Fate/lyrical ~白銀の少女と魔法少女の紡ぐ物語~ (紅鷲)
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プロローグ ~始まりの出会い~

この作品はFate/stay nightと魔法少女なのはのクロス作品です。
両作品共に独自解釈と独自設定を多用しております。
また、一部登場キャラが半オリ化している可能性があります。
そして、作者の更新速度は遅く、文章も粗末です。
それもいいぜ! どーんとこいと言う心広い方はどうぞ!

あと、一応ではありますがにじファン掲載時のものに少し加筆修正を加えております。


 

 

 

 

 気が付けば、高町なのははその空間を漂っていた。

 

 

「…………ここは?」

 

 

 何も無い漆黒の空間。

 

 上下左右見渡しても、終わり無く続く闇の空間。

 

 

「……レイジングハート?」

 

 

 思わず、胸元にいる筈のレイジングハートに語りかけるも反応が無い。

 

 

「………あれ?」

 

 

 疑問に思い、胸元に視線を向けてみると、其処にいる筈の相棒はいなかった。

 

 慌てて全身を調べるも、レイジングハートは見つからない。

 

 

「どういうこと? 一体何がどうなってるの?」

 

 

 ゆっくりと混乱する余裕等なのはには与えられなかった。

 

 何故なら―――

 

 

 ―――!

 

 

「……えっ?」

 

 

 突如なのはの前の空間が、何の前触れもなく裂けたからだ。

 

 いきなりの事態に、半ば反射的に警戒して、目の前の空間の裂け目を睨む。

 

 そのまま数秒が経過した時、空間の裂け目に人影が現れた。

 

 その人影は、ゆっくりと空間の裂け目から出てくる。

 

 なのはの目の前に現れたのは、一人の老人だった。

 

 無論、唯の老人で無い事はなのはの目には一目瞭然だった。

 

 紅の瞳に灰色の髪と長い髭。

 

 老人にしては有り得ない程の貫禄。 

 

 最高クラスの魔導師である高町なのはが身動きが取れない程、凄まじい重圧を放つ。

 

 この老人を一目見て、なのはは瞬時に悟る。

 

 

 ―――このお爺さんと戦ってはいけない、自身が勝てる存在ではない。

 

           

 と。

 

 

 そんななのはの心情等全く気にせずに、老人はなのはに目を向ける。

 

 

 

「ふむ、何やら急に人の気配が現れたので来て見れば……お主、何故

 

 この空間におる?」

 

 

「えっと………、その……」

 

  

「どうやってこの空間に来た? 我が第二魔法やそれに準ずる神秘を行使

 

 した気配等しなかったのだが……」

 

 

 いきなりの質問詰めに戸惑うなのはだが、気持ちを落ち着かせて老人の

 

 問い掛けに答える事にする。

 

 現状、何の手がかりも無い以上それが最善だと判断したからだ。

 

 

「それが、分からないんです。気が付いたら此処を漂っていて……」

 

 

 まあ答えると言っても、何故こんな空間に居るのか全く分からない

 

 なのはにはこう答えるしかなくて……

 

 

「どうやら、嘘をついている訳では無さそうじゃな」

 

 

 内心戸惑っているなのはの目を見てそう呟くと重圧を止める老人。

 

 一方なのはは、少しでも現状を把握するべく、此処が何処だか知って

 

 いそうな目の前の老人に問い掛ける事にした。

 

 

「あの、少し聞きたい事があるのですが……いいですか?」

 

「何じゃ?」

 

 

 問い掛けて来るなのはに、老人は面白そうと言わんばかりの

 

 視線を、隠す事無く堂々と向ける。

 

 

「ここは一体何処ですか?」

 

「……知らずに迷い込んだのか。

 

 ここは言うならば並行世界と並行世界の狭間と言うべき空間じゃ」 

 

 

 少し驚いた様な表情を浮かべて、老人はそう答える。

 

 

「並行世界……ですか、次元世界じゃなくて?」

 

 

 聞き慣れない言葉に思わずそう返すなのは。 

 

 

「ほう、我が第二魔法どころか、並行世界も知らんのに此処に来るとは

 

 益々に興味深い」

 

  

 まるで、新しいおもちゃを見つけた子供の様な視線をなのはに向け笑う老人。

 

 なぜか急に笑い出した老人を怪しみながらも、表面には出さずになのはは

 

 情報を少しでも得ようと質問を続ける。

 

 

「あの、並行世界って一体?」

 

「説明の一つでも無いと不安か……。

 

 簡単に言えば、無限に広がる可能性の世界だな」

 

「無限に広がる可能性の……世界?」

 

 

 老人の言葉がイマイチ良く分からなく、首を傾げるなのは。

 

 そんななのはを見て、老人は更に言葉を続ける。

 

 

「そうじゃな、例えば魔力が一切存在しない世界。

 

 逆に、大気中の大源が濃く、常識として幻想種が存在している世界。

 

 魔術が一般常識として存在する世界。

 

 そう言った風に無限に並行し、広がるIFの世界……それが、並行世界じゃ。

 

 まあ、そのような事は如何でも良い」

 

 

 そう言葉を切ると、老人は再びその真紅の眼を向ける。

 

 

「先ほど、何故此処にいるか分からないと言ったな?」

 

「えっ? あ、はい」

 

「ならば、覚えている限りの最後の記憶はどうなっている?」

 

 

 老人の問い掛けに、なのはは目を瞑って此れまでの記憶を思い出そうとする。

 

 しかし……

 

 

「えっと……だめです。何か頭に霞が掛かったみたいに記憶が混乱してて

 

 名前と年齢とか、基本的な事以外思い出せない……」

 

 

 暗い表情で、そう答えた。

 

 そんななのはに老人はふむと頷いた後、なのはに近づいた。

 

 

「どれ、ならばワシが軽く診断でもしてやろう」

 

「えっ?」

 

 

 返事も待たずに、老人は軽くなのはの頭に手を翳す。 

 

 

「……どうやら、この空間に落ちた際の出来事を原因とする記憶混乱

 

 のようじゃな。時間経過と共に記憶も完全に元に戻るだろう」

 

「ええ? 一分も経ってないのに分かっちゃったんですか!?」

 

「ワシにかかればこの位は当たり前じゃ」

 

 

 時間にしてみれば一分にも満たない間で、完全になのはの状態を把握する

 

 老人に、思わず驚きの声を上げるなのは。

 

 

「さて、本来ならここで出会ったのも何かの縁と、元の世界にでも戻してやりたい

 

 のだが……、先程も言った通り、並行世界は無限に存在しておる。

 

 残念ながらお主の記憶が完全で無い上に、ワシはお主の元の世界を知らんから

 

 元の世界に戻す事は出来ん」

 

「……そんな」

 

 

 老人の口からなのはにとって、絶望的な宣告が下される。

 

 いきなりもう元の世界に戻れないと告げられ落ち込むなのは。

 

 訳も分からず、いきなりこんな空間に居て、もう戻れないと告げられたのだ。

 

 その反応はむしろ当然だろう。

 

 そんななのはの様子を気付いていない筈は無いのだが、老人は

 

 更に言葉を続ける。

 

 

「先ほど、失礼かとは思ったがお前さんの過去を少し見せてもらった。

 

 見かけの年に似合わず、随分な人生を歩んできていた様じゃの」

 

「え?」

 

 

 気に入った!っと全く反省する様子を見せずに笑う老人。

 

 もしかして、診察ついでに興味本位で失われている筈の記憶を覗いたのだろうか?

 

 

「正直、元の世界に戻れんからと言って、この空間に放置するのは

 

 勿体無いと思うし、この様な空間で出会ったのも何かの縁じゃ。

 

 元の世界には戻せぬが、限りなく近い世界なら……まぁ、なんとかなるじゃろう。

 

 だからこそ侘びと言っては何じゃが、お前さんに一つの可能性でもやろう」

 

 

 そう告げると、老人は懐から一振りの奇妙な剣を取り出す。

 

 どう見ても、実戦用に作られたとは思えない、刀身まで宝石で

 

 構成されている七色に光る剣。

 

 そして、手に持った宝石の刃を虚空に一振りする。すると、宝石の刃

 

 によって空間が裂けて、その裂け目からなのは自身が良く知る

 

 世界が、街が見えた。

 

 

「……あ、……海鳴…市」

 

 

 街並み、駅、人々の行き交う様子……その全てが、彼女に残る記憶と

 

 一致している。

 

 

「さて、これからお前さんが飛ばされるのは、無限に存在する並行世界の一つ。

 

 お主にとっては過去の世界に近いが、この世界はお主の過去の世界に

 

 似て異なる並行世界であり、決してお主の世界でもお主の過去の世界でも無い」

 

 老人の言葉が、何も無い空間に響き渡る。 

 

「土地、人々、時代の流れ……その全てがお主が生まれ育った世界と同じ様で

 

 ありながら、異なる世界。そんな世界で、これからお主は生きていく事となる。

 

 どう行動するもお主次第。

 

 この世界で、お主が望む叶え切れなかった可能性の一つでも示して見せるが良い」

 

 

 だが……っとそこで一旦言葉を切る。

 

 

「覚えておけ。この世界には、この世界のお主も存在する。

 

 お主の知り合いや友人達、家族も無論存在している。

 

 そしてこれから先、この世界がお主が失った記憶通りに歴史が動くとは限らん。

 

 お主と言う存在の介入によって、全く異なる動きをする可能性もある。

 

 お主と言う存在がこの世界にどういう影響を齎すのか、見せてもらおう」

 

 

 そこまで言うと、次に老人は虚空より一つの黒いトランクケースを取り出す。

 

 

「これは餞別じゃ、一応当面の必要な物は入っておる。受け取るが良い。

 

 中身は後で確認すると良いじゃろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 言葉と共にトランクケースをなのはに投げ渡す老人。

 

 何処から取り出したのか気になりながらも、なのはは投げられた

 

 トランクケースを受け取った。

 

 それを確認した老人は、まだ話は終わっていなかったらしく

 

 説明を再開する。

 

 

「ああ、それと同一人物が二人存在する事による世界の修正が働くかも

 

 知れんので、気をつけておくと良い」

 

「世界の……修正ですか?」

 

 

 またもや、なのはが知らない言葉が出てくる。

 

 

「うむ、この辺りは話は話すと長くなるし、時間も無いから割愛するが

 

 そういうのがあるとだけ認識していて貰えれば良い」

 

 

 その言葉と同時に、徐々に目の前の空間の裂け目を中心に周囲が荒れ始めた。

 

 

「まあその辺りはワシがどうにかして置くが……、もしかしたら

 

 完全に世界の抑止力を抑えきれぬ可能性がある。

 

 その場合、若干お主に何らかの軽い修正が働くじゃろうが……

 

 まあ、死んだり消えたりする事はないから安心すると良い。

 

 ただし、一つだけ忠告しておこう。

 

 もう一人の自分に接触するのは構わんが、時が来るまでもう一人のお主

 

 がお主の正体に気付かれぬようにしておけ。

 

 もし、定着する前にその様な事態になれば、流石のワシも押さえ

 

 切れる事が出来なくなるかもしれん」

 

 

 空間の荒れ具合が徐々に強くなっていく。

 

 そんな中、老人は徐に懐から一枚のメモを取り出すと、サラサラと

 

 そのメモに何かを書き、折り畳んでなのはに渡した。

 

 

「これは、メモですか?」

 

「うむ、向こうに着いたらこのメモに書いている事を行うと良い。

 

 なあに、本来なら下支えが無ければ無謀なことじゃが、お主の保有する

 

 その魔力量と、あの世界の大気の大源(マナ)の濃さなら大丈夫じゃろ。

 

 必ずやお主の力となってくれる筈じゃ」

 

 

 ははははと豪快に笑う老人。

 

 そして、老人が一通り笑い終えた後、老人はふと周囲を見渡し

 

 小さく独り言を呟いた。

 

 

「時間じゃな……」

 

 

 その呟きと同時に、老人の手にある宝石の刃が凄まじい

 

 光を放出し始め、辺りを包み込む。

 

 

「では、少女よ。先程説明した事を忘れずに精々頑張ると良い」

 

「待ってください! あの、貴方のお名前は!?」

 

「ワシか? おお、そう言えば言ってなかったな。

 

 ワシの名前は―――」

 

 

 薄れて行く意識の中、なのはは朧げにだが確かに聞いた。

 

 

 ―――キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

 

 まあ、ゼルレッチや宝石翁と覚えておけば良い。

 

 次に会う時を楽しみにしておるぞ。

 

 

 ―――と言う返事を。

 

 

 

 

 To be continued




初めましての方は、初めまして。
お久しぶりの方は、お久しぶりです。
そして、この作品の移転を心待ちにしていたと言う偉大な方(居ないでしょうが)
は大変お待たせ致しました。紅鷲です。

Fate/lyricalなんとか移転を開始することが出来ました。
いや、ホント今更ですが……。
とりあえず、当分はにじファンで連載していたものに加筆修正を加えて
投稿していく感じです。

尚、現実の忙しさもあって更新は不定期になりますが、着実に進めていきます
ので、もしよろしければ応援して頂けると有難いです。

では、また次話でお会いしましょう。


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第二話 ~召喚~

修正版第二話の投下です。

尚、この第二話に至ってはいきなりご都合主義というか
そんな設定を採用していますので、ご注意ください。


 

 

 心地良い風が吹き抜けるのを感じて、少女 高町なのはは目を覚ました。

 

 

「う……う~ん、……ここは?」

 

 

 太陽が沈みかけている所から、時刻は夕方だろう。

 

 体を起こして周囲一帯を見渡しても、目に映るのは木々ばかり。

 

 どうしてこんな所で寝ていたのか思い出そうとして……

 

 

「あ、そっか。ここが並行世界の海鳴市なんだ」

 

 

 唐突に思い出した。

 

 並行世界の狭間とか言う空間で、ゼルレッチと名乗る老人と出会った事。

 

 この世界についての説明、注意事項等を教えてもらった。

 

 ふと、隣を見てみれば投げ渡された黒いトランクケースが転がっている。

 

 とりあえず、トランクケースを確認しようと立ち上がった所で気付いた。

 

 

「あれ……? 随分と視線が低い様な」

 

 

 嫌な予感がして、自分の体を見て……思わずそのままたっぷりと

 

 数十秒固まってしまった。

 

 

「嘘……」

 

 

 縮んでいた。

 

 それはもう、見事な位にまで縮んでいた。

 

 さっきまで16歳の相応しい姿だったのに、今はもうどう見ても

 

 9歳前後にしか見えなかった。

 

 

「にゃ! 如何して縮んでるの~??」

 

 

 理解不能な事態に混乱するなのはだが、ふとゼルレッチの言葉

 

 が頭の中を過ぎり、混乱を収めた。

 

 

 ―――その場合、若干お主に何らかの軽い修正が働くじゃろうが

 

 

「もしかして、これがゼルレッチさんが言っていた世界の修正なのかな?

 

 それとも別の……だめ、考えても分からないの。

 

 とりあえず、私に今出来ることをしてみよう」

 

 

 そう、結論付けるとなのははゼルレッチより投げ渡された

 

 黒いトランクケースを開けて見る。

 

 

「……うわぁ、すごい」

 

 

 中身を見て、思わずなのはは驚きの声を上げた。

 

 強力な魔力が篭められているであろうモノから、換金用と

 

 思われる様々な種類の宝石、貴金属、当面の保存食。 

 

 これから絶対に必要になるであろう様々な物が入っていた。

 

 

「ゼルレッチさんには、本当に感謝だね。

 

 今度会ったらお礼言っておかないと」

 

 

 一通り、中身を確認してから……ふと、なのはは思い出した。

 

 

「あ、そう言えば……」 

 

 

 ―――うむ、向こうに着いたらこのメモに書いている事を行うと良い。

 

 

 その言葉を思い出し、なのはは意識を失う前、咄嗟にポケットに

 

 入れていたメモを取り出すと、それを広げ内容に目を通す。

 

 

「えっと……、魔法陣の書き方と何かの呪文?」

 

 

 そのメモに記されていたのはその二つの内容だけだった。

 

 しかも、そのメモの魔法陣と呪文はなのはのが全く知らない

 

 未知の術式である。

 

 未知の術式を使うのは少し抵抗があるが、不思議とやめよう

 

 とは、なのはは思わなかった。

 

 

「んと、とりあえず……」

 

 

 メモに記されている通りに、まずはトランクケースから

 

 幾つかの宝石を取り出した。そして、トランクをしっかり閉じ

 

 メモ通りに宝石を配置すると、指を噛み切る。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 流れ出る血を宝石に付け、それを使ってメモ通りに魔法陣を地面に刻んで行く。

 

 約十数分掛けて魔法陣を刻んだ後、仕上げに蒼い宝石を陣の中心に置いた。

 

 

「………うん、よし! ちゃんとメモ通りに書けた」

 

 

 自分が作った魔法陣が、メモに記されているのと同じ様に出来ているのを確認

 

 すると、なのはは一息つく。

 

 そして―――

 

 

「準備はこれで良しっと、後は……この呪文だけみたいだね」

 

 

 メモを片手に魔法陣の前に立つ。無論、何が起こるか分からないので

 

 念の為の結界は、事前に配置済みだ。

 

 そして、一度大きく深呼吸をしてから、メモに書かれた呪文の詠唱を始めた。

 

 

「え~っと―――祖に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 

 祖には我が大師シュバインオーグ。

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、

 

 王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 魔力が魔法陣を囲う様に走り出す。

 

 そして、呪文に反応するかの様に魔法陣が赤い光を放ち出す。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 繰り返すつどに五度。

 

 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 その凄まじい魔力に、一瞬続けるか躊躇うが……何故だろう?

 

 なのはには先程と同じく、直ぐにやめるという選択肢等浮かばなかった。

 

 

「――――――告げる」

 

 

「――――告げる。

 

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 魔法陣の放つ光が見る見る内に強くなっていき、同時に

 

 魔力が渦巻く風となって、辺り一面を駆け巡る。

 

 

「誓いを此処に。

 

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ……

 

 天秤の守り手よ――!!」

 

 

 その呪文と共に、一滴の血を魔法陣の中心に落とした。

 

 すると、突如魔法陣が今までより遥かに強烈な光を

 

 放ち、同時に渦巻いていた魔力の風がまるで嵐の様に

 

 吹き荒れる。

 

 

「キャ!!」

 

 

 思わずなのはは、その閃光と魔力の嵐から身を守る様に身構え

 

 眼を瞑った。

 

 それと同時に、自分の魔力がごっそりと何かに持って行かれて

 

 左手の甲に焼ける様な痛みが走る。

 

 やがて、そのまま数秒が経過した頃だろうか?

 

 徐々に魔力の嵐と閃光が収まって行っているのを感じて、なのはは

 

 ゆっくりと瞼を開いて行く。

 

 魔法陣は先程までとは真逆で、一切の光を放っておらず

 

 また、先程までの魔力による嵐は嘘の様に止んでいる。

 

 

「にゃ!?」

 

 

 そして、魔法陣の中央には一人の少女が立っていた。

 

 年齢は下の自分より少し上……、恐らく19歳前後だろうか?

 

 欧州系の整った顔立ち、長く美しい銀色の髪は腰辺りまで

 

 伸びており、悪戯めいた輝きを宿す赤い双眸。

 

 出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる。

 

 正しく、それは完成されたスタイルと誇っていると言える。

 

 そんな肢体を白い軽鎧と純白の外套で身を包む。

 

 10人中10人が間違いなく美少女と断言するだろう。

 

 同性であるなのはでさえ、一瞬見惚れてしまう程の美少女がそこに居た。

 

 ただの少女で無い事は一目瞭然だった。

 

 だって、なのはの魔力量を遥かに超える凄まじい魔力を嫌でも感じるから。

 

 

 少女は辺りをキョロキョロ見渡してから、なのはを見つけると

 

 クスリと笑みを浮かべなのはの傍へと歩いてくる。

 

 そして、半ば呆然としているなのはの前に立つと、笑みを浮かべたまま

 

 まるで友人と話すかの様な気楽さで、なのはに声をかけた。

 

 

「問うわ。貴女が私を呼び出したマスターなのかしら?」

 

 

 

 

 この日、高町なのはは銀色の少女と出会った。

 

 この出会いが後に二人に、この世界に何を齎すか……今は誰も知らない。

 

 されど、運命の歯車は少しずつ、確実に回り始める。

 

 

 

 ~To be continued~




というわけで、第二話でした。
なのはが召喚したサーヴァントについては次話で明らかに!
ついでに、次話投下と同時にタグを一つ追加します。


では、また次話お会いしましょう。


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第三話 ~現状把握~

遅くなりましたが、第三話の投下です。
今回はほぼ誤字脱字修正のみとなっていますのでご注意を


 

 

 

「えっと、マスターって?」

 

「あら? そうじゃないの? ラインも貴方と繋がってるみたいだし。

 

 他に誰も居ないみたいだから、貴女が私を召喚したマスターでしょ?」

 

 

 なのはが、見当違いの返事をした為だろうか?

 

 少女が呆れた様に言うが、だがそれよりも……

 

 なのはの思考は今までに無い位の驚きが殆どを占めていた。

 

 

「ええっ!? さっきの術式は貴女を呼び出す為の物だったの!?」

 

 

 なのはが、驚くのも無理は無いだろう。

 

 何せ、まさか人が……それも、これほど規格外の魔力を持つ

 

 少女が出てくるなんて夢にも思わなかったのだ。

 

 

「呼び出すも何も……こうして私が召喚されて、現界している以上

 

 貴女が行った儀式は十中八九、サーヴァント召喚の儀式。

 

 周囲の大源と貴女の魔力がごっそりと減っているのが何よりの証拠よ。

 

 ……まさか貴女―――」

 

 

 そこまで少女は言いかけて、ふと何かに気付いた様に言葉を止めた。 

 

 

「……おかしいわね、この大気に満ちる大源の濃さと貴女の保有する

 

 その魔力量からすれば、聖杯等のバックアップ無しでも

 

 召喚可能でしょうけど……。

 

 世界から与えられた知識には、魔術基盤は存在しているけど

 

 この世界には魔術師が存在しておらず、また【魔術】関連も

 

 人々に認識すらされてないとあるわ。

 なのにどうして貴女(マスター)は正規の手順……

 

 それも、冬木のサーヴァントシステムを用いて私を召喚出来たの?」

 

  

 先程までのとは違う、鋭い視線がなのはを貫く。

 

 しかし、ゼルレッチという規格外を見た後の影響か、あるいは

 

 過去の経験の為か分からないが、なのははその視線に怯むことなく

 

 落ち着いていた。

 

 

「えっと、実は―――」

 

 

 この少女が何者か、なのはにはまだ分からない。

 

 普通ならば、目の前のこの少女を警戒すべきだろうが

 

 彼女を警戒する必要は無いと、なのはの本能が判断していた。

 

 だからだろうか? 

 

 なのはは、正直に先程までの事を話した。

 

 自分の記憶が混乱している事、宝石翁と出会い、この世界に

 

 飛ばされた事、その宝石翁に渡されたメモ通りに儀式を実行

 

 すると、貴女が現れたという事。

 

 なのはの話を聞き終えた銀の少女は、深い溜息を付く。

 

 

「なるほどね、かの宝石翁の手引き……か。

 

 あの翁なら冬木のサーヴァントシステムも知っているでしょうし。

 

 ……十分に納得したわ」

 

「かのって……ええ!? あの、ゼルレッチさんを知っているんですが?」

 

 

 うんざりした様な表情で呟いた銀の少女の言葉に、思わず反応する。

 

 それはそうだろう、なにせあの空間から自分を助けてくれた人なのに

 

 なのはは、名前しか知らないのだ。

 

 

「ええ、もちろん。有名だし、生前何度か会っているわ」

 

 ―――生前?

 

 その言葉になのはは変な違和感を覚えるが、そんな考えをさせる

 

 間も無く、少女の話は続く。 

 

 

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

 

 死徒二十七祖第四位にして、魔道元帥・宝石翁・万華鏡(カレイドスコープ)

  

 等の異名を持ち、悪に義憤に善を笑う。現存する4人の『魔法使い』の1人」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 魔法使い……? 魔導師じゃなくて?」

 

 

 銀の少女の口から放たれる全く聞き覚えの無い数々の単語。

 

 もはや、なのはには少女が何を言っているのか分からなかった。

 

 そのなのはの様子を見た少女は一瞬苦笑いを浮かべる。

 

 

「そうね。話を聞く限り、どうやら貴女は何も知らずに私を召喚した様だし……

 私の事も含め、説明は後回しにするとして……ねえ、貴女(マスター)

 

 名前を聞かせてくれない?」

 

「あ、そうですね。私高町なのはって言います!」

 

「高町なのは、じゃあナノハって呼んでも良い?」

 

「もちろんです! あの、それで……貴女のお名前は聞かせて貰えませんか?」

 

 

 なのはの問い掛けに、少女は視線をなのはから外し考える様な仕草をする。

 

 

「ん~、本来ならクラス名で名乗るべきなんだけど……どうも、今回の召喚は

 

 聖杯が無い為か、クラスが無いサーヴァントとして呼ばれてるみたいだし。

 

 此処は並行世界だし、他に誰も居ないし大丈夫かな」

 

 

 そして、考えが纏まったのか再び視線をなのはに向けた。

 

「私の名前はイリヤよ、よろしくねマスター(ナノハ)

 

「イリヤさん、こちらこそよろしくね!」

 

 

 お互いに自己紹介を交わし、軽く握手を交わす。

 

 それから、本題に入る事にした。

 

 

「それで、あのイリヤさん。色々と聞きたい事があるけど……いいかな?」

 

「ええ、もちろん。聞いた所ナノハは何も知らないみたいだし、私が知っている

 

 この事なら可能な限り教えるわ。

 

 マスターに色々教えるのもサーヴァントの役目だと思うし」

 

 

 快く了承する、イリヤと名乗る少女。

 

 

「ありがとう! それじゃ、早速だけど……私がマスターってどういう事かな?」

 

 

 了承を得られた事で、なのははまず一番気になっていたことを聞く事にした。

 

 すなわち、何故自分のことをマスターと呼ぶのだろうという事を。

 

 

「ああ、その事? それなら理由は簡単。貴女が私と言うサーヴァントを呼び出した

 

 召喚主だからよ。だから、マスターって訳ね」

 

「サーヴァント……?」

 

 

 また、聞き慣れない言葉を発するイリヤ。

 

 

「サーヴァントって言うのは……そうね、こっちの世界観で

 

 分かりやすく言うと、最上級の使い魔の事よ」

 

 

 イリヤのこの言葉に一瞬なのはは耳を疑う。

 

 目の前の、この少女が自分のことを使い魔と言ったのだ。

 

 どう見ても、人にしか見えないこの少女が……。

 

 

「……それっておかしいよ。だって、イリヤさんは人でしょ?

 

 なのに、どうして使い魔なの?」

 

 

 なのはの疑問は当然だろう。人を使い魔にするなんて、彼女の

 

 常識……いや、一般常識や道徳的にもおかしい事である。

 

 そんななのはの疑問に対しての、イリヤの返答は予想を

 

 遥かに上回るものだった。

 

 

「ああ、それは違うわ。

 

 私は人間では無く英霊と呼ばれる存在よ」

 

「英霊……ですか?」

 

 

 復唱するなのはに、イリヤは頷いて話を続ける。

 

 

「そう……、生前偉大な功績をあげた英雄が、死後に信仰対象

 

 として祭り上げられ、輪廻の輪やあらゆる時間軸から外れた存在……。

 

 嘗ては人間でありながら死後に霊格を昇華させ、精霊・聖霊と

 

 同格になった者……それが英霊よ」

 

「……えっと、難しい話みたいだけど。つまり、イリヤさんは

 

 過去に英雄と呼ばれたすごい人って事なの?」

 

「まあ、大まかに言えばそうね。ついでに補足すれば、私は英霊

 

 って言っても【守護者】って言う信仰の薄い英霊だからね。

 

 有名な英雄たちみたいな上等な英霊じゃないわ」

 

 

 少し、悲しげな表情を浮かべそう語るイリヤ。

 

 

「……でも! それなら尚更おかしいよ、過去の英雄の人を

 

 使い魔にするなんて!」

 

 

 必死にイリヤの事を思ってか、語り掛けてくるなのはに

 

 内心好感を感じつつも、イリヤは説明を続ける。

 

 

「ああ、その辺りに付いては大丈夫よ。

 

 英霊と言うのは、ありとあらゆる時間軸、世界から切り離された

 

 『英霊の座』と言う場所に本体があって、現界する時はその

 

 座から複製体を作り出されるのよ。

 

 だから今ナノハの前にいるのは、その座から召喚された本体の

 

 複製体だし、気にする必要は全く無いわよ?」

 

「そう……、でも、それでも!」

 

 

 イリヤに本体じゃないから気にする必要は無い。

 

 そう説明されても、なのはは表情は晴れなかった。

 

 恐らく知らなかったとはいえ、人を使い魔として、召喚した事を

 

 後悔しているのだろう。いくら英霊とはいえ、元は人なのだから。

 

 

「そんなに気に病む必要ないのに、むしろナノハには感謝してる

 

 位なんだから」

 

「……感謝ですか?」

 

 

 想像もしてなかったイリヤの感謝に、なのはは思わず目を瞠る。

 

 その表情から、なんで感謝されるの? と思っていることは容易に分かった。

 

 

「そうよ。……英霊はね、英霊になった瞬間に意識を剥奪されるのよ」

 

「……意識を……剥奪!? 本当なんですか!?」

 

 

 イリヤの口から放たれるとんでもない事実に心を痛めるなのは。

 

 

「ええ……でも、サーヴァントとして召喚されると、英霊は

 

 生前の人間性を取り戻す事が出来るの。

 

 だからこそナノハ、貴女が気にする必要なんて全く無いのよ」

 

「でも―――!」

 

 

 そう感謝の言葉をなのはに言うと、なのはの言葉を遮る

 

 様に、この話はおしまい! と手を叩くイリヤ。

 

 さっきの事についてまだ話し合いたかったなのはであったが、

 

 彼女の態度を見て、もうこれ以上この事について話す気はないと

 

 判断したのか、なのははだったらっと言葉を紡ぐ。

 

 

「だったら、イリヤさん……ううん、イリヤちゃん。

 

 私はイリヤちゃんを使い魔としてなんて扱いたくないから……、

 

 お友達として、接します!

 

 だから、イリヤちゃんも私をマスターとしてじゃなくて

 

 お友達として接してほしいの!」

 

 

 この、なのはの言葉にイリヤは思わず目を見開き、一瞬だが

 

 驚きの表情を浮かべる。

 

 

「……ふふ、まさか自分が呼び出したサーヴァントを使い魔として

 

 扱う事を嫌がって、対等に接したいなんて言うマスターが

 

 現れるなんて……それも“友達”として……か、ふふふ」

 

 

 そう独り言を溢すと、微笑みながらなのはに答えた。

 

 

「……ありがとう、貴女の申し出喜んで受けさせてもらうわ。

 

 改めて、これからよろしくね? マスター……いえ、ナノハ」

 

「イリヤちゃん……うん、こちらこそ!」

 

 

 そう言葉を交わし、二人は確りと握手を交わす。 

 

 

「さて、じゃあ今からサーヴァントについて説明しようと思うけど

 

 ……かまわないわね?」

 

「うん、お願い!」

 

「よろしい。それじゃ、説明を始めるわね。

 

 まず知っておいて欲しいのが、サーヴァントの本性は

 

 実体無き魂……所謂、霊体と言う事。

 

 故に、この体は魔力で編まれているの、だからこういう風に―――」

 

 

 言葉の途中で、イリヤの姿が音も無く消える。

 

 

「にゃ!? イリヤちゃん!? 何処に行ったの?」

 

 

 いきなり姿を消したイリヤに驚いて周囲を見渡す。

 

 しかし見えるのは景色だけであり、イリヤの姿は一切なかった。

 

 いきなりの事に慌てるなのはだが、そんななのはを落ち着かせるかの様に

 

 

『ふふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ』

 

 

 そんなイリヤの声が、直接なのはの頭の中に響いた。

 

 同時に先程と同じ様に、何の前触れも無く目の前にイリヤが現れる。

 

 

「わっ!? びっくりしたぁ……もう! 驚かさないでよ!」

 

「あはは! びっくりした?」

 

 

 行き成り消えて現れてと、驚かされたなのはが胸を押さえて抗議し 

 

 イリヤが、その様子を見てごめ~んっと悪戯っぽい笑みを浮かべ謝罪する。

 

 

「今のは霊体化って言ってね、さっき実行した様に、可視不可能な

 

 魔力のみの状態になれるの。

 

 隠密行動には最適だけど、現実への干渉力が落ちるのが欠点ね」

 

「あ、そっか。確かに霊体じゃ物に触れないもんね」

 

 

 なるほどっと納得するなのは。

 

 それと同時に、見た目は本当に欧州系の美少女にしか見えない

 

 のに、本当に人間じゃ無いんだと再認識する。

 

 

「さて、次だけどナノハ、私と貴女との間にライン……じゃ分からないか。

 

 そうね……、目に見えない繋がりみたいなものがあるけれど分かる?」

 

 

 そう聞かれ、なのはは目を瞑って、イリヤの言う繋がりと探してみる。

 

 

「え~っと、……うん、わかるよ。

 

 なんかこの繋がりから、私の魔力がイリヤちゃんへと流れてるみたいだね」

 

 

 目を瞑りながら、そう答えるなのは。

 

 

「それが私の言った繋がり……ラインという物よ。

 

 さっきも言った通り、今の私の体は魔力で編まれているわ。

 

 故に私はマスターから供給される魔力を必要とするの。

 

 ごめんね。多分、そのせいでナノハの魔力行使がかなり制限される筈よ」

 

「ううん、大丈夫! そういう理由なら仕方無いよイリヤちゃん」

 

 

 申し訳なさそうに謝るイリヤに、なのはは両手を振って

 

 大丈夫だと告げる。

 

 

「ありがとナノハ」

 

 

 そんななのはの心遣いにイリヤは感謝し、ふと思う。

 

 本当に良いマスターに召喚されたと。

 

 そんな思いを胸に、イリヤは最後の説明へと入ることにした。

 

 

「さてと、最後にひとつ大事な事の説明をするわ」

 

 

 真剣な表情を浮かべるイリヤ。

 

 そんな彼女に合わせるかの様に、なのはも気を引き締める。

 

 

「ナノハ、私を召喚した時に身体の何処かに、焼ける様な痛みが

 

 走らなかった?」

 

「あ、そういえば!」

 

 

 言われて、直ぐに思い出した。

 

 確か召喚した時、左手の甲に焼ける様な痛みが走っていた。

 

 ただ、その後色々あった為にすっかり忘れていたが。

 

 そして、急いで左手の甲を確認する。

 

 すると其処には、なにやら見た事もない刻印が刻まれていた。

 

 

「なるほど、左手に刻まれたのね。

 

 その上リンと同じ秩序・調和・安定を表す令呪とは驚きね」

 

「イリヤちゃん、これ何か知ってるの?」

 

 

 うんうんと頷くイリヤに、この刻印について尋ねるなのは。

 

 

「当然よ、大事な事だからよく聞いておきなさい。

 

 その刻印の名前は『令呪』、ナノハが私のマスターだと言う証にして

 

 3度だけ使える絶対命令権よ」

 

「絶対命令権……? どうして、そんなものが」

 

 

 使い魔に対する絶対命令権なんてもの、なのはは聞いたことも無かった。

 

 

「本来、英霊は人間に御しうる存在じゃないわ。

 

 下手をすれば、呼び出したマスターが気に入らない人間だった場合

 

 簡単にそのマスターを殺してしまう英霊もいる位なのよ」

 

「そんな……」

 

 

 当たり前の様に告げられたイリヤの言葉に驚愕を隠せないなのは。

 

 

「まあ、私はそんな事しないから安心しなさいナノハ。

 

 で、簡単に言えば令呪はそんな英霊から身を護り、律する為のものよ」

 

「……なるほど、確かにイリヤちゃんの言う通りなら必要なのは分かるよ。

 

 悲しいけど」

 

 

 殺されては元も子も無い、だからこその処置なんだと言う事はなのはに

 

 も分かる。

 

 

「さて、ここからが本題。

 

 その令呪はね、なにも英霊に逆らわせない為だけの物じゃないの」

 

「んーと、どういうこと?」

 

 

 イリヤの物言いに意味が分からないと、なのはは首を傾げる。

 

 

「令呪はね、元々サーヴァントに能力以上の奇跡を起こす為のものなのよ。

 

 だから、肉体の限界を超える事でも令呪を以ってすれば、魔力が届く範囲で

 

 実行を可能とするわ。

 

 ただし注意してほしいのは、いくら令呪とはいえ曖昧で効果が広く長い命令は

 

 効き目が弱くなるという事と、どんな命令でも実行できるわけでは無いと言う事ね」

 

「曖昧な命令かぁ、例えばどんなの?」

 

「そうね、『私に絶対服従!』とか『仲間を全員助けろ!』とかそう言う命令ね。

 

 逆に『絶対に勝て!』とか『全力を出せ!』っていう命令なら、ブーストとして

 

 令呪が発動して、本来を超える力を発揮できるし、移動系ならどれだけの距離が

 

 離れていても、ラインが繋がっているなら空間転移でナノハの元に移動可能よ」

 

「なるほど、そういう使い方が出来るんだコレ」

 

 

 そう呟き、なのはは改めて左手の甲に刻まれた令呪を眺める。

 

 

「そういう事、だから令呪は余程のことが無い限り使わないほうがいいわ。

 

 いざと言う時の切り札として取って置くべきね」 

 

「そうだね。うん、分かったよイリヤちゃん」

 

 

 聞いた限り、この令呪は確かに切り札と呼ぶに相応しい物だと分かる。

 

 そして、なのはがこれまで話した事を理解したと悟ると、一通り説明を

 

 終えたのかイリヤはふうっと一息ついた。

 

 

「ふう、私からの説明はこの位かな」

 

「分かりやすい説明ありがと、イリヤちゃん」

 

「どういたしまして。さてと、次にマスターの情報……主にこれからの方針や

 

 ナノハの使う「魔法」とやらについて説明してほしいけど―――」

 

 

 そこで言葉を切って、イリヤはなのはに視線を向け、告げる。

 

 

「―――それはまた今度にでもしましょ」

 

「え? なんで? 今すぐにでも―――」

 

 

 お話出来るよ。そう言おうとして……、唐突になのはの体に異変が発生した。

 

 

「にゃ? なんだか、急に……眠…く……」

 

 

 急に立ったままでいる事ですら、困難な眠気になのはは抗らう事が出来ずに

 

 ふらっと後ろに倒れそうになるが……その寸前に、いつの間にか

 

 後ろに回ったイリヤに支えられた。

 

 

「本来なら聖杯等の強力なアーティファクトの後押しがあって、初めて行う

 

 サーヴァント召喚を、何の後押しも無しに行なったんだもの。

 

 嘗ての私の様な例外ならともかく、いくら大気中の大源が濃密で、膨大な

 

 魔力を保有しているとはいっても、普通の人間であるナノハなら

 

 こうなるのは当然……いえ、むしろ今まで眠らずに済んだ事が驚きだわ。

 

 仮に普通の魔術師が同じ事をしていたら、確実に一生

 

 目覚めない眠りに着くでしょうね」

 

 

 なのはを抱き止めながら、やれやれといった感じで呟くイリヤ。

 

 

「イリヤ……ちゃん?」

 

「今は眠って十分に休むといいわ。話の続きは、また明日にでもしましょ」

 

 

 薄れ行く意識の中、安心させる様なそんな声を聞いて、なのはは睡魔に

 

 抗う事をやめて、心地良いまどろみに身を任せ意識を手放した。

 

 そして、眠ったなのはをイリヤは背中に背負うと、街へと歩き出した。

 

 

 

 

 ~To be continued~




遅くなりましたが、何とか三月中に投下できました。
修正版第三話をお送りします。
今回で、なのはが召喚したサーヴァントが明らかとなりました。
もちろん、この本SSのイリヤはオリジナル設定満載なので
その辺りはご了承をお願いします。
次は設定編を投下予定です。
この設定編では、本SSのイリヤのステータスはもちろん、少しだけ
どんな過去を歩んできたのか書いています。
もちろん、見なくてもまったく問題ないので御安心ください。
なんとか三月中に投下出来る様にしたいですね。
では、また次回~


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