長が結構あるから逆にどう見ても年上な女性を背後から抱きしめて滑ってる時もあった。

 リア充死ねと言いたいところだが、とりあえず爆発するのは悠馬だけで良いよ。虎次郎くんは我が親愛なる親友殿だから許す。

 

 

 

 

 結局、僕と刹那は一回もプールに入らなかった。あの後は虎次郎くんと悠馬が流れるプールで売店のカレーを賭けて逆走レースしたり、波の出るプールでビート盤を組み合わせて作ったサーフボードもどきを使って虎次郎くんが波乗りしていたら近くにいた悠馬にぶつかって大破し、勢い良くプールに落下して二人して波に飲まれたり(勿論監視員さんに怒られた。というかよくもまぁビート盤であんなしっかりしたサーフボード作れるものである。波と虎次郎くんの体重であっさりと壊れそうなものだが、もしかして特殊能力とか魔法使ったんではあるまいな? デバイス疑惑のあるメガネかけっぱなしだしありえる)など実に小学生らしい(?)プール遊びの様子を見せていて、それを僕と刹那は笑いながら見ていた。

 

「いや~、おもろかったな~。入館料千五百円という枷さえなければ毎週来とったで」

「まぁ……それは俺も認めるな。この俺のあまりのイケメンっぷりに女がわらわら集まってくるのは困り物だが」

 

 フッ、とまだ少し濡れている髪をかきあげる悠馬。非常に不本意ながらイケメンなのでそいう格好付けた仕草が似合っている。

 

「うん、まぁ見てて面白かったよ、二人とも」

「とか言う割にヨッシー結局一回もプール入らんかったなぁ。別にカナヅチって訳やなかったやろ?」

「ふん、画面に映させる手間すら製作陣が面倒くさがるほどのモブなんだろ」

「僕の扱い製作陣でどんだけ低いの!?」

「基本、目は棒線一本で口と鼻は無し、画面の最奥で女子の後ろに半分だけ映ってるレベルだ」

「モブどころか背景化してるよソレ!?」

 

 どういうことさ!? っていうか悠馬もそういう返し出来たんだね!! お兄さんびっくりだ!! 僕は君より身長30~40センチ以上低いからお兄さんには見えないって? ごめんね! 僕も君が年下どころか同世代にすら見えないよ!

 

 ……あ、っていうか、全く邪気の無い笑み浮かべると悠馬も本当に普通の爽やかなイケメンだな。お前いっつもその表情でいろよ。残念なことに銀髪オッドアイというアレな外見のせいで厨二病くささは抜けてないけど。

 

 とか思ってたら、刹那がクスクスと、そりゃあもう可愛らしく笑い出した。

 

「また、皆で来ようね」

 

 ……この子は、どうして本当にTSしちゃったんだろうね。可愛らしいよ、本当。一瞬男の子だって忘れるくらい。

 それくらい、本当に無邪気に、子供らしい可愛らしい笑みを浮かべる姿があった。

 

「……せやな。ほなら、来月とか、どうや?」

「俺は、別にいいぞ? どうしてもって言うなら、暇があれば来てやる」

「えっと、僕も大丈夫だよ。また来たいと思うし」

「……みんな、ありがと」

 

 オレンジ色に染まっている空と、男三人が照れたように笑って、女の子が一人無邪気に微笑んでいる。

 なんだか、青春の一コマみたいだなぁ、と、そう思った。

 

 



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10.猫観察日記と犬天国

 遂に、この日が来た。土曜日である!! わんわんパラダイスの日である!!

 

 え、月曜から金曜の描写はどうしたって? あぁはいはい、ダイジェストでお知らせしますよ?

 

 月曜日、虎次郎くんが悠馬にコブラツイストをかける。

 罪名「ろくな理由も無く人を蹴っ飛ばした罪」。

 この前イケメン同級生にローキックしていたのを前にこっそり虎次郎くんに告げ口しておいたのである。で、月曜日に双方から確認を取った後に断罪した訳である。悠馬もあっさり認めていた。

 

 で、わざわざ月曜日に断罪したのは被害者の前でやることで、被害者にもスカッとしてもらうためだそうな。あと珍しく刹那とすずかちゃんが話しかけてきたので、アインの話題で少し話す。

 ……邪推だけど、刹那が来たからすずかちゃんも来たんじゃないかなぁと思ってる。アインの話を嬉しそうに聴きながらも、ちらちらと刹那に視線をやってたし。

 その後にアリサちゃんがやってきて土曜日のわんわんパラダイス集合が朝の9時頃からに変更のお知らせを受けた。なんと午後からは皆で温泉にお泊り会ということになったのである。旅館への送迎はバニングス家のリムジン。

 

 やっぱりあの時点で忘れてただけなのか、と思いつつ、「いきなり言われても宿泊旅行するほどのお金をいきなりは出せ無いよ?」と言うと、その辺はバニングス家の方で出してくれるとのこと。虎次郎くんや刹那も「金が無いから旅館への宿泊参加はちょっとキツい」と言っていたので親に頼んだらしい。

 元々予定が大幅に変更になったのは自分が言い出したことであって、前からしてた約束を忘れて提案した自分の責任でもあるし、虎次郎くんと刹那の分を出すならもう一人分、それも子供の分の宿泊費なんて大した差ではないから別に構わないとか。流石は金持ちである。

 

 なんでもわんわんパラダイス招待を約束した時点では温泉旅行を忘れていたようなのだが、約束した土曜日には家族旅行の予定があったことを月村家高町家共に家の人に言われて思い出したらしい。アリサちゃんの方は自力で思い出したので二人に電話して日曜日に三人娘で集合し、連休の予定をどう弄ってわんわんパラダイスご招待をねじ込むかを相談していたとのこと。

 

 ちなみにファリンさんは話し合いの場に居たのになんで思い出さなかったのか、とメイド(大)さんに怒られたとか。やっぱりファリンさんのドジっこ属性持ちは宿命だったらしい。

 しかし部外者の僕がすぐに思い出して、当事者達は言われるまで思い出さなかったというのも不思議な話である。

 そして一番大事なのが、アインは餌で釣らなくてもお手をすることが判明したこと。超賢い。三回ほど右左と繰り返してから首をかしげて「にゃ~?」とか言うもんだから、かつおぶしあげて、ねこじゃらしで遊んだった。

 

 火曜日、刹那が風邪でお休み。また喧嘩という名の戦闘でもしたのかとそれとなく刹那が休んだ理由を虎次郎くんに訊いてみたが、「電話してみたんやけど、本当にただの風邪やそうやで」と苦笑していた。

 あと、朝にはかしまし三人娘にまたもや悠馬がアタックしていたが、微妙な顔(アリサちゃんは睨んでいた)をする三人の空気を読んだ虎次郎くんに絡まれて引き摺られていった。その後は悠馬は他の女子とイチャイチャ。

 

 虎次郎くんは休み時間によって色んなグループ(かしまし三人娘含む)と話を弾ませていた。あいつのカリスマすげぇ。

 あと一番の事件は、アインが朝の新聞をくわえてひきずりながら持ってきた。賢いってレベルじゃない。この子は僕の子。オヤツとしてかつお節をサービスしてあげた。でもそろそろ新しいオヤツを買わなければと水曜日の帰りに買ってくることにする。

 

 水曜日、刹那は出席したものの顔色が悪く、二時間目が終わると保健室へと行ったまま教室には戻らなかった。お昼に見舞いに行ったが「ちょっと吐き気と寒気が酷くてね」とベッドに入ったままで言っていたので、安静にするよう言伝してその日はそのまま別れる。あ、そういえば朝アリサちゃんから挨拶された。珍しい。お友達発言は本気だったようだ。ちょっと嬉しい。

 

 そしてスーパーで猫のおやつ用焼きささみとやらが105円で売っているのを発見して10個ほど購入。これで今月のお小遣いは赤字となったけどへそくりがあるので大丈夫。帰ったらアインが玄関でお出迎えしてすりすりしてくれた。あまりの可愛さにさっそくおやつをあげそうになったけど我慢。

こういうのは褒めるようなことをした時にあげないと、貰えるのが当然だと思って猫が増長してしまうのだ。

 

 ……あれ? でも玄関でお出迎えは褒められる行為だよね! いや、でもさすがにそれだけで毎日オヤツあげてたら毎月のお小遣いが赤字になってしまう。なによりキャットフードも別口で買うのだからこれではすぐにへそくりも底を尽いてしまう!

 今日は、今日はあげないんだから! とあげるのを我慢しながらもふもふした。可愛かった。

 

 木曜日、刹那がまたお休みし、虎次郎くんまで休みだと先生が告げる。お陰で悠馬のストッパー役がいなくなったからかしまし三人娘に絡みまくっていた。あいつは懲りないな、と思った。

 

 え、止めなかったのかって? あ、一応悠馬には話しかけてみて気を逸らそうと試みたけど、睨まれて舌打ちされたところでアリサちゃんが「小さい子をイジメるな」と怒ったことで悠馬が退散していった。これでは助けられたのがどちらかわかりはしない。

 

 虎次郎くんの自宅に電話して休んだ理由を訊いてみると、「刹那の風邪が移ったっぽいんやけど、大したこと無いから明日にはいけるわ」と笑って返された。

 電話した時の声の様子から大丈夫なんだろうと思って安心し、アインに二足歩行の芸を伝授する。いきなり三歩ほど歩けた。この子マジ賢い。マジスペック高い。

 今度は二足立ちして、音楽に合わせて前足二本と首を動かす芸を仕込もうと思う。三十分ほどやってたらアインがうとうとしだしたので、かつお節をちょろっと食べさせてあげた後に抱っこして寝床に置いてあげた。焼きささみは明日この芸が進展したらあげようと思う。アインちゃんマジ天使。

 

 金曜日、刹那も虎次郎くんも出席。顔色もいつも通りで、アリサちゃんが虎次郎くんに「天ヶ崎がヨッシーをイジメていた」と言ったことで悠馬が逆四の字固めを喰らった。

 罪名「ワイの親友をイジメた罪」だそうだ。

 ありがたいけどアリサちゃん、虎次郎くん、僕そこまで気にしてなかったから別に良いのに……蹴られたわけでも無し。まぁアリサちゃん達が迷惑こうむったのは間違いないから罰として与えるのは良いんだけど。

 あと、刹那には体調は大丈夫なのかと訊いても「問題ないよ、むしろ今日は良いくらいだね」と朗らかに笑っていたのでわんわんパラダイスご招待は問題無いということだった。その後は虎次郎くんが如何に良い奴かという話題で話に花を咲かせた。

 

 そして帰宅後はお迎えしてくれたアインを部屋に連れ込んで、二足立ちと前足と首くいくいの芸の練習である。ちなみに曲はシャボン玉。曲に合わせて僕が唄いながらアインの背後から身体を支えてあげつつ手を掴んで、曲に合わせて交互にみょんみょん動かす。これを一回終える事に一口ぶんのかつお節をご褒美とし、三回目が終わったところで手を離してレッツトライ。

 

 するとどうでしょう! アインちゃんはニャーニャーと曲に合わせて唄いながら、お手手をふりふりどころか、尻尾まで振り振りするではないですか!!

 首はまだ仕込んでないから仕方ないけど、唄っている上に手だけじゃなくて尻尾も動かすとかこの子分かってるね! さすがは僕の愛娘だよ!

 ちょっとだけ音ずれてるけど、そこはご愛嬌だよ! 一曲見事に完走したので、僕は感極まって、でも驚かさない程度にパチパチと拍手をしてからポケットに忍ばせておいた焼きささみを取り出して手ずから与える。

 すると尻尾をゆっくりふりふりしながら上機嫌で食べ始めたのです!! もうね! もうね! この子ったら最高! 可愛すぎるよ! なにこの芸を覚える早さと従順さ! 僕、後ろから抱えながら手を持ってみょんみょんさせるのも二回目あたりで抵抗されるかと思ったのに抵抗しないし! もう、もう僕の人生いっぺんの悔い無し!

 

 ……ふぅ、いけないいけない。思い出しただけでこんなに語りが熱くなってしまった。つまりこの一週間を要約すると「アインちゃんマジ天使」である。

 あ、そういえば水曜に悠馬が階段で足踏み外しかけて手をわたわたと動かしている場面を見たよ。何事もなかったかのように取り繕ってたけど、非常に間抜けだった。どうでも良いけどね。それよりちゃんとアインの可愛さ伝わった? ねぇ、これで足りないならまだまだ語れるよ? え? そろそろ本編始めろ? やれやれせっかちだなぁ……。

 

 

 で、まぁそんな訳で土曜日は虎次郎くん、なのはちゃん、刹那、僕の三人でバス停で待ち合わせ。わんわんパラダイスへGOという話になり、今に至る。

 待ち合わせのバス停には虎次郎くんがいたが、まだなのはちゃんと刹那は来ていない。

 

「おはよ~さんやヨッシー。アインもおはようさんや」

「にゃ~」

 

 こちらを見かけると、すぐさま爽やかな笑顔で僕とアインに声をかけてくる虎次郎くん。

 あぁ、今ので分かる通り、僕の手にはアインの入ったケージがもたれている。

 原作でも温泉旅館にはユーノくんを普通に連れて行ってたし、大丈夫だとは思うけど一応確認したら、ペットOKとのことだったので同伴させたのだ。

 

 というか、もしペット同伴不可だった場合はわんわんパラダイスだけ堪能して帰るつもりであった。あぁ、アイン本当は抱っこして連れて行きたいけど、バスの中とかでそのままって訳にもいかないからケージの中。この子賢いから出してても言う事聞いてくれるんだけど、知らない人からしたらペット出したまま公共の乗り物使うなんて非常識にしか見えないもんね。

 

「おはよう、虎次郎くん。相変わらず早いね」

「おう、女の子を待たせたらあかんからな! 三十分前には来てたで!」

「デートの待ち合わせでも無いのに凄いね……」

「女の子との約束っちゅう点では変わりあらへんからな」

 

 ふふん、と得意げに胸を張る虎次郎くん。ちなみに彼の荷物はスポーツバッグひとつ。僕が丸まれば入れそうなくらいのサイズのものだ。あとは食べかけの海苔とか巻かれてない真っ白おにぎりを手に持っていた。

 

「その心意気は分かったけど、せめて朝ごはんくらいゆっくり食べてきたら良かったんじゃないの?」

「あぐ……んぐんぐ……あ~、なんちゅうか、寝坊してもうてなぁ……あんま時間なかったんよ」

「へ~、珍しいね。虎次郎くんが寝坊なんて」

「ほら、ワイ一昨日風邪で休んだやん? どうもまだ身体の調子が本調子やないみたいでな~。んぐんぐ」

 

 いや、困ったわ~、とカラカラ笑いながら、虎次郎くんがおにぎりの最後の欠片をパクリと食べる。

 

「大丈夫なの?」

「ん、おう、まぁせいぜいいつもなら出来る半回転ひねりバック宙が、普通のバック宙しかできんくなった程度の体調の不備や。問題ないで」

「普段出来たの!? 半回転ひねりバック宙を!?」

 

 なにそれ! 忍者じゃん! 完全に忍者の動きじゃん!

 

「おう、なんや? 見たいんなら体調完璧になった時に見せたるで」

「見る見る!! アレでしょ!? 背後から来た一撃を避けて、尚且つ着地した時には背後の敵を正面に捉えている、みたいな奴でしょ!? 流石だね虎次郎くん!」

 

 流石はチートオリ主! 身体能力チート具合も半端ないね!

 

「くっくっくっ、虎の一字は伊達やない、言うことやな」

 

 右手の中指でメガネをくいっと持ち上げてニヒルに言う虎次郎くん。くそぅかっこいいなコイツ。

 とかやってる内になのはちゃんが駆け足で手を振りながらこっちに向かってくるのが見えた。

 

「おはよ~、虎次郎くんく~ん、ヨッシーく~ん」

「おはよ~さんや、なのはちゃん。ユーノん」

「おはよう、なのはちゃん。ユーノくん」

 

 ふぅふぅとちょっと荒くなった呼吸を整えるなのはちゃんと、そのリュックから出てきてでなのはちゃんの肩に乗り、ペコリと頭を下げるユーノくん可愛いです。流石は原作主人公達だね! 愛らしいことこの上ないよ!

 特にユーノくん! その姿でちょこんと頭を下げられたら、もう可愛いとしか言えないよ! まぁアインには劣るけどね!

 

 ……あれ? ところでなのはちゃん、ユーノくんを入れるケージは……いや、ユーノくんならなのはちゃんが背負っている小さなリュックの中に隠れられるから問題ないか。

 

「ごめんね? もしかして待ってた? あ、アインちゃんもいるんだ。おはようアインちゃん」

「にゃ~」

「いや、わいらも今来たところや」

 

 ……この会話だけ聞くと、デートの約束してた時のカップルの会話だね。いや、別にだからどうしたって感じだけど。

 

「うん。それにまだ佐々木さんも来てないしね」

 

 会話に混ざっていいものか一瞬迷ったけど、別に甘々な空間が出来てる訳でもないので普通に混ざることにした。

 あぁ、ちなみに刹那のことは対外的には佐々木くんじゃなくて佐々木さん、と呼ぶようになったよ。ちょっと喜んでたけど、僕以外の人たちはその辺の微妙な違いに気づかないまま相変わらず“くん”呼びである。若干可哀想。アリサちゃんだけは呼び方の変化に気づいたのかちょっと僕を不思議そうな顔で見てたけども。それはさておき。

 

「あ、そうなんだ。珍しいね、刹那くんが一番後だなんて」

「確かにせやなぁ。……まぁでもそんな時もあるやろ。バスの時間まで10分ちょいあるんやし、適当に駄弁って待ってればええやろ。それよりなのはちゃん荷物えらい少ないんちゃうか?」

「あ、そうだね。お泊りに行くのにリュックだけ?」

 

 虎次郎くんの言葉に、僕もそこでようやくなのはちゃんの手荷物が少なすぎる事に気づいて少し驚いた。

 なにせ先週にゃんにゃんパラダイスに行った時と同じリュックを背負っているだけで、手荷物が何もないのだ。よくよく考えたらおかしい。

 僕ですらなのはちゃんが今背負っているバッグの三倍はあろうかという大きさのリュックを背負っている(中身は換えの下着や服、携帯ゲーム機とアインのキャットフードとオヤツの焼きささみとかつお節にねこじゃらしと毛糸玉。パジャマは旅館の浴衣でいいやと思って入れてない)というのに。

 

「お父さん達は先に旅館に行ってるから、荷物も一緒に持って行ってもらってるの」

「「あ~、なるほど(なぁ)」」

 

 それもそうだよね。いくら小学生でも女の子なんだからそれなりに荷物ある訳だしね。あまりにも荷物少ないからおかしいと思ったよ。

 そんな感じでベンチに座って三人でまったりと雑談していると、バスがやってきて目の前で止まってしまった。

 

「あれ、バスきちゃったね」

「あちゃ~……ちょい時間より早くきてもうたみたいやな……」

 

 二人が困った顔をして周囲を見るが、まだ刹那の姿は無い。すると虎次郎くんが仕方ない、とため息を吐いて立ち上がる。

 

「しゃあない。時刻表よりちょっと早く着いたんやし、運転手さんに頼んで時刻表の時間まで待ってもらおうや。幸い客は乗ってへんみたいやし」

「そうだね。えっと、なのはちゃん携帯持ってたよね? 佐々木さんの番号わかる?」

「あ、うん、わかるの。電話かけてみるね?」

「ほならワイは運転手のおっちゃんに声かけてくるわ」

 

 う~ん、虎次郎くんは本当イケメンだ。僕だったら運転手さんに気を使っちゃって待っててもらうなんて出来ないよ。普通に一本遅らせて遅刻覚悟で友達待つ程度だと思う。友達のためにそうやってパッと動けるのは素直に凄いと。こういうところはチートオリ主とか関係なく凄いよね。

 

「あ、もしもし刹那くん? そろそろ約束の時間だけど今どこに……え? 風邪? 昨日やっぱり無理してたの?」

 

 え? 刹那また風邪? ぶり返したの?

 電話中のなのはちゃんがもらした内容に驚く。昨日は結構大丈夫そうだったけれども。実は結構しんどかったのだろうか。

 

「うん……うん。うん……そっかぁ。うん、わかったの。じゃあ皆には私から伝えておくね? ゆっくり休んでね? あ、もし良くなったら電話くれればお父さんにお迎えいってくれるように頼んでおくから! うん、じゃあね?」

「佐々木さん、風邪ぶりかえしたの?」

「うん、だいぶ鼻声になってて辛そうだったよ。大丈夫かなぁ……」

「心配だね……」

 

 う~ん……昨日会った時は全然問題無さそうだったんだけどなぁ……もしかしてインフルとか? でもそれならとっくにそう先生が言ってるよな。っていうか、そもそもチートオリ主達って病気になるもんなの? 回復魔法とかあるんだろうし、刹那は時間操作使える以上は自分の時間を戻して風邪を引く前の状態に戻すとか出来ないのかな。

 

「おう、おっちゃんえぇ人で助かったわ。あと五分ちょい待ってくれるそうやで」

「あ、虎次郎くん、それが刹那くんまた風邪悪化したみたい」

「……それ、ほんまか?」

「うん。よっぽど酷いみたい」

「あ~……そうなんか……」

 

 ポリポリと頬をかいてため息を吐く虎次郎くん。

 うん、まぁ気持ちは分かるよ。ちょっと可哀想だよね。せっかくのわんわんパラダイスが……昨日もだいぶ楽しみにしてたみたいなのに。

 

「しゃあないな。すまんなのはちゃん、ヨッシー、悪いんやけどワイ今日はアリサん家パス。温泉も途中参加や。ちょいと刹那の様子見てくるわ」

 

 とか思ってたら、突然の虎次郎くんの発言である。

 

「えぇ!? でもアリサちゃん虎次郎くん来るの楽しみに……えっと、あの、私が行くよ!」

 

 なのはちゃん、それストレートにアリサちゃんが虎次郎くんのこと好きだって情報流したようなもんだよ? まぁ虎次郎くんもわかってるだろうし、僕も知ってることだから良いけど。

 

「いや、なのはちゃん刹那の家わからんやろ? それになのはちゃん、おとぎ話の基本を破ったらあかんで」

「おとぎ話の基本?」

「お姫様は王子様が連れ出すもんや。せやろ?」

 

 ニカッ、と爽やかイケメンオーラの溢れる笑顔を浮かべて虎次郎くんがくっさい台詞をのたまった。

 くそぅ、お前は悠馬と違って歳相応の外見なんだから、あんまりそういうオーラ出すなよ、かっこいいけどさ。台詞もお前が言うと全然くさくないんだけどさ。かっこいいよ虎次郎くん。

 でも刹那は男の子だよ。いや、心は女の子かもしれんけども。

 

「ほえぇ……」

 

 あ、なのはちゃんが虎次郎くんの発言に頬を染めながらお目目をパチクリしてるよ。だよね。こんな台詞、恥ずかしくて中々言えないもんね。そして小学校低学年の女の子からしたら本気で王子様に見えるよね、今のこいつ。

 

「まぁ、あいつは外見お姫様でも身体は王子様やけどな」

 

 けど、そのイケメンオーラを自ら誤魔化すように笑って霧散させる虎次郎くん。

 

「そういう訳やから、なのはちゃんヨッシーのエスコート任せたで?」

「うん! わかったの! 任せて!」

「うん、お願……待って!? 僕がエスコートされる側なの?!」

 

 あんまりにも自然な流れで言うから聞き逃すところだったよ! 男としての威厳とかなんとか、そういうのが僕にもあるんだよ!? そこは僕になのはちゃんのエスコート頼もうよ!

 

「ほな、任せたでぇぇ!!」

「まっかせてぇぇ!!」

「むしろ任すなら僕に任せてよぉぉ!?」

 

 しかし僕の悲鳴はあっさり無視され、虎次郎くんは名前の如く虎のような速度でダッシュして曲がり角へと消えていった。くっそぅ。本当にお前の呼び名を今度から虎さんにしてやろうか。

 

「よし、じゃあ行こうヨッシーくん! ユーノくん!」

「僕の言い分も聞いてよ!? って、ちょっと待ってなのはちゃん」

「うわっ、なに? ヨッシーくん」

 

 僕の言い分完全無視で、肩にユーノくんを乗せてバスに乗り込もうとするなのはちゃんのリュックの上についてる取っ手部分を掴んで止め、僕は怒り顔を作った。

 

「駄目でしょなのはちゃん。いくら今はお客さんが他にいなくても、ユーノくんはちゃんとケージなりなんなり、外に出ないような物に入れておかないと。非常識でしょ?」

「え? でもユーノくんは別に他の人に迷惑かけたりしないよ?」

 

 きょとん、と首を傾げるなのはちゃんと、そうだそうだと言わんばかりにこっちに寄って来てうんうん頷くユーノくんだが、僕はこんなナリでも前世では元社会人、つまり精神的に大人であると自負する者として言わねばならんのである! 実はかなり幼児退行化してる部分もあるのも若干自覚してるけどね!

 

「駄目だよ、いいかい? ユーノくんが迷惑をかけないような賢いフェレットだっていうのは僕も知ってるよ? でもそれを言ったらアインだって賢いから他人様(ひとさま)に迷惑かけるような子じゃないけど、肝心なのはその事実を僕達しか知らないってこと。

 何も知らない人からしたら動物が公共の乗り物の中にいたらオイタをするんじゃないか考えて嫌な顔をする人だっているし、アレルギー持ってる人だっているし、単純に動物が嫌いな人が乗るかもしれない。そういう人達からしたら、動物がいつ何をしでかすか分からない状態で近くに居られたら嫌なものなの。

 なのはちゃんだって、他の人に迷惑かけたいと思わないし、ユーノくんを見て嫌な顔されたら嫌でしょ?」

「あ、でもたまにワンちゃんが普通に乗ってたりするよ?」

「ああいうのは介助犬って言って、人間に迷惑をかけないように特別厳しい教育を受けた犬なの! 今回はやてちゃんが貰い受けるわんこみたいなやつ。眼が見えない人とか耳が聞こえない人とか手足が不自由な人とかの、使えない器官の代わりになってくれてる犬で、世間的に認められてるけど、ユーノくん違うでしょ?」

「え、えっと……うん……」

 

 ……なんか、なのはちゃんが目を白黒させてるけど、そんなに僕にこういうこと言われるの意外だったのだろうか。

 

「にゃはは……なんだかヨッシーくんお父さんみたいだね」

「アインという一児を持つ父だからね」

 

 君、それはお父さんではなくてただの飼い主だよね、とでも言いたげなユーノくんの視線を感じるが、知ったこっちゃないね!

 

「うん、分かったよ。ごめんねユーノくん、ちょっとだけリュックの中で我慢してもらっていい?」

「きゅい」

 

 何回か聴いてるはずなのに初めて聴いた気がする、ユーノくんの鳴き声。カワユスなぁ……。

 

「にゃ~」

 

 あ、勿論お前が一番可愛いよアイン!

 

「じゃ、乗ろうか。……っていうか、すいません待っていただいて……」

 

 なのはちゃんが納得してリュックを開けたので、僕はやれやれと思いながらバスに乗ろうとして、こちらを微笑ましそうに見ている運転手さんに気づいたので頭を下げた。

 

「なに、良いよ。他にお客さんもいないからね。それにしても良く出来た弟くんだね。その歳でそこまでちゃんと考えられる子はなかなかいないよ? お姉ちゃんも負けないようにね?」

 

 ……頭の下げ損だったかなぁ?

 

「あ……アハハ……」

 

 後ろでなのはちゃんが苦笑している。

 まぁいいけどさ……慣れてるし……この身長じゃ仕方ないよね……。

 最早文句を言う気力もなく、力なく笑って、僕はなのはちゃんと共にバスに乗り込むのであった。

 

 

 

 諸君、分かっているね?

 わんわんパラダイスである。もう一度言う。わんわんパラダイスである。大事なことなのだけれど、流石に二週連続でこのネタはくどいのでやめておく。

 

 さて、玄関先でわざわざ待っていてくれた如何にも老執事って感じの柔らかい雰囲気を身に纏った執事さんに案内されて、月村邸より更に立派な門をくぐった先に存在するのが我らがわんわんパラダイスことバニングス邸である。見たまえ、ここまで聴こえてくるだろう? 天使(わんこ)達の歌(なき)声が……。

 

 っていうか、既におっきいわんこが三匹、ちっこいわんこが5匹ほどが視界に入っている。各々が自由に遊びまわるその姿はまさに雪が降っても降らなくても庭を駆け回る我らが天使(わんこ)達。

 

 ……まだだ、まだ耐えろ僕。今日は虎次郎くんがいないからなのはちゃん一人じゃ僕の暴走を制御できないだろうし、我慢するんだ。

 ついでに言うと、もし暴走したままの僕を見た後に虎次郎くんが不参加になったことがアリサちゃんに知れたら、彼女の機嫌は地べたを這いずる哀れな生贄(ぼく)に急降下爆撃を開始することだろう。

 それくらいウザいからね、僕の小動物見て暴走する癖は、と、このように自覚はしてるのさ! 尤も直す気はさらさら無いがね!

 この年齢でこの外見のうちだけだからね、わんにゃんを抱きしめて暴走するのが許されるのは。僕も大の大人の男性が小動物抱きしめて「わんこ(にゃんこ)カワユスなぁ」とか言ってたら、流石に苦笑いするし。

 

 まぁなんにしても可愛いなぁわんこも……。

 うふふ……あ、アインをケージから出してやらないと。

 

「ごめんなアイン。今出してやるからな~」

「にゃ~」

「……あ! ユーノくんリュックに入れっぱなし!」

 

 あぁ、そういえばそうだったねなのはちゃん。

 

『ユーノくん大丈夫? ……あれ? 返事が無い? ユーノくん!? しっかりして!?』

 

 なのはちゃん、そういえば背中のリュックにユーノくん入ってるの忘れたまま椅子に思いっきりもたれかかったりしてたもんね。ユーノくん、惜しい命を散らしたものだ……フェレットなんてかなりのレアモフモフなのに……。

 あとなのはちゃん、近くにいるせいか念話だだ漏れだよ。僕が聴こえてるって言う訳にいかないから指摘しないけど。

 

『うん……大丈夫だよなのは……勢い良く背もたれとなのはに押しつぶされた時は死ぬかと思ったけど……』

『ご、ごめんね? 本当にごめんね?』

『いや……大丈夫大丈夫……』

 

 強く生きろ、ユーノくん。あと久々に君をもふもふしたいんだけどどうだろうか。結局君に触れたのって一度だけだからね。僕の好感度を上げておくとちょっぴり幸せがあるらしいからオススメだよ? フェレット形態の人に効果あんのか知らないけど。

 

 あ、メイドさん来た。え? ケージ預かっておいてくれるんですか? どうも。お願いします。

 

 ……って、おぉ! あそこにいるのはチワワではないか! ぷるぷるしとる!! なんぞ可愛い!!

 

 わんわん! わんわんお! おっきいわんわんちっちゃいわんわんにわふわふしたいお!!

 

「にゃ~」

 

 ……おっと、落ち着けビークール。今日の僕は一味違うんだぜ? そう、なにせ今の僕にはおにゃんこ大明神アイン様がおられるからね? ふふふ……よそ様のわんこに見惚れて暴走し、アインちゃんをおろそかにしたりはしないのさ。

 

 あ! ゴールデンレトリバーが寝転んでる! でっけぇ! かっけぇ! すっげ~毛並みいいんだけど!

 背中に乗っかって抱きつきながらもふもふしつつ、僕を乗せながら走るゴールデンレトリバーにキャーキャー言いながら遊びたい!

 あ、起き上がったらちっこいレトリバーが出てきた! 親子なの!? 親子なんだね!? イケメンなお母さんを持って幸せだね君たち! とっても可愛いよ!

 

「うわ~! わんこ! わんこ! おっきいわんことちっちゃいわんこで親子わんこ~! きゃ~! もふもふしたい~!」

「にゃ~」

 

 あ、ご、ごめんな? 違うんだよ。浮気じゃないんだよ? アイン。勿論僕にとって一番のもふもふ要員は君だよ? まいりとるぷりんせすさんだよ? 愛しの愛娘さんだよ?

 ただ、ちょっと、ちょっとね? こう、なに? にゃんこの保護してあげたくなるというか、こう遊んであげたくなる魅力とは違ってね?

 わんこさんには遊んでほしくなるような、とってもかわいらしい魅力に溢れてるのだよ。だから、決してアインよりもあっちが良いって言う訳ではないんだよ。

 そう、例えるならばアインは米。僕が生きていく上で欠かせない存在。それに対してわんこはチョコレートパフェ、或いはいちごパフェ。たまに、そう、たまにね? たまぁにお腹一杯食べてみたいな、って思っちゃうような感じ? うん、あくまで主食とオヤツの好きの違いみたいな? アインならわかってくれるよね?

 

「にゃ~?」

 

 くそう、抱っこされながらちょっと小首を傾げるアインちゃんマジ天使。分かってくれてない? いや、大丈夫。僕とアインには見えない絆がしっかり繋がっているから、きっとわかってくれるはずだ。

 

「えっと……よ、ヨッシーくん? 急にどうしたのかな?」

「……え? 何が?」

 

 いきなりなのはちゃんに声をかけられて僕は顔を向けた。

 あれ? いつのまにか抜かれてたのか僕。なのはちゃんが先を歩いてたよ? あ、老執事さんが微笑ましいものを見るような目でこっちを見てる。なに?

 

「えっと……わんこがどうとか?」

「……おぉう」

 

 しまった。僕は妄想を口に出していたか……ッ!!

 どこ!? わんこ語りのどのあたりからどのあたりまで口で語っちゃってた!?

 

「あの……う~んと、アインちゃんがいるんだし今はちょっとだけ我慢して、とりあえずはアリサちゃんに挨拶してからお犬さん達と遊ぼうね?」

「うん、わかったよなのはちゃん!」

 

 そうだね! アリサちゃんガン無視でわんこと戯れてたら、せっかく友人にランクアップした僕の立ち位置は急降下だね! 下手したらわんわんパラダイスに二度と入れてくれないね! それだけは勘弁だし、今は我慢するよなのはちゃん!

 だから、その微妙にドン引きな感じの表情と、一歩後ずさるのはやめてくれないかな!

 ……すいません。はい、自重します。

 

『バスに乗るときに理路整然となのはを諭した彼はどこにいったんだろうね、なのは』

『えっと……こっちが素なんじゃないかなぁ、って思うよ?』

 

 君達、その念話聴こえてるからね? 念話はちゃんと一方向だけに向かうようにやってね?

 とか思ってもツッコミ入れられないまま、虎次郎くんがいないので話し相手がいなくて暇なので、なのはちゃんとユーノくんの念話をぼーっとしながら聴きつつ歩き、館のドアへとたどり着く僕となのはちゃん。

 

 す、凄い! 僕の身長の五倍以上のエネルギーゲインがいやなんでもない。

 

 でっかい扉だな~。縦幅何メートルくらいあんの? これ。少なくとも3~4メートルはあるよね。

 あ、でも月村邸もにゃんこと戯れること優先してたからそこまで気づかなかったけど、よくよく考えたらあの家も玄関のドアは充分でかかったな。屋敷の大きさは流石に使用人がそれなりにいるっぽいここよりも見た感じ一回り以上小さかった気がするけど。

 いやはや上には上がいるもんだ。庭師っぽい人とかメイドさんっぽい人とかもまだ家に入ってないのにちらほら見えてるし、わんわんパラダイスであると同時ににんにんパラダイスでもあるわけだね、ここは。

 あ、にんにんって人間ね。忍者じゃないよ?

 

 ……忍者のパラダイスってそれはそれで面白そうだね! 忍者村みたいな感じかな! 行ってみたいね! 今の状況と全く関係なくてどうでもいい話しだけどね!

 

「さぁ、どうぞお入りください、高町様、佐藤様」

 

 あ、今佐藤様って言われた! 久々に刹那以外からヨッシー以外の名で呼ばれた気がする! 嬉しい!

 って、違う違う。それよりもちゃんと家にあがる時は挨拶言わないと。

 

「「お邪魔します」」

 

 なのはちゃんと同時に言ってぺこりと頭を下げる。

 

 そして顔をあげると目に入るのは、扉の向こうの桃源郷(わんわんぱらだいす)。犬の種類って殆ど知らないんだけど、なんかモップみたいな毛並みの犬とか、プードルとか、柴犬とか柴犬とか柴犬とか、ブルドッグとか、ブサかわからイケメンまでよりどりみどりじゃないですか!!

 

 え? なんで柴犬連呼したのかって? いや、単純に視界に柴犬の数が多かったというのもあるけど、ここに並んでいるわんこメンバーの中では僕は柴犬派だからです。

 

「アリサちゃんまた犬増やしたんだ……」

「とても良い事だね……」

「にゃ~」

 

 あ、そういえば今更だけどアインはわんこ怖がったりしないんだね。僕そのへんよく考えないで連れてきちゃったけど、この子いっつも通りの呑気な顔してにゃーにゃー言ってるわ。良い事だ。

 やっぱアレかな? 飼い主に似て優しいのかな、ここのわんこ達も。で、それを動物の直感的なものでわかってるとか。

 いや、単純にアインが呑気な子なだけだな。流石に話したことも無い相手を理解しちゃうほど賢い子ではないだろう。

 

「ぅ~、ワン!」

「「うわっ!?」」

 

 うわ、びっくりした! いつの間にか足元に来てた柴犬わんこに吠えられた!

 

「にゃ~?」

 

 あ、でもアインは相変わらず平和そうだよ!

 

「ワンワン!」

「にゃ!」

「わふ?」

「にゃ~ん」

「わふ」

 

 とか思ったらアインとわんこが会話っぽいことしてから、わんこは僕となのはちゃんを一瞥して去っていったよ!

 なに? アインお前わんこと会話できんの!? にゃんこ語とわんこ語のバイリンガルなの!?

 

「レスター、駄目ですよお客様に吠え掛かっては。そんな悪い子にはオヤツ抜きです」

「わふ!?」

 

 あ、離れたところでお世話係っぽいメイドさんに怒られた。がんばれレスターくん。

 

 

 

 

 あれ、なんか急に場面が変わった気がする。気のせいか? まぁいいや。

 

 目の前にはアリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、なのはちゃんがわんこ達と戯れている姿が。

 美少女達がわんこ達と戯れている姿とか、眼福すぎるよね!!

 

 で、アリサちゃんは虎次郎くんが来れないとなると目に見えてガッカリしていた(声のトーンが落ちてなんかどよ~んとした空気を一瞬出してた)けれど、すぐに気を取り直してた。刹那に関しては「そっかぁ」で割とあっさりだったけど、今度はすずかちゃんがガッカリしていた。分かりやすいなこの子たち。

 

 そして僕は今現在、ゴールデンレトリバーのでっかいのの背中にアインと一緒にのっかって、もふもふしながらのんびり歩いてもらっています。

 うへへ、こういう時だけは低身長軽体重でよかったって思うね。

 

「いや~……どの子もべっぴんさんやし、迷ってまうな~」

「ふふん、今日ここにいる子達はうちの中でも五本の指に入るほどの知性を持つ、介助犬用訓練済みエリートわんちゃん達なんだから当然ね!」

 

 あ、僕がのっかってるこの子も含めて? おぉ、どうりで文句ひとつ言わないまま僕を乗せて優雅にてこてこ歩くと思ったよ。お前エリートわんこさんだったんだね。ごめんね、なんか僕みたいな一般ぴーぽーなモブ乗せてもらっちゃって。

 

「せやな~、皆お利口さんやしな~……う~ん……」

 

 迷うよね~、僕でも迷うよコレは。どのわんこも可愛いもんね。

 ところでアリサちゃん、はやてちゃんがチワワ抱きかかえてるけど、その子も介助犬訓練された子なの? 五本の指に入るって事は、僕が乗っかってるわんこさんとチワワも合わせてピッタリ5匹なんだけど。あとの三匹の内二匹は現在すずかちゃん、なのはちゃんと戯れて、一匹ははやてちゃんの前で伏せの体勢をとったまま尻尾をパタパタさせて待機している。

 

 ……あれ? 気付いたけど僕、今現在原作キャラしか周囲にいなくね?

 

 ……いや、別にいちいち気にする必要は無いか。でも虎次郎くんいないと僕、この子達とまともに会話できないんだよね。いや、話しかければ普通に応対してくれるし、向こうもたまに話しを振ってくれたりすることもあるんだけど、やっぱり女の子しかいないところに男の子一人だと気まずいよね。

 よく虎次郎くんはあんなに会話広げられるよ。そういう意味では真っ先にお願いしてエリートわんこのレナード(アリサちゃんがそう紹介してた)さんに乗せてもらったのは僥倖だったかもしれない。

 

「わふ」

 

 あ、レナードさんもそう思う? だよね、それに君以外の四匹って全員女の子でしょ? アリサちゃんがちゃん付けで呼んでたし。やっぱり僕の気持ち分かってくれたりする?

 

「わふ」

 

 話しが分かるじゃないかレナードさん。うんうん、やっぱりこの年齢だと同性といたほうが気楽でなんか楽しいよね。

 いや、別に女の子が嫌なわけじゃないよ? 好きだけどさ、この年頃の子との接し方ってちょっとわからんのですよ。

 前世の時なら普通に子供相手ということでおにいちゃんぶって相手できたけど、今同年代な訳で、でも同年代=精神年齢同じじゃないわけで。

 まぁ最近は特に“肉体に精神が引っ張られる”状態が起きてるので完全に子供の心が理解できないわけじゃないんだけど。

 

 ……あ~、虎次郎くんと喋りたい。気兼ねなく話せるのあいつだけなんだよなぁ……後は虎次郎くんほどじゃないけど次点で刹那か、隣の席の太郎くん? あぁ、彼の場合は会話のキャッチボールがまともにできないからおしゃべりって感じじゃない。僕ツッコミ入れるだけになるし。

 

「にゃ~?」

 

 あ、ごめんごめん。アインは女の子だけど付き合いとっても気楽だし大好きだよ?

 

「にゃ!」

「わふ」

 

 おぉ、嬉しそうに鳴いてくれるじゃないのアイン。そしてわんこさん。いや、名前で呼ぶべきか。レナードさん。

 背中に乗ってる僕達を器用に首を動かして見ながらその微笑ましい物を見るような生暖かい目をやめて?

 よもや人間だけじゃなくてわんこにまでそんな目を向けられるとは思わなかったよ?

 っていうか、よくよく考えたら君達はちょっと僕の考えてること分かりすぎじゃない? 僕一回も口にだしてないよね?

 

「にゃあ」

「わふぅ」

 

 え? お前は考えが顔に出やすいって? マジで? お前さんがた二人そろってため息吐かんばかりに呆れた声出さないでよ。

 ……あれ? 僕も何気にこいつらの考え分かってね? いや、違うか。

 僕がそう思ってるだけでもしかしたら「こいつ家で私にべたべたしてきてセクハラが酷いんだけど、どう思います? レナードさん」「ふむ。それはけしからんな。どうだいアインちゃん、ここは一つ我らが主アリサお嬢様に身を寄せるというのは」とかいう会話をしていた可能性だってある。

 

 って、なんだって!? そんな、やめてくれ! 思いとどまってくれアイン! アインにセクハラ(もふもふ)するのちょっとだけ控えるから許して! あ、でもやっぱりもふもふは譲れないからオヤツ増やすから!

 

「よっし、決めたわ! やっぱりこのリーンちゃんにするわ!」

 

 脳内で若干パニック起こしてたら事態は推移しておりました。

 はやてちゃんが叫んで指差したのはなのはちゃんやすずかちゃん、僕のこともほぼガン無視(挨拶した時に視線を向けて「わふ」と声をかけるくらいはしてきたけど)して、はやての目の前でずっと伏せて待機しっぱなしだったゴールデンレトリバーのリーンちゃん(♀)。名前に惹かれるものでもあったのだろうか。夜天の書の人格にリィンフォースって名前を自分で考えたこともあるはやてちゃんだしな。

 

 ……あれ? 夜天の書の機能を統括していた人格がリィンフォースだよね? なんか銀髪っぽいお姉さんがそれだった気がするんだけど。……う~ん、なんか微妙に違ったような気もしてきた。どうなんだ? 原作知識一期のうろ覚えのみ、以降の話は二次創作系のうろ覚え知識のみという状態はしょっちゅう自信が無くなる。

 

 まぁいいや、どうせ僕関わらないし、実際に見る機会あったらその時に知ればいいよね。

 

「オッケー! じゃあリーン、今日から貴女のご主人様はこっちのはやてだからね? ちゃんと守ってあげるのよ!」

「わん!」

 

 おぉ、すっげぇ嬉しそうだリーンちゃん。尻尾ぱたぱたして元気良くお返事したよ。

 あれ、でも介助犬の訓練受けたわんこって吠えちゃいけないんじゃなかった? いや、今の場合は別に良いのか。敵意ある恫喝の吠え声って感じじゃなくて、むしろ「この私にどんと任せてくださいよお嬢様!」とでも言いたげな声だったし。そもそも具体的にどういう訓練受けてるのかすら僕知らないしね。

 

「アリサお嬢様、昼食の準備が出来ました」

 

 あ、メイドさん来た。

 そっか、もうお昼? あれ、でも腕時計見るとまだ十二時になってないよ?

 

「あ、丁度良かったわ。それじゃあ皆、ご飯食べて旅館に行きましょう? ちょっと早いけどなのはやすずかのご家族待たせる訳にもいかないし」

「では皆様、食堂までご案内いたします」

 

 え? もしかしてわんわんパラダイスの至福の時間、もう終わりなの?

 え? 嘘だよね? 僕まだ全然堪能してないよ? 暴走できないからむしろ欲求不満がたまっちゃってるよ? 待って? せめてレナードさんの上でもうちょっともふらせて!

 

「わふ」

 

 え? 任せろって? あ、食堂まで運んでくれるの? マジで? やべぇ、レナードさんマジイケメン。

 

「にゃ~」

 

 あ、良かったねって? うん、良かった。あぁ実にもふもふだなぁ。



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11.温泉と少年の悩み

 わんわんパラダイスが……僕のわんわんパラダイスが……もっともふもふしたかったよレナードさん……。

 

「にゃ~」

 

 え? 何、アイン。私がいるでしょ、って? いや、そうだけどさ……うん、ごめんね心配かけて。

 

 ……さて、気を取り直すとするか。

 しかし本当、なんでわんわんパラダイス体験コーナーがあんなにも時間短いのか。

 にゃんにゃんパラダイスを見習って欲しい。昼から夕方までにゃんにゃんできたんだから。もしかして原作に無い話だしさっさと物語展開させろやという世界の意志でも働いてるのだろうか?

 あれですか、尺の問題? もしかして「巻きでお願いします」の状態? まぁ流石に確かに物語ずっと進まないのもアレだもんね。

 特に主役の虎次郎くんがいないわけですしね!

 

 さてそんなわけで、アリサちゃんには「虎次郎くん連れて来るからまた遊びにきていい?」って訊いたらOK出たから、わんわんパラダイスはまたそのうちだ。

 ちなみにアリサちゃんは「べ、別にアイツいなくたって良いわよ? っていうか、なんでアイツの名前がで、出てく、くくくるのかしら?」とか超動揺してた。ツンデレさんは反応が分かりやすくてなによりです。

 レナードも別れの際に「ふっ、また来いよ坊主」みたいな視線を向けて一声挨拶くれたし、楽しみにしておこう。でもレナード、僕の方が年上だからね、と一応は言っておいたけど鼻で笑われた。

 

 さて、で、問題があった。

 

 皆で和気藹々と(僕もアインの話しで参加できた。にゃんこパワーは世界を救う)しながら温泉旅館についたのは良い。恭也さんが忍さんとべたべたしてたのも良い。家族公認みたいだし。

 あ、そうそう、アインの話といえば、シャボン玉の歌に合わせて手と尻尾で踊って唄えるアイドルになったことを自慢すると、すずかちゃんに怒られた。なんでもにゃんこが尻尾をうねうね動かすのは機嫌が悪いかららしい。

 つまり、アインは嫌々やっていたのだ――ッ!!

 この真実を知った時の僕ったらなかったね。アインに「ごめんね! もう無理やり変な芸を仕込んだりしないからね!」ってもふもふしながら謝ったら「にゃ? にゃ~……」と言って許してくれた。うん、あれは許してくれたんだと思う。尻尾動いてなかったし。

 

 でも芸そのものはちょっと見たいという皆さんのリクエストに応えて、試しにシャボン玉飛んだって唄い始めたらアインは合わせてにゃ~にゃ~と唄い始め、さらには車内で僕の膝の上に座りながらお手手を振り振りしてくれたじゃないか!!

 尻尾も動いてないという奇跡! そして眼が輝いていくかしまし四人娘と、負けじと何故かわふわふ唄い始めたリーンちゃん!

 一曲歌い終わるとそこにはもう感動の拍手の嵐! アインとリーンちゃんは四人娘に誘拐されてもふもふされていた!

 ふふふ、我が愛娘は最高だろう?

 ……でもアインとられちゃうと僕一人で寂しいから早めに返してね?

 

 とかいうことがあったよ。

 あれ? なんの話だっけ? ……あぁそうそう、旅館についてからの話しだったっけ。最近どうも意識が変な方向に飛ぶな。危ない人になってきてるね僕、やれやれだ。

 

 えっと、まぁ問題というのを一言で言うと、僕今一人ぼっちなのである。

 アインはいるけどそういうことじゃなくて、男が僕だけなの。あ、ユーノくんがいるけどユーノくんはなのはちゃんの傍から離れないし、アリサちゃんやはやてちゃんに捕まってもふもふされてたし。羨ましい。勿論ユーノくんがじゃなくてアリサちゃんとはやてちゃんが。

 

 でね、そう、もう分かったよね。ここで大きな問題があるの。

 

 いわずと知れたお風呂だよ。そもそも温泉旅館に来たんだからお風呂イベントは欠かせないよね。貴重なお色気シーンだし。深夜帯で視聴率狙うなら絶対必要だもんね。少なくとも今の僕はあんまり興味ないけど。

 でね、問題はね、僕がお風呂に誘われたことなの。

 

 もうわかった人がいるかもしれないけど、女湯にね。

 

 ……無理だよ!! 僕そんな度胸無いよ! 僕ちびっこいから男として見てないのは分かるけどね!? 男女三歳にして同衾せずみたいな感じの諺あるでしょ!? お風呂なんて論外だよ!!

 

 ここで、ここで我らがオリ主こと虎次郎がいたならば、彼ならば喜び勇んで特攻したことだろう。そして追い返されたことだろう。刹那の場合は普通に受け入れられそうなのが怖いけど。

 

 でもね、でもね、僕はモブ。誰もが認めるモブ。お友達になったとはいえ僕の立ち位置はあくまでモブ。そんな嬉し恥ずかしお色気イベントに巻き込まれた何が起きるかわからない。特に悠馬あたりにバレたら殺されかねない。

 

 そして、そんな度胸はない!!

 

 ここ大事だから何回でも言うからね? 僕にそんな甲斐性は無いからね? ナリはこれだし精通も来てないけど、精神的には大人の男の人だからね?

 いや、確かに、確かに魅力的なお誘いではあるし、男湯に行って殆ど面識の無い友達のお父さん(翠屋で何回か顔は会わせてるけど)やお兄さんと一緒にお風呂入るというのもちょっと抵抗はあるけども。

 

 だから僕は勿論逃げました。ユーノくんをお土産に強奪(でもかすめとるのは無理なので、女の子と入るのも恥ずかしいけど一人で風呂入るのも寂しいのでとお願い)して。

 なにせユーノくんも僕と同年代の男の子。そんな子に女湯、それも美女と美少女だけでスタイル良い人だけが全裸で身体洗いっこしたりしている場所に連れ込ませるなんて毒にしかなりません! ユーノくんがエロガッパになったらどうするんですか!

 いや、原作でエロガッパになってないから大丈夫だろうけど。でもユーなののカップリングの可能性を高めるとしたら、ユーノくんをただのフェレットと認識させないことが重要だよね。後々のユーノくんとなのはちゃんのお友達から進展無しの状態とかが多いみたいで転生主人公に寝取られてたりするし(二次創作でだけど)。

 

 まぁそれは建前で、本当に男一人でお風呂入るのが寂しかったのと、かつて大人の男性だった一人としてはユーノくん一人がそんな美味しい思いするなんて許せないからなんだけどね! このくらいの干渉は僕にも許されても良い筈だよね!

 

 

 

 

 そういう訳で現在の僕はお風呂なう。外に露天風呂があったのでそっちに入っています。だって恭也さんとか士郎さんと同じ風呂場とかガチガチに緊張するもん。

 緑川ボイス聴きながら一緒にお風呂入るとかその気が無くてもBLフラグが建つよ!!

 僕の頭の中で「ヨシ……お前はリンと生きるんだ……早く、いけぇぇ!!」みたいな台詞が流れるもん。そりゃあ惚れちゃうよね。ちなみに地味に台詞うろ覚えだけどそんな感じだったよね。

 え? リンって誰だよって? 知らないなら良いよ。僕の妄言だよ。

 

 で、ユーノくんとアインを、アリサちゃんが持ってきていた犬猫用石鹸シャンプーをユーノくん拉致ついでに頂いてきた(ちゃんと頼んで借りてきたよ?)のでそれを使って目や鼻、口にそれらが入らないように丁寧に洗ってあげたあと、手桶二つにぬるま湯を汲んできて二人(二匹)にはそこにゆっくり入ってもらっている。

 アインは熱かったり寒かったりしたら自分で逃げ出す子だし、ユーノくんも中身が人だから温泉に入りたかったら自分から来るだろう。

 

 いや~、目の前でフェレットとにゃんこが手桶に入ってのんびりしてるのを眺めながら入る温泉は格別ですなぁ……月見酒ならぬ猫見酒とか良いと思わない? アニマルテラピー効果できっと良い感じに酔えるよ。悪酔いなんてしないと思う。

 まぁ今の僕未成年どころか年齢一桁だし、そもそも前世でもあんまり酒飲まない人だったからやろうと思わないけど。

 

 あ~……極楽極楽……。

 

『ねぇ、ヨッシーくんだっけ?』

「う~ん? なに~? ぼくはよしつぐだよ~?」

『……やっぱり聴こえるんだね? 念話。少しでも魔力が無いと聴こえないように出力は絞ったんだけど』

「うん~? うん!?」

 

 えぇ!? なにさ!? びっくりしたじゃないか!? ユーノくん人が油断してる時に声かけてくるとかズルいよ!?

 

「いや、えっと、あれ~? なんだろう。今僕、何か声が聴こえた気がしたんだけど、気のせいかなぁ~?」

「今更感がバリバリだよ義嗣? くん」

「がっでむ!」

 

 くっそ、バレた! なんてこっただよ! ずっけぇよユーノくん!

 

 ……あ、いや、でもよく思い出したらこの前初フェイト戦で隠れて覗いてるとこ見られたし、そもそもあの時に声かけられてたわ。それを見逃してくれたのもユーノくんだったわ。ユーノくんマジ優しい。

 

「えっと……で、義嗣くん?」

「どうも、本来の名前を殆どの人が忘れている、切ないぼっち少年こと義嗣くんです」

「それは……確かになのはもヨッシーってしか知らないみたいだし確かに……なんというか、強く生きてね」

「うん、ありがとう。頑張る」

 

 ちょっと優しい言葉をかけてくれるユーノくんのやさしさに泣きそうです。そしてなのはちゃんが僕の名前を正しく覚えていないという確定情報をありがとうございます。

 

「で、えっと……なんで今話しかけてきたの?」

「いや、君と二人っきりになるなんてそう無い状況だしね。とりあえず、まずはアリサ達から助け出してくれてありがとう。僕もこんな格好とはいえ女湯に入れられたりしたら色々と思うところがあるからね……」

「あぁ……うん……なんだろう、君とは同属の香りがぷんぷんするよ」

 

 そういえばユーノくんもショタ属性持ちだったからね。ついでにフェレットの姿だから男としてどころか人間として見られていないという僕以上の悲惨さ。

 

「うん……何故だかその言葉を否定したいと思った僕がいるよ。なんかごめん」

「そこで……そこで謝っちゃうんだ……!?」

 

 ぺこりと頭を下げるユーノくんの姿は実に愛くるしい。愛くるしいけど、同属からも一緒にすんなと言われるとは思わなかったぜ僕も……ッ!!

 

「ご、ごめん……あ、で、その……え~っと、君もやっぱり、虎次郎や刹那たちみたいに何かレアスキルやデバイス持ちなのかい?」

「え、ごめん。僕にそんな能力欠片も無いです。そもそもレアスキルとかデバイスって何? あの虎次郎が出したにゃんこときつねさんの召喚魔法みたいなのってそれ? 僕も使えるようになるんならあの魔法使ってみたいんだけど。剣とか槍とかはいらない」

 

 剣とか槍は眺めたり素振りしたりするだけならなんか格好良くて良いけど、人間相手に真剣を使いたいとは思わないしね。そもそも僕は暴力反対。でも格闘技とかでやるのなら否定はしません。だって男の子だもの!

 

「あ~……そうなんだ……参ったね……魔力資質はあるみたいだし、彼らの友達みたいだからてっきり……そっか、完全に一般人の子だったんだ……」

 

 ごめんなさい。本当は知ってるし厳密に言うと僕もモブとはいえ転生者なので一般人ではないですが、スペック的には一般人なのは否定しません。

 っていうか、やっぱり僕にも魔力資質あるんだ。ちょっと嬉しいといえば嬉しいけど、リンカーコアがあるの確定したってことはA's編に入ったら襲われる可能性高いってことだよね……。

 

「え~っと……ごめん。よくわかんないんだけど、結局僕はにゃんことか呼ぶ魔法使えるの?」

「にゃ~?」

「あ、もちろんにゃんこの中ではアインが一番可愛いけどね? クイーンオブザにゃんこの称号はアインのためにあるようなものだから」

「へぇ、そんな称号があるの?」

「うん、僕が作った」

「あ……そ、そうなんだ」

 

 この称号は永遠にアインの物として不動の存在となるでせう。

 

「で? 使えるの?」

「いや……あれはそもそも僕も術式が分からないからなんとも……あんなの見たことないし……召喚魔法にしてもあんな生物達は聞いたこともないから僕にはちょっと分かりかねるね」

「そっかぁ。残念」

 

 まぁ、そうだよね。僕だってあんな魔法がこの世界にあるとは思えないし、大方虎次郎のオリジナル魔法だろう。

 

「え~っと……それでね、義嗣くん。君は……その、魔法のことを」

「あ、誰にも言ったりしないから安心していいよ。言ったところで荒唐無稽過ぎて誰も信じないだろうし、そもそも僕も物騒なこと嫌いだからね。え~っと、そういうわけなので記憶を消すとかそういった方向は無しでお願いね?」

「そこまでする気は元から無いよ、ありがとう。いや、でも少しホッとしたよ。僕先週からずっと君のこと気になっててね。

 なのはに訊いても君のことは殆ど知らないって言うから虎次郎なら、と思って訊いても“知らんなぁ、気のせいちゃうか?”で済ませるし、刹那だけは“魔法関係者じゃないかと思ってるけど、証拠として提示できるだけの確証はまだ無いからなんともいえないね”の一点張り、だったからね」

「そっかぁ……」

 

 ねぇユーノくん? 君今、あっさり僕のこと信じて自分の陣営の情報ボロボロ僕に洩らしてるけどいいの……?

 刹那が僕のこと疑ってるって情報、本人の僕がもう知ってるとはいえ、これ完全に君自分から自分の所属するチームに不利益な情報与えてるからね?

 あとなのはちゃんが殆ど知らないって言ってたのは当たり前ではあるんだけど、本当にお友達になったんだよね? 僕達、って思わず訊きたくなるよ?

 

「でも本当に良かったよ。正直僕もこれ以上人を巻き込みたくないって思ってたからね。なのはだって虎次郎や刹那がいなかったらきっと一人で無理をして、今頃倒れていたかもしれない。

 いや、最初の時もそうだし、その次の時も、必ずと言っていいほどジュエルシードを狙って現れた人たちは皆明らかに手練の魔道師だったし、特にこの前のフェイトと呼ばれていた子と、いつも虎次郎達には威嚇だけして、介入者にだけ攻撃していた悠馬が突然彼女についた時は別格だった。

 虎次郎の戦闘能力が高すぎて目立たなかったけど、戦闘能力は刹那との戦いを見た限りではどう見てもなのはより上だったし、悠馬だってデバイスを持っていなかったとはいえあの刹那を一方的に攻撃してたんだ。

 なのは一人じゃ絶対に勝てなかった。彼らの助けがなかったら、とっくになのはは大怪我していた。僕のせいで……」

 

 あれ、ユーノくんがなんか訥々(とつとつ)と語りだしたんだけど、なんなの? 僕別に聴かせてとか頼んだ覚え無いんだけど。

 いや、まぁ野次馬根性はありますので聴きますけどね! 何より原作の進行状況とか、改変され具合とか気になるしね。魔法とかの戦闘だって、巻き込まれない程度にだったら眺めたいと思う程度には興味あるし。折角ファンタジーな世界なんだもの。

 

 ……っていうか、初回のジュエルシード時から既に敵対してる勢力いたんだね……やっぱ転生者だよねそいつら。そして悠馬、最初からなのはちゃん側についてなかったんだね。フェイト出るまでは敵でも無かったみたいだけど……じゃあなんで虎次郎と刹那相手に喧嘩なんか起きたんだ……?

 

「戦力は確かに欲しい。でも、現地の何も知らない人間に頼むなんて、緊急時だったからこそなのはにはお願いしたけど、もっと早く虎次郎達に出会っていたらきっとなのはにジュエルシードの封印を手伝うことを頼む必要なんてなかった。

 いや、違う。そもそも僕がちゃんと戦えていれば……いや、もっと言うならジュエルシードの輸送をもっと厳重な警備と警戒のもとに行うよう管理局に要請してれば、護衛の艦を管理局に派遣してくれたかもしれないのに……それなのに僕のせいで何度もなのはは危ない目にあって、僕がもっとしっかりしていれば街の被害だって始めから出ることなんて無かったし、全部僕が悪いのに、なのに……!」

 

「えっと……あんまり思いつめるのはよくないよ? それに虎次郎や佐々木さんやなのはちゃんだって、嫌だったら初めからユーノくんの手助けなんてしてなかった筈だし。その……自分の意志で決めた人の行動なら、それはユーノくんが責任を感じるべき問題じゃないんじゃないかな?」

 

 なにやら感情が昂ぶってきたのか自虐が強くなってきたので、声に詰まったところを見計らって話に割り込む。

 

 なんていうか、ユーノくんって責任感がちょっと強すぎるよね。

 なのはちゃんもそうだけど、「いや、それは君達のせいじゃないでしょう」ってツッコミ入れたくなるくらいジュエルシードで起きた被害に責任感じて心痛めるような子達だし、あ、いやでもなのはちゃんはオリ主達に過去介入受けてるんだよね?

 となるとどこまで原作と同じくらいの良い子でいようとしすぎる子って特性が残ってるかわかんないけど、でも悪い方向に変わってるとは思えないし、やっぱり責任感じてるのかな。そうは見えないけど。

 

 参ったね、こういうのはオリ主組の仕事だよ? 全く……虎次郎や刹那はちゃんとユーノくんの悩みに気付いて相談に乗ってあげなくちゃいけないよね。

 

「……君も、そう言うんだね」

 

 少し、寂しげな声になってポツリと呟くユーノくんに、僕は地雷踏んだかしら、と不安になったけど、ユーノくんは小さく息を吐くだけで怒ってきたりはしない。

 

「虎次郎も、刹那も、なのはも……皆同じことを言うんだ。僕が巻き込んでしまったのに、僕のせいで苦労してるのに」

「ユーノくん。苦労ってのは、本人が苦しいと思ってなければそれは苦労じゃないよ。労働って言うんだ。

 働いて手柄を立てるって意味で労働。働いている以上はそこに苦しさもあるかもしれないけど、それ以上に得ている物があると思ってるなら、それを他人がどうこういうのは逆に失礼だよ。

 ユーノくんはなのはちゃん達が頑張ってるのを、嫌々やってるだけだから迷惑だって言いたいの?」

「そ、そんなことはないよ!」

「でしょ? だったらユーノくんのことが好きで、君のために働いてくれてる人に感じるべき事は、言うべき事は、後悔とか謝罪とかじゃなくて、感謝の気持ちと言葉じゃないかな」

 

 僕だったら、そういう言葉を聴かせて欲しいと思うよ?

 

 そう言ってから、自分で言ったことがちょっと偉そうだったな、と思って恥ずかしくなり、僕はそっぽを向いて頬を掻いた。

 う~ん、周りの人間の苦労を知ってて、ただ見てるだけの自分が言っていい言葉じゃなかった気がするよぅ。

 

「……ふふ、ごめ……ううん、ありがとう。少しだけ、少しだけ気が楽になったよ。それに、虎次郎が君のことを一番の親友だって言う理由が少し分かったかな」

「あ、虎次郎そんなこと言ってくれてるんだ? それは嬉しいなぁ」

 

 僕もあいつが一番の親友だと思ってるからね。まぁ僕の交友関係が一桁台という恐るべき数字を叩き出している以上、当たり前といえば当たり前かもしれないけどね。

 嬉しいねぇ、とほっこり笑っていた僕に、ユーノがちょっと悪戯っぽく(声の感じからしてそんな気がする)笑って言う。

 

「うん。類は友を呼ぶって奴だね」

「え~? それって変人的な意味で?」

「あはは、確かにそういう意味でもあるかもね?」

「なんだよぅ、僕そんな変じゃないぞ。ちっこいだけで」

「そういうことじゃないよ。ふふ、あはははは」

「えぇい、笑うない! 説明しろってんだ!」

 

 てい、と手桶風呂でケラケラ笑いながらかわいらしく身体をくねらせるユーノくんの首根っこを引っつかんで温泉に入れてやると、「うわ、ちょ、いきなり何さって熱い!?」と騒ぎ始めたユーノくんに僕はケラケラ笑い返してやる。

 

「全く、酷いことするなぁ……」

「とか言いながらも、もうこの温度になれて人の髪の毛に捕まりながらぷかぷか浮かんでるのはどこの誰ですか?」

「僕だね」

「全く、どっちが酷いことしてるのさ。捕まるのはいいけど引っ張らないでよ?」

「流石にそんな悪戯はしないよ」

 

 お互いに笑いながら言い合う。

 あ~、なんだか久々に虎次郎以外の男友達と喋ってるって感じするわ。刹那は中身女の子だからか、話しやすいっちゃ話しやすいけどやっぱりなんか違うしね。

 

「……ありがとう、義嗣。流石になのはや虎次郎達本人に何度も言う訳にもいかない愚痴だったから、さ」

「少しは気が楽になったって?」

「うん。さっきも言ったけどね。三人して、自分が好きでやってることだから構わない、それ以上言ったら怒るって言って聴いてくれてなかったから……。

 でも、義嗣まで三人と同じこと言って、その上虎次郎と似たような説教してくるんだもん。なんだかおかしくなっちゃってね。自分が悩んでいたのなんて意味無かったんだなぁって……もう吹っ切れた。だから、ありがとう」

「ん、そっか……まぁ、うん……えぇっと……なんだ? こちらこそ、ありがとう」

「あはは、なんで君がお礼言うのさ?」

「だってさ、ユーノくんは自分が原因だって言うかもしれないけど、そのジュエルシードっていうのを巡ってこの街で戦いが起きてて、あの街に大木が出てきた時みたいな規模の災害が起きてしまうような危ない物をどうにかしようと、ユーノ達は頑張ってくれてるんだろ?」

「……うん。そう、だね。そういった災害を容易に引き起こしてしまう危険性を秘めたロストロギア……ジュエルシードを回収するのが僕達が今やっていることだよ」

「ならさ、それってユーノくん達がどう思って回収してるのかは知らないけど、僕達一般人を結果的には守ってくれてる訳なんだよ?

 誰に褒められるでもないのに人を救って、感謝もお礼も受け取るどころか救ったことすら知られないまま戦っている報われないヒーローのことを知ったらさ、やっぱり感謝の言葉は必要だって思っちゃうじゃん?」

 

 実際、あまりにも寂しいよね。それじゃまるで正義の味方を目指して一人寂しく裏切られて死んでいった、とある世界の赤い弓兵みたいじゃない。

 管理局で働き始めれば、直接ではないにしろお礼や応援の声が届くんだろうけどさ、今のなのはちゃん達は良い事をしているのに誰にも言えない、誰にも感謝されないまま自分の生活を犠牲に無償奉仕している状態なんだよ?

 

 僕にはきっと、そんなご立派なことできない。

 

 だから、こんなモブが言うのもなんだけど、でもモブだからこそ、一般人の代表として感謝の言葉を送りたい。

 

「……なら、それは直接なのはや虎次郎、刹那に言って欲しいかな。きっと、喜ぶよ」

「ん……。そう……だね」

 

 まぁ、感謝の言葉を直接送るくらい……別に良いよね?

 だって僕達、友達な訳だし、気兼ねする必要なんて、無いよね? ちょっと面と向かって言うのは恥ずかしいけど、さ。

 

「にゃ~」

 

 少ししんみりした空気になったところで、アインが手桶風呂からぴょん、と出てきた。

 

「あ、アイン。もうお風呂良いの? それともお風呂ぬるくなりすぎた?」

「にゃ」

「あはは、もう良いって言ってるみたいだね」

「んじゃ、あがりますか~。でも一回僕とユーノくんはシャワー浴びて温泉の匂い流しちゃうからすぐには戻れないぞアイン?」

「にゃ~」

「うむ。わかったならよろしい。んじゃユーノくん、出よっか」

「猫の言葉わかるのかい?」

「いや、適当。そう言ってたらいいなぁってだけ」

「あぁ、なるほど」

 

 そうして、三人仲良く(二人と一匹とか一人と二匹が正解かもしれないけど、良いじゃないそういう細かいこと、今は)屋内の浴場に戻ってユーノくんと僕は一度身体を改めて流し、ついでに戻ってくる時にちょっと寒くなったのかぴったりと僕にくっついてきたアインも手桶を使ってぬるま湯で少しだけかけ流ししてあげてから、まだ入っている士郎さんと恭也さんに一声かけて男湯を後にした。

 

『あ、義嗣。分かってると思うけど、僕が喋れることはなのはと虎次郎と刹那以外には内緒だからね?』

 

 と、着てきた服の代わりに浴衣を着て男湯の暖簾をくぐって出たところでユーノくんが念話で話しかけてきたので応じることにする。

 まぁ確かにユーノくんが喋ってるところを万が一見られる(聴かれる)訳にもいかないもんね。

 問題点があるとすれば、僕が念話の仕方も知らないしデバイスとかの術式やら代わりにやってくれるような便利アイテムも無いので受信限定だから、僕だけは独り言のように声を出さなくてはいけない点である。別に周囲に人いないし構いやしないけど。

 

「勿論わかってるよ。……あ、そうだ。じゃあ交換条件としてなのはちゃんに僕の名前はヨッシーじゃなくて義嗣だって説明しておいてくれる? 最近諦めかけてきてたけど、ユーノくんにちゃんと呼ばれてたらやっぱりちゃんと呼ばれたいなって思ったから」

『そっか。分かったよ。確かにいつまでも愛称しか覚えてもらってないのも可哀想だもんね』

「よろしくね?」

『勿論』

 

 そんな風に、肩に乗ったユーノくんと二人でくすくす笑いつつ、風呂入る前に見つけた牛乳の自販機でフルーツ牛乳でも購入しようかと考えたところで、抱っこしていた風呂上りの愛娘アインがぐねぐね身体を動かし始めたのでそちらに目をやる。

 

「にゃ~?」

「おうおう、アイン、なんだい? お腹へったかね? 一回部屋に戻ってキャットフード少し食べる?」

「にゃー!」

 

 ん、これは否定だな? ちょっと言い方が荒くて強い。

 

「なるほど、そんなこと言っておらへんがな、それより散歩したいから降ろせ、と? ごめんごめん」

「にゃ!」

 

 お、正解? じゃあ降ろしますよ、と。

 

 ……あ、本当にテコテコ歩き出した。

 

『……本当に言ってること分からないんだよね?』

「うん。適当だよ? ……その、筈だよ?」

 

 最近、アインと僕って割と本気で意思疎通できてるんじゃないかという疑問が浮かんできてるけど。でも不機嫌のサイン気付いてないときもあったしなぁ……どうなんだろ。

 

「まぁ、とりあえずは愛しの愛娘を追いかけますかね」

『じゃあ、僕は一度なのはのところに戻るよ。今日はありがとね』

「いえいえこちらこそ。あ、お礼の言葉あげるのは虎次郎と刹那もいる時でいいかな」

『うん、勿論だよ。ありがとう』

「うん、じゃあまた夕食の時にでも、またね」

 

 あ~、夕食なにが出るのかな~。旅館の料理だしちょっと楽しみ。……まぁまだ三時過ぎだからかなり時間あるけどね。夕食は確か六時半って言ってたからまだ三時間近くあるんで気が早い話だけど。

 

 ……っていうか、虎次郎も刹那も来ないなぁ……。刹那の風邪よっぽど悪いのかな……せめて虎次郎だけでも来れれば良いんだけど、あいつ刹那相手にハーレム能力でも発動して看病イベントでも起こしてるんじゃあるまいな。

 原作物語的に夜までには来てくれないと君ら原作介入できなくなるから、悠馬に好き勝手されることになるよ……?



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12.晴れた悩みと警告

 ハローハローおはようこんにちこんばんは。今日も元気に佐藤くんです。

 

 夕食は大変おいしゅうございました。

 その時を少し振り返って一言で言いますと、夕食のお膳はお刺身とアワビのステーキと鮎の焼き魚と冷奴と湯葉まきと舞茸とアスパラガスとフルーツトマトと山菜と猪鍋と茶碗蒸しと味噌汁、デザートにいちごのムースケーキと抹茶白玉でした。

 ……うん、分かる。色々とツッコミを入れたい気持ちは分かる。

 

 特産品どれだよ!

 

 って言いたいんだよね? 分かる。僕も思った。そもそも刺身出してるのになんで鮎の焼き魚あるの、とか僕も思った。魚二品は違うんじゃないかと。猪鍋という肉料理もあるというのに、何か違うんじゃないかと。

 

 いや、実際にこうしてあったんだから、もしかしたら意外にこういう料理出すとこ普通にあるのかもしれないけどさ、実際、海鳴市って海に面していながらも山も森も川もあるという土地だから、まぁそれらの特産品が全部混ざってるのも別におかしくはない、ないんだけどさ。

 

 子供が食べるには流石に量が多いよ!!

 

 いや、ガチで。品数が多すぎて、一品一品の量はそこまででも無いのにボリューム満点になっちゃってる。どう考えても子供が食べきれる量じゃない。

 一応子供用の膳だからか、猪鍋は不用意に触って火傷しないように漆塗りのでっかいおわんみたいなのに入ってて「火をかけたまま出す料理を子供に出したら危ない」って配慮は伝わるんだけど、全体的になんでこんな多いんだよ!

 と思って僕(及び虎次郎、刹那)の宿泊費及び食費を払ってくれることになったので料理の注文も出してくれていたはずの張本人のはずなのに、僕同様に膳の前で暫し停止していたアリサ・バニングス女史(8)に突撃取材したところ、

 

「だ、だって虎次郎の奴がせっかくの旅館の料理なんだし色々食べてみたいとか言ってたから……」

 

 と、供述なされました。

 

 つまるところこの無駄に量の多い食事は虎次郎の注文なのでした。

 本人いないけどね!! 結局夕食にも間に合わなかったよ!! 無駄になっちゃってるにも程があるね!! 見てよ僕の隣のお膳と、すずかちゃんの向こうに見える人のいないお膳! そして子供陣営で広がる沈鬱な空気!!

 

 分かるかな、わかんないよね、これだけの情報じゃその時の状況はわからないよね。じゃあ分かりやすく説明すると、僕、空き席、アリサちゃん、はやてちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん、空き席、という順番なのね、僕達子供グループの並び順。

 

 まぁ、分かるよね? アリサちゃんと僕の間に虎次郎、すずかちゃんの隣に刹那という予定だったみたいだよ。

 お陰で、僕隣に人がいないせいで話し相手いないからね。だってわざわざ席に名前書いた紙置いてあったから、席詰めて座ろうなんて思えなかったし……。

 

 あ~う~……アリサちゃんをはやてちゃんが励まし、すずかちゃんをなのはちゃんが励まし、という状況で、大人組はそんな僕達を見て微笑ましそうにしているけど、僕のぼっちっぷりに気付いて、せめてファリンさんあたりをこっちに寄越して、すずかちゃんをファリンさんが、アリサちゃんをなのはちゃんが、はやてちゃんが僕を慰めてくれないもんだろうか。

 なんていうか、お膳の料理は美味しいんだけど、切ない。色々切ない。会話のノリ的に虎次郎とかなり近いはやてちゃんとなら会話盛り上がれると思うんだけど、黙々と明らかにお腹に入りきらない料理を食べている僕の悲しみを誰かわかってと言いたかった。無理してでもデザートは食べたけど。美味しそうだったし。男の子だって甘い物は別腹です。

 

 ちなみに大人組はファリンさん、ノエルさん、忍さん、恭也さん、士郎さん、桃子さんの順番で僕達の正面に座っていた。

 

 尚、ノエルさんというのはいつもメイド(大)さんと僕が心の中で呼んでた人である。

 一度自己紹介された覚えがあるのに忘れたままだったため本人に確認取るのも失礼な気がして聴き出せなかったのだが、今日やっと忍さんが呼んでいるのを聴いて名前を覚えた。

 

 まぁ、とりあえずそんな感じでなんとも微妙な夕食を終わり、すずかちゃんと共にアインと遊びながら時間をすごす。なのはちゃんとアリサちゃんはユーノくんで遊び、はやてちゃんはリーンちゃんともふもふコミュニケーションをとって目を輝かせていた。

 一応、ひとつの部屋で皆近くに寄って遊んでいる状態なので、全員自分の遊び相手(どうぶつ)と遊びながら他のグループとも喋っているというなんとも不思議な光景である。

 

 その時に聴いたのだが、なのはちゃん達は風呂上りにアルフと接触していたらしい。

 そういえばそうだったなぁ。狼さん見たかったなぁとか思ってたら、その時のことを思い出したのかアリサちゃんがマンガみたいな動きをして怒って、その動きを見てはやてちゃんが爆笑し、アリサちゃんが顔を真っ赤にして喧嘩していた。

 

 ちなみにその時リーンははやてちゃんとアリサちゃんの間に立ってはやてを守るように行動したためにアリサちゃんに「う、裏切りものぉ!」って若干悲しまれていた。でも今日からご主人はそっちってリーンに言ったのは君だという事を忘れてはいけないよアリサちゃん。

 その行動によってリーンちゃんは更にはやてちゃんからの寵愛をゲットしたようでもふんもふん(もふもふの上位種)されてた。

 

 あと、アルフの話が出た後になのはちゃんとユーノくんが念話で少し話し始めたのが聴こえてたんだが、はやてちゃんがたまに二人の念話が聴こえてたみたいでちらちらそっちを見ていたのが印象深い。まぁ、なのはちゃんは口で他の人と喋りながら同時にユーノくんと念話で話したりしていたから混乱したのかもしれない。僕もちょっと驚いた。

 

 そして、その後は就寝である。はしゃぎ疲れたのか、はやてちゃんは一番最初にダウン。次にアリサちゃん、すずかちゃんとぐっすり寝入った。

 で、アリサちゃんにグーでがっちり握られながら寝られてしまったユーノくんがげっそりしてたので、こっそりアリサちゃんの指を解いて助けてあげたら小声でお礼を言われた。そしてアリサちゃんにはいきなり腕をつかまれて「こじろぉぉ」とか甘い声を出されてしまった。

 ごめんなさい、僕は虎次郎じゃないです。

 

 で、僕も眠くなってきたので瞼がゆっくりと落ちていくのを感じながら、一緒の布団に入って寝ているアインの頭を起こさないように撫でつつ、眠りについた。

 ……どうでも良いけど、僕夕食の前に売店でトランプ買ってきてたんだよね。

 でもなんか皆思い思いに動物と遊び始めたし、虎次郎がいないせいで完全にガールズな雰囲気がぷんぷんでトランプゲームやろうとか言い出す勇気はでなかった。840円もするちょっと高い奴だっただけに、寝る時になんだかちょっと泣きそうだったのは僕だけの秘密だ。

 

 

 そして夜中。なんか頭に響く声のせいでうっすらと眼が覚めた。

 

『――また今夜にも、なにかあるかもしれないからね』

『そうだね……頑張ろうね、なのは』

『うん……。……ふふ、ユーノくん、少し変わったね』

 

 そして見えたのは、ユーノくんを抱き上げながらキリリとした表情のなのはちゃんの顔だった。

 ……あ~、原作アニメで夜中に二人で話ししてたやつか。アレって何話してたんだっけ……?

 

『ふふ……僕もそう思うよ』

『やっぱり、虎次郎くん?』

『ん……そう、だね。彼の説教は身に沁みたし……それに、彼からも』

『彼?』

『彼、義嗣だよ』

 

 おぉ、ユーノくん、君さっそく僕の名前をなのはちゃんに教えてくれているのか!!

 

『よしつぐ? って誰?』

 

 ……OK。大丈夫、僕のハートはまだ壊れちゃいない。予想はしてたからな。なのはちゃんが僕のこと全くシラネってユーノくんに言ったという情報は事前に仕入れていたからね……ッ!

 

『ほら、そこで寝てる彼だよ。ヨッシーはあだ名で、義嗣が本名だってさ』

『……えぇ!? そうだったの!?』

『なのは……僕、この世界のこの国で使われる一般的な名前を最近はわかってきたつもりだけど、少なくともその知識の中ではそれが本名だというのがまずありえないということくらいは理解できてるよ。だというのになんでソレを本名だと考えたのか、僕には君の思考がよくわからないよ……』

 

 うん、そうだそうだ、言ってやってくれユーノくん。

 

『だって虎次郎くんがヨッシーヨッシー言うからそうだと思ってたよ』

『あぁ……まぁそれに関しては虎次郎に問題があるといえばあるよね……彼あだ名つけたら拒否してもそれで呼び続けるもんね……たまに忘れて普通に呼んでるみたいだけど。義嗣のことだけは頑なにヨッシーだし……』

 

 おのれ虎次郎! やはり全ての元凶はお前か!

 なのはちゃん、虎次郎のいう事を全面的に信じるのはやめたほうがいいかもしれんよ?

 

『……で、なんでよっし……よしつぐ? くんの名前が出てきたの?』

『お風呂で、怒られちゃってね』

『怒られた?』

『ん~……“正義の味方には後悔や謝罪より、感謝の気持ちと言葉を送りなさい”って感じのことかな』

 

 え、ごめん。そんな単純明快で簡潔かつ実に分かりやすい良い言葉言った覚え無いんだけど。僕まわりくどいこと言ってた気がするんだけど。

 ……なるほど、そうやって他人のまわりくどい言葉もしっかり必要な意味だけ捉えてより単純な言葉に直せるあたり君も名言とか言い出しちゃう原作キャラの一員なんだね。

 

『えっと……?』

『あぁ……なのはには前言ったよね? あのフェイトって子と、悠馬が敵対してきた時のこと』

『あ、うん。よっし……つぐくんが隠れてたって話でしょ?』

 

 あ、そこ包み隠さず伝えてたんだ。おのれユーノくん裏切り者め。さきほどアリサちゃんの魔の手から救い出してやった恩を忘れたか。

 

 ……残念、救い出す一週間前のことだから、僕君になんの恩も与えて無かったね! じゃあ仕方ない!

 

『そう、そのことで問い詰めた時に僕がずっと迷ってたことを口に出したら、“他人の決めた覚悟を、自分の責任だの一言で勝手に決め付けるのはその人の覚悟を蔑ろにする行為で、失礼なだけだ”って感じで怒られて、その後にさっきのお言葉ってわけだよ』

 

 いや、だからそんな単純明快に格好良いこと言った覚えはないよ!? 僕めっちゃまわりくどい頭の悪い説教してたはずだよ!?

 

『ほえ~……意外だね』

『案外、そっちが彼の素なのかもしれないよ。朝のバス停で怒られた時も妙に大人びたこと言ってたしね』

 

 あ、ごめん。どっちも素です。やめて僕を過大評価しないで! フラグ建つから! 巻き込まれ介入タイプのフラグが建っちゃうから! 僕あの手の転生者と違って何も介入能力無いから! フラグ建っちゃらめなのぉぉ!! ……げふん。

 本当、マジで普段のへたれな方が僕の素です。口だけは達者だけど人様に誇れる長所や能力は無いからね?

 

『……ねぇ、じゃあもしかしてよし……つぐくんも?』

『うぅん、違ったよ。念話の受信は出来ても送信は出来ないし、デバイスとかを持っている訳でも無いみたい。それに争いごとは嫌いなんだって言ってたから、素質はあるけどただの一般の人だね』

『そっかぁ……ちょっと残念かも』

『僕としては嬉しいよ。これ以上他人を僕の事情で巻き込むのは本当に忍びないから』

『ユーノくん?』

『あ、い、いや、別にその、えっと……なのは達に関してはもう後悔もしてないし、巻き込んだだけだなんて考えてないよ。ただ、義嗣は争いごと嫌いだって言うし、そういう人は出来れば巻き込みたくないじゃないか』

『ん……それは……そうだね』

『うん。あ、それとなのは、その義嗣が、なのはや虎次郎、刹那にお礼を言いたいって言ってたよ。一般人代表として、君達に自分達を守ってくれてありがとうって伝えたいってさ』

 

 ……ユーノくん! それ、それは本人の口から言わなくちゃ意味ないのになんで言っちゃうの!! あ、でもむしろ言ってくれるならそのほうが気は楽だけど! 面と向かって言うのちょっと恥ずかしいし。

 

『……にゃはは。でもそれなら義嗣くんにはユーノくんにもお礼言ってもらわないと。なにせユーノくんがいなかったら私や虎次郎くんや刹那くんだって何も知らないまま過ごしてしまって、ただ守られる側になっていたかもしれないんだから』

 

 大丈夫。ユーノくんにはもうお風呂で言いました。

 

『ふふ、僕はもう言ってもらったからいいんだよ。それにしても、虎次郎なら僕がいなくても一人でいつの間にか気付いてこっそり守る側にまわっていそうだなって思うのは僕だけかな』

 

 あ、それは僕も思う。

 

『あ、それはなんとなくわかるか――ッ!? ユーノくん!!』

『うん、ジュエルシードだ!!』

 

 え、マジで? そういう気配みたいなの分かるの? 僕全然感じないんだけど。

 ……当たり前ですね! 僕モブだもの!!

 

 って、うわ、なのはちゃんが服脱ぎだした!? 紳士な僕は見ませんよ!?

 

 

 

 

 好奇心、猫をも殺すという言葉を知っているだろうか。

 好奇心、恐ろしい魔物である。人間の持つ知識欲が発するこのちょっとおしゃまでキュートでセンチメンタリズムな心は、猫を被ってやってきて、誘いに乗って気付いた時には僕達人間に害を為すのだ。

 好奇心マジ鬼畜。

 

「おいモブ」

「はい、なんでしょうか天ヶ崎くん」

「トラ野郎と女装野郎はどうした。なんであいつらがいないでてめぇがここにいる?」

 

 うん、そういうわけで、ちょっとね、アインがいきなり起きたかと思ったら、尻尾をピンと張って優雅になのはちゃんを追って飛び出しちゃったもんだから、それを追いかけてたら、そりゃあもう偶然、戦闘会場に居合わせてしまったのだ。

 アインの突飛過ぎる行動に僕も追いかけるか躊躇はしたけどさ、まぁなんというか野次馬根性というものもありまして(だって狼さん見たいし)、そしたら狼さんモードのアルフの姿が見えて内心で「かっこいい! 流石は狼! かっこいい! マジイケメン! あ、女性だからマジ美女!」と快哉をあげてた訳である。

 まぁなんていうか、もう本当完全に野次馬としか言いようがないけれども、わかって欲しい。一度は見たいじゃない。ちゃんとした魔法の戦闘。

 

 そんなことを僕が考えているのとは関係なく場面は進み、一人と一匹で来たなのはちゃん達を見て、悠馬が顔を顰めた。

 

「いつもの二人はどうした」

「二人とも今日はいないよ。でも、私だって負けない」

『なのは、駄目だ、ここは一旦撤退しよう。この二人を相手は無理だ』

 

 悠馬の問いに毅然とした表情で告げたなのはちゃんに、弱気だけど実に正しい状況判断なユーノくんの念話が響くが、悠馬は嘲笑するかのように鼻で笑う。

 

「ふん、俺はなのはも愛してるからな。愛する人間に手をあげる訳にはいかない。フェイト、俺は周辺の警戒にあたる。お前がやれ」

「……元から貴方には期待してない。アルフ、見張ってて」

『任せな、フェイト。そっちもしくじるんじゃないよ?』

「当たり前。そこのが背中から斬りかかってきたりしなければ、ね」

「ちっ、信用ねぇな……おい淫獣。てめぇも手を出すなよ。出したら次の瞬間にはミンチにしてやる」

 

 そんなやりとりの後、アルフが悠馬の見張りとして行動することになったため、むしろユーノくんがサポートにつくなのは有利かと思ったら、ちゃっかり悠馬が釘を刺してなのはちゃん対フェイトちゃんの一騎討ちが、原作アニメで一話分遅れた状態でスタート。

 

 そして、悠馬の索敵用サーチャーとやらであっさり発見されて今に至る訳である。

 

「佐々木さんは風邪だそうです。虎次郎くんはお見舞いにいきました。僕は完全に野次馬です」

 

 そういうわけで、王の財宝<ゲートオブバビロン>を僕の周囲に展開されて四方八方から剣や槍に狙われているという状況に戦々恐々としながら僕は正直に答えた。

 

「あ゛? 野次馬だぁ?」

『悠馬、殺っとくかい?』

 

 殺るの字がなんとなくわかっちゃった自分が嫌!! そしてごめんなさい、ちょっと正直に言い過ぎました!

 

「なのはちゃんが心配で後をつけてきました! アインが」

「にゃ!?」

「あ、ごめん、嘘です自分の意志です。完璧な野次馬根性です」

 

 ちょっぴり自己弁護(責任転嫁ともいう)をしたら僕の懐の中のアイン(先に到着して観戦しようとしてたので、抱き上げて浴衣の中に入れてた)に若干マジギレっぽい声出されたので謝っておく。

 ごめんね、ちょっと保身に走っちゃってごめんね。帰ったらオヤツあげるから今僕から逃げないでね? まだギリギリ腰は抜けてないけど、目と鼻の先に先端の尖った物が無数に浮いているのは恐怖以外の何物でもないから。今なら尖った物が怖いというトラウマ持ちの人の気持ちが分かる。注射とかの比じゃないものコレ。

 

「……まだ待て。こいつを殺すとトラ野郎が本気で殺しにくる。いや、こいつで無くてもだろうが」

『トラ野郎って……あぁ、本気のフェイト相手に余裕かまして遊んでたっていうメガネの糸目男かい? ……それはちょっと、マズイね。隠蔽したら? アンタでも勝てるかわかんないんだろ?』

「殺人の隠蔽は無理だな。アイツにその手の悪事はすぐバレる。むしろ仕返しが残忍になるだけだ。戦闘もタイマンで本気の殺し合いなら勝率は三割がいいところだと思うし正直戦いたくはねぇな。アルフの援護があっても大して変わらん。フェイトと三人がかりで五分いければ良い方か。……あいつは規格外だからな」

『……難儀だねぇ』

「全くだ」

 

 なんか、あれ、アルフさん悠馬の監視じゃなかったの? なんでそんな和気藹々としてるの? もしかしてアルフと悠馬ってもうフラグたってるの? そして虎次郎ってそこまで強いの? いや、化物じみた反射神経と身体能力は認めるけど、今僕にやってるみたいに四方八方を剣とか槍で囲んだら勝てるんじゃない?

 っていうか、お前アルフに対して会話する時だけなんか普通の人っぽいんだけど。お前外見厨二病のくせに完全に“ちょっと苦労人のイケメン悪役ポジ”みたいな空気かもし出してるんだけど。お前かませ犬じゃなかったの? この前もディバインバスターくらってオチ担当してたし。

 

「おいモブ、てめぇなんか失礼なこと考えてねぇか?」

「か、考えてないですハイ」

 

 ちょ、ちょっと剣群の包囲が狭まってきたんですけど!? 無理無理! 「いぐざくとりぃ、その通りでございます」と言いたかったけど、これ絶対にボケた瞬間ガチで殺られる!!

 

 うぅ……黙って静かにしてれば殺しはしないっぽい会話の流れだし、コレはおとなしくしてよう。虎次郎へる~ぷ。

 

『しかし……じゃあどうするんだい? コレ』

「記憶消去が出来れば一番良いんだが……出来るか?」

『無理無理。やれないことは無いかもしれないけど、私の制御力じゃ下手したら廃人が出来上がるよ。その言い方だとアンタもできないのかい?』

「俺は戦闘特化だからな……」

『……本当、難儀だねぇ……』

 

 なんか、なんか新しい! この組み合わせ新しいよ! これはこれで楽しいよ! ほんの数百メートル先の上空でなのフェイバトルが起きているというのに覗けないのがネックだけど、新手の組み合わせは見ていて新鮮だよ!

 

「……おい、なんでてめぇはそんなに眼を輝かせてるんだ?」

「あ、ごめん。なんか微笑ましくぎゃぁぁ!? 刺さった! 今背中にチクってした!!」

「次舐めたこと言ったらてめぇのタマ潰すぞ」

 

 やめて!? それは本気でやめて!? 僕そんなことされたら性転換手術しなきゃいけないから! 今の年齢でやったら初潮が永遠に来ないだけの割と完全な女の子になれちゃうから! 最近折れかけてた虎次郎のヒロインフラグが建っちゃうから本当にやめて! 僕はアイツの親友フラグだけでいいから! あと最初に僕を舐めたのは君だから! 誰ウマだね!

 

 あ、っていうか、潰されたら普通に死ぬか。多分すぐ潰れた時点ですぐ病院運ばないと余裕でショック死だわ。

 女の子に分かりやすく例えるならば、重い生理中の子がムエタイキックさんが何故かしかけてきたヤクザキックを下腹部に喰らうのと同程度、いや、潰れるんだからもっと酷いかな? まぁどっちも経験無いからわかんないけど、多分想像を絶する痛みだわ。

 

『魔法のこと口止めだけは必要だろうけど、なんかどう見ても大した能力無さそうだし、デバイス持ってるかだけ確認したら放置してもいいんじゃないかい? この子』

 

 おぉ、ここでアルフの助け舟だよ! その通りだよアルフ! 見逃してくれると嬉しいよ! 僕観戦だけさせてくれればいいから! いや、もう観戦しなくてもその見事な毛並みをもふらせてくれるだけでいいから!

 

「……こいつみたいな外見で空間指定で何もないところに核爆発起こすスキルを持った奴に会ったことがある。油断はできねぇよ」

 

 なにそれ!? 怖いなそのスキル! よくお前無事だったな!? その性格と外見からして真っ先に攻撃されてそうなのに!

 

『核爆発?』

「一言で言うと、街一つ消し飛ばして、数十年、下手したら数百年単位で不毛の大地を作り上げた上で、生き残った人間にも大量の不治の後遺症を与える傍迷惑な爆発だ」

『……なんだい、その滅茶苦茶なスキルは』

 

 ほら、アルフも呆れてるよ……。

 

「俺も原子力工学とか熱量学とか周辺の環境とか色んな方面に喧嘩売ってるのかコイツは、と思った覚えはあるな。まぁ爆発が起きる前に刹那……女装野郎が術者ごと時間を何度も巻き戻したからどうにか抑えこめたが。本人曰く核弾頭並の爆破範囲があると嘯いていたし、あの時ほど結界魔法が欲しいと思ったことはない」

 

 ……本気で危ないよソレ!? 核弾頭って10ktくらいだよね核出力!! 海鳴市下手したら今頃大規模放射能汚染と電子パルス攻撃に晒されてたじゃん! 巻き込まれたら数百単位で人が死ぬし、市の機能完全ダウンだし、大量に出来上がる瓦礫の除去とかにすごい時間と金と人手と周辺地域との交渉が必要だし、死ななくても被爆による免疫低下とか体調不良の人が増えて海鳴市の平均寿命とか出生率とかとんでもなく低くなるよ! 本気で洒落にならないよソレ!?

 

『核弾頭とかいうのの範囲は知らないけどさ、それ本人被爆しない程度の距離に撃てる能力だったのかい?』

「いや、自分諸共だ。自殺志願者だったよ。胸糞わりぃことに巻き込まれる方のことも考えやしねぇ。つっても殺してやるのも癪だから、女装野郎が赤ん坊まで時間巻き戻させてスキル使えなくしてから施設に投げたけど、これからどうなるかはしらねぇ。ステルスのサーチャーは常に監視につけてるからもしまたやろうとしたら次は殺す」

 

 ……え~……ごめん。君がそういう台詞を吐くとは思わなかったよ悠馬。お前も自分が絡んでいってる女の子達のこと考えやしねぇの状態だよ?

 いや、まぁガチでそんな能力の奴から街救ってくれてたという裏話は非常にありがたくて、僕もお礼を言いたくなったんだけどね、その明らかなチート能力って転生者だよね? どんだけこの街チート能力転生者いるの?

 

『しかしそんな戦闘、全然観測できなかったけど……いつだい?』

「二年前だからそれも仕方ないだろうな」

 

 ……原作開始前から働いてたんだね君たち!! なんか本気でごめんね! 僕なにもしてあげられなくて!? ちょっと泣きそうだよ! 僕野次馬根性で観戦したいとか思ってる場合じゃなかったよ! まず全力でオリ主組に謝罪と感謝の言葉を捧げるべきだよ!! 感謝のプレゼントはあんまりお金無いからぬいぐるみとかファミレスとかジャンクフードの店で奢るくらいしか出来ないけど!!

 

「なんか、ごめんね?」

「……なんでお前が謝る」

「いや……なんか何も知らないで野次馬根性で観戦したいなぁとか思っちゃってッ!?」

 

 おうふ!? なんぞ背中またチクチクされた!!

 

「それは俺も本気でイラッと来てたが、まぁ謝罪は受けといてやる」

 

 あ、やっぱりそうだよね?! ごめんね!? 銃弾飛び交う戦場に遠足気分でやってきて、「やぁやぁご機嫌いかがですか~? 何人くらい殺しました~?」って塹壕で戦う人たちに声かけるくらい無神経だったね!! よくよく考えたら僕の立ち位置って、ちゃんと戦ってる人たちからしたらガチでウザいね!! 今後は控えます!!

 

「なぁ覚えておけよ? 現実はヒーローごっこじゃねぇんだ」

 

 とか考えてちょっと反省してたら、どっかで聞いた名言だね、とボケじみた内心のツッコミを入れたくなる言葉で遮られ、次の瞬間には目の前にあった剣群が消えて、いきなり胸倉を掴まれて持ち上げられたことで事態についていけずに思考が止まった。

 

「お前がどっち側か俺には判断つかねぇけど、生半可な気持ちで、遊び半分で介入してくるつもりなら」

 

 殺すぞ。

 

 間違いなく、本気で、殺すつもりの目で、真正面から、鼻と鼻がくっつきそうな距離で、まさに憤怒の表情といった恐い顔で、そう告げられた。

 視界の端には、剣の一つが僕の首筋に添えられている。

 

 怖い。殺気とか分からないとか思ってたけど、多分、今僕が悠馬から感じてる漏らしそうなほどの威圧感が殺気ってやつなんだと思う。身体の震えが止まらない。怖い。恐い。怖い。

 生物的本能とでもいうか、目の前の存在が自分なんかでは絶対にかなわない相手で、それがほんの少しその気になったら、自分の命が一瞬にして消し飛ぶという事実が、これ以上なく怖い。

 

 死にたく、ない。

 

 ボロボロと涙がこぼれる。鼻水がひどいことになってきた。身体の震えも止まらない。それでも、それでも僕はコレだけは言わなくちゃいけない。

 

「ごべんね……あど……あびばどう……」

 

 通じたかどうかは分からないけれど、一応、悠馬は僕を降ろしてくれた。尤も、優しくなんかじゃなくて、30~40センチ足が地面から離れた状態から、まるでゴミでも放り投げるかのような無造作にだったけれど。

 

「……礼を言われる意味がわかんねぇよモブ野郎。アルフ、行くぞ」

『……いいのかい? レアスキルやデバイスの有無の確認くらいは……』

「このガキにそんな度胸はねぇし、デバイスも持ってねぇよ。いいから行くぞ。フェイトが寸止めで済ましてやろうとした攻撃をあの淫獣が弾きやがった。おかげで体勢整えきれてないフェイトが押し込まれ始めてるのが見えねぇのか? 協定違反だ。あの淫獣すり潰す」

『あぁ、それはこのちんまいのの相手なんかよりも大事だね。行こう』

 

 僕から完全に興味を失ったようで、悠馬とアルフは踵を返してフェイトの加勢へと飛んでいく。

 

 ようやく視界に入ってきた、見たかった筈のなのはちゃんとフェイトちゃんの戦闘シーンは涙のせいで歪んでろくに見えなくて、なのはちゃんが悠馬の鎖で縛られて空から落下し始めるのを見たところで僕は眼を瞑って子供みたいに嗚咽を繰り返した。

 

 僕に抱かれたままのアインが漏らしたみたいで少し生暖かくて気持ち悪かったけど、そんなこともうどうでも良くて、僕同様に震えて泣きながらしっぽをお腹につけているアインを抱きしめて、結局僕はその日、日が昇り始めるまでその場で泣き続けていた。



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13.後悔とか推察とかお願いと魔法とか

 悠馬に脅された翌日。……いや、あの時点で既に日をまたいでいたのかもしれないけど、日が出てきた頃にはようやく泣き止んだ僕は、真っ赤になってしまった眼を隠すのとアインのおもらしで濡れてしまっている浴衣を交換するために、一度フロントで新しい浴衣をもらってから温泉に入った後、夜風にあたりっぱなしだったせいで散々に冷えていた身体を温めてから部屋に戻った。

 

 アインも風呂に入って落ち着いたのか、暫くは手桶風呂に入ったてふるふる震えながら尻尾をおなかにつけて小さくなっていたけど、お風呂をあがったころには僕の足に擦り寄って尻尾をひょろひょろとゆっくり大きく振ってにゃーにゃー泣いていたので、多分大丈夫だろう。

 

 なのはちゃんは、空中で鎖に拘束されて落下していくのを見ていただけに心配だったけれど、どうやら怪我自体はせずに帰れたようで部屋に戻った時はすやすやと寝ていたのを確認した。ユーノくんも寝てるはずなのに尻尾がいきなり逆立ったりふるふる震えていてなんか可哀想だったけど、一応生きてはいるみたいなので安心した。

 

 しかし、良かったと思うと同時に、もう二度と野次馬根性で、好奇心だけで戦闘を眺めにいくなんてことはしないようにしようと改めて決意する。

 ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。というか、実際に調子に乗っていたからこそ僕はあんなこそこそと観戦しようだなんて考えたんだろう。見に行ったのもアインを追ったからとはいえ、見つけた時点では発見されていなかったのだから逃げることも可能だっただろう。

 それなのにあの場で見物なんて決め込んだのは、なのはちゃんが心配とかじゃなくて、単純に戦闘を直接見てみたいという、まるで子供みたいな理由だ。

 悠馬の言っていた、ヒーローごっこじゃないという言葉はなるほど確かにその通りだと言える。だって、アレはなのはちゃんもフェイトも、お互いに譲れない思いがあってぶつかりあっていたのだ。それをただ野次馬根性で見てみたかったなんて、どうかしている。人間として最低だろう。

 物騒なのは嫌い? 暴力反対? どの口が言うのか、自分が振るわれない暴力なら構わないのか? 自分が安全な席で見れる物騒なことなら、笑って眺めるのか?

 

 本当、自問自答するだけで出るわ出るわ自分の悪いところ。こんなのがあの我らがお人よし主人公虎次郎くんの親友だというのだ。こんな滑稽な話があるだろうか?

 

 ……正直、このまま鬱入って布団の中でアインと一緒にまる一日寝ていたい(アインはもう寝た)くらいだったけど、暗い考えを頭を一振りして追い出し、僕は布団から身体を起こして、なのはちゃん達を起こさないようにしながら居間へと移ってお茶を淹れ、現在の状況を整理し始める。

 戦闘能力だのが無い上に、後ろ盾が虎次郎くんの友達であるという地位だけの僕にとって、情報というのは文字通り生命線だ。後悔するのは結構だが、状況を正しく判断出来ずにいればまた自分はバカをやらかすだろう。

 

 さて、まずというか一番大事な情報は、悠馬に関してか。

 

 ……昨日の悠馬は、正直今まで抱いていたイメージがあまりにも違いすぎた。

 相変わらず僕のことモブ扱いだし、愛してるとかサラッと言ってるあたりはそのままだけれど、いつもの人を小バカにしたような嫌な笑みじゃなくて、僕を見下していた表情も、苦笑いする表情も、怒りをぶつける表情も、全部が全部、真剣だった。

 

 なんていうか、主人公の顔だった。

 

 言動は相変わらず粗野で、まるで息をするかのように簡単に人に愛を囁いているのが気持ち悪いのは間違いないんだけど、でも、いつもみたいな、嫌な気色悪さを感じなかったのだ。

 

 いやいや、しかし待て、反省するのは良いことだがあいつに対する認識を改める必要は無い。あいつは僕のリコーダーをペロペロしたり小学校女子のスカートを覗いたりしちゃう奴なのだ。忘れちゃいけない。

 

 そう、あいつは顔はイケメン青年で、身長は中学生並なのに、小学生達と同じランドセルを肩に担いで、一回りも二回りも身長の低い小学生達と共に小学校に行っているような男なのだ。

 どうだい? 想像すると中々に滑稽な風景だろう?

 

 ……OK。少しはいつもの自分に落ち着いてきた。

 さて、整理と考察を続けよう。

 

 まず、悠馬はどうしてフェイトの味方をしているのだろうか。いや、フェイト派だとは本人も言っていたけれど、それだけであのフェイト命のアルフがあんなに敵意無く接するほど受け入れられるほどというのはどういうことだろうか。

 

 どうせフェイトにも愛を囁いてるんだろうに、ましてやあいつの性格ならフェイトが嫌がってもべたべたしてそうだし。そして何より外見の異様さもさることながら初対面の時にフェイトやプレシアのことを知っていると暴露しただけに普通は警戒されて然るべき存在だろうに。

 

 なのに、それをアルフが警戒すらせず許容して、むしろ心を許しているように感じられた。

 

 ニコポナデポの類は無いのかと思っていたけれど、持っているのか。それとも、オリ主というのは動物系の存在からは好かれるように出来ているのか。そこは分からない。

 

 そもそも昨日、風呂でユーノくんが洩らしていた“最初の時もそうだし、その次の時も必ずと言っていいほどジュエルシードを狙って現れた人たちは全員が明らかに手練の魔道師だったし、特にこの前のフェイトと呼ばれていた子と、いつも虎次郎くん達には威嚇だけして、介入者にだけ攻撃していた悠馬が突然彼女についた時は別格だった”という部分も、何か違和感がある。

 

 ジュエルシードを狙った転生者が何人かいるというのは、まぁとりあえず分かった。だが、それなら悠馬が威嚇というか、敵対するのはそちらだけで良いのではないか? 虎次郎くんと刹那がなのはに何かするような奴等でないことは、むしろ僕以上に付き合いの長いあいつのほうがわかっているだろうに。それに二年前には虎次郎くんや刹那と共同戦線を張ったと自白していたのだから、別に自分から関係を崩しにかかるような必要はなかったはずだ。

 この問題は、ことここに来て「俺様野郎だから何考えてるのかなんてわからない」で済ませられる問題ではない。

 

 まず第一の謎が、なのはちゃんに何故協力しないのか。フェイト派とはいえなのはちゃんラブでハーレムを目指してるあいつなら、好感度を上げるためにも最初から味方として絡んでいって然るべき状況ではなかったのか?

 第二の謎が、どうして今までジュエルシードと関わる際に必ず介入してきた転生者と虎次郎くん達の“両者を威嚇して、別の転生者たちにだけ敵対”していたのか。ここで大事なのは虎次郎くん達に対しては“威嚇”であって“敵対”ではないことだ。

 わざわざユーノくんが威嚇、と言うくらいなのだから敵対行動自体はとらなかったのだろう。

 第三の謎が、何故フェイトが負け確定した瞬間に介入して虎次郎くん達との敵対を明確にしたのか。今まで敵対はしていなかったはずなのに。

 第四の謎が、どうしてアルフがあんなにも心を許しているのか。明らかに悠馬は怪しいはずなのに。

 そして一番の謎といえる第五の謎のが、どうして敵対しているはずなのに虎次郎くんや刹那、そして悠馬は、日常時にお互いに接する時の態度が変わらないのか。特に悠馬に到っては相変わらず学校ではなのはちゃんを口説くし、虎次郎くんや刹那もそれを見て迷惑しているから止めるということはあっても、悠馬からなのはちゃんを守るために声をかける前に事前に動く、ということは一切ないのだ。

 あの三人の仲のよさはこの前戦闘があった翌日にプールに行った時によくわかったことなのだから、うわべだけではないというのは間違いない。

 

 ただのかませ犬ポジ、オチ担当といったイメージがあっただけに、ハッキリ言って訳が分からない。全く持って、悠馬の狙いが分からない。虎次郎くんと刹那は、単純に友達であるなのはちゃんに力を貸している、という状態なのは分かるのだが。

 

 もしかして、最初から原作介入でプレシアやアリシアを救うために、三人で役を決めていた? それで、見た目的に敵に回っても一番不審に思われない悠馬が憎まれ役をやることになった、とか?

 

 いや、でもそれなら一番手っ取り早いのは刹那がプレシアに接触することだろう。刹那は時間操作が出来る。だったら、プレシアの身体を治すことやアリシアの身体を健康な時に戻すことで蘇生させることも出来るんじゃないか?

 僕くらいの外見の人間を赤子にまで戻せるというのなら、出来なくはないのではないかと思う。

 そうすれば未然に被害は防げるし、プレシアやフェイトが犯罪者とされることも無くて済むはずだ。なによりアリシアが復活すればきっとフェイトの存在を妹が出来たということで喜ぶし、プレシアもアリシアが復活することで、自分の心が癒えて、フェイトとの関係だって修復させようとするかもしれない。

 

 それが、一番のハッピーエンドの道筋では無いだろうか。

 

 ……やっぱり判断材料が少なすぎるし、途中でIFを考えて道が逸れてしまった時点でもう駄目だ。そもそも部外者である僕では虎次郎くん達の考えまでは分からない。

 

 そもそもさっき想像した刹那接触ルートも、刹那の時間操作能力というのだって本当にあるのか、どんな感じなのかを見た訳ではないし、植物人間状態の人間を時間を逆行させるだけで本当に直せるのかという疑問もあるからこういう想像をするのも無意味だ。

 

 今重要なのは、悠馬が何も考えないでただハーレムを作ることだけを目標に行動していたのでは無かった事。

 悠馬が僕を殺したり痛めつけたりしなかったのは、虎次郎くんというチートな友人の存在があったからだという事。

 悠馬はなのはちゃん本人を痛めつける攻撃をしたりする気は無いという事。

 そして、アルフが悠馬に心を許しているという事。

 

 これらの情報だけでも、覚えておけば今後何かの役に立つかもしれない。もし虎次郎くん達にコレらを話す機会があったら、直接問いただしてみてもいい。

 

「ヨッシー、おはようさんや」

 

 そう、こんな感じで声をかけられた時にでも。

 

 ……ん?

 

「……虎次郎くん!?」

「だぁ、静かに静かに。びーくわいえっとぷりーずやでヨッシー。皆が起きてまうやんか」

「あ、ご、ごめん」

 

 いつの間にか後ろに居た虎次郎くんがそう言って口に人差し指を当てる姿が、たった一日見なかっただけなのになんとも懐かしい気がして涙腺が緩みかけたが、流石に何事かと思われるだろうと思ってグッと堪える。

 良かった。なんというか、こんな朝早くからお前はどうやってここに来たんだとか、鍵はかかってなかったのかとか色々ツッコミを入れたかったけど、何はともあれコイツがいるだけで今日一日は楽しく過ごせるだろう。

 

「お、おはよう。さ、佐藤くん」

 

 と、そこでひょっこり、虎次郎くんの背中に隠れていたらしい刹那が顔を出してきたので少し驚いてから、僕も挨拶を返す。

 

「佐々木さん、おはよう。風邪もう大丈夫なの?」

「あ……うん……えっと……虎次郎が看病してくれたからね。もう平気……だよ」

「せやで。この介護士検定一級の実績を持つ虎次郎くんさまにかかれば、風邪なんてちょちょいのぷーや」

 

 ふっふっふっ、とメガネくいっをやりながら笑う虎次郎くんに、一応訊いておく。

 

「そんな検定あんの?」

「知らんがな」

「相変わらず適当だなぁ」

 

 やっぱり適当に言っただけだったか。介護士の人たちに謝れ、とか思いながらなんだかおとなしいままの刹那にちらりと視線をやると、何故か反射的に虎次郎くんの背中に隠れてしまった。

 

「どったの? 佐々木さん。やっぱまだ具合悪い感じ?」

 

 この反応からして、そういうのとはなんか違う気もするけど。よくよく見たら刹那ずっと虎次郎くんの服の裾掴んで離さないし。

 

「あ~……えっと、やな。刹那?」

「う、うん……」

「ヨッシーなら大丈夫や。なんせワイの一番の親友やからな」

「おう、なんの話か知らんけど僕は虎次郎くんの一番の親友らしいよ。僕もそう思ってるけど」

「お、なんや嬉しいこと言ってくれるやんか」

「それはこっちの台詞」

「……ちなみに虎次郎、それなら僕は一番の恋人とかかな?」

「……あ~……好きなんは否定せぇへんけど、恋人っちゅうことはあらへんなぁ。親友二号やな」

 

 おろ、いつもなら「ソレはあらへんな」とスッパリ斬り捨てるのに。なんか返答が煮え切らないな。やっぱ看病フラグかなんか建ってたの?

 

「ふぅん……僕の方が佐藤くんより付き合い長いのに、そういうこと言うんだ。別にいいけどね~?」

 

 あ、刹那がちょっと不機嫌そうに口を尖らせた。所謂アヒル口という奴。かわいいのう。かわいいのう。だが、男だ。

 

「付き合いの長さなんて仲良し度には関係あらへんのや。あ~、その、やな。せやけど、アレやで? 刹那が大事な友達やと思ってるのは本当や。それこそ刹那をいじめる奴がおったら地球の裏側でもぶん殴りにいったるくらいには」

 

 おぉ、ちょっと照れながら言う虎次郎くん、お前本気で刹那フラグ建つぞそんなこと言ってたら。

 

「じゃあ、正反対の方向で同時に佐藤くんもいじめられてたら?」

「分身して両方助けに行ったる」

「「君だと本当にやりそうで怖いよ虎次郎 (くん)」」

 

 虎次郎くんの自信満々な態度に、僕と刹那の声がかぶって、お互いに視線を交わした後に笑い合う。

 

「ん、そうだね。佐藤くんなら大丈夫そうだ」

「せやから言うたやんか。あ、そんでお願いがあんねんけどなヨッシー」

 

 おぉ、なんか今日は朝っぱらからガンガン押してくるな虎次郎くん。僕のボケ回路もツッコミ回路もまだまだおねむさん状態なのに。

 

「刹那のことこれから一ヶ月……いや、一週間でえぇんやけど、泊めてあげてくれへん? この宿泊旅行終わったその日から」

「うん、……その、恥ずかしながら、お願いできないかな。佐藤くん」

 

 あぁ、なるほどお泊りね? 把握把握。

 

 ……ん?

 

「え? ……えぇぇ!?」

「あぁヨッシー、せやから静かに静かに」

「あ、ご、ごごごごめん」

 

 えっと、え? 何? 朝っぱらからいきなりなんのお願いなの? 家出? 刹那家出でもすんの?

 

「……ごめん。やっぱり駄目……だよね?」

「あ、い、いや、別に僕は構わないんだけどね? お父さんも多分OK出すし。っていうかそもそもお父さん出張で三ヶ月は帰って来ないからどうせ家ではアインと二人っきりだし」

 

 うん、ちょっとビックリしただけだよ。別に友達のお泊りくらいなんの問題もないよ。虎次郎くんだって二年生の時に一度うちに泊まったことあったし。勿論お父さんも快諾で。

 いや……え~……? でもなんで僕の家?

 

「ほらな? 大丈夫やったろ?」

「うん、虎次郎くんがなんでそんなドヤ顔してるのかは知らないけどさ、参考までに訊いていいかな?」

「なんや?」

「なんで僕の家?」

「それは……」

「あ~っと、アレや。今ヨッシーの家ってお父さんおらんやんか? でそんな状況ならなんちゅうか、刹那もそんな気ぃ使わんで済むやろうしなって」

「いや待って、その理由はおかしい。いや、おかしくないけど、虎次郎くんの家とかじゃだめなの? あ、別に佐々木さん泊めたくないとかじゃなくて。普通に疑問だから」

 

 だから刹那もそんなちょっと泣きそうにならなくていいから!

 と思ってたら虎次郎くんはちょっと「う~ん」と腕を組んで迷った末に、身を乗り出して言った。

 

「ほら、うち兄貴おるやん?」

「うん」

「刹那が食われる」

「……佐々木さん。僕の家はいつでも誰でも大歓迎だよ!!」

 

 あぶねぇな虎次郎くんの兄貴!? なに、小学生でも見境無しなの!? しかも見た目は女の子でも男の娘だよこの子!?

 

「念のためにきくけど、えっと、僕が間違って覚えてただけで、今言ったのが兄貴じゃなくて、姉貴、というパターンではないよね?」

「せや。兄貴や。ガッチムチや」

「佐々木さん。僕達は親友だ。そんな君と二人でお泊りだなんて、是非とも親友として夜にトランプしたりゲームやったりして盛り上がろうじゃないか」

 

 モノホンだったんだね!? 流石に僕もそれは知らなかったよ!? お前さん結構前にお兄さんの話をした時、「最高とは言わんけど、えぇ兄貴やで、ノリえぇし」とか良い笑顔で言ってなかったっけ!? ノリって、なんのノリだったの!?

 

「こ、虎次郎くん、それはぼ、僕も初耳だ、だだだだったんだけど」

 

 見てよホラ!! 刹那も若干どころじゃなくてドン引きしてるよ!! 若干涙目でぷるぷるしてるよ!!

 

「ワイも初めて教えたわ。まぁそういう訳やからうちでは無理なんや」

 

 うん、それはもう、痛いほど理解したよ。駄目だよね、貞操の危機だけは駄目だよ。そんなガチムチのお兄さんにもしハァハァ詰め寄られてベッドに押し倒されたりしたらもう、もうBLどころの話じゃないよ。なんていうか、なんていうか、男でも萌える人が意外に多いBLの域を超越して、一部のコアなマニアご用達の危ない映像の出来上がりだよ。いや、っていうか、見た目美少女の小学生を襲うガチムチとか、犯罪とかってレベルじゃねぇよ。うん。よし、大丈夫。僕は意外に落ち着いている。落ち着いているからこそ虎次郎くんに訊いておかねばならない。

 

「虎次郎くん、一応、一応訊きたいんだけど、お兄さんとは何歳まで同じベッドで寝てた?」

「え? 最近もよく兄貴が一緒に寝よう言うてくるで?」

「「虎次郎 (くん)超逃げて!?」」

 

 大丈夫なのか虎次郎くん、お前の貞操は!? いや、それとも、それともしかして、お前、お前……ッ!!

 

「虎次郎くん、一応訊くけど、好きなタイプは?」

「美少女やな」

「セエエエエエエエエエエェェッフ!!」

 

 良かった! 良かったよ虎次郎くんはちゃんとノーマルだったよ!! 口では愛してると言っておいて、身体はガチムチなお兄さん一途とかそういう誰得としか言えない展開だけは避けられたよ!?

 

「いや、だからもう一々止めるのも面倒くさくなってきたんやけど、なのはちゃん達起きてまうから静かにしてや?」

「あ、ごめん……」

「いや、えっと、佐藤くん。この場合佐藤くんが一概に悪いだけじゃないと思うよ。佐藤くんが叫ばなかったら僕が叫んでたよ……」

 

 あ、良かった。刹那っちアンタだけはわしの味方やで~。

 え? 似非関西弁やめろって? サーセンふひひ。

 

「んも~……なんなのよ……朝からうるさいわね……」

 

 あ、しまった。アリサちゃん起きちゃったみたいだな。

 ふすまを開けて現れたのは、わんこパジャマ(わんこの足跡やデフォルメわんこのイラストが至る所に描かれたかわいらしい一品)を着たアリサちゃんの姿。ちなみにトレードマークである左側にみょん、って縛ってあるでっかいビーズみたいなのがついたゴムはつけてないけど、アホ毛は健在である。

 

「おう、おはようさんアリサ。起こしてしもうたみたいで悪かったな」

「あ~……虎次郎くん? もう……昨日はどこ行ってたのよ……って刹那の家だったわね……おはよう……」

 

 お目目ぐしぐしながら話すアリサちゃん可愛いです。でもそれ目に悪いからあんまやんないほうがいいよ。

 

「おはよう、アリサちゃん。迷惑かけたね」

「あぁ刹那いたのね……おはよう……別にいいけど……。……ん~?」

 

 今度は刹那とぼへぼへしたまま会話した後に、アリサちゃんは欠伸をひとつしてから刹那、虎次郎くんを交互に見て徐々に顔を真っ赤にしていき、いきなり叫びだした。

 

「な、なんで虎次郎くんと刹那がいるのよ!?」

「「「ツッコミ遅いよ(で)」」」

 

 今日も朝から我々一同は元気一杯である。

 

 

 

 

 やぁ諸君、虎次郎くんとのアホな会話を何度か朝からしていたお陰で、既に気分は普段通りにまで回復した佐藤くんですよ。こんぐらっちれーしょん僕。

 

「暇やなぁ……」

「だねぇ……」

 

 さて、今現在僕は何故かはやてちゃんと、はやてちゃんの車椅子を押しながらおしゃべりしているなのはちゃんの四人(+二匹)で旅館周辺を散歩しているのだが、まぁここに至るまでの経緯を簡単に説明しておこう。

 というわけでダイジェストです。すぐ終わるけど。

 

 朝ごはんは、流石に昨日の夕食がアレだったのでアリサちゃんから言っておいたのか、ごてごてといろんな料理が並びまくってるだけのものじゃなくて、普通にTHE・和食って感じの優しい味が主体のお膳だった。たけのこご飯が美味しかったよ。まる。

 

 ちなみに虎次郎くんは「足らん、こんなんじゃ育ち盛りの男の子の朝には足りへんで! ちゅうわけでアリサ、ちょいとこのイケメンな虎次郎くんさんにおかずを恵んでくれへんやろか?」とかやっていた。

 

 そしてすかさずアリサちゃんは「ば、バッカじゃないの!? なんで私がアンタに……。うぅ~……そんな残念そうな顔は反則よ……じゃ、じゃあ……えっと……お、お魚! お魚あげるわ!」とツンデレっぷりを発揮し、「ほんまか? んじゃ、あ~ん」とかにこやかにやる虎次郎くんに超狼狽していた。

 

 うん、青春だね……頑張れアリサちゃん。そして虎次郎くんは堂々といちゃこらしすぎだよ。僕にはちょっと目の毒だよ、とか思ったけど、恭也さんと忍さん、士郎さんと桃子さんもなんかあ~んやってた。恭也さんは恥ずかしそうだったけど、お前ら子供の前ですよ? 自重しなさいよ。

 

 そしてすずかちゃんも刹那に何かおかずをプレゼントしようとしていたが、「あ、僕は少食だから大丈夫だよ。ありがとうすずかちゃん」と笑顔で言われてしょんぼりしていた。

 うん、刹那はもっとすずかちゃんを甘やかしても良いと思うんだけどなぁ。それとも本当にすずかちゃんの好意気付いてないの?

 ……って、そうか、精神的に女の子だから抵抗あるのか。

 

 で、そうなると余るのが僕、はやてちゃん、なのはちゃんである。

 

 しかしそこは流石は原作で仲良しの二人。ついでに席も隣同士なだけある。まだA's編まで半年以上あるというのに、既に和気藹々。で、話しながらもはやてによってユーノくんがもみくちゃにされているのがなんともユーノくんの悲壮感を誘う。

 強く生きろよ、ユーノくん。後ろでリーンちゃんが恨めしそうに見てたけど。

 

 僕はまぁたまに虎次郎くんが話題をふってくれたけど、アリサちゃんが少しむくれていたのでその度にアリサちゃんに話を持っていき、いちゃいちゃを優先させてあげた。命短し恋せよ乙女、である。

 

 で、その後は虎次郎くんや刹那と風呂行こう(朝入ったけど、早めに言い出さないと二人が拉致されて僕はまたぼっちになってしまうので)と思ったら、二人は部屋に来る前に入ってきたというし、じゃあまた夕食食べた後にでも、寝る前に三人で行こうと約束したところで、すぐに女性陣に捕まった。

 

 虎次郎くん派のアリサちゃんと、刹那派のすずかちゃんによる協定でもあったのか、僕以外の男二人はそれで拉致されました。虎次郎くんは快諾だったけど、刹那がなんとも困った顔をして虎次郎くんと僕を見ていたのが忘れられないが、「ヨッシ、つぐくん、分かってるよね?」というなのはちゃんと、「わかっとるやんな? ヨッシー?」というはやてちゃん二人の浮かべていた極上の笑みに僕はあっさり折れました。

 

 笑顔が怖いとかよくいうけど、二人の笑顔別に恐くなかったです。可愛かったです。なでなでしていいですか。

 まぁ、実際にするとなったらなのはちゃんの場合は僕が背伸びしてからなのはちゃんにちょっとかがんでもらわないといけないけどね。はやてちゃんなら車椅子だし背伸びしなくても届くんだけど。

 とか妄想はしても、本当にそんなこと言い出したりしないけどね、僕。

 

 その後はアリ虎とすず刹の二組が早速お散歩に出かけられまして、なのはちゃんとはやてちゃんに、リーンちゃんとユーノくんとアインと僕という珍しい組み合わせになったという訳であります。何気に動物天国でちょっとほんわか。

 で、僕はユーノくんとお話してればいいやと思って駄弁っている次第である。

 

 あ、さすがに堂々とフェレットと会話なんてしてたら痛々しい子と思われるかと思ったら、なのはちゃんもはやてちゃんも生暖かい目でこちらを見ていた。

 そういえばユーノくんの念話君達には聴こえてるんだもんね。はやてちゃんが魔法関係者の一員になるには早い気もするけど、誤魔化しようが無かったから教えたりしたんだろうな~。

 

 そんな感じで、今である。時間的には午前九時ちょいだね。

 

 朝九時から目的も無く散歩(森林浴)してるだけの小学生ってどうなんだろうと思ったけど、旅館の中は昨日のうちにある程度見てまわったみたいだからなぁ、皆。そりゃやること無いよね。

 大人達も僕達が出かけるときに特に同行を申し出たりするわけでもなく、「子供同士で遊ばせておこう」というスタンスなのか、各々で盛り上がっていた。何気に美由希さんが浮いていたのが印象的であった。

 

 美由希さんといえば兄である恭也さんラブ(異性的な意味で)な描写がよく二次創作で見たことあるのだけれど、実際のところどうなんだろうか。アニメでも「忍さんとこいくんだね?」みたいな感じで胡乱気な目を向けてたりしてた覚えあるし。

 ん~……確かとらハとやらでヒロインの一人だったんだっけ? 実妹が攻略対象って、どこのエロゲだよ。あ、原作エロゲか……。あれ、でもなんか色々複雑な設定あったよな、じゃあ義妹?

 

 ……あれ? 何気に、僕の近くでちょっと危ない三角関係起きてる?

 っていうか、とらハってとらいあんぐるハートの略だから非常に可能性高いね。大丈夫? 修羅場起きたりしない?

 僕、高校生達の修羅場が小学生の時に間近で起きるとか嫌だよ? もしかして原作のなのはちゃんってそれを敏感に察知して管理局に……?

 

 いやいや、まさかねぇ……?

 

『どうしたんだい、なのは。義嗣も随分ぼんやりしてるけど……』

「え? ……あ、ううん。なんでもない」

「え? あ、ごめん。考え事。っていうか、今更だけどはやてちゃんにも魔法バレしてるの?」

『あぁ……猫屋敷……じゃなかった。すずかの家でフェイトって子と戦った時に張った結界が原因でね。はやてにも魔力資質があって、アリサやすずかと話している時に結界内に残されちゃったらしくて、慌てて虎次郎くんが事態を説明してくれたとかでね。はやても義嗣と同じで物騒なことは嫌いだっていうから、あくまで知っているってだけだけどね』

 

 あ~、あの時それで刹那だけが先行してきて虎次郎くんが遅れたのか。なるほどね。

 っていうか、知らないでいきなり結界に入り込んだらビビるだろうな。いきなり景色が色あせるし、今まで目の前にいた友達が一瞬で姿を消したんだろうから。

 僕だって知っててもあの色あせた景色は初見で結構驚いたし、そこにプラスで友達目の前から消えたら驚いて大変だったろうに。虎次郎くんナイスフォローだよ。はやてちゃんの心に何か危ないトラウマできるところだったよね、下手したら。

 

「なんや、ヨッシーも巻き込まれた口なんか?」

「え? あ、あぁうん。まぁね。まぁ実害は無いから別にいいんだけど。……あ、そうだ。えっと……なのはちゃん」

「ん? ……あ、えっと、なに? よっしぃつぐくん」

 

 ……なのはちゃん、頑張って、頑張って僕の本名を言おうとしているのはわかるんだけど、そんなに覚えづらいかい、僕の名前……それとも単純に言いなれてたから咄嗟に出るのがヨッシーなだけ?

 出来れば、後者だと嬉しいんだけど……まぁ、まぁとりあえずそれはさておき。

 

「本当は虎次郎くんや佐々木さんにも一緒に言っておきたかったんだけど、朝のあの様子じゃ虎次郎くんと佐々木さんはアリサちゃんやすずかちゃんに引っ張りだこだろうから、先になのはちゃんに言っておきます」

「うん、なにかな?」

 

 あぁ、事前にユーノくんから聴いてるからか、すっごいふんわりとした良い笑顔浮かべてくれるじゃないですかなのはちゃん。

 

「今までこの街を、僕達を守ってくれてありがとう。これからも無理しないで頑張ってね?」

「うん、わかったの。ありがとう、義嗣くん」

 

 ……よかった。この場面で言い間違えるほど空気読めない子じゃなかったね、なのはちゃん。その優しい笑顔が可愛らしいよ。

 そしてそんな僕となのはちゃんを交互に見ながら、ニヤニヤしているはやてちゃん。くっそぅ君のその悪戯っぽい顔も可愛いよはやてちゃん。

 

「えぇ奴やなヨッシー。流石は男版の私こと虎次郎くんの親友。ほんなら私からもお礼言わせてや、なのはちゃん。ありがとうな? なんも知らんとほのぼの過ごしてる私らのこと、守ってくれて」

「こっちこそありがとう、はやてちゃん」

 

 悪戯っぽい笑みで僕に笑って声をかけておきながら、なのはちゃんに向き直った時のいきなりな優しい笑顔、これは、コレは僕の胸にどストライクだよ! 愛しとるよはやてちゃん! 世界一可愛いよはやてちゃん!

 ちなみに原作キャラは全員同率世界一位の可愛さです。そして僕の愛が一番向いているのはアインです。次点でお父さん、虎次郎くん。刹那とユーノくんはその二人の下です。

 アリサちゃんとかすずかちゃんとかなのはちゃんとかはやてちゃんは、さらにその二人の下です。あれ、僕の愛アイン以外全員男の人に向かってね? ……まぁいいや。

 

 あれ、なんの話しだっけ。とりあえずなのはちゃんとはやてちゃん可愛い。

 

「ん~? なんやヨッシー私らの顔ジロジロ見て……はは~ん、さてはあんまりにも可愛いから惚れよったな~? ヨッシーはおませさんやね~」

「うん、二人が可愛いのは全力で肯定するよ。大好きだよ。友達的意味で」

「にゃ、にゃはは……」

「お、おう……そうなんやな。……ちょっとビックリしたで。なんかもっとこう、ツッコミくるかと思ってたんやけど」

 

 なのはちゃんとはやてちゃんがちょっと顔を赤くしたけど、褒められ慣れてないのかなぁ、二人とも。

 いや、でも僕の知る限りでは悠馬と虎次郎くんは結構べた褒めしてた気が……あ~、悠馬はむしろ逆効果だったか。じゃあ虎次郎くんにしか言われてなかったようなもんだもんな。

 あれ、でも刹那も言っていたような……いや、あいつは見た目女の子だし、女友達に言われたような感覚なのかもしれん。すずかちゃん以外刹那に脈ありげな原作メンバーいないし。

 

「あ、よっしぃつぎゅんも可愛いよ!」

 

 なのはちゃん、今間違えかけた上に噛んだね? あと男の子は可愛いって言われても嬉しくないよ。

 

「せやなぁ。ちっちゃいしなぁ」

「ちっちゃいのは余計だよぅ。僕だって男の子なんだから格好良いのほうが良いよぅ」

 

 畜生、二人して僕をちびっこ扱いしおって! 成人する頃にはきっとお前らの身長なんか抜いてるんだからな!

 

『義嗣は、まだマシな方だと思うよ……』

 

 あ~、ごめん。そういえばユーノくんは男の子とすら見られてないもんね……完全にペットのフェレットだもんね……まぁ知ってる僕ですらフェレット形態しか見てないから扱いがどうしても動物に対するそれに近くなってるのは否定できないし。

 

「……って、そうだ。ユーノくん人間形態とかってなれないの?」

「え? ユーノくん人間になれるの?」

「そうなんか?」

 

 ふと思いついて声をあげた僕に、なのはちゃんとはやてちゃんが喰いつく。

 考えてみたら、ここにいるメンバーは魔法のこと既にバレてる人しかいないんだし、ユーノくん人間形態でも問題ないんじゃない? 戻るときには戻らないとだろうけど。

 

『う~ん……できなくはないんだけど、まだちょっと元の姿に戻っても維持できるか分からない状態でね。魔力が完全に回復したら、皆にも姿を見せるよ』

「そっか。残念だよ。いや、フェレット姿でもふもふさせてくれるのも嬉しいんだけど、せっかくだし同じ男の友達としてわいわいやりたいなぁと思ったんだけど」

『義嗣……』

 

 うん、だってさぁ、僕以外の男全員ヒロイン枠いて、持ってかれちゃうんだもん。その点ユーノくんなら、なのはちゃんとのフラグがあるとはいえそこまでベタベタしないから友人として雑談に興じるのも楽しそうだし、何より魔法のこととか色々訊いたりしてみたいし。

 

 ……さすがに術式とか魔法の使い方までは教えてくれないだろうけど、まぁそこは元々戦闘に関わろうとも思ってない僕には関係ない話だからどうでも良い。

 まぁ、本音を言うとちょっとだけ覚えるだけ覚えてみたい気はするんだけどね。僕も男の子だしやっぱり魔法って憧れる。

 

 あ、防御魔法くらいなら教えてもらえないかな。刹那の流れ弾ならぬ流れ剣を防ぐために。

 っと、流れ剣といえば、刹那が家に泊まりにくるなら丁度良いからお向かいのおばあさんの家をいい加減に治してもらおう。ご家族の方が改めてやってきたときに必要な物とかは持って行ったみたいだけど、家があんな状態のままじゃ資産価値落ちまくりで管理も大変だろうし。

 それと、流れ弾が僕に飛んできてるよって文句言っておこう。今後は注意してもらわないとね。

 

 まぁ、それはともかくとして、術式教えてもらえるか早速訊いてみる。

 

「そういえば僕もはやてちゃんも魔力あるなら、防御魔法だけで良いから教えてもらったり出来ないかな。何かあった時に便利そうだし」

「あ~、確かにせやなぁ。攻撃魔法とかはいらんけど、そういうんやったらまさかの時には使えそうや。どうなんや? ユーノくん」

「そうだね、二人だって巻き込まれるかもしれないんだし。ユーノくん、どう?」

『ん……いや、ごめんねはやて、義嗣、いくら防御魔法とはいっても、魔法文化の存在しない世界で勝手に魔法を広めること自体が法律で禁じられてるんだ。その世界の文化を損なう可能性が高いってことで』

「なるほど……ん? でもそれなら、無断で魔法をなのはちゃんに教えたのも結構な問題になるんじゃないの? 大丈夫?」

「え? 問題になの?」

「え、でも事件解決のためなんやし大丈夫なんちゃう?」

 

 いや、確かに事件解決のためではあるけどさ、特例として認められるかどうか微妙なところなんじゃないの? コレって。

 だって管理局はジュエルシード回収をあとまわしにすることを決定しているからこそ現状があるわけで、である以上、ユーノくんは完全に管理局には無断で地球にやってきているわけで、そこで更に魔法教えるとか完全にアウトなんじゃない?

 

『あぁ、それに関しては多分、大丈夫だと……思う。

 なのはにデバイスを渡して魔法を教えたのは、緊急避難の原則に則って危険度の高いロストロギアが大規模な災害を起こさない内に封印するための必要な現地協力員魔道師として手伝ってもらってる形だからギリギリ問題にはならないとは思う。

 ……でも、本来は相手に魔力資質があろうが魔法の存在を知らない世界の人間に頼っている時点で法にスレスレなことなのは確かなんだよね』

「ユーノくん、無断で地球に来てるんだし、まずいんじゃないの……?」

『いや、無断ではないよ。一応、許可そのものは取ってあるんだ。発掘したのが僕だったから、そのことを前面に押し出して民間からの捜索協力としてね。……ただ、管理外世界だから許可を得るために族長にはかなり苦労をかけちゃったけど……』

「あ、そうなんだ」

 

 まぁ、そりゃそうか。流石に無断で降りたら犯罪者だもんね。勘違いしてたよ。  

 

『なんにしても、管理局の対応が遅れているからこそ許されるとは思うけど、もし管理局が既に地球に来ていて捜査を始めている段階でなのはを巻き込む形で魔法を教えていたら、僕も犯罪者の仲間入りとなる可能性もあったかもしれない。

 だから魔力があるとはいえ、ジュエルシード探索や封印に参加しない君達にそれを教えるのはまずいんだ。下手をしたら君達は管理局に協力するか、解放しても問題ないと判断されるまで監視下に置かれる可能性もある。

 でも君達はそういったことに巻き込まれたくはないだろう? だから、悪いんだけど今回は諦めてくれるかな?』

「「「ほえ~……」」」

 

 なのはちゃんとはやてちゃんが、いきなり法に関する話になってポカンとした顔をしていた。何気に僕もちょっと似たような声をあげているのを許して欲しい。

 いや、だってそこまで大げさなことだとは思わなかったよ。防御魔法だよ? 別に人を殺せるような魔法って訳じゃないんだし、大丈夫だと思うよ、そりゃ。なんでダメなのさ。

 

 ……あ~、いや、違うな。技術ってのは完成したものがひとつあれば、人間ってそこから新しい物をどんどん開発できる種族だから、結局は軍事転用だってありえるわけか。

 他にも防御魔法だけとは教えられた人間が、何かの拍子に他人に教えてしまって、その人が魔法をもし使える人間だったら善意で他の人にも教えたりしてしまうかもしれない。「ここだけの話」がどんどん広まるパターンだ。

 

 で、防御魔法を使える人間が犯罪に走ったとしよう。銀行強盗とかが防御魔法で警察の銃弾を全部無効化して悠々と逃げ去る。

 自殺願望者が死ぬ前に良い思いをしたいと思って女の子を襲い、自分と女の子の周りに防御魔法張って外界から接触できないようにしてお楽しみ。

 鬼ごっこをする小学生が、タッチされる瞬間に「バリアー! バリアーしてるから無効ですー!」をリアルに防御魔法で実行する。

 

 ……パッと思いつくだけでこんな犯罪が思い浮かぶほどだ。なんて恐ろしい。二つ目は僕が元男だからこそ思いつく発想だな。今も男だけど。実際に目の前でそんなことやる奴いたら多分何がなんでも殺す。

 三つ目は、うん、ごめん。なんか思いついただけ。でもコレずるいよね。

 

 で、本題に戻るとして、防御魔法から術式を解析して新たな術式を製作することだって時間をかければ多分やれると思う。

 実際昔に魔法を考え付いた人だって試行錯誤の末に作り出したのを歴史をかけて改造した結果が今のユーノくん達が使う魔法な訳で、その完成形がひとつあるだけで技術開発は容易なはずだ。

 現代の合金とかの金属を過去に持って行ってプレゼントしてくるだけで歴史がガラリと変わる可能性が高い、そういうこと。

 

 しかも魔法ってのはただ術式がわかって、魔力と集中力さえあれば発動できるわけでしょ? 技術革新が早まるとかってレベルじゃない。

 一人教える人が出てくれば、後はネズミ算式に覚える人は増えるだろうから、オーバーテクノロジー以外の何物でもない完成品がいきなり溢れかえってしまうわけだよね。

 後はそれの術式をいじり始める人が出てくれば、魔法の暴走による事故も起きるだろうし、完成した魔法が威力や範囲を考えない攻撃魔法になってしまう可能性だってある。

 

 で、まぁそうして開発されていくことで結局攻撃魔法は生まれてくることになるだろう。で、そうなった時に管理局からすれば「魔法技術の無い筈の管理外世界でなんかいきなり僕達の魔法パクったのが広まっててヤバイことになってんだけど、理由シラネ? え? 前に遺跡発掘員だった奴が現地人に教えた? なにそれ、ちょっとそいつ屋上に連れてこいや。久々に頭にキチまったぜ……ッ」ってことになるわけだね。

 

 

「まぁ、確かに完成形の物がひとつあれば、他の魔法を作り出すのも時間の問題だろうし、開発なんてしないって約束してもなんかの拍子にポロっと誰かに教えたらそこから広まって行っちゃうだろうからね。ごめんユーノくん。無理言ったね」

『いや、分かってくれて何よりだよ。義嗣は話の内容をすぐに理解してくれるから助かるね』

 

 ごめんね、口では簡潔に言ってるけど、割と頭の中ではごちゃごちゃ考えてました。多分原稿用紙一枚か二枚分くらい。

 

「あ~……絶対他の人に教えたりせぇへんのやけど、ダメなん?」

「はやてちゃん、将来酒飲んで酔っ払ったりする機会があった時に、仲良しの友達に絶対に一言も、欠片も自慢したりしない自信ある?」

「……ごめん。それはちょっと保証できへんわ」

 

 駄々をこねるはやてちゃんにちょっと訊いてみたら、あっさり退いてくれたのでホッとする。

 そうだよね、子供の内に大人になってからお酒飲んで口滑らせないか、なんて分からないもんね。

 ここで「絶対いわへんて。私口堅いんやで?」とか言い出さないだけはやてちゃんは自分を分かってると思う。

 いや、なんかイメージなんだけどはやてちゃんって酒飲んだらガンガン言っちゃいけない秘密とか洩らしそうな気がする。子狸とか呼ばれることになるくらいだし計算高い感じはするけど、どっか抜けてそう。

 

 まぁ、なんにしても分かりもしない未来を絶対だと簡単に確約するような浅はかな子でなくてよかったよ。

 

 どっちにしろ、はやてちゃんは僕と違って誕生日には魔法を手に入れる訳だけど。

 はやてちゃんの家にあるのは闇の書。対して僕の家にあるのはロリの書。誰ウマだね。でも僕今ちょっと上手いこと言ったと思ったよ。ドヤ顔してるよ。心の中でね!

 

「なんや? ヨッシー急にニヤニヤしだして」

 

 顔に出てた!! いけないよ! いきなりドヤ顔する小学生、痛すぎるよ! 今の会話の流れのどこにドヤ顔する要素あったのって思われちゃうよ!

 

『……あれ? なのは?』

「にゃっ? あ、ユーノくん? なに?」

『急に黙ったままだったから。どうしたの?』

「いや、えっとね……? ……魔法の無い世界ってユーノくん言ってたけど、虎次郎くんも刹那くんも悠馬くんも魔法使ってるし、毎回ジュエルシード奪いに来る人たちとかも魔法使ってるけど、アレは……?」

「『あ』」

「ん? なんや、地球にも魔法あるんか?」

 

 そういえば、そうだよね。割とあっさり忘れてたけど、チート転生者共のせいで日本は魔法天国となってましたね。

 多分、魔術とか巫術とか妖術とか気とかそういうパターンの転生者もいるだろうから、魔法文化どころか異文化のメッカと化してますね、日本。

 なんだろうね、この国って異文化交流に全く抵抗無いイメージあったけど、まさか魔法とかそっち系まで混ざって交流しちゃってるとか、この世界の日本すげぇな。

 

 あ、日本以外にももしかしているのかな、転生者。さすがにそういう人はよほど財産あったりしない限り原作に関われないだろうけど。

 

『あれは……そういえば、そうだね。この世界って魔法文化が無いけど自治出来てるって事で管理局には管理外世界として登録されてたんだけど……もしかして情報が間違ってたのかな……いや、でも正式な情報を閲覧した上で僕は来た訳だし……』

 

 あ~……なんかごめんねユーノくん。僕はともかく一部の転生者連中がろくに世界観考えないで色々能力持ち込んじゃって……。

 

 そんな感じに、暫くはそんな感じで魔法に関して盛り上がり、「この世界にも魔法あるんなら教えてくれたってもえぇやんユーノく~ん」と甘えてくるはやてに、『いや、でも規則だし』とわたわたするユーノくんの姿はお互いとてもかわいらいしゅうございました。ちなみになのはちゃんはそのやりとりを笑ってみてた。

 結局、最後までユーノくんは魔法ひとつも教えてくれなかったけど、それでいいと思うよ、僕は。はやてちゃんもユーノくんの言ってることを理解した上で困らせようとというか、からかう感じで教えてくれって言ってただけで、本気で教えてくれないことに文句言ってた訳では無さそうだったし。

 

 しかし、何気になのはちゃんとはやてちゃんの二人とアインが全く絡まない話題でまともに話したのって相当珍しいかもしんない。

 

 そんなことを思いながら、僕がお昼が近いことを二人に伝えたことで旅館へと戻ることになった。

 

 え、アインとリーンちゃんの様子? アインははやてちゃんの膝の上ですやすや寝てたし、リーンちゃんは終始介助犬らしく指示が無かったから黙々と僕達の話しを聴いてたよ。尻尾はぱたぱたしてたから何故か楽しんでたっぽいんだけどね。

 もふもふしたいけど、知り合いのわんことはいえ外で主人に付き添う介助犬にもふもふするのはルール違反だと自分を律しているのでやんなかったよ。したかったけど。すっごいしたかったけど……ッ!!

 

 まぁ、そのうちレナードさんの背中にまた乗せてもらうからいいもんね!!

 やっぱり僕はこれくらい阿呆みたいにテンション上げていないとやっぱり僕らしくないよね!



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14.明かされる事実と季節外れのお約束行事

 原作の話しとかどうでもいいよ、どうせ僕絡まないんだし。

 大体だね、一般ピーポーで戦闘能力皆無な僕が戦場を覗きに行ったら、死ぬしかないじゃない? いや、非殺傷だけども、もう悠馬にヌッコロ宣言されちゃったしさ……。

 原作組めっちゃ可愛いから眺めてるのすっごい目の保養になるんだけどね!!

 まぁ僕の意思なんて関係なく物語は進むんだろうけど!!

 僕、もうわざわざ戦場に首を突っ込んだりしないと決めたよ!!

 

 そんなわけで、僕は今の時間を楽しむ!!

 

 ということでどうも佐藤です。

 最近とみに思うんだけど、僕は一体誰に向かって話しかけているんだろうか。もしかしてこの世界に僕を送った神様的存在が僕の思考覗いてる? ヤッホー神様。元気? 僕超元気。とりあえず平和です。

 

 さて、今はお風呂入ろうかというところなんだけど、お約束だからここまでの時間の流れをダイジェストにお送りしちゃうぞ☆

 

 ……ふぅ、僕脳内でこんなにテンパってどうするんだろうね。他人にこのノリで話しかけたら気持ち悪がられるのは確定とはいえ、脳内で一人バカ騒ぎしてる僕って……あぁ、なんでもない。なんでもないよ。ごめんね、ちょっと僕今色々情緒不安定だから。やっぱ悠馬からのガチ脅しが地味に効いてるみたい。あ、ダイジェストね、はいはい。

 

 昼食、それは憂鬱な時間の始まり。朝の繰り返しでしかない。

 

 そう思っていた時期が僕にもありました! 今ではなのはちゃんとはやてちゃんが自分達で僕を挟み込む形に席移動を提案してくれたお陰で、二人とお話して楽しくご飯できました!

 

 聖詳大学付属小学校三年生、佐藤義嗣(8)

 

 ……えっと、まぁ、僕の席が虎次郎くんの隣から、なのはちゃんとはやてちゃんの間に移動したっていうだけの話なんだけどね。

 丁度皆の真ん中の位置。朝方三人でお散歩したお陰で気にかけてくれたらしい。こういうフラグなら僕は大歓迎です。ちなみにアリサちゃんは口には出さなかったけど、僕が移動することで虎次郎くんが独占できるからかなのかとても良い笑顔で僕に「良かったね」って言ってくれたよ。

 うん、アリサちゃんも頑張ってね、と心の中で思いながら「ありがとう」って返しておいた。

 

 で、まぁなのはちゃんとはやてちゃんに囲まれた訳ですよ。もうね、この時点で「僕って実は主人公なんじゃないだろうか」という妄想が一瞬浮かんでしまったのは、責められることではないよね。

 だって原作主人公の内二人に挟まれてるんだよ? 僕なにかフラグを建ててしまったのではないかと思ってしまうのも仕方の無いことだよね。

 

 まぁ、普通にお話しただけなんだけどね。アインとユーノくんとリーンちゃんが周囲にいることのほうが、僕には二人に挟まれた事実より嬉しかったし。

 

 だってね? アインは僕の膝の上で「コレ食べたいお」って言わんばかりに僕とお膳の上の刺身を交互に見ながら耳をピクピクさせて、尻尾をピンピン立たせているわけですよ。もうね、なにこの天使って状態。本当は猫用の餌以外は与えない方が良いんだろうけど、最後の一枚だけあげておいた。贅沢覚えたらどうしようかしら。

 

 あとね、僕の肩にユーノくんが乗って、昨日の夕食とは違う具材の茶碗蒸し冷やした奴をなのはちゃんにスプーンで差し出されてちゅるちゅる吸ったりしているわけですよ。もうね、かわいらしいのなんのって。なのはちゃんが僕の肩にちょっと茶碗蒸しこぼして慌てて謝って来たけど、別に熱い奴じゃないしユーノくんのラブリーさにもうメロメロなわけですよ。だから僕も「大丈夫。熱くないし、ユーノくん貸してもらってるし気にしないで」とにこやかに返しておいたよ。

 それでも「ごめんね?」って謝るなのはちゃんマジ天使。でもユーノくんはもっと天使。尻尾がね、僕の頬にふわふわふさふさ当たるの。くすぐったいんだけどね、もうね、それが最高なの。

 

 で、でだよ? なんとね、リーンちゃんが僕の隣でぺたりと伏せてるの。分かる? 隣にはレトリバーさんが伏せてるの。わんこさんだよ? わんこ派にゃんこ派の二大派閥プラスアルファ相手に、僕は今盛大に喧嘩を売っているのではないかと思える動物天国。

 ちなみに最初ははやてちゃんの後ろに騎士のようにビシッと控えていたリーンちゃんだったんだけど、追加のお料理持ってくる仲居さんの邪魔になってたので僕とはやてちゃんの間に来た訳である。

 見てごらん? リーンちゃんが尻尾を左右にのんびりもふもふ動かしているね? さっきから僕の腰のところにそれが当たっているね?

 

 非常に素晴らしいよね!! わんこのしっぽ!! ふっさふさやぞ!! ちなみににゃんこの尻尾は触ると怒るから、アインのは触らないようにしてるんだけどね!

 

 あ、でもアインって尻尾の付け根の方撫でてあげると喜んでるのか尻尾を立ててすりすりしてくるのでもふもふついでに撫でたりしてるんだけどね。アレって大丈夫なんだろうか。まぁ嫌がってなかったし大丈夫か。

 そして、はやてちゃんとも如何にリーンちゃんが可愛いか、如何にアインが可愛いかで議論して、お互いに「わんこもにゃんこも可愛い」という結論で落ち着いた。最初からお互いにどっちもべた褒めだったから議論にすらなってなかったけど。

 

「アインちゃんもリーンちゃんもいいけど、ユーノくんも可愛いと思うの!!」

「「異議なし」」

『いや、僕としては大いに異議有りなんだけど……』

 

 結論出る頃になのはちゃんが割り込んできたけど、その点については僕も激しく同意しちゃうよね。ユーノくんには悪いけど。

 

 そしてその後は露骨にカップルで分かれたりしないで皆で動くことになり、卓球台があると聴いたので虎次郎くんとやろうと思ったら(卓球は僕が前世で唯一得意だったスポーツなのだ)身長的に無理があってそれを仲居さんに苦笑しながら言われて悲しくなってたら皆に慰められたり、外に出かけて童心に帰り(っていうかリアルでガキンチョだけど、僕達)かくれんぼをしたら虎次郎くんが鬼の時以外僕を見つけられる人がいなかったり(ずっと隠れながら待ってるの切なかった)、すずかちゃんと刹那が朝発見したというお花畑を皆で見に行ったりして、夕方となった。

 

 え? そこもっと語れよって? そこかなり萌えポイント多かったんじゃなかったのかって?

 

 あぁ、アインとユーノくんの二人もとい二匹を延々ともふもふして、たまに虎次郎くんや刹那、はやてちゃんと会話したくらいだったけど、巻きで行けって声がどこからか聴こえてくるんだけど、どっちに従うべきなんだろうか……。

 まぁ、今はとりあえず巻きの声に従っておこう。僕も全員の会話内容をしっかり思い出して描写できるか自信ないし。

 

 ――だから誰に向かって僕は喋っているのだろうか。脳内とはいえ。

 いや、まぁ脳内の聴衆に向かって語りかけているのは事実なのだけれどね。

 実に痛々しいな、僕。

 

 夕食はお昼の時とほぼ同じ状況で、とりあえず天国だったということだけ言っておく。もうね……もうね、僕今日は一生の思い出になると思う。四六時中動物に囲まれてご飯食べたという思い出に。あとついでに原作主人公の二人に挟まれた記憶として。

 とりあえずリーンちゃんの尻尾は魅惑の尻尾。ユーノくんの尻尾は癒しの尻尾。アインの尻尾は元気の出る尻尾。

 あとね、なんかなのはちゃんもはやてちゃんも妙に気を使ってくれるんだよね。かくれんぼの時に虎次郎くん以外見つけてくれなかったことで涙目だったのを気にしてくれたみたいなんだけど、僕はわんにゃんフェレット軍団に癒されたので大丈夫です。

 

 で、ようやくお風呂に入る今に至る、と。

 ちなみに今回はアインはお部屋でおねむ中。ちょっと残念だけど、まぁ今回は友人二人と共に入るわけで、寂しくはないのですよ。

 

 ……とか油断していたのが悪かったのだろう。全部脱いで腰にタオルを巻きつけた僕の背後からは忍び寄る虎次郎くんの声が。

 

「おうおう、なんやヨッシー、タオルで隠すなんてそない女の子みたいなことしたらあかんで! 男なら堂々と晒すんや!」

 

 予想通りと言うべきか、ニヤニヤした虎次郎くんは背後から僕が腰に巻いていたタオルを、思いっきりめくりあげてきやがりましたよ! っていうか何すんだよ!?

 思わず股間を押さえる僕。

 

「ギャー! 虎次郎くんやめろ! 僕は人と入る時はタオルつける派なんだ!!」

「虎次郎、佐藤くん本気で嫌っぽいからやめてあげなよ」

「いや、コレは嫌よ嫌よも好きのうちや。大丈夫。任せとき!」

「何いってんだアホー! やーめーろーよー!!」

「ごめん、佐藤くん泣いてるようにしか見えないんだけど。そして何を任せるのかさっぱりわからないよ……あと、正直僕も見たくないんだけど……」

「あぁ、そか? ……いやいや、ダメやって、そんなんではダメやって刹那。男の子なんやからコレからはこういう機会絶対増えるで? 今のうちに慣れとかな。少なくとも、ワイらの見て気持ち悪いとは思わへんやろ?」

「……まぁ、そう……だけど」

「せやから刹那もそんな隠さへんでええんよ? ちゅうか、バスタオルで胸元から隠すのやめへん? 正直女の子にしか見えへんからなんとも反応に困るんやけど」

「いや、これはなんていうか、ごめん。僕のアイデンティティーに関わることだから」

「さよか……まぁ、ちぃっとずつ慣れていくしかあらへんのかな……いやでも……って、あれ? ヨッシーどないしたんや?」

「あ~……泣いてるね」

「うぐぅ……もう……もうお婿にいけないよ僕……」

 

 畜生、刹那と会話しながら僕のタオルを器用に解くなよ。おかげで僕尻丸出し状態で友人が半分以上掴んでるタオルで股間を頑張って隠してるなんか可哀想な子だよ……。

 泣くよ? っていうか泣いてるよ? こんちくせう。

 

「あ~……いや、すまんなヨッシー。そこまで嫌なようには見えへんかったっちゅうか。よもや男同士で見せるのをそこまで嫌がるとは思わへんかったっちゅうか」

「うぅ……一応、精神的には女の子な人がいるわけで、僕だって恥じらいくらい持つよぅ」

「……嬉しいこと言ってくれるね、佐藤くん」

「あ~もうヨッシーの阿呆。刹那とのフラグ建てたいんやったらえぇけど、ワイがせっかく刹那を一人前の男にしてやろうと画策しとるんに、そういうこと言ったらあかんで?」

「虎次郎くん、それは地味に僕に対する嫌がらせにしか感じないんだけど?」

「前から言っとるやろ。刹那はもう男なんや、自覚しぃや? せやないと大人になってから大変やで?」

「……むぅ」

 

 なんか二人で言い合ってるけど、いい加減タオルから手を離してくれないかな虎次郎くん。僕そこの鏡台見たんだけど、なんだかすっごい不憫な子が写ってたから。当然それ僕のことだから。なんか一瞬誰だコレって思うくらいショタ臭のする半泣きっ子がいたから。

 

「あの……虎次郎くん、そろそろ……そろそろタオルから手を離してくれない?」

「あぁ、すまんかったな。まぁ……刹那に比べたらヨッシーはマシなほうやしええんやけど」

「いいんだったら初めから剥ぎ取ろうとしないでよ!?」

 

 返して!? 今の一連のやり取りで傷ついて欠けて一部どっかいっちゃった僕のガラスのハートの欠片を返して!?

 

「そうだよ虎次郎。個人の趣向に口出しするのはよくないよ」

「刹那はダメや。えぇ子やから脱ぐんや」

「……僕を脱がして、どうするつもり……?」

 

 おうふ、刹那さんったら涙目上目遣いなんてどこで覚えてきたのかしら。流石は元女の子。男の子のツボを心得ていらっしゃる。

 

「ぐふっ……そ、そない涙目の上目遣いはズルいで!? 不覚にもドキッと……あいや、えぇから脱げっちゅうんや」

 

 しかし、一瞬虎次郎くんをたじろがせることに成功したものの、すぐに立ち直って命令する虎次郎くん。

 っていうか、僕にやったみたいに無理やり脱がしたりしないんだね。男女差別だよ男女差別。どっちも身体的な意味では男な上に虎次郎くんはその事実を分からせようとしてるのは間違いないんだけど、でも刹那には実力行使に出ないならやっぱり男女差別と言わざるを得ないよ!

 

「仕方ないね。じゃあ脱いだら虎次郎の背中で身体を隠すけどいいよね?」

「ダメや。男にくっつかれるとかワイに何の得があんねん」

「……いけずだね」

 

 あ~、平行線だね~。このぶつかり合い。

 

「まぁいいじゃない虎次郎くん。佐々木さんだって嫌がってるんだし、虎次郎くんが譲歩しないなら佐々木さんだって譲歩できないと思うよ?」

「そら……せやろうけどなぁ……どうせ中では脱ぐんやで? 身体洗うんやし」

「あ~……それはそうだけど、それなら余計に今着てることくらい見逃してあげなよ」

「……はぁぁ~。ヨッシーは刹那に甘すぎるで? 男の身体で自分を女やって思って生きていくんは絶対苦労するんやぞ? 早めに矯正したらんと刹那のためにもならへんし、なんちゅうか……色々可哀想な子もおるやん」

「あ~……あ~……うん……なるほど……」

 

 虎次郎くんがやけに刹那を男だって言う理由がちょっと分かった。すずかちゃんね? はいはい。確かに刹那が「自分は女だ」ってずっと思ってたらすずかちゃんの恋実らないもんね。

 ……でも、それはちょっとおせっかいにすぎるんでない?

 

「……ん~……でも、それはそれで仕方ないんじゃない? っていうか、最近は性転換手術とかも結構安全になってるらしいし、早いうちにやれば子供は出来ない身体ではあるけど、殆ど女の子の身体にはなれるみたいだし、刹那の意思に任せれば?」

「実に良いことを言うね佐藤くん! そう、その通りだよ虎次郎くん!! だから僕は女の子で全然問題がないんだよ!!」

「いや……せやけどな? えっと、アレやで? 性転換手術なんてなんぼかかる思うとるんや? 早いうちにってヨッシー言うとるけど、この歳でそない金あるわけないで? 家の人かて……承知せぇへんな。絶対に。あの腐れジジィ」

 

 あれ、なんか最初は焦りながらも説得しようって感じに喋ってたのに、最後なんかガチでぞくっと来たんだけど。悠馬に脅された時ばりになんか来たんだけど。やめてね? あんまり変なフラグたてないでね?

 

「いいよ。家の人なんて元からあてにしてないし、僕は手術代くらい自力で貯めるから。最悪借金してでもする。そうするよ」

「借金ちゅうんはそない気楽に決められる問題やないんやで、刹那……」

 

 あ、あれぇ……なんか……なんか、暗いんだけど……おかしいな。僕男三人でわいわいお風呂でおしゃべりできる感じだと思ってたんだけど……。

 

「え、えぇっと……と、とりあえずお風呂入ろう? ね?」

「ん……そうだね。行こう、虎次郎、佐藤くん」

「はぁ……わかったわ。確かにこうしててもしゃあないしな。ホンマに風邪ひいたりしたら笑い話にもならへんし、行こか」

 

 あ~良かった。やっと空気が柔らかくなった。

 うぅ……僕ああいうシリアスとまではいかなくてもなんか暗いというか緊迫した空気というか、そういうの息が詰まって苦手だからやめてよね……。

 

『義嗣! 助けて! 可及的速やかに、でも事前に僕を連れ出す口実を考えた上で助けて!』

 

 と考えてたら、あっさり登場ですよ! エアーブレイカーユーノくんが!

 ……そういえば忘れてたよ。ごめん、相棒。今助けに行くからね!

 

「呼ばれとるで、ヨッシー」

「うん、わかってるよ! 待っててねユーノくん! 今浴衣着たら行くからね!」

「佐藤くん……」

 

 なんか虎次郎くんと刹那の微妙な視線を感じるけれど、気にしない! 我が相棒(ゆーのくん)の危機なんだぜ! 具体的には貞操の、というか貞操観念の。

 そういう訳で風呂上りに着るつもりで持ってきた新しい浴衣をパパッと着て、いざ男湯を出る。そして目指す目標はあやうく男子禁制の聖域(サンクチュアリ)に連れ去られる寸前!!

 

「ちょ、まって! ユーノくん今回も預かっていいかな!」

 

「「「「だめ(なの)」」」」

 

 おうふ!? なのはちゃんとアリサちゃんと美由希さんと桃子の四人で声を揃えてお答えなされた!

 ちなみに女湯に今まさに入ろうとしていたのは、女性陣フルメンバーである。リーンちゃん含む。やべぇちょっとリーンちゃんとお風呂入れるなら僕も女湯入りたいとか思えてしまう。

 って、今はそんな問題じゃないね! ユーノくん! ユーノくんを助けるんだ!

 

『義嗣! お願いだよ! 頼んだよ!!』

 

 任せてユーノくん!

 

「え、えっと、ほら、僕寂しいからユーノくんと入りたいなって!」

「何言ってんのよ。アンタには昨日貸してあげたし、今から三人で入るんでしょ? 今日くらいしかユーノとお風呂入る機会無いんだからダーメ」

「む、むむむぅ」

『頑張って! がんばって義嗣! 僕の色々な沽券とか全部今君の手腕にかかってるから!』

 

 オッケー! がんばる!!

 

「異議あり! ユーノくんは男の子なんだから僕達男の子と入るべきだと思います!!」

『そうだよその通りだよ! なのはもそういうことだから逃がしてくれないかな?』

『……もしかしてユーノくん、私のこと嫌いになったの……?』

『えぇ!? ち、違うよなのは!? そんなことはないよ!!』

 

 あ、しまった。ユーノくんこれ押し切られるフラグだ。僕ががんばんないと。

 

「残念でした。それを言ったら昨日アンタがアインちゃんを連れてお風呂に入ったのはどうしてかしら? アインちゃんは女の子じゃなかったのかしらね?」

 

「ぐぬぅっ」

 

 おのれアリサちゃん。手ごわいな!

 

『あの、アレだよなのは! むしろ好きだからこそ、男の子として僕は女の子の着替えとか裸とか、そういうのをこういう形で見るのはどうかと思うんだ!』

 

 おぉ、意外と押し切られなかったなユーノくん!! そうだ、その通りだよ! 僕達にはまだ早いよ! っていうか、男の子としての自覚が芽生えているときの男の子を女湯に連れてっちゃダメだよ! 性の目覚めを起こして将来的にエロガッパさんになるよ!

 

『え? 着替えとかならいっつもユーノくんの前でしてたし、いつも家では一緒にお風呂入ったりしてるじゃない』

『あ、いや、えっと、それはその……』

 

 裁判長、判決をどうぞ。

 

 有罪(ギルティ)。

 

 ですよね~。

 

「残念だ……残念だが僕はここまでのようだよユーノくん! なのはちゃんと……なのはちゃんとお幸せにね……ッ!!」

『ちょ、義嗣!! 義嗣ーー!! 僕を見捨てないでぇぇ!!』

『はいはい、じゃあ一緒に入ろうねユーノくん』

『うわぁぁん!! こんなことなら昨日のうちに人間形態見せておくべきだったよぉぉ!!』

 

 ごめんねユーノくん。でも君の父上がじゃなかった。君がなのはちゃんと同棲してるのが悪いんだからね!! そんな嬉し恥ずかしラッキースケベイベントを多発する君が悪いんだから!!

 

「なんだったのかしらアイツ」

「うふふ、ユーノくん可愛いからね。きっと気に入ったんだよ」

「確かにかわいいものねぇ。でも、だからこそ独り占めはさせちゃだめよね?」

「賛成~」

 

 背後に聴こえる女性陣の声を尻目に、さっさと浴衣を脱いで浴場へ突入。さらばユーノくん。達者でな。

 

 ということで、頭洗ってる虎次郎くんの隣に座って僕も頭を洗い始める。どうでも良いけど虎次郎くん、お前風呂入る時くらい、っていうかシャワー浴びてる時くらいメガネ外そうぜ? レンズ曇ったりフレーム歪んだりしないの?

 あ、ちなみに刹那はあわ立てたスポンジで身体をくしくしと丁寧に洗っていた。なんというか、泡で身体の色々な箇所が隠れているせいで本当に女の子がいるみたいで若干ビビる。ドキッともするけど、どちらかといったらなんかイケないことしてる気がしてビクビクする。

 

 とか考えつつ、頭も身体もリフレッシュしたところで虎次郎くんと共にお風呂にドボンである。士郎さんと恭也さんはちょっと走りこみに行ってくるとのことだったので暫くは僕達子供組の天下だ。ひゃっふぅ。

 

「んで、ヨッシー、早速やけどなんでユーノの声が聴こえたんか、っていうか何でヨッシーの名前が呼ばれたんか、説明してもらって、えぇやんな?」

 

 おうふ!? わいわい普通に盛り上がろうと思ってたのに、いきなりそこから来るのかい虎次郎くん!!

 ……まぁ、それに関してはやましいことないし言えるんだけどさ。

 

「あ……そういえば二人は昨日いなかったから知らないんだっけ。昨日ユーノくんに念話で話しかけられて、お話しして友達になったんだよ」

「ユーノが? なんでや?」

「あ~……いや……えっと……」

 

 しまった! 理由に関してはバリバリ後ろめたかったよ! まぁ隠しても仕方ないから言うけどさ。

 

「あの~……巨大にゃんこ事件の時に近くの茂みで隠れて見てたの。なんかユーノくんの張った結界とかいうのに取り残されて、で、そこをユーノくんに見つかったから、前から声かけようとしてたんだって。っていうか、ごめんね? シラを切ってずっと見てなかったフリしてて」

「ん、ちゃんと謝ったから許したるわ。ちゅうかあの時ヨッシーが隠れとるんは初めっから気付いとったしな。その後にユーノからもヨッシーのこと訊かれたから見つかったんやな~、とは思ってたし。ここでしらばっくれてたら、ワイちょっとおかんむりになるとこやったで」

「おうふ、正直に言ってよかった!」

 

 虎次郎くんと険悪な仲になりたくないもの!

 

「そうだね、自分から言ってくれたのは素直に褒めてあげるよ佐藤くん」

 

 あ、もう洗い終わったの? 刹那。女の子ってもっと身体とか髪の毛洗うのに時間かけると思ってたんだけど。いや、別に良いけどさ。

 

「で、ヨッシーはこれからどないするんや? ワイらと一緒に戦いたいんか? それとも、参加せぇへんで、これからも平凡に暮らしていきたいんか?」

「平凡一択で」

「……即答だね。理由を訊いても?」

「物騒なのマジ怖い。昨日も野次馬根性で見に行った僕が悪いんだけど、半端な気持ちで介入してきたら殺すって怒られた」

「「あぁ、悠馬 (くん)か」」

 

 うん、悠馬です。

 まぁ、別に介入する気は毛頭無かったんだけどね。介入できるような能力も無いし、あくまでアイン追っていったらやってたから見物しただけで。

 とはいえ、あの時は完全に遊園地のアトラクション見に行くくらいの気軽さだった。あの時の自分を殴りたい。

 

「あ~……なんちゅうか、怖かったやろうけど、堪忍したってや? 色々あんねん。悠馬も」

「下手したら僕らより悲惨だからね彼……気持ち悪いけど」

 

 え、何? やっぱり無駄な裏設定みたいなのあるの? アイツ。普通にかませ犬ポジで良いと思うんだけど。そして悲惨だと思ってるって言うけど、そう思うなら気持ち悪いって言うのはやめてあげたほうがいんでない? 君が悠馬の生皮剥いだという事実を知っていることを忘れてもらっちゃ困るよ。君は意外と猟奇的なんだから割と人のこと言えないよ?

 可愛いから許されちゃうかもだけど。

 

「で、まぁコレが一番確認取りたいっちゅうか、出来ればヨッシーには自分から認めてもらいたいんやけど」

「なに?」

「自分、前世の記憶があるっちゅうか……一言で言えば転生者ちゃうか? 転生特典として何か願い叶えてもらわへんかった?」

 

 ……どストレートぉ!!

 え~……待って、これってどうしたらいいの? やっぱり隠してた方が良いのかな。でも虎次郎くんがわざわざ訊くってことは悪い意味で訊いてるんじゃないと思うんだよなぁ……そもそも、虎次郎くんが真剣な顔で問いかけてくるなんて今までそうあることじゃなかったし、ここで隠したら後々申し訳なさが酷くなる気がする。

 

 ……隠して生活するのも潮時かなぁ。まぁ、僕の能力じゃ結局平凡に生きるしか無いから、別に事情わかってくれてる人が出来るってのはむしろ気が楽でいいんだけど。

 

「……あ~あ、僕できれば言いたくなかったんだけど。うん、他ならぬ虎次郎くんの真剣な質問だもんね。言うよ」

「ちゅうことは」

「うん、転生者。とはいっても原作知識なんて一期アニメ分だけだし、二次創作の改変された知識が主体の物を全部うろ覚えで覚えてるだけだから、原作の設定なんて殆ど知らない。それにチート能力なんてのも無いよ」

「……やっぱり、転生者だったんだね」

「うん。ごめんね佐々木さん。今まではぐらかしてて」

 

 う~、言ってしまった。刹那の微妙な表情がなんともいえない感情を胸の内から押し出してくるよ。

 

「っていうか、なんでバレたの? っていうからいつからバレてたの?」

「ワイは普段からヨッシーが会話で前世のサブカルネタ入れてきとったし、ワイの言ったネタにも反応しとったからな。割と前からやで」

 

 あれ~! 僕ってば不用意にも程があるんじゃないのかしら!? 言われてみれば僕、虎次郎くんとの会話で時折ジャ○プマンガネタとか挟んでた覚えあるよ!! こっちの世界にあれらのマンガ無いのに! 似たようなのならあるけど!

 

「ちなみに僕は図書館で君がいつの間にか近くにいた時からかな。ステルス性の高い気配隠蔽魔法でも使ってたのかと思ったのが始まりで、そこからは普段の君の言動からだね。まぁ僕の場合は確証無かったんだけど」

 

 あ~……僕そんな魔法でも使ってるように思われるほど存在感ないんだ……。

 なんていうか、若干へこむ。

 

「ヨッシー、ほんなら……一番大事なことやからちゃんと答えてくれると助かるんやけど、えぇか?」

「うん。いいよ」

「転生の時にどんな願いをしたか……は嫌だったら言わんくてもえぇけど、どんな能力やレアスキルを得て、どんな因果を背負ったか、分かるか?」

「へ? 願い? 因果?」

 

 え、なにそれ、もしかしてお願いしてたら自分の望んだ能力やら設定ゲット出来てたの? あのカードってもしかしてフェイク? 特典はカード引いて決めろって思わせておいて、お願いして大丈夫だったってやつ?

 うわ、何それ酷い。

 

「……なんも、願わんかったんか? 何か能力もらったりは?」

「え~……なんかカード引かされて、好意を持った相手が少しだけ幸福になれるみたいな能力はもらったけど」

「なんやそれ」

「地味というか……まぁ、下手に他人を不幸にする能力よりはいいね。むしろ君からしたら佐藤くんが持ってるのは嬉しい能力じゃないかい? 虎次郎くん」

「アホ抜かせ。どうせなんか変な因果持っとる能力なのは間違いないんや。せやないとヨッシーの存在感があんまりにも希薄なんが理解できへん」

「ごめん、虎次郎くん、それは僕泣いていいのかな? 存在感無くて空気みたいな奴だって言いたいのかな?」

「あ、いや、そういう意味やないねん。いや、ある意味ワイにとってはいなくてはならない存在っちゅう意味では空気でも正解なんやけどな? えっと……あ~……なんちゅったらえぇんかな」

「まぁ、文字通り存在感が無くて気配が薄いって言うことなんだろう? それは僕もずっと佐藤くんから感じてたことだし、実際、魔法ではないかと疑ってたくらいだからね」

「よ~し泣いちゃうぞ僕!! 全力で泣いちゃうぞ!! 割かし親友ポジだと思ってた二人にあっさりモブ認定されて泣いちゃうぞ!!」

 

 自分で言うのと、相手に言われるのってダメージ全然違うんだからね!! 皆も注意しようね!! 私ブスだから、とか、僕頭悪いから、とか言ってる人に「そうだね~。ブス(バカ)だもんね~」とか言ったら本気で傷付くアレだからね!!

 

「あ~、もう……そういう笑い話に出来る類の話やないんよ、ヨッシー」

「僕にとっては元から全然笑い話じゃないよ虎次郎くん……」

「まぁ、どっちにしろ本人にはそうかもね……」

 

 ちくしょ~。っていうか、僕のモブっぷりは能力のせいだったのか。なんてことだい。アレか。じゃあ僕が割と放置されてハブられてたことが多いのってそのせいか。自分から話し掛けた時とか、アインとか虎次郎くん経由でしか殆ど会話出来なかったのってそのせいか。

 道理で友達できないわけだよ僕……ただでさえ消極的なのに、積極的に友達作るタイプの奴の認識から外れちゃってたら、そらそうだよ……よく虎次郎くんは僕に気付いて友達になろうなんて思ったな。

 

「ん~……しかし何の因果やろな。誰かを幸福にするっちゅうんならその分、自分が不幸になる気がするんやけど、ヨッシー自覚は?」

「ふっ……この前スーパーで買ったアイスが二本連続で当たった、と言ったら?」

「なん……だと……って、やかましわ。んー、身内が不幸になったとか、自分が嫌な目にあったとかはどうや?」

「両親は知らない内に居なくなってたけど、引き取ってくれた今のお父さんは良い人だから何も不幸だと思えないし、事故にあったりしたことも無いからなぁ……幼稚園の時はいじめられたりしてたけど、幸福分け与えるような好感を持ってる相手なんてその時に僕を庇ってくれてた保母さんくらいしかいないから、それに関しては運が悪くなったからイジメにあったって訳じゃないと思うし」

「あ~……そうすると、“他人に認識されにくくなる”とかの因果が一番候補としては高いか。恐らくヨッシーが誰でも彼でも好感抱いて、周囲に幸福ばら撒かんように、そもそもとして周囲から興味を抱かれんように設定されたんやろか」

「それなら図書館で僕が佐藤くんに気付かなかったのもうなずけるね」

「佐々木さん? 一応、僕あの時のこと未だに恨んでるからね……?」

「安心していいよ。アレ嘘だから」

「え? マジで?」

「うん。大体舐めようとしてるのに気付いてリコーダー入れ替えるなんてこと出来るわけ無いじゃないか。僕は人の心なんて読めないんだから」

「おぉぉ!! 本当に!?」

「うん、君のを舐めてたのは君の隣の席の鈴木くんだよ」

「お、おぉぉぉぉ……?」

 

 す、鈴木くん?

 え、鈴木太郎くん? 僕が頑張って作り上げた、転生者でも原作キャラでも無い友人一号の鈴木くん!? 台詞一回も喋ってない気がするけど、そんなどうでも良い伏線のために現れたの彼は!?

 

「どっちにしろ嫌だよぉぉぉ!! 何!? 僕明後日学校で鈴木くんにどんな顔すればいいの!? っていうか鈴木くんそういう趣味があったの!?」

「それは僕の知ったことじゃないね」

「持ち上げて落とすの上手すぎるよ佐々木さぁぁぁん!!」

 

 ちくしょう滅茶苦茶ニヤニヤしやがって!!

 

「なんや……災難やったな、ヨッシー」

「うぅ……結局僕に被害が出ていることには違いないじゃないか……」

 

 とりあえず、悠馬の犯罪歴から“リコーダーペロペロ事件”が消えただけだよ……。何気に悠馬に可哀想なことしたよ……完全に悠馬に対する刹那の嫌がらせだったんじゃないか……そういえばあいつ一回も自分がやったとは認めなかったよ……反応は滅茶苦茶怪しかったけどさ……どうすんのさ、僕の中で悠馬の株が回復した代わりに刹那の株が急暴落なんだけど。

 

「あ、ところで二人のもらった能力とその因果とかいうのってどんなの? っていうか、そもそも因果って何?」

「あ、そこから説明が必要やったか……ええと、とりあえずワイの願いと貰った能力は優しい世界で生きたい、他人を笑かせるような魔法や技術が欲しい、大事な物を守ったり癒したりできるような力が欲しい、とかやな。んで、因果っちゅうのはやな……」

 

 どう説明するのか少し悩んだらしく、少しの間顎に手を当てて唸った後、頷いて語りだした。

 

「まぁ一言で言えば、例えば自分が得たプラスの能力に関係する不幸を呼び込む、マイナスのパッシブスキルみたいなもんやな」

「ふむふむ?」

「例えばやけど、衛宮切嗣の能力を丸々引き継いで転生した場合は、その足跡をなぞるように人生が進んでいくとかやな」

「……あれ!? それ割と凄い悲惨じゃない!?」

「おう、つっても例えやからな? 本物と同等ないし上回る能力でも無い限り、似たようなことは起きてもそこまで悲惨な結末にはならへん。固有時制御は取得しても、起源は違う場合もこの因果も大分弱まるやろうし。なんちゅうか、得た能力がどれだけオリジナルに近いか、或いはそれを超えるほどの物かによってこの因果も大分変わるみたいやから、ヨッシーのはそこまで心配せんでも大丈夫やろ。」

「ほへー……」

 

 色々あるのだね、転生にも。

 

「まぁ、ワイも又聞きやから実際のところどうなのかは分からんのやけどな」 

「そうなの?」

「おう、ワイにはその因果とかについて調べる能力なんてあらへんからな」

「あ、そんな能力もあるんだ。ありがと、まぁ大体理解したよ。……しかし虎次郎くんはなんていうか、君の性格そのまんまな物望んだんだね」

「そうだね、虎次郎らしい願いだと思うよ」

「ふふん、せやろ。正義の味方っぽいやろ」

「うん!」

「ハーハッハッハッ! せやろせやろ!」

「でもすぐそうやって調子に乗るところは三下っぽいよ」

「阿呆な!?」

 

 うん、実に良い三枚目主人公です。

 

「で、因果はどんなのなの? やっぱりその……結構重い感じ……?」

「いや、他人を笑かしたり、大事な物守ったりのための力やから攻撃魔法はからっきし、とかやな。まぁ身体強化は普通に出来とるし、宴会芸じみた魔法も面白いから全く問題ないんやけど」

 

 なるほど、あの三頭身のにゃんこと狐さんはその宴会芸のひとつか。そりゃあ戦闘能力無い訳だ。フェイトの攻撃あんなひょいひょい避けてたのも、身体強化の恩恵なのね。

 っていうか、おい、僕の能力なんかより圧倒的に良い物なのにデメリットらしいデメリットじゃないじゃないか。

 

「デメリットほぼ皆無じゃないか! チートだチート!」

「ふふん、最強系チート主人公と呼んでくれや」

「よっ、最強系チート主人公!」

「ハッハッハッ、せやろせやろ! ワイこそは海鳴市四天王が最強の一人、虎次郎様やからな!」

「で、佐々木さんは?」

「なんかツッコミ入れてや!?」

「天丼ばっかりなのはどうかと思うんだ、僕」

「それもせやな」

 

 最強の一人って、最強が何人もいたら最強じゃないだろうとか、四天王って、あと三人誰だよとかツッコミ入れたら負けである。 

 

「あー……良いかな?」

「うん、どうぞどうぞ」

「僕は、誰からも愛されるような美少女の容姿と、Fateのアーチャー……英霊エミヤの能力。あとは虎次郎くんと同じで優しい世界で生きたい、とかかな」

「あぁうん、君のデメリットはなんとなく分かったよ。美少女の姿にはなったけど男の娘になった。アーチャーの能力は得たけど普段ニヒルなキャラの割にいじられキャラになったって、とこだね?」

「否定したいけど、大よそ合ってるのが切ないね……って待って、後半はなんか違うんじゃないかい……?」

「いじられキャラやろ」

「いじられキャラだよね」

「えー……」

 

 ふむー、しかしパッと聴いた感じじゃそこまでのデメリットには感じないけど、よくよく考えたら性別変わっちゃうのって割かし悲惨だよね。僕なんかは自分がTSしちゃっても特に気にしない自信があるけどそういうのは少数派だろうし、なんかアーチャーの魔術も粗製になってて滅茶苦茶弱体化してるみたいだし、刹那ってもしかして割と苦労人?

 

「って、時間操作できるんじゃなかったっけ。それは?」

「あぁ……アレだよ。時間を操作する魔法をくださいってお願いしたんだ」

「直球だね~。まぁ確かに便利そうだもんね。時間操作」

「魔力の消費が酷いのが欠点だけどね」

「それでも何年分も人間の成長を巻き戻したり出来る時点でかなり凄いから良いじゃない。佐々木さんそれ自分に使ったら人類の夢である不老を達成してるようなもんだよ?」

「……なんで知ってるんだい? 僕がそこまで出来ることを」

 

 あ、なんか睨まれた。

 

「天ヶ崎くんが洩らしてました。二年間前になんか自殺紛いに街ごと破壊しようとした転生者がいたって」

「あぁ……アレか……」

 

 おぉう、すっごい苦々しげな顔だね。そんなに嫌だったのか。

 

「アレは……なんちゅうか、もう二度とああいうんには会いたく無いおもたな……刹那おらんかったら、勝てはしても被害どんだけになってたか想像もつかへんで……下手したら日本が核兵器を秘密で所持していた、とか言い出されて国内世論ガタ落ち且つ国際批難轟々で日本終了のお知らせの可能性もあってん」

「……言われてみれば、戦術核級の核爆発が起きたらそりゃあ疑われれるよね。何気にこの街どころか日本国丸々救ってたんだね君たち……」

 

 とんでもないな……どうしてそんな能力もらったんだその転生者……本気で疑問なんだけど。

 

「まぁ、でもそらまた置いておくとして、言われてみればせやな。刹那おったら不老の夢あっさり叶うやん。ガンとかやて肉体を若返らせることで細胞自体存在消せるやろし、何気に人間の世界国宝レベルやぞ刹那」

「い、言われて見ればそうだね……補助としてはせいぜい戦闘後の後始末と、治癒魔法代わり程度にしか見て無くて、メインの戦闘能力ばっかり注目してたから気付かなかったけど、僕そういうメリットあったんだ……」

 

 いいな~。老化による死亡が無いなら、突発的事故とかで即死しない限り死ぬこと無いって、ある意味一番チートだよね。まぁデバイス持ってなかったら使えないみたいだけど。

 

「あ~、まぁ、能力に関してはこんなもんでえぇやろ。ヨッシー原作に関わる気ないんやろ?」

「あぁうん。お友達として一緒に遊べればそれで良いかなって。管理局入らないつもりだから将来のビジョンとか殆ど決まってなくて、この歳ながら心配ではあるんだけど。まぁ前世の経験生かして、ブラックじゃない会社でサービス業あたり勤めようかとは思ってるけど」

「……なんていうか、堅実だね」

「一般人だからね。原作知識とかすらうろ覚えの」

「ま、それならえぇやろ。……あ、でも一応A's編始まったらリンカーコア蒐集の可能性もあるから、注意するんやで? 存在感あらへん言うても、意識して探せば簡単に見つけられる程度のステルス性なんやから」

「なんかアレだよね。僕だけ能力の割にデメリットでかいよね。周囲の人から認識され辛いわ、自衛手段すらないのに巻き込まれる要素含ませられるわで、ちょっと酷くない?」

「いや、そのステルス性は逆にメリットでもあるんやから、あって困るもんや無いと思うで? 少なくとも他の転生者連中に何かされることも無いやろ」

「でも友達作りづらいよ……」

「おや? 僕達じゃ不満があるのかい? 佐藤くん」

「あ~……その言い方はずるいよね。不満なんかないよ。あ、でも佐々木さんはちょっと意地悪なところを直して欲しいとは思うよ」

「これは僕の持ち味だからね。そればかりは聴けないかな」

「ま、ワイも見てる分にはおもろいからえぇと思っとるしな。刹那の性格」

 

 くすくす笑う刹那と、カラカラ笑う虎次郎くんに、僕はなんだかなぁ、とため息を吐く。

 

 そして、後は普通にバカ話をして盛り上がってからお風呂を上がり、女性陣と合流したところで悠馬がなんでフェイト側についてるのかとか、アルフと仲良さげだったのかとか聴きそびれたことに気付いて、またため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 諸君、肝試しと言うものを知っているだろうか? ……そう、夏の風物詩である。

 大事なことなのでもう一回言っておく。夏の、風物詩である。

 

 じゃあなんで今、僕達は泊まっている旅館から少し離れたところにある、今は使われていないという旧館の前で子供組だけでアインやリーンちゃん抜きで懐中電灯片手に立っているのか? 割と、春とはいえまだ夜は結構冷えるこの時期に、上着を羽織って集まっているのか?

 

 分かるだろう。この子達マセてるんだよ。カップルをくっつけようと必死なんだよ。アリ虎とすず刹をくっつけようという魂胆なんだよ。女性陣が風呂で何やら画策したらしく、肝試しが開催される運びとなったのだよ。もっと季節感考えようぜと思ったのは言うまでも無い。

 

 まぁ、確かに大人数で男女混合お泊りとなれば定番ではあるけどさ、肝試し。

 

 しっかし発起人がはやてちゃんと桃子さんだというのだから恐ろしい。はやてちゃんはともかく、桃子さんは「アンタ大人なんだから小学三年生を夜の廃屋に行くの反対する立場じゃないのか」と小一時間は問い詰めたい。

 

 ちなみにアインとリーンちゃんは、流石に脅かす系の行事なので動物にはちょっとよろしくないということでお留守番と相成った。ユーノくんは当然ながらついてきたけど。

 幸い、伏せているリーンちゃんが片目を開けてアインを見ながら動かすもふもふ尻尾を、アインがねこじゃらしを追うみたいに飛び跳ねて追いかけるという遊びをしていたのでアインは退屈していないことだろう。あぁでもあそこでずっと見ていたかったといえば見ていたかった……流石に空気を読む僕は不参加を言い出したりはしなかったけど。

 

 で、くじ引きの際には司会進行を務めるはやての指示によって虎次郎くんの手品による裏工作があったらしく、アリ虎、すず刹、余り物の僕となのはちゃん、はやてちゃんの三組が出来上がった。

 

 ちなみに、またなのはちゃんとはやてちゃんに両方から「「わかって(と)るよね?」」って言われたのは余談である。ユーノくんはお風呂で色々あったのか、なのはちゃんの肩に乗ったまま遠い目をして何も言わないのがちょっと気に掛かる。

 

 それにしても、もうね、大人組も止めるのかと思いきや、むしろ桃子さんが張り切っちゃってるせいか皆してノリノリだったよ。あの人たちちょっとどうかしてるよ。そして相変わらずなんか一人切なく見える美由希さんが「那美も呼べばよかった……」とかなんか黄昏れてたよ。那美さんって誰か知らんけど、とりあえず美由希さんにシンパシーを感じた僕である。

 

 で、あれよあれよという間に、随所に大人組が隠れてスタンバっているから安心してまわって良いという桃子さんの笑顔を受けた僕達だが、いつの間にか現れて大人組みに紛れ込んでいた老執事さんに、アリサちゃんが「鮫島、分かってるわね?」「勿論です」という会話を繰り広げていたことがなにかのフラグでないことを祈りたい。

 バニングス家の財力と行動力によって、温泉旅館の旧館は今や一大お化け屋敷とでも言える状態らしいので、なんかもう、お前らはもう少しこう……自重しろとか季節考えろとか、色々ツッコミを入れたくなって嘆かわしくなった。

 

 あと、元気に見えるけど、刹那一応病み上がり……いや、待てよ? もしかして昨日って他の転生者関係に巻き込まれててこれなかったとかで仮病か?

 いや、まぁどっちにしろ刹那は対外的には病み上がりってことになってるのに、風呂上りにこんなことさせるってどうなの? とか色々思うけど、言わない言えない言いたくない。

 もし言って空気ぶち壊してごらん? なんかすっごいアレな空気になるよ?

 

「ほな、刹那~、ヨッシー先行くで~」

「こ、虎次郎!? い、いきなり手繋ぐの!?」

「ん? なんや? 嫌やったか? あ、それとも肩組んでカバディしたほうがよかったんかいな」

「い、いや、良いわよ! このままで! アンタがはぐれたら嫌……困るしね!! いくわよ!!」

「任せとき。可愛らしいお姫さんの護衛するんは男の華やからな!」

「だ、だだっだ誰がかわ、可愛……だ~! 良いから行くって行ってんでしょこの駄犬!!」

「駄犬いただきました!! 全国のアリサファンの皆! 今、アリサから駄犬発言いただいたで~!」

「アンタ甘い空気作るのかコメディにするのかどっちかにしてよ!?」

「わい純愛もえぇけど、ラブコメが大好物やから」

「キー!!」

 

 すっげぇ、なんか如何にもツンデレ彼女とそれを理解して怒らせない程度にからかう彼氏の図、である。いや、怒ってるけど、アリサちゃん。でもアレ顔真っ赤になって頬もちょっと緩んでるから喜んでんだろうな。

 なんていうか、頑張れアリサちゃん。ぶっちゃけ虎次郎くんもアリサちゃんのこと好きなのは間違いないから、今後増える可能性が高いハーレム要員達に勝って正妻の座を手に入れるために。

 

「せ、刹那くん。ちょっと怖いね」

「ん、大丈夫だよ。ちゃんと守るから」

「お、驚いて抱きついちゃったらごめんね?」

「良いよ、全然気にしないから」

「……ちょっとは……気にしてほしい……かな……」

「ん? なんだい?」

「な、なんでもないよ刹那くん!」

 

 そしてすず刹コンビは、まぁなんていうか、鈍感な主人公に健気にアタックする女の子の図である。うん、実に微笑ましい。刹那の外見が女の子なだけになんかイケない香りがするという点が若干危険な気もするけど。そして多分、刹那はわかっててすずかちゃんと距離置こうとしてるんだろう。

 今も手を握ってあげたみたいだけど、虎次郎くんみたいにイチャイチャって感じじゃない。仲の良い女の子同士がする感じの距離がある。

 

 う~ん、すずかちゃん、応援したいんだけど刹那のこと知ってると素直に応援できない。刹那もちょっと心苦しそうな感じだし。精神面女の子だから女の子と話してると気が楽で、でも身体は男の子だから女の子に惚れられてしまうというなんとも苦しい状態なんだろうね。

 なんというか、頑張れとしか言えない。お風呂でも思ったけれど、僕みたいに性別変わったらそれはそれでまぁそうやって生きていこうかなとか思うのは難しいだろうしね。まぁ、僕も実際女の子になったら、生理とか始まった時に「男の子に生まれたかった!」とか言いそうだけど。

 

 元々性別に関する意識が希薄で、お陰で前世でもそっち系の男の人達に割と狙われていた覚えがあるけれど、うん、そこは忘れよう。ただ、誰かを慰める時に「自分が女の子だったらなぁ」と思うことはよくあったなぁ。

 ほら、なんていうか女の子だったら落ち込んでる人とかを抱きしめても問題ないだろうけど、男がそれやると結構世間体悪いからね。結構してた覚えもあるけど。

 とはいえ、現世では男に生まれたわけだし出来れば女の子といちゃいちゃしたいけどね。今はそんなに思えないけど、それは単純に身体が性的な成長をしていないからそういう欲が起きにくいだけだと思うし。そういう意味では刹那の悩みを本当に理解出来てるとは言いがたい僕である。

 

「さて、じゃあ次は僕達の番だね。サクっとクリアして虎次郎くん達の先回りして驚かせてこようか」

「ふふ、良いかもね。……手、離さないでね?」

「はぐれたら困るものね。分かってるよ」

 

 あ~、頑張ってねアリサちゃん。色んな意味で。刹那もね。

 

「さて、またこの三人やな」

「そうだね~。あ、ユーノくんもいるから四人だね」

『そうだね……』

「ユーノくん、なんか……えっと、強く生きてね?」

『ありがとう、同志(よしつぐ)……』

 

 あぁ、ユーノくんこれ復帰遅そうだわ。

 

「ん~、でも三……いや、四人もおると緊張感あらへんなぁやっぱり」

「それは仕方ないよ。あの二組をくっつけるのが元々の目的なんだし」

「まぁわかっとるんやけどね? かと言うても、やっぱせっかくの肝試しなんやから、こうキャーって言うて女の子が男の子に抱きつくのが定番やんか?」

「あ~、そうだね……私達相手いないもんね……」

「うんっと、一応、僕も男だということを君たちはそろそろ意識してくれても良いと思うんだけど」

「「ごめん、それは無理か(や)な」」

「ですよね~」

『……強く生きようね、義嗣』

「ありがとよ相棒……」

 

 ごめんね、ユーノくんお風呂で見捨ててごめんね? これ結構クルね? 男の沽券とか色々木っ端微塵にされるね?

 

「おっと、そろそろええんやないか?」

「あ、そうだね。じゃあいこっか」

「ん、お~きにな。車椅子押すん結構疲れるやろ?」

「にゃはは、大丈夫。これでも私魔法少女だからね!」

「なのはちゃん、車椅子押す力と魔法少女は全く関係ないと思う」

「悪くは無いツッコミやけど、勢いが足りへんなヨッシー。ツッコミはもっと元気良く、威勢よくや」

「なんでやねん」

「ヨッシー、関西弁バカにしとるん?」

「滅相もありません軍曹殿!!」

 

 思わず敬礼しちゃったよ。でも別に威圧感とか感じたわけじゃないよ。はやてちゃんが頬を膨らませている姿が可愛かったよ。

 

「バカなことやってないで行こうね、二人とも」

「「はいはい」」

 

 さて、どうせ僕達にはあんまり仕掛けは無いだろうけど行きますかね。

 

 まず一階、元玄関ロビー。廃墟の割に意外とこまめに掃除されてたのか(或いはバニングス家メイド軍団でも来て綺麗にしていったか)、あんまり薄汚い感じは無い。

 自家用車が三台くらい入りそうなロビーには、足元には緑色の絨毯のような床が広がっている。

 正面左手には木製のカウンターがあり、昔はそこにフロントがあったのだなと思わせる形になっており、正面右手には仲居さんの案内が来るまでお客さんが待つために使われていたと思われるテーブルと椅子。しかしそれらはどれも一部が如何にも古くなってしまって壊れたのだと言わんばかりにどこかが欠けていて、不吉な空気をかもし出している。

 で、左手には道は無く、壁紙が一部はがれた壁があるだけ。右手奥の方には道が繋がっていて、そこから先は真っ暗で懐中電灯を照らしてもここからでは何も見えない。まさに肝試し向けの廃墟(?)。

 

 ……ただね、妙に小奇麗なせいかあんまり怖くない。いや、なんていうか……こう、如何にも「作りました」って感じの壊れ方や汚れ方なのもちょっと気になる。なにより絨毯がね、じゃりじゃりしたりしてないし、空気も埃っぽくないから余計に。

 

「うにゃああぁぁぁ!?」

「「『うわっ!?』」」」

「な、ななななんやなのはちゃん急に大声出して!!」

「い、今あそこ、あそこにお化けが!! なんか青白い顔の人が!!」

「え? なんか見えた?」

「はぁ? ……いや、なんも見えへんかったけど……」

『うん……僕もそういう気配みたいなのは無かったと思うけど……』

「い~ま~い~た~の~!! 本当なの~!! 信じてぇ~!!」

「いや、ちょま、ちょまってなのはちゃ、ゆ、揺れ……酔う……」

 

 ちょ、待って、洒落にならないよなのはちゃん!! 肩、肩本気でがっくんがっくん揺すらないで!? 死んじゃうから!! 僕死んじゃうから!? いや、死ななくてもこのままだと酔うから!!

 

「あ~、ちょいちょい、なのはちゃん落ち着きや?」

『そ、そうだよなのは、そのままだと義嗣が死ぬよ! いや死なないかもだけど、目が若干危なくなってるから今の義嗣!!』

「え? あ、ご、ごめんね? で、でも本当にいたの!! 本当なの!!」

 

 うぐぅ……助かったよユーノくん、はやてちゃん。危うくほぼイキかけたよ……イチ○ーのネタ画像的意味で……。

 

 で、結局なのはちゃんが見たという幽霊のいた場所はフロントらしき場所だったので近づいてみると、プロジェクターが置いてあっただけなので拍子抜けした。要はなのはちゃんが丁度ここを見ている時に一瞬プロジェクターを起動したのだろう。

 しかし何故かなのはちゃんがそのプロジェクターを懐中電灯で照らして様々な角度から確認すると、鼻息を荒くして何やらぶつぶつ言い始めた。

 

「こ、これはエブリヌのEMP-7950!? 液晶パネル技術3LCD方式採用の、目に優しい映像を売りにする最新のプロジェクター……ッ!! こんな入り口の一瞬の仕掛けに、なんて贅沢な使い方をするのアリサちゃん……ッ!!」

「え、え~っと?」

「……なにごと?」

『あぁ……そういえばなのはって家電マニアだったね……』

「「そうなん(なの)!?」」

 

 何気に新事実である。

 っていうか、プロジェクターのそんな情報を誰も知りたいとは思ってなかったんだけど、なのはちゃんは僕達の反応に気を悪くしたのか、暫くの間はその場で如何にそのプロジェクターが素晴らしいかを力説していた。

 すっげぇどうでも良い雑学をありがとうなのはちゃん……。

 

 

 

 

 お化け屋敷もようやく終盤に差し掛かっていた。

 いや、もう本当、駄目。無理。ここはお化け屋敷なんてレベルじゃない。まずね、まず一番怖かったのから言っておくよ?

 

 暫く何もないな~って思ってなのはちゃんがはやてちゃんの車椅子押しながら会話してるのをのんびり眺めながら、僕の左肩にはユーノくんが乗って僕とおしゃべりしてっていう状況だったのね?

 

 で、急に右肩をたたかれて「ヨッシーくん」ってなのはちゃんの声がしたから、あれ、また呼び方戻った? とか思って振り返る瞬間に、なのはちゃんは自分の前を歩いているのにすぐに思い出したんだけど遅くて、振り返って目に入ったのは、僕の肩に手を置くゾンビさんですよ。リアルなやつ。

 思わず叫んで涙目になってなのはちゃんに後ろから抱きつくのも仕方ないよね。僕の肩に移ってくれてたユーノくんも思わず念話にするのも忘れて絶叫してたよ?

 

 大体酷いよね、あんな仕打ち。なに考えてんの? どんだけリアルなの作ってんの?

 パッと見はなのはちゃんに似てるんだけど、なんか目は白くにごってる上になんか飛び出しかけてるし、顔の血の気の抜けた感じとか、微笑んだままの形で固まっている口元とか、首からダラダラ垂れてる血のどす黒さとか、もうなんか色々リアルすぎて滅茶苦茶グロかったんだけど。

 

 あれ前世で精神的ブラクラを数々踏んでいた僕だから絶叫で済んだけど、なのはちゃんとかが見てたら卒倒するよ? っていうか、ユーノくんあれトラウマになったんじゃないのってくらいプルプルしてたからね? 

 

 その後なのはちゃんたちと振り返った時には誰もいなかったんだけどさ、本気で怖かった。どういうトリックなんだアレ。虎次郎くんの悪戯か?

 

 で、まぁ他にもまたもやプロジェクターを利用したと思われる一瞬現れる幽霊だったり、足元に煙みたいのが蔓延して足元が寒かったり、突然ガラスの割れる音や女性の高笑いの声が聴こえてきたり、かと思えば誰かの悲鳴やうめき声が聞こえてきたり、開け放たれていた客室のドアの向こうに、表情が見えないくらい長く伸びた髪の女の人が「ひひひひひひひ……」とか言いながら包丁研いでたりと色々あったんだけれど、ゾンビでインパクト全部もってかれてた僕にはもうまったく怖く感じなかった。

 

 まぁ、はやてちゃんは楽しそうにキャーキャー言ってて、なのはちゃんはニャーギャー涙目で叫んで僕に抱きついてたけど。

 

 うん、あれだよね。女の子に抱きつかれるのってなんだかほんわりするっていうか、落ち着くって言うか、いいものだね、と思った。力強く抱きしめられるものだから呼吸が困難になったり、サバ折りみたいな状況になって背中やら腕やらが痛くなったりしたけど。

 

 終いには若干ウザったく思ってきたので「はやてちゃんに抱きつきなよ」と言ってやろうかと思ったけど、はやてちゃん車椅子だから抱きつくに抱きつけないんだということに気付いて言わないでおいた。気にしないかもしれないけど、はやてちゃんが気にしたら悪いし。

 一応、役得ではあるんだろうと自分を納得させておいたけど、正直微妙な気持ちになったのは言うまでも無い。

 せめて、これが中学とか上がってからならなぁというのは、まぁ言わない約束なんだろうね。

 

 で、そろそろ終わりかな~って感じでなのはちゃんとはやてちゃんも気の抜けたところで、滅茶苦茶焦った顔で出口として設定してあった従業員用玄関の方から士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん……まぁつまるところ高町一家が駆けてきた。

 

「なのは!! 大丈夫だったか!?」

「はやてちゃんとユーノくんと佐藤くんは!?」

 

 あ、僕ユーノくんの後なんですね。いや、家族なんですからそらそうでしょうけども。

 

「どこか怪我はないか!?」

「え、ちょ、ちょっとお父さんもお兄ちゃんもどうしたの!?」

「せ、せやで? 私ら別になんともあらへんけど……どないしたん?」

 

 もう、この流れでなんとなく読めてきたよ僕。

 

「どうしたもこうしたも!!」

「いきなりなのは達の姿が消えたっていうから騒いでたのよ!?」

「どこに行ってたんだ!?」

「本当に怪我はないのね!?」

 

 あ~……やっぱり……コレってあれでしょ? 一時的になんか別の空間に閉じ込められてた的な話しなんでしょ? はいはい……。

 

 ん? つまり、あのゾンビの子ってガチ?

 

 ……、……やめよう。忘れよう。

 

『よ、よよっよよよよよ義嗣? も、もしもしもしかして……』

「忘れよう、ユーノくん。僕達は悪い夢を見ていたんだ……」

「「『本当にオバケだったの(んか)~!?』」」

 

 ……拝啓、出張中のお父さん。僕は相変わらず変なことに巻き込まれたり観戦しに行ったりしてますが、割かし元気です。

 

「……さ、佐藤くん、ところでその右肩についている手の形をした血の痕は……?」

「気にしてはいけません。きっと、きっとこれは夢だったんです」

 

 お父さん、僕呪われたかもしれないです。割と元気じゃないかもしれません。



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15.居候と喧嘩

 今日は温泉旅行も終わってお昼過ぎ。バニングス家のリムジンで送られて家に帰ってきたところなんですがね。皆さん、今日から我が家に新しい家族が増えます。

 そう、刹那ですね。今日から居候です。いつまでなのか知らないけど。あ、あと、車から一緒に降りた僕達を見て「刹那も家まで送るわよ?」と声をかけてきたアリサちゃんに、虎次郎くんから「刹那は今日からヨッシーの家でお泊りや」と説明されたアリサちゃんがポカンとしていた。

 まぁ、そうだよね。僕と刹那ってあんまり接点あったようには思えなかっただろうし。

 

 で、リムジンが去った後に、僕が我が家の向かいにある斉藤さんの家の惨状の話と、我が家に槍が刺さって空いたままだった穴の話を「そういえば」と切り出すと、刹那が表情を悲しげに変えて眉毛をハの字にした。

 

「……なんていうか、本当にごめんね?」

「いや、良いよ。でもとりあえずお向かいの家は直してあげてね?」

「うん、今日の夜にでも早速直しておくよ、あと君の家に空いてるっていう穴もだね。あとで場所教えて?」

 

 うん、やっぱり言えばちゃんと直してくれるのね。なんだかんだでいつも切り出すの忘れてたから、ようやっとって感じだよ。

 

「あいあい。じゃあそれはとりあえず後回しにして、早速だけど家事担当とかどうするか決めよう」

「にゃ~?」

「あ、アインは良いから。お前さんは僕にもふもふされて癒しを与える担当だから」

 

 我が愛娘ことアインがクリッとしたお目目で抱っこされながらこっち見るもんだから、もう可愛くて仕方ない。

 

「ん~、そうだね。じゃあここは一人寂しく過ごす佐藤くんのために、これからはこの美少女が手料理を作ってあげようじゃないか」

「おぉ! 女の子の手料理キタコレ!」

 

 まぁ、身体は男の子ですが。

 

「というか、正直掃除とか洗濯も僕が全部やってもいいんだよ? ハッキリ言って僕ただの居候な訳だし、その辺は甘えるつもりもないから」

「いやいや、そうは言っても佐々木さんはまたジュエルシード関係で騒ぎあったら飛んでくんでしょ? 学校の勉強だってあるし全部が全部任せる訳にはいかないよ。別に佐々木さんに家政婦やってもらうために受け入れたわけじゃないんだから」

 

 そもそも、掃除は僕がやらないと色々見つかってはまずいものがあるからね。お父さんの書斎の禁断(ろり)の書とか。

 あ、そういえば前片づけを放置した書斎の本だけど、この前少しだけ帰ってきたお父さんが当然ながら唖然としてたんで「局地地震起きたみたいで全部落ちたから整理してたけど、疲れて途中のままだった」と説明したら頭を撫でて褒めてくれた。

 

 言ってから「あれ、でもニュースにもならなかったし、信じてくれないんじゃね?」って思ったけど、お向かいの家が壊れっぱなしだったのが幸いして信じてもらえたのは助かった。人生何が幸いするか分からないものである。

 尚、僕が書斎を出た後にお父さんが中で慌ててガサゴソしていたのは、まぁきっと気付かないフリをしておいた方が無難だろう。

 何か見つけたか? って訊かれた時も「難しい本が一杯で、流石は僕のお父さんだと思った」って言ったので問題無い筈だ。お父さんがすっごい罪の意識に苛まれている顔をしていたけれど、子供にちょっと危ない趣向がバレたと発覚するよりはマシだっただろう。

 

「そうは言うけどね……等価交換の原則とまではいかなくとも、やっぱり僕は対価を支払うべきだと思うんだ」

「だから良いってば。友達なんだからそのへんはお互い持ちつ持たれつで良いじゃない。その内、僕が困ったときに助けてよ」

「……なんていうか、君って普通に良い人だったんだね……」

「え、それって僕が嫌な奴だと思ってたってこと……?」

「いや、そうではないんだけど……なんていうか、僕が知ってる転生者って、虎次郎くん以外殆どまともな人居なかったから……なんだかんだ言いながらも結局は……みたいな意識はやっぱりちょっとあってね。正直な話」

「あぁ……」

 

 確かに誰彼問わず愛してると囁いて粘着する銀髪長身イケメン青年顔オッドアイとか、核爆発起こして自殺紛いに街破壊しようとした奴とか見てればそう思うかもね……。

 

「ニコポとナデポとかいう能力持ってるハーレム願望な人とかもいたんだよ、アレに一瞬でも惚れてしまいかけた自分が今でも憎らしい」

 

 あぁ忌々しい、と自分の身体を抱きしめて顔を顰める刹那に、ご愁傷様、と苦笑しておく。そりゃ確かに切ないな。

 

「ちなみにそいつどうしたの?」

「時間操作で成長させて、成長に必要な栄養が不足してガリガリの青年姿になったところでナデポ能力が付与されていた左手首から先を全部切り落として、デバイスを破壊した上でゲイバーの前に置いてきたよ」

「……南無」

 

 それはなんていうか、その人の貞操も人生も終わってしまっているんだろうね、今頃。まぁ自業自得だけど。でもリアルにお先真っ暗だなソレ……左手無かったら生活にも結構支障出るだろうし、少なくともまっとうな職にはつけないだろう。割とエグいことをするなぁこの子は本当に……。

 

「あぁ思い出したら腹が立ってきたよ……!」

「なんか、アレだよね。佐々木さんって結構猟奇的だよね」

「えぇ!? あ、いや、その……そこは、いや、僕の、僕の意思ではないからね!」

「いやいや、どう考えても君の意思でしょ。生皮剥いだり人の手首切り落としたり……どこのヤクザさんってレベルだよ……?」

「いや、本当に僕がしたくてやったんじゃないんだよ! 結果的には僕がやっているんだけど、そうじゃないっていうか……!!」

「ちなみに血を見て興奮したりする?」

「割とするね」

「アウトー」

「しまった!?」

 

 しまった!? じゃないよ、やっぱり君は猟奇的だよ。そういうそのうちヤンデレとかに進化しそうな性癖どうにかしたほうがいいよ。

 しかし、この子は本当に残念な子だなぁ。外見美少女で成績優秀スポーツ万能家事全般得意というハイスペックなのに。

 自分の意思じゃない云々というのはちょっと気にかかるけれども、あんな憎憎しげに手首切り落とした、とか平然と言っちゃうあたり自分の意思でやったとしか思えないし。

 

「お願いだから僕の生皮剥いだりしないでね? 魔道書の材料にしたりしないでね?」

「しないよ!? っていうかなんで魔道書!?」

 

 人の生皮剥いで作るっていったら魔道書じゃないか。

 

「あ、それはそうと、佐々木さんってデバイスどうしたの? 前に戦闘時にバリアジャケット展開してなかったし、時間操作それが無いと使えないんでしょ?」

「え? あぁいや、デバイスはね、その……えっと……あの……ほら……わかるだろう?」

「全力でわからないと言わざるをえない」

「なんでわかってくれないかな!」

 

 どうして僕がそこで「そうだね」と言うと思ったんだお前さんは。

 

「セイバーだっけ? デバイス名。連れてくるとかどうとかって言ってた覚えがあるからユニゾンデバイスとかなんでしょ? なんなら連れてきてもらってもいいよ? お父さんが家にいない分食費は浮いてるし」

「ぐっ……いや、嫌ではないんだけど、その……今顔を合わせ辛いというか……いや、一応、一応その、お向かいの家直す約束だし、夜には一度会って直しはするよ?」

「……一週間以上前だったよね、デバイス無しで戦闘してたの。その前から喧嘩してて、まだ仲直りしてないとか?」

「いや……むしろどちらかと言ったら、連れて行かなかったから喧嘩になったというか……でもアレは僕が一方的にわがままを言ったというか……」

「え~っと……とりあえず、いないと戦闘ろくに出来ないんでしょ? だったら連れてきていいよ。僕と違って佐々木さんはなのはちゃんに付いて虎次郎くんと一緒に戦うんだから。大体フェイトちゃんだけならまだしも、天ヶ崎くんも相手にいるし、他の転生者が介入してくることあるんでしょ? その時になって後悔しても遅いよ? 特に時間操作で被害を無かった事にしたり、封じ込めたりは佐々木さんいないとできないんでしょ?」

「……はぁ。そうだね。確かに佐藤くんの言うとおりだ。じゃあお向かいを直したらそのままつれてくるよ。……なんていうか、一人だけでも邪魔だろうに二人も……本当に申し訳ない限りだよ……」

「いやいや、良いってば。どうせ僕こういうことくらいしか出来ないんだし」

 

 大体、また核爆発だの使えるような物騒な転生者が現れた時に「被害阻止できませんですた。ごめんね? テヘペロ☆」とか言われてもガチで困るしね。いや、そんな言い方するやつ僕の知り合いにいないけど。

 

 

 ……などと結構呑気に考えていたのだけれど、その日の夜にちょっとだけ後悔する。

 

「某、我が主である刹那様が一の騎士、セイバーと申します。この度は我が主の窮地をお救い頂くばかりか、某のような輩にまで軒下を貸していただけるとか。誠になんと礼を申し上げて良い事かと迷うばかりではありますが、一宿一飯の恩義を受けるからにはこのセイバー、今だ至らぬ身ではありますが、我が主と貴公の身を必ずやお守りすることをお約束いたしましょう」

「ちょ、やめてよセイバー。そういう堅苦しい時代がかった挨拶は今の時代しないんだから。佐藤くんが混乱するじゃないか」

 

 我が家の茶の間には現在、サムライが居た。

 もう一度言う。サムライがいた。

 黒髪でポニーテールで和装。上は紺で落ち着いた色合いの服を着て、その上に黒地で背中に笹の家紋みたいなのが描かれてる羽織りをして、袴はパリッと糊の効いた奴を穿いて、腰に刀を大小二本差している。

 ぶっちゃけて言うと、衣装と髪の色が変わってるだけの佐々木小次郎(第五次アサシン)そっくりである。口調とかはなんか違うんだけど、声は若干声の高くなってるソプラノボイス? なだけって感じである。

 そんなサムライが、僕の前で正座して頭を下げていた。

 

 ……ふぅ。

 

 ……いいのか!? 色々と良いのかコレの存在!? 許されていいの!? 佐々木繋がりだからってアウトだと思うよ僕!!

 

「何を申されますか我が主よ。あぁしかし今日も美しきお顔でございますな……」

「それ今日会ってから聴くの二十四回目だからね!?」

「なんと、まだそれだけしか言っておりませんでしたか……。いや、このセイバー一生の不覚。これは敬愛する主に対するにはあまりにも不敬。今日中にあと二十六回は言わねばなりますまいな」

「やめて!? もう本当やめてくれないかな!! 僕もう本当に君のこと苦手になりそうだよ!!」

「ふふ……そのようなことを言われながらも、今日も我らが身をひとつにした時、あのように可憐な顔をされていたではござりませぬか」

「ユニゾンだからね!? その言い方絶対誤解生むから他所ではやめてよね!?」

「では、月夜の夜に身を重ねた時、と言えばよろしいか?」

「もっと誤解を生むよ!?」

 

 あ~、いや、賑やかだね。良きかな良きかな。

 

「にゃ~?」

「あ~うん。ちょっと混乱したけど、コレはコレで有りっちゃ有りかな~と」

「おっと、これは失礼致した佐藤殿。……で、これは一応言っておかねばならんことなのですがな」

「あぁはいはい、なんでしょうセイバーさん」

「我が主に一瞬でも欲情したら、次の瞬間には指の二、三本が身を離れると心得られよ」

「セイバー!?」

「……りょ、了解いたした」

 

 こ、怖いよぉ!! この人怖いよぉ!? かっこいいけど怖いよ!! なにコレ!? 刹那のお目付け役的な何かなの!? 刹那お嬢様フラグ!? 男だけど!!

 

「いや、了解しなくていいから佐藤くん! セイバー本当いい加減にしてよ!! こっちは居候させてもらう側なんだよ!? なんで脅してるの!?」

「はて? これは脅しなどではござりませんぞ我が主。そのように愛くるしい外見をなされている主に欲情しない男がおりましょうか? 否、いるわけがありません! で、あればこそ、主に害を成しそうな存在は早々に斬り捨てるべきではござりませんか!」

「害を成す気ないんで大丈夫です!?」

「佐藤くんにそんな度胸無いから大丈夫だよセイバー!!」

 

 あ、同棲中の同性の動静を見計らって同姓が襲う、とか面白くない? ドウセイカルテット。今思いついたんだけど。あれ、カルテットって五人組だっけ? いや、五人はクインテットか。

 うん、僕ちょっと余裕取り戻した。

 で、刹那。同性を襲う気が元から無いんだからそれ度胸とかとはちょっと違うよね?

 

「ふむ? なるほど、へたれでござったか」

「そ、そう! 佐藤くんへたれだから!」

 

 刹那? 僕自分では認めてるけど、それ他人から言われると色々切ないよ? あ、刹那に言われて切ないとか僕上手いこと……言ってないね。なんだ、今の僕なんでこんなに駄洒落ばっかり思いつくんだ? 今日は駄洒落デーなのか?

 

「ふむ……佐藤殿?」

「え? あぁはいはい、なんですかセイバーさん」

「本当に、襲いませぬな?」

「本当に襲いません。というか精神的には女の子でも、同性の身体の人を襲うつもりは毛頭ありません」

「ふむ……? しかし外見は美少女でござるが?」

「外見美少女だったら襲うってどこの鬼畜系主人公なんですかね……」

 

 少なくとも僕はそんな鬼畜じゃありません。

 

「むぅ……」

「もう分かったでしょ? 佐藤くんは大丈夫だから」

「分かり申した。主がそこまで心許されておられるのでしたら……まぁあの狐男よりは信頼できそうですからな」

「いつも言ってるけど、虎次郎の悪口はやめてくれないかな」

「しかしですな主。このように美しい女性の外見に向かって男として生きさせようなどと……」

「少なくとも、それが世間一般では正しい認識なんだよ。身体は男の子なんだから……」

 

 あぁ、なんかちょっと深刻な話になりそうだな。若干面倒くさげふんげふん。

 

「にゃ~」

 

 とりあえず何か言い合っている二人を視界に入れつつ、この後どうしたものかと考えていたら、膝の上に座っていたアインがこちらを見上げて声をあげた。

 

「アイン、おなかへった?」

「にゃ」

 

 あ、膝の上から飛び降りててこてこ歩き出した。正解かな。

 

「よっし、とりあえずこのへんにしておいて、ご飯食べましょうご飯。僕もお腹減ってきましたし」

「おっと、そうだったね。とは言っても今から作るとなるとちょっと時間がかかると思うけど……少しだけ待っててくれるかな」

「あぁ、それなら佐々木さんがセイバーさん連れに出て行ってからカレー作っておいたから、すぐ食べれるよ」

「本当かい? ……なんだか本当に申し訳ない限りだね……食事当番は僕がやると今日言ったばかりなのに」

「良いって。気にしなさんない。カレーなんて簡単に作れるんだし」

「ほう……かれいらいすでござるか。某あれは大の好物でな。いや、これは某の中で佐藤殿の好感度が上昇しておりますぞ? ……主に手を出したら指一本切るだけに減刑しておきますかな」

「セイバー!」

「ハハ、冗談でござるよ主。……冗談で済ませられるといいですな? 佐藤殿」

「願わくば君の勘違いで僕を攻撃したりしないでよセイバー」

「なに、主のご友人ですから痛みは感じぬようにしますのでご安心召されよ」

 

 はっはっはっ、と笑うセイバーの姿は、なんかもう色々とカオスだなこの世界、とツッコむ気力を奪わせるのには充分な姿であった。個人的には五次アサシン好きなので、まぁ好きだったゲームのキャラがちょっと性格変わって近くに現れたと思えばいいか、と思って納得した。

 

 ……とでも思っておかないとやってられないよ、なんか。こいつら喧嘩してたんじゃなかったの?

 っていうか、割とこういう理不尽系暴力な香りのする人って苦手なのだけれど、まぁ、自分に被害が及ばないように注意だけしておこう。うん。

 で、結局その後は二人に美味しいと料理の腕を褒められ(とはいえカレーなんてルーあるんだから誰が作っても大体同じ味になるから褒められても微妙な気分なんだけど)たり、お風呂掃除を買って出た刹那に任せたら、なにやら呼ばれたので行ってみるとドアから顔だけ出して

 

「その……着替えとバスタオル持ってないまま、掃除してすぐにお風呂入っちゃって……えっと……その、ぼ、僕のバッグ持ってきてもらっていい……かな?」

 

 とかほんのり顔を赤らめながら恥ずかしそうに言う刹那に若干萌えたところで、いつの間にか背後に立っていたセイバーににこやかな笑顔で

 

「ハハハ、これは早速一本ですかな?」

 

 と言われたので土下座して、慌てながらも風呂場から出られない刹那も一緒になって状況説明したりと、色々騒々しいことに。

 で、最終的に僕の部屋を刹那に貸して、自分はお父さんの寝室で寝ることにしたのだが、トイレに行き忘れたので夜中に起きた時に廊下で僕の方を見て何故かニヤリと笑っているセイバーの姿があったりして、なんか怖かったという非常に精神を使う日であった。

 

 あぁ……刹那泊めるのは失敗だったかな……。

 結局、どうして自分の家に帰らないのか、とかも気を使って聴かなかったけれども、それくらいは聴いておくべきだったろうか……。でも下手なこと訊いて面倒なことになったら困るしなぁ。

 うーむ……まぁ、過ぎたことは仕方ない。別に刹那が嫌いな訳でも無いし、家事手伝ってくれるのは嬉しいから素直に受け入れることにしよう。

 セイバーに、斬られないと良いなぁ……。

 

 

 

 

 ハローハロー皆さんおはこんぬつわんわんお。皆大好き佐藤くんです。皆のことは大好きだけど、皆に好かれてるかどうかは正直わかんない佐藤くんです。

 さて、刹那とセイバーの居候が確定した翌日、一言で言いますと火曜日になりまして、まぁなんというか隣の席の鈴木くんには笛ペロペロ事件についての事情を聴く気も起きなかったので、今後絶対にこちらからは話しかけないことを決定しました。

 

 まぁ、また刹那の嘘の可能性もあるんだけど、鈴木くんは僕の後ろの席の佐藤裕子ちゃんのこと好きみたいな話を本人から聴いた覚えがあったので、彼女のと勘違いして舐めたのかもしれないという非常に可能性の高い状態であるわけでございまして、実際、一度か二度ほど僕のリコーダーがなにやら湿っていることもあったのでございましてからしまして。なんか言葉使い変だけど気にしない気にしない。

 

 と、ぼへぼへしながら朝の教室でのんびり妄想しつつ、黙々とマンガを読んでいる悠馬をなんとなく眺めつつ「ぼっちドンマイ」とか思ってたら、突然バン、と机が叩かれる音が響いたため、驚いてそちらを見た。

 

「いい加減にしなさいよ!!」

 

 どうやら、教室にいた生徒の殆どが驚いたみたいで、視線は僕と同じ方向へと注がれている。

 

 その視線の先にいた人物は、ハッとした顔のなのはちゃんと、苛立たしげになのはちゃんを睨むアリサちゃんの姿。そして、おろおろしているすずかちゃんである。……どうやら、原作イベントのようだ。確か喧嘩だよね?

 

 ちらりと別グループの輪に混じって談笑していた虎次郎くんを見ると、小さくため息を吐いていた。刹那は自分の席で女子達とおしゃべりしていたのだが目を丸くしてアリサちゃんを見ている。

 

 ちなみに僕がさっきまで眺めていた悠馬は、ビクってしてマンガを取り落として、誰も見てないのに(僕が見てるけど)なんか咳払いして誤魔化しているのがちょっと滑稽だった。

 まぁ、前だったら「ぼっちざまぁ」とか思ってたところだけど、今はなんていうか、多少あいつを見る目が変わってきているのでそこまでは思わない。ただちょっと「ふっ、お前も僕の同類か、ぼっちなんだろう? わかるぜ、その切なさ」って声をかけてやりたいと思うくらいである。さっきまで実際に「ぼっちドンマイ」とか生暖かい目でみながら思ってたし。

 

 ……ま、どっちにしても悠馬には屈辱だろうけどね!

 

 とか考えていたら、アリサちゃんがマジお怒りのご様子である。

 

「この前から何を話しても上の空でボーっとして!」

 

 あ~……なんか心の中でふざけてたけど、割と真面目な場面なだけに真面目に見よう。

 

「あ……ご、ごめんねアリサちゃん」

「ごめんじゃない!! 私達と話してんのがそんなに退屈なら――」

「アリサ、ストップや」

「ッ!! なによ!!」

 

 あ、虎次郎くんが介入した。

 アリサちゃんの肩にポンと手を乗っけて真剣な表情である。

 

 ……でもお前さん……ここは、見守ってあげても良かったんじゃね? いや、さっきまでお茶らけた思考してた僕の言う台詞じゃないかもだけど。

 

 あ~、でもなのはちゃんも結構これ一時的とはいえ堪えるだろうからなぁ……変な主観のツッコミ入れないで黙ってみてよう。実際、喧嘩自体を起こさせないのが一番良いのかもしれんし。虎次郎くんに任せくのが一番か。どうせ僕には何もできんしね。当事者達に任せるが吉。

 

「ストップすんのはてめぇの方だトラ」

 

 と思ったら、今度は悠馬がアリサちゃんの肩に置かれた虎次郎くんの腕をとって離させた。

 

「……なんや? ユウマン。今からちぃっとお兄さんがえぇこと言うつもりやったんやけど……」

「……いいから来い!!」

「あっ、ちょ悠馬!? ほんまになんなんや!?」

 

 わたわたと悠馬に引っ張られていく虎次郎くん。

 う~ん……なんか珍しい光景だな。

 

「……あの……アリサちゃん。えっと……」

「……ごめん。ちょっと言い過ぎたわ。……少し頭冷やしてくるわね」

 

 ……うん、この状況だともうさっきの言葉の続きは言えないよね。

 結局、アリサちゃんは眉根を寄せてどこか泣きそうな顔で教室を出て行った。

 

「あっ、アリサちゃん……。……なのはちゃん……」

「いいよ、すずかちゃん。今のは、なのはが悪かったと思うから……アリサちゃんの方に行ってあげて?」

「そんなこと無いと思うけど……、うん、少し話して来るね、なのはちゃん」

「ごめんね……」

 

 ……なんか、なのはちゃんは9歳(いや厳密には8歳だけど)とは思えない陰のある表情で、見てられない。

 一体どうしたんだろうか。昨日まではそんなでも無かった気がするんだけど……。いや、でもよくよく考えたら、たまにボーっとしてる時はあったな。いやいや、でもこんな陰のある表情するような状態だったか?

 

 ……どうなってんだろう。さっぱり分からない。

 

 あぁもう……フェイト戦に虎次郎くんも刹那もいなかったから、事情訊く事もできないし……歯がゆいなぁ……。

 

「佐藤くん」

「ん? あぁ佐々木さん。どうしたの?」

「いや……ね。ちょっとなのはちゃんが見てられないから、一緒に慰めに行かないかと思って……」

「ん~……今は放っておいてあげたほうが良い気もするんだけどなぁ……」

 

 いや、僕も気にはなるけどさ。事情ろくにわかってない奴が慰めても意味無い気がする。何を言っても薄っぺらい言葉にしか感じないだろう。

 それになんていうか、昨日はあんだけ大騒ぎしたからなのはちゃんもゆっくり一人で悩める時間が無かっただろうし、今は考えさせてあげるのが一番良い気がするんだよね……。

 

 ほら、一人になりたい時ってあるじゃん? 誰だってさ。一人でいたいと思っても実は気を使ってもらいたい時と、本当に一人で色々考えたい時って判断難しいけどさ。

 フェイトとの直接対決が結局ずれ込んで、その上フェイトもなのはちゃんもお互いに横槍入った形になっちゃったから、なのはちゃんの悩みの形がどうなっているのかは僕も全然わからんのだけどね。

 

「そう……かな?」

「うん……なんとなくだけどね。ほら、一昨日フェイトちゃんと戦ったけど、昨日あんだけバカ騒ぎに巻き込まれてたし、一人でゆっくり考える時間って必要なんじゃないかなって。まぁ部外者の私見だから、正直あてにはならないと思うけど」

「そっか……いや、でもそう、かも……しれないね」

 

 僕の言葉に、刹那は納得したのか、小さくため息を吐いて肩を落とした。

 あ~……刹那はやっぱ原作組に元気で仲良くして欲しいのね。まぁ僕もそうだけどさ。

 

 しかし……アレだよね。普段は虎次郎くんのバカ騒ぎのせいで目立たないけど、一人になった時のなのはちゃんって随分大人びた表情してるよね。なんか、元大人としては「子供がそんなに達観しなくてもいいんだよ?」って言ってあげたい。

 尤も、そういうのは本当に助けられる力を持って、助ける意思を持っている人だけが許される言葉だけどね。今の僕にそんな力は無い訳で、そんなことを言っても文字通り口だけだ。説得力の欠片も無い。

 

 そして悠馬は結局何がしたいんだろうね。虎次郎くんが場を丸くおさめようとしたのが気に食わなかったの? ……やっぱそういう奴だった、で間違いないのかね。悠馬?

 

 

 

 

「朝はカッとなって言い過ぎたわ。その……ごめん。なのは」

「ううん、あれはなのはが悪かったから。ちょっと考え事してて。その……私のほうこそごめんね?」

「違うわ。アレは私がそもそも……。ううん、違う、そうじゃない。そうじゃないのよなのは。私そんなことが言いたいんじゃなくて」

 

 昼休み、屋上で刹那と共に刹那作のタコさんウィンナーやら甘い卵焼きやら、鮭の焼いた切り身やらポテトサラダやらが入った、実に素晴らしい出来のお弁当を二人仲良くつついていたところ、少し離れた位置でお弁当を食べていたなのはちゃんに謝っているアリサちゃんの姿があった。

 そして、その傍ではその様子を心配そうに見ているすずかちゃんがいて、アリサちゃんがちゃんと謝れたことで少しだけホッとした表情を浮かべている。

 

 ……仲直り、早いな。原作での仲直りがいつだったのかは覚えていないけど、丸一日二人は喧嘩したことで悩んでいた覚えがあっただけに、目を見張る。

 これが、オリ主達の介入結果、ってことなんだろうか。僕が知らない間に虎次郎くんがあの時に悠馬によって阻止された言葉をかけて、アリサちゃんがしっかりなのはちゃんと向き合おうとしたのか。

 顔を真っ赤にして、拳をギュッと握って、恥ずかしさに耐えるようにしているアリサちゃんはなんだか本当に精一杯な感じがして、すっごく微笑ましくて。

 

 ……きっと一杯勇気を振り絞っているんだろうな。頑張れ、アリサちゃん。

 

「アリサちゃん……」

「うん、ありがとうすずか。ちゃんと言えるから。……あのね、なのは。私達、友達でしょ?」

「うん。当たり前だよ。たまに喧嘩もするけど、一番の仲良し。私はそう思ってる」

「……ありがと。あの、ね、なのは。だから、その……ずっと前から悩みがあるみたいだったけど、今日は一段と酷いでしょ? それで……言いたくないなら、それでも良い。だけど私やっぱり、友達だから。なのはの力になりたいから! だから、だからね? ……なのはが、迷惑じゃなかったら、言っても良いと思える時が来たら。いつでも良いから。絶対に役に立てるなんてそんな偉そうなことは言えないけど、力には、なれると思うから。一緒に考えてあげたりは、出来ると思うがら。だがら……」

 

 あぁ、アリサちゃん、鼻声になって泣きそうになってる。あの普段勝気な子がこういう姿見せるとはね。あ~もう、頑張れとしか言えない自分がなんとももどかしいけど、頑張れ!!

 と、思ったらなのはちゃんがそっと立ち上がり、ぎゅっとアリサちゃんを抱きしめてその言葉の続きを、まるで他の誰にも聴かせないようにしているかのように、自分の胸の中でだけ言わせると、小さく息を吸ってから口を開く。

 

「ありがとう。アリサちゃん。気持ちは伝わったよ。すっごい嬉しい。……どうしてもね、悩んでる事が、あったの。でもね。これはきっと、私が一人で解決しなくちゃいけない問題で、私が努力してどうにかしなくちゃいけない問題なの。だから、今は言えないけど……解決したら、きっと言うから。だからそれまで、私の一番のお友達として、アリサちゃんとすずかちゃんは、私のこと応援していてくれるかな……?」

「あだりまえじゃないの……おうえ゛んずるに決まっでるぢゃない……」

「うん、私も応援するから、頑張ってね、なのはちゃん……ぐすっ」

 

 震えるアリサちゃんを抱きしめながらそう言葉にしたなのはちゃんの顔は、なんだかとっても優しい表情で、本当に君は8歳なのかとツッコミを入れたくなるくらい母性に溢れた顔で、アリサちゃんの背中をそっと撫でながら、アリサちゃんと、もらい泣きしているすずかちゃんに微笑んで言った。

 

「……良かったね、アリサちゃん。なのはちゃん」

 

 ポツリと、正面に座っている刹那が、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いていた。

 ねぇ刹那、僕ハンカチ忘れてきちゃったから、それ終わったから借りていいかな。ティッシュはもってるから、鼻紙として貸してあげるからさ。

 

「な? ……丸く、おさまったやろ?」

「……結果論だろうが」

「そない涙目の鼻声で言うても説得力あらへんわ。ほれ、ハンカチ貸したるから使いや」

「いらべぇよクゾ虎。自前のがあぶ」

 

 ……あ~、給水塔の影で隅っこでコソコソ隠れてるそこの二人、もとい虎次郎くんと悠馬。他の人たちにはバレてないみたいだけど、僕からは丸見えだよ。あ、虎次郎くんこっちに手を振った。

 

 とりあえず僕も小さく手を振り返しながら、介入お疲れ様、とだけ心の中で告げておいた。



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16.アルビノ娘と下校風景

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんはお稽古があるからとなのはちゃんや虎次郎、刹那、ついでに僕にも手を振って別れたけれど、その時にはアリサちゃんの顔に陰は無かった。

 

 やはり身近な人の辛い顔なんてのはあんまり見たくないから、僕としては本当に「よくやった、虎次郎くん」って感じである。

 ちょっとしんみりしたというかほっこりしたから、いつものテンションが戻ってこないけど、たまにはいいよね。

 

 そんなことを考えながら下校するために校内の廊下を歩いていたら、正直ずっと、下手したら一生会話らしい会話しないままお別れになるんじゃないかと思っていたイリヤじゃなかった津軽恵理那、以下津軽さんに、後ろから声をかけられた。

 

「佐藤くん、で合ってたわよね?」

「え? え、あ、うん。そうだけど、何? 津軽さん、だよね?」

 

 今まで全く接点無かった筈なのに、どうしたのこの人、と思いつつ返事する。

 微妙にほっこり気分が吹っ飛びかけたけど、まだまだ心はゆるゆるである。

 

「えぇ、津軽で合ってるわ。……ねえ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「え? え~っと、佐々木さんと帰る約束してるから、手短にお願いできる?」

「そうね、簡単に済むから安心して」

 

 ニッコリ微笑んだ津軽さんの顔が、まぁなんというか刹那とか原作娘さん達とはまた違った美少女というか、すっごい綺麗だったもんだから思わず見惚れていると、津軽さんはウィンクして両手をひらひらさせてから、右手の指で鉄砲の形を作って小首を傾げながら一言呟いた。

 

「ばぁん」

 

 というのをのんびり眺めていたら、次の瞬間に起きた出来事に対して、僕は事態の理解をするのに時間がかかってしまった。

 

「……なんだ。今の反応出来ないってことは随分弱いのね、貴方。なんていうか、外見通りすぎて逆にガッカリ」

 

 ……えっと、えっとね?

 なんかね? 黒い弾丸みたいなのが一瞬、一瞬、ビュンってね? 耳元をね? なんか、ビュンってなったの。

 わかる? わかんない? 僕もわっかんないね!! ごめんねなんか!! いきなり目の前をなんか高速で変なもんが飛んでったとしか言えないんだけど、えっと、まぁ、とりあえず津軽さんの指先から発射されたものなんだなってのは分かった!!

 

 まぁね、つまるところガンド。遠坂さん家の凛さんが大変お得意のアレ。宝石喰わなくて大変リーズナブルな呪いの弾丸。当たると超高熱の風邪とかひいちゃう奴。そして机の木版部分とか貫通しちゃうようなやつ。多分ね、多分。だってろくに視認出来なかったし、ぶっちゃけ、「はいはい、どうせFate系の宝具とか能力持ちなんでしょ? アインツベルン的な意味で」とか思ってたから、多分そうだと思うんだけどね?

 

 ……なんで、イリヤの外見で、ガンドなのさ!!

 

 僕ここは「なーんーでーさー!!」とか叫んだ方が良い? ねぇ、どうなの? 僕髪の毛赤く(というかオレンジ)じゃないし、身長低いし、別に正義の味方目指してないけど、言っておいたほうが良い? その魔術使うんなら黒髪ツインテにしてこいって文句言った方が良い?

 

「え、えっと……えっと? 今の、何?」

「手品よ。どう? 両手に何も握って無かったのに、どこからビー玉出したのか分からなかったでしょ?」

「うん、なんていうか、うん、うん、ビックリしたな~? あはは~」

 

 アレはビー玉なんて可愛らしいレベルの物じゃなかったですよ恵理那ちゃん、いや、ごめんなさい。恵理那さん。発射の瞬間と、目の前を通り過ぎる瞬間に、本当に一瞬、何か黒い物が通り過ぎたのが分かっただけで、銃弾とかのレベルでしたよアレ。ビー玉というよりB弾(ブレイクド・ブリッド)とか名付けた方が良いと思いますよ。

 

「……さて、それでいつまで猫をかぶってるつもりかしら」

「え? な――」

 

 何が、という言葉を最後まで続ける暇も無く、津軽さんは僕の首を片手で締め上げるようにして軽がると持ち上げると同時に、身体に真っ赤な布がグルグルと絡みついて両手足を縛られ――周囲の光景が一変した。

 

「あ……ぐ……」

 

 急に首を絞められたことで、ろくに呼吸すら出来ない状態で宙吊りにされたまま、僕はその光景に唖然とした。

 空に浮かぶ歯車、乾いた地面に、無数に突き刺さる大量の剣群。

 

 ――無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)の固有結界だ。

 

 なんでイリヤの外見の津軽さんがこんな固有結界を持ってるのか、とか、なんで僕は今首絞められて、その上固有結界に拉致られてるのか、とか色々思うことはあるけれど、それを口にすることは出来ない。

 

「最近、近辺で起きてる行方不明者や死者が出ている事件、貴方が犯人なのかしら」

「ち、ちが――」

「じゃあ少し前から貴方から出ているこの嫌な魔の臭いはなんなのかしら。特に今朝からは酷い。明らかに犯行現場に残されていた物と同類なのだけれど。共犯? それとも洗脳でも受けてる? それとも何かを目撃した?」

 

 言い終わると同時に、津軽さんは手を離し、僕は簀巻きにされたまま地面に落ちて右ひじを思いっきり強打して軽く涙目になる。いたい。

 

「わ、わかんないよ、津軽さんが何言ってるのか。魔の臭いって何?」

「……ふぅん、そう」

 

 戦闘能力は無さそうだし、暗示系かしら。そう呟いて、津軽さんは何かギザギザした形状の、ルールブレイカーっぽい短剣をどこからか取り出し、巻きついている布が少し緩むと同時、その隙間から躊躇無く僕の胸に短剣を突き刺した。

 

「あ……」

「……制約(ギアス)系の何かはかけられてない、か。魔力は微量にあるけれど、血は普通ね」

 

 さほど深くは入らなかったのか、流れ出る血は少量だし痛みもさほどでは無いけれど、刺さったという事実が僕の顔から血の気を引かせていく。

 

「おかしいわね……となると、魔導書が魔力炉になってるパターン……? でもその手の類は持って、ないわよね」

 

 ぶつぶつと何かを言いながら短剣を引き抜く津軽さんに合わせて、緩くなっていた布がまたギッチリと僕を束縛した。

 ……何がどうなってるのさ、コレ。

 僕のそんな疑問に答えてくれる人はいない。

 

「面倒だし、サクっと殺っちゃっても――」

「誰が、誰を殺すて?」

「ッ!?」

 

 津軽さんが物騒なことを言おうとした瞬間、響いた声に津軽さんと僕は同時にそちらを見た。

 

「こ、虎次郎くん!?」

「おうヨッシー、助けに来たで」

 

 いつも通りのにっこり笑顔で手を挙げて僕に声をかけるその人物は、虎次郎くん以外の何者でもない。

 流石は我等が主人公である。いざ、ヘルプミー!

 

「アンタ……固有結界に入り込むってどこまで反則なのよ」

「結界はワイの担当分野やからな。……で、うちのヨッシーに何してくれとんねん、エリナン」

「あら、何がかしら。私は仕事をしてただけなのだけれど」

「協定違反ちゃうんか?」

「この子が貴方の陣営に入ったなんて連絡、一切受けてないわよ?」

「そっちやない。関係ない一般人に手ぇ出すなっちゅう方や」

「関係ない一般人? こんな魔の臭いをプンプンさせてる怪しすぎる子が?」

 

 笑顔のまま、けれどその視線も声も向けられていないはずの僕ですら圧迫感を感じるほどの威圧感を出しながら、虎次郎くんが津軽さんにゆっくりと詰め寄るものの、津軽さんはそれを意に介さず肩をすくめて僕へと視線を向けてくる

 ……そんな目で見られましても、僕は本当に一般人なわけで、何を疑われているのか分からないけれど、完全に津軽さんの勘違いなのだけれど。

 

「せや。その臭いっちゅうんはよう知らんけど、少なくともヨッシーはただの一般人や。それは保証したるわ。せやから早いとこヨッシーのこと離してくれへんか? ――やないと、協定破棄とみなして、殴るで?」

 

 歯をむき出しにして、獰猛な笑みを浮かべて虎次郎くんがそう言うと、津軽さんは舌打ちして僕から少し距離をとる。赤い布も緩んで勝手に身体から離れていったので、ようやく自由の身になれた。ふぅ……。

 それにしても虎次郎くん、子供の外見なのにその笑みがちょっと怖い。

 

「まぁなんかあったらアンタが責任取るってのは分かったわ。それじゃあ一つだけ確認なんだけど――日曜日と月曜日、この子って何をしてたかしら。具体的にどこに居たって分かると嬉しいのだけれど」

「あん? ワイやなのはちゃん達と一緒に温泉旅館に泊まりやったけど……その魔の臭いっちゅうんと関係あるんか?」

 

 完全に僕置き去りにして話し合う二人を尻目に、僕はとりあえず絞められたせいで違和感のある喉を押さえてうーうー唸る。面倒なことに巻き込まれたなぁと思いつつ涙目なのは秘密だ。

 真面目に怖い。あと痛い。

 大体、こっちはさっきまで心がほんわかふわふわ夢気分、今日の僕ならヘビさん相手にも気持ちを通じでお友達になれるのではなかろうかというくらいメルヘンちっくな優しい思考だったのに、いきなりシリアスっぽいシーン入られたらそら怖いわ! ビビるわ!

 まったくもう、まったくもうだよまったくもう……。

 

「そう……。なら良いわ。アンタと敵対してもろくなこと無さそうだし、とりあえず了解よ。この子は返すわ」

「おう、分かってくれたらええねや」

 

 面倒くさそうに言ってから津軽さんが僕の少し血が出ている胸の部分に手を当てると、ぼんやりと手を当てられた部分が光ったと思ったら、血が一瞬で止まった。それを確認した津軽さんが指を鳴らすと、瞬きする暇すらなく、周囲の風景が放課後の校内の廊下に戻っていた。あまりにも一瞬で目の前の光景が変わったせいでちょっと気持ち悪い。

 いきなり拉致られたと思ったら、いきなり解放されたで御座るの巻。……真面目に、一体何がどうなってるのやら、である。

 まぁなんにしても虎次郎くんが来なかったらどんな目に会ってたかわからんので、速攻で助けに来てくれたのは助かった。今なら虎次郎くんに抱かれても良い。さぁ、捕らわれの僕を助けておくれ! 今、実は腰抜けかけてるから!

 

「ほいじゃ、エリナンも分かってくれたみたいやからワイは部活行くで、ほなな!」

「え?」

「は?」

 

 しかしそんな僕の願い虚しく、虎次郎くんは固有結界から出た途端にいつもの邪気の無い笑顔になって親指を立て、即座に走り去っていってしまった。

 ……あ、あれ?

 

「……普通、助けにきたんなら最後まで面倒見るもんじゃないのかしらね」

「うん……僕もそう思う」

 

 津軽さんの呆れたような声に、僕は床に転がったまま同意する。

 いや、あの、別れた途端にまた僕が襲われるという可能性は考えないのだろうか、虎次郎さんや……?

 

「はぁ……まぁ良いわ。貴方、最近は変な魔の気配を連れて随分と動きを見せてたから、てっきり桜庭くんみたいな人外転生系なのかと思ってたけど、そうじゃないのね。良かったわ。とりあえずその忌々しい臭いはお詫び代わりに消しておいてあげるから、そのまま変なことに首を突っ込まないようにね? お姉さんからの忠告よ」

 

 だからその臭いって何!?

 

 ――あ、もしかして、例のゾンビなのはちゃんに触られたから?

 

 ……え、マジで? マジで呪われてたりした? え、ちょっと、マジで? なんか思い出して怖くなってきたんだけど……。っていうか、そもそも変なことに首突っ込むなとか言われる前に、巻き込んできたのはアンタですよ津軽さん、という言葉は飲み込んで、僕は一つ頷いて答える。

 

「え、えっと……うん……りょ、了解でしゅ……」

「って、ちょ、ちょっと、泣いてるの!?」

 

 ええそうですとも、泣いてますよ!

 割とツッコミとか心の中で入れてたけど、ぶっちゃけ何度か泣きそうだったわ! そしてゾンビなのはちゃんのリアルゾンビっぷり思い出して余計に怖くなったわ! 僕のモブっぷり舐めんなよ!? 主人公っぽく格好良く切り返す台詞とか持ってないからね!?

 

「え、えっと、ご、ごめんね? いや、えっと、あ、ほ、ほら。ジャーン!! なんとビー玉が私の指と指の間に一杯! あれ~! 不思議ね! どこから出てきたのかしらね!!」

「バカにすんない。大体なんか格好良く登場したんだから、泣いてる子なんて放置して立ち去っていくのが礼儀じゃないのかよぅ津軽さん」

「いや、だって……なんかごめんなさいね? ほら、飴あげるから。ピーチ味よ? あ、パイナップル味もあるけど。どう? 欲しい?」

「パイン飴はもらう……」

 

 くそぅ、僕がパイナップル大好物なのを知っていたというのかこの娘は。うぐぅ、でも騙されないぞ、こんな飴一個で美味しいけど騙されないぞ。モブとしての僕の立場ちゃんと理解しないで勝手に勘違いして襲ってきたことを僕は忘れないしこの飴美味しいぞ。

 

「ありがとう。美味しいねコレ」

「あ、うん……本当に子供だったのねこの子……」

 

 子供苦手なのに勘弁してよ……とかぶつぶつ呟きながら頭を抱えてる津軽さんの態度を見て若干許してやろうかと思ったけど、飴が美味しいからって許してあげると思ったら大間違いなんだぜ? っていうか、ドSのイメージあっただけに、この人意外にうっかりさんとかドS枠期待してた人達に謝れなんだぜ?

 

 うん、パイン飴美味しい。……って、しまった。噛んじゃった。あ~……一回割れるとすぐ無くなっちゃうんだよね飴って……。

 というわけで。

 

「もうパイン飴ない?」

「え? えぇ、あ、まだあるけど」

「あと三個くれたら許してあげる」

「……本っ当にごめんなさいね、佐藤くん。三個といわず全部あげるわ……はい。手出して?」

 

 なんだって? おいおい、そいつぁこの僕を虫歯にしようって魂胆かい? へへっ、お嬢さん悪(わる)ですなぁ。おぉ、パイン5個にピーチ2個だって? クックックッ、まぁ、今回はこの辺で勘弁しておいてやるぜ。

 ……いやいや、なんだ僕。キャラおかしくなってるぞ。落ち着け。でも飴はもらうけど。美味しいし後で帰り道に刹那と舐めながら帰ろう。儲けた儲けた。

 

「え、えっと……どう? 許してくれるかしら?」

「津軽さん結婚しよう」

「飴玉だけでどんだけこの子懐柔されてるのよ!? ねぇ貴方大丈夫!? 怪しいおじさんとかに声かけられても絶対ついていっちゃダメよ!? お菓子に釣られてついてっちゃダメだからね!?」

「失敬な! 僕だってそんな無用心なことしないよ! 最低でもいちごパフェかチョコパフェくらいじゃないと僕は動かないよ!」

「安いわよ貴方の身の安全!! ちょっと本気で心配になってきたんだけど!?」

 

 なんか津軽さんがあたふたしてるけど知ったこっちゃないぜ。大体君だってお姉ちゃんぶってるけど、身長僕と大差な……あれ? なのはちゃんよりでっかい感じするんだけど……。ば、バカな……イリヤのくせに……ッ!?

 

「ねぇ、大丈夫? 佐々木くんにちゃんと守ってもらうのよ?」

「大丈夫だよ。全く。いざとなったら佐々木さんは切り捨てるから」

「意外にシビアだった!?」

 

 あれ、今更だけどこの人意外にいじられ属性付き?

 

「なんか、津軽さんって僕が思ってたイメージと違うね」

「ごめんなさい。貴方は外見から得られるイメージとは違う方向で意外過ぎだわ……いや、ある意味イメージ通りだったんだけど……」

 

 なんか津軽さん疲れてるけど、僕のせいじゃないよ。元々君の責任だよ。

 

「また飴ちょうだいね?」

「うん、飴くらいならいくらでもあげるから、本当変な人に付いていっちゃダメよ……?」

「勿論だよ。失敬な。……って、いけない。佐々木さんと約束してるから、またね!」

「え、えぇ。またね佐藤くん……って、だからその魔の臭い消してあげるからちょっと待ちなさい!」

 

 あ~もう、調子狂うわ、何この子……男の子イジメて罪悪感感じたのなんか初めてなんだけど……。とかぶつぶつ言いながら新しい剣を投影して掲げた津軽さんを、僕は新たなパイン飴を舐めながら何されるのかなーと眺めているのであった。

 どうでも良いけど、一般人相手に神秘をそんな堂々と披露して良いの? 津軽さん。

 

 

 

 

 そういうわけで、今現在僕は刹那と一緒に飴を舐めながら下校中です。僕はパイン、刹那はピーチ。

 尚、虎次郎は先ほどサッカークラブの練習に向かったことから分かるとおり、別行動。練習終わってからジュエルシード探しに行く予定と事前に聴いていたので今日はもう会わないだろう。なのはちゃんは暫く虎次郎のサッカーの見学をしてから自分もジュエルシード探しをするのだと言っていた。刹那も家に帰って僕と一緒に夕食を食べてから捜索に出るらしい。

 

 原作アニメ何話目だっけか、アリサちゃんとの喧嘩があったの。喧嘩のあった日はなんかちょっと都会な雰囲気の場所で雷鳴轟きジュエルシード暴走! みたいな覚えはあるんだけど、詳しくは覚えてない。フェイトとなのはちゃんの戦闘が起きるってのは当たり前ながら覚えてるので、とりあえず今日は夕方以降の外出は避けた方が良さそうだ。

 

 あ~、それにしてもなんだかふわふわするな~。やっぱ知り合いのほっこりな場面見ると心がほっこりだよ。浮ついて仕方ないよ。まして小学生の友情だもの。見ていてほっこりしない訳が無いじゃないか。その上飴ちゃん大量にゲットですよ? あ、ガンドっぽいの撃たれて泣きかけたこと? 首絞められて短剣で軽く刺されたこと? 飴もらったし傷は治してくれたから怪我も無いんだから許すし忘れるよ。あぁほっこり。

 そう、悪いことは忘れて良いことだけを思いだすのさ。それが人生を楽しむ秘訣なのだよワトソンくん。

 

「ふふふ、なんだか幸せそうな顔だね? 何か良い事あったのかな?」

「う~ん……なんだかとっても青春なシーンを見たこととか、飴が美味しいなぁとか、昨日からお世話係りの人はアレだけど、本人はいたって良い子な同居人が出来たこととか?、かな」

「あ~、セイバーについてはなんていうか、本当にごめん。なんならやっぱり外で生活してもらう?」

「あ、いや、別にそういう訳じゃなくてね」

 

 うん、やっぱり僕に主人公補正は無さそうだ。刹那と暮らすのが何気に楽しいよ、ってのを伝えたかったんだけど。

 本当、あのお目付け役(セイバー)さえいなければ、普通に仲の良い友達がお泊りに来てる、って感じで普通に楽しめたんだけど……昨日もなんか結局あわただしくてまともに遊べなかったし。

 

 しかしアレだよね。朝起きておはよう、夜におやすみなさい、を言い合える人が家に居るって……なんか良いね。

 

 お父さんが家に居る時だったら毎日挨拶してたんだけど、お父さん最近帰って来ないし、今も短期出張だから最短でも三ヶ月は帰ってこないから家には誰もいなかった訳で、自分では気にしてないつもりだったけどやっぱ子供心的なものが寂しさ感じてたんだね。アインがいるだろって思われるかもしれないけど、やっぱり言葉の意味がわかる同じ人間から返されるのとでは全然違うから。

 

 なんていうかさ、こう……う~ん、家族愛に飢えてたんだろうね、僕。今日も帰ったら刹那に「おかえりなさい」って言うつもりなんだよ。どんな顔するかちょっと楽しみ。

 あ、セイバー? うん、まぁアレにも一応挨拶するけどさ、なんか朝方も「不穏な空気を察したらすぐに斬り伏せに散じますゆえ」とか朗らかに刹那に言って「お願いだから、駆けつけるだけにしてね? 状況を判断して、僕の命令があったときにだけ斬ってね? 君ただでさえ独断専行多くて本当困るんだから……」と疲れた顔をする刹那を見てたから、なんというかあんまり好感を感じないんだよ。

 

 まぁ、う~ん……刹那のことを大事に思ってるのは間違いないんだろうけどさ。ただちょっと過剰というか過保護というか……刹那が初フェイト戦で連れてこなかったり、最初に僕の家にこさせないようにしてた理由がちょっと分かったよ。アレはちょっと、まとわりつかれる側からしても、そのまとわりつかれる友達の側からしても、ウザい。下手したら悠馬以上に。

 

 っていうか、そもそも最近僕の中で悠馬株上昇中だから、何気にちょっと友達になっても良いかなとか思ってるくらいだしね。昼休みに泣いてる悠馬の顔ちょろっと見えたけど、なんかすっごい感動してるような感じの顔で、お前もう普段からそういう感じで普通にしてなよ、って言いたくなる実にほんわかする光景があったんでね。とりあえず愛を囁きまくるところをどうにかしたら友達になっても良いと思う。

 まぁ、その前に向こうからしたら「いや、モブの友人なんかいらねぇよモブ野郎」とか言ってきそうだけど。しかしアレはきっと過剰で若干の暴力や脅迫を含むツンデレなのだと信じたい……ッ!!

 

 ……本人に言ったら殺されそうですね!!

 

「いや、正直僕も彼といると息が詰まるんだよね……」

「……じゃあなんで佐々木さんはアレをデバイスにしたのさ」

「僕だけを愛して守ってくれる異性を頼んだらアレだったみたいでね……よりにもよってデバイスだから決別する訳にはいかないし……」

「あぁなるほど……」

 

 それはなんていうか、ご愁傷様……。っていうか、そんなお願いしてたんだね刹那。温泉で聞いたのが全部では無かろうとは思ってたけど、やっぱり他にも何個かお願いしてるのかな。

 

「って、そうだ。天ヶ崎くんのした願いとか能力とか背負ったデメリットとかって何なの?」

 

 自分達より酷いかもしれないみたいなこと言ってたけど。

 

「あぁ……えっと、Fateのギルガメッシュとランスロットの能力だったかな。基本的に王の財宝<ゲートオブバビロン>と天の鎖<エルキドゥ>しか使って無かった気がするから正直あんまり覚えてないし、本当に持ってるのかとか、他にも何かあったるのかはちょっと僕も分からない。そもそも本当に全部教えてくれたのかすら分からないしね。で、背負ったデメリットは……え~っと……まぁ、察してよ」

「いや、察するには気になりすぎる話の切り方なんだけど……」

「コレは他人が勝手に洩らして良いことじゃないから。それに佐藤くんはこっちの道には関わらないんだろう?」

「ん……まぁね」

「じゃあ、余計に教えられないかな」

 

 言ってることはちょっぴり冷たいけど、朗らかにクスクス悪戯っぽく笑う刹那の姿がやたら可愛かったとだけ言っておく。

 で、まぁ後はちょろちょろとテストの話をしたりとか、小学校の割にこの学校は勉強のレベルが高めだとか、どこのスーパーが特売多いとか、アインの話だとかを適当に話してる内に、我が家に到着。

 玄関のドアをくぐり、刹那と同時に「ただいま~」と声を出して、続けて刹那に「おかえり~」と言おうとか思ってた考えは目の前の光景を見て一瞬で消し飛びました。

 

「お帰りなさいませ、我が主、そして佐藤殿。このセイバー、一日千秋の思いでお待ちしておりました。ささ、お荷物をお預かりいたしましょう」

「え、えぇ~っと? 佐々木さん?」

「た、ただいま。セイバー。ごめんね佐藤くん。えっと……君、そんなに献身的な人だったっけ?」

「これは異なことを仰られる。某、これでも我が愛しの主、刹那様のことを思えば例え火の中風呂の中、どこにでも駆けつける所存でござりますぞ?」

「ごめん、お風呂の中だけは絶対にこないでね。来たら二度と君とユニゾンしないから」

「……佐藤殿?」

「いや、今の会話のどこに僕が睨まれる要因があったのさ?!」

 

 そんな「我が主をたぶらかしおったな!」みたいな目で見られても困るんだけど!? 完全に君の自業自得だよね今の!!

 

「セイバー、夕飯抜きね」

「なんですと!? 何故そのようなご無体をおっしゃられますか主!!」

「自分の胸に訊いてみようね」

「……某の胸が見たいと? うぅむ、まぁ、我が主が言うのであれば吝かではござりませぬが」

「誰もそんなこと言ってないよ!? っていうか僕達家に上がれないからそろそろ退いて、セイバー」

「いえ、ですから荷物をお持ちしますので」

「…………セイバー、何か隠してる?」

「衣服で裸は隠しておりますな」

「よぉし、君はどうやら本気で僕を怒らせたいようだね?」

 

 お~、なんか二人が僕を置いてけぼりで掛け合いしてるけど、僕の家でそんなわざわざ隠し事してるがあるって、アレかい? 僕の家で刀振り回して鍛錬してたら壁斬っちゃった☆ とか、家具両断しちゃった☆ のパターンかい?

 いや、別に壊したところで刹那とセイバーが直せるんだから構いやしまいけどさ。そういうのはちゃんと謝ってくれればいいのにね。

 

「何を仰られますか、我が主。このセイバー、そのように不遜なことを考えてはおりませんでしたが、怒り顔も可愛らしいのでソレもありですな」

「ごめん、佐藤くん。僕、そろそろセイバー本気で殴ろうかと思うけど、良いと思う? 魔力全開で殴るから、余波で壁とかぶち抜くかもしれないけど」

「時間操作でちゃんと完全修復してくれるなら良し。但し隣の家とかには被害出さないこと。あと音抑えてね?」

「話が分かる友人で本当に助かるよ佐藤くん……」

 

 いや、コレが普通だったら絶対拒否るけどさ、この流れからして間違いなく僕にとっての被害も既に起きてるんだろうし、どうせ修復できるんだからお仕置きって意味でも良いと思うんだ、僕。実は自分に害の無い会話だからのんびり眺めてて若干ほのぼのしてるんで、別にセイバーに何か含みがあるわけじゃないんだけどね、今の僕。夜にはまたこいつの色々な行動にイラっときてると思うけど。

 

「よし、じゃあごめん佐藤くん、ソニックウェーブで君が吹き飛ぶ可能性があるから、ちょっと外で待っててくれる?」

「オッケー」

「……ふ、どうやら某の命運もこれまでか……然れども、この命は主に捧げると誓ったのだ。その主にこの命奪われるというのならば、何の悔いがあろうか……」

 

 なんか格好良いこと言ってる匂いがするけど、君は今、完全に自業自得で怒られてるだけだからね? セイバー。

 

 で、家の外に出て念のため玄関のドアから離れ、飴を舐めながら待機してたら、一瞬、爆弾でも爆発したかのような物凄い音が聴こえて家全体が揺れてたけど、数秒後には家が一瞬だけ青い光に包まれた。

 いや~、殴って即修復かい。うん、どんだけ家の中ぶっ壊れたのかちょっと見てみたかった気もするけど、なんか色々許可を出したことを後悔しそうな気もするのですぐに直してくれたのはとってもありがたいです。

 ご近所の皆さん、窓開けて何事かときょろきょろしてる人が見えたりしますが、大丈夫ですよ、害はないんで。

 

 ……あ! アインそういえば大丈夫!? 今の破壊に巻き込まれてない!? っていうか、そもそもセイバーにお世話頼んでおいたのに玄関に向かえ来なかったってことは、もしかして隠してたことってアインのことじゃないよね!? マジでなにしでかしたあのクサれ侍!!

 

 場合によってはあのサムライぶん殴る。そう決意して、僕は光の収まった我が家へど突撃するのであった。



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17.歪愛と共同戦線

 暇です暇だよ暇らしい。

 アインもおねむで遊べないし、刹那はいないし、セイバーがいないのは気楽で良いけど、ゲームやるにも戦略ゲーはそろそろCPU相手だと難易度限界にしても問題無い状態。早くPCを買ってRTS(リアルタイムストラテジー)がやりたいでござるの巻。

 あ、リアルタイムストラテジーってアレね。戦略ゲーとかのリアルタイム進行でやるタイプのゲーム。ターン制とかじゃないので超頭使うの。好きなのよね、ああいうゲーム。得意かどうかは別として。

 

 さて、そういうわけでもうすぐ夕方。刹那とセイバーは既に早めのご飯を先に食べてジュエルシード探しに出ているし、僕とアインはお留守番。

 ではでは後はこれから何しよう、という状態なわけである。まぁ、候補としては勉強するか、或いは原作イベントが始まる前にさっさと買い物行っておこうか、というところなんだけど。

 丁度昨日作ったカレーでニンジンが、今朝方のお弁当でじゃがいもと卵、お魚のストックが無くなってしまったので補充したいところ。ちなみにカレーのお肉はお歳暮かなんかで貰って冷凍庫に眠っていたハムを使いました。

 ほら、連休中家を空けるのに肉とか置いとく訳にはいかなかったから、そういった生物(なまもの)系は事前に料理して使い果たしておいたんだよね。お魚の切り身だけは冷凍室に残っちゃってたけど、それは今朝使ったし。

 で、そういうわけだからちょっと家にある食材が心許無い訳である。スーパーでお惣菜を買ってもいいんだけど、やっぱりどうしても高くついちゃうからね。まぁたまに閉店間際とかにちょろっと覗いて、50円でお惣菜二種類セット、とかが売ってたりしたら躊躇無く買うんだけど。

 で、じゃあ買いに行くのか、となると近所にあるいつものスーパーでは今日特売が無いものの、ちょっと行ったところにあるスーパーでは丁度じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ピーマン、ついでに長ネギと牛肉に卵が安い日という状況である。

 まぁ、こういう時って迷うよね。行くべきか行かないべきか。

 だって、だってそんだけ食材あったら貴方、あとは白滝と豆腐があればすき焼きとか出来ちゃうですよ? カレーまだ少し残ってるけど、セイバーが好物らしいからまた作るも良し、ピーマンの肉詰めとかも有り。

 しかも幸いなことに、原作で舞台になっていたっぽい都心の方では無いのよ。むしろ逆方向で、刹那も都心部のほうで恐らく出てくる筈だからそちらには近づかないように、と出かけ際に言ってきてたので、ほぼ安全なんだと思う。だから「事件現場の反対側なんだし、別に買い物に出かけてもいんじゃね?」とも思うんだけど、なんかフラグ建ちそうで嫌なんだよね。

 

 分かる? 今日、津軽さんもなんの脈絡も無く僕に声かけたじゃない。ああいう気付いたら建ってたフラグって絶対あると思うんだ。いくら僕がモブとは言っても、そういう悪いフラグだけは何故か建つと相場が決まってるのだ。

 そんで親友ポジの虎次郎に助けられて、「虎次郎かっこいい!!」のパターン青、使げふん。が入るのである。実際昼はそうだったわけだし。

 となると、フラグが建つのは多分間違いない。だから僕は出かけない。

 くくく、舐めるなよ? 僕の原作イベント回避スキルを……出かけると思っただろう? これだけ思わせぶりなこと言ったら出かけると思っただろう? そこが甘いよね。いや、確かに買い物はしてきたいし、ついでにいえば原作イベントだって何気に猫天国とお泊り会には参加したけど、それ以外僕って原作イベント一切絡んで無いんだからね? アリサちゃんなのはちゃんの喧嘩イベントだってあっさり虎次郎が解決したっぽいし。

 つまり、そういう訳だから自分から「あ、これ小説ならフラグ建つな」と判断できる行動は避けるべきなのだ。現実的な危険の確率とかは度外視で、フラグ建ちそうな行動というのが重要。現実的に考えたら、事件現場から遠い場所に買い物=巻き込まれる心配が減る。安全。と思うが、小説ならフラグとなってしまうので、出かけない。これが正解。安心安全なモブライフを送るにはこれが一番の安全策。

 故に、ちょっと食材の在庫に不安はあるものの、カレーもあと一食分くらいはあるし、お茶漬けの元もあるし、冷凍食品もいくつかまだ冷凍庫に入っているので、今日一日と明日の朝の分くらいはご飯のおかずが無くて切ない思いをすることはない。

 

 さぁ、これで安心だ。では勉強でもするか。

 

 

 

 

「あれ、こんな時間に誰だろ」

 勉強もある程度区切りが付き、タオルケットの上で完全に寝てしまったアインを置いたまま、すっかり空も暗くなった頃に残っていた一食分程度のカレーを温めていると、玄関のチャイムが鳴った。

 時計を見ると、時刻は午後八時過ぎ。

 確か刹那は、今日の帰りは十時過ぎるかもしれないと言っていたので、刹那が帰って来たにしては少し早い。

 回覧板などがまわってくるにしても、流石にこの時間ということもないだろう。今日は来客の予定などは特に無かった筈なのだけれど……もしかして津軽さんが今日の放課後のことを謝りに来たとか……無いか。

「はいはい、今行きますよー」

 再度鳴らされたチャイムに、僕はコンロの火を止めて一度玄関へと向かう。

 向かう途中にまたチャイムが鳴り、そして、玄関のドアに着いた時にもう一度、チャイムが。

「そんな何度も鳴らさなくても……?」

 この時点で、流石に僕はちょっと不安を覚えた。

 

「……」

 

 家の電気も玄関の外の電灯も点いているので、居留守は即バレるだろう。というか、相手の確認もせずに居留守というのも失礼な話だ。

 なんだか嫌な予感を感じながら、念のため来訪者の顔を確認しようと、また鳴らされるチャイムを無視して音をたてないように気をつけながら、廊下に置いてあった小さな脚立を使って覗き穴にゆっくりと目を近づけて、そこにいる人物に首をかしげた。

 

 誰だ? この人。

 

 よれよれのスーツ姿で、髪ははげ散らかっており、玄関の照明から顔を隠すようにでもしているのか、ギョロリとした目と、真っ白で血色の悪い肌が見える。

 ぶっちゃけると、とても気持ち悪かった。雰囲気的にも、外見的にも。なんだかゾンビみたいで。

 

「陽子さん、いませんか……」

 

 と、ドアの外でぼそぼそとそんなことを言いながらまたチャイムを鳴らしているその人に、どうやら家を間違えているらしいとようやく気付き、ドアを開けて返事をしようとして、ドアが凄い音をたてたことで僕は驚いたせいで脚立から落ちかけ、悲鳴をあげかけた。

 落ちず、悲鳴もあげなかったのはわれながら偉い。

 

「いますよね……?」

 

 チャイムが鳴るのとほぼ同時に、ドン、とまたドアが大きな音をたてた。

 どうやら、蹴っているようだ。

 

「いるんですよね……?」

 

 ハッキリ言おう、滅茶苦茶怖い。

 なんだこの人、もしかして誰かのストーカーとかなのか。なんでうちにきたの。陽子さんなんて人うちには居ないからね!?

 内心でツッコミを入れつつ、僕はそっと脚立から降りて居間へと戦略的撤退をすることにした。

 幸い、覗き穴から見た限りではドアを壊せるような道具は持ってなかったし。今の内に110番、いざおまわりさんの出番であるという判断である。

 

 ……まぁ、ハッキリ言おう。油断してたよね。僕。

 

「イルンダロオオォォォォアアアァァァ!!」

 

 居間に戻って、いざ電話と、と思った瞬間、外から先ほどの男性の悲痛な叫び声が聴こえた次の瞬間、天井が吹っ飛んだ。

 

 ……うん、天井が吹っ飛んだ。何も間違っていない。

 

 物凄い轟音をたてたため、先ほどからの連続チャイムで半分起きかけ、叫び声とその音で完全に覚醒したらしいアインが物凄い慌てて僕のところに来たので抱き上げてから、玄関とは反対側の窓へと近寄り、カーテンをそっとめくって外を見てみると、ご近所の家のひとつが潰されていた。

 幸いなことに、姿は見えないけれど誰かが結界を張ったみたいで世界の色がどこか薄くなっていて、人の声とかが一切聴こえないから怪我人とかは出てないっぽいのだけれど。

 

 ……うん、待って、おかしいと思うのは分かるよ。僕も「なんでだよ!!」ってツッコミたい。でもね、現実。

 

 皆、よく聴いてね? 「フラグって、別にそれっぽい行動して建ててなくても強制参加イベントになることもある」という事実をここに述べておくよ。内心愕然だよね。そもそも僕原作の戦闘イベントとか関わる気ないんだからやめてくれ、と。この前ので懲りたんだから。

 

 そんなことを考えながら上を見上げたら。なんかうねうねした触手やら人間の腕っぽいのやらを生やした変な物体がいた。

 

 もうね、この巨大な触手うねうね巨人さんは空気を読んで欲しい。せめてね、せめて現れるなら、僕が行こうか迷っていたスーパーの方角ではないのか、と。僕が予備食料を我慢してまで建てないようにしたフラグを強制的に建たせるようなことしないでくれ、と。そしてなんか見ていて気持ち悪くなってくるから、即刻その姿を辞めてくれ、と。

 いや、まぁ言うだけ無駄だろうし、そもそも言ったところで何が良くなる訳でも無いからもう別に良いけども、なんか、生理的に嫌。アレ気持ち悪い。なんか見てて鳥肌立つ。この世にあってはいけない悪意だよ! とか言い出したくなるような気色悪さ。

 

 

 

『アァァァァ……イナイ……イナイ……ドコニイル……』

 

 暫く、じっとしたま触手を見上げて何が起きても動けるように待機していたけれど、先ほどのこの触手が原因と思われる一撃で我が家同様に近所の家の殆どは屋根が吹き飛んだり壁が崩れたりさせた後は攻撃らしい攻撃はしていない。

 ただ何かをうめき続けてキョロキョロしているだけで、まだ余裕はありそうだ。早いところ虎次郎くん達来ないだろうか。

 

 しかしアレだね。

 もうね、なんとなく予想つくけど、ジュエルシードが人間とりこんじゃったんだろうね。他にもあの見た目だと変な物も取り込んでるのかもだけど。

 でもね、アリサちゃん喧嘩回って確か、ジュエルシードは誰にも渡っていない状態で、なのはちゃんとフェイトによる奪い合いになるんじゃなかったっけ? 僕原作うろ覚えだけどそのへんくらいは覚えてるよ。

 

 なのに、なに? あのグロテスクな化物。そして結界張ったのが誰かは知らないけど、お願いだから早く倒すなりなんなりしてもらえないだろうか。

 それとも結界張った人は戦闘能力無くて、なのはちゃんやフェイト、虎次郎くん達待ちしてるとか? 転生者が結構隠れてるだけでいるっていうんなら、戦闘能力無いけど結界張れる転生魔道師が被害抑えるために結界張った、とかで理解できるし。

 っていうか、そうだと良いなぁ。もしかしたら、これが原作介入している虎次郎くん達を排除するために誰かが仕掛けた罠だったら! とかいうパターンもありえるのではないかと、この深読み名人の佐藤くんは思う訳ですよ。虎次郎くん達なら力技で罠なんて食い破りそうだし、なのはちゃん達も然りだけど。

 

 ――ところで玄関にいた人がこの触手の化物になったという解釈で良いのだろうか。

 

『ヨウコォ……オレト……』

 

 陽子という単語も先ほどあの玄関にいた人が呟いてたし間違いないだろう。多分。

 というか、イナイ、と言っているということはどうやら個人の判別するくらいの理性は残っているらしい。少なくとも僕が勘違いされて襲われるなんてことは無さそうだ。

 

『愛シテルンダ……マタ会イタイ……ドコニ……』

 

 うん、アレか、所謂痴情ののもつれって奴でこうなったのか。なんて傍迷惑な。

 いやまぁ、本人は色々辛いのかもしれないけれども、だからって他人の家をぶっ壊して良い理由にはならんですよ?

 こみ上げてくる恐怖心を抑えながらそんなことを内心で呟き、視線をおろして我が愛しのアインを撫でる。

 

「にゃあ……」

「あ~、アイン。大丈夫だよ。もうすぐなのはちゃんとか虎次郎くん達来るだろうから」

「にゃあ……?」

「うん。家もちゃんと直してもらえるよ、多分」

 

 だから静かにしてようね~、目をつけられたら大変だから、と腕の中のアインをもふもふしようとしたら、何やら急に周囲が暗くなったので、嫌な予感に僕はゆっくりと視線を上にあげて、見上げたことを後悔した。

 

『チガウ……』

 

 目の前には、ぎょろぎょろと蠢く数十数百の血走った目が生えた触手の群れ。そして、なんか、僕一人どころか、大人一人入れそうな大きさの口を開けた、やけに獣チックな牙の無数に生えた食虫植物っぽい触手みたいなの。

 どうやら、今頃僕の存在に気付いたらしいけど、ちゃんと探し人ではないと認識してくれたらしい。

 

 しかしこう、こんな至近距離でこんなの見たら滅茶苦茶鳥肌立つね。

 怖いってのもあるにはあるけど、それよりもあの、大量の蟻の群がってる地面に落ちたケーキとか、カエルの卵とか、カマキリの卵とか、そういうなんかぶつぶつしたのって、至近距離で見ると結構気持ち悪いじゃない? 分かるかな。僕ああいうのダメでさ。なんかすんごい鳥肌たって、意味も無くイライラするんだよね。カエルとかカマキリとか蟻とか見たり触ったりは問題ないんだけど。で、今感じてる嫌悪感みたいなのはソレね。わかる?

 あ、そうそう、蟻さんといえばね、意外と益虫でもあるから覚えておくと良いよ。白アリっているじゃない。アレってゴキブリの一種でね、ハチの一種の蟻さんと敵対関係にあるから、白アリと蟻さんが同じ場所に巣を作ったら白アリVS蟻さんという戦闘が起きることがあるらしいのだ。前世のテレビかなんかで見た覚えがあるよ。

 まぁ、白アリも自然界においては重要なファクターを担ってるとかで、家の柱とか喰っちゃうという人間に対する害はあっても絶滅したらしたでちょっと問題が発生する昆虫らしいので、まぁうまいこと共存していきたいもんである。

 ……え? そんなうろ覚え雑学どうでもいいって? いや、今は語らせて。目の前の気持ち悪いのから意識そらしていたいから。アイン、そんな尻尾おなかに抱え込んでビクビクしなくて良いよ。耳ペタンコにしておくのは、なんかこの生物から発せられてる呪詛みたいな声聴かないようにする意味では良いかもだけど、僕までそれするとアイン降ろさなくちゃいけないし、何より音が聴こえないと咄嗟に回避行動とったり出来ないからやれないのが切ないね。

 今は暴れまわったりしてないから良いけど、暴れだしたら正直えらいこっちゃになりそうだし。

 

『イナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイ……イナイィ!!』

 

 ……こ、怖いんだけど……いきなり同じこと繰り返して言うのやめてくれないかな……あ、今いちいち覚えてなかったけど、もしかして一回くらいイナイじゃなくてナイキって言ってたりしない? ……してないか。残念。そういう同じ言葉だけ並んでるかと思ったら、なんか違う言葉混ざってる、みたいなの捜すの好きなんだけど…。

 アハハ……。

 

『ガアァァァァァァ!!』

 

 って、動き出した!!

 

 お前さんは千手観音か、とツッコミを入れたくなるくらい、数え切れないほどのでかい人間の腕や目玉のついた触手、口のついた袋つきの触手とかが一斉に動き出して、我が家の残ってた壁を破壊し始めた。というよりは、この辺一帯の家を全て壊さんとばかりに、見境なしにバッタンバッタン動き始めた。

 ハッキリ言おう。無理。もし動き出したら回避しようとか考えてたけど無理。目観で大体30~40cmはあろうかという太さの巨大触手やら、大型トラック並のデカさを持つ袋をつけた口付き触手、そして小指の長さだけで僕の身長超えてるんじゃないかっていうでかい人間の腕が無数に乱舞するのである。

 もうコレじゃあ伏せる他無い。アインをおなかに隠して、うつぶせになって頭抱えてるしか無い。小さな瓦礫が降ってきたりとか、触手が一瞬かすったりとかして滅茶苦茶痛いけど、超我慢。前世では木刀で殴られたりリンチされたりナイフで刺されたり、そっち系の趣味の人に力づくで貞操狙われたりしたことのある僕に、この程度の痛みなど効かぬ効かぬぅ!!

 

 ……本当はすっごい痛いんだけどね!! 今、僕の身体中青痣だらけだと思うよ!! これ後で刹那あたりに治してもらわないといけないね!!

 今割と、本気で泣きそうだけどね!! きっとそろそろ虎次郎とかなのはちゃんが助けに来るからね!! 頑張ろうねアイン!!

 

 

 そんなことを内心で考えながら、結構時間が経った気がするけれど、未だに誰かが救援に来た様子は無い。

 

 ……そろそろ来てくれないと、左肩の感覚が無いっていうか、ちょっと……目の前がグラグラするんだけど……もう家の壊せるようなところ残ってないっぽいから瓦礫降って来なくなったのは良かったけど……とりあえず背中に乗っているというか倒れているなんか重い物どかして欲しいかな、なんて……。

 

 ……なんで、誰も来ない系……?

 

 あの、今、ちょっと動けないというか、動いたらえらいことになりそうなダメージといいますか、えっと、内心ではこんなのんびり語ってますが、割と本気で病院とか搬送しないといけないレベルの怪我負ってるので、誰か早く来てくれないかな……。

 左肩から先の感覚が無いし、右膝に意識一瞬失うほどの激痛走ったと思ったら動かなくなったし、右手の甲にガラスの破片とか刺さってるみたいで血がね、ダランダラン僕の頭を伝って自分のほっぺとか垂れてくの。痛いとか超えて、なんか熱いの。熱いんだけど体は寒いというか寒さにぶるぶる震えてるというか、なんか一度こういう状況味わった覚えがあるんだけど、前世でも今世でも流石にこんな大怪我したことは無かった気がするんだよね。もしかして前世で死ぬ時これと似たような状況だった?

 

「死ねやクサレがぁぁぁ!!」

 

 と、ようやく誰かが来たらしく突如叫び声と爆音が連続で頭上の方から聴こえてきたと思ったら、次の瞬間には耳をつんざくような化物の悲鳴が。

 

『ギィィィィィィィィ!?』

 

 ……誰が来たのかまでは、頭上げられないのでちょっとわかんないんだけどね。若干意識朦朧としてきてるし。その割には余裕あるように見える? ごめん、結構痩せ我慢。武士は喰わねど高楊枝。心頭滅却すれば火もまた涼し。隣の客はよく柿食う客だったが、膝に矢を受けてしまってな……。

 

 オッケー、まだ余裕ある。大丈夫。頭守ってたおかげで意識保ててるし大丈夫。アインも怪我してないと良いんだけど、声もあげないで僕のおなかと床の狭い空間でぷるぷるしてるのだけは感じてるから、大丈夫だと信じたい。ぶっちゃけ、ずっと歯を食いしばってる上に涙ぼろんぼろんで鼻水ぐちょんぐちょん状態で息が苦しいけど全然余裕。マジマジ。だからそろそろ、そろそろ助けて欲しいかな?

 

「クソッタレが……今回の戦闘は大事な……大事なファクターだったんだぞ……てめぇみてぇな名前すらあんのかしらねぇようなモブが変な欲かいて介入しやがったせいで、全部台無しじゃねぇか……」

 

 ……あ~、この喋り方、悠馬? お~い、僕助けてもらえないかな。正直もう、そろそろ限界な気がするんですよ。声出せないし、身体中痛いし、あの、ジュエルシード戦が大事なのもわかるんですが、なんか回復系の宝具かなんかで、せめて重態から重傷くらいのレベルまで回復させてもらえるとありがたいんですけど~。

 

「死にたいって泣いて懇願しても許してやらねぇ。生き地獄味わってもらうぞこのクソッタレ野郎が……ッ!!」

 

 あ~……向こうの声は聞こえども、こちらからの声は聴こえず、って感じ?

 っていうか、僕声出せてないもんね。アハハ。これは失敬失敬。

 

「悠馬!!」

「アルフ、おせぇよ。フェイトは?」

「とりあえず、あの子達とは休戦ってことになってね、私だけ先行してきた。フェイトは今向かってきてるよ。ったく、こんな化物が出なければねぇ……」

「……悪かったな。俺が魔力放出をしすぎたせいで、こんなところにあったジュエルシードが反応しちまって。小出しにして移動しながらやるべきだった」

 

 ……お~、珍しい、あの悠馬が人に謝ってるよ~……。

 

「気にしなくていいよ。アンタがフェイトや私の負担軽減させるためにやってくれたんだってことくらい分かってるからねぇ。それに、いつも美味しいご飯もらってるからね。ちょっとくらいのヘマは許してやるよぉ?」

「……愛してるぞアルフ」

「アンタ、本当誰でも彼でも愛してるって言うねぇ。別に、私は気にしないけどさぁ? 多少は女心ってもん理解したらどうだい?」

「ふん、理解する気もされる気もねぇよ。ったくお前と喋ってると調子狂うな……。いや、そんなことよりさっさとこの気色わりぃクソモブ目玉野郎を殺って、今度こそフェイトの真の実力をなのはに教えてやるぞ。フェイトも決着つけたいみたいだしな」

「やれやれ……ま、フェイトの実力思い知らせてやるってのには賛成だねぇ。あんな甘っちょろいガキ共にうちのご主人様の実力甘く見られっぱなしってのも癪だし? 珍しくフェイトが燃えてるのも事実だからねぇ」

「だったらさっさと行くぞ。あの頭の額っぽい部分にジュエルシードが光ってるのが見えたから、あそこまでの道は開いてやる。後は頼むぞ」

「はいはい、背中は任せるよ?」

「安心しろ。俺の女に指一本も触れさせねぇよ」

「はいはい。それはどうもね」

 

 ……あ~……なんだか、すっごい良い雰囲気出してるけど……そろそろ……無理……。

 

 

 

 

「――くん!!」

「にゃ~」

「……ん……?」

 

 ぺちぺちと、ほっぺを叩かれる感触と揺さぶられる感覚、そして鼻をペロペロ舐められるという三種類の色々な目覚ましさん効果で僕は眼を覚ました。

 

「……知らない天井だ……」

「良かった。そもそも天井とか無くなってるのにそんなベタベタなボケできるんなら大丈夫だね……」

「にゃ~……」

「お~? お~……何が?」

 

 お目覚め一番に、テンプレボケ以外は咄嗟に思いつかんよ刹那?

 目の前には、僕の顔を覗き込んでいる刹那のかなり近い顔と僕の顔に少しかかるくらいまで垂れている刹那の髪の毛。っていうか、頭の下の柔らかい感触は多分、膝枕である。男の子の夢、美少女の膝枕である。

 だが、男だ。刹那可愛いけど身体は男だから忘れないでね、皆。たまに僕も忘れかけるけど。

 

 ……って、うん?

 

「刹那……なんか髪の毛伸びた? ポニテ?」

「あぁ、これはユニゾンしてる影響でござ……って、そうじゃなくて、大丈夫かい? どのへんまでの記憶がある?」

「お~……刹那が女体化したところまで」

「それが本当だったのならすっごく嬉しかったけれど、残念ながら僕はまだ身体男の子のままだよ……なんだい? 君は起きたばかりな割に僕の心に地味な傷を作る気かい? 剥ぐぞ?」

「なにを!? あ、生皮!? やめて!?」

「惜しい。生爪でござるな」

「そっかぁ。生爪か……なら安心……って違う!! どっちにしろ危ないし痛いよさ佐々木さん!?」

「さが一回多いよ、さ佐藤くん」

 

 君のその冷静な意趣返しツッコミが今は怖いです。

 

「というか、今私のことを呼び捨てにしてはおらなんだか?」

「え、マジで? ……って、佐々木さん? 口調口調」

「え? ……あぁごめん。ユニゾン中って意識が妙に混濁してて、僕が僕なのかセイバーなのか自分でもわからなくなってる時あるから、気に召さるな佐藤殿」

「え~っと……頑張ってね?」

「なにやら……微妙にバカにされた気がしたのですが、佐藤くん?」

「いや、佐々木さんがユニゾン嫌がってた理由が地味にわかったってだけだよ……」

 

 なんていうか、せっかくの美少女外見なのに、痛々しい子みたいになっちゃってるよ。ドンマイ刹那。

 

 ちなみに、バリアジャケットと思わしき刹那の格好は、赤い部分が青に変わってるだけの、神社のマスコットこと巫女服に太刀を装備という姿である。色々ツッコミを入れたいところはあるが、とりあえず「なんで和装の男のデバイスとユニゾンして巫女服になるのか」とかそういうところだろうか。あとは巫女服は女の子用です、とか。だが男だ、ってネタをやるにもあんまりにもあざとすぎる。刹那はどんだけ他作品のネタで固められれば気が済むのか、というツッコミを入れざるを得ない。

 

「どうでも良いけど、その刀って妖刀五月雨って名前だったりしないよね?」

「本当にどうでも良いし、まず先に確認することあるんじゃないかって思うけど、この刀に特に名前はござらぬな。言うなれば無銘刀、としか言いようが無いが…五月雨か、良い名かも知れぬな」

「いや、ごめん。マジでその名前だと危ない可能性があるから絶対にその名前だけはやめて」

『ジャマスルナァァ!!』

 

 と、上から叫び声が聞こえてきたので僕は驚いて思わず身体がビクっと痙攣したみたいに反応してしまった。

 なんてこったい。まだ終わってなかったか。

 

「まだ戦闘終わってないの?」

「うん。ただ君の家が瓦礫の山と化してるから心配で見に来たら冗談抜きで君が死にかけてたから、戦闘よりも優先して助けに来たんだよ。……って、あれ? 記憶あるのかい? アレに襲われてる時の。割とギリギリまで怪我しなかったんだね君」

「え? なにが? っていうか、佐々木さんは僕とおしゃべりなんかしてて良いの? 戦闘に参加しなくて良いの?」

 

 あんだけのデカイの相手だったら、火力は相当必要だと思うんだけど。

 

「あぁ、僕は火力要員じゃないし、それに……今回は参加しなくても大丈夫そうだからね。ほら、見える?」

「ん~?」

 

 そう言うと刹那は少し身体をずらして上が見えるようにしてくれた。

 

 桃色の綺麗な太い光の線。

 

 金色の光を纏った流星。

 

 宙を舞う、数百どころか数千単位はあるのではないかという黄金の光に輝く箒星。

 

 橙色の小さな星々の刹那の輝き。

 

 そして翠色の美しい輝きのオーロラが、それらの光を守るかのように優しき空を彩り、

 

 最後には一際赤い光の恒星が、軌跡すら見せぬ速度で縦横無尽に夜空を飛び回っている。

 

 

 それはまるで、完成された絵画でも見ているかのような美しさだった。

 

 

「おー、綺麗だね……」

 

 六つの輝く星々が、あの影のように漆黒の、巨大な化物の無数にある腕を切り落とし、払いのけ、弾き返し、焼き尽くし、星の見えなくなった夜空になり代わり、綺麗なコントラストを描く。

 

「そうだね……」

 

 僕の呟いた声に、刹那が少し優しい声で応じて、そっと頭を撫でてくれる手の感触が心地良い。

 

 まぁ、尤も。

 

「アッハハハハ!! ほんま相変わらずのバカ火力やなユウマン!!」

「身一つで同じだけの破壊生み出すテメェに言われても嬉しかねぇよ!! ッ、フェイトあぶねぇぞ!!」

「黙ってて、気が散る」

「危なッ!? おいネズミの使い魔!! 私の防護壁だけやけに脆い気がするんだけど!? ちゃんと張っておくれよ!!」

「僕だってこれでも全力だよ!! 結界の心配無いのは良いけど、六人分のシールド展開するだけでどれだけ魔力と神経使うと思ってるのさ!! 君こそもっと火力上げなよ!! なにさその花火は!!」

「うっさいね! 私は近接型だから射撃は不得手なんだよ!!」

「ユーノくんもアルフさんも喧嘩してないで応戦してー!!」

『ジャマヲスルナァァァ!! ヨウコォォォx!!』

「「「「「「うるさい(の)!! さっさと観念して封印され(て)(ろや)(なよ)(やがれ)!!」」」」」」

 

 空から聴こえてくる声がなんともそういうロマンチックな雰囲気をぶち壊してくれてる訳だけど。

 ま、良いんじゃないかな。虎次郎達らしくって。

 

「まぁ、なんていうか、割と気楽そうだし怪我人も出てないようで、何よりですよ僕は」

「ははは、佐藤くんだけはさっきまで死に掛けてたけどね」

「僕は別にいいんだよ。モブだし。まぁ滅茶苦茶痛かったけどね……」

「にゃあ……」

「あ~、ごめんごめんアイン。無視してないよ? もう痛いのも治ったからね?」

「にゃあ」

「……うん? 怪我した時の記憶があるのでござるかい?」

「え? いやいや、普通にあるけど。いっそ一撃で意識もってかれてればそこまで苦痛じゃなかったんだろうになぁ……」

 

 別にそういうところで我慢強くなくて良いんだけどなぁ僕の身体。

 

 ……まぁ、意識失ったらそのまま死ぬような強迫観念に襲われてたっちゃ襲われてたんで、頑張ってたんだろうね。我ながら褒めてやろう。でも次はもちょっとあっさり意識落として良いからね、僕。

 

「まぁ別に良いか。……そろそろ、終幕かな? 一発デカいの来ると思うから、それが終わったらこの辺一帯を修復させるよ。それまでこうしてよっか」

「ん~……良いね。特等席だ」

「レイジングハート!!」

「バルディッシュ!!」

『Allright』

『Yes,sir』

「ほなイクでユウマン!!」

「俺一人でも充分だったんだがな。まぁ、たまには良いだろう。こんなモブ雑魚には勿体無いが――」

「口上はえぇからさっさと準備しぃや!!」

「チッ」

 

 最後の一本の触手が切り落とされて、ただの巨大な木偶の坊と化した巨大触手人間(?)を取り囲むように位置した、桃色と、金色と、黒と赤交じりの金、そして真っ赤な光が、どんどんと膨れ上がっていく。

 

 死ぬ思いはしたけど、なんだか贅沢な場面を見れたのは良かった。写真にでもおさめておきたかったくらいだよ。

 

「ディバイン・バスター!!」

「サンダー・スマッシャー!!」

「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

「虎次郎・ビーム!!」

 

 ……若干一名、魔法名というか技名があんまりにもあんまりな気がするけど、そしてエヌマエリシュは明らかにオーバーキルすぎると思うし、下手したらジュエルシード消し飛ぶんじゃないかと思うんだけど、思わず目の前に手をやって、目を細めてしまうくらいの光量が空を埋め尽くし、次の瞬間にはあの化物の姿は見えなかった。

 

 

 そして、空からジュエルシードと、何故かスラックスを履いてなくてトランクスがまる見えなんだけど上はしっかりスーツを着ているというおっさんが降ってくる。

 

 

 ……なんだろう。すっごい、すっごい良い終わりっぽいシーンだったのに、あまりにもシュールなんだけど。誰だよあのおっさん。いや、さっき玄関の前にいた人なんだろうけど、なんで下はいてないんだよ。上なら分かるよ? Yシャツとスラックスなら分かる。なんでスーツの上だけ着てスラックスはいてないの。いちいちオチをつけないと気がすまないの? この世界って。

 

「なのは!!」

「フェイト!!」

「「分かってる!!」」

 

 あ、そして二人とも、いやアルフとユーノくんも入れてだから四人か。四人ともおっさん無視してジュエルシード封印優先っぽい。なのはちゃんは助けに行くかと思ったのに。

 

「ま、こっからは二人の仕事やな。ぶっちゃけなのはちゃんに加勢したいところやけど」

「これ以上原作改変起こしたらてめぇマジで殺すからなトラ……」

「安心しいや。こっちかてフェイトちゃんには幸せになってもらいたいんは一緒や。手段は違うても、それは変わらん。せやろ?」

「……ふん」

 

 お~い、オリ主さん達や? なんかゴ○ウとベ○ータみたいな関係ですってのを強調中悪いけど、おっさんも助けてあげなよ? 割と結構な速度で落ちてってるよ? おっさん。ジュエルシードはそんな大した速度じゃないのに。まぁそっちは光ってるからなんか魔法の力働いてるからかもしれないけど。

 

 まぁ「親方ぁ!! 空からおっさんが降ってくるよ!! 飛○石は別口で空賊と軍で取り合ってるよぉ!!」って状態は、正直誰得だから無視したいのは分かるんだけどさ。おっさんとフラグ建てたりしたくないのもさ。でも一応一般人なんだろうし助けようよ?

 

「さて、それじゃあ今のうちに修復開始するかな。あ、確認しておきたいのですが佐藤くん。君が倒れてたこのへんって、何か家具あったりしたっけ?」

「いや、特に無かったと思うけど」

「了解。では少々お待ちくだされよ?」

「……いやいやいや、待って? 佐々木さんも軽く流そうとしてるけど、あのおっさん助けてあげようよ?」

「大丈夫。放っておいても虎次郎か悠馬が助けるから」

「……あそこから間に合うの?」

 

 おっさん、もう地上高40メートルかそこらじゃ……あ、おっさんが金色の空間のひずみに飲み込まれて消えた。

 

「ほらね?」

「いや、ほらね? じゃないよ!? 王の財宝庫になんで人間しまっちゃってんのさ!?」

 

 ビックリだよ!! アレ人間も入れたんだ!? っていうか、もしや今後の戦闘ではおっさんを宝具の代わりに射出でもする気!?

 ゲートオブバビロンで剣や槍がにょにょにょ~んって一杯出て来てる時に、くたびれたスーツ姿のおっさんが疲れた表情を浮かべながら一緒に顔を出してくるとか、シュールにも程があるよ!? しかもあの人スラックス穿いてないから、射出されたらただでさえおっさんが出てきたってだけでビックリなのに「下を……穿いてないだと!? しかもピンクのハート柄パン……ッ!?」って相手がビックリすると思うよ!!

 

 あ、なるほど、それで驚いてるところを攻撃するのか。汚い。流石悠馬汚い。

 

「それを某に訊かれても困るよ」

「いや、ごめん。そうなんだけどさ? 言わずにはいられなかったのよね」

「まぁ、なんとなく気持ちはわかるけどね」

 

 クスリと微笑む刹那マジ美少女。但し身体は男…あれ? そういえば膝枕されてるのに頭にアレの当たる感触が無いんだけど。

 

 ……ごめんね。違うんだ。別に期待してたんじゃないよ? むしろ頭に当たってなくてよかったって思うよ? 男同士で膝枕してアレの感触を頭に感じるとか誰得……あぁ、ホモ得か。でしかないからね?

 ただ「あぁ、この子のは小さいんだね」と思っただけだよ? 本当だよ? でも女の子になるつもりだっていうし、むしろ大きかったら困るだろうし、そもそも小学生なんだし、そうだよね。感触感じるほど大きいわけないよね。

 ごめん、ちょっと僕疲れてただけなんだ。今の妄言は気にしないで。

 

「あ~、あっと、あ、ほら、あのさ、まだなのはちゃんとフェイトちゃんの戦闘も起きる訳だし、また壊れるかもしれないから、もうちょっとこのままで観戦してよう?」

「ん? あ~……そうだね。言われてみればまだソレがあったか。いやはや、某もそこまで気が回らないとはまだまだでござるね」

 

 じゃあ、もう少しこうしてようか、と刹那に優しく頭をポンポンされて、僕の胸の上でようやく安心しきったのか静かに寝息を立て始めたアインと刹那を視界におさめつつも、刹那と一緒に空を見上げる。

 

「リリカル! マジカル!!」

「「ジュエルシード、シリアル19! 封印!!」」

 

 ジュエルシードを交点に、ぶつかりあう桃色と金色の光の線。最初は細く、やがて少しずつ太くなり、ぶつかりあって散っていくそれらの光の余波が、不思議な色合いの光で空を彩る。

 

 本当に、綺麗。

 

 ……やがて、全員が固唾を呑んでそれを見守っていると、ジュエルシードが激しく光り、恐らくなのはの砲撃が勝ったのか、勝ってしまったせいで、その威力の余波でジュエルシードが淡く輝きながらフェイト側に弾かれそうになったが、それをいち早く確認して動いていた翠の光に包まれたユーノくんが確保する。

 

「ぐっ……やっぱり持ってるだけでもキツい……なのは、今渡すから早く回収をお願い!!」

 

 そして、苦しげにうめきながらそう言うユーノくんに対して、こちらも待機姿勢をとっていたためにすばやく動き出していたアルフが奪うために飛び掛った。

 

「そうはいかないよ、子ネズミの使い魔ちゃん! って、結構固いじゃないのさこの防護壁――ッ!!」

 

 だが、翠の光、つまるところ先ほどまでアルフの周囲にも展開されていたプロテクションを自身の防御のために事前発動していたユーノくんに直接触れることが出来ず、空中で何かにしがみつくような姿勢をとるアルフを尻目に、ユーノくんが後ろ足で勢い良くジュエルシードを蹴ると、なのはちゃんの方へと綺麗に放物線を描いて飛んでいった。

 

「僕はネズミじゃない! フェレットだ! なのは! 任せたよ!!」

「わかった!!」

「そうはいかない!!」

「うわわ!?」

 

 しかし、それを受け取る前に、サイズフォームのバルディッシュで斬りかかってきたフェイトの攻撃が来たために、なのはちゃんがジュエルシードを取り損ねて、大きく後方へと弾いてしまう。フェイトがそれを追おうとするけれど、今度はなのはちゃんがフェイトの進路上に魔力弾のような物をばら撒いて足止めし、お互いに淡く発光しながらゆっくりと落下していくジュエルシードを後回しにして対峙する。

 

「フェイト! こっちは抑える!! 頼んだよ!! 悠馬! フェイトを!!」

「虎次郎! なのはを!!」

「って、言ってるみたいやけど?」

「……アルフ、悪いが俺はフェイトの邪魔をする気は無い。言ったはずだろう。フェイトの実力を見せてやるんだと。お前のご主人様を信じてやれ」

「悠馬……。それも、そうだね。じゃあ、アンタはその糸目メガネがなんかしないように見張ってておくれよ!!」

「任せておけ」

「……今日ずっと思っとったんやけど、ほんまに信頼されとるみたいやな、自分」

「割と、な」

 

 悪戯っぽく笑いかけてくる虎次郎に、少し照れたようにそっぽを向く悠馬。

 

「ふふ、悪いなユーノっち。ワイも同意見や。そもそも女の子に向ける刃はもっとらん言うとるやろ? 普段から」

「あぁもう……じゃあ虎次郎!! せめて悠馬が介入してこないように見張っててね!!」

「ユーノ、それに関しては任せときや! もし割って入るようやったら明日コイツ全裸で登校させたるから!」

 

 いきなりの虎次郎のあんまりな発言に、一瞬ギョッとした顔をした悠馬が、それはそれは良い笑顔で怒鳴った。

 

「それはこっちの台詞だトラ野郎ッ!!」

「お、なんや、やるんか? えぇで、久々のタイマン勝負やな! なのはちゃん達の戦闘終わるまでがタイムリミットや!」

「その前に終わらせてやるよ!!」

 

 まぁ、こうして三すくみというか、三箇所での一対一戦が始まる。

 さっきまであんなにお互いの背中を守りあうように皆で協力しあってたのに、中々ままならないもんだなぁと思うけれど、なんだろう。全然、怖いとかそういう感情は湧いてこない。なんだか微笑ましいとすら思えるのだから不思議だ。目の前じゃなくて、空で起きている戦いだからかもしれないけれど。

 

「――ーねぇ、この前はろくにお話も出来ないで、ただ戦うだけで、まだ自己紹介もしてなかったね」

「なんの話、しッ!!」

 

 いきなり語りかけ始めたなのはちゃんに斬りかかったフェイトだったけれど、レイジングハートを構えすらしていない筈のなのはと自分の間、丁度進行方向へと突然現れた十を超える数の桃色の魔力弾に慌てて進路を変え、距離をとる。

 

「誘導制御型……自動追尾――? いや、違う。遠隔操作? さっき撃った魔力弾を? ……コレだけの数をそこまで正確に」

「ディバインシューターの自動追尾カット版、ってところかな。虎次郎くんと考えたんだよ。私、射撃だけは得意みたいだから。手動で制御して展開すれば近接攻撃から身を守る盾にも出来るって」

「得意なんて言葉で済むレベルじゃない――甘くみていた」

 

 元々、回避して近接で一撃デカいのを叩き込むタイプ(という設定だったよね、確かあの子って)のフェイトからしたら、常に進行方向に展開され続ける魔力弾の壁なんて悪夢以外の何物でもないだろう。

 

 ……っていうか虎次郎、ちょっとそういう主人公の能力に介入して更にチート化図るとか、ずるいんでない?

 

「おいコラ、トラてめぇ――ッ!!」

「なにを怒っとんのか知らへんけどな、別にフェイトちゃん対策の魔法やなくて、そういうタイプのが襲ってきた時にも対処できるように一緒に考えただけの話しやぞ、悠馬。なのはちゃんに何かあったらどないすんねや。そもそもお前さんかてなんぞフェイトちゃんに肩入れしとるんちゃうんか?」

「……フェイトは敏捷極振りのインファイト型だから、そういうのむかねぇんだよ……」

「っていうか、それ以前にそういう強化の話すらできへんかった方に3万虎次郎くんポイントをベットや」

「殺す! ぜってぇ殺す!!」

 

 あっちはあっちで賑やかだなぁ…。

 

「――私、なのは。高町なのは。市立聖詳大付属3年生。教えて? 貴方の名前。貴方のしたい事。どうしてジュエルシードを集めようとしてるのか」

「……言う必要性はない。バルディッシュ」

『Thunder Rage』

『Flash Move』

 

 なのはちゃんの自己紹介を無視して、放たれたフェイトの魔法は、まるで空を埋め尽くさんばかりの広範囲に雷撃が走ったが、それは誰にも当たること無く空に散っていく。

 

「フェイトちゃん!」

「ッ!?」

 

 いつの間にか、フェイトの後方に現れているなのはちゃんが、泣きそうな顔でフェイトの名前を呼んだことで、慌てて振り向いて防御の姿勢をとるフェイトだが、そこに攻撃が来ることは無かった。来るのは、ただ言葉という名の武器だけを持って対峙するなのはちゃんがいるだけ。

 

「話すだけじゃ、言葉だけじゃ変わらないって、そう言ってたけど――変わらなくても、伝わる想いはあるの。想いが伝わらなきゃ、何も変わらないの、フェイトちゃん。ぶつかり合うのも、競い合うのも仕方ないのかもしれないけど、だけど、だけど何も相手の想いも知らないままぶつかり合うのは、私、嫌だから!!」

「あ――っ」

「私がジュエルシードを集めているのは、それがユーノくんの探し物だから! ジュエルシードを見つけたのはユーノくんで、ユーノくんはそれをまた集めなおさないといけないから! 私は最初はただのお手伝いだったけど、今は私自身の意志で集めてるの! そんな危ない物を放っておいて、困る人が、傷付く人がまた出るのはもう見たくないから、そんなのは、嫌だから! ――これが、私の戦う理由!!」

 

 そんな必死ななのはちゃんの声に、何か思うところがあったのか、フェイトが少し視線を泳がせた後、口を開く。

 

「――私は…私の戦う理由は――」

「フェイト!! 答えなくていい!!」

 

 でも、届かない。届かせないと、アルフがなのはの言葉に応じようとしたフェイトを止めた。

 

「……えぇんか?」

「これが、正史だ」

「それが、自分の決めた道やもんなぁ。難儀なことや。そない辛そうな顔すんならフェイトちゃんやアルフの心の闇、とっぱらってやったらええのに」

「知ってんだろ。俺じゃできねぇんだ……よッ!!」

「――せやんな。ほんま、難儀な、やっちゃ!!」

「優しくしてくれる人たちのところで、ぬくぬく育ってきたガキンチョになんか、何も教えなくていい!!」

 

 それは、言葉の割に、必死で、何かを酷く我慢して、言いながらも後悔しているような声。

 

「私達の最優先事項は――ジュエルシードの捕獲だよッ!!」

 

 それは、この場でほんの少しの間、共に戦った戦友との決別を告げる言葉。

 そして、事態が動き出す、出さざるをえなくなる一言。

 

「なのはッ!!」

「大丈夫!! ――ッ、待って!! フェイトちゃん!!」

 

 いくらゆっくり降下しているとはいえ、既にジュエルシードは大分地上に近いところまで落ちている。

 それを追って一気に急降下を始めたフェイトを追い、互いに、急降下していくフェイトとなのはちゃん。

 

 先に動き出したのはフェイトだが、位置的にはフェイトよりも下に居て、尚且つ近い位置にいたのがなのはちゃんだ。

 

 速度自体は互いにさして変わらない。フェイトの方が早そうなイメージだが、そのマントによる空気抵抗があるせいかほぼ五分といったところ。

 

 そして、二人のデバイスが交差し――。

 

 

 世界は、白い光に包まれた。

 



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18.金の聖女と青の便利屋さん

 まるでスタングレネードでも喰らったみたいだな。

 僕の目から、ようやく瞼の裏まで焼いていた白光が消え、耳を貫いていた音として形容出来ない音が聴こえてから役に立たなくなっていた耳に音が戻ってきた時、ようやく思考する余裕が起きた僕はそんなことを思った。

 

「……えっと、佐藤くん……?」

「へ? ――あ、ごめん」

 

 と、そこでギュっと目を瞑っていた自分の胸元から声が聴こえたのでそちらに目をやると、刹那が少し苦笑いしながら僕を見上げているのに気付いて、慌てて抱きつくのをやめて立ち上がって退く。

 

「ふふ、別に良いよ。膝枕されてた状態から、咄嗟に女の子庇うために起き上がって押し倒そうとするなんて、ちっちゃくても男の子ですな、佐藤殿」

「うぐ……ちっちゃいは余計だってば」

 

 ついでに言うと、押し倒そうとして出来なくて、座っている刹那の頭を抱えて立っているだけという感じだった。男の子として辛いです。

 

「アインも大丈夫だった?」

「にゃ~……」

 

 まぁそれはともかく、僕と刹那に挟まれる形で閃光から守られていたアインも大丈夫そうだ。、耳ペタンってさせて涙目で尻尾抱え込んでるけど。やっぱり怖かったか。

 っていうか、お前さん耳を前足で抑えるって人間みたいな仕草してるな。もう終わったぞ~。大丈夫だぞ~?

 

「いや、でも正直助かったよ。膝枕している体勢から君を守る為に動くにはちょっと突発的すぎる事態で、某も動けなかったからね。お陰で耳は少々痛いですが、目は大丈夫だよ。というか、二人のデバイスがぶつかる瞬間にはもう跳ね起きておりましたけど、ああなるのわかってたのかい?」

 

「うん、いや、原作でもなんか二人のデバイスぶつかった瞬間に凄い爆発起きてたなって思い出して、咄嗟に」

 

 そう、なんか我ながらちょっとビックリなんだけど、原作での爆発を思い出したら身体が勝手に動いてた感じで、眠ってたアインの首根っこ掴んで身体を起こし、ほのぼのした表情の刹那の上体へとタックルして押し倒そうとしていたのである。

 

「嬉しいけど、君は一般人なんだしあんまり身体張らなくて良いからね? 別に自分の怪我くらいユニゾン中ならすぐ治せるでござるし」

 

 ちょっと困った顔をしながらそんなことを言うけれど、ちょっとくらい男気見させてくれたっていいじゃない。

 まぁ、爆発自体は大したダメージ無かったから良いんだけどさ。衝撃も来たけど、刹那というつっかえ棒があったから倒れるところまではいかなかったし。

 

「いあいあ、僕なんかより刹那が怪我するほうが大事(おおごと)だし仕方ないでしょ。すぐに治せるって点では刹那が近くにいるんだから僕だって同じだし、刹那が怪我して治癒とかできなくなるよりは安全だってば」

「まぁそれはそうかもしれないけど……というか、今更だけど怪我とかは無かったのかい?」

「あ、それは大丈夫。ちょっと背中が痛む程度だし」

「そうか。大したことないなら良かったよ。じゃあまた膝枕する?」

「う~――うん。お願いしちゃいます」 

 

 男同士だろとかツッコミは無しね? 子供同士なんだし良いじゃないか。やましいこと無いんだし、なんか落ち着くのだよ膝枕。流石男子の夢。

 

「はいはい、じゃあ座って座って」

「あいあい」

 

 言われて反転くるりんこ。あ、なのはちゃんとフェイトがお互いに自分のデバイス見てすっごい悲しそうな顔してる。ヒビ入ってるんだっけ?

 

「――って、待って佐藤くん、背中に思いっきりガラスの破片突き刺さってるんだけど……」

「あ、じゃあ抜いてもらえる?」

「いやいや、抜くけど、治すけど、痛くないのかい?」

「痛いっちゃ痛いけど、そこまでじゃないよ? 刺さり方が良い感じになってて痛み感じないのかも」

「まぁ、これが僕の顔に刺さっていたらと思うとゾッとするから、割かし本気で某からもお礼言っておくよ。ガラス抜くからちょっとそのままそっち向いててね。これくらいなら時間操作しなくても簡易治癒で治せるから」

「うぃうぃ」

 

 あ、バルディッシュ手袋の中に戻してフェイトが突っ込んでくる。

 

 ……あれ? なんでこっち突っ込んできてんの?

 

「簡易治癒(ファーストエイド)。――よし、やっぱりこのくらいの怪我ならコレで充分か。しかしガラス片結構大きいので良かったよ。あんまり細かいと取り除けなくて治癒した時に身体に残ったりするからね。時間操作だとそういうことも無いんだけどあんまり連続して使える魔法でも――」

「ねぇ佐々木さん」

「なんだい? 怪我はもう治ったよ?」

「なんかフェイトちゃんこっち向かって来てるんだけど」

「うん?」

 

 相当な速度である。ウサギさんみたいな名前のボルトさんが走ってきたらこのくらいの速度では無かろうか。

 文字通り飛んでくるフェイトだけど、なしてこっちくると?

 

「って、佐藤くん! ジュエルシード足元!」

「おおぅ?」

 

 刹那が立ち上がってあげた叫び声で気付いた。本当だ。僕の足元に転がってる。吹っ飛ばされてきたの? そういえば僕の背中押したのも風というよりなんかちっさくて硬い物だった気が気がしたけど。

 ……あっぶね~。めっちゃプルプル震えて光ってるよこのジュエルシード。コレがグリーフシードだったら今頃魔女化してるところだよ。

 

「退いて!!」

「のぉう!!」

 

 阿呆なこと考えてたら勢い良くフェイトにタックルされて吹っ飛びかけるも、後ろに居た刹那が抱きとめてくれたので助かった。

 

「フェイト!! ダメだ! 危ない!!」

「く――ッ!!」

 

 と、拾ったジュエルシードを両手で握り締めたまま、手から漏れ出す光を押さえながら、フェイトががくりと膝をついたところで、足元に金色…いや、よくよく近くで見るとコレ黄色か。の魔法陣が発動し、フェイトを中心に風が吹き始める。

 

 ――さっきの爆発ほどの危険な感じはしないので大丈夫そうだ。原作アニメでも確か抑え込みきれてたし。

 

「佐藤くん。一応、僕の後ろへ」

「いや、大丈夫じゃないかな」

 

 むしろ下手な動きしたらアルフや悠馬を刺激するだけだと思う。

 

 それはそうと、こうして近距離で見て思ったんだけど、フェイトの服装ってちょっと露出高すぎない? ふともも丸見えだし、上着もノースリーブ型だし。8歳の子がするにはちょっと色気意識しすぎだと思う。

 いや、でもまぁプレシアさんの格好からしてアレだからなぁ……。

 

 そんな呑気なことを考えながら眺めていたら、そこにあるのはフェイトの手を中心に光が漏れて、風でマントがはためき、フェイト自身は祈りを捧げているようにしか見えないポーズ。

 

(なんかこう、聖女っぽいというか神聖な感じがあるというか……)

 

 汚すことどころか触れることすら憚られる幻想的な美しさ。

 どこぞの宗教団体の人とかが見たら宗教画にでもしそうな感じである。

 

「止まれ――ッ!!」

 

 そして、終焉。

 光も風もおさまり、そこにはフェイトが一人残された。

 

「フェイト!!」

「うっ……」

 

 フェイトがぐらりと揺れ、向こうからアルフが駆け出してきているが、距離的にフェイトが崩れ落ちる方が早い。

 

 あ~もう……別にこんくらいは良いよね。

 

「――え?」

「えっと……なんていうか、お疲れ様?」

 

 身長差で抱きとめるようなことは出来ないけど、倒れそうになるフェイトの肩を掴んで止めてあげることくらいは僕にだって出来る。

 まぁ、このくらいじゃフラグなんて建ちようが無かろうて。建つとしたら今フェイト側についてアルフから信頼を得ている悠馬だろうし、問題ないはず。

 

「……うん」

「フェイトから離れろガキンチョ!!」

「うわわ!?」

「あぁもう佐藤くん!! 下がって!!」

 

 駆けつけてきたアルフがおそいかかってきたけど、そこは刹那が刀でガッチリ弾いてくれたので大丈夫。

 うん、狼さん形態でガチに牙むき出しで迫られたら、マジ怖いね。

 

「僕達に敵対する意思は無い。去るなら追わぬ。行かれよ」

「信じると思うのかい?」

「戦う気ならばとうに襲っているわ、たわけ。それよりも貴様の主がもう限界であろう。早く連れて帰ってやるが良い」

「――本当だろうね?」

「こちらも目の前に足手まといがいるのでな。無理に追おうとも思わぬよ」

 

 お~い刹那や? 多分、今はセイバーが表に出てるんだろうけど、地味に傷つくよ? 逃がす口実にするためだってのは分かるんだけど、そして事実でもあるんだけど。

 

「……ふん」

 

 あ、アルフが人間形態に戻った。

 

「悠馬、悪い。退くよ」

「しか、無いだろうな。帰るか」

「……ごめん」

「謝られる必要を感じねえな、フェイト。……あー、まぁアレだ。たまにはそうやって素直になってくれると、愛が報われた感じがして嬉しいけどな?」

 

 そして、なにやらいつの間にか目の前にいた悠馬(こいつ本気で何時の間に来たんだ。瞬間移動でもしたの?)とアルフ、フェイトの三人ですばやく逃げ出す。

 

「あっ――待って、フェイトちゃん!!」

「なのはちゃん、今日はもう無理や。……レイジングハートももう限界やろうし、帰るで」

「そうだね……これ以上は。なのは、帰ろう?」

「――うん、わかったよ、虎次郎くん、ユーノくん」

「ほな、刹那~! ワイらのお姫様のお守りしつつ、ここの修復頼んだで~!」

「任せておいてよ! 虎次郎くん!」

「――待って!! お姫様って僕のことじゃないよね?!」

 

 割と、僕はそこ絶対認める気無いからね?

 そして刹那もその頼まれたは修復に関してだよね? 僕に関してじゃないよね?

 

「ほな! また明日学校でや!!」

「またね、刹那くん! あ、あと義嗣くん!!」

「ごめんね、刹那。後は頼むよ……義嗣、またね」

「またね」

「キー! 話し聴けよぅ!!」

 

 おのれ虎次郎くん許すまじ!!

 

「まぁまぁ。…さて、それじゃあそろそろ僕の本領発揮だ」

「あ、そっか。うん、ごめん。邪魔しないね?」

 

 色々と抗議したいところではあるけれど、僕のわがままでここの修復遅れさせるわけにもいかないしね。この結界もいつまで続くのか分からないし。

 

「うん、じゃあ……いくよ。――あるべき物をあるべき姿へ」

 

 詠唱始まった。僕は空気読める子だから口は黙るよ。

 

「時よ遡れ、美しきあの景色を此処へ」

 

 お、青い魔法陣が刹那の上に出てきた。……のは良いけど、これ陣がアルファベット漢字平仮名片仮名英数字に記号と、やたらごっちゃ混ぜに見えるよ。なんぞコレ。

 PCでゲームのシステムデータかなんかをメモ帳機能で開いたらこんな感じに訳ワカメな字が出たりするけど、アレに近い。今世では見たこと無いけど。

 なんかぼんやり見えている分には良いんだけど、コレくっきり見えたらなんか嫌な感じっていうか、見てて苛々する羅列だと思う。分かるかなこの例え。

 一回でもそういうの見たことある人ならわかってくれるかもしんないけど、わかんなかったら良いや。

 

「破壊を創造へ、創造を無へ、嗚呼素晴らしきこの世界に奇跡を。祝福を。時を司る我が命じ、念じ、願う」

 

 意味不明な羅列の成された魔法陣が一気に巨大化し、今の自分の視界には朗々と謳いあげる刹那の綺麗な顔しか見えないけれど、多分、被害の出てる住宅地全体に魔法陣が広がっているのだろう。

 

「時間(とき)よ、あの美しき時間(とき)よ。ここへ具現し、世界を騙し、世界に認めさせ、時間(とき)の矛盾を淘汰せよ。

 

 

 ――美しきあの時を此処へ<ワールドタイム・リトログレッション>」

 

 

 魔法陣が消失し、魔法陣を構築していた青い光が周囲一帯に満ちて、まるで明るく光る海の中に入り込んだような、そう、もっと分かりやすく言うのであれば、四方八方が水槽で囲まれた水族館の中に迷い込んだような錯覚を僕に感じさせる。

 記号みたいな魔法陣はなんか嫌だったけれど、この光は素直に綺麗だと思う。

 そして瞬きを一つした瞬間には、まだほんのりと青い光の余波が残ったままではあるものの、音も無いまま修復されたいつもの家の中の様子が目の前にあった。

 

「どう? 格好良かったかい?」

「……うん、凄く、綺麗だった」

 

 それは良かったよ、と朗らかに笑う刹那の顔も、さっきの光景に負けず劣らず綺麗だったけどね。



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18EX1.佐藤さんの転生者傍観記?

 注意書き。
※これは、佐藤くんが17話で死んでしまい、TSして逆行をするというお話です。
 本編とは一切関係が無いフリをしていますが、話が進むと本編に関する伏線がちらほら隠されていたりします。
 むしろ、にじファンの時はこっちのほうが熱狂的なファンが多くてファンイラストも圧倒的にこっちが多かったりしたのでこっちが本編という噂もうわなにをするやめ(ry
(後日別作品扱いで、EX編を掲載予定)


 目が覚めると、いつぞや見た覚えのある白い空間にいた。

 

 あれ、僕どうしたんだっけか、と思ってうんうん唸っていると、これまたいつぞやの男女どっちだか分からない人影みたいなのが出てきたところで思い出した。

 ……あ、なんかでっかいうねうね触手のジュエルシードの化物出てきて、大怪我したんだっけ。で、ここにいるってことは死んだのか。

 

 う~ん……なんと呆気ない終わり。流石は僕ってばモブである。

 アイン大丈夫だったかな……頑張ってアインが潰れないように瓦礫支えてたけど、僕死んだってことはアインも道ずれだったかな……かわいそうなことしたなぁ……こんなことならすずかちゃんの家にいたままのほうが良かったな、アイン。ごめんね。

 

「さぁ、選びたまえ」

 

 スッ、と、またあの時と同じように五枚のカードが差し出されたけれど、僕はそれを受け取らないで尋ねる。

 

(あの後、アインって死にました?)

 

 ――無言。やっぱ答えてくれないのか。ケチンボさんめ。

 あ~……生きてるといいんだけどなぁ……。

 

(すいません、あの世界で僕が死んでも、アインが死なずに助かって、誰か優しい人に引き取ってもらえる感じにしてもらえます?)

 

 僕のお願いに、影は一瞬揺らめいた後に、少しだけうろたえたような声が聴こえる。

 

「願いは、それだけか?」

「(え~っと、あ、あと刹那のTSって、アレどうにかしてあげられません? あれ本気で困ってたみたいなんで)」

「無理だ。願いの成就には必ず因果が付きまとう。因果そのものを消すならば、願いもまた消えることとなる」

「(あれま……あ、じゃあ、そのTSの因果とやらだけを、誰かちょっと性質の悪い転生者に押し付けるとかは?)」

「押し付けられる側が望むのであれば可能であるが、了承無しに他者に押し付けることは受け入れられない」

「(あ、それならその因果とやらは僕が引き取ります。どうせ僕は男女どっちでものんびり生きていく自信あるんで)」

「――願いは、それだけか」

「(え~っと、あ、生理は軽めになるようにしておいてください。アレ相当辛いらしいんで。あと、転生後のまた転生って、同じ世界ですか? 出来ればまた同じ世界で。また虎次郎くんや刹那達と友達になりたいんで。え~っと、あとは……前の転生時のカード選んだ奴ってそのまま効果及んでます?)」

 

 ――また、無言。

 なんだよ~。ケチだな。せめて願いを叶えてくれるのか、或いは質問に答えるかくらいしてくれたっていいじゃないか。

 

「時間切れだ」

 

 あれま。え~っと、じゃあ神様? なんというか、次また会うことあったらよろしくです。

 

 

 

 

 やっほー、皆元気? 私超元気。こんにちわんわんお~! とかわんこの手作って元気良く言えちゃうくらい元気。

 

 え? TSした割にあんま変わらないなって? いや、言ったじゃない。私TSしてもあんま気にしないって。もしあの時点で恋愛でもしてたら抵抗あっただろうけど、別にいなかったし。

 友達になるだけなら性別なんて関係ないじゃない?

 

 あ、でもねでもね、心の中の独り言、僕から私に一人称変えました。僕っ娘も需要あるだろうけど、現在私も9歳もとい8歳。小学3年生時点で、佐藤義嗣だった時よりもさらに3センチほど身長低いので、ギャップ萌えを狙うにはあざとすぎるだろうと。

 っていうかね、皆聴いて聴いて!! あのね、僕じゃなかった、私ね、すごいこと気付いたんだよ!!

 女の子だと、小動物もふもふしてキャーキャー言ってても、許されるということだよ!! 割と結構歳がいくまで!!

 コレは、革命だよ!! もふもふ革命だよ!!

 

 しかも、しかもだよ? 女の子になったことで、すずかちゃんやアリサちゃんともなんか気付いたらあっさりお友達になっててね! なんかね、こっちも前世(?)で友達っていう感覚があったし、男の子じゃなくて女の子として生まれたことで、お話するのに抵抗無かったからね!

 そうするとどうなると思う? 分かる? 分かるよね? わんにゃん天国なの!!

 良い? 大事なことだよ? 皆分かってるよね? わんにゃん天国だよ? 文字通りの天国なんだよ? もうね、もうね、毎日のようにどっちかの家に言って、わんこかにゃんこの自慢を聴きながらね、もふもふ、いや、もうね、もふんもふんするの!!

 あ、ごめんね。それ今はどうでもいいよね。えへへ。

 

 え~っと、あ、そうそう。刹那はね、ちゃんと女の子になってたの。ただね、なんか虎次郎くんとくっついたのか、すっごいべったりなの。超甘々なの。両方とも当然お友達になったんだけどね、虎次郎くんが私に声かけてきた時、刹那がむくれてたのが可愛かった。

 あのね、もうね、あとね、聴いて。女の子だからね、スキンシップがね、抱きついたりしても怒られないというかね、あんまり抵抗無いの、こっちも。

 おかげで私はなのはちゃんだろうがアリサちゃんだろうがすずかちゃんだろうが、刹那だろうがべったりです。なんか、撫で撫でされてファーブルスコです。

 

 愛されてるね!! 私!!

 

 あ、あとね、悠馬とね、お友達になりました。

 

 びっくりだよね。なんかね、なのはちゃんを口説いてたからね、「嫌がってるでしょ!」って怒ったら、最初は「あ? なんだモブ……? うん? 女の子か――いや、そうだな。ごめんな」とか言って笑ってあっさり退いていきまして!!

 あ、そういえばこれが今世でなのはちゃん達と友達になる切欠でもあった気がする。何気に悠馬GJだね!! 前世(?)だと虎次郎くん経由で仲良くなっただけなのに!!

 で、その後も事あるごとに悠馬は原作キャラに愛を囁きまくるんだけどね、その度に妨害してたらなんか寂しそうな顔してたから、後ろから抱きついて「なんかわかんないけど元気出せ~!!」って言ってあげたら、なんか泣かれたの。

 いや、泣かすつもりじゃなかったんだよ!? あのね、違うの。なんかね、嬉しかったらしくてね。なんだか色々あってヤケッパチになってたらしいの。

 

 で、正座させてお悩み相談受けてから抱きしめて頭良し良ししてあげたら、なんかそれ以来「俺が、お前を生涯守ってやる」とか目を真っ赤にしながら言い出して、それからはなんかもうね、原作キャラにも普通の人みたいに接するし、他の子にも普通に接し始めたの。

 でもね、なんか悠馬が嫌われてるのが直らなくてね。普通に接してくれてる人もいるんだけど、なんだか一線ひいてるの。虎次郎くんもある程度接触してくるんだけど、なんかね、他の人よりは親しげなんだけど、やっぱりなんか違和感あるの。なんだろうね? 私もなんでなのかわかんない。

 

 でね、まぁそんな次第なんだけど、結局のところ原作イベントはにゃんにゃんパラダイスご招待とお泊り会は行ってきたよ!

 にゃんにゃんパラダイスとお泊り会は、悠馬も誘ったよ! まぁ遠慮して来なかったけど。

 

 あ、あとね、今世でも刹那の投影剣が結構危ない位置に当たったりしたんだけどね、特に巨木の時なんか前世よりも酷くて五本くらい近くに降ってきて、ポニテ好きだったからしたくて伸ばしてた髪の毛の一部斬られちゃって、今世では喧嘩しなかったみたいで無傷で笑いながら帰ってきた悠馬がそれに気付いたみたいだから笑いながら言ったら、憤怒の表情で飛んで行っちゃって、次の日普通に学校来てたけど。

 で、なんと悠馬、フェイト側につかなかったみたい。ビックリだよね。あんなに前世では執着してたイメージあったのに。特にアルフなんか仲良しさんだったのに、牙むき出しにされて唸られてたよ。

 そういう訳で、今お泊り会の二日目なんだけど、どうも大分端折っちゃったよお話を! という感じのご挨拶申し上げ奉っちゃう私こと佐藤嗣深(さとう つぐみ)8歳ですよ!!

 

 あ~、一気に話したから喉渇いちゃったよ。

 なんて、私全部脳内で語ってたんですけどね!!

 

「あう~、ユーノくんもふもふ」

『あわわ……つ、嗣深? あの、僕男の子だって昨日も言った通りで……』

「なにを言ってますかユーノくん。可愛い物に女の子も男の子も関係ないの!! ね~、アイン~?」

「にゃ~」

「ほらほら、アインもこう言ってるでしょ~?」

『いやいや、君動物の言葉が分かるスキルなんて持ってないよね? そもそも魔法自体使えないよね?』

「人間、言葉だけじゃ伝わらない思いも、心で通じ合えることもあるんだよ!」

「にゃ~!」

「ほら~、アインもこう言ってるでしょ~?」

『二回目だよそのやり取り!!』

 

 うるせ~やい! 良いからユーノくんは黙って私にもふんもふんされていれば良いのだ!! アインは温泉入っちゃダメだから、君が犠牲となるのだ~!!

 

『うわっ、ちょ、嗣深!? む、むむむ胸にあた、当たってる!!』

「うふふ~、当ててんのよ~? な~んて、私当てるほど胸無いんですけど!! アハハ、ユーノくんのえっち~」

『ちょ、う、うわ~ん!! 虎次郎~!! 助けてよ~!!』

『あかんのや……ユーノくん、こっちも色々危険な状態なんや……助けてほしいのはこっちのほうや……』

『ユーノくん、私と虎次郎の裸の付き合いを邪魔するとはいい度胸だね?』

「お~、せっちゃんなんて大胆な! 頑張れ~!」

『うん? あ、露天風呂だとかすかにそっちの声も聞こえるね。ありがとう嗣深。嗣深もライバルが現れる前にユーノくんを落としておくといいよ』

「は~い」

『『君達(自分等)お互いに無責任なこと言わないで(んといて)!?』』

 

 うふふのふ。略奪愛は女の子の性なのだ!!

 は~っはっはっは! 永遠のラブリーフェレットボーイは私がいただいた~!!

 

「な~んちゃって。ユーノくんはなのはちゃんとくっつくんだろうし、私は将来アインと結婚するからいいんだもんね~。ね~?」

『ちょ、なんの話!? ぼ、ぼぼぼぼ僕となのはそういう関係じゃなくて!!』

「あらあら、どうせ結婚するなら私としない? 嗣深」

「あれ~、恵理那ちゃんやっほ~。どしたの? 皆と入らなかったの?」

「ふふ、貴女が別で入るって言うから、私も参加しなかったのよ」

 

 クスクスと笑う白髪赤目のこの子は恵理那ちゃん。

 そういえば前世ではあの脅しされてっきりでアレだったけど、今世では割と早い段階でお友達になってました! ごめんね、説明するの忘れてたよ!!

 

 あのね、なんかね、恵理那ちゃんレズなんだって。男の子もいけなくはないんだけど、男はオレンジ色の髪で正義の味方目指してる子か、浅黒い肌で白髪で目が鉛色の人しか認めないって言ってた。

 

 それは士郎くんのことか~! って感じだけど、ふと気付いたので「そういえばなのはちゃんのお父さんも同じ士郎だけどどう?」って訊いたら、「むしろ桃子さんの身体にそそられるわ」とか危ないこと言ってました。こわいにゃ~?

 

 あ、なんか抱きついてきた。

 

「ふふ、相変わらず可愛らしい身体してるわね、嗣深」

「む~、それは私が幼児体系とでも言いたいのですか恵理那ちゃんや。貴女だって大して違いは――ま、まさかこの感触は――ッ!!」

「当 て て る の よ」

「にゃ~! このお年頃でふっくらとは言えあるのはずるいよ恵理那ちゃん!! 私だってそのうち大きくなるから……あ、でもおっぱい大きいと肩こり酷いらしいし、やっぱいらな~い」

「そうね、ちっちゃい身体なのに巨乳だなんて、一部のコアな変態しか喜ばないわ」

 

 それはお父さんのことかーッ!!

 

 あ、そうそう、お父さん、この世界でもロリエロ本持ってました。っていうか、前世と変わらないから説明してなかったけど、幼少時の流れはそのまま前世通りだったよ。

 で、お父さんのことをそれだけで危険人物扱いをしない。それが私クオリティ。むしろちょっとからかってあげるのが私クオリティ。女の子だから許される悪戯ってあるよね!!

 そんな訳で、前世でもお父さんとはそこまで抵抗無くお風呂入ってたので、お父さんが自分との葛藤があるらしくて最近一緒に入ってくれないから、お父さんが入ってるお風呂に突撃してみたり、中々スリリングな体験です。

 

 たまに膝の上に乗ってるとお父さんのアレが微妙に硬くなって、お父さんがかなり挙動不審になったりするけど、生理現象だし仕方にゃ~ですよね。別に襲われたりする訳じゃなかったら、私の裸見て一人でしたりとか、ちょっとキスするくらいなら別に構わないよお父さん?

 おっと、あんまり露骨な下ネタは女の子としてタブーだね!

 まぁ実際は年頃になると男の子より、女の子のほうが下ネタ普通にしてたりするんだけどね!

 

 う~ん。まぁ、そんな感じで女の子ライフを割と満喫している私なのでした。

 

 あ、それと悠馬から「お前は、俺にとってのエルキドゥみたいに大切な存在なんだ」とかちょっと照れた顔をして、天の鎖<エンキドゥ>の使用権限と、聖骸布のオリジナルで私にゴスロリドレス、それと私の緊急時にボタンを押せば悠馬くんが転送されて来るという名前も知らないような宝具をプレゼントされました。なんかとっても良い人です。

 折角真人間になったのに皆からはなんか一線引かれてるちょっと可哀想な子ですけども。

 

 なので、私が前世で死んだと思われる場面になっても、あっさり大丈夫でした。

 

「――嗣深を怖がらせやがって……万死に値するぞこのクソ触手目玉野郎!!」

 

 プッチンしちゃったのか、出るわ出るわ、見渡す限りのまっきんきんな空間の歪みと剣に槍に戟にハンマーに鎌に鍬に鋤に、拳銃、突撃銃、軽機関銃、RPG、SMAW、ジャベリンミサイル、スティンガーといった現代兵器はおろか、何故かF4EJ改ファントム2とかF15イーグルとか、Su27スホーイフランカーとかレオパルド戦車とかパトリオットとか、名前も知らないようなマニアックな第二次大戦とか第一次大戦とかで使われてたような銃や戦車、レシプロ機。

 もうとにかく古代、近代、現代の区別も無く、この世で兵器という名のつく兵器の殆どが結界全域ギリギリまで展開してるんじゃないかという規模で展開して、一斉に射出、及び射撃開始。

 あれはもうね、核以外の全世界に存在していた全ての兵器を持ってきたと言われても信じるよ。汚ねぇ花火だ、とかネタ言う余裕すら無く、アインと一緒にポカーンと見てるだけだったよ。

 もうね~、この上で更に最強の宝具たるエヌマエリシュあるとか、反則すぎるよこの似非王様。

 

 有り得ない規模の破壊を撒き散らす兵器群からの破壊の余波を全部、目に見えない謎の盾で防いで(なんだか、全ての盾の原典だとか言ってたけどよく知らない)、こちらに振り返ってニコリと笑って一言。

 

「嗣深……愛してるぞ」

「お友達で」

 

 笑ったまま静かに泣き始める悠馬だったけど、私の知ったこっちゃありません。エルキドゥさんは親友でしょ? 恋人になったらBLじゃないか。

 

 あ、私今女だったね。テヘペロ☆

 

 そしてついでに言うとエルキドゥって性別無しだったね。どうでも良いね!

 まぁ、20代半ばになっても私の結婚相手がいなくて、悠馬もフリーの状態でもまだ私を好きだって言うなら考えなくも無いんだけどね~。別に嫌いじゃないし。

 

 あ、そうそう。それと虎次郎くんがね、割と普段から私にちょっかい出してくるんだよね。と言っても、前世で男の私がされてたのと同じような会話とかなんだけど、お陰でたまに刹那に涙目で「私達、友達だよね? 恋人奪ったりしないよね?」とか言われて困ります。

 お友達とお話するのがなんでなんでそんな泣かれるようなことなんだろう。虎次郎くんも虎次郎くんで悠馬から睨みつけられて、

 

「ちゃ、ちゃうねん! 別に口説くとかそう言うんやないんて!! ただ話が合うからウマの合う友人として話しとるだけでやな? え? じゃあ女の子としてみてないのか? いや、それとこれとは話が別やけども。可愛いと思うでつぐみんは。嫁に欲しいわ。

 え? 屋上こい? お? なんや、コレはアレやな? 青春にはつき物の、女の子をかけた男の子同士の戦いってやつやな? えぇやろう、乗ったるで!!」

 

 とかやってます。男の子ってアホだね!

 

「嗣深ちゃんモテモテだね~」

「それより何より、あの天ヶ崎の手綱握れてることに私は驚愕するわ」

「あはは……まぁ分からなくはないかも。……刹那ちゃん、あの、えっと……お、おいで? 私が慰めてあげるよ!」

「うぅ…すずかぁ……虎次郎が浮気するんだよぉ……」

「百合の香りに釣られてやってきたわ」

「あ、恵理那ちゃん。百合? お花なんてあったっけ?」

「え? 教室に百合なんて無かったと思うわよ?」

「なのは、アリサ、貴女たちはそのまま純粋でいてね?」

「「??」」

 

 う~ん……女の子として暮らすのも悪くないね!!



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19.お泊りと虎さんの修羅場

 家も直ったことだし、怪我も治ったし、アインも無事で怪我人もいない(まぁフェイトがちょっと可哀想だけれども、確かアレ手を火傷してたと思ったし。まぁ僕にはどうしようもないんだけど)ので、とりあえず万々歳です。

 そういう訳で僕は広範囲に魔法使ってちょっと体調悪そうな刹那と、ついでにユニゾン解いて出てきたセイバーにねぎらいの言葉をかけた後お茶を淹れてあげて、一緒にちゃぶ台を囲みながらぼんやりしています。

 

「ふぅ……しかし、なんだか今日はごめんね、佐藤くん。原作知識もあまりアテにしすぎない方が良いって教訓だねこれは……そのせいで佐藤くんを巻き込んでしまったようなものだし。本当に申し訳ないよ」

「そうでござるな……少々、某らに油断があったのは事実。面目次第もござらぬ、佐藤殿。主共々お守りすると誓いを立てたばかりでありながらのこの体たらく……世が世であらば切腹も致し方なし。それほどの失態でござる」

「いやいや、良いって。気にしないで? どうしても原作知識あったらそう思うのも仕方ないよ。佐々木さんもセイバーも頭上げて?」

 

 ぼんやりしてるのは僕だけだったね、ごめんなさい。

 二人して正座をしたまま頭を下げる(特にセイバーなんか土下座である)刹那達に、僕はとりあえず頭を上げるようにお願いする。

 だってさぁ、仕方ないよね、今回のは。誰が予想したよこんな展開。僕だってビックリだよ? 想定外の事態を考えて、少しでも襲撃フラグを避けようとしたのに自宅近辺で戦闘だなんて。どう考えても悪意を感じるよ。

 

「しかし……」

「うん、ちょっと今回のは……佐藤くん気付いてなかったのかもしれないけど、怪我の状態は酷いもんだったんだよ? なんならセイバーが見た視覚情報として記録されてるから見るかい? 悠馬が気絶している君に気付いて処置しておいてくれて、それでもギリギリだったくらいだからね?」

 

 え~、マジか。っていうか悠馬、気付いて処置してくれてたんだ。意外だわ。アイツならモブなんて! って放置かと思ったんだけど。

 ……ん~……本当にアイツはわからん。やっぱなんか考えて行動してるだけで、根は良い奴なんだろうってのはわかるんだけどなぁ……。

 

「一応、見てみよっかな?」

「……えっと、ごめん。先に言っておくけど、グロ耐性あるかい?」

「あ、そこは大丈夫」

「なら見せるよ? セイバー」

「承知いたした」

 

 ……あ~、こりゃ酷い。

 左肩陥没して腕の骨が突き出てて、斬りおとされたっぽい触手生物の黒い肉みたいなのが右足に落ちたのか、膝から下ミンチになってて、右腕左足も変な方向曲がってたりしてる。一番痛いと思ってた右手の甲に刺さってたガラス片が一番の軽傷だったって感じ。

 

 あ、あとなんか血溜まりが凄かった。終わり。

 

「……正直ね、よく生きていてくれてたなって感じだったよ。悠馬が言うには瓦礫の一部がおなかに突き刺さってて、肝臓とかもやられてたらしいから。

 治癒用の宝具程度じゃ傷口塞ぐだけで五体バラバラや原型とどめない物は治せいから、むしろ僕が使う時間操作による治癒の妨げになるってことで使って無いんだけど、今回は出血の量が余りにも酷かったからEX級宝具の神酒(ソーマ)使って傷口塞いでくれたらしいし」

「ほへぇ……明日お礼言っとく」

「うん、そのほうが良いね。アレ資産価値に直したらコップ一杯で何億どころか何兆とかついてもおかしくない代物だし。効用は本物には遠く及ばない駄酒だって本人は言ってたけど……」

 

 ……なんぞソレ?

 EX宝具ってそんな高値付くの?

 

「コップ一杯で何兆って……マジ?」

「マジだよ。老人なら若返りの効果まである、どんな病や怪我も治す万能の霊薬だからね。ソレ使ってアメリカの某大富豪の不治の病を治してあげた時は、代金として年三千億ずつ十年間のローンという形で払わせてるって言ってたし……。

 年収五千億以上の人らしいし、即金でも払えるとも言われたけど、死んだらその時点で支払いしなくて良いって断ったってさ。自慢げに話してたよ」

 

 神酒(ソーマ)ってなんだか知らんけども、コップ一杯で何兆かもってどういうこと? ここはひとつ日本の経済建て直しにご協力してくださらんかね悠馬。

 ……っていうか、やっこさんマジでギルくんだなぁ。財力チートとか……いや、お陰で助かった訳で文句言うのも筋違いどころか恩知らずな行為だってのはわかってるんだけど。

 

「なんていうかさ……悠馬って、改めて確認したいんだけど、IT会社の敏腕社長な中学生とかだっけ? 金銭感覚おかしいよね?」

「ごめん。君がそう言いたい気持ちは分かるんだけど、ただの小学三年生だね。顔とか身長とかもう色々とアレだけど、彼。というか、もし社長だったとしても、年収三千億とかまず有り得ないから」

「文字通り次元が違う世界だね……」

 

 僕なんて新品じゃがいも単品28円か、古い売れ残りのじゃがいも5個セット105円どっち買うかで迷うほどの貧乏症なのに。

 ちなみに悩んだ末に新品買うけどね。せっかく安売りで28円なのに安いからって古いの買うのは逆に損だし。あ、でも安売りしてない時で、家に在庫が無い時は買うけど。

 

「まぁ、この話はこのくらいにしておこう。で、まぁ悠馬のお陰でお腹の傷と体力は回復したんだけど、なんか効きが悪かったとかで完全な回復では無かったから、とりあえずソレで命の繋がった佐藤くんを、僕が君の身体全体に時間逆行魔法をかけて怪我をする前の姿に戻したって訳。だから本当は記憶も健常時の物にまで戻るから怪我した時の記憶も無くなるはずなんだけど――」

「――何故か、僕には残ってる、と?」

「うん。ちょっと不思議なんだよね。もしかしたら佐藤くんの因果や能力に何か関係があるのかもしれない。

 ……けど、そんなピンポイントな因果や能力っていうのもあるのか分からないんだけどさ。それなら能力っていうほうがしっくり来るし。

 まぁ佐藤くんが自己申告した能力しか無いのなら違うんだろうけど」

「うん。他の能力は知らない。教えてもらってないしね。しかしそうなると、もし隠れた能力があったとしたら時間に干渉する系なのかな」

「そうだね……可能性としてはあると思うけど、時間に関する能力って、今までに発動した覚えある?」

「無いね」

「となると、正直その線も薄そうだ」

「そっか~……」

 

 う~ん……なんとも面倒くさい設定なもんだなぁ、転生者。神様もまたなんでそういうしちめんどくさい設定にするのかな。普通に皆で和気藹々してきゃっきゃうふふな能力でいいじゃない。

 

「――佐藤殿。歓談中のところ申し訳無いのでござるが、そろそろ我が主を休ませてもよろしいか?」

「え? いや、別に僕は大丈夫だよセイバー」

「あ、いや、ごめんセイバー。そうだよね。あんな大規模魔法使ったんだから、そりゃ疲れてるよね。佐々木さんちょっと顔色悪いし、今日は寝たほうがいいよ?」

「むぅ……そうかい?」

「うん。ただでさえ白かった肌が、なんだか死人みたいに青白くなってる」

 

 これはこれで薄幸の美少女って感じで儚げで綺麗なんだけどさ。

 実際、よくよく見てみると目の下にはうっすらと隈が出来てるし、唇の色もいつもの柔らかそうな桜色の唇から、ちょっと色素が抜けて紫っぽい色が混じってるように見える。

 正直、顔色は最悪だ。

 

 はぁ……刹那がつい普通に話してるもんだから、こっちもなんか普通に流してたよ。ごめんね、気付けなくて。セイバー言い出してくれてありがとう。

 

「死人みたいとはまた失礼だね。本当に死人になりかけてた人が」

 

 しかし、そんな顔色ながらくすりと笑う刹那は相変わらず可愛いです。かなうことなら撫で撫でしたいです。セイバーいるから出来ないけど。

 

「指一本いかれますかな?」

「心読まれた!?」

「顔を見れば分かりますな」

「……何を考えたのか興味あるところだね?」

「佐々木さんの頭撫で撫でしたいです」

 

 訊かれたので答えますよぼかぁ。だって撫で撫でしたいじゃない。可愛いんだもの。ばいよしつぐ。

 

「――えっと、これまた唐突というか、直球と言うか……」

「佐藤殿。気持ちは良く分かる。分かるのでござるが、とりあえず指一本いきますかな」

「あ、ごめんなさい嫌ならいいんです!? 訊かれたから答えただけだし!! だって可愛いんだもんさ!!」

 

 今、若干顔色だけで言ったら貞○さんみたいだけど、本気で可愛いんだよ!! アレも中の人可愛いって有名でしょ! 刹那のほうが可愛いけど!! だが、男だ(ここ強調)。

 

「いや、別に良いんだけどね? いきなりだからびっくりしたというか……むしろ僕は君を撫でる側ではないのかという疑問もあるというか」

「いや、ごめん。その疑問はどこかに放り投げてください。男の子として泣けます」

「確かに嬉しかろうな」

「嬉し涙じゃなくて悔し涙だよぅ!!」

 

 おない歳の女の子(いや、身体は男の子だけど)に撫で撫でされるとかファーブルスコしちゃうよ!!

 ところでファー○ーって今の世代の人たちって知ってるのかな。謎の宇宙外生命体なんだけど。ペットロボもどき。一時期なんでアレが流行ったのか分からない。声も甲高くて改めて聴くとあんまり可愛くないし、顔立ちだってあんま可愛くなかったし、もふもふもなんか中が機械だからゴツゴツだったし。

 まぁ、うち三匹いたんだけどね、アレ。クリスマス仕様の一匹と普通の二匹。貧乏なのになんであんなのは買ったんだ? それとも、子供の感性で今見ればまた可愛く思えるのか?

 つか、アレ最後に見たのいつだろうか。

 

 ――まぁ、その話は今果てしなくどうでもいいんだけど。

 

「えっと……、ご、ごめんね?」

「うぐぅ。僕は……僕は負けないよ。たとえ負けても、第二第三の佐藤さんが君を討ちとることになるよ?」

「ならばまず最初の佐藤殿から叩き斬らせていただこうか?」

「あ、僕は討ち取ろうともしないんで大丈夫です。むしろ討ち取ると敵討ちが出てきますんで、殺さないのが吉ですよセイバーさんや」

「では四肢を奪って転がしておくが上策、と」

「調子乗ってすいませんしたぁ!!」

 

 冗談で言ってるのは分かるけど、刀を微妙に刃見せながら笑うのはズルいよ!! 怖いよ!!

 

「セイバー?」

「ハハハ、冗談でござるよ。まぁなんというか、今日くらいは許してしんぜよう。某のせいであのような目にあっておられますし、一度我が主の美しき顔をお守りいただきましたからな。主が許すのであれば大概のことは目を瞑ってやることにいたしましょう」

「おぉ、セイバーが優しい! セイバー大好き!!」

「ハハハ、主の1那由他分の1程度は佐藤殿のことも好きですぞ?」

「おぉ!! ちなみに那由他ってなんぞ?」

「10の60乗ですな」

「ヒャッハー桁が違いすぎて理解できないぜぇ!!」

 

 そしてなんで古臭いサムライな外見で刀のデバイスのくせしてそんな単位知ってるんだお前さん!!

 

「まぁ、例えるならば、主を猫、佐藤殿をゴキブリと解釈すれば某が如何に佐藤殿のことを好きであるかを理解していただけよう?」

「わ~い泣いていいよね!!」

「ハハハ、そんなに嬉しいか」

「悲しい涙だよこんちくせう!!」

 

 それもう殆ど好きの要素無いよ!! 完全にいらない存在だとしか思ってないよ!!

 

「首をもいでも餓死するまで死ななそうなところなどそっくりだとは思われぬか?」

「せつえも~ん!! セャイアンがいじめるよぉ~!!」

「今どうやってそれ発音したの!? あとセイバーはいい加減にしなさい」

「おっと、あまりにも反応が楽しかったもので。これは失敬」 

 

 くっそう。いつかお前の袴裏返しにして置いておいて、気付かずに穿いたところを「あれ~? セイバーそれ裏表逆だよ~? 変なの~」って言ってやる!!

 え? やることが小さい? うるさいよ! こちとら小市民なんです~! 刀持ったガチのお侍さんに正面から刃向かったり出来ないんです~!!

 

「全く……あ、そうだ佐藤くん。せっかくだから今日は一緒にお風呂入って同じ布団で寝るかい?」

 

 あ、ちょっと刹那の顔が悪い人の顔なんだけど。お前顔色悪いままそういう笑いするとヤンデレっぽく見えるよ。

 

「さて、首が一本か」

「待って!? 首はおかしい! あと首は数え方一本じゃないから! 一個だから! その上一個とられたらその場で死ぬから!!」

「おや、コレは一本とられましたな。一本と一個の間違えなだけに」

「誰も上手いと思わないからねその駄洒落!? っていうか駄洒落にすらなってないんじゃないかな!?」

 

 ダメだこいつ早くなんとかしないと!!

 

 そんな訳で、今夜は一緒にお風呂は入れませんでしたが、一緒の布団で寝ました。

 え? マジで受けたのかって? いや、だって一人って寂しいじゃない。実は前から誰かと一緒に寝るの夢だったんだよね。お父さんとは何回かあるけど、本当に数えるほどだし。

 お泊り会みたいに近くで人が寝てるっていうのとも違うじゃない。一緒の布団で寝るのって。虎次郎が泊まった時も別々の布団だったしなぁ……。

 

 そしてついでですがセイバーも一緒の布団で寝ました。三人で川の字。二人で寝かせるなどどうたらこうたらってずっと文句言うから、僕、セイバー、刹那の順で。

 あ、身長的に川って言うより小の字か。最初は刹那セイバーに抱きつかれて嫌がってけど、僕がセイバーの背中に抱きついて手を握ったらすぐに眠ったっぽかった。やっぱ疲れてたんだねぇ……。

 

「おやすみ、セイバー」

「うむ。良き夢を見られよ、佐藤殿」

 

 おやすみの言葉を告げるセイバーの表情は、やたら優しかった。

 くそぅ、普段からそういう表情してくれればこっちも助かるのに。

 

 

 

 

 朝だよ朝ですおはようですよ?

 

 う~ん、なんだろう。なんだか僕を見ている人たちの視線の温度がね、ちょっと下がってる気がする。うん、僕の思考を読んでいる君、君だよ!!

 なんだよぅ、お前らそんなに女の子がいいのかよぅ。いいじゃないか男だって。それとも男主人公なら恋愛しやがれってかい? うるへ~ちくそ~、きっと中学生くらいになったら僕だって恋愛の一つや二つするやい!!

 大体なんでたった一回出てきただけで、今までに入った人気票、刹那に迫る勢いで増えたの!? どういうこと!? ねえ!?

 

 ……ハッ、いけない。なんか変な電波入った。なんなんだろうね。もう本当。僕大丈夫? 頭。ちょっと病院いったほうがいいかもしんない。お金もったいないから行かないけど。

 

 そんな訳で、ヤッホー皆さん佐藤くんです。

 

 さて、朝は食材が少ないので冷凍食品だけでとりあえずはお昼のお弁当を作って、朝ご飯は前に作ったカレーの残りを食べました。カレー臭くないのかって? ちゃんと歯を磨いたし、お互い口臭チェックもしたから大丈夫。セイバーになんか睨まれたけど。

 で、一応セイバーともやったら、刹那の口臭チェックの時にすっごい表情がデレてた。ダメだあいつ。

 

 で、でだよ?

 

 昨日助けてもらったって言うし、悠馬にお礼を言おうと思って姿を探していたらですね? 何故かアリサちゃんとすずかちゃんに誘拐されました。

 

「さぁ、チャキチャキ答えてもらうわよ!!」

「アリサちゃん。それ多分ハキハキ」

「――ハキハキ答えてもらうわよ!!」

「流した!?」

「そ、そうだよヨッシーくん!! なんで刹那くんが君の家に泊まってるのか教えてもらうからね!!」

 

 あ、あ~。なるほど、そういうことか。

 

「えっとねぇ、僕もよくわかんないんだけどね? なんか虎次郎くんに頼まれてうちにおいてあげることになったんだけど」

「や、やっぱり……やっぱりアンタ達そういう関係だったのね……ッ!!」

「あ、アリサちゃん、まだそうと決まった訳じゃないよ!! か、確認をとらなきゃ……ッ!!」

 

 え~っと、え? ごめんね? なんの話し?

 

「ズバリ訊くわよ? き、昨日は虎次郎は泊まったのかしら?」

「え? 虎次郎なら昨日はなのはちゃんと仲良く帰ったけど」

「虎次郎あとでシメるわ……」

 

 怖ッ!? アリサちゃん怖いよ!? あとなんか虎次郎ごめん!?

 

「じゃ、じゃあ、えっと……せ、刹那くんは……?」

「う~んと、昨日一緒の布団で寝たよ」

「「アウトォォ!!」」

「えぇ!?」

 

 なにこの子達!? キャラ崩壊してない!? 落ち着いて!?

 

「ほ、ほらやっぱりすずか!! 虎次郎はセーフだったけどこの二人はアウトだったのよ!!」

「ち、違うよアリサちゃん!! まだ分からないよ!! これは、そう、これは孔明の罠なんだよ!!」

「な、なるほど!! 孔明の罠ね!! 虎次郎がよく言っていたわ。この世には人智を超えた策略、通称孔明の罠が仕掛けられていると……つまり、つまりヨッシーの存在自体が孔明の罠だったのね!?」

 

 ジャーン! ジャーン! ジャーン!! げぇっ!? 孔明!?

 

 あ、違った。コレは関羽だ。っていうか虎次郎くんおいコラ、お前は小学三年生になんてサブカルネタぶちこんでんだ。まぁ横○三国志読んでれば通じてしまうネタだから一概にただのサブカルネタとも言えないけどさ。あの漫画は小学生とかが三国志の勉強するのに丁度良いし。

 

 って、そうじゃないよ!! なんで二人ともそんな全力でキャラ崩壊に走ってるの!? そもそもアウトって、僕達をBLかなんかしてると思ってるわけ!? 違うからね!?

 

「っていうか、僕の存在が孔明の罠って何さ!?」

「「人智を超えた何かってこと(だ)よ!!」」

「僕の存在人智超えてたの!?」

 

 どちらかと言ったら、僕ほど人智超えてない存在いないよ!? 虎次郎くんも刹那も悠馬も、ついでにすずかちゃんも地味に人智超えてる存在だよね!? 僕、一応月村の家系がどんなのかくらいは知ってるんだからね!?

 

 で、二人がようやく落ち着いたのは、朝の自由時間が終わる頃だったので、お昼休みに尋問を行う、という判決をアリサ裁判長から言い渡されたので、せっかくだから当事者の刹那を捕まえて一緒に屋上で会うことになりました。

 あ、悠馬にお礼? いや、ちゃんとしたよ? 「昨日は貴重な物まで使って助けてくれたみたいでありがとう」って。そしたら「あ゛? しらねぇよ。あの女装野郎がなんかしたんだろ。つかこっちは苛々してんだよ。寄るんじゃねぇ」ってつっけんどんでした。

 でもね悠馬? 行動から考えると、その態度明らかにツンデレだよね? どうすんの? 僕ちょっとお前に萌えちゃったよ? 不良が捨て猫を拾い上げて家に連れて帰るのを見ちゃった同級生の女の子の気持ちだよ?

 

 もうね、ちょっと胸キュンしちゃった自分が憎いね。あいつ外見完全に中学生か高校生なんだけど。まぁ可愛いのに男女なんて関係ないよね。

 前世でも藤堂さんとこのケンさんが弟達に隠れてパフェ食べてるの発見しちゃって、見られてるのに気付いてあわてて「よ、よぅ藤原のガキじゃねぇか。あ、コレはアレだ。さっきまで居た俺のツレの女がだな?」とか必死に弁明しているのを見た時に近いね。

 あ、可哀想だからその場は「へ~、あ、でもそれ勿体無いですよね? 丁度自分もパフェ食べたかったんですけど、一人じゃ恥ずかしいので一緒に食べてもらっていいです?」って言って相席で一緒にパフェ食べたよ。恥ずかしそうにしながらもパフェを口に運んだ時のちょっとデレってした顔可愛かったよケンさん。ついでに僕の分のパフェ代も払ってくれた男前でした。

 

 ……うん? ごめん。全く関係なかったね。でもたまに前世思い出すと結構懐かしい人多いな。元気かなぁ美夜(みや)ちゃんとか加奈子(かなこ)さんとか。

 あ、この二人ともオカマバーの人ね。ちゃん付けかさん付けじゃないと怒るの。加奈子さんがママさん。たまに誘われてお店でタダ酒やらタダ飯ゴチになりました。

 まぁお酒作るのは良いけど飲むのは正直得意じゃないから、何故かママさんに僕がお酒作ったりして、そのまま流れで他のお客さんのお酒も僕が入れたりしてどっちが店の従業員なんだか分からなかったけど。

 うん、そんな感じでお酒作ったり食べ物よそったり、カラオケのデュエットに巻き込まれたりしてたなぁ、懐かしい。元気かな~。でも会う度に僕を店のホステスに雇おうとするのは辞めてほしいよな~。僕は別にそういう趣味はないのに。

 給料良いって言うからバイトで一ヶ月ほどやったらその後何度か指名あったらしくて勧誘しつこかったんだよなぁ。いや、まぁどっちにしろあの世界じゃもう僕死んでるんだけどさ。

 

 ……って、いやいや、だから今まったく関係ないよ。ダメだな。どうも一度思い出すと連鎖的に思い出していくな。ちょっと記憶に蓋しとこう。

 

 え~っと? あ、そうそう。アリサちゃん達に呼び出されて、お弁当持ったまま刹那と一緒に屋上に来たんだった。

 

「――で、なんで刹那まで一緒なわけ? ヨッシー?」

 

 どうして仁王立ちする必要があるのか分からないけれど、というかこれは仁王立ちというよりガ○ナ立ちとか呼ばれていたポーズとも言える気もするけれど、いや、ガ○ナ立ち=仁王立ちだからどっちでも良いか。どっちでも良いな。

 え~、仁王立ちしていたアリサちゃんににらまれました。

 

「へ? ダメだった?」

「おや? 僕はお邪魔虫だったかい? アリサちゃん」

「あ、いやそういうわけじゃないんだけど……」

「う、うんうん。全然そんなことないよ刹那くん。大歓迎だよ?」

 

 う~、この扱いの違い。モブと主人公枠の違いが分かるなぁ……もし万が一僕にアニメとかで立ち位置与えられるとしても、三枚目な奴で好きだったヒロインを主人公にとられちゃって友情に亀裂が入った、昔の同級生みたいな立ち位置なんだろうなぁ。この扱いの差はそれを如実に表しているよ。

 

「ヒャッホー!! 最高やなこの卵焼き!! 流石はマリちゃんや! 卵焼き焼かせたらクラスで並ぶもんはおらんで!!」

「そ、そうかな? ありがとう虎次郎くん……」

 

 そして扱いの違いに心中涙を流している僕のことなんて関係無く、今日も今日とて虎次郎くんは他のグループの女子からお弁当のおかず恵んでもらってるよ……。くっそー、リア充め。

 ほら、見てみなよ。アリサちゃんと刹那の冷たいんだけど悲しみの混ざった眼差し。お前のこと見てるよ? 虎次郎くん。

 

「ヨッシー、あの虎次郎(バカ)も連れてきて」

「イエスマム!!」

 

 ベストタイミングで出たアリサちゃんの命令に、これ幸いと走り出す僕。

 

 いいかい? コレは決して、なんか虎次郎だけ健やかに青春しているのがねたましく思っているからじゃないんだ。ただ、ただアリサちゃんの恋路を応援しようと思っているだけの事なんだ。本当だよ?

 ただ、ほんのちょっと、ほんのちょっとね? お前さんはちょっと修羅場を体験すべきだよ、って思ったのは否定しないけどね?

 

 で、アリサちゃんが頬を赤く染めながら虎次郎くんを呼んでいたと言って連れ出してきた。嘘は言ってないよ。怒りなのかなんなのかでちょっと顔赤くなってたから。

 

「虎次郎。ちょっとそこに正座なさい」

「え? あれ? ヨッシー。アリサなんで怒っとるんや? 頬を赤く染めとるんやなかったんか?」

「え? ちゃんと頬染めてるじゃない。――怒りで」

「――自由への逃走!!」

「刹那!! 確保!!」

「任せて!!」

「ギャー!! 後生や!! 後生やから逃がしてくれや刹那!! ワイはまだ、ワイはまだハーレムを作ってないんやぁぁぁ!!」

「「「「その願望はそろそろ諦めな(さい)よ」」」」

 

 思わず僕まで口を揃えて、四人でツッコミを入れるのであった。

 いや、要員の全員が許容してるなら良いけど、虎次郎くんの現在の正妻たるアリサちゃんが嫌がってるし、ねぇ?

 

 

 

 

「――と、いうわけなんや」

「虎次郎、バリカンって刃が悪いと相当痛いらしいんだけど、ちょっと剃ってみる?」

「まだワイ生えとらんで?」

「は? 髪の毛ふさふさじゃない。なに言ってんの?」

「……なんやろ、なんか、すまん」

「「うん、今のは虎次郎くんが最低だった」」

 

 刹那の件の事情を説明しろと言われて、「――と、いうわけなんや」の一言で済ませようとした虎次郎が頭刈るぞって脅されたのに最低な返しをなさりました。

 小学三年生の女子になんつう下ネタを振るんだ、と僕と刹那が虎次郎を見る目が若干冷たくなる。というか僕はともかく刹那も分かったのだね、今の意味。

 

「ぐっ……そこに関しては否定できんわ……ついついヨッシーや刹那に対するのと同じようなボケを……」

「そう、芸人魂が騒いだっていうなら、ここはリアクション芸人として髪の毛刈られたいってことね?」

「刹那のおうちの事情や!!」

 

 どこからか現れていた老執事さんが、そっとバリカンを差し出して、それが当然であるかのようにアリサちゃんが受け取ると正座する虎次郎くんの頭に添えたけど、虎次郎くんがちゃんと言うつもりになったみたいなので丸刈りは免れた。

 なんかアリサちゃん舌打ちした気がしたけど気のせいだよね?

 

「そうなの? 刹那くん」

「あ、あぁ……うん。実はね。ちょっと……」

「何かあったの? 家出なんてダメよ? ちゃんと家の人には言ってあるの?」

「あ、いや……その、えっと……」

「おう、言うてあるにきまっとるやんか。ちゅうか言うてなかったら今頃捜索願出されとるやろうし、刹那が学校来た時点で呼び出しくらっとるやろ?」

「あぁ、それもそうね」

 

 何故か口ごもった刹那をフォローするように虎次郎くんが割り込んできたが、なにか隠すようなことがあるんだろうか。魔法関連にしたってもうちょっと不審に思われないような言い回しとか考えておかなかったのかな。

 

「で? なんでヨッシーの家なの?」

「いや、男の子同士やしな? 女の子の家泊まる訳にもいかないやんか」

 

 ちょっと困ったように笑う虎次郎くん。多分、それだけじゃなくて僕が転生者だって分かったから、事情わかってくれると思ったからかな?

 いや、でも転生者だってこっちが肯定したのは頼まれた後だったな。じゃあなんで? 本当に男同士だから?

 でも刹那も外見は美少女だし、万が一とか考えなかったのかな。下手に思考が大人っぽいせいで僕も何やらかすか分かったもんじゃないと思うんだけど。――あぁいや、なるほど、それら全部含めて、信頼してくれてるってことか。ちょっと嬉しいじゃないか。

 

「刹那が襲われたらどうすんのよ!!」

「「いや、佐藤くん(ヨッシー)へたれだ(や)し大丈夫だ(や)と」」

 

 へたれの方向で信頼してもらえてたんだね!! 嬉しい!! 泣けるね!! ちょっと泣いてきていいかな!!

 ちくせう虎次郎くんェ……刹那はまぁ許す。当事者だし。

 

「あぁ……まぁ確かに」

「待って!? そもそも小学校三年生の頭でそういう思考が浮かんでくる君達はちょっとおかしい!!」

「「「「え? どこが(や)?」」」」

「自覚が無いって怖い――ッ!!」

 

 何気にすずかちゃんまで首を傾げてるのがまた……ッ!! おのれすずかちゃん可愛いよすずかちゃん!! っていうか、どうでも良いけど個人的には、美少女度で言うとなのはちゃんや刹那よりもアリサちゃんとすずかちゃんの二人の外見のレベルの方が高いと思うんだよね。フェイトも凛々しい感じに顔立ちも整ってるからこの三強。

 なのはちゃんは小動物系の可愛さ? なんか、普通に可愛いんだけど、特筆して誰もが振り返る美少女って感じではない。可愛いのは違いないんだけどね?

 たまに見せる大人びた表情とかで急に女性らしく見える瞬間とかもあるから油断できないけど。なんだろうね、三強としてあげた三人に比べると、一般人でも頑張れば振り返ってもらえそう、と思える美少女って感じ?

 三強の方は大富豪とかのお嫁さんに貰われていきそうな感じで一般人からは畏れ多くて自分から近づくなんて出来ない気がする。

 

 すずかちゃんも小動物っぽさはあるんだけど、どこか大人っぽい色気みたいなものが顔立ちにも出ているというか……。

 

 ちなみにはやてちゃんはなのはちゃん同様だね。そんでもって僕の中で最近たぬきさんに変換されてきていてとても可愛いです。

 たぬき耳とたぬき尻尾少女ってアリだと思う。リアルたぬきさんって可愛いんだよ。間抜けだし。僕の中では、虎次郎と並んでいると義嗣フィルターを介することによってキツネ耳と尻尾を生やした虎次郎と、たぬき耳と尻尾を生やしたはやてちゃんが二人で悪巧みして「ニシシ」とか笑ってるのがとてもファンシーに見えます。

 

 って、また思考が飛んだ!

 

「ん~……そう、そうよ。折角だからすずかの家にもお泊りしたら?」

「え? わ、私の家!?」

 

 そうよ、これは名案ね! と拳を握り締めるアリサちゃんだけど、すずかちゃんは滅茶苦茶うろたえてるよ? アリサちゃん気付いてあげて?

 

「いや、ごめんね? 流石に女の人しかいないところっていうのはちょっと息が詰まりそうかな」

 

 そして刹那はそういうの関係無しに苦笑しながら返す。

 あ~、刹那も大変だねぇ。基本、転生者組以外の人相手には自分のこと男の子として接してるもんなぁ……。いや、今回の場合は、単純に断る体面的な理由で言ったのか。

 

「そ、そうなんだ……うん。私の家も、ちょっと誰かを泊めるのは難しいかもしれないし、大丈夫だよ。気にしないで? ごめんね?」

「あれ? そうなの? ……っていうか、よく考えたら私もすずかのおうちにお泊りってしたことなかったわね」

「まぁまぁ。とりあえず刹那もヨッシーも同意の上でのお泊りなんやし、ワイらが首突っ込む問題や無いやろ? あ、せやヨッシー。今週の土曜あたりにヨッシーの家にお泊りとかってできへん? せっかくやからアリサやすずにゃん、なのはちゃんにはやても誘ってお泊り会。ヨッシーの家それなりに広かったやろ?」

「おぉ? なんかいきなりだね。いや、別に人数的にはそこまでの問題は無いと思うけど。一般的な二階建ての家だから子供7~8人くらいなら問題無く泊まれるとは思うし」

 

 書斎はまずいし、お父さんの寝室も何が隠してあるか分からないから下手に入れられないけど、居間はちゃぶ台どかせば子供8人分程度の布団を敷けるスペースはあるし、僕の部屋もある。それと普段使ってないけど掃除はしてある客室があるから、そこに来客用の布団もあるし宿泊スペースに問題は無いはずだ。

 セイバーには僕の部屋で寝てもらえば良いだろう。いや、でも多分僕の部屋来るよな。お泊りとかになると。

 そうなるとセイバーが僕の部屋はマズいか。アリサちゃんとすずかちゃんがセイバーのこと知ってるか分からないし、となると、絶対に勝手に物をいじらないようにお願いして、お父さんの寝室使ってもらう?

 まぁセイバーも男なんだし、もし別の禁断(ろり)の書が見つかってもきっと同好の士としてお父さんを認識するだけのことだろう。

 

 うむ。問題無いな。ただ食費が問題だ。そこは各員に食材を持ち込んでもらうか。人数多いんだし皆でカレーでも作れば良いだろう。

 あ、お菓子作りとかやっても楽しいかも。折角女の子多いんだし。僕カップケーキとかホットケーキくらいなら作れるよ!!

 

「……なんか、ヨッシーすごいニヤニヤしてるけど、そんなに嬉しかったの? お泊り言い出されたの」

「うん。僕も一緒にお菓子作りに参加するからね!!」

「え、なんの話!?」

「あ、お菓子作りかぁ……うん、良いかもね。せっかく女の子が一杯集まるんだし、男の子達に作ってあげるのも」

「でしょ!!」

「え、あ、いや、えっと、そういうお菓子作りとかお料理は私……」

「お? なんやバーニング、バーニングはやっぱりバーニングなだけに丸焦げ料理しか作れないんか?」

「やったろうじゃないのよ!! 分かったわ!! じゃあ今週の土曜ね!! 絶対だからね!! 見てなさいよ虎次郎!! アンタが泣いてこの私に土下座して謝るのが今から目に見えるようだわ!!」

「アリサちゃんが燃えてる!! まさにバーニングだね!!」

「あ゛? なんか言った? ヨッシー」

「なにも言ってないよ!! じゃあそういうことで決定!!」

「え、えっと……う、うん。いきなり決まったから私もちょっとびっくりだけど、大丈夫だと思う。よろしくね?」

「同じくいきなりの展開すぎてビックリだけど、居候の僕が何か言える立場じゃないしね。良いと思う」

「ニシシ。ほならワイはその時に備えて手品の練習でもしとくわ」

「じゃあ土曜何時からにする?」

 

 あ~、なんか良いねぇこういうの。そうだよ、こういう和気藹々友情物こそが小学生の本分だよ。そうは思わないかい? みんな。

 

 まぁラブコメも大好物なんだけどね、僕も!!

 見てる分にはだけども。ラッキースケベでビンタされるとか僕はごめんです。




 後書き
※佐藤嗣深が主人公のEX編、開始しました。
http://novel.syosetu.org/12508/


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20.地味な剥離と狂人博士

 放課後、刹那と一緒にスーパーで食材を買い込んで家に帰る。

 念のため、お泊り会に関しては「週末に別の友達もお泊りしに来たいって言うんだけど泊めても良い?」とお父さんに電話で確認するとあっさりOK出たので安心して、居間で刹那とセイバー、僕の三人でお茶を飲んでいたら、刹那からいきなりジュエルシード探索に随伴するように言われた。

 

「なんでまた急に?」

「いや、だって君を放っておいてまたイレギュラーに巻き込まれたら、次も助けられるかはさすがに僕も分からないよ? 時間操作魔法は肉体の再生は出来ても、死んだら意識を取り戻すかは分からないから植物人間になるだけだと思うし」

「試したの?」

「一度だけだから確定かは分からないけど、車道で轢かれてた猫で試した。外見は完璧に治ってたし、心臓も動いて脈もあって呼吸もしてたけど、揺すっても何しても寝たきりだったよ……結局衰弱死しちゃってね……」

 

 少し寂しそうに言う刹那の顔に嘘はなさそうだったので、訊くべきでは無かったかと少し焦ったが、とりあえず今はそれが本当なんだろうと認めるだけに留めて思考を続ける。

 しかし、戦場について行くのか僕……大丈夫?

 

「それはなんていうか……ごめん。でも僕がついて行って邪魔じゃない?」

「それは大丈夫。元々戦力としてはなのはちゃんとユーノくんだけでもジュエルシード対策は可能な訳だし、虎次郎と悠馬、僕は他の転生者対策にいるだけだから、よほどのことが無ければ僕が護衛についてれば大丈夫だよ」

「いや、虎次郎くんと天ヶ崎くんが強いのは分かってるんだけど、あの二人がまたお互いに戦い始めた時に割り込まれたら余剰戦力が無いと危ないんじゃない?」

 

 前回だって一時共闘はしても結局その後は戦闘になってたんだし。

 

「いや、そうそう不意打ち如きでやられる二人じゃないし、なんだかんだで他の敵対する転生者が来たらそっち優先で共闘態勢に入るのはいつものことだから大丈夫だよ。それにあの二人がやられるようなら他の誰がいても対抗出来ないからね、その時は諦めて撤退するしかないしね」

 

 あ、そうなんだ。

 ……まぁ、敵対してはいるけど、日常生活はいつも通り一緒に送ってるわけだし、そこまで深刻な敵対関係じゃないのは分かってたけど。

 

「それに元々僕がいたところで……ユニゾンしても僕に使えるのは再現度の低い投影魔術と時間操作魔法、ついでに無駄に詠唱に時間のかかって魔力も喰う粗製の無限の剣製だけだから。

 投影した武器も細かい操作が難しくて焦ると制御できない時あって、下手すると前に佐藤くんに当たりそうだった時とか、お向かいの家を壊してしまった時みたいにむしろ被害が増してしまう可能性もあるしね……」

 

 あぁ、それ気にしてたんだ……。でも確かに、素手で(身体強化はしてるぽいけど)ギルくん性能のチートキャラ相手にタイマン出来る虎次郎くんと、ギルくん性能+ランスロットとか色々他にも能力ありそうな悠馬と見比べると、刹那の攻撃方法って明らかに力不足だもんな……時間操作も乱発は出来ないらしいし。

 あ、小刻み時間停止で生皮剥いだっていう方法で首狩りとか――ごめん。ちょっとグロいし主人公のする技じゃないね。

 

「え~っと、つまり?」

「正直、僕は事後処理担当した方が効率が良いことが今回判明したんだよ……」

 

 あぁ、そんなちょっと遠い目をしないで刹那!?

 いや、でも気持ちはなんとなく分かるけどね? うん、アレだね。刹那って主人公枠なのは間違いないけど、RPGで言うと前半で仲間になる万能タイプのキャラで、唯一の補助魔法と効果の高い回復魔法が使えるから重宝する筈なんだけど、火力は低いし耐久力も低いから下手に前線に出る訳にもいかなし、補助も回復もするまでも無く前衛だけですぐに戦闘片付けちゃう上、前衛も前衛で自力回復出来るから宝の持ち腐れというかいらない子、みたいな。

 

 ……下手にモブなだけの僕よりも酷い気がする!?

 

 あ、でも自衛手段あるからなぁ。逃走するだけなら多分誰よりも有利な魔法使える訳だし。勝てないけど負けないという点ではやっぱりチートじみてるのは変わりない。

 そういう意味ではやっぱり主人公だな、刹那。なにより日常では男女問わず友達多いし。

 

「え~っと、大丈夫だよ。むしろ女の子が荒事に参加しなくて済むならよかったじゃない?」

「まぁ、それはそうなのかもしれないんだけどね……」

 

 う~ん、まぁ、色々思うところはあるんだろうなぁ。わざわざ英霊エミヤの能力を転生特典にもらうくらいだから無双したかったんだろうし。

 

「まぁまぁ、とにかく良いではござりませぬか。某も主が危険な場所に行かなくて良いのは助かりますからな」

「そだね。僕も刹那が危ない目にあうのはちょっと嫌だよ」

「二人とも……ありがとう。そうだね。うん……」

 

 今まで黙っていたセイバーが、刹那が落ち込んだので苦笑しながら割って入ってきたので僕も同意すると、刹那は苦笑いしながらも少し顔を赤くしてお礼を述べてきた。

 

 くっそ、可愛いな。

 

「にゃ~」

 

 あ、ごめんね? アインが一番可愛いよ?

 

「にゃ」

 

 危ない危ない。膝に抱っこしたままの我が愛娘に嫉妬されちゃったぜ。HAHAHA。

 

「あ、あ~っと、とにかく、そういうことだから万が一に備えて君も傍にいたほうがいいと思うんだよ。どうかな、佐藤くん」

 

 おっと、思考を戻そう。

 う~ん、傍(そば)で観(み)ると書いて傍観(ぼうかん)な訳で、僕の目指すスタイルとしてはそこな訳だし、まぁ別に僕に被害が来ないならいいんだけどさ。

 悠馬には一度釘を刺されてちゃんと相手の覚悟をバカにするみたいにただ野次馬根性で見るのはいけないことだってのは分かったから、こっちも見る機会があったとしてもちゃんとした態度で観るつもりではあるし。

 いや、結局毒にも薬にもならない単なる野次馬なのには変わりないんだけど。

 

 でもなぁ、なんかこう、巻き込まれ介入原作改変フラグの香りがぷんぷんするんだよね。やめてほしいよねそういうフラグ。

 まぁ、現状すでに巻き込まれてるし、介入するだけの能力なんて無いから大丈夫だとは思うけどね。色々な意味で悲しくなるけど。

 

「む~……」

「佐藤殿、申し訳ないが某からもそうしていただけると助かる。やはり守るべき対象が別々にいるのでは某も守りきれる自信がありませぬし、万が一佐藤殿を失うようなことになれば我々は宿無しの身になりますからな……。これこの通り、伏してお願い申し上げ奉る」

「あぁいや、分かったよ。同行するから頭上げてセイバー。そこまで言われると逆にこっちも気まずいから」

「寛大なお言葉、誠にかたじけない」

 

 う~ん、刹那のこととなると色々危ない人にしか見えないけど、普通にしてれば普通に良い人だなセイバー。それとも警戒すべき相手じゃないって分かってくれたから素を見せてくれるようになっただけとか?

 会って一日やそこらでそこまで信頼してくれたんなら嬉しい限りだけど。

 

「まぁともかく、確か日が暮れ始める頃にはジュエルシードが公園の方で――嘘!? もう発動した!?」

「はい!?」

「主!!」

「うん!! セイバー、ユニゾン!!」

 

 うわわ!? 刹那とセイバーの服が消えていく!? 紳士な僕は見ませんよ!?

 

 ……あれ、別に見ても問題無かったんじゃね? 身体男なんだし。って、いや、そういう問題じゃないな。精神的に女の子なら気を使ってあげるべきだ。

 

 まぁなんにしても、僕は見て無いからね!!

 

 

 

 

「フゥハハハハハ!! こぉの世紀の大天才、ドクタァァァハーバートぅがこのジュエルシードは頂いたのであぁぁぁぁっる!!」

「ひざまづけ愚民共ロボ~!!」

 

 まだ日がある内から、公共の施設の最たる物ともいえる公園で、騒音で周辺住民から総スカンをくらいそうなほどの音量でエレキギターをかき鳴らしている変態達がいた。

 

 ドラム缶に増加装甲つけて無理やり四本足くっつけて、ドリルアームを搭載させたような外見の不恰好な2メートルほどのロボが飛び跳ねていて、それの上で器用にバランスを保ちながらエレキギターをかき鳴らしている緑色に若干のメッシュが入った髪と、白衣のくせにやけにガタイのよさそうな身体で、背中にはギターケースを所持する高校生くらいの外見のアホ毛男。

 ちなみにエレキギターのアンプとかスピーカーはドラム缶ロボにくっついているのか、そこから大音量が出ている。

 

 その傍らには緑髪ツインテールでおでこになんか青い痣みたいなマークが二つ眉毛の上に描かれている、中学生くらいの外見なんだけどやたら胸(大きい)が強調されているピッチリな服を着て、ロングスカートみたいなのつけてるんだけど前が完全に開いてるからふとももとか丸出しの美少女。

 尚、その前が完全に開いているスカートからは真っ白なパンツが見えている。隠す気ゼロにも程がある。それともアレは所謂見せパンという奴なのだろうか? ちなみに棺桶を背負っている。

 

 うん、こんな説明を聞いて、分かる人なら分かってくれるだろうか?

 

「……デモベから来やがったよ……」

「デモベ?」

「うん。デモンベイン……って、あれ? 佐々木さん知らない?」

「うん、ごめん。僕、アニメはそこまで詳しくないから」

「あ、そうなんだ……とりあえず変態なムキムキ科学者とだけ覚えておけば良いよ」

「あぁ、デモベが何か分からなかっただけで、彼のことは知ってるから大丈夫。変人だよね」

「知り合いだったんだ……」

 

 でもさ、デモンベインってあんた。結構マニアックな作品だよ? 元エロゲ作品とはいえ一般マンガ、小説、アニメ化もされてるしフィギュアもあるくらいだから、知名度ある方ではあるけど……。

 

 ……え? スパロボにも参戦したの?

 

 あれ、今なんか電波拾った。まぁ良いや。

 

「誰もいないのに、一人であんなに騒いで恥ずかしくないのかな……」

「佐藤くん。そこは気付いても言わないでおいてあげようね……」

 

 結界はまだ張られていないのだけれど、人っ子一人いない公園で、ドラム缶の上で仁王立ちしてギターをかき鳴らし、中学生と高笑いしている白衣の高校生。痛々しいにも程がある。

 

 しかしドクターハーバートって……あれか。まさかデモベ原作のドクターウェストの更に元ネタの死体蘇生者ハーバート・ウェストから取ったのか? どんだけマニアックなんだよ。ってことは、もしかしてエルザの方も名前はエルザじゃなくてランチェスター? でもハーバートはともかく、ランチェスターは名前向きじゃないよね。完全に苗字。

 ちなみにエルザの元ネタの元ネタは1935年アメリカのユニバーサル社が製作したホラー映画のフランケンシュタインの花嫁役のイギリス人女優、エルザ・ランチェスターね。

 ドクターウェストはともかくこっちの由来はラヴクラフト関係無いから知ってる人殆どいないと思うけど。

 

 ……あれ? そういえばエルザって完全に戦闘機人扱いになるんじゃないか? Sts編までまだ10年以上あるのに出てきていいのか?

 いや、アンドロイドだから大丈夫か? サイボーグじゃないし。でも確か小説版を考えるとエルザって一応人間の人格が転写されている筈の――。

 ……いや、深く考えるのはよそう。

 

「さてさて問題はジュエルシード保存のために無敵破壊ロボ2号に収納したらコントロールが乗っ取られたことなのであるが」

「博士ったらうっかり屋さんロボ!!(ゴスッ)」

「ギャース!! エルザ!! ツッコミが強すぎるのである!? 骨が、骨が折れたのであぁぁぁる!!」

 

 うるさい……。

 しかも乗っ取られたのか、破壊ロボ…なんで乗っ取られたのに乗ったままなんだよお前さん……。

 そして骨折れたとか言ってる割にエルザと一緒に暴れるままの破壊ロボの上でバランス保ったまま乗ってるし。っていうかエルザは普通にエルザだったんだね……。

 

「え~っと……どうしよっか、佐藤くん」

「なのはちゃん達は?」

「今向かってるって。虎次郎も」

 

 う~ん……結界張れる人間いないと困るね。無人なのだけが救いだよ本当。まぁもし見られてもあのロボに違和感持つ前に、あの高笑いする変態白衣見たら逃げることを選ぶだろうから大丈夫だろうけども……。

 

「あ、無限の剣製って固有結界だからイケるんじゃない?」

「ごめん。アレのためにそこまで魔力使いたくないし、あの人たち生身のままで騒ぎながらも銃弾避けたりするし、大怪我した筈なのに次の瞬間には完全回復してたりする人達だから僕一人だと勝てるか分からない」

 

 あぁ、ギャグ補正って怖いね…。マンガとかでもギャグキャラだと明らかに致命傷でもケロッとしてたりするもんね……。

 痛い目に会うのは嫌だけど、まず死ぬようなことが無いってちょっとずるいな。僕なんか痛い目に会った上に死にかけたというのに。

 

「刹那~! ヨッシー……ヨッシー!? まぁええわ、待たせてもうたな!!」

「ごめんね刹那くん! お待たせ――って本当だ、義嗣くんなんで!? と、とりあえず ユーノくん!」

「う、うん! 封時結界、展開!!」

 

 お~、呆れてる間になのはちゃん達到着だよ。視界に移る世界の色が薄くなっていくよ。

 

「おぉう? これは結界魔法であるか? ふむ。コレはしまったのである。術式を見ておきたかったのであるが……誰が張ったのであるか?」

「博士! あそこに虎と男の娘がいるロボ!! オマケ付きだからきっとあれのどっちかロボ!!」

「おぉでかしたのであるエルザ!! お~い結界魔法の術式を教えてほしいのであ~る!! あとついでに破壊ロボを止めてほしいのであ~る!!」

「……えっと、虎次郎くん、知り合い?」

「あ~……やっかましいギターの音する思っとったら西野かいな……まった傍迷惑なやっちゃでほんま……。あー、せや、なのはちゃん、アレ一応は知り合いや」

「そうなんだ……えっと、どうする? ジュエルシードの反応はあのドラム缶「無敵破壊ロボ2号なのである!!」……から出てるみたいなんだけど」

 

 どうにも、重々しいというよりも痛々しい空気が流れる。

 まぁ、気持ちは分かるよ。アレには関わりたくないと思うよね。僕原作じゃ嫌いというよりむしろ好きなキャラだったけど、どうせ中身は転生者なんだろうし、あのテンションは若干のウザさを感じるよ。

 って、あ、フェイトと悠馬発見。フェイトちゃんは向こうの謎のオブジェの上に、悠馬はその隣でふわふわ浮いてる。アルフは……その下で二人と何か喋ってるみたいだな。

 何言ってるかまではわからんけど、と思ったら来たよ、ガトリング掃射ならぬ魔力弾掃射。フォトンランサーだっけ?

 

「ギャー!! 破壊ロボ、バリア展開なのである!!」

「そしてその後にミサイルでカウンターロボー!!」

 

 あ、本当にバリア出た。そして本当にドラム缶の上が開いてミサイル出てきた。

 そしてミサイル発射口の上にいた二人は手を繋いで互いにドラム缶の端に立って互いに反対側に身体を傾けることでミサイル発射口に落ちないようにしてる。

 ……乗っ取られてないじゃんさ!? 思いっきりお前らの指示に従ってるぞ破壊ロボ!?

 

「おぉ、本当にバリア出たのである。搭載した覚えは無いし割と冗談だったのであるが」

「ミサイルも驚きの実弾ロボ。冗談だったのにロボ」

 

 ……もう何も言うまい。

 

「え~っと……こ、虎次郎くん? どうしよっか……?」

「多分、悠馬があのドラム缶破壊しに来るやろうから、ちょっと一緒に壊してくるわ。一応知り合いっちゅうか恩人やし、あの博士も悠馬の攻撃に巻き込まれんよう助けたらんとなぁ……あぁ面倒くさいわぁ……なのはちゃんとユーノくんはフェイトちゃんの方頼むわ」

「分かったの!」

「気をつけてね、虎次郎」

「アレ冗談みたいに頑丈なだけで大した戦闘能力無かった筈やから大丈夫や。そっちこそ気ぃつけるんやで? え~っと……ほんで刹那、なんでヨッシーがおるんかは後で訊かせてもらうけども、まぁとりあえずはそのまま護衛についたってや」

「元からそのつもりだから大丈夫だよ」

 

 刹那、今更だけどちゃんと二人に伝えてなかったんだね。独断で僕を連れてきたんだね。まぁ良いけども。

 

 あ、ミサイルが王の財宝庫に飲み込まれた。

 

「ッ!! これガチでミサイルじゃねぇかこのサイコ野郎がぁぁぁ!!」

「ひぃぃぃ!! 破壊ロボ、奴を止めるのである!! 無敵破壊ロボの名に恥じぬ戦いを見せ付けてやるのである!!」

「一号は虎に三分でやられたけど、今回は何分持つか見物(みもの)ロボ」

「エェェルザアァ!? そういう不吉なこと言わないで欲しいのであるぅぅ!! あの厨二病、割と容赦無いのであるぞ!?」

「厨二病とかテメェにだけは言われたくねぇよクソ野郎!!」

「やられるのは博士だけだから知ったこっちゃ無いロボ」

「エェェルザが冷たいのであぁぁぁる!!」

 

 うわ~、なんだよもう、カオスすぎるよ。大丈夫なのこの世界。色々と収拾つくの……?




 後書き
※EX編第3話更新しました。


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21.初キスとSFなお船

 エタったと思った?
 残念、まだ生きているのでしたッ!!


 やぁ皆、元気してる? 僕は元気。酷くくだらない茶番を見た気分だけど。

 

 無敵破壊ロボ2号さんはあっさりお亡くなりになりました。

 悠馬の宝具連射コンボを自慢の曲面装甲で受け流しはしたものの腕と足が全部切り取られてダルマならぬドラム缶になったところで、虎次郎がミサイル発射口のついているところを全力で瓦割りするかの如く正拳突きをかまして装甲を打ち貫き、そのまま内部のジュエルシードを回収。実に呆気なかった。

 

 ちなみにドクターウェスト……じゃなかった。ドクターハーバートとエルザはそれを見届けるや「さらば青春の日々よ! って訳で逃げるのであぁぁある!!」「合点ロボ~!!」とか叫びながら走って逃げていった。虎次郎くんも悠馬くんもそれを追うようなそぶりは見せなかったんだけどね。

 

 問題はそこからで、当然ジュエルシードを巡って悠馬と虎次郎が戦闘始めるわけで、原作主人公のなのはちゃんとフェイトも戦いを始めちゃったのよ。

 

 うん、クロノくん普通に間に合ってないね。原作のイベント開始時間が繰り上がった上に、ジュエルシード取り込んだ樹木との戦闘が無くなったから仕方ないんだろうけども。で、二組とも良い勝負してるよ。

 

 とりあえずちょっと実況してみよう。

 まずなのはちゃんとフェイトね。

 

 ディバインシューターの自動追尾弾と手動操作弾を使い、フェイトの退路を塞ぐ誘導弾の弾幕と前方を塞ぐ弾幕でフェイトを近づけないように牽制しながら次の魔法の準備に入るなのはちゃん。

 

 そこをフェイトが魔力弾を回避しながらアークセイバーとかいうバルディッシュの魔力刃がブーメランみたいに飛んでいくのを使って、前方を遮る手動操作弾の弾幕を突破させて攻撃。突破されると思っていなかったのか慌てるなのはちゃんを守るために、攻撃魔法の準備を中断してプロテクションを張るレイジングハート。しかし咄嗟だったせいか耐え切れずに少し吹き飛ぶなのはちゃん。

 

 しかしフェイトも追撃するにも刃を飛ばしたために一時的に近接攻撃手段を失ったのと、アークセイバーで消し飛ばしきれなかった手動操作弾がなのはちゃんの制御を離れたことで自動追尾に移ったのか、後方に迫っていた誘導弾と共に挟み撃ちに来たために空中を滑るようにして回避する。

 

 フェイトの魔力刃が再度形成された時には既になのはちゃんも次の魔法の準備が終わっていて、威力よりも命中率を取ったのかまとまって行動せずにバラけて四方八方に飛ばしたディバインシューターが不規則な軌道を描きながらフェイトに突撃していき、フェイトはそれを正面の弾幕の薄さから、多少のダメージ覚悟で魔力弾を薙ぎ払いながら突撃。

 

 原作主人公二人はそんな感じで、虎次郎と悠馬はもう完全インファイト型の虎次郎と射撃型くさい悠馬だからどうなるかと思ったら、悠馬も近接戦やってた。

 

 まず、悠馬が空中から虎次郎の周囲四方八方の空間にゲートオブバビロン展開で、虎次郎を完全包囲する形で射出。

 それを時には剣の横腹を殴り、時には槍を掴んで回転しながら振り回して迫る剣群を弾き飛ばし、時に飛んで来るハンマーを足場に跳躍し、着実に、かつ素早く悠馬へと迫る虎次郎。カンフー映画もびっくりな動きである。

 っていうか虎次郎くん、君もしかしてランスロットの能力持ってるとかじゃないよね? なんなのその、明らかに初見のとんでくる武器をばっちり柄部分つかんでそのまま自分の得物にしてしまう運動神経。

 

 そんな虎次郎に対し、ちょっと悠馬のせこいところが、射出された宝具が反対側に展開されていたゲートオブバビロンに入っていくことで同じ宝具が何度も上下左右いろんな方向から飛んで来てることだろう。自動回収で再利用とか本家ギルくんと違って節制家である。

 

 とはいえ一発も虎次郎に有効打を与えることが出来てないんだけど、悠馬もそれは理解していたのか、小さく鼻で笑うと背後の空間から何やら綺麗なデザインの剣を抜き取るとニヤリと笑って「無毀なる湖光<アロンダイト>」とランスロットの宝具の真名解放して、殴りかかってきた虎次郎の拳と打ち合っている。

 

 よくもまぁ素手で宝具と正面から打ち合えるなと呆れるばかりだが、そうして近接戦をしながらも王の財宝からはひっきりなしに虎次郎に向かって剣群が飛び掛っており、虎次郎も迂闊に懐に踏み込めないまま飛んでくる宝具と、目の前で振るわれてくるアロンダイトを回避したり弾いたり、時には掴んだ悠馬の宝具で斬りかかったりしているが、決着はつかない。

 

 う~ん、なのフェイ組は完全に魔法って感じだけど、虎馬組の戦闘は完全に格闘戦だね。

 

「チッ……決着つかねえか」

「へへっ、と。いつものことやな、っと! ――ほんで、気持ちの整理はついたんか?」

「――ふん。まぁな。とはいえ、てめぇが目指してるような大幅な改変だけは認めるつもりはねぇけど、よッ!!」

「おぉう!? やりおるなぁ……でも、ほんまのハッピーエンド、見たくあらへんのか?」

「不確定なハッピーよりも、確定されたトゥルーだろ」

「ほんま、性格の割に博打うたん男やなぁ」

「知るかッ!!」

 

 って、またなんか二人が主人公っぽい会話してるよ。最近の悠馬は明らかにあざとい。あざといよあの如何にもなんかありますな空気。

 

「っとと、――せやけど、ワイを倒せへんようでは自分の意見を押し通すこともできへんで?」

 

 そして、虎次郎の言葉が事態を動かすキーとなった。

 

「ふん……だったら、これを見てもてめぇは同じことが言えるか?」

 

 悠馬が、なんか悪役が負けるフラグっぽい台詞を言い出したのである。

 

「ほう? ……なんや、おもろいもんでも見せてくれるんか?」

「ククク、さぁくらうがいい!! 草臥れ果てた中年男<ワーカーホリック・サラリーマン>!!」

「ぶはっ!?」

 

 アロンダイトをビシッと虎次郎に向ける悠馬の背後から、にょきっ、と生えてきたのは先日ジュエルシードに取り込まれていたサラリーマンのおっさんの上半身である。ヅラだったらしく、地味に取れかけて風に揺れているのがポイントだ。

 

 ……いつぞや僕も冗談で考えたけど、本当に射出するんだ!?

 

「コレは酷い……ぷふっ」

「そうだね……ぶふっ」

 

 刹那もぷるぷる震えながら口を押さえているけれど、ちょっと鼻からの息が完全に笑ってる人のそれだし、ちょっと口からも笑い声漏らした。まぁ僕も似たようなもんであるけれども。

 なんてこった。お前それはずるいわ。悠馬、それはやっちゃダメだわ。シリアスな空気におわせておいてソレはダメだわ。不意打ちすぎるわ。

 

「ちょ、は、反則や!? 反則やでそれは!! アハハハハ!! っとわ!? あっぶなヒヒヒヒ!! あ、あかん!! わろうて力が抜ける!! ちょ、待ってや!? ちょ、ちょちょちょ、ま、くふっ、あ、あかん。腹が、腹がっ、回避おくれっぶふっ。だ、ダメや、止まらへんっ、アヒヒヒ!! ず、ずっこいでぇ!?」

 

 目の前で黄金に輝く空間からにょっきり生えたおっさんの上半身を見せられた虎次郎の腹筋にかけられている負担はこちらの比では無いようだ。頑張って剣群回避してるけど、さっきまでのキレが無い。

 おのれ悠馬汚い。流石汚いな悠馬。っていうか本気できたねぇな!! 主に絵面が!! おっさんの髪の無い部分に金色の光が反射してえらいシュールなことになってるよ!!

 

「ハッハッハッ、何をほざくトラ!! 勝負と戦争は勝ったほうが正義だ!! ――ぶふっ」

 

 あぁっ、出した本人の悠馬もチラッと自分の背後を見て吹き出した!! まぁそうだよね!! お前自分でも面白かったから虎次郎にやろうと思ったんだろうし!!

 

 って、あ、宝具の射出がなんかまばらになった。お前自分でも集中途切れてるんじゃ意味ないじゃないか。ぷふぅ。

 

「い、今や!! 覚悟しいヒヒヒやユウマン!!」

「あ、ちょ、えぇい、くらえ!」

「「「「ぶふぅ!?」」」」

 

 そして射出されたおっさん。下半身はハート柄トランクス一丁。吹き出す僕、刹那、悠馬、虎次郎。実に緊張感の無い連中である。僕が言うのもなんだけど。

 そして、それが向かうのはなのはちゃんとフェイトが今まさに斬り結ぼうとしているところ。

 

 ……って、これはマズい!! 下手したらなのはちゃんかフェイトのファーストキスがおっさんに奪われるという展開が!!

 

「ストップだ――うぶッ!?」

 

 ――予想できた方も、きっといたと思うが、言おう。

 クロノのファーストキス(?)が、おっさんに奪われました。

 

「「「よくやった(で)クロノぉぉ!!」」」

 

 思わず叫ぶ僕達転生男性陣三人組であった。

 

 

 

 

 結論から言おう。なのはちゃんに怒られた。当たり前である。

 

 とりあえず無かったことにするためにクロノの時間を巻き戻して記憶を消してあげるのはどうかという意見も出たが、時空間転移した直後にクロノがおっさんとぶっちゅりいってしまったことを考えると、下手に時間を戻すとクロノくんの身体が時空間転移中の量子状態に云々かんぬんにされてしまうかもしれんので危険だからやめておこうという事になった。先生、ムズカシい話は僕分かりません。

 ついでに言うと、「流石に怪我したわけでもないのにその程度で僕も時間操作使いたくないよ……アレ割と身体の負担キツイんだからね?」という刹那の言葉に「まぁ、それもそうか」という流れになってしまったのが原因でもある。

 いや、見知らぬおっさんに勢い良く(とは言ってもクロノくんも咄嗟にプロテクション張ろうとしていたようで、多少は効果があったのかぶつかる瞬間にはちょっと勢い良く唇を押し付けられたという程度だったけれど)真正面からキスされたというのは青少年にとって非常によろしくない記憶ではあるけれど、ここは一つ事故だったということで片付けることにした。

 

 そう、アレは悲しい事故だったのだ……。

 

 と、虎次郎は目を覚まして自己紹介をしてきたクロノに、そんな感じのことを優しく告げたらなのはちゃんに睨まれた。

 

「悠馬くん、虎次郎くん。先にいう事があるよね?」

「「割と本気ですまんかった」」

 

 異口同音。尚且つ頭を下げるタイミングまで同時である。

 

「クッ、べ、別に良いけどね……」

 

 そして、顔を真っ青にしながらそう許しの告げるクロノくんは微妙に涙目であった。だよね。トラウマものだよねアレは。

 

 いや、別におっさんがブッサイクだったとかそういうことじゃないんだよ? さすがはアニメの世界というか、それなりに整った顔ではあったんだよ。ヅラだったし、下がトランクスだけだったという嫌なところはあったけど。

 ただね、例えるならば、シリアスに、格好良く決めようと思って、ドアの向こうで喧嘩中の人間を止める為に部屋に飛び込み、二人の拳を受け止めたところで目の前に迫るヅラの取れかけた見知らぬおっさんのドアップ。そして強引なキス。しかも口開いてたからちょっと唇同士どころかおっさんの唇を舐めるような感じに嫌でもなってしまった。

 

 コレを、コレを悲劇と言わずになんと呼ぼうか!!

 

「強く生きてね、クロノくん……」

 

 僕が思わずモブという立場を忘れてクロノの肩を叩いてしまうのも無理からぬ話というものだろう。

 

「同情ならいらないよ……」

 

 げんなりした顔でそう継げるクロノくんには、本当申し訳ない限りです。でも君は可愛らしい、前途有望な女の子二人のファーストキスを守ったのだ。誇って良いんだよ。

 

 

 で、とりあえず場の空気が落ち着いてきたところで改めてクロノが仕切りなおした。

 

「さっきも言ったけど、僕の名前はクロノ。時空管理局のクロノ・ハラオウン執務官だ。この場は預からせてもらう。それとロストロギアもだ」

「チッ……まぁ仕方ねぇだろうな」

「つ――ッ」

「悠馬……」

「フェイト、アルフ。分かるだろ?」

「……そうだね」

「――分かった。この場は従う」

 

 そして、虎次郎が笑い転げた時に落としていたジュエルシードをいつの間にか回収していたらしい悠馬があっさりジュエルシードをクロノくんに手渡した。

 

 ……う~ん。意外だね。悠馬のことだからクロノくんに突っ掛かっていってジュエルシード持ち逃げも有り得ると思ったんだけど、むしろアルフとフェイトを抑える側にまわってる。

 コイツ、もしかして原作剥離止めるために動いてるんじゃないだろうかと最近ちょっと思ってたんだけど(台詞もどうにもあざといくらい何か匂わせてたし、今思えば初フェイト戦で乱入したのもジュエルシードをフェイトに渡すためじゃないかと考えられる)、でも、この様子を見ると違うんだろうか?

 

 だって、原作剥離回避のためだったら、ここはジュエルシードを返すことはしたとしても、アルフをけしかけて、或いは自分からかかっていって、フェイトを逃がす方向で戦う筈だ。特になのはちゃんがフェイトを庇うのは後の友情が育まれる下地となるイベントとでも言えるはず。

 

 フェイトの好感度を得るためだとしてもおかしい。なにせこうしてこの場に残ってジュエルシードを渡した上で、アルフとフェイトをこの場に留めているのだ。

 フェイトの好感度を上げたいだけだったらジュエルシードの回収は絶対だろうに。まして、悠馬の能力なら、自分が持ったままの道具を渡さずに安全にフェイトとアルフを逃がすことだって特に難しい問題ではないはずだ。人間が王の財宝庫に入るのなら、フェイトとアルフを中に入れて逃げ出せば良いのだから。

 

「……確かに本物だね。さて、色々訊きたいことがある訳だけど――」

『クロノ、お疲れ様』

 

 あ、我らが永遠の美女(桃子さん含む。プレシアもギリ含む。美熟女じゃなくて美女というのがポイント)のリンディさんだ。

 

「えぇ、本当に疲れました……」

『……強く生きるのよ、クロノ』

 

 リンディさん。お母さんがそういう態度ってどうなのよ。なんかもっと気の利いた台詞言おうよ。いや、僕も全く思いつかないけども。

 

「えぇ……虫が口に当たっただけ、と。そう認識しますので」

『うん……あ、それで、そっちの子達から事情を訊きたいから、一度アースラまで案内してくれるかしら』

「了解です。すぐに戻ります」

 

 いや、でもアンタこの人数の転送なんてそんな簡単に出来るの? と思っていたら、アッサリ出来たようです。ぱねぇ。クロノくんぱねぇ。

 

 気付いた頃には戦艦アースラ内。如何にもSF。“星海”とか“古代のギリシアの哲学者の名前の英雄譚”とか“空想星オンライン”或いは“空想星宇宙”の船です。と名乗ってもイケそうな艦内の様子である。“機動戦士”の船みたいな若干リアルな感じじゃなくて、本当SFであると実感する未来的空間と言えばわかろうか。

 

 でね、お~、凄いな~。かっこいいな~とか思いながら、時空管理局についての説明を受けつつ歩いてたら気付いたんだけどね。

 

 僕、アースラ乗っちゃってるじゃん!! 良いの!? 僕ろくに事情分かってないただの一般人なんだけど!?



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22.不満と不安

 アースラでのことは、若干テンパってしまったためにあんまり覚えていないんだけれども、まぁとりあえず最初に語るべきはアレだろう。

 ユーノくんの変身後の姿に僕となのはちゃんが同時に

 

「「ふえぇぇ~~!?」」

 

 って叫んじゃったのは仕方の無いこと。

 

「「ユーノくんって、ユーノくんって、あの、えっと、その、なに!? ふえぇぇ~!?」」

「いあいあ……えっと、君達の間で、何か見解の相違でも……?」

「え、えっと……なのは? 僕達が最初に会った時って、僕はこの姿じゃ……それになんで義嗣までそんな反応……?」

「違う違う違うよぉぉ!! 最初っからフェレットだったよぉぉ!!」

「ずるい、ずるいよユーノくん!! 僕は騙された気持ちで一杯だよぅ!!」

「いや!? でも僕人間になれるって話は前にしたし、そもそも義嗣がなんでそんなに泣き叫んでるの!?」

「だ、だって身長がなのはちゃんよりも高いだなんてえぇぇ!!」

「君の驚くポイントそこなの!? ……っていうか、ごめんねなのは、ちょっと待って――」

 

 僕の言葉に驚愕しつつも、なのはちゃんの言葉にユーノくんは目を瞑って頭をポクポクと人差し指で何度か叩いたところで手を打って頭をあげた。

 

「あ、あぁ~!! そ、そそそそうだったね、ごめんごめん。この姿見せてなかった……」

「だよねだよね!? びっくりしたぁ~!!」

「そうだそうだ!! ユーノくんの裏切り者~!!」

 

 僕となのはちゃんの抗議にたじたじになるユーノくん、いや、ユーノであるが、僕の知ったこっちゃないね!!

 ムキー!! たった二人のショタっ子同盟だったのに、なんだか裏切られた気分で一杯だよ僕は!!

 

 ということがありまして。

 刹那のユニゾン解除はこっちは誰も驚かなかったけど、今度はクロノが

 

「ユニゾンデバイス!? そんな危険な物をなんで君みたいな小さい子が!!」

 

 とか言い出したもんだから、

 

「ほう? 某が、我が主に、危害を加えるような、危険な物品であると、そう言いたいのかお主」

 

 と一触即発になったりして大変でした。

 

 その後、野点みたいなセットが作られた部屋でリンディさんと対面。

 生リンディさん可愛いよ生リンディさんとか思いつつ、抹茶を頂く。リンディさんが砂糖入れてるのをギョッとした顔で見てる人多かったけど、僕は抹茶に砂糖は有りだと思うけどなぁ。抹茶オレみたいな物じゃない?

 ただの緑茶に砂糖だと微妙な味だけど、まぁ飲めない味でもないし。とはいえアイスグリーンティーと比べたら緑茶だと合わないってのは間違いじゃないんだけどね。

 訳したら同じ言葉なのになんであんなに違うんだろうね、砂糖との相性。

 

 で、なのはちゃんとユーノくんの説明は大して問題無かったんだけど、フェイトの事情を話す時にちょっとした問題が起きたのは言うまでもない。

 

 母親が探しているという話しかしようとしないフェイトにクロノはなんか恫喝体勢に入るし、それを悠馬が恫喝するし、アルフも威嚇を始めるし、完全に分かり合えない状態だね~って感じに陥りかけたんだけど、なのはちゃんがフェイトを庇いに入って、虎次郎もその援護に入って、刹那はどうしたもんかとちょっと迷ったみたいだけど、虎次郎と一緒にフェイト擁護論を展開。

 そして、ひとまずフェイトとアルフが退出後に、悠馬が「フェイトは母親から心も身体も虐待を受けていて、ジュエルシードを集めてくれば自分を愛してもらえると信じているが、母親はジュエルシードを集めて持っていった時もフェイトを縛り上げてムチで何度も打ちつけるような女だ」という話を暴露。

 でもお前その時、現場に行ってなかったはずだよね。学校にいたし、というツッコミはしないでおいたけど。

 更にその母親がプレシア・テスタロッサであるということが悠馬の証言によって判明した時点で大分騒がしいことになって、なんか色々うやむやの内に僕と刹那はアースラを後にした。

 

 本当は刹那のユニゾンデバイスであるセイバーのことについて管理局側は色々話がしたかったようだが、

 どうにも刹那はクロノもリンディさんも好きになれなかったらしく、あそこに居るのが苦痛だったそうな。

 特にクロノがユーノくんがジュエルシードを集める理由に関して「無謀」と発言したことが決定打だったらしい。以下、その時の刹那のコメント。

 

「ユーノ・スクライア氏はジュエルシード発見時、危険なロストロギアである可能性が非常に高いとして時空管理局には連絡を入れ、輸送の際には護衛艦による警護を依頼していたと聴きます。

 その依頼を蹴り、ただの輸送船一隻で世界を数個滅ぼせるだけの可能性を持つ危険な代物を運搬させた上、連絡者が誰であったかも確認せず、その上事故或いは襲撃の責任を感じて何も知らぬ土地に降りて単身戦っていたユーノ氏に対して吐く言葉が無謀の一言ですか。存外ご立派な思考をされているようですね、管理局とやらは」

 

 などと食って掛かってたからね。どうにも刹那は正義感が強いらしい。流石は一時期僕が正統派主人公であると思っていただけのことはある。声めっちゃ震えてて、本気で怒ってたのが分かった。

 そんでもって、一応陳謝したハラオウン親子(リンディさんはあんま謝ること無い気もしたけど、親子だし、なにより直属の上司であるというのもあるんだろう)だったけれど、今度はユニゾンデバイスを何処で手に入れたのか、どこで作られたデバイスなのかをしつこく訊いて来ようとするクロノと、やんわり探ってくるリンディに対してキレたらしく、

 

「この地球が貴方方の言うところの管理外世界と言われるもので、大使館はおろか外交関係すら無い状態である以上、僕はこの世界のこの国の法によって守られ、また裁かれるべきであり、治外法権を持つ訳でも無い貴方方の事情聴取に強制的に参加させられる義務が生じえません。

 ましてや今回のジュエルシードの件についてもこちらは依頼された形ではあるものの対価を得ずに応じたボランティアという形であり、契約を行っている訳でもありませんので、関わった以上は見逃すわけにはいかないという意見を僕が聞き届ける必要性は皆無です。

 もし貴方方の世界における犯罪者リストにでも私やセイバーの登録がされているというのであれば応じますが、それらの確かな証拠が無い状態で言い出された場合はそれ相応の処置をこちらもとらせていただきます。セイバー、大丈夫だね? 虎次郎くんも、いいよね? あぁ、悠馬くんもいいのかい? それは助かる。

 このように、少なくともこの四人で敵対させていただきますのでその点ご承知を。生半可な魔道師如きに、特にそこのクロノ執務官のような方でどうにか出来る相手ではないことくらいは、既に戦闘の様子を覗き見られていた貴方方なら分かりますよね?

 では、以上のことから、そろそろお暇させていただきたいと思うのですがよろしいでしょうか?」

 

 などという感じのことをツラツラと述べまして、こいつ小学三年生なのになんでこんな舌まわるんだろうとかどうでもいいことを考えつつ、一緒に帰ってきました。

 

 まぁね、正直刹那のいう事も分かるんだけど、でもね、それをクロノくんに言っても仕方ないと思うんだよ。

 

 リンディさんが発見者の名前を調べていなかったのは手落ちな気もするけど、どうも彼らが派遣される時にはそこまで危険な代物だっていう連絡がされていなかったんじゃないかと僕は思うわけですよ。

 リンディさんが発見者に一度連絡をして、どういう代物であったかを確認すべきだったんじゃないかとも思うけど、それだってもし発見者がユーノ・スクライアではなく、スクライア一族として公表され、その名前で届けだされていればユーノくんが発見者だとは知らなくて当然な訳だし。

 実際、世界数個を崩壊に導く可能性のある危険な代物をたった一人でどうにかしようとしたユーノくんの行動は確かに立派だけど、あまり褒められた行為でないのは確かだしね。

 

 だって考えて欲しいんだけど、例えばの話ね? 在日米軍の一部将校、政治家の重鎮の一部、警察の一部のお偉いさん、そして一大規模を誇るヤクザ屋さんが手を組んで、麻薬の売買に手を染めていたとします。それも日本という国家基盤が傾く可能性があるくらいの規模と勢いで流通を始めようとしてるとします。

 

 これ、一人でどうにかできると思う?

 

 無理でしょ? 規模が違いすぎるもん。コレが中小規模のヤクザ屋さんと、せこい密入国請負業者あたりが小遣い稼ぎにやってるとかならまだ証拠抑えればどうにかなるやもしれんけど、それだって警察に頼る形だし、単独でも保管されてる麻薬の倉庫突き止めて燃やすくらいはできるかもしれないけど、根本的な解決にならないし、こっちが犯罪者になりかねない。

 事務所にカチコミに行くにも一人じゃなぁ……この世界の虎次郎とか悠馬なら余裕だろうけども。

 

 え? 例えがいまいち合っていないんじゃないかって? いや、まぁそれくらいに危険な案件だったってことだよ。

 核ミサイルの発射を阻止するためにテロリストの基地に乗り込んで無事成功させられるのなんて、そんなのは一部の映画の主人公くらいだし、それだってちゃんとした訓練を受けた人であるという前提があるのだから、訓練もされていない、攻撃手段もろくにないユーノくんが一人でどうにかしようなんてのは、文芸部所属の男の子が、学校にテロリストがやってきて占領されたのを自分が大活躍して勝利する、みたいな妄想並にご都合主義すぎるということだ。

 

 まぁそういうわけで、なのはちゃんとか虎次郎達のスペックが異常だから何事も無かった訳だけれど、これが並の魔力しか無い、それこそ僕みたいなのだけが巻き込まれていたら下手したら死んでた訳だよ。

 とはいえ結局はユーノくんが動き出したことで被害が最小限に減っていたのも確かだから、やっぱり管理局の人間が「無謀」とかバカにする資格は無いと思うというのは僕も思うけど。するなら感謝だよね。

 

「貴方達のお陰で被害が最小限に押しとどめられました。本来は我々が行わなければならない危険な作業を、我々の対応が遅れてしまったために自主的に行っていただき、本当にありがとうございました。

 以降は我々が誠心誠意、全力を持って問題解決にあたりますので、日常生活にお戻りいただいて大丈夫です。」

 

 これくらいのことを言って感謝状なり送って然るべきなんだろうけど、このへんクロノは良くも悪くも管理局の正義に染まってる感じなんだろうなぁ。それに管理局も不祥事にされる可能性があるから絶対に感謝状なんか出さないだろうし。

 それに、届出も出さずにユーノくんが地球に来てたならそれは環境保護区に不法侵入したようなもんだから、当然罪としてカウントされていてもおかしくは無いから、結果よければ全て良し、とするつもりがないのであれば余計に感謝状なんて贈れないだろう。

 

 そしてユニゾンデバイス、セイバーの件だって下手をすれば主人格である使い手の意思を奪って暴れるという症例があることから心配してってのが大きいと思うんだよ。

 まぁクロノは態度がデカいから仕方ないのかもしれないけど、おっさんにファーストキス奪われた後なのを知ってる身としてはあんまり責める気にはなれないんだよね。

 

 ……いや、それを言い出したりはしないんだけどさ。刹那の気持ちも分かるし、僕だってクロノの上から目線の言い方が気に喰わなかったのは確かだから。

 いや本当、悠馬なんかよく耐えたと思うよ。あいつ意外に口は出しても手を出すのは本当に最終手段だって分かってる節があるから、口では突っかかりはするものの武器取り出したりはしないし。正直あいつシリアスなところではキッチリ締めてるのが凄い。前回僕に剣突きつけたのは、割とマジギレだったのかもしれないが。

 対して虎次郎はいつでもカラカラ笑ってるんだけどもね。

 あいつ目がいつも糸みたいに細くなってるせいで感情が分からん。もしかしたら怒ってたのかもしれないけど。

 

 なんかね~、アンチ管理局ルートの可能性も見えてきたけど、僕はてっきりそれはあるとしても悠馬だけだと思ってたんだよね。刹那が一番拒絶反応起こすっていうのはかなり意外だった。

 どうも、事態が変な方向に転がる予感がするんだよね。実際に管理局と事を構えるのは、いくら虎次郎と悠馬が強いって言っても無理があるんだから流石にしたりはしないと思うんだけどさ。ハッキリ言うけど、これリンディさんが責任者だからこそ許されたんだと思うよあの時の刹那の啖呵は。

 武力を持って治安維持を瞑目に掲げている組織相手に、ああいう恫喝は逆効果なんだよね。その実力があって、その場では幕を引けても後で絶対にしこりが残る。実際、下手に実力もあるもんだから危険人物としてマークされれば今後絶対過ごし辛くなる。

 ましてやなのはちゃん、ユーノくんは今後、管理局側に就くのは明白なんだから、実質人質とられるようなもんなんだよ?

 

 ハッキリ言って、賢いやり方ではない。虎次郎、悠馬はそのへんわかってたんだろう。それでも刹那の啖呵に苦笑しながらも乗ってあげるあたりに優しさを感じる。

 

 僕も二時創作とかでアンチ管理局系とか読んだことあったし、何処までが真実かは分からないけども、あの組織に対する疑問自体はある。でもやっぱりそれを敵にまわしたいとは思わない。

 ましてやこちとらモブである。戦艦アースラに連れ込まれた時点で今後かなり危ない気がするんだよね。アンチ管理局云々だけじゃなくて、プレシアあたりが人質作戦とか仕掛けてくるかもしれないと考えると。

 あの悪の女王ごっこが大好きな推定年齢65歳さんのことだから、決してありえないとは言えないし、フェイトも母に命令されたら間違いなく一番誘拐しやすそうな僕のことを教えちゃうだろう。すりこみってのは怖いからね。どんだけ周囲が騒いでも、フェイト自身に反抗の意志を持たせるっていうのは容易なことじゃない。

 

 もうね~、なんかこういうドロドロしたの嫌いなのにさ~、身近でどうしてこういうの起きるのかな~。僕が好意持った相手って幸せになるんでしょ? なんか不幸になる匂いしかしないよ。好意が足りないってのかねぇ。刹那に対する好感度なんて、今かなり高いんだけど、僕。

 

「佐藤くん?」

「ん? あ、ごめん。なに? せさきさん」

「さが一個せになってるね、せとうくん」

「セントくんみたいだね」

「あぁ、いたね前世でそんなキャラ」

 

 あれ結構可愛いよね。元の絵見るとぶさカワだった気がするけど、イメージがさ。あとセントさんに進化するとイケメンだけど。

 

「で、ごめん。なんの話だっけ?」

「今日の晩御飯何が良いかって話だよ。――あ、もしかして佐藤くんは管理局に残りたかったのかい? だとしたら悪いことをしたね……」

「あ~、いあいあ、別にそんなことを考えてたんじゃないよ。そもそも管理局入るつもりもないんだし僕。ん~……なんていうかさ、あ~……今後にあんま良い予感がしないなぁって」

 

 時空犯罪者、あぁ違う。次元犯罪者扱いは無いだろうけども、今回のことで多少は原作でなのはちゃんが置かれていた状況とは違う状況に陥るのはありえる話だ。

 頼むから、フェイトとの友情だけは出来上がってくれると嬉しいんだけど……あ~……もうそのへんは虎次郎と悠馬に期待するしかないや……。

 

「そっか……はぁ、ごめんね? 別に僕もアンチ管理局とかそういうので言った訳では無かったんだよ。原作ではクロノも好きなキャラの一人だったんだけど……ただなんでかイライラしちゃって。ごめん、巻き込んだね」

 

「いあ、良いよ。僕もユーノくんがバカにされてイラっとしたのは事実だし」

 

 実際、友達バカにされて黙ってるだけってのもストレス溜まるから、そういう意味では良かったんだけどね。

 ままならないなぁもう……。

 アースラから帰還して以降、こうして完全に日が暮れてからもろくに動かず、家でちゃぶ台囲んでお茶を飲みながらチョコレートを頬張る僕たちであるが、どうにもいつもみたいなボヘボヘした空気が出せなくて参ってしまう。

 まったくもう、あふれ出る破壊衝動さんだよ。流石にイライラするよ。

 

「……謝るのであれば某でありましょうな。そもそもあそこを退席する理由となったのも某の存在が一般的に危険視される存在であったからこそとも言える以上、退席の非を問うのであれば某を……」

「セイバーは悪くないよ。っていうか、人柄を理解すらしないまま人の事を物扱いするような人間が悪い。そう思わないかい? 佐藤くん」

「まぁ、それに関して同感だね。セイバーは悪くない」

 

 申し訳なさそうに静かに頭を下げるセイバーに、珍しく刹那が優しい言葉をかけるが、実際そこについては僕も思ったのも確かではある。セイバーはデバイスとはいえ一個の人格を持った人間なんだから、露骨な危険物扱いは酷い。

 さっき考えてたように、ユニゾンデバイスの危険性を考えれば向こうの心配も分かるんだけどね?

 

「えっと、とりあえずまぁ、この話はこの辺にしとこっか。ご飯食べよ、ご飯。お腹減ったしね」

「あー、そうだね。もう七時過ぎか……随分時間が経つのが早いね。佐藤くん、セイバー、何が食べたい?」

「そうだね。僕は特にないんだけど、セイバーは?」

「某もなんでも構いませぬが……」

「ん~……作る側からしたら一番困る返答だね」

「あはは、ごめんごめん。じゃあそうだなぁ……手早く出来る物ならなんでも良いけど……って、そうだ。たまには出前でもとろっか? ピザとか」

 

 そうだよ、別にこういう気分が乗らない時に無理に作る必要は無いよね。刹那もなんか元気ないし、僕も作る気分じゃないし。

 

「出前かい? ……でも結構高くつくだろう?」

「ピザ……ふむ。興味の惹かれる名前ではありますが、確かにあまり佐藤殿の懐具合に負担をかけるのはまずいでしょうな……」

「いあいあ、別にたまにとるくらいなら問題無いってば。お父さんから言われている一ヶ月分の生活費の限度額の目安には相当余裕あるし。なにせ優秀な主夫が今まで我が家を守ってましたから、生活費もキッチリ切り詰めていたのですよ?」

 

 ふふふ、伊達にスーパーでおばちゃん達にもみくちゃにされながらタイムセール品をゲットしている訳ではないのだ。アレは歴戦の猛者ですら躊躇する戦場なのだよ?

 前世では強面で知れてたケンさんが鍋パーティーのための食料買うために一緒にスーパー行った時に唖然として尻込みしてたからね。猛牛の群れだよアレは。僕も満身創痍になりながらも帰還したものだよ。あの日は一躍ヒーローだったぜ……へへっ。

 

「ん……そっか。ごめん。じゃあお願いしても良いかな。正直言うと僕も料理って気分じゃなかったからね」

「うん、僕も今そんな感じだったから分かる。ちょっと待ってね、確かこの前の折込チラシにピザ屋のあったから。ポテトSサイズサービスの券もついてた気がするし丁度いいや」

「そのへん佐藤くんちゃっかりしてるね、本当」

「ちゃっかりじゃなくてしっかりしてるんです~」

「あぁ佐藤殿、チラシでしたら新聞とは別にそちらにまとめてあります故、そちらをご覧くだされ」

「お~、セイバーナイスですよ~。え~っと、いつのだっけな……先週の木曜あたりだったような……」

 

 あ~良かった。ちょっと空気持ち直したわ。もう今日はこのままの空気でいって、明日から楽しく和気藹々としようじゃないか。

 

 いあいあ、ヘイワが一番だよね。



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23.風邪とお見舞い

 翌日、4月28日木曜日。翌日が祝日ということもあって浮かれる生徒達も多い中、アリサちゃんやすずかちゃんの表情は多少落ち込んでいた。それでもすずかちゃんの顔にはそこまで陰が無いのは、刹那が登校しているのが大きいのだろう。

 あのあと三人はアースラに移ることになったのか、教室にはなのはちゃん、虎次郎、悠馬の姿が無い。先生からも連絡があったが、全員家庭の事情でお休みすることになっているそうだ。

 それが嘘であり、ジュエルシード探索のために彼らがこの場に居ないのであるということを知っているのは、この場では僕と刹那、そして恐らくは、あれ以来一度も会話していない恵理那さんだけだろう。

 

 外は快晴。前世では花粉症に悩まされていた物だが、幸いなことに今世では今のところ発症していないため春の麗らかな陽気を楽しめているのは結構なことではある。とはいえやはり仲の良い友人がいないだけで、そんな爽やかな気持ちも落ち込んでしまうものだ。

 昼休みになって、刹那のお手製弁当を二人で食べている時も、どうにもいつものような気分になれなくて僕は生返事ばかり返していた気がするけれど、刹那もすずかちゃんやアリサちゃんに話しかけられてもなんだか似たような状態だった。

 虎次郎となのはちゃんが休んだ理由を知っていそうだから訊きに来たのに、どうにも要領を得ない刹那に腹を立てながら僕にも質問してきたアリサちゃんだったが、僕も教える訳にはいかないので「知らないけれど、何も事前連絡しなかったってことは、きっとすぐに済むことなんじゃないかな」と笑って返すので精一杯で、申し訳ない気持ちになる。

 すずかちゃんだけは、ぼんやりしたままの刹那に懸命に声をかけていたけれど、結局何にもならなかった。

 

 

 放課後になり、刹那と二人で下校することになったのだが、会話が弾まない。

 気分転換に図書館に行くことにしたら、久しぶりに(とは言っても三日前にも会っていた訳だが、体感としては久しぶりな気がした)はやてちゃんに会ったことで少しは気が紛れたけれど、そのはやてちゃんにも「二人とも具合でも悪いんか?」と心配される始末で、どうにかしないといけないと思ったが、思うだけでどうこう出来る状態ではなかった。

 昨日、落ち込んだ気分を明日からはいつも通りにと思ったはずなのに、何故か全然気分が上を向かない。刹那がぼんやりしているのは、恐らく自分だけがジュエルシードの案件から一抜け出したことでなのだろうとは思うのだが。

 

 ……おかしい。本当におかしい。放課後になって、更に図書館ではやてちゃんとも話したというのに、ろくにボケの一つもでないなんておかしい。

 いや、口には出さなくても心の中ではいつもハイテンションが僕のはず。こんな憂鬱でローテンションではいけない。

 

 ヒャッハー、僕ってばなんってクールなんでしょう!!

 

 ……なにがどう、どのへんがクールなんだろうね。知らん。

 

 う~……虎次郎が戻ってくるまでには直しておきたいところだけど……なんなんだ……? 確かに嫌な予感みたいのがずっと頭の片隅で警報を鳴らしてるんだけど、それが何なのか全然分からない。少なくともさほど原作とは絡んでないし、原作イベント関係じゃないとは思うんだけど……。

 アインのもふもふで多少は癒されたけど、なんなんだろう。

 その日は結局、セイバーにまで心配される始末で、刹那と添い寝させてもらった。どうやらセイバーもそれを許してしまうほどに今の僕は具合が悪そうに見えているらしい。

 

 その日は何かに飲み込まれる夢を見た。

 

 

 

 

 風邪をひいた。らしい。

 

 らしい、というのはどうにも身体が重く、身体が熱く、身体の内が冷えて、震えが止まらず、視界も定まらなくて寝言も酷かったらしいということを起きたら言われて、体温計を腋に入れさせられたのである。

 

 出た体温は、39度6分。高熱だ。

 

 きっと寝汗も酷かったから、抱きつかれていた刹那は大分不快な思いをしただろうし、その上この風邪を刹那に移していないだろうかと不安になったけれど、刹那は笑って大丈夫だと言ってくれた。

 時間操作で風邪をひく前まで戻すかと訊かれたが、子供の内は病気にかかって免疫を高めてなんぼだ、と伝えて学校に行ってもらおうとしたら、今日は休みだと笑われた。

 でも買出しとかも必要なので、刹那が栄養食品とかを買出しに出ることになった。家を出るまで何度も僕を心配してくれていたけれど、セイバーもいるから大丈夫だ、と伝えて行ってもらう。

 

 しんどいが、とにかく一度シャワーを浴びてからセイバーに身体を拭いてもらい、そのままベッドに運んでもらって寝込む。

 

 ……しかし、どうして今更風邪なんかひいたんだろうか。ひくならば土日あたりに寒い中薄着でいた時だろうに。それとも今までひいていたのに気付かなかったのダろうか?

 頭が回らない。酷く切ない。心細い。誰かに傍にいてほしい。泣き喚きたい。抱きしめてほしい。お風呂に入りたい。汗が気持ち悪い。寒い。温かい物が飲みたい。熱い。身体を冷やしたい。

 

 グルグルグルグルと頭の中で取り止めも無い感情が蠢く。アインが僕の汗だくのほっぺを舐めてくれたり、セイバーがつきっきりで身体を拭いてくれたり、水やポカリなどを飲ませてくれているのが何よりも嬉しい。

 セイバーなんか終いにはボロボロと涙を流しながら水を飲んだ僕をそっと抱きしめて背中をポンポンと撫でてくれた。……ありがとう。大好きだよ。

 

 病気にかかると人間、心が弱くなるものだ。特に子供の身体だから尚更だろう。

 

 申し訳無かったけれど、「某はデバイスですから、風邪になどかかりませぬでな。不肖このセイバー程度の胸で良ければ貸しますゆえ、今は暫し泣かれるがよかろう」などと言われてしまったもので年甲斐も無く抱きついたままぐしぐし泣いてしまった。

 いつもみたいな半泣きではなくて、本気でだ。本当に、恥ずかしい。

 まぁ、年甲斐といってもこの身体で生きているのはまだ8年ちょっとだ。仕方ない。精神は身体に引っ張られるのだ。

 

 そうして、昼より少し前くらいだろうか。眼が覚めるとセイバーがいなくなっていて、代わりに刹那がアリサちゃんとすずかちゃん、それにはやてちゃんを引き連れてわざわざお見舞いに来てくれたのだと教えてくれた。

 昨日の僕のおかしな様子で心配していたら、案の定今日高熱を出して休んだということを刹那から電話で聴いて呆れながらも来てくれたそうだ。はやてちゃんには、アリサちゃんから電話して呼んでくれたとか。

 

 とても嬉しかったが、風邪を移すかもしれないのであまり近づかない方が良い。

 そう思って伝えたら、アリサちゃんにでこぴんされた。

 

「高熱出して寝込んでる時まで人に気ぃ使ってるんじゃないわよ。ったく、虎次郎ならまだしも、アンタがそんなに根性あるとは思わなかったわ」

 

 呆れた、と言わんばかりにアリサちゃんが言っていたけれど、正直この体調時にでこぴんは勘弁して欲しかった。その気持ちを分かってくれたのか、刹那が「言いたい事はわかるけど、病人にでこぴんはやめてあげようよ」と苦笑して注意したためにアリサちゃんに謝られたけれど、ちょっと今更である。

 そしてはやてちゃんが「病気で心細い時は、やっぱり人肌恋しいやろ~? このはやてお姉ちゃんが添い寝したってもええんやで~?」とか、凄い優しい顔で言ってくるもんだから、本気でお願いしたくなった。

 

「ありがとう。でも風邪うつしたら悪いし……大好きだよ、はやてちゃん」

 

 ぼろぼろ涙がこぼれて仕方が無い。人の優しさが心に染み入るって感じ。

 はやてちゃんも、アリサちゃんも、すずかちゃんも、刹那も、セイバーも、虎次郎も、なのはちゃんも、ユーノくんも、フェイトちゃんも、あと悠馬も、皆大好きだよ、と、それだけ伝えて僕はふわりと意識が刈り取られる。

 

 

 ――遠くで、何かの這いずる音が聴こえた。



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24.刹那の苦悩と決心

 眼が覚めると、夕方だった。

 

 既にお見舞いに来てくれていた三人の姿は無く、代わりに優しく微笑みながら僕の頭に乗っていた濡れタオルを交換しているセイバーの姿があって、なんだか気恥ずかしくなった僕はまだ寝ているフリを続けることにする。

 うぅ、恥ずかしい。なんだって僕は大好きだなんて皆に言ってしまったんだろうか。セイバーはあの場にいなかったとはいえ、ていうか、セイバーのこと知らないであろうアリサちゃんとすずかちゃんの前でセイバーの名前出した覚えがあるし。フェイトの名前も出しちゃった気がする。

 

 その上、悠馬の名前までだよ!!

 

 う~……なんてこっただよ。最近はアイツに対して割と好感度高いけどさ。でも大好きは無いよ。

 フェイトとセイバーはまだ良いけどよ? フェイト可愛いし、セイバーなんだかんだで優しいの最近わかったし。今もこうして優しく微笑みながらタオルの交換とかしてくれてるし、汗拭いてくれる時とかすっごい優しいし。

 う~……う~……くそぅ、でもこういう思考が出来るって事は、きっと僕の熱も下がってるんだろう。子供の内は治るのも早いからね。連休が丸々潰れちゃうのは切ないけど、逆に二日三日で治るようなら万々歳としておこう。

 

「セイバー、ご飯できたよ。先に居間で食べててもらっていいかな。それとずっと世話をセイバーに投げっぱなしだったし、佐藤くんには僕が食べさせてから暫く世話をしようと思うんだけど」

「おぉ、別に構いませぬぞ我が主。……とはいえ、今は大分落ち着いたのかゆっくり寝ておられるようですから、先に二人で食べてきた方が良いかもしれませぬが……目が覚めた時に誰もいないというのも、この年頃では寂しいでしょうからやはり交代が良いか。

 分かり申した。では何かあればお呼びくだされ」

「ん、ごめんね? 結局半日以上佐藤くんの世話お願いして」

「なに、子供の世話程度、大した労力ではござりませぬよ。子は宝。主に危害さえ加えぬのであれば、家主でもある以上これくらいの世話は当然のことでござりましょう?」

「ふふ……そうだね。じゃあご飯、冷めないうちに食べてね? シチューだから」

「おぉ、しちゅうでござるか。それは楽しみですな。では」

「うん」

 

 う~……起きてますとは言い辛いなぁ。それにお腹も実はそんなに減ってないし……。

 

 ばたん、と小さく音を立てて、部屋のドアが閉まると、刹那と僕が二人だけ取り残された。

 外は既に夕暮れ時で、オレンジの光で部屋が染めあげられている。

 なんとなく恋愛ドラマか何かのワンシーンみたいだな、と思う。

 

「……佐藤くん。本当に寝てる?」

 

 おおぅ、これはバレてる? いや、でもここで返事するのはなんか気恥ずかしい。

 

「……寝ててもいいんだ。いや、寝ててもらえたら嬉しい。ちょっと、聴いてもらいたいことが……ううん。誰かに聞いてもらうという形で、僕が愚痴りたいことがあるんだ。

 ……高熱を出して風邪で寝込んでいる人間に言うのも何だと思われるかもしれないけど、君くらいにしか聞かせられないことで、多分、君以外は誰も理解してくれないから」

 

 ……あれ~……独白フラグ? なんか落ち込んでたのってやっぱり何か悩みでもあったから?

 

「僕ね――虎次郎くん……ううん、虎次郎のことがね、好きなんだ。今日もね、こっそり会いに行ってきたんだけど、またフラれちゃった」

 

 また、いきなりの告白でちょっとビックリなんだけど、うすうすとは分かってましたよ。冗談にしては結構しつこく喰らいついてたからね、君。

 

「でもね、やっぱり僕、身体がこんなだろう? ――やっぱりさ、男の子って、どう考えても女の子の方が良いよね。僕だって、身体がこんなで無ければ、それが普通だと思う。だから、女の子の僕が虎次郎を好きになるのだって、別におかしいことじゃないんだって、そう思ったりするんだけどね?

 でも、結局それは精神的に女の子だっていうだけで、生物学的には僕は男の子なんだ。おかしいよね。前世ではれっきとした女の子で、まぁそんなに可愛い方じゃなかったというか……正直、ブスだブスだってイジメられてるような子だったけどさ。

 

 ――それでも、白馬の王子様に憧れてるような、ちょっと痛々しいだけのただの高校生だったんだよ、私。

 

 だから、神様にだって誰からも愛されるような美少女の外見だなんてお願いして、願いが叶ったのに、身体は男の子にされちゃって、王子様として願って手に入れた相手は女の人の身体で、でね? 笑える話なんだけど、私本当は全然美少女なんかじゃないんだよ。

 前世よりちょっとはマシなんだろうけどね。地味で目立たない子なの。なのにね、誰からも愛される外見だって周りは認識しちゃってるんだよ?

 おかしいよね。だってこんなにブサイクなのに私。でね、気付いたの。願い事がね。全部狂った方向で叶っているだけなんだって。

 前世では散々にイジメられて、脅されて、身も心もボロボロにされて、仕返しする勇気も無くて苦しくて、結局自殺なんてしちゃったから、仕返しする勇気を願ったら、嗜虐性と残虐性を持っちゃってね。血を見ると興奮するような性癖まで得ちゃった。

 猿の手って知ってる? イギリスの作家、ジェイコブズの短編怪奇小説でね。まさにソレなんだよ。私達はね、願い事の代償に、必ず何かしらを奪われている。

 私はね、皆から愛される代わりに、自分を絶対に愛することは出来ないし、バカみたいに、何も考えないで好きだった作品のキャラクターの能力なんか願ったもんだから、能力と一緒に因果という形の呪いをそのまま受けてるんだよ。

 

 私は、生涯誰にも理解されないんだ。劣化しているから、まだマシな方ではあるとは言われたけどね。

 分かる? この苦しみ分かるかな? 性同一性障害なんてね、ただでさえ理解されないんだよ。僕だってね、前世ではバカにしてた。そんなのはゲイとかレズの人たちが語っている妄想なんだって。だって、男の身体で女だなんておかしいじゃないか。気持ち悪いよね。

 でもね、今の私は正にそれなんだよ。

 同性愛者で、性同一性障害で、残虐で利己的でブサイクで猟奇的で卑怯な能力で自分を愛されるように他人を騙して、最低最悪の人間なんだよ」

 

 ……あぁ、なるほどね。

 

「それでもね、好きになった人には嫌われたくなくて、虎次郎が望むのなら、傍にいれるのならって、男の子であろうと頑張って、だから口調だって男らしくしようとしたり、一人称だって僕に直そうとしたりして……でもね、無駄なんだよ。

 転生者同士は因果の能力を受け辛いらしいんだけどね、だからこそ、僕の愛される外見なんて能力も、虎次郎には全然効果が無かった。……ううん、むしろね、僕が虎次郎を好きになった最初の理由こそがそれだから、仕方ないんだけどね。

 私の勝手な願いで刷り込まれた愛情を持たされちゃったセイバーとか、集まってくれている友人や、私に好意を持ってくれてる女の子とかにはね、いっつも罪悪感で一杯だったんだよ。でもね、虎次郎だけはね、言ってくれたんだ。

『ワイは元から眼なんぞ見えへんのやから、外見とか性別なんて関係ない。ササッキーの心が美人やから声かけたんや』なんてさ。本当にね、嬉しかったんだよ。前世では見た目も中身もブス子だなんていわれて、、今世では皆能力のせいで私の外見が可愛いなんて勘違いして近寄ってきてるだけで、本当に私自身を見てくれたのはね、虎次郎だけだったんだ。本当に嬉しかった……。

 でもね、心がどうとか言っても、結局僕達の身体は男なんだから、恋人になんかなれっこないんだよ。

 最近はね、それでも我慢しきれなくって、告白したり、意識させようと身体を密着させたり、わざと女の子らしい態度をとったりして、なんとか振り向いてもらおうとして…。

 それでもダメで、でも佐藤くんがさ、女の子だって言ってくれて。それで嬉しくて、やっぱり諦めきれなくなって。本当、バカだよね?

 なんで、佐藤くんが初めじゃなかったんだろうね? 多分ね、最初に会ってたのが佐藤くんだったら、私佐藤くんのこと好きになってたと思う。でもね、虎次郎のことがね、忘れられないんだよ。どうしてもね、好きなんだよ。こんなに胸が苦しいのは、前世で自殺を決めた時以来なんだよ。

 なんで、私男の子の身体になんかなっちゃったんだろうね? バカだよね。分不相応な願いなんて持っちゃったから、当然の報いなんだけどさ」

 

 この子、なんて不器用なんだろうね。

 

「ユーノくんがバカにされた気がして怒ったっていうのもね、本当は、私もね、無謀なことしてるから。絶対に無理なことしてるから、ユーノくんが頑張ろうとしてたのを否定された時に、私まで否定された気になっちゃって、ただ悲劇のヒロインぶってただけで、こんなだから私は――」

「刹那」

「――ッ!?」

 

 よいしょ、と布団を剥がして、ため息一つ。

 

 なんだろうね。こういうシリアスなのっていうかさ、美少女を慰める役って、虎次郎あたりの役目でしょうに。まぁ、その虎次郎には言えない悩みだからこそ、僕に打ち明けてくれたんだろうけど。

 

「刹那さ、え~っと、まず最初に言っておくよ? 僕は刹那が男女どっちだろうが、好きだよ」

「――え……?」

「いや、別にバイだとかそういうことじゃなくてね? あ~……なんていうかさ、僕、元々前世の時もそうなんだけど、性別に関して意識が希薄なんだよね。

 オカマだろうがホモだろうがニューハーフだろうがオナベだろうが、それこそ外見に問わずさ、本人がそうしたいって思うなら、それでいいじゃないって思う人なの。よくおかしいって言われたけど」

 

 実際、前世ではそっち系の理解があると思われたせいでよく絡まれたっけなぁ。普通に女の子が好きなのに、僕。

 

「なんていうかさ、いいじゃない。最近じゃ男(おとこ)の娘(むすめ)と書いて男(おとこ)の娘(こ)って読み方があって、それはそれでジャンルが出来上がってるわけで。

 外見美少女、内面も美少女。ほら、別に問題ないじゃない。あ、それと美少女っていうけど、僕もぶっちゃけ刹那の外見は可愛さとかではなのはちゃん達には劣ると思ってるよ。それでも可愛いけど。っていうかこの辺は好みの違いだと思うけど」

「え……と……?」

「そもそもね、誰からも理解されない? そんなの皆そうだよ。僕だって普段ツッコミ担当なイメージだけど、内心だと割とおかしな人だからね?」

「あ――それは、知ってる。というか、佐藤くん自分のことツッコミ担当だと思ってたの……?」

「あ、知ってるんだ……いや、良いけど。っていうか、僕の担当ツッコミじゃなかったんだ。いや、まぁそれもいいけどさ。

 あのさ~……あ~……なんていうんだろうね。とにかくさ、僕なんかに言われても嬉しくないだろうけど、僕は刹那のこと家族だと思ってる。好きだし、なんだったら愛しちゃってるとか言っても過言ではないよ。これが恋愛的な物かどうかは、正直まだ精通も来てないこんな身体じゃサッパリわかんないけどね?

 そもそもだね? ここは科学も魔法も奇跡もあっちゃう世界な訳で、身体が今は男だけど女の子になりたいとか、そんなの絶対どうにか出来る魔法とか道具とかが絶対あるんだって。

 考えてもごらんよ。世界滅ぼしちゃう規模の破壊を生み出せるような願望実現器があるんだよ? 聖杯とかそんな大それた物には敵わなくてもさ、いわばさっき刹那が言ってた猿の手とほぼ同じような効果を持つ物まである訳。

 だったら、人間の性別一つ変えるくらい問題なく出来るロストロギアだってあるんじゃないの?

 世界の変革と人間一人の性別の変更なんて、比べるのもおこがましいくらいレベルの違う願いだよ? それ考えたら諦めるの早すぎるからね、刹那。

 いい? 虎次郎のことが本当に好きで、女として虎次郎と付き合いたいっていうなら、方法なんていくらでもあるんだよ。大体虎次郎は刹那の心が美人だから声をかけたって言ったんでしょ? 眼が見えないなんてのは初耳だったけど。

 少なくともそう言われて、今も避けられたりしてる訳じゃないんだから振り返ってくれる可能性が0な訳じゃない。まして今が男の身体だから可能性が低いだけで、今後女の子の身体に成れれば逆転もおかしくないんだって。

 僕が保証する。刹那は美少女だよ。心も見た目も、ついでに家事全般そつなくこなしちゃうしね。女性としてのポイントはそりゃあもう高いもんだよ。僕が男だったら求婚してるね。あ、男か僕。

 まぁ、それはそうとして、とにかくね、刹那は因果のせいなんだろうけど、自分に自信無さ過ぎ。外見だけじゃ人間愛されたりしないんだからね? 美人は三日で飽きるって言葉あるでしょ? 外見だけ美人でも、中身が伴ってなかったら誰からも愛されないの。OK?」

「え、えぇっと……、お、OK?」

「よろしい。で、まぁとにかく……刹那はね、原作介入なんて心底ど~でも良いことなんかよりも、性転換系のロストロギア探すのを優先したほうがいいと思う。っていうか、絶対そうしたほうがいい。

 なんとなく、刹那は虎次郎の好感度稼ぐために原作介入する虎次郎に付き合ってやってるような印象を今の話を聴いて思いましたので、ズバリ今は男友達としての好感度稼ぐよりも、さっさと女の子の身体に戻ってから、女友達として好感度稼いで、恋人になったほうが早い!!

 これ僕が保証する。もし女性に戻ってアタックし続けてもダメだったら僕が嫁にもらいますんでご安心できないね。僕じゃ安心できないわな」

 

 流石にフラれたなら僕が君を身請けするぜグヘヘ!! なんて外道な台詞は僕にはハードルが高かったです。

 前世でもフラレて傷心中の女の子慰めた時に「付き合って」って言われても、「その場の雰囲気に飲まれて簡単に決めちゃうからあんな男にひっかかるんであるからして、僕みたいなのに捕まっちゃダメです。良い男何人か紹介するから、誰も良いの居なかった時にでもまたきんしゃい」って断ってたしね。それも何度かあったこと。

 ちなみにその後、僕のところに告白に来た子達はもう再度の告白には来ませんでした。まぁ割と収入安定してて顔も性格もそれなりの連中紹介してたからなぁ……私達結婚しました、の手紙何回受け取ったことか……。

 

「……ふふふ」

「ん、どうよ? 佐藤くん一世一代の大演説でしたよ?」

「うん……ありがとう。少し、ううん。大分気が楽になったよ」

「それは良かったにゃ~」

 

 やっぱり刹那は笑ってたほうが可愛いよね。さっきまでの顔、薄目を開けてみてたけど、酷かったよ? まるでこの世の終わりでも見てます、みたいな顔で。

 

「佐藤くん……ううん、義嗣って、本当、変わってるね」

「おぉう? 名前呼びに進化しましたか? そこまで好感度あがっちゃった? フラグたっちゃった?」

「義嗣だって、たまに刹那って呼び捨てにしてるかと思ったら、今日なんか語り始めると完全に名前呼び捨てで私のこと言ってたよ?」

「あらあらまぁまぁ。これは迂闊。うっかりはちべえ佐藤くんです」

「もう……ふふふ」

 

 くそぅ、そんな口に手をあてておしとやかに笑うんじゃありませんよ。可愛いじゃないですか。

 

「ふふふ……そうだよね。諦めるにはまだ早い。うん。なにせ私なんかまだ八歳。年齢二桁にすら達してないんだから、まだまだ先は長いもんね。あと十年以内には性転換のロストロギアがきっと見つかる見つかる!!」

「そそ、人生山有り谷有り、楽ありゃ苦もあるんですよ~? 今はちょっと苦が多いかもしれないけど、楽があるって信じて突き進んでみよ~」

「そうだね。突き進んでみよ~」

「うむ。元気が出たようでよろしい。つきましてはちょっとまだ熱あるのに喋りすぎて頭ぐわんぐわんしてきたので寝ます」

「へ?」

 

 さらばだ刹那よ。僕は夢の旅路に出るぜ!!

 

 いや~、今日は気持ちよく眠れそうだよ!! 夢見も良いに違いない!!

 

 

 

 

 

 ――夢の中で、何か、粘着質な何かがどこかに叩きつけられている音が聴こえた気がした。



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25.予想外と解説役

 夜、ふと目が覚めた。

 

 ザーザーと聴こえる音は、雨だろうか?

 ゴンゴンと響き渡るのは、雷の音だろうか?

 

 窓の外に、何かが見えた。

 

 ごぼり、ごぼり、ぞぼり、ずぼり。

 

 不思議な音が聴こえる。

 

 べちゃり、べちゃり。びしゃり、ぴちゃり。

 

 水を含んだ何かが歩き回る音。

 視界の隅に捉えた不定形の黒い何かが、ごぼりぼごりと音をたてて、人の形を作っていく。

 

「ヨッシーくん」

 

 いつぞやに見た、なのはちゃんに似た、ゾンビのような子。

 

「てけり・り。てけり・り」

 

 笑うようにそう声を出して、彼女は僕へと手を差し伸べる。

 遊びたいの? と問えば、まるでそうだと言わんばかりに彼女は頷き、「てけり・り。ヨッシーくん」と声を洩らす。

 いいよ、遊ぼうか。今日はなんだかとっても気分が良いからね。

 

 てけり・り。てけり・り。いあいあ。いあいあ。

 

 窓の外には、カエルのような顔の、男がいた。

 

 いあいあだごん。いあいあ。てけり・り。

 

 

 

 

 

「義嗣!?」

「――ッ!?」

 

 刹那の声で、目が覚めた。

 とても楽しい夢を見ていた気がするけれど、それは同時に、絶対に見てはいけない夢だった気がする。

 

「大丈夫? 熱はもう無さそうだけど、随分とうなされていたみたいだから慌てたよ……あんまり驚かせないでよね?」

「――ねぇ、佐々木さん。僕の顔、魚っぽいというか、カエルみたいになってない?」

「うん? 何を言ってるのかわからないけれど、いつもの可愛らしいショタっ子顔だよ。それよりも、せっかくこっちも名前で呼び始めたんだから、義嗣も名前で呼んでよね?」

「あ……ごめん。刹那。あと、おはよう」

「おはよう。義嗣」

 

 カーテンの開け放たれた部屋は、明るく朝日に照らし出されて、どこにも不気味な物など存在しない。水に濡れた床など無いし、外は快晴。黒い影など何処にも無い。魚のような、カエルのような顔の男なんてものも、いない。

 

 夢の内容が一気に思い出されて、気持ち悪くなったけれど、顔に出さないようにして朝ごはんへと向かうことにする。

 

 大丈夫。顔がインスマウス顔になっていないなら、少なくとも僕が深き者共の血脈の一人とかいう不愉快な設定はなさそうだ。

 

 しかし、やられた。よもやクトゥルフ神話系が来るとは。コズミックホラーの重鎮だ。デモンベインネタが出てきた時点で予想して然るべきだった。

 あのゾンビの子は、ダンセイニ……いや、その名前はデモンベイン内だ。元ネタはどっかの伯爵だったはず。じゃあなんだ? 名前はなんだったか……ショ…ショなんとかだった気がするんだが。ショタ? ショタジーニ?

 

 ……ショタジーニって、急にちょっと可愛らしくなったな名前。

 

 え~っと、ダメだ。思い出せない。僕もそこまで詳しい訳じゃないからな……所詮は前世でデモンベインでクトゥルフ神話を知って、友人に何冊か借りた程度だからねぇ……。

 

 覚えているのは、タイタス・クロウが活躍するとか、ラヴクラフトが人類平等を掲げながらも典型的な白人至上主義者で、黄色人種や黒人なんかは人間ではない、線引きが必要であると蔑視していて、作品内の人ならざる物、人間との混血の存在はそれら白人以外の人間がモチーフとしていたこと等。主に知っていて覚えているのはそのくらい。

 あ、でも確か、アジア系の人間の目つきの鋭さは欲しいみたいなことは言ってたらしいな。

 

 まぁそういうわけで、ハッキリ言ってクトゥルフ神話についての知識は皆無だ。

 やめてほしい。正直やめてほしい。ホラー耐性はあるほうだけど、なにが悲しくて愛と友情と魔法の物語であるリリカルなのはの世界でそんなおどろおどろしい物と関わらなくてはいけないんだ。

 

 最近のテンションの低さと体調不良はこのせいだろうか。正直ありえないと言えないのが怖い。

 僕のモブポジションから見て、完全に僕「あぁ、窓に! 窓に!!」って叫びと書置きを残して死んじゃって、主人公達がその死因を調べるパターンになるからね?

 

 しかし全然記憶に無いんだけど、いつ憑かれた? まぁ、あのゾンビの子は、まぁ分かる。一度会って肩叩かれちゃってるし。多分、その時に眼をつけられてたんだと思う。

 

 でも、深き者共は無い。いつどこでどういう接触した?

 

 魚顔の人間なんて僕最近会った覚えないけど。っていうか、前世でも無いわ。そんな特徴的な顔。魚好きで魚の被り物して「ギョギョー!!」とか叫んじゃう有名人ならテレビで見たことあるけど。

 

 もうさ~……確か次の原作イベントって、海の上でしょ? そこで深き者共と父なるダゴンの名前が出るとか、完全にフラグだよ……コレ虎次郎達に話して事前に対処でもしてもらわないとヤバイよ……。

 

 っていうか、誰かクロウか九郎呼んで、きてよ。最悪、五千歩譲ってドクターウェストもといドクターハーバートでも良いよ。あいつなんだかんだでデモベキャラな以上、なんとかしてくれるかもしれないし。

 

「ふむ……佐藤殿? なにやら顔色が優れませぬが……未だ体調が?」

「あ――いや、大丈夫。身体は大丈夫なんだけどね?」

「うん? 身体は?」

「うん。あ~……一応二人には言っておいた方が良いか。クトゥルフ神話、って知ってる?」

「あぁ、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト著作の名作コズミックホラー発祥の神話だね? 後に様々な作家達によって肉付けされていった、ホラー好きなら知っていなければ恥と言われるほどの有名な架空の神話じゃないか。まぁ呼び名はクトゥルフ以外にもクトゥルー神話、ク・リトル・リトル神話、クルウルウ神話なんて呼び方もあるし、更にその中でもラヴクラフト本人が作った設定のみの原神話ラヴクラフト神話や、ダーレスが記した設定を含む物をダーレス神話と呼ばれることもあるね。で、それが一体どうしたの?」

「うん、とりあえずあの神話がそこまでメジャーな物だったという話に僕はビックリだけども、セイバーは?」

 

 っていうか、刹那は博識すぎて、今後そうやって物語の情報補足要員になりそうな気がしてならない。歩くウィキペディアだこの子。セツペディアだ。

 

「ふむ。某は初耳ですな。神話、というからには神々の話なのでしょうが。いや、浅学で面目ない」

「いや、刹那がちょっと異常に物知りなだけだから。それが普通だから」

 

 ホラー好きがクトゥルフ神話詳しくないとダメなんて初めてしったもんさ、僕。前世でホラー映画好きだった友人なんて、クトゥルフをなんかのロボットの名前だと勘違いしたからな。

 僕がクトゥルフ作品で似たような怪物いたなぁと思ってクトゥルフの名前出した時「そういうアニオタくさい話すんなよな~。ホラー映画見に来た時にさ~」とか怒られたからね。アレは軽いショックだったよ。

 

 そういうわけで、ホラー好きでもクトゥルフ神話知ってない人はザラにいる。これガチな。特に和製ホラー好きなだけの人なら絶対知らない。

 

「まぁ、それは良いよ。で、なんでまたクトゥルフ神話なんてものの名前が君の口から出ることになったんだい?」

「多分ね、クトゥルフ神話系の何かを持つ能力者とかがいるか、或いはクトゥルフそのものがこの世界にいるか、どっちかの可能性があるんだよ」

「は――?」

「神話の能力を、でござるか?」

 

 二人が呆気にとられたような顔をしてるけど、まぁそうだよね。なんでこんな比較的平和な筈の世界でそんなもんがって思うよね。

 

「えっと……どうしてそう思うんだい? 義嗣」

「ここ数日、どうもおかしな夢見ると思ったら、今朝は完全に深き者共が出てきた。ついでにいうとショタジーニも」

「ごめん。深き者共は知ってるけど、ショタジーニってなんだい?」

「あ、ごめん。違う。それは違う」

 

 いけない。それは僕の造語だった!!

 

「あの、ほら、テケリリって泣き声の不定形生物。ショなんとか」

「鳴き声がテケリ・リならショゴスだね? ……深き者共よりも余程危ないよ。というか、もし原作の能力そのままのショゴスだったら、下手したら虎次郎と悠馬あたりが手を組んでも勝てるか私にすら分からないよ。しかしそれで起き抜けに妙なことを訊いてきたのか。でも証拠が夢、か……ふむぅ」

「あの二人で勝てぬほどでござるか? ……それはなんとも……」

「あ~、信用できないかもだけど、僕の嫌な予感そのものは前世の頃から良く当たるんだよ。何が起こるかが毎回わかるわけじゃないんだけど、今回のはかなりあからさまだし、多分間違いない。ちなみにショボスはこの前肝試しで会ったゾンビさんだった」

「ショゴス、ね? ショボスだとなんだかショボい人みたいだから。しかし……ゾンビの外見でグールじゃなかったのはある意味不幸中の幸いかもね。最終的な被害を考えたらショゴスのほうがマズイけど、グールだった場合とっくに義嗣が食べられちゃってた可能性があるし。まぁ交渉の余地もあるにはあるっていうだけ、ただの一般作品におけるグールよりはマシだけど」

 

 ショボスなんて名前だったら割と親近感持てたんだけどなぁ。

 しかしグールとか……ショゴスとやらの実性能がさっぱりわからんだけに、僕にはグールの方が恐ろしいよ。交渉できるのは知らなかったけど、他の人間を差し出すとかでしょ?

 もうさ、そんなの溢れかえったら完全にバ○オハザード起きる前兆だもの。本気で勘弁してほしい。そんなことになったら、僕に出来るのはガンショップのおじさんと一緒に爆弾で自爆して強化型ゾンビ吹っ飛ばすくらいです。

 いや、そんな出番すらなく、多分最初からオブジェクトみたいに地面に転がってる死体役しかできません。そしてゾンビかどうかのチェックのために死体蹴りとかされる始末。哀しい。

 

「うぅ、まぁとにかくそういうわけでね。もし起きないとしても、対策だけは必要だと思うんだ。原作イベントだと次の大規模な戦いって海でしょ? 深き者共はともかく、父なるダゴンも夢で名前が出てきたからマズイと思うんだよ。もし本当にこの世界にいるなら、下手したらクトゥルフ復活まで有り得るし」

「ソレはちょっと……マズいね」

 

 マズイなんてもんじゃないよ。余裕で地球滅亡だよ? 下手したら地球以外の世界にも飛び火するよ? ジュエルシードみたいに受動的な災害じゃなくて、アレは能動的な天災だからね。

 

「もう冗談じゃないよね……なのはちゃんたちがアースラに行ったから、暫くは平和な日が続くかなって思ってたけど、なんで原作関係ないところでさ~、もっと深刻な事態が起きる訳~?」

「いや、逆に考えるんだ義嗣。最悪の事態を免れたと思えばマシだよ。それにまだそれが正夢とも限らないし」

「いあいあ、タブン間違いないって」

「……ごめん。マジみたいだね。確かに最近君、稀にいあいあって言ってたね……」

 

 僕別に邪神崇拝なんてしてないのにねぇ。

 

「にゃ~?」

「おぉうアイン……お前の存在が今の僕の最高の癒しだよ。もふもふ……」

 

 うぅ、どうしてこうさぁ……、もう僕の幸運値、Fateとかで表したら絶対Eマイナスとかだよ。間違いないよ。巻き込まれて進化していく主人公物ならいいんだろうけど、僕全く進化なんてしないからね……。

 

「あ、猫といえば猫の女神バーストがいるじゃないか。まぁオーガスト・ダーレスの設定だから、もしラヴクラフト神話であれば関係無いかもしれないけど」

「おぉ、じゃあもしやアインがそのバーストさんとやらの可能性も!?」

「にゃ?」

「生贄を求める物騒な女神様だけど、良いの?」

「にゃあ!?」

「アインは我が愛娘として、人畜無害なアイドルにゃんことして育てますので無しの方向で」

「にゃあ……」

 

 アイン、お前尻尾が滅茶苦茶面白いことになってたよ、今のやりとりの間だけで。なんで可愛いんだろうね。うりうり。もふもふの刑じゃ。

 

「まぁ、女神ではなかったとしても、クトゥルフ神話において猫の立ち位置は――外宇宙からのまでは流石に私もわからないけど、基本的に善なる者だから、少なくとも義嗣にとってなんらかの守りになる可能性はあるよ。

 実際、クトゥルフ神話において邪神の存在の大半は海洋生物で、猫は天敵と言えば天敵だしね」

 

 なるほどね~。でもアインに守ってもらうのは流石に悪いから、僕もなんとか自力で逃げ出せるように頑張るね~?

 

「にゃ~」

 

 おうおう、なんだい? 任せとけってかい? いやいや流石にそれはマスイよ。アインに何かあったら、僕泣いちゃうよ? 間違いなく三日三晩は塞ぎこむよ?

 でも本当、なんで原作関わらなくて済むぞ安心だわ~いとか思ったところにさ、もっと重いのがくるんだろ。

 あ~……願わくば、この世界にクトゥルフいませんように。誰かの能力で一部生物が出て来てるだけでありますように……。

 

「ま、なんにしてもご飯にしよう。折角の土曜日なんだし、朝は軽いのにしておいたけど、義嗣の復活を祝って昼と夕ご飯は贅沢にしちゃおう」

「うぅ、そうだね。もう最悪の場合は虎次郎達に丸投げしちゃえば良いし」

「いや、それはそれでどうかと思うんだけど……まぁ、でも義嗣が無理するよりは良いか」

「まぁ某達もついておりますからな。佐藤殿にも滅多なことは無いと思いますが……何かあったら、叫ぶなりしてでもお呼びくだされ。迅速に駆けつけますゆえ」

「マジでそん時はお願いしますですよ……」

 

 ……あ、そういえば虎次郎の目がどうたらって話を訊くの忘れてた。あいつ目見えてないの? その割にはメガネかけてるし、単純に視力が悪いってだけじゃないの?

 まぁ、そのうち訊けばいいや。大事なことなら虎次郎も自分から教えてくれるだろう。とりあえずそういうことを聴いたってことだけ覚えておこう。

 

 何はともあれ……うぅ~……クトゥルフ怖い。

 

 



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26.調べ物と博士

 午前中は家で家計簿付けや勉強を終わらせてから、昼食をとって僕達はひとまず図書館へ向かうことにした。今回はセイバーもお父さんのスーツを着込んでいて、休日なのにスーツを着て子供のお守りをしている若いお父さんみたいな感じの姿で同行だ。

 和服以外着方がわからんとかいうので、着付けしてネクタイ結んであげたんだけど、あのね、セイバー女の人だった。

 

 何を言ってるかわからねぇと思うが、のネタを思わず口走りそうだけどね、うん。女の人だった。胸にサラシ巻いて誤魔化してたけど、普通に胸膨らんでた。和服だとゆったりしてるから気付かなかったよ。

 そういえば、刹那が独白の時に王子様は女性の身体みたいなこと言ってたのを今更気付いたよ。虎次郎の眼のことのインパクトでかくて聞き流してた。

 そりゃあ確かに原作の小次郎よりも声高いとは思ったけど、よもや……ねぇ?

 まぁ、別に男性だろうが女性だろうが、セイバーはセイバーなんだけども。

 女性であることに気付いた時にセイバーがなんとも言えない苦笑いをしてたのでそう告げたら、妙に驚いた顔をした後に優しく頭を撫でてくれた。なんだね、何か君の琴線に触れるようなこと言ったかね僕。

 

 それはともかくなんで図書館かというと、クトゥルフ神話がこの世界にもあるのか、またどういった位置づけの物になっているのかを調べるためである。

 家にPCでもあればネットでパパッと調べられるのだが、生憎とお父さんの書斎にあるデスクトップはパスワードがかかっているし、そもそもお父さんのPCのDドライブの中身をまかり間違って開いちゃったり、お気に入りとか経歴を見てしまった日には、刹那がお父さんと会った時にどんな態度になるかわかったもんじゃないので仕方ないのだ。

 ぶっちゃけ、パスワード自体は英語でラブの後に僕の名前と誕生日だったんで(デスクにおいてある写真立てに書いてあった)使えないことはなさそうだったんだけどね。やっぱりお父さんの尊厳って大事だから。

 で、今日も今日とて図書館に来ていたはやてちゃんと、お供をしていたリーンちゃんと会って、質問してみることにした。ちなみにセイバーのことは親戚のおじさんってことにしてある。セイバーはおじさんと言われて微妙な顔をしていたけれど、そこは諦めてくれい。

 

「クトゥルフ神話?」

「うん。聞き覚えないかな。ホラー系の本とかで」

「う~ん……聞き覚えあらへんなぁ……まぁ、私がホラー自体そこまで読む訳やないってのも大きいんかもしれへんけど」

「そっか~……まぁ仕方ないね」

「ごめんなぁ? なんやあんま手助けにならんで」

「いあいあ、えぇよえぇよはやてちゃん」

「義嗣、関西弁うつってる。あとまたいあいあ言ってる」

「うぐっ」

 

 しまった、また言ってしまった。

 いあいあが自然に出るのは、何かしらの邪神(正確には外なる神だよね、確か)を崇拝する連中の何かの影響を受けてしまってるからなんだろうか。

 やっぱり夢に出てきたダゴンと深き者共だろうか。嫌だなぁ魚みたいなカエルみたいな顔にはなりたくないなぁ……。

 っていうか、そうだ。昼を食べてる時に刹那が言ってたんだけど、ダゴンは深き者共に崇拝されてはいるけれど、外なる神の一柱というよりは深き者共より上位の奉仕種族であるという話を聴いたから、ダゴンは正式には神扱いじゃないのだろうか。そのへん調べるためにも図書館来たんだが、空振りだもんなぁ……。

 

「ふぅん……? なんやヨッシーと刹那くん、お互いの呼び方名前呼びに変えたんやなぁ? ……もしかして、二人ってデキたんか?」

 

 割とシリアスなこと考えてたけど、ニシシ、と悪戯っぽく笑いながら口元に握りこぶしをあてるはやてちゃんを見て脱力した。

 

「そうなんだ。ラブラブなんだよ私達」

「うん。とっても甘々な同棲生活をエンジョイしてるよ」

「へっ?」

 

 刹那がそれを見てニヤリと、こちらも悪戯っぽく笑いながら僕の首に抱きついてきたので、僕も敢えて否定しないで笑って言ってやると、はやてちゃんが目をまん丸に開けて、口もあんぐりと開けて硬直した。

 ふふふ、びっくりしただろう?

 僕もびっくりしたよ。なんでいきなりこういうボケふってくるかな刹那は。

 

「ま、ままままま、マジなんか!? ほんま!? え、男の子同士やんな二人共!?」

「愛に性別は関係ないんだよ、はやてちゃん」

「うん、まぁそこには同意しておいてあげるけど、そろそろはやてちゃんが本気にするから種明かししとこう」

「ふ~ん? やれやれ、虎次郎といい義嗣といい、つれないなぁ」

「虎次郎くん狙うんだったらあんまり僕といちゃいちゃしないほうがいいでしょうが」

「女の子はね、親友とは抱き合ったり平気でするものなのさ」

「それ同性の話でしょ? 僕男だからね、男。今はちっこいけど」

「いや、ヨッシーは今は、だけやなくてこれからもちっこいまんまのほうが絶対需要あるで」

「ショタコンにばっかり需要あっても困るよ……」

 

 刹那の性同一性障害にはかなわないけど、ショタだって充分悩みの種なのだ。せめて女の子に生まれてたら違うんだろうけども。男に生まれたからにはやっぱり身長はほしいじゃない?

 

「まぁ、それは良いとして……参ったね。完全に手詰まりといえば手詰まりだ。ここなら比較的大きい図書館だし、一冊くらいは、と思ったけど」

「そだねぇ……あ、インターネットで調べてみよっか?」

「あ~、そうだね。ここ閲覧用PCあったね。規制入れられてるからあんまり見れるサイト無いけど」

「むぅ、なんやなんや二人して盛り上がって。私だけ除け者かいな?」

「わふ」

 

 はやてちゃん、むくれてる顔も可愛いけども、コレちょっとガチで関わらない方がいい案件だから。はやてちゃん関わって僕がデッドエンド辿ると、下手したらはやてちゃんが次に狙われてA's編が消えるかもだから。

 司書のお姉さんにも下手に訊けないしなぁ。あの人は完全に一般人くさいし。下手に知っちゃうと僕より先に「窓に!! 窓に!!」になってしまうかもしれん。

 と、思ったら刹那が僕に耳打ちしてきた。

 

「――私はクトゥルフについて検索かけてくるから、佐藤くんははやてちゃんの相手してあげてくれるかい? 流石にはやてちゃん巻き込む訳にはいかないだろう?」

 

 やっぱり思うところは一緒のようである。僕も同意だ。

 

「あいあい了解。はやてちゃんはやてちゃん。じゃあ他にホラー系でオススメある?」

「へ? あ、クトゥルなんちゃらはええんか?」

「うん。前に人伝手に面白いらしいって話し聴いて興味持っただけだから。なんか読んだ人は呪われるみたいな話だったんで本当にあるようだったらガチで怖くて読まなかったけど」

「呪いの書物かいな。なんでそないなリアルホラーなもん探しとんのや。――あ、私の家になんや鎖みたいので開けられないようにされてる変な本ならあるんやけども、ソレもしかして……」

「いや、その本は多分違うと思うから大丈夫。でも危ない気がするからそういうのはあんまり触れないほうがいいと思う」

 

 ごめんね、それは闇の書です。誕生日までは開かないとは思うけど、原作イベント先倒しフラグだけは勘弁なので釘を刺して置く。

 

「うげ……確かにそやな。下手にリサイクルなんかに出してもなんや呪われそうやし、家で死蔵させとくんがよさそうや」

「うん、そうしとこう」

 

 ヴォルケンリッターの方々へ、出てきた時にはやてちゃんからなんやかんや言われるフラグ建っちゃいましたけど、許してね、てへ☆

 

「あ~、で、ホラー系やったな。“喉モト過ギレバ”とか“#104”あたりええんちゃうか? 去年の長編かなんかの大賞とったらしいで」

「へ~、ちなみにどんな感じの作品? 出来ればモダン系がいいんだけど」

「え~っと、まず“喉モト過ギレバ”はやな……」

 

 あぁやっぱりはやてちゃん読書家というか、本好き少女だなぁ……本の話する時滅茶苦茶笑顔がまぶしいよ。刹那みたいに哲学書とかをガチで読みふけるタイプではなくて、ファンタジーとか好んで読むライトなタイプだから割かし話やすいんだよね。

 

 結局、オススメされた本は両方共借りて別れたのだが、調べ物が終わったらしい刹那が何枚かプリントアウトした紙を持ちながら涙目になっていて、セイバーに慰められていた。

 

「どったの?」

「うぅぅ……義嗣……私一ヵ月後に死亡確定だよ……」

「――ハァ!?」

 

 何をどうしたらそうなったのさ!?

 

 

 

 

 

 図書館付近の、先日の破壊ロボと出会った公園のベンチに腰掛けながら、刹那と肩を並べつつ何があったのかを聴いていた。

 すると、PCでクトゥルフ神話を調べてみたら一件だけヒットしたためにそのサイトの情報をプリントアウトしている時に突然画面が真っ暗になって、画面の向こうからこちらを覗くティンダロスの猟犬を見てしまったのだという。

 

 そりゃあ泣くわ、本気で泣くわ。とガチで同情してしまった。

 

 ティンダロスの猟犬。90度以下の角度を持つところからならどこにでも靄と共に現れて、狙った獲物を喰らいにくる、表現しきれないほどの異臭と異形の姿をした犬のような生物(?)である。

 流石にクトゥルフ系でもこれは有名なので知っている。追跡が開始されて、現れるまでの期限は30日間だっただろうか。

 ……所謂、回避不可能即死確実イベントフラグ成立。死因は生きながら無残に喰い散らかされるという物。例えるならば四方八方360°、どんな場所からでも現れて、どんなに逃げても逃げたと思った瞬間には逃げてきたのとは別の角からまた現れて追いかけてくるゾンビ犬(無敵バグ状態)に一生追い続けられるという、通称無理ゲー状態である。

 

 そんなのに出会ってしまったとなれば、そりゃあ錯乱もするというものだ。

 癇癪を起こして騒いだりしないあたり、刹那は大人であると感じる。前世高校生だったらしいから、ある程度は成熟してるんだろう。正直助かった。

 

「うぅぅ……タイムリープ能力があれば……調べ物する寸前に戻れるのに……」

「あぁ、時間はいじれてもそこは無理なんだ……」

「自分の身体でも時間操作すれば若干のずれはあっても記憶は消せるけど、記憶を消すだけで逃げ切れるわけじゃないだろうし……むしろ見てしまったという認識を忘れてしまったら、私30日後には第二の人生からおさらばだよ……」

「主……」

 

 うあ~、こんなことなら僕が調べ物するべきだったよ……主人公達の物語からいなくなったキャラがある日変死体になって現れて、物語の謎を深めていくパターンはちょっと悲惨すぎるだろ刹那……折角昨日気持ち入れ替えたばっかりみたいなのに。

 どうしよう。コレ完全に僕の責任だよね……。

 

「この身に代えても、と言いたいところですが、流石に不死の相手となると……」

「ティンダロスの猟犬が現れた時に、相手の時間を空間ごと凍結して封じるとかは?」

「できなくはありませぬが、せいぜい一日か二日が限度ですな……それ以上は主の魔力量では無理がござる。主の魔力量が低い訳ではないのでござるが、なにぶん時間操作は魔力をバカ喰いしますからな……」

 

 うあ~……。

 

「いっそ、天ヶ崎くんに頼んで王の宝物庫につっこんでおいてもらうとか。アレ内側からなら出られないんじゃないかな」

「好き好んでアレの引き受けをしてくれる人がいると思うかい……?」

「……だよね」

 

 本気でどうするべさ~って感じだな……。

 

「うぅぅ……死にたくないよ私ぃ……義嗣ぅ。ぐすっ」

 

 あぁもうそんなガチ泣きしながら人に抱きつかないでよ。流石に連休中ってだけあって昼過ぎの公園でも人目あるんだから。

 ……まぁ、僕でも同じ状況になったら同じことしそうだけど。

 

「うんうん、どうにかするから落ち着いて」

「ぅぅぅ……やっと色々悩みが吹っ切れたばっかりだっていうのに……ぐすっ」

「だよねだよね……なんかごめんね、巻き込んじゃって。……いや、冗談抜きで……」

「うぇええええん」

 

 あぁもう僕の胸で良かったら貸すからお泣きなさいな。

 

 ――しかし、これはちょっと本気で調べ始めないといけんね。

 

 正直、僕だけだったら別にそん時はそん時で構わなかったけど(悲惨な死に方だけは勘弁だけど)も、親友の命かかってるとなったらこっちだってチンタラやってる場合じゃない。

 状況確認。僕、ショゴスに憑かれて、深き者共にも目を付けられている。夢は多分、精神干渉を受けているのを感知した結果だろう。夢占いとかそのへん詳しくないけど、多分そういう暗示だと思う。SAN値ガリガリ減少なう。

 刹那、ティンダロスの猟犬を視認。タイムリミット長くて30日。こちらもSAN値絶賛減少なう。

 

 取得アイテム。刹那がプリントアウトした唯一ヒットしたクトゥルフ神話のサイトのページが五枚。

 

 で、肝心のアイテムのクトゥルフ神話サイトの情報だけど……どうも、にわかファンが頑張ってうろ覚え知識でまとめましたって感じの物になっている。

 まず、ダーレスの設定が混ざったダーレス神話になってるんだけど、それに対する補足が無いためにコレを完全にクトゥルフ神話だと信じている製作者だというのが分かった。このダーレス神話云々は歩くウィキペディアこと刹那情報だからまず間違いない。僕にはダーレス神話と原神話とやらの違いが分かりません。

 次、ショゴスの名前がシェイゴラスになっていた。それはお前、エルダースクロールシリーズの狂気のあのお方だとツッコミを入れたくなったが我慢した。しかもなんか、設定がデモベくさい。新鮮な生肉を喰らうなんちゃらとか説明があったが、その反則的な戦闘能力ついては触れていなかったし、そもそも古き神との敵対についても書かれて居なかった。これも刹那情報。

 次、ダゴンが水の神の一柱になっていて、深き者共を従える怪獣とされており、クトゥルフと同格とされていた。刹那曰く、ダゴンはクトゥルフの下っ端の中で地位が高いだけの奉仕種族に過ぎない筈で、神ではあるが所詮は従属神という言葉があったためにこれも間違いであると思われる。

 ただ、ここで刹那がクトゥルフとは関係無いがと前置きした上で語ったのが、ダゴンは古代パレスチナにおいてペリシテ人が信奉していた神の名の一つでもあり、海神、或いは農耕神であるという実在の神でもあったらしい。ただそれを、旧約聖書においてイスラエル人と敵対したペリシテ人の崇めていた神々は邪神として貶められたという側面があり、ダゴンはその貶められた神々の一人なのだそうだ。

 

 ハッキリ言えば、そんな知識普段なら絶対いらないんだけど、今この状況ではどんな情報でもあるにこしたことはないので助かるといえば助かる。ただ、お前は本当にどんだけ知識詰め込んでるんだと問いたくはなるが。

 次、深き者共が何も考えずに人間を襲い、誘拐し、性的なものを含めた酒池肉林に耽るだけの怠惰な種族にされている。あながち間違いではないが、狡猾さがどうにも描写されておらず、ただ本能に従って行動しているだけの下等生物のような感じに書かれている。……コレがベリシテ人を現しているってんならラヴクラフトって相当失礼な人だよな。あ、いや、この設定はあくまでこのサイト製作者だから、こいつが失礼なのか。

 で、最後のページがティンダロスの猟犬。これをプリントアウトした時に刹那が見てしまったのだそうだが、記述があまりにもアバウトである。自分を見た人間を獲物にする。角のある部屋に現れて人間を襲う。丸い部屋には出入り出来ない。これだけだ。

 以上から分かるのは、前世のうろ覚え知識を基に作られたサイトで、大した人気も出ていないのだろうということ。更新も二年前で止まっていて、サイト内には掲示板もあったが、そっちは業者の広告だけが延々と張られていたらしい。

 

 さて、ここで問題となるのが『このサイトの製作者が誰か』である。もし、これが上手いこと僕にあの夢を見せた犯人と同一人物であるのなら話は早い。締め上げてでもどうにかさせれば良い。転生者の能力で、書いた物が本当に現れるとかだった場合は、弱点なり書かせればそれで対処することで事が済むはずだ。

 問題は、この世界でガチでクトゥルフが存在していて、そのために禁忌とされている場合である。

 

 これを調べる為には、アーカムシティがあるかどうかの確認が一番楽だ。ミスカトニック大学は実在するが、アーカムシティは架空の町なのだ。この僕達が住む海鳴市同様に、ね。

 ただ、それに今頃気付いても、もう一度図書館に行くには刹那の精神的ダメージが酷すぎて動くに動けない。僕にしがみついて泣いてるんだもの。

 

 もうね~、こういう頭脳労働担当は刹那の仕事のはずなのに、この子がただのウィキペディア状態に成り下がっているのだからどうしようもない。

 

 僕はね、戦場で言うなれば戦場でも鍋を担いで皆に美味しいご飯を振舞ってるだけのお料理当番で良いの。情報将校が刹那で、将軍が虎次郎でよかろうと。基本その二人でどうにかしておくれって感じなんだけど。

 まぁ刹那は僕のせいで巻き込んじゃった訳だし僕が責任持つのは仕方ないんだけどさぁ……モブとしては色々思わないとやっていけない訳なんですよ。頑張るけど。だって、これ原作関係無いから、僕ちゃんと動かないと僕も余裕で巻き込まれて死ねるし。最近友達増えたと思ったら、その分こういうのばっかだもんなぁ……本当世の中ままならんよ。

 

 うぬぬ……どうしたもんか。

 

「んお? そこで泣きべそをかいているのはもしや女にしか見えぬが実は男の子というギャップが萌えを産むと信じてはばからない佐々木刹那でぇはないか?」

「博士、普通に失礼ロボ」

「のぉう!? ろ、ローキックは地味な痛さなのである!? 下手に腕折られるのよりも、むしろ慣れていない痛みに我輩ちょっと感じちゃう!?」

 

 ……あ~、ベストタイミングで来たよ。ちょっと好感度上がったよ博士。

 

 

 

 

 公園のベンチで相変わらず愚図っている刹那を抱きしめて背中をぽんぽんと叩きながら、博士に隣に座るよう勧めて話を訊いてみることにした。ちなみにエルザは何故か博士の膝の上で座って船をこいでいて、博士が優しい顔をしながら頭をぽんぽんと優しく叩いていた。

 なんというか、その光景が原作デモベでは絶対見られないであろう安らかな光景で、ちょっとエルザと博士に胸キュンしちゃったのは秘密だ。

 

「ふむん……ティンダロスの猟犬に深き者共、ショゴス、そしてダゴン、であるか」

「うん。博士知ってる?」

「知ってるも何も、我輩元々そういったものが生業の世界から来たのであるからして? むしろ何故質問の内容が解決策ではなく知識の有無であるかの方が我輩不思議なのである」

「おぉ!!」

 

 で、こうした返事が返ってきた次第である。

 やったぜ!! この人、ちゃんとデモベ知識だけで転生したタイプの人じゃないっぽいぞ!!

 

「これこれ。あまり大きな声を出すものではないのである。エルザがおきてしまうのである」

「あぁ、すいません」

 

 普段無駄に元気良く大騒ぎしているアンタに言われると全然説得力無いけど、その優しい顔で言われたらこちらも応じざるを得ない。なんというか、博士普段変顔しまくるからイメージがブサイクだけど、元々顔立ちはイケメンなのですげぇかっこいいのが悔しい。しかもムキムキなんだぜ、博士なのに。称号が博士なのに。

 

「さて、まずティンダロスの猟犬程度であれば、別に臆することはないのである。捕獲する方法はもう思いついたので、昔のよしみで佐々木刹那のそれはどうにかするのである」

「ほ、本当かい西野くん!?」

 

 あ、刹那が凄い勢いで復活した。でも鼻水チーンしようね? ちょっと垂れてて折角の美少女っぷりが台無しだよ?

 

「えぇい、佐々木刹那!! 西野じゃなくて、ドクターとか博士とかハーバートとかウェストと呼べなのである!! なんか一般人みたいで嫌なのであるその苗字呼び!!」

「博士うるさいロボォ」

「ごふぅ!?」

 

 ……自分で騒ぐなって言っておいて、お約束すぎるな博士。

 寝ぼけているエルザの裏拳が顔面にめり込み、それをダメージ一撃目以降は涙目で変顔になりながらも静かに耐える博士をちょっと見直した。

 

「え、えっと、ごめんね? 博士くん」

「……良いのである。ともかく猟犬は我輩がどうにかするのである。で、深き者共とダゴンの件であるが……これは確証無いのであるが、魔の匂いを漂わせている男なら最近、このあたりでよく見かけるのである。もしかしたらそやつが何か関わっているかもしれないのであるが……ふむ」

「ふむ?」

「情報料五千円で手を打つのである」

「金とるの!?」

 

 しかも、割とデカい!! 小学生に五千円はデカいよ!!

 なんてこった、博士ってばなんだかんだで騒がなければ良い人だなぁとかちょっと思い始めてた僕に謝れ!!

 

「何を当たり前のことを言っているのであるか? こちとら慈善事業じゃないのであるぞ? やれやれこれだから最近の甘ったれたガキンチョは困るのである。ふ~、流石にブッダも真っ青なほどの包容力と許容力を持っている我輩でもこれには参ったものなのである」

「キー!! 博士はとりあえずブッダさんに謝れ!! 全力で謝れ!! 仏教徒とブッダさんに全力で謝れ!!」

「謝るから許せ!! ナハ!!」

 

 うっわ~!! そのドヤ顔の変顔腹たつわ~!!

 

「博士黙れロボォ」

「おうふぐぇぁ!?」

 

 博士の腹に肘打ち、次に顎にアッパーが入った。誰がやったか? エルザである。お約束である。

 

「ひ、ひたをはんはほへはふ(し、舌を噛んだのである)」

「えっと……大丈夫?」

「ふ、ふむ……げふ、うむ。問題ないのである。……さて、まぁぶっちゃけると、普段ならタダで教えても良いのであるが、ちとこちらも困ったことになっているので、早急に金がいるのが実情なのである。だからまぁ、五千円がないのなら、有り金全部で許すのである」

「それはそれで、なんかゆすりみたいだけど……背に腹は変えられないか……」

 

 財布の中にはいってるのは二千円と小銭。最近出費が多いなぁ……これじゃあ僕のタンス貯金がすぐなくなっちゃうよ。

 

「ちなみに困ったことってなに?」

「うむ。家賃滞納で借家を追い出された上、学費滞納もちょっとまずいことになっているので、もうかれこれ二日ほどご飯を食べていないのである。起死回生にジュエルシードで金を得ようと思ったのであるが、それも失敗した上に破壊ロボ2号も壊れて大赤字なのである」

「割と切実だった!?」

 

 二日ご飯食べてないって、本気で切実だよ!? っていうか、もしかして博士のテンション低いのってそれが原因!? 無駄なカロリー消費抑えるため!?

 

「っていうか、ご両親は!?」

「そんなものとうの昔にいないのである。今はエルザだけが家族なのである」

「博士うるさいロボォ」

「なんづぇ!?」

 

 え、エルザちゃん!? 今博士なにも悪いこと言ってなかったし、うるさくしてなかったよ!? なんで殴ったの!?

 

「……ぐぅう」

「だ、大丈夫……?」

「だ、大丈夫なのである……可愛いエルザのすることなら、このドクトゥアァッァハアアアァバアアァ「博士死ねロボォ」げふぉっ!?」

「博士ーッ!?」

「義嗣……元気だね……」

 

 いや刹那、なんかそんな儚げな顔で何言い出してんの? ギャグパートはテンション良く行こうよ。じゃないと気分が重くなって仕方が無いよ。

 

 で、まぁ予想つく人もいるかもしれないけど、博士とエルザはうちで暫くお泊りすることになりました。ご飯と宿を提供する代わりに、刹那がティンダロスの猟犬に襲われたらすぐに捕獲して刹那の身の安全を確保すること。家にあるものとか家を勝手に改造しないこと。したい時は僕に許可をとること。

 

 もし勝手に改造を始めたらエルザにフルボッコするよう依頼したので大丈夫だろう。多分。心配だけど。

 

 あぁ……正直食べ盛りの中学生二人も家に増えたら家計の圧迫が……水道光熱費と食費が増える……でも身の安全には代えられないよねぇ……はふぅ。

 



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27.汚染と追求

 いあいあ、くとぅるふだごん。

 いあいあ、だごん。

 てけり・り。てけり・り。

 いあいあ。ぐちゅり。ずちゅり。

 べちゃり。ごぼり。べたり。じゅるり。

 

 ケタケタ、ケラケラ。カサカサ、ぐちゅぐちゅ。

 

 オハヨウヨシツグアサダヨ。

 オハヨウヨッシークンアサダヨ。

 オハヨウ、セツナ、<××××>。

 

 オハヨウオハヨウ、オハヨウケラケラ。

 

 優しく微笑む君達の顔は、僕ノ何より望ム物。

 

 

 

 5月1日、日曜日。黄金週間モ明日で一度途切れてカらの休みとなる今日。言うまでモ無いが、我が家は騒がシかった。

 

「そうだ。そういえば義嗣。アインちゃんの件だけどね。あの時私が言ってた猫の女神バーストなんだけど、ダーレスの創作じゃなくてロバート・ブロックの“ブバティスの子ら”が出典だったよ。今日落ち着いてからアインちゃん見てたら思い出したんだけど。ごめんね。間違った情報教えちゃって」

 

 朝ごはんの準備をする刹那ヲ手伝っていたらそんなことを言われたが、僕は笑って済ませる。

 そもそも何でも資料も見ずに覚えていて間違いを犯さないなんて人間はそうはいないだろうし、むしろ思い出してそうやって謝ってくれたことが嬉しいと言っテ頬にキスしておいた。

 いきなりのことに若干慌てて顔を赤くする刹那が可愛かったよ。くすクス。なんだか、セイバーが怪訝な顔をしていたのが不思議だったけれど。なぁに? 君もキスしたいの? あはハ。

 そうしている内に、博士達も起きてきたのでご飯を食べ始めた僕達。

 

「ヌゥハハハハ!! この甘く蕩けるような、まるで我が少年時代の甘い一時を凝縮したかの如き卵焼きの味!! そしてそんな甘い一時にある日降り注いだ塩辛い涙と苦い日々を思い出させるかのような、程よく塩見の効いた肉巻きアスパラガス!! そして極めつけは「博士、食事中に喋るのは下品ロボ」メメタァ!?」

 

 なるほど、極めつけはメメタァ!? なのか。

 

 あぁそうソう、これ言うのも久しぶリな気もするケど、皆さんおはようございますマス。今日も元気にSAN値減少なうなうな私こと義嗣デす。幸せな日々は一体いつになれば僕にやってくるのだろうカ。

 ――いや、待てよ? 刹那という愛らしい友人とセイバーという得難く優しい友人を得て、それが一時的とはいえ家族ナのダから割と幸せじゃないカ?

 そうだな。うん、ごめん。ちょっと高望みが過ぎたね。僕、幸せです。ドクターハーバートが騒がしいけど、正面に座っている僕の顔に博士の口から飛び出したご飯粒がついてるけど、幸せです。いや、コレについては非常に腹立たしいけど、エルザがしっかり処理してくれたのデ気にしまセん。

 

 ケラケラ。

 

 僕は、幸せです。いあいあ、シアワセです。

 

「ところで博士、昨日は夜中随分静かだったけど、ティンダロスの猟犬対策はどうなったの?」

「あぁ、それについてはもう出来上がったのである。この程度の作品作るのに大騒ぎしていられないであるからな。というか、騒いだら追い出されるくらいのことは、我輩にだって分かるのである」

 

 意外!! この博士常識人!!

 いいコいイ子。頭を撫でテあげたいネ。

 

「おぉう、それは結構なことです。で、どんな感じになったの?」

「ふむん。聴きたいであるか?」

「そうだね。なんていうか、西――あ、いや、博士のいう事を信頼してない訳じゃないんだけど、不安を取り払う意味でも教えてもらえるかな。じゃないと私今日も義嗣くんやセイバーにしがみついてないとおちおち寝れもしないから……」

 

 あぁ、そうそう、刹那が言うとおり、昨夜はまた三人で寝まシた。セイバーはなんか完全に僕に気を許しちゃってるのか、セイバー、刹那、僕、という並ビで、刹那に抱きしめられて寝ることになったんだけども、僕この調子で育っていくと男相手でも抵抗無くなる気がして若干怖くなってきタよ。

 いや、割とガチで。怖いわ。慣れって怖いワ。刹那美少女外見なのがいけないんだわ。僕、女の子が好きなんだからね!! 虎次郎のヒロイン疑惑が晴れたと思ったら男版刹那といちゃいちゃするのに慣れたというか、むしろそれが落ち着くという状態は非常によろしくない気がします!!

 とはイっても、所詮は精通が来る前のガキンチョだからこそだろうけどね。僕だって男の子として目覚めればちゃんとノーマル道を走れることだろう。

 個人的にはカップリング相手がいないなのはちゃんとかはやてちゃん達とかに憧れるけど、きっと二人とも虎次郎か、これから出てくる新たな主人公枠転生者とかにハートを撃ち抜かれちゃったりするだろうから無理だろうね。フェイトは悠馬がついてるし。いや、でもアルフとくっつくのかアイツ?

 まぁ、なんにしろ大人版の姿知ってるからそう思うだけであって、今のなのはちゃん達にそういう感情全然抱けないけども。性格は非常に良い子達だから、このまま真っ直ぐ育って欲しいところではあるけども。

 

 だって、皆大好きなんだモの。

 

 ふぅ。いいねぇ、クトゥルフ神話なんカよりも、僕はこういう日常的な友情や恋愛の心配とかしてのんびり暮らしたイよ。

 

「ふむ。まぁ隠すほどのことではないので見せてやるのである。エルザ」

「はいロボ!! 今日のびっくりどっきりメカはこちらロボ!!」

 

 よいしょ、とエルザが料理の並んだちゃぶ台の上に無造作に置いたのは、赤と白で色分けされたガシャポン(或いはガチャガチャとも呼ぶ)のカプセルみたいな物である。白と赤で彩られたそれの丁度中央には黒い線が横切り、ボタンのような白いスイッチがついている。

 

 一言で言おう。モ○スターボールである。形状がちょっと卵型に近くなっているけれど。

 

「版権大丈夫!? ねぇ、規制かからない!?」

 

 いつもニコニコ平常運転の僕のツッコミ。

 

「いや、ちょっと貴様が何を言っているのか我輩には分からないのであるが」

「まぁ、モロパクリな一品なのは確かロボ」

「こういうのは様式美なのである!!」

 

 ダメだコイツラ早くナんとかしないト。

 さじを投げて諦めの溜め息をツきながら笑う僕の横で、刹那ガ肩を落とシた。

 

「……こういう時、どういう顔すればいいかわからないよ」

「笑えば良いんじゃないかナ……」

 

 笑えよベ○ータ。

 アハヒ。

 

「いや、しかしであるな? ぶっちゃけ角が無い空間であれば奴は出てこれない訳であるからして? 逆転の発想という奴なのである。丸い空間にいれば安全だというのなら、逆に丸い空間に閉じ込めておけば良いのである。

 見た目はこんなんであるが、コレの中は外界との時間軸及び空間との断絶、言うなれば異空間化が成されているので、時間を越えてやってくるあやつらでもまず脱出は不可能なのである。当然、協力者たるサテュロスやドールなんかが手を出そうにも、このボールはそんじょそこらの衝撃で破壊できるような材質にはなっていないのである。戦車砲の直撃だろうが戦術核の熱波だろうが、収束魔力砲の一撃だろうが理論上は耐えられると出ているのである。レムリアインパクトもギリイケる!! と我輩は自負するのである」

 

 ちなみにサテュロスはギリシャ神話やローマ神話にも登場する精霊の名前で、クトゥルフ神話においてはヤギのような下半身と小サな二本の角、尖った耳を持つ、悪戯好きで享楽的な妖精。ちなみにギリシャ神話やローマ神話でも似たよウな性格であり、成人すルと禿げて顎鬚が生えるラしい。刹那がこっソり耳打ちして教えてくれた。

 エヘヘ、お返しに舐めテあげようカ?

 あぁソウソウ、ついでに言うとワインと女性と美少年を愛するとのことだケど、頼むからコレには絡まれたくなイネ。いや、僕美少年じゃないケどさ、刹那あたりが絡まれたら全力で守ってあげねばなルまいよ。

 ドールは全長百数十メートルにも及ぶ、巨大なミミズみたいな青白い触手だソうだ。粘液まみれとのことで、あぁ、そういウののサイズダウンバージョンがよくエロゲとかで出てタなとか思いつつ聞き流した。これも耳打ち刹那情報である。耳がこそばゆい。甘噛みして返シてあげようかな。クヒ。

 なンでも地震を起こシてティンダロスの猟犬の獲物が隠れた空間を破壊してティンダロスの猟犬の侵入口を作ったりするらしいが、その程度の衝撃問題なし、という博士のありがたいお言葉を信ジるしかないだろう。原作においてダゴンを消し飛ばしたレムリアインパクトでも壊せないっテんなら大丈夫だろ。多分。恐らく。キット。

 

「ふむふむ、なんだか見た目はアレなだけに若干不安だったけど、そんな凄い物だったんだね、ソレ。博士、流石だよ」

「ヌゥハハハハ!! 褒め称えるが良いのである!!」

「ちなみに材料は近所のおもちゃ屋の外に落ちてたガシャガシャのカプセルが元ロボ」

「――急に不安になってきたよ……」

 

 刹那、気持ちは分カるけど、この変態博士は割とそのへんおかしいから気にしたら負けだよ。何気にゴミクズから現代兵器を超越シた物を作り出せても全くおかしくない人だから。

 

 まぁ具体的な一言で言えば、数十年に渡って錬磨された技術を駆使して製造された主人公機に搭載されている最強と名高い性能のCPUの極々一部のデータを元に、主人公機と完全に同格の性能の機体を内部機構とか一度も見たことないくせに、外部入力の必殺技以外完全コピーして数日で作り上げ、尚且つそれに乗って主人公と互角に渡り合っちゃウほどの変態博士デある。

 こコで重要なのは、CPU性能は圧倒的に負けてるのに主人公の操縦と互角という点である。ついでに言えば、主人公は人外と化して、最強のCPUの補佐がついているのに対し、博士は生身で、エルザは生まれたてのアンドロイドであったトイうことであろうか。マジチート。まぁ操縦は全部エルザだった疑惑もあるけド。

 そして終いには数日で現代兵器の攻撃が何も効かない巨大な空陸両用兵器を数千、数日で作り上げる男でアる。

 

 まぁデモンベイン知らないロボアニメファンの人のために分かりやすく説明するとこうなのだが、CPUはブっちゃけ魔道書ね。

 これをリリなの風に言ったら、なのはちゃんが使った魔法を見て完全コピーし、魔力の残りカスを掻き集めてスターライトブレイカー以外全部そのままマるっと、出力までなのはちゃんその物のコピーを作り出しちゃう変態で、その上ジェイルスカリエッティが長年かケて作り上げた兵器群を数日で全部作っちゃう、と言えば良いか。

 一言で言っちゃえば、所謂公式が病気レベルの技術力チート野郎であル。

 そんな奴に常識を希望するほうがどウかしチゃってるのだよ。むしろ、今はそれのお陰で助けてもらえることを素直に喜ぼうじゃナいか。

 ちなみに、デモベはアニメだと短いし物語を楽しみきれないので、僕としては原作ゲーム(十八禁・非十八禁問わず)か、小説版を押しておく。アレの真の魅力はこの二つのどちらかでないと分かラないだろう。そして小説版のドクターウェストの過去に思わず涙したのは僕だけではないはず。

 

 ――うん? またなんか微妙に電波を受信……というよりは発信してしまった。そうカ、ついに僕も受信じゃなくて発信する側になっタか。出世したものデある。

 

「まぁ、なんにしてもそういう訳であるからして? 少なくとも猟犬の心配は必要ないのである。経年劣化の危険性も懸念して、このボールは五重構造になっているので、万が一、否、億が一に壊れたとしても、あと四つ同じ構造の物が中に入っているので、まぁ問題なかろうと? 最低でも千年かそこらは持つであろうと思うのである」

「へぇ、意外だね。私の中では博士ってその辺は割と油断しまくって失敗するイメージだったんだけど」

「失礼な奴なのである。我輩とて大事な友人のこととなれば流石にそのへん手抜かりの可能性は少しでも潰すのであるぞ?」

「博士……ごめん。ちょっと私失礼だったね」

「まぁ、ぶっちゃけ普段からそういうとこ多いのは否定しないのであるが!! ヌハ!!」

「せっかくのいい雰囲気台無しかい!?」

 

 刹那がナにやら驚愕の声あげてるけど、僕は一番驚いてるですよ。

 この人本当にドクターウェスト? いや、転生者なんだろうとは思うけどさ、あんなバカみたいに騒ぐところ再現してルくせに、やケに良い人の香りがする時多いんだけど。今のも気恥ずかしくなって誤魔化したって感じがぷんプんでスよ?

 偽者メ偽者め。デモこの男のキちがヒっぷりは本物ノ匂いがすル。

 狂っタ人間の匂イ。同族。ケヒ。

 ……まぁこの人に関しては考えるだけ無駄ダ。ぶっちゃけちょっと面倒になってきた。いあいあ。

 楽シいね。嬉しイね。懐かしいネ。ケラケラクラクラケセラセラ。いあいあだごん。ふんぐるい――。

 

 ……ただのボケだよ。大丈夫。クトゥルフにケセラセラなんて関係ないから。大丈夫ダよ?

 大丈夫だよね? いあいあ、疑問をもてるナら全然大丈夫。余裕余裕。

 

「義嗣?」

「ヒヒ……ウン? なに、刹那?」

「……大丈夫かい?」

「にゃ~?」

「うん? 大丈夫だヨ?」

「……佐藤殿。気を強く持たれよ」

 

 何を心配されているのか分からないね。今日も可愛いよアイン。刹那。セイバーは凛々しいよ。ウフヒ。ねぇ、抱きしめタいんだけド、良いカな。キスがシたいヨ。噛みツキタいよ。何モいらない何も欲しクないから、どうか私ニ愛さセて。

 

「まぁ、そこなショタっ子のことであるな、今後の問題は。まずショゴスであるが、こちらは深き者共に使役されているという事例もあるのである。で、深き者共とダゴンに絡んでショゴスを見たというショタっ子の考えであるが、恐らくはそう間違いではないと思うのである。別個の忌まわしき勢力に同時に目を付けられたと考えるよりは近いであろう?

 で、であるが、ショタっ子がショゴスらしき存在に出会ったのは、先週の日曜日、で相違ないであるか?」

 

「ウん、そウだよ。ゾンビっこだよ。なのハちゃんっぽい子だったよ。可愛かっタよ」

「――義嗣? 外見ゾンビだったんだよね?」

「うん。可愛かったヨ」

「ごめん。最近君の事を理解してきたつもりになっていたけれど、ちょっとまた分からなくなってきたよ私」

「ソう? 残念」

 

 どうしてアの可愛さが分からなイんだろうね? 今思い出すだけでも愛おしクて――愛おしい?

 ……うん。愛おしイじゃないか。

 

「……佐々木刹那。割かし、手遅れかもしれんぞ? このショタっ子」

「いや、彼は私も初めて知る趣味の持ち主であったということは認めるけれど、けれど決して手遅れなんて言われるほどかわいそうな子じゃないんだ、博士。うん。本当はとってもいいこなんだよ。だからちょっとネクロフィリアの疑いが出てきたくらいで手遅れだなんて言わないであげて欲しいんだ」

「いや、そうではなくてであるな?」

「このショタっ子目がよどんでるロボ」

 

 うふフ、愛おしいね。どうしてこんなに愛おシいんだろう。

 あぁ、見てごらんよ。窓の向こうには今日も僕のお友達の××××がにっこりこちらに微笑んでイる。

 おはよう。オハヨウ。てけり・り。

 どうだい、この子達も可愛いだロ? 僕の最高のお友達――。

 

 ……精神干渉の度合いが半端ないな。SAN値振り切ってるんじゃないか?

 

「ごめん。若干おかしくなってた。えっと、うん。ごめん。ショゴスの姿を見たのは日曜日で問題無いよ」

 

 まずいね。幻覚や恐怖におののくんじゃなくて、ちょっと融和性がある感じなのが逆に怖い。

 

 まぁ、冷静に考えてみると、あのゾンビの子もなのはちゃんベースっぽいと思えるくらいなので可愛かった気も確かにするけど。白目とか目玉飛び出しかけてるとか色々と――アレ? あれって魚顔――。

 ……インスマウス顔にリメイクしたなのはちゃん顔だったのかアレ。アレを今可愛いと思えてしまう自分が怖いけど、大丈夫だろ。ちょっとその血の滴る首筋を引き裂いて血肉ヲ貪リ愛しタ――オーライ。おちけつおちけつ。

 

「――え~っと、もしかして、若干精神汚染くらってたりしたのかい?」

「大丈夫だ。問題ない」

「どうしよう義嗣。こういう流れの会話、なんだかデジャヴなんだけど」

 

 安心しろ刹那。僕もだ。

 

「ロボ? 目にハイライトが戻ったロボ」

「ふむ……? いや、正直正気なのが驚きであるな。ある程度今は霧散したのであるが、ついさっきまでショタっ子自身の放つ魔の匂いは半端なかったのであるぞ? どうやって祓ったのであるか? いや、祓ったというより……」

「え? いや、気を確かに持とうとしただけで――」

「ふむ……まぁ良いのである。ともかく、深き者共の使役するショゴスに目をつけられたことでショタっ子は深き者共とダゴンに精神を持っていかれかけているようであると仮定するのであるが――、色々と腑に落ちない点があるのである」

 

 おうおう、なんか嫌なフラグたててそのまま逃げないでおくれよハーバートさんや。

 

「腑に落ちない点って言うと?」

「わざわざショタっ子を選んだ理由もそうであるが、自覚症状から今に至るまでのサイクル、そして症状そのものがちょっとおかしいのである。そしてまぁ、純粋にショタっ子が巻き込まれただけだとするにはちょっとどうしてもおかしな点があるのでずっと気になっていたから指摘させてもらうのであるが。先日会った時からずっと魔の気配を発し続けている――」

 

 ショタっ子のその右足、どこの誰のであるか?

 

 博士の言葉と共に、今まで自分の物であると思っていたはずの右足が、まるで本来の持ち主の存在を気付かれた事に歓喜するかの如く、震える。

 

『ヨウヤクキヅイタ?』

 

 ケラケラケラケラ。ケタケタケタケタ。

 ずるずるずるりと何かが這いずる幻聴が聴こえた。

 

 ――こんな物、ただの、幻聴だ……。



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28.嫌悪と囮役

 幻聴だけが、耳に残っている。

 

 違和感だけが、身体に残っている。

 

 博士の言った言葉で、あの場の空気は完全に凍った。

 当たり前だろう。刹那とセイバーにとっては、つい先ほどまで一緒にいて、それも抱きついていた人間の身体の一部が人間の物ではないと、そう言ったのだ、博士は。

 恐らく無意識になのであろうが、刹那が距離をとったのが分かった。そして刹那を守るように、セイバーが僕と刹那の間に音も無く入るのも分かった。

 

 その二人の表情を見た気はするが、覚えていなかった。

 そこに浮かんでいたのは嫌悪などの表情だったのであろうか? それがショックだったのか? 親友になれたと思った人間が、自分に嫌悪の感情を抱いたのではないかと思えて、ショックを受けたのか?

 

 あぁ、何を今更とも思える。元より僕はモブである。主人公格の子で、それもとても心優しい子と一緒に暮らしていただけでも、充分に幸せだったじゃないか。

 義理とはいえ父は理想の父だ。虎次郎がどう反応するかは分からないが、彼はその事実を知っても大して態度を変えたりはしないだろう。そんな恵まれた環境にいるのだから、別に問題ないじゃないか。

 そもそも刹那は心は女の子なのだ。自分が死ぬかもしれないと泣いて、一人で寝るのも心細くなるような子が、そんな得体の知れない物と一緒にいたいと思えることありえるか?

 

 なンだ。全然問題ないじゃないか。むしろこれが普通。これが当たり前。OK? 僕さん僕さん、頭冴えてるね。どうせなら右足ザックリ切ってもらうのも有りだよ。博士なら資金さえあれば本物そっくりな義足くらい余裕で作ってくれるダろうし、魔の気配がある代物だ。もしカしたらそれを報酬として、タダでやってくれるかもしれないよ?

 

 博士には、訊かれたこトでわかっていることは全て伝えた。

 彼にしては珍しく、真面目な顔で、僕の脚のことも含めて、怪異を解決するために動いてくれると約束しテクれた。

 

 ……刹那とは何か言葉を交わした覚えはあるが、内容は全く覚えていなイ。

 

 ただ、とりあえずこの家を出て行くことはしないようで、それだけは安心した。

 僕のせいで刹那とセイバーが住む所が無くなるなんて申し訳ないからね。まぁ、化物と同居するのが気持ち悪いとは思うので、博士やエルザ達と共に客間で寝てもらうことになったけれど。僕は、一人で自分の部屋にこもることにシた。

 博士からは「後で、落ち着いたらちゃんと謝るのであるぞ」と言われたので、きっと僕は何か失礼なことを言ったのだろう。それだけがちょっと申シ訳なかった。

 

 ――でも、刹那の問題は当面解決したのだし、僕だけの問題であるならば、どうにかなるだろうト思えば、少しは心も軽くナルというものだ。

 

 

 そういう訳で、右足をどうするか考え中でござる!! ござるざる!! 足チョンパは痛いし、今後の人生のデメリット考えると下手には切れんよ!! そもそも片足だけになったら、お父さん心配するからね!!

 ふふふ。僕がそんなうじうじいつまでも悩んでいると思うなよ!! バカめ!! 僕の精神のタフさ(SAN値)は百八まであるぞ!! ガリガリ削られて現在デッドエンドが見えかけててちょっと涙目だけどねバーカ!!

 

 さてさて、もうね、ぶっちゃケどうしろと? 僕がこの事件解決して覚醒とか、ここで得た能力で原作介入、改変とかあると思った?

 

 あるわきゃないよネ。僕がモブだってこと忘れちゃいけなイよ? そもそも、ギリギリで発狂回避=覚醒フラグではなく、ガチのクトゥルフ存在説はむしろ薄くなったと考えられるよ。だってモブ一般人ごときが仮にも邪神の眷属からの精神汚染に耐え切れルわけないじゃない。

 そう、何事も諦めとポジティブシンキングが大事。とりあえず生命保険とか入っておけば、死んでもお父さんは割りと楽が出来る。問題はお父さんが保険金目当ての殺人でもしたんじゃないかとか疑われることだ。ついデに言うとこの歳で生命保険入れるかなんて知らん。それならいっそ臓器売買でも手を出して身体バラして売った方が建設的だ。なのでここはポジティブに、割と大丈夫そうだと思っておくのが正解。アレ、デも子供じャ一人では保険ニ入るコトすらデきないネ。残念。

 

 あ~、しかしアレだね。右足さんが突然喋り出して、実は地球外生命体で、本当は脳を乗っ取って人間の世界になじむはずダったけど、脳を乗っ取れなくて人間の身体の一部として共存して暮らす的なパターンなら良かったのにね~。丁度右足だし、ミギーって名前付けるよ。

 まぁ、最近の人でこのネタ知ってる人がいるのか分からんけどね。分かった貴方は「あぁ、アレね」とか思っておけば良イよ。結構名作だよね。もうあの作品ラストどうなったかとかあんまり覚えてないけど。

 さてさて、博士には話したことだけど、改めてまとメよう。クヒ。

 

 現状、僕の右足は魔性の存在の身体の一部でアる。

 感想。恐ろしいネ。

 

 疑問。右足はいつからそんなことに? 昔から?

 予測。昔からという事は無い。なぜならソレならば精神汚染はもっと早くに起きていて、僕は廃人になっていた。ならば、最近のはず。

 

 思考。右足ヲ失って、代替物が付くような状況がいつあったか。

 確信。この前の僕の家近辺でのジュエルシードに取り込マれた化物。

 

 仮定。ジュエルシードの破片、或いは化物の細胞の一部を取り込んだまま身体が再生してしまったのではなイか。

 証拠。他ニ右足で思いつく事故などはここ最近全く無いから。右肩であったのなら、ショゴスと会った時という可能性が高かったが。

 

 推測。あの時、ジュエルシードに取り込まれていたサラリーマンのおっサんに何かかかわりがあるのではないだろうか。

 証拠。他に思いつカないから。

 

 

 こんなトころだ。

 実際、博士がこの近辺で見かけていた魔の気配を持つ男というのもサラリーマン風の格好をした、草臥れた中年男だっタらしいし、可能性は高イ。

 寂しイな。誰かのぬくもりが欲しイ。

 

 今はそんなのどうでも良い。

 さて、そうなるととれる行動と言うのは限られてくる。

 

 一つ。博士に全部任せてこのまま引きこもり。ある意味、一番モブとして正しい行動。但し刹那達が家に居づらくなるのであまり家にはいないほうが良いだろう。

 一つ。博士に協力してもらって、一緒に怪異解決のため頑張る。ぶっちゃけ僕らしかラぬ主人公ッポイ考エでニアワナイ。ヒキコモロウ。トモダチがイルんだからイイジャナイか。いあいあだご――。

 え~っと、次、一人で怪異解決に向けて尽力。

 これは無理。どう考えても無理。デモヤッテミル価値ハあルわけが無い。自分の力量を考えてみよう。頭は並。力は並未満。戦闘能力は無し。下手したら小学一年生の体格良い子にすら負けそう。

 

 唯一の怪異への手札。僕の脚になっている誰かの右足。

 

 ……あれ、無理ゲーじゃね?

 

 いやいや、諦めるなって。僕ドウ考えてもマダマダいけるって。

 大丈夫だって、本当。とりあえず深き者共の仲間入りするくらいなら素直にこの命断つワ。死体を有効利用されないように自分に灯油かけて焼身自殺するわ。

 おーらいおーらい。心を強く持ってれば、割とドウニカナルトオモッテイルノカ?

 思ってますが何か? 僕の思考が飛び飛びなのはいつものことだから、要はいつもの変な電波にちょっとアブないんが混ざっちゃってるダケダト思えば問題ない。

 大体だね、なんだかんだで原作準拠で進んでいるっぽいこの世界で、そんな世界崩壊レベルの原作関連しないイベントが起きると思う? 無理無理。無いって。ソンナモノある訳がナイ。

 あ、そっちの思考が肯定したからありえるのカ? まぁでもなんとかなるだろ。こういうのはね、諦めたら負けよ。諦めも肝心だから、無理と判断したら死ぬことにするけど。

 しかしアレだね。後遺症とか怖いけど、やっぱり右足ザックリ斬ってみようかな。精神汚染と右足欠如なら、右足欠如のほうが楽だし、ドクターなら死なないようにうまいこと手術くらいできるだろうし、どのへんまで侵食されてて、どのへんまでが他人の足になってるのかが分からない以上は自分で切っても意味がないかもだから自分で切るのは最終手段だなぁ。

 

 ケタけタクフふ……。

 

「失礼するのである。ショタっ子、大丈夫であるか?」

「大丈夫ロボ?」

「あぁ、割かし回復シマシタ。全然余裕デス」

 

 クフ、と笑いが浮かぶのを止める。面倒くっさいなぁこの身体と精神。

 

「全く余裕には見えないのであるが……貴様がそういうのならばあまり深くは訊かないのである。で、まぁ怪異解決にあたって、我輩からショタっ子に一つ条件があるのであるが」

「ハイハイ、お金の問題じゃなければなンデもでうぞ」

「うむ。殊勝な心がけは良いことであるぞ? では早速だが、これに着替えるのである。エルザ」

「はいロボ!!」

「アイアイ……あい?」

 

 博士の言葉に、勢い良く背中に隠していた服を僕の前に広げるエルザと、あっさり快諾したものの目の前の物が理解出来なくて少し思考停止する僕。

 

「え~っと……え~っと? なんぞこれ?」

「うむん? 見て分からぬか? 女物の服である」

 

 広げられた服は、純度百パーセントまじりっけ無しの真っ白な甘ロリ服であった。一言で言えば、ネクロノミコンことアル・アジフがデモベで着ている衣装に似ていた。スカート部分は超ミニ。明らかにちょっト動くだけでパンツが見える。

 ついでにいうと、その見えるであろうパンツや、頭につけるのでアろうリボン、そしてつけたら腰元までありそうな黒髪のウィッグも一緒にエルザの手に握られテいた。

 黒髪ならエセルドレーダじゃね? と思っタけど、まぁ正直どっちも僕が着るには無理がある気がするですよ。ついでに言うと、アルが着ていたのよりもなんかロリっぽさが強いトイうか、なんともいえない服になっていて、アルのコスプレというにも微妙に違いソうだ。

 

「いや、それはこの如何にもな甘ロリといい、スカートといい、見れば分かるけどね? え~っと……? なして?」

「深き者共は人間の女、特に少女が性的な意味でも食事的な意味でも大好物なのである。よって、女の子の格好で囮になってもらうのであるが。うぬ? よもや嫌なのであるか?」

「嫌ロボ?」

 

 多分、ここで「いや、エルザちゃんがいるじゃないですか」とか言ったら「エルザにそんな危険なことさせられるわけないのである」とか怒られそうなので言わナイ。僕空気読める子。

 

「いや、別にイヤじゃないんですけどもね? いきなりだったカら、博士変な趣味に目覚めたのかと」

「貴様の中で我輩どんなキャラ付けなのであるか!?」

「ライバルのガチムチ君の女装姿に頬を染めて視線を逸らすキャラデス」

「当たりロボ」

「そういえばそんなこともあったであるな……」

 

 ふっ、あの頃の我輩は若かったのである。とか遠い目をして言ってるケレド、博士、今のアンタのほうが肉体年齢的には若いんだからね? っていうか、しかもそれは原作ウェストのことデあって、アンタじゃないからね?

 まぁ、大十字九郎の女装姿がありえない完成度であったことは僕も認めるが。九郎本人も鏡で自分の姿を見せられてあやうくそっちの道に目覚めそうになって、柱に頭ぶつけて血を流しても止めないほどの破壊力だし。

 

「まぁそう言うわけであるので、ちょいと面貸すのである。あぁ、昼飯は奢ってもらうので財布は持参するように、なのである」

「あ、そこはたかるんダ!?」

「そもそも友人でもなんでもない奴の命を救ってやれるかもしれなくもない? という状況であるわけであるからして、救ってもらえるかもしれなくもない貴様がそこに文句をつけるのは筋違いなのである。

 本当だったら何十万とかもらっても足らんくらいなのであるが? まぁ、そこは貴様が小学生であるという点から勘弁しておいてやろうと思うのである」

「そうロボ!! 博士にしては現実的判断ロボ!! 今回ばかりはエルザも博士の味方ロボ!!」

「え、エルザ!! 遂に我輩の愛に気付いてくれたのであるか!?」

「それとこれとは話が違うロボ。死ねロボ」

「エルザが冷たいのであぁぁぁぁるうううぅぅ!!」

 

 なんか博士が泣き始めたけど心底ドウデモイイ。っていうか、ご飯もおごりますし、注文どおり着替えるんで、部屋出て行ってもらえませんかね……? 流石に人前で着替えるのは僕ってば恥ずかしいお年頃ですよ? しかも女物。

 でもまぁ、あっさり却下されまして、エルザに全裸に剥かれてキッチリ着付けられまシた。

 うぅ、もうお婿にいけない……よもや年頃の女の子に全裸にひん剥かれることになろうとは……。

 その上、僕としてはちびっ子の化粧は肌を痛めるし反対派だったというノに薄く化粧までさせられて、えぇ、それはそれは完成度の高いロリっ子が完成したらしいけど、僕は刹那という真の男の娘を知っているのでそんな可愛いとは思えんでしたよ。

 

 ちなみに、刹那はモンスター○ールをセイバーに渡してあるし、目を離しても大丈夫だと判断したそウだ。

 確カに、刹那は襲われたら混乱して何もできないかもしれないが、セイバーならばいち早く混乱から立ち直って刹那の身を守ってくれるだろうから安心だ。

 

 かくして僕は、博士達と共に怪異の元凶の探索に出ることにしタ。

 

 

 

 

 やっほ~、皆元気? 私だよ私!! 義嗣ダヨ!!

 

 ……うん、すまない。女装中なんだ。割と似合ってるのが笑えるヨ。ショタっ子の異名は伊達じゃないね、女装もそれなりには似合う。男の娘として大人気になるほどではないと思うけども。やはり男の娘としての可愛さでは刹那ほど可愛のはソウソウいないだろうと僕は自慢するよ。

 

 で、怪異探索に来たはずなのに、何故かバッタリ出会ってシマって目の前には今日僕と会ってからずっとクスクス笑っているはやてちゃんの姿。

 我ながらはやくなんとか今の状況をなんとかしたいと気はあせっているのに、博士は何もアクション起こさないので、仕方なク焦りを隠して僕が車椅子を押しつつリーンちゃんが先導する形デ一緒にお散歩チュウだ。

 

「ヨッシー、そのまんまの格好しといた方がモテるんちゃうか?」

「いやいや、男の子にモテても嬉しくないカラ。僕は女の子が好きだから。ハヤテチャントカ」

「ふ~ん? まぁ私もヨッシーのことは割と好きやで? ちっこくてかわえぇし、何より予想通り女装が似合うのがポイントや」

「ごめん。全部男の子としては嬉しく無いポイントダネ」

 

 なんというか、最近博士が魔の匂いがするサラリーマン風の男を見たというのが公園だったコトから、そこから探索をスタートしたら、あっさり知り合いに見つかってしまっタ訳であるのだが、なにせ休日だ。むしろはやてちゃんで良かったというべきだろう。お互い話の種にできるのは良い事だ。

 

「しかしなんやな。まだ体調悪いんちゃうか? なんやカタコトっぽいで、喋り方」

「あ~ウン、喉がちょっと調子悪くてネ」

 

 ごめんね~、こればっかりは直しようがナクテ。ササゲロ。

 

「なんや大変やな~。しっかし、アレやな。ヨッシーって愛情表現とか結構ストレートな方なんやなぁ。風邪のときと言い、今といい、随分積極的やんか? おマセさんになってもうたんやなぁ。お姉さん悲しいでぇ~」

「好きな人に好きッテ言うのは普通のことじゃない? 割と恥ずかしかったりはするけど」

 

 メノマエノオンナヲササゲロ。

 はいはいワロスワロス。これマルチタスクの練習とかになりソうだな。僕魔法使えないけど、マルチタスクってあると便利そうダ。

 っていうか、やっぱり精神汚染にしては軽すぎる気がするよ。確かにキツいけど、耐え切れない程じゃないし。精神的に余裕があれば殆ど問題ガナイ。

 

「んふふ~、なるほどなぁ。逆に、幼いからこそ素直に言えるっちゅうやつやな!! ヨッシーは身長も性格もそのまんまおおきゅうなるとえぇで!!」

「身長は伸びてほしいな~。性格はこのママいきたいけど」

 

 オソエ、ウバエ。

 抱きつくのは有りだけど、唇奪うのは主人公格の仕事だと思うですヨ?

 

「あかんなぁヨッシー。ヨッシーは需要っちゅうもんをわかっとらんわ。えぇか? 需要と供給っちゅうんは中々釣りあわへんもんなんや。特にショタなんて貴重やで? 永遠のショタ、これはもう誰がどう考えても引く手数多のレアもん中のレアもんの属性やで? 絶対美人なおね~さんとかが言い寄ってくるおもうねんけど、きっとボインちゃんばっかりなんやで? おっぱいやでおっぱい。揉み放題やで?」

「女の子がおっぱいおっぱい連呼するのはどうカト思うよ僕。そしてそんな需要に応える気はサラサラ無いよ、僕は」

 

 はやてちゃんだって下半身不随の車椅子に乗った薄幸の美少女なんて需要にずっと応えたくないでしょ? 僕だってそんなはやてちゃんよりも、ニコニコ笑って皆に笑顔振りまいて、笑顔を伝播させていくはやてちゃんの方が好きだし。供給と需要が必ずしもつりあう必要なんてナイじゃない。

 まぁ、思っても口には出さないけどね。恥ずかしいし、こんなのは主人公とかが言うことだ。思いついただけで恥ずかしい。本音ではあるんだけども。

 

「せやかてヨッシー少年。女の子はおっぱいや。1に性格2におっぱい。3、4に家事スキルで5におっぱいなんやで?」

「なにソレ新しい。そして全国の貧乳少女に喧嘩売ってることに気付いてはやてちゃん」

「私も無いから許されるはずや」

「いや、今は身体自体が小さいんだから当たり前じゃない」

 

 まぁでも、貧乳だって別にいいじゃない。揉むなり鑑賞するなり抱きしめたりするなら大きいほうが良いだろうけど、無いなら無いで可愛いジャない。

 コレのような意見を前世で言ったら「やっぱりお前男色の気が……」とか言われた覚えがあるけど、言った奴は貧乳女性陣にフルボッコされていた。

 まぁ、全員、そいつとそういう関係持ってる女の人だったけどね。普段あんなでもベッドの上ではどうとかよく自慢されていた。知ったこっちゃねぇよって感じだったけど。リアルハーレム男っているからね~。

 

 まぁそれはさておき。

 

「ところではやてちゃん。最近このへんで、若干ハゲがかっててヅラをかぶった中年のサラリーマン風のおっさん見なかった? 草臥れた感じの」

「ぶふっ。い、いや、ヅラかどうかなんかちらっと見たことある程度じゃわからんと思うんやけど。っちゅうか、なんでそんな人探しとんのや? あまりにもいきなりな話題転換の上に本気で関係無い話やったから若干吹き出してしもたで?」

「あ~、ゴメンごめン。ちょっと探し人でね、覚えが無いなら良いよ」

「あ、いやちょいまってや。もしかしてその人って少し明るいグレイっぽい黒のスーツに水色のネクタイして、あごひげちょっと生やした中年の人やったりする?」

「お? お~……あごひげはちょっと覚えてないけど、そうだったかも。暗い顔してた?」

「しとったで。この世の終わりみたいな顔やったわ」

 

 おぉ、これはいきなり美味しい展開ですカ? すぐ事件解決ですか? んなわきゃナイですよね、ヤッパリ。

 その後、はやてちゃんからはそノ人がいつの何時ごろにいたかという話を訊いてから別れを告げると、こっそり遠くから双眼鏡で僕を眺めていた博士と合流シた。

 はやてちゃん曰く、そのサラリーマン風の男は普段から全く同じスーツを着テいて、そのせいでスーツがよれよれになっているためまさに草臥れた中年男性といった風体で、ネクタイもいルも水色の物。少しあごひげは生えているくらいで顔はどこにでもイるような普通の顔。中年というよりはもう少し若く見るが、いつも暗い顔をしていてぶつぶつ何かを言っているためにすごく老けて見えるらしい。

 

 また、翠屋のケーキの箱を持ってベンチでぼんやりしていルことが何回かあったとのことだったので、それを博士に報告しようとすると「音声は拾っていたので大体内容は分かっているのである。あの関西弁おっぱい魔人の言っていた、普段この公園にいるトいう時間帯からずれていることも考えて、翠屋に一度行くのであるが、問題あるであるか?」と訊かれたので当然「問題無し」と応えておいた。

 

 ぶっちゃけ現在の精神状況ではまともに思考を働かせるのも結構な重労働だし、博士の言に従っておくのが一番楽ナノダ。

 

 で、なのはちゃんが居ない翠屋で軽食を食ベて(昼時はケーキ以外も頼めば出してクれるのだ)昼飯とし、更にデザートに二人がプリンとエクレアを食べて夕方まで公園を中心に探索を続けたが、その日にサラリーマンと接触することも、発見すルことも出来なかった。トリアエズお昼だけで四千円以上の出費だったこトはそっと、記憶の中から消しておキたい悲しい過去ダ。

 ――そして、明日は月曜日。一度学校へと赴かなければなラない。

 一度宝物庫にあのおっさんを取り込んだ悠馬がもし学校に来たら話を訊いてみようと、少し怯えた様子ながらも夕食を作って待ってくれていた刹那に少し物悲しさを感じながら夕食を食べつつ思う。

 そんな刹那と僕ヲ。セイバーとエルザが悲しそうに見ていて、博士は呆れたようにしていたのが印象的だった。

 

 とコろで、明日も同じ格好で学校に行けととても良い笑顔で博士とエルザちゃんに言われたんだけど、どうしよう。「仕草は時折女子な貴様であるが、せっかくだから口調も女の子っぽくするのである」とか言い渡されたンだけども、やっぱり博士、女装男子に興奮する変な趣味でもあるんじゃないよね?

 今日エルザちゃんが僕の着替えをさせる時だって、エルザちゃんがやたら鼻息荒いし頬が紅潮してて、博士がニヤニヤして見てたのクらい気付いてるんだからね、僕も。

 

 いあいあ、参った物ダヨ。




 12月1日より、オリジナル版の義嗣と嗣深の物語、始まります。
(なろうにて)


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29.理解者と限界

 5月2日、月曜日。黄金週間中において二回ある登校日の一度目でアる。

 朝、相変わらず少しビクビクしていた刹那だったけれど、僕が一人で家を出ようとしたら、いきなり手を掴まれて怒られた。

 

「やっぱりダメだよ義嗣。辛いのも、私達に迷惑をかけないようにしたいっていうのは分かるけど、そんなに露骨に孤独になろうとしないで」

「えっと……?」

 

 僕、甘ロリ薄化粧のロリ女装中。相手はリアル美少女外見の男の娘。何故か今日は男子の制服ではなく女子の制服。

 傍から見たラこれ、なんか女の子同士に見えてルんだろうか。いや、見えてるんだろうな。さっきすれ違った近所のおばさんが目をパチクリさせて、他のご近所さんとひそヒそ何か話してたし。

 

「ごめん。私もちょっと気味が悪いとか思ったのは確かだけど、やっぱり私にとって、義嗣は大切な理解者だからね。その……えっと、怖がったりして、ごめんなさい。だから、やっぱり一緒にいよう?」

「え、えっと……えっと?」

 

 イカん。ちょっとテンパってきたぞ。これどういう状況? って思ったら、玄関のドアを開けてこっちをニコニコしながら見ていて、こちらが気づいたのが分かると手を小さく振ってきている茶色のブレザーと普通のスカートをはいたエルザちゃんの姿がアった。

 ――って、アレ聖詳大附属中の制服じゃなイか。何気にご近所さんだっタんだなエルザちゃん。

 あ~……それにしても、なんだよもう。嬉しいじゃないか。

 

「……やっぱり、私みたいなブサイクで薄情な子は嫌いになっちゃったかな?」

「ニャ~!! もう、そんな訳ないジゃないのさ刹那!! 僕にとってモ刹那は大事な存在だかラ、一緒にいたいのでお願いしマす!! 学校も一緒に行こウ!! 一緒の布団は無理でも、また家でもお話してくれたら嬉しイよ!!」

「――ありがとう。義嗣。それと一緒の布団でもいいよ。やっぱり、なんだか寂しくてさ。セイバーに後ろから抱きしめられてるのも別に嫌じゃないって今は思えるんだけど、自分が人を抱きしめてるのって、凄く安心するんだ」

「あ~、それは分かるカモだよ」

 

 確かに人肌のぬくもりって、安心するヨね。マァ寝てる間に何しでかすかわかんないのが怖いけど、今のオレ。クヒ。

 

「だからね、え~っと……。……ま、まぁとりあえず学校に行こうか」

「あ、えっと、そ、そうだね!!」

 

 ……刹那、誤魔化し方無理やりだし、強引に握ってきた手はすっゴい震えてるし、何気に声も実は結構震えてるのに、無理しなくっていいのニなぁ。やッぱり優しいなぁこの子。

 

「エルザ~、そろそろ出ないと学校遅れるであるぞ~?」

「合点承知ロボ~」

 

 あ、そういえば博士は今日は単独で学校を休んで僕達の護衛というか、監視といウか、ワズラワシイヤツダ。まぁそんな感じのことをするために小学校にもついてくるらしい。

 セイバーもついてくるがこちらはあくまで刹那の護衛。

 骨伝導マイクとイヤホン? とかいうのを渡されて首元と耳の後ろに変な機械をつけさせられたので、何か指示があったらそれで伝えるとのこと。

 

 二人は博士お手製のステルス迷彩(サーマルセンサーにも映らないし、消音機能もついた優れものらしい)を着込んでくるらシいが、お前さんそんなものがあるなら窃盗とか繰り返したら簡単に大金持ちなんじゃないだろうかと思ったのは秘密である。下手なこと言って、「その手があったのである!!」とか言い出したら怖いので。

 でもまぁ、窃盗とかのレベルならまだマシなんだろうネ。

 もし博士がどっかの軍隊とかの研究施設に入ってたら、量産簡単超高性能大量殺戮兵器による旋風がこの世界にまきおきていただろうし、本当良かったヨなぁって思うヨ。

 もしこれデ博士が「非人道的研究も、資金も自由にどうぞ」って言われてお隣の独裁国家あたりに流れちゃってタら、下手したら世界征服されててもおかしくなイし。

 

「ところで義嗣」

「ん? 何? 刹那」

「その格好、とっても似合ってて可愛いよ」

「刹那には到底かなわないよ」

 

 なんニしても、少し震えながらも薄く微笑んでぎゅっと手を握りながらそんなことを言ってくれる刹那は、本当に可愛くて良い子だなぁと思った。女装褒められてもあんまり――いや、ちょっと嬉しかったりする不思議な感覚だけど、まぁあとりあえずそこまで嬉しくはないんだけどね。

 

 

 

 

 学校である。アリサちゃん、すずかちゃんに挨拶したら同時に「「……誰?」」って感じに反応されたのは悲しムべきか、それとも女装癖が無いと信じてもらっていたことに感謝すべきか。どっちにしろ僕の色々な沽券とかは欠片も無く粉みじんに粉砕された訳でアるが。

 で、更に刹那も女の子の制服着てることでクラス中から「どうしたの?」とか「なんで女子の制服なの?」トか「佐々木さんは僕の嫁」とか色々な声が聴こえてきた。ところで最後の奴はちょっと頭冷やそうぜ。刹那は虎次郎の嫁だから。刹那にその気があったら僕の嫁デも可であるが、まぁどっちにしろ女の子に戻ってからの話である。

 

「さ、佐藤くんが、裕子ちゃん? いや、裕子ちゃんよりも可愛い? ど、どういうことなんだろう」

 

 あ、隣の席の鈴木くん(覚えてる人いる? 唯一のモブ友達にシて、僕の中の好感度が一番低い友達)がなんか言ってるけど、気にしマせん。ついでに言うと、僕が制服ではないことに誰もツッコミを入れてなくて、刹那が女子の制服であることにしか注目していないのがなんともかんとも、って感じであル。

 結局、囲まれて質問責めにあっていた刹那が解放されたのは先生が入ってきた時のことであっタ。

 なんていうか、大変だね、刹那。僕なんか今こうして女装して制服ですらない格好ナのに、先生に何も指摘されないままスルーされたよ。

 何故か、恵理那さんからはガン見されてて嫌な汗をかいたけど。

 

 

 そして僕は相変わらず殆ど注目されないまま(それでもやはり多少は目立ったのか、たまに僕のことを指差して何か言ってるのとかもいたけど)お昼となった。いつもの通り、屋上で一緒に弁当を食べる僕と刹那。今日はそこにアリサちゃんとすずかちゃんも一緒だ。

 

「しかし刹那、アンタ女子の制服が嫌なくらい似合うわね。女の子として色々自信無くなるわ……」

「そうだね……そ、それでもやっぱり、格好良いっていうか、その、私は好きだけど!!」

「あはは、ありがとうすずかちゃん、アリサちゃん。でも二人の方がずっと可愛いと思うけどね」

 

 う~ん、シかし本当に誰も僕の服にツッコミ入れないな。僕、朝出かける前はどうなることかと胃が痛くなりそうだっタのに拍子抜けだ。本当モブだなぁ僕。それとも因果とやらの微弱なステルス機能とやらが効いてる状態だからこそナんだろうか。

 普段なら若干ションボリであろうが、こういう状況ではありがたかっタ。

 

「それにしても、二人して女装ってどういうことかと思ったけど、虎次郎とそんな罰ゲーム賭けてやってたなんてね。あいつもバカよね~。折角させたのに本人がいないんじゃ仕方ないのに」

「ははは、まぁ仕方ないよ。むしろこっちもそれを狙ってわざわざ居ない日にやってるんだし」

 

 あ~、なるほどネ。虎次郎カら受けた罰ゲームの結果ってことにしたのか。それなら確かにありえなくもないしわかったわ。それにしテも僕にツッコミが全く来なかったのは本当に予想外だけども。モブって多少のことじゃ目立たないのは凄いね。

 あ、いや、刹那ってば僕が目立つの嫌いなの知っててわざと自分も女装してきたのカ? つか、女の子が女装するって言い方も変だけド。

 

「でも刹那くんは本当、何着ても似合うよね……」

「っていうか、こっちはもう慣れてきちゃったけど、ヨッシーのほうよ、問題は」

 

 あ、そして今更ツッコミくるんだ。遅くナイ?

 

「あ~……確かに、可愛いけどちょっと――その、え~っと、スカート短いよね」

「ちょっとどころじゃないわよ。階段なんかでは一段下にいるだけで全部見えるわよ? っていうか、さっき実際ずっと見えてたわよ。下着まで女物なのにはどう反応したものかと思ったわよ全く」

「アハハ……いやぁ、虎次郎の注文でネ!!」

 

 僕の発言に、すずかちゃんは苦笑しているが、アリサちゃんは「ああいうのが好みなんだ虎次郎……っていうか、やっぱりアイツそっちの気があるんじゃないかしら……」とか言いながら考え込んでイた。

 ごめんね虎次郎、お前がいない間におまエの同性愛疑惑が再浮上してきチゃったけど、頑張ってね?

 心の中で虎次郎に謝罪しツつ、僕は刹那お手製の甘くて美味しい卵焼キに舌鼓を打つのであった。

 

 

 

 午後の授業中、ガキン、と頭の中で異音が響いたが、気にシナイ。

 暫くして、背後に、足元に、誰かの気配を感じたが、気にシナイ。

 

 皆大好きダカラ、愛シテイルカラ、ジブンダケノモノニシタイ。

 シテシマエ。

 

 ぐるぐると渦巻く黒い欲望と、甘くて従いたくなる声に、やれやれとため息を吐きたくなる。

 

 とてもくだらない妄想ダヨネ。ちゃんちゃらおかしい。

 それは愛じゃないよ。ただの独占欲だ。嫉妬するのも良いし、やきもちやくのもいいけれど、相手のことを考えない愛なんて、それは自己愛でしかない。子供のわがままだ。嫌がる猫や犬を無理やり抱きしめたり、野生の鳥を捕獲して鳥かごに放り込んで飼おうとするのと変わらない。

 それで愛していると思い込ンデ、噛み付かれたら文句を言う。バカじゃナイの?

 

 君のそれは、愛なんかじゃない。精神汚染なんてちゃんちゃらおかしい。これはただの誰かのエゴだ。その執念とかそんなものが、どうせなんかの能力で僕にでもとりついてるんだろ?

 

 僕の思考に苦情を言うかのように右足に締め付けるような万力で一箇所を潰されているような。ナイフでグザグザ刺されてイルような酷い激痛が走るけど、知ったこっちゃない。

 僕を侮るなよ? この程度の痛み、我慢できなくて何が男の子か。

 邪神の眷属? 精神汚染? ふん、僕を染めたければその三倍は持ってこいというのだ。

 

 ――なんてね。ギル君みたいな発言をしてみたり。本当は半端なく痛くて、今がいつだかわからなくなって、叫びだして走り出したいし、足を引きちぎりたい誘惑にも駆らレルけれど、耐えられナイわけじゃない。

 脂汗も酷いし、顔色も多分真っ青だろう。

 

 でもさ、僕ってば歩けるじゃない。走れるじゃない。痛いけどさ、僕の脚はここにあるじゃない。

 ここに足があるからこそさ、痛い訳だから、だったら、痛いくらい別にいいじゃない。僕、非戦闘要員だもの。気が狂いそうなほど痛いけど、実際に傷ついてるわけじゃないもの。本当に前線で身体張っテ傷つくのは、なのはちゃんとか、虎次郎とか、刹那とか、悠馬とかナンダ。

 それにクラベタラどうせ一時的なイタミでしかない。

 

 それに考えてごらんヨ。はやてちゃんなんか、最初から足動かないんだよ? 闇の書が起動したら一時的に良くはなっても、どんどん苦しむんだよ? 歩くどころか、生きることすら辛いくらいの苦しみに苛まれるんだよ?

 だったら、耐えて見せるよ。僕男の子だし。男の子ってのはやせ我慢して格好つける存在なんだよ。

 はやてちゃんはきっとソレに耐え切れたんだカラ、ダッタラ、僕だって男の子として、譲れないプライドがあるモノ。

 

 そして放課後、ようやく少し退き始めた痛みに内心感謝を捧げつつ、授業中に何度も意識を失いながらも耐え切った僕は、刹那やすずかちゃん、アリサちゃんに心配されたけど、一人で学校から出て歩き始めた。

 博士からの連絡で、二人よりも一人の方が狙われる可能性があるからということで囮として今日も歩くことになったのだ。

 脂汗のせいでエルザちゃんがしてくれた薄化粧は殆ど意味が無くなったけれど、おかげで気にせず顔を洗ってサッパリできたので結果オーライということにしておこう。折角してもらった化粧が残ったままだと顔を洗うにも抵抗があったからね。

 本当ならお風呂に入って、服も着替えたいけれど、今は関係ナイ。どうでも良い。アルクノガ僕のシゴトだ。

 

 一人でふらふらと歩いていると汗で服がべたつくし、どんどん右足の違和感が酷くなって、時折足がもつれるけれど、どうでも良い。

 

 ソモソモナンデボクハコンナコトヲシテイルンダロウカ。

 ナンデ、コンナクルシイオモイヲシテマデ、ガマンシテイルノダロウカ。

 ラクニナロウ。ゼンブメチャクチャニシテ、ササゲテシマオウ。

 

 うるさい。黙れ。お前のわがままを聴いてるほどこっちも暇じゃないのだ。わがままなんて自分で抑えてよね。こっちだって色々な欲が湧いても我慢してるんだから。貧乏人舐めんなよ。贅沢はテキなんダからね。自制心は割トアルほうなんだからね?

 

 視界がぐるぐる回る。ちゃんと歩けているだろうか。博士からの指示はナイ。きっとちゃんと歩いている。

 人間の姿が全部、不定形ナナニカに見エル。重症だね。まずいかな。イヤ、ダイジョウブだよ。オカシクナンテナイ。

 

 猫がいた。可愛い。クビリコロシテヤリタイクライ。そんなことするわけないじゃないか。もふもふするんだヨ。もふもふって知ってる? 僕の一部なんだから分かるでしょ? すんごい気持ちイインダカラ。シアワセな気分にナレるンダカラ。アヘンヤ人間ノ女ノアジニハトオクオヨバないけどね。

 アヘン? 僕そんなモン吸う気無いよ。女の人を性的にも食事的にも食う気は無いよ。僕は無理矢理とかカニバリズムを認める気はないのだ。カニバリズムは両者合意の上でナラ別に否定はしナイけど。

 全く、どこの宗教団体さ。あ、そうか、深き者共か。不健康な奴等ダ。

 

「――呆れたわね。アナタ一般人みたいなのに、そんな呪いによく耐えられるものだわ」

 

 声がキコエタ。顔を上げると、白くて綺麗な髪と、透き通るような肌、真っ赤な瞳はとてもウツクシクテ、グチャグチャにハカイしてやりたくなるような。

 呆れたような声ナノニ、とっても優しクテ、頭をナデられタような気がして、ボロボロ涙が流レタ。

 

「オトコノコだからネ」

「ふぅん――立派じゃない? そんな可愛らしい格好してるのに」

 

 くすり、と微笑むソノ姿ハ、まるで天使ノヨウダッタ。




 オリジナル版を小説家になろうにて掲載開始。タイトルは
「輪廻転生ラプソディ~双子兄妹のドタバタ騒動記~」
 となっております。


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30.尋問と奇襲

 というわけで(どういうわけだ)、なろうのほうのオリジナルがお気に入り200突破したのでこちらも更新です。
 亀更新ですいません……ッ!!
 一応、あちらのお気に入りが10増える毎にこっちも1話ずつ更新かなーという予定です。最近予定は未定状態で絶対かどうかはちょっとわからないですが!


「ずっと向こうの小さな通りに貧しい家がある。 窓が一つ開いていて、テーブルについたご婦人が君には見えるだろうか。

 

 顔は痩せこけ、如何にも疲れ、彼女の手は荒れ、縫い針で傷ついて赤くなっている。彼女はお針子をしているのだ。

 そのお針子の女性が時計草の花をサテンのガウンに刺繍している。ソレは女王様の寵愛を受ける侍女のためのもので、次の舞踏会に着ることになっているのだ。

 

 けれどその部屋の隅のベッドでは、幼い男の子が病に犯され横になっている。

 酷い熱があって、オレンジが食べたいと言っているけれど、お金の無いあの母親が与えられるものは近くの川で汲んだ水だけなので、その子は泣いているのだ。

 

 ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん。 私の剣の柄からルビーを取り出して、あのご婦人にあげてくれないか。私の両足はこの台座に固定されているから、行くことが出来ないのだ」

 

 コレは、有名な童話、幸福な王子様の一節だ。

 葦という生物ですら無い存在に恋をして、友人達と共にエジプトへと渡っていくのが遅れたツバメが純金を張り巡らされ、美しい宝石で彩られた幸福の王子と呼ばれる像の元で一晩を明かすためにやってきた時に、王子がツバメに言った台詞である。

 

 これを優しいという人はいるだろう。実際、彼は優しかった。身の破滅をしてまで自身の体を文字通り身包み剥がして恵まれない人々に与えていったのだ。

 

 でも、そのせいでツバメは、親しき友人の目玉をくりぬくことになった。友人の美しい皮を、一枚一枚はがさせられることとなった。

 そして、最後には同族たる友と共に旅へと出ることも出来ず、遂には死んでしまうのだ。

 

 王子は、自分勝手だ。確かに、最後に天使が壊れた王子の鉛で出来た心臓とツバメの死骸を持って帰ったことで、天で永遠の生を得たかもしれない。

 

 けれど、現実はそんなに甘くないのだ。

 

 ツバメは彼のわがままで死んだ。同情すべき隣人は、親愛なる友となり、遂には愛すべき恋人となった彼の身体を壊させられて、散々に苦しい思いをして。。

 

 そして、ツバメが運べる程度の量の純金はともかく、宝石を渡された人々は本当に幸せになれたのか?

 

 かなり貴重な、一千年前の宝石を渡された人々は、それを売ることで本当に幸福になれたのか? 過ぎたる財が、全てを狂わせてはいないか? 盗品であると思われて、罪に問われたりはしていないのか?

 

 王子は世間知らずだった。ツバメは、結局お人よしだった。

 

 そして何より、感謝を捧げるべき人間達が何も知らずに他人の物であった物を売って自身の幸せを享受することに罪悪感を覚えず、自己犠牲の心に溢れていた王子を、小汚い像などと言って、王子を溶かして代わりに自分の像を建てようとする大人たちの姿が、何より嫌だった。

 

 報われない物語は嫌いだ。

 天に昇って幸せに暮らしたなどと、誰が知るのだ。

 

 ――それでも、あの時の私は信じてしまっていた。

 

 信じる者は救われる。愛する者は愛される。努力すれば、報われる。

 

 バカな話だ。今思えば、自分でもどれだけバカなことをしたのだとも思う。

 

 それでも私は、全てを捧げた。信じた。全身全霊を持って愛した。愛される努力をした。

 

 騙されていても良いと、そう口では言っても、本当は愛してくれているのだと信じて、全てを持って、愛した。捧げた。身も心も、何もかも。

 

 

 ――でもソレハ、最悪のカタチで裏切らレた。

 

 

 私にトってのツバメは、ただ私ヲ食い物ニする薄汚イハイエナのようナドブネズミで。バラ撒く財貨をスベテかすめトラレテいタ。

 私ガ幸せヲ願ッタ人は、皆私を裏切っテイッタ。

 

 全てヲ愛シテイタ私が、全テに裏切らレタ。全テを愛スル私は、全テを手に入レタカッタノニ。願イはグニャリトねじまげラレタ。

 

 ダカラ、いっそソンナ汚ラワしイ連中シカいない世界ナんテ、全テガ滅ンデしまえばイいノニト願ッタ。

 

 思い出シタノハ、破壊ノ化身。何時ゾヤに読ンダ、不浄ナル神々。

 いあいあ、くとぅるふ。

 いあいあ、だごん。

 いあいあ、くたぁと。

 いあいあ、あざとーす。

 

 願いハ成就シ、私ハ力ヲ得た。

 

 

 

 

「――なるほど、ね」

 

 ギシリ、と頭の中でまた変な音が聞こえた気がしたけれど、苦痛も眩暈も、すべてが随分楽になっていた。

 僕の右足には今、真っ赤な不思議な触感の布――どこぞの正義の味方が着ていた、或いはどMでどSな可憐なシスターが使っていた赤い布が巻かれている。

 

 ぶっちゃけると、聖骸布だ。

 

 聖遺物じゃないかとか色々言うべきことはあるのだろうが、これが投影品であることは分かっているのでいちいちツッコミを入れるのも野暮というものだろう。目の前で投影したのだし。

 

 そして、その聖骸布を敢えて一部だけ外していた部分に手を当てていた白髪赤目の子――言うまでも無く津軽恵理那さんが閉じていた目を開けてため息を吐きながら呟いた。

 

「なるほど、っていうのは?」

「貴方も聴こえたんじゃない? この右足に寄生してる存在の断片の声」

「――今の、やっぱりそうなんだ?」

「少なくとも私はあんなキショい男の声なんて出せないわね」

「了解ですです」

 

 はぁ……なんだろうね。嫌になるけれども、現状をまぁまとめてみよう。

 

 現在の場所は、例の公園の一角だ。人払いの結界を張った上で、津軽さんが僕の右足に「呪いを無効化できるかは知らないけど、少しは弱めることが出来るはずだから」と言って聖骸布を投影して巻いてくれて、大分楽になっていた。本当にいくら感謝してもしたりない。思考に入るノイズのような暗い思考も発生していないし。やれやれだ。

 

 ちなみに、博士からは「ヨシーク、とりあえずそのままその女から情報を収集するのである。オーバー」と連絡があったので、遠めに観察は続けているのだろう。

 

「それにしても、脅しをした次の日には変な魔力を感じると思ったら、ゴールデンウィークの間にこんな呪いになってるなんてね……全く。あれだけバカみたいに禍々しい魔力発してたら魔術師なら誰でも気付くわよ? だっていうのに、貴方みたいな一般人がどうしてこんな怪異に巻き込まれたのか小一時間は問い詰めたいところだけど――まぁ、どうせあのバカ虎あたりに巻き込まれたんでしょ?」

「あうあ~……えっと、そういうわけではなくてね? え~っと、むしろ虎次郎達には助けられたというか……危ないところを助けてくれたのは天ヶ崎くんと刹那というか……」

「天ヶ崎ぃ? ……あのキショいナンパ男が? それってあの男が貴方の足に何かしたんじゃないの?」

「いや、それはないと思うよ」

 

 なんとなくだけど、悠馬は死に掛けの人間を使って人体実験やっちゃうような奴じゃないと、本当になんとなくだけど思えるのだ。前は僕も結構色々と失礼なこと考えてたけど、あいつ悪い奴じゃないと思うから。

 

「ふぅん……はぁ。まぁ良いわ。それで、貴方結局どうするの? これから。それと、その可愛らしい格好の理由も教えてもらえたら嬉しいわ」

「あうあ~……えっと、えっとね? あの~……」

 

 どうするの、って言われても、どうするの? 僕。そもそもこの格好の理由って、僕が囮になるっていう目的のための格好だし。

 

「え~っと……どうするんだろうね?」

「……呆れた。何も考えてなかったの? じゃあその格好は何?」

「囮捜査のつもりで。ほら、呪ってきた相手が女の子好きらしいっていう情報を手に入れてね?」

「囮捜査ねぇ? 一人で?」

「え、あ~、いや、その、せ、刹那も協力してくれてるよ?」

「刹那……あぁ、あの子ね。男なのに女の子みたいな子。今日は女装してきたわよね。全く……あの子はまともな方だと思ってたのに」

「ごめん。それ絶対本人に言わないでね。その女装云々は僕が目だってさらし者にならないようにっていう気配りの結果だと思うし、刹那はちゃんと女の子だよ」

「――は? あの子が、女の子?」

 

 何を言っているのだこの子は、とでも言いたげに、ポカンとした顔をする津軽さんだったけれど、次の瞬間には爆笑していた。

 

「あははははは!! え、何? 貴方あの子に惚れたの? ぷっ、えぇ、いいんじゃないかしらね? ショタと男の娘でくっつくなんて、中々にくくっ、マニアックな光景だとは思うけど。ぷっ……くふふっ。うん、応援するわよ? あ~、面白い。くふふっ」

「あぁそういうタイプの反応か……」

 

 参ったね。確かに中々見ない組み合わせだとは思うけども。でもくっつくのは僕じゃなくて虎次郎だと思うんだけどもね。

 

「え~っとね、刹那って前世が女の子で、ちょっと神様の嫌がらせで男の子になっちゃったらしくてね?」

「え? なに? あの子性同一性障害? しかも前世系の厨二病持ちなの? ぷふっ――だ、だめっ、まともな子だと思ってただけに、ギャップが。あ~、何それ、本当におかしいわね。くふっ」

 

 ぬ~、僕はともかくあんまり刹那のこと悪く言わないで欲しいもんだよ。

 

「貴方、騙されてるんじゃない? まぁ、確かにあの子見た目は可愛いけど、アレは絶対何かあったら大事な物でも放り投げて逃げ出すタイプ――」

 

 パシン、と我ながら綺麗な音をたてて、平手の音が鳴った。

 何が起きたのか理解できないのか、目を白黒させる津軽さんが復帰しないうちに、僕は畳み掛ける。

 

「刹那は怖がりだし強がりだし若干猟奇的な面もあるけど、すっごく優しくて家事も勉強も運動も出来る凄い子で、誰かを放り出して逃げ出すような子じゃないよ。それと性同一性障害バカにすんな。周囲から見たらバカみたいな話だけど、本人は凄い苦しいんだからね? あんな素敵な女の子なかなかいないんだよ? 助けてくれたのは嬉しいけど、僕の友達をバカに――」

 

 スルナ。

 バカニスルナバカニスルナバカニスルナ。

 ドウシテワタシガムクワレナイ。ドウシテキュウサイサレナイノダ。

 奪エ、殺セ、犯セ、捧ゲロ。

 女ノ味ヲ味アワセロ。

 うるサい黙れ、今大事なトコなんだかラ。

 

 冷たい目をして僕を見下しナガら、話の途中デ僕の足に巻イテいた聖骸布を消しテ嘲るヨウに見てくる津軽さンに、キっと手をアゲルことを期待しているのだろうと思って、手を振り上ゲタりしないで、ただ叫び続ける。

 

「僕ハともかく、僕のトモダチを舐メルなヨ? 君ダッテどうせナニカ辛い事抱えテるんダロウケド、自分が不幸ダカラって、他の不幸ナ人間をせせら笑ウ資格なんて誰にもナイんだかラ!!」

「――言いたい事は、それだけかしら?」

「ウン」

「そう。それとどうでも良いけど私はこっちよ。本当にキツいみたいね。一時的とはいえ方向感覚も視力もなくなるレベルなんて」

 

 声のした方向ヲむクト相変わラズ冷たい目で僕を見下す不定形の――いや、津軽に、僕ハまた始まっタ右足の酷い痛みと、嫌ナ思考にイラつきながラモ頷いタ。

 そら痛イに決まっテルじゃないのサ。ぶっちゃケ今も視界がホワイトアウトしかけテるヨ。

 そうして、暫し私を見定メルカノヨウナ視線を向けてキテイタ恵理那はワアズラワシイ。犯セ。小さクタめ息を吐いて、ニヤリと笑っタ。

 

「貴方、魔術師の素質あるわよ。一般人なんてやめてそっちになれば? 魔力も結構あるみたいだし――常に何かに向けて放出されてるみたいだから、自分が使える魔力は少ないでしょうけど。女装したままでいるなら弟子にしてあげてもいいわ」

「ソレハドウモ。でも結構デス」

「あらそう? 残念ね」

 

 さして残念デモ無さそうニそう言う恵理那の姿は、どこか遠坂さん家の赤い悪魔を想像サセル、獲物を見つケタ猫の目デアル。

 私ヲ嘲笑ウナ。僕を嘲笑ッテるだけだト思うヨ。

 

「で――貴方はちゃんと現状、理解してる?」

「聖骸布がナイだけデ滅茶苦茶辛イね」

「そうね。で、私としてはね、根性見せた子にはご褒美として巻いておいたままでも良かったんだけど、平手打ちくらっちゃったからね。やっぱりそれ相応の態度とってもらいたいと思うんだけど、どう?」

「ナニガ?」

 

 う~、津軽さんの姿ガ不定形なナニカに見えてキタよ。

 

「わからない? 違うでしょ? 貴方、こんなとんでもない呪いを耐えてる時点で、ただの一般人、それも小学生だなんて言い張れると思ってる? 転生者で、何かしら呪いに耐性を持つ能力持ち。そうでしょ?」

「転生者ダケドそんナ物モラッタ覚エハナイよ」

 

 あレ、素直にコタエちゃっタけど、マァいいヤ。ドウセばれテルんだし。

 

「へぇ――それじゃあ耐え切れてる説明にならないんだけど。これ能力系の相当悪質な呪いよ。神格持ちレベルって言っても良い。ギルガメッシュあたりの対呪性能が無いとまず死んでる。或いは身体が乗っ取られて、今頃怪異の仲間入り、ってところかしら。素直に答えなさい。ギルガメッシュあたりの能力持ちなんじゃないの?」

「ギル君ハ悠馬。僕ハ他人ニ幸せヲ与エル能力ダッテ」

「――バカにしてる?」

「冗談抜ギデホンドウギヨ」

「……ちょっと、誰が膝をついていいなんて言ったの? 立ちなさい。まだ質問は終わってないわ」

 

 膝をツイテル? 何ヲイッテルのさ。ちゃんと立っテルヨ。

 

「とりあえず、願望叶えてもらったタイプじゃないのは分かったわ。少しだけ巻いてあげる」

 

 変なカタチをシた何かが僕にチカヅイテ何かを足にマイテいる。

 

 ぐるぐる。ぐるぐる。

 いあいあ。いあいあ。

 てけり・り? てけり・り。

 

「――次、どうせだからアンタのお友達三人の能力、知ってるだけの物は切り札も含めて全部答えな――熾天覆う七つの円環<ローアイアス>ッ!?」

 

 うぅ、少し楽ニなった、と思った次の瞬間、ヨウヤく視界がまともになりかけタ僕の眼に移ったのは、何時ぞやニ見た刹那のローアイアスが、七枚の色とりドリの美しい彩色になって展開され、ソコに何かガ爆発して一枚が破壊された。

 

「アァ~アイアムア、ロッケェェンロオオオオオオッル!!」

 

 喧しいギター音、アァ、博士カ。虎次郎や刹那ノ情報渡さレタラ困るカラ手を出してキタんだね?

 正直助かっタよ。暴力ナラもうこれイジョウのイタみなんてナイだロウカラ我慢スルけど、質問ダト反射的に答えチャうから。

 

「待たせたのであるなショタっ子!!」

「転生者――? 今の爆発系の術式か何か? でも魔力感じないし……科学系のチート? だとするとバズーカみたいな物? アレ、貴方の知り合いかしら?」

「ウン、割ト危ない人ナノデ逃ゲタほうがイイヨ」

 

 チナミニ科学系のチートとイウよりも、空想科学系技術開発及び生産チートダヨ。

 

「ふん、上等じゃないの。魔法も使えないのがたった一人で生身のまま私に刃向かおうなんて。剣群装填――」

「今だ!! 行くのであるエルザ!! 佐々木刹那!!」

「しまった、伏兵!? 」

「合点承知ロボ!! 我、埋葬にあたわず<ディグ・ミー・ノー・グレイブ>!!」

「叫んだら奇襲の意味が……もういいや――剣群装填、全解放<ソードバレル・フルオープン>!!」

「オマケでギタケロケットもう一発なのであぁぁぁっる!!」

「熾天覆う七つの円環<ローアイアス>――ッ!!」

 

 なのはチャンのスターライトブレイカーばりノ火力ガありそうナ(本物ミタこと無いカラ実際の所はワカラナイけど)極太ビームみたいな魔力砲と、刹那が投射した十数本の剣の弾丸、ソシテ博士がオマケで撃っタギターケース型ロケットランチャーが火を噴ク。

 

 全弾、直撃コース。とイうか、解説シテイル間に直撃シテイタ。

 

 再展開されたローアイアスの花弁が全部破壊サレテ、虹色の淡い光がソラにキラキラ舞う姿はトテモ幻想的だっタよ。

 

「やったであるか?」

「博士、それやってないフラグロボ」

「仮にもローアイアス……それも完全系持ちだからね。戦闘不能に陥るほどじゃない筈だよ」

 

 向こウハなんトモ気のヌケル会話をシテイルケレド、僕ガ近くニいるノニ割と情け容赦ノナイ火力ダッタネ。いや、僕がクラッタのは精々爆風と、吹っ飛んデキタ小石とかで額が切れて血が出てるクライナンダケドも。

 

「――危ないわね。レディに対する礼儀がなってないんじゃないかしら?」

「ほら、やっぱり博士がフラグを建てたせいロボ」

「痛ッ!? 腕がふさがっているのは分かるのであるが、ローキックは最近エルザのお気に入りなのであるか!? 毎回弁慶狙って蹴るのは我輩色々と辛いものがあって若干感じちゃうかもしれないであるぞ!?」

「ふざけてないで、次の攻撃用意だよ。投影開始<トレース・オン>」

「野蛮な連中ね。まぁ、かかってくるなら相手になってあげるけど――良いの? 私がいなかったら、この子の呪いの進行、止められないわよ?」

 

 おロ? なんか気付イタラ津軽さんに首根っこ掴まれて掲げられてるンデスが。イツノマニ? ッテイウカ、僕体重軽いトハイエ、よくもマァ片手でモチアゲラレルね。

 

「ふん。人質、という訳かい? 義嗣を避けて君にだけ直撃させるくらいのこと、僕達ができないとでも?」

「刹那、エルザ弾切れロボ」

「そういえば資金が底を尽いてから新しい弾薬を作るの忘れてたのである」

「どうして君達はそう緊張感の欠片もないのかな!? ここは嘘でも良いから余裕綽々な態度でいて脅しに協力してくれると嬉しかったんだけどね!?」

「おぉなるほど。確かにそうであるな。エルザ、次弾装填なのである!!」

「弾薬無いけど了解ロボ!!」

「そういう別の意味で余裕綽々でいられると困るよ僕!?」

 

 イヤァ、緊張感ナイナァ。

 

「……ねぇ、私バカにされてるのかしら……?」

「アレは割ト素でアアイウ人達ダカラ気にシタラ負けダヨ」

「――せめてバトルシーンくらいは、まともにやって欲しいものね……」

「ソレハ博士達にイッテアゲテ?」

 

 刹那は真面目にヤッテタから、イマ。

 




 EX更新は多分あと10分もせずに。


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31.お風呂と同盟

 気付けば夕方である。

 右足には再び聖骸布が巻かれ、とりあえずは精神汚染と激痛に悩まされなくて良くなったのは本当に助かった。脂汗が酷かったせいで激痛は終わってもずっと気持ち悪くて仕方がなかったけど。

 

 ついでに言うと、痛みが無くなったことで張っていた気が緩んで倒れそうだけど。っていうか、実際さっきまで気を失ってたんだけど。

 

 現在地は、僕の家である。

 なんかもう、どう説明したものかという感じなんだけど、あの後に僕が「恵理那ちゃん悪い人じゃないよ。助けてくれてるんだよ」的なことを言ったらしく、そのまま気を失ったとかで、ひと悶着あった末に僕を家へと届けたそうだ。

 で、現在の僕は聖骸布を脚に巻きつけたままお風呂なうである。これ濡らしていいのかとかちょっと色々心配だったけど、衛生面でも清潔な物を投影しているから大丈夫だと恵理那ちゃんに言われたわけである。

 額が割れて血が出てたのも治してくれたし恵理那ちゃんさまさまである。

 

 そして今は脂汗を全部シャワーで流して、べたついた髪の毛と身体を綺麗に洗い流して、とっても良い気分ではあるんだけども、問題がございまして。

 

「いや~、良いお湯ロボ」

「え~っと……えと、うん、そうだね~」

 

 何故か、エルザちゃんまで一緒に風呂入ってるんだよね。

 

 うん、一応この子中学生だし、胸大きいから色々目のやり場に困るんだけど、僕を後ろから抱きしめる形で一緒にお風呂入ってまして、背中にふにょんふにょん当たってるわけです。

 

 非常に、恥ずかしいですね!!

 

 もうね~、昨日も今朝も全裸に剥かれて着替えさせられたし、今更だろって思うかもだけど、相手も全裸っていうのはちょっと違うよね。

 そりゃあ確かに今の僕ってば小学生で、精通も来てませんから性欲なんてものもありませんし、別に変な気持ちになったりはしないですけどもね?

 正直、落ち着くしね……うぅ、中学生に母性感じてるのかね、僕。まかり間違ってお母さんとか呼ばないように気をつけておこう。お姉ちゃんなら有りだけど。

 

「今更だけど、もうちょっと慎みを持った方が良いと思うよエルザちゃん……」

「んふふ~。あの博士の作ったロボットが慎みなんて持つと思ったら大間違いロボ?」

「なるほど納得だよ~……」

 

 でもロボットって言うけど、こんな本気で人間にしか思えない質感と感触と体温、どう考えても人間にしか思えないんだよね……今更だけど博士の技術力の高さが分かるよ。

 

 あぁ、博士といえば、エルザちゃんが僕をお風呂入れてくると言った時に猛烈に反対するかと思ったけど、苦笑して「では任せるのである、エルザ」と言っただけだった。むしろ刹那の方が「いや、中学生の女の子が小学生とはいえ男の子と一緒にお風呂はどうかと思うよ!?」とか騒いでたよ。

 終いには代わりにセイバーを入らせようとしてたけど、それじゃあ得体の知れない相手がいるところで刹那が一人で残される形になって心配だから、とセイバーが断ったらしい。

 博士とエルザちゃんを戦力として数えてあげようよとか思ったけど、さっきのさっきだから信頼は出来ないよね、そりゃ。あの場面で弾切れでしかも自己申告しちゃうんだもの。

 

 とか考えてたら、エルザちゃんが前かがみになって僕の肩に顎を乗っけてきました。

 

「ん~……しかし、あれロボね。もっとこう、男の子だしもっと喜ぶかと思ったけど、そうでもないロボ? むしろ男の子同士の方が興奮するタイプロボ?」

「待って!? エルザちゃんは僕にどういう反応を期待してるのソレ!?」

 

 あと、耳元で囁かないで!? ぞわってしたから!! 呪いのアレに比べたら嫌どころか天国だけど!!

 

「ま、そういうどうでも良い事は置いておくとして……義嗣の体温的にそろそろ上がると丁度よさそうロボね。ささ、上がるロボ?」

「耳元で言わないでぇ!?」

 

 あふん、とか変な声漏れそうだから僕!!

 

 

 

 

 酷い目にあった……。

 

 早めにお風呂上がれたのはいいけど、結局身体拭くのも全部エルザちゃんがやってくれて、エルザちゃんは身体を隠そうともしないから僕は眼のやり場に困るし、かといってそっぽを向いてると顔を掴んで無理やり自分の方を見させてニッコリ微笑んでくるし、なんだろうね、ラッキースケベイベントなんだろうけど、精神値ガリガリ削られた気がするのは。下手したら呪いよりも削られた気がするよ。

 

 まぁ、身体洗うのも拭くのも、今全然力入らなくて立ったり座ったりだけでも身体崩れ落ちそうだから助かったんだけどさぁ……。

 思春期の男の子に、そういうの絶対良くないよエルザちゃん……あうあうあ。

 

 ごめんねユーノくん。あの時女湯に連れて行かれるの阻止できなくて……。

 

「今戻ったロボ~!!」

「うむ。早かったであるな?」

「エルザはまた夜に入るから自分は簡単に洗うだけにしてきたロボ」

「……えっと、義嗣、なんか随分疲れた顔してるけど、大丈夫?」

「男の子として色々尊厳が傷ついた気はするけど、身体自体はすこぶる好調だよ……」

「いや、なんというか……強く生きられよ、佐藤殿」

「サンキューセイバー……」

 

 居間に戻ると思い思いに声をかけてくれるけれども、とりあえず早く座らせてください。

 

 で、刹那の隣に座ろうとしたらエルザちゃんに捕まって膝の上に乗っけられたんだけど、なんでだろうね? なんで僕こんなにこの子に懐かれてんだろうね。僕なんかしたか?

 まぁいいや。

 え~っと、僕の右隣には刹那、その隣にセイバーが座り、僕の左隣には博士が。そして僕の正面では津軽さんが退屈そうに頬杖をかいて座っている。

 

「遅いわよ。レディを待たせるなんて何様のつもりなのかしら?」

「これは失礼をしましたミ・レディ」

「……ちびっこに言われても滑稽さしか無いわよ」

 

 ぐっ、我ながらちょっと恥ずかしいなとは思ったけど頑張って言ってみたのに!!

 

「そんなことはどうでも良いよ。……で、結局君はなんのつもりで接触してきたんだい?」

「あら? 私はただ、クラスメイトが呪いに苦しんでいるのに気付いて、心配して手助けしてあげようとしただけよ?」

「そんな見え透いた嘘、信じると思うのかい?」

「あら、人を信じることから人間関係って始まると思わない?」

「それが信じるに値する相手なら、ね」

「あら怖いわね。別に話し合いする気がないのなら、私はその子に貸してる聖骸布返してもらって帰ってもいいのだけれど?」

「ぐっ……」

 

 あ~、僕の存在無ければある程度は渡り合えたかもだけど、僕の存在自体が人質になってるから、まともに張り合ってもこっちが不利なだけだもんね。

 

「ごめん。僕が話させてもらってもいいかな」

「義嗣……」

「えぇ、構わないわよ? 貴方、割と理性的な子みたいだしね」

 

 この状況下で強がるそこの子と違って、と鼻で笑う津軽さんに若干ムッとしたが、流しておく。僕よりも刹那やセイバーの方がイラッとしてるのを我慢してるんだろうし。

 

「まず、聖骸布ありがとう」

「いえいえ、お友達が苦しんでいるのを見てられないもの」

 

 口に手をあててくすくすと笑うのがこれほど似合う子って中々いないよな~。いや、個人的には刹那のほうが似合うと思うけど。

 

「ん、でね。今回の怪異解決手伝ってもらいたいんだけど、良いかな」

 

 僕の発言に、一瞬刹那とセイバーがこっちを睨んできたような気がしたけど気にしない。津軽さんも片眉を上げて驚いたような顔をしたけれど、すぐに猫みたいな笑みを浮かべ直す。

 

「……ふぅん。訊かないのね? 私が貴方をつけてきた理由とか、色々尋問まがいのことした理由とか」

「そんなのどうでも良いよ。こうして聖骸布を無償で貸してもらってるのはこっちだし、そこにどんな利害があるのかなんて興味ないもの。

 それよりも、今回の怪異解決のほうが重要でしょ? え~っと、神格持ちレベルの呪い、だっけ?」

「ん~……正確には神格持ちレベルに近い、だけどね。投影品の聖骸布で抑えられてる時点で貴方自身によってある程度レジストされて弱体化してるのは間違いないと思うわ。じゃなかったら、聖骸布だけじゃとてもじゃないけど抑え切れるものじゃない」

「そか。本当にどうしてレジストされてるのかわからないけど、まぁそこは良いや。悪い方向に働いてる訳じゃないんだし。

 え~っと、まぁそういうわけで、そんな呪いをばらまくのがこの街をうろついてるってだけで、危ないじゃない? そんなのが街中にばら撒かれたら色々大変だと思うし、そこに関しては津軽さんも変わらないと思うんだけど、どう?」

「そうね。正直、自分に被害出ないなら放置しても良い所だけど、そういう危ない物を放置する気は私もサラサラ無いわ。

 ――それにしても、貴方あの時私に脅されて半泣きしてた子とは思えないわね。やっぱりあの時のは演技だったのかしら?」

「いや、アレは割と素だよ。でも僕ある程度は場によって気持ち切り替えする人だから」

 

 普段弱気な癖に、駆け引き系のゲームになると他人の思考誘導しようとしたりとか、脅迫紛いの同盟要求とか割と平気でするからね、僕。アレに近い。

 

「はぁ……貴方、本当に魔術師になる気ない? そういう猫かぶりな所とか、ある程度割り切る所とか、疑問あろうが使える物は使うところとか、絶対向いてるわよ」

「気持ちは嬉しいし、ちょっと興味はあるけど、平穏な生活が一番かな~って思うので遠慮しておくよ」

 

 せっかくの魔法の世界だし、使えたら楽しそうだな~っては思うけどね。

 

「そう。残念ね――まぁいいわ。じゃあ、ひとまずの同盟ね。少なくとも、私と貴方は。そっちの他の連中がどう思うかは別だけど」

 

 小バカにするように鼻で笑って僕の隣で敵意むき出しに睨んでいる刹那と、暇そうに欠伸をしている博士を見る恵理那。

 

「僕は反対したいところだね。聖骸布が効くと分かってるなら、僕だって聖骸布の投影はできる。君の協力が絶対必要な訳じゃない」

「貴方バカ? 神格クラスの呪いって話し聴いてたのかしら? 私の高精度投影の聖骸布だからギリギリ抑えられてるけど、貴方の粗製にも程がある紛い物でどうにかなると思ってるの?」

「試してみなければわからないだろう?」

「で、試してダメだったらどうするの? 言っておくけど、一度断られたら私だってわざわざもう一度手を差し伸べようなんて思わないけど、そうなったらこの子今度こそ死ぬわよ? 貴方の意地でこの子殺す気?」

「――ッ!!」

 

 あ~、刹那? そんなに嫌なら別に僕は良いって言いたいところなんだけど、正直人手が必要なのは間違いないんだから我慢して欲しいんだけどなぁ……。

 

「落ち着かれよ主。――失礼した。確かに我らによる投影品では無理でしょうな。どれだけ高性能を目指しても、某がサポートしても作れるのは精々がガンドを数十発かそこらを耐えられる程度の品しか作れますまい。まして、ここまで事態が悪化したのは我等が傍にいながら気付けなかったことにも責任がござりますゆえ。抑えてくだされ」

 

 と、思ったらセイバーの冷静な意見である。てっきり刹那をバカにされて怒るかと思ったけど、やっぱりセイバー結構理性的だよなぁ。刹那に寄って来る男にだけなんだろうな、あの最初に会った頃みたいな態度。

 

「へぇ……従者は主ほど直情的じゃないのね? 私の従者にならない?」

「お戯れを。――冗談でも、次は斬り伏せますぞ」

「怖い怖い。――で、そっちの白衣のアホ面のは?」

「んあ? 我輩であるか? 我輩は別になんでも良いのである。依頼を受けたからには依頼主の方針に従うのである」

「エルザは義嗣のこと気に入ったから、別に誰といようが守るロボ」

「へぇ~? なんていうか、言う事もやることもアホなのかと思ったけど、ちゃんと考えてるのね。それにしても義嗣くん、だっけ? 中学生垂らしこむなんて、やるわね?」

 

 いや、僕もなんでこんなに気に入られてるのか分からんのだけど、いつフラグ建ったんだ僕。ダーリンって呼び名じゃないから、九郎みたいに恋人みたいな好かれ方ではないんだろうけど。

 っていうか、中学生なんてなんで分かっ――あぁそっか、聖詳大附属中の制服着てたわな、今日のエルザちゃん。

 

「さて、じゃあ同盟するのも決まったことだし、そっちの女装趣味の変態さんを納得させるためにもこっちも少しは事情話してあげるわ。義嗣くんも本当は訊きたいんじゃない?」

「正直言うと、聴きたいです、はい」

「急に心変わりするなんて信じられないね。嘘でもついて僕等を混乱させる気じゃないだろうね?」

「信じる信じないはそっちに任せるけど、まぁまず最初に義嗣くんに脅しかけた時のことね」

「うん」

 

 さて、ここで津軽さんの言い分をまとめてみる。というのも、地味に長かったのと、刹那の横槍が時折入っていたので自分自身でも分かりやすくする意味でだ。

 

 まず一番大前提となるのが、津軽恵理那さんは何でも屋というか、“魔道探偵ローレライ”なる名前で怪異を専門とした探偵事務所を開いているらしく、僕に脅しをかけてくる前に隣街の遠見市で起きていた何件かの怪異による物と思われる行方不明事件を追っていたらしい。

 

 お前さん8歳でなんでそんなもん開いてんだとか行方不明者捜索は警察の仕事だろとか開店資金どうしたとか色々言いたくなったけれど、代わりに刹那がツッコミを入れたら店自体は存在せず、電話や特設サイトへの書き込み、メールで受けるだけの形でやっているのでお金はたいしてかかっていないそうだ。

 

 で、行方不明者捜索の方は、元から家出の常習犯や多額の借金持ちで前科のある人間とかが殆どで警察では事件とは見ていないらしく、駄目元で津軽さんの元へと依頼してきた人が居た事から数件そういった怪異の事件が今月の10日前後から起きていたことが判明したそうな。

 10日頃っていうと、にゃんにゃんパラダイスの一週間前くらいかな? あ、違う。10日は日曜か。すずかちゃん家行ったのは土曜日だから、6日前だな。丁度ジュエルシードの大樹事件があった頃だ。

 

 で、初めて脅しをかけて来た時は朝から僕に微弱ながらも魔の気配を感じていて、それが行方不明事件の現場と思われる付近に残されていた魔の気配に似ていたために関係性を怪しんで様子を伺っていたが、動きを見せないので自分からカマをかけてみたらしい。

 前々から原作組に絡んでいる連中とよくつるんでいるから、僕も転生者であると当たりをつけて、何か怪異系の能力を隠し持っていて、休日の間に何人かを食い物にしていたのでは、と勘繰ったとか。

 ところが僕が何も反撃するどころか泣き出したものだから慌てて、怪異と接触はしたかもしれないが一般人なのだろうと考えたそうだ。

 

 そして、今日になったら変な魔の気配を近くにいるだけで周囲の人間に悪影響を及ぼしかねないレベルで放っていたために驚いて「あいつやっぱり――ッ!!」みたいな感じで捕縛してやろうと思って後をつけていたが、どうにも怪異を振りまいている側というよりは、呪われている側特有の危うげな動きであったことから、ようやくそこで僕が呪われている被害者であると判断して声をかけてくれたらしい。

 

 本当なら、前に怖がらせた事の謝罪の意味もあって、聖骸布で対呪の処置だけしてやって帰るつもりだったらしいのだが、僕が平手打ちをしたことで立場を思い知らせてやろうと思ったらしい(この話が出た時に刹那とセイバーが感心したような顔でこちらを見たが、恥ずかしいので気にしない)。

 で、ところが気丈にも耐えるもんだから嗜虐心が疼いたとかで、ついでだから虎次郎達の情報も仕入れておこうと思ったとか。――まぁ事前にある程度は、戦闘を遠目に見たこともあったらしく知っていたらしいが。

 

 っていうか、泣きべそをかく子供をいじめるのには罪悪感覚えるくせに、どうしてそういう時に嗜虐心刺激されちゃうかな、と文句を言ったら、「平手打ちされてイラっときたし、気丈に振舞われたら無理やりにでも屈服させたくなるじゃない?」と仰られた。酷い話である。ちょっと分からなくもない自分が憎いけども。

 で、そういう訳で話が片付いて、ではまた明日、という段階になったところで、津軽さんがニコリと笑って言い出した。

 

「じゃあ、今日から休日の間はここに泊まらせてもらうわね」

「あ、うん。え~っと、じゃあ――え?」

 

 うん? 今なんと申しましたか恵理那さんや。

 

「え? じゃないわよ。サクサクッと解決するなら同盟相手同士同じところにいたほうが連絡だってとりやすいし、相談もしやすいでしょ?

 そもそも聖骸布の呪いの抑制がいつまで持つかわからないのよ? 弱体化してはいても神格レベルの呪いなんだから、下手したら一日、いえ、半日に一回は代える必要性が出てくる可能性だってあるんだから。

 それとも何? 貴方もしかして呪いによる苦痛に快感を得ちゃうマゾだったりする?」

「マゾじゃないんで、是非ともお願いします。え~っと――じゃあ寝るところどうしよう……」

 

 お父さんの寝室はまずいから、もう僕がそっちに移って、僕の部屋を貸すか?

 

「あら、貴方と一緒でもいいわよ。女装はしてもらうけど」

「あ、じゃあエルザも一緒に寝るロボ」

「なんで女装する必要あるの!? そしてなんでエルザちゃんまで便乗してるの!?」

「っていうか、僕は認めないよそんなの!! 義嗣、一緒に寝ようって約束したよね!!」

「あら? 貴方やっぱり同性愛者だったのね。虎にベタベタしてたし、男同士なんて不潔だわ、不潔」

「そういう君こそ、女装した男の子と寝たいなんて随分と歪んだ願望をお持ちだね?」

「女装した男の子と寝たいんじゃないわ。私は可愛い女の子と寝たいの。むしろ悪戯したいの。うふふ、そういうわけだからエルザちゃんだったかしら、貴方は一緒で良いわよ?」

「許可を得ずとも一緒に寝るロボ」

「そ、そう!! 今ならセイバーもつくよ義嗣!!」

「どういう売り込み方法!?」

「というか、主……いや、何も言うまい」

 

 おかしい、なんだ!? なんでこんな急にハーレム主人公みたいな状況に追い込まれてるんだ僕!?

 

「別に全員で一緒に寝れば良いではないか、なのである」

「私はそれでも別に良いロボ」

「僕は絶対に嫌だよ!! 津軽さんは別の部屋で寝てよね!!」

「私だって女装して喜ぶような変態と一緒に寝る趣味は無いわ」

「だったら義嗣だって同じじゃないか!!」

「待って、僕は女装して喜んだりした覚えないんだけど!?」

「褒めたらちょっと嬉しそうだったじゃないか!!」

「いや、そこは否定できないのが辛い!!」

「この子はいいのよ。小さいし、可愛らしいじゃない。でもあなたはなんかあざといのよね。女の子だったなら別に良いというか大好物だけど、内面が嫌。生理的に受け付けないわ」

「殆ど面識無い君に人格否定されたくないね!!」

「む、茶が切れましたな。佐藤殿、飲まれますかな?」

「あ、お願いセイバー。ごめんね?」

「なに、居候としてこれくらいのことはして当然でござるよ」

「あ、エルザはお菓子食べたいロボ」

「あ~、僕もちょっと小腹空いたかも。じゃあ冷蔵庫にこの前作ったカップケーキ入ってるから、レンジで温めれば食べれるから、セイバーお願いできる?」

「いいでしょう。博士も食べますかな?」

「うむ。翠屋のケーキにはかなわんのであるが、この家で作られた菓子は中々に優しい味で好みであるゆえ、頂くのである」

「では某も頂くとしましょう。主と津軽殿も食べるでしょうが……人数分ありますかな」

「あ、足りなかったら僕は良いよ?」

「いやいや、家主を差し置いて自分だけ食べる訳にもいきますまい。その時は某が遠慮いたしましょうぞ」

「大体、“男女七歳にして席を同じうせず”って言葉を知らないのかい君は!! それが同衾までしようだなんてなんて不潔なんだ!!」

 

 あ、そのことわざって、そういうのが正しいんだ。僕ずっと男女三歳にして同衾せずって覚えてた。何でそんな覚え方したんだ僕。

 

「あら、それを言ったら貴方精神的には女の子だって聴いたんだけど、どうなのかしらね? それに貴方あの糸目メガネの虎が好きなんじゃなかったかしら。乗り換えたの?」

「虎次郎のこと好きなのは今はどうでもいいじゃないか!! 義嗣が君みたいなわけがわからない女に誘惑されるのは義嗣が汚されるからダメだって話をしてるんだよ!!」

「あ~、夕飯何にしようかな」

「む、我輩久々にカレーが食いたいのである」

「カレーか~。この前食べたばっかりなんだけど、まぁいっか……身体動かすのダルいけど」

「それならエルザが作るロボ」

「エルザちゃん料理できたの!?」

「何を驚愕してるのか知らんのであるが、生活力皆無な我輩を支えているのはエルザの意外な女子力なのである」

「えっへんロボ」

「それ多分女子力って言葉の意味違うと思う!!」

 

 ――なんなんだろうなぁ、なんか凄いカオスなことになってきたんだけど……あと刹那と津軽さんはちょっと落ち着いてくれないかな。

 

 はぁ……今日は博士と寝ようかな。




 こっちは二話連続投稿予定でしたが、改訂してる時間がとれなかったので今日は一話のみでッ!
 オリジナルのほうを次回更新した時に一緒に更新しますね。

 追伸:EX編も同時投稿しました。 


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32.拉致誘拐と人違い

 5月3日、火曜日。

 津軽さんとの同盟も済んだ翌日、今日も今日とて女装して歩き回る羽目になった僕であるが、今日は初っ端からビンゴであった。

 

 あ、昨日誰と寝たのかって? 博士とエルザちゃんだよ。博士が「エルザが我輩と同じ布団で寝るとかマジ胸熱なのである――ッ!!」とか叫んでたけど、エルザちゃんに蹴り飛ばされてた。

 で、そのダメージくらった時のキモ顔を見て、刹那と津軽さんはガチひきして別々になりました。

 いやぁ、なんだかんだで、寝てる時に両側から抱きつかれてると、博士がなんかお兄ちゃんみたいに思えて落ち着いたのは秘密である。絶対調子乗るから言わない。で、まぁそれはもう良いよね。

 

 さて、現状確認。

 

「博士、くたびれサラリーマン発見。多分あれだよね」

 

 公園の一角、僕が向ける視線の先には、ヨレヨレのスーツを着て、足取りもおぼつかない様子で歩く中年サラリーマンの姿。ヅラはちゃんと被りなおしていて、顎鬚がある。格好はグレイに近い明るい黒のスーツに、水色ネクタイ。ちなみにスラックスだけは何故か色が紺に近い黒で、妙に浮いている。

 

『で、あるな。追跡を開始するのである。話しかけるかどうかは任せるが、危なくなったら助けるので安心するのである』

『こちら津軽。間違いないわね。義嗣くんの足から感じた魔の匂いと同じだわ。回り込んだから、逃げ出したら襲う』

『こちら刹那。同じく』

 

 朝っぱらから物騒なことであるが、こちとら色々危ないので必死である。

 

「じゃあちょっと話しかける。待ってても仕方ないしサクサク行こう」

『『『了解』』なのである』

 

 さて、ここからが勝負所だ。僕、今女装姿で非常に情けないけれど、早速おっさんの前に出て声をかける。

 おっと、僕じゃない。私は今、女の子!! 私は今女の子!! 自己暗示!!

 

「あの~、すいません」

「……」

「あ、あれ? え~っと……あの、そこ行く小粋なお兄さん!!」

「……」

 

 ――ガン無視ですね!!

 

「わ、私ちょっとお訊きしたいことがあって、えっと、お話いいですか?」

「――ん?」

 

 あ、やっとこっち見た。

 

「えっと、あの、ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど、い、良いですか……?」

 

 ここで、津軽さん、否、津軽ちゃん直伝の上目遣い!!

 どうだ!! 可愛いだろう!! 私すっごい恥ずかしいけど!!

 

「うん……? いあいあ、うん、いいヨ。ジャアちょっとついてキテくれるカナ」

「へ? あ、ちょ、待っ――」

 

 確かに、サクサク進めたいとは思ったよ? リリカルな世界観に早く戻りたいというか、戻らないと色々お叱り受けるのではとは思ったよ? だけども、ちょっと、急展開しすぎやしませんか、と私は言いたいですよ?

 首根っこ掴まれて、にゃんこの如く吊り上げられて、もの凄い速度で振り回されながら周囲の光景が流れていくんですけど、これってもしかしなくても誘拐されてるよね?

 

「ケケケケケ!!!!」

「完全にこの人飲み込まれてるよぉぉ!?」

「「剣群装填・全解放<ソードバレル・フルオープン>!!」」

 

 でもでも、ご安心くだしあ。こちらには頼れるお仲間がついております。

 あ、それと刹那はいつぞやのポニテ青巫女だけど、津軽ちゃんは完全に英霊エミヤの装備を女性用にアレンジしただけです。髪の毛は後ろで三つ編みになってる。

 

「あ、ミスった」

 

 とかのんびり観察してたら、ザクッ、と僕の右頬を掠めて地面に刺さる懐かしい無装飾剣。

 

「にゃあぁ~!?」

 

 デジャヴすぎるっていうか、何気に頬を掠めるほどの近距離って初めてだよ刹那!! やめてよ、ガチで今脳天パッカリいくかと思ったよ!? フレンドリーファイアはマジ勘弁だよ!? 私のこと殺す気なの刹那!?

 

「アンタ……どんだけコントロール下手なのよ」

「う、うるさいな。直撃では無いんだからいいじゃないか」

 

 刹那、確かにそうなんだけど、そのうち心臓と頭以外ならどこに当たっても「死ぬほどじゃないしOKだよね?」とか言い出しそうで怖いよ。お茶目なところは可愛いと思うけど、割と洒落にならないよ。

 ちなみに、二人の攻撃は全部回避されていた。唯一の有効打がフレンドリーファイアで僕の頬掠めただけってちょっと切ないね。

 

「ふんぐるい むぐるぅなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん<死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり>」

「――ッ!! 召喚魔法!?」

 

 ごぼり、と地面のいたるところが黒く染まり、まるでコールタールで出来た水溜りのような物が出来たかと思うと中から魚顔やカエル顔の半魚人みたいな連中が大量に湧いてきた。

 ニ十――いや、三十はいるだろうか。周囲一帯が生臭い匂いに包まれ、どこか息苦しい圧迫感も感じる。

 

「いあ! いあ! くとぅるふ・だごん!! 我等が神ニササゲロ!!」

 

 おいおいおいおい、ちょっと、ちょお~っと、安っぽすぎやしないかにゃ、この展開は。いや、急展開だし安っぽいけど、光景は割と洒落にならないんだけどね。あのね、これ見てもらえないのが残念だね。

 すっごい、グロいし、エグいよ。この半魚人達。腕が腐りかけてたり、頭が割れてなんかこう、見えちゃいけないものが見えてたり、ぶっちゃけ、深き者共というよりは、半漁人のゾンビって感じ。

 

「ったく……なんつ~おぞましいもん召喚してんのよ……投影開始<トレースオン>――剣群装填・全解放<ソードバレル・フルオープン>!!」

「……うぅっ」

 

 うあ~、中年おじさん足止めたけど、ちょ、出来ればこれ直視したくない映像だよ……。あのね、まぁ、言うまでもないと思うけど、刹那と違って三十本くらいまとめて、しかも結構ちゃんとした剣が津軽さんちゃんの背後から射出されてるんだけど、そんなものがゾンビさんの群れに当たったら、どうなるかくらい、分かるよね?

 

 うん、スプラッタだよ。ものすんごい。それでも死んだ傍から新しいのが出てきてるんだけども。死体は残ってるから凄惨としか言いようが無い。

 

 Fate/Zeroでキャスターの召喚した海魔がぐっちゃぐちゃになるじゃない? あれどころじゃない。グロ耐性なかったら一発で吐いてる。場合によっては失神してる。

 確認したいんだけど、この世界リリカルなのはだよね? 僕、違う世界に迷い込んでないよね? ここ最近全然なのはちゃんとかユーノくんに会ってないせいで忘れそうなんだけど。

 まぁそれはともかく、もうね~、微妙に喉に酸っぱいものがこみ上げてきてるけども、目を瞑ってるといつまた何が飛んでくるか分からないし、目をそむけようにも首根っこ掴まれてぶらさげられたまんまだから何もできないというね。

 そして半魚人ゾンビーズは対空攻撃手段が無いのか、驚異的な跳躍力で家屋の屋根とかに登ってジャンプで襲い掛かろうとしてるけど、その度に刹那と津軽さんちゃんも跳躍して反撃することであっさり迎撃されている。

 っていうか、あの二人って滞空系の能力無いんだね。空飛んでれば一方的なのに、跳んで避けるってことは。

 

 しかし本当、こういうグロとかは勘弁してよね……。

 

「ちょっと佐々木、アンタも攻撃しなさいよ!!」

「うぉぇっ――あぁ、すまぬ。某が代わるので主は一旦内へ。……はぁ、某の本分は時間制御と近接戦ゆえ、突っ込ませていただく。援護はお任せしますぞ、津軽殿」

 

 あ~……刹那ダウンか。まぁ仕方ないね。これはちょっと普通の女の子には無理だろ。いくら猟奇的な子とはいえ。

 

「……セイバー、最初からアンタが体のコントロール握ってたほうがいいんじゃない?」

「それは言っていただきますな。某はあくまで家来にして道具。主の身体を乗っ取るなどしよう筈があるまい?」

「本当そいつには勿体無いサーヴァントね、アンタ」

「サーヴァントではなく、ただのデバイスでござるよ」

 

 二人とも、如何にも主人公達の会話って感じだけど、なんか死体がうねうね動いて一塊になってきたから気をつけてね?

 これ、多分巨大化フラグでしょ?

 

 ――あれ? そういえば、結界、張られてなくない? 何気に昨日も張ってなかった気が――。

 

「ちょ、二人とも!! 結界張られて無いから!! 人来たら大惨事だからなんとかして!!」

「人払いの結界は張ってるわよ。この世界の魔法みたいに外界と遮断するようなのは固有結界しか持ってないから無理よ」

「同じく。某も主も結界関係は固有結界しかできませぬゆえ」

「博士!! 博士~!!」

『バカ者。せっかくの登場シーン我慢して姿隠してるのに呼ぶななのである。我輩は魔力なんて欠片も無いからそもそも魔術も魔法も使えないのである』

「なんで魔の気配とか分かるのに使えないのさ!?」

『ご都合主義、というものであるな』

「ぶっちゃけた!?」

『義嗣、魔の気配というのは魔力なんか無くても、人間が本来持つ危険察知の本能的な物で本来は感じられるものロボ。現代人はそれが希薄になっているから、感じ取れるようになるには何度も魔に出会うことで、魔を身近に感じられるようになる必要があるロボ』

「そして予想外にエルザちゃんが解説役に!?」

 

 でも、解説役が出てきたところで、戦闘で出た被害を隠す人がいないってヤバイよ!! 人払いの結界なんてユーノくんの結界みたいに完全な物じゃないんだし!!

 

 にゃ~!! 虎次郎!! 虎次郎カンバーック!! あいつ結界も使えるよね!? 或いはユーノくんカンバーック!!

 

 と、思ったらいつもの結界と似たような光景が急に周囲に広がった。背景から色が抜けていく。ただ、いつもと違うのは一瞬見えた光がユーノくんの緑っぽい色じゃなくて、オレンジっぽい色という点だろうか。

 

「てめぇら結界も張らねぇで何やってやがる!?」

 

 あ、悠馬くんだ。なんともいいところにきたね。この結界もしかして悠馬くん張ったの? あ、それとついでに助け――お?

 あれ、ちょっと? 今現れた悠馬くんに皆が気を向けるのは仕方ないけど、気付いて? おじさん、逃げ始めたよ? 僕、つかまったままで誘拐されかけてるよ?

 

 お~い……ダメだ。ただでさえスプラッタ見て気持ち悪かったのに、首は絞まって声は出せないし、揺れが酷くて……うぷ。

 

 

 

 

 鼻につく何かが腐った匂いと、酷い刺激臭。

 勘弁してほしい、と口に出すことすらはばかられる。口を開けたら口から入ってきた空気がどんな味するかなんて想像もしたくない。

 

 あの後、逃げたおじさんに気づいた皆が追いかけようとしてきたけれど、皆の視界から隠れるように民家の陰に入り込んだ瞬間、おじさんの足元に召喚魔法を使った時と同じ黒いコールタールの水溜りみたいなのが出てきて、私ごとずぶずぶと飲み込まれていった。

 あ~、私口調別にいらないかな。いや、でもボロを出さないように心の中でも演技はしてよう。男だって知られたら多分すぐに食われる。食事的な意味で。

 で、気付けばここである。洞窟のような、なんとも言えない空間。ところどころに蝋燭が立てられていてある程度の視界は確保できるものの、むしろ見たくない物も見えてしまうので出来れば消していただきたい。

 もうね、典型的なクトゥルフ神話の邪神崇拝者達のねぐらって感じ。

 或いは、Fate/Zeroの小説のキャスターのねぐらに更に大人とかの死体も混ぜて大人の汚い欲望とか全部ぐっちゃんごっちゃんに混ぜた感じ。

 分かる人なら分かるでしょ? 流石にちょっと酷すぎて、ここの状況正確に語ろうとしたらR15とかR18とかってレベルじゃないから、言わないでおくけどさ。

 リョナグロ好物な人が歓喜するような、凄惨な状態とだけ言っておく。リョナの意味がわからない人はそのまま純真に育ってほしい。

 

 もうね、ぶっちゃけ吐きそうだけど、逆にあまりにもグロすぎて現実感湧かないってのもあってか、割と冷静な私だよ。ただね、一つだけ言いたいのがあるんだけど、言っていいかな。いいよね? 心の中だけだし。

 

 どこのバカがクトゥルフ神話この世界に持ち込んだんだと本気で怒鳴りたい。

 

 今まで割と思ってたことだけど、この光景は洒落にならなさすぎる。恐らく私を持ち上げて今もどんどん奥へ奥へと歩いているこのサラリーマンのおっさんが元凶なんだろうけど、不幸なことがあったからってこんな最悪な環境に他人を巻き添えにする、その根性は過去に何があったんだろうが絶対に許しちゃいけないと思う。

 

 う~……っていうか、それはそれとして、ここの空気ちょっとダメ。甘ったるくて、変な気分になる……気分が変に高揚するっていうか、若干気持ちよくナルッテいうカ。

 

 私ガ本来イルベキ場所にキタとイウカ。

 

 あ~、ヤバイ。これダメかモしんナイ。

 

「佐藤さンの冒険はここデお終イなのデシタ……」

 

 頭がくらクラする。気持ち良い。楽しい。嬉シイ。叫ビダシタイ。

 右足の聖骸布ガ、ニーソックスの中デぼろボロとクズレテいく。

 

 いあいあ、くとぅるふ・だごん。

 いあいあ。いあいあ。くふふ。

 

「佐藤――? 陽子……?」

 

 ギギ、とおじサンが足を止メテ私をミル。

 

「モシカシテ君――佐藤裕子チャンかい?」

 

 ――裕子? ……裕子。誰ダッケ? 私の名前は裕子?

 

「オォ……なんテ幸運ナンダ。我等が神ヨ、父ナるダゴンよ。感謝ヲ。今マサニ私の願イは最高の形デカナウ」

 

 クヒ。嬉しソウだね、オジサん。

 

「クヒヒ……嬉しイよユウコちゃん。君のお母さンには一杯お礼ヲしないトいけなインだ」

「ソウなんダ。クヒゃ」

 

 ぐるぐるグルグル。世界ガ回ル。

 楽しイ嬉シい面白イ。

 ココハ楽園。皆ガ平等ニ愛し合イ、平等ニ泣き叫ビ、平等ニ穢れ、平等ニ壊レてテイク。

 

 クヒャヒヒヒ。くふひひひ。

 

 ――ネェ、皆。早く来てクレないと、私ソロそろわりかしガチでヤバいかも。



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33.乱戦と転移

 回るマワル世界が廻る。

 くるクルくるグルくるりグル。

 

 皆がニコニコ笑ってル。

 くすクスくひヒヒくすんくすん。

 

 楽シい嬉しイ愛しテる。私ハ皆を愛シテる。

 

 ふんぐるい むぐるぅなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん。

 

 いあ いあ くとぅるぅ。

 

 いあ いあ くとぅるふ だごん。

 

 くふひクフヒハくひハヒヒ。

 

 コノ世全てニ救済を。この世スベテに呪いアレ。

 

 

 ――できレバ、呪いはやめてほシイなぁ。

 

 

 

 住宅街。私ノ家の近ク。

 

 佐藤さんノお家がある場所。

 

 アァなるホド、ダカラあの時アソコで彼は暴レたのカ。

 

 あノ時? アノ時ッテいツ?

 

「ソレじゃア、私ガ陽子をオサエツケるかラ、これデ君ノお母さンの指を全部キリ取っテきてクレるカナ? ソウしタラ、君モ陽子ト一緒ニ犯しテあげルかラね。ソシテ父ナるダゴンの御許ヘと逝くンだ」0

「クヒャヒヒヒ、ウンいいヨ。アレ、お母サんっテ誰だッケ? いあ いあ だごん !! キヒヒヒヒ!!」

 

 周リにイルのは半魚人サン達。深き者達。愛おシキ父なルダゴンの敬虔ナる信徒タチ。愛さレルべき子供達。

 渡されたノハ、市販のノコギリ。ギコギコばっさり。キッと痛いネ。とこロデ犯スっテなんダッケ? 知らナイ知ラない。きっト気持チ良いコトだよネ。

 

「――全ッ然、良く無いわね」

「全くだ」

「クヒ?」

 

 私トおじサンが、ガッチリと鎖デ縛りアゲられタ。

 愛されルべキ子供達が、一瞬ニシテ、アソこにイた人間共みたイニ、ぐちゃグチャべちゃベチャ潰れテク。

 酷いナァ。

 

「佐藤殿、今お救い申し上げますからな」

「ったく、あのモブ野郎……折角救ってやったってのに」

「全くだねぇ。でも、殺さないんだろ?」

「ふん。あんなモブの血で俺の宝物(ほうもつ)汚されてたまるか」

「素直じゃないんだから困るね、この子は」

「――酷い」

「あんなもの、怪異の中でも割と軽い方なのである。金髪娘、それよりさっさと封印準備なのである。このメンバーならアッサリ片がつくであろうからして、起動される前にやっちまうのである」

「博士、あのキショいおっさん跡形もなく消し飛ばして良いロボ?」

「完全に殺すとどうなるか分からんので、九割九分九厘殺しで我慢するのである。殺せば全部どうにかなるならば、別に殺しても構わんのであるが」

「いくら犯罪者相手とはいえ、過激な連中だねぇ……管理局が見てたら何を言われることやら」

「アルフの結界が、そう簡単にアイツ等なんぞに見つかるわけ無いだろ?」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

「さてさて、それじゃあ魔道探偵ローレライ、お仕事開始させてもらうわよ?」

 

 ウルサイ連中ダナァ。この鎖ギチギチで苦シイなぁ。

 

「ふんぐるい むぐるぅなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん<死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり>」

 

 おじサンの詠唱デ、死んダお友達の代ワリが一杯呼ばれテクル。

 オジサンの鎖も、呼ばれタお友達ガ壊してクレたみたイ。私ノモ壊シテ? イッソ殺シて? ケセラセラ。

 

「――ジュエルシードはまだ起動してない筈なのに、なんでこんなに――」

 

 ざっくりザクざくザクザックザク。

 

「規格外なんだろうよ。言っただろ? 俺みたいな反則能力持ちはいくらでもいるってな」

「それにしたって、アレは反則云々以前に、気持ち悪すぎるね。胸糞が悪くなるよ全く……フェイト、キツいなら無理しなくても良いんだよ?」

 

 フェイト? ふぇいとふぇいと~?

 最近聴イテなかっタ懐カしイ名前ダね?

 ふぇいと、フェイト、運命(ふぇいと)、グルグルぐるぐる歯車廻る。運命ぐるグルぐるグルリ。

 

「……大丈夫。このくらい」

 

 大丈夫ジャナイヨ。可哀想ダヨ。ヤメタゲテ? ソンナにグサグサ刺しタラ皆イタイって泣いテルヨ?

 

「それにしても、邪神の眷属とやらの割には雑魚じゃねぇか? 肉の壁は厚いけど、魔力量も大したことねぇし」

「あんな垂れ流しのバカ魔力を大したことないなんて言えるの、アンタくらいだよ、全く」

「ああいう類は、本人よりも召喚された奴とか呪いの類が怖いのよ。良いからサクサク狩り出す!! っていうかセイバー邪魔!!」

「ぐっ!? し、しかし佐藤殿救出のためにも前衛が前に出なければ――」

「アンタ敵が単体なら良いかもしれないけど、ぶっちゃけ複数相手の時だと後衛の射撃の邪魔なだけなのよ!!」

「なんですと!?」

「大体道さえ開けば聖骸布で捕まえられるんだからさっさと退く!! ――偽・螺旋剣Ⅱ<カラドボルグ>ッ!!」

 

 凄イ風。大キナ爆発。散ラバル皆のお肉。

 ぐっちゃりグチャグチャ。べったりベタベタ。

 

 痛イ? 痛いヨね。大丈夫ダヨ。全部私が――。

 

「――確保(フィッシュ)ッ!!」

 

 ……アレ? 私フィッシングさレタ?

 グングン近づク恵理那チャンの姿。

 

「あ、コンニチワ恵理那チャン。アルビノ娘。人殺シ。どコカらキたの? 見テヨこレ、酷イヨネ。辺り一面マッカッカ。スプラッタも真っ青ダヨ?」

「――ッ、気を確かに持ちなさい!!」

 

 ペチン、とホッペをタタカレた。

 痛イじゃナイノさ。

 ぐるグルぐるグル足にナニカがマカレてく。

 

「どう!? 義嗣、アンタ意識ある!?」

「ヨシツグ? ダァれ?」

「――ッ!? 天ヶ崎!! アンタ何か解呪関係の宝具あったら寄越しなさい!! 今すぐ!!」

「ったく、てめぇ女じゃなかったらぶっ殺してるところだぞ!? どのタイプの呪いだ!!」

「精神汚染よ!!」

「どれが良いのか知らん!! 神酒(コレ)でも飲ませとけ!!」

「だったら訊くな!!」

 

 そ~ま? ユ~マのそ~ま? UMAのSOMA?

 オイシイの?

 

「っ、ナイスパス!! 義嗣!! 飲みなガ――ッ!?」

 

 一回ハ、イッカイだヨ?

 頭突キ一回。イタイよネ? デモネデモネ、私の友達モット痛イと思ウンダ。

 デモね、ダカラって放り投ゲルのは酷イよ。

 家の屋根カらゴロごろリ。私はゴロゴロ落チていく。

 

「くそ、あのモブなにしてやがんだ!! 誰か行け!! あいつ死ぬぞ!?」

「エルザ!! 行くのである!!」

「合点承知ロボ!!」

「なんなのでござるかこの数は!? この上でジュエルシードを使われたらどうにもなりませぬぞ!?」

「今朝方のは本気では無かったということであるな……ぐぅ、無敵破壊ロボさえいればまた違ったのであるが……ジュエルシードの封印はまだなのであるか? 使われたら詰みであるぞ?」

「ッ、雷撃そのものは効いてはいるみたいだけど、駄目、本体に届いてない……!! 皆、時間を稼いで――ッ!!」

『Photon Lancer Phalanx Shift』

 

 世界がマワル。回る。綺麗な光に包マレて。

 

 真っ赤ナ世界デきラキラ光るオ星様。

 

「ふんぐるい むぐるぅなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん<死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり>」

「クソがっ!! また増えたぞ!!」

「ぐぅッ……あぁもうあのクソショタ!! レディの顔面に傷をつけるなんていい度胸だわ!! 帰ったら絶対イジメてやるんだから!!」

「文句を言う暇があるのならば、さっさと援護を、くだされッ!!」

「義嗣ゲットロボ!!」

「でかしたのであるエルザッ!!」

「あ、エルザちゃンやっほ~。人造人間。人外。化物。元気?」

 

 ケタケたケタ。

 

「ッ!! よ、義嗣。エルザが、守ってあげるから、安心するロボ」

「守ル? 何カラ? ジャア私のオ友達を殺しテるあの子達をコロしテよ」

「しっかりするロボ!! アレは化物ロボ!! 義嗣のお友達はこっちロボ!!」

「エルザちゃん!! 良いから早く神酒(ソーマ)を飲ませて!! それで少しは良くなるはずだから!!」

「ど、どこロボ、神酒(ソーマ)って!?」

 

 ソーマ? ユーマ? ユーマならアソコで一杯ケンを出シて人殺シしてルよ。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼ「金髪娘!! そっちに転がってるソレをエルザに渡すのである!! 貴様が一番近いのである!!」ッ、ル。フォトンランサー・ファランクスシフ「フェイト危ない!!」――ッ!?」

 

 金髪キラキラ運命さん、イジめタ仕返シ殴らレた。

 頑張っタね私のオ友ダチ。スグに挽肉ニなっタけど。可哀想ニネ。

 ケラケラケラケラケセラセラ。

 いあいあだごん。

 いあいあ。

 

「――っの野郎、フェイトに汚らしい手で触れやがって……万死に値するぞクソ虫ガァッ!!」

「天ヶ崎殿!! エヌマエリシュは使えぬのか!?」

「モブが射線上に入ってんだよクソザムライ!! 大体今宝具射出止めたらテメェが孤立すんだろうが!!」

 

 皆ミナサまサマ大混乱。

 

「ったくもう……ッ!! 確保(フィッシュ)!! エルザちゃん、さっさと飲ませてやって!! 皆、もう固有結界発動しちゃうから、決着つかなかったら後は頼むわよ!!」

「ナイスパスロボ!! 義嗣!! 口を開けてロ――ボォ!?」

「ぐ――ッ!?」

 

 金髪運命さんガごっつんコ。三人揃っテ落ちテイク。

 

「裕子チャんは、イッかイ戻っテ。すぐニ迎えにイクからネ」

 

 黒くて綺麗な水たまり。ぞぶりぞぶぞぶ沈んでく。

 

「ゆ、悠馬!! フェイトが!!」

「追えアルフ!! まだ間に合う!!」

「エルザッ!!」

「佐藤殿ッ!!」

「エルザちゃん!! 義嗣くん!!」

 

 皆ミナさま様また会いマショウ?

 

 

 

 

 ――諸君、朝目ガ醒めタラ美少女の顔が目の前ニあるトイウノハ男子の憧れデあるが、顔は近いけど、鼻をつままれて、ナンカ変な液体入ったビンを口に突っ込まれている状況はなんなんでしょう。

 

「ゲフッ!? ゴフッ!?」

「あぁ、こぼしちゃだめロボ。全部飲むロボ」

「――エルザ、さん。鼻つまんだままじゃ息が出来ないんだと思う」

「おぉ、なるほどロボ」

 

 鼻!! 鼻に逆流シテきた上に、器官に入っテむせる!!

 

「お~、よしよし背中とんとんロボ」

「ぜ、ぜながとんどんぢゃなぐて、ゲホッ、グフッ」

 

 うぇ~……なんだろう、味自体は滅茶苦茶おいしい気がするんだけど、変な飲ませられ方だったせいでなんかすっごい勿体無いんだけど……。

 ……あれ、でもなんか器官とか入った感じはするのに、割と苦しくないな。むせたのも条件反射みたいな感じだけど、そこまでのもんじゃなくね?

 

「そして、なんか随分身体が楽なんだけど、なんぞ?」

 

 うおぉぉ!! 滾るぜビート!! 燃え上がるぜハート!! って感じだ。今ならかめ○め波とか撃てるかもしれん。つかこの台詞元ネタ知らん上にうろ覚えだから何の台詞かどころかどういう時使う台詞かも知らないけど。

 

「良かったロボぉ~……うぅ、義嗣が元に戻らなかったらどうしようかと思ったロボぉ……」

「あうあうあ、ちょ、待って!? エルザさんや!? あの、抱きつくのは嬉しいんだけども、力の加減をしテテテテ!?」

「あ、ごめんロボ☆」

「そんなてへぺろ☆ みたいな言われ方しても痛いもんは痛いよ!!」

 

 可愛ければ許されると思ったら大間違いでも無いよ!! 可愛いから許すよ!!

 

 ――ところでここ、どこぞ?

 誘拐されてきた時に見た洞窟っぽいのは分かるけども。

 

「……二人とも、そういう話はまた後で。今は脱出が先決」

「ん、そうロボね。義嗣、立てるロボ?」

「さっきまでは絶好調だったのに、誰かさんによって背骨が大打撃を受けて暫く無理です」

「じゃあ担ぐロボ」

「うわ~!? ちょ、待って!? せめて担ぐにしてもお姫様だっこはやめて!? おんぶにしてよ!? 男の子としてそこは譲れないよ!?」

「……え、君、男の子だったの!?」

「え? あ、フェイトちゃんいたの!?」

「初めからいたよ……」

「うああ、ご、ごめん!!」

 

 それならそうと声をかけてよ!! 完全に気付かなかったよ!! そんなあからさまにションボリというか、呆れたようなため息吐かないで!?

 

 っていうか何をどうしたらこの三人でいる状態なの!? 珍しいにも程がある組み合わせだよ!? この二人とセットでいるはずのアルフと悠馬と博士どこ!? そんでもって我が親友こと刹那とセイバーどこ!? 津軽さんはこの際どうでもいい!!

 

「え~っと、義嗣ちょっと混乱してるみたいだから歩きながら状況を説明するロボ」

「エルザさん、出口は本当にこっちで?」

「間違いないと思うロボ。そっちの方角から風が吹き付けているからそっちロボ。あ、それと媚薬と麻薬の混ざった煙が充満しているから、対毒防御用の魔法を使うのを忘れないようにするロボ。私の空気清浄機能はフル稼働しても周囲2~3m前後が限界ロボ」

「……煙ってプロテクションで防げる? バルディッシュ」

『No Problem』

「あぁ、出力は限界まで絞って、なるべく長時間持つようにするロボよ? フェイトちゃんまで戦力外になったら暫く身動きとれなくなるロボ」

 

 さて、というわけでエルザによる状況説明である。

 まず、私――いや、もう私口調いらないよね?

 

 僕がさらわれる寸前、なにやらおっさんがまたジュエルシードを持っていたらしく、その気配を探知してやってきていたフェイトちゃん、アルフ、悠馬の三人が参戦。

 そして逃げた中年おっさんを倒して僕を救い出す手伝いをする代わりに、おっさんが持っているジュエルシードはフェイトちゃんに譲り渡すという契約で共同戦線を張ることになったらしい。

 で、夜になって僕の自宅近辺の住宅街であのサラリーマン中年おっさんが何百体以上の深き者共を引き連れて暴れたらしい。僕と一緒に。

 確かに、言われてみればなんか色々やらかした覚えがあるので非常に申し訳ない気分になるのだが、そこはまぁエルザちゃんも苦笑いしていたのできっと色々変なこと口走ったりしたんだと思う。マジでごめんね? あんま覚えてないのよ。

 幸い、アルフがいたため結界は張ってあったので一般人への被害は出ていないはずだというのが不幸中の幸いである。

 

 で、まぁ乱戦になりながらも、僕を助けるために恵理那ちゃんが聖骸布巻いてくれたのは良いけど効果が無くて、悠馬の神酒を飲ませようということになったら、僕が暴れたりして大変だったらしい。マジでごめん。

 そんで、丁度僕に神酒飲ませようとしたエルザのところに、吹っ飛ばされてきたフェイトが激突。そのまま三人で、僕とエルザが乗っかっていた民家の屋根から落下し、おっさんの転移魔法みたいな奴に飲み込まれてここに落ちてきた、ということらしい。

 

 また現在地だが、エルザの体内に内臓されている「いつでもどこでも異空間でも座標ばっちり解明ナビシステム、通称スーパー無敵ナビゲーションシステムDX改ver11.68」によると、隣街の遠見市の地下に建造された巨大地下洞穴の中らしい。

 色々とツッコみたいところだが、しない方が良いんだろうね。とりあえずネーミングセンスぇ……とだけ言っておこう。

 

 後は僕が先ほどされていたように、神酒はガッチリ守っていたエルザが僕に飲ませてくれたら効果覿面、SAN値大幅回復で僕完全復活、ということらしい。

 

 ただ、まだ魔の匂いが右足からわずかにするので、完全に祓った訳ではなくて、あくまでレジスト効果が起きているだけとのこと。

 ……あれだね。僕が耐えられてたのって、悠馬が僕の治療のために一度神酒くれてたお陰だったんじゃないの、コレ。やばいよ、僕あいつにもう頭上がんないよ? 土下座とか平気でやっちゃうよ? 靴舐めるくらいならギリギリやるよ?

 ちなみに、さっきまで戦闘の余波で色々身体中ずたぼろだったらしいんだけど、それも回復したとか。マジで神酒様々。悠馬様々である。聖骸布くれた津軽さんにもついでに感謝をしちゃいますよ。

 

「――さて、まぁそんなところロボ。で、質問あるロボ?」

「とりあえずお姫様だっこはいい加減やめて?」 

「だが断るロボッ!!」

「ですよね~!!」

「はぁ……二人とも静かにして――バルディッシュ」

『PhotonLancer』

 

 あぁそうそう、僕達二人が騒いでるせいで洞窟内にいた深き者共がこっちに気付いて襲い掛かってきたりしてるけど、全部フェイトが、いや、フェイトちゃんが排除してます。

 ……それにしても、非殺傷設定じゃないのかな。あのさ、割とスプラッタなんだけど。フェイトちゃんも割かし顔がグロッキー気味なんだけど。

 

「え~っと、フェイト、ちゃん? あのさ、魔法、非殺傷じゃないの?」

「設定は非殺傷の筈なのに、この人達―ーううん、この化物達は何故か殺傷設定と同じ状態になるみたいで……」

「多分、嫌がらせロボ。人間、特に現代人は基本的に自分と似た形状の生物を殺傷することに忌避感があるロボ? それを利用して、わざとそういう風になるようにしてあるんだと思うロボ。戦力の消耗と精神的ダメージを与えることを考えた、なんとも嫌らしい戦術ロボ。

 というか、そもそもこいつら生物ですら無いから、非殺傷設定なんて関係無いロボ。肉塊を魔力で操っているだけで、要は元から死体なんだロボ」

「なるほど……」

 

 なんだろうね、クトゥルフ絡んで来た時は刹那が解説役におさまるのかと思ったら、意外すぎることにエルザちゃんが解説役担当とか。博士も割と説明キャラだし。なんか原作のイメージと剥離が酷いよなこの二人。

 

 いや、常に原作テンションでも困るけどさ。こっちも。

 

「だから、フェイトちゃんもそんな気にする必要ないロボ」

「……気にしてなんか、無い」

「強がらなくて良いロボ。顔真っ青ロボよ? キツくなってきたら言うロボ。エルザも武装はガントンファーだけだけど身に付けたままだったから、戦闘が出来ない訳では無いロボ」

『All right』

「バルディッシュ……」

「バルディッシュも心配してるんだロボ。三人はこのエルザお姉ちゃんにいつでも頼るロボ!! 何があっても守るロボ!!」

 

 なにこのエルザちゃん。良い子すぎるんだけど。

 

「……ありがとう。でも、お願いだからもう少し声を小さくして、エルザさん」

『PhotonLancer』

「グゲギョッ!?」

 

 あ~、また来たのか深き者共。頑張れ、強く生きろ。死体だけど。そしてフェイトちゃん、色々ごめんなさい。でもエルザちゃんと博士は騒がしいのがデフォだからどうしようもないです。

 

「うっ……」

 

 ……フェイトちゃん、割と本気でヤバイかもね。外で、尚且つ味方もいる状態でならまだ良かったんだろうけど、こんな閉鎖的な空間で、味方も騒いでるだけのが後ろに二人。しかも一人はただの足手まとい。そんな中で一人で物凄い速度で走りよってくるゾンビの相手だもんなぁ……。

 深き者共の足の速さは、多分体感でだけど時速40~50kmくらいは出てるんじゃなかろうか。ウサインでボルボルな人でも最高時速40kmちょいくらいだった筈だから、要は世界陸上の短距離走並の速度で全力疾走してくるグロゾンビである。

 

 僕一人だったら、悲鳴あげて逃げようとして背後から食われてるね。間違いなく。

 

 あ、そうそう、そういえば短距離走といえばさ、よく小説とかで50m走を6秒切ったり、5秒台出しちゃう一般高校生とかいるじゃない。女子でも。

 でさ、僕、前世で文系で運動部入ってないくせに足速いほうだったけど、6秒半ばが限界だったのよ。コレって遅い方なのかな。確かに陸上部のエースとかにはかなわないけど、リレーではアンカーやったこともあったのよ? ああいうの見て自信なくしたことあるんだけど、考えてみてほしい。

 

 確か世界記録ですら50m5秒半ばだし、女子に到っては50m5秒90切った人っていないはずなんだよね。

 学校での50m記録なんて手動で計算してるとはいえ、早々50m5秒台なんて出ないよね?

 

 いや、すっごく今は関係無い話なんだけど、ふと思ったのよ。

 まぁ、この世界じゃ魔法があるから気とかもあるんだろうし、50m5秒台どころか、3秒とか2秒とかもいるのかもしれんけども。

 

 ……う~ん、僕ってばこんな状況でも平和な思考してるな。体調良いって素晴らしいね。

 っていうか、そろそろ降ろしてもらおう。

 

「エルザちゃん、そろそろ降ろしてもらっていい?」

「ロボ? もう大丈夫ロボ?」

「うん。なんていうか、フェイトちゃんの顔色がもう完全にヤバそうだから、前衛代わってあげてくれるかな」

「そうロボね。正直エルザも交代すべきじゃないかと迷ってたロボ。じゃあ降ろすロボよ? よいしょっと」

 

 だよね。あの真っ青な顔見てたらそう思うよね。ごめんね? 僕を担いでるから言い出せなかったんだよね?

 エルザちゃんのお姫様抱っこからようやく解放されて、背中をバキバキ鳴らす僕。うん、痛みも問題なし。

 

「フェイトちゃん、そろそろ前衛交代ロボ。義嗣の護衛お願いするロボ」

「……え? 何?」

「交代ロボ。義嗣の護衛お願いロボ。……というか、ちょっと休憩するロボ?」

「大丈夫。――ごめんなさい。前衛は任せる」

「エルザお姉ちゃんに任せるロボ!!」

 

 ドン、と胸を叩くエルザちゃんの胸が揺れた。

 

 くっ、しまった。違うんだ!! 邪な思いで見てたわけじゃないんだ!! この状況下でもぶれないなぁエルザちゃん、とか思ってほのぼのしてみてただけなんだ!!

 っていうか、エルザちゃんもしかして今の揺れ方、ブラつけてないの!? 駄目だよつけなきゃ!! 形崩れるよ!?

 ――あ、アンドロイドだし形が崩れて垂れたりしないのか。何それ全国の女性を敵にまわせる特典だね。

 

「えっと……じゃあ、よろしくね、フェイトちゃん。っていうか、ごめんね? 僕のせいでこんなことに巻き込んで」

「……良い。ジュエルシードを追っていたらたまたまこうなっただけだし、それに。君には一応、小さいけど借りがあるから」

「借り?」

 

 あれ、僕なんかフェイトちゃんに貸しを作るようなことしたっけ? 借りなら今現在進行形で増えてるけど。

 

「……わからないならそれで良い。あまり広範囲にプロテクションを張るのはキツいから、離れないで」

「ん、分かった。お願いします」

 

 こうして、僕達の脱出劇が始まった。



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34.人工少女と炭坑少年

 ぽたり、ぽたりと空から水滴が降ってくる。

 空。天井ではなく、空と形容するのが相応しいくらいに、天井が高いところにあるようで上は全く見えてこない。

 そんな上から降ってくる水滴は、どこか暗い色をしていて、気味が悪い。

 

 今は壁伝いに進んでいるが、反対側の壁もろうそくの灯りがうっすら見える程度にしか見えず、相当の距離があることが分かる。   

 地下鉄のトンネル、の数倍、数十倍規模の広さだ。

 そして、別に舗装されているわけでもないのに壁も地面も凸凹がほとんど無く、むしろつるつるしているというか、妙にヌルッとしているというか、足元が滑らないように気をつける必要があるほどの歩き難さ。

                         

 幸い、見たくも無い物も見えてしまうという欠点はあるが、ところどころにあるろうそくのおかげで足元が全く見えないということはない。それでも足場の悪さもあって注意は必要だし、エルザちゃんがぼんやりと全身を発光させていなければ先頭を歩くエルザちゃんすら見失ってしまいそうなほどの視界の悪さである。

 

 ちなみにエルザちゃんが発光しているのは、わざわざ僕の視界確保のために魔力光を発しているかららしい。自分自身は暗視も熱源感知も出来るからろうそくの光だけでもこの空間で跳びまわれるほどだとか。

 アンドロイドなのに魔力使えるとかちょっと羨ましいけどそれはさておき。

 

 ぽたり、ぽたり。

 

「うひゃいっ!?」

「ッ!? ど、どうしたの?」

「ご、ゴメン。首筋に水滴が垂れただけ……」

「驚かさないで……」

「ほ、本当にごめん……」

 

 うぅ、役立たずでごめんなさい。

 

「ろ~ぼろ~ぼろぼ、エルザロボ~♪」

 

 ……エルザちゃん? それギリギリだけど、まぁうん、いいや。

 

 前方を歩いているエルザちゃんは疲れ知らずで、鼻歌どころか口で即興の歌を作って唄いながら歩くほどの余裕であるが、僕とフェイトちゃんの疲労はどんどん溜まっている。

 既にどれだけ歩いたかもわからなくなるくらいに、ずっと同じ光景が続いているのだ。目印となるのが、まぁその……人間の惨殺死体というか、それの損傷具合とか、深き者共がいるか、くらいという最悪な目印なのが余計に精神をゴリゴリ削っていく。

 

「GEGYYYY!!」

「トンファーキックロボ!!」

「ゲギョッ!?」

「「トンファー関係ないよ!?」」

 

 なんというか、エルザちゃんの存在が何よりも救いである。ここに博士もいれば安定のコメディ空間だったんだが、贅沢は言うまい。

 

「……ッ」

「あ――フェイトちゃん、そろそろ休憩いれる?」

「大丈夫……早く行かないとアルフが……」

 

 あぁ、確かにフェイトちゃんとエルザちゃんもいて、ジュエルシード使われてないのに苦戦してたなんて状況に置いて行かれた皆はマズイよね……っていうか、ジュエルシードの封印出来るのがフェイトちゃんしかいない筈だから、何気にかなりヤバイんでない? あっち。

 うあぁ……マジでごめん皆。大方僕が邪魔で大出力の攻撃が出来なかったとかだろうけど、そうだよね、流石に見えないところで死ぬならまだしも、自分達の手で殺すとなると躊躇しちゃうもんね。

 はぁ――いっそ僕、誘拐された時点で死んでしまったほうが解決早かったかもしれん。お父さんは悲しむだろうけど。

 

「そうだね。……でも、本当に大丈夫? 顔色悪いし、おんぶしようか?」

「大丈夫――少し、魔力の消費がキテるだけだから……」

「それあんまり大丈夫じゃないような……えっと、バルディッシュ、正直に言って。本当にフェイトちゃんまだいける?」

『……I'm sorry master』

「バルディッシュ……?」

『Master is realize the limitations. A break is required』

「あ~っと……えっと……りみ……? あ、ブレイク! 休憩を希望?」

『All right』

 

 やっぱり無理してるんじゃないか。原作組はすぐ無茶しようとするから困っちゃうよね。

 

 ……っていうか、英語やめてほしいんだけど。僕が転生者だからって勉強できるとか思わないでよ? 英語なんてサッパリだよ?

 いや、まぁ英語(ミッドチルダ語)しか喋れないバルディッシュにそれを言ったら「じゃあお前も日本語以外喋ってみろや」とか言わせられそうだけどさ。いや、バルディッシュそんなこと言わないだろうけど。

 あれ、でもクロノくん達普通に日本語だし、フェイトちゃんもだし、バルディッシュも日本語を理解してるよね。どゆこと?

 いや、これは気にしてはいけない。あぁ、気にしてしまったがために、見ろ!! バルディッシュに!! バルディッシュに!!

 

 ……ごめん。この状況下では割とガチ不謹慎だね。自重しよう。

 

「バルディッシュ!! 私はまだ……」

「エルザちゃ~ん」

「はいはい聴こえてたロボ。休憩タイムロボ~」

「行けます。いいえ、行きます。行きましょう」

「ぶっちゃけ途中で倒れられたら足手まといロボ。倒れたらそのまま見捨てるロボ。そうしたらあのわんこおね~さんも助けられないロボよ?」

「……」

『Master』

「――わかりました。でも少し回復したらすぐに行きます」

「はいはいじゃあ休憩中の警戒は任せるロボ~。って言っても、空気清浄させること考えたらあんまり離れられないけどロボ」

「ごめんねエルザちゃん。なんか色々任せちゃって」

「普通の人間と人造人間じゃ耐久力が違うロボ。適材適所って奴だから気にする必要ないロボ」

 

 エルザちゃん……えぇ子や……。

 

「……ふぅ」

 

 エルザちゃんが近くに来て、清浄な空気が場に満ちたことでようやくプロテクションを解除できたフェイトちゃんが小さくため息をついてその場に座り込む。

 

 あ~、ハンカチか何かあればしいてあげたんだけど、多分今朝誘拐されてから意識を取り戻すまでの間に無くしちゃったんだな。ポケットに何も入ってない。

 ぬ~……あのハンカチタオル、端っこに小さくアインをイメージしたデフォルメにゃんこのアプリケットを刺繍しておいた自慢の一品だったんだけど……。

 ……ハッ!? ち、違うよ!! 女の子みたいだとか言わないでよ!? アレは、アレはほら、小学生なんだし可愛いの持ってたっていいじゃない!! だよね!?

 いや、僕だって中学あたりにあがったら、ちゃんとオサレな感じの奴持ち歩くけどさ!! 今くらいいいじゃない!!

 

 げふんごふん。

 

「……」

「……」

 

 ……すげぇ気まずい!!

 

 どうしよう、そうだよ、フェイトちゃん基本的に無口な子だよ!! 闇の書事件の頃ならまだしもこの時期は!! しかも割と今体調悪いから、雑談振ってくる余裕なんて余計にあるわけ無かったよ!!

 ふぅ。心の中で騒いでもなんの解決にもならんがな、という奴だね。うん。

 

「え~っと……あの、フェイトちゃん?」

「ごめん。今ちょっと喋るのも面倒だから……」

「あ、本気でごめん」

 

 うおぉぉぉ!? どうするのこの沈黙!? 周囲一帯がグロだから、黙って風景を眺めるなんてやってられないし、かと言って目を瞑ったりしたらそのまま寝ちゃいそうだし、あうあうだよ!?

 う~む……僕がいなくて、代わりにいるのが悠馬とかセイバー、あと一瞬忘れかけてたけど恵理那ちゃんとかあたりだったら、フェイトちゃん休ませながらも進めたんだろうな……。

 僕が担いでいければ良いんだけど、僕の体力じゃ十分も背負って歩いたらもう限界だろうし、どっちにしろプロテクション発動しながら歩くことに変わりは無いから体調不良は治らないだろうし……。かといってプロテクション張らなくても良いように固まって歩くと、今度は不意をついて僕が襲われた時に対処出来ないし……。

 

 ぬぅぅ……正直、怖いには怖いけど、あんまり足手まといなようならもう見捨ててもらっても構わんのだけども……それはそれで、後でエルザちゃん達が責められるもんなぁ……。

 

 いっそプロテクション無しで、フェイトちゃんを僕が背負って寝ててもらう?

 

 いや、でもなんだっけ、麻薬の煙が充満してる洞窟で、その煙を集団で吸うっていう習慣。アレの洞窟とほぼ同じか、もっとヤバイのが充満してるんだろうし、少量でも吸うのは危険だな……。

 っていうか、今更だけど僕誘拐された後にまさにそのヤバイ煙吸いまくってる筈なんだけれども、よくもまぁ身体に変調無いものだ。アレか。神酒(ソーマ)による浄化作用ってそこまで凄いのか。凄いな。コレ量産できたら世界中の薬物中毒者救えるじゃん。

 ……まぁ、無理だよね。刹那も数億とか数兆しちゃうって言ってたし、そうそう量産できるもんじゃないよね……。

 

「あ」

「――ん? どうしたの……?」

「あ、ごめん。フェイトちゃんじゃなくて……エルザちゃん、さっきの神酒(ソーマ)まだ残ってる?」

「すっからかんロボ。どれくらい飲ませれば良いのかなんて知らないから全部飲ませたロボ」

「あ、そうっすか……」

 

 これで素質ある人とかだったら、覚醒、遂にモブ主人公が真のチート主人公に!! な展開なんだろうな。超神○飲んだゴ○ウみたいに。

 でも残念!! 僕全くそういうなんか力みなぎる感じとかしませんから!! 普通に体調が絶好調になっただけで、結局歩き続けたせいで疲労も溜まってますから!! むしろ今ダルいくらいですから!!

 しかしそうか……残ってればフェイトちゃんに飲ませて、少しは体調も良くなるだろうと思ったんだけど……。

 

「あ、でも毒見も兼ねて成分分析のために少し飲んだから、ちょっとだけエルザの体内に残ってるロボ」

「いや、飲んだなら胃袋でしょ? 流石にそれ出せとは言わないよ……」

「違うロボ。ちゃんと成分分析用のタンクが体内にあるから、そこに入ったままロボ」

「おぉ!!」

 

 なんというご都合主義!!

 

 っていうか、博士、あんまりエルザちゃんを人外にしすぎない方がいいんじゃない……? いや、便利だし、そのお陰で今助かるわけだけど、第二の胃袋的な物を持ってるって甘い物は別腹を地でいく感じじゃないか。

 あ、体内にナビ搭載な時点で今更か? それくらい。

 

「そっか、これを飲ませるロボ?」

「うん、そしたらフェイトちゃんも体調良くなるんじゃない?」

「なるほど、義嗣冴えてるロボ!! いいこいいこロボ」

「あうあう、乱暴に撫でるない」

 

 いやはや、良かった良かった。

 

「フェイトちゃん、え~っと、大丈夫?」

「……ん」

「ありゃ、こりゃ本格的にまずいロボね。フェイトちゃんちょっとこっち向くロボ」

「……ん、んむ!?」

「うにゃあ!?」

 

 ちょ、うわ、うわ、エルザちゃん何してんの!?

 

 あ、ごめん。状況ね。エルザちゃんがフェイトちゃんの顎を掴んで、キスしました。しかも明らかに口あけてるので、深い奴。

 

「――☆△□※ッ!?」

 

 おぉ、フェイトちゃんが目を白黒させてるよ。っていうか、何気にこの光景、なんか身体がムズムズするよ。痒いよ、なんか、こう……青少年に見せちゃいけない感じだよ!!

 

「ぷはっ。どうロボ?」

「ゲホッ、ケホッ、ど、どどどど、どうって!? ど……あれ?」

『Condition

all recovered. The completion of a magic supplement

「……凄い。魔力が完全に回復してる……それに、疲れも無くなってる……?」

 

 おぉう……凄いな。エルザちゃんがどんだけ溜め込んでたのかわからんけど、口移しで飲ませられる程度の量でそんなになるんだ……。

 

 ……なんかさ、ラストエリクサーをレベル1のキャラが毒状態にかかっただけで使っちゃった感バリバリなんだけど、僕本当にどうしたら良いんだろうね? フェイトちゃんって相当魔力あるよね。それが一瞬で全回復って、明らかに僕なんかに使うべきアイテムじゃなかったよね。

 

 っていうかさ、口移しで飲ませるなら、事前に言おうよ。フェイトちゃんが顔真っ赤だったよ? いや、口から入ってるんだし、口以外から出したらそれはそれでマズいけども、っていうか、どうせなら僕にも口移しにして欲しかったよ。

 普通さ、ああいう時って口移しイベントだよね? いや、別にエルザちゃんとそういう関係な訳じゃないし、良いんだけど、良いんだけどさ……。

 

「ふぅ~む。どうにも原理がわからないロボね。確かに取り込んだ時に身体が軽くなるような感じはしたけれども、別に凝縮された魔力が込められた液体という訳でもなかったロボ。

 伊達に神の名はついてないロボね。神力とでも言うロボ? 帰ったら博士に報告ロボね」

 

 おうおう、腕を組んで首を傾げるエルザちゃん可愛いです。何気にちゃんと助手してるんだね。

 

「んじゃまぁ、そういうわけで出発するロボ」

『All right』

「分かった」

「了解だよ」

 

 う~む。僕もこういう時ばっかりはストレージで良いからデバイス欲しいなぁ……。いや、いっそパワードスーツとかで銃火器でも有りです。あ、銃刀法違反で捕まるか。ふぁっきん。

 

 

 

 

「……なんぞこれ……」

「壁……にしては、随分……」

「ふむん? ん~……でっかいロボね。怪獣ロボ?」

 

 時折出てくる深き者共をエルザちゃんが銃撃やトンファーキックで蹴散らしつつ(最早トンファー型の銃の意味が無いんじゃないかと思う)どんどんと突き進み、前回の休憩から一時間(エルザちゃんが教えてくれた)ほど歩いたところで、ソレは現れた。

 

 青白くて、エルザちゃんの魔力光に反射して妙にテカっている微妙に曲面を描く壁。見えない天井の方まで聳(そび)え立っているのか、頂点は見えない。

 

「あ~、分かったロボ。これドールロボ」

「「ドール?」」

 

 ドールってなんだっけ。なんか前に聴いた覚えあるけど。

 

「巨大なミミズみたいなもんロボ。ん~……ここに充満してる煙の麻薬と媚薬の成分、コイツから採取された物みたいロボね。品種改良でもされてるロボ? この洞窟もコイツが掘った物ロボね、サイズ的にピッタリロボ」

 

 あ~、思い出した。ドールね、サイズダウン版がエロゲによく出てたなぁと考えた覚えがあるよ。そんな話してたね。

 でもそれってティンダロスの猟犬の仲間じゃなかったっけ? ダゴン関係あるの?

 

「ミミズ……これが……?」

「まぁ、ミミズっぽいだけで百害あって一利無しの害獣ロボ。でも今は休眠中みたいロボね。コイツが動いたら大災害レベルの地震がおきてもおかしくないから、刺激しないようにさっさとコソコソ行くロボ」

「賛成」

「……地球にはこんな生物が一杯いるの……?」

 

 あ~、フェイトちゃんカルチャーショック受けてるよ……まぁそうだよね。僕だってここが転生前の世界だったら唖然としてたわ。

 

「フェイトちゃん、一応言っておくけどこんなのそんじょそこらに居ないから。地球も基本的には普通の生態系だから。僕も初めて見たからね、こんなの」

「そ、そうなんだ……」

 

 うん、そうなんです。だから地球に恐怖心を抱かないでね? なのはちゃんとクラスメイトになるフラグばっきんばきんに折れられたら困るよ僕。完全に僕のせいになっちゃうし。

 

「しっあわっせなっら手っをたったこっ♪ しっあわっせなっら手っをたったこっ♪ し~あわ~せな~らた~いど~でし~めそ~およ♪ さ~あみ~んな~で手~をたた~こ♪ ロっボっ♪」

「「この状況下で何で歌いだしたのエルザ(ちゃん)(さん)!?」」

「む、ここでドールが動き出して、地上までのショートカットが出来るフラグは立たなかったロボね」

「「お願いだから静かにして!?」」

 

 なんでわざわざ危ないフラグ立てようとすんの!? それ博士と一緒ならギャグ補正でどうにかなるかもだけど、僕達普通だから!! 僕とフェイトちゃん巻き込まれたら死ぬから!!

 

「二人の声も充分でっかいロボ」

「グゲャ!?」

 

 うん、それは重々承知ですがね? あと奇襲をかけたのにあっさり普通におしゃべりされながら片手間で倒されていく深き者共が、そろそろ見慣れてきたせいか哀れに思えてきたんだけど、コレって精神汚染されてる影響とかじゃないよね?

 

「バルディッシュ……私色々と不安になってきたよ……」

『Please become fine. Master』

 

 なんか、本当、色々ごめんね、フェイトちゃん……。

 

 ――あれ、でもちょっと待って? ドールが動いたら大地震起きるんでしょ? で、ここ掘ったのは恐らくドール。

 

 おかしくないか? 恵理那ちゃんが言っていた行方不明事件って、先月10日前後からでしょ? もしそれの前後にここが作られたとすると、そんな大地震がニュースになってない訳ないよね。

 じゃあもっと昔からあったのか? だとするとドールは相当昔からここを住処にして掘ってあったとか? やっぱりこの世界にクトゥルフ実在するのか?

 でもそれならもっと昔から深き者共がここをねぐらにして活動していた筈だ。最近になってそんな行方不明事件が持ち上がるなんておかしい。

 

 ……駄目だ。情報が少なすぎるな。今はこの思考はカットだ。 

 

 頭を振って疑問を振り払ったところで、エルザちゃんがちょっと何かを考えるようなそぶりを見せながら、また一体深き者共を肉塊にして振り返った。

 

「そういえば、暇つぶしついでに訊きたいロボ。フェイトちゃんは何でジュエルシード探してるロボ? やっぱりお家が貧乏で、資金稼ぎのためロボ?」

「いや、そんな理由で探すのエルザちゃんと博士だけだから」

 

 いきなり何を言うのかと思ったら、誰も彼もが貧乏なわけじゃないよエルザちゃん。ジュエルシードを金策に使おうなんて普通考えないから。

 

「……貧乏……? ――ハッ!? 確かに母さん最近ご飯食べてない気がするけど、もしかして……じゃああのお土産のケーキを食べなかったのも、私に食べさせてあげようと……」

「いやいやいや!? 絶対違うと思うよ!? 君のところ要塞みたいなお家持ってるし、ガードロボも一杯いたよね確か!? どう考えても貧乏じゃないよね!?」

 

 意外にフェイトちゃんおバカ系キャラだった!?

 

「……そうだけど、なんでソレを知ってるの?」

 

 

 ……。

 

 

 ……、……。

 

 

 

 ……、……、……ぬかったぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 うわあぁぁぁぁぁ!! 駄目だろ僕がそれを知ってること言っちゃ!? エルザちゃんのバカ!! エルザちゃんのボケにフェイトちゃんが乗っかっちゃったもんだから、僕ツッコミ入れちゃったじゃないか!!

 

「……そうだエルザちゃん。ガードロボと言えば、破壊ロボって今作ってないの?」

「装甲材はいくらでもあるけど、電子機器部分が中々集まらなくて外殻だけ作って放置中ロボ」

「義嗣くん、でいいよね? なんで、私の家のこと知ってるのか、説明して」

「……ハイ」

 

 首筋に、首筋に魔力刃はちょっと、勘弁願いたいですよ。

 あ、でも至近距離でフェイトちゃんのご尊顔を拝めるという特典があるよ!! やったね!! 全然嬉しくないよ!!

 

 ……考えろ、考えるんだ僕。

 

「天ヶ崎くんからキイタンダ!!」

「悠馬が私と一緒に時の庭園に来たことは無い。それに貴方がそこまで仲が良いなんてこと聴いたことない」

 

 ですよね~!! 一度フェイトちゃんがお家に帰った時もあいつ学校きてたもんね!!

 

「こらこら、義嗣をいじめちゃ駄目ロボ。フェイトちゃんお姉ちゃんなんだから、弟には優しくするロボ」

「ちがやい!! 同い年だい!!」

「なんで、私が同い年だって、知ってるの?」

 

 チクショー!! ドツボにはまっていくよおおおお!!

 

 落ち着け、僕のIQ180の半分以上は行ってると思う脳みそよ、フル稼働するんだ!!

 

 1.「この前僕遊びに行ったじゃないか、やだな~も~フェイトちゃんったら☆」

 うん、どう考えても誤魔化せないね!! いつ来たんだよ!! って言われて終わりだね!!

 

 2.「この前、ストーキングしたんだ!!」

 まずどうやって後をつけてたのかとか、時空間移動どうやったとかツッコミくらって終わりだね。

 

 3.「好きです。結婚してください」

 ……二次創作とかでよくある、無印でもあわあわするフェイトちゃんであった場合は、誤魔化せるか!?

 いや、無理だな。っていうか、即殺されるな。

 

「トンファービーム!!」

「グゲァ!?」

「「だからそれトンファー関係ないよね!?」」

 

 今指先からフ○ーザ様のデ○ビームみたいに出てたよね!?

 

 くそぅ、ツッコミだけは完全に息合ってるから見逃してくれないかねフェイトさんや。同じツッコミタイプのよしみで。

 そしてエルザちゃん助けて? 割と僕テンパッてて誤魔化す方法が思いつかないんだけど。あ、また狂気に侵されたフリする? いや、無理だわな。今更だわな。

 

 ――あ!! そうだよ。ここは全て邪神のせいにしてしまえばいいのだよ!!

 

「で、どうして?」

「えっとね、実は、今回のこの怪異の奴等に取り込まれかけた時に……前回のジュエルシード戦で肉片がフェイトちゃんの体に付着してたみたいで、それが時の庭園とやらまで一緒に行ったみたいでね? それの記憶というか、視覚情報というか、そんな感じなのが流れて込んできたの」

「――そういえば、確かにあの後マントに変なのが少し付着してた覚えが……」

 

 よぉっし誤魔化せた!! 邪神さんありがとう!!

 いあいあはもう言わないけどね!!

 

「目からビーム!!」

「「もはやトンファーの名前すらついてない!?」」

 

 使わないならいっそソレ貸してよ!?

 って、そうだよ。ガントンファー貸してもらえばいんじゃね? そしたら僕も戦力になれるんじゃないかな。

 

「ねぇねぇエルザちゃん。それ使わないんならいっそ貸してもらえない? 銃使えれば僕も少しは戦力になるでしょ?」

「ロボ? でもコレ50口径だから子供が撃つにはちょっとキツいと思うロボ」

「50口径!? それマグナム弾なの!?」

 

 ごめん!! マグナムとか無理!! デザートイーグルとかを大人が両手撃ちしても滅茶苦茶反動でかいのに、この子供の身体じゃ無理だから!! しかも形状がトンファー型だから絶対制御できないわ!!

 

「ねぇねぇフェイトちゃん、フェイトちゃんは何か予備の武器とか無い?」

「……私はバルディッシュ無しでもある程度魔法使えるから、そういうのは持ってない」

「……だよね」

「……ごめん」

「いや、こっちこそごめん、最初から自衛用の武装くらい持ってろって感じだよね……あはは…

 

 参ったね……やっぱり僕戦力になれないのか……。

 

 う~……最近何もしてなくても巻き込まれが酷いし、意地張らないで博士あたりに武器作ってもらおうかな。恵理那ちゃんに魔術教えてもらっても良いんだけど、常に女装って……僕がそっちの方向に目覚めちゃったらどうするんだよって感じだしね。

 

 って言っても、僕が使える武器なんてせいぜい女性用の小型拳銃くらいだろうなぁ……人間相手なら充分だけど、今回みたいな怪異に巻き込まれたら明らかに火力不足だよね……。

 

 あ、今頑張ればガンドとか出ないかな。神酒なんて凄いものガッツリ飲んだわけだし!!

 

「ガンド!!」

 

 右手で鉄砲の形を作って叫んでみる。

 何も出ませんね。わかってた。わかってたよ?

 

「えっと……ガンド……って、何?」

「ごめん、訊かないで……」

 

 恥ずかしすぎる!! 前世で子供の頃かめ○め波の練習してたのを、大人になってから思い出した時ばりに恥ずかしい!!

 

「あ~、強く生きるロボ、義嗣」

「うん、強く生きるデスヨ」

 

 悔しいぜよ……。

 う~……あ~……くそ、チート能力とまではいかなくても、やっぱり僕にも自衛手段が必要だよ。ダメだ。こういう時明らかにお荷物だし、帰ったら絶対身体鍛えよう。そんで博士に武器作ってもらおう。防具とかもあれば良いね。

 とんでも素材で作った防弾防刃の服とか、時計型麻酔銃とか、携帯電話型爆弾とか。日常で持ち歩ける外見の物で作ってもらおう。タンス貯金のお金(二万円くらい入ってる)全部渡せば一個くらいは作ってくれるだろ。多分。博士なんだかんだでお人よしだし。

 

 そう、時代は科学!! 科学技術なのだよ!! 魔法とか魔術なんて知ったことかば~か!! ガンドなんて使えなくてもいいやい!!

 

 ……でも投影魔術かっこいいよなぁ……ガンドも弾薬必要無しで撃てるし、殺さずに済む非殺傷魔術としてはかなり優秀だもんなぁ……フォトンランサーとかディバインシューターとかも使いこなせたらかっこいいよねぇ……そしてバリアジャケット欲しい……やっぱり変身って男女問わず子供の夢だもんねぇ……あ、魔道書と合体してマギウススタイルとかも有りだね。うふふのふ。

 

 ――うぅ、ごめんなさい。やっぱり魔法とかも使ってみたいです。諦めたらそこで試合終了だよって声かけてくれる人いないのが切ないです。

 

 今後について一人で頭の中で考えていたら、また新しい深き者共を一人潰したところで、エルザちゃんがふと、何かを思い出したように「あー」と呟いてから、少し困ったような笑顔でこちらを振り向いた。

 

「ねぇ、フェイトちゃん。突然な話だけど、エルザは人造人間だってのはまぁ、何回も言ってるロボね?」

「少し信じがたいけれど、一応は。目から収束魔力砲出るような人間はいないと思うし」

 

 うん、さっき出てたね、目からビーム。エルザちゃんどんだけ体内に兵器隠し持ってるの?

 

「うん。……ふぅ、で、それを踏まえた上で、覚えておいてもらいたいロボ」

「……? はい」

 

 急にどったの、エルザちゃん。

 

「人造人間だって、れっきとした人間ロボ。だから、製作者が気に食わなかったら殴ったって蹴ったって良いし、いくらでも文句を言っていいし、恋だってして良いんだと思うロボ。っていうか、エルザはしたいロボ」

「……そう、だね」

 

 ……エルザちゃん。そっか、フェイトちゃんもエルザちゃんみたいなサイボーグとアンドロイドの合いの子と違って、純粋な生身のクローンとはいえ、人造人間であることには変わりないからね。今はまだ原作の話の流れ的に自分がクローンだなんて知らないだろうけど、それを知った時の迷いを減らそうとしてるのかな?

 

「うん。それに、人造人間が例え誰かの記憶や人格転写をされて作られた物だったところで、魂の形まで同じになることは無いロボ。だから、感情も感性も魂レベルで違う別人である以上、コピー元の人間とは違う人間に成長するのも当たり前ロボ。エルザなんてまさにそれロボ。

 ――エルザの元になった博士の本当の妹さんは、もっとおしとやかで、でも芯が強くて、とっても優しい子で、ロボなんて変な語尾の無い普通の子だったそうだロボ」

 

 寂しそうに言うエルザちゃんの顔は、それでも笑顔だ。

 

「でも、例え別の人間になっちゃっても、記憶も感情も、本物のエルザちゃんの物を持っている以上は、エルザは博士の妹だって博士は言ってくれたロボ。それに、博士は自分が作り出した以上、エルザは妹であると同時に愛娘だから、エルザのためならなんだってしてやるなんて言っちゃうとんだ変態でシスコンな親バカさんロボ」

「……何が、言いたいの?」

「……子を愛さない親なんて、いないロボ。親を思わない子なんて、いないロボ。でも、子を愛するあまり親が狂ってしまったのなら、子はそれをどうにかしてあげないといけないロボ」

「分かってる。母さんがもしもおかしくなってしまっても、私は見捨てない」

「見捨てないことと、どうにかしてあげることっていうのは、違うロボ」

 

 フェイトちゃんの返答に、首を振って否定するエルザちゃん。

 そこに空気を読まない深き者共が突っ込んできたが、エルザちゃんの回し蹴りをくらってただの肉塊へと一瞬で変化した。

 

「親が道に迷ったなら、一緒に道を探すのも良いし、代わりに誰かに訊いても良いロボ。

 親が誰かを傷つけてしまったのなら、一緒に謝りに行くのも良いし、自分の非を認めないで駄々をこねるなら、ひっぱたいてやるのも愛情ロボ。

 これは親だろうが子だろうが、家族なら当然しなくちゃいけないことロボ」

「…、…」

「例え人工的に作られた、仮初の人格と記憶と心を持ったエルザでも、それくらい分かるロボ。生きている以上、死んでしまった子の分も、親のために頑張るのが子の、家族の役目、責任ってものロボ」

「そうだね……」

「……ごめんロボ。何を言っているのか、今はきっと理解できないかもしれないロボ。でも、忘れないで欲しいロボ。例え自分が傷ついても、傷つけられても、例え全てが仮初であったとしても、少しでも親に愛を感じているのなら、最後まで諦めないで、自分の親を、自分の家族を少しでも正しい道へと引き戻してあげてほしいロボ。それが、家族の責任だと思うロボ」

「……わかった。覚えておく」

「ありがとうロボ。今日会ってから、フェイトちゃんの顔を見ていて、ずっとコレを伝えたかったんだロボ。……そういう意味では、義嗣は良い仕事をしたロボ」

「へ?」

 

 あ、ごめん。なんか、エルザちゃんが良い話ししてるんだなぁと思って、聞き入ってた。

 

「ふふ、こうやって落ち着いて話せる状況にでもならないとフェイトちゃんとお話しする機会なんかきっと無かったし、もし今日全てが上手く進んでいたら、きっと何も言えないままお別れになっていたロボ。だから、ありがとうロボ、義嗣」

「いやいや、なんで僕に感謝するのさ。むしろ迷惑かけてごめんなさいしなくちゃいけない立場なのに」

「ふふ……確かに、義嗣くんは迷惑かけてるだけだね」

 

 あうあうあ、心にグサグサ刺さるとですよ?

 って、あれ? 今フェイトちゃん笑った?

 

「ん、フェイトちゃんはやっぱり笑ってた方が可愛いロボ。流石は我が妹ロボ」

「いやいや、フェイトちゃんいつエルザちゃんの妹になったのさ」

 

 エルザちゃんの意見には賛成だけども、フェイトちゃんの笑顔可愛いけども。是非とも幸せになってもらいたいですけども。

 

「妹……か」

 

 おう? 意外に好感触なの? 妹発言。

 

「そう、妹ロボ。だからいつでもこのエルザお姉ちゃんを頼ると良いロボ。必要なら博士の尻蹴っ飛ばしてでも手伝わせて、なんでも助けてあげるロボ」

「……ありがとう」

 

 ぽつり、と呟くように洩らしたフェイトちゃんのお礼は、ちゃんとエルザちゃんには聴こえたようで、満面の笑みを浮かべていた。

 

 惜しむらくは、深き者共が全く空気を読んでなくて、歩きながらのこの会話中に、何度も襲い掛かってきていたことである。ろくにしんみりもさせてくれない連中で本当に嫌になるが、フェイトちゃんの少し穏やかな笑みと、エルザちゃんの朗らかで優しい笑みを見ていると、なんかどうでも良くなった。

 

 この二人の交流が、どういう結果をもたらすのかは、今の僕には分からないけれど、きっと、悪い方向にはならないんじゃないかな、と、そんなことを思う。

 

 邪神じゃないほうの神様、いるんだったら少しくらいはこの子達に幸せを恵んでください。ぶっちゃけ僕のSAN値とか幸福なんてどうでも良いから。苦労してる子達に、愛の手を。可愛い子達は愛でるものなんだからね、神様?

 

 

 

 

 出口が近い、らしい。

 神酒によって回復したフェイトちゃんもそろそろ疲労がたまってきていたし、エルザちゃんのガントンファーも弾切れを起こし、遊んでいる余裕も無くなったのか、ビームとかは出さなくなってきた頃のことだ。

 

「間違いない?」

「風が強くなってきたから間違いないロボ。それと煙が増えてきたから、絶対に防御魔法解いちゃ駄目ロボ」

 

 ようやく、外に出られる。そう思えば、三人とも足が速まるのは仕方の無いことだろう。

 

 まだ外は夜なのか、光が差し込んだりはしているのが見えないものの、遠めに何かが燃えているようで少し大きめの火の光が見える。ただ、代わりにこのあたりからは蝋燭がなくなっているようで、完全にエルザちゃんの発光している身体だけが光源だ。

 

 あの焚き火のようなところまでどれくらいの距離かは分からないけれど、もう少しの辛抱だ。ぶっちゃけ、足がそろそろ棒のようになってきているし、喉の渇きも空腹も限界なので、あと少しで歩かなくて良くなるというのは本当に助かる。

 

 あの一度の休憩の後は二人が平気そうだったので、僕も休憩を言い出したりしなかったのだが、魔法も気みたいなのも使えない一般人の子供の身体には結構な負担になっていた。

 

 エルザちゃんに時間の確認をとっていなかったが、どれくらい歩いたのだろうか。

 

「……嘘」

「……そういう、ことロボか……」

 

 と、二人の声にいつの間にか下がっていた頭を上げる。

 

 そこにあったのは、壁。いや、よく見れば僕の拳一つぶんくらいのサイズの穴は空いている。そこから、ほんの少し、薄明るい日の光が差していることから、外は日が昇り始めているところだろうか。

 

 他にある光源は、ぐつぐつと煮えている謎の青白い蛍光色の液体と、それを煮る為に焼かれている、明らかに何かの肉と思わしき物が薪になっているところだけ。このあたりにもろうそくは置いていないようだ。

 

 遠めだと、外の光なんて近くで燃える焚き火の光でかき消されてしまうくらいの、心もとない光。そんなものが通る程度の穴しか無い。このまま脱出するのは不可能だろう。

 

 でも逆に考えれば、このままでは無理でも、穴を広げれば出れるはずだ。

 

「……良かった。穴が開いてるなら、壊して出れるね」

「良くないロボ、義嗣。確かに穴は開いてるけど……」

 

 コンコン、とエルザが壁をノックして、頭を振る。

 

「壁の厚さ、4~5mってところロボ。ディグミーノーグレイブが使えれば簡単に壊せるロボ。でも、今は弾切れのただのトンファーだけロボ。フェイトちゃんはどうロボ?」

「……私も、出力を絞っていたとはいえずっとプロテクションを展開していたし、そこまで余剰魔力がある訳じゃない。まして4m以上の岩盤を一撃で砕けるような物理的破壊力を伴った魔法となると……」

「魔力刃で掘ったりは?」

「出来なくは無いと思うけど……」

 

 まぁ、ここまでずっと魔力消費してきてるし、そんな重労働女の子にさせる訳にはいかないよね。

 

「分かった。フェイトちゃん、フェイトちゃんはデバイスなしでも魔法って使えるんだよね?」

「え……? うん、使えるけど……」

「じゃあ、僕が掘るから、バルディッシュ貸してもらえない? 一応、僕にも魔力はあるらしいから、バルディッシュが魔力を吸い出して魔力刃を出してくれれば、後はただの力仕事でしょ? それにこれならエルザちゃんと固まって休んでいれば、フェイトちゃんも少し休憩できるし」

「あぁなるほど……それなら確かに、残り1mくらいまで掘ってくれれば、エルザが全力で殴れば壊せる程度の硬度にはなると思うロボ。……でも、大丈夫ロボ? 義嗣も相当身体疲れてると思うロボ」

「そこは男の子の意地って奴ですよ。ただでさえ足手まといだったんだから」

「でも……」

『Let's be in the proposal.It is not the scene of straining oneself.

Master』

「バルディッシュ……」

「バルディッシュも賛成だそうロボ」

「よぅし、じゃあちょっとは男の子らしいところ、頑張ってみせますかね!!」

 

 元から戦力外の僕が動いてる間は二人も休めるだろうし、急に深き者共が湧いて出てきても二人なら対処できるだろう。

 

 さてさて、炭坑少年ピッケル☆よしつぐ、始まるよ!!



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35.脱出と不定形

 喉はカラカラ。お腹はペコペコ。それな~んだ。

 正解は、今の僕です。

 

 どれだけ経ったかもう分からないけれども、壁の掘削はあまり順調とは言えなかった。

 

 起動キーを教えてもらい、バリアジャケットは魔力の無駄なので(使ってみたいけど)いらないと言ったが、壁を壊すごとに出てくる粉塵とかを甘く見ていると身体を壊す。バリアジャケットで口や鼻を覆う物を出せば防げるから着ていないとマズイと言われたために、とりあえず仮として自衛隊の迷彩服っぽいのと、口と鼻を覆うためのストール(いわゆるアフガンマフラー)をお願いしておいた。

 イメージ力不足でただの迷彩仕様のツナギになっちゃったけど。ストールはちゃんと出たから良いとしよう。

 なんか、せっかく変身したのに“土方の現場に何か勘違いして勢い込んでやってきたガキンチョ”っぽい格好のせいで感動が欠片も無いけど、まぁ良いとしよう。

 

 ちなみにこの服(迷彩服)の理由だけど、なんかこういう作業って自衛隊がやるイメージがあったもんでついついチョイスしてしまった。

 僕が迷彩服とか好きってのもあるんだけど。他に咄嗟に思いついたのがフェイトちゃんとなのはちゃんのバリアジャケットだったもんで、ペアルックはまずかろうという思いがあったのだ。

 

 そもそもなのはちゃんはスカートだし、フェイトちゃんはふともも丸見えで完全にセクシー系な女性用装備だし。

 

 真っ赤な西洋鎧とか、或いは真っ赤な和式甲冑でも良いんだけど(僕は赤が好きなのだ)、土木作業には似合わないし、何より細部を想像するのは難しいので、迷彩服でよかったのだ。ツナギになっちゃったけど、そうなのだ。ツナギになっちゃったけど、本当は鎧を着たかったなんて思ってないんだからね!!

 

 で、まぁそれはともかく、最初はサイズフォームでザクザク掘ろうとしたんだけど、なんか魔力自体はそこそこあるらしいんだけど僕から一度に放出出来る魔力が少ないらしくて、フェイトちゃんの魔力刃の半分どころか三分の一くらいしか出なくて、それで掘ったらバルディッシュ本体も壁にぶつかって痛そうなため、ピッケルっぽい形状の少し傾斜のついた棒状で細くて長い魔力刃を形成してもらった結果、サイズフォームというよりピッケルフォームになってしまった。

 いや、バルディッシュのサイズ的にツルハシ……英語でなんだっけ。マトック? マトックフォームといったところだろうか。

 まぁ、なんにしてもダサいことこの上ない名称である。

 

 でもまぁ、穴堀りにはこっちの方が最適だし、良いよね、と思ってそのまま掘り始めたのだが、岩盤は当然ながら硬い。流石にこっちも魔法で出来た刃だけあって一回である程度は刺さるんだけど、刺さりはしても全然崩れなくて、作業に慣れるまでかなり大変であるというのが判明した次第だ。

 

 かれこれ何十分掘ったかも分からないけど、一番掘れているところで僕の頭が入るか入らないか程度のサイズの穴が20cmほどいってれば良い方だろう。人一人が通れるだけのサイズの穴で4m掘るのはかなりキツい。これがせめて土であれば違ったのだろうが、ここは完全に岩盤なのだ。

 いや、でもだからこそ掘ったところに上から土が落ちてきて埋まってしまうなんてことがないから、逆に良かったのか?

 

 まぁ、なんにしても。

 

「バルディッシュ、穴掘り道具なんかにしてごめんね?」

『No problem. Your heart is very warm.

Being used by you is very pleasant』

 

 バルディッシュに謝ったら、そう返答された。

 

 なんて言ってるのか訳ワカメだったが、ハートがベリーウォームってことは心が温かい? アレかな。「戦闘以外をするのもたまには良いよね~」とか「フェイトちゃんのために働いているのだから問題ないぜ。俺はフェイトちゃんのために働くと心が温かくなるんだ!!」みたいなこと言ってるのかな?

 

「バルディッシュがあんなことを言うなんて……」

「まぁ確かに、義嗣の近くにいるとなんか落ち着くんだロボ。家で一緒にベタベタしてる時なんか最高に幸せな気分になるロボ」

 

 おう? なんかよくわからんけど褒められてるぞ。頑張ろう。

 

「フェイトちゃ~んのた~めな~らえ~んや~こら~♪ エルザちゃ~んのた~めな~らえ~んや~こら~♪」

『A hole can be dug♪ That can be dug♪ It can tunnel♪

「バルディッシュが唄ってる……」

 

 おうおう、ノリが良いではないかバルさんや。

 

「義嗣頑張るロボ~。ん~……ぺっぺっ。うぇ~、やっぱりこの液体と肉は摂取したらまずいロボね。味も成分も」

「いや、それならなんで食べてるのエルザさん……というかよく食べれるね……」

 

 とかなんとかやっていたら、エルザちゃんが何やらぐつぐつと鍋で煮られていた蛍光色の汁と、薪になっている肉をどこからとも無く取り出したおわんとお箸で食べていた。何してんの。

 

「体力的に何か食べたり飲んだりしないと二人はそろそろまずいロボ。だから毒見ロボ。幸い、エルザは食事として取り込まなければ多少は体内に毒物入っても問題無いロボ。ん~……エルザに毒素抽出機能とかあれば食べられるように出来たのに、勿体無いロボ」

「「いや、例え毒がなくてもそれはいらない」」

 

 さっきからエルザちゃんが鍋の近くにいるなと思ったら見事に怖い物知らずな真似である。本当そういうのやめなよ、ばっちぃから。

 しかし、あのお肉は本気で食いたくないけど、お腹が減っているのは事実。喉もカラカラである。ぶっちゃけ、気を紛らわせるために唄うのも喉が張り付いて辛いんだけど、何も言わないで掘ってるのは苦痛なのだ。

 う~、スポーツドリンク飲みたい。ただの水でも良い。ご飯が食べたい。真っ白いごはんに刹那の作った甘い卵焼き。最近作ってなかったし、ポテトステーキもありだ。あ、でも博士のリクエストで作ったカレーがまだ残ってるからそれ先に片付けないといけないか。

 

 ……お腹減った。

 

「あ、ちょっと戻って深き者共の肉が食べれるか試してみるロボ」

「「いや、本当にいらないから」」

 

 エルザちゃん。君ちょっとグロ耐性高いってレベルじゃないよ。いくら魚っぽいっていっても見た目人間っぽいアレの肉食いたいとは思えんよ。例え毒が無くて美味しかったとしても、SAN値ガリガリ削られるよ。

 

「む~、でも二人のバイタルデータ見た限りでは水分もカロリーもかなりまずいところロボ。義嗣、さっきから自分がふらついてるの気付いてるロボ?」

「う……まぁ、若干は。いや、でも大丈夫だよ? 唄う元気もあるし」

「唄う元気無くなると同時にぶっ倒れるロボ、それは。フェイトちゃんも今は休憩してるから良いけど、最近ご飯ちゃんと食べてるロボ? 元々お腹に入ってた栄養物が足りないせいか、神酒で回復した割にちょっと体力の低下が激しいロボ」

 

 他人のバイタルデータまで見て分かるとか、エルザちゃんどんだけハイスペックなんだ。

 

「……私は、大丈夫。それよりも彼……義嗣くん……大丈夫なの?」

「いやさ、深き者共に襲われる心配をしていなくていい分、精神的には楽だし問題ないよ」

 

 身体の方はさっきから視界がホワイトアウトしたり、心臓がバクバクいってたり、呼吸が荒かったりで大変なんだけどね。呪いくらってた時の苦痛に比べたら可愛いもんだよ。

 

「義嗣、強がってもいいこと無いロボ。そろそろ休憩するロボ」

「いや、でもやっとコツ掴めてきたから」

『Let's rest

「バルディッシュも休憩を提案してるロボ」

「うぐぅ……相棒、僕の強がりを応援してくれよぅ」

『It is impossible consultation』

「なんか最初の休憩した時のフェイトちゃんそっくりロボね」

「いや、僕はフェイトちゃんほど無理してないから」

「むっ、私もそんなに無理した覚えは無い。全然余裕だった」

「あ、じゃあ僕も今全然余裕だからいけるいける。ね? バルディッシュ?」

『You and Master are the same kinds』

「二人は同類だってバルディッシュも言ってるロボ」

「「バルディッシュ……」」

 

 僕はフェイトちゃんみたいに無理も無茶もしてないってば~。なんだよぅお前さん相棒だろぅ? 今限定だけどさ、ちょっとくらい男の子の強がり認めてくれよぅ。同じ男の子じゃないか。

 

「まぁそういう訳で休憩ロボ。ん~……しかし食料と水が無いのはキツいロボね……この液体蒸発したのを利用して水にしようにも、蒸気にかなりヤバめな成分含まれてるから駄目ロボし……あ、エルザのお肉そぎ落として食べるロボ?」

「「いえ、全力で遠慮します」」

 

 エルザちゃん自分が人造人間だからってちょっと奉仕的すぎやしないかい!? 僕目の前で知り合いの女の子が自分の肉そぎ落として「召し上げれ♪」とか言ってきても全力で拒否するからね!?

 

「そうロボか……とは言ってもこの状況では食べられるものなんてお互いの身体くらいだからどうしたものロボ……」

 

 なんだろうね~、いくら怪奇と猟奇のおりなす混沌とした作品出典のキャラだからって、カニバリズムを通常の食事と同列に語られても僕達困るよ……?

 

「あ、ところで二人共、トイレは大丈夫ロボ?」

「「全然大丈夫だから心配しないで!」」

 

 この流れでそんな話されたら、なんか凄い嫌な想像しちゃうからやめてね!?

 

「えっと……と、とりあえず義嗣くん。休憩しよう。辛くなったら私が交代するから」

「え、あ、うん。じゃあお邪魔します……」

 

 いそいそと、バルディッシュの魔力刃をしまってフェイトちゃんとエルザちゃんがいるところに行って座り込む。バルさんは宝石の状態になって、一度フェイトちゃんの手袋へと戻っていった。

 うぅ、ここは空気が美味しいね。穴の近くは風が吹き付けてくるからあの煙は吸わなくて済んだけど、それでもやっぱり空気の美味しさという点ではエルザちゃんの空気清浄機能にはかなわんとですよ。

 

「ん~……でもやっぱり食べる気力と体力がある時に食べたり飲んだりは基本なんだロボ。食べる体力も無くなってからでは全てが遅いロボ。もう神酒は無いロボよ?」

「うぐ……それはそうなんだろうけど……」

「……私は大丈夫。元々食事はあんまり摂らない方だから」

「それのせいで今フェイトちゃんは体力が落ちてるロボ。ちゃんとここから帰ったらお腹一杯食べるロボ。お姉ちゃんとの約束ロボよ?」

「いや、多分暫くお肉は無理だと思うよ……ねぇ? フェイトちゃん」

「うん……そうだね。私もお肉は当分いらないかな……」

 

 魚肉ですら、深き者共のインスマウス顔(魚とかカエルっぽい顔)見たら食いたくなくなるよ本当……。

 

「ふむぅ……黄金の蜂蜜酒でも持ってくればよかったロボ」

「いや、アレはハスターフラグだから止めて」

 

 クトゥルフと敵対はしてるけど、あいつも邪神なのは違いないから。

 っていうか、持ってたんだね、黄金の蜂蜜酒。

 

「あぁ、エルザの言ってる黄金の蜂蜜酒は、博士特性のロイヤルゼリーとか日本ミツバチから採取した貴重な蜂蜜とか、各種栄養素の入ったサプリメントとか大量に混ぜ合わせたドーピングみたいな一品ロボ。美味しくて栄養満点美容にバッチリだけど、数が少ないから研究所に置いてあるロボ」

「へ~……なんか美味しそうだね。っていうか、研究所あったんだね」

「そうじゃないと破壊ロボなんて隠しておくところ無いロボ。ちゃんと義嗣の家の庭に入り口があるロボ」

「へ~……?」

 

 いや、待て。

 

「いやいやいや、エるザちゃん!? 僕言ったよね!? 家とか家の中の物勝手に改造しようとしたら博士を止めてって!!」

「ちゃんと家の外だから問題無いと判断したロボ」

「あの時の僕、なんで自分から穴を作るかな!? 敷地内って言っておけば良かったよ!!」

 

 あ、でもここから帰ったら装備作ってもらうのには丁度良かったかも。結果オーライ結果オーライ。

 

「駄目だったロボ?」

「いや、もういいよ。代わりに帰ったら、土地の利用代代わりに僕に自衛用の装備作って」

「そのくらいなら別にお茶の子さいさいロボ。義嗣なら悪用もしないだろうしロボ」

 

 よし、装備代浮いた。……にしても、そんな信用してくれるって嬉しいねぇ。

 

 っていうか、悪用するような相手には渡さないことにしてるのか。本当に原作のマッドで研究のためならなんでもしちゃう博士のイメージから離れてるな。

 

「……楽しそうだね」

「あ、いや、楽しいけど、フェイトちゃんのこと忘れてたわけじゃないよ?」

「そうロボ。っていうか、そろそろ真面目に食糧問題を考えるロボ」

「後は壁を掘るだけ。なら、そこまで心配しなくても良いと思う」

「いやいや、フェイトちゃんは4mの岩盤を崩して人一人通れるサイズの穴作るのが如何に大変なのかわかってないロボ。破壊ロボでもいればドリルでどうにかす……あ、バルディッシュ、ドリルって魔力刃で再現できるロボ?」

『Drill

? ...sorry,I don't know drill』

「あや……じゃあ仕方ないロボね。エルザも魔力残ってればバルディッシュ借りて形状のイメージ伝えられたけど、もう魔力収束砲一発分くらいしか残ってないから無理ロボ。魔力切れしたら強制睡眠に入るからまずいロボ」

 

 ドリルか~……確かにあったら楽だったけど、仕方ないよね……。

 

「……ある程度掘れてからなら、サンダースマッシャーを限界まで魔力を注ぎ込んで撃ちこめば……」

「熱量で溶かすなら良いロボ。でも岩盤溶かして貫通しきれるだけの出力あるロボ?」

「やってみなければわからない」

「なのはちゃんの砲撃ならイケそうだけれども、フェイトちゃんは砲撃は本職じゃないし、キツいと思うロボ。それに下手にココで魔力を使い切ると、ここを出た後のジュエルシード封印はおろか、戦闘自体が出来なくなるロボよ?」

「あ……そうか……」

「焦るのもわかるけど、先を考えないと駄目ロボ」

 

 う~む。エルザちゃんが完全に指揮官だ。考え無しに突撃癖があるイメージがどんどん壊れていく。流石は自称お姉ちゃん。

 フェイトちゃんも頭は良い筈なのに、やっぱり疲労と焦りもあるから先を考える余裕がないんだろうなぁ……。

 

「む~……仕方ないロボ。とりあえず体力の無い義嗣、ちょっとこっち向くロボ」

「あいあい……んむッ!?」

「エルザさん!?」

 

 ちょ、何、今キス!? そしてディープ!? 舌入ってきてるっていうか、何か流し込まれてるんだけど!? あ、割と美味しい。っていうか、結構流れてくるね。ゴクゴクのめる……。

 

 ……あふ、なんか気分がとろんとしてきた。舌絡めていいですか?

 

「ぷは。とりあえずエルザが夕食に摂取したのを流動食状にして流し込んだロボ。これで一応、栄養分に関しては問題無い筈ロボ」

 

 あう、終わってしまった……あうあうあ、いかんですよ、これ気持ちよくて癖になりそうで……うぬ? 夕食に摂取したもの?

 

「えっと……それって、もしかしなくても、吐しゃ物といふことですかね、エルザさんや」

「あ~、成分とか味とかに関してはそもそもエルザの身体のつくりが違うから人間のソレとは違って摂取した時そのままの味になってる筈ではあるけれども、まぁ似たようなものではあるロボ」

 

 ぐっ……言うだけあって、普通に美味しかったのが腹立たしい。なんだろう。味はカレー味だったよ。いや、美味しかったということだけを考えておこう。これは(自主規制)じゃないよ!!

 

「えっと……えっと……?」

「そういうわけで、ちょっとフェイトちゃんもこっち向くロボ」

「い、いい。いらない。私は大丈夫」

「義嗣、押さえるロボ」

「任されよ~」

「ちょ、義嗣くん!? 離して!! バルディッシュ!!」

『Please give up』

「バルディんむッ!?」

 

 ごめんよフェイトちゃん。でも僕一人だけ飲まされて君だけ飲まないなんてげふんげふん。体調を整えるためには栄養をとらないと駄目なんだよ!!

 ……むぅ、フェイトちゃん身体柔らかいな。細身だけどちゃんと……って何考えてるんだ。

 

「――ぷはっ。う~、これでエルザのお腹の中空っぽロボ……義嗣、帰ったら美味しいもの頼むロボ」

「うん。その点は任せて」

 

 ふぅ……まぁ、なんていうか、色々混乱したけどエルザちゃんが僕達のこと考えて今やってくれたのだけは分かるし、実際お陰で喉の渇きも空腹も結構楽になったし、感謝してもしたり無いくらいだ。ご飯くらい美味しいもの作ってあげようじゃないか。

 

「うぅ……また……確かに美味しかったけど……」

『Please live strongly』

「バルディッシュ……」

 

 フェイトちゃん、そんな恨めしそうな目でバルディッシュを見てあげなさるな。っていうかバルディッシュの英語って本当に合ってるのか、アレ。なんか英単語をただくっつけただけ、みたいな感じがするんだけど。

 ……いや、何も言うまい。

 

 ……ところでさ、さっきから二人の姿見てるとドキドキが止まらないんだけど、もしかしてさ。

 

「エルザちゃん、確認なんだけど、さっき口に含んだ液体とか肉は、混ぜてないよね?」

「? 混ぜてないロボ。それらは別口の成分調査用のタンクに入れたままロボ……あ」

「……うん、何に気づいたのかな?」

「そういえば、口内にちょっとくらいは成分残ってたかもしれないロボ☆」

「やっぱりね~!!」

 

 これ絶対媚薬かなんかの効果だろ!! なんだよ~!! 道理で口移しの後の余韻とか酷いわけだよ!! っていうか、僕あんな得体の知れない物の断片飲ませられたの!?

 SAN値直葬だよバカー!!

 

「……え、じゃあ私も……?」

「あ、口内に残ってた分は義嗣に流し込んだ時点で綺麗さっぱりなくなってたから、フェイトちゃんにあげた時には無害だったロボ」

「よかった……」

「良くないよ!? 僕全然良くないよ!!」

 

 ちくしょ~!! でもそこまで身体に変調きたしてるわけでもないから怒るに怒れないよ!! 神酒の効果明らかにまだ続いてるよ!! 多分多少の毒物耐性ついてるよ!!

 

 うぅぅ……そうだ、あのグロ肉と謎液のことは忘れよう。僕は美少女から口移しでご飯をいただいた。そのことだけを覚えておこう。僕のSAN値は108まであるのだ。1D100しても、絶対にSAN値が落ちることはないのだ。そう信じるのだ、僕!!

 

「もう穴掘り再開するよぅ!! バルディッシュ貸してフェイトちゃん!!」

「え、あ、うん。バルディッシュ、お願い」

『Yes,Sir』

「うっしゃあ行くぞ相棒~!!」

 

 あふれ出す涙を力に変えて!! 立てよ義嗣!! ジーク・バルディッシュ!! ジーク・バルディッシュ!!

 

 あ、そういえば昔日本のゼロ戦はアメリカ側にジークって呼ばれてたらしいね。格好良いよね、ジークって呼び名。ジークフリートとかって名前もかっこいいよね。などとどうでもいいこと考えながら僕は起動キーを叫ぶのであった。ちなみにジーク・バルディッシュは起動キーではないとだけ言っておく。

 

 

 

 

 掘り始めてどれくらい経っただろうか。

 ようやく掘る作業にも慣れてきて、人一人分のサイズの掘削が50cmくらいは進んだと思う。あと最低でも3m50cm。先は遠い。

 手のひらには豆がいくつか出来ていたが、とっくに潰れて血が垂れている。とはいえこんなもん今更である。

 

 既にフェイトちゃんは疲労がたまっていたからか寝入っていて、エルザちゃんが膝枕している。寝ているフェイトちゃんの頭を撫でながらも、エルザちゃんはしっかり周囲を警戒しているので心配はいらないだろう。暗視が出来るエルザちゃんなら、もし深き者共がポップしてきても襲われる前に気付けるはずだ。

 

 幸い、あいつらが出てくるとしたらあとは奥の方からしかありえないので、警戒すべき範囲が限られているのもこちらにとっては好都合というわけである。

 

 しかし、最初は辛かったこの掘削作業も、慣れてくると体が機械的に動くようになってくるのでそこまで苦では無くなってきた。前世で土方の経験があったことも多少は影響しているのかもしれない。あの時みたいに水道管とかの存在を気にせずにガツガツいけるし、ツルハシが刺さる時の抵抗が無い分、随分と楽なものだ。

 一回である程度深く刺さってくれるから、何度か同じ場所に刺していれば壁が剥がせるのはデカい。もしこれが魔力刃でなく通常のツルハシだったら、まだ10cmも行ってなかっただろう。というか、下手をしたらとっくに折れている。下手をしなくても刃が欠けてかなり使いづらい状況に陥っていたことだろう。

 

 だから、全然、問題、無い。

 

「義嗣、そろそろ休憩するロボ?」

「大丈夫、まだ、いける」

「無理はいけないロボよ?」

「どっちにしろ、食料も水も、完全に底をついてるわけで、持久戦になったら、全員、アウトでしょ?」

「それはまぁ、間違いではないロボ、でも……」

「フェイトちゃんが、寝て、少しでも魔力回復すれば、突破のための、砲撃も、いけるかもだし、暗視が出来る、エルザちゃんは、周辺を警戒してないと、いけないでしょ? それに、刹那や博士達、そこにチートの申し子みたいな天ヶ崎くんが、いるんだから、そう負けるとは、思えないけど、あのおっさんが、逃げ出して、戻ってきたら、まずいし、ね」

 

 喋ってると手元が狂いそうだな。気をつけよう。

 

「……分かったロボ。でも、倒れる前にちゃんと休むロボ」

「うん、それは、重々承知」

 

 ここで倒れたら迷惑になるだけってことくらい分かってるしね。限界ギリギリまでは粘るけど。

 

 と、そこで急に穴から漏れていた日の光が遮られ、風を感じなくなったことに気付き、僕は慌ててその場から飛び退った。

 

「義嗣?」

「エルザちゃん……何か、外にいる」

「……了解したロボ。フェイトちゃん。起きるロボ」

 

 嫌な汗が浮かぶ。ただでさえ疲労でクラクラしてるってのに、やめてほしいものだ。

 最悪、今何かが出てきたら僕が盾になって二人を守るしかない。

 

 フェイトちゃんを膝枕しているエルザちゃんはすぐには戦闘行動には移れないだろうし、フェイトちゃんも寝起きですぐに、というわけにはいかないだろう。

 一度に出せる出力は少なくても、僕を魔力タンクとして、バルディッシュに魔法を使ってもらえば、防御魔法だっていけるだろうし、時間は稼げるはずだ。その間にフェイトちゃんが完全に目を覚ましたら、バルディッシュを渡せば良い。

 

「どうせ僕の出力じゃ攻撃はろくに通らないだろうから、もし襲われたら防御魔法で時間稼ぎお願い、フェイトちゃん起きたらそっちに渡すから。頼める? バルディッシュ」

『All right』

 

 ……焚き火の光に照らされて、穴があったところから、何かがにゅるにゅると入ってくるのが見える。

 スライム状のそれは……多分、ショゴスだろう。この状況下でスライム生物といったらそれしか思いつかない。

 

「エルザちゃん、あれ、多分ショゴスだよね?」

「恐らくはそうロボ……あぁもうフェイトちゃん、早く起きてほしいロボ。眠り深すぎるロボ……」

 

 フェイトちゃん完全に眠り姫か……。

 

 そして、ひそひそと話す僕達の目の前で、ショゴスはうねうねと動き出し……また、魚っぽい顔のなのはちゃんに変身した。今回は、あの血まみれ化粧は無しで、服装はあのお泊り会の時になのはちゃんが着ていた服だ。

 

「てけり・り」

「てけり・り。ショゴスさん。え~っと、ごめん。出来れば見逃してくれたりしない?」

「てけり・り? ヨッシーくん。てけり・り」

 

 うん、首を傾げるその姿を微妙に可愛いと思ってしまう僕は末期かもしれない。でもでも、だって姿の原型がなのはちゃんなんだもの。魚っぽい顔だけど。なんか目が外側に寄ってるけど。

 

「うん、てけり・り。ヨッシーくんです。え~っと、えっと、今はちょっと、ちょお~っと、その、場面が悪いので、僕に襲い掛かるなら、出来れば別の機会でお願いしたいなぁなんて……だめ?」

「てけり・り。ヨッシーくん。てけり・り」

 

 ごめん、なんか身振り手振りで伝えようとしてくれてるのだけは分かるんだけど、全然わからんとです。

 でも、襲ってこないってことは、もしかして敵対するって訳じゃないのかな。

 

「え~っと、ごめん。言葉が通じないからちょっと何を言いたいのかわからないんだ。ごめんね? あと、なのはちゃんの顔をインスマウス顔にアレンジしてるその顔ちょっと修正してもらっていい? 具体的に言うと、目の位置をもう少し内側に寄せてもらうとか」

「てけり・り?」

「あ、そうそう。目の位置そのあたり。うん。なのはちゃんそっくりになった」

「確かにそっくりロボ」

 

 うんうん、コミュニケーションって大事だね。ちゃんと伝わったみたいで、目の位置がぐにょぐにょ動いたと思ったら、なのはちゃんとほぼ同じ顔になったよ。動いてる時キモかったけど。

 

 ……ふぅ。違うよね!! 今気にするところそこじゃないよね僕!!

 

「てけり・り!!」

「うん、嬉しいのはその表情で分かったんだけどね? 言葉がね、通じないのだよショゴスさんや」

 

 とりあえず悪い子じゃないのだけはわかったんだけどさ。

 

「てけり・り……」

「あぁ、そんな露骨にションボリしないで!?」

 

 どうしようちょっと本気で可愛いかもしれない!?

 おのれ、外見がなのはちゃんだから可愛くて仕方ないぞ!?

 

「っていうか、ショゴスはなんで今このタイミングで出てきたロボ?」

「あ、そうそう。そこだよね。えっと、なんで?」

「てけり・り!!」

「なるほど!! わからん!! 筆談とかにしよう!! ……紙もペンも無いか!!」

 

 どうしましょう!!

 

「てけり・り~てけり・りりり~」

 

 ショゴスがなにやら不思議な踊りを始めた。

 なんだろうね、見てると魔力奪われたりする? SAN値奪われてる?

 

「う、うぅ~ん……」

「あ、フェイトちゃんごめんロボ。寝ててもよさげロボ」

 

 あうあうあ、ここでフェイトちゃん起きたら混乱するんでないか。なのはちゃん敵対してるわけだし。誰か~!! 収拾つけて~!!

 

 

 収拾がつかなかったので、それから十数分ほどの内容をまとめよう。

 

 まずフェイトちゃんが起きて、ショゴスに気付いて戦闘体勢に入ろうとしてバルディッシュが手元にないことに気付いて慌てる。

 バルディッシュがそわそわしだしたので、フェイトちゃんに返してあげる。

 フェイトちゃんが戦闘体勢にはいる。

 ショゴスが僕の陰に隠れる。

 エルザちゃんがフェイトちゃんと僕(ショゴス)の間に割って入る。

 ショゴスが身振り手振りでなんか伝えようとするも誰もわからず。流石のエルザちゃんもショゴス語を理解は出来ないらしい。

 涙目なショゴス。すがりつかれる僕。困惑するフェイトちゃん。何故か笑うエルザちゃん。

 

 最早、カオスすぎて訳がわからなかった。

 

 で、とりあえずショゴスに敵対意志はないとわかったためにまた掘削作業を始めようとしたら、ショゴスに必死に止められたのでどうやらここを掘ってほしくないということらしいというのは分かった。

 

 分かったのだが、ここを掘らねば出口が無いのである。それをなんとか伝えようとするも、涙目で首を振られてはこちらも掘るに掘れない訳である。

 だって、見た目なのはちゃんが、涙目ですがりついてくるんだよ? これを、これを振り切って穴掘り開始なんて僕にはできんとですよ!!

 

「てけり・り?」

「あ~うん、分かったから……う~……どうしよう……」

「……掘るしかない。義嗣くんがやらないなら、私が」

「てぇけぇりぃりぃ!!」

「多分、駄目だって言ってるよショゴスちゃん」

「てけり・り!!」

「駄目って言われても……」

「いや、まぁそうなんだけど……」

 

 フェイトちゃんもなんだかんだ言いながら強硬手段に出ないあたり、甘いというべきなのだろうか。

 

「駄目なのは君の方だよショゴス」

「てけりり!?」

「誰!?」

 

 突如、聴こえてきた声にフェイトちゃんが戦闘体勢に入り、またもやバルディッシュが無くてあわあわし始めたので、僕は生暖かい視線を向けながらバルディッシュを返しておいた。

 

「ショゴスの身体一部もぎって持って帰っていいロボ?」

「てけりり!?」

「エルザちゃん、ショゴスちゃんをいじめないで」

「アハハハハ!! 本当面白いね君たちは!!」

 

 ぞぶり、と変な音をたてて僕の背後からナニカが出てきた。

 逃げようと思っても、ショゴスが僕の裾を引っ張っているので逃げるに逃げれない。

 

 ……うわ~い。僕詰んだ? これある意味ハニートラップ系だった? ショゴスに心許した途端に、バックリ言っちゃう系だった?

 

「こんにちわ。貴方の隣にいつでもニコニコ這い寄る混沌、ナイアルラトホテップここに惨状もとい参上だよ?」

 

 ポン、と肩に手を置かれて、嫌々ながら振り返る。

 声だけは美少女だけど、嫌な予感しかしない。

 

 そして、振り返った先にいたのは、ガチムチスキンヘッドの黒人神父さんであった。

 

「はろ~♪」

「……うん、ツッコミなんて入れないよ僕は」

「どこから、出てきたの……?」

 

 フェイトちゃんが困惑顔だけど、こいつはこういう存在だと割り切りましょう。

 ナイアルラトホテップ。クトゥルフ神話では、クトゥルフの次に有名な存在ではなかろうか。

 二つ名は這い寄る混沌、黒貌の神、暗黒神、闇に棲む者。大いなる使者、燃える三眼、顔の無い黒いスフィンクス、etcetc...

 

 名称もナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなど何種類かある。ニャルという読み方からニャル子さんなんて愛称もある憎い奴である。

 

 このニャル子さんネタで、前世では這い寄れニャル子さんなるアニメがあったらしいが、僕は見ていないので知らん。ダメージをくらうとMSやMAの名前を叫んじゃう銀髪アホ毛美少女なんぞ知らん。

 

 とりあえず一言でこいつをまとめると、老若男女問わず、千の顔を使い分け、千の人格が世界に同時に存在し、人間に甘言を囁いてはその人間が破滅していく様を楽しんでいく邪神の筆頭である。

 

「失礼だね。ドリームランドでは僕は地球の下級の神々を守っている設定なんだよ?」

「いや、どうでも良いから。そういう情報。なんとなく今回の顛末読めたから」

「へぇ……面白いね。聴かせてもらえる?」

 

 そっちが色々教えてくれたらね。

 

「義嗣くん……その人、知り合い?」

「あ~、こっちが一方的に伝聞で知っているというかなんというか……」

「おや、僕最近は君の観察が趣味だったんだけど」

「知り合いみたいだね。お互い一方的だけど」

 

 なんだよ~……やめてよね……邪神に観察されてるとか明らかに死亡フラグじゃんかよ……。

 

「で、その義嗣の観察が趣味の邪神がなんの用ロボ?」

「いやなにね、ショゴスが勝手なことをするもんだからちょっとお仕置きに、ってところかな」

「てけりりぃ!?」

「どうでも良いんだけどさ、その黒人神父の姿でその声と口調やめてくんない? ミスマッチすぎてなんか嫌だ」

「確かに変態にしか見えないロボ」

 

 黒人マッチョのスキンヘッドでナイスミドルな神父がどっかのアニメで聴いたことありそうな美少女声で喋ってるとか誰得すぎるんだけど。

 

「君、アレだね。僕のこと怖がったりしないんだね」

「いや、正直ナイアルラトホテップに見入られた時点で人生オワタ臭がぷんぷんするし、今更怖がるもなにも無いよ。大体アンタ自分で直接手は下さないタイプでしょ?」

「まぁね。僕の趣味は観察だし。人間が足掻く姿が楽しみなだけで」

「で、とりあえずさ、声をちゃんと男性にするか、姿を女性にするかしてくれない?」

「まぁ良いよ。じゃあ……」

 

 あ~……ナイアルラトホテプ出てきた時点で、さらばリリなの世界だよ……。

 

「母さん!?」

「へ? ってうわっ!?」

「お~、良い身体してるロボね~」

「あの人結構プロポーションいいよね。歳の割に。流石は魔法の世界の住人ってやつ?」

 

 僕は何も見なかったよ!! 何も見なかったからね!!

 プレシアさんの全裸姿とか、見て無いからね!?

 

「な、なんで母さんが……」

「あぁ、ごめんごめん。娘さんがいたんだっけ。じゃあ……」

 

 あ、頭の上に何か柔らかい物が乗ってるけど、気のせいだよ気のせい……騙されるな。完全にハニートラップだからこれ。デレってしたが最後、完全にSAN値ガタ落ちの発狂フラグだから。周りの人間巻き込んで自滅するから。

 

「はぁい♪」

「おぉ、今度は翠屋の奥さんロボ?」

「どう? この子も結構いい身体してるよね」

「え、えぇ? えぇぇぇ??」

「僕はナニモミナイよ」

 

 頭の上に乗っかる柔らかい物が軽くなったとか思ってないよ。

 あとフェイトちゃん。混乱する気持ちはよく分かるよ。僕も今絶賛混乱中だよ。

 

「ちなみに旦那さんの方も結構いい身体してるんだよね。見たい?」

「なんでも良いからとりあえず服は着ようよ!? あと普通に女の子の姿でお願い!?」

 

 ナニが悲しくて友達のお父さんの全裸姿で抱きつかれなきゃいけないのさ!!

 

「そう? ちなみに何かリクエストある? アルアジフからおとめさんまでなんでもござれだけど」

「名前からしておとめさんは絶対女の子って年齢じゃないよね!?」

 

 もうやだコイツ!!

 

 

 

 

 やっと落ち着いてきたので、とりあえず情報をまとめよう。

 今日はカオス展開すぎて一々まとめないといけないというのが非常に面倒くさい。

 

 とりあえず、ナイアルラトホテップはデモベのナイアさん姿で落ち着いた。後ろ髪アップでメガネで、スーツの前面が開ききっていて巨乳がギリギリまで見えている例のアレである。

 

 青少年には、目の毒だっつってんだろうが!!

 

 うが~!! 絶対魅了系の魔法かなんか出てるだろアンタ!! 見てると意識がぼんやりして胸がドキドキしてくるんだよ!! やめてよ、僕まだ性には目覚めたくないんだから!!

 

 アレか、「俺ロリコンだったみたいでさ、あいつの綺麗な身体知っちまったら、あんたみてぇなババァの身体じゃ満足できねぇんだよ!!」とか叫んでおけばいいのか? それはそれで今度はアルアジフの格好とかされそうだけども!! 今の僕の格好と被るけども!!

 

 ……ふぅ。ごめん。落ち着いた。じゃあまとめるね。あと今の僕の格好が甘ロリであることを今思い出した人、滑稽だと笑うがいいさ。バリアジャケットになってもツナギ姿とか、救われねぇぜよ……。

 

 まず、ショゴスは深き者共とは今回の深き者共とは別口の怪異。ナイアの下僕的存在だったらしい。

 で、例の肝試しの時、本当は僕じゃなくてなのはちゃんに憑かせるつもりだったのに、何故かショゴスは僕の肩を叩いたとか。

 位置的な問題だったんじゃないかと言ったら、ショゴスが自分の意思で僕を選んだのだそうだ。ショゴスが物凄い勢いで首を縦に振っていたので間違いないようだ。

 

 ナイアは今月からショゴスを使って人間を合意の上で誘拐してこさせては「願いを叶える」と言って願いを叶える代わりに、その人間の破滅を見るのを趣味にしていたそうで、なのはちゃんにも同じことをやろうとしていたとのこと。

 もしやられていたら原作崩壊ってレベルじゃなかったね……。

 

 純真な人間ほど破滅する瞬間が楽しいのだと笑って言っていたが、何を言っても無駄だろうと僕は何も文句を言うことはしなかった。フェイトちゃんは睨みつけていたようだが。

 

 で、ショゴスが命令違反してまで選んだくらいだから余程面白い人間なのかと思ったら、人間性も背負っている因果も一風変わっていて面白かった、ということらしい。人間性はともかく、因果の内容が気になったが、笑うだけで教えてくれなかった。おのれ邪神めが。

 

 また、「今回の深き者共の騒ぎはアンタが原因だろう」って言うと、その通りだと笑って言われた。僕を観察するのとは別口で、陽子という女性の姿で今回のサラリーマン中年おっさんを騙して遊んでいたらしい。そして、絶望したところに別の姿で「願いを叶えてやる」と言って囁いたら、偶然の一致とでも言うか、おっさんも転生者だったらしく、それも元から能力の一端としてクトゥルフ系の能力を持っていたとか。

 まぁ、本人は全く自覚が無かったらしいが、ティンダロスの猟犬とドールの地震を起こす能力を使役する能力を持ったテュロスで、彼が知識としてダゴンも知っていたから深き者共を使役する能力を与え、ダゴン召喚の媒介として相応しい魔力量を持つ存在にジュエルシードを埋め込んで生贄に捧げればダゴン召喚も可能なようにしたとか。そのためにわざわざフリーの状態になっているジュエルシードを全部で三つもおっさんに渡したらしい。

 適正があったから与えるのも楽だったってさ。

 

 はぁ……。

 

 

 はた迷惑にも、程があるよね!!

 

 

 流石にイラっと来て腹パンしてやったが、全く動じてなかった。ちくせう。子供の姿はこれだから……。

 

 で、その深き者共と、ここにある惨殺死体の山だが、全部作り物だそうだ。いや、正確に言うと限りなく本物に近い偽者、というべきか。

 ナイアが作り出した、偽者の人間をあの中年おっさんと深き者共がここで貪った結果らしい。なんでそんな七面倒なことしたのかと言うと、あまり本番の前にことを大きくしてしまうと、一番の見所が見れなくなってしまって面白くないから、らしい。

 

 その一番の見所は、ダゴンの召喚だったそうな。

 

 洒落にならない。ドールだけでも洒落にならないのに。

 

 で、ショゴスが僕を止めた理由は、この空間は、厳密には僕達のいた世界とは別の異空間だから、らしい。

 座標は確かに遠見市の地下だが、次元軸がずれているとでも言えばいいのか、もしあの穴を広げて洞窟と外の空間をつなげたりしたら、本来存在しない空間と本来存在する空間同士が激突しあい、大規模次元震が発生して、現実世界に大災害が起きるところだったとか。

 そして、そこまでして僕に固執するショゴスを見てナイアは僕への興味を一層深め、ダゴンが暴れまわるところも覗きにはいくけど、それまでは僕の観察をとることにしたらしい。

 

 ショゴスにはマジで感謝してもしたりない。

 

「……で、なんでそれを、わざわざ教えてくれたの?」

「冥土の土産、なんてのは冗談で、ショゴスがここまで他人に思い入れを抱くなんて初めてだったし、君の今後が楽しみになったからね。ちょっとだけ手助けしてあげようと思ったのさ。

 何せ君、放って置いたら勝手に自滅するからね。僕が介入して自滅させるのは楽しいけど、僕が見ている相手が勝手に自滅するのは面白くないんだ。

 それに僕はケーキのイチゴを最後までとっておく派だからね。君もそういうタイプだろうから分かるだろう?

 今回のダゴン騒ぎで君が死んじゃったら、楽しめなくなっちゃうじゃないか。そして、これを知ったら君、動く気になるんだろうから、そんな君を眺めて楽しむことにしたんだよ」

「そうですか」

 

 全く持って不愉快である。

 色々、こいつの存在自体が不愉快である。

 

「知ったところで、ここを出られないんじゃどうしようもないロボ」

「……そうだね。義嗣。早く掘ろう。嘘を言っている可能性のほうが高い」

「いや、嘘じゃないと思うよ」

「その通り。僕は嘘は言わない。肝心なことは言わないだけさ。どこぞの魔法少女の世界の、白い宇宙人みたいにね」

 

 お前はアレより性質が悪い。

 インキュベーターは例え人間を食い物、ただの燃料としてしか見ていなくても、それでも宇宙の延命という大きな目標を持って動いていた。僕は、インキュベーターのせいで生まれた悲劇とかを認めるつもりは無いけれど、それでもインキュベーターの理念は、否定しない。

 

「ナイアルラトホテップ。アンタはただ人間を玩具にしてるだけだろ。インキュベーターは少なくとも、大きな目的があった。そのための手段として人間を餌にしていただけだ」

「宇宙人? インキュベーター……?」

「あぁ、フェイトちゃんは分からなくて良いんだロボ。多分、この世界には存在しない……いや、もしかしたらいるかも知れないけれども、フェイトちゃんが接触することも、その必要も絶対にない存在ロボ」

「じゃあ、そんなとっても悪人な僕を君はどうするのかな?」

「どうもしない。どうにもできない。だから、アンタの楽しみにのってあげるよ。今すぐ刹那達が戦ってる場所に、僕達を戻して。僕の生き様、見せてあげるから」

「へぇ……いいよ。見せてもらおうか」

「てけりり……?」

「ついでに、ショゴスを僕にちょうだい。うちで飼う」

「てけりり!?」

「よ、義嗣くん!?」

「ぷっ、アハハハハ!! 良いよ!! 面白いね!! じゃあ君が死ぬまでショゴスは君にあげるよ!! 充分にこき使ってやればいい!!」

「てけりりぃ……」

 

 笑え笑え。こんな可愛い生物、お前なんかにイジメさせてたまるかってんだ。いや、見た目なのはちゃんだから、一度別の生物の姿になってもらわないとだけど。猫になってもらうとかでいいな。

 

「流石は義嗣だロボ」

「ふふふ……くふ、で、良いのかい? あっちはもうすぐ決着がつきそうだけど」

「だからこそ、行くんじゃないか」

「何をしに?」

「アンタの被害者を救いにだよ」

 

 こちとら散々ひっかきまわされて頭きてるんだよ。どうせ原作物語なんざ関係ないんだ。せいぜいモブはモブらしく、主人公達の思惑完全無視してやりたいようにやらせてもらおうじゃないのさ。

 

「それじゃあ、君の生き様ってやつ見せてもらうよ。転移、開始」

「義嗣もちゃんと男の子してるロボねぇ……」

「次元転移魔法……詠唱も無しで三人……四人同時に――ッ!?」

「あ、そうそうナイアさんや」

「なんだい、ヨッシーくん?」

「僕、ショートケーキよりチーズケーキ派だから。いちごは元から食べないんだよね」

 

 なるほど、それじゃあ僕の気持ちは分かってもらえなさそうだ、とナイアが笑うのが耳に響いたのを最後に、僕達は黒い光に包まれて洞窟から脱出した。



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36.愛する者と忠告

 視界に色が戻ってくる。

 見えたのは、久々に感じる住宅街の色の薄くなった光景。……尤も、見事なまでに住宅の殆どが木っ端微塵に破壊されているが。そこら中に血と肉片が散らばっていてグロいことこの上ないが、今更嫌悪感なんて抱きようもない。

見える光景は、全部が偽者なのだから。

 

「佐藤殿!!」

「エルザ!!」

「「フェイト!!」」

「あら、自力で戻ってきた? というよりは、この濃厚な魔の匂い……怪異と取引でもしたのかしら」

 

 僕、エルザちゃん、フェイトちゃんが現れたことで、今まさにおっさんだった者に襲いかかろうとしていた皆がこっちを向いた。

 おっさんは、足がヤギのものになり、頭には角が生えて、ヅラが無くなってハゲが見えになっている。あ~、そういえばテュロスって歳をとるとハゲるって話だったもんな。ヅラなのはそれが原因とか、誰がわかったよ、そんな伏線。

 

 既におっさんの右足は膝から下が骨が見えるほどの裂傷を負っている。右腕は炭化していて真っ黒。頭は血がダラダラ出ていて顔は真っ赤。その上血走って真っ赤になった目は、気持ち悪いの一言に尽きる。

 異形の姿も相まって、その姿はきっと、嫌悪感しか引き起こさないものだ。誰が見ても、おっさんは存在してはいけない絶対悪なる存在であると、そう断定するだろう。

 

 でも、おっさん何も悪いことしてないんだよ。皆、この事件の被害者、このおっさんだけだから。

 てくてくと、無防備におっさんに向けて歩き出す。幸い、距離は近い。

 

「ごめん皆、このおじさん、ただの被害者だから攻撃中止して」

「「「はぁ!?」」」

 

 皆の驚く声が聴こえてくるけれど、気にしない。

 なんかフェイトちゃんも僕が何を言ってるのか分からないといった表情してるけど、しったこっちゃない。エルザちゃんだけは笑ってこっちを見てるから、わかってくれてるみたいだね。

 

「裕子チャン? お家デマッテて? 私モすグ迎えニイクからネ?」

「おじさん。名前も知らないおじさん。迎えに来たのは僕の方だよ」

「っ、何してやがんだあのモブ!!」

「バカかい!? 自分からなんで近づいてるのさ!!」

「佐藤殿!! お戻りくだされ!!」

「何か、考えでもあるんじゃない? 見届けて駄目そうだったら諸共やっちゃいましょうよ、もう」

「であるな。とりあえず全員、攻撃はいつでも出来るようにしつつ、待機なのである」

 

 恵理那ちゃん過激だねぇ。博士もわざわざ待っててくれるなんて、ありがとね。

 

「裕子チャん?」

「おじさん、かがんで? 抱きしめられないから」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 なんか叫ぶ声が一個増えた気がするけど気にしない。

 

 戦闘能力皆無、チート能力何も無しで、それでも幸福を与えられるという僕に出来ることなんて、せいぜい身体を張って、相手を癒すことくらいなのだから。

 僕が戦うとでも思った? バカ言っちゃいけないよ。少なくとも、今の僕は戦闘要員なんかじゃない。だったら、自分の出来ることだけをする。

 

 言ったでしょ? モブはモブらしく、主人公達の思惑なんて無視して僕の生き様見せてやるって。

 

 僕の理念は努力には報いを。悲劇には救いを。愛しい者には幸福を。そして、絶対悪には悪辣なる報復を。思考は正統派。自己中心的な正義感で動くだけのただのガキンチョ。勧善懲悪どんと来い。但し向こうに事情があれば、情状酌量の余地ありけり、ってところだ。

 

 その、情状酌量の余地が、ちょっと行き過ぎているっては、よく言われるけどね。本当に許せない相手なら、そんなもん関係ないけどさ。

 そして、素直にかがんでくれたおっさん……おじさんに、僕はそっと抱きついた。頭を抱きしめるようにして、そっと頭を撫でながら。

 

「……おじさんは、騙されていただけ。何も悪くなんかない。大丈夫。僕はわかっているから」

「ソウ……私はダマされタ……ダカラ報いヲ……」

「ううん、駄目だよ。だって、おじさんは陽子さんのこと、本気で好きだったんでしょ? 愛してたんでしょ?」

 

 そっと、頭を撫でていた手で、自分の右足の聖骸布の結び目を外す。

 

「ッ、あのバカ、聖骸布外してどうすんのよ!!」

「黙ってみているのである」

 

 ありがとう、恵理那ちゃん、心配してくれて。

 ありがとう、博士、信じてくれて。

 

 ガリガリと精神が削らレテイク。

 憎悪。苦痛。破壊衝動。何モカモが、憎くナル。

 

 だから、ドウシタ?

 

「今の僕は、おじさんの身体の一部が入ってる。だから、どれだけ憎くて、どれダケ苦しクテ、どれだけ悲シイのか、わかる」

 

 このおじさんは、僕が今味わってイル、今まで味わってキテいる、こんな感情を、ずっと耐えていたノタ。

 狂気に満チルのも当たり前ダ。

 

「でもネ、違うでしょ?」

 

 そう、違う。そんなのは、間違っテル。

 耐えるなら、耐え続けなければイケナカッタ。吐き出すナラ、壊れてシマウ前に、すべきダッタ。

 ソシテ、愛したのならば、最後マデ、その愛を貫きトオスべきダッタ。

 

「一緒にイタ時間は、コンナニ嬉しかったンでしょ? 楽しカッタんでしょ?」

 

 その、苦しみの奥にアル、狂おしいマデの彼の愛が、伝わってくる。

 それは、とても苦しくて、胸を焦がスケレド、でも、その時の彼は、確かにワラッテいたのだ。

 

 例え、相手がナイアルラトホテップで、彼を騙すためダケに彼と愛しアッテいたのだとしテモ。

 

 その時、彼が抱いてイタ愛は、自己犠牲の心ハ、紛れも無く、本物だったノダ。

 

「好きだったのなら、愛していたのナラ、その時の自分を、憎ンジャ駄目だよ」

 

 彼の憎悪は、本当は、陽子さんトいう女性に向けられた物ではない。

 彼女を憎んでいる、恨んでイル。それは確かダケレド、彼が本当に憎んでいるノハ、愚かでアッタと思う、昔の自分。彼女と愛を紡ぎ合っていた頃の、愚直なマデの自分。

 

 ダカラ、自分を捨てた。ダカラ、ナイアの甘言で、自分の心を捨てて、狂気に身を任せた。

 

「人を愛するノッテ、とっても苦しくて、とっても嬉しくて、とっても難シイけれど」

 

 それでも、彼女を愛した日々を忘れられナクテ、彼女の姿を探しツヅケタ。

 ダゴンの召喚よりも、彼女に固執シタ。

 

 そして、私を……彼女の娘と、勘違いして、何も酷いことを、シナカッタ。

 だから貴方は……私に命令をした時ニ、涙ヲ零してイタ。

 

「あの時の貴方は、とても美しくて、とても輝いてイテ、とても素敵デシタ」

 

 彼女と彼が愛し合うその光景は、実際に見たわけではない。でも、右足の彼の断片から、私に記憶と感情が流レテくる。

 理解してあげようとしてあげなかったから、アンナに僕は、私は、苦しくなっテイタだけ。

 

 神格クラスの呪い? そんな大層な物じゃない。コレは、彼トイウ人間の、悲しくも美しい、愛の記憶。狂気に犯され、ただ少し歪んデしまったダケノ、哀れな男性の、心。

 

 意識が、混濁していく。

 意識が、クリアになっていく。

 相反する不思議な状態に、けれど僕の、私の心はとても穏やかになる。

 

 犯セ。犯したかったのは、自分自身の、愚直な心。

 殺セ。殺したかったのは、自分自身の、傷ついた心。

 捧ゲロ。全てを捧げて、自分自身の苦しさを捨てたかっただけ。

 

「違ウ。私ハ――」

「僕は……私は、そんな優しい貴方が、とても素敵に見えました。何よりも彼女を愛して、自分のことも省みず、愛に生きる貴方は、とても素敵でした。痛々しくて、見ていられないくらい愚かしいほどに愚直だったかもしれません。

 でも、私ハ、そんな貴方のほうが、きっと素敵だと思います」

 

 身も心もボロボロの今だカラ、私を別人と勘違いしているのを利用するようだけれど、私ハ、貴方を救いたい。

 

「貴方が犯したと思ってイル罪は、存在シマセン。

 貴方が殺したト思っている人間は、存在しまセん。

 貴方が嫌っていた貴方は、それでもそこニいます。

 貴方がどんなに拒んでも、貴方の優しさは、ここにあります」

 

「裕――」

「私は、あの愛を貫いた貴方が大好きです。全ての破滅を望んでも、狂気に犯されても、それでも彼女を忘れられないくらいに愛していた貴方が、とても愛おしいと思います」

 

 だって、悲しいじゃない。一心不乱に人を愛したのに、そこに邪気は無く、ただひたすらに、自身の何もかもを捧げていたっていうのに、そんな優しい人を、否定しちゃ、可哀想じゃない。

 

 私は、幸福の王子様は、大好きなんだから。

 

「貴方は幸福の王子様の話は嫌いみたいだけれど、私は大好きです。王子様は、決して報われなかった訳じゃありません。

 確かに王子様は、自分が愛した人達に見向きもされずに、死んでしまいました。

 確かにツバメさんは、自身のあるべき筈であった、旅の生活を奪われて、最後には報われぬ愛を抱いて、死にました。

 

 でも、王子様は、自分を本当に愛してくれる存在を、最後に得ることができました。

 ツバメさんは、人々の笑顔を見ることで幸福を感じ、そして愛する人には、死の間際には、受け入れてもらえました」

「あ……」

 

 抱きしめていた腕を緩めて、そっと身を離す。抱きしめた時から、身体から少しずつ力が抜けていく感覚があったけれど、私の知ったことではない。

 頬を掴んで、顔を向かい合わせる。

 彼の目からは、ボロボロ涙がこぼれていた。

 

「恋人にはなれません。貴方だけを愛することもできません。だけど、私は貴方を、愛したいと思います。貴方にとっての、ツバメになりたいと思います」

 

 だから、どうか泣き止んで。

 だから、どうかもう自分を憎まないで。

 貴方はただ、純真なる愛を持つ、優しい人。

 貴方はただ、愛されたかっただけなのだから。

 

「私は全てを愛する者<イクォ・オブ・ラブ>」

 

 嫌悪なんて感じない。

 汚らしいなんて思わない。

 だってこんなに、貴方の心は綺麗なのだから。

 

 私はそっと、彼へと口付けをした。

 

 

 

 

 自分の中の、何かが欠けた気がした。

 それが何かは分からない。だから僕の知ったことではない。

 

 気がついたら自分の家で、刹那が僕を膝枕したまま、船をこいでいるのが目に入った。

 僕のお腹の上にはアインが、そして何故かなのはちゃんも僕の腹を枕にすやすやと寝ている。

 

「帰って……きたんだ」

 

 ポツリと呟く。

 記憶がどこか曖昧だ。

 どこからどこまで覚えている?

 ナイアルラトホテップが現れたのは、覚えている。とんだ迷惑邪神が来たものだと思うが、まぁ、それは良い。良くないが、まぁ良い。アレは人間がどうこうできるレベルの存在じゃないし、何より、多分、あいつは本物じゃない。

 

 いや、本物じゃないというのは語弊があるか。“限りなく本物に近い偽者”と言ったところだろう。少なくとも、万能の神のような存在ではない筈だ。

 

 なんで分かるのか、と言われたら僕も答えられないのだが、会って分かった、としか言いようが無い。直感というほどのものでもない。そもそも邪神相手にまともな会話が成立していたこと自体がおかしいし、まわりくどいことをしてまで作った悲劇の種を、あっさり潰されてしまったというのに何も報復すらしてきていないのだから。

 アレは、他人の不幸を嘲笑う邪悪なる存在であるが、あいつは一人では邪神らしい大災害なんて起こせないし、人間一人殺すことすら出来ない。他人を利用し、他人の願いを利用することでしか、何も成す事の出来ない半端者だ。

 それでも、人間がどうにか出来る存在ではないのが確かなんだろうが。

 

 ……ふむ、しかし半端者か。僕がそうだからこそ、分かるのだろうか?

 

 まぁとにかく、百害どころか千害、いや、億害はあるような存在だが、僕を観察して楽しみたいっていうなら、こっちだって充分に利用させてもらおうじゃないか。

 

「……ん? あ、義嗣、起きたのかい?」

「あ、あぁうん。おはよう、でいいのかな、刹那」

「あ~……外、ようやく明るくなってきてるところだから、一応はおはようで合ってるね」

 

 ……んむ? ようやく明るくって、アレ? そういえばあの洞窟で相当時間くってた筈なのに、もしかして一日あの洞窟で過ごしてたのか?

 

 いや、それならあの場面で間に合うはずが無い。時間軸がずれてたとかそういうご都合主義か? まぁ、ナイアルラトホテップが出てきた時点で、何でもアリな訳だが……。

 

 ん――あの場面?

 

 うん? あの場面ってなんぞ?

 

「ねぇ刹那?」

「なんだい?」

「僕、こっちに戻ってきてから何した?」

「……覚えてないのかい?」

「うん。なんとなく……あのおじさんを助けようとしたのは覚えてるんだけど。あ、おじさん大丈夫?」

「うん、助かったよ、あのおじさんは。義嗣の右足も、元に戻ったみたいだし」

「そっか」

 

 それは何よりだよ。あんだけ啖呵きっておいて失敗とか、いくら僕が主人公じゃないとはいっても恥ずかしいことこの上ないからね。

 

「ふふ……でも、君にもやっぱりちゃんと能力があったんだなって分かったよ」

「そうなんだ? どんな感じ?」

「イクォ・オブ・ラブだったかな。直訳で平等な愛? いや、Equal love か、その場合は。まぁとりあえずそんな感じの名前みたいだね。効果はよくわからないけど、癒し効果的なものじゃないかな」

「うわ~、なんかヒロインチックな能力だな……」

「良いじゃないか。愛を振りまくヒーローだって」

「それで誰も守れなかったら意味が無いけどね」

「守れたじゃないか、あのおじさんを」

「まぁそれはそうなんだけど……」

 

 男の子としては、戦える能力も欲しいのですよ?

 

「え~っと、どんな感じだった? それ見てて」

「おじさんにキスした義嗣と、おじさんが淡く光ってた。見た目的な効果はそれだけだったね」

「……え、僕、え? おじさんとキスしたの!?」

 

 何それちょっと初耳なんですけど!? どうしてそうなった!?

 

「うん。まぁなんていうか、深い奴じゃなかったから安心していいと思うよ」

「安心できないよ!? え、なに、キスって、え、僕からしたの!?」

「うん。聖母のような笑顔で」

「何をしとるとですか僕はぁぁぁぁ!!」

 

 頭を抱えてのたうち回る僕。刹那の膝枕は恋しいけれど、今はのたうちまわるのが優先です!! アインとなのはちゃん……いや、ショゴスだな、多分。ごめんね!! 僕のお腹枕は今度にしてください!!

 

「にゃ~……?」

「てけり・り?」

 

 うおぉぉぉぉぉ!! 訊くんじゃなかった!! きっと黒歴史だと認定して、自ら記憶に蓋をしていたに違いない!! 何かが欠けた気がしたのは、僕の貞操観念とかだったのかな!? そこは欠けちゃいけないと思うな僕!! 知ったこっちゃあったね!! がっでむ!!

 おっさん助けられたのは良かったけど、なんでそうなったのさああぁぁぁ!!

 あ、そうだ。エルザちゃんとのキスを思い出そう。口移しを思い出そう。

 

 ……ふぅ。良かった、おっさんとキスするヴィジョンが残ってないから、落ち着けた。

 

「って、そうだ。フェイトちゃん達とエルザちゃんと博士と恵理那ちゃんは?」

「あぁ、フェイトちゃん達ならもう行ったよ。ジュエルシードを回収してすぐに。

 恵理那ちゃんも怪異解決したから帰るって言ってあっさり帰ったし、博士達だけは地下に作っていたという研究所にこもってるよ。

 今回君たちがもぐってた洞窟みたいなところでとってきた変な物質の成分調査するんだって。あ、それと義嗣が頼んだんでしょ? エルザちゃんがついさっき、君用の武器持ってきたよ」

 

 そっか。フェイトちゃんとバルディッシュにもお別れ言いたかったし、恵理那ちゃんにもお礼言っておきたかったんだけど、まぁ次会う機会があったら、言う事にしよう。

 何はともあれ。

 

「武器!! 専用武器きた!! これで勝つる!!」

 

 ヒャッホー!! 一気に元気になったよ!! いいね!! 専用って良い響きだよね!!

 

「まず、このマジカルステッキだね」

「完全に外見が女児向けの玩具じゃないかぁぁぁぁ!!」

 

 いきなり出オチだよぉぉぉぉ!! 僕の上がったテンション返せよぉぉぉぉ!!

 外見だけ見ると、カレイドステッキに似てるよぉぉ!!

 

「うん、可愛らしくていいじゃないか」

「僕は男の子だってことにそろそろ刹那は気付くべきだよ!! もっとこう、剣とか銃とかの外見が良いよ!!」

「あぁ、ちゃんと銃もあるよ。はい、トカレフ」

「ガチの銃じゃないかぁぁぁ!! 銃刀法違反にも程があるよおおおお!! 博士どっからこんなもんパクってきたぁぁぁぁ!!」

 

 しかもトカレフって完全にヤの付く方々ご用達品じゃないか!!

 

「大丈夫だよ義嗣、これ中国製じゃなくてロシア製だから精度は良いよ」

「精度の問題じゃないよ!! ガチの実銃だという点が問題なんだよ!! そしてどうせならトカレフよりもミネベアM9あたりが良いよ!!」

 

 僕は外国産よりも国産派なんだよ!! チェコ製のスコーピオン(マシンピストル。拳銃サイズのサブマシンガンと考えてもらえば早い)なら認めるけど!!

 

「ふむ……なるほど。後はじゃあ、この騎士甲冑の篭手みたいな奴だね」

「おぉ、ようやくまともそうな装備が!! 効果は!?」

「これを装備して殴ると、像でも一撃死の電撃が相手に流れるそうだよ」

「そこは一撃で昏倒とかで良いよ!? なんで象さん殺そうとしてるの!?」

 

 どうしてそう極端な装備しか作れないの博士!? って、博士なんだからそうだよね!? 伊達にマッドサイエンティストじゃなかったね!! こういうところだけ原作準拠しなくていいからね!?

 

「てけりり?」

「にゃ~?」

「うん、ごめんね二人とも。ちょっと待ってね、今の僕とても混乱してるから。あとショゴスはそろそろなのはちゃんの姿やめて? 色々問題があるから、できれば猫の姿とかにして?」

「てけりりぃ……」

「いや、嫌いとかじゃなくて、単純にその姿ってなのはちゃんだから、なのはちゃんの知り合いとかが見たら混乱しちゃうし、やっぱり同じ外見の人がいるってなったらなのはちゃんも困るだろうから」

「てけりり」

「うん、分かってくれたようで何より」

「えっと……義嗣、言葉わかるの?」

「いや、アインと同じで、表情とか仕草である程度は分かるよ。伝えたいことが完全に分かるわけじゃないけど」

「そ、そうなんだ……」

 

 洞窟では殆ど理解できなくてごめんねショゴス。まぁ、今回の事件で家族が一人増えたから、それは僕にとって何よりのご褒美かもしれん。そういう意味では、今回巻き込まれて良かった良かった。ハッハッハッ。

 ……そう思わないとやってられんよ。全く。

 

 とりあえず、トカレフも篭手も、もらうだけもらっておこう。マジカルステッキも、あとで効果訊いて使えそうなら、意地を張らないでもらっておこう。

 

 これからは、最低限の自衛手段が無いと、ガチで死ねそうだしね……。

 

「いつもニコニコ貴方の影に、前後左右正面背後、関係なくなく這い寄る混沌、ニャル子さん参上だよ」

「うわっ!?」

「にゃあっ!?」

「てけりりっ!?」

「あ~はいはい。なんだいニャル子さんや」

 

 ぞぶりとか効果音無しに、いきなり背後から抱きつくのやめてくれんかね。若干心臓に悪いから。見なさい僕以外の三人を。思わず跳び退ったから。僕を置いて。

 ちなみにまたもや僕の頭の上にふにょんふにょんな物が二つ乗ってます。邪神ぇ……。

 

「驚かないんだね。せっかくサプライズを狙ったのに」

「いや、驚いたけども。で、何?」

「いやね、なんだか忘れてるみたいだから言わないといけないと思って。サービスで伝えてあげようと思うんだけど、聴きたい?」

「うん。なんぞ?」

「ダゴン、このままだと出てくるからね?」

「……は?」

 

 なんで?

 

「いや、おじさんもう大丈夫なんでしょ?」

「別に彼が生贄に捧げないといけないって訳じゃないよ。充分な魔力を持っていて、ダゴンに見入られていて、ジュエルシードがあれば条件は揃う。大ヒントだ」

「……えぇっと……?」

「義嗣……その人ってもしかして……ニャルラトホテプ……?」

「あぁ、これはこれはこんにちわ、いや、おはよう、佐々木刹那くん。お元気かい?」

「……本当に邪神がいるなんてね。本当どうなってるんだいこの世界は……」

 

 刹那、頭抱えたくなる気持ちは分かるよ。僕はもう諦めたけど。

 

「……言っておくけど、僕は君の甘言には乗らないからね、ニャルラトホテプ」

 

 あ~、自分からつっかかっちゃ駄目よ刹那。

 

「うん? いや、君はあっさり乗るだろうけど、君みたいに精神的に脆弱すぎるのを壊しても面白くないから、別に興味無いよ」

「言ってくれるね?」

「強がるのは良いんだけどさ」

 

 頭の上の二つの重しが無くなった。

 

「――ッ!?」

「ほら、ただこの姿を見るだけで、そんなに萎縮する。そんなに怖いのかい? もう報復は済ませてるんだろうに」

「ごめんニャル子さんや、うちの刹那いじめるのやめてくんないかな。どんな姿してるのか知らんけども」

「ごめんごめん。嫉妬したかい? 義嗣くん」

「それは無い」

 

 あと、僕に男の姿で抱きついたままなんかイケボ(イケメンなボイスの略)で囁くのやめてくれんかね。気色悪い。

 

「あはは、じゃあまたさっきの姿に戻るよ。君も好きみたいだしね?」

「いや、単純にデモベで慣れ親しんでたから、その姿の方が見てて落ち着くってだけ」

 

 一応、嫌いなキャラじゃなかったしね。本当に存在されたら絶対関わりたくない人物だけど。

 

「どうして……」

「どうして知ってるのかって? 僕これでも一応邪神なんだけど。人間のトラウマの一つや二つ分からないと思うの?」

「ニャル子さん。次刹那いじめたら暫く無視するよ」

「おや、それは困る。割と君との会話は楽しいんだ。それじゃあこれ以上いじめないうちに僕は退散することにするよ」

「うん、できればあんま会いたく無いけど、またね」

「おやおや、嫌われてるのやら、ツンデレさんなのやら。……なんにしても、またねって言ってくれるのなら、最後に一つだけ、我が愛しの義嗣くんに忠告をしておいてあげよう」

「一応聴いておいてあげよう」

「君、これ以上他人と関わるのをやめた方が良いよ。じゃないとどんどん不幸になる」

 

 忠告はしたからね?

 

 そう言い残して、ナイアルラトホテップは姿を消した。

 

 ……全く、面倒事は無くなってはくれないらしい。

 平和な日々よ、早く来い、ってね。




 スーパーヒーロータイムだと思った? 残念、スーパーヒロインタイムでした!

 尚、今回出た装備品関係は、改訂前の作品掲載時にアンケートをとって出た皆さんのアイディアを適当に(!?)くっつけて出来た品達の第一弾です。

 装備は出来ても、無双は今後も起きることはありません。だって義嗣ですもの……!!


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37.依頼と装備と友達

 5月4日、水曜日。

 帰ってきて目が覚めた時は朝だった訳だが、そのまま二度寝した僕が次に起きたのは昼過ぎだった。

 

 エルザちゃんと博士は、やるべきことが出来たとかで食事の時以外は研究所にこもるとのことだ。

 

 何をしているのかは知らないが、ダゴン出現の可能性があることを伝えたことで、多分破壊ロボでも作っているんだろう。なんかその前から随分勢い込んでたけど。なんにしても、声かけた時には既にエルザちゃんが粗大ゴミをリアカーに乗せて研究所に入っていくのを見ているので間違いない。

 電子レンジとか冷蔵庫とか壊れたPCとか車のエンジンの部品で一体何が出来るんだろうかと疑問だが、まぁそこは博士のとんでも技術でどうにかしてしまうんだろう。

 

 ちなみに、今の服装は普通にジーパンとパーカーである。女装なんてもうしないぜ!!

 

「にゃ~♪」

「てっけりり~♪」

「実に……実に和むぜよ……」

 

 まぁ、そんなことは今はどうでも良いのだよ。諸君、ようやく我が家に平穏が帰ってきたのだよ!! 見たまえ!! アインとショゴスのこの二大萌えキャラコンビを!!

 

 ショゴスにはアインの色違いバージョンになってもらったのだよ!! ツヴァイと名付けたよ!! アインとツヴァイってアンタ、安直すぎやしませんかっていうツッコミくらいそうだけどね!!

 

「義嗣、口調が何故か坂本竜馬みたいになってるから。高知弁だっけ?」

「知らんがな」

「にゃ~♪ にゃにゃにゃな~♪」

「てっけりり♪ てけりりり~♪」

 

 アインもツヴァイも可愛いよハァハァ。

 

「にゃ~!! お兄さんの胸に飛び込んでおいでアインツヴァ~イ!!」

「にゃ~♪」

「ヨッシーくんてっけりり~♪」

 

 きゃ~!! もっふもふ天国やで~!! そしてショゴス……じゃねぇ、ツヴァイはヨッシーくんが発音できるんだから、そろそろ他の言葉も覚えて~!!

 

「うん、なんていうか、それでこそ義嗣だね。なんか最近シリアスパートが多かったから、私の中で君がちょっとかっこよく思えてたんだけど、そのぼへっとした顔が一番いいよ、君は」

「なに、僕かっこよく見えてたの!? じゃあごめん、そのままの印象でいて!?」

「可愛いよね、義嗣って」

「がっでむ!!」

 

 僕は!! 転生者で!! ショッタっ子で!! 男の子なんだよぉぉぅ!!

 

 げふん。ごめん、なんか変な電波拾った。主にコーラ味のサワー的な何かを。

 

 しかし、平和なのは大変結構なんだけども、刹那のとこにティンダロスの猟犬はまだ出てこないけど大丈夫だろうか。やっぱり一ヶ月経たないと来ないのか? それとも、おっさんがなんとかなったらしいし、おっさんが猟犬を放つのをやめさせたとかかな。

 でもダゴンは出るらしいし……。

 

 まぁいいや。今はもふもふするのだ。心置きなくもふもふするのだぁぁぁぁぁ!!

 

「にゃ~ん♪」

「うりうり、ここか、ここがええのんか!!」

「てけりりぃ♪」

「義嗣、なんかもう、発言が色々危ない人になってるよ。いや、外見的な面ではむしろ微笑ましいんだけど……」

 

 知ったこっちゃないぜ!! 僕達はこの美人にゃんこ達とたわむれるのだ!!

 って、あら、チャイム鳴った?

 

「……ん? 来客みたいだね。昨日のおじさんが今日色々謝罪とかしに来るって言ってたし、それかな?」

「あ、そうなの? それじゃあちょっと出迎えてくるね」

「行ってらっしゃい」

「あいあいさ~♪」

 

 

 

 

「……やっぱり、お前……」

「えっと……何?」

 

 玄関のドアを開けたら、居たのは例のおっさんではなく、何故か悠馬。

 そして用件は何か訊こうとしたら、何故か手を握手の形で差し伸べられたので、とりあえず握り返してみたら驚いた顔でこっちを見ていた。

 

「……こうして握手してて、気持ち悪くないか?」

「いや、普通だけど」

「俺のこと、どう思う?」

「わかりにくいけど、ツンデレだけど良い人だと思うよ」

「……マジか……」

 

 いや、なんでそんな心底疲れた顔で顔を片手で覆って上を見上げてため息はいてるのさ。

 

「今まで色々悪かったな。すまんが話がある。入れてもらっていいか」

「えぇっと……刹那いるけど、いい?」

「俺は構わねぇよ。あいつは嫌がるかもしれねぇけどな」

 

 なんだかよくわからんけども、とりあえずそういう訳で悠馬が我が家にやってきた。

 で、悠馬を連れて居間に戻ると当然ながら刹那が驚いた顔でこちらを見ている。

 

「……悠馬、かい? なんで君がここに」

 

 やっぱり最初に浮かぶ疑問それだよね。今まで散々僕のことモブとか言って見下してたのに。いや、ツンデレだったくさいけど。

 

「てめぇには関係――いや、てめぇがいたほうが良いか。すまねぇけど二人に頼みがある」

 

 ぶっちゃけ面倒事はもうこれ以上は勘弁して欲しいんだけど、悠馬がやけに真剣な顔なので茶化す気も起きないため聴くだけ聴いてみることにする。

 

「え~っと、出来ることと出来ないことがあるけど、まぁ出来る範囲でなら。とりあえず聴かせてもらえる?」

「まぁ、義嗣がそういうなら、僕も良いよ」

「すまねぇ。……単刀直入に言う。はやてを守ってくれ」

「「はい??」」

 

 なんか予想外すぎるお願いと共に土下座までされた僕と刹那は固まった。

 

「え~っと、悠馬? なんでここではやてちゃんの名前が出てくるんだい?」

「今のままだと俺の目がそっちまでまわりきらねぇからだ」

「いや、でも別に原作物語上、A'sまでははやてちゃんの周りは平和なんじゃないの?」

「ここが、原作そのままなら、な。今回巻き込まれたてめぇらなら一番わかってんだろ。俺も最近は認識を変えたが……ここは、リリカルなのはの世界によく似てるが、似てるだけで、全然違う世界だ」

 

 ……そうなのか? いや、そうか。正直最近はずっとリリなの世界にしては違和感多かったしな。そもそもガチ系のクトゥルフ神話関係が絡んできた時点でそれは僕も感じてたけど。

 

「そうなのかい? 僕は原作は一期途中までしか見たことないし、基本的には虎次郎から聴いた話の知識でしか原作知らないからそういわれてもそうなのかとしか良いようがないんだけど」

「あぁ。それとモブ……いや、佐藤っつったな。佐藤。てめぇやっぱ転生者か。昨日のアレ見たら間違いねぇとは思ってたけど、A'sとかあっさり口に出すあたりアホだろ」

「……おぉっ!!」

 

 しまった。なんかもう、刹那と虎次郎も知ってるから完全に気が緩んでた!!

 

「いや、別に良いけどよ。むしろ今はそうでないと困る。あ~、とにかくだ。刹那、てめぇは覚えてんだろ? あのニコポ能力者」

「え……? あ、あぁうん。勿論覚えているさ。左手の指全部切り落としてゲイバーに置いて来た奴だよね?」

「アレのご同類――いや、あいつはまだマシな方か。

 精神干渉、精神汚染、感情操作系の連中がツルんでるらしくてな。厄介なことに、能力利用してヤクザやら一部警察組織取り込んで一大組織になってやがる。別にそれ潰すだけなら俺一人でも出来るんだが、規模がデカすぎて主犯連中の所在がサッパリ掴めねぇ。

 主犯全員ぶち殺せば能力は解除されるから組織は勝手に瓦解するのは目に見てるんだけどな……。

 

 で、問題なのが、そろそろ無印の物語が佳境だろ?

 

 俺がそいつら本格的に探すために抜けたら原作介入組の転生者がチーム組んで出た時に抑え切れねぇ。

 虎はあくまで防衛とタイマン専門だからな。あっちもあっちで、未だに絡んできてる連中が多いんだよ。管理局連中にはバレねぇように酷い奴は廃人にして適当に捨ててるから構わねぇんだが……」

 

 ……うわ~、すどいドロドロしてるな転生者達……。

 本気で勘弁して欲しいんだけど……。

 

「で、だ。そこではやてが絡んでくる訳だが……あいつ来月誕生日だろ? そうなるとヴォルケンリッターが出てくるから、後は放置してても大丈夫だとは思うんだけどよ……。だからこそ今、連中がはやて確保に動いてんだ。

 先月あたりから不審な動きしてる連中がはやての後つけてる時があってな。あの頃は俺もあんま原作介入はしたくなかったんだが、俺みたいに目立つ奴がはやてに絡んでれば、一発で転生者ってわかんだろ?

 そしたら牽制になるから暫くそれで通してたんだけどよ……最近は傍に行ける時がすくねぇからか、また動きが活発になってきてる。

 それも動いてるのが転生者じゃなくて一般人のガキ共が金掴まされて動いてるから始末が悪くてな。下手にこっちも手を出せねぇから、サーチャーだけは常につけて、誘拐に動こうとするような連中がいたらすぐに潰してるんだが……」

「原作があわただしくなるこの時期はそこまで手を回せないから、手を貸して欲しいってことか」

「そういうことだ」

「なるほどね……しかし、君は相変わらずだね」

「ふん……相変わらず気持ち悪いってか?」

「そうだね。君がやってることは誰からも褒められるべき正しいことの筈なのに、どうしても生理的嫌悪感を抱いてしまう。なんとも難儀な因果だよ」

「それでもまともに会話が出来るだけ、てめぇらは他のやつらよりマシだよ」

 

 う~ん……なんだろう。こうして聴くと、悠馬めちゃくちゃ良い奴じゃないか。誰だキモいとか思ってたの。僕だね。ごめんなさい。

 しかしわからんね。そんなのが相手なら余計に僕なんかじゃ相手にならんと思うんだけど。

 

「でもそんなの相手にしても、僕何にも役にたてないよ? 博士がガチの銃寄越してきたからまぁ威嚇くらいは出来るかもしれないけど、狙った場所に当てるなんて芸当無理だし、能力も戦闘なんて出来るものじゃないし」

「佐藤、てめぇ精神汚染とか感情操作系に対する耐性持ちだろ? 邪神の眷属とかいうレベルの呪いに耐えたって話だしな。それなら連中の操り人形にされて、はやてに危害を加えたりはしねぇ筈だと俺は判断した。

 それに、はやて連れて逃げ回るくらいできんだろ。俺が向かうまで時間さえ稼げばどうにかしてやる。

 今まで抱えてた問題は、原作介入してなくて、俺の知り合いで、時間を稼げる程度の能力を持った人間がずっといなかったことなんだよ。

 下手なのに任せたらそっくりそのまま相手の戦力になっちまうしな。その点、てめぇなら万が一操られても簡単に潰せるし、そもそも操られる心配自体がいらねぇ。

 それにてめぇ自身の人間性も……まぁ、野次馬気分で来られた時は最悪な評価になったけどよ、昨日のあんなの見ちまったら、信用するしかねぇだろ?」

 

 おうおう、顔を赤くしてそっぽを向いちゃって、なんぞこいつ、可愛いぞ!! 見た目は中学生の身長の大学生のくせに!!

 

「……なるほどね。義嗣が防壁になっている間に、僕が時間を止めて二人を連れて逃げていれば、時間稼ぎには丁度良いってことか」

「あぁ、最初は西野の野郎に頼もうかと思ったんだが、昨日のアレみて考えが変わった。多分、それが一番ベストな布陣だろ? それに、てめぇらならはやてとは友達になってるみたいだし、泊まりたいって言って傍にいても違和感ねぇだろうし」

「そうだね……僕もユニゾン中なら精神干渉系耐性も多少あるし、多分大丈夫だろう。義嗣、どうだい?」

 

 いや、どうだい? って訊かれても、この状況で「いや、僕面倒ごと嫌なんで」とか言えると思ってるのかい刹那。

 まぁ友達が危ない(それも性的な意味含めて)状態と聴いたらこっちだって断ろうなんて思えないけどさ。

 

「いいんじゃないかな。幸いはやてちゃんには魔法バレしてることだし、危ないことになるかもしれないから一箇所でまとまっているように言われた、とか言えば信じてくれるでしょ」

「……すまねぇな。佐藤。お前は原作回避タイプの日常生活好きなタイプだったんだろ?」

「いいよ。友達が危ないって聴いたら僕だって動こうと思うくらいの正義感はあるつもりだよ。ましてやそれが僕にしか出来ないって言ってくれてるんだから、尚の事ね」

 

 むしろ、教えてもらってよかったかも知れない。ゴールデンウィークあけてみたら、友達の女の子一人が精神操作されてレイプ目でへらへら笑いながら軽薄そうな男連中とベタベタしてたなんてなったら、僕多分自分抑えられる自信無いし。

 だって、はやてちゃんがそんな風になるとしたら、絶対精神汚染とか洗脳しか考えられないからね。博士に生活費はたいて殺戮兵器でも作ってもらって犯人仕留めに走るところだよ。

 

 なんか、考えただけでムカムカしてきた。

 

「それでも、悪い。今までのことも含めて謝る。報酬も出す。いくらが良い。一千万だろうが一億だろうが出す。割と本気でヤバイ案件なのは間違いねぇし」

「いらないよお金なんて」

「そういう訳にもいかねぇよ。頼むのはこっちだ」

「友達助けてって、友達に頼まれてお金なんかもらったら、自分で自分を嫌いになりそうだから嫌だ」

「あ? ……あ、おい。待て。友達ってなんだよ」

「友達は友達でしょうが。はやてちゃんと天ヶ崎……あぁもういいや。悠馬くんでしょうが」

「はぁ!?」

 

 なんだよ、文句あんのかよ。お前なんざ友達だと思ってねぇよって言われてもこっちはもうお前さん良い人認定だから勝手にお友達認定だよバッキャロウ。

 

「おま……」

「なんていうか……義嗣、君ってもしかして因果とか能力系のレジスト能力持ちなんじゃないかい? いや、それとも平等な愛って、そう言うこと……?」

「なにがさ」

「……友達、で良いのか?」

「ん?」

「俺を、友達だって言ってくれてんのか? 本気か? 同情でもしてんのか?」

「今の流れのどこに悠馬くんを同情する余地があったのかこっちが訊きたいよ」

「……お前、本当に俺のこと、どうも思ってないんだな」

 

 そんな呆れた顔で言わないでよね。そんな訳ないじゃない。

 

「どうも思ってないわけないじゃない。滅茶苦茶良い人だと思うよ。ツンデレだけど。僕が生きてるのだって悠馬くんのお陰でもあるんだし。なんだったら靴舐めてもいいくらい恩を感じてるよ。不器用なところとかもなんか可愛いな~って思うよ。

 見えないところで、誰にも感謝されてないのに、ずっと頑張ってるのも分かったから、もうなんか、報われてもいいんじゃないかって思うよ。人間として大好きだよ。僕が女の子だったら惚れてるね。間違いない」

「……義嗣……」

「……」

 

 ん、なんだよ二人ともそんな唖然とした顔しちゃって。

 

「あ、もしかして義嗣が悠馬にとってのエンキドゥなんじゃないかい?」

「いや、違う。それはアルフだ。アイツだけは俺を受け入れてくれたからな。だからこそ俺も――いや、それは良いんだが、佐藤、お前、本気で俺のこと気色悪いとか思わないのか?」

「思わないよ? 前は女子と見れば誰から構わず愛囁きまくるチャラ男め!! って思ってたけど、内面知ったら普通に好感しか抱いてないよ」

「こんな外見だぞ?」

「別に小学生でも身長170とかいく子だって前世ではいないわけじゃなかったし、ソレに比べたら身長はちょっと高いけど普通。顔は確かに年齢の割には整いすぎてるし大学生くらいの顔にしか見えないけど、単に老け顔だと思えばむしろ強く生きれ!! って応援するレベルだよ」

「ぷっ……」

「……はぁぁぁぁ……」

「なにさ二人して」

 

 なんだね、老け顔には違いあるまい。

 

「ご、ごめん。ぷふっ、老け顔……確かになぁって……くふふっ」

「笑いたきゃ笑いやがれ。ったく……あ~くそ、因果のせいで受け入れてくれんのはたった一人の女だけかと思ってたのに、こんな身近にいたとかどういうことだよ。あ~面倒くせぇ……佐藤!!」

「うぃうぃ。何さ」

「友人間でも、金の問題は大事なもんだ。正当な報酬は受け取りやがれ。それでも抵抗があんなら、はやての護衛の必要経費として使え。ともかく受けとらねぇなら今回の話は無しだ」

「ぬ~……分かった。じゃあちょっと待って。一回博士に声かけてくる」

「あん? なんで西野が出てくんだよ」

「ついでだから、二人が滞納してるっていう学費代わりに払ってもらおうと思って。あの二人には今回の怪異解決に協力してもらった正当な報酬なんか全然払えてないからさ。そのくらいは出来るならしておきたい。

 あと、僕も最悪の場合を想定して装備欲しいから、それの必要経費訊いてくる。それらを経費分として報酬にしてもらいたいんだけど、良い?」

「勝手にしろ。こちは数千万だろうが数十億だろうが出したって懐(ふところ)いたまねぇからな」

 

 流石は大富豪さんだね、っと。

 

 

 

 

「いらんのである」

「ロボ」

「えぇっ!?」

 

 研究所をノックしてもしも~ししたら、エルザちゃんが出迎えてくれたので、学費滞納分を悠馬からもらう報酬で肩代わりするって話をしたら、即断られました。

 

「なんでさ!?」

「監視カメラで様子は伺っていたのであるが、我輩も友を助けて金をとるほど鬼畜ではないのである」

「そうロボ!! 見損なわないでほしいロボ!!」

 

 監視カメラという点は今はツッコミ入れないでおこう。僕のこと心配してだと信じよう。

 

「いやいやいや、だって最初情報料要求してきた時とか言ってたじゃない。お金がまずいって。いくら義務教育だから学校側も甘い顔してるとはいえ、私立なんだから絶対そろそろ見限られるよ? 学費滞納は絶対まずいって!!」

「だったらエルザの分だけもらうのである。今回義嗣を守ったのはエルザなのであるからして」

「エルザだってそんな形でお金なんて欲しくないロボ。ロボは食わねど高楊枝ロボ」

「いやいやいや、それ武士だから。そしてそういうのは、最低限他人に迷惑かけてない人だけが使っていい言葉だから。学費滞納はいろんな人に迷惑かけてるから」

「ぐぬぅ……」

「むむむ……ロボ」

 

 う~ん、なんなんだこの二人の頑なさは。原作でももっとさぁ、こうガメつい感じじゃなかった? 僕の記憶が間違ってるの?

 あ、でも博士って友情には熱い男だったからなぁ……。

 

「今を逃したら、僕だってお金なんか払えないからね?」

「ぐむむむむ……」

「うむむむロボ……」

「じゃあ、せめて僕の装備開発費として、僕に売る分の利鞘としてとってよ。それなら良いでしょ?」

 

 お金にガメつかないのは良いことだけど、僕も友達が貧困にあえぐのは嫌だよ?

 

「むぅ……仕方ないのである。じゃあそういうことにしておいてやるのである。確かに、我輩はともかくエルザが肩身の狭い思いをするのは、我輩もあまり望ましくないと思っているのであるからして……」

「確かにエルザも、お友達に貧乏人は存在が認識できないとか言われて蹴り飛ばされるのはもう勘弁ロボ……」

「なにそれ!? エルザちゃんのとこどんだけ学級崩壊してるの!? 女子中怖い!!」

 

 僕女子じゃなくて良かったわ!!

 

「まぁ、とりあえず今はそれで良いとして、装備っていうと、昨日エルザが持っていったのだけでは足りなかったのであるか?」

「うん。出来ればもうちょっと、普段から持ち歩ける物の方が助かるよ」

「うぬん? あれらは普段から着用していても問題ないと思うのであるが」

「いやいやいや!? 銃とかマジカルステッキなんて普段から持ち歩いてたら痛々しい子扱いは間違いないよ!? 篭手だって同じくだからね!?」

「アーカムでは割と問題無いのであるぞ?」

「混沌の都市アーカムと平和の国日本を一緒にしないで!?」

 

 っていうか、この世界アーカムあるの!?

 

「まぁ、言われてみればそうだったロボ。でも普段から持ち歩く必要なんてあるロボ?」

「いや、僕もいつ何に巻き込まれるかもうわからなくなってきたし。あと、相手の不意を打つにもあからさまに武器っていうの以外にも戦闘用の物持っていたいからさ」

「不意打ちであるか? なんともセコイのであるな」

「戦力を正しく判断した結果と言って欲しいよ。不意打ち闇討ち上等。正義の味方だから勝つんじゃなくて、勝つから正義の味方なんだと思うよ、僕は。

 ……まぁ、勝てば正義なんて考えを持つ気もないけど」

「ふむ……まぁ、一つの真理であることは、間違いないのであるな」

 

 奇襲や伏撃は嫌われるけど、戦力で負けている側が勝つには致し方ない戦法なのだよ。それに頼りすぎると、策士策に溺れるを地でいくことになるけど。

 戦闘の基本が純粋な戦闘力の確保と維持であるのはこちとら分かっているけれど、地盤が違うのだ。戦争に卑怯もクソもないのである。

 

「では、髪留め型の装備で、展開すると甘ロリドレスのマギウススタイルとかどうであるか?」

「なんで!! そこで!! 女の子みたいな!! 装備なのさ!!」

 

 っていうか、モロに女の子の装備じゃないか!!

 

「博士、実にナイスロボ!!」

「ヌゥハハハハハ!! そうであろうそうであろう!! 我輩は大天才であるからして? 服飾センスも神がかっているのである!!」

「服飾センスはどうでも良いよ!! 確かに昨日まで着させられてたあの服可愛かったけどさ!! 今の問題は!! 僕の服装が!! なんで女装限定なのかって!! ことだよ!!」

「「ショタだから(である)」ロボ」

「君達の判断基準はなんなのさぁ!?」

 

 あとマギウススタイルって、魔道書との合体でしょうが!! なんで髪留めなのさ!!

 

「ツッコミ、間にあわねぇぇぇ!!」

 

 誰か!! 僕にツッコミの相方をくれぇぇえええ!! フェイトちゃんかんばあああああっく!!

 

 

 

 

「……で、あんなこと言っておいて五百万か。割とでかくでたな、オイ」

「いや、その……最終的に博士達の気分が乗っちゃったみたいでね? 僕の魔力の瞬間最大放出量だと下手に魔法関係の技術使うよりも、ガッチリ科学技術で固めようって話になって、そしたらそっちのほうがむしろお金かかるってなってね?

 いや、でもね!? 二人の学費、いっそ卒業分までもってお願いされちゃってね!? 決して僕の装備代だけでそんなにかかった訳じゃないんだよ!?」

 

 居間でお茶を啜りながら煎餅をかじって待っていた悠馬に、金額を伝えたら苦笑された訳だけれど、仕方ないじゃない!!

 結局、僕の装備は魔法なにそれ美味しいの? な感じになった。

 

 まぁ、空想科学技術の結晶とも言える物になりかけたのだが、博士曰く「魔法なんぞ、我輩の科学技術の前では無力無力なのであぁぁぁっる!!」とのことなので逆に心配になったからちょっと自重した。

 なにせ普通に考えれば素人があんまりぶっ飛んだ物装備すると余計に危ないので、まぁ本当に護身用でおさめることにしたのだ。途中から博士とエルザちゃんが暴走して紆余曲折あったので没になった物が大量にあったのだが、そっちは忘れることにする。

 

 だって、擬似レムリアインパクト発生装置搭載パワーアームとか、海鳴市消し飛ぶっちゅう話だよ。マイクロブラックホールで対象を対消滅させるとか危険物以外の何物でもないでしょうが。

 原作デモベで唯一再現出来なかったデモンベインの装備だったから、開発しまくって実現したらしいけど、誰もいらんがなって話だよ。下手したらそれ利用してタイムリープマシン作れちゃうよって話だよ。あ、ごめん。なんか色々混ざったね、話が。

 

 え~っと、結局装備は五色ボールペン型の小型麻酔銃。普通の人間なら一瞬で昏倒させられるとか。発射方は緑色のペン出してる時に、赤、緑、赤、黒の順番でカチカチすると発射する。面倒だけど誤射が怖いのでまぁ良いだろう。

 

 次に、デジタル腕時計型シールド。ヒヒイロカネ製。「防壁展開」の声紋認識で腕から外れ、厚さ2cmで周囲2m程度の広さにドーム状の装甲が展開されるので、護衛対象がいるのなら一緒に篭れるので便利とか。これは助かる。質量保存の法則とかは多分気にしてはいけない。

 

 あと、30m程度まで伸びる艶消しされたアルミニウム鍍金鉄線が仕込まれたポーチ。任意のサイズで切り取ることが出来て、ポーチから伸びたままならボタン一つで一気に戻るらしい。これは単純に僕がトラップとか仕掛けるのに使えそうだから頼んだ。面白みが無いって文句言われたけど知ったこっちゃない。必要なのは実用性なのだ。

 

 同じく30mまで伸びる、こちらは弾力性がえらいことになっているゴムの入ったポーチ。10tまでは急激な負荷でも耐えられるとか。

 これも任意で切り取れるし、ボタン一つで戻るらしいので高いところからの飛び降りイベントとかが発生したら使おうと思う。これも面白くないって文句言われた。

 

 そしてメインウェポンと言うにはおこがましいけど、お祭りとかで五百円くらいで売ってるような安っぽいエアガンを改造して32ACP弾(威力不足から軍ではもう使われていないらしいが、民間護身用拳銃の弾丸としては使われているとかいう銃弾)をピストン・プリンシプル弾(弾丸そのものに消音効果があるとか無いとかいう特殊構造の弾丸)に改造したとかいう物が発射できるようになっている拳銃。

 材質は博士特性の超軽量高硬度プラスチックとやらになっているが、全体重量も1kg無いのでとりまわしやすい。

 

 当たり所が相当悪く無い限りは、一発や二発じゃ人間は死なないっていう程度の威力の物だけど、僕の体格だとそれくらい反動の少ない物じゃないと扱いきれないので丁度良い。これなら見た目的にも持ち歩いていたって、僕の外見も相まって玩具にしか見えないだろう。

 これまた面白みがないって文句言われたけど、僕の体格とかちゃんと考えてください。

 

 後は防具だけど、防弾防刃対魔対衝撃手袋に、同じく防弾防刃対魔以下略ウィンドブレーカー。そして、非常に、非常に不本意なんだけど、防弾防刃以下略ニーソとスカート。

 ジーンズにしてくれって何度も言ったんだけど、何故か二人ともそこだけは譲ってくれなかった。なんでだ……とりあえず、着用する時は上から緩めのジーパン穿いて誤魔化すことにする。

 

 そして頭用装備として、防弾以下略バイク用ヘルメットに変形するヘアピンである。髪飾りよりはマシになったわけだが、それでも男の子がつけてるのってどうだろうか……。

 

 ちなみにヘアピンヘルメットの材質はヒヒイロカネ。他のもヒヒイロカネを繊維状にしたものとかで、重いと思いきやサイズ調整してない見本を博士が数分で作って着せてくれたのだが、ぶかぶかサイズでも意外に普通の服と重さは変わらなかった。

 ヒヒイロカネすげぇ。……でも原価の大半はコレのせいなのだが、まぁ伝説の材質であることを考えたらむしろ安すぎるくらいではある。

 

 あるのだが、そもそもヒヒイロカネなんて伝説上の素材どっから仕入れたと訊いたら、二人して吹けてない口笛で誤魔化していた。多分、アレは訊いても答えてくれそうにない。

 

 防御に関しては、とりあえずこれで「戦車砲くらいなら、吹っ飛ばされるけど多少痛い程度で済むのである。魔法は金髪娘のフォトンランサーとか言うのくらいであれば蚊に刺された程度にしか感じない筈なのである」とのことなので、信じよう。

 

 ……博士のことだから、どっかでポカしてないか不安だけど。

 

 あとは今朝方もらった装備もあるし、戦闘が予測される時はそれ装備しろと言われた。

 ちなみにマジカルステッキは、昨日まで着てた甘ロリに若干ピンク混ぜて手袋やらスカートふりふりがついた姿に変身して、髪の毛がピンク色に変わって赤いリボンで短めなツインテになるらしい。それらもさきほど挙げ防弾防刃対魔対衝撃性の素材らしい。

 

 そして肝心な点なのだが、魔法を使えるデバイスとしての機能は無い。

 弓とか似合うと思うので欲しければ作るのである、とか言われたけれども丁重にことわっておいた。

 

 ……クソ使えねぇ!! 事前に聴いておいてよかった!! 完全にパーティーグッズじゃねぇか!!

 

 ごほん。まぁ、とりあえずそう言うわけで僕の装備は出来上がった訳である。いや、正確には今日中に出来上がるから待てって言われたんだけど。

 

 しかしまぁ、魔法の物語のはずなのに見事なまでに魔法関係ない装備である。とんでも科学の産物ではあるが。

 でも下手に魔法系の装備なんか持ってたら目をつけられる可能性あるしコレでいいや。うん。

 

「おい、何ボサっとしてんだ。んじゃ五百万、ここ置いとくからな」

 

 とかなんとか長々と回想してたら、悠馬が王の財宝庫からにょきっと札束取り出して投げ渡してきた。

 

「おぉう!? そんなポンっと出せるの!?」

「いや、何千万でも数十億でも構わねぇっつったろうが。なんならもう少しいるか?」

「これ以上もらったらなんか邪(よこしま)な心が出てきちゃうからいいです!!」

 

 既に、ちょっとこの札束でぺちぺちしてほしくなってるから僕!!

 

「……なんつうか、本当小市民だなテメェ。いや、良いけどよ。んじゃあ、とにかく頼んだ。あと、コレが俺を呼び出すための宝具だ。必要になったらボタン押せ。コレの位置座標を元に俺が転移できるようになるから、こっちが戦闘中とかで無ければ一瞬で駆けつけてやる。それと……なんつうか、まぁ、一応、念のためにコレも持っておけ」

「なんぞこれ?」

 

 ガラスの球体みたいなのに刃がついてるけど、どっかで見たような。

 

「フラガラックの原典だ。何個かあるから三つほどやるよ。万が一宝具持ち転生者が向こうについてたら、それで対応しろ。真名は原作通りだから、間違って何もない時に発動したりするなよ?」

「おぉう、これがフラガラック!!」

 

 原作よりも若干地味なデザインだからパッと見で分からんかった!!

 

「……なんか、随分丸くなったね、悠馬」

「あん? ……まぁ、こっちも少しは心にゆとりが出来たっつうか……そういう訳だからな」

「その結果が分かっててもかい?」

「分かってるからだよ。それに……俺はてめぇと違ってとっくに覚悟決めてるからな」

「僕だって覚悟くらい決めてるさ」

「出来てねぇから能力が半端なんだろうが」

 

 おうおう、二人ともなんか主人公な会話してるね。

 

 ま、なんでも良いや。とりあえずコレで最強お助けユニット召喚が出来ることになった訳だし、防具もいい物が出来上がるわけだし、怪異相手なら篭手で殴れば良いし、人間相手なら麻酔銃と拳銃でどうにかなるし、いや~、これで僕の物語は実に安定するね!!

 

 ……するよね? 大丈夫だよね?

 

 やっぱりレムリアインパクトパワーアーム作ってもらえばよかったかな。チート装備あったほうがいいのかな。いやでも、間違いなく自分巻き込まれて死ぬパターンが頭に浮かぶし、やっぱいらん。

 

 え? ショゴスを使い魔として戦わせろって? なに、本気で言ってんの? あんな愛らしい存在を戦わせようだなんて酷いじゃないか!! だってにゃんことかいろんな生物になれるんだよ!? もふんもふん天国し放題なんだよ!?

 

 いやまぁ、それはともかくとして、なんていうか、なのはちゃんの格好してるところも見ちゃったし、戦わせて傷つくところ見たくないのよね。そりゃあ確かに僕なんかよりも何十倍。何百倍も強いのは間違いないんだろうけどさ。

 

 それでも、女の子に戦わせて自分は後ろで見てるだけって本当に辛いんだよ。本当はなのはちゃん達が戦うのだってやめてほしいくらいだしね、僕。皆戦いなんかしないで、平和に暮らせたら一番じゃない。

 これからはなし崩し的に戦わざるをえないような場面が出てくると思うけどさ。僕はどこまでいっても、平和主義のモブなんだよね。

 クラスメイトMとか、運動会イベントとかで声援の声だけ入ってるような存在で良いよ。

 

 そういうわけで、ショゴスに戦闘させるのは、最後の手段としたい。

 

 いや、ケイネス先生の月霊髄液<ヴォールメン・ハイドラグラム>ごっこにはちょっと憧れるんだけどさ。防具も問題なく手に入ることになったことだから、最後の手段のままにしておきたい。大事な家族を盾に使うとかアホかと言いたいからね。

 

「んじゃあ話も終わったし、俺は帰るわ」

「……バイバイ」

「おう、またな」

「あ、帰る? 今日はありがとね、悠馬くん。見送るよ」

「礼を言うのはこっちだ。まぁなんだ……ありがとよ」

 

 うん、きっと大丈夫だ!! 多分!!

 

 あとこの五百万、悠馬くん見送り次第、早いところ博士達に渡してこよう……こんな大金持ってるとなんかそわそわするよ。落ち着かない。




 EX編21話は、当時いただいたイラスト掲載用の話だったため、ご本人確認が出来ていないので休載といたします。ご容赦くださいませませ。


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