大筒木の名を持つもの (パスカロ)
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序章
一話


 

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあああぁぁ!!」

 

 

建物の中に産まれたての赤子の元気の良い声が響き渡る。

 

 

「はぁはぁ…やっと産まれてきてくれた……会いたかったわぁ!」

 

 

母は産まれてきた赤子を見て慈愛の眼差しで抱き締める。やがて赤子も安心したように眠っていった。

 

 

だが、周りの人々は皆、畏怖や恐怖の目でその赤子を、いや、その赤子の頭部を見ている。

 

 

「こ、これは!!」「なんたることだ…」「まさか…」

 

 

皆が注目する赤子の頭部には、二本の角と全ての色が抜け落ちたような純白の髪があった。

 

 

「あ、ああぁぁ!!」「災厄がまた来たるというのか…」「また地獄が始まるんだ!」

 

 

阿鼻叫喚だった。その場で泣き出すものや天に祈りを捧げるものまでいた。

だが、

 

 

 

「鎮まれ」

 

 

 

そんな中、突如部屋の入り口から声が発せられた。

部屋にいた者たちは声の発生源に顔を向ける。そして、そこにいる人物を見て平静を取り戻す。

そこにいたのは、

 

〝忍宗の祖〟〝六道仙人〟と呼ばれ敬われる

 

 

 

『大筒木ハゴロモ』

 

 

 

その人だった。

 

 

「騒然としておるな。このめでたき日に何を騒いでおるのだ?」

 

 

六道仙人はその場の者たちが平静を取り戻したのを見て尋ねる。

 

「ハゴロモ様!そ、それが…」

 

そして、その場の者たちが一斉に視線を一点に集中させるのを見て自分も同じ方向に目を向ける。そして、自らの妻と子を見て顔を綻ばせた。

 

 

「ヒトエ、ご苦労であった。」

 

「いいえ、ハゴロモ様。我が子を産むことに苦労など感じませぬ。終始、幸福で満たされておりました」

 

「ははは!そうかそうか。では、《ありがとう》と言い直そう」

 

「はい、ハゴロモ様」

 

 

そうして夫婦で幸せ噛み締めていた。

しかし、それを遮るように周りの者から声があがる。

 

 

「ハゴロモ様。その赤子は…」

 

「皆、後で大広間に集まれ。インドラとアシュラも、全員だ。そこで話そう。」

 

「…わかりました。」

 

「心遣い感謝する」

 

「いえ、ここで話すのは無粋というもの」

 

 

そういって周りの者たちは退出していった。

部屋には、一組の夫婦と産まれたての赤子だけが残った。

そこで、ヒトエが不安そうな顔で赤子の未来を憂いているのに気が付き、ハゴロモは赤子共々抱き寄せた。

 

 

「案ずるな。この娘は我等の子だ」

 

 

そういって微笑む。

ヒトエは安堵の笑みを浮かべ、赤子を抱き寄せハゴロモにもたれかかる。

 

「娘が産まれるのは初めてだな」

 

「そうですね。インドラもアシュラも男の子で、裁縫や料理、身嗜みのことなどにはあまり興味を持たず、ハゴロモ様の忍宗や体を動かす事にばかり夢中になっているので、あまり物事を教えられませんでした。その分、娘に色々教えてあげたいと思っています」

 

「そうだな。料理や裁縫はあやつらには合わぬな、ははは!この娘は家事や身嗜みに興味を持つだろうか?」

 

「女の子なんですからお淑やかに育てます!」

 

「だが、産まれた時のあの大きな泣き声を聞くに結構なお転婆に育ちそうではないか?」

 

「うっ…。そう言われると否定しきれませんね…。料理や裁縫を教えていると途中で逃げられる光景が目に浮かぶようです、ふふふ。」

 

「その割には嬉しそうだな、ヒトエ?」

 

「我が子が元気な所を想像し、嬉しさに思わず笑ってしまいました。」

 

「ははは!それ程嬉しい事はないな!」

 

 

しばらく夫婦で子供の事について会話の花を咲かせていると、下から唸るような声が不意に聞こえて二人の視線が下を向く。

すると、

 

 

「うぅぅ……

 

おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

音の爆弾が轟いた。

 

 

「はははは!!やはりお転婆に育ちそうだな!」

 

「ふふ、そのようですね!」

 

「おぎゃあああぁぁ!!おぎゃあああぁぁ!!」

 

「よしよし、母はここにおりますよ」

 

 

そうしてヒトエがゆっくりと揺らすとすぐに泣き声は止み、眠っていった。

 

 

「ところでハゴロモ様?この娘の名はもう考えてあるのですか?」

 

「ああ。決めたところだ」

 

「して、なんという名なのですか?」

 

「この娘の名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大筒木カグラ』

 

 



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二話

 

その広間には様々な人が集まっていた。

沈黙を貫くもの、不安そうな表情をするもの、周りと会話し恐怖を和らげようとするもの。

中には、僅かな狂気を纏い殺気立つものまでいた。

 

 

「これからどうなるのであろうか…」「ハゴロモ様はあの赤子をどうするつもりなのか…」「またあの時代に戻ってしまうのでは…?」

 

 

その場の者達から口々に不安や憂鬱の声が上がる中、大広間の扉が開き、数人の人影が新たに大広間にやってきた。

 

 

「父から緊急の呼び出しとあったが何用だ?」

 

 

先頭の人物から声があがる。

 

「インドラ様!此度の赤子の件で話があるので、インドラ様とアシュラ様も含め皆を大広間に集めるように、との事です。」

 

大広間にいた者達の一人がその問いに答えた。そしてすぐ側から声が響いた。

 

 

「ほう!ついに俺の兄弟が産まれたか!!今日はめでたい日だ!して、男子か女子かどちらなのだ?」

 

 

「アシュラ様!それが…女子なのですが……」

 

「ほう!妹か!会うのが楽しみだな!!」

 

「それで?今回の話はその妹の事なのだろう?何かあったのか?」

 

「はい、実は「そこから先は我が話そう」

 

ハゴロモ様!?」

 

そこに、赤子の事を話そうと六道仙人が大広間の扉を開け赤子を腕に抱いて現れた。

 

「父上!妹が産まれたと聞いたぞ!母上は大丈夫なのか!?」

 

「おお、アシュラか。インドラもおるな。ヒトエは出産の疲れで今は眠っておるが、大事は無い。しばらく休ませておこう」

 

「母上は無事か!よかったよかった!して、その子が…?」

 

「ああ、この子がお前の、お前達の妹だ」

 

 

そういって、ハゴロモはアシュラとインドラに赤子を見せる。インドラは静かに、アシュラは大はしゃぎで赤子を観察している。

 

「父上!この子の名前はもう決めているのか!?」

 

「ああ。さっき決めたところだ」

 

「なんという名なのだ!?」

 

アシュラが赤子を見たまま、嬉しそうにハゴロモに赤子の名を尋ねる。

だが、周りの者達はあまりいい表情をしておらず、ハゴロモやインドラ、アシュラも敏感にそれを察していた。

 

「父上、その子の事について話があるとのことでしたが?」

 

インドラがアシュラの質問を遮り、ハゴロモに本題を話すように促す。

 

「ああ。その事も、名前の事も全てまとめて話そう」

 

そういって大広間にいる様々な者達を見回し、ハゴロモは上座に座り皆にも座るように促す。

全員が座り、喧騒がおさまったのを確認し我が子の事を話し始める。

 

 

「さて、まず最初にこの子の名前から皆に伝えよう。この子の名は

 

『大筒木カグラ』とする。」

 

「ハゴロモ様!!何故わざわざ名前を似せるのです!?もしあのお方のようになったら「だが違う」…!?どういう意味ですか?」

 

「確かに容姿は似通っている。他のところも似ているのかも知れん。だが、確かにこの子は我の子だ!どれだけ似ていようと確かに違うのだと。そういう思いを込めた。」

 

「だが、もしこの子があの鬼のようになったらどうするのです!?これだけ似ているのだ!可能性は充分にありましょう!!」

 

「その時は、我の全てを賭けて止めてみせる。だから、この子が母のようにならぬためにも、皆にはこの子に愛を与えてやってほしい。先入観はあるだろうが、この子の容姿ではなく、この子を見てやってほしい」

 

「っ…!!わかりました。確かにこの子はあの方ではない。それに、あなたが責任を取るというのならば安心して任せられます。皆はそれでよいか?」

 

「はい。我等もハゴロモ様なら安心して任せられます。」

 

「うむ。すまぬな、皆の者。」

 

 

そうして、周りの者達から負の感情がほとんど無くなり落ち着きを取り戻した頃に、今まで黙って赤子を見ていたインドラが唐突に目の模様を変化させ、自らの妹を視た。

 

 

「どういうことだ…?」

 

インドラが写輪眼を発動し、妹のチャクラを視て怪訝そうに顔を顰める。

 

「どうしたんだ?兄貴。まさかカグラに何かあったのか!?」

 

そうしてアシュラは掴みかからんばかりの勢いでインドラに詰め寄る。

 

「騒ぐな、アシュラ。すぐに大声を出す癖を治せ!喧しいぞ」

 

「むぅ、すまぬ兄貴。で、カグラがどうしたのだ?」

 

そうして、小さな喧騒はすぐに収まり、アシュラがカグラについてインドラに再度問いかけたとき、輪廻眼をカグラに向けていたハゴロモが会話を遮った。

 

 

「まあ待て。カグラの事で、まだ話す事がある。皆の者もよく聞いてくれ。先程までの話も大事だが、本題はむしろここからだ。この話の中にお前達の疑問の答えもある。心して聞け」

 

 

そう言って、六道仙人が放った言葉はインドラやアシュラを含め、その場の全ての者を驚愕させるには充分過ぎるほどの内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カグラの中には十尾の力が宿っている」

 

 

 

 



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三話

 

 

「カグラの中には十尾の力が宿っている」

 

 

 

 

ハゴロモが言った言葉に、その場にいる者達は例外なく絶句する。誰もが言葉を発せず、視線をハゴロモと赤子の間を行ったり来たりしていた。そして、段々と理解が追いついてきて心に恐怖が浮かび上がってきたときに、ふとハゴロモがただ冷静に、淡々と話しているのを見て、取り敢えず次のハゴロモの言葉を聞く姿勢をとった。ここで、誰も取り乱さないのは、皆がハゴロモを真に慕っている証拠であった。そんな頼もしい仲間達を見回して、満足そうにハゴロモは頷くと続きを話し出した。

 

 

「まず、インドラが怪訝そうにしていた理由。それは我と同じチャクラがカグラの中にもあるのに、印象が全く異なったから。それであっておるか?」

 

「…父上の言う通りだ。父上の中にある莫大なチャクラ。そのチャクラからは、嵐や地震、落雷といった災害のような荒々しさを感じるが、カグラの中には確かに圧迫感はあるが、特に何も感じない。」

 

「うむ。インドラの感じ取ったチャクラのイメージは概ね正しい。我の中の十尾は、チャクラを取り戻そうとして暴走し、荒々しくも禍々しくなっている。だが、カグラの中の十尾のカケラとも言うべき力には、十尾の意思がない。現に、この膨大なチャクラを暴走させていないのが良い証拠だ。」

 

「た、確かに…チャクラの量は膨大ですが、あの十尾が暴れていた時のとてつもない負の意思は微塵も感じませぬ」

 

「うむ。どういう訳か、上手い具合に十尾の力、チャクラだけを持っていきおったようだ!ふははは!!」

 

「父上!それは笑い事なのか!?いや、それよりも、結局カグラに害はないのか!?」

 

陽気に笑う父・ハゴロモに、アシュラは不安そうな表情をしながら詰問する。

 

「そう急かすな、アシュラよ。害があったらこんなに陽気になれるわけなかろうよ。元々のカグラのチャクラの一部と十尾のチャクラの一部が、完全に同化しておるが、むしろそれで安定しておる。心配するな」

 

「そうか…父上がそういうなら安心だ!」

 

そう言ってひとまず安堵したアシュラは、今だハゴロモの腕の中で眠っているカグラを興味深そうに観察しだす。だが、インドラはまだハゴロモに聞きたい事があり、率直に尋ねた。

 

 

「それで、父上。カグラはどれくらい十尾のチャクラを持っていったのだ?」

 

 

その質問は、皆が気になっていたのか一斉にハゴロモに視線が集まる。

 

「確かにそれは気になりますな。」「結構な圧迫感がありますしね…」「我等が感知出来る域を超えているな」「複数人で協力してやっと、というところだろうな」「それに、カグラ様の元々のチャクラも膨大だ…」

 

そう言って、皆が畏敬の念を込めてカグラを見ているとハゴロモがインドラも疑問に答えた。

 

 

 

「うむ?そんなに持ってかれておらんよ。我からヒトエを介して徐々にカグラの方にチャクラが流れていっていたようでな。意思や悪意も無かったので、最初は気付かんかったぐらいだ。せいぜい、一割二割といったところだろう」

 

 

 

大したことのないようにハゴロモが答える。

 

 

「「「なるほど、一割二割ですか。……ぇ?えええぇぇぇ!?!?」」」

 

「十尾の一割二割!?」「それは凄まじいのではないか!?」「ハゴロモ様!十二分に大したことあると思うのですが!?」

 

「そうなのか?」

 

「そうです!!我々からしたら桁違いのチャクラ量ですよ!?」

「インドラ様も何か言ってやってください!!」

 

 

あきらかにズレているハゴロモの感覚に、皆がインドラに助けを求める。だが、

 

「ん?一割二割だろう?騒ぎ立てるようなことでもあるまい?」

 

「で、あろう?インドラよ」

 

インドラもズレていた。

そして、最後の希望を持ちアシュラに問い掛けようとしたが、

 

「一割二割か!よかった!!」

 

アシュラまでもズレていた。

 

 

 

 

 

(((この家族は化け物揃いか!!??)))

 

 

 

皆の心が一つになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 



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四話

 

 

 

 

大広間で大筒木一家以外の全員の心が一つになり、部屋に沈黙が降りたタイミングでカグラの事の続きをハゴロモが話し出した。

 

「おそらく、カグラの容姿が母に似ているのも、この十尾の力が原因だろう。だが、チャクラに負の意思が無かったおかげで、全てが母に似ることは無かったようだ。それに、一部が十尾のチャクラと同化しているということは、カグラの成長次第では十尾の力を完全に掌握していくであろう。あとは、力に溺れぬようしっかりと修行をつけてやらねばな!礼儀作法はヒトエに任せるとしよう。インドラ!アシュラ!お前達もカグラの世話をしてやってくれ。ヒトエの負担を少なくしたい」

 

「時間の空いたときは母上を手伝おう」「母上を手伝えばいいんだな!?わかった!カグラの世話も手伝うぞ!」

 

インドラは静かに、アシュラは嬉々として答える。

 

「ああ、すまぬな。ありがとう」

 

ハゴロモも嬉しそうに答える。インドラは冷たい空気を纏っているが、家族や近しいものに対してはその空気を和らげる。対して、アシュラは比較的に誰とでもすぐに仲良くなれる。なかなかに対象的な兄弟であった。

 

「しっかしカグラはかわいいな!兎みたいだぞ!この頬なんか餅のようだな、父上!」

 

「ははは!餅のようか。確かに餅のように柔らかいな!」

 

そういって、ハゴロモもカグラの頬をつつきだす。

 

「父上、アシュラ。そんなにつついてはカグラが起きるのではないか?」

 

そう言って、インドラが注意するも時すでに遅し。

 

「ううぅぅ……むううぅぅ……!!」

 

そうして、カグラが怒ったように少し唸った次の瞬間、

 

 

 

「ぅんぎゃああああぁぁぁ!!!」

 

という、爆弾という名のカグラの声が響き渡るのと同時に、密度の濃い何らかの力がカグラを中心に小規模な爆発が起きたかのように広がり、部屋に突風が吹いたような現象が起こった。

 

 

その小さな爆発に対して、インドラは少し後退したが耐え、他の人達も軽く吹き飛ばされた程度であった。アシュラはカグラの一番近くにいたからか、カグラがアシュラに怒ったからかは分からないが、部屋の隅まで飛ばされていた。

 

そんな中、その部屋のハゴロモを含めた数人だけが先の突風に対して微動だにしていなかった。

 

「ハゴロモ様、今の力はまさか…!?」

 

その中の一人がハゴロモに、驚愕の眼差しで確認をするように顔を向ける。

 

「ああ、おそらくお主らの想像通りだ。あれは…

 

 

 

 

 

《自然エネルギー》だろうな。」

 

「やはり、そうでしたか。」

 

「ここにいる影響を受けなかった者は、仙術を扱えるものだけだ」

 

「だからこそ、あの力を受け流せたという訳か。」

 

 

そうして数少ない仙人と呼ばれる者達が納得し、ハゴロモがカグラをあやしていると、部屋の隅まで飛ばされていたアシュラが戻ってた。

 

「だから言ったろう。カグラが起きると」

 

そう言ってインドラがたしなめる。アシュラもバツが悪そうにしてカグラに謝った。

 

「すまぬ、カグラ!」

 

そうして謝るアシュラに満足したかのように、カグラはまた眠っていった。

 

「ははは!アシュラもこのお転婆姫にはかなわんようだな!」

 

「ははは…カグラに振り回される未来が眼に浮かぶようだ」

 

そうしてハゴロモとアシュラがカグラを見て笑っていると、

 

「しかしあのカグラの力には、なんとなく覚えがあるのだが気のせいか…?」

 

ふと、何気なく零したアシュラの独り言にハゴロモは少し驚いたあと、顔を綻ばせる。

 

(どうやらアシュラにも、才能があったようだな)

「アシュラ。その感覚は間違っておらんよ」

 

「ん?どういうことだ、父上?」

 

「お前が感じたカグラの力。それは自然エネルギーという。そして、これを体に取り込み自在に操る者のことを『仙人』と呼ぶ。自然エネルギーとは自然そのもののエネルギー。それを、お前は無意識にだが感じ取っていたのだろう。アシュラ、お前には仙術の才能がありそうだな」

 

「俺に…才能…?」

 

父の言葉に最初は唖然としていたアシュラだが、理解が追いついてくると飛び跳ねて喜んだ。

 

「俺に仙人の才能が!?父上!早速、修行してきます!!」

 

そういって、すぐにでも飛び出そうとするアシュラをハゴロモは一旦引き止める。

 

「まあ待て、アシュラよ。仙術の修行の仕方も分からんだろう?この巻物をやる 。この巻物が仙術会得の鍵だ。だが、この巻物をやる代わりに一つ約束をしろ」

 

「なんだ?父上」

 

「三日に一度は必ず帰ってこい。これを約束しろ」

 

「わかった。母上の手伝いもしなければならぬしな!」

 

「それがわかっておるなら、行ってよい」

 

「ああ!必ず仙人になってくる!」

 

そういって、アシュラは飛び出していった。

 

「岩良。アシュラを頼んでもよいか?口寄せの巻物は渡しておいた。妙木山でガマ達と修行をつけてやってくれ」

 

そう言ってハゴロモが頼んだ人物は、先のカグラの力を受け流した仙人の一人、

 

『山野岩良』

 

という三十代半ばくらいの僧侶の男であった。

 

「了解しました。ハゴロモ様に教わったことをアシュラ様にも教えましょう」

 

「頼む」

 

そうして岩良も部屋を出て行き、静かになったところで、

 

 

 

「カグラの報告も終わった。カグラの事でなにかあれば、我に報告するように。これでこの場は解散とする」

 

 

というハゴロモの言葉に、部屋にいた者達はハゴロモに一礼し退出していった。インドラもカグラの頭を撫で、修行に戻っていった。そして、最後にカグラがぐずり出したので、ハゴロモもヒトエのいる寝室に戻るのだった。

 

 

 

 

 



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五話

 

 

 

季節は秋の中頃。早朝、ある屋敷の侍女は自分の主人を起こし、言伝を伝えるために主人の眠る部屋へと足を運んでいた。部屋へと着いた彼女は襖の手前に座り挨拶をする。

 

「姫様、おはようございます」

 

だが、やはり寝ているのか返事はなかった。彼女は「失礼します」と声を掛け襖を開けると、布団が盛り上がっており、中から規則正しい寝息が聞こえた。

 

「姫様。起きてください、姫様。もう朝ですよ」

 

彼女が声を掛けながら、盛り上がった布団を揺する。

 

「ん、んぅ〜…あとご…

 

「もう。五分だけですよ?姫様。」

 

 

 

……あと五年〜…むにゃむにゃ」

 

「寝過ぎですよ、姫様!!」

 

そうして彼女が布団を捲ると、真っ白な子供が丸まって眠っていた。真っ白で穢れを知らない長い髪、そこから生える二本の角も、眠たそうにしている目も純白で雪兎のようであった。

 

「んぅ〜おはようなのじゃ、織乃」

 

「おはようございます、カグラ様」

 

 

 

 

 

 

「お主の朝は早いのう。いつも妾を起こしてくれてありがとうなのじゃ」

 

そう言って、暖かな笑顔で私を褒めて礼を言ってくれるカグラ様が大好きだ。

 

旅商人をしていた両親の間に生まれた私は、両親に付いて色々なところを旅していた。特に旅が好きだったというわけではないのだが、両親と一緒に居たかったので無理にでも付いて行っていた。

 

そうして、旅を続けて私が九つになったころ。次の村に行くために、馬車で森を抜けようとしていた時に盗賊に襲われた。その時は商隊を組んで移動していたが、盗賊団の規模はかなり大きく、すぐに囲まれてしまった。私は恐怖のあまり、両親にしがみついて泣き喚いていた。

 

だから、両親が決死の表情をしていたのを見逃してしまった。

 

父は、商品の武器を手に持って盗賊団の囲いの薄い部分に特攻を仕掛け、母は父の作った隙間から私を抱いて飛び出して走り出す。母に抱かれながら後ろを向くと、父が剣で貫かれているところだった。

私は必死に母に止まるよう懇願し、父を助けなければと暴れていると、強く抱きしめられ「あなただけでも生きて」と言われた。どういうことか聞く前に地面に降ろされ、母が後ろに振り向く。そこには追っ手の盗賊が一人いたが、そんなのは目に入らなかった。

 

母の背には、矢やナイフが刺さっていた。逃げ出すときに仕掛けられた追撃から私を庇いながら走っていたらしい。素人目の私から見ても、母がもう助からないのはすぐに分かった。

そして追ってきていた盗賊の剣に母が刺し貫かれたが、隠し持っていたナイフで相手を殺し、私に「生きて、幸せになりなさい」と言い息を引き取った。

そうして母の最期の言葉に従い、泣き喚きながらも逃げ続けていた私は当然のように広大な森で迷子になっていた。

そうして、三日三晩彷徨い続けていた私は空腹や疲労で倒れてしまった。這うことしか出来ない私は近くに水音を感じとり、感じた場所まで這っていくとそこには

 

『女神』

 

がいた。

髪や目、着物も真っ白。そして、角があった。

その女神は小さな泉の中心の水面の上に立っており、太陽の光が反射し煌めいてその空間だけが聖域のように神聖に感じられた。

先程まで感じていた絶望が綺麗さっぱり吹き飛び、思わず魅入ってしまっていた。そうして惚けていると、その女神がゆっくりと此方に振り向き、

 

「む?貴様、此処は妾の泉じゃ」

 

そう言って女神は誇らしげに胸を張っていたが、とうとう限界が来て顔を上げ女神を見ることも出来なくなり、気が遠くなってきたところで女神の慌てたような声が聞こえてきたような気がしたが、そこで私は意識を失ってしまった。

 

次に意識を取り戻した時には既に日は傾いていた。両親の事を思い出して絶望するが、ついさっき魅入っていた光景も思い出して周りを探そうとするが極度の疲労と空腹で動けず、なによりとても枕が気持ちよく良い匂いがしていたので動く気になれなかった。そうして枕に頬を擦り付けたり、匂いを嗅いだりしていると頭上から鈴の鳴るような声が響き、体が硬直し頭が真っ白になった。

 

「ふふふっ、妾の膝枕は、そんなに心地が良いのかや?」

 

体が錆び付いたように動かなくなっているが、なんとか首から上だけを動かし頭上を見る。

すると、先程の女神のような印象の女の子が、頭上で慈愛に満ちた眼差しで太陽のような笑顔を向けて此方に笑いかけていた。

 

「お主がいきなり気を失った時は驚いたのじゃ。取り敢えず、お腹が減っておろう?妾の昼食を取っておいたのじゃ。いっぱい食べるのじゃぞ?」

 

そうして、羞恥で顔が真っ赤になった私に追撃をかけるように、女の子はお弁当を食べさせようとしてくるので、慌てて身を起こそうとしたが、

 

「これこれ、動いてはならぬ。お主の体はもう限界じゃ。妾が食物を口に運んでやるから、ゆっくりと休みいっぱい食べるのじゃぞ?」

 

そうして、気遣ってくれる女の子の優しさや暖かな雰囲気に当てられて、いつしか自分の身に起こった出来事を、今までぶつけれなかった思いを吐露していた。

 

「私は、ずっと両親と旅商人をしてたんです。そして、数日前にこの森を抜ける商隊に参加して、この森のすぐ側の村まで行く予定でした。なのに…森の中で、突如盗賊が現れたんです。大規模な盗賊団で、すぐに囲まれちゃって…!父は母と私を逃すために囮になって!母は私を逃すために敵と相打ちになって…!もう両親と会えないと思うと絶望しか感じなくて…。母は私に、幸せになれと言いました。でも、どうしたらいいのか分からなくて……」

 

そうして絶望する私に女の子はただ、頭を撫でてくれていました。それが、どんな励ましの言葉よりも嬉しくて、暖かかった。女の子は少し思案した後に、

 

「そういえば、自己紹介もしておらんかったのう。お主の名はなんというのじゃ?」

 

その女の子の言葉に、私も自己紹介を忘れていたので慌てて名乗る。

 

「私は、織乃《おりの》と言います。助けて頂いてありがとうございました」

 

「なに、気にするな。織乃か、良い名じゃな!」

 

「はい、私も気に入っています!」

 

「そうかそうか。では、妾も自己紹介!…といきたいところじゃが、そろそろ日も落ちる。取り敢えず、妾の家に来い。そこで、色々話したいこともあるしな」

 

「え!?は、はあ…分かりました」

 

「では、行くとするかのう!」

 

そうして付いて行こうと起き上がろうとすると、女の子に止められた。

 

「ああ、立ち上がらんで大丈夫じゃぞ。移動手段は徒歩ではなく…

 

そうして女の子が懐から不思議な模様の描かれた紙を取り出し、親指を噛み切り少し出血した手の平を紙に押し付けると、突如、爆音と共に煙があがった。しばらく周りが見えなかったが、徐々に煙が無くなっていくとそこには、

 

「お迎えにあがりました、姫様。」

 

「うむ。今回はツレが一人おる。鳥光よ、いつもより遅く、丁寧に頼むのじゃ」

 

「了解しました、姫様」

 

そうして見えたのは、女の子と親しげに話す巨大な怪鳥だった。そして、怪鳥が私に向かって会釈をし、自己紹介を始める。

 

「私は、姫様の口寄せ獣の中の一体。名を鳥光《ちょうこう》といいます」

 

「え、あ、はい。織乃です、よろしくお願いします…」

 

あまりにも普通に挨拶されたので、普通に返してしまったが、いい人?そうである。

 

「では、織乃よ。行くか、我が家へ!」

 

「は、はい!お邪魔いたします…!」

 

この女神のような子の家に行くことに緊張していると、

 

「ふふふっ、父様にはもうお主の事は言ってある。だから、そう緊張するでない」

 

そういって私よりも一回りは小さな女の子が、私の体を軽々抱き上げると、怪鳥の背に飛び乗った。

そして、怪鳥が飛び立つと女の子が話し始める。

 

「取り敢えずは、名前だけでも教えておこうかの。カグラじゃ。よろしくなのじゃ!」

 

「あ、はい。よろしくお願いします!」

 

女神のような女の子はカグラというらしい。幼いが、第一印象は綺麗であったが、話していると可愛いらしかった。

 

「ところでカグラ様?さっきの紙は一体…?それに、水面に立っていましたよね…?」

 

「うむ…?ああ、あれは忍法と言ってな。その事も家で話してやるのじゃ。ほれ、あれが妾の家じゃ!」

 

そうしてカグラ様が指差した方を見ると、山の中腹に集落のような場所があった。そして、集落の上を通り過ぎて一番大きな屋敷の庭に着地した。

 

「カ、カグラ様はやはりお姫様なのですね…私が入ってもいいのでしょうか…?」

 

「ん?妾が良いと言ったら良いのじゃ!さあ、早く入るぞ!父様が待っておるのじゃ!」

 

そういってカグラ様が屋敷に行ってしまったので、慌てて付いていく。長い廊下を歩き一番奥に着き、カグラ様が襖をいきなり開け放った。

 

「父様、ただいま帰ったのじゃ!」

 

そうして、カグラ様が走って奥にいた人物に飛び込み抱き着く。波紋模様の眼に額の第三の目のような印。伝説と同じ特徴の初老の男性。

 

「帰ったか、カグラ。して、お主が織乃かのう?」

 

その人はカグラ様の頭を撫でると、私を見て質問してきた。

 

「え、あ、は、はい!織乃と申します!あの、もしかしてあなたは…」

 

「我は安寧秩序を成す者。名をハゴロモ。《六道仙人》ともいう」

 

「そして、妾が娘の大筒木カグラじゃ。《卯の姫君》などと呼ばれておる。改めてよろしくなのじゃ!」

 

六道仙人。この世界の救世主。そんなお方が目の前にいることに卒倒しそうになるが、いきなり倒れるわけにもいかないので、なんとか気を保つ。

 

「あの、カグラ様?どうして私をここへ…?」

 

「うむ。父様に、妾の友達を紹介しに来たのじゃ!」

 

そういって胸を張るカグラ様に疑問が湧いて、ついつい尋ねてしまった。

 

「あの…友達って…?」

 

すると、自信満々だった顔が驚愕の表情に変わり、段々と泣きそうな顔になっていく。

 

「うぇぇ!?妾達は友達じゃなかったのかや…!?友達だと思っていたのは妾だけだったのかや…?ぐすっ」

 

「ええぇぇぇ!?カ、カグラ様!?泣かないでください!…あ、あの!…私が友達でいいんですか…?」

 

六道仙人様の娘のカグラ様は、私にとって雲の上の人だ。世界を救った人物の娘と私では、明らかに釣り合っていない。

 

「ぐすっ…、うむ。織乃がよいのじゃ…!」

 

それでもカグラ様は良いと言ってくれて、尚且つ私が良いとまで言ってくれた。

 

「…ありがとうございます、カグラ様」

 

そうしてカグラ様に礼を言うと、事の成り行きを見守っていたハゴロモ様が、

 

「よかったな、カグラ。初めての友じゃな!」

 

「うむ!それでな?父様。友達を家に住まわせたいのじゃが、ダメかの?」

 

「事情は聞いた。これだけ広い屋敷だ、かまわぬぞ」

 

そうして私抜きで進んでいく会話に、思わず待ったをかける。

 

「そこまでお世話になるわけにはいきません!既にカグラ様には、命も助けてもらった恩もあるというのに…」

 

「織乃、妾はお主と一緒に居たいのじゃ。嫌かのう?」

 

そうして涙目のカグラ様を見てしまっては、断ることなど出来るはずもなかった。

 

「カグラ様…嫌な訳ないじゃないですか。でも、私もお世話になるばかりは嫌です!だから、カグラ様の侍女として働かせてください!」

 

そうカグラ様とハゴロモ様に懇願し、私はカグラ様の侍女になった。

 

 

 

カグラ様の侍女として働きだして半月程たった頃、村で買い物をしていると、ある話が聞こえてきた。その内容は、数週間前に大規模な盗賊団がたった一人の子供に全員捕まり、処刑されたという話だった。

屋敷に帰り夕飯の支度を手伝い部屋に戻ると、机の上に首飾りと簪があった。

まさかと思い慌てて手に取ると、やはり父と母の物だった。

あの時盗賊に盗られた物が何故…?と思ったが、すぐに盗賊団の話を思い出し走り出す。

廊下でカグラ様を見つけると、思い切り抱き締めた。

 

「っっっ!!カグラ様…!カグラさまぁ…!うああぁぁ…!!」

 

いきなり泣き出した私にカグラ様は、あの時と同じようにただただ頭を撫でてくれました。

その時に誓った。何があってもこの方の側にいようと。

 

 

 

 

 

 



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六話

 

 

朝、織乃に起こされると母様が部屋で待っていると言われた。すぐに支度をして母様の部屋に行くと、お茶の稽古だった。

三分で抜け出した。分身を置いて。

 

「お茶の稽古などやってられるかーっ!!足が痺れるだけなのじゃーっ!!」

 

もうっ、全く母様は!

…折角早起きして母様に頭撫でてもらおうと思ったのに…

ああもうっ!こういう時は修行で誤魔化すに限るのじゃ!広い場所で術を撃ちまくってやるのじゃーっ!!

 

しかし、歩いて行くか…それとも口寄せか?…いやここは普通に飛んでいくか?

だが、無闇に飛んではいけないと父様には言われておるしのう…

 

「よしっ決めた!

 

《口寄せの術》!」

 

ボンッと煙が出て、中から大ガマが出てきた。父様や兄様とも口寄せ契約を結んでいるガマ丸だ。

 

「おぅおぅ。どうしたんじゃ、お嬢?儂になんか用かいのう?」

 

「ガマじいちゃんっ!!今から修行するから、妙木山に連れて行って欲しいのじゃ!」

 

「ほうほう、修行か。お嬢は物覚えが早いからのう。そろそろ仙術を教えてやってもよいかもしれんのう。」

 

「仙術…?それって兄様が使える、なんかそこら辺にある力のような流れみたいなのを取り込むやつかや?」

 

「ほうっ!お嬢は自然エネルギーを感知できるのかっ!?なら、仙法もできるのかのう?」

 

仙法?仙術の忍法みたいなものかや…?

 

「いいや?妾は出来ぬのじゃ。兄様が、『使うとカエルになるぞ!』って言っておったのじゃ…!だから、カエルになりたくないから使ったこと、試したことすらないのじゃ!!」

 

まったくっ!使うとカエルになるとは恐ろしい術なのじゃっ…!

 

「…お嬢。アシュラはカエルになっておらんぞ?」

 

「ん?……あ。ああああぁぁっ!!??

そうじゃ!兄様はカエルになっておらんではないかっ!?むうっ…!妾を騙しておったなっ!?」

 

兄様めっ!!妾の反応を見て楽しんでおったな…!?影で爆笑していたに違いないのじゃっ…!

 

「まあ仙術を使ったらカエルになるのは嘘じゃが、自然エネルギーを取り込み過ぎるとカエル石化するからのう。一人では、修行をしてはいかんぞ?」

 

むぅ…じゃあ半分嘘だったという事じゃな。まあ、今回は許してやるのじゃ。勝手に真似せんようにということじゃろうからな。

 

「じゃあ、早速その仙術とやらを教えてほしいのじゃ!それで、兄様をビックリさせてやるのじゃっ!!」

 

「ほっほっほ。お嬢ならすぐに習得しそうじゃのう。では、行くぞ?儂に乗れ」

 

「わかったのじゃ!」

 

そうして、煙に包まれてからすぐに空気が変わり、妙木山へと着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢を連れてきてから、半日。お嬢の仙術修行をまだ若いが実力は確かなフカサクに任せて一眠りし、起きてお嬢のところに行ってみると、

 

「行くぞ、フカサク!!

 

《仙法・水遁多水龍弾》!」

 

「やはり、姫は鬼才だったかっ…!

 

《仙法・土遁土流壁》!」

 

お嬢が、既に仙術を会得してフカサクを練習台にしていた。

なんというか、文字通り『すぐに』会得してしまっていた。

 

「次は、体術じゃぞっ!妾の《八神空撃》に仙術を上乗せしてみるのじゃっ!!」

 

「ひ、姫っ…!?も、もう勘弁してください…!!」

 

それから色々な術を試したお嬢は、帰る時に「結構簡単じゃったなっ!」といって帰っていった。

アシュラが驚かされる前に儂らが驚かされながらも、メチャクチャになった妙木山をボロボロのフカサクと共に黙々と元に戻すのだった。

 

 

 

 



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七話

 

 

〜カグラside〜

 

 

今日もまた、織乃に朝早くから起こされた。

いつも妾よりも遅く寝ておるというのに、大丈夫なのかや?といつも心配なのじゃ。

 

 

今日は、父・ハゴロモの忍宗を説きに村へと来ているのじゃ。

 

「ちと、そこの者。村の皆を集めてくれぬか?」

 

「ん?誰かな?お嬢さん」

 

「妾は大筒木カグラ。六道仙人の娘じゃっ!」

 

そう言って村の皆に妾が六道仙人の娘と教えると、すぐに皆集まってくれたのじゃ。

やっぱり父様は偉大なのじゃっ!

 

村の者達に身体エネルギーと精神エネルギーというチャクラの概念を教え、その精神エネルギーを繋げて心を通わせるという忍宗の教えを説いたのじゃ。

まだ上手く扱えておらんが、これからも忍宗を説きに来れば皆も心を通わせることが出来るじゃろう。

 

 

そうして今日は家に帰り、父様に修行を付けてもらうことにした。

父様を探していると、庭から物音がしたのでそっちに行ってみると既に父様が大兄様と兄様に修行を付けていた。

 

なので妾も混ざることにしたのじゃ。

 

 

 

 

 

〜ハゴロモside〜

 

 

カグラが産まれて八年の月日が早くも経った。

産まれた時の予想通りお転婆に育ったが、元気に育ったので良しとしよう。少々元気過ぎるがな。

当初の不安材料だったカグラの中の十尾は、段々とカグラと同化しつつある。今では、半分以上がカグラと同化しておる。

このまま完全同化し、カグラが完全に十尾の力を自らの物とすれば、それは新しい可能性なのかも知れん。

 

儂の人柱力という役目をカグラに継がせるつもりは無かったが、カグラなら完全に十尾を掌握してその力で安寧秩序を齎してくれるやも知れん。

この事は儂だけでは決める訳にはいかんな。

ハムラにも相談するとしようかのう。

 

 

 

 

 

 

「そこまでっ!!」

 

その儂の一言に両者の立ち合いは終わり、各々で先程の模擬戦の考察をしだす。

今は、庭でインドラとアシュラが組手をしている所だ。

最近はアシュラが仙術を覚えたので、組手の実力もインドラに近づいてきておる。

(このまま良い意味で競い合い、互いを高めて行って欲しいものじゃのう)

 

と、息子二人の事を考えていると大きなチャクラが近づいてきている事に気付いた。

(このチャクラはカグラか)

その事を察知してからしばらくすると、

 

「父様〜!妾も修行したいのじゃっ!!」

 

と言いながら庭にカグラがやって来た。

最近はカグラが自分一人で修行をすることが多かったので、久々に実力の程を見ることにするかのう。

 

「…あーっ!!その前にアシュラッ!!」

 

「うおっ!?なんだ急に!?というか又お前は俺を呼び捨てにしおって!!兄様と呼べとあれほど…

 

「うるさいのじゃっ!!妾に嘘を教えおって!!」

 

そうしていきなり喧嘩しだしたアシュラとカグラに呆れていたが、そろそろ止めようとしたときにカグラが使った術にこの場の全員が驚いた。

 

「これでも食らえっ!

 

《仙法・水飴玉》!!」

 

「うおわぁっ!?なんじゃこりゃ!?くっ付いて取れんぞ!!

というか、仙法だと!?仙術を覚えたのかっ!?」

 

「わはははっ!!昨日、フカサクに教えてもらったのじゃ!!嘘つきアシュラに一泡吹かせてやろうと思っての!!」

 

「昨日!?たったの一日で覚えたのか!?」

 

「んむ?いや、十分くらいかの?あとはフカサクと組手や仙法の練習をしとったのじゃ。動くな が少し退屈だったけど、案外簡単だったのじゃ!!」

 

ほうっ!あの仙術を十分で物にするとはな。流石はカグラじゃな。

ヒトエから聞いておったが、裁縫や茶道、華道なども既に達人の域にあるようだ。

慢心させぬために言ってないようじゃがな。

あのインドラでさえ、たまに嫉妬を感じているくらいだしのう。

そろそろ十尾について教えていくとするかのう。

 

 

「カグラ。今から大事な話をする。

心して聞け」

 

 

 

 



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