ぼくのかんがえた さいきょーの かんたい (変わり身)
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戦艦1

俺の務める鎮守府には艦娘が居ない。

 

いや、居るには居るのだが初期艦の五月雨さん一人だけ。深雪だとか敷波だとか、他の鎮守府では比較的出やすいと聞く艦娘でさえも配属されていないのだ。

 

まぁ俺が就任一週間も経っていないペーペー提督である事もあるだろう。

しかしだからと言って数日も経っているのに一人の艦娘も増えないなんて事があるだろうか。

 

無論、建造をしていない訳ではない。就任当日、新人らしく全資材30均一で工廠を回すという可愛らしい建造を行った。

 

しかし全てのドックに現れた数字は??:00:00。

分と秒数はキチンと動いているのだが時の単位が分からず、数字が延々とループするのだ。

 

ああこれ絶対バグってる――そう思い大本営に問い合わせてみたものの、返った言葉は『正常稼働中ですよ』。ふざけんな。

その後も必死に説明したが、幾ら言葉を重ねても聞いてくれず。最終的にクレーマー扱いされた事にブチ切れ電話機を大根おろしで摩り下ろしたのだが、まぁ当然の処置である。

 

仕方ないので建造中止しようにも、何故か妖精さんが言う事を聞いてくれない。

何でも「これほどやりがいのあるシゴトは ハジメテであります」との事で、何やら妙に張り切っており高速建造すらも「邪道である」と受け付けてくれなかった。

 

正直意味が分からん、分からんのであるが、可愛い物が大好きな俺は彼女達に屈し、結果ドッグは満杯状態のまま放置する事になった。

可愛いは正義であると同時、悪にもなるのだ。

 

ともかく、そうなれば残る方法は周辺海域での引き上げだ。

野良の艦娘を説得し、この鎮守府に来てくれるよう拝み倒すしかあるまい。

仕方なく唯一頼る事のできる五月雨さん単独で周辺海域に出て貰い、何とかSランクの勝利を収めて貰ったのだが――やはり何故か艦娘は現れなかった。

 

探せど探せど海上に見えるは敵ばかり。誰にも出会えず一人トボトボ帰還する五月雨さんを何度ガッカリと迎えた事か。

 

「うう、お役に立てず、すいません……」

 

しょんぼりしながらそう言うが、彼女に責はまったく無い。あるとすれば俺の運だ、きっと。

ともかくまぁそんな感じで一週間。艦娘が少ない以上やる仕事も無理も無く、一度か二度の出撃が終わった後は日がな一日五月雨さんとお茶するのが日々の日課となった俺であった。

 

何だろう、光子力鎮守府という意味不明な名前が嫌なのかな。ここに配属された提督も俺以外に居ないし、全く分からん。

 

 

 

 

もう一度しっかり妖精さんと話し合ってみたのだが、やはり作業を中止してはくれなかった。

工廠妖精のリーダー格であるウリバタケ班長&アイちゃん研究員が決して頷いてくれないのである。何でも今行っている建造はロマンの塊であるらしく、工廠に務める妖精としては絶対に逃したく無いのであるとか。

 

「せつめいするであります。せつめいするであります」

 

「こんなコトもあろうかと! こんなコトもあろうかとー!」

 

ロマン。成程、確かに良い言葉であるが、それはそれとして何とかなりませんかね。

頭を下げても、土下座をしても、土下寝をしてもまるで駄目。どこか狂ったような笑い声を上げながら一心不乱に溶接機を振るう班長達にあえなく敗北D判定。

あんなぶっ壊れた表情でも可愛いと思ってしまったあたり、俺もどっか壊れているのかもしれない。

 

「大丈夫です! 提督はしっかりした人ですよっ」

 

お茶を啜りつつの愚痴にそう返してくれる五月雨さんの何と心に優しい事か。

途中で捕まえた妖怪猫吊るしを肴に今日もやる事の無い一日を過ごしたのであった。

 

 

 

 

「提督っ! 工廠、動きましたよっ――!」

 

今日も今日とて閑職閑職。

執務室で妖怪猫吊るしと戯れていた所に半裸の五月雨さんが現れたのは、工廠を作動させてから17日後の事であった。

入渠中に知らせを受け取り慌てて走ってきたらしい彼女に上着を投げつけつつ聞いてみれば、埋まっていた工廠ドックの内の一つが99:59:59の表記になり、正常にカウントを刻み始めたらしい。

今更羞恥に震える五月雨さんを引き連れ工廠へと向かうと、そこには確かに動き始めた数字が見えた。日数にして4日と少し。

それだけ経てばやっと新しい艦娘が配属されると言う事か。

 

ようやくこれで鎮守府らしい鎮守府になる。五月雨さんと二人で喜びつつ、来るべきその日をウキウキしながら待ち続けた。

勿論ただ座していた訳ではない。演習や轟沈しない程度の出撃をこなし、海軍として最低限の義務を果たした上でだ。

 

まぁ五月雨さん一人きりであるので大した成果も挙げられず、演習先の艦娘達に「あの提督虐待してんじゃないの?」と心配される程の体たらくだった訳だが。

 

しかしそう言っていられるのも今のうちだ。きちんと艦娘を配備できれば、きっと健康的な鎮守府になる。

そうなれば誤解もきっちり解け、五月雨さんにも辛い思いはさせなくなる筈――そんな希望を支えに日々お茶を飲み、遂にその日がやって来た。

 

「新しい仲間、早く会いたいですね~」

 

全くである。

兎にも角にも建造完了。俺は傍らに五月雨さん、頭に妖怪猫吊るしと完全武装の様相で工廠への扉を押し開いたのである――!

 

 

 

「――こんにちは。ナデシコ級第2世代型戦艦。NS955B、通称ナデシコBです。よろしく」

 

 

 

ドックの中より現れたのは、銀色の髪をツインテールに纏め、未来的な服と装備を身につけた十代中頃くらいの少女だった。

何とも人間離れした美しさを持っており、妖精、という言葉が浮かんだ。いや、猫吊るしのようなちんちくりんでなく、神秘的なという意味で。

 

はて、にしてもナデシコBさんねぇ。花の名前とは珍しいが、そんな戦艦あったっけ。海軍の教科書には載っていなかったような。

うんうん悩む俺を他所に、五月雨さんはナデシコBに駆け寄り「よろしくお願いしますねっ!」と握手した腕を上下に振っている。どうやら初めての仲間に大層お喜びであるらしい。

まぁ、色々考えるのは後で良いか。俺は胸の疑問をすぐに忘れ、五月雨に続いてナデシコBさんを歓迎する。最初は目を白黒させていた彼女であったが、やがて静かに微笑んだ。

 

戦艦という事は火力に関しても頼りになるだろうし、長く待った甲斐はあったかもしれないな。

とりあえず詳しい話を聞くべく執務室へ案内しようとしたその時――くいくい、とズボンの裾を引かれた。見ればウリバタケ班長が今しがた空になったドックを指差している。どうも残りの資材を使って新しい艦娘を建造したいようだ。

 

まぁドックを遊ばせておくのは勿体無いとは俺も思う。思うけれども。チラリと未だ開発残り時間の不明ドックを盗み見る。

 

「こんなコトもー、こんなコトもー」

 

……いや、流石にもう無いだろう。

胸中に過ぎった嫌な予感振り払い、班長に30均一での建造を許可する。途端「えー」とガッカリした目で見られたが仕方なし。

 

資材に関しては五月雨さんの補給と入渠にしか使用しておらず余らせてはいるが、今この鎮守府に必要なのは頭数だ。なので短時間で建造が終わると噂の駆逐艦か軽巡を求めての命令だった、のであるが。

 

――残り時間 ??:00:00。

 

その数字を見た瞬間班長は喜びの咆哮を上げ、俺はガックリと膝を付く。

ナデシコBさんがそんな俺達を「ばかばっか」と言いたげな目で見ていたが、何か気持ちよかった。

 

 

 

 

「私、ナデシコBは本来ワンマンオペレーションシステムプランの為のデータ収集を目的としていました。ですので武装は少なく、戦闘における多様性には欠けています。あしからず。ですがグラビティブラストとディストーションフィールドは標準装備されており――」

 

とか何とか云々かんぬん。ナデシコBさんから伝えられたスペック情報はやたらめったら横文字が多く、それはもう難解を極めた。

 

おかしいな、これでも海軍での成績はそこそこ良かった筈なのだが何を言っているか半分も理解できない。おお、五月雨さんなぞ頭から煙を吹いておられるぞ。

鎮守府に配布されている図鑑にもナデシコBさんの項目は無いし、問い合わせようにも本営に繋がる通信機器は全て摩り下ろされている。一体誰だこんなよくわかんない事をしたのは。

 

まぁ謎が多い彼女ではあったが、五月雨さんと戯れている様子を見る限り悪い子では無いようだ。多少毒舌でクールではあるものの、そこにも悪意は感じられない。

ならば一先ず何かすげー戦艦と認識しとけば問題あるまい。性能も実戦を通して把握すれば良いと決断し、五月雨さんと共に早速演習に出撃を命じた。

 

……のだが、何故かナデシコBさんは気乗りしないご様子。

聞いてみれば、何でも自分では上手く「てかげん」出来ないのだそうな。

 

おお、戦艦らしい凄い自信である。俺は鼻白むどころかむしろ頼もしさを感じ、ならば実際に敵を相手にその力を見せて貰う事にした。

 

幸い(とも言ってられんが)俺の艦隊に許された出撃区域は鎮守府周辺海域のみ。余程の下手を踏まないかぎりは轟沈する事もあるまいだろうと慢心し、五月雨さんを旗艦に据えにこやかに送り出す。

 

『あの、初めての出撃で緊張しているかもしれませんが、一緒に頑張りましょうねっ!』

『分かりました。では程々に』

 

オペレーター担当の妖精さんを通じて届く会話を聞く限り、二人の相性もそれほど悪くないと見える。

善き哉善き哉。妖怪猫吊るしと一緒にうんうんと頷いていると――レーダに敵影の反応。どうやら駆逐イ級と接触したらしい。

 

数は2体。五月雨さん一人でも問題無いレベルだ、これならば肩慣らしには丁度いいだろう。俺はナデシコBさんに一発かまして貰おうと指示を出した。

 

『単横陣ですか。なら一回で済みますね』

 

すると彼女はそう呟くと己の艦装を構え、一歩前に出る。

安全装置の解除だろうか。カシャン、カシャンと装備の各所から何かが外れ空気が漏れる音が響き――最後に胸元にある逆三角形の飾りのシャッターが開かれ、そして。

 

 

『――グラビティブラスト、発射』

 

 

――瞬間、音が消えた。

 

 

まずイ級に向かい一筋の光が奔り、一瞬遅れて空間が歪む。耳をつんざく高音が辺りに轟き、射線上の海面が激しい飛沫を撒き散らし左右に割れ、不可視の死道を形成する。

当然その直撃を受けたイ級達がただで済む筈も無く、その身は捻れ、潰され、引き千切られ。明らかなオーバーキルで持って爆散。欠片一つ残さず粉微塵と消えたのだ。

 

『……えっ』

 

そんな呆然とした五月雨さんの声は、一つに戻る海の轟音の中に消え。後には飛沫の落ちる雨音が鳴り続けるだけだ。

そうしてそれを成したナデシコBさんは静かに一言、通信妖精を通した先の俺へと問いかけた。

 

 

『敵、殲滅を確認。このまま進軍しますか?』

 

 

――その声に失禁しなかった事は勲章ものではあるまいか。

 

俺は妖怪猫吊るしと抱き合いガクブルと震えながら、ひたすら首を上下に振る事しか出来なかった。

 




なーんにも考えずどうぞ


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戦艦2

「真空状態とは程遠い環境の為十全ではありませんが、戦闘に問題は無いみたいですね」

 

帰港したナデシコBさんはそんな事を宣ったが、俺には後半しか聞こえなかった。真に真に。

 

まぁそんな事はさておき、とりあえずナデシコBさんの性能がとんでもない事はこれ以上無く理解した訳だ。理屈では無く、感覚で。

……良いのかな、これ。俺みたいなペーペーにこんな高性能艦なんて、レベル1にオリハルコン装備持たせるようなもんじゃなかろうか。

 

俺の小さなハートに罪悪感に似た物を抱いたが、よく考えれば20日もの長い間五月雨さん一人で頑張ってきたのだ。それを考えればまぁ、妥当なのか?

何か面倒臭いしそれで良いか。俺は悩みを一瞬で忘れると、帰還した二人の補給申請の書類にサインをつけた。

 

五月雨さんは問題無いだろうが、ナデシコBさんはあれだけの砲撃を放ったのだ。

きっと相当燃料を消費している筈で……え? 相転移エンジン? EN回復S? つまり燃料は自動回復するから入渠だけしとけばそれでいいの?

 

「少女ですから」

 

意味ワカンネ。俺は思考と一緒に書類を丸めて放り投げた。

 

 

俺がこれ程戸惑っているのだ。あの砲撃を間近で見た五月雨さんはさぞ混乱しているだろうと思いきや、意外にもそんな様子は感じられなかった。

むしろ凄い凄いと興奮し、憧れを抱いているようだ。かと言って彼女に頼り切りになるでもなく、溝が生まれていない事に一安心。

 

「提督、ナデシコBさんに負けないよう、私も頑張りますねっ!」

 

……あんな一撃必殺兵器を搭載されてもなぁ。

まぁ何であれ切磋琢磨出来る仲間が居るのはいい事だ、うん。頭を撫でて茶を濁す。

 

ともあれ、今後の話。

ナデシコBさんという頼もしい仲間が増えた俺の艦隊ではあるが、かと言って出撃出来る海域を一気に拡大出来るかというと微妙な所だ。

艦娘の進軍は羅針盤の気まぐれに、艦娘二人のコンディションも影響する。何より致命的に人員が足りず、またそれをすぐに解決できる手立ても無いのだ。

 

無双キャラが一人居た所でそれらはどうにも出来ず、結果的には多少五月雨さん達が任務を終えるまでの時間が早まった程度に収まった。

むしろ更に余裕が出来、茶をしばきつつまったりする時間が増える始末。猫吊るしを加えた四人+猫で非常に穏やかな日々を満喫中だ。これで良いのか軍属。

 

「そういえば、他のドックはどうなんですか? ナデシコBさんが建造されたのなら、他のドックの人達も建造の目処が立っても良いと思いますけど……」

 

ああ、今日の朝見てきたけどダメだった。時間も未確定のまま変わらなくて、

 

「――こんなコトもあろうかとぉーーーーっ!」

 

――スパァン!

 

突然執務室の襖が開かれ、ウリバタケ班長が飛び込んできた。何があったと聞けば、工廠のドックの内二つが99:59:59表記になったらしい。

噂をすれば影とはこの事だろうか。茶呑ごとひっくり返った猫吊るしをタオルで拭きつつ、「こんなコトしてるばあいじゃねぇ!」と慌ただしくトンボ返った班長の背を見送った。こんな事って、提督なんだけどなぁ、俺……。

 

「このタイミングでの建造となると、ひょっとしたら私の同型艦かもしれませんね」

 

すると、様子を見ていたナデシコBさんがボソリと呟く。

理由を聞けば「単なる勘です」との事だったが、やはり同型艦だと通じ合うものがあるのだろうか。

 

何にせよ仲間が増えるのは楽しみだ。俺は寒さに震える猫吊るしを五月雨さんの胸元に突っ込み、まだ見ぬ艦娘へと思いを馳せた。

 

 

艦娘。

よーわからん深海棲艦との戦いにおいて主役を務めるよーわからん艦艇な娘さん達である。

 

しかしまぁ艦艇といっても大して人間と変わらない。嬉しい事があれば笑うし、悲しければ泣きもするのだ。

当然食べ物も普通に食べるし好き嫌いもある訳で、五月雨さんとナデシコBさんは飯時になると良く鎮守府内にある食堂を利用する。

 

ホウメイさんという女シェフと天河くんというコック見習い、そしてホウメイガールズと呼ばれる多数のウェイトレスが切り盛りする店だ。

俺も毎日のように利用しており、特にホウメイさんの特製ラーメンがお気に入り。俺のみならず五月雨さんにとっても好物でもあり、テーブル席に二人並んで腰掛けラーメンを啜るのが習慣であった

 

ナデシコBさんもラーメンは好きだという話であるが――ホウメイさんの物よりも天河くんが作った物の方が好きなご様子である。

 

何でも味としてはホウメイさんの方が数段上であるのだが、天河くんの物の方が何だか暖かく感じるそうな。

そうかなぁ。俺も昔彼のラーメンを食べた事あるけど、特段熱くも冷たくも無くまずい訳でも美味い訳でも無い普通の物だったような気が……。

 

しかしまぁ人の好みはそれぞれであろう。その話を聞いた天河くんも咽び泣いて喜んでいる訳だし、悪い事は何も無い。

俺も改めて彼のラーメンを頼んでみるかなぁ。そう思っていると、何やらどこからか湧いてきた猫吊るしが何とも言えない半笑いでナデシコBさんと天河くんを見比べている。

 

一体何だ気持ち悪い。そう思いつつ俺も二人に目をやると――ふと、気づく。ナデシコBさんが天河くんを見つめる瞳に、何やら複雑な色合いが混じっている。

兄を見るような、父を見るような、はたまた想い人を見るような。一言で言い表す事のできない、とても複雑な色だ。

 

天河くん自身は全く気が付いていないようなのだが……何だ、これはつまり、そういう事なのか。つーかいつの間にですか?

いやまぁ、艦娘と言えど女の子な訳で。この鎮守府もそういう事は禁止していないし、好きにロマンスしてくれて構わんよ。俺は喜んで祝福しよう。

猫吊るしと一緒にぱちぱちと拍手をすると、天河くんは首を傾げナデシコBさんからは無視された。ひどーい。

 

「あの、何で拍手してるんですか?」

 

すると私達の様子を見て五月雨さんがそんな事をのたまった。ので拍手の対象をそのまま彼女にシフトする。

そうして訳が分からず右往左往する五月雨さんをほっこりと見守ったのだった。ぱちぱち。

 

 

五日後、例の艦娘の建造が終わったと報告を受け取った。

喜び勇んで工廠へ足を運べば、そこには完了とデカデカ書かれたドックが二つ。どうやらほぼ同時に建造完了させたようで、床には班長と研究員を始めとした妖精の死骸が大量に転がっていた。さもありなん。

 

まぁとりあえずそんな彼らの介抱を猫吊るしに押し付け、ドック開放の時間である。五月雨さんとナデシコBさんを呼び、共に閉ざされた扉を押し開く。

そうして、何時もと違い緊張している様子のナデシコBさんの顔を、建造時特有の眩い光が照らし上げ――。

 

 

「――こんにちはーっ! ナデシコ級一番艦ND-001ナデシコです、これからよろしくお願いしますね! ぶいっ――って、ありゃ?」

 

 

――やたらテンションの高い、青みがかった髪の女性。ナデシコと名乗る彼女を見た瞬間、ナデシコBさんがその胸の中へ飛び込んだ。

 

「おっとと、えーっとどちら様かなー……って、Bちゃん! Bちゃんだ! やったー!」

「はい、はい……!」

 

ナデシコさんもナデシコBさんの事がすぐに分かったようで、そのままぐるぐると回りつつ再会(で、良いんだよな、多分)を喜び合っている。

一見微笑ましい姉妹の触れ合いに見えなくもないが、それにしては色々とオーバーのようにも感じる。史実で何かあったのかと図鑑を開いてみたが、やっぱり情報はゼロのまま。

図鑑って言葉の意味知ってる? ねぇ? これでは漬物石のがまだマシだとクッソ役に立たない図鑑に辟易していると、「あの、提督」と声をかけられた。

 

振り向けば立っていたのは当然ながら五月雨さん。先程まで浮かべていた羨ましげな表情を消し、困惑を顔に浮かべていた。

疑問に思いよく見ると、彼女の影に隠れるように一人の少女が縋り付いているようだった。ナデシコBさんによく似た大変可愛らしい娘さんである。はて、どちら様でしょう。

 

「えっと、この娘もう一つのドックから出てきちゃったみたいです。多分、ナデシコさん達の声が聞こえたんじゃないでしょうか」

 

何と。それではこの娘がもう一人の艦娘か。

俺は直ぐ様図鑑を投げ捨てると、ポケットから飴を取り出し差し出した。妖精さんにあげる為に用意したものだが、ちゃんと人間にも食べられる代物だ。

女の子はしばらく警戒した様子でじーーーーっと無表情に俺を見ていたが、五月雨さんに「大丈夫だからね」と促されおずおずと黒色の飴を受け取った。

 

うむ、それで君の名前は何だろか。なるべく柔らかく改めて問いかけると、彼女はその小さな唇を開き。

 

「……ナデシコ級第2世代戦艦、ユーチャリス」

 

予想はしていたが、やはりナデシコさん達の同型艦のようだ。少し離れた場所でくるくるしていた彼女達もユーチャリスちゃんの事に気づき、こちらへ近寄ってきた。

しかし何やら神妙な様子であり、先程のくるくる加減は鳴りを潜めている。割と微妙な雰囲気で、座りが悪い。

 

(……確執とか、あるのでしょうか?)

 

五月雨さんがひそっと聞いてくるが、俺に言われても分かんない。

そうしてハラハラしつつナデシコ姉妹の様子を伺っていると――やがて、ナデシコさんがユーチャリスちゃんを抱きしめた。

 

「……ありがとう、ね」

「……………………」

 

子を抱く母親のような、妹を慈しむ姉のような抱擁だった。交わされた言葉の意味は分からなかったが、きっと重要な意味を持っていたのだろう。

ユーチャリスちゃんもゆっくりとナデシコさんの背に手を伸ばし……しかし、それからどうしたら良いのか分からないように彷徨わせる。その動きはまるで迷子のようにも見え――。

 

「大丈夫ですよ」

「!」

 

そして、いつの間にか近寄っていたナデシコBさんがそっと彼女の手を導き、ナデシコさんの背に触れさせる。

この時、初めて3姉妹が触れ合ったのだ。以降会話は無かったけれど、それからの三人の間に流れる空気は穏やかなものとなっていた。

 

「……よく分かりませんけど、良かったですね」

 

そう……なのか? まぁ、そうなのか。

とりあえず、俺達は何らかの雪解けの瞬間に立ち会ったのかもしれない。

後日鎮守府内を三人並んで仲睦まじく歩く彼女達の姿を見て、何となくそう思った。

 

 

「あの、ちょっと良いすか。相談したい事があるんすけど……」

 

そう言って執務室の扉を叩いたのは天河くんだった。

おや、何時もはラーメンの修行で食堂に篭もりきりの彼がここに来るとは珍しい。何やら困った様子だが、一体どうした。

 

「や、ナデシコ達の事なんすけど、あいつらどうにかなりません? やたら俺にひっついてきて、なんつーかちょっと」

 

ああ、と頷く。そういえば、何故かナデシコ級の彼女達はその全員が天河くんに熱を上げている。

彼によく似た者が戦艦時代の記憶に居たのだろうか。彼女達の艦長か、船員か、或いは設計者か。図鑑が無いのが悔やまれる。

 

それはともかく、相談の話か。まぁ俺も婦女子として慎みに欠けると思わんでもないが、別に実害無いし容認姿勢である。

君もあんな可愛い娘達に迫られれば、男として冥利に尽きるんじゃねーの。嫉妬混じりに鼻をほじれば、彼は顔を真赤にさせて三段重ねのダンボール箱に縋り付く。

 

「んな事言ってらんないんすよ! あいつら……つっても殆どナデシコだけっすけど、何かある度アキトーアキトーって煩いったらありゃしない。ホウメイさんにも迷惑かけてるし、提督の方から何とか……」

 

「――アーキトッ! こんな所に居たの? 早くデートに行こうよー!」

 

――バタァン!

 

勢い良く執務室の扉が開かれ、噂のナデシコさんが現れた。

……教えた訳でもないのに、とんでもない天河レーダーだ。突然現れた彼女の姿に天河くんは慄き、窓際へと後退る。

 

「うっわもう来やがった! いい加減にしろよ、俺はお前とデートする約束なんて……!」

「恥ずかしがらなくても良いの! Bちゃんもユーチャリスちゃんも待ってるから、早く行きましょ!」

 

しかしナデシコさんは燐光を纏ったかと思うと瞬時に姿を消し、いつの間にか天河くんの眼前に出現。

むんずと彼の手を掴むと、そのままズルズルと引きずった。

 

「ぐあああっ! ちょ、待てって! 艦娘の力で、お前ッ!? だぁ、ちょ、誰か助っ――」

「今日はねー、皆でお買い物行く計画立ててるんだー。あ、提督さん、お邪魔しましたーっ!」

 

まぁ普通の人間が艦娘に勝てる道理などある筈も無し。彼は必死の抵抗むなしくナデシコさんに鹵獲され、パタムと執務室の扉が閉められた。

時間にしておよそ五分。強襲戦のような手早さである。

 

「……あの、良いんですか? 天河さんほっといても……」

 

そんな誘拐の様子を見ていた秘書艦を務める五月雨さんがそう言うが、気にする事は無いと手を振っておく。

あんなのは所詮ポーズだけなのだ。古来より続く由緒正しきハーレム男の典型であり、天河くんもそれに乗っ取り動いているだけ。何も心配する事など、無い。

 

「そうなんですか? よく分かりませんけど、提督がそう言うなら安心ですね!」

 

俺の力強い断言にあっさりと乗せられ、安心したように頷く五月雨さん。

そんな素直な彼女の頭を撫でながら――天河くんの引きずられていった執務室の扉を見る。そうして俺の心に湧き上がるのは、心配とは真逆の嫉妬心。

 

――あの位置、本来であれば提督の俺が居座るべき場所じゃないの? 

 

他所の鎮守府では提督LOVE勢なるものが流行ってるんだろ? だったら俺もそうなって然るべきと思うのだが……ねぇ?

 

そう膝の猫吊るしに問いかければ、返ってくるのは「身の程考えろやカス」と言いたげなゴミを見る視線。

 

言葉よりも明確に伝わる罵倒の意志。

いたく傷ついた俺は、その柔らかいほっぺたをむいーっと引っ張ったのである。



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潜水艦

この作品は己の趣味妄想を何も考えず文章にした物です。ごめんね。


――建造、残り時間??:00:00。

 

新しく艦娘を作ろうとしたらまたこの数字である。

何なんだよもう。ナデシコさん達が完成し、ドックが空いたと思えばまたこれだ。もう呪われているとしか思えず、祈祷師の呼び出しを半ば真剣に考えた。

 

「あ、それなら私呼びましょうか? 私のウリの一つにクルーの国籍に合わせたお葬式をするっていうのがありまして、その伝手で」

 

至れり尽くせり、と言えるのかそれは。

そんな通りがかりのナデシコさんの提案に冗談だよと手を振りつつ、工廠勤めの妖精さんのサックス指揮官&グランパ掌帆長に詳しい話を聞く。

 

ナデシコさんら三人の経験を積んだおかげか、表記が無くとも建造終了までの大まかな時間を予測できるようになったのだ。

それによると大体二週間。早ければ一週間半後には全ドックの建造が終了するらしく、その短さから言って駆逐艦か潜水艦となるそうな。

 

……あの、高速建造につきましては……。

おずおずとそう問いかければ、まるで鬼のような表情を向けられる。はい、出すぎた真似を致しました。何にも知らない若造は引っ込んどきます、はい、はい。

 

どうにもこの鎮守府の妖精さんは己の仕事に何か凄い情熱を持っている人が多いな。それともどの鎮守府もそうなのかしら。

工廠から叩き出された俺は溜息を吐き、暇つぶしにアイテム屋さんをぶらついた。

 

……そういえば、あなたも艦娘ですよね? どうです、俺の艦隊に……え? 正式配属されるまではヤダ? ああそう。

 

 

 

 

「提督っ! それでは出撃してきます!」

「待っててね、アキト! 暁の何とかに相合傘を書き込んでくるから!」

「行ってきます」

「…………」

 

出撃の時間。思い思いの言葉を残し大海原へと向かう四人を大手を振って見送る。隣りに立つ天河くんがゲンナリしているが、無視無視。

 

それにしても随分と賑やかになったものだ。五月雨さんと二人だけでヒーヒー言ってた頃が早くも遠い昔のようで、思わず感慨深くなる。

まぁ順調なのはいい事だろう。俺は五月雨さん達の背が消えるまで見送った後、天河くんと別れ執務室へ戻る。

どうせグラビティブラスト一発でほぼ終わる以上出す指示も仕事もロクにありゃしないが、提督である以上あそこが俺の居場所なのだ。

 

さて、通信妖精さんに頼んでその活躍を見させて貰うか――そう歩き始めた時、「あ、そういや」と天河くんに呼び止められた。

 

「何か本営からウチに通信届いてたっすよ。そっちの機器が反応しないんで、仕方なしにこっちに連絡してきたみたいっす」

 

そう言えば本営へ繋がる専用通信はおろし金でスクラップにして放置したまんまであった。

当然それきり何一つ連絡はとっておらずこれは怒られるかとも思ったが、話を聞く限りでは特に気にしていないらしい。何でも数ヶ月連絡のない提督も多いらしく、その辺りを一々気にしていても始まらないのだとか。

 

では何故今更? 疑問に思ったが、まず間違いなくナデシコさん達の事だろうと思い当たる。

グラビティブラストを禁止させて普通に演習には参加させていたし、その時に本営が気に留めたのかもしれない。図鑑に載ってないあたり、かなり希少な艦娘っぽいもんなぁ。

 

「じゃ、確かに伝えたんで」天河くんはそう言っていそいそと食堂へと戻っていく。多分ラーメン作りの練習をするのだろうが、絶対ナデシコさん達の為だぞ、あれ。

でもそういうのって何か良いよね。俺だったら……美味く茶を淹れる? いやそれ提督の仕事じゃ無い気もするけど。

しかしそれはそれで良い案だ。思い立った俺は足取り軽く歩き去り、早速執務室に4つのティーカップを用意したのであった。

 

通信? 何でしたっけそれ。

 

 

 

 

ナデシコさん達の様子を見に本営の視察官が来るらしい。

 

すわ接収かと身構えた俺だったが、特にそういった思惑は無いようだ。何でも彼女達を図鑑に載せる為の軽いインタビューをしたいのだとか。軍属、おい軍属。

『深海棲艦との戦いなんて意味分からんまま割となぁなぁに推移してますし、別に勝利に貪欲な訳でもないですからね』とは通信先のオペ子の言だが、それでは我々は何の為に戦っているのだろう。

 

哲学。

軍人特有の悩みに付け込まれた俺だったが、お茶を美味しそうに飲む五月雨さんの笑顔を見たら何かどうでも良くなった。結局そんなもんである。

 

 

まぁそんな事はさておき、そろそろ建造終了のお時間だ。五月雨さん達は入渠中の為、俺一人でのお出迎え。

今回かかった時間は約9日間。ナデシコさん達に比べればまだ短いが、それでも中々の期間である。

 

うーむ。やっぱ使ってるドックに異常があるのかな。俺に与えられた工廠のドックは二つしか解放されていないが、他の場所を開放すればそれも変わるだろうか。

せっかくだから後で申請してみるか。そう思いつつドックの扉の端に印字された北斗七星とかいう謎の文字を引っ掻いていると、眩い明かりが目に刺さる。

 

さて、今度はどんな艦娘さんかな。俺は光の中から現れる彼女達を待ち――そして、二人の女性がその姿を表した。

 

 

「――お初にお目にかかります。強襲揚陸潜水艦、TDD-1トゥアハー・デ・ダナン。他所からはトイ・ボックスとも呼ばれていました。よろしくお願いしますね」

 

 

一人は十代中頃の北欧系少女、トゥアハー・デ・ダナンさん。

あどけなさの残る顔立ちと、大きく「だなん」と書かれた本営指定のスク水。資料で見た他所の潜水艦とほぼ同じ特徴を持つ儚げな美少女だ。

……しかしその瞳に宿る利発さたるや十代の少女のそれでは無く、経験豊富な司令官の物。どこかナデシコBさんと似た雰囲気が感じられ、思わず襟元に乱れが無いか確認。いや、だらしない服装だとすぐに気づいて指摘するからさ、あの娘。

 

「ふふ、大丈夫ですよ。ちゃんとキッチリ着こなされていますから」

 

するとそんな俺の様子に気づいたのか、ダナンさんは口元に手を当てクスリと笑う。とりあえず愛想笑いを返して照れ隠し。

ともあれ、彼女に関しては物腰も柔らかで他の艦娘達とも仲良く出来そうだ。俺はホッと溜息を吐き――――んで、もう一人、なんだけど。

 

 

「――火星独立戦線活動拠点、シールドシップの夜明けの船だ。一応潜水艦の括りとなっちゃあいるが、我々はそんな小さな枠には収まらんよ。そこんとこ、よーっく心に刻んどきなよ」

 

 

ダナンさんと共に現れた艦娘。夜明けの船というらしい彼女は、何というか、その――オバサン、であった。

 

年は四十代かそれ以上。アッシュグレイの髪を無造作にまとめ軍服らしき服を纏う、資料で見た他所の潜水艦とはほぼ違う特徴を持つワイルドな女性だ。

胸だけでなく色々な場所の肉付きが良く、雰囲気と合わせて肝っ玉母さんという言葉が浮かんだ。……艦娘?

 

「ガッハッハ! 確かに娘って年にゃ見えないだろうねぇ! まぁちゃんと本分は果たしてやるから、ドーンと構えときなァ!」

 

バッチコーン!と豪快に背中を叩かれ、ゲホゲホとむせる。

 

正直疑問だらけの夜明けの船さんではあるが、貫禄は凄まじい物がある。ダナンさんもそうだし、潜水艦って皆こうなのかな。

……いや、単に彼女達が特殊なだけだな。やはり二人の情報の無い図鑑を投げ捨てそう思う。ホントどうにかならんかなこれ。

 

まぁそれはともかく、頼りになる仲間が増えた事には違いなかろう。現状でも戦力的には十分以上ではあるのだが、ダナンさん達が加われば俺の艦隊は轟沈という単語から更に縁遠くなる筈だ。

俺は鼻歌歌いのステップるんるん。何やら談笑している二人に上機嫌で歩み寄り――。

 

「にしても、ダナンだったかい? 随分とけったいな格好してるねぇ、アンタ」

「え、そうなんですか? こういう格好が潜水艦として礼儀だって聞いたんですけど」

「へぇ。まぁ潜水って意味じゃあ間違っちゃいないがねぇ……」

「機能的にも理に適っていますからね。そうだ、おば様ももしよろしければ――」

 

――全力のダッシュで割り込み、ダナンさんの言葉を断った。

 

もしその姿を誰かが見ていたら、それは世界滅亡を阻止する英雄が如く映ったかもしれない。

俺は二人の戸惑いの声を受けつつ、グイグイと強引にその背を押し続けたのであった。

 

……他の水着ならともかくさ、やっぱスク水はキツイと思うんだ。色んな意味で。ね?

 

 

 

 

『敵航空機を確認、アウトレンジから迎撃致します。各艦頭上に注意してください』

『こっちも衝角で一つ落とした! 時間稼ぎはもういいだろう、離脱するッ!』

『離脱確認、射線クリアー! 全部まるっとオッケーオッケー! いま必殺のぉ……!』

『――グラビティブラスト、発射』

 

ゴウ、と。鎮守府近隣海域の一角に一筋の光が迸り、敵艦隊との交戦が完了する。

戦績は勿論S判定。被弾した者も居らず、完全無欠の大勝利である。

 

いやはや、ニューカマーズの性能はどんなものか。五月雨さんやナデシコさん達との相性はどんなものか。

それらを確認する為の軽いテストのような出撃だったが、望外の好成績だ。チームワークも悪くなく、本当に初対面なのかとちょっと疑う。

 

『わぁ、まさか被弾ゼロで抑えられるなんて思ってませんでした!』

 

通信妖精さんから聞こえる五月雨さんの感激に猫吊るし共々頷く。

 

そう、一撃必殺の砲台に変なバリアと一見完璧に見えるナデシコ級だが、実を言うとそうでもない。

何でも真空状態では無い為エネルギーの運用に難が生まれているらしく、機能に一部制限がかかっている状態なのだ。俺には意味分からんけど。

 

その為砲撃のチャージに少しの隙が生まれ、強烈な攻撃だとバリアも抜かれる事がままある。

これまではその時間稼ぎに五月雨さんやユーチャリスちゃんの航空機(なのか? 何か黄色い虫みたいな奴)が必死に頑張っていたのだが、数発の被弾は避けられなかった。

しかし新たな二人の潜水艦が加わった事で、その部分をぴったりと埋められたようだ。

 

トマホークミサイル等を主要武器とした鬼射程のダナンさん。そして絶対物理防壁発生装置とかいう得体のしれないもので最高速度700km/h以上(アホか)で動きまわり、衝角戦法で敵を撹乱する夜明けの船さん。

超遠距離からの迎撃・牽制と超近距離の突貫・囮としてはこれ以上無い程の適任である。むしろ天職と言っても過言ではない。

 

これならもう並大抵の海域では轟沈する事もあるまいて。望外の結果に満足し、存分に慢心を満喫しようとした俺であったが――唯一、五月雨さんの事が気にかかる。

 

言っちゃ何だが、この布陣だと五月雨さんは旗艦でありながら明らかな力不足だ。なまじ真面目ないい娘さんであるだけに、囮という役目も奪われ変な劣等感を抱いてしまうかもしれない。

ナデシコBさんの時とは状況が違う。俺は懐きかけた慢心を放り捨て、そっと彼女の表情に陰りが無いか注視する。と。

 

『それでは、そろそろ鎮守府に帰港しましょう。シールドをお持ちの夜明けの船さんを先頭に、皆さん追随してくださーい!』

『はーい、五月雨お姉さん! ほら、皆も返事返事!』

『…………』

『……はーい』

『ふふ、はーいっ』

『引率の教師かね私は……』

 

何やら意外な程に明るかった。それ所か個性的な艦娘達を意外な程に良く纏め、旗艦として引っ張っている。

まぁユーチャリスちゃん以外は「敢えて引っ張られている」感じではあるが、それは認められている事と同義だろう。多分。

 

「五月雨かい。ま、実力としちゃ一番下だが、それを受け入れながら不貞腐れずに研鑽してるからね。見どころはあるんじゃないかい」

 

とは後日聞いた夜明けの船さんの言である。聞く話では戦闘中も全く油断せず、ユーチャリスちゃんと一緒に周囲を警戒したり、夜明けの船さん達の戦闘を観察し勉強しているらしい。

そしてその前向きさやひたむきな姿勢は好感を抱くべきものであり、旗艦としてこれ以上無く相応しい魅力であるとの事だ。

 

――提督、ナデシコBさんに負けないよう、私も頑張りますねっ!

 

成程。つまりは、以前のその言葉を守り続けて居るという事か。ならば俺の心配は杞憂であると言う事で、ほうと安堵の息を一つ。

夜明けの船さんという貫禄ある女性に自慢の秘書艦を褒められた事にニヤついていると――傍らの猫吊るしがサラサラと灰になっている事に気がついた。

 

どうした、そんな日を浴びた吸血鬼みたいな有様で。そう問えば、「ヨゴレにそんな話はキツイよぅ」と返り、思わず失笑。

フフン、俺にカスを見る瞳を向けた報いのようだな。軽く小馬鹿にしつつ猫吊るしの灰を集めようと手を伸ばし、しかしスカッと空を切る。

 

一体何故……と疑問に思うべくもない。そう、気づけば俺の身体も灰と化して居たのだ。ぐわああ。

 

 

 

 

「――ふみこ・オゼット・ヴァンシュタイン少佐だ。出迎え、感謝する」

「青葉です! 今日は新型の艦娘さんのお話、よろしくお願いします!」

 

数日後、件の視察官がやって来た。

これぞ正に軍人! といった感じの毅然とした女性だ。その背後には青葉と名乗る艦娘が控えており、元気よく頭を下げている。カメラやマイクを握っている辺り、彼女が取材担当なのだろう。

 

そして更に後方にもう一人下士官と思しき少年が立っているのだが、直立姿勢のまま微動だにしない。

軍人としての規範的とも言える態度だが、緩い鎮守府しか見たことのない五月雨さんは疑問に思ったらしい。おずおずと手を上げ、問いかけた。

 

「えっと……すいません、あちらの方は?」

「ああ、私の特別な部下だ。未だ融通の聞かん坊やだが貴官らへ危害は加えんと誓おう、護衛の一人として扱って貰いたい」

 

何分、少々厄介な身の上なのでな。ふみこ少佐はそう言って軽く口端を上げる。

 

厄介? 今度は俺も混じって首を傾げたが、すぐに思い出した。

そう言えばふみこという名は聞いた事がある気がする。何だっけ、確かかつて空軍の魔女集団、ヴァルキューレ部隊の長を務めた経歴を持つ凄い人とか何とか。

それならば護衛も納得ではある。あるがしかし、何故そんな人がわざわざこんな任務に来たのだろう。

 

「少し、私の勘が囁いた。それを確かめに来た……といった所だ」

 

おお、意味は分からないけれど、何か格好いいぞ。

まぁ俺としてはこちらに敵意が無いのならばどんな目的でも構わない。一先ず頷き疑問の全てを流すと、ナデシコさん達を集めてある客室へと案内する。

 

「あのぉ、提督さん。この光子力鎮守府は我々からしても謎の多い場所なのですが、変わった施設等があるのでしょうかぁ?」

 

そうして途中青葉さんの好奇心旺盛な質問にぽつぽつと返す内、客室に到着。こちらへどうぞと扉を開け放ち、彼女達を招き入れ――。

 

「…………」

 

入ってくれない。

何故かふみこ少佐は僅かに驚いた様子で立ち止まり、ぱちくりと瞬き室内を見つめている。

 

するとその様子に疑問を持ったのか、背後に控えていた少年が俊敏な動きで銃を取り出し、彼女を庇うように前に出た。俺も彼を追って部屋へと振り返り。

 

「……あれ? アンタ……」

「…………はぅぅ」

「わあぁ!? ダナンさん、鼻血、鼻血!」

 

ふみこ少佐と見つめ合い、訝しげな表情を浮かべる夜明けの船さん。そして少年――カシム軍曹の姿を見て、ボタボタと鼻血を垂らすダナンさん。

そんな二人の様子に、俺は猫吊るしと一緒に首を傾げた。

 

 

 

 

「あー、と。もしかしてアンタ、ニャンコポンかい? 大分印象違うから分かんなかったよ」

「……まさか、またあなたと――いや、厳密には違うのかしら。何とも奇妙な再会ね、封印したままにすればよかったわ……」

「ハッハッハ、まぁ乗ってない世界もあったがね」

 

どうやら、ふみこ少佐と夜明けの船さんは既知の間柄であったらしい。

直前までの軍人口調を乱し、たおやかな女性口調で話す彼女は微妙な表情を浮かべ、こめかみをトントンと叩く。そうは見えないが、余程衝撃的であったらしい。

 

……いや、元艦艇の艦娘と既知? それって凄くおかしくないか?

疑問が脳裏をよぎるものの、しかし考え込む余裕は無い。ちらりともう一方に目を向ければ、こっちではダナンさんとカシム君が何やらイチャこいていた。

 

「あの、もしよろしければ、お名前を聞かせて貰っても良いでしょうか」

「は、はっ。カシム軍曹であります」

「サガラさんですか、良いお名前ですね……ええと、ソースケさんとお呼びしても……?」

「はっ? いえ、カシムですが……?」

 

ああ、何か既視感。

思わず室内に控えるナデシコBさんを見ると、素知らぬ顔で目を逸らされる。いや、そういう反応した時点で、もうね?

 

まぁ、今はそんな事はさておいて。俺は場を鎮める意味を込めて柏手を打ち鳴らし、こちらに注意を向けさせる。

何やら色々と縁めいた物があるらしいが、とりあえず図鑑用の取材を終わらせた後にしよう。手早くそう告げると、俺はポカンとした様子の青葉さんの肩を叩いたのであった。

 

 

「……ここでは、あのような者ばかり建造されるのか?」

 

で、ナデシコさん達の取材が始まり、ナデシコさんとユーチャリスちゃんがアキトアキトとやかましい事この上ない中。隣に座りそれを眺めていたふみこ少佐がポツリと零す。

 

あのような者、というのが何を指すかは今更考えるまでもないな。うんそうですと頷けば、彼女は静かに目を閉じた。眉を寄せ、疲れたような表情だ。

一体どうしましたと問いかけると、彼女曰くこの鎮守府に居る艦娘は本来であれば呼ばれるべきでは無い存在なのだそうな。でしょうね。

 

……あれ、でも何でふみこ少佐はそんな事知っとるんじゃろか――そんな疑問を乗せた眼を送れば、彼女の瞳がユラリと光る。

その「触れちゃいけませんよ」感たるや半端なもんじゃ無く、眼に乗った疑問をそのまま目ビームの燃料にくべ非ぬ方向へ射出し痕跡隠滅。命って大切だよね。

 

「ふ……危機回避の勘は中々と見える。愚鈍ながら長生きをする人種だな」

 

お褒め頂き恐悦至……いや褒められてねぇなこれ。

 

ともかく、俺は危険を犯してまで秘密に迫る気は微塵も無い。

現状だってナデシコさん達を始め艦娘達の正体も含め色々と気にはなるが、まー皆いい娘だし。だったらそれで結末としようじゃないか。疑問を全て投げ捨てた俺は、黙って取材鑑賞へ戻る事にした。

 

「は、はい、成程。ナデシコ級の皆さんはアキトさんという人が大好きであると! 分かりました、では次は潜水艦の方々どうぞぉ!」

 

どうやら丁度ナデシコ級の三人の取材が終わったらしく、続いて同じ新しい艦娘である潜水艦達へ移る所のようだ。

青葉さんはどことなく引きつった表情を浮かべながらナデシコさん達の背を押し込むと、せっせとダナンさん達を促した。お疲れ様ですホントに。

 

……しかし、そういえば俺もまだ彼女に関しては完全に人柄を把握していないんだよな。いい機会だ、果たしてどんな事を喋ってくれるのかなとその内容に気を割いて。

 

「ではダナンさん、まずは自己紹介の方から!」

「はい、トゥアハー・デ・ダナンです。フリーの潜水艦で、好みの男性は任務に実直で頬にバッテン傷のある男性です」

 

何言ってんだろね。俺んちこんなんばっかりか。

 

「……えー、そういう事ではなくてですね、艦娘としてのあれやこれやを」

「あら、そう言えばそこにピッタリの方が居ますね。その、どうですか……?」

「は、はっ? その、一体どういう事か、自分にはよく……!」

 

何つーか、完全にターゲットしたらしいなあの娘。

あんな可愛い娘に迫られるとか、やっぱいいなぁ。そうダナンさんにアピールされるカシム君を羨望の視線で見つめていると――ガタン、と隣のふみこ少佐が立ち上がる。

何気なく顔を見れば、そこには不敵とも怒りとも取れる表情が浮かんでいる。そして彼女は俺に「失礼する」と残すと、ダナンさんの下へ歩いて行った。

 

「……総統、国光、光太郎、ついでに金に続くいい男だ。そう簡単には――」

 

何やら小声で言っているが、なんのこっちゃ。

そうしてダナンさんと小競り合いを始めたふみこ少佐を見ていると、何時の間にか近くに来ていたらしい夜明けの船さんがボソリと呟いた。

 

「……アイツのいい男漁りの趣味も変わってないねぇ……」

 

…………。

 

とりあえず足元に居た猫吊るしと見つめ合い、俺は自分の顔を指差す。「ハッ」と鼻で笑われた。

むいーっと彼女の頬を引っ張ったが、どこもおかしくはないのである。畜生。



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万能艦&輸送艦

山もなく谷もなくまったりと


 

図鑑の話であるが、夜明けの船さんとナデシコBさん以外の全員は要約して色キチという扱いに落ち着いた。

 

まぁ、そうなるな。あれだけ天河くんの事を連呼し、ダナンさんに関しては実際カシム君を口説きまでしたのだ。これを色と呼ばずして何と言う。

とりあえず、彼女達の項は実際に建造を成した提督でない限り見えない仕様という事が救いなのだろうか。ようやく図鑑という言葉の意味を知った図鑑を閉じ、深く頷いた。

 

ま、それはそれとしてほっといて。

 

 

「提督、そういえば私達って遠征任務しなくて良いんですか?」

 

五月雨さんがそんな疑問を放ったのは、とある雨の日。

海域の安全性が云々と理屈を捏ね、鎮守府全体を休暇の日とし何時もの三人+一匹で執務室に集まりまったりと過ごしていた時の事だった。

 

一体どうした突然に。猫吊るしに自作の衣装を飾り付けつつそう問えば、五月雨さんは雨の落ちる窓の外を見つめつつ語る。

何でも演習先の娘さんからオリョクルがどうの八十時間がどうのと話を聞いてふと気になったらしい。何それ、そんな事してんの他所の家。

 

しかし確かに、この鎮守府では遠征任務をこなした事は無かったなぁ。忘れてたというか、人員不足で遠征まで気が回らなかっただけなんだけども。

今じゃ第一艦隊の枠が埋まるくらいの人員が集った事だし、そろそろ部隊を分けて一回くらいは遠征とやらをやってみようか。

巫女服姿でポーズを取らせた猫吊るしを脇にどけ、そこらにあったチラシの裏に我が部隊の艦娘達の名を連ねる。

 

「……あ、部隊をどう分けるか考えるんですね!」

 

肩口から顔を出す五月雨さんにウムと頷く。六人全員でカチ込むのも良いだろうが、それはそれで俺がぼっちになって寂しくなるからヤダもの。しょうがないね。

 

さて、にしてもどうするかな。猫吊るしが袖口を引いて自分の顔を指差しているのを無視しつつ、考える。

他所ではドラム缶持った潜水艦だけで回してるとか何とか聞いた気もするが、それ多分プロがやる事だよな。いや俺もプロだけどそういう意味じゃないっつーか、まぁいいや。

 

初心者がやるとなると……やっぱ3:3が基本かなぁ。とりあえずナデシコ級の三人を一組とし、五月雨さんと潜水艦二人で2チームとしてみる。

面白みは少ないかもしれんが、初めてに求めるもんでもないしね。これが鉄板でしょう、多分。

 

後はナデシコBさん、夜明けの船さん、ダナンさんで薄髪色チーム。夜明けの船さん、ユーチャリスちゃん、五月雨さんで母と子チーム。

ついでにナデシコさん、夜明けの船さんとそれ以外でバインバインチームとか考えたけど、それは顰蹙買うだろうから心の中に留めておいて。幾つか候補を書きつらう。

 

まぁ結局は始めに考えたナデシコチームで行くと決まった訳だが……うーむ、こう考えるとやっぱりもっと人員欲しくなるよなぁ。せめて第二艦隊を作ってコンスタントに遠征任せられるように出来るくらいには。

しかし建造するにしても、どうせまた結構な時間かかる事になるんだろうなぁ。一応ドックは全て解放済みであるが、一週間二週間、ヘタしたら一月単位になると考えると億劫になって建造ボタンを押し辛いのであるが――。

 

「そうですか? 私は新しい仲間が増えるの、楽しみですけど……」

 

あ、そう? じゃあやるかぁ。

俺の手首はモーター稼働。五月雨さんの要望にあっさりと意見を翻し、早速工廠へ向かったのだった。

 

……で、試しに新しいドック二つを使ってみたが、やっぱり数字は??:00:00。

どうやらドックの新旧は関係なかったようですね。分かってたけど何なんだよもー。

 

 

信じて遠征に送り出したナデシコさん達が僅か五分前後で任務終了してきた。どういう事だよ。

 

いや幾ら練習航海っていっても早過ぎるでしょう。ちゃんと燃料も集めてきている辺りサボりではないんだろうが、ちょっと意味が分からん。

出撃したと思ったら帰ってきた彼女達に驚くやら労るやら。まぁとりあえず何があったか聞いてみれば、どうやら彼女達にはワープ機能のようなものがあるらしい。以前天河くんを追い詰めるのに使っていたアレだろうか。

 

「ボソンジャンプ、と言います。スピン角運動量が整数倍を取るボース粒子を利用し、レトロスペクトの概念を用いた――」

 

成程、不思議ワープという事だな。淡々と注釈を垂れるナデシコBさんを遮りそう結論付ければ、溜息と共に呆れられた。仕方ないだろ分かんねぇんだから!

 

とりあえず掻い摘んだ所によると、そのワープ航法はイメージ出来る場所ならどこにでも跳べるとの事。そういや遠征先の海域は出撃で何度も行った場所だったっけか。

で、本来ならば遺跡?ってやつとか特殊なクリスタルが必要なのだが、艦娘となった事でそこら辺が適当になったそうな。そうして十分前の過去の海域に跳び、五分で帰って来れたという訳だ。うむ。

 

……いや、どういう訳だ?

十分前に跳ぶってあんた、それってタイムマシンじゃん? ワープ、関係なくね?

 

「えー……時間移動出来るなら場所移動もオッケー。という事でどうですか」

 

おお、それなら分かりやすい!

ナデシコBさんの簡潔な説明に眼から鱗。そりゃ時間をウロチョロできたら位置もウロチョロできるわな。なるほろなるほろ、またぞろ一個賢くなった。

「……てけとー提督」ぼそっと何か聞こえた気もするが、疑問が解けたことにスッキリしていたので聞こえなーい。

 

「速度なら私らも負けてないんだけどねぇ」

「流石にワープにはちょっと勝てませんねぇ」

 

すると夜明けの船さんら潜水艦組が何やらしみじみと零していたが、あなた達も大概バケモノだという事には変わりあるまい。

むしろナデシコさん達がイメージ出来ない場所においては、夜明けの船さんやダナンさん達の方が早く済むのではないだろうか。

 

しかしこうなると鎮守府運営の幅が広がるなぁ。久方ぶりのスケジュール管理にウキウキ気分、五月雨さんを巻き込んで遠征任務の振り分けを考える。

俺デリカシー欠如してるってよく言われるからね。女の子特有のアレコレとか知らんし、頼りにしてますお姉さん、なんつって。

 

「お、お姉さん……は、はいっ! 任せて下さいね、提督っ!」

 

そうして何故か張り切る彼女と共に、久方ぶりのお仕事タイムを過ごした俺達であった。

 

 

 

「――セレスティア七大秘宝のひとつ、万能艦バンエルティア号です。大海賊アイフリードの軌跡はここにあり、あなたに御せるでしょうかね」

 

「――輸送艦、イオニアです。ええと、艦娘って事で呼ばれたみたいだけど、僕……いや、何でもないです……」

 

 

11日後。建造が終わったのだが、何か変なのが来た。

いやこれまでの人達も大概変な人ではあるが、今回は何かこう、SFではなくファンタジーの匂いがするのだ。自分でも何言ってるか分からんけど。

 

バンエルティア号ちゃんは浅黒い肌と金のベリーショートが特徴的な、どこと無く海賊の雰囲気を持つ十代前半くらいの女の子。

額に大きな宝石のような物がひっついているのがものすごく目を引くが、艦艇時代の名残か何かだろうか。ともかく元気いっぱいのボーイッシュな子である。

 

対するイオニアちゃんも、バンエルティア号ちゃんと同い年くらいのボーイッシュな印象のある子だ。

しかしモジモジと何かを言い淀む仕草はとても可愛らしく、また艦装も殆ど持っていない為大人しめの性質である事は見て取れた。現代風の服装を纏っており、もしかしたら近代の艦艇だったのかもしれない。

 

何か静と動の違いはあれど共通点のある娘さんが出てきたなぁ。とりあえず俺も二人に一礼を返しつつ、五月雨さん達に紹介するべく執務室へと案内する。

 

「……あ、どもっす、提督。新しい艦娘っすか、そこの子ら」

 

すると、廊下を歩く途中に天河くんと行き会った。何やら大きなダンボールを持ち、食材の輸送中であるようだ。

どうやら忙しいようなので二人の紹介もそこそこに立ち去ろうとしたのだが、輸送艦の本能が騒いだのかイオニアちゃんが何やらおずおずと切り出した。

 

「あの……もし良かったら、それ運ぶの手伝いますか?」

「ん? ああいや、別に平気だよこれくらい。それに君これから顔合わせに行くんだろ。ナデシコはともかく、Bちゃんやダナンさんとか待たせるのは……」

「いえ、そういう事じゃなくて……実際に見せたほうが早いかな。それっ」

「うおっ」

 

ポン、と。イオニアちゃんが腕を翳した先に、突然一台の台車が現れた。思わぬ現象に皆驚き、思わずたじろぐ。

 

「僕、簡単な家具くらいなら自分で作り出せるんです。それ良かったら使ってください」

「……お、おおう。あ、ありがとうな、何か……?」

 

天河くんは混乱した様子で何度も礼を言うと、おっかなびっくりその台車を押して去っていった。「後で食堂に来たらラーメン奢るよー!」と遠くで聞こえたが、彼の腕は褒美になる程上がっているのだろうか。

 

まぁそれはともかく何とも特殊というか、凄い能力を持っているもんだ。輸送艦ってそういうもんなのかしら。

そう半ば感心していると、それに競争心が刺激されたのかバンエルティア号ちゃんが大きく身を乗り出して来た。負けず嫌いな一面があるようだ。順当。

 

「ボクだって負けてませんよ。艦首大晶霊砲の一撃に耐えられるものなんてありませんし、何よりインフェリアとセレスティア、他にも様々な世界や海を巡り――」

 

大海賊アイフリードがどうだとか、全長や航行速度がどうだとか。色々と自慢されたが、正直我が家の艦娘達の印象もありイマイチ驚くことが出来ない。

 

「……その顔、もしかして法螺話だと思ってますか? 嘘じゃないですよ、ボクの性能はホントにですね!」

 

そんな俺の空気を察したのかムッとした様子で言い重ねるが、別に信じてない訳じゃないんだって。

ただ主砲にしろ何にしろ、グラビティブラストやワープ、夜明けの船さん達の速度を知ってる身としては驚き辛い訳で。ねぇ?

 

「ボクにだってワープくらい出来ますよ。転送室という機関がありますからね、その程度造作もありません」

 

おお、それは素直に凄いし嬉しい。パチパチと手を叩けば気分を良くしたようで、得意げな表情で話を続ける。

 

彼女曰く、元の艦艇には医務室や遊戯室など様々な機能施設があったらしく、話を聞く限りでは正に万能艦の名に相応しい器用さを誇っていたとの事だ。戦闘より、それ以外の方面に特化している印象を受ける。

イオニアちゃんの能力と言い、今回の艦娘さんはちょっとトリッキーな娘達だな。とりあえず歩みが止まっていたので話を適当な所で切り上げさせようとすると――「あっ、提督っ!」執務室の方角から五月雨さんが走ってくるのが見えた。

 

どうも遅い事を心配して様子を見に来てくれたっぽい感じ。俺は彼女に軽く手を振り、バンエルティア号ちゃんの背を押そうとして。

 

「――それに、休憩所としても利用されていました。提督がボクと一緒に寝れば、色々元気になれますよ」

「…………えっ」

 

ぴたり。五月雨さんが固まった。

ああ、うん。何というか、ちょっとベタすぎやしないだろうか。俺今肩を抱くように背中に触れた姿勢だったし、古典的っつーか、タイミングがさぁ。

 

「あ、あのっ、おじゃましっ――」

 

しかしそう簡単には終わらんぞ。

俺は一瞬で顔を真っ赤にして逃げようとする五月雨さんに向かい猫吊るしをシュート。その顔面に張り付かせ目隠しをかけ、見事なコンビネーションで五月雨さんの逃亡を阻止したのであった。

 

当然ながら誤解を解くのに結構な苦労をした訳だが、それから何故か執務室に枕が置かれるようになった辺り微妙に解けていない気がしなくもない。

何だ。俺はこの何やらいい香りのする枕を使って何をすればいいんだ五月雨さん。いやお姉さん。ねぇちょっと。

 

 

「へぇ、アンタそんなナリしてご同輩かい。キュベルネスの奴に比べたら可愛いもんじゃないか、ハッハッハ」

「ちょっ……勝手に頭撫でないでください、まったくもう!」

 

以上、初顔合わせの際のバンエルティア号ちゃんと夜明けの船さんの会話である。

ご同輩、という事は夜明けの船さんは元は海賊船として運用されていたのだろうか。まぁそれっぽい雰囲気はあるけども。

 

それはさておき。少々毛色の違う新造艦の二人だが、皆にはそれなりに受け入れられたようである。

妹分、というより弟分のような空気であるが、最年少(見かけ)のユーチャリスちゃんと一緒に可愛がられているようだ。

天河くんやナデシコさんにべったりだった彼女も、徐々にバンエルティア号ちゃんたちと三人でつるむようになったりして、彼女達だけでチームを組ませるのも良いかなと思う今日此の頃。

 

「……あの、提督。少し良いでしょうか」

 

そう言って猫吊るしのほっぺたを弄る俺を訪ねてきたのはダナンさんであった。

彼女がわざわざ来るとは、はて一体何事か。カシム君に会う口実となるふみこ少佐との演習なら来週に組んであるけども。

 

「本当ですか? あ、いえ、今回はそのことでは無く」

 

一瞬喜色ばんだがすぐに平静を取り戻し、語り始めたのはイオニアちゃんの事。話を聞くと、どうもあの子に対し疑念を抱いているらしい。

 

……ついに女の子同士でギスる感じのアレがウチの鎮守府に? 思わず脂汗を垂らしたものの、そういう訳でも無いようで。

じゃあどういう事なのさ。そう問えば暫く言い辛そうにしていたダナンさんであったが――やがて意を決したように顔を上げた。

 

「――あの、イオニアさんって、本当に女の子なんですか……?」

 

――沈黙。

それはそれはずっしりとした空気が俺達の周囲に漂い、室内の空間を淀ませる。

 

「バンエルティア号ちゃんは、分かるんです。背伸びしてますけど、相応に女の子ですし……」

 

しかし、イオニアちゃんはそうで無いのだそうだ。

 

無論、とっても良い子である事は疑いないのだが、女の子としてみると違和感があるのだという。

ふとした仕草、ふとした言葉、ふとした表情――見かけは確かに女の子に見える。見えるが、しかし。

 

「――すいませーん。提督さん、居ますかー?」

 

「!」

 

噂をすれば影というべきか。ノックの後に扉を開けて入ってきたのは、噂のイオニアちゃんであった。

俺もダナンさんもビクリと肩を跳ねさせ、咳払い。

 

「い、イオニアさん。どうしたんですか、提督に何か御用でも……?」

「えっと、まぁ……ダナンさんも提督さんに用事あるんでしたら、僕待ちますけど」

 

おずおずとこちらを伺う様子たるや、まるで淑やかな女の子のようだ。思わずダナンさんと二人、マジマジと観察。

……いや、女の子だって。確かにボーイッシュではあるけども。あるけども……。

 

「……イオニアさん。前々から気になってたんですけど、女の子……ですよね?」

 

行きよった。思わずダナンさんを凝視しどういうつもりだよとメンチビーム。

おそらくいい機会だからとかそんな理由だろうが、だからって俺の居る所で聞くなよ。え、一人じゃ何か怖い? 知らんがな!

 

そんなギスる俺達の様子を他所に、イオニアちゃんは目を丸くして瞬き一つ。そしてポリポリと頬を書きつつ困ったような笑顔を浮かべ。

 

「……とりあえず艦娘だけど、お風呂と入渠は皆と別々でお願いします」

 

てれ、てれり。

気まずげに、それでいて恥ずかしそうに身を捩るその姿に俺達はあっけなく轟沈。

 

白だとか、黒だとか。アワビとかキノコとか。まぁ、可愛ければどっちでも良いよね。

俺は鼻血を出したダナンさんと大筋で合意し、抱く疑問を何時もの様に遠投したのであった。そら飛んでけー。

 

 

とりあえず海に出て幾戦か経てみたのだが、二人で組ませると割と安心して運用できる事に気がついた。

 

バンエルティア号さんは単独で攻撃・機動役がこなせるのであるが、バリア的な物が無い為やや安定性に欠ける。

対してイオニアちゃんは攻撃役としては削りとしてしか期待できないが航行速度に優れ、加えて守りの光とかいう謎バリアで守備役を担う事が出来る。うまい事噛み合っていた。

 

『イオ・キラ! イオ・キララ! 駄目だ、倒せない!』

『全くしょうがないですね、攻撃はボクに任せてください。その代わり防御は頼みましたよ!』

『う、うん、それは平気!』

 

うむ、仲睦まじくて何よりである。

 

後はこれに航空機を持つユーチャリスちゃんと、潜水艇のダナンさんか夜明けの船さんを入れれば遠征役も兼ねて一先ずいい感じになるかもしれない。取らぬ狸の皮を算用しつつ頷く。

……五月雨さんを入れても良いかもしれないけど、それやると秘書から外れちゃうからね。しょうがないね。

 

「……ユーチャリスちゃんと、部隊別れちゃうんですねー……」

 

その五月雨さんが組分け表を覗き、そう零す。

そういえばナデシコ級の三人とは早期……ではないが、長い事一緒に任務に当っていたっけ。それを思えば寂しい物もあるのだろう。

 

ちくちくと痛むものがあるが、幾ら俺でも感傷で部隊配置を行えという教育は受けてない。

ポンポンと五月雨さんの背を叩くに留め、気を紛らわせる為に旗艦を誰にしたら良いかなと話を振った。

 

「旗艦ですか……練度的にはユーチャリスちゃんが一番ですけど……」

 

しかし、あの無口無表情である。よーく見れば喜怒哀楽の表情も分かりコミュニケーションも取れるのだが……果たして本人がやりたがるかどうか。

無難に考えれば潜水艦組のどっちかになるのだが、さて。

 

「――話は聞きました。ならばボクに任せてください!」

 

バターン!

扉を開けて出てきたのは、まぁ話の流れからしてバンエルティア号ちゃんですよね。やっぱワープって便利ね。

 

ともかく何か旗艦やる気マンマンだけど、そんなやりたいの?

 

「ええ、ボクはこれでも大海賊アイフリードの、そしてその子孫の船ですからね。御旗の一つできないようじゃ、彼女達に顔向けできません」

 

アイフリードさんとかの事はよく知らないが、何だか凄い気迫だ。

とりあえず本人がやる気ならばそれで良し。俺は特に問答する事無く書類に判を押し、彼女を第二艦隊の旗艦にすると決める。しつこいようだが俺軍属です、頭良さそうでしょ?

 

「あ、艦隊の名前は海精の牙でお願いします」

 

おお、何か格好いいな。

気分を出してローマ字で艦隊名の欄を埋めていると、五月雨さんが何とも言えない表情でバンエルティア号ちゃんを見ている事に気がついた。

 

「……あの、これって秘書艦が増えるって事ですか?」

 

え? いや別に一人のまま変わんないよ。そう言えば彼女は気の抜けた顔に変わり、ほっこりと息をつく。

何か気になる事でもあったのだろうか。俺は同じく怪訝そうにするバンエルティア号ちゃんと顔を見合わせ、首を傾げ合い……。

 

…………。

 

……あれ、何時もは猫吊るしとやるべきオチなんだけど、奴の姿が見えないんだが。

 

気になってキョロキョロと辺りを見回すと、ゆっくりと蝶番を戻すドアの裏で壁にめり込む猫吊るしの後頭部を発見した。

どうやら先程の「バターン!」で潰されていたようだ。さもありなん。

 

……慌てて介抱する五月雨さんとバンエルティア号ちゃんだが、残念ながら手遅れであろう

俺はゆっくりと奴に向かって手を合わせた。途端復活した猫吊るしの妖精とは思えぬクソ重い爪先が顔にめり込んだ。

 

まぁとにかく、第一第二艦隊纏めて残りはあと4枠。

せっかくだから一気に建造してしまうか――そんな事を考える傍ら、妖怪との激闘が今ここに始まったのであった。ほっぺた引っ張るぞコラ。

 




宇宙戦艦的なのはもう波動砲持ち大和さんの作品があったので……


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突撃艦+α

 

――密着! 謎多き秘海、光子力鎮守府の実態に迫る!

 

そんな見出しが踊っていたのは、本日の朝刊。本営から発行される情報雑誌の一コーナーであった。

どうやら以前ふみこ少佐のとこの青葉さんから受けた適当な取材が、まかり間違って形になってしまったらしい。

驚きで吹いた茶で猫吊るしを濡らし、むせ返りつつ慌てて目を通す。

 

――我らが艦娘達の帰るべき家、鎮守府。数多く存在するそれらの中で、特に情報の少ない光子力鎮守府という秘境がある。ワレアオバは極秘ルートから未知の跋扈する彼の場所へ――。

 

云々かんぬん、連々至極。

怒った猫吊るしにポコスカやられながら読み進めてみたものの――まぁ、誠に残念ながら、大した事は書かれていなかった。

 

精々が新しい艦娘が生まれた、ホウメイさんのラーメンが美味しい、土産の光子力煎餅が美味かった――そんな雑事を仰々しく語っているだけで、半ば食べ歩きレポートの様相だ。

仕事の無い俺がサボってるだの窓際閑職だの、青葉さんに愚痴ってしまった給料下がるような話は一切書かれておらず一安心。猫吊るしをタオルで拭きつつほぅと息を吐いた。

 

「提督っ! おはようございます、今日は何を――って、どうしたんですか?」

 

そう元気よく部屋に入ってきた五月雨さんが俺達の様子を見て首を傾げた。どう説明すべきか考えたが、とりあえず雑誌を差し出し丸投げておく。俺の特技は遠投です。

当の五月雨さんは言われるがまま開かれたページに目を通し、何となく察してくれたようだ。ふむふむと頷きつつ、何故か慎重にこちらの様子を窺って。

 

「……えっと、提督ですら秘匿の心配をする程、この鎮守府には知られちゃまずい秘密がある……ので、しょうか」

 

違った。何か真面目な方向に勘違いされていらっしゃる。

というか「提督ですら」の部分に決して褒められない信頼感が見えた気がするのだが、俺は泣けば良いのだろうか。

 

……いやまぁ、彼女の言う事もあながち間違っていなかったりするけども。

 

「え……やっぱり曰くとか、あるんですか……?」

 

そんな俺の呟きを聞き取ったのか、五月雨さんの慎重の中に僅かばかりの好奇が灯る。怖いもの見たさというやつだろうか。

 

まぁ、とにかくあれだ。簡単にいえば、ここは沢山のよく分からん物の入れ物なのだ。

まだ深海棲艦というよく分からん奴らとの戦いが始まったばかりの頃。俺達人間はそれに対抗するため、大量のよく分からん物を生み出した。

オーバーズシステム?とかシロガネドライブ?とか、何か知らんが当時は優秀なオツムが多く、結構大層な物が開発されてたらしい。結局はその前に艦娘という存在が確立してしまい全ボツになった訳だが。

 

で、そうして生み出しかけたよく分からん物達は、当然日の目を見ること無く殆どが廃棄される運びだったのだが、それは勿体無いんじゃねーのと貧乏性の誰かが言った。

そうしてその気になったら研究再開してみよっか的な感じになり、現状出来上がっちゃってた物全てを一箇所に纏め、光子力とかいうこれまたよく分からんものでラップしたのである。いやー、フワッフワ。

 

「そ、それがここなんですか? といいますか、どうしてそんな場所に鎮守府を……」

 

何かいい感じの土地だったから、貧乏性ついでに鎮守府もおっ建てたらしい。まぁ俺以外の提督が着任してない所を見ると、無駄金使っちまった感が半端ないけど。

俺が言うのもなんだが上から下まで適当な事極まりなし。そう言ってカラカラと笑っていると、ではどうして俺はここに来たのかと問いかけられた。

 

いやこちらとしては辞令でとしか答えられないのであるが――まぁ、何となくその理由は分かる。きっとやたら疑問をそのままにしたがる適当加減を買われたのだろう。

下手にやる気あったり野心とかあるとほら、何か掘り起こして変な事やらかしかねんし。例えば同期のダイゴウジとかエスカルゴンとか、悪い奴じゃないけどぜってーロクな事しねーよあいつら。

 

「……あの、それって大丈夫なんですか? 私に話しちゃったりして……」

 

良いんじゃないの別に。情報統制受けて無いし、特に問題ないさ。なぁ?

 

そう猫吊るしに目を向ければ、奴は青葉山の雑誌を大きく広げていた。そして指差したるはある一文、「特に情報の少ない光子力鎮守府という秘境が……」。

……おっとー? やっぱ秘密にしといた方が良いかもしれない。察した俺は慌てて五月雨さんの肩に手を添え、脂汗と共に他言無用を念押しする。

 

「……あ、これって二人だけの秘密ですよねっ?」

 

すると何やらニコニコ顔になった五月雨さんだったが、隣で自分の顔を指差す猫吊るしの姿が見えないのだろうか。

ともかく秘密にしてくれるようで一安心。ついでに賄賂の意味も込め、秘蔵の高級茶葉をご開封。

 

……しかし、あれだな。振り返って思ったが、そりゃまともな艦娘さんなんて出る訳無いよねぇ。俺はしみじみ思いつつ、ヤカンの火を入れた。

そろそろオサレなポッドに買い換えるかなぁ。

 

 

「――ステルス戦艦、ヘルズゲート・アタッカーでーす! にゃ~んと科学と魔導の愛の子! ラメ入りペプシマンですら穴だらけにする凄い子だけど、この姿だと満足に性能発揮できませ~ん! ふざけんなコラ!」

 

「――スタンドアローン・スペースシップ、ダッカー号。種類としては突撃艦や強襲艦とかになるのかな? まぁ、よろしく頼むよ」

 

はい。いや、はいじゃないが。

とりあえず一気に4ドックでの建造を行い資材をすっからかんにした13日後。内2つのドックから出てきた彼女達は、それはそれは個性的な格好をしていた。

 

まずヘルズゲート・アタッカーちゃんというごっつい名前の少女。まるで魔女のような羽飾りの付いた帽子とマントを身に纏う、やたら騒がしい女の子である。

腰に差しているのは……フルーレかレイピアか、艦娘としては珍しく刀剣武器を携えているのが目に付いた。そういうのは時の政府寄りな気もするが、まぁ細かい事は言うまい。

それより魔導だとか性能発揮できないとか、そっちの方が気になる。特にラメ入りペプシマンの下りとか意味分かんなくて逆に興味あるわ。

 

……んで、お次のダッカー号さんだが、こちらは最早人間かどうかも疑わしい風体だ。

やたらメカメカしいSFチックな衣服。その隙間に覗く肌は灼熱に炙られたかのような赤みを持ち、黒と青の二色しか無い眼球の他に額に大きな眼が一つ。宇宙人と表現するのがしっくり来る感じである。

それにスペースシップとかいってたし、ひょっとしてこれガチな奴かな。ああ、うん。火星がどうのこうの言ってた夜明けの船さんが居るからね。今更だけども。

 

まぁそれはそれとして、俺も彼女らに自己紹介やら何やら話しつつ執務室へとご案内。

遠征任務に就いているボクっ娘二人とユーチャリスちゃん、ダナンさん以外のメンバーと一足お先の顔合わせである。

 

「新しい仲間の方ですね、よろしくお願いしますっ!」

「わぁ! 見て見てBちゃん、目が3つあるよ、3つ!」

「ゲキ・ガンガーに似たような人居ましたね。ともあれよろしく」

「何の知類か分からんね。ま、今の私は天辺じゃないから試験はパスだ。これからよろしく頼むよ」

 

言わずとも分かるだろうが、上から五月雨さん、ナデシコさん、ナデシコBさん、夜明けの船さんの順だ。

やはり特殊な外見をしているダッカー号さんが珍しいのか、ひっきりなしに話しかけている。しかしそこに嫌悪というか、そう言った感情は無く、何らかの覚悟をしていたらしい彼女は目をパチクリとさせた。

 

「あ、ああ、どうも。……何か調子狂うな、素直に受け入れられるのは」

 

艦艇時代、素直に受け入れられない事があったのだろうか。まぁ仲良しなのは良い事だ。

片やヘルズゲート・アタッカーちゃんも特に問題なく受け入れられたようで、特にナデシコさんとの相性が良さそうだ。そわそわと彼女の周りをうろつきつつ、キラキラと目を輝かせている。

 

「にゃ~ん……それってバリア? エネルギーフィールド? ねぇねぇ」

「え? うん、ディストーションフィールドって言うの。空間を歪曲させてるとっても凄いバリアなんだよ!」

「ほーほーにゃ~る……ちょっと突撃してみておk?」

「おけ? ……オッケー!」

 

――バッ、と。そんな意味不明の提案を聞いた瞬間ナデシコさんは大手を開き、ヘルズゲートちゃんの艦装が展開した。

導力炉より溢れ出る燐光の全てが推進エンジン部分へと集合。その回路を焼き付かせながら鮮烈なるプラズマ電光を発生させ――いや、何してんの君たち。

 

「いやっふゥーーーー!! ワタシバリアに突っ込むの大好きぃぃぃぃぃッ……!!」

「いよーっし、バッチコー――!」

 

俺が止める前にヘルズゲートちゃんは奮進炎を上げて突撃し、バリアに激突。数秒だけ火花を立てて拮抗、後、音を立ててバリアをブチ抜きナデシコさんの豊満なバストに飛び込んだ。

しかし当然ながら爆発的な推進力がそれで収まる筈もなく。彼女達は二人仲良く音速を越えた速度ですっ飛び、壁に人型の穴を開けつつ外へとフライハイ。

 

無茶苦茶しやがる。俺も衝撃波にフラつきつつ慌てて彼女達を追って壁穴を覗き込み――「あいたたた……」背後に何とも形容しがたい音を立てて二人が落ちた。どうやらボソンジャンプで未来から帰ってきたらしい。

 

「わ、だ、ダメですっ!」振り向く直前、そう五月雨さんに目隠しされた辺り、おそらく中破か大破にはなったのだろう。

ともかく一体何が起こったというのだ。とりあえず猫吊るしに入渠申請の書類を書かせながらヘルズゲートちゃんに問いかければ、何でも彼女はバリアを貫く事に全身全霊をかけるタイプの女の子なのだそうだ。意味分かんねぇ。

 

「にゃ~ん……ナデシコさん、ごめんね? バリア見るとつい抑えが効かなくなっちゃって……」

「だ、大丈夫大丈夫。ナデシコ級はナナフシ以外じゃ墜ちません、ぶいっ!」

 

幸い当事者達に引っ掛かりは無いようで安心したが、だからと言ってこれは無いんじゃなかろうか。

ヘルズゲートちゃんにやるなら外でやってねと軽く言い含めていると――夜明けの船さんとダッカー号さんのやたら真剣そうな会話が聞こえてきた。

 

「中々の突撃じゃないか……安全性無視すりゃ私超えてるかもしれないねぇ」

「ええ、ボクもゲスジャークに溶岩にと数々の突貫をしてきましたが、あそこまでの凄い特攻は……」

 

艦娘さんって皆こんなのばっかりなのかな。確かに特攻作戦とかよく聞くけどもさぁ……。

 

いや、今はそんな事は良い。とりあえず早い所直してきなさい。

俺はナデシコBさんに二人をボソンジャンプで入渠の付き添いを頼み――え? バリア的なもんが無いと危ない? ヘルズゲートちゃん持って無いの? ああ、あるんだ、じゃあ良かった――送り出すと、この場に居る皆総出で部屋の掃除を開始する。

さて、まぁ、ともかくとして。何とも個性的な娘が来たものだが、皆と上手くやれそうでよかった。執務室に開いた美少女型の穴を掛け軸で隠しつつそう頷いた。

 

……もしかして五月雨さんにも突撃願望とかあったりするのかしら。

ふと思い立った俺は五月雨さんに向かってナデシコさんよろしく手を開いてみた。彼女より先に猫吊るしが飛びついてきた。

お前じゃねぇよ。いや抱きしめるけども。

 

 

ヘルズゲートちゃん達二人は、残りの四人ともおおよそ問題なく打ち解けたようだった。

何故かイオニアちゃんがダッカー号さんの姿を見て臨戦態勢に入った一幕もあったが、仲間だと分かるとすぐに態度を軟化した。「何がフラグかなぁ」とか何とか言っていたが、さて。

 

とりあえずチーム編成をどうするかな。

四つ動かしたドックの内残り二つはまだいつ完了するかも分からんし、どんな娘が来るかもまだ分からん。まぁ焦って決める事も無いか。

 

なので腕鳴らしも兼ねて、適当な海域を回ってみる事にする。試しに夜明けの船さん、ヘルズゲートちゃん、ダッカー号さんの三人で突撃パーティーを組んでみたりして。

 

『野郎ども! 私に続きなァ、突っ込むよ!』

『にゃんッだコラー! ワタシは女の子だってばYO! さておき臨界暴走大突撃ィィィ!』

『ボクが先頭の方が良いと思うんだけど――まぁ良いか。ドリル展開、二人に続くよ!』

 

まんま海賊じゃないか。

後でバンエルティア号ちゃんもこの輪の中に入れてみるかなぁ。食堂でワンダフルラーメンを啜りつつそんな夢想をする日々である。

 

「……にしても結構人増えたっすね、ここも」

 

そうして空になった丼を置きあー美味かったと小さくゲップをしていると、何時の間にか近くに来ていた天河くんがそう言った。

その後ろには本日非番のユーチャリスちゃんが連れ添い、彼の服の端を握っている。まるで兄と妹と言った風情だ。

 

で、なんだっけ、ここが賑やかになったって話か。まぁ最初の一ヶ月くらいは妖精さんと設備勤めの人除けば五月雨さんと俺の二人しか居なかったからね。それに比べれば賑やかにもなっただろう。

 

「俺らなんて昼時でも暇してましたからね、あん時に比べりゃ大分忙しいですよ。まぁ今でも手空きの場合多いすけど」

 

ホウメイガールズなんてあんまり暇すぎてアイドルやってますからね。そう言ってテレビを付ければそこにはヒルナンデスに出演中の彼女達の姿。マジかよ。

 

「これって他のとこも同じ感じなんすかね」天河くんが何気なくそう質問するが、多分違うと思う。

風のうわさでは、他所の鎮守府は周期的に行われる大規模進軍に熱を上げる提督が多いらしい。そしてその準備として資材集めに練度上げにと日々てんてこ舞いなのだとか。

俺も一回だけ参加してみようかなぁと思った事があったが、当時はナデシコさん達が居なかった為に早々に諦めた。流石に五月雨さん一人ではあらゆる意味で不可能だったもの、あれ。

 

当時のヒーコラ言っていた頃を思い出し遠い目をしていると、ユーチャリスちゃんが静かに丼を回収していく。どうやら天河くんの力になるべくお手伝いをしているようだ。

 

「……ああ、ユーチャリスっすか? 良いって言ってるんすけど、どうしてもって。まぁ、ホウメイガールズ居ない時は助かってるけど――うおッ!? ちょ、何すか、おわッ!?」

 

相変わらず妬ましい男である。嫉妬の炎が導くままに彼の脇腹にチョップを突き込む。

 

それにしても、随分と楽しそうにお手伝いするもんだ。まっこと分り辛いが、ユーチャリスちゃんの纏う空気がどこか楽しげなものとなっている。

そうして辿り着いた厨房でホウメイさんに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めるのだ。これ戦うよりこっちの方が合ってるんじゃないか?

 

と言っても艦娘として呼ばれてくれたって事は戦うつもりであるのだろうし、俺が変に気を回しても余計なお節介となるだけか。

彼女の保護者的な立ち位置である天河くんやナデシコさんが何か言ってきたら、その時に改めて考えよう。俺は思考を放棄し、天河くん突きに精を出したのであった。

 

「……男を突いて精を出すって、なーんかホモっぽいなぁ」

 

すると少し離れた場所に座るアイテム屋さん(明石さんと言うらしい)がそう零したが、何言っとるんだアンタ。俺は手元にあった濡れタオルを遠投した。

 

 

そういや装備の開発ってやった事無いな。その事に気がついたのは、とある護衛任務に遠征部隊を送り出し一息ついた後の事だった。

 

イオニアちゃん、バンエルティア号ちゃん、ユーチャリスちゃん、そしてダッカー号さんとダナンさんの遠ざかる背を見てドラム缶持たせた方が良かったのかとふと思い、芋づる式に思い出したのである。

皆武装がイオニアちゃんを除き強力なものばかりだったので気に留めた事は無かったのだが、一つくらいは何か作った方が良いのだろうか。今更ながら検討する。

 

「そうですね。出来れば一回くらいやって頂けるとこちらとしても嬉しいのですが……」

 

通りすがりの大淀さんにもそう言われたし、やってみるかね。

俺は執務室に戻りかけたその足で工廠に向かい、妖精さんに声をかけた――のだ、が。

 

「こんなコトも! こんなコトもー!」

「せつめいを、せつめいをー!」

「ママ……つぎのやすみにもどるよ……」

「わかいモンはなっとらん! なっとらーん!」

 

ウリバタケ班長以下全ての妖精さんがてんてこ舞い。何やら残り二人の建造に手間取っているらしく、手の開いてる子は居ないようだった。一体どんな人が来るんだろう、逆に不安だわこれ。

ともかく、こんなんじゃまた後でにした方がいいかな。俺は少々の落胆を隠しつつ工廠を後にして、

 

「ひ、いひひひひぃ……ひひひひぃ! な、なにか、ごようかぁぁい……?」

 

片レンズのメガネを掛けた何となく不気味な妖精さんに声をかけられた。こんな子居たっけかな。まぁいいか。

とりあえずドクターと名乗るその妖精さんに装備開発の話を持ちかけた所、快く引き受けて頂けた。そりゃもうこちらが引く程に。

 

「ひひひひぃ! モテモテ回路ぉぉぉ! ドリルゥゥゥ! いひぃ! ぃいひひひひひひひぃぃぃぃぃ……!」

 

ドクターは高笑いを上げつつギュインギュイン回転するドリルを振り上げ、開発資材の山へ突貫。火花の雨を生み出し始めた。

へー、装備ってこんな風に出来るんだ。感心しつつ頷く内に、あれよあれよと装備完成。それはそれはいいキチ笑顔で出来上がったものを差し出される。

 

「超電ッ磁ぃぃぃぃ……すずらぁぁぁぁぁぁぁぁん……! ひぃぃぃぃぃっ! いひひひひひひひひぃ――!」

 

ドクターはそれだけ言うと詳細も何も説明せずに逃げるように立ち去った訳だが、超電磁鈴蘭って何だよ。ナントカナントカ式弾とか、そういうんじゃないのか。

俺は半ば呆然としつつ、渡された得体のしれない物を眺めた。うむ、見れば見るほどよく分からんな、これ。ホントに武器か?

 

「……にゃ~ん? 提督、こんなトコで何してんの?」

 

しげしげと眺め続けていると、突然肩口から声がして思わず背中を震わせる。

見ればヘルズゲートちゃんが好奇心を湛えた表情でこちらを覗き込んでいた。どうも暇して鎮守府内を散歩していたらしい。

 

そうだ、艦娘ならばこれが何なのか分かるかな。俺は彼女に振り返りつつそれを見せ――――。

 

「え? なになに、エロ本か何か――にゃあああああああああああッ!?」

 

――た、瞬間殴られる勢いでそれを毟り取られ、砲身に詰めたかと思うと超高速で射出した。当然超電磁鈴蘭とやらは空気分子との摩擦でプラズマ化。工廠の壁に大穴を開けた。は?

 

一体何してくれてんの! せっかく作って貰ったのにあんまりだ!

そう抗議の声を上げると、ヘルズゲートちゃんは人をも殺せそうな目でギヌロとこっちを睨む。あ、いえ、何でもないっす、ハイ。

 

「こ、これ作ったキチはどこいった!?」

 

その凄まじい剣幕にシュバッとドクターの消えた方向を指差すと、彼女はナデシコさんに突撃した時と同じく音速を越えた速度ですっ飛んだ

パァン! 空気の破裂する音と共に強烈な衝撃波が発生し、もんどり打って床を転がった。痛い。

 

――いひひひひぃ! いぃぃぃひひひひぃ……!!

――こんな所まで湧きやがってこのキチドクタァァァァッ……!!

 

……超電磁鈴蘭とは一体何だったのだろうか。腰を擦りながら思う。

とてつもない疑問が胸中に渦巻いたが、それが解消される事は無さそうだ。まぁいつもの事だから気にしねーけど。

 

 

何かダッカー号さんに気になる人ができたらしい。無論その相手は俺じゃないんだけどな。何時もの事何時もの事

 

ダナンさんから聞いた話だと、どうも先日の護衛任務の際に船に乗り合わせた小学校の教師といい感じの仲になりかけたそうな。話では難易度ノーマルプレイで9時間位のドラマがあったようだが、知るかそんなの。通りで帰ってくるまで時間かかった筈だよ。

これまでの娘達と違い「い、いやそんなんじゃないから!」と照れ臭さを滲ませている辺りまだ有情だろうか。しかしこれはこれで見ていてむず痒くなり、俺の嫉妬がマックスハート。

 

あんまりにも羨ましかったので腹いせに彼女単独で新しい任務を課してやった。

簡単な資源輸送の遠征任務。何かついでに目的地の近くに小学校があった気もするが、それは全く関係がないエレメントである事をここに明記しておく。ケッ。

 

「むぐっ……ええと、ぁ、ありがとう……」

 

良いからさっさとお行きなさい。俺は何故かこちらに礼を言うダッカー号さんをしっしっと執務室から追い払い、大きな羨望の溜息をつきつつ扉をバタム。

全く、この鎮守府には俺に対するフラグが足りない。そう憤りつつ猫吊るしを頭の上に乗せた、ら。

 

「わくわく」

「……わく」

 

何時の間にか部屋に居たナデシコさんとダナンさんが何かを期待する目でこっちを見ていた。

分かった分かった分かりました。俺は流れるように観念し、本日は休みと決定しお触れを出した。デートでもアプローチにでも好きに行くがよろしい。

 

「やったー! 行ってきまーす」

「すいません、では私も……」

「いきなり休みにするとは呑気なものですね……イオニアさん、一緒にどこか行きますか?」

「ふむ……ホウメイとでも話し込みに行くかねぇ」

 

……まぁ皆楽しそうだし、これはこれで良いか。三々五々に散っていく皆の笑顔に俺の嫉妬心が萎む。我ながら単純である。

 

そうして俺もバンエルティア号ちゃんとイオニアちゃんから一緒にどこか行かないかと誘われたが、残念ながらもう少しで新たな艦娘が建造完了する時間だ。

それを見届けるのが提督の仕事だと泣く泣く断り、皆を大手を振って見送った。部屋の残るのは俺と猫吊るし、五月雨さんの何時もの面子。

 

「…………」

 

…………。

 

「……えへへ」

 

…………。

 

……工廠、一緒に行く?

 

「はいっ! 勿論!」

 

 

 

 

例によって例の如く、工廠には妖精の死骸が散乱していた。

 

まぁドック4つを同時に動かした俺も悪いとは思うが、適度に休憩を取るよう休み時間とか設けていた筈なんだけども。

全員が全員どこか満ち足りた様子でミイラになっている辺り、きっとのめり込み過ぎて無視してたのだろうな。ありがたいやら呆れるやら、何とも。

 

とりあえず五月雨さんと猫吊るしと一緒に全員回収、纏めて医務室に放り込み、改めてドックを見る。残り時間00:00:00、どうやらちょうど完成していたようだ。

 

……だけどこれ、バンエルティア号ちゃんとイオニアちゃんを招いた3番4番ドックなんだよな。

また変わった娘さんが来るのかしらん。何となくワクワクしながらドックの開閉ボタンの前に立ち、4番ドックを五月雨さんと猫吊るしに任せ、俺は3番を解放する。

 

――プシュゥゥゥゥ……。

 

途端、同時に開いた扉から燐光と共に謎の煙が漏れ出した。今までに何度も見た艦娘さんの顕現だ。

俺はその眩しさに軽く目を眇め、不思議と高揚する気分のままにドックの中より現れる丸い人影に注視して…………。

うん?

 

「……丸?」

 

だよね。そこおかしいよね。しかしそんな疑問を相槌を返す間もなく光は払われ――そして、俺達の眼前にそれが姿を表したのである。

 

 

「――戦艦ハルバート。フフフ、いよいよ私も艦娘か……」

 

「――天かける船、ローアだヨォ。艦娘カァ、よく呼んでくれたネェ。ブラボー、ブラボー!」

 

 

「……ん?」

「……エッ? ゲェッ!?」

 

――何か格好いい仮面を被った青い一頭身と、魔法使いの衣装を纏った黒い一頭身。

 

ダッカー号さん以上に人間離れした容姿の上、何故かお互い睨み合いを始めた彼女達――声の感じからしてひょっとすると片方男か? 艦娘とは一体。

ともかくそんな目の前に展開された意味不明の状況に、俺と五月雨さんの思考は揃って機能不全を引き起こす。

 

いやぁ。確かに変わった娘が来る事を期待してた面もあったが、流石にこれは行き過ぎじゃないですかね。

その疑問に答えるように暇した誰かが光子力バリアを割る音が聞こえたが、何の意味も無かった。




何も考えずにね。ねっ。


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