Fate/Craft Order (雪蛍)
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始まりを告げる鐘

 

ー夢を見た

 

それは幼い頃の自分の記憶。

まだ幸せだった頃の記憶だ。

そこには2人の男の子。

共に屈託のない笑顔を浮かべている。

共に目指した夢があった、必ず一緒に成し遂げようと、約束をかわした。

叶えてみせると、叶えられると、自分達は思っていた。

 

自分達の未来の可能性を信じきっていた頃の自分の、幼い頃の記憶、夢。

 

 

 

 

だが、その可能性は唐突に、理不尽に、当たり前の様に奪い去られた。

 

 

 

 

夢の場面が変わる。

どこか広くてとても神秘的な空間、大勢の人がいて、彼等の前に1人の女性が立っている。

彼女は言う。

 

ー私達は最後の希望だーと。

ー私達がしくじれば、本当に人類は滅亡するとーと

 

そんな彼女の言葉を、自分もその空間で聞いていた。

信じたくなかった、認めたくなかった。

しかし現実はどこまでも残酷だ。

彼女の言葉に嘘はない、狂言や妄想なんてもので片付けられるものではけしてなかった。

ーこれが現実だ、認めろー

 

成長し、知識を手にした自分の脳がそう告げる。

認めたくない感情と、認めてしまった理性が自分の中で交錯する。

そんな自分の内面を押し隠し、自分は前に進んできた。

知識を手にした、そして幸運なことに自分には力もあった。

 

人理継続保障機関・カルデア

聖杯探索・グランドオーダー

 

自分には、それに参加する資格があった。

危険だと言われた、関係ない。

未来を、人類の可能性を取り戻せるのなら、例えどんなに困難な障害があったとしても歩みを止めない…そう誓った。

 

諦めたくない、あの日の夢を絶対に叶えてみせる。

その想いがあれば、自分はやっていける。

 

そうして自分は、聖杯探索の第一歩を踏み出した。

この手に未来を掴む為に。

 

さぁ、行こう。

目指す場所は西暦2004年日本、とある地方都市。

ここから始まるのだ、自分のグランドオーダーが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の意識が覚醒する。

霊子転移は成功したようだ。

長くもあったようだし、短くも感じた。

男を中心に渦巻いていた魔力が霧散し、光が収まる。

時間を逆行した世界に、自身という異物が安定していくのを感じ取る。

「……」

 

男は瞳を閉じたまま1度、大きく息を吸い込んだ。

緊張はある、今にも体が震えだしそうな程に。

決意はした、諦めるつもりなど欠片もない…だが。

 

(本当に俺に、できるのか?)

 

脳裏を掠める不安。

それは確かに自分の中にあって、意識してしまえば加速度的に大きくなってしまいそうになる。

飲み込まれてしまえば、もう立ち上がれない…そんな予感がある。

 

「っ……」

 

その考えを振り払う様に彼は頭を振る。

(やめろ! こんなこと考えるなっ! できる、いややるんだ、それに…)

と、彼は大切なことを思い出す。

 

(俺は1人じゃない)

 

そう、聖杯探索に挑むのは彼1人ではない。

彼の他にも優秀な魔術師が沢山いるのだ。

彼等も自分と同じこの地に来ている筈だ。

 

心強い限りではないか。

指先まで凍てつく様な冷たさが消える。

 

仲間達とともに原因を究明する、自分はけして孤独ではない。

そう考えたら少しだけ、心が軽くなった気がして、彼は表情を緩めた。

不安が消えたわけではない。

恐怖もある。

 

「でも…」

 

彼はゆっくりと瞼を開く。

 

「絶対に…負けないっ!」

 

その瞳に揺るぎない決意の火を灯して。

例えこの瞳にどんな惨状が映ろうとも、決して目を逸らさない。

握る手に力が篭る。

「未来を、俺達の未来を切り開く為にっ!」

 

そんな、覚悟とか決意とか幼い頃の約束とか叶えたい未来とか厳しい鍛錬や辛い勉強とか不安とか恐怖とか、そんな色んな想いとともに叫んで気合を入れた彼の、挑むべき世界を見据えた最初の一言。

 

 

 

 

 

 

「なぁにぃ…これぇ?」

 

 

世界はなんだか、とってもカクカクしていた。



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もうちょっとプロローグ

ー地方都市ー

正式な定義はない言葉。広義には首都以外と都市のこと。狭義には首都圏、中京、京阪神以外に存在する都市のこと。

 

「……」

 

目の前に広がる光景を見る。

草原、だと彼の脳は判断する。

 

「都市って、なんだっけ?」

 

虚ろな瞳で彼は呟く。

もう決意とか覚悟とかは、ない。

 

少なくとも、建造物一つなく地平の彼方まで続く緑の平原を、そうは呼ばない筈だったと、彼は思う。

 

「いやそれよりも…」

と彼は手にしているモノに目を向ける。

ソレは四角だった。

だいたい1メートル四方の立方体。

手に伝わる感触からソレはおそらく、多分、もしかしたら、土なのだろう。

 

何故彼がこんなモノを持っているのか、話は1時間程前に遡る。

彼はレイシフト完了後、暫く呆然とその場に立ち尽くしていた。

だって仕方ないだろう。

混沌とした惨状の地方都市を想像して目を開けたら、世界がカクカクしてたのだから。

彼が暫く動けなかったのは、誰れにも責められまい。

それでも持ち前の根性とかでなんとか意識を再起動して、彼は恐る恐る地方都市(仮)を歩いてみた。

視界いっぱいに広がるカクカク。

やがて彼はある事に気づく。

 

ーこのカクカク、長さがなんか一定だ!ー

 

そう、あっちのカクカクも、こっちのカクカクも、遠くの方のカクカクもなんか一定なのである。

何故か泣きたくなった。

 

しかも、目を凝らすと世界に線が入った。ナンダコレ。

世界の全てが1メートル四方の立方体で区切られてしまったのだ。

脳と精神が壊れていく音を彼は初めて聞いた。

しかし彼はめげなかった。

崩壊しそうになる精神を、

 

ーこれは新手の魔術、精神汚染系のそんなかんじの魔術だー

 

という謎理論で無理やり繋ぎ止め、彼はその場にしゃがみこみ、線で区切られた地面を確かめるように撫でたり叩いたりしてみた。

するとそのうち、ポコンっと子気味のいい音を立てて地面の一部が飛び出した、勿論立方体で。

無言で彼はそれを持ち上げた。

見た目程重くはない、でもかなり頑丈だ。

土なのに、力をいくら込めてみても崩れない。

すこぶる恐ろしい魔術師だなと、思いました。

ここでまた一旦彼の思考は停止する。

 

「……」

回想終了。

無言のまま、彼は今度はその立方体がこれまたおそらく元あったであろう場所へと視線を移す。

 

抉れている。

真っ平らな草原の一部分だけ。

だいたい1メートル四方の立方体が入りそうな感じで。

 

「ええぇ…」

 

切ない声が静かな世界に響く。

立方体の土をポイっと捨てて、彼はその場に蹲ってしまう。

 

「冬木は、どっちですか……」

 

悲しくなるほど弱々しい声に応えてくれる者は、いない。

 

 

 

 

 

 

 

「っ…そうだ! 召喚っ」

 

暫くリアルにorzだった彼は、唐突に立ち上がった。

大切な事を思い出した。

世界のカクカク感に完全に飲まれて、レイシフト後最初にやらなければならない事を彼は忘れていた。

 

「サーヴァントがいれば、何か分かるかもしれないっ」

 

あわよくばなんとかしてくれるかもいやしてくださいと祈りながら、急ぎ聖昌石をいくつか取り出した。

 

サーヴァント

 

カルデアが保有する《英霊召喚システム・フェイト》によって過去、現在、未来全ての時間軸から呼び出される英雄の魂。

 

そんな偉大な存在を現世に呼び出すトリガーとなるのが、彼の手にある石、聖昌石。

けして安くはない貴重な石を、彼は躊躇うことなく地面に放る。

 

「頼むっ…きてくれっ」

 

祈るように両手を組み、地面に落ちた石を見つめる。

その祈りが通じたのか、やがて聖昌石が輝きはじめ、その輝きに呼応するかの如く、石を中心に光の線が走り出し複雑でしかし美麗な陣を描く。

真っ平らでカクカクな地面に。

 

「やった!…カルデアとは繋がってるんだ。 いけるっ」

 

彼は歓喜の声を上げ、英霊の召喚を待つ。

陣から溢れる光は輝きを増し、最後に弾ける様に周囲に散る。

訪れる静寂、陣の中央、聖昌石があった場所には石の代わりに1人の英霊がいた。

 

「……」

 

とてもカクカクした世界とは思えない程に厳かな空気の中、その英霊はゆっくりと口を開いた。

 

「サーヴァント・アーチャー、召喚の呼び声に応じ参上した…君が俺のマスターか?」

 

サーヴァントはその声と同じ様にゆっくりと瞼を開け、マスターとなるであろう彼をその瞳に移す。

 

「ああ、俺がマスターで間違いない。 令呪もここに…」

 

先程までの弱々しく情けない感じを捨て、戦いに挑む戦士の如き鋭い瞳で彼はサーヴァントの視線を受け止める。

手の甲に現れた令呪を確認し、頷くサーヴァント。

ここに主従の契約は交わされた。

2人もう運命共同体。

『汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に』

という感じで。

 

契約の繋がりを確かに感じた彼は1歩、アーチャーへと歩み寄る。

 

「アーチャー…俺がお前に聞きたいことは1つだけだ…」

 

「…何かね?」

 

マスターの尋常ならざる雰囲気に、アーチャーも真剣な表情で聞き返す。

恐らく、この問いにはこれからともに戦う上で、必要なことなのだろうと、アーチャーは考えた。

 

「……」

 

流れる沈黙。

マスターたる彼は、最早最後の希望である己がサーヴァントに万感の想いを乗せて問いかける。

 

「冬木は…冬木市は、どっちですか?」

 

「……………………え?」

 

返ってきたのは、赤い外套の偉丈夫の、間抜けな顔と声だった。

 



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まぁだプロローグ

 

「……」

 

沈黙は続く。

切実に、そして縋る様な瞳のマスターと、事態がまるで飲み込めていないサーヴァント。

酷い絵面である。

おまけにサーヴァントの方はとても間抜けな顔まで晒してしまっている。

 

「…質問の意味が、分からないマスター。 それは、どいう意味かね?」

 

間抜けな声を出してしまったことに若干照れつつ、アーチャーはその場の空気の仕切り直しを図る。

持ち前の鋼の精神で動揺を押し隠し、もう板についてしまった皮肉屋で斜に構えた仮面をつける。

 

「…そう、だな。 いきなりこんな質問、おかしいよな。 ごめんアーチャー」

 

気持ちが逸りすぎていたのを自覚したのか、マスターである彼はバツが悪そうに頭を掻きながら溜息をついた。

どうやら、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

「いや、構わない。 それだけマスターの状況が切羽詰まっていたのだろう? そこでそのまま暴走するのは悪手だが、こうして気づいて冷静になれるだけ、まだマシだろう」

 

マスターに言い聞かせるように語りかけながら、アーチャーは内心で安堵していた。

よかった、どうやら頭のおかしい人間ではないらしい。

空気も変わったところで、アーチャーは照れながら頭を掻いて笑う男を観察する。

 

見た目から判断して10代後半くらいか。

髪は黒く、男にしては少し長めのストレート。

背丈は大体170cmくらいで、少し痩せ気味。

顔は、よくは分からないがカッコイイというよりは、どちらかというと可愛らしい、という印象を受ける。

まぁ…

 

(若干、目に生気がないのが気になるが…先程の冬木、とやらが原因か?)

 

と、そこまで考えてアーチャーは違和感を覚えた。

思考にノイズが混じり、視界が一瞬砂嵐のように遮られた。

 

「っ…」

幸い症状はすぐに回復したが、これは一体何なのだろうか。

 

(冬木、という言葉が元凶か? いやしかし…)

 

考えが纏まらない。

何か、遠い記憶、もう思い出すことさえできない程に擦り切れ磨耗したその中に、そんな名前があったように感じる。

 

(いや、やめよう…今考えたところで何がどうなるということもあるまい…)

 

そう判断して、アーチャーは頭を振る。

そう、今考えるべきは役に立たない記憶などではなく、これから始まる戦いについてだ。

考えるべきことなどいくらでもある。

先ずは差し当たってマスターの魔術師としての属性でも確認でもするべきか。

「マスター、まず確認したいのだが…」

 

「いやアーチャー、それよりも重大な事があるんだ」

 

「むっ…」

 

色々とお互いのことを確認しようと口を開いたアーチャーを、マスターである彼が手を上げ制する。

先程の柔らかい笑顔は既になく、その表情は真剣そのもの。

出端を挫かれたことに小さな不満を覚えるが、口答えする程子供でもない。

アーチャーはやれやれと肩をすくめ腕を組み、小さく首を傾げることでマスターに先を促した。

 

「アーチャーの考えてることも分かる。 お互いに、色々と確認しないといけないよな。何せ俺達は、互いの名前すらまだ交わしていない…」

 

若干死にかけている目をゆっくりと閉じて、マスターである彼はそれでも…と話を続ける。

 

「それより先に、君に見てもらいたいものがあるんだ…」

 

「見てもらいたいもの?」

 

訝しげに聞き返すアーチャー。

見た目は割と普通の青年なのに、さっきから所々何かおかしなことを口にするマスターにそろそろちょっとずつ不信感が募ってゆく。

「マスター。 それは今でなければならないことなのか? 君も今言ったばかりだろう。 これから始まる戦争は、いや今回だけに限らないが戦いに置いて情報とは非常に重要なものだ。 敵より先に有用な情報を得て、更にそれを味方内で極力齟齬をなくし共有する。 それもなるだけ迅速にだ。 ならばこそ今するべきことは…分かるだろう?」

 

正論。

アーチャーの言ってることは確かに正しい。

出会ったばかりで碌に互いのことを知らない2人。

そんな状況で敵と相対しなければならないのが聖杯戦争だ。

ならば短い時間をできるだけ有効に使い、少しでも互いのことを確認する。

そんなことは分かっている、と彼は耳を痛くしながらもアーチャーの言葉に首を縦に振らなかった。

ここに至るまで、自分だって色々と教わってきたし自分でも思考を止めずに様々な準備をしてきた。

そしてアーチャーが言ってることが至極当然なことだということもこの頭は充分に理解している。

だが、だがそれでも…

 

「俺を信じて、先ずはコレを見てくれないか、アーチャー…それだけで、俺達の間にある今1番大きな齟齬が、解消される筈だから…」

 

そう言って彼は、半ば無理やりに己がサーヴァントに手渡した。

 

 

例の立方体を。

 

 

押し付けられたソレを、まだ言いたいことはあったが律儀に受け取るアーチャー。

仕方がないとばかりに大きく息を吐き、コレを見るだけでマスターが納得するなるばと自分の手にあるソレへと、視線を下ろした。

下ろしてしまった。

 

「は……?」

 

またも出てしまった間抜けな声。

しかしそんなことはどうでもいい、ナンダ…コレハ…

 

「土、なのか…」

 

掠れる声で呟くアーチャー。

恐らくその手触りから推測したのだろう、確認を取る為にマスターへと視線を向ける。

 

「……」

 

マスターは何も言わない。

しかし彼の指先が左から右に、上から下に、そして最後にぐるり1周する。

 

 

周りを見てごらん、アーチャー…

 

 

彼の目がそう言ってる、気がした。

アーチャーは立方体の恐らくは土を手にしたまま、ゆっくりと辺りを見渡してみることにした。

 

辺りを確認するようにゆっくりとその場で体を動かすアーチャーを、彼は罪悪感の篭った瞳で見ていた。

その瞳が語っている。

 

ごめん…

巻き込んじゃって、ごめん…と。

 

辺りを確認し終えて再びマスターへと視線を戻すアーチャー。

鷹のように鋭かった眼光は、もうなかった。

 

「なあにぃ…これぇ…」

カクカクな世界を目の当たりにした英霊の思考も、止まった。

 

「だよね…」

 

青年は小さく呟く。

固まってしまった英霊を無理やり再起動しようとは、思わなかった。

だって、分かるもんその気持ち。

色々と折れるよね。

気が抜けるよね。

なんか…ごめんね。

色んな感情を混ぜこぜにして、彼は動かないサーヴァントへと優しい笑みを浮かべる。

アーチャーの言っていることは確かに正しい。

聖杯戦争や自分が着手する筈だった任務なら、こんな無駄な時間を過ごすなんて選択肢は自分だって取りたくはなかった。

でも、と彼はあまりにも平和でのどかすぎるカクカク世界を眺める。

 

「聖杯…あるの?」

 

勿論あって欲しい、てかないと困るんです。

だがこの世界と聖杯、あまりにもジャンルが違いすぎる気がしてならない。

むしろこんなカクカクした世界に本当に聖杯があったら、笑ってしまうかもしれない。

自分のサーヴァントはまだ処理落ちしままだ。

彼は、誇り高い英霊が再び己の力で動きだすのを、優しく見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェー」

 

「なんか人懐っこいな、この…羊? いや羊だよね鳴き声的に、見た目もぽいし。 でもなんでだろう…絶対の自信を持ってコレを羊だと断定できる勇気が、ない…」

 

自分のサーヴァントに強制停止のバッドステータスを与えてしまってから、少しばかり時間が流れた。

まだアーチャーの硬直は溶けていない。

きっと頭の中で色々とカタルシスとか混乱とかが大騒ぎしているのだろう。

そんなことを考えつつ、彼はいつの間にかそばに寄ってきていた羊のような生き物を撫でる。

フカフカしてて気持ちいい。

平和だなぁ…と、あいも変わらずカクカクの世界を眺める。

 

「他の魔術師達も、ここに来てるのかな…」

 

パッと見た感じ、自分達以外に人気は全くない。

もしも誰かいるのなら、合流したい、すぐにでも。

しかし此処に立ち止まりアーチャーを召喚してから大分時間が経つが、向こうから誰かが来るということは終ぞなかった。

もしかしたらこの世界はとんでもなく広いのかもしれない。

それならばいつかは誰かと出会えるかも……

 

「いやそんなの駄目だ。 待ってるだけなんて耐えられない。 早くここから脱出して、少しでも早く冬木に行かないと…」

 

人類史が終わってしまう。

未来が、失われてしまうのだ。

しかしかといってどうすれば…

 

「はぁっ…」

 

何度目かなどとうに数えることこを放棄した溜息。

結局、今自分にできることなどないに等しいのが現状なのだ。

「絶望的すぎるよ…」

 

その場に座り込み、特に意味もなくなく側の地面の1マスをコンコンと軽く叩いてみる。

 

ポコンッ

 

やはり飛び出る立方体。

意味が分からない。

そもそも地面の癖に数回コンコンと叩かれたくらいで飛び出してくるなよ、腹立つな。

イライラしつつ、今の行動で抉れた部分を睨んでいると、不意に背後に気配を感じた。

 

「あ、アーチャー…再起動したんだ」

座ったまま首だけを後ろに向けると、想像通りそこにいたのはアーチャーだった。

「…ああ。 時間を取らせて悪かったマスター。 その、なんだ…私の常識がブロークンファンタズムしてしまってな…もう大丈夫だ」

 

憔悴を隠しきれていないあたり、かなりのダメージを受けたことが伺える。

マスターである彼はよいしょっと立ち上がるとアーチャーと向き合った。

 

「俺の言いたかったこと、伝わった?」

 

これだけの衝撃を受けたのなら、改めて言葉にする必要もないだろう。

アーチャーはすぐに頷いた。

 

「ああ、確かに君の言う通りだった。 戦略なんかよりよっぽど先に確認するべきことだった。 まぁ、できれば知りたくはなかったがね…」

 

心底参りましたといわんばかりの様子のアーチャー。

うん、そこには全面的に同意したい。

さぁ聖杯探すぞ! と息巻いて、いざ蓋を開けてみればそこに広がるのは平和な世界ーでもカクカクしてるけどー

こんな状況に陥れば、例え英雄でもフリーズの1つくらいしてしまうだろう。

 

「さて、アーチャー」

 

「ん?」

 

しかし落ち込んでばかりはいられない。

そろそろ流れを変えなければ。

「俺の名前はユウ。 で、英雄さん、君の名前は?」

 

彼、ユウのいきなりの名乗りに一瞬遅れ、アーチャーも自身の名を返した。

 

「私は英雄なんて大それた者ではないんだがね…エミヤ。 それが私の名だ」

 

「ん、よろしね、エミヤ」

少し捻くれたアーチャーの自己紹介に、ユウは満足そうに頷いた。

 

「じゃあアーチャー。 まずは俺の話を聞いてくれ。 俺の目的、君を呼んだ理由、その他諸々をね」

 

「そうだな。今回の召喚はかなり…いや、イレギュラーではない部分を探す方が難しい。 聞けることは全部聞いておくべきだな」

 

ユウの言葉にうなずくはアーチャー。

2人の真面目な話し合いが始まった。

カクカクした草原の上で。



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プロローグ…終わり! 小説のタイトルはここで変えますた。

 

 

 

「なるほど…」

 

ユウの話を全て聞き終え、アーチャーは腕を組んで唸った。

「カルデア…人類史の終焉…グランドオーダー…」

 

彼の話の中に出てきた重要な単語を繰り返すように呟きながら、アーチャーは思考を纏める為か目を閉じた。

 

「うん。 これが、俺が君を召喚した理由だよ。 だから一刻も早く…」

 

「冬木へ、か?」

 

ユウの言葉をアーチャーが遮る。

うん、と力強くユウが頷く。

 

「召喚されたサーヴァントには聖杯からすぐにでも状況を把握し戦闘を可能とする為に、様々な知識が与えられる…そう聞いた。 もしその通りならアーチャー、此処が何処なのか、そもそも2004年なのかそして、俺は冬木へ行けるのか…君は俺に答えを与えてくれる?」

 

真剣な表情でアーチャーの答えを待つユウ。

正直な話、ユウは自分のこの推測に大きく期待している。

何故ならこの推測が彼にとって最後の希望に等しいからだ。

この当てが外れたら、ユウにはもう現状を打破する術はない。

「問題ないマスター。 君の推測は当たっている。 私達サーヴァントは召喚された際に聖杯から知識が与えられる」

 

「っ! じゃあ…」

 

ユウの縋る推測が正しいことをアーチャーが認めた。

それを聞き、ユウの表情が瞬く間に明るくなる。

自分の予想は正しかった。

ならばこのKKW(カクカクワールド)から脱出して冬木へと行くことが可能だと証明されたのだ。

 

(始まる! 始められるんだ俺のグランドオーダーが!)

 

自分でも気付かぬうちにガッツポーズまでしている様子を、アーチャーは微笑ましく眺めている。

「やった! これでKKWから脱出できる! ああアーチャー、君を召喚できてよかった! ほんっっとうにありがとう!!」

 

全身で喜びを表現し、小躍りまで始めるユウ。

終いにはアーチャーの手まで取り、ブンブンブンブンと大きく振りまくった。

「お、おいマスター…嬉しいのは十分に分かった。 だから私まで巻き込むのはやめてくれないか!」

 

「あははははー♪」

 

「マスター!」

 

マスター相手に強行な手段を取る訳にもいかず、結局アーチャーはユウが満足して落ち着くまで、2人仲良く腕をブンブン振り続けるのだった。

 

 

 

 

 

「さて、と…じゃあアーチャー、早速で悪いけど冬木へはどうやって?」

 

一頻りはしゃぎ終えたユウは笑顔で自分のサーヴァントへと目的地までの至り方を訪ねる。

一体どんな方法で行くのだろうか。

まさか歩いていくなんてことはないだう?

転移か、はたまたアーチャーの宝具か…何れにせよさっさとこんな場所とはおさらばしたい…切実にそう思うユウ。

 

「ああ、ここから冬木へは…っ!?」

「あ、アーチャー!?」

説明を始めようと口を開いたアーチャーが唐突にその場に膝をつく。

頭を抱え苦しそうに呻き声を上げている。

突然のことに面食らうがユウもすぐ側に駆け寄った。

「ど、どうしたのアーチャー!? 大丈夫!?」

 

駆け寄ったはいいが何をどうしたらいいのか分からずユウは混乱してアーチャーの側であばばばばばと騒ぐことしかできない。

 

「くっ…理由は、分からないが…冬木の場所について、考えようとすると頭に、酷い痛みが…」

 

「そ、そんな…なんでこんなことが…」

 

「あと少しで、分かりそうなのだが…駄目だっ…これ以上はっ…」

 

原因不明の頭に走る激痛に耐えながら、それでもアーチャーはなんとか聖杯からの知識を引き出そうとしているようだ。

だが知識へ近づけば近づく程痛みは加速度的に激しくなるようで、とうとうアーチャーはその場に倒れこんでしまった。

 

「アーチャー! もう、もういいからっ!」

 

地に伏してなお、聖杯からの知識へ意識をアクセスしようとしているアーチャーを見ていられずにユウは彼を止めようとする。

 

「いやっ…まだ手はあるっ…君の、令呪を使うんだ!」

 

しかしアーチャーは止まるどころか更に強行な手段をマスターに提案する。

 

令呪

 

自身のサーヴァントへ行使することができる3回きりの絶対命令権。

なんか1日1画回復するとかそーゆーのもあるらしいが…

とりあえずマスターの参加資格としての意味を持つ3画からなるカッコイイデザインを指して、令呪と言う。

アーチャーはその令呪を使い、その強制力を利用して無理矢理聖杯の知識へとアクセスすることをユウに提言している。

己の身を省みずに。

「そんなことっ、できないよ!」

 

勿論即座にユウは否定する。

既に死に体に等しい程弱っているのだ、仮にもサーヴァントが。

その苦痛はどれほどなのか想像もできない。

そんな彼に倍プッシュで苦痛をドンっ♪…なんて悪魔の所業、できるわけがなかった。

 

「私のことは気に…するなっ…ユウ、君はこんな所で立ち止まってるわけにはいかないんだろう?…人類の未来を守るのがっ…君の役目だろう?…」

 

「で、でもっ…」

 

アーチャーのあまりの剣幕に気圧され、ユウは後ずさる。

その通りだ、自分には成し遂げたい目的がある。

その為にできることは何でもやる…そう誓った。

(でも、そんな酷いこと…)

 

ユウの目の前でアーチャーは今も苦しんでいる。

聖杯の知識へのアクセスをやめればすぐにでもその苦痛から解放される筈なのに。

何故、アーチャーはこんなにも一生懸命に…

 

(はっ!…そうか、アーチャーも人類の歴史が終わってしまうことを避ける為にっ!)

 

唐突にユウは理解した。

そうだ、アーチャーは英霊。

その身一つで偉業を達成した英雄なのだ。

きっと生前の彼は、人を心底愛していた筈。

何度も、何度も、数え切れない程大勢の人を守ってきたのだろう。

例えどれだけ自分が傷ついたとしても、その歩みを止めなかったその果てが今の彼なのだ。

そんは人間愛に溢れている彼が、人類の未来終了確定のお知らせを聞いて、アッハイソウデスカワカリマシタ…なんてそんな簡単に納得するだろうか…いや、する筈がない。

きっとアーチャーなら、どんな困難な道であってもその足を止めることなんてしない。

ある筈がない。

 

(これが…英雄!…なんて、気高い覚悟っ!!)

アーチャーの覚悟(ユウの勝手な妄想)とそれを実践してみせる熱い根性に後押しされ、ユウも再び覚悟を決める。

(アーチャーに比べれば劣るかもしれない。 それでもっ…俺だって人類の歴史を繋げたい想いはあるっ!)

 

ユウは熱く高鳴る鼓動に突き動かされ、手の甲をアーチャーに見える様に掲げる。

 

「マス、ター?」

 

「ごめんアーチャー。 俺、覚悟が足りなかった。 その所為で危うく君の想いまで踏みにじるところだった。 でももう迷わないっ! 君の隣に立つに相応しいマスターになれるよう、頑張るからっ!」

 

ユウの想いに呼応する様に手の甲に刻まれた令呪が紅く光を放つ。

 

「令呪に告げる! アーチャーよ、その痛みを超えて聖杯の知識を己が物とせよ!」

瞬間、ユウの令呪の1画が消えその代償に赤い輝きがユウの言霊に確かな力を与える。

 

「ふっ、了解したマスター。 そのオーダー…確実に遂行してみせる!」

 

今の今まで苦しみに倒れ伏していたアーチャーが嘘のように容易く立ち上がった。

ユウの願いは、言葉は、確かにアーチャーへと伝わったのだ。

 

「とぅっ!」

 

「へっ?」

 

だが次の瞬間、何を思ったかアーチャーが突然高く跳躍する。

 

「ふっ………はっ!」

 

「………」

 

そしてアーチャーは何度かグルグルと空中で回転して、最後にバッとポーズを決めた。

とてもカッコイイやつだ。

ユウは令呪を使った事を後悔した。

しかしアーチャーはもう止まらない。

だってれーじゅ使ったもん、強制です。

そしてカッコイイポーズを保ったままアーチャーは地面に着地する。

 

「飛んだ意味は!?」

 

「いくぞ!」

 

「聞いてよっ!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ………あぁぁぁぁぁぁいあむぅざっ…ぼぉぉぉんおぶまいっっっっっそぉぉぉどぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

混乱するマスターを華麗に置き去りにして、アーチャーが雄叫びを上げる。

鼓膜を破ってしまいそうなアーチャーの叫びに、大気は震え彼を取り巻く魔力は目視できる風となって吹き荒れる。

凄い、凄い迫力だ、ただの人間ではこうはならない。

そして意味も分からない、先ずそのポーズやめろ。

「え何!? 今の何!? そのカッコイイポーズ何!? てか今何て言ったの!? 呪文か何かですかー!? 」

 

謎の呪文とポーズにユウが吹き荒れる風に飛ばされてしまわぬように耐えながら全力でツッコム。

何か果てしなく使い所を間違えているような錯覚にとらわれてしまう。

いいのかアーチャー…それ、ここで使ってしまっていいのかと問わなければならない衝動に、魔力と暴風がおさまるまでユウは襲われ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてその時はやってきた。

アーチャーから発せられていた荒れ狂う魔力とそれを媒介に発生していた暴風がゆっくりと鎮まっていく。

 

「……終わったぞ、マスター」

 

ポーズを決めたまま、実に満足そうにアーチャーが成功を告げる。

 

「ああ、うん…そう…」

 

結局耐えきれずに尻餅をついたユウ は、立ち上がることすらせず気まずげに視線を逸らす。

なんて声をかければいいのか分からない。

とても、その…気まずい。

 

「なんて顔をしているんだマスター。 成功したんだぞ?」

 

不思議そうに首を傾げるアーチャー。

やっとカッコイイポーズを止めてくれた。

さっきまでの苦しそうな様子はなくなっていて当然のようにその場に立っている。

 

「あ…そうだった…って成功!? ということは…」

 

ユウは今のことを記憶の奥底に押し込めて蓋を何重にも重ねてなかったことにして、その上で真面目顔を頑張って作ってアーチャーに確認する。

 

「ああ、大丈夫だ。 先程までは聖杯の知識を引き出そうとすると激しい痛みに襲われていたが、1度辿り着いた今知識は完全に私のものとなった。 もう痛みは全くない。 問題なく知識を引き出せる」

 

大切な令呪を1画使ったかいがあったようだ。

 

「そっか…ありがとうアーチャー。 君のおかげで俺は前に進める」

 

「なに、マスターの命令だ。 楽にこなして見せてこそのサーヴァントだ」

 

相変わらず捻くれた物言いだ。

だがそんな彼が頼もしい。

それにと、ユウはアーチャーを見る。

どんなに苦しくても歩き続けるその姿はユウの中に確かに刻まれた。

いつかは自分も彼のような男になりたい、強くそう思ったーでもさっきのポーズだけはやだー

 

「じゃあアーチャー、もう一つ命令。 俺の行くべき戦場…2004年の冬木の地へ俺を導いてくれ!」

 

こんなに素晴らしいサーヴァントが自分の相棒としてともに戦ってくれる。

それが凄く誇らしい。

「了解だマスター…」

 

フッと笑い、アーチャーは目を閉じる。

聖杯の知識を引き出しているのだろう。

「……」

 

ユウは静かにアーチャーを待つ。

あの試練を超えてユウのアーチャーへの信頼は早くもmaxを振り切っている。

彼に任せれば大丈夫、でもいずれは頼るだけでなく自分も彼の役に立ちたい。

本当の意味で彼の相棒になりたい。

いやなってみせる。

 

(その為にも、先ずは冬木の聖杯を早く確保しないと!)

 

意気込み気持ちだけは既に冬木へと行ってしまったユウに応えるように、ついにアーチャーが目を開いた。

 

「も…」

 

「も?」

 

何度目になるか分からないが…さぁ俺の、俺達のグランドオーダーを始め…

 

「木材ブロックを縦に3つ並べるとドアが作れるぞマスター。 ちなみに使用する木材の種類を変えれば出来上がるドアのデザインも変わる」

 

「……………………………………………………………………」

 

「どうしたマスター? 聞き逃したのか?」

 

「え…アーチャー…え? もく、ざい? 縦? 3つ? え? あの…」

 

「?…ああすまない大事なことを忘れていた。 先ずは作業台からだったな…私としたことがついうっかりしてしまった。 これでは彼女のことを笑えないな」

 

彼女って誰だ

 

「あ、あの…冬…」

 

「さぁマスター、先ずは原木を手に入れなくてはな。原木ブロック1つから木材ブロック4つが精製できるのだ 」

「そっちの木じゃなくて、俺が言ってるのは冬木…」

 

「任せておけ。 設計図はちゃんとここにある。 何の問題もない。 作業台があれば世界が広がるぞマスター」

 

得意げに指で頭をコンコンと叩くアーチャー。

そんな世界広げんな。

何の問題もない? いいえ問題だらけです。 問題しかありません。この身は問題でできていた。

 

アーチャーが壊れちゃった。

サーヴァントに令呪で無理させたら頭の回線がショートした件。

ユウは強烈な眩暈で意識が飛びそうになる。

しかしこれだけは言っておかないと。

「も…」

 

「も? 木材かマスター。 それならばこれからいくらでも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「∩(´・ω・`)つ―*'``*:.。. .。.:*・゜゚・* もうどうにでもな~れ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fate/craft order 10月11日配信開始

 

 

 

 

 




初めまして。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

正式版が配信開始になりました。
シリアスな感じはもうないかもしれません。
ガチャで確立アップ時にもしかしたら星2シリアルくらいなら排出されるかも。

駄作で意味不明な部分が大半を占める今作品ですが、少しでもお暇を潰す一助となれば幸いです。


これからも宜しくお願いします。


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そろそろいろいろ作るよ!

 

 

 

 

 

「陽が…暮れていくねアーチャー…」

 

「ああ…」

 

体育座りの男が2人、沈み始めた太陽を空虚な瞳で見つめている。

彼らの周りには、原木や木材、石など多様なブロックが散乱している。

 

「アーチャー…大丈夫?」

「ああ…すまないなマスター。 もう大丈夫だ…だが…私は大切な何かを、失ってしまった気がする…」

 

顔を伏せ縮こまってしまうアーチャー。

「………君は、何も悪くないよ。 悪いのは……そう、聖杯だよ。 あんな知識を寄越すから君は……」

 

「……」

 

ユウは言葉を途中で切った。

やめておこう、今何を言ってもアーチャーの心の傷を癒すことなんてきっとできない。

例え正気ではなかったとしても、アーチャーのあんな姿…見たくはなかったし、彼も自分に見られたくはなかっただろう。

 

「……」

 

ユウはアーチャーから視線を逸らし、寂しげに地面に立っているドアを見る。

ドアだ。

ドアだけが、地面に立っている。

アーチャーが自慢げに立てた奴だ。

そしてドアを設置したアーチャーは何が楽しいのかそのドアをガチャガチャと開けては閉め、開けては閉めを延々繰り返して笑っていた。

正気の沙汰ではない。

 

そう、アーチャーはあの時正気を失っていた。

聖杯の知識を自分の物にする為の危険な賭け。

それに自分達は確かに打ち勝った。

しかしその勝利がまさかあの悲劇の引鉄になるなんて、思いもしなかった。

 

ーハハハ、マスター見ろ! こんなに沢山の原木ブロックが手に入ったぞ!ー

 

冬木への至り方を聞いた筈が、突然ドアの作り方を説明しだしたアーチャーは、理解が追いつかないマスターを置き去りにして何処かへと走り去った。

そして数十分後、両手に沢山の立方体を抱え彼は満面の笑顔でユウの元へと帰ってきた。

この時既にアーチャーの意識は流れ込む聖杯の知識に乗っ取られていたのだ。

 

ーさぁマスター。 先ずはこの原木をこうして…そらっ、これが木材ブロックだ!ー

 

そして身体を乗っ取られた暴走アーチャーの初心者クラフト講座(悪夢)が始まる。

混乱して何の反応も返せないユウに構わず、アーチャーは持って帰ってきた原木ブロックから木材ブロックを精製して求めてもいないのにあれこれ作り出した。

ーこれが作業台だ! 中々に立派な出来栄えじゃないか。 夢が広がるなマスター!ー

 

明らかにテンションのおかしいアーチャーの説明によると、どうやらこの作業台とやら(ユウにはただの四角い木の箱にしか見えない)があれば何でも作れるらしい。

ユウの中の『物を作る』という概念が木っ端微塵に砕け散った。

 

3×3のマスに決められたブロックをはめる

 

あれ?

物を作るってこんな簡単なお仕事だったっけ?

ーさぁお待ちかねのドアを作るぞマスター! 木材をこことこことここにはめて……出来たぞマスター!シラカバ製のドアだ! やったなマスター!ー

無限の?マークを頭に咲かせるユウの肩をバシバシと嬉しそうに叩きながらアーチャーは嗤う。

よく見るとアーチャーの目はグルグルしていた。

 

ーここなんてどうだろう……おお! 素晴らしいじゃないかシラカバドア! 見てくれマスターこのドア、開くぞっ!ー

 

至極真剣に作ったばかりのドアを置く場所を吟味し、時間をかけて選んだ場所(ただの地面)にドアをそっと置くアーチャー。

少し離れてドアを眺めると、満足そうに頷いた。

そしてテンションゲージが振り切れたのかドアの開閉を繰り返し心底楽しそうに彼は……笑った。

 

ーハハハ! ドアを開けて閉めるのがこんなにも楽しいことだとは知らなかった! マスターもどうだ? こっちに来てともにシラカバのドアを開け閉めしようではないか! あはははははははは…ははは…はは…は……ー

 

高らかに笑っていたアーチャーの声が段々と尻すぼみになっていく。

そしてとうとう笑うことをやめ、暫く静かになったと思ったら唐突にその場から少し離れて、彼は無言のまま体育座りで塞ぎ込んでしまった。

プルプル震える肩がとても切なげでした。

英霊のプライドとか威厳とか、色々ロストしてしまったようだ。

ユウはそっと彼の隣に座り、優しく肩を叩いた。

そして景色が赤く染まるまで、2人はただただそこに座り続けた。

 

 

ぐぅぅぅ………

 

ユウのお腹が大きな音を立てる。

そういえばかなり長い間、何も食べてなかった。

どんなに緊急な事態であっても人間である以上、空腹からは逃れられない。

 

「お腹、減ったな…」

 

お腹をさすりながらユウが小さく呟く。

その呟きを耳にしたアーチャーがピクッと反応を示す。

「空腹、か…私はともかくマスターにとっては深刻な問題だな。 ここからの脱出方法が分からない以上安定した食料の供給は早めになんとかしなければならないか…」

 

伏せていた顔を上げたアーチャーは聖杯?に乗っ取られる前の頼りになる感じに戻っていた。

なかったことにした、とも言えるかもしれないが。

「そうだね。 戻ることも大切だけど、その前に空腹で倒れちゃうなんて嫌だし…」

ユウの言葉に頷きながらアーチャーは1度大きく息を吐いて、ゆっくりと立ち上がり周囲を見渡す。

「とりあえず、 この辺りを探索してみよう。 こんなカクカクした世界でも何か食べられる物くらい存在しているだろう」

 

「うん、暗くなってからじゃ面倒だからね。 幸いアーチャーの知識で色々と作ることはできるんだ。 ブロックとかも集めようか」

 

「うっ!?…そう、だな…」

 

ユウの無自覚な言葉に一瞬消したい記憶が蘇るが、なんとか押し殺してアーチャーはそれに同意する。

確かにあれは酷い悪夢だったがこの世界に暫く止まる上では、非常に認めたくはないが………有用ではある。

 

認めたくはないが…

 

絶対に認めたくは…

 

「ほら、いつまでも唸ってないで行くよアーチャー。 早くしないと夜になっちゃうよ」

 

「ま、待てマスター! サーヴァントなしの単独行動は危険だ!」

 

「ソウダネー今デハソンナキケン二出会イタイクライダヨー…」

 

また鬱モードに入り始めたアーチャーを置いて歩き出すユウ。

1人勝手に歩き出したユウに焦りアーチャーが何か忠言を呈しているが右から左へスルー。

敵サーヴァントと邂逅とかやってみたいわこんちくしょう。

敵魔術師はどうやって作るんです?

材料は石と木材で足りますか?

この世界に魔術的な危険なんて絶対にないだろう。

ユウはそんなことを考えながら、早速近くにある土ブロックを叩いて壊し始めた。

もう大分この世界に慣れてしまったことが…悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界にも月はあるんだね。 勿論カクカクしてるけど…」

 

空に浮かぶカクついた月を見上げるユウ。

辺りはすっかり暗くなり、もう遠くまで見渡すことはできない。

 

「そうだな。 しかし夜になる前に色々と調達できてよかった。 これだけ集まれば何日かは過ごせるな…」

 

日が暮れるまでに2人で頑張って集めた物資を地面に並べアーチャーが一息つく。

彼らの目の前には結構な量のブロックやら食料が転がっている。

ちなみに集めた物は…

 

土ブロック…結構

原木ブロック…かなり結構

砂ブロック…少量

石ブロック…ちょっぴり

 

豚?肉…2日分くらい

牛?肉…1食分くらい

何かの種…1個

赤いお花…1個

以上!

 

 

アーチャーに教えてもらい作業台で松明を何個か作り、それを地面に立てて辺りを照らしながらユウも満足そうに頷く。

 

「うんうん。 特に肉が手に入ったのが嬉しいな。 まさかこんな所で肉なんて上等な物にありつけるなんて…最悪草とか食べることになるかも、とか考えてたから…でも、ちょっと可哀想だったかな…」

 

松明を立て終えアーチャーの正面に座りながらユウは殺してしまった牛?や豚?達のことを思い出す。

木の棒で数回叩くだけでポックリ逝くし、逝ったと思ったら次の瞬間にはスーパーに並んでいるような加工された肉に姿を変える彼ら。

相変わらず理解できない。

しかし、もうユウ達は取り乱さなかった。

もう、ここはそーゆー世界なんだと深く考えるのをやめる作戦が功を奏したようだ。

 

「せめて無駄なく糧にして、感謝を忘れずにしなければな。 まぁ…それでも彼らからすれば理不尽なだけだが

…」

 

アーチャーは言外にあまり気にするなとユウに伝えながら、集めてきた石ブロックを作業台へと持っていく。

 

「うん、そうだね…そうするよ。 それにしても、石についてはうっかりしてたね」

 

罪悪感を感じながらも食料になった牛?や豚?に感謝しつつ作業しているアーチャーの隣に立つ。

「ああ、かなり時間を無駄にしたな…これさえ予め作っておけば、石ブロックももっと集められただろうに…」

 

溜息をつきながらアーチャーは素材集めが終わった後に思い出して作った木製のピッケルを取り出してユウに渡した。

渡されたピッケルを珍しそうに眺め、ユウはとりあえず分かった事を確認する。

 

「土にはシャベル、木には斧…そして石にはピッケルだったっけ? この辺は元の世界と同じなんだね。 違う所はどんな道具を用意しても…」

 

「結局は叩くだけ、ということだな」

ユウの認識が正しい事に頷き、残りをアーチャーが口にする。

この世界では、物を壊すという行為は全て叩くことで解決できるようだ。

土も木も石も動物も、叩いていればいつか壊れる。

ただ、その強度は元の世界の常識と同じで土よりも石の方が遥かに強度が高い。

土は素手でも比較的短い時間で壊せるが、石だとかなりの時間を要してしまう。

それを解消するのがユウが言っていた道具達。

土はシャベル、木は斧、石はピッケル。

対応した道具を使うことで硬度が高い石でも壊す時間がかなり短縮できるのだ。

しかし作業風景はかなり以上だ。ピッケルや斧はともかく、シャベルは掬う道具なのにそれで土を叩くのだから。

ピッケルや斧だって別に力を込める必要はない。

持ってコンコンと叩くだけでいいらしい。

謎すぎる。

この知識をアーチャーは引き出せた筈なのだがうっかり忘れていて、2人で随分と長い時間ぽこぽこと石を素手で叩き続けることになってしまった。

 

「明日はこのピッケルを使ってもっと沢山の石ブロックを集めることにしよう。 木よりも石で作った道具の方がさらに効率が良くなる」

 

「なるほど…じゃあこの世界では石が一番強いのかな?」

 

「いや、それは流石にないだろう。 常識的に考えて石よりも強くて使い勝手のいい素材はある、と思うが…微妙に元の世界の常識が踏襲されているのに肝心の部分で全力でそこから逸れるからな…断言はできんか…」

 

歯切れが悪くなるアーチャー。

その様子に疑問を感じたユウが尋ねる。

 

「アーチャーはこの世界のこと全部理解できたんじゃないの?」

 

令呪1画を使ってまで聖杯の知識を手に入れたのだから、このカクカク世界のことを全て理解したんだとユウは思っていた。

 

「いや、どうやらそこまでこの知識は万能ではないらしい。 材料となるブロックも今私が認識している物が全てだとするとあまりに少なすぎる気がする。 それこそ今話したように石よりも強い素材…例えば鉄や鋼などがあったとしても不思議ではない。 それに…」

とアーチャーは探索の時に体験した不思議な感覚を思い出す。

それはマスターと2人で延々石を叩き続けていた時のこと。

やっとの思いで壊した石の奥に黒い斑点のある石ブロックを見つけた。

それは石よりも硬く、壊すのに更に時間がかかってしまった。

それでも諦めずにポコポコと叩き漸く壊すと、出てきたのは石ブロックではなくなんと石炭だった。

その瞬間、アーチャーの頭にポーンとアナウンスが流れたのだ。

 

ー石炭、解禁でぇーす♪ー

 

と。

幻聴だと思いたかったが無理だった。

何故ならそのアナウンス後、石炭の使い道や石炭を必要とするアイテムのレシピがアーチャーの頭に浮かんだのだ。

「それが、この松明…」

 

「ああ。 実際ここに帰ってきてから浮かんだレシピ通りに作業台に木の棒と石炭を組み合わせたらそれができた。 以上のことから推察すると…」

・アーチャーが手にした知識は完全ではなく一部、もしくはかなりの部分が欠けている。

 

・まだ知らない素材は恐らく沢山あって、アーチャーが新しい素材をその目で確認するとその素材を使ったアイテムのレシピが追加される。

 

ということになる。

「後はまだ成功はしていないが、まだ私がレシピを確認していないアイテムがあったとして、それを作れるかどうか…」

 

「どういうこと?」

 

アーチャーの言っていることが理解できず、ユウが首を傾げる。

「ふむ…簡単に説明するとこの木のピッケル、木材3つと木の棒2つで作ることが出来る。 それを私は予め手にした知識から知っていた。ここまでいいな?」

 

アーチャーの確認にユウは頷く。

木を使った道具の作り方はアーチャーが教えてくれた。

 

「では仮に私がこの木のピッケルのレシピを知らなかったとして、偶然この素材をレシピ通りに作業台に配置した場合、成功とみなされ木のピッケルが出来るのか…それともレシピを知らない為失敗とみなされ何もできないのか…この違いは大きい」

「確かに…それがアリなら、適当に作業台に材料を組み込んで何か作れるかもしれない」

 

「まぁこれの確認を取るのはかなり難しい。 それにあと1つ、試したいことがある 」

 

「それは?」

 

「…いや、今はまだいいだろう。 あまり一遍に詰め込みすぎてもマスターに負担がかかる。それに…」

 

ぐぅぅぅ…と空気を読んだかのようなタイミングで音を出すユウのお腹。

うっ、と照れながらユウはお腹を隠す。

「早く肉を焼かなければ今にもマスターが餓死してしまいそうだ」

 

ククッと可笑しそうに笑いながらアーチャーが作業台から何かを取り出す。

 

「できたぞマスター」

 

「おお…これがかまど?」

 

確認しなければならないことはまだまだ山のようにあるが、今は空腹を解消するのが最優先事項だ。

アーチャーの手にあるソレを物珍しそうにユウが覗き込む。

「そうだ。 これで手に入れた肉を焼くことができる。 他にもできることはあるが、まぁ今日はいいだろう。 私としてはもっと手の込んだ物をつくりたいのだが今は焼けるだけでも僥倖か…」

 

残念そうにアーチャーは顔を顰める。

 

「アーチャーは料理が好きなの?」

 

「好き、というのも違う気がするが。 まぁ人に出せる程度の物を作れる自負はある。」

 

何か小難しいことを言いながらできたかまどを設置し始めるアーチャー。

素直に得意だ、の一言で済ませればいいのに…難しい性格だなぁとユウは苦笑してしまう。

それを口にするとまたアーチャーがあれこれ小難しいことを並べ立て拗ねてしまいそうな気がするので、黙って肉を何個か用意する。

 

「これで…ここに石炭を置いて…よし、マスター、肉をここに置いてくれ」

 

「分かった」

 

アーチャーの指示に従いユウはかまどに肉を置く。

数秒後、アーチャーもユウも何もしていなのに勝手にかまどの内側に火が灯った。

 

「松明の時も思ったけど、なんで勝手に火がつくんだろうね?」

 

その不思議光景に首を傾げるユウ。

アーチャーもお手上げと言わんばかりに肩を竦め首を振る。

 

「こればかりは私にもなんとも…もうこういうものだと無理矢理納得するしかないな」

 

「そう、だよね…火をおこす手間が省けてラッキー♪って思っとくのが正解だよね」

 

「ああ…不本意だがな…」

 

この世界で起こる不思議現象や不思議は必要なこと以外、見なかったことにするか深く考えないのが2人が今日1日で見出した攻略法だ。

いちいち気にしていては身がもたない。

ユウは何故火が勝手につくのか考えるのをやめて、肉が焼けていることを素直に感謝してご飯が出来上がるのを待つことにした。

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…

 

「!?」

 

静かな空間に突然大きな音が鳴り響いた。

その音のあまりの大きさにビックリしてユウは飛び上がった。

 

「な、何っ!? 今の音!?」

素早く辺りを確認する。

自分達以外の何かがたてた音なのか。

だとしたら…ひょっとすると敵襲!?

来て欲しいとは思ったがまさかこんなタイミングで!?

しかしユウも一介の魔術師。

突然の敵襲程度で取り乱したりはしない。

迎撃態勢を取るべくアーチャーの側に駆け寄る。

 

「アーチャー! 今の音、一体どこか…ら…?」

 

結果からいうと、敵襲なんて、なかった。

 

「ま、まさか…サーヴァントの私が空腹に!?」

 

音の発生源はアーチャーのおなかでした。

 

 




ぼくがかんがえたかっこいい設定集


ふぇいと…頑張るけど細かいところはスルーしちゃう。ぽいことは書く。



まいくら…バニラだよ。





ちょっと細かいこと(オリジナル設定というかルール?)


・ブロックは叩くと壊れます。



・硬いもの程時間がかかります。



・壊したブロックはまんまのおおきさでそこらへんに転がります。


・拾った人が邪魔だなって思うとちっちゃくなります。



・設置したい場所におくと元の大きさに戻ります。



Q&Aこーなー

Q,どうやって沢山のブロックやアイテムを持ち運んでるの?

Aあまり気にしちゃいけません。作者はなんかアニメポ◯モンのあのボールみたいな感じでイメージしてます。

が、スタックとかそういう量の話になると…ポケットに入ってるんじゃないの程度の感じで流して欲しい…

Q,他のサーヴァントは?
A,いるよ




結局、サーヴァントとほのぼのマイクラ生活が書きたい!という見切り発車だから、いろいろごめんなさい。
サーヴァントとと仲良くしたいのです。

許してね。






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