艦これ~提督のお品書き~ (PX)
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第1話~日常~

暇つぶしに書いた駄文を投稿、こんなものでよろしければ、どうぞ楽しんでください。


 

小さい頃……よく、ばあちゃんの料理を手伝ってたことがあった。

 

ばあちゃんのことは嫌いじゃなかったし、料理をするのも嫌いではなかった……

 

「亮ちゃんは本当に料理が上手だねぇ」

 

そう、ばあちゃんにほめられるのが嬉しくて……単純な俺はますます料理にのめりこんだ…………

 

世間じゃ海の方が騒がしくなってきていたが、俺にはそんなことは関係ない。

 

将来的には料理人になるつもりで、腕を磨き……料理学校にも通おうと…………

 

「喜べ亮、お前の海軍学校への入学が決まったぞ!」

 

目の前に居るクソ親父が、そんなことを言った。

 

「やはり日本男児たるもの、軍に行くべきだろう、はっはっは」

 

「亮ちゃん、頑張るのよ」

 

俺は料理人を目指して…………

 

「士道 亮(しどう りょう)、貴官を提督に任命する、すぐさま呉泊地へ向かい、前任者の艦隊を引き継いで任務に当れ。」

 

料理人になるはずが…………

 

なぜか俺は、提督に任命されてしまっていた。

 

……どうしてこうなった?

 

 

第1話~日常~

 

 

午前6時……起床のラッパが鳴り響く……

 

鎮守府の朝は早いのだ、最も俺個人はいつも早起きする方なのでそう苦ではないのだが…………

 

 

壁にかけられた白染めの海軍士官用制服を着用し、部屋から仕事場に向かう……

 

「あ、てーとく!!」

 

「お、早いな島風、おはよう。」

 

「てーとくさん!おはようなのね!!」

 

「今日も頑張ってくれよ、イク、おはよう。」

 

執務室へ向かう道のりで、鎮守府に所属する艦娘たちとすれ違う……何時もどおりの朝の光景だ…………

 

さあ……今日も一日頑張らなければ。

 

気合を新たに、執務室……を素通りして進む。

 

やってきたのは食堂……まずは腹ごしらえが必要だ。

 

「よし……やるか!!」

 

そのまま厨房に入り、手洗いを念入りに済ませ……壁にかけていた自前のエプロンの紐を腰にまわして結ぶ。

 

まずは食材の確認だ、昨日炊き出した米が少しと、卵、レタス、玉ねぎ、青ネギ、細切れの鶏肉と調味料の数々を取り出す。

 

「~~~」

 

鼻歌を歌い、手馴れた手つきで卵を溶いてご飯と混ぜ合わせる、その後玉ねぎの皮をむき、厨房内の収納スペースから愛用の包丁を取り出す……

 

玉ねぎをむいて包丁でもって半分にカット、その後半分にした玉ねぎに格子状に切り込みを入れてから薄くスライスしてゆく……程なくして微塵切りになった玉ねぎが出来上がった。

 

続いて青ねぎ、何分割かにカットしたものを輪ゴムでバラけ無いように束ねて、細かく小口切りにカットしてゆく。

 

手を切らないように慎重に、しかしながら必要以上に包丁を恐れず……3分ほどかけてカットを終える。

 

此処までくればいよいよフライパンの登場だ、ごま油を引いて熱したフライパンに微塵切りの玉ねぎと細切れ鶏肉を加え

加熱してゆく……肉に火が通り、玉ねぎが透明色になるまでフライパンを振るい続ける。

 

「ほっ……よっと!!」

 

しっかり加熱したら一度具材をボウルに移し、調味料の準備に移る。

 

ウェイパーを砕き、砂糖、塩コショウ、醤油を少量、味を調節する。

 

「よし・・・・・・仕上げだ!!」

 

ごま油を引いたフライパンに、卵に混ぜあわせたご飯を投入……塊が出来ないようにお玉でほぐしつつ、鍋を振るう。

 

有る程度卵が固まったら、先ほどの調味料、ボウルに移した具材類を投入し素早く炒る……

 

「最後に……一口大にちぎったレタスを皿の周りに……ライスを真ん中に盛って上からネギを……うん、良い出来だ。」

 

米がパラパラ、黄金色に輝く黄金チャーハンの完成だ。

 

「んじゃ……早速……「見つけたわ!!」」

 

いざ食べようと思ったところで、食堂の扉が勢い良く開け放たれた。

 

「ん……おお、叢雲!!」

 

わが艦隊中、最も最古参でも有る駆逐艦の少女……叢雲は、声をかけると一歩、一歩とこちらに歩み寄る。

 

「丁度良いところに来たな、せっかくだから……「フンッ!!」」

 

すぱぁぁぁん!!と勢いの良い快音が食堂中に響き渡った……

 

脳天に受けた衝撃に一瞬惚けている俺に対し、彼女はさらに詰め寄る。

 

「……いきなり何を……痛「やかましい!!」」

 

彼女が手にしたハリセン、それこそが脳天の痛みの正体だと感づいて抗議したものの、不機嫌全快の彼女はそんな俺の抗議を一蹴する。

 

「アンタ……何考えてるわけ?」

 

「え……俺は何かしたか?」

 

「この書類……アンタが申請したものでしょ?」

 

叢雲が、手にした一枚の書類を俺の目の前に突きつけてきた。

 

「えっと……『執務室内備品の申請書』……これがどうかしたのか?」

 

「私が言いたいのは申請している内容なのだけれど?」

 

ふむ……申請内容は、執務用のペンなどの事務用具……新しいデスクの購入に……

 

「執務室横へのシステムキッチン以下調理器具の導入……何もおかしなところは無いと思うが?」

 

「執務室への調理器具やシステムキッチンの導入が必要なわけが無いでしょ!?」

 

ふむ……確かに設備的には、厨房があるのだから、執務室内に調理場を設ける必要は無い……と思うことだろう。

 

「叢雲……聞いてくれ。」

 

「なによ?」

 

「俺の仕事はなんだ?」

 

「……提督でしょ?」

 

「そう……提督だ。」

 

一息ついて、叢雲の目をまっすぐ見つめ、真摯な思いで語りかける。

 

「提督というのは言わば艦隊の責任者だ、戦闘における戦術の提唱、艦隊のメンバー達の和を取り、艦隊が運用できるように補給、士気を保つ必要がある……そう、艦隊の士気を保つ必要があるんだ。」

 

「……」

 

「食料事情と言うのはそのために重要な生命線であるともいえる、特にわが艦隊には大喰らいな面子も多い、何時如何なる時でも、彼女たちの要求に備える必要があるんだ……さらには、飽きが来ないように常日頃からさまざまなレシピに挑戦し、バリエーションを増やしてゆく必要がある……」

 

「……で?」

 

「しかしながら、提督の仕事には書類整理と言うわずらわしいものがあってだな……なかなか時間が取れ無いことも多く、厨房と執務室の行き来の時間すら惜しまれることもある位だ……」

 

そこで俺は気がついたんだ、行き来に時間を取られるなら、執務室に厨房設備を設ければ良いじゃないか、と……

 

「…………」

 

「これは艦隊のために必要なことなんだ……叢雲。」

 

「うん。」

 

「分かってくれるか?」

 

次の瞬間叢雲は、いつの間にか取り出した酸素魚雷をフルスイングで振りかぶっていた。

 

「分かるわけ無いでしょ、この馬鹿ッ!!」

 

「あべしッ!?」

 

ゴン、と鈍い音が頭蓋に響き渡り、俺は意識を手放した…………

 

 

…………………………………………………………

 

「まったく……この馬鹿は……」

 

普段の仕事は有能なくせに、料理に関係することになるとどこか馬鹿になる提督に呆れつつ、取り出した酸素魚雷を何処かに直す叢雲。

 

「む……」

 

机の上に置かれた提督作のチャーハンを一瞥、見た目は悪くない……

 

用意されていたレンゲを手にとって一口……うん、美味い。

 

シンプルな味付け、米のパラつき、上に乗せられた小口切りのネギのしゃっきり感と薬味のあっさり感。

 

叢雲も食べられる程度の料理は出来る……が、提督の作るそれは、店に出しても通用するレベルだとは思う。

 

「どうして、コイツ……提督やってるのよ。」

 

 

女性として何か負けたような気分になりながらも、気を失った提督を背負い、執務室まで引きずってゆく叢雲であった。

 

 

 



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提督の戦場

お気に入り登録してくださっている方がいて、びっくりしました。

それでは、どうぞ。


 

 

昼食時……多くの社会人、学生達が学生食堂や飲食店に出入りし、飲食店に勤めるスタッフや調理人にとって修羅場ともなるべき、この時間帯。

 

それは鎮守府においても同様のことだ、鎮守府近郊の町には多くの飲食店事業が展開しているし、

鎮守府内にも、今はもう一線を引いた艦娘達によって経営される、小さな料亭が存在する。

 

そして……鎮守府に住まう艦娘達にとって、常日頃の食を担うための食堂、そこでは…………

 

 

第2話「提督の戦場」

 

 

「大鯨、13番テーブルからの注文、入ったぞ!!」

 

「日替わりと、サバ味噌定食ですね?日替わりのほうから入ります!!」

 

「頼んだ!!こっちは少し手が離せない!!」

 

その厨房においても忙しいのは変わりない……艦隊の規模に比べ、調理が出来る者の数は少ないのだからそれは当然であろう。

 

そんな中、白染めの制服の上からエプロンと言う、もはやこの艦隊に所属する者達にとっては見慣れた姿で、巨大な中華鍋を振るう青年……士道 亮。

 

現鎮守府最高責任者でもあるはずの彼は、厨房を手伝っている艦娘達に混じり、料理をしていた。

 

別の鍋の煮込み具合を確認しつつ、巨大な丼にご飯をよそう、その上に醤油、砂糖、みりん、酒、だし汁に少しのとろみをつけたタレで炒めた牛肉と玉ねぎを豪快に盛り付ける。

 

最後に真ん中にくぼみを開け、半熟卵を3~4ほど落とす。

 

「牛丼(一抗戦サイズ)と、肉じゃが上がり……電、雷!!鍋ごともって行ってくれ!!」

 

「鍋ごとなのです!?」

 

「加賀さんから「鍋で」とのご注文だ……一度に運ぶのは無理そうだから分割して持って行ってくれ!!」

 

「わ、わかったわ!!」

 

肉じゃがの入った小鍋と、『あかぎ』と書かれた、もはやバケツと言っても信じられるであろう程の巨大なドンブリ――おそらく特注で作られたものであろう――を、うんしょ、と可愛らしい掛け声を上げ、赤城と加賀の一抗戦ズが待つ席へと運ぶ、電と雷。

 

それを確認して、先ほどオーダーが入ったサバ味噌定食の準備を始める。

 

朝の内からじっくりと味を入れていた味噌煮の上に細切りにしたミョウガを小高く盛り付ける。

 

「提督!!日替わりと定食の準備、出来てます!!」

 

「……とりあえずオーダーは全部済んだな……サバ味噌は俺が持っていこう。」

 

大鯨が用意していてくれた、ご飯、味噌汁、漬物の乗ったトレイに先ほど完成させたサバ味噌を乗せ、テーブルまで運ぶ……

 

「サバ味噌定食と日替わり定食、お待ちどう!」

 

「お、提督と大鯨が持ってきてくれたのか?」

 

「おいしそうね~~」

 

注文したのは、わが艦隊の武闘派、殴りこみ隊長こと天龍と龍田の姉妹だ……午前中の遠征任務がひと段落着いたので、食事に来たのだろう。

 

「龍田さんは日替わりですね?はい。」

 

本日の日替わり定食である、秋刀魚の照り焼き定食を龍田の前に差し出すのは大鯨。

 

戦闘能力は殆ど無いため出撃の機会こそ無いが、調理や執務などは得意なので、食堂の管理を任せてあったりと、鎮守府の内部を支えてくれている艦娘だ。

 

「しっかし……もうすっかり違和感も感じなくなってきたなぁ…………」

 

サバ味噌をつつきながらそう言ったのは天龍……それに続くように龍田が返す。

 

「そうね……提督が厨房に居ても、もう驚かなくなったわ~~」

 

「俺としては提督よりも、料理人のほうが天職だと思っているんだけどな……」

 

正直な話、ここ数日は執務室にいるよりも厨房で料理をしていることのほうが多い気がするぐらいだし……

 

「……それで良いのかよ、提督。」

 

本部への提出書類なんかは、全部届き次第終わらせているし……艦隊の運営についても特に不備があるわけでもない。

 

そう、必要な仕事は全て終わらせた上で食堂の運営をしているのだから、何も、問題は無いはずだ。

 

「でも……まあ、食堂が使えるようになったのは嬉しいけどな。」

 

「そうね、提督のお料理、おいしいし~~」

 

 

ことの話は3年前、俺が鎮守府へ着任した当初に遡る……

 

鎮守府の無茶な運営を繰り返したことで前任者の提督が解雇され、その後任として提督に任命された俺。

 

元々提督になることには乗り気でなかったが……命令拒否が許されるわけも無く、こんなはずじゃなかった人生に恨みを吐きながら鎮守府にやって来たのだが……

 

「あのときの提督……気が狂ったのかと思ったぞ。」

 

「嬉しくてテンションが上がっていたのは認めるが……そこまで酷かったか?」

 

僅かな隙も無く頷く、天龍と龍田。

 

ならばと思い大鯨を見るが……頷いてこそいないが、顔を横に背けて、回答を拒否する体勢に入っていた。

 

「いや……だってよ、俺は元々料理人になりたかったんだぜ?」

 

この鎮守府には元々食堂は無かった……いや、正確には使われていなかったと言うべきか。

 

元々は料理のできる艦娘達が交代性で請け負っていたらしいが、前任者時代の運営方針上、料理をする時間が無く、食堂は閉鎖された状態で放置されていたわけだ。

 

「俺がこの鎮守府にやって来て、一番最初にやるべきことは設備全体の建て直しだったわけだが……ならばこそ、放置されていた食堂を占りょ……もとい、使えるようにして、料理のできる者が居ない状況下で料理のできる俺が厨房についても、おかしいことは無いと思うが?」

 

「今、占領って言おうとしただろ。」

 

「…………何のことやら?」

 

料理人なら誰しも1度は思うだろう。

 

 

自分の店を持ちたい、と。

 

 

まさに一挙両得、俺は自分の城を得ることができ、鎮守府にとっても設備の充実と言う意味でメリットがある。

 

特に、料理人への道が閉ざされたと思っていた俺とっては、まさに夢をかなえる絶好の機会であったわけで……

 

 

「だから……多少テンションが上がっていても何も問題は無いだろ?」

 

「でもよぉ……使われていない食堂の中で、「俺の城だァ!!」とか叫んでいた提督は……ちょっと引いたわ。」

 

「…………」

 

「提督、そんなことしていたんですか……?」

 

「ち……違うんだ、大鯨、あれはその……」

 

「「「ハァ…………」」」

 

3者一斉にため息をつく……

 

「提督って有能なくせにどこか抜けてるんだよなぁ……」

 

天龍は呟き、提督が作ったサバ味噌を箸でつつき一口食べる……

 

しっかりと下処理で骨を抜き、食べやすくした上でじっくりと味を入れられたソレを食べて、天龍は今日も思う。

 

 

コイツ……どうして提督やってるんだ? と…………

 

 

 

 

 




提督の戦場(厨房)、出撃するとは言っていません。


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さらば提督、暁に死す!!(前編)

今回は、話が長いです。


深海戦艦と人類の戦いは常に苦しい状態が続いている、最前線に赴く提督たちは少なくない損害を強いられていると聞くし、危険の渦中にいると言っても過言ではない。

 

鎮守府の設備や補給自体もかなり困窮している場所も多いと聞く、実際うちの鎮守府も、横須賀のように一から鎮守府として立てられた立派なものではなく、現地にあった廃校舎を接収して利用した急場の鎮守府だ。

 

 

もっとも……非常事態ならばともかく、普段は鎮守府近海のパトロールを怠りさえしなければ、鎮守府内が危機的状況に陥ることは、まず無い……有り体に言ってしまえば『平和』、と言う事だ。

 

 

だから……俺は油断していたのかもしれない…………

 

 

「どうして……こんなことに…………」

 

激しい雨音の中、俺は握り締めた拳を地面に叩きつける。

 

周りを見渡せば、そこには……地に倒れ伏してピクリとも動かない人の数々…………

 

皆、わが艦隊に所属する艦娘達だ……

 

全員が実践経験豊富な、まさに精鋭といっても過言ではないが……場数を踏んでいるはずの精鋭たちはすでに全員が、地に倒れ伏している…………

 

 

すでに鎮守府全域には避難勧告が出され、非戦闘員や錬度の低い艦娘たちは非難区画に退避済み……つまり現状、この惨状に立ち向かえるのはもはや自分一人である……

 

 

ああ……すぐそこから死神の足音が聞こえてくる。

 

ドス黒い瘴気を撒き散らしながら、一歩、また一歩と近付いてくるのが俺にはわかった……

 

 

「ああ……こりゃ死ぬな…………」

 

 

最後の時を待つ死刑囚のような面持ちで、どうしてこうなったのかを俺は思い返し始めた…………

 

 

これは……わが鎮守府に起きた中でも、最大規模の惨劇の一部始終である…………

 

 

第3話『さらば提督、暁に死す!!』

 

 

その日、俺は珍しく執務室でたまっていた書類仕事を進めていた。

 

「20:30時……提督、少し休憩された方が良いと思いますよ?」

 

「もうそんな時間か……分かった、すこし休憩にするか……」

 

本日の秘書艦担当である比叡に言われ、休憩を取る事にした……暫く貯めていたとは言え、殆ど休みなしで書類に取り掛かっていたせいか、体の節々が痛みを訴える……

 

「うーん……適当に簡単なもので夜食でも作るか……」

 

「あ……でしたら!!」

 

体を伸ばし、骨から心地良い音を響かせていると、比叡が名案とばかりに声を上げ……

 

 

「今日のお夜食は私がお造り致しましょう!!」

 

 

そんなことを、自信満々に言ったのだった。

 

「む……比叡は料理が出来るのか?」

 

「ふっふっふ……これでも私は、時の天皇陛下の乗艦だったのですよ?」

 

「おお……それは凄いな。」

 

満面のドヤ顔で自信満々に語る比叡……天皇陛下の乗艦ということは当然、食事をお出ししていたわけであり……

 

当然、不味い食事など出るわけも無かったのだろう。

 

「なら任せるよ……ついでに色々と学ばせてもらおうかなぁ……」

 

「では期待して待っていてください……比叡、気合!入れて!行きますっ!!」

 

着物の裾を捲り上げ、意気揚々と執務室から出撃する比叡……思えば俺はこのときに気づくべきであったのであろう。

 

 

軍艦時代の経験と、艦娘になってからの経験とは決して、比例するものではないと言うことに…………

 

 

……………………………………………………………

 

 

「さて……提督にお出しする料理は何が良いでしょうか?」

 

調理設備を借りるべく、厨房に入り、比叡は考える。

 

「……やっぱり、カレーですかね?」

 

比叡自身は料理をすることが好きであり……過去に一度だけ金剛お姉さまと妹達との再開が叶った折に、料理の腕を振るった事はある。

 

そのときのメニューはカレーだったか……その時、榛名は元々少食なのもあってか一皿食べたところが限界だった。

 

霧島は何口か食べたところで、味の秘訣を探ろうと分析をはじめたこともあり、それほど多くを食べたわけではなかった。

 

金剛お姉さまは……口にあったのか、かなりのハイペースで3杯ほどお代わりをした後、満腹だったのか、その場で寝てしまっていた。

 

 

ただ一つ……皆一様に『おいしい』と言ってくれたのが、比叡にはとても嬉しかった。

 

艦娘になってからの料理経験は無かったが、それでもなお、皆に食べて欲しくて、頑張って作った甲斐は確かにあったのだから…………

 

 

提督とはお姉さまをめぐるライバルではあるものの、この鎮守府で、姉妹達と引き合わせてくれた恩は感じている。

 

ならば此処は、お姉さまたちにも『美味しい』と言ってもらえたこのレシピで勝負と行こうではないか。

 

「うーん……食材は……あ、良いのがありそうですね!!」

 

作る量は……提督一人分なら、小鍋一つ分位で良いだろう。

 

 

「では……気合!入れて!作ります!!」

 

 

まずは材料の下ごしらえ……カレーの具材として定番と言っても良い人参、ジャガイモの二つの皮をピューラーを使い綺麗にむいてゆく……

 

それを乱切りで一定の大きさに綺麗に切り揃えてゆき……

 

「後は……これを……」

 

そう言って比叡が取り出したのは……表面にいぼがついた緑色の野菜……沖縄地方で有名なゴーヤを取り出した。

 

疲労回復も考えて、比叡渾身のチョイスによって選ばれたそれを、半月状にカットしてゆく。

 

最後に用意するのはこれまた定番の、玉ねぎをみじん切りにしてゆき…………

 

「肉は牛のブロック……そのほかの具材は…………」

 

その後も手馴れた手つきで調理を進め……

 

「これで良し……」

 

完成したカレーの鍋を手に、提督の下へと向かった……

 

 

……………………………………………………………

 

 

「な……」

 

目の前に出されたカレー……いや、自称カレーのようなナニカが、そこにはあった

 

作りたての熱々であろうそのカレーは……どうやって色を出したのかが分からないが、鮮やかな青色で……その癖、マグマのような気泡が表面にゴボゴボと浮かんでいた。

 

これが赤色と言うならば話は分からなくは無かった、赤色ならば『ああ、辛いんだろうな?』ぐらいで済んだであろう。

 

しかし青……一体どんな味がするのか、いや、そもそも人間が食べて良い代物なので有ろうかすら分からないソレに、戦慄を覚えた。

 

「ひ……比叡、これは?」

 

「はい、自慢のレシピ、比叡カレーです!!」

 

「……」

 

「さあ、覚めないうちに召し上がってください!!」

 

覚悟を決めてスプーンを手に取り、少量を掬い取る。

 

見たところ形は悪くない、カレーの具材として定番のジャガイモや人参も、綺麗に切りそろえられているし、盛り付けも、それらの具材が入っていることが分かるように綺麗に盛り付けられている。

 

色さえ気にしなければ、見事なカレーだったであろうソレを口に入れた。

 

 

 

 

「な……なんだ!?」

 

瞬間、提督の目の前に暗い洞窟が広がっていた。

 

その洞窟の奥から……ナニカが這い出てくる……

 

「何が起っている……一体何が!?」

 

気味の悪い触手をはやした名状しがたい化物が……洞窟の奥から手招きして……

 

 

「……いとく…………提督!!」

 

「はっ!!」

 

誰かに肩を揺さぶられる……見れば、そこは先ほどまでいた洞窟ではなく、見慣れた執務室の光景が広がっていた。

 

「……榛名、どうして此処に?」

 

「大丈夫ですか、提督!!」

 

比叡姉様が提督に料理を見てもらうって聞いて、嫌な予感がしたので駆けつけましたが……と榛名が言う。

 

どうやら先ほどまでのは幻覚だったようだ……一歩間違えれば、永遠の旅に出る間際だったが、スプーンの先端しか口にしていなかったため、何とか帰ってこれたようだ。

 

「どうしたんですか、提督?」

 

一連の流れを見てもなお、状況が理解できない比叡が容赦の無い追撃を仕掛ける。

 

「もう少し食べてみてください、お代わりもありますので!!」

 

「なん……だと?」

 

お代わり……だと?

 

バカな……一口食べただけでSAN値がガリガリと削られてゆくような代物だったというのに…………ソレがまだ大量にあるだと!?

 

駄目だ……これは……勝てない!?

 

 

「提督、逃げてください。」

 

「……榛名?」

 

そむけた顔を上げると、覚悟を決めた面持ちの榛名が……まさか!?

 

「榛名が時間を稼ぎます……提督はその間に逃げてください!!」

 

「や……やめろ、榛名!!帰ってこれなくなるぞ!!」

 

「榛名は……榛名は大丈夫です!!」

 

そういうと、榛名は今しがた俺を打ちのめしたカレーに向き直り……

 

「榛名、参ります!!」

 

「榛名ぁぁぁああああああ!!」

 

雄たけびを上げながら、カレーに向かって駆け出した榛名を、俺はとめることが出来なかった。

 

榛名は勢いのままスプーンを手に取ると、カレーを救い、そのまま口に…………

 

 

 

 

……………しばらく、お待ちください……………

 

 

 

 

 

「榛名……お前の犠牲、無駄にはしないぞ!!」

 

勇猛果敢にあの怪物(カレー)に挑みかかり、女性として致命的な光景を晒してもなお、苦行(食事)を続けた彼女の犠牲を無駄にしないためにも、俺は執務室から逃げ出すのだった…………

 

 

 

 




仕事終わりの妙なテンションで書き上げてしまった、後悔はしていない。


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さらば提督、暁に死す!!(後編)

意見や感想、誤字などあれば教えていただけると嬉しいです。


「提督~!!」

 

背中から迫る声を無視して、一心不乱に走り抜ける…………アレに捕まってしまえば最後、次の日の朝日を見ることは叶わなくなることだろう。

 

「待ってください~!!」

 

曲がり角を曲がって、視界から外れた瞬間、近場の部屋に飛び込んで扉を閉めた。

 

「えっ……ちょっ、提督!?」

 

「すまん叢雲、少し部屋を借りるぞ!!」

 

突然部屋の中に突入してきた提督に驚いた叢雲に説明するまもなく、扉に耳を当てる……

 

足音が部屋の前を過ぎて遠ざかってゆく…………どうやら上手く撒いたようだ。

 

「あ、アンタ……一体なにが「話は後だ、すぐさま鎮守府全体に避難警報を発令するんだ……あ、あと化学処理半を呼んでくれ、鎮守府でバイオテロが発生したとな。」ハァッ!?」

 

あきれ返ったように目を細める叢雲……どうやら彼女は事態の深刻さを理解していないようだ。

 

「良いか叢雲、事態は一刻を争う……今すぐ、駆逐艦から順番に鎮守府から退避するように警報を出すんだ、その後は化学処理半を呼んですぐさまあの劇物を処理してもらうんだ!!」

 

「いやいや、何があったのよ。」

 

「もう良い、俺が呼ぶ……劇物を処理するには…………何処に連絡すれば良いんだ!?」

 

すっかり混乱している提督を横目に、叢雲は部屋の隅においてあった艤装を探る。

 

「とりあえず……落ち着きなさい!!」

 

「ひでぶっっ!?」

 

何時もの如く、提督の頭を酸素魚雷でもって叩いたところで、頭を抱えて転げまわる提督の前で仁王立ちし、提督を見下ろす。

 

「何があったのか、一から、しっかりと、説明しなさい!!」

 

「…………はい。」

 

ようやく落ち着きを取り戻した俺は、叢雲に、執務室で起きた悪夢について語るのだった…………

 

 

第3話『さらば提督、暁に死す!!』(後編)

 

 

一方その頃、比叡は……

 

「……見失ってしまいました…………」

 

提督の姿を見失った後、一通りの場所を回って執務室まで戻ってきたものの、そこには先ほど、自分のカレーを口にした後、ぐっすりと眠ってしまった榛名以外の姿は見えなかった。

 

「提督……なぜ比叡から逃げるのですかぁ~!?」

 

執務室に比叡の声が木霊する……とそこで、執務室の扉が数回叩かれた。

 

「提督、第1艦隊が帰還したぞ……ん?」

 

「長門さんですか……提督なら行方知れずです…………」

 

扉の向こうから現れたのは長門率いる、金剛、飛龍、陸奥、翔鶴、加賀の第1艦隊の面々だ……丁度出撃が終わって帰島したところだったのだろう。

 

「行方知れず……だと…………どういうことだ!?」

 

提督が行方知れずと聞き、あわてて比叡に詰め寄る長門……彼女の脳裏では司令が何者かによって今、連れ去られている光景が浮かんでいた。

 

「ち、違いますよ!?行方知れずというか、逃げられたというか!?」

 

「長門、落ち着くネ……比叡チャン、それはどういうことデスか?」

 

比叡に詰め寄る長門を制したのは、比叡と似たような衣装を着た艦娘……彼女の姉の金剛だった。

 

彼女もまた、提督が行方知れずと聞いてすぐに詰め寄ろうとした一人ではあるが……部屋の片隅で、死んだように眠る榛名の姿と、比叡の「逃げられた」という発言から何かを感じ取り、早期に落ち着きを取り戻していた。

 

「それがですね……提督にお夜食を……「NOッ!?」」

 

お夜食と聞いた瞬間、執務室の扉に向けて猛ダッシュをかけようとした金剛を、翔鶴と加賀が制する。

 

「逃がしません。」

 

「こ、金剛さん?一体どうしたんですか?」

 

金剛のただならぬ様子に、反射的に行動を止めた加賀と、それに続いた翔鶴……金剛の行動から見て、この状況に心当たりがあるであろうことは察しがついたので、残りのメンバーが金剛を問い詰めだす。

 

「金剛さん、貴方、なにか心当たりがあるの?」

 

「答えはYESね……アノ……比叡チャン?」

 

「なんですか?お姉さま!!」

 

「ソノ……夜食は比叡チャンが?」

 

「はい!!お姉さまにお褒めいただいたあのレシピ!!提督のためにちょっと改良してお出ししました!!……のですが…………」

 

「OH MY GOD…………」

 

提督に逃げられてしまいました、と語る比叡に対し、頭を抱え蹲る金剛。

 

「こ、金剛さん……まさかとは思いますけど……」

 

「あのカレーが提督が原因で提督が逃げた……と?」

 

「翔鶴、そのまさかネ……ついでにあっちで倒れている榛名も、それが原因ヨ……」

 

忘れもしない……それはかつて比叡が着任した当初の話だ。

 

再会を喜ぶ比叡が、自分たちのために、と自慢のカレーを振舞ってくれたことがあったのだが……

 

 

 

 

「比叡お姉さまのカレー……榛名、感激です!!」

 

「ふふっ、嬉しいですね、ですが私はカレーには煩いですよ、お姉さま?」

 

そう意気込んで、食した一口目……霧島が壊れた。

 

「こ、これは、今まで体験したことが無い味で、一体何の食材を使ってぐふぅ。」

 

その後は延々と何かの計算式を呟きだす霧島、ふと隣を見れば涙目全開の榛名の姿が……

 

「あ、あれ?二人とも、どうしたんですかぁ!?」

 

何が起ったのか、ひょっとして自分のカレーは何か駄目だったのだろうか?

 

事実としてその通りなのだが、このときの比叡には思いもよらない事態だったようで、徐々に目に涙を浮かべ始めた。

 

「だ……大丈夫です、美味しいです……よ?」

 

そんな様子の比叡を気遣い、その一言を最後に、榛名は倒れた。

 

「は、榛名チャン……」

 

心優しい榛名には、比叡の料理を不味いということができなかったのだろう……最後の力を振り絞って告げたであろうその一言に、どれだけの覚悟があったのだろうか?

 

「こ、金剛お姉さま?」

 

見れば不安そうな表情で、比叡が金剛を見つめていた。

 

「これは、逃げるわけには行かないネ……」

 

覚悟は決まった、妹がアレだけの覚悟を見せたのだ……ならば、彼女たちの姉である自分が逃げるわけには行かないだろう。

 

「比叡チャン……頂くネ。」

 

とうとう一口……瞬間的に口の中に広がる冒涜的な味に怯んだのは一瞬、負けじとカレーを口に流し込む。

 

何度も意識を手放しそうになった……何度も逃げ出したくなった……しかしその度に思い出す…………

 

あまりにもショッキングな味で現実逃避に陥ってしまった霧島の無残な姿を。

 

そんなカレーに果敢に挑み、倒れた榛名の姿を。

 

そして何より……今か今かと、最愛の姉からの感想を待ち望む比叡の姿を…………

 

だから金剛は倒れない……妹たちの姿が自分の背中を後押しする限り…………

 

だって……私は彼女たちの『おねえちゃん』なのだから…………

 

 

「オ……オイシイネ……」

 

 

その一言を聞き、満面の笑みを浮かべる比叡の笑顔を最後に、金剛の意識は、奈落の底へと沈んでいった…………

 

 

 

「と、言うことがあったのネ……」

 

「…………」

 

金剛の語る話に一同唖然、それはそうだろう。

 

まさか料理が原因で生死の境をさまよう羽目になるなんて…………

 

「はっはっは……そんなわけが無いだろう?」

 

「金剛さんは、ジョークのセンスがありますね。」

 

この期に及んで、金剛の話を信じられない一同は、比叡の手にする小鍋に向かってゆく……

 

「どれ、私が試してやろう……比叡、少し貰っても良いか?」

 

「そうですね、余らすのももったいないですし…………せっかくなので食べてみてください!!」

 

そういって小さめの皿にカレーをよそう……その皿を受け取った金剛以外の一同がスプーンを握り締める。

 

「綺麗なものじゃないか、これの一体何処がぐふぅ。」

 

「あら長門、どうしたのげほっ。」

 

「瑞鶴、そんなにあわててどうしくふっ。」

 

「…………」

 

「山口司令?どうして川の向こうから手なんて振っているの?」

 

 

次の瞬間、積み上げられる屍の数々……後に残ったのは、血の気も引くような真っ青なカレーだけだ。

 

 

……………………………………………………………

 

 

「と、いうことがあってな?」

 

「……ふぅん…………」

 

正面に仁王立ちされたまま、叢雲に事の顛末を話し終える。

 

「アレはもはやカレーじゃない、口にした瞬間辛味とか苦味とかいろんな味が一斉に襲い掛かってきた。」

 

「…………」

 

目を閉じて静かに話を聞く叢雲……やがて彼女は目を開くと、俺に語りかけた…………

 

「で、アンタは逃げてきたと。」

 

「ああ……」

 

「アンタさ……それで良いわけ?」

 

 

 

「どんな物であれ、比叡は一生懸命作ってくれたんでしょう?」

 

 

 

「え……」

 

その一言が俺の胸に、深く突き刺さった。

 

「カレーの仕込みって、それなりに手間もかかるわけだし……」

 

考えてみればその通りだった、完成形はどうあれ、それなりに手間がかかっていたであろうカレー……彼女はきっと…………一生懸命作ってくれたのだろう。

 

「どんな物であれ、気持ちは篭っているはずよ……」

 

「その思いから、逃げて良いのね?」

 

そうだ……彼女が一生懸命作ってくれた料理から逃げるという事は、その料理に込められたであろう思いから逃げる事に他ならない。

 

 

……そんなことが、あって良い筈が無い。

 

「料理人、失格だな……俺は。」

 

いや、アンタ提督でしょうが。 との叢雲のツッコミは無視しつつ、俺は顔を上げる……

 

「ありがとう、叢雲……大切なことに気付かせてくれて。」

 

「別に……アンタがどうしようと、アンタの勝手だし?」

 

まあ、感謝するって言うのなら、貰っておくわ。

 

叢雲の一言に後押しされた俺は……決戦の地へ向けて、歩みを進めるのだった…………

 

 

 

「な……なんだ、これは!?」

 

比叡の足取りを追い、執務室へと戻った俺が見たのは……

 

無残にも地に伏し、ピクリとも動かなくなった第1艦隊のメンバー達だった。

 

「なんてこった……誰も生きて居ないのか!?」

 

「テ……テートク?」

 

足元から弱々しい声が聞こえた。

 

「こ、金剛か!?」

 

心なしか、げっそりした様に見える金剛……彼女の手にはスプーンと大きめのカレー皿が握られて……

 

「お前……まさか食ったのか!?」

 

「全部は食べきれまセンでした……でも、後一杯までには……!」

 

「馬鹿お前、何て無茶を!!」

 

腕の中に金剛を抱き抱え、必死に呼びかけ続ける……しかし、徐々に反応が薄くなってゆくのが、俺には分かった。

 

「無茶でも良いデス……だって、私は…………」

 

あの子の、お姉ちゃんデスから………

 

誇らしく言い切り、金剛は力尽きた……また1つ、あの劇物に挑まなければならない理由が出来てしまった……

 

「あ、提督! 何処に行ってたんですか!!」

 

「少し急用を思い出してな……カレー、まだあるかい?」

 

「は……はい!!」

 

すぐに準備しますね、と満面の笑顔で答えた比叡は、鼻歌を歌いながらカレーを準備する……

 

心境的にその鼻歌は、鎮魂歌のようにしか聞こえなかったが…………

 

「さあ、提督!!」

 

「……いただきます。」

 

全ての食材に感謝の言葉を、静かに食事の始まりを継げ、スプーンにカレーを救う……

 

「…………」

 

無言、無心、無我の境地に至った心境でもって、カレーを食べ進める……まず最初に感じるのは苦味、恐らくゴーヤの下処理の段階でワタを取っていないのだろう。

 

続いて襲い掛かるのは劇的なまでの辛味、これは……デスソースでも使ったのだろうか?

 

最後に来るのは甘みだが、前までの味の強烈さのせいで、まったく味が噛み合わない……

 

他にも酸味だったり塩味だったりといくつもの味が混沌となって襲い掛かる。

 

何度か意識が引きずり込まれそうになるが、表面上には決して出さず……そして…………

 

「ご馳走様でした。」

 

パンッ、としっかりした音を響かせて手を合わせた……

 

ふと比叡を見れば、彼女は何かを期待するようにジッとこちらを見つめている……

 

「比叡。」

 

「どうですか?」

 

数秒の沈黙の後……俺は口を開いた。

 

 

 

「不味い。」

 

 

 

そう……残酷ではあるが、それが真実だ。

 

しっかりと食べきった上で、冷静に事実を告げたところで……

 

俺の意識はとうとう、暗闇の向こうへと引き込まれた…………

 

「ひ、ヒエーーー!!」

 

幾多の屍が築き上げられた執務室の中、比叡の驚愕の叫びが木霊するのだった…………

 

…………………………………

 

 

この後、提督及び第1艦隊のメンバーは、腹痛と悪夢にうなされることとなる。

 

第1艦隊のメンバーは1週間の療養……提督と金剛、榛名に至っては2週間の療養を余儀なくされ、その間、主導者である提督と主力艦隊を失った鎮守府の機能は、暫く停止することとなった。

 

騒ぎの元凶である比叡はその間謹慎処分とされ……そして…………

 

 

「違う!! 調味料の投入はもっと後だ、勝手に投入しようとするんじゃない!!」

 

「ひ、ヒエッ!!」

 

「ゴーヤの下処理!!ワタが取れてないぞ!!」

 

「ヒエー!!」

 

朝、鎮守府内の食堂ですっかり名物と化してしまった光景を眺める金剛……

 

その視線の先には、先日の一軒を見かねた提督により、食堂の手伝いを命じられた調理エプロン姿の比叡と……その比叡を叱る提督の姿が…………

 

「比叡お姉さま……大変そうですね。」

 

「ワタシ、テートクが本気で怒ってるトコ、初めて見たヨ……」

 

修羅も真っ青な剣幕で、比叡の暴挙を制する提督……その姿を見た艦娘たちは最初のうちこそ驚いたものの、3日もすれば、またやってるな、ぐらいの感覚ですっかり慣れていた。

 

「まあ……アレも比叡チャンのことを思えばネ?」

 

普段はどんな失敗にも、比較的寛容な提督だが……今もまた、奇妙な食材?を投入しようとした比叡に、厳しい声をあげるその様子は……

 

「テートクと言うより……料理人デスネ……」

 

そんな提督の様子に、一同は今日も思うのだった。

 

 

何で、あの人は提督をやってるんだろう? と…………

 

 

 

 

 



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