バケツ頭のオッサン提督の日常 (ジト民逆脚屋)
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オッサン、提督に着任する

初めまして、逆脚屋と申します。この度友人どもの策略により艦隊これくしょんにて二次創作を書くことになりました。また、作者は原作ゲーム未プレイとなりますので、至らぬ点、お見苦しい点が多数ありますが生暖かい目で見守っていただけたら嬉しいです。
前置きはここまでにして、では始まります「バケツ頭のオッサン提督の日常」彼はこの世界でどのように生きていくのか、
お時間に余裕が御座いましたら、ご覧ください。


俺こと、五百蔵冬悟は唖然としていた。久々に取ることできた休暇が終わり、少々憂鬱な気分で会社へと向かう、今日からまた仕事漬けの毎日が始まる、そう思うと憂鬱な気分にもなるというものである。ため息として口から出そうになった憂鬱な気分を缶コーヒーで押し込みつつ、もうそろそろ見えてくるであろう会社に目を向けると、人だかりが出来ている。何があったのかと思い近くにいた後輩君に声を掛ける。

 

「おはよう、3日ぶりだなこれは一体何があったんだ?」

 

結構大きめの声で挨拶をしたのに、まるで反応がない。なのでもう一度大きめの声で挨拶をすることにした。

 

「おはようございます!」

 

すると、今度は反応してくれた。

 

「お、おはようございます主任、三連休はどうでした?」

「ああ、久々にゆっくりできたよ、まあそれはいいとして、これは一体どういう騒ぎなんだ?」

 

先ほどから思っていた疑問を口にした。 

 

「あれを見てください、とんでもないこと書いてますよ。」

そのように言われて、会社のほうを見てみると

 

「本日をもってわが社は倒産しました。社員のみんな、頑張って再就職先探してね

              みんなの社長より」

 

は?これは一体どういうことだと呆気にとられていると、後輩君が口を開く。

 

「ほら、うちの会社結構危ないとか言われてたじゃないですか。あの噂が本当だったていうことてすよ。」

 

えらく落ち着いた様子で語られた。

 

「ずいぶん落ち着いているな?」

「見た目だけですよ、内心凄く焦ってます。これからどうしよう?いや割りとマジで」

 

たしかに落ち着いているのは見た目だけのようだ

 

「主任はこれからどうするんです?」

 

すがるような目で後輩君がこちらを見てきた。

 

「俺?俺は…そうだな、帰って寝るよ。ここに居てもなにもできん」

「なんか、えらく無気力ですね?らしくもない」

「正直な話、そろそろ会社を辞めようかと思っていたところだ。」

「はぁ?そうですか、それじゃ僕も帰ります。主任の言う通りこれ以上ここに居てもなにもできませんし」

 

そう言うと、足元に置いていた鞄を拾い、駅の方角へと歩きだした。

 

「さて、俺も帰りますか」

 

そして、後輩君とは逆方向へと歩きだした。

さて、帰ってなにをしよう?さっきは寝るといったが、それもなにかもったいない気がする。そういえば、姪から面白いから是非やってみてほしいと勧められたゲームがあったな、なんといったか?そんなことを考えながら歩いていると家についた。

 

「結局思い出せずか、歳かねぇ。仕方ない、プラモの仕上げ終わらせますか。」

 

家に入り、部屋着に着替え作業部屋にしている書斎に向かう。

 

「まさかチェルノ・アルファがキット化する日が来るとはねぇ、長生きはするもんだ。」

 

まだ二十代だった頃にみた映画「パシフィック・リム」に登場した機体の内、最も旧式の重量機、初めて目にしたときには心を奪われたものだ、あのシンプルかつ特徴的なデザイン、動き、闘い方、十年以上たった今でも鮮明に覚えている。俺のお気に入りのロボットだ。

そんなことを考えながら作業をしていると、気付いた時には最後の塗装部分が塗り終わっていた。

 

「これで完成っと、いやぁ、我ながら良いできだ。なんだ?」

 

突然、目眩に襲われそのまま机へと倒れ伏し、朦朧とした意識のなかで先ほど思い出せなかったゲームの名前をなぜか思い出していた。 

 

『ああ、そういやあのゲーム「艦隊これくしょん」ていうやつだったな。』

 

そこで、俺の意識は一度途切れ、目を醒ますと何もない真っ白い空間だった。

 

「なんだここ?さっきまで俺は書斎に居たはずなんだが、つうかなんにもねぇなここ」

 

そんなことを呟きながら辺りを見渡しているとこちらに走ってくる人影があった。

 

「この度は!誠に!申し訳ございませんでした!!!」

 

なんかいきなり現れたが女の子が飛び上がり、空中で土下座に変形し、着地と同時にスキール音を立て火花を散らしドリフトしながら俺の目の前に停止し、物凄い勢いで謝ってきた。どういうことかと訳を聞いてみると、どうやら俺は彼女のミスで死んでしまったらしい。さらに詳しく訳を聞こうと目の前にいる土下座の女の子に声を掛けた

 

「申し訳ございません、私が誤って貴方に関する書類を紛失してしまい、本来死ぬ予定の無いあなたの人生を終わらせてしまいました。本当に申し訳ございません!!」 

 

つまりはこうだ、目の前の女の子は新米の神様?であり新人にありがちなミスをして、俺は死んだらしい。どうにもやりきれないね、まったく、いやホントに、とりあえず目の前の土下座に声を掛ける。

 

「いやまあ、やっちゃったもん仕方ないし、大事なのはミスをどう挽回するかだよ。次はこういうことが無いように頑張ってね」

 

ミスを責めて意気消沈されて、また、同じミスをされても困るし、まあ落とし処してはこんなもんだろう。

 

「本当に申し訳ございません。お詫びになるかどうか判りませんが、貴方を別の世界に転生させていただきます。」

 

転生?マジで?ウソだろ。そんなマンガみたいなこと出来るのかね?興味あるし話だけでも聞いてみるか

 

「ちなみに、どんな世界に転生出来るんだ?ハードな世界は勘弁して欲しいんだが」

 

すると、目の前の土下座の女の子の神様は、ようやく顔をあげた

 

「はい、私の権限で転生させられる世界は多くありませんので、そのなかで一番安全な世界となりますと、「艦隊これくしょん」という世界になります。」

 

マジか、ゲームの世界に転生か、有りがちな展開だな。

 

「ああ、じゃあそれでいいよ、それじゃお願い」

「はい、では転生の前に特典の方を決めていただきます。」

 

わお、特典まで貰えるなんてますます有りがちな展開だ、この機会を見逃す手はないな。

 

「それじゃあ、アーマードコア頂戴、それとセットで整備と製造に関する技術」

 

と要求すると

 

「申し訳ございません!その特典は先輩方に独占されてまして、私が用意できるのはそれ以外になります。」

 

うん、困ったことになった。どうするか?ああそうだ、艦隊ということは舞台は海のはず、ならばあれしかない。

 

「じゃあ、パシフィック・リムに出てくるチェルノ・アルファ頂戴、それとさっき言った技術関連」

「はい、それなら大丈夫です。ではこれから転生となりますがよろしいでしょうか?」

「うん、じゃあお願い」

「ご迷惑をおかけしました、それではよき転生ライフを!」

 

そして、俺はまた酷い目眩に襲われた。

 

「提督が鎮守府に着任しました。これより鎮守府の立て直しを開始します!!」

 

えっ?ちょっとなにそれ聞いてない!

 

 

 




ここまでお読み下さり、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか?一話目ですがかなり長くなってしまったかもしれません。次のお話から鎮守府に着任します。また次の更新は今月中には出来上がると思います。
では、次のお話でお会いしましょう✨


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オッサン、艦娘に会う

どうも、逆脚屋です。バケツ頭のオッサン提督第2話です。今回はどうやら艦娘に会うようです。
それでは、「バケツ頭のオッサン提督の日常」第2話始まります!


目を覚ますと、そこは港だった。潮の香りが香るまごうことなき、港だった。

 

「ここが鎮守府か、想像していたのよりだいぶ違うな、もう少し軍施設のようなものかと思っていたんだが」

 

着任した鎮守府は、想像と違い軍施設というより古きよき港といった感じだった。

 

「まあ、こういう感じの方が緊張しなくて良いのかも知れんねぇ?さて、何処に行けばいいのかまるでわからん、困ったもんだ」

 

誰に言うでもなく一人寂しく呟いていると、ポケットの中にある携帯が着信を報せる。

 

「ん?電話、誰からだ?もしもし、五百蔵です。」

「ああ、良かった繋がりました。私です。新米です。」

 

新米ちゃんだった。つうか新米ちゃんに電話番号教えたっけ?

 

「これでも、神様ですからこのくらい当たり前です。」

 

ということらしい

 

「それよりも、五百蔵さん早くそこから移動してください。貴方みたいな大男がぼっと突っ立っていたら通報されますよ?」

 

余計なお世話だ、好きでこんな図体になったんじゃないやい

 

「移動しろと言っても、何処に行けばいいのかさっぱりなんだが?」

「ええ、ですから私が案内します。あと特典の機体のことですが、貴方が使おうと思えばいつでも使えますよ。ああ、でも今は駄目ですよ、騒ぎになりますから」

 

分かってるよそんなこと、はしゃいでるようにでも見えたのかね、もしそうだとしたら、俺もまだ若いということかね

 

「それなら、さっさと案内してくれると助かる。ここは海風のせいか結構冷える」

 

気温は低くはないが、体感温度はかなり低めだ。とっとと屋内に行って、熱いコーヒーを飲みたい、酒でもいい。

 

「はい、それではご案内致します。五百蔵さんから見て右手にある建物があなたが着任する『北海鎮守府』です。」

 

案内された方を見てみると、建物があった、たしかに建物はあった。

 

「プレハブだと!?」

 

そう、そこにあったのは工事現場等によくあるプレハブ小屋だった。

 

「おい、新米ちゃんさすがにこれは冗談だろう?」

 

若干苛立ちながら、新米土下座神に問うと信じられない答えが返ってきた。

 

「いやいや、マジですよ。見た目に惑わされてはいけません風呂、トイレ完備、最大四人まで入居可能の高性能プレハブです。」

 

いやいや?結局プレハブじゃないですかヤダー

 

「結局プレハブじゃん!どうしろってんだ!あっ!鎮守府の立て直しってこういうことか?!チクショウ!!」

 

軍施設なのにプレハブ小屋っていろいろ問題がないか?そもそもこんなんなら最初から建てるなよ。

 

「これには理由がありまして、この海域は敵が少ないんですよ。まあ、居たとしても戦いを好まなかったり、こちらに対して友好的な関係を築いていたりと、そんなかんじでただ敵だといって倒す訳にはいかないんですよ。」

 

なるほどね、そういうこと、するってぇと、この鎮守府は

 

「もしもの時のための防衛のためってわけだ、それでもプレハブは無いと思うが」

「まあまあ、そろそろ鎮守府に着きますよ、ほら早く!早く!」

「わかったわかったから、そう急かすな。それじゃ切るぞ」

「はい、ではまた後程何かありましたらいつでも連絡をください。」

 

そういうと電話は切れた、さて行くかね。そういや姪が駆逐艦娘が可愛いとかなんとか言ってたが、まさかね、軍艦が人の姿になってるとかそんなことがあるのかねぇ?

 

五百蔵&新米ちゃんside end

 

??side start

今日、この鎮守府に提督が着任すると聞いて私は楽しみ半分緊張半分といった心境で今か今かと、提督が着任するのを待っていた。優しい人だったら良いな、怖い人だったらどうしよう、女の人かな、男の人かなとか考えながら、この北海鎮守府であるプレハブ小屋を隅々まで掃除していました。すると、外から男の人の声が聞こえてきました。いつ入室されてもいいように、身だしなみを整え、一番に挨拶できるよう扉の正面から少し離れた位置に待機する、すると、人影が鎮守府の扉の前まで来て扉に手を掛け開く、

 

「初めまして五百蔵提督、本日より提督の秘書艦を勤めさせていただきます駆逐艦『吹雪』です。どうかよろしくお願いいた・・しま・・・す」

 

私はつい唖然としてしまった、だって扉をくぐって入って来たのは、屋根に頭が当たるんじゃないかというほどの長身の男の人だったのですから。

 

吹雪side end

 

五百蔵&吹雪side start

 

自分にとって小さい扉をくぐり鎮守府の中に入ると、元気のいい声で挨拶をしてくる『女の子』がいた。そう『女の子』がいたのだ、俺の腰程の身長でどう見積もってもか中学生いや、下手をしたら小学生にも見える学生服を着たどうみても軍人には見えない『女の子』がいる、しかもこの子、今自分のことを『駆逐艦』と言わなかったか?どういうことなの?とか考えていたら、目の前の女の子が声を掛けてきた。

 

「あ、あの、五百蔵提督ですよね?」

 

こちらを見上げて少しつらそうだったので、しゃがみこみ目線を出来る限り合わせてから話し掛ける。

 

「ええ、そうですよ、君は吹雪君でいいかい?」

「はい!改めまして本日より五百蔵提督の秘書艦を勤めさせていただきます駆逐艦吹雪です。よろしくお願いいたします。」

 

どうやら、目線を合わせて話し掛けることによって緊張が和らいだようだ、昔から子供にはこの手に限る。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。ところで一つ聞きたいんだがいいかい?」

「はい!なんなりとお聞きください!」

 

うん、やる気に満ち溢れたいい返事だ、この子は真面目らしい

 

「君はさっき自分のことを『駆逐艦』と言ったがあれは一体どういう意味だい?」

 

もし彼女が自分のことを人間ではなく、『駆逐艦』という名の兵器だと思っているのだとしたら俺は彼女に言わなければならない、君は兵器ではなく人間だと、その上で軍の本部に殴り込みをかけよう。子供を兵器として扱うような輩は死んだがマシだ。とこんな物騒なことを考えていると吹雪君が口を開いた

 

「えっと、提督もしかして『艦娘』をご存知ないのですか?」

「なぁにそれぇ?」

 

思わず変な声が出てしまった。

 

「わかりました、では不肖この吹雪が『艦娘』についてご説明します」

 

『艦娘』についての説明は長くなるので簡単にまとめる。

深海棲艦と呼ばれる現行兵器がほとんど通用しない謎の存在により人類は海洋における支配力を失い、それと同時に人類は海洋という地球上もっとも広大なフロンティアを失い大ピンチ陥る。深海棲艦を倒そうにも奴ら一隻を沈めるのにこちらの艦隊一つが沈むというどう計算しても釣り合いの取れない結果となる、各国が頭を悩ませていた。その時である、変態技術者国家日本のとある変態技術者(キチガイ)がこんなことを言い出した。

 

『こっちの武器が通用しないなら、あいつらの武器使えばいいじゃん!ヲ級たん、まじペロペロ』

 

とこんな安直かつキチガイじみた発言に対し各国は

 

『それだ!!お前頭良いな!!あと一番はリ級たん!異論は認めない!!!』

 

とこんな反応だったらしい、そこで自分たちが撃沈した深海棲艦を研究し、さまざまな苦難(キチガイ共)を乗り越え生み出されたのが、吹雪君達『艦娘』らしい、なんか一部頭のおかしいのが混じっていたが良しとしよう。キチガイ共の発言の降りを説明している吹雪君可愛かったし

 

「私からは以上となります、提督からはなにか質問はございますか?」

「ん~、俺からは特にないかな?」

「しかし、提督これは知ってないとおかしい常識ですよ、どうして知らないんですか?」

 

あんの新米土下座神、説明不足もいいところだろうこれ、今度会ったら土下座の神として崇めてやっかんな、覚悟してろよ、自分が土下座してる御神体を山のように量産されりゃいいんだ。

 

「提督?」

「ん?ああ、ごめんごめん、ここに来るまでいろいろあってさ、そこら辺疎いのよ、俺」

「はぁ?そうですか」

「まあ、あれだ、これからよろしくね吹雪君」

「こちらこそよろしくお願いします、提督」

 

そう言って、頭をペコリと下げたやはりこの子は真面目な子のようだ

この日から、鎮守府としての活動を始めた北海鎮守府、この小さな小さな鎮守府がとんでもない騒動に巻き込まれることになるのは、まだ先のお話

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?ようやく鎮守府に着任したオッサン提督を待ち受ける運命とは!そしてチェルノ・アルファはいつ使うのか!!作者にもわからなくなってきました!!皆様ここまでお読みくださりありがとうございます。それでは第3話でお会いしましょう。


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オッサン、禁煙する

どうも、逆脚屋です。バケツ頭のオッサン提督第3話です。今回はどうやら禁煙するようです。
では始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」第3話、お楽しみください!


無事鎮守府に着任し、秘書艦の吹雪君にも挨拶したし次はお仕事だ!

 

「というわけで、早速お仕事を始めよう。吹雪君、俺は何をすればいいんだい?」

 

仕事を始めようとしても、何をすればいいのか?さっぱりだ、なので隣にいる吹雪君に聞いてみる。

 

「仕事、ですか?特にはありませんよ。そもそも本部からうちに指令がきたことなんて一度もありませんから」

 

なん・・・だと・・ 指令が一度も無かっただと、それってまさか?

 

「たぶん本部はうちの存在を忘れてるんじゃないですかね。」

「うん、俺もそんな気がしてきたよ、さあほんとどうしようか?」

 

いや割りとマジで、どうしよう?と考えてもなかなか考えがまとまらないのでイライラしてきた、煙草でも吸おう。その前に吹雪君に聞かないと、

 

「えっと、吹雪君ちょっと聞きたいんだが喫煙所は外かな?」

「え?あっはい、出入口の左側にある自販機の横に灰皿を設置してます。」

「うん、ありがとう、それじゃ俺煙草吸ってくるから何かあったら呼んでね。」

「はい、提督ごゆっくりどうぞ」

「あれ?君は煙草止めろとか言わないんだ」

 

いつも周りから言われてきたことを聞いてみると

 

「できれば止めて欲しいデスヨ(ニッコリ)」

「あ、スンマセン、努力します。」

「ヨロシクオネガイシマスネ(ニッッコリ)」

「hai!」

 

とてもいい笑顔でお願いされた、怖い怖い、可愛らしい顔立ちだから余計に怖い、とっとと行こう。

鎮守府と言う名のプレハブ小屋から出て、喫煙所へ向かうその途中、電話が掛かってくる。

 

「ん、電話?誰か・・ら・・・だ」

 

取り出した携帯の画面には『新米ちゃん』と表示されていた。

 

「うん、間違い電話だな」

 

携帯の電源を切る、だがしかし、俺は忘れていた、相手は新米だの、土下座だの言われているが神なのだ。携帯の電源を切った程度でなんとか出来るほど甘い相手ではなかったのだ。

 

『どうして出てくれないんですか!』

 

不思議パワーで強制的に携帯を通話モード(スピーカー)にした新米ちゃんが開口一番に叫んだ。

 

『着信に気付いてないならまだしも、気付いた上で電源切るとか、人としてどうなんですか!!?』

「あ~、ごめんね~ついうっかり手が滑っちゃってさ、HAHAHA 」

 

わざとらしく答えると

 

『まったく、それなら仕方ないですね、次から気を付けて下さいね。』

 

マジか?今ので騙されやがった、オッサン、新米ちゃんのことが心配になってきたよ。とか考えながら煙草に火を点ける。

 

『あれ?五百蔵さん煙草吸うんですか?』

「ああ、吸うぞ、つうか電話越しでよくわかるね?」

『神様ですから当然です!それよりも駄目ですよ!煙草は百害あって一利なしですよ!今すぐ止めないと駄目ですよ!』

「うん、それ吹雪君にも言われた」

『ほらみなさい、この機会に禁煙してください、健康の為です。それに吹雪さんに煙草の臭いが移ったら駄目でしょう!』

 

たしかに、今は昔と違って年頃の娘っ子と半共同生活なのだ、煙草の臭いなんざ移ったら事だな、オッサンの評価はどうでもいいが吹雪君の評価が下がるかもしれん、それはダメだな、箱を見たらちょうど最後の一本だし、この際だ禁煙するか。

 

「わかったよ、これで最後だ。」

『本当ですね?約束ですよ!』

「ちょうど最後の一本だしな、そういえば新米ちゃんよ、なんの用で電話掛けてきたの?」

 

先程から疑問をぶつけてみる。

 

『ああ!危なく忘れる所でした、五百蔵さんに伝え忘れたことがあって』

 

どうやら、ちゃんと用があったらしい。

 

「ん?なんかあったの?」

『はい、艦娘について伝えることを・・「吹雪君に聞いた」え?』

「吹雪君に聞いた。」

『え?』

「吹雪君に聞いた。」

『あ、あはは、それでは!!私はこれで!』

「あっ、待ちやがれ!!あんの土下座娘切りやがった」

 

マジで土下座の神として奉ってやる、覚えてろよ。

煙草の火を消し、灰皿に捨て鎮守府に戻る。

 

「ただいま~」

「お帰りなさい、遅かったですね?」

「ああ、電話が掛かってきてね、それで」

「そうですか」

「あっそれと、吹雪君、俺煙草止めるよ。」

「はい!禁煙頑張ってくださいね!」

 

満面の笑顔でそう言われ、やっぱり煙草を止めて良かったと思った。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか、読み辛くはありませんでしたか?いまだにバケツ頭のバの字もでてきません、なぜだ!そろそろタイトル詐欺とか言われそうでビクビクしています。次辺りでチェルノ・アルファを出したい!
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、設定

どうも逆脚屋です。今回は設定集になります。続きを期待された方には申し訳ございません。
それでは!「バケツ頭のオッサン提督の日常」設定集始まります!


五百蔵 冬悟(いおろい とうご) 

役職 北海鎮守府提督

性別 男

年齢 35

身長 約2m チェルノ・アルファ装備時 約4m

体重 約100kg

体脂肪 ほぼ一桁

人種 日本人

装備 工具、拳骨、チェルノ・アルファ

趣味 プラモ、料理、釣り等

特典 チェルノ・アルファ、機械整備、イェーガー製造、整備技術等

 

言わずと知れた今作の主人公のオッサン、新米土下座神のミスにより死亡するが後に『艦これ』の世界に転生する。基本的に性格は温厚で働き者、秘書艦の吹雪を自分の娘ように大切にしている、そのため彼女を傷付けるモノに対しては一切容赦せず叩き潰す。

長い間独身だったため家事は一通り出来る。料理に関しては結構な腕前であり、北海鎮守府で出る食事は大体このオッサンが作っている。

また、手先も器用で特典による技術もあり吹雪の装備は彼が整備している。

若い頃はかなり荒れていた時期があったらしく、故郷では彼の名前を聞いただけで失神する人が多数いる。

近接格闘はかなりのものだが、反面、銃や砲の扱いは残念。軍本部に対して疑念を抱いている。

甘党 アーマードコア好き 禁煙中

 

チェルノ・アルファ

映画『パシフィック・リム』に登場するロシア製第一世代イェーガー

パワーと装甲に特化した重量機。バケツを頭に被ったような独特なシルエットを持つ。

本来は100メートル近い機体を二人で操縦するが、この世界のイェーガーはパワードスーツに近く、使用者の動きがそのまま表れる。

 

駆逐艦 吹雪(くちくかん ふぶき)

役職 北海鎮守府秘書艦

性別 女

年齢 十代

身長 約160cm

体重 「沈めっ!」ギャアアアア!

人種 艦娘

装備 12、7cm 連装砲、61cm 三連装魚雷、高性能レーダー等各種探査装備

趣味 散歩、食べ歩き、提督で遊ぶ等

 

北海鎮守府の秘書艦であり五百蔵の大切な娘、向上心が強く毎日訓練を欠かさない頑張り屋、五百蔵のことはなんだかんだいって慕っており、仮に自分に父親が居たらこんな感じなんだろうなと思っている。

過去にあるミスを犯しその事が原因で北海鎮守府に配属された。そのミスがトラウマになって戦えない。

その代わり、探査系の技能に長けている。そのため戦闘ではオペレーターに徹している。

最近、料理に興味が出てきたらしく、提督に料理を習っている。二人揃って甘党 食いしん坊

装備は五百蔵が特典の技術で作った

 

新米ちゃん(しんまいちゃん)

役職 神様

性別 女

年齢 不明

身長 約150cm

体重 「見ないでください!」アッハイ

人種? 神

趣味 食べ歩き、AMIDA 育成

得意土下座 空中変形土下座、ドリフト土下座等

 

五百蔵を死なせた張本人なにかと抜けている。

身長が低いことを気にしており、それで弄るとすぐに泣く。

数多くの土下座技を持っている。

最近、五百蔵の特典に対し、なにか策略を練っている。

辛党 AMIDA 大好き!!

 

北海鎮守府(ほっかいちんじゅふ)

北海海域にある鎮守府、在っても無くてもなにも問題のない鎮守府。そんな扱いの為、予算も設備もまともなものが無い、明石も居ねぇ!間宮も居ねぇ!大淀なんざ影も形も無ぇ!! 別名 プレハブ鎮守府

 

技術関係

原作より現代寄りだが大差は無い。五百蔵はそのことを知らない。どうやら、鎮守府ごとに技術力に差があるようだ

 

深海棲艦

突如現れた謎の存在、現行の兵器がほぼ通用せず、倒すには艦娘が必要不可欠、どうやら好戦派と反戦派に分かれているらしい

 

????

謎の存在、艦娘とも深海棲艦とも違う。はっきりしていることは五百蔵の敵であるということ

 




いかがでしたでしたか、少しでもこの世界のことが皆様に伝われば幸いです。
それでは次回お会いしましょう!


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オッサン、仕事をする

どうも逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第4話です。
まずは、お詫びを、前回第3話におきまして次回は戦闘回と予告しましたが、予想以上に煮詰まりまして日常回を挟んで次回を戦闘回にすることとなりました。
戦闘回を楽しみにしていた方には申し訳ございません。
それでは!「バケツ頭のオッサン提督の日常」第4話!始まります!


俺がこの世界に転生し、北海鎮守府に着任してから早くも一ヶ月が過ぎた。その間特にこれといった騒動も無く平和な時間が過ぎていった。

 

「平和だねぇ、吹雪君」

「そうですね提督、平和ですね」

 

本当に平和だ、戦争やってるとはとても思えん。

吹雪君と執務室で茶を飲みながら最近本部から送られてくるようになった書類を片付けていた。

 

「しかし、本部の連中は暇なのかね?」

「どういうことです、提督?」

 

俺の呟きに吹雪君が疑問を投げ掛けてくる。

 

「いやさぁ、今片付けてる書類の事なんだけど、どう見ても指令とか業務連絡とかの類いじゃないんだよねぇ」

「というと?」

「最初は軍の秘密の暗号文かと疑ったんだけどねぇ、これどう見てもそんな立派なもんじゃないよ」

「ちなみに、どんな内容なんです?」

 

俺の言葉に好奇心が刺激されたのか、吹雪君が妙にキラキラした目でこちらを見てきた。可愛い

 

「ん~、そうだねぇ。百聞は一見にしかず、実際に見た方が早いか、はいどうぞ」

 

処理と言う名の流し読みが終わった書類を手渡す。

 

「どれどれ?どんなこ・・と・・・が」

 

書類を読んだ吹雪君が固まった、まあ仕方ないね内容が内容だし、ちなみにどんな内容かというと

 

『家の嫁が可愛すぎてツライ』

『まな板にしようぜ!』

『ワレアオバ!ワレアオバ!』

『ミッドウェー海域にて妖怪「ボーキおいてけ」出現』

『アイエエエ!ケンペイ!ケンペイ!ナンデ!!』

『アオバァ、ミチャイマシタァ』

『これ凄いまな板だよ!さすが軽空母のお嬢さん!!』

『まあ、そうなるな』

 

等様々な内容もへったくれ無い書類が送られてくるようになったのだ。これが全部じゃないんだけど、吹雪君が見ても問題無い内容の書類は全体の半分もない、そんな書類を俺が処理しないといけない、しかもちゃんと判を押してサインをし、本部に再送しないといけない。ナニコレいじめ?新人いびりかなんかなの?なんなのもう!

 

すると、隣で紙の落ちる音が聞こえたのでそちらに目を向けると、顔を真っ赤にした吹雪君が書類を持った状態で、なにかを呟きながら固まっていた。

 

「えーと、吹雪君?」

「ハダカ、ハダカが バインバインノハダカガガガガ」

「うわぁ」

 

駄目だ、完全にショートしてる。しかし裸って、いったい何が書いてあったんだ?

 

「どっこらしょっと」

 

とりあえず、書類を拾って内容を確認してみる。

 

「Oh !モーレツ!!てか?喧しいわ!」

 

そこには、『うちの嫁がエロ過ぎて毎日が充実です!!』の一文とえらい巨乳の金髪の姉ちゃんがほぼ全裸でこれまたえらくエロいポーズで写った写真が載っていた。なんだこれ、ただの自慢じゃねぇか!?

 

「お前ら、ナニやってんだ!?仕事しろ!」

「ハダカカカカガガガ」

 

おおぅ、初々しい反応だこと、オッサンもあと十年若かったらこんな反応だったかもな、てかこんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 

「うわぁ!吹雪君帰ってきなさい!」

「バババインバインノノノノハハハダカガガガガ!オ・ノーレ!!チチデカガーーー!!!」

「吹雪君ーーー!!」

 

とりあえず、この日は吹雪君の復旧で終わった。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?北海鎮守府の仕事風景は?
だいたい事務仕事はこんな感じです。ホントこの世界の本部はナニやってるんでしょうね。
それでは!また次回お会いしましょう!
次回こそ戦闘回です!!


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オッサン、出撃する 

どうも逆脚屋です。バケツ頭のオッサン提督第5話です。今回、ようやくチェルノ・アルファが活躍します、長かった本当にここまで長かったよ!
それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」第5話!お楽しみください!

追記
村雲洋さんの名字を変更しました。


あっ、どうも五百蔵冬悟です。只今、私は北海鎮守府近海沖にいます。いやぁ、こんな天気のいい日に水上散歩が出来る日がくるなんて夢にも思わなかったよ。それもこれも今装備しているチェルノ・アルファのおかげだね!

話が逸れましたが、何故私がこんな沖合いに居るかと言いますと

 

『提督!目標、右後方から接近中!!』

「っ!今度はそっちからか!」

 

とまあ、こんな具合で戦闘中なんですよね、現在進行形で、とにかく吹雪君の指示に従い、右後方に振り返りながら『ソイツ』に打ち下ろし気味の左フックを放つが『ソイツ』は空中で身をよじり簡単にこちらの攻撃を避ける。しかもこちらに一撃かましていくオマケつき

 

「くそが!やっぱ早ぇしめんどくせぇこいつ!」

『提督!大丈夫ですか?!』

「問題ない、ダメージはゼロだ!」

 

俺がなにと戦っているかというと、皆さんも歴史とか生物の授業で一度はその名を耳にした事があるであろう生物、日本語に直訳した名は『奇妙なエビ』、中国語で『奇蝦(きか)』と呼ばれる生物

 

『キアアアアアァァァ!』

『提督!次正面から来ます!』

「こんにゃろぉ!調子に乗んな!」

 

古代地球、カンブリア紀最大にして最強の頂点捕食者、かつての大海の支配者、その名は!

 

 

 

      〔アノマロカリス〕

 

 

 

 

ことの始まりは今から三日前に遡る、いつものように執務室で書類を処理しながらあることを考えていた。

 

(やっぱ、車は必要だよなぁ、今のままだと買い出しが後々しんどくなりそうだ。)

 

つい最近、吹雪君から聞いたことなのだがこの鎮守府には他の鎮守府にある設備が無いそうだ。いや、まったく無いという訳ではないのだが、本当に最低限しかないらしい 

例えば、艦娘用の整備ドックこれは現時点での稼働率が最低レベルであり艦娘の治療及び装備の整備点検は出来るが艦娘の建造、装備の開発は不可能とのこと。ただし、装備の開発に関しては民間の工房を買い取って鎮守府の敷地内に移してあるのでそこで行うらしい。

それでなぜ車が必要になりそうなのかと言うと、吹雪君曰く、

 

「新しく建造するのは不可能ですが、もしかすると他の鎮守府から配属されるかもしれません。ですから頑張りましょう提督!」

 

とのことであり、今から車を用意していた方がなにかと便利なのだ。正直なところいまでも買い出しはしんどいのだ。現在、二人分の食糧や日用品を一週間分まとめ買いするという方法をとっている。これだけ聞くと問題無いように聞こえる、移動手段が原付か自転車もしくは徒歩でなければ

 

(財政的にも車を買う余裕は無いし、どうすっかなぁ?)

 

すると、外から原付のエンジン音が聞こえてきた。

 

「吹雪君がお使いから帰ってきたか」

 

鎮守府前の駐輪場に原付を停め、執務室に入ってきた。何故か慌てながら

 

「提督!提督!ビッグニュースです!」

「うん吹雪君、なにかあったのはわかったから、少し落ち着こうか?」

「すいません提督、でもビッグニュースなんです!」

 

いったい何があったんだろう?少なくとも彼女が愛用のゴーグル付きのヘルメットを脱ぐのを忘れる程の事があったのだろう

 

「でいったい、何があったの?」

「はい!提督、車が手に入るかもしれません!」

「マジで!?」

「はい!マジです!」

 

マジか!やった!

 

「それで、どこでそんな話を聞いてきたの?」

「魚屋の洋さんからです。」

「洋さんから?」

 

洋さんとは、買い物に行くとよく出汁に使う昆布とか小魚とか一緒に売ってる惣菜とかをオマケしてくれるうち行き着けの魚屋の女将さんだ、あそこの昆布巻き、甘めの味付けで好きなのよ、俺も吹雪君も。

 

「しかし、なんでいきなりそんな話になったの?」

「この間、買い出しに行った時、車が欲しいっていう話してたじゃないですか?」

「うん、してたねぇ」

「それで、その話を聞いた洋さんが家で使ってない車が有るからって」

「よし!さっそく洋さん家に行こう」

 

善は急げ、思い立ったが吉日だ

 

「はい!」

 

そして、俺たちは洋さんの待つ待つ〔鳳鮮魚店〕へ向かった。

 

「洋さーん!提督連れてきましたよ!」

「毎度ぉ、五百蔵でぇす!」

「いらっしゃい、二人とも」

 

そう言い店の奥から顔を出したのは、雪のように白い肌と抜群のプロポーションを持つ美女〔鳳鮮魚店〕の女将『鳳 洋』さんである。

 

「今日は、吹雪君からお話を聞いて来ました。」

「連れてきました!!」

「あらあら、吹雪ちゃん偉いわねぇ」

「それほどでもないです!」

 

こんな感じでとてもおっとりした人で、吹雪君はとてもなついている。

 

「五百蔵さん、車の件なのですが、少し条件がありまして」

 

申し訳なさそうにそんなことを言われた。

 

「条件?ですか、それは一体どのようなものでしょうか」

 

申し訳なさそうに、告げられた内容は以下の通りである。

最近、沖に出た漁船が何者かに襲撃されるという事件がおきており、問題になっているのだという。襲われた漁師の話によると、最初は近海に棲む深海棲艦のイタズラかと思ったらしく、船に備え付けてあるお菓子をやろうと操舵室から出て甲板縁から海を覗くと、体長およそ6mの巨大生物がいたらしい、驚きながらも急いで船を急発進させなんとか逃げ切れたと思った処が突然、船に衝撃が走り船員に確認させると、側面に深く切りつけたような跡があったらしい、幸いにして、死傷者は出てないが今のままだと時間の問題だ。なのでその巨大生物をなんとかして欲しいとのことだ。

 

「もし、無理でしたら構いませんよ。」

「そう言われましても、こちらも一応軍属ですので、市民からの陳情を無視する訳にはいかんのですよ。」

「提督もそう言ってますし、喜んでお請けします。」

「ありがとうございます!」

 

とまあ、こんな感じで海域の調査を始めたのが三日前、そしてこの戦闘が始まったのが約30分前である。

 

 

『提督!付近の漁船の避難完了しました!』

「吹雪君はそこで漁船の護衛を続行してくれ!」

 

チェルノ・アルファの頭部内にある通信機に向かって叫ぶ

 

『り、了解しました!』

「頼んだ!」

『提督、後ろです!』

 

瞬間、背中に衝撃が走り吹っ飛ばされた。

 

「くっそが!」

 

つうか、俺が知ってる〔アノマロカリス〕と全然違うんだけどアレ!

体の形や特徴的な触手とかは一緒なんだけど、細部が全然違う、俺が知ってる〔アノマロカリス〕は飛び魚よろしく海面から飛び出して滑空しないし、体の側面にあるヒレで切りつけたりしない。

とにかく、急いで体勢を戻し、襲撃に備える。

 

「吹雪君、次は何処からくる!」

『右から来ます!』

「よっしゃ!来いやぁ!」

『キイイイイイィィィ!』

 

〔アノマロカリス〕の突撃を受け止め、抱き抱えると頭部にある触手でこちらの頭を抱え込みかじりついてきた。

 

「うおぉ!ガリガリうるせぇ!」

『提督!?』

「心配しなさんな、こんなもん効くわけないだろう」

 

こちらにかじりついている〔アノマロカリス〕を力任せに引き剥がし、近くにあった岩礁に叩き付け押さえ込む、

 

『キアアアアアァァァ!』

 

暴れる〔アノマロカリス〕を無視し、その頭に鉄拳を叩き込む。

 

『キイィィィ』

「まだ、生きてんのかしぶといな。」

 

いまだに暴れ続ける〔アノマロカリス〕の頭に再度、拳を叩き込む。今度はギミックを起動して

 

「これで、終わりだ!」

 

ガコンッという音の後、チェルノ・アルファの拳がパイルバンカーのようにアノマロカリスの頭部目掛けて撃ち出され、頭部ごと岩礁を粉砕する。

 

『ギイイィ』

「やっと終わりか、あ~疲れた」

『提督、お疲れ様です。』

「吹雪君もお疲れ様、今から帰るよ」

『はい!港で洋さんとお待ちしてます。』

 

通信機から聞こえくる吹雪君の声に癒されながら、港への帰路についた。

 

港に帰りつくと、担いでいたアノマロカリスを下ろしチェルノ・アルファを解除した。

 

「ただいま~」

「お帰りなさい、提督」

 

吹雪君が笑顔で出迎えてくれた。可愛い、癒された。オッサンのSAN値が100回復した。

 

もって帰ってきたアノマロカリスだが、なんとコイツ喰えるらしい。なんでもこの世界では最高級品であり、味は伊勢海老や牡丹海老、車エビなどの良いところを全部足して2を掛けたような味とのこと、しかし捕獲難度が高いのと滅多に人前に現れない希少性、そして調理に資格が必要というなんともめんどくさいヤツである。

しかも、資格が必要な理由が、オメーどこの少年誌に連載してるグルメハント漫画に出てくるフ○鯨だ!と言いたくなるような特性なのだ。

 

「しかし、洋さん本当に貰っていいんですか?」

「構いませんよ、この程度の物で良かったらいくらでも持っていって下さい。」

 

なんと、最高級品である〔アノマロカリスの肉〕を車と一緒にくれるというのだ。少し申し訳ない気がするので確認すると上のような答えが返ってきた。やったね

 

「それでは、私どもはこれで」

「はい、今回は本当にありがとうございました。次、お買い物に来られたときは、いっぱいオマケしますね」

「いえいえ、お構い無く。吹雪君、帰るよ。」

「はい、提督、洋さんもまたなにかあったら家に連絡してください。」

「ええ、吹雪ちゃんも今日はありがとう」

「洋さん、吹雪君の言う通り何かありましたら家に連絡してください。それでは」

 

報酬の車(軽トラ)に乗り、鎮守府に帰る、今晩はご馳走だ。

 

その日の夜、吹雪君が寝静まるのを待って、アノマロカリスの刺身で一杯やろうとしていると

 

「提督、何してるんです?」

「ふ、吹雪君、いやこれはだね」

 

どうやら、起こしてしまったらしい、こちらの手元にある刺身を見ると、寝ぼけた目をクワッと見開き

 

「提督だけズルイです!」

 

そう言って、半分以上の刺身を奪われた。オッサンのつまみが、まいっか、吹雪君可愛いし

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?初の戦闘回がこんなんでいいのかと、自分でも疑問でしたがシリアスは次回からだし、問題ないよね
ちなみに作者は、ホタテの刺身が好きです

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、酒を呑む

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第6話です。すいません、また日常回なんです。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!

追記
村雲 洋さんの名字を『鳳』に変更しました。ご迷惑をお掛けします。

活動報告にリクエストコーナーを設けました。よろしければどうぞ


夜の町、良い子は眠り悪い子は起きてる時間、昼間の喧騒は何処に行ったのか、すっかり静かになった町でいまだに昼間の喧騒を保っている場所がある。

 

「「「カンパーイ!!!」」」

 

アルコールが入った者特有の陽気な声が響く、昼間の仕事の疲れを癒し、明日への活力を満たす場所、この町における大人の夜の憩いの場、『鳳鮮魚店』の女将「鳳 洋」さんが鮮魚店と共に経営する『居酒屋 鳳』である。

 

体格のいい漁師達がたむろする店内で、一際異彩を放つ巨体を持つ男が一人、カウンター席で酒を呑んでいた。

 

「洋さん、お銚子もう1本ちょうだい。」

 

北海鎮守府の提督「五百蔵 冬悟」35歳のオッサンだ。吹雪が寝ついた後、時折こうして町に呑みに来ているのだ。

 

「五百蔵さん、おつまみはどうします?」

「あ~、そうね?それじゃ『あさりのだし巻き玉子』ください。」

「はい、少々お待ちください、先にこちらお銚子です。」

「あ、どうも」

 

お銚子を受け取り中身を猪口に注ぎ口へ運ぶ、すると日本酒独特の米の味と薫りが口に広がる。

 

「ふう」

「お待ちどうさま、『あさりのだし巻き玉子』です。」

「おお、旨そうだ!」

 

運ばれた『あさりのだし巻き玉子』を一切れ、半分程に割り大根おろしを乗せて食べる。だし巻き玉子の柔らかな食感の中にあさりのくにくにとした歯応え、出汁の味と香りが広がり、それを大根おろしがすっきりと纏める。

 

「旨い、これは酒に合う。さすがですね、洋さん」

「お口にあったようで、なによりです。」

「ご謙遜を、私も料理はしますが、だし巻き玉子をこんなに上手に作れはしません。」

「ふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ。提督」

 

目の前の美女、洋さんは噂によると、昔は艦娘だったらしい。詳細は知らないが今でも軍の上層部に顔が利くそうだ

 

「五百蔵のダ~ンナ、呑んでる?」

 

かなり酒が回った様子で声を掛けてきたのは『鈴木 浩市』という漁師で、この間のアノマロカリス事件で俺達が助けた一人だ。

 

「ダンナのお陰で、俺たちは安全に漁が出来るようになった!感謝感謝感激雨あられだよ!」

「あんた、かなり酔ってんじゃねぇか、奥さんに迷惑かけねぇうちに帰った方がいいぜ」

「そう言うダンナこそ、吹雪ちゃんのことはいいのかよ」

 

痛いところを突かれた。

 

「あ~、それは言わないでよ、それを言われるとなにも言えん」

「ダンナも俺と変わんねぇじゃん」

 

と、そのとき店の扉が勢い良く開かれた。

 

「提督!見つけましたよ!」

 

発見の報告と共に現れたのは、吹雪君だった。

 

「ふ、吹雪君、どうしてここに?」

「勘です!あっ、洋さん、唐揚げください!」

「勘かよ!しかも流れるように注文しやがった!」

「いいじゃないですか、五百蔵さん」

「いや、しかしこんな時間に子供が出歩くのは・・・って!吹雪君!それ俺のだし巻き!」

 

ハムスターの様に口一杯にだし巻き玉子を詰め込んだ吹雪君がそこにいた。そして口の中のだし巻き玉子をしっかりと飲み込んでから口を開いた。

 

「提督だけ洋さんの料理を食べようなんて、私が許しません!」

「なんなのそれ!」

「ふふ、はい吹雪ちゃん、唐揚げお待ちどうさま」

「ありがとうございます!洋さん」

「はあ、もういいや、洋さん俺も追加で『焼き茄子の肉味噌餡掛け』ちょうだい」

「はい」

「提督!それ少しください!」

「君は、唐揚げ食べてなさい」

「もう食べました!」

「早い!もっとゆっくり食べなさい。」

 

こんな感じでオッサンのつまみはこれからも奪われ続ける。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?甥や姪を連れていくとオッサンと同じ目に遭う作者です。

それではまた次回お会いしましょう!

活動報告にも書いてありますが、家の二人を使いたいという方がおられましたら、どうぞご自由にお使い下さい


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オッサン、イタズラする

どうも逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第7話です。今回はオッサンがイタズラをするようです。
また今回のお話は辛いものを食べた吹雪の反応を見たいというsd カード様のリクエストとなります。sd カード様、リクエストありがとうございます。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


突然だが、家の吹雪君は食いしん坊だ。なにをどうやったらあの小さな体に収まるのかわからない量を食べる。それはもはや、育ち盛りとか食べ盛りとかで説明することが出来ない、この間だって、俺が頼んだつまみ、結局全部食べやがった。チクショウ

 

そんな吹雪君の食いしん坊伝説の一例がこちらになる

 

「なぁ、吹雪君、聞きたいことがあるんだが」

「なんでしょう?提督」

「戸棚に置いといた20個入りのどら焼き、知らない?」

「知りませんね」

「そうかそうか、じゃあ、その口に付いたアンコは一体なんだい?」

「あっ!」

 

咄嗟に口元を隠すがもう遅い。

 

「なぁ、吹雪君、アレ、俺の分も入ってたんだけど?」

「あ、あはは」

 

笑って誤魔化そうたって、そうはいかん

 

「なぁ、吹雪君、君はさっきお昼食べたばっかだよね?しかも、三回もおかわりしてたよね?」

「そうでしたっけ?」

「そうだよ!何をどうやったらその体にあんな量が入るんだ!」

 

20個全部食いやがって、俺も楽しみにしてたのに!

 

「まぁまぁ、提督、落ち着きましょう。」

「どうやったら落ち着けるのか、俺は知りたい!」

 

以上が「吹雪君食いしん坊伝説」の一例である。

て言うかこれ、町でも有名なんだよ。最近、買い出しに行くと、みんなオマケしてくれる様になったんだけど、しかも、量がとてもじゃないけど、オマケとは言えない量なんだよ、オッサン、ビックリだよ。

 

とまぁ、こんな感じで、執務室に御菓子を置いていたらいつの間にか消えていた、とかなんか最近の歌のタイトルみたいなことになる。なんとかしなければ、

 

なので、オッサン、イタズラを仕掛けます!とにかくだ、最低でも、戸棚にあるもんは食べちゃダメってことを覚えさせないと、何があるかわからんからね。

 

皆さんお楽しみのイタズラの内容ですが、吹雪君は辛いものが苦手なんだ。そりゃぁもぅ、ボ●カレーの中辛を必死な顔で食べるぐらい苦手だ。意地張らなきゃいいのに、

 

だから用意しました!オッサンお手製辛子入り激辛饅頭!さあ、どんな反応するのか、見物ですね。

 

「ただいま、戻りました。」

 

ちょうど、訓練から帰って来たようだ。

 

「お帰り、今日は早かったね。」

「はい、お腹がすいたので、早めに切り上げてきました!」

 

なんかもう、ホント、食欲一直線だね、この子。だが、空腹なら都合がいい、なんの疑いもなく食べてくれるだろう。

 

「吹雪君、戸棚に饅頭が有るよ。夕飯までまだ時間がある、どうだい?」

「ホントですか?!ありがとうございます!」

 

流れるように戸棚に向かい饅頭の乗った皿を取りだし、激辛のそれを口にする、

 

「いただきます!」

 

さあ、どんな反応をするのかな~?ん~楽しみだ!

 

「ん??・・・っ!んーー!んー!!ん!?むーーー!!!」

 

口を押さえ、バタバタと跳び跳ね始めた。うわぁ、想像より凄い反応だよ。自分でやっといてなんだけど、少し引いた。

俺がそんなことを考えている間に、吹雪君は急いで冷蔵庫を開け、牛乳を一気飲みして口の中のものを胃へと流し込んだ。吐き出さないあたり凄いと思う。

 

「でいどぐ~、ごればいっだいなんなんでずが?」

「え?オッサンのささやかなイタズ『ガズン』・・ラ?」

 

あっるぇ~?おかしいな、なんかいきなり壁に穴が空いたぞ?そして吹雪君、その連装砲どっから出したの?

 

「あ~ 吹雪君?」

「提督、連装砲か魚雷どちらか選んでください。」

 

あ、これダメだ、なんか黒い騎馬鎧を着て、馬鹿デカイ大鎌持って王国軍騎馬隊を率いた死神少女みたいなオーラが出てる。逃げよう!

 

「逃がしません!」

「吹雪君!話せばわかる!話し合おう!」

「だが、断る!」

 

砲弾や魚雷が俺を掠めながら飛んでくる。

 

「吹雪君、俺人間!そんなん当たったら死ぬ!」

「だったら、あの緑バケツ装備すればいいじゃないですか!」

「緑バケツって、もうちょい言い方無いの?!」

「知りません!」

 

この騒ぎは、騒ぎを聞きつけた洋さんが止めに来るまで続いた。

そして、オッサンは洋さんにマジ説教された。35にもなって正座で説教された。怖かった。

もう二度と、吹雪君に辛いものを食べさせない様にしよう、オッサン死にたくないから

 




いかがでしたでしょうか?イタズラは用法要領を守り、正しく行いましょう。さもなくばオッサンの様になります。

以下、友人との会話
逆脚屋「ガオガイガーのゴルディオンハンマーあるじゃん」

友人「あるな」

逆脚屋「あれさ、食らうと敵が緑色の粒子になるじゃん」

友人「そうだっけ?」

逆脚屋「たしかそうだった、そこで思い付いたんだ!」

友人「何を思い付いたんだ?バカ」

逆脚屋「コジマディオンハンマー」

友人「え?」

逆脚屋「コジマディオンハンマー、相手はコジマになる」

友人「おまえやっぱ、バカだわ」

逆脚屋「コジマになぁぁぁれぇぇぇぇ!!」

友人「ウルセェ!バカ!」

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、考える

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第8話です。今回はオッサンがなにか考えるようです。
時系列が前後しており、分かりづらくなってるかも知れません。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

それと、今回から少しシリアスなお話が続きます。
作者の正気はシリアスが終わるまで持つのか?デッドレースの開催です!

追記
設定集、加筆修正しました。オッサンと吹雪の項目です



家の吹雪君は、努力家だ。仕事の合間によく訓練をしている。俺もよく付き合うが結構ハードだ、オッサンの体力ではなかなかにキツイ。それをほぼ毎日行うのだ、だからまあ、あの食欲も納得できる、いや、ゴメン、やっぱ納得できないわ。

 

話が逸れたが、俺が何を言いたいかと言うと、吹雪君が無理をしてないか心配な訳よ。吹雪君の訓練を見ていると、何かを振り払おうとしているとしか見えない時がある。

 

それがなんなのかは俺には判らないが、それが吹雪君の抱える問題の原因、いや、トラウマと言った方が正確だろう。なぜなら射撃訓練時、的に狙いを定めるまではとてもスムーズな動きなのだが、引き金を弾くときに一瞬、本当に一瞬だが躊躇うのだ、躊躇うだけなら良かったが撃てない、引き金を弾けないのだ。何度も繰り返し弾こうとするが、引き金に添えられた指は動かない、何度も引き金を弾こうと指に力を込めるが、それでも指は動いてくれない。そのたびに、唇を噛み締めている。

 

前回、撃ちまくってただろって?ありゃぁ、例外だからノーカウントだよノーカウント、なあ、分かるだろ同じリンクry・・じゃなかった、同じ提督じゃないか

 

そんな吹雪君になにか出来ないかと、いろいろやってみたが、大した効果は無かった。トラウマを克服できなくても何か支えになるものがあればいいのだが。

 

そんな時、アノマロカリス事件が起きた。実を言うとこの事件が吹雪君の新たな武器を手に入れる大きなきっかけになる。

 

事件時、漁船の護衛をしていた時だ。突然吹雪君が海中から何かが接近するのを察知したのだ。船の魚群探知機にも反応は無いし、俺のチェルノ・アルファはレーダー系が弱い、吹雪君の装備だってそれほど探査能力が優れているわけでもない、この場合、吹雪君の勘違いか吹雪君自身の探査能力がずば抜けて高いか、この2つに絞られる。俺は後者を選んだ。その結果がアノマロカリス事件の最大の報酬だ。

 

吹雪君は凄い武器を手に入れた、いや、持っていたというのが正しいだろう。探査装備を使わずに、海中にあるものの動きや形が分かる程の高い探査能力を持っていたのだ。

 

吹雪君はこの事を聞いて驚いていた。どうやら無自覚だったようだ。

それからは、お祝いだ、吹雪君の新しい力に、新たな門出に、洋さんも呼んで吹雪君のためのフルコースを拵えてやると笑った、笑ってくれた。それからだな、あの食欲が俺に牙を剥いてきたのは、

 

その夜、吹雪君が寝静まるのを待って、新米ちゃんに連絡し、必要な物を準備してもらう。

吹雪君の専用装備を造るための資材を

そのあと、起きてきた吹雪君につまみを容赦無く奪われた。

 

しばらくして、吹雪君に専用装備を渡すために、彼女をドックに呼び出し、装備を渡したら、泣かれた。めっちゃ泣かれた。もし、あの光景を洋さんに見られていたら、俺は殺されていただろう。

泣きながら、お礼を言われた。当たり前のことをしただけだが嬉しかった。

 

専用装備と言っても基本は変わらない、ステルス機能のある外套を追加し、背中に背負っている作動機にレドーム状のアンテナを取り付け、ヘッドフォンを追加しただけだ。まぁ、ヘッドフォンには少しこだわりがある、新米ちゃんの案だがスピーカーカバーの部分にちょっとしたものをあしらってみたのだ。両の拳を打ち合わせるデフォルメされたチェルノ・アルファ、その腕の中に風に吹かれる雪の結晶が描かれたエンブレムだ。

どうやら気に入ってくれたようだ、花が咲くような笑顔を見せてくれた。

 

今、思えばこの時からだろう、この子を守ろうと本気で決めたのは。それがこの図体の使い道なのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?やっぱりシリアスはしんどい、オッサンにシリアスさせるつもり無かったんだけどなぁ

作者の残り正気度:99→80


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オッサン、提督に会う

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第9話です。今回はどうやら他の提督に会うようです。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

シリアスは続かなかったよ、作者の正気度がマイナスにまで減ったよ。シリアスコワイ、シリアスコワイ





「凄いな、こりゃ。家とは大違いだ。」

「そうですね、此処と比べると家なんか、ハリボテですね。」

 

ヤダ、家がプレハブからハリボテへ進化しちゃったわ!嬉しくねぇ進化だなぁ、おい

 

あっ!ご挨拶が遅れました、五百蔵冬悟です。只今、俺と吹雪君は『横須賀鎮守府』に来ています。まあ凄いわ此処、赤レンガ造りの立派な洋館でドックやらなんやらの設備が敷地内に所狭しと並んでいる。ホント、家とは大違いだわ。

 

「なあ?吹雪君」

「なんです?提督」

「俺達、此処に入って良いのかね?」

「さあ?そんなことより提督、私、お腹空きました。」

「そんなことって君ね、まぁいいや、はい、さっきそこのコンビニで買ったアンマン。」

「ありがとうございます!」

 

俺の手から素早くアンマンを受け取り、もっしもっしと食べ始めた。

 

とまあ、なぜ俺達がこの『横須賀鎮守府』に来たのか、なぜ、家はプレハブなのか、なぜ、身長2mのオッサンが唖然としてる隣で、160cm あるかないかの少女がアンマンを食べて、否、食べ終わって次を催促しているのか、説明しましょう。つーか、この組み合わせ通報されないか心配なんだけど、はい、吹雪君、ピザマンだよ。え?これじゃない?あっ、でも食べるんだ。では回想開始

 

事の始まりは、1通の手紙だった。

俺がいつも通り、本部から来る書類を『処理』していると、手紙が紛れ込んでいたのに気付いた。

 

「あっぶね!何だってこんなところに、手紙なんか紛れてんだ?」

 

危なく他の書類と一緒にゴミ箱へボッシュートする所だった、危ない危ない。

 

「しかし、なんだ?この手紙、えらく可愛らしい便箋だな」

 

花柄の便箋ってなんだこれ?しかもご丁寧にハート形のシールで封をしてある。なんだこれ?

 

「なんだこれ?ラブレター擬きか」

 

親指と人差し指で摘まんで、観察していると

 

「只今、戻りました。」

 

吹雪君が訓練から帰って来た。

 

「お帰り、吹雪君。装備の調子はどうだい?」

「はい!びっくりするくらい、いい調子です。前まで判らなかったモノまで判るようになりました。本当にありがとうございます、提督!」

「いいよいいよ、それが俺の仕事だし。」

 

気に入ってくれた様でなによりだ。

 

「それで提督、その手紙何ですか?ラブレターですか?」

「んなわけないじゃない、うち宛で来た手紙、差出人は・・『横須賀鎮守府』だってさ。」

「横須賀鎮守府ですか!」

「びっくりした、急にどうしたのよ?」

「すいません、でも横須賀鎮守府って言ったら全鎮守府中で最大規模の鎮守府の1つですよ!」

 

あらま、なんかとんでもない所からお手紙が届いちゃったみたいね。どうしましょ?

 

「何だって、そんなお偉いさんが家にこんなもん送って来たんだろうね?」

「それは分かりませんが、内容は確認しました?」

「便箋のインパクトのせいで、忘れてた。何が書いてあるんだろうね?」

 

便箋を開け、内容を確認する、すると以下のようなことが書いてあった。

 

〔家に、遊びに来ませんか?〕

 

はい?なにこれ、これだけ?何度、確認してもこれだけしか書いてない。

 

「提督、なんて書いてあったんです?」

「遊びに来ませんか?だって。」

「それだけですか?」

「うん、これだけ」

 

うわぁ、吹雪君が何とも言えない顔になってる。シカタナイネ。

 

「それで、どうするんです?提督」

 

どうするかねぇ、お招き頂いちゃった訳だし、無視すると何があるか分からないし、しょうがないな。

 

「行こうか吹雪君、横須賀鎮守府へ」

「へ?」

 

そんなこんなで旅支度を整え、定期的に本土に出ている連絡船に乗り、やって来ました横須賀鎮守府。ここで回想終了、冒頭に戻ります。

 

「本当にここに招かれたのかねぇ?ドッキリだったりして。」

「そこまで暇じゃないでしょう、家じゃあるまいし」

 

辛辣なことで、そんなにピザマンがお気に召さなかったのかね?俺もあんまり好きじゃないけど、やっぱアンマンが最高だよね、買い占めときゃ良かった。

 

そんな感じで、門の前で二人して突っ立ってると、鎮守府の方から誰か走ってきた。

 

「あのぅ?北海鎮守府のお二方でしょうか?」

「はい、そうですよ」

「申し遅れました!私はお二方の案内を担当します『比叡』と申します!よろしくお願いいた・・しま・・・すぅ」

 

なんか、えらい気合入った巫女さんが俺を見るなり固まった。そんなに怖いのかね?俺、まぁいいや挨拶しないと

 

「ご丁寧にどうも、北海鎮守府提督、五百蔵冬悟です、こちらは秘書艦の吹雪君です。」

「北海鎮守府秘書艦、吹雪です。本日はお招き頂きありがとうございます。」

「いえ、此方こそ本日は御越しいただき、ありがとうございます。立ち話もなんですので、早速ですが、提督の待つ執務室へご案内いたします。」

 

そう言って『比叡』さんは鎮守府へ歩き出し、俺と吹雪君は彼女に案内され、『横須賀鎮守府』へと足を踏み入れた。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?読み辛くなかったですか?
少し長くなりそうなので、ここで切ります。申し訳ございません
次回は出来るだけ早く投稿します

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、提督に会う その2

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第10話です。今回こそ、オッサンは横須賀鎮守府の提督に会うようです。まともな人だといいなー

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

以下、友人との会話

友人「お前を艦娘に例えると?」
逆脚屋「何よ?いきなり」
友人「ん~、そうだ!北上だ!」
逆脚屋「ドウユウコトナノ?」
友人「やる気が無いように見えて、マイペースでやるときはやる所が似てる!」
逆脚屋「さよか」

私は何と答えたら良かったのでしょうか?


横須賀鎮守府に着いた俺と吹雪君は、巫女服の女性『比叡』さんに案内され、鎮守府内を歩いていると

 

「しかし、五百蔵提督は本当に大きいですね。」

 

俺を見上げながら比叡さんが話し掛けてきた。

 

「ははは、よく言われます、何喰ったらそうなるんだと」

「私も、初めて会った時には驚きました。」

「そうだねぇ、君完全に固まってたもんね。」

「それは、恥ずかしいから言わないで下さい!」

 

どうやら、吹雪君にとって黒歴史のようだ。

そんなやり取りをしていると、前を行く比叡さんが微笑んでいるのが見えた。

 

「仲が宜しいのですね」

「それはまぁ、一年近く一緒に過ごしているんです、余程のことがない限り仲が悪いままというのは無いでしょう。」

「それも、そうですね。」

 

とか、比叡さんと話していると、先程から吹雪君が廊下をキョロキョロと見回していた。

 

「どうしたのよ吹雪君、えらく落ち着かないじゃないの?」

「提督、この鎮守府、何か居ます。」

 

と、小声で吹雪君が告げてきたので、俺も小声で返す。

 

「何かって何よ?」

「分かりません、ダクトの中をなにかが移動しているとしか、やっぱり装備が無いと建物内は厳しいです。」

 

ダクトねぇ?何か嫌な予感がするよ、オッサン。

とりあえず、どっかの石村みたいなことにならないことを祈ろう。

 

「ここが、横須賀鎮守府の執務室になります。」

 

そう言って案内された部屋は家とは違って、ちゃんとした部屋だった、プレハブじゃない

 

「提督、お客様をお連れしました。」

 

比叡さんが扉をノックしつつ、報告するが肝心の返事が無い。

 

「提督、居ないんですか?」

 

返事が無い、ただの空き部屋のようだ。

 

「仕方ないですね、五百蔵提督、吹雪さん申し訳ありませんが中でお待ちいただけますか?」

「ああ、構わないよ、吹雪君もいいかい?」

「構いませんよ。」

「では、どう・・・ぞ」

執務室の扉を開け、室内に目を向けた瞬間、機能を停止した。

 

「どうかしましたか?比叡さ・・ん」

「どうしたんです?提督・・・!」

 

そして、俺達も停止した。

だってねぇ、横須賀の提督がいるはずの執務室に不審者がいたんだから、そりゃ機能停止するってもんですよ。

 

その不審者を詳しく描写すると、こんな奴だ。

恐らく、抱き枕のカバーであろうものを頭からすっぽり被って、脚しか見えない。これだけならば、100歩譲ってハロウィンの仮装に見えなくもない。しかし被っているものが問題だった。

 

それは、比叡さんとよく似た巫女服を着た黒髪ロングの女性が吹雪君の教育上、とてもよろしくない格好をしている絵が描かれた抱き枕カバーを被っていたのだ。

しかも比叡さんの表情を見る限り、恐らくは彼女の関係者の絵なのだろう。

詳しく描写しといて何だけど、ナニコレ?

 

「ヒエェッ!」

 

怪人抱き枕が、こちらに振り向いた。うわっ!もっとよろしくない絵が描いてある。ハーイ、吹雪君は見ちゃダメよー、ダメだってば!

 

「二人とも!俺の後ろに!」

 

二人を後ろに隠し、怪人抱き枕との間に立ち塞がる。

 

「軍施設に侵入とは、大胆不敵だなぁ、オイ!」

 

拳を構え、怪人抱き枕に凄むと、体を左右に降りながら此方へ向かって走ってきた。うわぁ!気持ち悪い!

 

「こっち来んな!」

 

おもいっきり殴り倒す。

 

『フゴェ!』

 

間抜けな声を上げ、床に倒れた所を、踏みつけて取り押さえる。

 

「二人とも!憲兵に連絡!急げ!」

『待って!違うの!比叡ちゃん!私!穂波だよ!』

「ヒエッ!五百蔵提督!待ってください。その人、ここの提督です!」

「はぁ!これが?!」

 

足下でビチビチ暴れるモノを指差し、問う。

 

『そうなんです!五百蔵さん、私が横須賀鎮守府提督、「磯谷 穂波」です!』

 

これが、これから長い付き合いとなる、横須賀鎮守府提督『磯谷 穂波』との出会いだった。

 

なんだかなぁ、もう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
まともな人じゃなかったよ。今回のネタ分かる人いるのかなぁ?

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、提督に会う その3

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第11話です。前回、ようやく提督もとい変態に会ったようです。彼女は一体何者なのか、何が目的なのか、ご期待ください。
それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

今回、家の空腹探査棲姫が横須賀でやらかします。

後、家のオッサンのイメージは『ヨルムンガンド』のレームのオッサンをもう少し筋肉質にして、背を伸ばした感じです。
もしくは、ボスドミニク


「私が!この横須賀鎮守府の提督!『磯谷 穂波』です!」

 

いや、今更そんな勢い良く自己紹介されても困る、俺の中での君に対する評価はマイナスからスタートだから、頑張っても0に少し近付くだけだから。

 

そんな彼女『磯谷 穂波』はとても軍人とは思えない容姿をしている。

どう見ても十代の少女にしか見えない童顔、軍服はズボンをホットパンツ?だったかな、あのスゲー短いズボンを履き、上着は少し袖が余っている為なのか、肘の辺りまで捲っている。短めの髪も相まって、活動的な学生としか見えない。

 

「ちなみに17歳です!」

 

マジで十代かよ!軍人に見えん訳だ、俺も人のこと言えんがね。とりあえず自己紹介だ。

 

「北海鎮守府提督、五百蔵冬悟です。」

 

因みに吹雪君と比叡さんは席をはずしている。目の前の少女、磯谷の要望だ。

 

「歳は、幾つなんです?」

「はい?」

「ですから、お歳は幾つなんです?」

 

何なんだろう、この妖怪抱き枕娘やりづらいにも程がある。何で歳を聞いてくる、なぜそんなに、目をキラキラさせている。つーか、近い!

 

「35だ。」

「ナイスミドルという奴ですね!?」

 

いや?なに?なんなの?この娘、メンドクサ!

 

「いいから離れなさい。」

「ああん、ヒドゥイ」

 

磯谷の頭を掴んで、引き離す。全く、最近の娘ッ子はみんなこうなのかねぇ?どう思います?皆さん

 

「それで、なんで俺達を呼んだんですかね?」

「ああ、理由は簡単です、チェルノ・アルファを生で見たかったらですよ。五百蔵冬悟提督殿」

 

なに?この娘、何故チェルノ・アルファを知っている。もしかして、こいつも俺と同じなのか?

 

「あと、吹雪ちゃんのフニフニホッペを触りたかったから!」

 

モウヤダ、コイツ

 

 

「では、簡単にネタばらしを、私も貴方と同じく神様のミスで転生したんです。」

 

やっぱりか、つーか、神様よ、ミスし過ぎじゃね?

 

「もっと詳しく言うと、土下座が得意なロリ神様がミスして、そのお詫びとして転生しました。」

 

しかも、同じ神様のミスでした。なにやってんだ!あの新米土下座神!!

 

「私としては、ベッドの上でも良かったんですが」

 

モウヤダ、コイツ。色々な意味で濃すぎる、オッサンには荷が重いよ。

その時、執務室の扉が勢い良く開かれた。

 

「提督、大変です!」

 

そう言い飛び込んできたのは、先程の抱き枕に描かれていた女性だった。

 

「どうしたの?榛名ちゃん」

「赤城さんとお客様が、何故か大食い勝負を!」

「え?なんで」

 

嘘だろ!ヤバイ!

 

「磯谷さん、早く止めるぞ!急げ!」

「え?え?どうゆうこと?」

「いいから!急げ!手遅れになる前に!」

 

先程、飛び込んできた女性、榛名さんに先導してもらい食堂に着くと、とんでもない騒ぎになっていた。

 

「遅かったか!」

「ゼエ、ゼエ、いったい・・・ゼエ・・何が?」

 

『まさかまさか!ここでまさかの加賀選手ダウンです!』

 

うわぁ!やりやがった!あのハラペコ娘!なんか聞いてたより人増えてるし!

 

『北海鎮守府の吹雪選手!これで6人抜き達成です!これで空母組は赤城選手のみ!一騎討ちです!さぁ!駆逐艦と正規空母の戦いは、どちらに軍配が挙がるのか!』

 

「一航戦の誇り、こんなところで失なうわけには!」

 

『赤城選手!勝負を決めにきた!対する吹雪選手は!』

 

「おかわりください!特盛で!」

 

なんか凄い良い笑顔でおかわりしてるぅぅぅ!しかも特盛でぇぇぇ!やめてぇぇぇぇ!オッサンのライフはもう0よ!

 

 

「もう、ダ・・・メ」

『赤城選手ダウン!勝者、北海鎮守府吹雪選手!』

 

「おかわりください!特盛で!」

 

『しかも!まだ余裕だぁ!』

「あっ!提督!私、勝ちました!」

「なにやってんの?!君ぃぃぃぃ!」

 

「凄いですね!五百蔵さんとこの吹雪ちゃん」

「この光景を見て、その感想が出る君を尊敬するよ、俺は」

 

さぁ、これからお説教タイムだ!吹雪君?覚悟しなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

スマホの調子が悪いので、今回はここまでです。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、提督に会う その4

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第12話です。今回は前回のアレのお説教から始まります。
それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

後、皆さんお待ちかね?アレが出てきます!

以下友人との会話
友人「ふと、思い付いたんだ。」
逆脚屋「何が?」
友人「次の冬イベでTOKIO 実装」
逆脚屋「・・・」
友人の頭が心配です。



「だからね、ここは家じゃないんだよ?いくらお腹が空いたからって、食べ過ぎだ!いや、家でもダメだけどね!」

「だって、美味しかったんですよ!止まるなんて無理です!家なら良いんですか?!」

「ダメだって言ってるでしょ!」

 

まったく、この空腹探査駆逐棲姫は食欲まっしぐらにも程がある。流石のオッサンもこれには参ったよ、こうなったら最後の手段だ!

 

「吹雪君、次、同じ事をやってみなさい。その日から家のカレーは『辛口』になります!」

「ッ!!提督!それは・・・」

「更に!洋さんにもお願いします!」

「提督!人の心を何処に棄てて来たんですか?!」

 

いや、そんな大事かね?人の心を棄てたって君ね、忘れてないかい、俺も辛いのあんまり得意じゃないってこと

 

まあ、だから最後の手段なんだけど、だからそんな、この世の終わりみたいな顔しなさんな。

 

「まあまあ、もういいじゃないですか五百蔵さん、吹雪ちゃんも反省してるみたいだし」

「はぁ、まあ良い、次は無いよ」

「はい・・わかりました・・」

 

ホントに反省してるみたいだし、お小遣い減額は勘弁してやろう。因みに吹雪君のお小遣いは、月3000円だ。あまり無駄遣いしないよう、言ってある。

 

「では!気を取り直して、この横須賀鎮守府を私!磯谷 穂波が案内します!」

 

なんでそんな気合入ってるのかねぇ、なんかどや顔だし、隣の比叡さんは「キャラが被った!」みたいな顔してるし、何故か榛名さんは俺のこと、じっと見てるし、なんなの?

 

「それでは!いきなりのメインイベント!ドックに行きます!」

「ドック?なんでそれがメインイベントになるのよ?」

 

まあ、メカはロマンだが、メインイベントというには、ちっとばかし弱くないか?

 

「あれあれ~?五百蔵さんはもしかして、艦娘寮の方が良かったんですか~?」

「んな訳ないでしょ、ガキンチョに反応するほど、若くねぇよ」

 

まったく、オッサンからかうなっての。しかしなんで、榛名さんはそんな顔してんのよ?忘れ物でもした?

とにかくだ、俺を反応させたかったら、洋さんクラスを連れて来い!

 

「まあ、五百蔵さんに見てもらいたいモノが、ドックに有るからメインイベントなんですよ、ここに呼んだのもそれが理由です。」

 

見てもらいたいモノ?なんだろうね。AC かな?だったら良いなぁ。

ていうか、さっきから吹雪君がえらく周りを警戒してる。なんだ?

 

「吹雪君、さっきからどうしたのよ?」

「提督、ドックに近付くのに従って、ダクトの中にいるモノが増えてます。」

 

なにそれ、怖い。マジで石村なの?此処

そんな俺と吹雪君の不安をよそに、磯谷はどんどん進み、ドックに着いた。

 

「此方が!我が横須賀鎮守府が誇る、巨大ドック『夕石屋』です!」

 

俺ら二人の冷ややかな反応に対し、比叡さんと榛名さんがささやかな拍手をしていた。

つーか、榛名さんはなんで、俺をずっと見てるの?ちょっと怖いよ?

 

「さぁ!中へどうぞ!」

 

なんか嫌な予感がする。さっきから吹雪君が警戒しっぱなしだし、感覚が鋭いってのも大変だね。

 

「お邪魔しま~す」

「お、お邪魔します」

 

ドック内は、騒然としていた。いきなりどうしたって?だってねぇ、作業員の皆さんが右へ左へ右往左往しながら逃げ回ってんだもん。あっ、二人こっち来た。

「明石ちゃん!夕張ちゃん!何があったの?!」

「「て、提督!トラブルです!コードレッド発令!!」」

 

え?なに、何が起きてんの?!

 

「提督!アレ!アレ!」

 

吹雪君がドックの奥を指差す、その先にいたモノを俺は知っている。AC シリーズ屈指の存在にして一部の人達のアイドル。その名は

 

〔アミーー!〕

 

AMIDA (アミダ)!!

 

てか、なんか?でかくね?10mくらいあんだけど!

 

「逃げますよ!早く!!」

 

榛名さんの号令で全員がその場から逃げ出す。もちろん俺と吹雪君も・・・っていない!!どこ行った!

 

「あ・・ああ・・・!」

 

いた!びっくりし過ぎて腰抜かしてる!

 

〔アミーー(へっへっへ、なかなか可愛いじゃねぇか!ゆっくりと可愛がってやるよ)〕

 

「い・・嫌・・来ないで・・来ないでよ!・・・助けて提督!!」

「おお!家の娘に何しようとしてんだ!このくそ蟲がぁ!」

 

ドックに飛び込むと同時に、チェルノ・アルファを起動し、身に纏い吹雪君に迫るAMIDA を殴り付ける。

 

〔アミャーーー!〕

 

「吹雪君!大丈夫か!怪我はしてないか!」

「て・・提督!」

 

良かった、どうやら怪我はしてないよ・・・う・だな!?

恐らく、逃げる時に転んだのであろう。膝を擦りむいていた。もうこれだけで、コイツハユルサレナイ!ムクイヲウケロ!

 

「このくそ蟲がぁ、嫁入り前の娘に怪我なんかさせやがって、楽に死ねると思うなよ!」

 

〔アミーー!〕

 

「うるせぇ!とっとと死ね!」

 

チェルノ・アルファの腕部に搭載された高圧電流発生装置を起動させ、テスラ・フィストを発動し殴る。

 

〔アミッ!〕

 

が避けられる、それと同時にこちらを押し潰そうと、のし掛かってくる。

 

「ぐぬ!おもてえな!」

 

だが!

 

「捕まえたぞ!」

 

〔アミーー?!〕

 

AMIDA を両腕でがっしりとホールドし、両肩に搭載されたタービンから噴き出す火炎で焼き殺す。

 

〔アミャーーー!〕

 

核兵器でも殺し切れん連中を焼き殺す火炎放射だ。耐えられずに、黒炭になって崩れる。戦闘終了だ!

 

「吹雪君、終わったよ。」

 

泣きながら吹雪君が駆け寄ってきた。

 

「提督!」

「おーおー、怖かったなぁ、ははは」

「ご無事ですか?五百蔵提督!」

 

装備を装着した榛名さんが声を掛けてくる。

 

「ええ、無事ですよ、しかしアレはいったい?」

 

なんでAMIDA がこの世界に居るんだろうねぇ?

それはあそこにいる三人から聞くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
少し長くなりそうなのでここで切ります。

AMIDA ファンの皆様、誠に申し訳ございません!

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、提督に会う その5

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第13話です。今回は別のイェーガーが出ます。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください



あっ、どうもお久しぶりです。五百蔵冬悟です。只今、バカ三人に前回のアレについて説明をさせてます。

 

「で、アレはいったい、何なんですかねぇ?」

「アレはですね・・そのぉ」

 

ピンク色の髪の娘『明石』が言うには、横須賀の遠征部隊が何処かの海域で見つけて拾ってきたらしい。

その拾ってきたAMIDA を、このバカ三人がとても気に入り、じゃんじゃか増やしていたとのこと、頭良いバカ程厄介なモノはないと言うが、本当だな。厄介にも程がある!

 

「それでですね、あのAMIDA ですが、実を言うと私達にも、何故あれほどまでに巨大化したのか分からないんですよ。」

「そうなんです!五百蔵さん!私達にも分からないんです!」

 

緑の髪の娘『夕張』と磯谷が弁解する。しかしなんで、君達そんなに必死なの?もう、いいや、オッサン疲れたよ。

 

「はぁ、次からはこんなことが無いように、注意しなさいね。」

「「「hai !!」」」

 

返事は良いね、返事は、後、吹雪君は榛名さんが別室で面倒を見てくれている。しかし何なんだろうねぇ、彼女お礼言ったら、顔真っ赤にしてたけど、異性と話したことが少ないのかな?

 

「それで、俺に見てほしいモノってのはいったい何だ?」

 

そう、忘れてはいけない、俺達が横須賀に呼ばれた理由は、磯谷がチェルノ・アルファを生で見たいという、ふざけた理由の他に見てほしいモノがあるから呼ばれたのだ。

 

「そう!それです!それなんです!五百蔵さん!明石ちゃん、夕張ちゃん!standUP!」

「「hai !」」

 

磯谷の号令に、『夕石屋』のロゴが描かれた色ちがいのつなぎを着た二人が立ち上がる。

 

「「さぁ!五百蔵提督!こちらへです!どうぞ!」」

 

妙にギラギラした目をした二人と磯谷に案内されたのは、『夕石屋』の地下ドックにある一画、何があるんだか?

 

「「さぁ、さぁ!さぁさぁさぁ!中へどうぞ!」」

「分かった分かったから!落ち着け!」

 

怖い怖い怖い!なんなのこの二人、さっきから二人揃って行動してるけど、その時の行動と言動が寸分の狂いもなく揃っており、その上であのギラギラした目で迫って来るからめちゃくちゃ怖い!

 

「二人共落ち着いて、さぁ五百蔵さんこちらへ、これが貴方に見てもらいたいモノです!」

 

案内された建造用ドックにに入る、其処にあったものを見て、俺は此処に呼ばれた理由を理解した。

 

「『コレ』が俺を呼んだ理由か!」

「そうです!『コレ』です!」

 

其処にあったものは、薄いブルーにゴールド寄りのイエローのワンポイントをあしらったスマートな機体、俺のチェルノ・アルファを最古にして最硬とするなら、この機体は最新にして最強、この機体を表現する言葉として、これ以上の言葉はないだろう。この機体の名は

 

「『ストライカー・エウレカ』!」

「「どうです!この子が横須賀鎮守府が誇る我等、夕石屋の技術の結晶です!」」

 

嗚呼、最高だ。しかしどうやって造ったんだ?

 

「「私達、二人が貴方のチェルノ・アルファの情報を元に建造しました!」」

 

え!嘘だろ!情報だけでどうやって造ったんだ!

 

「「妄想です!」」

「妄想かい!てか心を読むな!」

 

磯谷を見るが、さすがの彼女もこれには苦笑い。もう、やだ

 

「つか、情報って何処で、手に入れたんだ?」

「簡単ですよ、五百蔵さん結構な頻度で出撃してるじゃないですか、その時の報告書と映像記録からですよ。」

 

そういや、食料確保のために、近海に出る巨大生物との戦いを吹雪君が撮ってたね、怪獣大決戦って呟きながら。

 

「「それでですね!五百蔵提督に頼みたいことがあるんです!」」

 

いちいち二人で迫って来るな!

 

「何だ?」

 

「「この子のテストの相手をお願いしたいのです!」」

 

マジで!?

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
次回は戦闘回です。最新対最古の戦い、完成まで暫しお待ちください。

それではまた次回お会いしましょう!

その頃の榛名と吹雪

「榛名さん!これ全部食べて良いんですか?!」
「ええ、どうぞ吹雪ちゃん」
「ありがとうございます!いただきます!」

山盛りのクッキーで、ティータイム中の様です


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オッサン、演習する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第14話です。今回は、新型との演習の導入になります。なお、吹雪視点から始まります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

リザのVI出ないかなぁ?ねぇ、コトブキヤさん


皆さんお久しぶりです。吹雪です。前回、出番が無かったような気がしますが、気のせいですよね。

 

只今私は、榛名さんのお部屋にお呼ばれしてお菓子をご馳走になってます。榛名さんはとても優しくて、背も高くて綺麗な人ですが、少し変わった人のようです。

 

「あの~、榛名さん?」

「はい、何でしょう?吹雪ちゃん。」

「何で私は、榛名さんの膝の上に居るんでしょうか?」

 

そうです何故、私は榛名さんの膝の上に居るんでしょう?何故、頭を撫でられているんでしょう?何故、ホッペを突っつかれているんでしょう?

嫌じゃないですけど、くすぐったいです。

 

「ふふふ、何ででしょうね?あっ、吹雪ちゃん、このケーキも美味しいですよ。」

「いただきます!美味しいです!ありがとうございます、榛名さん!」

「ふふ、慌てなくても、まだたくさん有りますからね。」

「ありがとうございます!」

 

お菓子美味しいし、榛名さん優しいし綺麗だし、お菓子美味しいから気にしません。あっ、このケーキ、メロンが入ってる、高級品だ!

 

吹雪 side end

 

 

 

榛名 side start

 

皆さんお久しぶりです、榛名です。只今私は、北海鎮守府の吹雪ちゃんと一緒にお茶をしています。

吹雪ちゃんは食べ始めると、食べ物に集中してしまうようで、私が吹雪ちゃんを膝の上に乗せても、まるで気にした様子も無く、クッキーを口一杯に頬張っていました、可愛いですね。

 

思わず、頭を撫でたり頬を突っついたりしていました。

そう、頬を突っついたその時です、榛名に電流が走りました。吹雪ちゃんの頬の感触はまさに『至福』としか表現出来ない柔らかさと張りと弾力を併せ持っていたのです!

 

私としたことが、時間を忘れて触り続けてしまいました。

すると、クッキーが無くなったせいか、吹雪ちゃんが自分の状況に気づいた様ですね、キョロキョロ辺りを見回してこちらに振り向いてくるのが、仔犬みたいで可愛いですね。

 

「吹雪ちゃん、このケーキも美味しいですよ。」

 

ケーキを勧めると、早速食べ始めました。もう夢中みたいです。

これならあのことを聞けそうですね。

 

榛名 side end

 

 

「ねぇ、吹雪ちゃん1つ聞きたいことがあるんだけど、良いかしら?」

「はい、何ですか?」

 

榛名さんが私になにを聞きたいんだろう?

 

「あの・・ね、その、五百蔵提督のことなのだけど」

「?、提督ですか」

 

榛名さんが提督のなにを聞きたいんだろう?あの人のことを聞かれても、私もよく知らないことが多いしどうしよう?

 

「吹雪ちゃん?」

「はい!」

「だ、大丈夫?」

「えっとね、吹雪ちゃん、五百蔵提督に好い人はいるのですか?」

 

はい?提督に好い人?榛名さんまさか!

 

「榛名さん!提督のことが好きなんですか!?」

 

嘘!ありえない!だって提督オジサンですよ!確かに、顔は悪くないし、料理は美味しいし、仕事も出来るし、強いし、あれ?自分で言ってて何ですけど、優良物件のような

 

「榛名さん、家の提督は地味に優良物件ですが、オジサンですよ?それに提督の何処に惹かれたんですか?」

 

会って間もないのに、まさか一目惚れとか?

 

「えっとね、吹雪ちゃん。」

「はい!榛名さん」

「一目惚れ・・なの」

 

Oh !!一目惚れ入りましたー!

 

「一目惚れ・・ですか、榛名さん」

「はい、一目惚れなのよ、吹雪ちゃん」

 

まさかまさかの展開です!家の提督に春が来ました!春が来ましたよ!

 

「そうですね、提督にそういう特定の相手は、私の知る限りいませんね。」

「そ、そうなの?!」

「はい!」

 

こうなったら、徹底的に応援しましょう!榛名さんの為に!私の美味しいお菓子の為に!

 

「では、早速提督に会いに行きましょう!」

「え、ええ!吹雪ちゃん!ちょっと待って!」

 

待ちません!善は急げです!さて、提督は何処に居るのかな?

首に掛けていたヘッドホンを装着し、提督を探すがあのAMIDA とかいう蟲が多すぎて邪魔だ。

ヘッドホンの設定を調整し捜索範囲を拡げようとした、その時、横須賀鎮守府に提督のチェルノ・アルファの大型船の汽笛に似た起動音が鳴り響いた。

 

吹雪&榛名 side end

 

 

五百蔵&磯谷 side start

 

「では、五百蔵さん早速ですが演習用の港にいきましょう!」

「随分、急かすじゃないか。磯谷さん」

「ふふ、楽しみだったんですよね、最新対最古、どちらが勝つのか?!」

 

小娘が、なかなか言うじゃないか。

 

「ああ、行こうか、ルーキーがどこまでやれるか、試してやるよ」

「嘗めないで下さいよ、ロートル」

 

演習用の港に着いた俺達はそれぞれに向かい合う。

そして、お互いに機体を起動させる。

 

「チェルノ・アルファ!」

「ストライカー・エウレカ!」

「「起動!!」」

 

薄いブルーの機体と緑黒の機体が海の上に向かい立つ

 

「さあ!始めよう!(ましょう!)」

 

最新にして最強対最古にして最硬、どちらが勝つのか

戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?読みづらくなかったですか?

今回はここまでとなります。本番は次回です!

最高対最古、どちらが勝つのか!

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、演習する その2

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第15話です。今回は、新型との演習です、今回で横須賀編は終了かなぁ?あと、今回、思いっきりやっちゃいました!申し訳ございません!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!

リザァ、ナンデデナインディスカァ!コトブキヤサァン!


どうも、五百蔵冬悟です。只今私は、横須賀鎮守府にて建造された最新型イエーガー『ストライカー・エウレカ』との演習中です。

なのですが、何て言えば良いんですかね?苦戦するもんだと思っていたんですよ、こっちは第一世代で、向こうは第五世代、明らかに向こうの方が性能が上で、もしかしたら何も出来ずに負けるかもと、心の何処かで思っていた時期が私にもありました。

 

「え~、嘘やん?」

 

演習開始直後、磯谷嬢が真っ直ぐ行って、右ストレートでぶっ飛ばす!と言わんがばかりに突っ込んで来たので、それに合わせて左アッパーを打ち込む、加速速度や機体の反応速度から、回避されること前提の一撃なので、本命は同時に構えた右ストレートだ。

ここで、計算違いが起きた、磯谷嬢が回避するそぶりを見せないのだ。

 

(もしかしてこの子、攻撃することしか考えてない?)

 

そんなまさかと思った瞬間、こちらのアッパーが見事にクリーンヒット、綺麗に磯谷嬢の顎が跳ね上がる、そしておまけの右ストレートを、ついうっかり打ち込んでしまった。ハンマーパワー付きで

 

いやね、まさかねこんなことになるなんて思わないって、だってさ、あのストライカー・エウレカがあっさりとカウンターの右ストレート喰らって、後方に一回転して倒れて、1度は立ち上がったけど「フッ」てなんか体から大事なものが全部抜けていく様な息を吐いたと思ったら、顔面から海面に突っ込んで尻を突き上げる様な体制でダウンしてるなんて、ねぇ?

 

「「て、提督ー!」」

 

おおぅ、いつの間に来たんだ変態技術者1号2号、つーか、大丈夫か?さっきから動かないけど、生きてる?

 

「おーい!磯谷嬢、生きてるか!」

「・・・・」

 

反応が無い、ただの屍のようだ。じゃねーよ!なんか沈み始めてる!

 

「二人共手伝え!」

「「はい!提督しっかりしてください!」」

 

その時だ

 

「提督、何があったんですか?!」

 

吹雪君と少し遅れて榛名さんが駆け寄ってきた。

 

「提督、何の音なんです!って、五百蔵提督!」

「あー、二人共説明は後で、今は磯谷嬢の救助が先だ!」

 

ストライカー・エウレカから磯谷嬢を引きずり出し、医務室へ運び、診断結果を待つ。結果は、頭に強い衝撃を受けたことによる脳震盪で、命に別状は無いとのこと、なお、暫くすれば目覚めるらしい。

 

「榛名さん、夕張さん、明石さん、この度は誠に申し訳ございません。」

 

演習とはいえ、この様な事態になったのだ、謝罪はしなければいけない。すると、榛名さんが口を開く

 

「今回の事は、五百蔵提督の責任ではありません。どちらかと言うと、こちらに非がありますので」

「はい?それはどういう事なんでしょうか?」

「「それは我々から説明します。」」

 

変態1号2号の説明によると、単純な機体の調整ミスとのこと、その結果、磯谷嬢の想定を超えた速度で機体が稼働し、避けることも出来ずにそのままカウンターの2連撃を喰らった。

これが、今回の事態の真相だが、何か引っ掛かる、目の前の二人、明石と夕張は変態だが、自分の作品に手抜きをするような人物ではないと、会って間もない俺にも分かる。

なので、今回の事態の真相をもっと詳しく説明するとこうなる、磯谷嬢が勝手に機体の設定を弄り、自分から自爆した。もう、なんだろうね、オッサン此処へ来てから、凄く疲れたよ。

全部、この小娘が悪い!ほら見ろ、さっきまで真面目な顔してた吹雪君を!何とも言えない顔になってるじゃん!

 

「とりあえず、磯谷嬢は目覚めたら説教しといてください。」

「「「はい!」」」

 

何とも締まらない展開だ

 

 




いかがでしたでしょうか?次回で横須賀編が終了します。
ストライカー・エウレカファンの皆様、申し訳ございません。許してください!

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、今度こそちゃんと演習する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第16話です。前回は誠に申し訳ございませんでした。今回こそちゃんと演習するようです。また、今回も何かトラブルが起きるようです。大丈夫!前回のようなことにはなりません!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください。

リザァ!イナイィ!ナンデェ!リザァ!ホシイィ!


「あうう、ここは?」

「「「提督!大丈夫ですか!」」」

 

どうやら、磯谷嬢が目覚めたようだね。

 

「やあ、磯谷嬢、目覚めは良好かね?」

「あ、五百蔵さん、私は・・・・!」

 

おや?どうしたのかね磯谷嬢?そんな顔して、そこの四人も、なんで俺から離れるんだい?

ああ、そういうことか、安心しなさい。怒ってないからさ、ただ少し、苛ついているだけだよ。

 

「さて、磯谷嬢、俺は君に言わなければならない事がある。」

「は・・はい」

「何故この様な事をした?」

「それは、貴方に「勝ちたかったから、などとほざくなよ、小娘」・・!」

「もし、それが理由だとしたら俺は君から、あの機体を取り上げる」

「ッ!何故ですか!」

 

何故?面白いことを言うじゃないか。

 

「君は、あの機体の設定を勝手に弄った。それに間違いはないね?」

「はい」

「それは、そこに居る二人、明石さんと夕張さんを信用していないということだ」

「そんなことは!」

「ならば何故、二人に相談しなかった。」

「それは・・・」

 

努めて平坦な口調で続ける。

 

「作品に勝手に手を加えられ、そのうえ事故を起こされる。技術者からして見れば、信用していないと言われている様なものだ。」

「・・・・」

「ましてや、君は提督だ。自分達が作った作品で君にもしものことがあったら、君は二人に何と言うつもりだ?」

「・・!」

「今回の事について、俺から言えるのは以上だ、後は、君達で話し合いなさい。」

「はい、」

 

ふう、疲れた。急に真面目になるもんじゃないね。磯谷嬢も反省してるみたいだし、まあ、良いか

 

「磯谷嬢」

「は、はい!」

「俺達は、暫くここに滞在する。その間に機体の改修を手伝おう、改修が終わり次第で演習のやり直しだ。」

「え?良いんですか?」

 

何を言ってるんだろうね、この子は

 

「その為に呼んだんだろう?吹雪君行くよ」

「ま、待ってください提督、磯谷提督もお大事に、それでは失礼します。」

 

そう言って、吹雪君を連れて医務室を出る。後は彼女達の問題だ。

 

 

五百蔵さんと吹雪ちゃんが出ていった医務室は、とても静かだった。

 

「「あの、提督・・」」

 

明石ちゃんと夕張ちゃんが口を開いた。

 

「「私達が、もっとちゃんとチェックしていれば、こんなことには・・・」」

「それは、違う!私がはしゃいで勝手に機体を弄ったから!」

「「ええ、ですから・・・・」」

「ふ、二人共、どうしたの?」

 

フフフと笑い出した二人は、少しというか、かなり怖い。だって二人同時に同じ笑い方なんだもん、いつもだけど。

 

「「五百蔵提督の指導の元、ストライカー・エウレカの改修を行い、あのオッサンの緑バケツをケチョンケチョンに伸してやりましょう!!提督!」」

 

ああ、この二人は本当に強い

 

「ええ、そうね!やってやりましょう!」

「「そうです提督!そうと決まれば、早速・・「ダメですよ」・・榛名さん?何故?!Why !?」」

「今日は安静にするようにと、医務官からの言い付けですからね、提督また五百蔵提督に怒られたくないでしょう?」

 

うん、嫌だ。あのオジサン、怒るとメチャメチャ怖い。怒鳴らずに静かに怒るんだもん。

 

 

翌日、ストライカー・エウレカの改修が行われた。五百蔵さん曰く、私の無茶苦茶な調整のせいで、脚回りの駆動系や動力部はかなりのダメージを受けている様だが、それ以外は問題は無いとのこと、これなら一週間以内で終わるらしいが、この言葉を聞いた明石ちゃんと夕張ちゃんが

 

「「それなら、三日で蹴りをつけてやりますよ!」」

 

とか叫び始めて、五百蔵さんに拳骨喰らってた。

 

そして、演習当日

 

「よお、磯谷嬢、準備は良いかね?」

「いつでも、良いですよ、五百蔵さん」

 

私達は、前回と同じ演習場で、向かい合っている。そして

 

「ストライカー・エウレカ」

「チェルノ・アルファ」

「「起動!」」

 

二人同時に、機体を起動させ、相手に向かって突っ込む、だが、自分の距離まであと一歩というところで、前回と同じ左アッパーが此方の顎目掛けて放たれた。

 

 

(さて、前回は反応すら出来なかったが、今回はどうだ)

 

前回と同じ様に、真っ直ぐ此方へ突っ込んで来た磯谷嬢に合わせて、左アッパーを放つ、だが、避ける気配がない

 

(前回と同じか?いや、違う!)

 

此方の拳が自分の顎を捉える瞬間、上体を起こし空振らせ、体勢を整えながら、その場で回転し、がら空きになった此方の左脇腹にまさかの回し蹴りを叩き込む。

 

「がぁっ!」

 

衝撃が装甲を貫き、骨と肉が軋み、内蔵が揺さぶられ、息が詰まる、油断した。まさか、蹴りを叩き込んでくるとは、元ネタを知ってるばかりに蹴りは無いと思っていた。だが、

 

「捕まえたぞ!」

 

脇腹に入れられた右足をがっしりと掴んで拘束し、右フックを打ち込む

 

「うぁっ!こなくそ!」

 

反撃とばかりに、腕部のブレードを展開し、此方の左肘に差し込もうとする。

 

(冷静だな、脱出狙いか。)

 

片腕を壊されたら余計に不利になる、性能は向こうの方が上なのだ。

急いで、足を離し、磯谷嬢を突き飛ばす様に距離をとる。

 

 

その時だ

 

『二人共!回避してください!』

 

管制室で見学していた吹雪君から通信が入る、その瞬間、俺と磯谷嬢の間に人間程の大きさの岩が飛んできた。

 

「なんだ?!」

「なに?!」

 

二人同時に岩が飛んできた方向を睨む、そこには予想外のモノが立っていた。

 

「あれは!」

 

長い手足、鮮やかな青のボディ、特徴的な手、そして胸部の装甲の中央から伸びるブレード状の突起

 

アメリカ製第一世代イエーガー『ロミオ・ブルー』

 

その機体が横須賀鎮守府の演習場の正面に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

今回、新しいイエーガーが登場しました。その正体は!

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、戦う

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第17話です。今回は謎のイェーガーと戦う様です。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リザァ!リィィィィザァァァァァァ!


「なあ、磯谷嬢」

「何です?五百蔵さん」

「あれ?敵か味方か、どっちだと思う?」

 

演習中に、いきなり乱入してきた謎のイェーガー『ロミオ・ブルー』こいついったい何者なんだろうね?

 

「とりあえず五百蔵さん、挨拶してみたらどうです?」

 

そうだね、挨拶は大事だね。彼方さんいきなり岩を投げてきたけど、もしかしたら岩を投げるのが挨拶の国の人かもしれないので、挨拶をするために、少しだけ近づく

 

「ハ、ハロー、ナイストゥミートゥ!」

「うっわ!五百蔵さん、英語下手くそですね!」

 

ウッセェ!こちとら英語で3以上の成績取ったことねぇんだよ!チキショー!

 

「五百蔵さん!前!前!」

 

え?前?何よ?うおお!青い腕が目の前に!

 

「あっぶねぇ!何しやがる!」

「五百蔵さん!こいつ敵です!」

「だろうな!」

 

そうでなけりゃ、初対面の相手に腕、降り下ろしたりしないもん!

ん?つーか、こいつ何か変だな、てか、こいつ!

 

「磯谷嬢!こいつから離れろ!」

「え!何で?」

「いいから!離れろ!」

 

よくよく見れば、こいつ普通じゃねぇ!

 

「磯谷嬢、あいつの関節をよく見ろ。いや、見ない方がいいのか?」

「どっちですか?んー、どれどれ、うっげ!キモ!キンモー!」

 

おおぅ、今時の子の反応だねぇ、でも仕方ないか、オッサンでもキモいもん!

 

「何なんですか、アレ?!」

「俺が知るか!」

 

何がキモいって?そうだよねぇ、普通イェーガー見たらカッコいいていう感想がでるもんねぇ。

じゃあ、何がキモいかって?装甲に覆われてない関節部分が問題なのよ。

蟲と蟹や海老とか海鼠やらの海洋生物をごちゃ混ぜにしたようなモノが見えてるのよ、そのうえ血か何かは判らないけど、黄緑っぽい体液が垂れてんのよ、うわぁ、糸引いてる!

 

「五百蔵さん!私は嫌です!」

「俺も嫌だ!お前がやれ!」

 

そんな感じでアレを押し付けあっていると、吹雪君から通信が入った

 

『二人共!馬鹿やってないで前を見る!来てますよ!』

 

正面からロミオ・ブルー擬き1名様入りまーす!

こっち来んな!

 

「こっちじゃねぇ!向こう行け!」

「こっちじゃなくて、向こうの方が良いですよ!頭が平たいから太鼓みたいに叩きやすいですよ!」

 

ロミオ・ブルー擬きがこっちへ向かって、猛然と走って来た。

 

「てめえ!このクソガキ!」

「ザマァ!」

「ドチクショー!」

 

逃げ回るチェルノ・アルファとそれを追うロミオ・ブルー擬き、なにこれめっちゃシュール!

 

「うおお!嘗めんな!このやろう!」

 

振り向き様、右フックをロミオ・ブルー擬きの頭にに叩き込む、鉄と鉄がぶつかる音が周囲に響きロミオ・ブルー擬きの頭部装甲に罅が入り、体勢を崩す。

 

「どうだ!」

 

すると、頭部装甲の罅が拡がり、歪な口が露になる。ん?口?

 

〔ギシィァァァァァァ!〕

 

「「キエァァァァ!サケンダァァァァ!」」

 

カメラアイの下部、裂けた装甲から大小不揃いの牙が並ぶ歪で裂け拡がった醜悪な口が現れ、耳障りな叫び声と体液が撒き散らされる。

 

「キモい!キモい!キモい!キモい!」

「何なんだ!こいつは!」

 

KAIJU か!?いや、違う。体液が青色じゃなくて黄緑だ。じゃあ、こいつ何よ?

 

「五百蔵さん!何なんですか、こいつは!?」

「俺が知るか!つーか、このやり取りさっきもやったぞ!」

 

〔ギシィァァァギイィィ!〕

 

耳障りな叫び声を上げ、肉と骨を歪める音を立て、二足歩行から四足歩行へと移行し、此方へ向かって来る。

 

「来るぞ!構えろ!」

「う~!ゴメン、エウレカ!初陣があんなキモいので、ホントごめん!」

 

言うなり、俺は拳を、磯谷嬢は両腕のブレードを展開し構える。

それに、怯む様子を見せずにさらに加速する、ロミオ・ブルー擬き、

 

〔ギイィィギシィァァァ!〕

 

「うるさい!」

 

低い位置にある頭を掬い上げる様に、左アッパーを放つが変則的な動きで避けられる。

 

「くそ!磯谷嬢、そっち行ったぞ!」

「こっち来んな!あっち行けぇぇ!」

 

ブレードで斬りつけるが、これも易々と避け、磯谷の背後へ回り込み、胸部の衝角をカブトムシの様に使い突き上げる。

 

「きゃあああ!」

「磯谷嬢!」

 

突き上げられ体勢を崩した磯谷に飛び掛かり押し倒す、そしてその長い腕を振り上げ、何度も叩きつけ、僅かに歪んだ胸部の装甲に手を掛け、装甲を引き剥がそうとする。

 

「待ってろ!今行く!」

「この!離れろ!」

 

ロミオ・ブルー擬きがもう一度腕を振り上げた瞬間、脇にブレードを刺し、怯んだ隙に蹴り飛ばし距離を取る。

 

「大丈夫か?」

「なんとか」

『二人共、大丈夫ですか?!』

「吹雪君、あいつはいったい何者だ!何処から来た?!?」

『判りません!レーダーに反応せず海中から突然、現れました!』

 

なんじゃそら!?反則だろ!

 

「ちっ!磯谷嬢、付近に避難勧告を出せ!まだ他に居るかもしれん。」

「了解、比叡ちゃん、聞こえる?」

『こちら比叡、聞こえてますよ!』

「近隣に避難勧告を出して、鎮守府に居る娘達で誘導を行ってちょうだい!」

『提督達は、どうするんですか?!』

「私達は、ここでこいつを沈める!」

「そういうことだ吹雪君、君はその耳と目で避難誘導をサポートしてくれ。」

『了解です!提督、ご武運を』

「ああ」

「それでは、五百蔵さん、とっとと終わらせましょう!」

「ああ、そうだな」

 

ロミオ・ブルー擬きも、先程のダメージが回復したのか、こちらに敵意を込めた唸り声を向ける。

 

〔ギィィィ〕

「行くぞ!」

「はい!」

 

磯谷が先行し、殴り掛かるがそれを避け、掴み掛かってくる。

 

〔ギシィァァァ!〕

「そう、何度もやられるか!」

 

掴み掛かってきた腕を避け、捌きながら再度展開したブレードで切りつける。

 

〔ギギィィィ!〕

「うわ!こいつぅ!」

 

磯谷は斬りつけてくる腕を掴もうと、がむしゃらに両腕を振り回すロミオ・ブルー擬きの懐に潜り込むと、胸部と脚の装甲を掴み持ち上げ、

 

「五百蔵さん!パス!!」

 

俺に向かって投げ飛ばした。

 

「欲しくはないが、貰おう!」

 

投げ飛ばされたロミオ・ブルー擬きに、両腕を降り下ろし叩き落とす。

 

〔ギイィィ!〕

「この野郎、とっととくたばれ!」

 

叩き落としたロミオ・ブルー擬きを踏みつけるが、それでも、起き上がろうとするロミオ・ブルー擬き、それを何度も殴りつける。

 

〔ギイィィギギィィィ〕

 

余裕が無くなってきたのか、逃走しようとするが鋼の拳がそれを許さない。

 

「ハンマーパワーだ!」

 

腕部のスプリング機構により、打ち出された拳が胸部の衝角をへし折り、顔面を潰す

 

〔ギシィァァァ!〕

「こいつ!まだ動くのか!」

 

すでに、ロミオ・ブルー擬きの装甲に無傷な部分など1つも無く、何度も斬られ、殴られ、満身創痍といった状態だが、それでも絶命には至らず、全身から黄緑の体液をこぼしながら、未だに二人に敵意を向けていた。

 

〔ギギィィィ〕

「タフですね、こいつ」

「ああ、面倒なことこの上無い。」

「五百蔵さん、ほんの一瞬だけ時間をください」

「了解だ」

 

時間を稼ぐため、猛然と向かって来るロミオ・ブルー擬きを殴り飛ばす。

 

「五百蔵さん!避けて!」

「うおおい!」

 

磯谷のストライカー・エウレカの胸部装甲が展開し、六門の砲が現れ、六発の弾頭が発射される。

 

「エア・ミサイル!」

 

発射された弾頭は、吸い込まれる様にロミオ・ブルー擬きに全て着弾する。

 

〔ガギァィィィギギィィィ!〕

 

けたたましく耳障りな叫び声を上げ、爆炎の中に消えていった。

 

「終わったんですかね?」

「終わらせた本人が言うかね?」

「はあ~、やっと終わった!」

「お疲れさん、帰ろう。」

 

こうして、謎のイェーガー『ロミオ・ブルー』との戦闘が終了した、だが、俺も磯谷嬢もこのときはまだ理解してなかった。

これが、始まりだということに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?読み辛くなかったですか?


今回の敵の元ネタ、分かる人居るのかなあ?居たら良いなあ


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オッサン、戦う その2

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第18話です。今回は、前回の続きです。また、今回で横須賀編が終了します。長かった。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください


ロミオ・ブルー擬きとの戦闘を終えた俺達は、横須賀鎮守府のドックへと戻るため、歩みを進める。

 

「疲れた、早くお風呂入って寝たい!比叡ちゃんを抱き枕にして!比叡ちゃんに溺れたい!」

「いきなり何言ってんのよ?余計に疲れるからやめてくれ。」

 

割りとマジで勘弁してくれ、オッサン結構疲れてんのよそんな性癖暴露されても困る。

 

『提督、こちら吹雪です。避難誘導が終了しました。』

「おう、吹雪君こちらも、ちょうど終わったよ。」

『そうですか、では、私達も帰投します。』

「あいよ~、注意しながら帰って来なさい。もしものことがあったら、怖いからねぇ。」

 

無いとは思うが、こちらが陽動で向こうに本隊が居るとか、悪夢でしかない。

まあ、あの感じだとそんなことは無いだろうが、注意するに越したことはない。

 

『了解です、横須賀から交替要員が到着しだい、帰投します。』

「はいは~い、それじゃ頑張ってね。」

 

吹雪君との通信を切り、磯谷嬢の方を見ると彼女も通信中の様だ。

 

「うん、・・・それじゃその手筈でお願い、回収は・・・ああ、二人が回収用のAMIDA を向かわせてるのね、了解、それじゃぁ、比叡ちゃんと榛名ちゃんも気をつけて帰って来てね。」

「そっちも、終わったようだね。」

「ええ、アレの回収も、近隣の避難も無事終了しました。」

「んじゃぁ、帰るか、機体の整備もせにゃぁならんし」

「そうですね、アレの体液でベトベトです。早くキレイにしないと、跡が残りそう。」

 

確かに、磯谷嬢のストライカー・エウレカは色的に目立つよね、腕を中心に顔やら胸やらにアレの黄緑の体液がべったりだ。俺も似たような物だがね。

 

「確かに残りそうだ、徹底洗浄だな。」

「はぁ~、最悪です。」

 

こんなことを話ながら、ドックへ戻ると、あの二人が例のギラギラした目で揃って出迎えてくれた。

 

「「二人共!おかえりなさい!整備は私達に任せて!二人はシャワーでも浴びててください!さぁ!さぁさぁさぁ!」」

「わかった、わかったから!落ち着け、二人共。」

「ただいま~、明石ちゃん、夕張ちゃん、後よろしくね」

「「了解です!2機とも新品同様に仕上げて見せますよ!」」

「あ、ああ、よろしく」

「よろしく~」

 

そう言って俺達は、ドック内にある整備用のガレージに向かい、機体を解除する。

 

「チェルノ・アルファ、解除」

 

ガレージの壁に背を預け、解除をコールすると、機体の中心から左右へ装甲が開き、外気が頬を撫でる。機体に脚を固定しているフックを外してから降りる。

 

「ふぅ~、疲れた、さてと、シャワーでも浴びるかね。」

 

チェルノ・アルファから降り、シャワールームへと向かう。その途中、避難誘導から戻って来た榛名さんと吹雪君に会った。

 

「あ!提督、お疲れ様です。」

「おお、吹雪君もお疲れ、榛名さんもお疲れ様」

「いえ、五百蔵提督もご無事で何よりです。」

「ありがとう、榛名さん達も無事で良かった。それじゃぁ、俺はシャワー浴びるから、ここで」

「はい、呼び止めてしまいすみません。」

「それじゃ、また後で」

 

榛名さんと吹雪君と別れ、シャワールームに到着した。

しかし、なんで榛名さんと話している時に吹雪君はニヤニヤしてたんだろうね?まあ、いいや、シャワー浴びよ

シャワーシーン?カットだよ!オッサンのシャワーシーンなんて、誰得だよ!

 

 

オッサン、シャワー中・・・

 

 

 

「ふぅ~、さっぱりした。」

 

さっぱりして、シャワールームから出ると、榛名さんがいた。

 

「おわ!榛名さん、どうしたの?」

「五百蔵提督、磯谷提督が至急、執務室まで来てほしいそうです。」

 

執務室?何だろうね?榛名さんに案内され、執務室へと急いで向かう

 

「しかし、至急とは、いったい何があったんだ?」

「分かりません、ですが、あの磯谷提督が慌ててましたから、よほどのことがあったのでしょう。」

 

確かに、あの磯谷嬢が慌てるなんて・・・結構あったような気がするが、気のせいだろう。

しかし、何があったんだ?アレの事が解ったとか?それは、いくらなんでも、早すぎるだろう。とまあ、考え事をしていたら、執務室に着いたようだ。榛名さんがノックをし、磯谷嬢に声を掛け、返事を待って入室する。

 

「提督、五百蔵提督をお連れしました。」

「どうぞ~、あっ、榛名ちゃんは吹雪ちゃんと休憩してて良いよ。」

「わかりました、では、失礼します。」

 

榛名さんが退席し、一対一になったので、質問をする。

 

「磯谷嬢、何があった。」

「五百蔵さん、早速で悪いけど、この書類を見てもらえる?」

 

そう言って、クリップで簡単に纏められた書類の束を渡してくる。

 

「何だこりゃ?」

「アレに関する報告書。」

「いくらなんでも、それは早すぎやせんか?」

「そこは、あの二人が優秀だからということと、私達の機体の整備を後回しにして、仕上げたからよ。」

「なるほどねぇ、さて、いったい何が書いてある・・ん・・・だ・・、おい、磯谷嬢、これに書いてあることは事実なのか?」

「ええ、事実よ。あの二人が珍しくキョドりながら報告してきたし、二人が、嘘をつく理由がない。」

「確かにな、だが、これは・・・」

「いい気はしないわね。」

 

そこに書かれていた内容は、想像を絶していた。もしこれが、嘘であればどれだけ良かっただろう、ただの敵の新型だと言われた方がまだマシだろう。

あのロミオ・ブルー擬きの正体は、人工の深海棲艦だったのだ。

 

「アレの正体が、これほどのものとはな、これを考えた奴はイカれてる。」

「ええ、完璧にイカれてるわ。こんなものを造るなんて」

 

様々な種類の深海棲艦を材料に、あの『気味の悪い海洋生物擬き』でそれを繋ぎ、装甲や武装を施した。それが奴の正体だ。

 

「人工の深海棲艦とはな、いったい何処のイカれ野郎だ。」

「さぁ?それは分かりませんが、軍が関わっているのは間違いないですね。」

「だろうな。」

 

目的は分からんし、誰が造ったのかも不明、分からんことだらけ、ただ、分かるのは敵であるということだけ。

面倒臭いことこの上無い、あれ1匹であることを祈りたい。

 

「まあ!難しい話は置いといて!御飯にしましょう!そうしましょう!」

「何言ってんの!君!?」

「今、こんなこと考えても仕方ないですよ。情報が無さすぎるんですから、情報がもう少し集まってから考えましょう。」

「はぁ~、それもそうだな。」

「そうですよ、さぁ、食堂へ行きましょう!吹雪ちゃんも居ますよ!」

「へ?吹雪君、食堂に居るの?!」

「ええ、居ますよ。」

「何やってんの!学習しなかったの?」

 

マズイ、間に合うか。言うや否や食堂へ向かい走り出す。

少し走ったところで、食堂の扉が見えてきた。

 

「吹雪君!」

 

彼女の名前を叫び、食堂に飛び込む、そこにあった光景は

 

『さぁ!横須賀カレー大食い大会決勝戦、いよいよ決着の時です!勝利の栄光はどちらに輝くのか!』

 

「お代わり下さい!」

「私も、お代わりください!」

 

ドチクショウ!間に合わなかった!またか!チクショウ!

 

『おっーと!加賀選手、苦しそうだ!これは勝負あったかぁ!』

 

「まだよ!私は!まだ!まだ、戦える!ここが!この戦場が!私の魂の場所よ!」

 

ここたま!ってやかましい!君の戦場は食堂じゃないだろ!

 

「お代わりください!特盛で!」

 

もう止めて!オッサンのライフはもう0よ!

 

「赤城さん、御許しください。加賀はご信頼に背きました・・・」

 

『加賀選手、ダウン!勝者、北海鎮守府所属吹雪選手!堂々の二連覇達成です!』

 

「提督!二連覇です!やりました!」

 

うわ!めっちゃ良い笑顔だ!

 

「いや~、やっぱり吹雪ちゃん凄いですね!」

「うん、もういいや。」

 

その後、俺達はヒーローインタビューされている吹雪君達の横で、普通に食事をした、さりげなく、榛名さんが隣に座って甲斐甲斐しく世話をしてくれたんだけど、何なんだろうね?

そして、いつの間にか戻って来た吹雪君は、榛名さんの膝の上に乗ってお菓子食べてるし、てか、さっきまでカレー食ってたよね?君、いつまで食べてるの!

 

まあ、そんなこんなありまして、機体の整備も終わり、やっと家に帰れます、ていう時に、あの横須賀の変態1号2号がちょっとした爆弾を落としてくれた。

あの、ロミオ・ブルーをイェーガーとして復活させると、宣言しやがった!俺は嫌だ、アレのお古なんて装備したくない!

 

「だから、磯谷嬢、君がアレを使え!」

「私も嫌です!五百蔵さんどうぞ!」

「絶対、嫌だ!」

「私も嫌だ!」

「じゃあ、どうする?」

「家のドックで使用者が現れるまで、眠ってもらいましょう。それしかありません!」

 

結果、ロミオ・ブルーは完成しだい、使用者が現れるまで横須賀のドックで眠ってもらうことになりました。

使いたい人がいたら、横須賀鎮守府に連絡してください!

 

「それじゃぁ、問題も解決?したことだし、俺達は帰るよ。磯谷嬢、世話になったね。」

「いえいえ、こちらこそ、御迷惑をお掛けしました。」

「ははは、まったくだ、それじゃ、吹雪君!帰るよ。」

 

また、榛名さんの膝に乗りながらお菓子を食べていた吹雪君に声を掛ける。

 

「はい、提督。それでは榛名さん、また会いましょう!」

「ええ、吹雪ちゃん、また会いましょう。」

 

榛名さんの膝から降りて、挨拶をしてこちらへ戻ってくるのを待ってから、俺も榛名さんにも挨拶をする。

 

「榛名さん、家の吹雪君の相手をしてもらって助かりました。ありがとうございます。」

「いえ、構いませんよ。また是非、いらしてください、五百蔵提督」

「榛名ちゃん!それ私のセリフ!」

「ははは、では、私共はこれで、今度は家に来てください。大したことはできませんが」

「ええ、是非」

「それではまた、磯谷嬢、榛名さん」

 

そう言い残し、俺達は家に帰った。言い忘れたけど、家のカレーは暫くの間、辛口になった。それで吹雪君と少し喧嘩になったが、ちょっと高級な羊羹を献上したら、すぐに収まった、チョロい!

あと、榛名さんからよく手紙が届くようになった。事務仕事の清涼剤ができて嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?読み辛くなかったでしょうか?少し、無理矢理終わらした感がありますが、横須賀編これにて終了です。次回からいつもの北海鎮守府に戻ります

それではまた次回お会いしましょう!


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番外編 吹雪の食べ歩き紀行

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第19話です。今回は番外編「吹雪の食べ歩き紀行」になります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」番外編「吹雪の食べ歩き紀行」お楽しみください

ここで、突然の北海鎮守府の二人の持ち物紹介

五百蔵 冬悟
ボールペン
手帳
車の鍵
携帯電話
財布
ペンライト

レザーマンナイフ

吹雪
携帯電話
原付の鍵
財布
ヘッドホン
カトラリーセット
お菓子



吹雪は、町を歩いていた。今日は仕事も訓練も休みで、丸一日暇なのだ。

オッサンは何してるんだって?あのオッサンは、書類と格闘中だよ。

何でも、横須賀から送られてくる『ロミオ・ブルー』の仕様書に、鎮守府で1人頭を悩ませているとか、いないとか

 

なので、吹雪は1人町を歩いている。片手に肉マンが山盛りに入った紙袋を抱え、口いっぱいにその肉マンを頬張りながら、町を歩いていた。

 

「んぐ・・ふぅ、あの新しく出来た屋台、なかなか良いですね。」

 

食べやすい一口サイズでありながら、フワフワの生地の中には餡がたっぷりと詰まっている。口に放り込み、一度噛み締めると野菜のスープが混じった肉汁が溢れだし、肉のぷりぷりとした食感と野菜のシャキシャキとした歯応えが肉汁スープと共に口の中で踊る。

 

「ムフー、堪りません。次は、別のメニューを試してみましょう。」

 

肉マンを頬張りながら、歩みを進めると正午を報せる鐘が鳴った。

 

「あら?お昼ですか、通りでお腹が空くわけですね。」

 

お前、肉マン食ってるじゃねぇか!というツッコミはここの吹雪には無意味である。

残り少なくなった肉マンを口に放り込み歩みを進める、昼食を食べる店を探す為に、自らの空腹を満たすために町を歩く。

 

「どうしましょうか、和食?中華?洋食?ファーストフードもありですね。迷います、どうしましょう?」

 

迷いますね、中華は・・肉マンが被りますね、和食なら、居酒屋『鳳』ですが、まだ開店してません。洋食は・・・あっ、牛串3本ください。ふふ、醤油ダレですか、良いですね。はっ!いけない、お昼御飯です!どこで食べましょうか?

すいませーん!この焼きドーナツを6つ、ええ、ハニー&カスタードクリームでお願いします。

 

「はっ!そうだ!この間出来たサンドイッチ専門店に行きましょう!」

 

そうと決まれば早速行きましょう、その前に・・・そのたこ焼きください!四皿お願いします!

 

 

やって来ました、サンドイッチ専門店『ジョン・モンタギュー』です!

ふふふ、良いじゃないですか。外観もレトロで落ち着きがあって、パンは自家製なのか、先程から、パンの焼ける良い匂いが漂ってます!

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

「はい」

「それでは、こちらのお席へどうぞ」

 

指定された窓際の席に腰掛ける。

 

「では、ご注文が決まりましたら、お声をお掛けください。」

 

店員さんが離れたので、メニュー表を見る

 

「おお!これは!」

 

書いてあったのは、サンドイッチの種類ではなく、パン、それに挟む具材とソースが写真と簡単な解説付きで書いてありました。

 

「良いですね、良いですね、良いですよ!これは!」

 

まさか、こんな手で来るとは!ふふふふ!

ここはやはり、基本のBLT サンドでいきましょう、もちろん、ベーコンは厚切りで、セットでカフェオレとポテトも頼みましょう。

 

「すいませーん!」

「ハーイ!」

「厚切りベーコンのBLT サンドを2つと、カフェオレとポテトをください!」

「はい、パンとソースの種類はどれにしますか?」

「ライ麦パンでケチャップソースでお願いします」

「かしこまりました、少々、お待ちください。」

 

楽しみです!まだかな~まだかな~、おお!具を挟む前に、パンを軽く焼いています!なるほど、外に漂うあの匂いのもとは、これだったんですね!

ああ~、完成が待ち遠しいです!

 

 

「お待たせしました、BLT サンドセットです」

「わあ!」

「ごゆっくりどうぞ」

「いただきます!」

 

早速サンドイッチにかぶりつくと、カリッとした歯応えとパンの香ばしい香りと、ベーコンの脂と塩気、レタスの瑞々しさ、トマトとケチャップの程よい酸味が口いっぱいに広がります。これは!

 

「これは、堪りません!」

 

手が止まりません!ポテトはどうでしょう?

 

「おほ!」

 

アツアツのカリカリでホクホクです!味付けも塩だけではなく、バジルも使っている贅沢仕様!最高ですね!

 

「ホフホフ!ンクッ、さてさて、カフェオレはどうなのかな~?」

 

ストローをくわえて、カフェオレを飲む。

 

「んふふ~、良いですね良いですね!」

 

優しい甘みの中に、珈琲のキリッとした苦味があって、とても飲みやすいカフェオレだ。

 

「ふふふ!良い!良いですよ!ふふふふ!」

 

彼女は知らない、外から通行人が自分のことを見ていることを

幸せそうに、サンドイッチとポテトを頬張り、カフェオレを飲む少女を見て、自分もと、『ジョン・モンタギュー』に次々と客として来店していることに

 

「あれあれ?なんだか混んできましたね、時間も良い感じですし、帰りましょうか。」

 

席を立ち、レジで勘定をし、店を出る。

 

「ふふ、今日は良い日です!さぁ!帰りましょう、今からなら、ちょうど晩御飯の時間です!」

 

少女の食欲は止まらない、今日も明日も、美味しい料理を求めて町を食べ歩くことだろう。

 

また、彼女は知らない話だが、彼女が訪れた店は必ず繁盛するというジンクスがある、その為、町の飲食店は彼女の気を引こうと毎日必死になっていることを、彼女は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

突然の番外編でしたが、大丈夫ですかね?
次回は、オッサンの話です。
次回「オッサン対怪獣王?」お楽しみに!

それではまた次回お会いしましょう!



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オッサン、幼女に会う

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第20話です。今回は、幼女に会うようです。また、今回は前回の予告の導入になります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!

これ、タイトル大丈夫かなぁ?憲兵さんにケンペイされないかなぁ?


どうも、五百蔵冬悟です。只今、俺は鎮守府にカンヅメになっています。

 

「だから!なんで、ロミオ・ブルーにウイングを積もうとしてるんだ!」

 

横須賀から送られてくるロミオ・ブルーの仕様書に、俺は頭を悩ませています。ダレカ、タスケテ!

 

「あの二人、大丈夫か?このままだと、ロミオ・ブルーがナニカサレルぞ」

 

いや、もうナニカサレテルけど

 

「はあ、何とかなるか」

 

そう言い、仕様書を机の上に放り出し、先程届いた一通の手紙に目を通す

 

「え~と、なになに?」

 

『ヲヲヲヲ、ヲ~ヲ!ヲッヲヲヲヲヲッヲヲヲ!ヲッヲッヲッヲッヲ!ヲヲーヲヲヲッヲ、ヲヲヲ、ヲヲン!!』

 

「済まねぇ、アメリカ語はさっぱりなんだ。」

 

じゃねえ!え~と、この字は多分、ヲ級の『ヲガタ』さんだな。あの人まだ、こちらの文字が書けないのか。

 

「辞書辞書、辞書は何処だ?あ、あった、あった」

 

取り出したるは、『深和辞書』深海棲艦語の解読に必要不可欠な辞書だ、この地域に住むなら、深海棲艦語の習得は片言でもしておいた方がいい。何故かって?この地域は友好的な深海棲艦が結構な人数住んでいるからだ。因みに、俺は言葉は解るが、まだ文字は読めん!人のこと言えないね

 

オッサン、解読中

 

「このヲがこれだから、このヲヲヲがこれか、んで、このヲヲーヲヲヲッヲが・・・なんだ?これか!」

 

では、解読結果発表です!

 

『事件が発生しますた、助けれしやがって下さいませ!』

 

うん、誤字じゃないよ。解読したらマジでこう書いてた。あの、半端に長いヲの羅列を日本語に訳すとこんな感じになる。何故だ!

 

「事件?なんだ?しゃあない、行くか」

 

軽トラでヲガタさん家に向かう、その途中で吹雪君を見つけたので、ついでに拾って行く

 

「提督、いったいどうしたんですか?」

「ん~?いやね、ヲガタさんから手紙が届いてさ、内容が内容だから向かっているとこ」

「そうですか」

「いったい、何なんだろうね?」

「何でしょうね?あっ!ヲガタさん家が見えてきましたよ。」

 

件のヲ級のヲガタさんの家の前に車を停め、玄関の戸を叩き、名前を呼ぶ。

 

「ヲガタさーん!居ないのー?」

「裏の畑じゃないですか?」

「そうかもね、行ってみるか。」

 

裏の畑に向かう、その途中で、なんかちっこい白い人影が視界の端を横切った。

 

「ん?」

「どうしました?」

「なんか、白くてちっこいのが居たような?」

「気のせいじゃないですか?」

 

そうかねぇ?まあ、いいや。

 

「ヲガタさーん!居ねぇな?」

「提督!避けて!」

 

「え?なに・・・がッ!」

 

オッサンの腰になんか重くて固い何かが直撃しました!

 

「がッアア!こ、腰が!」

「トーゴ、オソイ!ホッポ、マチクタビレタ!コレオシオキ!」

「コラ!ほっぽちゃん!ダメでしょ!」

 

ああ!ほっぽだぁ!?腰を押さえながら、後ろを見る

そこに居たのは、白い髪と肌を持ち、これまた白いワンピースを着て、白いまん丸ミトンを手に着けた幼女、『北方棲姫』が居た。

 

「こんの、チビスケがぁ!なんで毎回毎回、俺の腰を狙って飛んできやがる!?」

 

チビスケの小さな角の生えた頭を掴み上げる

 

「フッフーン!ハズレ!トーゴ、バカ!コンカイ、チガウ!」

「あぁ!?誰が馬鹿だ?!誰が!?」

 

少しだけ、頭を掴んでいる手に力を込め、締め上げる。

 

「イタイ!イタイ!バカ!トーゴノバカ!ハナセ!」

「提督!ストップ!それ以上いけない!」

「(゜_゜)」

 

取り敢えず手を離す。

 

「トウ!」

 

綺麗なY字ポーズを決め、着地する。このクソガキ

 

「それで?ほっぽちゃん、違うって、どういうこと?」

「サスガフブキ!トーゴヨリ、アタマイイ!」

「んなこたいいから、どういうこった?」

「フッフーン!コンカイハ、ヲガタニナゲテモラッタ!」

 

ああん!何だと!

チビスケが飛んできた方角を見ると、逃げ出そうとしている空母ヲ級が居た。

 

「あんの、アホ空母!待ちやがれ!」

「ヲヲヲ!マッテ!トーゴ!マッテ!」

 

誰が待つか!アホ空母!

追い付き、手を伸ばし取っ捕まえて、アイアンクローをかます

 

「ガアアアアアアア!ワッワレルゥゥ!」

「ああ、やめて、それ以上いけない」

「(゜_゜)」

 

吹雪君に何があっても逆らえない静止を掛けられ、手を離す。

 

「ヲン!」

 

ヲガタは尻餅をつき、着地する。

 

「ヲヲ、トーゴヒドイ!」

「どの口で抜かしやがる!」

「ヲッ!コノクチ!」

 

このアホ空母

 

「はあ~、もういい、それで何があったの?」

「ヲ、カイジュウガデタ!」

 

は?怪獣?マジで!?

 

「ソウダ、トーゴ!コッチ、コッチクル、ハヤク!」

 

チビスケとヲガタに案内され、着いた先に有ったものは、体長10mは有ろうかという生物の足跡だった。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
仕事の時間ですので、ここで1度切ります。
次回は、調査編です。朝からなにやってんでしょうね、私?
それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、調査する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第21話です。今回は、調査をするようです。あと、今回は少し、読み辛いかもしれません。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください


竜田揚げに何つける?
オッサン
おろし醤油、時々ソース、タルタルソースは少し苦手

吹雪
ケチャップ、オーロラソースは至高の発明!

新米ちゃん
オリジナルのピリ辛ソース



チビスケとアホ空母に案内され、着いた先に有ったものは、巨大な爬虫類と思われる生物の足跡だった。

 

「おいおい、マジか、これ?!」

「提督、この足跡の持ち主、軽く10m超えてますよね?」

「ああ、だがどうやって、ここまで来たんだ?そして、今どこにいるんだ?」

 

もし、この足跡の主がこの付近に居るなら、今すぐに対策をしなければ、被害が出てからでは遅いのだ。

 

「吹雪君、これの主が何処に居るか分かるか?」

 

吹雪君に問うてみると、彼女はヘッドホンを耳に当て、装備の一部を起動し目を閉じ、周囲を探るが、表情を見る限り、少々、苦戦している様だ。

 

「う~ん?この付近には、こんな巨大な生物は居ないみたいですねぇ。」

「そうかい、近くに居ないとなると、どうするかなぁ」

「提督、あと一つ、気になることが・・・」

「気になること?」

「実は、先程、僅かですがヘッドホンにノイズが走ってたんです。」

「ノイズ?何だろうね、鎮守府に戻ったら整備してみようか。」

「そうですね、お願いします。」

 

立ち上がり、チビスケとアホ空母に声を掛ける。

 

「二人共、これの主を見たのか?」

「ヲ?トーゴナニイッテル。コレチガウ。」

「「はい?」」

 

何言ってんの?このアホ。吹雪君と一緒に変な声が出たじゃねぇか。

 

「ポポポポポ!ヤッパリ、トーゴバカ!コレ、フタリガイナイトキニ、ネーチャガヤッツケタヤツ!」

「ヲヲヲヲヲ!バカ!トーゴバカ!ヲヲヲヲヲ!」

 

オッサン、怒りのアイアンクロー!

 

「「アアアアア!ワッワレルゥゥ!」」

「んなもん、俺が知るわけねぇだろうが!」

「「アアアアア!」」

「ああ、やめて、それ以上いけない。」

「(゜_゜)」

 

取り敢えず、二人を解放する。色々聞かなきゃならんからね。

 

「それで?二人共、この足跡は違うんだな?」

「ヲ、ソレ、『コーワンセイキ』サマガヤッツケタヤツ。」

「ネーチャノビンタイッパツデシンダ!ヨワイ!」

 

『コーワンセイキ』とは、ここら辺の深海棲艦の纏め役であり、チビスケの姉だ。漢字で書くと『港湾棲姫』だ。町の住民からは『港』さんと呼ばれ、姉妹揃って親しまれている。あと、男のファンが異常に多い。理由は・・・察してください。

因みに、この辺りの深海棲艦は大体アホだ。とあるお菓子に釣られて戦争してたことを忘れる程度にアホだ。

あっ、港さんは違うからね。あの人、元々、戦争反対派だったらしいから。

 

「ビンタで死んだのか、まあ、港さんのビンタなら納得だ。」

「そうですね、港さんのビンタなら納得です。緑バケツモードの提督が、一発でダウンですから」

 

うん、港さんのビンタはマジで洒落にならない。チェルノ・アルファの装甲がべっこりとあの手の形に凹んだもん

 

「ネーチャノビンタデ、クビガニカイテンシテシンダ!」

「ヲ、マグロタベテソウナカオノトカゲダッタ」

「ヘンナヤツ!セビレアッテ、ヒヲハクマグロタベテソウナカオノデカイトカゲ!ヨワイ!」

「ヲッ、ヨウサンニカラアゲにシテモラッテ、タベタ!ウマイ!」

「ヨウ、アノトカゲ、アットイウマニカラアゲニシタ、スゴイ!ウマイ!」

 

はい!出ました!鮮魚店兼居酒屋『鳳』店主、『鳳 洋』さん!この人にかかれば、アノマロカリスだろうがマグロ喰ってる奴だろうが、何だって安心安全な食材になる。ホント何者なんだろう?

つーか、やっぱりマグロ喰ってる奴はダメなのか、ジラェ・・

 

「二人共、ズルいです!」

 

お次は、我が家の空腹探査棲姫がダイナミックエントリー!今まで、あまり見たことがない速度で、二人に飛びかかったー!

 

「洋さんの唐揚げを!しかも!そんな見たことがない生物の唐揚げを!どんな味だったんですか!?もう無いんですか!?どうなんですか!?」

「ヲヲヲ、フブキ、オ、オチツク!」

「フブキ!ユラス、ダメ!ホッポ、シヌ!」

 

グワングワンと、効果音が付きそうな勢いで二人を揺する吹雪君、あの二人、結構、身長差有るのに器用に揺するもんだね。オッサン、感心するよ。

でもまあ、そろそろ、二人がヤバそうなので止めようか。

 

「よーし、吹雪君、どうどう、落ち着きなさい。」

「提督、でも!」

「そこの二人の顔色が、なんかヤバい方向に突破しそうになってるから、手を離しなさい。」

 

吹雪君を二人から引き剥がし、謝らせて落ち着いてから、話を聞こうとした時だ、彼女が突如、海の方向に振り向いた。

 

「ドウシタ?フブキ」

「何があったのかい?吹雪君」

「いえ、今一瞬ですが、海中で大きな何かが動いた様な気がして」

「海中で?」

「はい、一瞬だけぼんやりとですが、何かが動いた様な気がしたんです。」

 

余談だが、ヲガタの家から海までは、少しだけ距離がある。大体、1kmぐらいかな?測ったこと無いから分からんが、その距離で吹雪君がはっきりと分からんとなると、魚の群れかなんかかなぁ?

 

「それじゃぁ、海の方に行ってみようか?」

「そうですね、何かあってからでは遅いですし」

「チョウドイイカラホッポモイク!」

「ヲ、ワタシモイク!」

「何でだよ?」

「カイジュウ、ウミデミタ!ダカラ、ネーチャニトーゴツレテコイイワレタ!」

「ヲ、コーワンセイキサマニイワレタ」

 

コイツら

 

「何でそれを、早く言わないんだ?!」

「ポポポポ、ナントナク!オモシロソウダカラ!」

「ヲヲヲヲヲ、オモシロソウダカラ!アシアトデアソンデタ!」

 

アホ二人に無言でアイアンクローをかまして、大人しくなったところで、アホ1号(チビスケ)を吹雪君に渡して、アホ2号(空母)を荷台に乗せ、俺も軽トラに乗り込み、エンジンを掛ける。

 

「さて、行こうか・・・」

「そうですね、提督・・・」

 

俺達は、港さんが待っているであろう、彼女の家へ向かう、なにもなければ良いんだが。

まだ、なにも始まってないのに、オッサン疲れたよ。

 




いかがでしたでしょうか?読み辛くなかったでしょうか?

次回も調査回かなぁ?
深海棲艦達に戦争を忘れさせたお菓子の正体とは!
ジラはどんな味なのか!
それは、次回明らかになると良いなぁ。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、寄り道する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第22話です。今回は寄り道をするようです。あと、深海棲艦達が大人しくなった理由が明らかになります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください

活動報告に質問コーナーを設けました。よろしければどうぞ


港湾棲姫こと、港さんの家へ向かう途中、この町のデパートこと『芳村商店』が見えてきた。

 

「ヲ!トーゴ、クルマトメテ!」

 

荷台に放り込んだヲガタが、運転席の窓をバンバン叩きながら言ってきた。

 

「あぁ、何でだよ?」

「ヲ、コーワンセイキサマニイワレタ、オツカイシナイト、オコラレル!」

「ソウダッタ!トーゴ、クルマトメル!オツカイシナイト、ネーチャニオコラレル!」

「わわっ!ほっぽちゃん、落ち着いて!」

 

吹雪君の膝の上に乗っていたチビスケが、軽トラの狭い車内でバタバタと暴れだした。

 

「分かったから、落ち着け!窓を叩くな!サイドブレーキを引こうとするな!」

 

そんなに、港さんに怒られるのが嫌なら、先に済ませておきなさいよ。

 

「ほら、さっさと行って来い!」

 

『芳村商店』の駐車場に車を停める。その瞬間、二人は車から飛び出し、商店へと突撃した。

 

「『キク』バーチャ!ト○ポチョウダイ!」

「ヲ!トッ○クダサイ!」

「おや、二人共お使いかい?偉いねぇ。」

 

そう言って出てきたのは、『芳村商店』店主『芳村菊代』さんだ。

 

「ポポ!ホッポ、オツカイデキル!エライ!」

「ヲヲヲ!オツカイデキル、アタリマエ!」

「そうかね、そうかね。」

 

嬉しそうに、二人の頭を撫でる菊代さん、根っからの子供好きなのだ。

 

「すみません菊代さん、この二人がご迷惑を」

「ポ!メイワクチガウ!」

「ヲ!チガウ!」

「おや、提督さんかい、構わないよ。子供はこれが仕事みたいなもんだからねぇ。」

「敵いませんなぁ、菊代さんには」

「どーもです、菊代さん」

「あら、吹雪ちゃんも一緒かい?」

「はい、これから港さんの所へ行くところです。」

「港ちゃんの所にかい、それならこの、ポッキーを持っていってくれんかね?」

 

そう言って、菊代さんは店の奥からトッポとポッキーが入った大きめの段ボールを台車に乗せて持ってきた。

 

「これは・・・責任重大ですね、提督。」

「ああ・・・そうだな、マジで責任重大だ。」

 

何が、責任重大なのかって?それはね、この海域の深海棲艦達を大人しくさせたのが、トッポとポッキーだからだよ!菓子で和平とか、何なんだよ。

話が少しずれたが、簡単に纏めると、深海棲艦の中でトッポ派とポッキー派に別れている。

勘のいい人ならもうお分かりだろう。某きのこたけのこ戦争のように、彼女達も身内で戦争をしていたのだ。

そう、『トッポポッキー戦争』を!

トッポ派は、最後までチョコたっぷりなトッポがポッキーごときに劣るはずがない、と言い張り、ポッキー派は、あの控えめな甘さがわからんとは、なんと言うお子ちゃま舌、とか訳の分からんことを言い出す始末で、争いは激化の一途を辿っていた。そう、いた、のだ。すべては過去の出来事、戦争は終結した。ある1人の少女によって・・・

 

ぶっちゃけると、俺の隣で、いつの間にか購入したドデカバー食べてる家の吹雪君が終わらせたんだけどね。

彼女達が不毛な争いを続けている横で、まるでリスのように、ポリポリポリポリとポッキーとトッポを凄まじいスピードで食い尽くした吹雪君のある一言で争いは終わった。

 

『どっちも美味しいから、どっちでもいいじゃないですか。』

 

この一言と、自分達のポッキーとトッポをすべて食べ尽くした吹雪君に恐れをなしたのか何なのかは分からないが、それもそうかということで、争いは終結した。

終結したなら別にいいじゃんと、仰るそこの貴方!消えかかってる火をわざわざガソリンに突っ込んだりしないでしょ?つまり、そういうことなのよ。分からないって?分かれ!

 

「トーゴ!ハヤク!クルマノル!ハヤク!」

「ヲ!ハヤク!トーゴ!コーワンセイキサマニオコラレル!」

 

因みに、この二人と港さんはどっちでもいい派である。

 

「分かったから、叫ぶな!それでは菊代さん、お騒がせしました。」

「また来ます、菊代さんそれでは。」

「はいはい、港ちゃんによろしくね。」

「ええ、ではまた」

 

そう言い、芳村商店を出て二人が待つ軽トラに乗り込む。

 

「ハヤクハヤク!トーゴ!ハヤク!」

「ヲッヲッ!ハヤク、ウンテンスル!」

「分かったから!レバーを弄るな!窓を叩くな!」

「はーい、ほっぽちゃん、おとなしくしてようねぇ~」

「ムゥ、フブキガイウナラ、シカタナイ」

 

何でだよ?

 

「はあ、行くぞ、ヲガタ荷物、しっかり見てろよ」

「ヲ、マカセル!」

 

俺は寄り道を済まし、港さんの所へ向かう。現れたっつう怪獣がただの見間違いであることを祈りながら

 

「あっ!ほっぽちゃん、それ、私の!」

「ポポポポ!ユダンタイテキ!ポポ!」

 

マジで見間違いであってくれ!

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
作者もどっちでもいい派です。きのこだろうがたけのこだろうが、チョコなら何でもいい派です。
同じチョコ、なぜ争う?!

あと、IS でもお話しを書くことになりました!あのサイコロ、なんか仕込んでないか?

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、到着し遭遇する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第23話です。久々の投稿なのに話があまり進みません。助けてください!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください。

マジカル♥ちふリン♪を投稿した後、急に仕事が忙しくなるわ、バケツのオッサンの続きが消えて書き直すことになった逆脚屋です。

ちふリン♪の呪いなのか?


何だかんだ色々ありましたが、無事に港湾棲姫こと港さんの家に着きました。しんどい!なんか1週間ぐらい軽トラに乗ってた気がする。しんどい!

 

「おぉい!着いたぞ二人共」

「ほら、ほっぽちゃん起きて、着いたよ。」

「ホポ・・ネムイ・・・」

 

こやつ、寝ていやがった。まあ、仕方ないか、子供はそろそろ昼寝の時間だしな。

 

「ヲフ、ネムイ・・・」

 

だが、ヲガタ!テメーはダメだ!よくもまあ、荷物満載の荷台で寝れるもんだな!

 

「なんでテメーまで、寝てんだ!あぁん!?」

「ヲヲフ・・トーゴ、オチツク。」

「はぁ・・もういい、ほら荷物下ろせ。」

「ヲン、ワカッタ」

 

ヲガタが荷物とほっぽを何処からともなく持ってきたカートに乗せて、何処かへ行くのを見届ける。

まったく、どうしてこう手が掛かるんだか、とりあえず荷物を下ろして港さんに話を聞くか。

とまあ、このまま港さんに話を聞くだけの平和なお仕事だったんだよ。垣根の角から、こっそりとこちらを窺っている物騒な口と砲が付いた尻尾が見えなきゃね。

 

尻尾の持ち主は、こちらが気付いたことを悟ると素早く身を隠した。

 

(くそっ!見失った、何処だ、どこから来る?!)

 

早く見つけねぇと!

 

「提督!敵機直上!」

「何だと!」

 

見上げると、戦闘機が3機こちらに機銃を向け、迫っていた。

 

「ちぃっ!」

 

急いで回避すると、先程まで居た位置に弾丸がペチペチと着弾する。

 

「あっぶね!」

「提督!後ろぉ!」

 

吹雪君の警告と共に、後ろを振り向くとその戦闘機の持ち主であり、あの長い物騒な尻尾の主である子供が、地面に手を着き、猫のように尻尾をピンとおっ立てて、フリフリと左右へ降りながらとても良い笑顔でこちらを見ていた。

 

(狙い良し!発射準備完了!ですね、分かりたくありません!)

 

俺と目があったその瞬間、フードを被った頭がオッサンの腰に着弾しました。

 

「ぬわああああぁぁぁ!」

「て、提督ー!」

 

俺の腰に着弾した子供、『戦艦レ級』の『レナ』(洋さん命名)は俺に着弾した後、尻尾を器用に使い、俺にしがみつき猫のように喉をゴロゴロと鳴らし、俺の腹に頭をグリグリと擦り付けてくる。

 

「レ~レレ~レレ、トーゴレレ~レ」

 

こんな感じで、このレナは俺と吹雪君にえらくなついている。

いや、なついているのは構わないんだが、何故深海のちびっこ供は俺にロケット頭突きをかましてくるの?

ブームなの?!決まり事なの?!2mのオッサンを見掛けたらロケット頭突きをしましょうってか、町の2mのオッサン逃げて!俺しか居ねぇ!チキショウ!

 

「ほぉら、レナちゃんこっちおいで~」

「レッ!フブキレッキュ!」

 

俺から離れて、吹雪君にトテトテと駆け寄る。

あれ?俺と対応違うくね?何この差。

 

「レ~レ~」

「よしよし、レナちゃん、良い子~」

 

こうして見ると、姉妹のように見えなくもない。二人とも服装が似てるし、仲も良いしね。

 

「提督、大丈夫ですか?」

 

レナを抱っこして頭を撫でながら、吹雪君が聞いてくる。

 

「ん~?大丈夫大丈夫」

「レッレ、トーゴレッレ!」

「このチビレナ、戦闘機は止めろとあれほど言ったろうが。」

 

レナの頭をわしゃわしゃと少しだけ荒く撫でる。

 

「レ!レレレッレ、レッレッレ!」

 

このレチビ、俺が何しても遊んでくれてると思ってるから、叱ってもあまり効果ないのよ。参ったね、どうも。

 

余談だが、レ級という固体は他の深海棲艦に比べて小柄らしい、レナはその中で特に小柄らしく吹雪君の半分も無い。こちらの言葉が喋れないのも固体の特性で声帯が未発達らしく、俺と吹雪君の名前を発声していることはレ級としては、とんでもない進化らしいよ。

 

「さてと、港さんは何処に居るんだろうね?」

「何処に居るんでしょうね?」

「レッレ?」

 

最近、仕事してない気がするから仕事したいのよね、オッサン。

すると、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「ポ!フブキ、イタ!」

「ヲ!トーゴ、イタ!」

「どうしたの?ほっぽちゃん。」

「何だよ?ヲガタ。」

「レ~レ?!」

「ポ!『マジカル♥ちふリン♪』ハジマル!イソグ!」

「えっ!もうそんな時間!?」

「ヲ!トーゴモイソグ!」

「何でだよ?」

「コーワンセイキサマガヨンデル!」

「それを早く言え!急ぐぞ、吹雪君・・って、もう居ねぇ!」

「ヲ!イソグ!」

「レ!レッレ!」

 

ヲガタに案内され、港さんの元へ急ぐ、何故かレナを頭に乗せて。

あっ!こら!髪を引っ張るな!首に尻尾を巻き付けるな!

 

 




いかがでしたでしょうか?
実は、この話も二回程書き直しています。何なの!いったい!ちふリン♪に光にされちゃってるの!私はヘル&ヘヴンのほうが好きです!




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オッサン、話をする

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第24話です。今回、ようやく、港湾棲姫さんが登場します。お楽しみに!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!

「艦これアーマード娘空」の作者である人類種の天敵様が此方の設定を使って執筆されている「深海大使館の日常」も宜しくお願い致します。


「ン、冬悟遅カッタナ?」

「色々、あったのよ。察してください。」

「レ~レッレ」

 

はい、なんとか港さんに会う事が出来ました。只今、私達は港さんが勤める相談所に居ます。

ここは町の悩み事や個人的な相談等を聞き、その解決や解決方法の斡旋を行う施設だ。

なのだが、実際の所は近隣住民の寄合所みたいな扱いになっており、爺さん婆さん達が茶を飲みながら話したり、ほっぽやレナを可愛がったりしたり、港さんやヲガタに見合い話を持ってきたりしてる。

 

「それで港さん、目撃したっていう怪獣はどんな奴でした?」

「蛇ミタイナ奴ダッタナ。正確ナ大キサハ分カラナカッタガ、カナリデカイ。」

「マジか、その時に何か被害は無かったですかね?」

「特ニハ無イナ。強イテ言エバ、一緒ニ来タマグロ食ベテソウナトカゲガ旨カッタナ。」

 

ジラェ・・・、やっぱりマグロ喰ってる奴はダメなのか・・・?

 

「個人的ニハ尻尾ノ塩焼キガヨカッタ。」

「さいですか・・・」

 

ジラェ・・・、唐揚げの次は塩焼きにされやがった・・・

 

「ま、まあ、特に被害も無しで良かったねぇ。」

「アア、マッタクダ。」

 

何もなくて良かった良かった、何かあったら事だからねぇ。

ん?吹雪君達はどうしたって?彼女達はあっちの和室でテレビを見てるよ。何で同じ部屋に居ないのかって?港さんも俺と同じくらいの身長なのよ、額の角を入れたら俺より高いけど。

あの和室もそんなに広くないから、2mの生物二人でイッパイになるからね、此方の相談所の方に居るわけよ。

 

「ポ!ヤッチャエ!ちふリン♪!」

「ヲ!ヤッチャエ!ヤッチャエ!」

「レッレ!」

「イケイケ!ちふリン♪」

 

何やってんだろうね?ほっぽと吹雪君とレナはアニメで興奮するのは分かるけど、ヲガタ、テメーは何で子供と同じテンションなの?

 

『見せてやろうスコール・ミューゼル、本当の魔法少女というものを!』

 

「ポ!ミセチャエ!ちふリン♪」

「ヲ!ミセチャエ!ミセチャエ!」

「レッレーレ!」

「ちっふリーン!」

 

うん、もういいや、ところでレナよ、なんでテレビの横にある置物を見てテンション上げてんの?なんか居るの?

突然ですが、オッサン視点の『魔法少女☆マジカル♥ちふリン♪』をお送りします。

 

『貴様が!私から一夏とマドカを引き離したのも!』

黒鉄の拳が金色の敵を捉え、打ち倒す。

『束と箒を襲ったのも!』

打ち倒された敵が起き上がろうとするところを踏みつけ、金色の尾を掴み引きちぎる。

『全ては貴様が恐れたからだ!私達の絆を!』

『なにを・・下らないことを!』

敵が反撃に出る、黒鉄の拳と金色の拳がぶつかり合い、ちふリン♪の拳が左右で違う色に、右拳が深紅に、左拳が翡翠に輝き始める。

『なっ!』

『ゲム!』

金色の拳が砕け、黒鉄の拳が敵のフェイスアーマーを砕く

『ギル!』

呪文を唱えながら綺麗なワンツーが決まり、左右の拳が輝きを増す。

『ガン!ゴォ!』

『あっ・・か、この!』

敵の反撃を左拳で弾き、カウンターの右ストレートを叩き込む。

『グフォ!』

深紅の右と翡翠の左を胸の前で握り合わせ突き出すと、トンネル状の翡翠の竜巻が発生し敵を拘束する。

『ウィィィィータァァァァァー!!』

拳を突き出した体勢で突撃し、決着がついた。

『覚えておけスコール・ミューゼル、魔法少女は砕けない!』

 

え~、以上がオッサン視点の『魔法少女☆マジカル♥ちふリン♪』でした。

おい、魔法少女しろよ、なに勇者王してんだ。もしかしてこれが最新の魔法少女なのか?どう思います?皆さん。

 

「フム、アレ冬悟ナラ出来ルンジャナイカ?」

「いきなりですね、港さん、手の形的に港さんの方が向いてるんじゃないです?」

 

チェルノ・アルファでヘル・アンド・ヘヴンとかシュール過ぎる。

 

「ソレモソウダナ、来月ノ祭デヤッテミルカ。」

「それが良いんじゃないですかね?」

 

暢気に話していた、その時だ、吹雪君が血相変えて此方の部屋に飛び込んできた。

 

「提督、海から町にナニかが接近しています!」

 

はい?

 

「ナニかってナニよ?」

「分かりません!けど、かなり大きいです!」

 

かなり大きい、まさか!

 

「吹雪君!町に避難勧告!急げ!」

「しました!皆さん避難を始めたようです!」

「速いね!相変わらず!」

「襲撃され慣れてますから!」

「自慢出来ないけどね!」

 

いやホント

 

「冬悟、此方モ避難誘導ガ終ワリシダイソチラニ合流スル!」

「頼みますよ!」

「提督!あっちの港に向かってます!」

「了解!」

 

チェルノ・アルファを起動し、身に纏う。

 

「吹雪君は港さんと町の避難誘導に行ってくれ!」

 

「了解です!」

「分カッタ、ヲガタモ手伝エ」

「ヲ、リョウカイ!」

「ポ!リョウカイ!」

「レッ!レッレーレ!」

「お前ら二人は、大人しく避難しなさい!吹雪君お願い!」

「ほら、二人ともこっちおいで!」

 

ほっぽを抱き抱え、レナを頭に乗せる。

 

「頼んだよ!」

 

言い残し、大型船の汽笛に似た独特の機関音を響かせ、襲撃予想地点の港へ向かう。間に合ってくれよ!

 




いかがでしたでしょうか?
途中で何かが出てきましたが、気にしないでください。ただの魔法少女です。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、防衛戦する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第25話です。今回は防衛戦をするようです。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!

話は変わりますが、活動報告に作者がACVD プレイ中に出くわした事件?を書いてます。同じような体験をした人いませんかね?



どうもぉ皆さん!知ってるでしょぉ!五百蔵冬悟でぇございます!おい!ジラ喰わねぇか?!

 

失礼、噛みました。只今、私は町の港で防衛戦の真っ最中です。吹雪君が察知した巨大なナニかの正体はジラの群れでした。て言うかなに?あいつら、群れを作る習性があったの?!

 

『提督!第3波来ます!』

「だあぁぁもぉぉ!これで何匹目だ!?」

『大体、30匹目です!』

 

わぁい!30匹とか、居すぎじゃねぇ?何処に居たんだ!?

一匹一匹は弱いから、そこは特に問題は無いが、数が問題だ。殴っても殴ってもキリがない!

 

「この!まとわりつくな!」

 

一mチョットのジラが飛び掛かってきて、前が見えねえ!

クソッタレ!

掴み、首をへし折ってから別のジラに投げつける。ほんとにキリがねぇ!

 

『提督!避難誘導が終了しました!これより、援護に向かいます!』

「お願い!出来るだけ早くして!」

 

いや、割とマジで!数がキツい!辺り一面マグロトカゲの撲殺死体で埋まってるのよ。

 

「だあぁぁ!これでも喰らってろ!」

 

両肩のタービンに火を灯し、フィンを回して火炎を放射する。

 

「GYAaaaaa!」

「ヒャッハー!トカゲは消毒だー!」

 

今のでだいぶ数が減ったが、まだいやがる。もう勘弁してくれ。

 

「くそっ!いつになったら終わるんだ!」

 

いつの間にか、また増えてるし!こいつらいったい何処から来たんだ?!

 

『五百蔵のダンナ!聞こえるか?!』

「鈴木さんか?!どうした!」

『そいつらの出所がわかった!ラバウル周辺の海域から来てる!』

「はあ?!ラバウル!ちと遠くねえか?」

 

とか話してる間に、飛び掛かってきたので掴んで、頭にハンマーパワー!

 

『なんでも、あっちの海で増えすぎて縄張り争いに負けた連中があっちこっちに散らばってるらしい!』

「だからって、ここまで来るなよ!」

『俺に言われても知らねぇよ!そいつらに言え!』

 

人語が通じるなら、そうしてる!また来たので、今度はテスラフィスト!

 

『とにかくだ!向こうの漁師の話だと、そんなにデカイ個体はいないそうだ!縄張り争いに負けた連中だからな!』

「そりゃぁ助かる!」

『五百蔵さん、聞こえますか?』

「洋さん?!どうしたんですか?」

 

なんで洋さんが、ん?なんか、嫌な予感がするぞ。

謎生物+洋さん=・・・

 

『それも食べられますので、出来る限り、無事な形で仕留めてください。』

「アッハイ」

 

やっぱりな!そうなると思った!となると、次に通信を入れてくるのは・・・

 

『提督!今の聞きましたか!?』

 

あーうん、家の吹雪君だ、間違いない。

 

「聞いてる、聞いてる。」

『頼みましたよ!あと、今居るので最後です!』

「ああ、了解」

 

久々に広範囲の索敵やってるから空腹なんだろうね。どことなく必死だ。

これで最後だと言うし、もう一踏ん張り行こうかね!

 

「さあ、かかってこいや!」

 

胸の前で二、三度、拳を打ち鳴らし、機関音をたて挑発の代わりとする。

 

「「GYAaaaaa 」」

「そんな、いっぺんに来なくても良いんだけどね!」

 

まず一匹目

頭を下げて迫ってきたので、アッパーで頭を上げてフックで頭部粉砕して終了

 

次二匹目

飛び掛かってきたので、掴んで他の奴に叩きつける。二匹のついでに三匹目も終了

 

次四匹目

なんかいつの間にか居た俺並みにデカイ奴、こいつはまず、エルボーを頭に落とし、頭を下げさせる。

そのまま、押さえつけて右のハンマーパワーを叩き込むが、まだ生きているので、右腕を引き絞り顎を打ち抜く、どうやら、脚にキタようたので、右をもう一度打ち下ろし、地面に叩きつけて終了、因みにこいつでラスト

 

「終わったよ、回収を頼む」

『ヲ、リョウカイ!』

『ポ、リョウカイ!』

『レ、レッレッレ!』

 

お前らじゃねぇ

 

「吹雪君」

『はい、今鈴木さん達が回収に向かってます。』

「OK、ヲガタ達に周辺の警戒をさせといて。」

『ヲガタさんにですか?』

「まあ、大丈夫だろうさ、あれでもフラグシップなんだし」

『ですね』

 

戦闘終了、お疲れさまでしたってね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テールの煮込み出来たよ!」

「モモ肉の照り焼き、まだですか?!」

「今焼いてる!」

「吹雪ちゃん、唐揚げが出来ましたよ。」

「ありがとうございます!いただきます!」

「ダンナ!タタキが出来たぞ!」

 

戦闘終了?そんなことなかったよ。

今度は、吹雪君との戦闘が始まったよ!

 

「冬悟、コレハドウスル?」

「首肉は適当に切り揃えて、塩コショウして、ステーキにしといて!」

「分カッタ。」

「ポ、トーゴ、オカワリ」

「ヲ、トーゴ、オカワリ」

「レ、レレッレレッキュ」

「炊き込みご飯は、洋さんのとこに行きなさい。」

「ポ、リョウカイ」

「ヲ、リョウカイ」

「れ、レーレッレ」

 

茶碗を持って、洋さんの元に駆けていく三人、あの三人もよく食べるんだわ。

 

「提督!おかわりください!」

「はいよー!」

 

結局、仕留めたジラのおよそ半分が吹雪君の中に消えました。

 

「提督!テールの煮込みのおかわりください!」

「少し待ってなさい!」

 

次の日、オッサンは筋肉痛でダウンしましたとさ

 




いかがでしたでしょうか?

作者の別作品、『魔法少女☆マジカル❤ちふリン♪』が思わぬ反響を受け、驚いています。
皆さん、魔法少女がお好きなんですね。

次回、お客様がお見えになります。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、歓迎する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第26話です。今回はなんと!sd カード様作「とある鎮守府の、どたばた騒動記」とのコラボとなっております。
sd カード様、許可をくださり、誠にありがとうございます。

それでは、始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」特別コラボ編、お楽しみください!


ジラ騒動から暫くした北海鎮守府ことプレハブ鎮守府、今日も平和にオッサンと吹雪君は仕事してます。

 

「吹雪君、その資料、片しといて。」

「はい提督」

「この書類が終わったら、丁度いい時間だし、港に迎えにいくついでに昼飯にしようか。」

「そうですね!ナイス判断です!」

 

うん、相変わらずの食欲一直線っぷりだ。安定だね!

それでまあ、誰を迎えに行くのかというと、先日、鎮守府見学でお世話になったAMIDA 鎮守府提督『四葉一樹』提督と秘書艦『如月』嬢の二人を迎えに行くわけだよ。

 

なんで、いきなりそんなことになったのかって?

それはね、こんなことがあったんだよ。

 

『五百蔵さん!お久しぶりです!』

「どうしたのよ、新米ちゃん?いきなり電話して」

『この間、AMIDA 鎮守府に見学に行ったじゃないですか。』

「ああ、行ったねぇ。」

『それでですね、お礼に五百蔵さんの家に招待するというのはどうでしょう?』

 

いや、それは構わんが

 

「家に来て、なにするってのよ?」

 

言っちゃ悪いが特にこれといってなにも無いぞ、ここら辺

 

『彼方は色々あったみたいですから、此方で平和を満喫してもらおうかと。』

「ああ、そういうこと、それなら良いよ。」

『やった!じゃあ、向こうに連絡しておきますね!』

 

とまあ、こんなことがあったのよ。

ていうか、新米ちゃん向こうの連絡先知ってたのね。

 

「提督、そろそろ時間です。」

「OKOK、そんじゃ行こうかねぇ」

 

書類を片付けて、車庫へ向かうがここでトラブルが発生する。

 

「なあ、吹雪君?」

「何でしょう、提督?」

「なんか、家の車、傾いてね?」

「傾いてますね。」

「これ、パンクしてね?」

「パンクしてますね。」

 

そうだよね、パンクしてるね。じゃなくて!

どうすんだよ!今からタイヤ変えてたんじゃ、間に合わねえよ!

 

「やべーよ!吹雪君!間に合わねえよ!」

「提督、落ち着きましょう!はい、これ食べて!」

 

吹雪君から一口チョコを貰った。うん、甘い!じゃない!

 

「吹雪君!そうじゃない!」

「え?クッキーの方が良いですか?」

「そうでもなくてね!」

「じ、じゃあ、グミですか?」

 

あ、これダメだ。予想以上にこの子てんぱってる。

 

「あ!そうだ!この時間ならまだ鈴木さんが港にいるはずだ!」

 

電話だ!電話!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人があまり居ない港に二人の男女が船から降りてきた。

一人は、子供の様な純粋さを覗かせる瞳を持つ長身の青年『四葉一樹』もう一人は、桜色に近い桃色の髪に特徴的なある『生き物』を象った髪飾りを付けた少女『如月』だ。

 

「なあ、如月」

「なんです、提督」

「ここで、良いんだよな?」

「その筈です、あのロリ神様が間違ってなければ、ですが」

 

五百蔵を転生させた、AMIDA 好きの見た目幼女の数々の土下座技を持つロリ神様からちょっとしたバカンス?のお誘いを受けやって来た北海海域、見た感じ何もない上に、船から降りた人も自分達だけなのだ。不安にもなる。

 

「あ~、すいません、あんた達がAMIDA 鎮守府の人達?」

「え?ああ、はい、AMIDA 鎮守府提督『四葉一樹』です。」

「私はAMIDA 鎮守府所属『如月』です。」

 

声をかけてきたのは、四葉より少しだけ背の低い男だった。

 

「ああ、良かった。俺は『鈴木浩一』ここら辺の漁師の元締めをやってる。」

「はあ、それでその・・・」

「ん?ああ、すまんすまん、五百蔵のダンナの代わりにあんたらの出迎えを頼まれたんだ。」

「はあ、そうですか、五百蔵さんに何かあったんですか?」

「なんでも、迎えに行こうとしたら車がパンクしてて、タイヤを交換してから来るってさ。」

「そ、そうですか・・・」

 

なんとも、まあ・・・、あの人らしい理由だ。

 

「あの、鈴木さん、聞きたいことがあるのですが。」

「ん?なんだい、嬢ちゃん」

「ここに来る途中で奇妙なエビ?のような生き物をみたんですが、あれは何でしょうか?」

 

鈴木は少し思い出す様な仕草をし、すぐに口を開いた。

 

「妙なエビ?ああ!『アノマロカリス』か!」

「アノマロカリス・・ですか、あの古代生物の?」

「そう、そのアノマロカリスだ、あれには不用意に近づかん方が良いぞ。」

「何故です?」

 

如月は問う、もしかしたら新型装備の良い実験台になるかもしれないからだ。

 

「アイツらはなぁ、小さい個体なら大したことはないんだが、二、三メートルクラスになると戦艦クラスの艦娘すら、簡単に海底に引き摺り込んで喰っちまうからなぁ」

「それは・・少し厄介ですね。」

「そうなんだよ、あいつの肉や甲殻はかなりの高値で取引されるから、狩りに行くときはあらかじめ張った罠にここら辺の漁師総出で追い込むやり方をとってる。」

「それは、それは」

 

たくましい話だ。

 

「嬢ちゃん、欲しいんなら五百蔵のダンナに頼めば獲ってきてくれると思うぞ。」

「本当ですか!」

「お、おう、あの人なら十メータークラスの奴を獲ってきてくれると思うぞ」

「提督!」

「ん~、俺から頼んでみるよ。」

「お願いします!」

 

その時、車のエンジン音が聞こえてきた。

 

「噂をすれば、だ。五百蔵のダンナと吹雪ちゃんが来たみたいだな。」

 

軽トラがゆっくりと三人の前に停まる。

 

「四葉さん、如月嬢!申し訳ない、遅れた!」

「すいません、遅れました!」

 

軽トラから二メートル強の大男と黒のロングパーカーを着た小柄な少女が謝りながら降りてきた。

 

「いやいや、トラブルがあったんでしょう?構いませんよ。」

「ええ、面白い話も聞けましたしね。」

「いや、本当に申し訳ない。」

「そんじゃ、ダンナ、俺はこれで」

「ああ、鈴木さんも申し訳ない」

「いいってことよ、そんじゃあな。」

 

鈴木が去り、五百蔵と四葉達、四人だけとなる。

 

「それでは、改めまして、四葉さん、如月嬢、北海海域へようこそ、歓迎しよう、盛大にな。」

「ようこそ!如月さん、四葉提督、歓迎します!」

「この度は、お招きいただきありがとうございます。五百蔵さん、吹雪ちゃん」

「ありがとうございます、五百蔵提督、吹雪さん」

「では、早速行きましょうか。」

「えーと、吹雪ちゃん?行くって、何処に?」

「決まってます!お昼御飯です!」

「そういうことらしいので、行きましょうか。四葉さん、如月嬢」

「はあ、わかりました。」

「行きましょうか、提督」

「それでは、ご案内します。」

 

四人を乗せた軽トラは一路、北海の町へ向かう。

予想外の騒動が待ってるとも知らずに・・・

 

 

 

 

待ってるよね?ね?

 




いかがでしたでしょうか?
大丈夫かな?キャラ、ブレてたりしてないかな?怒られないかな?不安だ。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、案内する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第27話です。今回は会話文が多めです。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」特別コラボ偏お楽しみください。

えーと、違うんです。友人の結婚式で新郎である友人にジャーマンスープレックスをかけたり、新しい短編を書いてたりしたのが遅れた理由じゃないんです!
ただちょっと、セレンさんやマギーと殺したり殺されたりのズブズブの爛れた関係を送ってただけなんです!
信じてください!


只今、私、五百蔵冬悟の運転で吹雪君おすすめの店に向かってます。

因みに、席順は俺が運転席、四葉さんが助手席、如月嬢と吹雪君が荷台。

二人が荷台に居る理由?子供って、軽トラの荷台に乗りたがるよね。

 

「五百蔵さん、先程の台詞、どこの機械人形のつもりなんですかねぇ?」

「北海の機械人形とでも言っておこうか」

 

あそこまで、頭よくないけどね。

 

「しかし、四葉さん。ホントに色々あったみたいだね?」

「え?ナンノコトデショウ」

 

あ~らら、とぼけちゃって、四葉さん残念だけどネタはあがってるんだよ。

 

「右目と右腕と内臓」

「っ!」

 

やっぱり、当たりか。

 

「吹雪君が気付いたんだよ、彼女曰く、違和感が凄まじかったらしいよ。」

「おおぅ、流石というかなんというか、因みに何時気付いたんですか?」

「君達が鈴木さんと話してるのを遠目で見て、最初は偽物だと思ったみたいでね、警戒してたよ。まあ、如月嬢が一緒に居るから本物だと判断したみたいだね。」

「あらら、それは如月に感謝しないといけませんね。」

「ちゃんとお礼言っときなさいよ。」

「ええ、ところで五百蔵さん。」

「なんだい?四葉さん。」

「あんた、運転席にみっちみっちじゃないか!」

「遅い!遅いよ四葉さん!そのツッコミを心待ちにしていたわ!」

 

いや、そんな指差しながら言われても・・・

 

「どうツッコんでいいか、わかりづらいんですよ!」

「ハハハハハ!まだまだだね、四葉さん」

 

男どもがふざけ始めたので、視点変更です。

荷台に居るレディーズの会話をどうぞ

 

「吹雪さん」

「何でしょう?如月さん」

「先程から何を食べているのですか?」

「提督お手製のチョコブラウニーです。如月さんもどうです?」

 

五百蔵提督お手製ですか、見た目によらずなんともまあ、可愛らしい物を作る人ですね。

 

「いえ、遠慮します。それよりも吹雪さん?」

「何でしょう、如月さん?」

 

これは聞いておかねばなるまい。

 

「私達は今から、昼食を摂りに行くのですよね?」

「そうですよ、今から行く店はですね、和洋中なんでもござれの・・・」

「いえ、そうではなくて」

 

うん、そうではない。そうではないの。

 

「なぜ、食事前に食事を?」

 

見てる限りで、この子チョコブラウニーを20個ぐらい食べてます。

 

「?、食前食は基本では?」

 

ナニヲイッテルンダ、コノコハ・・・

 

「食前食・・・ですか?」

「はい!基本ですよ!」

 

なんていいお返事なんでしょう。

ああ、またリュックから食べ物を取り出してます。

 

「ふ、吹雪さん、それは?」

「提督お手製バームクーヘンです!美味しいですよ!」

 

うん、あのオジサンと少しオハナシをしないといけないようですね。

流石に少し甘やかし過ぎです。

 

「っと、信号待ちですか。」

「ですね、あっ!肉まんください!」

 

いつの間にかバームクーヘンを食べ終えて、信号待ちを利用して露店で肉まんを頼んでます!

しかも一つじゃありません、10個ぐらい入った紙袋を二つ受け取ってます!

ドウナッテルンダ、コノコハ・・・

 

その時、私達のいる荷台にポテッと黒くて丸い小さいナニカが落ちてきました。

 

「なんでしょう?これ」

 

口と砲がついた尻尾がピョコリと立ち、周りを見回している。

あら?この尻尾は

 

「あっ!レナちゃん!」

「レ!フブキ!レレ!」

 

話には聞いていましたが、まさか本当に友好的な深海棲艦がいるとは、しかもレ級、それもよく見たらこのレ級、フラグシップです。

 

「レナちゃん、これ食べる?」

「レ!レッキュ!」

 

吹雪さんによくなついているようですね。

しかし、この二人・・・

 

「すいません、吹雪さん、フードを被って後ろを向いてもらえますか?」

「?いいですよ」

「レ?」

 

吹雪さんがフードを被って後ろを向く。やはり、どうみても尻尾の無いレ級ですね。しっかりリュックも背負ってますし、姉妹のように見えますね。

 

「如月さん、どうしたんですか?」

「レッキュ?」

「いえ、なんでもありませんよ。」

 

ええ、なんでもありませんとも。フフフフ・・

 

「レ、フブキ、レレレッキュ?」

「この人は如月さん、今日はこっちに遊びに来たんだよ。」

「如月よ、宜しくレナちゃん」

「レ!レッキュレレ!」

 

いきなり抱き着かれました。

 

「どうやら気に入られたようですね。」

「え、ええ、そのようですね。」

「レッキュレッキュ!」

 

猫のように頭をグリグリ擦り付けてくる。本当にあのレ級なのだろうか?

 

「あっ!見えてきました!あの店です!」

「レ!レレ!」

 

どうやら、到着のようですね。

吹雪さんのおすすめのお店、少し楽しみですね。




いかがでしたでしょうか?
次回はジラ料理のフルコースです。
それではまた次回お会いしましょう!


逆脚屋の短編集「逆脚屋の短編箱」も宜しくお願いいたします(露骨な宣伝)


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オッサン、案内する その2

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第28話です。今回は食事になります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」特別コラボ編お楽しみください

余談ですが、只今、ACV 短編『愚かな姫と忠義の騎士』を制作しています。おそらく、『逆脚屋の短編箱』の中に入ると思います。


はい、到着しました。吹雪君おすすめのお店、レストラン『マルクス・ガビウス・アピキウス』

和洋中なんでもござれのお店で、メニューに無いものは頼めば作ってくれるという、深夜な食堂スタイルのレストランだそうです。

 

「さあさあ、皆さん早く入りましょーう!」

「レッキュ!」

 

なんかいつの間にかレナが居る!

まあ、いいや

 

「行きましょうか、二人とも。」

「そうですね、行きましょうか。」

「行きましょう、提督」

 

吹雪君に先導され店へ入る。

因みに、順番は吹雪君、俺、四葉さん如月嬢レナの順番だ

 

「いらっしゃいませ!お客さ・・・!」

 

へぇ、ファミレスみたいな感じかと思ったら、案外高級レストランみたいだね。お客さんもいっぱいいるし、

うん?店員さんの様子が?

 

「店長ー!吹雪様がご来店されましたー!」

 

ん?吹雪『様』?どゆこと?

この子いったい、この店でなにしたの?!

 

「ふ、吹雪君?君、なにしたの?」

「なにもしてないですよ?前にここでご飯食べたら、何故かこうなったんですよーう。」

 

どういうことなの?

 

「え~と、五百蔵さん?」

「五百蔵提督、少し外を見てください。」

 

外?何があるの?

 

『くそー!今日はあの店か!』

『いや待て、まだワンチャンある!』

『そうだ!吹雪様なら、まだワンチャンある!』

『だが、過度なアピールは厳禁だぞ!』

『ああ、洋さんに殺されたくはないからな・・・』

『だが、怯える吹雪様を見たいというこの衝動はどうすれば?!』

『五百蔵のダンナが一緒にいたから、殴り潰されたくなければ大人しくしとけ!』

 

うん、なんだこれ?

他の飲食店の連中が悔しがっている。後半大分おかしかったが・・・

 

「なんです、これ?」

「いやぁ、俺にもさっぱりだ。」

「レッキュ?」

 

そうこうしてたら、店長と思わしき人がやって来た。

 

「吹雪様、本日はご来店いただき、誠にありがとうございます。」

「様なんて付けなくていいですよーう。」

「そのような訳にはまいりません、吹雪様のおかげで当店はここまでに成長出来たのですから」

 

成る程、そういうことか。いや、わかんねぇよ!

 

「五百蔵さん」

「わからん」

 

わりとマジでわからん。ただ、ひとつだけ分かるのは吹雪君がそろそろ限界だということだ。

何の限界だって?吹雪君の空腹だよ。この子限界近くなると、語尾が延び始めるクセ?があるのよ。

 

「今日は、家の鎮守府にお客様が来たので、ご飯食べに来たんですよーう。」

「左様でございますか、では、此方のお席に」

 

終始おいてけぼりなやりとりを見ながら、案内されたのは、店の奥にある個室だった。

これって、いわゆるVIP席とか言う奴か?

 

「それでは、御注文がお決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください。」

「わかりましたよーう。」

 

俺にはちと小さいが大きめのテーブルに椅子、周りの調度品もいい感じの個室だ。

雰囲気が前の世界で行ったフランスの中華料理屋に似てるな。あ、勿論、仕事でね、行ったんだよ。

 

「さ、二人とも、御注文をどうぞ」

「なんだか高そうな店ですが、大丈夫なんです?」

 

ふふん、何の心配かな?四葉さん。財布のことなら心配要らないよ。

 

「大丈夫、経費で落とすから。」

「レレ、レ~レレ」

「そ、そうですか」

 

うん、落とす。意地でも落とす。落とせなければ、横須賀の磯谷嬢に回す。

つーかレナよ、そんなに如月嬢が気に入ったの?

さっきから如月嬢の後についたり、よじ登って背中に張り付いたり

今だって、如月嬢の膝の上に乗ってご満悦の表情だし、あんまり迷惑かけるんじゃないよ。

 

「ふふふ、どうしたんですか?レナちゃん」

「レッキュレッキュ!レッレッレ!」

 

如月嬢の膝の上から小さな手を伸ばし、バタバタと動かす。

なにやってんの?

 

「どうやら、ベルが気になるみたいだな。」

「ダメよ、レナちゃん。これ鳴らすと店員さん来ちゃうから」

「レ~・・・レレ?!」

 

レナが突然、四葉さんを見て驚いた。『誰おまえ?!』と言わんがばかりな顔で四葉さんを見ている。

今気付いたの?君

 

「この人は私の提督ですよ、レナちゃん」

「四葉一樹だ、よろしくレナちゃん」

「レ!」

 

自己紹介も済んだようだね。では、そろそろ

 

「注文を決めようか?」

「そうですね」

「あっ、もう頼みましたよ。」

「「「え?」」」

「レ?」

 

なにやってんの?この子!

 

「吹雪君!なにやってんの?!」

「え?注文ですけど」

「いや、そうじゃなくて!」

 

そうだけどそうじゃない!

 

「四葉さん達の要望とか聞いてないよね?!」

「大丈夫です!色々と纏めて頼みましたから!」

 

大丈夫じゃない!

 

「あ~、五百蔵さん、私達は構いませんよ。」

「ええ、吹雪さんのチョイスなら安心ですからね。」

「たびたび申し訳ない。」

「さすが、二人とも!よく分かってらっしゃる!」

 

オッサン、無言のデコピン!

 

「痛いです、提督!なにするんですか?!」

「君は少し反省しなさい!」

 

まったく、この食欲探査棲姫は食欲一直線も大概にしなさい。

 

 

 

 

そうこうしてたら、料理が来たよ

 

「お待たせ致しました。こちら『アノマロカリスのスープ』になります。」

「待ってました!」

 

落ち着きなさい

 

「まあ、色々ありましたが、いただきましょうか?」

「そうですね、では」

 

「「「「いただきます」」」」

「レレレッレ」

 

金色に近い色の透明なスープを一匙掬い、口へ運ぶ。

わお!マジか!

 

「美味しいです!おかわりください!」

「本当に、美味しい」

「あのエビ、こんな味なのか?!」

「レレレッレ!」

「かなり、手間をかけてるな、これ」

「提督!今度作ってください!」

「レシピが分かればね。」

 

次の料理が来ましたよ。

 

「『リードシクティクスのバターソテー』になります。」

「リードシクティクス?」

「古代魚の一種だよ。デカイわ硬いわで苦労したよ。」

「あんたが獲ってきたのかよ!」

「そうだよ!」

「提督、この魚びっくりする味ですよ。」

「マジで!」

「おかわりください!」

「レ~レレ!」

 

次!

 

「『ジラのステーキ』になります。」

「ジラ!?あのトカゲの?!」

「こないだ、団体で湧いて来てな」

「また、あんたか!」

「見た目より凄く柔らかいですね、ステーキなのにホロホロした食感です。」

「ホントだ、やわらけー!」

「おかわりください!」

 

つ!

 

「『北海カボチャのサラダ』になります。」

「北海カボチャ?」

「砲弾の代わりになる位硬いカボチャだ。割ろうとしたら死ぬかと思った・・・」

「それカボチャ?」

「提督、これ凄く甘いですよ。」

「うわ!マジだ、凄く甘い!」

「おかわりください!」

「レッレッレ!」

 

そんなこんなで昼食は終了、デザートのドラム缶パフェ×5は吹雪君が綺麗に平らげました。おかわり付きで・・・

何処に入ってるんだろうね?

因みに、この日の売り上げはとんでもない額になったそうだよ。




いかがでしたでしょうか?
ダイジェストになりましたが、これには理由がありまして、出てきたスープやステーキは実際に逆脚屋が作ったんですが、レシピを書くと一万字を軽く越えましてこのような形となりました。

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、案内する その3

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第29話です。今回はほんのちょっとだけ騒動が起こるようです。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」特別コラボ編お楽しみください!

違うんです!サボってたんじゃないんです!
クリスマスが近付いてきて、仕事が忙しくなり始めて時間がとれなかったんです!信じてください!



AC 系の短編を書いてる『逆脚屋の短編箱』もよろしくお願いいたします。


会計を済ませ、店を出る。店を出る際に店長含め店員全員が見送りに来たが、まあ、問題ない。問題・・・ないんだ。

 

「そういえば、提督」

「なんだい?吹雪君」

「あの店の名前、何か意味があるんですか?」

 

意味?ああ、あれか。

 

「それは、俺も気になってましたね。」

「私もです。」

「レッレッレ」

 

ふむ、全員気になってるみたいだし、ここはひとつ、年長者としてカッコつけてみようかね。

 

「よし、それでは歩きながら授業を始めよう。」

「授業?あ、そのチュロスください。」

「まだ食べるのですか?!吹雪さん」

「如月さん、食後食は常識ですよ。」

「レレレッレ?」

 

それは、君だけだ。

あと、レナ。君はほんとに如月嬢が気に入ったみたいだね。そんなにしがみついて、迷惑かけるんじゃないよ。

 

「あ~ 五百蔵さん、それであれはどういう意味なんです?」

「ふむ、『マルクス・ガビウス・アピキウス』というのは、古代ローマ時代の美食研究家だ」

「へー、人名なんですか。」

「まあ、色々諸説あるようだがね。」

 

色々ね、あるんだよ。

 

「かなりの食道楽で、『料理大全』という本を出版したり、かなりの大金をかけてキッチンを作ったりしてたらしいが」

「してたらしいが?」

 

なかなか、好奇心旺盛な生徒で先生嬉しいよ。四葉さん

 

「その結果、資産を食い潰し貧困な生活を憂い毒を飲んで自殺したと言われている。」

「なんというか、吹雪ちゃんみたいな人ですね。」

 

いや、ほんとにね。

 

「そうならないよう、あの子の月の小遣いは3000円だ。」

「大丈夫なんです、それ?」

 

大丈夫じゃないかな?

 

「そういえば、三人は?」

「あれ、何処に行った?」

 

少し目を離した隙に、何処に行ったんだ?

 

「とりあえず、五百蔵さん。三人を捜しましょう。」

「だな、まったく何処に行ったのやら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レディーズはなにをしているかと言うと。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、北海町フードファイト大会もいよいよ佳境です!』

 

私はいったい何を、見ているのでしょう?

 

『我らが北海鎮守府の吹雪選手、大きくリードを広げています!』

 

彼女は先程昼食を終え、その後もなにかしら食べていたのに、何故かフードファイト大会に参加し、他者の追随を許さないペースで食べ進めています。

 

「レッキュ?」

「大丈夫ですよ、レナちゃん。」

「レッレッレ、フブキ!」

「そうですよ、吹雪さんですよ。」

「レッキュ!レッキュ!」

 

ふふふ、レナちゃんは無邪気ですね。癒されます。

癒されると言えば、この近辺にはAMIDA はいないのでしょうか?

あのカオスな生態系なら居そうなものですが

 

『決まったー!優勝は吹雪選手です!』

 

どうやら、優勝したようですね。

体格は私と同じ位なのに、何処に入っているのでしょうか?

人体の不思議ですね。

 

「お待たせしました。如月さん、レナちゃん。」

「いえ、構いませんよ、吹雪さん。」

「レーレ!」

 

突然、レナちゃんが興奮気味に人混みの中を指差して、ピョンピョン跳びはねだしました。尻尾もパタパタ振ってます。

 

「あら?レナちゃんじゃない。」

 

着物姿の美人が現れました。

 

「あっ!洋さん、こんにちは!」

「はい、吹雪ちゃん、こんにちは」

「あの、吹雪さん。こちらの方は?」

「あ、すいません。こちらは鳳洋さんです。」

「初めまして、如月さん、鳳です。」

 

あれ?

 

「あの私、名前言いました?」

「ふふ、実は私は元艦娘でして最近の娘以外はすぐに解るんですよ。」

「元艦娘ですか」

「ええ、退役してだいぶ経ちますね。かれこれ・・「レーレ!」・・どうしたんですか?レナちゃん」

 

鳳さんに抱き付いていたレナちゃんがある方向を指差していますが、人混みと平和な町があるだけだ。

すると、吹雪さんが困惑した様子で声をあげました。

 

「えっ!何であんなモノがこの町に!?」

「吹雪さん、いったい何が?」

「レーレレーレ!」

「あら、陸軍の歩行戦車ですか。懐かしいですね。」

 

いえ、そうではなくて

 

「げ、迎撃いや避難を!」

「その必要はありませんよ、如月さん。」

「必要はないって、どういうことですか?!」

「だってもう、避難終わってますから。」

 

はい?どういうことかと辺りを見回してみると、先程までいた筈の人々が一人もいないのだ。

 

「どういうことですか?!」

 

何故?いつの間に!

 

「襲撃され慣れてますから、それにこのくらいなら襲撃とは呼べません。」

「ええ、この程度襲撃ではありません」

「では、なんと呼ぶのです?」

「来訪、ですかね?」

「来客、かな?」

 

いや、聞かれても。

 

「てか、来てますよ、迎撃を!」

「その必要もありませんよ。」

「何を・・・?」

 

言ってるんだ?この人は

こうなったら、私だけでも迎撃をと、構えた。その時、

風を切る独特のブースター音と汽笛に似た機関音が鳴り響くと、銃弾が歩行戦車の膝を撃ち抜き緑黒の剛腕が振り下ろされる。

 

「如月、吹雪ちゃんレナちゃん、無事か?」

「提督、こちらは無事です。あれはいったい?」

「陸軍の新型らしいが、それ以上はわからん。」

 

歩行戦車が体勢を立て直そうとするも、緑黒の巨体がそれを許さない。

 

「この、いいからおとなしく、しろ!」

 

歩行戦車の頭部を気合と共に粉砕する。

 

「皆、大丈夫か?って、洋さん?!」

「お疲れ様です。五百蔵さん」

「五百蔵さん、こちらの方は?」

「ああ、こちらは鳳洋さん。この町で鮮魚店兼居酒屋『鳳』の女将だ。」

「鳳です。」

「AMIDA 鎮守府提督、四葉一樹です。」

「よろしくお願いいたします、四葉さん。それと、五百蔵さん、四葉さん?」

 

四葉と五百蔵の間を何かが通った、瞬間、復旧した歩行戦車が機能を停止した。

 

「仕留めていない敵に、背中を見せるのは殺してくださいと言っているようなものですよ?」

 

静かな笑顔で言われました。

歩行戦車には串が刺さってました。どうやって刺さってるの?

 

(四葉さん、いまの見えたか?)

(見えなかった、何なのこの人?)

 

「時間もあれですから、家に行きましょうか?皆さん。」

「さあ、行きましょう!提督!」

「待ちなさい吹雪君、君ここの大会に参加してたよね?」

「┐(´д`)┌」

「何、その顔!?」

「まあいいじゃないですか、五百蔵提督。」

「レレレッレ!」

 

はあ、もういいや。

 

「四葉さん、行こうか。」

「そっすね、行きましょうか。」

 

歩行戦車の残骸を回収を町の業者に頼み、我々は一路居酒屋『鳳』へ向かうのだった。




いかがでしたでしょうか?

クリスマスが過ぎたら年末商戦・・・ほんと、12月は地獄だぜぇ!フゥーハハハハハハハハハ!
ダレカタスケテ

それではまた次回お会いしましょう!


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オッサン、案内する その4

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第30話です。今回で特別コラボ編はおしまいです。sd カード様、許可をくださり誠にありがとうございます。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


先日、提督に着任しようとした私ですが、パソコンがブルスクかましてくれまして、着任出来ませんでした!

私が何をしたと言うのだ!


歩行戦車の回収の手続きとかなんとかやってたら、夜になりましてちょうどいい時間に鮮魚店兼居酒屋『鳳』に到着しました。

 

「では、直ぐに開けますので少し待っていてくださいね」

 

洋さんが勝手口から店の中に入る。

すると、四葉さんが口を開いた。

 

「五百蔵さん、あの人は何者なんです?」

「元艦娘ということしか分からん、あの人は謎が多い」

「は、はあ」

 

そんな顔しないでよ、あの人ほんと謎だらけなんだから。

こないだ、横須賀であの人の話をしたら彼処の空母娘達の顔色が蒼白通り越して無色になってたんだが、なんだったんだろうね、あれ?

 

「お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」

「おっ邪魔しまーす!」

 

吹雪君が勢いよく入店しました。

 

「ふふ、いらっしゃい、吹雪ちゃん」

「さ、御二人もどうぞ」

「それではお邪魔します」

「お邪魔します」

「レーレレッレッレ」

「いらっしゃいませ」

 

四葉さん達が入ってから俺も店に入り、カウンター席につく。

 

「こちらおしぼりとお品書きです。」

 

洋さんが店の奥からおしぼりと今日のメニューが書かれたお品書きを持って来た。

 

「さて、四葉さん。何を頼むかね?」

「いや、それはいいんですが」

 

どうしたのかな?好きなものが無かったのかな?

 

「なんか、今日1日食べてばかりのような気がして・・・」

 

そっちかー。確かにね、そんな感じがするね。

 

「まあ、そんなもんでしょ、バカンスなんて」

「そんなもんですかね?」

「そんなもんさ、バカンスは」

「ほら、見てみなよ」

 

吹雪君と如月嬢とレナが居る座敷席を指差す。

 

「如月さん、これも美味しいですよ!」

「あの、吹雪さん?流石に食べ過ぎでは?」

「何を言っているんですか?如月さん。食中食は当然ですよ」

「食中食?」

「はい、食中食です!」

「レッレッレ!」

 

ほらね、言わんこっちゃない。何なのあの皿の数、魔城ガッデムみたいになってんだけど?!

後、吹雪君。食中食って何?

 

「な」

「顔ひきつってますよ」

 

うん、知ってる。

 

「気を取り直して、注文しようか?」

「いや、五百蔵さん、あれ・・・」

「注文しようか?」

「アッハイ」

「では、注文を伺います」

 

洋さんが来て注文を聞き、厨房へと戻る。

因みに、俺は日本酒と刺身の盛合せとさつま揚げ、四葉さんはビールと鳥手羽のゆず胡椒煮とカキフライだ。

 

「四葉さん、なかなか渋いメニューを頼むね」

「そうですか、気になったモノを頼んだんですが?」

「若者らしいモノを頼むかとね」

「五百蔵さんこそ、らしいモノを」

 

らしいって、オッサンくさいかね?刺身とさつま揚げ

 

「そう言えば、四葉さん。AMIDA だがね?」

「AMIDA がどうしたんですか?」

「横須賀で大増殖してるよ」

「「マジですか!」」

 

おっと、これは予想以上の反応。まさか、ここまで反応するとは

 

「横須賀の提督と技術担当の三人が気になったらしくてね。確か今現在動いているのが、確認しているだけで二万ちょっとらしいな」

「やったぞ、如月!」

「ええ、やりましたね。提督!」

 

おおう、凄い喜びようだ。教えて良かったのか悪かったのか、分からんが、まあ、いいか。

 

「あと、彼処の明石と夕張が如月嬢のことを崇めてる」

「私をですか?」

「ああ、君をAMIDA 神と言って事あるごとに崇めてる」

「今度、行ってみるか?」

「行きましょう、提督」

 

その後、料理が運ばれて来て二人で呑んで食べた。吹雪君程じゃないけどね。吹雪君程じゃないけどね!

 

「そう言えば、五百蔵さん?」

「何です?洋さん」

「先程の横須賀のお話で気になったのですが、彼処の空母娘達は弛んだりしてませんか?」

「弛む?あの訓練を見る限りそんな感じはしませんが、どうしたんですか?」

「いえ、私が退役して大分経ちますので、そろそろ、弛みだす頃かと思いまして」

 

その心配はないとおもいますがね。

 

「五百蔵さん、あの子達の訓練内容を解る限りで教えて貰えますか?」

「えーと、フルマラソンを2回、弓の訓練三時間、連携訓練二時間、筋力トレーニングとして腕立て腹筋を300、スクワットを200、だったかな?」

「ふむ、それから?」

 

はい?それから、ですか?

 

「いや、俺が知ってるのはこれぐらいですね」

「ありがとうございます。ふふ、見事に弛んでるようですね、あの小娘共は・・・」

「「「「ヒエッ!」」」」

 

四人揃って、比叡さんみたいな声が出た。仕方ないね、まじで怖かったから。

 

「あの~、洋さん?」

「その程度のウォーミングアップを訓練と言い張っているとは、少し優しくし過ぎましたかね」

「洋さ~ん?」

「全くもって嘆かわしい、今度見に行く必要が有りそうですね」

「洋さん?!」

「あら、失礼しました。お見苦しい所を」

「「「「いえいえ!お気になさらず!」」」」

 

食べ終わり、少し談笑してから会計を済ませ、帰路へつきました。

 

「はい、此方が本日のお宿、北海鎮守府です!」

「「見事なプレハブじゃないですか、ヤダー!」」

 

プレハブの何が悪い。

 

 

その後、三日ほどの滞在で色んな事がありました。

如月嬢の頼みで10mクラスのアノマロカリスを捕ってきたり、またジラが涌いたり、ほっぽが近くの山でAMIDA を獲ってきて観察日記つけ始めたり、横須賀の明石と夕張がやって来て如月嬢を崇めたり、その二人の頭をレナが太鼓のように叩いたり、四葉さんと如月嬢が港さんのサイズに圧倒されたり、横須賀の空母娘達が死にかけたり、色んな事がありました。

 

 

 

 

 

そんなこんながありまして、御二人がお帰りになります。

 

「それでは、五百蔵さん吹雪ちゃん、お世話になりました」

「気にすることはないよ、四葉さん。また来なさい。あと、これお土産の饅頭」

「レナちゃん吹雪さん、また会いましょう」

「はい、如月さんもお元気で!」

「レッレッレレレレッレレーレ!」

 

「四葉さん、何かあったら連絡しなさい。これでも一応、君より長く生きてるからね、相談くらい聞こう」

「はは、何かあったら連絡しますよ。それではまた」

「ああ、またな」

 

二人を乗せた船が港から出ていく。

 

「行っちゃいましたね」

「うん、そうだね」

「提督、お腹すきました!」

「じゃあ、家へ帰ろうか」

「はい!」

「レッレッレ!」

 

四葉さん、あまり無理するんじゃないよ?見知った顔が居なくなるのは、寂しいからね。




いかがでしたでしょうか?

次回予告です!
ロミオ・ブルーの最終チェックの為、横須賀鎮守府を訪れた五百蔵達を待ち受けるのは!


鳴り止まないサイレン、吹き荒ぶ風雨、暗闇の中ライトが映すは、緑黒の鉄槌と黒白の刃

「またかよ!」
「五百蔵さん!」
『ふ、ぶき・・・ちゃん・・・』
「そんな・・・こんなことって・・・」
「吹雪ちゃん、しっかりして!」
「私が・・・私が、殺した、死なせてしまった・・・」
「吹雪君!」

次回、横須賀襲撃


今年中に投稿予定、お楽しみに!


それではまた次回お会いしましょう!


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番外編 横須賀鎮守府の日常

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第31話です。今回は番外編です。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!




ここは横須賀鎮守府、現在稼働している鎮守府の中でも最大級のドックを所有する鎮守府である。

今日はそんな横須賀鎮守府の日常を覗いてみよう。

 

朝 横須賀鎮守府執務室

 

 

「うぇ~い・・・比叡ちゃん。休憩しない?」

 

執務机に突っ伏し、情けない声をあげるのは磯谷穂波、この鎮守府の最高責任者である。

 

「またですか司令?さっきも休憩したじゃないですか」

 

その情けない声に答えるのは横須賀鎮守府秘書艦比叡である。

 

「良いじゃ~ん、私、頑張ったよ?」

「あんまり言うこと聞かないと、空母組の訓練に叩き込みますよ!」

「マジ勘弁してください!なんでもしますから!あれだけは!あれだけは!ご勘弁を!」

 

北海鎮守府から四葉と如月が帰った後、横須賀鎮守府に現れた元艦娘の鳳 洋による訓練で横須賀の空母組は死にかけている。

 

「あれだけは、あれだけはいけない。あれは訓練じゃない、何か別の新しい何かだよ・・・」

「確かに、あれは違いますね。開始十五秒で赤城さんと加賀さんが轟沈判定、三十秒で飛龍さんと蒼龍さんが轟沈判定、そして四十五秒で翔鶴さんと瑞鶴さんが轟沈判定でしたね」

 

その間、僅か一分足らずの惨劇であった。因みに、軽空母組は三十秒で皆殺しであった。

 

「しかも、鳳さんにかすり傷一つ負わせる事も出来ずに、艦載機を一機残らず落とされた上でですからね」

「あの人、いったい何者なんだろうね?」

「少なくとも、元帥や大将達が自らの足で挨拶に来るような人としか・・・」

 

元帥を始め、大将等の軍のトップが首を揃えて挨拶に来たのだ、磯谷達横須賀鎮守府はパニックに陥った。

 

「よし!もうこの話はお仕舞い。比叡ちゃん、お茶にしよう!」

「いや、仕事・・・ もう、分かりましたよ、お茶にしましょう」

 

比叡が溜め息をつきながら、茶を用意する。

 

「今日のお茶請けはなに~?」

「鳳さんから貰った羊羮です」

 

二人は、茶を飲みながら最近の出来事を話す。

 

「そういえば、ロミオ・ブルーの進捗はどうなの?」

「書類を見る限り、九割程完成したようですね、後は関節や装甲の最終チェックのみだそうです」

「さすがは夕石屋の二人だね、仕事が早い」

「司令が四葉司令とバカやって、ストライカー・エウレカを壊さなければ、もっと早く済んだんですが」

「よし!この話は止めようか!」

 

そして話は、榛名の片思いについての話になる。

 

「それで、比叡ちゃん。榛名ちゃんに何か進展は?」

「ふぅむ、目立った進展は無いですね」

「え~ なんで~?榛名ちゃんだよ!私だったら、もう一発でベッドインだよ!」

「司令のチョロさは置いとくとして、五百蔵司令に問題がありますね、これは」

「五百蔵さんに?」

「あの人、榛名のことをそういう『対象』と見てないんですよね」

「あのオジサン、頭オカシイんじゃない?」

「誰も彼もが、司令みたいに直結型じゃないんですよ?」

「比叡ちゃんがヒドイ・・・」

「まあ、それでも五百蔵司令からの返信は楽しそうに読んでますよ」

「それなら良いや」

 

それから暫く、二人は榛名の片思いについて話し合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ 空母組の訓練風景(台詞のみ)

 

 

 

「何をやっている!それでも栄えある一航戦か!?」

「くっ!まだまだ!」

「艦載機の展開が遅い!戦場に何をしに行くつもりだ!?」

「嘘でしょ?!これでもダメなの?!」

「何をしている!死ぬなら一人でも多くの敵を殺してから死ね!一人でも多くの民を守ってから死ね!それが出来ないなら、今すぐ死ね!」

「嘘?!敵機直上?!」

「訓練生の方がまだ動けるぞ!膝をつくな!膝をつくときは死ぬ時だけだ!」

 

今回の~訓練の~成績発表~!

 

「私のようなロートル相手にこの程度とは・・・

まるで、お話になりませんね。あれでは戦場に行っても、盾にしかなりません。いえ、盾になるだけ使えますか。まあ、どちらにせよ情けない話に代わりありません」

 

とのことでした~

 

 




いかがでしたでしょうか?

実は、バケツのオッサンのプロットが行方不明になりまして、次回の更新は未定です!

どこいったのー!プロットー!出てきてー!


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オッサン、設定 その2

どうも、逆脚屋です。今回は設定集その2になります!

前半、かなりやり過ぎてます。


鳳 洋(おおとり よう)

役職 鮮魚店兼居酒屋『鳳』店主

性別 女

年齢 不明

身長 約170cm

体重 「ふふふ」 スンマッセン!

人種 元艦娘

趣味 料理 散歩(意味深)

 

北海に住む元艦娘の女性、現在は退役している。最初期の艦娘であり、すべての空母艦娘の元となった人物。

性格は、普段は温厚だが一度戦場に立てばかつて呼ばれた『死神』の顔になる。

第一次侵攻及びに第二次侵攻における英雄、特に第二次侵攻時の彼女の活躍は『異常』であった。

太平洋に現れた、海と空を覆い尽くす万を超える敵を単騎で皆殺しにし、いつもの静かで穏やかな笑みを浮かべてほぼ無傷で生還している。

 

その際に、不可思議な現象が報告されている。

戦場で敵の砲撃を正面から受け、上半身が消し飛んだにも関わらず、瞬間的に体と装備が再生し、何事も無かったかの様に反撃を開始

また、単騎で出撃した筈なのに、部下や僚艦を率いていたという報告も上がっている。

目撃者である兵士の証言によると、率いていたという部下や僚艦は、かつて彼女と共に同じ戦場に立ち、散っていった戦友達であったという

正直、眉唾物であるが、目撃者や証言者が一人ではなく彼女と同じ戦場に居た兵士が全員目撃していることから、戦場の幻ではなく、現実なのだろう。

 

彼女に突撃取材をした艦娘Aはこう語る。

 

「彼女は・・・なんと言えば良いのでしょう?一人の筈なのに、一対一で話をしている筈なのに、囲まれている?否、まるで複数の、数え切れない数の人達と会話をしている。それも嫌な感じではなく、何処か懐かしく寂しい、その様に感じるのです。」

 

この取材の後に、艦娘Aは彼女と同じ戦場に立ち、民間人を庇い僚艦と共に戦死、その後の第二次侵攻に彼女が率いる軍勢の中に艦娘A と僚艦が目撃されている。

 

彼女、現『鳳 洋』はこの現象についてこう語る。

 

「私は皆と約束しましたから、何があっても最期まで共にいる、と」

 

彼女の正体は現在も不明である、空母であるにも関わらず戦艦を圧倒する力、不死身とも言える再生力、自身が率いる謎の軍勢、もはや、空母ではなく何か別の・・・

 

 

磯谷 穂波(いそがい ほなみ)

役職 横須賀鎮守府提督

性別 女

年齢 17

身長 約165cm

体重 「私の躰が気になるなら、ベッドの上で・・・」 あっ、 そういうのいいんで

人種 人間

趣味 運動() AMIDA 観察  

 

バカ、横須賀鎮守府の提督である。日に数回は艦娘へのセクハラで憲兵さんにKENPEI されている。

これでも、結構有能、仮にも提督やってない。バカだけど

作者も忘れがちだが、新米土下座神の被害者の一人。

最新型イェーガー『ストライカー・エウレカ』のパイロット、バカなのに

本人曰く、「両方イケる!」とのこと、なにがや?

 

 

戦艦 比叡(せんかん ひえい)

役職 横須賀鎮守府秘書艦

性別 女

年齢 20代前半

身長 約180cm

体重 「ヒエェェェ!」

人種 艦娘

趣味 アウトドア全般 

 

賢い、横須賀鎮守府の秘書艦である。磯谷が仕事をしないと「ヒエヒエ」と鳴く。

横須賀鎮守府の良心、賢い。

 

戦艦 榛名(せんかん はるな)

役職 横須賀鎮守府第1特務

性別 女

年齢 10代後半

身長 約185cm

体重 ・・・・・・・・・・・・スイマセン・・・・・・

人種 艦娘

趣味 料理 裁縫 オッサンとの手紙のやり取り

 

横須賀鎮守府所属の艦娘、五百蔵のオッサンに一目惚れをしている。だが、肝心のオッサンがアレなので、現在も奮闘中。因みに、オッサンは榛名の恋心に薄々勘づいているが、年齢差やあれやこれやで、なんだかなぁみたいな感じになっている。

 

なんだかなぁ・・・

 

明石・夕張(あかし・ゆうばり)

役職 横須賀鎮守府技術部「夕石屋」管理者

性別 女

年齢 不明

身長 約170cm

体重 アミー!

人種 艦娘

趣味 AMIDA 製作及び観察 

 

横須賀鎮守府所属の艦娘二人組、AMIDA 神を信仰している狂人組。

常に二人同時で発言、行動している。別々の海域にいても一秒のズレもなく、まったく同じ発言と行動をしている。

双子とかではなくまったくの別人である。

 

横須賀鎮守府

現在稼働している鎮守府中、最大規模のドックを所有する鎮守府。

約60人の艦娘の治療及びに健造、装備の修理に開発を同時に行うことが出来る。

「夕石屋」の二人とAMIDA により、いまだに増築中である。




やっちゃった!


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榛名の恋日記

皆さん、明けましておめでとうございます。逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第33話です。今回は番外編です。

それでは始まります!作者がプロットを無くした腹いせで書いた「バケツ頭のオッサン提督の日常」番外編「榛名の恋日記」お楽しみください!

前回の設定集を読んだ友人から、洋さんの過去話を書けと言われたのですが、皆さんはどうですか?
もし、宜しければリクエストコーナーにお願い致します。

一応、タイトルのみ決まりました。「不死の鳳」となります。


○月○日

 

私があの人に出会ったのは、あのよく晴れた日でした。

天を突かんがばかりの長身、圧倒的な力強さを感じる手足、理性的で穏やかな瞳、低く重い落ち着いた声

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直言って、私の殿方の好みをど真ん中をアハトアハトでぶち抜いてきました。

ええ、キャッチャーと審判、それと後ろの観客ごとぶち抜かれましたね。

阿鼻叫喚の地獄絵図です。いえ、この場合は極楽絵図ですかね。

 

 

・・・・・・失礼、噛みました。

 

 

つまり簡単に言うと、一目惚れです。

安い女だと思われるかもしれませんが、一目惚れなのですから仕方ないじゃあないですか。

 

だって、あそこまで私の好みの殿方が居るなんて思いもしませんでしたよ!

何ですか?趣味が悪い? フフフ、そんなことを言う方は、今流行りのヒョロヒョロのモヤシとでも付き合ってればいいのですよ。

 

 

・・・・・・失礼、また噛みました。

 

 

気を取り直しまして、実は私はほんの少し不安でした。

もしかしたら事案発生かと、ロから始まってンで終わるカタカナ四文字の性癖の持ち主かと思いましたが、杞憂でした。

ドックで新型AMIDAが暴走 した時に見せたあの顔、まるで、親が子を慈しむ様に、吹雪ちゃんの無事を喜ぶあの顔、アハトアハト第ニ射でした。

それに、あの装備です。装備まで私好みの重厚で剛健かつシンプルな造りの装備だなんて、アハトアハト第3射です。

 

○月◻日

 

ああ・・・ あの人の隣に居たい。それで吹雪ちゃんを間に挟んで買い物袋なんて抱えて、夕日に染まる町を三人で歩いて行きたい。

それで帰ってきたら、二人でお揃いのエプロンを着けたりしてキッチンに立ちたい。ああでも、あの人の体格に合うエプロンを仕立てないといけませんね。次のお休みに街に行ってみましょうか。でも、有るのかしらあの人サイズなんて

いえいえ、榛名はめげません!榛名は大丈夫です!無ければ作れば良いのです!

 

 

 

出来ました!丁度いい布が有りませんでしたから、にゃんこ柄のエプロン五百蔵さんサイズです!

ついつい抱き締めて悶えていたら、鈴谷さんに見られてしまいました・・・・・

榛名は大丈夫でしたよ・・・・・『榛名は』

 

 

 

鈴谷さんの尊い犠牲を乗り越え、私のエプロンも完成しました!勿論、お揃いのにゃんこ柄です!

・・・・・・鈴谷さん、貴女のことは忘れません

 

 

喜んで頂けるでしょうか?きっと大丈夫です!

 

 

○月△日

 

私は貴方にとって、そういう『対象』ではないということは承知しています。

でも、私は諦めません。いつか貴方を振り向かせてみせます!

 

金剛お姉様も言ってました『恋はいつでもバーニングラブ!』だと

 

だから、何があっても榛名は貴方のことが好きです。

 

冬悟さん

 

 




いかがでしたでしょうか?

本編はもう暫くお待ちください。只今プロットを再編中です。


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????レポート

キメラ細胞実験体一号

 

使用素体

駆逐イ級及び人間

 

人間の細胞がキメラ細胞と急激な癒着を起こし、深海棲艦を飲み込んでしまった。

結果として、知性の欠片も無い肉の塊が出来上がった。

 

結果 失敗 処分

 

 

キメラ細胞実験体二号

 

使用素体

駆逐イ級及びロ級

 

一号の反省点を元に、人間を使用せず深海棲艦のみを使用することにする。

結果は失敗とも成功とも言えない代物が出来上がった。

こちらの命令は理解出来る様なので、『アイツ』から奪い取った数少ないイェーガーの装甲を取り付けることにする。 

 

『あの人』を死なせた奴の仲間だったので殺したが、もう少し搾り取ってから殺せば良かったか?

 

結果 失敗だが、収穫有り。『あの人』がこの世界に居た!居てくれた!

やはり『あの人』は変わらない、一緒に居たもう一人が邪魔だが、問題は無い。

待っていて下さい。今、貴方の枷を外しますから・・・

 

 

キメラ細胞実験体三号

 

使用素体

人間及び艦娘

 

失敗。中途半端に艦娘の意識が残ってしまった。何か名前を呟いていたが、どうでもいい。

一応、イェーガーの装甲を取り付け拘束し、凍結処理を施す。

 

 

キメラ細胞実験体????号

 

失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

失敗だ!何度やっても上手くいかない!こんなもんじゃ!僕に負ける程度では『あの人』の相手なんて勤まらない!

急がなければ・・・『あの人』が弱くなってしまう・・・

急がなければ・・・急がなければ・・・

 

 

キメラ細胞実験体?????号

 

何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?

 

何故上手くいかない!?何故だ!何故なんだ!

急がなければいけないのに、何故上手くいかない!

こうしている間にも、『あの人』はどんどん弱くなっている。

 

そうだ・・・ あの出来損ないを使おう・・・

あれは、出来損ないだがあの『小娘』を殺すことぐらいなら出来るだろう。

 

あの『小娘』の名前を呟いていたし、丁度良いだろう

 

あの『小娘』が死ねば、『あの人』はきっと元に戻ってくれる!

かつての『あの人』に!あの圧倒的な暴力を誇っていた、あの時に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ねぇ・・・ そうでしょう? 『主任』



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オッサン、問題続発する 前編

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第34話です。今回から、じわじわと伏線を回収していきます!出来るかって?やるしかねぇんだよ!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!




ちょっとした裏話

この世界の神様は、上のランクになればなるほど感情が希薄です。
反対に、ランクが低ければその分、感情が豊かになります。ですが、ランクが低い=能力が低い、という訳ではありません。
管理者である神に余計な感情は不要と考えているため、ランクが上の神はシステムの様に物事を決定していきます。



あ、どうも、皆様お久し振りです。五百蔵冬悟です。我が北海鎮守府は色々と問題が発生してますが、何とかやってます。

只今私は、久々に連絡してきた新米土下座神と電話中です。

 

「んで、どうしたのよ?新米ちゃん」

『五百蔵さん・・・ えっと、ですね・・・』

 

あれ? いつもの勢いがない。どうしたのかね、いつもなら、耳が痛くなるような勢いと声で捲し立ててくるのに。

何か、嫌な予感がする。

 

『あの・・・ その・・・』

「先ずは落ち着きなさい。はい、深呼吸、1、2、3」

『すー、はー、すー、はー・・・ 』

「落ち着いたかい?」

『はい・・・ 』

 

さて、鬼が出るか蛇が出るか。出来ることなら、何も無ければ良いんだが

 

『実は、先輩が死んだ。いえ、殺されたんです・・・』

 

は?先輩?殺された?いやいや、待て待て!新米ちゃんは神の筈、ならば、その先輩も神だ

 

「新米ちゃん、心中、お察しする。しかし、どういうことだ?神が殺された?」

『はい・・・ 殺されました・・・ 良い人だったのに、どうして、あんな・・・!』

 

この様子から察するに、余程の殺され方だったのだろうな。新米ちゃんは見た目が幼い分、余計に痛々しく思える。

あれ?どうして、新米ちゃんは俺に連絡してきたんだ?

まさか・・・

 

「新米ちゃん、まさかとは思うが・・・」

『はい・・・そのまさかです・・・』

 

くそが、鬼も蛇も、何もかもが同時に出てきやがった!

 

「そいつは、この世界に居るのか」

『その世界に居ます・・・ 先輩の所に遺された資料から、何とか分かりました・・・』

 

なんてこった、畜生が!神殺しとか最悪じゃねぇか!

唯でさえ、色々問題が発生してるのに、その上神殺しのイカレ野郎とか、勘弁してくれ!

 

「はあ・・・ 新米ちゃん取敢えず、今日の所は休んだ方がいい」

『はい・・・ お気遣いありがとうございます。でも、まだ伝えなきゃいけないことがあるんです』

 

伝えなきゃいけないこと? また嫌な予感がする・・・

 

『先輩が殺された時に、イェーガーが数体と『あるもの』が奪われました』

 

神殺しに盗難とはな、しかもイェーガー。となると・・・

 

「横須賀に現れた『ロミオ・ブルー』は、そいつの差し金か?」

『はい、その通りです。その上、何体奪われたのかが分からないのです』

 

分からない?どういうことだ

 

「分からないって、どうしてだ?」

『イェーガーに関する権利は、私と先輩で管理してました。ですが、先輩が管理していた資料の大半が紛失、残ったイェーガーも完全に破壊されていて、調査が難航しているのです・・・』

 

おいおい、それってかなり計画的な行動じゃないか!時間も掛かっている筈だ、なのに

 

「誰も気付かなかったのか?」

『お恥ずかしい話、私達神は横の連絡を取り合う事があまり無くて、先輩が殺されたのも、誰も気付かなかったのです・・・』

 

私も含めてと、心底、口惜しそうに呟く新米ちゃん。俺も大分きつくなってきたが、問題はまだある。

 

「新米ちゃん・・・ 遣りきれんだろうが、聞かせてくれ。イェーガーと一緒に奪われた『あるもの』とは、いったいなんだ?」

 

正直な話、この『あるもの』というのが一番嫌な予感がする。

出来ることなら、この予感が外れていてほしいものだが、世の中そうはいかんらしい。

 

『人工の細胞です。その世界とは別の世界を滅ぼしかけて、私達が強制介入して回収、封印しました』

 

アハハハ、もうヤダ・・・ 胃が痛い・・・ 心当たりが有りすぎる・・・

 

『キメラ細胞といって、無機物有機物問わず、癒着融合し、別の生物に変えるというものです』

「因みに、その新生物。体液が黄緑だったりする?」

『はい、その通りです』

 

胃が痛い、胃が痛いよ・・・ 

 

「横須賀、大丈夫かな?」

『磯谷さんには、伝えてあります。一定以上の熱もしくは、脳に当たる部分を破壊すれば、活動を停止するように存在を書き換えてますから、そちらでも対処は可能です』

 

それならいいが、最悪の気分だ・・・ ホント

 

『以上で報告は終わりです』

「うん・・・わかった。新米ちゃん、暫く仕事を休んで養生しなさい。これから、何があるかわからん」

『はい・・・ では、失礼します・・・』

 

新米ちゃんからの電話が切れると、辺りに誰も居ないのを確認してから近くにある塀を殴る。

 

「クソッタレが、何処のイカレ野郎だ!」

 

最悪だ最悪だ最悪だ・・・ こうも問題が続発するとは、チクショウ!

なんだよキメラ細胞って!無機物有機物問わず癒着融合だぁ?何処のゾンダーだ!誰か勇者王呼んでこい!

 

「はあ、此処に居ても始まらん。家に帰るか」

 

ああ、胃が痛い、辛い・・・ しかし、そうも言ってられん、新米ちゃんはもっと辛い筈だ。

鎮守府へ帰ろうと、足を向けた時だ

 

「ポ、トーゴイタ!」

「ヲ、トーゴイタ!」

 

ヲガタとほっぽが、息を切らして現れた。

 

「どうした?二人とも」

 

我ながら、白々しいにも程がある。分かりきってる事だろうに

 

「ポ、フブキガサガシテル!」

「ヲ、フブキガサガシテル!」

 

ああ、やっぱりか・・・ 

 

「分かった、済まんな、二人とも世話をかける」

「ポ、キニスルナ、トーゴ!」

「ヲ、キニスルナ、トーゴ!」

「本当に世話をかける」

 

最近の我が鎮守府、最大の問題が吹雪君だ。最近の吹雪君は様子がおかしい、何をするにも、何処に行くにも、俺と一緒に居たがる。

 

それだけならまだ良い、俺が周辺海域の警備に出ようとすると、それを停めたがったり、訓練のために装備を装着するのも怖がってる。食欲も普段に比べ格段に落ちている。

吹雪君、いったい君に何があったんだ?

兎に角、今は家に帰ろう。此処では何も出来ん





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オッサン、問題続発する 後編

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第35話です。今回は前回の続きです!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!



今回のお話はザ・バックホーンの「美しい名前」を聞きながら書きました。


吹雪君の異変を聞き鎮守府へと向かう途中、二人が俺を見上げなから呟いた。

 

「ポ、トーゴ、フブキダイジョウブナノ?」

「ヲ、フブキ、コワガッテル」

「大丈夫さ、俺に任せなさい」

 

任せなさいか、笑わせる。あの娘がああなるまで気づきもしなかった癖に、何をいけしゃあしゃあと抜かしているんだろうな、俺は。

 

兎に角、今は急ぐしかない。ああ、くそが、家迄の道はこんなに遠かったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら提督が居ませんでした。何処にも居ません。執務室にも、台所にも、書斎にも、畑にも居ませんでした。何時もなら、この何処かに居るのに

町に行ったのかと、車庫を見ても車があり、町に行ったのではないと分かりました。

家に遊びに来ていたほっぽちゃんとヲガタさんが、捜しに行ってくれましたが、まだ帰って来ません。

何処に行ったのですか、提督・・・

何処に居るんですか、提督・・・

まさか、出撃したんじゃ!

提督、戦わないでください。戦ったら死んじゃいます。

もう嫌なんです、私のせいで誰かが死ぬのは・・・

この時季の寒さが、空の低さが、海の音が、無理にでも、思い出させるんです。

 

私が殺した『  』のことを

 

皆が仕方ない、あれはどうしようも無かったと言ってくれたけど、私が『  』を殺した事実は消えない。

『あの時』の『  』の顔を、声を忘れられる訳が無い。

私のせいで誰かが死ぬのは、私のせいで誰かが居なくなるのは、もう嫌です・・・

 

「居なくなっちゃ嫌です・・・ 提督」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足が重い、腹に力が入らん、一向に鎮守府に着かん。何をしてるんだ俺は。

あの不安定な状態の吹雪君を放っておいて、この様か!

 

「ポ、トーゴ、カオコワイヨ・・・」

「ヲ、トーゴ、ソノカオダメ、フブキ、コワガル」

「すまん・・・」

 

この二人に嗜められるとは・・・ 参ってるな、我ながら。

彼女を守ると決めておきながら、この体たらく。全くもって情けない!

 

「ポ、トーゴ、チンジュフツイタ」

「ヲ、ツイタ」

「ああ・・・」

 

目の前にある我が家、何時もなら何事も無く開くことの出来る扉だが、今はこの扉が何よりも重い。

俺は、何をしてやれば良いんだ?

 

「トーゴ、アケナイノ?」

「トーゴ、ハヤク」

 

二人が急かして来るので、意を決して扉に手を掛ける。

その時だ

 

『居なくなっちゃ嫌です・・・ 提督』

 

吹雪君の弱々しい呟きが俺の耳に届いた。居なくなる?俺が?どうして? そんな訳無いだろう、吹雪君、俺は・・・

 

「大丈夫だ、吹雪君・・・ 俺は此処にいる。君を置いて居なくなる訳がない」

 

扉を開け、執務室で踞る吹雪君の前にしゃがみ、抱き締める。

 

「てい・・・とく・・・?」

「ああ、そうだ。俺だ」

 

体を震わせ、力の無い声と少し虚ろな目で、吹雪君が俺を見上げてくる。

すまない、吹雪君・・・ ずっと傍に居たのに、君の痛みに気付いてやれなかった。

君はこんな小さな体で、その耳と目で俺のことを支えてくれていたというのに・・・

彼女を抱き寄せながら、誓う。

 

「すまない、吹雪君。此処にいる、何があっても俺は君と共に此処にいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だ、吹雪君・・・ 俺は此処にいる。君を置いて居なくなる訳がない』

 

執務室で一人踞る私を、帰って来た提督が私をこう言って抱き締めてくれました。

いきなりだったので、少しびっくりしながら見上げると今にも泣き出しそうな提督が居ました。居てくれました。

私なんか比べ物にならないくらい大きな体で、その両腕で私のことを守ってくれる人が居ました。

日々の仕事で染み着いた紙と鉄と土が混じった匂い、間違いなく提督です・・・

 

「てい・・・とく・・・?」

「ああ、そうだ。俺だ」

 

提督はその腕で私を抱き締めながら、大きなゴツゴツした手で私の頭や耳、目の周りを優しく撫でてくれました。

 

「すまない、吹雪君。此処にいる、何があっても俺は君と共に此処にいるよ」

 

そう言い、私を抱き寄せると提督の音が聞こえます。この地響きの様に大きく強い心臓の音を聞いていると、だんだん、眠くなってきました・・・

 

 

今日は、あの『夢』を見なくていいかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪君? 寝てるのか」

 

抱き寄せると、小刻みに震えていた体から力が抜け此方にもたれ掛かってきた。顔は見えないが、静かな寝息が聞こえるから寝ている。

 

「ポ、トーゴ、フブキダイジョウブ?」

「ヲ、フブキダイジョウブ?」

「ああ、すまんな二人共。世話をかけた」

 

だが、大丈夫とは言い切れん。吹雪君がこうなった原因をつきとめ、それをなんとかしない限りはこの娘はまた・・・

 

良し!こうするしかないな!

 

「ほっぽ、ヲガタ」

「ポ、ナンダ?トーゴ」

「ヲ、トーゴ、ナンダ?」

「港さんや鈴木さん、洋さんに伝えてくれ。北海鎮守府は暫くの間、休止すると」

「ポ、リョウカイ!ポポポ」

「ヲ、リョウカイ!ヲヲヲ」

 

ほっぽが敬礼、ヲガタがサムズアップし、鎮守府から飛び出して行く。

まあ、あれだ。ヲガタよ、何故ほっぽが敬礼してお前がサムズアップなんだ?逆じゃね?

 

「ん・・・」

「っと、このままじゃいかんな」

 

吹雪君が寝苦しそうに身を捩ったので、抱き上げ近くのソファーに寝かしつけようとすると

 

「ん~・・・」

「離しては貰えそうにないね」

 

確りと、俺の上着を掴んで離そうとしない。仕方がないので、彼女を膝の上に乗せることにする。

 

「ん・・・」

「大丈夫だ、吹雪君。俺は此処にいるよ」

 

彼女の背をゆっくりと叩きながら呟く。出来る限り、ゆっくりと

 

さて、どうしたものか。原因を究明して解決するといっても、下手なやり方ではマズイことになる。

情報が少なすぎる、吹雪君から聞ければ一番良いのだが、この状態のこの娘に聞ける訳が無い。

過去に何かあったのは明白だ。ならば、知ってる人間を捜して話を聞くしか無いな。磯谷嬢に頼むか、あんなでも中々に有能だ。

吹雪君がもう少し落ち着いたら、如月嬢達の見舞いがてら、横須賀に行くか。

 

ロミオ・ブルーのパイロットも決まったらしいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、この時季になると『  』の夢をよく見る。だから、よく眠れない。それに加えて、最近ある『夢』を見るようになった。

『皆が居なくなる夢』とても恐い『夢』を『何かに引き込まれる様に』を見るようになった。

だけど、今日は少し違うみたいです。

 

「ハロー、『私』」

「え?あ、どうも」

 

『恐い私』が話し掛けてきました、びっくりです。

 

「早速ですけど、『私』」

「なんです?」

 

何を言われるのでしょう?

 

「もう此処には来ちゃダメだよ」

「え?」

「後、その手も離しちゃダメ」

「いったい、どういう・・・」

 

この『恐い私』は、何が言いたいのでしょう?

 

「フフフ それじゃ、バイバイ」

「ちょっと、まっ・・・」

 

ここで『私』の意識は『恐い夢』から『追い出されました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ・・・ あれ?」

「吹雪君、起きたかね?」

 

あれ?なんで私、提督に抱っこされてるんでしょう?

まあ良いです。温いし

 

「吹雪君、今やってる仕事が終わったら、横須賀に行こうか?」

「横須賀ですか?」

 

なんでいきなり?

 

「休暇ついでに、如月嬢達の見舞いだよ」

「はぁ?」

「ついでのついでに、横須賀食べ歩きツアーをしようかとね」

「良いですね!行きましょう!」

 

やりました、あれ?私・・・

 

「どうしたね?吹雪君」

「いえ、なんでもないですよ」

「そうかね」

 

あれあれ?なんで私、怖くなくなってるんでしょう?提督が近くに居るからでしょうか、『夢』を見ていた様な気もしますが、不思議です。

それにしても横須賀ですか、榛名さんに久しぶりに会えますね。楽しみです!




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オッサン、横須賀に居る

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第36話です。今回から横須賀編スタートです。なお、今回はゲスト様目線がメインになります。
sd カード様、誠にありがとうございます!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


決意を新たにしたあの日から早いもので、はや数日。横須賀滞在一週間が経ちました。

榛名さん案内の元、横須賀食べ歩きツアーも行い、吹雪君はホクホク顔で日々を過ごしております。

 

では私、五百蔵冬悟は何をしてるのかと言いますと・・・

 

「磯谷嬢、ここの計算が違う!」

「そんなこと言ったって、私算数苦手ですもん!」

「苦手ですもんじゃねぇ!なんで電卓使って間違えてんだ!」

 

横須賀のバカ(磯谷)が仕事貯めまくって、てんてこ舞いしております。

比叡さん? 如月嬢達の看病の補佐で明石と夕張の部署に行ってるから、それを良いことにこのバカは駆逐艦のチビスケ達と遊びまくってたらしい。

 

「なんで、去年の書類が残ってんだ、とっとと終わらせろ!」

「うえ~! 比叡ちゃん、霧島ちゃん、金剛ちゃんカムバーック!」

 

金剛型の長女の金剛嬢と三女の霧島君の二人の内、三女の霧島君が比叡さんと共にバカの補佐役を担っているのだが、只今その霧島君が金剛嬢と呉の鎮守府に出張してるから、バカがこんなことになってる訳だよ。

 

「いいから早くしろ!」

「うえええ~」

 

まったく、このバカは。普段からちゃんとしてりゃあ、こんなことにはならんのにね。

 

「ほら、嘆いてないでさっさとする!」

「あうあうあ~」

 

今日中に、終わるのか?これ。如月嬢達の見舞いもせにゃならんのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府医療棟特別治療室に、その少女は居た。桜色に近い髪を広げ、ベッドに横たわるその姿は正に、満身創痍といった有り様であった。

足は折れている様でギプスで固定されている。所々に火傷や切り傷の跡もあるが、もっとも痛々しいのはその右腕である。

ギプスと金具で固定され、巻かれた包帯には赤が滲んでいた。未だに痛みが酷いのか、その寝息は荒い。

先の演習、『不死の鳳』こと鳳 洋との対決で超規格外兵装『クワトログラインドブレード』を使用し負荷に耐えきれず右腕が圧壊その余波で足を骨折したため、他のメンバーと共にこの横須賀鎮守府で治療を受けていた。

 

 

 

 

 

 

何も無い空間で如月は目覚めた

 

「あら?此処は・・・」

 

目を覚ました如月は辺りを見回した。自分は横須賀で治療を受けている筈なのに、何故こんな場所に居るのか?

 

「あ、これ夢ですね」

 

周囲の確認と共に自分の怪我の有無を確認、怪我をしてないの上に、こんな空間は有り得ないので夢と断定した。

 

「しかし、我ながら妙な夢を見るものね」

 

何も無い空間に一人ぽつんと立っている夢なんて、疲れてるなと思っていると

 

「あれ?あれあれあれあれ?如月さんだ!」

「え、吹雪さん?」

 

北海鎮守府の吹雪が居た。

 

「な、ん、で、こ、こ、に、如月、さ、ん、が、い、る、ん、で、す、か?」

「あ、あの」

 

言葉に合わせフラフラとしたステップを踏みながら此方に近付いて来る吹雪、だが、如月は強烈な違和感を感じていた。

 

(この彼女は本当にあの『吹雪』さんなのですか?)

 

人懐っこい笑みやどこか小動物を思わせる様な動き、服装は紛れもなく北海鎮守府の吹雪なのだが、何かが違うと如月は感じた。

これは、まるで・・・

 

「洋さんみたい、ですか?」

「っ!!」

「そんなに驚かないでくださいよ、如月さん。夢なんですから」

「夢?」

「そうですそうです、夢ですよ」

 

光の無い闇よりもなお暗い瞳で自分を見上げてくる吹雪?を如月は警戒した。

鳳 洋の様だと思ったが違う、寧ろ、それ以上のなにかがある。

 

「でも、おかしいですね。『私』の夢なのに、なんで如月さんが居るのでしょう?」

「はい?」

 

『私』の夢?私ではなく?いったいそれは

 

「どういう・・・」

「まあ、良いです。ところで如月さん、お願いがあります」

「いや、あの、お願い?」

「はい、お願いです」

 

この吹雪?は自分に何を願う気なのだろう?

 

「『お父さん』と『お母さん』と『私』や『皆』のことを、よろしくお願いしますね」

「何を・・・?!」

「それではサヨナラです、もう会うことも無いでしょう。あっ、皆さんにプレゼントがありますんで、目が覚めたら驚くと思いますよ」

 

私の疑問は彼女には届かず、私はあの真っ黒な夢から『追い出されました』

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・ あら?」

 

目が覚めた私が最初に感じた違和感は体の異変でした。壊滅的なダメージを受けた右腕に痛みが無く、傷が塞がっており、折れた足も元通りになっていました。

 

「いったいどうして・・・? 夢を見ていた様な気がしますが、関係は無さそうですね」

「「如月様、お加減の方はいかがでしょうか・・・!」」

 

明石さんと夕張さんが回診来ましたね。さて、この状態をどう説明しましょう?

 

「「お、おおお!傷が塞がって!」」

「ふ、二人共落ち着いてください」

 

唯でさえ、二人揃ってグルグル目なのに更に高速回転しながら、ワナワナと体を震わせるのは、流石の私でも恐い。

 

「「奇跡、奇跡です!AMIDA 神如月様が復活為された!」」

 

私の傍に寄り、ひざまづき両手を合わせ私を拝み始めました。小さく嗚咽も聞こえます、この二人のキャラの濃さなら、家でもやっていけますね。

 

「いや、何やってんの?君ら」

「あら、五百蔵提督」

「やあ、如月嬢。調子はどうだね?あ、これ、見舞いの饅頭」

「あ、どうも」

 

暗い緑色のロングコートに身を包んだ巨漢、五百蔵提督が差し出した饅頭を動くようになった右腕で受け取ると、五百蔵提督は顎に手を当て、首を傾げました。

 

「あれ?聞いた話だと右腕が重傷だった筈だが」

「目が覚めたらこうなってまして、私にもサッパリです」

「何それ、コワイ」

「「おおおぉぉっ!AMIDA 神如月様、バンザーイ!」」

「何コイツら?」

 

五百蔵提督が足元に居る信者二人を指差し聞いてきますが、私にもなんだか?

 

「あれ?そう言えば吹雪さんは?」

「吹雪君なら、榛名さんと街に食べ歩きツアーに行ってるよ」

 

横須賀の街の飲食店の皆様、御愁傷様です。

 

「帰ってきたら、此方に顔を出すよう言ってあるから」

「そうですか、ところで五百蔵提督」

「なんだね?如月嬢」

「榛名さんとは、どうなのです?」

 

瞬間、五百蔵提督がフリーズしました。なかなか面白いですね。

あ、復旧しました。

 

「き、如月嬢。何処でそれを?」

「比叡さんと磯谷提督がぼやいてましたよ」

「オウフ、如月嬢、それはだね・・・」

「なんにしても、早めに答えを出してあげましょうね?」

「hai !」

 

良いお返事です。

 

「はあ、それじゃあ俺は執務室に戻るよ」

「あら、もう少しゆっくりしていってもいいんですよ?」

「バカが仕事貯めまくってるからね。また、改めて顔を出すよ」

「そうですか、お疲れ様です」

 

五百蔵提督が信者の二人を連れて病室を出ました。

それにしても、何故怪我が治っているのでしょう?不思議なことも有るものです。私でこれなら、他の皆も完治してそうですね。

如月の予想は正しく、AMIDA 鎮守府第一艦隊の面々は目が覚めたら怪我が回復しており、残すはリハビリのみとなっていた。

その際に、全員が『不思議な夢を見ていた様な気がする』と呟いていたという。




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オッサン、横須賀でちょっと訓練する

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第37話です。今回はほんのちょっとだけ、戦闘描写?があります。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!



突然ですが、ティエレンって良いですよね?


あ、どうも榛名です。只今私は、横須賀屋外格技場にて幸せの絶頂にいます!

何故なら

 

「ほらほら、二人共動きが悪いよ」

「くそっ!」

「このオッサン!」

 

五百蔵さんの訓練風景を生で見ているからです。AMIDA 鎮守府のピクシーさんとサイファーさんの二人を同時に相手し、軽く圧倒しています。因みに、リハビリの為に三人共に生身での格技訓練です。

あ、ピクシーさんが蹴りにいきましたね

 

「残念、それは悪手だ」

「嘘!」

 

ピクシーさんが前蹴りを繰り出そうと膝を上げた瞬間に、彼女の膝をその右腕で内側からはたく様に掬い上げました。

 

「はい、ピクシー嬢アウト」

「ちっ!」

 

掬い上げられ体勢を崩したところで左の正拳が突き付けられピクシーさんはリタイアしました。

ピクシーさん、悔しそうですね。

 

「サイファー!このオッサン、叩きのめせ!」

「ハッハッハッ、オッサンは酷くね?いや、その通りだが」

「取らせていただきますよ、五百蔵さん!」

「うんうん、さ、来なさい」

 

 

サイファーさんが腰を落とし構えたのを見ると、五百蔵さんはどこかで嬉しそうに首を鳴らしながら、両腕を腰辺りの高さで広げ待ち構えます。

あの太い腕で抱きしめられたら、どれほどまでの夢心地なのでしょう。

 

「ハッ!」

「お?なるほど」

 

どうやらサイファーさんは、ヒット&アウェイ戦法でいくみたいですね。

しかし、彼女は忘れているようです。自分とのリーチの差を

 

「考えたみたいだけど、その手の戦法は嫌という程見てきてるよ」

「くっ!このロートルが!」

 

自分の射程外から、鉄鎚のごとき拳が風を切る音と共に繰り出され、ヒット&アウェイがアウェイしか出来てません。おや?サイファーさん、これは何か狙ってますね。

 

「隙あり!」

「なるほど、そう来るか!」

 

五百蔵さんが突き出した右ストレートに飛び付き、腕ひしぎを極めました。いえ、極ってませんね、軽々と持ち上げられてます。

やはり、今流行りの見た目だけの筋肉とは違いますね!

 

「ふむ、サイファー嬢。少しばかりタイミングが不味かったね」

「ちっ!」

 

どうやら、五百蔵さんの勝ちみたいです。サイファーさんをピクシーさんの隣に降ろして、評価をくだしてますね。

 

「二人共、筋は良いけど格技訓練あまりやってないでしょ?」

「必要無かったから」

「近付かれないから」

「でも、それで洋さんにやられたよね?」

「「うっ!」」

 

図星の様です。しかし、あれは仕方ないかと。寧ろ、あのお方相手によくぞあそこまで食い下がったものです。私達では、霧島か金剛姉様ぐらいでしたよ。あのお方とまともにやりあえたのは。

私と比叡姉様ですか?あの軍勢の半分までは行けたのですが、そこで大破判定貰いまして終了です。

 

「洋さん言ってたよ?あれで格闘技術が身につけば、見違えるのにって」

「「むぅ・・・」」

 

考えてますね。あ、五百蔵さんが此方に来ます。

 

「榛名さん、コート預かってもらってすまないね」

「あ、いえ、このぐらい構いませんよ」

 

お礼!お礼言われましたよ!FOoooo!

 

「それじゃあ二人共、医務室行って診てもらってきなさい」

「「ういーす」」

 

ピクシーさんとサイファーさんが医務室に向かいますが、何故か五百蔵さんに見えないように生暖かい笑顔とサムズアップを私に向けてきました。

もしかして、バレてます?

 

「なあ、榛名さん」

「なんでしょう?五百蔵さん」

 

まさか、五百蔵さんにまでバレた?!かくなる上は、ここで金剛姉様直伝『バーニング・ラブ』するしか・・・

 

「あれ、何?」

 

どうやらバレては無い様です・・・ 

ともあれ、五百蔵さんの指差す方向を見ると家の空母組が磔刑に処されていました。

 

「どうやら、あのお方をまた怒らせたみたいで・・・」

「ああ・・・ 洋さん怒らせたのか、何やってんだか」

 

簡単な顛末はこうです。

瑞鶴さんが射撃訓練でヘマをしまして、それをあのお方が咎めて、瑞鶴さんが謝れば良かったのですが、何を思ったのか瑞鶴さんがあのお方に反抗しまして、瞬間で磔刑に処されました。

因みに、あのお方はAMIDA 鎮守府の龍驤さんを気に入って、横須賀訓練海域にてタイマン訓練してます。

強く生きてください、龍驤さん・・・

 

「あの人怒らせるとヤバイのに、学習せんのかね?」

「アハハ・・・ ささやかな反抗のつもりだったんでしょうね、その代償は凄まじいモノになりましたが」

「まったくだ」

 

そう言いコートを羽織る五百蔵さんの両腕をチラリと見てみると、その腕と拳には細かな傷が幾つも刻まれていました。

 

「あの、五百蔵さん。その傷は?」

「ん?ああ、これかね、恥ずかしい話、若い頃はちょっとばかりやんちゃしててね、その時の傷だよ」

「そうなのですか?意外ですね」

「そうかね?」

「はい、意外です」

 

秘められた過去?まであるとは、最高です!最高です!

このあと、如月さんのお見舞いに行った吹雪ちゃんを迎えに行くと言うので、一緒に行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如月のお見舞いに行った吹雪を迎えに行く二人を、茂みから観察する影が二つあった。

 

「フムフム、あの人が榛にゃんの想い人かね?ほなみん」

「そうなのだよ、鈴やん」

 

横須賀鎮守府提督『磯谷 穂波』と横須賀鎮守府所属重巡洋艦娘『鈴谷』だ。

この二人、歳が近いせいか仲が良いのである。

 

「見た感じ、悪くはなさそうね」

「多分、あと一押しだと思うけど榛名ちゃんだから」

「榛にゃん、あんまりグイグイ行くタイプじゃないもんねー」

 

二人して仕事をサボっての覗きである。

関係無いことだが、我が国には『因果応報』という言葉がある。簡単に言うと、悪いことすると悪いことあるよ、ということである。

何故こんなこと言い出したかと言うと

 

「ドーモ、テイトク=サン、スズヤ=サン。ケンペイデス」

「「アイエエエエエ!ケンペイ=サン?ケンペイ=サンナンデ?」」

 

こう言うことである。

 

「カイシャクシテヤル、ハイクヲヨメ」

「「アババババ、慈悲は!救いは無いんですか?!」」

「ナイ!イヤー!」

「「グワー!」」

 

テイトク=サンとスズヤ=サンはしめやかに爆発四散!

 

 

 

 

 

「んあ?何か聞こえたような?」

「気のせいですよ、五百蔵さん」

 

提督、鈴谷さん。勝手は榛名が許しません・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ 龍驤さん危機一髪

 

「アカンアカン、こんなん無理や!」

「何を言っているのですか龍驤さん?たった『千機』程度の艦載機、落とさずして空母艦娘は名乗れませんよ」

「そんなんアンタだけやー!」

 

龍驤さん、強く生きて!




ルート正常に進行中


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オッサン、追い詰められる

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第38話です。今回はオッサンが追い詰められ始めます。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


どうも、AMIDA 鎮守府第一艦隊所属如月です。私は今、横須賀鎮守府医療棟にある病室に居ます。

あの模擬戦で得た傷は不思議体験アンビリーバボーして癒えたのですが、治療中に落ちた体力や筋力の回復と若干右腕に違和感があるのでその経過観察の為に入院しています。

 

「如月サマ、次ハ腕ヲ伸バシテクダサイ」

「はい」

 

今は洋さんの部下の方による、腕の動作に問題が無いかの検診中です。

比叡さんはリストラもとい、磯谷提督の監視役に戻りました。

「問題ハ無イヨウデスネ、コレナラ今週中ニハ退院デキマスヨ、AMIDA 鎮守府ニモ連絡シテオキマショウ」

「そうですか、ありがとうございます」

 

正直な話、複雑な気分です。私達の怪我の原因となった人達に看病にされるなんて・・・

まぁ、それは良いです。

問題は洋さんです。

彼女、先程お見舞いに来てたんですが、私の右腕を見て一瞬驚いた後、先に来てた吹雪さんを見て何か納得したような顔をしたんですよね。何ででしょう?

右腕を見て驚いただけなら、まだ納得できます。しかし、吹雪さんを見てあの顔をした理由が解りません。

 

「謎だらけですね、あの人は」

「如何サレマシタ?如月サマ」

「いえ、何でもありませんよ」

「右腕ノ違和感デシタラ、急激ナ治癒ニヨルモノデショウ。スグニ治マリマスヨ」

 

そうですか、と言いながらも頭の中では彼女の正体についての考察が止まりません。

横須賀AMIDA を使って軍部の機密資料を調べても、まったくの無駄足でした。

彼女に関する資料は軍部の機密資料よりも重要視されているらしく、幹部の不正や軍の後暗い情報しか得られませんでした。つまり、彼女の資料は自らの保身に関して必死になる連中が自らの保身を棄ててまで、隠しておきたい情報ということなります。ただ単純にトカゲの尻尾切りの可能性もありますが。

まあ、良いでしょう。得た情報は有効に使わせてもらいます。

 

「んぃ・・・」

 

思考の海に沈みかけていた私は、聞こえてきた寝言によって引っ張り戻されました。

 

「吹雪さん、貴女こんなに甘えたさんでしたっけ?」

 

お見舞いに来た吹雪さんは、横須賀で見つけたお店や五百蔵さんと榛名さんの関係推進の話等をした後、眠くなった様で、椅子に座ってコクリコクリと舟を漕ぎだしたと思ったら、パタリと倒れて私に抱き着いて寝てしまいました。

 

「むぃ・・・」

「やだ、この子意外と力強い」

 

少し体勢が辛そうだったので、抱き寄せようと思い手をほどこうと、吹雪さんの手に手を掛けましたがピクリともしません。もしかして、力に関しては五百蔵さん似?

あの人なら、彼女を軽々と持ち上げるのでしょうが私はそうはいきません。

どうしたものかと、考えていると

 

「如月サマ、林檎ガ剥ケマシタ。如何デショウ?」

「その手がありましたね」

 

部下の方から可愛らしいウサギ林檎を受け取りましたが、このウサギ林檎、肉眼で分かる程に均等に果実の厚さや切り込みの角度、耳の長さ等寸分の狂いも無く切り揃えられています。

あの人の人材の厚さはどうなっているのでしょう?

 

それはさておき、早速、このウサギ林檎を吹雪さんの鼻に近付けてみます。

 

「むぅ?」

「おお、作戦成功です」

 

林檎の香りを嗅ぎ付けたのか、鼻をヒクヒクさせながら顔を上げました。

そのまま、私が居るベッドの上に誘導するように手を動かすと、ゆっくりと起き上がりベッドに這い上がって来ました。ホントに寝てます?後ろで束ねた髪が犬の尻尾みたいにパタパタしてますが気のせいですよね?

 

「よしよし、そのままそのまま」

「うぃ・・・」

 

私の膝の上に来た辺りで、そっと抱き寄せてから林檎を与えると、ショリショリと食べ始めました。

 

「まさか、寝ながら食べるとは・・・」

 

知ってましたが、驚愕の食欲です。寝て、ますよね?

それはいいとして、確りなつかれましたね、離してくれません。

自分で抱き寄せておいて何言ってるんだという話ですが、暖房の調子が悪いらしく、体温の高い吹雪さんは有難いんですよね。

 

「ムフ~・・・」

「フフフ、安らかな寝顔ですね」

 

完全に緩みきった顔です。

 

「如月サマ、オ茶ヲドウゾ」

「あ、どうも」

 

部下の方が紅茶を恭しく差し出してきたので受け取ると、部下の方が吹雪さんを見て安心したような顔をしていました。

 

「あの、どうしました?」

「コレハ失礼ヲイタシマシタ。洋サマヨリ仰セツカッタコトガアリマシテ」

 

仰せつかったこと?いったいなんでしょう。気になります。

 

「実ハ、吹雪サマノ様子見ヲ仰セツカッタノデス」

「吹雪さんの、様子見?」

 

吹雪さんの様子見とは、どういうことでしょう?

 

「何故、吹雪さんの様子見を?」

「洋サマ曰ク、吹雪サマニハ『素質』ガアルト」

「『素質』・・・ですか?」

「ハイ、自分ト同ジモノニ『成リ果テル素質』ガアルト、ソレモ自分以上ノ『素質』ガ吹雪サマニハアルラシイノデス」

 

洋さんと同じに成り果てる?この彼女が、私に抱き着いて静かな寝息をたてる吹雪さんが?

 

「それはいったいどういうことなのでしょう?」

「申シ訳ゴザイマセン。私モ詳シイコトハワカラナイノデス。私ハ彼女ニ変化ガナイコトヲ確認シロトノコトデシタノデ」

「そうですか」

「タダ、吹雪サマガ洋サマト同ジニナル場合、洋サマハソレヲ、ナニガナンデモ阻止スルト仰ッテオイデデシタ」

 

もし、吹雪さんに変化が有ったらどうするつもりなのでしょうか、あまり想像したくありませんね。

部下の方と話をしていると、病室にノックの音が響きました。

 

「どうぞ」

「やあ、如月嬢。右腕の調子はどうだね?」

「お邪魔します」

 

五百蔵さんと榛名さんの長身コンビがやって来ました。

 

「良好です。今週中に退院できる様です」

「それは何より、後、洋さんから伝言」

「なんでしょう?」

「『また遊びましょう』だとさ、気に入られたみたいだね」

「遊びましょう、ですか」

 

あれもあの人には遊びだったのですか・・・

 

「良いでしょう、また『遊んであげます』」

「また、洋さんのテンションが跳ね上がりそうなことを」

「フフ、それが私達ですから」

「若いってのは良いねぇ、っと、吹雪君を預かろうか?」

「いえ、構いませんよ」

「しかし、怪我人に何時までも抱き着かせておくわけにもいかんからね」

「では私が、預かりましょう」

 

そう言い、榛名さんが私に抱き着いていた吹雪さんを優しく抱き上げました。少し寂しいです。

 

「むゅぅ・・・」

「フフフ」

 

くぅ!私の時はあれほどまでに緩んで無かったのに!あれですか?装甲の差ですか?

 

「如月嬢?」

「いえいえ、何でもありませんよ!」

 

危ない危ない・・・ おや?なんだか外が賑やかですね、何でしょうか?

 

「ヘーイ、冬悟!久しぶりネ!」

「お久し振りです、五百蔵司令」

 

病室に勢いよく入って来たのは、二人の戦艦艦娘『金剛』と『霧島』でした。

けど、おかしいですね。金剛型は比叡さんや榛名さんの様に巫女の様な服装のはずなのですが、この二人は頭の上から足の先まで真っ黒なスーツ姿です。

金剛さんに至っては、黒いコートに帽子、首には純白のストールがかかってます。これで葉巻でもくわえようものなら完全にゴッドファーザーですよ。

 

「久しぶりですね、金剛嬢、霧島君」

「Oh !冬悟。私のことは義姉と呼びなさい、と言ったじゃないですカー!」

「いや、それは・・・」

「私のことは義妹とお呼びください」

「霧島君?!」

 

おおぅ、畳み掛けられてますよ。その調子です!どんどん行きましょう!

 

「ヘイ、冬悟。未来の義弟ヨ、そんな遠慮しないデ義姉と呼びなさーイ!」

「そうです、私も義妹と呼んでください!」

「待って二人供、その話は外でしよう!」

 

五百蔵さんが皆を連れ病室から引き上げて行きます。ヘタレめ

榛名さんが若干オーバーヒートしてましたが良しとしましょう。

 

「如月サマ、私ハAMIDA 鎮守府ニ連絡ヲシテキマス」

「ええ、お願いします」

「ソレデハ失礼シマス」

 

部下の方が礼をし、部屋から出ました。

一人になり窓を見てみると、雲一つ無い青空が広がってました。明日は外に出てみましょうか、夕石屋の二人が創るAMIDA を見てみたいですし




ルート進行規定ポイントに到達
ルート「終わりの始まり」を始動
イレギュラー「不死の鳳」によるルート干渉を確認
ルート調整
ルート調整完了
ルート進行に問題無し


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幕間話

どうも、逆脚屋です。今回はネタ回です。
あと、今更ですがこの世界のイェーガーはパワードスーツ仕様になっています。

追記
活動報告に、この作品に対する作者の悩み「ふむ、どうしよう」を投稿してますので、良かったらどうぞ


「平和なのです」

「平和だね」

 

横須賀鎮守府超大型ドック「夕石屋」の出入口にある休憩所に設置されたベンチに座り呟くのはAMIDA 鎮守府所属の電とシュトリゴンの二人である。

 

「平和だね」

「平和なのです」

 

 

「あかーん!」

「ほら、どうしたのです?たかが急降下爆撃機五千機程度捌いてみせなさい」

「ドイツの魔王クラスが五千機とか無理に決まっとるやろー!」

「何を言っているのです?初代龍驤さんはこの三倍以上の数の敵を撃墜しましたよ。ならば、貴女にも出来る筈です」

「無理やー!!」

 

 

「平和なのです」

「平和だね」

 

空を埋め尽くす爆撃機からの攻撃を避けながら喚く龍驤と佇み微笑む鳳 洋を見ながら、瞬間で龍驤を見捨てる覚悟を決めた二人であった。

 

「そう言えば、なんで龍驤さんはあんなに気に入られたのです?」

「ん~?確か、空母組が鳳さんに反乱すると同時に鎮圧されてまた磔刑に処された時に巻き込まれて、一人だけ反撃してあの人に一撃当てたからだと思うよ」

「流石は龍驤さんなのです。しかし、横須賀空母組は懲りないのです」

 

横須賀空母組が反乱を起こし鎮圧され磔刑に処されるのは、これで電達が知る限り二回目である。

因みに、一回目は攻撃出来たのに二回目はそこに至る以前に鎮圧(○○)され、そのあまりの情けなさが鳳 洋の怒りに触れ以前より厳しく磔刑に処された。

 

「それにしても、鳳さんは何者なのでしょう?」

「元艦娘で大戦時の英雄、としか分からなかったんじゃなかったっけ?」

「それしか分からないというのも、考えものなのです」

 

電とシュトリゴンも如月同様に、横須賀AMIDA を秘密裏に飼い慣らし彼女に関する情報を探っていたが結果は空振り、当たり障りの無い情報ばかりが見つかったのだが、何体かのAMIDA は核心に迫る情報を見付けたらしく急いで報告に戻ったが、蒼白い軍勢により皆殺しにされたと、他のAMIDA の報告にあった。それも自分達が戦った軍勢とは比べ物にならない様な連中だったようだ。

 

「好奇心猫を殺す、と言いますし諦めるのです」

「そうだね、これ以上犠牲が出るのは避けたいしね」

 

二人が揃って溜め息を吐き出したと同時に、「夕石屋」から声がかけられた。

 

「おーい嬢ちゃん達、暇なら見学でもするか?」

「榊原班長なのです」

「榊原班長、ちーす」

「おう」

 

二人に声をかけたのは灰色のツナギを着込みサングラスをかけた男『榊原 孝太郎』横須賀鎮守府ドック「夕石屋」装備船舶整備班班長である。

 

「見学していいなら、是非したいのです」

「うんうん」

「それなら、ついてきな」

 

二人に手招きをし、案内を始める榊原とそれについていく二人であった。

ここで幾つか確認がある。ここ横須賀鎮守府の提督は誰か、ここ「夕石屋」の責任者は誰か、ここ横須賀鎮守府に住まうのは誰か、答えは順番にアホと変態と一部の人々のアイドルである。

そんな鎮守府のドックがまともである訳もなく、二人はいきなり変な装備を発見する。

 

「あの、榊原班長?」

「ん、どうした?」

「あれ、何なのです?」

 

そこにあるのは、恐らく金剛型戦艦娘の比叡か霧島の装備だった。

ならば、何故恐らくかと言うと

 

(電、あれって、オトキャだよね)

(序でに、ヒトキャもあるのです)

 

クロスしたアームの上部二本にガチタンの頼れる味方オートキャノン、下部の二本にはこれまた味方のヒートキャノンが砲の代わりに搭載されており、その装備が格納されているハンガーにはオートキャノンがもう二つ追加で格納されていた。

 

「ああ、あれか。比叡の嬢ちゃんの装備だな」

「比叡さんの・・・ですか?」

「ウソだぁ」

 

何がどうしてそうなった?二人が知る限り横須賀鎮守府における常識人の装備がまさかのガチタン仕様とか、なんの冗談だと叫びたい二人である。

 

「マジだよ、それにここの金剛型姉妹は有名だぞ」

「え?」

「『豪運の金剛』って聞いたことないか?」

「『豪運』ですか」

 

榊原曰く、どこぞの駆逐艦も真っ青な運の強さらしく直撃した筈の砲弾が突如反対方向へ飛んでいった。魚雷が敵に向かって戻っていった。金剛を狙ったら砲弾が不発、もしくはまともに飛ばなくなる。ならば、ゼロ距離でと敵戦艦がゼロ距離で砲撃しようとすれば砲頭が爆発し敵戦艦は轟沈、しかし金剛は無傷の上、その時舞った火で葉巻を吹かしていたり、艦載機に狙われれば艦載機が謎のエンジントラブルやら搭載した爆弾が爆発したり機銃が暴発したりして次々に撃墜されていくらしい。おまけに空母も気づけば沈んで、その沈んだ空母の巻き添えで潜水艦も沈んでいるとか、訳がわからん運の強さを持っており、だからこその『豪運』の異名だそうだ。

 

「霧島の嬢ちゃんも『紅霧島』とか呼ばれてるしな、妙な名がついてないのは比叡と榛名の嬢ちゃんぐらいか」

「『紅霧島』ですか」

「言っとくが、酒じゃねぇぞ。帰投してきたら、いつも敵の返り血で全身真っ赤に染まっているからだ」

 

砲撃戦より近接戦、比叡と共に敵陣に突っ込み戦艦だろうが鬼級姫級だろうが、問答無用で殴り倒し首を引っこ抜いている。後、潜水艦狩も好きらしく嬉々として水中から潜水艦を引きずり出しバラバラにして辺りに撒き散らしている。そのためついた異名が『紅霧島』

彼女が通った後には紅い航跡と無惨な破片しか残らない。

 

「訳が分からないのです」

「何その二人、戦いたくない」

「だよな」

 

因みに、戦艦が潜水艦に手出し出来ないとか人の姿なのになんで?という疑問のもと、試してみたら出来たので良しとしているらしい。

 

「えと、あの青いのは?」

「その霧島の新装備の『ロミオ・ブルー』だ」

 

そこにあったのは青い鉄の巨人だった。長い腕、太い手指、胸から屹立する衝角を備えた巨人が立っていた。

 

「あれ、これって?」

「どうしたのです?シュトリゴンさん」

「気付いたか嬢ちゃん、これは五百蔵さんと家の司令が使っているのと同じイェーガーだよ」

「イェーガーですか」

「そうだ、イェーガーだ」

「なんというか、趣味の世界なのです」

「そうだろうそうだろう、俺もこの歳でこんな機械弄れるのが嬉しくてなぁ」

「「マ、マッドエンジニア(なのです)」」

 

手刷りに手をつき顔を伏せ、身を震わせながら笑う榊原に二人は引いた。大いに引いた。

この後、横須賀AMIDAの繁殖場を夕石屋の二人に案内される電とシュトリゴンであった。




金剛と霧島がおかしくなった


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オッサン、試験して準備する

どうも、逆脚屋です。久々の「バケツ頭のオッサン提督の日常」第41話です。今回は新生ロミオ・ブルーの御披露目とオッサンがある準備をします。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


どうも、五百蔵冬悟です。只今私は、横須賀鎮守府にある特別ドックにいます。

 

「どうだい、霧島君、違和感は無いかね?」

「はい、義兄さん。特にこれと言って問題は無いですね」

「それはよかった。・・・義兄さんって呼ぶのやめない?」

「やめません」

 

ちくせう、なんでや・・・

 

「ん?訂正です。手の動きに違和感が・・・」

「あ~、手の形状で指の可動域が広くないからね。手で掴むというより、手首を使って巻き込むように掴むって感じかねぇ?」

 

ロミオ・ブルーは手の形状が特殊だから、殴るより掴んで投げたり引きちぎったりするのに適している。

その手も指の可動域が広くないから、手首ごと巻き込んで強靭な手指に引っ掻ける様に掴む。

その先は、さっき言ったように投げたり引きちぎったり振り回したりだ。

うん、霧島君にピッタリな機体だね。

 

「それじゃあ、霧島君。少し歩いてくれるかな?」

「はい」

 

霧島君が装着したロミオ・ブルーが彼女の動きに合わせ、ゆっくりとハンガーから歩み出す。

そして、手足の動きを確める様に軽く腕を振ったり踏み込んだりしていた。

 

「どうだね霧島君?ロミオ・ブルーは」

「悪くないですね。少し重いのが難点ですが」

「そうだねぇ、俺のチェルノ・アルファより重いからなぁ」

 

確か、チェルノの三倍近い重量だった筈だ。明らかにチェルノの方が重そうなのに、実際は、ロミオ・ブルーの方が重いのだ。何でなんだろうね?

 

「そう言えば、榛名とはどうなんです?義兄さん」

 

来たよ、この話。避けてたんだがなぁ、逃げれんか。分かってるんだが、どうにも踏ん切りがつかんのよ。

 

「あ~いやね、それはね?」

「yesにしろ、はいにしろ早く答えてあげてください」

「ああ、そうだね」

 

早く答えてあげないとね。最悪、気付いてないならまだしも、気付いていながらこの状態を続けるのは只の外道だ。てか、選択肢無くね?いや、選択肢なんぞ関係ないか。榛名さんに答えるということは変わらんのだから。

しかし、どうやって答えるか。それが問題だ。

なんだろ?戦場とか星空の下とか聞こえた気がする。気のせいだよね?

ま、気を取り直して試験の続きだ。

 

「それじゃあ霧島君。戦闘機動をしてくれるかな」

「了解しました」

「明石と夕張も準備は良いね?」

「「任せてください!」」

 

明石と夕張が一糸乱れぬ動きで、目の前のコンソールを操作し、ハンガー前のシャッターがゆっくりと上がっていく。

さあ、新生ロミオ・ブルー初御披露目だ。

 

「では、行きます!」

 

号令と共に機関音を高らかに鳴らし、ハンガーから演習用海域に青き鉄人が水飛沫をあげ、一気に駆け出す。その姿はまるで、一本の巨大な鎗のようにも見える。

 

「よし、霧島君。そこで反転してくれ」

「了解!」

 

急速な制動をかけ、機体を振り回す霧島君。彼女が反転したのを確認し、すかさずコンソールで機体状況を見ている二人に声をかける。

 

「二人共、機体はどうだ?」

「「良好です。ですが、腰や脚回りに掛かる負荷が予想より大きいですね」」

「どれどれ、確かに負荷がでかいな。後で要調整だな」

 

霧島君の動きに機体が追い付いてないかな、これは。

しかし、イェーガーの運動性能が追い付けないとか霧島君、流石は横須賀の武力の象徴なだけはあるね。

 

「次は、的が出るから適当に潰してね」

「待ってました!」

 

わぁい!戦闘の許可出した途端に、生き生きし出したぞ!

待たせるのもアレだし、早速行ってみようか。

 

「そんじゃ、行くよー」

「了解です!」

 

まず一個目の的は、鎗のごとく突き出された青く長い右腕に貫かれた。

続く二個目三個目は、二個目は空中から三個目は海中からほぼ同時に出したが、いとも簡単に引き千切られたり投げられたりとあっさりクリアされた。

次は三個連続で出したが、なんだろうねあの子は?背中に目がついてるのかね。

 

「「やっぱり、機体が追い付いてないですね」」

「マジかい、あれでも調整したんだが」

「「あのままだと、霧島副長の動きにロミオ・ブルーが耐えきれませんよ」」

「だとするならまずは、各部の強化と反応速度の上昇かな」

「「ですね、後は出力も調整しないといけません」」

「そうだねぇ。うわぁい、やることが山積みだ」

 

まずは、装甲外して各部関節の調整と強化をして、霧島君の動きに反応できる様に反応速度も上げないと。

あれ、俺は横須賀に休暇に来てたよな?なんで仕事してるの、おかしくね?

 

「「霧島副長、次大型標的出ます!」」

「来なさい!」

 

射出された大型標的はイェーガーとほぼ同サイズであり、ある程度の自立行動が出来るよくできた球体関節人形だ。

如月嬢の分身?でいいのかな。Liv 嬢からヒントを得て夕石屋の二人が作り上げた物だ。

性能に関しては、この二人が手抜きをする訳もなく、あの洋さんから訓練用の人形としては上出来という評価を受けた代物である。

装備は、既存の艦娘の装備やイェーガーの余剰パーツを必要に応じて取り付ける仕様になっている。

今回は磯谷嬢のストライカー・エウレカの装甲と腕部のブレードを装備している。流石にエア・ミサイルを積むのは止めた。本気で止めた。霧島君が凄い不満そうな顔してたけど・・・

 

「なるほど」

 

大型標的が繰り出すブレードの連撃を、その長い腕で捌きながら確実に相手にダメージを与えている。

動きを見る限りは問題は無さそうだね。だが、油断は禁物だ。

 

「ふむ、どうだね?」

「「やはり、追い付けてないですね。副長の動きを阻害してます」」

「あれで阻害されてるなら、本来はどれ程のモノなんだい」

 

まったく、俺から見てもかなりのモノだというのに、あれで本来の動きではないならば、とんでもない事だ。

いや、そうでもないか。あの洋さんと模擬戦を行って、『二度』にわたり洋さんを『殺している』のだから、そう考えれば納得がいく。俺?俺は相討ちが限界だったよ。あの軍勢、マジチート。

お?そろそろ終わりかな。

 

大型標的の両腕を肩口からもぎ取って、相手の頭に叩き付けた後、立て直そうとした標的を両手でガッシリとホールドし、力任せに引寄せ頭突きの要領で胸部の衝角を突き刺す。

普通ならこのラムアタックで終わりだけど、ロミオ・ブルーは違う。

あの衝角には仕込みがあるんだよ。

 

「全門斉射ぁっ!」

 

衝角が突き刺さった標的の首が、一瞬だけ膨らみ破裂する。その後からは、大量の鉛弾が吐き出される。

この通り、ロミオ・ブルーの衝角にはガトリング、しかも大口径の奴が仕込まれている。

あの長い腕で相手を掴み引寄せてから、衝角を突き刺し仕込まれているガトリングで内部から破壊する。これがロミオ・ブルーの戦い方だ。ホント、霧島君向きの機体だよ。

 

「以上で終わりですか?義兄さん」

「ああ、終了だ。お疲れさん」

「「霧島副長、お疲れ様です。ハンガーにお戻りください」」

 

さあ、これから霧島君の意見を交えながらの機体の調整だ。腕の伸縮機構も再現せにゃならんし、『アレ』も買いに行かないと、忙しくなりそうだよ。

 

ところで、皆さん。休暇ってなんでしたっけ?仕事の別名だったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、皆さんお久しぶりです。北海鎮守府秘書艦の吹雪です。

横須賀の街で、鈴谷さん達と食べ歩きをしていたら提督を見掛けたので、後をつけたんですよ。そしたらですね、あの人、宝石や貴金属や時計を扱うお店に入って行ったんですよ!ビックリです!

しかもですよ。鈴谷さん曰く、提督が入っていったお店は超がつく程の高級店らしく、間違っても家の提督が行くお店ではありません。第一に時計を買うにしても、提督の趣味はああいったきらびやかなモノではなく、実用性重視の武骨なモノを好みます。因みに、私もG-shockとかが好きです。

 

なんか小さな箱が二つ入った紙袋を持って出てきましたが、あの人、いったい何を買ったんでしょうか?




さあさあ、オッサンは何を買ったのか?次回明らかになりそうだよ!


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オッサン、答えを出す

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第42話です。
今回は、伏線回収!榛名編です!強引に回収します!

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


横須賀鎮守府第二執務室、普段は資料室として扱われている部屋であるが、最近は違う。埃が積もった資料は脇に退かされ、真新しい書籍や資料が山脈の如く山積みにされていた。

その山脈を構成する山積みの資料や書籍に劣らぬ巨体の持ち主が執務机に向かい、資料片手に只ひたすらにペンを走らせていた。

 

「終わらん、何故だ。いかん、このままでは間に合わなくなる」

 

時刻は午後四時を回っており、『彼女』と約束した時間まであと三時間である。だが、身仕度を整え準備をしていたらギリギリの時間だ。

吹雪君も頑張ってくれてはいるが、資料が膨大で手が回りきってない。

 

「提督、私のことは良いので早く行ってください!」

「そこまで必死にならなくても、良いじゃないかな?」

「何言ってんですか!いいから早く!GO!!」

「イエスマム!」

 

凄い剣幕で言われたよ。確かに、時間に遅れるのはイカンが、吹雪君があんなに必死になることかな?俺の問題なのに。

如月嬢達とコソコソしてたのを何回か見たことがあるが、なんかあるのかね。

おっと、イカン。早く準備をせねば、マジで時間が無い。

 

 

 

 

 

 

 

計画第一段階成功です!早速、司令部に報告しましょう。

 

『HQ HQ 、こちらマロース。目標は行動を開始した。繰り返す、目標は行動を開始した』

『こちらHQ 、こちらでも確認した。マロースは引き続き任務を続行せよ』

 

了解、の言葉を無線を切り追跡を行う為にヘッドホンを装着、おまけにパーカーの迷彩機能をスイッチon。

フフン、これで完璧な追跡者の完成です。さあ、レッツゴーです!

 

「HEY!吹雪。そこで何してるネ?」

「え、金剛さん?」

 

そんな!私の追跡は完璧な筈なのに、どうして?というか、この人何処から現れて?あれ、迷彩機能のスイッチが入ってない。

いえ、今はそんなことより提督の追跡が重要です。なんとかして、誤魔化さないと!

 

「あ~、その、ですね?」

「吹雪、良い茶菓子がありまス。ティータイムにしましょウ」

 

ティータイム!素晴らしい響きです!ホアァッ!いけません、私には任務が・・・

 

「榛名特製ケーキもありますネ」

「行きます!」

 

榛名さん特製ケーキです!イヤッフー!今が駆け抜ける時ですよーう!いざ、金剛さんのお部屋デース!

 

『マロース?おーい!マロース!マッロースッ!』

「HQ HQ 、こちらハードラック」

『!!』

「私の大事な義弟と妹が、これから己の答えを出すのでス。余計な手出しは無用でスネ」

『もし、手出しするなら?』

「悪戯の過ぎた悪い子はオシオキされるのが、世の定めでスヨ。如月?」

『ッ!総員、撤退!繰り返す総員、撤退!』

「グッドラーック、ガールズ」

 

金剛はそう言い残すと、無線機を近くのゴミ箱に放り投げ、僅かに息を吐いた。

 

「フ、良いものデスネ。家族が増えるのハ」

 

嘯き、コートの内ポケットから葉巻を取り出し火を灯し、壁に背を付け煙がたゆたうのを暫くの間、目を細めながら眺め、紫煙を口の中で転がし吐き出し廊下を流れる風に引かれながら、ゆっくりと消えていく紫煙を見送り微笑む。

 

「さ、楽しい楽しいティータイムの時間でス」

 

コートを翻し、自室へと戻る。早く戻らねば可愛い可愛い姪が待ちくたびれてしまう。どんな茶を淹れようか、ダージリン?アッサム?それともアールグレイ?いっそのこと、オリジナルブレンドにしようか。

いや、ここはミルクティーでいこう。少しだけ濃いめに淹れた紅茶にたっぷりのミルクと砂糖を入れた、蕩ける様に甘い甘いミルクティー。吹雪の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。

 

「フムン、折角ですシ如月達も呼びましょうカ」

 

楽しい時間は人数が多い方が良い。しかも今日は、最高に良い事が起こるのだ。否、起こすのだ己の『豪運』が。

 

「さて、冬悟、榛名。貴方達の答えを、私は楽しみにしてまスヨ」

 

『豪運』は笑う。愛する家族の幸せを確信して静かに紫煙を燻らせ笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

ど、どうも榛名です。いい、今私は横須賀鎮守府の入り口に居ます。

じ、実はですねね、いいいい五百蔵さんにですね!なななんと!お食事にさ、誘われれれれましてですよ!

ここに居るわけですますよ!

 

「大丈夫でしょうか?変じゃないですかね」

 

誰が居るわけでもないのに、確認してしまいます。だって、今着ているのはドレスなんですよ!ドレス!こんなの初めて着ましたよ!

金剛お姉様と比叡お姉様二人によるコーディネートですが、ちょーっと露出が多すぎやしませんか?背中とか胸元バックリ空いちゃってますよ!

 

「申し訳無い榛名さん。待たせてしまったようだ」

 

その謝罪の言葉と共に、五百蔵さんが来ました!急ぎ振り向き、そちらを見ると・・・

 

「榛名さん、どうかしたのかね?」

 

スーツ姿の五百蔵さん!アリです!大いにアリです!大アリです!ホアァー!

 

「なんでもないですよ?」

「そうなのかね?」

 

そうなんです!そうなんですよ!

 

「では、行こうかね榛名さん」

「は、はい」

 

五百蔵さんが腕を差し出して来ました。これはまさか!掴まれということなんですね。月が照らす下、殿方と腕を組んで歩くなんて、夢のシチュエーションですよ!

ホアァーッ!ホアァーッ!!腕!腕組んでますよ私ぃ!Fooooo !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨォーシヨォーシ、落ち着け俺。素数とか色々数えるんだ。右ヨーシ左ヨーシ俺にヨーシお前にヨーシ、何言ってんだ俺?

いやね、エスコートしようと腕を差し出した訳なんですよ。榛名さんのことだからそっと来るもんだと思ってたら、割と勢い良く掴まってきてビックリしたよ。

しかも、ドレスが露出がかなり際どい奴で、正直な話、目のやり場に困る。

これ絶対、金剛嬢と比叡さんの差し金だ。オノレェ・・・

 

「しかし榛名さん、すまないね。急に食事に誘ってしまって」

「い、いえ、全然問題無いですよ!」

「そうなのかね?」

「そうなんですよ」

「・・・」

「・・・」

 

話が、続かない!誰か助けてください、俺に、俺にトークスキルをください!四葉さん!君の軽快なトークスキルを俺に授けて!

あああぁ、そうこうしてる内に店が見えてきちゃったよ。

 

「五百蔵さん、彼処ですか?」

「ああ、此処だ」

 

着いちゃったねぇ、金剛嬢オススメの店にさ。

覚悟は決めた。後は、それを行うだけだ。さあ、行こうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛お姉様。想い人と食事が出来て榛名は今、最高に幸せです!幸せなんですが、肝心のお料理がちょっと・・・

 

(あの、五百蔵さん。これ)

(おかしいね、金剛嬢のオススメの筈なんだが)

 

なんと言いますかそのぅ、味が濃いと言いますか、味付けが大胆と言いますか、えぇと、はっきりと言いましょう。

 

((マズイ))

 

美味しくないんですよね。サラダとかパンは美味しいのに、メインのビーフシチューが美味しくないんですよね。味が濃すぎますし、脂が浮いてますし、お肉はホロリと崩れずにグニュリと切れる。なんですかこれ?

 

(あのお姉様がこの様なお店を薦めるとは思えません)

(確かに、あの金剛嬢が薦める訳が無いな)

 

金剛お姉様は高級嗜好で、衣服や小物茶器、茶葉や茶菓子、葉巻に至るまで全てが最高級品という拘りを持ちます。そのお姉様がこの様なお店を薦めるとはとても思えません。

 

(取敢えず、これは下げてもらってデザートか飲み物を頼もうか)

(そうですね、これ以上はちょっと・・・)

 

厳しいですね。正直な話、ビーフシチューではなくビーフシチュー味の脂を食べている気分です。

五百蔵さんも同じのようで、顔をしかめています。結構辛そうです。

 

この後、私はレモンティーを五百蔵さんは珈琲を頼み、ゆっくりと飲みながら色々な事を話しました。

最近、北海鎮守府の隣に深海棲艦との友好の為に大使館が建てられた事や、吹雪ちゃんの食欲暴走事件の事、色々なお話をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、食事も済んだ。目的はここからだ、榛名さんとの関係にケリを付けよう。

 

「あ~、榛名さん?」

「な、なんでしょう?」

 

気付かれてるかな?まあ、どちらにしても突っ切るだけだ。

 

「俺は、決めたよ」

「何をでしょう?」

「君に言わなければいけない言葉をさ」

 

さあ、五百蔵冬悟よ。一世一代の大勝負。丁度良く、月も出ているんだ、決めろよ。

 

「月が綺麗ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『月が綺麗ですね』この言葉を聞き理解した瞬間、私は己の心臓が飛び跳ねるのを感じました。

だって、いきなりですよ。いえ、薄々感じてはいました、何かあるんじゃないかって。

金剛お姉様や比叡お姉様が、如月さん達が、提督が、吹雪ちゃんが何かコソコソしているのは知ってましたし、今日のドレスだって二人のコーディネートです。

 

「私は、榛名は・・・」

「ああ、榛名さん。これを受け取って貰えないかな?」

 

五百蔵さんがコートのポケットから、小さな箱を取り出し開けると、そこには大小の銀の輪が二つ並んでいました。

 

「榛名さん、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」

 

ああ、私は幸せです。

恋に恋した小娘に、ここまで真剣に考えてくれる貴方が好きです。

 

「冬悟さん、良かったらその指輪。着けてもらえませんか?」

「ああ、では失礼」

 

私は貴方に逢えて良かった。

貴方の手が私の手に触れ、薬指に指輪を通す。只、それだけで私の胸は張り裂けそうです。

一目惚れという軽いとも言える想い、これを捨てなくて良かった。

喩え、安い女と呼ばれても構いません。私は貴方の傍に居たい。

 

「どうかね、キツくはないかな?」

「大丈夫です」

 

貴方は私の想いに答えてくれました。次は私が貴方の言葉に答えます。

 

「五百蔵さん、いえ、冬悟さん。私は死んでも良いです。私は貴方の傍で最期を迎えたい」

「俺もだ、榛名。俺も君の傍で朽ち果てよう」

 

「「死が二人を別つまで共に居よう」」

 

この後、月に照らされながら二人並んで鎮守府への海沿いの帰り道を歩みました。

鎮守府に着いても誰も居なかったのは皆、気を使ってくれたのでしょうね。




これで一応、榛名は片付いた、次は吹雪だ!

今回出てきた店は、後日潰れました。どうやら『運』に見放された様です。


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オッサン、真相を知る 1

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第43話です。今回からは、吹雪の過去についてのお話です。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!


作者が息抜きに投稿し始めた「ボーキサイトカムイ」も宜しくお願いします。


少女は海を見ていた。冷たく暗い冬の海を、部屋の窓からただただ見ていた。

そして、思い出す。己が殺した親友の事を、己が殺した親友の最期の顔を声を。

それは何度も何度も繰り返し繰り返し、まるで壊れたテープレコーダーの様に、少女の頭の中で響き続ける。

 

『ごめんね・・・吹雪ちゃん・・・私のせいで・・・』

 

謝らねばならないのは自分の方なのに、何故貴女が謝るの?

お願い、もうやめて。虚空に赦しを乞うが、返事が返ってくることはない。

直に少女は声に堪えきれなくなり、布団に潜り込み耳を塞ぎ朝が来るのを待つ。朝が来れば皆に会える。己の父とも言える人が居る。母の様な人に会える。

そうすれば、この声は聞こえなくなるから。

そう信じて少女、吹雪は布団を頭まで被り目を閉じ耳を塞ぎ、朝を待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

北海鎮守府提督 五百蔵冬悟は待っていた。眉間に皺を寄せ、身体中の筋肉を強張らせ『呉鎮守府』からの情報を、横須賀鎮守府執務室で待ち続けていた。

 

「磯谷嬢、まだなのか?」

「五百蔵さん、落ち着いてください。焦っても解決しません」

 

横須賀鎮守府提督 磯谷穂波 が彼を宥めるが、あまり効果は無いようだ。

 

「分かっている!だが、こうしている間にも吹雪君は・・・!」

 

目の前の巨漢が声を荒げ、己の無力にその巨拳を握り締める。それを磯谷は見ていることしか出来ない。

彼にとって娘とも言える艦娘、吹雪は限界が近付いている。彼女の過去、軍内部でも秘匿事項とされている事件。これによるトラウマが彼女を苛んでいた。

日に日に吹雪は弱っている。横須賀に来た当初はそんな様子は微塵も無かったが、寒さが強くなるにつれてトラウマが甦り、吹雪から活力を奪っている。

 

「だからこそ、焦ってはいけません。この手の問題は非常に厄介で、デリケートなんですから」

 

五百蔵は深く息を吸い、全身に込めた力をゆっくりと息と共に吐き出した。

 

「すまん、磯谷嬢。手間をかける」

「構いません。吹雪ちゃんが心配なのは、皆同じですから」

「すまん」

 

五百蔵の謝罪を聞き、磯谷はそっと息を吐き、窓から外を見た。天気は生憎の曇天、その厚い雲の下では冬の暗い海が静かに不気味に揺れていた。それはまるで、これから起こることを暗示する様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

月が沈み、日が昇った、だがそれでも、彼女の声が聞こえてくる。やはり、私は赦されないのでしょう。彼女を殺した癖に、のうのうと生きているのです。赦される訳が無い、分かっているのに、分かっている筈なのに、それでも赦されたいと思うのは、自分勝手なのでしょうか。

 

あの人は、どんなものにも終わりは来ると言っていました。なら、この悪夢にもいつか終わりは来るのでしょう。何となくですが、もうすぐ終わる。そんな気がするのです。

なら、その時まで、この声を聞き続けましょう。

それが私に出来る唯一の事なのでしょう。だから、その時までは、出来る限り普段通りでいましょう。皆に、これ以上心配は掛けたくありませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金剛さん」

「どうしたネ、如月?」

「吹雪さんの問題は、貴女の『豪運』でなんとかならないのですか?」

 

如月からの問い掛けに金剛は一瞬、眉をひそめる。しかし、それも一瞬のこと、すぐにその問いに答えた。

 

「如月?私の『豪運』は、これから起こる物事には干渉出来まス。しかし、起こってしまったことには無力なのでス」

「そう、ですか」

 

己の『豪運』は未来に起こる物事を自分にとっての益にするものであり、過去に起きた物事には無力なのだ。否、過去に干渉するなど、それこそ神にも不可能だろう。

如月も分かっている。それでも、聞かずにいられなかったのだろう。顔を見れば分かる、あの冷静な如月が唇を噛み締めているのだ。

それを見て金剛は、悔しさの中に嬉しさを感じていた。部外者であるにも関わらず、自分の家族の為に心を砕いてくれる如月達には感謝してもしたりない。

 

「如月、心配は要りませン」

「しかし」

「私達や貴女達、それに冬悟と榛名がいまス。だから、何も心配は要りませン」

 

その言葉に如月は、何処か納得がいかない顔をしていたが、まあいいだろう。

吹雪は何の心配も要らない、自分にはそう確信出来る。

ここ、横須賀鎮守府には自分が居て、信頼する提督と家族が居る。もし、呉から来る連中が吹雪を害するなら、その時は、呉鎮守府とその街の住人全員の命を持って購わせるつもりだ。

そして、もしそうなら知ることになるだろう。自分の義弟である五百蔵冬悟の逆鱗に触れることが、何を意味するのかを。

 

 

 

 

 

 

「ヤッホー、はるにゃん。ふぶっちの様子はどう?」

「鈴谷さん」

 

自室で吹雪ちゃんと過ごしていたら、鈴谷さんがやって来ました。しかも、ふぶっち呼びで。そう言えば、食べ歩きとかで仲良くなったと言ってましたね。

 

「先程までオヤツを食べてましたが、今は寝てますよ」

「そっか~、ふぶっち~鈴谷だよ~」

 

鈴谷さんが私の膝の上で寝ている吹雪ちゃんを抱っこしながら、挨拶代わりに満面の笑みで頬擦りし始めました。

 

「ん~、ふぶっちのほっぺは良いね~。プニプニスベスベで最高だよ」

「むー・・・」

「ありゃ、御機嫌ナナメになっちゃったかな?はるにゃん、パス」

 

頬擦りされて少しだけ、ぐずりだした吹雪ちゃんを私の膝に戻すと、満足そうに私に抱き着いて来ました。

それを見た鈴谷さんは、とても嬉しそうです。

 

「はるにゃんも、すっかりお母さんだね」

「そ、そうですか!」

 

お母さん!なんと素敵な響きなのでしょう!

 

「ほらほらお母さん、静かにしないと」

「そうですね」

 

いけませんね、私の声で吹雪ちゃんがまたぐずりだしました。大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。

 

「いや・・・行か・・ないで・・・」

「大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。私は、私達は貴女の傍に居ます」

 

だから、大丈夫ですよ。少しでも彼女を安心させる為に抱き締め語りかけます。大丈夫です、誰も貴女を置いて行きません。

 

「大丈夫だよ、ふぶっち。私達はふぶっちと一緒だよ」

「う、あ・・」

「落ち着いた、様ですね」

「みたいだね」

 

今は落ち着いていますが、これからどうなるかは分かりません。はっきり言って、予断を許さない状態です。

今日、呉から事件の事を知る方々が来るそうですが、不安です。

 

「安心してね、ふぶっち。ぜーったいに鈴谷達が助けるからね」

 

鈴谷さんが吹雪ちゃんの頭を撫でながら、優しく言い聞かせています。そうですね、この子は私達が必ず助けます。

 

「それじゃぁ、はるにゃん。私は行くね、そろそろ呉からお客さんが来る頃だから」

「そうですか、鈴谷さん」

「ん、な~に~?」

「お気をつけて」

 

任せてよ、と手を振り部屋から出ていく鈴谷さんを見送ってから、吹雪ちゃんに目をやると先程とは違い安心した表情に戻っていました。

 

「大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。私と冬悟さんや皆が、必ず貴女を助けますから」

 

私の大事な娘は、誰にも傷付けさせはしません。

 

 

 

 

 

 

 

「おう、鈴谷。どうだった?」

「やぁ、まややん。ふぶっちとはるにゃんなら大丈夫だよ」

 

はるにゃんの部屋から出たら、摩耶が待っていた。

 

「なら、良いんだ」

「まややんも会いに行ったら?」

 

摩耶はカワイイ物好きだから、ふぶっちがお気に入りだ。今だって、私が部屋から出るのを待っていたに違いない。

 

「そうしたいんだが、もう時間なんだよ」

「へぇ~、予定より早いじゃん」

「陽炎達から連絡があった」

 

予定時間より、早く到着するのはポイントたかいね。だからといって、手を緩めるつもりは無いけどね。

 

「それじゃぁ、まややん。配置に付こう」

「了解だ、隊長殿」

 

フフン、呉だかなんだか知らないけど、私達のファミリーに手を出すなら容赦はしない。

 

「ふぶっちを虐める奴等は、お姉さん達が皆殺しにしてあげる」

 

金剛総長が家族と言ったからには、私達の身内だ。私達は家族を傷付けるものを絶対に許さない。目には目を歯には歯を、死には死を。その結果、呉が地図から消えても良い、家族に手を出して街一つで済むのだ。

そう考えると鈴谷はなんと、慈悲深いのでしょう。

 

「私でこれなんだから、総長や副長達は」

 

腸煮えくり返っているんだろうな。

 

 

 

 

呉鎮守府からの客人が到着するまでの間に、横須賀鎮守府に所属する全ての艦娘が戦闘態勢を整えていた。

今や横須賀艦隊は引き絞られた矢であり、その矛先は呉からの客人及びその鎮守府に向けられていた。

そして・・・

 

「お待ちしておりました。呉鎮守府旗艦『扶桑』、副艦『山城』」




横須賀鎮守府は、統率方法が少し特殊です。

横須賀鎮守府代表 「磯谷 穂波」
横須賀艦隊代表 「金剛」
横須賀艦隊副長 「霧島」
横須賀重巡洋艦隊代表「鈴谷」
横須賀軽巡洋艦隊代表「木曽」
横須賀駆逐艦隊代表「若葉」

という風に各艦種ごとに、代表がおりその下に幹部がいるというものになっています。もし戦闘中に代表が死んでも幹部が一人でも生きている限り統率に乱れが出ない様になっています。

軍隊というより、軍隊の力を持ったマフィアだ。


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オッサン、真相を知る 2

どうも、逆脚屋です。
今回のお話ですが、本来ならもっと早くに投稿する予定でした。ですが、投稿する際に操作を誤り消去してしまうというミスを犯してしまい、一から書き直す事になってしまいこの様なことになりました。
尚、今回のお話は修復が完全に終わっておらず、修復が完了した部分までの尻切れ蜻蛉のような終わりとなっています。
理由は、これ以上投稿期間を空けることは出来ないと考え
、投稿しました。

それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください。


横須賀鎮守府正門にて二人の艦娘が、これから来る客人を待ち構えていた。

一人は茶髪を短く切り揃え快活そうな印象の比叡、一人は黒髪で眼鏡をかけた理知的な印象の霧島である。

だが、その内心はまるで逆であった。

 

「霧島、少し落ち着きなさい」

「しかし、姉様」

 

比叡は思う、我が妹ながら直情的にすぎると、しかしそれも仕方ない事。

自らの姪である少女が危機的状況なのだ、直情的にもなるというもの、だがそれでも、自分達金剛型はこの横須賀鎮守府の要であり、霧島はその要の金剛型で横須賀鎮守府における武力の象徴たる役職『副長』に就いている。

その副長たる霧島がこれでは、横須賀の品位が疑われる。

 

「霧島、貴女の気持ちは分かります。だから、気を鎮めなさい」

「姉様は何故、その様に落ち着いていられるのですか?」

「私が落ち着いている?」

 

だとするなら、相当頭に血が上っている。私は落ち着いて等いない。

 

「私は、落ち着いて等いない。今すぐにでも事の発端である連中を、皆殺しにしてやりたい」

「姉様」

「だが、それでは金剛お姉さまの、ひいては司令の顔に泥を塗ることになる。分かりますか霧島?」

「は、はい!」

 

分かれば宜しい。大体、霧島は一つ忘れていることがある。彼女、吹雪と一番付き合いが長いあの人のことを。

我々で、これではあの人は・・・

 

『霧島副長、比叡秘書艦。お客様がそちらに到着します。準備を』

 

来たようだ。さて、鬼が出るか蛇が出るか、それとも、そこにあるのは希望も絶望も入っていない空の匣なのか。

それは、あの二人次第か。

 

 

 

 

 

 

 

 

車内には、二人の女性がいた。二人共に同じ巫女服に似た衣装に身を包み、今にも消えてしまいそうな儚げな印象の二人の艦娘。呉鎮守府旗艦『扶桑』と副艦『山城』である。

二人が横須賀鎮守府を訪れたのには理由がある。

 

「姉様、そろそろ横須賀鎮守府の正門です」

「ええ、そうね山城」

「姉様、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、山城」

 

ここでしくじる訳にはいかない。もし私達がしくじれば呉鎮守府が終わる。それだけは何としても阻止しなければならない。

 

「山城、私達の目的は」

「呉の無実の証明、そして彼女を救うことです」

 

その通り、呉はあの事件の被害者であり無実であると証明し、彼女を救う。若しくは、その手助けを行う。それが私達の目的だ。

 

「アレは私達の責、私達があの場にいれば止められた筈なのに・・・」

「姉様、起こってしまった事はどうしようもありません。ですが、まだ希望はあります」

「そうね、山城」

 

そうだ、まだ希望はあるのだ。それを彼女に伝えなくてはならない。

 

「見えてきました、正門です」

 

正門の前に二人立っているのが見える。横須賀の金剛型の二人だろう。

 

「お待ちしておりました。呉鎮守府旗艦『扶桑』様、副艦『山城』様」

「磯谷司令と五百蔵司令が、執務室にてお待ちです」

 

完全に臨戦態勢の二人に導かれ、横須賀鎮守府執務室に向かう。

そこに何があるのか、それは分からない。だが、あの御方に所縁のある人物なのだ。尋常の人物ではあるまい。

それでも、伝えなくてはならない。

あの人が調べた情報を、命懸けで私達に伝えてくれた情報。彼女、吹雪は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「磯谷司令、五百蔵司令。お客様をお連れしました」

「どうぞ」

 

比叡さんと霧島君が、客人を連れてきてくれた。

やっと来たのか、待ちくたびれたよ。さて、どんな話を聞かせてくれるのか。

 

「お初にお目にかかります。私は呉鎮守府旗艦扶桑と申します。こちらは副艦の山城です」

「山城です」

「横須賀鎮守府提督、磯谷穂波です」

「北海鎮守府提督、五百蔵冬悟です」

 

自己紹介も終わったことだ。早速、本題に入ろう。

 

「それで?今日はどの様な御用件で」

「単刀直入に申し上げます。五百蔵冬悟提督、貴方の秘書艦吹雪に関することです」

 

いきなりか、だが、余計な手間が省けたと考えよう。心理戦とか頭脳戦は苦手なんだ。

 

「それは、どのようなことで?」

「彼女の過去、呉でとある事件が起きました。その事件で、彼女は・・・」

 

扶桑が、ゆっくりと絞り出す様に言葉を吐き出す。その内容は、想像を越えるものだった。

 

「彼女、吹雪は親友とも言える同僚をその手にかけました」




男は真相を知る、少女は過去に苛まれる。痛みを分け合うことは出来ず、ただひたすらにそれは軋みを上げ続ける。
愛する者が持つ過去の傷は、何時までも残る。

軋みを上げ続ける少女、その心を救おうとする者達。だが、無慈悲に不条理に過去は歪に歪み曲げられ、襲い来る。

嵐の中振るわれる白刃と鉄鎚、愛する者を守る為に鉄鎚は唸りを上げ、歪に歪んだ白刃に迫る。

だが、世界は残酷である。

鉄鎚は少女の目の前で白刃に砕かれる。

その時、少女は・・・


次回「バケツ頭のオッサン提督の日常」 
「砕けし鉄鎚」お楽しみに!


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オッサン・・・

どうも、逆脚屋です。「バケツ頭のオッサン提督の日常」第45話デす。今回ハオッサンがピンチ?あんド吹雪ノトラウマGa分かRUかもしれませんnn

それDhはじまりMSU「バケツ頭ノオッサン提督ノ日常」おタノしみクダサい


吹雪君が親友を殺した?いったい、どういうことだ。あの子が、あの優しい子が、親友を殺したというのか?

 

「いったい、どういうことだ?」

 

喉が渇く、言葉が出ない、理解が追い付かない。どういうことなんだ、何故彼女が?

 

「・・・順を追って、お話します。あれは、ある試験航行で起きました」

 

扶桑が眉をひそめ、一字一字噛み締める様に言葉を紡ぐ。その様子は実に辛そうだ。

 

「その日は、睦月型と吹雪型の改二試験でした。今日の様に、冷たく暗い海だったことを覚えています」

 

悔恨、怒り、悲しみ、様々なものが入り交じった顔で扶桑は続ける。

 

「試験は順調、このままいけば二人の艦娘に改二が実装されるという、時でした。それが起きたのは」

 

扶桑が一度言葉を切り、膝に揃えた手を血の気が引き白くなるまで握り締める。隣の山城も同様だ。

そして、続けられた言葉は『獣』の心に突き刺さるものであった。

 

「突如、睦月型が暴走し吹雪を始めとした随伴艦に攻撃を始めました」

 

言葉が、真実が『獣』の心を抉り血を流させる。流れた血は『獣』の身と心を焼き枷を外していく。

 

「教導艦が小破、彼女も中破し随伴艦が大破、轟沈寸前でした」

 

外れた枷は崩れ、鑢の如く『獣』の心を削り取る。まるで、『獣』に心は不用だと言わんがばかりに。

 

「・・・そして、彼女は大破した随伴艦を守るため、親友を、撃ち、殺しました・・・」

「『私達二人』が知る事は、これが全てです」

 

『獣』の心に刻まれた傷は深く、全身に嵌められた枷は尽く砕け残るは檻のみ、その檻もひび割れ砕ける寸前だ。

 

「ありがとう、辛い事を・・・「まだ、あります」・・・何?」

「あの事件を不審に思った提督が真相を調べ、纏めた資料があります。この資料が全てです」

「これは・・・!」

 

その内容はあまりにあまりな内容であった。

 

「二人共、これは本当の事なの?」

「まごうことなき事実です」

 

基本的に楽天的で人をあまり疑わない磯谷だが、今回ばかりは違った。

 

「睦月型と吹雪型の改二改装、二つの内睦月型の改二改装技術は未熟で、とても試験航行が行える状態ではありませんでした」

「ですが、上層部はそれを隠し試験を実行したのです。その理由は、吹雪の成り立ちにありました」

「吹雪ちゃんの成り立ち?」

「彼女は第三世代型最先発の艦娘であり、その素体にはモデルがあります。全てはそこに集約されます」

 

資料の束、付箋が貼られた一枚。それに吹雪の成り立ちとトラウマの全てが集約されていた。

 

「これは・・・!冗談にしたらキツいわね」

「ええ、私達もまさかと思いましたよ」

「あの子の素体、そのモデルがまさか」

 

 

「洋さん、あの人がモデルだったのか・・・」

 

資料にあったのは、吹雪の素体の開発ルートとその大本にある絶対の存在であった。

 

「いや、でも、何故それが今回の事件に繋がるの?はっきり言って繋がり様が無いじゃない」

 

磯谷の言葉を全員が肯定した。そう、吹雪のトラウマは未熟な技術によって引き起こされた事故、その筈なのだ。

なのに、どうして、これが関係するのかが分からなかった。

 

「恐れたのです」

「はい?」

「上層部に残る嘗ての戦いを知る、一部の人間があの方をモデルとして産み出された吹雪を恐れ、殺そうとした」

「あの方の再来となるかも知れない彼女を殺す為、二人は、我々呉鎮守府は利用されたのです」

「吹雪を殺す為に、あの子は未熟な改二改装を施され、意図的に暴走する様に仕向けられた。その結果が今回の真相です」

 

暴かれた真相は『獣』を閉じ込めた檻を砕くには充分過ぎるものだった。解き放たれた『獣』は暴れ狂い、宿主を焚き付ける。

 

「ありがとう、二人共。辛い事を言わせた。協力に感謝する」

「あの・・・五百蔵さん。どちらに?」

「少し、風に当たってくる。どうにも、頭が沸騰しそうでね」

 

男は巨体を揺らしながら部屋を後にする。その背には、行き場の無い怒りと暴力が渦巻いていた。

『獣』が宿主を焚き付け、嘗ての『暴獣』に引き戻そうとする。

 

「はぁ・・・疲れるなぁ」

 

だが、男は焚き付けられもしなければ引き戻されもしなかった。ただ、冬の風に当たりながら紫煙を燻らせる。

 

「はぁぁぁ、こんなとこ吹雪君に見られたら、何て言われるかなぁ?」

 

禁煙した筈なのになぁ、と嘯きながら男は煙缶に吸殻を押し付け火を消す。

残った紫煙は冬の空にかき消えていく。それを見届けて男は空を見る。

 

「年かねぇ、最近は体が痛んで仕方がないよ」

 

肩を揉み解し、鎮守府内に戻る。その目からは普段の穏やかさが消え失せ、獰猛な『獣』そのものになっていた。




傍観者『逆脚屋』を確認
対象の排除を開始

対象『五百蔵 冬悟』に対し干渉を開始
ルート固定
『五百蔵 冬悟』に対する干渉levelを上昇
干渉を継続


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オッサン、捜す

お久しぶりです!逆脚屋です!

さあ、なんか大変な事になってきた『バケツ頭のオッサン提督の日常』!
どうして、こうなった?!



聞こえる、彼女の呼ぶ声が。私を呼ぶ声が聞こえる。

まだ遠いけど、確かに聞こえる。呼んでる。行かなきゃ。行かなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん、お茶が入りましたよ。吹雪ちゃん?」

 

え?嘘、ですよね・・・

 

「吹雪ちゃん!」

 

居ない、いったい何処に行ったの?!

 

「榛名!どうした?!」

「摩耶さん!吹雪ちゃんが!」

 

榛名が茶を淹れようと、部屋を離れた隙に吹雪が姿を消した。

横須賀鎮守府内は、所属する艦娘が『不測の事態』に備えて各所に待機していたが、呉鎮守府の二人ととAMIDA鎮守府提督の派手な来訪と入院していたメンバーの見送りの為に、一時的に監視網の一部に穴が開いていた。

恐らく、その時に居なくなったのだろうと摩耶は予測した。

元より、吹雪の策敵能力は異常であり、その策敵能力があれば監視網の穴を突いて移動する事も可能だろう。

だがそれは、吹雪が平静な状態である事が条件だ。今の彼女はとても不安定な状態でとてもではないが、普段通りとは言えない。場合によっては、最悪の事態も考えられる。

 

「榛名、急いで五百蔵のオッサンに連絡、アタシは艦隊の連中を集めてくる!」

「分かりました!」

 

榛名は急ぎ五百蔵に連絡を入れるが、その顔は思わしくない。吹雪の症状が再発し始めてからというもの、彼は何かを無理矢理抑え込む様にしている。

止めた筈の煙草も少量ではあるが、再び吸い始めている。

 

(お願いします。何も起きないで)

 

榛名は五百蔵に連絡を入れる。少しでも、不幸が起こらない事を祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえる、だんだん近付いて来てるのが分かる。あの子が来てる。

早く行かなきゃ、行って・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

男は走っていた。その巨体を全力で振り辺りを見渡し、息を切らしながら走っていた。

 

「吹雪君!何処だ!何処に居る!」

 

大音声を上げ愛する娘と言える者の名を叫び続けながら、走っていた。

 

「クソ!いったい何処に居るんだ」

「五百蔵の叔父貴!」

「木曽君か!吹雪君は?!」

「此方でも捜している。しかし、姿一つ見当たらん」

「榛名さんからの連絡から、あまり時間は経ってない。近くに居る筈だ」

 

近くに居る筈なんだ。なのに、見当たらない。

 

「何処に、居るんだ。吹雪君」

 

その時だ、横須賀鎮守府内で爆発音が轟いた。

 

「なんだ?!」

「これは・・・工厰からだ!」

「行くぞ、木曽君。もしかしたら、吹雪君が居るかもしれん!」

「了解だ!」

 

頼む、吹雪君。そこに居ないでくれ、もし居たとしても、無事でいてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん!返事をして!」

「はるにゃん!ふぶっちは?!」

「鈴谷さん!まさか、そちらも?!」

「そんな、ふぶっち・・・」

 

何処に居るのですか、吹雪ちゃん。今の貴女は、とても出歩ける様な状態じゃないの。

 

「はるにゃん、どうしよう・・・」

「落ち着いてください、鈴谷さん。時間的にも、まだ遠くには行ってない筈です」

「そ、そうだよね!急いで探さないと!」

 

二人が吹雪の捜索を再開しようとしたその時、時同じくして爆発音が轟いた。

 

「何?!」

「工厰からだ!」

「急ぎましょう!」

 

お願いします、神様。私達から、あの人からあの子を奪わないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「三番から八番までの隔壁を閉じろ!急げ!」」

「ちんたらすんな!」

 

横須賀鎮守府工厰は騒然としていた。突如として起きた爆発、規模としては大きくはない。むしろ、横須賀工厰にしてみれば日常的に起きている爆発だ。

しかし、今回は違った。爆発が起きた場所が問題であった。

 

「「榊原班長!電力の復旧は?!」」

「今、予備電源に切り替えたが普段の半分程度の出力しか出てねぇな」

「「供給ラインをやられたか」」

 

明石と夕張は珍しく苛立ちを隠さず舌打ちをし、現状の確認を進める。

 

「「班長、現在の工厰の稼働率は?」」

「約40%ってところだな、メインのラインをやられてサブのラインに切り替えたが、数が足りん」

「「チッ!何処のバカだ。この横須賀鎮守府に牙を向けてタダで済むと思ってる奴は」」

「後、もう1つ妙な報告が上がっている」

 

榊原が怪訝な顔をしつつ、部下から上がってきた報告を口にする。

 

「なんでも、出撃用ハッチが『凍結』しているらしい」

「「『凍結』?この気温で?」」

「ああ、妙な話だが」

「「ならば、一時的に電力をハッチに回して溶かしましょう」」

「今それをやっているが、『凍結』の範囲が広すぎて直ぐには無理だそうだ」

「「吹雪さんも捜索しなければならないというのに、これか」」

 

予定外のトラブルに頭を抱える夕石屋の二人と榊原だが、トラブルとは得てして次々と起こるものである。

 

「班長!代表!」

「「何ですか?騒々しい、吹雪さんが見つかったのですか?」」

「いえ、そうではないのですが・・・」

「じゃあ、なんだってんだ?」

 

走り寄ってきた部下の一人が口にする新たなトラブルに二人は、更に頭を抱える事になる。

 

「それが、ストライカー・エウレカとロミオ・ブルーのハンガーが爆発の衝撃で歪んで、出撃不可能になっています」

「チッ!機体にはダメージがあるか?」

「只今、点検中ですが装甲に若干の傷がついただけで、駆動系等にはダメージは無さそうです」

「「ならば、二体の解放を優先しつつ、他の装備品に問題が無いかのチェックを急ぎなさい」」

「了解!」

 

夕石屋の二人の指示に従い装備品のチェックに向かう部下を見つつ、榊原は嘆息する。

ストライカー・エウレカとロミオ・ブルーのハンガーは、他の装備品のハンガーよりも頑強に造られている。

そのハンガーが歪んだという事は、それだけの威力の爆発が起きたという事だ。不幸中の幸いは、奇跡的に怪我人が居なかった事だろう。

それにしても、イェーガーのハンガーを歪ませる威力と出撃ハッチの『凍結』。

長く軍にて整備に携わってきた榊原でも、初めての出来事だ。深海棲艦でそれだけの威力の攻撃力を持つ艦種が居るのは知っているが、『凍結』を起こす奴は聞いた事が無い。

 

「明石、夕張。今回の件、どう見る?」

「「ふむ、新種の深海棲艦とは考えづらいですね。でも、そうなると」」

「深海棲艦とは別の、第三勢力か」

「「どちらにせよ、厄介な事には変わりありません。急ぎ、原因の究明と対応策を講じなければ」」

「とにかく、司令に報告を上げてからだな」

 

気掛かりも多いが、とにかくそれが先だ。吹雪の捜索には横須賀AMIDAを総動員しているが、それでも良い報告は無い。

何も無ければ良い、横須賀鎮守府最年長は静かに思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く暗く冷たい海、その前に少女は佇んでいた。

自分を呼ぶ声に導かれ、足取りも不確かに歩み、そこに着いた。

 

『吹雪ちゃん・・・』

 

自分を呼ぶ声に導かれるまま、少女は海へと足を踏み入れ・・・




横須賀編にて、登場予定のイェーガーは二体です


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オッサン、会敵

お久しぶりです。逆脚屋です!

チェルノ・アルファのプラモが出ますね!逆脚屋は今から、ウキウキ気分でパシリムのDVD見てます!

さぁ!皆様も予約しましょう!


ゴポリゴポリ、水泡が膨らんでは消えていく。

どれもこれも、水面に出られず消えていく。

 

「・・・ちゃ、ん・・・」

 

愛しき友の名を呼んでも、それも水面には出られない。

ゴポリゴポリ、膨らみ消えていく。

 

「・・・ちゃん・・・て・・・」

 

淡い望みを飲み込み、絶望を与える。

その望みは叶う事は無い。

 

それはただただ、水泡の如く浮かんでは消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?エウレカとロミオは何時出せるの!」

「今、ハンガーから引っ張り出してるところです!」

「出来るだけ急いで、嫌な予感がする!」

 

ホント、勘弁して欲しいわね。

吹雪ちゃんが居なくなったと思ったら、お次は工厰の機能が半分ダウンでイェーガーと艦娘の艤装が一部使用不可になるとか、冗談がキツイにも程がある。

何とか、各艦代表艦娘の何人かの艤装は無事に使用出来るけど、艦隊運用における連携は不可能に近い。

 

「嫌、ねぇ。ホント」

 

何をどうしたら、工厰の。しかも、ここ横須賀鎮守府の工厰にダメージを与えられるのやら。

哨戒班からも未確認存在の接近は報告されていない。

いや、待て。もしかしたら、海底を?

有り得る話ではあるか。この近海の水深はそう深くはない。だから、潜水艦の子達は今回の哨戒班に回していなかった。

 

だが、深海棲艦の襲撃にしては妙だ。

連中は、必ず集団で行動する。ならば、何らかの痕跡がある筈なのに何も無いし、連中なら家の子達がすぐに発見して迎撃している。

 

なんだ、この感じは?

おかしい、明らかに深海棲艦の仕業ではない。

行動がお粗末過ぎだ。工厰と言う心臓部の一つにダメージを与えて、追撃が無いなんて素人のやることだ。

第一、工厰を『凍結』させる深海棲艦なんて聞いた事がない。

 

「ねぇ、班長。今回のこれ、どう見る?」

「分からんな、俺も基地の襲撃に巻き込まれた事はあるが、こんな事は初めてだ」

「ですよね」

 

新種?だとすれば、話が通らない訳ではないが弱いわね。

・・・待て、待て待て待て。

確か、新米ちゃんと五百蔵さんが『凍結』とかの極低温を武器にするイェーガーが居るとか言ってなかったか?

思い出した!

あの電話嫌いの五百蔵さんが凄く楽しげに電話をしてたから、何だと思ったら、新米ちゃんとイェーガーの話をしていたんだった。

そこで出てきたイェーガーで、確か名前は・・・

あー!くそっ、出てこない!

後、ちょっとで出てきそうなのに~!どうしても、出てこない~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少し、もう少しで会える。彼女に会え・・・

 

 

「吹雪ちゃん!」

「榛名、さん?」

「良かった、無事だったのね!」

 

榛名は万が一を考え、最新の艤装を装備していたが杞憂に終わったようだ。

吹雪が海に足を踏み入れる瞬間に、抱き止める事が出来た。

本当に、危なかった。見れば吹雪は、艤装を身に付けておらず、普段のパーカー姿で海に入ろうとしていた。

例え、艦娘であっても艤装が無ければ海上での行動は不可能であり、ましてや、今の季節は冬。艦娘は人間よりも耐性が高いが、艤装による保護機能が働かなければ凍死や溺死は必然的だ。

 

「どう、して、艤装を?」

「工厰が襲撃されて、今の横須賀は厳戒体制に入ったの。だから、早くここを離れましょう!」

 

榛名が叫び吹雪の手を取るが、吹雪は動かない。

 

「駄目、なんです・・・」

「吹雪ちゃん?」

「駄目なんです。彼女が呼んでるんです、もうすぐ、もうすぐ其処に来てるんです」

「吹雪ちゃん、駄目です!今すぐ離れないと・・・!」

 

榛名の説得に応じず、海に入ろうとする吹雪。

そして

 

「え?」

「吹雪ちゃん!」

 

突如として海から吹雪目掛けて突き出された白と黒の刃、それは鞭の様に撓り横薙ぎに彼女を切り払おうと迫る。

 

「勝手は榛名が許しません!」

 

だが、その刃は2つの鉄の手により弾かれた。

榛名の艤装、その船殻を模した防盾を変形させ、刃を弾いた。

 

「くっ!」

 

しかし、その衝撃は凄まじく強靭な筈の戦艦の艤装を軋ませる。

それでも、榛名は一歩も退かず吹雪と襲撃者との間に立ち塞がった。

次々に振るわれる襲撃者の刃、それを弾き防ぎ吹雪を守り続ける榛名。

しかし、力が質量が違い過ぎた。

徐々に、確実に鉄の手は削られひしゃげ元の形を失いつつあった。

 

「榛名さん、逃げてください!」

 

吹雪が叫ぶも榛名は、白い襲撃者に立ち向かう。

その目には、何があっても退かないという強い決意の色に満ちていた。

 

「どうして!?狙いは私なんです!」

 

だから、貴女は逃げてと叫ぶが、刃が鉄の手を斬り裂く音に掻き消される。

榛名の鉄の手は、とうとう右手を半ばから断ち斬られ三本の鉄指が僅かに動くのみとなり、左手はひしゃげ何とか盾としての役割を果たしているが、それも長くは保たないだろう。

榛名自身も、衝撃や破片による疲労と傷が目立つ。

それを見て、吹雪は頭を振る。

襲撃者の、『彼女』の狙いは自分で、榛名ではない。

自分があの刃に掛かれば、全て終わる。それなのに、榛名は立ちはだかる。

 

「吹雪ちゃん、貴女が何を思い自分を犠牲にしようとしているのかは、私には分かりません」

 

振り抜かれる刃を右で流し、右手の鉄指が弾け飛ぶ。

最早、右手に盾としての機能は残ってはいない。左手も限界が近い、艤装本体とのジョイント部から火花が散り異音をあげている。

だが、榛名は普段と変わらぬ様子で優しく吹雪に語りかける。

 

「だけど、それは間違っています」

「でも!」

「良いですか?確かに、貴女の過去は辛い事がありました。私もそれは聞いています」

「榛名、さん?」

「吹雪ちゃん、生きましょう。生きて生きて生き抜いて、立ち向かいましょう。貴女になら、それが出来る筈です」

 

降り下ろされる刃、盾となる鉄の手も既に力無く垂れ下がり動かない。

そこから導き出される結論は、簡潔なものだ。

その刃は、榛名と吹雪を斬り裂く。

 

そう、何も邪魔が無ければ

 

「そうでしょう?冬悟さん!」

「ああ、その通りだ」

 

降り下ろされた黒い刃は、緑黒の鉄鎚により持ち主ごと弾き飛ばされた。

 

「やあ、吹雪君榛名さん。待たせたね?」

「提督・・・」

「榛名さん、吹雪君を連れて避難を。こいつは俺が受け持つ」

「はい!吹雪ちゃん、此方へ」

「提督!」

「心配は要らないよ」

 

直ぐに叩き潰すからね。

 

チェルノ・アルファを纏った五百蔵が、その両の拳を打ち鳴らし、『タシット・ローニン』を纏った襲撃者が鉄鎚と激突した刃を確認する。

両者はそれを、開戦の合図と見なした。

轟音を響かせ拳を振りかぶる五百蔵と、静かに刃を突き出すタシット・ローニン。

横須賀で、最古の鉄鎚と白刃の戦いが始まった。




ルート順調に進行中
問題無し


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オッサン、タオレル

あれだよね、真面目な話って書くのしんどいよね?


ゴゥゴゥと風切り音をたて水飛沫を撒き散らし、刃と鉄鎚がぶつかり合う。

鉄鎚は鋼の身から轟音を打ち鳴らし、刃は醜悪な血肉を捻り、互いを削り合う。

 

「ぬぅああ!」

 

度重なる激突から、互いの得物は次第に熱を帯始め、周囲に舞う水滴が当たっては蒸発し始める。

刃により鉄鎚は傷だらけだが、そのどれもが深く傷付けるに至らず、浅く表層を削り取るだけ。

だがそれでも、鉄鎚は苦戦していた。

 

(ちっ、やりづらい)

 

鉄鎚、チェルノ・アルファは五百蔵冬悟が纏った機械の鎧、それに対して刃、タシット・ローニンは醜悪で奇怪な生物が鋼の鎧、否、この場合は殻を纏った姿。

この差が生み出すものは、動きの柔軟性だ。

チェルノ・アルファは人が機械の鎧を動かし鎧がその動きを強化する。

しかし、タシット・ローニンは違う。以前襲撃して撃破されたロミオ・ブルーとも違った。

動きの一つ一つが『柔らかい』のだ。

現在は霧島の装備となったロミオ・ブルーは、獣の力と凶暴性が前面に出ていたが、タシット・ローニンはそれを殆ど感じさせず、柔らかな挙動と確かな技で刃をチェルノ・アルファに叩き付けている。

 

五百蔵のやりづらさは、これに起因する。必ずと言って良い程、タシット・ローニンは五百蔵の拳に刃を当ててくる。

その度に、拳の弾道がズレて振り抜けない。手首のスプリング機構で拳を射出しようにも、弾道がずらされては打ち出す事すら出来ない。

拳を打ち出せば、装甲に包まれた内部機構が露になる。チェルノ・アルファの装甲は頑丈だ。だがしかし、それは装甲に限る。全イェーガー中でも群を抜いて堅牢な装甲を誇るチェルノ・アルファと言えど、内部機構は装甲に比べ脆い。それでも、近接戦を主とするイェーガーの内部機構は他の物に比べ頑健であるが、タシット・ローニンの刃の切れ味であれば、中の五百蔵の腕ごと斬り落とせる。

 

五百蔵冬悟は人間だ。規格外の体格や筋力を持っていたとしても、あくまで人間の規格外に過ぎない。

もし、腕を斬り落とされれば痛みによる隙が生まれ、最悪の場合、失血死もあり得る。

もどかしい綱渡りの様な応酬、それは何度も繰り返し続いた。互いが互いに、相手の綻びを見つけるまで。

 

そして、その綻びはタシット・ローニンに表れた。

苛立ち紛れに五百蔵が放った右フックが、タシット・ローニンの胸部装甲に掠り、その一部が剥がれ落ちた。

 

「これは・・・・!」

 

だがそれは同時に、五百蔵に致命的な隙を生み出すものであった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督、待って・・・その子は・・・」

「吹雪ちゃん、ダメです!」

 

二体の巨人が凌を削り合う海を目の前に、吹雪が榛名の腕の中で小さな手を巨人に向けて伸ばしていた。

榛名には分からなかった。何故、吹雪があの白い醜悪な巨人に手を伸ばし、五百蔵を止めようとしているのか。

 

榛名から見れば、あの巨人はまごうことなき敵でしかない。だが、吹雪から見れば違う様だ。

彼女から見れば、あの巨人は彼女が知る誰かに見えているのだろう。若しくは、あの巨人が吹雪の知る誰かなのか。それは榛名では分からない、吹雪の感知力は常識では測れない。榛名には分からなくても吹雪には分かる何か、それが白い巨人から発されているのだろう。

 

未だに自分の腕の中で白い巨人に向けて、走り出しそうな吹雪を抑えながら榛名は考える。

彼女のトラウマ、それは自分達と同じ艦娘が原因の筈だ。どう贔屓目に見ても艦娘には見えないあの巨人ではない筈、それなのに彼女は五百蔵と戦う巨人に向けて叫んでいる。

 

「待って!その人は違うの!止めて!」

 

自分の時とは違う、圧倒的な質量と力のぶつかり合い。

一打毎に撒き散らされる火花と水飛沫、機械と獣の雄叫び艦娘と深海棲艦の戦いとはまるで違う戦い。

これに吹雪が入り込めばどうなるか、そんなものは火を見るより明らかだ。

何も出来ずに終わる。戦艦級の自分ですら、あの中には入れない。駆逐艦級の吹雪など、一瞬も保たず破壊されるだろう。

 

その激突の連続に突如として綻びが生まれた。

五百蔵駆るチェルノ・アルファの拳がタシット・ローニンの胸部装甲の一部を弾き飛ばし、白い鋭角に覆われてた中身が露になった。

 

「は?」

「あ、ああ・・・」

 

鋭角な装甲、その上面の一部から醜悪な肉塊に磔にされた者が見えた。

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦月、ちゃん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何で子供が?!)

 

五百蔵は苛立ち紛れに放った右フックにより露になった胸部から見える者に驚愕し、一瞬の隙を見せてしまった。

 

「しまっ!」

 

タシット・ローニンはその一瞬隙を見逃さず、逆水平に刃を振り抜いた。

先程までの、弾道を逸らす刃ではない。確実にチェルノ・アルファの装甲を斬り裂ける一撃だ。

 

「こんのぉっ!」

 

ガードは間に合わない、上体を反らすように回避を図る。

 

「がっあぁ!」

 

振り抜かれた刃は、上体を反らす事により直撃はしなかった。

だが、右肩部の熱放射タービンの根元を抉り、その衝撃を内部の五百蔵に強く伝えた。

 

[右肩部熱放射タービン、被害甚大。基部の損傷により使用不可、装甲第二層まで損傷、行動に支障無し]

 

チェルノ・アルファからのアナウンス、それに五百蔵は舌打ちをする。

子供を人質に取られ、迂闊には攻撃が出来ない上に最大級の火力の一つを破壊された。

 

(さあ、どうする?俺)

 

打撃は駄目、熱放射も×だ。ならば、組み付き首をへし折る。あの子供の救出はそれからだと、タシット・ローニンに組み付こうとした。

 

しかし

 

「な、んだ!」

 

突然、五百蔵の腹部に襲い掛かってきた衝撃。

そのあまりの重量と衝撃に、五百蔵は思わず体勢を崩してしまう。

 

「蹴りか、この、野郎!」

 

体勢を整え拳をタシット・ローニンに叩き込もうと構えたが、それはタシット・ローニンの払いにより阻止された。

腹部に入った蹴りの威力は凄まじく、タシット・ローニンから離れてしまった。

蹴りの衝撃で、思うように身動きが取れない五百蔵に向けて、タシット・ローニンは刃を突き出した。

 

(これは、マズイ!)

 

突き出されたタシット・ローニンの左腕に合わせる様に、五百蔵も左腕を振り抜きタイミングを合わせてスプリング機構で拳を射出しようとしたが、ある違和感に気付いた。

 

自分に傷を付けたあの刃が見えない。

何故、と思うも五百蔵は見た。タシット・ローニンの刃、それが左腕の基部に引き込まれているのを。

 

瞬間、タシット・ローニンの刃は腕の基部から打ち出され、チェルノ・アルファの拳へと向かった。

タイミングをずらされ急いで射出された拳とタイミングを合わせて射出された刃、どちらの狙いが当たるのか、結果は

 

「ごっあ!」

 

タシット・ローニンの刃がチェルノ・アルファの左拳の第四指を切断第三指を破壊した。

 

[左拳部第四指切断、第三指破損、衝撃により左腕部テスラコイル及びスプリング機構一時機能停止、復旧開始、左腕出力低下、『Roll of Nickels』使用不可]

 

「くそったれが・・・!」

 

五百蔵はチェルノ・アルファのアナウンスにより、左腕がほぼ使い物にならない事が分かり、右腕を構えタシット・ローニンに向かう。

 

(兎に角だ、こいつが吹雪君のトラウマかは分からないが、何らかの関係はある筈だ)

 

タシット・ローニンに向けて右フックを放とうとした次の瞬間、足に違和感を覚えた五百蔵は自分の足元を見た。

 

「は?なんで・・・」

 

凍っている?

その言葉は五百蔵の口から出る事は無かった。

何故なら、海中から飛び出してきた乱入者により遮られたからだ。

 

「ぬっぐぅぉお!」

 

飛び出してきた乱入者は、チェルノ・アルファの頭頂部に片手をかけ、もう片方の手を降り下ろす。

その衝撃でチェルノ・アルファの頭部装甲は凹み、鑪を踏んだ。

それでも倒れぬチェルノ・アルファに対し、乱入者は傷の入った右熱放射タービンに手をかけ、力任せに引き千切り、その勢いのままに再度拳を降り下ろした。

 

「あ、がぁ・・・」

 

凄まじい激突音、それにより引き起こされた結果はチェルノ・アルファの機能停止であった。

ゆっくりと、力を失い倒れていくチェルノ・アルファを乱入者は持ち上げ、陸へと投げ捨てた。

 

投げ捨てられたチェルノ・アルファは、黒煙を上げ力無く倒れ伏す。五百蔵冬悟の敗北である。

 

乱入者はその箱の様な頭を振り、真っ直ぐに横須賀鎮守府工厰へと向かった。

その特徴的な両肩には、何かが収まっていたであろう空白が空いていた。

 

横須賀鎮守府を襲撃したのは、タシット・ローニン一体ではなく、もう一体。

第一世代イェーガー随一の古強者『ホライゾン・ブレイブ』であった。

 

「提督!」

 

五百蔵を呼ぶ吹雪の声にタシット・ローニンが反応した。

迷うこと無く駆け出し、吹雪へと向かった。

1歩2歩と距離を縮め、遂に刃が届く距離にまで詰めると、真っ直ぐに刃を突き入れた。

 

「あ・・・」

「吹雪ちゃん!」

 

 

ポツリポツリと雨が降り始めた。

まるで、誰かの涙の様にポツリポツリと降り始めた。



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オッサン、?

はい、私です!本編出来たよ!


吹雪へと突き出される刃、それは真っ直ぐに吹雪へと向かいその身を貫く

 

「え・・・?」

 

筈だった。

 

「間に合ったか!」

「木曽さん!」

 

駆け付けた木曽の持つ軍刀により、寸でのところでその刃は逸らされた。

 

「無事か?!」

「は、はい」

「榛名!吹雪を連れて逃げろ!」

「でも、冬悟さんが!」

 

木曽は榛名の目が向かう方向に視界を向け、動かないチェルノ・アルファを確認しつつ、タシット・ローニンが振るう刃を捌き続ける。

木曽は思う。手が足りないと。

はっきりと言って、動けない五百蔵を榛名と吹雪が避難させるのは厳しい、それは自分を含めても同じだ。

避難している最中に、後ろから一網打尽にされて終わる。

それより、この白い化け物がその隙を見逃す訳がない。

自分達が避難に移るか、その素振りを見せれば、瞬間で向かってくるだろう。

 

ならば、どうする?

正直な話、自分ではこの白いのを押さえ込むのには限界がある。力と質量が違い過ぎる。今はまだ、軍刀も保っているし自分の腕も付いていっている、だが、それも長くはない。一瞬でもあの極厚の刃を受け流し損ねれば、自分ごと断ち斬られるだろう。

 

ならば、どうする?

 

木曽は自分の本来の装備である魚雷を撃ち込めれば、勝機は充分にあると考えるが、それは出来ない理由がある。

 

「睦月ちゃん!」

「吹雪ちゃん!ダメ!」

 

白いのの胸部装甲の裂け目から覗く駆逐艦娘『睦月』が原因だ。

よく分からないグロテスクな黄緑の粘性のある体液を流す肉塊に埋もれている少女、彼女は恐らく吹雪のトラウマの鍵だ。

魚雷を撃ち込めば勝てる。だが、それをすれば、睦月も巻き添えにしてしまう。

 

「ちっ・・・!」

 

軍刀の刃が柄の中で揺れ始めた。しかし、この程度ならまだ技でカバー出来る。

相手は獣、この数合のやり取りで分かった。人の技と動きを知った獣だ。

半端な技と圧倒的な力で獲物を狩る獣だ。

 

足捌きも腕の振りも、全てが半端だ。だからこそ、油断出来ない。

殺し合いの場で、最終的に勝負を決めるのは技でも経験でもない。ただ単純な力だ。

どれ程に技や経験で上回ろうと、圧倒的な力の前には全てが意味を為さない。

そして、この相手にはその力がある。

受ける度、流す度に全身を走る衝撃で分かる。刃に対し、正面ではなく、横から軍刀を入れ刃を受け流しているにも関わらず、削られる。

受けた衝撃を軍刀から腕に、腕から肩に腰に、足から地面へと逃がす度に、全身が軋み削れる。

 

削れた部分を補填する為に、他へと流す。そしてまた、削れた部分を補填する。

はっきり言えば悪循環だ。強度も力も体格も何もかもが違う相手に、何も刺し込む事が出来ずに、ただ削られる。

悪循環以外何物でもない。だが、今の場はそれで良い。

 

自分は横須賀の軽巡洋艦艦隊代表で横須賀鎮守府第三特務だ。言ってしまえば、それだけだ。

総長である金剛の様な馬鹿げた幸運も、副長の霧島の様な圧倒的な武力も無い。ただの重雷装艦娘に過ぎない。

 

重雷装艦娘が何故、陸でチャンバラしてるって話だな、木曽は考える。

 

後少し、後少しで、自分達の切り札が来る。

こいつの底は分かった。今の木曽を押し切れるが、それだけだ。榛名や五百蔵も、吹雪か誰かを庇いながらでなければ、充分に勝てる程度の相手だ。

 

今の自分では仕留めきれないが、彼女なら仕留められる。

 

木曽は考え、極厚の刃を受け流す軍刀を振るう腕を加速させる。

度重なる衝撃により、軍刀は限界だ。刃がこぼれ刀身に歪みが出てきている。自分もその例に洩れず限界だ。

だからこそ、加速した。

タシット・ローニンが降り下ろす刃を受け流す動きをそのままに振り抜き、装甲の継ぎ目を目掛けて軍刀を滑らせ、グロテスクな肉塊を裂いて軍刀が砕けた。

 

 

 

 

 

タシット・ローニンは理解した。

この目の前にいる小さい奴は敵だと。

自分の邪魔をするだけの奴ではない、自分に傷を付けられる敵だと理解した。

だが、この小さい敵の牙は砕けた。だから、タシット・ローニンは仕留めに行った。

先程仕留め損なったデカイのと小さいのを仕留める為に、先ずはこの牙が砕けた小さい奴を仕留める。

 

その為に、右の刃を横薙ぎに居合の要領で振り抜いた。

 

 

 

 

 

木曽は見た、自分に目掛けて振り抜かれる極厚の刃を。

受ける事も流す事も、軍刀が砕けた今は不可能だ。

艤装があれば、話は違っただろう。

振り抜かれる刃を見ながら、木曽は考える。

考えっぱなしだな俺と、いや、考える事と動く事を止めるなというのが、家の副長の教えだから良いのか。

考える事は止めてない、なら、後は動くだけだ。

軋む体に力を流し前に倒れる様に行く、横薙ぎの刃を頭上にやり過ごし、残った軍刀の柄を伸びきり開いた肘の装甲に差し込む。

タシット・ローニンの膂力の前では、歪んだ柄など何の障害にもならないだろう。

だが、それでも、一瞬の動きは遅れる。

 

こいつの利き腕は右だ。決めに来る時は、必ず右の刃を振ってきた。だからこそ、右を邪魔する。

そうすれば、間に合うから

 

「木曽さん!」

 

予想より復帰が早い。榛名の叫びに木曽は考える。

視線を送れば、榛名と吹雪がチェルノ・アルファの傍に居るのが見える。

見れば、左の刃を構えている。

木曽は笑った。諦めの笑いではない。

仕込みが成功した悪戯が成功した、悪ガキの笑みだ。

だって、そうだ。

自分は間に合ったから、笑うのだ。

 

そうだろう?

 

「なあ、副長」

 

刃を構えたタシット・ローニンを、海中から青く長い腕が打撃した。

 

 

 

 

霧島の内心は歓喜の渦で吹き荒れていた。

不謹慎だとは思う。だが、自分は横須賀鎮守府の武力の象徴である副長なのだ。新しく手に入れた力を試したいと思うのは仕方ない事だろう。

 

「木曽、下がりなさい」

 

邪魔です。口にはせずに、タシット・ローニンに向かう。

新しく手に入れたロミオ・ブルーを試せる実戦が自分から来たのだ、これは絶好の機会だ。

しかも、相手は自分と同じイェーガーで近接系だ。その上、義兄にも『仮に』とはいえ勝利している。

絶好の機会だ、それ以外に何がある。

 

それに、だ。人質付きとはお膳立てもここまで来ると、仕組まれたかと疑いたくもなる。

だが、この試練を捩じ伏せ乗り越えてこそ横須賀鎮守府副長なのだ。

あの駆逐艦娘を救出し、タシット・ローニンを破壊する。

破壊に至らずとも、救出は絶対に敢行する。

 

霧島は笑う、さあ、行こうと笑う。戦場だ、今こそ駆け時だ。

さあ、行こう。

我は副長、我は紅霧島、我こそ横須賀の槍なれば

 

白と青が、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督!」

 

お願いします、どうか、どうか、お願いします。

 

「提督!しっかり・・・!」

 

この人を助けて、誰でもいいから、助けてよ!

 

「提督!しっかりしてください!」

 

[チェルノ・アルファ、再起動を開始。リアクター出力再上昇、パイロットの生命保護を最優先、左腕出力低下、右肩部熱放射タービン使用不可]

 

これ、は・・・?

 

[チェルノ・アルファ再起動、右腕『Roll of Nickels』起動準備開始]

 

緑黒の鉄巨人が唸りをもって、再び立ち上がった。

愛する者を守る為に




次回はオッサンパートからスタート!


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オッサン、再起動

うぇあ!ジプシー・デンジャーも予約開始です!



あ、活動報告に、首領金剛の話書いたりしてますです


快音が聴こえる。金属と金属がぶつかり合う音、削り合う鋭い音が聴こえる。

激痛の中、五百蔵は目を覚ました。全身に走る鈍い様な掻き毟る様な痛みと疼く様な熱、それらを吐き出すかの如く深く息を吐き、肺の中を入れ換える。

吐き出した息にも熱がある様に感じる。体が重い、しかし、五感は確りとある。

 

快音が続いている。

霞む目を動かし、機体内のコンソールを確認する。

どのコンソールもノイズが走りながら、機体の各所の状況を伝えている。

全身にアラートが鳴り響いているが、特に左腕が酷い。

出力も機能も平時の半分も稼働していない。

 

[おはようございます。お目覚めですか?]

 

チェルノ・アルファからのアナウンスが届く。

 

[只今、当機は余力状態で稼働中、リアクター出力低下、左腕大破により出力低下、右肩部熱放射タービン喪失、頭部装甲破損、各部装甲閉鎖、パイロット保護を最優先としております]

 

アナウンスは続いていく。

 

[左腕機能並びに右肩部熱放射タービンの復旧は不可能となっております。頭部装甲第三層まで破損、メインカメラ視覚素子に異常発生、第二第三サブカメラを再配置、衝撃による装甲ダメージにより防御力低下]

 

アナウンスと共に、コンソールに機体の状態が羅列されていく。

画面に映るデフォルメされた機体図が赤く染まっていく。

無事な箇所は右腕のみ、他の箇所はほぼ全てが赤く染まっていた。

 

[当機の現在の稼働率は約40%、些か厳しいですが戦闘行動可能と判断します]

 

快音が止み、次は轟音が響き始めた。

重量物同士がぶつかり合う音、聞き慣れた音だ。

 

[ダメージ箇所の復旧を続行]

 

アナウンスを聴きながら、呼吸を続ける。

打撲による熱が酷い。投げ出された時の衝撃で内臓がミックスされた様な錯覚を覚える。

立ち上がる足に力が入らない。四肢が分離したかの様に感じる。

頭が鈍い、瞼が重い。目を開けていられない。

意識が落ちていく。

 

[パイロットの意識レベル低下]

 

意識が泥濘に沈んでいく中、五百蔵は声を聞いた。

 

『提督!』

 

小さく弱々しい声が五百蔵に届いた。

 

『提督!しっかり!しっかりしてください!』

 

自分は今、何をしている?

何をしようとしていた?

目の前で、愛する者が叫んでいるのに、何をして何をしようとしていた?

 

『冬悟さん!』

 

愛する者を守る。その為の図体の筈だ。

それが何だ、この体たらくは?ふざけるな。

 

[パイロットの意識レベル上昇]

 

ふざけるな、この図体は守る為にある。

ならば、倒れている暇はない。

立ち上がれ、拳を握れ。

さあ、第二ラウンドだ。

 

[チェルノ・アルファ再起動、リアクター出力再上昇、機体出力戦闘モード、パイロット保護を最優先、右腕『Roll of Nickels』装填]

 

拳は握った、さあ、行くぞ

後は、振るうだけだ

満身創痍の鉄巨人が唸りをあげて立ち上がる。

 

「てい・・・とく・・・?」

「おはよう、吹雪君。手間を、かけたね」

「冬悟さん!」

「榛名さんも、申し訳ないね」

「よう、叔父貴、いけるのか?」

「ああ、木曽君も手間をかけさせたね」

「気にするなよ、自分でやった事だ」

 

後は、取り戻すだけだ。榛名、吹雪、木曽に手を振り、復活した鉄鎚が愛する者達を背に

 

「いってくる」

 

一気に加速した。

 

 

 

 

 

 

 

霧島は、やりづらさを感じていた。

実力としては、簡単に倒せる程度の相手でしかない。

そんな格下の相手に、不本意な苦戦を強いられていた。

 

「この・・・・!」

 

理由は数あれど、大きな原因は一つ、胸部に納まっている駆逐艦娘『睦月』だ。

彼女は恐らく、吹雪のトラウマに関係している。ここで、彼女ごと仕留める訳にはいかない。

彼女が居なければ、一気に片はついている。だが

 

「ちっ!」

 

舌打ちを一つ、あの胸部の裂傷は五百蔵が付けたもの、五百蔵も彼女に驚いて、不意を討たれたのだろう。

そうでなければ、この程度の相手にあの様なやられ方はしない。

アレもそれが分かっているのか、こちらが装甲を掴もうと手を伸ばせば、彼女を前に出してくる様に体を捌いてくる。

実に鬱陶しい事この上ない。

 

こちらは防戦一方、やはり、最初の不意討ちで警戒させてしまったか。

とにかく、霧島が伸ばすロミオ・ブルーの腕を斬りつけるように捌いている。

厄介な、霧島は面倒を覚えた。

 

このタシット・ローニンは実に面倒で鬱陶しい相手だ。

力も技も何もかもが、自分より格下。

その癖、自分の腕をここまで捌いている。正直、捌かれようが無視して掴み、投げる事は出来る。

だが、それをすると睦月に危険が及ぶ。

生死は不明だが、霧島が知る限り死人にしては血色が良いので、死んではいない筈だ。

 

タシット・ローニンが米神を刺すように刃を振るってきたので、肘の内側に手刀を打ち込む。

左腕を切り落とすつもりで強く打ち込んだが、打ち込んだ手がグニリと肘にめり込んだ。

そう、厄介な事はこれだ。こいつはやけに柔らかい。

脆いのではなく、柔らかい。強靭で柔軟、そして、重い。

 

先程の不意討ち、そのまま投げ倒すつもりで当て身を行ったが、予想外の重量と自分の体勢の不十分で投げる事が出来なかった。投げなかったのが正解だったが。

あの細い体のどこに、あの重量を押し込んでいるのか分からなかったが、今の手刀で分かった。こいつには、骨が無い。

こいつが纏っている装甲は防御の為ではなく、自分をあの型に押し込む為の矯正器具として纏っている。

こいつは、全身の全てが恐ろしく強靭で柔軟な筋肉のみで構成されている。

生半可な打撃は通用しないだろう。五百蔵とは相性が最悪だ。

 

「面倒な・・・!」

 

このタシット・ローニンを投げる為には、腕、上半身の力だけでは崩せない。足を払う必要がある。だが、こいつの足は、鳥と言うか獣と言うか、関節が逆向きで一つ増えている。

しかも、足捌きが独特で、奇形の足も相まって払い辛い。

崩さずに投げる事も出来るが、その為には、深く手指を噛ませ、組付かないと無理だ。投げに移る途中で、手指を掛けた箇所が千切れるか、抜けてしまう。

さて、どうしたものかと、思案しつつ、タシット・ローニンが繰り出してくる腕刀を捌いていると、大型船の汽笛にも似た轟音が轟いた。

 

「義兄さん!」

「面倒をかけたね!霧島君!」

 

轟いた轟音に、霧島もタシット・ローニンも思わず振り向いた。

タシット・ローニンは、驚愕していた。もう動けないと判断して、後は仕留めるだけの相手が復活してきたのだから。

 

そして、驚愕に振り向いたタシット・ローニンの頭部に、チェルノ・アルファの左肘が振り下ろされた。

体重と助走の勢いを乗せた肘は、タシット・ローニンの頭部装甲を砕き黄緑の体液を撒き散らす。

それだけでは終わらず、落ちた頭に右拳が打ち込まれ、威力に頭が跳ねる。

砕けた装甲を散らしながら、タシット・ローニンが頭を上げようとするが、打ち込まれた左肘がそのまま残っており、頭が上がりきらない。

そこに、思い切り振りかぶった右拳が打ち下ろされた。

 

「さあ、第二ラウンドだ!そして、その子を返して貰おうか・・・!」

 

横須賀の戦いは、佳境に移った。




次回は、吹雪&磯谷&木曽、横須賀悪ガキ隊パートで、最終ラウンド!


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吹雪の決意

はい、背骨が痛い逆脚屋ですぅ!
今回で、横須賀騒動終わらすつもりが、終わりませんでしたぁ!後、新キャラ登場しますぅ!


活動報告にちょっとした募集を載せています。宜しければ、ご応募お願い致します。


「提督・・・」

 

三体の鉄巨人がぶつかり合う音が響く雨の中、吹雪が祈る様に言葉を紡いだ。

先程、再起動を果たしたチェルノ・アルファを駆り、再び戦場へと舞い戻った五百蔵冬悟、機体の各所から黒煙を上げながらも、轟音を轟かせ霧島駆るロミオ・ブルーと共にタシット・ローニンを取り押さえようとしている。

それを、食い入るように見詰めていた。

 

「提督・・どうか・・どうか・・」

「吹雪ちゃん・・」

 

その吹雪を心配そうに見詰め寄り添う榛名と先程の剣劇の負荷から呼吸を乱し踞る木曽。

やがて、ある程度息を整えた木曽が口を開いた。

 

「吹雪、あの睦月か?お前のトラウマの原因は」

「・・・!」

「当たりか」

「木曽さん!貴女!」

 

抗議の声を上げようとした榛名を手で制し、木曽は続ける。

 

「吹雪、俺はお前の過去に何があったのか、それをよくは知らない」

 

木曽は、空を見上げ大きく息を吐いた。

そして、一度目を閉じて雨露に冷やされた空気を取り込む様に息を吸い、ゆっくりと閉じた目を開けて吹雪と榛名を見据えた。

 

「良いか?吹雪。お前の過去を俺は知らない。だが、これだけは言える」

 

ああ、確信を以て言える

 

「吹雪、お前は睦月を殺していない」

 

木曽は続ける。

 

「良いか?俺が見た限りでは、睦月は死んでいない」

「それ、は・・・?」

「死人にしては血色が良い、それに、死人なら何かしら腐敗なりある筈だ。それが無い」

「でも・・・」

「良いか?吹雪。何度でも言うぜ、お前は睦月を殺していない」

 

そうだとも

 

「睦月はあそこに居て、あのバケモンに捕まってる。そんな風に考えれば筋は通る」

「睦月ちゃんが・・・生きてる・・・」

 

先程まで暗かった吹雪の瞳に光が戻り始める。

吹雪は、口の中で転がす様に自分の言葉を紡いだ。

 

 

ーー睦月ちゃんは、生きているーー

 

 

「だから、吹雪。瞳を開けろ手を伸ばせ、瞳を閉じて手を引っ込めていたら、何も掴めねぇよ」

「木曽さん」

「そうですよ、吹雪ちゃん。生きて掴み取りましょう」

「榛名さん」

 

そう言って、吹雪に笑い掛ける木曽と榛名。

 

「さて、それなら何とかして、アレから睦月を引き剥がさねぇとな・・・あ?」

 

立ち上がろうと、脚に力を入れた木曽だが、その体は前のめりに倒れていった。

おかしい、木曽は思った。確かに、自分の体はかなりの負荷が掛かっている。

しかし、立ち上がれない程ではない筈だ。現に、足には立ち上がる為の力が入っている。

そう思案し、木曽は気付いた。

自分の体を浮かす浮遊感にも似た感覚、下から無理矢理押し上げられたかのような力の掛かり方。

木曽は見た。自分が座っていた場所、アスファルトで舗装された地面が下から持ち上げられているのを。

 

ーー敵か!ーー

 

水溜まりが眼前に迫る中、吹雪が此方に手を伸ばしているのを、榛名がその吹雪を庇うように前に出ているのを、木曽は見た。

 

「吹雪!榛名!」

 

木曽は即座に、脚に込めていた力を込め直し方向転換を計った。目標点は榛名と吹雪と地面の穴との間、利き脚を前に出して地面を蹴り・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい!鈴谷早く行けって!』

『天龍こそ!』

『いいから、二人共進めよ!』

 

出そうとしたが、聞き慣れた声を聞き、一気に脱力し顔から水溜まりに突っ込んだ。

 

『いいから、その無駄にデカイケツ退けろよ!』

『はぁ?!天龍、セクハラじゃんそれ!』

『狭いんだから、早くデカケツ退けて行けよ!』

『天龍と摩耶こそ、そのデカチチもげばいいじゃん!』

『『んだと、デカケツ!コルァ!』』

 

「あの、三人共何をしてるんですか?」

「榛にゃん、おっひさ~」

 

地面の穴から、鈴谷が暢気な挨拶と共に這い出てきた。

 

「あ~、狭かった」

「まったくだ」

 

続いて、天龍、摩耶の順で横須賀悪ガキ隊の残り二人が這い出てきた。

三人は往々に肩を回したり首を鳴らしたりと、ストレッチをして吹雪を見た。

 

「お!ふぶっち、元気出た?」

「え?」

「おう!吹雪、調子はどうだ?」

「あの?」

「うるせぇよ二人共、見りゃ分かんだろうがよ!」

「あ、あの~」

「「「どうした?」」」

「木曽さんが・・・」

 

吹雪が指差す方向、自分達がアスファルトの隠し扉を押し上げた方向に、熊が居た。正確には、顔面から水溜まりに突っ込み、尻を高く上げた体勢で倒れているので、スカートが捲れ木曽のパンツが見えていた。熊さんパンツである。

 

「ブッハ!木曽!」

 

天龍が吹き出し

 

「熊!熊さん!」

 

鈴谷が指差し

 

「ダハハハ!木曽!」

 

摩耶が笑う

横須賀悪ガキ隊のコンビネーションここに極まれり。

 

「・・・お前ら、どうやって来た?」

 

木曽が倒れた体勢のままで、三人に問う。心なしか、声がくぐもっている。

その木曽の問いに、摩耶が答えた。

 

「おう、AMIDAの連中が使ってる隠し通路があってな。夕石屋の二人締め上げて、ルート聞き出して来た」

「・・・そうかよ・・・」

 

弱々しく返事をする木曽に、天龍が首を傾げる。

先程から、木曽が尻を高く上げ熊さんパンツを丸出しにしたまま動かないのだ。

 

「木曽、どうしたよ?」

「体が、動かん・・・」

 

どうやら、負荷が限界を超えたようだ。

恨めしげに、木曽が呟く。

 

「大体、お前ら、何、しに来た?」

「おやおや~、キソーそんな事言って良いのかな?」

 

鈴谷がニヤニヤしながら、木曽に近寄っていく。

 

「何が、だよ・・・」

「折角、良いの持ってきてあげたのにさ~」

 

鈴谷の合図と共に、天龍と摩耶が隠し通路から引き上げて木曽の目の前に持ってきた物、それは

 

「俺の、艤装、か・・・!」

 

装甲繊維で編まれたマントに新品の軍刀、大型の魚雷発射管と主発動機、紛れもなく重雷装艦娘『木曽』の艤装であった。

 

「さあさあ、キソー?第二ラウンドやる気はあるかにゃ?」

「当然、だ!」

 

意思を固く、決意を満たし、魂を燃やす。

それが、自分達軽巡洋艦娘の生き方だ。

魂を炉にくべろ、心を燃やせ、命ある限り走れ。

やってやろうじゃねぇか。

 

木曽の第二ラウンドが始まろうとしていた。

 

そして

 

 

「それで、ふぶっちはどうする?」

「私は・・・」

 

木曽が艤装を装備していく隣、鈴谷は吹雪に向かい、その目を覗き込む。不安と恐怖が入り交じり、その奥に少しの希望が灯った目だ。

ならばと、鈴谷はゆっくりと語り掛ける。

 

「ねぇ、ふぶっち。嫌な事や怖い事からは、逃げてもいいんだよ」

「鈴谷さん・・・」

 

だけど

 

「逃げた先には、何も無いんだ」

「鈴谷さん、それは!」

「榛にゃん、お願い」

「・・・分かりました」

 

そう、逃げてもいい。だけど、その先には何も無い。

嬉しいも悲しいも楽しいも辛いも、その時の大切は何も無くなってしまう。

だけど、逃げてもいいんだ。

鈴谷は吹雪を見据える。

 

「ふぶっち、何も無くなってしまうけど、逃げてもいいんだよ」

「鈴谷さん、私は・・・」

 

ーー私はーー

 

「逃げ、ません」

「吹雪ちゃん・・・」

「私は、もう、逃げません!」

 

怖い、正直に言えばそうだ。だが、自分が戦うよりも怖い事がある。

 

「私は、あの子から、睦月ちゃんから逃げません!」

 

あの子を、また喪う。それだけは、嫌だ。

戦うのは怖い、また、同じ様にあの子に銃口を向ける事になるかもしれない。

だけど、もう逃げないと決めたから、例えもう一度、銃口を向ける事になっても、構わない。

同じ事になるなら、その後悔を背負い生きていく。

 

もう、守られてばかりは嫌だ。

 

「私が、皆を守るんだ!」

「よっしゃ!よく言ったぜ、吹雪!」

 

黙って木曽の艤装のセッティングをしていた天龍が吹雪に駆け寄り、背中を強く叩く。

勢いよく叩きすぎて吹雪が軽く噎せたが、天龍はさして気にせず笑う。

 

「それだけ言えりゃぁ上等だ!」

「天龍さん」

「ああ、上等だ」

「摩耶さんも」

「んじゃさ、行こっか、ふぶっち」

 

鈴谷が吹雪の手を引く。

そこで、艤装のセッティングを終え、艤装の身体サポートにより負荷から復活した木曽が疑問した。

 

「んで?どうやって、あの怪獣大決戦の中に入る?」

 

吹雪、鈴谷、榛名、天龍、摩耶の五人は、目の前の海で繰り広げられる怪獣大決戦を見た。

どう考えても、あの中に入るのは自殺行為だ。

自分達では、あの中に入った瞬間にミンチになる。そんな戦いが繰り広げられていた。

 

「おい、どうすんだ?」

 

と、摩耶が

 

「隙見て突っ込むか?」

 

天龍が言えば

 

「い、いや?行けますって・・・多分」

 

吹雪が早速弱気になる。

 

「ふ、吹雪ちゃん、あまり無理しなくても良いのよ?」

 

弱気になった吹雪を榛名が擁護する。

木曽は体の状態を確認しながら「魚雷でもぶちこむか・・・ダメだな」とか、考えている。

その混乱の最中、鈴谷が

 

「あ、ほなみんだ」

 

と、言った。

瞬間、横須賀鎮守府提督磯谷穂波駆るストライカー・エウレカが、空から降ってきた。

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府工厰前には、カーキ色の鉄巨人と黒のスーツに身を包んだ麗人が居た。

 

私は 歌うの

あなたは 歌うの私を

 

「は、ははは、すげぇ・・・!」

「あれが、横須賀鎮守府艦隊総長か」

 

ねぇ お願い

私を 呼んで

鉄火の中 咲く

私を 呼んで

 

「あのデカイのが、意図も簡単に・・・」

 

麗人の透き通る様な唄が雨の中に響く海、その場にカーキ色の鉄巨人が力なく倒れ伏していた。

外的損傷は無い、周辺に戦闘の痕跡も無い。

まるで

 

「あれが、『豪運』の金剛・・・!」

 

まるで、何かしらの『不運』がカーキ色の鉄巨人『ホライゾン・ブレイブ』を襲い、糸の切れた人形の様に崩れ落ちていた。

麗人は、懐から葉巻を取り出し、形の良い唇でそれを挟み、横から差し出された火を葉巻を灯した。

 

「ふぅん?私の散歩コースにいきなり入って来たら、いけまセンヨ?」

「お姉様、こいつは敵です」

 

麗人、金剛に火を差し出した比叡が、惚けた様子の金剛に指摘しつつ、携帯灰皿を差し出す。

金剛は紫煙を吐き出し、灰をそれに落とした。

 

「敵デスカ・・・? 明石、夕張、居ますカ?」

「「はい!総長、夕石屋居ます!」」

 

金剛に呼ばれた明石と夕張が二人揃って返事をする。その挙動に一切のズレは無かった。

 

「どうやら、私の家に土足で入って来たお客様が、もう一人居るみたいデス」

「「はい!たった今、磯谷提督をデリッククレーンで射出しました!」」

 

二人揃ってのその返事に、金剛は満足げに紫煙を燻らせ、目を弓形に細める。

 

「ふふ、では夕石屋?これから使用する資材を計算して、後で提出シナサイ」

「「では!!」」

「ええ、今回使用した資材と被害額は私が支払いマス。好きにシナサイ」

 

金剛の言葉に、夕石屋の二人は揃って体を左右にくねらせ至福の表情を浮かべる。

 

「「では!ではでは!!私達はこれで!」」

「いってらっしゃい」

 

工厰に向けて駆け出す二人を見送り、金剛は比叡に向き直る。

 

「比叡、貴女も行きなサイ」

「はい、お姉様」

 

比叡は一礼すると、静かに自分の戦場へと向かった。

それを見送り、比叡から渡された灰皿に葉巻を押し付け、また歩き出した。

 

「ふふん、ファミリーが増えるのは良いデスネ」

 

これから起こる幸いを確信した様に歌う金剛が歩き去った後には、何も無くただ崩れ落ち水面を漂うだけのホライゾン・ブレイブがあった。

 




尻切れ蜻蛉感が凄い・・・
文才が欲しい


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磯谷、着弾

はい、またもや尻切れ蜻蛉ぶちかますよぅ!


あ、後ですね。友人がギャーギャー煩いので、ここで書きます。
私の作品のキャラは、好きに使って頂いて構いません!

皆、ホライゾン・ブレイブを忘れないで!



ストライカー・エウレカの視覚素子から送られてくる超高速で移り変わる景色を見ながら、磯谷穂波はこう思った。

 

ーーこわぁぁぁっ!ーー

 

工厰が襲撃され、その機能の大半が麻痺、鎮守府の主力の殆んどを封じられ、霧島と自身のイェーガーも封じられた。

運よく、霧島のイェーガー『ロミオ・ブルー』と木曽、天龍、摩耶、鈴谷、吹雪の艤装は解放する事が出来た。

だが、自身のイェーガー『ストライカー・エウレカ』は解放する事が出来なかった。

工厰内格納庫、その中のハンガーの位置が悪かった。襲撃時に生じた歪みの影響をモロに受けてしまった。

ハンガーを解放しようと、歪んだ部分を取り除こうとすれば、また新たな歪みが噛み混んでくる。下手な手を打てば、ストライカー・エウレカごと格納庫が崩れてしまう。

頭を抱えた。頭を抱えている横で、夕石屋の二人が何かを言い出した。

 

「「屋根抜いて、デリッククレーンで射出しましょう!」」

 

二人が言うが早いか、ストライカー・エウレカに放り込まれ、整備班が格納庫直上の屋根を抜いてデリッククレーンを操作してのワイヤーを落としてきた。

あれよあれよと、準備が整い、着地点観測も加賀達空母の観測機により完了した。

後は打ち出すだけ。打ち出された。

 

所属の艦娘達や整備班達が取り付けた大量のスクラップや艤装の予備パーツ等を反対側、吊り上げ用のワイヤーに括り付け落とす。

その勢いで巻き上げられたワイヤーにより、一気に跳ね上げられた。

 

ーー横須賀デリック最強伝説・・・!ーー

 

そんな単語が頭を過ったが、直ぐに通り過ぎた。

上から下へ、押される様な潰される様な急激な加重が襲ってきた。一瞬、エウレカが軋んだ。

視界が一瞬黒く染まるが、直ぐに復帰。

エウレカからのアナウンスが機体内に響く。

 

[おはようございます。当機は只今、超高速で上昇中です]

 

言われなくても分かりますぅ!

磯谷は叫びたかったが、急激な加速Gに歯を食い縛る事が限界だった。

 

[パイロット負荷を確認、負荷軽減の為干渉を開始、干渉終了。如何でしょう?]

 

流石は最新鋭機!対応が早いぜ!

とか、考えていたら体に掛かる負荷が確かに軽くなったのを感じた。

 

[加速終了、落下します]

 

負荷が軽くなったのは気のせいだった。一瞬、浮遊感が身を包み頭から落下する。今度は、下から上への加重が始まった。

 

[着地予定地点を確認、全関節ロックを解除、着地の為姿勢制御バインダー分離]

 

射出前に、両腰に取り付けられた姿勢制御用のバインダーが切り離されたのを確認して、磯谷は空中で身を回し脚から着地する体勢に移行する。

着地予定地点に視線を運べば、五百蔵のチェルノ・アルファと霧島のロミオ・ブルーが、白い細身を取り押さえようとしているのが見えた。

ふと、違和感を覚え、ストライカー・エウレカの視覚素子をズームさせ、三体の鉄巨人を見る。

 

霧島のロミオ・ブルーにダメージは無い。問題は五百蔵のチェルノ・アルファだ。

頭部装甲は凹み罅が入り、左腕と右肩部からは黒煙が上がっている。無事と言えるのは右腕だけという状態。

それでも、霧島と動きを合わせて白い細身を取り押さえようとしている。

 

二人が取り押さえようとしている白い細身に視覚素子を向け、その胸部に納められている少女を見た。

 

瞬間、腕部ブレードを展開し体勢を整える。

着地迄、後5

 

4

 

3

 

2

 

1

 

着地、同時に体と機体に強い衝撃が走り水柱が立ち自分を覆い隠す。その衝撃を身に流し、膝に力を込め爆発させ、白に向けて一気に加速を叩き込んだ。

ストライカー・エウレカの視覚素子からは、様々な情報が送られてくる。

此方の着地起きた水柱に一瞬だけ目を向けた霧島と五百蔵、今までの動きから一転し、此方を捉え瞬時に右の刃を突き出してきた白。

霧島も五百蔵も、反応が遅れている。ならば、自分はどうだと言われれば、簡単だ。反応している。

ゆっくりと、ゆっくりと刃が突き出されてくるのが見える。実際は、かなりの速度なのだろう。だが、遅く感じる。

駆け出した体勢をそのままに、右のブレードを白の腕、その右肘へと走らせる。伸びきり、装甲の継ぎ目からグロテスクな肉塊が見える。

それを断つ為に、ブレードに熱を通す。下から上へ刃が肉塊に入り黄緑の体液が吹き出る。だが、それも一瞬。ブレードに通した熱により肉の断面が焼かれ体液が蒸発する。

一気に刃を通そうとすれば、腕とブレードに強い抵抗が掛かる。重い、しかし、斬れない訳ではない。

腕の出力をあげ、腰を入れる。ブレードを噛み潰す様な抵抗を無視し、斬り上げた。

 

舞い飛ぶ白の右腕、それを見送らず白の胸部の亀裂に手指を掛けようとするが、白が瞬発し後ろに下がった為に失敗した。

曇天の下、降り頻る雨露と共に水柱が崩れ、銀灰色の鉄巨人が現れた。

 

「天呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!あの子を助けろと轟き叫ぶ!」

 

右腕を自分の顎下を斜めに通す様に掲げ、左腕は腰だめに、脚は肩幅に開き、堂々と前を向き高らかに宣言する。

 

「可愛い女の子の味方!磯谷穂波見参!」

 

言うや否や、白が銀に飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっしゃ!穂波がやりやがった!」

 

工厰からAMIDAにより運ばれた艤装を背負いつつ、天龍が胸の前で手を打ち叫んだ。

鈴谷と吹雪も、艤装のセッティングが終わり、後は海に出るだけだ。

 

「それじゃ、行こっか」

「はい・・・!」

 

鈴谷が気楽に言い、吹雪が応じる。

首に掛けていたヘッドフォンを改めて耳に当て直し、両足の推進機の出力を確認、背中の主機の出力は安定している。

 

「吹雪ちゃん、無理はしないでね」

 

先程の戦闘で艤装が大破した榛名が、吹雪の両手を握り、祈る様に告げる。

 

「大丈夫です!怖いけど、大丈夫です!」

 

怖いというのは事実だろう。瞳には恐怖の色があり、体は僅かに震えている。

だが、それ以上に決意の色が見えた。

 

「そうそう、私に天龍にキソーが居るしね。摩耶は後からだっけ?」

「ああ、ちょっとな、艤装が遅れてるからな。後から行くぜ」

 

鈴谷が笑い、榛名に向ける。

 

「大丈夫だって、榛にゃん。私達は、ただ迎えに行ってくるだけなんだから」

「迎えに?」

「おう、あそこに居る迷子を迎えに行ってくるのさ」

 

だからね、と鈴谷は天龍に続く。

 

「榛にゃんはここで待ってて、私達の帰る場所になって」

「そうだな、帰る場所が分からねぇと、また迷子になっちまう」

 

帰る場所、その言葉に榛名は一度目を閉じ、息を吐いた。

そして、自身の決意を込め

 

「いってらっしゃい、吹雪ちゃん。晩御飯までには帰ってくるんですよ」

 

言った。

 

「はい!それじゃあ、睦月ちゃんを迎えに行ってきます!」

 

木曽、天龍、鈴谷、吹雪が海に出る、それを見送る榛名と摩耶。

下唇を噛み締め俯く榛名に摩耶が運ばれてきた艤装をチェックしつつ榛名に話し掛ける。

 

「待つ女ってのは、ツラいかい?」

「自身の不出来が招いた事ですから、口惜しいですね」

 

そうかい、と摩耶は呟きチェックを続ける。

榛名が見詰める海上で繰り広げられる決戦は、佳境を迎えようとしていた。




感想や質問等、お待ちしております!


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吹雪、取り戻す

イエァ!予定通りに終わらなかったよ!

活動報告の募集は継続中です。宜しかったら


五百蔵は、打撃を続けた。

片腕のみでの打撃だ。左腕は、先程のダメージで細かな動作が難しい。

だから、右腕のみで打撃を続けた。

自慢の重装甲も限界が近い。取れる手段がそう多くは無いというのが、問題だろう。

しかし、それは自分一人の場合だ。

 

「うおっとぅっ!」

「いい加減にっ!」

 

霧島と磯谷、この二人が今は居るし、磯谷がタシット・ローニンの右腕、その肘から先を斬り落とした。

これは、大きい。

只でさえ、相手は打撃が通り辛く瞬発力の高い変則的な動きをしてくるのだ。

その動きを制限出来た。これは、大きい。

 

しかし、打撃出来る場の少なさが問題だ。

タシット・ローニンの胴には、子供が納められている。

下手に打撃すれば、彼女の命は無い。自分と同じく取り押さえようとしている二人も、それを分かっているのだろう。

磯谷は展開したブレードを納め、霧島は投げではなく手足を押さえようとしている。

自分だってそうだ。打撃を当て、体勢を崩し取り押さえる。

それを繰り返しているが、相手はうねる様なくねる様な動きで、それらを抜けてくる。

何とかして、あの子供を離さないとならない。

このままでは、じり貧になる。

 

五百蔵と霧島、磯谷が焦りを覚え始めた時

 

 

「「38番!64番!セット!」」

 

機械式の巨腕が二対、寸分違わぬ号令と共に海中から飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

ーーうひょぉー!こいつは効くぜぇー!ーー

 

明石と夕張、夕石屋の二人は機械式の巨腕を制御しながら、二人揃って思った。

二人が行っているのは、横須賀鎮守府の防衛機構に直接アクセスし、その機構を自分達で制御するという事。

コードまみれの艤装を背負い、横須賀鎮守府防衛機構にアクセス、各防衛装置から送られてくる情報を処理し、装置を操作する。

言うは簡単だが、この方法は二人にしか出来ない。

鎮守府中に敷設された防衛装置からの情報、その膨大な数量の目や手から送られてくる情報を二人で制御処理操作を行う。

特異とされるこの二人だからこそ、可能な行動。

 

多重に流し込まれてくる情報の中、二人は思い出す。

自分達が建造された時の評価『混ざりもの』を。

先代の明石と夕張が引退し、次代として建造された自分達の評価は散々だった。

建造時に何があったのかは分からない。しかし、結果自分達は混ざって建造された。

自分達は、明石であり夕張でもあり夕張であり明石でもある混ざりもの。

 

捨てられ拾われ、二人揃って踊るは横須賀鎮守府

白に斬り払われる鉄腕の数々、その数が増えてきた。

鋼鉄の嵐に迫る四人の姿を確認した。

緑黒、青、銀灰の三体の鉄巨人が白から離れた。

ならばと、二人は思考を加速させる。

 

ーーイケイケゴーゴー!ヒャッハー!ーー

 

「「25番から140番!セット!」」

 

莫大量の鉄腕が、白を捉えた。

 

 

 

 

 

 

「う、おおお!?夕石屋の奴等、やる気だな!」

 

白を飲んだ鋼の濁流を見ながら、天龍が感嘆した。

吹雪は鈴谷に導かれながら、緑黒の鉄巨人へと駆け寄る。

 

「提督!」

「吹雪君!?何を!」

 

吹雪が見たチェルノ・アルファは、満身創痍、その言葉に尽きた。

機体の至るところから黒煙と火花をあげ、重装甲には罅が入り凹み、左拳はひしゃげている。

残った左肩のタービンは排熱口が赤熱し、適時開閉している胸部の二対の排熱口も開きっぱなしで陽炎をあげている。

中の五百蔵の声も疲労の色が濃い。吹雪の耳にだけ聞こえる音にノイズが走る。

 

その、自分が知る限りで最も硬く重厚な巨人の姿に、吹雪は情けなさを覚えた。

 

ーーごめんなさい、私のせいでーー

 

自分のせいで、これ程までに損傷した。

これは、自分が背負う後悔だ。

だからこそ、吹雪は真っ直ぐに五百蔵を見詰め、宣言する。

 

「提督、私はもう、逃げません・・・!」

「・・・吹雪君、いいのかい?」

 

五百蔵はチェルノ・アルファの視覚素子から送られてくる吹雪の表情を見る。

それは、ノイズまみれで掠れた映像だったが、五百蔵はその表情に嬉しさを覚えた。

 

「はい!」

「そうか・・・」

 

あの、弱々しく落ち込んでいた子が、過去に背を向け耳を塞いでいた子が、漸く顔を上げ耳を塞ぐのを止め過去に向き合った。

我が子の成長を喜ぶ親というのは、こういう心境なのだろう。

ならば、自分に出来る事は

 

「そうか・・・なら、行こうか・・・!」

「はい!」

「五百蔵さん!」

「来ました!」

 

タシット・ローニンが、夕石屋の二人が展開した鉄腕を打ち破り、此方に向かってきた。

 

「「待てやコラー!」」

 

ぐねぐねと謎の踊りを踊りながら叫び、新たな仕掛けを発動させる夕石屋。

逆関節の脚をしならせ、加速を始めたタシット・ローニンの足下から、防壁が斜めに突き出した。

加速を始めたばかりの脚、その脛にあたる部分を強打されバランスを崩し、水飛沫を撒き散らし倒れる。

 

「「おらー!逃げんなぁー!」」

 

鉄腕で取り押さえにかかるが、残る左腕を瞬発させ鉄腕を斬り払う。

その動きに、通常の関節の制限は無かった。

肩はズレ歪み、肘は伸びて鞭の様に撓り、次々と飛び掛かってくる鉄腕を斬り払う。

骨の無い身体だからこそ出来る異形の技だ。

しかし、その技をもものともせずに、その腕を掴む者が居た。

 

「漸く、隙を見せたな・・・!」

 

霧島が撓る腕を掴み、体を回しながら捻り上げる。

霧島は考えた。この敵には、極める事の出来る関節が無い。なら、限界まで伸びた肉を捻り極めるしかない。

だから、極めて、体を回し巻き込む様に投げた。

 

タシット・ローニンは、理解が出来なかっただろう。

突然、腕が動かせなくなったと思ったら、自分の視界が急激な移動を見せた。

その癖、ふわりと、浮き上がる様に体に何の抵抗も負荷も感じない。

タシット・ローニンは訳も分からぬまま、何の抵抗も出来ずに背中から海面に落とされた。

タシット・ローニンは理解出来なかった。

ダメージは無い。なのに、体が痺れた様に動かない。

瞬発し、斬り裂く筈の体が動かない。

 

それでも強引に体に力を通そうと、全身に力を込めるが

 

「やらせるかぁぁっ!」

 

左肩に熱が刺し込まれる。突然、刺し込まれた熱に戸惑い力が抜けてしまう。

罅割れた装甲に隠された複眼が見たのは、銀灰の巨人ストライカー・エウレカがブレードを左肩に刺し込み、片方の手で胸部装甲を引き剥がそうとしていた。

 

「こんの・・・野郎!」

 

裂帛の気合いと共に、胸部装甲を引き剥がし投げ捨てる。

グロテスクな肉塊に半ば埋まっている少女、睦月の周りの肉にブレードを突き立て、睦月を引き剥がそうとした。その時

 

「う、うわぁあぁあぁあ?!」

 

タシット・ローニンの体が異常な跳ね回りを見せ、磯谷が弾き飛ばされた。

そして、睦月も肉塊から投げ出されていた。

 

「睦月ちゃん!」

「マズイ!」

 

駆け寄る吹雪と五百蔵、弾き飛ばされながらも手を伸ばす磯谷、タシット・ローニンの腕を極めていた霧島の腕が伸ばされ、睦月に届こうかという時、霧島の腕が弾かれた。

 

「な?!」

 

そこには、膨張し白の装甲を飲み込み始めた肉塊があった。

それには、タシット・ローニンの面影は全く無く、グロテスクな黄緑の体液を撒き散らす肉塊の化け物が、そこに居た。

 

ーーなんだ?こいつはーー

 

霧島は迷わず、その肉塊に手指を掛け投げに入った。

今度は動きを止める投げではなく、確実に仕留める投げだ。

しかし、その手指は呆気なく弾かれた。

 

瞬発する化け物、その動きは先程の比ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪達は疾走した。白の化け物から投げ出され宙を舞う睦月に向けて疾走していた。

 

「睦月ちゃん!」

 

高さは問題ない。投げ出された勢いと体勢が問題だ。

このままでは、海面に叩き付けられた時、最悪の事態が予想される。

 

木曾と天龍、鈴谷は見た。自分達と睦月の間の距離を。

そして、自分達の経験から、ある一つの答えを出した。

 

ーー間に合わないーー

 

自分達がこのまま速度を上げても、睦月には届かない。

諦めと焦燥、その二つが三人の心を侵食していく。

だが、吹雪は諦めていなかった。

 

ーー手を伸ばせ!届かせるんだ!ーー

 

吹雪は全力を脚に込めた。背の主機の出力を全開にし脚の推進機に叩き込む。

後の事はどうでもいい。兎に角、手を届かせる。

推進機の限界以上の出力、その力の爆発を利用し、吹雪は跳んだ。

 

「と、どけぇぇぇっ!」

 

推進機から何かが割れる音がした。だがそれでも、構わない。

今、届かなければ意味が無い。

吹雪は手を、その身を睦月に伸ばした。

 

「睦月ちゃん!」

 

睦月の手に吹雪の手が届いた。

海面は直ぐそこに迫っている。

吹雪は迷わず、睦月を抱き込み背から落ちる事を選んだ。

背から落ちれば、主機は壊れる。最悪、自分も大怪我だ。だが、睦月は助かる。

吹雪に迷いは無かった。

 

ーー大丈夫!私が守るんだ!ーー

 

海面が迫る。睦月を抱き締める。来るであろう痛みと衝撃に吹雪は覚悟を決めた。

しかし、それらは来なかった。

 

「ギリギリセーフ!」

 

木曾、天龍、鈴谷の三人が吹雪と睦月を寸でのところで受け止めていた。

 

「よっしゃ!」

「ギリギリ!ギリギリセーフだよ!」

「危うかったな」

「皆さん・・・」

 

四人が安堵の表情を浮かべる。吹雪達の手は届いたのだ。

安堵するも束の間、吹雪は睦月の顔を覗き込み顔色と脈を確かめる。

顔色は悪いが、脈は確かにある。

 

「睦月ちゃん!お願い、目を、目を開けて・・・」

「吹雪、どうやら脈はあるみたいだ。早くここを離れた方がいい」

「そうだな」

 

木曾と天龍が辺りを警戒しつつ、歩を進めようとした時、天龍が叫んだ。

 

「木曾!右だ!」

「な!」

 

叫んだ天龍と反応した木曾の二人を、長い蛇の様な白い何かが薙ぎ払った。

二人は寸でのところで近接装備の刀を抜き、その一撃を防いだ。しかし、不意討ちに反応しきれず鈴谷、吹雪、睦月の三人から離されてしまう。

二人は自分達を薙ぎ払った何かの正体に気付いた。

刀から通じる鋭い衝撃、打撃ではない、これは斬撃だ。

 

「嘘だろ?!」

「何で?!」

 

二人は驚愕した。二人だけではない。吹雪も鈴谷もだ。

それは、切り口から黄緑の体液を流しながら、主が居ないままに現れた。

 

「ほなみんが斬った腕・・・!」

 

磯谷が斬り落としたタシット・ローニンの右腕、その肘から先が異形の蛇になって、吹雪達に襲い掛かった。

風雨を払い、極厚の刃の薙ぎ払いが吹雪と鈴谷に迫る。

木曾と天龍は、素早く体勢を立て直し三人に元に走る。

 

「鈴谷!二人を連れて逃げろ!」

 

天龍が叫び、鈴谷が吹雪を庇う様に伏せる。横薙ぎの一撃は空を斬り、蛇は空振りの勢いに体勢を崩した。

その隙に、鈴谷は吹雪の手を引き逃げようとするが

 

「え?」

「こんな時に!?」

 

吹雪の推進機が止まった。先程のジャンプ、その負荷がここに来て吹雪の足を止めてしまった。

がくりと、膝を落とす吹雪。驚愕に染まる鈴谷、砲と魚雷の照準を合わせ、蛇を狙い撃とうとする木曾と天龍、

背後から死が迫る。それでも吹雪は、諦めず死に立ち向かった。

 

「あ、ああああっ!」

 

過去の恐怖、後悔、それらを振り払い吹雪は連装砲の引き金を引いた。

 

ーー私が守るんだ!ーー

 

放たれた砲弾は真っ直ぐに蛇の頭部に向かい、その刃を弾いた。

 

「ふぶっち!」

「あ・・・」

 

だが、その覚悟を嘲笑う様に蛇は刃を降り下ろした。

刃は真っ直ぐに吹雪に落ちてくる。

木曾の魚雷も天龍の砲も、鈴谷も間に合わない。

ゆっくり、ゆっくりと流れる景色、その中で吹雪は睦月を庇い刃に背を向ける。

もしかしたら艤装だけで止まるかもしれない。

もしかしたら自分で刃が止まるかもしれない。

そんな望みを胸に、来る刃に歯を食い縛った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺されてぇかぁ!!」

 

吹雪に向かい落ちていた刃は、一気に飛び込んできた摩耶の鉄拳に砕かれた。

否、唯の鉄拳ではない。自分の左腰を囲う改二艤装、船体を模した主機を使った巻き込み式ラムアタックだ。

倒れる蛇、着地する摩耶、水柱を背に摩耶は朗らかに笑った。

 

「よう!遅れたな!」

「摩耶さん!」

「摩耶!」

「おう!吹雪、どうしたよ?」

 

「「後ろー!!」」

 

笑う摩耶の背後、刃を砕かれた蛇が立ち上がり、尾を叩き付けようと振り上げていた。

しかし、摩耶は笑みを崩さない。

何故なら

 

「気合い、入れて、いきます!」

 

尾を振り上げた蛇の姿が見えなくなる程の弾幕が、吠声と共に蛇を飲み込んだ。

 

「比叡さん!?」

「あ、吹雪ちゃん!大丈夫でしたか!」

 

蛇に弾幕を叩き込みながら、比叡が吹雪に駆け寄って来た。

背の×型のアームの先端に重機関銃を四つ束ねた大型の箱状の銃器『オートキャノン』

それを各アームに一つ、両手に二つの計六つの超弾幕、

既に蛇は形すら残っていなかった。

 

「は、ははは、比叡、やり過ぎじゃね?」

「お姉様の家に土足で入り、吹雪ちゃんに刃を向けた。これでも、最大限に譲歩したのですが・・・」

 

ーー怖い・・・比叡、怖い・・・ーー

 

冷たい目で言い放つ比叡に、全員がそう思った。

 

「さてと、早く戻ろう。睦月を夕石屋の二人に看せねぇと」

 

天龍が安堵の息を吐き、陸に目を向けた時、鉄鎚の一撃が化け物を捉えていた。

 




次回、次回こそ、横須賀騒動を終わらせるんだ!

次回『Roll of Nickels 』炸裂


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オッサン、決着

戦闘終了!!やっと!やっとだよ!やっと終わったよ!
次回か次次回辺りからチャットネタを開始します!
宜しければ、活動報告の募集をご覧ください。


霧島は疾駆した。

体を走らせ、力を通し、目の前の化け物を捉えようとした。

 

ーーこれは・・・後で要調整ですね・・・!ーー

 

しかし、化け物に追い付けない。

技も力も通じる。だが、動きが重い、遅い。

己が纏う鉄人が己に着いてきていない。

経験と調整の不足、この二つが霧島の脳裏に過った。

海上での戦闘経験は、五百蔵と磯谷の二人よりもあると自負している。しかし、イェーガーを纏っての戦闘は、これが初めてだ。

 

ーー副長たる者、これしきはね除けずして何とするーー

 

化け物の動きは、俊敏だが単調だ。

恐らく、あの睦月を制御に使っていたのだろう。先程までの、キレが無い。

膨れ上がった醜悪な肉塊が、己の瞬発に任せて動いているだけだ。

しかし、それが厄介極まりない。

例え、掴んで投げに移ったとしても、即座の瞬発で手指を外されてしまう。

完全に本能で動く獣だ。

 

ーー提督と義兄さんは!?ーー

 

視線を巡らせ、二人の位置を確認する。

五百蔵も磯谷も、撤退する吹雪達との間に立ちはだかる様に立ち回っている。

 

吹雪達の護衛には比叡が付いた、夕石屋が仕掛けを発動させている。ならば、一先ずの心配は要らないだろう。

 

「ふっ!」

 

霧島はロミオ・ブルーの右腕、その手首を射出し、腕のリーチと掴みに威力乗せた。

腕の伸ばしと手首の射出、この二つで深く掴み一気に投げる。

 

化け物の瞬発と豪腕の射出の連続、夕石屋の二人が一斉に仕掛けを発動させ、五百蔵と磯谷が駆け込む。

三人が勝負を懸けて、疾駆した。

 

 

 

 

 

 

ーーうっへへへぇ、吐きそーう!ーー

 

夕石屋の二人は迫る嘔吐感の中、踊り仕掛けを発動し続けていた。

化け物に破壊された機材からのフィードバック、流れ込んでくる情報の津波が二人の神経を焼いていた。

 

焼かれて焼かれる、掻き毟る様な熱と痛みが走る。

普通の艦娘なら、負荷に耐えきれず壊れる。

その熱と痛みの中、二人は踊った。

 

ーーあ・・・ちょっと出た・・・ーー

 

少し、咽が焼けた。口と鼻に酸味が広がる。

だが、二人の踊りは止まらない。

ぐねぐねうねうねと踊り、鉄腕を防壁を海中から召喚する。

 

ーーお?おおぉぉ!ーー

 

吹雪達が目的を果たして、此方に戻ってきているのが見えた。

五百蔵と磯谷も、それを守る様に立ち塞がっている。

霧島の動きが早くなった。勝負に出た。

なら、自分達がやる事は一つだ。

 

「「うっひょおおぉぉ!在庫一掃セールじゃああぁ!」」

 

戦場に仕掛けられた設備を一斉に起動した。

 

 

 

 

 

 

三体の鉄人と大量の鉄腕と防壁が化け物を打撃しているのを背後に、吹雪達が睦月を取り戻し帰ってきた。

 

「お願いします!睦月ちゃんを!」

 

戻るなり、吹雪が夕石屋の二人にすがり付く様に叫んだ。

それに対し二人は笑い応えた。

 

「「任せなさい!夕石屋に不可能は無いのです!」」

「頼むぜ」

「お願いします!」

「「ソッコで治療決めてやりますよ!」」

 

吹雪が二人に頭を下げ、サムズアップをした夕石屋が治療の為に睦月を運ぶ。

それを見届けた後、木曾が思い出した様に口にした。

 

「そう言えば、叔父貴を投げ飛ばした奴はどうなってる?お前らが、工厰から出てきたって事は対処済みか?」

 

木曾の言葉に、比叡が何処か気まずそうに答えた。

 

「えっとぉ、お姉様の散歩コースに出現しまして・・・」

「そのまま、か・・・」

 

納得いかねぇ、木曾は思いつつも、まあ、そうなるか・・・とも思った。

横須賀鎮守府総長、その豪運にかかれば、化け物も不運に死ぬしかないのだろう。

理不尽極まりない幸運だ。

 

「それなら、残りはあそこの化け物一体か」

「油断すんなよ、天龍。まだ何か居るかもしれねぇからな」

 

摩耶が天龍に喚起する。

敵はあの二体とは限らない。各員が準備を進める中、榛名が駆け寄って来た。

雨に濡れそぼっていたが、自分達よりかはマシだろう。雨水以外に海水も被ってるし、特に天龍と木曾。

 

「吹雪ちゃん!皆さん!御無事で?!」

「榛名さん!」

「おおーう、榛にゃん。無事無事ー」

 

駆け寄って来た榛名に吹雪と鈴谷が応じ、榛名がずぶ濡れの吹雪を抱き締めた。

 

「榛名さん?」

「良かった・・・無事で良かった・・・!」

 

涙ながらに呟き抱き締めを強くする榛名、その榛名の背に手を回し胸に顔を埋め抱き返す吹雪、互いに震えていた。

無事を喜ぶ震えと振り返してきた恐怖による震え、二人は違う震えの中、互いの無事を喜んでいた。

 

「よしよし、それじゃあ、ふぶっちと榛にゃんは・・・」

 

鈴谷が二人に退却を指示しようとした時、激音が連続で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

磯谷は思った。

 

ーーもーう、嫌ぁー!ーー

 

ロミオ・ブルーの時もそうだったが、私はグロテスクはNGだ。

某傘の名前の会社が暗躍するゲームはギリギリ大丈夫だが、宇宙最強のエンジニアが生き残りたいゲームはアウトだ。

基本はアニマルのフォレストやポケット怪物が好きだ。

怪物猟師も嫌いじゃない。

 

ーー若葉ちゃんはグロゲーバッチコイだけど!ーー

 

だが、エロはもっと好きだ。何て言うかこう、好きだ。

エロゲーギャルゲーバッチコイは私だ。

 

「磯谷嬢!」

 

おや?グロテスクな塊が突っ込んできたので、軽く避けて二、三度斬り付ける。

手応えが重い、先程より肉の密度が上がっている。

肉というより、分厚い革を斬り付けてる。そんな手応え。

とっとと終わらせたい。

終わらせて

 

『テーバイ神聖隊VSスパルタホモ軍団 ~女なんかいない!正気になれ!~』

『今川さんを夜這い!朝駆け桶プレイ!』

 

をプレイするんだ!

あ、戦国繋がりで『トシーとマツ』もやりたい。

それに、吹雪ちゃんとご飯行って、鈴やん達と買い物するんだ!

おっと、いけない!睦月ちゃんを忘れるところだった。

皆でゲーセン行こう!

 

だから

 

「こぉーんチクショォー!」

 

磯谷は未だ暴れ続ける肉塊に対し、ストライカー・エウレカの主駆動系を唸らせ加速、腰を下ろし拳を打ち込む。

一発目は動きの縫い止め、二発目はこちらを意識させる、三発目からは拳部のメリケンサックを展開し殴る。一発ではない。ストライカー・エウレカの駆動系と自分の体力が許す限りの連打を叩き込む。

 

怪物は戸惑っていた。連打など、簡単に無視して瞬発出来る筈の体が動かない。

感覚はある。しかし、動かない。

麻痺、その感覚が全身を蝕む。

これは、目の前の銀灰色の巨人の拳が原因だ。

拳が打ち込まれる度に、麻痺の度合いが強くなっている。

銀灰色の巨人の関節から陽炎が上がり始め、連打が鈍り始めた。

 

怪物は好機と見て麻痺が及んでいない箇所を瞬発させ、銀灰色の巨人の首をはねようとしたが

 

「霧島ちゃん!」

 

視界の急速な回転、引き上げられる様な押し上げられる様な力が襲う。

急速な回転、頭上に海面が迫る。

怪物は肉を締めてダメージに備えた。

しかし

 

「その程度で、どうにかなると?」

 

衝撃が突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

霧島は思う。

 

ーー投げ技はいいーー

 

何故なら、打撃を通り辛い相手も頭から落とせば、簡単に死ぬから。

霧島も打撃は得意だ。しかし、持って生まれた対格差や筋肉量や骨格がある。

どうやっても、打撃が通らない相手がいる。

だから、投げる。

 

投げは、相手を少し崩してその方向に誘導すればいい。

そうすれば、すぐに決まる。

どんな相手も、重心は存在する。

だからそれを崩せばいい。

 

だから、投げた。

 

化け物が肉を締めて耐えようとしたが、意味は無い。

その程度の締めで、どうにかなるような投げ方はしていない。

 

海面に垂直になるよう落とす。

これにも、脳のようなものはある筈。

だから、頭から落とす。

 

化け物のサイズと投げの威力に見合った水柱が上がる。

 

「義兄さん!」

 

死ななかった。霧島は内心、舌打ちをしつつ五百蔵を呼ぶ。

衝撃で動けない化け物に、鉄鎚が降り下ろされた。

 

 

 

 

五百蔵は駆けた。

投げ落とされ、身動きがとれない化け物に左腕を叩き付けた。

肉の弾力が左の鉄鎚を弾き返してくる。ダメージを負った左の装甲と腕が軋む。

だが、その反力を無視して、もう一度叩き付ける。

 

[右腕『Roll of Nickels』起動準備、右腕各部装甲閉鎖、右拳部関節固定、弾頭装填、テスラコイル発動、着火カウント5]

 

アナウンスと共に、五百蔵は拳を振り上げる。

押さえ込んだ左腕の下では、化け物が何かに気付き脱出しようともがく。

しかし、五百蔵は更に加重を掛けて逃がさない。

 

[カウント4 3 2 1]

 

 

 

 

[0『Roll of Nickels』射出]

 

右腕内部、スプリング機構に装填された弾頭にテスラコイルの膨大な発電量を用いて着火、腕部薬室内で圧縮された爆発の威力が拳を射出する。

 

チェルノ・アルファの右拳が水蒸気の輪を抜け、化け物に着弾した。

その瞬間、戦場から音が消え、海が空気が地面が震えた。

化け物は着弾点を中心に、潰れひしゃげ炸裂した。

拳が直撃した頭部と上半身は跡形も無く消し飛んだ。

 

固定された拳の関節が解放され、上腕の排気口から莫大量の白い蒸気が噴き出す。

 

「霧島君、磯谷嬢。敵は?」

「残敵無し、反応もありません」

「終わりですね!」

 

後に残るのは、炸裂した肉片と原型を留めていない肉塊のみ。

戦闘終了だ。

 

「五百蔵さん?」

「義兄さん?」

「磯谷嬢、霧島君。すまんが手を貸してくれ」

「え~と、まさか?」

「そのまさかだ」

 

[チェルノ・アルファ活動限界、リアクター出力低下、予備動力起動]

 

「帰りましょう。義兄さん、司令」

「ああ、そうだね」

「五百蔵さん、重い・・・」

 

磯谷と霧島に肩を貸してもらい、何とか工厰へと歩いていく五百蔵。

ここに横須賀騒動は終結した。




次回
後片付け


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番外編 レナの一日

申し訳ない、本編はまだです。

取り合えず、活動報告に書いた番外編でお茶を濁していくスタイル。


どうも!どうもどうもどうもどうも!恐縮です!

突然ではありますが、本日は北海のマスコットちっちゃいレ級ことレナちゃんの一日に密着したいと思います。

 

ではでは、早速行きましょう!

 

 

 

「レ、レッキュ!」

 

彼女の一日は朝日と共に始まります。朝日が昇ると同時に、五百蔵司令が日曜大工で作った小屋から勢いよく飛び出し、小屋の周りをグルグル回って鼻を鳴らして、漁港に向かいます。

 

「レ!レレレ!レッキュ!」

「おぅ、レナちゃん。今日も勢いいいな!」

「レレレレェレ!」

 

漁労長の鈴木浩一さんに誉められて、ご機嫌のレナちゃん。

鈴木さんの周りをグルグル回っていますね。

 

「ほら、今日の分だ」

「レ!」

 

鈴木さんから、売り物にならない魚を貰って更に勢いよく鈴木さんの周りをグルグル回るレナちゃん。

魚を掲げて、これまた勢いよく漁港を飛び出して行きました。

何処に行くのでしょう?

 

 

 

 

「レ!レレレ!トーゴレッキュ!」

「んあ゙、レナか・・・」

 

五百蔵司令と吹雪さんが住む北海鎮守府の窓から勢いよく飛び込みましたね。

五百蔵司令は執務室の使い古されたソファーで眠っていましたが、レナちゃんに顔をベシベシ叩かれてノソノソと起きてきましたね。

 

「レッレ!トーゴレッレ!」

「あ゙~、分かった分かった。今、焼くから待ってろ・・・」

 

五百蔵司令は、朝に弱い様です。

台所に向かう足取りがフラフラしてます。

レナちゃんが持ってきた魚を焼き始めましたね。

レナちゃんは自分の尻尾を追い掛けて、その場でグルグル回っています。

 

「おはよ~ござます・・・」

 

あ、吹雪さんが起きてきましたね。どうやら、北海鎮守府は二人は朝に弱い様ですね。

しかし、流石は吹雪さん。横須賀鎮守府の戦艦組と空母組を壊滅させた食欲は朝からフルスロットルです。

鼻をヒクヒクさせながら五百蔵司令が焼いている魚を寝ぼけ眼でロックオンしています。

 

「ん~、吹雪君。顔洗って来なさい」

「は~い・・・」

「レェレ!フブキレェレ!」

「あ、レナちゃんおはよ~」

「レッレレレレ!フブキ!」

 

ごく当たり前に吹雪さんの頭に乗ってますね。

 

この後、五百蔵司令が焼いた魚を食べて、吹雪さんと遊んだ後、勢いよく北海鎮守府を飛び出して、また何処かに駆けていきました。

 

 

 

「ヲ、レナダ!」

「レ、レッキュ!」

 

空母ヲ級のヲガタの家に向かった様です。

 

「ヲ、ヲヲヲ、ヲッヲ!」

「レ、レッキュ、レッレ!」

 

人間語を話せる筈なのに、話してませんね。

どうやら、ヲガタはアホの子の様です。

 

「ヲ、ワスレテタ!」

 

バカでしたね。

 

 

 

 

「ア、レナダ!」

「レレレ!」

「アア、レナオ早ウ」

 

港湾棲姫の港さんと北方棲姫のほっぽちゃんです。

朝の散歩ですか?

ああ、私の事はお気になさらず。

 

「ホッポヲ幼稚園ニ送ルツイデノ散歩ダ」

「ポポポ!キョウハヨウチエン!」

 

そうなんですか~。

おや?レナちゃんは何処に?

 

「レナナラ商店街ニ行ッタゾ」

 

そうですか。ではでは、お二方もお気をつけて

 

「アア」

「ポポポ!」

 

 

 

レナちゃ~ん、何処ですか~?

あぁ、居ました居ました。

あの御方に遊んでもらってますね。

 

「あら、お久し振りです」

 

どうもです、恐縮です。

 

「レッレ」

「はい、レナちゃん。これは何でしょうか?」

「レ~?」

 

あぁ、成程物当てクイズでしたか。

 

「レ、レッキュ!」

「はい、正解です。レナちゃんの大好きな鮭ですよ」

 

塩鮭を貰って食べてますね。

え?磯谷司令ですか?

この間、金剛総長から貰ったお小遣いで、空き部屋を改装してゲーム部屋とかにしてましたね。

そこで、鈴谷さん達とゲームしつ遊んでますよ。

なんでも、最新型のゲームを買ったらしくて、ゲーム好きのメンバーが部屋に入り浸ってますよ。

え?仕事ですか?ああ、仕事なら司令のスケジュールを比叡さんが完全に秒単位で管理してますから、サボれなくなってます。

 

おや?レナちゃんは?

んむぅ、これは見失ってしまいましたね。

仕方ありません、今回はここまでにしましょう。

 

 

ではでは、以上でレナちゃんの一日を終わります。

 

横須賀鎮守府重巡洋艦艦隊諜報班班長青葉でした~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のレナ

 

「レッレレッレ!」

「アミー!」

 

ほっぽが飼っているAMIDAの『アミダ!』と一緒に電柱の周りをグルグル回っていました。




AMIDAのアミダ!

ほっぽが町の裏山で捕まえたAMIDA。
アミダのダに明日への希望や立ち向かう勇気を込めるのがポイントらしい。


ギャグ編への伏線をこっそり入れてみたり・・・


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オッサン、後片付け

第一シーズン終了?
次回から第二シーズン!



「報告は以上です」

「うん、ご苦労様」

 

横須賀鎮守府執務室に二人の人影があった。

一人は横須賀鎮守府提督磯谷穂波、一人は横須賀鎮守府重巡洋艦艦隊諜報班班長『青葉』であった。

磯谷は青葉から受け取った書類の束を捲りながら、溜め息を吐く。

その表情はポジティブな彼女には珍しい陰鬱としたものだった。

 

「ねえ、青葉ちゃん。私、有給取っていい?」

「比叡さんの許可があればいいのでは?」

「ダメだ~それ~」

 

椅子に沈み込む様に倒れる。軽く足を伸ばしてぐるぐる回り、書類を放り出す。

机に放り出された書類に並ぶ文字の羅列

 

『陸軍新型戦車[鉄蛇]強奪』

 

「青葉ちゃ~ん」

「司令か~ん」

「「くっそめんどくせぇ!!」」

 

二人しての魂の叫びであった。

 

「大体さ、何?このスペック?!現存のイェーガー全部持ってきて、やっとどっこいじゃん!!」

「陸軍バカですよこれ!!バカですよこれ!!これ本当に造ったんですか?!」

 

二人でバカバカ叫びながら、書類を見て笑う。笑うしかない、このスペック。

 

装甲、チェルノ・アルファが紙装甲

パワー、イェーガー全部足してもムリ!

スピード、何とかなる?

サイズ、100mクラスとか何それ?バカじゃないの?

 

簡単に書くとこんな感じ。

実に、頭の悪い設計、その上、戦車のくせして車輌型ではなく、マジもんの蛇型なのだ。

100mクラスの鉄の蛇だ。

こんなもん、どうやって強奪されたんだ!

 

「しかもですよ!あきつ丸さんの話だと、この強奪されたのは二号機だそうです!」

「二号機強奪キタコレ!」

「更に!二号機だけ警備が薄かった!」

「ヤッタゼ!」

 

二号機は強奪される運命。

二人で一頻り笑って騒いだ後、揃って溜め息を吐いた。

馬鹿馬鹿し過ぎて笑えない。

 

「はぁ~、青葉ちゃん」

「なんです?」

「睦月ちゃんの容態は?」

 

笑えなくなったから、本題へと入った。

先の横須賀騒動で化け物から救出した駆逐艦娘の睦月。

その容態についてだ。

 

「夕石屋の話によると、意識が戻らないそうですね」

「そっか」

「他にも問題はあるみたいですが、目下の問題はそれらしいですよ」

 

手術も終わり、経過観察も『ある一点』を除いて良好。

しかし、意識が戻らない。

吹雪と榛名、鈴谷や木曾に天龍、摩耶。変わり変わりで看病しているが、一向に意識が戻る気配は無い。

 

「五百蔵さんは?」

「全身打撲に左腕に罅が入ったそうです」

「・・・それだけ?」

「それだけです」

「あの人さ、時々人間じゃないんじゃないかって思うんだけど・・・」

「後、左肩の亜脱臼」

「人間辞めてないかな?」

 

眇になりながら、書類を捲り目を通していく。

その数ある中から、興味深いものを青葉に聞いた。

 

「ねえ、青葉ちゃん。この宿毛の話」

「ああ、それですね。なんでも、艦隊が移動中に亀とサイを合わせてグッチョングッチョンにキモくした生き物が突っ込んできて、宿毛の大和さんが鉈で殺したとか」

「流石としか言い様がないね」

 

宿毛の大和、据わり目にくわえタバコに作業着姿の大和。

流暢な土佐弁を喋り、射撃が下手で得物は鉈や斧にハンマー等の超近接仕様の艦娘。

その大和が出会した怪生物、知る者は『突撃級』と呼ぶ生物だが、二人は知るよしも無い。

 

「んでさ、陸軍はアレかな?爬虫類系が流行り?」

「この『機竜』が爬虫類系かは別として、蛇に竜ですから長物が流行りですかねぇ」

「でもさ、機竜ってSFじゃん。陸軍疲れてる?」

「音速飛行が当たり前の機械の竜ですからね。過労でしょう」

「でもあれ、造れるの?今の技術で」

「無理ですね。私は技術畑の者じゃないですが、あれを飛ばす飛翔器の再現は不可能ですよ。あの御方の協力を仰がない限りは」

「そっか~」

 

書類を放り出して、窓の外を眺める磯谷。

陽気の中、工厰の鎚音が微かに聞こえてくる。ついでに、榊原班長の怒声も聞こえてくる。

工厰の復旧も早く済みそうだ。

 

窓の外から視線を外し、仕事を再開しようとした時、執務室の扉が勢いよく開かれた。

いきなりの事に青葉と磯谷が固まり、そちらを見ると

 

「お!居たぞ!穂波だ!」

「よっしゃ!」

 

天龍と摩耶、横須賀悪ガキ隊の二人だった。

二人は執務室に入るやいなや、天龍が磯谷を脇に抱えついでとばかりに摩耶が青葉を肩に担いだ。

 

「えと?」

「天岩戸だ」

「は?」

「おら!一発芸しろよ!」

「何が?!」

「まだ早ぇよ天龍」

「そうか!おら、行くぞ!」

「ちょっ?!何?何なのいったい?!」

「「天岩戸じゃぁぁぁぁ!」」

 

磯谷と青葉を運び、執務室を後にする二人。

執務室には嘘か真か分からない情報が書き記された書類が机にあるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「洋、貴女は優しいデスネ」

「何の事ですか?金剛さん」

 

横須賀鎮守府屋外テラス、そこに和装と洋装の二人が席につき、話をしていた。

 

「先の騒動でもし何かあれば、自分の軍勢を投入する準備をしていた癖ニ」

「おや、バレてましたか」

「ここは私の家デスヨ」

 

紅茶を一口啜り、話を続ける。

 

「そう言う金剛さんこそ、あの介入は過保護じゃないですか?」

「ふふん、私散歩コースに入ったのが悪いのデス」

 

笑いながら、もう一口紅茶を飲む。

陽気の中、二人はゆっくりと語りだした。

 

「もう、私達の時代ではありません」

「そうデスネ。今はあの子達の時代デス」

 

 

『天岩戸!天岩戸だよ!』

『だから何?!どういう事!』

『一発芸だ!』

『何で私まで!?』

 

 

「あの子達は、もう・・・!」

「まあ、良いじゃないデスカ。あれが、あの子達のやり方デスヨ」

 

先頭を行く天龍達四人を見送り、金剛は黒い手袋を嵌めた左手を陽気に掲げる。

その中の一本、動かない喪ってしまった薬指、その義指を撫で、洋に向き直る。

 

「この戦いはあの子達、今を生きる子達の戦いデス」

「私達、過去の遺物、負の遺産が進んで関わるべきでは無いですね」 

「そう言う事デスヨ」

 

過去が現在に必要以上に関わるべきではない。

その言葉が、金剛が燻らす葉巻の煙と共に揺らいで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

病室に三人の男女が居た。一人は左腕を吊り下げた天を突くような大男五百蔵冬悟、一人は黒いパーカーにヘッドフォンの少女吹雪、一人は巫女装束に似た服装の榛名。

其々が、病室にあるベッドで眠る少女睦月を見詰めていた。

 

「睦月ちゃん・・・」

「吹雪君、大丈夫だ。直に目を覚ますさ」

「はい・・・」

「吹雪ちゃん、少し休みましょう」

 

睦月はまだ目覚めない。

 

「おらぁ!」

「は?」

 

静かな病室に、磯谷と青葉を担いだ天龍と摩耶が飛び込んできた。心なしか、担がれた二人がぐったりしている。

担いでいない手には、パーティーグッズや菓子類を詰め込んだ袋を提げている。

吹雪達三人は固まった。意味が分からなかった。

 

「よっす!吹雪、騒ぐぞ!」

「え?」

「うっす、叔父貴と榛名!騒ぐぞ!」

「え、ちょっ?」

「君達、病室で何を?」

「天岩戸だ!」

 

訳が分からない。

 

「あ~、もしかして天照の天岩戸か?」

「そうそう、それ!」

「騒いでりゃ気になって、目ぇ覚ますって!」

「あ、あの?」

「ほれ、吹雪」

 

摩耶が玩具のラッパを差し出した。

吹けという事だろうか?

 

「おい・・・!」

「叔父貴、俺らはバカだから難しい事は分からん」

 

天龍が鼻眼鏡を付けながら続ける。

 

「けどよ、塞ぎ込んでも意味ねえよ。笑わして目ぇ覚まさしてやろうぜ」

「・・・提督、榛名さん。私、吹きます!」

「「は?」」

 

吹雪が息を吸い込み、ラッパを一気に吹き鳴らす。

友の目覚めを願って

 

 

 

 

 

 

 

少女は暗闇の中に居た。

迷い佇み、暗い暗い汚泥に満たされた暗闇に佇んでいた。

 

バシャリと、重い汚泥を蹴立てる音がした。

少女はその音から急いで逃げ出した。

 

「ハァ、ハァ!」

 

足が重い、前に進めない。後ろから白い化け物が迫ってくる。

走る、走る。どこまで走ればいいのだろう?

分からない

もう化け物が直ぐそこまで迫っている。

 

「誰か、助けて・・・!」

 

白い刃が少女に降り下ろされる。

しかし、その刃は、汚泥から生えた鉄腕に砕かれた。

 

「え?」

 

化け物は分からなかった。見れば、自分の全身を様々な鉄腕が拘束し、黒い人型の何かが纏わりついている。

身動きがとれない。

 

「邪魔ですよ」

 

突如掛けられた声、化け物はその声の主を見る事は出来なかった。

異常な力で降り下ろされた鉄鎚により、頭を、体を潰されたから。

 

「久しぶりです、睦月ちゃん」

「ふ、ぶき、ちゃん?」

 

化け物の残骸が汚泥に飲み込まれる。僅かに足掻く様な動きを見せるが、人型の何かと鉄腕により問答無用に汚泥に引き摺り込まれた。

残るのは、巨大な二本の鉄鎚を持った吹雪と追われていた少女睦月だけ。

 

「良かった、今度は届いたんだ」

「吹雪ちゃん、何を」

 

言っているの?

その言葉は睦月の口から出る事は無かった。

何故なら

 

 

『ふ、吹雪君?!』

『よっしゃ!吹け吹け吹雪!』

『おい!穂波起きろ!』

『ふぇ?何?何なの?!』

『何か一発芸やれよ!』

『あ、あの皆さん、ここは病室ですよ!』

『榛にゃん榛にゃん!はい、榛にゃんとオジサンのタンバリン』

『鈴谷さん!』

 

 

暗闇の向こう、明るい向こうから騒がしい声や音が、聞こえてきたから。

 

「これは?」

「ねえ、睦月ちゃん。お願いがあるの」

「え、あの吹雪ちゃん。これ、どうなって」

「睦月ちゃん『私』を助けて」

「え?」

「さあ、行って。行って、『私』を助けて」

 

私は届かなかったから、手を伸ばせなかったから。

 

「ふ、吹雪ちゃんも行こうよ」

「ううん、私は行けない」

 

黒い吹雪が睦月の背を押す。

睦月は黒い吹雪に手を伸ばすが、その手は届かなかった。

 

「吹雪ちゃん!」

 

黒い吹雪が寂しげに睦月に手を振り、睦月は暗闇の中から明るい向こうへと追い出された。

 

「バイバイ、睦月ちゃん。『私』をお願い」

 

 

 

 

 

 

「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!」

「プオー!」

 

騒がしい声や音が病室に響く。

その中で、睦月は目を覚ました。

 

「う、ん・・・?」

「プオー・・・睦月ちゃん!」

「え?あれ?吹雪ちゃん?何でラッパ吹いて?」

「おう!起きたか!」

 

鼻眼鏡天龍と吹き戻し摩耶にパーティーハット鈴谷が、素早く反応する。

側にはタンバリンオッサンとタンバリン榛名が居た。

 

「おい!穂波!夕石屋呼べ!睦月が起きたぞ!」

「総長も呼ばないと!」

 

騒がしい周囲を他所に、吹雪が睦月に抱き着いた。

 

「良かった・・・」

「吹雪ちゃん・・・」

「良かった・・・睦月ちゃん、生きてた・・・良かった・・・!」

「・・・ごめん、ごめんね・・・吹雪ちゃん・・・!」

 

二人は泣いた。泣いて喜んだ。

自分のせいで、失った、もう会えないと思っていた相手。

その相手が、傍に居るのだ。

気を効かせたのだろう。いつの間にか、病室には二人だけになっていた。

 

「睦月ちゃん、私色んな事があったよ」

「うん」

「色んな人に会ったよ」

「うん」

「二人で、皆に会いに行こうよ」

「うん」

「それで、皆で遊ぼう」

「うん、そうだね・・・!」

 

二人は泣きながら笑い、未来を語った。

不幸はもう無い。後は、先の幸いを望むだけだ。

 




宿毛の大和

沖にある小さな小島で発見された大和。流暢な土佐弁で喋る。何時でも作業着姿で愛用の煙草はわかば。

他の大和と違い、射撃が壊滅的に下手。
なので、初めから持っていた峰がハンマーになっている変わった鉈や斧を使う。
現状における最高戦力の一人。



機竜

機械式の竜。
伝説上の生物を機械で再現した兵器。
これ一体で海域一つを解放する事が可能と言われている。
しかし、その建造技術は第一次侵攻時に失われており、現在はロストテクノロジーとなっている。

鉄蛇(ティシェ)

最新型の特殊戦車。通称、蹂躙戦車
巨大な蛇型で、膠着した戦線に穴を開ける為に試験的に建造された。
二号機が強奪された。


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オッサン、ちょっと混乱

日常編!日常編だよ!
今回からチャットネタを開始します。
このキャラのH .N はおかしい、この方がいい等のご意見お待ちしております!

禿げ眼鏡様、zero - 45様、ご意見ありがとうございます。



「「はい、それでは足を動かしてみてください」」

「は、はい!」

 

睦月が目を覚まし、夕石屋による本格的な治療が始まった。診察を受ける睦月と付き添いの吹雪。

診察の結果、脳波や体調に異常は無い。しかし

 

「う・・・!」

「「ふむ」」

 

足、睦月の膝から下は動かなかった。

正確には、動かす事は出来るが、立ち上がる体を支える等の大きい動きが出来なくなっていた。

 

「「筋肉自体は問題なし、感覚もある。何故か、筋力だけが著しく低下していますね。これなら、リハビリ次第で何とかなりますよ」」

「本当ですか!」

「良かったね!睦月ちゃん!」

 

診察結果に睦月と吹雪が手を取り合って喜ぶ。

その様子に、夕石屋の二人は顔を綻ばせる。

少しして、夕石屋の二人が何かの端末を弄り、二人に差し出した。

 

「えと?何ですか、これ」

「「リハビリ次第でとは言え、暫くは車椅子か杖が睦月さんには必要になります。なので、こんなものを用意しました」」

「吹雪ちゃん、何これ?」

 

二人が受け取った端末。それはこれから先、何だかんだと言いながらも、北海鎮守府と横須賀鎮守府の面々にとって、何だかんだ重要な役割を果たす物だとは誰も知るよしも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「モタモタすんな!トロくさい奴は海に叩き込むぞ!」

「「「うっす!」」」

 

横須賀鎮守府工廠に、整備班班長榊原孝太郎の怒声が飛ぶ。

先日の騒動で、その稼働率を大きく落とした工廠だが、今はその対策も立て、以前以上の稼働率となっている。

 

「五百蔵さんよ、チェルノ・アルファだが、左腕は新しく造り直した方が早いかもな」

「あ~、やっぱりそうなります?」

 

作業の音や声が響く中、榊原と五百蔵は大破したチェルノ・アルファの前に居た。

装甲の各所は傷だらけで、左腕に至ってはギリギリその型を保っていた。

 

「装甲もだが、内部機構もフレームもタービンもお釈迦だ。やるなら、一から強化して組み直しだ」

「俺、よく無事だったなぁ・・・」

 

思わず感嘆を口にする五百蔵であった。

 

「まあ、あれだ。きちっと整備された機械ってのは、ちゃんと自分の役割を果たすもんなのさ」

「そう言うもんですかね?」

「そう言うもんさ。・・・それはそうと、五百蔵さんよ」

「なんです?榊原班長」

「その、浮いてるの何だ?」 

「はい?」

 

五百蔵の肩横に、四角い発光体が浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

カチャリと、食器の音が静かなレストランに響いた。

如何にも高級な内装、仕立ての良い制服に身を包んだ店員達、その全員が一人の客の為にホールに揃って並んでいた。

 

「お口に合いましたでしょうか?金剛様」

 

店長と思わしき男が、一人の客、金剛に問う。

対する金剛は、ナプキンで口元を拭い溜め息を吐いた。

その溜め息に、店員全員が冷や汗を流す。

 

「・・・率直に言いまショウ。がっかりデスネ」

 

店内に緊張が走った。

明らかに、相手は怒っている。

それも、決して怒らせてはいけない相手だ。

 

「それは・・・」

 

店長が口を開こうとした時、金剛がそれを阻んだ。

目を閉じ、店員全員に告げる。

 

「先日、私の妹と義弟がここに食事に来マシタ」

「・・・!」

「知らないとは言わせマセン。私の妹は知っているデショウシ、義弟は天を突くような大男デス」

 

水を一口飲み、唇を湿して金剛は直立不動となった店長に続けた。

 

「その二人から、この店の評価を聞きマシタ。・・・言いまショウカ?」

 

懐から葉巻を取り出し、徐に燻らす。

その目は鋭く、笑っていなかった。

その場にいた全員が、倒れそうになるのを堪え直立の体勢をとり続ける。

誰も、何も言えなかった。

 

「この店を、妹と義弟に勧めたのは私デス。あの二人の門出に相応しいと思い、勧めマシタ」

 

覚えている。あの日、訪れた長身の二人。

最高の持て成しをした筈、その自信があった。

しかし

 

「残念デス。よくも、私の顔に泥を塗り」

 

そして

 

「私のファミリー、妹と義弟の門出を汚してくれマシタネ・・・!」

「金剛様!それは・・・!」

「違うト?舐めるナヨ、ふざけるナヨ。私の顔に泥を塗ったノデスヨ?高級な素材を使えば相応の結果が出ると思うな、これを先々代から散々言い含められた筈ダ!」

「・・・!」

「その言葉を忘れ、ブランドに慢心した結果がこれデス」

 

葉巻を灰皿に押し付け、席を立ち出口へと金剛はコートを翻し向かう。

誰もがそれを止めようとするが、その場から動く事が出来ない。

 

「では、もう二度と来ることは無いデショウ」

 

一度だけ、一瞬だけ、店に目をやり、その風景を刻み付ける。

嘗て、自分と共に戦った戦友が作り上げた店の姿。

その最後の姿を胸に刻み付け、金剛は店を後にした。

 

 

 

 

店を出た金剛を、運転手のあきつ丸が慇懃に出迎えた。

 

「ああ、お帰りなさいませ。総長殿」

「あきつ丸、家まで出してクダサイ」

「ややぁ?その様子だと、話通りだった様でありますな」

「ええ、栄枯盛衰は世の習いとは言え、本当に残念デスヨ・・・」

 

寂しそうに、窓の外を流れる景色を眺める金剛。

バックミラーでその様子を確認しながら、あきつ丸はある疑問を口にする。

 

「総長殿、その浮いてる四角いものは、何でありますか?」

「何デス?これ」

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府と北海鎮守府の面々、全員の目の前に浮かんだ四角い発光体。

その中には

 

空腹娘¦『提督提督!吹雪です!これ凄いですよ!』

鉄桶男¦『え?何これ、何で名前決められてるの?』

空腹娘¦『あ、私が決めました』

鉄桶男¦『何してんの!?てか、これ何!』

にゃしぃ¦『あの~?』

鉄桶男¦『あ、ああ、睦月君か?診察の結果はどうだった?』

にゃしぃ¦『診察の結果は、リハビリ次第で歩ける様になるらしいです。後、これ夕石屋の二人が作った「横須賀ネットワーク」という物らしいです』

 

以上の文字が並び、動画と音声が再生されていた。

どうやら、この四角いのは音声入力らしい。

 

鉄桶男¦『それは良かった・・・リハビリ頑張ろう、何かあったら手伝うからさ』

鉄桶嫁¦『冬悟さん冬悟さん!何か凄いのが浮いてます!』

鉄桶男¦『榛名さん、落ち着いて!て言うか、さらっと名前が・・・!』

鉄桶嫁¦『自動で決まりました!』

空腹娘¦『私が決めました!』

鉄桶男¦『ちょっ!吹雪君?』

鉄桶嫁¦『ナイス判断よ!吹雪ちゃん!』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、相変わらず勢い良いよね』

空腹娘¦『それほどでも』

鉄桶男¦『褒めてない!褒めてないよ!』

 

「五百蔵さんよ」

「何でしょう?榊原班長」

「俺はそう言うピコピコはよく分からんが、磯谷の嬢ちゃんが夕石屋から説明があるから、執務室に来てくれって連絡があった」

「夕石屋ぁ!」

 

痛む体を推して、工廠から執務室へと駆け出した。

その五百蔵の横に追随する発光体では、中々に賑やかな会話が繰り広げられていた。




やべえ、睦月の口調が分からない・・・
あ、ちょっとH .N が纏まり切ってないので、ここで一旦切ります。
次回はH .Nが纏まり切ってからになります。

ご意見お待ちしております(切実


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オッサン、チャットする

はい、今回から本格的にチャットネタを開始します。
H .Nに関しましては、まだ募集中です。


試験屋¦『それでは』

改造屋¦『只今より』

夕石屋¦『授業を始めまあああああああああす!』

約全員¦『うるせぇ!』

 

おおう、と夕石屋の勢いが削がれる。

横須賀鎮守府執務室に大画面となって存在する謎の四角い発光体。

その画面には、文字列が並ぶ。

 

ほなみん¦『で、二人共。これ何?』

夕石屋¦『通常時及び緊急時用連絡網「横須賀ネットワーク」です』

 

二人の後ろ、拡大された発光体にでかでかと「横須賀ネットワーク」の文字が浮かぶ。

 

「「ほら、メンバー増えたじゃないですか。それで、相互間の連係強化に作ってみました」」

 

ズーやん¦『でもさ、それなら携帯で良くない?』

 

鈴谷が疑問を発光体越しに送ってきた。

画面内に映る映像から、街の繁華街に居ることが分かった。

 

「「鈴谷代表、それです!今のそれが利点の一つなのです!」」

 

ズーさん¦『へ?』

 

「ああ、そう言う事か」

「どういう事です?冬悟さん」

「簡単に言えば、超高性能なテレビ電話だね」

「「そうですそうです!簡単に言えば、正にそれ!」」

 

元ヤン¦『どういう事だ?』

邪気目¦『わかんねぇの?摩耶』

元ヤン¦『あア?天龍は分かるのか?』

邪気目¦『あれだ、スマホだスマホ。超高性能な』

船長¦『分かるが、適当過ぎねえか?』

ズーやん¦『てかさ、三人並ぶと字面が凄いね』

 

買い物袋を提げた天龍、摩耶、木曾が会話に参加する。

どうやら、悪ガキ隊の四人で繁華街に行っていた様だ。

 

「「この横須賀ネットワーク、携帯では音声か文字でしか相手の状況が把握出来ませんでした。しかし、これなら映像をリアルタイムで再生出来ます。しかも、必要なのはこの表示枠のみ!」」

「ああ!何処かで見たことあると思ったら、イェーガーの空間投影ディスプレイだ!」

 

磯谷が手を叩き得心がいったと感心する。

その様子に気を良くした夕石屋が、横須賀ネットワークの利点の説明に入る。

 

「「通信と携帯性能だけではありません。更にテレビにゲーム、資料作成等々、これ一つでパソコン要らず!何時でも何処でも快適な情報ライフが送れます!」」

 

と言いながら、夕石屋が自分達の表示枠を操作し、何やら動画を再生し始めた。

大画面に、荒涼とした荒れ地が広がる。

 

『はい!本日はこのアフリカの大地からクエスチョン!百獣の王と言えばライオンですが、真の王者は誰でしょうか?!』

 

空腹娘¦『あ、「世界の果てで謎発見」だ!』

鉄桶男¦『ああ、この間の放送でアマゾンの奥地で未発見の遺跡見つけて大変な事になってたっけ』

鉄桶嫁¦『あれ、やらせじゃなくてマジでしたからねぇ』

にゃしぃ¦『あれ?何か変だよ』

約全員¦『え?』

 

『では、正解は~・・・』

『ニゲロ!NAKAChanダ!ニゲロニゲロォ!』

『え?わあああああああああああ!』

 

画面が変わり、暫くお待ちくださいの表記が出る。

全員が、まさかの生放送・・・!?と固まっていると、夕石屋がまた表示枠を操作して、何かを再生した。

 

『何度でも言ってやろう!魔法少女とは!全ての人々の希望であると!』

 

ズーやん¦『お!マジカル♥ちふリン♪の劇場版じゃん』

元ヤン¦『おう、マジだ』

邪気目¦『おい、夕石屋。これ、限定版じゃねえか!』

船長¦『あれ、プレミア付いてたろ?』

空腹娘¦『提督提督!』

鉄桶男¦『買わないよ?』

空腹娘¦『何でですか?!』

鉄桶男¦『上見なさい上!プレミアとか言ってるじゃないの』

鉄桶嫁¦『吹雪ちゃん、確か霧島が持ってましたから、貸してもらいましょう』

ほなみん¦『私持ってるから貸そうか?』

 

『インキュベーターだかインベーダーだか知らんが、貴様ら全員、光になああああああれえええええ!!』

 

紅茶姉¦『ふぅむ、中々面白い作品デスネ』

おかみ¦『レナちゃんやほっぽちゃんと見てますが、面白い作品ですよ』

約全員¦『意外なところから来たぞ!』

 

表示枠を操作していた夕石屋も冷や汗を流し、操作を一度打ち切った。

そして、用意していた茶を一気に煽り、何故か五百蔵を見た。

 

「「どうです?五百蔵提督。この様に、仕事から趣味まで幅広く使える便利な物ですよ」」

「何故、俺に振るのか分からんが、悪くは無いんじゃないか」

「そう言えば、これってどういう原理で動いてるの?」

 

磯谷の疑問に夕石屋ではない、誰も聞いた事がない声が執務室に届いた。

 

横須賀¦『それは私からご説明致します』

 

声のする方、夕石屋の背後の表示枠に人型のシルエットが浮かび上がっていた。

 

約全員¦『誰!』

横須賀¦『申し遅れました。私、横須賀鎮守府並びに横須賀ネットワーク制御用OS「横須賀」と申します。この度は、横須賀ネットワークのご利用誠に有難う御座います』

 

「二人共。何時の間にこんなSFチックなものを・・・?」

「「つい、最近ですよ最近」」

 

横須賀¦『では、ご説明致します。只今、表示枠を利用して戴く為の端末は、北海鎮守府の吹雪様と睦月様、横須賀鎮守府の夕石屋様が所有されています』

 

「吹雪君?」

「さっき、睦月ちゃんの車椅子と一緒に貰いました」

「貰いました」

「そっか~・・・」

 

五百蔵が二人を見れば、吹雪は何故か誇らしげに携帯電話によく似た端末を差し出した。

睦月はどうやら、車椅子と一体になっているらしく、車椅子から取り外してこちらに見せた。

 

横須賀¦『なので、皆様の表示枠は私の方で展開させて戴いております。これに関しましては、夕石屋様から改めて端末が配付されます』

ズーやん¦『あれ?じゃあ、私達は』

元ヤン¦『鎮守府に居ないんだが』

横須賀¦『鈴谷様、摩耶様、天龍様、木曾様に関しましては、その繁華街も私の管理圏内ですので、勝手ながら此方の方で展開させて戴きました』

邪気目¦『ん?総長と鳳様は?』

船長¦『総長は何か店に行くとか言ってたが』

紅茶姉¦『今は洋とテラスに居マスヨ』

おかみ¦『ええ、比叡さんの新作スイーツが中々に良いですね』

空腹娘¦『新作スイーツ!!』

ヒエー¦『吹雪ちゃんの分もありますよ』

 

「睦月ちゃん!行こう!」

「え?ちょっと、吹雪ちゃん?!」

 

吹雪が睦月の車椅子を押し、執務室を飛び出した。

五百蔵は茶を一口飲み、比叡に吹雪がそちらに向かったと連絡を入れる。その横で榛名が霧島に『魔法少女☆マジカル♥ちふリン♪』の劇場版DVDの貸し出しを頼んでいた。

各々が表示枠を試しに操作してみる。磯谷や悪ガキ隊は直ぐに使いこなし始めるが、五百蔵は若干苦戦していた。

すると、執務室の全員の表示枠にメールが入った。

 

「えと?これは、どうやって開くんだ?」

「冬悟さん、右端の手紙マークをタップしてください。それで開きます」

「ああ、これか。ありがとう、榛名さん。助かるよ」

 

磯谷が密かにニヤニヤする横で、五百蔵が榛名の助けを受けて開いたメールには

 

 

空母勢¦『急募「鬼の訓練から安全に逃げ出す方法」』

 

とあった。

 

副長¦『無視してください』

おかみ¦『中々、堂々としてますね・・・』

空母勢¦『助け・・・』

 

横須賀¦『空母勢 様が退室されました。十中八九、打撃と投げ技による衝撃が原因だと思われます。承認しますか?はい/いいえ』

 

全員が黙って『はい』をタップした。

 

にゃしぃ¦『今、鳳さんがいきなり消えたと思ったら、遠くで水柱が・・・!』

空腹娘¦『提督、凄い音がしてます!』

 

全員が空母勢に合掌した。

この後、夕石屋の手により表示枠使用の為の端末が全員に配付された。

磯谷が何やらゲームをダウンロードしていたが、誰も気にしなかった。

 




次回

磯谷が・・・


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オッサン、困る

オッサン、困るとかサブタイなのに、オッサンが殆ど出てない不具合・・・

あ、今回は境界線上のホライゾンに出てきたゲームがあります。


「おら!吹雪!そうじゃねぇぞ?!」

 

天龍の気合いの一喝が砲音と共に海に響く。

吹雪は、それを海面を滑り体を回し回避する。

 

「そうじゃねぇって、言ってんだろ!」

 

しかし、吹雪の動きを読んだ天龍が、吹雪の回避先に回り込み、右手に持った刀で吹雪の主機を斬りつける。

 

「うわ!わわわ!?」

 

斬りつけられた吹雪の主機から黒煙が上がり、動きが止まる。

 

元ヤン¦『はい、吹雪、大破~。模擬戦終了』

ズーやん¦『ありゃりゃ、天龍ったら容赦ないな~』

船長¦『もうちょっと、考えろよ』

邪気目¦『うるせぇよ!』

 

表示枠の中で賑やかに吹雪を容赦なく大破判定にした天龍に向かって、悪ガキ隊からのヤジが飛ぶ。

ややあって、やり取りを終えた天龍が吹雪に向かう。

 

「あれだな。吹雪、お前、動きにばらつきが有り過ぎだ」

「え、どういう事です?」

「ん~・・・足腰は強いし体幹も確りしてるんだが、上半身が弱いんだよなぁ」

「上半身、ですか?」

 

船長¦『確かに、上半身がフラついてたな』

元ヤン¦『でもよ、吹雪、思わく力あるぜ?』

ズーやん¦『あれだよあれ、天龍が言いたいのは、反動制御の事だよ』

邪気目¦『おう、それそれ』

空腹娘¦『反動制御、砲撃のですか?』

元ヤン¦『吹雪、反動制御の設定はデフォか?』

空腹娘¦『あ~、基本はデフォで提督が設定してます』

 

艤装の反動制御、それは海という不安定な足場で艦娘が砲撃戦を行うのに、非常に重要な機能である。

自動で砲撃の反動を制御し、艦娘の負担を減らす。

その強弱は、艦娘が自分で自分の好みの強弱に設定する。

 

鈴谷が、吹雪の艤装の反動制御の設定を表示枠で確認する。

 

ズーやん¦『おっと?』

元ヤン¦『どうした?』

ズーやん¦『流石というか何というか、オジサンったら、反動制御を少し弱めにして、後のリソースを防御系と生存系と維持系とかに充ててる』

邪気目¦『流石の親ばかだな・・・!』

船長¦『あ?なんだ、叔父貴のやる事に文句あんのか?あア?』

 

「どうした?木曾」

「ほら、キソーって、オジサンを密かに狙ってたから・・・」

「うるせぇよ!それなら摩耶も、そうだろうが!!」

「はっ!アタシのは尊敬だ。同じスデゴロ派として、あの拳は尊敬するぜ」

「ぬ、ぬぬぅ・・・!」

 

悔しがる木曾、しかし

 

鉄桶嫁¦『ほほう・・・?』

 

はっとして、全員が振り向いた先には表示枠が消える際に出る残滓が散っていた。

いつの間に・・・!

木曾以外の全員が思った。木曾は固まっていた。

 

「キソー・・・」

「やめろ!磔にされる空母勢を見るような目で見るな!」

「木曾、お前の事は日曜日の朝七時半まで忘れない」

「明日じゃねぇか!」

 

邪気目¦『まあ、あれだな。次から、吹雪の訓練メニューは上半身の強化を中心に組み直すか』

空腹娘¦『何か、すみません・・・』

邪気目¦『はっ、気にすんな。これが、俺の仕事だ』

船長¦『おい、俺を助けろよ!』

約全員¦『MURI!!』

船長¦『くそー!』

 

集団社会の闇だー!とか木曾が騒いでいる横、天龍と吹雪が訓練海域から戻り、艤装を回収用AMIDAに預ける。

その際に、水分補給のプラスチックボトルを受け取る。

オレンジフレーバーの蜂蜜水だった。

 

「んで?これから、どうするよ?」

「んあ?どうするって?」

「ふぶっちの今日の訓練終わったし、街に行く?」

「アタシ、金ねえよ」

「あ~、給料日前だしな。街に行かずにテラスで駄弁るか」

「あ、それなら、『下克いぇーがーどす』やりましょうよ」

「お?ふぶっち、表示枠に『げこどす』ダウンロードしたの?」

「はい!イマガワ奇行種の連続討ち取りで詰まっちゃってて」

 

項垂れる木曾を放り、これからの予定を決めていく四人。

何もなく、平和に終わる。その筈だった。

 

鉄桶男¦『あ~、皆居る?』

空腹娘¦『提督、どうしたんですか?』

鉄桶男¦『いやね、ちょっと暇なら、磯谷嬢の部屋に来てくれないかな?ちょっと、困った事になってね』

元ヤン¦『オヤジ、どうしたよ?』

鉄桶男¦『実に説明しづらい事になってね。まあ、暇なら来てほしい』

 

何か歯切れの悪い五百蔵の言葉に、木曾以外が首を傾げる。五百蔵が説明しづらい案件。しかも、横須賀イケイケガール磯谷穂波の部屋に来てくれという。

嫌な予感がする中、そこで鈴谷が手を打ち言った。

 

ズーやん¦『そう言えば、ほなみん。二、三日くらい見てない』

邪気目¦『そう言えば、見てねぇな』

元ヤン¦『またか・・・また、何かやらかして隠れてんのか?』

空腹娘¦『・・・前は、全員の制服が水着にされてたんでしたっけ?』

船長¦『ああ、それもギリギリ何とか隠れるかどうかの布面積のやつだ』

ズーやん¦『あ、キソー復活』

 

項垂れていた木曾が復活して、会話に参加する。

『磯谷穂波の紐ビキニ事件』

夏の盛りに起きたこの事件、横須賀鎮守府所属艦娘全員の制服が『これぞ正に紐ビキニ』に摩り替えられた事件だ。

調査をするまでもなく、磯谷の仕業だと解り横須賀鎮守府全員で捜し、最終的に憲兵隊隊長のあきつ丸に容赦なく腕をコキャァされて終った。

 

そんな事件を引き起こす磯谷が二、三日の間、姿が見えない。

これは、確実に何かやらかしている・・・!

全員が思った。

 

元ヤン¦『・・・オヤジ、今からそっち行くわ』

鉄桶男¦『非番の日にすまないね』

船長¦『叔父貴の頼みだ。任せろ!』

鉄桶嫁¦『・・・・・・木曾さん?』

船長¦『誠に申し訳御座いませんでした』

 

榛名の表示枠の前で木曾がDOGEZAに変型した。

 

邪気目¦『あ、俺と吹雪は潮落としてから行くわ。このままだと髪が傷む』

空腹娘¦『それじゃあ、私達は後から合流します』

にゃしぃ¦『あ、吹雪ちゃん。売店に新発売の『豚角煮とパスタの茹でキャベツ包み』が出てるよ!』

空腹娘¦『え!ほんと、睦月ちゃん!』

にゃしぃ¦『うん!』

邪気目¦『そんじゃ、土産にそれ買って合流するわ。要る奴は連絡くれ』

ズーやん¦『それなら、こっちで予約入れとくから立て替えといて』

 

あいよ、と天龍が返事をして吹雪を伴ってシャワー室へと歩いていった。

鈴谷が表示枠で人数分の予約を入れ、摩耶がDOGEZAを担いで、磯谷の部屋へと向かう。

 

磯谷が何をやらかしたかは解らないが、取り敢えず一発ぶん殴ろう。そう決めた摩耶であった。




イマガワ奇行種、このインパクトにやられた


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まとめ

まとめですぅ
深く考えずにお読みください。


金剛(こんごう)

 

役職 横須賀鎮守府艦隊総長 

性別 女

人種 艦娘

趣味 チェス、紅茶を飲みながら、横須賀の今の子達を眺める事

H .N 紅茶姉

 

横須賀鎮守府艦隊総長であり、鳳洋と同じ『例外』の一人。

通常の艦娘『戦艦金剛』とは異なり、上下ともに黒のスーツにコート、両手にはこれまた黒の手袋を着用している。特徴的な頭飾りも付けてない為、金剛らしさは皆無である。

ちなみに、オッサンにとっての艦娘『金剛』は横須賀の金剛の為、他の金剛は違和感の塊でしかないとか・・・

類い稀な幸運を有しており、戦場を歩くだけでその戦場が終わってしまう。らしい。

 

『一応』退役している鳳洋とは違い、今も軍属である。

しかし、第一線からは完全に退いており、総長という役職も対外的に名前を貸しているだけである。

本来なら、比叡か霧島のどちらかが総長を担う筈だった。

 

個人で幾つかの企業も所有している。その為、個人資産から鎮守府の臨時予算を出したり、横須賀所属の艦娘や整備員達の生活費を面倒見たり、自費で横須賀の街でイベントを開催して地域に還元したりしている。

軍にも、少なくない額を出資している為、かなり融通が効く。

その為、金剛に取り入ろうとして、賄賂やら送ってくる連中がいたが、金剛自身がかなりの高級嗜好の為、意味がない。

 

 

横須賀の首領。

過去の戦いで、想い人と左手の薬指と指輪を喪っている。

 

 

 

霧島 (きりしま)

 

役職 横須賀鎮守府艦隊副長 

性別 女

人種 艦娘

趣味 訓練

H .N 副長

 

 

横須賀鎮守府艦隊副長、通称『紅霧島』

他の霧島が打撃や砲撃に特化するのに対して、何故か投げ技特化した人。なんで?

砲撃や打撃が苦手という訳もなく、どれも一流であるが投げ技が飛び抜けて凄まじい。なんで?

嘗て、戦艦棲姫の足首を足払いで粉砕し、その勢いのまま一回転させ、海面に叩き付けて首をへし折った過去がある。やだ、怖い・・・

 

次代の、横須賀鎮守府艦隊総長。

 

 

鈴谷 (すずや)

 

役職 横須賀鎮守府重巡洋艦隊代表兼第二特務

人種 艦娘

趣味 買い物 木曾いじり

H .N ズーやん

 

 

横須賀鎮守府重巡洋艦隊代表兼第二特務、重巡洋艦隊代表だが、戦闘系というよりかは指揮系。

軽い感じだが、面倒見は良いので慕われている。

提督の磯谷と仲が良い。

横須賀鎮守府悪ガキ隊。

 

 

天龍 (てんりゅう)

 

役職 横須賀鎮守府艦隊第三特務補佐

人種 艦娘

趣味 ゲーム 木曾いじり 

H .N 邪気目

 

 

横須賀鎮守府艦隊第三特務補佐、安心と信頼の世界水準越え。

新人の指導員役でもある。

最近は、吹雪の指導に熱を入れている。

横須賀鎮守府悪ガキ隊。

 

 

摩耶 (まや)

 

役職 横須賀鎮守府艦隊第二特務補佐

人種 艦娘

趣味 ゲーム 木曾いじり

H .N 元ヤン

 

横須賀鎮守府艦隊第二特務補佐、元ヤンじゃなくてがっつり今ヤン。

横須賀随一の鉄拳の持ち主で、密かな乙女趣味。

艤装でラムアタックという名の左フックが得意技。

なので、よく艤装を壊して榊原班長に怒られている。

横須賀悪ガキ隊。

 

 

木曾 (きそ)

 

役職 横須賀鎮守府艦隊第三特務

人種 艦娘

趣味 ボトルシップ

H .N 船長

 

 

横須賀鎮守府艦隊第三特務、安心と信頼のいじられ役。

横須賀艦隊の斬り込み役、鈴谷が指示を出し、天龍と木曾が斬り込み、摩耶がぶん殴る。

横須賀悪ガキ隊の必殺パターン。

五百蔵のオッサンを密かに狙っていたが、榛名にバックスタブ食らったり、間が悪かったりして・・・

横須賀悪ガキ隊。

 

 

役職

 

総長

 

各鎮守府や泊地の艦隊の旗艦が務める役職。

その艦隊の象徴となる役職の為、総長を見ればその艦隊が解ると言われている。提督と共に鎮守府の実権を握る役職でもある為、相応の責任が問われる。

極稀に後述の副長と兼任する艦娘も居る。

例 宿毛泊地の大和

 

 

副長

 

各鎮守府や泊地の艦隊、その武力の象徴。

戦闘系のトップが務める。指揮系のトップが務める事もある。

指揮系が副長を務める場合、総長若しくは各特務級が戦闘系。

 

 

各特務級

 

各鎮守府や泊地の艦隊の幹部達。

第一~第六までの六人が務める役職。

内容は其々だが、第一~第三特務が指揮情報系、第四~第六特務が戦闘系と別れている。

総長、副長を含めて八人が艦隊幹部を務める。

これは、鳳洋が現役の時代に決まったらしい。

 

 

 

港湾棲姫 (こうわんせいき)

通称 港さん

役職 北海氏族族長

趣味 散歩 洋と駄弁る

H .N タテセタ

 

 

北海鎮守府周辺海域の深海棲艦の纏め役。

身長はオッサンとほぼ同じだが、角を入れるとオッサンより高い。

町では相談所の相談役を務める。

実は、洋さんと同じくらい長生きだったりする。

これは、深海棲艦の寿命がとても長い為。

 

第一次、第二次侵攻には参戦していない。港さん自身、姫級の中でも強力な個体である為に、他の氏族から参戦要請があったが、全て突き返している。

 

 

北方棲姫 (ほっぽうせいき)

通称 ほっぽ

役職 特に無し

趣味 遊ぶ事

H .N ポポポ

 

 

アホの子、港さんの妹。最近は地元の幼稚園に通ったりしている。しかし、脱走してヲガタと遊んだりしている。

第一次、第二次侵攻の事は知らない。

 

 

空母ヲ級 (くうぼをきゅう)

通称 ヲガタ

役職 テレビの朝の占いコーナーに出没する

趣味 遊ぶ事

H .N ヲヲヲ

 

 

アホの子、その癖、本気を出せば黄色いオーラが出る。

 

         アホの子

 

第二次侵攻の事は知っている。

クラゲの様に海を漂いながらクラゲじゃないとか言っている

 

 

戦艦レ級 (せんかんれきゅう)

通称 レナ

役職 マスコット

趣味 昼寝

H .N レ!

 

 

マスコット。いつの間にか町に居着いたレ級。

洋さんが名付け親。

猫っぽい。

 

 

深海棲艦

 

海に棲む者達。

姫級や鬼級等の上位個体を族長に各氏族で纏まっている。

氏族同士の繋がりは薄い。

何故、戦争になったかは戦争を起こしたとされる氏族が滅んだ為、今はもう解らない。

 

港さん達は北の氏族と呼ばれ、かなり昔から人間と関わりを持っていた。その為、戦争には不参加。興味も無かった。幾つかの氏族が港さん達を従えようと攻めてきたが、全て港さんに潰されている。

 

 

 

各H .N

 

五百蔵冬悟 鉄桶男

榛名 鉄桶嫁

吹雪 空腹娘

睦月 にゃしぃ

磯谷穂波 ほなみん

金剛 紅茶姉

比叡 ヒエー

霧島 副長

鈴谷 ズーやん

摩耶 元ヤン

天龍 邪気目

木曾 船長

あきつ丸 蜻蛉玉

洋さん おかみ

港さん タテセタ

ほっぽ ポポポ

ヲガタ ヲヲヲ

レナ レ!

 

 




暫くネタ話やって、吹雪と睦月のトラウマに完全決着付けて、あきつ丸の恋ばなをやりたい。
あきつ丸の恋ばなは、長くなりそう・・・
吹雪と睦月のトラウマ決着は、かなり長くなりそう・・・


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オッサン、ゲームする

はい、ネタ回です!

わかる人いるかなぁ・・・


摩耶が見た光景、それはなんだか馬鹿らしくなってくるものだった。

 

「なあ、オヤジ。『これ』はなんだ?」

「・・・磯谷嬢だ」

 

摩耶が指差す先、ベッドに横たわる磯谷穂波が居た。

今度は、顔面にラムアタックでもしてやろう。そう意気込んで、磯谷の部屋にまで来た訳だが

 

「もしかして、今まで寝てたのか?こいつ」

 

磯谷は寝ていた。正確には、近未来的サイバーパンクなヘッドギアを付けて、うへへ、とでも言いたげな寝顔、否、口元で寝ていた。非常に腹が立つ。

 

「オヤジ、殴っていいか?」

「一応、やめといて・・・もうすぐ、夕石屋から説明があるから」

「ねえねえ、オジサン。このゴーグル外したらダメ?」

 

鈴谷が磯谷が身に付けているヘッドギアをつついている。

横には、木曾が変型したDOGEZAが置いてある。

 

「「鈴谷代表、そのヘッドギアは外さないでください!」」

 

鈴谷がヘッドギアを外そうとすると、荷物を抱えた夕石屋が息を切らせて飛び込んできた。

軽く息を整えて、両手に抱えていた荷物、磯谷が身に付けているのと同じヘッドギアを幾つか机に置いた。

 

「どうしたのよ、二人共?慌てるなんて珍しい」

「つーか、それ、穂波が付けてるやつじゃねぇか」

「いい加減説明くれない?」

「「あ~、では、こちらをご覧ください」」

 

邪気目¦『何?どうなってんだ今』

空腹娘¦『磯谷提督、また何かしてるんですか』

にゃしぃ¦『あ、何か来たよ』

 

夕石屋が表示枠を操作し拡大する。見れば、売店に居る三人にも何かを送ったようだ。

画面を何回かタップし調整、全員の前に出した。

その表示枠には、こうあった。

 

『艦息セレクション』

 

邪気目¦『なあ、おい、なあ・・・』

空腹娘¦『待ちましょう、天龍さん。もしかしたら違うかも・・・』

にゃしぃ¦『どっちの間違いなのかな、この場合・・・』

 

『出会いが無い、癒しが無い、そんなあなたにこのゲーム!海軍の提督となり、イケメンの艦息を指揮しよう!』

 

鉄桶男¦『・・・』

鉄桶嫁¦『・・・』

 

『さあ、あなたも理想のイケメンと素敵な提督ライフ!』

 

約全員¦『・・・・・・・・・・・・マジか・・・・・・こいつ・・・・・・』

ズーやん¦『え、ウソ、え・・・?』

元ヤン¦『マジか、マジか・・・』

邪気目¦『何?こいつ、これで二、三日起きてないの?』

空腹娘¦『いやいや、まさか、そんな事が』

鉄桶男¦『それが、マジなんだ・・・』

にゃしぃ¦『えと、えと・・・』

船長¦『もうこのままにしといても良くね?』

 

磯谷が身に付けているヘッドギアの正体、それは最新型ダイブゲーム『艦息セレクション』だった。

IZUMO社が作成した新世代ゲーム、専用のヘッドギアを付けてプレイヤーの意識をゲームにダイブさせる。

そして、プレイヤーはゲーム内の世界をリアルとそう変わらない体感で楽しめる。

 

その仮想リアルの世界で、イケメンの艦息達をセレクションし、世界を救ったり救わなかったり、周辺の鎮守府を滅ぼしてイケメン達を接収して世紀末覇王の道を歩むも良し!なゲーム。

 

元ヤン¦『え・・・何・・・マジで、これで?』

ズーやん¦『うわぁ、何て言うか、うわぁ・・・』

邪気目¦『つかよ、これ軍、絡んでるよな?俺らじゃん、これ・・・』

船長¦『天龍、今お前調べてたら、ほぼままの男版のお前が出てきた・・・』

邪気目¦『うわぁ・・・』

鉄桶嫁¦『これ、電源落とせばいいんじゃないですかね』

 

「「電源落とすのもアウトです。下手すると、後遺症が残りますから」」

 

空腹娘¦『じゃあ、どうすれば?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、私嫌な予感が・・・』

 

表示枠内で吹雪と睦月が机の上に置かれたヘッドギアに目をやる。

ちょうど、人数分あるような気がする。

 

「「では、作戦を説明します。ゲームにログインして提督ボコって連れ帰ってください!」」

 

夕石屋の一言に、全員が叫んだ。

 

約全員¦『ふっざけんな・・・!!』

夕石屋¦『いやいや、もうそれしかないんですよ』

元ヤン¦『もうほっとけよ、死んだら出てくんだろ』

ズーやん¦『いやいや、摩耶。それアウト』

邪気目¦『鈴谷、メッコールのストロングタピオカミルク売り切れだってよ。つかよ、これ、五百蔵のオッサン突っ込めば早く済むんじゃね?』

船長¦『確かに、叔父貴ならソッコだな』

鉄桶男¦『いやぁ、それがね。このゲーム、男はログイン出来ないらしくて・・・』

ズーやん¦『じゃあ、健康アスファルト茶で。え、じゃあ、榛にゃんは?』

鉄桶嫁¦『私は冬悟さん以外の男性に興味はありません』

女衆¦『おぉぅ』

 

「それじゃ、その会社に連絡入れてアカウント停止にしてもらえよ」

「あ、天龍。買い物終わった?」

 

天龍と吹雪に睦月が大量の買い物を提げて、磯谷の部屋にやって来た。

天龍の提案、会社に報告してアカウントの強制停止、しかし、それを試していない訳は無かった様だ。

 

「「IZUMOにも報告はしましたが、強制停止するには条件が少々足りないそうで・・・悪質な違反行為をしている訳でもありませんし」」

「はぁ、それじゃ、アカウント登録して穂波ボコって連れ帰るしか無い、か・・・」

 

天龍が溜め息をつきながら、其々に買ってきたものを配っていく。

摩耶が配られた豚角煮とパスタの茹でキャベツ包みを頬張る。

 

ーーぬ、これはデブを促進する味だなーー

 

角煮は煮込んだ後に一度焼いてあるのか香ばしい、パスタは薄く塩とオリーブオイルが漂ってくる。キャベツはさっと、茹でただけで歯応えと甘味が実に良い。

見れば、吹雪が睦月の隣で既に五つ程平らげているが、吹雪は不思議ボディーなのでノーカンだ。

あの細腕で、自分と同程度の筋力がある不思議、あれか?オヤジの影響か。

げこどすでも、鉄鎚二本振り回してメンバーのメインアタッカーだ。

 

「それじゃ、アカウント登録してほなみん連れ帰ろうか・・・」

「でもよ、穂波の事だから、課金しまくってるぜ。絶対」

「「それに関してはご安心を、総長から臨時予算を貰ってますので、皆様の装備を再現出来ますよ」」

 

約全員¦『総長、ありがとー!』

紅茶姉¦『ふふ、皆、楽しんで来ナサイ』

鉄桶男¦『いや、済みませんね。義姉さん』

紅茶姉¦『気にする事はありマセン。ところで、ナガマサ亜種が強いのデスガ・・・』

おかみ¦『一緒に出るオイチ特異種が鬼門ですね・・・』

鉄桶嫁¦『先ずは、オイチ特異種を誰かが引き付けて、それからナガマサ亜種をアネガワで焼き討ちです。姉様』

 

あちらも、盛り上がっているようだ。

負けてはいられないと、天龍が率先してヘッドギアを被る。

 

「アカウントは登録してるから、後はログインか」

「では、メンバーは天龍、私、キソーに摩耶にふぶっちかな?」

「私も後から行くよ、吹雪ちゃん」

「「ではでは、いってらっしゃいませー!」」

 

『磯谷穂波をボコって連れ帰る大作戦』が今始まった。




次回

あれれ?吹雪の艤装が・・・?


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艦息セレクション

安心と信頼のネタ回


目の前に広がるのは海、そして

 

「なあ、木曾」

「なんだ、天龍」

「始まりの町が廃墟って、初体験だな」

「・・・そうだな」

 

廃墟となった町並みであった。

まるで、何かに襲撃されたかのように、ビルは倒れ道は崩れ、刺々しい肩パッドを付けた連中がバイクで走り回っていた。

 

「ねえ、摩耶」

「なんだ、鈴谷」

「あれ、こっちに来てない?」

「ん?ああ、来てんな」

「来てますね」

「どうするよ?」

「先ずは話し掛ける。ダメなら、ボコる」

 

遠く、砂煙を巻き上げてバイクが数台けたたましい音と共に、こちらに向かって走ってきていた。

皆、一様に刺々しい肩パッドやらを身に付けている。

何か情報を持っているかもしれないから、先ずは話し掛ける。ダメならボコる、メッチャボコる。

摩耶が話し掛けようと

 

「ヒャッハー!新鮮な新人だー!」

「さあ、有り金出せぇー!」

 

したが、どうやら、言葉が通じない種族の様だ。

此方を囲んで回っている。バイクが蹴り立てる砂埃が鬱陶しい。

 

「お?なんだー?コイツら、吹雪連れてるぜぇ?」

「主人公!」

 

ヒャッハーの一人がヘッドホンで耳を押さえている吹雪を指差す。

どうやら、吹雪の様子に怯えていると勘違いしている様だ。吹雪はバイクの音が喧し過ぎて耳を塞いでいるだけだ。

その吹雪が狙い目と、ヒャッハー達は吹雪を狙うが

 

「あぁ?」

「え?」

 

先ずは二台、バイクが真っ二つに斬られた。

木曾と天龍が斬った。ヒャッハーは少しだけ斬った。

 

「はーい、ふぶっちはこっちね~」

「あ、はい」

「そんじゃ、摩耶」

「あいよ」

 

鈴谷が吹雪を抱き寄せ、摩耶が艤装を展開、その左腰を囲う様な曲線を描く艤装の内側にあるグリップを掴む。

ヒャッハーがバイクのエンジンを鳴らし、突っ込んでくる。両者の距離が限り無く零に近付いた。

そして

 

「ぶっ殺されてぇかぁっ!」

 

衝突の瞬間、摩耶の左フックとアッパーの中間のパンチ、スマッシュでヒャッハーはバイクごと瓦礫に叩き付けられた。

 

 

夕石屋¦『え~、聞こえてますか~?』

ズーやん¦『聞こえてる聞こえてる』

夕石屋¦『これから、吹雪さんと鈴谷代表の艤装を送ります。現状は大丈夫ですか?』

ズーやん¦『なんか、世紀末な襲撃受けたけど、解決』

 

「あ?テメエら、誰の妹分に手ぇ出そうとしてんだ?」

「俺達、横須賀の妹分に手ぇ出せばどうなるか、教えてやろうか?アぁ?」

「ヒィ!」

 

おら、飛べ!とか言いながら、ヒャッハー達から小銭を巻き上げている天龍と木曾。

まだ、納得がいかないらしく右ストレートが入った。

 

元ヤン¦『まあ、あんな感じで解決だ』

夕石屋¦『成る程、若葉代表でなくて良かったですね』

邪気目¦『おいおい、若葉はマズイだろ』

船長¦『多分、コイツらを平然と拷問するだろうな。リスキルしながら無言で』

ズーやん¦『だね』

 

密かにヤバイ若葉の話をしていると、吹雪と鈴谷の体の至るところに表示枠が浮かび、艤装が再現されていく。

鈴谷は航空甲板装備、吹雪は何時も通りの艤装、その筈だったのだが

 

空腹娘¦『あの、なんか、艤装が・・・』

ズーやん¦『あれ?ふぶっち、艤装に腕生えてない?』

元ヤン¦『オヤジのチェルノ・アルファの腕じゃねぇか』

 

吹雪の艤装に、チェルノ・アルファの両腕がくっついていた。

吹雪の動きに合わせて、邪魔にならないようにガチャガチャ動いている。

 

船長¦『間違いない、叔父貴の腕だ』

邪気目¦『なんで?』

鉄桶男¦『え?なんで?』

夕石屋¦『ほら、今チェルノ・アルファはオーバーホール中じゃないですか。その中で、廃棄予定だったパーツを整備して吹雪さんの艤装に取り付けてみました!』

鉄桶男¦『何やってんの?!』

 

吹雪が、おー、と感心しながら腕の動きを見ている。

鈴谷が何かを持たせたりして、動きを確かめているとゲーム世界だからか、存外に正確な動きが出来る事が分かった。

 

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、何だか凄い事になっちゃったね・・・』

空腹娘¦『うん、でもこれ、便利だよ』

 

ふぶっちの言う通りに、蝶々結びも出来るようだ。

ヒャッハー達を柱に縛り付けている。ヒャッハーAが抵抗したが、瞬時に押さえ付けられた。

変な方向に折れ曲がっているが、ゲーム世界だし大丈夫だろう。

どうやら、半自立稼働らしい。

 

鉄桶男¦『何で付けた?便利だけど』

夕石屋¦『便利ならいいじゃないですか。班長もノリノリでしたし』

班長¦『いや、済まんな。年甲斐もなくはしゃいじまった・・・』

約全員¦『班長なら仕方ない』

夕石屋¦『あっれ?私達と班長の扱い、あっれ?』

横須賀¦『横から失礼します。夕石屋様と榊原班長様の扱いの差ですが、致し方ないと艦隊総意が取れました事を、ご報告致します』

夕石屋¦『何でだー!』

 

表示枠が中々に騒がしくなってきた。

鈴谷がそう思い、表示枠を閉じようとすると

 

空母勢¦『急募「空の魔王5000機から逃げ切る方法」』

 

とあったが

 

おかみ¦『はい、死んだー ・・・そちらは気にせず、どうぞ』

 

空母勢がまた死んで終わったようだ。

 

「ふぶっち、何か聞こえない?」

「ん~、今のところは何も聞こえませんね」

 

ヘッドホンを耳に当て、探りを入れるが何も反応は無い。

相変わらず、バイクのエンジン音が五月蝿い。

ヒャッハー達はまだ居るみたいだ。

 

鉄桶嫁¦『人は、世紀末になるとバイクに乗る習性があるのでしょうか?』

鉄桶男¦『何なんだろうね、一体』

にゃしぃ¦『寧ろ、そう言う人達が世紀末に生き残るんじゃ・・・』

元ヤン¦『どちらにせよだ、このままだとキリがない』

邪気目¦『あのビルでやり過ごして、情報集めるか』

船長¦『だな』

 

木曾が先導で、廃ビルの中に入る。

中は以外と広く、所々罅が入ったり崩れたりしているが、確りとしていた。

 

「あれか、仮拠点にも使えるってやつか?」

「まあ、あまり長居は出来ないな」

「・・・おい、お前ら、あれ」

「どうしたよ、摩耶」

 

摩耶が窓を指差し、天龍達が静かに覗きこんだ。

その先には

 

『提督・・・提督が、悪いんだ・・・俺より、あんな、あんな男を選ぶから・・・』

『司令か~ん~』

『雷~』

『『アハハ、ウフフ』』

 

約全員¦『うわぁ・・・』

 

木曾によく似た艦息が提督を刺して笑っている横で、セーラー服の艦息と提督がにこやかに弁当食べてた。

 

邪気目¦『え?何これ?』

ズーやん¦『昼ドラの隣で、少女まんがやってる・・・』

船長¦『つかよ、あの提督滅多刺しにしてるの、俺じゃん・・・』

元ヤン¦『すげぇな、宇宙海賊が提督に馬乗りになって、滅多刺しにしてるぜ』

空腹娘¦『何ですこのソリッドワールド・・・』

横須賀¦『横から失礼致します。どうやら、この世界では自分の理想とする鎮守府を再現出来る様です。なので、非常に申し上げにくいのですが、これがあの方々の理想という事に・・・』

にゃしぃ¦『業が深いね・・・』

 

「兎に角だ、この世界に居たらこっちまで頭おかしくなる」

「とっとと、穂波のアホ見付けてボコって連れ帰るぞ・・・!」

 

摩耶と天龍の言葉に全員が頷いた。

これ以上、この世界には居られない。

これ以上居たら、頭がおかしくなる。

全員の心が一つになった。

 

鉄桶男¦『あ~、早いとこ磯谷嬢見付けてね。若葉君が、磯谷嬢のベッドの横にやっとことかスポイトに似た器具を並べ出したから・・・』

わかば¦『生皮・・・』

 

このまま、若葉に任せるのも良いかな?とか思いだした瞬間でもあった。

 




洋さん入れれば一発じゃね?
しかし

親を亡くし艦息になるしかなかった系艦息

「僕、洋が提督で良かった。洋のおかげで、人になれたから」
「・・・・・・い」
「洋?」
「・・・・・・・・・さい・・・・・・なさい・・・・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ご め ん な さ い 」

こんな感じで、軍勢が湧き出てきて阿鼻叫喚の地獄絵図が、開幕されるから、無理!


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艦セレ

はい、目指すは某ゆるふわ日常系ギャグ漫画黒い艦これ!逆脚屋です!
今回は、吹雪の新艤装のびっくりギミックと禿げ眼鏡様より使用許可を頂きました『紅椿・真改』が登場致します!

禿げ眼鏡様、誠に有り難う御座います!


「走れ!走れ走れ走れええぇ!」

「もー!何なのさ?あいつ!?」

「何だっていい!走れ!」

「き、来ました!また来ましたよ!」

「くっそ!しつけぇな!」

 

走る吹雪達五人の背後、崩れた建物が追跡者が放った極光に焼かれ吹き飛んだ。

五人はその爆風に巻かれながらも、懸命に走り逃げ回っていた。

 

横須賀¦『皆様、もう間も無く戦闘禁止エリアです!今暫くのご辛抱を!』

 

横須賀の案内に従い、一もニもなく走る。

背後から迫る追跡者は、容赦なく極光を放ち五人を追う。時折、巻き込まれたヒャッハーが宙を舞っている。

 

鉄桶男¦『ちょっ!大丈夫かね?皆!』

空腹娘¦『ダメですってこれ!提督!』

にゃしぃ¦『こっちからだと、今一何が起こってるか分からないんだけど、凄い事になってない?!』

ズーやん¦『これはアウト!マジでアウト!』

邪気目¦『マジで何なんだアイツ!』

横須賀¦『皆様、たった今IZUMOから照合が取れました!追跡者はそのエリアのボスエネミー『紅椿・真改』とのことです!』

船長¦『対策!対策案!』

横須賀¦『皆様の現在の装備では、空中を高速で機動する相手に有効打は与えられません!逃げてください!』

元ヤン¦『マジか!チクショー!』

 

摩耶がヤケクソに撃った砲弾が老朽化したビルに命中し、ビルが倒れる。

 

「やった?!」

 

しかし空飛ぶ追跡者が、倒れてきたビルを左腕にマウントされた菱形から出た光で斬った。

 

船長¦『ビームサーベル!ビームサーベル出したぞ!』

邪気目¦『バッカ!ありゃ、レーザーブレードだよ!』

元ヤン¦『どっちでもいい!逃げろ!』

ズーやん¦『銃!デッカイ銃出した!』

空腹娘¦『うわわわわわ!』

 

「伏せろぉぉ!」

 

天龍の一声に全員がその場に伏せる。頭上を朱色の線が走り、吹雪達の眼前の鉄骨に丸い穴を融解させた。

赤く湯気の立つ煌々と光る穴に、顔がひきつる。

 

「いや、いやいやいやいや!ゲームでも、ここまで再現しなくていいでしょ?!」

「バッカ!相手は穂波だぞ?!」

「あのア穂波がやるゲームだ!何が起きても不思議じゃないが、今は走れええぇ!」

 

横須賀¦『皆様、御待たせ致しました』

約全員¦『へ?』

横須賀¦『その先を右折してください。そこが戦闘禁止エリアです!』

 

「行け行け!」

 

摩耶が矢鱈滅多に砲弾を放ち、目眩ましにビルを崩しにかかる。

だが

 

「ダメだ!崩れねぇ!」

「摩耶!こっちだ!飛び込め!」

 

追跡者『紅椿・真改』が背部の砲を展開しようとしたが、摩耶が路地に飛び込んだのを最後に、展開を止め辺りを周回し始めた。

 

「あ、危なかった・・・」

「ど、どうします?アレ、まだ彷徨いてますよ」

「どうするって言ってもなぁ・・・」

「・・・・・・」

「鈴谷、どうした?」

 

鈴谷が表示枠を開き、何かを見ていた。

木曾が覗いて見ると、それはこの周辺の地図だった。

鈴谷は、表示枠でその地図を弄り、何かを計算して、程無くして、横須賀に連絡を入れた。

 

ズーやん¦『横須賀、総長は居る?』

横須賀¦『金剛総長様は只今、留守にしております。なので、御用件は私が御伺い致します』

ズーやん¦『それじゃぁ、課金でここら一帯のエリアを買い取って欲しいんだけど』

邪気目¦『はあ?エリアを買い取る?!』

船長¦『何言ってんだ、お前?』

 

「このエリア一帯を買い取って、戦闘禁止エリアにしちゃうんだよ」

「出来んのかよ?そんな事」

「課金次第で何でも出来るゲームだよ?廃人プレイヤーはエリア買ってるみたいだし」

「でも、幾ら位になるんですか?」

 

横須賀¦『試算が終わりました。その一帯のエリアの購入金額は約400万程になります』

紅茶姉¦『ふむ、その程度、買い取っても問題ありまセンネ。費用は私が出シマス。買い取りナサイ』

ズーやん¦『やった!流石、総長!』

 

鈴谷の作戦、それはこの周辺エリアを買い取って、戦闘禁止エリアに指定するというものであった。

 

「見た感じ、戦闘エリアから禁止エリアへの攻撃は通らないから、奴を封じ込められるかもよ」

「だけどよ、アレが大人しく封じ込められると思うか?」

 

木曾の疑問に、鈴谷が頭を抱えた。

 

「そうだった・・・アレ、絶対大人しくしない・・・!」

「どうやっても、囮役が要るぜ」

 

自分達を追い回した紅椿・真改。アレを大人しく封じ込めるには、どうやっても囮役が必要になる。

木曾と吹雪は装備で足が遅い。自分と摩耶も速くはない。だとすると、残るは

 

「俺か」

「天龍、いけるか?」

「任せろよ、俺は、横須賀の天龍様だぜ?」

 

天龍が自信有り気に笑い、準備を進める。

 

「天龍さん」

「任せとけよ、吹雪」

「ふぶっちは、管制をお願い。ふぶっちの耳なら、信頼出来るからさ」

「・・・はい!」

 

不安に天龍を見ていた吹雪だったが、鈴谷の言葉にヘッドホンを当て直して、索敵を始める。

 

「ん?え・・・?」

 

各員が準備を進める中、吹雪の肩をつつくものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズーやん¦『それじゃぁ、作戦開始!』

 

鈴谷の号令の元、『紅椿・真改閉じ込めよう作戦』が開始された。

 

「天龍様の攻撃だぁ!」

 

紅椿・真改に、天龍の砲撃が当たるが、奇妙な力場で防がれる。

 

元ヤン¦『おいおい、なんだありゃ?!』

船長¦『バリアとか、反則だろ?!』

空腹娘¦『大丈夫ですか!天龍さん!』

 

ーー厄介だな!こんちくしょう!ーー

 

天龍は駆けた。水上であれば僅かに余裕が出るが、今は陸上だ。その僅かな余裕は無い。

喩え、ゲーム世界だとしても、やる事は変わらない。

 

ーーうおっとぉ!狙いが正確だなーー

 

なら、自分のやる事をやろう。

天龍は駆けた。

 

 

ズーやん¦『横須賀!状況は?!』

横須賀¦『只今、エリア買い取りの処理を行っておりますが、何分買い取り範囲が広い為、処理が遅れております!』

ズーやん¦『解った!摩耶!』

元ヤン¦『あいよ!』

 

天龍を追う紅椿・真改。摩耶はその追撃ルート上にある電波塔の元に居た。

ボロボロで、押せば今にも倒れそうな電波塔に手を当て、合図を待つ。

 

空腹娘¦『摩耶さん!カウント5!』

 

吹雪から合図が来た。摩耶は艤装をグリップし、腰を落とし構える。

 

空腹娘¦『カウント4 3 2!』

 

息を吸い、腹に力を籠める。体を捻り、狙いを定め最後の合図を待つ。

 

空腹娘¦『1 0!』

 

「おるぁ!」

 

最後の合図と共に、電波塔の基部。その最後の支えに艤装の船殻を叩き込む。

倒れる電波塔。狙いは、天龍を追う紅椿・真改。

 

船長¦『マズイ!反応したぞ!』

 

紅椿・真改が、自分を潰そうとする電波塔に気付き、左腕のレーザーブレードで斬り裂こうとする。

しかし、その左腕は動く事は無かった。

 

空腹娘¦『鉄腕ちゃん!』

 

倒れる電波塔、それに自分の肘を器用に使いフックしたチェルノ・アルファの腕が、紅椿・真改の顔面を打撃した。

 

 

鉄桶男¦『・・・・・・』

鉄桶嫁¦『・・・あの、冬悟さん?』

鉄桶男¦『いや、なんで?』

鉄桶嫁¦『なんで?と言われましても・・・』

鉄桶男¦『え?なんで、自立してんの?なんで?』

夕石屋¦『わ、私達にも何がなんだか・・・』

班長¦『戻ってから、要調査だな』

おかみ¦『ふむ・・・』

紅茶姉¦『ああ・・・』

約全員¦『何か、解ったの?』

二人¦『内緒デス』

約全員¦『ええ~!』

 

 

鉄と鉄がぶつかる激音が周囲に響き渡り、影が崩れ落ちる。

バラバラになった電波塔の下敷きになった紅椿・真改。

未だに動き続けるそれに、吹雪の艤装が鉄拳を連打で降り下ろす。

どうやら、不可思議な力場はあの極近距離では効果は無い様だ。

 

ズーやん¦『・・・ふぶっち・・・』

空腹娘¦『え~と、連装砲ちゃんみたいな?』

元ヤン¦『あんなアクティブな連装砲ちゃん見た事ねぇよ・・・』

邪気目¦『左右のコンビネーションがすげぇんだが・・・』

船長¦『アッパー入ったな・・・あ、フックも』

横須賀¦『・・・鈴谷様、エリア買い取りが終了致しました。これより、該当エリアを戦闘禁止エリアに指定致します』

ズーやん¦『あ、うん。お願い』

 

やがて、紅椿・真改が動かなくなったのを確認して、鉄腕ちゃんが四本指で器用にピースし、吹雪の艤装に再度ジョイントされて戦闘は終了した。

 

「大人しくなった、ね・・・」

「疲れた・・・?」

「吹雪、戻ったら、オヤジか班長に見てもらえ」

「はい・・・」

 

夕石屋¦『私達は?!』

横須賀¦『再度、横から失礼致します。夕石屋様、霧島副長様から、ロミオ・ブルーの再調整の依頼が入っております』

副長¦『どうにも、足回りが・・・』

夕石屋¦『ああぁ、脚部モーターが・・・!』

班長¦『新規で組み直すか。おい、設計図からモーター引っ張り出せ』

 

戦闘が終了し、緩んだ空気の中、聞き慣れた声が響いた。

 

「はーっはっはっはっ!とうとう来たね!皆!」

 

鈴谷達が買い取ったエリアの外にある整備された建物の屋上に、ターゲットである磯谷穂波が居た。

 

「まさか、エリアボスの紅椿・真改を倒すとは・・・」

「あ・・・」

「思わなっ!」

 

得意気に喋る磯谷に、突如再起動した鉄腕ちゃんの瓦礫アタックが直撃した。




お腹が空いた♪お腹が空いた♪キヒヒヒヒ♪


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艦セ

今回で艦息セレクション終了!

次回は、オッサン主役か吹雪と悪ガキ隊のグルメかな?


元ヤン¦『なあ?』

空腹娘¦『・・・・・・』

ズーやん¦『いやあ、あれだね?「五月蝿い」ってやつかな?』

邪気目¦『やっぱよ、吹雪。戻ったら、見てもらえ。な?』

空腹娘¦『はい・・・』

船長¦『お?立ったぞ』

 

鉄腕ちゃん瓦礫アタックが直撃した屋上、そこに居た磯谷がヨロヨロと立ち上がった。

見た感じ、ダメージはそうでもなさそうだ。

 

「ねえ、何それ?」 

 

やっぱり、来たその疑問。

しかし、本人達が何か解っていない疑問に、本人達が答えられる訳も無く

 

「えっとぉ・・・鉄腕ちゃん?」

「鉄腕ちゃん・・・?!」

 

答えにならない答えしか返せない。

 

ほなみん¦『いやいや、何なのそれ?!』

ズーやん¦『いやね、こっちとしても、その疑問は同じと言うか・・・』

元ヤン¦『解らんから、答えられん』

ほなみん¦『待って待って!なんかそれ、私が喋る度にシャドーボクシングしてるんだけど!?』

邪気目¦『うわ!マジだ?!』

船長¦『まさか、充電式?』

ズーやん¦『まっさか~、そんな事が』

空腹娘¦『そう言われると、お腹が空いてきましたね』

元ヤン¦『あ、これ充電式だわ・・・』

 

吹雪の艤装に繋がれて、シャドーボクシングをする鉄腕ちゃんが充電式?と解り、驚く面々。

それを知ってか知らずか、鉄腕ちゃんのシャドーボクシングは激しさを増していった。

 

「待って!ホントに待って!すんごい激しい!」

「あれか?穂波が嫌いなんじゃね」

「出会った瞬間に嫌われるとか・・・!」

「笑うなああああ!」

 

磯谷が吹雪達を指差し叫ぶと、鉄腕ちゃんが凄まじい勢いで瓦礫を投げつけた。

投げつけた瓦礫は、磯谷の足下にヒット。若干、砕けながら床に突き刺さった。

 

「・・・・・・えっとぉ」

「ふぶっち?」

「言いますけど、私は何もしてませんよ?」

「穂波、マジで嫌われてね?」

「私、何かしたああああ?!」

「あ・・・」

 

また、投げつけた。突き刺さった。二個目である。

見れば、片方の腕には、次弾が装填されていた。

ヤル気だ・・・!全員が思った。

 

鉄桶男¦『吹雪君?』

空腹娘¦『違いますよ?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、それ、艤装とは違う別の新しい何かなんじゃ・・・』

鉄桶嫁¦『私のも、そんな風には動きませんからね』

夕石屋¦『だとしたら、新発見ですよ!』

横須賀¦『あの、皆様?当初の目的をお忘れなきよう、御願い致します』

約全員¦『しまった・・・!』

 

摩耶が表示枠から、磯谷に向き直り言った。

 

「おい、ア穂波!」

「誰が、アホだああああ!」

「あ・・・」

 

二発同時投擲だった。

どうやら、鉄腕ちゃんは叫ばれるのが嫌いな様だ。

 

「いいから聞け、な?」

「うん!聞くよ!聞くから、鉄腕ちゃんが持ってる瓦礫放さして!」

「鉄腕ちゃん、メッ!」

 

吹雪が軽く叩くと大人しくなった。

全員が、何か納得のいかない顔をしながらも、磯谷に向けて告げる。

 

「穂波!早く戻れ!死ぬぞ!」

「話が合ってない!」

「いいかぁ?!若葉がな、着々と準備を進めてるんだよ!」

「まっさか~、いくら若葉ちゃんでも・・・」

 

わかば¦『剥製・・・』

 

表示枠が小さく呟き、消えた。

磯谷が滝の様な冷や汗を流し、摩耶を見る。

見れば、摩耶も顔がひきつっている。

 

ほなみん¦『五百蔵さん五百蔵さん!』

鉄桶男¦『早く戻れ!今なら、拳骨一つで許してやる!俺は』

ほなみん¦『最後!最後が不穏!』

鉄桶男¦『あぁ?なら、本気で打ち下ろしてやろうか?んン?』

ほなみん¦『それより、若葉ちゃん止めて!お願い!』

約全員¦『無理』

ほなみん¦『チクショー!』

 

磯谷が表示枠を床に叩き付けて割った。

そして

 

「もーう、怒った!怒ったよ!私は!意地でも帰らない!シリアスハードなリアルには帰らないよ!」

「うっせーマダオ!バカ言ってないで帰るぞ!」

「マダオ!言うに事欠いてマダオ!?」

 

もーう許さないぞー!と磯谷の気合いの叫びに呼応するように、大量の人影が現れた。

 

「うげ?!」

「この、ア穂波ぃ!」

「うそ~」

「え?ええええ!?」

「マジかよ・・・!」

 

磯谷が呼び出したモノ、それは

 

「私を連れ帰りたくば、この紅椿・真改軍団を倒して見せろー!」

「「「この、クソバカア穂波ぃ!」」」

 

先程まで、散々に苦戦した紅椿・真改、計20体であった。

 

「この、バカ!幾ら課金しやがった!」

「私の貯金の半分を注ぎ込んだ軍団!破れるものなら破ってみろー!」

 

ーークソが!マダオも、ここまで来ると清々しいな!ーー

 

摩耶は、現在の戦力を見た。

自分、近接系 対空以外は苦手

鈴谷、指揮系 戦闘能力は割りと低め

天龍、近接系 割りと遠距離もイケるが、威力が低い

木曾、両立系 只し、魚雷が使えない

吹雪、索敵系、鉄腕ちゃんが未知数って、ん?鉄腕ちゃんは何処だ?

 

ーーヤベェ・・・超不安定だ・・・ーー

 

この危機的状況、唯一の救いは自分達が居るエリアが戦闘禁止エリアに近いという事のみ。

 

「全軍!一斉攻撃ぃ!」

 

磯谷の号令に、紅椿・真改が一斉に右手のマシンガンを構え、掃射した。

 

 

 

 

 

鈴谷は考える。この現状を打破する方法を、弾丸が飛び交い、ビルを瓦礫を砕いていく場で考える。

 

ーー敵は紅椿・真改20体とほなみん。多分、エウレカも課金で再現してる!ーー

 

此方の戦力は、最高火力が摩耶と木曾、只し木曾は魚雷が陸上だから使えない。摩耶は近接ラムアタックだけど、近付かなければ意味が無い。

安定的な戦力は天龍、経験値はピカイチだ。だけど、火力が低い。

私は、どちらかと言えばビミョー。指揮系だし、速度も火力もそう高くはない。

最後に、ふぶっち。ふぶっちは駆逐艦で索敵系、火力は当然低い。だけど、鉄腕ちゃんが未知数。って、あれ?鉄腕ちゃんが居ない?

 

ーーどうする?どうするよ?私!ーー

 

紅茶姉¦『ふむリ』

 

金剛の表示枠が目の前で開いた。

 

紅茶姉¦『成る程、成る程成る程・・・』

 

鈴谷は何も言えなかった。

金剛は、椅子に座り足を組みゆったりと佇んでいる。

只、それだけだが

 

紅茶姉¦『これは、少々甘やかし過ぎマシタカ?穂波』

 

金剛は、怒っていた。

 

 

ズーやん¦『ヤベーよ!総長キレてるよ!』

元ヤン¦『はあ?!マジかよ!』

邪気目¦『これは、穂波終わった・・・』

船長¦『足緩めんな!来てんぞ!』

約全員¦『うおわああああああ!』

 

 

 

「比叡」

「はい、御姉様。後は、御姉様のサインのみです」

「流石デスネ、比叡。では穂波?反省シナサイ」

 

金剛は、ある書類にサインをして、目の前の人物に手渡した。

 

 

 

 

「はーっはっはっはっ!手も足も出まい!」

「くっそ!くっそ!あのア穂波め、調子乗りやがって!」

「あとちょっとで、戦闘禁止エリアです!」

「謝るなら許してあげるよぅ?」

「あのツラ殴りてぇぇぇ!」

 

逃げる吹雪達を追う紅椿・真改軍団。

背部の砲、プラズマキャノンを一斉に展開し、吹雪達に狙いを定める。

 

「おい!あのビルぶっ飛ばしたヤツ撃つ気だぞ!」

「ふざけんなー!」

「あとちょっとなのにー!」

 

逃げる吹雪達目掛けて、プラズマキャノンに光が収束し発射される瞬間、紅椿・真改軍団の動きが止まった。

 

「あ、あれ?どうなってるのこれ?」

「止まった・・・?」

 

全員が呆然とする中、磯谷と吹雪達が居るエリアにアナウンスが響いた。

 

横須賀¦『皆様に御知らせ致します。たった今、横須賀鎮守府艦隊総長金剛が当ゲーム「艦息セレクション」の制作会社を購入されました。なので、当ゲームはたった今より、横須賀鎮守府艦隊総長金剛様の管理下に置かれます』

約全員¦『は?』

紅茶姉¦『ふふン、安い買い物デシタネ』

ほなみん¦『あ、あの、金剛ちゃん?』

紅茶姉¦『穂波、暫く反省シナサイ』

 

「あ!あの紅椿・真改消えていきますよ!」

 

吹雪が指差す紅椿・真改が、立体からデータへと分解されて消えていく。

それも、1体だけではなく20体全てが消えていく。

 

「よっしゃ!今がチャンス!あのア穂波ボコれ!」

 

摩耶達が踵を返し、磯谷をボコろうと猛然と駆け寄る。

それを見た磯谷は、逃げずにストライカー・エウレカを展開しようとするが

 

紅茶姉¦『反省シナサイ。私はそう言いマシタヨ、穂波』

 

金剛により、ストライカー・エウレカの展開をブロックされる。

 

「くっそー!まだだ!まだ終わらんよ!」

「諦めろや!ア穂波ぃ!」

「最後の手段!自爆スイッチ!」

「「「この!クソバカア穂波ぃ!」」」

「今だ!」

「「「へ?」」」

 

磯谷が隠された自爆スイッチを押そうとした瞬間、磯谷の視界の端に何かが飛び込んで来た。

 

「鉄腕ちゃん瓦礫アタック・・・!」

 

紅椿・真改が消えていくデータの塵に紛れて近付いていた鉄腕ちゃんがアリウープで飛び出し、人一人分の大きさの瓦礫を磯谷に叩き付けた。顔面直撃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、磯谷ア穂波の回収完了しました」

「あ~、ご苦労さん皆」

 

ゲームなのに妙に疲れた顔の横須賀悪ガキ隊と吹雪、軽い脱水症を起こしかけている磯谷が、金剛と五百蔵の前に並んだ。

 

「取り敢えず、磯谷嬢は体調が回復したら覚悟しとけ。仕事が溜まりまくってんだ」

「・・・ふぁい」

「皆、迷惑を掛けマシタネ」

「いやはや、疲れたぜ・・・」

「あのゲームは、何がしたかったのか解んないね」

「お腹が空きました・・・」

 

三者三様の感想、それを聞きながら金剛は紅茶を一口飲み、笑顔で全員に告げる。

 

「頑張った子には、ご褒美をあげなくてはイケマセンネ」

「「「え?」」」

「比叡」

「はい、御姉様」

 

比叡が差し出した一枚の紙、それは

 

「総長、これマジ?」

「マジもマジ、大マジデス」

「やったよ、ふぶっち!」

「何何!何ですか?!」

「見ろよ吹雪!超高級中華飯店『春華楼』のVIP待遇チケット!総長の行き着けの店だ!」

「しかも、食べ放題で使用回数上限無しだぜ!」

「ほ、ほあー!ほあー!」

「やったね、吹雪ちゃん!」

 

吹雪が歓喜の声を上げ、格納空間から飛び出した鉄腕ちゃんが、睦月の車椅子を押し喜びを表現する。

 

「義姉さん、少しやり過ぎでは?」

「ふふン、頑張った子にはご褒美。これは、年長者の特権デスヨ、冬悟」

「しかしですな」

「冬悟、榛名が待ってマスヨ。早く行ってあげナサイ」

「げ!もうそんな時間ですか?!」

 

金剛が笑みを浮かべ、目の前の風景を見詰める。

摩耶が吹雪を抱き上げ、天龍が鈴谷と肩を組み、木曾が睦月の車椅子を押す鉄腕ちゃんを止めようとしている。

その横では、軽い脱水で震える磯谷にスポーツドリンクを与える比叡と急いで外出の支度に向かう五百蔵が居る。

 

ーー良いものデスネ、見守る立場というモノハーー

 

金剛は、左手の義指となった薬指を撫で、紅茶をまた一口飲んだ。




キヒヒヒヒ♪やっぱり、磯谷司令と遊ぶのは楽しいですね。
さて、疲れたし寝ようっと


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オッサン、出掛ける&その他

オッサン主役かと思ったら、磯谷のキャラが前面に出た・・・何故?
あ、後、何処からか電波を受信しまして宿毛のあの人と陸軍のあの人が登場しますぅ。

活動報告に、これからのバケツのオッサンの予定を書いてます。


「それじゃ、出るから、後よろしくね」

「はーい」 

「いってらっしゃいです」

 

冬の寒空の下、横須賀鎮守府で休暇中の五百蔵が街へと出掛けた。

それを、吹雪と睦月が見送る。

様々な騒動があったが、今は平和そのものだ。

 

「行ったかな?」

「行ったよ?」

 

五百蔵が出掛けたのを確認し、二人は表示枠を開いた。

 

空腹娘¦『行きました!』

ズーやん¦『よし!では、作戦開始!』

にゃしぃ¦『いいのかなこれ?』

邪気目¦『いいのいいの』

船長¦『で、どうするんだ?』

空腹娘¦『提督を追い掛けます!』

船長¦『いや、だから、その方法』

元ヤン¦『素直に、尾行するしかないんじゃね?』

 

吹雪達の作戦、それは五百蔵と榛名が出掛けるのを尾行するものだった。

 

ほなみん¦『何!私を除け者にして、楽しい事やってるの?!』

ズーやん¦『あ、ほなみん生きてた』

元ヤン¦『喧しいのが来やがった・・・』

ほなみん¦『なんだあああ?!私提督!提督だよ!?』

ヒエー¦『疑問系入ってる時点でアウトじゃないですかね?』

ほなみん¦『比叡ちゃんまで・・・!いいもんいいもん!私一人で一大ジャンルになるから!』

邪気目¦『メンドクセエからやめろ』

船長¦『つかよ、仕事はいいのか?』

ほなみん¦『今日の分は終わったし!』

空腹娘¦『あの、磯谷司令?若葉さんが近くに・・・』

ほなみん¦『そうなんだよ!最近、若葉ちゃんとの距離が物理的に縮まったんだよ!振り返れば、物影に若葉ちゃんが居るんだよ!』

わかば¦『・・・人体模型』

約全員¦『ひいぃ!』

 

最近、会話の流れが早くて追うのが大変だと、睦月は思う。特に、磯谷が入ってきた時のスピードは凄まじいの一言に尽きる。

あっという間に会話が始まり終わり、また始まるを繰り返している。

 

ほなみん¦『そう言えば、吹雪ちゃん』

空腹娘¦『何ですか?磯谷司令』

ほなみん¦『鉄腕ちゃん、どうしてるの?』

空腹娘¦『・・・何でそんな事を聞くんです?』

ほなみん¦『え!?え~っと~』

 

磯谷が答えに詰まり、言い淀んだ。

吹雪の艤装を納める格納空間から、鉄腕ちゃんがニュッと這い出し、走り去っていった。

 

空腹娘¦『磯谷司令、鉄腕ちゃんは今出ました』

ほなみん¦『今出た?!今出たって言った?!何処?!何処から?!』

ズーやん¦『因みに、ほなみんは今、何処に居るのかな?』

邪気目¦『おい、穂波』

ほなみん¦『え!?いや、そのっ?!ちょっ!まっ!』

 

磯谷の表示枠から磯谷が消え、快音が連続で響いた。

 

元ヤン¦『何か今、すげえ良い音がしたな・・・』

ズーやん¦『ゴキャァ!とかパキャァ!って感じの音だったね・・・』

横須賀¦『ほなみん 様が退室されました。九割九分九厘の可能性で、鉄腕ちゃん様によるコンビネーションが原因と思われます。承認しますか?はい/いいえ』

 

全員が黙って『はい』を押した。

 

空腹娘¦『磯谷司令が更衣室前に潜んでいる音がしましたので・・・つい』

船長¦『吹雪の耳から逃げられると思っていたのか?あいつ』

元ヤン¦『騒がしくしてたら、釣れると思ったが・・・』

邪気目¦『まさか、本当に釣れるとはな・・・』

ズーやん¦『ほなみん、分かりやすすぎ・・・』

にゃしぃ¦『あの、五百蔵さんはいいの?』

約全員¦『しまった・・・!』

 

結局、五百蔵のオッサンと榛名の尾行は大幅に出遅れ、吹雪達は大急ぎで支度をし、出掛ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の何処かの埠頭、そこで一人の女性が釣糸を垂らしていた。

横に置いてあるバケツには、何も入っていない。どうやら、釣果は芳しくはないようだ。

だが、女性の顔には苛立ちの色は無く、今の状況を心底楽しんでいる。

その女性に、作業着姿の長身が後ろで結んだ髪を揺らしながら、がに股で近付いていた。

 

「おう、久しぶりやにゃあ。まるゆ」

「む?ああ、大和か。どうした?珍しいじゃないか、お前が宿毛から離れるなど」

「アシも珠にゃあ、の。旅行の真似事もすらぁよ」

「そうか、子らに親孝行でもされたか?」

「あのチビ助共、余計な気ぃ回しよるわ。そういや、おんし今は中将になったがやったか?」

「身に合わぬ身分さ」

「はっ、そら、堪らんのぅし」

 

作業着の長身、宿毛の大和がまるゆの隣に腰を下ろし、煙草に火を着ける。

二人は言葉を交わさず、まるゆは釣糸を垂らし、大和は紫煙を吐いていた。

ややあって、まるゆが上着のポケットから葉巻を取りだし火を着けた。

 

「金剛もおんしも、葉巻かや?気取るのう」

「大和、こう言う嗜好品は好みだ。気取るだのは関係無いさ」

「かっははは!そらそうじゃな、アシも葉巻は性に合わん」

「そうだろうな」

 

笑い、まるゆのバケツに大和は目をやる。

バケツの中は、相変わらずの空だった。

 

「知っちゅうかや?魚は針付けんと釣れんち」

「・・・またか」

「針取られたに気付かんかったがか?変わらんのう」

「はあ、大和」

「何ぜ?」

 

据わり目付きの悪い目で、大和はまるゆを見る。

まるゆは紫煙を空に向けて吐き、釣竿を片付け始めた。

 

「お?どいたぜ?針取られるき、嫌になったかや?」

「大和、暇なら呑みに行くか?」

「奢りならの」

「ああ、私の奢りだ」

「いたら、行こうかや」

 

まるゆは背筋を伸ばし、大和は若干猫背で、二人は揃って歩き出し、店へと向かった。

 

 

「しかしよ、まるゆ。おんしのその、水着か何か解らん格好は何とかならんがかや?」

「何ともならんな」

「ほうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬悟さん、このネクタイはどうですか?」

「ふむ?ああ、これは中々」

 

五百蔵と榛名は、街の紳士服店で買い物をしていた。

長身の二人がネクタイを選んでいる光景は、不思議な威圧感めいたものがあった。

 

「冬悟さんは、どちらかと言えば明るい色目は合いませんから、此方の寒色系が合いますね」

「いや、すまないね。選んでもらって」

「いえいえ!これも妻の務めですから!」

 

店の外で何か崩れ落ちる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「くそぅ!くそぅ!何であんなオッサンに!」

「諦めろ、榛名お嬢が選んだ相手だ」

「それに、あの金剛総長も認めているんだ」

「はっ!吹雪様が居るぞ!あ、提督、ちーっす」

「横須賀悪ガキ隊もだ!あ、提督、ちーっす」

「早く御試食を用意するんだ!あ、提督、ちーっす」

 

 

 

 

 

 

「ふうむ、この街もふぶっちに染まってきたね」

「あの、最後がおかしくなかったです?」

「まあ、あまり気にするな。睦月」

「いや、おかしくない?ねえ?」

 

物影に、吹雪達が隠れ五百蔵達の様子を窺っていたが、如何せん人数が多かった。隠れきれずに、街の料理人達に見付かっていた。

 

「ほっほーう!」

「おい、誰か吹雪取り押さえろ!」

「吹雪ちゃん!落ち着いて!」

 

目の前の店先に、試食の山が並ぶ。

それも、吹雪が二回以上通って常連になった店は繁盛するというジンクスがあるからだ。

どの店も必死に吹雪を呼び込もうと、出来立ての中華まんや菓子類に揚げ物を試食として山のように積み上げていく。

 

「穂波!止めろ!」

「あ、ちょっと待って!このパターンは?!」

 

天龍が、復活した磯谷を暴走する吹雪にけしかける。

しかし、磯谷の予想通りに鉄腕ちゃんが格納空間から飛び出し、右腕が磯谷を掴み左腕が肘で右腕をフック、そのまま磯谷を引き摺り、横須賀の街を駆け抜けた。

 

「ひぃ!腕が!・・・何だ、提督か」

「な、なんだ!・・・提督かよ」

「腕が遡上していく!・・・あ、提督か」

 

「何て言うか、安定のほなみんだね」

「いいんですか、あれ?!」

「いいのいいの、ムッキーは気にせず可愛い服を探そう」

「オヤジと榛名の尾行はいいのか?」

「いやもう、吹雪が店に突撃して、穂波があれだし、バレてるだろ」

「それじゃ、ふぶっち回収して、ムッキーを可愛くコーディネイトしちゃおう!」

 

山のように積み上げられた試食が吹雪が通ると同時に消え感謝の声が響く中、摩耶が吹雪に中華まんとスティックサラダを買い与え、鈴谷達に合流する。

 

磯谷は、後に五百蔵と榛名に回収された。

 

「何やってるのよ?君」

「ふっ、流石は鉄腕ちゃんね!やるじゃない」

「鉄腕ちゃん、お散歩は終わりですよ」

 

それから暫くの間、リードを付けた鉄腕ちゃんが磯谷を引き摺り横須賀の街を駆け抜けるお散歩が、恒例行事になるのは、また別のお話。

 




鉄腕ちゃん無双だ、これ・・・
まるゆ中将は、攻殻な機動隊の少佐をイメージ・・・


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まじめなはなし

前回に引き続き、あの二人めいん!
本編とは関係無い話なのです!


「かっあー!まるゆよぅ、おんしゃ、こんな上等な酒呑みゆうがか」

「相変わらず、いい呑みっぷりだな大和」

「家やと、チビ助共が喧しいきの。上等な酒らぁ呑めんわ」

 

静かなBARに二種類の声が響く。

まるゆは静かにグラスを傾け、大和はボトルを一気に空けていく。

二人共、呑み始めてかなりの時間が経つが、酔いが回っている様子は無い。

素面で呑み、話をしている。しかし、まるゆはどこか歯に挟まった様な様子だ。

 

「大和」

「何ぜ?」

 

ややあって、まるゆが切り出した。

グラスを煽り、一息吐いた。

 

「・・・最後の戦いを覚えているか?」

「んあ?ああ、あの中枢棲姫か」

「そうだ・・・」

「何ぜ?酔うたかや、似合わん言い方しよって」

「なあ、大和。奴の最期の言葉を覚えているか?」

「ああ?最期の言葉?」

「そうだ」

 

大和は嘗ての記憶を呼び覚ます。

誰も彼もがパタリバタリと当たり前のように死んでいき、海を紅く染めていたあの戦場。

その最奥、最後の戦場。其処に居た奴の最期の言葉。

 

『コノ世界ハ平和ノ成レノ果テ、愚カナオ前達ガ望ンダ愚カナ理想。精々足掻ケ』

 

「じゃったか?これがどういたぜ」

「大和・・・私はあの戦いの後、深海棲艦達に話を聞いて回った」

「ほう、変わった事するにゃあ」

「そこで、奇妙な話を聞いたよ」

 

まるゆは目を閉じ、グラスを揺らした。

 

「深海棲艦達は、誰も中枢棲姫の事を知らなかった」

「ああ?どういう事な?」

「正確には、中枢棲姫とその氏族を知らなかった、か」

「もっと、解らんわボケ。分かりやすうに話せ」

「深海棲艦は氏族で纏まり、氏族間の繋がりは弱い。隣の海域の氏族の事もまともに知らない事だってある。だがな、全く知らない訳じゃない」

 

深海棲艦は氏族で纏まり、鬼や姫と言った上位個体を族長としている。

その為かは解らないが、他の氏族の事をよく知らない事がある。だが、それでも

 

「どの氏族がどの海域に居て、誰が族長かぐらいは知っている。なのに」

「誰っちゃあ、中枢棲姫と氏族を知らんつか」

「そうだ、あの北の氏族を纏める港湾棲姫も、中枢棲姫の事を知らなかった」

「あの、港湾棲姫もかや。益々、怪しいにゃあ」

「大和、私達艦娘は洋から始まった」

「んお?」

 

新しいボトルをバーテンダーから受け取り呑み干していく大和に、まるゆは内心ちょっと引きながら話した。

 

「・・・大和、私達艦娘は、深海棲艦を研究して産み出されたとされている」

「・・・・・・」

「しかし、その切っ掛けとなった戦争を起こしたとされる中枢棲姫は、誰も見た事も聞いた事も無い。そんな存在が突然現れ戦争を起こし、それに対抗する為に洋が産み出され、私達が産み出された。シナリオとしては、出来すぎと言えるし不出来とも言える」

「・・・・・・」

「なあ、大和。私達はいったい何だ?」

 

まるゆの独白に大和は何も言わず、空のボトルを量産していた。

その様子に、まるゆが眇で大和を見ると、大和はまるゆの前に置かれていたナッツが入った皿を掴むと、一気に口に流し込んだ。

 

「あ」

 

まるゆが茫然とする横で、大和は口内のナッツの群れを噛み砕き、ボトルに入った琥珀色の液体で飲み下す。

ややあって、ゲップを一つして、煙草に火を着ける。

 

「何でもかまんちや、んな事」

「そんな、事・・・?」

「アシもおんしも、艦娘。それでええやか」

「いや、お前、私の話を聞いていたのか?」

「聞きよったよ、めんどい事言いよるなあち、の」

 

ヌッと手を伸ばし、バーテンダーが持つバーボンのボトルを取り、一息に呑み干す。

 

「のう、まるゆ。アシらは艦娘よ」

「ああ・・・」

「アシらに出来るがは、何ぜ?」

「・・・ああ、そうか・・・」

「謎解きは謎解き屋に任いて、アシらはアシらに出来る事やりよったらええがよ」

 

バーテンダーは驚愕した約五十度のバーボン、それが瞬く間に消えていく。おかげで、二人の話が頭に入って来ない。

それ以外の酒も、たった一人により空のボトルとなって積み上げられていく。

いったい、どういう肝機能をしているのか。驚愕しながらバーテンダーは次のボトルを手に取ると、それも空になった。

 

「まるゆよぅ、おんしの悪い癖よ、それは」

「・・・そう、だな」

「抱えて抱えて、抱えるだけ抱えて、最後の最後まで抱えっぱなし。洋にでもなる気かや?」

「・・・それは、無理だな・・・!」

 

笑い、グラスを空にする。

 

「そうよ、アイツになるは無理よ」

「くっくくく・・・お前ぐらいなものだぞ?洋をアイツ扱いする奴は」

「はっ!知ったことかや」

 

二人の話は、まだ続く。

 

「知っているか?大和。洋は、あれでいて中々に・・・」

「かっはははははは!笑わすなや!」




このBarの酒は0


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オッサン、その他

なんか、書いててビミョーな感じのお話でした。

次回から、プレハブかな?


麗らかな日差しの元、未だに休暇中の北海鎮守府提督五百蔵冬悟が一人で街を歩いていた。

 

ーーさて、昼はどうするか?ーー

 

街をぶらぶら歩いて、暇潰し。街のチンピラとヤーさんに道を譲られ挨拶されて、どうしたものかと苦笑しながら歩いていた。

五百蔵が何もせずに歩いていると、昼を報せる鐘が鳴った。

 

昼はどうするか?考えるが、良い案が思い付かない。

見付けた自販機で缶コーヒーを買い、ベンチに座り街並みを眺める。

 

ーーふむ、一人の昼か。久しぶりだーー

 

鎮守府では、吹雪や誰かしらが居て、一人で食事をする事は殆んど無かった。

何故か、また挨拶されたりして苦笑しながら、昔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめた。若気のいたりだ。思い出しても、もう意味は無い。過去より今だ。

 

ふと、街が騒がしくなっているのに気付いた。

何かと目を向けてみると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『ああああああああああ!!待ってぇ!鉄腕ちゃん!待ってぇ!せめて、同じ方向に走ってぇ!私、二人になっちゃううううううううう!!』

『ヒイィ!腕が!腕が!・・・なんだ、提督か』

『鉄腕ちゃん!そっちは道じゃなっ・・・!』

『飛んだぞ・・・!』

 

見なかった事にしよう。そう決めた。

あの鉄腕、自分のチェルノ・アルファのスクラップパーツから造られた筈なのに、自立稼働している。

謎が多すぎる吹雪の新型艤装、造った夕石屋も何故自立稼働しているのか解らないと言っていた。

だが、吹雪と自分と榛名。この三人に対して、反応を示す事だけは明らかになっている。

鳳洋に対しては、ジッと見るようにしているだけだった。

 

ーー目がないのに、見るようにとは、これ如何にーー

 

元ヤン¦『オヤジ』

鉄桶男¦『どうかしたかね?摩耶君』

元ヤン¦『穂波、見なかったか?』

 

見なかった事に出来なかった。

ヘアピンカーブをドリフトで曲がる鉄腕ちゃん、それに引き摺られる磯谷。

見なかった事にしたかった。

 

鉄桶男¦『磯谷嬢なら、飛んだよ』

元ヤン¦『飛んだ?・・・ああ、鉄腕ちゃんの散歩か』

鉄桶男¦『さん、ぽ・・・?』

元ヤン¦『散歩だ、オヤジ』

 

犬の散歩ならぬ腕の散歩・・・

聞いた事の無い言葉に、五百蔵は戦慄する。

 

元ヤン¦『飽きたら、帰ってくるか』

鉄桶男¦『そう言うものなのか?』

ズーやん¦『オジサン、相手はほなみんと鉄腕ちゃんだよ』

邪気目¦『つかよ、今、トリプルアクセルしてたんだが』

 

あの鉄腕ちゃん、本当に何なんだろう?

あの子は何の疑問も無く使っているけど、不可思議だらけだろう、あれ。

 

「叔父貴、どうした?」

「木曾君か」

 

五百蔵が軽く頭を抱えていると、木曾が大きめの紙袋を提げて現れた。

 

「いやね、鉄腕ちゃんについてなんだが」

「・・・鉄腕ちゃんは、鉄腕ちゃんとして考えるしかないんじゃないか?」

「・・・やっぱり、そうなる?」

「ああ、それしかない」

 

神妙な面持ちで頷く木曾

川向こうでは、とうとう鉄腕ちゃんを繋ぐリードが切れて、磯谷が空を舞った。

 

「・・・ところで、叔父貴。飯食ったか?」

「ん?まだだが、どうしたかな」

「いやな、俺もまだだから、良かったらどうだ?」

「ああ、行こうか」

 

五百蔵が立ち上がり、空になった缶コーヒーをゴミ箱に捨てる。

それを見ながら、木曾は内心ガッツポーズを取った。

 

ーーしゃっ!叔父貴と昼飯!買い物に出て良かったぜ!ーー

 

熊さんパンツの木曾が、心の中で狂喜乱舞しながら「第二夫人」と危険な単語を騒いでいる。

しかし、

 

ーーん?木曾君はどうした?ーー

 

第一夫人は榛名で決まりだ。それは、どうにも出来ない。だが、第二夫人なら!ジュウコンカッコカリもあるしな!

と、意気込んでいるが、当の五百蔵冬悟にとって、木曾は「よく懐いてくる近所の子供」程度の認識でしかない事を木曾は知らない。

 

リードが切れて空を舞った磯谷を、鉄腕ちゃんがキャッチし、また走り出した事を二人は知らない。

 

「叔父貴、こっちに旨い定食屋があるんだ」

「ああ、それは良いね」

 

 

後に、榛名が表示枠で見ていた事を知って、DOGEZAに変型する事になる事を木曾は知らない。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「どうです?霧島」

「悪くないですね。比叡姉様」

「悪くないって、味の評価を聞いているのに・・・」

 

横須賀鎮守府食堂で二人の艦娘が試食をしていた。

一人は霧島、一人は比叡だ。

二人はテーブルを前に、多種多様なカレーが入った小皿を見ていた。

 

「私としては、このチキンカレーが好きですが、駆逐艦の子達には辛すぎるかもしれませんね」

「そっちは、ちょっとスパイス効かせ過ぎたかな?」

「しかし、このシーフードカレーは良いですね」

「あ、それは蕎麦屋のカレーをヒントに、鰹出汁で作ってみたよ!」

 

ああ、道理でと、霧島は納得を覚えた。

霧島個人的に、シーフードカレーは塩辛いという認識がある。

それは、初めて食べたシーフードカレーがそうだったという理由だが、霧島はあまり好きではなかった。

舌と口内に険が立ち、いつまでも残る嫌な塩味と魚介の味。霧島は、それが苦手だった。

それを知っているのか、比叡のカレーにはそれらが無い。

魚介が苦手な者でも食べやすいよう、下味を付ける等しているし、慣れ親しんだ鰹出汁だ。

嫌う者はそう多くは無いだろう。

 

「ふむぅ、しかし、このパインカレーは無いですね」

「うん、それは私も作ってて無いなって・・・」

 

ーーでは何故作った?ーー

 

という突っ込みは口には出さずに、他の小皿を手に取り試食を進める霧島と比叡。

 

この後、ボロボロになった磯谷が泣きながら比叡に抱き付いてくるが、二人はそれを知らない。

 




次回

北海大水道?


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オッサン、帰ってきた

祝、プレハブ復帰!




「懐かしの!」

「我が家!」

 

帰ってきました、北海鎮守府!と大荷物を抱えて叫ぶ二人。

提督の五百蔵冬悟と秘書艦娘の吹雪だ。

横須賀鎮守府での休暇生活から、普段通りの通常生活へと戻ってきた。

 

「ここが、吹雪ちゃん達の」

「北海鎮守府なんですね、冬悟さん」

 

否、普段通りではなく、新しい面子が二人増えた。

五百蔵冬悟とケッコンカッコカリ(ガチ)をした戦艦娘榛名と奇跡の生還を果たした駆逐艦娘の睦月だ。

 

「いやぁ、何だろうね。何だか本当に久しぶりな気がするよ・・・」

「そうですねぇ・・・」

 

感慨深げに呟く五百蔵、吹雪も懐かしそうだ。

格納空間から、鉄腕ちゃんが出てきてガチャガチャはしゃいでいる。

夕石屋の調査の結果、鉄腕ちゃんは吹雪の艤装に連結されている間は、吹雪の意思を反映した動きを見せる。

時たま、不可思議な動きをしているが、基本は吹雪の意思を反映している。その筈だ。

 

「さて、オープンザドアと・・・」

 

五百蔵がドアの鍵を開け、引き戸を開く。

カラカラと軽快な音を立て、簡易な硝子戸が開かれた先には

 

「ポポッ!」

「ヲヲヲッ!」

 

アホのヲガタとほっぽが菓子を食ってた。

休暇前に片付けた筈の執務室兼五百蔵の居室は、菓子の空き箱や袋、ほっぽかヲガタか分からないが、誰かが持ち込んだ謎のオブジェが散乱し、どう見ても子供の秘密基地になっていた。

 

「なんじゃこれええぇ?!」

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

ズーやん¦『何だろ?大丈夫かなって、表示枠開いたら、いきなりお説教シーンとか・・・』

邪気目¦『まあ、帰ってきて扉を開けたら、一秒で家が秘密基地とか説教案件だろ』

元ヤン¦『つーかよ、話に聞いてた通りに、普通に深海棲艦居るんだな・・・』

船長¦『あ、叔父貴のアイアンクローが入った』

 

「ポポポ!ポアアア!トーゴバカ!」

「ヲヲヲッ!ヲヲン!トーゴワレル!」

 

表示枠で、横須賀悪ガキ隊が実況する横で、五百蔵がアホの子二人にアイアンクローをかましていた。

北海鎮守府が休業中の間、二人はプレハブ小屋を自分達の秘密基地にしていた。

いくら五百蔵が休暇前に管理を頼んでいたとは言え、やり過ぎである。しかも、反省の色無し。

だからこその、アイアンクローだった。

 

「おン?確かに、管理を頼んだぞ。ああ、頼んださ、頼んだともさ。だがな!何で!家が!お前らの!秘密基地に!なってるんだ!」

「ポアアア!ポアアア!トーゴバカ!ワレル!」

「ヲヲン!ヲヲン!トーゴワレル!バカ!」

 

正座をしているほっぽとヲガタが、アイアンクローの痛みと圧迫でじたばた足掻く、五百蔵はその様子に更に力を強く籠める。

 

にゃしぃ¦『姫級とフラグシップ級にアイアンクロー・・・』

空腹娘¦『睦月ちゃん、慣れだよ』

にゃしぃ¦『慣れ・・・?!』

空腹娘¦『あと、ここの人達は、大概そう言う人達だから』

にゃしぃ¦『やだ・・・ 一瞬で慣れる要素が飛んでった・・・!』

 

睦月は驚愕した。自分達の敵である深海棲艦が、しかも姫級とフラグシップ級が普通に鎮守府に居て、菓子を食べて提督のアイアンクローで悶絶しているこの状況に。

鎮守府がプレハブなのにも驚いたが、吹雪の話だと、自分達艦娘には艦娘用の寮があるらしい。それもプレハブらしいが・・・

聞いた話だと、深海棲艦との友好の為の施設という名目の鎮守府らしいが、しかし、この状況。呉時代の教官や仲間が聞いたら、どう思うだろう?

・・・・・・やめた。録な事にならない。

多分、〝不幸だわ・・・〟とか〝空はあんなに青いのに・・・〟とか言って、フリーズするのが目に見えている。

 

「はい、では、二人共。荷物を片しましょうか」

「「あ、はーい」」

 

ズーやん¦『榛にゃん、超すげえ。この状況スルーだよ・・・!』

鉄桶嫁¦『慣れですよ、磯谷司令で慣れてます』

元ヤン¦『ああ、それか。この妙なデジャブ感は』

にゃしぃ¦『え?それで良いんですか?』

邪気目¦『良いの良いの、穂波だし』

ほなみん¦『何だー!私がどうしたのさ!』

わかば¦『標本・・・』

約全員¦『ヒィ!』

 

何だか凄い流れになってきたなぁ、と吹雪が表示枠を見ていると、新しい表示枠が五百蔵の顔横に出てきていた。

 

タテセタ¦『スマナイ、冬悟。帰ッテキテ早々ダガ、ほっぽトヲガタヲ見ナカッタカ?』

鉄桶男¦『港さん?二人なら、家を秘密基地に改造して潜んでますよ』

タテセタ¦『ほっぽ?ヲガタ?』

ポポポ¦『ポポッ!ネーチャ、チガウ!』

ヲヲヲ¦『ヲヲヲッ!コーワンセイキサマ、コレチガウ!』

タテセタ¦『ホウ?ソウカ、違ウカ。新説ダナ』

鉄桶男¦『てか、港さんもだが、ほっぽとヲガタも表示枠持ってんのね』

タテセタ¦『横須賀ノ金剛ノ所ノ変ナ二人ガ持ッテキタ』

 

港が五百蔵と話し込んで力が弛んだのか、二人がアイアンクローから抜け出し、そろりそろりと逃げようとしている。

しかし

 

「ポポ!シラナイノガイル!」

「ヲヲヲ!シラナイヒトイル!」

 

アホなので、好奇心が勝ったのかは知らないが、榛名と睦月と鉄腕ちゃんに興味を示して立ち止まり、指差し騒ぎ始めた。

 

「シラナイヒト!シラナイヒト!ポポポ!」

「ヲヲヲ!シラナイヒトイル!シラナイヒトイル!」

「え?あの」

 

ポポポヲヲヲガチャガチャと、ほっぽとヲガタと鉄腕ちゃんが榛名と睦月の周りを回る。

 

「シラナイヒトシラナイヒト!」

「ヲッヲッヲッヲッ!」

「吹雪ちゃん、これどうなってるの?」

「あと少しすれば、飽きて終わると思うよ」

 

吹雪に疑問するも、飽きれば終わるで終わってしまった。

睦月が悩みその隣で、榛名が何かに気付いた。

 

「あ」

「シラナイシラナイヒト!ポポポ」

「ヒトヒトシラナイシラナイ!ヲヲヲ」

「ソウカ、知ラナイ人二会ッタラ、ソノ周リヲ回ルノカ。初メテ知ッタナ」

 

大きな人影が二人を覆い。ゆっくりと、両手の鉤爪で二人が摘まみ上げられていく。二人の顔色が高度を増す度に、色白の肌が青くなっていく。

ゆっくり、ゆっくりと上がっていき、最高度に達すると

 

「ヤア、ほっぽ、ヲガタ」

 

額に青筋浮かべた港さんが、にこやかな笑顔で二人にアイサツした。

 

「ネーチャ・・・」

「コーワンセイキサマ・・・」

「話ヲシヨウジャナイカ、二人共」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「イヤ、本当二失礼ヲシタ」

「ポポ、シツレイシマシタ」

「ヲヲ、シツレイシマスタ」

 

港さんに襟首を摘ままれたまま、二人が頭を下げる。

否、下げるというよりは、ぐったりして頭が下がっているだけだった。

 

「後程、家ノ者達二片付ケニ来サセル。エエト・・・?」

「榛名です。港湾棲姫様。何時も、家の夫がお世話になっております」

「ン?アア、ソウ言ウ事カ」

 

いきなり、初対面でぶちかます榛名と荷物整理の途中で固まる五百蔵。それを、難なく受け止める港。

吹雪と睦月は、寮に荷物を運んでいる。睦月が車椅子の為、それほど捗らないと思ったが、鉄腕ちゃんが大活躍していた。榛名も、折を見てそれを手伝いに入る。

 

「冬悟、頑張レ」

「何を?港さん。俺、何を頑張るの?」

「アノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウン」

 

昔を懐かしむ様に目を閉じ、ぐったりとしたヲガタを放り捨てた片手で、顎を撫でる。

 

ーーアノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウンーー

 

内心で言葉を反芻する。

 

「アノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウン」

「何で二回言ったの?ねえ?」

「マア、気ニスルナ。マタ、後デ来ル。ア、後、大使館ニモ顔ヲ出シテオケ。中々二、頑張ッテイルゾ?」

 

港が笑い、嬉しそうに目を細める。五百蔵も若干そうだが、洋にしろ金剛にしろ港にしろ、若者が何かを成そうとしているのを見ると、嬉しくなる傾向がある。特に、金剛が一番解りやすい。

 

「そうですか、頑張ってるみたいですな」

「アア、ソウダ」

 

港が逃げようとしたヲガタを掴み、頭を揺する。再び、ぐったりしたヲガタを肩に担ぐ。

 

ズーやん¦『あ、そうだ。オジサン、今度の休みにそっち行っていい?』

鉄桶男¦『構わんが、そっちは大丈夫かな?』

邪気目¦『今は暇だしな。夏と冬は、穂波関係で忙しくなるけどな・・・』

鉄桶男¦『どゆこと?』

元ヤン¦『オヤジ、あれだ。夏と冬に祭りがあるんだ・・・』

船長¦『俺らは、それに駆り出されるんだ・・・』

ほなみん¦『お陰様で、シャッター前です!』

約全員¦『見返りよこせ!』

 

何だか知りたくない事実を知ったオッサンであった。




嘘次回予告
裏切りの瑞鶴

「何故?どうしてなの?瑞鶴」
「私はもう、貴女達とは違うのよ」
「瑞鶴うぅ!」
「大鳳、龍驤、瑞鳳、葛城・・・ 貴女達に言った言葉に嘘は無いわ。貴女達は、私の最初で最後の友よ・・・」




次回予定予告

北海鎮守府と町を、爆発するカブが走り回る!
吹き飛ぶ畑、お湯で増えるカブ?
駆ける睦月の車椅子!始まる鉄腕ちゃん無双!
影が薄れる一方のオッサンと榛名!
そして、最後の切り札が!












「このカブ、美味しいですよ!」

不思議カブ、絶滅の危機!



予定は未定


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ネタ話

今回は、笑顔動画のとある動画を元ネタにしております。


特徴的なシルエットの二人が海上で対峙していた。

一人は装甲空母「大鳳」、一人は正規空母「瑞鶴」

二人は、海上で対峙していた。

 

「瑞鶴?何故?どうして?意味が、解らない」

 

呆然と、瑞鶴の前に立つ大鳳。それに対し、瑞鶴は余裕の笑みを浮かべた。

 

「大鳳、貴女達はよく働いてくれたわ」

「ずい、かく・・・?」

「私の狙い通りに、無意味なズイズイダンスを布教して、中身の無い希望を拡散させた」

 

大鳳はただ、呆然と立つ事しか出来ない。

瑞鶴の口から語られる内容が、あまりに信じがたいから

 

「貴女達は、良い道化だったわ。大鳳」

「ずい、かく・・・そんな、嘘よね?貴女が、こんな・・・」

「あのズイズイダンスは、私にしか効果の無い豊胸ダンスよ。それなのに、貴女達は私を信じて踊った」

「嘘よ」

「しつこいわね。大鳳」

 

大鳳がボーガンを瑞鶴に向け、告げる。

 

「瑞鶴、例え貴女であろうと、そんな非道は赦されない!」

「だったら、どうする?」

「瑞鶴うぅ!」

 

大鳳は艦載機は発艦させると同時に、ボーガンに仕込まれた銃剣を出し、瑞鶴へと突進する。

瑞鶴は、その銃剣を弓で受け止め、鍔競り合いとなった。

周囲では、二人が放った艦載機が舞っている。

 

弩と弓が、火花を散らしている。

 

「瑞鶴!龍驤は貴女を信じて!」

 

瑞鶴が鍔競り合いの力を抜いた。体勢を崩された大鳳は、瑞鶴が片手で抜いた剣状矢により、頭部通信塔を斬られた。

衝撃で視界にノイズが走る。だが、それでも大鳳は叫び前に出た。

 

「瑞鳳は!貴女を心配してたわ!最期の、命尽きる!その瞬間まで!貴女の名前を!呼んでいた!」

「そう、馬鹿ね」

「瑞鶴!!」

 

叫び銃剣を振るう大鳳、しかし、瑞鶴には届かない。

瑞鶴が振るう剣状矢が大鳳の身を削り、弓が銃剣を弾く。

周囲を舞っていた艦載機も、瑞鶴のしか残っていない。大鳳の艦載機は、悉く撃墜された。

 

「瑞鶴!!貴女になら、葛城を任せられると!」

「葛城に関しては安心して、彼女の幸せは保証するわ」

 

この言葉に、大鳳の中の何かが切れた。

大鳳は、最後の力を推進機に込め、突進を敢行する。

 

「瑞鶴!」

 

剣状矢が左肩に突き刺さる。肩の腱を断たれた。左腕は使えない。

銃剣を突き出す。しかし、瑞鶴の弓により流され、体勢が崩れ膝を着いてしまう。

急ぎ立ち上がろうとするも、剣状矢に膝を割られた。

それでも、そのままの体勢で渾身の力を込め、銃剣を突き出す。

だが、その渾身の銃剣すら届かず、右肩の腱を断たれる。

 

「サヨナラ、大鳳」

「ずい・・・!」

 

瑞鶴の剣状矢が、大鳳の薄い胸を貫いた。

呆然とした表情のまま、赤い血を撒き、海に倒れる大鳳。

それを見届け、瑞鶴は目を閉じ呟く。

 

「大鳳、瑞鳳、龍驤。貴女達と語った言葉にだけは、嘘は無いわ。貴女達は、私の唯一の友よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほなみん¦『こんな感じの話を、夏の近親同好会で出そうかなって』

約全員¦『馬鹿か、お前は』

ほなみん¦『馬鹿とは何さ!馬鹿とは!』

邪気目¦『馬鹿以外に何があるんだ?』

元ヤン¦『アホ?』

ほなみん¦『コラ!そこ!ヤメロ!アホはヤメロ!』

ズーやん¦『馬鹿はいいんだ』

紅茶姉¦『ふむン、では、私の絵はどうしマスカ?』

ほなみん¦『あ、金剛ちゃんのも一緒に売るよ!と言うか、そっちがメイン!』

船長¦『待て待て待て待て!何?総長の絵?』

ほなみん¦『うん、金剛ちゃんの絵、出すよ』

 

金剛の絵。それは、画商達がこぞって買いたがる稀少な絵である。金剛自身、趣味の一環で描いているだけと言っている。その為、滅多に出回らない。その価値はとある画商が全財産を賭けて、たった一枚の風景画をオークションで落札したとかしないとか何とかかんとか・・・

それを、画集にして一冊五百円で前回の『絶やさぬ倫理で同人誌を交流する会』略称『絶倫交流会』で売った。

その結果、

 

元ヤン¦『総長の画集は、瞬間で完売。乱闘騒ぎになりかけたな・・・』

ズーやん¦『あれ、間違ってさ、一冊だけ原画が混じってた奴があって、それの争奪戦だったよね・・・』

邪気目¦『死ぬかと思ったな、あれは・・・』

船長¦『俺さ、あれが初参加だったんだ・・・』

約全員¦『うわぁ・・・』

ほなみん¦『だ、大丈夫!次の『近しき親交の為の同人誌好事会』は五百蔵さんを店番に呼ぶから』

元ヤン¦『オヤジを巻き込むな!』

船長¦『叔父貴が怪我したら、どうすんだ!』

ズーやん¦『オジサンが来るなら、ふぶっちとムッキーと榛にゃんも来るじゃん!怪我したらどうすんの?!』

ほなみん¦『お、落ち着こう、皆。大体、五百蔵さんが怪我すると思う?』

 

全員が思った。

 

ーー無いわなーー

 

大体、吹雪と睦月には鉄腕ちゃんが居るし、榛名には五百蔵が居る。

何も問題は無さそうだ。

 

元ヤン¦『で、原稿は?』

ほなみん¦『後は、チェックして印刷所へ行くだけ』

邪気目¦『何か、お前にしては早くね?』

横須賀¦『ほなみん 様が退室されました。99%の確率で鎮守府から脱走しました。承認しますか?はい/いいえ』

 

全員がいいえを即押しした。

 

元ヤン¦『よーしよしよし、ステイステイ。若葉ステイ』

邪気目¦『あれか?あの馬鹿、仕事サボって原稿やってたのか』

ズーやん¦『ほなみん、アウト』

船長¦『街に手配書出しといた』

元ヤン¦『ステイステイ・・・・・・GO!』

 

若葉が横須賀鎮守府から解き放たれて、横須賀の街に駆け出した。

 

元ヤン¦『賭けるか?』

邪気目¦『二十分』

ズーやん¦『一時間』

船長¦『三十分』

紅茶姉¦『では、勝者には私から賞品を出しマショウ』

空母勢¦『よっしゃ、待ってろ!五分!』

おかみ¦『おや?良い度胸ですね。訓練中に余所見とは』

 

ややあって

 

空母勢¦『ちょっ!マジかよ!前歯!』

 

暫くして、磯谷が街の住人により磔にされているのを、偶然買い物に出ていた比叡が見つけ、賭けは無効となった。




さあ、空母勢の運命は如何に?!


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オッサン、一人

前回のあらすじ

鉄血のズイズイダンス~裏切りのズイ~

ある意味、前回の続き


鉄桶男¦『さて、どういう事なのか説明をしてもらおうか』

ほなみん¦『いや、その・・・怒りません?』

鉄桶男¦『はっはっは、それは君の出方次第だよ?磯谷嬢』

 

表示枠に、にこやかな顔の五百蔵が居る。それを目の前に、磯谷が冷や汗を流しながら言い訳を考えている。

磯谷の目が右へ左へと泳ぎ、何か良い言い訳を出そうとして、口が訳もなく動いている。

 

鉄桶男¦『はぁ、磯谷嬢』

ほなみん¦『は、はい!』

鉄桶男¦『俺はね、何も怒っている訳じゃない』

ほなみん¦『え?』

鉄桶男¦『怒ってはいない。だが、呆れているだけだ』

ほなみん¦『もっと酷いじゃないですかヤダー!』

 

何故、五百蔵が磯谷に呆れているのか?

それは、つい最近の横須賀での騒動が原因である。

今年の夏に開催される『近しき親交の為の同人誌好事会』通称『近親同好会』に出品する作品の原稿を、提督の仕事を放り出して描いていたという事実が解り、磯谷が鎮守府から逃走、それを捕まえる為に審問官兼拷問官の若葉が街に解き放たれたが、街の住人達により磔にされた磯谷を比叡が発見し、事なきを得たという話に呆れていた。

 

鉄桶男¦『いやね、趣味を持つなとは言わない』

ほなみん¦『はい・・・』

鉄桶男¦『だけどね、それにかまけて自分の仕事を疎かにするのは、どうかと思うなぁ俺』

ほなみん¦『いや、ほんと、すみませんでした・・・』

 

表示枠の向こうで、磯谷がDOGEZAに変形したのを見て、五百蔵が軽く頭を掻く。

五百蔵としても、もう少し厳しく叱っておきたいのだが、重要性の高いものや、優先度の高いものは全て終わらせて、残るは重要性も優先度も低い仕事だけ、仕事を完全に疎かにはせずに、趣味に走っていた。

 

叱る者は叱るのだろうが、五百蔵は叱り辛い。

やる事はやって、その上で趣味に走っている。

長々と説教するのも得意ではない。DOGEZAに変形しているし、

 

鉄桶男¦『取り敢えず、次からはきっちりとしなさい』

ほなみん¦『hai!』

ズーやん¦『あ、終わった?』

元ヤン¦『穂波、次はガチ若葉な』

 

説教が終わったところで、鈴谷が興味無さげに割り込み摩耶が軽い死刑宣告をして、話は進んでいく。

 

邪気目¦『んで?今年の夏の近親はオッサンも手伝い?』

鉄桶男¦『ああ、暇ならね』

船長¦『叔父貴が来てくれたら、列のはけ具合が捗りそうだな』

鉄桶男¦『え?何、そんなに人来るの?』

ズーやん¦『いやぁ、これが来るんだよ・・・』

 

鈴谷の顔から生気が抜け、目からは光が消えていた。

天龍、摩耶、木曾に関しても同じだった。

 

五百蔵は絶句した。

自分達は何故、その様な修羅の国に放り込まれねばならないのかと、五百蔵は絶句した。

 

ズーやん¦『あ!でも、大丈夫だよ』

邪気目¦『オッサンが店番で居れば、バカやる奴も居ないだろうからな』

元ヤン¦『オヤジを相手にバカやる奴が居たら、見てみてえよ』

船長¦『流石、叔父貴だな!』

 

横須賀悪ガキ隊からの謎の厚い信頼に、堪らず苦笑する五百蔵。

 

ーー俺、そんなに悪人面かねぇ?ーー

 

五百蔵が眼鏡を外し、目頭を軽く揉む。

少し、表情が軟らかくなった様な気がする。気のせいかもしれないけど。

 

ほなみん¦『あ、金剛ちゃんの画集。原画で出すよ』

約全員¦『は?』

 

磯谷の言葉に、全員が固まった。

 

元ヤン¦『おい、アホ』

ほなみん¦『アホはやめよう!』

邪気目¦『うるせえ!は?原画?総長の?』

ズーやん¦『ほなみん、バカじゃないの?』

船長¦『総長の画集を原画で出してみろ。プロの画商の殺し合いになるぞ』

ほなみん¦『いやいや、いけるって!』

悪ガキ隊¦『遂に、脳までカビたか・・・』

 

売り子の悪ガキ隊からの猛烈なバッシングに、磯谷が必死の抵抗を見せている表示枠を横目に、五百蔵は着々と書類を片付けていく。

 

ふと、五百蔵は気付いた。

 

鉄桶男¦『あ~、磯谷嬢?』

ほなみん¦『何です?五百蔵さん。今、私の脳が如何に綺麗かを説いてるとこですけど』

ズーやん¦『オジサンも何か言ってあげてよ!』

邪気目¦『このア穂波、頭の中に脳じゃなくてトコロテン詰まってやがる!』

元ヤン¦『しかも、青海苔入りに見せかけたカビ入りトコロテンだ!』

ほなみん¦『何をー!?』

鉄桶男¦『いや、まあ、うん』

ほなみん¦『否定!味方!私、味方が欲しい!』

 

無理じゃないかなぁと思いつつ、五百蔵は眼鏡のレンズを拭いた。

 

鉄桶男¦『なあ、磯谷嬢。そのイベントは大規模なの?』

ほなみん¦『はい!夏には、参加者の体温で上昇気流が発生して局地的豪雨になった事もあります!』

ズーやん¦『あれ?オジサン、眼鏡掛けてたっけ?』

鉄桶男¦『ああ、最近細かい文字が読みづらくてね・・・』

元ヤン¦『オヤジ・・・』

邪気目¦『オッサン・・・』

船長¦『叔父貴・・・』

 

ーーインテリヤクザーー

 

全員がそう思った。

四角いレンズの縁なし眼鏡。しかも、レンズは細目ときてる。

落ち着いたデザインと言えば、そうなるだろう。

しかし、相手は強面の五百蔵冬悟。

どう見ても、インテリヤクザになる。

 

ーーあの眼鏡を選んだのは誰だ?ーー

 

吹雪、違う。吹雪なら、もう少し直接的に来る。

睦月、違う。睦月なら、まだ選ぶ。

本人も、若干強面なのを気にしている。

だとすると、残るは

 

鉄桶嫁¦『私のチョイスです!』

約全員¦『やっぱりな』

 

インテリヤクザ眼鏡は、榛名のチョイスだった。

 

鉄桶嫁¦『何です?私のセンスに何か?』

ズーやん¦『いやぁ、文句は無いよ』

元ヤン¦『文句は無いが、どうなんだ?』

邪気目¦『いや、もういいや。オッサン、話の続き』

鉄桶男¦『ああ、何と言うか、義姉さんの絵は凄い人気がある訳だね?』

船長¦『ああ、そうだぜ』

 

話が脱線したが、天龍が無理矢理流れを元に戻し五百蔵の問いを、木曾が肯定した。

それに五百蔵は頷き、続けた。

 

鉄桶男¦『しかも、原画という事は数はあまり無いね?』

ほなみん¦『はい、一冊のみとなります!』

元ヤン¦『オヤジ、どうし・・・あ!』

邪気目¦『あ?ああ!』

鉄桶男¦『はい、正解。プロの画商が殺し合いをしてまで欲しがる画集、それが一冊のみ出品される。なあ、そんな騒ぎを起こして、イベント参加出来るの?』

約全員¦『あ!』

 

五百蔵の指摘に全員が、はっとする。

 

ほなみん¦『あ、マズイ・・・』

ズーやん¦『ほなみん、告知はしてないよね?』

ほなみん¦『・・・・・・』

元ヤン¦『おい?』

 

ややあって

 

横須賀¦『ほなみん 様が退室されました。ほぼ確実に告知の取り消しに向かったものと思われます。承認しますか?はい/いいえ』

 

全員が、溜め息混じりに『はい』を押した。

 

ズーやん¦『・・・それじゃ、私も行ってくるよ・・・』

元ヤン¦『アタシも・・・』

邪気目¦『木曾・・・』

船長¦『ああ・・・俺らも行くか・・・証拠隠滅に・・・』

 

表示枠が消え、北海鎮守府執務室に静寂が訪れた。

書類を片し、時計を見る。

 

「ああ、こんな時間か」

 

結局、昼も食べずにおやつ時。

榛名、吹雪、睦月の三人は女子会と称して、町に出掛けている。

 

ーーなんか、最近一人が多い気がするーー

 

思いつつ、表の自販機で缶コーヒーを買い、台所の戸棚に買い置きの菓子があった筈と手を伸ばすが

 

ーーですよね~ーー

 

そんな買い置きの菓子など、この北海鎮守府で存在出来る筈も無く、綺麗さっぱり消えていた。

すなわち、戸棚の中には何も無い。空である。

 

仕方がないので、缶コーヒーを飲み干し、再び仕事に取り掛かる五百蔵であった。

 




次回?

にゃししししししししししししししししししししししししししししししししししししし!


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吹雪&睦月With横須賀悪ガキ隊の休日 前編

いやね、違うんですよ。
横須賀悪ガキ隊の使い勝手の良さが半端じゃなくてですね・・・


あ、活動報告にバケツワールドの艦娘の型式を簡単に纏めたりしてます。宜しければ、どうぞ


「うぇ・・・?」

 

吹雪が目覚める。首を動かし、寝惚け眼で枕元の目覚まし時計を見る。

目覚まし時計は既に午前6時、アラームは鳴っていた様だ。

しかし、おかしい。自分の腕は布団から出ていない。さて、どうしたものかと起き上がろうとするが、体が動かない。

 

ーー金縛り?ーー

 

寝惚けた頭でぼーっと考えていると、横から抱き寄せられた。

 

「・・・ん~、ふぶっち。今日の訓練はお休みだよ~・・・?」

「あ~・・・」

 

吹雪の隣で眠る鈴谷に、軽く起き上がった身を抱き寄せられ、布団の中に引き摺り込まれ、鈴谷に抱き締められる。

 

「んや~、ふぶっち温いわ~・・・」

「んぃ・・・!」

 

鈴谷の胸に抱かれながら、吹雪は思い出した。

 

ーーああ、鈴谷さん達が遊びに来てたんですねーー

 

先日、貯まりに貯まった有給休暇を消化する為に、鈴谷を始めとした横須賀悪ガキ隊が泊まっていたのだった。

泊まると言っても、北海鎮守府はお世辞にも広いとは言えない。なので、鈴谷は吹雪の部屋に摩耶は睦月の部屋、天龍と木曾が空き部屋となっている。

 

因みに、木曾は榛名と同室になる予定だったが、それだと天龍だけが一人部屋になるし、榛名からのプレッシャーで木曾がヤバイと判断されて天龍と二人部屋になった。

 

「うへへへ、ふぶっち、ちっちゃーい、柔らかーい」

「おぶぶぶ・・・」

 

吹雪を深く抱き込み撫で回す。鈴谷は吹雪と睦月に対し、こう言った接触によるスキンシップを取る事が多い。

寒い日は特に多い。吹雪と睦月も、それが嫌という訳ではない。ないが、多いなあと思ってしまうのだ。

 

元ヤン¦『うおーい、起きてるかー?』

 

摩耶の表示枠が枕元に浮かんだ。

 

空腹娘¦『起きてますよーう』

ズーやん¦『起きてる起きてる。今は、ふぶっちを堪能中』

元ヤン¦『何やってんだ?お前ら』

ズーやん¦『いやぁ、ふぶっち。温いわ柔らかいわちっちゃいわで、堪らないね』

邪気目¦『何やってんの?ホント。摩耶も睦月、抱き抱えてるけどよ』

元ヤン¦『あれだな。吹雪も睦月も温くてな』

にゃしぃ¦『摩耶さんも温かいよ』

船長¦『ほら、吹雪の語尾が伸びてんぞ。朝飯の支度出来たから降りてこい』

 

朝から表示枠が賑やかだ。

そう思いつつ、二人は寝間着から着替え皆の待つ執務室へと向かった。

 

邪気目¦『あと、今日はパン食な』

空腹娘¦『ほっほーう!』

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「それで、今日はどうするよ?」

 

天龍がこんがりと焼けたトーストにジャムを塗りながら聞く。それに摩耶が全員分の小皿にサラダを取り分けながら答える。

 

「ん~、天気も良くはないみたいだしな。一日中、ゲームに映画で騒ぐか?あ、ドレッシングは好きなのかけろよ」

「あ、それなら『げこどす』の拡張パッケージが出たらしいですよ」

「おお、早いな」

「あれだったか?確か、イベント討ち入りでマツノロウカとサクラダモンが追加されたんだったか」

 

睦月の言葉に、木曾がスクランブルエッグを口に運びつつ話す。

 

「ふぉれはあ、ふひほおヴれえいほもおあおうぃあいみあいえすお?」

「ふぶっちふぶっち、大丈夫だから、口の中のものが無くなってから喋ろう!」

 

両頬を頬袋よろしく膨らませた吹雪が、何かを言っているが、何を言っているのかさっぱり検討のつかない新言語になってしまっている。

 

もっもっもっと咀嚼し、口の中のつぶ餡バゲットを飲み込み、吹雪が二本目のバゲットに手を伸ばしながら仕切り直す。既に、食パン二斤を平らげてのバゲット二本目である。

 

「それなら、『ブシドーブレーキ』とコラボみたいですよ」

「あ~、『ブシドーブレーキ』か。あれ、すぐにテンション上がってHARAKIRIしようとするから、それブレーキして超必出すのが面倒なんだよなぁ」

「でもさ、カジカワの超必『電柱』超強いじゃん」

「あれ、アサノタクミノカミに特攻だろ。壊れ性能じゃねえか」

「あれだって、利休の投げ茶器も壊れ性能じゃん。レバガチャ決定じゃん」

 

元ヤン¦『オヤジ!どう思うよ?!』 

鉄桶男¦『いや、うん。ちょっと、話がいきなり過ぎるかな?』

鉄桶嫁¦『私的にはテンション上がって、それを無理矢理ブレーキかけられる『電柱』は壊れ性能でしょうね』

ほなみん¦『あれだよ。半蔵の対空弱体してたよ』

船長¦『早えよ!』

 

睦月は会話の流れを見ながら思う。

 

ーー流れが早いよーー

 

オレンジジュースを飲みながら表示枠を弄る。

 

にゃしぃ¦『あの、今日の予定は・・・?』

約全員¦『あ!』

 

天龍が新しいバゲットにバターとハチミツを塗り、吹雪に丸々一本渡す。

吹雪は既に食パン二斤にバゲット四本、スクランブルエッグとローストベーコン六皿とサラダを五皿平らげているが、その食欲に陰りは見えない。

 

「拡張パッケージ買いに行って昼飯食って、夜は」

『春華楼』(しゅんかろう)行こうよ!『春華楼』(しゅんかろう)!この町にも出店してるし!」

 

横須賀の名店『春華楼』(しゅんかろう)、吹雪達が北海に帰る手前にこの町に出店していた。

出店の裏で、ある人物からの莫大な資金援助があったという噂があるが、真偽の程は定かではない。

 

「叔父貴と榛名も、横須賀行ってるからな」

「チェルノ・アルファのオーバーホールが終わって、今は試験中だっけか」

「榛名も艤装の修復が終わって、その試験だな」

「春華楼なら、エビチリ食べたいです」

 

睦月が言って、全員が頷いた。

予定が決まった様だ。

 

「んじゃ、町に行くか」

「車はどうするの?」

「行きはアタシが、帰りは・・・」

「俺か天龍だな」

 

摩耶が五百蔵の机から軽トラの鍵を取り、ソファーに掛けていたジャケットを羽織る。

 

「おい、摩耶。洗い物はどうすんだよ?」

「アタシは軽トラに幌掛けてくる。雨来そうだからな」

「クッションも忘れないでね」

 

摩耶が手を振り返事の代わりとする。

それを合図に、残る全員が朝食の片付けを始めた。

 

「鈴谷、無料チケット忘れんなよ」

「分かってる分かってる。あれ無しだと、春華楼は高過ぎて入れないよ」

 

吹雪がリンゴをかじりながら、格納空間から鉄腕ちゃんだけを器用に出して皿を片付けていくのを横目に、全員が其々に準備を始めた。

 

吹雪と睦月、横須賀悪ガキ隊の休日が始まった。




『春華楼』(しゅんかろう)

横須賀の中華の名店。軍の高級将校や政治家等のVIPが足繁く通う。
とある鎮守府の総長の戦友が創業者らしい。


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吹雪&睦月With横須賀悪ガキ隊の休日 中編

話があまり進んでいません。
あと、これからの伏線的なサムシングがあったり無かったり


ーー陸軍は、鉄蛇(ティシェ)強奪事件・・・に海軍・・・ーー

ーー軍大本営は、機竜の建造・・・急ぐ・・・ーー

 

「ちっ、録なもんやってねえな」

 

摩耶がハンドル片手に、カーラジオのチャンネルを弄り好みの番組を探していた。

 

ーー大本営は今年の夏に、大演習を開催すると・・・ーー

 

「へえ、今回の大演習は夏か」

「大演習ですか?」

 

ラジオを聞いた摩耶の呟きに、助手席に座る睦月が疑問する。

 

「ん?ああ、睦月は大演習は初めてだっけか」

「はい、一応呉で習ってはいるんですが」

「まあ、そんなに緊張する事でもないな。睦月や吹雪が、この大演習に参加する事は無いだろうし」

「え、そうなんですか?」

 

摩耶の答えに、演習の二文字を聞いた睦月の緊張が少し和らいだ。

どうやら、未だに最後の演習でのトラウマは癒えてはいない様だ。

その様子を横目で見つつ、摩耶はチャンネルを変えていく。

 

「もし、参加する事になってもアタシらと一緒に参加だろうな。北海鎮守府は規模が小さすぎるし」

「はあ?」

「ま、緊張する事は無いし、それ程大したアレでも無いしな。お?」

 

チャンネルを弄る摩耶の手が止まり、スピーカーから荒々しいギターの音色が車内へと飛び込んできた。

 

「『motherbear&rabbitgirl』か。良いの選ぶリスナーが居るじゃねえか」

 

どうやら、摩耶の音楽の好みはハード系の様だ。ハンドルを握る手が、リズムに乗って動いている。

 

ズーやん¦『ちょっ!摩耶、今何聞いてるの?!』

 

運転中の摩耶の顔横に、鈴谷の表示枠が飛び込んできた。

表示枠の映像を見るに、荷台の方では混乱が起きている様だ。

 

元ヤン¦『ん?どうしたよ』

船長¦『どうしたもこうしたもねえよ』

邪気目¦『吹雪が物凄いヘドバンし始めてんだ』

空腹娘¦『おうおうおうおうおうおう!?』

 

吹雪の表示枠の映像が、凄まじい上下運動を見せる。

どうやら、表示枠は持ち主の頭の動きに連動している様だ。

 

元ヤン¦『「motherbear&rabbitgirl」はキツかったか?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、その癖直ってなかったんだ』

 

睦月は懐かしく思った。吹雪は昔から、激しい音楽を聞くとこの様に、頭を激しく振っていたと。

 

空腹娘¦『おうおうおう直らないよおうおうおう!?』

ズーやん¦『ふぶっち、何かの歌みたいになってるよ!』

船長¦『こんなアクティブな吹雪、飯時しか見たことねえよ』

邪気目¦『いやいや、訓練の時も大分アクティブだぜ。鉄腕ちゃんと・・・』

 

荷台は中々に、賑やかな事になっていた。

何か、ガシャガシャ音がしているから、鉄腕ちゃんが格納空間から出てきたのだろう。

 

元ヤン¦『おーい、そろそろ駐車場だからな』

約全員¦『ほーい』

 

摩耶が運転する軽トラが、立体駐車場へと入る。

 

「よし、到着」

「は~い、ムッキー。こっちね~」

「あ、は~い」

 

荷台から降りた鈴谷が助手席の睦月を抱き寄せ、車椅子に座らせる。

天龍が伸びをし、木曾が首を鳴らす。吹雪は鉄腕ちゃんに髪を整えてもらっていた。実に器用なものである。

 

「さて、先ずはどうする?」

「ちっと、喉乾いたし喫茶でも行くか?」

「あ、それなら良い店ありますよ」

「んじゃ、吹雪おすすめの店行くか」

「「「さんせ~」」」

 

六人が駐車場から出ると、周りがざわつき始めた。

六人が全員、所謂美女美少女に分類されるからだ。

摩耶と吹雪はパンク系、天龍、木曾がボーイッシュ系、鈴谷と睦月はガーリー系で決めていた。

吹雪と睦月が、若干浮いている感があるがご愛敬だろう。

 

「あ、そういや、今回の大演習は夏だってよ」

「え、マジで?摩耶」

「マジマジ、さっきラジオでやってたし。な、睦月」

「はい、ノイズが強かったですけど、確かに夏だと」

「うわぁ、マジかよ。穂波は知ってんのか?」

「知らねえかもな」

「大演習ですか?」

 

悪ガキ隊の会話に、いまいちピンてきていない吹雪。睦月は車内で摩耶から少し聞いているので、吹雪よりは解っている。

その吹雪に、悪ガキ隊が順に説明する。

 

「大演習ってのはだな。各鎮守府、泊地に警備府の代表格の艦隊が大本営の演習海域に集まって、演習するやつだ」

「天龍、ザックリし過ぎじゃない?まあ、天龍が言った通りに、鎮守府内じゃなくて全部の鎮守府の艦隊が集まって演習するのさ」

「鈴谷、お前も変わんねえよ。睦月には、さっき言ったが、北海鎮守府は出ないだろうな。出ても家との合同だろ」

「摩耶、お前もだよ。三人が言った様に、各鎮守府の代表格が集まって演習するのが大演習だ。まあ、参加鎮守府の名物とかの出店も出るから、一種の祭りだな」

「そうなんですか~」

 

海軍大演習、不定期に大本営演習海域で開催される全鎮守府、泊地、警備府合同の演習である。

各艦隊の練度の確認と交流を目的とした演習で、其々の所属の力関係を決める政治的意味合いも持ち合わせる。

だが、その政治的意味合いを持つ反面、地域還元的な催し物の面も持ち合わせている。

 

嘗ては、本格的な軍事演習だったが、現在の大本営は過去の罪、第二次侵攻を引き起こしたという大失態により、各鎮守府、泊地、警備府間の渉外役並びに鎮守府、提督の任命権程度の実権しか無い。

あくまで、大本営『に』ではあるが。

 

「大演習に参加しても、演習自体に参加するかは、個人の自由だ」

「家だと、副長は確実だね」

 

ほなみん¦『あ、今回は雅楽祭もセットらしいよ』

悪ガキ隊¦『は?』

 

雅楽祭、夏の近親や冬の絶倫等のイベントと同時に開催される音楽祭の事である。プロアマチュア問わず、音楽活動をしている者達による一大イベントだ。

 

元ヤン¦『待て待て待て!はあ、雅楽祭もセット?!』

ズーやん¦『ほなみん、マジで?』

ほなみん¦『マジマジ、今さっき通達があったよ』

船長¦『マジかよ・・・』

ほなみん¦『ついでのついでに、夏の近親もセット・・・』

約全員¦『マジか・・・』

空腹娘¦『・・・どうしましょう?』

にゃしぃ¦『諦め・・・?』

紅茶姉¦『ふむン、日程をズラさせマスカ?穂波』

ほなみん¦『いやいや、流石の私もそこまで金剛ちゃんにおんぶに抱っこはダメでしょ』

約全員¦『穂波がまともな事言った・・・!』

ほなみん¦『なにをう!?』

 

サークル『磯波屋』として、夏の近親に参加し、大演習にも参加、そして

 

「はぁ、どうすっかなぁ」

「まさか、雅楽祭に近親までセットだなんて」

「まあ、最悪。夏の近親は何とかなるとして、雅楽祭はどうするよ?」

「多分だが、俺達は参加だろうな」

「だね、あ、あれかな?」

 

一行の前にゴシック調の落ち着いた店構えが現れた。

どうやら、この店が吹雪のおすすめの店の様だ。

 

「おおぅ、ふぶっち。シブイ店を知ってるね」

「提督の買い物に付いていった時に知りました」

 

なお、その際にオッサンの財布は少なくない打撃を受けた模様。

 

「そんじゃ、夏の打合せといこうぜ」

「「「「ういうい」」」」

 

少し早めの、打合せが始まった。




次回予告?

「んじゃ、摩耶がボーカルか」

始まる打合せ

「お、君達カワイイね」
「これから、俺達とどう?」

現れるナンパ(金づる)
そして

「ん~、じゃあさ、ふぶっちに勝てたら良いよ」

喫茶店で開催されるフードファイト(ショケーイ)


可哀想な人達の運命や如何に?






ネタ
もしも、洋さんの前に『自衛隊かの地にて斯く戦えり』の門が開いたら?

「あら、どうしましょうか?」
「女一人、何する者ぞ!総員、とつげ・・・!」
「「「「「洋様万歳!洋様二勝利ヲ!!」」」」」

多分、帝都まで一気に突っ走って行くかな?


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吹雪&睦月With横須賀悪ガキ隊の休日 後編

え~、悪ガキ隊も艦娘なので普通の人よりかは食べる方です。あくまで、普通の人よりかはですが


「そんじゃ、ボーカルは摩耶か」

「ベースは私ね」

「ドラムは俺か」

 

落ち着いた喫茶店の中、奥のボックス席にて六人が夏の近親と同時に開催される打合せをしていた。

 

「演奏曲はどうする? 俺は『夏狐』が良いな」

「『夏狐』も良いけどよ。木曾、あれは和楽バンドだろ。アタシ達に三味線弾ける奴は居ねえよ」

「ふぶっちとムッキーは?」

「私はラッパですね」

「タンバリンです」

 

ーーあれ? これ、コミックバンドじゃね?ーー

 

ボーカル、ベース、ギター、ドラムと来てからの、ラッパとタンバリンである。ラッパとタンバリンである。

鈴谷が考える通りに、正しくコミックバンドになった瞬間だった。

 

「・・・ま、まあ、あれだな。今すぐ決めなきゃいけない事でも無し、今はコーヒーブレイクを楽しもうぜ」

 

木曾が取り直し、コーヒーカップを口に運ぶ。

ブレンドの香りが素晴らしいと思いながら、ふと吹雪のカップを見ると白かった。

否、カップが白いのは普通だ。いや、中には木製とか金属製のカップで出す店もあるから、白以外にもある。

 

だが、吹雪のカップはコーヒーの黒若しくはカフェオレのベージュが入っている筈の真ん中が白い。

白いだけではなかった。盛り上がっている。白く盛り上がっていた。

 

ーーえ? 何、それーー

 

白くてふんわりしたものが、カップの真ん中で盛り上がっている。

木曾が呆気に取られていると、天龍が気付いた。

 

「お、吹雪。ウインナーコーヒーか。洒落たの頼むじゃねえか」

「はい!この店は上のホイップクリームが甘いのですよ」

「あ、それ、この間、提督が作ろうとして失敗した奴だね」

「うん、提督が間違えて生クリーム乗せて何だか凄い何かになった奴だよ」

 

ーーどじっ子か、叔父貴! アリだな!ーー

 

榛名が居れば、即刻DOGEZAに変形する案件を考えつつ、横を見てみると見知らぬ男達が近付いて来ていた。

 

「ねえ、君達。何処から来たの?」

「ピッ!」

「あ?」

 

見るからにチャラそうな金髪が喋ると同時に、摩耶がソッコで威嚇した。

摩耶の男の趣味は、木曾と榛名の二人と似通っている年上趣味だったりする為か、チャラ男は気に入らない様だ。

 

単純に睦月を驚かせたのが、一番の理由だったりもするが。

木曾や天龍に摩耶に任せては、下手をすると喧嘩になりかねないと判断した鈴谷が対応した。

 

「ん~?何、ナンパ? 正直、間に合ってんだけど」

「いやいや、そんな事言わずにさ。どう? 俺達と」

「はっ、話になんねぇな」

 

天龍が鼻で笑うと、チャラ男共の眉がピクリと動いたのを鈴谷は見逃さなかった。

鈴谷としても、正直話にならないと思っている。

榊原班長然り五百蔵冬悟然り、この程度で顔色を変える様な男は周りには居ない。

 

ーーさて、どうしよっかな~ーー

 

鈴谷が考える横、吹雪の腹から可愛らしい音が鳴った。

 

「何? お腹空いてんの? 何か奢ろっか」

 

ーーあ、これ使えるかもーー

 

鈴谷が内心でほくそ笑み、摩耶がカウンターに居るマスターに目配せをすると、マスターは調理場へと歩いて行った。

 

「それじゃあさ、ふぶっち。この子に大食いで勝てたら良いよ」

「え、マジで?」

「マジマジ」

 

鈴谷がニヤニヤと笑い、摩耶が哀れな者を見る目で男達を見て、木曾が溜め息を吐き天龍は我関せずとコーヒーを啜り、睦月は呆気に取られ吹雪はいつの間にかサンドイッチを食べていた。

 

「ふぶっちふぶっち」

「も?」

「この人達が、ご飯奢ってくれるってさ」

「も?!」

 

途端に、目を輝かせ始める吹雪と悪い笑みを隠す鈴谷に、木曾が携帯を弄るふりをして、鈴谷の表示枠にアクセスする。

 

船長¦『おい、大丈夫なのか?』

ズーやん¦『ん、大丈夫大丈夫。もしもがあっても、総長から上限無制限の魔法のカード借りてるから』

元ヤン¦『なんだかなぁ』

にゃしぃ¦『でも、もし吹雪ちゃんが負けたら・・・』

ズーやん¦『大丈夫大丈夫。だって、私ふぶっちが負けたら良いよって言っただけで、何が良いか言ってないよ』

邪気目¦『睦月、こう言う奴にはなるなよ』

 

「それじゃ、何で勝負しようか?」

 

相手は小柄な少女と余裕の笑みを見せて、メニュー表を広げるチャラ男共の前に、一枚のビラが置かれた。

そこには、『一時間以内に食べ終えたら一万円! レッツチャレンジ北海ドリア2㎏!』とあった。

 

ビラの隅には、バケツをひっくり返した様な頭のロボが描かれていた。

 

「これでいこうよ?」

「俺達は良いけど、大丈夫? 食べきれなかったら、食べてあげようか?」

「それでいきましょう!」

 

チャラ男が舐めた態度で接してくるが、吹雪は華麗にこれをスルー。最早、ビラのドリアの事しか認識していない。

それが気に触ったのか、チャラ男共の眉がまた動いた。

この時点で、悪ガキ隊からの評価は0になった。

 

「んじゃ、吹雪対チャラ男の一本勝負は、ドリア2㎏を食べきった方の勝ちという事で、恨みっこ無しな」

 

頷く二人がマスターが構えるカウンター席に着いた。

待ち構えるは、湯気を立てる北海ドリア2㎏!

さあ、二人の勝負の行方や如何に?

 

「では、スタート」

 

摩耶の合図と共に、二人が同時にスプーンを手にした。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

船長¦『んでよ、大演習だが』

元ヤン¦『十中八九、大本営が何か仕込んでるだろうな』

邪気目¦『吹雪と睦月絡みか』

ズーやん¦『ほなみんも、そこら辺を徹底的に洗ってるみたいだけど、相手が相手だから中々厳しいみたいだね』

船長¦『呉は、どう動く?』

邪気目¦『呉なら、大本営の言う事は無視しているみたいだ。彼処の提督もやり手だからな』

元ヤン¦『昔剃刀今昼行灯の安藤、だったか』

ズーやん¦『そうそう、あんまりに切れ者過ぎて、本営から左遷されたって話』

邪気目¦『何にせよだ。本営のタヌキ共が何か仕込んでる事は確定だ。他の第三世代については、何か分かってるのか?』

ズーやん¦『大湊に舞風、佐世保に夕立。後、ラバウルの時雨もそうっぽい』

元ヤン¦『確定情報は少ない、か』

ズーやん¦『あ、後ね。宿毛の朝潮もだけど、宿毛は警戒しなくて良いかも』

船長¦『何で、警戒無しなんだよ?』

ズーやん¦『だってさ、宿毛の総長、思い出してみ?』

邪気目¦『ああ、そうか。何かあったら、大本営が地図から消えるな』

 

盛り上がる喫茶店内の中、悪ガキ隊が大演習についての打合せを続ける。

何やら、どちらが勝つかで賭けになっているが、吹雪が圧倒的過ぎて賭けになっていない。

 

「ドリア下さい!」

 

元ヤン¦『なあ、これさ。公開処刑じゃね?』

ズーやん¦『うん・・・』

船長¦『おい、二人目が倒れたぞ』

邪気目¦『三人目も怪しいな』

ズーやん¦『あ、逝った』

 

「はい、時間です」

 

チャラ男共、ドリア2皿 

まあ、普通に頑張った計4㎏

 

吹雪、ドリア15皿とサラダ3皿にチキンカツレツ6皿 

一体、何処に消えた計約30㎏ちょっと

 

何か違う何かが混ざっているが、吹雪の一人勝ちである。

 

「おぷ・・・」

「それじゃ、支払いよろしくねと言いたいけど、無理っぽいし私が払うよ」

 

鈴谷がそう言い、財布から黒いカードを取り出し支払いを済ませる。

 

「おぷ・・・」

「んじゃあな、次は身の程を知れよ」

「ご馳走さまでした!」

 

最後のドリア(2㎏)を当たり前の様に平らげた吹雪が後に続き、喫茶店に残されたのはブルブルと震えるチャラ男共とマスターのみであった。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「買えた買えた。ん? 吹雪と睦月に天龍は何処行ったよ?」

「三人ならさっき、『装甲勇者王アキツシマン』の144/1買いに行ったよ」

「そっか」

「ん~? 何何、摩耶寂しいの?」

 

ニヤニヤ笑いながら摩耶に近付く鈴谷に、摩耶のアイアンクローが炸裂した。

 

「あああああああ! わ、割れる~!」

「オヤジ直伝のアイアンクローだ。舐めた口聞いてると、マジで割るぞ」

「何やってんだ? お前ら」

「あ、キソー」

 

木曾が大きい荷物を片手に現れた。

 

「お、またボトルシップか?」

「俺の趣味だからな」

「よーう! 待たせたな」

「お待たせしました」

「しました」

 

木曾に続いて、天龍、吹雪、睦月が戻ってきた。

手には、四角い物が入ったビニール袋を提げている。どうやら、お目当ての物は買えた様だ。

 

「よっしゃ、んじゃ、荷物軽トラに置いて、春華楼行くか」

「「「「「さんせー!」」」」」

 

この後、春華楼北海支店は開店以来の大繁盛となり、たった六人の客に食材全てを使いきる事となった。

 

最後の料理を作り、それが厨房から運び出されたのを見届けた料理長は倒れたが、その顔は満足気であったという。

 

余談ではあるが、春華楼北海支店には後に多額の投資がなされ、付近の店舗と協同で出店を出店し、それもまた大繁盛となる。

 

その影に、黒いコートを翻し紫煙を燻らす姿があったとか無かったとか何とか・・・




「料理長! もう無理です!」
「馬鹿を言うな貴様ら! 貴様らの職務は何だ?!」
「しかし!」
「しかしも駄菓子も無い! 男なら、一度決めた道を貫け! 広東風蟹玉上がり!」
「豚と筍の黒酢炒め上がり!」
「持ってけ! ウェイター!」

そして

「最後、三不粘上がり」
「やりましたよ料理長! ・・・料理長?」
「やりきった・・・ もう、悔いはない」
「料理長おおお!」

こんな戦いがあったり無かったり



次回予告?

オッサン&榛名With穂波&金剛&洋は語る?
宿毛の大和と朝潮の特異性が明らかに?

若しくは

「あら?」

ヤベーよ、洋さんの前で門が開いちゃった・・・

この場合、帝都でのゾルザルボッコで若葉が大活躍するよ。


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オッサン&榛名With穂波&金剛&洋は語る?

今回、とんでも設定のオンパレードとなっております。御注意下さい。


横須賀鎮守府では、五人の男女が会合をしていた。

五百蔵冬悟、榛名、磯谷穂波、金剛、鳳洋の五人である。

五人は机に広げられた幾つかの書類を前に、眉を潜めていた。

 

「まさか、ね。第三世代の娘が、ここまでとはね」

 

磯谷が数枚の書類を手に取り、愚痴を溢す。それは、『夕立』『時雨』『舞風』『朝潮』の四人の駆逐艦娘の資料であった。

 

「解っただけでも四人、しかも一人は不明ときたか」

「青葉ちゃんも頑張ってくれたけど、相手は大本営のタヌキ共」

「そうは簡単にはいきませんか」

 

頭を悩ませる三人に対し、金剛と洋の二人は懐かしいものを見る目で書類を眺めていた。

 

「長門に那珂に大和デスカ」

「よく、この三人を選びましたね」

「その三人は凄いの?」

 

磯谷が問うと、二人は顔を見合わせて笑った。

そして、一頻り笑った後に磯谷へと優しい声で言った。

 

「ああ、本当に懐かしいものデス」

「ふむ、那珂さんは説明が難しいですから、長門さんと大和さんの説明をしましょうか」

 

二人は三人に向き合い、二枚の資料を並べた。

そこには『夕立』『朝潮』の二人の情報が並んでいた。

 

「先ずは、夕立の根幹にある長門デスネ。彼女が行使した力は単純無比、言ってしまえば冬悟、穂波、貴方達デス」

「俺と磯谷嬢?」

「まあ、そのままではありません。あくまで、一番近いものが御二人という事です」

 

二人の言葉に、五百蔵と磯谷は首を傾げた。

自分達が一番近い。その言葉に二人は己達の共通点を探す。

 

ーー提督?ーー

ーーぐらいじゃないですか?ーー

ーーあとは・・・ーー

ーーあ!ーー

 

暫し、二人で悩んだ後、二人同時に同じ答えに行き着いた。

 

「「イェーガー!」」

 

その答えに、洋と金剛は満足気に頷いた。

 

「その通り、長門の力は『人型超巨大艤装の展開と行使』デス」

「彼女には何度も助けられました。最大で60メートル級の人型艤装を展開して、敵を凪ぎ払う様は壮観でした」

「そうデシタネ。彼女はその力の通りに単純明解、何時だって真っ直ぐに敵に向かって行きました」

「その力を、この夕立が?」

 

五百蔵の問いに、洋が答える。

しかし、その顔には幾等かの苛立ちにも似た感情が窺えた。

 

「ええ、資料を見る限りですが、彼女は長門さんの力の一部を行使しています。従来の艤装を元に人型を形成、上半身のみで大きさも自分の二倍強といったところですね」

「洋、落ち着きナサイ。彼女達に非はアリマセン」

「・・・そう、ですね」

「彼女達はどの様な形であれ、望まれて生まれマシタ。例え、そうでなくとも、長門は笑って力を貸した事デショウ」

 

資料に添付された写真には、小柄な少女とその背後に屹立する半身のみの犬顔の鎧武者があった。

その写真を指先で一撫でして、洋は続ける。

 

「彼女に使われている技術はほんの一部のみ。『本体』は私と共に在ります」

「大演習でぶつかる事があっても、摩耶と天龍に任せれば良いデショウ」

「お姉様、木曾さんと鈴谷さんは?」

「鈴谷は全体の指揮、木曾は霧島と組んでモライマス」

 

紅茶姉¦『良いデスネ? 霧島』

副長¦『はい、問題ありません』

鉄桶嫁¦『無理はしない様に頼みますよ。霧島』

副長¦『気にしないで、榛名。私は副長、横須賀の武力の象徴、そう簡単には倒れません』

鉄桶嫁¦『いや、あの、木曾さん・・・』

副長¦『木曾も第三特務、覚悟は出来ているでしょう』

 

木曾の運命を決める会話が表示枠で進む中、磯谷が一枚の資料に目を通して疑問する。

その資料は、宿毛泊地に所属する朝潮型駆逐艦娘『朝潮』の資料であった。

 

「ねえねえ、金剛ちゃん」

「ふン? どうかシマシタカ穂波」

「この朝潮ちゃんの資料なんだけど、おかしくない?」

 

磯谷が指差す資料の項目、それは朝潮の体重の欄であった。

そこには、三人が呆気に取られる数値が羅列されていた。

 

「・・・身長は吹雪ちゃんとそう変わりませんが」

「体重が、俺とほぼ同じ?」

「いや、これ間違いでしょ」

 

朝潮の体重、それは巨漢の五百蔵冬悟とほぼ同じ数値105㎏と刻まれていた。

因みに、五百蔵の体重は113㎏である。

磯谷が青葉に連絡して、間違いかどうかを確かめようとすると

 

「いや、その朝潮は大和の技術が使われていますから、間違いではアリマセン」

「「「へ?」」」

「大和さんも解りやすい力です。『超質量による防御と怪力』それが、彼女の力です」

 

宿毛の大和の力、それは単純な単純な質量による絶対防御と怪力であった。

つまり

 

「この、朝潮ちゃんも、あの大和ちゃんと同じなの?」

「まあ、そうなりマスネ。しかし、100㎏程度なら問題は無いデショウ」

「そうですね。確か、大和さんの体重は幾つでしたか?」

「私達と戦列を組んでいた時は、数トン級デシタネ」

「ああ、そうでした。私が敵陣の真ん中に射出して、質量爆弾の真似事もしましたね」

「あの時のまるゆの顔を覚えてマスカ?」

「・・・凄い顔してましたね」

 

空から数トン級の何かが降ってきて着弾して陣形崩されたら、その着弾した何かが2メートル級の大女で、鉈と自分より巨大なパイプレンチ振り回して大暴れされて自陣が壊滅した。

 

当時の生存深海棲艦が残した言葉である。

 

「穂波、どうかシマシタカ?」

「うん・・・なんて言うか、ね」

「桁が違うなと」

「思いまして・・・」

 

そうデスカ?と金剛が首を傾げるが、三人は頷く事しか出来ない。

そんな微妙な空気が流れる中、洋が那珂の資料を手にした時、部屋に立て掛けられた時計が昼を伝えた。

 

「良い時間ですね」

「那珂の話は、テラスでシマショウカ」

「「「はあ」」」

 

最早、頷く事しか出来ない三人を引き連れて、比叡が管理する喫茶へと向かう五人であった。




宿毛の大和

世界初のドロップ艦娘とされている。

能力はぶっちゃけ『超人学園』の『ぬらりひょんのすけ』から

あ、新年か年末に洋さんの目の前で門が開いちゃう予定です。

では、次回は皆のアイドル那珂ちゃんのお話かな?


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オッサン&榛名With穂波&金剛&洋は語る? 後編

はい、艦これ?のお時間です!


「では、那珂の話をシマショウカ」

 

テラスで、金剛が紅茶を一口含み、切り出した。

五百蔵ら三人は、もう何が来ても驚かないという風に身構えているが、実際は何が来るのか解らないので構え様が無いというのが本音だったりする。

 

「那珂は、実に良く気が利く娘デシタ」

「ええ、本当にそうでしたね」

「辛い事があっても笑い、皆を良く見てイマシタ」

 

資料に添付された舞風の写真を見ながら、二人は続ける。

この写真に写る舞風に、その那珂の面影が有るのだろうか。

二人の目は、とても優しかった。

 

「彼女は、歌と踊りが好きでして、何時だって何処だって歌い踊っていました」

「明るく、めげない。そんな娘デシタネ」

 

ーーその笑顔に私達は何時だって助けられてきましたーー

 

二人の声が重なり、悲しげな音を響かせた。

洋が茶を啜り、金剛が葉巻に火を着けて、再び話し出した。

 

「時に大切な者を亡くした者達に寄り添い鎮魂歌を歌い、祝い事では慶びの舞を踊り、皆の支えと言えマシタ」

「あの苛烈な戦いで私達が堕ちずにいられたのは、彼女のお蔭ですね」

「・・・それ程に、凄惨な戦場だったのですか?」

 

自らの姉が参戦していた第一次侵攻、教本でしか知らぬそれを榛名は問うた。

それに二人は、悲しげに優しく答える。

 

「私と洋、私達と同等若しくはそれ以上の者達が当たり前の様に死んでいく、そんな戦場デシタ」

「今朝、今さっき、隣に居た筈の者達が居なくなる。それが当たり前の戦場でした」

「・・・それは」

 

開いた五百蔵の口からは言葉が続かなかった。目の前の二人と同等かそれ以上の者達が当たり前に死んでいく、そんな戦場の中でありながら、常に笑顔を絶やさずに居るという事が、どれ程に過酷な事なのか想像も出来なかった。

 

「・・・話を戻しマショウ。那珂の力デス」

「那珂さんの力は、『歌と踊りによる場の支配』これだけです」

「意味が解らないよ・・・」

 

さも当たり前の様に言っているが、あくまでも一般人の域を出ない三人には、洋が何を言っているのか理解出来なかった。

まだ、長門と大和のアレは解った。だが、これは解らない。

歌と踊りで場を支配する。磯谷が遠い目をするのも無理は無かった。

 

「ふむン? そうデスネ。洋」

「ああ、成る程。では、私が説明しましょう。これを見てください」

「ナプキン?」

 

洋が手にしたのは、テーブルに備え付けられた紙ナプキンだった。

洋はそれを軽く折り曲げ形を整え、ある形を作り出す。

 

「五百蔵さんには馴染みが無いかもしれませんが、磯谷司令と榛名さんは解りますね?」

「陰陽型空母の式紙符?」

「はい、正解です」

 

榛名の答えに満足したのか、洋が式紙符を指先で軽く弾くと、空気を裂く音と共に飛び立ちあっという間に見えなくなった。

ややあって、横須賀鎮守府演習場から爆音と悲鳴が聞こえた。

 

空母勢¦『真面目に訓練してました!』

おかみ¦『そうですか。では、追加でそれを落としなさい。落とすまで、終わりませんよ』

 

空母勢から抗議の表示枠が大量に展開されるが、洋はにこやかにかつ瞬時にそれらを全て叩き割り、話を続けた。

 

「えっと・・・?」

「ふふふ、陰陽型空母は通常型と違い、神や神とされる存在を奉じ信奉し、その対価に艦載機を召喚します」

 

ーーまあ、私は違いますがーー

 

一言、気になる事を呟いて、洋がもう一枚式紙符を折り、別方向を弾いた。

 

副長¦『鳳様。今、何か飛ばしましたか?』

おかみ¦『あら?』

副長¦『次は、40機お願い致します』

おかみ¦『良い心掛けです』

 

洋がテーブルを軽く指先で叩くと、テーブルに備え付けられた紙ナプキンが自ら意思を持った様に折れ曲がり形を変えて、4×10計40枚が飛んだ。

 

五百蔵は気付いていないが、榛名と磯谷は気付いていた。

ただの備え付けの紙ナプキンが艦載機になる訳が無いのだ。

否、出来る事は出来る。だが、それには特殊な加工が必要になる。だから、目の前でテーブル軽く叩いただけで艦載機として飛んでいくなど、有り得ない事なのだ。

有り得ないったら有り得ないのだ。

 

「この様に、神を奉じ御霊を降ろす訳ですね」

 

神を奉じてもいなければ、御霊を降ろしてもいない。とは言えぬままに、洋の解説は続いていく。

 

「まあ、この辺りは私ではなく・・・そうですね、龍驤さんが解り易かったですね」

「龍驤と言っても、四葉の所の龍驤ではアリマセンヨ」

「私達と同世代の龍驤さんです。所謂、初代龍驤ですね。彼女は古今東西有りとあらゆる軍神武神戦神を信奉し、発艦数とその質において群を抜いていました」

 

ーー私でも、あの域に至るのは不可能ですーー

 

あの鳳洋ですら至れぬ域、そこに至った軽空母艦娘龍驤。

 

そして

 

「歌と踊りの神を信奉し歌と踊りを捧げ、力の一部を借り受ける神降ろしの巫女。那珂さんの力とはそういうものです」

「はあ・・・?」

「私達、第一世代は科学技術よりはオカルトで形作られてイマスカラ、科学では説明出来ない事が当たり前なのデスヨ」

 

ーーその最たる者が洋デスーー

 

五百蔵の気の抜けた返事に、金剛が第一世代の注釈を入れる。

榛名はどこか納得のいった表情だが、五百蔵と磯谷の二人はまだ首を傾げている。

 

「力の一部を借り受け、戦場の一画を支配し雷を落とす様は、中々に壮観でしたね」

 

何か、信じ難い事実が出てきた。

その事実に磯谷が疑問するが、洋は否定した。

 

「雷を落とすって、この舞風ちゃんも?」

「いえ、それはありませんね。あれは、那珂さんだからこそ出来た事ですから、彼女にはそこまでの力は無いでしょう」

「そっか~」

 

ーーうん、解んないーー

 

磯谷のあっけらかんとした言葉に、金剛と洋の二人が吹き出した。

どうやら、この二人の笑いのツボにはまった様だ。

 

「ふ、ふふふ、わ、解んない・・・!」

「ほ、穂波、それは、は、反則デス・・・!」

「ええ~、ダメ?」

 

何がツボにはまったのか、二人は口元を抑え震えていた。

暫くの間、笑っていた二人だったが、磯谷の質問で復活した。

 

「じゃあさ、洋ちゃんは鳳翔ちゃんなの?」

「ふ、ふふふ、解んない・・・ふふふ。あ、私ですか?」

「あぁ、それは気になってたな」

「そうですね」

 

その質問に五百蔵と榛名の二人も同意する。

不死の鳳、世界最初の艦娘、全ての始まり、その彼女が元艦娘だというのは、周知の事実だ。

だが、その艦娘の誰だったのかは解らない。

恐らくは、軽空母艦娘の鳳翔なのだろうとされているだけだ。

 

「そうですね、私は」

「「「私は?」」」

「・・・・・・解んない!」

「「「ええ!?」」」

「内緒という事ですよ」

 

いたずらっぽく微笑んだ後、茶を一口飲み、また笑い出した。

 

「ふふふ、解んない。私としたことが、はしたない・・・!」

「よ、洋。やめて、やめてクダサイ・・・!」

 

ケタケタ笑う超越者二人。

結局、不死の鳳の正体は解らず仕舞いに終わり、この日は解散となった。

 

ーー私に、『艦娘としての型』は無いのですよーー

 

誰も知らず、その呟きは金剛の葉巻の煙と共に消え去った。




那珂

第一世代軽巡洋艦娘の一人。常に笑顔を絶やさず、皆に寄り添い続けた。
自らの信奉する神に、歌と踊りを奉納しその力の一部を自分へと降ろす事を得意としたらしい。
最期は、中枢棲姫との初接触時に殿を務め散った。

この時初めて、不死の鳳は中枢棲姫を敵として認識し、その力の全てを使い全てを焼き払おうとしたが、息を吹き替えした那珂の叱責により正気に戻った。
『英雄達を支え続けた英雄』と呼ばれる様になった。



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ほなみん、頑張る?

今回は短く、穂波と比叡が喋るだけ!


「ん~? エロが足りない」

「いきなり何を言っているんですか?」

 

横須賀鎮守府執務室、そこには提督の磯谷穂波と秘書艦の比叡が居た。

横須賀鎮守府は巨大だ。全鎮守府中、最大級の工厰を有し、技術力も高い。他鎮守府では手に負えない艦娘達の治療を請け負ったりもしている。

敷地に関しても広大で、工厰責任者でもある明石と夕張、通称『夕石屋』の二人と量産されたAMIDA達により、気付いたら建物が増えている等ざらにある。

 

「いやね、比叡ちゃん。最近、エロが足りないって思ってさ」

「・・・自室あるエロゲのタイトルが10単位で増えていましたが、それに関して一言」

「バーチャルエロは足りても、リアルエロが足りない!」

 

ーーもう、この人は・・・ーー

 

そんな横須賀鎮守府のトップがこれだ。

こうして、執務机にだらけている姿だけ見れば、近所の高校生若しくは大学生が軍服を着ているだけなのだが、あの豪運の金剛が認めた提督、これでも有能なのだ。

 

なのだが、普段がいまいち締まらない。

仕事をサボってゲームをしたり、駆逐艦達と遊んだり、副業の同人誌作家にと、本当に提督なのかと疑いたくもなる。

だが

 

「んじゃ、足りないエロは後で補充するとして、比叡ちゃん」

「何です? 司令」

「この、時雨ちゃんさあ。ほんとにラバウルに居るの?」

「と、言いますと?」

「いやさぁ、金剛ちゃんと洋ちゃんも解らない。青葉ちゃんが探っても塵一つの情報も無い。おかしくない?」

「確かに、それもそうですね」

「ブラフ、誤情報、隠蔽、どれをやっても塵一つ欠片一つくらいの情報は出るよ? なのに一つも無い」

「有るのは、在籍しているという情報のみ」

「影は有れども形は無い。流石の青葉ちゃんもお手上げだってさ」

 

はははと笑い、磯谷は書類を机に放り出す。

ラバウルの時雨、現在存在が明らかになっている第三世代艦娘の一人なのだが、情報がまるで無い。

有るのは、ラバウルの泊地に在籍しているらしいという不確かな情報のみ。写真に写った姿には、時雨という艦娘が持つであろう快活さは感じられず、どこか影がある。

そういった写り方をしていると言えばそれまでだが、磯谷の勘が違うと囁いている。

 

「あ~、エロい事がしたい。こう、薄い本にも描けないくらいのエロい事がしたいよ、比叡ちゃん」

「街にでも出たらどうです?」

「街はね~、顔が売れ過ぎてハニトラが凄い凄い。ホントもう、私の好みを知ってるよね~」

 

うへへへ、だらしない笑みでにやけだした磯谷に比叡は嘆息する。

磯谷は、性に関して開けっ広げというか寛容というか何というか、兎に角好色で有名だ。着任式での挨拶で『私が好きな事はエロい事!』といきなりかましてきたくらいだ。

ロリ、ショタ、熟女から中年、何でも来いのバイセクシャル、それが磯谷穂波だ。

 

「大本営もさ、私の好みに合わせてハニトラ仕掛けてくれて、本当に有り難う御座います! 全部美味しく頂きました、御馳走様です!」

「イェーガーの建造技術を寄越せ、でしたか」

「そうそう、前に五百蔵さんに建造技術の開示を要求したら見事に突っぱねられて、使者が吹雪ちゃんを人質にしようとして、ちょっと人間の原型が無くなるくらいに殴られたから、私に来たんだろうけど」

「司令相手に、ハニトラ仕掛けたのが間違いでしたね」

 

イェーガーの建造技術、恐らく、大本営が今一番欲しがっている技術の一つだろう。軍上層部の一人が暴走し、あの鳳洋が居を構える町に、態々使者を送り五百蔵に直談判をしたのだ。しかし、その結果は散々に終わり、その幹部は鳳洋と金剛が懇意にしている元帥の怒りを買い、立場を失うだけに終わった。

その際、使者が吹雪を人質に建造技術を引き出そうとしたが、何を勘違いしたのか五百蔵の手が届く範囲でそれをしてしまい、顔面を叩き潰され両足を踏み潰されて、大本営へと送り返された。

 

吹雪曰く、その時の五百蔵からは今まで聞いた事の無い様な恐ろしい音が聞こえたらしい。

 

班長¦『おい、嬢ちゃん居るか?』

ほなみん¦『ん? どったの、班長』

班長¦『シゲがエウレカの新武装で話があるってよ』

ほなみん¦『マジで!! やった!』

 

執務室から飛び出していく磯谷を見送り、比叡は左手の薬指を撫でる。

 

有能で浮気性でどこか抜けている、だけど皆が信頼する『提督』から送られた指輪ともう一つ。

 

「まあ、悪くは無いですね」

 

情けなくてお馬鹿で好色な『磯谷穂波』から贈られたもう一つの指輪を懐から出して眺め、比叡は呟いた。

 

「さて、食堂に行きますか。そろそろ、御姉様がティータイムに訪れるでしょうし」

 

比叡が立ち去り、無人となった執務室。その机の上にはラバウルの時雨の資料ともう一組、別の資料があった。

 

『ホライゾン・ブレイブの修復並びにイェーガーの遠隔操作技術の確立』

 

夕石屋から報告された資料に記載された内容。これが磯谷穂波の才能により、日の目を見るのはまだ後の話である。




門が開く前に、書きたい話があるので少しそちらの方を優先的に書きます。

洋さんの前で門が開く話は、新年に・・・!

次回は、横須賀鎮守府の本当にヤバくて優しい娘の若葉のお話かな?


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若葉だ

はい、今回は吹雪&睦月With悪ガキ隊の休暇の前。
横須賀悪ガキ隊が、横須賀鎮守府から出発する前の摩耶と若葉の会話になります。


これは、横須賀悪ガキ隊が横須賀鎮守府から北海鎮守府へと休暇に向かう前のお話。

 

 

「おう、若葉。この時間に起きてるのは珍しいな」

「ん・・・」

 

早朝の横須賀鎮守府、昇る朝日を見詰める若葉を荷物を抱えた摩耶が見付けた。

摩耶が言った様に、若葉がこの早朝に起きている事は珍しい。仕事の関係上、夜に動く事が多く朝に若葉を見掛ける事は殆んど無い。

 

珠に『仕事場』から出てきた若葉を、暁辺りがタイミング悪く目撃して、悲鳴をあげたりする事もある。

 

「暇・・・」

「そーか、暇か」

 

薄暗い冬空の早朝、朝日を迎えながら二人が並ぶ。

摩耶はあまり気にしていないが、若葉は仕事着の白エプロンを着け、腰のベルトに道具を差したままである。

橙色の朝日が二人を照らし、赤黒く染まった若葉の姿が露になっていく。

 

「若葉、今日は何人だ?」

「六人・・・」

「そうか」

 

若葉は審問官、不正を働いた者や横須賀に対して敵対した者達に『質問』をするのが仕事だ。

自分の趣向と合った良い仕事だと、若葉は自負している。

自負しているが

 

「疲れた・・・」

 

仕事相手が出す『声や音』を聞き、『質問』を繰り返す。それが嫌になるという事は無い。

無いが、珠に疲れる。

疲れた時は、何もせずに呆けると若葉は決めている。

今居る埠頭や金剛がよく居るテラスに、廊下の行き止まりに屋上や仕事場がある地下に続く階段。

最近では、磯谷の部屋に居る事もある。

 

真っ暗な部屋の中、無表情に立つ若葉を見て磯谷が一度ドアを閉めてから、勢いよき開き低い姿勢から抱き着きに行ったりしたが、見事に撃沈した。

 

それを知っている摩耶は、何も言わず若葉の隣で表示枠を弄っている。

 

「摩耶・・・」

「お、どした?」

「休み・・・?」

「有休が溜まっててな。一度消化だ」

「そうか・・・」

 

若葉の表情は変わらない。相変わらずの無表情のままだ。

若葉が横須賀に来てから、表情が変わったのを見た者は居ない。無表情のまま笑い、無表情のままに泣く。

摩耶が知る限り、若葉の表情が変わったのは総長である金剛から、睦月の世話役を言い渡された時だけだ。

 

金剛が何を考えて若葉に睦月の世話役を言い渡したのかは分からない。だが、若葉以上に艦娘や人間、人体に詳しい者は横須賀には夕石屋の二人しか居ない。

夕石屋がイェーガーに艤装に設備にと忙しいなら、若葉以上に適任は居ないだろう。

人体に対する知識、それだけを見るとしたら。

 

「朝・・・」

「ああ、朝だな。寝るか?」

「まだ・・・」

「おう」

 

若葉の仕事は審問官。それは、他人を傷付け追い詰めて、壊す事もある仕事だ。

その審問官の若葉が、普通の艦娘である睦月の世話役になる。

それが分からない金剛ではない筈だ。

 

「若葉」

「何だ・・・?」

「今は、楽しいか?」

「・・・楽しい」

「そうか」

 

積み上げたモノは数知れず、同じ鎮守府内でも怯える者も居る若葉。

皆が予想した。無理ではないかと。若葉自身も無理だと言った。だが、金剛の意見は変わらなかった。

若葉を睦月の世話役に任命する。

 

結果は、皆が予想通りに睦月に怖がられた。表情も無く気配も希薄な若葉を、睦月は怖がった。

しかし、睦月は若葉から逃げなかった。怖がりながらも、若葉の付き添いを認めた。

 

睦月の膝から下は筋肉が著しく衰え、立ち上がる事が出来ない。

恐らく、金剛は若葉に教えたかったのだろう。

 

「睦月・・・」

「ん? ああ、大丈夫さ」

「分かった・・・」

 

壊す事だけでなく、助ける事も若葉には出来ると。

何も壊さずに、誰かの助けになれる。その事を若葉に教えたかったのだ。

これだけは、言葉では伝えられない。

 

「摩耶・・・」

「何だ? 若葉」

「待ってろ・・・」

 

立ち去る若葉の背を見ながら、摩耶は思う。

若葉も変わったと。

以前なら、仕事が終われば部屋で寝て、疲れたら鎮守府内の暗がりの何処かで呆けていた。

珠に磯谷がゲームに誘ってボコボコにされたりして、泣きながら比叡に助っ人を頼んだりしているが、以前は殆んど他人と関わりを持たなかった。

 

暁達には見ただけで悲鳴をあげられ、無表情に佇むだけだった。

そんな若葉が

 

「ん・・・」

「何だこれ?」

「睦月・・・」

「ああ、睦月のリハビリ用のサポーターか。作ったのか?」

「・・・ん」

 

そんな若葉が、睦月の為に自作のサポーターを作る。

これは、進歩と言えるだろう。

 

「サイズ・・・」

「おお、サイズは変えられるのな」

「ん・・・」

 

摩耶は思う。

磯谷と金剛が何処からか連れてきて、磯谷が実に良い笑顔で「今日から家の子宣言」したあの日から、若葉は変わった。

もう、無表情の審問官は居ない。

 

「どうした若葉、お前も行くか?」

「いい・・・」

「んな事言って、睦月が気になって仕方ないんだろ?」

「・・・違う」

「ま、そう言う事にしとくか」

「違う・・・」

 

ズーやん¦『あ、摩耶居た!』

船長¦『おい、もうすぐ船出るぞ』

元ヤン¦『ヤッベ、待ってろすぐ行く』

邪気目¦『おう、若葉。土産期待しろよ』

わかば¦『分かった・・・』

 

急ぎ走る摩耶を見送り、若葉は自室へと歩いていく。

早く戻らないと、暁達に見付かって泣かれる。

泣かれる事自体はどうでもいいが、暁達に泣かれると、もっと泣かせたくなるから困る。

今度は、暁達の部屋の近くで呆けてみよう。

きっと、良い声を聞ける筈だ。




全国の提督、司令官の皆様。
もしかして、若葉を育てず放置してませんか?

大丈夫ですか?
忘れてませんか?

・・・そうですか。


















では、後ろに居るのは誰?


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年末年始特別企画!
嗚呼・・・門が開いちゃったよ・・・


ネタ❤

「逆脚屋!ちょっとリヨ化してロマンを助けてよ!」
「は?浪漫?」
「リヨ逆脚屋になって、ソロモン叩いてよ!」
「は?ソロモン?七十二柱の?」
「リヨ化しろよ!」
「うるせぇ!会話しろよ!」

リヨ逆脚屋。なんか凄く理不尽な攻撃仕掛けて来そうとか言われたよ。
つうか、ソロモン、英霊化して大丈夫なの?ねえ?


という訳で、年末年始特別企画『Gateinバケツの人達』始まります!


その日は、何時もと変わらぬ平々凡々として平和な一日であった。

 

「あら、キノコが安いですね」

 

北海で居酒屋兼鮮魚店を営む鳳洋(おおとり よう)も、何時もと変わらぬ日常を過ごしていた。

 

「今日の御通しは、和え物にしましょうか」

「いらっしゃい、洋さん。今日は白菜もおすすめだよ」

「あら、それも頂こうかしら」

「毎度!」

 

町の市場で何時も通り買い物をし、夜の居酒屋の準備をする。 

そんな何も無い平凡な一日、それは突如として破られた。

 

騎士、飛竜、ゴブリン、オーク。およそ、ファンタジー作品でしか見た事の無い者達が、唐突に現れた『門』から湧き出し襲撃を始め、町を人を蹂躙する。その筈だった。

 

『洋様万歳! 洋様ニ勝利ヲ!』

 

ただ蹂躙する。その筈だった異形の軍勢は、何処からか現れた蒼褪めた軍勢によりその進軍を止められた。

 

異形の軍勢を率いる指揮官は困惑していた。

この町の住民はやけに逃走に慣れており、一人の死体も作る事無く自分達から逃げ出した。否、それよりもだ。

目の前に居る蒼褪めた軍勢、奴等が問題だ。その顔色からは、とても生者とは思えない。

それに

 

ーー奴等は何だ? 何故、死なないーー

 

槍で突き刺し馬蹄で踏み砕き、剣で斧で斬り倒し、棍棒で殴り倒しても死なず立ちはだかる。

突き刺された者は、槍に肉を裂かれ骨を砕かれながらも兵士を馬から引き摺り降ろし、斬り倒された者は首を喪い血を撒き散らしながらも相手を拘束する。

その異様で異常な光景に、最初は余裕を見せていた軍勢だが、徐々に焦りが見え始めた。

その時、膠着した睨み合いの中で蒼褪めた勢の中を、見た事の無い衣装に身を包んだ一人の女が悠然と歩いて来た。

 

「皆様、本日は御越し頂き誠に有り難う御座います」

 

柔らかな笑みと共に告げられた言葉、何を言っているのかは解らないが、それに指揮官は幾らか毒気を抜かれた。

自分達は、皇帝の命に従いアルヌスの丘に開いた『門』とは別の『門』の向こう側を征服に来た。

その筈なのに、目の前の女は何も焦る事無く当然の如く、何かを喋り続けた。

 

「私、この町の代表の一人を務めております。鳳洋と申します。本日はどの様な御用向きでしょうか?」

 

何を言っているのかは解らないが、用件を聞かれている気がした。

だが、指揮官は誇り高き帝国兵。異郷が蛮族の女の言葉なぞ聞くに値しないと、再度突撃を命じた。

 

「あの女が指揮官だ! 討ち取れ! 打ち取った者には褒美をくれてやる!」

 

褒美の言葉に、目の色を変えて洋へと突撃を開始した兵士達だが、目の前の女は頬に手を添えているだけで、何をする様子は無い。

 

「あらあら、どうしましょうか? 五百蔵さんと港さんが来るまで少しありますし・・・ ここは一つ、大人しくして貰いましょうか」

 

女の声と共に、先程の倍以上の人数の蒼褪めた軍勢が女の影から湧き出し、兵士達を飲み込んだ。

 

「なっ!」

 

指揮官は訳も解らぬままに、蒼褪めた軍勢に飲み込まれた。

意識を失う直前の言葉

 

「はぁ、見た目だけの虚仮脅しでしたか」

 

何故か理解出来たその嘆息と共に吐かれた言葉に、指揮官は驚愕に目を剥き、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

紅茶姉¦『洋』

おかみ¦『あら、どうしました? 金剛さん』

紅茶姉¦『皆を呼び出してどうシマシタ?』

おかみ¦『いえね、〝お客様〟がいらっしゃったので、お出迎えをしたのですが・・・』

紅茶姉¦『ふむン、〝お客様〟デスカ?』

おかみ¦『ええ、〝お客様〟です』

 

表示枠で横須賀に居る金剛と会話しつつ、洋は考える。

 

ーーこの方達、どうしましょうか?ーー

 

洋個人として、この兵士達はどうでも良い。しかし、中世の戦場で見られる武装に身を包んだ者達、このまま解放するのは問題がある。

それに

 

ーーこの何でしょう? この『門』は不愉快ですねーー

 

矢でも撃ち込んでみようか?

洋は虚空から弓を引き抜くと、矢をつがえ狙いを定める。

弓柄が撓り、弓弦が引き絞られていくと平行して、空気が罅われる様に張り詰める。

狙いは一つ、『門』の向こう側に感じられるとても不愉快な何か。

限界まで引き絞られた弓弦を放つ瞬間、洋の眼前に表示枠が一つ飛び出した

 

タテセタ¦『洋、ヤリ過ギダ』

おかみ¦『港さん』

タテセタ¦『流石ニソレハ私モ看過出来ナイゾ』

おかみ¦『・・・仕方ありませんね』

 

洋は仕方なく弓を下ろした。その時、『門』から安堵の気配がしたのは気のせいだろう。

洋は不快な気配を放つ『門』を睨み、溜め息混じりに言った。

 

「何にせよ、この子達を返しに行かねばなりませんね」

 

洋は表示枠を開き、金剛へと連絡を入れた。

 

おかみ¦『金剛さん。少し、頼みたい事があるのですが』

紅茶姉¦『何デスカ?』

おかみ¦『人を運ぶ車輌を幾つか用意出来ますか』

紅茶姉¦『ふふン、御安い御用デスネ。良いデショウ』

おかみ¦『感謝します』

 

攻め入ってきた軍勢は蒼褪めた軍勢により拘束され、身動き一つ取れない。

もっとも、意識を刈り取られているので身動きなど取れる筈が無いのだが、洋にはそれすらも腹立たしい様だ。

先程から、苛立ちを隠そうとしている。

 

「上等の装備、人数。それを揃えて突撃を繰り返すだけの体たらく、笑い話にもなりませんね」

 

自分達なら、どうしていただろう?

部隊を分け、突撃隊と浸透打撃隊に別れる?

力に任せた殲滅戦?

それとも・・・焦土戦術?

 

「先ずは、情報。それも無しに戦いは始まりません」

 

そう洋が言うと、彼女の影から数人が現れた。

その何れもが蒼褪めた肌色に染まり、洋に対して敬礼で並ぶ。

 

「では、情報を宜しくお願い致しますね」

『オ任セヲ』

 

蒼褪めた軍勢は、再度敬礼をすると共に、『門』の中へと歩みを進めた。

 

「ああ、腹立たしい。町中に現れねば瞬時に砕いてやるものを、ああ、本当に口惜しい」

 

その憤怒の呟きは誰に届く事も無く、ただ『門』だけが聞いていた。




町の住民の意見

「嘗めんな! こちとら、襲撃され慣れとんじゃい!」

だそうです。


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異世界・・・来ちゃった・・・!

この年始特別企画『Gate in バケツの人達』ですが、かなりカットします。
それはもう、イタリカからいきなり帝都行ったり現代日本に行ったりします。
ご了承ください。お願い致します!


「青い空!」

「白い雲!」

「「「「「異世界だあ!」」」」」

「落ち着きなさいって」

 

五百蔵の運転するトラックの中、吹雪&睦月With横須賀悪ガキ隊は絶好調にハイテンションであった。

全員がどちらかと言えば町育ちであり、艦娘という生い立ちから海に親しみはあっても、目の前に広がる雄大な大自然と触れ合う事が無かった。

 

「叔父貴! ありゃなんだ? 鹿か?!」

「鹿、かな?」

 

助手席の木曾が五百蔵に問う。

木曾が指差す先、街道沿いの森に鹿によく似た動物が居た。

 

「鹿、だよな?」

「鹿、だよね?」

「鹿でした」

 

角が鹿よりはトナカイに似た鹿似た動物を見て、更にテンションを上げていく五人。

その中で、五百蔵が欠伸を一つ吐き、首を鳴らした。

 

「叔父貴、疲れたのか?」

「ん? まあ、運転しっぱなしだしねぇ」

「オヤジ、代わるか?」

「それは次の休憩にしよう。君らは、はしゃいでなさいな」

 

何故、彼らが異世界に居るのか?

それは北海の町に開いた『門』から侵略に来たらしい軍勢を、向こう側に返そうと洋が金剛に車輌を幾つか依頼し、それを磯谷が聞き付け

 

『異世界とか超行きたい!』

 

とか言い出した。本来なら、洋とその軍勢のみで返還に赴く筈だったが、磯谷が駄々をこねだし、何だかんだで磯谷に甘い金剛がそれを許可し、悪ガキ隊を始めとした横須賀スタメン達と五百蔵達北海組も行く事になってしまったのだ。

 

鉄桶嫁¦『冬悟さん、次の曲がり角で休憩にしましょう』

鉄桶男¦『あれ? もうそんなになる?』

鉄桶嫁¦『はい、もう間も無く最初の街の『イタリカ』という街に着きます』

 

席を決めるくじ引きの結果、榛名は五百蔵が運転する二号車の前を行く一号車のガイド役になった。

その際に、木曾は喜び庭駆け回り榛名は拗ねて丸くなった。

もしこの時、嫉妬等を糧とするモノが居たら、狂喜乱舞していただろう。

 

ほなみん¦『そう言えばさ、異世界なんだしさ』

邪気目¦『あ? 何だよ穂波』

ほなみん¦『エロいエルフとか居るかな?』

ズーやん¦『流石過ぎるよ・・・』

ほなみん¦『ダークエルフとかさ、獣人とかと一晩中前後上下左右自由自在に・・・』

船長¦『ア穂波はどうでもいいとして、この地図凄いな』

元ヤン¦『鳳様の配下の方達のお手製だしな。目の前の森に生えてる木の数まで書いてるぜ』

 

摩耶が広げる地図、それには非常に事細かに周辺の森に自生する樹木、生物の分布図に食用可能か不可かに至るまで、必要とされる情報が記載されていた。

 

「イタリカか。どういう街なんだっけか?」

「大規模な穀倉地帯で、フォルマル家って言う家が治めているらしいぜ。叔父貴」

「そっか」

 

木曾が地図を広げ、五百蔵に嬉々として説明する。

それを見た他の四人は、表示枠で盛り上がっていた。

 

ズーやん¦『うわーい、キソーったら、もう』

元ヤン¦『榛名の目が届いてないと思ってんのか? あれ』

邪気目¦『もう、自棄になってねぇか?』

空腹娘¦『睦月ちゃん睦月ちゃん、これが昼ドラの修羅場ってやつかな?』

にゃしぃ¦『う~ん、少し違うんじゃないかな?』

 

事実、木曾は自棄になっていた。榛名が乗車する前を行く一号車から目に見えて凄まじいナニカが発されているのが解るからだ。

 

ーーこうなりゃ、行くとこまでいっちまえ!ーー

 

木曾は『ジュウコンカッコカリ』を決めてやろうと覚悟を決めるが、肝心の五百蔵にとって木曾は、どう逆立ちして見ても新しく手に入れた知識を披露してきた『よく懐いてくる近所の子供』でしかない。

 

「言葉は・・・ 大丈夫か」

「鳳様の配下の方達の調査を元にした翻訳機があるからな」

「夕石屋様様ってやつだな」

 

鳳洋の配下による調査を元にした翻訳機、今回は『門』周辺待機組となっている夕石屋が表示枠に登載した新機能である。

おおよそ、人間に発音出来る言語であれば問題無く理解する事が出来るらしいが、仕組みはとんと解らぬ物であった。

 

夕石屋¦『私も行きたかった・・・!』

ほなみん¦『まあまあ、何があるか解らないしさ、二人がそこに居てくれたらある程度の無茶が効くだろうし、お願いね』

夕石屋¦『キィィィィ! こんな時ばっか頼って! 解りましたよ! スーパーな拠点建ててやりますからね!』

鉄桶男¦『常識の範囲内でな』

 

表示枠から届く二人独特の二重音声をバックに、トラックの列はイタリカへ着々と近付いていたが、吹雪、洋、金剛の三人が何かに気づいた。

 

空腹娘¦『あれ?』

おかみ¦『あら』

紅茶姉¦『ふむン』

ほなみん¦『何々? どったの?』

紅茶姉¦『成る程、そういう事デスカ』

おかみ¦『あらあら、皆さんったら』

空腹娘¦『うわぁ・・・ 何て言うか、うわぁ・・・』

 

気付いた三人は、其々に様々な反応を見せた。金剛は納得し葉巻に火を着け紫煙を吐き、洋は恥ずかしそうに頬に手を当て微笑み、吹雪は軽く引きながら菓子を食べ頬袋を作った。

 

「おいおい、どうしたよ?」

「もうふぁんのふんえいああっふふひぃれまう」

「吹雪君、口の中のモノが無くなってから喋ろうね」

「んぐ・・・ 洋さんの軍勢がハッスルしてます」

「「「ホワイ?」」」

 

ほなみん¦『吹雪ちゃん、集音出来る?』

空腹娘¦『その必要は無いですよ。ほら』

 

吹雪の言葉に、洋と金剛と吹雪以外が耳を澄ますと、微かに戦いの音が聞こえてきた。

その音は近付くにつれ次第に大きくなり、はっきりと全員の耳に届く。

 

『洋様万歳! 洋様ニ勝利ヲ!』

 

鳳洋を讃える声が異世界に響き、異郷の軍勢を圧倒していた。

その様子に、金剛と洋以外は

 

約全員¦『うわぁ・・・』

 

はっきりと引いた。見事にドン引きである。

異郷の軍勢を蒼褪めた軍勢が圧倒しつつ、誰一人殺害する事無く拘束していく。

その様子を見た全員がドン引きしていた。

 

タテセタ¦『洋、ハシャギ過ギジャナイカ?』

おかみ¦『あら、港さん。この程度、まだまだですよ』

タテセタ¦『ソウカ』

約全員¦『納得?!』

紅茶姉¦『港、拠点の敷設は終わりマシタカ?』

タテセタ¦『アア、陸地ノ真ン中ニ艤装ヲ展開スルノハ初メテダッタガ上手クイッタヨ』

おかみ¦『それは良かったです。引き続き、拠点の確保をお願い致します』

タテセタ¦『分カッタ』

蜻蛉玉¦『総長殿、向こうから誰か来ているであります』

 

金剛の専属運転手であるあきつ丸が、何者かの接近に気付いた。

軍服に身を包んだ蒼褪めた軍勢の一人が、軍馬に跨がり五百蔵達へと向かって来ていた。

到着した兵士は、軍馬から降りると即座に敬礼で全員を出迎えた。

 

『洋様、金剛様、皆様、御迎エニ上ガリマシタ』

「皆さん、大事無いですか?」

『ハッ! 我ラ総員健在ニテ意気高揚デアリマス!』

「それは良かった。では、案内していただけますか?」

『ハッ! デハ、此方ヘ』

 

蒼褪めた兵士は再度敬礼をすると、軍馬に跨がり案内を始める。

 

イタリカの城壁では、緑の斑の服を着た者達と磯谷が見れば大喜びする事間違い無しな派手な女性達が呆然と、先導されてイタリカに近付いて来る車列を見ていた。




その頃の『門』周辺

タテセタ¦『フム、大体ハ終ワッタカ』
夕石屋¦『いやはや、流石は港湾棲姫様。この範囲を一人でとは、御見逸れ致しました』
タテセタ¦『ナニ、オ前達ノ支援アッテコソダ』
夕石屋¦『泊地型姫クラスには敵いませんよ』
タテセタ¦『泊地型ト言ッテモ、私ハ港湾。言ワバ港ダ。陸地ニオイテハ力ハ大キク制限サレル』
ポポポ¦『ネーチャ! アカイトカゲトンデル!』
ヲヲヲ¦『アカイトカゲトンデル!』
タテセタ¦『放ッテオケ。洋カ金剛ニ任セル』


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あ・・・やっちゃった・・・

始めに言っておきます!
Gateの原作を無くしました!
なので、今回から私の記憶のみで生きます!
大変申し訳ありません!

あ、後ですね。洋さんはとても情緒不安定な人です。実は





さて、どうしたものか?

捕らえた捕虜の返還の為にこのTHE・ファンタジーな世界に来たは良いものの、これは予想外過ぎる。

 

(冬悟さん、どうしましょう?)

(うぅむ、どうも出来ないかな?)

 

イタリカという街に着き、現地の貴族の騎士団と出会い自分達とは違う世界の日本人とも出会った。

までは良かった。

 

(叔父貴)

(オヤジ)

(オジサン)

(オッサン)

((提督))

 

そう、そこまでは良かった。そして、そこからが問題だった。

まさか、あんな事が起こるだなんて露にも思わず、それが原因かは分からないが今の状況である。

 

(あの~? 五百蔵さん、大丈夫です?)

(いやはや、大丈夫とは言い難いですな。伊丹さん)

(何かもう、済みません)

(いえいえ、お気になさらず。しかし、俺なんぞよりかは、そちらのお嬢さん方を撮った方が良いだろうに)

 

『門』の向こう側、通称特地側の少女達は何れも見目麗しく美少女と呼ぶに相応しい。

それと並んで、もう一つの『門』の向こう側からやって来たと言われる艦娘と呼ばれる少女達も大変に見目麗しいものであった。

その少女達の中でも、一際異彩を放つ巨漢は内心で冷や汗を流していた。

 

ーーまさか、テレビで見ていた光景の中に居るとはーー

 

彼らが居る場所は、伊丹耀司達自衛隊が居る側の日本の国会議事堂。所謂、参考人招致というものだった。

イタリカで起きたあの『事件』通称『洋さんぶちギレ事件』と五百蔵側の日本に攻めいって来た騎士団の処遇について等の諸々の事柄が、彼らがここに居る理由である。

 

ーーいやぁ、きついなぁーー

 

ちらりと横目で助けを求めてみれば、自分達のツートップは、この程度何するものぞと余裕の表情でカメラのフラッシュの嵐を浴びていた。

五百蔵はその様子に感心しているが、彼自身も端から見ればこの状況に飲まれていない様に見える。

顔立ちと体格によるものだが、本人からすればそんな馬鹿なと言いたい事だろう。

 

(五百蔵さん五百蔵さん)

(どうしたね? 磯谷嬢)

(あのカメラマンの娘、可愛くないですか?)

(君ホントぶれないね)

 

隣に座る磯谷は、実に楽し気に自分達を照らすフラッシュの嵐の中に居た。

楽し気に体を椅子の上で揺らし、嬉し気に辺りを見渡す。

正に、落ち着きのない子供である。周りの者達も、磯谷の事を五百蔵か洋が連れた子供だと思っている。

 

(五百蔵さん五百蔵さん。ほら、あの娘も中々に・・・)

(大人しくしなさい)

 

隣に座る巨漢に何か話し掛けている様だったが、何やら注意された様で少し大人しくなった。

 

「鳳洋参考人」

「あら? 私ですか」

「幸原議員」

「はい」

 

伊丹側の日本の議員、幸原は目の前の和装の女性鳳洋を見据えた。

ニコニコと穏やかな微笑みを湛えるその姿からは、報告にあった『事件』の中心人物とは思えない。

しかし、彼女が立ち上がると同時に特地側の女性達が僅かに身構えるのを幸原は見た。

何かがある。

 

「質問をさせていただきます。鳳洋さん、貴女の役職についてお聞かせ願えますか」

「鮮魚店兼居酒屋『鳳』にて店主を勤めております。あ、以前は軍に在籍しておりました」

「軍ですか?」

「はい、軍です」

 

変わらず微笑む鳳洋に、幸原は警戒を緩めない。

 

「続いて質問させていただきます。自衛隊の行動に不備はありませんでしたか?」

「不備ですか?」

「はい。報告では炎龍という生物によって現地住民に150人という犠牲者が出たという事ですが」

 

幸原の質問に鳳洋は首を傾げる。それは、まるで意味が解らないといった様子だった。

 

「現地住民の方々に被害が出たという事ですが、貴女は何を仰りたいのですか? 自衛隊の不備により被害が出たとでも?」

「は・・「馬鹿馬鹿しい話ですね」・・・はい?」

 

溜め息と共に聞こえる声には、明らかな落胆があった。

見れば、先程までの微笑みは消え去り厳しい色が浮かんでいる。

後ろに控える洋装の女性、金剛。彼女は顔を手で隠しているが、口元が笑っていた。

 

「嗚呼、嗚呼、馬鹿馬鹿しい。自衛隊の不備により被害者が出た? ふふふ、こんな冗談をこのような場で発言するとは、程度が知れますね」

「な、何を・・「囀ずるな、小娘」・・」

 

穏やかな口調からは一変し、声色から全てが変わった。

なにもかもが真逆。居酒屋の店主は居なくなった。

 

「小娘が、嘗めた口を聞くではないか。伊丹ニ尉達自衛隊が在籍する国の議員と聞いていたが、先程からなんだ貴様は? 自衛隊の不備? 150人の犠牲者? まるで、自衛隊があのトカゲを誘導して現地住民を殺させたとでも言いたいようだな?」

 

幸原は鳳洋の変貌に何も言えなかった。幸原だけではない、周囲の議員達もだ。自分達の背に差し込む氷よりも冷たい感覚、その感覚に誰も何も言えず、鳳洋は続ける。

 

「小娘、貴様は何様のつもりだ? 私の前で150人の犠牲者を出した事を責めるばかりで、それ以外を守り通した伊丹ニ尉達を称えず、その犠牲者に哀悼の意も無く、貴様の自己満足に使うとは、死にたいのか?」

「さ、参考人は発言を控えてください!」

「黙れと言ったぞ! 小僧!」

 

鳳洋の一喝に、幸原も議長黙る事しか出来なかった。

「死にたいのか」

この言葉が嘘とは思えなかった。事実、喉元に鋭利な何かが突き付けられている。そんな錯覚すら覚えていた。

鳳洋は両手で顔を押さえ、悶える様に身を捩り続ける。

 

「ああ、ああ、不愉快だ。不愉快にも程がある。やはり、あの『門』は早々に破壊しておくべきだった。『門』もそれを開いた者も不愉快なら、その先にあった世界すら不愉快。仮にも龍を名乗る者が戦いから背を向け逃げる。戦い守り通した者を蔑む。いつ以来だ? これ程に怒りを覚えた事は? リコリス? 戦艦? ああ、そうか。中枢か! ああ、忌々しいぃぃィぃィ!」

 

誰もが硬直し辛うじて呼吸をしている。それはこの場に居る者達だけではないだろう。電波越しに画面の向こう側で見ている者達も、誰もがこの場の者達と同じ様に硬直し辛うじて呼吸をしているだろう。

それだけのものが、恐怖がそこに在った。

 

しかし、その恐怖が支配する場で動く者達が居た。

普段を知り、彼女を知る者達だ。

 

「ちょっ! 洋さん?!」

「おウ、あの洋は久し振りに見マスネ」

「いやあの、御姉様? そう言っている場合では無い様に見えるのですが・・・」

 

金剛が懐かしむ様子に五百蔵と榛名が慌て、磯谷達は己を抱き合い震えていた。

その状況に見て、金剛は仕方なしに鳳洋へと近付き

 

「ふむン? 仕方ありマセンネ。洋」

「何だ? 金剛」

 

悪戯っ気たっぷりに葉巻の紫煙を吹き掛けた。

その紫煙に眉をしかめ、苛立たし気に鳳洋は金剛に対峙する。

 

「金剛。人様の顔に煙草の煙を吹き掛けるとは、あの時の決着を今ここで着けるか?」

「ふふン、それも良いデショウ。しかし」

「しかし、何だ? 怖じ気付いたか?」

「吹雪と睦月が怯えてイマスヨ」

 

鳳洋が目を剥き見た先には、お互いを抱き合い震える吹雪と睦月が居た。

 

「あわわわわわわ!」

「にゃししししし!」

 

その二人を見た洋から、ストンと怒りの色が抜け落ち周囲を支配していた恐怖が霧散する。

それに金剛は葉巻の紫煙を軽く吐き、背後に待機していた霧島と比叡に目配せする。

 

「洋、貴女は下がってイナサイ」

「・・・分かりました」

「ふふン、霧島」

「はい、御姉様」

 

下がる洋と入れ替わりに霧島が椅子を持ちやって来る。

椅子に腰掛け、霧島が持つ灰皿に葉巻を押し付ける。余裕の笑みを浮かべて足を組み、膝に両手を乗せる。

 

「では、ここからの我々に対する質問は私が受けマショウ」

 

手早く済ませマショウ。私は暇ではアリマセンカラ。

 

もう一人の絶対者による、答弁が始まった。




次回
イタリカで何があったのか?
洋さんぶちギレ事件とは?

そして、帝都で若葉が・・・

次回か次次回辺りで特別編は終わりにしたい!年末年始特別企画とはいったいなんだったのか?


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グッバイ!炎龍

はい、今回は炎龍がどうなったか。洋さんぶちギレ事件とは?
洋さんと首領金剛の年齢が明らかに?

あ、活動報告にネタ置いてます。
もし、洋さんが召喚されたら?


「さあ、始めマショウ」

 

見るからに高級感溢れる黒衣に身を包んだ女が笑みと共に告げる。

椅子に腰掛け足を組み、口の端に葉巻を挟むその姿は正に支配者と言えるだろう。

 

「手早く済ませマショウ。私も暇ではアリマセンカラネェ」

 

余裕の笑みと紫煙、議長も他議員すらも禁煙だと不謹慎だと声を荒げ注意する。お得意のそれが出来なかった。

 

「ふむン? どうしましタ? 質問をしないのデスカ?」

 

彼女も先程の恐怖と同格、下手な発言をすれば恐らく次は無いだろう。

それが発言を許さなかった。

 

「ン~、どうシマショウカ。何も無いなら、私達は帰りマスヨ?」

 

灰を灰皿に落とし金剛は席を立とうとしたが、ふと何かを思い出したかの様に背後に控える霧島に言った。

 

「あア、そうでしタ。霧島、夕石屋かラハ?」

「はい、御姉様。編集済みと連絡があります」

「宜しイ。でハ」

 

霧島は一礼すると懐から端末を取り出し、何かの準備を始めた。

それに一人の議員が問う。

 

「あの、一体何を?」

「皆様が知りたいであろう『事件』の映像を再生する準備です。夕石屋、聞こえますか?」

 

夕石屋¦『はいはい、副長。聞こえますよ』

副長¦『映像の準備を』

夕石屋¦『了解です!』

紅茶姉¦『無編集で流しナサイ』

夕石屋¦『良いんですか?』

紅茶姉¦『真実とは得てして苦いものデス。口に甘い真実等ありはしマセン』

 

目の前に置かれた小さな端末から、四つのディスプレイが投影される。

そこには『鳳様ぶちギレ事件』とあった。空間に投影されたディスプレイに議員達は驚くが、金剛は構わず指示を出していく。

 

「では、見せマショウ。貴方達が知りたがっていた真実ヲ」

 

その映像は穏やかな風景から始まった。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「いや、なんか済みませんね」

「いやいや、お気になさらず。困った時はお互い様と言いますし」

 

緑色の斑服を着た伊丹と同じく緑色のジャケットを着た五百蔵が作業を続ける。

片手にはフライパン、片手にはお玉を持って二人は炊き出しの最中であった。

 

「叔父貴、肉粥追加入ったぜ!」

「はいはい、その鍋ごと持ってちゃいなさいな」

「あいよ。天龍、そっち持て」

「へいへいっと」

 

木曾と天龍の眼帯コンビが粥が満杯に入った大鍋の取っ手に担ぎ棒を引っ掛け運んでいく。

 

「粥の追加だ!」

「残さず食えよ!」

 

二人の威勢の良い声に人々が集まり列を成していき、人々が持つ皿に並々と粥が盛られていく。

 

「しかし、五百蔵さん。これだけの食材をよく持ってましたね」

「あ~、これは私ではなく義姉さんが」

「義姉さんと言いますと、まさか」

「ええ、彼処で葉巻を吹かしている彼女です」

 

伊丹がチラリとそちらに目をやると、件の金剛が葉巻を吹かしながら、帝国の騎士団の代表者であるピニャ・コ・ラーダと会談をしているのが目に入った。

 

「確か、捕虜の返還でしたか?」

「ええ、私共の方にもあの『門』が開きまして、彼方の彼等が捕縛したのですよ」

 

五百蔵が溜め息混じりに伊丹に告げる。その目線の先には蒼褪めた顔色の軍人達が直立不動の体勢で待機していたが、伊丹が見ている事に気付き全員が敬礼をしてきた。

 

「伊丹さん、貴方何を?」

「いやぁ、何が何だか」

 

さっぱりです。

そう伊丹が言おうとした時、小柄な少女が二人に駆け寄ってきた。

 

「提督! 伊丹さん!」

「どうした? 吹雪君」

「何か大きいものが近付いて来ます!」

 

吹雪が片手でヘッドホンを押さえながら二人に報せる。

五百蔵は即座に野外用の簡易コンロの火を消し、伊丹は周囲に指示を出す。

 

「倉田! 栗林! 何かが近付いて来ている! 避難誘導急げ!」

「了解!」

「吹雪君! 最接近は何時になる!?」

「かなり速いです! このままだと間に合いません!」

 

舌打ちを一つ、最悪の事態を予測しつつも全員が避難誘導を進めていく。

 

ほなみん¦『五百蔵さん! ドラゴン! 真っ赤なドラゴン来てる!』

鉄桶男¦『はぁ?! いくらファンタジーな世界でもそれは無しだろう!』

鉄桶嫁¦『目標視認しました! 到着予想残り三十秒!』

 

間に合わない。壊れた城門の向こうに赤い片腕を失ったドラゴンが迫る。

逃げ遅れた住民をその顎に牙に掛けようと、口を開き下降する。木曾と天龍が腰の刀に手を伸ばし、摩耶と鈴谷が格納空間から砲を展開する。

しかし、照準が抜刀が間に合わない。否、間に合ったところであの質量は止められない。

誰もが目を逸らし、直ぐに自分達に降り掛かるであろう恐怖に身を強張らせる。

 

しかし

 

「無作法ですね」

「「「「「「「は?」」」」」」」

 

自分達の背後から飛来した槍、恐らく槍が何事も無い様な声と共に赤いドラゴンの眉間辺りに激突し快音を発する。

赤いドラゴン、炎龍からしてみれば人間が振るう槍等小枝にも劣るものだろう。しかし、その小枝にも劣る棒きれに自分が止められた。

それは炎龍にとって屈辱以外の何者でも無かった。

怒りを込めた咆哮がイタリカに響き渡る。

 

「伊丹ニ尉、テュカさんを」

「え? あ!」

「洋さん!」

 

咆哮が降り頻る中、鳳洋が駆けた。

背後には錯乱するエルフの少女が居る。その少女を伊丹に任せ、鳳洋は駆け抜けた。

誰しもが無謀だと思った。相手はあの災厄と呼ばれる古代龍。

一度現れれば過ぎ去るを待つしか無い存在、それに向けて和装の女が一人瓦礫に突き立った剣を抜き斬りかかる。

 

「ちっ! 鋼も鍛造も甘い粗製ですか」

 

一歩、抜いた剣は炎龍の頑健な鱗に砕け散る。

ならばと二歩、配下が抜き放った剣を突き放つ。

これも砕け散る。鋼が柄が鍔の飾りが散り眼前を彩る。

三歩、鬱陶し気に振るわれた尾を避け一足飛びに下がる。

 

「御二人共、腰の物を借ります」

「「イエスマム!」」

 

下がった場所に居た天龍と木曾の刀を借り、再度の四歩。

木曾の軍刀は鱗を裂いたが肉を裂けず折れ、追撃の五歩、天龍の刀が肉を裂くが刃が食い込み抜けない。

 

炎龍と鳳洋の居る場は誰も居ない城門の外、炎龍は目の前に居る人間を焼き払おうと火炎を吐いた。

 

「洋さん!」

 

誰が叫んだか、その名の持ち主は炎龍が吐いた火炎に飲まれ見えなくなった。

鉄を焼き、石を焦がす火炎。『ただの人間』がそれに耐えられる訳が無い。

 

「何であの人はあんな事を!?」

 

彼女を知らぬ者が叫ぶ。何故と、無謀を嘆く。

炎龍の勝利の咆哮が響く。

しかし、その中で

 

「あは」

 

愉しげな笑いが聞こえた。

炎龍は見た。己の炎の中に立つ人間を。

肉は焼け焦げ、骨は崩れる。その炎の中には居た。

怪物が。

 

「良い。実に良い」

 

聞こえた。歓喜の声が。

喜びにうち震える声が聞こえた。

 

「何時以来ですか? 焼かれたのは?」

 

生きとし生ける者を焼き殺す炎を纏い、それは居た。

口を三日月に釣り上げ笑う。それが居た。

 

「ソロモン諸島の焼夷弾の雨以来ですか!」

 

鳳洋が虚空から錫杖を抜き放ち炎を祓う。

(かん)の音が響き火の粉が舞い散る。

それは幻想的であった。

火が舞い、鈴に似た音が鳴り響く。

火を祓い龍を鎮める巫女、誰もがそう思っただろう。

その顔に浮かぶ凶悪な笑みを見なければ。

 

「では、往きましょう。そして、生きましょう」

 

戦場でこそと、彼女は駆けた。

満面の笑みで錫杖を振るえば鐶が鳴り、鱗が甲殻が砕け散る。炎龍の爪が牙が尾が鳳の血肉を裂き、華と咲かせる。しかし、その度に鳳は不死を為し、紅を舞わせる。

歓喜にうち震え、鳳洋は戦場を舞う。

歓喜の最中を舞っていた。

 

「は?」

 

その筈だった。

 

「ああ、あれはいけマセンネ」

「義姉さん、一体何が?」

「冬悟、龍という存在は私達にとって闘争を是とし、戦いに散る事を絶対とする者達を言うノデスヨ」

「なら、あれは」

「ええ、その通りデス。アレは洋の逆鱗に触れマシタ。仮にも龍が恐怖で闘争から逃げる等あってはなりマセン」

 

金剛の言葉の通りに鳳は怒りを露にした。

嘗ての戦争、自分達が生きた過去の日々。

龍の名を冠する者達、その者達の生き様。

闘争に生き、戦場での死を絶対とした気高き龍達。

それらを汚す行い、炎龍は目の前の化け物に恐怖し逃げた。

 

炎龍からしてみれば知ったことではないだろう。炎龍は知能が高いとは言え、言ってしまえばただの獣だ。

災厄と呼ばれても、その実態はこの世界に生きる一頭の獣でしかない。獣が恐怖に、自分の命惜しさに逃げるのは当然と言える。

 

だが、それを化け物は赦さなかった。

 

「龍が逃げる? ただの一羽、ただの一羽の鳳から龍が逃げる? ふざけるな!」

 

赦さない。

獣の理等知ったことか。龍の名を汚すな。

鳳は虚空から一張りの和弓を引き出し、矢をつがえる。

弓弦が引き絞られ、空気が震える。持つ両腕に歯形に似た亀裂が掻き毟る様に走る。だが、それに構わず狙うは羽ばたき逃げる彼方の炎龍。

限界まで引き絞られた弓弦が手から離され、鋭い音と共に矢が大気を裂き、両腕が紅い華を咲かせた。

 

炎龍は見た。放たれた矢が背後から自分に向かって真っ直ぐに飛んで来るのを見た。

だが、炎龍はそれを無視した。人間が放つ矢など恐れるに足らず、例えそれが己を恐怖させた化け物の放ったものであろうと、己を絶つには至らぬと。

 

もし、ここで炎龍が回避を選んでいれば、結果は変わっていたかもしれない。

回避を選ばず、無視を決め込んだ炎龍が最期に見た光景は、化け物が放った矢と青い見慣れた空であった。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「これが、貴方達が知りたがっていた真実デス」

 

如何でシタカ?

騒然としていた場は静寂に包まれていた。

自分達の知る常識からあまりに外れた光景、いっそ神話の話とでも言ってくれた方がましにも思えた。

 

「まあ、私と洋が現役の頃。百年前の大侵攻では当たり前の事デシタガ」

 

何かサラッとまたとんでもない話が出てきたが、議員も伊丹達も五百蔵もキャパオーバーで固まっている。

 

「ふむン、質問が無いなら、私達は帰りマス」

 

席を立つ金剛に続いていく面々。五百蔵だけは頭を捻りながら榛名に袖を引かれていた。

 

「ああ、そうデシタ」

 

金剛が立ち止まり、振り向いた。

 

「言い忘れてましたが、この国は『蠅』が多いデスネ」

「蠅ですか?」

「ええ、『蠅』デス。『三匹の蠅』が耳元で飛び回り、とても耳障りデス。では、伊丹。私達は先に行ってマスヨ」

 

金剛が去り、残った伊丹達に対する質問も何処か空回りする様な内容に、参考人招致は終わった。

 




炎龍戦後

「洋」
「何だ? 金剛」
「赤城の弓を怒りに任せて使うからそうナリマス」
「・・・」
「まあ、赤城も思うところはあったノデショウ。持っていかれたのが両腕だけで良かったデスネ」
「・・・まったく、情けない」

とか、やり取りがあったりなかったり。


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あきつ丸ラブストーリー?
オッサン、二人


お久し振りです!
今回から本編となります。
特別編は、ちょっとネタに詰まったので・・・

ではでは、『バケツ頭のオッサン提督の日常』始まります!





人間を拾った中間棲姫のお話『凪中日記』も宜しくお願い致します!


「あ~、やっと終わった・・・」

「お疲れ様です、冬悟さん」

 

各方面から送られてくる書類の山と格闘する事数時間、五百蔵冬悟は眼鏡を外し目頭を軽く揉む。

どうにも、最近は細かい文字が読み辛いらしい。

 

そんな五百蔵に、榛名が珈琲を淹れて持って来た。

白いカップから湯気と珈琲の香りが昇り、五百蔵の眠気と倦怠感を幾らか覚ましてくれる。

 

「ああ、すまないね。榛名さん」

「いえ、榛名は大丈夫です。ですが、冬悟さん」

「ん、何?」

「凄い量ですよね、書類」

 

榛名が見る机の上、そこには所狭しと積み上げられた書類の山があった。

五百蔵が代表を務める北海鎮守府は、軍に属しているが軍施設と言い切るには微妙な立ち位置にある。

 

北海鎮守府があるこの町は、遥か昔から深海棲艦と馴染み深くあり、人間と深海棲艦が共に生きる端から見れば異様な町なのだ。

町に大戦期の英雄が居を構えているとは言え、鎮守府という『人間側の』軍施設を設営するのは、容易な事ではない。

お互いに不用意な刺激を与えぬ様に、協議に協議を重ね軍施設としての機能は最低限に、設営の建前としてお互いの友好の為の施設という事で設営されている。

 

「まあ、報告とか色々あるしね」

「色々で、これですか」

「うん・・・」

 

その北海鎮守府代表である提督の五百蔵、現秘書艦の榛名、吹雪、睦月には役割がある。

 

『深海棲艦の動向の調査と報告』

深海棲艦の動向を調査し、最悪の事態を未然に回避する為、それを逐次報告する。

それが北海鎮守府の役割だ。

と言っても、この海域の深海棲艦は戦争自体に興味が無い上に、「センソウ? ナニソレオイシイ?」とか言い出す様な者しか居ない。

大体、菓子に釣られて人間の仕事を手伝ったり、菓子に釣られて争いを始めたり止めたりする者が主なので、調査も報告もあったものではない。

この海域の深海棲艦を束ねる港湾棲姫の港も「戦争? 何故ソノ様ナ無意味ナ事ヲシナクテハナラナイ?」と首を傾げている。

なので、既に形骸化した役割であるのだが、大本営や他鎮守府と泊地から送られてくる質問書に報告書、挙げ句の果てにファンレター擬き、大量に送られてくるそれらに返答するのが、五百蔵の仕事だ。

 

ーー意外にも、ヲガタのファンが多いんだよなーー

 

空母ヲ級のヲガタ、通称『アホのヲガタ』

空母としてフラグシップ級の実力があるのだが、如何せん頭が悪い。

常に北方棲姫のほっぽと行動を共にしており、アホな行動が目立つ。

そのアホ(ヲガタ)にファンが多い理由は、朝のローカル番組での占いコーナーによるものが大きいだろう。

アホなので色々考えない行動に発言、根拠も何も無い占いの内容、その癖妙に高い的中率、人間受けする容姿。

それらが上手い具合に絡まり捻れ回って、ヲガタ人気に火を着けている。

 

因みに、行動を共にするほっぽとチビレ級のレナにもファンレターは来ている。

来ているが、内容が内容なものや完全に事案発生案件なものが主だったりするし、レナは文字が読めない。

こちらの言葉はある程度理解してはいるみたいだが、その言葉が何を意味しているのかを理解していない節がある。

 

先程も、届いた手紙をかじりバンバン手形を付けて、五百蔵に判読不能になった元手形を渡して走り去って行った。

他の手紙には見向きもしなかった事から、五百蔵が封筒に苦戦しながら詰め込んでいる手紙の何かがレナの琴線に触れた様だ。

 

元ヤン¦『オヤジ、榛名。居るか?』

 

五百蔵と榛名が書類を封筒へと詰め込む中、摩耶の表示枠が二人の顔前で開いた。

 

鉄桶男¦『居るけど、どうしたの?』

鉄桶嫁¦『何かトラブルでも?』

元ヤン¦『いや、アタシもなぁ。おい、鈴谷』

ズーやん¦『いやぁ、オジサン。突然だけどさ、お小遣いちょうだい』

鉄桶男¦『え?』

鉄桶嫁¦『鈴谷さん、貴女何を?』

ズーやん¦『いやいや、ふぶっちとムッキーの服を買ってたら、手持ちが足りなくなっちゃって』

船長¦『叔父貴、すまん』

邪気目¦『オッサン、すまん』

空腹娘¦『提督、すみません』

にゃしぃ¦『提督、ごめんなさい』

鉄桶男¦『う~む、仕方ない、か?』

鉄桶嫁¦『冬悟さん冬悟さん、流されてます!』

 

横須賀悪ガキ隊は長期休暇の後、北海鎮守府に出向という形で籍を置く事になった。

理由としては所属艦娘『吹雪』『睦月』の教導という事になっている。

 

元ヤン¦『オヤジ、すまん。アタシも今は手持ちがな』

ズーやん¦『帰ったら返すから、お願いします!』

空腹娘¦『提督、私このパーカー欲しいです!』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、落ち着いて!』

鉄桶男¦『はいはい、取り敢えずそっち行くから、それからね』

約全員¦『うーい』

 

表示枠を閉じ、軽く髪を整えてから五百蔵は愛用している濃緑色のコートを羽織った。

見れば榛名も、外出の準備を終えている。

 

「それじゃ、行こうか。榛名さん」

「ええ、行きましょうか。冬悟さん」

 

靴を履き、扉を開けてみれば雪がちらつき始めた冬の空が広がっていた。

 

「ありゃ? 雪か」

「傘、は逆に危なそうですね」

「風が出てきそうな空だしねぇ」

「車は、皆が乗って行ってますし」

「大人しく、歩きますか」

 

呟き、二人は雪がちらつく空の下を歩き出した。

六人が居る町迄は距離があるが、徒歩で行けない距離ではない。

荷物が無ければ歩きで、荷物があるなら乗り物で、という微妙な距離。

鎮守府の敷地内から繁華街へと続く道、ちらほらと散歩中の住人が見え始める中、長身の二人は嫌でも目立つ。

 

五百蔵は213㎝、榛名は185㎝、周囲から頭一つ二つ抜き出た二人が、身振り手振りで夕飯の予定を話をしながら町へと向かう。

 

「うぅむ、今日はどうするか?」

「頂き物のジャガイモがありますし、肉じゃがでもしましょうか」

「ああ、なら、他の具材も買わないと」

「帰りは皆、荷台に乗ってもらいましょうか?」

「幌、掛けてくれてると良いんだけどな~」

 

二人は嫌でも視線を集め、白い息を吐きながら雪の中を、ゆっくりと歩いて行った。




次回
オッサン、挑戦


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オッサン、挑戦

最近、全ての生命に殺意を抱く花粉症の季節となり、更新速度が落ち、感想も返せず、頭が回らぬチクショーメ!

もうこうなったら、人類悪となり人理を焼却するしかない!


オッサン 最近、腹が出てきたかなとランニングを始める
吹雪 食欲全開
榛名 ダイエットメニューに挑戦
睦月 にゃしぃとか言わない
悪ガキ隊 いつも通り
鉄腕ちゃん 鉄腕ちゃん


町の服飾店前、摩耶と天龍は来るべき二人を待っていた。

 

「オヤジと榛名、遅いな」

「歩きだからな、仕方ねえよ」

 

吹雪と睦月の服を買いに会計を済ませようとしたまでは良かったのだが、その時になって持ち合わせが不足している事が分かり、恥を忍んで五百蔵と榛名に救援を求め、今は摩耶と天龍の二人が店の外で五百蔵達を待ち、他の面子が店内でという具合になっている。

 

ズーやん¦『ねえねえ、オジサンと榛にゃんまだ?』

元ヤン¦『いいから、中で待ってろ』

船長¦『叔父貴はまだか?』

邪気目¦『座ってろ』

空腹娘¦『お腹が空きました』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、店内は飲食禁止だからね』

 

表示枠内では二人を待つ声と空腹を訴え、それを止める声が騒がしく響いていた。

まだかと待ちわびて、目の前を行き過ぎる雑踏を見てみるが、二人らしき人影は見当たらない。

五百蔵も榛名もかなりの高身長なので、人混みでも直ぐに見付かる。

しかし、それが見当たらないという事は、まだ近くには居ないという事だ。

 

鉄桶男¦『皆何処に居るのかね?』

元ヤン¦『オヤジ、何処に居る?』

鉄桶男¦『え? 言われた服屋に来たけど』

鉄桶嫁¦『冬悟さん、ここ本館って書いてます』

邪気目¦『あぁ、そっか。オッサン、俺らは別館だ』

鉄桶男¦『うわ、マジか』

元ヤン¦『その店の横道入ったら直ぐだから』

鉄桶嫁¦『横道というと、ああ今看板が見えました』

 

五百蔵と榛名からメッセージが届くが、どうやら二人は本館の方に行っていた様だが、行き先を聞き直して直ぐに合流し、足りない会計分占めて16294円の支払いを済ませて、五百蔵の財布は大打撃を被った。

 

「次からは財布の中身確認してね」

 

五百蔵のオッサンがかなり軽くなった財布を片手に悲し気に呟いた言葉である。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「さて、皆。準備は良いかな?」

「良いけどよ、オッサン」

「何かな? 天龍君」

「なんでスーパーなんだ?」

 

支払いを終えた五百蔵達が来たのは町にあるスーパー、所謂主婦の戦場である。

天龍が言う様に、何故スーパーに来たのか?

それは

 

「本日の夕飯、肉じゃがの肉を買います」

「いいですか、天龍さん。ここで肉が買えなければ、本日は肉じゃがではなく、ただの『じゃが』になります」

「マジか」

 

天龍の言葉に頷く五百蔵と榛名。事実、北海鎮守府には肉の備蓄は無い。

なので、このスーパーで肉を手に入れなければ、肉とジャガイモの煮物である肉じゃがは、ジャガイモと人参の煮物の『じゃが』になってしまう。

天龍達も艦娘であるから、人よりかは食べる。なら、肉の入ってない『じゃが』より肉が入っている『肉じゃが』の方が良いに決まっている。

 

そう、そっちの方が良いに決まっている。

天龍達でさえそうなのだ。

そこで彼女が反応しない訳が無い。

 

「それはダメです!」

 

空腹索敵棲姫のダイナミックエントリーである。

 

「吹雪君?」

「いいですか、提督。肉じゃがというのは元々ビーフシチューを真似て作られたと言われています。シチューは多種多様な具材を煮込んだ料理ですが、肉じゃがとはその名の通りに、肉とジャガイモに人参等を醤油で味付けした日本の家庭料理なのです。なら、そこに肉が無ければ肉じゃがではなく、それはジャガイモの煮物です。肉じゃがではありません!」

「ア、ハイ」

「そして、肉じゃがが家庭料理として幅広く浸透したのは、戦後出稼ぎ等から帰ってきた家族が買ってきた牛肉を使って作り、それが連綿と受け継がれ各家庭の味を築き上げ確立された料理、それが肉じゃがなのです!」

「吹雪ちゃんストップストップ」

「ふぶっちふぶっち、待って待って、ペースを落とそう」

 

睦月と鈴谷が止めようとするが、ヒートアップした空腹索敵棲姫は止まらず、家庭料理の起源にまで遡り始めたが、これ以上はマズイと榛名が菓子を与えて停止、語りを止めて菓子を口いっぱいに詰め込み食べ始める。

 

「これでよし」

「榛名も中々に吹雪の扱いに慣れてきたな」

「も? も~もも~も~もももも」

「鈴谷は吹雪と睦月見ててくれ」

「買い物は俺達と叔父貴で行ってくる」

 

木曾が言い、鈴谷吹雪睦月の三人を残した六人で店内へと入っていった。

 

「んじゃ、私達はあのベンチで休もっか」

 

鈴谷達が五百蔵達を見送り、スーパーの出入り口横にあるベンチに腰掛け、買い物の終わりを待っていると

 

「ぬわー!」

「木曾!?」

 

店の自動ドアが開き、木曾が転がり出てきた。見れば艤装の装甲繊維製のマントと軍刀を格納空間から取り出し装備している。

買い物とは思えぬ状態に、一体何があったのかと鈴谷が木曾に問う。

 

「木曾、一体何があったのさ?」

「うぉおぅ・・・効いたぁ・・・」

「ん、おう、鈴谷か」

 

問われた木曾が頭を振りながら鈴谷へと向くと、小破まではいかないが僅かな損傷がマントにある。

何故、スーパーで艦娘が損傷を負うのか?

頭を捻る鈴谷だが、その答えは直ぐに分かった。

 

『さあさあ始まりましたタイムセール! 本日二品目はこちら! 国産鯖一尾五十円五十円! 現品限りの早い者勝ちです!』

 

タイムセール、生きる糧を求めて狩猟者が血肉を賭けて争う現代の戦場、現代に生きる神話生物『シュ=フ』達の縄張り、そこから弾き出されたのだろう。

さっきマイク放送をしていた店員が『シュ=フ』の一人のタックルではねられ床に叩き付けられていた。

 

「うわぁ・・・」

「にゃしぃ・・・」

「何をどうしたらこうなるかなぁ?」

 

上から吹雪、睦月、鈴谷の順の感想である。

木曾はマントを整え軍刀を持って再度突撃していった。

いつの間にか、鉄腕ちゃんまで吹雪の格納空間から出てサバトに参戦していた。

 

『さあ本日のメインイベント! 鳥股肉! 鳥股肉一枚がなんと十円! 十円の赤字確定御奉仕特価!』

 

メインイベントの始まりを告げる鐘が鳴り、守るべき者達の為の戦いが今幕を開けた。

まず最初に群れから飛び出したのは木曾、店内から弾き出されてからの急速な加速で目当ての鳥股肉へと走る。

しかし、木曾の伸ばした手は届かず横からのシュ=フによるタックルで弾かれバウンド、鳥股肉四パックがシュ=フの手に渡る。

 

続くは摩耶、拳を鳴らし低い体勢から突撃。

シュ=フを一人、二人と弾き飛ばす。だが、シュ=フは尽きない。二人分の穴から更なるシュ=フが現れ、摩耶を飲み込む。

 

「天龍! オヤジ!」

 

しかしそれが二人の狙い、自分達が犠牲となり突破口を開く。

艦娘である自分達も圧倒的膂力を持つ五百蔵でも、そうでもしなければこのシュ=フを突破出来ない。

木曾と摩耶の犠牲を踏み、天龍と五百蔵は鳥股肉へと・・・

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

『ありがとうございました~』

 

「あ、榛にゃん。買い物終わった?」

「はい、足りなかった人参等を買ってきましたが・・・」

 

『刀折れたーっ!』

『船殻に罅入ったぞ!?』

『おうわー!』

『叔父貴ー!』

 

矢尽き刀折れ、それでも望みを手に入れようとする者達の戦いが、店内で繰り広げられていた。

 

「私も行った方が良いのでしょうか?」

「いやいや榛にゃん、あれに参加したら色々終わりだと思うよ?」

「あれ? 鉄腕ちゃんだ」

 

阿鼻叫喚のサバトを横に、鉄腕ちゃんが大きめのビニール袋を掲げてガシャガシャ這って戻って来た。

榛名が袋の中身を確認すると、鳥股肉二枚入パックが十パック、合計二十枚の鳥股肉を手に入れていた。

 

「流石、鉄腕ちゃん!」

 

吹雪に袋を渡しサムズアップして、格納空間へと戻っていく鉄腕ちゃん。

肉じゃがの肉を得る為の戦いが終わった瞬間である。

 

「冬悟さん、私達は先に帰って下拵えしてますね」

『『『あ、はーい』』』

 

肉じゃが戦線ここに終結。




次回予告?


あきつ丸ラブストーリー本格始動?


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百日の桔梗

はい、あきつ丸ラブストーリーとは何だったのか?
そんなお話になりました。あ、感想返信は暫く待ってください。お話書くのでそこまでのよりょくが・・・


今回のお話の元ネタに気付いた人は、私と握手!




タイトルの意味は、百日草と桔梗の花言葉を繋げて捻ったりした意味で「亡き貴方との再会を願う」とかね。


夕石屋¦『緊急事態です』

ヒエー¦『今度は何しました?』

わかば¦『言え』

副長¦『今なら若葉は免れる様に弁護してあげましょう』

夕石屋¦『私達への熱い風評被害!?』

ヒエー¦『そういうのいいから、早く』

夕石屋¦『では、執務室に集まってください』

 

説明しますので。

唐突に開かれた夕石屋の表示枠、これが北海、横須賀鎮守府、両鎮守府を巻き込んだ騒動の幕開けになるとは、今は誰も思わなかった。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「あれ? 霧島ちゃん。どうしたの?」

「いえ、夕石屋の二人から執務室に集まる様にと」

「ん~? 何だろね」

 

磯谷が『一通の手紙』を机に置き、首を傾げて菓子を口に放り込み咀嚼し飲み込む。

 

ほなみん¦『ねえねえ、何したの?』

夕石屋¦『あっれ? 私達の扱いが?』

ほなみん¦『ははは、何を今更』

蜻蛉玉¦『おやぁ? 何でありますか?』

紅茶姉¦『ふむン? 何かあったみたいデスネ』

ヒエー¦『お帰りなさいませ。御姉様』

紅茶姉¦『ええ、今帰りマシタ。で、何がありマシタカ?』

副長¦『それは、夕石屋が説明するそうです』

紅茶姉¦『ほほゥ?』

夕石屋¦『えっとぅ・・・』

 

夕石屋が言い淀み、何があったのかと全員が首を傾げる。

この二人がやらかすのは普段通りだが、ここまで言い淀むのは珍しい。

その全員が思案する中、一つの表示枠が開いた。

 

七面鳥¦『あれ? そう言えば先生は?』

ほなみん¦『洋ちゃん? 見てないけど』

焼鳥¦『提督、先生をちゃん付けですか?』

長屋¦『まあまあ、加賀さん』

七面鳥¦『てかさ、私達がこうやって話してたら先生来るよね?』

焼鳥¦『・・・夕石屋?』

長屋¦『・・・・・・夕石屋?』

夕石屋¦『・・・・・・・・・・・・』

七面鳥¦『おい、なんか言えよ』

ほなみん¦『まさか、洋ちゃんに何かあったの?』

副長¦『これは若葉ですね』

わかば¦『・・・・・・』

夕石屋¦『ヴェッ!』

 

夕石屋の若葉が決定し、二人が奇声を発したところで横須賀鎮守府主要メンバーが執務室に揃った。

 

「全員揃って、後は夕石屋の二人だけデスカ?」

「はてさて、何があったのでありましょうな」

「何があったのやら」

 

あきつ丸が軍帽を被り直し、普段と変わらぬ飄々とした態度で金剛の左斜め後ろに立つ。因みに、右斜め後ろは霧島が立っている。

 

「「し、失礼しま~す・・・」」

 

控え目なノックの後、執務室の扉が開かれ夕石屋の二人が入室してきた。

さて、何をしたのかと、全員が二人を見て驚愕に固まった。

 

「は?」

「え?」

「何?」

「おや、これはこれハ」

「え、ちょっ、マジで?」

 

固まった全員の視線はある一点に集中していた。

視線の先には横須賀鎮守府工廠責任者の明石と夕張が縮こまって立っていたが、視線は二人には向けられていない。

全員の視線が向けられている先は夕石屋ではなく、その二人の足元に居る小さな人影であった。

 

「子供、でありますか?」

「これは一体?」

「白状しなさい。何処で拐って来たのです?」

「まさか、家から犯罪者が出るとは・・・」

「「待って! 本当に待ってください!」」

 

さあ、自首しろとか、今なら罪は軽くなるとか言われながらも、必死に無実を訴える夕石屋の二人を横に磯谷と金剛の二人は、きょとんとした表情の子供を見ていた。

 

「ふ、二人とも、まさかとは思うけど・・・」

「「はい、そのまさかです・・・」」

 

この子供は鳳洋様です。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

鉄桶男¦『それで? 何がどうしたら洋さんが子供になる訳よ』

ほなみん¦『いやぁ、こっちも何がなんだか』

ズーやん¦『鳳様ってさ、時々ビックリどっきり生態かますけど、今回はマジでビックリどっきり生態だよ』

空腹娘¦『洋さんに聞けないのですか?』

副長¦『これが、肉体と共に知能も幼児退行しているらしく』

鉄桶嫁¦『聞けない訳ですか』

 

北海鎮守府の表示枠が向く先、何をする訳でもなく椅子に座り周囲を見ている洋が居た。

 

元ヤン¦『で、戻んのか?』

邪気目¦『どうなんだ?』

船長¦『戻らなかったら、ヤバイぞ』

にゃしぃ¦『これ、何が原因なの?』

 

下手をしたら、自分と吹雪よりも幼い姿となった洋を見ながら、睦月が問うた。

洋は相変わらず、何をする訳でもなく椅子に座ったまま動かない。

 

夕石屋¦『えぇっとですね、高速修復剤あるじゃないですか。それの新型、飲料可能なタイプの実験をしてたんですよ』

 

夕石屋の話はこうだ。

艦娘治療に使われる高速修復剤、これは患部に塗布するか、それに浸かるかの二種類の使用法がある。

しかし、その使用法の浸かるタイプ、所謂入渠は重傷者に使われ修復剤を大量に使用する為、コストが掛かる。

他鎮守府の重傷者の受け入れもやっている横須賀鎮守府としては、そのコストを如何に削るかが問題になっていた。

 

なので、新型の高速修復剤を開発し実験をしていた。

飲料可能な高速修復剤、これが完成した時二人は大いに喜んだ。

喜んだが、それも束の間、飲料用としては致命的な欠点が見付かってしまった。

 

不味い、夕石屋二人が治験した結果出した致命的な不味さ。

不味い兎に角不味い、咳止めシロップを濃縮還元し人工甘味料サッカリンを煮詰めて加えて、蜂蜜とガムシロップで割ったかの様な甘さと謎のミント風の清涼感と爽快感、これ等が口内でタップダンス踊りながらマイムマイムで迫ってくる。

 

この味には流石の夕石屋も参った。しかも、咳止めシロップはキャップ一杯だが、この新型修復剤は夕石屋の度重なる決死のトライにより、一般的な湯飲み一杯分を飲まなければ効果が無いという事が判明した。

 

最悪の結果が判明し、途方に暮れる夕石屋。二人の前には湯飲みやティーカップにコップにショットグラスにワイングラス等々、兎に角味がダメならせめて気分だけでもとあつめて注いだ容器が並んでいた。

 

そこで騒ぎを聞き付けた洋がやって来て、話をした迄は良かったのだが、夕石屋が集めた容器の一つが洋の愛用する湯飲みに酷似しており、喉が乾いた洋が誤って新型修復剤を飲んでしまった。

 

 

夕石屋¦『それで、『一口』飲んだ鳳様が私達が目を離した隙に・・・』

鉄桶男¦『子供になったと』

夕石屋¦『はい』

ズーやん¦『あれ? 二人も飲んだなら何で変化無いのさ』

夕石屋¦『恐らくですが、私達は規定量を時間を置いて飲んだのに対し、鳳様は一口飲んで止められたのと、鳳様自身の体質的な何かが原因かと・・・』

空腹娘¦『ビックリですよ』

元ヤン¦『で、さっきも言ったが戻るのか?』

夕石屋¦『元に戻る事は確実です。先程調べましたが、鳳様の体内で薬効成分が凄まじい勢いで駆逐されてますから、遅くても明日の朝には元に戻る筈です』

船長¦『なあ、天龍』

邪気目¦『言うなよ、木曾』

蜻蛉玉¦『ビックリどっきり生態でありますな』

にゃしぃ¦『言っちゃったよ、この人・・・』

鉄桶嫁¦『あきつ丸さんですから・・・』

 

期限は一日、あの鳳洋の回復力を以てしてもこれだけの時間が掛かるという事に、全員が新型修復剤に不安を覚えるが、夕石屋はこの症状は洋だけのものであり、艦娘という概念に近い洋には少々効き過ぎた為、肉体と精神が幼児退行したのではないかとの見解を示している。

事実、凄まじい勢いで薬効成分が駆逐され、退行した肉体と精神の再構成の準備を進めているらしい。

 

「あれ? 洋ちゃん、どうしたの?」

 

何をする訳でもなく椅子に座った洋が突然首を動かし、扉を見たのに磯谷が気付いた。

じっと扉を見詰め、何をしているのかと全員が洋を見ていると、執務室の扉が開かれた。

 

「はいはーい、呼ばれた瑞鶴ですよ~」

「よく来まシタネ、瑞鶴」

「来たけどさ、総長。この子供って」

「瑞鶴、明日の朝まで洋の面倒を見ナサイ」

 

開かれた扉から現れた瑞鶴、その瑞鶴に初めて反応を示し彼女の足元へと歩み寄り瑞鶴の袖を摘まむ洋、そして瑞鶴に幼児退行した洋の世話を命じた金剛。

 

ーーえ? 何で瑞鶴?ーー

 

全員が思った。

 

「え? 何で私いぃぃぃ?!」

 

何でお前だと。

さあ、瑞鶴の明日、否、今日はどうなる?

 




次回

幼児退行した洋さんの世話を命じられた瑞鶴

「先生、どうする?」
「瑞鶴さん、あれは何ですか?」

しかし、瑞鶴は幼い洋に違和感を覚える。

「瑞鶴さん、私は瑞鶴が好きです。ここの皆が好きです」
「うん」
「だから、瑞鶴さんが望むなら、私はどんな敵だって消してあげます」
「先生、先生は戦うのが好き?」

瑞鶴の言葉は洋に届くのか?


そして



「恋を、したのでありますよ」

だから、せめて

「好きな者に想いを伝えてほしいのであります」

あきつ丸の恋とは?



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貴女へ贈る茉莉花

第一話を思い出す文字数。
あ、今回から感想返信復活します。


どうしてこうなった?

瑞鶴の考えはこれ一つに尽きた。

総長である金剛に呼ばれて執務室に行ってみれば、今日一日師である洋の面倒を見ろである。

 

ーー先生の面倒を見ろって、どうやんのよ?ーー

 

自分が知る絶対者の一人である洋、いくら子供になったと言っても、瑞鶴には洋は洋でしかない。

それで面倒を見ろと言われても、瑞鶴には何をすれば良いのか皆目見当がつかない。

 

「ん?」

 

瑞鶴が考えに没頭していると不意に袖を引かれ、そちらに目を動かすと、洋が瑞鶴の袖を引きながらこちらを見上げていた。

 

「どしたの? 先生」

「瑞鶴さん、あれは何ですか?」

 

洋が指差す先には、一つの黒電話があった。

金剛の趣味で置いてあるのだが、瑞鶴は疑問を覚えた。

 

ーーこれ、『黒電話』が分からないのかな? それとも、『電話』が分からない?ーー

 

あの黒電話は金剛の趣味で置かれているだけで、鎮守府全ての電話機が黒電話という訳ではない。

他の電話機はちゃんと今風の電話機だ。

試しに瑞鶴は自分の携帯電話を出して、洋に聞いてみた。

 

「ねえ、先生。これ分かる?」

「・・・?」

 

黒真珠の様な目で、瑞鶴が渡した携帯電話と瑞鶴を見比べ、首を傾げる洋。

瑞鶴は確信した。洋は黒電話が分からないのではなく、電話機自体が分からないのだと。

 

ーーてかさ、変じゃね? 先生、艦娘でしょ。それが何で子供になるのさーー

 

艦娘は決められた規格で産まれる。

何があろうと姿形が変わる事は無い。そして、洋は原初の艦娘だ。

艦娘としての絶対のルールを築いたそれそのもの。

瑞鶴が知る限りで、洋が子供だったという事実は無かった筈だ。

それが何故、子供に?

有り得ないものになる。夕石屋の新型修復剤の効果?

 

ーーいやいや、待て私。私は何で、子供になった先生を先生と認識した?ーー

 

子供になった洋、金剛と磯谷の二人以外は説明無しでは、誰もが洋だと分からなかった。

だが、自分は一目でこの子供があの鳳洋だと理解した。

何故?

周囲の反応?

否、本能が鳳洋だと理解した。

何故?

 

ーーま、いっかーー

 

「瑞鶴さん?」

「先生、それも電話だよ」

「電話、ですか?」

 

瑞鶴は考える事を止めた。元より、瑞鶴は深く考える質ではない。

洋だと理解したのは、本能で分かった。それで良い。

 

「先生、食堂に行こっか」

「食堂、ですか」

 

自分の袖を摘まみ着いてくる子供は洋だ。

それで良いじゃないかと、瑞鶴は洋を連れて食堂へと歩いて行った。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「御姉様」

「何故、瑞鶴なのか? デスネ」

「はい」

「簡単な事デスヨ」

 

比叡が金剛に問い、金剛がさも当然の如く答える。

 

「瑞鶴という艦娘は、洋にとって非常に重要な存在だからデスヨ」

「瑞鶴が、ですか?」

「そうデス」

 

今の洋は瑞鶴が居たからこそ。

金剛は嘗ての二人を瞼に思い描く。

あの、戦う事しか知らなかった子供が彼女と出会い、戦い以外を知った。

肉体が退行したのは、恐らく精神面に合わせてバランスを取ったからだろう。そうでなければ、子供になる訳が無い。

 

ーーまあ、これは新発見デスネーー

 

自分達の時代には高速修復剤なんて物は無かった。

それが出始めた頃には、既に第一線からは退いていた。

だから、自分達第一世代が高速修復剤を使うとどうなるかなど、分からなかった。

それがまさか、子供になってしまうとは、金剛も予想外の新発見であった。

 

「洋」

「御姉様?」

 

これは夢だ。何が原因であろうと、今を失い過去を見ているなら、今だけはその夢の中で眠ればいい。

 

ーー今だけは、今日一日だけでも、その幸せな夢に浸りナサイーー

 

窓の外、瑞鶴の後ろに着いて歩く洋を見て、寂し気に金剛は呟いた。 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

瑞鶴は疲れていた。

 

「瑞鶴さん、これは何ですか?」

「あ~、それはね、ヤカンだよ先生」

 

あれは何、それは何、これは何、食堂に着くまで洋に質問されては答え、食堂に着いてからも質問責めに会い、瑞鶴は疲れていた。

 

ーーつうか、先生知らなさすぎじゃない?ーー

 

子供になった洋は事あるごとに瑞鶴に問い、その答えに目を輝かせていた。何もかもが目新しくて楽しい。

何も知らない子供の様に、無邪気に好奇心を満たしていく。

 

「ヤカンとは何ですか?」

「ヤカンっていうのはね・・・」

 

ーーん、あきつ丸? 何してんの?ーー

 

洋にヤカンとは何かを説明しつつ、食堂の隅に座る黒付く目で色白のあきつ丸が、手紙を握り締めていた。

瑞鶴が目を凝らすと、脇に置いてある封筒には磯谷穂波の名が刻まれているのが僅かに分かる。

 

ーー穂波、またなんかしたの?ーー

 

瑞鶴は速攻で磯谷を疑うが、少し考えてみると磯谷宛の手紙で、あのあきつ丸があそこまで辛そうな顔をする訳が無いし、何故に磯谷宛の手紙をあきつ丸が読んでいるのか、疑問が尽きない。

 

蜻蛉玉¦『瑞鶴殿』

七面鳥¦『何? あきつ丸』

蜻蛉玉¦『例えばの話であります』

 

面倒くさそうな雰囲気であきつ丸の表示枠が非透過で開いた。

音声も映像も無し、聞かれたくない話なのだろう。

そう瑞鶴は判断し、あきつ丸の言葉を待った。

 

蜻蛉玉¦『もし、もしでありますよ? 好きな者が結ばれずそうでない者と結ばれ、自分がそれを知っていたなら、瑞鶴殿ならどうするでありますか?』

 

ーー予想以上に面倒なのがきたわぁーー

 

あまりの面倒さに思わず表示枠を割りそうになるが、寸でのところで思い留まり、あきつ丸の言葉を思案する。

 

ーー好きな者が結ばれず、そうでない者と結ばれて、それを自分が知っていたら?ーー

 

あきつ丸らしくない。

瑞鶴の知るあきつ丸は鉄面皮で慇懃無礼なところがあり、皆が明言しない事をはっきり言うような奴だ。

そのあきつ丸が柄にもないこの発言だ。

何か裏がありそうだ。

瑞鶴はあきつ丸が何を言いたいのかを考えていたが、ふと自分の隣の席を見ていると、空席になっていた。

 

ーーあれ? 先生は!ーー

 

瑞鶴が洋を探すと、いつの間にか彼女はあきつ丸のすぐ傍にぽつんと立ち、彼女を真っ直ぐに見上げていた。

これには、流石のあきつ丸も驚いていた。

表示枠での応答に集中していたとはいえ、瑞鶴と洋が居た席から自分が居る席は直線上にあり、こちらに来る時には必ず視界に入る筈なのに、二人は気付けなかった。

 

「あきつ丸さん」

「な、何でありますかな? 鳳殿」

 

瑞鶴はこの後の言葉を聞いて後悔する事になる。

その言葉はあまりに無邪気で無垢でありながら、あまりに残酷であった。

 

「悲しいのですか? 辛いのですか?」

「え、ええ、まあ、そうでありますな」

「誰ですか?」

「は?」

「誰があきつ丸さんを悲しませたのですか? 誰が辛い思いをさせたのですか? そんな酷い人は私が消してあげます」

 

ーー私はその為だけに造られましたからーー

 

洋は無邪気に無垢に微笑みながら言い放った。

あきつ丸は思わず固まった。戦う為に産まれた自分達の始祖である事は知っていた。

だが、それを自覚し、子供の姿でそれを言うという異常性に、あきつ丸は何も言えなくなった。

もしここで、あきつ丸が誰かの名前を言えば、目の前の小さな怪物は迷う事無く、その者を消すのだろう。

 

恐れか驚愕か何も言えなくなったあきつ丸だが、もう一人瑞鶴は違った。

 

「先生」

「瑞鶴さん?」

「あきつ丸は少し忙しいみたいだし、向こうに行こっか」

「いえ、でも」

「鳳殿、御気遣い感謝するであります。しかし、これは自分の問題であります」

 

七面鳥¦『あきつ丸』

蜻蛉玉¦『瑞鶴殿』

七面鳥¦『私はあんたが何で悩んでるのか分からないけど、あんたがしたいようにすればいいんじゃない?』

蜻蛉玉¦『助言感謝であります』

七面鳥¦『あのあんたが悩むんだから相当なんでしょ。頑張んなさい』 

蜻蛉玉¦『重ねて感謝であります。後、感謝ついでに』

七面鳥¦『感謝ついでに?』

蜻蛉玉¦『その自走式ステルス核兵器、早く何処か連れてくであります!』

七面鳥¦『このヤロ! 言いやがった!』

蜻蛉玉¦『おっと失礼、口が滑ったであります』

七面鳥¦『オメェの口ツルッツルッじゃないの!』

 

折角、良い話で終わりそうな雰囲気だったのだが、そこはあきつ丸クオリティー。瑞鶴が思っても言わなかった事を平然と言い放った。

 

七面鳥¦『この野郎、何だか分かんないけど失敗しちゃえ!』

蜻蛉玉¦『まあ、あれであります。感謝している事は事実であります。ありがとうございます』

七面鳥¦『・・・ごめん、失敗しちゃえは言い過ぎた』

蜻蛉玉¦『気にするなでありますよ』

 

ーー決心がついたでありますからーー

 

あきつ丸はそう言い残し、クシャクシャになった手紙を懐に納め、食堂から去った。

瑞鶴は何も言わずに、その夕日に照らされた背中を見送った。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

夜、瑞鶴にとって眠るにはまだ早い時間だが、洋が眠そうに目を擦っていたので、慣れない絵本の読み聞かせをしていた。

夕石屋によれば、睡魔は肉体の再構成の準備が終了し、精神の再構成に入り始めた証左という事らしい。

 

「『愛しているよ』そう言って、狐は霧の中に消えていきましたとさ」

「瑞鶴さん」

「どうしたの? 先生」

「どうして、狐さんは好きな人と一緒になれなかったのですか?」

「う~ん、何て言うかさ。好きな人を守りたいから、好きな人から離れなきゃいけなかった、かな?」

 

ーー難しいなぁ、こういう話ってーー

 

再構成の準備が終了したとは言え、洋の精神は未だに子供のままだ。

子供に説明するには、この手の話は難しすぎた。

 

大切な、好きな者を守る為に好きな者から離れなくてはならない。

子供向けの絵本なの、これ?

瑞鶴は読み聞かせながら思った。

 

「・・・私が居たら・・・」

「先生?」

「私が居たら、狐さんの替わりに戦うのに・・・」

 

洋がポツリと漏らした言葉、自分が身代わりになって戦い血塗れになるというものだった。

 

「先生、先生は戦うのが好き?」

「いいえ、嫌いです。戦ったら痛いし、嫌な思いもします。けど、私はその為だけに造られましたから、誰かの為に戦う為に造られましたから」

「先生」

「瑞鶴さん、私は瑞鶴さんが好きです。暖かい皆が好きです。だから、瑞鶴さんや皆を苛める人達が居たら、私が消してあげます。だから、言ってください。瑞鶴さん達の為に私が戦います」

 

ーーそうしたら、皆幸せになれますよね?ーー

 

純真無垢な言葉だった。本当に、心の底からそうだと信じてやまない子供の言葉。

それに対し瑞鶴は、抱き寄せた洋の頭に顎を乗せ少し悩んだ後、ゆっくりと口を開いた。

 

「ん~、じゃあさ先生。私は、戦いが嫌いな先生が戦わなくてもいいってのが良いな」

「え? でも、それだと」

「えっとね~? 何て言うかさ、確かに私達は先生より弱いし頼り無いけど、先生一人が嫌な思いするのは嫌なんだよね」

 

ーー私、頭良くないからうまく言えないけどさーー

 

瑞鶴は洋を抱き寄せたまま、体を左右に揺らしながら言葉を続ける。

 

「だからさ、私は先生が戦わなくていい、嫌な思いをしなくていいってのが良いなぁ」

「・・・・・・」

「先生?」

 

瑞鶴が見ると、洋はうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。

 

ーー少し話が長かったかな?ーー

 

「それじゃ、先生。おやすみなさい」

 

おやすみなさい、瑞鶴さん。

そして、ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

翌日、肉体と精神の再構成を終えた洋は、何時もと変わらぬ様子で横須賀鎮守府にて朝を迎えていた。

 

「御早う御座います。瑞鶴さん、本日も良き訓練日和ですね」

「おはよう、先生」

「ところで、瑞鶴さん」

「何? 先生」

「昨日の記憶が無いのですが、何か知りませんか?」

 

洋の質問に瑞鶴はどうしたものかと、首を鳴らしながら考える。

 

ーー素直に子供になってたとか言ってもね~?ーー

 

「瑞鶴さん?」

「あ~、えっとね、先生?」

 

二人で顔を見合わせ、首を傾げる。

ちらりと瑞鶴は洋の右手に目をやる。錫杖が握られている。出口は洋の背後、窓から飛び出しても格好の的になるだけ、いよいよ進退極まった瑞鶴。

 

もういっそのこと、素直に話そうとした瑞鶴だったが、一つの表示枠が飛び込み、それを止めた。

 

ほなみん¦『洋ちゃん、瑞鶴ちゃん。起きてる?』

おかみ¦『はい、御早う御座います。磯谷提督』

七面鳥¦『はいは~い、起きてるけど、どうしたの?』

ほなみん¦『ちょっと緊急事態? かな?』

 

詳しくは執務室で話すから、準備が終わったら来てね。

 

磯谷はそう絞め括り表示枠を閉じた。

瑞鶴と洋はまた顔を見合わせ、準備を始める。

 

「先生、何があったか分かる?」

「さて? 皆目検討が付きません」

 

瑞鶴は妙な胸騒ぎを覚え、情報を集めようと表示枠を開いた。

 

七面鳥¦『何があったか分かる人居る?』

約全員¦『分からない!』

七面鳥¦『わーお、朝から息ピッタリだよ!』

 

結局、何も分からなかった。

表示枠内では、北海鎮守府に出向している悪ガキ隊や北海鎮守府のメンバーを交えて推測が為されている。

 

ーーあれ?ーー

 

瑞鶴は気付いた。あきつ丸のH.Nが無い事に。

 

ーー決心がついたでありますからーー

 

瑞鶴は準備もそこそこに執務室屁と駆け出した。

何度呼び出しを掛けても、あきつ丸から反応が帰ってくる事は無かった。

 

瑞鶴は駆け、執務室の扉を蹴破る勢いで開けた。

 

「穂波! あきつ丸は?!」

「え? そこに居るけど」

「おやぁ? どうしたでありますか? 瑞鶴殿」

 

あきつ丸は執務室に普通に居た。普通に居て、茶を飲んでいた。

 

「居るじゃねぇかああぁぁぁぁっ!」

 

瑞鶴の雄叫びが朝の横須賀鎮守府に木霊した。

 




次回

「決して結ばれぬと解っていても、相手を想う事はいけない事なのでありましょうか?」

本格始動、あきつ丸ラブストーリー!


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秋津の羽は如何に羽ばたくか

さあ、今回から本格始動! あきつ丸ラブストーリー!

あ、後ですね。今回は前回の半分程です。


「それで? 一体全体、何があったって言うのよ?」

 

瑞鶴が苛立ちを隠さずに磯谷に問う。

それに磯谷は迷っている様に口ごもる。

 

「ん~とねぇ? 何て言えばいいのかなぁ?」

 

磯谷本人も何があったのか分かっていないのか、要領を得ない発言を口の中でボソボソと転がすだけ。

恐らく、当事者であろうあきつ丸も沈黙を貫いている。

 

ーー呑気に茶飲みやがって!ーー

 

瑞鶴の内心はそれだった。

なんか意味深な発言をして、次の日反応が無いから心配してみれば、当事者たるあきつ丸は執務室で呑気に茶を飲んでいた。

 

ーん? ちょっと待って?ーー

 

おかしい。あきつ丸は普段、憲兵隊の詰所か総長の金剛に付き従っていて、執務室には来ない。

来るとすれば、金剛の付き添いか

 

約全員¦『お前何した?』

ほなみん¦『私?!』

 

磯谷が何かしでかして、憲兵として鎮圧に来たかだ。

 

ほなみん¦『信頼! 信用! 私違う!』

ズーやん¦『信頼も信用もしてるよ?』

邪気目¦『だから、正直に話せ。な?』

元ヤン¦『今なら、怒らねえから。な?』

船長¦『ほら、早く話せよ。な?』

 

流石の横須賀悪ガキ隊である。

真っ先に、磯谷を疑い追及を始めた。

磯谷は懸命に抵抗しているが、追及の手は緩む事無く続いていく。

 

邪気目¦『ほんと、怒らねえから』

船長¦『今ならな』

元ヤン¦『おら、早く話せ』

ズーやん¦『ほなみん、正直に言おう』

空腹娘¦『何したんですか?』

にゃしぃ¦『え? また何かしたんですか?』

ほなみん¦『くっそー! 何なんだよ、チックショーメー!』

七面鳥¦『あ~、もういいから。緊急事態とか言うのを言いなさいよ』

 

『横須賀で何かあったら、大体磯谷のせい』の法則に従い白状させようと、悪ガキ隊&北海娘組が更なる追及を行うが話が進まないと、瑞鶴が強制的に話題を打ち切り、磯谷に話をするよう促す。

 

ほなみん¦『瑞鶴ちゃん、ありがとう!』

七面鳥¦『いいから、早く話す』

ほなみん¦『うっす。で、話なんだけどね? 何て言えばいいのか・・・ あぁもう!』

鉄桶男¦『なんだい? 磯谷嬢が珍しい』

鉄桶嫁¦『何か事情でも?』

 

何か様子のおかしい。否、いつもおかしいが今回は普段とベクトルが違う方向でおかしい磯谷を、何人かが心配する横で、瑞鶴はちらりとあきつ丸に目をやる。

 

すまし顔で茶を啜っていた。

 

七面鳥¦『おいコラ、あります女』

蜻蛉玉¦『なんでありますかな? ぺったん女』

七面鳥¦『あ゛?』

蜻蛉玉¦『おやおや、どうしたでありますか? 自分の胸部装甲が気になるでありますか?』

七面鳥¦『この、あります女がぁ! そのデッドウェイトもぐぞテメェ!』

蜻蛉玉¦『プハーッ! 負け犬ならぬ負け鶴の遠吠えでありますぅ!』

 

キレる瑞鶴に煽るあきつ丸、持つ者持たざる者、両者の間には決定的かつ確定的な溝があった。

しかし、瑞鶴には気に入らない事が他にある。

 

ーーキレが無いわよ、あきつ丸ーー

 

普段のあきつ丸なら、もっとキレのある煽り方をしてくる。

しかし、今はそのキレが無い。

明らかに何か隠している。今の状況に関係があるのか、これが原因なのかは分からない。

 

七面鳥¦『よしよ~し、だったら、こっちからいってやろうじゃないの』

蜻蛉玉¦『はい?』

 

だから、瑞鶴は打って出た。

 

「あきつ丸、何時まで黙ってんのよ?」

「何がであります」

「はぁ、いいわ。今回のこれ、アンタでしょ?」

「何を証拠に言っているでありますかな?」

 

え、何言ってんのコイツ?という視線を向けられながら、瑞鶴はあきつ丸を真っ直ぐに見据える。

 

ーー悪いけどね、あきつ丸。私はアンタ以上の鉄面皮を相手に訓練してんのよーー

 

鳳洋との訓練で培った観察眼は確かにあきつ丸の手、湯飲みを持つ右手に力が入ったのを見逃さなかった。

 

瑞鶴は心の中で弓を構え矢をつがえる。

放つ矢は三射、確実に当てる。

 

「手紙」

「っ!」

「アンタが昨日、食堂で読んでいた手紙、それとあの時に言った決心がついた。そして、今回のこれ。タイミングが良すぎるのよ」

「・・・・・・」

「あきつ丸、アンタが何を隠しているのかは知らないし、今回のこれに関係があるのかも分からない。けどね、皆がこうして集まってんのよ? とっとと、言いなさいよ!」

 

 

 

ほなみん¦『・・・・・・』

ズーやん¦『・・・・・・』

元ヤン¦『・・・・・・』

邪気目¦『・・・・・・』

船長¦『・・・・・・』

空腹娘¦『・・・・・・』

にゃしぃ¦『・・・・・・』

鉄桶男¦『・・・・・・』

鉄桶嫁¦『・・・・・・』

約全員¦『え、何この展開?』

ズーやん¦『え、何? え?』

邪気目¦『待て待て、何? あきつ丸関連か?』

船長¦『いやいや、まだ答えは出てないぞ』

元ヤン¦『いやでもよ、瑞鶴が』

空腹娘¦『え? 瑞鶴さんが犯人なんです?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、違う』

鉄桶嫁¦『あの、冬悟さん。これって?』

鉄桶男¦『う~ん、話を待ってみようか?』

ほなみん¦『あ~、瑞鶴ちゃん? えっとね、今回は非常に複雑かつ面倒な事情が絡みまくっててね?』

約全員¦『お前知ってんだったら早く言えよ!』

 

表示枠が騒がしくなり、瑞鶴は顔横に出していた表示枠を叩き割った。

あきつ丸のすまし顔は崩れ、苦悶にも似た表情を浮かべている。

 

ーー何があったっていうのよーー

 

その様子に瑞鶴は疑問を覚えるが、非常に複雑かつ面倒な事情、磯谷はそう言った。

だとすれば、あきつ丸が口をつぐんでいる事にも納得は出来る。

だが、その事情は何だ?

 

「あきつ丸ちゃん」

「提督殿、いいのであります。自分から言うのでありますよ」

「うん」

「瑞鶴殿、皆様。自分、不肖このあきつ丸は」

 

恋をしよう。そう想ったのでありますよ。




次回からのネタ?

「ダメだって! あきつ丸、これ犯罪だよ!?」
「ギルティ」

「あっれ? 何か、俺に飛び火した?!」

「「お、おおおお! これぞまさにAMIDA神とAMIDA王のお導き!」」

「なんじゃあれぇぇぇぇ?!」

ラブストーリー?


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飛べよ飛べよ、秋津の羽よ

タイトルに意味はありません!


「恋をしよう。そう想ったのでありますよ」

 

あきつ丸が語った言葉、それは恋であった。

瑞鶴は固まった。正直な話、元陸軍のあきつ丸が抱えた問題は、陸軍絡みの案件だと思っていたら違って恋愛話、予想を通り越してK点越えの大ジャンプ、瑞鶴の後ろに居た洋も、流石に固まった。

 

ズーやん¦『こい? 鯉?』

鉄桶嫁¦『いえ、鈴谷さん。それは魚です』

空腹娘¦『鯉の洗いって美味しいんですか?』

鉄桶男¦『吹雪君、それも違うかな。あと、鯉の洗いはちゃんとした店なら旨いよ』

邪気目¦『濃い?』

元ヤン¦『あぁ、まあ確かにキャラは濃いな』

にゃしぃ¦『語彙?』

船長¦『離れた、睦月。離れたぞ』

蜻蛉玉¦『鯉でも濃いでもなければ、語彙でもないであります。恋、英語弁で言えばLOVEしちゃったのでありますよ』

約全員¦『マジか・・・?!』

 

そう、魚でも濃度でも言葉のボキャブラリーでもない。LOVE、あきつ丸はLOVEしちゃったらしい。

これには彼女を知る者達は驚いた。

あの鉄面皮、鉄血の横須賀鎮守府憲兵隊隊長にして横須賀鎮守府総長金剛の専属運転手がまさかの恋をしたと言うのだ。

 

しかし、疑問も同時に覚えた。

あのあきつ丸が恋をしたのはいい。だが、何故にそれが問題になるのか?

その答えは、疲れた顔の磯谷が机から出した手紙と書類に書かれていた。

 

ほなみん¦『はい、これが今回の理由』

邪気目¦『あっさり出すんじゃねぇよ』

船長¦『早く出せよ、ア穂波』

元ヤン¦『まったくだ』

ほなみん¦『ウギギ・・・! 悔しい、でも』

ズーやん¦『はいはい、そういうのいいから』

ほなみん¦『・・・最後まで言わせてよ』

ヒエー¦『司令、これは事実ですか?』

ほなみん¦『事実も事実、青葉ちゃんが裏取り済み』

ズーやん¦『・・・嘘でしょ』

元ヤン¦『ヤバイぜ、これは』

 

磯谷が出した書類と手紙には、あきつ丸の恋に関する幾つかの事実が記載されていた。

それと同時に、それらの事実は北海と横須賀の主要メンバーを大いに戸惑わせた。

 

「紛う事無き事実でありますよ」

「ちょっと待ちなさい、あきつ丸。これが事実だとしたら、アンタ」

「言った筈であります。決心がついた、と」

「だとしても、これは厄介にも程があるわよ」

「・・・覚悟の上であります」

 

鉄桶男¦『しかしだな、これは覚悟がどうとかという話では済まないぞ』

鉄桶嫁¦『まさか、篁家(たかむら)所縁の案件ですか』

 

斑鳩(いかるが)

神宮(しんのみや)

(たかむら)

 

篁家、日本の軍事及び政治に強い影響力を持つ『御三家』の一つである。

元々、篁家は政治寄りの家系であったが、第一次侵攻終盤から積極的に軍事に関わる様になり、四代程前の当主の時代から斑鳩家と共に新型多脚戦車等の開発に力を入れている。

その為か、当代の篁家当主は艦娘に対しては少々否定的な発言が目立ち、その事に関して斑鳩、神宮両家の当主は頭を悩ませていたりもする。

 

「まさか、アンタがあの篁家の次期当主に惚れるとはね」

「始めは気付かなかったのでありますよ。彼方も姓を伏せていたでありますから」

「そう言えば、アンタ。このとんでも相手と何処で出会ったのよ?」

「え? それは、でありますな」

 

瑞鶴の問いにしどろもどろになり、答えを濁すあきつ丸。

しかし、それを逃がす横須賀悪ガキ隊ではない。

 

ズーやん¦『確かに、私も大いに気になるね~』

 

鈴谷を筆頭に続々と追撃に開始する。

 

邪気目¦『ああ、俺も気になるな』

元ヤン¦『アタシもだ』

船長¦『教えろよ』

ズーやん¦『さあ、早く!』

蜻蛉玉¦『ま、待つでありますよぅ!』

空腹娘¦『睦月ちゃん睦月ちゃん、この展開この間のドラマで見たよ!』

にゃしぃ¦『うん、そうだね吹雪ちゃん!』

鉄桶男¦『若いっていいねぇ』

鉄桶嫁¦『冬悟さん、冬悟さんもまだ若いですよ!』

鉄桶男¦『いやいや、若いって言ってもさ。俺、もうすぐ四十だよ? アラフォーだよ?』

ほなみん¦『はいはい、夫婦漫才は他所でやってよ~。あ、はいこれ。あきつ丸ちゃんの愛しの御相手の写真』

蜻蛉玉¦『あ! この「検閲削除」の「検閲削除」!』

横須賀¦『只今、蜻蛉玉 様の発言内容がとても危険な内容でしたので、実に勝手ながら此方で規制させていただきました』

約全員¦『何言いやがったコイツ・・・!』

ズーやん¦『では、あきつ丸の愛しの御相手拝見』

蜻蛉玉¦『待つであります! 「検閲削除」!』

 

やーだよーと、鈴谷があきつ丸の静止を振り切り、磯谷から送られてきた写真を見て、また固まった。

 

ズーやん¦『・・・・・・』

元ヤン¦『おい、鈴谷どうし、た・・・?』

邪気目¦『お前ら、何やっ、て・・・?』

船長¦『・・・マジか・・・?』

 

鈴谷に続き摩耶、天龍、木曾と、次々に横須賀悪ガキ隊が固まっていく。

瑞鶴が見ると、表示枠の向こうでは五百蔵と榛名も、微妙な表情で固まり、吹雪と睦月はあきつ丸と写真を何度も見比べている。

 

「何よ? なんで、皆して・・・」

「あぁ~・・・」

「ダメだってあきつ丸! これ犯罪だよ?!」

「は、犯罪とはなんでありますか!」

「ギルティ! ギルティだよ!」

 

瑞鶴は見た。あきつ丸の想い人の写真を見た。一緒に人柄も記載されている。

名は『篁啓生(たかむら けいせい)

士官学校所属、成績は飛び抜けて優秀という訳ではないが、今期の候補生では上位に位置するが、背が低く線が細い為、体力面に難があり。

 

しかし、機転の効く性格と柔和な人柄が幸いしてか、主柱的な立場となっている。

 

 

 

年齢は15、高等部に昇級したばかりである。

 

 

 

因みに、あきつ丸はサーティーンの壁が目の前に見えている。とだけ言っておく。

ついでに、この篁啓生、『同期の女子』や『教官である女性士官』からとても可愛がられる容姿をしている。

 

瑞鶴は思った。

 

ーーコイツは参った! まさかのまさかだ!ーー

 

まさか、あきつ丸が正太郎コンプレックスを患っているとは、地味に長い付き合いでもある瑞鶴も気付けなかった。思わず、額を手で叩いてしまった。

いやしかし、思えば夏の近親や冬の絶倫ではやけに正太郎君が一杯居るエリアに行っていた。

いやしかしのまさか、リアル正太郎君に手を出すとは・・・

 

ーー待て待て私、まだ実行したとは決まってないーー

 

『一応』、弓に手を掛けてあきつ丸に向き直る。

普段通りの鉄面皮、しかし少々顔が赤い。あきつ丸は元々が色白なので、それがはっきりと分かる。

 

ーーOK、私。先ずはソフトにーー

 

何か間違えているかもしれない。瑞鶴は『一応念の為に』弓に矢をつがえる準備をして、あきつ丸に問うた。

 

「あきつ丸、都条令って知ってる?」

「いきなりでありますな?!」

 

少し、間違えた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

鉄桶男¦『・・・え~、では、あきつ丸君の御相手は、この少年?』

蜻蛉玉¦『はい・・・』

ズーやん¦『瑞鶴がさっきも言ってたけど、この歳の差は犯罪だよ?』

元ヤン¦『何だって、お前が?』

邪気目¦『ん? 待てよ? 榛名は二十歳だったか』

鉄桶嫁¦『はい、そうですよ』

船長¦『はっ!』

鉄桶男¦『あれ? 何か、俺に飛び火した?』

 

全員が五百蔵の表示枠を見た。あきつ丸に至っては、仲間を見付けた様な顔である。

しかしそれは、一瞬で崩れる事になる。

 

鉄桶嫁¦『いいですか? 私は二十歳、この彼は十五歳。冬悟さんは三十後半、あきつ丸さんは二十後半。私は大人ですからセーフです。しかし、あきつ丸さんは相手が完全な未成年、この線引きは確りしておきましょう』

蜻蛉玉¦『くっそぅ!』

ほなみん¦『じゃあ、私がこの子にアタックしたら?』

ヒエー¦『即座に頭を撃ち抜きます』

ほなみん¦『すいませんでした!!』

空腹娘¦『提督提督、提督はセーフみたいですよ!』

鉄桶男¦『ああ、うん』

おかみ¦『ふむ、たかが十年程度の差なら問題無い様に思いますが・・・?』

紅茶姉¦『まあ、そうデスネ』

約全員¦『凄いところから援護が来たぞ・・・!』

 

まあそれは、この二人の感覚なら十年程度は差にもならないのだろうが、今回はあきつ丸である。

具体的な明記は避けるが、ちょっと行動を起こせば即座に御用となる。

それはもう、あの御三家の子息にアクションしてアタックしたと、全国指名手配のタップダウンでデストローイである。

 

七面鳥¦『は~い、また話ずれてるよ』

副長¦『それで、あきつ丸はどうしたいのですか?』

蜻蛉玉¦『自分は・・・』

ほなみん¦『行っちゃおっか? 結婚式場』

約全員¦『は?』

蜻蛉玉¦『しかしそれは・・・!』

約全員¦『え?』

ほなみん¦『いいのいいの、私、招待されてるし』

約全員¦『ん?』

鉄桶男¦『え~と、磯谷嬢?』

ほなみん¦『何です? 五百蔵さん』

鉄桶男¦『一応、聞いておこう。誰と誰の結婚式?』

ほなみん¦『え? この篁啓生君と神宮三笠(しんのみや みかさ)ちゃんのですけど?』

約全員¦『・・・・・・はああぁぁぁぁぁっ?!』

 

どうやら、事は全員が思っていた以上に混迷を極めていく様だ。




篁・・・軍人・・・ピロピロ・・・幻聴・・・うっ、頭が!


御三家

この世界の日本の偉い家
多分、あきつ丸ラブストーリーでしか出ない。




次回からのネタ? 追加分

「まさか、結婚式場にこのギガフロートを使うとはな」
「確かこれ、全長80㎞あったよね?」
「御三家って、バカなのか?」



邪気目¦『どうなってやがる? この逆光で狙撃? スコープ無しで?』
「悪癖だな。狙える距離だと、つい頭を狙ってしまう」
邪気目¦『は? しまっ!』
「Auf wiederehen 若き猟犬よ」

『がーっはっはっはっ! うむ、実に良き荒鷲だ!』
七面鳥¦『何なのよ、あの艦爆? 機動がおかしい?!』
『おじさんは対地攻撃が得意だが、たまの巴戦もまた良し!』



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秋津よ秋津、その羽飛ばせ

まだまだ会議中!


ついに判明したあきつ丸の想い人。しかしそれは、誰もが予想だにしなかった相手であった。

あきつ丸の想い人は、今期士官学校高等部に昇級した候補生であり、日本でも重要な役割を持つ御三家の一つ『(たかむら)』の子息『篁啓生(15)』だったのだ。

 

あきつ丸の隠された性癖に一同は驚愕を隠せず、犯罪だギルティだオッサンはセーフだと、騒ぎ始める。

だが、その騒動の中、磯谷が更なる爆弾を起爆させた。

 

ズーやん¦『待って!』

ほなみん¦『待った!』

ズーやん¦『ちょっと待って!』

ほなみん¦『待ってるって』

ズーやん¦『いや、そうじゃなくて、結婚式?! 神宮(しんのみや)と篁の?!』

元ヤン¦『大問題じゃねぇかそれ!?』

船長¦『まさか、御三家の政争に首突っ込むのか?!』

空腹娘¦『え? それ、どういう意味なんです?』

邪気目¦『いいか、吹雪。御三家には互いに深く干渉せずっつう約定があってな。特に、斑鳩(いかるが)と神宮は軍事と政治で住み分けをしてる訳だ』

元ヤン¦『過去に御三家同士の婚姻が無かった訳じゃねぇが、何れもが斑鳩と神宮の婚姻で篁は関わってねえんだ』

船長¦『篁はその両家の調停役でもあるからな。どちらか一方と関わりを深くする事は出来ねえ筈なんだが』

ズーやん¦『今回の婚姻は、その大前提が覆されて、御三家の関係が壊れかねない案件なんだよ』

空腹娘¦『つまり、篁さん家と神宮さん家が大暴走で斑鳩さん家がマジ怒プンプンカムチャッカファイヤー!になりそうって事ですね!』

ズーやん¦『うんうん、正解』

鉄桶男¦『いや、それでいいのかね?』

 

篁と神宮の婚姻には重大な問題がある。

御三家はこの国に古くからある家系であり、斑鳩と神宮が軍事と政治を司り、篁が両家の調停を行いどちらか一方に傾いた決定が為される事を防いでいた。

それ故、篁は両家どちらか一方に傾いた関係を持たず、常に中立の立場を貫いてきた。

しかし、今回の婚姻騒動はその大前提となる御三家の暗黙の了解を覆す事になる。

 

中立の篁が政治の神宮と深く繋がる。

軍事の斑鳩からしてみれば、面白くない事この上無い事態だろう。

 

だが

 

にゃしぃ¦『でも、なんでそんな明らかに問題がある事をするのかな?』

 

睦月の言葉に全員が首を傾げた。

 

ーーあれ? 確かに変だーー

 

篁も神宮も自分達が婚姻を結ぶという事が何を意味するのか、それが分からない訳が無いだろう。

なのに何故?

 

鉄桶嫁¦『確かに、変ですね』

鉄桶男¦『何か狙いがあるのか?』

元ヤン¦『仮にあったとしても、そりゃなんだ?』

邪気目¦『・・・ダメだ、情報が無さすぎる』

船長¦『あきつ丸。お前は何か知ってるか?』

蜻蛉玉¦『いえ、自分はこれ以上の事は何も知らないであります』

邪気目¦『穂波は?』

ほなみん¦『私も実は情報待ち』

船長¦『青葉待ちか』

 

木曾が溜め息混じりに呟き、会議の流れが止まる。

何をするにせよ、情報が少なすぎる。篁と神宮の狙いがまるで掴めない。

全員が少なすぎる情報を元に、各々の考察を進める中で、瑞鶴が口を開いた。

 

「ねえ、あきつ丸。この篁啓生だっけ? どんな風に出会ったの?」

 

後にあきつ丸は語る。

 

ーーええ、あれはもう、実に嫌らしい顔と口でありましたなーー

 

なんとかして、あきつ丸が避けようとしていた話題を、あろうことか磯谷穂波、横須賀悪ガキ隊が揃った場で馴れ初めを聞いてきやがったと、あきつ丸は焦った。

 

ーーこの、胸部平面「検閲削除」女が!ーー

 

内心毒づくも時既に遅し、あきつ丸包囲網は完成していた。

 

ほなみん¦『鈴やん鈴やん』

ズーやん¦『気になるよね~、ほなみん』

邪気目¦『確かに気になるな~』

元ヤン¦『あの鉄血の憲兵隊長が、まさかの正太郎コンプレックスだしな~』

空腹娘¦『睦月ちゃん睦月ちゃん、正太郎コンプレックスって?』

にゃしぃ¦『人生に迷いを無くしちゃった人達の事かな?』

船長¦『あきつ丸、諦めろ。言っちまえよ』

 

ーーおのれ、この「検閲削除」共が・・・!ーー

 

あきつ丸は諦めず、包囲網からの脱出を試みる。

 

ーー何か、何か手がある筈・・・はっ!ーー

 

狭まる包囲網の中、考えを巡らせたあきつ丸が行き着いた脱出路、それは

 

蜻蛉玉¦『五百蔵殿! こやつらを止めていただきたいであります!』

 

比較的常識人である五百蔵冬悟に助けを求める事だった。

しかし、五百蔵はそれに答える事は無く、沈黙したままであった。

一体何があったのか、その答えは木曾から発された。

 

船長¦『残念だったな、あきつ丸。叔父貴と榛名は今、町の水路に入り込んだアノマロカリス討伐に行ってる』

蜻蛉玉¦『なんでお前ら、仕事サボってるでありますかー!』

悪ガキ隊¦『非番、と言うか留守番』

蜻蛉玉¦『この「検閲削除」共がぁ!』

鉄桶男¦『いやぁ、申し訳無いね』

鉄桶嫁¦『冬悟さん! 8時の方角で何か動きました!』

鉄桶男¦『え?! って、またお前らか!』

横須賀¦『失礼致します。鉄桶男 様並びに鉄桶嫁 様が退室されました。アノマロカリスと同時にジラの襲撃が九割九分九厘の確率であったと思われます。承認しますか? はい/いいえ』

 

全員が「はい」を押し、あきつ丸包囲網を更に狭める。

最早、あきつ丸には逃げ場は存在しなかった。

しかして、あきつ丸はただやられるを良しとせず、必死の抵抗を計る。  

 

「そ、そう言えば・・・「そういうのいいから」・・・ガッデム!」

 

しかし、回り込まれてしまった。

矢尽き刀折れ弾薬尽きて砲身は曲がり落ちた。

最早これまで、あきつ丸は覚悟を決めた。

 

「・・・あれは、講演の為に士官学校を訪れた総長殿の送迎をする為、車外で待機していた時でありました」

 

ふと、視線を感じそちらに目をやると、如何にも士官候補生と言った出で立ちの彼が居たのでありますよ。

候補生は全員、講堂にて総長殿の講演を聞いている筈。そう思いその彼に話を聞くと、どうやら彼は軽い虐めにあっていた様で、講演に参加する為の書類を隠されてしまったのであります。

 

ああ、虐めと言っても明確にそう言った単語が出てきた訳では無いでありますよ。話を聞いた自分の予測であります。

 

それでまあ、士官学校の教官に話をして、彼も総長殿の講演に参加する事が出来たのでありますよ。

それからでありましたな。彼と度々出会う様になったのは。

 

おっと、一つ言っておくでありますが、この時はまだ彼の名前も知らなければ、想いも抱いていないでありますからね。

ええ、只の士官候補生、それも頼り無い頭でっかちで軍人に憧れを抱いている、よく居るありふれた士官候補生としか。

 

「次に会ったのは、何時でありましたか。ああ、これも総長殿の送迎でありましたな」

 

その日は、士官学校の視察が目的でありました。

総長殿は士官学校等の教育機関に多額の出資をなされているでありますから、その金銭がちゃんとした目的の為に使われているか、定期的にかつ突発的に視察に向かうのであります。

 

件の士官学校に、総長殿が到着した時の教官共の慌てようと言ったらなかったでありますな。

それで、総長殿が視察を行っている間、普段と同じ様に待機していたら、また彼に出会ったのであります。

 

一体何をしているのか?

その日は学業が休みだった様で、体力作りの走り込みをしていた様でありますが、自分から見てみれば走り込みと言うよりは、只のランニング、それも趣味の域を出ていないものでありました。

とても訓練と呼べる代物ではなかったであります。

 

「それで、あまりに見かねたあきつ丸が訓練をつける事にしたと」

「まあ、概ねはそういう事になるであります」

 

自分も最近は提督殿が大人しく捕まるので、暇が出来ていまして、空いた時間に彼の訓練を見る事にしたのでありますよ。

その時でありましたな、彼の名前を聞いたのは。と言っても、その時は母方の姓を名乗っていたでありますが。

 

それで、軽い試験をしたのでありますが、結果は惨憺たる結果でありました。

これでよく、士官学校の入学試験を通れたと疑うレベルで体力が無かったのであります。

しかし、体力は無くとも技はあったようで、剣道の試合をすれば、十本に一本は危うい場面があったでありますよ。

まあ、それでも体力が無さすぎたので、まるで意味の無い事でありましたなぁ。

それでも、諦めず腐らずに自分に向かって来る様は好感が持てたでありますよ。

 

「それで、日を追う毎にって?」

「うむ・・・まあ、そういう事でありますなぁ」

 

物の好みを聞かれたり聞いたり、色々と話をしたものであります。

しかし、彼には好きな者が居たのでありますよ。

 

そして、彼の本当の名前を知ったのであります。

 

「それが、あの決心がついた、なのね?」

「そうでありますよ。瑞鶴殿」

「どういう事?」

「篁啓生には好きな相手が居る。だけど、今回の婚姻はその好きな相手じゃなくて、神宮の次期当主って事よ」

「もっと言ってしまえば、両人共に望まぬ現当主同士が決めた婚姻なのであります」

 

篁啓生には好きな相手が居る。神宮三笠も今回の婚姻を望んではいない。

なら、あきつ丸は何を望むのか。

 

ズーやん¦『・・・あきつ丸はさ、その彼に告白したいの?』

蜻蛉玉¦『しないであります』

ズーやん¦『でもさ、好きなんでしょ?』

蜻蛉玉¦『自分でもどうかしているでありますが、好きなのであります』

船長¦『なら』

蜻蛉玉¦『くどいであります!』

 

あきつ丸は叫んだ。付き合いの長い横須賀組が驚く程に、彼女は初めて見せた激情に任せて叫んだ。

 

「なら、どうすればよかったのでありますか! 自分は只の一介の艦娘に過ぎず、相手はあの御三家! 自分如きがその様な勝手な真似をすればどうなるか、分からぬ訳ではないでありましょう!」

「あきつ丸」

「叶わぬ恋、ほんの一時一瞬に見られた夢物語。そう思えば、耐えられるものであります」

 

言い切り、目を伏せたあきつ丸。

自分如きが想いを告げる訳にはいかぬ。

告げればどうなるか、自分だけでなく周りにも糾弾が及ぶかもしれぬ。

ならば、自分は想いを胸に秘め、一時の夢物語を見れたと想い出を片隅に飾り、時折思い出そう。

それでいい。自分は一介の艦娘、高嶺の花を見る事が出来た。自分はそれで満足だ。

 

しかし、出来る事なら、望めるものなら

 

「・・・せめて、彼には愛する者に自分の想いを告げてほしいのであります。決して結ばれぬ恋であっても、せめてその想いを告げる事位は許されてほしいのでありますよ」

 

愛する者には自分と同じ道を歩まないでほしい。

それは決して叶わぬ恋と望みであった。

 

そう、尋常では叶わぬものである。

尋常では

 

紅茶姉¦『よくぞ、言いマシタネ。あきつ丸』

 

尋常では叶わぬもの。しかし、その叶わぬものを叶える者が居た。

その名は、横須賀鎮守府艦隊総長、豪運の金剛。

 

蜻蛉玉¦『そ、総長殿?』

紅茶姉¦『申し訳ありマセンネ、あきつ丸。貴女の決意を聞きたかったノデスヨ』

七面鳥¦『総長、どういう事?』

紅茶姉¦『今回の婚姻は少々、込み入った事情がありマシテネ、私もどうするか考えていたノデスヨ』

ほなみん¦『と言うと、金剛ちゃん』

紅茶姉¦『ええ、少し種明かしといきマショウ』

 

あきつ丸、貴女の望みを叶えマショウ。

表示枠の向こうで金剛が笑った。




次回?

ズーやん¦『天龍、参考までに聞きたいんだけど、御三家の近衛に勝てる?』
邪気目¦『無理だな。一般近衛なら勝てるが、エースや団長クラスには、総長や副長クラスじゃねぇと』


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願え願えよ、秋津の羽よ

あきつ丸ラブストーリー!
今回は横須賀悪ガキ隊のよく動く方の眼帯天龍の過去が少し明らかに?

後、活動報告にも書いてますが、洋さんをマブラヴ世界に突っ込んだらどうなる?みたいな?


紅茶姉¦『今回の婚姻には、実のところ裏がありマシテネ』

 

自らの心境を吐露したあきつ丸に対し、金剛が語る御三家の婚姻の裏。

それは、あまりに意外であまりに理不尽なものであった。

 

紅茶姉¦『まあ、すっぱり言いマショウ。彼、篁啓生は篁であって篁ではないノデスヨ』

船長¦『篁であって篁ではない?』

元ヤン¦『どういう事だよ?』

邪気目¦『・・・ああ、そういう事か』

ズーやん¦『これまた、厄介と言うか前時代的と言うか・・・』

空腹娘¦『え? どういう事なんです?』

ズーやん¦『あきつ丸が言ってたでしょ? この啓生君は、母方の姓を名乗ってったって』

邪気目¦『篁の次期当主なら、母方の姓を名乗る必要なんざ無いからな』

にゃしぃ¦『養子、ですか?』

邪気目¦『養子でも篁は名乗れるさ。正式にその家に入ってんだからな』

ズーやん¦『総長、篁啓生は』

紅茶姉¦『察しの良い子達デス。後でお菓子をあげマショウ。ええ、天龍と鈴谷の言う通りに篁啓生は不義の子、それも先代当主と妾の間に産まれた子ナノデスヨ』

 

篁啓生は不義の子、先代当主と妾の間に産まれた子。金剛は何でもない風に軽々と言い放つ。木曾と摩耶が眉をひそめ、鈴谷がうんざりと言った風に缶コーヒーを飲み干し、天龍はその言葉に嘆息し、軽い愚痴を漏らした。

 

邪気目¦『奴等のやりそうな手だ。相変わらずの権力争い、そんなに権力が欲しいかねぇ?』

ズーやん¦『天龍、古巣が気になる?』

空腹娘¦『天龍さんの古巣?』

ズーやん¦『天龍はね、元近衛だったんだよ。ふぶっち』

空腹娘¦『天龍さん、近衛だったんですか?!』

邪気目¦『嘘教えんな嘘を。正確には横須賀に来る前に、近衛にスカウトされただけだ。結局、断ったがな』

元ヤン¦『でも、近衛に出入りはしてたんだろ?』

邪気目¦『新人の教導でな。それで、少し内情知って反りが合わねぇから断った』

船長¦『天龍、権力争いとか面倒なの嫌いだしな』

七面鳥¦『え~っと、天龍の話は置いといて、ちょっと待って。篁啓生が不義の子で、なんで神宮の娘と婚姻なのよ?』 

副長¦『確かに、その様な弱味とも言える者を他家に渡すなど、どうぞ付け入ってくださいと言っている様なものです』

ヒエー¦『言ってしまえば、篁は神宮に爆弾の起爆スイッチを渡すと同じ。神宮も篁の不義の子と婚姻を結んだと、スキャンダルに成りかねない案件ですよ、これ』

鉄桶男¦『ただいま~っと、なんか凄く話が進んでる』

鉄桶嫁¦『なんだか大変な話になっていますね』

約全員¦『ユルい!』

 

迷いアノマロカリスと襲撃ジラを片付けた五百蔵と榛名が戻って来たが、話が分かってないのか普段通りのユルい空気で緊張が一時途切れ、二人への説明が始まった。

 

篁啓生は不義の子であり篁家の弱味。しかし、つい最近まで篁の姓を名乗っていなかった彼が急に篁の姓を名乗り、何故かその彼が御三家の一画である神宮の次期当主である神宮三笠と婚姻を結ぶ事となった。

篁にも神宮にもメリットの無い婚姻、神宮は篁の弱味を握る事が出来るかもしれないが、それと同時に神宮の次期当主は不義の子と婚姻を結んだというスキャンダルにも繋がりかねない。

 

これで得をするのは斑鳩だけかと思えば、実はそうでもない。

 

鉄桶男¦『これで斑鳩が動きを見せれば、自分が一枚噛んでますって言ってる様なものだし』

鉄桶嫁¦『こんな回りくどい事をしてまで、優位性を欲しがるとは思えません』

にゃしぃ¦『と言うか、こんな事したら他の人達に信用されるのかな?』

空腹娘¦『無理じゃないかな。私だったら、絶対信用しないよ』

邪気目¦『これがな、御三家の名があれば信用なんてもんは後から付いてくんだよ』

蜻蛉玉¦『それが御三家であります』

七面鳥¦『嫌な話ね』

ズーやん¦『これ、神宮のメリットは何? てか、あるの?』

元ヤン¦『メリットに見せ掛けたデメリットなら、山程あるがな』

船長¦『頭が痛くなるな』

紅茶姉¦『まあ、事実は更に頭が痛くなるノデスガネ』

約全員¦『え、マジで?』

元ヤン¦『総長、神宮三笠も妾の子とか言わねえよな?』

紅茶姉¦『神宮三笠も、今の当主とその子とはが血が繋がっていないノデスヨ』

約全員¦『アイタタタタタ!』

 

金剛の神宮三笠も今の当主と子とは血が繋がっていない発言に、全員が頭を抱えた。

 

紅茶姉¦『神宮三笠は今の当主の前妻の子ナノデスヨ』

元ヤン¦『あ~、つまり神宮は後妻に子供が出来て』

ズーやん¦『篁は先代と妾の子、今の当主の兄弟が居て』

船長¦『それで篁も神宮も二人が邪魔だから無理矢理くっ付けて、纏めて管理でもしようって腹か?』

七面鳥¦『めんどくさ! コイツらめんどくさ!』

邪気目¦『・・・チッ』

蜻蛉玉¦『・・・総長殿』

 

篁啓生が不義の子なら、神宮三笠は前妻の子。まさに、御三家の内情は複雑怪奇で理解不能。

何をどうすれば、これ程までに厄介事に発展出来るのか?

 

そして、何故その厄介事に巻き込まれるのか。

 

紅茶姉¦『あきつ丸、気付いた様デスネ』

蜻蛉玉¦『無論であります。あの御三家が権力争いの火種を残す訳が無いであります』

邪気目¦『まったくもって、その通りだ。奴等が二人をくっ付けて、はい終わり。なんて事する訳が無い』

鉄桶男¦『わ~い、嫌な予感がするぞ』

鉄桶嫁¦『大体、このパターンは厄介事にしか・・・』

紅茶姉¦『今回の案件、私は最初受ける気はありませんデシタ。しかし、子供の命が掛かっているなら話は別デス』

ズーやん¦『命、命が掛かっているならって言ったよ!』

船長¦『やったぜ!』

元ヤン¦『畜生め』

空腹娘¦『わぁ~』

にゃしぃ¦『ヤダも~』

蜻蛉玉¦『やはり・・・』

邪気目¦『篁と神宮は、啓生と三笠を婚儀で消すつもりなんだな?』

 

篁の当主は自分の兄弟に当たる啓生が邪魔、神宮は後妻が自分の子供に家を継がせる為に前妻の子供である三笠が邪魔、両家の当主同士のメリットが合致し、その結果がこの頭が痛くなる案件になった。

 

だがここで、疑問が生じる。

金剛はどうやって、この案件を嗅ぎ付けたのか?

いくら金剛と言えど、御三家相手の情報を簡単に手に入れる事は出来ない。

横須賀鎮守府に情報を引っ張ってきている青葉でも、御三家相手には無理がある。

 

なら、どうやって?

 

紅茶姉¦『今の御三家の次期当主達から、篁と神宮の当主達の動きを伝えられマシテネ』

ズーやん¦『御三家の次期当主って事は、斑鳩も?』

紅茶姉¦『斑鳩に関しては、当主もデスネ。婚儀で二人が暗殺されるかもしれないと言われマシテネェ』

 

答えは簡単、継がせようとしている次期当主と同じ御三家である斑鳩から、情報がもたらされた。

篁と神宮の次期当主達も、自分が継ぐなら継ぐし、継がないなら継がないでどうでもいい。

と言うかもう、自分達より優れた人間が継げば良いじゃないかと、世襲制に批判的らしい。

古来より続く名家がそれで良いのか?と思わないではないが、横須賀北海組には誰が後を継ごうが関係無いのでどうでもいい。

 

横須賀北海組の心配事は、金剛だ。

金剛は子供に優しい。鎮守府内でもそうだし、彼女の出資先の大半は児童養護施設や孤児院に病院等、子供が関わる施設だ。

まるで、誰かに対する贖罪の様に、それらを行っている。

 

彼女がその事について何かを語る事は無い。

しかし、その金剛に今回の案件は許し難い事なのだろう。

左手、その手袋に隠れた義指(薬指)が動きを止めていない。

 

「嗚呼、私に子供が害される話を聞かせるトハ・・・!」

 

ズーやん¦『ヤベーよヤベーよ』

元ヤン¦『おい、瑞鶴止めろ』

七面鳥¦『私に死ねって?』

船長¦『潔く散れ』

七面鳥¦『あんたが散れ』

鉄桶男¦『ね、義姉さん?』

邪気目¦『ああなった総長はそっとしとくのが一番だ。それよりも、あきつ丸』

蜻蛉玉¦『・・・何でありますか?』

邪気目¦『分かってんだろ? この案件、下手したら俺達は近衛とやり合う事になりかねねぇ』

蜻蛉玉¦『でありますな』

邪気目¦『近衛相手は荷が重いぜ? エースや団長クラスが出てくりゃ、こっちは副長か総長でもねぇとな』

 

御三家近衛兵、御三家の警護を担当する兵士達であり、練度だけを見れば日本でも最高峰の実力を持つ集団である。

しかし、担当が御三家の警護である為、鎮守府側の戦力に比べると実戦経験が乏しい面がある。

 

ーーそこを突けば何とかなるが、(死神)が出て来ねえ事を祈るかーー

 

天龍は自分が知る限りで近衛最悪の戦力を脳裏に描いた。艤装と武装の大半を失い、何とか接近戦を挑み引き分けに持ち込んだあの相手。

 

ーー奴が出て来たら、下手したら俺達は全滅だーー

 

その最悪が出て来ない事を祈りながら、天龍は表示枠越しにあきつ丸へと向き合った。

 

邪気目¦『言えよ』

蜻蛉玉¦『・・・』

邪気目¦『おいおい、この期に及んで黙りか? えぇ? ヘタレ丸よ』

蜻蛉玉¦『・・・誰がヘタレ丸でありますか!? この眼帯「検閲削除」女!』

邪気目¦『おい、何言いやがった?! ・・・まあいい、お前は何をしたいんだよ?』

蜻蛉玉¦『自分は・・・』

邪気目¦『言えよ、もう一度言って、もう一度俺達に聞かせろよ。お前は篁啓生に何をしたいんだ?』

 

天龍はあきつ丸に覚悟を問う。

お前は何をしたい、お前はどうしたい。

お前は篁啓生に何をしたいんだ。

 

「自分は、自分は彼に想いを告げてほしい! 例えその想いが叶う事無くとも、生きて想いを告げてほしいのであります!」

 

あきつ丸は天龍に答えた。

自分は想いを告げてほしい。

篁啓生に胸に秘めた想いを告げてほしい。

例え叶わぬ想いであっても、死なず生きて告げてほしいと。

 

「自分は想いを告げずとも構わないであります。しかし、彼には想いを秘めて生きてほしくはないのであります」

 

彼には真っ直ぐに生きてほしい。

自分の様な日陰者にならず、真っ直ぐに日向を歩いてほしい。

 

邪気目¦『ああ、いいぜ。鈴谷、作戦』

蜻蛉玉¦『え?』

ズーやん¦『はーい、驚きの展開に付いていけてない鈴谷さんでーす。作戦は、はっきり言って情報待ち』

元ヤン¦『青葉待ちか』

蜻蛉玉¦『あの?』

船長¦『まあ、気にすんな。総長に話が来た時点で俺達が関わる事は確実な案件なんだ』

邪気目¦『だから、何とかしてみるさ』

空腹娘¦『式場の料理は任せてください』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、それ違う』

七面鳥¦『そういう訳だから、覚悟決めなさい』

蜻蛉玉¦『皆、感謝するであります』

 

あきつ丸の感謝の言葉と共に行動を開始する横須賀北海組に待ち受けるのは、御三家篁と神宮の陰謀。

そして、彼女達は過去最大最強の敵と戦う事になる事をまだ知らない。




次回と言うか結婚式編の予告?

「まっさかなー、式場に」
「超巨大人工島『播磨』を選ぶとは」
「おい鈴谷?」
「ヤバイかも、作戦練り直しかも」
「嘘だろお前・・・」

ズーやんの作戦が大ピンチ?


「この逆光の中で狙撃? 反射光は無しとなるとスコープ無しか」
「悪癖だな。頭を狙えるとつい狙ってしまう」
「木曾、逃げろ!」
「なっ?!」
「Auf wiederehen 若き猟犬よ」

近衛最強が横須賀悪ガキ隊に迫る?


「金剛様に措かれましては、ご機嫌麗しゅう」
「私の機嫌が良いト? 面白い冗談デスネ」
「いえね、金剛様に是非お伝えしたき事が御座いまして」
「ほウ?」
「彼女達にはどうか本気で戦っていただきたい。さもなくば、彼女達は貴女の『提督であった旦那様』と『産まれてくる事の無かったお子様』と感動の御対面という事になりかねません」
「貴様・・・!」

首領の隠された過去!


「逃げるで、あります・・・」
「あきつ丸さん」
「早く、にげ・・・」
「ありがとう、お元気で」

あきつ丸の手は届くのか?

どれかやるよ!


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秋津羽

いあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐんいあいあくとぅるふふたぐん






いあいあ くとぅるふ ふたぐん


本当に宜しいので?

 

構わないわ

 

しかし、彼は

 

柄にもなく、しつこいわよ?

 

失礼を

 

まあ、良いわ。準備を進めて

 

万事滞り無く

 

完璧だわ、貴女

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

記者¦『どうも恐縮です。突然ですが、特に清くはないけど正しい記者の青葉です』

ズーやん¦『お~、青葉待ってたよ』

記者¦『いやはや、お待たせしたみたいですね。情報をお持ちしましたよっと』

 

あきつ丸の決意表明から暫くして、横須賀鎮守府重巡洋艦隊諜報班班長の青葉から、情報が届いた。

 

記者¦『先ずは、結婚式場ですが、御三家バカなんですかね?』

邪気目¦『いきなり熱いディスりが入ったな』

船長¦『まあ、バカには違いないだろうな』

蜻蛉玉¦『いいから、早く言うであります』

ズーやん¦『あきつ丸、焦りすぎ』

七面鳥¦『今すぐ結婚する訳じゃないんだしさ』

蜻蛉玉¦『・・・申し訳無いであります』

記者¦『まあまあ、いいじゃないですか。で、結婚式場ですが、中々考えましたね奴等、超巨大人工島「播磨」なんて引っ張り出してきましたよ』

 

超巨大人工島(メガフロート)「播磨」

 

過去の大戦時に建造された国民避難用の人工島。

数万人を収容出来、それらを養う食料生産プラントや浄水機能にある程度の防衛機能を備えた現代に生きるオーパーツとか呼ばれる代物だが、

 

敵は海から来るのに海に避難してどうすんのお前?

 

等々の厳しいご意見を戴く事になり、この播磨はめでたくお蔵入りになり、結局活躍の場も無く港に繋がれたまま、国と御三家が管理する事になっていた。

 

いたのだが

 

鉄桶男¦『ここへ来て、それを引っ張り出す理由ってのは何だろうね?』

鉄桶嫁¦『単純に考えれば、二人の門出を祝う事でしょうが、この場合は』

おかみ¦『二人の暗殺の邪魔者を入れない為、でしょうね』

ズーやん¦『・・・・・・青葉、篁の情報』

記者¦『はいはい、どれにします?』

ズーやん¦『篁と斑鳩の共同事業について、あるだけ全部寄越して。紙一枚一言一句残さず』

 

式場に播磨という、異質な場を用意した篁と神宮に鈴谷は何かに行き着いたのか、青葉に情報を催促した。

だが、鈴谷が求めた情報は篁と神宮のものではなく、篁と斑鳩の共同事業についての情報であった。

 

ズーやん¦『夕石屋も、これ精査して』

夕石屋¦『は~い、了解です』

 

青葉から送られてきた情報を表示枠に掲示し、自分の周囲に広げ、鈴谷は何かを呟き続ける。

 

「違う、これも、合わない、根本が違う?」

「鈴谷君、何か分かったのかね?」

「ねえ、オジサン。もし、オジサンのチェルノ・アルファを盗むなら、どういう時を狙う?」

「む? チェルノ・アルファを盗むなら?」

 

五百蔵は鈴谷の問いに思案を重ねる。

チェルノ・アルファを盗む。言うは易し行うは難し、何と言うべきか、チェルノ・アルファを始めとするイェーガーは、五百蔵達が登録してある人物以外がそういった触れ方をすると、チェルノ・アルファの場合は、ロシア的なファンファーレが鳴り響いて、チェルノ・アルファにより拘束されて、思い切りぶん殴られる。

 

霧島のロミオ・ブルーの場合は、先ず開幕で捕まって全身の骨を折られた後、投げ飛ばされてから警報が鳴る。

 

磯谷のストライカー・エウレカの場合は、オーストラリア的な行進曲が流れ、イオンフィストで殴られて麻痺した後、警報が鳴る。

 

取り敢えず、音が鳴って殴られるなり投げられるなりする。

そう言う風になっている。

だから、盗むなら

 

「整備中か、製造過程。若しくは、警備が切れた瞬間か」

 

対策が為されているなら、隙を突いて盗むしかない。

だが、それはあまり現実的ではない。

第一、証拠が残り過ぎる。何かを盗めば、必ず何処かへ隠さねばならない。

イェーガーはサイズに差はあるが、大体が4mあるかないかのサイズなのだ。

4mの人型の金属の塊、そんなもの隠す場所は限られてくるし、運搬方法も車等を使う他無い。

 

その上、盗んでどうする?

使えばバレるし、パーツで販売しても、流通に乗れば嫌でも情報も一緒に流れる。

どちらにせよ、イェーガー等の特殊な物は盗んだとしても、余程の組織力が無ければ運用は現実的ではない。

 

ならば何故、鈴谷はそんな事を五百蔵に聞いてきたのか?

 

「鈴谷、どうした一体?」

「摩耶、最近さ、軍から盗まれた物があったよね」

「まあ、あった、な・・・ おい、鈴谷」

「おかしいんだよ。あれは陸軍が篁と斑鳩の両家と共同で建造していた筈なのに、警備が薄くて強奪されたなんてさ」

 

鈴谷が眼前に並べた資料には、こうあった。

 

鉄蛇(ティシェ)建造計画

大陸の技術者の協力を得て、建造に成功した新型特殊戦車であり、車体は従来の戦車とは一線を画し完全な蛇型となっている。

その為、従来の戦車には搭載出来なかった重装甲と巨体を過不足無く動作可能な出力を持つ事が出来た。

当機の目的は、膠着した戦場に投入し、戦場を無理矢理押し上げる事にある。

 

と、全員が鉄蛇のスペックを見てドン引きしていると、精査が終わった夕石屋から連絡が入った。

 

夕石屋¦『はい、精査終わりました! 念の為、榊原班長にも精査してもらいました』

班長¦『おう、俺だ』

ズーやん¦『班長、夕石屋。どうだった?』

夕石屋¦『端的に言いましょう。やられました』

班長¦『鉄蛇二号機は強奪されてねぇ。最初から、建造されてなかった』

船長¦『ちょっと待て、一体どういう事だ?』

元ヤン¦『鉄蛇二号機は強奪された筈だろ?』

邪気目¦『いや、それ以前に建造されてなかったってのは、どういう事だ?』

七面鳥¦『あきつ丸、あんた陸軍に知り合い多いでしょ。どういう事?』

蜻蛉玉¦『どうもこうも、自分も訳が分からないでありますよ』

空腹娘¦『建造されてたのに建造されてない? ホァッ?!』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん吹雪ちゃん、頭から煙出てる!』

鉄桶嫁¦『冬悟さん、これは一体?』

鉄桶男¦『ん~、何と言うか、建造はされてないけど、製造はされていたって事かな』

 

建造され強奪された筈の鉄蛇二号機。だが、その真実は建造された鉄蛇は一号機のみで、強奪されたとされていた二号機は強奪されておらず、建造もされていなかったと言うのだ。

一体全体、どういう事なのか?

その答えは、鈴谷から出た。

 

ズーやん¦『オジサンの言う通りに、鉄蛇二号機はパーツ製造はされていても組み立て、建造はされていなかったんだ』

ヒエー¦『えっと、その場合・・・』

ズーやん¦『パーツとしては二号機は製造されて、そのまま何処かへ流されたって事だよ』

船長¦『・・・やだ、木曾お家帰る』

邪気目¦『諦めろ木曾、家に帰っても結局は播磨行きだ』

元ヤン¦『北海発 横須賀経由 播磨行きだな』

船長¦『やだー! これ結局は斑鳩も絡んでんじゃん!』

にゃしぃ¦『あれ? だとしたら、なんで金剛総長に今回の話をしたの?』

空腹娘¦『あれだよ睦月ちゃん。これ、斑鳩じゃなくて斑鳩の中の人が絡んでるんだよ』

ズーやん¦『多分、ふぶっちが正解かな?』

副長¦『内乱ですかね?』

船長¦『やったー! たーのしー!』

夕石屋¦『いやはや、中々に手の込んだやり方ですよ。帳面上は確り建造して、その実、パーツ単位で四方八方に散らばらせて何重にもルートを経由して、播磨に積み込んでいるんですから』

班長¦『目的は分からんが、恐らく鉄蛇(ティシェ)は播磨に積み込まれているな』

 

鉄蛇二号機は、恐らくパーツ製造時点で外部へと流出し、幾つものルートを経て今回の結婚式場となる人工島播磨へと積み込まれていた。

これが何を意味して、何者が一体何の目的でこんな事をしたのか?

それは分からないが、きっと録でもない理由だったりするのだろう。

 

「しかし、鈴谷。よく鉄蛇が建造されてないって分かったな」

「なんか面倒な気配がする事件だったし、前々から青葉に頼んで調べてたんだよ」

 

七面鳥¦『それにしても、一体何が目的なのよこれ?』

蜻蛉玉¦『うむぅ、皆目検討が付かんであります』

邪気目¦『つーか、同じ情報担当でもある俺の上司は・・・』

船長¦『なんだー! おぉ俺だって、が、が頑張ってんだぞ?!』

約全員¦『テンパり過ぎだよ!』

鉄桶男¦『まあ、木曾君の書類は文字が大きいから見やすくて助かってるけどね』

鉄桶嫁¦『木曾さん。後でお話をしましょう』

船長¦『仕事、仕事の話だな? よし、バッチコイ!』

ズーやん¦『と言うかさ、ほなみん静かじゃない?』

 

確かに、この話が本格化し始めてから磯谷が嫌に静かだ。

真面目な時は真面目だが、それでも何故か喧しい。

それが磯谷穂波の筈なのに、表示枠のログには磯谷のH.Nが一つも無い。

何をしているのかと、全員が磯谷を見ると磯谷は表示枠を開いて、何か書き込んでいた。

 

「あれだよね? あきつ丸ちゃんがショタボーイにこう、開幕雷撃される話とか、ね?」

「腕を選ぶであります」

 

磯谷の左腕がコキャァ!された。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

ねぇ、調子はどう?

 

万事滞り無く

 

そうね。そうでなくては困るわ

 

御嬢様

 

分かってるわ。これは私達の一世一代の大勝負。失敗は許されない

 

いえ、お召し物が崩れております

 

完璧だわ、貴女・・・!




次回?

遂にやって来た結婚式当日
しかし、そう上手く終わる筈も無く

「なんで、お前が出てくんだよ?!」
「ふむ、久しいな。天龍」

横須賀悪ガキ隊VS近衛最強『死神』


「うわ・・・ 本当に来たよ・・・」
「・・・そこを退いて戴けませんかね?」
「いや、そうもいかなくてね。申し訳無い」

五百蔵冬悟VS近衛師団長


「成程、これが鉄蛇ですか」
「どうしましょう?」
「気合入れて、潰します」

横須賀金剛三姉妹VS鉄蛇


「あきつ丸さん。今まで有り難う御座いました。どうか、お元気で・・・」

そして、あきつ丸の手は届くのか?

こんな感じでいきたいなぁ・・・


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秋津の羽は

皆も読もう! 激突のヘクセンナハト!


宜しいので? 若様

 

うん

 

しかし、若様

 

大丈夫だよ。僕も篁だから

 

・・・畏まりました

 

うん、ごめんね。でも、父上の守ろうとしたものを守らないと

 

若様

 

どうしたの?

 

強く、なられました

 

ありがとう。でも、僕が強くなったのは・・・

 

如何なされました? 若様

 

なんでもないよ

 

若様

 

うん?

 

強く、なられました

 

ありがとう

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

潮風が頬を撫で、髪に絡み付いてくる。

海に浮かぶ都市を行く人々の顔は往々にして明るく、これから起こるであろう吉事に胸を踊らせているのが、はっきりと分かる。

その中、豪奢な礼服に身を包み上流階級である事が分かる人々の中に、明らかに浮いている者達が居た。

 

「・・・」

「・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・」

「「「「ヤベェ、場違い感が半端じゃねえ」」」」

 

横須賀鎮守府並びに北海鎮守府の面々である。

 

「一応、総長セレクトの礼服着てきたけどよ」

「こう、なんだ? 着られてる感が半端じゃねえな。摩耶」

「オメェもだよ。木曾」

 

ドレスを着た摩耶が呻く様に呟き、何故かパンツスタイルの木曾が茶化すが、はっきり言って服に着られている感が滲み出している。

 

「くそ、着慣れない服がここまでとは」

「情けないにゃ~、キソーも摩耶も。ほら、この私、鈴谷さんを見習いなよ」

 

二人が鈴谷の声に振り向くと、これまたドレスに着られた鈴谷が居た。

 

「お前も着られてるじゃねえか」

「いやぁ? 摩耶のドレスよりマシだと思うよ」

「OK OK、表出ろや」

「残念、ここが表です~」

「よっしゃ、ぶっ潰す」

「いや、お前ら。何やってんだ?」

「止めんな、天・・龍・・・?」

 

長手袋を嵌め直して拳を鳴らし、鈴谷に肉薄する摩耶だったが、直ぐ後ろから掛けられた天龍の声に振り向くと、固まった。

全員が天龍?を見て固まった。

そこには、シックな藍色のドレスを見事に着こなし髪を整え淑女然とした天龍?が呆れ顔で立っていたからだ。

 

「おう、なんで疑問系だよ。あァ?」

「あ、これ天龍だ」

「ああ、ちゃんと天龍だ」

「しっかり、天龍だな」

「喧嘩売ってんのか?」

 

天龍?ではなく、ちゃんと天龍である事が判明し、安心する横須賀悪ガキ隊であったが、ここで疑問が生じた。

 

何故、天龍がここまでドレスを着こなしているのか?

 

その答えは直ぐに分かった。

 

「教導院時代にな、こういう場に駆り出される事が多かったんだよ」

「ふ~ん、そうなんだ」

「それよりも、叔父貴達は何処だ?」

「あ? オヤジ達なら、ほれ」 

 

摩耶が指差す先、悪ガキ隊とは違う意味で浮いている者達が居た。

 

「・・・ヤクザ?」

 

五百蔵冬悟を始めとした北海鎮守府と横須賀金剛三姉妹である。

普段は強面でありながら何処か間の抜けた印象で実際抜けている五百蔵だが、それには例外がある。

 

確りとした格好、所謂フォーマルな格好をした時にそれらの印象は覆され、先程のヤクザめいた印象となる。

今の印象は、ヤクザの若頭と愉快な取り巻きの女達といったものだ。

 

だがそれは、何も知らぬ者達の印象であり、この場に知らぬ者は居なかった。

 

横須賀鎮守府筆頭秘書艦である比叡と、同じく横須賀鎮守府所属にして副長の霧島、そして元横須賀鎮守府第一特務の榛名と、その嫁ぎ先の北海鎮守府提督五百蔵冬悟と所属艦娘の吹雪と睦月。

其々が場に見合った格好をし、横須賀悪ガキ隊の元へと歩んでいた。

 

「やあ、探したよ」

「叔父貴、何処行ってたんだよ」

「いやねぇ、ちょっと合流場所間違えてさ、違う所に行ってた訳でね」

「人に遭難するところでした・・・」

「にゃしぃ・・・」

「義兄さんが見えなければ、遭難していましたね」

 

人の流れに遭難しかけた残りメンバーとなんとか合流し、式会場へと向かう最中、近付いてくる人影が一つあった。

 

「北海鎮守府提督五百蔵冬悟様ですね?」

「はあ、そうですが、貴方は?」

「申し遅れました。私、近衛師団所属の仁田善人(にった よしと)と申します」

「ああ、これはどうも」

 

握手を求めてにこやかに手を差し出してくる仁田に五百蔵は、普段通りの見掛けによらない柔和な対応で握手を返す。

 

この仁田善人なる人物、中々に曲者だと思うのは自分の経験からか。

生来、五百蔵冬悟は目付きや顔立ちで損をしてきた。

面倒だと思う事もあったが、自分の事だ。慣れる慣れない以前に、諦めに似たものだ。

だがこの仁田善人は、五百蔵冬悟が経験してきた反応のどれもが無い。

 

「いやはや、中々の体躯ですな。五百蔵様並の体躯は近衛でも見たことがありません」

「伸びたものでして、自然とこうなっていきまして」

「それはそれは、水のやり過ぎですかな?」

「ははは、かもしれません」

 

二人揃ってただの天然かもしれない。

趣味が合うのか。いつの間にか、園芸の話に移り始めている。

とは言え、五百蔵の趣味の園芸は、食費削減の為のガチ園芸であるのだが。

出会って早々に趣味の話に花を咲かせる二人を他所に、もう少し本腰入れて畑手伝うかと、考えていた天龍が突然後方にあるビルへと振り向いた。

 

「お? どうしたよ天龍」

「・・・ いや、なんでもねぇ」

「なになに? 漫画みたいに〝殺気・・・!〟みたいな?」

「それで済みゃいいんだがな」

「吹雪ちゃんもどうしたの?」

「何だろ? 何か聞こえたような」

 

ーー頼むぜ。お前(死神)だけは出てきてくれるなよーー

 

内心で祈る天龍の背後、吹雪と二人が振り向いたビルの影に一人の白い影があった。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

さて、どうしたものか。

正装のあきつ丸は瑞鶴と考える。

結婚式場に入ったは良いものの、肝心要の他メンバーが見当たらない。

キョロキョロと辺りを見渡すのはマナー違反なので、二人はしてないが、このままではどうにもならない。

 

さて、どうしたものか。

取り敢えず、ウェイターが持ってきた果実酒を舐める。

林檎、所謂シードル。洋酒に詳しくないあきつ丸でも分かる程度には、良い酒なのだろう。洋酒独特の酒精の嫌な風味が無く、林檎の風味と微炭酸が口に巡る。

 

「あきつ丸、よく呑めるわね」

「おやぁ? 瑞鶴殿は酒は苦手で?」

「空母艦娘で下戸は居ないわよ。酒を奉納する事もあるんだし。私は洋酒が苦手なだけ」

 

壁を背にしグラスを揺らす瑞鶴に対し、あきつ丸は既に三杯目に入っている。

呑まねばやってられないとでも言うのか? この拗らせ揚陸艦娘は。

 

「失礼。横須賀鎮守府所属あきつ丸様と瑞鶴様ですね?」

「そうでありますが」

「私、近衛師団団長荒谷芳泉(あらや ほうせん)と申します」

 

我等の主が御待ちです。此方へお越しください。

 




次回

裏切り者は誰だ


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秋津よ秋津、空羽ばたけ

さあ読むんだ。激突のヘクセンナハトを!
川上稔氏作の魔法少女ものだ!

あ、後、皆様思い出してください。
オッサンがこの世界に来る時に何を言っていたか。

鉄桶男¦『俺、あんまりハードな世界嫌だよ』

難易度激烈ハードだよ!


若様

 

御嬢様

 

全員揃ったのね

 

はい

 

・・・ねぇ、良いの?

 

何?

 

もしかしたら、もう・・・

 

うん、良いんだ

 

・・・そう

 

僕はもう決めたから

 

分かったわ。それじゃあ始めましょう

 

私達の抵抗を

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

仁田善人と名乗る近衛隊士、霧島はその足運びを観察していた。

今回の婚姻、狙いは篁啓生と神宮三笠の暗殺だけが目的ではない。霧島はそう踏んでいた。

 

何故なら、単純に二人の暗殺が目的なら二人が会した時を狙えば良い。しかし、今回は婚姻の場でその計画があるというのだ。

明らかに狙いは他にもある。それが霧島を始めとした全員の考えだ。

 

ーーしかし、流石は近衛と言ったところですかーー

 

先程から五百蔵と話ながら歩いている仁田だが、その歩幅と重心が崩れる事が無い。

一定の歩幅、安定した重心。巨躯を持つ五百蔵と移動をしながら話せば、どちらかにズレが出る。

しかし仁田にはそれが無い。

五百蔵の移動に合わせつつ、此方にも合わせている。

霧島はチラリと隣を歩く比叡を見る。

 

ーー御姉様ーー

ーー分かっています。霧島ーー

 

どうやら比叡も同意見の様だ。

霧島は厄介を感じつつ、ふと前を行く二人の足元に目をやり、違和を覚えた。

 

ーー歩調が義兄さんと同じ? 否、似ているーー

 

仁田の足運びは五百蔵のそれと酷似していた。

しかしそれはおかしい事だ。仁田と五百蔵とでは体格が違いすぎる。

仁田は長身でよく鍛えられているが、自分より頭一つ低い。だが五百蔵は、自分達の中でも最も長身だ。

その彼に歩調が酷似しているという事は答えは一つしかない。

 

ーーイェーガー。いえ、〝機動殻〟ーー

 

歩兵用戦術機動外殻 通称〝機動殻〟

 

歩兵の動きを補助し、身体を保護する最新の技術で造られる機械の鎧。型式は二種類あり、体の各所にフレームのみを取り付ける補助型、フレームに装甲や他機能を搭載して乗り込む様に使用する全身装甲型。

五百蔵達のイェーガーは全身装甲型に該当し、軍等で一般的なものはこの全身装甲型に当たり、補助型は医療や災害救助等の場で広く使用されている。

 

仁田は恐らく機動殻乗り。しかも、かなり腕が立つ。

これで一般隊士であるなら、団長格となればどれ程か。

霧島は全身に疼きを覚えたが

 

ーー控えなさい霧島ーー

 

隣の比叡が怖いので大人しくする事にした。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

仁田善人は一般隊士である。可もなく不可もなく、特にこれと言って飛び抜けた技能も無い、近衛では珍しくもない一般隊士であると、考えている。

 

さて、その只の一般隊士が何故かは解らないが、篁と神宮の婚姻の場での警護に任命されてしまった。

参った。大いに参った。

確かに仁田は配属されている隊の関係上今回の主役の二人、篁啓生と神宮三笠とは顔見知りである。

その上、年が近いからか割りと親しく話す事もある。

だが、それだけだ。

それだけで今回のトンデモ現場に放り込まれて内心テンパっていたら、斑鳩当主からVIP待遇で迎える様に指示を受けていた五百蔵達を見付けて、更に焦った。

正直な話、勘弁してくれと思った。思ったが、仕事と割り切り話し掛ける事にした。

 

ーー仕事放棄したとか知られたら、団長になにされるか分からないしーー

 

団長は怖い、兎に角怖い。何て言うか〝死神〟とか呼ばれている時点で、護衛を主とする近衛隊士としてはアウト一発役満の満塁ホームランではないだろうか?

 

しかし、仁田は助かったとも同時に思っている。

 

「やっぱりトマトは水切りの時期に迷いますよね」

「確かに、早くに切りすぎると枯れますしねぇ」

 

この巨漢、五百蔵冬悟とは趣味が合う。

仁田の趣味は園芸だ。と言っても、自宅のベランダでプランターを使ってではあるが。

あまり話の合う人が近衛隊士には居なかったので、正直話が弾む。

篁啓生とも話は合うが、相手は上司というか警護対象、そう簡単に話す事は出来ない。

話をしているところを団長に見られたらなにされるか分からない。

 

「いや、随分話し込んでしまいました。申し訳無い」

「いやいや、こちらこそ話の合う人で助かりました。実のところ、こういった場には慣れてませんので」

「それは良かったです。では、皆様此方へ。此方が本日の式場となっております」

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

いやぁ~、参った。

磯谷穂波はものの見事に迷っていた。

招待状を受付に見せて播磨に乗り込み、式場近くまで来たまでは良かったのだが、そこでトラブルが起きた。

 

ーー流石、御三家。エロバニーで私を釣るなんてーー

 

式場近くに〝そういった店〟を見付けて突入し楽しんでいたら、周囲に誰も居なくなっていた。

困った。式場の近くだという事は分かっているのだが、肝心の式場が何処なのかが分からない。

 

ーーなんか、地図と立地が違うね~ーー

 

事前に確認した地図と現在の播磨の立地が微妙に違う。

よく見るか、地図を覚えて迷わないと分からない程、巧妙に建屋の位置が変わっている。

播磨は御三家と国が管理している。だから建屋の位置を変更する等、手を加える事も容易だろう。

だが、播磨は商業利用等はされていない筈、利益の発生しない鉄の塊に大金を投じて立地を変更する意味は無い。

 

ーー老朽化で建て直しって感じじゃないよね、これーー

 

あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、式場に近付いているのかいないのか、定かでない動きで磯谷は播磨の街並みを歩き、立地を見聞していく。

明らかに建て増しした事が分かるビルに、無理矢理建て替えた平屋。

そして

 

「なんだろうね~? 何を運んだんだろうね~?」

 

中心地から離れた場所。地図上は避難民用の集合住宅が建っている筈の場所には何もなく、大きく拓けた道となっていた。

計測をしようと、磯谷は表示枠を開こうとするが、表示枠が開かない。

 

「あっれ?」

 

否、開きはするがノイズが酷く使い物にならない。

どうした事かと、なんとかして使える様にしようと設定を弄るが、どうにもならない。

まだ横須賀ネットワークの範囲内に播磨は居る筈。

なのに、表示枠が機能していない。

夕石屋に連絡も出来ない。

磯谷は頭を悩ませるが、サポートが無いのでは磯谷には何も出来ない。

 

ーーどうしよっかな~? ・・・脱ぐか・・・!ーー

 

何をどうしてそうなるのか。

着飾ったドレスを見ながら磯谷は広い道の真ん中で立ち尽くす。

 

「横須賀鎮守府提督磯谷穂波殿ですね」

「ん~? そうですけど、何か用ですか。美人さん」

「失礼を。私は近衛師団団長の神通と申します」

 

式場へは私が案内致します。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

〝死神〟

 

どうした? 〝魔王〟

 

奴らがそうなのか?

 

そうだ

 

ふぅむ。あの大男と霧島に天龍はやりそうだが、他はそうでもなさそうだが

 

油断するなよ。奴らはあの〝閣下〟の配下だ。やらぬ筈が無い

 

分かっている。戦場で容赦は不要だ

 

流石だ〝魔王〟 

 

では往くか?

 

ああ、若様と御嬢様の抵抗を成就させるぞ

 




次回?

徐々に姿を現してきた近衛師団。

現在判明しているメンバー

団長 荒谷芳泉
団長 神通
一般隊士 仁田善人

Unknown 〝死神〟〝魔王〟

さあ、篁啓生と神宮三笠の抵抗とは?
播磨は何故、改築された?

裏切り者は居るのか?


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この気持ちを何と言えば良いのだろう? 配点¦(ビックリだよ!)

なんか、あきつ丸ラブストーリーだけで百話目に逝きそう・・・



「いやぁ、それにしても神通ちゃんが来てくれて助かったよ~」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。客人を迷わせてしまうとは・・・」

「いいヨいいヨ~」

 

磯谷穂波と神通は、式場への道をゆったりとした足並みで歩んでいた。

位置取りとしては、神通が前で先導し磯谷がその後ろを付いて歩いている。

 

「それにしても、何故この様な場に? 失礼ながら、案内の者が居た筈ですが?」

「ん~、ちょっとエロバニーの誘惑?」

「はあ?」

 

気の抜けた返事に思わず気の抜けた返事を返す神通だが、その目は油断は無く辺りを警戒している。

横須賀鎮守府提督というゲストにもしもの事があれば、御三家近衛師団の名誉に関わる。

神通は近衛の名誉に賭けて、辺りを警戒していた。

 

それに対し、磯谷は

 

ーーう~ん、どうしてこう、尻は丸くてエロいのかーー

 

神通の下半身を凝視していた。

他の神通とは違いスカートは長めで露出は少な目、腰には刀で背筋は真っ直ぐブレは無し。

 

ーーこの気持ち、どう表現するべきか・・・!ーー

 

凝視する下半身、特に尻とそこから伸びる両足、自分と比較するのはどうかと思うが、全体的な肉量が違う。

よく走る者の肉の付き方、比叡やあきつ丸、天龍が近い。

零から百、スタートと同時に最高速を出してくるタイプだ。

 

霧島や五百蔵、摩耶達は違う。

あれはどちらかと言えば、スタートがゴール。常に最高速、常にエンジンが掛かっている。

木曾と鈴谷、榛名達はその中間、安定した加速型。

 

ーーエロい? 違う。これは丸くてエロい、まロい・・・!ーー

 

答えを出した磯谷、神通の尻を更に凝視する。

神通も気付いてはいるが、一応はゲスト。問答無用で張り倒すのはやめにして、少しだけ〝見るな〟というニュアンスの気配を出してみる。

 

ーーまロさが上がった、だと・・・!ーー

 

何をどうねじ曲げて受信すればそうなるのか?

磯谷の気配センサーは本人と同じくアホであった。攻撃的意思に対し、尻のエロさが上がったと認識した。

 

神通は戦慄した。あまりに凝視してくるものだから、ちょっと強目に〝見るな〟オーラを出したら更に見てきた。意味が解らない。

何と言うか『初体験』『未確認生物』『想定外』等々が頭を過る。

割りと長く近衛師団に務めているが、この磯谷は初めて遭遇する存在だ。

 

ーーこの世界にはまだこの様な生命が存在したのですか・・・!ーー

 

直接の主から、真面目な勤務態度や前準備等で完璧と言われる神通、実はUMAや未確認飛行物体等をメインに取り上げる雑誌や番組が好きだったりする。

何時かは世界中にある、そう言ったスポットを巡る旅をしたいとも思っている。

しかし、近衛師団団長である身では暫く叶いそうもない。

 

しかし、その不思議存在好きの神通の前に現れた未確認生物〝磯谷穂波〟。

無人とは言え往来で衣服を脱ごうとする理解不能な行動と謎受信する脳、間違いなく新手の人型UMAだ。そうでなければ、変態だ。変態があの横須賀鎮守府の提督になれる訳が無い。

だとすると

 

ーー横須賀はUMAを提督に据えたのですか!ーー

 

流石、〝豪運〟の金剛が在籍する鎮守府。

 

「ねえねえ、神通ちゃんどうしたの?」

「いえ、なんでもありませんよ」

 

落ち着きなさい神通。相手は人型、人型UMAは知恵に優れると今月のUMA特集雑誌〝アトランティスだぎゃあ!〟に書いてあった筈。

落ち着きなさい、落ち着くのです神通。

捕獲はもっての他、相手はUMAでも客人、ノー捕獲で何としても観察するのです。

 

ーーそれにまだ〝希望〟はありますーー

 

神通は新型人型UMA〝磯谷穂波〟を観察する為、尻を凝視されながら相手を観察する事にし、磯谷は

 

ーー熱烈歓迎熱視線・・・!ーー

 

なんか知らんが、更に神通の尻を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

吹雪は許されるなら、ヘッドホンを付けて耳を塞いでいたかった。

 

ーー五月蝿いよ~・・・ーー

 

仁田善人の案内により到着した式場、そこで聞こえる音は吹雪が最も苦手とするものだった。

ガヤガヤと多重に重なり聞こえる人の声、街や鎮守府では気にもならない音だが、この様な場で聞こえる声はどうにも粘ついた質感を持つ様に感じるので、吹雪は苦手としている。

 

ーー折角、美味しそうな料理が一杯あるのに・・・ーー

 

食欲が湧かない。見た事の無いタワーの様なケーキ、色鮮やかなサラダ、丸々とした鶏に豚の丸焼き、新鮮な魚介類をふんだんに使ったカルパッチョ、正直今すぐ飛び付きたいが、肝心の食欲が湧かない。

 

「吹雪ちゃん、大丈夫?」

「む~、五月蝿いよ~」

「ありゃりゃ? ふぶっちダウン?」

「おいおい、大丈夫かよ?」

「水飲むか? 果実水もあるぞ?」

「オヤジと榛名は何処に行ったんだ?」

「義兄さんなら、少し挨拶回りに」

「タイミングが悪いですね」

「つーか、穂波にあきつ丸に瑞鶴は何処に行ったんだ?」

 

睦月を始めに続々と集まり出すメンバー、少し離れた所で五百蔵と榛名の話し声と音が聞こえる。

聞き慣れた声と音、そしてもう一つ

 

ーー何だろう? この音?ーー

 

聞き慣れない、甲高い何かを高速で斬り裂く様な音が微かに吹雪の耳にだけ届いていた。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

仁田善人は奇妙を感じていた。

何か変だ。近衛師団隊士としての本能が言っている。

五百蔵達を式場へ案内し、隊士詰所に行き装備を受け取り、装備と現在の警備状況を確認すると、不可思議な違和があった。

 

ーー斑鳩の隊士が多い?ーー

 

近衛師団は大きく三つに分けられる。篁、神宮、斑鳩の三つだ。大元の所属である師団は変わらないが、派閥の様なものだと仁田は考えており、その三つの内一つ、斑鳩の隊士が妙に多い。

別に、斑鳩の隊士が多いからと言って問題がある訳ではないが、何か変だ。

仁田は自分の装備である機動殻の通信を入れ、直接の上司である〝死神〟へと連絡をするが応答が無い。

 

「団長、何処で何やってるんだ?」

 

変だ。篁の近衛団長である〝死神〟は所属に煩い。

この様な大舞台の警護で、何処かの派閥だけが多いと必ず何か言っている筈なのに、何も言っていないだけでなく応答すら無い。

 

ーーなんだ? この胸騒ぎはーー

 

仁田は一度首を振り、バイザーの位置を調整、気分を入れ替える。

例え、奇妙を感じても胸騒ぎを覚えても、自分は近衛師団隊士だ。

 

主を護る。

何が起きても、これが変わることは無い。

 

だが、願わくば

 

「こんなめでたい日だ。何も起こらないで欲しいなぁ」

 

呟きを一つ残し、主である篁啓生が居る式場へと向かう仁田に、通信が入った。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

あきつ丸と瑞鶴は近衛師団団長を名乗る荒谷芳泉に連れられ、無人の廊下を歩いていた。

 

「荒谷殿、式場から随分と離れるのでありますな」

「ええ、何分警護が難しい場所でして、一番〝人通り〟が少ない場所を選んだら」

「こうなった、でありますか。それさ中々」

 

難儀でありますなぁ。

あきつ丸は普段と変わらぬ態度で慇懃に荒谷達近衛を労うが、言い方と言うか態度と言うか、あきつ丸自体の雰囲気で煽っている様にしか聞こえず、隣を歩く瑞鶴は内心で滝の様な冷や汗を流していた。

 

ーー煽んなっての、この馬鹿蜻蛉丸・・・!ーー

 

相手は気にした風ではないが、それでも近衛師団の団長なのだ。何かあっては、只の揚陸艦娘と空母艦娘では太刀打ち出来ない。

第一、あの天龍が団長は化け物と言ったのだ。

自分達なぞ、艤装を格納空間から取り出している間にやられるだろう。

瑞鶴は何時爆発するか分からない爆弾と歩いている気分だ。

 

ーーまあ、先生より強いって事は無いだろうけどーー

 

と言うか、そんなの居たら困る。

あんな歩く天変地異クラスに湧かれても、どうしようもない。

 

ーー先生は先生一人で充分ーー

 

と、呑気に考えていた瑞鶴だったが、隣のあきつ丸が見た目にこやかに荒谷と話している。

あくまで、見た目はである。

 

「しかし、中々に歩くのでありますな」

「申し訳ありません。〝鉄血〟と呼ばれる横須賀鎮守府憲兵隊長は歩く事はお嫌いですかな?」

「その様な名で呼ばれても、自分はか弱い女でありますから、こうも連れ歩かれるというのはねぇ」

 

つべこべ言わずに歩け。それとも、横須賀鎮守府憲兵隊長はこの程度で音を上げるのか?

ハハハ、自分は〝廊下の感想〟を言っただけでありますよ。近衛師団団長ともあろう方が少~し器が小さいのでは?

 

煽んなー!

瑞鶴は聞こえてきた副音声に対して叫び出したかった。

和やかムードかと思ったら全然違って、握手をしつつも机の下では大乱闘だ。

どうにかしてくれ誰でもいいから。

 

瑞鶴は呻き声をあげそうになりながらも、それを耐えた。

そして、ある一つ違和を覚えた。

 

ーーこの廊下、さっき通ったよね?ーー

 

見覚えのある絵画と花瓶、飾り。位置も記憶にあるものと同じ、一体何がどうなっている?

あきつ丸と荒谷の舌戦を聞きながら、表示枠を透過設定で開こうとする。だが、表示枠は開かず反応すら無い。

瑞鶴は焦った。しかし、あきつ丸は気付いていた様で、余裕の態度で副音声による殴り合いを続けている。

 

「・・・大変、お待たせ致しました。この先の部屋にて、私共の主が御待ちです」

「ああ、やっとでありますか」

 

重厚な扉、この先に篁啓生と神宮三笠が居る。

あきつ丸はゆっくりとドアノブに手を掛け、万感の想いを込め、扉を開いた。

 

「あ・・・」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「いや~、失礼ながら篁啓生君って、女の子みたいだよね?」

「え゙?」

 

神通はUMAの観察もとい、磯谷穂波の案内を続けていた。

いたのだが、このUMAがまたとんでもない事を言い出した。

 

ーーそれは若様が気になされている事・・・!ーー

 

篁啓生は男らしい見た目でない事を気にしている。

どうにかならないかと、筋肉を付けようとトレーニングに励んだり、食事量を増やしたりしたが、まったくと言っていい程に効果は無かった。

ならば内面をと、神通と〝死神〟の二人で協力してみたが、篁啓生、礼儀作法等は先代から教え込まれていたので、これも失敗。

 

如何ともし難い状況が続いたが、何時の頃だったか。

おや?と思う事がしばしばあった。

話を聞いてみると、士官学校に来ている艦娘に剣を教えてもらっているという。

 

その艦娘の名前までは聞かなかったが、きっと文武両道の素晴らしい艦娘なのだろう。

一度会ってみたいものだ。

 

「まさか、リアル男の娘を見るとはね~」

「は、はぁ・・・」

「ねえねえ、あれが式場?」

「え? あ、はい。そうですよ」

「やった! ありがとね神通ちゃん!」

「いえ、こちらこそ御客人を迷わす不手際、お許しください」

「いいヨいいヨ~。あ、ヤバイ。もうすぐ時間だ」

「では、私は警護がありますので、これにて」

「うん、それじゃあね~」

「はい」

 

手を振り式場へと向かう磯谷、その背を見る神通。

そして、磯谷が一歩を踏み出した瞬間

 

「へ・・・?」

 

白刃が振るわれ、赤が散った。




裏切り者レース
仁田善人 除外


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さあ始めよう 配点¦(何を?)

さあ、事が動き出しますよぅ


「〝魔王〟」

『どうしたよ? 〝死神〟』

「動きがあった」

『ハッ、漸くか』

「ああ、始めよう」

 

白と黒、二つの影が外洋を進む播磨の街並みに消えた。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

近衛の警護体制が妙だ。

天龍は警戒する。この式場には、各界の重鎮が集まっている筈なのに、やけに警護が薄い。

式場だから表に出ていないと言われればそれまでなのだが、暗殺防止の話を持ってきた御三家にしては不用心だ。

それに、あきつ丸と瑞鶴、磯谷が見当たらない。連絡を入れようと表示枠を開こうとしても、表示枠が開かない。

 

ーーこれは、やられたか?ーー

 

天龍は警戒するが、近くに居る霧島に至っては既に戦闘体制に入っている。はっきり言って頭おかしいとも思う。

 

「どうしたよ、天龍」

「あ? ああ、面倒な事になりそうだ」

「どうだ?」

「明らかに薄い警護、まだ始まらない式」

「聞くんじゃなかった」

「ま、何も起きない事を祈ろうや」

 

天龍は摩耶と話しつつ、現状を組み立てていく。

薄い警護

開かない表示枠

行方不明の三人

いまだ始まらない式

 

明らかに何かある。どうするべきか、天龍の脳内では緊急会議が行われた。

 

警護が薄い理由

超巨大人工島〝播磨〟という特殊な環境、もし何かやらかす輩が現れても、逃げるのは容易ではない。近衛師団に勝てるなら話は別だが、そんな輩はそうそう居ないし、こんな所でやらかす理由が無い。

泳がせる?

違う。それでは事が起こった時、原因は警護が薄かったからとされて、近衛師団の沽券に関わる。

 

表示枠が開かない理由

自分達が使っている表示枠は、横須賀鎮守府技術担当の夕石屋の二人が組み上げた横須賀ネットワークでのみ繋がっている。

そして管理は、同じく二人が組み上げた横須賀ネットワーク制御用独立OS〝横須賀〟が行っている。

そこに介入するには、横須賀鎮守府か横須賀ネットワークに関わる必要がある。

だが、横須賀ネットワークはまだ公には発表していない。

よって、横須賀ネットワークに干渉は不可能に近い。

 

行方不明の三人

これが分からない。あきつ丸と瑞鶴は一緒に行動しているのは見たが、磯谷が分からない。

というか、あれはフリーダム過ぎる。大方、興味を引くものを見付けて、あっちにフラフラこっちにフラフラして迷ったのだろう。

そうでないなら、答えは簡単。

殺られたか、捕まったかだ。

あきつ丸も瑞鶴も手練れだ。何かある前に逃げるくらいは出来るし、相手もこんな場でいきなり行動に移すとは考え辛い。

磯谷はアホだから死にはしてないだろう。

何をしているかは知らんが、男か女の尻でも追っ掛けてるに決まってる。

 

式がいまだ始まらない理由

単純に考えて、篁啓生と神宮三笠の身に何かあった。

だがその場合、間違いなく近衛が動くし、近衛が警護をしくじるとも思えない。

しかしそうでないなら、最悪の事態が予想される。

近衛の中に獅子心中の虫が居る。

近衛に裏切り者が居るなら、警護に就く振りをして後ろから刺せばいい。

そして話は飛躍するが、行方不明の三人に罪を擦り付け、消せばいい。

死人に口無しが成立する。

だが、それだと裏切り者は一人では済まない。

必ず複数人居る事になる。

 

そして、その場合は自分達も危険だ。

同じ鎮守府と近しい関係、疑われて裏切り者に消されるし、あの磯谷はあれでも中将だ。海軍にも影響が出る。

最悪だ。恐らく、この絵図を描いたのは御三家の何れかだ。

嵌められた。天龍は内心で頭を抱えた。

場合によっては、篁啓生を諦めて播磨から逃げる事も視野に入れねば、間違いなく全滅する。

 

「お飲み物をどうぞ」

「ああ、これは有り難う御座います」

 

悩む天龍がふと横を見れば、五百蔵がウェイターからグラスを受け取っていた。

 

ーー呑気だなあ、オッサンーー

 

今の状況に気付いている筈なのに、五百蔵は呑気に榛名とグラス片手に話をしている。

緊張感が無いのは今に始まった話ではないが、もう少しなんとかならないものか。

和やかに榛名とグラスを傾ける五百蔵を見て、あまり緊張感を持ちすぎても仕方ないかと、天龍は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

どうするべきだったのか。

何を言えば良かったのか。

あの時、自分は確かに何かを出来て、何かを言えた筈なのに、何も出来ず何も言えなかった。

 

そうだ。逃げたのだ。

見たくない現実から、認めなくない現実から、あの時自分は逃げたのだ。

だが、時が経つにつれて後悔が身を焼き、振り返る事も怖くて出来なくなった。

 

「あきつ丸、さん?」

「・・・啓生殿」

 

だが、そう、だが、だ。

その想いに焼かれ、焦がれ、憧れになった。

そうなってしまえば、最早どうする事も出来ない。

焼き尽くされ火を立てる事も出来ない炭屑になるか、立ち上る火に向かい飛び立つ秋津となるか、だ。

 

そして、自分が選んだのは、例え焼き尽くされるとしても、その燃え上がる火に向かい飛び立つ秋津となる事だ。

 

「啓生殿、自分は」

「御待ちを」

 

前へ進み、篁啓生へと歩むあきつ丸。しかし、その歩みを阻む者が現れた。

紫の強い群青色に染まった刃の如く鋭い装甲、背に背負った分厚く反りの深い二振りの長刀、腰部両横一対の〝跳躍器〟。

近衛師団団長〝荒谷芳泉〟が専用装備を纏い、二人の間に立ち塞がった。

 

「荒谷さん」

「若様、御下がりを。・・・横須賀憲兵隊長も」

「ほら、あきつ丸もこっち来なって」

「しかし・・・」

「しかし、じゃないの」

 

瑞鶴は抗うあきつ丸の手を引き引き寄せる。

 

ーーあっぶなー!ーー

 

正面、荒谷の背部にある長刀の柄が肩上に倒れていた。

あのまま、あきつ丸が一歩でも篁啓生に近付けば、そのまま斬るつもりだったのだろう。

 

ーー上等やってくれるじゃない・・・!ーー

 

自分達より高い〝機動殻〟の頭身に合わせた長刀、例え艤装を展開していても、装甲の薄い瑞鶴とあきつ丸では一堪りもなく、唐竹に割られて終わりだ。

 

「あきつ丸さん、僕は・・・」

 

荒谷の背後、篁啓生がその少女と見紛う紅顔を歪ませて何かを一瞬言い淀み、そして

 

「あきつ丸さん、僕は篁です」

 

決別の言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

「て、鉄腕ちゃん!?」

 

式場で配られた酒を呑もうと、五百蔵と榛名がグラスを傾けた瞬間、いまだ不調の吹雪の格納空間から鉄腕ちゃんが飛び出し、二人の手からグラスを叩き落とした。

 

騒然となる式場、着地した鉄腕ちゃんは荒ぶる鉄腕ちゃんのポーズで周囲を威嚇する。

 

「あたた、一体何がどうなって?」

 

威嚇する鉄腕ちゃん、唖然とする横須賀北海組。

何がなんだか分からないが、兎に角鉄腕ちゃんの威嚇が凄まじい。もし声が出せたなら〝シャーッ!〟とでも叫んでいそうな剣幕で威嚇している。

 

「コラ! 鉄腕ちゃんダメでしょ! 大人しくしなさい!」

 

吹雪が強く諭すが、威嚇の勢いは一向に治まる気配を見せない。

どうしたものかと吹雪は頭を悩ませる。普段から中々にフリーダムな鉄腕ちゃんだが、ここまで言う事を聞かないのは初めてだ。

何故を考えているのか、意思表示はボディーランゲージならぬアームランゲージで行う。

吹雪は今までの経験から、鉄腕ちゃんが今までに無い程怒っているという事が分かる。

〝シャーッ!〟が〝キシャーッ!〟に変わった。

一体何故、ここまで怒っているのか。

 

「一体、何の騒ぎですか?」

「あ、すみません。ちょっと私の艤装が」

「艤装? ああ、成程。横須賀鎮守府並びに北海鎮守府の皆様ですね? 私、神宮三笠様の使いで神宮近衛師団団長の神通と申します」

 

御嬢様が皆様をお呼びですので、私に付いて来てください。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

鉄と鉄がぶつかり軋む音が聞こえる。

群青と朱色、二体の鉄兵がぶつかる。

 

「何やってんですか?!」

「貴様は確か〝死神〟の・・・」

「篁近衛師団隊士仁田善人です! 何故、客人と若様に刃を向けるのですか?!」

 

荒谷団長!

 

若武者が吼えた。

 




鉄腕ちゃんが飛び出した理由?

〝中の子〟がそういう世界線を見たから


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吼えろ、跳ね返せ! 配点¦(いやぁ、キツいッスわ)

今回のハイライト

仁田君頑張る
神通、新型UMA発見


「荒谷団長! 何故、若様と客人に刃を?!」

「語ると思うか?」

 

荒谷の刃をライオットシールド受け止めた仁田は叫び、右に構えた短槍を横薙ぎに振るうも、簡単に避けられる。

だが今は兎に角、荒谷から距離を取りたい。

 

荒谷の機動殻は加速性能と格闘性能を重視した機体、自分は安定性能と汎用性を重視した機体、下手に動けば

 

「仁田さん!」

 

自分の背後、護るべき人物に刃が届く。それだけではない。

 

「何がどうなってんのよ、これ!」

「兎に角、今はあの隊士殿が耐えている間に退路の確保であります!」

 

二人の艦娘、仁田の記憶が正しければ確か横須賀所属のあきつ丸と瑞鶴の筈、何故にこの部屋に居るのかは知らないが、主を護る為に協力をしてくれている。

 

神宮の団長からの通信を受けて部屋に飛び込んだ瞬間は、この二人が啓生に害を成そうとしていて、荒谷がそれを処断しようとしていると思ったが、事前情報と荒谷の太刀筋からそれは違うと判断、構えた大楯でその太刀を防いだ。

 

仁田は思う。

やっぱ、団長クラスは頭おかしい、と。

仁田が防いだ太刀は二撃目、一撃目はあきつ丸が寸での所で受け流してくれた。それで出来た隙が無ければ、今頃は斬殺死体が三つ転がる事になり、仁田も直にその仲間入りをしていただろう。

しかし、剣撃が大楯を削る音と衝撃の中、仁田は足元に散らばる破片を見る。あきつ丸が格納空間から咄嗟に引き抜いた刀だったもの、それは荒谷の一撃を〝受け流した〟にも関わらず鞘ごと粉砕され床に散らばっていた。

 

「ふむ、中々の腕だ。一隊士にしておくには惜しいな」

「それは、どうもっとぉ!」

 

艦娘が扱う刀剣、その強度は普通の刀剣の非ではない筈であり、格闘性特化型の機動殻の一撃であっても簡単には砕く事は出来ない。

その筈なのに、荒谷は一太刀でそれを砕いた。

 

ーーイカれてる・・・!ーー

 

軋みを上げひしゃげ始めた大楯を短槍で支えつつ、内心で毒づく。

今、耐えている大楯だってそうだ。要人護衛の為、強度は艦娘の砲撃にも耐えられる設計になっている。

軋みはしても、そう簡単には破損しない。

しかし、荒谷の一撃を受ける度に大楯は軋みひしゃげ、身を守る機動殻ごと弾かれそうになる。

 

[警告 防盾強度が四割を切りました。回避してください]

 

分かってんだよ

 

[警告 腕部負荷が三割を越えています]

 

知ってる。さっきから腕が熱い。

 

[警告 脚部負荷増大、脊柱部負荷増大、回避してください]

 

仁田は回避を選ばなかった。

回避すればどうなるか。それが解らないなんて事はない。回避すれば、自分の背後に居る三人が死ぬ。

回避すれば、大楯が破壊されれば、自分が死ぬ。

埋め難い実力差、一般隊士と団長、人間と化け物、どうにもならない、どうにも出来ない実力差、死という概念が形を持って迫ってくる。

 

横薙ぎ、防御。強度三割

袈裟懸け、防御。防盾が斜めに裂けた

逆袈裟、防御。防盾が半分になった

平突き、防御。貫通、機動殻の装甲を半ばまで

機動殻のパワーアシストが低下する。バイザーにノイズが走る。荒谷が見えない。速すぎる。

腰の後ろに蒼い炎がちらついている。

嗚呼、くそったれ。この狭い部屋で〝跳躍器〟使ってたのか。そりゃ、追い付けねえわ。

嗚呼、畜生め。覚えてろよ、団長はこえぇぞ?

〝死神〟に〝魔王〟だぞ? 護衛を主にする近衛隊士の名前じゃねえぞ?

あれ? 団長の名前って、それだっけ?

 

「終いだ」

「仁田さん!?」

 

くそったれ!

最後の最後くらい、カッコつけさせろっての!

 

仁田は破損した大楯を手放し、横薙ぎの一撃を避ける為に後ろへ倒れ、大楯を蹴り飛ばした。

狙いは長刀を振り下ろそうとする荒谷の腕、盾による損傷は期待していない。

狙いは別にある。

 

「若様と御二人! 窓へ!」

 

言うや否や、あきつ丸は啓生を抱え瑞鶴は弓を構え、窓へと走り出した。

窓は防弾製の素材で出来ているが、〝質量攻撃〟は考慮していない筈、だから仁田は後ろへ倒れ背が床に着く前に背部の跳躍器に点火した。

 

「ぐぬっ!」

 

急激な加速、それはそうだ。普通はしない出力で跳躍器を使っているのだ。

仁田の意識が一瞬途切れそうになるが気合で引き戻し、三人を抱えて窓へと飛ぶ。

 

「やらせると?」

 

蹴り飛ばした大楯を弾いた荒谷が迫る。だが、それが仁田の狙いだ。

気取られぬ様に声に出さず機動殻に指示を出す。大楯は弾かれ荒谷の背後にある。位置的にも丁度荒谷の機動殻、その跳躍器の真後ろ。

 

ーー大楯、爆砕!ーー

 

仁田の指示に大破した大楯に仕込まれた爆砕ボルトが炸裂し、大楯が弾ける。

荒谷の追跡が爆発で緩み、仁田は加速をそのままに窓を破り三人を抱えて外へと飛び出した。

 

「ちっ、油断か」

 

荒谷が急ぎ窓へと駆け寄るも、既に四人の姿は無く播磨の町並と海だけが見えた。

 

「荒谷団長」

「・・・若様が誘拐された。犯人は篁近衛隊士仁田善人と横須賀鎮守府所属のあきつ丸と瑞鶴だ」

「はっ」

 

騒ぎを聞き付けた〝斑鳩〟の隊士に荒谷は指示を出していく。

 

「〝死神〟め、良い部下を持っている。羨ましい限りだ」

「団長、神宮の神通が横須賀鎮守府を連れて式場から去ったと」

「そうか、神宮三笠の確保は?」

「予定した部屋には居なかったと」

「捜せ、捜し出し(しい)しろ」

 

破られた窓、その景色を見ながら荒谷は呟く。

 

「我等の悲願、断たせる訳にはいかぬ」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「久し振りですね、天龍。〝死神〟がスカウトしてきた時以来ですか?」

 

と神通が言えば天龍は

 

「ああ、あん時は悪かったな」

 

と返す。天龍は神通が少し苦手だった。完璧主義者と言うかなんというか、言ってしまえば主を中心に世界が回っている系、嫌いではないが合わない。

 

「ええ、気にしてはいませんよ。御嬢様の推薦を蹴って横須賀鎮守府に行った事など、気にしていませんとも」

 

ーーめっちゃ、気にしてやがるーー

 

少しは克服出来たかと思ったが、勘違いだった様だ。

やはり天龍は神通が少し苦手だ。

自分や同僚ではなく、主中心世界理論論者。

天龍は神通の主に推薦を貰った覚えは無いのだが、ここで否定すると面倒な事になる。

 

「天龍天龍」

「あ? なんだよ鈴谷」

「なんで私達、神宮の御嬢様に会うのさ?」

 

天龍が見ると鈴谷の言葉に全員が頷くのが確認出来た。

確かに、自分達は一鎮守府に過ぎず、今日は只の招待客だ。

まあ、暗殺防止とか言うとんでも仕事があったりするが、それでも直に会うのは何か違う気がする。

強いて理由を上げるなら、呼ばれたから?

 

「御嬢様は貴殿方に強く興味を抱いておられます」

「お、おう」

 

神通は強く言い切り、天龍は軽く引いた。

天龍が軽く引き、その背後に並ぶ吹雪の背中では鉄腕ちゃんがじっと、神通を見ていた。

 

ーー新型UMA・・・!ーー

 

神通も密かに鉄腕ちゃんを見ていた。




次回

何あれ? ダサい・・・



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感謝感激拍手喝采満員御礼!! 配点¦(どうしよう、これ・・・)

クイズ
〝死神〟はだれだ?!




ーー新型UMA・・・!ーー

 

吹雪の背中でこちらを見る鉄腕ちゃんを見た神通は、不測の事態に内心で焦っていた。

神宮近衛団長にして神宮三笠中心世界絶対至上主義者の神通でも、日に二度UMAとの邂逅をぶちかますとは予想外以外の何物でもなかった。

 

ーー腕のみのUMA、これは間違いなく新種!ーー

 

目は無い筈なのに、何故か視線をあの腕から感じる。

そして、もう一つ感じる事がある。

 

ーーこの威圧は〝死神〟、否、それ以上・・・!ーー

 

自分が知る限りでの最強、篁近衛師団団長の〝死神〟以上の威圧を、神通は鉄腕ちゃんから感じ取っていた。

あの腕は一体何物なのか?

UMAである事は間違いない。艤装と先程あの吹雪が言っていたが、腕が艤装の駆逐艦娘なぞ聞いた事が無い。

稀に〝妙な駆逐艦娘〟の話を聞くが、そんなものが早々居る筈も無い。常識だ。

常識で考えるなら、腕が艤装はあり得ない。だから、あの腕はUMAだ。

 

「あの、なにか?」

「いえ、なにも」

 

そしてあの威圧感、先程は腕から発されていると思ったが、威圧は腕ではなく〝腕の中〟から感じる。

 

ーー中に何かを納めている?ーー

 

だとすれば、このまま主に会わせるのは危険だ。

正体不明のUMAで、何を納めているか解らないものを簡単に主に会わせる訳にはいかない。だが、主である神宮三笠からは〝全員〟連れてくる事と厳命されている。

 

まあ、途中、〝不測の事態〟があったりしたのだが。

 

あの腕が〝全員〟の内に入るのかどうかは不明だが、吹雪の艤装と言っているのだから全員に入るのだろう。

 

それに何かあったとしても

 

ーー中の何かごと斬れば良いだけの話ですねーー

 

神通は切り替え案内を進める後ろで、摩耶が吹雪に式場での鉄腕ちゃんがとった不可解な行動について問うた。

 

「そういや、なんで鉄腕ちゃんはグラスを叩き割ったんだ?」

「それがさっぱりでして、鉄腕ちゃんに聞いても喋れませんし」

「・・・毒でも入ってた、のか?」

 

摩耶が恐る恐る鉄腕ちゃんに聞くも、鉄腕ちゃんは首、いや手首を傾げるだけで何も分からない。

 

「怖い事言わないでよ、摩耶君」

「そうですよ」

「悪い悪い」

 

五百蔵と榛名の抗議に軽い感じで謝る摩耶、それに鉄腕ちゃんも何か思う事があったのかガチャガチャ抗議する。

 

「なあ、神通」

「なんです? 天龍」

「〝提督〟、知らねえか?」

「〝磯谷提督〟ですか? 見ていませんが」

「そうか」

 

呟き、天龍は静かに艤装の刀の鯉口を切った。

 

「待ちなさい、天龍」

「何を待つんだ? 神通」

「私は知らないと言っただけですよ?」

「ああ、確かに〝磯谷提督〟を見ていないと言ったな」

「ええ、そうです」

「おかしいよな? 俺は〝提督〟知らねえかって聞いただけで、家のとも磯谷とも一言も言ってねえぞ?」

 

天龍の言葉に全員が戦闘体勢に入る。それを見た神通は、失態と感嘆を得た。

失態はあんな鎌かけとも言えぬ雑な問いに引っ掛かった事、感嘆は即座の戦闘体勢にだ。

 

ーー素晴らしいですねーー

 

上から見てしまうのは、自分が上位であると疑っていないからか、それが油断に繋がると知りつつも神通は感嘆を得る。

戦闘体勢の鎮守府組を背後に神通は只歩みを進め、簡素な扉の前で振り向いた。

 

「天龍、皆様。先程の鎌かけ、即座の戦闘体勢、見事です」

「ほなみんをどうした?」

「落ち着きなさい鈴谷。その答えはこの扉の向こうにあります」

 

では皆様。こちらの部屋にて我が主である神宮三笠様が御待ちです。

 

柔らかな笑みと告げられた言葉共に、ゆっくりと扉が開かれた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「・・・皆様、御無事で?」

「な、なんとか・・・」

「啓生殿は?」

「はい、僕も」

「それは良かった」

 

荒谷から逃げ出す事に成功した四人は、播磨内部の一室に隠れていた。

状況は最悪の一言に尽きる。

斑鳩近衛師団団長の荒谷芳泉による突然の攻撃、しかも狙いはよりによって篁家の子息である篁啓生。

恐らく、荒谷だけでなく斑鳩近衛師団自体が裏切っていると思って間違いないだろう。

 

「だけど、何故荒谷団長はあんな事を?」

「分からないわ。と言うか、同じ近衛師団のあんたに分かんないんだから、一鎮守府所属の私に分かる訳無いわよ」

「そうですよね~」

 

荒谷達の目的を推測する二人だが、情報が無さすぎて話にならない。

どうしたものかと頭を捻る二人の横では、

 

「け、啓生殿」

「あきつ丸さん」

 

あきつ丸と啓生の二人がなんかモジモジしていた。

二人揃って色白の顔に紅が入り、何と言うか見ている二人が恥ずかしくなる。そんな雰囲気であった。

 

(あの? もしかしてですが)

(そのもしかしてよ)

(おお! お見事です、若様・・・!)

 

小声で話す仁田と瑞鶴、その横では何かを話そうとしては同時に話し出し、互いに譲り合うあきつ丸と啓生の姿があった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

その答えはこの扉の向こうにある。神通はそう言って扉を開けた。

 

「御嬢様、御客様をお連れ致しました」

 

神通の言葉に返答は無く、無言の質素な部屋が広がっていた。

しかし、妙に仕込み臭いと言うべきか、何処と無く態とらしさが目立つ部屋だ。

言ってしまえばテレビドラマ等で使われるセットが近い、先程の神通の言葉も相俟って異様に胡散臭い。

 

「ねぇ、天龍」

「言うな、鈴谷」

「・・・テレビのコント番組で見た事あるな」

「それな」

 

全員が冷めた目で見る先、一つの舞台があった。

丸い、よくコント番組で見るタイプ。明らかに仕込みがあると部屋の中央部にそれはあった。

 

「おい、神通・・・ っ!」

 

この何処に答えがあるのかと、神通に問おうとした天龍だが、舞台周囲に浮かび上がったものに目を奪われた。

 

「なんで表示枠が?!」

 

五百蔵の叫び通りに、表示枠は横須賀と北海でしか実用されていない情報媒体だ。

その筈なのに、神宮三笠が待っていると言われている部屋でそれが幾重にも重なり舞台を囲っていく。

 

祝賀に似たラッパの音が響き、舞台の中央が四角い穴に開き、白く染まった冷気が漂い出す。

ラッパはホルンと音を重ね、何処からか色とりどりの照明が舞台中央部に照らされる。

 

「なぁ、やっぱりこれって・・・」

「ああ、そうだ。こんなセンスは奴しか居ない」

 

鎮守府組が見る先、ドライアイスの煙とカラーフィルムで色付けされた照明の中に堂々と浮かび上がる拡大された表示枠。

 

「提督、あれ凄くダサいです」

「確かに町内会レベルだけど、言っちゃダメだってさ」

 

七色のグラデーションに文字は金色銀色の二色メタル加工だった。

 

『感謝感激拍手喝采満員御礼!!』

 

神通以外が軽く引いている中、表示枠の下に開かれた穴から、一つの影が上がってきた。

エレベーターから舞台へと現れた一人、白い儀礼用衣装に身を包み長い黒髪をそのままに流した少女。

 

「皆様初めまして。私、神宮三笠と言います」

 

マントと袖を翻しスモークを払いながら、驚愕する皆を見ながら神宮三笠は言う。

 

「反応が薄いですね。では、こう言いましょう!」

 

高いテンション、馴れない場にはしゃぐ子供の様に言葉を続けた。

 

「今回、本日の結婚式と偽ったクーデター、その全ての絵図を描いた者だと!」




次回
何時になるかなぁ・・・?


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おい、見ろよ 配点¦(泣かしたぁー!)

一月かかってこれか・・・


クーデターの絵図を描いた。七色のライトに照されながら現れた色の白い少女、神宮三笠は言った。

五百蔵は何を言っているのか、数瞬理解出来ずに隣の榛名と固まり、霧島や悪ガキ隊に吹雪と睦月も心なしか苦い顔をしている。

 

だが、ある一人は違った。

 

「ふむ、成る程」

 

比叡だ。彼女は形の良い目を弓にした笑みで、神宮三笠が立つステージの背後を見る。

丁度一人、〝小柄〟な人間なら一人余裕をもって隠れられるスペースがある。

そして、神宮の周囲に浮かぶ表示枠のデザイン。

間違いなく、〝彼女〟は居る。

そうでなければ、あのセンスの持ち主が二人居るという事になる。

しかし、神宮を見る限りは服飾等のセンスは悪くない。だから、居る。

絶対居る。

だから比叡は一つの賭けをする事にした。

 

「司令? 居るんでしょう?」

 

今の心境で出来る限り優しく呼ぶ。

これで出てこなければ、取る手は一つしかない。

 

「どったの? ヒエー」

「成る程、そうですか」

 

呼び掛けに応える気配は無い。

いや、一瞬だけ神宮の背後で動きがあったが、それだけで終わった。

 

「そうですか、司令。貴女は、そういう人だったのですね」

 

言うと比叡は俯き両手で顔を覆う。

両手で顔を覆う比叡、その両手に隠れた瞳から涙が零れ落ちようとする瞬間、

 

「誠に申し訳ありませんでしたああああああああああああ!!」

 

DOGEZAが神宮の立つステージ背後から射出され着地、スキール音を立て火花を散らし滑走し、比叡の前一メートルでドリフトし停まる。

この間0.5秒、DOGEZAを修める者であれば当然であると同時に、感心する程に見事なDOGEZAがそこにあった。

 

「そんな、ヒドイわ。穂波・・・!」

「・・・ゴメンね、三笠ちゃん。でもね、私は比叡ちゃんへの愛は裏切れないの」

「嘘だったの? 私に言ってくれた言葉は嘘だったの?!」

「ゴメンね」

 

いきなり始まる愛憎劇(昼ドラ擬き)を口を横にした表情で見る面々。

行方知れずの三人の内の一人である磯谷穂波と神宮三笠の謎演技、しかし片方はDOGEZAのままである。

何故なら、DOGEZAとは相手に許しを得て初めて頭を上げる事が許されるのであり、それ以外で頭を上げる等の動きも許されない。

即ち、今の磯谷は微動だにせず神宮に尻を向けて、額を床に擦り付けて喋っている。

 

「司令、いつ喋って良いと言いましたか?」

「すいません!」

「おや、私が謝罪を求めていると?」

 

マジギレだ・・・! 

比叡の他、特に磯谷が鈍い汗を滝の如く流した。足元のDOGEZAが小刻みに震えている。

この時点でDOGEZAとしてはアウト、最早失意対前屈を更に小さくしたものでしかない。

 

「ヤベーよ、ヒエーがマジギレだよ」

「どうするよ?」

「穂波を犠牲に比叡の怒りを墓地に」

「アタシらの安全を確保」

「ターンエンドです」

「いや、そうだけどそうじゃないよ?」

 

上から鈴谷、天龍、木曾、摩耶、吹雪、睦月の順である。

 

「いや、でもよ睦月。これは何があったか分からんが、穂波が悪いぜ?」

 

と天龍が言えば

 

「いや、そうだけどそうじゃないよ天龍さん」

 

睦月は、そう否定する。

天龍も解っている。重要なのは磯谷ではなく、いや、自分達のトップが御三家の目の前でDOGEZAしているのだから重要ではない訳ではない。

訳ではないが、そんな事よりも遥かに重要な事を神宮三笠は言った。

 

自分がこのクーデターの絵図を描いた。

彼女はそう言ったのだ。それが何を意味するのか解らない天龍達ではない。

自分達は最初から、神宮三笠の手のひらの上に居た。

今回のこれは、結婚式ではなくクーデターだった。何を目的としたものかは解らないが、目の前のふざけたセンスの少女は、何食わぬ顔で自分は動かず、情報だけを流して周囲を動かしたという事だ。

無論、彼女の意思を理解して動いた者も居るだろうが、それでもこの少女は異常だ。

 

一体、何時からだ。何時から自分達は、この少女の手のひらの上に居た。

うすら寒い感覚の中、神宮三笠が口を開いた。

 

「ブッフ!!」

 

吐血であった。

 

「お、御嬢様!」

 

皆が一斉に引き、何事かと見れば、神通が駆け寄りゆっくりと仰向けに倒れていく神宮を抱き上げている。

顔色が先程よりも更に白くなっており、蒼白という具合だった。

 

「御嬢様! お気を確かに!!」

「あ゙~、大丈夫大丈夫、ちょっとはしゃぎ過ぎただけだから」

 

口から鼻から赤い血をだらだら流しながら、神宮が神通に返事を返すが、顔色を無くし鼻から胸にかけて真っ赤に染まった状態ではそれを信じろという事が無理がある。

神通は慌てず神宮の口元を拭き、着替えを用意する。

 

「ふむ、俺は出ていよう」

「では私はお手伝いしましょう」

 

着替えの気配に五百蔵は部屋から出て、榛名は手伝いを申し出る。

神通がテキパキと神宮の着替えを行いつつ、椅子に座らせ彼女の腕に点適用の針を挿していく。

 

「神通、いつもすまないわね」

「御嬢様、それは言わずにお願い致します」

「完璧だわ、貴女・・・!」

 

榛名は着替えを手伝いながら神通の手際を見る。

 

ーー手慣れてますねーー

 

神通の手際は明らかに手慣れたものであり、それを受ける神宮も慣れた様子で着替えさせられ、腕に挿される針を受け入れていく。

 

「いやぁ、ご免なさいね。自分の、足で、歩くのって、一週間ぶりで、つい、はしゃいじゃった」

 

点滴から薬剤を受け、先程よりかは顔色が良くなり肌色が戻った神宮だが、それでも言葉に力は無く途切れ途切れで、ようやく喋っていると言った感じだ。

 

「もういいかね?」

「ああ、オヤジ。入ってくれ」

「失礼するよ」

 

五百蔵が部屋に入ってくるのを確認しつつ、摩耶は神宮の言葉を考える。

 

一週間ぶりに自分の足で歩いた。

この言葉は事実だろう。現に、神宮は点滴の管に繋がれ呼吸器も装着していた。

神通の慣れ具合から、ああ言った作業が日常的とも言えるだろう。

 

「御嬢様、少しお休みになられては?」

「あ~、いや、時間無いし、さ。早く、しないと、始まっちゃう」

「始まるって何が?」

 

誰ともなく呟いた言葉に、神宮ではなく

 

「え? クーデター」

 

DOGEZA(磯谷)が答えた。

 




次回

今回の裏側説明会?


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人生、予想外の連続 配点¦(でも、これは無い)

あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!(SANチェック失敗 アイデアロールクリティカル!)


あ、〝死神〟の正体が分かるよ。




「え? クーデター」

 

何に間に合わない、何が始まる?

その問いにDOGEZA(磯谷穂波)が答えた。

 

「・・・んで、お嬢様よ。何に間に合わないんだ?」

「あれ? 私、無視された?」

 

様な気がするが、天龍は気のせいだとして、神宮三笠に改めて問う。

そのすぐ側では、DOGEZAが器用に頭だけを上げて周囲を確認していた。

 

「磯谷嬢、君さ、どうなってるのかね?」

「あ、よかった、私、見えない子じゃなった。私って体柔らかいんですよ。どんな体位だってOKよ!」

「司令、何か喋りましたか?」

 

比叡の言葉に即座に黙る磯谷。どうやら、まだ発言権は得られていない様だ。

貼り付けた笑みを浮かべる比叡と、それを宥めようと必死に脳をフル回転させている磯谷を横に、天龍は神宮からの答えを待った。

 

「あー、うん。割りと説明がめんどくさいし、かなり込み入った事情なのよね」

 

先程より呼吸が安定し、顔色も健康な常人のそれに戻りつつある神宮が神通の手を借り、背凭れを倒していた椅子から身を起こす。

 

「取敢えずだけど、皆。戦闘の準備だけはしておいてほしいわね」

「何でかな?」

 

戦闘の準備をしておけと言う神宮に対し、鈴谷が目を細目ながら問う。

それに対して神宮は、僅かに眉を下げて言った。

 

「貴方達の中の誰かが、〝人類最強の剣士〟と戦う事になるかもしれないからよ」

「おい、まさかだが」

「そのまさかです。天龍」

 

天龍が眼帯で塞がれていない目を見開き、神通が神宮の代わりに彼女の言葉に答える。

最悪だ。天龍の背に冷たいものが流れる。

 

「天龍、アタシらがおいてけぼりな訳なんだが?」

 

そう言い、摩耶が愕然とする天龍の肩を叩くと、天龍は整えた髪を掻き乱し、大きく息を吐いた。

 

「御三家近衛師団三団長中、二人は艦娘だ」

「そうか。・・・うん? 二人は?」

「そうだ。一人は篁、神通が神宮、そして斑鳩の一人は人間だ」

 

艦娘は人間よりも遥かに身体能力に優れる。軍事の主力となる存在だ。当然の事である。

そして、近衛師団は何よりも実力を重んじる。完全なる実力主義、そこに人間、艦娘の差は無いとされているが、人間が艦娘に勝つ事は難しい。

 

「そうよ。今回のクーデターの主犯は斑鳩。もっと正確に言うなら、斑鳩近衛師団の一部と団長」

「まさか、そいつが」

「人類最強の剣士、荒谷芳泉だ」

 

そう、人間よりも艦娘は身体能力に秀でる。完全なる実力主義である近衛師団であれば、その差は更に歴然としたものになる。

そして、その近衛師団で人間が団長になるという事が何を意味するのか。

 

「生身同士であれば五分ですが、今の彼は機動殻を使用しています」

「〝死神〟はどうしてる?」

「流石ですね。天龍」

「うるせぇ。いいから答えろ、神通。〝死神〟は今どうしてる? そして、味方か?」

 

天龍が頻りに口にする〝死神〟という単語に、神宮、神通、天龍の三人以外は首を傾げる。

来ている等の所在を確認する言葉ではなく、天龍は動向と立場を確認している。

それは天龍が、その〝死神〟がこの〝播磨〟の何処かに居ると確信しているという事に他ならない。

 

しかし、彼女をよく知る面々には疑問がある。

何故、天龍は〝死神〟の動向を聞き出そうとしているのか。

その様子には焦りと一縷の願望が見える。

頼むから関わってくるな、敵であってくれるな。

普段の天龍からは想像が出来ない様子に、鈴谷達に〝死神〟とは一体何者なのかという興味が湧いてくる。

 

「ねえ、天龍。〝死神〟って誰さ?」

「ああ、待て。それは後だ。早く答えろ、神通」

 

〝死神〟の正体を問うてくる鈴谷を掌を上げて制して、天龍は神通に答えを促す。

 

「安心しなさい。彼女は味方です」

「・・・そうか」

 

安心したように息を吐く天龍。

取敢えずではあるが、一先ず危機は去ったと言いたげな表情を浮かべている。

だが、天龍以外の面々には〝死神〟とは何なのかが判らない。

 

「天龍、いい加減に教えろ。〝死神〟ってのはなんだ?」

 

木曾がはっきりと答えない天龍に、多少の苛立ちを込めて話しかける。

 

「話を切っちまって、悪いな。んで、〝死神〟だが、簡単に言おう。近衛師団最強は奴だ」

 

そして、その〝死神〟の名前は

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「あ、あのですね。あきつ丸さん」

「な、なんでありますかな? 啓生殿」

 

瑞鶴と仁田は、離れた場所で顔を赤くして向かい合う篁とあきつ丸を見ながら、ニヤニヤと笑っていた。

先程まで、人類最強の剣士の凶刃に曝されていたとは思えない状況だが、誰が敵なのか分からない現況は下手に動かない方が良いとして、逃げ込んだ貨物庫の一室に隠れている。

そこで一度体勢を整えようと、仁田は損傷を負った機動殻の応急修理を施し、瑞鶴は横須賀鎮守府に連絡を入れようと不調の表示枠の設定を弄っていた。

 

(いやはや、若様のお話の御相手がまさかまさか)

(私達も聞いた時は驚いたわぁ・・・)

 

瑞鶴と仁田は思いの外気が合うのか、作業を進めつつ会話を続ける。

勿論、二人に聞こえない声量でだ。

 

(しっかし、あれよね。御三家ってのは、面倒ね)

(御三家に雇われている身としては同意し辛いですけど、確かにそうなんですよねぇ)

(神宮との婚姻とか、何考えてんだか)

(そこはまあ、なんでしょうね。三笠御嬢様にしては妙なんですよね)

 

仁田は機動殻背部の跳躍器のガス残量を確認する。

かなり無理をした加速したが、予想よりはガスの消費が少なく済んでいる。

武装面に関しては、大楯を失ったのは痛い。残る武装は短槍と、両腕の徒手格闘用追加装甲である手甲のみ。

銃が欲しいところだが、補給に動く訳にもいかない。

 

(妙って何?)

(あ~、何と言いますか、三笠御嬢様は思慮深いと言うか、神通団長が完璧と言うか、うむぅ?)

(まあ、この婚姻に素直に首を縦に振る奴じゃない訳ね)

(そうですね。絶対抵抗します)

 

神宮三笠の性格を考えれば、今回の婚姻に素直に従う訳が無いのだ。

しかし、今回は素直に従い、三師団三団長を警護に引き出し、一鎮守府をVIP待遇で招待したりと、好き勝手している。

まあ、勝手に決められた婚姻、自由にしたいのだろうと仁田は考えていた。

 

(分からない事だらけで、誰が敵なのか分からない)

(うーん、めんどくさいなぁ)

(そうか)

(そうなんです、よ・・・!?)

 

「って、うおおお!」

 

仁田と瑞鶴が飛び退き闖入者を確認する。

誰もこの一室には居なかった筈だ。なのに、今の声の主は当たり前の様に現れた。

 

「何があったでありますか?!」

 

格納空間から新しい刀を取り出したあきつ丸が、騒ぎを聞き付け駆け付ける。

 

「まったく、仁田。お前は判断は早いが、考えが浅いな」

「・・・いや、あの、だ、〝団長〟、どうやってここに?」

「自分の装備からここまで距離を取るとは、若様をどうやってお守りするつもりだ?」

 

冷たい声を聞いた篁があっと声を上げる。

右手にはドラムマガジンの短機関銃、左手には単発式の狙撃銃を携えた白を基調とした装甲服。

顔はフードに隠れてよく見えない。だが、フードから僅かに覗く肌は病的に白い。あきつ丸も色白だが、目の前の女はただ白いというよりは、血が通っていない程に青白い。

 

ーーちょっと、先生級とか勘弁しなさいよ・・・!ーー

 

瑞鶴の背に冷たいものが流れる。はっきり言って、自分達はお話にならない。

というよりは、空母艦娘が屋内という閉鎖空間で十全に戦える訳が無いのだ。

しかしそれは、目の前の白女も同じだ。

 

ーー空母式の艤装? 艦娘なの?ーー

 

白女の腰部にはかなり簡略化されているが、空母艦娘の艤装である航空甲板があった。

恐らく、艦載機で索敵を、両手に持った銃で戦うのだろうと推測出来る。

 

「あんた、何者?」

 

瑞鶴は格納空間から剣状矢を取り出し突き付ける。

白女はそれを意に介さず、あきつ丸の背後に居る篁へと一礼する。

 

「申し訳ありません、若様」

「あ、いや、僕なら仁田さん達が助けてくれたから、大丈夫ですよ」

「・・・左様で御座いますか」

 

篁の言葉に白女はフードを取った。

フード内に押し込められていた艶のある金髪が流れ落ち、顔が露になる。

 

「艦娘という事は、〝閣下〟が治める横須賀鎮守府の者だな? 若様を助けていただき感謝する」

「別に良いけど、あんた名前は?」

「これは、失敬。私は篁近衛師団団長」

 

グラーフ・ツェッペリンだ。




ついにベールを脱いだ近衛師団最強〝死神〟グラーフ・ツェッペリン。
ニチアサ系爽やかイケメン仁田君マジ焦り!怒られる?!

そして
荒谷の目的とは?

次回

「やらねばならんのだ!」
「子供犠牲にした未来に、何の意味があると?!」

激突、剣士対暴獣?


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その理由は? 配点¦(どうにもならない。だが、やらねばならない)

やっと、クーデターの目的が書けたよ。

あと、

荒谷芳泉の機動殻¦マブラヴ、タケミカヅチモデル
部下¦戦術機モデル

仁田君¦鉄血のオルフェンズ、獅電モデル

だったり。


〝死神〟グラーフ・ツェッペリン。

その名を呟く様に言った天龍の顔は苦い。

彼女の少なくない経験の中で、グラーフ・ツェッペリンとの戦いは奇跡的な戦績と言える。

 

「〝死神〟グラーフ・ツェッペリンか」

「そんなに強いの? 神通も大概っしょ」

 

鈴谷が神通へ言うと、神通は少し困った表情を浮かべて言った。

 

「まあ、私も腕に自信はありますが、グラーフには届きません」

「あいつ、ちょっとおかしいんだよ」

 

割りとおかしい人物達からあいつ、おかしいと言われるグラーフ・ツェッペリン。

それは何故かと、彼女を知る一人の天龍が続ける。

 

「空母艦娘の癖に、艦載機を一つしか出せないんだ。まあ、その艦載機もおかしい訳なんだがな」

「艦載機が一つって、空母艦娘としては欠陥どころじゃないだろ?」

 

摩耶が疑問すると、神通がその疑問に答えた。

 

「そうですね。事実、篁の先代様に拾われなかったら、彼女はどうなっていたか解りませんね」

「かなりの物好きで有名だったしねぇ」

 

神宮が懐かしむ様に目を細めてそのまま閉じて、彼女の体からふっと力が抜け落ち、眠る様に動かなくなっていった。

 

「御嬢様!? なりません! 目をお開けください!」

 

神通が、安らかな寝顔の神宮の頬を痕にならない程度に叩き呼び掛ける。

 

「ハッ! 危なかった。母さんが川の向こうで手を振ってたよ・・・!」

「御嬢様、よくぞお戻りくださいました」

「いや、漫才はいいから、早く話」

「何故、御嬢様の身を案じないのですか?!」

「いやな、俺は近衛じゃないし、時間が無い的な事言ってたの、そっちだし」

「御嬢様が天に召されかけたのですよ!」

 

知らんわ。正直に天龍はそう思った。

近衛師団に出入りしていた事もあり、御三家の人間を見た事はあるが、直に会って話したのは初めてだ。体が弱いという噂は聞いた事があった。

人としての礼儀、というのもあるのだろうが、こちらとしてはとっととクーデターとやらの情報が欲しいのだ。

気狂い大戦に巻き込まれるのはゴメンだ。

 

「まあまあ、天龍君。落ち着いて話そう」

「しかしだな、オッサン」

「急ぎなのは確実だけど、体調が悪いみたいだし、少し待ってもいいんじゃないかね?」

 

五百蔵の言葉に天龍は頭を掻いて、大きめの溜め息を吐いた。

一人人外魔境、歩く天変地異、自走式ステルス核兵器、等々の異名というパワーワードで呼ばれる洋や金剛の域に片足突っ込んでいるのは、天龍が知る限りでグラーフ・ツェッペリン一人だけだ。

そのグラーフ・ツェッペリンが味方だと言うなら、確証は無いが気分的に幾らか余裕は出てくる。

 

「そうね。ほんの少しだけ時間を頂けるかしら? ちょっとだけ、はしゃぎ過ぎたみたい」

「御嬢様、お水を」

 

ご免なさいねと、神宮は神通が差し出したコップを手に取るが、その手が震えているのを霧島は見逃さなかった。

 

ーーそのコップを持つ握力すら、危ういというのですかーー

 

霧島も横須賀鎮守府の副長であり、御三家の情報は噂の域を出ないものではあるが聞いた事がある。

曰く、神宮の息女は病弱である。

曰く、部屋から自力では出られない。

曰く、ベッドから自力で起き上がれた事が無い。

 

〝全て〟、彼女の脆弱な体質を示す話だ。

目の前で息を吐きながら、何回にも分けてコップ一杯の水を飲んでいる様子から、これらの噂は事実だ。

と言うか、さっき吐血したし、召されかけた。

 

ーーしかし、見事ですねーー

 

霧島は、神宮にコップを渡す神通の動きに感嘆を覚えていた。

あの神通は、長く神宮三笠個人に仕えているのだろう。そうでなければ、彼女の手の震えに合わせてコップを手渡し、彼女が取り落とす寸前にコップを保持し直し、違和感無くもう一度手渡す事など出来る訳が無い。

そして、それらの動きに対応する体捌き。それ相応の実力と経験が無ければ、あの動きは実現出来ない。

 

副長としての自分と、近衛団長としての神通。

どちらが強いのか?

体が疼く。

どうしようもない。武力の象徴たる副長の本能が身を焦がす。

 

ーー控えなさいと言った筈ですよ? 霧島ーー

 

焦がすが、隣の比叡が怖いので直ぐに鎮火した。

 

「んでよ、天龍。そのグラーフはどれだけヤバイんだ?」

「鳳様や総長の域に、片足突っ込んでいるって言えば解るか?」

「ガチのバケモンじゃねえか」

「ああ、そうだ。恐らくだが、今のメンバーで勝てる可能性があるのは副長だけだな」

 

木曾が天龍に問うと、想像する限りで最悪の答えが返ってくる。

自分達が知る絶対強者達の域に片足突っ込んでいる様な奴、敵でなくて良かったと霧島以外の全員が思った。

 

「それでだが、神宮嬢。いいかね?」

 

五百蔵がゆっくりとした動きで前に出る。

他者を圧倒する巨躯が持つ威圧感や圧迫感が、普段よりも薄い。

病弱な神宮に対する負担を、少しでも減らそうとしているのだろう。

 

「何でしょう?」

「ああ、ゆっくりでいい。うん、君は今回のクーデターの絵図を、自分が描いたと言ったね?」

「ええ、そうです」

「・・・一体、何故?」

「何故? ああ、成程、あの妾腹の子がとか、後妻がとかのやつですね」

「また、えらくざっくり来たね」 

 

五百蔵が呆気に取られていると、神宮は神通の介助を受けながら、さも当たり前の様に言った。

 

「あれ、その方が悲劇のヒロインっぽいかなって、家と篁に協力してもらったんですよ」

「え? 協力?」

「そうですよ」

 

おい、今何て言った、こいつ?

全員が口を横に開き、眉間に皺を寄せて、神宮を見た。

自分達が聞いたのは、篁と神宮の御家騒動の果てに、邪魔になるであろう先代の隠し子の啓生と前妻の子の三笠を、結婚式の後に暗殺してしまおう。という、ざっくり言うと面倒極まりない計画だったのだが、それを根本から引っくり返す事を神宮は当然の如く言い放った。

 

「考えてみてくださいよ。私はこの体ですよ? 長く生きられないのは明白だし、跡取りなんて産める訳が無い。と言うか、確実に子作りの最中に逝ける」

「いや、え? お? うん?」

「叔父貴叔父貴、どう言い表したらいいか分からねえ顔になってるぞ!」

「啓生だってそう、先代の隠し子。普通に考えて、隠し子に相続なんて、篁家がさせる訳が無いし、本人も自分の身分を理解して、母方の姓を名乗ってた」

 

神宮三笠は病弱で、その日一日を生きられるかすら解らない。

篁啓生は先代の隠し子で、その身分を理解して母方の姓を名乗り。

二人共に、跡目争いには関わらないし、関われない。

なら何故、暗殺などという単語が出てくるのか。

 

「啓生とはね、小さい頃からの、友人で、同じ腫れ物同氏、直ぐに気が合ったわ」

「あの頃は、まだ御嬢様の御体が健康そのもので、よく庭先を御二人で走り回っておられました」

「いや、本当に、あの時はゴメン」

「君、何したの?」

「・・・ちょっと、木登りして、束ねた蔦でターザンを・・・」

「蔦が切れて、当主様のお部屋に二人揃って飛んでいった時は、グラーフと二人で胆が冷えました・・・」

 

神通以外の全員が神宮に白い目を向け、無言の非難を行い、神宮がそれから逃れる様に話を続けた。

 

「ま、まあ、二人揃って腫れ物扱いではあったけど、愛されているっていう、自覚はあったわ。そうでなかったら、神通とグラーフを、私達に付けてくれる訳が無いしね」

「後妻との関係は、どうなんだ?」

「急かすわね、天龍。まあ、良好よ。権力に興味の無い、何時死ぬか解らない小娘、相手にしても、意味無いしね。普通に、茶飲み友達みたいなものよ」

「継母を茶飲み友達扱いか」

「いいじゃない。それでまあ、話飛ばすけど、クーデターの噂を、耳にしたのよ」

 

水を一口飲み、唇を湿らせた神宮が今回のクーデターの真相を明かした。

 

「内容は、斑鳩の近衛師団の一部が、私達の暗殺を計画している、というものだったわ。不思議よね? 跡目争いにも、関わる事の無い、子供二人を暗殺、それで、斑鳩の権力が、増大する訳でもないのに」

 

では何故なのか。

誰もが黙り、神宮の言葉を待った。

 

「私と啓生には、扱い以外に、共通点があるわ。それは、直属の護衛が、艦娘の二人という事よ」

 

荒谷芳泉達の狙いは、私達を暗殺する事による、艦娘の権威失墜よ。

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「団長」

「見付かったか?」

「いえ、追手は全員、動力部や主要関節を撃ち抜かれて、無力化されています」

「〝魔王〟いや、〝死神〟か」

「捜索範囲を広げますか?」

「我々の数は少ない。下手に広げれば、見落としが出るだろう。見落としが無いか、もう一度確認をしろ」

「はっ」

 

部下が下がり、濃い藍色の烏帽子型の装甲が僅かに俯く。

 

「許しは請わぬ。誰かが、やらねばならんのだ」

 

もう、年端のいかぬ娘達に・・・

呟いた言葉は装甲の中に籠り、歯軋りと共に外に出る事無く、消えていった。




残るは〝魔王〟の正体か。
鉄蛇はどうしているのか。
荒谷は何故、クーデターを?

そして、唐突に突っ込まれるア穂波とエウレカの謎?


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これを越えるにはどうするべきか? 配点¦(無理なんじゃないかな?)

突然ですが身長ランキング(大体)

1位 安定のオッサン
2位 副長の霧島
3位 実質同率2位の瑞鶴
4位 鉄桶嫁の榛名
5位 恐妻?の比叡
6位 サイキョーの洋さん
7位 今ヤンの摩耶
8位 首領金剛
9位 実はえげつない鈴谷
10位 横須賀教導員天龍
11位 ネタ船長木曾
十二位 アホ
同率
空腹娘吹雪 
作者がラインバレル読んでネタを思い付いた睦月 

横須賀悪ガキ隊とアホは大差無い訳です、僅かに差がある位です。
まあ、港さん入れたら順位が一つずつ繰り下がるんですがね。
後、意外と背が高い瑞鶴ですが、横須賀の瑞鶴だけが〝初代瑞鶴〟と同じ身長なだけで、他の瑞鶴は平均的瑞鶴です。
あ、首領は意外と背が低いね。


「団長、一体何時ここ(播磨)に?」

「む? 私は最初から居たぞ?」

 

呆気に取られた仁田が、突如現れたグラーフ・ツェッペリンに問うと、実にあっけらかんとした答えが返ってきた。

 

「さ、最初からですか?」

「ああ、もっと言えば、お前が芳泉と斬り合う前からだ」

「見てたなら、早く助けに来いよぉ!!」

 

仁田は叫んだ。潜伏中とか、上官とか、そんな諸々は関係無いと、仁田は叫んだ。

自分が知る最大の絶対強者、その彼女が当たり前の様に、お前のピンチ見てたぞと言ってきたのだ。

死にかけた仁田にしてみれば、掴み掛かって怒鳴り散らしてもバチは当たらないと思う。

 

「何やってんですか、あんたは?! 若様の身が危うかったというのに、呑気に見物してたんですか?!」

「・・・いや、お前居るから大丈夫かなって」

「馬鹿! もう、馬鹿・・・!」

 

後の事は知らぬと、仁田は低下した語彙力で、グラーフに怒りを伝える。

怒りのあまり、馬鹿としか口から出ないが、こちらは人間の姿をした化け物の内の一人から、何とか要人を連れて命からがら逃げ出したのだ。

語彙が低下するのは当然だ。

 

「馬鹿とはなんだ? 馬鹿とは?」

「この際だから言わせてもらいますけど、もし、自分が間に合わなかったら、どうするつもりだったんですか?!」

「撃った」

「荒谷団長が、撃って止まる存在かよ!?」

「止まるまで撃った」

「もうやだ! この冷静な脳筋・・・!」

 

やり取りに付いていけていない瑞鶴ら三人を他所に、仁田は更に糾弾を強める。だが、肝心のグラーフは何処吹く風と、受け流していく。

 

「まあ、あれだ。お前が間に合う様に通信を入れたし、お前が大楯を捨てる動きを見せていたから、な」

「・・・」

「済まない事をしたのは事実だ。頭を下げろというなら幾らでも下げよう」

「・・・はぁ、頭を下げるなら若様とあきつ丸さんと瑞鶴さんにお願いします」

 

自分に非があれば、何の躊躇いも無く素直に頭を下げてくるから、この人はやり辛い。

仁田は上役に頭を下げさせてまで、怒りが続く質ではない。

傍で此方を伺う三人へと向き直った。

 

「では、改めて、私は篁近衛師団団長のグラーフ・ツェッペリン。客人という身分にも関わらず、若様を助けて戴き感謝する」

「まあ、気にしないで。こっちもこっちで、理由有りだしね」

 

頭を下げてくるグラーフに対し、瑞鶴は理由有りだから気にするなと返し、あきつ丸を見やる。

グラーフと啓生の間に自分を挟む様に立っており、まだ少し警戒しているのが分かる。

 

瑞鶴としても解らないではない。当然の如く音も無く現れ、気付けば距離を詰められている。

自分達がお話にならない実力者、それが僅かではあるが警戒しているのだ。

それは何故か。

 

「啓生殿、グラーフ殿の元へ」

 

その答えは簡単だ。あきつ丸には、直ぐに解った。

グラーフもあきつ丸も、その役目は似たものがある。

あきつ丸もグラーフも、警護を任としている。あきつ丸の所属は憲兵隊なので、主とはしていないが、金剛の専属運転手の他にそれも含まれている。

 

「・・・はい」

 

あきつ丸が促すと、篁は従いグラーフの元へと歩む。

 

「若様、お怪我は?」

「・・・大丈夫ですよ」

「左様で・・・」

 

篁がグラーフの傍に着くと、僅かに向けられていたグラーフの警戒が緩んだ。

警護を任とする者であれば、知らぬ者が主と居れば警戒せざるを得ない。あきつ丸も同じ、そういうものだ。

 

「あきつ丸殿、瑞鶴殿。改めて、感謝を」

 

グラーフが再度謝辞を述べ、頭を下げる。

瑞鶴は焦りの様な予感を内心に感じた。

仮にではあるが、今ここで篁達から離れたら、あきつ丸は二度と彼とは会えなくなる、かもしれない。

そんな、確証も無ければ根拠も無い予感だが、瑞鶴は確信していた。

 

ーーさて、どうする私?ーー

 

話を早く済ませるなら、篁達に着いて行った方が安全だ。

理由としては、あの近衛団長に狙われているだろうから。

だが、これだと鎮守府に所属していて戦闘能力があるのだから、自分達で何とかしろと言われかねない。

 

チラリとあきつ丸へ目をやる。

表情に変わりは無い。鉄血、鉄面皮と呼ばれる横須賀鎮守府憲兵隊長は伊達ではなかった。

しかし、背に隠した手は固く握り締められている。

 

ーー馬鹿ねーー

 

嫌なら言えばいい。離れたくないと、自分も共に行くと言えばいい。

しかし、それは言えない。言ってしまえば、行かねばならない。

あきつ丸は言っていた。

愛する者には、本当に好きな相手に想いを伝えてほしい。

このまま着いて行けば、知る事になる。見る事になる。

 

自らが愛した者が本当に愛する相手を知り、その相手に想い伝える瞬間を見る事になる。

あきつ丸には、それが耐えられないのだろう。

 

ーー私は、どうなんだろう?ーー

 

瑞鶴はふと、自分の場合はどうなのかと考えた。

自分にそんな相手は居ない。知らぬ者は穂波を勧めてくるが、アレはダメだ。何と言うか、アレはそういう対象ではない。と言うか、単純にアレは無い。

比叡の趣味を少し疑うが、アレはアレで良いところがある事を知っているから否定しきれない。

では五百蔵は、どうか?

手を出したら、死ぬ。榛名が大丈夫じゃなくなって、バックスタブされて死ぬ。

 

では仮に、瑞鶴に相手が居たら、それは誰なのだろう?

ふと、瑞鶴は考えを巡らせ、そして

 

「・・・!!?」

「・・・いきなり、顔を扇ぐとか、何をしているであります?」

「OKOK、大丈夫。気にすんな!」

 

突然、顔を赤くして扇ぎだした瑞鶴。明らかに大丈夫じゃない顔をしている。

何があったのかと、視線を向けてくる四人をはぐらかしながら、瑞鶴は脳内で当たり前の様に出てきた人物をどうにかしようとしていた。

 

ーーいやいや、何で先生が出てくるのよ?ーー

 

瑞鶴が想い描いた相手、それは自らの師であり艦娘の始祖でもある鳳洋だった。

何故、彼女が出てきたのかは解らないが、確かに最近は彼女と共に居る事が多い。と言うか、彼女が横須賀鎮守府に出入りする様になってからだ。

当初は訓練時に抵抗しては磔にされていたが、あの厳しさも自分達の為と思えば平気になった。 

 

訓練外では、気付いたら一緒に居る。

本当に気付いたら一緒に居て、ちょこちょこ後を着いて来る。

 

ーー少し小動物みたいだけど、私と先生の身長差からしたら、ねーー

 

洋が大体170㎝なのに対し、瑞鶴は約190㎝。その差は約20㎝以上、瑞鶴が聞いた話では〝初代瑞鶴〟も同じ位の身長だったらしい。

 

「瑞鶴殿?」

「よーしよしよし、落ち着け、あきつ丸」

「テメーが落ち着けであります」

 

訓練では鬼だが、訓練外では小動物。瑞鶴だけが持つ、洋に対する印象である。

 

ーーって、小動物な先生が可愛いとか、今はいいのよ!ーー

 

今はあきつ丸の恋路だ。

兎に角、今離れたら二度と会えない。予感でしかないが、確信はある。

だから、言わねばならない。

 

「あ~、そう言えば~、私達はどうなるの~?」

 

あまりの棒読みに、空気が凍った。

 

(いや、今のは無い)

(うっさいわね! あんたの為なのよ!)

 

思わず、口癖が消えるあきつ丸に小声で反論する瑞鶴。

それを見ている仁田は、何が起きたのかを理解している様子で、心配要らないとグラーフの背後でジェスチャーを返す。

 

(大丈夫です。皆様もお連れ様の元まで護衛致しますので)

(本当にありがとう)

(感謝であります)

 

仁田のジェスチャーにアイコンタクトで返す瑞鶴とあきつ丸、篁は何かを考えている様子のグラーフを何事かと見ていた。

やがて、考え込んでいたグラーフが口を開いた。

 

「そう言えばだが、本日の来客名簿の中に横須賀鎮守府総長殿の名が無かったが、一体如何なされたのか?」

「へ? 総長?」

 

横須賀鎮守府総長の金剛は、少々体調を崩して欠席としている。

理由は何でもいいから、適当に言っておけといわれたが、急に来られると何を言えばいいか迷う。

 

「あ~、総長は・・・」

「金剛殿の身に何かあったのか?」

「総長は・・・」

 

瑞鶴は唇を俯き噛み締め、一息を吐いて言った。

 

「膝にベンツを受けて療養中よ」

「膝にベンツ?!」

「そうよ! 膝ベンツよ!」

 

隣のあきつ丸の顔がスゴい。ヤメロ、そんな目で見るな。仕方なかったんだ。咄嗟に出たのが膝とベンツだったんだ。

繋げるしか無かったんだ。

子供を暗殺する話を聞いて体調を崩したとか、自分達のトップの弱点を態々バラす必要は無い。

だから、膝ベンツしか無かったんだ。

嗚呼、グラーフが目を見開いてスゴい・・・

 

(おま! おまー! 副長殿に投げられ殺されろであります!)

(介錯だったら、先生に頼むわよ!)

 

ヤケクソ気味に言い放った瑞鶴に、あきつ丸が小声で全力の抗議をする。

仁田は笑えば良いのかどうしたらいいのか解らず、篁はオロオロとグラーフと瑞鶴達を見比べている。

そんな空気が続いて、目見開き固まっていたグラーフが

 

「・・・何という事だ・・・!」

 

信じた。




嗚呼、うん、そうなんだ。
話はまだ進まないんだ。すまない、赦せとは言わない。憎んでくれて構わない。
ただ、時雨編の伏線を張りたかった。それだけなんだ。
今やる事ではないけど、やりたかったんだ・・・!


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お願いします 配点¦(いいよ!)

「「総長、お加減は?」」
「あア、夕石屋デスカ。大分、良くなりマシタヨ」
「「あまり、無理をしないで下さい」」
「無理をしているつもりはなかったのデスガ、歳ですカネ」
「「総長の御体は」」
「確かに、昔に比べて無理は効かなくなりマシタ」
「「総長」」
「だからこそ、私はあの子に〝火〟を渡したノデス」

だから、穂波。

「貴女の好きな様に、はしゃぎナサイ」

ベッドで半身を起こし、窓の外を眺めて呟いた。


艦娘の権威失墜、それは一体どういう意味なのか。

 

「私達の権威失墜? 一体、どういう意味ですか?」

「そのままの、意味よ」

 

吹雪の問いに神宮が、僅かに息を切らしながら答える。

顔色は先程とあまり変わりは無い様に見えるが、確か自力で歩いたのが一週間振りだと言っていた。

彼女の体力は人並み以下を下回るのかもしれない。

 

「艦娘の権威って、何だと思う?」

「艦娘の権威・・・」

 

自分達の事だから解っていて当然だと思っていたが、いざ言われてみるとこれが解らない。

権力は艦娘自身には無いし、これといった特権がある訳でもない。

基本的人権は尊重されているが、それは人間も同じだ。

艦娘と人間に、大した扱いの差は無い筈。

考え込む吹雪の隣で、巨躯が苦々しい息を吐いた。

 

「神宮嬢、近衛師団団長は三人で、その内二人は艦娘。それは間違い無いね?」

「ええ、その通りです」

「成程」

 

五百蔵はもう一度息を吐き、一度頷いてから、言った。

 

「君達は、自分達の命を賭け金にしたんだね?」

「正解です」

 

五百蔵は眉間を押さえ、目を閉じた。

考えうる中で、最悪の予想が当たってしまった。

 

「オヤジ、一体どういう意味だ?」

「何と言うべきか、先ずは艦娘が人間よりも強いってのが、ポイントかなあ?」

 

摩耶の問い掛けに少し悩みながら答えると、更に疑問が飛んでくる。

 

「いやまあ、強いけどよ。それが何の関係があるんだ?」

「キソーの言う通りだよ。私達が人間よりも強いって理由で、二人を暗殺するとか・・・・!」

「鈴谷君は気付いたみたいだね」

「いやいやいやいや、これって、いや、でもさ?」

 

眉間に皺を寄せる五百蔵に、鈴谷が若干混乱をしながら話を纏め、天龍が苦い顔をする。

 

「艦娘は人間より強くて、今の近衛師団の三団長の内の二人は艦娘で残る一人が人間だね」

「でも、それでどうして?」

 

睦月が問うと、天龍が近衛師団について言及する。

 

「まあ、睦月の疑問も尤もでな。何故かと言われりゃ、近衛師団団長は人間で固められてたんだわ」

「補足しますと、つい最近までは艦娘は居ませんでしたね」

 

神通が天龍に補足を加え、更に続けていく。

 

「近衛師団はあくまでも御三家の警護が任務ですから、そこに軍に所属する艦娘を入れたくなかったのでしょう」

「協力員として、限定的だが受け入れたりはしてたみたいだが、あくまでその現場だけ、隊士との接点は無かったらしいな」

 

近衛師団は人間組織であり、御三家は政治に関係する為、近年まで軍所属の艦娘が関わる事を嫌い、接点は最小限に留められていた。

しかし、

 

「第二次侵攻時に、主要都市が爆撃されて近衛は半壊、緊急案として艦娘を受け入れたのが始まりとされています」

「まあ、それでも、団長級に出世するのは、本当につい最近の事ね」

「御嬢様、あまり無理を」

「いいのよ。ここが、無理のしどころよ」

 

神宮が呼吸器を外し、身を起こす。

顔色は蒼白で、枯木の様な体は今にも倒れてしまいそうだったが、その目はギラつき強い光を持っていた。

 

「私達は、ここまで来ました。御三家現当主陣を説得し、情報を掻き集めて、暗殺計画を逆手に取る為に、偽の結婚式を成立させた。私は、私達は、死にたくない。死んでやるもんか」

 

強い口調、先程までの弱々しさは何処へ行ったのか。

神宮は椅子の肘掛けを握り締め、叫ぶ様に言った。

 

「啓生も死なせない。やっと、決心がついたって、彼は言ってた。ただ妾腹の子、それで幸せになれないなんて、おかしい。だから、計画したの。クーデターを無理矢理にでも、この結婚式で行わせる様に」

 

口や鼻から血が溢れ、呼吸が辛い呂律が回らない。

脳が酸素を欲して、ガンガンと喚いて考えが言葉が纏まらない。だがそれでも、言わなければいけない。

 

「私は、長くはない。明日には死んでるかもしれない。いや、もしかしたら一分後に死んでるかもしれない。だけど、私は殺されるなんてごめんだ。私は、私達は生きたい。啓生は前を向いた。私は残った時間を全力で生きる・・・!」

 

だから、どうか

 

「どうか、お願いします。私達の、抵抗に力を、貸して下さい」

 

痩せ細った足、定まらぬ足取りで立ち上がり、口や襟元を赤く染めながら、頭を下げる。

沈黙が部屋を支配し、長いようで短い時間が経ち

 

「いいよ!」

 

DOGEZAが磯谷に変形した。

 

「ちょっ、司令。いきなり何を?」

 

あまりに呆気ない了承に、驚いて顔を上げる神宮とバランスを崩して倒れかけた神宮を支える神通。

その目の前には、DOGEZAでありUMAでもあり横須賀鎮守府提督の磯谷穂波がVサインをしながら立っていた。

 

「いやさ、比叡ちゃん。私はこの世全ての可愛い女の子の味方であると同時に、この世全ての泣いてる子の味方なんだよ」

「ですが、こんな不透明な話を」

「不透明なら透明にしちゃおうよ」

 

言って聞かない磯谷に食い下がる比叡。横須賀鎮守府では見慣れた光景だ。

だから、磯谷は比叡を含む他のメンバーに向き直り、笑った。

 

「皆もさ、手伝ってよ。私が三笠ちゃん達を助けるのを」

 

にっこりと笑って、磯谷は手を差し伸べてくる。

比叡は眉間を揉み解し、内心で嘆息する。

磯谷穂波は、こういう者だ。誰かが泣いていると、いつの間にか現れバカをして、誰かが悲しんでいると、当然の如く現れ手を伸ばしてくる。

そういう(バカ)なのだ。比叡はそれを改めて認識し、改めて思い出した。

 

「はあ、分かりましたよ。・・・昔、そう決めましたしね」

「ホント! ありがとう、比叡ちゃん!」

「ですが、その前に」

「へ?」

「襟を正して下さい」

 

どうせ、あの仕掛けを仕込む際にはしゃいだのだろう。

磯谷が着ているドレスは、裾や襟が少し乱れていた。比叡はそれを直す為に、磯谷をほんの少しだけ、他からは分からぬ様にほんの少しだけ抱き寄せてから、服装や髪を直していく。

 

横須賀鎮守府が決めた事がある。

嘗て決めた事、この小さな少女が変わらず何時までも、そのままで居られる様に。

磯谷穂波(バカ)磯谷穂波(バカ)のまま提督をやれる様に、自分達が何とかしよう。なんとかしてやろう。

そう決めた。

 

「はい、出来ましたよ」

「ありがとー」

 

気が抜ける、何処までも底抜けで明るい声で礼を言い、磯谷は再度向き直った。

 

「皆、行こうよ。啓生君達を迎えにさ」

 

磯谷穂波(バカ)が笑い言えば、溜め息が聞こえ全員が動き出した。

 

「それはいいが、磯谷嬢。何をするのか理解しているのかね?」

「いやぁ、正直な話、解ってません!」

「自信を持って言う事じゃないね」

「えー、五百蔵さんは解ってるんですか?」

「君ね。まあ、いいや。大体の予想でしかないけど、解っているよ」

 

五百蔵は頭を掻いて、ネクタイを弛める。

普段着け馴れていないからか、少しばかり肩が凝る。

 

「しかし、予想よりかは、事実を聞こうじゃあないか」

 

なあ、神宮嬢。五百蔵が言うと、神宮は頷いた。

未だ神通に支えられてではあるが、真っ直ぐに五百蔵を見詰めている。

 

「・・・目的は艦娘の権威失墜。方法は、艦娘の中でも実力者である二人が警護する私達を、人間である荒谷が暗殺するというもの」

 

人間よりも強い艦娘が警護する人物を、人間が正面から暗殺する。

それが何を意味するのか。

単純だが、無視は出来ない結果が生まれる。

 

「艦娘の不要論。それそのものか、それの火種が生まれる。荒谷芳泉の目的は恐らくそれです」

 

艦娘はもはや要らぬ。人の世は人の手で守るべきである。

艦娘不要論。荒谷芳泉の目的は、それの礎となる事。

それを聞いた五百蔵、磯谷以外の、榛名達艦娘は何を言われたのか理解出来なかった。




横須賀鎮守府埠頭にて

「先生、動かないわね?」
「そうですね、赤城さん」
「やはり、瑞鶴さんが居ないのが?」
「あの五航戦がですか」
「何か?」
「いえ、何も」

埠頭に佇む洋の足元には、何故か二人分のかき氷が置いてあり、手にはわたあめがあった。


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つまりはそういう事だ 配点¦(誰かがやらねばならない)

わーい、久し振りに話が進まない!
疲れたよ・・・

あ、艦これ短編〝隻眼の鬼神〟と〝ほな、さいなら〟も宜しくお願い致します。


「・・・何という事だ・・・」

 

グラーフ・ツェッペリンが信じた。

瑞鶴は焦った。まさか、膝に矢ではなくベンツを受けて寝込んだとか、明らかな話を信じるとは誰が予想出来る。

膝にベンツとか、普通に交通事故だし、横須賀鎮守府で運転手と言えば隣でスゴい顔をしているあきつ丸だ。

つまり、この話を信じるなら容疑者はあきつ丸。

 

「〝閣下〟の身にその様な事が起きていたとは・・・ ん?」

 

グラーフが何かに気付いた。怪訝な顔であきつ丸を見ている。

どうやら、近衛は横須賀鎮守府の内情にも通じている様だ。瑞鶴はあきつ丸に横目を向ける。あきつ丸も同様に瑞鶴に横目を向けている。

あちらは情報を持っていて、連携も取れている。

こちらは情報が不足していて、連携は不十分。

迂闊な嘘は吐けない。交渉で虚実を織り混ぜるのは当然だが、虚実の〝虚〟を間違えれば、その瞬間に信用を失って全てが御破算となる。

 

ーー帰りて~ーー

 

帰って、先生とテラスでお菓子食べたい。

頬っぺに生クリーム付いてるよ?とかやったら、どんな反応をするだろうか?

あきつ丸放って帰ろうか。

 

ーーて言うかーー

 

今、変な単語混じってなかった?

〝閣下〟とか聞こえた気がした。仁田も白い目で、グラーフを見ている。

 

「・・・つかぬ事をお尋ねするが、あきつ丸殿は確か、〝閣下〟の専属運転手では?」

 

グラーフが眇を向けて、あきつ丸に問う。

しかし、〝鉄血〟〝鉄面皮〟の横須賀鎮守府憲兵隊隊長は、特にこれといった動揺は見せず、

 

「あれは悲しい事故でありました。まさか、主任整備士の悪戯があの様な事に繋がるとは・・・」

 

意図も簡単に仲間を売り飛ばした。

何の躊躇も無かった。即座即断即決、さも当然の如く自分の保身に走った。

クソ野郎である。

しかも、表面上は変化無く言ってのけるので、更に質が悪い。

マジクソ野郎である。

 

「ああ、しかし、その整備士を責める事は出来ないのであります」

「何故だ? 〝閣下〟のお膝にベンツだぞ? ただ事ではない」

「確かにそうでありますが、その整備士の悪戯は本当に可愛いもの、子供が手製のビックリ箱を見せる様な悪戯だったのでありますよ」

「・・・ただの不幸と偶然の積み重ねと言う訳か?」

「そうでありますよ。我らが総長の性格は知っているのでしょう?」

「そうだな」

 

さも、悲劇を語るが如く、眉をひそめて瞳に哀しみを込めたあきつ丸に、グラーフは態度を崩さないながらも退いた。

金剛が不在の理由を誤魔化す事が出来、そしてグラーフが金剛の性格も知っている事も解った。

厄介な話だ。

 

「あの金剛総長〝閣下〟なら、そう仰られるだろうな」

「総長に会った事が?」

「遠目ではあるが、一度だけ拝見した。確か、あの〝紅霧島〟が同席していたな」

 

あきつ丸は言質を取った。

グラーフの言うところの〝閣下〟とは、確実に金剛の事を指している。確信はあったが、確定が欲しかったところにこれは有り難い。

瑞鶴も横須賀鎮守府の役職者、あまり仕事は無いが第四特務だ。

たまにはそれらしい事をしないと、何処ぞの第三特務(木曾)みたいな扱いになりかねない。

しかし、瑞鶴は交渉事は得手ではない。この辺りは第二特務の鈴谷がかなりえげつないので、大体は任せきりにしていたのが災いしている。

 

ーー先生も割りと交渉事苦手だしーー

 

自らの師を引き合いに出して、瑞鶴は自分を弁護する。

確かに、鳳洋は交渉事が苦手だ。と言うより、途中で面倒になるのか、

 

斬れば(撃てば)解るのでは?」

 

と考える節がある。

何時だったか、吹雪と睦月の件で呉と交渉した際に、呉の第二特務が利権をほんの少し渋って交渉が長引いた時、

 

「あら?」

 

同席していた洋の着物の袖から、甲板刀がズルッと出てきて場が凍った。

呉の第二特務が青い顔でこちらの条件を飲んで、鈴谷が鈍い汗をダラダラ流しながらそれを了承した。

お陰で、横須賀の粉ものチェーンが呉の一等地に進出して、高い利益を上げている。

 

「それにしても、〝閣下〟は不在か。そうか・・・」

 

明らかにへこんだ様子のグラーフ。確かに金剛は忙しく、鎮守府に居ない事も多い。だが、会えない程に忙しいのかと言われれば、それは違うと言える。

事前にアポを取れば、誰でも会える。

この間も、近隣の小学生が学校新聞の取材に来ていた。

子供好きな金剛は大いに喜び、随伴していた教師の顔がひきつるレベルの高級菓子を山程与えて話をして、土産に教師が悲鳴を上げるレベルの菓子を山程全員に持たせていた。

そんな、去る者追わず来る者拒まずな金剛だ。

何をそんなに残念がるのか?

 

(瑞鶴さん、瑞鶴さん)

 

その答えは、いつの間にか篁を連れて両者の間に立っていた仁田から、小声でもたらされた。

 

(何々? どうしたのよ)

(団長ですけど、実はですね。そちらの金剛総長殿が出されている詩集の大ファンでして・・・)

 

どうにも言い辛そうに伝えてきた内容は、公私混同としか言えないものであった。

瑞鶴は口を横にした顔をグラーフに向けてしまったし、あのあきつ丸も顔に出かけていた。

 

(ああ、うん? もしかして、サインでも貰おうとしてたとか?)

(まったくもって、大当りです・・・)

 

瑞鶴のツインテールが項垂れた。そんな気がした。

自分達は荒事覚悟で来ているのに、当の本人というか本組織の長の一人は公私混同という事実。

一気に疲れた。もう、あきつ丸(へたれ丸)の恋路など、どうでもよくなってきた。放って、一人帰るかなどと考えたが、そうも言っていられない事もまた事実だ。

なら

 

「総長に会いたいなら、私達が渡りを付けてもいいわよ」

 

これを材料に、事が終わった後の横須賀と北海、両鎮守府を少しでも有利にする。

荷が重い。正直な話、この類いは鈴谷の仕事だ。

鎮守府を守って、仲間の恋路も成就させる。

真面目にキツい。緊張のせいか、胃の辺りが下に向けて、グーッと引かれる感覚がある。

これで失敗したら、鈴谷に嫌味言われる。軽くてズッシリくる奴言われる。

 

「本当か!」

 

一も二もなく食い付いてきた。フードの下に隠れた目が輝いている。

瑞鶴は内心で、先ず第一関門突破を喜んだ。失敗したら、あきつ丸に擦り付けようと思っていたが、この分だとなんとかなりそうだ。

 

「本当も本当、これで嘘でしたーなんて言ったら、私達が死ぬわ」

 

あまり背は高くないグラーフが瑞鶴を見上げてくる。その際に、装甲服の下のグラーフ胸部装甲が揺れたのを見て、瑞鶴は内心で歯噛みする。

装甲服で押し込められてなお、揺れたという事はどういう事か。つまりそういう事だ。ファッキン!

篁もあきつ丸とグラーフを見比べて、もう一度あきつ丸を見て、顔を赤くしている。

顔立ちや体格を再確認して、本当に男かと疑いたくなるが、男社会の士官学校で性別を偽るのは流石に不可能だ。

しかし、今の行動を見ると、男だと解る。

 

「で、その代わりにだけど、横須賀北海両鎮守府と町に責が及ばない様にしてほしいの」

「・・・ふむ」

 

瑞鶴の要求に少々渋い顔を作るグラーフ。瑞鶴は焦った。

 

ーーやばっ、もう少し段階踏むべきだったわ・・・!ーー

 

あきつ丸も僅かだが、冷や汗を流している。やはり、交渉事は苦手だ。

というか、サインの代わりに政治的要求とか、自分は何を考えているのか?

そんなものが通る訳が無いだろうに。

 

「よし、解った!」

「え゙?」

「は?」

「その代わり、条件を追加させて貰う」

「お、おう、良いわよ」

 

通った。まさかの快諾に怯みながら、瑞鶴はグラーフが追加してくるであろう〝条件〟というものに考えを向ける。

 

ーー横須賀の利権? 近衛が? じゃあ、鎮守府の技術?ーー

 

横須賀鎮守府の技術力は高い。近衛が欲しがっても不思議は無い。もしかしてがあっても、交渉次第でなんとかなるものだ。

身構える瑞鶴に、グラーフが口を開いた。

 

「〝閣下〟との一対一での対談と会食を希望する!」

「何を言ってんだ、あんたは?!」

 

仁田の叫びが倉庫内に木霊した。

上役だが、これには物申さずにはいられない。

 

「何をするんだ、仁田?!」

「何をするんだって、若様も御嬢様も通さずに、何を決めてるんですか?! そこまでの権限無いでしょう!」

「しかしだな。〝閣下〟のサインだぞ?」

「後日、アポ取って横須賀行けばいいでしょうよ!」

 

言い争う二人を横に、瑞鶴はこの交渉をどうするのかを考える。

取り敢えず、交渉は半分は成功したと言えるだろう。

もう半分は鈴谷だし、その先の交渉も鈴谷だ。

第四特務は戦闘が主だ。交渉は知らん。

 

「あ、あの、あきつ丸さん」

「な、何でありますか? 啓生殿」

 

顎に手を当てて考える瑞鶴の横で、あきつ丸と篁が見詰め合い、篁が言った。

 

「も、もしかしたら、またなにかあるかもしれませんから、着替えた方がいいかもしれません」

「そ、そうでありますな。瑞鶴殿」

「え、あ、そうね」

 

二人の今の服装は、会場から移動して荒谷と交戦した時のままで、艦娘の装甲繊維で編まれた制服ではない。

あの怪物相手では、装甲繊維製の制服でも心許ないが、無いよりマシだ。

二人は格納空間から制服を取り出した。

 

「それじゃ、パパッと着替えてくるから、話はその後ね」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「団長」

「見付からんか?」

「申し訳ありません」

「構わん。要人達は?」

「恐らくは、神宮の手でしょう。既に〝播磨〟から退出しています」

「流石だな」

 

濃い藍色の兜が頷くと、報告していた白の装甲がそれに同意した。

 

「我々と、奴らの用意した手勢。どちらが勝つか、相対戦でも挑むつもりか」

 

藍色、荒谷は頬当ての中で呟き、装甲に包まれた手を強く握った。

まだ幼い二人、その二人の子供も手に掛ける。

覚悟はしている。

そして、その先にある混乱や罵倒も、何もかも理解の上だ。その上で、皆もここに居る。

 

瞼を閉じた荒谷の耳に、声が聞こえた。

 

『ねえ、団長。私は・・・』

 

荒谷は閉じた瞼を開き、刀の柄を掴んだ。

 

「隊に報せろ。動くぞ」

 

部下に指示を出し、藍色が立ち上がる。

 

「我々の悲願を達成する!」

 

恨みも憎しみも何もかも、俺が持っていく。

誰にも聞こえない呟きは、藍色の装甲の中に消えた。




荒谷の理由は?


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それが理由なら 配点¦(解るけど、解りたくない)

あばばばばばばばばばばば!
お気に入りが二百件越えだと!

というか、クーデター理由に無理があるかな?



ネタ

鳳洋=両義「」


「目的は分かったよ。で、動機は?」

 

鈴谷が問う。その目に普段の色は無く、ただ〝横須賀鎮守府第二特務〟としての眼光で神宮と神通を見据えていた。

 

「動機、ですか」

「まさかだけど、分からないなんて言わないよね?」

 

少々渋い顔を見せた神宮に対し、鈴谷は目を細め、神通が僅かに重心を前にずらした。

それに気付いた霧島が直立から、足を肩幅に開いた。

 

「神通、控えなさい」

「しかし・・・」

「これはこちらの不手際、交渉や謀略は誠実よ?」

「畏まりました」

 

神通が神宮の背後に下がると、鈴谷の背後に居た霧島も警戒を解いた。

 

「助かるよ。あ、後さ、助かるついでに、こっちの表示枠を使える様にしてほしいんだよね」

「ええ、構いません。神通」

「はい、では」

 

言うと神通は懐から取り出した端末を操作する。

すると、鈴谷が手元で操作していた表示枠から、徐々にノイズが消えていき、何時もの画面が鈴谷達の顔前に現れた。

 

ズーやん¦『では、表示枠復活。さて、今回の裏とか気付いた事ある?』

鉄桶男¦『また、いきなりだね』

鉄桶嫁¦『いや、まあ、そうですね。分かり易い目下の敵としては、斑鳩近衛師団という事ですね。先ずは』

元ヤン¦『んで、主犯は団長の荒谷芳泉』

船長¦『しかし、動機は不明』

邪気目¦『目的もな』

空腹娘¦『あれ? 目的は解ってませんでした?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、今回の暗殺は目的じゃなくて、どちらかと言うと手段だよ』

ヒエー¦『艦娘の中でも、随一の実力者の二人が警護する要人を、人間である荒谷が暗殺し、艦娘の不要を世に唱える』

副長¦『かなり、回りくどいやり方ですが、今の厭戦気分が蔓延する世論には効果的とも言えますね』

ほなみん¦『比叡ちゃん、斑鳩近衛師団に艦娘は居る? 若しくは居た?』

 

磯谷の問いに比叡は表示枠を操作し、斑鳩近衛師団の名簿ファイルを開いた。

暫く、ファイルに目を通した後、比叡は磯谷の問いに返した。

 

ヒエー¦『過去十年ですが一件だけ、名前不明の隊士が殉職しています』

ほなみん¦『名前分からない? 顔と性別は?』

ヒエー¦『顔と名前は今あるファイルでは分かりませんが、性別なら女性と記載されています』

ほなみん¦『そっか・・・』

鉄桶男¦『磯谷嬢、何か分かったのかね?』

ほなみん¦『いや、分かったというか引っ掛かるというか、多分その女性が鍵かなぁ?』

ズーやん¦『仇討ち?』

邪気目¦『なら、その仇を討てば終わりだ。俺達の権威の失墜だか剥奪だかに、手を出す理由にはならねぇ』

船長¦『その仇が艦娘なら、どうだ?』

 

木曾の言葉に天龍は目だけを動かし、神宮の横で表示枠を操作する神通を見る。

最近、外部へと配布され始めた表示枠。採用するのが早い。

恐らくだが、近衛全体には浸透はしていないだろう。

近衛師団は血統主義の様なものが蔓延している。どれ程に優れたものであろうと、血筋や経歴が確固たるものが無ければ、それが人であろうと物であろうと採用しない。

一鎮守府の一技術役の艦娘が作ったものを、近衛師団が採用するとは、天龍には思えなかった。

 

ーー全ては神宮三笠かーー

 

天龍は恐らく、今回全ての引き金に指を掛けているであろう神宮に目を向けた。

 

「天龍。如何しました?」

「いや、なにも」

「そうですか」

 

邪気目¦『艦娘が仇なら、そいつを殺せばいい。まあ、恨み積もって〝艦娘〟自体を憎んでいるなら話は別だが』

元ヤン¦『そういう奴じゃないと?』

邪気目¦『直接の面識は無いがな。艦娘を憎むとか、そんな奴じゃねぇ筈だ』

船長¦『だったらなんで、こんな事を?』

鉄桶男¦『目的が確かじゃないから、はっきりとした事が言えないね』

鉄桶嫁¦『目的が確かじゃないって、艦娘の権威失墜が目的なのでは?』

 

顎を撫でて眉を寄せる五百蔵に榛名が問うた。

 

鉄桶男¦『いやさ、確かに今回のターゲットの二人は血筋も家柄もあるし、何かあったら事だという事も理解出来るけど、二人だけ暗殺して急激に世論は変わるものかね』

船長¦『確かにな。叔父貴の言う通りだ』

ヒエー¦『言ってしまえば、社会的権力を持たない子供二人』

副長¦『例え暗殺されても嫌な話、情報規制や操作でどうにでもなる』

ズーやん¦『・・・ヒエー、名簿。今、〝播磨〟に居る斑鳩近衛隊士の』

ヒエー¦『え? あ、はい』

 

「鈴谷、どうしたよ?」

「うん・・・ もしかしたらさ、かなり厄介かも」

「厄介?」

「動機次第、だけどね」

 

そう言い、鈴谷は比叡から渡された名簿から、先程から黙したまま、なにも語らない神宮と神通に目を向ける。

 

「ねぇ、二人共。荒谷は、どうしてクーデターを起こしたの?」

「それは、私達にもはっきりとは言えないのですよ」

「言えない?」

「いくら調べても、確たる情報は出てこず、恐らくはその殉職した女性隊士が関係しているとしか・・・」

 

鈴谷は頭を抱えた。一応、予想があるが、はっきりとした動機が判れば、そこから崩す事も出来たが、肝心のそれが判らない。

しかし二人の様子を見るに、隠しているという訳ではなさそうだ。本当に判らないのだろう。

 

「兎に角、情報を整理しようか」

 

鈴谷は神宮達にも見える様に、表示枠をホワイトボードの様に広げる。

 

元ヤン¦『先ず、敵は斑鳩近衛師団で、目的は神宮三笠と篁啓生の暗殺による艦娘の権威失墜』

空腹娘¦『しかし、動機はいまいちはっきりせず』

にゃしぃ¦『恐らく、十年前に殉職した女性隊士が関係している?』

船長¦『仇討ちかと思ったが、何か違う』

邪気目¦『オッサン、どうした?』

鉄桶男¦『いやね、名簿見たんだが、薄らぼんやり見えてきたよ』

鉄桶嫁¦『どういう事ですか?』

 

全員の視線が巨躯に集まる。

五百蔵は額を軽く掻いた。

 

鉄桶男¦『鈴谷君も気付いたんじゃないかな?』

ズーやん¦『ねぇ、オジサン。これってまさか、本当にそういう事なの?』

鉄桶嫁¦『冬悟さん、これって・・・』

鉄桶男¦『今、〝播磨〟に居る斑鳩近衛隊士は全員、十年前以前から近衛師団に所属している古株で、勿論十年前の殉職した女性隊士の事も知っている筈だ』

 

そして、と五百蔵は神通にある事を聞いた。

 

「神通さん、貴女はこの女性隊士を知っていますか?」

「申し訳ありませんが、私は存じ上げません。十年前となると、私が近衛師団に入る前後なので・・・」

「有難う御座います」

「叔父貴、一体どういう事だ?」

「うん、鈴谷君がさっき言っていた様に、今回の件は動機次第でかなり厄介になる」

 

五百蔵がそこで切り、鈴谷が続ける。

 

「仮定だけどね、仮に殉職した隊士が艦娘だとするよ? 十年前にその部下を喪った荒谷と師団隊士達、艦娘を憎んでいる訳ではないし、急激な排斥運動を行っている訳でもない」

「名簿を見たんだが、斑鳩近衛師団には女性隊士はその殉職した一人しか居なかった」

「まさかだけどよ、荒谷が、いや、荒谷達がクーデターを起こした理由は・・・!」

 

摩耶が目を見開いた。

鈴谷が溜め息を吐いた。仮定とは言え、これが理由なのかと、怒りたくもなるが、解る気もする。

実際、横須賀の街でもあるのだ。〝そういった視線〟を受ける事が。

 

「艦娘の権威を失墜させ、軍事を艦娘が現れる前に戻し、自分達が再び矢面に立つ時代を作る。それが奴等の目的だ」

 

五百蔵が言うと、一つの表示枠が飛び出してきた。

唖然とする面々が動きを止めて見る。

 

七面鳥¦『誰か! 誰か居る?!』

 

行方が知れなかったメンバーの一人の瑞鶴だ。

表示枠はノイズが多かったが、彼女が焦っている事が分かり、戦闘音が聞こえる。

 

ほなみん¦『どうしたの? 瑞鶴ちゃん』

七面鳥¦『あ! 穂波?! あきつ丸と篁啓生が!』

ほなみん¦『二人がどうしたの?!』

七面鳥¦『うわっちゃ! ちょっと、グラーフ! そのデカ蛇、なんとかしなさいよ!』

 

瑞鶴の叫びが表示枠越しに響いた瞬間、炸裂と破砕が連続した咆哮が海上都市艦〝播磨〟に轟いた。

 

七面鳥¦『兎に角! 今は斑鳩近衛師団と戦闘中! あきつ丸と篁啓生が拐われて、グラーフが追い掛けてるけど、あの〝鉄蛇(ティシェ)〟が邪魔でどうにもなんない!』

 

事態が一斉に動き出した。




次回は少し時間を巻き戻して、瑞鶴達が戦闘に入るまで

そして、あきつ丸が・・・!


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繋ぎたいけれども 配点¦(繋げない)

ちょっと時間が戻るよぅ!

軽二屋¦『機動殻出したな』
逆脚屋¦『おう』
軽二屋¦『機竜も出るな?』
逆脚屋¦『ん? おお』
軽二屋¦『重武神は?』
逆脚屋¦『まったく、頭の悪い奴だ。これは何の二次創作だ?』
軽二屋¦『逆脚ワールド』
逆脚屋¦『とうとう、脳がカビたか・・・。艦隊これくしょんの二次創作だ・・・!』
軽二屋¦『はあ?』

奴とは決着を浸けなければいけないと思う逆脚屋です。

新用語

機殻士(きかくし)¦機動殻を扱う人達の総称。劇中では、オッサン、ほなみん、霧島、仁田、荒谷がこれに当たる。


「着替え終わったわよ」

 

制服に着替え終わった瑞鶴とあきつ丸が、物陰から出てくる。

やはり、慣れた服装の方が良い。どうにも、ドレスや礼装といったものは、190cmと長身の瑞鶴には少々辛いものがある。

 

「あきつ丸さん」

「啓生殿、どうかされましたかな?」

「これを、どうぞ」

 

言って篁がおずおずと差し出してきたのは、携帯食糧と水の入った水筒だった。

ただの携帯食糧と水筒、その筈なのだが、

 

(いやぁ、瑞鶴さん)

(だねぇ、仁田さん)

((初々しいなぁ、おい!))

 

二人共に顔を赤らめ、おずおずもじもじしている。

もう一度、篁が渡している物はただの携帯食糧と水筒だ。しかし、二人は顔を赤らめて、おっかなびっくりしている。

篁はまだ解る。彼はまだ15才、この反応も当然だろう。

だがしかし、対するあきつ丸は二十代後半、雑に言えばアラサー。年齢差は約二倍近い。照れるな。

 

「・・・む?」

「どうしました? 団長」

「つまり、どういう事だ?」

「は?」

 

グラーフが首を傾げた。仁田が呆けた顔を向けてきた。

まさか、解ってないのか。瑞鶴と仁田は顔を見合わせ、もう一度グラーフを見た。

 

「なんだ、どうした?」

「いや、あの団長? まさかですけど」

「ふむ? 若様の恋慕の相手は、御嬢様の筈ではなかったのか?」

 

グラーフが言うと、仁田と瑞鶴が固まった。

確かに、篁啓生には想い人が居た筈だ。それがあきつ丸ではないかもしれないという事も、瑞鶴は知っている。

だが、あの篁の反応はなんだ?

あれではまるで、あきつ丸がそうだとしか見えない。

 

「違ったか?」

「いや、そうですけど・・・」

「なら、あれはどういう事だ?」

「あ~、そのですね?」

「ふむ・・・。側室か?」

「いや、ホント、言葉選べよ・・・」

 

仁田が項垂れる。どうにも、自分の直属の上官は言葉を選らばなさ過ぎる。

だから、あまり表には出ず、裏方に徹しているのだが、もう少し考えて喋ってほしいとも、仁田は思う。彼女が表に出れば、それだけで危険分子への威圧になる。

そうなれば、他関係各所の負担も減るだろう。

だが、御三家近衛師団最強のグラーフ・ツェッペリンは、歯に衣着せぬ物言いを平然とする。

下手をすると、神通や他広報役の負担が増大しかねない。いや、増大する、それはもう確実に。

 

「ならば、めか・・・」

 

グラーフが続けて言葉を口にしようとした瞬間、仁田は機動殻の腕部装甲内に内装されているナイフシースからナイフを抜いて、彼女の喉元へその切っ先を突き付けた。

 

「・・・団長、少しは言葉を考えて覚えましょう。先程もそうでしたが、若様が居られる前で、その言葉は先程以上に正しくありません」

「済まん。止めてくれて感謝する」

「いきなり物騒ね、あんた達」

 

弓矢と艦載機の確認をしていた瑞鶴が、半目で口を横にした顔を二人に向けている。

彼女の顔が向く先には、ナイフシースから伸びたアームが接続されたままのナイフを突き付ける仁田と、両の目を閉じて喉元にナイフの切っ先を突き付けられながら、ライフルの銃口を機動殻の装甲の隙間に突き付けたグラーフだ。

 

ーーやっぱり、気にしてはいるのねーー

 

仁田が止めたグラーフの言葉は〝(めかけ)〟だろう。側室でも正しくないと言っていたのだ。忠義を尽くす近衛隊士としては、主を差別する言葉は控えるべきだ。

 

側室も妾も、反対にある言葉のどちらにも頭に〝正〟の字が付く。どちらも正しく、共に在り、故に主にも正しく在ってほしい。

歴史がある組織に属する者は、やはり、そう思うのだろうか。

瑞鶴にしてみれば、どうにもその辺りの事はどうでもよく思っていたりする。

これは、彼女が属する組織の長がそうでない事が当然に近いからだが、アレと他様を比べたらいけない。瑞鶴は今までに無い速度で思考を閉じた。

そして、自分達三人の前付近に居る二人へ、視線を向けた。

 

「やはり、まだ線が細いでありますな」

「・・・一応、食べる量は増やして、肉類と豆類も多く摂る様にしているのですけど」

「自分としては、これが良いのでありますが・・・」

「え?」

「・・・何でもないであります」

 

篁の体に触れながら、欲望を漏らす正太郎コンプレックスが居た。聞こえたらどうするつもりだったのか。

かなり危険な絵面だ。身内から性犯罪者が出るかもしれない。だが、瑞鶴は半目を向けるだけで何も言わない。

下手な発言をすれば、自分も巻き込まれるかもしれないし、もしかすると横須賀まで巻き込まれる。

それを回避する為には、あきつ丸に犠牲になってもらうしかない。

頑張れ、あきつ丸。お前だけが犠牲になってくれ。

 

しかし、篁は線が細いと瑞鶴も確かに思う。

男なのは確実だろうが、衣装や化粧次第でいくらでも化ける。華奢な体に見目麗しい紅顔、その手の趣味を持つ者からしてみれば、喉から手が出る程のものなのだろう。

目の前の奴がそうだし。

 

「啓生殿、少し体のバランスが崩れているでありますな」

「あ、今日の準備が忙しくて、ランニングとか少し省いたり・・・。あ、でも、サボったとかじゃなくて・・・!」

「まあ、それは仕方ないであります。・・・篁となった啓生殿の大事な役割でありますし、啓生殿がサボタージュをするとは考えられないでありますから」

 

あきつ丸の手つきが危ない。電車に乗った事が無い瑞鶴だが、あれが話に聞く痴漢の手つきだと想定出来た。

しかしよく見れば、触れている部分は痴漢がよく触れるという尻ではなく、肩や背中、体幹に近い部分を確かめる様に触れている。

姿勢を正しているのだろうか。手つきが危ないので、痴漢に見えるが、その実は鍛練の一環なのだろう。 

 

そして、これだけが、今の二人を繋ぎ合わせているものなのだろう。

 

ーーというか、あのバカ蜻蛉・・・ーー

 

瑞鶴は近衛の二人を横目に、同僚のヘンタイ行動にどうか反応してくれるなと祈りながら、二人の反応に目をやる。

 

先程から、あきつ丸の手が篁の手に触れる手前に、彼女から離れ、しかしまた離れた手を伸ばそうとしている。

篁はあきつ丸の逆だ。

あきつ丸の手に触れる手前に、彼女の手に触れようとするが、しかし悔やむ様に手を退いてしまう。

 

二人にしか分からぬ何かがあるのだろう。結局、一度も繋がれる事は無く、二人の手は離れた。

二人が何かを口にしようとするが、それらは言葉にはならなかった。

 

「頃合いか。行くぞ、仁田」

「は? 行くって、何処へです?」

「三笠御嬢様と神通の居る場所だ。手筈通りなら、他の御客人達も合流しているだろう」

 

時計を見たグラーフは装甲服のフードを深く被り直し、篁を含む瑞鶴達三人を背後にする。

 

「ほら、仁田。行け」

「いや、それが仕事ですから行きますけど、もうちょっとあるでしょうよ?」

「この中でお前が一番装甲に勝る。何かあっても、お前を楯に若様と御客人達を逃がせる」

「ドライだ!」

 

機動殻に身を包んだ仁田が叫ぶが、彼は叫びながらも短槍を構えて前へ出る。

幅広の刃部の腹を胸前に置き、半身に部屋から廊下へ。

薄暗い、作業灯のみが照らす空間に濃い朱色の鎧が僅かに足音を立てた。

 

「反応は無し、当たり前か」

 

仁田は機動殻のバイザーを下ろし、視界に映る廊下を熱反応をスキャン。体温、斑鳩近衛師団特有の大型跳躍器の熱反応共に無し。

自分もそうだが、機殻士(きかくし)は狭い戦場を嫌う。機動殻は人間が入るか纏う機械式の鎧だ。当然、サイズは人間の身より大きくなり、熟練するか仕様を変えるかしない限り、人の身で出来る細かい動きは出来ない。

 

「皆さん、付いて来てください」

 

斑鳩近衛師団の機動殻は篁近衛師団のそれと違い、格闘性と機動性に特化している。

銃火器の類いの装備が殆ど無い代わりに、これらに特化した機体は一瞬で距離を潰してくる。

主に仇なす敵対者を瞬時に斬り伏せ、敵を殲滅する。

 

直線での加速は、他近衛師団の機動殻など比べ物にならない。

特に、今仁田が警戒している廊下のように障害物も無く、標的が目視出来る場所は、

 

「仁田!」

 

斑鳩近衛師団の独壇場と言える。

 

「何処から?!」

 

金属が鳴らす甲高い擦過音を響かせ、白の鋭角な鎧が朱色の鎧にぶつかり、朱色が白に連れ去られる。

 

「団長! 若様とお客様を・・・!」

 

仁田は白が持つ刃を短槍の柄で受けながらグラーフに叫ぶ。

離され行く視界で、仁田は背後に続く廊下の果てに光があるのを見た。

 

ーー壁を斬ったのか・・・!?ーー

 

滅茶苦茶だ。

音も無く、此方が背後に振り向く一瞬で金属の壁を斬り裂き、加速し自分に突撃するなど。

 

「成る程、団長が誉めるだけはあるな」

「こ、の・・・!」

 

長刀と短槍が火花を散らす。仁田は機動殻の背中にある跳躍器に火を入れ、無理矢理にでも押し戻し加勢しようとするが

 

「だが、甘いな」

「あっ!」

 

相手の白の腰にある跳躍器の角度が変わり、右方向へと急激な加速が加わる。

長刀と短槍を軸にした方向転換加速は、長刀の刃先を仁田の首筋へと向かうが、仁田はこれを回避する為に同じ右方向へ加速する。

だが、白の狙いは仁田の首ではなく、違うものであった。

 

「団長、御武運を・・・!」

 

白の目的は仁田を巻き込み、廊下の右側にあった非常用避難路へ飛び込み、厄介な楯役を排除する事だった。

すべては、

 

「やはり、不意は打てんか」

「荒谷・・・!」

 

自分達の最高戦力をぶつける為に。

群青の機動殻が白の装甲服と対峙する。

グラーフは左に持った短機関銃から弾丸を撃ち出し、荒谷を引き離そうとする。

だが、荒谷はその弾幕を狭い廊下で身を翻し回避、続く動きでグラーフの胴を薙ごうとした。

 

「この狭い場所でよく動くな!」

「それが出来るから、この立場に居る!」

 

己の胴を薙ごうとした長刀を、グラーフは左右を持ち換えたライフルの銃身で受ける。

長刀の刃が僅かに銃身に入るが両断に至っていない。

 

「ならば何故、ここに居る?!」

 

グラーフが再度短機関銃の引き金を弾き、弾幕を空いた腹部に叩き込もうとするが、荒谷の右貫手がグラーフを貫こうと迫る。

 

「我が悲願、我等が願望、・・・後の世への願いを叶える為だ!」

 

叫び荒谷が放った貫手は、グラーフの短機関銃の銃床に逸らされ、その勢いに体勢を崩す事を嫌った荒谷は、グラーフから二歩の距離を取る。

 

「後の世への願いだと? 荒谷、貴様何を言っている?」

「解らんよ。生まれながらに力を持つ貴様らには」

 

荒谷は背から二刀目を抜き放つ。廊下の薄明かりが、滑る様に刃を照らし、音も無くグラーフの首に滑り込んだ。

狭い廊下、互いに退く事は出来ない。荒谷の背後は壁、グラーフの背後にはあきつ丸達。

グラーフは力を抜き、膝から崩れ落ちる様に身を下げると同時に、単発式ライフルから銃弾を放つ。狙うは荒谷の米神。だが、荒谷はそれを避け、二刀でグラーフの背後にある扉と壁を斬り裂いた。

音も抵抗も無く斬られた板が床に硬音を響かせ落ちる。

 

「そう、上手くはいかんか」

「荒谷、人間よ、人類最強の剣士よ。貴様には越えられぬ越えさせぬ。私がそうだ」

「ならば、越えよう。我等が悲願を、後の世への願いとする為に・・・!」

 

荒谷が言い放った瞬間、グラーフ達が居る建物が揺れる。

揺れの原因に気付き目を見開いたグラーフが、激しい揺れの中で後退、篁達を確保し逃走を計ろうとする。

だが、近衛師団最強のグラーフでも、機動殻を纏った荒谷には勝てない。

 

「これって・・・!」

 

篁の前に立つ瑞鶴が弓を引くよりも早く、荒谷は瑞鶴の弓を研ぎ澄まされ刃と化した腕部装甲で斬り、篁を背後にしたあきつ丸が死角から放った居合いを逆手に持ち換えた長刀の柄頭で割る。

 

「何が・・・!」

 

一瞬の出来事に二人が固まり反応が遅れ、あきつ丸は全身に強い衝撃を浴びた。

 

「若様!」

「あきつ丸!」

「予定には無かったが、二人としよう」

 

当て身に気絶したあきつ丸と篁を担ぎ上げた荒谷が、破れた部屋の一角から飛び出したのと、建物の半分が一瞬で崩れ、鈍い色を持つ巨体が現れたのは同時であった。

 

「〝魔王〟!」

『ダメだ! 〝播磨〟内部に入られた!』

 

叫ぶグラーフに太い声が応える。

それと同じくして、巨大な鈍色が鎌首をもたげ、此方を見る。

 

鉄蛇(ティシェ)・・・!」

 

瑞鶴の呟きを聞いたか、姿を消した鉄の蛇が蹂躙戦車の名の通りに、巨体を唸らせた。




次回?

あの憲兵許さねぇ・・・!

かな?


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船上の蛇 配点¦(どうして?)

臨時ニュースです。

本日未明、艦隊これくしょん二次創作小説偽証罪の疑いで、ナマモノの逆脚屋が逮捕されました。

「薄々感付いてたからノーカンやって!」

などと供述しており、当局は疑いが確定し次第処刑するとの事です。

以上、臨時ニュースでした。


弓を引き絞り、矢を放つ。

瑞鶴は兎に角、足を止めず矢を放ち続ける。

 

「なんとかなんないのこれぇっ!」

 

一射二射三射、続けて四五六射。上下左右に激しい陸上で移動しながら、自分に出来る最大の強弓を弾く。

だが、瑞鶴が放つ矢は傷一つ与える事が出来ずに、横たわる鈍色に弾かれ地に落ちる。

 

「グラーフ! 右から四!」

「ちっ、厄介だな」

 

グラーフは舌打ちを一つ叩き、揺れる荒れた地面を滑る様に迫ってくる機動殻を、機関銃で的確に撃ち抜く。

 

「機関銃で狙撃に近い事するって、あんたどういう腕してんのよ?」

「先代様に拾われた恩義を返す為だ」

 

装甲の薄い部分を的確に撃ち抜かれ、苦悶の声を漏らす斑鳩隊士を他所に、グラーフは機関銃の弾倉を交換し、単発ライフルに銃弾を装填する。

瑞鶴は矢の切れた矢筒を格納空間へ放り込み、代わりの矢筒を引き出し腰に提げる。

 

「今ので一旦は落ち着いたみたいね」

「ああ、だが、あれをどうする?」

「こっちに気付いてないのか、気付いた上でシカト決め込んでるのか知らないけど、関わりたくないわね」

 

二人の視線の先には、海上都市艦〝播磨〟の建造物と思える程に巨大な筒のように見える円筒状の機械があった。

 

「というか動かないけど、壊れた?」

「ならば、仕事が減っていいのだが、そうはいかんだろうな」

「陸軍試作蹂躙戦車〝鉄蛇(ティシェ)〟、その二番機か」

 

パーツのみが製造され、書類上でのみ建造された筈の蛇が、その身を得て二人の眼前に巨体を横たわらせている。

円筒状のパーツを連結した体に一対のモーター、この螺旋状が彫り込まれたモーターを回転させて、この巨体を動かし、その名の通りに戦場を蹂躙するのだろう。

巻き込まれたら一堪りも無いだろうが、二人の前の鉄蛇は動く気配を見せない。

 

「いきなり現れて軽く暴れたと思ったら、いきなり止まる。燃料切れか?」

「軽くでこれとか、勘弁してほしいわね・・・」

 

頭を掻く瑞鶴が見る先は、眼前の巨体がうねり暴れた跡。建築士により計算され建てられた建造物は、横たわる鉄蛇を中心に目視で約100m近くが更地となっていた。

恐らくだが、これに攻撃の意思は無かった。

瑞鶴達が居た上層、その更に下層にある格納庫。これは、パーツ単位で運び込まれ、そこで組み上げられた。

そして、時間を見て飛び出してきた。

 

〝播磨〟は、幾つもの層に分かれて建造されている。

今、瑞鶴達が戦闘を行っていた表層と隠れていた直下の上層の居住層。

その下にある食糧や生活必需品を生産貯蔵する生産層。

そして、機械類や船舶等を格納整備する為の格納庫や海上都市艦機関部を備えた最下層の機関層。

その他にも、多種多様にブロック分けされて様々な機能がある。

それらを全て、自らの装甲と出力で破砕し飛び出してきた。そして、機体を安定させる為に、その身をうねらせた。ただ、それだけだったのだろう。

 

「・・・瑞鶴と言ったか?」

「え? もしかして、まだ名前覚えてなかった?」

 

動かない鉄蛇に警戒を続けつつ、白の装甲服のフードの下で、グラーフが鈍い汗を流し、彼女はまあ、待てと片手を立てる。

 

「ふむ、あれだ。私はな、少々機微に疎い」

「そうね」

「それが私の欠陥だ」

「話が飛躍しすぎ!」

「そうか?」

 

グラーフが不思議そうに瑞鶴を見る。

 

「少々機微に疎いからの欠陥って、あんたね?」

「まあ、いいじゃないか」

「・・・はあ、そう言う事にしとくわ。で、何を言いたかったの?」

「表示枠だったか? あれで仲間と通信は出来るか?」

「出来るわよ」

「頼む、連携を取りたい。私のは壊れてしまってな」

 

グラーフが胸ポケットから取り出した無線は、見事にひしゃげており使えそうにない。

瑞鶴は、表示枠を展開して、他の面子との連絡を取る。

 

七面鳥¦『はーい、瑞鶴よ。誰か返事』

ズーやん¦『あ! 瑞鶴無事? 胸ある?』

七面鳥¦『ははは、面白い冗談ね。空に気を付けろ』

邪気目¦『いいから、状況』

七面鳥¦『斑鳩近衛隊士との戦闘は終了、飛び出してきた鉄蛇は動かなくなった。あきつ丸と篁啓生が拉致、恐らく〝播磨〟内部』

元ヤン¦『殺されてはないな?』

グラタン¦『横から失礼する。篁近衛師団団長グラーフ・ツェッペリンだ。瑞鶴のを借りている。恐らくだが、まだ若様と奴は無事な筈だ』

邪気目¦『よう、グラーフ。そいつはまたなんでだ?』

グラタン¦『む、天龍か。ただ殺すつもりなら、拉致なんぞせんだろう』

 

グラーフの言葉に、表示枠を見ている全員が頷く。

 

ほなみん¦『ただ殺すだけなら、確かに拉致なんかしないよね』

副長¦『では、何が目的なので?』

ヒエー¦『見せしめでは?』

鉄桶男¦『タイミングを見計らってか』

鉄桶嫁¦『目的が予測通りなら、それが効果的でしょうね』

ズーやん¦『兎に角、今は急いで二人を奪還して確保するのが先決。という訳で、編成変えるよ』

副長¦『どの様に?』

ズーやん¦『私達何時もの四人とふぶっちにほなみん、オジサンは捜索&遊撃、副長にヒエーと榛にゃんは瑞鶴達に合流、むっきーは神通達と待機』

空腹娘¦『じゃあ、行ってくるよ睦月ちゃん』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、気を付けてね』

 

瑞鶴とグラーフが見る表示枠の向こうでは、戦闘用の衣装に着替えた仲間が装備の確認を進めていく。

 

邪気目¦『瑞鶴、装備の調子はどうだ?』

七面鳥¦『陸上艤装の新型、調子いいわよ。ちょっと、重いけど』

元ヤン¦『まあ、防御上げる為に装甲繊維の密度上げて、材質も新型で』

船長¦『夕石屋会心の出来らしいからな』

ズーやん¦『それじゃ、行こう。瑞鶴、後でね』

七面鳥¦『早くしなさいよ』

 

表示枠が消えた。

鈴谷達が動き出したのだ。

それに合わせて、瑞鶴達も動き出す。

 

「さてと、まずは合流しますか」

「横須賀の霧島に榛名、比叡とは、随分な戦力を此方に回すのだな」

「それだけ、こっちに戦力が要るってみたんでしょ。あれでも、横須賀の現場指揮担当だからね」

 

まあ、メインはえげつない交渉役だけど。

瑞鶴は声に出さず、弓の弦の張りを確認していく。

グラーフは艤装の航空甲板を展開し、何かを呼び戻している。

遠くから、聞き覚えの無いえらく甲高い、思わず耳を塞ぎたくなる音が微かに聞こえる。

恐らく、グラーフの艦載機と思われる〝魔王〟だろう。

 

「ん?」

 

と、その時、瑞鶴は風を感じた。〝播磨〟表層を吹き抜ける海風ではなく、人工的な何かを吸い込む様な風。

何かと思い、弓から顔を上げる。

 

「はぁ・・・?!」

 

瞬間、全てを破砕する風の瀑布が、グラーフと瑞鶴が居た表層を走った。




さあ、瑞鶴の運命は?
グラーフ? 化け物の域に片足突っ込んだ生物が、あの程度で死ぬ筈ないじゃないか。


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対極 配点¦(いつまでだ!?)

はい、バケツのオッサン久々の戦闘です。
いやぁ、何話振りだい?

あ、境界線上のホライゾン十巻発売されてましたね。
皆さん買いました?
私はさっき買ってきました。


五百蔵冬悟は走っていた。元々が巨体だ。一歩の加速で常人の二倍近い距離を稼げる。

だがそれは、他に何も条件が無く、尚且つ妨害が無い場合に限る。

 

「磯谷嬢、そっちに行ったぞ!」

「しつこーい、しーつーこーいー!」

 

緑黒と灰銀の二体の鉄人が、〝播磨〟上層内部にて駆けてくる敵と衝突していた。

鉄と鉄がぶつかり合う重く甲高い音が広い通路に響き、緑黒が壁を粉砕し、敵と共に別の部屋に飛び込んでいく。

 

「・・・硬い!」

「そっちは速いじゃないの!」

 

刃が装甲にぶつかり、破砕していく。

磯谷穂波が駆るストライカー・エウレカは、腕部ブレードを展開、迫る長刀への対抗とする。

 

「仕込み刃か!」

「あぁもう! 速いってば!」

 

刃と刃が互いを削り合う。

 

「ちっ」

 

舌打ちを一つ、斑鳩近衛隊士がストライカー・エウレカから距離を取った。

視覚素子が倒れている仲間を捉える。折れた長刀、砕けた装甲、苦悶の声が聞こえる。

 

「まさか、これ程とはな」

「へへーんだ。逃げ帰るなら今の内だぞぅ?」

 

ふざけた言動とは裏腹に、彼女の構えに隙はない。

良い師か指導者が居るのか、拳は完全には握らず浅く開いて、腰は落とさず視野を広く見ている。

自分達と同じ機殻士として、充分以上に合格点。

斑鳩隊士は腰部の跳躍器(ちょうやくき)に出力を通す。

それに気付いた相手が警戒を強め、構えを半身に近くした。

激音と轟音が近付いているのが聞こえる。

もう一人の相手をしているのは、団長である荒谷芳泉に付き従っている副長に次いで、斑鳩近衛師団では三番目の腕前の男だ。

あの大男が駆る特異な形状の機動殻を仮に仕留め切れずとも、手傷は負わせられる。

 

跳躍器に蒼い焔が灯りノズルを引き絞る。例え、相手の灰銀の機動殻が装甲とパワーに優れていたとしても、直線では最速の斑鳩の機動殻の最大加速を乗せた長刀を、己の技を以て振り抜けば斬れる。

そう思い、全身を前へ傾けた瞬間、船の汽笛に似た轟音を響かせ、緑黒の機動殻が壁を粉砕しながら通路に飛び込んできた。

 

「五百蔵さん?!」

「な・・・!?」

 

壁の破片と混じり、見覚えのある破片が散っていた。

 

「まさか」

 

硬質な音と共に、斑鳩隊士の前に一つの影が放り出されていた。

自分の上役である男だ。見ると、装甲は至る所が破砕され、長刀は根元から捻り折られている。

 

「意外か?」

 

不覚、斑鳩隊士は己の油断を恥じた。

機動力は遥かに劣るとはいえ、明らかに自分達と同じ近接特化の機動殻、それを相手に二歩で済む距離を呆けてしまった。

急ぎ止まっていた跳躍器を再起動、距離を取ろうとするが

 

「逃がすかぁ!」

 

緑黒の機動殻の腕が伸び、こちらの装甲に指が引っ掛かった。そう、引っ掛かっただけだ。その程度、これからの加速で簡単に振りほどける。

隊士はそう思い、加速した筈だった。

 

ーーは?ーー

 

隊士が感じたのは背後への加速Gではなく、前方、緑黒と灰銀が居る方向への浮遊感だった。

何が起きているのか理解出来なかった。自分は確かに背後へ加速した筈なのに、何故宙を舞っている?

その答えはすぐに来た。

鉄鎚の如く硬く重い拳だ。

 

「おおあぁ・・・!」

 

一撃、隊士は理解した。上役の男はこれにやられたのだと。

たった一撃で装甲どころか、それを纏っている身すら砕けていく。こちらの防御が意味を為さない。これは人ではなく、獣のそれだ。

崩れ落ちる視界の中、隊士は未だに手に残っていた長刀を握り直した。狙うは腹部、装甲が薄いであろう放熱口。

緑黒が拳を構えた。腋が空いた。チャンスは一瞬、放熱口の装甲が開く瞬間のみ、隊士は沈んでいく意識の中、自らの持てる全てを放った。

 

「・・・!」

 

手応えは無かった。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「うひぇぇ、オジサンってばこわー」

 

砕け口を開いた壁から、鈴谷が顔出した。

 

「うはは、オヤジすげぇ」

 

続いて、摩耶が顔を出せば

 

「流石、叔父貴だな」

 

木曾が称賛と共に出る。

 

「そりゃいいんだが、派手にやったなぁ」

「こっちの部屋、凄い事になってますよぅ」

 

天龍と吹雪が周囲を警戒しながら出れば、チェルノ・アルファを纏った五百蔵がゆっくりと振り向く。

 

「手加減出来る相手じゃなかったからねぇ」

 

振り向いたチェルノ・アルファの腹部の放熱口を塞ぐ装甲には僅かな傷があった。

五百蔵は掴んでいる長刀をチェルノ・アルファの握力に任せて捻り折った。

 

「しっかし、この人達強くない?」

「いや、当たり前でしょ。ほなみん」

「近衛師団だ。弱い訳がねえ」

 

磯谷がストライカー・エウレカの装甲から顔を出して嘆息する。

彼女の背後には、倒れた斑鳩隊士が拘束されていた。

 

「吹雪、二人の音は聞こえるか?」

 

摩耶が吹雪に問うが、吹雪はヘッドホンを押さえながら首を横に振る。

 

「無理ですよ。さっきも表層から物凄い音が聞こえて、音が混ざっちゃってて」

「吹雪の耳は、今回は当てに出来ねえか」

 

天龍の言う通りに、今の〝播磨〟は音が入り交じっている。流石の吹雪の耳でも、何れがどの音なのか判別は出来ない。

 

「さて、あきつ丸君達は何処に居ると思う?」

「表層か上層だと思うよ? 中層以下は狭くて機動殻じゃ動き辛いから」

「だとしたら、連中はこの階層に居るって事か」

 

五百蔵の問いに鈴谷が答え、木曾が腰の軍刀を確認しながら言った。

 

「虱潰しに探すか?」

「戦力的に分断はされたくないな。分断のされかたによっちゃ、全滅も有り得る」

「なら、オヤジと穂波を前にして進むか」

「それしか無いかな」

「そうですねって、鉄腕ちゃんどうし・・・!」

 

五百蔵が一番前を行き、磯谷がそれに続く形で歩み出した時、鉄腕ちゃんが突然稼働し悪ガキ隊の裾を掴み、力任せに引っ張り倒した。

 

「なに?! どうしたの?!」

 

一瞬遅れて、磯谷が後ろを確認する為に一歩下がる。

 

「・・・外したか。良い腕前だ。いや、俺が鈍ったのか?」

 

壁から一振りの長刀が伸びていた。

音も無く、刺突跡には罅一つ無く、まるで長刀が通るのが当然と、通路やトンネルの様に口を開けていた。

引き抜かれていく長刀は、丁度ストライカー・エウレカの胸の辺りの高さ、脇腹の装甲と装甲の継ぎ目の辺りを貫いていた。

もしあの時、磯谷が振り向きと共に一歩下がっていなければ、磯谷は串刺しになっていた。

 

「嘘だろ・・・」

 

天龍の頬を冷や汗が太い筋となって流れていく。

引き抜かれた長刀が再度壁を貫き、円弧を描いて壁を斬り裂いていく。一周し、円を結び終えた壁はゆっくりと倒れていく。

吹雪は見た。壁の断面に自分達が写っている。

 

ーーどんな切れ味ですか!ーー

 

見た目は先程の隊士達が振るっていた長刀と変わりはない。だが、明らかにあの長刀の切れ味だけが異常だ。まるで、豆腐でも斬る様に何の抵抗も感じさせず、壁を斬った。

 

「団長」

「・・・お前は先に行け。俺は野暮用がある」

「了解。御武運を」

 

吹雪がはっとして顔を上げ、壁を見た。

高い音が混じって聞き取り辛いが、確かに聞こえた。

くぐもった声だ。

 

「その壁の向こうに二人が居ます!」

 

瞬間、全員が動いた。磯谷が壁に向けて突貫し、吹雪と悪ガキ隊がそれに続く。

火花が散った。

 

「提督!」

「早く行きなさい!」

 

鉄鎚が長刀を弾き火花を散らしていた。

返す二刀目が迫る。これも拳で受ける。鈍く甲高い音が響き、五百蔵が一気に荒谷を押し込んだ。

 

「荒谷芳泉だな?」

「ああ、そうだ。五百蔵冬悟」

 

チェルノ・アルファの拳の握りを確認、握力強化グリップは問題無く、射出用スプリング、テスラコイル共に異常無し。

 

「問おうか。何故、こんなクーデターなんぞ起こした?」

「では、こちらも問おうか」

「なに?」

 

脱力、自然体、機動殻を纏っていても解る程に自然な脱力。群青色の機動殻は両手に長刀を構え、研ぎ澄まされた刃の装甲に僅かな灯りを滑らせた。

 

「何時までだ?」

 

腰部の跳躍器から高い音が五百蔵へ届く。

 

「何時まで、我等はあの小さな背中に凭れ掛かり頼り続ければいい!?」

 

答えろ!

荒谷は咆哮した。

 

「我等は何時まで、あの小さな手に砲火を持たせ続ければいい!?」

 

答えろ、五百蔵冬悟〝提督〟!

荒谷の咆哮に、五百蔵は咄嗟の反応が遅れた。

見れば、荒谷が振るう長刀が眼前に迫っている。

拳も腕も間に合わない。

 

「答えろ、答えてくれ・・・! 我等が持つ力はそれ程に頼り無いのか?!」

 

ならば、五百蔵は全速の前進を以て、荒谷の咆哮に無言を以て応えた。




次回

未定


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さあ叫べよ 配点¦(正反対の二人)

さあ、待っていた人は居るのかな?
居ないか・・・
だよね。


五百蔵は無言で力をぶつけた。

相手は斑鳩近衛師団団長荒谷芳泉、間違いなく最強クラスの相手だ。

 

ーー答えろ、かーー

 

荒谷の問いに答える言葉を、五百蔵は持っていない。否、それを言葉にしても、この相手には届かない。

 

「答えろ、五百蔵冬悟・・・!」

 

長刀が何重にも重なり連なり、緑黒の装甲に傷を刻み付ける。

荒谷は一歩下がった五百蔵に叫び、更なる一撃を浴びせる。

 

「何時まで、我らは彼女達に武器を持たせ続ける?!」

 

荒谷の叫びは、艦娘という少女や女性達に何時まで戦わせるのかというものだ。

そしてそれは、ある事を指している。

 

「何時まで、我らは彼女達の背に隠れ続ければいい!?」

 

五百蔵は袈裟懸けに降り下ろされる長刀を、拳で弾き飛ばし、荒谷に肉薄する。跳躍器を駆使し、下がろうとする荒谷の腕を握り潰さんばかりの力を籠めて、五百蔵は吼えた。

 

「己の矜持を得る為に、こんな事を起こしたのか?!」

 

五百蔵は吼え、荒谷を拘束し、最早傷が付いていない部分等無い廊下を突貫した。己が纏うチェルノ・アルファの出力と重装甲任せの突進は、白い壁を幾枚も粉砕し、荒谷が抵抗として、腕部装甲で視覚素子を斬りつけるが止まらない。

最後の一枚、外界へと繋がる壁を粉砕したところで、荒谷が跳躍器を前後に振り子の様に動かし噴射し、長刀の柄でチェルノ・アルファの側頭部を打撃、衝撃で緩んだ五百蔵の拘束から逃れる。

外は曇天、雨雲が〝播磨〟に迫っていた。

 

「矜持を得る為ではない。再び少女を戦いに送らぬ世を、後に手渡す為だ!」

「その為に、このクーデターか! ふざけるな!」

 

瓦礫の粉塵を踏み散らし、五百蔵が荒谷に鉄拳を振るう。空気を切り裂くのではなく、周囲の空間ごと消し飛ばしかねない鉄拳を、荒谷は全身の関節を駆使し回避する。

斑鳩機動殻の性能もあり、回避の連続に成功はしている。だが、このままでは保たない。

 

「ふざけてなどいない! このままでは、艦娘達は再び戦火に飲まれる! それを良しとするか?!」

「んな訳ないだろうが!」

 

拳を戻す際に隙を作った五百蔵に、長刀を逆袈裟に振るうが、チェルノ・アルファの装甲には刃は通らず、耳に残る甲高い異音と火花だけが残る。

 

「あの娘達は自分の意思で選び、自分達の足で歩いている! それを己が気に食わないからと、否定するな!」

「ならば、五百蔵冬悟! 貴様は肯定するのか?! あの年端のいかぬ娘達に、砲火を持たせ続けるこの世を!」

「んな訳がないだろうが!」

 

低い姿勢で巨躯の腕を掻い潜り、五百蔵の懐に入り込む。

この相手は獣だ。

荒谷の経験でも少ない、獣の暴力を人間の理性で固め知性で武装した獣だ。

一撃を掠めただけで、己が纏う機動殻の動きにズレが出た。大型とはいえ機動殻の打撃を掠めただけでだ。

思うように、己の技を機動殻に伝えられない。

 

「このっ!」

 

五百蔵のアッパーを避ける為、荒谷は五百蔵を蹴りつけ無理矢理後ろへと下がる。

チェルノ・アルファ胸部の排熱口から陽炎を吐き、二刀を構え直した荒谷に五百蔵は向き直る。

 

「なあ、五百蔵冬悟。我らは何時まで戦わせる? 我らは何時まで、あの年端のいかぬ娘達に戦わせるのだ?」

「それがあの娘達の選んだ道だ。それに、あの娘達の未来は、あの娘達が勝ち取るべきだ」

「そうか」

 

荒谷が呟き、長刀を手の中で回し逆手に構えた。

 

「それでも我らは、今の世に納得は出来んよ。年端のいかぬ娘に砲火を持たせ続けるこの世を、後に手渡す事は出来ん」

「そうか」

 

五百蔵が溜め息を吐き、拳の握りを直し構える。

 

「なあ、荒谷芳泉。お前は手渡せるのか? このクーデターで勝ち取った未来を、後に手渡せるのか? 子供殺して手に入れた未来を、胸を張って後の子供達に手渡せるのか!?」

「・・・それでも、それでも我らがやらねばならんのだ!」

「この、大馬鹿が・・・!」

 

五百蔵の言葉に、荒谷の手に力が籠り、長刀の柄が軋む。理解してはいるのだ。この方法で勝ち取った未来を、胸を張って手渡せはしないと。

だがそれでも、嘗ての荒谷の腕の中で消えていった命が、荒谷達の決心を鈍らせない。

 

苛烈に生きた彼女が、今の自分達を見れば、なんと言うだろうか。

あの苛烈に鮮烈に、誇り高く勝利を求めた彼女が見れば、自分達になんと言うだろうか。

荒谷は、装甲の内で笑った。

笑い、腰部跳躍器に火を入れる。

再度の加速、待ち受ける緑黒の鉄人を斬る。己と正反対の人間を斬り、この迷いを断ち切る。

 

五百蔵と荒谷が再度ぶつかる瞬間、遠くでとても大きな何かが動く音がした。

 

「なっ?」

 

そして、異常な轟音が鳴り響き、五百蔵達の居る表層区の一部が突如として崩れ落ちた。

鉄筋コンクリートや鉄骨が擦れ合い、鳴り響き続ける轟音と共に割れ砕け、周囲の足場が下層へと降る中で二人は立っていた。

そして、その二人を見下ろす鈍色の巨躯があった。

 

「鉄蛇か?!」

「これが・・・!」

 

鋼鉄の蛇が鎌首をもたげ、幾重にも重ねられ形作られた顎から、白煙の残滓を風に流す。

〝播磨〟に建てられたビルよりも巨大なその身から、何かを吸い込む鋭い音が聞こえ、駆動音を上げ鋭利な牙が備えられた顎を開き、〝瀑布〟表層を抉る瀑布が再び放たれようとした時、耳をつんざく甲高い音が、鉄蛇頭部を爆撃した。

 

「〝死神〟の〝魔王〟か!」

 

言うなり荒谷は、崩れ落ちた表層区から下層へと続く裂け目に飛び降りた。

 

「あ! 待て!」

「勝負はまたの機会だ。五百蔵冬悟」

 

鉄蛇に気を取られていた五百蔵が、慌てて後を追おうとするが、爆撃から復帰した鉄蛇がその動きを察知し、身をくねらせ五百蔵に迫った。

超質量が辺りを轢殺しながら、五百蔵を仕留めようとする。

 

「ヤバ!」

 

機動殻であるイェーガーすら問題にならない超質量、重装甲であるチェルノ・アルファでも、なんの抵抗も出来ず踏み潰されるのは確実だ。

しかし逃げようにも、チェルノ・アルファには斑鳩機動殻の様な機動力は無い。全速力で走っても追い付かれる。

 

「こなくそ!」

 

ならばと、五百蔵はチェルノ・アルファ最大火力である[Roll of Nickels]を起動、割れ砕けて脆くなった床材に撃ち込む。

音速超過の鉄拳は、容易く床材に突き刺さり、着弾点を中心に蜘蛛の巣状の亀裂を、鉄蛇との間に作り出す。

その亀裂は次第に広がり、接近してきていた鉄蛇を飲み込む。

だが、全長で100m超の巨体全てを飲み込む事は出来ず、幾つかの階層を砕きながら進む。

五百蔵が二発目の[Roll of Nickels]を、眼前に迫る鉄蛇の鼻っ面に叩き込もうと構えた瞬間、莫大量の銃弾と砲弾が鉄蛇の頭部を打撃した。

 

「冬悟さん!」

「榛名さん!?」

 

銃弾と砲弾の嵐の衝撃で横倒しになる鉄蛇を他所に、艤装を展開した榛名が、五百蔵に飛び付いてきた。

 

「ご無事で?!」

「なんとか、そっちは?」

「こちらも被害は無いですよ」

 

大口径の砲を四門艤装に積み、更に二門の砲を担いだ比叡が粉塵の向こうに沈んでいった鉄蛇を警戒しつつ、捲れ上がった床材の瓦礫から降りてきた。

 

「比叡さん。霧島君は?」

「霧島なら、斑鳩師団と交戦中です。中々、数が多いようで苦戦はしてませんが、手間取っています」

「今終わりました。義兄さん、比叡姉様」

 

装甲に幾つかの傷を刻んだ霧島の纏うロミオ・ブルーが、ゆっくりとした歩調で無事な地面を歩いてきた。

 

「瑞鶴は篁近衛師団団長のグラーフ・ツェッペリンと行動中、あきつ丸と篁啓生は未だ」

「・・・霧島、話は後です。来ますよ」

 

〝播磨〟が揺れ、再起動を果たした鉄蛇が再び鎌首をもたげ、四人を機械の目で睨み付ける。

 

「・・・榛名さん、皆。すまんが、道をつけてくれ。あの大馬鹿を殴り付けてやらんといかん」

「任せてください、冬悟さん。私達が道をつけます」

 

榛名は微笑むと、艤装の装甲を展開、近接格闘用のマニュピレーターを広げた。

鉄蛇が駆動音の吠声を上げ、二体の鉄人がその巨体に躍りかかった。



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お前は? 配点¦(え? なにが?)

はい、話がね。進まぬ。何時もの事か。

あ、今回は応急修理女神ネタあるよ!


「はぁ! 生きてる?!」

「起きたか」

 

半ば瓦礫と化した廃墟で叫び目を覚まし、飛び起きたのは、瑞鶴だった。

彼女は、早鐘の様に鳴り続ける心臓の音を聞きながら、周囲に目を配る。

箱をひっくり返したみたいに荒れた室内、白い装甲服に傷と埃をまぶしたグラーフ、そして自分。

 

「あ、グラーフ。生きてる?」

「当然だ。死んだら話は出来ん」

「それもそっか」

 

納得する瑞鶴に、グラーフは何故か疑わしげな目を向ける。

 

「なにその目?」

「・・・生まれつきだ」

「いや、いいけどさ。こっから、どうすんの?」

「若様をお救いする。それだけだ」

 

グラーフがライフルと機関銃を手に立ち上がる。

瑞鶴も続くが、立ち上がると視線を下に、自分の下半身へと向け、頭を傾げた。

 

「・・・どうした?」

「ん~、寝違えたかな?」

「この瓦礫で寝れば、寝違えもする」

「なら、もうちょっとマシな場所に寝かせてよ」

 

瑞鶴が軽く腰を回して、新たな弓と矢筒を格納空間から取り出す。

 

ーー腰を寝違えるとか、どんな寝方したのよ?ーー

 

腰から下にかけて、僅かな違和感がある。正座をした時の痺れに似た感覚が、下半身全体に淡く走っていてムズ痒い。

しかし、動けないかと聞かれたら、それは否定出来る。

あくまで、僅かな違和感であって、それも次第に消え始めているのだ。

 

下半身痺れて動けませんでしたテヘペロ。なんて、やらかせば、後で酷い事になるのは目に見えている。

 

兎に角、今はグラーフと共にあきつ丸(正太郎コンプレックス)と、その対象を救出するのが大事。

 

「というか、あてはあるの?」

「あて、は無い。だが、奴は上層区か表層区に居る筈だ」

「機動殻捨てて、生身で行動は?」

「可能性は低いな。艦娘相手に機動殻の力無しに勝てると、自惚れる様な奴ではない」

「となると、アレと戦うのか~」

 

瑞鶴の記憶にある荒谷との戦い、瑞鶴は何も出来なかった。出会い頭の戦いも、不意の遭遇戦も、瑞鶴は何も出来ずにいた。

己との圧倒的なまでの力量差、アレと戦えば死ぬ。

一瞬だが、死を実感した。

 

ーーて、うん?ーー

 

と、そこで瑞鶴は頭を捻った。

荒谷との戦いで、死を感じたのは事実。だが、それともう一つ、何かあった様な気がする。

忘れてはいけない。瑞鶴が〝瑞鶴〟である為に、とても重要な事。

 

ーー先生?ーー

 

はっきりとしないが、自分達の師である鳳洋(おおとり よう)に関係している事の様な気がする。

だが、はっきりと思い出せない。

その様子に、前を行くグラーフが怪訝そうな目を向けてくる。

 

「どうした?」

「いや、うん? まあ、いいか」

「何か、気になる事でもあったか?」

「ん~?」

 

瑞鶴は更に頭を捻った。どうにも思い出せない。思い出したくないというのではなく、思い出せない。

思い出せないのは、どうにもならないので、思考を切り替える。

 

「あ、そうだ。鉄蛇!」

「それなら、我々を消したと思って、次のターゲットへ向かった」

「・・・なら、いいけどさ。二人抱えて逃げてる時には、出会したくないよ?」

「同感だ」

 

海上都市艦〝播磨〟という、限定された空間で、全長数百m級の兵器と世界的にも高練度の部隊に追われながら、自分達と護衛対象の安全を確保する。

言うは簡単だが、行うのは不可能に近い。否、グラーフだけなら、やってのけるだろう。

目の前を行くこの白い女は、それだけの確かな実力がある。

 

ーー正直、私お荷物だねーー

 

だが、瑞鶴にはそれだけの実力は無い。これでも、高い練度を持っているのだが、グラーフのそれは桁が違う。

瑞鶴とあきつ丸、この二人が居なければ、グラーフは問題無く篁啓生を救出してみせる。

 

ーー現実キビシー!ーー

 

気落ちするが、すぐに切り替える。今は無理でも、自分は原初の艦娘鳳洋の教え子なのだ。

無事に帰れたら、訓練時間を増やそう。

瑞鶴はそう考え、グラーフの後に着いていった。

 

「時に、ズイカク」

「なに?」

「お前の装備は横須賀製か? ああ、守秘義務があるなら構わん」

「守秘義務もなにも、私もよく解ってないから、詳しい事は説明出来ないわ。でも、新型よ」

「・・・治療機能もあるのか?」

「簡単な応急措置なら。どうしたの?」

「・・・いや、なに。若様がもしお怪我をとな」

 

首を傾げる瑞鶴に、グラーフは内心で疑いの目を向ける。

瑞鶴が実は敵なのでは、という疑いではない。彼女達の身元については十分以上に調べてある。

横須賀の瑞鶴は、約190cmという高身長を除けば、極一般的な高練度の瑞鶴だと。

だが、グラーフが〝あの瞬間〟に見た光景は、その情報を否定するものだった。

 

ーー消し飛んだ下半身が、装備ごと瞬時に再生する艦娘など、原初の艦娘以外に聞いた事が無いーー

 

瑞鶴、お前は何者なのだ?

グラーフは誰にも聞こえない呟きを、口の中で噛み潰した。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん達、大丈夫かな?」

「心配?」

 

〝播磨〟船内、その中でも最重要区画にある一室に、睦月は神通と神宮三笠の三人が居た。

音や震動が伝わってくる室内で、睦月が漏らした言葉に、呼吸器を着けた神宮がゆっくりと話し掛ける。

 

「え、あ、少し」

「そうよね。私達は彼女達の様に戦えないもの」

 

そう言う神宮の体は、衣服や膝掛けの上からでも分かる程に細い。そして、それは自分の膝から下の足も同じだ。

睦月も神宮も、自分の足で立てない。いや、睦月は杖があれば立てるが、神宮は自分で自分の体を支えられない。

支えるどころか、己を保つ事すら危うい。

だがそれでも、神宮は戦っていると、睦月は思う。

 

「私は神通が居なければ、一日生きる事も出来ない」

「でも、神宮さんは強いよ?」

「私が?」

「だって、神宮さんはこんな危ない場所に、解ってて来てる」

 

睦月は車椅子を回して、神宮に向き直る。今はまだ、肉の残る彼女の顔には驚きがあった。

 

「は、はは、まさか、私が強いだなんて・・・」

「神宮さんは強いよ。私なら、こんな怖い事は出来ない・・・」

「ただ、死にたがりなだけよ」

「違うよ。生きてるよ」

 

死にたがっているという事は、今生きているという事だ。生きていなければ、死ねない。

 

「だって、死にたがってるって事は、生きたがってるって事なんだ」

 

一度死んだ私は解るよ。

睦月は泣きそうな笑みを浮かべて言った。




横須賀

「先生が! 先生が追ってくる!」
「うわああああああ!」
「ああ! 飛竜がやられた!」
「なんであの人、いきなり下半身消し飛んで、テケテケになったの?!」
「知るか!」
「ああ、祥鳳!」


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 配点¦()

はい、幕間です。

あ、プロト穂波が活躍する『シー イズ フール&クール?』も宜しくお願い致します。


「「総長、調子はどうですか?」」

 

質素ながら見る者が見れば、その価値が判る家具類が並ぶ部屋、その最奥に居る人物に、夕石屋の二人は問い掛ける。

 

「ええ、悪くないデスヨ」

 

問い掛けられた金剛は、ベッドに半身を埋め寝間着のまま、二人を出迎える。洒落者である金剛にしては珍しい。

 

「「顔色も悪くないですね。脈拍も、大丈夫。血圧は少し高いですけど、問題無い範囲ですね」」

 

夕石屋の夕張が検査器具を操作し、明石がカルテに書き込む。明石がカルテを書き終えると、二人は安堵の息を吐き出した。

 

「「総長、あまり無理をしないでください」」

「・・・この世に生を受け百余年、どうしても無理は出マスヨ」

「「総長」」

 

冬の空を窓ガラス越しに見れば、青空を隠す曇天が広がっている。直に一雨来そうな気配を漂わせる空から目を離し、夕石屋の二人を見る。

磯谷を伴いふらりと立ち寄った中央技研で、失敗作と烙印を押されていた二人。

その二人が今や、横須賀鎮守府の技術関係の代表だ。

金剛は、自然と笑みが浮かぶのを感じた。

 

「私は洋や大和ではありマセン。いずれは消えマス」

「しかし、総長・・・!」

「穂波が居マス」

 

何時だったか、突然横須賀鎮守府に転がり込み、味方の居ない鎮守府を駆け回り、何時の間にか信頼を得ていた彼女。

初めは手酷い扱いをしたものだ。金剛に苦笑が浮かぶ。

普通ならこちらを見捨てるであろう扱いに、彼女は平然としながら笑みを共に、こちらに手を差し伸べてきた。

 

「あの子なら、大丈夫デスヨ」

「「いや、提督なら、原始時代に放り捨てても平気で生き延びそうですけど・・・」」

「あの子なら、仮に私が消えても、皆を守れマス」

 

だから

 

「貴女達は、あの子と一緒に居なサイ。あの子があの子のまま、横須賀の王として、貴女達と一緒に居られる様ニ」

「私は嫌だ」

 

モゾリと、金剛の下半身を隠していた布団から、小柄な姿が這い出てきた。

眠たげな目を擦り、金剛の腹の辺りに抱き着く。

 

「若葉」

「総長、貴女達が居ない場所になんの意味がある?」

「意味が無いデスカ?」

「無い」

 

断言する若葉が抱き着く力を強める。

 

「私達を拾った二人が揃って居なくて、なんの意味がある」

「私は洋程強くなく、大和の様に強くなり続ける事も出来マセン」

「「総長、それでも我々は貴女達と共に居たいのです」」

 

窓の外から何やら喧騒が聞こえてきた。

真面目な話をしていたのに、話の腰を折られた夕石屋が窓の外を見ると、空母艦娘達が悲鳴を上げながら走っていた。

 

『たす、たしゅけ!』

『先生が! 先生がテケテケになって追ってくる!』

 

ああ、蒼龍が死んだ!

一体何をやっているのか。加賀が赤城の足を取り、囮として転ばし、瞬時にその足を掴まれ、二人揃って洋に轢かれていた。

その他の空母組は、容赦なく二人を見捨てて逃げていた。

 

「「一体何を・・・?」」

「ふふ、夕石屋。皆が帰ってきたら、新型の装備を精査してミナサイ」

「「はぁ」」

 

賑やかな喧騒を耳に、金剛は若葉の頭を撫でる。

若葉が猫の様に目を細めると、金剛はゆっくりと口を開いた。

 

「安心シナサイ。私は直ぐには消えマセン。まだ時間はあり、もしかすると貴女達より長く在るかも知れマセンヨ?」

「「それはそれで、大変かもですが、是非そうあってください」」

「見送るのは疲れたのデスガ。・・・しかし、私は一線を退き、あの子に私と〝あの人〟が遺したものを引き継がせ、それがあの子に力となってイマス」

 

若葉を抱き寄せ、そのまま腕の中に深く抱き込む。大人しくされるがままの若葉に、夕石屋が苦笑すると若葉に睨まれた。

 

「夕石屋、宿毛に連絡ヲ。もしもの場合には宿毛に助力を願いマス」

「「はい」」

「まあ、無いとは思いますが、転ばぬ先の杖というやつデスネ」

 

窓の外を飛龍が飛んだ。

 

『うわぁ! 先生が霧散した!』

『シュムナ?! シュムナなの?!』

『瑞鳳ぉぉ!!』

 

洋もはしゃいでいる。瑞鶴が居ないから、暇しているのだろう。あの大昔も、瑞鶴が居ない日はあちこちウロウロしていて、迷子の子供を連想したものだ。

 

「総長、やはりあの話を受ける」

「無理をしなくてもよいのデスヨ?」

「いや、榛名が嫁いだ。役職に空席を出すのはマズイ」

 

言って、若葉は懐から腕章を取り出す。それには、〝横須賀第一特務〟と記されていた。

 

「今日から、私が横須賀鎮守府の新第一特務だ」

「忙しくなりマスヨ」

「知ってる」

 

若葉が頷き、金剛が頭を撫でた。

外は曇天だが、それを感じさせない賑やかさがあった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「あ、総長。どちらへ?」

「お? 朝潮。ちっくと出てくるき、留守番しより」

 

若草色の作業着に、背に鉄塊を背負った長身が小さな姿にそう言った。

 

「司令官が呼んでましたよ」

「そっちはもう済まいた」

「済ましたって、司令官、泣いてましたよ?」

「よう泣くにゃあ」

 

長身の女が煙草に火を点ける。

 

「総長、屋内禁煙です」

「今から出るき、固いこと言いな」

 

女は朝潮の頭を荒く撫でると、曇天の空の下に足を運んだ。

 

「あと、飯の支度しちょき。忙しゅうなるぞ」

「了解しました。いってらっしゃいませ、大和総長」

 



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話を聞けよ! 相手を見ろよ! 配点¦(まずはそれから)

はい、もうちょっと、もうちょっとなんや!

今回、ネタがちょっと少ない気がするので

鉄桶男¦『え? なに、これ読むの?』
ほなみん¦『そうですよー』
鉄桶男¦『あー、じゃあ、俺の事どれくらい好き?』
鉄桶嫁¦『いっぱいちゅき!』
鉄桶男¦『あー、榛名さん?』
鉄桶嫁¦『いっぱいちゅき!』
ほなみん¦『イエア』


磯谷は駆けた。

ストライカー・エウレカは改修に改修を重ね、建造当時とは比較にならない性能に至った。

しかし、それでも追い付けない。

機体性能は勝っている。それだけの自負と信頼がある。

このストライカー・エウレカの元になっているのは、金剛から譲り受け、受け継いだものだ。そう、敗ける訳が無い。

 

機動殻の性能の違い。それが如実に現れている。

 

「くあー! 降りてこーい!」

 

ストライカー・エウレカは、飛べない。というよりは、イェーガーの設計自体に飛行や跳躍といった考えが無い。

と言っても、跳躍は出来るし、まったく飛べないという訳でもない。磯谷はイェーガーでの飛行の経験がある。

だがあれは、横須賀鎮守府工厰のデリッククレーンによって打ち出されたものだ。

 

「ぬあー! もー鬱陶しい!」

 

先程から、こちらの装甲に傷を付けてくる斑鳩の機動殻は違う。

自分で跳躍し、短時間なら低空飛行が出来る。

二本の足で加速しなければならないイェーガーとは違い、瞬時に加速と停止を行い、磯谷を翻弄する。

 

「うなー!」

 

意味の無い叫びを上げる磯谷、装甲と出力はこちらが遥かに上だ。クリーンヒットすれば、一発で沈められる。

だが、それが出来ない。

 

「当たれ!」

 

唸りを上げる鉄拳が、飛来する鎧を掠める。だがそれだけで、拳は潜り抜けられ、抜けられ様に長刀が装甲を削る。

一瞬に火花が散り、甲高い擦過音が響く。

 

「あーもー! また繰り返し?!」

 

頬当ての内、己の顔が歪むのをはっきりと感じ取れる。

特殊鋼を成形するではなく、一から鍛造して打ち出した長刀、それを用いた己の技、その一撃がなんら意味を成していない。

斑鳩隊士は吐き捨てたかった。

幾ら技を体を心を、精練し研鑽しようと、技術の進歩と他を圧倒する力の前では無力でしかない。

 

十年、十年だ。あの日から十年の月日を生き、鍛え上げ練り上げ精練し研鑽し今に至った。

恐らくではなく確実に、自分の絶頂は今だ。

後は老い衰えていくだけ、そう今が自分の絶頂なのだ。

それなのに

 

「通用せんか・・・」

「喋った!?」

「人間だからな、喋りもする」

 

どうにも気の抜けた小娘が纏う機動殻に、まともな損傷を与えられない。

自分の十年はこの程度だったのか。

若しくは、団長である荒谷なら、あの機動殻を両断せしめるだろうか。

 

「否」

「へ?」

 

当然、斬り伏せる。荒谷芳泉に斬れないものは、宿毛に座す世界最硬の存在のみだ。

アレは斬る斬らない以前の問題だ。荒谷の技を以てしても、その身に傷を付ける事が出来れば、奇跡が起きたとしか言いようがない。

 

だが、嘗ての戦場では、それが当たり前だったと聞く。

今、副団長を追っている少女達の祖先は皆、その様な戦場に身を置き、世界を救った。

そして、現代でもそれは続いている。

 

「問う。貴様は提督だったな?」

「そうさ、私は横須賀鎮守府の磯谷穂波だよ」

「艦娘を、どう見ている?」

「え? 良い子達・・・!」

 

動作は咄嗟だった。

磯谷は卓越した反射神経を以て、唐竹に振り下ろされた長刀に反応、腕部装甲で受け流す。

衝撃で二、三歩鑪を踏み下がり、ダメージを確認。

装甲が割れる事は無かったが、衝撃で腕に痺れが僅かに残っている。

 

「いやいや、いきなりなにさ?!」

 

拳の握りを再確認し、勤めて平静を装い問う。

だが、装甲の内には冷や汗が、肌を伝って滑り落ちていくのが分かる。

 

「良い子達、そう言ったか」

「言ったさ、あの子達は皆良い子達だよ」

「ならば・・・」

 

一度言葉を切り、隊士は磯谷の懐へと肉薄する。

斑鳩機動殻の加速性能による強引な加速は、隊士の体に確実な負荷を刻み付ける。

空気を焼き、切り裂く音と共に隊士は長刀を二刀、縦横無尽に振るい叫ぶ。

 

「ならば何故! その娘達を鉄火場に立たせる!」

 

人間の技と機動殻の力と速度で振るわれる長刀は、火花を散らし擦過音を重ねる。

 

「戦う力を持ちながら、年端のいかぬ娘達が鉄火場に向かう姿を見るしか出来ない者の気持ちが解るか!」

 

連なり重なる。風切り音と擦過音が絶え間なく続き、ストライカー・エウレカの装甲を削る。

火花が目映い閃光となり、視界を遮る。だが、それは肉眼での話であり、機動殻の視覚素子は光量を即座に調整し、変わらぬ視界を確保する。

 

「その少女達が、血を流す様を見るしか出来ない者の気持ちが解るか!」

 

長刀から痺れに似た振動が伝わる。刀身と芯が激突の衝撃から、ズレ始めていた。

近年、近衛師団の装備は儀礼用の意味合いが強くなり始めている。そしてそれは、近衛師団が戦いから離れつつあるという事を意味している。

荒谷や側近級の装備はいまだに第一線での長時間無補給戦闘に耐えうるだろう。

だが、隊士は腕利きだが一般隊士でしかなく、その装備の質は儀礼用に近くなっている。

 

その長刀の刃が通らない硬度を持つ相手に、今まで絶え間なく振るっていたのだ。

よく保った方だと、隊士は右の長刀を横薙ぎに薙いだ。

 

「くっ・・・!」

 

だがそれは、迎撃の鉄拳により砕かれた。

 

「だったら、話をしたの?!」

「なにを?!」

「艦娘の皆と話はしたのかって聞いてんだ!」

 

連続した鉄拳が装甲を砕き、隊士の身を打つ。

浴びせる様な長刀の一撃を避け、返す刀で脇腹をかち上げる。

装甲が砕け、機体を支えるフレームが露になる。

 

「あの子達と話をして、それでそう言ってんのか?!」

「その様な機会があると?!」

「ふざけんな、バーカ!」

 

残る長刀も砕かれた。だが、隊士は刃となる残った装甲を用いて抗う。

装備の大半を失い、機体も半壊、しかしそれでも、斑鳩近衛隊士の技は曇らず、ストライカー・エウレカに肉薄する。

 

「ふざけるなだと?」

「あの子達が選んだ道に、話もせず、見もしようとしない奴等が生意気言ってんな!」

「ならば、貴様はそうだと?!」

「当然だ! バッキャロー!」

 

甲高い砕音が響き、最後の刃が砕かれた。

残るは跳躍器を暴走させての自爆だが、既に跳躍器からの反応が無い。

 

「あの子達が選んで、あの子達が進んだ道だ。私達はそれを支えて一緒に進むだけだ」

「それで、失わぬと?」

「失わない為に、一緒に進むんだ。私を支えてくれる皆の為に、私は皆を支えるんだ」

「そうか・・・」

 

隊士は薄れゆく意識の中で、十年前のあの日を思い出す。

あの日、〝彼女〟と共に居れば、もしかしたのだろうか。

 

ーー団長、後は頼みますーー

 

荒谷芳泉の隣に立っていた、苛烈で狼の様に気高かった〝彼女〟。その顔を瞼に浮かべ、隊士の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「これが鉄蛇、〝竜砲〟まで積んでいるとは」

「冬悟さん、ご無事で?!」

「ああ、なんとか。だが、マズイよこれ」

「ここまでして、止まりませんか!」

 

巨大な鉄の大蛇がうねり、唸りを上げて〝播磨〟表層部を薙ぐ。

しかしその身は、既に満身創痍であり、装甲の割れたいたる所から黒煙を噴いていた。

 

七面鳥¦『ちょっとヤバイって! 鉄蛇止まんない!』

副長¦『区画を抜けませんか?』

グラタン¦『無理だ。丁度船体フレームの直上を走っている』

ヒエー¦『頭撃ち砕いたのはマズかった様ですね』

鉄桶男¦『だが、ああでもしないと、俺ら全員やられていた』

鉄桶嫁¦『索敵システムが体温でも音波でもない、まさかの嗅覚探査。頭部の空気吸入口を潰さないと、私達は狙い撃ちでした』

七面鳥¦『てか、ヤバイってば! ・・・あいつ、どこ行ってんの?』

 

瑞鶴の言葉に全員が鉄蛇を見る。

何かおかしい。暴れているが、その進行ルートは真っ直ぐだ。

 

ほなみん¦『え?! ちょっ、やば!』

ヒエー¦『司令?!』

ほなみん¦『だ、大丈夫、生きてる。ちょっと、崩落に巻き込まれて、上層部まで落ちたけど』

ヒエー¦『そうですか・・・』

ほなみん¦『というか、鉄蛇! 皆が二人を追っ掛けて行った方角に突き進んでる!』

鉄桶男¦『それを早く言え!』

 

五百蔵が駆けるが、チェルノ・アルファの加速力は低い。と言っても、全長百メートルの大蛇に追い付ける速度の持ち主は、今ここには居ない。

 

「くそ・・・!」

「冬悟さん」

 

装甲内で歯噛みする五百蔵、その彼の顔前に一つの表示枠が現れた。

 

七面鳥¦『私にいい考えがある』

 

頭上にエンジン音を聞きながら、嫌な予感がすると、五百蔵は嫌な冷や汗をかいた。




意味の無い、あきつ丸ラブストーリー以後の煽り予告

「いたら、あれやにゃ。朝潮、この吹雪と喧嘩しいや」
「へ?」

突如始まる、北海吹雪VS宿毛朝潮


「アタシの歌を聴きなぁ!」
「そのシャウトは卑怯だよ!」

横須賀悪ガキ隊VS舞風の対バン


そして






「これは・・・!」
「さよなら、洋。僕の勝ちだ」

不死の鳳が時雨に散る。



まあ、あれだよ。覚えてたら、こんな流れかな?


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それを知る意味は 配点¦(哀れでありますな)

やあ、久しぶりであるね。
待ってた人が居るといいよね。


一番初めに、この人に出会ったのは何時だっただろうか。

篁啓生は、己の前に立つ小さく細い背中を、掠れた意識の中見ながら思った。

 

彼女を初めて目にしたのは、あの春の日の朝。

桜が散り始めようとしていた時期に、大戦期の英雄の講演があった。

その講演会の日、彼は彼女に出会った。

 

病的と言っていい程に白い肌、それと対比する様に黒い髪、黒い制服。小柄ながらスッと通った真っ直ぐな背筋、凛とした佇まい。それらは全て、彼が持ち得ぬものだった。

 

その立ち姿に、彼は見惚れた。思わず、これからある講演会の事など忘れてしまう程に、彼は正門前に立つ彼女に見惚れたのだ。

それは、生来真面目な性格である彼には、初めての事であった。

 

硬直し、ただ見るだけしか出来ない彼に気付いた彼女の瞳を見ただけで、心臓の鼓動が張り裂ける程に加速し、静かだった血流が濁流の如く体内を駆け巡る。

 

『どうかした、でありますか?』

 

消え入りそうに儚い雰囲気のある声、なのに耳に残る不思議な響きが鼓膜を擽った。

 

『あ、いえ、その・・・』

『講演会は、もうすぐでありますよ』

 

これが初めての出会いだった。

 

「あ、きつ丸さん・・・」

「啓生殿、無事でありますか?」

 

目の前、黒と白に赤を散りばめた姿が振り向いた。

手には刀、刃こぼれしたそれを構えて、あきつ丸は一体の機動殻の前に立ち塞がっていた。

 

「まさか、艦娘とは言え、ここまで粘るとはな」

「ははは、そちらが大した事ないだけでは?」

「言うではないか」

 

言うなり、横薙ぎに抜かれた一撃を、軍刀一振りを犠牲に逸らす。

格納空間から新たな軍刀を、抜き打ち気味の居合で放ちながら、あきつ丸はある確信を元に戦場を組み立てていく。

 

「斑鳩近衛師団副長がこの程度、団長の程度が知れるでありますな……!」

「言うだけなら、容易い!」

 

この相手は、自分達を〝今〟は斬れない。

恐らくだが、自分達を斬り捨てる為の舞台が整ってないのだろう。

相手が選ぶ手段は、殺害ではなく無力化。良くて気絶か手足の骨折、悪ければ四肢欠損。人間の篁は死にかねないが、艦娘の自分なら中々死なない。

生物の動作は、四肢が揃っている状態を前提としている。

四肢のいずれかが欠ければ、どれ程に屈強な個体だろうが、そのパフォーマンスは一気に零に近くなる。

 

「ふっ……!」

 

一合毎に軍刀の刃が欠け、刀身に歪みが生じる。あきつ丸は自分の技と艦娘の膂力、その全てを総動員して長刀を捌き続ける。

あきつ丸と斑鳩師団副長との間には、折れ砕けた刀身が床に突き立ち散らばり、剣林を形作っている。

 

「まったく、厄介な話であります」

 

抜き放った同田貫が弾かれ、床に突き刺さる。ただそれだけで、柄が砕け、刀がその用を成さなくなる。

まったく、あきつ丸はもう一度呟き、灼熱の如き熱を孕んだ体を、艤装のサポートに任せて、強引に冷却していく。

 

「まったく……」

 

また一度呟き、残り少なくなり始めた刀剣を、格納空間から抜き放ち構える。

口では大きく出たが、彼我の実力差は圧倒的だ。篁を背に抜いた二刀を振るう。その全ては機動殻の装甲にも届かず、長刀に弾かれ断たれる。

それもその筈だ。相手は〝副長〟なのだ。

鎮守府に於ける艦隊の象徴が総長なら、艦隊の武力の象徴が副長だ。

そして今、己が相対しているのは、近衛師団副長。

 

「くっ……!」

 

笑みを含めた苦悶を吐き出す。あきつ丸の評価は決して低くない。鎮守府の役職持ちとして、恥ずかしくない実力を持っている。

だがそれでも、副長を含む特務級達には及ばない。

あきつ丸にしてみれば、特務級の役職者達は、全員が頭おかしいのだ。誰もが何処の鎮守府でも、一線級の実力者ばかり。

そう、特務級は全員一人残らず、何処かしら頭おかしいのだ。

特に副長級ともなれば、その頭の中は自身の強化に関する事に埋め尽くされている。

体の何処にどの様に負荷を駆ければ筋骨が破壊され、どの様に休めば効率的にその筋骨が再生強化されるか。

何を何時食べるか、どの様に食べるか、睡眠時間は、鍛練時間は、日常生活に於ける負荷は、己の時間全てで強くなる事しか考えていない。

それが副長級の生物だ。

そう、バトルジャンキーのウォーモンガー。あきつ丸にしてみれば、これ以上に哀れな生物は居ない。

 

「さあ、どうしたでありますか? 自分はまだ立っているでありますよ」

「口だけは達者か」

 

同田貫を二振り重ね盾とするが、受ける事の出来る威力を超えている。

実戦にて折れず欠けずを求めて、分厚く鍛え上げられた刀身、それを交差させた盾は、容易く砕かれた。

黒の装甲繊維で編まれた装甲服、その腹部に赤が横一文字に滲む。

皮と肉が僅かに斬られたが、内臓には達していない。

まだ動ける。あきつ丸は倒れたまま動けない篁を背に、新たな刀を抜く。

 

「……ふむ、侮ったか?」

「負け惜しみでありますな。ククク、耳に心地よいものであります」

 

口の両端を吊り上げ、三日月を作る。挑発だ。どれだけ実力に差があろうが、感情に揺れがあれば、そこに付け入る隙が出来る。

隙が出来れば、その瞬間逃げる。

そう、最悪でも篁だけでも逃がす。

 

あきつ丸は長刀を構える哀れな生物を見る。

嗚呼、本当に哀れだ。仕事しか無かった自分、しかし今は愛を知った自分。

ならば、今己の前に立つ者はなんだ?

愛知らぬ獣、嗚呼、なんと哀れな事だ。

これ程までに満ち足りる感情を知らぬとは、この世にこれ程に哀れな生物が存在しようか。

 

一刀を正眼に、足は前後に背筋を伸ばし、刀の柄は薬指と小指で軽く締める。

刀の切っ先を相手の喉に突き、霞み始めた視界を絞る。

血を、流し過ぎた。艤装のサポートが保たない。

だが、それでも

 

「啓生殿」

 

呟く名前を散らしたくないから、その想いを遂げてほしいから、叶わぬ想いを叶えてほしいから、あきつ丸は渾身の一刀を振るう。

思わず見とれる軌跡を描き、刀の重さを生かした唐竹割りは、滑る様な感覚を手に伝え、斑鳩師団副長の長刀を断ち斬った。

 

「見事……!」

 

声が聞こえる。風を斬る音もだ。

腕は上がらない。視界は霞む。しかし体は軽く、受けるがやっとであった長刀の軌跡が見える。

膝から抜ける様に倒れ込み、ただ刃先の赴くままに刀を振るう。

己と相手、両者の軌跡が見える。恐らく、特務級の連中の視界とは、こういった景色なのだろう。

つくづく、頭がおかしい。己がこうならねば至れぬ地に、連中は平然と至る。

 

ーーああ、これは避けれぬでありますな……ーー

 

数合の競り合いの果て、最後の一刀が折れた。いや、砕けたのか。判断出来ぬ頭は、はっきりと己を断ち斬ろうとする長刀を捉える。

 

「あきつ丸さん……!」

 

声は聞こえた。自分は恋を出来ただろうか。

迫る長刀に、頭を垂れると共に、あきつ丸は瞼を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、戦場で目を閉じるなよ。教導院に戻るか?」

「は……?」

 

不意に聞こえた声に、瞼を開けるとそこには、第三特務補佐の天龍が、独特の意匠の刀を手に、不敵な笑みを浮かべていた。




天龍ちゃんが強くて何が悪い。


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ありがとうとさようなら これらが重なる意味は? 配点¦(覚悟)

やあ、そろそろあきつ丸ラブストーリーはクライマックスだよ!


「よう、何時ものにやけた面はどうしたよ?」

「て、天龍殿?」

 

独特の意匠の刀で、斑鳩副長の長刀を受け止めた天龍が、満身創痍のあきつ丸に、眼帯をしていない目を向ける。

 

「お? 減らず口が聞こえねえな。死んだか?」

「誰が、死んだでありますか」

「生きてるじゃねえか」

 

鍔競り合いで軋みを散らす刀を横目に、天龍の視界であきつ丸が、刀身が欠けた刀を杖代わりに立ち上がる。

傍らには篁啓生の姿も見える。

ならば、己のする事は一つだ。

 

「行け。ここは俺が抑えてやる」

 

艤装の脚部装甲、その足の甲に折り畳まれていたブレードが立ち上がり、空いた左腕を格納空間に突っ込む。

そして、長刀からの押し込みが弱まった瞬間、膝から甲へ、刃を隙間に刺し込む様に蹴りを放つ。

 

「啓生殿!」

「は、はい!」

 

それを合図に、あきつ丸と篁が走り出した。その背を追おうと、斑鳩副長が動きを見せる。

だが、それを天龍が刀で阻む。

 

「……天龍、邪魔をするか」

「はっ、邪魔だぁ? するに決まってんだろ。俺達は横須賀だぜ」

「ならば、容赦はせん……!」

 

斑鳩副長が振るう長刀を、刀ではなく空間に走る〝線〟として、天龍は回避を繰り返す。

左腕はまだ格納空間に入れたまま、二人の居る空間を斬り裂き続ける剣劇を、天龍は塞がっていない欠けた視界で、観察し続ける。

 

「やはり、あの神通が勧誘した実力は並みではないか」

「けっ、厄介な剣だな。おい、一つ確認させろ。あきつ丸、斬るつもりだったろ?」

 

言葉に言葉による返答は無く、代わりに横薙ぎの一撃が放たれ、天龍はそれを後ろに下がり回避する。

 

「だとしたら、なんだ?」

「いやな、人間のお前が艦娘のあきつ丸を、正面から斬り伏せる。お前達の目的に、追加の意味合いを持たせるには、うってつけだと思ってな」

 

艦娘の護衛が、護衛対象を護れなかっただけでなく、人間よりも強い筈の艦娘が、人間に正面から負けた。

第三特務補佐として判断しても、これはかなり厄介なやり口だ。

この事実が起きて、世間に広まれば、人間と艦娘のパワーバランスの崩壊、それを引き起こす火種になる。

 

「それがお前らの目的だとして、それを俺らが望んでるとでも?」

「なんとでも言え……!」

 

跳躍器が火を噴き、二人の距離を一瞬で詰める。天龍はそれによる一閃を、経験による予測と艦娘の膂力が避ける。

刃が遅れた髪に触れ、斬り捨てる。数本の髪が舞い、天龍は右の刀で、空いた胴を斜めに斬り上げた。

 

白の装甲に斜めの傷が走る。

何かが(ほど)け、床に落ちる。天龍の左目を隠す眼帯だ。

斜めに走る傷を貼り付けた瞼がゆっくりと開かれ、天龍の金瞳とは違う紫瞳が露になる。

 

「馬鹿野郎が、ああ、この馬鹿野郎共が!」

 

肩口まで左腕を格納空間に収めたまま、天龍は加速する。異質な隻腕の剣、正道邪道全てを織り交ぜたそれは、懐に入り込まれた機動殻の装甲を削っていく。

だが、その削りは決定打には至らない。振るうのが、両腕なら届いた。二刀なら割れた。

だが、今の天龍は異質な隻腕。天龍の剣は届かない。

 

「やっぱ、無理か」

 

一歩分の距離を取り、天龍が呟く。

 

「ならば、ここで果てろ!」

 

斑鳩副長が一気に距離を詰め、唐竹に長刀を振り下ろす。

技、力、速度、角度、全てが揃った一撃。天龍をそれが己を断つ瞬間、体をずらし避ける。

そして

 

「悪いな、ちょっと力貸してくれ。龍田」

 

左腕、格納空間で掴み構えていた、己の刀と似た意匠の槍を、格納空間から射出される勢いに合わせ、己が膂力を乗せて突き込んだ。

 

「かっ……!?」

 

即座に後ろに跳ねた斑鳩副長だったが、斑鳩機動殻の装甲は脆い。胴体の主装甲は砕け、フレームは曲がり、動作系が破壊される。

そして、機体が破壊されるという事は、それを纏う肉体も破壊されるという事。

斑鳩副長は衝撃に弾き飛ばされ、骨が砕かれ肉が裂けた。血が溢れ、口から鉄の臭いと共に湧き出す。

 

「馬鹿野郎、俺らは、んな事望んじゃいねえよ。馬鹿野郎が」

 

そんな言葉を聞きながら、斑鳩副長の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

走る、走る、走る。分け目も振らずにひた走る。

 

「来た来た、来たよ!」

「こっちだ!」

「急げ!」

 

鈴谷、摩耶、木曾が、簡易に組んだバリケードの向こう側から手を伸ばし、こちらを引き込む。

 

「二人共、無事ですか?!」

「ふ、吹雪殿」

 

邪気目¦『おう、合流したか?』

ズーやん¦『天龍、無事。無事だね』

邪気目¦『無事も無事無事、ちょっと救助活動してから合流する』

元ヤン¦『早くしろよ。なんか、騒がしくなってきてやがる……』

空腹娘¦『え? あ! ちょっ! もの凄い音が……!』

 

それを最後に、表示枠が途切れる。

揺れ、爆音、衝撃、有りとあらゆるものが、その場を揺らし崩していく。

 

「啓生殿!」

「あきつ丸さん!」

 

手を伸ばす。確かに届けと、五指を広げて真っ直ぐに、相手に届けと手を伸ばす。

上下に崩れ行く世界で、あきつ丸は篁の手を掴み、己の腕の中に引き寄せる。彼の顔を己の胸に収めたが、まあ、よしとしよう。

あきつ丸は、篁を抱えて崩れ行く世界を駆ける。周囲にまともな道は無く、他の面子も各々に脱出を図っている。

ならば己達も、現況から脱さねばならない。

 

「あきつ丸さん」

「大丈夫であります」

 

そして、彼に想いを遂げてもらおう。ああ、なんと自分勝手なのだろうか。

思わず、口に薄い笑みが浮かぶ。己が欲の為に、ここまで他人を巻き込んで、笑い話にもならない。

否、笑い話にもならないなら、この話は一体なんなのだ?

知れている。恋話だ。叶わず、知られる事無く消えていく、その筈だった恋話。

だったら、知られる事無く、己が内に隠してしまえばよかったのに、この体たらく。

しかし、これでいいのだ。己は鉄、血潮の流れる鉄であり、恋などと、知る筈の無かった筈なのだ。

だが、己はそれを知れた。己が腕の中で、己に抱き着く彼に、恋を教えてもらえた。

 

ありがとう、己の恋。

そして、さようなら、己の恋。

 

「啓生殿、生きるであります。生きて、想いを遂げてほしいであります」

「え?」

 

穏やかな笑みを浮かべて、途絶えようとする道の向こう側、その先に彼を投げる。

 

「あきつ丸!」

 

摩耶が受け止め、木曾があきつ丸に手を伸ばす。

だが、その手はもう届かない。

崩れ行く世界に呑まれ、己は消える。例え見付かっても、判別は難しい状態だろう。

最期に一目、彼を視界に納めよう。そう思い、顔を上げた時、間抜けた第三特務の顔があった。

 

「?」

 

こんな時に一体なんだ。お前はいいから、彼を出せ。

そう考えていると、体が何かに拐われた。一体なんだと見ると、暗い朱色の装甲に覆われた機動殻が己を抱いて、跳躍器を用いて跳んでいた。

 

「仁田さん!」

「若様、御無事で!?」

 

着地した仁田は、あきつ丸を下ろす。

彼の機動殻は限界近く、破損箇所から紫電が走っていた。

 

「あきつ丸、生きてるか?!」

「無事、であります……」

「間に合ってよかったですよ」

 

二人の無事を確認し、全員が気を緩めた。

そう、戦場で気を緩めたのだ。その報いは、当然の如くやって来る。

 

「……マジか」

 

摩耶が艤装のグリップを掴み、構える。

吹雪も鉄腕ちゃんと戦闘体勢に入っている。木曾、鈴谷も同じく、まだ動ける仁田を含めて満身創痍のあきつ丸と、戦闘能力の無い篁を囲む。

 

「斑鳩近衛、まだこんなに居たんだ……」

 

機動殻の群れに囲まれ、鈴谷が舌打ちする。

〝播磨〟表層を揺らす力は、いまだ治まらず、確かな震動を伝える。

 

「いい? 皆」

「いいもなにも、それしか無いだろうが」

「ああ」

「では……、逃げろ!」

 

吹雪の声に、一斉に二手に逃げ出す。

吹雪達艦娘組と、あきつ丸含む篁組。バラバラに逃げ出し、少しでも戦力を分散させようとする。

そして、案の定で戦力を裂く事に成功する。

 

「仁田さん、あきつ丸さんを連れて……!」

「仁田殿、啓生殿を連れて……!」

「どっちも聞ける訳無いでしょう……!」

 

仁田は破壊寸前の機動殻に鞭を入れ、兎に角がむしゃらに逃げた。一応、逃げ足はあの〝死神〟グラーフ・ツェッペリンのお墨付きでもある。

仁田は加速する。残り少ない推進剤を、まだ生きている跳躍器に回しながら、逃げて逃げて逃げた。

そして、跳躍器に限界が訪れた。

 

「お二人共、私が抑えます! 先にお逃げください!」

 

投げる様に、二人を手放し、仁田は背を向け、迫り来る軍勢に立ち向かう。

顔には笑みを、体には震えを。人間、恐怖で笑えるというのは、事実だった様だ。

曲がった短槍を振り回し、視覚素子が遠く離れつつある二人を捉える。

罅割れ砕けた装甲の下、笑みを深くし、最後の悪足掻きと短槍を、己の体と技が許す限りに振り回す。視界の端で、何かが落ちてきた。瓦礫か、相手の増援か。

 

「任務、完了……!」

 

仁田善人の命が尽きようと、長刀が迫る。

そして、長刀が消えた。

長刀だけではない。その持ち主が、仁田の視界から消えた。

声が出ない。だが、それは百戦錬磨の斑鳩近衛師団を、正面から投げていく。

 

「ふむ、間に合いましたか」

 

そんな気楽な響きの声で、横須賀鎮守府副長の霧島が纏うロミオ・ブルーが、荒れ果てた戦場で猛威を振るった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「あきつ丸さん」

「大丈夫であります。自分が護るでありますよ」

 

出来るだけ笑顔で、あきつ丸は疲労困憊の身を走らせる。

既に艤装の機能は停止している。今、己を動かしているのは、執念だろう。

 

「あきつ丸さん、さっきの言葉は……」

「啓生殿、恋をするであります」

「っ!」

「自分は、貴方に恋をしてほしいのであります」

「僕は……」

 

うわ言の様に、言葉を繰り返す。

足が震える。否、地面が震えている。何かが、地面を震わしている。

〝播磨〟が揺れているのか。あきつ丸は掠れ始めた視界に、違和を捉えた。

 

「啓生殿!」

「え?」

 

あきつ丸は篁を突き飛ばす。そう距離を取る事は出来ないが、それでも彼を危険から離す事は出来た。

 

「鉄蛇……!」

 

もう、あきつ丸の体は動かない。疲労と出血、そして激突した瓦礫。あきつ丸は、己が終わっていく錯覚を覚える。仮にも艦娘である己が、この程度で死ぬ筈が無いのに、体が冷えていく。

 

「啓生殿、生きて、生きるであります!」

 

あきつ丸は立ち上がり、鉄蛇を睨み付ける。装甲の各所は剥がれ落ち、頭部が半壊したそれは、何かを探す様な、生物めいた素振りを見せる。

 

「あきつ丸さん!」

 

瓦礫に挟まれ、二人は視線を交わす。あきつ丸が見た彼の顔は、笑顔だった。

 

「僕は、貴女が好きです」

「は?」

 

鉄蛇が何かを見付けたかの様に、鎌首をもたげる。

それを認識している筈なのに、彼はその場から動かない。

 

「なんにも出来なかった僕に、色んな事を教えてくれた貴女を、僕は愛しています」

 

だから、

 

「僕に恋を教えてくれて、有難う御座います! そして、さようなら」

「啓生殿……!」

 

鉄蛇の尾が、篁啓生に落ちた。

瓦礫が舞い散り、粉塵が吹き抜ける。

衝撃があきつ丸の体が震わせ、いつの間にか降り始めた雨粒が頬に伝う。現実が彼女の魂を砕いていく。

 

「あ、ああ、あああああああああああああああああ!」

 

悲嘆の慟哭が、降り頻る雨の中に響き渡り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとーつ!」

 

底抜けに明るい声が、その慟哭を切り裂いた。




次回

戦場の宣言者 
何時だって何処でだって誰にだって
配点¦(君はそう言う)


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戦場の告白者 その言葉を紡ぐ意味は? 配点¦(未来を望む渇望)

やあ、長いよ!
そして、あきつ丸ラブストーリーは、今回のネタをやる為にあった……!
何話使ってんだよ……


「ひとーつ!」

 

底抜けに明るい声が、戦場で響いた。あきつ丸は、その声に聞き覚えがある。

いや、あきつ丸だけではない。駆け付けてきた全員が、その声の主を知っている。

 

「朝起きたら挨拶! 皆、おはよー!」

 

彼女は何時だってそうだ。どんな時だって、彼女はその声を聞かせてくる。

 

「二ーつ! ちゃんと食べよう朝ごはん!」

 

鉄の軋みを挙げて、鉄蛇の巨大な尾が浮き始める。

彼女は何処でだってそうだ。何処に居ても、彼女は必ずやって来て、此方に手を差し伸べる。

 

「三つ! 晴れた日は、皆で外で遊ぼう!」

 

鉄蛇が浮き始めた尾を押し込むが、下から押し上げる力に弱る気配は無く、力の軋みを響かせる。

彼女は誰にだってそうだ。誰であろうと、彼女は涙を流す者の側に居る。

 

「四つ! 困ったら助けを呼ぼう! こんなもん、なんぼのもんじゃー!!」

 

鉄と鉄がぶつかる激音が轟き、鉄蛇の尾が弾き返される。粉塵が土煙として〝播磨〟に吹き抜け、体勢を崩した鉄蛇がそれを増大させる。

 

「最後の五つ目! それが出来たらハッピーエンドだ!」

 

曇天の下、全てを覆い隠す土煙が、その瞬間晴れた。

土煙だけではない。空を覆う曇天が晴れ、雲の切れ間から光が差し込む。

その光、俗に天使の梯子と呼ばれる光に照らされて、天使の羽を持つ鉄人が姿を現す。

 

「泣いてる子と皆を守るヒーロー! 磯谷穂波見参!」

 

粉塵を晴らし、全身から放熱の陽炎を散らし、ストライカー・エウレカが鉄蛇の前に立ちはだかった。

 

 

ほなみん¦『いえーい、見てるー?』

約全員¦『お前、ナイスー!』

ほなみん¦『ははははは! 私を崇めろー!』

約全員¦『はったおすぞ、お前……!』

ほなみん¦『手のひら返しがスゴい!』

七面鳥¦『え? なに、そっちどうなってんの?!』

にゃしぃ¦『なに?! なにかあったの?!』

空腹娘¦『建物崩れて、斑鳩師団湧いて、鉄蛇が出て、尻尾で篁さんベチーンしと思ったら、磯谷司令が叫んでアッパーカット!』

半死半生¦『なにそれ? あ、神宮三笠よ』

神従者¦『ある意味的確なのでしょうか? 神通です』

グラタン¦『そう言えば、仁田生きてるか? ……死んだか』

護衛者¦『殺すなー!』

グラタン¦『お? 生きてたか』

護衛者¦『生きてますよ! 今、横須賀の副長が無双してます!』

 

 

表示枠が叫び、青の装甲が戦場に飛び込んでくる。長い両の剛腕には、夥しい傷が刻まれ、全身から放熱の陽炎を吐き出している。

 

「流石は斑鳩近衛師団、ロミオ・ブルーと私の限界を、更に引き出してくれる……!」

 

明らかに危険発言をしながら、霧島が腕捌きだけで四方八方から迫り来る長刀をへし折っていく。

それはロミオ・ブルーの装甲と出力、霧島の技があって為せる事であり、そのどちらも欠けては為せぬ事だ。

一人一人が下手をすれば特務級の近衛隊士、それを複数人相手を続け、ただ一人として己の背後には通さない。

 

「武骨者ですが、無粋は無用だと分かりますよ」

 

今、霧島の背後には起き上がり始めた鉄蛇と、それに対峙する磯谷。そして、

 

「啓生殿!」

「あきつ丸さん!」

 

戦場の真ん中で駆け寄り、抱き合う二人が居る。

霧島の力は背負う為、あの偉大な長姉から授かった己の力の方向性。それを一身に体現する為、霧島は退かない。

 

「さあ、横須賀の〝紅霧島〟、越えてみせろ……!」

 

霧島が吼え、鉄蛇が再び起き上がる。

まだ僅かに稼働している空気吸入口から、莫大量の吸入を行い、臭気センサーからの情報を人工知能が精査する。

味方負傷多数、目標生存、機体稼働可能、戦闘続行。

鉄蛇が戦闘を続行しようと、吸気した空気を圧縮、頸椎部チャンバーにて加圧、砲身ともなる頸椎吸気パイプを連結させ、砲口である顎を開く。

狙いは足元のストライカー・エウレカとその周囲一帯。

鉄蛇最大火力である〝竜砲〟、自損すら恐れぬ一撃が炸裂しようとした瞬間、鉄蛇の機体はなにかに殴りつけられた様に折れ曲がった。

 

『はーっはっはっはっ! ちょーっと形は違うが、戦車は戦車だ!』

 

けたたましい音を掻き鳴らす、逆ガル翼の艦載機が呵呵大笑し、規格外の火力で鉄蛇を打撃する。

爆砕というより破砕の音が轟き、鉄蛇の機体が崩れ始めた。

 

「啓生殿!」

「あきつ丸さん!」

 

崩れ始めた鉄蛇が、それでも機体機能を復帰させ艦載機を狙って、空に放った竜砲の威力が起こした風に、二人は抵抗しながら手を取り合い、指を絡め合い、抱き合った。

最早、二人を邪魔する者は居ない。鉄蛇も二体の鉄巨人と一機の艦載機によって、その機能の大半を破壊され、斑鳩近衛師団も壊滅状態となった。

だがしかし、鉄火場は続く。

 

「あきつ丸さん、貴女達のお陰で、僕は想いを告げる事が出来ました」

 

篁の言葉の裏で、鉄蛇が最後の足掻きと、機体をくねらせ、周囲を巻き込み共倒れを狙う。

だが、それを許す者は居らず、霧島がロミオ・ブルーの左腕を半壊させながら装甲を貫き、人工知能部を力尽くで引き摺り出す。

力を失い倒れ行く鉄蛇が、砕かれ大きく口を開けた虚へと落ちていく。

 

「啓生殿」

「有難う御座います。これで、僕は思い残す事はありません。なので、あきつ丸さんも、御自分の想いを遂げてください」

 

絡めた手指を離し、篁は笑顔で、はっきりとそう言った。

 

 

ズーやん¦『……フラれた?』

空腹娘¦『いやいや、まだ、まだですよ!』

元ヤン¦『いや、でもこれよ……』

ほなみん¦『え、うっそでしょ……』

半死半生¦『私の計画、全部崩れるから、勘弁してほしいんだけど……』

神従者¦『御嬢様! お気を確かに!』

蜻蛉玉¦『やっかましいであります!』

 

 

表示枠を叩き割り、あきつ丸は戦場にて、己が相手と相対する。兎に角、篁の想いは知れた。

ならば、後残すは己だけだ。

あきつ丸は息を吸い、己の内に秘めた覚悟の柄に手を掛けた。

 

「啓生殿、自分の想いを聞いて戴けるでありますか?」

「え?」

 

船長¦『お? まだ続いてたか』

 

喧しい。あきつ丸は再び、表示枠を叩き割る。

見据える先には、両の手を胸の前で組む篁が居る。周囲では、磯谷に横須賀特務組と吹雪、副長の霧島、篁近衛師団のグラーフに仁田が、斑鳩近衛師団の残存戦力と戦っている。

今しか、無いのだ。今、この時を逃せば、彼に想いを告げられず、己が内で恋を終わらせる事になる。

今この場は、全員の死力によって成り立っている。正直、己も限界が近い。

だから、短く的確に、想いを告げねばならない。あきつ丸は、覚悟の柄を掴み、想いという刃を抜き放った。

 

「啓生殿!」

「は、はい!」

「自分は貴方の事がすいれすっ!!」

 

噛んだ。

 

 

空腹娘¦『帰っていいですか?』

ズーやん¦『ふぶっちふぶっち! 割りとザックリいくよね?!』

船長¦『まあ、これは仕方ねえわ』

 

 

ーーしまったであります!ーー

 

 

理由も特に無く、ただ単純に疲労と緊張で噛んだ。しかし、今はリカバリー、フォローが必要だ。

あきつ丸は艦娘の思考速度で、篁との思い出を引き出す。

 

 

ーー啓生殿の趣味は園芸、好きな花は……ーー

 

 

「睡蓮の様な人だと、思っていたであります!」

 

 

ズーやん¦『まだやってんの? 巻いて巻いて』

邪気目¦『あぁ? どうなってんだそっち?』

船長¦『あー、あきつ丸の死闘?』

邪気目¦『んだそりゃ?』

 

 

かなり無理があった。あきつ丸が内心焦っていると、篁が赤くした顔に両手を当てて、

 

「い、色は何色ですか?」

 

まさかの問いに、あきつ丸は迷うが、彼は赤の様に苛烈な色ではなく、白の様に凛とした色の方が合っている。

確か、白の睡蓮は彼が家で育てていると言っていた。

 

「白であります!!」

 

篁が赤みを増した頬を両手で押さえる。だが、篁は目を伏せ、頭を振った。

 

「ダメです!」

「何故でありますか?」

 

語気を強めず、あきつ丸は問う。

篁はその声に、眉を立て、両手を振り、

 

「僕は篁なんです! 篁は御三家で、この国を背負って立つ必要があるんです! だから僕は、仮でも今は篁だから、務めを全うする必要があるんです!」

 

あきつ丸はただその言葉を聞く。

 

「だから、僕は僕の恋を終わらせる必要があるんです!」

「無いであります!」

 

あきつ丸はただその言葉を聞き、力の限り叫んだ。

戦場に於いて、周囲の身動きを一瞬止める程の一喝。

驚いた篁が、目を見開き、あきつ丸を見る。

 

「無いであります。貴方が貴方の恋を終わらせる必要など、無いであります」

「どうして、そんな事を言うんですか?」

「貴方に……」

 

言葉に詰まる。だが、言葉を失った訳ではない。

 

「自分が貴方に、否! 自分が貴方を好きだからであります!」

 

言った。最早、己を塞き止めるものは無くなった。想いは熱となり、頑なだった言葉を溶かし、濁流となった。

止める事など出来る訳がない。

 

「確かに、貴方は篁だ! しかし、それが貴方が恋を終わらせる理由にはならぬであります!」

「でも、僕には務めが……」

「くどい!」

 

艦娘の肺活量を以て叫ぶ。

 

「自分は、貴方に側に居てほしい! 貴方は、どうであります?! 先程のあの言葉は、嘘だったと言うのでありますか?!」

「僕は……」

 

篁は顔を歪ませ、手で覆う。

 

「僕、……こんなに細いんですよ?」

「構わぬ!」

「何も、何も出来ないんですよ?!」

「構わぬ……!」

「篁が…… 御三家が敵に回るかもしれないんですよ!」

「構わぬであります……!! 自分は横須賀鎮守府憲兵隊隊長! 横須賀が〝豪運〟は、力には屈さぬであります!」

 

叫ぶ言葉に、何処かで誰かが笑った気がした。気のせいだろうが、紛れもない事実だ。

 

「国一つと戦う覚悟、とうに済ませているであります」

 

 

元ヤン¦『は?』

ズーやん¦『あきつ丸、アウト』

邪気目¦『一人で、やってくんねえかな』

七面鳥¦『あ、やば、計算ズレた』

鉄桶男¦『え、嘘でしょ? ……あ』

鉄桶嫁¦『冬悟さん? 冬悟さん?!』

 

 

少し離れた所で、艦載機が四機、何かを投下したのが見えた。

嘘になるかもしれない。だが、それでも、何も出来ないと知りながら、それでも務めを背負おうとする意思を、その魂を己に向けて欲しい。

 

「貴方が拒絶しようとも、自分は貴方を奪っていくであります……!」

 

恋は強欲、欲とは未来を望む渇望。あの金剛が、失った左薬指を撫でながら、何時だったかそんな事を言っていた。

あの時は、何も思わなかったが、今ははっきりと解る。

ああ、そうなのだ。今、自分はこの人を何よりも欲しているのだ。

だから、心のままに叫ぶ。

 

「能も家柄も、貴方が側に居てくれれば関係無いであります!」

 

手を伸ばし、確りと彼の細い両肩を掴む。

真っ直ぐに見据える双眸には、水晶の様な涙が蓄えられていた。あきつ丸はその水晶を溢さぬ様、最初に、一番初めに告げるべきだった言葉を告げる。

 

「自分、啓生殿の事が」

 

はっきりと

 

「すりれるっ」

 

はっきりと噛んだ。

 

動きが止まる。己達だけではない。周囲も、何もかもが止まる中、篁は瞳に蓄えた涙を溢した。

無音と不動が支配する空間で、篁は溢れた涙を払い、嘘をついた。

真面目な彼が、初めて自分から自分の為に嘘をつく。

そして、その嘘は

 

「僕もです……!」

 

告白の答え、それを聞くあきつ丸は、赤を朱に変え、両頬に手を当てて戸惑っている篁を見た。

 

「あ、あの……」

「こちらへ」

 

篁は行く。

抱き寄せられ、あきつ丸の胸に飛び込む。たどたどしく彼女の腕が、こちらの背から腰へ回る。

 

「僕の負けですね」

「自分の負けでもあります。接吻の訓練は知らぬでありますから」

 

衣擦れの音が聞こえて、柔らかな感触と温かさが唇に伝わり、鉄の味がした。

お互い、同じだったのだろう。苦笑して、次はほんの一瞬だけ重なる。

鉄火場の恋は、やはり鉄の味がした。

 

「あきつ丸さん」

「何でありますか?」

 

啓生の手が、こちらの軍帽の位置を直す。

啓生は微笑み、確かめる様に言う。

 

「僕の側に居てくれますか?」

「貴方が望む限り」

 

言って、あきつ丸が己を引き寄せるのが分かった。

居るのだ。強大な存在が。

 

「残念だが、二人揃って散れ」

 

人類最強の剣士、荒谷芳泉が、群青の機動殻を纏い、包囲を突破していた。

空気だけでなく、空間までも斬り裂かんとする長刀が、二人に迫る中、あきつ丸はただ啓生を抱き寄せ、長刀を見据え、長刀がけたたましい轟音と共に弾かれた。

 

「よう、荒谷芳泉」

「五百蔵冬悟」

 

瑞鶴の艦載機四機により運搬され、投下されたチェルノ・アルファを纏った五百蔵冬悟が、剣鬼の前に立ち塞がった。




次回
戦場の激突者


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戦場の激突者 その信念と理解は 配点¦(未来は誰にだって)

やあ、あきつ丸ラブストーリーの最終局面だよ。
オッサン回だよ。


それは、咆哮だった。鉄と血、人と獣、戦場に咆哮が轟いた。

曇天の下、数々の視線の集まる中央にて、その激突者二人が居た。

 

鳴り止まぬ破砕音、連続する異音、誰もが理解していた。

この戦いは、長くは続かず、決着の時はもうすぐそこだと。

刃が砕け、鉄鎚が割れる。散った装甲が、地面に落ちては、重い音を立てて更に砕け散っていく。

互いに片腕を垂れ下げ、残った体をぶつける。周囲は見ている事しか出来ない。もし仮に、己達が手を口を、出してしまったなら、この戦いに意味が無くなってしまう。

そう感じ取り見ている事しか出来ない。

 

「五百蔵冬悟、そこをどけ」

「出来るかよ」

 

再度ぶつかり、両者の装甲が砕かれ、斬り落とされる。

両者の機体は、数合の激突で満身創痍となっていた。これまでに蓄積した負荷が、損傷があった。

斑鳩近衛師団、鉄蛇、艦娘、いくら機動殻を纏っていても、中身は両者共に人間であり、限界がある。

 

機動殻の視覚素子を捉える視界が、ぼやけるのを見た。

反応出来る筈の、遅い一撃を避けられない。

半ばからへし折れた長刀が、チェルノ・アルファの腹部装甲に罅を入れ、衝撃が五百蔵の内臓を掻き回す。

罅割れた鉄拳が、機動殻の頭部装甲を捉え、装甲を砕く。

脇腹への衝撃にズレた一撃を、荒谷は跳躍器で体を回し、ダメージを軽減する。だが、軽減してもなお、そのダメージは荒谷を大きく削り、面頬から血が塊として溢れ出す。

 

「かっ、あ……!」

「くあ……!」

 

五百蔵も膝をつき、苦悶の嗚咽を漏らす。装甲に勝るチェルノ・アルファだが、荒谷という規格外の技量の持ち主が放つ一撃を、完全に打ち消すには至らず、機体共に軋みをあげている。

両者、軋み、よろつき、苦悶を漏らし、しかしそれでも、互いに向かい合い、譲らない。

 

「……我々は、彼女達を……、戦火からっ……!」

「ぬぅああ……!」

 

最早、勢いも力も失った拳が、荒谷を弾き飛ばす。

荒谷が倒れ、五百蔵も再び膝をつく。機体も人も、限界を越えていた。

だがしかし、二人は痛み軋む体を押して立ち上がる。

 

「我等の意思を! 彼女達に安寧を……!!」

「この、大馬鹿野郎が……!」

 

五百蔵が拳を振るう。しかし、荒谷は見せた事の無い動きを見せ、それを回避する。

体が泳ぐ。死に体となった体で、五百蔵は荒谷向けて腕を振り抜く。だが、それも荒谷は避ける。避け、チェルノ・アルファの左拳を半ばから断つ。

 

「提督!」

「冬悟さん!」

 

悲痛な叫びが聞こえるが、五百蔵自身には届いていない。

内部機構と潤滑油を溢し、断たれた左を叩き付ける。

鏡の様に滑らかで、ふとすると元通りにくっつきそうな断面が、群青の機動殻に当たり、その装甲が割れる。

それと同時に、最も堅牢なチェルノ・アルファの頭部装甲が下から斜めに裂けた。否、斬られたのだ。

ぬるりと、堅牢な装甲が何の抵抗もせず、鏡面の様な断面となり、崩れ落ちる。

五百蔵はそれを見て、怯まなかった。怯めなかった。怯めば、次は死ぬ。故に前に出た。

最早、意味を成さぬ左腕を盾に、荒谷に肉薄し、音越えの拳を射出する。水蒸気の輪を抜けて、右拳が荒谷が振るった長刀を粉砕する。だが、荒谷はその瞬間に長刀を手放し、来る衝撃から離れる。

音が拳に遅れ、衝撃が荒谷の体を叩く。しかしそれでも、荒谷は腰部の跳躍器を加速させ、チェルノ・アルファの腹部装甲を腕部装甲を以て斬り裂く。

 

「が、あぁ……!」

 

五百蔵が肘を打ち下ろし、群青の装甲が粉砕され、二人の機体が、その機能を停止する。

そして、二人は機体を乗り捨て、生身で対峙する。

五百蔵が拳を構え、荒谷が掌を構える。

巨拳が荒谷の頬を掠め、カウンターの一撃が五百蔵の腹に突き刺さる。荒谷は格闘術、五百蔵は喧嘩殺法紛い。二人の差は機体性能の差であり、生身の差ではない。

かち上げる様に、突き出された荒谷の肘が、五百蔵の肋をへし折る。だがそれでも、五百蔵は止まらない。

両の二の腕を掴むと、膂力に任せて荒谷を持ち上げ、地面に叩き付ける。肉が潰れ、骨が折れる音が響く。

 

「ぐ、がぁ………」

「立て、立てよ。荒谷芳泉」

「五百蔵、冬悟……!」

 

青黒く変色した片腕を垂れ下げて、荒谷は立ち上がる。

そして、五百蔵の拳が荒谷を倒す。そしてまた、立ち上がる。

 

「五百蔵、冬悟ぉ……!」

 

叫ぶ声は、鉄拳に打ち砕かれ、荒谷は倒れた。

 

「荒谷、お前は俺だよ」

「………」

「俺がお前なら、お前と同じだった」

「なあ、五百蔵冬悟。我等は、どうすれば、よかったのだ?」

 

握り締めた拳を解き、五百蔵はその場に座り込み、荒谷の言葉を聞く。これは、もしかしたらの自分の言葉だ。もし、立場が違っていて、全てがそうだったなら、五百蔵冬悟は荒谷芳泉で、荒谷芳泉は五百蔵冬悟だった。

二人共、艦娘という年端のいかぬ娘達に、銃火を持たせる事を拒んだ。

だが、二人には絶対的な違いがあった。

 

「解っていた。我々は解っていた……。こんな事で、彼女達を砲火から、遠ざける事など出来る訳がない……」

「ああ」

「こんな事をしても、彼女を更なる砲火に曝すだけだ……! だがそれが、それが正しいというのなら……」

 

あきつ丸が啓生の肩を抱き寄せ、磯谷が比叡に歩み寄る。

場に、武装をしている者は居らず、誰もが荒谷の独白を聞いていた。

 

「守る為に、戦う為に、力を身に付けた我々は、どうすればよかったのだ……!」

「簡単だ。簡単な、話だ」

 

荒谷と五百蔵、この二人の違いは、本当にほんの少しだ。

 

「お前は、お前達は、彼女達と話をするべきだった。ただ、それだけだ」

「そんな、事で……!」

「そうだ。そんな事だったんだ」

 

ほんの少し、艦娘達と話をして、彼女達の望む未来に並んで足を踏み込んだか、艦娘達と話をせず、自分達の望む未来に向かったか。ただ、それだけだった。

ただ、それだけで、二人は両極の存在になった。

 

「荒谷、彼女達の未来は彼女達のものだ。それを自分達だけで決めた、それがお前達の間違いだ」

「……そうか。そうだったのか……」

 

荒谷の体から力と意思が抜けていく。右の掌を顔前に翳し、何かを呟く。

 

「そうか。そうだったな。お前はそうだったな。…………足柄」

 

荒谷だけでなく、斑鳩近衛師団隊士全員が、その場に座り込む。

戦いが終わったのだ。

全員が安堵に気を緩めていると、荒谷が腰のベルトから、一振りの短刀を抜いた。

 

「お前、なにを……!?」

「責を負う者が居るだろう?」

「やめろ……!」

 

五百蔵を急ぎ手を伸ばすが、喉を裂こうとする荒谷の腕を止める事は出来ない。

周囲が赤に染まろうとした時、荒谷の短刀が、甲高い音と共に、根本から断たれた。

 

「はいはい、死んでもらっちゃ困るのよ」

 

車椅子を突いて、神宮三笠が神通と睦月を伴い現れた。

荒谷の短刀を断ったのは、グラーフ・ツェッペリンの狙撃であった。彼女は硝煙を上げるライフルを下げると、啓生の側に控えた。

 

「三笠御嬢様」

「荒谷、斑鳩近衛師団全員に命令よ。死んで責を果たそうなんて、甘い事は許さない。貴方達には、まだやってもらう事があるのよ」

 

マスクを外し、顔色がどんどんと悪くなっていく神宮、だが彼女は言葉を止めない。

 

「荒谷、この度の反乱の責を言い渡す。生きなさい。この国には、まだ貴方達烈士が必要なのよ」

「だがそれでは、外に示しが……!」

 

荒谷が抗議の声を上げるが、神宮は首を振る。

 

「この国はいずれ、再び戦火に飲まれる。その時に、貴方達はまた、彼女達を砲火に曝すの?」

「………っ!」

「この反乱は暴走した鉄蛇の鎮圧と、潜り込んだテロリストの制圧。そういう事になるわ。私がする」

 

神宮はそう言い、呼吸器を再び装着する。顔色は青を通り越して、既に土気色となっている。神通が僅かに顔を緊迫させ、点滴を入れ換える。

 

「荒谷、次は彼女達と共に、軍靴を響かせなさい。そうしてから、死ぬなら死ね。それが貴方達の責よ」

 

神宮は言い切ると、力無く車椅子に凭れる。

代わりに神通が、荒谷に呼び掛ける。

 

「荒谷」

「分かっている。……その責、命に換えても果たしてみせよう。今度こそ過たぬ為に」

 

今度こそ、全て終わった。間違い無く、全員気を緩めていた。

そんな時、吹雪が突如、空を見上げ叫んだ。

 

「総員、回避……!」

 

何事か、全員が身構えた瞬間、空から何かが飛来し、〝播磨〟に着弾した。

鉄蛇の竜砲を遥かに越える威力のそれは、〝播磨〟を揺らし、表層フレームを歪めた。

 

「一体、なにが……?」

 

誰ともなく、疑問を口にする。

着弾点には、何かが動いていた。そして、舞い上がっていた粉塵が瞬時に晴れ、その正体が明らかとなった。

 

「お? 丁度の時に来たがやのうし」

「宿毛の大和か……!」

 

天龍が呟き、長身の大和が草臥れた煙草に火を点けた。




次回
あきつ丸ラブストーリー最終話&第三世代編スタート


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第三世代
オッサン、宙ぶらりん


どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第116話目です。あきつ丸ラブストーリー、一年以上やってたという事実に怯えつつ、とうとう始まります第三世代編。

吹雪、朝潮、夕立、舞風、そして時雨。どうしてこの面子なんだ? 初期艦娘の五人でよかったじゃないか。文句はサイコロキャラメルに……!

では、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第116話!
お楽しみください!


「ああ……、マジかよ」

 

そんな声が聞こえた。諦めの色に染まった声だ。そして、その諦めを誰も咎めなかった。

咎める事が出来ない、意味が無い。そういう存在が、そこには居た。

 

「おうおう、どういた? 揃い揃うて、呆けちゅうにゃあ」

 

草臥れた煙草が半ばまで燃え尽き、多量の紫煙となって噴き出す。踏み締めた〝播磨〟のフレームが、軋みを上げる。

宿毛泊地に所属する第一世代艦娘〝不壊の大和〟、その超重量に損傷した〝播磨〟表層区が、彼女の歩みに合わせて悲鳴を挙げる。

 

「……どうだち構わんけんど、アシは売られた喧嘩は買うぞ?」

 

首を鳴らしながら、構えるグラーフを見る。だらりと垂らした両腕、若干前屈みとなった上半身と、膝を曲げ腰を落とした下半身。

グラーフは今は勝ち目が無いと判断し、武器を下ろす。

 

「あ? やらんがか?」

「今は勝ち目が無い上に、優先するべき事がある」

「ほうかよ」

 

大和が短くなった煙草を握り潰す。極小の塊となったそれは、紙くずも煙草葉も落とさず、金属の携帯灰皿に落ち、硬質な音を聞かせる。

長い髪が海風に揺れ、大和は周囲に視線を送った。構える天龍、木曾、摩耶。表示枠を広げる鈴谷と榛名、今にも飛び掛からんばかりの霧島と、彼女の首根っこを掴む比叡。

離れた場所に瑞鶴が見え、大和の口が笑みに歪む。

そして、大和の目が止まった。

 

「うひゃあっ!」

「ふぶっち?!」

 

一瞬、誰も反応出来ぬまま、大和が吹雪の眼前に現れ、襟首を摘まみ上げる。

猫の様に簡単に摘まみ上げられた吹雪を、大和はプラプラと吊り下げられた吹雪を観察する。興味深く、繁々と見詰める目には、喜色の色がある。クルクルと回され、目を回す吹雪をよそに、大和は大笑する。

 

「かっははははははは! ほうかほうか! おまんが洋の係累かよ……!」

 

〝播磨〟が揺れる。全員が改めて理解する。これはダメだ。第一世代艦娘の生き残り、〝不死〟とも〝豪運〟とも違う。正真正銘の怪物がそこに居る。

グラーフも神通も、霧島も、名のある実力者全員が、息を飲む。もし仮に、この怪物が敵意を持って行動すればどうなるか。

確実に全滅する。緊迫が走る中、大和の首が五百蔵を向いた。

 

「な、あ……?!」

「えっ?」

 

またも突然現れた大和が、座り込んだままの五百蔵を、軽々と摘まみ上げ、吹雪と並べて見る。

 

「成る程のうし」

「な、何がでしょう?」

「洋が気に入る訳やのう」

「え、ええ……」

 

上官部下揃って吊り下げられたまま、顔を見合わせる。

そして、大和の興味は次の二人に移った。

 

「おんしは金剛の妹やにゃ?」

「は、はい!」

「で、おんしは元は呉のか」

「ひゃ、ひゃい!」

 

観察する目は、四人を見比べ、そして納得する様に頷く。

 

「かははは、えいにゃあ。まるゆの与太話も信じてみるもんやのう」

「ういっ!?」

 

陸軍重鎮の名前に、啓生の隣のあきつ丸が奇声をあげる。

その声に、大和がニヤリと口の端を吊り上げ、荒谷を含む御三家の面々を見た。

 

「……御三家か。妹が世話になったのう」

「その逸話、事実でしたか」

「まあ、成り行きやがの」

 

頭を掻き、体を起こした荒谷と、大破した機動殻を見た。

 

「懐かしいもん使いゆうにゃあ。あん時から、大分変わったかや?」

「……嘗てから続き、時代に合わせて変わった」

「そうやの。随分、尖っちゅう。んで、こいたと喧嘩して負けたがやな」

 

摘まみ上げられたままの五百蔵を、荒谷の前に差し出す。

プラプラと吊り下げられ、易々と振り回される巨躯。気まずい顔で、顔を見合わせる五百蔵と荒谷。

 

「ま、おんしら程度は喧嘩で収めちょき。アシらみたいに、殺し合いはするにようばん」

 

吊り下げられた二人を下ろして、大和は〝播磨〟舳先の方角へと歩んでいく。一体今度は何だと、視線が集まる中、大和は何気無しに言った。

 

「この船、止まっちゅうきにゃあ。アシが曳航しちゃらあや」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

七面鳥¦『はいはい! えっと、どういう事?』

ズーやん¦『宿毛の大和が、〝播磨〟を曳航します!』

七面鳥¦『それよ! 〝播磨〟が何tあると思ってんの?!』

船長¦『ちょっとした町と同じだからな……』

元ヤン¦『つかよ、あいつ、体重何㎏あるんだ? 〝播磨〟の表層フレームが歪んでるんだが……』

ヒエー¦『鉄蛇で歪まなかったという事は?』

ほなみん¦『鉄蛇より重いって事?』

鉄桶男¦『話は聞いてたけど、実際はそれ以上だね』

鉄桶嫁¦『あれが、御姉様と同じ第一世代ですか……』

邪気目¦『それ聞くと、やれそうな気がしてきたな……』

 

 

表示枠が騒がしく喚いていた頃、大和は停止した〝播磨〟の舳先に居た。その顔には笑みがあり、フレームが軋む音を無視しながら、作業を進める。

 

「洋の係累、アシのが居るがやき、あいたのが居らんのがおかしかったわな」

 

背に負った鉄塊を開き、極太のワイヤーを引き出す。それを播磨の船体に括り付け、自身は海へと落ちる。

着水の瞬間、海面が撓み、大和を中心として大きく凹む。乱れた波が戻り、大和を押し上げ、若草色の作業着に飛沫が散るが、本人は気にせず、ワイヤーを掴み海面を〝踏んだ〟。

 

「い、よ……!」

 

全身の筋肉が隆起し、力がワイヤーを張らせる。〝播磨〟が軋みを雄叫びをあげるが、大和は無視して牽く。

海面を踏み、前へ前へと歩を進める。

 

「アシも、ちっくと鈍ったかや?」

 

〝播磨〟を曳航する大和が、草臥れた煙草に火を点ける。

大和の力に、〝播磨〟は逆らわず従っているが、大和からしてみると、それでも鈍った様だ。

 

「まあ、かまんか」

 

大和は再び歩みを進める。紫煙を燻らし、欠伸を漏らす。

 

「腹へったにゃあ。朝潮、飯炊いちゅうろうか」

 

再度、欠伸をして、気怠気な呟きが海に落ちた。




次回

吹雪、朝潮、負けられない戦い


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吹雪、前へ

どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第117話です。
今回から本格的に、第三世代編が始まります。


あ、活動報告に人気投票的なものを開催したりしてます。


何も出来なかった。

ただ、立っている事しか出来なかった。

誰かが死んでもおかしくなかった。

 

そんなのは、もう嫌だ。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

何故か疲れが癒えた五百蔵は立ち上がり、海風を巨体に受ける。チェルノ・アルファは大破、榊原班長の怒号が、今にも聞こえそうだ。

まだ肌寒い季節だが、気持ち暖かく感じるのは、南国と呼ばれる気候故だろうか。

 

「きっついなぁ……」

 

呟く声が海風に連れ去られ、隣にそっと黒髪が靡いた。

 

「冬悟さん」

「ああ、榛名さん」

「チェルノ・アルファ、また壊れちゃいましたね」

「情けない話だね」

 

チェルノ・アルファが、ではない。それを操る己が、何よりも情けないのだ。左拳を失い、頭部装甲を斜めに斬り裂かれ、細かな損傷は数え切れない。

崩れ落ちる様に鎮座する機械の鎧に、五百蔵は溜め息を吐く。

 

「さて、これからどうなるやら……」 

「なるように、なるといいのですが……」

 

曳航されていた〝播磨〟から、ボゥトに乗り換えながら、五百蔵と榛名は、視線の先に座す宿毛泊地を見ていた。

 

 

ズーやん¦『はい、被害報告』

船長¦『軍刀と外套』

邪気目¦『眼帯』

元ヤン¦『艤装の船殻』

空腹娘¦『鉄腕ちゃんの装甲』

ヒエー¦『弾薬と銃身』

副長¦『ロミオ・ブルー』

ほなみん¦『ストライカー・エウレカ』

鉄桶男¦『チェルノ・アルファ』

鉄桶嫁¦『艤装の展開殻』

七面鳥¦『弓、あとは装甲服』

蜻蛉玉¦『軍刀全部と装甲服、あとは出血多量の筈でありますが……』

ズーやん¦『私も艤装かな。って、誰も生身の被害は無しなの?』

 

 

啓生を隣に、あきつ丸が己の身を確認する。確かに、己の身には傷があったが、何故か既に傷は塞がっていて、早いものは痕すら消え始めている。

あきつ丸が、露出した病的に白い肌を撫でていると、隣の啓生が頬を赤くする。

それが微笑ましく、あきつ丸は設定を弄った表示枠で、その表情を隠し撮る。

 

「あの、あきつ丸さん。その、女性があまり肌を露出するのは……」

 

 

ーー眼福でありますな……!ーー

 

 

パスワードを何重にも掛けたフォルダに、写真を納めつつ、あきつ丸は内心でほくそ笑んだ。

しかし、己の身に刻まれた傷は、そう早くに癒えるものでも、消えるものでもない。

内心に笑みを隠し、あきつ丸が己と他を確認していると、あきつ丸は己の視界が高く広がっている事に気付いた。

 

「……な、なんでありますか? 大和殿」

「いやのぅ、懐かしい気配がするき」

「懐かしい?」

 

海を踏んで、大和が煙草を呑む。紫煙が海風に解れて消える。そして、あきつ丸を観察し続ける大和の目が、何を捉えた。

 

「そう言う事かや」

 

大和があきつ丸の装甲服から、解れた糸屑を摘まむ。

するりと、抵抗無く引き抜かれたそれは、とても艶のある黒の髪だった。

 

「なにそれ?」

「洋の髪やの」

 

大和はそれを観察すると、あきつ丸を含めた全員に目を向け、瑞鶴で止まり納得し、一度頷いた。

 

「洋が身代わりになっちょったゆう話よな」

「は?」

「洋の奴の得意技よや。のう、瑞鶴」

「へ?」

 

突然話を振られ、呆けた顔で、下半身回りのストレッチの姿勢のまま固まる瑞鶴。

一体何の話なのかと、全員が固まったままの瑞鶴を見ていると、黙ったままのグラーフが納得した様に口を開いた。

 

「成る程、あれで死ななかったのは、そういう理由か」

「え、なに? 死? 私が?」

 

瑞鶴は記憶を辿る。一度、意識が途切れたのは、鉄蛇が竜砲を放つ直前。瑞鶴が認識しているのは、そこまでであり、目を覚ますとグラーフと廃墟の一室に居た。

そこで、グラーフが己に向けていた視線の意味は、つまり…… 

 

「鉄蛇の竜砲で、下半身が丸々消し飛んだ瞬間に、装備ごと再生したのは、そういうからくりか」

「えぇ……」

 

グラーフの言が正しいなら、瑞鶴は一度死んだという事になる。流石の艦娘でも、半身が消し飛べば即死する。

だが、瑞鶴は確かに生きて、この場に居る。そして、それが何を意味するのか。

 

「……先生が、私達全員のダメージを肩代わりしてたって事?」

「まあ、責めちゃるな。……あれも、色々あったき」

 

悔しげに顔を俯かせる瑞鶴、揺れるボゥトで全員が彼女を見る。

 

「おんしら全員の怪我と、疲れを肩代わりしたゆうたち、あいたにしてみたら、小指の爪先が削れたばあよ」

「……それはそれで、またクるものがあるのよ」

 

溜め息を吐く瑞鶴、それを見る大和は、俯く長身の彼女の襟を摘まみ、顔を上げさせる。

大和が手をついたボゥトが、沈没寸前まで沈み込む。

縁にまで海面が迫るが、そこで浮いた様な感覚があった。大和がボゥトを掴み、持ち上げているのだ。

片手でボゥトを、片手で瑞鶴を、持ち上げた大和が瑞鶴を観察する。

 

 

ーー似ちゅうにゃあーー

 

 

嘗ての昔、己らと共に戦場を駆け抜け、今の鳳洋に全てを託した彼女に、瑞鶴はよく似ている。

生意気に、しかし確かな実力を持っていた彼女。今摘まみ上げている彼女は、いまだその域には至らないが、あの彼女が共に居るという事は、つまりそういう事だ。

鳳洋はこの瑞鶴に、嘗ての彼女の面影を見たのだ。

 

「かはは、おんしは似ちゅうわ。ま、頑張りや」

「お、おう?」

 

間抜けた面も、よく似ていた。

大和を口の端を吊り上げ笑うと、瑞鶴を降ろす。

 

「もうすぐ、家じゃ。風呂入って、飯食うて、話はそれからよな」

 

海から見える港に、一つ小さな影が見えた。

長い髪を海風に靡かせて、直立で佇むその影は、大和を確認すると、係留索を大和目掛けて投げた。

 

「おう、朝潮。飯炊けちゅうかや?」

「白米、玄米、麦飯、五目飯、釜飯、各種炊けています。主菜副菜各種選り取りみどりです」

 

ボゥトで吹雪が立ち上がった。目には食欲の火が灯っており、今にも駆け出そうとする彼女を、五百蔵が抑える。

 

「提督、ご飯です。離して……!」

「待ちなさいって……!」

「ご飯が、ご飯が私を呼んで……っ!」

 

そこまで言ったところで、吹雪が朝潮に気付き、朝潮も吹雪に気付く。

お互いが硬直し、視線を交わす。

そして

 

「総長!」

「提督!」

「んお?」

「え?」

 

呼ばれた二人が向かうと、吹雪と朝潮が二人によじ登り、肩車の体勢になる。

2m越えの二人の肩に乗り、無言で向かい合う。

 

 

元ヤン¦『何これ?』

ズーやん¦『第三世代の戦い?』

船長¦『平和だな、おい』

邪気目¦『お、動くぞ』

 

 

「私の勝ちですね!」

 

吹雪が勝ち誇るが、何を基準に勝ち誇っているのか、周囲は解らない。だが、吹雪と朝潮の間には、何かやり取りが成立しているらしく、悔しがる朝潮が格納空間から、何を取り出した。

 

「これで私の勝ちです!」

「なっ?!」

 

天に向けて高々と両手で、分厚く平たい金棒の様な鉄塊を掲げる。

土台となっている二人は、そのなんとも言えないやり取りを、ただ見ていた。

 

「鉄腕ちゃん!」

「ひ、卑怯な……!」

「勝てばいいって、木曾さんが言ってました!」

 

 

ズーやん¦『おい?』

元ヤン¦『天龍』

邪気目¦『ははは、若葉だ』

船長¦『いや、違うんだ。あれは身内の、冗談で……』

 

 

背後で木曾の弁明が続く中、金棒を高く高く伸ばす朝潮と、肩関節を連結させた鉄腕ちゃんを頭に乗せた吹雪。

一進一退の攻防が続く宿毛泊地、先程までとは違う、平和な争いだった。




次回
宿毛の大和、朝潮


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それは行き先へのエスコート

どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第118話です。
今回は前半シリアス? 後半何時ものとなっております。
さあ、艦これとは一体何だったのか。これは艦これの二次創作作品なのか?
逆脚クロニクル第三章『不破の朝潮』、開幕です。


紅茶姉¦『ふむン、取り合えずそちらは無事の様デスネ』

ヒエー¦『取り合えずですが、しかし継戦は不可能です』

紅茶姉¦『霧島はどうしてイマスカ?』

ヒエー¦『大和様に秒殺されました』

紅茶姉¦『流石は霧島、あの大和を投げにいくとは、流石デスネ』

 

くつくつとした笑いが聞こえる。どうやら、機嫌も体調も良い様だ。比叡は表示枠から離れて、安堵の息を吐く。

今、横須賀を含めて全ての鎮守府情勢が、極めて不安定な状況下にある。

その状況下で、横須賀鎮守府総長である金剛が倒れるのは、他鎮守府にとって最大の好機となりかねない。

 

ヒエー¦『御姉様、どうか御自愛を』

紅茶姉¦『そうデスネ。暫く、養生しまショウカ』

 

表示枠の向こうでは、葉巻を燻らせる金剛が、穏やかに苦笑していた。顔色も良く、ベッドから降りてはいないが、この様子ならおおよそ問題は無いだろう。

比叡がそう思い、表示枠を閉じようとした時、長身の彼女を覆う影が見下ろしていた。

 

「なんぜ、便利なもん持っちゅうの」

「な……!」

 

油断はしていた。しかし、比叡も提督秘書艦で総長補佐という特務級の役職者。その比叡に、気配一つ感じさせる事無く、天を突く長身は比叡の背後から表示枠を、覗き込んでいた。

 

『大和、久し振りデス』

「んお? 金剛。おんし、隠居せえや」

『おや? いきなりデスネ』

「いきなりも何もあるかや。分かっちゅうがやろ? 今のままやったら、次の百年は保たんち」

 

大和の言葉に、比叡は唇を噛み締める。薄々、理解していた。以前より、鎮守府の外に向かう事が減り、鎮守府内で眠る様に過ごす時間が増えてきていた。

 

「今、おんしに倒れられたら、アシらが迷惑ながやきよ」

『暫くは養生しマスヨ』

「ほうかよ。……んで、おんしよな」

「え?」

 

抵抗する暇も無く、反応する事も出来ずに、比叡は大和の小脇に抱えられた。

先程から、大和の動きがおかしい。気配も感じさせず、突然現れる。これはまるで、瞬間移動だ。

聞いた話では、大和にこの様な細かな技を使えたという話は無かった。だとすると、これは?

 

『まるゆの真似デスカ?』

「後は洋を混ぜて、アシなりによ。金剛、おまんほんまに隠居せえ。つか、早よ寝ろ」

『そうデスネ。今日は寝マショウ。では、まタ』

「ほうじゃの。会うとしたら、大演習やの」

 

表示枠が消え、大和が吐き出した紫煙が漂う。抱えられたままの比叡が、何とか降りようと抵抗するが、力が違い過ぎて、抵抗に意味が無くなっている。

 

「おんし、金剛の妹やな」

「……榛名と貴女様が投げ返した愚妹もです」

「かはは、あれは副長としては合格よや。負けるのは論外やけどの」

 

横須賀鎮守府の副長として、宿毛泊地の総長兼副長の大和に、勝負を挑んだ霧島だったが、重心を崩す事も出来ずに、単純な力で投げ返されていた。

 

「情けない話です」

「これからよにゃあ。さて、まだ宴会の途中じゃ。抜けるにゃ、ちっくと早かろ。洋の係累のチビスケが、またよう食いよるわ」

 

愉快そうに笑い、大和は比叡を抱えたまま、宴会場となっている宿毛泊地本館へと向かう。コンクリートで厳重に鋪装された地面が、ただ歩むだけで軋み、大和の重さと力を伝えてくる。

比叡が思わず息を飲むと、大和は懐から煙草を取り出し、夜闇に紫煙を吐き出した。

 

「御三家の連中は、大人しゅうしよる」

「貴女様の前で暴れて、勝てる見込みがあると?」

「分からんぞ? 勝ちの目をどこにもっていくかやの。それで、グラーフに神通に荒谷、この三人が死ぬ気で来たら、話は違うかもしれんにゃあ」

 

笑う大和だが、現代に於ける最高戦力を以て、もしかするかもしれない程度だと言い切る実力は、確かなのだろう。

比叡を抱える左腕、その一本だけで、そこに詰まった力が伝わってくる。

 

「まあ、やるだけやりや。面倒事は、アシらが持ってっちゃるき」

 

大和は似つかわしくない、何処か疲れた笑みを浮かべる。比叡はこの笑みを知っている。金剛や洋が、極稀に見せる笑みだ。喪い続けた者の笑み、彼女も同じなのだ。

 

「せめて、こっからのガキ共には、ちっとでも明るい未来を残しちゃりたいきに」

 

後悔を滲ませた言葉が、大和から溢れる。

これは金剛も同じ事を言っていた。夜闇に紫煙に消えていき、灯りが浮かび喧騒が聞こえ出す。

 

「イエーイ! これ、私の育てた牛タン!」

「オルァ!」

「ああ! 私の牛タン!」

「ムッキー、食べてる?」

「あ、はい。鰹が美味しいよ」

はらんぼ(鰹のトロ)の塩焼き、マジウメェ」

「おい、天龍。この柚搾ると味が締まるぞ」

「ウツボ、歯応えがいいね」

「冬悟さん、このリュウキュウ(ハス芋)の酢の物も美味しいですよ」

「あきつ丸さん、このトマト本当に甘いですよ……!」

「本当でありますな……!」

 

騒がしい喧騒の中、ある卓では飛び抜けて熾烈な争いが繰り広げられていた。

 

「………」

「………」

 

無言のままに、箸が動き獲物を手繰り寄せて、口へと運び咀嚼し飲み込む。

大皿に盛り付けられた料理の山が、次々と減り、空となった皿が積まれていく。

刺身、焼き魚煮魚、フライに天ぷら、魚料理を中心とした卓は、あっという間に更地となり、隣から中華料理の大皿が引き摺り込まれる。蟹玉、回鍋肉、青椒肉絲、麻婆茄子、八宝菜等々が、吹雪と朝潮の二人の胃袋に、野菜屑一欠片残さず消えていく。

 

「も?」

「む?」

 

箸は止まらず、飯櫃が山と積み上げられ、カレーを煮込んでいた大鍋は既に空となっていて、釜飯を炊いていた釜にも、具材の一つ、飯粒の一粒も残っていない。

 

「おう、よう食いゆうにゃあ」

 

キャベツたっぷりの豚汁を啜りながら、白飯を掻き込んでいた二人に、比叡を降ろした大和が声を掛けた。

 

「美味しいです! 有難う御座います!」

「かっはははは! 食え食え、米は足るばああるがやき」

 

競う様に食事を続ける二人、一体何が二人を駆り立てるのか。誰もが、二人に注目する中、大和が日本酒を注いだ猪口を片手に、口を開いた。

 

「そうじゃの。おんしら二人、喧嘩しいや」

「「ほ?」」

 

口を開かず、器用に発した疑問符は、膨れ上がった頬と同じく、少し間抜けていた。




次回
後悔を断つ道へと


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全てを越えろと、君は手招く

はい、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第119話です。
今回はいきなりな展開ばかりで、どうなのこれ?


どうにもならねえ。天龍は刃が欠けた刀を構え、海上を滑走する。兎に角、止まれば終わる。

視界端、比叡が直援の霧島と跳ね飛ぶのが見えた。鈴谷がどうにか立て直そうと、摩耶や木曾、瑞鶴に指示を飛ばすが、〝これ〟はそんな作戦とかで、どうにかなる代物ではない。

 

「くっ……!」

 

天龍は眼帯に手を伸ばし、左腕を格納空間へと納めようとする。だが、手応えが無い。否、視界が一瞬で変化していく。

 

「まあ、あれよな。それは訓練の範囲外よや」

 

海を踏みつけ、天龍を高々と吊り上げた大和が、天龍を海面に叩き付けた。衝撃が震動となり、骨身と内臓、脳を繋ぐ神経が激震し、水柱から大の字のまま、意識を失った天龍が浮かび上がる。

 

「元教導院の教導艦娘が、訓練の意味を間違えたらいかんじゃろ?」

「るあぁっ……!」

 

不意を打った摩耶の船殻による打撃が、大和の脇腹に突き刺さる。

だが、肉を割り骨を砕く筈の船殻、その先端は歪み潰れていた。

 

「おんしは、もっと腰を入れや」

「ぎゃうっ!」

 

力を入れず、軽く振った。本当にただそれだけの打撃とも言えない一撃。それを受けた摩耶は、船殻を砕かれ、二度三度と海面を跳ね、膝をついていた霧島に受け止められる。

大和が着る若草色の作業着には、摩耶の打撃の跡はくっきりと残っているが、肝心の大和には何の痛痒も与えられていなかった。

 

「さて、次は……っ!」

 

そこまで言った大和の頭が、後ろに弾かれる。明らかに頸椎を損傷する動きだったが、大和に変化は無く、瞬時に水柱を残して、己の頭を弾いた犯人に接近する。

 

ちっくとびった(少しビビった)ぞ?」

「化物め」

 

白の装甲服、グラーフ・ツェッペリンの狙撃は、確かに大和の左眼球を直撃していた。

だが、

 

「目瞑ったら、瞼に弾が挟まるらあ、大戦時にもそうそう無かったのう」

 

グラーフが機関銃の引き金を弾き、対艦娘用弾丸を雨霰と大和に至近で浴びせる。しかし、それすらも大和の体には通じない。潰れひしゃげた弾丸が、次々と絶え間無く海に落ちていく。

けたたましい激音が、飛沫の様に飛び散る中、グラーフは右の狙撃銃を手離し、指をコッキングレバーに掛ける。

 

「お? 曲芸やにゃ」

 

伸ばしてくる大和の腕をかわして、コッキングレバーを指のスナップで跳ね上げ引く。薬莢が薬室から飛び出す。大和が拳を打ち下ろす。それに乗る勢いを利用して、グラーフはレバーを押し込み、宙に浮いた狙撃銃を掴み、至近で対艦娘用徹甲弾を、大和の眼球に撃ち込んだ。

 

「〝魔王〟……!」

 

天空から異音を鳴り響かせ、二連の砲撃音が轟く。

戦果の確認はしない。それこそ隙になる。グラーフは己に有利な距離を取る為に、海上を疾走する。

だが、距離が取れない。空から〝魔王〟の砲撃は続き、大和を絶え間無く打撃している。耐久力自慢の艦娘でも、とうの昔に挽き肉になっている。

それなのに、この大和はそれが当然だと言わんがばかりに、平然と砲撃の雨を浴びながら、グラーフと距離を詰めた。

 

「パンパカ小煩いけんど、これなら静かになるやろ」

「この……!」

 

グラーフを掴んだ大和は、彼女の抵抗をものともせずに、海面へと投げ捨てる。

 

「かっ!」

 

衝撃、震動、グラーフの動きが止まる。

だが、

 

「……神通!」

「おん?」

「これならば、如何ですか?」

 

居合を構えた神通が、刃を鞘走らせた瞬間、莫大量の刀剣が、大和を飲み込んだ。

金属の瀑布が激しく叩き付けられ、大和の長身が海上から消える。幾重にも積み重なり、連続する音は金管の様に、海上に甲高い音を鳴り響かせ、砕け散っていく。

 

「格納空間から連動して居合を……」

「……つくづく、第一世代というのは、常識はずれでありますな」

 

驚愕に目を剥く啓生の隣で、あきつ丸が溜め息混じりに、そう言った。この訓練、大和が突然言い出した事だが、訓練になっているのだろうか。

ほら、あの刀剣の瀑布が、当たり前の様に砕かれていく。

 

「ああ、やっぱり、神通でも無理か」

「あ、三笠さん。体はいいの?」

「いいのよ、啓生。どうせ、変わらないから」

 

幾ばくか顔色の良い神宮が、車椅子に点滴を吊るし、訓練を眺めていた。

 

「一応、言っとくけど、私の余命は長くないからね」

「何故にそれを、今言うのでありますかねぇ」

「決まってるじゃない。生きる為に生きる。その為よ」

 

痩せこけた頬を歪め、神宮三笠が笑った。

 

「この短い時間を、生きる為に生きる生きたがりが私。私はこの短い時間を、楽しんで生ききってやるわ」

「何というか、随分と前向きでありますな」

 

千と万と、神通の居合が大和に降り注ぎ、その全てが蹴散らされ、叩き伏せられていく光景を見ながら、あきつ丸は神宮を見る。

痩せ衰えた体は、確かにもう長くはないだろう。消える寸前の蝋燭、それだ。

 

復帰した霧島が、神通の変則居合に体を浮かせた大和を投げにいくのが見えた。体を巻く様に高速で回し、大和の腕を巻き取る。しかし、投げられたのは大和ではなく霧島。

ただ単純な腕力で、霧島の技は潰され、神通の刀剣群は砕かれていく。

 

 

ズーやん¦『はい! これに勝つ方法!』

船長¦『過ぎるのを待とう。災害と一緒だこれ』

邪気目¦『それが出来ねえから、こうなってんだがな』

元ヤン¦『バケモンにはバケモンぶつけんだよって、ぶつけたんだが、こっちのバケモンが話になってねえ……』

ヒエー¦『艦娘用徹甲弾を、まばたきで止めるとか、冗談にも程が……』

七面鳥¦『つかさ、私轢き逃げされたんだけど……』

ズーやん¦『え、何時?』

七面鳥¦『グラーフに向かう途中、ついでとばかりに』

約全員¦『うわぁ……』

 

 

表示枠を閉じ、あきつ丸は神通が膝をついたのを見る。柄や刃の破片が散り散りに海面に浮き、グラーフがその上を跳ねる様に疾駆する。

ダメージは与えられない。しかし、グラーフの狙撃銃と〝魔王〟の砲撃だけは、大和の動きを一瞬だけ止める事が出来る。

機関銃で牽制しながら、グラーフは大和の頭部を捉え続ける。

 

「ようやるにゃあ」

「御三家が近衛師団最強の名は、軽くはない」

「ほうかよ。いたら、これはどうぜ?」

 

振り上げた拳、それを海面に叩き込む。ただそれだけで、海面が一度大きく凹み、異常な波が生まれる。生まれた波に、海面を滑走するグラーフは体勢を崩し、戻ってきた波に打ち上げられる。

そしてそれは、海面を〝踏む〟大和の射程であった。

 

「そしたら、これでしまいじゃ」

 

大和の肩から先が消えた。グラーフはそう認識し、知覚した瞬間、腹で何かが爆発した。

打撃、衝撃など生温い、爆撃や爆発、その事実が己の腹にあった。

 

「まあ、こんなもんじゃろ」

 

先程の摩耶など比べ物にならぬ程、海面を跳ね飛び、転がったグラーフを一瞥すらせず、大和は欠伸をし、草臥れた煙草を口の端に噛む。

そして、紫煙を燻らせながら、いまだ荒れる波を踏み潰し、着水し俯せに浮くグラーフの装甲服のフードを摘まみ上げる。

 

「おんしらはまだ若い、生き急ぐなや」

 

グラーフを埠頭に軽く放り投げ、自身も陸に上がる。埠頭が微震するが、誰も気にしない。

 

 

邪気目¦『挙動がおかしいんだよなあ』

ズーやん¦『え? 存在からおかしいでしょ』

七面鳥¦『それ言ったら、先生や総長もになる……』

元ヤン¦『つかよ、大和、海歩いてね?』

約全員¦『それだ!』

 

 

己達と大和の挙動の差異、それは海上を滑走するか、疾走するかだった。

天龍達は海上に浮き滑る、大和は海上に立ち走る。どれ程に艤装を制御し、体に力を巡らせても、浮き滑っている以上、力は十全に発揮しきれない。どこかで逃げてしまう。

だが、大和は違う。摩耶の予想通りなら、埒外の力を埒外のまま、海を踏みつけ、発揮出来る事になる。

そしてその予想を、肯定する表示枠が開いた。

 

 

おかみ¦『正解です』

七面鳥¦『あ、先生!』

おかみ¦『轢き逃げされた件については後程、今は大和さんについて説明しましょうか』

七面鳥¦『うっす……』

おかみ¦『素直で宜しい。では、大和さんはどういう原理か、海を踏めます』

約全員¦『端的過ぎる説明がきた……!』

おかみ¦『と言われましても、私達も大和さんも分かってないのですからねえ。まあ、世界最硬の存在の力の一端を知れたとしなさい』

 

 

思ったより雑な解説が終わり、表示枠が閉じる。大和が生じさせた波により、埠頭に打ち上げられていた面々は、盛大な溜め息を吐いて、艤装と装備を下ろす。

 

ほなみん¦『あ、そっち終わった?』

ヒエー¦『司令、そっちはどうですか?』

ほなみん¦『こんな感じ~』

 

開いた表示枠を磯谷が移動させると、

 

鉄桶男¦『よーし! いいの入った!』

鉄桶嫁¦『吹雪ちゃん、そのまま畳み掛けるのよ!』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃんが、鉄腕ちゃんでガードして飛んだ!』

ほなみん¦『こんな感じ、いやあ、朝潮ちゃん凄いわ。鉄腕ちゃんが力負けしてる』

約全員¦『ヤベェ……!』

 

表示枠の向こうには、分厚く平たい金棒を振る朝潮と、鉄腕ちゃんとその一撃を防ぎ、弾き飛ばされる吹雪が写っていた。




トピック

大和=超人学園〝ぬらりひょんのすけ〟
分かる人居るのか?

神通の居合=境界線上のホライゾンの北条・氏直の刀剣射出


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その先にあるのは何なのか

どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第120話です。
今回は朝潮VS吹雪の、第三世代対決。さあ、軍配はどちらに上がるのか?

では、逆脚屋クロニクル始まり!


朝潮にとって、吹雪という艦娘は特別だった。自分達、第三世代艦娘は嘗ての伝説、第一世代艦娘を踏襲し超える。その為に産み出された。

だが、いざ蓋を開けてみれば、第一世代のデッドコピー、嘗ての力の一端の更に一端を、漸く顕現させるのが関の山。

己など、まだいい方だ。宿毛泊地を根城にする〝不壊の大和〟、彼女は非常に分かり易かった。

 

「軽い!」

「うわわ!」

 

己に与えられたのは、駆逐艦娘に似つかわしくない大質量と、それに伴う大出力。

大和本人の足元にも及ばない程度だが、並の艦娘なら労なく圧倒出来る。己でもそうなのだ。

原初、始原、黎明の一、鳳洋の直系たる彼女は、一体如何程のものなのか。

きっと、己達の理想たる力を有しているに違いない。

 

そう、思っていた。

 

「鉄腕ちゃん!」

「だから、それがどうしたと……!」

 

嗚呼、なんと柔く脆く弱いのか。恐らく最大の威力であろう一撃すら、己の身には響かない。

これが己達の原初? 始原? 黎明の一?

ふざけるな!

 

「私達、私達第三世代の始まりが、何故その程度なのですか……?!」

「うなっ!」

 

鉄拳の射出を腹部に受けて尚、呼吸すら乱れず朝潮に痛痒は見られない。それどころか、射出された鉄拳ごと吹雪が弾き飛ばされた。

爆発的な腹筋の瞬発、鉄拳のフレームが軋み、射出用強化スプリングが一瞬撓む。鉄腕ちゃんと艤装との連結用コネクタから、破砕音が聞こえる。

たった一発、ただそれだけで吹雪は火力の半分を失った。

 

 

空腹娘¦『これ無理じゃないですかね』

約全員¦『ものスゴいのがきたぞ……!』

空腹娘¦『いやだって、アレ無理ですって』

邪気目¦『何か隙ねえのかよ?』

空腹娘¦『鉄腕ちゃんは一瞬入りはするんですけど、入るだけですぐ弾かれて、もう左鉄腕ちゃんの肩イカれました』

元ヤン¦『おいおい、何がどうなってんだ?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃんの砲撃も打撃も、全部無視して突っ込んでくるんだよぉ……』

船長¦『完全に大和の直系かよ』

鉄桶男¦『いいのは入ってるんだけどね』

鉄桶嫁¦『攻撃が通らないんですよね』

 

 

水飛沫を蹴立てながら朝潮が、距離を取る吹雪を追撃する。吹雪が放った砲弾は、榛名の言う通りに朝潮の身に弾かれ、彼女の進撃を止めるには至らない。

朝潮が鎚刀を横薙ぎに振るい、吹雪が鉄腕ちゃんでそれを防ぐ。爆発的な瞬発と、確かな踏み込みから生み出された威力は、吹雪を軽々とピンボールの様に飛ばす。

 

「何故、力を使わないのですか?」

「力?」

「……まだ、惚ける!」

 

呆ける吹雪に、朝潮が目を剥き、鎚刀を瞬発させる。辺りの空気を抉り、吹雪を薙ごうとするが、いまだ稼働可能な左鉄腕ちゃんがそれを防ぎ、その勢いを利用して、右鉄腕ちゃんによるロングフックを、朝潮の側頭部に叩き込む。そしてそのまま、海面を滑走し朝潮の背後を取り、無防備な背中に砲撃を浴びせる。

だが、

 

「〝不壊の大和〟が直系、嘗めるなぁ……!」

 

単純な筋力の違いが、二人の勝敗を分けた。全くの無傷で、朝潮が鎚刀を薙ぐ。

ガードの為に稼働した左鉄腕ちゃんが、その強固な装甲で鎚刀が受け止める。軋みはすれども、朝潮の攻撃は鉄腕ちゃんの装甲を打ち破れてはいない。そして、返す刀で感覚器官の集まる顔面に、右鉄腕ちゃんを叩き込めばいい。

その筈だった。

 

「嘗めるなとっ……」

 

だが、吹雪の目論みは、朝潮の激情の一撃により散る。鎚刀を受けた左鉄腕ちゃんが、肘関節から破断したのだ。

ひしゃげ、金属が束となり潰れる音が響き、断たれた鉄拳が宙を舞う。予想外に吹雪の反応が遅れ、朝潮はその隙を見逃さなかった。

 

「言った筈だ!」

 

破断の勢いのままに、鎚刀は吹雪の艤装の主機を砕き、彼女自身を打撃する。

肉が潰れ、骨が軋む。鉄腕ちゃんと主機が無ければ、断たれていたかもしれない。

装甲服を構成する装甲繊維が解れ、幾らか衝撃を拡散させるが、それでも威力は絶大で、海面を跳ねた吹雪は港の埠頭に叩き付けられる。

 

「吹雪大破! 勝者……」

「ほい、待ちや」

 

五百蔵の宣言を遮る様にして、大和が姿を見せる。全員が動きを止める中、大和は埠頭にしゃがみ、目を回している吹雪を引き上げ、朝潮と見比べる。

 

「んン? ああ、成る程のう。おんし、洋と繋がっちゃあせんがか」

「あい?」

 

目を回したままの吹雪が、頭に疑問符を浮かべるが、大和は意に介さず、高々と宣言する。

 

「勝者は無し! この喧嘩はアシが預かる!」

 

しかし、その決定に待ったを掛ける者が居る。

 

「総長!」

 

朝潮だ。彼女は長い黒髪を海風に靡かせながら、大和に詰め寄る。

 

「総長、この演習は私の勝ちです! それを何故……!」

「いたら、朝潮よ。おんしは力の使い方も決まっちゃあせん奴を叩いて、納得いくがか?」

「それは……」

 

己が焦がれた相手は目を回し摘まみ上げられ、そこに至るまではあの鉄の腕以外に、特筆するものは無かった。

だがそれでも、何かしらの違和を朝潮は感じていた。

 

「まあ、あれよな。まだ暫く時間はあるがやき。今日明日で急いで結論出す話やないわな」

 

大和は摘まみ上げた吹雪を五百蔵に手渡すと、朝潮の頭を軽く撫でる。

突然の事に、朝潮は目を細める。

 

「しかし、総長。私は……」

「おんしが気にしすぎなだけよ。まずは話をしてみ? そっからよ」

 

気を失ったまま、五百蔵に抱き抱えられる吹雪を見ながら、朝潮は確かに頷いた。

 

「そういう事やきに、おんしらも好きにしよりや」

「はあ」

 

五百蔵の気の抜けた返事を気にせず、素直に撫でられている朝潮に言う。

 

「朝潮、総長命令じゃ。チビスケに力の使い方を教えちゃり」

「しかし、総長……」

「……気付いちゅうがやろ?」

 

顔を近付け、朝潮の反応を伺えば、案の定の反応があった。

第三世代でも後発に分類される朝潮でも、この程度出来るのだ。最先発である吹雪が、あの程度だというのはおかしい。

何か、ある。その筈だ。

 

「おーい、吹雪君。そろそろ、起きなさい」

「うえあ!」

「はい、おはよう」

 

抱き抱えられた吹雪も、目を覚ました。

ならば、後する事は決まっている。

 

「吹雪さん、貴女は弱い。だから、私が最低限の力の使い方を教えます」

「え? あ、はあ?」

 

己達第三世代、その原初に似つかわしい力を身に付けさせる。その為に、

 

「覚悟していてくださいね?」

 

朝潮は呆ける吹雪に、にっこりと微笑んだ。




「いやぁ~、この頃でも朝潮ちゃんは硬い硬い。折れちゃったよ。……頑張りなよ『私』、これから始まる日々は、『私』にとって一番大事な日々だから」


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それを知るのは

なんでも、今年の夏の祭典では、さとやす氏による国産加賀と国産鹿島のポスターが出品されたとか…… 
欲しかった!
というか、フリソロ全巻欲しい! なのに、高知県には入手方法が無い!
おのれ、関東! これが地方分権、中央集中政治、圧政か……!


浮遊、落下、吹雪はそう知覚した。

そして、どうしたものかと、内心で頭を抱える。目の前には、突き抜ける様な青い空と僅かに白い雲がある。

落ちる。内臓が浮き上がる様な感覚がある。左右の鉄腕で、バランスを取ろうとしても、吹雪には為す術が無い。

眼下に新たに広がるのは、空と同じく青い海面。そして、そこには鎚剣を携えた朝潮が、片手で重量武器を振り抜いていた。

振り抜かれた長柄の矛鎚の激突を、装甲を閉鎖した鉄腕で受け、海面を二度三度と跳ね転がり、水飛沫を上げながら体勢を立て直す。

 

「ええ、ですから、ダメです」

 

だが、立て直した眼前には、既に朝潮が迫っていた。衝撃が体から抜けず、頼みの鉄腕も間に合わない。ならばと、吹雪は身を回し、鉄腕の肩部で打撃を受け、自ら跳んだ。

激突、衝撃、激震、回転、跳躍、海面を飛び石の様に跳ねながら、吹雪は朝潮の動きを観察する。

 

――無茶苦茶ですよーう……!――

 

吹雪が牽制として放った砲弾を、額で受ける。集中した戦闘用の知覚で見た砲弾は、朝潮の額にひしゃげ潰れていた。

五百蔵達、近接戦闘を得手とする者達から、相手の素手を額で受けるという防御法がある事は聞いている。

だが、朝潮は拳ではなく砲弾を、その額で受け、そして額には傷一つ無い。

傷一つ、血の滲みすら無く、朝潮は爆発的な加速を以て、吹雪に再度接近していく。

規格外の自重、それを支える押し込められた強靭な筋繊維、それによる爆圧加速。

 

「鉄腕ちゃん!」

 

視界から消える朝潮の加速、いまだ戦闘経験の浅い吹雪では捉えきれない。だがそれは、通常の場合だ。

視界外、見えぬ背後からの攻撃を、聴覚を以て判断し、右の鉄腕で鎚剣の出だしを弾く。

 

「まだ、まだぁ……!」

 

鎚剣を弾いたままに、右拳を射出し、朝潮の顔面を捉える。しかし、まったく意に介さぬ一撃が、吹雪を再び弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

穏やかな波の埠頭に、一つの影があった。跳ね飛ぶ飛沫と、それを起こす二つの影を眺める視線は、穏やかで波は無い。

影は巨駆を折り曲げ、係船柱に腰掛ける。

分厚い緑色のコートの裾を潮風に靡かせ、ポケットから缶コーヒーを取り出し、プルトップに指を掛ける。

 

「五百蔵冬悟」

「荒谷か」

 

小気味良い音を聞いて、缶を傾けた時、背後から重く枯れた声が掛けられた。

斑鳩近衛師団の制服を着込んだ荒谷が、片手に缶コーヒーを提げて、五百蔵の隣の係船柱に腰掛けた。

 

「あれは」

「家の娘。あー、また飛んでら」

 

缶を傾ける五百蔵が見る先には、長く太い鉄腕で防ぎつつも、朝潮の力に抗い切れずに弾き飛ばされ、海面を飛ぶ吹雪と、それを追う朝潮の姿があった。

 

「なってないな。足が着いていない」

「そりゃ、まだ立ち始めたばかりだからな」

「そうか」

 

荒谷が缶を傾けた。五百蔵の缶よりも黒いパッケージのそれは、珈琲の香りを強く鼻に伝えてくる。

 

「……香りばかりで、味がぼやけているな」

「普段良いもん飲み食いしてる奴は、言う事が違うな」

「言うな。しかし、五百蔵冬悟」

「何だ、荒谷」

「あれは戦いに赴く準備か?」

 

荒谷が五百蔵を見る。言い逃れは赦さぬと、眼光が強く物語る。

五百蔵は、軽く缶に口を付けて、前に目を向ける。

 

「どちらかと言えば、どちらでもないだろうさ」

「何?」

「日常を戦いとするなら、誰だって戦っている。あの子のあれは、自分の足で立つ為の準備だ」

 

無言。ただ、珈琲を啜り、遠くに水飛沫の音と鋼の激突音を聴く。

 

「だがそれは、彼女達の背を押す事にならないのか」

「あの子らの未来はあの子らだけのものだ。言った筈だ。あの子達の未来は、あの子が選ぶとな」

「そうだな。そうだったのだな」

 

鼻につく匂いがした。見れば、荒谷の口には一本の煙草が挟まれ、紫煙を燻らせていた。

意外なものを見る目で、五百蔵が荒谷を見ていると、上着の内ポケットから、銀のシガレットケースとオイルライターを差し出してきた。

 

「堅物かと思ったが」

「この歳だ。嗜みくらいは持つ」

「それもそうか」

 

ケース内、バンドに留められた白を一つ手に取り、口に挟み火を点ける。苦味渋味の二つが舌に突き刺さる感覚と、何か重いものが血に乗って、全身に巡る酒とは違う酩酊感を得る。

 

「禁煙失敗、何度目かね」

「何だ? 辞めていたのか」

「まあ、家の娘が苦手でな」

「娘、か」

 

紫煙が風に巻かれて消えていく。カチン、とオイルライターの蓋を閉じる音が聞こえる。

荒谷が二本目に火を点けていた。狼のシルエットが刻印された、らしくないと言えばらしくないライターを懐に仕舞い、真新しい紫煙を吐いて、荒谷は五百蔵に顔を向ける。

 

「五百蔵冬悟」

「何だ」

「先ずは感謝する。我等は貴殿らのお陰で、決定的な過ちを犯さずに済んだ」

「気にするな。人生なんてものは、間違いだらけだ。正解が無いからな」

「だがそれでも、だ」

「そうかい」

「そして、忠告だ。恐らく、お前達の戦力に見直しが入るやもしれん。気を付けろ」

「……お前を下したという理由か?」

 

頷く。荒谷の鋭い目が五百蔵を捉える。

 

「仮にも、一国の最高戦力の一翼を下した事実、こればかりは三笠御嬢様でもどうしようもない」

「軍が家に口を出してくるか?」

「お前の北海鎮守府は、単純な軍施設というよりは、相談所の様な側面が強いと聞いている。そんな所に、チェルノ・アルファという強力な機動殻が必要なのか、とかな」

「勘弁しろ。あそこの謎生態系は、チェルノ・アルファでも無いと、やっていけん」

 

吸い殻を空き缶に押し込む。離れてから、一ヶ月もしていないのに、もう何年も帰っていない様な錯覚がある。

それは何故だろうか。まず間違い無く、あの濃すぎる日々のせいだろう。あの濃すぎて、だが豊潤な日々。懐かしく、帰りたくもあるが、今はそうは言っていられない。

 

「謎生態系?」

「信じられんだろうが、古代生物や特撮生物が跳梁跋扈している」

「………大丈夫か? ……常識と脳は」

「無事だ。無事に決まってる」

 

額を押さえながら、そう言うと、荒谷が一枚のメモ用紙を差し出してくる。

幾つかの数字とアルファベットの羅列が並ぶそれを、五百蔵は受け取る。

 

「連絡先だ。あの表示枠だったか?」

「ああ、あれ近衛でも導入するのか」

「三笠御嬢様が率先してな。あの方の先見性は、どうなっているのか」

 

くつくつと笑う。

立ち上がり、空き缶を五百蔵のを含めて、二つ手に取る。

 

「あと、もう一つ。三笠御嬢様と仲が良いあの、睦月という娘だ」

「……睦月君がどうした」

「彼女に関しては、守りを固めておけ。足の動かぬ艦娘、狙い目だ」

 

その言葉に、五百蔵の目が鋭さを増す。

良い目だ。荒谷はその視線を受けながら、制服である長衣を風にはためかせる。

 

「守れ、護れ五百蔵冬悟。彼女達が我等の希望だ」

「解っているさ」

 

潮風が頬を撫でた。見れば、吹雪が朝潮に負われて、こちらへ戻ってきている。

 

「我等はまだ暫くここに厄介になる」

「ああ、それはこっちもだ」

「そうか。……なら、迎えに行ってやれ。子の迎えには親だろう?」

 

そう言うと、荒谷は背を向けた。春の気配のする潮騒が、今頃になって聞こえてきた事に苦笑しながら、ふと振り返る。

 

「ああ、そうか。我等が否定しようとした未来か」

 

片腕に艤装を提げ、吹雪を背負った五百蔵を見て、そんな言葉を落とした。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

まるで歯が立たなかった。

少しはマシになったと思っていたのに、結局は何も変わっていなかった。

どうしようもない後悔が身を焼く。もう止めてしまえと、頭の中で声がする。

だけど

 

「ゆっくりでいいさ」

 

自分を背負う声が、頭の中の声を掻き消す。

艤装ごと、自分をすっぽりと隠してしまえそうな、広く分厚い背中。ずっと見てきた背中、だけど

 

「提督、私、強くなります」

「そっか」

 

あの日、〝播磨〟での戦いで、この背中が消えてしまう。そんな錯覚と、何も出来ない自分の実感があった。

 

「ゆっくりでいいさ。急に強くなっても、それはそんな気がするだけだよ」

「でも……」

「大丈夫、吹雪君。君なら大丈夫さ」

 

だから、今は休みなさい。

疲れだろうか、安堵だろうか、吹雪はその言葉を聞くと、すぐに眠りに落ちていった。

 

「大丈夫、大丈夫。君ならきっと、その足で歩いていける」

 

意識が消える寸前に、そんな声を聞きながら。




あ、フリソロ……


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君の為

ははは、フリソロが欲しい。欲しいのだよ……!
同志、同志は居ないのかね……?!!




台本形式みたいなタグ、要るかな?


さて、どうしたものか。

磯谷は眼前に広がる資料に、頭を悩ませた。

 

 

ズーやん¦『さて、ふぶっちの力とやらについて考えるのと、こっからの事を話そう』

船長¦『まずどっちだ?』

邪気目¦『吹雪についてだろ。謎が多すぎる』

元ヤン¦『だよなぁ……、一体、吹雪の力ってのは何なんだ?』

邪気目¦『分からん。というか、情報が少なすぎる』

 

 

表示枠を横目に捲る資料には、金剛や洋から送ってもらった第一世代艦娘に関する事が記述されている。

 

――科学よりオカルトの塊――

 

第一世代艦娘は宿毛の大和を除き、ほぼ全てが鳳洋からの分化とあった。洋との関連性や個体による同一性は皆無で、存在としての特異性のみを抽出し形にした。

……意味が解らない。

磯谷は頭を抱えた。第一世代の特異性については、金剛と洋から聞いている。だが、それでも納得が出来ない。

 

 

元ヤン¦『まず、吹雪は鳳様の系譜だって事だ』

邪気目¦『そして、それが問題なんだよなあ』

船長¦『不死性、攻撃性、多様性、単一戦闘能力、集団戦闘能力、その他諸々、吹雪に欠片でも引き継がれてるか?』

ズーやん¦『そこ、鳳様の能力って何?』

元ヤン¦『あ? だから今木曾が言ってたやつだろ』

ズーやん¦『摩耶、違う。もっと正確に言うと〝どれ〝?』

邪気目¦『はあ? いやだから……』

ズーやん¦『天龍、ふぶっちは一体〝どれ〟を引き継いだの? いや、引き継ぐの?』

元ヤン¦『落ち着け。鳳様の能力が全部引っ括めて、そうだって可能性があるだろ』

ズーやん¦『だとしたら、ふぶっちはどうなる? 鳳様のそれを一部でも引き継ぐとなったら……』

船長¦『最悪、保たん』

 

 

剣呑な雰囲気の表示枠、だがそれはこちらも同じだ。

第一世代が洋から派生した、それは知っていた。だがそれを、深く考えてこなかった。

鳳洋から全ての艦娘は始まった。だとするなら、鳳洋は何処から始まった。

そして、その直系の系譜とされる吹雪は、何処に繋がる。

一瞬、背筋に冷たいものが差し込んだ。全ての艦娘の始まりが洋なら、彼女はこの世界の艦娘という存在の根源、そう言える存在だ。

なら、彼女に繋がるという事は、根源に繋がるという事だ。

そしてそれは、弱い一生命がしていい事ではない。

 

 

ズーやん¦『保たない。例え、保ったとしても、ふぶっちがふぶっちでなくなる可能性がある』

邪気目¦『情報の上書きか。木曾、改二になる時どうだったよ?』

船長¦『俺の場合はそこまでじゃねえな。どっちかって言うと、艤装の改装の意味合いが強かったしな』

元ヤン¦『アタシもだな』

 

 

嘗て、第一世代艦娘建造技術が失われてから、まだそう経っていない時期、不安定な改装技術で艦娘に更なる強化を加えようとして、情報の質や量により、元々持っていた技能や装備が使用できなくなったり、本来の人格がまるで別人の様に、上書きされてしまうという事態が多発していた。

今となっては、そういった事故に対する対処や処置も確立され、例え起きたとしても大事には至らない。

だが嘗てはあったのだ。

 

 

邪気目¦『睦月の事件も、その対処の穴を抜いて起きてるからな』

元ヤン¦『なら、このまま朝潮と訓練を続けさせるのはマズイか?』

船長¦『いや、寧ろ訓練自体は続けさせた方がいい。同じ第三世代の理不尽さに触れれば、何かしらのものを見付けるかもしれん』

ズーやん¦『でもそれで……』

鉄桶嫁¦『大丈夫ですよ』

 

 

表示枠が別で立ち上がり、柔い笑みを浮かべた榛名が映っていた。

 

 

鉄桶嫁¦『吹雪ちゃんは大丈夫です』

ズーやん¦『榛にゃん、何が大丈夫なのさ?』

鉄桶嫁¦『あの子が自分を見失う訳がありません。だって、あの子はまだ見失うものを見付けられていません』

元ヤン¦『いや言うがよ、心配じゃねえのか?』

 

 

摩耶が問うと、柔い笑みを崩さずに榛名は続ける。

 

 

鉄桶嫁¦『何にせよ、何時かは自分の足で歩いていかなくてはなりません。それに、そんなに危険ならば鳳様や御姉様、冬悟さんが止める筈です』

ズーやん¦『オジサンも気付いてないかもしれないよ』

鉄桶嫁¦『それでも大丈夫です。二人は何時だってちゃんと帰ってきますから』

 

 

はっきりと榛名は言い切った。鈴谷は第二特務、大事な事であるなら、それだけ感情で判断する訳にはいかない。榛名も横須賀の元第一特務だ。役職者の役割については、理解している。

 

 

鉄桶嫁¦『それに、私も待つだけじゃないんですよ? 何かあったら、迎えに行きますし、ひっぱたいてでも連れて帰ります』

邪気目¦『わーお』

元ヤン¦『待つだけの女はやめたか。こりゃ、オヤジも大変だ』

鉄桶嫁¦『な、何がですか?! 待つだけの女は嫌かって、摩耶さんが言った事ですよ!』

元ヤン¦『そうだったか?』

 

 

ケラケラと摩耶の笑い声が響く。

先程までの剣呑とした雰囲気が嘘の様だと、磯谷が資料をテーブルに置くと、小さい溜め息が聞こえた。

 

 

ズーやん¦『……取り合えず、今はふぶっちの力については置こうか。……榛にゃん、任せたよ』

鉄桶嫁¦『はい、任せてください』

 

 

取り合えず話は帰着した様だ。磯谷は表示枠のページを切り替えて、お気に入りのサイトの巡回に入る。

 

――〝エスペラント語の創始者はザーメンホーフ(本当)〟か――

 

お気に入りのメーカーのサイトにある、新商品一覧に並ぶタイトルを読み上げる。

 

「キャッチコピーは〝世界征服だ!〟か。やっぱりあれかな? 豊富なのかな? それにこっちは〝留年生〟でキャッチコピーは〝堕ちるがいい!〟、これ一部の人の心に突き刺さるんじゃないかな」

 

ほぼ休暇同然とは言え、職務時間中にエロゲの物色を開始する磯谷、ページをスクロールし、更に一覧を読み込むと、あるタイトルで目が止まった。

 

「〝美代子の傘〟、このタイトルからどうして、主人公がアレキサンダー大王になるんだろ?」

「それなら、隠された血筋が覚醒してなるらしいですよ」

「へえ、そうなんだ。……って、え?」

「ご休憩中でしたかね?」

「ああ、五十嵐さん。吃驚させないでくださいよ」

 

磯谷が顔を上げると、顔の左半分を覆い隠す傷のある細身の男がそこにいた。

宿毛泊地提督〝五十嵐勇(いがらし いさみ)〟、傷が無ければ実に婦人受けしそうな優面だが、あの不壊の大和が提督として従っている相手だ。

 

「ああ、破壊された鉄蛇(ティシェ)ですが、佐世保の〝龍造寺〟が回収に来てますよ」

「わーい、重要情報がポロッと出てきた。五十嵐さんったらお茶目さん……!」

「ははは、後、回収ついでに補給もと、佐世保の夕立も来てますよ」

 

はて、今このイケメンは何と言った。破壊された鉄蛇の回収に、佐世保鎮守府を指揮する龍造寺が来た。かなり重要な情報だが、機竜建造の家系である龍造寺が来た事は想定内なので、この際は置いておく。

問題はその次、佐世保の夕立が補給に来たと言った。佐世保の夕立、第三世代の夕立、つまり今この宿毛泊地に第三世代が三人居るという事になる。

 

「は、え? 佐世保の夕立……?!」

「ええ、確り件の艤装も背負ってましたね」

「こ、この誘い受けー!!」

 

磯谷は叫んで走り出した。このタイミングで接触は避けたい。

呉で起きた事件、そう吹雪が睦月を撃った事件。あの事件の日、吹雪は暴走する睦月を撃ち、夕立はそれを目撃した。

そして、もしやすると夕立は事件の概要を知らずに、佐世保鎮守府に配置された可能性がある。

 

「ま、間に合え……!」

 

つまり、友を撃ち殺した友と、撃ち殺された筈の友が、ここには存在する。

格納空間に納まっているストライカー・エウレカを、万が一の為に半起動状態にし、リハビリをしている筈の睦月に連絡を入れる。

 

ほなみん¦『睦月ちゃーん!』

にゃしぃ¦『え? 何? 何ですか?!』

副長¦『どうかしましたか?』

ほなみん¦『今何処に居るの?! 港?!』

にゃしぃ¦『あ、うん。〝播磨〟に大きい船が着いてて、それを見てたよ。……あ、ボートから誰か降りてきたよ』

ほなみん¦『うわぁぁぁぁぁぁっ!』

 

手近の窓から飛び出すと同時に、ストライカー・エウレカを装着、まだ破損はあるが強引に加速した。




三雄揃い踏み?


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だから行こうと

聞きたい。これは艦これか?


ワイヤーに吊り下げられた鋼鉄の筒状が、僅かに吹く海風を浴びながら、海上都市艦〝播磨〟からコンテナ船へと降ろされていく。

 

「暇っぽい」

「まあ、そりゃ暇やろ。自分、動いてへんやん」

 

黒いセーラー服の赤目の少女と、茶色の髪を左右に結んだ赤い水干の少女が、コンテナ船から降りたボート上で、他数人とそれを見上げていた。

 

「一応の巡航メンバーで出てきて、船で波に揺られとっただけや。これが暇やないって言うたら、ウチはアンタを脳の病院に叩き込むで、夕立」

「まな板は言う事が違うっぽい。……因みに、どーいう理由で、病院に叩き込むっぽい? 龍驤」

「中々おもろい事言うやんか。……独自進化した狂犬病が脳に回ったとか言うて、犬専門の動物病院に叩き込んだる」

 

二人は、はははと笑い、お互いの肩に手を置いてから、数度に叩き合う。お互いの装甲服、その袖に巻かれた腕章が揺れる。

そして、

 

「おう、アホ犬。ちっとは副長様に対する敬意っつうもん覚えてみんか? んン?」

「あはは、龍驤面白いっぽい。この距離で夕立に勝てると思ってるっぽい?」

「あんな? 飛びっきりに優しく言うたる。ウチは副長や」

「なら夕立は第一特務っぽい」

 

赤い水干の袖には〝佐世保鎮守府副長〟と書かれた腕章が、黒いセーラー服の袖には〝佐世保鎮守府第一特務〟と書かれた腕章が、其々に巻かれていた。

暫し睨み合った後、龍驤が一つ吐息する。サンバイザーに似た額当てを弄り、夕立から少し離れたコンテナ船に視線を移す。

 

「……まあええか」

「負けを認めるっぽい?」

「ははは、言っとれアホ犬。ここで喧嘩してみい。……あの泊地から、何が飛んでくるか解らん」

「……折角、回収してる鉄蛇がダメになったら、提督悲しむっぽい」

「ええか、大人しくせえよ。やっとや、やっとウチらの司令官の願いが叶うかもしれん。そんなとこに来たんや。大人しゅうしいよ」

 

座る夕立の頭に、龍驤が手を置く。波間に揺れるボートに立ったまま、龍驤は〝播磨〟を振り返る。

積み込まれていく破壊された鉄蛇、陸軍との話は既に着いているらしく、それらしい妨害すら無かった。

 

――まあ、没落した言うても、あの〝龍造寺〟や――

 

迂闊に手を出してくる連中は居ないだろう。それに、今回収しているのは、書類上は存在しない筈の完成した鉄蛇二号機。聞く話によると、最初から龍造寺へと流される予定だったらしい。

嘗ての機竜建造の大家である龍造寺家。あの第二次侵攻で、その機竜心臓部建造のノウハウ全てが失われたが、今でも技術力は健在だ。

 

「そう言えば、何で鉄蛇回収するっぽい?」

「あ? ああ、知らんかったんか。〝竜砲〟の実戦証明が欲しかったんや」

「だけっぽい?」

「勘がええな。他にも装甲からその他諸々や」

「……提督の願い叶うっぽい?」

 

ホンマに勘がええわ。あの鉄蛇が揃っても、実のところ半々と言った程度で、確証は無い。

 

「ま、司令官なら何とかするやろ」

 

そこまで言って、欠伸を一つ。夕立ではないが、確かに暇だ。見れば船員の数人も、同じ様に欠伸をしていた。

〝播磨〟はその巨大さ故に、宿毛泊地から離れた沖合いに停泊している。

長くはなかったが数日間の船旅、陸で垢を落としたい。そういった若い衆を主とした補給部隊といっても、

 

――宿毛泊地の近く、店あったけか?――

 

記憶を辿り、嘗ての記憶を掘り起こす。

 

「……まあええか」

 

ウチ、コンビニあったらいいし。

次第に船を漕ぎ始めた夕立と、初めて行く土地に目を輝かせる船員達を尻目に、龍驤は近付いてくる港を眺めていた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

どうにもいけない。気ばかりが逸るだけで、先に進んでいる気配が無い。車椅子から立ち上がる睦月は、杖を突きながら思う。

感覚は戻り、幾らか力も通る様になってきた。だがそれでも、力を奪われた膝から下は震え、己で立ち上がる事を拒絶する。

もう立ち上がれてもいい筈なのに、主治医でもある夕石屋の二人から、錯覚かもしれないがそんな気配を感じる事がある。

きっと気のせいだ。そう言い切れる確信と信頼があるが、それでもそう感じてしまうのも事実だ。

 

「睦月さん、あまり無理は禁物です」

「でも……」

「膝から下の筋力を失う。あまりに特異な症状ですよ? 無いのに有る。体というのは、中々元通りにはならないものです」

 

霧島が震えるこちらの身を支えながら、ゆっくりと言い聞かせる様にして、言葉を送ってくる。

 

 

半死半生¦『そうよー、人の体って、一つ欠けるとどんどんダメになるのよー』

にゃしぃ¦『うわぁ……、返しに困るよ』

半死半生¦『あっはっはっ、三笠ジョー………』

 

 

表示枠が止まり、何かから勢いよく液体が吹き出る音が出た。

 

 

神従者¦『御嬢様?! 御嬢様ー!!』

 

 

どうやら神宮がまた吐血した様だ。神通の慌てる声が聞こえる。

 

 

横須賀¦『只今、非常に事態が混乱しております。当表示枠を続ける際は、下記のyes/noのyesをお選びください。 yes/no』

 

 

睦月と霧島は何も言わず、ただ無言でyesを押した。

表示枠が消え、何とも言えない空気が立ち込める。

 

「と、兎に角、体というのは復調させるのに、長い時間が必要です。焦る事はありません」

「うん……」

 

霧島のフォローも耳を通り抜けていく。嗚呼、やはりどうにもいけない。焦るばかりで、身が入らない。

今日はもう止めてしまおうか。溜め息を吐くと、新たな表示枠が顔横に出る。

 

 

ほなみん¦『睦月ちゃーん!!』

副長¦『どうかしましたか?』

ほなみん¦『今何処に居るの?! 港?!』

にゃしぃ¦『あ、うん。〝播磨〟に大きい船が着いてて、それを見てたよ。……あ、ボートから誰か降りてきた』

ほなみん¦『うわぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 

磯谷の叫びと多重化する金属音が響いて、表示枠は消えた。

一体何だったのか。霧島を見るが、霧島も同じく首を傾げていた。

 

「えっと、狂った?」

「それはいつもです」

 

そんな気もする。

 

「でも、〝播磨〟から降ろしてるのって、鉄蛇だよね?」

「確かに。……あれは佐世保の? だとすると龍造寺……」

 

沖合いに停泊する〝播磨〟の側に停まるコンテナ船を、表示枠を望遠設定にして見る。

確かにコンテナ船には、佐世保鎮守府所属を示すマークが刻まれていた。

車椅子に腰を降ろし、それを眺めながらボートから降りてきた人を見ていると、幾つかの声が聞こえてきた。

 

「ですから、吹雪さんは異質というか、不可解なんです」

「いやまあ、この子の食欲や耳は異質と言えば異質だが」

「それもありますが、不可解な点が多いんです。第三世代としての片鱗すら無く、その癖異様な聴覚やその鉄腕。一体何なんでしょう?」

「そう言われると、この子のそれらに関して、誰も深く考えなかったね」

 

朝潮と五百蔵が並んで吹雪について話していた。

巨駆の五百蔵は当然だが、五百蔵より遥かに小柄な筈の朝潮からする足音が、彼と同質なのはその特性からだろうか。

 

「んえ……」

 

五百蔵の背中で何かが動いた。吹雪だ。

眠る吹雪を背負い直し、視線を上げた五百蔵と目が合う。

 

「おや、霧島君に睦月君。リハビリかね?」

「はい、義兄さん」

「提督、私まだ……」

「まあ、気にする事はないさ。体というのは不思議なもので、ある日いきなりなんて事もあったりする」

 

隣の朝潮も頷く。

焦る必要は無い筈なのに、それでも焦ってしまう。それは何故なのだろうか。

 

「でも」

「睦月さん、無理は禁物です。しかし、総長なら何か良い方法を知っているかもしれません」

「ありがとう。朝潮ちゃん」

 

解らない。だが、このままでいい訳が無い。己は艦娘、戦える力がある。しかしその為には、この足で立たなくてはならない。力の通わない足は意思すら通じない。

もしかしたら、一生このままかもしれない。

それは嫌だ。そう思った時、一瞬だけ何か違和感を覚えた。

 

「どうかしましたか?」

 

誰も気付いていない。だけど確かに一瞬だけ、空の筈の格納空間に何かが繋がった。そんな気がした。

首を傾げる睦月に、その場の全員が同じ様に首を傾げていると、

 

「……睦月ちゃん?」

 

赤目の少女が目を見開いていた。




横須賀レポート

○月×日
機動殻二機の修復復元が終了。
機体名
〝タシット・ローニン〟
〝ホライゾン・ブレイブ〟

尚、機体名は装甲に刻まれていた型番から流用する。


○月△日
機動殻の遠隔操作技術の試験を開始。
簡単な動作は可能だが、戦闘等の動作は処理が追い付かず、フリーズを連続させる。


○月□日
予備機体として横須賀鎮守府工廠ハンガーにて収納。緊急起動用処置として、横須賀ネットワーク経由で所属艦娘の格納空間への接続を設定する。


×月○日
〝タシット・ローニン〟〝ホライゾン・ブレイブ〟の両機体から一瞬だけ、機動状態から格納空間への接続を示すシグナルが発されたが、問題は無い。
原因究明を急ぐ。


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前へ行く

やあ、混迷極まる艦これ?小説だよ?



勘弁せえや……! 

龍驤は内心で叫び、袖に隠した手に札を構えながら、視線を巡らせた。

 

正面、横須賀鎮守府副長霧島

右、宿毛泊地第一特務朝潮

他にも機殻士として、確かな実力があるとされる北海鎮守府提督に、他にも気配がある。

 

「夕立、ちゃん?」

 

――ちょっちホンマに勘弁してくれんかな~――

 

正直な話、夕立は置いてくるべきだった。実力は確かなものがあるが、おつむが少し追い付いていない。

感情と勢いで、判断を下してしまう事もままある。総長不在の佐世保鎮守府では、副長の龍驤が艦隊責任者となる為、何かあれば龍驤が責任を追求される事になる。

 

「睦月ちゃん……、なんで……?」

「あ、えっとね?」

 

フラフラとした足取りで、睦月へと近付いていく夕立。責任を追求されるくらいなら、龍驤としては何ら問題は無い。しかし、それは龍驤個人で済ませられる場合に限る。

 

――勘弁せえよ、夕立――

 

北海、横須賀、宿毛、二鎮守府一泊地の提督と副長と特務級相手に、佐世保の第一特務が何かしらの損害を与えれば、それは即ち佐世保鎮守府の責任となりかねない。

今、佐世保鎮守府は提督主導で対外厳戒体勢となって、情報遮断に必死だ。

つまり、今の佐世保鎮守府は外からの干渉を防ぎたい。

恐らく、他の鎮守府には気付かれているだろうが、それでもだ。

 

「む? 一体どうした。五百蔵冬悟」

「荒谷、いや、俺にもさっぱり」

 

変な笑いが漏れた。

斑鳩近衛師団団長荒谷芳泉、現れるとは予想していなかった人物に、龍驤のプランが崩れ始める。

人類最強の剣士にして機殻士、機動殻が無くとも、その戦力に曇りは無く、副長級に匹敵すると言われる。

龍驤の予想では、御三家関係者は既に宿毛泊地から離れている筈だった。だが、蓋を開けてみればどうだ。

 

――アカン、これ無理や……――

 

まだ幾つか気配がある。副長とは言え、純粋には戦闘系ではない己と、いまだ経験不足の第一特務。

切り抜けるには荒事は絶対に回避しなくては、佐世保鎮守府に責が及ぶ。

だから、龍驤は動いた。

 

「いやいや、今日はお世話になりますわ。ウチは龍驤、佐世保鎮守府の副長やっとります」

 

恐らく、この場の主導権を握れるであろう人物。五百蔵冬悟に、龍驤は挨拶として名乗る。

兎に角、今この場での妙な流れを断ち切り、事が起きるのを避けたい。五百蔵も龍驤の考えを察したのか、頷き名乗る。

 

「ああ、こちらこそお世話になってます。私は北海鎮守府で提督をやってます、五百蔵冬悟です」

 

 

ズーやん¦『オジサンオジサン、こっち! こっちにパス! 今なら佐世保から権益ぶんどれ……』

 

 

無言で叩き割った。

 

「今のは……?」

「あまりお気になさらず、よくある事です」

 

よくあって堪るか。

一瞬見えた文面は、明らかに佐世保から権益を奪おうとか、そんな内容だった。相手は恐らく、横須賀の第二特務の鈴谷。同じ横須賀の副長が居るなら、彼女のこの宿毛泊地に居ても、なんら不思議は無い。

 

「……ああ、今日は、ホンマにお世話になりますわ」

「いやいや、私共も同じく世話になっている身でして、礼ならこちらの朝潮第一特務に」

 

五百蔵が身を動かせば、小柄な姿が前に出る。

 

「お久し振りです。龍驤副長」

「いや、ホンマやな。今日は世話になりますわ」

 

身長はそう変わらない。だが、この小さな体に龍驤を約三人詰め込んでいるのと、同様の重量と質量がある。

足取りは軽く、足音も同じ。しかし、全体の体運びと、こうして握手をして接触すれば、そうだと解る。

 

「取り敢えず、鉄蛇(ティシェ)の回収が済み次第で、もう一回司令官と挨拶に来ますわ」

「そうですか。その頃なら、総長も起きている筈です」

 

朝潮の言葉に龍驤は、内心で安堵を得る。あの怪物は今、眠っている。これで、今は大人しく黙っている隣の夕立が、万が一暴走しても、最悪の事態に陥る可能性は減る。

後は、荒谷が離れてくれれば、更に危険は減るのだが、夕立の気配からか、荒谷はいつの間にか夕立と睦月の間に位置取っている。

 

――頼むから、大人しゅうせいよバカ犬――

 

鎮守府間の問題なら、提督か役職者同士の話し合い、又は鎮守府間抗争による相対戦で決着が着けられる。

だが、外部との問題はそう簡単ではない。

鎮守府や泊地、警備府は軍部に於いて、独立組織の気がある。それは軍部が行った非道により、第二次侵攻が発生し、鎮守府間の連携を乱し、要らぬ犠牲を強いた事に由来するとされている。

それが何だったのか、それを知るだろう者達、鳳洋、金剛、大和、まるゆの四人は語らない。

何があったのかは探ろうにも、当時の情報はそのほぼ全てが焼失し散逸している。知るには第一世代から聞き出すか、何処か現存しているかもしれない、資料を探し出すしかない。

 

 

ズーやん¦『取り敢えず、ダブルオジサンでムッキーへの道は塞いで、副長はふぶっちをお願い』

邪気目¦『俺達はどうする?』

船長¦『俺ら特務級が、下手に集まって刺激したくはないな。一応、篁の方に行ってみる』

元ヤン¦『瑞鶴とあきつ丸が居るから、大丈夫だと思うが念の為だな』

グラタン¦『私も居るぞ』

半死半生¦『私は気にしないでー、神通居るし』

神従者¦『というより、こちらに来るのですか?』

 

 

油断ではないだろうが、神通の言葉にも頷ける。

ただ鉄蛇を回収しに来ただけの佐世保が、何故か宿毛泊地に滞在している、御三家の二人を確保しても、何の旨味も無い。

寧ろ、営利目的での確保を疑われ、佐世保鎮守府自体が取り潰しとなるだろう。

だが、念には念を入れて、だ。

 

 

七面鳥¦『え、何? 何かあった系?』

ズーやん¦『何も無いといい系』

鉄桶嫁¦『スタンバイOKです』

竹藪¦『あ、何かご迷惑を……』

蜻蛉玉¦『何も気にする必要は無いでありますよ、啓生殿』

約全員¦『お前もだよ!』

 

 

「では、また後程」

「ええ、では」

 

そう言って、両鎮守府が別れ、睦月と霧島に抱かれた吹雪の姿が見えた時だった。夕立が突如として動いた。

 

「この、アホ犬……!」

 

龍驤が符を投げるが、一部展開した艤装に阻まれ、握り潰される。追おうにも振り向き様に、無理な投擲をした為に、体勢が崩れてしまって間に合わない。

警告を出そうにも、下手な内容では佐世保鎮守府に責が及ぶ。だが今は、そんな事を言っている場合ではない。

 

「止まらんかい!」

 

龍驤が再び符を投擲する。五百蔵が動き出した。荒谷もだ。符がまた艤装に遮られるが、艤装を動かせば、その分速度が落ちる。

 

「夕立ちゃん……!」

 

何を思ってだろうか、睦月が手を伸ばした時、夕立が更に加速する。その顔には鬼気迫るものがあり、その手は何かを求める様に伸ばされていた。

 

「っ……!」

 

伸ばした手が確かに届けと、五指を広げる。だが、既に彼女の側には霧島と荒谷が居た。

戦闘系第一特務一人と副長二人、まだ同じ副長である龍驤と特務級と言える五百蔵も居る。

勝ち目は、万に一つ存在しない。だが、己の先には睦月と、そして吹雪が居る。

 

「……吼えて……!」

 

夕立が叫び、龍驤が両の手に符を構える。もう最悪、夕立を沈める事も視野に入れた龍驤が、その莫大量の符を投擲しようとした瞬間、一つ夕立を覆い隠す影が差した。

 

「ちょっと待ったーっ!」

 

いまだ修理中のストライカー・エウレカが、碌に受け身も取らずに落ちてくるのと、夕立の後頭部に打撃用の符が直撃したのは同時だった。



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そして君の手を取り

何をやっていたんだろうか。


ズーやん¦『では、なぜなに鈴谷さんのコーナー!』

 

 

イエーイ! 

やけに上機嫌な鈴谷の合図で、五百蔵の開く表示枠が賑やかになっていく。

 

 

元ヤン¦『んで、今日のお題は?』

船長¦『あれだろ、佐世保の連中』

邪気目¦『というより、佐世保の夕立だな』

副長¦『確実に何かありましたね』

ズーやん¦『でも、それは私達が探る事じゃないよ』

 

 

夕立の過去に、吹雪と睦月の二人の、事件が関わっている事は、誰が見ても明らかだ。だがそれは、あの三人だけのもので、自分達が進んで暴くものではない。

 

 

ズーやん¦『それはふぶっちやムッキーが話す事だからね。いい、キソー?』

船長¦『え、なんで俺?』

邪気目¦『そうだぞ木曾』

元ヤン¦『そういうとこだぞ木曾』

船長¦『は? いや何が?』

副長¦『そうですよ、木曾』

船長¦『副長まで?! いやマジで何なんだよ?!』

半死半生¦『成る程、そうなのね』

神従者¦『その様で』

船長¦『待ってくれ! 何? 何が進んでんだ?!』

グラタン¦『それが分からないから、ダメなのではないか?』

 

 

何やら明後日の方角に進み始めた表示枠を、一旦脇に置いて、五百蔵は正面に向き直る。

正面には、佐世保鎮守府副長である龍驤と、後頭部にコブを作り眠る夕立が、龍驤の拘束符です巻きにされ、そして五百蔵の隣に磯谷、その中央の席には中立として荒谷が座っている。

 

「此方としてやけど、事を構えようとか、そんな気は無いですわな」

「まあそれは、そうだよね」

「せやねん。ウチらみたいな弱小鎮守府、旦那方に食って掛かったら、見る間もなく消し飛びますわ」

「ははは、まさかそんな……」

 

五百蔵が止まった。無い、とは言い切れなかった。五百蔵率いる北海鎮守府はそうでもないが、磯谷率いる横須賀鎮守府と、とある個人は違う。

やりかねない、そんな人材が揃いに揃いきっている。というより、とある個人だけで十分過ぎる。

 

「いや、まさかそんな……」

「いや、そんな深刻な顔せんでも……」

「話を進めんのか」

 

中立の立場にある荒谷が、一向に進まない内容に、早く進めろと急かす。しかし、急かしたはいいが、この会談は下手をすれば、実に厄介な事に繋がりかねない。

今回、他鎮守府所属の艦娘が、任務中に協力関係にある他鎮守府所属の艦娘に対し、他鎮守府内で傷害を行おうとした。

実際は少々違うが、簡単に纏めればそうだ。他鎮守府内で、所属外の艦娘が無許可に、戦闘行為を行おうとした。実権は当鎮守府である宿毛泊地だが、責任者である五十嵐と総長兼副長の大和からは、この件は好きにしろと、責任放棄とも取れる発言があった。

 

「と、取り敢えず、こちらとしても、実害は無く、事を荒げる気はないので」

「いや、そう言うてくれるのは嬉しいねんけど、粗相したんは事実やから……」

 

 

――うわぁ、嫌だなぁ……

 

 

夕立のしくじりを、ただのしくじりで終わらせるのではなく、こちらに対する次へのパイプ代わりにしようとしているのか。

磯谷個人的には、龍驤のやり方は嫌いではない。だが、やり方が些かあからさま過ぎる。定石なら、もう少し回りくどくても、謝罪を挟んでから、繋がりを築くべきだ。

龍驤側から差し出せるものは、その謝罪だけであり、仮に他を差し出されても、五百蔵側はその対処に困る。

 

「しかし、実害は無いし、行動も未遂。それに鎮守府責任者二人から、事実上の黙認もされている。この件に関しては、これで手打ちとしましょう」

「いや、でも……」

「手打ちにしましょう」

 

五百蔵が、にこやかに話を打ち切りに入った。五百蔵としては、確かにいきなりの行動に驚きはしたが、結果それだけであり、言ってしまえば何も起きていないに等しい。

これ以上、龍驤にごねられて、何か条件を引き出されても厄介だ。

 

「色々言いましたが、結果としては何も起きていないののです。何も無かった。それでいいじゃないですか」

 

何が目的なのか。北海に繋ぎを得ても、そこから得られるものは無いに等しい。唯一と言えるのが、全鎮守府中最大の工廠を備える横須賀鎮守府と、埒外の幸運を持つ金剛との橋渡し役だろう。まさか、あの鳳洋との繋がりを求めているとは思えない。

 

「はぁ……、敵わんなぁ。でも、そっちがそう言うてくれるなら、そういう風にしときましょ」

 

何か違和感、の様なものがあった。いや、ここで龍驤が引き下がるのは、まったく自然な流れだ。

しかし、何か違和感がある。噛み合っているのに、何処かズレた様な、掴み所の無い霞の様な異質感。

五百蔵は磯谷に目をやるが、彼女も何か戸惑いがある。龍驤が大人しく引き下がった事に、何の問題も無い。

 

「ほな、ウチらはさっさと作業済ませて帰りますわ。宅の娘さんには、宜しゅう言うとってくださいな」

「は、はあ」

 

何だろうか、やけに早く引き下がる。五百蔵達が、内心で首を傾げていると、部屋の外から騒々しい足音が近付いてきた。

足音の主は、喧しく部屋の前で止まると、これまた勢いよく扉を開け放った。

 

「よし、必殺鈴谷マン到着……! さあ、話をしようじゃんか!」

 

息を切らし、飛び込む様にして、部屋に入ってきた鈴谷。二度三度、大きく息をして呼吸を整え、驚き身を引いた龍驤に改めて向き直る。

 

「中々、舐めた真似してくれるじゃん」

「いやー、何の事か解らんわー。ウチ、これから忙しいんで、通してや。……横須賀第二特務鈴谷」 

「いやいやー、鈴谷さんは今から仕事で忙しくなるんでー。ね、佐世保副長龍驤」

 

一気に空気が張り詰める。状況に着いていけていない五百蔵と磯谷が顔を見合せ、元より中立の立場を崩す気が無いのか、興味無さげに席に着いたままの荒谷。

その三人を他所に、鈴谷と龍驤が距離を詰めていく。

 

「忙しくなるて、第二特務だけなん? 他の特務は?」

「あっはは、私だけで十分だって話、分かる?」

 

表情だけは、にこやかやに進めてはいるが、発される言葉や空気は険悪そのものだ。

 

「仮にも第二特務が、副長に意見かいな」

「第二特務は第二特務でも、私は横須賀鎮守府の第二特務。言ってる意味解る? 佐世保なんて、吹けば飛ぶ様な零細弱小鎮守府の副長が、まさか話になると思ってんの?」

 

何か決定的なものが割れた、そんな音がした。



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そして呼ぼう

話が進まぬ……


しかし、何がどうしたのか。五百蔵は睨み合う二人、鈴谷と龍驤を眺めながら、表示枠を開く。

 

 

鉄桶男¦『これ、何が起きてるの?』

鉄桶嫁¦『鈴谷さんが、第二特務として動いたという事は、そういう事だと』

副長¦『しかし、一体何を?』

邪気目¦『普通に考えるなら、横須賀と北海の共通利益を見付けただが、これはちょっと違うな』

船長¦『なら、なんで鈴谷が第二特務として動いたんだ?』

元ヤン¦『ん~、何と言うか、あれだな。ガキの喧嘩というか言い掛かりと言うか、まあそんな感じの奴』

七面鳥¦『えっと、どういう事?』

 

 

瑞鶴の疑問もだが、今は現状も少し謎だ。五百蔵は表示枠の流れを眺めながら、思案する。

佐世保鎮守府が大破した鉄蛇(ティシェ)の回収に来たのは、事前に三笠の手引きがあり、そういった流れであの騒動に導入されたからだ。

だが、何故その回収に、副長に第一特務といった役職者が出張り、佐世保鎮守府の第一特務である夕立が、何故こちらに敵対とも取れる行動を取ったのか。

 

 

――ひょっとしなくても……――

 

 

これは過去だ。吹雪、睦月、夕立。この三人の過去が全ての始まりであり、決着でもある。

あの時の夕立から、敵意や害意という感情が、そこまで強く感じなかったのも、そこに理由がある筈だ。

だが、これは夕立に対する憶測だ。今現在、目の前で起きているのは、鈴谷と龍驤の事だ。

 

 

元ヤン¦『実際の所、今回のこれに関しては、龍驤の言動から推察して、ちょっと吹っ掛けにいった感じだな』

七面鳥¦『それだと、こっちが悪くならない?』

グラタン¦『よくは分からんが、実はそうではないという事だろう』

元ヤン¦『いや、これがなぁ……。何と言うか、マジでビミョーなもんでな?』

蜻蛉玉¦『一体何があったであります?』

邪気目¦『あ? おぉ? えー、まさか嘘だろ?』

船長¦『どうした? バカみたいだぞ』

邪気目¦『いやだってよ、これが仮にも副長のやる事か?』

元ヤン¦『嫌がらせというか、見栄だろ?』

船長¦『嫌がらせって、……おーい』

鉄桶男¦『しかし、だとすると、かなりだね』

鉄桶嫁¦『というかこれ、役職者がする事ですかね?』

ほなみん¦『佐世保鎮守府の副長だから、動く案件かな?』

邪気目¦『どういう意味だよ? 仮にも副長が、こんな子供じみた真似するか?』

ほなみん¦『かなりグレー判定だけど、横須賀と佐世保この二つの鎮守府の関係と、現実の状況含めて成り立つ式が、実はあったりするんだよ。つか、気付けよ私さー』

 

 

「えっと、これってどういう意味なんですか?」

 

啓生は別室にて、表示枠からの中継を見ながら、隣に座るあきつ丸に問う。

五百蔵達が会談していて、龍驤の勢いが急に増し、何かあると啓生が感じたら、急に龍驤が会談の切り上げに乗ってきた。

途中からだが、啓生が得た情報はこれだけであり、何故に鈴谷が第二特務の立場を持ち出してきたのか。それが理解出来ずにいた。

 

「ふむ、啓生殿。現状の情報のみで判断して、どちらに非があると考えるでありますかな?」

「どっちにって、横須賀、……という話ではないんですよね」

 

問いに、考えを巡らせる啓生殿は、誠に愛らしいものでありますな……!

夕石屋に賄賂を握らせ、無音設定を組み入れた表示枠で、思案に集中する啓生の様子を撮影しながら、先の会話の流れを整理する。

 

 

――いやはや、なんとも浅ましい――

 

 

やはり、愛を知らぬ者はいけない。しかし、この浅ましさが、愛を知る故にであるなら、健気を通り越えて滑稽とも言える。

 

「今回の会談、発端は佐世保鎮守府第一特務の夕立が、突然行った凶行未遂」

「正解であります」

「そして、今回の会談はそれに対する佐世保の謝罪と、それに伴う賠償の決定。でも……」

「そう、五百蔵殿が切ってしまった」

 

そこに付け入った。というより、そうなる様に話を向けていた。下手な駆け引き、やけに下手に出る態度、あれら全ては、五百蔵達に警戒を抱かせ、話を早く切り上げさせる為。

 

「しかし、五百蔵さんを責められません。言ってしまえば、今回は横須賀より北海の案件。つまり、彼は損や利より、話が無くなる方向に舵を切った」

「そう仕向けたのは、あの龍驤でありますが、実質被害が出ていない以上、下手に欲を出すよりは、そちらが正解でありましょう」

 

しかし、その場に横須賀鎮守府提督である磯谷が居た。

これと、横須賀鎮守府と北海鎮守府の関係、そして横須賀鎮守府と佐世保鎮守府、両鎮守府の間に横たわる確執にも似たしがらみ。

これらが複雑に絡み合い、今の状況を作り出している。

 

 

――しかし、気になるのは夕立であります――

 

 

仮にも実働の第一特務、副長級とは言え、純粋な戦闘系ではない龍驤の打撃符一枚の打撃で、昏倒したままとは考え難い。

もしそうだとするなら、よほどいい角度で入ったか、夕立自身の耐久力がそれほどでもないか。もしくは、まだ眠ったふりをしていて、牙を剥く瞬間を虎視眈々と待っているか。

どちらにせよ、夕立が起きる前に話を片付け、宿毛から出すべきだ。

 

「だけど、分からない事があります」

「なんでありましょう?」

「何故、龍驤はこんな事をしたのでしょう? はっきり言って、副長のやる事ではないような……」

「……啓生殿は、戦史の方は得意でありますかな?」

「戦史、ですか? まあ、それなりには」

「話は簡単で、しかし複雑。そして、いまだに根が残る。そういう話なのであります」

 

 

――何を今更と、そう言えるでありますが、しかしあれが今の始まりでもありますからなあ……――

 

 

百余年前の事柄を、よくもまあ引き摺れるものだ。

 

 

鉄桶男¦『いや、まさかね。全然気付かなかった』

鉄桶嫁¦『何か違和感がありましたが、肝心の言葉を放っていなかったとは……』

鉄桶男¦『俺の失敗だね、これは』

船長¦『いや、叔父貴の失敗というより、龍驤の手腕だ』

邪気目¦『ログ見たけどよ、やっぱりはっきりとは言ってねえな』

元ヤン¦『雰囲気や仕草、言葉と話の運び方が、全体をぼやかして把握しにくくなってんな』

七面鳥¦『うわ、穂波なんで気付かなかったの?』

ほなみん¦『うっせー! 油断してたの! 要求するものも無いし、疲れてるしでさっさと終わらしたかったの!』

グラタン¦『切実だな』

 

 

「嫌やわぁ、ウチも第二特務と言えど、構ったれる程暇やないねん」

「いやいや、そんな事言わないでさ。もうちょっと話しようよ」

「あかんわぁ、ウチ一人やったらええけど、このやらかしたアホ犬連れて帰らなあかんねん」

「え~、折角のいい話があるのに?」

「是非聞きたいけどな~、ウチんとこ役職者少ないから、ウチ一人で回しとんねん」

「ふーん、……じゃあ、機竜の話はいっか」

 

鈴谷がそう言った瞬間、龍驤の雰囲気が、がらりと変わった。

煙の様なのらくらとした雰囲気から、得体の知れない、何が出てくるか解らない影の様な変化に、目を閉じたまま動かなかった荒谷が、閉じていた目を開けた。

 

「……因みに、どんな話やろか?」

「うん? 忙しいんじゃなかった?」

「前言撤回や」

「じゃ、話再開しよっか」

「……ええで」

 

袖から拘束符を取り出し、夕立のす巻きを更に厚く固める。これだけ固めれば、例え起きても、すぐには動けない。

まだ佐世保の機竜は完成には程遠い。だから、多少危険な橋を渡ってでも、その残滓が残る鉄蛇が必要だった。

だがそれでも、それでも足りない。

 

 

――すまんな、司令官。ちっと無理するで――

 

 

きっと、そこまでは望んでないと、彼女はそう言うだろうが、同じ苦悩を知っている身だ。水臭い事は無しにしてほしい。

 

「さあ、話してもらおか。ウチらの望む話を」

 

龍驤はそう言って、薄く笑む鈴谷を見据えた。




次回は吹雪?視点かな


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共に行こうと

初見の読者を置いていき、お気に入りと評価を下げていくスタイル。

あ、実写版アンパン◯マンは、ジャム◯おじさん役は、ドウェ◯ン・ジョンソンで決まりだよね?

あ、〝神々のいない星で〟下巻。出てるから皆買おう!
主成分の九割は〝先輩最高です!〟


吹雪が目を開けると、そこは夜だった。

いや、実際に夜ではない。そうとしか言い表せない、塗り潰された暗闇があり、頭上には月の様に丸い空白が、ぽっかりと口を開けている。

 

「あー」

 

身を起こせば、水音と水の手応えがある。どうやら、下は水が満ちている様だ。しかし、濡れた感覚は無く、それよりも馴染む感じが強い。

しかし、明かりらしい明かりが無いのに、はっきりと周囲を視認出来るのは何故か。

頭上の月の様な空白は違う。あれは開いているだけで、光源にはならない。

はて、では何故なのかと、普通は考えるだろうが、吹雪は違った。納得した上で、軽く身を伸ばして欠伸を一つ。そして一回、軽い呼吸を入れると、

 

『ここには来ちゃダメって言ったじゃん。「私」』

「『私』」

『んン~? あれ?』

 

声に振り返れば、吹雪()が居た。会ったのは数回、比較にならない力量差があっても、結局は同じ自分だと、全く気負いは無い。

寧ろ、近付いてこちらの匂いを嗅ぐ、彼女の為すがままになっている。

 

『……この匂いは朝潮ちゃんか。しかも負けてる』

「なんで分かるの?」

『見てたし、私も負けたからだよ「私」』

「『私』も負けたの?」

『そりゃもう、この通り』

 

言って、吹雪()が帽子を上げる仕草で、頭を軽く引けば、僅かに粘性のある音がして、頭が首から離れた。

首の無い胴が腰を折り、お辞儀の真似事の様な動きを見せて、吹雪が叫んだ。

 

「うっわ……!? 『私』、エンガチョ!!」

『「私」、それは酷くない?!』

「だって『私』、首が取れてるじゃん!」

『言っとくけど「私」、「私」もこうなるかもしれないんだよ?!』

「嫌だ!」

 

叫んで、吹雪()が頭を元に戻す。幾度か左右に揺り動かし、頭の座りを確認してから、威嚇状態のままの吹雪の前に座り直す。

 

『だから強くなりなよ。……今のままだと、〝次〟で誰かを失うよ』

「いきなりマジトーンとか……、〝次〟って、また何かあるの?」

『もっと大きいのあるあるヨー』

 

サラッと重要そうな事を言うのは、同じ自分でも正直どうかと思う。

しかし、話半分に聞いても、あの〝播磨〟での出来事以上の事があるのは確定の様だ。

 

『「私」、一応言っとくけど、これから先、最後の最後まで〝私達〟は綱渡りを続ける事になる』

「その内容は言えないの? 『私』」

『言いたくても言えない。下手すると、邪魔が入るからね「私」。……ていうか、今何処に居るの? 「私」』

「え? 何処って、宿毛」

『くわー! それもそうか、朝潮ちゃんに負けたんだし、宿毛に居るのは当たり前か。いやでも、だとしても、うんン?』

 

いきなり何を言い出すのか。同じ自分だが、どうにも考えや行動が突発過ぎる。その上、こちらを置いていく様な内容ばかりだ。

 

『ねえ「私」、会ったのは朝潮ちゃんだけ?』

「だけって?」

『他の第三世代、例えば夕立ちゃんとか?』

「会ってないよ。あ、でも、確か佐世保鎮守府が鉄蛇の回収に来てる筈?」

『は? 鉄蛇の回収? 佐世保が? なんで?』

「なんでって、佐世保で何か造ってるから?」

『え? 佐世保で造ってる? 何を? いやいや、早くない?』

「え、早くないって言われても、困る……」

 

またもや奇声をあげて、吹雪()が雑に頭を掻き乱す。

どうやら、吹雪()の思惑と、今の吹雪達の現状は何やら違う様だ。

 

『う~ん? だとすると、もしかしたら夕立ちゃんが居る? あぁ~、これはちょっとマズイよ』

「マズイって、何かあるの『私』」

『いやでも、線が違うからいいのかな?』

 

吹雪の質問に答えず、一人で頭を抱えて唸る吹雪()。訳の分からぬ事を言い出しているが、それは先程から変わらないからいいとして、吹雪が言った佐世保の現状が、吹雪()にとっては予想外だった様だ。

 

『ああ、でも、線は違くても、大元は一緒で、線自体も近いからこれが出来てて、あれ? あれー?』

「『私』何言ってるの? 狂った?」

『あ、それは元から』

「元から?」

『ま、それは別にどうでもいいから、佐世保が鉄蛇を回収に来てて、回収は何かの開発の為なのは確か?』

「うん? 多分」

『はっきりしてよー』

 

はっきりしてよと言われても、こちらは第三世代としての性能発揮の為の訓練で、弾かれては宙を舞う毎日だったのだ。

そんな細かい情報は入っていない。仮に入っていても、弾かれて吹っ飛んで、ちょっと記憶がアレな感じになっている。

というか、見てたなら、聞いてるのではないのか。

 

『あー、そこら辺、私はそっちに常に居る訳じゃないから』

「え、そうなの?」

『気が向いた時、っていうか、寝てる時?』

 

そこで聞かれても、正直困る。

 

『まあ、兎に角。私は常に「私」と居る訳じゃない。だって『私』と「私」は、同じだけど違うからね』

「まあそうだよね」

 

顔も声も嗜好も名前も、交遊関係もまったく同じ。違うのは存在の性能と、何が起きて、何を見て何を知ったかだ。あとちょっと、あっちが狂ってる。

同じ(吹雪と吹雪)でも、結局は違う(吹雪と黒)のだ。

 

『でまあ、もうすぐ私起きるから、結論言うよ「私」。もう少ししたら、色々起きるから、誰も失っちゃダメ』

「その〝誰も〟の範囲は?」

 

流石「私」、同じ私なだけあって賢い。やっぱり、お父さんとお母さんの娘なだけはある。

 

『誰も彼も、基本失っちゃダメ。やらかしちゃってるのも居るけど、失ったら手を増やす事になるから』

「手を増やす?」

 

首を傾げて、吹雪()を見る。手を増やすというのは、一体どういう意味なのか。

 

『あ~、それはちょっと言えない。……言ったら、今のそっちにちょっかい出すしさ』

 

一瞬、吹雪()の双眸が、底も果ても無い闇になった。

こちらには害は無いと、本能で理解していても、あの洞穴に満ちる闇は、決して良いものではない。

グラグラと、何か効果音でも付きそうな動きで、吹雪()の首が揺れる。

また首でも取れるのかと、吹雪が身構える。

 

『ああ、うん。ちょっとちょっかい出してきたか……』

「『私』?」

『……ゴメン、最後にトチった。「私」、多分目覚めても覚えてないだろうけど、言うね。手を伸ばして、確かに届けと諦めないで』

「『私』、最後に謎ポエムはちょっと同じ自分でもどうかと……!」

 

目覚めたのだろう。吹雪の姿が消えた。

さて、『私』は誰も彼も失った。なら「私」は、どうなるのだろう。

いや、心配は無用だ。「私」は睦月を失わず、それによる連鎖も起こさず、誰も欠ける事なく今にいる。

「私」は『私』とは違う。

 

『だから、ちょっとの間は助けられないけど、頑張れ「私」。これから始まる日々は、一番大事な日々だから』

 

吹雪()は足元から二本の鉄鎚を引き抜き、頭上の空白に絶対の殺意と敵意の睨みを向けた。

 

『何度だって、ぶち殺してやる。クソ野郎』

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「あ……?」

 

何か夢を見ていた様な気がする。しかし、どうにも思い出せない。

しかし、何故寝ていたのか。記憶を遡り、首を傾げてぼやけた頭を動かす。ここは宿毛泊地、外で重機か何かの音がするのは、確か佐世保鎮守府が、大破した鉄蛇の回収に来ているから。

 

 

――あれ? 佐世保?――

 

 

何か引っ掛かるが、今は何故寝ていたのかだ。

体にはのし掛かる様な疲れと、軋む様な痛みがある。これは〝播磨〟での騒動だろうが、何か違和感がある。

 

「あ、起きましたか」

 

吹雪が考えていると、大鍋を片手に提げ、もう片手にタッパーを乗せた飯櫃を抱えた朝潮が、部屋に入ってきた。

炊いた米と、沸かした味噌の匂いがする。しかし、それと同時に、吹雪は何故か首元に疼きを覚えた。

 

「……どうしました?」

「……首チョンパ」

「はい?」

 

何か間違えた。

 

「また、何か受信しましたか?」

 

人を電波扱いとは失礼な。この米と味噌汁を平らげたら、成敗せねば。朝潮から白飯と味噌汁を受け取りながら、吹雪が鉄腕ちゃんをチラリと見ると、何やら動きが鈍い。

 

「その艤装なら、貴女が目覚める少し前から、動きが鈍くなってましたよ」

「うぇ?」

 

はて、これもまた何か引っ掛かる。しかし、キャベツやらエノキやら、明らかに冷蔵庫の余り物を、雑に刻んで叩き込んだだけの味噌汁が旨い。今度は提督に作ってもらおう。

 

「期限切れの牛脂で軽く炒めただけでも、豚汁というか肉感というか、薄味ラーメン的な味噌スープ感が出ますね」

「あ、牛脂」

「何時から冷蔵庫にあったのか、まるで分からないやつでしたが、まあ第三世代の内臓なら問題無いでしょう」

 

 

――割りと雑?――

 

 

吹雪が味噌汁を飲み干し、次をと鍋に引っ掛かけたお玉に手を伸ばすと、タッパーの漬物を囓っていた朝潮が、良い音をさせた後に口を開いた。

 

「しかし、貴女方はトラブルが好きなの?」

「へ? トラブル?」

 

何処かの横須賀の珍生物の愛読書が、そんな名前だった気がする。

 

「佐世保と揉めてますよ。貴女方」

「なんでぇ……?」

 

取り敢えず現実逃避に、漬物を囓ったら良い音がした。




あー! 「私」に〝私達〟の体の使い方は、洋さんに教われって言うの忘れてた……!


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君を呼ぶ

はは、三年前だと……?
なにやってたんだろね?


船長¦『はい、第三特務による現状解説デス』

邪気目¦『は? いきなりどうしたよ』

元ヤン¦『そっとしてやれ。……情報特務なのに、実際の働きが、実働の現状を認めたくないんだ』

七面鳥¦『はい、その実働の第四特務です』

蜻蛉玉¦『同じく実働の憲兵隊長であります』

二人¦『お前はこっち(脳筋)側だろう?』

船長¦『来んな! こっちに、こっちに来るんじゃねえ!!』

副長¦『解説するなら、早くしては如何です?』

船長¦『イエスボス! まずはざっと流れを書くぞ』

 

1 御三家、篁と神宮、斑鳩のいざこざに介入する。

2 鉄面皮の目的達成、叔父貴と荒谷は叔父貴が上。

3 不壊の大和に宿毛泊地に曳航される。第三世代の朝潮と遭遇

4 第三世代としての覚醒?の為に、朝潮と吹雪の合同演習。現在、吹雪の完全劣勢。

5 佐世保鎮守府が大破した鉄蛇(ティシェ)の回収に来る。

6 佐世保の第一特務の夕立がいきなり突っ掛けて、今は同鎮守府副長の龍驤と、うちの第二特務の鈴谷が会議中。

 

船長¦『他の細かい部分は、各々で補足していくとして、大体の流れはこんなもんだろ。……んで、早速だが、神宮と佐世保、というより龍造寺はグルだろこれ』

邪気目¦『根拠はなんだよ?』

船長¦『早すぎる。準備していたにせよ、最初から宿毛に運ばれる事を知っていたみたいに、連中は鉄蛇の回収に来た』

七面鳥¦『少し弱くない? あの神宮のお嬢様なら、あの騒動の中で、連絡を取り合って、予定の変更とかも出来そうだけど』

船長¦『それを言われると、少し弱いが、それでもあの佐世保の連中が乗ってきた船、あれは鉄蛇級のデカモノを積み込む為の貨物船だ。……あのサイズとなると、横須賀なら兎も角、佐世保の力で急いで用意出来る規模じゃあない』

 

 

さてと、流れていく表示枠内を見ながら、五百蔵は現状を整理する。

現状、五百蔵が取れる行動は多くない。というより、場を動かしているのは、鈴谷と龍驤であり、今は龍驤が取ろうとしていた行動を、はっきりと明言し、共有しておく必要がある。

 

 

鉄桶男¦『とりあえず、今は突然突っ掛けてきた、夕立君の責任の所在と、それに関する龍驤君の行動か』

鉄桶嫁¦『彼女の責任に関してなら、佐世保では?』

鉄桶男¦『いや、それはそうだけど、どうにも根が深そうだよね』

 

 

言って五百蔵は、ミノムシの様に簀巻きにされた夕立に、ちらりと視線を向ける。

事前に話は聴いていたが、実際に見るとでは、やはり違う。

 

――第三世代、か――

 

龍驤の投擲した符を握り潰した腕、見えた形状から察するに、恐らく吹雪の鉄腕ちゃんより、動作の精密性や敏捷性は上かもしれない。

だが、それは腕だけの話だ。以前に聴いた話では、使われた技術の大元である、人型の大型艤装が使える筈だ。

もし、何かあれば、

 

――摩耶君や天龍君に任せるしかないか? いや……――

 

恐らくではなく、確実にこの根は他人に任せるべきではない。

 

 

元ヤン¦『根が深いなら、吹雪は第三世代のプロトタイプ。言ったら、第三世代全員と根が深いぞ』

邪気目¦『現に朝潮があれだからな。夕立は勿論、他二人も下手したら相当だぜ』

七面鳥¦『でもさ、私達は手を出せないよ』

蜻蛉玉¦『当然でありますな。しかし、あまり行き過ぎる様であれば、それはまた別の話であります』

 

 

吹雪達第三世代の内情は、関係性は単純だが、その間にある感情や立場、思いから複雑怪奇極まりない事になっている。

瑞鶴やあきつ丸の言う通り、吹雪のこれらの問題は、吹雪が動き解決していくしかないのだが、夕立のあの様子から察するに、抱えている内情は一筋縄ではいかないものなのだろう。

 

 

船長¦『つかよ、鈴谷は何を材料に交渉するつもりなんだ? 吹雪の件に関しては、交渉材料にはならんだろ』

邪気目¦『まあ、正直な話だが、吹雪の件は交渉じゃなくて、相対戦の材料だな』

元ヤン¦『横須賀対佐世保か? 規模が違いすぎる。いや、内容を絞るのか』

七面鳥¦『ほぼというか、間違いなくそれ。戦力的に、正面から佐世保が、うちに勝てる道理はないわ』

蜻蛉玉¦『逆に、もし正面から挑んできた場合は、勝てる道理がある。という事にはなりますな。いや、単にやけくそになった可能性も無いではありますが』

副長¦『いずれにせよ、もしそうなれば戦い勝つのみ。それ以外に何か必要ですか?』

ヒエー¦『貴女はそれ以外を覚えなさい』

半死半生¦『私としては、この交渉が上手く纏まってくれると、すごーく手間が省けて助かるのだけれど』

竹藪¦『また、変な事企んでる?』

半死半生¦『変じゃないわよ。……趣味よ』

約全員¦『それ同じだよ……!』

 

 

騒がしい表示枠を横目に、鈴谷はあまり多くない手札を繰る。

相手は佐世保の副長である龍驤なのだが、手札の少なさから中々攻めきれずにいた。

 

「双方が双方共に、お互いの欲しいものを持っている。穏便に済ませましょうや」

「それは勿論、だからさ、教えてよ。そっちの欲しいものをさ」

 

分かりきっている事だ。龍驤は、横須賀が所有する。正確には、鳳・洋が所有するという大戦期の機竜、その核となるパーツを、鈴谷は今回五百蔵達と纏めた交渉結果の破棄。

横須賀にとっては、取るに足らないもので、子供の理屈の様なものでしないが、佐世保が横須賀に僅かでも泥を引っ掻けた。この事実は、横須賀という巨人を躓かせる小石になる可能性がある。

大演習という、鎮守府間のパワーバランスを測る場が迫る今、渉外担当でもある鈴谷は、その取るに足らない小石でも、こちらを意図的に躓かせる小石は、路肩の向こうに蹴り飛ばしていまいたい。

 

「いやいや、こっちが差し出せるものがあらへんのに、ただ貰うだけって訳にはいかんやろ?」

「ははは、差し出せるもの? 知ってる癖に」

「嫌やわー、ウチなんの事かわからんわー」

 

しかし、この龍驤がのらりくらりと面倒くさい。

話が進んだと思ったら、今のやり取りの繰り返し、いっそのこと、鎮守府間抗争の申請を出して、正面から潰してしまおうかとも考えたが、それもそれで面倒くさい。

それに、簀巻きにされたまま、ソファーの上で動かない夕立。彼女が、この交渉の切り口になるのだが、簀巻きは簀巻きのまま動く気配が無い。

鈴谷は口では繰り返しのやり取りを続けながら、頭の中で龍驤の狙いを探る。

龍驤の狙いは十中八九、五百蔵達との交渉結果。

子供の様な理屈、正規の結果ではないが、あの佐世保が横須賀と交渉して、有利な結果、今回は佐世保側が横須賀側の提案を受け入れた。非常に分かり難いが、佐世保が横須賀の上に立った。

成り立っている様で、まるで成り立っていない。言いがかりそのものではあるが、正規ではない機密に近い形の交渉という、対外的に情報の開示が為されない場での結果となると、要らぬ詮索が生まれ、そしてそれが疑惑に育つ。

ひょっとすると、今の横須賀は弱っている。

現状、横須賀の総長である金剛の露出が減り、代理として比叡が前に出ている。この事も、その疑惑を育てる肥料となるだろう。

 

「ところで、そっちの総長、最近どうてすのん?」

「総長? 夏の近親同好会に出す画集の描き下ろしを描いてるよ」

 

事実だから、疑われても痛くはない。冬の絶倫に向けても、最近の金剛は精力的に活動している。

ただ、眠る時間と座っている時間が、前より増えただけだ。

 

「それは、今年の大演習は大変やな」

「本当にね」

 

こうして、探りを入れてきたという事は、間違いなくそういう事だ。金剛が欠けた横須賀に、恐れる要素は無い。そう言われている様なものだ。

さて、どうしてくれようか。鈴谷が考えを巡らせ、鎮守府間抗争の申請を、正式に視野に入れ始めた時、龍驤の隣の簀巻きに動きがあった。

そして、この交渉の場を動かす動きは、部屋の外、廊下からもあった。

 

「ちょっと何してるですかよ?!」

「勝手になに決めてるっぽい?!」

 

廊下から吹雪が、扉を蹴破る勢いで、部屋に飛び込み、夕立が簀巻きから脱出し、声を挙げるのはほぼ同時だった。



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その声は

うわぁ……。お久しぶり


「ちょっと何してるんですか?!」

「何勝手に決めてるっぽい!!」

 

声と動きは同時で、それは周囲も同じだった。

飛び込んできた吹雪を諌める五百蔵、起き上がった夕立を押さえ込む龍驤。

互いに顔を見合せ、これからの交渉が難航する事を悟った。

 

「吹雪君、落ち着きなさい」

「提督、でも……!」

「落ち着きなさい」

「はい……」

 

吹雪が落ち着いた事に安堵しつつも、五百蔵はこれからの事をどうするべきか、判断に迷っていた。

 

 

──佐世保の狙いは機竜技術なら……

 

 

神宮との取り決めで、鉄蛇(ティシェ)の残骸を回収しに来た事は判っている。

五百蔵には分からないが、あの鉄蛇に使われている技術は、機竜建造に必要な技術なのだろう。

だが、こちらの着地点は先程の交渉結果の破棄、明らかに釣り合わない。

 

 

・鉄桶男 ¦『どうしよ?』

・鉄桶嫁 ¦『こちらは交渉結果の破棄、ですが佐世保の目的が機竜建造技術なら、ちょっと合いませんね』

・七面鳥 ¦『というか、機竜建造技術は先生の管轄だから、先生に頼まないと無理じゃない?』

・蜻蛉玉 ¦『そこであります。機竜建造技術の核は、洋様の管轄。しかし、相手は機竜の産みの親である龍造寺。機竜技術は保有している筈なのでありますよ』

・鉄桶男 ¦『だが、龍驤は鈴谷君の言葉に反応した』

・邪気目 ¦『なら、一番高い可能性としては、

 

1.龍造寺は機竜建造技術を持っていない

2.建造技術はあるが、何かが足りない

3.全て足りているが、更に求めている

 

今のところ挙げるなら、この三つが妥当か』

・元ヤン ¦『まあ、その辺だろうな。アタシとしては2辺りの気がする』

・船長  ¦『だとすると、龍造寺は機竜建造の核になる技術を持ってないって事になるぞ』

・ほなみん¦『となると、結構面倒な話になるよ』

・副長  ¦『どういう意味ですか?』

・ヒエー ¦『……機竜建造の核となる技術を持たないのに、何故か今になって機竜の建造に取り掛かった。そこに何か目的がある、という事でしょう』

・蜻蛉玉 ¦『恐らく、そうなのでありましょう。それに、機竜とは大戦時の最強兵器。今の時代には過剰であります』

・七面鳥 ¦『私達も資料でしか見た事ないし、その資料でも建造されたのは数機だけだって話』

・鉄桶男 ¦『数機しか建造されなかった失われた技術。面倒な話だね、本当に』

・船長  ¦『よし、鈴谷。頼んだ』

 

 

頼むな。

勝手に進む表示枠を眺めながら、鈴谷は取れる手段を脳内で並べる。

龍驤は再び夕立を簀巻きにしている。吹雪は五百蔵の後ろで大人しくしているが、夕立は猿轡をされてもがいている。

 

「んぐぐ!」

「ええから、大人しくせえ!!」

 

戦闘系ではないと言えども、仮にも副長クラス。第一特務の夕立を抑え込み、更に厳重に縛り上げていく。

機竜に関する技術は鳳洋の管轄であり、横須賀に技術開示の権限は無い。

何か条件を付けようにも、あの洋が素直に頷くとは思えない。

さて、ここからどう出たものか。

 

 

・おかみ ¦『え? 普通に開示しますけど』

・約全員 ¦『嘘だろお前……!?』

・紅茶姉 ¦『まあ、元は龍造寺の技術ですから、洋が無理に保有し続ける理由も特には無いのデスヨ』

・ズーやん¦『私、なんで悩んだの? ……まあいいや。情報開示は可能として、条件はあります?』

・おかみ ¦『そうですね……。当代の龍造寺に謁見を求めます』

・ズーやん¦『なるほど』

 

 

条件がかなり弛い。てっきり、力を示せ的な事を言うと思ったが、ただ会うだけで済むなら後々問題にもなりにくい。

しかし鈴谷は考える。

 

 

──ちょっと割りに合わないんだよね~

 

 

機竜建造技術、言葉だけなら安いが、その性能を鑑みると交渉結果の破棄だけでは釣り合わない。

元々、その技術は龍造寺のものだと言われればそれまでだが、あの洋が百余年に渡り隠してきたものだ。

確実に何かある。きっとそれは、燃え尽きた歴史の闇の部分だろう。

 

 

──さて、どう出るべきか

 

 

「……なんか隠し事かいな」

「んー、気になる?」

「そりゃな、たかが交渉結果の破棄の為に第二特務が動くとなれば、それはそれは大層な隠し事なんやろ。例えば、機竜の事とか」

「あはは、どんな隠し事だろうね?」

 

嫌味な笑みを浮かべる鈴谷に、龍驤は内心で舌打ちをする。

機竜の事を引き合いに、この場を用意した以上、鈴谷が何らかの情報を持っている事は確実だ。

元は佐世保の龍造寺の技術、返せと言うのは簡単だが、今回は強く出られない。

 

 

──このアホ犬がやらかさんかったら……

 

 

夕立の行動が無ければ、横須賀が隠す機竜の情報開示を請求出来た。

龍驤は尻に敷いた夕立を抑え込みながら、己の手札を確認するが、取れる手札が無さすぎる。

 

 

──横須賀が厄介過ぎるわ

 

 

全鎮守府最大勢力にして、前大戦の英雄が総長を務める鎮守府。その技術力も資金力も、何もかもが佐世保とは比べ物にならない。

仮に、今横須賀が佐世保の機竜建造技術を求めたら、それを突っぱねる力は佐世保には無い。

司令官である龍造寺なら、まだ発言力と影響力は残しているが、技術権限を鎮守府に移している現状では、開示要求を跳ね返せるかは微妙な所だろう。

 

 

──さて、どうする?

 

 

龍驤が悩んでいると、敷物が動いた。

バイザーで隠した視線を向けると、夕立が視線だけをこちらに向けている。

 

 

──面倒なガキやな

 

 

だが、夕立が負い目を感じているのは判った。

佐世保の副長として、部下のやらかしの責は取らねばならない。

取れる手札は無いに等しいが、交渉は続けられる。

ならば、続ける交渉の中で新たな手札を引くしかない。

 

 

──救いは鈴谷以外が口を出す気配が無い事やな

 

 

五百蔵は基本口を出す気は無いらしく、あの表示枠なる奇怪なものを弄って、何やら眉をひそめている。

荒谷も目を閉じたまま動かない。吹雪は何か言いたそうにしているが、今は捨て置く。

というか、あの表示枠というのが曲者だ。龍驤の勘では、あれで情報のやり取りをしている。

あれは言わば枚数無制限の山札、しかも引く札を選べる厄介極まりない代物だ。

手持ち以外の手札を引ける山札とか、交渉屋が喉から手が出る程に欲しい物を、横須賀側が使っている。

だが、やるしかない。

 

「まあ、この際隠し事はええわ。……横須賀はうちに何を求めてますのん?」

 

降りかかる困難、祓い除けてこそ副長なのだ。

 

 

・ズーやん¦『……正直、今の条件だと釣り合いが取れないんだよね』

・船長  ¦『だけど、このまま拗らせるのは避けたいぞ』

・邪気目 ¦『それも有るが、佐世保に求めるものが明確に無いのが問題だな』

・元ヤン ¦『もういっそ、機竜の情報寄越せって言っちまうか?』

・鉄桶男 ¦『それは最終手段だね。いきなり自分達の切り札を寄越せって言われて、頷ける奴は居ない。あと、今の状況だと

 

横須賀:求・先の交渉結果の破棄   

    条件・未定

佐世保:求・機竜建造技術の開示

    条件・龍造寺と鳳洋の会談

 

こんな感じだから、こっちの未定の部分をどうするかが問題だよね』

・空腹娘 ¦『もう佐世保鎮守府の提督に聞くとか駄目ですか?』

・にゃしぃ¦『でも、ここまで話が進んでるのに、龍驤さんから佐世保の提督の話題が出てきてないよ?』

・ほなみん¦『実は私も佐世保の提督と直に会った事無いんだよね』

・鉄桶男 ¦『性別も何も分からないのかね?』

・鉄桶嫁 ¦『実際、鎮守府間の交流の場に出てきた事は無かった筈ですね』

・ヒエー ¦『はっきり申しますと、主導者不明の鎮守府に技術開示はどうかと』

・七面鳥 ¦『でも、先生と会談するなら出てくるから、そこはある意味大丈夫じゃない?』

・蜻蛉玉 ¦『それもそうでありますが、その辺ちょいと一発突いてみるのは有りでありますな』

・ズーやん¦『うーん、ちょっと一発いってみるか』

 

 

さて、どう出る。

龍驤が無い手札を手繰り、道筋を模索する最中、鈴谷が眉間に皺を寄せて表示枠から顔を上げた。

 

「ちょっといい?」

「なんや?」

「佐世保の提督って、今何してる?」

 

龍驤は言葉に詰まった。

そして、夕立に視線を送った。

 

 

──あかんでこれ

──どうするっぽい

──神宮の姫さんは何も言うとらんのか?

──言ってたら、聞いてこないっぽい

 

 

この間0.1秒、神速のやり取りで最悪のパターンだと二人は判断した。

佐世保の提督、龍造寺は何か脛に傷のある様な人物ではない。多少、自分の役目を重く考え過ぎてしまう癖があるが、真面目な若者だ。

欠点があるとするなら、壊滅的にあるスキルが欠落している事だ。

龍驤は焦った。どうにかして話題を変えようと、必死で脳内でネタを探した。

 

 

・ズーやん¦『……これ、もしかして急所に当たった?』

・七面鳥 ¦『いいの入ったかもね』

・蜻蛉玉 ¦『効果は抜群でありますな』

・鉄桶男 ¦『え? 佐世保の提督って人格か何かに難があるのか?』

・鉄桶嫁 ¦『えー、いやでも、ええ……?』

・ほなみん¦『んー? 三笠ちゃーん!』

・半死半生¦『はい、呼ばれて飛び出て神宮三笠よ。もうすぐ倒れるから手短にいくわ。龍造寺現当主の人格に問題は無いわ。ただ、ちょっとだけ対人スキルが壊滅してるだけよ。じゃ、あとよれ……』

・神従者 ¦『お嬢様?!』

・竹藪  ¦『三笠?!』

・横須賀 ¦『・半死半生 様がログオフしました。十中八九、体調不良による吐血が原因かと。

        承認しますか? Yes/No』

 

 

とりあえず、全員がYesを押した。

神宮の事は神通と篁に任せるとして、鈴谷は何故二人が焦っているのかを思案する。

先程の話によれば、佐世保鎮守府提督に人格的問題は無い。

しかし、対人スキルが壊滅しているという事は、人当たりがあまり宜しくないという事だろう。

 

「あー、鈴谷よ」

「なに?」

「とりあえず、うちの司令官な? ちょっと今手が離せんねん。やから、話はまた後で頼むわ」

「言われてもなあ……」

 

こちらが提示したい条件は、龍造寺と鳳洋の会談なのだ。

だが、対人スキルに難があると言うなら、それにも迷いが生じる。

さて、どうしたものか。

鈴谷と龍驤が微妙な笑みを浮かべて、互いに出方を伺っていると、前触れも無く荒谷が目を開き、部屋の扉に顔を向けた。

 

「何者か」

「あ、五十嵐です。佐世保の提督をお連れしました」

 

宿毛泊地の五十嵐が爆弾を持ってやって来た。

 



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今は遠く

久々過ぎる


・ほなみん¦『……おい、何してんの? この誘い受け』

・蜻蛉玉 ¦『なんだか、えらい事になったでありますな』

 

 

本当にどうしよう。

まさか、件の佐世保鎮守府の提督を連れてくるとは思わなかった。

年の頃は磯谷とそう変わらず、髪は黒、背もそう高くない。

目付きは鋭く、抜き身の刀の様な印象がある。

 

「いやあ、泊地でなにやらうろうろしてたので、つい連れて来ちゃいました」

「五十嵐さん、もうちょっとこう……、連絡とかなかった?」

「ははは、不審人物扱いしなかっただけでも褒めてもらいたいですね」

 

件の龍造寺は何も言わない。ただ無言で立ち、龍驤と夕立を睨め付けている。

 

 

・鉄桶男¦『えーと、これはどういう状況?』

・鉄桶嫁¦『やはり、何かしらの責任問題が?』

・邪気目¦『あ? いや、どうなんだ?』

・船長 ¦『しかし、すごい睨んでんな』

・元ヤン¦『ああ、横須賀でもやってけるぜ』

・空腹娘¦『というか、何故か震えてる音するんですけど……』

 

 

北海と横須賀組の困惑を他所に、五十嵐はさっさと退場し、残された龍造寺はただ二人に強く視線を向け続けている。

さて、一体どうしたものか。

思案を巡らせる一堂とは違い、佐世保組の二人は龍造寺の視線の意味に気付き、背中に冷や汗を流していた。

 

 

──司令官……

──提督さん……

 

 

「龍驤、夕立……」

 

 

──助けろください

 

 

佐世保鎮守府提督、龍造寺・紀美は極度のあがり症だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

 

「……紀美ちゃんには悪い事したわー」

「なんか、そんな感じしない言い方だね?」

 

復活した神宮がそんな事を嘯けば、篁が呆れ半分に応える。

とりあえず、山の様な点滴を打って顔色と呼吸は回復したので、暫くは大丈夫だろう。

真っ赤に染まったハンカチを片付ける神通を見送り、篁は表示枠の会話から現状を推理する。

 

「龍造寺の当主でよかったよね?」

「ええ、そうよ。紀美ちゃんは龍造寺家の当主。でも、極度のあがり症で対人能力に難あり。一対一で話せる様になるには半年掛かったりするわ」

「それ、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。能力が無ければ、提督なんて出来ないわ」

 

車椅子に座り、点滴が落ちるのを見ながら神宮は表示枠の会話を追う。

 

「現状、横須賀は先の内容の破棄。佐世保はこちらが保有する機竜技術の譲渡。これが双方の狙いよ」

「うん、バランスが取れてないね」

「そうね。明かに横須賀側に不利な条件よ。でも、佐世保を味方に付けなければ、これからが厳しいわ」

「厳しい?」

 

篁の疑問に神宮は答えない。

ただ視線を表示枠から東の方角へ向ける。

 

「……悪意というのは、伏してる間が一番臭うのよ」

 

神宮の言葉に篁は何の事か判らず、ただ首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ここに居ましたか」

「おん? おお、提督やないか。どういたぜ」

「いやね、どうするかなと」

「どうもせんちや。アシらはアシらでやるだけよや」

 

宿毛泊地の埠頭で、煙草を吹かしながら大和が言う。

広い背中、長きに渡り戦い続けた女傑の背は少し疲れが見えた。

 

「……情けない話よな。結局、今の若いもんを過去にすがらせゆう」

「だが、必要な事なのでしょう?」

「おう、必要じゃ。本当なら使わんだちかまんに、使わないかん程度にはのう」

 

短くなった煙草を握り潰し、足下の空き缶に詰め込む。

空き缶は既に満杯で、今にも溢れ出しそうだった。

 

「機竜、ほんまやったらそのまんま廃れて消えていく筈やったに、しょうどうしようもない話ちや」

「必要なら使う。それだけです」

「しょう世話掛けるのうし」

 

新しい煙草に火を点け、煙を吐き出す。

嗚呼、これでは金剛の事も笑えない。

結局、自分達の代だけで終わらせられなかった。

けじめをつけるなら、自分が動くべきだが、それは出来ない。

 

「終わった身、洋はそれを分かっちゅうがやろうか」

「はて、それは分かりかねます」

「そうじゃろうな」

 

過去の遺産、それはまだあちこちに残っている。

自分達が片付けるべきだった遺産を、今の代に尻拭いをさせる。

大和は情けなさを溜め息の代わりに、紫煙として吐き出した。

 

「のう、提督」

「心配は無用ですよ」

「言うがよ、あれらがラバウルの〝あれ〟をどうにか出来るとは思えんわ」

「しかし、〝あれ〟は貴女にもどうにも出来ないでしょう?」

「……そうじゃの。〝あれ〟はアシらじゃどうにもならん。どうにか出来る……、いや、どうにかせないかんがは、洋じゃ」

 

煙草の煙が海風に踊るのを見ながら、大和は溜め息を吐き、五十嵐はただその背を眺めていた。

どうしようも出来ない。

五十嵐達が得ている情報では、ラバウルの〝あれ〟は大和達の負の遺産そのもの。

これを洋に伝えるべきか。

大和にはそれを判断しきれない。

 

「まるゆはなにち言いよった」

「こればかりは信じるしかないと」

「信じるのう、あいつらしいわ」

「……何か手を打ちますか?」

「いや、やめちょき。……下手に手出いて、今動かれたらほんまにどうもならん」

 

それに

 

「あれと決着を着けるがは洋じゃ」

 

〝不壊の大和〟、そう謳われた女傑は力無くそう言った。



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