PSAO=Phantasy Star/Sword Art Online (Noah/Deal)
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『ラグオル』にて
Revolution to the origin


長距離惑星間飛行用移民船――"パイオニア"。

 

 

それは、母なる大地――、惑星『コーラル』の衰えに実行を余儀なくされた大規模移民計画『パイオニア計画』の産物であり、また同時に人々の希望を示す、一筋の光明でもあった。

 

 

無人探査機により偶然発見されたとされる惑星――名付けられた名は『ラグオル』。

その存在を確認した本星は、先遣隊として、計画の産物ともいえる移民船"パイオニア1”を派遣した。

 

周辺調査を行った移民団は、同時にこの星での生活拠点となる、"セントラルドーム"の建設を開始する。

 

 

 

……その七年後、現地調査の任を終えた"パイオニア1"からの招聘を受け、本格的な設備を搭載した第二移民団"パイオニア2"が惑星『ラグオル』に訪れる事となった。

 

 

衛星軌道上に到着した"パイオニア2"は、『ラグオル』での拠点として機能していた"セントラルドーム"と物質転送を可能とする通信回線を開こうとするが――

 

 

 

突如、惑星表面上に原因不明の爆発が発生し、その爆発を最後に"セントラルドーム"との通信回線は途絶えた。

 

 

十分な軍備を整えていた筈の"パイオニア1"との通信が不可能という事態、

並びに、"パイオニア1"から送られたデータによると、惑星『ラグオル』には敵となる存在は確認されていなかった、という事実。

 

これらの事からこの事態を重く見た"パイオニア2"移民団は、軍部の調査のみではなく、移民船に搭乗していた――大まかに言えば傭兵と言うべき職業の人々、"ハンターズ"に調査を依頼。

 

 

その後、総督府最高責任者のコリン・タイレルより依頼を受けたハンターズは、惑星『ラグオル』の調査を開始する。

 

本来温厚であった筈の原生生物の凶暴化。そして、"セントラルドーム"地下に隠されていた広大な実験施設。

 

 

混乱するハンターズであったが、『ラグオル』に残されていた"パイオニア1"の生き残り――

通称"赤い輪のリコ(レッドリング・リコ)"と呼ばれていた人物の残したメッセージを元に、実験施設の更に深くまで調査を進める。

 

その後、暴走した実験施設の防衛機構を排除したハンターズは施設の封鎖区画を解除し、その先の――

 

 

――古代文明の遺産、遥か数千年以前に落着したであろう宇宙船の遺跡を発見する。

 

 

 

遺跡に残されていたリコのメッセージ。

 

それに記されていた、遺跡の最深部に眠る存在"ダークファルス"。

 

数千年に一度蘇る闇の存在であり、実体を持たないが故に復活に有機体を必要とする、とも――。

 

 

"パイオニア1"の人員の全滅は、この存在の為なのだろうか?

 

メッセージを確認したハンターズの中には、その事実に尻込みする輩も少なくは無かった。

 

だが、それでも真実を求めるべく遺跡へと向かった人間達もまた、少なくは無かった。

 

 

"彼"もその一人であり、"ダークファルス"を再び封印し、闇の呪縛からパイオニアを解き放つべく――

 

今、まさにこの遺跡を駆け抜けていた。

 

 

 

 

「おい、大丈夫か? 息が切れてるぞ」

 

 

そう軽い口調で話すのは、"彼"と長年付き添って来た相棒であり、また最高の親友とも言える青年。

 

それと同時に、主に近接武器を扱う職――"ハンター"でありながら、遠距離専門職――"レンジャー"にすら引けを取らない射撃精度を誇る一流のハンターズである。

 

 

青年は背後に迫る脅威を確認すると、すぐさま手に持った得物――ハンドガン"ヴァリスタ"を撃ち放つ。

 

正確な射撃で弾丸を急所に叩き込み、そこにあったエネミーの姿を無残な残骸へと変貌させる。

 

それだけでは無い。次の瞬間には、彼は得物を片手剣"DB(ドノフ・バズ)の剣"へと持ち替えており、流れるような流麗さを以てエネミーを駆逐していくその姿は、ハンターズ支給品の赤い服装と相まって流星の如き激しさを感じさせた。

 

 

「大丈夫? そんなのじゃあこの先危ないんじゃない?」

 

 

それに追従するのは、群がるエネミーを豪炎で焼き尽くす少女。

 

彼女は、このチーム唯一の"フォース"であり、"ダークファルス"封印に召集された彼女もまた一流の実力を持つ。

 

"フォース"とは、パイオニア文明におけるエネルギー源"フォトン"を行使し、超常現象を引き起こす術式――

 

言わば、科学によって再現された魔法である『テクニック』を主に使用する者を表す。

その名に恥じない猛攻を受け、周囲に残存していたエネミーはその存在を塵へと還していく。

 

 

「おいおい、俺の分も残してくだせえよぉ…… こんなに簡単じゃあ面白くねぇですぜ!」

 

 

殿を務める青年は、そう言いながらも腰だめに得物を構え、背後のエネミーを掃討していく。

 

ハンターズ支給の青い服装に身を包んだその青年も同じく一流の"レンジャー"であり、また同時に情報収集に長けているというハンターズの中でも一風変わった特徴を持つ人物でもある。

 

経験という面では他の二人に劣るが、その情報収集能力を見込まれ今回のチームに加わった経歴を持つ。

 

だが、青年は戦闘面でも十分にこのチームに貢献していた。

 

 

背後の掃討を終えるとすぐ様、両手に一丁ずつ"H&S25 ジャスティス"と呼ばれるサブマシンガン状の武器を手に取り、確実に前線の援護を行っている事からもそれが伺える。

 

 

「ッはぁ……、ぁ……、だ、大丈夫ですよ。俺はまだ戦えますッ!」

 

 

最後の一人は、まるで少年といっておかしくない風貌の人物。

 

仲間の激励を受け立ち上がる"彼"もまた、まだあどけなさが残るような顔立ちでありながらも歴戦を潜り抜けてきた猛者であり、一流と言って過言ではない実力も併せ持つ。

 

だが如何せん、チームで最も小さい体格の為か、あるいは緊張の為か……

 

遺跡の最深部に辿り着くころには、体力の限界も確かに近づいて来ていた。

それでも他のメンバーを心配させないよう、可能な限り誤魔化してきたが――

 

 

「っはぁ、はぁ…… くっ……」

 

 

周辺のエネミーを掃討し終えると、ついに彼は限界を感じ、耐え切れずその場に倒れ込んでしまう。

 

そもそも彼がこのチームに参加できた理由の内訳としては、"パイオニア2"トップクラスの実力を持つ彼の親友の存在が過半数を占める。

 

 

彼自身の実力は、本来であれば遺跡の上層部を攻略出来る程度であるため、お世辞にも最深部に似合った能力を持つとは思えない。

 

故にこの結果は必然であろう。倒れ込むに従い、彼の手にしていた武器"フロウウェンの大剣"が自重に従い地面に落下する。

 

 

この大剣は、彼が敬愛する人物が使用していた大剣のレプリカ品であるが、軍製の量産品であるためお世辞にも性能が良いとは言えない。

 

それでも愛用する理由は、彼が心底から憧れている為であろう。

 

 

"パイオニア1"の英雄、陸軍副司令官――ヒースクリフ=フロウウェンに。

 

 

「お、おい! 大丈夫かよ…! 早く"レスタ"を!」

 

 

「分かってるわ――」

 

 

彼は、親友の慌てた声と、自らを包む回復用テクニック"レスタ"の暖かい感触を感じつつも、返答を返すことが出来なかった。

 

――結局、その日は最深部一歩手前での帰還となった。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「――ハァ、やっぱり俺は……」

 

 

"パイオニア2"内の療養施設――"メディカルセンター"のとある一室。

 

そこに"彼"の姿は有った。

 

先日の戦いにて負ったダメージは存外に大きく、復帰には時間が掛かると診断を受けたためである。

 

 

他のメンバーは復帰まで待っていてくれるそうでが、その事実が余計に彼の罪悪感を煽る。

 

 

《自分が居なければ……》

 

《自分の責任で……》

 

 

自問自答を繰り返すも、思考は次第に深みにはまっていく。

 

この脳内のモヤは取り除いておかなくては、と考えはしたものの、結局彼が復帰するまでそのモヤは残ったままであった。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ついに……、ここまで来たな」

 

 

「そうね……」

 

 

「こいつぁー特ダネだ。――俺たちゃ英雄になれますぜ」

 

 

「――そうです、ね。ここまで来れたなんて……」

 

 

四者四様、この光景はまさにその言葉に尽きた。

何故ならば、彼らが辿り着いたのはこの遺跡の真の意味での最深部であるからだ――

 

眼前に広がるのは、赤く輝く四角形状の転送ゲート。

 

勇気ある者を"ダークファルス"の元へと誘うであろう、そのゲートを前に彼らは感慨の表情を浮かべていた。

 

 

「――だが、まだだ。"ダークファルス"を封印するには俺たちだけでは力が不足している……」

 

 

「……そうね。幾ら私たちでも、個人に出来ることなんて限度があるわ。私が"リューカー"で"パイオニア2"とのゲートを開く。軍部の力も使えるときには使っちゃいましょう」

 

 

「……あちゃあ、そりゃあ駄目でしょう。せっかくここまで来たんですから、ちゃっちゃと倒して英雄になりましょうよ」

 

 

「軍部の援護を受けたほうがいい気がしますが……」

 

 

またしても、分裂。

 

青い服装の青年は、功名を得るためならば命をも惜しまないタチだったのであろう。

他の三人の同意が得られないと悟ると、一人でゲートに向かい歩き始めた。

 

 

「ありゃりゃ、そいつぁー残念ですぜ。こうなりゃ俺一人で英雄になってきますわ」

 

 

青年はその言葉と共に、ゲートを起動させる。

眩いばかりの輝きが周囲を覆い、青年の体を包み込んでいく――

 

 

「――チィ、あいつッ! ……いくぞ、付いて来い……!」

 

 

「分かったわ、最後の最後にとんでもないことしてくれたわね…!」

 

 

「了解です――!」

 

 

青い青年の姿が掻き消える直前、他のメンバーも同様にゲートに身を投げる。

 

独断行動に走ったとはいえ、長期間苦節を共にした仲間である以上、それを無視することは出来なかったのであろう。

 

彼らがゲートに飛び込んだ、次の瞬間――

 

 

空間に赤い軌跡が奔ったかと思うと、4人の姿は影も無く掻き消えていたのであった。




ラグオル編はあと2話続きます。
(1/27修正 あと3話続きます)

※※感想、意見等お待ちしております※※


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Pray,for“IDOLA”the distorted

光ありて 影を成し

対ありて 対無く

 

不在の在

 

かかる姿の 転生の

 

宴 無限なる

律 ここに

印 結びなさん

 

ムゥト ディッツ ポウム

 

――惑星『ラグオル』地表モニュメントより

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

転送時独特の眩い光が四人を包み、彼らを"闇"の眠る場へと誘う。

 

眼前を覆う閃光に目を細めるも、やがてその光は消え――

 

 

 

「……なんですかい、こりゃあ……おったまげたなぁ…」

 

青き青年が、視界に映る光景に思わず絶句し。

 

 

 

「ほんと…、綺麗ね…」

 

法を担いし少女は、その光景に意識を奪われ。

 

 

 

「――気を付けろよ、何が出てくるか分かったもんじゃないぜ」

 

赤き青年は、その双眸を視界の中心に映るモノに向け。

 

 

 

「……――ぁ、……」

 

そして"彼"は、ただただ息を呑む事しか出来なかった。

 

 

 

――そこに在ったものは、広大な広場であった。

 

透き通るような青空に、視界一杯に広がる花畑。

その光景だけを見れば、実に美しく――

 

また、見るものを引き込むような何かすら感じられた。

 

だが……

 

 

広場の中央に鎮座する、巨大な石碑のような建造物と、その下に佇む石棺。

 

その存在が、この空間を異質な空間へと変貌させていた。

刻まれた文字は、紛れも無く古代文明の文字であり――

 

また、その意匠からも"ダークファルス"と無関係であるとは言い切れないものであった。

 

 

 

「……ちょっと、あの石棺を調べてくる。ここで待っていてくれ」

 

 

「本当にここに"ダークファルス"が居るのかしら…… 気を付けてね」

 

 

 

赤き青年は、その手に得物を掲げつつもゆっくりと石棺に近づいていく。

やがて辿り着き、棺に手を触れたその瞬間――

 

 

 

 

―――■■ァ■ぁああぁァ■――■ぁァあ■■―――

 

 

 

 

 

石碑が一段強く、だが暗い輝きを放ち――

 

大地は、美しい花畑は闇に包まれた。

 

 

――地の底より響きわたる怨嗟の声、声、声。

 

 

それらは、地面に顕れた無数の人面の呻き声であり、語られることの無かった"パイオニア1"の人々の末路。

 

 

闇の具現とも言える"ダークファルス"は、彼らの負の感情を取り込み活性化する。

 

ラグオルの地表を覆った、先の爆発は――これにより増幅されていた"ダークファルス"のエネルギーが、何らかのきっかけにより封印を掻い潜り放出された事が原因であった。

 

その爆発と同時に、"ダークファルス"はラグオル上の"パイオニア1"の人々を吸収し、己の一部としたのだ。

 

 

 

「何よ……これ」

 

 

「ハハ、ちょいと……悪ノリしすぎやしたかね」

 

 

「こ、こんなの……、酷い。酷すぎる……」

 

 

「気を抜くなよ、来るぞ――」

 

 

 

"ダークファルス"の元に攻め込むに当たって、彼らも事前にある程度の覚悟はして来たつもりであった。

 

だが、現実はどうだ――

 

 

彼らのうち、赤い青年を除く全員はこの想定外の光景に呑まれ、下手をすればこのまま戦意を喪失していたかもしれない程である。

 

 

青年の叱咤にかろうじて気を取り直すも、既に彼らは周囲を独楽状のエネミーに取り囲まれていた。

 

 

 

「……チッ! 出来る限り集まるんだ、周囲をカバーしろ!」

 

 

「分かったわ。でも、それまでに死んじゃうかも……」

 

 

「そんなぁ、姉御に死なれちゃ俺はどうすりゃいいんすか!」

 

 

「誰が姉御よ! 私がテクニックでカバーするから、前衛を頼むわっ!」

 

 

「了解、姉御ぉ!」

 

 

「了解です、俺だってこんな奴らには……!」

 

 

 

無数のエネミーを相手に、彼らはひとかたまりとなって応戦する。

 

少女が炎系上級テクニック"ラフォイエ"の爆風を以て焼き払い、残敵を青き青年と少年が殲滅する。

 

時折その隙間を縫ってきたエネミーには、青き青年の放つ弾丸が容赦無く叩き込まれる。

 

 

一人では賄えない死角を四人で抑えることにより、彼らは急造の陣形ではあるが効率的な戦闘を行っていた。

 

 

 

「――ッハァ――!」

 

 

 

手にした得物を大きく振り抜き、眼前のエネミーをまた一体排除する赤き青年。

 

次の標的を定めるべく周囲を見渡すも、いつのまにかあれほど存在していたエネミーは全て姿を消していた。

 

 

 

「やったの?」

 

 

「――いや。 まだだ……!」

 

 

 

――次の瞬間、立つ事すらままならない程の強烈な地響きが彼らを襲う。

 

地面に手を付け、体勢を崩さないよう耐える四人だったが――

 

 

 

「……うそ、だろ……」

 

 

 

……それは、誰が漏らした言葉であったか。

 

振動が収まり、視線を前方へと戻した彼らが見たものは。

 

 

 

 

――"Dark Falz"――

 

 

 

 

勃興せし闇、深淵なる闇の触覚にして、大いなる光と相反する闇の化身。

 

顕現せし姿を見たものはまず、禍々しきその姿に吸い込まれるかのような錯覚を受けるであろう。

 

 

最初に目に入るものは、大地を捉える、三つの頭を抱えた異形の下半身部。

 

遺跡のエネミーに酷似した意匠を施されている上半身部は、ヒトガタを模したものであろうか――

 

 

――そして、何より目を引くモノはそのヒトガタの左腕部分。

 

果たして、そこには……

 

 

 

「おいおい、マジかよ……?」

 

 

「リコ、貴女ッ!」

 

 

「こんな結末、酷すぎますぜ……」

 

 

 

その左腕部分には、ここまでメッセージを残して来た彼女(リコ)のトレードマークとも言えるであろう、赤い腕輪が付いていたのだから。

 

彼ら四人の脳裏に、先程までの光景が浮かび上がる。

 

 

 

――闇に取り込まれ、苦悶の叫びを上げる"パイオニア1"の人々。

 

 

――奴の復活には、有機体が必要とされる――

 

 

――"ダークファルス"復活の素体とされ、永遠に魂を囚われたリコ。

 

 

―――自分たちも、そうなってしまうのか?―――

 

 

 

「こんなの、嫌よ……」

 

 

「……やはり、応援を呼ぶべきだったな」

 

 

「俺、これで生き残ったら二度と独断でうごかねぇようにしますよ……」

 

 

「俺たちだけでこんなバケモノ倒せってことですよね……?」

 

 

 

口を閉ざし、ただ武器を握り締める彼ら。

 

四人が四人とも、その光景に圧倒されるばかりであった、が――

 

 

 

「……ッ! 来るぞ、こうなればやるしかない!」

 

 

「リコ、今助けてあげるから!」

 

 

「あっしの責任なら、最後まで付き合うのがスジってもんでしょう――」

 

 

「俺に出来ることがあるなら、ただそれをやるしかないですよね……!」

 

 

 

ダークファルスが放った極光。それらは天より降り注ぎ、地を穿つ。

 

突如放たれたそれを、彼らは辛うじて回避に成功する。

 

 

だが、その一撃がこの戦闘の火蓋を切ったことは間違いは無い。

 

たとえ虚勢でも良い。彼らは意識をダークファルスへと向けなおし、己の得物を構えた――




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Cry,for“IDOLA”the holy

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……爆発が起こった……」

 

「……深淵から生まれたもの……」

 

「……パイオニア1のクルーたち……」

 

「……取り込まれていくのが見えた……」

 

「……ここから全てが見え……」

 

 

「……私も既に支配され……」

 

「……意思は常に覗かれてい……」

 

 

「……探していた……」

 

「……寄り代となるものを……」

 

「……進化を欲していた……」

 

 

「……?……」

 

 

「……何故……」

 

「……あれだけ残して……」

 

 

「……違う……」

 

 

「……あの娘は……」

 

「……あの娘だけは……」 

 

「……お願いだ……」

 

「……止め……」

 

 

「……!……」

 

 

「……否……」

 

 

「……止められナカッたノダ……」

 

「……全てのもノに……」

 

「……ルため……」

 

 

「……彼女ハ……」

 

「……彼女ヲ……」

 

 

「……選ンダノダ……」

 

 

――"パイオニア1"管理用自立型AI「オル・ガ」のメッセージログより――

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「――ッアァ―――!」

 

 

 

大いなる闇を前に、赤き青年が咆哮する。

 

ただ無心のままに得物を振るう――その姿はまさしく暴風雨。

 

ダークファルスが生み出す独楽状のエネミーは、その剣戟を以てして掃討されていく。

 

 

だが――彼の進撃に対し、エネミーはその障壁となるように広がり、ダークファルス本体への攻撃を許さない。

 

彼の現在の状況は、まさしくジリ貧と言うほか言い表せなかった。

 

 

それは歴戦の猛者である青年でさえ、足を進める所かただひたすら数を捌く事しか出来ない程の攻勢。

 

 

 

「……俺にだって、出来ることがある……加勢しますッ!」

 

 

 

だが、()()ではどうだろうか。

 

赤き青年の後ろより現れた少年は、群がるエネミーをその大剣で一斉に薙ぎ払う。

 

周囲を囲っていたエネミーが、まさしく一網打尽にされた事を見るや――

 

 

 

「……助かったッ! これで――」

 

 

 

烈火の如き気勢と共に、赤き青年は闇に向かって吶喊した。

 

正面を覆っていたエネミーはもはや存在せず、彼の剣は真っ直ぐにダークファルスの表面を切り裂く。

 

それだけでは無い。好機と見るや、彼は怒涛の連撃をダークファルスに叩き込む。

遅れて辿り着いた少年もまた、手にした大剣を大きく振るい――抜く。

 

 

――その連撃に、ダークファルスは悲鳴のような叫びを響かせる。

 

 

 

「……今だ、やれっ!」

 

 

「分かったわ――!」

 

 

 

大剣により大きく抉り取られた傷口。

 

ダークファルスの因子の為か、少しづつ塞がり始めているそれに対して少女が放つ猛火が襲い掛かる。

その一撃を受け、大きく仰け反ったダークファルス。その胸部に――

 

 

 

「本をただせば俺の責任さぁ、しっかりと尻は拭かせて貰いますぜ」

 

 

 

青き青年が、無数の弾丸を撃ち込んだ。

 

一発一発は微小な力しか持たないが、それが集まれば自然と致死に至る威力までに達する。

そして――響く、轟音。

 

 

 

「……やった、のか?」

 

 

 

それが、ダークファルスの体力を削り取ったのか。

一際大きな叫びと共に、闇の具現はその動きを止める。

 

 

……だが、これで終わるわけもない。その身は闇の具現故に――

 

 

 

「見て、あいつ…… 体を切り離したわっ!」

 

 

 

――再び全身に幾何学光を灯したダークファルスは、傷ついた下半身部を分離する。

 

それと同時に、太陽で照らされた油に浮かぶような光学模様が、ダークファルスが展開した翼が如き光翼に浮かび上がった。

 

そして闇は飛び上がり、彼ら四人の立つ円形の足場の外周に移動すると、周囲を周回しながら次の目標を定める。

 

 

 

「やはり、まだ息があったか……! 仕掛けるぞ、奴の放つテクニックに気を付けろよ!」

 

 

 

そう言い、他の仲間を鼓舞した赤き青年は再びダークファルスに向け疾走する。

 

不思議なことに、ダークファルスはその間これといった抵抗を見せず、青年はすんなりと攻撃に移ることが出来た。

 

 

 

「――ッせぁ、ハァァァア―――!!」

 

 

 

気合の一閃。

 

彼の一撃は、新たに露出したダークファルス腹部の球状の物体――弱点であろうそこを確実に傷つけた。

 

だが。

 

 

 

「……クッ、足が……!」

 

 

 

接敵と同時に、ダークファルスが巨体を生かして発生させた地響き。

それに足を取られた青年は、その場から碌に動けなくなってしまった。

 

彼は、ハンドガン"ヴァリスタ"を構え懸命に射撃を行うも、ダークファルスは怯みすらせずにその両の腕に光を集める。

 

その光景に、どこか既視感を覚えたのだろうか。

 

 

 

「――駄目、早く逃げてっ!!」

 

 

 

悲痛な叫びをあげる少女。

 

思わず目を覆う青き青年。

 

目を見開いたまま動けない少年。

 

 

そして……

 

 

 

 

「――――ぁ、」

 

 

 

 

彼の元に、

 

極光が、

 

降り注いだ。

 

 

 

「……嫌、いやぁぁぁぁあぁぁ!!」

 

 

 

少女の絶叫。降り注いだ光は青年の体を、焼き、貫き、刻み、裂く。

 

幾ら蘇生用アイテム"ムーンアトマイザー"が有るとはいえ、その光景を目に入れるのは相当の苦行であろう。

 

四肢の全てを焼き尽くされ、無残にも倒れ伏す青年。その体の上には、行動不能を示す白い光球が漂っている。

 

 

次は、こちらか――

 

 

残された三人は、ダークファルスの挙動を見逃す事無い様、臨戦態勢を取り身構える。

 

……()()、ダークファルスは倒れた青年に対して攻撃の手を止めなかった。

 

 

"ラフォイエ"に限りなく酷似した火球で焼き尽くし、

同じく"ラバータ"に酷似した氷撃で凍りつかせる。

 

 

そして、再び降り注ぐ極光。青年の体は、見るも無惨に破壊されていく。

 

 

――それこそ、生命維持を担う防具"フレーム"が機能を失う程に。

 

 

 

「……ッ! ダメ、彼は殺させないっ!」

 

 

「――姉御ぉ! 一人で突っ込んじゃあ……!」

 

 

 

その光景に、思わず少女はダークファルスへ向かって走り出す。

それを目にした青き青年も、少女の後を追いまた、走り出した。

 

 

――少女もそうだが、"フォース"という職は総じて防御力に劣る。

 

故に、通常ならば単独行動は推奨されず、チームでの援護要員となる事が多い。

青き青年は、ダークファルスの放つ攻撃の威力が、少女を容易く屠る程の威力であると推測していた。

 

防御に長けた"ハンター"である赤き青年が耐えられなかった攻撃を、少女がどうやって耐えられようか。

 

 

故に、これから先の光景はきっと必然。

 

 

 

「今助けるからね、"リバーサー"で……、ッ、きゃあっ!!」

 

 

「っチィ、誤射したらスミマセンよ姉御ッ――」

 

 

 

不用意に近づいた少女は、ダークファルスの引き起こした地響きをマトモに受けてしまう。

蘇生用テクニック"リバーサー"を使う間も無く、少女は足を取られ躓いてしまった。

 

それを見た青き青年は、手にした双銃のトリガーを目一杯に引き絞り、ダークファルスの動きを僅かでも止めるべく全力を以て撃ち放つ。

 

青年の後ろから走り寄ってきた少年もまた、己の得物を手に"ダークファルス"へと肉薄していた。

 

それらによって生まれた僅かな隙。それを逃さず少女は状態回復用テクニック"アンティ"にて地響きによる鈍足から抜け出し、ダークファルスの攻撃範囲から抜け出した。

 

 

 

「奴さん……、俺たちの動きをまんまと読んでいる気すらしますぜ……」

 

 

「でも、このままじゃあ一向に――」

 

 

「そいつぁ分かってる。アンタと彼女と、そしてアイツと。俺の欲のせいだってのに……!」

 

 

「そんなに気を張らないで下さい、それくらいあの人だって許してくれますよ――」

 

 

「それはありがたいお話だぁね――、マズイ…来るぞ、逃げろッ!」

 

 

 

少女の離脱を確認した二人は、継続してダークファルスへの攻撃を行っていた。

 

先程の赤き青年が近付いた時と同じく、不気味な程行動を起こさないダークファルス。

 

だが、その両腕に次第に光が収束していく光景に、青年が警告を発し――

それを聞いた少年は全速でダークファルスから離脱する。

 

 

先程、赤き青年が貫かれた極光――、その予兆であろう行動だと、青き青年が判断した為である。

 

――そして、予想通り極光が放たれた。

 

 

少年は辛うじて範囲外に逃れたが、青き青年はその体を極光に貫かれていた。

 

間際に、少年と少女に対して侘びの言葉を呟いていたように見えたが――

 

 

その言葉も、轟音と共に掻き消された。

 

 

 

「……はぁ、――は、ぁ。 無理よ……、こんなの。みんな死んじゃってるじゃない……」

 

 

 

涙を流しながら、杖を構える事すら出来ずに倒れこむ少女。

 

その眼前では、二人の青年の体が極光に焼かれ、やがて意味を無くした"フレーム"と共に、その存在は完全に焼き尽くされた。

 

 

"ダークファルス"は、深淵なる闇の憎悪によって誕生したモノ。

 

 

その出自が故に、他の存在が発する負の感情は、全てエネルギー源とすることが出来る。

死した二人の、負に満ちた生体フォトンを喰らったダークファルスは――次なる目標へ向けてその腕を伸ばす。

 

眼前には、新鮮な"負"に満ちた存在が二つ。

 

 

 

「……ぁ、ょ…、よ、くも……よくも、アイツ……」

 

 

 

行き過ぎた"負"は反転し、死をも厭わぬ無謀へと誘う。

 

少女もまた負に呑まれ、生まれ出ずる衝動を抑えきれずにいた。

 

 

 

「――アイツを、殺したなァッァァッッッ!!」

 

 

「駄目です、それじゃあ貴女も――!!」

 

 

 

少年の制止も聞かず、少女はただ内より湧き上がる衝動のままに身を投げ出す。

 

走り出した彼女はすぐにダークファルスを射程に捉え、その勢いのまま上級テクニックを乱発する。

 

もちろん、そのような行動は術者にも負担を掛ける。少女の精神力はその証拠に、普段では考えられないほどの速度で底を尽いた。

 

 

 

「――こ、んなの……、アイツを殺したヤツを殺すまでワタシは死ねないのにッッ!!」

 

 

 

――それは、追い詰められた人間の底力か。

 

ダークファルスの攻撃をフォースとは思えぬ身のこなしで避けると、精神力回復用のアイテム"トリフルイド"を一気に飲み干す。

 

 

無論それとて有限の手段だ。だが、少なくとも彼女の交戦可能時間は引き延ばされた……、戦術的には。

 

 

精神力回復用の、"フルイド"系統のアイテムは決して無害ではない。

 

それこそ過度の使用は、本人の精神に問題をきたす可能性すらある、一種の麻薬に近い性質すら持つものなのだ。

 

当然であろう。そうでなければ、消耗した精神を一飲みで戦闘可能まで回復させる事は出来はしない。

 

通常ならば、その副作用が発生しない程度の頻度でしか使用することは無い為、問題は無いのだが……。

 

現在の少女はそれすらも無視し、所有する"フルイド"系統の薬を浴びるように飲みながら戦闘を継続していた。

 

少年は乱舞する無数のテクニックに、近付くことすら出来ず――その身のもどかしさを隠せずに居る。

 

 

やがて。

 

 

 

「――ァ、-ぁああ、く、ァあ……倒、しタ、の……?」

 

 

 

その乱戦の中、少女が放った極大の火球がダークファルスを焼き尽くし――

 

ついに、ダークファルスのその巨体を地に落とした。

 

 

激戦の、跡――

 

 

そうとしか言えない光景。少年は、その中心で横たわる少女の姿に。

 

 

 

《ドウシテ? オレハ ナニモ デキナカッタ》

 

――悲嘆を感じた。

 

 

 

《ドウシテ? オレヲマモッテ フタリシテ シンデイッタ》

 

――絶望を感じた。

 

 

 

《ドウシテ? カノジョハ ミヲケズッテマデ ヤツヲ タオシタノニ――》

 

――俺は、何も出来ていない。

 

 

混濁する思考をよそに、体は自然と少女へと近付いていた。

傷つき、横たわるその姿。

 

何も出来なかった自分に対して、後悔と懺悔の感情が溢れてくる。

 

 

 

「……でも、これで、終わった筈ですよね……」

 

 

 

――そう、これで終わった筈。

 

ダークファルスとの因縁も、此処で決着だ――

 

 

そう、思ったことがいけなかったのだろうか。

ふと視線をやると、倒れ伏していた筈のダークファルスが消え去っていた。

 

 

馬鹿な、有り得ない―― そんな感情ばかりが溢れ出す。

そして、我が身に感じる不思議な浮遊感。

 

信じられるだろうか――

 

再び蘇ったダークファルスを中心に展開された魔方陣。

 

 

彼は知る由も無いが、それは古代においてダークファルスを封印した"アルゴル太陽系"の封印術式。

 

 

気付けば彼の身はそれを足場代わりに、ダークファルスと共に上空に在ったのだ。

左に目をやると、もはや満身創痍――体を動かすことすら難しいだろう、少女の姿も見える。

 

 

 

「……ははっ、俺の英雄願望を見抜いてたって訳ですか……」

 

 

 

――この展開に、彼は思わず呟かざるを得ない。

両手で強く握り締めた"フロウウェンの大剣"。

 

 

彼の英雄の重みを強く感じながら、彼は今、再び闇と相対した……




あと2話でラグオル編が終わると言ったな……?あれは嘘だ(マテ

予想外に長くなってしまい、2話に分けることに致しました。申し訳無いです…(汗)

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Can still see the light

三人称と一人称の切り替えテストを兼ねて。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

もう どこかに逃げ出したい。

…そう思うけど、ふと気が付く。

 

帰るとこなんて、無いんだってことを。

 

このメッセージだって、

受け取る人なんて、

誰も いないのかもしれない。

 

後から来るパイオニア2だって、

この惑星が 危険と判れば

降りてきやしないだろう。

 

それでもパイオニア2の誰かが

降りてきてくれるだろうか。

 

…それは わからない。

 

でも あたしは、これを残す。

これは 証なんだ。

 

あたしが、今 ここにいる…

 

 

――遺跡内部 リコのメッセージログより

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

――それは、まさに熾烈の一言を極めた。

 

 

ただ、ナニカに突き動かされるかのように半透明の大剣を振るう少年。

 

それに対峙する、闇の意志の精神体とも言うべき存在。

 

二つの存在の死闘は、もはや時を刻むことすら忘れる程長きに及んでいた。

 

 

 

「――ァあャッ――ク、■ァッ―!!」

 

 

 

もはや叫びとも言えぬ咆哮。

それを放つ少年は、疲労、痛み、消耗など知らぬが如く再び闇に突貫する。

 

――しかし、中らない。斬れようが無い。

 

 

どうやら、ダークファルスは状況に応じて実体/精神体を切り替える事が可能らしい。

そして、現在のダークファルスは精神体。

 

その幾何学的に輝く躯体は、一部のテクニックを除いて全ての攻撃を無効化する。

 

 

そして、次はこちらだと言わんばかりの猛烈な闇の攻勢。

放たれた光弾を必死の思いで避ける少年だが、その表情には未だに憤怒が映っている。

 

 

 

「……ハ、ァ――、くそ、どうしたら……」

 

 

 

――もはや、勝機は無いのだろうか

 

 

そう諦めてしまいそうになる己を食い止め、彼は眼前の敵を見据える。

 

幾度と無く剣を振り回してきた影響か、腕は痺れ、柄を握る力すら殆ど残っていない。

 

回復用にと所持していた薬品の類も、これまでの激戦にてほぼ使い切ってしまっている。

テクニックを使用できたのならば、或いは異なったのだろうか……

 

彼は、同期の人間の中では絶望的にフォトン適性が低く、上級テクニック習得に必要な精神力を保有していなかった。

 

辛うじて回復用テクニック"レスタ"は習得してはいるが、これもLv.2のディスクが習得の限界であった。

 

彼のクラス――"ハンター"で使用可能である最大レベルのLv.15ならばある程度の効果は見込めるのだが、Lv.2では他人の回復すらままならない。

 

 

――更に、テクニックの詠唱は大きな隙を生む。

 

通常のエネミー相手では、さして脅威となり得ない程の小さな隙ではある。

だが、ダークファルスとの戦闘においては致命的――

 

 

――故に、回復薬を全て消費しきった時がイコール己の死に直結するのだ。

 

 

 

「……くッ、でも、こうする、しか……?」

 

 

 

少年は、倒れ伏した少女を横目に見ながら呟く。

 

彼が懐から取り出した蘇生薬、"ムーンアトマイザー"。

これを使用すれば、少なくとも致命的なダメージを負っていない少女にならば蘇生は可能だ。

 

 

だが、少女の精神は先程までの様子を見る限り――非常に消耗しているだろう。

 

その精神状態で、彼女が無事テクニックを行使出来るのか。

 

錯乱の余り、無謀な行動を取らないだろうか。

思考、試行する。その指向性は己の内面に深く。

 

 

――だが、そう思考している合間にも放たれる、非情なる攻撃。

 

 

突如、少年の体を包み込むような光が現れ。

 

気付いた彼はバックステップにて回避を試みるも、少年を追尾するように光が付きまといなかなか離れることが出来ない。

 

 

やがて、一瞬輝きが強くなったかと思えば――

 

 

 

「――ッ!? ク、ァああぁっ――!!」

 

 

 

その体を襲う強烈な痛みと焦熱。

弾けるように飛散した残光は、少年に大きなダメージを残した。

 

少年の背に浮遊する防具、"マグ"が主の危機に一際激しく光を放つ。

 

"マグ"――、自立思考し、自己進化する防具。

 

それは、"深淵の闇"に相反する存在たる"大いなる光"の一部にして、その細胞"ライトファルス"を基にして創られたモノである。それが故なのだろうか。

 

 

マグは、ダークファルスの攻撃に対して普段よりも更に早く行動を始める。

発生させた、主を包む暖かい輝きは――あらゆる敵性を無効化する光の防壁。

 

 

 

「――ッ、う、おぉぉぉォァッ!!」

 

 

 

……少年は、先程の傷を最後のトリメイト――回復剤で癒す。

 

これで、ラスト。少年に後は無くなった。

 

それ故、自然と覚悟も決まっていた。

 

 

彼は"ムーンアトマイザー"を少女に向かって投げ放つと、大剣を構えダークファルスへ相対する。

 

そして、裂帛の気勢と共に駆け抜け。

 

 

ようやく接近する彼に気付き、ダークファルスが振り向いたとき――

 

 

 

「――こいつで、最後―――ッ!!」

 

 

 

――貫く一撃。

 

残心を終え、少年はダークファルスを見やる。

 

 

しかし、彼が渾身の力を込めて解き放った至高の一撃は、しかしダークファルスにとっては取るに足らぬ一撃だったのか。

 

最期に彼が見たものは、断罪の斬撃にして終焉。

 

 

 

「――、ぁ。」

 

 

 

ぐじゅり、と。

 

 

――自身を貫く、ダークファルスの腕。

 

マグの補助なんて役にすら立たない、もはや暴力的な一撃。

 

即ち、マグ程度が起こせる現象なんて限られていて、その効果時間がとっくに過ぎていたってだけのハナシ。

 

 

 

「――ッグ、ァ、ぁ、ぁ、ッぁ、あ゛、ア゛。」

 

 

 

――ゴリゴリ、ガリゴリ、ガリガリ、ゴリガリ。

 

己が身を削る、ダークファルスの剣状の腕による斬撃。

 

同時に彼は、ナニカ(DF)が身を侵食する感触に襲われる。

 

自分が自分でなくなっていく。やめてこれ以上は――

 

 

その願いも空しく。闇はただその腕を更に押し込み――

 

 

――変質。自身が別のナニカニ新生するかの如く。

周囲の悪意が心地よくなっテくル。

 

 

次第に、使命感は喪失していき――

これは、遺伝子レベルでの同化――否、進化。

 

 

傷口から、グジュ、ウジュ、■゛ュリ、ブジャ、と響く水音?

 

その音を心地よく感じる――視線を落とせば傷口は異形。

 

 

手にした大剣が、少しづつ異形に覆われていく。

 

それが、自らの正義が侵されていくかのようでタマラナク心地良い。

 

 

視界が少しづつ暗くなっていく。

 

もはや自身の半分は異形。

 

でも、それでいい。それでこそ。

 

 

 

「――、あ、れ? 私、は――」

 

 

 

……どうやら、少女が目を覚ましたようだ。

 

"ムーンアトマイザー"はどうやらしっかりと効果を発揮したらしい。

うんうん、それでいい。それでこそその悲鳴を聞きながらゆっくりと■■せるって事――

 

 

 

「……ッぁ、オれはいマ何を……!?」

 

 

 

変質しつつある自身の無意識に、今、初めて、気が付いた。

 

視線を落とすと、ダークファルスの剣を中心に異形と化している己が体。

 

今にも、首に達するかというその侵食を、ようやく自覚したというその事実こそが異常。

 

 

手にした大剣は半ばまで侵食され、もはや元の面影すら感じられない。

 

それを目にして、やっと理解したのか――

 

 

 

「そウか。おレはもう…… トんだハナシだ、"魂"なんテ信じてはいなカったが、今は信じラれる――」

 

 

 

――そう、自らがダークファルスの因子によって侵食されている事実に。

 

よくよく見れば、空中に佇むダークファルスの胸部には、侵食前の己が姿が鏡のように映し出されている。

 

 

思考形態の変貌も、魂レベルでの侵食によるものだろうか。

 

胸部に映し出されている姿は恐らく、闇に囚われた己が魂であろう、と。

 

 

そこまで理解してよウやく彼は、自身がもはや戻れない領域に来てしまった事実を把握した。

 

――でも、大丈夫。()()体は自分の意志で動く――

 

 

 

「――い、嫌ぁぁぁぁああ!? あなた……、あなた、()なのよっ!?」

 

 

「……なニを言っテいるんデす?オれは俺でスよ――」

 

 

 

どうやら、少女が直ぐに狂乱するようなことは無かったよウだ。

 

心配事の一つが消えてほっとすると同時に、少女の言葉に疑問を抱く。

 

 

――俺ハ俺だ、他の何者でもない――

 

 

 

「う、嘘よっ!! あなた、その体…… バケモノじゃない!!」

 

 

「バケモノ……? そンナ■トはナイ、至っテ普■うでしょウ?」

 

 

 

不思議と、言葉が詰まってシまう。何故だろう?別に変わったことは無いのに。

 

そんなことよりも、どのようにしてダークファルスを封印すルかを考えないト――

 

 

 

「嘘、嘘、うそよ、こんなの…… みんな、死んじゃったじゃない……嫌、ぁァァァァあああっ!!」

 

 

 

途端、少女の手から放たれた火球。

 

――それは少年が辛うじて残していた、心の鎖を壊した――

 

それを右腕の剣で受け止める。あれ、熱いナぁ。

 

 

どうしテだろうか、味方なのに。

あれ、攻撃してきたならテきか。ならいいかな。

 

 

――少年は変質しきった内面に気付かず。それが正気と愚かに信じ――

 

 

そウそうその表情、その苦悶が美味シィんだよね。

 

キモちイイなぁ、コれをタべれバどんナにオイシいんだろウ。

 

 

 

「――ぁ、やめて、ぃ、―――」

 

 

 

 

イタダキマス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

―― AUW3084. Pioneer2 the government‐general ――

 

 

 

 

「セントラルドーム地下のダークファルス。海底プラント、実験体γ119――否、オルガ=フロウ。彼らの共鳴によって、あの爆発は発生したのか……」

 

 

「過ぎてしまった事を悔やむ暇があれば、先のことを考えましょう。リコ=タイレル、並びにヒースクリフ=フロウウェン。私たちは偉大な英雄を失ったのですから……」

 

 

「……そうだな。遺跡の最深部で見つかった()()の首尾は?」

 

 

「ラボの解析装置でもダメですね。D因子の侵食の過程に何かしらの干渉が有ったと見るべきでしょうけど…」

 

 

「……そうか。ならば、厳重封印を執り行った上で外宇宙へ転送する。これ以上、リコのような人間を出すわけにはいかん……」

 

 

「……分かりました、総督。あれにはオル=ガと、カルのコピーも搭載しておきました。 ……彼らが、きっと安全な惑星に封印してくれる筈です」

 

 

「……頼むぞ」

 

 

 

 

―――"英雄"の手により、ハンターズはダークファルスを無事消滅させる事に成功した。

 

 

――だが、その歴史の影に葬られた"彼"()の存在を知る者は少ない――

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




一つの終わりと、新たなハジマリ。

次話よりSAO主体となります。

※※感想、意見等お待ちしております※※


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Welcome to Sword Art Online
The whole new world


希望と夢を携えて、我々の船は海原を越える――

 

 

――全てが、新しい世界へ。

 

 

 

――真珠の様に輝く、全てが新しい世界へ。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

深淵が如く、"暗黒"に彩られた宇宙空間の狭間で。

 

その空間を、ただひたすら加速し続ける輸送艇が一艇。

 

 

 

――星々は、行先すら示してくれない――

 

 

 

 

長い、長い旅の中でか。美しくコーティングされていたであろう"それ"の表面は色褪せ、記されていた文字は掠れて読むことすら出来ない。

 

 

 

――ただ、太陽の照らし出す場所へ――

 

 

 

何処へ行くのか。何のためか。

それすらも分からないまま、ただ"それ"は空間を駆ける。

 

それがこの空間に放たれてから、既に幾つの時が過ぎたのか。それすらも分からないが――

だが、一つだけ確実に言える事は。

 

 

 

―――ズ、■ャ゛、■゛ァ。ァ■―――

 

 

 

聞こえないはずの音が、明確に聞こえているかのような錯覚。

 

 

――そう、ただ一つ言える事とは、"それ"にとって、これほどの時間を与えられた事は素晴らしい幸運であった事。

 

 

 

異音と共に輸送艇の一部がヒビ割れ、醜悪な腕がその身を封印の外に晒す。

 

同時に、広がる侵蝕。ハイ=テクノロジーなど"それ"の前には無意味――

 

 

自らを書き換えられる事に対してか。これが、機械の悲鳴とでもいうのだろうか。

 

無機質な金属音が機内に響き渡るも、それを咎める者は既に存在しない。

 

 

―――やがて、文字通り輸送機の()()を我が身とした"それ"は、新たなる宿主を求めるべく行動を開始する。

 

 

暗黒の世界を超え、数多の時を経て……

 

 

 

 

 

やがて、標的となったのは。

 

"それ"のかつての故郷と良く似た、煌びやかな青に包まれた惑星であった。

 

 

 

 

 

 

―― Welcome to Sword Art Online!! ――

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

NEEDLES――直接神経結合環境システム(NERve Direct Linkage Environment System)の実用化と、対応マシン《ナーヴギア》の発売。

 

それらがもたらした新たなる世界。その変革は、既存のどんなハードでも為し得なかった[完全体感型ゲーム]の誕生という形を持って全世界に広まった。

 

次々と発表されていく新世代のゲーム。以前から興味の有った者も無かった者も、次第にその世界に惹かれ、注目せざるを得ない程――そのムーヴメントは爆発的に広まっていった。

 

――そんな中、発表されたのが、世界初のVRMMORPG、《Sword Art Online》。

その構想が発表されるや否や、息を継ぐ間も無く開始されたβテストに、世間の注目は一層そのゲームに集中することとなる。

 

実際、ゲームメーカー『アーガス』がSAOを発表する以前も幾つかのVRMMOは発表されてはいたが、いずれも"発売日未定"の一括り。

 

確かに、全く新しいプラットフォームに事業を展開する以上は、準備期間が必要だ。

 

それを理解している為か、世間の人々は今か今かと待ちわび続けながらも、それに対して不満を感じることは無かった。

 

そんな中突如として始まったβテスト。

体験者達の絶賛の声を聞きながら、運悪くテスターとなれなかった人々は"その日"を待ち続けるのであった。

 

 

即ち、SAO製品版のサービス開始日。2022年11月6日、その日を――

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

―― アインクラッド標準時 2022.11.6 第一層『はじまりの街』 ――

 

 

 

浮遊城『アインクラッド』。

 

全100層から成るその威容は正しく、このゲーム――ソードアート・オンラインの象徴たるに相応しいものであった。

 

 

今、光に包まれてこの地に降り立って来ているのは、皆が皆"幸運"の持ち主と言えよう。

 

彼らはまさしく、このゲーム――ソードアート・オンラインの初期ロット、僅か1万本の幸運を手に掴んだ者であるのだから。

 

 

 

広場に集まっているアバターは、誰もが丹精込めてクリエイトしたであろう美男美女の集団であり、此処は"現実"では無く"空想"であると再認識させるにはそれだけでも十分な光景であった。

 

……かくいう俺もその一人、数時間掛けてクリエイトした甲斐あってか、十二分に納得できる長身美形になったと思う。

 

――まぁ、自分から好んで醜い外見を演じたい物好きはそうそう居ないだろうけど。

 

 

 

そんなこんな訳で、幸運にもそのチケットを掴んだ俺――プレイヤーネーム"Ash"――は、この地に降り立った、訳だが……

 

 

 

「まいったなぁ、何すればいいんだ、これ……」

 

 

 

――そう、このゲームではプレイヤーが実行可能な事が多すぎるのだ。

 

一昔前のゲームならば、自由度が高いと言われているゲームでもある程度の道筋は有った。

 

だが、このゲームは違う。アインクラッド攻略と言う最終目標はあるにしろ、それ以外のサブクエストも多数あるらしいし、聞いた話では"釣り"なんかも出来るとか。

 

 

レベル1の段階で考えることじゃないかも知れないが、レベル上限が有るならステータス振りの方向性も考えないといけない。

 

()()されるとは言え、やっぱり死ぬのはいただけない。

 

 

――βテスターでも、俺に見つかってくれないかな……レベリングに最適な場所とか、教えてくれるだろうし

 

 

などと甘えた考えを持ってみても、そうそう都合良くはいかない。

 

十分ほど周囲を観察してみたが、皆が皆この世界に夢中で、浮き足立っている者ばかりだ。

 

 

 

「――よし、仕方ないかっ。まずは"ソードスキル"を極めてやるぜ」

 

 

 

気合いを入れ、座っていた椅子から立ち上がる。

 

事前情報は可能な限り調べてきた、その点については問題無い……、筈。

 

 

その場を走り抜けた俺は、視界一杯に広がる夕焼けを目に焼き付けながら――

 

この"SAO"という世界へと、足を一歩踏み出した。

 

 

 

――その時。

 

 

 

「……っ!?なんだ、この音は……?」

 

 

聴覚を直接刺激するような鐘の音。

恐らくは、このゲームの正式スタートを祝福するものなのだろうが……

 

 

何故だか、それを聞き過ごすことは出来なかった。

 

 

胸中に膨れ上がる不安感。

βテストの時には、このようなイベントの情報は流れていなかった。

 

 

「そうだ、アナウンス――」

 

 

右手の指で宙空をなぞると、そこに半透明の画面が浮かび上がった。

なんにせよこの画面を操作するのは初めてだ。綺麗に並んだ項目を一つ一つ目で追っていく。

 

そこで初めて、俺はこの事態に気が付いた――

 

 

「ログアウトボタンが、無い……?」

 

 

それに気が付いた途端、自身を包む明るいエフェクト光。

 

確か、これは転移の際の……

 

 

転移が始まるまでのその一瞬の間で、俺はそこまで考えるが――

 

 

その疑問を追及する暇も無く、俺は、その場から姿を消したのであった。

 




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