転生して氷の滅悪魔導士をしています (ヒーくん)
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#.1 ジャッカル髪の毛チリチリになる(内容変更
1
―――魔法。それはこの世界では一般的な事象。魔力を発動の条件として、それは人により魔法のあり方を変える。
それは、人により七変化する。
四大属性に称される地水火風、またこれも術者の使い方により性質を変える。これを踏まえて魔法という物は、人という
「―――――……あーっ、くそ。やっぱり本読むのはかったるいな」
ボヤく。コキコキっと首の骨を鳴らし、深呼吸を一つ。湿気とカビの匂いが鼻腔をくすぐる、まあ何十年も前からあるギルドの地下室なんてこんなもんなんだろう。
イスから立ち上がり伸びをして、さっきまで読んでいた本を閉じて
魔法が普通なこの世界では、こうしてありとあらゆる場面に置いて魔法という物がよく目立つ。
自分の頭の上に手のひらを乗せて上下し、まだ前世の時の身長には追いつかないなぁと思う。
「しかし、この世界に来て早くも十年、か」
どうしてこの世界に来たんだろう、だとか何で死んだのか―――なんてもうそんな物は考え過ぎて飽きてしまった。精神年齢が前世の記憶を引き継ぎ、やや身体年齢に引きずられ十代後半と考えてもあまりにも多くを考えれる時間だ。幾度こんな事を考えてきたなんかもう数え切れない。
鬱屈しそうになる臭いに重々しい雰囲気は、やはりどうも嫌だ。ハァとため息をこぼす。
マッドなサイエンティストだったらこんな空気が好きなのかもわからないが、実際オレはただの人間である。特殊な魔法が使えるが。特殊な育て親がいるが。
地下室と一階へと繋がる階段の前にある芸術的価値がムンムンと漂う鏡の前に立ち、一階に上がる前に身だしなみを整える。しかし、前世の記憶なんかすでに曖昧な為以前の自分の姿なんか記憶にないが―――
「しっかし美形だよな」
鏡に映るオレの姿はまるで、本から飛び出してきた主人公の如く眉目秀麗である。
端整な顔立ちに、黒髪。鼻まで届く前髪に、首筋付近まで伸びた襟足。黒髪に対比する様に、鮮やかで自分で言うのもなんだが引き込まれる様な、それでいてガラス玉の様に透き通った黄金色の瞳。
顔の右半分に黒い紋様が走っている。服を脱げば、右半身なのだが。中二臭くて嫌だが、美形なので映えているからマシである。
まるで漆黒の修道服を改造したかの様な服。特に乱れている所もない為、適当に髪の毛や体のあちこちについた埃を手で払う。
「よしっ……ジャッカルでもおちょくってくるか」
2
「待たんかいクソガキィィィっっ!!」
「待てって言って待つ奴がどこにいるんだバーカっ!!」
ただいま絶賛鬼ごっこ中である。捕まれば最後、後ろから猛ダッシュしてくる顔面に油性マジック(オレが犯人)でラクガキされた狐男ことジャッカルに爆発されてお終いだ。
その証拠に毎度毎度の事ではあるが、庭の至る所が轟音を上げて爆発している。
「逃げ足だけは相変わらず一丁前やのう! 早ぅ捕まらんかい!!」
「捕まったら爆発しちゃうのに!? アホじゃねえの狐男、ぷふぅ!」
「おまっ、自分で書いたラクガキの癖して笑うなや! 絶対血祭りにあげたるからなぁ!!」
ドゴォンッと地面が爆発した。と、言うのも勿論ジャッカルの仕業である。足元の地面を爆発させ、加速したのだ。一歩踏みしめる度にドカンドカンだ、環境破壊もいいところである。あぁ、今日も今日とて庭園の守護神の冥王(笑)マルド・ギールの制裁が見れるのか、楽しみだ。
「わーはっはっは! ジャッカルまたマルド・ギールに怒られるぞ!」
「やかましいわ! おどれが全部事の発端やないか! 一回―――」
キュインっ。ジャッカルの右手がオレへと向けられる。それは、オレ以外のこのギルドの連中が使える魔法の上位―――呪法の発動。
やっべ、今日はいつもより当社比二割り増しの勢いで怒ってらっしゃる。
額から流れ落ちる冷や汗。いつもはなんだかんだで爆発させてこない癖して、オレがせっかく書いてあげた
「なんて、考えてる場合じゃなかっ―――」
「―――爆発しとかんかいワレェ!!」
空気が連鎖的に爆発し、目の前が閃光と爆炎で飲み込まれていく。視界がみるみる内に赤で埋め尽くされていく。
「なんやぁ、アッサリやな」
ィィンと耳鳴りがする中で、ジャッカルの声が響いてくる。
しかし今日は酷く荒れている。誰だジャッカルを怒らしたヤツは。
全く。ジャッカルは、感情が態度、言動だけじゃなくて
「―――――……オレじゃなかった即お陀仏だよこんちくしょう。おお、レインよ。こんな所で死ぬとは情けない状態になっちまうよ」
「ワケわからん事ばっか抜かしよって……ホンマ困ったモンやで。こがなけったいな魔法覚えるなんて」
頭を掻き毟り嘆息するジャッカルを余所目に、爆炎を
荒々しくてまるで蹂躙される様な味。それがジャッカルの炎の
一頻り辺りに散った炎を食らい尽くし、全身から魔力を迸らせる。
これこそがオレの、身につけた魔法。
「ぁ? オイオイ待てや! そがな高魔力のモン食らったら流石のオレでも無傷やすまへんで!?」
「やられたらやり返す―――倍返しだ」
ギャアギャア喚くジャッカルに適当に返し、腹の底から膨れ上がる魔力が全て炎へと変える。さながら先ほどの爆炎が逆流する様な錯覚がある。まぁ、確かにいつもだとオレの攻撃受けてもピンピンしてるジャッカルでも自分の攻撃上乗せされたら傷の一つ二つつくだろう。
へっ、いつもオレの髪の毛をアフロみたいにチリチリにしてるから今日こそやり返してやる。そんでもって、この事でこれからネタにしておちょくってやる。
「とりあえず、髪の毛チリチリになっとけ爆発狐ぇぇぇぇ!!」
口から思い切り真紅の炎を吐き出す。真っ直ぐに突き進む炎はたちまちジャッカルを包み込む。
「んぎゃあぁぁぁぁぁ!!?」
ザマァ見やがれ狐め。お見事髪の毛がチリチリのボンバーヘッドである。とりあえず懐からカメラを取り出し、ボロボロになったジャッカルを写真に納める。現像してそこらへんに張り回ってやろう。カメラが壊されたらたまらないから、自室にも隠しておこう。
「仕返し大成功っ、魔法様々だなぁ」
本日も晴天なり。空へと拳を突き上げて大きく伸びを一つ。今日もぐっすりと眠れそうだ。
オレはレイン・ドロップ。この世界、アースランドに来て十歳になる。
様々な属性を摂取する事で、その力を飛躍的に向上させる
元人間の悪魔、シルバーから教わって身につけた魔法―――悪魔を討つ氷の
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#.2 怒りの冥王
いや、魔法変えました。これについては、なんともいえねぇ。
イフリートは出番もなく出番がなくなりました。
1
「マルド・ギールは久しく忘れていた感情を思い出した」
藍色の髪を縛った一人の美青年―――マルド・ギールは打ち震えていた。片手に抱いた『END』と描かれた古びた本をそっと、地面に置く。
こんな事があっていいものであろうか、いやない。マルド・ギールは今までどれだけの時間と力を費やした事か、そんな物考えてもキリがない。幾度、この様な事があったのだ。
わなわなと唇を噛み締める、つぅっと血が流れた。その細目がギンッと見開かれた。
この感情は嫌いだ、人間に近くなってしまう。だから、忘れてしまわなければならない。
「―――それは、怒りだ」
グバァっと魔力の奔流が起きた。ただそれだけで風が突風へと変わりバサバサと髪が揺れる。
マルド・ギールが歩みを始める。周りを見渡せばありとあらゆる大地が陥没し、挙句の果てには焼き焦げている。
「この呪法の残留は―――ジャッカルか、ふんっ。幾度マルド・ギールに逆らえば済むというのだ」
心から叫びたい。
「この庭はっ! このっ! マルド・ギールが丹精込めてっ! 呪法さえも使わず作り上げたというのにっ!!」
憤慨だ。あの悪魔め、滅悪せねばならない。
「なに、体なぞヘルズ・コアでまた作ればいい」
まず先にこの庭を直さなくては、焼け落ちた花びらを手に取り呪法を唱える。
「―――ふんっ。このマルド・ギールが怒りを思い出す事になるとは」
たちまち庭園は元の姿に修復された。
あぁ、これこそが庭園の姿だ。マルド・ギールは思う。この可憐さと綺麗さを兼ねそろえた芸術的な庭園に思いを寄せて怒りを忘却しよ―――
「だぁぁぁぁっ!! 何やあの写真はぁぁぁ!! あんのクソガキぃぃ、思う存分に爆発させたるわぁぁぁ!!」
ドゴォォォォンっっ!! マルド・ギールの目の前の庭園が爆発した。爆発に呼応する様に周囲の草木も爆ぜる。
声がする方に振り返る。そこには、耳をピンっと尖らせたジャッカルが青筋を浮かべて辺りをドカンドカンと爆発させていた。
「ふんっ―――ジャッカル、貴様」
「ぁ? なんやねんな、こっちは忙しい言うのにやな」
マルド・ギールが打ち震える。ジャッカルは小首を傾げる。
駄目だ、この狐は、顔だけじゃなくて脳みそまで狐らしい。
マルド・ギールは眠りにつこうとしていた感情を呼び覚ます。
「貴様は―――このマルド・ギールから怒りという感情を思い出させたっ!!」
「はっ?! ま、待ってや! これには、深い訳っちゅうヤツがやな!?」
「まだ未完成だが、これを先に貴様にくれてやろう」
ゼレフ書の悪魔が持つもう一つの姿、エーテリアスフォームへとマルド・ギールは変わる。
未完成だが、それでもジャッカル一人滅するには容易い。
「堕ちよ煉獄へ―――メメント・モリっ!!」
「んぎゃああああああぁぁぁ!!?」
その日、
2
「―――うひゃひゃひゃっ!! ジャッカルのあの顔っ、マルド・ギールの怒り何度目っ。二日に一回は怒ってる」
絶賛大爆笑中。ヘルズ・コアを覗きに行くとジャッカルが収容されてた。
ラミーがファファファ笑ってたから、一発ぶん殴った。マルド・ギールがぷんすかして、本に頬ずりしてた。キョウカがそれ見て悶えてた。
今日も平和だ、皆人間じゃなくて悪魔だけど。
人間なんてオレしかいないけど。別に寂しくはない、シルバーにマルド・ギールにジャッカルもいるから。何かとこの三人は大好きだ。育て親だし、面白いから。
あ、後キョウカも少し。マルド・ギールの寝室にお邪魔して寝顔を撮ったヤツを見せたらお金くれたから。
「あーぁ……シルバー早く帰って来ねぇかなぁ」
この世界で初めて会って育ててくれた元人間な悪魔。言葉や常識、魔法を教えてくれたオレの親みたいな存在。
たまに、今みたいにどっかにフラリと出て行ってフラリと帰ってくる。だけど、帰ってくる度に色んな事を教えてくれるし、魔法の訓練もしてくれる。
「腹減ったし……
全属性を食べる事が出来て、その食べた属性を吐き出したり体に纏う事が出来る。まぁ、単純に吐くだけだからかわされたりするけど。
そして、氷の滅悪魔法。
育ての親であるシルバーから教わった氷の滅悪魔法。でも、マルド・ギール達の前では使うなといわれている。何故かは知らないけど。
シルバーと修行する時は、どこか少し遠いところへ行ってからする。まあ、外の世界ってのも楽しいから特に不満はないんだけどねぇ。
「腹減った!」
手から滅悪魔法で、氷を生み出し自分の口の中に放り込む。
「お、ぇ」
すぐに吐く。
なんでかわからないが、自分で作った氷は食えない。シルバーのは食べれるの不思議である。
前一度シルバーに聞いた時に言われた言葉は、
『お前は自分がした排泄物を食いたいと思うか?』
何ともいえない気分である。腹が減るとつい、氷を生み出して口の中に突っ込む癖をやめなければ。
そう考えてはいるが、どうも駄目である。早く治したいなぁ。
「早くシルバー帰って来ねぇかなぁ」
まだまだ沢山聞きたい事とか教えて欲しい事があるというのに。
じたばたじたばた。
………むなしくなってきた、暴れたら更に腹が減った。
「とりあえず、何か食べようかなぁ」
そう考えて自室を飛び出した。
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#.3 過去と未来と希望
シリアスだよ!!!
1
「いやはや、コヤツの命はおいくらか? おいくらか?」
ゲヘヘヘヘ―――、単眼の刺々しい容貌をした悪魔――フランマルスは嗤う。
眼前にあるのは、再生機関ヘルズ・コアの培養液に包まれた一人の男性。黒い短髪の顔に傷があり、体自体の傷は深刻ではあるが肉体の損傷はない。
「しかしこの人間の魔力は相当お高いですねぇ」
「ふんっ、我がデリオラが暴れた箇所へと赴き見つけ出したのだ。当然であろう」
フランマルスは液晶画面に映し出された魔力数値に驚愕を浮かべる。
それに呼応する様に、黒衣を身に纏うまるで亡霊の様な雰囲気すら醸し出す髑髏の悪魔――キースは答え、フランマルスと共にくつくつと笑みを浮かべる。
ゴボゴボゴププ……男性の口から酸素が漏れる。
微かに瞼が動き、目が開く。
「ふむ、回復が中々に高いですな。魔力の質の良さ―――と、言うべきですかな」
ポチッとな。フランマルスがヘルズ・コアの開閉器のボタンを押す。
男性の手足首を拘束していたチューブが剥がれ、男性は前のめりになり冷たい床へと倒れる。
「がふっ! 痛ェ……ここは、どこだ」
「げへヘヘヘ……ようこそいらっしゃいましたね。ここはマスター『END』が統括するギルド―――――
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「―――――……っち、嫌な事を思い出しちまった」
ビュォォォ―――。吹雪く丘で、黒髪の鎧を着込んだ男性――シルバー・フルバスターは目を覚ました。
どうやら、墓参りをしながら座り込み寝ていた様だ。コキコキッと首の骨を鳴らし、一つ伸びをする。
「もう、三年か……年を取ると時間が流れるのは早いもんだ」
立ち上がり。目の前の墓代わりの木板を見つめクスリと笑い、「まぁ、死人の体だからこれから年取る事も出来ねぇんだけどよぉ」まるで、目の前に愛する人がいるかの様にシルバーは微笑み、語りかける。
木板には二人の名前。一人は愛すべき妻――ミカ。そして二人の間に産まれた愛すべき息子――グレイの名前。
二人は死んだ―――シルバー含め。ただ、姿かたちを取っているのはシルバーだけだ。
もし本当に神がいるのなら、シルバーは喉が裂け声が声じゃなくなるその時まで叫びたい。
なぜ、オレなんだ!
なぜ、オレだけなんだ―――っっ!!
と。
「…………なっちまったモンは仕方が無ぇもんな。ハハッ、何の為に手に入れた力だよ」
こん畜生、舌を打つ。魔力を練り上げ右手を振るう。
ただそれだけの動作、それだけの行為により降り積もった雪原に身を隠していた一体のスノーウルフと呼ばれる魔物の体が、音も無く凍りついた。
「だけど、終わるワケにはいかなくなったんだよミカ……オレ、死人として生き返ったけどさ。
さっきまでの切ない感情は掻き消え、その顔には喜びの色が張り付いていた。
クスクスと笑う。
「報告が遅くなっちまったんだけどさ。
チッセェ癖に妙に鋭かったり聡い所があるんだけど、コイツがまた面白い
シルバーは微笑む、あの悪夢の様な日々が続く様に思えたその時に降り注いだ
「ハハッ、グレイのお兄ちゃんだな。喜べよ、オマエの兄貴だぞ? めちゃくちゃなヤツだけど、オレが覚えた悪魔を殺す魔法―――さながら滅悪魔法っつぅのかな。教えれば教える度に覚えていって強くなっていくんだ」
オレもいつかは抜かれちまうのはかな、義理だけど父親としてしっかりしなきゃなんねぇよなぁ。
墓標に笑い語りかける。その顔にはぬくもりがあった。
ハハハハッ、一頻り墓標に向かいギルドで見つけた希望の存在を話す。
「レイン・ドロップって言うんだよソイツ。今度連れて来てやるよ、オレには負けるが男前だぞ」
そんな話をもう何時間話しただろうか……いや、実際は数十分しか経ってはいない。それだけ、密度が濃い時間だった。
だから―――、そろそろ戻らなくては。そう思い、墓標に背を向ける。
「―――――今度こそは守り抜いてやる。終わってもいい、だけど……もう、オレの目の前で大切な人が亡くなっちまうのは勘弁だからよ。グレイ、嫉妬すんなよ。オトコなんだ、我慢しろ」
小さく手を振る。
靴底を通して、雪の柔らかさを感じ取る。
「ミカ、見守っといてくれよ」
小さく呟いた言葉は、雪風に攫われる。
(何言ってんだよ、ハハッ。声が聞こえるワケでも、見えるワケでもねぇのにな)
そんな自分につい自嘲気味に笑う。
その時だった。
フワリ―――、背中を包み込む様な、抱かれた様な暖かさを感じたのは。
シルバーは振り返る、そこには―――――
『行ってらっしゃい……シルバー。がんばってね』
「―――――あぁ、言われなくても足掻いて見せるさ。意地汚くしがみついてやる、何にだってな」
主人公がいきしてねぇ
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