ISコアを破壊せよ (日和見鶏)
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第01話 運命との邂逅

ISはアニメ1期とwikiを見ただけなので、設定が原作と違っている可能性があります。
こまけぇことはいいんだよ!と広い心でご覧ください。


 一夏は己の無力を噛み締めていた。

 

 第2回モンド・グロッソ決勝当日。千冬姉の応援に来ていた一夏は何者かに誘拐され、地面に転がされていた。

 

 用を足して会場へ戻ろうとしたとき、後頭部に衝撃を感じて、そのまま意識を失った。気が付いたときには両手両足を拘束されて猿轡を噛まされ、目隠しに耳栓までつけられていたのだ。全く、ただの中学生にご大層なことだ。現実離れした状況に、恐怖すら忘れて笑いそうになってしまう。

 

何とか脱出できないかと懸命にもがいてみるが、縛られているロープは緩む気配すらない。大声を上げようにも猿轡が邪魔をして、小さなうめき声を上げることしかできなかった。

 

それでも諦めずに芋虫状態で悪戦苦闘していると、ふいに耳栓を外された。全く気が付かなかったが、近くに誰かいたらしい。目隠しと猿轡を外しながら、声をかけてくる。長身に茶髪の女性だった。

 

「ククク……頑張るじゃねえか、ガキ。こちとらくだらねぇ仕事掴まされて退屈なんだ。俺の暇つぶしに付き合えよ」

 

嗜虐に満ちた表情で酷薄に笑いながら、一夏を見下ろしていた。状況が違えば綺麗な人だと思ったのだろうが、誘拐犯とその被害者の関係では、恐怖しか感じない。目をそらして、周囲を見回す。

 

窓が1つもない、薄暗い大きな部屋だった。転がされている一夏とこちらを見下ろしている茶髪の女性以外には誰もおらず、そして何もなかった。生活感の欠片もない。どうやら「そういう目的」の部屋らしい。

これでは、気を失ってからどれぐらい時間が経っているのか、全くわからない。もう決勝は始まっただろうか。それとも既に1日以上経過していて、大騒ぎになっているだろうか。心の中で千冬姉に謝りながら、ニヤニヤと嗤う女性を見上げた。

 

「思ったより冷静じゃねぇか、クソガキ。みっともなく泣き喚いて、おねえちゃんたすけてーとでも叫べよ。もしかしたら助けに来てくれるかもしれねぇぞ? クックックッ」

 

やはり誘拐犯は、俺を千冬姉の弟だと知っているようだった。そりゃそうだ、それ以外に自分を誘拐するような価値など、どこにもない。何が目的なのかはわからないが、千冬姉に迷惑をかけることだけは間違いないようだった。

 

「……俺は絶対にここから逃げ出して、警察に通報してやる。お前たちは捕まって、2度と刑務所から出てこれなくなるぞ」

 

内心で怯えながら、精一杯の虚勢を張って相手を睨む。そんなことできるはずがないと分かっていたが、心まで負けてしまうわけにはいかなかった。

女性は表情を歪ませながら、凄絶に嗤う。

 

「いいねいいねェ。ビクビクしてるのがまる分かりなのに、口先だけはいっちょまえだ! 男の子はそうじゃないと、な……っ!!」

 

腹を思いっきり蹴られた。あまりの痛みに声を上げることすらできず、無様に地面を転がる。

げほげほと咳き込みながら、それでも女性を睨むことはやめない。それが一夏にできる、唯一の抵抗だった。

 

「ハァ……しらけるぜ。無抵抗のガキをいたぶったところで、楽しくともなんともない。あのクソ野郎、何がブリュンヒルデの抑えとして、だよ。ただのお守りじゃねぇか。暇つぶしにもならねぇ」

 

悪態をついた女性はそれきり一夏に興味を失って、唯一の扉へと向かっていく。その背中を睨みつけながら、一夏は己の無力を噛み締めていた。

 

 

 

 

既存の兵器を全て旧式にしてしまうほどの圧倒的な性能を誇るマルチフォーム・スーツ、IS。

元々は宇宙空間で活動するために製作されたらしいが、現在では軍事転用されて各国の抑止力となっていた。

そんなIS乗りの中でもトップクラスの乗り手であるブリュンヒルデ(織斑千冬)の抑えとしてやってきたと言うこの女性も、きっと凄腕のIS乗りなのだろう。

 

対して自分はどうだ?

織斑千冬の弟というだけで他に何の取り柄もない、一般的な男子中学生。多少は剣道の心得があるが、それだけだ。ISに対抗など、どう転んだところでできるはずがない。

手足を縛られてみっともなく地面に這い蹲り、誘拐犯を見上げることしかできない、ただの子供(ガキ)だ。

 

悔しかった。ただただ、悔しかった。

 

女性にしか乗れないISの特性で女尊男卑の社会へとなった今では、「男らしく」などと言っても鼻で笑われるようになってしまった。

全ての女性がそうという訳ではないが、男を見下す女は多い。

一夏は声を大にして言いたかった。女性だから、男性だからなどという理由で、人間の優劣などつかないのだ、と。

 

しかし、厳然たる事実として、ISは女性にしか操ることができない。それだけは、覆しようがなかった。

 

力が欲しい。唯々、力が欲しい。

ISに勝てるぐらい、とは言わない。目の前の誘拐犯に見下されないだけの、力が欲しい。

遠くなっていく女性の背中を睨みながら、一夏は思った。

 

 

 

そして、それはやってきた。

 

 

 

扉へと向かっていた長身の女性が、おもむろに右を向いた。一夏にはただの壁が見えるだけだったが、長身の女性――オータムが操るISのハイパーセンサーは、高速でこちらに向かってくる物体を正確に捉えていた。

このタイミングで、この場所にやってくる。偶然のはずがなかった。ここは郊外の山奥なのだ。明確な目的でもない限り、近づくものは皆無である。

オータムは凶悪な笑みを浮かべながら、すぐさまISを展開する。8本の禍々しい装甲脚が一際目立つ、蜘蛛型のISだった。

 

轟音。

壁の一部と天井が崩れ、一夏は振動と共に床を転がった。全身の痛みに耐えながら目を開くと、目の前に瓦礫が落ちてきた。もう少し位置が悪かったら、鉄分を豊富に含んだサンドイッチが出来上がるところだった。現実逃避しながら舞い上がった埃に咳き込んでいると、それが視界に飛び込んできた。

 

全身の装甲を暗い緑一色でペイントした、全長7mほどの巨大な人型兵器。オータムの蜘蛛型ISと比べても、なお大きい。シールドエネルギーのおかげで全身を装甲で覆う必要がないISと違って、それはまさに鉄の塊だった。左腕にアサルトライフル、右腕には建物の壁を切り裂いたと思われるブレード。機械的な目を赤く光らせながら、内部を窺っている。

一夏とオータムは、その姿に見覚えがあった。

 

「……AC(アーマード・コア)?」

 

ISに対抗するために各国が造り出した人型兵器の、歪な模造品の1つ、アーマード・コア。

元々は人型の作業用機械だったマッスル・トレーサー(MT)を、ISに対抗するため戦闘用に改修した機体である。

一時期はISに対抗する新兵器!などと囃し立てられて関連の雑誌に紹介されたが、機動力の面で慣性制御を行うISには到底及ばず、鉄の棺桶と散々馬鹿にされて忘れられていった、そんな機体だった。

 

「おい! おいおいおい! てめぇ正気か!? ブリュンヒルデ(織斑千冬)のお出ましかと期待させやがって、そりゃねぇだろ! そんな骨董品(棺桶)で、俺をどうしようってんだ! 笑い殺そうってのか!?」

 

堪え切れない、というように大笑するISに、ACの光り輝くレッドアイが向けられる。一夏にはそれが、獲物を前に飛びかかろうとする、獣の目のように見えた。

 

「……亡国機業(ファントム・タスク)所属の第2世代型IS、アラクネだな?」

 

意外なことに、年若い男の声だった。一夏は呆然とACを見上げながら、どこかで聞いた覚えのある声だ、と感じていた。

どこで聞いた声だっただろう。そう昔ではない。そう、少し前に聞いたような……

 

その声を聞いた途端、オータムは表情を笑い顔から一転させ、ACを刺すような目で睨みつけた。

 

「てめぇ……どこで知った?」

 

亡国機業の名は良い。裏に生きる人間ならば、知っている者は知っている。その程度だ。

しかし、ISの名まで知られているのはおかしい。商売柄ISを展開することは多々あるが、わざわざIS名を吹聴して回る趣味はない。

 

どこの組織の人間だ、と問おうとしたところで、ACが爆音と共に急加速し、左腕に構えたアサルトライフルを眼前に迫ったアラクネに向けた。

 

「なっ……!?」

 

オータムは驚愕の声と共に回避を試みる。すぐさまACが直角に曲がるかのように機動を変化させ、こちらに追従してきた。その間、アサルトライフルの銃口は全くブレることなく、オータムを捉え続けていた。常軌を逸した戦闘機動だった。

 

――ACのくせに速すぎる!瞬時加速(イグニッションブースト)でもしてやがるのか!?

 

瞬時に亜音速まで加速できるISと違い、ACはどんなに速くともせいぜい時速400km程度が限界だったはずだ。慣性制御を持たないACでは急な加速に搭乗者が耐え切れず気絶してしまうので、ISに匹敵するような動きなど、どう足掻いてもできるはずがなかった。

 

しかし現実として、目の前のACはありえない動きをしている。

オータムは驚愕しながらも冷静にISを操り、回避運動と共に蜘蛛の糸をACの持つアサルトライフルに向けて射出した。

ACがアサルトライフルを発砲するが、ISのシールドエネルギーに阻まれてダメージは無い。エネルギーの減少量も微々たるものだった。

 

――驚かせやがって、ただ速いだけかよ。豆鉄砲なんざ、ISには効かねぇ!

 

蜘蛛の糸がアサルトライフルを絡め取って無力化する。ACはいつの間にかブレードから持ち替えた右腕のハンドガンをオータムに向けていたが、たかがハンドガン、効果などあるはずもない。

オータムは口元を吊り上げながら装甲脚でACを貫こうとして……ハンドガンから放たれた緑の光に包まれ、永久に消滅した。

 

 

 

 

一夏は、その瞬間を確かに目撃した。

ハンドガンから放たれたとは思えない巨大な緑色のエネルギー弾がISの全身を貫き、一切減衰することなく、何の痕跡も残すことなく、ISを蒸発させていた。

人体もISのパーツも、何も残っていない。ISコアですら、残っていなかった。そこにはただ、動きを止めたACが膝をついて停止しているだけだった。

 

無様に地面に転がりながら、一夏はACから目を離せなかった。

ISは、ISでしか倒せない。そんなIS絶対論が、あまりにあっけなく崩されたのだ。力が欲しいと願った一夏の目の前で。旧式と呼ばれるACが。

 

病的に熱い視線をACに送り続ける一夏の前で、再起動を果たしたACがブーンと小さな駆動音を発した。沈黙していたレッドアイに光が灯る。

膝をついていた姿勢から直立する。そして、一夏が転がっている方向に頭を向けた。

 

「……一夏?」

 

失言だったのだろう。思いがけない顔を見かけて、思わず口をついて出た。そんな声色だった。

己の名を呼ぶその声に、一夏は聞き覚えがあった。間違えるはずがない。

 

「……弾?」

 

 

1年ほど前、一家揃って行方不明となり、今でも見つかっていない親友。その声だった。

 

 

 

――こうして、一夏は運命に出会ったのである。

 

 




戦闘シーンが淡白すぎますが、不意打ちしないとISに勝てないので仕方ないのです。
決して筆者の描写力が貧弱なわけではありません。そういうことにしてください。


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第02話 薄っぺらな覚悟

休日にちまちま書いているだけなので、投下速度は遅いです。


 短時間ならばISを正面から圧倒できるよう設計された決戦兵器、アーマードコア・ネクスト。対IS兵器を研究する秘密結社<Team R-TYPE>で開発された機体は、そう呼ばれていた。

 弾を通じて<Team R-TYPE>に所属することとなった一夏は、今日も訓練に明け暮れていた。

 

 

 ネクストの性能がISの性能を上回っている、ということは、決してない。むしろ、単純な性能ではネクストが劣っていると言えるだろう。

 お互いの優劣を的確に把握し、絶対に相手の土俵で戦うな。

 敵の情報を集め、有効な武装を選択し、周囲の地形を把握し、相手の心理を誘導し、利用できるものは何でも利用して、ネクストに有利な状況を作り出せ。そうして始めて、ISと互角なのだ。

 

 シミュレータの機動訓練に付き合ってくれた弾は、繰り返しそう言った。

 

「始めて見たのがあれだから、がっかりするかもしれないけどな。実際はそんなもんさ」

 

 苦笑しながら話す弾に、小さく頷く。

 最初に聞かされたときは「そんなはずがない」と反発したが、座学で必要な知識を詰め込み、シミュレータで機動訓練を繰り返した今では、全くの事実であると認識していた。

 同時に、ISがいかにデタラメな兵器であるかも良くわかった。聞けば聞くほど、既存の科学技術を一回り以上先取りしている。

 

 現在、座学で講義をしてくれている児島博士が「PICと絶対防御の2つがISをISたらしめている所以である」と断言し、いかに素晴らしい技術であるか力説していた。

 話の1割も理解できなかったが、とりあえず「ものすごい技術なのですね」と同調してみたところ、「その通りだ織斑君! 実に素晴らしい理解力だね!」とテンションを爆上げしていた。マッドサイエンティストは常に全力である。

 

 児島博士はコジマ粒子という重粒子(重粒子が一体何なのか結局よくわからなかった)を発見し、これを利用することでACをISと戦える兵器、アーマードコア・ネクストへと進化させた、とても凄い人だ。少し……かなり濃いけれど。

 

 ISの素晴らしさを熱弁していた博士が突然静かになり、どかりと椅子に座る。分からないなりにメモをとっていた俺は、驚いて博士を見た。最初からハイテンションで喋り続けていたのに急に真面目な顔をされると、戸惑ってしまう。

 

「コジマ粒子を利用してクイックブーストとプライマルアーマーを搭載したネクストを開発しましたが、搭乗者への負担が非常に大きい。女性しか動かせないということはありませんが、ナノマシン投与と外科手術で身体を強化して、さらにAMS適性がなければ、満足に動かすことができませんでした。幸か不幸か、あなたは高いAMS適性を示した。強化手術の前に、コジマ粒子の有害性は聞きましたね?」

 

「はい。シャルから詳しく聞いています。間違いなく寿命を縮める、とも」

 

 シャルは主にネクストのオペレーターを担当している同年齢の女性で、俺の座学の面倒を見てくれている。頭の悪い俺でもわかるように噛み砕いて説明してくれるので、とても助かっていた。

 顔を合わせた初日に「僕はシャルロット。ラストネームは控えさえて貰うよ。ちょっとややこしい事情があってね。みんなにはシャルって呼ばれてるから、織斑君もそう呼んでほしいな」「それじゃあ俺のことも一夏でいいぞ」と言いながら握手して、それ以来名前で呼びあっている。

 

 そんなシャルの講義で、コジマ粒子の毒性と環境汚染への懸念、人体への影響は詳しく説明されていた。それを理解したうえで、強化手術を受けたのだ。

 頷いた児島博士は、平坦な声色で続ける。

 

「あなたの覚悟を侮辱するので、謝罪はしません。ただ、ネクストの開発者として、<Team R-TYPE>初期メンバーとして、言わせてください。我々は世界中の人々から避難されるでしょう。決して理解されず、必ずや断罪されるでしょう。それでも、私達は決してあなたの覚悟と献身を忘れません」

 

 そう言って、一夏を見つめる。重苦しい雰囲気に包まれる中、一夏は、自分に出来る限りの真摯さをもって答えた。

 

「俺は、俺のできることをやるだけです」

 

 覚悟とか献身とか、そんな難しいことを考えているわけではない。理不尽な暴力に負けないだけの力が欲しいと思った。大切な家族を守る力が欲しいと思った。ただ、それだけだ。そして、博士はその手段を与えてくれた。後は、突き進むだけだ。

 

 沈黙がしばらく続いた後、博士がニカッと笑って両手を軽く2度叩く。空気が弛緩するのを感じた一夏はほっとした。

 

「それでは、コジマライフルやコジマキャノンの詳しい説明をしましょう。シャルロット君に聞いているでしょうが、それぞれの特性に関しては私のほうが詳しいですからね」

 

 来る日も来る日もトレーニングと座学とシミュレーションに明け暮れ、メンバーと真面目に連携の話をしたりくだらない冗談を飛ばしたりして交友を深める。少しづつではあるが、確実に前へ進んでいる実感があった。充実した毎日を過ごしていると言えるのではないだろうか。

 誘拐事件から半年。それだけの時間が流れていた。




話の都合上一夏視点で書きましたが、1話も一夏視点で書いたほうが面白くなることに気がつきました。
予定は未定ですが、気が向いたら改稿するかもしれません。


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