Hightension School Jo×Jo (尾河七国)
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第1部『スタート・トランスマイグレーション』
第1話《ある青年の出来事》


『事実は小説よりも奇なり』とはよくいったものである。

 

下手なミステリー小説よりも実際に起こる事件の方が複雑で難解という、言わずと知れた用語だ。しかし例え話かなんかで使うならまだいい。口だけなら何とでも言えるのだから。

これが本当に起こるとなるとそうもいかない。何故なら混乱してどう表現していいかわからないからだ。

 

これからお話しする物語はそんな非日常的な体験をした一人の青年が歩むことになった、文字通りの『奇妙な冒険』である………。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「うぅ…いっつつ……」

 

 

何処か。それしか言いようがない場所に彼はいた。

辺り一面が真っ白な空間、それこそ白いペンキか何かをぶちまけたような真っ白さ。特徴的なものもなく、ただただ白い空間が広がっている。そんな場所に彼はいた。

 

見たところ歳は十代、黒のジャージ姿に髪はボサボサで寝癖だらけ。不良のような風貌の青年は顔を押さえながら起き上がった。暫くして痛みが和らいだのか、目を開いて周りを確認し始める。ようやく彼もこの異様な空間に疑問を抱いたようだ。

 

 

「此処は…何処だ……? つーか真っ白すぎて目が痛ぇ…どうなってんだ一体…?」

 

 

よろよろと力無く立ち上がり、もう一度辺りを見渡すがやはりわからない。大体辺り一面同じ色なもんだから、どこが壁か天井か全然見分けがつかない。

 

 

「チックショー、何なんだよ一体……あー身体中が痛ぇな………」

 

 

青年は全身の痛みを訴える。特に顔辺りが痛いのか、しきりに顔のあちこちを手で押さえている。そんなときだった。

 

 

『気ガ付イタカイ…?』

「!?」

 

 

どこからともなく聞こえてくる声。しかし『聞こえた』と言うよりも、脳に直接語り掛けてきたといった方がいいかも知れない。声はその姿を見せずに続けて青年に話し掛ける。

 

 

『ゴメンネ…コンナコトニナッチャッテ……』

「だっ、だ、誰だ! 姿を見せろてめー! 何処にいやがる!」

『姿ハ…ナイヨ。僕ニハ実体ハナイ』

「はっ!?」

 

 

"実体はない"と断言した声の主は、呆けてる青年にこう言った。

 

 

『僕ハ君ノヨウナ"イレギュラー"ヲ対処スルタメニ造ラレタ、イワユルコンピュータノ"プログラム"ノヨウナモノ。ダカラ、自分ノ意志ハアッテモ実体ガナインダ』

「そ…そ、そうなのか……。じゃあ聞くけどよ、此処は何処なんだ? 俺はどうして此処にいるんだ?」

『思イ出シテ…君ガココニ来ル前後ノ記憶ヲ………』

「俺の…記憶…?」

 

 

声にそう言われた彼は頭に手をやり、この空間に来る直前の記憶を探った。暫くして

 

 

「………あ」

 

 

一つの節を思い出した。

 

 

「そうだ…確か久々に悪ガキ時代の友人と出会って…それで…暫く話して別れた後……俺轢かれたんだ、救急車に…」

 

 

彼の証言を裏付けるように、彼が着ているジャージはあちこちが破れ、所々に血が付着している。だが彼の身体にはかすり傷一つ付いていない。一体どういう事なのか。

 

 

「…で車に轢かれたってのに、俺ピンピンしてんだけど。どうなってんだ一体?」

『実ハネ、君ハ僕達ガ予想ダニシテイナイ死ヲ迎エテシマッタンダ』

「し、死んだァ~~~~ッ!? 俺が!?」

 

 

あまりにもストレートな答えに、青年は開いた口が塞がらなかった。

 

 

『ソウ。付ケ加エテ言ウト、カナリ悲惨ナ死ニ方ダッタンダ。顔、痛クナイカイ?』

「あ、あぁ…」

『君ハ轢カレタ後、地面ト顔ガ接触シタ状態デ引キズラレタンダヨ。ソノ結果』

「わ、わかった! もういい! もういいから! 要はあれだろ!? 吉良吉影と同じ死に方だったってことだろ!?」

 

 

どおりで彼が顔を押さえていたわけである。

 

 

「ハァ…納得できねぇ事だらけだけど、今は信じるしかねねぇようだな……それで? 死んだ俺は一体どうすればいいんだ?」

『サッキモ言ッタヨウニ、君ノ死ハ予想シテイナカッタ。ツマリハ死ヌ必要ハナカッタンダ。デモ君ハ現ニ死ンデシマッテイル。ソコデ理不尽ナ死ヲ遂ゲタ者達ニモウ一度新シイ命ヲ与エル決マリニ乗ッ取ッテ、君ヲ此処ニ呼ビ寄セタンダ』

「…つまり転生ってやつか?」

『ソウイウコト』

 

 

青年は腕を組んでフム、と考え込む。

転生といえば死者が新しく生まれ変わる事を指す。そういった物語や噂は彼も聞いたことがあるが、まさか自分が体験するとは思わなかっただろう。それもそのはず。ご飯を食べたり本を読んだりすることと違って、当たり前にできる事ではないからだ。

 

 

『ソレデ、何カ特典デツケテ欲シイ事トカッテアルカイ? 何デモイイヨ』

 

 

青年があれこれ考えていると、声はそう尋ねてきた。

その時、彼の脳裏にあるものが浮かんだ。それは………

 

 

「…スタ…ンド」

『エッ?』

「俺への特典は…『ジョジョの奇妙な冒険第3部から第8部までのスタンド全てが使えるようになる』にしてくれ!」

 

 

スタンド能力。

 

 

言わずと知れた名作中の名作・ジョジョの奇妙な冒険の第3部『スターダスト・クルセイダーズ』から登場し、現在の第8部『ジョジョリオン』まで続く一種の能力であり、常に本体の側に存在する"パワーを持った像"である。元々この漫画を読んでいた青年はスタンド能力に憧れ、そして使ってみたいとも思っていた。この誘いは彼にとって千載一遇のチャンス。願わない筈がない。

 

 

『ウーン、別ニ出来ナクハナイケド…ソレダト無双プレイニナッテツマラナインジャナイノ?』

「別に。むしろこっちとしては全然ウェルカムだけど?」

『サラット言ッチャウンダネ…マァイイヤ。トリアエズソノ願イハ聞キ入レタヨ。ソレジャ、新シイ世界デモ頑張ッテネ………』

 

 

青年の願いを聞き入れた声は徐々に薄れ、完全に聞こえなくなった。その直後白い空間が目が眩む程強く輝き出した。

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

空間の輝きはどんどん増し、同時に彼の意識もおぼろげになってゆく。

 

そして、彼の意識はここで途切れた。

 

(←To Be Continued…)

 




皆さん初めまして、尾河七国といいます。
Hightension school Jo×Jo 第1話、如何だったでしょうか。
それとこの話に出てくる"声"の表記がわかりづらいかもしれませんが、とりあえず第1話だけの予定なので、極力控えて出筆していこうと思います。

さて次回から、本編に向けての土台を書いていこうと思います。もし誤字脱字等がありましたらコメント欄にご一報下さい。

では、第2話でお会い致しましょう。


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第2話《親子を救う電流》

こんにちは、尾河です。
聞くところによるとジョジョの第4部がアニメ化決定したそうですね。吉良吉影とキラークイーンが動いてTVに映るというのは、僕としては本当に嬉しいです。

では第2話、スタートです。


救急車に轢かれ、思いもよらぬ死を遂げてしまった青年はジョジョのスタンド能力を手に入れ、別世界での転生を果たした。

 

だが転生して赤ん坊からスタートすることになったはいいものの、どういうわけか転生する前の意識がはっきりしている。そのため授乳するときなんかは妙な感覚になってしまうのだ。要はいい歳こいた十代が赤ちゃんごっこをしているわけである。彼にとってこれ以上の恥ずかしいことはないだろう。しかし栄養失調でもう一度死ぬわけにもいかず、結局彼は数年間ある意味の地獄を味わうことになった。

 

話を戻して、転生後青年は兵藤家の一人息子として生まれ、『丈城(ともき)』と名付けられた。数年間の地獄を経て、幼稚園へ入園した彼は目立たずひっそりと……なんてする筈がなく、事あるごとに自身の才能を発揮。瞬く間に幼稚園中の人気者となった。

 

だがやはりというべきか、それをよく思わない園児達に目の敵にされることもしばしばあった。が、そこは証拠を一切残さず成敗。勿論スタンド能力を使ったのは言うまでもない。不動の人気者の座を勝ち取った丈一は毎日多くの友人に囲まれ、特に『紫藤イリナ』という少女とは非常に仲が良かった。何故かというと……

 

 

「あらわれたなでぃお! こんどこそやっつけてやる!」

「ククク…マヌケがぁ! 知るがいい……我が『世界』(ザ・ワールド)の真の能力は…まさに! 『世界を支配する』能力だということを!」

 

 

……こんな風にヒーローごっこ(?)で戯れていたからである。配役はいつもイリナがヒーロー役で丈城が悪役。元々悪役テイストが強かった丈城はさほど気にしている様子はなかった(というか、むしろノリノリで演じていた)。とまぁ、そんなこんなで二人の楽しい幼稚園生活はあっという間に過ぎてゆき、やがてイリナは両親の転勤が理由で卒園を機に外国へ引っ越すことになった。

 

引っ越し前夜、二人は思い出として一本の剣を挟んでのツーショットを互いの両親に撮影してもらい、再び出会うことを約束。その翌日の朝、丈城に見送られてイリナは引っ越していった。………が

 

 

後にあの写真が再び彼とイリナを巡り合わせ、様々な因縁や陰謀が渦巻く大事件の引き金になろうとは、この時誰も思いはしなかった。

 

 

☆☆☆

 

 

「最近の気分はどうよ? ドライグ」

『まぁまぁだな。特に変わったこともないし、平和ボケしてしまいそうだ』

 

 

イリナとの別れから二年後、小学生となった丈城はスタンド能力だけでなく、『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)と呼ばれる神器(セイクリッド・ギア)まで発現させていた。神器とは神が作った"システム"のようなものであり、様々な種類がある。しかし何も知らない人々からすれば『神の奇跡』というよりかは、『悪魔の業』とされて忌み嫌われていることが多い。要するに超能力だ。

 

丈城はスタンドを使いこなし、DIOや吉良吉影のような悪党に出くわしても十分応戦出来るようにするため、小学生の身でありながら日々のトレーニングを欠かさず続けていた。ところがある日を境に突如神器が発現。しかも自らの意志があり、自分は遥か太古に封印された龍帝だというからさらに驚きだ。

丈城曰く、『スタンドのACTと一緒で、一定のラインを越えたから出てきたんじゃないの?』とのこと。いずれにしろ彼はスタンド能力と赤龍帝の力の二つが身体に宿っていることになる。ある意味チートだ。

 

 

「そうならないように毎日こうやってトレーニングしてんだろ? ドライグの言う"白いあいつ"がいつ現れても簡単にやられないようにさ」

『へっ、用心深いことで』

 

 

対等に話している様子から、お互いの立場は理解しているようだ。そして丈城がチラッと言った"白いあいつ"というのは、また追々話すとしよう。今説明しても混乱するだけである。

 

気が付けばもう夕方。日は沈みかかり、丈城の後ろの空からは夕闇が迫ってきていた。どこか遠くの方からは豆腐屋のラッパが寂しく響いている。

 

 

「さてと…もうそろそろ家に帰るとすっか。あんまり遅いと門限に引っ掛かるし」

『腹も減ったし、だろ?』

「Exactly(その通り)」

 

 

腹の虫が鳴ったので、丈城はここでトレーニングを中止。帰路に着くことにした。

 

暫くして

 

 

「……ん?」

 

 

何かを感じ取った彼は一旦立ち止まり、周囲に耳を澄ませ始めた。

 

 

『? どうした相棒』

「今…かすかに悲鳴っぽいのが聞こえた気がしたんだけどな……」

『悲鳴だと? 俺には聞こえなかったが……』

「…何か嫌な予感がする。ドライグ、ちょっと寄り道するわ」

 

 

そう言って彼は2、3m先の左手にあった石段に向かって駆け出し、石段を登り始めた。それほど長くはなかったようで、ものの15秒弱で到着。彼が聞いたという悲鳴はどうやら石段の先にあった神社のようだ。

寂れてはいないが、それなりに貫禄のある本殿。この時間帯の参拝客はおらず、不気味な静けさに包まれている。まるで此処だけ時間が止まったかのような感覚である。丈城は何かに導かれるように本殿の裏手へ回った。裏手はどうやら居住区のようだ。

 

 

(何なんだ…この胸騒ぎ…。誰かが助けを求めているような…)

 

 

逸る気持ちを押さえ、彼は窓から室内をそーっと覗く。

 

丈城の予感は的中した。

 

室内にはローブを纏った怪しい集団、そして彼らに襲われ、部屋の隅へ追い詰められている母と子の姿。しかも集団の手には剣やら鎌やら物騒なものが握られている。これを事件と呼ばずして何と表現すればいいのか。

 

丈城視点で、まず手前に7人。その一歩奥に一人、そのまた奥に親子がいる。何やら言い争っているようだが、外からでは内容が聞き取れない。

 

彼は思った。マズイ、早く手を打たなければあの親子は殺されてしまう。どうにかして救出せねばと。

丈城は周囲を見渡して、自分もしくは遠隔操作型のスタンドが侵入出来そうな場所を探した。すると足元の外壁にこの家の電気メーターを見つけた。そのメーターのケーブルは家の中へと引き込まれている。

 

直感であのスタンドが思いついた。

 

 

「ドライグ、俺あの親子助けるわ」

『やめておけ。……と言っても助けるつもりなのだろう?』

「Yes, I am! 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』!」

 

 

音石明のスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を出し、丈城は電気メーターを経由して室内へスタンドを侵入させた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「その子供を渡せ! 忌々しき邪悪な黒き天使の子なのだぞ!」

「嫌です! この子は大切な、あの人と私の大事な娘! 絶対に……絶対に渡しません!」

「母さま!」

 

 

一方、ローブ集団は今まさに目の前の親子を手にかけようとしていた。リーダー格とおぼしき男は一歩、また一歩と親子に迫る。どうやら狙いは子供の方らしいが、その真意は不明のままだ。

 

 

「仕方ない、貴様は黒き天使に心を汚されたようだ。先に貴様から始末してやる!」

「朱乃ォッ! 伏せてェッ!」

「嫌ァッ! 母さまァァァッ!」

 

 

痺れをきらしたリーダーは所持していた剣を母親に向けて振り下ろす。母親は子供…少女を庇おうとするが、少女は嫌がって逆に母親を突き飛ばそうとした。白刃が親子を捕らえようとした刹那、

 

 

「ギャアアアアアァァァッ!」

「「「「「!?」」」」」

 

 

後ろにいたローブ集団の一人が突如悲鳴を上げた。

驚いた全員がその方を見ると、一人が電流に包まれて後ろの壁のコンセント口に吸い込まれていった。いや『電気そのもの』となって引きずり込まれたと表記した方が正しいのかもしれない。

 

 

「な、なんだ!?」

「敵襲か!?」

 

 

突然の怪奇現象にローブ集団と親子が気を取られていた時、またしても

 

 

「うわああぁぁぁっっ!?」

 

 

今度はリーダー格の男が犠牲となった。同じ状態に陥り、先程のではなく彼の隣にあったコンセント口へと引きずり込まれる。姿なき恐怖が容赦なくローブ集団に襲いかかる。

 

 

「背中合わせだ! 円陣を組め!」

 

 

集団の一人の提案により、全員がお互いの背中を内側に向けて、円陣を組んだ。が、彼らの考えは襲撃者にとって思うつぼだった。

 

天井に吊るされている照明器具のほとんどは、天井にコンセント口から電気を供給している。それはこの部屋にもあり、丁度円陣を組むローブ集団の真上にあった。となれば、この後の展開はこうなるわけである。

 

 

(バチバチバチ! バチィッ!)

「「「「「ギャアアァァァアアアッッッッ!」」」」」

 

 

彼らは天井からの強襲に気が付かず、結局全員纏めて電流に捕まった。だが先程は一人一人だったためにものすごいスピードだったが、六人纏めてとなると流石に時間が掛かるようだ。じわりじわりとコンセント口へ引きずり込まれてゆく。

 

 

「「……………」」

 

 

親子は唖然としていた。いきなり襲ってきた怪しい集団が、これまた謎の襲撃者によって始末されているのだから。そして最後の一人の手がコンセント口に引き込まれ、ローブ集団は全滅という形となった。あとに残ったのは無事の親子と妙な空気だけ。

 

 

(バチバチバチィッ!)

「「!?」」

 

 

最初の一人を襲ったコンセント口から再び電流が走る。それは次第に数を増やし、ある形へと構成されてゆく。

やがて親子を救い、ローブ集団をコンセント口へ引きずり込んだ存在がその姿を現した。

 

一言で言うなら、その存在は『異形』だった。

人型だが、何処と無く恐竜のパキケファロサウルスを思わせる姿。宙に浮き、いまだに電流を纏うそれは親子の無事を確認すると

 

 

『よぅ、間一髪だったな。あんた達』

 

 

人語を話した。

 

 

『全く、数の暴力だよな。無抵抗でしかも武器すら持っていない人間に斬りかかるなんてよ!』

 

 

どこか軽い口調で話す異形の存在。もうお気付きの方もいるかもしれないが一応説明しておこう。この異形の存在こそ、丈城が放ったスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』である。このスタンドは電気そのものが身体を構成しており、電気のある場所ならどこにでも侵入することができる。つまりバイクのバッテリーやラジコン飛行機の中にも入れるのだ。そして他の物質を電気と同化させて、電気ケーブルや電線内を移動させたり、それが人なら感電死させることが出来る。

 

原作では音石明がこの方法で虹村億泰の兄・形兆を殺害している。

 

 

「…さっきの人達はあなたがやっつけたの?」

 

 

呆然としていた少女が恐る恐るチリ・ペッパーに尋ねた。

 

 

『ああ。俺の名はレッド・ホット・チリ・ペッパー。くれぐれも俺の身体には触るなよ? 俺の身体は電気でできているからな、触ると感電しちまうぞぉ~?』

「そうなんだ。私は姫島朱乃! さっきは助けてくれてありがとう!」

『朱乃ちゃんていうのか。いい名前だねぇ。怪我はないかな?』

「うん、大丈夫だよ! 母さまは?」

「え、えぇ。平気よ…」

 

 

朱乃と名乗った少女はチリ・ペッパーは敵じゃないと判断し、彼の質問に元気よく答える。母親の方も無事のようだが、やはり先程の襲撃やチリ・ペッパーの存在の事もあってか、何処と無くやつれていた。しかし自分の娘はチリ・ペッパーと楽しく話している。その様子を見た彼女は静かな笑みを浮かべ、安堵した。

 

…が、さらにその時

 

 

「朱璃ッ! 朱乃ッ!」

 

 

物凄い足音と共に部屋の襖が開け放たれ、いかにも屈強そうな男が飛び込んできた。しかもその男はチリ・ペッパーを見るなり、それ以上の電気を纏って戦闘態勢に入ったのだ。

 

 

「貴様ァッ! 朱璃と朱乃から離れろッ!」

『オイオイオイオイオイオイオイ!?』

 

 

これにはチリ・ペッパー、もとい丈城も焦った。同じ電気系統だから平気だと思うのだが、それよりもこの男の異常な程の覇気に気圧されて焦っているのだ。

話し合いが出来ない状況と判断した丈城本人が動こうとすると

 

 

「待って! チリ・ペッパーさんは私達を助けてくれたの!」

「何だとッ!?」

「本当よ! 彼は敵ではないわ!」

 

 

なんと朱乃と母親が割って入り、チリ・ペッパーを庇ったのだ。

 

 

「本当……なのか?」

 

 

男がそう問うと、二人は縦に強く頷いた。彼は暫く考え込むと、電流を解いて穏やかな表情になり、二人を抱き寄せた。男は朱乃と母親の家族だったのだ。

 

 

「二人共……無事で良かった……本当に済まなかった…」

「あなた……」

「父さま……」

 

 

丈城はこの光景を見て、もうこの家族は大丈夫だと安心し、チリ・ペッパーを戻すためコンセント口へと移動させる。

 

 

「! ま、待ってくれ!」

 

 

すると男がチリ・ペッパーを呼び止めた。

 

 

「さっきは威嚇して済まなかった。私の名はバラキエル。家族を守ってくれてありがとう……」

『…気にしなくていいよ。俺はただその二人を助けたかったから助けただけだ。それと本当の襲撃犯達は此処から200m先の電線の上で真っ黒になっているぜ。それじゃあな、バラキエルさん。家族を大切にしなよ』

 

 

礼を述べられたことに照れつつも、丈城はコンセント口からチリ・ペッパーを戻した。 静まり返った室内で、朱乃は母親にこう尋ねる。

 

 

「ねぇ母さま、また…チリ・ペッパーさんに会えるかな?」

「……会えるわよ、きっと」

 

 

☆☆☆

 

 

「やっべ! 早くしねぇと門限に間に合わねぇ!」

『走れー相棒ー』

「棒読みで言うなし!」

 

 

チリ・ペッパーを引っ込ませた後、丈城は自宅に向かって走っていた。実はローブ集団を倒すのに時間を掛けすぎて、門限ギリギリになっていたことにようやく気が付いたのだ。小学生とは思えない程の速度を出しながら、彼は家路を急ぐ。

 

 

 

 

 

その翌日。朝刊の見出しにはデカデカと、黒焦げ死体遺棄事件の記事が載っていたという。

 

(←To Be Continued…)

 




はい、というわけで第2話は転生後と丈城の初戦闘、そして朱乃さんとのファーストコンタクトの回でした。

そして何気に丈城はスタンド能力に加えて赤龍帝の籠手も手に入れています。今後は無双プレイが見られるかもわかりません。


丈城「あたい最強!」


…いや、何も⑨にならなくてもいいんですよ?


では、第3話でお会い致しましょう。


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第3話《白いニャンコ、爆殺ニャンコ》

こんにちは、尾河です。

時間がとれましたので、第3話を投稿させて頂きます。

それではどうぞ。



チリ・ペッパー事件(命名丈城)から3ヶ月後。

 

といっても何ら変わったこともなく、丈城とドライグはいつも通りのスタンドと体力づくりの特訓に打ち込んでいた。あるとすれば、スタンド『エコーズ』と『牙』(タスク)のACTがそれぞれ一段階上がったくらいである。

 

そしてこの日、朝からジョギングをしていた丈城はちょっと足を伸ばして、駒王町から少し離れた所にある山に来ていた。この山は普段あまり人が立ち入らない場所であり、昔から神隠し伝説が残るいわくつきの場所でもある。で、何故ここを選んだかというと…

 

 

「キラークイーン・第一の爆弾!! 点火ッ!」カチッ

(ボグオォォン!!)

「証拠は跡形もなく始末された…」

『何してんだ相棒?』

「キラークイーンの特訓ついでに吉良吉影ごっこ」

 

 

キラークイーンやクリーム、C-MOONといった特訓場所が限られるスタンドにとって最も最適な場所だったからだ。しかも山頂付近は切り開かれているにも関わらず、人はやってこない。

だからここで爆弾を使おうが、暗黒空間にばらまこうが、重力を90度傾けようが、何をしたって他人に迷惑はかからない。

特訓開始から4時間後。流石に疲労も溜まってきたので、丈城はここで特訓を切り上げて駒王町へ戻ることにした。

 

 

『それにしても駆け出しの頃に比べたら成長したな、相棒。スタンドとかいう力にはほんのちょっと驚いたが、ここ最近になってあまり気にならなくなったな』

「俺もまさか神器(セイクリッド・ギア)、しかも神滅具(ロンギヌス)が宿るなんて思いもしなかったぜ。これじゃあ鬼に金棒、DIOに世界、エンリコ・プッチにメイド・イン・ヘブンだぜ」

『さっきからなんだ? 吉良吉影だのエンリコ・プッチだの……誰なんだ?』

「気にしたら負けだ」

 

 

ちなみに『神滅具』とは神すらも滅することが出来る特殊な神器のことである。そんな当たり障りのない会話をしながら下山していると

 

 

(ガサガサッ、ザザザ…)

「ん?」

 

 

右手側の山の斜面から滑り落ちてくるように白猫が転がってきた。しかも、その体はあちこちが切れて血が出ている。どう見ても自然に出来る傷ではない。

 

 

「この猫…ひでぇな。なんつーか虐待にでもあったみてーな傷や痣が沢山……」

『それよりもこんな山道になんでたった一匹の状態でいたのか…道に迷ったにしては話が出来すぎている気もするが……』

 

 

丈城の見解通り、白猫は打撲や切り傷だらけで既に虫の息だった。このままでは死んでしまう。かといって下手に触ればそれこそ白猫の命を縮めかねない。そう判断した彼は獣医に連れて行く前に、この場での治療を決断した。

 

 

「しかし放っておくってのも可哀想だ。獣医に連れて行く前に死んじまうよ」

『じゃあ他にどうすればいいんだ?』

「仕方ない……ここで治すか!!」

『な、治す? スタンドでか?』

「そういうことだ。『クレイジーダイヤモンド』!!」

 

 

予想通り、丈城はクレイジーダイヤモンドを出現させて白猫に手をかざし、能力を使用した。するとあれだけあった怪我がすっかり治り、呼吸も安定。暫くして目を覚ました。

 

 

「…にゃ」

「おっ、気が付いたか。大成功だぜ」

『怪我まで治してしまうスタンド……もはやチートだな、こりゃ』

 

 

丈城は気が付いた白猫に近づこうとする。しかし白猫はパッと飛び起きて威嚇。どうやら彼を敵と認識してしまったようだ。

 

 

「ハッハッハッ、恩を仇で返すぐらいの気力があるならもう大丈夫だな。安心しろって、何もしねーから」

 

 

半笑いで両手をヒラヒラ振り、丈城は敵ではないことを伝えようとする。そして更にもう一歩近づこうとしたその時

 

 

「誰だ! そこにいるのは!!」

 

 

頭上から何者かの声が響いた。

 

 

「あ? なんだ?」

 

 

声のした方へ顔を向けると、木々が生い茂ってほとんど見えない空に複数の人影が横切った。人影は丈城の進行方向へと着地し、一人は剣を携え、一人は銃を持ち、彼の前に合計9人の男女が立ち塞がる。

 

 

「何だ、人間か」

「その言い方だと、お前らは人間じゃないのか?」

「いかにも、我々は誇り高き悪魔だ。貴様が抱えているその猫を引き渡してもらおうか。」

「ふぅん、で? 虐待するような奴らにはいそうですかっつって渡すバカがいるとでも思うか?」

 

 

白猫は既に危機を感じ取っていた丈城がクレイジーダイヤモンドで回収済みだった。それを庇うように彼は悪魔達と対峙する。この一連の行動でようやく誤解が解けたのか、白猫は丈城に対しての威嚇をやめていた。辺りに緊張が走る。

 

 

「そうか…。ならばその猫と共に始m「先手必勝ッ!」グバァッ!?」

「「「「「!?」」」」」

 

 

最初に動いたのは丈城だった。リーダー格の男性悪魔の台詞をぶった切って、スタンド『キラークイーン』でその顔面に先制攻撃を叩き込む。人間だろうが悪魔だろうが、彼の辞書に『情け、容赦、手加減』の文字はないのだ。

 

 

「カ…ハッ…き、貴様ァァァァッッッ!」

「お前達は…俺の睡眠を妨げる『トラブル』であり『敵』というわけだ。誰かに話される前に……お前達を始末させてもらう!」

 

 

キラークイーンを隣に戻し、吉良吉影を彷彿とさせる態度で丈城は悪魔達に宣言。心なしかこの状況を楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。

 

 

「殺せ!! 生かして返すな!!」

 

 

当然の事ながらリーダーの悪魔は激昂。配下の悪魔達に彼の抹殺を指示した。しかしこの勝負は、キラークイーンの一撃が決まっていた時点で既に決着がついていたのである。

 

 

「誰にも俺を倒すことは出来ない…この『兵藤丈城』の正体を知るものはいないんだ」

 

 

丈城は涼しい顔で右手を突き出す。と同時にキラークイーンも右腕を前に伸ばし、まるで何かのスイッチを押すかの様に親指を上げる。

 

刹那、

 

 

「なんであろうと爆弾に変える……キラークイーン・第一の爆弾!!」

 

 

右手の人差し指の先端を押した。

 

 

「点火ッ!」カチッ

「ギャアアアアアアァァァァァッッッッ!!」ドグオオォン

 

 

……実は先制攻撃の際、キラークイーンは拳ではなく"掌底"で殴っていたのだ。キラークイーンは触れた物を爆弾に変えられる能力を持っている。つまりこの時点でリーダーの悪魔の敗北は確定していたのだ。爆弾に変えられた彼はチリ一つ残さずに消し飛び、ついでにすぐ後ろにいた配下の悪魔二人も爆発に巻き込まれた。

 

 

「俺の秘密に迫る者は皆消し飛ぶ!!」

『お前の秘密ってなんだよ…』

「ク、クソッ! よくも主を!!」

「絶対殺す!!」

 

 

残りの6人は血走った目で丈城を睨みつけ、各々の武器で襲いかかる。だがこれも無駄な抵抗だった。こうなることがわかっていた彼は冷静にキラークイーンを前に出し

 

 

「シアーハートアタック!!」

 

 

第二の爆弾『シアーハートアタック』を左手甲から発射。シアーハートアタックは興奮している6人の体温を感知してその中へ飛び込む。そして

 

 

『コッチヲ…見ロォッ!!』

「「「「「!?」」」」」

「シアーハートアタックに…『弱点はない』」

(チュドオオォン!)

 

 

シアーハートアタックに亀裂が走り、そのまま大爆発。威力はかなり大きく、かかってきた6人全員を爆炎ですっぽり覆ってしまうほど。断末魔の叫びをあげることなく彼らは消し飛び、後に残っていたのはクレーターのようにえぐれた地面と、元通りになったシアーハートアタックだけだった。

 

 

「よし、殲滅完了☆」

『お前の行動に恐怖を覚えたぞ俺は…』

「慣れりゃ問題はないっての」

 

 

ドライグの呟きを一蹴し、丈城はシアーハートアタックをキラークイーンに戻して下山再開。もちろんあの白猫も一緒だ。だが爆風を浴びた影響なのか、呼吸はしているもののグッタリとしている。どうやら失神してしまったようだ。

 

 

「うーん…キラークイーンを使ったのはマズかったかな~。……まぁ猫繋がりだし、この子を守れたし、結果オーライかな」

『ハァ…しかしどうするんだこの猫。お前ん家じゃ飼えないだろ?』

「それが問題なんだよなぁ…。親父は確か猫アレルギーだし、お袋は猫が苦手だし…しゃーねーな、獣医んトコに連れてって保護してもらうとしよう」

『まぁ…それが最善の方法だろうな』

 

 

丈城は次の行き先と目的が決まり、足早に下山した。その後ふもとにあった獣医の所へ向かい、そこで白猫を保護してもらうことになったので、彼は帰路についた。

 

後に残ったのは爆殺されたあの悪魔達が白猫を狙っていた理由だけだが、今となっては藪の中である。

しかし丈城はそんなことを気にすることはなく、あの白猫はきっとどこかで幸せに暮らしているだろうと考えていた。

 

 

そして数ヶ月後、一人と一匹は意外な形で巡り会うこととなる。

 

 

(←To Be Continued…)

 

 




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第4話《無限龍神の帰る場所》

『駒王学園 合格通知・判定 合格』

 

 

「ベネ(よし)、高校進学はうまくいったみたいだな」

 

 

キラークイーン事件(命名省略)からさらに数年後、中学生となった丈城は受験シーズンを迎えていた。受験したのは最近共学化した『駒王学園』。そして上記の通り合格通知をもらったため、彼はこの春めでたく高校生になるのだ。

 

 

「ま、あとは学年末テストと卒業式ぐらいしかイベントはないし、こっちはのんびり特訓でもしましょうかね」

『テスト勉強はどうした(汗』

「スタンド使えば一発じゃん」

『オイオイオイオイ』

 

 

手に持っていた合否通知のプリントを机の上に放り、丈城は白のジャージに着替えて例の特訓山へと向かった。

 

 

☆☆☆

 

 

特訓山ですることは主に三つである。

まずは基礎体力をつけるための軽い準備運動。

山道でのジョギングに腹筋、スクワット等で身体をほぐし、これを毎日続けて体力を増加させてゆく。

次に赤龍帝の籠手での特訓。以前山頂近くの崖の上に作った仕掛けを作動し、岩やコンクリートの塊を崖下へ落とす。それを崖下で操作した丈城が神器展開状態で全て迎え撃つ。こうすることで次にどう動き、どれを攻撃すればいいのかの判断力を高められるのだ。

そして三つ目はスタンド能力の特訓。『エアロスミス』や『皇帝(エンペラー)』を使っての射撃訓練や、『キッス』、『緑の法皇(ハイエロファント・グリーン)』等の技能訓練を繰り返し行い、スタンド能力を着実に使いこなしてゆく。…とまぁ、こんな様な特訓をかれこれ数年間続けている。その甲斐あってか『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が進化して形状が変わったりと、特訓を重ねる度に丈城は心身共に成長していった。

 

そしてこの日も、いつも通りの特訓を始めていた。

 

 

「『ストーンフリー』!『隠者の紫(ハーミット・パープル)』!」

 

 

今日は『ストーンフリー』と『隠者の紫』を使っての特訓のようだ。『ストーンフリー』の能力は本体やスタンド自身の身体を解いて糸を作り出すこと。対して『隠者の紫』は棘状のスタンドで、テレビやカメラを通しての念写能力を持つ。

左手の手首の皮膚を解して糸にし、右手に『隠者の紫』を展開した丈城は周囲の木々にそれらを巻き付け、力一杯引き寄せる。木々は根っこから次々と抜けて彼の元へ一直線。そこへ人型になった『ストーンフリー』が木々を受け止め、丈城の足元へ横並びに積み上げた。即席の防御壁の完成である。

 

 

「ふぃ~。ま、『ストーンフリー』は使い方によって応用がきくし、このまま続けていればある程度強くなれるな」

『そのようだな…と言いたいところだが、お前はそんなもの使わなくとも勝てるだろう? 』

「戦い方がワンパターンじゃ面白味がねーだろ? それにいつか破られる。んだったら今の内に技のレパートリー増やしといた方がいいんだよ」

 

 

ドライグの意見に丈城はそう答えた。

…そんな感じで今日も何事もなく特訓を終え、辺りはすっかり夕陽に照らされ赤く染まっていた。頃合いと見た丈城は特訓を切り上げ、駒王町へと帰ろうとする……と

 

 

「…ん?」

 

 

背後に人の気配を感じた丈城はふと、後ろを振り返った。特訓山には自分以外滅多に人は立ち入らない。だが…

 

そこには山登りに来たにしては風貌が"全く似つかわしくない者"がいた。

 

 

「………人?」

 

 

歳は15~6歳程度。黒髪のロングにゴスロリ姿の少女は遠目でもはっきりわかるほど、目鼻顔立ちが整っている。一体いつの間にやってきたのだろうか。

 

 

『…オーフィスか』

「オーフィス…? てか知っているのか? ドライグ」

『ああ。といっても、かなり昔の話だがな』

 

 

どうやらドライグはこの『オーフィス』という少女と面識があるようだ。

 

 

「…久しい。ドライグ」

『そうだなオーフィス。しかし何の用だ?』

「その者の、力を借りに来た」

「お、俺? つーか俺の力って……まさかスタンド能力のことか?」

『まぁ、恐らくそうだろうな』

「てか…なんでお前スタンド能力が必要なんだ?」

「静寂を、取り戻すため。グレートレッドに勝って、我、帰りたい」

「グレートレッドって…?」

『「真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)」グレートレッド。次元の狭間に棲んでいる最強のドラゴンだ。実相世界に姿を現すときもあるが、基本的にこちらのことに関しては興味を示さない』

 

 

その後の話を要約するとこうである。

 

 

オーフィスこと、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』は真の静寂を得るために次元の狭間に行く計画を立てた。しかしそこには自身よりも遥かに強いグレートレッドがいるため、迂闊に手を出せない。そこで彼女(?)はテロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』に協力を依頼、グレートレッドを倒そうとしていた。

だが禍の団は、交換条件としてもらったオーフィスの増強能力『蛇』の力にしか目が無く、彼女を禍の団の親玉として祭るだけ祭っておいて、後は放ったらかしにしていたのだ。いつまでたっても禍の団が動いてくれないので、彼女は仕方なく次なる手段・赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)(ドライグ)の宿主であり、未知なる力『スタンド能力』を持つ兵藤丈城の力を借りに来た…という。しかし

 

 

「…まぁ、言いたいことは大体わかった。けど仮にも俺は人間だし、赤龍帝の籠手とスタンド能力だけで最強のドラゴンに挑むなんて無理があるぞ。例えるなら甲子園出場チームに、バットも持ったことがないような茶道部が挑む様なもんだぜ?」

「でも我、帰る場所がない」

 

 

思わぬ反対に少しぶすっとした表情で話すオーフィス。確かにこのままだと帰る場所が永遠になくなってしまう。どうしたものかと丈城が考えていたとき、ある事に閃いた。

 

 

「…そうだ。オーフィス、俺ん家来るか?」

「『えっ?』」

「帰る場所がないなら俺がなってやるよ。丁度この春から高校生になるんだけど、実家からだと学校が遠いんだ。だから学校近辺のアパートに俺だけ引っ越すことになってサ。そこで一緒に住まないかって話」

「…よいのか?」

 

 

可愛らしく首を傾げるオーフィス。

 

 

「あぁ。でも条件として、禍の団からは抜けてもらうぞ」

「わかった、禍の団とは手を切る。我、お主と住む。お主、名は?」

 

 

承諾した彼女は丈城に名前を聞いた。彼はそれを待ってましたとばかりに口元を上げると

 

 

 

「プレッシャーと常識を跳ね返す男・兵藤丈城! ジョジョと呼んでくれ!」

 

 

 

力強く返した。

 

 

☆☆☆

 

 

オーフィスとの一件より、数ヵ月後のある朝。

 

 

「すかー………」

 

 

引っ越し当日だというのに、丈城は絶賛爆睡中。

ここ最近は特訓のペースを上げていたせいか、いつもより疲労が蓄積していたようだ。なので休みの日はこうして昼までベッドの上でくつろいで熟睡している。流石に中学生の身体には負担が大きかったようだ。

 

 

(ピピピピッ、ピピピピッ、ピピ)ガッ

 

 

「んー…………」

 

 

目覚まし時計を黙らせて再び布団のまどろみに埋もれる丈城。しかしこの直後、彼はもの凄い勢いで飛び起きることになる。

 

 

(ふにっ、ふにふに)

「ほぇ…何だこりゃ……」

 

 

寝返りを打った時、彼の手に柔らかい何かが触れた。もちもちとした、弾力のあるものを。

 

 

「んー…」

 

 

丈城はその正体を探るべく少し布団を捲ってみると……

 

 

 

 

 

「………ファ━━━━━━━━━━━━━━━━━ッ!?」

 

 

 

 

 

一拍置いて飛び起き、勢い余ってベッドからすってんころり。朝っぱらから痛みの走る尻を擦りつつ、彼は立ち上がって柔らかい感触の正体に突っ込んだ。

 

 

「オ…オ、オーフィス!! おめいつのまに入り込んだ!? そして何故に全裸!?」

 

 

正体はなんとオーフィスだった。

しかも昨日あった時のゴスロリ姿ではなく、下着すら纏っていない全裸状態。突っ込みたいところは色々あるがそれはさておき。目をこすってもまだぽわわんとしている彼女は、これまた不思議そうな顔でこう答えた。

 

 

「一緒に住んでいいって、ジョジョが言ったから…」

「言ったけども……そーゆー意味合いじゃないのよ全く…。あと俺らが住むのはここじゃなくてもう一つの方だからな。とりあえず服を着ろ。下着とゴスロリはどこにやったんだよ」

「我…下着、履いてない」

「履けよッ!」

 

 

朝からSAN値がフリーフォール状態の丈城だった。

 

 

☆☆☆

 

 

とまぁなんやかんやあって、丈城はただ一人駒王学園の近くにある小さなボロアパートに引っ越し、新たに始まる高校生活の準備に取り掛かった。だがそれ以前に彼には解決しなくてはならないことがあった。オーフィスの衣類である。彼女の衣類はあのゴスロリ一着のみ。このままでは今後の生活に影響しかねない。そこで引っ越しの片付けをそっちのけで二人は町へと繰り出した。…はいいものの

 

 

「…ジョジョ、あれは?」

「あー…あれは信号機といって、赤は止まれ、黄色は注意、緑は進めを示していて…ってオイオイオイ! 今は赤だから進んじゃ駄目だっての! コラコラ!」

 

 

てなことがあったり、

 

 

「…ジョジョ、これは?」

「それは消火栓といって、下に消火用のホースが、上には非常ベルと警報スイッチが取り付けてあって…ってワーッ!? 警報スイッチを押すんじゃない!! 押したら消防がすっ飛んでくるから!!」

 

 

てなことがあったり、挙げ句には

 

 

「うぉ━━━━いッ! どこ行った━━━━ッ!!」

 

 

オーフィスとはぐれる等と、彼女とのお出掛けはまさに命懸けだった。

 

必要なものを全て買い終わり、二人が帰る頃には夕方になっていた。丈城は二人分のクレープを買って、一つをオーフィスに渡して帰路に着く。

その際オーフィスは丈城に向かって「今日、楽しかった」と感想を口にした。まぁ、道中色々あったものの丈城も「俺もな」と笑って返答。こうしてオーフィスとの買い物は無事に終わったのだった。

 

 

 

 

 

そしてこの5日後、彼が通うこととなる駒王学園の入学式が行われた。

 

しかし彼はこの時在学中に様々な事件に巻き込まれることになるなど、夢にも思わなかっただろう。

 

この先に待ち受ける彼の運命とは一体何なのか。

 

ジョジョの名を継ぐ者・兵藤丈城の物語が今、始まる。

 

(←To Be Continued…)

 

 

 

 




というわけで何とか本編前へと辿り着けました。次回から原作通りに物語を進めていこうと思います。

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第2部『エンカウント・ディアボロス』
第5話《丈城に迫る影》


「「「「「コラ━━ッ!! 待て━━━━━━ッ!!」」」」」

 

 

駒王学園に響く大勢の女子達の怒号。そしてそれから猛スピードで逃げ回る二つの影があった。

丸刈り頭と眼鏡が特徴的な男子生徒二人。一体何があったのか。

 

 

「ヘッヘッヘッ、今日の剣道部の女子更衣室は最高だったぜ!!」

「だな! 一眼レフも持ってきて正解だった! 早速帰って現像だ!!」

 

 

……実はこの二人、覗きである。今から遡ること数分前、剣道部の女子更衣室に侵入した彼ら・松田と元浜は覗き目的のためロッカーに隠れた。しかし女子達の野性の勘というやつか、部員達に早々にバレてしまい、現在進行中で彼女達から逃げている最中である。

逃走開始から2分が経った頃、二人の目の前にT字の分かれ道が現れた。

 

 

「よし松田! 二手に分かれるぞ!」

「合点承知!」

 

 

元浜は女子部員達を撒く作戦として、松田に案を持ち掛けた。それを承諾し、二人は分かれ道へ差し掛かる。そこへ……

 

 

「WRYYYYYYYYYY━━━━━━━━ッ!」

 

 

奇声と共に目の前の開いていた窓から突如人が飛び出し、その人物は丁度両サイドへ逃げようとした元浜と松田にダブルラリアットをお見舞いした。当然不意討ちだったため避ける間もなく、二人はモロに食らい仲良く仰向けに転倒。

 

 

「「タコスッ!?」」

「性懲りもなくまた覗きとは………マヌケがぁっ!」

「ぐっ、ゲホゲホッ!! な、何をするだぁ! ジョジョォッ!!」

「つーかジョジョ! ここ4階だぞ! どうやってここに!?」

「このジョジョに出来ぬ事など何もないッ!」

「「一般人の芸当じゃねぇだろ!!」」

 

 

元浜と松田に強襲を仕掛けていた人物、それは言わずと知れた兵藤丈城だった。彼は『ストーンフリー』の糸で校舎の壁を駆け上がり、覗きを働いた二人を成敗しに来たのである。

 

 

「それはともかくとして…こんな所でのんびりしてていいのか?」

「「あ」」

「あーんーたーたーちー!!」ゴゴゴゴゴ…

「「「「「覚悟ォ━━━━━━━━━━ッ!」」」」」バシーン!

「「ギャ━━━━━━━━━━ッ!?」」

 

 

丈城に気をとられていた二人は背後に迫る修羅達に気が付かなかった。その結果すぐに追手の彼女達に囲まれ、暫くの間竹刀で滅多打ちにされることに。彼らの悲鳴が校舎に響き渡る。

 

 

「しっかしまー、なんであれだけやられても覗きを繰り返すのやら…。気持ちがわからねぇな」

「あ、あの…ジョジョ君」

「ん? どったの?」

「いつもいつもあの変態二人をやっつけてくれてありがとうね」

「いいっての。またあいつらがなんかやらかしたら、いつでも俺に言ってくれ。地獄の果てまで追っかけてぶん殴ってやるから」

 

 

丈城はニョホ♪と言わんばかりに笑って見せた。

 

 

☆☆☆

 

 

兵藤丈城が駒王学園に入学してから丸一年が経ち、今は進級して二年生となっていた。そしてこの学園は様々な有名人が存在する。

 

まず『駒王学園二大お姉様』と称される、三年のオカルト研究部部長『リアス・グレモリー』と同じく副部長で、実家の神社で巫女をしている『姫島朱乃』。

その他にもイケメン枠として二年の『木場裕斗』、マスコットキャラクターの一年『塔場小猫』が例として挙げられる。次に先程の二人、元浜は性格と写真部に所属していることから『セクハラパパラッチ』『エロ坊主』とかいう異名をつけられ、松田も眼鏡で女性のスリーサイズを測れるという破廉恥極まりない妙技を持っているため、『スリーサイズスカウター』や『エロメガネ』等と言われており、二人まとめて"駒王学園二大変質者"と称されている。

そんな二人の活動を厳しく取り締まっているのが、『駒王学園ご意見番』『秘密警察』の異名を持つ丈城だ。元々この二人とは中学時代に知り合ったのだが、上記の理由により二人の監視役として行動するようになったという。そのため二人が何か良からぬ事を企てようものなら、こうやって制裁に現れるのだ。そしてこの後はいつも通りメッタメタにされた変質者二名を回収して教室に戻り、授業にでる。といった具合だ。

 

 

(ガラッ)

「すいません、変質者二人を拘束していたら遅くなっちゃいました」バァーン

「おージョジョか、相変わらず効果音の似合う男だな。ご苦労」

 

 

学園の教師陣も丈城の生業は知っているので、授業の遅刻は特に咎めたりはしない(その代わり元浜と松田の成績から丈城の点数が引かれる)。二人を席に座らせた後、自分の席に着いて教材を出そうとしたとき

 

 

「……ん?」

 

 

机の中から一枚の封筒が落ちた。丈城はそれを拾って封を切り、中を確認する。

 

 

『放課後、南校舎で待っています』

 

 

入っていた紙にはそう書いてあった。これはどうみてもラブレターである。普通の人だったら天にも昇る気分になるのだが、この時彼は何故か不信感を抱いた。

 

 

(何だ…この胸騒ぎは? まるで罠か何かに誘われているような……)

 

 

丈城は暫く考え込んでいたが、とりあえず今は授業中なので、一旦頭の片隅に置いといて授業に集中することにした。

 

 

☆☆☆

 

 

その日の放課後、手紙に書かれていた通りに丈城は校舎裏へ向かった。到着してみると……

 

 

「あっ、兵藤先輩…ですよね?」

 

 

そこにいたのは手紙の差出人と思われる、同年代でロングヘアーの少女だった。彼女は丈城に本人かどうか尋ねてきたので、彼は「あぁ。俺がジョジョだ」と返す。

 

 

「すみません、突然呼び出してしまって…」

「別にいいっての。えーっと、君は?」

「あっハイ! 2年の天崎夕麻です!!」

「夕麻ね、よし覚えた。…んで用件は?」

「あの…私と付き合ってください!!」

 

 

夕麻と名乗った少女は予想通り、頭を下げて丈城に告白した。彼は多少の不信感はあったものの、こうもハッキリ告白されたら断りづらいので

 

 

「…あぁ。こちらこそよろしく」

 

 

と答えた。

 

 

「ほ、本当ですか!! ありがとうございます!!」

 

 

夕麻は満面の笑みで去っていった。夕闇が迫る校舎を見上げ、丈城は一人静かに呟く。

 

 

「……天崎夕麻…調べてみる必要があるな」

 

 

その右手には、『隠者の紫(ハーミット・パープル)』が蠢いていた。

 

 

☆☆☆

 

 

帰宅後、丈城は早速『隠者の紫』を使っての調査を開始。押し入れから引っ張り出してきたポラロイドカメラを机の上に準備し、『隠者の紫』を右手に出現させた。

 

 

「…ジョジョ、何するの?」

「天崎夕麻の正体とその目的を探る。危ねーから俺の後ろに隠れてろ」

 

 

そう言って気合いを入れると、右手でポラロイドカメラ目掛けて

 

 

「チェストォォォ━━━━━━━━━━ッ!」バキャン

 

 

空手チョップを繰り出した。当然の如くカメラはぶっ壊れてしまったが、一拍置いてジーッと写真を吐き出した。一応説明しておこう。『隠者の紫』の念写方法は特殊で、カメラがぶっ壊れるほどの勢いの衝撃を与えないと念写をすることができないのだ。そのため本作でも原作でもこうしないと念写が出来ない。カメラは後で『クレイジーダイヤモンド』が直しておくとして、『隠者の紫』が念写した写真は2枚だった。まずは一枚目を確認。

一枚目は天崎夕麻が写っていた。しかしあの無邪気な笑顔ではなく、明らかに邪悪な意志が宿った笑みを浮かべていた。そしてその背にはカラスの様な漆黒の翼…。

 

丈城の予感は的中した。

 

 

「やっぱりな。天崎夕麻は人間じゃねぇ、堕天使だ」

 

 

目を細めてそう口にする丈城。次に彼は二枚目を手に取った。

 

 

「こいつは…3年のリアス・グレモリーか?」

 

 

後ろ姿のため顔は確認出来なかったが、彼はその特徴的な髪の色から3年生のリアス・グレモリーと判断。そして背には堕天使のものではない別の形状の翼を見つけた。

 

 

「形からして…悪魔の羽か? これは…」

『そのようだな。しかしその後ろにも何かあるみたいだが…よく見えないな』

「んだったら『星の白金(スタープラチナ)』の正確な視力で書き取らせてみるか」

 

 

ドライグの問いに丈城に『星の白金』を出し、紙とペンを持たせて後ろに写る何かを書き取らせた。星の白金はその写真を見て素早く紙にペンを走らせてゆく。数秒後、何かを書き終えた『星の白金』は紙を丈城に手渡して消えていった。

 

 

「……成程、リアス・グレモリーの他にもいるって訳か」

 

 

紙に描かれていたのは三人の姿、姫島朱乃・木場裕斗・塔場小猫と思われる者が悪魔の翼を展開したスケッチだった。つまり現時点で5名の人外が駒王学園にいることになる。

 

 

『相棒、この先荒れるかもしれんな……』

「へっ、上等だ。襲ってきたらその時は大空に輝くファイアフラワーにしてやるぜ」

『…証拠は?』

「皆消し飛ぶ!!」ビシッ

『ま、まぁ…程々に、な?』

 

 

☆☆☆

 

 

丈城が天崎夕麻と付き合い始めて、早一週間が過ぎた。

 

しかし彼女は今のところこれといった動きは見せてこない。いつ来るのかと丈城は警戒していたが、それは意外に早く訪れた。ある日、夕麻の方からデートの誘いが来たのである。デートと称しての暗殺だと見抜いた彼は騙されたフリをしてこれに乗った。当日それなりに楽しい時が過ぎて、気が付けば辺りは真っ暗になっていた。

 

 

(さぁ~てと、そろそろ動き出す頃合いか……?)

 

 

夜道を歩く二人。自分のすぐ先を楽しそうに歩く夕麻。その様子は心底、丈城とのデートを楽しんでいるように見える。しかしその本性を見抜いていた彼は刻一刻と迫る襲撃を待ち構えていた。すると

 

 

「ねぇ…丈一君、一つお願いしていいかな…?」

 

 

ふと夕麻がそう告げた。

 

その瞬間彼の中に稲妻が走る。そう来たのだ、彼女の襲撃が。

 

 

 

 

 

「死んでくれないかな?」

「だが断る」

 

 

突如飛んで来た光の槍を軽々と避け、スタンド『ホルス神』の能力で生成した氷のミサイルをカウンターで発射した。

 

 

「うわっ!?」

「貧弱貧弱ゥッ!! この俺を殺すだとォ? 笑わせんな!!」

 

 

続けて刀状のスタンド『アヌビス神』を召喚し、戦闘体制に入る。本性を現した夕麻はボンデージ姿になり、堕天使としての正体を明かして丈城を睨み付けた。

 

 

「くっ、聞いていないわよこんなの! あなたの神器は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』じゃなかったの!?」

「敵の下調べを十分にしなかった、てめーの負けだッ!」

 

 

勝ちを確信した丈城がそう言い放った瞬間、またもやあらぬ方向から光の槍が飛んで来た。

最も当たるよりも先に丈城が反応して『アヌビス神』で切り払ってしまったが。

 

 

「おおっと、増援か?」

 

 

槍が飛んで来た方向に目を向けると、そこには別の堕天使がいた。黒のスーツと体格からして男の堕天使とわかる。

 

 

「レイナーレ、一旦退こう。彼は今の我々が太刀打ちできる相手ではない」

「くっ、ドーナシーク。今回ばかりは感謝するわ」

 

 

二人は闇夜の中へと姿を消した。一人残された丈城は『アヌビス神』をしまってドライグに語り掛ける。

 

 

「……ドライグ」

『どうした相棒?』

「決めた……俺あいつらを必ずぶち殺してやる。徹底的に……」

『今更!?』

「しゃーねーだろ!? あんにゃろ高けぇレストランやら高けぇ服屋やら散々俺の財布にダメージ与えやがって!! お陰で生活費の10万円が一気に消えちまったじゃねぇかよ!! このツケはぜってー払ってもらうからな……夕麻いや、レイナァァァレェェ━━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 

怒りの雄叫びをあげて激昂する丈城。その光景を見たドライグは静かに思うのだった。

 

 

 

レイナーレ、南無と。

 

 

(←To Be continued…)




こんにちは、尾河です。

何とか原作一巻に突入できました。ここから丈城は一体どのようにしてレイナーレをぶっ飛ばすのでしょうか?


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第6話《デビル・ファーストコンタクト》

こんにちは、尾河です。

今回はいよいよ原作主要メンバーとの初接触です。丈城は悪魔となるのでしょうか?

それでは第6話、どうぞ。


レイナーレの一件より、翌日。

 

この日も丈城は何事もなく登校した。恐らく用意周到な彼女の事である。自分達に関する事柄は全て隠滅しているだろう。その証拠にスマホで撮った二人のツーショットは消去されており、残っていたのはあまりにも大きい財布の爪痕と高額な金額が記されたレシート数枚だけ。

 

それともう一つ、気になることが増えた。丈城が暴いた悪魔の存在である。あの時自分の死角となる場所に悪魔がいたのなら、自分が襲撃されたことを知っている筈。否、そうとしか考えられない。

 

 

(全く…用があるんなら正々堂々真正面から来いっつーんだよ)

 

 

丈城は軽く苛立ちを覚えていた。コソコソ監視じみたことをするのではなく、用件をキチッと伝えてくれればそれでいいのである。だが先方はそうしない。それがまた何とも腹立たしかった。

 

同日の放課後。

教材と筆記用具を鞄の中に突っ込んで、彼は帰宅の準備をしていた。そして帰ろうと席を離れた時、廊下が一層騒がしくなる。何事かと思って顔を覗かせてみると、モーゼの海渡りの如く人混みが割れて一人の人物がやって来た。

特徴的な紅の髪、丈城が念写によって悪魔だと判明した駒王学園の3年生『リアス・グレモリー』だった。ようやく来たかと睨んだ丈城はそのまま外へ。そしてあえて彼女の脇をすり抜けて帰る素振りをみせた。すると

 

 

「2年の兵藤丈城君……かしら?」

 

 

一切振り向かず、リアスは彼を呼び止めて本人の確認をとった。その問いに彼は口元を上げ

 

 

「……いかにも、俺がジョジョだ」

 

 

と返した。

 

 

「貴方に用があって来たの。ついてきて頂戴」

「それが人に頼む態度かよ先輩。…まぁいいや、別にいいぜ」

 

 

多少の高圧的な態度に苛つきながらも、丈城はリアスの後についてゆく。一旦外に出て、彼女らが向かった先は旧校舎。入口を通りとある一室に着くと、扉をギィッと押して中へ入った。ここが目的地らしい。

 

 

「ただいま。例の彼、つれてきたわよ」

「「「お帰りなさい、部長」」」

 

 

辿り着いたのはオカルト研究部の部室だった。学園内では先の有名人達(変質者二人を除く)が全員そこに所属しているため、かなり有名な部活である。まぁ丈城は興味すらなかったので気にも止めていなかったが。

部室にいたのはリアスを除いたオカ研フルメンバー。奥の机の側に立っている3年の姫島朱乃、ソファに座って読書をしている2年の木場裕斗、反対のソファで羊羹をつまんでいる1年の塔場小猫の3人だった。

 

 

「そこに掛けて頂戴」

「へいへい」

 

 

丈城はリアスに言われて、小猫の隣に腰掛ける。それに向き合うように彼女も裕人の隣に座った。

 

 

「どうぞ。粗茶ですわ」

「あぁ、こりゃどーも」

 

 

朱乃が淹れた紅茶を一口もらい、丈城は改めてリアスと向き合う。

 

 

「改めて、初めましてになるのかしら?」

「そのようだな、先輩」

「ご高名はかねがね聞いているわ。私達オカルト研究部は貴方を歓迎します」

 

 

リアスはそう言って一拍開けると、その場にいた全員と共に、

 

 

 

 

 

「悪魔としてね」

 

 

 

 

 

悪魔の翼を展開した。…が

 

 

「……………」

 

 

元々正体を知っていた彼にとっては当然わかっていたこと。ジト目で思いっきりノーリアクションをしていた。そのまま謎の沈黙が続き…

 

 

「……あの、何かしらのリアクションをとってくれると嬉しいのだけれど。これじゃまるで私達がスベった空気になっちゃうから…」

 

 

沈黙に耐えかねたリアスが苦笑いで丈城にリアクションを求めた。そしてその呼び掛けの答えの代わりなのか、彼は無言で懐に手をやると、例の『隠者の紫(ハーミット・パープル)』で念写した写真を取り出して隣の小猫に手渡す。

 

 

「……? …ッ!? 部長…これ…!!」

「何? …これは…ッ!!」

 

 

それを見たリアスや朱乃、木場や小猫は驚いた。それもその筈。写真だけでなく、『星の白金(スタープラチナ)』が書き出した紙も一緒に出されたのだから。

 

 

「…ヘッ、驚いたろ? 初対面にも関わらず、自分達の隠しているもう一つの顔を知っているなんてよ」

「貴方……一体何者なの? こちらの情報では、貴方の神器は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だけの筈じゃ……」

「やっぱ知ってたか……まぁいいや。隠す必要も無さそうだし」

 

 

リアスは怪訝な表情で問う。彼はその問いに対し、右手を高く掲げて『隠者の紫』を発現させた。

 

 

「「「「!?」」」」

「大アルカナ9番目のタロット『隠者』の暗示『隠者の紫』。能力はカメラやTVを使っての念写。今回はカメラを使ってあんた達を調べた。といっても、例の堕天使のついでだがな」

「二つの…神器所有者だというのかい?」

「厳密に言ってこいつは神器じゃない。スタンドという固有の能力を持った、守護霊的存在だ。本来スタンドは一人につき一体しか所有出来ないが、俺は複数体扱うことができる」

「あらあら、ということは他にどんなスタンドがあるのかしら?」

「んー…つっても本体である俺自体、その数を把握してねーしな……しいて言うなら"時間停止"、"殺人ウィルス"、"空間を削り取る"とかかな?」

 

 

丈城の説明に凍り付く一同。そして一拍置いて

 

 

「…丈城君、あn「だが断るッ!!」そ、そんなハッキリ言われても…」

 

 

まぁ、彼にとっては仕方のないことだろう。

 

 

「この兵藤丈城が最も好きな事のひとつは、自分が絶対的優位にあると思っている奴にNO!と断ってやることだ…!」

「で…でも、悪魔になれば人間よりも長生きできるし、簡単には死ななくなるのよ?」

「死にたいから悪魔になりたくないわけじゃない。これは……『証明』のためだ。あんた達人外に向けてのな」

「証…明……?」

 

 

丈城は目を細める。

 

 

「俺は過去に悪魔の一派に遭遇し、軽くだが馬鹿にされた。あんた達にとってはそんな程度かもしれねーけど、スタンド能力を持った俺にとっちゃ、人間だからって馬鹿にされるのは嫌なんだよ。だから俺は人間はやめない」

「そう…残念だわ」

 

 

思わぬ反論をされたため、リアスはそれ以上勧誘することはできなかった。するとそれを見た丈城がこんなことを口にする。

 

 

「でも、あんたは少し違うみたいだ」

「…?」

「俺は、人が人を選ぶにあたって最も大切なのは『信頼』だと思っている。それに比べたら頭がいいとか、才能があるなんて事はこれっぽっちもない」

 

 

淡々と自論を述べてゆく丈城に一同は黙り込んでしまう。

 

 

「極端な話、俺はあんた達を試したい。17世紀の神学者・フラーは、『見えないところで友人を良く言っている人こそ信頼できる』と述べた。あんたから違う雰囲気を感じたからこそ試したいんだ。あんたが信頼できる人…悪魔かどうかを」

「それなら……私達は一体何をすればいいのかしら?」

 

 

やっと声を絞りだしたリアスは丈城にそう尋ねた。

 

 

「別にない。ただ一つ、俺をここに置いてくれさえすればそれでいい。あとは勝手に俺があんた達を見るからさ」

「それは…契約という意味かしら?」

「Exactly(その通り)」

「……わかったわ。契約内容を聞きましょう」

「この部への入部、代価は部やあんたの一派に尽力を尽くす。これでどうだ?」

 

 

丈城の提案にうっすら笑みを浮かべ、リアスはそれを飲んだ。

 

 

「OK、契約成立だわ。これから私のことは部長と言いなさい」

「日笠○子じゃダメか?」

「CVは却下。というか中の人なんていないから」

「いいじゃんか。俺は性格上歳上には愛称じゃないと呼びたくねーんだよ。安心しろって、変なのはつけねーから」

「ハァ……仕方ないわね。ただし変なのはダメよ」

「グレート! これから厄介になるぜ"リア"。よろしくな」

「えぇ、こちらこそ……というか前々から気になっていたのだけれど、名前は"ともき"なのになんであだ名は"ジョジョ"なの?」

「丈城の読み方変えて読んでみ」

「……あぁ、そういうことね。改めてよろしく頼むわ、"ジョジョ"」

 

 

無事契約が成立し、二人は立ち上がって握手をかわす。

果たしてこの選択は、丈城にとって吉とでるか凶とでるのだろうか。

そしてオカ研のメンバーになった丈城はこの夜、早速呼び出しをくらうこととなる。

 

悪魔のお仕事、開始である。

 

 

(←To Be Continued…)

 




ハイ、というわけで丈城は人間続行を選びました。

彼が密かに決意していた『人外に対する、自身という人間の証明』のためを理由にしましたが、実際の所どうやって彼を動かすかまだ未定なんですよね。

そして満を持して出したオカ研メンバーとメインヒロイン。後者は言わずもがな、リアスにしようと思っています。


誤字脱字、ご意見等ございましたら、コメント欄にご一報ください。


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第7話《はぐれ悪魔を討伐しよう》

駒王町のはずれにある、とある廃工場。

 

 

1990年代まで稼働していたとされるそれは、閉鎖されてから時間が流れ、今ではすっかり荒れ放題となっていた。雰囲気でいかにも心霊スポットに見え、ここに潜入する若者が年々急増している。しかし増加しているのは潜入する人間だけではなく、それに伴い行方不明者も急増しているのだ。

中で一体何が起こったのかはわからない。何故なら無事に帰ってくる人間があまりの恐怖に記憶を失ってしまったからだ。都合がいいと言おうか何と言おうか。そんなこともあってか、次第に『あの世の入口』だとか『神隠しの舞台』だとかの異名までつく羽目になった。

 

実はここ、丈城が特訓山に行く時によく通る道なのだ。しかもあろうことかショートカット目的で中に入ったことも。よく生きて帰ってこれたものだ。

 

そして今現在……

 

 

「こいつはクセェ!! ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ!!」

「…丈城先輩、うるさいです」

「んな冷てー事言うなよ、竹達○奈ちゃん」

「…中の人なんていません」

 

 

丈城とリアスの眷属はそこに来ていた。何でも悪魔側の大公からの命令で、この廃工場に潜むはぐれ悪魔を討伐してこいとのこと。夜は悪魔のゴールデンタイム。そのため深夜にも関わらず丈城達ははぐれ悪魔狩りにでかけなくてはならないのだ。

 

 

「小猫、はぐれ悪魔の位置わかるかしら?」

「…奥の方から血の臭いがします」

「付け加えて、現在位置はここから100m地点先。敵は一体のみ。こっちに向かって移動しているぜ」

 

 

小猫の見解に加え、丈城が敵の位置を正確に把握した。

 

 

「ジョジョ、敵の位置がわかったの?」

「あぁ、バッチリだ」

「ひょっとして、さっきから右眼につけているスカウターがそうなのかい?」

「ここに入る前に外へ放った奴とセットでな。ちなみに能力は二酸化炭素レーダーで敵の位置を特定することだ」

 

 

裕斗の質問に対して簡潔に話す丈城。そして

 

 

「皆、来るわよ」

 

 

リアスの言葉に全員が足を止める。すると、闇の奥から上半身が女性で下半身が巨大な四本足の獣のような怪物が姿を現した。その手にはギラリと光る槍状の獲物が。

 

 

「不味そうな……いや美味そうな臭いがするぞ? 甘いか不味いか……食べて確認してみようかな?」

「初めまして、はぐれ悪魔バイザー。私はリアス・グレモリー。大公の命により、貴方を消し飛ばしにきたわ」

 

 

おぞましい化け物の前でも、いたって涼しい顔でそう口にするリアス。対するバイザーは口元をニヤつかせると、

 

 

「こざかしいィィィッ! 小娘如きがァァッ! 貴様の髪の色のように鮮血で染めてやるゥゥゥッ!!」

 

 

奇声をあげて襲い掛かってきた。それに対抗して神器とスタンドで迎え撃とうとした丈城を静止し、リアスは裕人に指示を送る。

 

 

「ジョジョ、見ていなさい。私達の眷属達の力を。行きなさい裕斗!」

「はい部長!」

 

 

指示を受け駆け出した裕斗は手に剣を召喚させ、バイザーに素早く斬り掛かる。

 

 

「私達眷族にはチェスの駒に合わせた『悪魔の駒』にあてはめられているわ。裕斗の役割『騎士(ナイト)』、特性はスピード。『騎士』となった者は速度が増すの。そして彼の最大の武器は剣。『魔剣創造(ソード・バース)』という神器で、剣を創造することが出来るのよ」

 

 

リアスの説明を聞きつつ、丈城は裕人の動きを読んでいた。この時丈城は彼の動きに多少、一定のリズムがあることに気がついた。自分が言えた立場ではないが、まだまだ甘い点があるといったところだろう。

 

 

「あらあら、それじゃあお仕置きの時間ですわ!!」

 

 

裕斗がバイザーの足をあらかた斬り伏せると一旦距離をとり、後方にいた朱乃が前にでた。

 

 

「朱乃は『女王(クイーン)』。私の次に強い最強の者。『兵士(ポーン)』『騎士』『僧侶(ビショップ)』『戦車(ルーク)』全ての力を兼ね備えた無敵の副部長で、魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎等の自然現象を魔力で起こす力をね」

(雷……そうか、姫島朱乃。チリ・ペッパー事件の女の子だったのか……。てか歳上だったのか、知らなかったや)

 

 

バイザーを雷で攻撃し続ける朱乃を見た丈城は、数年前自分が関わったチリ・ペッパー事件の女の子が目の前の先輩だということに気づいた。雷を中心に使う所を見ると父親ゆずりなのか、はたまたチリ・ペッパーの影響なのかどうかまではわからないが。

 

 

「ギャァァッァァァァァァッ!」

 

 

足を全て切断され、しかも雷直撃を食らったせいでバイザーは大量のダメージを負った。

さらに追い討ちをかけるが如く

 

 

「……ふっ飛べ」

 

 

小猫が小柄な身体からは想像もつかない力でバイザーを殴った。

 

 

「小猫は『戦車』。その特性はシンプルで、バカげた力に屈強なまでの防御力。それに元々の小猫は仙術と呼ばれる術式で身体能力を高めて闘うのを得意としているから、相性は抜群よ」

 

 

『星の白金』よりかは若干劣るが、それでも体力を削るには十分な拳を叩き込んでゆく小猫。暫くたってバイザーは至るところから血を流し、ボロボロになった。そこへリアスがツカツカと歩みより

 

 

「さて、バイザー。何か言い残すことはあるかしら?」

 

 

と聞いた。その時、

 

 

「ケケケ…かかったなアホがぁッ!!」

 

 

バイザーの切断された足やら手離した槍やらが、リアス目掛けて飛び掛かったのだ。しかも運悪く咄嗟に避けられない位置に転がっていたため、彼女は完全にバイザーの罠にかかってしまったのである。

バイザーは計画通りと口元をニヤつかせた。しかし忘れてはいけない。この男の存在を……

 

 

「『世界(ザ・ワールド)』ッ! 時よ止まれェィッ!」ブゥン!

 

 

バイザーの罠を見切っていた丈城は『世界』の時間停止能力を発動。ギリギリでリアスへの直接攻撃を防ぐことが出来た。この10秒間は有効に使わなくてはならない。まずリアスを安全圏内へ移動させ、さらに『星の白金』と『世界』で静止している足や槍を素早くバイザーに向けて、時間を再始動。

 

 

「そして時間は動き出す…ッ!」ブゥン!

 

 

時間が再び動き出したことにより、向きを変えられた足や槍がリアスではなく、バイザーへ突貫。しかも上半身と下半身の付け根にクリティカルヒットしたため、大量の血しぶきをあげてバイザーは二つに分断された。

 

 

「グギァアアアァァァ━━━━━━━━ッ!!」

「フゥーハハハハハッ!! 最ッ高にハイッてやつだァ━━━━━━ッ!!」

「……なんか段々とジョジョ君が悪役に見えてきたんだけど」

「あらあら、ウフフ♪」

 

 

調子が乗ってきた丈城はこめかみを人差し指でぐりぐりと押し、不敵にそして高らかに笑う。

 

 

「はぐれ悪魔バイザー! 貴様との闘いにカタをつけるッ!! 『エアロスミス』だぁァァ━━━━ッ!!」

 

 

その叫びが言い終わるや否や、廃工場の窓ガラスを突き破って、第5部のナランチャ・ギルガが使役する模型飛行機型スタンド『エアロスミス』が乱入。搭載された機銃でバイザーに射撃を開始した。

 

 

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ、ボラーレ・ヴィーア(飛んでいきな)!!」

 

 

最後の台詞と共に『エアロスミス』がミサイルを発射し、バイザーに見事命中。断末魔の叫びをあげることなく、バイザーは爆散した。

 

 

「後片付けもしておかなくちゃあな……『クリーム』!」

 

 

そして『クリーム』を出した丈城は、バイザーの死体を暗黒空間へと葬った。

 

 

「うし、討伐完了!」

「……ジョジョ、また新しいスタンドが三つ出て来てたのだけれど、説明してくれるかしら?」

「OK. んじゃまずは最初にチラッと言った、時間停止能力を持つ方から。大アルカナ21番目のタロット・完全、宇宙の意味合いをもつ『世界』の暗示、『世界』。時止めは最大で10秒。続けて『エアロスミス』はさっきの二酸化炭素レーダーの能力を持ち、このスカウターと模型飛行機の二つで一つのスタンドだ」

 

 

そして説明の途中に『クリーム』を側に戻し、

 

 

「最後は『クリーム』。こいつの口の中は『暗黒空間』になっていて、飲み込んだ物質を全て粉微塵になって消滅する。最も本体である俺は無害だけどな」

 

 

試しに工場内を移動させた。クリームは自身の手足を飲み込んで球体になると、ガオンという音を立てて次々と工場内の床と壁にポッカリ穴が空いてゆく。

 

 

「成程…考えただけでも寒気がする能力ね。私、ジョジョが味方についてくれて助かったわ」

「敵にまわしたら間違いなくクリア不可能だろうな、うん」

 

 

穴ぼこだらけの廃工場を背に、丈城達はその場を後にした。後に裕斗があの時の心境を尋ねたところ、彼曰く「世界を支配せんとする最凶の吸血鬼気分だった☆」と言っていたという。

 

 

それも心底楽しそうな、満面の笑みで。

 

 

(←To Be Continued…)

 




皆さんこんにちは、尾河です。

とりあえずの報告ですが、来週は投稿することが出来ません。理由は期末テストが迫ってきており、それに集中しなくてはならないのです。


楽しみにしている皆様には大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。

誤字脱字、ご意見等ございましたら、コメント欄にご一報下さい。


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第8話《修道女》

長らくお待たせいたしました。尾河です。

期末テストがようやく終わりましたので、投稿を再開します。

そしてお気に入り件数が100件を突破致しました。この場を借りて厚く、御礼申し上げます。


それでは第8話、どうぞ



先の討伐より三日後、帰路についていた丈城はとある出来事に遭遇していた。

 

 

「はわう!?」

 

 

突然後ろから声がし、直後に路面に何かが転がる音がした。振り返ってみるとシスター姿の少女が倒れている。どうやら典型的な石にけつまずいてのようだ。

 

 

「…や~れやれだぜ」

 

 

丈城は仕方なく、彼女を助け起こすために近寄った。

 

 

「大丈夫か? お前。足元注意だぜ?」

「あうぅ、なんでこんなに転んでしまうんでしょうか……ああ、すみません。ありがとうございますぅ」

(声からして……相当トロい奴だな。もしくは俗に言う"ドジっ娘"ってやつかな)

 

 

差し出された手をとってシスターはゆっくり起き上がる。すると丈城の背後から風が吹き、シスターがつけていたヴェールが飛んでいってしまった。そしてヴェールの中で束ねていたと思われるブロンドヘアーが風を受け露になり、彼女と丈城の視線がぶつかった。

そのシスターは丈城でも一瞬心が奪われるくらいの美少女。が、当の彼はドキッとなったもののすぐ自我を取り戻し、再び彼女に話しかけた。

 

 

「…顔立ちからして外人か。旅行かなんかか?」

「あぁいえ、違うんです。実はこの町の教会に赴任することになりまして……あなたもこの町の方なのですね、これからよろしくお願いします」

「おぅ、よろしくな。俺は兵藤丈城。ジョジョと呼んでくれ」

「私はアーシア・アルジェントと申します! アーシアと呼んでください!」

 

 

飛ばされたヴェールを拾う道中に自己紹介を済ませる二人。アーシア・アルジェントと名乗ったシスターは丈城が埃を払って差し出したヴェールを受け取り、さらに礼の言葉を重ねた。

しかしシスターが何故こんなところにいたのだろうか?

 

 

「この街に来てから困っていたんです。私、うまくしゃべれなくて……」

「(成程、だから道に迷ってここにいたのか。英語の授業がめんどくさくて『安全装置(セーフティロック)』を仕掛けといたのが、こんなところで役に立つとは…)それは不運だったな。でもよかったじゃねぇか、こうやって対話できる人に会えたんだから」

「そうですね! これも主のお導きのおかげですね!」

「そだな。んで目的地はどこなんだ?何なら俺が案内してやるよ。大方この町の地図は頭に入っているから」

「ほ、本当ですか! あ、ありがとうございますぅぅ!」

 

 

丈城の提案を飲んだアーシアは彼の手をとり、涙で潤んだ目で微笑んだ。こうして二人は目的地である教会へと向かった。

 

その道中、

 

 

「ん? …なんだ、植木鉢か」

 

 

住宅街を横切っている際、路面に散らばる何かを見つけた。近寄ってみると、隣の民家の塀から落ちたと思われる植木鉢が粉々になっている。住民は気がついていないようだ。

 

 

「このまま放置すると花が枯れちまうな……」

「そうですね…どうしましょう」

 

 

アーシアはいとおしそうに花に手を添える。それを見た丈城は暫く考え

 

 

「……よし、治すか」

 

 

スタンド能力を使用することを決断した。

 

 

「えっ? ジョジョさん、治すって……?」

「俺の能力みたいなものだ。見てろよ……」

 

 

丈城は『クレイジーダイヤモンド』を側に出し、砕けた植木鉢にその手をかざす。すると植木鉢の破片は徐々に底から元の形へと復元していき、土も花もその中へ戻ってゆく。そしてものの数秒で植木鉢は元通りに復元した。

 

 

「!?」

「あーわりィわりィ、いつものノリでやっちまった。この力は俺の能力の一端で、『破壊されたものを修復する能力』なんだ。こんな風にぶっ壊れた物を元通りに出来るし、人の怪我だって治せるぜ」

「そうなのですか…ジョジョさん"も"神様からそのような素敵なものをいただいたのですね」

「あなた…"も"?」

 

 

塀の上に植木鉢を置きながら、丈城はアーシアの言葉に引っ掛かりを感じて尋ねる。"も"ということは、彼女も『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』のような神器を所持しているというのだろうか。

 

 

「はい、私も『治癒の力』といって、神様が授けてくださったものがあるんです。同じものを持つもの同士の出会い……きっと神様が私達を巡り合わせてくれたのですね!」

 

 

手を合わせ、神にお祈りを捧げるアーシア。しかし丈城は彼女の様子が、何か無理をしているようにしか見えなかった。

 

 

「……まぁ、そうなんだろうな。んじゃ植木鉢も戻したし、教会へ行こうか」

「はい!」

 

 

どうやらスタンド使いではなかったようだ。(というか絶対ない)そして暫く歩き、二人は目的地である教会へと辿り着いた。

 

 

「到着だぜ。おもいのほか遠かったな」

「ありがとうございます!! 良かったぁ」

 

 

教会…にしては、丈城の目には廃墟にしか見えなかったが、彼女はここが目的地だという。何とも奇妙な話である。

 

 

「それじゃ、俺はこれで」

「待ってください! 私をここまで連れてきてもらったお礼を教会でさせてください!」

「あぁ…本当に悪いが、この後急ぎの用事があるんだ。大丈夫だって。また会えるよ」

「そ、そうですか……それではジョジョさん、必ずお会い致しましょう!」

 

 

急ぎの用事と言われたアーシアはそれ以上丈城を引き留められず、そのまま二人は再会を約束して別れた。

暫く歩いたところで、丈城の左手甲が赤く光りだし、ドライグが彼に語りかける。

 

 

『相棒…今のシスター…』

「あぁドライグ。あの教会といい、そこを目的地にしていたアーシア・アルジェントというシスター…そしてこの前の堕天使騒動。ひょっとしたら俺達はあのレイナーレのグループのアジトを見つけちまったかもしれねぇな…。俺の読みが正しければ、この二週間以内にまたあそこにいくかもしれない。……フフッ、たーのしみ☆」

『遠足感覚で言うなよ……さすがに俺でもゾッとしたぞ』

「気にするな。勝てば済むことだ」

 

 

某フルメタルな軍人の台詞を口にし、彼は早く帰宅するため、夕闇に染まる町中へと姿を溶け込ませていった。

 

 

☆☆☆

 

 

「そう…そんなことがあったの」

『送ってくれたから見逃してくれのか、はたまた人間だからスルーしたのか、いずれにしろ大丈夫だとは思うけどな、リア』

 

 

その夜、旧校舎にはリアと丈城のスタンドの一つ『ブラックサバス』が連絡係として話し合いをしていた。余談だか何故スタンドだけが来たのかとリアが問うと、丈城は"同居人が寂しがって動けないから仕方なく"と返されたそうだ。『ブラックサバス』の説明を軽くして、彼は今日の帰り際にあった出来事を報告した。

 

 

「だけど先方にあなたが私達と関わっていることがバレれば、それこそ大変な事になるわ。しかもジョジョの話が本当なら、そこは堕天使・レイナーレの一味の潜伏場所なのでしょう? 尚且危険よ」

「リア、ひょっとして俺が死ぬとでも思ってる?」ニヤニヤ

「……心配するまでもなかったわね。あなたはチートそのものだってことをすっかり忘れていたわ」

 

 

頭に手をやり、やれやれといった具合で嘆息するリア。丈城に至っては『ブラックサバス』でジョジョ立ちの練習までしている始末。緊張感が全くなかった。

 

 

「兎に角、堕天使が放つ光の槍は人間にも、私達悪魔にも有害だから、くれぐれも注意して頂戴」

『アラホラサッサー。んじゃそろそろ同居人も眠たいって言ってるから、そろそろブラックサバスをこっちに戻すわ。それじゃ、お休み』

「ええ、お休みなさいジョジョ」

 

 

一通り話終えた二人は互いに別れの言葉を口にし、丈城はブラックサバスを影に潜らせて、本体である自身の元へ戻す。リアもソファにもたれかかって仮眠をとり始めた。

 

 

しかし、事件の歯車は既に動き出していた。

 

 

(←To Be Continued…)

 

 




はい、というわけでヒロイン二人目・アーシアの登場回でした。

そういえばネタバレになるのですが、この後の事件でアーシアちゃん一回死んでしまうんですよね。どう話を展開しよう………


では、また第9話でお会い致しましょう。


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第9話《堕天使達の狙い》

こんにちは、尾河です。

とある読者様から貴重なご意見を頂きまして、同じ小説家仲間と話し合った結果、主人公の名前を変更致しました。(変更前・丈一→変更後・丈城 "ともき")

多少強引な設定が多々ありますが、それでも宜しければ第9話、どうぞ。



修道女の少女━━アーシア・アルジェントとの出会いより、翌日の深夜(午前2時頃)のことだった。

 

 

「ったく…あれだけ食ってまだ足りねーのかよ」

『仕方ないだろう? あいつは人ではなくドラゴンなんだから』

「そりゃそうだけどさ……やれやれだぜ」

 

 

同居人のオーフィスが夜中に突然、腹が減ったと言いだし、丈城は仕方なくコンビニへと足を運んでいた。パンとおにぎりを購入し、街灯の明かりだけが頼りの夜道をブラブラと歩いて帰っていると

 

 

「……ん?」

『どうした、相棒?』

「かすかに……血の匂いがする。この近くみてーだな」

 

 

一瞬鼻についた血の匂いに気付き、立ち止まって辺りの匂いを確認する。しかしいくら彼でも犬のようにはいかず、特定出来ない。

 

 

「仕方ねぇな……この匂いを頼りにスタンド能力を使うか」

『一体いくつ持ってんだお前は……』

「正確に数えた試しがないのでわかりません。『ハイウェイ・スター』ッ! 血の匂いの場所を特定しろ!」

 

 

噴上裕也のスタンド『ハイウェイ・スター』を呼び出した丈城は、その能力で匂いの出所を特定する手段に出た。『ハイウェイ・スター』は匂いを嗅ぎ付け、全身を厚みのある手形や足跡に分解させて行動開始。それを丈城が追跡する形で匂いの出所を探す。

やがてとある一軒家に『ハイウェイ・スター』が入っていき、丈城もそこへ辿り着いた。

 

 

「…まさかと思うけどよォ~、住人が殺されてましたってオチじゃねぇ~だろォ~な~……」

『……もう腹くくって行くしかないぞ、相棒』

「だ、だよな~」

 

 

この先にある展開を察した丈城は、全身から汗が吹き出すのを感じた。しかし後には引けない。腹をくくった彼は覚悟を決めて家の中に入った。

 

中は不気味な静けさに包まれ、物音一つしない。ハイウェイ・スターは玄関の正面にある部屋の前で待機している。そうだ、あの先に血の匂いの正体がある。丈城は恐る恐る土足で上がり、意を決して部屋の扉を開け放つ。

そこにあったのは、あまりにも酷い地獄絵図だった。

 

 

「うぐっ…わかってちゃあいたけど、ひでぇ有り様だな……!」

 

 

リビングとおぼしき部屋に釘で打ち付けられていた、上下逆さまの男の遺体。『吊られた男(ハングドマン)』というわけじゃないが、酷いのはその部分ではない。その全身は無惨にもズタズタに切り裂かれており、中身はその下に全て落ちていた。血が至る所に飛び散り、最早人間の理性でやれるは思えぬ状態であった。

 

 

「しょっ……正気の沙汰じゃねぇぜこんなの…。酷すぎる……仏さんが可哀想だ…」

『確かに……幾らなんでも、怨恨にしてはやりすぎだな…』

 

 

戻しそうになるのをぐっとこらえつつ、目を背けながら丈城は『クレイジーダイヤモンド』を繰り出す。惨たらしい最期を迎えた仏さんを元通りに治し、打ち付けられていたのを外してソファに寝かせ、瞼を静かに閉じさせる。

 

 

「安らかに眠りな……幾ら俺でも、あんたの命を元通りにはできねぇ…」

 

 

とりあえず黙視できる状態に戻したので、丈城は改めてソファに近寄って手を合わせた。

 

 

「……で、どうしてこんな真似をしたんだ?」

「『悪いことする人はお仕置きよー』って、聖なるお方の言葉を借りたものさ」

 

 

突然怒気を含んだ口調で語り出す丈城。するとそれに答えるように一人の白髪の少年が出てきた。

 

 

「その格好は……さしずめ『神父』、悪魔祓いといったところか?」

「イエスイエス。あとそいつはもちろん俺がやっちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしぃ、殺すしかないっしょ。」

 

 

リアが以前彼に伝えていた、悪魔にとって天敵なる存在・悪魔祓いや神父。神の祝福を受けているそれらは、悪魔を滅ぼせるだけの力を有しているとか。だからといって、人間をズタズタにしていいという理由は何処にもない。そう考えた彼の中に、怒りが沸き上がった。

 

 

「ふざけんな……聖職者だからっつって、何でも許されるとでも思ってんのか…?」

「はぁぁぁ? 何それ? 正義のヒーローごっこでごさんすかぁ? ハハハ、笑える笑える。お笑い取れますですよ、それは。いいか、よく聞k『ドラァッ!』ブゲェッ!?」

 

 

これ以上話を聞く必要はないと判断した丈城は、『クレイジーダイヤモンド』で少年を殴りとばした。

 

 

「寝言言ってんじゃねーぞコルァッ!」

 

 

怒りを露にした彼はスーパー○イヤ人の如く髪を逆立て、少年を睨む。少年はいきなり見えない力に殴られたことに苛立ちを隠せず、その主犯である丈城を睨み返した。

 

 

「テ…テンメェェェェェッッ! このフリード・セルゼン君のありがたいお言葉の最中にふざけたこと抜かしやがってェェェッ! 妙な神器(セイクリッドギア)持ってっからって調子に乗んじゃねェェっすよォォォッッ! 僕t」

『ドララララララララララララララァッ!!』

「ゲブバァッ!?」

 

 

もはやこの『フリード・セルゼン』と名乗る少年の話を聞く耳を持たなくなった丈城はドララララッシュをすかさず叩き込んだ。壁に叩きつけられたフリードはあまりの激痛に悶絶し、暫くの間動かなかった。その隙に潰そうとした丈城の耳に

 

 

「フ、フリード神父? どうなされました?」

(!?)

 

 

聞きなれた少女の声が。驚いてそちらを向くと、そこには昨日会ったばかりのシスター・アーシアが立っていた。一体どうしてここに。

 

 

「アーシア! 何でこんなところに!?」

「えっ!? ジョ、ジョジョさん!? いえ、フリード神父に結界を張るよう命じられまして……そちらの方は?」

 

 

アーシアはソファに横たわる遺体に気が付き、駆け寄ってその顔を覗きこんだ。

 

 

「アーシア…あんまり見ない方がいい」

「えっ、どうしてですか?」

「その人は…もう死んじまってる。そこのフリードってヤローが、惨たらしい方法で殺したんだ」

「フ、フリード神父が、この方を!?」

「さっき自分が殺ったって白状したからな。しかしこれで合点がいった。ここまで来るのに人の気配がしないと思ったら、殺人のためにアーシアに結界を張らせてやがったのか。腐りきってやがるぜコイツ……」

 

 

全てを悟った丈城はアーシアに事の顛末を話した。アーシアは慈愛の表情を浮かべて、遺体の前で十字を切る。

 

 

「俺がここに来たのは血の匂いを嗅ぎ付けたから。全く、俺じゃなきゃ発覚しなかった事件だぜ」

 

 

その時だった。

 

 

「いっつつ……こんっちくしょォがァァァ━━━━ッ!」

 

 

復活したフリードが拳銃とビ○ムサー○ルを彷彿させる剣を振りかざし、丈城に襲いかかる。対する丈城も『クレイジーダイヤモンド』で再び沈めようと構えた。その時、二人の間の床が青白く輝き始める。

 

 

(パアァァッ!)

「「!?」」

「! この紋章はリアか!!」

 

 

そう、形成されてゆく魔方陣から現れたのはオカルト研究部の面々だった。

 

 

「契約者の反応が途絶えたから心配して来てみれば…ジョジョ、これは一体何があったの?」

「今冷静に話せる状況じゃないということだけしか話せねぇよ!」

「ひゃっほう! 悪魔の団体さんに一撃目!」

 

 

間髪入れずフリードが襲いかかるも、すぐにその一閃は裕斗の剣により防がれた。それを見たリアは黙って頷く。

 

 

「ジョジョ、ここは一旦退却よ! 貴方は今の内に逃げなさい!! 裕斗! お願い!」

「はい部長!」

「仕方ねぇ…リア、後は任せた! 後で俺ん家で落ち合おう! 行くぞアーシア!」

「ひゃっ!? ジョジョさん!?」

 

 

何かの拍子でアーシアに流れ弾が当たってはいけないと判断した丈城は、アーシアを抱えて玄関から猛ダッシュでその場から逃走した。

 

 

「アーシア…すまねぇな。とんだ再会になっちまって」

「ジョジョさん…貴方は悪魔なのですか? あの方々をフリード神父は悪魔とおっしゃっていたのですが……」

「厳密に言えば協力者だな。俺は只のデカイ力を持っただけの人間だけであって、悪魔じゃない。心配すんな」

 

 

暗い夜道を、アーシアを抱えたまま疾走する丈城。彼は一切スピードを緩めずに自宅へ一直線に向かっていた。

 

 

「…あのう、これからどこへ行くのですか?」

「ひとまず俺ん家。同居人一人いるけど気にしないでくれ」

 

 

数分後。丈城とアーシアは仮住まいのアパートに到着し、二階にある自室へ入った。

 

 

「…遅い。我、お腹ペコペコ」

「悪りぃ悪りぃ、途中寄り道しちまってよ。ほれ、おにぎりとパンと……」

 

 

頬をプクーと膨らませて出迎えたオーフィスに、先程購入したおにぎりとパンを手渡し、そして

 

 

「避難してきたシスターの女の子」

 

 

アーシアを部屋に入れた。

 

 

そしてその光景を見て、オーフィスの一言。

 

 

「……ジョジョの浮気者」プクー

「ちげ━━━━━━━よッ!」

 

 

☆☆☆

 

 

「……それじゃあ話し合いを始めるわ。でもその前に」

「わかってるっての。オーフィスがどうしてここにいるかってことだろ?」

 

 

暫くして無事に丈城の部屋にジャンプしてやってきたリア達。しかしアーシアがいることは把握していたが、流石にオーフィスがいるとは思わなかったようで、部屋の中でいきなり臨戦態勢突入。丈城のレフェリーがなければもう少しでアパートが倒壊するところであった。

ひとまず両者(といってもリア側のみ)を落ち着かせて、オーフィスが同居している理由とアーシアが知っていることを話し合うことになった。

 

 

「えーっと、まずオーフィスとは約2年前。駒王学園に入学する前に出会ったんだ。接触してきた目的は次元の狭間に帰るために力を貸してほしいということ。でも次元の狭間にはグレードレッドがいて、そいつは無茶苦茶強いから俺は勝てない。そこで妥協策として家に来るかって言ってみたら、いいって返事をされて同居している」

 

 

ちなみに当の本人であるオーフィスはあぐらをかいている丈城の足にちょこんと座り、その隣にさも羨ましそうに見つめるアーシアが座っている。ある意味でモテモテな丈城だった。

 

 

「一応…こちらではオーフィスは禍の団(カオス・ブリゲート)というテロ組織のトップという風に言われているんだけど、その辺についてはどうなのかな?」

「その辺りもオーフィスから聞いた。だが奴らはオーフィスを首領として祭り上げただけで、あとはほったらかしにしていたんだ。恐らく連中はオーフィスの力だけが狙いで、次元の狭間に返すつもりはなかっただろうな。で、そいつらと縁を切ったら同居しようって持ちかけたら、オーフィスはその約束通りに切って今に至る」

「…昔よりも、今の生活がいい。ジョジョのご飯は美味しいし、お布団は気持ちいいし、ジョジョの抱き心地も最高」

「誤解を招くような言い方をするんじゃない! オメーが勝手に俺の布団ん中入ってきて勝手に抱き枕にしているだけだろーが!」

「ジ、ジョジョさん! フレンチです!」

「それをいうなら破廉恥な、アーシア。てかそれはこっちに言ってくれないか? どっちかっつーと俺の方が被害者サイドだから」

 

 

オーフィスとのほんわかとしたコントを見せられたリアは短く嘆息し、これなら問題ないだろうと判断せざるを得なかった。

 

 

「…まあ、とりあえずジョジョの言うことは信じるわ。次にシスターアーシア、あなたの知っていることについて話してもらいたいのだけれど、いいかしら?」

 

 

そして本題、アーシアから話を聞こうとリアは話題を変える。アーシアは若干表情を曇らせながら、自身のことを交えつつこう話してくれた。

 

 

聖女として祭り上げられ、傷付いた悪魔を治してしまったことで異端となり捨てられたこと。極東の『はぐれエクソシスト』の組織に拾われ、堕天使の加護を受けなくてはならなくなったこと、今回は呼び出されてはいるが、何一つ詳しいことは知らされてはいないこと等……

 

 

「…聞いているだけでムカッ腹が立ってくるぜ。散々のし上げておいて後はゴミみたいに捨てやがって……なんつー奴らだ」

 

 

気がつけば、丈城の目はわずかに血走っていた。怒りを覚えているのだ。アーシアの人生を簡単に滅茶苦茶にした者達に。そんな彼にリアは落ち着くよう諭した。

 

 

「落ち着きなさいジョジョ。怒るのは無理ないのはわかるわ。でもこれは何百何千年と繰り返されてきた事なの。今更私達がどうこう出来ることじゃないの」

「……安心しろ、別にキレちゃあいない。チコッと頭に血がのぼっただけだ…。冷静だぜ…全然な」

「…ハァ、とにかくシスターアーシアは何も知らされていなかったのね……あとはジョジョが彼女と一緒に行ったという教会だけのようね」

「……なぁ、リア。ひょっとしたらよ」

 

 

すると冷静さを取り戻した丈城がある推論を話した。

 

 

「連中の狙いはひょっとすると……"アーシアの持つ能力"じゃないのか?」

「「「「「えっ!?」」」」」

「話を聞いててもしやと思ってな。アーシアは『クレイジーダイヤモンド』と同じ治療系の能力を持っているんだけど、それって戦力的に見たらかなり有利な力じゃねぇのか? 怪我を完治させるなんてそうそう出来ねぇんだから」

「…可能性としては、ありうる話」

 

 

丈城の推論に小猫も真剣な眼差しで納得する。確かにアーシアの持つ力はどれをとっても心強い。種族関係なく欲しい者はいるだろう。ないとは言い切れない話である。

 

 

「私の…力をですか?」

「おそらくな。俺の考えが正しければ、連中は必ずアーシアを狙ってくる筈だ。リア、何とか出来ねぇか?」

「そうね、なら私達が保護するわ。その内に堕天使達を片付けましょう。幸い調べてみたら、この計画は堕天使全体ではなく独自の計画だったから、連中を倒しても問題はないわ」

 

 

どうやらリアは朱乃と共に、裏からこの計画を探っていたらしい。それを聞いた丈城は目を閉じて頭を軽く下げる。

 

 

「……済まないな、リア」

「別に貴方のためではないわ。これは私の管轄内で起こったことだから、"主"である私が何とかしなくてはいけないの。……巻き込んで申し訳ないと思うなら、貴方も協力して頂戴。ジョジョ」

「元よりそのつもりだぜ。誰かを守るためだったら、俺はどんなやつだってブチのめしてやるつもりだ。…でもその前にアーシア、一つだけ聞きたい」

 

 

最終確認のために、丈城はアーシアに尋ねる。

 

 

「お前は……あの教会に、堕天使どもの居場所に帰りたいか?」

 

 

そう聞かれた彼女は、俯いてポロポロと涙を流しながら力強くハッキリと口にした。

 

「……嫌、です。私、あの教会へは戻りたくありません。人を殺すところへなんか…戻りたくありません。それに…私なんかのために力になってくれる素敵な方々と……離れたくありません!!」

 

 

それを待っていたとばかりに、全員が顔を見合わせて小さく頷く。

 

 

「グレートたぜ、アーシア。よく言ったぜ。安心しろ、俺がアーシアを守ってやる。絶対に死なせやしない。必ずだ」

 

 

丈城は彼女に向けて力強くサムズアップ。その決意と目に濁りはなかった。

こうしてアーシア・アルジェントは暫くの間、裕斗が住んでいるマンションへ保護されることとなった。

 

決着の時は、刻一刻と近づいている。

 

改めて丈城とドライグ、ならびにオカ研メンバーは来たるべき戦いに覚悟をきめるのだった。

 

 

(←To Be Continued…)




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第10話《レスキューアーシア》

「…迂闊だったわ。まさかすぐに居場所を突き止められるなんて…」

 

 

前回の悪魔祓いとの対峙、そしてアーシアを保護したその一週間後、事態が動いた。

 

なんと堕天使と悪魔祓いの集団が保護先のマンションを突き止め、住人である裕斗が出払っているスキに襲撃を仕掛けてきたのだ。裕斗がすぐに気付いて戻ってきたが既に後の祭り。部屋は荒らされ、アーシアの姿は何処にもなかった。事態を重く見たリアは眷属と丈城を夜中に召集し、事の顛末を話した上で、堕天使のアジトを自分達の敵の本拠地として襲撃すると伝えた。

 

 

「申し訳ありません部長。僕がついておきながら……」

「気にしなくていいわ裕斗。でもこれで連中の狙いがハッキリしたわね」

「やっぱアーシアの能力が目的だったのか……となれば、監禁場所はあの廃教会だな!」

 

 

丈城はバンッと拳を掌に叩きつける。

 

 

「幸い、ジョジョが見つけてくれたあの教会は既に捨てられていたみたい。そこを連中は私利私欲のために利用していただけみたい。これから起こるであろう戦いは只の野良試合、派手にやっても問題ないわ」

「ヒャッハ━━━━ッ! 待ってろ今から教会ごとブチ殺してやるからなレイナーレェッ!!」

「やめなさい。貴方の場合本気でやりかねないから」

 

 

丈城に半ば呆れつつ、リアは全員に向き直って力強く激を飛ばした。

 

 

「とりあえず、今回の相手は堕天使と悪魔祓いの烏合の衆だけれど、油断をすれば命を落としかねないわ。各自気を付けて敵を消し飛ばしなさい! 裕斗・小猫・ジョジョは正面から、私と朱乃は別方向から突入。いいわね!」

「「「「はい!(All right!)」」」」

 

 

☆☆☆

 

 

リアと朱乃の両名は魔方陣からある場所へ向かい、残りの三名は部室を飛び出して目的地である廃教会を目指す。

現時刻午前2時。この時間に廃教会にやってくる人影などなく、あるとすれば近くの草むらに身を潜めている悪魔二名とスタンド使い一名だけである。

 

 

「これはあの教会の見取り図だ。相手陣地に攻め込むときのセオリーだから、一応持ってきたよ」

 

 

様子を伺っていた裕斗が一旦二人の元に戻り、懐から廃教会の見取り図を取り出した。

どうでもいいが、何処からそんなものを持ってきたのだろうか。

 

 

「一番怪しいのは聖堂。ほかに宿舎があるけど、奴等は儀式の際によく聖堂を選ぶから無視してもいいね」

「ま、頭がパープリンになってる奴等の考えていることなんざ知らねぇけどな。とりあえず聖堂を叩けばいいってことだ」

「そうだね、遠からず近からずと言ったところかな」

「さてと、対策はこの辺りでいいだろ。あとはその場で考えりゃいい。突る準備はいいか? 二人共」

 

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を出現させて、指をパキパキ鳴らす丈城。彼の戦闘準備は既に整っているようだ。

その問いに対して裕斗と小猫は小さく頷く。

 

 

「グレート…! しゃっ、行くぜ!」

 

 

丈城の掛け声と共に草むらを飛び出し、三人は教会へ突撃。

堕天使達は感度が鋭いのか、もうこの時点で気付いているという。だがいちいちそんなことに構っていることは出来ない。今は先へ進むことを最優先にするだけである。両開きの扉が見えてくると、開けることを面倒臭がった丈城が『星の白金(スタープラチナ)』で殴り飛ばして現場へ突入。

 

そこで待ち受けていたのは…

 

 

 

「ご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ!」パチパチパチ

 

 

 

イカレ神父・フリードだった。

 

 

「! オメーこの間のドグサレ神父!!」

「ヒャハハハハッ! てめぇら、アーシアたんを助けに来たんだろ? ハハハ! あんな悪魔も助けちゃうビッ○な子を救うなんて悪魔様はなんて心が広いんでしょうか!」

「黙れ小僧ッ! アーシアは何処にいる!?」

「んーそこの祭壇の下に地下への階段が隠れてございます。そこから儀式が行われている祭儀場へ行けますぞ」

 

 

丈城の怒号にフリードはあっさり場所を白状。それを聞くなり丈城が「だったらそこを退きなァァァ━━━━━━ッ!」と飛びかかろうとした。すると

 

 

「ここは僕達で食い止める。ジョジョ君、君は早くアーシアさんの元へ!」

「……潰れて」

 

 

魔剣を携えた裕斗と教会の長椅子を持ち上げた子猫が割り込んだ。

 

 

「……グレート! 二人共ぜってー生きて帰ってこい! 俺も必ず戻ってくるからよォ!」

 

 

二人の協力に感謝した丈城は祭壇に向かって一直線に駆け出す。だがフリードも教えた割にはそうやすやすと通すつもりはないらしく、「行かせませんよォォォォ━━━━ッ! こンのクソガキャ━━━━ッ!!」と殺気を振り乱して襲いかかる。だがその攻撃は裕斗は阻まれた上に、丈城がすれ違い様に放った『皇帝(エンペラー)』の弾丸がフリードの左目を貫いた。

 

 

「グギャアアァァァッッッ!? お、俺っちのおめめがぁぁぁッッッッ!?」

「アーシアァァッ! 今行くぜェェェ━━━━ッ!」

 

 

☆☆☆

 

 

祭壇下の階段を転がり落ちるように駆け降り、丈城はアーシアの元へ急ぐ。

 

 

『……相棒、一ついいか?』

「? どったの?」

『以前お前があのシスターの保護先を訪ねたとき、彼女に何か仕組んでいたみたいだが……ありゃ一体何なんだ?』

 

 

ドライグは丈城に、以前から気になっていた疑問をぶつけた。それはアーシアがさらわれる三日前の事である。

 

 

 

(━回想━)

 

 

 

三日前、アーシアの様子見に丈城が裕斗のマンションを訪れた。

彼女を保護してからは、オカ研メンバーが代わる代わる訪ねており、この日は丁度丈城の番だったのだ。裕斗が丈城に茶を出すために台所へ引っ込んだ頃合いを見計らって、彼はアーシアにこう話しかけた。

 

 

「なぁアーシア」

「はい、なんでしょう?」

「俺は、連中にアーシアを殺されることを一番恐れている。それは皆も同じだ」

「私も……怖いです」

「だろうな。そこでだ、怖くならないように俺がおまじないをしてやる。サァ、手を出して目を瞑って」

 

 

彼に言われるがまま、アーシアは左の掌を丈城に差し出す。

 

 

「ちょっとくすぐったいぞー」

「?」

 

 

と言って彼は岸辺露伴のスタンド『ヘブンズドアー』を発現させると、アーシアの掌を能力で本に変えて、何かの文章を書き込んだ。

書き込みはものの数秒で済み、丈城はすぐに彼女の掌を元に戻した。

 

 

「ベネ(良し)。もういいぜ、アーシア」

「ジョジョさん、一体何を?」

「なーに、ちょっとした『安全装置(セーフティロック)』さ」

 

 

首を傾げる彼女に、丈城はまるで悪戯が成功したような笑みを浮かべた。

 

 

 

(━回想終了━)

 

 

 

「……一応な、最悪の事態に備えてスタンド能力を使ったんだ。いくら奴等でもこのおまじないは解くことは出来ない」

『属に言う……先手を打ったってことか?』

「Exactly(その通り)」

 

 

そう会話を続けていると、目の前に大きな扉が見えてきた。丈城は怒りを込めてそれを蹴破り、中へ入る。

室内には大量の悪魔祓いに加えて、奥の祭壇とおぼしき場所に立つ天崎夕麻…もとい忌まわしき堕天使・レイナーレがいた。

さらに祭壇の十字架には磔にされている少女の姿。…間違いない、アーシア・アルジェントである。

 

 

「アーシア! 聞こえるか!? 俺だ! ジョジョだ!」

 

 

視界に彼女を捕らえた丈城は大声を上げた。疲弊しているようだが意識はあるようで、それに反応して彼女は顔を上げた。

 

 

「……ジョジョさん?」

「Yes I am! 約束しただろ? ぜってー死なせないって!」

 

 

約束を覚えていたことに、そして本当に助けに来てくれた丈城に、アーシアは嬉しさのあまり涙を流す。しかし

 

 

「いらっしゃい、あわれな人間さん。感動の再会だけれど、遅かったわねぇ。たった今、儀式が終わるところよ」

 

 

割って入るようにレイナーレが不敵に笑う。刹那

 

 

「……あぁあ、イヤァァァァァァァァァッッ!」

「!? アーシア!!」

 

 

アーシアの体が突如輝きだし、苦しそうに絶叫を上げたのだ。

やはり連中の狙いは彼女の能力だった。全てを悟った丈城は手遅れになる前に救いだそうとアーシアの元へ駆け出す。しかし行く手には大量の悪魔祓い達が。ブチ切れ寸前の彼は『世界(ザ・ワールド)』を発動した。

 

 

「『世界』ッ! 時よ止まれェッ!」

 

 

静止した中で、丈城と『世界』は悪魔祓い達を蹴散らしながら突き進む。

 

 

「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!』」

 

 

必死だった。今まさに、自分の目の前で命の灯火が消えかけている。一度死んだことのある彼にとって、生死に関わる問題は非常に重要視していた。だからこそ救わなくてはならないのだ。粗方の悪魔祓い達を殴り飛ばし、とうとう祭壇へ辿り着いた丈城。と同時に十秒経ち、時間が再始動した。

 

だが、直前というところで……

 

 

「いやぁぁぁぁぁ……」

「しまった! アーシアの能力が!!」

 

 

アーシアの体から大きな光が飛び出し、それをあろうことかレイナーレが手にしてしまったのだ。

 

 

「これよ、これ! これこそ私が長年欲していた力! 神器(セイクリッドギア)! これさえあれば私は愛をいただけるの!」

「畜生! なんだこの逆転サヨナラホームランはよ!!」

 

 

それでも丈城は諦めずに十字架へ飛び付き、アーシアの拘束具を外しにかかる。そして殴り飛ばされずに無事だった悪魔祓い達が背後から襲い掛かるも、

 

 

『『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!(無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!)』』

 

 

そこら辺は彼でもわかっているので、『星の白金』と『世界』のコンビで迎え撃つ。多少のダメージは負いつつ何とかアーシアを介抱した。

 

 

「……ジョ、ジョジョさん……」

「アーシア…気をしっかり持て! このジョジョが助けに来た! もう安心だぜ!!」

「……………はい」

 

 

もはや虫の息のアーシア。恐らく彼女の体から能力を抜かれたせいで、体力を大幅に消耗しているようだ。

 

 

「無駄よ、神器を抜かれたものは死ぬしかないわ。その子、死ぬわよ」

「やっぱ神器だったか……なら返してもらおうかッ!! アーシアの神器をよぉッ!!」

「返すわけないじゃない。これを手にいれるために私は上を騙してまでこの計画を進めたのよ? あなたたちも殺して証拠は残さないわ」

「へっ、上等だ! スタンド使いをそうそう殺れると思うなよ!!」

 

 

そう言って丈城は自身の左肩口付近に手をやったその時

 

 

「「ジョジョ君ッ!(丈城先輩!)」」

 

 

土壇場のタイミングで裕斗と小猫が合流。どうやらフリードとの戦いに勝利したようだ。

 

 

「二人共! アーシアがピンチなんだ!」

「わかった! 僕らがもう一度食い止めるから、ジョジョ君はアーシアさんと一緒に逃げて!」

「オメーら大丈夫なのかよ!? 連戦になるぞ!!」

「……悪魔は頑丈」

 

 

二人の覚悟に丈城は承諾して、衰弱したアーシアを抱えて「ぜってー死ぬんじゃねぇぞ! 死んだら地獄の底まで追っかけてブン殴っからなぁッ!」と言い残し、来た道を通って上へ向かった。

 

 

 

それを見てせせら笑うレイナーレだったが、その足元にシャボン玉が接近しているのに気が付いていなかった。

星の模様がついたそれは彼女の手に触れると、弾けて消えるのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

「ハァー……ハァー……」

 

 

フルスピードで駆け上がった丈城は肩で息をしつつ、抱えていたアーシアを長椅子の一つに寝かせる。しかし彼女の意識は朦朧としており、息も絶え絶えになっていた。

 

 

「ア…アーシア……死ぬなよ…ッ! 大丈夫…! 俺が必ず……救ってみせる…ッ!」

「……ジョジョさ…ん…私、少しの間だけでも……友達ができて……幸せでした……」

「んな事言うなよ……空しくなるだろーが……ッ!」

 

 

アーシアの手を丈城はしっかり握る。

 

 

「……アーシア、疲れたろ…少し寝な…多分ここ暴走族がたむろしてるみたいにうるさくなるだろうから……」

「ジョジョさん…私は…この国に来て……貴方に会えて…良かっ…た……」

 

 

その声は段々か細くなってゆき、アーシア・アルジェントは動かなくなった。

 

 

「………………」

 

 

黙って立ち上がり、静かに眠るアーシアの顔を見下ろす丈城。

 

 

しかしその表情は慈愛に満ちたものではなく、明らかにデス○ート持った青年の如く『計画通り』といった笑みを浮かべていた。

そこへ

 

 

「あーあ、死んじゃったわねぇその子。可哀想に」

 

 

裕人と小猫と戦っている筈のレイナーレが現れた。どうやら勝負を悪魔祓い達に丸投げしたらしい。しかしダメージは負ったらしく、その手甲には切り傷が。

 

 

「見てご覧なさい、この傷はここへ来る途中で『騎士(ナイト)』の子にやられてしまった傷。彼女から奪ったこの能力さえあればこんな傷…」

「……治せるってか?」

「ええ勿論。こうして………!?」

 

 

レイナーレはアーシアの能力を使って傷を治そうとした。するとどうだろう、傷が見事に………治らないではないか。奪って自分のものにした筈の彼女は困惑し始める。

 

 

「な……何故なの!? 傷が治らない!? どうして!?」

「フフッ…フゥ~フフフ……」

 

 

困惑するレイナーレそっちのけで、突然笑い出す丈城。そしてゆっくり彼女の方に向き直ると………

 

 

 

 

「ヌゥハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 

 

 

笑いだした。狂ったかのように笑いだしたのだ。

 

 

「ッ! な、何を笑っているのよ!!」

「かかったなアホがぁッ! 治るわきゃあねぇんだよ!! 何故なら………

 

 

 

 

 

 

 

『アーシアの能力は、既に俺が奪い返したからな』!!」

 

(←To Be Continued…)

 

 

 




アーシアちゃんは本当に死んでしまったのでしょうか?
そして丈城の仕掛けた策とは?

次回をお楽しみに。


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第11話《裁きの鉄槌》

「う…奪い返したですって……? フ、フン。そんなの苦し紛れのこけおどしじゃないの。今のはただの…」

「なら、これな~んだ?」

 

 

さも楽しそうに、丈城はレイナーレに見えるようにあるものを取り出した。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の人差し指と中指に挟まれた、小さなシャボン玉。それは星型の模様だけでなく、緑色に淡く光っていた。

 

 

「!! そ、それは『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』!! どうして!? どうしてあなたがそれを手にしているの!? その力は確かに私のものにした筈なのに……!!」

「『筈』だろーな。ああ、確かにこのアーシアの力は『お前が奪って自分のものにした筈』だ。でも気が付かなかったのか? この俺に『ものにしてすぐ奪い返された』ってことに!」

「!?」

 

 

レイナーレにとって思いもよらぬ計算違い。だがそれは『聖母の微笑』を取り返されたことだけではなかった。

驚愕する彼女を放って、丈城は静かにアーシアに向き直る。

 

 

「でっ…でも残念だったわね…! 言ったでしょ? 神器(セイクリッド・ギア)を奪われたその子は死ぬしかないって!」

「ククク…! 果たしてどうかな?」

 

 

キョドる彼女の言葉を不敵な笑みで返すと、丈城はシャボン玉をアーシアに触れさせて破裂させた。

すると『聖母の微笑』はアーシアの体にすうっと入り、その直後眩いばかりの光が彼女の体から発せられる。まるで元の宿主に戻ってこれたことに、神器自体が喜んでいるが如く。

 

 

「な…何…!? 何が起こっているというの!?」

「アーシアァァッ! カンバァァ━━━━ック!!」

 

 

暫くして光は止み、丈城とレイナーレの目の前で奇跡が起こった。

 

 

 

 

 

「ん……あ、あれ…?」

 

 

先程までピクリとも動かなかったアーシア。その彼女がなんと目を覚まし、起き上がったのだ。自らも死を受け入れただけに、アーシア自身も驚きを隠せない。知っているのは丈城だけ。

 

 

「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よォ! 絶対に信じないわ!! 神器を奪われた人間が生き返る筈がないじゃない!! あなた! 一体何をしたの!!」

 

 

その問いに丈城は自慢気に語りだした。

 

 

「俺の策は既に三日前から始まっていたのさ。お前らの目的に大方の検討がついていた俺は、万が一の場合を想定してアーシア『自身』に仕掛けを施したんだ。『安全装置(セーフティロック)』が仕掛けられるスタンド『ヘブンズ・ドアー』でな!!」

 

 

『ヘブンズ・ドアー』の能力で書き込まれた文章は安全装置として作動し、書き込まれた生き物は安全装置の通りに動いてしまう。三日前に丈城が書き込んだ安全装置の内容は

 

 

『この人物の神器が奪われた場合、再び宿すまで仮死状態となる』

 

 

 

であった。つまり彼は自分が間に合わなかった場合も先読みして、安全装置を仕掛けたのである。

 

 

「そして万が一の場合が発生した。再びアーシアを目覚めさせるには神器が必要不可欠。しかしそれはお前が奪ってしまった。そこで祭儀場から撤退する寸前に二つ目のスタンド能力を発動させたんだ」

 

 

丈城は背後に碇のマークを模したスタンドを出現させた。

 

 

「『ソフト&ウェット』。『柔らかく、そして濡れている』意味合いを持つこのスタンドはシャボン玉を肩口や指先から発生させ、それが触れて割れる瞬間…『そこから何かを奪う』」

「ッ! ま…まさか……!!」

「ご明察ゥ! 撤退する寸前にお前の体から『聖母の微笑』を奪った!! そして先の安全装置の通り、今しがた彼女に神器を宿して復活させた!! そう! 全て俺の計画通り!! テメーが俺の上を行っていたつもりでも、そのさらに上を俺が行っていたのさ!!」

 

 

このしくじりは彼の策だけでなく、彼女自身が人間を侮っていたことにも一つの要因がある。どちらにしろレイナーレは、完全に丈城にしてやられたのだ。

 

 

「ジョ、ジョジョさん……私は…死んだ筈では…」

「悪りぃ、起こしちまったな。でも言った筈だろ? 必ず俺が守るって」

 

 

きょとんとするアーシアに、満面の笑みで笑いかける丈城。そしてレイナーレとの決着をつけるべく、アーシアに避難を促した。

 

 

「さぁアーシア、俺にはまだ殺るべき事が残っている。安全な場所に隠れろ」

「は、はい!」

 

 

アーシアが廃教会の崩れた一角から外へ避難したのを確認した丈城は、改めてレイナーレと対峙する。たった一つの能力を手に入れるために何の罪のない少女の命を脅かし、卑怯な手口で丈城を殺害しようとしたこの外道堕天使を、絶対に許してはならない。

 

 

「さぁ、お仕置きの時間だよ。ベイビー」ズアァッ

「くぅぅ…人間如きが……人間如きが図に乗ってェェェ━━━━━━━━━ッ!!」

 

 

散々コケにされたレイナーレの怒りは半端ではなかった。血走った目で丈城を睨み付け、幾重にも生成した光の槍をバンバン打ち出してゆく。しかし所詮は怒りで標的が見えずに打ち出されただけのもの。日頃からトレーニングを行っていた丈城にとって、この程度の攻撃を避けるのは簡単だった。

 

 

Explosion!!(エクスプロージョン)

「逃がさんッ!!」

 

 

宝玉の輝きと共に気合いを入れ直し、飛んでくる光の槍よりも早く行動。レイナーレを捕らえるべく床から壁に飛び移り、三角飛びの要領で彼女に飛びかかった。

 

 

「い、いや! 離して!!」

「随分と焦ってるみてーだなぁ。ええ? このクソ堕天使がぁぁッ!」

 

 

堕天使すら反応できない動き。丈城は彼女の首根っこを鷲掴みにすると、体ごと回転をつけて

 

 

「クソ堕天使を壁にスパァァァァキングッ!」

「キャアアアアァァァ━━━━━━ッ!」ドガァン

 

 

勢いに全てを任せレイナーレを投擲。壁に人の型をしたクレーターを残して地に伏せた。しかしまだ終わる筈がない。着地した丈城は追い討ちをかけるためにレイナーレへ急接近。よろよろと力なく立ち上がる彼女の顔面目掛け、強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ホゲェ━━ッ!」

「まだまだまだァッ!」

 

 

吹き飛んだレイナーレよりも早く先回りし、丈城は両手首を合わせてある構えをとる。その瞬間背後から花京院典昭の『緑の法皇(ハイエロファント・グリーン)』が同様のポーズで現れる。その手にはエメラルドグリーンに煌めく水飛沫。狙いを定めて……

 

 

「エメラルド・スプラァァァッシュッ!」

 

 

多数のエメラルドを水飛沫から発射。かなりの至近距離のせいか、その全弾がレイナーレの体に命中して貫通した。

 

 

「ぐああぁぁぁぁっっっ!!」

 

 

吐しゃ物を吐きながら大きくのけぞった彼女に、丈城は『緑の法皇』から『星の白金(スタープラチナ)』に切り替えて終幕に入る。再びレイナーレの首根っこを鷲掴み、そのまま上下に強く揺さぶった。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

「ぐぶぅっ!?」

 

 

さらに吐しゃ物と血を吐くレイナーレ。そして追い討ちとばかりに『星の白金』が右手を振り上げて、小指から順に拳を握りしめ、

 

 

『オォ~ラァッ!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

 

彼女の顔面に真正面から拳を叩きつけた。さらにそのままオラオララッシュに移行。

 

 

「てめぇを裁くのは……俺の神器とスタンドだぁ━━━━━━━━ッ!」

 

 

丈城の台詞と共に、『星の白金』はレイナーレを天井へ向けて打ち上げた。天井を突き破り、月明かりの夜空へ舞い上がる堕天使。やがてそれは重力に従って落下してくる。

それを待ってましたとばかりに、丈城は大股を開いて腰を落とし、『赤龍帝の籠手』に力を込めた。そして

 

 

「どぉっっせいッ!」

 

 

落ちてきたレイナーレに気合一閃。トドメの一撃をお見舞いした。もはや気絶に近かった彼女は声すらあげられず、廃教会のステンドグラスを突き破ってようやく停止。再び彼女が立ち上がる様子は……ない。

 

 

「ふ~、スッとしたぜぇ~」

『やったな相棒。流石、俺が見込んだだけのことはある』

「たーりめーだぜ。こちとら散々やられたんだ。これぐらいやんねーとスッとしないぜ」

 

 

そういう彼の表情は疲れの色が出ていたものの、何処か晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕天使レイナーレ…丈城のスタンド、及び『赤龍帝の籠手』の猛攻により、再起不能(リタイア)

 

(←To Be Continued…)

 




今回はレイナーレとの決着回でした。

そしてこの小説ではアーシアちゃんを生かすルートにしました。理由は丈城の用意周到さを際立たせるためです。

あと予定としては、年内までに第一章を書き終えるつもりです。


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第12話《怒らせるな、危険》

第一章のクライマックス回です。




レイナーレを再起不能(リタイア)にした丈城は一息つくために近くの長椅子にどっこらせと腰掛ける。

 

 

「やったねジョジョ君。お疲れ」

 

 

その声に後ろを振り返ると、ボロボロの状態でも笑顔を絶やさない裕斗が歩いてきた。一方小猫は丈城をスルーしてレイナーレが転がっている場所へすたすたと歩いてゆく。

 

 

「お疲れ裕斗。つーかオメーやられすぎだろ」

「まぁね。少し数が多かったって言うと、言い訳になっちゃうかな?」

「問題ねぇ。生きて帰ってくるだけで十分だ」

「ジョジョ君ならやってくれると信じていたよ。流石にアーシアさんを救う策までは見抜けなかったけどね」

「『敵を欺くにはまず味方から』って言うだろ? こうでもしねーと気付かれちまうかもしれなかったからな。……そういやアーシアは?」

「ああ、彼女なら…」

「ジョジョさん!!」

 

 

丈城がそう言うと、裕斗の後ろからアーシアが駆け寄ってきた。

 

 

「アーシア! その様子だと大丈夫みたいだな」

「ジョジョさん……こんなボロボロになってまで私のために…今治します!」

「別にいいってのに……ホントにいい子だね、この子は…」

 

 

丈城が取り戻した神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で彼の治療を施すアーシア。涙目で必死に彼を治そうとするその姿から、いかに丈城を心配していたかが伺える。

 

 

「そういや、あの二人はどうしたんだ? 現場突入ん時から姿が見えねーんだけど」

「私達なら地下で少し悪魔祓い達とO☆HA☆NA☆SIしていたわ。用事が済んだから、魔法陣でここへジャンプしてきたの」

 

 

祭壇下の階段から現れたのは、決戦当初から別行動をとっていたリアと朱乃だった。この二人は丈城並に相手にしたら危険なので、恐らく祭儀場の悪魔祓い達は残らず始末されたと見ていいだろう。

 

 

「それにしても、保護している時からこんな細工を仕掛けていたなんて……しかも神器(セイクリッド・ギア)を奪い返して彼女を蘇生させるなんて、無茶苦茶もいいところだわ」

「イッツ・ジョジョクオリティー! HAHAHA!!」

「やめなさい。意外にムカつくからそれ」

 

 

いつものテンションで返してきたことに安堵したリアはうっすらと笑みを浮かべ、丈城の鼻をツンとつつく。アーシアの治療が完了したので、彼も立ち上がって得意気に笑ってみせた。

 

そこへ

 

 

「部長、持ってきました」

 

 

小猫が気絶しているレイナーレを引きずってきた。最早人扱いではなく物扱いになっていたが、この場に誰一人そんなことを突っ込もうとしない。

 

 

「さて、彼女から最期の話を聞こうと思うのだけれど……この様子だと聞けそうにないわね」

「あらあら、どうしましょう?」

「しょ~がねぇ~なァ~。俺が治すよ」

 

 

丈城は『クレイジーダイヤモンド』を出し、渋々レイナーレを元通りに治した。

 

 

「ぐ……うぅ…」

 

 

一拍置いて彼女は意識を回復。朱乃とアーシアは一旦教会の外に避難し、残りのメンバーでレイナーレを取り囲む。

 

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

「……グレモリー一族の娘か……」

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

 

笑うリアにそれを睨み付けるレイナーレ。力の差は歴然としている。しかしこの堕天使は諦めが悪かった。

 

 

「……してやったりと思っているんでしょうけど、残念。今回の計画は上に内緒ではあるけれど、私に同調し協力してくれている堕天使もいるわ。私が危うくなったとき、彼らは私を必ず助けに来てくれるのだから…」

(あー、そういやもう一体いたっけな。確かドーナシークって言ってたよーな……)

 

 

そう、最初に丈城を襲撃した際に返り討ちに遭いかけたレイナーレを助けた男の堕天使がいたのだ。最も返り討ちしようとした本人はどこ吹く風だが。

 

 

「彼らは助けに来ないわ。堕天使カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルト、彼らは私が消し飛ばしたから」

「嘘だッ!」

「オメーひ○らしなヤンデレじゃねぇだろ」

 

 

リアは三枚の黒い羽根を取り出し、ヒラヒラと見せびらかす。

 

 

「これは彼らの羽根。同族のあなたなら見ただけでもわかるわね?」

「たっ……たとえそうだとしても、まだ配下の悪魔祓い達が」

「それなら既に片付けたよ。フリード・セルゼンも僕らとの交戦中に逃亡したから、もう君は一人ぼっちだ」

「そ…そんな……」

 

 

どうやらリアの別行動とはこの事だったらしい。さらにフリードも撤退した後。逃げられたのは悔しいが、大きな傷痕を残せただけでも良かったのかもしれない。

 

とここで

 

 

「あのーリアさん? ちょっといいですかな?」

 

 

丈城が待ったをかけた。

 

 

「何? ジョジョ」

「大方こいつを消し飛ばそうとしているだろーが、ここから先は俺が引き受けよう。自分のケジメくらい自分でつけられる」

「……わかったわ」

 

 

と言って彼はリア達を下がらせ、レイナーレの前に立った。途端に彼女は態度を変えて丈城に泣きつく。

 

 

「丈城君! 私を助けて! あの悪魔達が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛してる!

だから一緒にあの悪魔を倒しましょう!!」

 

 

必死に夕麻の演技で丈城に助けを求めるレイナーレ。今の彼女は孤立無援だ。味方の堕天使も消し飛ばされ、フリードにも見捨てられた。となれば彼氏の丈城に頼る他ない。だが

 

 

「うだうだとすっトロイことしゃべくってうるせーんだよ! このダボッ!!」バキィッ!

「ぶげっ!?」

 

 

この男が、兵藤丈城が許す筈がなかった。

 

 

「てめーは……俺が見てきた中で一番の屑ヤローだ。アーシアの命を弄んだこともそうだがその前に一個だけ、お前は大きな罪を犯した。それは……」ゴゴゴ…

 

 

ゴゴゴ…と怒りを露にし、血走った両眼でレイナーレを睨み付ける丈城。そして言い放った。最初に、この堕天使をブチ殺そうと思った決定打を……

 

 

「てめーが犯した大罪…それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の今月の生活費を全部パーにしたことだァァァ━━━━━━━ッッ!」

「「「「「そ、そんな理由で!?」」」」」

 

 

これにはこの場にいる全員が驚く。あまりの理由に呆けて目が点になっているレイナーレに、丈城はさらに怒号を飛ばす。

 

 

「オメーがデートの時にあれ欲しいだこれ食いたいだの散々金使ったせいで、10万程あった生活費がほとんどスッカラカンになっちまったんだよ!! しかもそれが演技だとォ? 俺をはめるための罠だとォ? 洒落にならねぇんだよ洒落にッ!!」

 

 

丈城は拳を奮って、滝のように涙を流し訴える。下らないかもしれないが、彼の生活にとっては非常に重要な問題なのだ。

 

 

「同居人のオーフィスにも申し分が立たねぇし、同族みてぇに一撃で消し飛ばすだけじゃ俺の怒りが収まらん!! だからァッ!」

 

 

右手を高く掲げ、彼はこう言い放った。

 

 

「この俺が判決を言い渡す! 『死刑』ッ!!」

 

 

その言葉が言い終わるや否や、丈城の背後からジャン=ピエール・ポルナレフのスタンド『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』が飛び出し、目にも止まらぬ速さでレイナーレの体に次々と剣を突き立ててゆく。そのあまりの激痛にレイナーレの表情は大きく歪む。

 

 

「ガギャアアアァァァアアァ━━━━━━━ッ!!」

「カタをつけるッ! 『世界(ザ・ワールド)』ッ!」ブゥンッ!

 

 

確実なトドメをさすべく、丈城は『世界』で時間を停止させて教会を飛び出した。

10秒後、

 

 

「……!? あら!? ジョジョが…いない!?」

「ホントだ……一体何処に!?」

 

 

『世界』の能力がきれたにも関わらず、出ていった丈城は帰ってこなかった。レイナーレはチャンスとばかりに、最後の力を振り絞って逃走を図ろうとしたが

 

 

(ドガァアアアンッ!!)

「ロードローラーだァァァ━━━━━━━ッ!!」

 

 

教会の天井を突き破って丈城帰還。しかもどこから持ってきたのか、ロードローラーを引っ提げ、逃げ出そうとしたレイナーレに叩きつけた。

 

 

「グェアアアアッ!?」

「『無ゥ~駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!』」

 

 

ローラー部分を丈城、エンジン部分を『世界』がそれぞれエルボーでラッシュ。レイナーレを確実に叩き潰さんとする。そして

 

 

「ブッ潰れよォォォォォォッ、このドグサレ堕天使がァァァ━━━━━━━ッ!」バゴンッ!

 

 

ラスト一発を叩きつけ、その場から飛び退いた。刹那ロードローラーは大爆発。リア達は即座に防御魔法を展開し、丈城は長椅子の陰に飛び込んで事無きを得たが、下敷きになったレイナーレはもう助からないだろう。

 

パチパチと燃えるロードローラーの残骸、そしてその下にうっすらと見える黒い影。長椅子の陰から飛び出した丈城はレイナーレが死んだのを確認し、ニタリと口元を上げる。

 

 

「スゲーッ爽やかな気分だぜ……新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~ッ……ククッ」

『悪魔かお前はッ!』

「最早私達よりも悪魔らしいわね……私絶対怒らせないよう気を付けないと…」

「僕も同感です……」

「…ゲスの極み」

「あらあら、教会内が大変なことに」

「い……一体何が起こったのですか!?」

 

 

オカ研メンバーが引く中、燃え盛る炎に照らされた丈城は憑き物が落ちて晴れ晴れとしていた。

 

 

その後ロードローラーの出火は朱乃が魔法で鎮火され、丈城とオカ研メンバーによるアーシア救出作戦は終了。夜が明け、焦げ臭い臭いが漂う廃教会に日の光が射し込む。

 

 

「さーてと…全ては終わった。アーシア、お前を苦しめていた奴等はもういない。これからが、アーシアの本当の自由の始まりだ」

 

 

丈城はアーシアに歩み寄り、頭を撫でて優しく語りかける。彼女も込み上げてきたものを押さえきれず、丈城に抱きついて嗚咽を漏らした。

 

 

「…ヒッ…うぐ……ジ、ジョジョさぁん……」

「帰る場所なら……俺がなってやる。だから…帰ろう。アーシア」

「は…はい……!!」

 

 

こうして一人の少女の力を狙った堕天使達の計画は、駒王町を根城とする心優しき悪魔達と最凶のスタンド使いにより音を立てて崩れ、彼女の命と未来は救われたのだった。

 

(←To Be Continued…)

 




こんにちは、尾河です。

というわけで一応のところvsレイナーレ戦はこれにて終了です。次回は後日談と第一章時点での丈城の設定を投稿致します。


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第13話《その後のいざこざ》

堕天使レイナーレの画策からアーシアを救いだしたその二日後。

 

 

「ジョジョ、起きて」

「ん~…もう朝か。早ェなぁ……」

 

 

いつも丈城が登校する時間まで寝ているオーフィスが、この日は珍しく早く起床して丈城を起こした。彼が目を開けると、そこには見慣れた光景。全裸のオーフィスが自分の布団に潜り込んで馬乗り状態で見下ろしていた。いつも丈城は寝間着を着るよう促しているのだが、彼女は寝間着を着せているにも関わらず毎朝こうなので、その内彼は注意するのをやめたそうだ。

 

 

「さっき、グレモリーの使い魔が来てた。早くこいって」

「リアがか? こんな朝っぱらから何だってんだ一体……」

 

 

オーフィスから伝えられたリアの伝言に、丈城はさも迷惑そうに欠伸をかまして起床する。

 

 

「……とりあえず退こうか。ホレ」

「わー」

 

 

オーフィスをそのままに上半身を起こし、彼女の額を中指で押してやると、彼女は受け身の要領で倒れた。リアからの呼び出しもあるので、丈城はさっさと制服に着替えて荷物を取る。

 

 

「んじゃオーフィス。昼飯は冷蔵庫の中に作り置きがあるから、それ温めて食べなよ」

「ん、わかった。なるべく早く帰って来て。でないと我、寂しくて死んじゃう」

「オメーは兎じゃなくてドラゴンだろ。まぁいいや、いってきます」

「いってらっしゃい」

 

 

オーフィスに見送られながら、彼は駒王学園へ登校した。

 

 

☆☆☆

 

 

「あら、ちゃんと来たわね」

「おはよーさん。くそ眠い中来てやったんだから感謝しろよ」

「ハイハイ。おはよう、ジョジョ」

 

 

運動部が朝練する時間帯。旧校舎の部室に到着した丈城は、先に来ていたリアと会っていた。

リアはソファに座って優雅に紅茶を飲んでいる。その様子は厄介事が一つ消えてホッとしている様だ。

 

 

「今日あなたを先に呼んだのは他でもないわ。実は今日から新しく眷属の子が増えたから、その子を紹介しようと思って」

「新しい眷属? それが俺を早く呼んだこととどーゆー繋がりがあるんだ?」

「フフッ。その子はね、ジョジョが一番よく知っている子よ。入ってらっしゃい」

 

 

 

紹介したい眷属。それに疑問をもった丈城が問うと、リアは微かに笑って外にいる人物に入室するよう呼び掛ける。

開けられた扉の向こうにいた人物に、丈城は目を丸くした。

 

 

「!! アーシアじゃねぇか!」

「はい、アーシア・アルジェントです! ジョジョさんおはようございます!」

 

 

そこにいたのは、先の事件で丈城とオカ研メンバーが助けたアーシアだった。新しい眷属とは、彼女の事だったのだ。

 

 

「アーシア…お前、眷属ってことは……」

 

 

驚く丈城に、アーシアは瞑目して悪魔の翼を展開。自身が悪魔であることを示した。

 

 

「自分を救ってくれた人達に恩返しをしたいって頼み込まれてね、彼女の熱意と能力を見込んで悪魔に転生させたの。ちなみに駒は『僧侶(ビショップ)』よ」

「そういうことだったか……まぁ俺はアーシアが良ければそれでいいし、何事もなく生きてくれさえいればそれでいいよ」

 

 

生き方は人それぞれだ、と付け加えた丈城。するとその視線は彼女の下に向けられる。

 

 

「その格好……まさか、この学校に編入したのか?」

 

 

アーシアの服装はかつてのシスター服ではなく、駒王学園の女子の制服を着用していた。彼の問いに彼女はニッコリと笑って答える。

 

 

「リアス部長の眷属になるにあたって、この駒王学園に通うことなりました。よろしくお願いします、ジョジョさん」

「クラスはジョジョのところにしておいたわ。転校初日ということになっているから、彼女のフォローよろしくね」

「おう、任しとけ。困ったことがあったら出来る限りのサポートをしてやる。ま、めんどくさくなったら全部スタンド能力で片付けるけどな!」

「全く…日常でスタンドなんか使ったら他の人達が驚くじゃないの。自重しなさい」

 

 

丈城の言葉にリアは半ば呆れつつ注意を促す。しかし彼はこう返した。

 

 

「あー……そういやまだ言ってなかったっけな。スタンド能力は『一般人には目視出来ない』んだ」

「あら、そうだったの」

「リア達は『悪魔』だからスタンド能力が目視出来たんだ。元々スタンドは本体の生体エネルギーがヴィジョン化したものだし、大雑把に言えば幽霊に近いもの。一般人が目視出来る筈がないんだ」

 

 

彼はここで言葉を切ると、自身の隣に『クレイジーダイヤモンド』を発現させる。

 

 

「!? ど、どちら様ですか!?」

「今は悪魔だからアーシアも目視出来るけど、これがスタンド能力だ。色々な種類や姿形があるから統一性はないけど、それぞれ固有の能力を持っているのが特長。初めて会った時、壊れた植木鉢を目の前で治して見せただろ? あの時もスタンド能力を使ったんだ」

「じゃあ、この方があの植木鉢を……?」

「Exactly(その通り)」

 

 

そして丈城は「あとは…」と言葉を続けると、懐からカミソリを取り出して『クレイジーダイヤモンド』の手甲にそれを押し付け、薙いだ。当然手甲には傷がついたが、それと同時に丈城の手甲が切れて出血し始めた。

 

 

「「!」」

「スタンド能力は時として諸刃の剣と化するときがある。近接格闘型のスタンドがダメージを負ったり傷ついたりすれば、本体である俺も同じものを負ってしまう。一概に最強ってワケじゃないのさ」

「メリットもあれば、その分デメリットもあるってことね」

「しょゆこと。ちなみに遠隔自動操縦型のスタンドは、自動操縦だからで単純な動きしかできない。目的を遂げるまで攻撃はやめないし、ダメージこそないものの、本体は自分のスタンドに何が起こっているのかさえ知らない。成功したか否かの判断がつけられないのが難点だ。アーシア、すまねぇけど頼むわ」

「あ、はい!」

 

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』によって手甲の傷を治療してもらった後、丈城はついでと言って『クレイジーダイヤモンド』の解説を行った。

 

 

「『クレイジーダイヤモンド』。近接格闘型のスタンドで、射程距離は1~2m。能力は壊れたものを元通りに修復することで、人の怪我もたちどころに治せる。但し自分自身の怪我は治せないし、死んだ人間はどうしようもない。そして俺の機嫌次第では元通りに治るという保証は何処にもない」

「つまり元通りに治ることもあれば、変形して元通りになるということもあるということかしら?」

「ご明察。世の中都合良くはいかないってことだな」

 

 

その時

 

 

「おはようございます、部長、ジョジョ君、アーシアさん」

「……おはようございます、部長、丈城先輩、アーシア先輩」

「ごきげんよう、部長、ジョジョ君、アーシアちゃん」

 

 

部室の扉が開らき、裕斗と小猫と朱乃が入ってきた。三者三例の挨拶の後、リアは立ち上がってこう口にする。

 

 

「さて、新しい眷属の子も増えて一つ事件を解決したし、ささやかなパーティーを始めましょうか」

 

 

彼女がパチンと指を鳴らすと、それまで何もなかったテーブルに結構な大きさのケーキが1ホール出現した。

 

 

「た、たまには皆で集まって朝からこういうのもいいでしょ? あ、新しい部員もできたことだし、ケーキを作ってみたから、みんなで食べましょう」

「ほへ~、リアの手作りかぁ~」

 

 

丈城は近付いてしげしげとリア手作りのケーキを眺めた後、照れくさそうにしているリアの頭をよしよしと撫で始める。

 

 

「よしよし、良くできました」

「━━━━━━━━ッ! ジ、ジョジョォ~ッ!!」

 

 

さらに顔を火照らせて丈城に詰め寄るリア。端から見てて微笑ましい兄妹の一コマっぽく見える。

頬を風船の如く膨らまして、いかにも怒ってますよという素振りを見せる彼女に、丈城はとりあえず落ち着かせようとする。

 

 

「アハハ、悪かった。悪かったって」

「むー! 子供扱いして!!」

「違うのか?」

「違うわよ!!」

((((可愛いなぁ……))))

 

 

ここでようやくオカ研メンバーの前で荒ぶっていたことに気が付き、リアは咳払いをして誤魔化そうとする。

 

 

「んんっ、と、とにかく! 私をからかうのは止して頂戴。罰として…」

 

 

ツカツカと丈城に歩み寄り、彼女はあろうことか彼の額に軽く口づけをした。

 

 

「「「「「!」」」」」

「不意にやるのはやめなさい。わかったわね?」

 

 

流石にキスまでされるとは思わず、丈城は暫くの間硬直。そして再び彼の意識を覚醒させたのは……

 

 

「ジ、ジョジョさん……?」

 

 

引きつったアーシアの声だった。

 

 

「そ、そうですよね……。リ、リアス部長は綺麗ですから、そ、それはジョジョさんも好きになってしまいますよね……。いえ、ダメダメ。こんなことを思ってはいけません! ああ、主よ。私の罪深い心をお許し下さい!!」

 

 

手を合わせて祈りを捧げようとしたアーシアだったが、途端に「あうっ!」と呻いて頭を抑える。

 

 

「頭痛がします」

「当たり前よ。悪魔が神に祈ればダメージくらい受けるわ」

「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした。もう神様に顔向け出来ません……」

 

 

さも哀しそうに項垂れる彼女。そこに裕斗が

 

 

「後悔しているかい?」

 

 

と尋ねる。しかし彼女は首を横に振り、笑顔でこう答えた。

 

 

「いいえ、どんな形でもこうしてジョジョさんと一緒にいられるのが幸せです」

 

 

彼女は心優しき悪魔達に、そして何より丈城に救われたのだ。そう思わない筈がないだろう。

 

 

「アーシア……あ、そういや前に説明してくれた『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』で転生したんなら、この時点で残りの駒は『戦車(ルーク)』『騎士(ナイト)』『僧侶』が1個ずつ、『兵士(ポーン)』が未使用で8つ、リアは所持しているってことか?」

「実は既に僧侶は埋まっているのだけれど……まぁ、これは後々話すとするわ。さぁ、皆でケーキを食べましょう!」

 

 

リアの言葉に全員がソファへと移動。HRまで暫しの一時を堪能するのだった。

 

ちなみにこの後、パーティーを盛り上げるために丈城がスタンドを使っての様々な物真似を繰り出し、リアの物真似をした途端にご本人に追っかけられたのは、また別の話である。

 

 

 

 

 

「ジョジョ━━━━━━━━━ッ!!」

「逃ィげるんだよォォ━━━━━━ッ!!」

 

 

 

 

 

▽第2部『ディアボロス・エンカウンター』/Fin▽

 

 

(←To Be Continued…)

 



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設定集《主人公》

連投です。


・兵藤丈城(ひょうどう ともき)

 

性別:男

年齢:17歳

肩書き:秘密警察、駒王学園ご意見番

神器:『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

転生特典:『ジョジョの奇妙な冒険・第3~8部までの全スタンド能力』

座右の銘:自分という人間の証明

イメージCV:梶裕貴さん(『イナズマイレブン』の不動明夫風で)

 

 

概要:吉良吉影のように救急車に轢かれて死亡した青年が、『神のようなプログラム』によって転生し誕生した存在。

性格は好戦的かつ用意周到で、歳上の人間を第一印象だけで決めつけてしまう癖があり、友好的と判断した場合はあだ名をつけて尽力し、そうでない場合は警戒心&敵意を剥き出しにする。後者は打ち解けるのに時間がかかる。

また気分が高揚したり調子が乗ってくると『スイッチ』が入り、某吸血鬼の如くハイになる。こうなったら手がつけられないので、敵がボコボコにされるまで止まることはない。

悪党と戦える力をつけるために毎日トレーニングを欠かさず、後の相棒となる『ウェルシュドラゴン・ドライグ』とはこの時に出会った。小学生の頃、初めて遭遇した人外との闘いを機に、『自分という人間の証明』のために戦うことを誓う。

駒王学園では変質者・元浜と松田の動きを監視することから、『駒王学園ご意見番』『秘密警察』として生徒教員からも一目置かれている。

 

現在彼は駒王学園に近いボロアパートに居を構え、入学する前に出会った『無限龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスと共に暮らしている。丈城曰く、「手のかかる妹と一緒に住んでいるみたい」だそう。

堕天使レイナーレとの対峙を切っ掛けに学園内の悪魔勢力の一つ・オカルト研究部のリアス・グレモリーと対談を経て、協力者兼部員としてオカルト研究部に身を置くこととなった。そして時たま、リアや裕斗達から悪魔やその他勢力の事情や知識を学んでいる。

 

ちなみにジョジョというあだ名は、"丈城"の読み方を変えて発音したものから。

 

 

 

・ドライグ(ウェルシュドラゴン・ドライグ)

 

CV:立木文彦さん

 

概要:太古の時代、天使・悪魔・堕天使の戦争中に同族と喧嘩をし始め、結託した三大勢力によって倒された二天龍の一角。死亡後、その魂は神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス))として人間の中に封じられたが、喧嘩自体は収まっておらず、現代に至るまで人間を媒介に闘いを繰り返してきた。

そして今代は丈城の体に宿り同じ事をしようとしているが、丈城の性格や未知なる力・スタンド能力が彼よりも全面に出てしまい、イマイチ影になりやすくなっている。

それでも丈城の良き理解者であり、数少ない常識人。丈城の掲げる誓い『自分という人間の証明』に興味を持ち、彼の性格に振り回されながらもそれなりに退屈しない毎日を送っている。

 

 

 




皆さんこんにちは、尾河です。

予告しました通り、年内に第一章を終わらせることができました。また来年も、この『Hightension school Jo×Jo』をよろしくお願いいたします。


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では、よいお年を…


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第3部『フェニックス・ブレイク』
第14話《嵐の予感だけ…》


皆様、明けましておめでとうございます。尾河です。

2016年一発目の投稿から微エロ注意ですが、どうぞ宜しくお願いします。


では第3部、スタートです。



駒王学園の近くにある小さなボロアパート。

 

 

ここはスタンド使い・兵藤丈城が仮住まいとして入居をしている場所でもある。そしてその同居人は伝説の無限龍神(ウロボロス・ドラゴン)。現実からかなりブッ飛んでいる話だ。

 

といってもこれといった問題もなく、今も二人は仲良く、楽しく生活している。挙げるとするならば就寝する際にオーフィスが全裸になることぐらいだ。

 

先の堕天使事件が終息してから三週間後。

 

 

(ピピピピッ、ピピピピッ、ピピガッ)

「ん……ふあー、もう朝か…」

 

 

AM6:00。いつもの起床時間に起きる丈城。オーフィスはいつも彼が登校する寸前に起きるので、とりあえず放っておいても問題はない。習慣化している朝ごはんの調理をするべく、玄関に隣接した台所へ向かおうとした時

 

 

「ん?」

 

 

台所兼廊下と四畳半の部屋を仕切る襖。その前に浮遊する一匹のコウモリがいた。そのコウモリは襖の空いた穴から廊下へと向かってゆく。まるでついてこいと言わんばかりに。

 

丈城はこのコウモリに見覚えがあった。リアが使役している使い魔がこのコウモリだった。つまり

 

 

(リアの奴か……? こんな朝っぱらからどうしたんだ?)

 

 

その先にいるであろう人物の正体に察しながらも、彼は襖を開けて玄関へと向かう。コウモリは玄関扉のノブに止まり、丈城を見上げる。この先に何かがあるのだろう。

 

丈城はやれやれといった具合に首を振ると、ノブに手をかけて扉を開けた。

 

 

「ごきげんよう、ジョジョ」

「おはようございます! ジョジョさん」

「はい、おはよーさん。二人共」

 

 

丈城の部屋の前にいたのは、赤いコウモリの主であるリアス・グレモリーとその眷属、アーシア・アルジェントだった。こんな朝早くからどうしたのだろうか。

 

 

「どったの? こんな時間から会いに来るなんて……」

「今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあって来たの。ここに荷物があるから、それを中に運んで頂戴」

「は? に、荷物って……これを、中に?」

 

 

朝から突拍子もないことを言われて一瞬呆ける丈城。

直後リアはとんでもないことを口にする。

 

 

「そうよ。今日からアーシアはあなたの家に住むの」

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ」

 

 

あまりのストレート発現に丈城は待ったをかけた。そりゃ朝早くからそんな重大発現をされれば、誰だってそうなるだろう。

 

 

「いきなり過ぎやしませんかねアナタ! つーかいつ決まったのよそれ!」

「昨日の夜だけど?」

「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア」

 

 

しれっとごく当たり前のようにリアは話す。岸辺露伴のようになっていた丈城は一旦落ち着き、仕方なく荷物を運び入れることに。しかし彼の部屋の事を考えているらしく、荷物は段ボール箱三つ程度だったので搬入はすぐに終わった。

 

 

「全く……俺ァ別に怒っているわけじゃないよ? ただ単に一言声をかけて欲しかったんだよ。これじゃ住人の意志がまるでねぇじゃんか」

「ごめんなさいジョジョさん……私が無理を言ってしまったせいで…」

「アーシアは気にしなくていいぜ。元より悪いのは連絡を怠ったったリアなんだからさ」

「そこ! 勝手に私を悪者にしないで頂戴!」

「だったら事前に連絡するとか、俺に許可をとるとか、やれることは沢山あった筈だろ。言える立場じゃねーくらい察しろよ。アンタ上級悪魔だろォ?」

「うぐっ……」

 

 

痛い所を突かれてたじろぐリア。とりあえず放っておいても問題はなさそうなので、台所に立って四人分の朝ごはんの調理にかかる。

 

 

この後起床してきたオーフィスに事の顛末を話したところ、「…ジョジョの浮気者」と言って涙目でポカポカ殴られたという。

 

 

☆☆☆

 

 

「うし、今日の特訓終わり!」

 

 

アーシアが同居人に加わってから数日後の休日。

 

丈城は特訓山で一日中特訓に明け暮れていた。アーシアは翌日の宿題があるため自宅待機、オーフィスは昼寝中で以下同文である。

 

あちこちに残る空間が削り取られた跡、綺麗に切り裂かれた木々、爆発の影響で焦げた地面が目立つ特訓山を後にし、丈城は歩いてアパートへ戻る。

 

 

『しかしまぁ、グレモリーの娘も水臭いよな。こちらに相談せずに勝手に話を進めるとは……』

「……どうも引っ掛かるんだよな」

『? 何がだ?』

「変だと思わねぇか? ちとわがままだけど、上級悪魔であるあのリアが連絡を怠るっつー初歩的なミスを犯す筈がないんだよ。それに……ここ最近アイツが呆けていることがあるんだ。呼び掛けても反応ねぇし、なんつーか思い詰めてるって言った方がいいのかな……。とにかくリアの調子が悪いってのは確かだ」

 

 

丈城は先日のリアの行動や、ここ最近の彼女の様子が気になっていた。事あるごとに考え込んだり、呼んでも返事がなかったりと、異様な様子に不審感を抱いていた。

 

 

『……多分、グレモリー家の御家事情というやつだろう。あのぐらいの年代になれば、面倒事が付き物だからな』

「悪魔にしても、高貴な家柄に生まれりゃ複雑なことが多くなるんだな」

 

 

改めて庶民に生まれて良かったと、丈城はそう付け加えた。

 

 

☆☆☆

 

 

時間は流れ、夜。

 

 

夕食を済ませた丈城達は就寝準備のため、アーシアとオーフィスは入浴へ、丈城は皿洗いと布団の準備にそれぞれ取り掛かった。

彼の中にいまだ渦巻く疑問。自分の読みが正しければ、近いうちこの手の問題に直面する可能性が高い。となってくれば面倒事に発展する。昼ドラ的展開はご免こうむりたいものだ。

 

そんなことを考えつつ、皿洗いを終えた丈城は布団を敷くため、四畳半の和室に戻る。押し入れから二人分の布団を引っ張り出し、畳の上に敷く。それだけでも四畳半いっぱいになるため、アーシアが引っ越してきても布団を買い足さずにすんだ。

 

 

「さてと……そろそろ二人もあがる頃だし、俺も準備しとくか」

 

 

軽く伸びをして、丈城が自分を下着を出すために押し入れ下段にある衣類棚に手をかけた時、

 

 

(カッ!)

「ん!?」

 

 

突如背後から光が迸った。驚いた丈城が振り返ると、その光は見覚えのある魔方陣へと変わってゆく。他でもないグレモリー眷属の魔方陣だった。

 

 

「グレモリー眷属の……? こんな時間に一体誰だ?」

 

 

半ば呆れつつも、ジャンプしてくる人物にしてくる人物に予想を立てる丈城。恐らくこんな時間帯にやってくる人物といえば、『彼女』しかいない。

 

魔方陣から浮かび出る影。そのシルエットに丈城は大きく嘆息した。

 

 

「……こんな遅くに何のようだ? リア」

 

 

やはりというべきか、現れたのはリアだった。しかしその顔はいつもよりもひどく思い詰めている。彼女は丈城を確認するなりズンズンと詰め寄った。突発的なことに流石の彼もたじろぐ。

 

 

「お…おい、どうしたんだよリア? つーかえらくやつれてねぇか? 大丈夫かよ」

「ジョジョ……」

 

 

やけに艶のある声で丈城の名を口にするリア。

 

そして次の瞬間、彼にとって聞き捨てならない言葉を発した。

 

 

 

「ジョジョ、私を抱きなさい」

「ハッ?」

 

 

 

状況が全く理解できていない丈城に、リアは畳み掛けるように言葉を繋ぐ。

 

 

「私の処女をもらってちょうだい。至急頼むわ!」

「HeyHeyHeyHeyHeyHeyHeyHey! wait! waitよお嬢さん!! 一体全体どうなってこうなっちゃったのYo!?」

「ほら、ベッドへお行きなさい。私も支度するから」

「だァ~かァ~らァ~、どうしていきなり大人の階段を五段くらいすっ飛ばそうとしている理由を聞いてるんだよ!! 話の要点が全く見えないけど!?」

「……いろいろと考えたのだけれど、これしか方法がないの」

「ひょっとしなくても、グレモリー家の御家事情が絡んでんのか?」

 

 

丈城の予想に、制服を脱ぎかけて彼を押し倒そうとしたリアはこくんと頷く。

 

 

「……ごめんなさい、身近でできそうな人がジョジョさかいなかったの」

「…まぁ、大体の事情は把握した。だからとりあえず落ち着こうか。制服もちゃんと着直せって」

「お願い! もう時間がないの!! ……それとも、私に恥をかかせるの?」

「だから落ち着けってのッ!! 」

 

 

丈城の話を全く聞こうとしないリア。これでは埒が開かないと見た丈城はヘブンズドアーを繰り出し、彼女に『安全装置(セーフティロック)』をかけようとした。

 

 

さらにその時、またしても部屋の中に光が迸る。それを見たリアは、先程の丈城よりも大きく嘆息した。

 

 

「……一足遅かったわけね……」

「今の俺にとっちゃ地獄に空条条太郎だよ…。あー助かった……」

 

 

魔方陣の紋様はグレモリー眷属のものだった。来る可能性としては朱乃辺りだろうと思って丈城は安堵するが、今度の予想は外れることとなる。

 

現れた人物は丈城にとって見知らぬ人物。銀髪の美しいメイドだった。彼女は二人を確認すると、静かに口を開く。

 

 

「こんなことをして破談へ持ち込もうというわけですか?」

 

 

その言葉に、リアは片眉を吊り上げこう反論した。

 

 

「こんなことでもしないと、お父様もお兄様も私の意見を聞いてはくれないでしょう?」

「このような『下賤な輩』に操を捧げると知れば旦那様とサーゼクス様が悲しまれますよ」

「あ?」プッツー

 

 

と今度は丈城が眉を吊り上げ、しかも殺気と迫力を醸し出して立ち上がった。彼にとって人外が舐めた態度をとるというのはご法度なのである。

 

 

「オイテメー、何者かは知らねーが態度がデカいな……。しかも初対面のこの俺に対して『下賤な輩』だとォ? いい度胸じゃァねぇか。よーしそこを動くなよォ? スタンドたたっこむからよぉダボがァ!!」ゴゴゴ…

 

 

指をパキパキ鳴らして、今にも殴りかかろうとする丈城。彼のただならぬ殺気で正気に戻ったリアは、すぐさま彼を手で制止する。

 

 

「私の貞操は私のものよ。私が認めた者に捧げて何が悪いのかしら? それに、私の契約者を下賤呼ばわりしないで頂戴。たとえ、あなたでも怒るわよ、『グレイフィア』」

「何がともあれ、あなたはグレモリー家の次期当主なのですから、無闇に殿方へ肌を晒すのはお止めください。只でさえ、事の前なのですから」

 

 

グレイフィア、と呼ばれたメイドはそう言うと改めて丈城に向き直る。

 

 

「初めまして。私は、グレモリー家に仕える者です。グレイフィアと申します。以後、お見知り置きを」

「……兵藤丈城だ。俺の事はジョジョと呼んで貰おう」

 

 

まだ怒りが冷めやらぬ彼は目元をひくつかせながらそう名乗る。するとそれを聞いたグレイフィアは驚愕の表情で丈城を見始めた。

 

 

「ジョジョ…? まさか、この方が?」

「ええ。彼こそ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使い手にして、未知の能力『スタンド能力』を所持する人間・兵藤丈城ことジョジョよ。ジョジョ、その殺意とスタンドをしまって頂戴。これ以上は何もしないから」

「……本当はリアを止めるつもりだったんだけどな。コイツは」

 

 

リアにそう指摘された丈城は渋々『ヘブンズドアー』を戻す。

 

 

「……『赤龍帝の籠手』、龍の帝王に憑かれた者……そして未知なる力『スタンド』をもつ……」

 

 

グレイフィアはまじまじと丈城を見つめる。対して彼は「何見てんだオラ」といった具合で睨み付けていた。

 

 

「グレイフィア、私の根城へ行きましょう。話はそこで聞くわ。朱乃も同伴でいいわよね?」

「『雷の巫女』ですか? 私は構いません。上級悪魔たる者、『女王(クイーン)』を傍らに置くのは常ですので」

「よろしい。ジョジョ」

「んあ?」

 

 

丈城を呼んだリアはそのままツカツカと彼に歩み寄り、その頬へキス。突然の事に彼は怒りを忘れ、その箇所に手をやって暫し呆然。

 

 

「今夜はこれで許して頂戴。迷惑をかけたわね。明日、また部室で会いましょう」

「……ま、いい迷惑だったよ。マジで」

 

 

その突っ込みが言い終わるや否や、リアとグレイフィアは共に魔方陣の中へと消えていった。その数刻後、

 

 

「ジョジョさーん、お風呂上がりましたー!」

「ジョジョ、お風呂空いた」

 

 

アーシアとオーフィスが入浴を終え、風呂場から出てきた。その声に丈城は返事をして窓に近づき、夜空を仰ぐ。

 

 

「…こりゃ、一嵐来そうだな。や~れやれだぜ」

 

 

見上げた夜空には、綺麗な星々が瞬いていた。

 

 

(←To Be Continued…)

 

 

 




はい、というわけで少し投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

それと重ね重ね申し訳ないのですが、学年末テストの時期に入りましたので、次回の投稿はお休みいたします。あらかじめご了承下さい。


誤字脱字、ご意見ご要望等がございましたら、コメント欄にご一報下さい。



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第15話《不死鳥というか噛ませ犬》

こんにちは、尾河です。

学年末テストが一通り終わりましたので、更新を再開致します。

今回はあのDIO様擬き、もとい焼き鳥ライザーの登場回です。


ライザー「おい!!」


それでは第15話、どうぞ。



「んー、部長のお悩みか。たぶんグレモリー家に関わることじゃないかな」

「あー…やっぱそっち系か。いやー俺も何となくそんな感じかなとは思ってたんだけどな…。悪りィな、変なこと聞いちまって」

 

 

あくる日の放課後。丈城とアーシアは旧校舎に向かう途中、裕斗と合流した。昨日のことは流石に聞くに聞けないので、とりあえず丈城はリアの最近の様子について遠回しに尋ねてみた。が、裕斗は詳しくは知らないという。

 

 

「となると残りは……朱乃っちだけか」

「朱乃っちって…朱乃さんのあだ名かい?」

「ああ。最初伊○静って言ったら『中の人なんていませんわ』って却下されて、じゃあポテ○チュートっつったら電流で脅されたわ」

「(何だろポテ○チュートって……)ま、まぁ朱乃さんは眷属内じゃ『女王(クイーン)』の立場だし、何かしらの事情は知っていると思うけどね」

 

 

あとは部室に行って真偽を確かめるだけだな、と丈城は言って、三人は部室前に到着した。そして入室しようと扉のノブに手をかけたとき、裕斗が何かに気がついて顔を強張らせる。

 

 

「……僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

「つーかこの冷えきった空気は何だ…? 妙に静か過ぎる……」

 

 

丈城も扉の先に漂う雰囲気に気がついたようだ。ゴゴゴ…と異様な威圧感に気圧されながらも、丈城は扉を開け放つ。

 

瞬間、雰囲気はさらに冷たいものになった。

 

 

「……成程、この異様な空気の正体はテメーか。銀髪メイド」

 

 

部室内にいたのはリア、朱乃、小猫ともう一人、昨日出会ったグレイフィアだった。彼女にけなされたことを未だに根にもっていた丈城はグレイフィアに対し、鋭い眼光で睨み付ける。それを見かねたリアは嘆息し彼をなだめた。

 

 

「ジョジョ、落ち着きなさい。彼女はとある理由でここにいるだけだから。とりあえず全員揃ったわね。では部活をする前に少し話があるの」

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 

グレイフィアの申し出を手で断り、リアが言葉を繋ぐ。

 

 

「実はね━━━」

 

 

彼女の口から用件が語られようとしたその時。

 

 

(カッ!!)

「「!?」」

 

 

部室の床に描かれた魔方陣が突如光り出し、グレモリー眷属の紋様から、これまで丈城が見たことのない紋様へと変化してゆく。その紋様に裕斗がポツリと呟いた。

 

 

「……フェニックス」

「フェニックス…? 不死鳥がどうかしたのか?」

 

 

丈城の問いに答えるように紋様は激しく燃え上がり、その中に男とおぼしきシルエットが浮かび上がる。シルエットは腕を横に薙いで炎を払い、その姿を現した。

 

二十代前半と思われる若い男。赤いスーツに身を包み、胸元を開いてワイルドに露出。かくいうワル系のイケメンだった。

 

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

 

男はそう言って部屋をキョロキョロと見渡し、リアの姿を捉えると口元をにやつかせて彼女に近づく。

 

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

 

一方のリアは半目で、あからさまにこの男を拒んでいるように見える。だがそんな事はお構いなしに男はリアの腕を掴むと、馴れ馴れしくこんなことを口にした。

 

 

「さて、リアス。早速だが式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」

「……放して頂戴、ライザー」

 

 

それを聞いてより一層険しい顔付きをするリア。彼女は男の手を振りほどき、ドスの効いた声で威嚇する。

 

そんな光景を見せられた丈城は隣にいた裕斗にこう尋ねた。

 

 

「裕斗、あの繁華街にいるよーな三流ホストは誰だ? 見ててスゲー鬱陶しいんだけど」

「今さらっと爆弾発言口にしたね……。ジョジョ君らしいけどさ」

 

 

かなり大きめの声で言ったせいか、丈城が口にした発言は『ライザー』と呼ばれた男にも聞こえたようだ。ライザーは若干目元を引きつかせながら丈城を睨みつける。彼は明らかに怒っていた。

 

 

「あ? 誰、お前? つーか何でここに人間がいるんだ?」

「名乗らせて頂こう。ジャン・ピエール・ポルナレフ」ピシッ

「いや違うでしょジョジョ君」

 

 

こんな緊迫とした空気でもネタを投入してくる丈城。裕斗に控えめに突っ込まれた彼はニョホ♪と笑って誤魔化そうとする。

 

そこへグレイフィアが口を挟んだ。

 

 

「ジョジョ様、この方はライザー・フェニックス様。純血の悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます」

「別にテメーの説明なんざ求めちゃあいねェがなァ……んで? なんでヤローはあんなに馴れ馴れしいんだよ?」

「それはライザー様が、グレモリー家次期当主・リアスお嬢様の婿殿であらせられるからです」

「………つまり、リアの婚約者ってことか?」

「はい、左様でございます」

 

 

そう、ライザー・フェニックスはリアの婚約者だったのだ。

 

それを聞かされた丈城は頭に手をやり、遠くを見つめ呟いた。

 

 

「……や~れやれだぜ、全く…」

 

 

☆☆☆

 

 

「いやー、リアスの『女王』が淹れてくれたお茶は美味しいものだな」

「痛み入りますわ」

 

 

現在丈城達はソファに座り、話をすることとなった。位置としては左側のソファにライザーとリア、側には朱乃とグレイフィア。反対側に丈城を中心に裕斗、小猫、アーシアがそれぞれ座っている。裕斗と小猫は怪訝な表情だが、丈城は関係ないといったふうに昼寝を始めてしまった。

 

 

(ジョジョ君、こんな時に余裕たっぷりだな……ライザーは強敵だというのに)

(丈城先輩……)

 

 

二人は彼の気持ちの持ちように小さく驚いている。彼の自信は一体どこからやってくるのだろうかと。

 

すると

 

 

「……私は家を潰さないわ」

 

 

ボソッとだが、リアはそのように話を切り出した。

 

 

「おおっ、さすがリアス! じゃあ早速俺と━━」

「でもあなたとは結婚しないわ、ライザー。私は私が良いと思った者と結婚する。古い家柄の悪魔にだって、それくらいの権利はあるわ」

 

 

彼女の決意は固く、立ち上がってそう言い切った。何が何でもライザーと結婚する気はないらしい。ライザーは機嫌が悪くなったと見え、同様に立ち上がると、リアの目を見据えてこう言い放った。

 

 

「……俺もな、リアス。フェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。この名前に泥をかけられるわけにもいかないんだ。こんな狭くてボロい人間界の建物なんかにきたくなかったしな。というか、俺は人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐えがたいんだよッ!」

 

 

直後、彼の周囲に炎が吹き上がり、殺意と敵意がこの場を支配する。火の粉が顔に当たったのか、丈城も目を覚まして現状を察知。ゆっくりと起き上がった。

ただならぬ気配に、ここでグレイフィアが待ったをかける。

 

 

「お嬢様、ライザー様、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります。私はサーゼクス様の名誉のためにも遠慮などしないつもりです」

 

 

その言葉に畏怖した二人は落ち着いて、ソファに座り直す。

 

 

「こうなることは旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も承知でした。正直に申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。これで決着がつかない場合」

「『レーティングゲーム』ってわけね……」

(? レーティング…ゲーム…?)

 

 

昼寝をしていたために、今までの話を聞いていなかった丈城は頭に?を浮かべていた。気になって彼は裕斗に耳打ちをして聞いた。

 

 

「(おい、レーティングゲームって何だ?)」

「(レーティングゲームは爵位持ちの悪魔達が行う、下僕同士を戦わせて競い合うゲームのことだよ。公式のゲームは成熟した悪魔しか参加出来ないんだけど、非公式の純血悪魔同士のゲームなら半人前の悪魔でも参加出来るんだ。その場合、身内同士や御家同士のいがみ合いが最も多いんだけどね)」

「(成程。把握した)」

 

 

納得した丈城はソファにふんぞり返る。

 

 

「いいわよ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

「へー、受けちゃうのか。べつに俺は構わないぜ。でも俺は今のところレーティングゲームの勝ち星のほうが多い。それでもか?」

「やるわ。ライザー、あなたを消し飛ばすわ!」

 

 

互いに殺る気はあるようで、にらみ合う両者。そしてグレイフィアはそれを承認、双方の両親にその意志を伝えると話した。

 

と、ここでライザーは丈城達を一瞥すると、こんな事を口にする。

 

 

「なあ、リアス。そこの人間を除いて、ここにいる面子がキミの下僕なのか?」

「だとしたらどうなの?」

「これじゃ、話にならないんじゃないのか? キミの『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」

 

 

そう言うなり、ライザーは指を鳴らして魔方陣を展開。フェニックス家の紋様から次々と人影が出現した。その数、計十五名。

 

 

「と、まぁ、これが俺の可愛い下僕達だ」

 

 

様々な衣装に身を包んだ悪魔の少女達。つまるところ、ライザーの眷属はハーレム状態ということになる。

 

顔を強張らせ、警戒するリア達。しかしそれを尻目に丈城はライザー眷属を一瞥しただけで、コーラボトルを開けてグビグビと飲み始めた。

 

 

「……何というか、マイペースすぎない? ジョジョ君」

「そうか? 別に怖がる必要はねーと思うんだけど。あーゆーのは全部再起不能(リタイア)させれば済む話じゃねぇか」

「それを有言実行する実力があるからさらに恐ろしいんだよ……」

 

 

キョトンとしながら、さも当たり前のように話す丈城。そして次の瞬間…

 

 

 

 

 

「『焦げた焼き鳥』みてーな『ブ男』にいちいちビビっててもねぇ、キリがねぇよキリが」

 

 

 

 

 

明らかにライザーの目を見、さらに『焦げた焼き鳥』と『ブ男』を強調して挑発したのだ。それを聞いたライザーはオツムが大噴火。余裕ぶっていた顔が一瞬にして怒りの形相になった。

 

 

「こっ…焦げた焼き鳥!? こ、このクソカスがァァァ! 調子こきやがって! おいリアス! 何なんだこの人間は!?」

「彼は私の契約者よ。そして『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使い手であり、未知なる力『スタンド能力』の所持者でもあるの」

 

 

リアはそっぽを向きながらそう解説する。完全に関わりあいになりたくないらしい。ライザーは怒りのあまり、下僕の一人に丈城を始末させようと命令を下した。

 

 

「貴様ァッ! 人間の分際でこの俺を侮辱するとはッ! ミラ、やれ! 殺しても構わん!!」

「はい、ライザー様!!」ヒュンッ

 

 

だがこうなることを見越していた丈城にとっては計画通り。ミラという少女が突きだした棍をバク宙の要領でヒラリとかわし、ソファの後ろに着地して『赤龍帝の籠手』を展開。次々と突きだされる棍を掌底で防いでゆく。

 

やがてスタミナ負けしたミラは一旦距離をとり、丈城はスタンドで反撃を開始する。

 

 

「やれやれ…見事な棍さばきだが、この俺を『殺る』だと? 相当、うぬぼれが過ぎやしないか?」

 

 

ゴゴゴ…と迫力を出しつつ、彼は両手で体の前で円を描くように動かす。そして胸の前で構えた瞬間

 

 

「焼きつくしてやるッ! 『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』ッ!!」

 

 

鳥の頭をしたモハメド・アブドゥルのスタンド『魔術師の赤』が背後から飛び出し、ミラへ突貫。

 

 

「食らえッ! クロスファイヤーハリケーン!!」

 

 

至近距離から♀型の炎を繰り出した。ミラは棍でガードするが、棍に当たった衝撃で炎が拡散。炎の破片が彼女に降り注いだ。

 

 

「うああああぁぁぁっっ!?」

「ミラ! おのれッ! どうしてくれようかァァァッ!!」

 

 

クロスファイヤーハリケーンでダメージを負い、痛みで床をのたうち回るミラ。目の前で下僕がやられたことでライザーはさらに激昂。『魔術師の赤』に引けを取らない程の炎を出し、ミラを庇うように丈城の前に立ちはだかる。

 

 

「このカスが……激昂するんじゃあない」

「やかましいッ! よくも俺の可愛い下僕をやってくれたな! 不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受けて燃え尽きろッ!!」

「やなこったヴァーカ! 先手必勝だぜッ!!」

 

 

スイッチが入った丈城は『赤の荒縄(レッド・バインド)』を放ち、ライザーを拘束。そのまま『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』を出すと、『魔術師の赤』の炎でその刀身を燃え上がらせ、目にも止まらぬ速さでライザー切り刻んだ。

 

 

「行くぜダメ押し! ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!」

「グガアアアアアッ!?」

「「「「「ライザー様!!」」」」」

「こンのDIO擬きがッ! 出直して来やがれ!!」

 

 

拘束が解除されて壁に叩きつけられるライザー。それを見下しつつ、丈城は不敵な態度で笑う。近接格闘では丈城が上をいっている。完全なライザーの油断と言えよう。

 

 

「ぐ…ぶ、ゲホッ…」

 

 

見下していた人間にここまでコケにされたライザーはよろよろと立ち上がり、リアに言い放った。

 

 

「リ…リアスッ! 十日だ! 十日間時間を与えてやる! そして今度のレーティングゲームにこの人間も参加させろ! 俺はキミの下僕とこいつを燃やし尽くしてでもキミを連れてゆくからなッ!」

「そんなボロボロの状態で言っても説得力ないしwww」

「うるさいッ!」

 

 

掌を下に向けて、ライザーは眷属と共に魔方陣の中へと消えていった。丈城はスタンドを戻し、伸びを一つ。

 

 

「ジ、ジョジョ君…」

「フッ。ヤローの炎にはちょっと驚いたが、もう問題ではない! 次のレーティングゲームは、俺達が勝つ!」

 

 

唖然とするメンバーに、丈城はビシッと指を立ててそう宣言するのだった。

 

 

(←To Be Continued…)

 

 




はい、というわけで丈城はライザーに宣戦布告をしました。

子安武人さんの担当するキャラクターはどれもシビれるのですが、なぜかライザーだけはそう思わないんですよねぇ。何故でしょう?


誤字脱字、ご意見ご要望等がございましたら、コメント欄にご一報下さい。


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第16話《強化合宿》

前回、フェニックス家の三男・ライザーのプライドをけなした丈城。彼はライザーの怒りを買い、十日後に行われるレーティングゲームに参加せざるを得なくなってしまった。

 

 

しかしあらゆるスタンド能力を持ち、人外相手にオーバーキル出来るほどの実力者である彼のことだ。有無を言わさず「俺も参加するぜ!」と言っていた筈。いずれにしろライザーと丈城のデスマッチは避けられない戦いと見ていいだろう。

 

 

 

そしてこの日、丈城とリアの眷属達は学校を欠席。グレモリー家が所有する山にて強化合宿をすることとなった。(因みにその間の学校は使い魔とD4Cで呼び出した平行世界の丈城が代役として行動している)

 

 

合宿当日、丈城達は山道を歩いていた。

 

 

「フゥ~。あまりにも重いっつーから、スタンドに全部丸投げしよーと思ったけど……言うほどじゃねぇナ」

「そういえばジョジョは子供の頃から鍛えていたものね。でもこの合宿はかなりハードなメニューになっているから覚悟して頂戴」

「へっ、俺がいつもしているトレーニングよりも甘かったらプッツンするぞ?」

『気を付けろよ、グレモリーの娘。こいつはキレると惑星を破壊しかねないからな』

「俺はブ○リーじゃねぇっての」

 

 

自身とリアと朱乃の荷物、そして何故か荷物の上に乗っかっているオーフィスを持っていても、依然余裕が崩れない丈城。確かに小学校の頃からスタンドや自身のトレーニングを行っている。これくらいの重量を持ち上げることなど、彼にとってはわけないことなのだ。

 

 

「部長、山菜を摘んできました。夜の食材にしましょう」

「……お先に」

 

 

すると同じような荷物を背負った裕斗と小猫が隣をすいすいと抜けていった。どうやら日頃のトレーニングをしているのは丈城だけではない様子。それを見たオーフィスは丈城に指摘する。

 

 

「ジョジョ、人外に負けてる」

「わかってるっての……このジョジョを差し置いて前に出るとはいい度胸だ。目にもの見せてやるぜ……」

 

 

丈城はニタリと笑うと、一旦立ち止まってその場で姿勢を低くして

 

 

 

 

「イイイ━━━━━━━━ッハァアアア━━━━━━━━ッ!!」ダッ!

 

 

 

 

前屈みの状態で高速ダッシュ。その速度は人間とは思えぬ程の速さで、前を行く裕斗と小猫はもちろん、リアや朱乃やアーシアを追い抜いていった。後に残ったのはもうもうと舞い上がる土煙だけ。

 

 

「は、速いです!?」

「今の完全に抜かされたことに対抗しているわね……どこまで負けず嫌いなのかしら」

「あらあら、ウフフ」

「ハハハ…」

「……子供」

 

 

各々の反応の後、残されたリア達は引き続き"歩いて"目的地である別荘へ向かった。

 

因みに彼女達が到着した時には、既に丈城はジャージ姿で待機、オーフィスは荷物の山の上で眠りこけていたという。

 

 

 

 

《LESSON1 木場裕斗&『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』・剣術修行》

 

 

「どォしたどォしたッ! ホラホラホラホラホラホラホラホラホラッ!!」

「くっ…う、うああっ!!」

 

 

裕斗と手合わせしている丈城は『銀の戦車』で彼の剣を簡単に弾いてゆく。一方の裕斗に至っては形勢を逆転され防戦一方。バイザー戦で既に彼の剣さばきを見破っていた丈城は裕斗のそれを完全に裏回っていた。

 

 

「そこッ!」

「しまっ…!」

 

 

気圧された隙を突き、『銀の戦車』が裕斗の剣を弾き飛ばした。そのまま切っ先を彼の喉元に突き付けてゲームセット。裕斗は一瞬仰け反ったが、すぐに笑ってホールドアップした。

 

 

「ハハ…負けちゃった。ジョジョ君はパワーだけで押し切るタイプだと思ってたから、油断しちゃったよ」

「人は見かけによらないものだぜ。あと裕斗は剣の流れにちょっとした規則性がある。普通じゃ見抜けないけど、読まれたら攻略法を悟られちまうから、そこんところを直せばもっと強くなれるぜ」

 

 

『銀の戦車』を戻し、丈城は軽く伸びをして考察を述べる。弾かれて地に突き刺さった剣を抜いて裕斗に放る。

 

 

「うし、もう一本行くぜ裕斗! 特訓あるのみだぜ!」

「うん…わかった。こちらからも手合わせ願おう!」

 

 

裕斗も再び闘志を燃やし、戦う姿勢をとった。

 

 

「グレート! 覚悟しなッ!」

「ああ!」

 

 

結局この後の手合わせは全て丈城が全勝し、裕斗は一太刀も浴びせることは出来なかった。

 

この手合わせで裕斗は改めて、自身の能力がまだまだ未熟であると実感したという。

 

 

 

 

《LESSON2 姫島朱乃、アーシア・アルジェント&『ゲブ神』・魔力修行》

 

 

「できました!」

「はい、アーシアちゃんよくできました。では次にその魔力を炎や水、雷に変化させます。これはイメージから生み出すこともできますが、初心者は実際の炎や水を魔力で動かすほうがうまくいくでしょう」

 

 

室内では朱乃、アーシア、丈城、オーフィスが魔力修行を行っていた。最も丈城は魔力を使えないため見学、オーフィスはそもそもついてきただけなのでこれも見学という形だが。

 

 

朱乃はペットボトルに入った水に魔力を送り、それを獲得した水は鋭い刺と化してペットボトルを内側から貫いた。

 

 

「アーシアちゃんは次にこれを真似してくださいね」

「は、はい!」

 

 

アーシアも同じように、自ら生成したペットボトルに魔力を送る。水は棘にはならなかったが、瞬時に沸騰してペットボトルの蓋を吹っ飛ばして外に出た。

 

 

「おー、まるで噴火みてーだな」

「熱い。お湯になってる」

「ウフフ、よくできましたわね」

 

 

誉められたことに頬を赤く染めるアーシア。

 

すると丈城が面白そうと感じたのか、魔力を使わないで水を操作すると言い出した。

 

 

「? 水を操るスタンドなのですか?」

「ちょっと違うかな。まぁ、見てればわかるさ」

 

 

丈城は予備で置いてあった水入りのペットボトルを手に取り、指を鳴らす。

刹那ペットボトルの水が膨張し初め、側面を打ち破って外に飛び出た。まるで意思が宿ったかのように水はうねり、驚く朱乃とアーシアの間を素早くすり抜けて台所近くの床の上で停止した。

 

 

「こいつはエジプト九栄神の一つ・大地の神を暗示するスタンド『ゲブ神』。他のと違って水と一体化したスタンドだから、これは一般人でも目視出来る。パワー、スピード、精密性も優れているから、暗殺するには最適のスタンドだ」

 

 

『ゲブ神』は水で人の手の形をとり、朱乃達に向けてピースサインを送る。

 

 

「あらあら、こんな変わり種のスタンドも持っていたのね。それではアーシアちゃんは次のステップに行きましょう」

「はい! よろしくお願いします!」

「んじゃ、俺は軽く昼飯でも作ってるわ。おにぎりくらいなら何個か作れるだろ」

「それは助かりますわ。でもジョジョ君、おにぎりにスタンドを入れては駄目ですよ?」

「……サーナンノコトカサッパリ」

 

 

掌に『パール・ジャム』を出しといて何を言う。

 

 

 

 

《LESSON3 塔場小猫&『星の白金(スタープラチナ)』・格闘修行》

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

「くっ……」

 

 

 

別荘近くの森の中、数本の木々を薙ぎ倒しながら丈城&『星の白金』と小猫は互いの拳をぶつけ合っていた。小猫はその体からは想像がつかない程のブローやストレート、怪力を発揮するが、丈城も『星の白金』の正確な攻撃と防御を切り換えて立ち回る。接戦が続くかと思われたが

 

 

「貰ったァッ!!」

「にゃっ!?」

 

 

『星の白金』に彼女が気を取られていた隙に、脇から飛び出した丈城が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の強烈な左ストレートを繰り出す。小猫は即座に反応してガードするものの、威力が凄まじく吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「あー悪りィ悪りィ、つい熱が入っちまった」

「いえ……私が少し丈城先輩を侮っていたものですから。先輩のラッシュはただ闇雲に殴っているものだと思い込んでいました」

「『星の白金』は外見とは裏腹に高い精密性を兼ね備えていてな、写真のバックに写る小さな蝿をスケッチすることも出来るし、ディーラーの高度なイカサマも見抜くことも可能だ。つまり、さっきの小猫の攻撃は全て見切ってたってわけさ」

「…通りで攻撃がまともにヒットしなかったわけです。さ、もう1セット行きましょう」

「そだな。……てか今気付いたんだけどさ」

「?」

「何か…可愛かったな。ほら吹っ飛ばされた時に"にゃっ!?"って猫みたく……」

 

 

丈城がそう言うと、小猫の顔がボフンと赤くなった。しかもそのままプルプルと小刻みに震えだし、何かを必死に耐えているように見える。

 

丈城は思った。ヤッベ、地雷踏んだかな?と。

 

 

「……えーっと、塔場さん? もしもォ~し?」

「…ブッ潰します!」

 

 

こうして暫くの間、丈城は荒ぶった小猫が落ち着くまで修行に付き合わされたという。

 

 

 

「ちょっと━━━!? にゃんこご乱心まだなの━━━ッ!?」

「フカ━━━━━━━━ッ!」

 

 

 

☆☆☆

 

夜になり、その日の修行は何事なく終わった。そして丈城達は別荘で夕食をとることにし、早速調理へ。因みに担当は

 

 

リア:猪肉の炒め物。

 

朱乃:魚の塩焼き。

 

裕斗:山菜のお浸しと同食材の天ぷら。

 

アーシア、小猫、オーフィス:オニオンスープ。(オーフィスは何もしていない。見てただけ)

 

丈城:ピッツァ。(ナラの木の薪で焼いた、ボルチーニ茸トッピングのマルゲリータとネアポリス風のシンプルなマルゲリータの二種)

 

となっている。

 

 

「まさか本格的なピザが食べられるとは思わなかったわ。ジョジョって意外と料理上手なのね」

「どーだ、凄いだろ?」

 

 

約一名の奮発により、豪華な夕食にありつけた一同。朝から修行に打ち込んでいたためか、物凄いスピードで目の前の食物が消えてゆく。丈城や裕斗はもちろん、リアやアーシアらも柄になく次々と口に運んでいる。

 

 

「さて、今日一日の修行を通してどう思ったかしら?」

「ハイッ! 依然問題なし!」

「あなたのいつも通りは承知しているわ。裕斗は?」

「まず…自分では気付かなかった攻撃の規則性ですね。ジョジョ君のアドバイスを生かして、攻撃方法を見直そうと思います」

「アーシアちゃんの魔力は初めてにしては上出来でした。このまま合宿を続けていれば、レーティングゲームまでには十分強くなれそうです」

「…私は相手を十分観察して、動きを把握してから攻めてみようと思います」

「私は…まだ皆さんの足を引っ張ってしまいますが、何とかお役に立てるよう頑張ります!」

「Good。みんな、今日はよく頑張ったわね。それじゃ食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 

リアがそう言うと、全員の肩の力が一気に抜ける。するとピッツァを頬張っていた丈城の腕にオーフィスが抱きつき

 

 

「我、ジョジョと入る」

「ブッ!? ゲホゲホッ!」

 

 

爆弾発言投下。

 

 

「おっ…お、お前…食ってる最中になんつーこと言うんだよ!」

「オーフィスさんズルいです! 私もジョジョさんと一緒に入ります!」

「待て待て待て!! アーシアダメだから! 焦って突っ切っちゃダメ!!」

「あらあら、それなら私もジョジョにご奉仕しちゃおうかしら?」

「やらんでええ!」

「あらいいじゃない。日本でも言うんでしょ? 『裸の付き合い』って」

「それ同性ッ!!」

 

 

それぞれ勝手なこじつけで丈城と入浴しようと企む面々。暫くはこれがある意味の困難として続くだろう。

 

そんなこんなで、一日目の夜はふけていったのであった。

 

 

 

 

 

「同性ってことは、僕とは裸の付き合いができるね」

「……テメーのそこ(股関)以外を切り刻むゾ?」

「…今のは聞かなかったことにしてもらえると助かるかな」

 

 

(←To Be Continued…)

 




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第17話《ある青年の昔話》

 合宿二日目。

 

 

 この日の午前中は勉強会があり、全員が別荘のリビングルームに集められた。何でも丈城とアーシアに悪魔の知識を教えようという魂胆らしい。

 

 

「別に覚えるのは苦じゃねーけどさ、アーシアはともかく何で俺までやる必要があるんだ?」

「そうは言っても知ってて損はない事だし、何かのイベントで上層部の悪魔達に会っても話についていけるようにだよ。さて僕達の仇敵、神が率いる天使。その天使の最高位の名は? さらにそのメンバーは?」

「『熾天使(セラフ)』、メンバーはミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエルの四名。全員ケツに"エル"がつくから覚えやすいな」

「ケツって…まぁいいや、正解。次に僕らの王、『魔王』様。四大魔王様を答えてもらおうかな」

「サーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、ファルビウム・アスモデウス、んでもって唯一の女性魔王セラフォルー・レヴィアタン。どうだ」

「Good。でも一応様付けはしておこうよ。いつも通りにあだ名つけたら殺されるよ?」

「このジョジョ、魔王だろーと容赦せんッ!!」

「いつも思うけどその自信は一体どこからやってくるんだい……」

 

 

 丈城の崩れぬ自信に裕斗は軽く頭痛がしてきた。丈城も丈城で反省する気はないらしく、笑って誤魔化そうとする。

 

 気を取り直して、裕斗は次にこんな問題を出した。

 

 

「ハァ…じ、じゃあ堕天使の中枢組織、並びにその幹部を全て言ってもらおうかな」

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』で、総督アザゼルと副総督シェムハザを中心にアルマロス、ベネムエ、コカビエル、サハリエル、タミエル、バラキエルの六名が幹部として在籍している」

「Perfect。完璧だよジョジョ君。それだけ覚えているなら大丈夫だね」

 

 

 そんな珍問答の後、次はアーシアによる授業が始まった。

 

 

「コホン。では僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」

 

 

 パチパチパチと全員から拍手を送られ、アーシアは軽く赤面する。

 

 

「え、えっとですね。以前私が属していたところでは二種類の悪魔祓いがありました。ひとつはTVや映画でも出ている悪魔祓いです。神父様が聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の身体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして悪魔の皆さんにとって脅威となっているのが『裏』のエクソシストです」

「『裏』のエクソシスト……か」

「そうね。ジョジョも会っているけど、悪魔である私達にとっての最悪な敵は神、もしくは堕天使に祝福を受けた悪魔祓い達よ。彼らとは歴史の裏舞台で長年にわたり争ってきた。天使の持つ光の力を借りて常人離れした身体能力を駆使して、全身全霊で私達を滅ぼしにくるの」

 

 

 リアの言葉に、丈城は先の事件を思い返した。彼らの行いは人道上許せない。エンリコ・プッチとまではいかないが、ドス黒い気分になってくる嫌な連中である。

 

 そんな事を考えていると、アーシアがカバンから幾つかの小瓶を取り出した。どれも中身には透明の液体が入っている。

 

 

「では次に、聖書や聖水の特徴をお教えします。まずは聖水。悪魔が触れると大変なことになります」

「そうね、アーシアも触れちゃダメよ。お肌が大変なことになるわ」

「うぅ、そうでした……。私、もう聖水を直に触れられません……」

 

 

 彼女は悲しそうに呟くと、今度は分厚い本を手に取った。

 

 

「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今では一節でも読むと頭痛が凄まじいので困っています」

「悪魔だもの」

「悪魔ですもんね」

「……悪魔」

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

「悪魔だからしゃーねーわな」

「うぅぅ、私、もう聖書も読めません!」

 

 

 全員の総ツッコミにアーシアは涙目。

 

 

 そんなこんなでアーシアの授業は終わり、最後は丈城によるスタンド能力の授業が開講することとなった。

 

 

「さて、と。とりあえずスタンド能力について解説していくわけだけど……何を話したほうがいい?」

「そうわね……スタンド能力がどういうものかは理解しているし、とりあえずジョジョの中で有力なスタンドを紹介して頂戴」

「有力なスタンドか…挙げるとしたら、『キラークイーン』かな」

 

 

 丈城はリアのリクエストにより、自身にとっての強力なスタンドを解説することに。

 彼はスタンドの中でも、東方仗助を苦しめた吉良吉影のスタンド『キラークイーン』を側に出現させて解説を始めた。

 

 

「キラークイーン。近接パワー型のスタンドで射程距離は1~2m。こいつはちと厄介でな、『触れたものを何でも爆弾に変える』っつー能力を持っているんだ」

「ば、爆弾!?」

「もうそれを聞いただけで恐ろしいわよ…」

「キラークイーンの爆弾は二種類。右手人指し指のスイッチを押して爆破させる『点火型』と、もう一つは爆弾化させた物体に触れた相手を爆破させる『機雷型』だ。俺は『キラークイーン 第一の爆弾』と呼んでいる」

「…"第一の"ってことは、他にも爆弾があるってことですか?」

 

 

 小猫の問いに、丈城は深く頷く。

 

 

「ああ、現に存在する。第二の爆弾『シアーハートアタック』はキラークイーンの左手甲に格納されている爆弾戦車で、一度発射すればガラガラヘビのように熱を探知して接近し自爆するんだ。しかも自爆しても元通りになるし、とにかく硬い。『星の白金』のラッシュでもぶっ壊れない程にな」

「『星の白金』のパワーでも破壊出来ない……だとしたら壊しようがないね…」

「そして第三の爆弾『バイツァ・ダスト(負けて死ね)』。これはキラークイーンの切札と言っても過言じゃない」

「切札…? どういうことかしら?」

「一言で言うと、『時間を爆破して巻き戻す爆弾』というわけだ」

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

 

 これには全員が驚いた。

 

 

「時間を…爆破して巻き戻す…!?」

「そう。まずは自分以外の人間にキラークイーン"自体"を仕掛ける。そして何かの切っ掛けで時間ごと爆破させ、一時間程巻き戻すんだ。強いと思うけど、二点程デメリットがある」

「デメリット?」

「一つはキラークイーン"自体"が仕掛けられているから、バイツァ・ダスト発動中はキラークイーンが使えない。二つ目はとてつもなく深く絶望しなければ、バイツァ・ダストは発動できないんだ。例えば仲間が殺されたりだとか、ピンチに追い込まれたりしない限り使えないってこと」

「あらあら…メリットが大きい分、デメリットも大きいのね」

 

 

 一同は驚愕し、言葉を失う。それもそうだろう。敵にまわせばとてつもなく厄介な能力が、今まさに目の前の人物が手にしているのだから。

 

 

 こうして様々なジャンルの勉強会は終わり、丈城達は午後の修行へと各々移行していった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 合宿を開始してから一週間たったある夜。

 

 

「………ん」

 

 

 ふと目を覚ました丈城はムクリと起き上がり、伸びを一つ。隣には裕斗がスヤスヤと寝息を立てていた。

 いつもなら両隣にアーシアとオーフィスが寝ているのだが、この合宿では別室で就寝している。安心していいのか寂しいのか複雑な気分である。

 

 

「……なーんか落ち着かねぇな。あの環境に慣れすぎたのが原因か…?」

 

 

 バリバリと頭を掻いてもこの感覚は収まらない。仕方ないので丈城はベッドから降りて台所へ向かった。

 

 水を一杯飲み干し、一息ついていると

 

 

「フ~、少しは落ち着けたかな…」

「あら? 起きたの?」

「お、リアか。どうしたんだ? リアも寝付けねぇのか?」

「ええ…まぁ、そんなところね」

 

 

 リビングから声がかかる。かけたのはこの時間に起きていたリアだった。

 

 

「ちょうど良かった、少しお話ししましょう」

「まー別にいいけどよ。てかリアって目ェ悪かったっけ?」

「あー、これ? 気分的なものよ。考え事をしているときに眼鏡をかけていると頭が回るの。ふふふ、人間界の暮らしが長い証拠ね」

 

 

 リアの提案を飲み、丈城は彼女の対面席に腰掛ける。

 

 

「…こんな時間に作戦練ってたのかよ? 一人で」

「正直……こんなものを読んでいても気休めにしかならないのよね」

「どういう意味だ? それ」

「相手が他の上級悪魔なら、これを読んでいれば戦いはできるわ。この本は研究された戦いの"マニュアル"だもの。でも問題はそこじゃないの」

「……ライザー・フェニックス自体に問題があるってことか?」

「ええ…」

 

 

 リアはフェニックス族の関係やライザーの戦績、自らの家柄が最初から仕組んでいた事などを丈城に打ち明けた。

 

 それを聞くなり、丈城は眉間にシワを寄せて拳を握り締める。

 

 

「…聞いてるだけでフザけた連中だな。リアの人生を何様のつもりで踏み込んでいやがんだド畜生が……ッ!」

 

 

 生き方に関して人一倍敏感な丈城。縛られることを拒む彼にとって、グレモリー家がとった行動は御法度なのだ。

 すると彼はずずいと身を乗り出すと、リアの目を真っ直ぐ見据えてこう言い切った。

 

 

「リア、お前は俺は必ず守ってみせる。多分グレモリーの家柄はしつこくつきまとってくるかもわかんねぇ。それでも…それでも俺は屈したりはしねぇ。次のゲームは必ず……このジョジョが上級悪魔どもに知らしめてやるぜ…!」

 

 

 言われたリアは頬を赤く染めて硬直。そのまま謎の沈黙が続き

 

 

「…Hey girl? 大丈夫か?」

 

 

 とりあえず丈城がリアに呼び掛ける。それで我に返ったのか、リアは慌てて「な、何でもないわ!」と言って頭を横に振った。どうやら少々驚いていたようだ。

 

 

「と、とにかく…私は今度のゲームに勝ちたい。勝たなくてはならないの。周りの悪魔達は私のことを天才天才って言ってくれるけど、この才能は元々グレモリー家が代々培ってきたものの結晶。まるで…神から与えられたみたいで嫌なのよ」

(……神から与えられたみたい、か)

 

 

 軌道修正のためか、彼女は今回のレーティングゲームに勝ちたいという意志を話してくれた。リアの滅びの力は元々母方である『バアル家』の特色であり、それを望まず受け継いでしまったと聞いた丈城は、少し奇妙な感情を抱いた。

 

 そしてあることを思いつく。

 

 

「……リアみたいに受け継いで力を得たっていう奴もいれば、世の中には『望んで』力を与えられたっていう奴もいるぜ。俺は、その例外を知っている」

「え?」

 

 

 彼が切り出した話。それはかつての、ある青年のについての昔話だった。

 

 

「昔…どこかの地方都市にある一人の少年がいた。彼は漫画やアニメを好み、いつしかその主人公のような大冒険や力が欲しいという夢を抱いた」

「………………」

「しかし彼の周りの大人達は皆現実的で、少年の夢を嘲笑い、それよりも現実に目を向けろと言って話を聞こうとしなかった。その内彼は夢を嘲笑った歳上達を憎み、事あるごとにトラブルを起こすようになった」

 

 

 席を立ち、窓辺の方に移動して語り続ける丈城。リアはその姿に話の中の少年の面影を垣間見た。会ったことはないが、彼の話や性格に類似する箇所がある。ひょっとすると、とリアは考える。

 

 

「しかし少年はその夢を実現することなく、歳上達に証明することなく死んでしまった。そして死んだ彼の前に、"その存在"は現れた。その存在は彼に転生の権利を与え、『望みを一つ叶える』と言ったんだ」

「……その少年が望んだ願いが、最初の…?」

「Excitly(その通り)。その後彼は生まれ変わり、どこかの地で自らが望んだ夢を楽しんでいる……というのが、俺の知っている例外だ」

 

 

 一通り話し終えた彼は欠伸を一つし、「んじゃいい感じにね眠たくなってきたし、そろそら寝るわ」と言って部屋へ戻ろうとした。

 

 

「ジョジョ、今の話に出てきた少年ってまさか……」

 

 

 リアは丈城を呼び止めるが、丈城は口元に人指し指を当てて

 

 

「この世界で活躍する、周りより優れた才能を持っている人間の中には、ひょっとすると何処かの世界からの転生者……だったりするかもな」

 

 

 うっすら笑い、部屋へ戻っていった。

 

 

「……これは、私の胸のなかにしまっておいたほうが良さそうね」

 

 

 リアはそれ以上聞かず、自室へ戻る準備をし始めた。

 

(←To Be Continued…)

 




こんにちは、尾河です。

今回は丈城の過去について少し触れてみました。また何か機会があれば書いてみようと思います。


そしてもう一つ、キラークイーンの説明に『猫草』がなくて違和感を覚えた読者の方もいらっしゃるかと思いますが、これは後々のネタに使うためにわざと省きました。ご了承ください。


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第18話《vs不死鳥 その①/体育館の前哨戦》

皆さんこんにちは、尾河です。

ちょっとこの回は文脈がおかしくなってしまいましたが、今回からいよいよ、焼鳥ライザーとのレーティングゲームが始まります。

それでは第18話、どうぞ





 ライザーが期限として提示した十日間はあっという間に過ぎ、ついにこの日がやって来た。

 

 強化合宿で自らの実力を鍛えてきた丈城達は各々のやり方で気持ちを落ち着かせ、決戦へと備える。そして丈城、アーシア、オーフィスはアパートで待機し、グレイフィアの迎えが来るまで待つことになった。当然オーフィスは眷属ではないため今回はお留守番という形である。

 

 

 丈城は緊張感の欠片もなく、レーティングゲームの際に着る手持ちの装束を並べてはどれにしようかと唸っている。腕を組んでいると、アーシアが彼の傍らに座って寄り添い、こう呟いた。

 

 

「…ジョジョさん、私これから怖い戦いが待っていると思うと、震えが止まらないんです」

「アーシア……心配するんじゃあない。この俺がいる限り、お前の恐怖は俺が打ち消してやる」

「えへへ、やっぱりジョジョさんの傍にいると怖くなくなります。……ここを出るまでこうしてていいですか?」

「構わねぇぜ」

「……これからもずっと、ジョジョさんの傍にいてもいいですか?」

「おう、一緒にいような」

「…………よかった」

「ジョジョ、我も一緒」

「わかってるっての。皆一緒だ」

 

 

 アーシアとオーフィスに両挟みにされながら、丈城は迎えの時までそのまま過ごしたのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始十分前です」

 

 

 AM12時頃。

 

 

 いよいよライザーとのレーティングゲームが間近に迫ってきた。旧校舎の部室では皆が思い思いの過ごし方で待機している。

 

 因みに服装はというと、リア、朱乃、小猫、裕斗が駒王学園の制服(冬服)、アーシアはいつも通りのシスター服。そして丈城は……

 

 

「なんというか……えらくカジュアルな服装ね、ジョジョ」

「人間の魂、そしてツェペリ魂…じゃなかった。ジョジョの魂を見せつけなくちゃならないからな。気合入れて行くぜ!」

 

 

 額に細いバンダナ、緑のジャケットを羽織ったその出で立ちは、若き波紋使い『シーザー・A・ツェペリ』そのまんまだった。本人曰く「俺の精神テンションは今! 貧民時代に戻っている!!」だそう。まぁ今回の相手は風でも光でもなく炎だが。

 

 

「開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手なことをしても構いません。使い捨ての空間なので思う存分にどうぞ」

 

 

 全員が立ち上がり、グレイフィアの説明に耳を傾ける。

 

 

「今回の『レーティングゲーム』は両家の皆様も他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります」

「ケッ、高みの見物ってヤツか? いいご身分だぜ」

「ジョジョ君、落ち着いて」

「さらに魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」

 

 

 そう彼女が言った途端、リアは心底驚いた表情をとった。

 

 

「お兄様が?……そう、お兄様が直接見られるのね」

「お兄様? つーことは……リアは魔王の身内ってことか?」

「えぇ。その通りよ」

 

 

 リアの言葉を繋ぐように、裕斗が丈城に説明する。

 

 

「大昔に大戦があったって話は聞いたことあるよね? その大戦で魔王様は致命傷になられて、既に亡くなられたんだよ。しかし魔王なくして悪魔はありえない。そこで魔王の名前だけを残し、強大な力を持つ物へ名を受け継がせたんだ。現四大魔王はその初代から名を受け継いだ後継者の最上級悪魔ってこと」

「つまり今じゃ役職の一環になったってことか。前にドライグから、悪魔は今首の皮一枚で繋がってるって聞かされたっけな」

「そう。正直な話、神陣営や堕天使組織、悪魔の三大勢力の内、一番力を持っていないのが悪魔なんだ。かなり危ういけど、現四大魔王様方がどうにか保っている状況なんだよ」

「んで魔王の役職の一つに、リアの兄貴が就任した。選ばれるだけの実力の持ち主……っつーわけか」

 

 

 丈城の見解に裕斗は大きく頷く。

 

 

「サーゼクス・ルシファー様…『紅髪の魔王』、それが部長のお兄様であり、最強の魔王様だよ」

 

 

 そんな悪魔事情を話し合っていると、頃合いを見計らったグレイフィアが口を挟んだ。時間のようである。

 

 

「そろそろ時間です。皆様、魔方陣の方へ。なお一度あちらへ移動しますと終了するまで魔方陣での転移は不可能となります。お気をつけて…」

 

 

 彼女の補足説明の後、丈城達は魔方陣へと移動。瞬間足元の紋様が見知らぬものへと変わり、彼らは戦闘フィールドへと転送された。

 

 

『人間』vs『不死鳥』の闘いの火蓋が今、切られる。

 

 

 ☆☆☆

 

 

『皆様、この度グレモリー家、フェニックス家の「レーティングゲーム」の審判役を担うことになりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでこざいます。我が主、サーゼクス・ルシファーの名の元、ご両家の戦いを見守らせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します』

 

 

 校内放送で、グレイフィアの声が校舎内に響く。

 

 

 丈城達が飛ばされたのは、なんと疑似空間のオカルト研究部の部室だった。つまり今回の舞台は、疑似空間に形成された『駒王学園』のようである。

 

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でごさいます。リアス様の本陣が旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザー様の本陣は新校舎の生徒会室。『兵士(ポーン)』の方は「プロモーション」する際、相手の「本陣」の周囲まで赴いて下さい』

(プロモーション……確か『兵士』の特性だったっけ。昇格させられたら倒すのにちと手間がかかりそうだ)

 

 

 強化合宿で教わった知識から、自分なりに考えを纏める丈城。ライザーの『兵士』は八名。一人でもプロモーションされると彼にとってややこしくなってしまう。とりあえずされる前に殺っておこうと彼は考えた。

 

 すると

 

 

「全員、この通信機器を耳につけて下さい」

 

 

 朱乃がイヤホンマイク型の通信機器を全員に配布した。受け取った彼らはすぐに耳に取りつけながら、リアが配布の理由を告げる。

 

 

「今回の戦場ではこれが味方同士やりとりするわ。大切に使って頂戴」

「俺スタンド使えるからいらなくねーか?」

「万一の場合よ」

 

 

 そして再び、グレイフィアによる校内放送が入った。

 

 

『開始のお時間となりました。なおこのゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』キーンコーンカーンコーン

 

 

 彼女の合図でレーティングゲームがスタート。最初は各々の作戦会議から始まる。

 

 

「さて、まずはライザーの『兵士』を撃破しないといけないわね。八名全員が『女王(クイーン)』に『プロモーション』したら厄介だわ」

 

 

 リアはソファに腰掛け、朱乃に至ってはお茶を準備している。余裕しゃくしゃくな雰囲気だった。

 

 

「今回は学校が舞台。そこで裕斗」

「はい」

 

 

 テーブルに広げ、赤ペンで二ヶ所に印を付ける。この二ヶ所はそれぞれ新校舎の生徒会室と旧校舎のオカ研の部室、つまり双方の陣地を示していた。

 

 

「私達の本陣周辺には森がある。これは私達の領土と思って構わないわ。逆に新校舎はライザーの陣地。入った瞬間に相手の領土に侵入したと思って頂戴。校庭は新校舎から丸見え。ここをただ通るのは危険だわ」

 

 

 その疑問に、丈城は体育館を指差した。

 

 

「リア、旧校舎に近い体育館を叩いた方がいいかもしれん。ここを潰しちまえば、奴らへの牽制と新校舎までの道を確保できるぜ」

「ええ、ジョジョの意見は最もね。まずは体育館を叩く。……場所的に相手が投入してくるのは『戦車(ルーク)』かもしれない。室内だから、機動力の『騎士(ナイト)』よりも破壊力の『戦車』のほうが特性を活かせるわ」

 

 

 丈城の意見にリアは賛同する。

 

 

「……裕斗と小猫はまず森にトラップを仕掛けてきて頂戴。予備の地図も持っていって、トラップ設置場所に印をつけるように。あとでそれをコピーして全員に配るわ」

「はい」

「……了解」

 

 

 承諾した二人はトラップを持って部屋を出ていった。

 

 

「トラップ設置が完了するまで他の皆は待機。朱乃、裕斗と小猫が帰ってきたら、森周辺、空も含めて霧と幻術をかけておいてくれるかしら。勿論、ライザーの眷属にのみ反応する仕組みよ。序盤はこんな感じかしら、中盤に動きが激しくなりそうだけど。霧と幻術の件お願いね、朱乃」

「わかりましたわ、部長」

「それまで俺とアーシアは待機か。それか今のうちに遠隔操作型のスタンドを放っといた方がいいか?」

「それならいいわ。ジョジョは何もせず待機。何なら…膝枕でもして落ち着かせてあげましょうか?」

 

 

 その申し出に丈城は首を横に振って断る。

 

 

「いや、いい。俺はこの戦いに対する覚悟を既にしてきた。あとは勝利するだけだ」

「そう……残念だわ」

「したかったのかよ……」

 

 

 そんなやり取りの後、裕斗と小猫が戻ってきた。トラップを仕掛け終わったので、グレモリー眷属は次なる作戦へと移行する。

 

 

「いい? ジョジョ、小猫。体育館に入ったらバトルは避けられない。指示通りに頼むわね。あそこは重要な拠点になるのだから」

「大丈夫だ、問題ない」

「……丈城先輩、それフラグです」

「フン、フラグはへし折ってなんぼだ。この兵藤丈城に、精神的動揺によるミスはないと思っていただこう」

 

 

 丈城は小猫の目を見据えてハッキリと言い切る。まぁこの男に関しては本当に問題ないだろう。

 

 こうして裕斗、朱乃はリアの指示のもと、別の作戦のため別行動。リアとアーシアは待機。丈城と小猫は体育館での戦闘へ、それぞれの動くことになった。

 

 

「さて、私のかわいい下僕たちとジョジョ! 準備はいいわね? もう引き返せない。敵は不死身のフェニックス家のなかでも有望視されている才児ライザー・フェニックスよ。さぁ消し飛ばしてあげましょう!」

「ジョジョさん! 皆さん! 頑張って下さい!」

「「「「はい!(All right!!)」」」」

 

 

 返事と共に彼らは駆け出した。

 丈城は『ホワイトアルバム』を発動し、スピードスケーターの如く体育館へ急行する。小猫も負けじと並走。

 

 

「正面からノックしてもしもォ~しするのもいいけど、ここはあえて裏手から突るか」

「……そうしたほうがいいですね。それと寒いです」

「んだったら並走しなきゃいいのに……」

 

 

 二人は体育館の裏手にまわり、丈城は『ホワイトアルバム』を解除してドアノブに手をかける。鍵はかかっておらず、難なく中へ侵入した。

 

 

 演壇裏側に出て、丈城は確認のために幕の中から中の様子を伺おうとすると、小猫が

 

 

「……気配。敵」

 

 

 と呟いた。直後

 

 

「そこにいるのはわかっているわよ、グレモリーの下僕さんたち! あなた達がここへ入り込むのを監視していたんだから」

 

 

 体育館内に響く女の大声。どうやら侵入はバレバレだったようだ。丈城は小猫にアイコンタクトで『突撃』を合図すると、彼女と共に壇上へ躍り出た。

 

 

「俺達、参上ッ!!」

「! 貴様はあの時の人間!! よくもライザー様の顔に泥を塗ってくれたわね!!」

「ケッ、今度は平穏じゃねぇ顔面にかえてやんよ! オメーら共々なッ!!」

 

 

 敵はチャイナドレスの『戦車』、双子と棍の少女・ミラの『兵士』の四名。丈城は口元を上げると、小猫に指示を出して舞台から飛び降りた。

 

 

「小猫! 双子とロリ棍は俺が殺る! チャイナ女は頼むぜ! ドライグ行くぞ!!」

Boost!(ブースト)

「……わかりました。『兵士』はお任せします」

 

 

 小猫も同様に飛び降りてチャイナ女と対峙する。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を倍化させつつ、空いた右手に『アヌビス神』をもって『兵士』と睨み合う丈城。対する双子はニコニコ笑いながら、手にしたチェーンソーのエンジンを吹かしてこう宣言した。

 

 

「「解体しまーす♪」」ドル,ドルルルルルルルルルッ

 

 

 可愛い顔していきなり死刑宣告。しかしこんなことで彼が怯むはずがない。親指で首を切る仕草をして挑発すると、『アヌビス神』の鞘を口で抜き放って丈城は叫ぶ。

 

 

「ガキだからって甘かァねぇぞ俺はッ!! 解体できるもんならやってみろッ!!」

 

 

 双子はチェーンソーを床に当てながら突貫。火花を散らし、丈城に向かって容赦なく振り降ろす。

 

 

「ふん!!」

 

 

 だがその二撃は『アヌビス神』の一振りで相殺された。丈城はバク転で一旦双子から距離を置き、倍化を待ちつつ攻撃を回避する策に出る。

 

 

『Boost!』

(ヒュッ、ヒュヒュッ)

「あらよっと!」

 

 

 続けてミラが棍で攻撃を仕掛けるも、丈城に当たることはなく、逆に隙を突かれて踏み台にされた挙げ句、空中からの蹴りを入れられてしまった。

 

 

「「バラバラバラバラバラバラバラバラ!」」

 

 

 息つく暇もなくチェーンソーが襲い掛かる。だが丈城は同様に『アヌビス神』で防ぎ、縦横無尽に三人の上を飛び回る。かなりの大立ち回りだ。やがて

 

 

『Boost!』

 

 

 三回目の倍化に到達。こうなればもう丈城のターンである。左手に力を込め、三人に向かって一気に距離を詰めた。

 

 

「ベネ(よし)! 一気に畳み掛けるぞドライグ!!」

Explosion!(エクスプロージョン)

「まず最初の犠牲者はテメーだァァァ━━━━━ッ!!」ドガッ

 

 

 速攻で背後に回り込み、双子の片割れを強襲。アッパーの要領で彼女の背中を殴り飛ばし、宙に浮かせた。舞い上がったその身体目掛け、丈城は更なる追い打ちを仕掛ける。

 

 

「そっちがバラバラならこっちはボラボラだ! 飛べ、『エアロスミス』!」

 

 

 彼は両腕を水平に伸ばし、スタンド『エアロスミス』を発進させた。『エアロスミス』は双子の片割れに向かって一直線。そのまま機銃の嵐を身体に叩き込んだ。

 

 

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ、ボラーレ・ヴィーア!(飛んでいきな!)」

 

 

 止めのミサイルが放たれ、食らった片割れは吹っ飛んだ。床に叩きつけられた彼女は光となってフィールドから消滅。すぐさまグレイフィアの校内放送が入った。

 

 

『ライザー様の「兵士」一体、再起不能』

「ヘッ、ざまーねーな!」

「この! よくもお姉ちゃんを!!」

 

 

 残った妹と思われる片割れが、敵討ちとばかりにチェーンソーを振りかざす。だがパワーアップ状態の『赤龍帝の籠手』で殴打されショート。武器が使えなくなってしまった。

 

 

「あっ、チェーンソーが!」

「隙あり!」

 

 

 ここぞとばかりに丈城は妹の方を殴り飛ばし、ついでに突貫してきたミラもひっつかんで投げ飛ばした。さらにその先は小猫が敵と戦っており、優勢に立っている。

 

 

「小猫!」

 

 

 丈城の叫びで彼女も気付き、相手をむんずと掴んで投げ飛ばす。当然避けられるはずもなく三人はごっつんこ。その場に倒れた。

 

 

「このぐらいでいいか……そろそろ動くぞ!」

「……了解」

 

 

 丈城と小猫は一旦合流し、顔を見合わせて確認をとる。そして…

 

 

 

 

「逃ィげるんだよォォォォ━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 

 

 何を思ったのか、一目散に入り口へ向かって駆け出した。

 

 

「逃げる気!? ここは重要拠点なのに!」

 

 

 いきなり逃走を計った二人に、ライザーの眷属達は驚きを隠せない。すぐに追跡したいが、既に二人が消えたあと。結局三人はみすみす丈城と小猫を逃がしてしまったのである。

 

 

 その頃、中央口から飛び出してきた二人が木陰に隠れた途端

 

 

(カッ、ドォォォォォオオオオオオオオオンッッ!)

 

 

 轟音と共に雷が体育館に落ち、先程まで二人がいたそこは瓦礫の山と化した。

 

 

撃破(テイク)

『ライザー様の「兵士」二名、「戦車」一名、再起不能!』

「さっすが朱乃っち! やってくれるぜ」

 

 

 上空で浮遊する朱乃にサムズアップを送る丈城。実はこの行動、すべてリアの計画通りなのだ。

 裏手からまわったのは相手の監視を踏まえての行動。いわば丈城達は相手を閉じ込めるための"囮"。そして相手をあらかた弱めてから中央口から脱走、上空で待機していた朱乃が落雷で一掃するという算段だったのだ。重要拠点をあえて潰し、攻撃にまわしたリアと丈城の作戦勝ちである。

 

 

「……6対12。順調」

『皆、聞こえる? 朱乃が最高の一撃を放ったわ。これで当初の目的は達成できた。次の作戦に移行して!』

「All…!?」

 

 

 次なる作戦は裕斗との合流の後、運動場でライザーの眷属を片付けること。最初のミッションを達成した二人が移動を開始しようとしたその時、丈城が何かに気がついた。

 

 

『? ジョジョ、どうしたの!?』

「小猫ォ━━━ッ! 伏せろォォォォ━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 

 

 ドグオオォォン!!

 

 

 

 

(←To Be Continued…)

 




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第19話《vs不死鳥 その②/運動場の中盤戦》

皆さん遅れてすみません、尾河です。

金曜日辺りから頭痛がひどく、その日の内に発熱して寝込んでいました。

書けないこともなかったのですが、さらに文脈がおかしくなると判断したため、第19話の投稿を遅らせて頂きました。楽しみにしてくださっている方々、誠に申し訳ありません。

月曜になってなんとか熱が下がったので、今回投稿をさせて頂きます。病み上がりの身ですが、第19話どうぞ。



 ドグオオォォン!!

 

 

『ジョジョ!? 小猫!? どうしたの!?』

 

 

 リアの通信機から突如響いてきた爆音。驚いた彼女は丈城に続けざまに問いかけるが、聞こえてくるのはザーザーという砂嵐だけ。リアとその場にいたアーシアは最悪の予感を想定したが、それはすぐに晴れた。

 

 

 

 

『……あー、あー? こちら葛○区亀○公園前派○所ですがどぞー?』

「…とりあえず無事のようね。ジョジョの声でそんな冗談が聞けるのなら」

 

 

 その頃爆発があった場所では、草むらに飛び込んで事無きを得た丈城と小猫が通信機を通して無事を伝えていた。小猫の耳についていたものがない事から、恐らく丈城が庇った拍子に外れ、破損してしまったものと思われる。

 

 

「いやーべっくらこいたぜ。いきなり足元に魔方陣が展開して、嫌な予感がしたから草むらに飛び込んだんだ。案の定爆発しやがったぜ畜生」

『小猫は無事なの?』

「ああ、小猫が小柄な体格で助かった」

 

 

 丈城は小猫に覆い被さるようにして伏せている。若干小猫が目線を逸らして赤くなっているのは…まぁ、あえて突っ込まないでおこう。

 体勢を立て直し、二人は辺りを見渡して襲撃者を捜索する。

 

 いた。翼を展開し、魔導師の服装をした人影が一つ。その手には魔方陣が展開されている。爆撃の犯人は間違いなくこの悪魔だ。

 

 

「あらら、外しちゃった。人間の癖にカンがいいじゃない」

「何だアイツ……!『キラークイーン』と同じ爆弾能力持ちかよ!?」

 

 

 浮遊するライザーの下僕は不敵に笑う。そこへ

 

 

「あらあら。あなたのお相手は私がしますわ」

 

 

 朱乃が割って入ってきた。どうやらこの下僕とタイマンを張るらしい。

 

 

「ライザー・フェニックス様の『女王(クイーン)』、ユーベルーナさん。それとも…『爆弾王妃』とお呼びすればいいのかしら?」

「その二つ名はセンスがなくて好きではないわ、『雷の巫女』さん。あなたと戦ってみたかったわ」

「ジョジョ君、小猫ちゃん、裕斗君のもとへ向かいなさい。ここは私が引き受けますから」

「All right!! 朱乃っち、『キラークイーン擬きのBBA』の処理頼むわ! 行くぞ小猫ッ!!」

「バッ…BBA!?」

 

 

 丈城は『BBA』の部分を強調してそう言い残すと、『ホワイトアルバム』を発動して小猫と共に裕斗の元へ向かっていった。

 

 

「ぷっ…くく…そ、それじゃあ始め…ま、しょうか…『キラークイーン擬きのBBA』さん?」

「んなっ…!! わ、笑ってんじゃないわよ! 木っ端微塵に吹き飛ばしてやる!!」

 

 

 朱乃の挑発に乗ったライザーの『女王』は歯を剥き出し、彼女に食って掛かる。ついで移動する丈城達の耳には、暫くの間雷鳴と爆音が大きく鳴り響いていたという。

 

 

 そして戦いは、前哨戦から中盤戦へと移り変わってゆく。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 丈城と小猫が運動場へ急行する中、再び撃破アナウンスが流れた。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」一名、再起不能』

 

 

 どうやらこちらが仕掛けた罠に相手が引っ掛かったようだ。これで6対11。ここまでは計画通りである。

 

 

「……あっちに裕斗先輩がいます」

「あそこか」

 

 

 かなりの速度で移動している二人だったが、その目に体育倉庫の影に息を潜めている裕斗を発見した。木々と草むらを隠れ蓑に走り、二人は裕斗と合流。

 

 

「ジョジョ君! 小猫ちゃん!」

「よぉ裕斗! 無事で何よりだ」

 

 

 丈城は『ホワイトアルバム』を解除して体育倉庫の壁に寄っ掛かり、息を整える。小猫もここまで呼吸を整える暇がなかったため、同様に寄り掛かって休んでいた。

 

 

「ここまでは順調だ、みんなで勝って帰ろう。なっ」

「うん」

「……はい」

 

 

 コンコンと、三人は拳をぶつけて誓いを立てる。裕斗は休んでいる丈城と小猫に変わって運動場に目を光らせ、こう口にした。

 

 

「ここを仕切っているのは『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』が一名ずつ。合計三名だ。こちらからの侵入を結構警戒しているみたいだね」

「フゥッ、厳重だねぇ。こっちの出方がわかんねぇからこうしてんだろーな」

「そうだね。ただでさえ体育館を消し飛ばされたわけだから、こっちに力を注ぐのはわかっていたけど……」

「ルート二つの内一つをドカンしたもんだから、こりゃ当然の結果だな。ひょっとすると運動場が乱戦状態になりかねねぇな」

 

 

 小猫の頭をさりげなく撫でながら、丈城は額の汗を拭う。

 

 

「緊張しているのかい?」

「ん? ま、まぁな。先の事件みてーにルール無用のバトルならともかく、ルールに乗っ取ってのバトルは初めてでな。スタンド能力を使っちまえば訳ないけどよ……てかそういうオメーが一番ビビってんじゃねぇのか?」

 

 

 裕斗にそう指摘され、丈城は仕返しとばかりに彼の手を指差した。

 

 

 裕斗の手は、震えていた。

 

 

「……恥ずかしい話、レーティングゲームに参加するのは初めて。悪魔同士の本気の戦い。今回が特例だとしても本気だということに変わりはない。いずれ、僕達は否応無しに悪魔同士の競技に参加してゆく。これがその初陣。油断も隙も見せられない。これは部長の眷属悪魔としての全てをぶつけ合う勝負なんだよ。今後の全てにも繋がる大事なものだ。実際僕は歓喜と恐怖を感じている。この手の震えを忘れたくない。この緊張も、この張り詰めた空気も全て……。だからお互い強くなろう、ジョジョくん」

「……へっ、グレートだぜ裕斗。その意気込み、俺は敬意を表するぜ」

 

 

 裕斗の覚悟を聞かされ、丈城の中に沸々と闘争心が沸き上がる。人間代表として負けていられない。その想いが、彼の闘志を突き動かした。

 

 

「…ウシ、俺ん中のエンジンが温まってきたぜ。ここからはショウタイムといくか!」

「「えっ?」」

 

 

 ゆらりと立ち上がって指をパキパキ鳴らし、丈城は真っ直ぐ運動場を見据える。そして次の瞬間、

 

 

 

 

「荒ぁ~れぇ~るぅ~ぜぇ~、止めてみなァァ━━━━━ッ!!」

 

 

 

 

 なんと、体育倉庫を飛び出して運動場へと全速力で駆け出したのだ。いきなりの行動に一瞬二人はポカンとなっが、すぐに状況を把握。止めようとしても既に彼の姿は遥か先。背中を眺める他なかった。

 

 

「ジョジョ君……一体何を…?」

 

 

 一方の丈城は運動場の中央に到着すると、大きく息を吸い込み

 

 

「我が名はッ、プレッシャーと常識を跳ね返す男・兵藤丈城! またの名をジョジョ! 貴様らに朗報だッ、今からこのジョジョが相手をしてやる! 冷酷! 残忍! その俺が貴様らを倒すぜェッ!!」

 

 

 まるでプロレスラーのマイクパフォーマンスの如く高らかに吠え、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と『星の白金(スタープラチナ)』を発動して構えた。

 

 

「……無謀過ぎます」

「いや…そうでもなさそうだよ」

 

 

 目を細め、運動場の遠くを観察する裕斗。その先からは一人の赤い鎧を纏った女剣士が丈城の方へ歩み寄ってくる。丈城もそれに気がつき、体をそちらへ向けた。

 

 

「人間にお前のような戦士がいたことを嬉しく思うぞ。堂々と真正面から出てくるなど、正気の沙汰ではないからな」

「生憎、危険の意味なんて忘れたのさ。何なら周りにいる下僕共も呼んだらどうだ? 最も何人かかってこようが同じだがな!」

「フッ、大した自信だな。ならばそちらもどうだ? 『騎士』と『戦車』が一人ずついる筈だろう」

「んじゃ呼んでみっか。ハイ三番テーブルのお客様、木場君と小猫ちゃんご指名でーっす!」

「ここは風俗店かっ!!」

 

 

 丈城ボーイの呼び出しに、裕斗と小猫は顔を見合わせて頷いた。

 

 

「ご指名されたら、『騎士』として、剣士として、隠れているわけにもいかないか…!」

「……お二人が戦うのなら、私も戦います」

 

 

 裕斗は剣士としての誇りを、小猫は二人の覚悟に続きたい思いを、それぞれ胸に秘めて丈城の元へ駆けてゆく。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「僕はリアス・グレモリーの眷属、『騎士』木場裕斗」

「……同じく『戦車』の塔城小猫」

「さてさてさてェ! こっからは俺達のターンといきますか!」

「……丈城先輩、いきなり駆け出さないでください。素で驚きますから」

 

 

 丈城の隣に並び、剣と拳とスタンドを構える三人。それを見たライザーの『騎士』カーラマインは口元をあげると、鞘から剣を抜き、切っ先を裕斗に向けて高らかに言い放つ。

 

 

「嬉しいぞ…それならば木場裕斗! 同じ『騎士』として、貴様に決闘を申し込む!」

「『騎士』同士の戦い━━待ち望んでいたさ。個人的には尋常じゃない斬り合いを演じたいものだね」

「よく言った! リアス・グレモリーの『騎士』よッ!」

 

 

 裕斗もノリ気で『魔剣創造(ソード・バース)』で剣を生成し対峙する。刹那二人の斬り合いが勃発。介入するのはよろしくないと判断した丈城と小猫は二人から離れ、残りの下僕を片付けることに。

 

 

「ああやって気持ち良くやり合う様を見せられると……ますます戦わせろって拳が疼くぜ。そう思わねぇか? 小猫」

「……私はそこまで好戦的ではないのでわかりません」

「ヒマそうだな」

「「!」」

 

 

 第三者の声に振り返ると、そこには顔の半面を仮面で覆った女性が立っていた。さらにもう一人、ブツブツ文句を垂れながらやって来るお嬢様風の少女。その内容はどうやら裕斗の事を指しているようだが、期待外れだったらしい。

 

 

「全く…頭の中まで剣剣剣で塗り潰された者同士、泥臭くてたまりませんわ。カーラマインったら、『兵士』を犠牲にするときも渋い顔をしていましたし、主である『(キング)』の戦略がお嫌いなのかしら? しかも、せっかく可愛い子を見つけたと思ったら、そちらも剣バカだなんてついていませんわね」

「うわ、貧弱そうなもやしだ」

「ちょっ! いきなり初対面の悪魔になんて口の聞き方ですの!? これだから人間は…」

「事実を述べたまでだぜ俺は。テメーから殺意を感じねぇし、やる気も無さそうだしな」

 

 

 丈城は『赤龍帝の籠手』の倍化をスタートさせ、『星の白金』を前に出す。

 

 

「小猫、あの仮面の女を頼む。俺は残りの下僕を片付けるから。そら貧弱もやし、ガキはとっとと帰って寝た寝た」

「くぅぅっ! お兄様だけでなくこの私まで侮辱するとは…!! もう泣いて謝っても許しませんわ! シーリス、ニィ、リィ! やっておしまいなさい!!」

「御意」

「にゃ」

「にゃにゃ」

 

 

 人外をおちょくることに関して、その右に出るものはいない腕前を持つ丈城。現れた『騎士』『兵士』二体を前にしても、その余裕が崩れることはなく、逆に楽しそうに見える。

 

 

「シーリスはお兄様のもう一人の『騎士』。そこのカーラマインと違って騎士道うんぬんにこだわりませんわ。相手を必ず倒す。それだけですわ。そしてニィ、リィは獣人の女戦士。体術は、それはそれは大したものですのよ」

「以上、貧弱もやしによる蛇足解説でした。チャンチャン♪」

「…………………ッ!!(言葉に出来ない怒りを堪えている)」

「…しかしこの人間は恐れを感じないのか? よくもまぁここまで悪魔にフザけた態度がとれるな…」

「……丈城先輩は存在そのものがチートですから。この間も堕天使を一人オーバーキルしていましたし」

「敵にまわせば厄介な相手だということか……さて、こちらもゆくぞ! リアス・グレモリーの『戦車』よ!」

 

 

 小猫とライザーの『戦車』イザベラは野球場の方へ対峙しながら移動。残された丈城とその周りを囲むライザーの下僕は互いに殺気を放ちつつ、睨み合う。そして

 

 

「悪魔共ォォォ━━━ッ! 覚悟はいいかァァァ━━━ッ!!」

 

 

 最初に仕掛けたのは丈城だった。

 

 

「『星の白金』ッ!!」オラァッ!

「ぬぅんっ!!」

 

 

『星の白金』でシーリスに攻撃を仕掛けるが、ギリギリのところで背中の大剣で防がれてしまう。しかも『星の白金』を使ったせいで丈城の周囲ががら空き状態に。息つく暇もなく『兵士』のニィ、リィが畳み掛ける。が、

 

 

「にゃっ!!」

「そらぁっ!!」

 

 

 丈城の方が一枚上手だった。ニィの打撃を抜群の反射力で防ぎ、迫ってきたリィの攻撃をあろうことかニィの体でガード。そして彼女を目隠しに脇から飛び出し、味方を攻撃したことに動揺するリィの腹部目掛け『赤龍帝の籠手』の一撃を放つ。

 

 さらにニィを一本背負いの要領で投げ飛ばし、『ホルス神』の氷柱ミサイルを連射。二人は断末魔の叫びと共に光となって消滅した。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」二名、再起不能』

 

 

 続けてシーリスの迎撃に入る丈城。『星の白金』の打撃を防ぎ切るこの『騎士』を何とかしなくてはならない。そこで彼は作戦変更、面が駄目なら点で押し切る作戦に出た。剣の一点に狙いを定め、『星の白金』はスターフィンガーを繰り出す。

 

 

「スターフィンガーッ!」バキャァン

「なっ!? 我が剣が!!」

「ぶちかますぜ!『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』」

 

 

 無防備のシーリスの体に、容赦なく拳が打ちつけられてゆく。彼女はラストの一撃で吹っ飛ばされ、野球場の照明の柱へ激突。光を放って消滅した。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「騎士」一名、再起不能』

「しゃっ! まず三体!」

「……驚きましたわ、まさか人間がここまで私達に食らいつけるなんて。ですがあなたがどんな実力を秘めていようと、私達には叶いませんわ」

「ガキはすっこんでろ!」

「一蹴された!?」

 

 

 最早丈城はこの女の話を聞くつもりはないらしい。

 

 

 そこへ、アーシアから通信が入る。

 

 

『ジョジョさん! 聞こえますか、ジョジョさん!』

「俺だ! どうした!?」

『はい! いま、私と部長さんは学校の屋上にいるんです。相手のライザーさんに一騎打ちの申し出をいただきまして、部長さんが応じたんです! お陰で何事もなく校舎まで入ってこられたんですけど……』

「『王』同士のサシ!? わかった、すぐに応援に向かう! それまで持ちこたえてくれ!!」

 

 

 彼女からの通信。それはリアとライザーが一騎打ちを開始したというものだった。通信後、お嬢様風の少女は嫌味たっぷりな笑みを浮かべてこう口にした。

 

 

「お兄様ったら、リアス様が善戦するものだから高陽したのかしらね。普通に戦えば私達の勝利ですもの。情けを与えたのでしょう。このままでは対峙する前にやられてしまいそうですし」

「ヘッ、お情けだろーがなんだろーが関係ねぇ! ヤローを殴り飛ばせるのならそれだけで充分だぜ!」

「精神がやられるまで何度も倒すのかしら? それとも神クラスの力で一撃必殺? あなた達、このゲームに勝とうとか思っているの? お笑いね」

「随分余裕だなァ? 勝てる自信しかねぇってか?」

「だってこの勝負は最初からリアス様に勝ち目なんてないんだもの。不死身って、それくらいあなた方にとって絶望的なのですわよ?」

 

 

 指を鳴らし、残りの下僕を集結させる少女。囲まれた丈城は倍化した『赤龍帝の籠手』を構えて臨戦体勢をとる。

 

「いくら足掻いても、どれだけ強い能力を持ってしても、人間の力には限度がありますわ。これだけの人数相手に戦えるのかしら?」

 

 

 オホホと、少女は口に手を当て嘲笑う。しかし

 

 

 我らがジョジョに、不可能はなかった。

 

 

 

 

「…なあ、女性は何故老いに強いと思う?」

 

 

 

 

「? いきなり何を言っていm」

「ほんのちょっぴりだが、女性は脂肪が多く体温が変化しにくい…だから老いに強いっつー説があるんだ。この仮想空間、いやに暑くないか?」

 

 

 ニタリと、丈城はほくそ笑む。まるで悪戯がうまくいったと言わんばかりに。

 

 

「暑い理由は……感覚的な問題でお前ら自身が動いて暑く感じるからだ…!」

 

 

 直後、彼の周りから異様な煙が立ち込める。煙は瞬く間に運動場一帯に広がり、斬り合いを演じる裕斗の元や小猫の元まで広がってゆく。

 

 

「ガキ…残りの下僕を『俺の周り』に招集したのが運のツキだったな……『動いてあったかい』、残りの下僕共を…!!」

「!? 一体何を!?」

 

 

 何かを察知した少女だったが、時既に遅し。丈城の毒牙は、ジワジワとライザーの下僕達を蝕んでいた。

 

 

「な…何……だ…これは…!」

「おお……おごおぉぉおおっ…人間…! きィさまああああ……!!」

「面倒臭ェーからよォー、この運動場の『先っちょ』から『ケツ』まで、とことんやらせてもらうぜェーッ!!」

 

 

 なんと、丈城の周りにいる少女と下僕達やイザベラ、果てはカーラマインまで、その体がどんどん老朽化してきているのだ。この異常現象に裕斗や小猫は驚愕。勝負にならないので、一旦丈城の元へ駆け付ける。

 

 

「ジ、ジョジョ君……これは一体…!?」

「……未確認のスタンド能力」

「女性は脂肪が多いから体温はほぼ一定…でも動いてあったかくなっているのなら話は別。そのまま朽ちて眠りな」

 

 

 やがて立っていることも出来ず、下僕達は次々と足が骨折。その場に崩れてゆく。そして光となって消滅。撃破アナウンスが流れた。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」二名、「騎士」一名、「戦車」一名、「僧侶」一名、再起不能』

「ベネ(よし)! 一葬完了!!」

「……虐殺行為」

「仕方ねぇだろ? 時間がねぇからちょっと確実な"死"を与えてやったまでだ」

「それを虐殺行為って言うんだよ……」

 

 

 人間の悪意は底知れない。彼は目的のためならどんな虐殺行為もやってのける。つくづく恐ろしい男である。

 

 

「アーシアからの通信で、リアとライザーがサシを始めたそうだ。急ぐぞ!」

 

 

 そう言って丈城は校舎に向かって駆け出す。裕斗と小猫は詳細を移動中に聞こうと口裏を合わせ、彼の後を追うのだった。

 

 

(←To Be Continued…)

 




次回は少し間を挟んで、裕斗と小猫の活躍を描きます。


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第20話《vs不死鳥 その③/校舎内の抗争》

皆さんこんにちは、尾河です。

今回はライザーとの決戦の前に、裕斗と小猫の活躍をお送り致します。

それではどうぞ。



「『偉大なる死(グレイトフル・デッド)』。能力は生物を無差別に身も心も、記憶力すらも老朽化させること。老朽化の条件としては体温の微妙な差。あいつらは派手に動きまわったせいで体温が上昇して、老朽化したんだ」

「それでライザーの下僕達が朽ちていったんだ……その『偉大なる死』の老朽化能力は、女でも体温が上昇すれば老朽化が早まり、男が体温を低下させれば老朽化の速度を遅らせることが出来る……ってこと?」

「Excitly(その通り)」

「……私達が老いなかったのは、多分これのせい」

 

 

 新校舎4階。運動場での虐殺を終わらせた丈城達はリアの元へ急いでいた。

 

 その移動中に裕斗と小猫は、生物を老いさせるスタンド『偉大なる死』の説明を受け、あの時の丈城の虐殺方法を理解。そして小猫はスカートのポケットから何かを取りだし、自分と裕斗が能力の影響を受けなかった原因を突き止めた。

 

 

 小猫の手に握られていたのは、カチンコチンに凍っている保冷剤だった。

 

 

「多分『偉大なる死』が奴らにとっては有効かもしれないと思ってな、小猫のは庇ったときに滑り込ませて、裕斗のは体育倉庫で息を整えているときに隙をみて入れといたんだ」

「いつのまに……どうも懐が冷たいと思ったら、保冷剤が入っていたのか」

 

 

 裕斗も自身の懐に手を入れて保冷剤を取り出す。

 

 

「でもいくら時間がなかったからといってあんな一辺に片付けたら、流石にライザーも黙ってないと思うけど…」

「そんときゃ一足お先に始末してたぜ、きっと」

 

 

 校舎内を尋常じゃないスピードで駆けてゆく三人。日常の学校なら"廊下を走るな!"といって教育指導の教師が怒鳴るものだが、仮想空間のためそれはない。

 

 まぁそれ以前に爆撃やら何やらが起こっている時点で大問題だが。

 

 

 今のところリアの眷属は誰も再起不能になっていない。この状態をキープすればライザー一人vs丈城&リア眷属全員で挑むことになる。いくら不死鳥でもこの人数ではひとたまりもないだろう。

 

 

「あの一葬で下僕共はあらかた再起不能になった。あとは『女王(クイーン)』とライザー本人だけだ。それさえ叩けば…」

「このレーティングゲームに勝利出来る……そう仰りたいのかしら?」

「「「!!」」」

 

 

 突如聞こえてきた声。驚いた三人が立ち止まってその方へ顔を向けると、先程の一葬で再起不能になったと思われたあの高飛車少女だった。

 

 

「バッ!? バ…バカなッ!? オメーは貧弱そうな焼き鳥もやし!!」

「違いますわ!! 私の名は『レイヴェル・フェニックス』! フェニックス家長女にして、ライザーお兄様の実の妹ですわ!!」

「んん!? レイヴェル…"フェニックス"だとォ!? あのヤロー、自分の眷属に実の妹入れてやがったのか!!」

 

 

 貧弱そうな焼き鳥もやし…もとい『レイヴェル・フェニックス』と名乗った少女は、えへんとばかりに小振りの胸を張る。お世辞にも大きいとは言えないバストだ。

 

 

「胸は関係ありませんわよね!?」

 

 

 ………失礼。

 

 それはともかく、彼女は三人の進路に立つとこんなことを聞いてきた。

 

 

「確かに今のリアス様の戦況は一見良好に見えますわ。でも…本当にそう言い切れるのかしら?」

「ああン? 何が言いてーんだテメーは! ハッキリ言いやがれ!」

「では申し上げますわ。他の下僕は実力があっても所詮飾り程度。『切り札は他にある』ということですわ」

「!? まさか!」

 

 

 レイヴェルは意味ありげにほくそ笑む。その意味にいち早く裕斗が反応したが

 

 

(ドグオオォォン! ガシャアアァァン!)

 

 

 時既に遅し。後方の廊下から爆音と共に砂塵が舞い上がり、撃破アナウンスが流れた。

 

 

『リアス・グレモリー様の「女王」一名、再起不能』

「朱乃っちが負けた…!? あのキラークイーン擬きのBBAに!? Oh My God!!」

「キラークイーン擬きのBBAは…この際指摘しないとして、『雷の巫女』と戦った私達の『女王』ユーベルーナは頭脳戦を得意とし、炎を使った魔法を得意としますわ。故にライザーお兄様の参謀役…『(キング)』の次に強い『女王』ですわ」

 

 

 レイヴェルの蛇足解説よりも、三人の頭には朱乃が敗北したことで一杯だった。しかし冷静に考えれば起こって当たり前だったのかもしれない。ここまで無傷で来れたこと自体が奇跡なのだから。僅かに瓦礫の中から光の粒子が昇ってゆく。朱乃が敗北した何よりの証拠である。

 

 

「……!!」

 

 

 すると小猫が何かに気づき、すぐ前にいた丈城を奥へ強く突き飛ばした。

 

 

「ウワオッ!?」

 

 

 力量が力量なだけに、彼の体は後方へかなり吹っ飛んだ。すぐさま突き飛ばされた丈城はバク宙で着地。こんな非常時に何やってんだと叫ぼうとしたその時

 

 

(ボグオオォォォオン!)

「! 裕斗ッ! 小猫━━ッ!!」

 

 

 先程まで自らが立っていた場所が吹き飛んだのだ。丈城は小猫に突き飛ばされたために助かったが、肝心の二人の姿が見えない。一瞬彼の頭に悪夢がよぎる。だがそれはすぐに打ち消された。

 

 

「…全く、無茶ばかりするね。君は」

「……あの時の借りを返したまでです」

 

 

 砂塵が晴れたその先にいたのは、床から突き出された大量の剣に守られた裕斗と小猫の無事な姿だった。どうやら直前に裕斗が『魔剣創造(ソード・バース)』で幾重にも剣を生成して盾の代わりとし、自身と小猫を爆発から防いだらしい。

 

 

「無事か!? 二人共!!」

「こっちは平気だよ! それよりも早く部長の元へ急いで!! ライザーの『女王』は僕達で何とかするから!!」

 

 

 裕斗はすぐに起き上がり、丈城に先へ行くように指示を出す。

 

 

「オイオイ勝てんのかよ!? 相手は朱乃っちを沈めた奴だぞ! んだったら俺も加勢して……!!」

「『勝てるのか』じゃない、『勝つ』んだ! ここまで……ライザーの喉元にあとちょっとで食らいつけるんだ! きっと部長は苦戦している筈! ライザーに太刀打ち出来るのは君しかいない! 行くんだッ、ジョジョ君!!」

「……丈城先輩だけに、いい格好はさせない…!」

 

 

 二人は丈城を信じ、リアの元へ行かせようとしている。その言葉に目頭が熱くなる丈城だが、彼には感慨に浸っている時間はない。両頬をバンバンと叩いて気合を入れ直すと、二人にサムズアップを送って駆け出した。

 

 

「……わかった! 俺も…お前らを信じて先に行かせてもらう!! 頼むぜ裕斗! 勝てよ小猫!」

 

 

 遠退いてゆく盟友の背中を見届けた後、裕斗は小猫を立ち上がらせて苦笑い。

 

 

「さて…と。格好をつけてみたはいいものの、実際空威張りなんだよね。相手が相手だから…」

「……でもやるしかない。丈城先輩やリアス部長、皆と一緒に帰るためにも…!!」

「…フフッ、そうだね。帰ろうか。皆で…一緒に!!」

 

 

 ライザーの『女王』ユーベルーナは『雷の巫女』と称される朱乃を退けた強敵。一端の裕斗や小猫が敵う相手ではないのは明白。それでも…二人に逃げる素振りも恐れもなかった。

 

 

 皆で笑って、楽しく平和な日常を送るためにも……。

 

 

「ハァ、やっぱりついていませんわ。剣だけでなくあの人間と同じ熱血系の方だったとは……さらに興味が失せましたわ。ユーベルーナ、やっておしまいなさい」

「承知しました」

 

 

 レイヴェルの呼び掛けに応じ、先程の爆発跡からユーベルーナが姿を現す。相手の登場に裕斗は魔剣を構え、小猫は拳を握り締める。二人の両眼はいつも以上に燃え上がり、目の前の敵を睨み付けたその直後

 

 

「ハァッ!!」

「……ッ!!」

 

 

 片足を踏みしめて駆け出し、仇討ちとばかりに攻撃を繰り出した。しかしユーベルーナも両手に魔方陣を展開して二人の攻撃をガード。剣と拳、魔方陣が激突した衝撃でプラズマが走るが、そんなことはどうでもいい。

 

 裕斗はさらに力を込めて剣を押し、物理的に魔方陣を打ち破ろうとする。が、ユーベルーナも負けじとさらに魔力を高め、魔方陣から波動を放って二人を弾き飛ばした。

 

 

「ライザー様に楯突くものは誰であっても許さない……あなた達、爆発してみる?」

 

 

 今度はユーベルーナが仕掛ける。魔方陣を展開した両手を突きだすと、裕斗と小猫の周囲に同様の魔方陣が出現。例の爆発攻撃が来ると踏んだ小猫は足元に正拳突きを繰り出し、裕斗と共に下の階へ飛び降りた。刹那

 

 

(ドグオオォォン!)

「うぐっ…!」

「うぅ……ッ!」

 

 

 今までの比ではない威力の爆発が巻き起こり、爆風が二人の背中に容赦なく浴びせられる。勢いがついて二人は下の階の床に叩きつけられるも、すぐに体勢を立て直した。

 

 

「ここは…3階の教材室?」

「……みたいですね」

 

 

 彼らが避難した先は、新校舎3階にある教材室だった。室内には文化祭で使うような用具や看板等が無造作に置かれている。しかも床には何故か食紅やら骨格標本の残骸が散乱。特別な行事がない限り誰も入らない教室だった。

 

 

 二人は一旦奥の棚の裏に身を潜める。戦えない事もないがどうしても息が続かない。肩で息をしながら、どうユーベルーナを迎撃しようか。裕斗がそう考えていると、体を支える手に何かが触れた。

 

 

「ん?」

 

 

 見ると、それは棚から落ちてきたと思われるロープだった。何気無く手にとって眺めている内に、彼の脳裏に十日間の修行の日々が浮かぶ。

 

 兵藤丈城。

 今まで色んな相手と手合わせしてきたが、あそこまで自分を分析し、指摘してくれる相手と巡り会ったことはない。彼は剣道や剣術をしたことがないと言っていたが、未経験にしては剣さばきが鮮やかだった。それが『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』の能力のせいかどうかはわからないが。

 

 

(そういえば…あの修行の後、戦い方の種類について教えて貰ったっけ)

 

 

 そんな裕斗があの修行で一番頭に残っている事。それは剣術修行後に丈城が彼に見せてくれたある妙技だった。

 

 

(━回想━)

 

 

「戦い方っつーのは、料理と一緒だ。一つの道を大切にするタイプは変わらぬ伝統を守り続ける老舗の料理。様々な戦い方を得意とするタイプは日々味を進化させ、新たな境地を切り開く探求者…俺はどちらかというと後者だな」

 

 

 剣術修行の休憩中、木の下で体を休めていた丈城と裕斗。スポーツドリンクを煽るように飲んでいると、ふと丈城がそんな事を切り出した。

 

 

「料理…かい?」

「あぁそうだ。裕斗は剣の道を大切にするだろ? だから前者。俺は技のレパートリーが多い方が戦いやすいから後者っつーわけだ。単純に殴る・蹴る・ブッ飛ばすだけじゃなくて、内側からジワジワなぶり殺したり、殺人ウイルスを感染させて病死させたり、そういった戦い方も時には必要かなって俺は考えてる」

「戦い方の例えが残酷極まりないけどなぁ…でも戦い方を増やすっていうのはいい事だね。その場の状況に合わせて柔軟に対応できるし」

 

 

 いつものテンションに合わせて冷静さが加わったような雰囲気で話す丈城。言っていることはまともなのだが、もう少し例を考えてもらいたいものである。

 

 

「剣や拳を使うだけでなく、物を使った戦法も一手だ」

 

 

 そう言って彼は立ち上がると、左手を『ストーンフリー』の能力でほどき、右手に『隠者の紫(ハーミット・パープル)』を出した。そして目の前にあったもう一本の木を見据えて

 

 

「あそこの木を"敵"と見立てるぞ。見てな…」

 

 

 両手を振って糸と棘を投擲。木に強く巻き付いたのを確認すると、背負い投げするよう引っ張った。案の定木は根っこから引き抜かれ宙に舞い、間髪入れず丈城は両腕にありったけの力を込めて引き裂く。

 

 

「そらァッ!」バキャアッ!

「!」

 

 

 木は糸と棘を境目に散開、木片や木葉が辺り一帯に飛び散った。スタンドを戻し、どうだとばかりに丈城は笑ってみせる。

 

 

「こーゆー風に、たまには趣向を変えて戦い方も役に立つぜ」

 

 

 

(━回想終了━)

 

 

(趣向を変えた戦い方…か)

 

 

 丈城が裕斗に見せてくれた妙技。後に詳細を聞いたところ、あれはトレーニング中に編み出した戦法の応用編の一つであるという。(第4話《無限龍神の帰る場所》参照)彼の戦い方は毎回毎回驚かされている。そして学ぶことも多い。

 

 鍛えられた桁外れのパワーだけでなく、敵を欺き淘汰するための戦法を思いつく頭の回転の速さを兼ね備えている。だからこそ丈城は強いのかもしれない。裕斗はそう考えていた。

 

 

(…はっきりいって、ライザーの『女王』は強い。今までのような戦い方で勝てる相手ではないのは明白…! こんな時…こんな時、ジョジョ君ならどう動く……?)

 

 

 丈城になったつもりで裕斗は考え込む。使う物、相手の隙、そして攻撃のタイミング……

 

 

(ロープ…趣向を変えた戦い方……そうだ!)

 

 

 様々なピースを頭の中で繋ぎ合わせ、彼は一つの策を導きだした。

 

 

「小猫ちゃん、ちょっと耳を貸して」

  「……?」

 

 

 小猫に耳打ちし、自身の策を吹き込む裕斗。

 

 

「……成程。でも裕斗先輩にしては丈城先輩が思いつきそうな作戦ですね」

「アハハ……でも一か八かだ。やれるだけやってみよう」

 

 

 相方の策を了承した小猫は頷き、教材室の中からユーベルーナ撃破に使える物を探す。

 

 

 数秒後

 

 

「……これでいいですか? 裕斗先輩」

「あぁ。あとは上手くいくかどうかだけだね」

 

 

 顔を見合わせ、二人は攻撃側に転じようとする。そして……

 

 

 

(ドグオオォォン! ボガアアァァァアン!)

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「撃破アナウンスが流れない……ということは、まだ始末しきれていないということかしら?」

「そのようですね。手応えがありませんし、恐らく爆発される寸前に脱出したものかと…」

 

 

 教材室はユーベルーナ渾身の爆発魔法によって、木っ端微塵になってしまった。1階まで大きな吹き抜けができ、威力の凄まじさを物語っている。爆発させた張本人であるユーベルーナが降下して跡地を確認するが、二人の姿は見当たらない。念のため1階まで降りてみるが、いない。

 

 

(脱出した……それは確実。でもどこへ? さっきみたいに『戦車(ルーク)』の子が足元を殴って下の階へ逃げたのかしら…?)

 

 

 彼女が頭をフル回転させて思考を巡らせるていると

 

 

(ズドドドド……ッ!)

「?」

 

 

 背後から、こちらに駆け寄る足音が二つ聞こえてきた。それに気が付いて振り返ると、ユーベルーナに突撃するように駆けてくる裕斗と小猫の姿が。

 

 

「フン、勝負に出たわね!!」

 

 

 再び両手に魔方陣を展開して吹っ飛ばそうと企むユーベルーナ。だが先を走っていた裕斗が、手にしていたカーテンをいきなり目の前に広げてみせた。

 

 

「そんなもので目眩ましになると思って!?」

 

 

 確かに目眩ましにはなるかもしれないが、余計に走り辛いだけである。と今度は

 

 

(ダンッ!!)

(! 上から…と見せ掛けて左右からね! 裏を読ませてもらうわ!)

 

 

 突如踏み込み音が響く。ユーベルーナは裏を掻いて上の選択肢を消し、左右に標的を絞るが一向に出てこない。彼女が不審に思っていると、すぐにカーテンが舞い上がって裕斗の姿が現れた。だが小猫の姿が消えている。

 

 

「!? なっ…あの『戦車』の子がいな━━━━ハッ!?」

 

 

 口元を上げる裕斗。まさかと思い彼女が上に視線を移すと、カーテンに身を隠すように跳躍する小猫の姿があった。本命は上かと判断したユーベルーナは爆破しようとするも

 

 

「クッ、小癪な真似をッ!!」

「余所見をするなんて、よっぽど余裕があるようだね!」ビュン!

「うぐっ!?」

 

 

 小猫に伸ばされたユーベルーナの手がから血が吹き出した。

 

 

「『風凪剣』! 風を吸い込んだり、鎌鼬の如く風の斬撃を繰り出すことが出来る!」

 

 

 裕斗は小猫から自分の方へ注意を逸らすために『魔剣創造』で円状の剣を生成し、斬りつけたのだ。唐突の攻撃に思わず手を引っ込めるユーベルーナだったが、これが不味かった。

 

 

「━━━ッ! しまッ……!」

 

 

 フリーになった小猫が上からカーテンを被せて着地。

 

 

「……裕斗先輩! いきましょう!」

「ああ、行こう!」

 

 

 互いに合図を送ると、小猫は腰に巻きつけていたロープの端を手早くほどく。そしてカーテンごとユーベルーナをグルグル巻きに縛り付け、背後に立った。

 

 

(……丈城先輩の『星の白金(スタープラチナ)』。桁外れのパワーに正確な箇所を狙って放つ打撃…拳を振るう者として、私も見習うべきところは多い……よし!)

 

 

 少しだけ腰を落とし、脳内に『星の白金』をイメージする。より強く、より正確に……。覚悟を決めて、小猫は拳を叩きつけた。

 

 

「フカ━━━━━ッニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャァッ!!」

「ぶげあああっ!?」

 

 

 彼女の本気が、ラッシュ時の掛け声を通して伝わってくる。小猫もまた丈城との手合わせを経て学んだ一人。気合のいれようは半端じゃなかった。

 

 ユーベルーナの体はラスト一撃で打ち上げられ、小猫は再び裕斗に合図を送る。

 

 

「裕斗先輩ッ!」

「任せてもらおう!!」

 

 

 もう片方のロープの端を握っていた裕斗は力一杯引っ張る。だがいかんせん丈城程の力量は彼の体にはない。そこで『風凪剣』の吸い込みで補助をつけた。

 

 

「風は…ッ、お前から僕の方にッ! 吹き戻してくれている!!」

 

 

 ある程度引き寄せた所で吸い込みを止めて脇に寄ると、ユーベルーナをすれ違い様に斬り払った。

 

 

「ハァッ!!」

「ぐぅぎゃああああっっ!」

 

 

 斬られた彼女はカーテンをその鮮血で染め、廊下の奥に転がってゆく。その勢いで顔の辺りのカーテンが捲れて、口元を血で染めたユーベルーナの顔が露になる。

 

 

「ぐ…ガハッ、な、何……? どういうこ…と…ッ!?」

「きっとジョジョ君ならこうした筈さ。参謀役なら頭を使う。きっと裏を読んでくるだろうと考えて、単純に仕掛けたんだ。カーテンは小猫ちゃんを隠すのと注意を引くための囮。あとは上にフェイントをいれるためにわざと僕が震脚する。そうすることで左右に的を絞らせたんだ」

「……そしてカーテンを上に投げたのは飛んでいる私を隠すため。私の役割は上からカーテンをお前に被せること。あとはロープで縛って動きを封じてフルボッコ」

 

 

 倒れこむユーベルーナを、冷たい視線で見下ろす裕斗と小猫。最早得意の爆発攻撃をするスタミナは残っていない。優劣の差は明らかだった。

 

 

「ま…だ……負けてない…ッ! 私は…誇り高い…ライザー…フェニックス様の…」

「……えい」ブンッ! グシャ!

「むぎゅっ!?」

 

 

 やられても尚、立ち上がろうとするユーベルーナだったが、小猫が止めとばかりに瓦礫の中から一番大きいのを投げつけた。この一撃が決まりとなり、瓦礫に潰されたユーベルーナは消滅。裕斗と小猫の合同作戦の勝利だ。

 

 

『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、再起不能』

「小猫ちゃん…なんかやり口がジョジョ君みたいだったけど……」

「……丈城先輩ならこれくらいやる筈です」

 

 

 段々丈城のバトルスタイルに寄ってきた二人だが、勝ちは勝ちである。

 

 

「とにかく、いよいよ大詰めだ。ジョジョ君の後を追おう!!」

「……了解です!」

 

 

 これまで受けた傷が、今になって強く痛む。それでも自らの体に鞭を打ち、二人は決戦真っ最中の舞台・屋上へと急行する。

 

 

 

 そして、誇りとプライドをかけたこの戦いはいよいよ、クライマックスを迎えるのだった……

 

 

(←To Be Continued…)

 




何とか終わりました……。

それと予め報告しておきますが、次回の投稿は不定期となります。

理由…というか、言い訳になってしまいますが、私が小説を書く際は一旦ノートに下書きしてから、色々と編集した後に話を投稿しています。

ぶっちゃけて言うと、第3部は元々原作通りに丈城が婚約パーティーに乗り込んでライザーを再起不能させるというシナリオだったんです。

しかし小説家仲間と話し合っている内に、「丈城の人間の証明を際立たせるには、レーティングゲームで勝たせたほうがいいのでは」ということになり、完成していた下書きを没にして急遽『丈城&リア眷属勝利ルート』に変更し、書き直している最中なのです。

なので第21、22、23話の三回の投稿だけは不定期になっています。楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


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第21話《vs不死鳥 その④/屋上の最終戦》

お待たせしました、尾河です。

今回の話は漸くレーティングゲームに決着がつきます。

それではどうぞ。




「ハァ……ハァ……」

「どうした? リアス。 攻撃の手が止まっているぞ? もういいのか? もうリアスに止めを刺してしまっていいのか?」

 

 

 リアの持つ能力なら、不死鳥であるライザーに十分太刀打ちは出来る筈だ。

 

 

 繰り返すようだが、元々『滅びの力』はバアル家特有の能力である。それを母方にもつグレモリー家に生まれたリアとその兄・サーゼクスは『滅びの力』を受け継ぐこととなった。その結果サーゼクスは次期の魔王へ、リアはグレモリー家を継ぐために次期当主へ、それぞれの重荷を背負うことになった。

 

 不死鳥を倒すにはゴリ押し、もしくは一撃必殺しか方法がない。つまりリアの能力を使用すればライザーに勝てる筈なのである。しかしあくまで理論上の話。戦いは常に経験が物を言う。初めての戦いになるリアと経験豊富なライザーとでは、あまりにも実力の差がありすぎる。

 

 

「まだ…よ…! 下僕達が…ジョジョが…ッ、あんなに頑張っているのに……! 私がここで諦めたら格好がつかないわ……!!」

 

 

 紅の髪は乱れ、制服もボロボロ。片膝をついて肩で息をしながらも、彼女は尚も諦めようとはしなかった。再び闘志を燃やして立ち向かおうとするその姿を、ライザーは不敵に笑って見下ろす。

 

 

「フン、無駄な足掻きだよリアス。ここで投了(リザイン)すればそれ以上傷つかずに済む。つまらない意地を張るんじゃない」

「言ってくれるじゃない…! それは私の下僕とジョジョの努力を侮辱したと受け取らせて貰うわ! ただで済むと思わないで頂戴…!!」

 

 

 怒りを露にして立ち上がるリア。それをやれやれと小馬鹿にして呆れるライザーは両手に炎を灯し、応戦する準備を整える。そして両者の激突が棒読みに入ったまさにその時、

 

 

「WoooooRYYYYYYYYYYY━━━━━━━━━ッ!!」

「「「!?」」」

 

 

 リアと宙に浮くライザーの丁度中央、屋上のコンクリ床が突如爆発。同時に某銀色の異星人ヒーローの如く飛び出す人影が。突き出された異形の左腕のシルエットを持つ人物。先に察しがついたのはリアだった。

 

 

「! ジョジョ!」

 

 

 屋上をブチ抜いて現れたのは、どちらかというと卑劣極まりない策略を企てる悪の異星人サイドのスタンド使い・兵藤丈城だった。バク宙の要領で宙を舞った後、リアを庇うように彼は着地する。

 

 

「よっ…と! Heyリア! まァだ首の皮は繋がってるかい!?」

「全く、貴方はこんな時にまで…ええ! まだ動けるわ! 二人で消し飛ばすわよ!」

「ジョークを本気(マジ)で返すなよ…オメーボロボロじゃねぇか。ここは俺が一任する! アーシア、リアを任せた!」

「ハイ! 部長さん、今すぐ治療しますので!」

 

 

 丈城は負傷しているリアをアーシアに任せ、倍化をスタート。さらにブローノ・ブチャラティのスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』を出し、ライザーに鋭い視線を向ける。

 人間を見下し、リアの心と体を傷つけた。彼女を『グレモリーの許嫁』としてしか見ていないこのふざけた焼き鳥を、絶対に許してはいけない。

 

 

 そしてもう一つ、丈城にはある目論みがあった。このレーティングゲームには非公式にも関わらず、大勢の上級悪魔が観戦している。つまりこの勝負でライザーを徹底的に痛みつけて再起不能にさせれば、それなりに自らの証明に繋がるのではないかと。なら、これから彼がやるべき事はただ一つ。

 

 

 

 "ライザー・フェニックスを再起不能(リタイア)させる事"ッ!!

 

 

「さァ~て、いよいよ大詰めだなァ? 焼き鳥ライザー!!」

「チッ、人間の分際で抜け抜けと…まぁいい。オイ人間。貴様のスタンド能力とかいう力、ダメージを食らうと本体である貴様にも同じダメージがいくそうだな? つまり攻撃を行うスタンドだけを焼き尽くせば、連動して貴様も死ぬ! そのまま身の程を知って焼け死ぬといい!」

 

 

 両者一歩も譲りはしない。一触即発ムードだ。

 

 

「どっからその情報を手に入れたのかっつーテンプレはさておき、だから何なんだ……? スタンドの弱点がわかったからどうだっていうんだ? お前はこの場で倒される運命なんだぜ?」ゴゴゴ…

 

 

 ライザーの挑発をものともせず、両眼により一層鋭さを増した視線で睨み付ける丈城。どうやら多少のダメージを食らう覚悟は出来ているらしい。この期に及んでも不適な態度をとり続ける彼に、ライザーは苛立ちを覚えた。

 

 

「クソッ、ムカつく人間だな…! いいだろう、貴様の存在をこの世に塵一つ残さず消し去ってやる!!」

「ならテメーは地獄の底で永遠に寝ボケなッ! 人間に敗北したっつー屈辱を受けてなァッ!!」

 

 

 とてつもない熱量を放ち、炎の翼を大きく展開するライザー。指をパキパキと鳴らして万全の体制を整える丈城。互いの戦闘準備が整い、辺りに緊迫とした雰囲気が漂う。

 

 

「ジョジョさん…」

「ジョジョ……勝ちなさい、貴方のためにも…!」

 

 

 屋上入口の物陰に避難したリアとアーシアはその様子を固唾を飲んで見守る。

 

 

 そして、時は来た。

 

 

 

 

「ウオオオオオォォォ━━━━━━━ッ!!」

「WRYYYYYYYYYY━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 火の鳥とスタンド使いが遂に激突。ライザーはサイコクラッシャーよろしく突貫し、対する丈城は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の左ストレートで対抗する。

 

 結果は相討ち。丈城の拳はライザーの顔面に入ったものの、彼の勢いまでは抑えきれず『スティッキィ・フィンガーズ』でライザーの攻撃をガード。そのためダメージが連動して丈城の右腕に火傷ができて血が滲んだ。

 

 

「ぶぐッ……!」

「チィ……ッ!」

 

 

 一旦距離を置き、それぞれ頬を拭うなり火傷の応急処置を施すなりと体勢を立て直す。

 

 

Boost(ブースト)!』

(一段階目……)

 

 

 痛みなど気にする間もなく、籠手の一段階目に入った丈城はすぐに立ち上がり、ライザーへ突撃する。

 

 

「愚かな! わざわざ灰になるために向かってくるなど!!」

 

 

 彼の攻撃に口元を上げ、ライザーは迎撃するべく拳を握り締めて炎を宿した。が

 

 

「!?」

 

 

 一瞬丈城の姿勢が前方に傾いたかと思うと、なんとコンクリ床に吸い込まれるかのように彼の姿がかき消えたのだ。不意を突かれたライザーは消えた地点に移動して確認するが、どう見てもただのコンクリ床。何もない。

 

 

「姿を消すスタンド、か?……ハッ、この俺に恐れをなして逃げたようだな! やはり人間程度が盾突く事がどれだけ愚かな行為だと気付いたようだな!!」

 

 

 丈城が「逃げた」と勘違いしたライザーは勝利を確信し嘲笑うが、

 

 

「『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!!」

「!?」

 

 

 彼は「逃げた」のではなく、「潜んだ」のだ。

 

 

『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!』

「ごぼげッ!?」

 

 

 突如ライザーの足元にジッパーが出現し、その中から『スティッキィ・フィンガーズ』と丈城が現れた。ライザーが驚く間もなく全身にアリアリラッシュが叩きつけられ、その体が宙に舞い上がる。

 

 

「だァれが逃げるかスカポンタン! これも戦法の一つじゃあッ!!」

Boost(ブースト)!』

 

 

 殴り飛ばされた彼は、その所々がジッパーて開かれてグラングランになっていた。しかもジッパーの端から微妙に血が滴り落ちている。今の攻撃は完全に入ったようだ。

 

 

「普通に突っ切るのはオメーの思うツボだしな。ちっとばかし頭使わせて貰ったぜ。大体俺のやる事はよっぽどの事がない限り"無意味"なんて言葉はねぇんだよ。わざわざ近付いてくれてありがとうな、焼き鳥君?」

「…ブ、グフッ……ハァー…ハァー…に、人間の割には…やるじゃねーか…だが俺はまだ再起不能になっていない…! まだ勝負は…わかんねぇんだぜ…!」

 

 

 不安定な状態ながらもヨロヨロと立ち上がり、ライザー再び炎の翼を展開する。まだやる気か、それとも逆転の一手でもあるのかと踏んだ丈城も『赤龍帝の籠手』をスッと差し出し、「どちらが先に拳を叩き込むかの勝負だ……」と言わんばかりに対峙する。と、

 

 

『ライザー・フェニックス様の「女王」一名、再起不能』

「…フッ、どうやら裕斗達がやってくれたようだ。これでテメーは孤立無援になったってわけだ……!」

「くっ……」

 

 

 ライザー眷属最後の一人、ユーベルーナの撃破アナウンスが流れた。裕斗と小猫が勝利を掴みとったのである。一目置いていた眷属の敗北にライザーは顔を曇らせるが、刹那

 

 

「お兄さま!!」バン!

 

 

 屋上の扉を開け放ち、レイヴェル・フェニックスがその場に現れた。ライザーと同様の翼を展開し、息切れを起こしている。恐らくユーベルーナの思わぬ敗北に驚き、先に行った丈城に兄を始末されると思い違えて駆けつけて来たのだろう。

 

 するとライザーは何を思ったのか、血相を変えてレイヴェルの元へ突貫してゆくではないか。詳細はわからないが、嫌な予感を察知した丈城が阻止せんと駆け出した。

 

 

「(あの野郎…いきなり顔色変えて焼き鳥もやしに向かった? なんかヤベー臭いがプンプンするぜ!)待ちやがれェ━━━━━━━━ッ!!」

「邪魔だァァァ━━━━━ッ!」ボウッ!

 

 

 しかしライザーの放った火球に阻まれ、みすみす逃してしまう。レイヴェルの何かを目的にしていると判断した丈城は、アーシアの治療で回復したであろうリアに力一杯叫んだ。

 

 

「リア━━━━ッ! 焼き鳥をガキに寄せつけるなァァァ━━━━━ッ!!」

 

 

 その叫びにリアは瞬時に状況を判断。ライザーの妨害を図ったが

 

 

「ヌゥン!!」ボウッ!

 

 

 ライザーが再び火球を放射。火球は丁度レイヴェルとリアの間に着弾し爆発。その衝撃でリアとアーシアが吹き飛び、あろうことかレイヴェルも巻き添えを食った。

 

 

「キャア!」

「! 野郎、妹巻き添えにしやがった!!」

 

 

 実の妹が吹っ飛んだにも関わらず、ライザーは彼女の懐から転がり落ちた小瓶らしきものを素早く回収。その場でそれを開封すると、頭から中身の液体を振り掛けた。

 

 

「…? アイツ何…を…ッ!?」

 

 

 その瞬間、丈城は凍りついた。

 

 

 なんとライザーに取り付けた筈のジッパーが徐々に閉まってゆくではないか。さらにはリアと交戦した時に負ったと思われる傷もどんどん消えてゆく。

 

 

「…フゥ。疲労とダメージの蓄積のせいで再生能力が低下しちまったが、もうこれで大丈夫だ……何もかも元通りだぜ」

「この野郎……言いてェ事は色々あるが、とりあえずコレだけ聞いとく…! 何をした!!」

 

 

 その問いに、ライザーは口元をニヤつかせる。

 

 

「ん、これか? これは『フェニックスの涙』といって、如何なる傷や状態異常をも癒すアイテムさ。あまりにも強力なモンだから規制されちまってな、ゲームに参加する悪魔二名までしか所持出来ないってルールまで出来ちまったんだ。ま、俺達の場合はユーベルーナとレイヴェルが持っていたがな」

「そうか…だから朱乃っちが負けたのか……! あ、それともう一つ! オメー妹巻き添えにするたァどういう神経してんだ!!」

「別に? 吹っ飛ばすつもりはなかったがな。まぁこいつを手に入れるためには少し邪魔だったがな! ハハハッ!!」

「ッ…! や、野郎……ッ!!」

 

 

 高笑いするライザーに、リアだけでなくアーシアも怒りの表情を浮かべている。

 

 

「フン、戦いに一々他者の事を気に掛ける必要が何処にある? やはりお前は人間だ…ごく短い時の流れでしか生きない者の下らん考え方をする。『後味のよくないものを残す』とか『人生に悔いを残さない』だとか…そんな便所の鼠のクソにも匹敵するその下らない物の考え方が命取りになる!」

 

 

 ……ライザーもライザーで、背負っている物はある。それは人間の誇りを背負う丈城にも痛い程理解出来る。だが背負うライザー自身の言い分だけはどうしても理解出来なかった。否、この場合「理解する必要はない」のだ。

 

 

「このライザー・フェニックスに、それはない…あるのはシンプルなたった一つの目的だけだ…たった一つ!『勝利し、リアスと結婚する』! それだけだ…それだけが目的よォ!」

 

 

 この男は今、己の慢心に囚われて、ただの「ゲス野郎」になっているのだから……

 

 

「過程や! 方法なぞ! どうでもよいのだァ━━━━━ッ!! フハハハハァ━━━━━ッ!!」

 

 

(プッ……ツン)

 

 

 その時、丈城の中で"何か"が切れた。

 

 

「………お互い、背負うモンがある。だからこそ、俺ン中でのテメーの評価はギリッギリ…ギリッギリ0より上だった……。リアと対峙したあン時、俺はオメーの中に一瞬…ダイヤモンドのように固ェ決意をもつ『気高さ』を見た……」

Boost!(ブースト)

「だが…堕ちやがった……ただのッ! ただのゲス野郎の心にィッ!!」

Explosion(エクスプロージョン)!! Dragon(ドラゴン) booster(ブースター) second(セカンド) liberation(リベレーション)!!』

 

 

 刹那、丈城の全身が『赤龍帝の籠手』を中心に赤いオーラに包まれる。それは正しく今の彼の心境を表すような、人間の情熱と怒りの色。

 

 

「ライザー・フェニックス! テメーだけはッ! 即! 倒さねばならない! ドライグァ!!」

Transfer(トランスファー)!!』

 

 

 丈城の包む赤いオーラは、側に現れたジョルノ・ジョバァーナのスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』に移る。それを見たライザーは応戦する構えをとる。

 

 

「ククク…どこまで抗おうと無駄な事ォッ! 終わらせてやる! 正真正銘、最終ラウンドだァッ!!」

「来やがれドグサレ焼き鳥がァァァァッ!!」

 

 

 全治して"力"がみなぎっているライザーと、疲労や激痛を感じている丈城。後者にとってはこの勝負は分が悪過ぎる。だが、もう引き戻せない。

 

 

 

 全てはライザーの慢心を打ち砕き、決着をつけるため。

 

 

 

 全ては守ると誓った女のため。

 

 

 

 人間の魂と怒りに火がついた丈城の心に、恐れは微塵すらなかった。

 

 

「KUAAAAAA━━━━━━━ッ!」

「WRYYYYYY━━━━━━━ッ!」

 

 

 駆け出し、打ち出されてぶつかる拳と拳。いくらダメージを負おうと裂けて血が吹き出そうと、両者が退くことはない。だが

 

 

『無駄ァッ!』バギャア

「ぐっ!」

 

 

 丈城のタイマンはいつも2対1。『ゴールド・エクスペリエンス』が裏拳の要領でライザーの拳を弾き、さらに胸に鋭い一撃が入った。

 

 

「『ゴールド・エクスペリエンス』!」ドッバアァー

「ハガァッ!?」

 

 

 肺の中の空気が一気に押し出され、吹っ飛んだライザーは柵に叩きつけられる。威力は申し分なく大きく、柵は破損。彼の体はそれを通り越して、奥の渡り廊下の屋上へ飛んでいった。

 

 

 と、そこへ…

 

 

「「部長(さん)!!」」

 

 

 ユーベルーナを撃破した小猫と、失神したレイヴェルを抱えた裕斗が合流。リアとアーシアの元へ駆け寄った。

 

 

「裕斗! 小猫! 私もアーシアも無事よ!! ライザーの『女王(クイーン)』相手によく頑張ったわね!」

「はい! それとジョジョ君……は…!?」

「見ての通り、ライザーと決闘中よ……感じるわね? いつものジョジョとは違う覇気を……」

「……丈城先輩、怖い…」

 

 

 リアの無事を確認し、次に丈城の方へ目を向ける二人。しかしいつもとは異なる雰囲気に気付き、顔を強張らせる。以前の堕天使事件とは違った佇まいだった。

 

 そんな丈城の視界に、起き上がろうとするライザーの手が映る。

 

 

(野郎には『ゴールド・エクスペリエンス』の拳を叩き込んだ…拝ませて貰うぜ、焼き鳥。策に嵌まったと気付いた時のツラを……!!)

 

 

 ライザーの手は柵を支えに立とうと掴む。だが掴んだ瞬間

 

 

(メキョメキョッ!)

「!」

 

 

 柵はまるでアメ細工の如くひしゃげ、くの字に折れ曲がってしまった。しかも支えになるどころか、掴んだ部分から千切れてしまう。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 驚いていたのはライザー本人だった。先程フェニックスの涙で回復はしたのだが、傷と状態異常を治すだけでここまで力を跳ね上げる効力はない。なのでいきなりの怪力に度肝を抜かれたのだ。

 

 

(何だ?…このみなぎるような「力」は…!)

 

 

 仕方ないので支えなしで立ち上がろうとする。と今度はちょっと力を入れただけで、丈城の目の前まで瞬間移動。一体ライザーの身に何が起こっているのか。

 

 

(どんどん「力」がわいてくるみたいだ…! この体に「生命のガソリン」を入れられたみたいに…ッ!)

 

 

 放たれた『ゴールド・エクスペリエンス』の打撃は全て見切られ、ライザーには一発も当たらない。そして粗方避けた時、彼は気付いた。

 

 

「! フハハッ! お前の動きがスローに見えるぞ! もしかしてお前のスタンドに殴られたからこうなったのか!!」

 

 

 ライザーは思った。だとしたら間抜けだ! 敵に力を与えるスタンドなんて、と。

 確かにそうだ。倒すといった筈の相手に塩を送るような真似をしたら、自ら不利な状況を作り出してしまうだけである。優勢な内にカタをつけてしまおうと、ライザーは攻撃を仕掛けた。

 

 丈城の顔面目掛け、ありったけの炎を宿した拳を振り上げ、止めとばかりにライザーは渾身の一撃を放った。

 

 

「食らえ人間! 終・わ・り・だァァァ━━━━━ッ!」

 

 

 その一撃で勝負が決まると思われた……しかし

 

 

 

 

(スカッ)

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 ライザーの拳はHITを通り越して、なんと丈城と『ゴールド・エクスペリエンス』をすり抜けて通過してしまったのだ。

 それだけではない。先程ありったけの炎を宿した筈なのに、放たれた拳には"それがない"のである。再び訪れた現象に一瞬呆ける彼だったが、通過して振り返った拍子に事の全てを理解した。

 

 

 

 丈城の奥に見える第三者の影。柵を掴んで起き上がろうとするその人物は、あろうことか『もう一人のライザー』だったのだ。しかも千切れた筈の柵は壊れていない。

 

 

 その瞬間ライザーは全てを悟った。これは自らの「思い込み」によって引き起こされているものだと。

 

 

(ま…まさか「勘違い」をしているのかッ、俺は? 俺は自分がすごい「力」で動いていると思っているだけで……あれは…あそこの俺は…ッ、俺の身体で……「意識」だけが飛び出てここにあるのか!?)

 

 

 流石才児というだけあって、現状を把握するスピードは早かった。

 

 

(これはあのスタンドの能力…! し、しまった…完全にしてやられた……ッ!!)

 

 

 そして、身体だけのライザーに『ゴールド・エクスペリエンス』が襲い掛かる。

 

 

「マズイ! 身をかわさなくてはッ!」

 

 

 攻撃を防ごうと立ち塞がるが、そもそも「意識」だけの存在では防ごうにも通過してしまう。直後

 

 

(メシッ、メキメキメキョメキョッ!)

「ぐえっ! 動きがゆっくりだ……ッ!!」

 

 

『ゴールド・エクスペリエンス』の拳が、ライザーの顔面を確実にとらえた。さらにバキバキと顎の骨に食い込む音が大きく響く。

 

 

(い…痛ぇ! 鋭い痛みがゆっくりやってくるッ!うおあああああああああッ!!)

 

 

 拳が食い込めば食い込む程、丈城の勝利が確信に近付いてゆく。

 

『ゴールド・エクスペリエンス』の能力は殴った物体に生命エネルギーを与え、生き物や植物を誕生させること。しかし生命が満ち溢れる人間を殴った場合、「感覚」だけが暴走して飛び出てしまう。そして自分を含め動きが超スローになる。痛みさえも。

 

 だがそれだけでは、不死鳥に対して決定打にはまだ足らない。そこで彼はスタンド能力の他にもう一つ、ある能力を使用したのだ。

 

 

(『赤龍帝の籠手 第二の能力・赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』……神器で高めた力を自分や他者、もしくは物に譲渡して力を一時的に飛躍させられること。フェニックスを倒すにはゴリ押しか一撃必殺のみ……。なら確実に勝利するためにはこの二つを"同時に行う"事! それが出来るのは、この戦法しかない!!)

 

 

 かつてトレーニング中に発見した、丈城の神器の"先"。発見した段階では使用することは出来なかったが、ここ最近になって制御できる実力がついてきたため、今回ぶっつけ本番でこの能力を使用したのだ。

 

 

『無駄ァッ!』ドォオーン!

「ルウギャァアアアァッ!」

「!? 一体何が!?」

「ライザー様のお顔が…一瞬歪んだような気がするのですが……?」

 

 

 ライザーは再び柵に叩きつけられ、顔面から大量の血が吹き出す。恐らく顔の皮膚が裂けたものと思われる。

 

 

「さて…今の打撃がだいぶ応えたとみえる。言った筈だぜ? 『俺のやる事はよっぽどの事がない限り"無意味"なんて言葉はねぇんだよ』ってな!」

「くっ…ハァ…ハァハァ…」

 

 

 ツカツカと歩み寄り、冷えきった目で見下ろす丈城。

 

 

「何やったってしくじるもんなんだよ……ゲス野郎はな…!」

「ま、待て! わ、わかっているのか! この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ!? お前のような何も知らない人間如きがどうk(バキィッ!)ぶげっ!?」

「喧しいぜ焼き鳥。正直言って、テメーらの種族の繁栄なんざ知らねぇよ。俺は『俺という人間の証明』のためにここにいる。テメーのように人間を見下す人外共が存在する以上、俺はこの歩みを止めるつもりはないッ!!」

 

 

 ライザーの弁解を蹴って黙らせ、スゥー、ハァーと呼吸を整えると

 

 

「…このレーティングゲームを観戦している上級悪魔共ォッ! 耳の穴かっぽじってよォ━━━━━く聞きやがれェ! 俺はプレッシャーと常識を跳ね返す男・兵藤丈城! 貴様ら人外に盾突く人間だァ! 今からこの俺がッ、フェニックス家の才児 ライザー・フェニックスに引導を渡す!刮目せよォ━━━━━━━ッ!!」

 

 

 レーティングゲームを観戦しているグレモリー、フェニックス両家の悪魔達にそう大声で宣言すると、むんずとライザーの頭を掴み

 

 

「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァ━━━━━ッ!!』」

 

 

 宙に放って、『ゴールド・エクスペリエンス』と共にこれでもかといわんばかりのスピード&パワーで『無駄無駄ラッシュ』を舞い上がるライザーの全身に叩き込んだ。

 

 

 ラストは『赤龍帝の籠手』と『ゴールド・エクスペリエンス』のWアタックが顔面にクリティカルヒットし、柵の奥へ殴り飛ばした。

 

 

 

 

「アリーヴェデルチ……!(さよならだ…!)」

 

 

 

 

「ヤッダーバァァァァアアアアアア━━━━ッッ!!」

 

 

 

 

(←To Be Continued…)

 

 




色んなネタを盛り込んだ結果、かなり長くなってしまった…。

そしてこの作品に出てくる『フェニックスの涙』については、原作の能力に加えて状態異常を回復することが出来る設定になっています。

誤字脱字、ご意見ご要望等がございましたら、コメント欄にご一報ください。




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第22話《魔王様と友達になろう》

お久し振り、尾河です。

前回から間が空いての投稿になります。なのでやり方だったりとか文章構成とかがぐだぐたかも知れませんのでご了承下さい。

そういえば今更ですが、第4部遂に始動しましたね。康一の声優さんが梶裕貴さんになっていたのは、個人的にちょっと驚きました。


それでは第22話、ライザー戦後のお話です。



「な…何てことだ……!」

「フェニックスが……不死鳥が人間に劣るなどありえん!」

「……………」

 

 

 その頃、グレモリーとフェニックス両家が観戦している会場は騒然としていた。無理もない。彼ら悪魔は人間に対して全くと言っていい程良いイメージを持たず、自分たちよりも格下と見下している。それは今回のゲームもまた例外ではなかった。口先だけの名上がり者がしゃしゃり出てきただけ、悪魔達は当初丈城の事をそう判断していた。

 

 だが蓋を開けてみればどうだろう。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だけならまだ理解出来る。しかし神器(セイクリッド・ギア)ではない未知なる力『スタンド能力』は彼らにとって、想定外の存在かつ実力だった。

 

 これまで似たような神器は発見されていた。けれど生物を老朽化させたり、ジッパーをとりつけるといった神器など聞いたこともない。そんな力をさも当たり前のように使いこなす人間に、会場の悪魔達は隕石級のショックを受けていた。

 

 

『ヤッダーバァァァァアアアアアア━━━━ッ!!』

「ッ! ラ、ライザーが!!」

 

 

 モニターには丈城と『ゴールド・エクスペリエンス』の無駄無駄ラッシュで殴り飛ばされ、柵の奥へ押し込まれたライザーが映っている。だが次の瞬間には屋上から転落し、モニターから姿を消した。

 

 

「何なんだ……何なんだあの人間は!!」

「おのれェ…ッ、人間の分際で悪魔に歯向かうなど!」

 

 

 観戦している悪魔達は丈城に対して歯を剥き、怒りを露にする。だがそんな不穏な空気の中、約二名だけ冷静にこのゲームを観戦する人物がいた。

 

 

「……サーゼクス、リアスの報告にあった例の契約者とは彼…だったかな?」

「えぇ、父上。先程グレイフィアに確認したところ間違いありませんでした。彼こそリアスの契約者である兵藤丈城君です」

 

 

 二人ともリアと同じ紅の髪。似た顔立ちの若い男性と、貫禄のある初老の男性。彼らはグレモリー側の悪魔であり、リアの兄・サーゼクスとその父・ジオティクスであった。

 

 

「スタンド能力……我々にとっては全くの未知なる力だ。それらを駆使し、フェニックスを圧倒する実力を秘めた人間……。私も長く生きているが、あれ程悪魔に食らいつける人間は見たことがない。彼にはそういった才能があるのかもしれないな…」

「………………」

 

 

 モニターに映る丈城の姿を見て、サーゼクスはあることを思い返す。事はちょうど、はぐれ悪魔バイザーを討伐した次の日に遡る。

 

 

 

(━回想━)

 

 

 

「(コンコン)失礼致します、お兄様」

「ん、リアスか。入っておいで」

 

 

 悪魔達が暮らす、人間界とは異なる地に存在する"冥界"。この日リアはとある一件を報告するために一旦冥界へと帰省していた。

 

 

「事前の連絡にもあったが、急にどうしたんだい? いつもみたく通信魔法で報告してくれればいいのに」

「それが、どうしてもお兄様と直接会って報告しなければならない事があるのです」

「よし、わかった。立ち話もなんだし、そこへかけて聞こうじゃないか」

 

 

 グレモリーの屋敷で仕事をしていたサーゼクスは一旦手を止め、リアに自室のソファへ腰掛けるように促す。彼女の対面に座り、本題に入る。

 

 

「それで、報告したい事というのは?」

「はい、先日新たに契約を結んだ人間の事です」

 

 

 リアはサーゼクスへ、そのとある一件の資料を提出した。

 

 

「これが資料か。どれどれ…」

 

 

 彼は手渡された資料に目を通してゆく。そこには、その人間の驚愕の実体が記されていた。

 

 

「……リアス、これは一体…?」

「仰りたいことはわかります。しかしその資料にあることは全て事実です。現に私や下僕達も、この目で確認しています」

 

 

 サーゼクスもそう長くではないが、様々な種族や能力を見て体感してきた。しかし二天龍の一角の力だけでなく、複数の能力を一つの体に宿している人間など聞いたことがない。しかもまだ未確認の能力が多数あるという。

 

 

「赤龍帝…そして『スタンド能力』……か。彼は自身の力をそう称しているのかい?」

「はい。本来スタンド能力は一人につき一つだけ宿るものらしく、彼の場合はどういうわけかそれが複数扱えるとそう言っていました」

「フーム……いわゆる能力を持つ者の『変異種』というケースだろう。稀にこういった異種が生まれてくることはあるが、彼の場合は異例中の異例だ。私でも見たことがない」

 

 

 サーゼクスはそう見解を述べるが、その顔はいつになく険しい。

 

 

「わかった、とりあえずこの件は父上にも報告しておこう。リアスは引き続き彼との契約を続けなさい。何か決まり次第、こちらから『女王(クイーン)』を通じて連絡する。リアスも彼についてわかったことがあれば、ほんのささいなことでもいい。随時報告してほしい」

「わかりました」

 

 

 

(━回想終了━)

 

 

 

(兵藤丈城君……我々悪魔やその他の人外達に対して『自らという人間の証明』のために戦う男…か)

 

 

 何故かカメラ目線で人差し指を突きだし、鋭い眼差しを送る丈城(本人には見えていない。念のため)。そして彼がライザーを再起不能にさせる前に放った一言。

 

 

『テメーのように人間を見下す人外共が存在する以上、俺はこの歩みを止めるつもりはないッ!!』

 

 

 その言葉で、サーゼクスが彼に抱いていた興味がより一層深まった。

 

 

「……フフッ、面白いな」

「…?」

「彼に……会ってみたいな」

 

 

 彼が浮かべた微笑は、まるで楽しさを隠しきれない子供のように見えた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「お兄様ァ!」

 

 

 一方の決戦地、屋上。丈城と『ゴールド・エクスペリエンス』の渾身のWアタックによって、強敵ライザー・フェニックスは柵の向こうへと消えていった。

 

 思わぬ巻き添えを食ったにも関わらず、レイヴェルは炎の翼を展開。兄の元へ飛び立とうとする。が、

 

 

「ハイそこまでー。諦めが悪いデスヨー?」

 

 

 それよりも速く丈城が『隠者の紫(ハーミット・パープル)』でレイヴェルの体を拘束。素早く引き寄せて彼女の襟首を鷲掴んだ。

 

 

「嫌ッ! 離して!」

「オイオイ、俺ァ親切心でオメーを助けてやってんだぜ? それともなにか? オメーもライザーと同じ目(・・・・・・・・)に遭いたいてェのか?」

「えっ……?」

 

 

 暴れて拘束を逃れようとするレイヴェル。しかし丈城が意味深な事を口にすると、急に大人しくなった。同じ目に遭うとは一体どういうことだろうか。

 

 

「この先は……柵の向こうの地面には、何がある? そこで俺はさっき何をしていた?」

「…ハッ!! まっ、まさか! この先って……ッ!!」

 

 

 その一言でいち早く真意に気がついた裕斗が、慌てた様子で駆け出す。そして柵から身を乗り出し、下を覗き込む。小猫も裕斗の行動で全てを理解。彼と同様に柵の下を見た。

 

 

「「!!」」

「どうしたの二人共!? まさか…ライザーはまだ仕留めきれて……!?」

「いや…焼き鳥を仕留めた手応えは確かにあった。二人は気付いて当然だったろうな……何せあの現場に一緒にいたんだから。この先は、"運動場"だ」

 

 

 残りのメンバーも裕斗と小猫のもとに歩み寄って下を確認。そして二人と主犯を除いた全員が、その先の光景に戦慄を覚えた。

 

 

 

 

「A……A、Ah……」

 

 

 

 

 屋上からでもハッキリわかる程朽ち果てた人影。それは紛れもなく丈城に倒されたライザー本人だった。

 

 

「……ジョジョ君、『偉大なる死(グレイトフル・デッド)』の射程距離は?」

「正確にはわかんねーけど、列車一本の頭からケツまでは余裕で届くぜ」

「な…何…? どうしてライザーがミイラみたいに干からびているの……!?」

「多分…ジョジョ君は『偉大なる死』のスタンド能力を解除せずにここへ来たんです。立ち込めているあの煙は『偉大なる死』が発したもので、生物を体温次第で老朽化させてしまうんです。ライザーはさっきの戦いで体温が上昇し、さらに炎を多く活用していた…だから落下して煙に触れた瞬間にああなったんです……」

「ヤローはかろうじて生きているってトコだ。火を司るっつーわけだから、当然体だって温まる。枯れ枝みたいに老朽化するのに1秒も掛からなかった筈だ。……あー、地面に激突して全身の骨が粉々になってるな、ありゃ。放っとくといくら不死鳥でも死ぬぜ」

 

 

 丈城はパチンと指を鳴らして能力を解除。すると煙がサァーッと晴れ、ライザーは徐々にもとの姿へ。そして光の粒子と化して消えていった。

 

 

『ライザー・フェニックス様、再起不能。よってリアス・グレモリー様の勝利です』

「…勝っ…たの? 私達……」

「みてぇだな。本人含めライザー眷属は全員再起不能。完勝だぜ」

 

 

 リア眷属の勝利アナウンスが流れても尚、勝った当人達はポカンとしていた。まぁ「王」の予想外な敗北の仕方が一番影響していると思われる。

 

 

「テメーの敗因は…たったひとつだぜ……ライザー・フェニックス…たったひとつの単純な答えだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テメーは俺を怒らせた』」

 

 

 ライザー・フェニックス…完全敗北、再起不能(リタイア)

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 それから三日後の放課後。

 

 

「それでは、私達の初陣に輝かしい勝利が飾られたことを祝して、乾杯!」

「「「「「かんぱ~い!!」」」」」

 

 

 オカ研の部室では、リア眷属の初レーティングゲーム勝利の祝賀会が催されていた。テーブルにはリアと丈城が腕によりをかけて作った料理やスイーツがズラッと並んでいる。それぞれジュースを注いだグラスを当て、眷属の勝利を祝う。

 

 

「いや~、初陣を華々しい勝利で飾れて気持ちがいいぜ!」

「あれを華々しい勝利と言い切れるジョジョ君の方がいっそ清々しい気がするよ…まぁでも、今回のレーティングゲームは勝つことが出来て良かったですね」

「ええ、そうね。ジョジョがいなかったら私達勝つことなんて出来やしなかったもの。改めて礼を言うわ、ジョジョ」

「気にすんなって、俺は大したことはしてねぇ。向かってくる敵は殴る・蹴る・ぶっ殺す! それだけだぜ」

「『ぶっ飛ばす』はどこへいったんだい…?」

 

 

 裕斗の突っ込みを余所に、グラスのジュースを一気飲みする丈城。よくよく考えてみれば罠でやられた眷属とユーベルーナを除けば、彼が再起不能にさせた人数は半数を軽く越している。ほぼ丈城の一人勝ちに等しいだろう。

 

 

「そうですわね…私は唯一再起不能になってしまった身なので、眷属にあまり貢献出来ませんでしたわ」

「まぁそう落ち込むなよ。あんなモンを持ってるなんてフツー思わねぇんだから。分が悪すぎただけだぜ、今回は」

 

 

 しょげる朱乃をフォローし、丈城はよしよしと頭を撫でる。

 と、その時だった。

 

 

(カッ!)

 

 

 突如部屋の床が輝き、魔方陣が展開した。紋様はグレモリー眷属のもので、それを見たリアは思わず呟く。

 

 

「! まさか……」

「なんだァ…? またあの銀髪メイドか…?」

 

 

 この場にいる者以外のグレモリー関係者といえば、真っ先に思いつくのはグレイフィアだろう。約一名殺気立つが、次の瞬間予想外の来客が現れた。

 

 

「やぁ、リアス。祝賀会の途中だが、失敬させてもらうよ」

「おっ、お兄様!!」

 

 

 そこに立っていたのは、なんとリアの兄・サーゼクスだった。その声に反応して裕斗達はその場に膝まづき、新人悪魔のアーシアも若干遅れて膝まづく。一方の丈城に至っては平然としていた。

 

 

「まぁそう固くならなくていい。くつろいでくれたまえ」

「お兄様…今日はどうなされたのですか?」

「なに、可愛い妹の初勝利を私も祝いたくてね。早々に仕事を終わらせてやってきたんだ。それに……」

 

 

 言葉を切り、サーゼクスは丈城に目を向ける。

 

 

「個人的に……彼とも話をしてみたかったんだ」

「…まぁ、そんなことだろーとは思ってたけどよ。まさか魔王様直々に会いに来るたぁ……な」

 

 

 顔には出していないが、彼も魔王自ら来ることに驚いていたようだ。朱乃にソファへ案内されたサーゼクスはそこへ座り、丈城も対面に掛ける。

 

 

「お互い、お初にお目にかかるね。まずは自己紹介といこう。私はサーゼクス・ルシファー。リアスの兄で魔王を務めている」

「こりゃご丁寧にどうも…。俺は兵藤丈城。駆王学園の二年で『俺という人間の証明』のために戦う人間だ…」

 

 

 残りのメンバーはソファの側に立ち、二人の対談を見守る。

 

 

「丈城君…でいいのかな?」

「ジョジョでいい。周りにはそう通している」

「ではジョジョ君、今回のレーティングゲームについてどう感じたか…聞かしてもらえるかな?」

 

 

 そもそも今回のレーティングゲームは、グレモリーとフェニックス両家の政略結婚を巡るものだった。リアが拒んだために勝負が行われることとなり、丈城は完全な飛び入り参加。人間の身である彼には全く関係のない話の筈だったのだが……

 

 

「……はっきり言おう。俺はあんたら、上級悪魔共の頭を疑ったよ」

「ジョジョ!」

「まぁリア、落ち着きなさい。ジョジョ君、続けてほしい」

「俺ァ今まで政略結婚ってのは、ドラマや小説の中だけの話だと思ってた。目的は大抵御家の血を継ぐためだとか、そういった由緒ある家系を廃れさせない為にとる方法だからな。でも今時そんなデカい家柄は数少ねぇし、あったとしても本人の自由が尊重される……あんたらも両家を潰さない為に話を進めてたんだろ?」

「…そうだね。君の言う通りだ」

「話に聞けば、あんたやリアみたいな純血の悪魔は希少らしいな。今は転生悪魔が大半を占めているし、先の大戦で多くの純血悪魔が死に絶えた。だからそれを増やすためにはあの縁談を進める他なかった。リアは次期当主にならなきゃいけねぇし、ライザーもライザーで家を背負わなくちゃならなかった。……でも」

 

 

 丈城はサーゼクスの目を真っ直ぐ見据え、言葉を繋ぐ。

 

 

「本当にそれが、『互いにとっての最良の方法』…だったのか?」

「最良の…方法?」

「答えはNOだ。例えばあのレーティングゲームするしない関係なしで婚約したとする。それで純血の子孫が生まれて誕生したら、あんたらやライザーは喜ぶかもしれない。でも自らの意志を聞き入れてもらえず、無理矢理御家に動かされたリアは喜ぶのか? 好きでもない奴の子を産んで嬉しいのか? 何一つリアにとって不利益かつ不条理じゃねぇか。娘の人生踏み荒らしてまで、そんなに純血の悪魔が欲しいのかよ」

「………………」

「大事なのは伝統や歴史を『守る』ことじゃねぇ。『伝える』ことだ。今あんたらがしなければならないのは種族の伝統を守ることではなく、リアやライザーに自分たちの種族の未来を託すこと。いつまでも昔のやり方や意志に固執するのではなく、どんどん新しいものを取り込んで新風を巻き起こす……。それが本当の『繁栄』ってやつじゃねぇのか?」

 

 

 持論を述べ終わった丈城。すると

 

 

 

 

「……素晴らしい。素晴らしいよ、ジョジョ君」

 

 

 意外にもサーゼクスは怒りなどせず、彼を賞賛した。

 

 

「やはり君と話せてよかった。決意のあるその眼差し、何事にも恐れを持たぬその強靭な意志…私は君のような人間にずっと会いたかったのかもしれない。役職上、私はどうしても丁寧語や控えめな表現で話されることが多い。"対等"で話す相手が少なかったんだ。ジョジョ君、実を言うと私もこの縁談には異を唱えていたんだ」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 

 思いがけないサーゼクスの一言に、リア達は驚きを隠せない。

 

 

「リアスには…悔いのない人生を歩んで欲しいんだよ。私からも口出しは出来る。だが旧家の者達のことも考えなくてはならない。歯痒い思いで……いっぱいだったんだ」

「お互いリアを想う気持ちは一緒…ってことか。じゃあ逆に聞くが、俺がもしあのゲームで負けていたらどうしていたんだ?」

「披露宴に乗り込ませて、往年の花嫁奪取を陰から手助けする……こんなところかな?」

「オイオイオイ…魔王様がそれやっちゃあ不味くねぇか? バレりゃあ一大事だぞ?」

「ハッハッハッ。バレないための工作ぐらい、赤子の手を捻るように楽な作業だよ」

「言ってくれるじゃねぇか……気に入ったぜ」

「私もだよ……ジョジョ君、『私と友達にならないか』?」

「なら俺からも……『俺と友達にならないか』?」

 

 

 一拍置いて、二人はパンッと固い握手を交わす。

 

 

「「『Yes,I am(喜んで)』!!」」

 

 

 丈城とサーゼクスの笑みは、全く同じだった。

 

 

「……さて皆、祝賀会を邪魔して悪かったね」

「い…いえ、そんなことは…それよりもお兄様、先程の言葉は…?」

 

 

 対談を終えたサーゼクスに、リアは恐る恐る尋ねる。そりゃそうである。渦中にいた人間がイキナリ反対でしたと言われれば、動揺せざるを得ないだろう。

 

 

「そのままの意味だよ、リアス。生きるのなら悔いの残らないように生きなさい。私は個人を尊重するタイプだからね」

「しッ、しかし!」

「いいじゃねぇかリア。俺だったら実力行使で阻止すっけど、そうしなかっただけでもセーフじゃんか。なぁ諏○部○一!」

「ハッハッハッ、中の人などいやしないよ?」

 

 

 先程の魔王らしい雰囲気は何処へいったのか、サーゼクスは朗らかに笑う。

 

 

「ジョ、ジョジョ君……流石にあだ名は…」

「つけるとも。異論は認めん!!」

「やっぱり……」

「そういえば、ジョジョ君は歳上にあだ名をつけているそうだね。一つ、この私にもつけてもらえないだろうか?」

 

 

 サーゼクスにそう頼まれ、丈城は顎に手を当てて彼のあだ名を考案する。

 

 

「そうだな……サーゼクスからとって、『ゼクス』ってのはどうだ?」

「Good! これからもよろしく頼むよ、ジョジョ君!」

「グレート! 仲良くしようぜ、ゼクス!」

 

 

 悪魔の頂点に立つ者の一人と史上最凶の人間。出会っても結託してもいけないコンビが今、ここに誕生してしまった瞬間だった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 …とまぁ予期せぬ来客があったものの、祝賀会は予定通り行われることに。それぞれの反省や次に生かす点、互いを客観的に見て良否を交わす等、様々な意見交換がなされた。

 

 おっと、少し話し忘れた事がある。この場を借りて少し話しておこう。

 当然の事ながら、今回の縁談は破談。ライザーの下僕達の殆どは『偉大なる死』によって老朽化させられていたが、ライザーを再起不能にさせた直後に丈城が能力を解除したために復活。一命を取り留めた。

 

 だがライザー自身はそういかなかった。全身の骨が粉々な上に、直前の記憶が断片的に残っていたのだ。そのため『見下していた人間に敗北した』という事実を知り、そのショックで再び失神。今日まで眠ったままである。

 またフェニックス側の上級悪魔達は『フェニックスの恥を作った原因』として丈城を抹殺しようとしていた。しかし直前でサーゼクスのstopがかかり、暗殺は未然で防がれた。というか、襲撃したとしても返り討ちにされる未来しか見えないのだが……

 

 

 で、件の本人は…

 

 

「『F-ME○A』で俺に勝てると思うなよゼクスぅ! 最初のコーナーを頂くのは、このジョジョだ!」

「なんと!? □ボタンを連打してパワーを溜めている! スピードダッシュをさらに加速させるためか! …しまった! こうなれば……こうだ!」

「何ィッ!? わざと失敗してスピンをかけ、俺のスタートダッシュを妨害しただとォッ!? 下手をすればコースアウトしてしまうというのに……ゼクス! 貴様このゲームやり込んでいるなッ!!」

「ハーッハッハッ! 答える必要はないぞジョジョ君!!」

「……なんというか、楽しそうですね。二人共」

「お兄様は昔から人間界のゲームに夢中でね……前に勤務中に隠れてやってた程なのよ。最もその時はグレイフィアにバレて、しこたま怒られたらしいけど……」

 

 

 二次会と称してサーゼクスを自宅に招き、二人でTVゲームを楽しんでいた。リア達はその様子をただただ見ているしか他なく、口出しできる空気ではなかった。

 

 

「のわあぁぁッ!! タッチダウン差で負けたァァァッ!?」

「よっしゃあァァ━━━━━ッ!ゲームで魔王に勝ったァァァ━━━━━━ッ!!」

「二人共! もう夜中の3時だから静かにして頂戴! 近所迷惑でしょ!」

 

 

 現時刻午前3時。アパートの住民はもう寝静まっている。こんな大声で騒げば眠りを妨げてしまうだろう。

 

 

「あぁ済まないリアス。久々に白熱してしまって、つい騒いでしまったよ」

 

 

 リアの注意を受けて、サーゼクスは笑って誤魔化そうとする。丈城も目線をそらして口笛を吹いている。泥棒かヘビが来るのだろうか。

 

 

「あ、そうだ。少しやんちゃをしてしまったお詫びとしてはなんだが、一つ君達にある場所へご招待しよう」

 

 

 するとサーゼクスは手を叩き、こんな提案をするのだった。

 

 

「招待……? 一体どんな…?」

「なぁに、君達も行ったことがある場所さ。

 

 

 

 

 

 

 モンスター達の巣窟、冥界の森だよ」

 

(←To Be Continued…)

 

 




次回、丈城とアーシアの使い魔が登場!


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第23話《新生物》

ようやく今回で第3部が完結します! 長かった……


アニメのジョジョ第4部も、気がつけば原作32巻まで終わりましたね。プッツン由花子との決着、高○渉さんお馴染み「ンまぁ~い!」のトニオさんとの出会いを経て、次は形兆の仇・音石明との決着ですね。


「は…波紋が…練れない…!!」…もといネタが出てこない状況下の中で捻り出した第23話。それではどうぞ。



 

「…要するにアレか。アーシアが新しく入ったで使い魔を与えようってことか」

「どうやらそうみたい。因みに私達は一人につき一体、使い魔を使役する権利が与えられているわ。主に連絡用だったり、レーティングゲームで罠を仕掛けるために使うの」

「ふ~ん…」

 

 

 サーゼクスもとい、ゼクスの思わぬ訪問から翌日の放課後。部室を訪れた丈城とアーシアはゼクスの言葉を改めて理解することとなった。

 

 リア眷属に新しく加わった『僧侶(ビショップ)』、アーシア・アルジェントにはまだ使い魔を手に入れていない。そこでゼクスはレーティングゲーム初勝利記念と称して、彼女に新しく使い魔を獲得するチャンスをリア眷属へ与えたのだ。彼曰く既に手をまわしてあるそうで、あとはリア達が冥界の森へ赴けばサポーターが待っている…という状態らしい。

 

 

「ま、俺は用心棒代わりで同伴させてもらうぜ。使い魔がなくても、俺にはスタンドがある!」ズアアッ

「ジョジョにそれ以上の要素を加えたら収拾つかなくなることぐらい承知しているわよ……まぁ危なくなったら遠慮なく頼らせてもらうわ。実力は申し分ないのだから」

 

 

 足したら足したでどんどん人間からかけ離れてゆく様しか見えないのだが。

 

 

「それで、皆さんはどのような使い魔をお持ちなのですか?」

 

 

 今回使い魔を獲得するアーシアは、参考のためにリア達へ質問を投げ掛ける。その問いにリアを始めとした使い魔持ちは顔を見合わせて、頷いた。

 

 

「そうね。この際だし、ついでに紹介しておこうかしら」

 

 

 そう言ってリアは指を鳴らし、自らの掌に紅いコウモリを出現させる。

 

 

「これが私の使い魔。普段は契約者を集めるためのビラ配りや連絡用として働いているわ」

 

 

 紅いコウモリはリアの隣へ移動すると、ボフンと煙をあげて人間の姿に変身した。一切喋りはしないが、ニッコリと笑って丈城とアーシアに向かって恭しく一礼。何も知らなかったら一目惚れしてしまう程の綺麗な笑顔だった。

 

 

「ジョジョは何度か見たことあるわよね?」

「ああ。朝早くの呼び出しとか、契約する前だと…駅前とかだったかな。そういやソイツ、前に寝ぼけたオーフィスに食われかけてたぞ」

「(コクコク)」

 

 

 先の恐怖体験を思い出し、若干顔が引きつるリアの使い魔。寝起きのオーフィスは思考が殆ど機能していない。その為本能の食べるか、寝るかぐらいしかしないのだ。しかも動くものを見ると食べ物としてしか認識せず、何でもかんでも食らいつく。蝿だろーが丈城の手だろーが対象に隔たりはない。

 

 

「あらあら、それでは私の使い魔も紹介しましょうかしら」

 

 

 朱乃は肩口に手をやると、そこから一つ目の小鬼らしき使い魔を呼び出した。

 

 

「へー、やっぱ色んなのがあるんだな。使い魔って」

「ニャー」

「「?」」

 

 

 丈城とアーシアが小鬼を観察していると背後から猫の声が。振り返ると、小猫が小柄な白い猫を抱きかかえていた。

 

 

「……シロです」

「はぁぁ…可愛いです!」

「因みに僕は…」

「まさか…満月の夜に現れる美女ヴァンパイアとか?」

「僕はカードファイターじゃないし、僕の使い魔は闇を貪るような鮮血と漆黒の花じゃないよ。使い魔はこの子さ」

 

 

 丈城の予想は大きく外れ、裕斗の使い魔は小鳥だった。

 

 

「皆さん素敵な使い魔ばかりですね!」

「まぁ殆ど好みで選ぶ事が出来るし、私達みたいに小柄なものもあればゴツかったり気色の悪いものまであるわ」

「ゲテモノか……会ってみたい気もするな」

 

 

 アーシアは目を輝かせ、丈城はどんなゲテモノがあるのだろうと、違う意味で楽しみにしている。この時点でもう前途多難なのが見え見えだ。

 

 

「さて、前置きはここまで。早く向こうに行かないと先方に失礼だからそろそろ行きましょう」

 

 

 手を叩いて全員を召集し、床の魔方陣へと移動する。そして全員が揃ったところで光が放出。一行は使い魔獲得のため、冥界の森へと旅立つのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

(ケッケッケェ~ッ……ギャアギャア…)

「さっすが冥界の森だ……アマゾンよりも気味悪そうな臭いがプンプンするぜ」

「薬の材料や術式に使う動植物は殆どこの場所で採集できるのよ。初見だとそう思っちゃうのも無理はないわね」

 

 

 人間界の青い空とはかけ離れた異様な紫の空。見たこともないシダや樹木が生い茂っている目の前の風景。話が正しければ、ここが使い魔を獲得出来る森らしい。

 所々甘い匂いがしたりすぐに腐ったような異臭が鼻を突いたりと、初心者にはあまりにもキツい環境だ。

 

 

「あぅぅ…こ、怖いです」

「心配すんなって。ちゃんと俺がついているからサ」

 

 

 アーシアの手をしっかりと繋ぎ、一行は冥界の森の奥へ進んでゆく。

 

 

 森へ入ってから数十メートル程歩いた辺りだろうか、森の中で開けた所へ一行が辿り着いた時だった。

 

 

「使い魔、ゲットだぜ!」

 

 

 突如上から声がしたかと思えば、一人の男性が木々から飛び降りてきた。しかし地面に着地した影響で足が痺れしばし硬直。復活して丈城達へこう名乗った。

 

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!」

「確かマサ○タウンにも黄色いネズミ連れたおんなじような奴がいたような……」

 

 

 ザトゥージと名乗った男は歯をニッと剥き出して笑う。どうやらゼクスの手配したサポーターとはこの男の事らしい。

 

 

「ザトゥージさん、例の子を連れてきたわ」

「へぇ。金髪の美少女さんと歩道に突っ込めと命令しそうな人間の男子かい。OK! 任せてくれ! 俺にかかればどんな使い魔でも即日ゲットだぜ!」

「歩道が広いではないか…行け。……って何やらせんだコノヤロウ」

「アーシア。彼は使い魔に関してのプロフェッショナルよ。今日は彼にアドバイスをもらいながら、この森で使い魔を手に入れるの。いいわね?」

「はい!」

「全く…やれやれだぜ」

 

 

 サポーターとの交流から不安になりながらも、一行はザトゥージを加えて森を進む。

 

 

 その道中ザトゥージはカタログを取りだし、オススメの使い魔を紹介してくれた。が、どれもこれも使い魔どころかほぼラスボスクラスで丈城が強制却下。アーシアの注文で可愛い系を捕まえることになったものの、その内の一つ『ウンディーネ』は明らかにジョースター家縁の者並のゴツさで再び強制却下。頭にプッツンときた丈城がウンディーネ同士の縄張りバトルに乱入して勝利してしまうというアクシデントがあった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「全く…ウンディーネ同士のバトルに水を注すなんてナンセンスだぜ?」

「知るかんなもん! ありゃただの女装した猛者だ! 俺一瞬へったくそな女装した波紋使いを思い浮かべたわ、このスカタン!!」

 

 

 テキーラ酒を持ってたらさらに不味かった、と付け加える丈城。現在一行はある目的のために森の奥を目指していた。

 

 

「…んで? その『蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)』ってのはこの先にいるのかよ?」

「そう、その名の通り蒼い雷撃を使うドラゴンさ。まだ子供らしくてね、ゲットするなら今だな。成熟したら絶対にゲット出来ない。龍王ほどじゃねぇが、ドラゴン族のなかでも上位クラスの筆頭だからな」

 

 

 一行の次なる目的は『蒼雷龍』という、まだ幼いドラゴンの捕獲である。幼ければアーシアにも扱えるのではないかという話になり、現在ここいら一帯を捜索しているのだ。

 

 

「でもなぁ、蒼雷龍は他生物の雄が大嫌いなんだよ。だから捕まえる担当は女子の方が有効かな」

「フム…女子?」キュピーン

「……ジョジョ、やったらわかってるわよね?」ゴゴゴ…

「…サーナンノコトカサッパリ」

 

 

 そんな茶番を繰り広げていると、ザトゥージがあることに気付く。

 

 

「おい、静かにしろ!! いたぞ!」

 

 

 全員を近くの茂みへ隠れさせ、そっと辺りを確認し出すザトゥージ。

 

 

「あそこの巨木の枝で休んでいるあのドラゴンだ…! 間違いねぇ!」

 

 

 茂みから見える木々の中で一際目立つ巨木。その枝に止まり、羽を休めている小さなドラゴンがいた。どうやらあれがお目当ての蒼雷龍らしい。

 

 

「蒼雷龍…生で見るのは私も初めてだわ。キレイな鱗ね。ブルーダイヤモンドのように蒼く輝いているわ」

「あのオオワシみてーな大きい奴か。ま、確かにカッコいいっつーよりかは可愛いってジャンルだろうな。アーシア、どうだ?」

「私…あのドラゴンさんと仲良くなりたいです!」

 

 

 アーシアも気に入ったようなので、全員はその蒼雷龍にロックオン。捕獲作戦を開始しようとした……

 

 

 

 その時

 

 

 

(ドドンッ!)

『ぷぎゅうッ!?』

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 突如蒼雷龍が、まるで蛙が潰れたような呻き声をあげたのだ。さらにその腹が渦を巻くように大きく歪み、蒼雷龍は勢いで巨木に叩きつけられて落下。一行はこの怪現象に驚き、危険を察知した丈城が指示を出した。

 

 

「(全員ここから離れろ! 不用意に出ていったら巻き添えを食らうぞ!!)」

 

 

 ザトゥージを含めた全員が茂みから遠ざかり、丈城だけがその場に残る。そして懐からミネラルウォーターのボトルを取り出して開封。中身を出して指を鳴らした。

 

 

「『ゲブ神』!」

 

 

 水は『ゲブ神』となって茂みからそっと飛び出し、負傷した蒼雷龍を回収。丈城の前を通過してリア達のもとへやってきた『ゲブ神』はアーシアに蒼雷龍を差し出した。

 

 

「アーシア、多分治療を施してもらいたいみたい。できるわね?」

「はい、わかりました!」

「何なんだ? この水の腕は…。あのあんちゃんの神器(セイクリッド・ギア)かい?」

「まぁ話すと長くなるけど…彼の固有の能力みたいなものね。ここはジョジョに任せましょう」

 

 

 リアは丈城を信じ、この場を一任させる。一方丈城は直前の出来事を思い返し、敵の攻撃方法を分析していた。

 

 

(恐らく真っ直ぐ…蒼雷龍が狙撃され、叩きつけられた二点の直線上に奴はいる。奴は何らかの方法で不可視タイプの弾丸を撃ったんだ。でなけりゃ蒼雷龍が気付く筈だ…!)

 

 

 丈城は木陰に隠れるように『星の白金(スタープラチナ)』を出現させ、紙とペンを持たせる。敵のいる位置を把握するためだ。素早くペンを走らせてスケッチをとった『星の白金』は書き終えた紙を丈城に手渡して消え、丈城はすぐにそれを確認する。

 

 

(さぁ、お前の正体を見極めさせて貰うぜ!!)

 

 

 スケッチされていたのは、蒼雷龍が狙撃された巨木の前の獣道。しかし…

 

 

(…? どういうことだ? 何も…いない!? そんな馬鹿な! 『星の白金』は正確なスケッチをした。つまりこれ自体が真実といっても過言ではない筈! なのに狙撃した奴の姿が見当たらねぇ!!)

 

 

 スケッチにはそれらしき姿は描かれていなかったのだ。もしやこの敵自体が不可視な存在なのか。丈城は一瞬そう考えたが

 

 

「……ん?」

 

 

 ある箇所が彼の目に止まった。

 

 それはスケッチの右半分、多くのシダが生い茂る箇所を描いた部分だった。数枚の葉で隠れているために見えづらいが、シダとは違う植物が描かれていたのだ。

 

 森の中であれば特に変わったことではないのだが、不審に思った丈城は再び『星の白金』にスケッチをとらせた。

 

 

(ここの部分を拡大して、もう一度スケッチし直してくれ)

 

 

『星の白金』は再びスケッチを開始。そして出来上がったものを見ると、そこに描かれていたのは丈城にとって驚くべきものだった。

 

 

(ッ!? にゃ、にゃァにぃィ━━ッ!? こっ、こいつはッ!!)

 

 

 シダの葉に隠れたその植物。それは花とも猫とも似つかない、まるで"猫と植物が一体化したような"存在……。

 

 

 かつて第4部にて、川尻浩作に化けた吉良吉影が出会った、空気を自在に操作する猫だった植物。

 

 

 その名は…『猫草(ストレイ・キャット)』。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

(んな馬鹿な……なんで『猫草』が…ッ!)

 

 

 丈城は動揺していた。しかし冷静に考えてみると『猫草』に変わりはないが、100%本物というわけでない。彼が転生特典で『猫草』を獲得出来なかったのは、あくまで猫とスタンドが混合して誕生した"新生物"だったからなのかもしれない。

 

 

(ひょっとしたら…この環境下が生み出した産物なのか? 冥界ならあんなゲテモノ揃いだし、似たような能力を持っていても不思議じゃねぇ……)

 

 

 だがこれで全ての謎が解けた。蒼雷龍に着弾したのはこの『猫草』らしきものが発射した空気弾。それならば着弾時の腹の歪みも不可視の理由も納得がゆく。

 

 あとはこの空気弾を攻略できるスタンドで勝負を仕掛けるだけである。

 

 

(要領を掴めば、そう難しい相手じゃねぇ…行くか!)

 

 

 覚悟を決めた丈城は両頬を叩いて気合いを入れ直し、虹村億泰のスタンド『(ザ・ハンド)』を出現させて茂みから躍り出た。

 

 

「ジョジョ!?」

「謎は解けた! 任せろッ!」

 

 

 丈城はスケッチにあったシダの茂みを探しだし、その下で息を潜めている『猫草』らしきものを発見する。

 

 

『ニャア~…』

「ムッ! …こいつだ。マジで『猫草』だ…!」

 

 

 こちらを向いてジッと丈城を見つめるおしべのような両眼。警戒しているのか、はたまた単に驚いているだけなのかは定かではない。

 

 

(慎重に一歩ずつ近づくか…。空気弾撃てるもんなら撃ってみやがれ! 削り取ってやる!)

 

 

『手』の右手を振り上げた状態で徐々に接近する丈城。唾一つ飲み込めないような緊張感が場を支配する中、決着の時が刻一刻と近づいてゆく。……しかし

 

 

 

 

 

 

(ググゥゥ~……)

「あらッ!?」ズコッ

 

 

 それをブチ壊すような腹の虫が大きく響き渡った。そのせいで緊張の糸が切れた丈城はひっくり返り、思わずリア達へ突っ込んだ。

 

 

「オイッ! 誰だよ今腹の虫鳴かせた奴は!? こっちまで聞こえてきたぞ!!」

「わ、私じゃないわよ!」

「ちちち、違います!」

「……違います」

「ジョジョ君、こっちからは鳴っていないよ! ザトゥージさんも蒼雷龍も一緒!」

「えっ!? …ということは」

 

 

 自分でもリア達でもない腹の虫。となると残るはただ一つ…

 

 

「…お前、なのか?」

『ニャア~』

 

 

 丈城の問いに答えるように、『猫草』は肯定らしき鳴き声を発する。そして先程の巨木の方に目を向けたので、気になった彼もその方向へ振り返った。

 

 巨木から数メートル先には、空気弾で仕留められたと思われる小鳥が落ちていた。

 

 

「まさか…あの鳥を捕まえようとして、間違えて蒼雷龍に当てちまったのか?」

 

 

 つまりこれは『猫草』が誤射してしまったことで発生してしまった、突発的な事故だったのである。

 

 

『ミィ…ニャア~』

「そうか…でも謝罪の言葉は俺じゃなくて、蒼雷龍に言いなよ?」

 

 

 申し訳なさそうに頭を下げる『猫草』。騙そうとしているわけではなさそうなので、丈城は『手』をしまって『猫草』の頭を優しく撫でた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「……というわけだ」

 

 

 事の顛末をリア達に伝えると、呆れたようにリアが嘆息する。

 

 

「そういうことだったのね。要は空気弾の軌道がそれて当たってしまったと…」

「……ごめんなさいって言ってます」

 

 

 現場に集合した一行は小猫の言葉で肩の荷をおろす。危険な存在どころか、温和な優しい性格の持ち主だそうだ。

 

 因みに蒼雷龍は治療が終わって全回復。治してくれたアーシアに恩恵を感じているのか、肩に乗っかって頬擦りしている。また『猫草』は丈城が掘り出して掌に乗っけられていた。既に和解したのか、両者との間に特に嫌悪な空気は漂っていない。

 

 

「しっかし妙な生物だなァ~。俺もこの森を何年と入っちゃいるが、こんな奴ァ見たことないぞ」

(言えねぇな……猫とスタンドの入り交じった新生物だなんて)

 

 

 言わぬが仏と思った丈城は黙っておこうと、頭に浮かんだそれをすぐに振り払った。

 

 

「それで、どうするんですか? その…『猫草』っていうのは…」

「現時点じゃ判明していることが少ないしな…こりゃ調査する必要がありそうだな。俺が引き取ろう」

 

 

 ザトゥージはそう言って『猫草』に手を伸ばすが、ウ~ッと唸って丈城の手を離れようとしない。どうやら感覚的に危険を察知したようだ。

 

 

「……嫌だって」

「あらあら、どうしましょう。無理にジョジョ君の手から引き剥がせば、空気弾を発射されてしまいますし…困りましたわね」

『ナ~ン』

 

 

 すると『猫草』は小猫に向かって一鳴き。それを聞き取った小猫は頷き、全員にこう訳した。

 

 

「……丈城先輩の側を離れたくないそうです」

「おっ、俺かよ!? 気に入られちゃったの?」

 

 

 小猫がそう言う通り、『猫草』は彼の手をスリスリと頬擦りしているし、指を舐めている。

 

 

「…何でかわかんねェけど、そうみたいだな。考えてみりゃ現段階で空気弾の対策が出来るのは俺ぐれーだし、ここは俺が責任もって預かってみるぜ」

 

 

 仕方なく丈城が引き取ることに。その後ザトゥージは彼に時折でいいから、生体を纏めたレポートを提出してほしいという申し出をし、丈城はそれを承諾という形で収束した。

 

 

 そして……

 

 

「……ア、アーシア・アルジェントの名において命ず! な、汝、我が使い魔として、契約に応じよ!」

 

 

 森の入り口へ引き返した一行は、アーシアと蒼雷龍の契約の儀式を執り行っていた。朱乃のサポートのもと、儀式は順調に進む。

 

 

「普通、蒼雷龍は悪魔に降らないドラゴンなんだけど、あの子は特別清い心の持ち主みたいだからね。前代未聞だが、契約完了しそうだ」

「『猫草』の誤射も許してくれるぐらいだからな。つーか今さらだけど、お前雌だったのね」

『ニャ~ン』

 

 

 暫くして儀式は無事終了。魔方陣が消えると、蒼雷龍はアーシアの胸に飛びついてじゃれ始めた。

 

 

「うふふ。くすぐったいです。ライライくん」

「ライライ?」

「はい。雷撃を放つ子ですし、ジョジョさんからも名前を真似させて頂きました。雷撃を放ちながらもジョジョさんみたいに元気な子であって欲しいと思ったので。……迷惑でしたか?」

「いんや、気にしてねぇぜ。さてライライ。今後ともお互い、仲良くしようじゃあないか……」

 

 

 丈城は蒼雷龍改め、ライライに近寄って頭を撫でる。しかしライライは…

 

 

「…………(コクコク)」

 

 

 若干震えながらも肯定の頷きを返した。それもその筈、丈城もともとの威圧感に気圧され、それしか反応出来なかったのだから。

 

 

 とまぁこんなドタバタがあったものの、アーシアの使い魔も無事見つかり、これでめでたしめでたし……

 

 

 

 と、なる筈だった。

 

 

「…あ、ジョジョ。明日って空いてるかしら?」

「え? あ、あぁ…何にも予定はないけど…?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 明くる日。

 

 

「というわけで、私もこのアパートに住むことになったから。よろしくね、ジョジョ」

「……荷物運びのために、わざわざ予定聞いたのかよ」

 

 

 丈城の部屋の前でにこやかに笑うリア。涙目で頬を膨らますアーシア。そして同様に丈城をポカポカと殴りつけるオーフィス。宿主の丈城はこの展開に終始呆れ返っていた。

 

 なんと、リアが隣の部屋に引っ越してきたのだ。彼女曰く「今のマンションより、このアパートの方が学園に近いから」だそう。何故に今更……

 

 

「大屋さんから鍵ももらってるから、早速部屋へ荷物を運ぶのを手伝って頂戴」

「ハァ……やれやれだぜ」

 

 

 どんどん増える住人に手の打ちようがない丈城は、隣にある膨大な量の荷物を運び入れるために部屋を出て搬入を開始。最も精一杯の反抗なのか、アーシアとオーフィスは手伝わなかったが。

 

 

 暫くして搬入は終わり、その後の飾りつけまで丈城は手伝わされた。休憩も兼ねて、四人は丈城の部屋に移動する。

 

 

「飾りつけぐらい自分でやれよ…」

「有難うね、ジョジョ。粗方終わったし、お風呂に入りたいわね。……お礼としてはなんだけど、ジョジョの背中流してあげるわ」

「それ以前に風呂沸かさなくちゃなんねーだろーが」

「……あぅぅ、一夫多妻制しか希望がなさそうです……。……でもでも……主の教えに反してしまいますし……でもでも、このままじゃ……はぅぅ……」

「ん? どったの?」

「なんでもありません」

 

 

 今だご機嫌斜めのアーシア。オーフィスといいリアといい、日に日に恋敵が増えるのは我慢ならないらしい。

 

 その時、冷たいものが丈城の背中を走った。

 

 

「……我、まだジョジョと入浴、していない」

 

 

 見ると、目のハイライトが消えたオーフィスがゆらりゆらりと幽鬼のような足取りで近づいてくる。やがて隣り合わせで座る丈城とリアの間に割り込むと

 

 

「我、ジョジョの正妻。グレモリーの娘に、渡さない」

 

 

 真っ黒いオーラを出して威嚇。これには丈城も流石に驚いた。さらに

 

 

「あらオーフィス、それは私に対する宣戦布告と捉えていいのかしら? いくら無限の龍神のあなたとはいえ、ジョジョは譲らないわよ?」

 

 

 上品に口に手を当てて笑いかける。しかしその目は笑っていない。しかも周囲に紅い滅びのオーラが漂っている。殺る気満々だった。

 

 

「はわわ…わ、私だってジョジョさんは諦めません! お二人には渡しません!」

 

 

 オーラは放たず、涙目でアーシアも乱入。何やらよくわからん三つ巴が始まり、丈城は嘆息する。

 

 

「……まぁいがみ合うのは止めないけどサ、アパート壊すなよ?」

 

 

 ぐぬぬ…とにらみ合いを続ける三人を放り、ツカツカと窓辺へ向かう丈城。スゥー、ハァー、と呼吸を整えて、カメラ目線で決めの台詞をバシッと言い放った。

 

 

 

 

 

「Hightension school Jo×Jo 第3部・完ッ!!」

 

 

 

 

 

 ▽第3部『フェニックス・ブレイク』/Fin▽

 

 

 

(←To Be Continued…)

 




最後ちょっと駆け足になりましたが、ようやく終わりました。

『猫草』は原作と同じ性質ですが、雄ではなく雌に変更しました。雄だとライライ許してくれそうにありませんからね(汗

誤字脱字、ご意見ご要望等がございましたら、コメント欄にご一報下さい。


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第4部『リベンジ・エクスカリバー』
第24話《もう一つの派閥》


「チェストォォ━━━━━━━━━ッ!!」バキャン!

 

 

 駒王学園定期イベント・球技大会も近くなったある日。

 

 丈城は昼飯を早食いし教室を抜け出した後、持参したポラロイドカメラを持って今は使われていない空き教室へ向かった。そして机の上にカメラをセッティングし、『隠者の紫(ハーミット・パープル)』での念写をしていた。

 何でも、リア達以外にもこの駒王学園には"もう一つの悪魔勢力"がいるそうで、近々新人悪魔との初顔合わせがあるという。それに丈城も特別に顔を出すことになっているのだが、お互いに顔を知らない。

 

 そこでサプライズ(意味深)として、とある計画を企てた丈城は先にどんな人物が悪魔なのかを見極めるべく、人気のないここで念写を行っていたのだ。『隠者の紫』を纏った手刀で叩かれ、ジーッと吐き出された写真を確認してみると

 

 

「……支取蒼那。確か、生徒会長だったっけな」

 

 

 そこに写し出されていたのは、悪魔の翼を展開した駒王学園生徒会長・支取蒼那だった。その両脇や背後には現生徒会メンバー数名と最近追加されたという男子生徒が一名。つまり現生徒会メンバーは全員悪魔ということになる。

 

 

『支取……成程、シトリー家の悪魔か』

「シトリー家?」

『具体的に言えばグレモリーやフェニックスと同じ位の家柄だ。そして現四大魔王の一角・レヴィアタンはシトリーの出身。支取蒼那とやらはそのシトリー家の次期当主とみて間違いなさそうだ』

 

 

 左腕からドライグが分かりやすく解説する。流石長く生きているだけあって、彼は人外の関係について博識だった。……最も一回殺されてはいるが。

 

 

「まぁ生徒会長の人柄は俺も知っているし、多分人間を見下すような真似はしねぇと思うがな。それよりも重要なのは初顔合わせのサプライズだ。ただコンニチハするだけじゃ面白味に欠ける。こういうのは俺式のGO☆A☆I☆SA☆THUをするのが礼儀ってもんだ」

『それは礼儀と言うよりかはただの嫌がらせだ……。今回は何を企んでるかは知らんが、グレモリーの娘に大目玉を食らっても知らんぞ?』

「んな事を恐れているようじゃ人間の名が廃るぜ。さーて、今回はどんなのを仕掛けてやろーかなー? ケケケ━━ッ♪」

「お前本当にトラブル起こすの好きだよな……」

 

 

 薄暗い教室の中、スタンド使いは邪悪な考えと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「それじゃあ始めましょうか。私の新しい下僕、アーシア・アルジェント。駒は『僧侶(ビショップ)』よ」

「アーシア・アルジェントです。今後もよろしくお願いします!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。こちらが我々シトリー眷属の『兵士(ポーン)』、匙元太郎です。新人の悪魔同士、仲良くしてやってください。匙、ご挨拶を」

「あ、はい会長! 匙元士郎です。 よろしくねアーシアさん!!」

 

 

 それから数日後の放課後。旧校舎のオカ研部室には丈城を除いたリア眷属メンバーと生徒会、もといシトリー眷属が初顔合わせ会を行っていた。

 シトリー眷属の転生悪魔・匙元士郎は、アーシアを前にして張り切っている。気持ちはわからなくもないが、少なくともこの後起きる悲劇に気づく様子はなさそうだ。

 

 

「…サジ、何鼻の下を伸ばしているのですか?」

「え!? いいいいえいえっ! そ、そんなことないっスよ!?」

 

 

 今更誤魔化してもバッチリ全員に見られていたのだが。この場にいるリア達にそして……

 

 

 

 

 

「ほほう、ウチのアーシアにいやらしい事をしようと企んでいたのか? この俺の前で堂々とやるとはいい度胸だなァ~!!」

「「「「「!?」」」」」

 

 

 潜んでいた第三者に。

 

 

「…やれやれ、まさかスタンド能力を使って部室の中に隠れていたのかしら? ジョジョ」

「Excitly(そのとおり)。普通じゃインパクトに欠けるんでな、数分前にコッソリ忍び込んでいたのサ。今なら不意をついてそこのスカタン野郎を再起不能(リタイア)にできるぜ!!」

「やめなさい。というか姿が見えないと会話がしづらいから出て来て頂戴」

「しょ~がねぇ~なァ~、ちょっと待ってろ」

 

 

 初顔合わせ早々に強襲を仕掛けようとした丈城を止め、頭に手を当てて嘆息するリア。その会話を聞いていた蒼那は恐る恐る、対話していた人物について尋ねた。

 

 

「…リアス、今ジョジョって……」

「ええ。神滅具『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の保持者であり、件のスタンド能力を持つ人間・兵藤丈城、又の名をジョジョよ。初めに言っておくけど、彼に対して喧嘩を売るような真似をしてはダメよ? 彼殺すつもりで襲いかかってくるから」

「え、えぇ…善処しておくわ」

 

 

 これ以上厄介なトラブルを引き起こしてはいけないと判断したリアは、蒼那…ソーナ・シトリーに念を押す。彼女はそれで納得したものの……

 

 

「てめぇ! スカタン野郎って俺のことか! 人間のくせに偉そうにしやがって!! さっさと出てきやがれコノヤローッ!!」

 

 

 サジだけが理解していなかった。

 

 

「! サジ、今の言葉をすぐに撤回しなさい! 何をしているのです!!」

「大丈夫ですよ会長! 俺が人間なんかに負ける筈がありませんから!!」

「そういうことではありません! 彼はフェニックス家の三男を意識不明の重体に追い込んだ張本人なのですよ!? 悪魔になって日が経たない貴方が勝てる相手ではありません! 分が悪すぎます!!」

「えぇっ!? あれってリアス先輩か姫島先輩がやったんじゃ……!?」

 

 

 ソーナの警告に驚くサジだったが、時既に遅し、

 

 

「フフフフフフフッ! ならば死ぬしかないなァ? 匙元士郎ッ!!」

 

 

 丈城の怒りを買ってしまっていた。

 

 

「ジョジョもやめなさい!」

「心配すんな! 痛みはちゃんと感じるようにしてやるからよォ! 『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!!」

 

 

 その言葉が言い終わるや否や、サジの前のテーブルの下にいつのまにか取り付けられていたジッパーが開き、中から上下逆さまのまま丈城がコンニチハ。その左腕には既に『赤龍帝の籠手』が展開しており、拳を握りしめて…

 

 

 

 

 

「アリィッ!!」

 

 

 

 

 

(チ━━━━━ン……!)

 

 

 

 

 

「アガタァァァァッ!!?」

「サジ!?」

 

 

 サジのせがれを、思いっきりブン殴った。

 

 

「伊達に人外共と殺りあったわけじゃあねぇんだよッ!! そして初めましてェ、生徒会長!! この俺がプレッシャーと常識を跳ね返す男・兵藤丈城だァッ!」

 

 

 全員が驚く中、テーブルの下のジッパーから飛び出した丈城は床に着地してご挨拶。因みにサジはフルパワーで股間を強打されたためにソファの上で悶絶中。そりゃ急所を狙われたのだから、仕方がないといえるだろう。

 

 

「……………」

 

 

 ソーナに至っては唖然としていた。

 

 

「先生が放課後の呼び出しがあるから、ジョジョ君は遅れるみたいな事を聞いていたけど……まさか先生もグルだったりするのかな?」

「Yes I am!!」チッ,チッ,

「……ハァ。とりあえず彼が眷属の協力者であり、私の契約者でもある兵藤丈城君よ」

「俺の事はジョジョと呼んでくれ。シトリー家の次期当主、ソーナ・シトリーさん?」

「! 何故それを!?」

 

 

 ソーナは初対面の丈城に、素性がバレていたことに動揺を隠せない。すると彼女を落ち着かせるために朱乃が助け船を出した。

 

 

「ジョジョ君は予め、念写能力を持つ『隠者の紫』というスタンドでソーナ様を調べたのですよ。そうでしょう? ジョジョ君」

「そうだったのですか……用意周到な性格は伊達ではないということですね」

「正直やられると心臓に悪いわよ。初めて会った時も念写されていた写真を見せられたし、あの頃から想像だにしない方法ばかり披露させられたりしたから……」

「このジョジョ! 何から何まで計算づくよォ━━ッ!」

「……胸張って言えることじゃない」

 

 

 丈城は全くもって反省する気はないようだ。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「『スティッキィ・フィンガーズ』…殴った物体にジッパーを取り付け、開閉する能力を持つ。ジッパー内の空間に侵入することもでき、腕に取り付けて打撃の射程距離を伸ばしたり、物体を切断する等の様々な用途がある……ということですね」

「しょゆこと」

 

 

 背後に『スティッキィ・フィンガーズ』を出現させて、丈城はソーナにスタンド能力を解説していた。

 

 

「スタンド能力が一体どういったものなのかを聞かせてもらいましたが、中々興味深いものでした。しかし…」

 

 

 そう言ってソーナは丈城からサジに視線を移す。

 

 

「私の眷属を実験台にするのは、いかがなものかと…」

 

 

 サジは真っ白になって床に倒れていた。

 実は解説中に丈城がアーシアでよからぬことを想像したサジにお仕置きといって、『スティッキィ・フィンガーズ』の実験台にしたのだ。首にジッパーを取り付けて呼吸を一時的に止めたり、『アリアリラッシュ』を浴びせかけられたり、全身をジッパーで切断されるなどされたサジは精神的にくるものがあったらしく、真っ白に燃え尽きてしまった。

 

 

「悪魔になって日が経ってないとはいえ、慢心しきっていた新人君に現実を見せてやっただけでも有り難いと思わなきゃ。経験を積ませてやるってのも、主の役目じゃねぇのか?」

「…それもそうですね。私が軽率でした」

「わかりゃあいいんだ。うん」

 

 

 丈城にたしなめられ、ソーナは素直に頭を下げる。

 

 

「く…くそっ、俺んところの生徒会メンバーはお前のところよりも強いんだからな」

「チッ、まだしぶとく生きていたか」

 

 

 ここで配色を取り戻したサジが復活。よろよろと力なく立ち上がり、まだ強気な態度を見せる。まぁ止めを刺そうと『キラークイーン』を繰り出してリアに叩かれたことは完全な予断である。

 

 

「私はこの学園を愛しています。生徒会の仕事もやりがいがあるものだと思っています。ですから、学園の平和を乱す者は人間であろうと悪魔であろうと許しません。それはあなたでもこの場にいる者たちでも、リアスでも同様のことです」

「…ま、言いたいことはわかるぜ。俺も同じだ。けど対立ってのは必ず起こりうる事だ。互いの正義の道がぶつかり合うことだってある。……そんときゃ、容赦しねーぜ?」

「対立する前から宣戦布告ですか、大した自信ですね。…でも負けませんよ? 絶対に」

 

 

 やはりというか、何かと年上に突っ掛かる丈城にソーナはその目を真っ直ぐ見据えて口に出す。ゴゴゴ…と迫力を出す二人を仲裁すべく、リアが話題を変えた。

 

 

「そういえば球技大会が近かったわね。私たちは結構前から練習を始めているのだけれど、あなた達は大丈夫かしら?」

「えぇ、問題ないわ。リアスには早々に負けて欲しくないわね」

 

 

 そう。球技大会が二週間後に迫っており、種目は

 

 男子:サッカー、バスケ、ソフトボール

 

 女子:テニス、バレー、フットサル

 

 となっている。そして目玉は部活対抗ドッジボール。オカ研や生徒会含め、のべ20の部活ぶつかり合う競技だ。

 

 

「リアス、球技大会が楽しみね」

「えぇ、本当に」

 

 

 リアとソーナは楽しそうに、そして不敵に笑う。一方こちらでは

 

 

「兵藤ッ! このツケは必ず払ってもらうからな!! 覚えてろよ!」

「貧弱貧弱ゥッ! 貴様がいくら努力したとしても、下級悪魔の力には限度がある! モンキーが人間に勝とうなどと……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

 

 

 歯を剥いて敵対するサジと、どこぞの石仮面使用者の如く笑う丈城の言い合い合戦が早くもスタート。サジの背後から龍が、丈城の背後から『世界(ザ・ワールド)』が垣間見えたのは気のせいだろうか。

 

 

「お互いのルーキー紹介はこれで十分でしょうね。では、私たちはこれで失礼します。片付けないといけない書類がありますから」

 

 

 そう言ってソーナは、いまだ興奮冷めやらぬサジをつれて出ていった。

 

 

「ジョジョ、アーシア。匙くんと仲良くね。他の生徒会メンバーともいずれ改めて悪魔として出会うでしょうけど、同じ学舎で過ごす者同士、ケンカは駄目よ?」

「はい!」

「安心しろ! 野郎がどんだけムカつこうとも再起不能だけで勘弁してやる!!」

「それをケンカというのよ!!」スッパーン!

「タコスッ!?」

 

 

 リアお手製のハリセンを食らい、一応のところの丈城の暴走は収まった。

 

 因みにそのハリセンには、リアが若干滅びのオーラを纏わせていたとか何とか。

 

 

(←To Be Continued…)

 




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第25話《球技大会にて》

次に読者は…


『リ、リアが壊れた!』


…という!!



 生徒会…シトリー眷属との接触より、二週間後。

 

 駒王学園の球技大会は天候に恵まれた結果、予定通り行われることになった。

 

 午前中のプログラムはクラス対抗戦。野球、サッカー競技に参加する丈城は外に出て準備運動をしている。因みにアーシアは女子競技のバレーに出場するため、屋内へ。

 

 

(さ~てと、どんなイカサマ使ってやろーかなー? 『キングクリムゾン』の墓碑銘(エピタフ)で行動予知もいいし、『ソフト&ウェット』でボールから空気抵抗奪っちまうってのもいいな)

『……まさかスタンド能力を使おうとしてるんじゃないだろうな?』

「あははー、バレた?」

 

 

 スタンド能力で勝利を掴もうと画策した彼に、ドライグは先手を打った。

 

 

『最近こういう勝負事で、お前がほくそ笑むと必ずスタンドを使おうとしてるのがわかってきたんでな』

「大丈夫大丈夫。バレなきゃ犯罪じゃないし、イカサマでもないんだぜ?」

『そうだとしても反則に変わりないだろうが。グレモリーとシトリーの娘にとっちめられるぞ?』

「ちぇー、駄目か……」

 

 

 口を3の字にして落胆する丈城。別にスタンドを使わないと勝てないわけではない。単に勝負を面白くしようと企んだだけなのである。

 

 すると顔を上げた際、ある光景が視界に入った。

 

 

「………………」

「…木場?」

 

 

 それは裕斗だった。周りがガヤガヤ騒いで盛り上がる中、ただ一人ボーッと上の空。一体どうしたのだろうか。

 

 

『アイツ……最近心ここにあらずといった具合が続くな』

「リアの次は裕斗かよ…。ひょっとしてあれが原因なのか?」

 

 

 丈城は顎に手をやり、先週の出来事がきっかけではないかと考え始めた。

 

 

 

 

(━回想━)

 

 

 

 

「で、こっちが小学生のときの丈城なのよ!」

「あらあら、玉入れで乱闘沙汰に」

「オーマイガァァァ━━━━━━ッ!?」

 

 

 先週のある日。最近傾向しつつある丈城のアパートでのオカ研会議が開かれたのだが、その最中彼の様子を見に来た母親が乱入してきたのだ。

 何故か持参した幼少期の丈城のアルバムを見せたもんだからさぁ大変。オカ研会議が一気にアルバム鑑賞会へ変更し、『メイド・イン・ヘブン』もびっくりの速度で崩壊してしまった。

 

 

「……丈城先輩、生まれつきのワル」

「ガキの頃はいかんてガキの頃は……」

 

 

 アルバムでわいわい盛り上がる一同の後ろで一人悶絶する丈城。まさか過去の黒歴史が掘り返されるとは思ってもみなかったようだ。こういう時こそスタンドで対処すればよいものなのだが、今の彼にそんな思考は出来ないみたいだ。

 

 

「ウフフフ……小さい…小さいジョジョ……」ジュルリ

「ハァハァ…ジョジョさん小さくて可愛いです……」

「ジョジョ……ジョジョ……」

 

 

 そしてこちらでは危険な目つきで幼少丈城を食い入るように凝視する悪魔と無限龍神が。ここまでくればもう変態の領域である。

 

 

「凄いねぇ、幼稚園と小学生の学芸会で九年連続黒幕役。確かにジョジョ君ってラスボスチックな行動ばかりしているから、役としては適任だったろうね」

「返せェッ!! これ以上俺の過去を漁るんじゃあないぞッ! 『世界(ザ・ワールド)』!!」ブゥン!

 

 

 やっと悶絶から復活し、時間を止めて全員からアルバムを奪取する丈城。まだ幼少丈城が足りないのか、亡者の如くにじりよる三人を『隠者の紫(ハーミット・パープル)』で拘束しつつ、回収に成功した。

 

 

「ハァー…ハァー…お、お袋も余計なもん持参してくんなよ! つーかアンタいっつも狙いすましたタイミングで来るよなぁ!?」

「フフン、凄いでしょ?」

「凄かねぇよッ!!」

 

 

 この訪問が偶然なのか否かはともかく、落ち着きを取り戻そうと息を整える丈城の目にあるものが映った。

 

 

「?……これは」

 

 

 奪取したアルバムの一つから落ちてきたのだろうか、一枚の写真が畳に落ちていた。拾い上げて確認してみると、かつて幼き頃に撮影した幼馴染みとのツーショットであった。

 

 

「懐かしいな、イリナとの写真か」

「……ジョジョ君、それは?」

「今から…十年くらい前かな。幼稚園時代の幼馴染みと別れ際に撮った写真だ。卒園時期に両親の転勤とかで外国行っちまってよ、今はどうしてるか…」

「そうじゃなくて…」

 

 

 どうやら木場が言いたいのは、丈城の幼馴染みではなく二人の間にある一本の剣だったようだ。

 

 

「こんなことがあるんだね。思いがけない場所で見かけるなんて……」

「何だよ? こんな古ぼけたアンティークの剣に見覚えでもあるのか?」

 

 

 丈城はそう首を捻るが、次の瞬間裕斗はこう言い切った。

 

 

 

 

「これは聖剣だよ」

 

 

 

 

(━回想終了━)

 

 

 

 

「……あれからずーっとあんな調子だよな。ツーショットの剣を聖剣っつってたけど、俺にはどうしてもただのアンティークにしか見えなかったけどなぁ」

『ひょっとしたら、その時の相棒はまだ力が足りなかったか、あるいは他の要因のせいで聖剣だと見抜けなかったかもしれないな。この俺の力だって発現していなかったわけだし』

 

 

 しかしあれがもし裕斗のいう聖剣ならば、なぜ幼馴染みの両親はそれを所持していたのか。また一体どこでそれを手にいれたのだろうか。考えれば考える程、謎は深まってゆく。これではキリがない。

 

 と、そこへ

 

 

「ジョジョ、部活対抗ドッジボールの対戦カードが決まったわ」

 

 

 紅髪をなびかせながら、ジャージ姿のリアがやってきた。先程の問題は後回しにして、今はこの球技大会で勝利することだけを考えよう。そう言い聞かせて彼は両頬を叩いて気持ちを切り替え、リアと向き合った。

 

 

「んで、対戦相手はどこの部だ? 野球部か?」

「フフフ、違うわ。初戦から好カードよ」

 

 

 一拍置いて、対戦する部の名前がリアの口から発せられた。

 

 

 

 

「対戦相手は…ソーナのところ。つまり生徒会よ!」

「…フフッ、そうか…生徒会か……!!」

 

 

 刹那、邪悪なオーラが二人の周囲から漂い、周りにいた生徒達はビビって後退り。そして丈城とリアは互いの手をガシッと取り合い

 

 

「……私が責任を持ちます! スタンドを使用することを許可するわ! 絶対勝つわよ!!」

「OK…! Open the game!!(ゲームを始めよう!!)」

 

 

 ド派手なイカサマを、企んだ。

 

 

(…ハァ、こうなったら言っても聞かないだろうな。やれやれだぜ……)

 

 

 チートの暴走はいくらドライグでも止める術はないため、その内彼はこの先の展開を考えるのをやめるのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「リアス先輩ぃぃぃぃっ!! 勝ってくださぁぁいっっ!!」

「会長さまぁぁぁぁぁ! キャー!」

 

 

 裏でそんなイカサマが企てられたとは露知らず、部活対抗ドッジボールは始まってしまった。

 

 第一回戦の最初の対決を飾るのはオカ研vs生徒会。コート外から全校生徒の歓声やエールが飛び交い、いかにこの対決が待ち望まれていたかがわかる。それに双方は最近新メンバーが入ったというだけあって、注目がより集まっている。

 

 生徒会はともかくとして、オカ研には最近編入してきたブロンドヘアーが似合う癒し系天然美少女、アーシア・アルジェント。そして言わずと知れた駒王学園ご意見番兼、最凶のスタンド使い・兵藤丈城。これだけのニュースが学園を駆け巡っているのだ。騒がない筈がない。

 

 

「いくわよ、ソーナ!」

「ええっ、よくってよ、リアス!」

 

 

 今現在は、何故かリーダー同士の打ち合い対決となっていた。他のメンバーは声援を送ったり、観戦したり、呆けていたりと出る幕なし状態である。

 

 

「おくらいなさい! 支取流スピンボール!」

「甘いわ! グレモリー流車返しをくらいなさい!」

 

 

 相変わらずリーダー対決は続いている。

 

 

「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」

「うふふ、リアス。負けた方が小西屋のトッピング全部つけたうどんを奢る約束、忘れてはいないわよね?」

「随分レベルのひっくい争いだな」

 

 

 丈城の痛いツッコミが聞こえたがそれはさておき、リアの放ったボールはソーナに当たるかと思われたが、一瞬の差で避けられてしまった。そのこぼれ球は偶然にも生徒会メンバー・匙元士郎がキャッチ。すると

 

 

「会長ッ! 勝負の途中すみません!!」

「さ、サジ!?」

 

 

 ソーナを抜き去り、前陣へと躍り出るサジ。その狙いはやはりというべきか、腕を組んでどこ吹く風な態度をとる丈城がいるわけで…

 

 

「食らえッ、ジョジョォッ!!」ビュンッ

 

 

 風切り音と共にボールがサジの手から投擲された。

 初対面にも関わらず罵倒され、さらに自らのせがれを不意討ち。挙げ句にはスタンドの解説のために自らを実験台にしたこの外道を許すわけにはいかない。実力の差をまだわかっていないサジは、一方的に丈城をライバル視していたのだ。そしてこのドッジボール対決。彼が一矢報いるにはちょうどいい機会だった。ここぞとばかりに攻撃をしかけたものの…

 

 

 

 

「てゐっ」パシッ

「何!?」

 

 

 あっさり片手で取られた。

 

 

「フフフ…匙元士郎、まだわからんようだな? もう一度はっきりと言ってやろう、『モンキーが人間に勝てるわけがない』と!!」

 

 

 リアと共にイカサマを企む丈城。その笑みは周りからドン引きする程、悪意がこもったものだった。直後、

 

 

「何球……続ける?」

 

 

 ボールを前に突き出し、彼にそう尋ねる。そのボールには遠くからではよく見えないが、無数に巻きつく糸が。

 

 

「ハ、ハァ? 何を言っt「サジ! 避けて!」えっ!?」

 

 

 丈城の策に気が付いたソーナはサジに危険を知らせるが、時既に遅し。彼とは比にならないくらいのスピードでボールが放たれ……

 

 

 

 

(チ━━━━━━━━━ン……!!)

 

 

 

 

「ああああがあああ━━━ッぐあばああああ!」

 

 

 再びサジのせがれが犠牲となった。さらに

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

 

 まるで夜店の水ヨーヨーの如く、投げてはボールが丈城の手に戻り、また投擲してサジにHIT。そして戻っての繰り返しが延々続き

 

 

「1000球だっ!!」

 

 

 丈城の手にボールが収まって静止。怒濤の連撃を食らったサジはそのままコートの端へ、特に股関を押さえて吹っ飛ばされた。

 

 

「ジ、ジョジョ君! スタンドを使うなんて反則ですよ!!」

 

 

 ソーナが丈城のスタンド使用を指摘するも、スイッチが入った彼を止めることは出来ない。しかもリアが使用を許可してしまった。こうなったらもう笑うしかない。

 

 

「何をほざいている"ソーニャ"ッ! 一般人にはボールのバウンドして戻ってきただけの事象にしか見えんッ!!」

「例えそうだとしても無茶苦茶です! というかソーニャって私のあだ名ですか!?」

 

 

 しれっと決められたあだ名を突っ込むソーナ…もといソーニャ。しかしスタンドは一般人には目視出来ない存在。イカサマといってもその証拠が残っていない。

 

 

「リアの承諾は得ている! いぜん問題なし!」

「リアス! 一体何を勝手に許可しているの!」

「サーナンノコトカサッパリ」

「あなたも共犯だったのね!!」

 

 

 柄にもなく声を張るソーニャ。学園のお姉さま方が丈城の介入により、どんどんイメージが崩れていっているのは言うまでもなかった。

 

 

「WRYYYYYッ! まだ勝負は一回の表だ!! ここからが本番よォッ!!」

 

 

 そして、飢えた魔獣と化した丈城の牙は他の生徒会メンバーへと向けられる。

 

 

「どんな手を使おうが…」

「最終的に…」

 

 

 と、同時にリアも先程と同じオーラを纏い、場の空気が一気に凍りつく。そして……

 

 

 

 

「「勝てばよかろうなのだァァァ━━━━━━ッ!!(よォォォ━━━━━━ッ!!)」」

 

 

 

 

 容赦なく、ソーニャや生徒会メンバーに襲い掛かった。

 

 

「はわわ…ジ、ジョジョさんと部長さんがご乱心してしまいました!!」

「あらあら、リアスとジョジョ君ったらあんなにはしゃいじゃって。ウフフ♪」

「……部長さんが外道に」

「………………」

 

 

 残されたオカ研メンバーは無双プレイを繰り広げる二人を観戦する他なかった。

 

 因みにこの後、生徒会はあっという間に敗北。オカ研が破竹の勢いで勝ち進んで優勝してしまった。ソーニャは反則行為だといいたいのだが、何しろ一切の証拠がなく、丈城自身も自然にあり得る方法に見せかけた方法ばかりをとるために手も足も出せない。

 

 なので球技大会後、リアと共にソーニャにこってり搾られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「あぁぁぁんまりだァァアァァッ!!」

「自業自得です!!」

 

 

 

 

 ……それと件のサジは大事をとって、暫くの間自宅療養をすることになったという。

 

 匙元士郎…再起不能(リタイア)

 

 

(←To Be Continued…)

 




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第26話《忌まわしき計画》

皆さんお待たせしました、尾河です。

大学のレポートが粗方終わったので投稿させて頂きます。
ついでにあのキャラに名前がなかったので、小説家仲間と話し合って名前を決定致しました。

それでは、どうぞ。



 

「聖剣計画…? そんなもんが実際に過去にあったってのか?」

「そう。数年前までキリスト教内で聖剣エクスカリバーが扱える者を育てる計画が存在したの。裕斗は、その計画の唯一の生き残りなの」

 

 

 球技大会、そしてソーニャの説教後、丈城達がアパートに戻って来たのは7時を大きく過ぎた頃である。

 夕食を手早く済ませ、入浴を終えた丈城とアーシア、オーフィスはリアからある話を聞かされていた。それは眷属の『騎士(ナイト)』・木場裕斗の過去に関しての事であった。

 

 

 実は説教直後のオカ研緊急召集に、その答えがある。午後より降り始めた大粒の雨の中、突如リアは口を開く前に裕斗へ平手打ちをかましたのだ。理由は今回の競技について非協力的だったため。丈城もリアも外道戦法に走りながらも、彼の状態異常には気が付いていたのだ。

 

 いきなりの平手打ちにも関わらず、裕斗は相変わらず無表情のまま。流石に気になった丈城は彼に対し、それまで抱えていた疑念を投げ掛けた。

 すると独り言のように、丈城へ顔を向けた裕斗はこう口にしたのだ。

 

 

 

「自分は何のために戦っているのか」と。

 

 

 

 丈城はすかさずリアの為ではないのか? と返したのだが、彼はそれをすぐに否定。次の瞬間思わぬ言葉を発した。

 

 

 

『全く違う。僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー━━。それを破壊するのが僕の戦うたった一つの意味さ』

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……聖剣計画の生き残り、エクスカリバーの破壊、そして裕斗の腹の底に燻っていた本心……成程、大体事情はわかった」

 

 

 リアの話と裕斗が見せた本性。大方の予測がついた丈城は腕を組んで納得する。

 

 

「……初めて知りました」

 

 

 アーシアは元聖職者だったが、このことについては知らされていなかったようだ。まぁ聖女という立場にいたこともあって、知らされる筈もないだろう。

 

 

「…聖職の、影の顔」

『ニャア~?』

 

 

 今回の件には絡んでいないが、オーフィスも神に仕える者達の愚業については把握していたようだ。その彼女の膝には、先日丈城が冥界の森から連れて帰ってきた新生物『猫草(ストレイ・キャット)』がちゃっかり陣取っている。因みにこの『猫草』は後に『リーフ』と命名され、今ではすっかり丈城を始めとした同居人達と打ち解けていた。

 

 

「聖剣は悪魔に対しての強力な武器。私達悪魔が聖剣に触れればあっという間に身を焦がし、斬られればその場で消え失せる。神を信仰し、悪魔を敵視する使徒達からすれば究極とも呼べる兵器よ。一番有名なのはやはり…エクスカリバーかしら? 日本でも様々なメディアで取り上げられているわね。神の領域に達した者が魔術等を用いて作り上げられた『勝利を約束された剣』。━━でも聖剣は使う者を選ぶの。使いこなせる者は数十年に一人出るか出ないかくらいと聞くわ」

「明確な意思…というわけじゃねぇが、持ち主が限られる刃っつーわけか」

「裕斗みたいな剣を創り出す神器(セイクリッド・ギア)も中には存在するわ。けれど現存する聖剣と比較してしまうと、どうしても劣ってしまうわ。でも決して弱いということじゃないわよ。イエス・キリストを殺害した者達が所持していた神器『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』が一番有名ね。『神滅具(ロンギヌス)』の代名詞よ」

「…マジか」

 

 

『神滅具』。言うまでもなく丈城の左腕に宿るドライグも、その内の一つである。

 

 

「エクスカリバー、デュランダル、日本の天叢雲剣等の聖剣があまりにも強すぎて、匹敵する神器は今のところないのよ。魔剣も同様ね。裕斗はその内のエクスカリバーに適応するために、人為的な養成を受けた一人なの」

「じゃあ事実上、裕斗は聖剣を使えるって事か?」

「いいえ。彼は聖剣に対応できなかった。それどころか同時期に養成された者達も全員適応できなかったようなの」

「そいつらは、まさか……」

「ええ。適応できなかった彼らは教会関係者の判断で、『不良品』のレッテルを張られたまま処分されてしまったの。つまり……殺されたというわけ、ただ適応できなかったというだけで━━」

「えげつねぇ…んなけで大量殺戮とはな」

 

 

 裕斗の他にも、聖剣計画に組み込まれた者達はいたという。しかし可哀想なことに、誰一人として生還した人間は存在しないらしい。

 

 

「……そ、そんな、主に仕える者がそのようなことをしていい筈がありません」

 

 

 アーシアに至っては泣く寸前だった。それもそうだろう。彼女もまた、神に仕える聖女だったのだから。

 

 

「彼ら教会の者達は私達悪魔を邪悪な存在だと言うけれど、人間の悪意こそがこの世で一番の邪悪だと思うわ。……そう。人間の悪意こそが、ね」ジー

「そこで俺を見ないでくれよ…まぁ否定はしねぇが。でもあれだ、『自分が"悪"だと気付いてない、最もドス黒い悪』ってやつか。あながち間違いではなさそうだな」

 

 

 …ジョジョ第6部『ストーンオーシャン』においてのラスボス、エンリコ・プッチ。彼もまた聖職者の身でありながら、自覚できない悪行を行った人物だ。そんなプッチもウェザーに同じような台詞を吐かれている。

 

 

「私が彼を転生させたとき、あの子は瀕死のなかでも強烈な復讐を誓っていたの。生まれたときから聖剣に狂わされた才能だったからこそ、悪魔としての道を有意義に使ってもらいたかった。裕斗の持つ剣の才能は聖剣に固執するには勿体ないもの。でも彼は忘れられなかった。聖剣を…聖剣に関わった者達を、そして何より教会の人間達を━━━」

「恨み、未だ晴れずっつーわけか…確かに気持ちはわからんくもない」

「とにかく、暫くは見守るしかないわね。今はぶり返した聖剣への怨恨で頭がいっぱいでしょうし。普段のあの子に戻ってくれるといいのだけれど……」

「あぁそうだ。リア、これアイツが聖剣への恨み辛みをぶり返させる切っ掛けかもしれねぇんだ。ちょっと見てくれるか?」

 

 

 丈城は事の始まりとなった、あの幼馴染みとのツーショットをデスクから取りだしてリアに差し出した。こんなこともあろうかと、彼は予めアルバムから抜き取っておいたのだ。

 

 

「ジョジョ、貴方の知り合いに教会関係者がいるの?」

「いや…身内にはいねぇな。ただ俺の記憶が確かなら、その写ってる幼馴染みの家系がクリスチャンだったような気がするんだ。あと木場はそのアンティークの剣を聖剣っつってたんだが…」

「そう、貴方の近くに━━いえ、十年以上も前に聖剣がこの地にあったなんてね。恐ろしいことだわ」

「するとこの剣は…」

「ええ、聖剣のひとつよ。さっき説明したようなものとはいかないけれどね」

 

 

 写真を手に取り、リアは一人物思いにふけ始めてしまった。それを尻目に、丈城は敷いた布団の上に寝転がって

 

 

「…しっかし、普段から神様だー信仰だーっつってる連中が極悪非道な事を裏でしでかしてるとは。神様が知ったら腰抜かすだろーな」

 

 

 とボヤいた。そしてアーシアもまた

 

 

「どうしてこんな酷いことを…。悪魔の中にもいい方は大勢いらっしゃいますのに、それを全て否定するなんて…」

 

 

 打ち沈んだ様子で嘆息する。しかし彼女や丈城が言ったところで、連中の考えがすぐ変わるわけではない。今はそう口にするしかないのだ。

 

 

「まぁいいわ、もう寝ましょう。あまりあれこれ考えていても裕斗の機嫌がおいそれと直ってくれるわけでもないわ」

「ここで寝るのかよ…。まぁ明日も早いわけだし、さっさと寝ちまoh!?」

 

 

 復帰したリアの言葉で締め括られ、ひとまずの話し合いは終わった。だが就寝準備をしようとしたそのとき、いきなりリアが衣服を脱ぎ始めたのだ。驚いた丈城はすぐさまその手を止めさせ、脱衣を防ぐ。

 

 

「HeyHeyHeyHeyHeyHey! お嬢さん!? 寝るのになんで服を脱ぐんですかい!?」

「なぜって、私は寝るとき裸じゃないと眠れないってジョジョも知っているでしょう?」

「知ってるけどもッ! だからって脱いでいいもんじゃありません!! 女の子なんだからもうちょい羞恥心をもちなさい!!」

 

 

 オカン状態の丈城は先日購入したリア用の寝間着(半ば強引に丈城が購入)を押し付ける。と、今度は……

 

 

「なら、私も寝ます! ジョジョさんと寝ますぅ!」

「我も、脱ぐ。抜け駆け、させない」

『ニャア!』

 

 

 アーシアとオーフィスまでも脱ぎ出す始末。こうなったらもう笑うしかない。

 

 

 結局三人と一匹を説得し、就寝についたのはそれから一時間後のことである。

 

 

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ニャー?』

「…リーフ、気付いてた?」

『ニャッ』

「そう。流石に我、言わなかった。じゃないとアーシア、傷つく」

『ニャア~』

「…ありがとう。あの事実だけは、黙っていようと思う。恋敵でも傷つくの、見たくない。……おやすみ」

『ニャ…』

 

 

 

(←To Be continued…)

 

 




はい、というわけで『猫草』の名前は"リーフ"に決定致しました。言いやすさと植物に引っ掛けた事が決め手となりました。

そして、オーフィスが布団の中で漏らした言葉の意味は一体何なのでしょうか?


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第27話《聖剣来訪と一触即発》

こんにちは、尾河です。

TVアニメにようやく吉良吉影が登場しましたね! 満を持してってやつです!

しかしゲーム版とTVアニメでのCVチェンジが吉良にも適用されているとは……小山力也さんではなく森川智之さんになっていたのは意外でしたね。


そんな興奮状態の中執筆した第27話、どうぞ。



 

「…寝られやしねーよ、あんな状態じゃ……」

 

 

 一旦部屋の外へ避難した丈城は、外の柵にもたれ掛かってうなだれていた。

 慣れてはいるものの、やはり同じ年頃の男女が一つ屋根の下で寝るとなるとやはり、邪な気持ちに苛まれる。そして性欲をもて余す。丈城と言えど年頃の男の子なのだ。

 

 まずリアは就寝早々に寝返りをうつ振りをして寝間着を脱ぎ、アーシアは元々の寝相の悪さで自然に寝間着が崩れ、オーフィスに至っては堂々と脱ぎ捨てる始末。いっそ清々しい。

 そして朝になれば全裸と半裸の同居人が2:1の割合でいるわけである。丈城の理性がなければ捕食(意味深)は確実といっていいだろう。

 

 そんな邪な気持ちを散らすために、丈城は毎晩こうして外に出て、夜空を見上げることが多くなった。最も本心は朝までグッスリと寝ていたいのだが。

 

 

「ハァ…俺が間違っているのか? 腹括って三人の誰かを抱かないといけないのか? 一体どうすりゃこの状況を脱出できるのやら……」

『まさにゴールの見えないマラソン、ってやつだな。相棒』

「悔しいけど座布団やりてぇわ畜生」

 

 

 ドライグの例えに頭を抱える丈城。

 

 

『相変わらず頭の中はゲスい事と同居人の事でいっぱいだな。何なら相談にのるぜ?』

「三日三晩と片手にドリンク必要になるからやめておくわ」

『そこまで深刻なことかよ……。まぁいい、グレモリーとその眷属は悪魔の中でも特別情愛を持つ者達だ。勿論相棒の契約主と眷属も例外ではない。リアス・グレモリーは相棒に対する愛情が深いようだが……随分と可愛がられているじゃないか』

「俺はペットじゃねぇっつーの」

 

 

 確かに彼も思い当たるフシは幾つかあった。どれもライザー・フェニックスとのゲーム戦後に限られるのだが、眷属達や学校内でも人目を気にせずに抱きついてきたり、稀にキスもしてくる。それも心底嬉しそうに。

 

 

「でもその理屈でいくと…あれか? リアは"契約者の人間"として俺を見ているわけではなく、"伴侶にしたい異性"として意識してるっつーことか?」

『あれをみている限りでは、十中八九そうだろう』

「oh…」

 

 

 どう反応していいかわからない丈城だった。

 

 

『まぁ、相棒もそろそろ色を知ってもいい時期だ。そういうのは早め早めに体験しておいたほうがいい。いつ"白い奴"が目の前に現れるかわかったものではないからな』

「白い奴……確かバニシング・ドラゴンだったっけな」

 

 

 ……かつて神と天使・堕天使・悪魔の三大勢力が大昔に戦争をしていたことがあった。それには人間を始めとした様々な種族が三大勢力に加担していたとか。

 そんな規模の大きい戦いの最中、ただ一種族だけ三大勢力のどれにも加担しなかった種族が存在した。

 

 

 それが、生前のドライグの出身である『ドラゴン』である。

 

 

 なぜ力を貸さなかったのかは定かではないが、とにかくドラゴンは力が強く、自由気ままでフリーダムな者達ばかりだった。中には神や悪魔に味方するドラゴンもいたという。

 

 ところが上記の大戦中、この種族に関するある事が勃発した。

 

 ドラゴン内でも屈指の実力を持つ二体のドラゴンが、些細なことから喧嘩を始めたのである。

 

 

「……んで、その馬鹿ドラゴン二匹がお前とバニシング・ドラゴンだったというわけだ」

 

 

 神にも匹敵する強さを誇る二天龍は、三大勢力を蹴散らしながら争い続けた。もうこれでは戦争どころではない。そこで一旦休戦した三大勢力は同盟を結び、喧嘩を続ける二天龍を打ち負かした。肉体は1cm四方の肉片…とまではいかないが細切れにされ、残った魂を神器(セイクリッド・ギア)として人間の体に封印された。

 

 

「そして21世紀の現代になっても、宿った人間を媒介してドライグとバニシング・ドラゴンは喧嘩を続けているってか……なんつーかはた迷惑な話だぜ」

『まぁそうなる運命にあったわけだ、相棒は。今回俺の宿主はお前だった。しかも妙な力をもった人間にな。これは長い年月の中で初めてのことだ。だから楽しみにしているんだよ。今回はどうなるのかがな』

「クククッ、安心しなドライグ。俺が本当のワンサイドゲームってやつをみせてやるからよ!」

 

 

 どこぞの吸血鬼のごとく、悪意に満ちた笑みを浮かべる丈城。もし彼が先の戦争に加わっていたとしたら……考えただけで恐ろしい事になる。

 

 

『もう見せられているんだがな…そんな悪意だか好戦的な本能だかわからん塊の宿主も初めてだ。まっ、たまにはこういう相棒もいい。改めて宜しくな、相棒』

「グレート! こっちも宜しく。ドライグ」

 

 

 月明かりが辺りを照らす中、一人と一匹(?)は決意を新たにするのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 その翌日。

 

 

「…落ち着いたかしら?」

「ハイ、スミマセン。チョーシニノリマシタ」

「イリナもどうしたんだ? お前らしくもない…」

「いやぁ~、昔のノリというか…アハハ…」

 

 

 オカルト研究部の部室では、実にシュールな光景が広がっていた。

 正座をする丈城ともう一人、白のローブを羽織った栗毛のツインテールの少女。その前には呆れ顔のリアに青髪と緑のメッシュが入った女性。一体全体どうしてこうなったのか、話しは数十分前に遡る。

 

 

 

(━回想━)

 

 

 

「こんちゃーっと……ってあれ? お客さんいんの?」

 

 

 いつものように丈城とアーシアが部室へやって来ると、いつものメンバーの他に二人の女性がいた。格好のイメージ、そして首から下げている十字架からみて、彼女らは聖職者のようだ。

 

 

「えぇ、少し私に用があるみたいでね。まぁいいわ。とりあえずジョジョもこっち来て頂戴」

「? ジョ…ジョ?」

 

 

 リアが丈城のあだ名を口にすると、女性の一人が怪訝な表情を見せた。丈城も気がついたらしく、彼女に視線を向ける。

 

 

「紹介するわ。私の契約者としてオカルト研究部に身を置いている二年の兵藤丈城君よ。学校や眷属内では『ジョジョ』ってあだ名で親しまれているわ。ジョジョも挨拶しなさい」

 

 

 リアが丈城にそう促した時だった。

 

 

「…………フフッ」

「「「「「?」」」」」

 

 

 突如、丈城が不敵に笑いだした。それに応えるように女性も立ち上がると

 

 

「………まさか、ね。こんなところで…貴方と出会うとは……」

 

 

 女性は対照的に、明らかな敵意をもった眼差しで丈城の前に歩み寄る。そして…

 

 

 

 

 

「生きていたわねディオォォォッ! 今度という今度は歴史の闇に永遠に沈めてやるわぁぁぁっ!!」

「時を隔てた邂逅というわけだなイリナァァッ! 逆に沈めてくれるッ、地獄の底へェェ━━ッ!!」

 

 

 お互い飢えた野獣の如く、取っ組み合いのプロレスが勃発。周囲のメンバーの存在をものともせずにブレーンバスターやフロント・スープレックスなどを繰り出してゆく。

 結局我に戻ったリアにハリセン制裁がされるまで、二人は謎の勝負を続けていたのである。

 

 

 

(━回想終了━)

 

 

 

「全く…いくら幼馴染みとはいえ、もうちょっとマシな挨拶は出来ないのかしら?」

「つったってこれが俺達の通過儀礼みたいなもんだし…これ以外は流石にねぇぞ?」

「とにかく、今後はお互い気をつけて頂戴。わかったかしら?」

「「はーい」」

 

 

 リアの説教はひとまず中断し、ここで本題に移る。

 

 

 因みに丈城と共に奇行に及んだこの女性、実は丈城が幼稚園の卒園と共に別れた幼馴染み「紫藤イリナ」なのである。彼女は「ジョジョ」というあだ名で気がついたみたいだが、丈城は顔を見てすぐにわかったようである。あのプロレスは、彼らの再会の挨拶…だったらしい。

 

 

 ソファに座り直し、事を最初に切り出したのはイリナだった。

 

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

「奪われた? ちょい待ち。エクスカリバーってあのゲームとかにあるやつの元ネタだろ? それって元々一本じゃねぇかよ?」

「聖剣エクスカリバーそのものは現存していないわ」

 

 

 丈城の疑問に、リアがすぐ解決の一言を発する。現存していないというのは、どういうことなのだろうか。

 

 

「ゴメンなさいね。その事については彼に話してないの。エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」

「別に構いません。ジョジョ君、エクスカリバーは大昔の戦争で折れてしまったの」

 

 

 イリナの説明に、丈城は目を丸くした。

 

 

「折れたァ? エクスカリバーっつっても、耐久はフツーの剣と変わらないもんなのか?」

「そういうわけではない。長年使い古されていたせいなのか、それとも巨大な力によって致命傷を負ったのか、いずれにしろそう簡単に折れる代物ではない。━━━━そして、これがそのエクスカリバーだ」

 

 

 丈城の言葉を緑メッシュの女性が返す。すると傍らの布に巻かれた長い何かを手に取ると、それをほどいて中身を全員に見せた。

 

 

 それは、一本の長剣だった。

 

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。その時七本作られた一本がそうだ」

 

 

 見ると、眷属はその長剣をまるで汚物でも見るかのような視線を送っている。本能的にわかるのだろう。触れれば終わりなのだと。

 

 しかし人間である丈城は顎に手をやり、興味深そうにしげしげと観察している。

 

 

「こいつがそうなのか……確かにすげぇオーラだ。人間の俺でも感じ取れるぐらいだから、鍛え直したものでもちゃんとした聖剣なんだな」

「これは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。七つに分かれた聖剣のひとつだよ。管理下はカトリック。そしてイリナも一本持っている。自在な形を持つ『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』で、こちらはプロテスタント側が管理している」

 

 

 緑メッシュの女性…ゼノヴィアはそう言って、長剣を元に戻す。よくよく見ればその布には何やら呪式のようなものが書き込まれている。力の強いエクスカリバーを封じるためのものなのだろうか。

 

 

 その後の話をかいつまんで要約するとこうである。

 

 

 今回二人がリアに接触した目的は「盗まれたエクスカリバーを、最悪破壊してでも回収するまで手を出すな」という、何とも上から目線の依頼だった。さらに二人はヴァチカンからの使徒で、死ぬつもりで今回の聖剣奪還に身を投じるつもりらしい。

 聖剣を強奪した犯人はなんと堕天使の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部・コカビエル。そして彼とその配下がこの駒王町に潜んでいるというのだ。

 

 彼女らや教会の考え方からいって、悪魔であるリア達に協力を求める気はないらしい。粗方話終え、二人はこの場から去ろうとする。地味に長く感じていた丈城はやっと終わると思っていた……だが次の瞬間、彼の怒りに火をつける出来事が起こる。

 

 

 それはゼノヴィアが去り際に放った、この一言から始まった。

 

 

 

「━━兵藤丈城の家で出会ったとき、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか? まさか、この地で会おうとは」

(ッ!?)

 

 

 その言葉に素早く反応したのは彼だけでなく、視線の先のアーシアもそうだった。『魔女』。それは現在のアーシアを示唆する言葉である。

 

 

「あなたが一時期内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん? 悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね? 追放され、どこかに流れたと聞いたけど、悪魔になっているとは思わなかったわ」

 

 

 イリナもゼノヴィアの言葉に反応し、アーシア観察し始める。

 

 

「……あ、あの……私は……」

「大丈夫よ。ここで見たことは上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲にいた方々に今のあなたの状況を話したら、ショックを受けるでしょうからね」

「……………………」

 

 

 複雑極まりない表情を浮かべるアーシア。あまりにも上から目線の態度を崩さない彼女らに、丈城の中に怒りの業火が広がりを見せる。アーシアの人生を狂わせるだけ狂わしておいて、どの口が何をほざくか。つまり二人の言動は、知らず知らずの内に怒らせてはいけない人物の怒りを買ってしまっているのだ。

 

 

「しかし悪魔か……『聖女』と呼ばれていた者。堕ちるところまで堕ちるものだな。まだ我らの神を信じているか?」

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信仰している筈がないでしょう?」

 

 

 しかしそれに気がつかず、ゼノヴィアは目を細める。

 

 

「いや、その子から信仰の匂い━━香りがする。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪に意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。それと同じものが彼女から伝わってくるんだ」

「そうなの? アーシアさんは悪魔になったその身でも主を信じているのかしら?」

 

 

 イリナの問いに、アーシアは今にも泣き出しそうな表情で口にする。

 

 

「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたのですから……」

「そうか。それならば、いますぐ私達に斬られるといい。いまなら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 

 

 そう言ってゼノヴィアがあの布に巻かれたエクスカリバーをアーシアに突きだそうとした……刹那

 

 

 

 

 

(メギャン! ガウンガウンガウンッ!!)

「「「「「!?」」」」」

 

 

 突如銃声が鳴り響き、ゼノヴィアの手元から火花が散った。エクスカリバーは音を立てて床に落ち、さらに三人の足元にも火花が。

 

 

「……調子に乗んのもいい加減にしやがれエゴイストが…!」ゴゴゴ…

 

 

 銃声の正体は『皇帝(エンペラー)』をブッ放した丈城だった。その目は完全に血走っており、今にも二人を殺し兼ねない勢いだ。

 

 

「さっきから聞いてりゃ『自分達が正しい』みてぇな御託並べやがって…聖職者だからって何でも許されるとでも思ってンのか?」

「━━ッ…そ、そうだよ。少なくとも今の彼女は『魔女』と呼ばれるだけの存在であると思うが?」

 

 

 ゼノヴィアは一瞬たじろぐ動作を見せるが、すぐさまいつものペースに戻る。

 

 

「『聖女』だからって友達いらねぇってのか? 『聖女』だからって誰かを愛したり、守っちゃあいけねぇのか? 冗談じゃねぇ……アーシアはれっきとした人間だ。人間なら…人間ならッ、最低限そのくらいの自由があってもいいじゃねえか!! それを縛り付けといて勝手なこと抜かしてんじゃねぇ!! アーシアはお前らの玩具じゃねぇんだよ!!」

 

 

 怒りを込めた声で畳み掛ける丈城。その覇気に二人は愚か、その場にいた全員が慄く。

 

 

「……君はアーシア・アルジェントにとっての何なのだ?」

「家族ッ、友人ッ、そして失いたくない仲間だァッ! そのフザけた考え方が通用しねぇことを証明してやるッ! 今すぐ表へ出ろォッ!!」

「「!? ジョジョ(さん)!?」」

 

 

 完全に怒りのメーターが振り切っている丈城は、ゼノヴィアとイリナに対しなんと決闘発言。いくら懐かしい幼馴染みであろうと、仲間を貶すとあらば話は別なのだ。

 

 

「いいだろう。だがいくら人間とて、容赦しない。

 アーシア・アルジェントの前に貴様を神の名の下に断罪してくれる!」

「まぁ…テメェが喧嘩を蹴っても俺は殺ると言ったら殺るつもりだがな……聖剣でこのジョジョを切れるモンならやってみろッ!」

 

 

 丈城の挑発に乗ったゼノヴィアは決闘を承諾。そして二人が外へ出て決闘を始めようと外へ出ようとした時だった。

 

 

 

「……ちょうどいい、僕も交ぜてもらっていいかな?」

 

 

 

 ゼノヴィアとイリナを睨み付けていた祐斗が割って入ってきたのだ。

 

 

「誰だ、キミは?」

「キミたちの先輩だよ。最も━━失敗だったそうだけどね」

 

 

 うっすらと憎悪が籠った笑みを浮かべる祐斗。直後…部屋中を埋め尽くすほどの魔剣の刃が飛び出した。

 

 

(←To Be continued…)

 




次回、ゼノヴィアに悲劇が!?


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第28話《テメーは俺を怒らせた…》

皆さんこんにちは、尾河です。

もうタイトルから大体察しがつくと思いますが、今回ゼノヴィアが酷い目に遭います。

それでは皆さん、第28話を読む前にゼノヴィアに向けて黙祷を捧げてからお読み下さい。



ゼノヴィア「私はまだ死んでいない!」



それではどうぞ。



 ……結論からいって、裕斗は負けた。

 

 場所はグラウンド。対戦カードは裕斗vsゼノヴィア、その後に丈城vsゼノヴィアという形で、余裕を見せるゼノヴィアが提案したもの。そんなこんなで因縁の対決から戦いは始まったわけなのだが、裕斗の動きは完全にゼノヴィアに見抜かれていた。なので開始早々彼女は優勢に立ち、勝利してしまった。

 

 因みに件の裕斗は止めの打ち込みで動くことが出来ず、再起不能(リタイア)という状態である。

 

 

「さぁ、次は貴様の番だ。兵藤丈城」

 

 

 介抱される裕斗を一瞥することなく、ゼノヴィアは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の切っ先を丈城に向ける。一方の彼はよっこらせと立ち上がり、ゼノヴィアの前に立つ。すると丈城は

 

 

「…イリナ、お前も来な。安心しろ、オメーのは弾く程度にしとく。本来ブチのめすのはあっこのスカタンだけだからな」

 

 

 なんとイリナに決闘に加わるように指名したのだ。

 

 

「えっ!? わ、私まで?」

「ジョジョ君は戦う時、その能力が故に『二人』に増えるんですよ」

 

 

 困惑するイリナに朱乃が助け船を出す。未だ頭に疑問符を浮かべるイリナは、とりあえず『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を取り出してゼノヴィアの隣に立つ。

 

 

「さてと…ブチかますぜ! ドライグ、出番だ!!」

Boost(ブースト)!』

 

 

 左拳を突き出して、丈城は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開。指をパキパキと鳴らして戦闘体制を整える。

 

 

「……『神滅具(ロンギヌス)』」

「それって、『赤龍帝の籠手』? こんな極東の地で赤い龍の帝王の力を宿した者に出会うなんて……」

 

 

 驚愕し、顔を強張らせる二人。改めて丈城の神器は非常に有名だということが見て取れる。

 と、ここで丈城が何かを思い出すかのように空を見上げた。そしてイリナに対し、こんなことを言い出す。

 

 

「…イリナ、覚えてるか? 俺らが幼稚園時代に一緒にヒーローごっこしたの」

「え? う、うん…。それがどうかしたの?」

「そん時の俺の配役は悪。そして『世界(ザ・ワールド)』っつー架空の能力を持っていたよな?」

「ジョジョ…君?」

「だけどな、この『世界』は架空の能力じゃねぇんだ」

「……何をごちゃごちゃと話している」

 

 

 痺れを切らしたゼノヴィアが苛立った口調で詰め寄るが、次の瞬間

 

 

(ドォォ━━━━━ン…)

「「ッ!?」」

 

 

 目の前にいた筈の丈城が、突如姿を消したのだ。

 

 

「ばっ、馬鹿な!? 一体何処に…ッ!」

「ま、何が言いたいかっつーと、『世界』って能力は」

「「!?」」

 

 

 直後に背後から丈城の声がかかり、驚いて後ろを振り返ると

 

 

「"実際に存在する、俺自身の能力"だったというワケだ……!!」ゴゴゴ…!

 

 

『世界』の能力で背後に回り込んだ丈城と『世界』がいた。

 

 

「ッ! いつの間に!!」

「もらったァッ!」

 

 

 驚愕した瞬間を逃さず、隙ありとばかりにファーストアタックを繰り出す丈城。しかしそれはゼノヴィアの聖剣で防がれてしまう。

 

 

「くっ、なんという威力……ッ! 貴様本当に人間か!?」

「ハハハ━━━━ッ! 人間も頑張りゃここまでいけんだよッ!!」

「……人間の域を越えた、ある意味の人外」

 

 

 小猫の痛いツッコミはさておき、的確に打撃を繰り出してゆくが、敵も去ることながら抜群の剣さばきで防いでゆく。しかもゼノヴィアの聖剣は『破壊の聖剣』。足元に聖剣を突き刺すと地響きが発生。大きな土煙が晴れたそこにはクレーターが出来ていた。

 

 いち早く察した丈城は時止めを使用して安全圏内へ避難。イリナも飛び上がって回避した。

 

 

「チッ、これが『破壊の聖剣』か!」

「もう! ゼノヴィアったら、突然地面を壊すんだもの! 土だらけだわ!」

 

 

 一進一退の攻防の中、次に動いたのは丈城だった。

 

 

「いい気になるんじゃねぇぜこの野郎!『世界』ッ! 時よ止まれェッ!!」ブゥン!

 

 

 再び時間停止を発動し、丈城はゼノヴィアの身体に拳を叩き込む。続けて距離を取り、制服のズボン裾に仕込んでいるナイフを取り出して彼女の周囲に投げつける。ナイフはゼノヴィアの数㎝手前で静止し、10秒が経過した。

 

 

「そして時は動き出す…!」ブゥン!

「! ガアアアァァァァッ!!」

「ゼノヴィア!?」

 

 

 ゼノヴィアは瞬時に周囲の環境に気付き、エクスカリバーでナイフを弾くが、全ては払えずに腕や脚にナイフが突き刺さる。

 

 

「イリナ…これが、『世界』だ……!」

「ジョジョ君…一体何をしたの!? それも『赤龍帝の籠手』の能力の1つだっていうの!?」

「『世界』は10秒間だけ時間を止める事が出来るのよ。その間は何をしようが彼の自由。まぁ『世界』を出した時点で、あなたの相方を本気で倒すつもりだってのは大体察しがついたわ」

「じ、時間を止める!? まさか二つの神器(セイクリッド・ギア)持ちってこと!?」

「NoNoNo! こいつはスタンド能力。本体の生体エネルギーが作り出したヴィジョンさ! お前ら二人は人外ではない。だから俺のスタンドは目視出来ん! どうあってもだ!」

 

 

 戸惑うイリナ。そして復活したゼノヴィアが指示を出す。

 

 

「イリナ! 感覚を研ぎ澄ませ! 殺気の飛ばし方さえ変えなければ、いくら敵の姿が見えずとも勝てる!!」

「え、ええ!」

 

 

 二本のエクスカリバーを構え、イリナとゼノヴィアは丈城の周りを取り囲む。

 

 

「妙な力で散々やってくれたな……だがそれもここまでだ! このエクスカリバーで浄化してくれる!」

「知ってる? そーゆーのをこの国じゃ『負けフラグ』っつーんだぜ。第一そんな剣如きでスタンドが戦くとでも? ハッ、何なら試してみろよ!この青カビ頭が!!」

「貴様ァァァァ━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 丈城の挑発に乗ったゼノヴィアは憤怒の表情で突貫。エクスカリバーもブゥゥンッと、彼女の怒りに呼応するかのようにオーラを発している。

 

 

 しかし、完全にこの場は丈城のペースに乗せられていた。

 

 

「今度は一味、違うぜッ! 『スパイス・ガール』ッ!」

 

 

 右に避けた丈城は『世界』を下げ、トリッシュ・ウナのスタンド『スパイス・ガール』を繰り出した。ゼノヴィアのエクスカリバーに狙いを定め、ラッシュを叩き込んだ。

 

 

WAAAAAAAANNABEEEEEEEEE(ワアアアアアナビィ━━━━━ッ)!!』

 

 

 しかし、『スパイス・ガール』の破壊力ではエクスカリバーを破壊出来ない。一旦距離を取り、丈城は体制を立て直す。

 

 

「その程度でエクスカリバーは砕けん!!」

「"砕く"? 今お前は"砕く"と言ったのかァ?」

「あぁ言ったさ。それがどうした?」

「違うね。俺はエクスカリバーを"壊す"ために殴ったんじゃない! "曲げる"ために殴ったんだよ!」

「!?」

 

 

 丈城はゼノヴィアに突貫すると、彼女の腹部を蹴り飛ばしてエクスカリバーを強奪。そして刃に触れないように掴むと、いきなり真ん中から折り曲げたのだ。

 

 

「ッ! え、エクスカリバーが!!」

 

 

 なんとエクスカリバーは、まるでアメ細工のようにぐにゃんとねじ曲がったのである。

 

 

「嘘…!? どうなってるの!?」

『『柔ラカイ』トイウ事ハ、『ダイヤモンド』ヨリモ壊レナイ!!』

「『スパイス・ガール』は物体を軟質化させる能力のスタンド。物体の機能はそのままに、その柔らかさは調整出来る。こんな風にな!!」

 

 

 丈城はさらにエクスカリバーをぐにゃぐにゃに変形させてゆく。あっという間にエクスカリバーは元の形を失い、スライムのような形状になってしまった。

 

 

「貴様……ッ! よくもエクスカリバーを!!」

 

 

 ここまでコケにされたゼノヴィアは怒り心頭。エクスカリバーを取り変そうと掴み掛かる。しかしあっさり避けられた上に背後をとられ、『赤龍帝の籠手』のフェイスクラッシャーの餌食に。

 

 

「う…っ、ぐぐっ…あっ」

「何勘違いしてんだテメー? テメーもさっき似たようなことしてたじゃねぇか。俺はそれを真似ただけだ。大事なダチをコケにされて、ただで帰れると思うなよ…?」

 

 

 怒りのあまりに無表情になる丈城。それに纏わせる殺気は、これまでの殺気とは比べ物にならない。『赤龍帝の籠手』にもより力がかかる。今にもゼノヴィアの頭を握り潰しかねない。

 

 

「クライマックスだ……くたばれこのスッタコがァァァ━━━━ッ!!」

 

 

 フェイスクラッシャーを解くと同時に、丈城はゼノヴィアの顔面に一発叩き込む。彼女は体育倉庫の方へブッ飛ばされ、しかも間髪入れず

 

 

「突っ切って…、ブチのめすァッ!!『クレイジーダイヤモンド』!!」

『ドララララララララララララララララララララッ!!』

 

 

 駆け出した丈城が追い討ちをかけて急接近。『クレイジーダイヤモンド』のラッシュを彼女の全身に食らわせる。これによってさらに速度が増し、体育倉庫に直撃した。

 

 

「ゼノヴィアッ!!」

「マズイわ…ジョジョ! もういいわ! やめて頂戴!!」

 

 

 リアも尋常じゃない空気を読んで丈城にレフェリーストップをかけようとするが、彼はスーパーサ○ヤ人の如く髪の毛が逆立ち、目は血走っている。しかもリアの言葉は全く耳に入っていない。止めをささんとばかりにザッ…ザッ…と近付いてゆく。

 

 

「ジョジョ君もうやめて! ゼノヴィアは戦える状態じゃないの! だからやめて! 降参するから!」

 

 

 イリナはエクスカリバーをしまって丈城に駆け寄る。前にまわって両肩を掴み、何とかして止めようとする。鬼気迫る丈城がこれで止まるのだろうか。……と

 

 

「…確かに、な」

 

 

 意外にも、あっさり止まった。

 

 

「ケガ人をブチのめすなんてあと味の悪い事だ。とっても男らしくねー事だな…心の痛む事だ……」

 

 

 慈愛に満ちた眼差しでイリナを見つめ、優しく手を払う。いつもの彼では考えられない事だった。

 

 

「……だと思ってよ、ヤローをすでに"治しといた"」

「「「「「え!?」」」」」

 

 

 その言葉を裏付けるように、体育倉庫に叩きつけられた筈のゼノヴィアが起き上がる。

 

 

「うぅ…こっ、これは……!?」

「動けるかい? 動けるだろ? ケガはすっかり治っただろ?」

 

 

 腕や脚の刺し傷、フェイスクラッシャーによるダメージ、そして顔面ワンパン&ラッシュ時のケガが、全て『クレイジーダイヤモンド』の能力で完治していたのだ。どうやらラッシュ最後の一撃が回復目的の打撃だったらしく、ついでにエクスカリバーもスライム状態から元の剣に戻っていた。

 

 

 リア達がほっと胸を撫で下ろす。だがイリナは…

 

 

「ジョ、ジョジョ君…?」

 

 

 一旦安堵したものの、丈城の顔が未だ殺気を纏うそれに気付いてしまったのだ。

 

 そして……その予感は的中することになる。

 

 

「…よかったなァ、元通りに完治して。でもよォ~、"裏を返す"とどうなんだろうなァ~?」

「……? 裏を、返す?」

 

 

 丈城はゆらりゆらりとゼノヴィアに近付いてゆく。

 

 

 

 

 

「そう……いったんオメーを治せばよォ~~ッ」

 

 

 

 

 

(!!)

 

 

 

 

 

「これで…全然卑怯じゃあねーわけだなァァ……!!」

 

 

 

 

 

「う…うわあああああァァァ━━━━━━━ッ!!」

 

 

 

 

 

 彼は許してなどいなかった。あくまでゼノヴィアを完治させた上で止めをさす算段だったのだ。再び『クレイジーダイヤモンド』のラッシュが容赦なく襲いかかり、ゼノヴィアの身体が宙を舞う。

 

 

『ドララララララララララララララララララララッ!! ドラァッ!!』

 

 

 ラストのアッパーがゼノヴィアの下顎にクリティカルヒットし、綺麗な弧を描いて地面に倒れ付した。これが決め手になってゼノヴィアは気絶。事実上の丈城の勝利だ。

 

 

「確かアーシアを断罪するとか何とか言ってたみたいだけどよ、断罪されるのは侮蔑したテメーのようだな。自業自得だぜ」

 

 

 丈城は前髪を掻き分けて彼女を一瞥した後、そう吐いてリア達の元へ戻ろうとする。

 

 

「イリナ、さっさとアイツを連れて帰りな。今回は多目に見てやるから」

「…わかったわ」

 

 

 ゼノヴィアの肩に手をかけ、イリナはこの場を去ろうとする。

 

 

 その去り際、彼女は気になる一言を発した。

 

 

「……ジョジョ君」

「何だ?」

「気を付けてね…『白い龍』は既に目覚めているよ」

「…忠告サンキューな」

 

 

 イリナの忠告、それはドライグと対をなす二天龍の一角・バニシングドラゴンの存在をほのめかすものだった……。

 

(←To Be continued…)

 




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第29話《聖剣破壊同好会》

 

『……まさか、あの優男が単独行動を取るとはな』

「余程エクスカリバーに負けたことが悔しかったんだろーよ。それこそ自分を救ってくれたリアを守ることよりもずっとな……」

 

 

 ゼノヴィアを噴上裕也のように再起不能(リタイア)にさせてから三日後、この日丈城はある用事のために早朝から町に繰り出していた。

 

 

 道中の二人の会話は裕斗のことについてである。

 ゼノヴィアに破れた裕斗は翌日から学園を無断欠席するようになった。気になったリアと朱乃は彼のマンションに赴いたのだが、部屋の中に彼はいなかった。連絡もつかず、現在位置も把握できない。

 

 この事から裕斗は再び復讐の念にかられ、とうとう単独行動をとったと予測された。この事態にリア達はどう動こうか対策を立てることになったのだが、ただ一人丈城だけは別の対策を立てていた。それが今現在外出している理由なのである。

 

 

『そういえばまだ詳しく聞いていなかったな。今度は一体何を企てているんだ?』

「まぁそんな大それたもんじゃねぇけどさ、ちょいとした手助けだよ。減速させるのが駄目ならとことん加速させてやろうかって話」

『失敗する未来しか見えんのだが……』

「ハハハッ、俺の脳内辞書に「失敗」「常識」「正攻法」なんて御託は存在しない!」

『それはそれで駄目だろ…』

 

 

 物騒な計画であることはともかく、丈城は出勤するサラリーマン達に紛れて駆王駅に向かう。

 

 

 

 その途中の出来事だった……彼女と出くわしたのは。

 

 

 

 

 

「逃ィげるんだよォォォ━━━━━━━ッ!!」

「……逃がしません」

 

 

 町の中を駆け抜けるスタンド使いと『戦車(ルーク)』。先程丈城がコンビニの角を曲がった時、偶然ジョギング中だった小猫とエンカウントしてしまったのだ。

 

 最初こそ理由をつけてはぐらかそうとしたが、小猫が職質並に追及してきたために段々しどろもどろに。こうなればと丈城は決断。十八番の逃走を選択した結果、上記のような鬼ごっこが開始されたのだった。両者が自動車よりも速く走っているように見えるのは錯覚だろうか。

 

 

 

 それから数分後、目的地の駅前にて。

 

 

「…それで、脅しまで使って俺を呼び出した理由って何なんだよ?」

「嫌だなァ、脅しなんて使ってないよォ~?」

「したろうが!! 『七時半に駅前に来ないと生徒会役員全員にスタンドで"ご挨拶"しに行く』って!! ご挨拶って絶対ロクな挨拶じゃねぇだろッ!!」

「『世界(ザ・ワールド)』と『キラークイーン』と『キングクリムゾン』と『スティッキィ・フィンガーズ』を引き連れるだけだよん」

「名前からしてヤバそうなスタンドばっかじゃねぇか!! というか『スティッキィ・フィンガーズ』は100%俺用だよね!? そうだよね!?」

 

 

 そこに現れたのは、シトリー眷属の『兵士(ポーン)』・匙元士郎だった。とあるルートで彼の住所と携帯番号を入手した丈城はいい協力者(?)と位置付け、呼び出したのである。

 

 

「うるせぇなァ、用件はかなりシンプルなんだぜ? ああでも発破かけないとお前来ないだろ」

「それはそうだけど…というか、何でこの娘まで」

「用件話したらついてきた」

「……いくら丈城先輩でも、お二人だけというのは心許ないです」

 

 

 二人の視線の先には、丈城の袖を持って立っている小猫が。どうやらあの鬼ごっこ後に丈城が白状したために、それに賛同してついてきたらしい。

 

 

「よし、ここでグダっても仕方がない。本題に入ろう」

 

 

 胸を張って咳払いをした丈城は、一拍置いてその理由を話した。

 

 

 

 

 

「エクスカリバー破壊を教会の使いから許可とって、俺達で黒幕の堕天使を蹴散らすんだ」

 

 

 彼の立てた対策の全貌。それは裕斗の想いを果たしてあげたいという丈城らしい考えであった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「嫌だァァァァ! 俺は死にたくないィィィィ!」

「こら首、騒ぐんじゃありません!」

「オメーが胴体から切り離したんだろーがァァッ!!」

 

 

 人通りが少ないルートを、泣き喚くサジの首を持ちながら丈城と胴体をひきずる小猫が歩いてゆく。

 

 

 理由を聞くや否や逃走を計ったサジはあっさり『隠者の紫(ハーミット・パープル)』によって捕縛。念のため彼の首と胴体を『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで切断し、連行する形となり今に至る。

 

 因みに少し前に小猫はこれを聞き、「……私も協力します。裕斗先輩のことですよね?」と口にして協力を申し出た。彼女もまた裕斗を救いたいと心の中で思っていたようだ。

 

 

「ジョジョォッ! なんで俺なんだ! お前ら眷属の問題だろう!? 俺はシトリー眷属だぞ! 関係ない! 関係ないだろォォォォォ!」

「まぁそう言うんじゃねぇよ。男で悪魔に通じてんのは学園内じゃ俺とお前と裕斗ぐらいだ。冷たいことは言い合いっこなしだぜ」

「ふざけるなァァ! 俺は協力なんて御免だァァッ! 殺される! 俺は会長に殺されるゥゥゥッ! リアス先輩はそりゃ厳しくて優しいだろう! でもな! うちの会長は厳しくて厳しいんだァッ!」

「リアか…そういや今日休みだし、まだ寝てる内に出てきちまったんだよなぁ。こりゃ最後俺もシバかれるかもわかんねぇ」

「……乙です」

 

 

 暫く歩いたところで、丈城が対策の詳細を話し始める。

 

 

「裕斗はかつて教会の忌々しい計画で唯一生き残った。同胞達は誰一人として助からず、その無念を晴らしたい一心からアイツはエクスカリバーを憎んでいる。一方の教会コンビは最悪エクスカリバーを破壊してでも取り返そうと躍起になってる。……この二つ、利害が一致してると思わねぇか?」

「……確かに。それで許可をとって裕斗先輩と合流し、聖剣奪還と破壊の二つを果たしてもらおう…ということですか?」

「Excitly(その通り)。でもこれはリア達に話しても100%拒否られる。それならば人間であり、三大勢力のいずれにも属さない俺だけが交渉に行けばいいんじゃないかってな。それなら首を縦に振る確率は高くなる」

「……三日前にボコボコにした当人が交渉に行っても怪しいと思いますけど」

 

 

 ここで言葉を切り、立ち止まった丈城は小猫とサジに目を向けた。

 

 

「アイツらがもしこれを承諾した場合、俺達は今まで以上に危険な戦いに身を投じることになる。仮にそうなったら…お前らだけでもいい。速攻で逃げろ。あとは俺のスタンドとアイツらだけで何とかするから」

「だったら今すぐ逃げさせろォォ! 最悪の展開じゃねぇか! エクスカリバー破壊なんて勝手な事をしたら会長に殺される! ぜってぇ拷問直行じゃねぇかァァッ!!」

 

 

 絶賛パニック状態のサジ。だがその喚きは次の一言で収まることになる。

 

 

「……逃げません。仲間のためですから…!」

「「!」」

 

 

 真剣な眼差しで小猫は反論した。その一言はサジを瞬時に黙らせることはおろか、丈城の心に深々と突き刺さる。

 

 

「…知らねぇぞ? どんな目に遭っても」

「……それでもです」

 

 

 念押しにも動じず、一切意志を曲げない小猫。彼女の心は既に覚悟が出来ている様だ。

 

 そうこうしている内に一行は駅前から離れた通りに辿り着いた。住宅街からも程近く、この時間帯は職場に向かうサラリーマンやOLを多く見かける。丈城曰く、ここが本来の目的地なのだそう。

 

 

「…とりあえず付き合うからさ、そろそろ首を繋げてくれないか? さっきから息苦しいんだよ」

「わかった。ソーニャにメールで『サヨナラ』告げられた後に包丁でメッタ刺しにされないようにな」

「やめてくれマジでそんな未来になりかねないから」

「……そして首を切断されて、それを抱えた会長がボートの上で笑うんですね、わかります」

「やめて!!」

 

 

 どこのスクー○デ○ズだ。

 

 

「ところで、本当にここが目的地なのか? 見たところ店も殆ど閉まってるし…出勤する人達しかいねぇぞ」

「エウリアンっつーのかな。ここら近辺に聖人の下手くそ絵画を売り付ける詐欺師が度々出没するんだと。教会コンビの一人は中々信心深い奴だったし、それに引っ掛かって物乞いでもしてねーかなと」

「いやいやいや…いくらなんでも探し方がアバウトすぎるだろ」

 

 

 あまりにも適当過ぎる探し方に嘆息する二人。そしてサジが「ここにその二人がいてそうしていたなら信じるけどさ…」と続けた時だった。

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をォォォォ!」

((いたー…))

 

 

 三人の立つ位置から100m離れた電柱のそば。通行人が奇異な視線を向けるその先に彼女らはいた。目立つ白ローブに緑メッシュ、そして治療の跡がある青髪の女性。そして隣には栗毛ツインテール。正しくゼノヴィアとイリナだった。その足元には丈城の予想通り絵画が。

 

 

「なんてことだ。これが超先進国であり経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

「毒づかないでゼノヴィア。路銀の尽きた私たちはこうやって、異教徒どもの慈悲なしでは食事も摂れないのよ? ああ、パンひとつさえ買えない私たち!」

「ふん。もとはといえば、お前が詐欺まがいのその変な絵画を購入するからだ」

「何を言うの! この絵には聖なるお方が描かれているのよ! 展示会の関係者もそんな事を言っていたわ!」

 

 

 …とまぁ、醜い争いを展開する二人。見ている分には面白いのだが、これでも当人達は真剣なのである。

 

 

 

 だが、その言い合いに招かれざる乱入者が現れる。

 

 

 

 

 

「君達、お腹が減っているのかい? なら僕が何とかしてあげよう」

 

 

 

 

 

 何処からともなく聞こえてくる、某あんパンなヒーローの声。その内容を聞いた途端に言い合いがストップし、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

 

「い、今の声は…!? まさか…神が迷える私たちに恩恵を!?」

「ああ、神よ! どうか私たちにお恵…み……を?」

 

 

 これを神の声と判断した二人は祈りを捧げる。しかし信心深いイリナが祈るために上を向いた瞬間、彼女の目にその神の姿が映った。が、その正体は……

 

 

 

 

 

「フッフフ…フハハハハハハハ……アハハハ!!」ニタァ…

「あぁ…ああぁ……っ!」

 

 

 いつの間にか電柱に登り、逆さまで見下ろす存在。それは正しく、「玩具を見つけた悪魔がいた」。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「なっ、俺の言った通り引っ掛かったろ?」

「あ、あぁ…」

 

 

 教会コンビを発見した彼らは現在ファミレスにいる。丈城の予想通り二人は有り金全てをぼったくられたらしく、硬貨一枚すら持っていなかった。

 とりあえず丈城は交渉材料として二人に食事を奢ることにした。しかもお一人様2500円までという制限つき。これには二人も食い下がったが、目の前で灰皿を握りつぶして元に戻してやると一瞬で押し黙った。

 

 

「ふぅー、落ち着いた。キミたち悪魔に救われるとは、世も末だな」

「スミマセン、アタクシ人間ですけれど」

「「心は悪魔だろ(です)」」

「解せぬ…」

「はふぅー、ご馳走さまでした。ああ、主よ。心優しき悪魔達にご慈悲を」

 

 

 一通り食べ終えた二人は皮肉染みた事を口にする。そしてイリナが胸の前で十字をきったその時、小猫と匙が突如頭を手で押さえた。目の前で十字をきられた影響らしい。

 

 

「あー、ゴメンなさい。つい十字をきってしまったわ」

「これがわざとだったらタチが悪ィよ」

「で、私たちに接触した理由は?」

 

 

 ゼノヴィアに切り出され、丈城は「あぁ、そうだったな」と言った具合に話す。

 

 

「…エクスカリバーの破壊。それに協力させて頂きたい」

「「!?」」

「念のため言っとくが俺は『人間』だ。人間なら、お前らが拒む種族には属さないだろ?」

 

 

 この申し出に二人は驚いた。つい三日前まで敵意剥き出しだった人間が急に態度を変えて協力を要請してきたのである。目を丸くさせるのも無理はない。

 

 

 そんな異様な空気の中、ゼノヴィアの出した答えは…

 

 

「そうだな。一本ぐらい任せてもいいだろう。ただし、そちらの正体がバレないようにしてくれ。いくら人間とは言え、悪魔とパイプが繋がっている人物との関わりを持っているように、上にも敵にも思われたくはない」

 

 

 なんとYESだった。

 

 

「ちょっとゼノヴィア、いいの? 確かにジョジョ君は人間だけれど、悪魔と契約を交わしているのよ?」

「イリナ、正直言って私達二人だけでは三本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」

「それはわかるわ。でも!」

「それだけじゃない。彼は人間の身でありながらエクスカリバーを意図も容易く変質させた。彼の持つ未知なる力ならば、十分エクスカリバーに対抗できる。それに…」

 

 

 言葉を切ったゼノヴィアは丈城に視線を向ける。

 

 

「最後に私を殴った時に使用したあの能力。怪我もエクスカリバーも修復できるのなら、今回の作戦において非常に心強い存在だ。こちらからも協力を願いたい」

「ゼノヴィア…」

 

 

 丈城の申し出を受諾したゼノヴィア。これまた先日とは違った心情の変化である。

 

 

「……グレートだぜ…ゼノヴィア! 交渉成立だな」

「ああ。それともう一つ、君の左手に宿るドラゴンの力。まさかこんな極東の島国で赤龍帝と出会えるとは思わなかった。感じるオーラからはかなりの実力と言える。伝説の通りなら、その力を最大に高めれば魔王並になれるんだろう? 君なら二つの意味合いでエクスカリバーに太刀打ち出来る。この出会いも主のお導きと見るべきだね」

 

 

 お互い身を乗り出して握手を交わす。イリナも抗議の言葉を繋ぎたかったようだが、タイミングを逃したのか、下手な真似をすればスタンド能力で強制的に黙らされると判断したのか、渋々承知した。

 

 

「ベネ(よし)。とりあえず俺からはドライグとスタンドの力を貸す。それともう一人、協力者がいるからちょっと待っててくれ。すぐ呼び出してみるわ」

 

 

 うまくいったと判断した丈城は次のステップに移る。そしてスマホのリダイヤルから、ある人物にコンタクトをとった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……話はわかったよ」

「悪りィな、裕斗。ああでも言わねぇと動かないと思ってな」

「また脅したのかよ……仲間でも容赦ねぇなオイ」

 

 

 嘆息してコーヒーに口をつける人物。丈城がリダイヤルした人物はやはり裕斗だった。

 元々丈城の作戦の真の目的は裕斗の想いを晴らすため。それに当人がいなかったら話にならない。そこで第二段階として行方知れずの彼を呼び出したのである。大方来なければスタンドで無理矢理探しだして連行する的なことで釣ったのだろう。

 

 

「正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」

「随分な言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で切り捨てているところだ」

「ハイハイ早くも内部分裂しない。ここはあくまでも話し合いの場。喧嘩させるために呼んだつもりはねーぞ」

 

 

 険悪な空気を何とか沈めようととする丈城。とりあえず話を振って話題を変えることに。

 

 

「そういや教会側で聖剣計画の事が露見されたとき、やっぱ責任者的な奴は首を切られたのか?」

「勿論だ。その事件は私達の中でも最大級に、今でも嫌悪されている。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印が押された。今では堕天使側の住人だろう」

「つまりは、そいつが今回裕斗が斬るべき仇ってか…。で、そいつの名は?」

「━━━バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

「……堕天使を追えば、その者に辿り着くのかな」

「みてーだな」

 

 

 すると裕斗もこんな情報を教えてくれた。

 

 

「僕も情報を提供した方がいいようだね。先日エクスカリバーを持った者に襲撃された。その際、神父を一人殺害していたよ。やられたのはそちらの者だろうね」

「「「「「!」」」」」

「相手はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」

「なるほど、奴か」

「フリード・セルゼン…元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳でエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」

「だが奴はあまりにやりすぎた。同胞すらも手にかけたのだからね。フリードには信仰心なんてものは最初から無かった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。そして異常なまでの戦闘執着。異端にかけられるのも時間の問題だった」

「奴は片目に眼帯していたから、間違いはない。その傷は他ならぬジョジョがつけたものだからね」

「どういうことだ?」

「以前俺達が担当した堕天使グループの計画に奴が荷担していたんだ。堕天使共の根城を強襲した時、俺は奴の左目を撃ち抜いたんだが……やっぱ失明してたんだな、アイツ」

「まぁいい。とりあえず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう」

 

 

 そう言うなりゼノヴィアはメモとペンをテーブルの上に出して、連絡先を丈城達に寄越す。

 

 

「何かあったらそこへ連絡をくれ」

「サンキュ。んじゃ俺の方h」

「ジョジョ君の携帯番号はおばさまから頂いているわ」

「What!?」

 

 

 どこまでも用意周到な母だった。

 

 

「では、そういうことで。食事の礼、いつかするぞ。赤龍帝の兵藤丈城━━ジョジョ」

「食事ありがとうね、ジョジョくん! また奢ってね! 悪魔と繋がりはあるけれど、ジョジョ奢りならアリだと主も許してくれるはずだわ! ご飯ならOKなのよ!」

 

 

 二人はファミレスを出て、何処へと去ってゆく。何とか丈城の交渉は無事成功。ピリピリした空気から解放された一同は肩の力が抜けてホッとしている。

 

 

 そんな中、たれぱ○だの如くテーブルに突っ伏す丈城に、裕斗がこう尋ねた。

 

 

「……ジョジョ君。どうして、こんなことを?」

「…お前、一人で全部背負い込み過ぎ。何のための眷属、何のための仲間だと思ってるんだ?」

「……………………」

「たった一人でどうにかなる場合だってある。でもそれはごく限られた話だ。わかってるのか? 首謀者は聖書に記された堕天使。お前一人で敵う相手じゃない」

 

 

 ゆっくりと上半身を起こし、丈城は続ける。

 

 

「誰か一人でも欠けたら、それこそリアが悲しむ。だったら一人死んで帰るよりも全員大怪我負って帰る方がまだいい。少し主や仲間に頼るという選択肢を頭に入れとけ」

「……裕斗先輩。私は先輩がいなくなるのは……寂しいです。お手伝いします。だから……いなくならないで」

 

 

 小猫も裕斗の袖を掴んで目元を潤ませる。これが決め手となり、ようやく彼の表情に柔和の色が見えた。

 

 

「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら僕も無茶はできないよ。…わかった。今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。ジョジョ君のお陰で仇敵も判明した。でも、やるからには絶対に…エクスカリバーを倒す!」

「たーりめーだ! 聖剣よりも俺達が格上だということを証明してやろうぜ! 歪んだエクスカリバーを作ろうとしたそのバルパーって奴に!!」

(やる前からジョジョ君のワンサイドゲームになるね…とは、言わないでおこう)

 

 

 殺る気満々の丈城を見て遠い目になる裕斗。彼にはやるといったら殺るという凄味があるということを知っていたからだった。

 

 

 と、その時

 

 

「……あの、俺も? というか、結構俺って蚊帳の外なんだけどさ……。結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」

 

 

 すっかり空気ちゃんになっていたサジが挙手をして質問を投げ掛けた。確かに彼は今回の事件の詳細はおろか、裕斗が何故この件に深く関わっているのか全く知らない。そう思うのも無理はないだろう。

 

 

「……少し、話そうか」

 

 

 そして、裕斗の口から語られたのはあまりにも悲惨な記憶だった。

 

 

 人工的に聖剣適合者を作り出す非人道的な実験の日々。

 

 

 適合できなかったというだけで殺されていった同志達。

 

 

 夢を持った者達の未来を奪った、神へ仕える者達への憎しみ。

 

 

 

「……同志たちの、無念を晴らしたい。いや彼らの…死を無駄にしたくないんだ。僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはならないんだ…」

(予想はしていたが…こいつもこいつで凄げぇ道を通ってきたんだな)

 

 

 丈城は思った。以前リアは復讐以外の目的で剣を振るって欲しいと話してくれた。しかしそれは10割とまではいかないが、無理があるのではないかと。自分一人だけが生き残り、自分よりも遥かに夢や未来を多く持つ同志達が誰一人として生き残ることが出来なかった。そんな罪悪感がある限り、復讐以外で戦うのはあまりにも難しい。これが丈城だったら真っ先に「だが断る!」と言い放って仇を探しだすだろう。

 

 

 で、聞いてきたサジ本人はというと……

 

 

 

「うぅぅぅ……」

 

 

 

 周りがドン引きする程号泣していた。しかもガシッと裕斗の手を掴んだかと思えば

 

 

「木場! 辛かっただろう! キツかっただろう! 畜生! この世に神も仏もないもんだぜ! 俺はなぁぁぁぁ、いま非常にお前に同情している! ああ、酷い話さ! その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由もわかる! わかるぞ!」

 

 

 てな事を口にした。共感して感動してくれていることはわかるが、これは少々アバウト過ぎると思うのは錯覚だろうか。

 

 

「…まぁサジのリアクションはともかく、とりあえず満場一致だな。わかってるけど、リアやソーニャに感づかれれば一瞬で瓦解しちまう。そうなる前に作戦を遂行するのが絶対条件だ。皆、心してかかってくれ!」

「うん」

「……了解です」

「おうッ!!」

 

 

 

 丈城の締めくくりにより、この場の話し合いはひとまず閉幕した。これ以降は携帯でのやり取り等で連絡をとることになる。

 

 

 聖剣破壊同好会、結成の瞬間だった。

 

 

(←To Be continued…)




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外伝その①《スターダストクルセイダーズ》

お久し振り、尾河です。

以前から「『ゴールド・E・レクイエム』は出るのか? 『牙』の進化はどうするのか?」といったコメントが多数寄せられましたので、本編の伏線も兼ねてこの外伝を執筆させていただきました。例えるならジョジョASBの第8部戦のジョジョリオンのような感じです。

それでは本作外伝、開幕です。



 ━━━━━━━━━1980年。日本からエジプトのカイロ。

 

 100年ぶりに復活した吸血鬼・DIOの影響で倒れた母ホリィを救うべく、ジョースターの血を継ぐ高校生『空条承太郎』は、祖父のジョセフとアヴドゥル、花京院やポルナレフ、イギーらと共にエジプトのカイロへ向かう旅に出た。

 

 向かい風の如く襲いかかる敵スタンド使い。そして仲間達の尊い犠牲を乗り越え、承太郎は遂にDIOとの決戦に臨む。

 

 途中DIOはジョセフの血を得てパワーアップを果たすが、承太郎が起死回生の時止めを発動し形勢逆転。カイロの陸橋でDIOを葬り、長年に渡るジョースター家とDIOとの因縁に決着をつけたのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「さってと、さっさと帰って飯でも食うか」

 

 

 駆王町最強のスタンド使い・兵藤丈城。この日はオカ研の部活はなく、一人寄り道をして帰路についていた。

 

 時刻は夕暮れ。日は大きく傾き、反対からは夕闇が迫ってきている。寄り道は高校生の華。特に宛もなく本屋やゲーセンに立ち寄って遊んだ帰りである。

 

 

(この世界に転生してからもう17年か…。色々とあったが、皆がいるから楽しく感じるぜ)

 

 

 何気なくそんな感慨に耽っていると、丈城はあることに気付いた。

 

 沈み行く夕日をバックに、こちらに背を向けて立つ人影。丈城のいる位置からでもわかる程、立っている人物は身長が高くガタイがいい。丈の長い学ランに学生帽を着用していることから、恐らく学生なのだろう。

 

 

(? ここいらじゃ見ない制服だな。中学生にしてはデカイし、見たところ190cmはあるぞ……)

 

 

 丈城が怪訝に思っていると、目の前の学生は視線に気付いたようにこちらへ振り返った。

 

 ズボンのポケットに手を突っ込んだ立ち振舞い。学生帽に輝く掌底を象ったバッジ。そしてあらゆる者を怯ませる冷徹かつ熱意のある眼差し……

 

 

「ッ!? アッ、アンタは……ッ!!」

 

 

 その姿に、丈城は動揺した。それもその筈、なにせ目の前にいた学生は"この世界にいる筈のない人物"。

 

 

 かつて悪の帝王・DIOを葬り、史上最強と呼ばれるスタンド『星の白金(スタープラチナ)』の本体・空条承太郎だったのだ。

 

 

(嘘だろ…!? だってこの世界にはジョジョ関係は俺以外存在しないし知らない筈! いくら激似だからって、体格も立ち振舞いも一緒ってのはそうそうねぇぞ!?)

 

 

 元々空条承太郎は丈城が転生前に読み耽っていた『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物。つまり空想の産物なのだ。それなのに目の前にいるのはそのままのご本人。本来あり得ない事なのである。すると

 

 

「…………オイ、そこのテメー」

 

 

 低い小野○輔ボイスで、承太郎は丈城に声をかけた。

 

 

「……?」

「テメー、DIOの手下か? 高校生なんかに化けやがって…」

「はっ? ディ、DIOの手下ァ? 俺がかよ?」

 

 

 しかし発せられた言葉はあまりにも突拍子のないことだった。丈城は勿論DIOの手下(というかDIO本人?)ではないので、『俺ェ?』といった具合に聞き返す。

 

 だが承太郎はフンと鼻を鳴らすと、

 

 

「変装したつもりだろーが、殺気が隠しきれてないぜ。…さぁ、テメーのスタンドを出しな」

 

 

 一歩前に出て、さらに両眼に鋭さを増した。何故か丈城との会話が成り立っていない。承太郎はそこまで話の通用しない人物ではなかった筈だが…。焦った丈城は直ぐ様待ったをかける。

 

 

「オイオイオイ!? ちょっと待てよ承太郎さん! いきなり何言い出してんだアンタは! 俺は…」

 

 

 しかし

 

 

『オラァッ!』

「!?」

 

 

 前フリもなく繰り出された攻撃に阻まれてしまう。間一髪『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開してガードしたので事なきを得たが、防いだ掌にジーンと痛みが残る。

 

 

「くぅ…っ! いっつぇぇ……」

「ウダウダ訳わかんねーこと抜かしてんじゃねぇぜ。テメーから来ねぇなら、こっちから仕掛けさせてもらうぜ」

 

 

 承太郎の隣に立つヴィジョン。それは丈城がよく使っている主力スタンド『星の白金』だった。このスタンドを持っているということはやはり、目の前にいるのは本物。他人のそら似ではない。

 

 

(今の威力…俺の『星の白金』よりもパワーに満ち溢れているッ! これを食らい続けるのはさすがにマズイ!)

 

 

 危険を察知した丈城は瞬時に判断。避けられない戦闘と見た彼は、痛みが響く手を軽く振った後、いつもの殺気と立ち振舞いで対峙した。

 

 

「…俺がDIOの手下かどうかはともかく、いくらアンタであろーと…『星の白金』の承太郎だろーと…ッ、殺り合うってんなら容赦しねぇぜ!!」

「フッ、化けの皮が剥がれたか。そんじゃあ力ずくでぶちのめしてやるぜ…!」

 

 

 目の前の承太郎も、お決まりの学生帽のつばをシュッと撫でて戦闘体勢へ突入。これから始まるであろう未知なる戦いに、流石の丈城も言い知れぬ緊張を感じていた。その額に汗が滲む。

 

 

「行くぜ、『星の白金』ッ!!」

「あぶッ!?」

 

 

 先に動いたのは承太郎だった。一気に間合いを詰め、丈城に『星の白金』の一撃を叩き込もうとする。しかし反射神経が優れている丈城も負けてはいない。0,1秒の差で回避し、カウンターの左ストレートを『星の白金』の顔面に叩きつけた。

 

 

「オラァッ!!」バゴンッ!

「ぐっ…!」

 

 

 承太郎の鼻から血が出、口を切ったのか口元から赤い滴が垂れる。その勢いで丈城はコンボを決めようとするが、それよりも速く『星の白金』のサッカーキックが丈城の脇腹にヒット。

 

 

『オラァッ!』

「ゲフアァッ!?」

 

 

 威力は凄まじく、丈城は電柱の上部まで吹っ飛ばされる。さらに承太郎は落ちてくる丈城の体目掛けて、オリジナルの『オラオララッシュ』をお見舞い。丈城はきりもみ状態で地面に叩きつけられた。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

「うわァァァァ━━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 ゴロゴロと転がりながら血反吐を吐く丈城。尋常じゃない激痛に苦しみながら、彼は一方でこんなことを考えていた。

 

 

(流石オリジナル…申し分ねぇ威力だ。だがまず解明しなくちゃならないことがある……あの『星の白金』が"時を止められるかどうか"だ! DIOとの決戦では最大5秒止めていた…この承太郎さんがもし『スタープラチナ・ザ・ワールド』が使えるのなら、対抗するスタンドは限られる!!)

 

 

 承太郎は決戦時に新たな能力『スタープラチナ・ザ・ワールド』を発現している。仮にその"全盛期"の状態で対峙しているのなら、最後の最後で使用される可能性が高い。並大抵のスタンドでは歯が立たないのは明白である。

 

 

(こうなりゃ道はただひとつ! 『星の白金』と同じタイプのスタンドで対抗するっきゃねぇ!)

 

 

 決意を固めた丈城は立ち上がり、大きく叫んだ。

 

 

「甘く見ていた……だが、反省した俺は強いぜッ! 『世界(ザ・ワールド)』ォッ!!」

 

 

 バシンッと掌に拳を打ちつけて気合いを入れると同時に、丈城は背後に宿敵DIOのスタンド『世界』を出現させる。それを見た承太郎は目を細め、驚きながらもこう呟いた。

 

 

「!…コイツ、なんでDIOと同じスタンドを…!?」

(! まさか!)

 

 

 その一言を丈城は聞き逃さなかった。そして理解した。そう、この承太郎は『スタープラチナ・ザ・ワールド』が使用できるのである。

 使うスタンドも『世界』で決まった。ここからの勝負はたった1秒が命運を分ける戦いとなる。

 

 

「…さぁ承太郎さん、第二ラウンドだ。アンタと俺、どっちの時止めが強ぇかの勝負だッ! 俺の覚悟はッ、既に決まっている!!」

「…面白ェ。ヤローと同じスタンドの上に、時止めまで出来るとは……しかも『スタープラチナ・ザ・ワールド』まで知っているなんてな。やれやれ、ヤローが二人いるようで気分が悪いぜ」

 

 

 首を横に振って、承太郎は丈城の『世界』を忌々しく睨み付ける。

 

 異様な対峙の中、先に仕掛けたのは丈城だった。

 

 

WooooRYAAAAAA━━━━━━━━━ッ(ウォォリヤアァァァァァ━━━━━━ッ)!」

 

 

 姿勢を低くして、彼は懐に潜り込もうと突貫する。承太郎も身構えて『星の白金』を前に出し、丈城を迎え撃つ体勢を整える。

 

 詰められる距離。それが2mを切った時だった。

 

 

「『世界』ッ! 時よ止まれェッ!」ブゥン!

(!? ここで時を止めるだと!?)

 

 

 何を思ったのか、突然丈城が『世界』の時止めを発動したのだ。これには流石に承太郎も不意を突かれ、たちまち動きを止められてしまった。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』

 

 

 なす術無い承太郎は『世界』の無駄無駄ラッシュを延々と食らい続ける。そして同時に燃え上がる、丈城への闘志。ここまでやってくれるのなら面白い。こっちもそれそうなりのお返しをくれてやる…! 承太郎はそう決めて、考えるのをやめた。

 

 

(7秒…経過……!!)

(あと2秒か…承太郎さん、アンタの動きは大体把握できてんだ。さぁ使ってみやがれ…『スタープラチナ・ザ・ワールド』をッ!)

 

 

 丈城も丈城で、何かを狙っている様子らしい。

 

 

 時止めから9秒経過した頃だった。

 

 

(ガシッ!)

「!!」

「ふぅ、やれやれ…随分とやってくれたじゃねーか。ヤローと同じで、10秒くらいしか時を止められないらしいな。だから9秒を過ぎた辺りで……『俺が時を止めた』」

 

 

 丈城の動きが段々と抑制され、ラッシュのスピードが衰えてきた。と同時に『星の白金』が『世界』の突き出した拳を受け止める。その肩口から、眼光の鋭さを増した承太郎の顔が覗きこんだ。

 

 

「そして…『お前は動きを止められた』。テメーの正体が何であれ、ここまでされて礼の1つでもしてやらんと失礼だからな。……キッチリお返しをさせてもらうぜ!」

 

 

 刹那、丈城の顔面に『星の白金』の拳が入った。その勢いでラッシュに突入。全身にさっきの2倍くらいの力が込められた拳が容赦なく彼の体を打ちつけてゆく。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

「ッ…………!!」

 

 

 口が切れて血を吹き出そうと、鼻血が垂れようと、尚丈城は耐え続けた。悲鳴を一切上げずに。それを見た承太郎は我慢強いヤローだと内心呆れていた。

 

 

 

 しかし……承太郎は気付いていなかった。

 

 

 

 ラッシュのせいで表情が全く見えないが、"丈城がほくそ笑んでいることに"。

 

 

 

 その笑みの意味が判明したのは、『スタープラチナ・ザ・ワールド』のリミットがもう残り1秒という時だった。

 

 

「そして、"時は…!」

 

 

 ラッシュを切り上げた承太郎が背を向け、時止めを解除しようとした瞬間である。まるで金縛りにでもあったように体が硬直し始め、承太郎の体が動かなくなってまったのだ。一体何が? 承太郎がこの異常現象に疑念を抱いたまさにその時

 

 

 

 

 

 

「…動き出す"ってか? 残念、まだ時は止まったままさ」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 背後から、動けない筈の丈城の声が響く。さらに後ろを振り向けない承太郎に向けて、彼の声はどんどん近づいてくる。

 

 

「全く…いくらなんでもやり過ぎじゃねぇのかよ? ギリギリで『黄の節制(イエロー・テンパランス)』を纏って防御層を展開したのはいいけど、アンタ絶対千発以上殴ったろ。お陰でちょっとダメージ食らっちまったぜ……」

「……っぜ、何故…だ…!?」

「簡単な話さ。どうせアンタはDIOと同じで、俺が10秒しか止められないって判断した。まぁ実際そうだから否定はしないケド。そんで俺はアンタのその思い込みを突かせてもらったんだ。フツー考えられないよな? "10秒間止めたと見せ掛けて、実は20秒間止められるようになっていた"なんてな!!」

「!?」

 

 

 そう。丈城は自身の神器の能力『赤龍帝からの贈り物』を使って、密かに『世界』に倍化の力を譲渡していたのだ。それにより時止めの力が上がり、二倍の時間を止められるようになっていたのだ。しかしこのチャンスは一度きり。確実に承太郎の虚を突くには、彼に勝ったと思い込ませること。そのために9秒の段階で動けない演技で彼の目を欺き、恐らく使うであろう切り札『スタープラチナ・ザ・ワールド』を待っていたのである。

 

 

「二度目のラッシュを食らうことも、ダメージを食うのも、全て計算の内に入れていた。アンタの『星の白金』は最大で5秒間止められる。この5秒さえ耐え抜けば、チャンスは必ずこの俺に味方してくれる! そしてやってきた…この俺のチャンスがな!!」

 

 

 承太郎の肩がグイッと掴まれ、強制的に反対を向かされる。彼の目には自分以上に闘志をみなぎらせ、『赤龍帝の籠手』を展開した丈城と、赤いオーラを纏う『世界』が。

 

 

「16秒経過…ッ! 残り数秒でアンタにありったけの拳をぶちこんでやる!! このチャンスだけはッ、ぜってェ逃さねェェェ━━━━━━━ッッ!」

 

 

 見事反撃のチャンスを掴み取った丈城は気合いを入れ直し、まずは『世界』と共に承太郎のどてっ腹に強烈な左フックを叩きつけた。

 

 

「!? グフッ!!」

「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ━━━━━ッ!!』」

 

 

 残り数秒という間に、W無駄無駄ラッシュが承太郎に襲い掛かる。動けない承太郎は反撃なんぞできずに食らい続け、直後

 

 

「そして時はッ、動き出す!!」ブゥン!

「うおあああぁぁぁぁ━━━━━━━━ッ!!」

 

 

 制限時間が経ち、時が再び始動。丈城は承太郎に背を向けて拳を握り締めるモーションをとり、承太郎は吹っ飛ばされてその先の民家の塀に叩きつけられた。

 

 

 夕日をバックに振り返り、『世界』と『赤龍帝の籠手』を戻した丈城は静かな声で、塀に突っ込んだ承太郎にこう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

「……言った筈だぜ、承太郎さん。"反省した俺は、強いぜ"って…」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「オイ! しっかりしろよ承太郎さん! アンタにはまだ聞きたいことがたっくさんあるんだよ! 目ェ覚ませって!」

 

 

 奇妙な戦闘を終えた丈城。彼は心に滞っていた疑念をぶつけるべく、承太郎の元へ歩み寄った。コンクリートの粉塵の中に彼を見つけ、丈城は軽く粉塵を払って承太郎の前にしゃがみこむ。

 

 承太郎は至る所から流血し、学ランはボロボロ。それだけならまだ動けるのは理解できる。しかし……ピクリとも動かないのだ。瞬きもせずに。

 

 不振に思った丈城が先程から声をかけているのだが、全く反応しない。目も虚ろで焦点も定まっていない。まるで糸が切れたマリオネットの如く。

 

 

(どういうことだ!? さっきまで殺る気満々だった人間がこんな180度も変貌するか!? まさかさっきの無駄無駄ラッシュでイカれちまったのか…? いやいやいや! 承太郎さんに限ってそれはない! ましてやDIOとの決戦後なら尚更だ! ナイフ投擲にもロードローラーにも耐え切ったんだから!!)

 

 

 何故何故と考えている内に、ふと丈城は思った。あまりにも根本的な疑問だったが、そう思わざるを得ない事。それは……

 

 

(待てよ…? 承太郎さんにしちゃ不審な点が多すぎる。なんでこの世界に二次元の、存在しない筈の人間がイキナリ現れたんだ…? いやそれよりも…"この人は本当に承太郎さんなのか"……!?)

 

 

 確かに戦闘時、オリジナルさながらの立ち回りやパワーを誇っていた。しかし冒頭で彼は丈城を「DIOの手下」と決めつけて襲いかかっている。しかもよくよく考えれば、DIOとの勝負だというのならどうして丈城の事を手下と判断したのだろうか。彼のどこにそんな証拠があったのだろうか。あまりにもこじつけすぎて疑わざるを得ない。

 

 

 奇妙な、この承太郎らしき男。とにかく事情を聞き出す必要があると踏んだ丈城は一旦彼の傷を治そうとする。

 

 だがその時だった。

 

 

「ッ!? こっ、これはッ!!」

 

 

 姿勢を変えた丈城の視界に、黒っぽくボヤけた粒子がいくつも映る。見ると、なんと承太郎らしき男の足が粒子を発しながらどんどん消えてゆくではないか。

 

 

「(マズイ! このまま放っておいたら消滅しちまう! 早く起こさないと!)オイコラ! 呑気に明日の無い眠りにつこうとしてんじゃねぇッ! 起きやがれ!!」

 

 

 焦った丈城は往復ビンタや首をぐわんぐわんと揺さぶるが、結果は同じ。そうこうしている内に今度は両手からも粒子が出始め、消えてゆく。

 何か手はないか。頭の中で思考を巡らせる丈城は暫く考え、やがてある策を思いつく。

 

 

「(仕方ねぇ、これだ!)『ホワイト・スネイク』! この男からDISCを回収しろォッ!!」

 

 

 この男の消滅は恐らく止められない。ならせめて彼の持つ記憶だけでも手掛かりとして手に入れておかなくては。そう結論づけた丈城はエンリコ・プッチのスタンド『ホワイト・スネイク』を使い、彼の記憶をDISCに変えて回収した。

 DISCからは粒子が出ないため、消滅はしないらしい。だが身体の方は消滅の進行が早まり、結局全て粒子になって消えてしまった。

 

 

 何とも言えぬ空気と違和感を感じつつも、丈城は『ホワイト・スネイク』からDISCを受けとる。

 

 

『DISCヲ回収致シマシタ。ドウゾ…』

「あぁ…ありがとう」

 

 

 DISCに映るのは承太郎の姿。果たして本当に彼は空条承太郎"だったのか"? それとも……

 

 

「……何かが起こる前兆、もしくは既に…何かが起こり始めているってのか……?」

 

 

 丈城が今、一つだけわかること。それはまたこの街で何かが起こるかもしれないということだけだった。

 

 

(←To Be continued…)




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第30話《接触、狂気のFather》

初投稿してから早一年が過ぎ、お気に入り件数が500になりました! 読者の皆々様方、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

さて今回から原作三巻のクライマックスへ突入致します。多少オリジナル成分を含みますので、その辺りは予めご了承下さい。


それでは第30話、スタートです。



 連中の手掛かりを得る方法。そこで丈城が打ち出した作戦はこうである。

 

 

「人通りの少ない場所を中心に、あえて聖職者姿で彷徨く。これを繰り返して連中が食いつくのを待つんだ」

 

 

 同好会メンバーは未だ連中の行動全てを把握しきれていない。よって彼らにできる最善の策はこれしかなかった。

 満場一致で可決された作戦はすぐにイリナとゼノヴィアの耳に入れられ、まもなく彼女達から神父とシスターの衣装が届いた。丈城達は放課後から日暮れまでの間にその姿で行動し、連中がノコノコやってくるのを待ち続けたが、待てど暮らせど中々進展はない。

 

 

 そんな日が3日ほど続いたある日、事態は動くことになる。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ふぅ。今日も収穫なしか……。てか会長からチラッと聞いたが、レーダー能力を持つスタンドで捜した方が早いんじゃないのか?」

「確かに『エアロスミス』はそういう能力だが、何しろ対象である二酸化炭素を発生させるものは全部点で表示される。どれが敵か味方かを100パー判別出来るほどデジタルじゃねぇんだ」

「成程…一長一短ってやつか」

 

 

 中々見つからない事に気落ちするサジ。そこで以前ソーニャから聞いた丈城のスタンドを使うことを提案する。しかし本人の説明で案は一蹴。振り出しに戻ってしまった。…その直後、

 

 

「「「……!!」」」

 

 

 先頭を歩く裕斗と小猫、そして丈城が何かの気配を察知。さらに野生の勘なのか、丈城が空を見上げて叫んだ。

 

 

「上から来るぞッ、気を付けろ!!」

「神父の一団にご加護あれってね!」

 

 

 感じ取った気配は殺気、イカれ神父のフリードのものだった。彼が放った不意の一閃は裕斗が防ぎ、丈城は速攻で『皇帝(エンペラー)』を出して発砲。だがフリードはサッと身を翻して回避してしまった。

 彼の襲撃に一行は臨戦態勢に突入。左目に眼帯をつけたフリードの顔が夕日に照らされ、不気味にケタケタと嘲笑う表情が露になる。

 

 

「ケッ、鴨がネギ背負っておいでなすったぜ!」

「! その声はジョジョくんかい? へぇぇぇぇ、これはまた珍妙な再会劇でござんすねぇ! あン時はよくも僕ちゃんのパッチリおめめを潰してくれちゃって! 今度こそ殺していい?」

「だが断るッ! 地獄のジャッジメントを受けるのはテメーとバックの黒幕だけで十分だ!」

 

 

 神父とシスターの衣装をババッと脱ぎ捨て、駒王学園の制服と改造学ラン姿(仗助仕様)になる同好会メンバー。直ぐ様各々の神器とスタンドを展開し、先手を討つ。

 

 

「伸びろ、ラインよ!」

「うぜぇっス!」

 

 

 身のこなしが素早いのがフリードの特色である。そこでサジは逃走と回避を防ぐために自身の神器を使用。トカゲの舌を思わせるラインはフリードの斬撃をかわして彼の足に巻き付いた。

 

 

「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れない! 木場! これでソイツは逃げられねぇ! 存分にやっちまえ!」

「ありがたい!」

 

 

 動きを制限されたフリードに裕斗が斬りかかる。しかし魔剣の二刀流に対してフリードは聖剣一本で互角に防いでゆく。次の瞬間聖剣の横一文字が放たれ、裕斗の魔剣を砕いてしまう。もらったとばかりにもう一撃食らわせようとするフリードだったが、

 

 

(ズンッ!!)

「!?」

 

 

 突如その両足がアスファルトにめり込んだ。そしてまるで見えない何かに押されているように、彼の姿勢がどんどん曲がってゆく。そこへ丈城の声が響いた。

 

 

「だめだぜサジ。動き止めんだったら、こンぐらいグレートにやんねーとよ!!」

『S・H・I・T。モット重スクルコトモデキマスガ、ドウ致シマショウ?』

「じわじわでいい。やり過ぎると裕斗の出る幕なしでフリードをペシャンコにしちまうからな」

 

 

 両手を合わせて突き出し、フリードに重圧の負荷をかけるスタンド『エコーズ ACT3』。それを隣に発現させた丈城はサジの神器だけでは不充分と判断し、フリードの動きを封じたのである。

 

 

「裕斗ッ、そいつのHPは半端じゃねぇ! 俺らが出来る限り奴にダメージを与える! トドメは任せたぞ!!」

「…了解! 頼んだよ皆!!」

 

 

 裕斗は一旦後方に下がり、その入れ替わりで丈城と小猫が突貫する。そして『エコーズ ACT3』を前に出した丈城はあの構えを、小猫は拳を握り締めて、フリードに拳の雨を食らわせた。

 

 

「『エコーズ 3 FREEZE』!!」

「フカ━━━━━━ッニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャァッ!!」

「げぼばァァァッ!?」

 

 

 中枢を狙った的確な打撃の連続に、フリードは溜まらず苦悶の叫びをあげる。同時に『エコーズ ACT3』の能力で一層その体が沈む。

 

 

「ジョジョォッ! あとは任せな!『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』!!」

 

 

 今度は丈城と小猫の間からサジが飛び出し、ラインが伸びる手元を強く引っ張る。するとラインが巻き付いている足から淡く光りだし、サジの手元へと移動してゆく。

 

 

「……これは! クッソ! 俺っちの力を吸収するのかよ!」

「見たか! これが俺の神器『黒い龍脈』の力だ! こいつに繋がれた以上、てめえの力は半永久的に俺の神器に吸われ続ける! そう、ぶっ倒れるまでな!」

「ドラゴン系神器か! 一番厄介な系統だねぇ。初期状態は大したことなくても、成長したときの爆発力が他系統の神器と違って段違いに凶悪だから怖い怖い。全く忌まわしいことこの上ないってね!」

(…『紫の隠者(ハーミット・パープル)』に、『女帝(エンプレス)』や『ハイウェイ・スター』みてーな吸収系の能力を加えた感じの神器か。ちと厄介だが、弱点さえ見抜けば一気に突破口が出来ちまうな)

 

 

『エコーズ ACT3』を下げて、丈城は冷静にサジの神器を分析する。

 

 

「だがだがだがァッ、俺さまのエクスカリバーは『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』! 速度もさながら、こいつは聖剣! 気を集めればこんなもん簡単に斬れんだよッ!」

 

 

 フリードは手元の聖剣に気を集め、サジのラインを一気に切り払った。その勢いでサジと裕斗に斬りかかろうとするが、丈城がその前に立ちはだかった。

 

 

「ラインは斬れても、こいつは無理だろう!『ソフト&ウェット』!」

 

 

 肩口からシャボン玉を掴みとり、エクスカリバーへと投げつける。刀身に当たって弾けたことを確認した丈城は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開し、それを盾がわりにエクスカリバーの一閃を受け止めた。

 瞬間エクスカリバーは接触した箇所からヒビが入り、遂には刀身が粉々に砕け散ってしまった。

 

 

「今、お前のエクスカリバーから"硬さ"を奪った! 砂の塊より脆くなったその剣じゃ何も斬れねぇぜ!」

「うっそォォォッ! 俺さまのエクスカリバーが粉々のバラバラにぃ!? ちょっとォォォッ!? 最強の聖剣ちゃんじゃn「ゴタゴタ抜かしてんじゃねぇッ!」アソップッ!?」

 

 

 事あるごとに喚くフリードを殴り飛ばして黙らせ、丈城は『赤龍帝の籠手』に力を込める。

 

 

Transfer(トランスファー)!』

 

 

 左足を高々とあげ、一歩前に踏み出す。その勢いで左拳を突き出し、フリードの顔面に叩きつけた。

 

 

「正義のッ、○・拳!」

「グバァッ!?」

 

 

 某イナズマなGKの技を彷彿とする一発は見事にヒット。フリードを殴り飛ばしてアスファルトの上に倒れ伏させた。その周囲に無数のエクスカリバーの欠片が飛び散る。

 

 

 今の内にトドメを、と丈城が裕斗に指示を出そうとしたその時だった。

 

 

 

 

「フリード、何をそんなに苦戦している」

「「「「!」」」」

 

 

 不意にかかるしわがれた声。全員がその方向へ顔を向けると、そこには60代前後とおぼしき男が立っていた。

 

 

「だ、誰だてめえ!」

「ワシか? ワシの名は…"バルパー・ガリレイ"」

「「「「ッ!?」」」」

 

 

 何と、男はバルパー・ガリレイと名乗った。この男こそ、"皆殺しの大司教"の異名をもち、裕斗とその同胞に非人道的な実験を繰り返してきた仇敵だったのだ。

 

 

「俺達の目の前にいるこの男が…! こいつの方から現れやがった…!!」

「バルパー…ガリレイ……!!」

 

 

 同好会メンバーに緊張と殺気が一気に高まる。裕斗に至っては爪が掌の皮膚を切って、血を滲ませていた。

 

 

「でも遅かったなァ、バルパーさんよぉ~。オメーの大好きなエクスカリバーはアンタのご到着前にこの様だぜ?」

 

 

 丈城はフリードの手から落ちたエクスカリバーの持ち手を、バルパーの前にちらつかせる。

 

 

「ッ! バ…バカな!? それは『天閃の聖剣』の持ち手!! まさか貴様、エクスカリバーを破壊したというのか!?」

「正しくはエクスカリバーの"硬さ"を奪っただけだ! あとは勝手に自滅しただけだぜ!」

 

 

 ありえないことに、流石のバルパーも顔をひきつらせる。すると彼の視界に、よろよろと立ち上がるフリードの姿が映った。

 

 

「し、仕方ない! フリード、一旦退くぞ!!」

「が…合点でい!!」カッ!

 

 

 それを合図に、フリードは懐から閃光弾を取り出して地面に叩きつける。直後に目が眩むほどの光が溢れ、収まる頃にはもう二人の姿はなかった。

 

 

「畜生! あいつら逃げやがった!!」

 

 

 あと一歩の所で取り逃がしたことにサジが毒づく。と、

 

 

「赤龍帝!」

「ジョジョ君!」

 

 

 ゼノヴィアとイリナが合流してきた。着用しているローブや黒タイツには至るところに切り傷がついている。きっとここへ来るまえに一戦やり合ったのだろう。

 

 

「二人共! よくここがわかったな」

「バルパーを追ってきた先にお前達がいたからな……しかしこの様子だと取り逃がしてしまったようだ」

「あーもう! 手下の堕天使やエクソシスト共に阻まれさえしなければ追いついたのに!!」

「いんや、まだ見失ってないぜ!!」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 

 バルパーとフリードに逃げられて悔しがる一同に、丈城は先程のエクスカリバーの持ち手を見せた。

 

 

「それはエクスカリバーの…!!」

「ああ、フリードが使っていた一本だ。この持ち手には奴の"匂い"がついている。俺のスタンドでこの匂いを辿り、奴等の潜伏先を暴く!『ハイウェイ・スター』!!」

 

 

 彼は『ハイウェイ・スター』を出し、持ち手のフリードの匂いを嗅がせた。その匂いを覚えた『ハイウェイ・スター』は全身を厚みのある手形や足跡に分解し、一つの方向へ駆け出した。

 

 

「……こんなスタンド能力もあるのか…」

「ボサッとしてねぇでさっさと追うぞ! あとサジ、小猫! このことをすぐにリアに伝えろ!」

「えっ!? な、何でだよ!」

「知らん! よく分からんが、今夜辺り何かが起こりそうな予感がする! 手遅れになる前に早く!!」

 

 

 恐らく丈城の直感であろう。一刻を争う事態と踏んだ小猫は頷いて、駒王学園にいるであろうリアの元へ走った。

 

 

「……わかりました。お気をつけて!」

「あ! オイ待てって!!」

「その間俺達はバルパーとフリードの追撃だ! 行くぞ!!」

「「「了解!」」」

 

 

 丈城らは『ハイウェイ・スター』を頼りに、逃げたフリード達のあとを追い始めた。

 

 

(←To Be continued…)

 




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第31話《遭遇、黒幕のLostangel》

時間がなく、結局とれたのが大晦日の夜って……

読者の皆様、課題のレポートは早めに取りかかって終わらせましょう。

それでは皆様、よいお年を。



 とっくに日は暮れ、辺りの路地は暗くなっている。その中を『ハイウェイ・スター』、丈城、裕斗、ゼノヴィアとイリナの順で駆けてゆく。あの二人はいつの間にこんな距離を逃走したのだろうか。人間と言えど、丈城とは違ったスペックの持ち主はこの世界に存在するようだ。

 

 

「…しっかし、妙な気分だぜ」

「妙な気分って?」

 

 

 ふと漏らした丈城の呟きに裕斗は聞き返した。

 

 

「ガキの頃、俺悪役ばっかしてたじゃん? 反対にイリナはヒーロー役でさ、学芸会の時なんかは結構ウケたわけよ」

「どういう配役だったんだ?」

「んー、確か最初の時は私がちょっと厳つい学生役で、ジョジョ君が吸血鬼、その次がツッパリ系の不良と殺人鬼、幼稚園最後の学芸会が新入りのギャングの少年とそのボスだったかな?」

「……それ幼稚園の学芸会にしては内容濃すぎない?」

 

 

 因みに発案者は丈城本人だったりする。

 

 

「そうそう。でさ、そーやって俺は悪役のベテランにも関わらず、今はこうして悪事を企てる奴を叩く"ヒーローの立場"にいる。なんか矛盾してんなぁと思ってサ」

「…私はちっともおかしくないと思うよ。だってジョジョ君、本当は根っからの友達思いで優しい人だって知ってるし。それに……」

 

 

 一呼吸置いたイリナは丈城に向き直り、満面の笑みでこう口にした。

 

 

「こうやって"正義のヒーローとして"、ジョジョ君と肩を並べられるだけで私嬉しいもん」

 

 

 こうもはっきり、そして心底嬉しそうな顔で言われれば、誰だって照れる。丈城もそうだ。一瞬顔がボフッと赤くなり、直ぐ様そっぽ向いてしまった。

 

 

「…ジョジョ君、ひょっとして」

「それ以上言うな……頼むから」

 

 

 何処と無く上ずった声。これ以上聞けば聖剣よりも先に粉々にされると踏んだ裕斗は、この後に言おうとした言葉を飲み込んだ。幾ら仇敵と戦っていても、このチートの逆鱗に触れれば復讐どころではなくなってしまう。

 

 意外にも小悪魔的な一面をもつイリナだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それから数分後。『ハイウェイ・スター』と丈城一行は潜伏先とおぼしき場所へ到着した。到着するや否や、丈城と裕斗はその場所を「またか」といった具合で睨み付ける。そう、そこは……

 

 

「ジョジョ君、ここって……」

「あぁ、忘れもしねぇ。あのレイナーレが潜伏していた廃教会だ! ここに来るだけで嫌でも思い出すぜ…あの胸糞悪い事件をよ……!」

 

 

 かつて丈城が最初に関わった堕天使事件。その主犯であるレイナーレと仲間が潜伏していた場所だった。恐らくフリード辺りから聞いていたのだろう。事件から日にちが経過しているここなら問題はないと。

 

 

「時間がない。思い出に浸るのはあとにしてくれ。行くぞ!!」

「浸りたくねぇ思い出だがな! All right!!」

 

 

 多少毒づいて、四人は中へ突入した。当時の爪痕はそのままで、焼け焦げたロードーローラーや粉々のステンドグラスも手付かず。教会内の時間は止まっていた。

 

 

「いるとすればここか…地下だけだね」

「いや、地下への入り口は塞がれてる。きっとリアの奴、中の神父どもを始末した後に封鎖したみてーだ」

 

 

 しかし教会内には丈城達以外の姿はない。『ハイウェイ・スター』に至ってはしきりに辺りを徘徊して臭いを辿っている。そこいらに臭いが染み付いているとでもいうのだろうか。

 

 だがその時だった。

 

 

「!? ぐああァッ!」

「「「ッ!?」」」

 

 

 突如丈城の二の腕から血が吹き出し、あまりの苦痛に膝をついた。

 

 

「ジョジョ君! 一体どうし……ッ!?」

 

 

 いきなりの非常事態に裕斗が駆け寄ろうとしたとき、全員の背筋にゾクッと走るものが。そして感じる第三者の存在。全員が恐る恐る顔を向けると、丈城以外のメンバーが一気に凍りついた。

 

 宙に浮遊する一人のシルエット。だがそれは人間ではない。背に生えているのは10枚の黒い翼。黒いローブを纏ったその人物は男と見える。握られたその手には……

 

 

「フン。コソコソネズミが嗅ぎまわっているかと思えば、こんな小賢しい神器を手にしていたとはな」グシャッ

「ノアアッ!?」

「あれは…『ハイウェイ・スター』の手形!?」

「あ…あれ…多分…左二の腕の…部分…ッ」

「! そうか、『ハイウェイ・スター』の一部が握り潰されたから、ジョジョ君の腕が!」

「裕斗…何なんだアイツ? レイナーレと同じ堕天使みてーだが……?」

 

 

 激痛に耐えつつ、丈城は目の前の堕天使を睨み付ける。刹那ゼノヴィアの口からとんでもない名前が飛び出た。

 

 

「堕ちた天使の幹部…『神の子を見張る者(グリゴリ)』の一人、コカビエル。聖書に記された堕天使だ…」

「!? コカビエルだとッ!?」

 

 

 そう。今回の聖剣強奪事件の黒幕であり、聖書にもその名が記された堕天使中枢組織『神の子を見張る者』幹部・コカビエルが、今まさに目の前で『ハイウェイ・スター』を握り潰しているこの男なのだ。

 しかしこれで全てが繋がった。やはりこの廃教会が連中のアジトだったことから、丈城の読みは当たっていたのである。

 

 

「フム、この匂いは…成程。そこの小僧は人間か。下等な生物がこんな神器を持っていたとはな。アザゼルが知ったら欲しがるだろう。アイツのコレクター趣味は異常だからな」

「くっ…も、戻れ! 『ハイウェイ・スター』!!」

 

 

 これ以上ダメージを食らってたまるかと、丈城は『ハイウェイ・スター』を急いで戻す。しかし先のダメージが響いているのか、膝をついたまま動くことが出来ない。

 

 

「仕方ねぇ…三人共、俺は一旦援護に回る! メインを頼む!」

「わ…わかった! やってみるよ!!」

 

 

 一旦丈城は戦線を離脱し、『皇帝(エンペラー)』を出して長椅子の陰へ。コカビエルのプレッシャーに若干気圧されつつも、裕斗達は切っ先を彼に向ける。

 

 

「堕天使コカビエル! 神に背いた貴様の愚業、今ここで成敗してくれる!」

「聖剣使いか。その程度でこの俺を切れるとは思えんが…まぁいい。やってみるがよい」

 

 

 浮遊していたコカビエルは降下し、手に光の槍を生成して突き出す。彼にとってはただの肩慣らしとしか思っていないだろう。そんな余裕があるほど、この男がいかに強大な存在であるかがよくわかる。

 

 

「…ッ! ウオオォォォ━━━━━━ァァッ!」

 

 

 覚悟を決めた裕斗が先陣を切り、『魔剣創造(ソード・バース)』でコカビエルに斬りかかる。しかしコカビエルはその動きを完全に先読みし、次々と斬撃をかわしてゆく。やがて一瞬の隙をついて、コカビエルは光の槍で裕斗を薙いだ。

 

 

「うわァッ!?」

 

 

 弾き飛ばされ、長椅子に叩きつけられる裕斗。それを飛び越えてゼノヴィアとイリナが突撃するも、

 

 

「「てやぁぁッ!!」」

「甘いな」ブゥゥン!

「キャアアッ!?」

「ゼノヴィア!!」

 

 

 即座に生成された光の槍にゼノヴィアが吹っ飛ばされ、それに気をとられたイリナはコカビエルのネックハンギングツリーを食らってしまう。

 

 

「がっ…ぐ、うぐう……っ!」ギリギリギリ…

「ヴァチカンからの使いや神父ごとき、昔からよく殺していたわ。そう、昨日の事のように覚えている。それにしても神のために死にに来たとは…相変わらず聖職者の考えることは理解できん」

 

 

 その手にどんどん力が込められる。イリナも心底苦しそうにもがくが、あまりの力の大きさに拘束が解けない。そして彼女の意識が聖剣を手放す程遠退きかけたとき、

 

 

(ガウンガウンガウンッ!)

「!?」

「忘れてんじゃねぇぜクソ堕天使が! これは4対1のバトルなんだぜ!」

 

 

 イリナを締め上げるコカビエルの腕に三発の弾丸が打ち込まれ、血が吹き出した。驚いた拍子で彼はイリナを手放し、一気に気道が確保されたことでイリナは大きく咳き込む。

 長椅子や柱の陰を隠れ蓑にしながら、丈城はコカビエルに攻撃したのだ。先程の攻撃は『皇帝』の能力による援護射撃で、彼がイリナから意識を移すための陽動策だったのである。

 

 

「チッ…こざかしいハエごときが!」

 

 

 それを目障りに感じたコカビエルは多数の光の槍を丈城に放つが、柱や長椅子を盾に回避し、その僅かな合間に『皇帝』や常備の投擲ナイフで応戦。プロのサバイバルゲーマー顔負けの立ち回りを披露してゆく。

 

 

「くっ…! これ以上、やらせてたまるものですか!!」

 

 

 ここで体制を立て直したイリナが聖剣を構え、コカビエルの懐に狙いを定めた。彼女は内心、丈城に意識を向けている今なら倒すことができるかもしれないと考えていた。……しかし、現実は上手くいかなかった。

 

 

「邪魔だァッ!」

「キャアァァッ!?」

「イリナ!!」

 

 

 コカビエルはイリナの反撃を意図も容易く弾き、追い討ちとばかりに光の槍をその体に撃ち込んだのだ。レイナーレの時もそうだったが、光の槍は触れただけでも人体に悪影響を及ぼす。胴にそれをまともに食らったイリナはステンドグラスを突き破って外に吹っ飛ばされた。恐らくこの時点で彼女は既に再起不能であろう。

 丈城は考えた。この狭いフィールド内では活動に制限がかかる。尚且自分は二の腕を負傷している。あまりにも相手に有利な環境なのだ。

 

 

(仕方ない…! 再起不能のイリナを連れて、裕斗とゼノヴィアと共に生きて撤退するっきゃねぇか…。その前にこの事を早く二人に伝えないと!)

 

 

 戦略的撤退を選んだ方が得策と睨んだ丈城は、その場でもう一体のスタンドを放ち、『皇帝』を握り締めて近くの柱の陰へ飛び込んだ。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「ハァ…ハァ…こ、これが聖書に記された堕天使の力か……!」

「悔しいが…歯が立たない…!!」

 

 

 一方、前線で戦い続ける裕斗達だったが、コカビエルの絶大な力の前に苦戦を強いられていた。光の槍を凌ぐだけでも一苦労だというのに、繰り出した攻撃は全て弾かれてしまう。主導権を完全に乗っ取られてしまっていた。

 コカビエルが疲弊している様子は見られない。むしろどう動くのか楽しそうに笑っている。つくづく不愉快な堕天使である。その態度がより一層二人の怒りを逆立てていた。

 

 

「ジョジョ君を最初に抑えられたのは痛手だったね…彼のスタンド能力は三大勢力問わずに高いダメージを与えられる。しかも人間は下等な生物と見下している連中が多いから、油断しきっている箇所も当然出てくる」

「隙をつきやすい、有利な立場にいるということか。しかしうっかり敵の攻撃を食らいでもすれば……」

「負うダメージは大きいし、意識していたダメージならある程度は耐えられる。でもさっきみたいに不意打ちされた場合は意識していない分痛覚が響く。スタンドを介してなら尚更…ね」

 

 

 気分を紛らわせるために互いに話し合う裕斗とゼノヴィア。あれだけいがみ合っていた者同士がここまで冷静に語らえることに対して不思議に感じるが、今はコカビエルをどう倒すかを考えなくてはならない。すると

 

 

『悪かったな。不意打ち食らって』

「「!」」

 

 

 二人の会話に割って入るように、クワガタムシのような小さな昆虫が一匹飛来してきた。ゼノヴィアは怪しい虫として切り払おうとするが、そこに裕斗が待ったをかけた。

 

 

「その口調…ジョジョ君かい?」

『あぁ。ちっと合流は難しくてな、こーゆー風にしか伝えられねぇんだ。裕斗、ゼノヴィア、今から俺が言うことをよく聞いてくれ』

「あ、あぁ…(赤龍帝…一体いくつの能力を持ち合わせているというんだ?)」

 

 

 クワガタムシ、もといグレーフライのスタンド『灰の塔(タワー・オブ・グレー)』を介して、丈城は現状を告げる。

 

 

『現状からいって、この狭い空間内で戦闘を続けるのは不可能だ。イリナも光の槍を食らって再起不能状態だし、このままじゃ全滅は免れない。だからここは戦闘を中止して撤退しよう』

「……戦略的撤退、か」

「やむを得ないな。これでは何も出来ずに犬死にする未来しかない」

 

 

 悔しそうな表情を浮かべる二人。しかしそれは丈城も一緒だ。みすみす敵に背を向けて逃亡するなど、普段の彼では絶対にしない。だが今回はケースがケースである。彼にとって苦渋の決断だった。

 脱出までのフローチャートを二人に伝え、丈城は自分の持ち場に戻ろうとする。

 

 

「いいか二人とも、チャンスは一度きりだ。これをミスれば死あるのみだと思ってくれ」

「了解した、赤龍帝。お前も死なないようにな」

「こんなとこでノコノコ死んでられっかよ! 行くぞ!」

 

 

 互いに検討を祈り、裕斗とゼノヴィアは再び剣を手に取った。長椅子の背もたれを乗り越えて姿を現し、再度コカビエルと対峙する。

 

 

「呆れたものだ…まだ抗うというのか?」

「あぁ、元よりそのつもりさ。だけど今は…」

 

 

 口元を上げる裕斗。だがその手の魔剣は先程使用していたもの…ではなく、筒に刃を取り付けたような特殊な形状の魔剣。

 そして裕斗はその切っ先をコカビエルに向けて、それを大きく振りかぶると

 

 

「"撤退"だけどね! 『噴煙剣(スモーキング・エッジ)』! 噴射開始!」

 

 

 上一文字に降り下ろした。すると筒の先端から黒煙が勢いよく吹き出し、コカビエルの周囲に立ち込めた。突然の噴煙にコカビエルは驚き、毒煙と勘違いしたのか口元を押さえた。

 

 

「!? 煙だと!?」

 

 

 彼は当初先程のように切りかかってくると思っていた。だが噴射された煙に不意打ちを食らい、見事に足止めをされてしまったのだ。

 

 

「チィッ、こざかしい真似をッ!」

 

 

 コカビエルは苛立ちを覚え、すぐに二人を攻撃しようと煙を払おうとする。しかし煙の外では延々と煙を噴射し続ける『噴煙剣』がコカビエルのいる方向に立て掛けられているだけで二人の姿はない。

 

 一方二人は隙をついてイリナを救出していた丈城と合流し、教会の外へ脱出していた。そう、裕斗とゼノヴィアの役目は丈城がイリナを救出するための囮だったのだ。

 

 

「ジョジョ君ッ! イリナさんは!?」

「レスキュー完了! ただ光の槍によるダメージと傷が思ったよりひどくて……一応治療を施したんだが意識もねぇし、かなりの重傷だ」

「イリナ…何という無茶を」

「時間がない! もうそろそろ離脱すっぞ!」

 

 

 イリナを裕斗に託し、丈城は路上駐車してあった一台の車に駆け寄って手をかざした。すると車は異様なオーラを纏って姿形を変えてゆき、ものの数秒で車は至るところにスパイクが飛び出た、狂暴そうな車へと変貌した。

 

 

「乗れ! これなら全員で脱出できる!」

「車!? ジョジョ君運転できるのかい!?」

「フィーリングで何とか! ひとっ走り付き合えよ!」

 

 

 そして丈城はポケットから一枚のコインを取り出すと、それを教会のなかに投げつけて、変形した車『ホウィール・オブ・フォーチュン』に颯爽と乗り込んだ。裕斗もイリナと共に後部座席に乗り込み、ゼノヴィアも続く。

 エンジンをかけてハンドルを握り締め、丈城達はアクセル全開で教会から撤退に成功したのだった。

 

 

「……コカビエル、てめーにピッタリの置き土産を残しておくぜ。有り難く受けとれよ」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「フン、取り逃がしたか……」

 

 

 走り去る『ホウィール・オブ・フォーチュン』の姿を目で追いつつ、コカビエルは悔しそうに舌打ちをした。全員を抹殺、あわよくば丈城を生け捕って生体実験のモルモットにしようと企んでいたのだろう。いくら下等な生物である人間とはいえ、未知の能力には彼にも多少なりとも興味があった。

 

 

「まぁいい。いずれ始末する連中であることに変わりはない」

 

 

 しかし彼の計画は暇がない。次の段階に取りかかるべく、彼は教会の中へ戻ろうとする。その時だった。

 

 

(そういえば……煙の中のあの輝き。あれはなんだったのか)

 

 

 彼の脳裏にふと浮かんだ、煙中を横切る輝き。その直後に「チャリーン」という音がして、車で走り去る音が響いた。

 音からして硬貨なのだろうと推測されるが、コカビエルはこれが無性に気になった。今までに感じたことのない好奇心に、彼はかられていたのである。

 

 

(……ん、あれか)

 

 

 教会の床に落ちていたのは、日本で流通する一般的な百円硬貨。翼を畳んで地に降り立ち、コカビエルは百円玉に近付いてゆく。

 

 

(ただの硬貨一枚…しかし何なんだ? なぜこんなものに気がひかれる……)

 

 

 何かがあるのはわかっている。わかっていながらも、その手は徐々に百円玉へと伸びてゆく。

 そして遂に、百円玉に手が触れた……次の瞬間

 

 

「ッ!?」

(カチッ、ボグオォォオンッ!!)

 

 

 スイッチが入った音と同時に、コカビエルの体に衝撃波が襲いかかった。さらに百円玉から火の花が開き、その体が後方に吹っ飛ぶ。教会内には雷よりも大きな音が轟き、ステンドグラスが次々と粉々になってゆく。コカビエルは違和感に気付いて咄嗟に飛び退いたもの、伸ばした右腕は爆発に巻き込まれて消し飛んでしまった。

 

 消えた自らの二の腕の先を見て、終始黙り混むコカビエル。

 真っ先に思い浮かんだのは、不適な笑みを浮かべてこちらを見、どうだと言わんばかりの態度をとるあの人間。そしてその後ろに立つ猫を模したスタンド。この瞬間コカビエルは悟った。この置き土産はあの人間が置いていったものだと。

 

 

「……フッ、クククッ」

 

 

 堕天使相手に平然とこのような真似をする人間。それは今までの長い年月の中で彼が経験したことがなかった。それ故彼の好奇心のメーターは振り切れていた。

 

 

「フッフフ、ハハハ…ハ━━━━━ッハッハッハッハッハッハァッ!!」

 

 

 一角が崩落して丸見えの教会に、まるで新しい玩具を与えられた子供の気分で。

 

 聖書に記された堕天使・コカビエルは高らかに、そして狂ったように笑い出すのだった。

 

 

(←To Be continued…)

 

 




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第32話《覚醒、聖魔のSword》

皆様、明けましておめでとうございます。(遅ぇわ!!)

……ハイ、2ヶ月ちょっと間開けての投稿でごさいます。楽しみにしていた読者の皆々様方、お待たせ致しました。

それでは、本編どうぞ。



「リアス先輩。学園を大きな結界で覆っています。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」

 

 

丈城たちがコカビエルとの死闘から一時撤退した一方、駒王学園側では。

小猫とサジの連絡を受けたリアとソーナは共同し、駒王学園付近に緊急警戒網を敷いていた。今現在は学園前の公園に集結し、来るべき決戦に向けての作戦会議がなされている。ソーナ眷属は学園周囲に巨大かつ強力な結界を張り、如何なる事態にも対処できるように体制を整えていた。

 

 

「付け加えて、結界は殆ど気休めみたいなものです。コカビエルが本気を出せば間違いなくこの都市の壊滅は免れません。もう一つの報告ですが、力を解放する途中のコカビエルを私の下僕が発見したそうです」

「ありがとうソーナ。……それにしても、学園が傷つくのは耐え難いわね」

「そういえば、木場君とジョジョ君から連絡は?」

「……ないわ。小猫の話だと、二人一緒で行動しているみたい」

 

 

無事であってほしい、とリアは言葉を濁す。そして朱乃の手回しにより、ゼクス率いる悪魔勢力があと一時間程で到着するという。

 

 

「…ジョジョ、木場……」

「心配いりません、サジ。彼らはきっと……」

「わかってます。わかってるんです。でも…どうしても」

「サジ君、ジョジョ君や裕斗君を心配する気持ちはわかりますわ。私達も一緒です。でも今はコカビエルの野望を阻止することが先決ですわ」

「……わかりました」

 

 

当初丈城を敵視するサジだったが、それはあくまでもライバルとしてである。決着をつける前に死なれてはどうしても腑に落ちないのだ。彼の静かな怒りの矛先はきっと、この場でこれくらいしかできない無力な自らに向けてであろう。

 

 

「さて、私の下僕悪魔たち。私たちはオフェンスよ。結界内の学園に飛び込んで、コカビエルの注意をひくわ。これはフェニックスの一戦とは違い、死戦よ! それでも死ぬことは許さない! 今回はジョジョと裕斗がいないけれど、生きて帰ってあの学園に通うわよ! 皆!」

「「「はい!」」」

 

 

気合いを入れた彼女らは、『騎士』と最凶が欠けた状態で学園へと突入する。

 

駒王町の命運をかけた戦いの火蓋が今、切られる。

 

 

 

☆☆☆

 

 

校庭に浮かぶ三本のエクスカリバー。その中央に陣取るバルパーと魔方陣。現場に駆け込んできたリア達は、その異様な光景に息を飲む。

 

 

「……何をしているのかしら? バルパー・ガリレイ」

「おやおや、これは紅髪の滅殺姫のリアス・グレモリー殿。今まさにエクスカリバーが一つになるのだよ。……最も四本を統合するつもりが、一本は邪魔な人間によって粉砕されてしまったがね」

(聖剣を粉砕…成程、ジョジョの仕業ね)

 

 

リアの問いに、悔しさ混じりの返答をするバルパー。本来完成に使用する聖剣は四本だったのが、先の丈城の活躍によりグレードダウンした。つまりこの場で統合される聖剣は当初のレベルより弱体化することになる。すると

 

 

「バルパー、あとどれくらいでエクスカリバーは統合する?」

「「「「ッ!?」」」」

 

 

突如中からかかる声。全員が見上げると、そこには宙に浮く椅子に腰掛けるコカビエルが。コカビエルはリアの姿をとらえると口元を上げ、挑発ともとれる発言を口にした。

 

 

「はじめましてかな、グレモリー家の娘。紅髪が麗しいものだ。忌々しい兄君を思い出して反吐が出そうだよ」

「ごきげんよう、堕ちた天使の幹部━━コカビエル。それと私の名前はリアス・グレモリーよ。お見知りおきを。もうひとつ付け加えさせてもらうなら、グレモリー家と我らが魔王は最も遠い存在。この場で政治的なやり取りに私との接触を求めるなら無駄だわ」

「ふん、政治的なやり取りだと? 馬鹿も休み休み言え。それと…サーゼクスは来るのか?それともセラフォルーか?」

「お兄さまとレヴィアタンさまの代わりに私たちが━━」

 

 

リアがそう返そうとしたその時、風切り音と共に体育館が消し飛んだ。跡に残る巨大な光の槍。コカビエルが光の槍を放って体育館を丸々一棟消滅させたのだ。

 

 

「つまらん。まあいい。余興にはなるだろう。それに…回復までには少々時間がかかる。それまで存分に楽しませてもらうとするか」

 

 

憎々しげに話す彼の右腕には、二の腕から先がなかった。

 

 

「術式は安定している。五分もかからんよ、コカビエル」

「そうか、では頼むぞ。その間に…地獄から連れてきた俺のペットと遊んでもらおうかな」

 

 

バルパーの解答に満足したコカビエルは指をパチンと鳴らす。するとリア達のいる箇所のすぐ隣、何やら巨体が蠢くような足音が聞こえてきた。足音の主は数歩進んだ後に月明かりに照らされ、その醜き姿を晒した。

 

八~十m程の大きさの、四本足の怪物。返り血を浴びたが如く赤黒い体。犬を大きくしたような姿だが、それは犬というべきより……

 

 

「「「グギャアアアアァァァ━━━━━━━━━ッ!!」」」

 

 

三頭首。地獄の番犬と呼ばれる怪物・ケルベロスだった。

 

 

「ッ!? ケルベロス! 地獄からこんな物をもってくるだなんて! 皆、やるしかないわ! 消し飛ばすわよ!!」

 

 

リアの号令と共に全員が駆け出す。まずリアと朱乃が空へ舞い、上空からケルベロスに向けて攻撃開始。吐き出される火球を雷撃や滅びの一撃で相殺しつつ、地上の小猫が打撃で応戦してゆく。

一方のアーシアは回復要員のため戦闘には不参加。校舎裏に隠れて待機していた。

 

 

「あぅぅ、皆さん凄いです…!」

 

 

息の合った連係プレーや強力な打撃に圧倒するアーシア。戦闘に介入出来ないのが悔しかったが、そもそも自分の力量ではまともに戦力にならないと理解していた。今行っても足手まといになると。

 

しかし……

 

 

「「「グルルル………」」」

「!」

 

 

安全だと思われた校舎裏は、既に危険地帯へと化していた。

アーシアに忍び寄っていたのは、何と一体だけと思われていた"二匹目"のケルベロスだった。

 

 

「「「グルル……ガウッ!!」」」

「ひいっ!!」

 

思いもよらぬ存在に驚き、アーシアは足がすくんで動けない。リア達ももう一体の存在に気がつき、すぐさま救援に行こうとする。

 

 

「! アーシアが危ないわ! 朱乃、お願い!」

「はい部長!」

 

 

だが一体目のケルベロスの猛攻に阻まれ、思うように行動出来ない。そうこうしている間にも二体目はアーシアにジリジリと迫り来る。

 

 

「う…うぅ……」

 

 

絶体絶命のアーシア。そしてケルベロスが飛びかかろうと姿勢を低くした。もはやこれまでと思われたその時、

 

 

 

 

 

「うぅ……ジ…ジ、ジョジョさぁぁぁぁぁん!」

 

 

 

 

 

「はいは━━い、呼ばれて飛び出て俺様参上ォォ━━━━━ッ!!」ドガァッ!

「「「ギャンッ!?」」」

 

 

アーシアの呼び掛けに答えるが如く、ケルベロスの隣に生い茂る雑木林の中から飛び出してくる謎の人影。その人影は物凄い勢いでケルベロスの頭に強烈なライダーキックをお見舞いし、校舎の壁に叩きつけた。

 

 

「ふ…え…?」

 

 

目を開けた彼女の前にいたのは見慣れた背中の人物。左手に赤き鱗の籠手を備えたその男…そう、

 

 

「こンの犬っころが! ウチのアーシアをとって食おうなんざ一億と二千年は早いぜ!!」

 

 

スタンド使い・兵藤丈城だった。

 

 

「「「「「ジ、ジョジョ(君)(さん)(丈城先輩)!!」」」」」

「悪ィ、遅れちまった。アーシアもすまねぇな、こんな怖い思いをさせちまって」

「いえ…! ジョジョさんならきっと来てくれるって…思ってました…!!」

 

 

丈城の参上に安堵したアーシアは彼に抱きつき、溜め込んでいた涙を流す。すると丈城は人差し指を左右に振って「チッチッチッ」と舌打ちすると

 

 

「俺だけじゃねぇさ、ホラ」

 

 

リア達と戦っているケルベロスに顔を向けた。そこには丈城と共に駆けつけた助っ人が。

 

 

「でやあッ!」

「ハァッ!!」

 

 

刃を振るってケルベロスを倒す裕斗とゼノヴィアの姿。彼らは間一髪のタイミングで乱入してきたのだ。

 

 

「イリナはコカビエルにやられちまって戦線離脱状態だ。という俺も少し二の腕をやっちまってて…済まねぇけどアーシア、治療頼むわ」

「あぁハイ! わかりました!」

 

 

治療を施してもらいつつ、丈城はもう片方の手で懐から拳銃を抜き取る。絵面が若干冴羽な獠のラストシーンだが、その背後に『エアロスミス』、拳銃にはグイード・ミスタの暗殺向きスタンド『セックス・ピストルズ』がスタンバイ。

 

 

「さぁ犬っころ! お前の罪を数えろォォッ!!」ガゥンガゥンガゥン!

 

 

目にも留まらぬ勢いで連発し、六発すべてに搭乗したピストルズが放たれた。その内の一発に乗ったNo,1が号令をかけてメンバーの士気を高める。

 

 

『ヤロ━━ドモ━━ッ! 行クゼッ!』

『パスパスパース!』

 

 

貫通、反射、貫通を繰り返してケルベロスの体を穴ぼこだらけにしてゆくピストルズ。そして丈城がエアロスミスを発進。一気に畳み掛けた。

 

 

『『『『『イイイ━━━━━━━━ッ! ハァァァ━━━━━━━━ッ!』』』』』

 

 

弾丸ではなく飛行機に搭乗したピストルズと共に特攻するエアロスミス(スミスさん『前が見えねぇ』)。機銃での乱発をお見舞いした後に消滅し、食らったケルベロスはものの数十秒で始末されたのだった。

 

 

「直にあっちも片付く。終わったらすぐに行こう!」

「ハイ!」

 

 

治療を終えた二人はケルベロスの死骸を尻目に、リア達の元へと急行した。

 

 

☆☆☆

 

 

 

「食らえコカビエル!」

 

 

ちょうどその頃。リア達もケルベロスを片付けた後、宙に浮くコカビエルへと攻撃を開始していた。朱乃が放つ雷光やリアの滅びの一撃はいつもよりも威力が増しており、確実にコカビエルを消さんとする。しかし

 

 

「フン」

 

 

コカビエルは鼻で笑い、スッと左腕を突き出した。直後にリア達の一撃が襲いかかるも、それを片手で軌道を変え、渾身の一撃は校舎に当たって散ってしまった。

 

 

「この程度か……。やはりあの赤龍帝と妙な力がなくては面白味がない。あの人間はどうした? ここにいるのだろう?」

「……彼ならここにはいn「どなたをご所望かな? 堕ちた天使のコカビエルさんよ!」ジョジョ!!」

 

 

呆れるコカビエルの前に、いつものコンディションに戻った丈城が駆けつける。その側には彼の背に隠れるように覗くアーシアの不安げな顔が。

望んでいたものが来た、とばかりにコカビエルは笑う。そしてその口が何かを言いかけたまさにその時。

 

 

「━━完成だ」

 

 

それまで校庭で光を放ち続けていたエクスカリバーがより一層輝きだし、三本の聖剣の影が重なってゆく。光は強く、その場にいた丈城達は眩しさのあまり目をおおう。

その光が止むと、陣があった場所には青白いオーラを放つ一本の剣があった。

 

 

「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。あと二十分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない。ま、最もできればの話だがね」

「ケッ、できればの話じゃねぇ。やるのさ! テメーの下らねぇ野望をぶち壊すのをよ!」

 

 

残り二十分で事が済むと鼻を鳴らすバルパーに、それを打ち砕くと豪語する丈城。崩壊の魔方陣が展開する中、バチバチと睨みあいが続く。

 

 

「フリード、陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。三本の力を得たエクスカリバーで戦ってみせろ」

「はいな、ボス」

 

 

すると、コカビエルに呼ばれて現れたフリードが統合されたエクスカリバーを手に取り、丈城達にその切っ先を向けた。

 

 

「…ゼノヴィア、裕斗。共同戦線がまだ生きてンなら、三人であれをブッ壊すぞ」

 

 

顔が強張るゼノヴィアと裕斗。それを見た丈城がある提案を持ちかけた。

 

 

「ジョジョ君…?」

「……確かに、この状況はそうせざるを得ないな。私は赤龍帝の案に乗らせてもらおう」

「本当にいいのかい? 二人共…」

「会長の家にイリナが搬送される時、アイツが俺に言い残したんだ。『聖剣の核さえ回収できればいい』って。ああなっちまった以上壊して核を回収したほうが手っ取り早い。あんなもん聖剣ですらねぇよ」

「全くだ。あれは最早異形の剣。破壊せねばならない」

 

 

二人の意見に無言で頷いた裕斗は一歩前に出て、バルパーを忌々しく睨み付ける。

 

 

「バルパー・ガリレイ。僕はお前が引き起こした『聖剣計画』の生き残り……否、その怨霊だ」

「ほぅ、あの時のか。こんな極東の地で巡り会うとはな。どんな運命なのやら……ククッ」

 

 

だが睨み付けられたにも関わらず、バルパーは気味悪くほくそ笑んでいる。

 

 

「しかし君達の尊い犠牲によって、あの計画は"成功"したんだよ」

「何だと? お前は僕たちを失敗作として処分したじゃないか」

 

 

裕斗の言うことは最もである。かつてバルパーが関わっていた聖剣計画には、適合者が誰一人としていなかった。そのために裕斗や同志達が始末されるという形になった。

普通であれば、ついていけなかったものを失敗作として見なすだろう。失敗作を成功の産物としては認識しない。

 

 

そう、普通なら……

 

 

「聖剣を使うのに必要な因子があることに気付いた私は、その因子の数値で適正を調べた。被験者の少年少女、ほぼ全員に因子はあるものの、どれもこれもエクスカリバーを扱える数値に満たなかったのだ。そこで私は一つの結論に至った。ならば『因子だけを抽出し、集めることはできないか?』━━━とな」

「ハハーン、わかったぞ。因子をもっている同志達から因子だけを抜き取って集めたんだな? それだけのために裕斗や同志達を騙して計画に組み込んだ……ってとこか?」

 

 

バルパーは計画の適正数値に等しくなるように、被験者から"聖なる因子"を抽出。それらを集めた因子を他の被験者に入れ、人工的に聖剣使いを作ろうとしたのだ。『塵も積もれば山となる』とはよく言ったものである。

するとバルパーは懐に手を差し入れると、中から光輝く玉を取り出す。

 

「そうだ。そしてこれはそのときのもの。三つほどフリードに使ったがね。これは最後の一つだ」

「ヒャハハハハ! 俺以外の奴らは途中で因子に体がついていけなくなって、死んじまったけどな! うーん、そう考えると俺様はスペシャルだねぇ」

「バルパー…貴様…ッ!!」

 

 

同志達が殺された、あまりにも身勝手過ぎる真実。それを知った今の裕斗のボルテージはとっくに振り切っていた。それをバルパーはせせら笑い、

 

 

「まぁ直にこいつを量産することができる。これは餞別だ。お前にくれてやろう。最もたった一つの因子の結晶ではどうにもならんがね」

 

 

手にしていた最後の一個を裕斗に向かって放った。足元にやってきたそれを、彼は屈んで手にする。その目は慈愛と悲しみに暮れ、次第に抑えていた感情の片鱗が口からこぼれ出た。

 

 

「……皆…」

 

 

そう呟く裕斗の涙が頬を伝い、その一滴が結晶に落ちる。刹那、

 

 

(パアアアァァ……ッ)

 

 

因子から溢れんばかりの光が迸り、裕斗の周囲に一人、また一人と、人の形をしたものが集まってゆく。徐々にそれははっきりとした少年少女の姿となり、裕斗の前に現れた。

 

 

「これは……一体何が起こっているんだ?」

「多分…因子の中にあった同志達の魂が、裕斗の想いに呼応して具現化したんだと思う」

 

 

丈城の推論に一層涙を浮かべた裕斗は、静かに霊魂達に語りかける。

 

 

「……ずっと、ずっと考えてきたんだ。僕より夢を…意思を持っていた君達ではなく…僕一人が生きてていいのかって……」

 

 

裕斗とは思えぬ震えた声。それに返答するかの如く、霊魂の一人の口がパクパクと動く。さらに何かを話しているように、次々とその口が開閉を繰り返す。裕斗もそれに気がつくが、何を伝えようとしているのかわからない。

 

すると

 

 

 

 

 

「『自分達のことはもういいから、キミだけでも生き永らえてくれ』ってサ」

「「「「「!!」」」」」

 

 

それを読み取った人物が皆にわかるように翻訳したのだ。全員がそちらへ向くと、『ヘブンズ・ドアー』で安全装置でも仕掛けたのか、手の甲を本にした丈城が。丈城は落ち着いた口調で裕斗にこう付け加えた。

 

 

「裕斗…お前の同志は最初っから復讐なんざ望んじゃいなかったんだ。でなけりゃ…そんな顔してねぇだろ? そいつらはよ……」

 

 

丈城の言葉に、霊魂達はリズミカルな口調で唇を動かす。と、今度はアーシアがそれを読み取った。

 

 

「聖歌…」

 

 

一定のリズムで歌う霊魂達。涙を流して同じように口ずさむ裕斗。いつのまにか彼らを包むように光が強くなり、やがてそれは校庭を真昼のように照らし出す。

 

 

『僕らは、一人ではダメだった━━━』

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど━━━』

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ━━━』

 

 

やがて霊魂達の声ははっきりと聞こえ出す。そして一人ずつ、尾を引く流星のような形に変わって裕斗の中へと吸い込まれてゆく。

最後の一人が消えた後、裕斗は神々しいオーラを放ちながら立ち上がる。

 

 

『聖剣を受け入れるんだ━━━』

『怖くなんてない━━━』

『たとえ、神がいなくても━━━』

『僕たちの心はいつだって━━━』

 

 

「━━━ひとつだ」

 

 

その一言を口にした瞬間、裕斗は利き腕を真横に伸ばし、両眼を見開いた。

 

 

「━━僕は剣になる。部長、仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれッ! 『魔剣創造』ッッ!!」

 

 

『魔剣創造』が剣を作り出すその輝きに、先程の魂が再び現れて同化してゆく。

 

 

「裕斗さん…一体何を…?」

「裕斗の神器に宿る"魔の力"と因子の中の"聖の力"。二つの力が同調して、一つの力になろうとしてるんだ」

 

 

丈城の言葉を繋ぐように、ドライグが語り出した。

 

 

『至った…あの『騎士』は至ったんだ』

「ドライグ…?」

『神器は所有者の想いを糧に変化と進化をしながら強くなってゆく。だが、それとは別の領域がある。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う"流れ"に逆らうほどの劇的な転じ方をしたとき、神器は至る。そう、それこそが━━』

 

 

 

 

 

『━━禁手だ』

 

 

裕斗の手に握られた剣は、相対する二つの力の結晶だった。

 

 

 

(←To Be continued…)

 




裕斗の覚醒シーンを執筆中、どうしても脳内に5D´sの遊星のテーマが流れる……。気のせいでしょうか?

ここだけの話、覚えている人いるのかなーと思ってお気に入り件数を見てみると、減ってるどころか増えていてビックリしています。これだけ自分の作品を見てくれていると思うと本当に嬉しいです。

また期間が空くかもしれませんが、失踪せずに書き続けますのでよろしくお願い致します。

誤字脱字、ご意見ご感想等がございましたら、コメント欄にご一報下さい。


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第33話《解放、天閃のChariot》

……とにかく時間が欲しい(泣


同志達の想い、そしてオカ研メンバー達の存在。それら全てが詰まった、『騎士』木場裕斗の新たなる刃。

 

 

「━━禁手、『双覇の聖魔剣』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい!」

 

 

彼が至った新境地・禁手。それを天高く掲げ、高らかに述べた。

 

 

「流石先輩だ。私も負けぬよう、力を解放するとしよう」

「ディ・モールト、ディ・モールト(非常に 非常に)良いぞ!! お前なら辿り着けると思っていたぜ。このままカッコつけられるのもアレだし、そろそろ俺にも本格的に暴れされろ!!」

 

 

そこへゼノヴィア、丈城が参戦。一人よりも皆で決着をつけたいと考えていた裕斗は笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「ぺトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ。この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。━━デュランダル!!」

 

 

何かの言霊を口にし始め、目の前に現れた空間の歪みに手を突っ込むゼノヴィア。そこから引き出したのは、エクスカリバーとはまた違ったオーラを放つ一本の聖剣。それを見た途端、バルパーはおろかコカビエルまでも驚愕した。

 

 

「デュランダルだと!?」

「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!?」

「残念。私は元々聖剣デュランダルの使い手だ。エクスカリバーの使い手も兼任していたにすぎない」

 

 

右手に『破壊の聖剣』、左手にデュランダルを構えてゼノヴィアは立ちはだかる。バルパーの問いにも彼女はさも当然のように淡々と答えた。

 

 

「バカな! 私の研究ではデュランダルを扱える領域まで達してはいないぞ!?」

「それはそうだろう。ヴァチカンでも人工的なデュランダル使いは創れていない」

「では、なぜだ!」

「よーはあれだろ? 養殖もんの聖剣使いじゃなくて、元々神様とやらから祝福を受けた天然もんってやつ」

「そういうことだ、赤龍帝」

 

 

伝説上、デュランダルは暴君の異名を持つ聖剣として知られている。あまりにも大きすぎる力故に完璧な扱いは困難を極め、実際ゼノヴィアの言う事すらろくに聞かない。よって聖剣使いを作り出す技術を有したとしても、それそうなりの使い手は作り出せないのだ。

 

 

「さて、フリード・セルゼン。お前のお陰でエクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。私は今歓喜に打ち震えているぞ。一太刀めで死んでくれるなよ? 精々エクスカリバーの力を存分に揮うことだ!」

「そんなのアリですかぁぁぁ!? ここにきてのチョー展開! クソッタレのクソッビッ◯が! そんな設定いらねぇんだよォォォォ!」

「いらねぇのはテメーみてぇなドグサレスカタン野郎だ! このマヌケ!!」

 

 

裕斗、ゼノヴィアの順に切り札を出してきた。となれば当然この男も出してくる。

ジョーカーすら、そしてロイヤルストレートフラッシュすら遥かに凌ぐ最強の切り札を。

 

 

「裕斗、この際だからレクチャーしとくぜ。仇敵を討つときの決め台詞をな」

 

 

丈城は二歩ほど前に出ると、隣に『銀の戦車』を出してこう言い放った。

 

 

「我が名は兵藤丈城! またの名をジョジョ! 我が友・木場裕斗の人生を狂わせた聖剣との因果を断つために! そして彼の同志達の弔いのために! この俺が貴様らを絶望のフチへブチ込んでやるッ!! このォ……!」

 

 

指をビシッと突き付け、さらにどこから取り出したのか、あるものを抜き取る。それは……

 

 

「『天閃の聖剣』でなァッ!!」

 

 

なんとフリードが使っていて壊れたはずの『天閃の聖剣』だった。

 

 

「! そっ、それは『天閃の聖剣』! なぜ元通りになっているのだ!?」

「俺が治した。Do you understand?」

「理解できん!」

 

 

言わずもがな、バルパーは丈城の『クレイジーダイヤモンド』の能力を知らない。

 

 

「……そうだね。仇が、僕のために戦ってくれる友とが、そして……仕えるべき主がここにいるんだ。カッコよく決めないとね!!」

 

 

力強く頷いた裕斗は聖魔剣を掲げ、丈城の台詞に続いた。

 

 

「我が名は木場裕斗……我が因果との決着に力を貸してくれた友のために、仕えるべき主・リアス・グレモリーのために、同志達の想いが詰まったこの刃でその罪、償ってもらうぞ! バルパー・ガリレイ!!」

 

 

一点の曇りもない目で裕斗はバルパーを見据える。

 

 

「フ、フン。いくら『天閃の聖剣』がそちらに移ったところで、私のエクスカリバーが越えられるものか」

「まだわからないようだね。ジョジョ君は何もそれ一本でやり合おうなんて考えていない。それだったら『銀の戦車』を出したりはしないしね。……そうでしょ? ジョジョ君」

「Yes I am! 刮目せよッ!!」

 

 

丈城は『天閃の聖剣』を『銀の戦車』に持たせ、能力を作動させる。

 

 

「『銀の戦車』、◯・解ッ!!」

「「「「「それ他作品ッ!!」」」」」

 

 

味方全員の総ツッコミと共に甲冑が弾け、その影響により丈城の体が宙に舞う。すると地上の『銀の戦車』にある変化が。

 

 

「…!? 『銀の戦車』の体が!」

「聖剣が発するオーラを……吸収しているのか!?」

 

 

『天閃の聖剣』から溢れ出る聖なるオーラ。それら全てがまるで意志を持ったように、『銀の戦車』の中に取り込まれてゆくではないか。さらに『銀の戦車』の体に金色のラインが走り、『天閃の聖剣』と元々所持していた剣が根元から青白く発光し始める。

 

そして着地した丈城が、姿の変わった『銀の戦車』の隣に降り立った。

 

 

「甲冑を外し、聖剣のオーラによって強化された二刀流スタンド! その名も……『天閃の戦車』!!」ズアアッ!

 

 

その場にいる全員が、衝撃の展開に息を飲む。

 

 

「ら、『天閃の戦車』!?」

「そうか…元々スタンドは人間の精神エネルギーがヴィジョン化したもの! そこに聖剣のオーラが加わったことで、『銀の戦車』が更なるパワーアップを遂げたんだ!!」

「聖剣使いでもないのに、聖剣と一つになった……今代の赤龍帝はここまでの力を有しているというのか…!?」

 

 

驚愕する周囲を尻目に、丈城はさらに『アヌビス神』を出して刀身を抜き放つ。

 

 

「『双覇の聖魔剣』、デュランダル、『天閃の聖剣』、『銀の戦車』、『アヌビス神』の 計5本! 俺たちの五重奏、受けてみろォッ!!」

「こっっっざかしいぃぃんだよォォォォッッ!!」

 

 

しびれを切らしたフリードは手にしたエクスカリバーの切っ先を三人に向け、『擬態の聖剣』の能力を発動。刀身が次々枝分かれして襲いかかる。しかし

 

 

「きかねぇ納豆!!」ガキャアン!

 

 

丈城の『天閃の戦車』が応戦。一瞬で枝分かれした刀身が粉々に切り裂かれた。

 

 

「速い! 通常の『銀の戦車』とは比べ物にならないわ!」

「元々の特性であるスピードと卓越した剣さばき、そこに『天閃の聖剣』と甲冑を外した事が合わさった結果だ! 速度の相乗効果の賜物だぜ!!」

 

 

枝分かれするスピードよりも速く裁断してゆく『天閃の戦車』。するとその脇からゼノヴィアが飛び出し

 

 

「デュランダルの一閃、受けてみよ! 覇ァッ!!」

 

 

アンダースローの動きでデュランダルを振った。その瞬間伸びて枝分かれした刀身が粉々に切り裂かれ、遂にはその根元まで粉砕。ついでにその余波が校庭を大きく抉る。

 

 

「━━所詮は折れた聖剣、か。これでは相手にならん。……赤龍帝! 後は任せる」

「All right! 続け裕斗ッ!」

「了解、ジョジョ君!」

 

 

三本を統合したエクスカリバーでも、暴君と称されるデュランダルの前では朽ちた竹光同然。その面影は既になかった。

得物をなくし慌てるフリードに、丈城と裕斗と『天閃の戦車』が一気に間合いを詰める。

 

 

「俺達のコンビネーションを、お見せしようッ! 『天閃の戦車』、『アヌビス神』!!」

 

 

元々の能力である残像攻撃で突貫する中に、それぞれの剣を携えた丈城と裕斗が混じるように加わり、ノーガードのフリードに次々と斬撃を叩きつける。悲鳴にもならない声をあげ、フリードはその体を己の鮮血で赤く染めあげてゆく。

 

刹那、決着がついた。

 

 

「「今度の剣さばきはどォだァァァ━━━━━ッ!!」」

 

 

『双覇の聖魔剣』と『アヌビス神』の刀身がフリードの右目を貫き、そのまま十字に切り裂いた。

 

 

「うぎゃアアあァァァぁぁっっッ!! あっ、ああっ……俺っちの…俺っちのォォォ………ッ!」

 

 

切られた箇所から血を吹き出し、右目を押さえてのたうち回るフリード。最早戦意喪失は火を見るより明らかだった。『天閃の戦車』を下げた丈城は裕斗に向き直り、小さく頷いて後ろに下がる。丈城の役目はあくまで"フリードの体力を削る"こと。ここから先は裕斗の役目だ。

 

 

「━━見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを越えたよ」

 

 

次の瞬間、裕斗はフリードを切り伏せた。

 

 

 

(フリード・セルゼン……丈城、裕斗、ゼノヴィアらの手により、再起不能)

 

 

 

☆☆☆

 

 

裕斗の足元に転がるフリードの体。天を仰ぎ、裕斗は静かに涙を流す。今ここに、彼の因果に決着が着いたのだ。『双覇の聖魔剣』も淡く光を放ち、彼の勝利を祝っているようにも見える。……だが

 

 

「せ、聖魔剣だと……? あり得ない……。反発しあう二つの要素がまじり合うなどあり得ないのだ……」

 

 

忘れてはいけない。バルパーを倒さぬ以上、また悲しいサイクルが続く危険性がある。各々の得物を手にして、三人が彼の前に立ちはだかる。

 

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」

「バルパー・ガリレイ、神の名の元に、貴様を断罪する!」

「こンのクソジジイが!年貢の納め時だ、覚悟しやがれ!!」

 

 

三者三例の文句と共に迫る三人。すると……

 

 

「フ…フフ……そうか、そうかわかったぞ!」

 

 

最後の最後で、彼はある答えに行き着いた。

 

 

 

 

「聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけではなく、神も━━」

 

 

 

ズシャアッ

 

 

(←To Be continued…)

 




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第34話《判明、禁断のtruth》


こんにちは、尾河です。

かなりの間が空いてしまいましたが、漸く纏め終わりましたので第34話を投稿させて頂きます。
そして今回と次回で、以前の伏線を回収いたします。(覚えている人がいるかが怪しい…)

それではどうぞ。



「…じ、ジョジョ君?」

「貴様…何を…」

「その続きは地獄で延々とほざいてな、クソジジイ。テメーの戯れ言は聞き飽きた」

 

 

丈城らの目の前にいた筈のバルパー・ガリレイ。彼は『天閃の戦車(ラピッドリィ・チャリオッツ)』が放った『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』と元々持っていた剣の刀身に貫かれ、校庭の隅にある木で昆虫標本のような最期を遂げていた。

 

 

「すまん、裕斗。仇敵俺がとっちまって……」

「…構わないさ、ジョジョ君。どの道奴は死ぬ運命だったようだから……」

 

 

裕斗が向けた視線の先には、光の槍を握ったコカビエルの姿が。

 

 

「残るはコカビエル……ただ一人!」

「……まぁいい。奴が死のうが生きようが、どのみち成功する手筈だった。最初から一人で出来ることだったからな……。フフフ…ハァ━━━━━━ッハッハッハッハッハッ!!」

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

凄まじいオーラ、そして絶対といわんばかりの自信。これが古より聖書に記された堕天使の威厳とでもいうのだろうか。コカビエルは椅子から飛び降りて地上近くまで降下すると、不敵な笑みでこういい放った。

 

 

「オイ、そこの人間。貴様の二の腕は完治したと見える。もう一度かかってこい」

「「「「「!?」」」」」

 

 

なんと丈城にタイマンを申し込んだのだ。

 

 

「ほう…向かってくるのか? このジョジョに対して……。フッ、その意気や良し! 右腕だけじゃねぇ、テメーの残りの手足と翼をバラして、俺はこの戦いに勝利すると予告しよう!」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 

さらには丈城もこれにのり、元に戻った『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』を下げて一歩前に出、代わりに『星の白金(スタープラチナ)』と『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を出して臨戦体勢へ突入。コカビエルのオーラをものともせず、似たような笑みを浮かべて宣言勝ちを仄めかした。

 

 

「ジョジョ! いくらなんでも無謀過ぎるわ! 相手は聖書に記された堕天使。いくらなんでも分が悪いわ!」

「へーっ、なら奴をヌッ殺せば代わりに俺の名が聖書に載るのかねぇ? これなら俄然殺る気が出てきたぜ! 聖書に名前が載るなんてそうそうねぇからなァッ!」

「ジョジョ!!」

 

 

この期に及んで一向に調子を変えない丈城にリアはキレかかるが、その直後彼は真顔になって彼女らの足元を見た。

 

 

「……だったら戦えんのか? "ビビったおぼつかねぇ足取り"でさ」

「ッ!?」

 

 

丈城以外のメンバーの足は……震えていた。

 

 

「ヤローはリア達じゃなくて、俺一人を指名した。右腕がねぇのは俺が吹っ飛ばしたから。つーか滅びの一撃を片腕だけで弾かれた時点で既にアウトじゃねぇか。とすれば、対戦したい相手は自ずと見えてくる」

「で、でも!」

「心配してくれるその心遣いは嬉しいよ。だが桁が違うからって、必ずしも勝てない相手ではない。ヤローの勝率が99%だろうが知らねぇ。1%でもありゃ充分だ。俺は負けない。ましてや人外相手なら尚更だ!!」

 

 

掌に拳を打ち付けて気合いを入れ直し、丈城はコカビエルと対峙する。

 

 

「必ず帰るッ! 俺は死なんッ! 出来ない約束はしない。だができる約束ぐらい守ってやるぜ!」

「ジョジョ……」

 

 

いつになく燃え上がる丈城の心。それをコカビエルは鼻で笑う。

 

 

「フン、そんな下らない約束のために命をかけることも惜しまないとは……やはり下等生物の考える事は愚かだ。理解しがたい」

「そら、こっちの台詞だ。下る下らねぇの判断は俺が決める。テメーのようなダボが勝手に決めてんじゃねぇ! 堕天使の名の通り、地に叩きつけてやるから覚悟しとけ!!」

 

 

全身のオーラを強めるコカビエル。倍加を完了させて力を向上させる丈城。両者の背後からゴゴゴ…と擬音が見え隠れする中、場の雰囲気がさらに緊迫する方向へ向かう。

 

 

そして

 

 

「ウオオオオオォォォ━━━━━━━━━ァァッ!!」

「ハアアアアアァァァ━━━━━━━━━ァァッ!!」

 

 

遂に両者激突。

 

まずは『星の白金』の脚力で丈城がコカビエルへ突貫。それに対抗しコカビエルも手から波動を放って防ごうと立ち回るが、『星の白金』が両手でクロスガードしたため威力が軽減してしまう。完全に防ぎきれず丈城のスピードは若干落ちたものの、持ち前の根性で突っ切り、コカビエルの顔面に鋭い右ストレートを叩き込んだ。

 

 

「オラァッ!」

「ふぐぅッ」

 

 

しかしコカビエルもすぐに反撃。がら空きだった丈城の腹めがけて波動を打ち込んだ。

 

 

「ぬぅんッ!」

「げはっ!」

 

 

思わぬ一撃に一瞬怯んだが、前を向いた彼はすぐにオラオララッシュを放つ。コカビエルは黒い翼を刃物化させて対抗。逆に丈城の手をズタズタにしようとする。

 

 

「『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』」

「くぅぅぅッ!」

 

 

手の甲から血が流れようがお構い無し。決死の覚悟でひたすら拳を振るい続けてゆく。そして一瞬の隙を見出だし、『赤龍帝の籠手』で翼を一枚鷲掴み。コカビエルを越えてその背を踏み台に飛び退き、勢いに任せて翼を引き千切った。

 

 

「ガアアッ! おのれよくも!」

 

 

翼をやられたことで逆上したコカビエルは光の槍を生成して打ち込む。だが

 

 

(カアアアアッ!!)

「どりゃあああ━━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 

気合一閃、『赤龍帝の籠手』の左ストレートが先端から捉え、打ち砕いた。

 

 

「!? ば、馬鹿な! 光の槍を粉々に!?」

「舐めんなァッ!」

 

 

バク転で着地して再び跳躍。次から次へと飛んでくる光の槍を同様に砕き弾きながら突進する彼に、コカビエルは動揺を隠せない。それが仇となり、丈城をみすみす懐に潜らせてしまった。

 

 

「罰を与えるぞッ!!」

 

 

両手の掌底で胸を突いてコカビエルを吹っ飛ばし、今度は『緑の法皇(ハイエロファント・グリーン)』に切り替える丈城。開いたコカビエルの口目掛けて『緑の法皇』を侵入させる。

 

 

「お仕置きの時間だ!」

「ゲババババァァッ!?」

 

 

内部からの攻撃を受けて、コカビエルはたまらず吹っ飛んだ。が、流石『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部。この攻撃でもまだ飛べるだけの力を残している。

 

 

「ヘヘッ、まァたまたやらせていただきましたァン!」

「ククッ……赤龍帝の小僧、貴様の持つその実力と臨機応変な戦い方は称賛に値する! だがその程度では追い詰める前に俺が勝利するぞ! 人間の浅はかさは命取りになるということを思い知らせてやる!!」

「やってみろ!! それよりも早く決着つけりゃいい話なんだからな!」

 

 

互いにドバドバと流血しながらも一向に譲る気配はない。直後コカビエルが光の槍の応用で剣を生成し、それを見た丈城は『アヌビス神』を抜刀。第2ラウンドはチャンバラ勝負へ移行した。

 

 

「ハッ!!」

「でりゃあ!!」

 

 

ギンッ、ギンッと刃がぶつかり合う音が大きく響き、両者互角の戦いが続く。つばぜり合いもほぼ力量は同じ。手にダメージが蓄積している筈の丈城も『人外相手に負けたくない』というプライドが許さないのか、一向に力が劣る気配はない。

 

 

「ちぃッ…!」

 

 

これ以上は拉致があかないと判断したコカビエルは二本の光の剣を生成し、なんと両足にこれをもって戦うという荒業に出た。だが丈城も負けじと『銀の戦車』を繰り出して応戦。三刀流vs二刀流の戦いへ移り、時折斬撃が当たって血が流れるもそこはお互い痩せ我慢。痛覚に耐えながらぶつかる。

 

 

「くっ…フン、見事な剣さばきだ……! まるで俺の動きを『把握』しているような動きだな!」

「ほぅ、さっすが堕天使の幹部なだけあるなぁ……! よくぞ見切った! だが何か動かねぇといつまでたっても現状が維持されるだけで何にも変わんねぇぞ!」

「ならばお望み通りにしてやる!」

 

 

コカビエルは残った九枚の翼を羽ばたかせ、グラウンドの砂を舞い上げて丈城に向けて吹き飛ばした。

 

 

「!? しまっ……!」

「そこだァッ!!」

「げはァッ!?」

 

 

突然の砂嵐に怯んだ丈城に、コカビエルは噴煙から飛び出して強烈なライダーキックをお見舞い。リア達を飛び越して校舎に蹴り飛ばした。

 

 

「「「「「ジョジョ(君)(さん)(丈城先輩)!!」」」」」

「クソッ、なんて姑息な真似を!」

 

 

二階の教室に叩きつけられ、姿が見えなくなった丈城。ゼノヴィアは思わずコカビエルに悪態をつくが

 

 

「……ガッ、ケ、ケケケッ…やって、くれるじゃねぇか……クソ堕天使ィィィ━━━━━━━━━ッ!!」

「!? せ、赤龍帝! 無事なのか!?」

「あたぼうよ! こんなんでくたばってたら人間代表なんざ務まらねぇよ!!」

「「「「「それは人間とは言(わないから)(いません)(わん)!!」」」」」

 

 

ガラガラと瓦礫を蹴散らし、丈城が無事な姿を現した。その左手には傷だらけの『赤龍帝の籠手』があることから、どうやら激突の瞬間に『赤龍帝の籠手』を盾代わりにしたらしい。

 

この野郎、もう一発ブン殴ってやる。丈城は再び闘志をたぎらせて前線に戻ろうと一歩踏み出した。……その時、彼の視界の端にそれはいた。

 

 

「ん…? …あれっ!? お前なんで……!?」

 

 

☆☆☆

 

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、お前達神の信者と悪魔はよく戦う」

 

 

丈城とのタイマンに小休止が入り、コカビエルはこちらを見上げるリア達に対して静かに嘆息した。

 

 

「……どういうこと?」

「━━━! フッハハ、フハハハハハハハハッ! そうだったな! そうだ! お前達下々までその真実は! 真相は語られていなかったな! ならついでに教えてやろう!!」

 

 

怪訝な表情をするリアを嘲笑うように、コカビエルは心底おかしそうに笑い出す。そして次の瞬間、彼はとんでもない真実を言い放った。

 

 

 

 

 

「先の三つ巴戦争で四大魔王だけじゃなく、『神も死んだ』のさ」

 

 

 

 

 

「「「「「━━━━━━━━━━ッ!!」」」」」

 

 

全員のリアクションを他所に、コカビエルは勝ち誇った顔で言葉を繋ぐ。

 

 

「知らなくて当然だ。神が死んだなどと誰に言える? 人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な者の集まりだぞ? 我ら堕天使、悪魔さえも下々にそれらを教えるわけにはいかなかった。どこからそんな事実が漏れるかわからなかったからな。三大勢力でもトップと一部の者達以外はこの真実を知らない。ま、バルパーは先程気付いたようだがな」

 

 

彼が明かした衝撃の新事実。それはアーシアやゼノヴィアを始めとしたとした神に仕える者達の生き方を全否定し、裕斗やその同志達のこれまでの意味を無に帰す最悪の真実だった。

 

 

「戦後残されたのは神を失った天使、四大魔王と上級悪魔の殆どを失った悪魔、幹部以外の殆どがいなくなった堕天使……最早疲弊どころの騒ぎではない。人間に頼らねば種の存続すら不可能なところまで堕落したのだ。特に天使と堕天使は人間と交わらねば種を残すことなど出来ない。堕天使は天使が堕ちれば増やせるが、純粋な天使は神を失った今では増えることすら不可能。悪魔も純血種が希少だしな」

「……主がいないのですか? 主は……死んでいる? では、私達に与えられる愛…は……」

「そうさ。神の守護や愛がなくて当然。神は既に死んだのだからな。ミカエルはよくやっていると思うぞ? 神の代わりをして天使と人間をまとめているのだからな。まぁどのみち、神が使っていた『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪霊祓い(エクソシスト)もある程度は動作する。━━ただ神がいた頃に比べて切られる信徒の数が増えたがね。そこの聖魔剣を創りだせるのも神と魔王のバランスが崩れているからさ。本来であれば交わることなど有り得ない。両極のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば、特異現象など何処でも起きる」

 

 

アーシアの信仰心は今尚死んではいなかった。しかしこれまでの人生を存在すると信じて捧げてきた分、そのショックは計り知れない。結果耐えきれず、アーシアはその場で崩れ落ちた。

 

 

「! アーシアちゃん、しっかりしてください!」

「アーシア先輩!」

 

 

側にいた朱乃や小猫が駆け寄り、アーシアを介抱する。幸いただの気絶のようだ。

 

 

「……ウソだ。……ウソだ」

 

 

一方ゼノヴィアは地に手足をつけて酷く狼狽し、項垂れている。ここにもしイリナがいたら……想像するだけで恐ろしい。

 

 

「正直、大規模な戦争は故意にでも起こさなければ再び起こらない。それだけ三大勢力は先の戦争で痛い目を見たのだ。互いに争う大元となる神と魔王が死んだだけで、戦争を続けるなど無意味だと判断しやがった。アザゼルもアザゼルだ! 先の戦争で大半の部下を亡くしただけで『二度目の戦争はない』と言う始末! ……アザゼルがもうやらんと言うのなら、俺が戦争をおっ始めてやる。これを機に! 貴様らの首を手土産に! 俺だけでもあの続きをしてやるのだ! 我ら堕天使こそが最強たる存在であると、サーゼクスにもミカエルにも見せつけてやる!」

 

 

消沈と混乱で狼狽えるリア達を尻目に、コカビエルはオーラを強めて高らかに吠える。不穏な空気がこのまま支配するかと思われた…………次の瞬間。

 

 

 

 

(バチバチッ! バチィンッ!)

 

 

 

 

混沌を引き裂く、青天の霹靂が轟いた。

 

 

 

 

「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』ァッ!!」

 

(←To Be continued…)

 




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第35話《決着、最強のHuman》

皆様こんにちは、尾河です。

一通り大学の講義が終了致しましたので更新させていただきます。お待たせしてすみません。

そういえば第四部の実写が話題となっていますね。PVを見る限りかなりCGが使われているようですが、それを補うように演者さんの演技が生えていました。個人的にいい作品になるんしゃないかと考えています。

それでは第35話、どうぞ。



姫島朱乃は、いつになく憤慨していた。

 

 

今でこそグレモリー眷属の悪魔だが、彼女は元々堕天使と人間の間に生まれた子で、その父親は目の前にいるコカビエルの同幹部。『神の子を見張る者』のバラキエルなのである。

バラキエルは職業の都合上家を空ける事が多く、朱乃はいつも母の朱璃と二人暮らし。父親がいないことに寂しさを覚えながらも嫌な顔一つせず過ごしてきた。

 

しかしある日、堕天使と対立する勢力の刺客が自宅に強襲してきたのだ。勿論この頃の朱乃に数人の大人相手に戦える力などなく、朱璃に至っては常人そのもの。抵抗なぞ出来ようにも出来なかった。刺客は朱乃を引き渡せと要求してきたが、朱璃はこれを拒否。痺れを切らした一人が刃物を振り上げ、朱璃は自らの命を擲ってでも朱乃を守ろうとした。

 

その時の光景を未だに朱乃は覚えている。否、忘れようにも忘れることなど出来ない。

 

 

その瞬間こそ、彼女が生まれて始めて『ヒーロー』と言えるべき存在と出会った瞬間なのだから。

 

 

最もカッコいいかと問われればそうでもない。彼は人とはかけ離れた姿をしていた。それでも、それでも幼い朱乃の目に強い憧れとして焼き付いたのは言うまでもない。その後駆けつけてきた父親の事など隅に追いやってしまったように。

 

あれから数年。今でも朱乃は朱璃と出張が目立つ父親と仲良く暮らしている。悪魔となった現在でも両親が生きている幸せを、今を繋いでくれた彼にこの上ない感謝をしている。そして強くなるために切磋琢磨し、いつかどこかで彼と巡り会えたとしても恥ずかしくないように努力を重ねてきた。

 

現実は厳しい。先のレーティングゲームでも眷属内で敗北したのは彼女のみで、力不足をどれほど痛感したかわからない。でも諦めることは彼に対する憧れに背くことになる。朱乃の心にはいつも、異形のヒーローがついていた。

 

そんな彼に比べ、後輩を騙したレイナーレといい目の前のコカビエルといい、そして父親といい、どうしても堕天使は自分勝手な種族だと思えてしまう。かくいう自分もその血をひいているのだから余計に腹が立つ。堕天使の一人として恥ずかしい限りだ。

 

だが力の差は歴然だった。コカビエルは主であるリアスの力を片手だけで防ぎ、ましてや最凶と唱われる後輩の力を持ってしてでも苦戦する程の恐るべき実力者。このまま膠着状態が続けば駒王町の関係のない人々まで消されてしまう。もう時間がない。

 

最早神の死などどうでもいい(いや本当はどうでもよくないが)。全て失ってしまうのだろうか。彼が繋げてくれた自分の未来も、眷属達の未来も、全部無に帰してしまうのか。それが朱乃の恐怖だった。

 

 

(……私じゃ、私達の力じゃ……どうにもならない……!!)

 

 

いつしか、朱乃の心境はあの頃に戻っていた。母が殺されかけたあの当時に、何も出来なかった自分に。だからこそ彼女は願った。強く、強く…

 

 

(……助けて、下さい……! チリ・ペッパーさん……私達を…あの時みたいに助けて!!)

 

 

来るとは限らない。だが追い詰められているこの状況では、もう打つ手がないのだ。藁にもすがる思いで朱乃は固く目を瞑り、願う。

 

ところが朱乃は知らなかった。

彼女のヒーローはそのひたむきな姿を常に近くで見守り、努力も考え方も誰よりも理解していたということに。

 

 

そしてそれは彼女の願いに応え、晴天の霹靂とともに現れた。

 

 

 

 

 

「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』ァッ!!」

 

 

 

 

 

★★★

 

 

「ウガガガガガガガガガァッ!?」

「「「「「!?」」」」」

 

 

突如、コカビエルが感電したかのように全身を痙攣させ始めた。その周囲には電気が勢いよく迸り、辺り一帯を真昼のように照らし出す。あまりの眩しさ故に全員が手や腕をかざすが、その光景に異を感じた者がいた。

 

 

「! おい、コカビエルの首に何かがいるぞ!」

 

 

その言葉にリア達が確認すると、確かにコカビエルの首を締め上げるような小さな人影が見える。新たな乱入者であろうか。

 

だが徐々に目が慣れてきた一同は、その正体に息を飲む。

 

 

「何あれ……? きょ、恐竜!?」

 

 

それは、人の形をした小さな恐竜だった。

そしてリアの率直な言葉に、朱乃の表情が一気に驚愕へと変わる。

 

彼が、来てくれたのだと……。

 

 

 

「チリ・ペッパーさん!!」

 

 

 

そう。その恐竜とはかつて朱璃と幼い朱乃を救った異形のヒーロー。

電気を身に纏い、電気の通る場所なら何処へだって現れる雷の恐竜『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だったのだ。

 

 

「チリ・ペッパーさん……って、確か朱乃と朱乃のお母さんを救ったっていうあの!?」

「はい、間違いありませんわ! あの迸る雷……! 以前より増していますが、姿は当時のままですわ!」

 

 

アーシアを小猫に任せ、一人駆け出す朱乃。眩しさなどお構い無しに、恩人の戦う姿を見上げた。

 

 

『ヒャッハー! どうだッ、いきなりマックスだぜーッ!!』

「ヌゥゥッ! 貴様ッ、バラキエルと同じ力をォォッ!?」

『見りゃあわかんだろうが! ちょいと学園のコンピュータ実習室の電力を使ってドーピングしてっがなァッ!』

 

 

更に電力を強めて攻撃する『レッド・ホット・チリ・ペッパー』。締め上げる腕を一方開けて大きく振りかぶると、左肩目掛けて手刀を叩きつけた。

 

 

(ズシャアッ!)

「グァアアアッ!?」

『フハ━━━━ハハハハッ!! 片腕ついでに翼もぎとったど━━━━ッ!!』

 

 

その手刀は一瞬のうちにコカビエルの左腕を肩から切り落とし、さらにその流れで左側の翼を計三枚切断。

すぐさま彼は顔面に一閃をお見舞いし、地面に叩き落とした。一呼吸ついて地面に降下すると、そこに朱乃が満面の笑みで駆け寄る。

 

 

「チリ・ペッパーさん!」

 

 

その声に気がついたのか、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』も後ろを振り返る。そして再会の喜びを伝えようと朱乃が口を開こうとしたその時、彼は思いもよらぬ名前を口にした。

 

 

 

『……よし。その様子じゃ、さっきのショックは吹き飛んだみたいだな。なぁ、 "朱乃っち"?』

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 

なんと朱乃の事を、彼は『朱乃っち』と言ったのだ。彼女をそんな名前で呼ぶのは、世界広しと言えどたった一人しかいない。

 

 

『悪いな、隠すつもりはなかったんだ。でも大っぴらにする必要もなかったし、あの時の女の子が元気にしてるのを見れただけで十分だったんだ。お察しの通り、この『レッド・ホット・チリ・ペッパー』はこの俺、兵藤丈城のスタンドの内の一体さ』

 

 

落ち着いた様子で話すその口調は、まさしく丈城のそれと類似する。さらにその言葉を裏付けるように、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の周囲を包むオーラはスタンドと同じオーラ。彼のスタンドの一体なら、この小さな恐竜の姿の意味も頷ける。朱乃はこの時全てを悟ったのだった。

 

 

「じゃあ、幼い頃に朱乃さんとそのお母さんを助けたのは、ジョジョ君が……?」

『Excitry(その通り)。偶然通りかかった時に悲鳴を聞いてな……おっと、どうやら悠長に話してる暇はなさそうだ』

 

 

それに至る経緯を話そうと思ったが、まだコカビエルとの決着がついていないことを思いだして振り返る。両腕と翼一枚をもがれてボロボロになりながらも、コカビエルは怒りとプライドの入り交じった感情だけで立ち上がった。

 

 

「おのれェ……! よくもこの俺の腕を……! 翼をォォ……!!」

『人の心よりも汚れきったくせして意気がってんじゃあねぇぜ。何が戦争したいだ。何が堕天使最強だコノヤロウ。この地上はテメーの遊び場じゃねぇんだよ! この"駄天使"ゴミビールが!!』

「コカビエルだッ! それと"駄天使"とはなんだ"駄天使"とはッ!」

「『そのまんまの意味だ。お前にはその称号がピッタリだぜ!』」

 

 

突然丈城の声が二重に聞こえたかと思うと、リア達の間を通って本体の丈城が現れた。しかもその後ろには意外な人物が。

 

 

「オーフィス! どうしてここに?」

 

 

なんとアパートにいた筈のオーフィスが、『猫草』を頭に乗っけてやって来たのだ。驚く一同に丈城が軽く説明する。

 

 

「どうやら、コカビエルが展開した陣の波動を感じてやって来たらしい。ついでに例の事実もさっきこいつから聞かせてもらった。最も本人は知ってて黙ってたらしいがな」

「アーシア、まだ神、信じてる。だから、言いたくなかった」

『ニャウ…』

 

 

そのままトテトテとアーシアに近づき、オーフィスは慰めるように頭を撫でる。『猫草』も心配そうにアーシアの顔を覗き込んだ。

 

 

「『無限龍神』まで加担していたとは……! しかし何故だ! 何故神が死んだと知った今でも! 貴様は顔色一つ変えずに歯向かってくるのだァッ!?」

 

 

自分の隠し持っていた切り札を出したにも関わらず、動揺すら見せないその態度に不審を抱いた彼は丈城を問いただした。

それに対し、丈城はフッと笑ってこう返した。

 

 

「そりゃ聞かされた時は俺も驚いたさ。でもいっぺん死んじまったもんはいくら泣き喚いたって帰ってこない。死んだら死んだでそのまんまさ。じゃあどうするか、その答えはただ一つ。『先へ進むこと』だ」

「なん…だと……ォッ!?」

「去ってしまった者達から受け継いだものは、さらに先に進めなくてはならない……過去に執着するのではなく、過去を受け入れて未来に進む事にこそ、『生きる』という価値がある! お前にそれが理解できないのなら、知ったかぶった口を聞くんじゃねぇぜ!!」

「こざかしいわァァァ━━━━━━ッ!!」

 

 

逆上したコカビエルは残った六枚の翼から羽を放つ。しかし

 

 

(ガウンガウンガウンッ!)

「ッ!?」

 

 

それは呆気なく、『皇帝』の弾丸によって撃ち落とされた。

 

 

「やっぱりな……お前は子供となんら変わりねぇ。所構わず騒いで周りに迷惑かける、躾の出来ていないクソガキと全く変わらない。下らねぇんだよ。今さらそんな野望、流行らないぜ」

 

 

そして丈城は展開していた『皇帝』と『レッド・ホット・チリ・ペッパー』をしまい、ツカツカとリア達の前へ。

 

 

「死んだ魔王達からも、何かしら受け継いだものや教えられた教訓なんかはあった筈だ。神様も一緒。足踏みしてるだけじゃ進まない。だから受け継いでいかなくちゃいけないのさ。どこまでも」

 

 

『赤龍帝の籠手』の拳に力を込めて、丈城はドライグに呼び掛ける。

 

 

「ドライグ、お前も腹括りな。あの野郎に見せつけてやろうぜ。この赤龍帝ジョジョの力を!」

『…フッ、いいとも。あれだけ啖呵を切ったんだ。宿主の能力だけに格好をつけされるわけにはいかんなァッ!!』

(カアアアアアァァァァァッッッ!)

 

 

気合いを入れ直した丈城の身体が赤いオーラに包まれてゆく。さらにコカビエルを倒したい彼の思いに応え、『赤龍帝の籠手』は見たこともない輝きを放つ。……ついでに

 

 

「不可能を可能に変えッ! 人間代表にして最強たる存在ッ! ククク…今の俺は上機嫌だぜェ……実にいい気分だ! 歌でも一曲歌いたくなるような気分だァッ!! フフフッ、ブゥァア━━━━━━━━━━━ッハハハハハァッ!!」

 

 

入っちゃいかんスイッチが入った。

 

 

「……最早あっちを倒した方が、世のため人のため」

「あらあら…。ここまで気分を高揚させられると、こちらもついついのせられてしまいますわね…」

「確かに……もうバカとかそういうレベルじゃないわね。彼の場合」

「本当…ですよね」

 

 

リア達は目の前にいる彼なら、聖書に記された堕天使に打ち勝てるかもしれないと考えた。堕天使のプレッシャーなど恐れず、果敢に立ち向かおうとする彼にこの戦いを、街の運命を託そう。その場にいる全員が丈城の勝利を願った。

 

 

「おのれおのれおのれェェェ━━━━━ッッ! この下等生物風情がァッ!!」

「WRYYYYYYYYYYYYYY━━━━━━━━━━ィィッ!!」

 

 

両腕と四枚の翼を失っても尚諦めようとしないコカビエルは、半ばヤケクソ気味に羽を発射。しかし『星の白金』の脚力で飛び上がった丈城が『赤龍帝の籠手』を盾代わりに多少の被弾覚悟で突撃する。

 

 

「『ストーンフリー』ィィッ!!」

 

 

そして身体をターンさせて右手をコカビエルに突き出すと、『ストーンフリー』の能力で変質した手首の糸でコカビエルを捕らえようとする。

 

 

「チィィッ! 小癪なァッ!!」

 

 

拘束から身を守ろうとするコカビエル。しかしこの時点で右の翼を一枚、左の翼を三枚、合計四枚の翼を左右非対称にひきちぎられている為、うまく飛ぼうにも動きが鈍い。その結果一瞬の隙を突かれて拘束されてしまった。

 

 

「うわああァァッ!?」

「再起不能になってもらう!!」

 

 

糸はコカビエルをあっという間に包み込み、グルグル巻きになったそれを丈城と『ストーンフリー』がオラオララッシュで畳み掛ける。

 

 

「『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』」

 

 

全発炸裂によってコカビエルは飛ぶ力をなくして墜落する。

本来であれば回避することは容易だっただろう。しかし今のコカビエルは精神的にも肉体的にも疲弊し、追い詰められていた。切り札にしていた真実を話したにも関わらず、自らの持論を掲げて歯向かう丈城に彼は心底驚かされた。これは人間は神なしでは生きられないとタカをくくっていたコカビエルの完全な油断が招いた劣勢であるといえる。

 

 

「甘ッちょろいぞ駄天使ィィ━━━━━━ッ!! ショウタイムはまだまだ続くぜェェェ━━━━━ッッ!!」

 

 

だが丈城の猛攻は止まらない。『世界』に切り替えて時を止め、地上へ先回りした彼は『赤龍帝の籠手』に力を込めて迎撃の体制に入る。数刻後時が再始動し、落下してくるコカビエルの胴体に鋭い左ストレートをお見舞いした。

 

 

「グフェアァァッッ!」

 

 

グラウンドに叩きつけられながら転がってゆくコカビエル。光の槍も生成出来ず、羽の刃も全く役に立たない。その姿にかつての威厳は残されていなかった。それでも丈城は全く手を抜こうとしない。よろよろと立ち上がるコカビエルにだめ押しとばかりに間合いを詰め、『アヌビス神』で残りの翼を全て切り払った。

 

 

「既に堕ちてっから、もう飛ぶ必要はねぇよなぁッッ!!」ザシュザシュザシュッ!

「ガアアアアァァッ!」

 

 

最早どっちが悪者なのか分からなくなってきたこの決戦。それも遂に決着がつこうとしていた。

丈城は宣言勝ちを実行するために両足をすれ違い様に切断し、とうとうコカビエルの四肢と翼を全て奪ってしまった。

 

 

「ガッ…ウゥ…アァァ……ッ!」

「痛いか…? 痛てェよなァ? 心も体も……。でもな、俺達はそれ以上の痛みを味わったんだ。この俺を始め、アーシアもゼノヴィアも裕斗もイリナもみんなみんな…! そしてそれ以前にお前に苦しめられた人々も…!! 今の俺ならテメーを殺すのは簡単だ。でもそれだとこれまでの罪を咎めることが出来なくなる! 生きて犯してきた罪を指でも折って数えやがれ!!」

「貴様……ッ! この俺に、聖書に記されたこの堕天使に生き恥を晒せというのかッ…!」

「ああそうだ。こうなることはこの決戦になる前から既に決めていたことさ。今のテメーにピッタリの牢獄もちゃんと見つけてきたぜ」

 

 

傷だらけの顔のままニョホ♪と笑い、丈城はポケットから畳まれたメモ用紙を取り出した。

 

 

「なんだ…ッ! それは…ッ!?」

「メモ用紙だよ。それも折り畳んだ市販品」

 

 

さらに口角を上げた彼は言葉を繋げる。

 

 

「これは俺の能力の一つ『エニグマ』っつってな、物や人を紙の中に封印する力をもってるのさ」

「成程…その紙切れの中に俺を…封じるつもりか……!」

「いんや、封印なら俺にしか出来ねぇけど、紙の中のものを取り出すだけだったら"誰でも出来る"。封印しても第三者に開けられちまったら意味がない」

「…………?」

「この中には既に"封印した牢獄"がある。あとはお前をそこへブチ込めばいいだけだ」

 

 

そして丈城はメモ用紙をパッと開いた。するとコカビエルの目に落ちてきたのは……

 

 

「これがテメーにピッタリの牢獄だぜ」

 

 

シュレッダーにかけられたとおぼしき大量の細くなった紙だった。

戸惑うコカビエルを尻目に丈城は『クレイジーダイヤモンド』を側に出し

 

 

「さぁ……テメーのクズ伝説に終止符打ってやるぜ。永遠に供養してやらァ━━━━━━━━━ッ!!」

『ドォ━━━━━━━━━ララララララララララララララァァァッッ!』

「うぐああああああああァァァァァッ!?」

 

 

紙ごとコカビエルをラッシュし、同時に『クレイジーダイヤモンド』の能力を発動。コカビエルを紙と共に治した。しかし丈城の精神状態はとっくに怒りの方向へ振り切っている。従って……

 

 

「!? コ、コカビエルの身体が!?」

「紙と合体……しているだと!?」

 

 

コカビエルの身体は細くなった紙と共に同化してゆく。同化の速度はドンドン加速し、やがてそれは完全な一つの個体となって地面に落ちた。

 

 

「……テメーにはそれがお似合いだぜ。聖書に名前が記されるくらいなら、今度はテメー自身が本になればいい」

 

 

コカビエルは、製本された一冊の本に変わり果てていた。

 

丈城はそれを拾い上げると、中身を一切見ずにガムテープで本を隙間なくグルグル巻きに封をし、表紙にマジックペンでこう書いた。

 

 

『駄天使ゴミビール敗北録 ~堕天使はこうして人間に負けたww~』

 

 

「よし、ここまでで20分以内の筈だから……ギリセーフか!」

 

 

全員の目にコカビエルが展開していた魔方陣が消え失せてゆく様が映る。バルパーが口にしていた"コカビエルを倒さないとこの街を救えない"。リミットの20分経った今でも街が崩壊しないということは……

 

 

「……勝った…の?」

「コカビエルは本に封じられたことで、その効力を失った崩壊の魔方陣は消滅した。俺達の勝ちだぜ、リア」

 

 

丈城とリア達は、聖書に記された堕天使に勝利したのである。

 

 

「……やっ…た」

「「「「「やったぁぁっ!!」」」」」

 

 

全員が歓声をあげて喜び、丈城は蓄積されたダメージと疲れでその場に崩れた。

 

 

「! ジョジョ!」

 

 

真っ先にリアと朱乃が丈城に駆け寄り、肩を貸して立ち上がる。今まで立ち続けていた余裕は一体何処にいったのやら。

 

 

「もうっ、こんなボロボロになるまで一人で戦うことないじゃない…!!」

「そうですわよ…! 心配を掛けさせないで下さい……!!」

「でも…結果オーライだろ? 勝てたんだからサ」

 

 

丈城はそれでも余裕そうに振る舞い、力はないものの二人に笑って答えた。

 

 

「聖書に記された堕天使の最期…か。呆気ないものだったな」

 

 

落ちている本を手にそうポツリと漏らすゼノヴィア。あれだけの猛威を振るっていたコカビエルの最期がこうもあっさりしてしまうと、そう呟いてしまうのは仕方ないだろう。

 

 

 

「あぁ……んで? これで満足かよ? ……白龍皇さんよ」

 

(←To Be continued…)

 




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第36話《白の参上と後日談》

お待たせしました、ネタの煮詰めと学科の出した課題と格闘していたらいつの間にか8月が終わっていた尾河七国です。長引いて申し訳ありません。

一応今回で第4部に区切りをつけ、次回は外伝を挟んで第5部に突入する予定です。

それでは本編をどうぞ。



『まさか…な。噂以上の実力を秘めていたとは意外だった』

「ああでなくては面白くない。彼は赤龍帝の力を宿した、僕にとって運命の人。このぐらいの事で負けてもらっては困る」

『フッ、それで? フリードとバルパーはいいとしてコカビエルはどうする? 連れてくるように言われていたのに、あれでは……』

「構わないさ。見たままを話せばきっとアザゼルもわかってくれる」

 

 

 ……闇夜にただ一点、月を背に浮かぶ白き影。目を凝らさないと視認できないような位置から、彼らは堕天使コカビエルの再起不能を始終目撃していた。

 

 

「スタンド能力……赤龍帝の力はそれほどだけど、どうやらあの能力は俺を楽しませてくれるようだ」

『俺は別にどうでもいいがな』

 

 

 そんな問答をしていると、

 

 

 

「……んで? これで満足かよ? ……白龍皇さんよ」

 

 

 

「『!!』」

 

 

 地上から丈城の声がかかった。彼は死闘を観戦していた来訪者の存在に気がついていたらしく、一通り片付いたので漸く意識を白き影に向けたのだ。

 

 

「……フフッ、面白い!」

 

 

 そして、白き影は地上に降臨した。

 

 

 ★★★

 

 

「よー白いの。高みの見物ごくろーさん。楽しめたか?」

「そこそこにね。君の実力の一端も見ることが出来たし、そもそもあの程度の相手に勝ってもらわなくては面白味がない。」

 

 

 突如空から飛来してきた白き影に驚愕するリア達を他所に、丈城の呼び掛けに応じた存在━━━━白龍皇。彼が纏う白い鎧は見るだけでも寒気を感じる程、眩い輝きを放っていた。

 

 丈城は自力で彼の前へ歩き出すと、ゼノヴィアから受け取ったコカビエルを差し出した。

 

 

「ホラよ。目的はコイツだろ? だからこれを手土産に帰りな」

「ああ、そうさせてもらおう。……それにしても堕天使の幹部にしては、情けない最期だったね」

「引けをとっちまったのが少し悔しいけどな。ヘヘッ」

 

 

 お互い初対面の筈なのだが、その口振りはさながら久々に会った友人のよう。そしてそれは神器の方も例外ではなかった。

 

 

『久しいな、白いの』

『起きていたか、赤いの』

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

『しかし、白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』

『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』

『……理由を聞きたいか?』

『……いや、やめておこう。兎にも角にも、戦い以外の興味対象があるということか』

『そういうことだな』

『こちらはもう暫く独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

 

 アルビオン、と呼ばれた神器(セイクリッド・ギア)ともう一人は丈城と仲間達に背をむけ、去ろうとする。

 

 

「あばよ、白龍皇さんよ。近い内テメーをぶん殴れる日を楽しみに待ってる」

「フフフ、そうだね赤龍帝。それまでお互い強くなろう」

「あぁ……でも最後に一つだけ。俺は確かにお前からすれば赤龍帝だが、残念ながらちょいと違う」

「?」

 

 

 心底楽しそうに口角を上げると、丈城は疲弊なぞ関係なくジョジョ立ち(仗助ver,)を決めて

 

 

 

「プレッシャーと常識を跳ね返す男、兵藤丈城!! 俺のことはジョジョと呼んでもらおう!!」

 

 

 

 恒例の挨拶を白龍皇に向けて言い放った。

 

 

「………………」

 

 

 マスクで顔が隠れているためその表情はわからないが、恐らく驚いているのだろう。この期に及んでいきなり堂々とした挨拶をされたのだから、そうなるのも無理はない。

 しかし直後、白龍皇の体の中から笑いがこみ上げてきた。

 

 

「……フッ、フフフッ! 面白い、面白いよ君は。今まで関わった人々の中で、こんな異例中の異例は初めてだ。これはいい戦いが期待できそうだ。今はまだ身分を明かすことは出来ないが、いずれまた会おう…………さらばだ、"ジョジョ"」

 

 

 白龍皇はそれだけ言い残し、光の如く飛び去っていった。手応えのありそうなライバルとのコンタクトに満足した丈城は、鼻の下を親指で撫でてあくびを一つかました。

 

 

「さぁ~てと、黒幕のゴミビールもブチのめした事だし、残るは………裕斗」

「あぁ…わかっているよ」

 

 

 だが全てが終わったわけではない。この一件で無断に単独行動をとった裕斗の事案が残っている。

 

 

「……部長、僕は……部員の皆に……。何よりも、一度命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました……。お詫びする言葉が見つかりません……」

「……でも、あなたはこうして私達の元へ帰ってきてくれた。もう、それだけで十分。彼らの想いを無駄にしてはダメよ。それに禁手(バランス・ブレイカー)に至るだなんて、私も誇れるわよ」

 

 

 詫びを入れる彼の頬に手を添えて、リアは彼を慰めた。終わり良ければ全て良しといったところだろう。……が、

 

 

「部長……。僕はここに改めて誓います。僕、木場裕斗はリアス・グレモリーの眷属━━『騎士(ナイト)』として、あなたと仲間達を終始お守りします」

「うふふ。ありがとう……さて」

 

 

 その言葉が言い終わるや否や、リアは自身の手に紅いオーラを纏わせた。ただならぬ気配に感づいた裕斗は恐る恐る尋ねる。結果がわかっているだけ、恐ろしい事はない。

 

 

「……あ、あの、何事でしょうか?」

「裕斗、勝手なことをした罰よ。お尻叩き千回ね」

「は……はい(やっぱり……)」

 

 

 予想通りの結末に、裕斗はガクッと項垂れるしかなかった。

 

 

「んな落ち込むこたぁねぇぜ裕斗。ケツ千回叩かれるだけで許してくれるんだ。まっ、風呂入るときにちっと沁みるとは思うけどな!」

「ボロボロでお仕置きされないからって……」

「因みにジョジョ、あなたもよ。私達に黙って聖剣破壊同好会なるものを立ち上げたり、生徒会のサジ君も巻き込んだり、とにかく私達に迷惑ばっかりかけたのだから、あなたには特別枠の罰を受けてもらうわ」

「何ィッ!?」

「当然の報いよ。有り難く思いなさい」

「ワー嬉シクモナントモナイヤー」

 

 

 堕天使よりも恐ろしいものの存在を認知した丈城は、その場でガックリと項垂れるしかなかった。

 

 

 

 ……かくして女子メンバーのクスクス笑いと共に、過去の因果が絡んだ戦いは幕をおろしたのだった。

 

 

 

 

神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部・コカビエル……『クレイジーダイヤモンド』の能力で本になり、再起不能(リタイア)

 

 バルパー・ガリレイ……『天閃の戦車(ラピッドリィ・チャリオッツ)』の刃に貫かれ、死亡。

 

 フリード・セルゼン……裕斗の聖魔剣により、再起不能。

 

 

 ★★★

 

 

「…それで、罰の内容は一体何だったんだい?」

「…オカ研女子+オーフィスがナースコスして、怪我の治療やら全身マッサージやら色々……しかもコスは何故か露出が多いやつばっか」

「それくらいなら良かったんじゃない? 怪我を治して貰ったんだから」ニコニコ

「んなけならまだ目ェ瞑れるわ!! だけど何ですかッ!? 看護に混浴は必要でしょうかッ!? しかも途中で誰が先に俺の貞操頂くかの勝負に発展しとるし!! 俺がノーマルで良かったね!!」

「アブノーマルがお似合いだと思うよ? ジョジョ君には」

「うるせェッ!!」

 

 

 それから三日後の放課後。各々のペナルティの痛みが残る丈城と裕斗、そのやりとりに苦笑いしか出来ないアーシアは、部活動のために旧校舎に移動していた。裕斗は主に尻、丈城は心にダメージがあったために、若干その表情には疲れが見える。だがしかしそこは気合いで乗り切ろうと、それぞれ茶化したりシャウトしたりして気分を切り替えようとしていた。

 

 それを延々と繰り返しつつ、三人は部室へ到着。そして入室して彼等が最初に目にしたのは……

 

 

「やあ、赤龍帝」

「「「!?」」」

 

 

 駒王学園の制服を着、さも当然のように部室のソファに腰掛けているゼノヴィアだった。

 

 

「ゼ、ゼノヴィア! オメーイリナと一緒に本部に戻ったんじゃ……!?」

「まぁ、これを見れば納得してくれるだろう」

 

 

 驚いてその真意を尋ねる丈城。ゼノヴィアはその答えとばかりに背中を向けると、なんとそこから悪魔の翼が展開したのだ。

 

 

「ファッ!?」

「神がいないと知ったのでね、破れかぶれで悪魔に転生したのさ。リアス・グレモリーから『騎士』の駒を頂いたよ。デュランダルが凄いだけで私はそこまで凄くなかったようだから、一つの消費で済んだみたいだ。ついでにこの学園にも編入させてもらった。今日から高校二年の同級生、オカルト研究部所属だそうだ。よろしくね、ジョジョ君♪」

「真顔で可愛い声を出す奴なんぞ俺ァ初めてみたぞ」

「イリナの真似をしたのだが、うまくいかないものだな」

 

 

 ゼノヴィアはコカビエルによって神の死を知ってしまった。教会にとってもそれは既に承知の事実。故に知ってしまったゼノヴィアを異分子扱いとして追放したのである。行く宛を失った彼女はリアス・グレモリーの元へ転がり込み、眷属になったという。

 それでは、相方のイリナはどうしたのであろうか。

 

 

「それとイリナは、私のエクスカリバーを合わせた五本とバルパーの遺体を持って本部に帰った。あの後君が治してくれたエクスカリバーは芯の『かけら』が無事だったから、取り出して鍛え直せば元の聖剣に戻る」

「そうか……せめて別れの挨拶ぐらいさせてくれればいいのに。怪我してあの場にいなかったのが唯一の救いってところだな」

「ああ、イリナは運がいい。あの事実を知らずにすんだのだから。私以上に信仰の深かった彼女だ。神がいないことを知れば心の均衡はどうなっていたかわからない」

「下手すりゃ生き方そのものを否定されるわけだ。アーシアよりもひどいことになってたかもしんねぇな」

 

 

 アーシアの頭を撫でつつ、丈城は嘆息する。

 

 

「ただ私が悪魔になったことをとても残念がっていた。神の不在が理由だと言えないしね。何とも言えない別れだったよ。次に会うときは敵かな」

「……そんときゃ、俺が間を取り持ってやるさ。喧嘩して殴りあった仲だが、もう過ぎたこと。仲間なら助けない理由はない」

「赤龍帝……それともう一つ、アーシア・アルジェントに謝ろう。主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった、アーシア・アルジェント。君の気が済むのなら、殴ってくれてもかまわない」

「……そんな、私はそんなことをするつもりはありません。ゼノヴィアさん。私は今の生活に満足しています。悪魔ですけど、大切な人に━━大切な方々に出会えたのですから。私はこの出会いと今の環境だけで本当に幸せなんです」

 

 

 無表情なのは相変わらずなのか、日本式の謝罪の意を述べるゼノヴィア。まぁアーシアは怒りを引きずるような性格ではないので、かつてのゼノヴィアを咎めるような事はなかった。

 

 

「……クリスチャンで神の不在を知ったのは私と君だけか。もう君を断罪するなんて言えやしないな。異端児か。尊敬されるべき聖剣使いから、異端の徒。私を見る目の変わった彼らの態度を忘れられないよ」

 

 

 彼女の瞳に一瞬憂いが映る。アーシアと同じ世界で物事を見た結果であろう。

 

 二人の仲直りがすみ、とりあえず現時点でのいざこざは解決した。それを視認したリアは四人に座るよう促し、今回の事件について語りだした。

 

 

「教会は今回のことで悪魔側━━つまり魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実のため、遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』━━と。それとバルパーの件についても過去に逃したことに関して自分たちにも非があると謝罪してきたわ」

 

 

 教会側はプライドが高いのか、あくまで遺憾と表現している。自分達に一つでもそぐわない物があれば切り捨て、かつ素直ではない。徹底しすぎるにも程があると思うのだが。

 

 

「そういや、白龍皇の野郎に手渡したコカビエル本。ありゃどーなったんだ?」

「それも連絡が来たわ。今回のことは、堕天使の総督アザゼルから、神側と悪魔側に真相が伝わってきたわ。エクスカリバー強奪はコカビエルの単独行為。他の幹部は知らないことだった。三すくみの均衡を崩そうと画策し、再び戦争を起こそうとした罪により、『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑が執行されたそうよ」

「執行するも何も、本になっているから意味ないんじゃねぇの? それも冷凍刑付きでさぁ」

「念のためらしいわ。ガムテープで目張りしただけでしょ? あれ」

「手も足も出ないからそれで十分だと思ったんだけどな」

 

 

 それなら市民図書館にでも寄贈しておけば良かった。と丈城は付け加えた。

 

 

「それと近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、アザゼルが会談を開くらしいわ。何でもアザゼルから話したいことがあるみたい。その時にコカビエルのことを謝罪するかもしれない…なんて言われているけれど、あのアザゼルが謝るかしら」

「今まで会った堕天使で唯一まともだったのは朱乃っちのおとーちゃんぐれーだしなぁ……。まっ、とてもじゃねぇが謝らないと思うぜ。誰しも非は認めたくないもんだし」

 

 

 天使、悪魔、堕天使の三すくみトップによる会談。何やら話がどんどん膨大してゆくのがわかる。するとリアが

 

 

「私たちもその場に招待されているわ。事件に関わってしまったから、そこで今回の報告をしなくてはいけないの」

 

 

 と続けた。これには丈城以外のみんなが驚く。トップ同士の会談に出席させてもらうなど、通常できることではない。

 

 

「実はその会談、三すくみの他にもう一つの席が設けられているの。人間代表……つまり、ジョジョの席がね」

「マジで!? 俺の!?」

「今回のMVPという訳じゃないけど、エクスカリバーを破壊したりコカビエルを再起不能にさせたのは他ならぬジョジョ。三すくみのトップはこれを機に人間に対する見方を変えてみようという話になったらしくて、その人間代表としてあなたからも意見が聞きたいそうよ。無論、スタンドについても聞かせてもらうらしいわ」

「サジん時みたいに誰か実験台にしていい?」

「却下に決まってるじゃないの」

 

 

 果ては人間のトップとして丈城が出席する始末。これはもう笑うしかない。

 

 

「報告は以上かな? それでは私はここいらで失礼する。この学園に転校するにあたってまだまだ知らねばならないことが多いからね」

 

 

 それだけ言い残すと、ゼノヴィアは部室を後にしようとする。その去り際、アーシアにこう付け加えた。

 

 

「そうだ。アーシア・アルジェント、今度私に学校を案内してくれるかい?」

「はい!」

 

 

 笑顔でそう頼まれたアーシアも笑顔で返す。そして丈城と裕斗にも顔を向け、

 

 

「そして我が聖剣デュランダルの名にかけて━━。そちらの聖魔剣使いとも再び手合わせしたいものだね。スタンド使いであるジョジョにも、いずれリベンジさせていただきたい」

 

 

 二人に対する再戦の意を示した。

 

 

「いいよ。今度は負けない」

「おう、いつでも挑戦は受け付けているぜ! 100%俺が勝たせてもらうがな!!」

 

 

 裕斗も丈城もお互い勝ちを譲るつもりはないらしく、揃って不適な笑みを浮かべている。まぁ丈城の背後に『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』が一瞬垣間見えたのは……黙っておこう。

 

 ゼノヴィアが退室した後、リアは気分を切り替えるべく手を叩いた。

 

 

「さ、全員が再びそろったのだから、部活動も再開よ!」

「「「「はい!」」」」

「よーし! そんじゃ景気づけに一発、俺の進化したリアの物真似をh」

「ジョジョォォォォ━━━━━━━━━━ッッ!!」ドシュン!!

「ワアアッ!? いーじゃねぇーかよー! ちょっとぐらいー!」

「前回の物真似よりもオチが丸見えよ! やめなさい!」

「だが断るッ!!」

 

 

 丈城の自称進化版リアの物真似を阻止しようと魔力の一撃(弱)を乱発するリア。是が非でもやりたい丈城。もう少し落ち着いてほしいものだが、この様子を見る限りそうもいかないだろう。

 

 前途多難な眷属であった。

 

 

 

『やれやれだな……』

 

 

 

 ▽第4部『リベンジ・エクスカリバー』/Fin▽

 




『ダイヤモンドは砕けない』が実写化したことがちょっと前に話題になりましたが、自分的にはアイズオブヘブンを実写化で見てみたいです。演者さん選ぶの難しそうですけど……

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外伝その②《黄金の風》

……これ第5部というより第4部でしょ?

そんなテイストになりましたが、お久しぶりの外伝、どうぞ。


 ━━━━━━2004年、イタリア。

 

 ギャングスターになるべく、パッショーネに加入した少年「ジョルノ・ジョバーナ」。彼は仲間のブローノ・ブチャラティらと共にボスの娘・トリッシュの護衛任務にあたっていた。その最中ボスの思惑に気付いた彼は仲間と共に組織を裏切り、ボスと対峙する道を選んだ。

 

 様々な追手との死闘、仲間の死を経て、彼等は遂にパッショーネのボス・ディアボロと対峙する。

 最強のスタンド『キングクリムゾン』の能力に苦戦を強いられ絶体絶命の中、ジョルノは手にした矢で自らのスタンドを貫く。新たな力『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』を引っ提げ、見事ディアボロを永久に死に続ける地獄へ落とすことに成功したのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

「……っはぁ~ッ! 駄目だ、全然手掛かりがねぇ…」

 

 

 DISCを隈無く調べた結果、見えてきたのはスターダスト・クルセイダーズの物語で承太郎が関わった案件ばかりだった。

 

 空条承太郎の姿をした何者かと遭遇から三日後。丈城は彼が消え去る直前に回収したDISCを調べていた。だが内容は漫画やアニメで承太郎が絡む出来事しかなく、特にこれと言って手掛かりが得られず仕舞い。

 

 

「この世界で久しぶりに第三部見れたのは…まぁいいとして、今はそれが知りたいんじゃねぇんだよ。なんで承太郎さんのニセモノがいきなり襲ってきたのかが知りたいんだっての」

 

 

 DISCをぐにゃぐにゃといじってみるが、それで内容が出てくる筈もない。結局唯一の手掛かりである筈のDISCもスカだった。部屋の中央に大の字寝転がり、丈城は若干苛立ち混じりに考え始める。本当はこんな事で解決すればいいのだが現実はそううまくいかない。

 

 すると、彼の視界に紅が写り混んだ。

 

 

「どうしたのかしら? ジョジョ」

「……リアか」

 

 

 寝転がる彼を覗き込むように、リアがいつもの笑みで話しかける。このままの状態も話す体勢としてはあれなので、丈城はむっくりと起き上がる。

 

 

「いや……少し考え事してた」

「それにしては貴方らしくないじゃない。声のトーンも低いし、覇気がないわよ?」

「……お見通し、ってとこか?」

「半分くらいわね。この前だって同じようなテンションでいたから。……何かあったの?」

 

 

 彼のとなりに座り、寄りかかりながら事情を聞き出そうとするリア。このままはぐらかす事は可能である。しかしそれでリアが納得しないのは丈城も知っている。

 

 

「……ちと長くなる。あともう一つ、俺自身も何が起こったのか完全に理解しているわけじゃない。それを承知で聞いてほしい」

「……解ったわ」

 

 

 迷った結果、丈城はリアに承太郎が襲撃してきたあの事件の詳細を話したのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「そう、丈城以外のスタンド使いが……ね」

「俺自身、何がどうなってこうなってんのか訳がわからねぇ。別に他のスタンド使いがいる可能性だって考慮できる。だけど今回の事に関してはさっぱりだ。謎だらけで頭がパンクしそうだぜ」

「再起不能になってその場に倒れているならまだしも、消えたっているのが引っ掛かるわね……一体正体は何なのかしら」

 

 

 互いに背中合わせでもたれ、言葉を交わす二人。流石のリアもこの異常現象が起きた事には驚いたようだった。

 

 

「……三大勢力の話し合いも近々迫っているし、ひょっとしたらそれを狙った何者かの仕業も考えられるわね。何処かの隠れたスタンド使いを見つけてきたのか、あるいはジョジョの戦いを見て模造した神器(セイクリッド・ギア)の類い……可能性は十分ありそうね」

「スタンドに似た神器……か」

 

 

 まず前者はあり得ない。ここは悪魔やら天使やら存在するファンタジー寄りの世界ではあるが、スタンドとは全くの無縁な世界。自分以外のスタンド使いは存在しない筈である。………多分。

 

 様々な可能性が浮上する中、冷房代わりで開けていた窓の隙間から何かが入ってきた。入ってきたそれはリアの使役するコウモリで、何やら大慌ての様子。コウモリを指の上に着地させて話を聞くと、直後にリアの顔が青ざめ始めた。

 

 

「なんですって!? 街の方に!? ……解ったわ、すぐ向かいましょう!」

「……? どうした? はぐれでも出たか?」

「いいえ。はぐれよりもタチが悪いわ。全く、噂をすればやってくるとはまさにこの事ね……」

 

 

 いつにないリアの慌て様に疑念を抱く丈城。そして次の瞬間、彼女の口からとんでもない報告がもたらされた。

 

 

「……街から急に人がいなくなって、その代わりに突然現れたそうよ。貴方以外にスタンドを使う何者かが、ね……」

「ッ!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 

 彼女━━━アーシア・アルジェントは混乱していた。

 自分の命を救ってくれた恩人である兵藤丈城の持つ力は理解しているし、彼の持つ精神力があのようなとてつもない力を制御していることも当然理解している。そしてそれはいつも自分や彼自身、オカルト研究部の人達に悪意を向ける者達に対して振るわれる事が多い。

 

 

 だが一度も考えたこともなかった事がある。いや、想定すらしていなかっただろう。

 

 

 その力が、その矛先が、よもや自分自身に向けられることなど……。

 

 

「ッ!?」

「君に戦意がないのはわかっている。それでも、君をおめおめと逃がすわけにはいかないんだ」

 

 

 それが今現在彼女に降りかかっている災難である。

 

 アーシアは彼とは初対面。面識などありはしない。ぶっちゃけ何かしたとかいう記憶もないのだ。よって襲撃を受けるほどの心当たりもない。しかし向けられているのは紛れもない殺意。混乱に陥るのは最早必至だった。

 

 

「………………ッ!!」

 

 

 声も出ない。だが助けを呼んだとしても、駆けつけてくれそうな人影はない。今更だが人間とすれ違った記憶もない。つまり、ここにアーシアを助けてくれる人間は無に等しいのである。

 

 

「悪く思わないでくれ。これも全部……『僕の夢のため』だ」

 

 

 一歩……また一歩と、男は近づいてゆく。その隣にアーシアの想い人と同じ力を存在させながら。彼女は藁にもすがる思いでその場で十字を切り、祈った。無論主である神に。そして……思いを寄せる人に。

 

 

(お願いです……来て下さい! ジョジョさん……!!)

 

 

 襲いかかる人物は既に眼前。もう駄目かもしれないと思われた……正にその時。

 

 

「うおあぁぁぁあああおおお!」

「「!!」」

 

 

 バギーのエンジンともとれる音を轟かせ、向かって左側の曲がり角から巨大な犬のような二人に向かって突進してきた。変幻自在な砂のスタンド『愚者(ザ・フール)』である。

 

 

「リア、アーシアを頼む!」

「わかったわ。掴まって!」

「は、はいぃっ!」

 

 

 その背に乗っていた丈城がリアに救出を要請し、すれ違い様にアーシアの手を取って愚者の背へ乗せた。一方の襲撃者は突然の乱入と舞い上がる砂埃に目を覆い、追い詰めたアーシアをみすみす逃してしまう。

 

 

「あっぶねぇっ、ギリセーフだな! アーシアは?」

「大丈夫みたい。よく持ちこたえたわね! 偉いわよ、アーシア」

「はいぃ、怖かったですぅぅ」

 

 

 少し距離をおいて停車し、愚者を解除。改めて丈城達は襲撃者の方を睨み付ける。

 

 

(やれやれ…二人目のスタンド使いはコイツか! しんどいしやりづれぇ相手だぜ……)

 

 

 金髪に前髪のカールヘアー、紺を基調とした衣服や天道虫のブローチを身につけた少年。それは若くしてギャングスターの道を選び、悪の帝王・DIOを父に持つスタンド使い『ジョルノ・ショバァーナ』だった。やはり前回と同じくご本人襲撃事件。こうくればやることはたった一つしかない。

 

 

「二人は下がっててくれ。スタンド使いなら俺の専売特許だ! ぶちのめしてやらぁ!」

「ええ、気をつけて!」

「頑張ってください!」

 

 

 エールを受けて俄然殺る気を増し、丈城は指を鳴らして言い放った。

 

 

「俺らがあんたの言う"追手"ならそう呼びなッ。最初から話が通じねぇンなら戦うことに集中すればいいだけだ!」

「そっちがその気なら僕だって最初からそのつもりさ。僕の夢のために……あんた達を倒す!」

 

 

『ゴールド・エクスペリエンス』と共に迎え撃とうとするジョルノ。だがその気高い精神は所詮オリジナルの複製品。叩けば壊せると考える丈城は先制攻撃に出た。

 

 

「やってみろッ、こンのパチモンがァッ!!」

 

 

 丈城は最初にゴールド・エクスペリエンスの攻略に出た。ゴールド・エクスペリエンスは殴った物体に生命を宿すが、生物を殴った場合意識が暴走させる能力を持つため、これを封じる必要がある。そのためまずは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開してジョルノに殴りかかった。

 

 

「くっ、ゴールド・エクs「かかった! 『キング・クリムゾン』!!」ッ!?」

 

 

 予測通りスタンドで防ぐために腕を交差させようとした。その瞬間丈城が仇敵ディアボロのキング・クリムゾンを発動。驚く間も与えられず強制的に丈城のターンとなった。しかし使用したはいいが、すっ飛ばした時間のなかでは攻撃が封じられている。そこで丈城はそのまま足を止めてジョルノの防御が終了する瞬間まで待機。ゴールド・エクスペリエンスの腕が3分の2程下ろされたタイミングで時間を再始動した。

 

 

「いっ…今のはッ!…ボスの……はっ!」

「ボディはいいが腕の方がお留守だぜ! 『スティッキィ・フィンガーズ』!!」

 

 

 しゃがんで視界から外れていた丈城がアッパーの要領でゴールド・エクスペリエンスの腕を狙い、ジッパーで肘から下を切断。塀の上へ蹴り飛ばした。

 

 

(こいつ……どうしてブチャラティやボスの…ディアボロのスタンドを使えるんだ!? )

 

 

 衝撃のマシンガンに思考が全く追いつけていないジョルノ。だが自らの能力が封じられたことは一番把握しているらしく、ゴールド・エクスペリエンスの腕を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。

 一方能力を封じた事で有利になった丈城はすかさずラッシュを繰り出し、更なる追い討ちを試みる。

 

 

「もらったァッ! 『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!』」

「くっ! 『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』」

 

 

 ところが拳が無理ならと、ジョルノはまさかの足でのラッシュで応戦。その力量はほぼ互角。展開が全くわからない。

 

 

「部長さん…あの方は一体?」

「わからないわ。でも少なくともジョジョと同じスタンド使いであることは間違いないみたい。不思議なのは、彼がどうしてジョジョと同じスタンドを持っているかということぐらいね」

「確かあのスタンドは、レーティングゲームでライザー様を倒した……」

「ゴールド・エクスペリエンス……黄金の経験、ね…」

 

 

 戦う二人の姿をポストの影からそっと覗くリアとアーシア。これまでにもスタンド使い対人外の戦いは見たことがある。しかし目の前で繰り広げられているのは、紛れもないスタンド使い…もとい人間同士の戦い。誇り高き者同士の勝敗が知れないのだ。

 ラッシュが続いてから数十秒後、ここでジョルノが動きを見せた。

 

 

『無駄ァッ!!』

「うおっと!?」

 

 

 それまで蹴りを放っていたゴールド・エクスペリエンスが、いきなり不意打ちとばかりに踵落としを繰り出したのだ。流れの急変に驚いた丈城はギリギリで回避したものの、一瞬の隙を作ってしまった。

 

 

「! ヤベッ、本体が逃げる!!」

 

 

 踵落としに気をとられている隙にジョルノが電柱を器用に登って塀の向こうへ姿を消してしまう。その瞬間丈城は悟った。その塀の向こうにあるものは…

 

 

(いや違う! ジョルノの奴、腕を戻す気だ! 自分の能力を解き放つために!!)

 

 

 焦った丈城はジッパーで塀を抜けて先回りを図る。だがこの判断によって、運は彼に背を向けてしまった。

 

 

『無駄ァッ!』

「ぶぐぅっ!? し、しまっ…たァ…ッッ!」

 

 

 ジッパーが開いた次の瞬間、中から拳が飛んできて丈城の顔面にクリーンヒット。直後意識が暴走を始め、恐れていたゴールド・エクスペリエンスの能力が発動してしまった。惜しいことにジョルノの両腕接合の方が一手上を行ったのだ。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』

「うばああァァァァ━━━━━━━━━━━ッッ!!」

 

 

 痛覚が増した状態のラッシュは超がつくほどの激痛を伴う。チョコラータ程ではないものの、丈城は復活したゴールド・エクスペリエンスの拳を受けてぶっ飛ばされてしまった。

 

 

「「ジョジョ(さん)!」」

 

 

 アスファルトで一回バウンドし、リア達のいるポストへ叩きつけられた丈城。二人はまさかの劣勢に驚愕しつつ、彼に駆け寄り介抱する。

 

 

「あ━━━━━だだだだだっ! い━━━っで━━ェェな━━畜生ッ!!」

「ジョジョさん、しっかりして下さい!」

「みょええええっ!? ア、アーシアァッ、やめてっ! ちょっち今だけはあだだだだだッ!?」

「はううぅっっ!? すっすみませぇぇん!」

 

 

 全身にラッシュの影響が残り、その激痛から丈城は悶絶。『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で回復を試みたアーシアだったがうっかり手が触れて大ダメージが追加されてしまう。これでは手がつけられない。

 丈城をこんな目に遭わせられ、ここでリアの怒りが一気にヒートアップ。ジョルノの前に立ち塞がった。

 

 

「あなた…よくも可愛い私の契約者をこんな目に遭わせたわね。例えスタンド使いであっても、ジョジョを傷つけることは万死に値するわ!!」

 

 

 麗しい紅の髪は同色のオーラとともに揺らめき、彼女の怒りを象徴している。だがそれだけの敵意を向けられているにもかかわらず、ジョルノは毅然とした態度で対峙する。

 

 

「あなた達…"覚悟してきてる人達"…………ですよね。人を始末しようとするってことは、逆に"始末"されるかもしれないという危険を常に"覚悟してきてる人達"ってわけですよね…」

 

 

 ゴゴゴ…と互いに睨みあう両者。譲る素振りは見られない。

 

 

(不味い……俺達を殺る気だ。マジだ……ニセモノのくせに俺達を始末しようとしてやがる……ウソだとは思えない! コイツにはやるといったらやる"スゴ味"があるッ!)

 

 

 痛みを堪えながら、丈城はリアに目を向けた。悪魔であるリアなら滅びの一撃で事足りる戦いだ。しかし怒りは時に自らの枷となりうる。もし彼女が周りを把握できない程怒っているのであれば、先に冷静さを取り戻させるのが先決だ。

 加えてこのジョルノは前回同様、最終決戦時のステータス持ちと考えていい。もし『矢』を使われてしまえば一気にこちらが不利になってしまう。

 

 とどのつまり、今回の勝利条件は三つ。ゴールド・エクスペリエンスの能力をこれ以上食らわない事、矢を使う暇を与えない事、そしてジョルノの覚悟を上回る程の精神力をもって挑む事、である。

 

 

(俺が戦ってもいいが……能力の影響で痛みが引くよりも先に負けるかもしれない……。危険な賭けだが、この状況で戦えるのはリアしかいない! この際だから試してみるか……!)

 

 

 丈城は前々から考えていた新境地を試すべく、リアに小声で呼びつけた。

 

 

「…?」

 

 

 声に気が付いたリアはジョルノの動きを警戒しつつ、丈城の元にしゃがむ。

 

 

「どうしたの? ジョジョ」

「現状、ゴールド・エクスペリエンスに挑めるのはリアしかいない。だがあのスタンドは自分自身でも厄介なスタンドの一つだ。油断すればライザーや俺みたいになる。やるなら奴の攻撃には十分注意しろ」

「わかったわ。そr」

「あ、あともう一つある。使えるかどうかわからないけど、これ貸してやる。『ホワイトスネイク』ッ、俺からスタンドのDISCを抜き取れ!」

 

 

 その声と共にホワイトスネイクが出現。丈城の頭に手をかけて、とあるスタンドが映ったDISCを抜き取った。が、その反動で頭を塀にぶつけて再度悶絶。余韻も重なって動けなくなってしまう。

 

 

『……トリアエズ、自己紹介ハ省イテオキマショウ。コレヲドウゾ…』

「え、えぇ…。どうも」

 

 

 リアはホワイトスネイクからDISCを受け取った。

 

 

「何これ…CD? にしては柔らかい……」

『ソレハ"DISC"。タッタ今、兵藤丈城カラ抜キ取ッタ"スタンドガ記録サレタDISC"デス。ソレヲ使ッテ、アノスタンド使イヲ倒スノデス』

「ス、スタンド!? 私がスタンド能力を!?」

『心配ハイリマセン。吸血鬼ヤ動物デモ扱エルノデスカラ、悪魔ニモキット……。デハ』

 

 

 それだけを言い残しホワイトスネイクはその場から姿を消した。

 正直リアは丈城の言いたいことを理解していた。恐らく「自分のスタンドを貸すから、あのスタンド使いを倒してくれ」という意味合いでこのDISCを託したのだろう。しかしいきなりスタンドを使えと言われたところで使える訳がない。覚悟より動揺の方が勝っていた。だが現状戦えるのは自分しかいない。

 

 

(確かに丈城の代わりに戦うつもりでいた……。でも彼の力まで使役するなんて想定外よ! スタンド能力は時として諸刃の剣と化す。能力が悟られれば形勢逆転される事も。見方によっては大きなリスクが伴う選択肢……でも!)

 

 

 チラリ、と悶絶する丈城を見るリア。

 

 

(あなたは今まで、私達眷属を信じて手の内を明かしてきた。それはかつてジョジョが口にした"信頼"の証! だから彼はスタンドを私に貸し出した。なら…このリアス・グレモリーには! その信頼に応える義務があるッ!)

 

 

 彼女は未知なる力を受け入れることを決意。立ち上がり、託されたDISCを自らの頭に挿しこんだ。

 刹那、リアの頭の中にとてつもない量の情報が雪崩れ込んできた。その内容は記録されたスタンドの概要やそれに関する戦いのデータが多数。何故か丈城とは関係ない情報ではあったものの、次第にリアの深層心理に共通する部分が見え始めた。

 

 

 やがて……その共通は徐々にリアの覚悟をねじ曲げ、それまで抑えていた想い人への好意をとんでもない方向へと導いた。

 

 

 

 

「……フフッ、フフフ……ウフフフフフ……ッ!!」

 

 

 

 

 幽鬼のごとく体を揺らし、不気味な含み笑いをし始めるリア。そのあからさまな異様さにその場の誰もが戦慄を覚えた。そしてジョルノに向き直り、まるで文楽人形の鬼女と相違ない表情の変化を繰り出した。

 

 

「……てンめェェェェッッ!! さっきから舐めた態度とりやがって! そのクソスタンドごと吊るしてやるから覚悟なさいッ!!」

「!? なんだ…? いきなり性格と口調が変わったぞ…!?」

「ふええっ!? ぶ、部長さん!?」

 

 

 変貌とも呼べるリアの変わり様。そして急な口調の乱暴さ。そう、丈城が託したスタンドは第4部のプッツン由花子こと、山岸由花子の髪を操作する『ラブ・デラックス』だったのだ。

 より強い精神力で伸びるこのスタンドであれば、今のリアにきっと扱える。そう丈城は考えて渡したかもかもしれない。だがこの様子を見る限りでは正解を通り越して不正解である。

 

 通常よりも何倍の長さまで髪を伸ばしたリアはジョルノをキッと睨み付けると、その膨大な紅の髪を連獅子の如く振って投擲した。

 

 

「ゴールド…!」

 

 

 防御が得策と睨んだジョルノ。だが飛び退くよりも先に髪が追い付き、その四肢をゴールド・エクスペリエンス共々グルグル巻きに縛り付けてしまった。

 

 

「ケッ、鈍くせぇんだよ! このマヌケ!!」

 

 

 だが単純に猪突猛進しているわけではないらしく、ちゃんとアドバイス通りゴールド・エクスペリエンスの拳を上へ縛り上げている。完全な暴走ではないようだ。

 

 

「あっ…が、あぅ…うぐぅっ……ぐっ…!」

「し、締め上げる力がハンパねぇ…リアとラブ・デラックスの波長がここまで合うなんて!」

 

 

 痛みを直してもらった丈城が復帰し、現状を見て唖然とする。彼自身もこんな展開になるとは想定外だったようだ。ジョルノはそこから脱しようと試みるも、能力の根本である腕を封じられては動くことができない。加えて縛り付ける力も強力。身体のあちこちから悲鳴があがっている。

 それを容赦なく振ってアスファルトに何度も叩きつけ、リアは更にダメージを加算させてゆく。

 

 

「フン! でいっ! そぉぉぉりゃあああっっ!!」

 

 

 本来の彼女からは想像もつかないような声で背後へ投げ飛ばし、髪をかき上げて元の髪に戻した。

 

 

「愛は無敵なのよ。覚えておきなさい……」

「「……………………」」

「うあああ━━━━━━ッッ!!」

 

 

 至るところから血を吹き出し、ゴム毬のようにとんでゆくジョルノ。その時、彼の体から金色に輝く物体が転がり出てきた。

 

 

(! あ、あれは…ッ! まさか……)

 

 

 その物体にいち早く気づいたのは丈城だった。

 

 特徴的な加工が程された矢尻に矢羽がない奇妙な物体。それは第4部で明かされたDIOのスタンド覚醒の謎であり、それ以降の登場人物にスタンドを宿らせていったキーアイテム。人体にスタンドを宿らせる"矢"だったのだ。

 矢が出たとなれば、この先の展開は火を見るより明らか。丈城はすぐに行動を開始。距離を一気に詰めて先手を打った。

 

 

「くっ…こうなれば、矢を……矢で先へs「『エコーズ・3FREEZE』ッ!」ぐあっ!?」

 

 

 丈城の接近を察知したジョルノが最後の手段に出ようとしたが、射程距離内にまで到達した丈城の『エコーズ ACT3』によってあっけなく阻止。伸ばした手がアスファルトにめり込んだ。

 

 

『射程距離5メートルに到達しました! S・H・I・T!』

「リア、奴を空へ放れ!!」

「任せて! ラブ・デラックス!!」

 

 

 再びリアが髪を伸ばしてジョルノの体を宙へ投げ飛ばす。そしてエコーズを解除した丈城が塀、電柱、民家の屋根を順に掛け上がって跳躍。赤龍帝の籠手を展開してフィニッシュに入った。

 

 

「うおおおおりゃああああああああああっ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……」

 

 

 先程の仕返しとばかりに8ページにまで渡る勢いでラッシュを叩きつける。その表情はいつになく憤怒の色が強く出ていた。

 

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

Transfer(トランスファー)!!』

「無駄ァアアアアア!!」

「うぉああああァァ━━━━ッ!」

 

 

 ラスト一撃に『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』のブーストが加わり、通常の三倍の力が上乗せされた拳がジョルノの顔面に突き刺さる。丈城とジョルノの直線の二点上にあったゴミ収集車の中へぶっ飛ばした。

 

 

「うっしゃあァッ! 超・エキサイティング!!」

 

 

 晴れ晴れとした満面の笑みでガッツポーズ。丈城は見事二人目の襲撃者を撃破した。あとは着地だけなのだが……

 

 

「………ラブ・デラックス」

「へ?」

 

 

 何故かリアが髪で彼の体を支えたのだ。そのまま丈城を自分のところまで引き寄せ、とんでもない行動に出た。

 

 

「よくやったわ、ジョジョ。流石私の見込んだだけあるわ」

「お、おう…ってかどしたの? なんつーか蛇に睨まれた蛙の気分なんスけど……」

「よく頑張ったわ……これは、私からのご褒美よ」

「え? あ、ちょ、おま……ムグゥッ!?」ズキュウウゥン

「!?」

 

 

 なんとリアが丈城の唇を奪ったのである。しかもそのまま舌を奥まで突っ込んでディープな方面へ進み、これには流石の丈城もフリーズ。アーシアに至っては口から魂が顔を覗かせるオマケつき。

 

 一通り丈城の唇を堪能したリアの表情は、前髪や伸びた髪のせいで目の辺りに影が射している。そのため目だけが異様に輝いていて一層不気味さが増している。

 

 そしてその直後、彼の耳に彼女の口が近づけられた。

 

 その時の一言を……丈城は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

「……今度ハ、私ノ愛デ貴方ヲ、縛ッテア・ゲ・ル………♪」

 

 

 

 

「う……うわあァァァ━━━━━━━━━━━ッッ!!」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 …気がつくと、全てが終わっていた。

 

 気絶しているリア、放心状態のアーシア、肩で息をするホワイトスネイクと自分自身。

 

 

「『ハァー……ハァー……』」

 

 

 その手にはちゃんとラブ・デラックスとジョルノのDISCが。どうやら知らぬ間にやるべきことを全て終わらせていたようだ。……その時の記憶は一切残っていないが。

 

 

『デ、DISCハ取得シマシタガ…リアス・グレモリー二、ラブ・デラックスハ危険過ギルノデハ……?』

「そ、そーだな……俺はこの経験を永遠に心の片隅に留めておくよ。リアに今後一切ラブ・デラックスは使わせないって……」

 

 

 ジョルノの襲撃よりも更に恐ろしい事。それを引き起こしたのが他ならぬ自身なのだから尚始末が悪い。今回ばかりは反省したほうがいいだろう。

 

 とりあえずジョルノを追い詰めたのは自分ってことにしておこう。そう静かに思う丈城だった。

 

 

(←To Be continued…)

 




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第5部『グロウ・ヴァンパイア』
第37話《兵藤丈城はお見通し》


お久しぶりの尾河です。
さて年末恒例の滑り込み投稿となります。読者の皆々様方は、やるべきことほっぽらかして後でエラい目に遭わないようにしましょう。

それでは良いお年を……。



 特訓山。

 

 古くから神隠しの伝説が色濃く残り、最近は謎の爆発に重力が傾くといった超常現象が頻発するとして、約一名を除いて人が立ち入ることは滅多にない呪われた領域である。まぁ言わずもがなその超常現象を引き起こしているのはその約一名に他ならないのだが。

 

 その麓には小さな町がある。駒王町に隣接するそこは人外による事件なぞ起こらない。のどかで、ごくごく普通の町である。

 

 

 しかしその平穏は、疫病神一人が訪れるだけで音を立てて崩れてしまう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「…しっかしまぁ、思い返してみればガキの頃から人外と殺りあってたっけなぁ」

『ああ、多かった。……最もその戦いの発端は、相棒が首を突っ込んだが為に起こったものばかりだがな』

「ハハハッ、ちげぇねぇや」

 

 

 平穏を乱す疫病神……もとい最凶のスタンド使い・兵藤丈城は、この日も日課の特訓を終えて麓の町の公園で一息ついていた。

 幼少期からスタンドの特訓や肉体作りをしていた彼の体は承太郎程ではないものの、高校生にしてはやや大柄な体型に。元々悪党と戦うために特訓していただけに成長した己の力で丈城は多くの戦いを乗り切ってきた。

 

 朱乃とその母を殺害しようとしたローブの集団(人間かどうかは知らない)、他種族を下に見ていた悪魔一派、10万円ぼったくりレイナーレ、上級悪魔焼き鳥ライザー、駄天使ゴミビール……

 

 自らの力で、時にはリア眷属の仲間達と共に、丈城はこれまで多くの戦いを経験しそして、最凶のスタンド使いとして無敵の存在となりつつあった。

 

 

「だけど、まだまだ俺を始めとした人間を見下すヤローはごまんといる。少なくともそいつらがのさばっている内は戦い続けるつもりさ。俺は」

『フゥ~、言ってくれるな。なら俺も付き添わせてもらうぜ。興味があるんだ。相棒がどこへ行き着くのか、そしてその志の先に何を見るのかをな』

「何があるかは俺にもさっぱりわかんねぇけどな」

 

 

 そんな他愛のない話をしながら、丈城は公園を出ようとベンチを立った。すると

 

 

「ん?」

 

 

 公園入り口前の自動販売機に一人の男が視界に入った。

 

 今の時期それほど珍しくない浴衣姿の男は、先程からしきりに財布と自販機の下を交互に見やっては難しい顔をしている。どうやら飲み物を買おうと小銭を出したものの、それを自販機の下に落としてしまったみたいだ。財布とにらめっこしている様子から、もう小銭は残っていないらしい。

 

 

『……相棒』

「ドライグ、言いたいことはわかる。俺もわかった。だが気づかないフリをするんだ」

 

 

 一見してさほど気にするような面は見られないが、二人は何かを察知。その真意を悟られぬよう、丈城は平然を装って男に近づいた。

 

 

「どうかしたのか? アンタ」

「ん? あぁいや、ちょいと喉が乾いたんでな。缶コーヒーでも買おうと思ったんだが小銭をこの下に落としちまったんだ。取り出そうにも腕が太くて届かなくて…参ったなぁ」

 

 

 案の定男は小銭を取り出せず困っていたようだ。

 

 

「よくあるよなー、そういう事。どれどれ……あー結構奥に転がっちゃったのか」

 

 

 確認してみると、自販機の奥の方にキラリと光る硬貨を見つけた。しかし丈城も腕が太く届かない。

 

 

「よっしゃ、ちょっと待ってなよ」

「いやいや、お前さんの腕じゃ届かないだろう?」

「へーきへーき。よいしょっと……」

 

 

 そこで腕をギリギリまで奥へ突っ込む。そして奥を見ながら突っ込んだ掌に群体型スタンド『ハーヴェスト』を一体出現させ、奥へと向かわせた。"困ったときの神頼み"ならぬ"困ったときのスタンド任せ"である。

 ハーヴェストは転がっていた百円玉を発見すると、それを掴んで頭部のスリットへ投げ入れた。

 

 

『シシッ、見ツケタゾ…!』

 

 

 再び丈城の掌に戻り、獲得した百円玉を譲渡したハーヴェストはそのまま消えた。丈城はそれを握って腕を引き戻し、男に見せる。

 

 

「ほれ、ちゃんと届いたろ?」

「おお、凄いな。ありがとう。どうやって取ったんだ?」

「なーに、ちょっくら棒で引き寄せただけだよ」

 

 

 差し出された百円玉と手持ちの小銭を自販機に投下し、男は缶コーヒーを。ついでに丈城もコーラを購入。先程まで座っていたベンチで雑談を交わし始めた。

 

 

「お前さん、名はなんて言うんだ?」

「兵藤丈城。仲間内ではジョジョって通してる」

「成程、丈と城でジョジョか。あぁ俺は森吾朗っつって、この近くに住んでるしがねぇおっさんだ。忘れてくれても結構だ」

「それはそれで失礼に値するからちゃんと覚えさせて貰うぜ。森吾朗……よし、覚えた」

 

 

 森吾朗と名乗る浴衣姿の男は缶コーヒーを片手に話を広げてゆく。一見して特に不審な点は見られない。

 

 

「そういえばジョジョはこの辺りではあまり見ない顔だな。どこに住んでいるんだ?」

「お隣の駒王町さ。ここにはトレーニングできる環境があるから、ガキんちょの頃からずーっと通ってる。ホラ、神隠し的な伝説が残るあの山」

「オイオイ、あそこで子供の頃からか? その内神隠しに遭っちまうぞ?」

「もーまんたいもーまんたい。バケモノだろーがなんだろーが、叩きのめしゃ皆一緒だぜ」

「ワハハッ、その様子だと随分自分の実力に自信があるようだな!」

 

 

 自信があるというより、現にその通りである……とは口が裂けても言えることではない。

 

 

「まぁ鍛えてるっていうのは伊達じゃなさそうだな。高校生……か。その割にはかなり胸板が厚い」

「幼少期から鍛え続けてるんでね。どうしても同級生と差がついちまうのが難点かな。ほっそりした体形がうちの学校に多いから」

 

 

 吾朗はしげしげと丈城の体を観察する。そんな彼も彼で体つきは良く、成人男性のそれより一回り大きかった。

 

 

 

 そんなこんなで二人の他愛ない世間話はその後も続き、気がつけば日は大きく傾いて帰り時となった。この日の夕食当番は丈城。早く帰らなくては同居人達のご飯が作れない。

 

 

「さてと、もう夕暮れか……。そろそろお互い暗くならない内に帰らないとな。ご両親も心配しているだろう?」

「そうだな。今は通学上別居してっけど、同居人の飯も作ってやんねーと」

 

 

 それを聞いた吾朗はベンチを立ち、丈城に背を向ける。

 

 するとその足を……

 

 

「それじゃあな、ジョジョ。縁があったらまた会おう」

「ああ、いずれ会えるさ。………そのために近づいて来たんだろ? なぁ……堕天使さん(・・・・・)?」

「!」

 

 

 

 丈城が謎の一言で止めた。

 

 

 

「まさかなとは思ったんだ。あのゴミビールの一件からそんなに日は経ってないし。言っとくがもう言い逃れはできねぇぜ?こっちは二度も堕天使とやりあってんだからな」

「……ハハハ、随分とスケールのデカイジョークだな。俺が堕天使だって? 現実からブッ飛んだ話だな。俺はれっきとした人間だよ」

「いーや、堕天使ってのは完全な俺の勘だが、少なくともアンタが人間じゃないことだけは確かだ。現にアンタは……『俺が見えてる』んだからな」

「ッ!?」

 

 

 その言葉に吾朗は更にギョッとした。

 西日に照らされた公園内。二人はちょうど西日に背を向けているのだが、公園内に伸びる影法師は一人分しかないのである。その影は吾朗から伸びているのだが、ある筈の丈城の影がないのである。

 まさかと思い振り返るもちゃんと丈城の姿はある。最も俯いて足を組み、偉そうな態度ではあるが。

 

 

「注意深く観察していれば違和感ある俺の動きに気づけた筈だ。……さて、一体俺はどのタイミングですり変わったでしょうか?」

 

 

 それまで深く俯いていた丈城がここで吾朗に向き直る。だがその顔を見た時、吾朗は戦慄を覚えた。

 

 丈城の目は人のそれではなかった。

 

 黒目や白目といったものではなく、ただ黒い点がついているだけの相貌。その額にはデジタルメーターのようなものが音を立てて稼働している。そしてゆらりと立ち上がった丈城の姿がどんどん変わり始める。やがてそれまで吾朗と言葉を交わしていた存在がその全貌を見せた。

 

 頭から胴体を包み込むように紫の膜を被った白っぽい人の姿。すると座っていたベンチの裏から、丈城本人とおぼしき人影が出てきた。

 

 

「……………………」

「『ムーディー・ブルース』。今までアンタと会話していたのは俺の姿をしたこいつさ。缶コーヒーを飲み干すときにアンタは一瞬俺から視線を外した。その時にすり変わったんだ。その顔からして、驚いているみたいだな。正体を即バレされた挙げ句一杯食わされるなんて、普通じゃ想像できない」

 

 

 謎の沈黙が暫く公園内を支配していたが、吾朗がやれやれといった具合に肩をすくめる。どうやらお手上げらしい。

 

 

「……フッ、流石コカビエルを倒しただけはあるみたいだ。人目見ただけで俺の正体を見抜くとは……」

「やっぱ堕天使だったみてーだな、オメー。何が目的だ? 仲間の仇討ちだったら、喜んで相手してやるぜ」

「いいや、寧ろ感謝している。アイツは仕事はキチッとやるんだが、好戦的なもんでこっちも扱いに手を焼いていたんだ。今回は俺が興味本意で近づいただけ。他意はねぇよ」

 

 

 手をヒラヒラさせて潔白であることを主張する吾朗。その佇まいや言動に殺意を感じない為、丈城はその言葉をひとまず信じることに。

 

 

「……んで、結局アンタは誰なんだ?」

「森吾朗ってのは人間界で活動する為のハンドルネームさ。……俺の名は、『アザゼル』」

「!?」

 

 

 名を尋ねた彼の耳に、とんでもない名前が聞こえてきた。

 

 

 

 

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督……ま、堕天使の頭をやっている。よろしくな、赤龍帝ジョジョ」

 

 

 

 

 吾朗……もといアザゼルの背中から、コカビエルよりも多い十二枚の黒い翼が展開した。

 

 

(←To Be continued…)

 



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第38話《魔王様をアパートに泊めよう》

はい、皆様あけおめでございます!(だから遅せぇんだっつーの!)

……えー、ハイ。大学の提出課題でジョジョ第3部ベースのアニメーション作った結果、危うく死にかけた尾河です。遅れて申し訳ありません。2018年一発目の第38話、投稿させていただきます。

それでは、どうぞ。



「冗談じゃないわ……確かに悪魔、天使、堕天使の三すくみのトップ会議がこの町で執り行われるとはいえ、突然堕天使の総督が私の縄張りに侵入していたなんて……!」

「うん、そうだね。つかどーでもいいけど、俺の膝の上に座ってその台詞言っても迫力ねぇぞ?」

 

 

紅の髪は怒りで揺らめいている。しかしズームアウトすると、困り顔の丈城と涙目で羨ましそうにしているアーシアがフレームに入り、全くこちらに怒りが感じられない。

 

 

先日発生した聖剣と堕天使が絡んだ事件。しかしスタンド使いのレッドファイトによって主犯格は再起不能に陥り、共犯者も死傷するという形で終息。駒王町の崩壊は防がれた。

その後三すくみの不誠実な関係を正そうという話から、近々三すくみのトップ会議が駒王町内で開かれることに。無論先の事件に関わったことでリア眷属もその会議へ参加、人間代表として丈城も出席することとなった。

 

 

「しかも私のジョジョにまで手を出そうなんて万死に値するわ! アザゼルは神器に強い興味を持つと聞くわ。きっと私のジョジョが『赤龍帝の籠手』やスタンド能力を持っているから接触してきたのね……。心配ないわ、ジョジョ。私が絶対にあなたを守ってあげるわ」

「いや、例えそうだったとしても俺自分を守る術くらいあるから。あとそろそろ降りてくんない? もう30分も同じ体勢なんだけど……」

「………嫌」

「嫌て……」

「むぅぅ~……」

 

 

だが先日、トレーニング帰りの丈城に『神の子を見張る者』の総督・アザゼルが突如接触してきたのだ。すぐさま彼がその正体に気が付いた為に事なきを得たのだが、それをリア達に報告した途端、現状のような状態になったのである。

 

 

「まぁ接触してきた事についてはほんのちょっと驚いたけど、俺としてはアザゼルがとった行動は納得できる。何せあんなクソカスでも、聖書に載る野郎を倒したんだ。それも人間が。興味を示さない訳はないと思うぜ」

 

 

丈城はアザゼルの行動に共感していた。別に後日彼宛に、挨拶代わりの宝石やら金品やらが送られてきたから心変わりしたわけではない。つい最近まで大して力のない種族が名の知れた強者を打ち倒した。そんな驚きのニュースが事実かどうか調べるには、アザゼルのような行動をとるほうが一番手っ取り早いと判断したからである。

 

 

「やはり…そのアザゼルという方は、ジョジョさんのスタンド能力と神器を狙っているのでしょうか?」

「あり得ない話じゃないと思うな。奴の目は完璧特ダネを掴んだ記者の目をしていたし。俺のスタンド能力に食いついた事はまず間違いない」

「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。そして有能な神器所有者を集めているとも聞く。でも大丈夫だよ……僕がジョジョを守るから」

 

 

そんな彼をまるで口説くかのように、裕斗は真剣な面持ちで断言する。……まぁ最も

 

 

「ありがとう。いい趣向だ、我が友よ」

 

 

守られる側の背後からは屈強なスタンドが顔を覗かせている訳で。

 

 

「……多分心配ないと思います。丈城先輩なら尚更」

「うん……そうみたいだね」

 

 

どうやら先の事件での協力を恩と思っているらしく、特に尽力してくれた丈城に対しては一層意識している様子。先程までの彼の瞳がすべてを語っていた。

 

 

「しかしどうしたものかしら……。あちらの動きがわからない以上、こちらも動きづらいわ。相手は堕天使の総督。手下に接することもできないわね」

「アザゼルは昔からああいう男だよ。リアス」

 

 

再び漂う微妙な空気の中、突如として響く朗々とした声。その方へ全員が顔を向けると、そこには意外な人物が佇んでいた。

 

 

「おっ、ゼクスじゃん! 暫くぶり~!」

「やぁジョジョ! 私も会えて嬉しいよ」

 

 

リアと同じ紅の髪を揺らし、何故か運命な弓使いのコスチュームとメイクを施したゼクスがそこにいた。それに驚いたリアは丈城の膝から飛び上がり、裕斗らは席を立って膝まづく。アーシアもワンテンポ遅れて膝まづき、ゼノヴィアに至っては頭に疑問符を浮かべている。

 

 

「お、お、お兄様!」

「先日のコカビエルのようなことはしないよ、アザゼルは。まぁ今回みたいな悪戯はするだろうけどね。……あぁ、くつろいでくれたまえ。今日はとある用事のついでに、皆やジョジョの顔を見ておきたくなって寄らせてもらっただけだから」

 

 

膝まずく四人の頭を上げさせ、歩み寄った丈城とピシガシグッグッと拳を合わせるゼクス。仲の良い二人である。

 

 

「しかしこの部屋は殺風景だ。年頃の娘たちが集まるにしても魔方陣だらけというのはどうだろうか。ジョジョ、どう思う?」

「プライベートで隠してるブツはそうそう持ち歩くもんじゃねぇしな。あるとしたら自宅とかじゃない? 特にリアとか」

「~ッ!? ジョジョ! シーッ!」

「おおっ、何だい何だい? そろそろリアスも年頃なものを持つようになったのかい!?」

「も、持ってません!」

 

 

思い当たるフシがあるのか、リアは顔も真っ赤にして否定する。朱乃と子猫までもが目をそらしていた事については……まぁ触れないでおこう。

気を取り直して、リアは咳払いをするとゼクスが訪問してきた事についての真意を聞き出そうとする。

 

 

「そんなことよりお兄様! どうしてここへ!?」

「何を言っているんだ。授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。是非とも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 

 

そう言ってゼクスは懐から折り畳まれたプリントを広げて見せる。それはその場の全員に配られた、近々開かれる授業参観の案内プリントだった。

 

 

「あれ? なんでゼクスがそれ持ってんの? そのプリント今日配られたばっかなのに」

「あぁこれは━━━━━」

「私がソーナ様に申し出まして、プリントを頂けるよう刷ってもらったのです」

 

 

ゼクスの言葉を繋ぐように、彼の背後からグレイフィアが現れた。あぁ成程と、その場の誰もが納得したものの、直後に戦慄が走った。

 

 

 

 

 

「……よォ。そういやオメーとも久し振りだったなァー、銀髪メイドォ……」ゴゴゴ…

 

 

 

 

 

未だにコケにされたことを根に持っているのか、彼女の背後にいつのまにか回り込んだ丈城が尋常でない殺気を纏わせる。しかもその隣には『クリーム』が暗黒空間を展開して待機。どう見ても殺る気満々だ。

 

 

「ジョジョ落ち着いて!」

「…? 何故ジョジョはいきなり怒り出したんだ?」

「アレ? なんか私の時と対応違くない?」

 

 

突拍子のない変わり様にゼノヴィアとゼクスは戸惑い、慌てたリアが手を突きだして制止しようとする。しかし丈城は一向に殺気を引っ込めようとしない。

気になったゼノヴィアは単刀直入に、彼にその真意を聞いた。

 

 

「彼女と過去に何かあったのか?」

「……コイツが俺の一番嫌いなタイプだった、て事さ」

「ふーむ……そういう事だったのか」

 

 

その一言でゼクスは確信した。流石現役魔王、一を聞いて十を知る。

 

 

「グレイフィア。いくら人間といえど、初対面の人物に対して礼儀を欠かしてはならないとあれほど言っているだろう。謝りなさい」

「……はい。ジョジョ様、この度は失礼な言動によって不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

「ジョジョ、私からも謝ろう。今回は私の眷属が失礼な態度をして本当に申し訳ない。許してくれとはいわないよ。ただ不快な思いをさせてしまったことは謝らせてほしい」

 

 

グレイフィアの無礼を嗜め、ゼクスは彼女と共に丈城へ頭を下げた。これには彼も驚き、一拍置いて元の眼差しに戻る。

 

 

「……ダチに頭下げられちゃ仕方ねぇな。わかった、今回はゼクスに免じてお咎め無しだ。だからといって俺以外の人間とかに暴言吐けばいいってもんじゃねぇぞ?」

「はい、肝に命じておきます」

 

 

『クリーム』を下げて殺気を引っ込めた丈城。するとすぐに顔を曇らせ、さらっと聞き流したトンデモ発言について言及した。

 

 

「……ってか、今さ。ゼクスそいつの事『私の眷属』って言わなかったか?」

「あぁ、グレイフィアは私の眷属の『女王』でね。実を言うと私の"妻"でもあるんだ」

「「うそんっ!?(えっ!?)」」

 

 

ゼクスのカミングアウトにアーシアと聞いた本人が驚きの声を上げ、ゼノヴィアはそうなのかと頷く。それに対しグレイフィアは無言と瞑目しながら頬をつねる。

 

 

「……えー、改めまして。サーゼクス・ルシファー様の『女王』兼メイドであり、その妻でもありますグレイフィアです。ジョジョ様、アーシア様、ゼノヴィア様、よろしくよろしくお願いいたします」

「アハハ、痛い痛い痛い。痛ひよ、グレイフィア」

(じゃあ、俺しれっとゼクスの嫁に喧嘩売ってたのか……まぁ反省しねぇけどな)

 

 

つねりながら会釈したせいか、ゼクスの痛覚が更に増してその目に涙が浮かぶ。内心親友の身内を嫌悪していたことに丈城は気づくが、ものの数秒で開き直る始末。流石親友の身内であろうと容赦しない人間である。これこそ失礼にあたると思うのだが。

 

ひとまずこの二人のいざこざは終息した。しかしまだ問題が残っている悪魔が。そう、リアだ。

 

 

「まさか、グレイフィアね!? お兄様に授業参観の件を伝えたのは」

「はい。学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュールを任されている私のもとへ届きます。無論サーゼクス様の『女王』でもありますので主へ報告も致しました」

「報告を受けた私は魔王職が激務であろうと、休暇をいれてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。安心しなさい。父上もちゃんとお越しになられる」

「オイオイ、現役魔王のゼクスに加えて二人の親父さんまで来るたぁな……。こいつはえらく豪勢な授業参観になりそうだ」

 

 

頬をポリポリと掻きつつ、来たる授業参観の規模に遠い目になる丈城。しかし特別視されるのを嫌うリアは若干上ずった声で反論するも、ゼクスはそれを横に振ってこう答えた。

 

 

「そ、そうではありません! お兄様は魔王なのですよ? 仕事をほっぽり出してくるなんて! 魔王がいち悪魔を特別視されてはいけませんわ!」

「いやいや、これは仕事でもあるんだよリアス。実は三すくみの会談をこの学園で行おうと思っていてね、会場の下見にきたんだよ」

「えっ、ここでやんの!? 三すくみと俺のトップ会議を!?」

 

 

これにはグレイフィアを除いた全員が目を丸くする。

 

 

「ああ、この学園とは何かしらの縁があるようだ。私の妹であるお前に伝説の赤龍帝と未知なるスタンド能力、聖魔剣使い、聖剣デュランダル使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。これは偶然では片付けられない事象だ。様々な力が入り混じり、うねりとなっているのだろう。そのうねりを加速度的に増しているのが、ジョジョ━━━━━赤龍帝である君だと思うのだが」

『ホラ、全ての元凶だってよ。相棒』

「全て私のせいだッハッハッハッハッ!!」

『どこの戦極だお前は……』

「リア君全部私のせいだっ♪」

 

 

誰かこの男に反省という言葉を教えていただけないだろうか。そう思ってしまうほど丈城はいっそ清々しく笑い飛ばす。

しかしゼクスの指摘通り、丈城の腕に宿る『赤龍帝の籠手』やスタンド能力によってある種の"引力"が働いている可能性は十二分にある。 人との出会いは人の持つ引力によって、出会うべくして出会うもの。こうして丈城がリア達をはじめとする悪魔勢や他種族との接触や、それが絡む事件に巻き込まれることも、彼自身が中心にいるために起こった事なのかもしれない。

 

 

「あなたが魔王か。はじめまして、ゼノヴィアという者だ」

 

 

一同の失笑を買った丈城を他所に、ゼノヴィアは新任の挨拶とばかりにゼクスへ歩み寄る。元ヴァチカン所属のエクソシストが眷属に入ったことは、彼も驚いたことだろう。

 

 

「ごきげんよう、ゼノヴィア。私はサーゼクス・ルシファー。リアスから報告を受けている。聖剣デュランダルの使い手が悪魔に転生し、しかも我が妹の眷属となるとは……正直最初に聞いたときは驚いたよ」

「私も悪魔になるとは思っていなかったよ。今まで葬ってきた側に転生するなんて、我ながら大胆なことにしたとたまに後悔している。……うん、そうだ。なんで私は悪魔になったんだろうか? やけくそ? いや、だがあのときは正直どうでもよくて……。でも悪魔で本当に良かったのだろうか……?」

 

 

そう口走るなり、かつての癖で祈りを捧げるゼノヴィア。まぁ大体お察しの通りだが、彼女は現在悪魔。アーシア同様のダメージを食らう事になる。彼女も彼女で失笑を買ったのだった。

 

 

「ハハハ、妹の眷属は楽しい者が多くていい。ゼノヴィア、転生したばかりで勝手がわからないかも知れないが、リアスの眷属としてグレモリーを支えて欲しい。よろしく頼むよ」

「聖書にも記されている伝説の魔王ルシファーにそこまで言われては私も後に引けないな。どこまでやれるかわからないが、やれるところまではやらせてもらう」

「ありがとう」

 

 

何だかんだで、人は褒められると照れるものである。するとゼクスはあごに手を添えると

 

 

「さて、これ以上難しい話をここでしても仕方ない。うーむ……しかし人間界に来たとはいえ、今は夜中だ。こんな時間に宿泊施設は空いているのだろうか?」

 

 

と若干困り顔でぼやいた。確かに今は深夜一時すぎ。この時間帯に空いている宿はこの駒王町付近にはない。かといって彼らに野宿をさせるわけにもいかない。いくら魔王といえど立場上問題がありすぎる。

 

 

「心配すんなっての。泊まれる場所なら一ヶ所確保できてるぜ」

 

 

そんな悩む一同に丈城がドンと胸を叩いた。どこかいい場所があるのだろうか。

 

 

「本当かい? ジョジョ君」

「場所もなにも、あそこしかねぇだろ。俺とゼクスと言えばさ!」

「「「「「………あ」」」」」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「みぎゃあァァァッッ!? さ、三連敗だとォォォッッ!?」

「WRYYYYYY! 最ッ高にハイってやつだァァアア━━━━━━ッ!!」

「だから近所迷惑だって言ってるでしょ!!」スパンッ!

「落ち着いてください二人とも」スパンッ!

「因幡洋ッ!?」

「劉備ガンダムッ!?」

 

 

……結果、ゼクスは丈城のアパートへ泊まる形となった。計六名と一匹の夕食&入浴の後、ゼクスが「この間のリベンジだ!」と再戦を申し込み、再び『F-M○GA』で丈城と対戦。見事三連敗を達成してしまったのだ。

 

絶叫する魔王と発狂するスタンド使いを友情ツープラトン・ハリセンアタックで制裁し、リアとグレイフィアは思わずため息をつく。

 

 

「ハ……ハハハ、あれから結構練習したつもりだったんだが……まさかその更に上を越していたとは……いやー悔しいな」

「まぁリア達にも叱られちまったし、アーシアとオーフィスに至っては眠たそうだし。そろそろ切り上げて寝るか」

 

 

あれだけ騒いでいたにもかかわらず、アーシアとオーフィス、リーフは互いに寄り添い合ってウトウトしている。このまま二人と一匹まで巻き込んで夜更かしさせるわけにはいかない。そろそろ就寝する時間である。

 

 

「おっとそうだね。明日も君達は用事があるようだし、今日はもう寝よう」

「うん。そんでゼクスとフィーアが寝るのは良いけどサ、部屋どうするよ? この四畳半に六人寝るとなると相当狭いぞ」

「フィーア……成程、私のことですか」

「銀髪メイドよりかはいいじゃねぇか。それともなにか? 世戸○おりのほうがよかったか?」

「……中の人などいませんわ」

 

 

ソーニャに続きしれっと決められたあだ名に頭を抱えるグレイフィア、もといフィーア。しかし丈城の心配する事の方がよっぽど重要である。彼が借りているこの部屋は四畳半であり、四人寝るだけでも寿司詰め状態なのだ。そこに二人も追加されてしまうとかなり狭くなってしまう。

と、ここで気を取り直したフィーアがこんな提案を持ち掛けた。

 

 

「でしたら、私とお嬢様、アーシア様とオーフィス様はお嬢様の部屋で就寝致します」

「ええっ!? ちょっ、グレイフィア!?」

「ああ、出来ればそうしてくれるとありがたい。今日はジョジョと語り明かしながら床につきたいんだ」

「お兄様まで!」

 

 

想い人と一緒に寝られない提案にリアはこの世の終わりみたいな表情になる。

 

 

「まー……ちょうど男女でいい具合に別れたわけだし、第一実の兄貴でも魔王とその嫁には逆らえんべ」

「むうぅぅ~……ジョジョまでぇ……」

 

 

想い人にまで裏切られ、最早幼女と大差ない反抗を丈城にぶつけ始める始末。日に日に彼女のこういった退行が進んでいるらしく、丈城曰く「もうリアも妹でいいんじゃね?」と言い切る程らしい。

 

 

「お嬢様、さぁご自分のお部屋に戻りましょう。それではサーゼクス様、ジョジョ様、おやすみなさいませ」

「わかっているわよ、グレイフィア……」

「ふぁ……ジョジョさん、サーゼクス様、おやすみなさい……」

「おや…すみ……」

『ニャ~…』

 

 

フィーアに連れられ、三人と一匹はリアの部屋へと向かった。

残された二人は布団へ入って消灯。ここから最凶コンビの就寝トークがスタートするのだった。

 

 

「そういえばジョジョ。アザゼルに会ったそうだね」

「あぁ……あいつは"今度会いに行く"っつってた。多分その言葉に偽りはないと思う」

「そうか。……アザゼルは神器に強い興味を持つ。ジョジョの『赤龍帝の籠手』のみならず、スタンドにもきっと例外ではないはずだ。現にジョジョと同じ『神滅具』を持つ者が彼のもとへ身を寄せている」

「確かにな……腹ン中で何考えてんだかわかんねぇけど、少なくとも奴が俺のスタンド能力と『赤龍帝の籠手』に興味を示しているってのは事実だ。気を付けなくちゃいけないのは、奴が堕天使の総督であるってことだな」

「うむ。アザゼルは天界、冥界、人間界に影響を及ぼせるだけの力をもった組織の総督だ。利用しようとすれば多岐に亘るだろうね。しかし、彼はコカビエルのような戦好きではない。過去の対戦で一番最初に戦から身を引いたのは堕天使だったくらいだからね」

 

 

いくら丈城といえど、今回の相手は宿敵堕天使のトップ。下手に戦闘に突入してしまえばひとたまりもない。ゼクスのバックアップがついているとはいえ、である。

 

 

「━━━━妹は、ジョジョに強く想いを寄せている。今は毎日が楽しく感じているのだろう。あんな楽しそうな姿は冥界でも見ることができなかった。私はジョジョ、君のお陰だと思っている。……改めて妹を、リアスをよろしく頼む」

「フ、愚問だぜ。リアやあいつらは俺が求めた"信頼"に応えてくれただけじゃない。それ以上の価値のあるものをくれた。俺はリア達を失いたくないし、何がなんでも守り抜くつもりだ。絶対に死なせやしない」

 

 

そもそも丈城はリア眷属のカムフラージュであるオカルト研究部に入る対価として、眷属に協力している。その狙いはリア達という悪魔の真意を探るためであったが、馴れ合う内に彼は次第に感じていた。彼らのような愛と人情に溢れた人々を失ってはならない、と。

 

 

「心強いな、ジョジョ。これまで生きてきたなかで、ここまで心の底から信頼できる友を持ったのは初めてだ。……じゃあ、そんな親友にリアスの兄として一つ聞かせておくれ」

「ん?」

 

 

そんな真剣な彼の心情をかき乱すように

 

 

「リアスとは……もう契った仲になったのかい?」

「ぶっ!? ち、ちちち契ったってェッ!?」

 

 

ゼクスのとんでもない爆弾発言が飛んできた。

 

 

「契ったとはそういう意味さ。つまり(自主規制)とか(自主規制)とか……」

「コラ━━━━━━ッ! 何をしれっと放送禁止用語垂れ流しとんじゃい!」

「ハハハッ! やはり噂通りだったね。色恋沙汰はドがつく程清純だって!」

「そりゃそうだけども! チッキショー誰だ! こんな噂流しやがったのはーッ!WRYYYYYYYYYYYYYYッ!」

「アハハハハハッ! アーハハハハッ、ヒーッ!」

 

 

錯乱して二度目の発狂スイッチが入るスタンド使いと、それを腹を抱えながら笑い転げる魔王。絵面が完全に修学旅行のそれと全く変わらない。本当に騒々しいコンビである。

 

 

 

ちなみにこの数十分の間、こんな大声で騒いで後の祭りになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「「黙って寝なさい!!」」スパーンッ!!

「エレン・イェーガーッ!?」

「仮面ライダークロニクルッ!?」

 

 

(←To Be continued…)

 




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第39話《プールでのお約束事 その①》


お待たせしました、尾河です。
今回はプール回でございます。しばらくはプール回が続きますが、どうぞお楽しみにしていてください。ネタでカバーしますので!(オイ)

それではどうぞ。



 

 ゼクスの思わぬ訪問から数日後。

 

 

「…ったく、どーして俺まで駆り出されねぇといけないんだよ」

「いいじゃんか。バイト代として昼メシとオカ研メンバーと一緒にプール先取り権だぜ? たまの休みぐらいパーッと遊ぼうぜ!」

「…まぁ悪い話じゃないからいいけどさ。あと呼び出すのにいきなり天井からコンニチワしないでくれる? 素で驚くから」

「そうか……じゃあ今度からは窓ガラスブチ破ってのダイナミック訪問を…」

「やめて!!」

 

 

 夏真っ盛りのとある休日。丈城とサジ、オーフィスとリーフは駒王学園へと向かっていた。

 この日はオカ研の召集で学園に向かうことになっており、関係ないサジに至っては丈城のキャトルミューティレーションで御用。オーフィスとリーフは面白そうなのでくっついてきたという形である。

 

 

「そういや、何気にお初なんだけど…この子は誰だ? お前の妹か?」

「『無限の龍神』。俺ん家に居候しているドラゴンだよ」

「ドッ…!? ここっ、この子ドラゴンなの!?」

「あぁそうだ。今はこーゆー姿だけど本当の姿はかなりデカイぞ。それこそ次元の狭間に棲まう『真なる赤龍神帝』グレートレッドと並ぶくらいだし」

「グレートレッド…会長から話は聞いているけど、この子がドラゴンか……。イマイチ実感が湧かないな」

「なら一回その力見せてもらうか? 最もその的は……わかってるよな?」

「OK、わかった信じる」

「ジョジョ、威圧凄い」

『ニャッ』

 

 

 そんな雑談を展開しつつ、三人と一匹は歩みを進める。因みにリアとアーシアは先に学園に行っており、諸々の準備をしているためここにはいない。

 

 移動を開始してから数分後。学園付近のコンビニで待ち合わせていた裕斗・小猫・ゼノヴィアと合流し、サジとゼノヴィア、リーフの初顔合わせを終えた一同は改めて学園へと足を向ける。

 

 

「会長から色々な悪魔の事情を聞かされているけど…まさかルシファー様が大のゲーム好きだったとはなぁ…」

「ゲームのみならず、ゼクスはアニメとかコスプレとかにも関心があるみたいだし。近々大手の映像制作会社と取引するとか、魔界に声優学校作るんだとか言ってたぜ」

「うむ、幅広い分野を更に広めることは双方の文化の発展に繋がる。冥界と人間界のメリットにもなる良いアイデアだ」

「その分野が違う方向に偏り過ぎていると思うんだけど…」

「俺もそう思う…」

『ニャー?』

 

 

 ゼクスによるアニメ文化魔界拡散計画が露見したところで、一同は駒王学園へ到着。リア達が待つ校舎裏のプールへと向かった。プールでは既にモップやバケツを用意していたリア達がおり、残すところあと丈城達の着替えだけとなっていた。

 

 

「チーッス、リアー! 来たぜ〜」

「あらジョジョ、早かったじゃない…ってあら? なんでサジ君がここに?」

「どーもリアス先輩…休日なんで寝てたら、おたくの契約者にドナドナされまして……」

「またね…。ジョジョ、サジ君と喧嘩をするなとは言ったけど、これはそれ以前の問題よ。自重しなさい」

「わかったやめるよ……なんてこと言うと思ったかいウゥーフーフーフーフッ♪」

「やめなさいその初期の22世紀製ロボットみたいな口調」

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その①『プール掃除の為に生徒会の人間をドナドナしてはいけません』〕

 

 

 

 そんな珍問答はさておき、リアはため息をつきながら視線をプールへ移す。

 

 

「とりあえず、まずはプールの槽内掃除からね。毎年のコレは最初に片付けておかないと厄介なのよ」

 

 

 彼女につられて二人が槽内を覗き込むと、そこには一面の深緑景色……もとい、見事なまでに藻や苔で染まりきっていた。

 

 

「うっへー…なんか魔物が誕生しそうな沼みてぇ……」

「いつ見てもえげつねぇよな、これって…。しかも妙にヌメってるから気持ち悪さが増してるし……」

「これはとろろ昆布みたいだな。昨日食したばかりなんだ」

「「食べ物で例えるのやめてよォ〜……」」

 

 

 水を抜けば更なる地獄が待っていると思うと気が気でない。とりあえずプール開きを楽しみに待つ全校生徒のため、一同は決戦準備をしに更衣室へ。

 数分後、各自の服装に着替えた丈城らはリア達のもとへ集結し、リーフは見学コースへ直行。

 ちなみにメンバーの服装はというと……

 

 リア、朱乃、ゼノヴィア…ビキニ+Tシャツorパーカー

 アーシア、小猫、オーフィス…スクール水着にTシャツ

 裕斗、サジ…男性用水着にTシャツ

 丈城…ワムウのコスプレ

 

 

「ジョジョさん、かなり個性的な水着ですね」

「いや水着ですらないでしょコレ…」

「……ただのコスプレ」

「いやーホントは水着買ってこようと思ってたけど忘れちってて。これはどーすっか悩んだ挙句の結果でつ」

 

 

 やる気十分と言わんばかりに、手にしたデッキブラシを天高く掲げる丈城。その隣でオーフィスがそれを真似てバケツを掲げる。楽しそうで何よりだ。

 

 

「ともかく皆、準備はいいかしら? さぁ、プール掃除を始めるわよ!」

「「「「「はい!(All right!)」」」」」

 

 

 リアの号令と共に、丈城らは各々の掃除用具を手に槽内へと突撃した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「…ふぅ、粗方削ってみたけど…な」

 

 

 掃除を開始してから30分後。こまめにスポーツドリンクを飲みながら作業を進めていたサジは、額の汗を拭って目の前の光景にふと呟く。

 

 

「どした? サジ」

「ん? あぁ、プール掃除してると大概こいつらいるよなーって思ってさ」

「こいつら? …あーなるほどね」

 

 

 近くにいた丈城もそれを見て合点がいった。

 

 削った藻や苔の山、まだこびりつく苔の上を徘徊する複数の小さな影。すなわち、ヤゴとカエルである。

 

 

「マスクドド◯イクと諏◯子がゾロゾロと」

「諏◯子言うなし。俺らは別に何とも思わないけどさ、女の子達の方は大丈夫かな? こうゆうのって結構苦手な女子がいるって聞くし…」

 

 

 サジの言う通り、メンバーの七割方は女子である。ヤゴはわからないが、カエルが苦手な女子もいると思うのだが。

 

 

「そうでもなさそうだよ。二人共」

「えっ、何で?」

「だってホラ、あそこ」

 

 

 裕斗は後ろのリア達に視線を向けて、丈城とサジもその方へ顔を向ける。

 

 

『ニャー♪』

「コラ、リーフ。これ、食べ物じゃない」

「……ケロちゃん」

「ちっちゃくて可愛いです!」

「ひゃっ!? か、カエルが谷間に!?」

「あらあら、えっちなカエルさんですわね」

「ビキニを取れば自然と出て行くだろう」

「男子もいるのにそんなことできるわけないでしょ!?」

「…楽しそうだし放っとくか」

「「賛成」」

 

 

 ヤゴとカエルを手に大はしゃぎするリア達。それを遠い目で見守った後、丈城ら三人は目の前の処理に取り掛かった。

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その②『ヤゴとカエルではしゃぐ女の子達は放っておきましょう』〕

 

 

 

「…で、俺らはどうするよ」

「ヤゴもカエルも水生生物だしねぇ。でもここら辺にキレイな川があるわけでもないし……」

 

 

 背後でワーキャー聞こえる中、男子チームは冷静にヤゴとカエルの処理を考えていた。しかし駒王学園周辺には住宅街やオフィスビルが立ち並んでおり、自然は殆ど残っていないのが現状だ。とても放流できるような環境が整っているわけではない。

 

 

「あ、そういえば特訓山の裏手に清流があったな。そこいいんじゃねぇか? あんまり人の手が入ってないような場所だし」

「それじゃあ放流先はそこでいっか。あとは…一時的に隔離できる場所か」

「更衣室の隣の倉庫に、確か使われていない水槽があったはずだよ。後で生物部の先生に一言言っておくから、使わせてもらおう」

「じゃあヤゴはそこに隔離するか」

 

 

 着々と処理の方針が定まってゆく。残るはカエルだ。

 

 

「あとは……諏◯子だけか」

「だから諏◯子言うなし」

 

 

 方針が未定のカエル達をじっと眺める丈城。そして何を思ったのか、適当な一匹を指でつまんで固定すると……

 

 

 

 

「…よし、カエルを潰さずにプールの底にクレーター作れるかどうかやってみよう」

「じょっ、ジョジョ君ストォォ━━━━━━ップッ!!」

「失敗してカエルが四散する未来しか見えねぇよッ!!」

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その③『プール内でカエルを使っての波紋の修行はやめましょう』〕

 

 

(←To Be continued…)

 





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第40話《プールでのお約束事 その②》

プールネタこれしか思い浮かばなかったんだい!!


……はい、モロ被りでごめんなさい。




「前が見えねぇ」

「……それ以前の問題が起きていますが」

「ジョジョ、頭にいろんな物刺さってる」

 

 

 間一髪波紋の修行に巻き込まれそうになり、安全な水槽内へとカエルとヤゴがいなくなった槽内。その中でオカ研&生徒会のドナドナ被害者は引き続きこびりついた苔や藻をデッキブラシで削ぎ落としてゆく。

 粛清を食らい、顔が福笑い化&頭がデッキブラシと聖魔剣とデュランダルの生け花状態の丈城も黙々と槽底を磨いている。よく生きているものだ。

 

 一方アーシアはリアの言いつけで、プールから少し離れた水場で水汲み作業をしていた。やや大きめのバケツに並々と水を入れて、いざ運搬。ところが

 

 

「んっ!? ん〜っしょっ!」

 

 

 どうやら入れた量が多かったらしく、彼女の力量で運ぶには少々重過ぎた。しかしそれでもみんなのためと、アーシアは必死で持ち上げて運ぼうとする。

 

 

「お、戻ってきたぞ」

「うん……でも結構重たそうだよね? アーシアさーん、手伝おうか?」

 

 

 そんな彼女の姿を視認した裕斗は心配そうに声をかけるが

 

 

「いっ、いえ! 平気…ですっ!」

 

 

 と説得力のない言葉で断られてしまった。……しかし

 

 

「これ…っ、どこにおっ、けばっ!?」

 

 

 重さに全神経を傾けていたせいで足元が見えず、アーシアは段差に蹴つまずいた。しかもバランスを崩して前のめりに倒れ、その先はプール槽。このままでは危険だ。

 

 

「「アーシア (先輩) !」」

 

 

 即座に反応した丈城と小猫が落下地点に先回り。先に到着した丈城がアーシアを受け止めようと手を広げてスタンバイ………したのだが

 

 

「ひゃう!」

(バッシャア!)

「ぶッ!?」

 

 

 転倒の勢いで半回転したバケツが、落下地点にいた丈城の頭にダンク。さらに水が彼の身体にぶっかかってびしょ濡れに。

 それだけならばまだ良かった。だが丈城に降りかかった災難はこれだけではなかった。

 

 

「丈城先…輩っ!?」

 

 

 二人に駆け寄ろうとした小猫がまだ削っていない苔を踏んづけ、こちらでも転倒。そしてそこは丈城のすぐ背後。

 

 よってこうなる。

 

 

(ドガァッ!)

「げぼばァッ!?」

 

 

 小猫の石頭ヘッドバッドが彼の腰を直撃。逆エビ反りのまま吹っ飛ばされた。そのまま槽壁に腹をぶつけて仰向けにダウン。

 

 そこへトドメとばかりに、これまた半回転して落下してきたアーシアが丈城の腹にダイナミック着席。

 

 

「キャッ!」

(ドッ!)

「ぐふぇあッ!?」

 

 

 小猫とアーシアによるダブルプレーの前に、最凶のスタンド使いはなす術なく再起不能(リタイア)した。

 

 

 

 

 

「こ…このジョジョが…このジョジョが……ガクッ」

「ジョジョォォ──────────!?」

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その④『プール内での友情ツープラトン攻撃はやめましょう』〕

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ! 『突然暗闇と水が襲ったかと思ったら、腰に一発と腹に二発、どれもかなり重い一撃が入ったんだ』。な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった! 頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」

「そりゃ小猫ちゃんとアーシアちゃんの友情ツープラトン攻撃だ…」

 

 

 数分後。リア達によって介抱された丈城はすぐに意識を取り戻した。顔には拭き残した水滴が頭から流れて、まるで焦りからくる汗のようにも見える。

 

 

「とりあえず二人ば大丈夫だったか?」

「はい、ごめんなさいジョジョさん。水を被せてしまった上に、ジョジョの上に乗ってしまって…」

「……ごめんなさい丈城先輩」

「気にすんな。二人に怪我がなけりゃそれでいいからサ」

 

 

 粗方身体についた水分を拭き取って、何事もなかったように丈城は立ち上がった。つくづく丈夫な男だ。

 

 

「で、でもよかったよね。もしバケツが半回転してなかったら、今頃アーシアさんもジョジョ君も大怪我していただろうし……」

「……いつものサジ先輩みたいになってましたね」

「!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

(カーン! カーン!)

「そらァッ! いっけェッ!」

「負けないわ! 秘技・グレモリーショット!」

「なんの『流星指刺(スターフィンガー)』!」

「あっコラ! スタンドはなしよ!」

 

 

 再び作業を開始してから一時間後。そろそろ終わり頃になってきたのか、メンバーの中にはタワシホッケーに興じるものも出始めた。

 

 

「小猫ちゃん、行きますわよ!」

「……裕斗先輩!」

「よし! フッ、それっゼノヴィア!」

「任せろ! そりゃっ!」

 

 

 ……訂正、ほぼ全員でした。

 オカ研メンバーの殆どがデッキブラシを振りかざしてタワシホッケーをしていると、ゴミを捨ててきたサジが戻ってくる。その光景に楽しそうだなと彼も混ざろうとした。……が

 

 

「おっ、タワシでホッケーでm (ドギャン!) タコス!?」

「「「「「あ」」」」」

 

 

 丈城が放ったシュートがあらぬ方向へ暴投。壁に反射してサジの顔面にクリティカルヒットした。

 で、その盛大なミスショットをかました張本人は謝罪の言葉を一言。

 

 

「あーわりィタワシ(・・・)…じゃなかった、サジ」

「「「「「タワシ!?」」」」」

 

 

 盛大に名前を間違えた。

 

 

「ぐっ…あ、危うく二階級特進するところだったぜ……」

「ミスっちゃったテヘペロ♪」

「あらあら、うふふ」

 

 

 よろよろと力なく起き上がり、顔面に異常がないか確かめるサジ。そして隣に本家がいるにも関わらず持ちネタをパクる丈城。反省する気はもちろんない。

 

 

「しかし…タワシ君か」

「何ニヤニヤしながらこっち見てんだ裕斗ォ……」

「……ということはこっち (タワシ) がサジ先輩になりますね」

 

 

 サジが恨めしい目で睨みつけても、裕斗はどこ吹く風で微笑んでいるだけ。

 そして流れで放った身も蓋も無い小猫の一言が、この男の耳に入ってしまった。

 

 

「よし! ならば今日からこのタワシは『サジ』と命名する!」

「何故に!?」

 

 

 目を光らせた丈城がサジの顔面をぶっ飛ばしたタワシを掲げ、まさかの交換命名宣言。そのとんでもない発言にサジは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「きっとあれよ、『ボールは友達』みたいなノリで言ったのよサジ君」

「部長、その表現だと友達に容赦なくジャッ◯スルー2とか皇帝ペ◯ギン3号叩き込まれてますけど」

「!?」

 

 

 リアが咄嗟にフォローするも表現がフォローになっていない。かえって丈城の発言をツイン◯ーストしてしまっている。

 

 

「ふむ。友達ならば遠慮はいらないな」

「タ…タワシの……タワシの、事だよね…?」

 

 

 更にこちらでは小猫、朱乃、ゼノヴィアが既にデッキブラシでウォーミングアップを行なっている始末。殺る気満々だった。

 

 

「よーっし! そんじゃサジをブラシでぶつぜェ────ッ!!」

「イジメか!!」

「大丈夫だよ。サジ君の事じゃなくてタワシの事だから」

「聞くだけなら俺のピンチだって……」

 

 

 意味深な発言で不安を煽る丈城。止めることなく盛り上がるオカ研メンバーの燦々たる様に、サジは大きく嘆息して訴えた。

 

 

「というかさぁ……仮にも同じ悪魔とか、一緒に通う仲間なんだからさ、少しでもいいから躊躇ってくれよォ……」

 

 

 うっすら涙を浮かべて躊躇を懇願。同情を誘ってやめさせようとする。

 

 ……しかし

 

 

 

 

「どぉぉぉ─────っせいぃぃっっ!!」

(カキィィン!)

「ぅオオ─────イッ!?」

 

 

 約一名、血も涙も無いスタンド使いがいた。

 

 そんな彼に感化されたオカ研メンバーも一斉に加わり、丈城が打ったタワシの落下地点にリアが駆けつける。

 

 

「サジ君! 覚、悟っ!!」

(カ───ン!)

 

 

 ゴルフの要領でタワシを天高く打ち上げ、空に吹っ飛ばした。そこへ飛び込み台から跳躍したゼノヴィアが辿り着き、

 

 

「行くぞサジ! ハアアッ!」

 

 

 デッキブラシの柄で小猫にパスショット。そのままタワシは次々と打ちつけられ、その度に彼等はサジの名を連呼する。悪意しか見えない。

 

 

「コラコラ皆さん。サジ君が可哀想でしょ? そのくらいにして下さい」

 

 

 と、ここで見兼ねた裕斗がレフェリーストップをかけた。あれだけ馬鹿騒ぎしていた丈城もオカ研メンバーもこの一言で手を止め、各々リアクションで誤魔化そうとする。

 

 

「いや〜ハッハッハッ、熱中しちまったな」

「ついついやりたくなっちゃうのよ。ノリよノリ」

「木場ァ…お前なら止めてくれるって信じてたぜェ! 親友!!」

 

 

 ある意味での地獄が途絶え、その終止符を打った裕斗に涙目で感謝するサジ。そんな感謝の視線に、裕斗はキラッキラした笑顔を浮かべた。

 

 

「あぁ、良かったね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タワシ君」

「サジだって!?」

 

 

 お約束の言葉を添えて。

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑤『プール内で他人の名前を命名したタワシでのデッキブラシホッケーはやめましょう』〕

 

 

(←To Be continued…)

 




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第41話《プールでのお約束事 その③》

七夕で願った事……一ヶ月投稿ペースをなんとかしたい。

はい、プール回3発目をどうぞ。



 過程がかなりぶっ飛んだ内容だったものの、一同は漸くプール掃除を終えた。朱乃が魔法を使って水を投入。いよいよ待ちに待ったプール先取り遊泳である。しかし…

 

 

「あれ、ジョジョ君は?」

「そういえばさっきからいませんわね…。誰か見かけましたか?」

「いや、俺は見てないっす」

「我も」

『ニャー』

 

 

 丈城だけがその場にいなかった。辺りを見渡してみるが姿はなく、やってくる気配も感じない。きっとトイレか更衣室にでも行ったのだろう。この時リア達はそう考えた。

 

 その時である。

 

 

「……プールになにかいます」

 

 

 小猫がプールの水面を指差し、その異変を周囲に知らせた。

 先程入れたはずのプールの水。その中央に泡沫がいくつも浮き上がっていた。はじめは一つ二つ程度だったそれは、やがて勢いを増してボコボコと吹き出す。

 

 

「朱乃先輩が入れた時って……なにもありませんでしたよね? プール槽の中って」

「ええ。排水溝から空気が……というではなさそうね。どう考えてもあの勢いはおかしいもの」

 

 

 たしかに水を入れる寸前までなにもなかった。それはこの場にいる全員が認知している。だが依然として吹き出す泡は一向に止まらない。

 

 すると

 

 

(♩〜某イルカ刑事登場BGM)

「んっ!?」

「なに? この音楽は…」

 

 

 今度は校内放送から流れる、某イルカに乗った警視の登場音楽。すぐにボリュームが下がったと思いきや、聞き覚えのある人物の高らかな口上が述べられる。

 

 

『フッフッフッ! 冴えるスタンドパワーは伊達じゃない! 仲間を愛し、正義を守る! 誰が呼んだかスタンド使い、キュ〇レンシルバーは蛇使い!』

 

 

 その口上と共に吹き出す泡の中から浮かび上がる人影。風に還った戦士のアピールポーズのまま、偽キャプテン・テニールのスタンド『暗青の月(ダークブルームーン)』を従えていたのは、いつのまにか槽内に忍び込んでいたこの男。

 

 

「オカルト研究部唯一にして最強の人間! 兵藤丈城、只今k「どこの土〇ェ門よ貴方は!」メリ〇ダスッ!?」

(ザッパーン!)

 

 

 リアの全力投擲したタワシがクリーンヒットした丈城であった。

 

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑥『プール槽内でドル〇ィン刑事のものまねはやめましょう』〕

 

 

 ☆☆☆

 

 

「続・前が見えねぇ」

「それって続くものなのですか?」

「どーでもいいけど結局全部お前の自業自得じゃねぇか」

 

 

 ワムウの格好から普通の水着にジョブチェンジした丈城。その顔はサz……もとい、タワシがめり込んでいた。しかしそれでも偉そうに腕を組んで空を見上げている始末。一体どこまで頑丈な体なのだろうか。

 

 

「んしょっと。まぁ色々あったが、とりあえずさっきの頼み事ぐらいはこなさなくっちゃあな。サジ、自由遊泳はそれからだぜ」

「あぁ。リアス先輩直々だから、断るわけにもいかねぇし」

 

 

 タワシを引っ剥がしてそう言う丈城の言葉にサジは顔を掻きつつそうボヤいた。実は二人、今しがたリアからとある事を頼まれたばかりなのである。その内容とは……

 

 

「でも意外だなー。小猫ちゃん運動神経いいから、てっきり水泳も得意だろうとばかり思ってたよ」

「……水は苦手です」

「アーシアは泳ぐ機会なんざなかったわけだし、オーフィスに至っては……どうなんだ?」

「海はある。我、プールは初めて」

 

 

 小猫、アーシア、オーフィスを対象としたスイミングレッスンである。小猫は猫気質のせいか泳ぐ事ができず、アーシアは全くの初心者。オーフィスはそもそもドラゴンのため、人の姿での水泳は勿論初めてである。そこでこの先あるであろう水泳の授業の予習として、丈城とサジがコーチとして抜擢されたのだ。

 

 ちなみに裕斗はゼノヴィアに誘われて、隣のレーンで水泳対決。朱乃はリアと共にプールサイドでくつろいでいた。

 

 

「それじゃあ、まずはプールの縁を掴ませてのバタ足練習からだな。えーっと…」

「サジは小猫を担当してくれ。アーシアとオーフィスは俺が見るわ」

「わかった。でも大丈夫なのか? 二人分はキツくないか?」

「問題ねぇな。それに万一お前が邪なこと考えたとしても小猫ならしばけるだろ」

「……問題ありません。痛くします」

「は、はい…」

 

 

 とりあえず真面目にやろう。そう心に誓ったサジだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ベネ(よし)、とりあえず補助つきで25メートル泳ぎきったな。お疲れ様、二人とも」

「……きゅぅぅぅ、疲れましたぁ」

「ぷハッ。結構泳いだ。我、クタクタ」

 

 

 丈城の的確なレッスンの賜物か、アーシアとオーフィスはものの短時間で泳ぎのコツを掴み、まだ補助つきではあるがプールの端から端まで泳げるようになった。一方のサジも気をつけてレクチャーした結果、ノーダメージで習得させることに成功。今は休憩という形で、小猫は木陰で読書を。サジはゼノヴィアと交代して裕斗と競っている。

 

 

「それじゃあ俺らも休むか。結構疲れたろ」

「は、はいぃ」

「ん、休む」

 

 

 二人とも意気込んで泳いでいたため、既にクタクタ状態。木陰のベンチに腰を下ろした彼らは早速濡れた体を拭き始める。先に手っ取り早く拭き終わった丈城は残る二人をバンザイさせて丁寧に拭いていった。

 

 

「はい、おしまい」

「はぅ。ありがとうございます、ジョジョさん」

「ありがとう、ジョジョ」

『ニャッ』

 

 

 ついでに二人の頭を撫でてあげると、さも気持ちよさそうに目を閉じてグイグイ頭を突き出してきた。しかもそれに乗っかってリーフもグイグイ来るもんだから、仕方ないなと交互に撫でてあげる優しい丈城。

 

 しばらく経ち、はたと彼が気づくと二人と一匹は膝枕の体勢ですっかり寝入ってしまった。

 

 

(やれやれ…ま、このまま寝かしといてやるか)

 

 

 丈城は二人を起こさない様に、そっと頭の下にタオルを敷いて脱出。

 とりあえず自販機にでも行こうと歩き出した時だった。

 

 

「うん?」

 

 

 プールの対岸でうつ伏せになっているリアの姿が目に映った。恐らく日光浴でもしているのだろう。シートを敷いて上半身を起こし、こちらに向かって手招きしている。

 気になった丈城は彼女の元へやってきた。

 

 

「どったの?」

 

 

 用件を尋ねると、リアは一本のボトルを彼に手渡して

 

 

「ジョジョ、オイルn「だが断る!」ええっ!?」

 

 

 速攻で断られた。

 

 

「あのなぁ、そういうのは同性同士でやってくんねぇかな? いるだろー? 朱乃っちとかゼノヴィアとかさぁ」

「あら、こういうのは異性がやってこそ意味があるのよ? それに朱乃もゼノヴィアもどこかに行ってしまってここにはいないし、アーシア達は疲れて眠っているでしょう? 光栄に思いなさい。私は貴方にしか異性に肌を晒す事を認めていないのだから」

「やってもいいがスタンド使うぞ」

「んもぅ、相変わらずね」

 

 

 呆れた口調でボトルを返す丈城。心底悔しそうなリアの表情を見る限り、本当にやってもらいたかったのだろう。最も丈城の性格上頼んだところで無駄としか思えないのだが。

 

 オイル塗りが目的とわかり、断った彼がその場から離れようとしたその時だった。

 

 

(ムニュゥゥ)

「ファッ!?」

「ジョォ〜ジョ君♩ 私には塗ってくれますわよね?」

「あっ、朱乃っちぃ!?」

 

 

 丈城の背中にふくよかな弾力と生温かい感触が押し付けられた。驚いて硬直していると、肩口から朱乃の顔がひょっこり。至近距離から見つめるその相貌は真っ直ぐ丈城の目を見つめ、更に耳元で囁くように甘美な台詞を口にする。

 

 

「ジョジョ君だってもういい年ごろですし、女の子についてもっと掘り下げてもいいんじゃないかしら? 清い交際もいいけれど、男の子らしく獣になって、欲望のままに女の子を貪って……ね?」

「出来るかァッ! そらオメェらはいいかもしんねぇけどよォ、まだ純真な子達がいるだろうが! 教育の阻害になるでしょ!」

「……じゃあ二人っきりならいいのかしら? ジョジョ君のどこをどう刺激してあげれば飢えた獣になってくれるのかしらねぇ…。今度お母様に相談してみますわ♩」

「オレのそばに近寄るなああ─────────ッ」

 

 

 先の事件で丈城が命の恩人である『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の本体だと知ってから、朱乃が以前にも増して積極的に迫るようになった。隙あらばハグや寄り掛かったり、時にはキスまでしてくる始末。さらにはこの事実を両親にまで報告したというのだからさぁ大変。姫島家をあげて丈城を婿入りさせるプロジェクトが本格的に動き出したという(朱乃談)。

 

 

「ちょ、ちょっと朱乃! 私のオイル塗りが先よ! そ、それにそんな風に私のジョジョを誘惑しないでとも言ったはずよ!」

「ねぇ、ジョジョ君。部長が怖いですわ。私は日頃走り回って疲れているであろう、かわいい殿方の溜まっているものを吐き出させてあげたいだけです」

「俺からすりゃどっちもどっちだよこのスカタン!!」

 

 

 このアプローチに焦りを感じたのか、一足遅れてリアが乱入。即座に立ち上がって朱乃に人差し指を突きつけ、悔しさ混じりの視線をぶつける。

 

 

「朱乃。ちょっと調子に乗りすぎよね? あなた、私の下僕で眷属だということ、忘れているの?」

「あらあら。そんな風にされてしまうと私も困ってしまいますわ。────リアス、私は引かないわよ?」

 

 

 リアの挑発的な態度に感化されたのか、朱乃も丈城からゆらりと離れ、ハイライトを消した相貌で対峙する。一見して物凄いいがみ合いのように感じるものの、首から下と事の発端を知れば迫力が一気に消え失せる。これぞまさしく『意味がわかりませんなぁ』。

 

 

「オイ、お前ら一体何を──────」

「ジョジョはあげないわ。───この (自主規制) 」

「可愛がるくらいいいじゃないの。─── (自主規制) 」

「あなただって (自主規制) じゃないの!」

「あら、そんなこと言うなら今すぐジョジョ君と (自主規制) しますわ」

「ダメよ! ジョジョとの (自主規制) は私が先なんだから!」

「テメェら真っ昼間から何放送禁止用語垂れ流してんだァッ!! 自重しろォッ!!」

 

 

 某眼鏡侍の如く血管を浮かばせながらツッコむ丈城だったが、女同士のバトルは更にヒートアップ。遂には魔力弾を乱発しまくっての大乱闘へと洒落込んでしまう。

 

 

「大体朱乃は男は嫌いだったはずでしょう! どうしてよりによってジョジョと (自主規制) しようとするのよ!」

「そういうリアスだって、男なんてみんな一緒だって一括りにしてたくせに! 都合のいい時だけ彼女ぶらないで! この (自主規制) !」

「ジョジョは特別なの! ジョジョと (自主規制) していいのは私だけなんだから!」

「私だってジョジョはかわいいわよ! それに今の私があるのは彼のお陰でもあるの! そのお礼として (自主規制) を捧げたっていいじゃない!」

「ここでやるなテメーらァァ───ッ! プールぶっ壊す気か破壊神共ォォ───ッ!!」

「おわっ!? 一体何事だ!?」

「ひゃああっ! あ、危ないですぅ!?」

「総員退避ィィ─────ッッ!! プールから避難しろォォ─────ッッ!!」

 

 

 このままでは危険と判断した丈城はアーシア達に呼びかけて、プールから脱出するよう促す。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』で流れ弾を弾きつつ避難誘導したのち、彼も一旦そこから逃走するのだった。

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑦『プールサイドでの痴話喧嘩はやめましょう』〕

 

 

(←To Be continued…)

 

 

 




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第42話《プールでのお約束事 その④》

はい、三ヶ月後の投稿でございます。尾河です。

実はこの度 (といっても夏休み入る前くらいに遡る) 本城淳さんの執筆する『やはり俺の奇妙な転生はまちがっている』とクロスオーバーすることになりました。本城さんの方にはもう上がっていますが、こちら側視点の方は展開上もう少し進んでから投稿する予定です。

それではプール第4回目、スタートです。



「ハァ…ハァ…あ、あんニャロ〜共ォ〜…後でぜってぇー覚えとけよ…」

 

 

 散り散りに避難し、一人更衣室隣の用具室へと逃げ込んだ丈城。一方的にヒドイ目に遭わされた彼は息を整えつつ、ポツリと毒づいた。

 

 

「ったく……あれじゃ想い人の取り合いって絵面じゃねぇぞ。ぬいぐるみ取り合う姉妹そのまんまだよ」

『何処ぞのチャッ〇ー顔負けの外道なのにな』

「一言余計だっつーの。第一ぬいぐるみじゃねぇだろチャッ〇ーはよ」

 

 

 ドライグに冷やかされた彼は長椅子にどっかと腰を下ろし、どうしたもんかと項垂れる。リア達と出会った当初から、今までに経験したことのない困難や壁にぶち当たる事は大体予感していたし、それなりの覚悟もしていた。だが全く違うジャンルでこうなるとは流石に丈城自身も予想だにしていなかった。故にどう対処していいか判断に悩み、未だに正解がわからないのが彼の現状である。

 

 まだ外では爆発音が尾を引いている。どうやって収束という名の反撃に出ようか考えていると

 

 

(ガチャッ)

「ん?」

 

 

 更衣室の戸が開かれ、誰かが入ってきた。薄暗くて一瞬分からなかったが、その髪の色から丈城はゼノヴィアだとわかった。

 

 

「物音がしたので来てみれば、君だったか。赤龍帝」

「ゼノヴィア! あいつらまだやってるのか?」

「あぁ、よくわからない単語を連発していたよ。(自主規制) だの (自主規制) だの……」

「言わなくていいっつの。もうっ!」

 

 

 話がわかる人物 (かどうかは怪しいが) と出会った事で、丈城のSAN値は一気に引き上げられた。安堵のため息をつき、彼女に歩み寄る。

 

 

「ちょうどよかった。初めて水着を着たんだが、是非君から感想を聞かせてほしい。似合うかな?」

「おう、悪くないと思うぜ。初対面ん時からあの黒いボディスーツと制服姿しか見てなかったから……ちょっと新鮮な気がするぜ」

「まぁ、私自身がこういったものしか着てこなかったっていうのもあるな。最も教会にいた頃の周囲の修道女や戦士達は触れられなくて不満を漏らしていたよ」

 

 

 髪の色と同色のスタンダードなビキニを身に纏うその姿は、モデルと勘違いしてもおかしくない程整っていた。

 

 

「しかし似合っていて良かった。リアス部長や姫島先輩とは体格が違うから自信がなくてな……機会があれば少し話をしてみようかな」

「だからって不用意にリアや朱乃っちに変なこと聞くなよ? まともそうに見えてタチが悪いからさ」

『よく言う……。俺からすればお前の方がよっぽどタチが悪いぞ?』

「私は一向に構わん!!」

『構えよちったぁ……』

 

 

 顔にシワを寄せてドヤる丈城に、彼の左手甲を光らせて呆れるドライグ。その声に反応したゼノヴィアは驚いた様子を見せ、辺りに視線を配る。

 

 

「ッ、誰だ!?」

「…あーそっか、ゼノヴィアは何気にお初なんだったっけな。こいつは俺の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に宿ってる二天龍の一角・ドライグだ。人外共が口々にしている赤龍帝本人だよ」

『よろしくな、デュランダル使いの娘』

 

 

 ゼノヴィアに手甲を差し出し、相棒であるドライグを紹介する丈城。彼女も彼女で納得した様子でその手を握り、まるでドライグと握手するように自己紹介を返す。

 

 

「これは失礼した。元ヴァチカン司教所属の聖剣使い・ゼノヴィアだ。今はリアス・グレモリーの眷属『騎士(ナイト)』として籍を置いている。こちらこそよろしく頼む」

 

 

 ゼノヴィアが手を離すと、発光していた手甲の光がフェードアウトして消えた。どうやらドライグの気は済んだ様子。

 するとゼノヴィアがいつになく真剣な眼差しになると、ぐいっと丈城に顔を寄せてきた。

 

 

「赤龍帝、折り入って話がある」

「ジョジョでいいっつーの。周りにはそう通してるんだから」

「ではジョジョ、改めて言うが

 

 

 

 

 

 ───────────私と子供を作らないか?」

 

 

 その瞬間、丈城の中の時が止まった。

 別に『世界(ザ・ワールド)』を使ったわけでもなければ『スタープラチナ・ザ・ワールド』を使ったわけでもない。『クラフトワーク』で固定させてもいない。というか無理だ。

 

 硬直する彼の姿を見て言い回しがダメだったのかと、ゼノヴィアはもう一度言い方を変えて意を伝えた。

 

 

「…あ、あの……私と、えっ…エ「アカ──────ン!!」ムグッ!?」

 

 

 これ以上言わせたらまずいと0フレームで口を塞ぎ、放たれそうになったトンデモ天使声(エンジェルボイス)を再び喉の向こうへ無理矢理押し込ませる。

 

 

「何言っちゃってんのねぇ!? チミ! 数秒前までの俺の安堵を返して! ちょっとばかしまともな人種だって心の底から安心した俺の心を返してよォッ!!」

 

 

 涙を滂沱と流して訴える丈城に若干引き気味のゼノヴィアだったが、すぐさま彼の手の拘束を解き、その真意を語った。

 

 

「ま、待ってくれ。訳を聞いてほしい。……知っての通り、私は今までヴァチカン司教所属のエクソシストとして生まれ育ち、長いこと主のためといって様々なことに励んできた。やる事なす事、自分の全てが神や信仰に関わっていた」

「そりゃ……まぁ、そうだったな。けど先の事件でオメーは……」

「全て無意味に等しかったと一蹴されてしまった。教会からは異端として追われ、ヤケクソで転生悪魔となって今まで滅ぼしてきた者達と同じ境遇に身を堕とす始末。完全に先を見失ってしまった」

「(言葉の要所要所にトゲがあるのは気のせいか…?) それで模索した結果がコレと……」

 

 

 丈城の察しに彼女は肯定の頷きを返す。

 

 

「リアス部長からは「悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を与え、欲を望む者。好きに生きてみなさい」と言われ、それまで自分を封じていた鎖が無いことに気付かされたんだ。そして全てを解放した私は先を見つけたんだ。"女としての本能に従い、堪能しよう"とね」

 

 

 話を聞く限り、一通りの筋は通っている。どっかの欲と本音ダダ漏れの姫と巫女とは大違いだ。方向性は一緒だが。

 しかしそれをなぜ丈城に頼み込む必要があるのだろうか。

 

 

「君でなければならないのは言わなくてもわかるだろう。私はこれでも簡単に男に肌を見せるほど軽い女じゃ無い。こうして君に子を宿してくれと言うには……」

「俺に宿る赤龍帝の力、そして……スタンド能力を見込んでってことか」

 

 

 恐らく彼女は強い子供を産みたいらしく、その適任として一番当てはまったのが丈城だったようだ。

 

 

「私は子供を作る以上、強い子になって欲しいと願っているんだよ。父親の遺伝子に特殊な力を望む。だから君にしたんだ。伝説の赤龍帝の力にスタンドの力。どちらも受け継がれなくとも、オーラぐらいは受け継がれるかもしれない。これは好機だ。ちょうど人気はないし、早速一度試してみよう。何事も早め早めがいい」

「オーケーオーケーちょっち待とうか。はいビキニにかけた手ェ離そうか種田◯沙サン!?」

 

 

 とりあえず『クラフトワーク』でゼノヴィアの手を固定し、これ以上ビキニを下ろさせないように先手を打つ。我ながら下に関わることに対して過敏になってきた事を喜んでいいものか悪いものか悩みどころだが、それはさておき。暴走を抑制した上で丈城はゼノヴィアの肩をガシッと掴み、節度とは何かを丁寧に説かす。

 

 

「あのなゼノヴィア。俺たちはまだ高校生という学生なんだ。学生っちゅーのはお勉強をして、社会人になるための下準備をせにゃならん」

「そうだ。だから今の───」

「話を最後まで聞きんしゃい。別にね、俺はそういう事に興味を持ち始めても何とも思わないよ? だから根本までやめろとは言わない。けどそういうのを公共の場だったりとか野外で大っぴらにしちゃダメなの。子供とかいるし。この学園だとアーシアとか小猫とか、環境的に考えて下の知識はまだ早いの。しかもちゃんと教えなくちゃいけないことだってじぇんじぇん進んでない。何故だかわかる?」

 

 

 丈城の問いにゼノヴィアは首を傾げる。

 

 

「…さぁ? 見当もつかん」

「……今オメーが俺に頼んだこととか、ウチの脳内ピンク一色の悪魔二人が俺にしてほしい下に関わる事だよ。オメーらが自重しねぇでバンバン大っぴらにするもんだからアーシア達が対抗して真似しちゃうの。そういうのはモラル的にも周りの目からしてもよくないの。このままだとあの三人がまともに成長しない可能性が高い。だから自重してくれっつー話なの。オーケー?」

 

 

 それを言うなら丈城の敵の倒し方についても同じことが言えると思うのだが。

 ともかく彼の言い分は以上のとおりだ。今ならまだ然程影響を受けていないゼノヴィアから外堀が埋められる。それでもってリア達の暴走を抑制していき、自分の望む方向へ誘導させる。健全を盾に野望を推し進めるという丈城の考えた抜け目のない策である。

 

 

 

 

 

 

 ……が、抜け目がないのは彼だけではないようで。

 

 

 

 

 

 

「………そうか。なら二人きり、つまり今のような状態なら子作りできるな。さぁジョジョ、遠慮はいらない。邪魔が入る前にさっさと終わらせてしまおう」

「何の解決にもなってねェェェ───────────────ッッ!!」

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑧『用具室内での男女の営みはやめましょう』〕

 

 

「? なぜだ? 誰もいないのだからいいだろう?」

「誰もいねぇからヤっていいとは一ッ言も言ってねぇだろがアアアッ! 学生がどういうもんか俺最初に言ったよねぇ!? 結婚すらしてねぇのに子供作ってどないするんじゃァァァッッ!!」

「落ち着け、ジョジョ。子供の方なら問題はない。基本的に私が育てるから。あぁ、ただ父親からの愛を子供が望んだら、その時だけは遊んでやって欲しい。やはり子に父と母は必要だからね」

「あぁ、それなら……ってなるかァァァ──────────ッッ!!」

 

 

 某日常系BL同人漫画家のようなテンションで荒ぶり続ける丈城。言っていることはまともそうに聞こえるが、結局中身は"やらないか♂"といった内容。これじゃ完全なる堂々巡りだ。

 

 このままでは埒が開かない。そう判断した丈城がいよいよ行為に走ろうとするゼノヴィアを拘束しようとしたその時

 

 

(ガチャッ)

「!」

 

 

 用具室内のドアを開け放ち、『ナット・キング・コール』を出して固まる彼の前に現れたのは……

 

 

「……ジョジョ? これはどういうことかしら?」

「あらあら。ずるいわ、ゼノヴィアちゃんったら。ジョジョ君と (自主規制) するのは私が先ですわよ?」

「うぅ、ジョジョさん……。酷いです……。わ、私だって言ってくれたら……」

「……油断も隙もない」

「……ジョジョの、浮気者」

 

 

 表で姉妹喧嘩をしている筈のリアと朱乃、更にはサジと共に避難した筈の小猫、アーシア、オーフィスの計五人が揃って目をすわらせて佇んでいた。

 

 

「まッ…! ま、待て! 俺ァ無実だ! それに知ってるだろ!? こーゆー下関係の話題はご法度だって!」

「どうした? ジョジョ。さぁ、子供を作ろう」

「火事現場にグレネード放り込むような事してんじゃねぇよコルァッ!!」

 

 

 必死に弁解する丈城だったが、ゼノヴィアの一言によってあえなく瓦解。誤解が誤解を呼んだ。

 

 

「何か申し開きはあるかしら……?」

「あらあら、うふふ……」

「むぅぅ〜……!」

「……有罪判決」

「我、許さない」

(オオオ…Oh my god! なんてこった……この兵藤丈城が追い詰められているだと!? 切り抜けられないトラブルなどないこの俺に…!?)

 

 

 袋の鼠、四面楚歌、詰み……彼の状況を表すならそんな共通ワードが浮かんでくる。しかもただでさえこの用具室は出入口と窓が一つずつしかなく、前者は修羅五名が立ち塞がり、窓は小さ過ぎてつっかえる。退路が断たれた。

 

 

 滅びのオーラや雷やらを醸し出しながらジリジリと距離を詰めてゆくリア達。徐々に壁際に追い込まれてゆく丈城であったが……

 

 

「……フッ、フフフ」

 

 

 その行為は、彼の十八番へバトンを繋ぐ演技だった。

 

 

「オイオイ…まさかこの期に及んで俺がおめおめとお縄につくとでも思ってんのか? 相手が勝ち誇った時(・・・・・・・・・)そいつはすでに敗北しているんだぜ(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

 その一言でリア達の思考が一致。そして丈城が思いついた策はやっぱりこれだった。

 

 

「逃ィげるんだよォォォ────────ッ!」

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑨『用具室の出入口が塞がっているからといって出入口を作ってはいけません』〕

 

 

 速攻で取り付けた『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーを開き、外へ逃走。リア達も策に気付いてすぐに攻撃するも、閉じられた壁に阻まれてしまいミスヒット。空いた穴からは瓦礫と外の景色が見えるだけで丈城の姿はない。

 とどのつまり、すんでのところで逃げられてしまったのだ。

 

 

「くっ、一足遅かったわね! 皆追いかけるわよ!」

「「「「 (……) はい!」」」」

 

 

 追撃のため、一同は用具室を飛び出してその後を追う。そして暫くして遠くの方から一際大きい爆発音に落雷、打撃音が連続で響き渡る。どうやら見つかったらしい。

 

 

「……フム、次は邪魔が入りづらい場所にしよう。二人っきりなら効果的なみたいだし、今度は媚薬成分を含んだお香か何かでも使ってみよう」

 

 

 一人残されたゼノヴィアは一人、今回の反省を生かして再び丈城との営みを目論む始末。この様子では暫くの間、丈城の女難…もとい悪魔難は続きそうだ。

 

 

 〔駒王学園プール取り決め その⑩『プールで起こった喧嘩を校内にまで持ち込まないようにしましょう』〕

 

 

(←To Be continued…)

 




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第43話《白、現る》

こんにちは、尾河です。
今回と、もう一つの投稿作品の計二話でひとまず年内最後の投稿になると思われます。来年はもっと投稿ペースを上げていきたいと考えています。

でも就活との両立が難しいそう……。

では皆様、良いお年を……



「あ〜っぶねぇあぶねぇ。何気にあの攻撃ガチだったな……」

 

 

『D4C』やケニーGのスタンド『ティナーサックス』でリア達の追跡を撹乱。どこぞの黒服ハンターもギブアップ並の逃走劇を繰り広げている丈城は、現在校門近くの水飲み場に身を潜めていた。

 

 流石に水着で動き回るわけにはいかず、予備で持ってきていたナランチャコスに着替えた彼は周囲の様子を確認。いない事を判断して立ち上がった。

 

 

「大体俺のやることに慣れてきた感はあるな。連携取りやすいのはいいけど、逆に敵に回った時の対処に困るなァ……どーすっぺ」

 

 

 頭をポリポリと掻きつつ、複雑な心境のまま移動開始。遠くの方、主にプール周辺では未だに爆音が轟いている。沸点低いなとボヤきつつ校門前に差し掛かると

 

 

「……ん?」

 

 

 彼の視界に、一人の少年の姿が映る。

 

 後者を見上げる濃い銀髪の美少年。黒のワイシャツとパンツの出で立ちの彼は、うっすら微笑を浮かべながら佇んでいる。女子なら確実に一目惚れは避けられないだろう。

 

 

 しかし丈城は気付いた。この青年の正体に。そして思った。

 

 

 コイツは、白いヤツだと。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 白龍皇…ヴァーリは、先の事件のきっかけに開催される会談に出席する堕天使総督・アザゼルの付き添いとして、ここ駒王町を訪れていた。

 

 目的は二つ。一つは前述の通りで、もう一つは対となる力『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持つ男・兵藤丈城がどんな人物であるのかを確かめる事。そのため彼は暇潰しを兼ねて、丈城の通う駒王学園へ足を向けていた。

 

 

(赤龍帝…ジョジョ、か。神器(セイクリッド・ギア)の方はそこそこだけど、彼の場合主力となるのは……やはりあの力)

 

 

 丈城に惹かれた理由は神器の因縁だけではない。決め手となったのはコカビエルを倒したスタンドという力。神器とは全く異なり、見たこともないような個性的な効能が目立つ。成程コカビエルが敗北したのも頷ける。予想外な変化球のオンパレードとそれを放つ人間を侮った。あの戦いはコカビエルが負けて当然だったのだ。

 

 

『お前も気になるようだな。奇妙な力を持つあの男が』

「あぁ、そうだねアルビオン。本当なら前面に出ていてもおかしくない赤龍帝の力よりも、未知なる力を主軸に戦うイレギュラー。今までの使い手とは全く違った趣向の彼を、無視できるわけがない。あの時の彼のレパートリーはまだまだ氷山の一角に過ぎない。早く…早く彼と拳を交えてみたいんだ」

『珍しい。そこまでお前が戦闘意欲を掻き立てるとはな』

 

 

 丈城と同様に、ヴァーリの左手甲が青白く発光。もう一体の二天龍の一角・アルビオンが彼に話しかける。

 

 

「当然。いずれ運命で殺しあう仲に更なる楽しみが拍車をかけているんだ。どんな戦いになるのやら……フフッ」

 

 

 一部ヤバーイ思考が見え隠れするヴァーリ。仇敵が通う学び舎を見上げつつ、来たる戦いに想いを馳せる。

 

 

 そこへ、彼に近づく影が。

 

 

(フ……来たね? ジョジョ…)

 

 

 感じる赤き気配。それを感じ取ったヴァーリは口角を上げ、まずはご挨拶とその人影に顔を向けた。

 

 

「────────やぁ、いいg……?」

 

 

 が、彼の眼の前にいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ白龍皇君。我々は君が来るのを待っていたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 某宇宙人7に出てくる、ちゃぶ台と一緒に括られることが多い異星人の着ぐるみを着た仇敵の姿だった。

 

 

「『…………………………』」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「歓迎するぞ。なんなら、アザゼル総督も呼んだらどうだ?」

「……一応確認するけど、赤龍帝ジョジョかい?」

「ハッハッハッ。それ以外一体誰がいるというのかね」

 

 

 肯定とも取れる返答をし、小脇に抱えたちゃぶ台をヴァーリの前に起き、その前に座る丈城。発光器官や声色まで本家に似せているものだから、本当に幻覚の別名を持つ異星人と対話しているような気分になる。

 

 それはともかくとして。

 

 

「今日はどォした? 二天龍の決着つけにきたわけじゃねぇだろ?」

「それが本当だったとしてもこの時点でその気が失せているよ」

「だろーな。こっちもプール掃除とかで相手している暇がねぇから、戦闘意欲を下げるために一芝居打ったんだよ」

 

 

 手際良く異星人の着ぐるみをキャス◯オフしてゆく。再びナランチャの姿に戻った丈城は軽く伸びをしながら、彼に笑いかける。

 

 

「さってと…改めましてだな。俺が赤龍帝こと、兵藤丈城だ。ジョジョと呼んでくれ」

 

 

 スッと手を差し出し、その笑みに不敵さを滲ませる丈城。ヴァーリは予想していた展開と違った事に戸惑いつつ、彼の握手に応じた。

 

 

「あ、あぁ。……ヴァーリだ。白龍皇でもある」

『声が震えているぞ、ヴァーリ』

「いやね……こうも早く場の主導権をとられるとは思っていなくてね。ちょっと動揺してしまったよ」

 

 

 明らかに動揺した表情を見せ、ぎこちない反応を見せるヴァーリ。本来は殺しあう仲の筈なのに、構図が完全にいじめっ子といじめられっ子のそれである。

 

 

 と、そこへ

 

 

「…お、一足遅かったな。皆」

「大丈夫……のようね。この有様なら」

 

 

 不機嫌なのか安堵なのか、微妙な表情でリアが現れた。後ろには朱乃をはじめとしたリア眷属が集結しており、気配を察してかそれぞれの得物を手にしているも、目の前の勢力図を見て下げた。

 

 

「ハァ…少し取り乱したけど、本題に入ろう」

 

 

 頭を振って気分を改め、ヴァーリは丈城に向き直ってこう尋ねる。

 

 

「ジョジョ。君はこの世界で自分が何番目に強いと思う?」

 

 

 その問いに丈城はフム、と腕を組んだ。

 

 確かにこれまで彼は数多くの戦いに身を投じてきた。しかしどれも強い相手ではあったが、レベル的に見ればまだまだ底辺といえる。コカビエルこそ強敵ではあるが、彼の口振りから察するに大した実力ではないのかもしれない。

 

 一拍置いて、丈城は結論を出した。

 

 

「うーん…なんとも言えねぇけど、まだ下ら辺じゃねーかな。強い強いって言われてる上級悪魔とか堕天使共には食らいつけるけど、そこまで自慢できるレベルじゃないし。俺だってまだまだ発展途上だ。そこまで自惚れてない」

 

 

 意外にも彼の答えは謙虚だった。数多のスタンドを扱える彼だが、それ以上の実力を誇る強者はごまんといる。友人のゼクスやその妻フィーア、堕天使総督のアザゼルにオーフィスやグレートレッド……。候補を挙げたら挙げたでキリがない。まだ目覚めていない『(タスク)』ACT4や『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』、『赤龍帝の籠手』のさらなる段階などが使えるようになれば、多少勢力図は変動するかもしれないが。

 

 

「────成程、それなりにわきまえているわけだね。僕の見解だと…ジョジョはまだ禁手には至っていない。上から数えれば四…いや千から千五百の間ぐらいかな。何せこの世界には強者が多い。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』と呼ばれるあのサーゼクス・ルシファーでさえ、トップ10には入らない」

「……………………」

 

 

 否定も肯定もせず、ただじっとヴァーリの推論に耳を傾ける丈城。

 

 

「だが、一位は決まっている。───不動の存在が」

「……不動の存在、ねぇ。悪いがヴァーリ、最後だけちっと否定させて貰うぜ」

「?」

 

 

 ここで丈城が待ったをかけた。

 

 

「不動っつーのは、まずありえない。時が流れりゃ動くもんは動くんだよ。日本の武将だってそうだ。誰一人今日まで長続きする統治を成し得た奴はいない。お前の言う一位に大体察しはつく。けどそいつだって衰えない筈がない。トップが衰えて、それに反比例して他の奴が強くなり、そいつがトップに成り上がる。そしていつか衰え始める。ちょっとしたループさ。そんな循環が昔っからずーっと今まで続いている。だから不動だろーが不変だろーが絶対にありえねぇ」

「……………………」

「今の一位が現時点でどーなのかは知らねぇが、近いうち追い越してやるさ。テメーが辿り着くよりも速く。そして衰え始めるそん時まで、この俺がてっぺんに居座り続けてやらぁ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、ヴァーリに拳を突き出してそう言い放つ丈城。この先強い相手は泉の如く湧いて出てくる。彼とて油断するわけにはいかないのだ。

 

 

 留まることなく進撃し続ける人間の証明。

 

 

 嘲笑う人外を蹴散らしながら頂きを目指す生物。

 

 

 その最果てに、彼は何を見るのか。

 

 

 同じようでそうでない道を進み続ける彼の姿に、ヴァーリはますますその興味を強めていった。

 

 

「────────それが聞けただけでもいい収穫だった。いつかはわからないけれど、君の歩みを止められる日を楽しみにしているよ」

「やれるもんならやってみやがれ。俺は誰だろーと容赦しねー」

 

 

 互いに一瞬纏わせた異質な殺気。それを感じ取って、リア達の表情が強張る。

 

 

「──『二天龍』と称されたドラゴン。『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』。過去、関わった者はろくな生き方をしていない。──あなたはどうなるんだろうな?」

「それならお気遣いなく。現在進行形で振り回されてるから」

「アハハ…どうやらそのようだね」

 

 

 ジト目でリアに睨まれる丈城。遠目で口笛を吹いて誤魔化す様は最早見慣れた光景である。

 

 

「今日は先日訪れた学舎をちょっと見てみたかっただけだ。アザゼルの付き添いで来日していてね、ただの退屈しのぎだよ。それにこっちもやることが多いからね……それじゃあ、また」

 

 

 そう言い残して、ヴァーリは去っていった。

 白龍皇の実力は自分達よりも遥かに上の筈。にも関わらずそれほど畏怖の念を感じなかった。強者の猛威を日頃から見慣れてしまった影響からか、それとも別の要因か。

 

 

「永遠のライバルって奴か…。ククッ、面白そうだねぇ。あの余裕めいた面をボッコボコに出来る日が待ち遠しいぜ」

『お前ほんっとブレないのな…。俺初めてだぞ? 白いの心の底から心配したの』

「ハッハッハッ! じゃあそれまで白龍皇の名前彫った墓石でも買っとくか?」

『どうでもいいが、早く逃げないとその暮石の名前が相棒の名前になるぞ?』

「え?」

 

 

 ドライグの言葉に引っかかる丈城。だがその意味はすぐにわかることになる。

 

 

「……そうね。ドライグの言う通りよ」

「………あ、忘れてた」

 

 

 逃走劇の途中だったことに。

 

 

「散々トラップや偽物や身代わりやら使ってくれたわね……。もう逃がさないわよ? ジョジョ……」

 

 

 再び各々のオーラを纏い、臨戦態勢に入るオカ研女子ーズ。……だが

 

 

 

 

 

 

「────────フ、残念でした……下へ参りま─────っす!!」

 

 

『オアシス』を即座に纏って、丈城が地中に消えた。地面をぬかるみにしながらその場を離れ、再び逃走を図る。

 

 

「あっ、また! しれっと未確認のスタンドを使わないで頂戴!」

 

 

 それを弾かれたようにリア達も追跡を開始。ポツンと残されたゼノヴィアと裕斗は得物をしまい、考えていたことを話し始める。

 

 

「例え白龍皇であっても、対抗策として有効なスタンド能力をジョジョが持っていればひとたまりもないだろうな。まず彼は負けない」

「うん。本当に人間かどうか時々怪しくなるけどね」

 

 

 遠くから響き渡る爆音を耳にしつつ、先の決戦で丈城が勝つヴィジョンが垣間見える二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………覚えてろよ、ジョジョォ……ガクッ」

 

 

 その一方で忘れ去られた哀しき被害者(サジ)が一人、ここにいた。

 

(←To Be continued…)




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第44話《無限の龍神、学校へゆく》


はい、大変長らくお待たせしました。尾河です。

今回から大波乱が予測される授業参観編でございます。いつもよりネタとギャグの増し増しでお送り致します。

では、どうぞ。



 

『それじゃあ丈城、アーシアちゃんによろしくね』

「わーったからわーったから。朝早くからテンション高いのはよく伝わったから勢いでこっちに連絡寄越さなくていいっつの」

「ジョジョー、ごはんー」

『ニャー!』

「へーへーちょっとお待ちよ! …ンなわけだから切るぞ、お袋。また学校でな」

 

 

 白龍皇との思わぬ邂逅から数日過ぎたある早朝。

 様々な事があったものの、丈城が間借りしているアパートではいつもと変わらぬ朝を迎えていた。しかもこの日のイベントも相まって忙しさが増しているというのに、実家からの興奮冷めやらぬ電話の対応で大幅にタイムロス。遅れを取り返すべく丈城は自らの両腕にエルメェスのスタンド『キッス』のシールでアシュ◯マン状態になって朝食の支度を開始した。

 

 

「おはようジョジョ……私としたことが寝過ごしたわ」

「ウッスリア。今日俺やっとくから、明後日の当番と交代な」

「! いっけない……私今日当番だったのすっかり忘れてたわ……!」

「気にすんなっての。ついでに延長で昼飯も作っとくぞ」

「ジョジョさん、めざしが焦げてます!」

「オーケーちょいまっち!」

 

 

 と、そこへ寝過ごしたリアが起きてきた。最近仕事疲れも合わさって寝起きが悪い彼女は今朝の当番であった事を思い出す。しかし手慣れた丈城があらかた終わらせた後でもあり、『ハーヴェスト』に配膳を押しつけた彼は続けて弁当の用意に取り掛かる。

 

 

 とまぁそんなこんなで朝食および弁当の中身が完成した。

 この日のメニューは白米に味噌汁とめざしの塩焼き、漬物各種といった定番の和食セット。それぞれ食べ始める中、丈城は引き続きアシュ◯マン状態で食べながら『ゲブ神』と共に弁当を詰めてゆく。そんな器用な芸当を披露していると

 

 

「…ジョジョ、我も学校、行きたい」

「「「えっ!?」」」

 

 

 急にオーフィスがそんな要求をしてきた。

 

 

「今日、特別な日らしい。ジョジョの母、そう言っていた」

「オーフィスさん、授業参観に行きたいのですか?」

「うん、行きたい」

 

 

 どうやら丈城と母親のやり取りをちゃっかり聞いていたようだ。いつもなら仕方ないなと渋々首を縦に振るところだが、この日ばかりはそうもいかない。

 

 

「つってもなぁ、来る父兄のメンツがメンツだからな……リア、ゼクスを通してオーフィスの件は伝わってるよな?」

「えぇ、一応は。建前はお兄様の監視下に置かれていることになっているけど、特に害はないって気にも留めていないわね。お父様に至っては親戚の子供扱いしているし」

「よーするに問題ねぇと」

 

 

 まぁゼクスのフレンドリーさから察するに、二人の両親も相当朗らかな性格なのだろう。

 

 

「まぁ今日ぐらいいっか。ゼクスの付き添いって形で同伴させても。但し周りの邪魔をしないって約束できるならよし。一応俺のいとこって事にしとくから、うっかり変なこと口にするなよ?」

「うん、わかった」

『ニャー』

 

 

 本人の了承も得、学校に初めて (合法的に) 行く事を許されたオーフィス。するとそれに便乗するかのように、窓辺の鉢植えからリーフが首を伸ばして自分も行くと言わんばかりにアピール。次第に丈城は頭が痛くなってきた。

 

 

「…あーもういいや。リーフの方は魔法でオーフィスの髪飾りかなんかにして誤魔化しとこうぜ」

「随分適当ねぇ」

「食事中と弁当詰めしてる最中に頭働かせろって言うほうが無理だよ。それも朝っぱらから」

 

 

 普段からこんな流れになることはないのだが、丈城は若干朝に弱いタイプの人間であり、多少のトラブルならこんなに悩みはしない。だがピストルズ並みに畳み掛けられると流石に応える。その他の要因はいろいろあるが、基本彼のストレスは大体朝にたまりやすいのだ。

 

 今日は平和な1日であってほしい。リアによるリーフのカムフラージュ魔法の光景を眺めつつ、丈城は朝食の手を進めるのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 時は流れて駒王学園。

 この日のグラウンドは白線が引かれ、訪れる父兄用の駐車場として使われている。実際授業参観は三時限目から始まるのだが、二年生の丈城のクラスでは朝早くから騒々しかった。

 

 その理由は……

 

 

「ったく……なんでフライングすっかなぁオメーは」

「やっぱり、ジョジョと一緒がいい」

 

 

 本来であればゼクスと共に行動……する手筈だったのだが、待ちきれないとばかりに早くもHR中にオーフィスが乱入してきたのだ。HRを一時中断して担任教師と協議した結果、今日一日だけなら一緒にいてもいいと許可が下りたため現在に至る。

 いつもの黒っぽいゴスロリとは違って清楚な白を基調としたロリータファッションに身を包み、頭にはリアの魔法によって髪飾りに化けたリーフ。ミステリアスな雰囲気から一新した彼女の姿は男女問わずクラスメイトの視線を釘付けにして離さない。一方当人の視線の先は丈城に向けられており、彼の膝の上に対面して座っている。当然動こうとしない。

 

 

「むぅぅ〜……ぷくー!」

 

 

 ……でもってそのお隣にはクラスの癒し系担当が絶賛ヤ〇モチス〇リュー中。これに加えて学園の二大お姉様やマスコットを側に置いているものだから、周りから向けられる視線は大体嫉妬や羨ましいといったものばかり。しかし誰も彼に対して報復行動を起こそうとしなかった。そりゃそうだ。丈城に力技で敵うはずがないのだから。

 

 

「しっかしまぁ、つくづく思うけどジョジョってほんっとツイてるわよねー。学園にも身内にも美少女がいるなんて」

「よ、山崎〇るか」

「中の人なんていないわよ」

 

 

 膨れたアーシアの頬をオーフィスと一緒に突っついて遊んでいると、眼鏡をかけた少女・桐生が声をかけてきた。彼女はジャンル的には元浜や松田と同じなのだが、人格者としては常人側に傾向している。それでもエロ娘に変わりはないのだが。

 

 

「裏じゃ結構妬まれてるわよ? いただきますできる環境に恵まれてるっていうのに、その幸運を蔑ろにしてるって。クラスのみならず他学年の男子が嘆いているわよ」

「なんだよいただきますできる環境って。そういっても意図してこうなったわけじゃねぇし、俺自身どうしようもねぇよ。多分偶然の重なりじゃねぇの?」

「それ、かえって皮肉に聞こえるわよ」

「そうとしか説明のしようがねぇじゃねぇか」

 

 

 口が裂けても赤龍帝の恩恵とは言いたくない丈城であった。

 

 

「「ならばそのエデンに俺たちも混ぜr「させるか性犯罪者ドモォォ──────ッッ!!」ギャーッ!?」

 

 

 そこへエロガキ二人がル〇ンダイブ……するもあっさり丈城に防がれた。器用にオーフィスを抱えて跳躍し、回し蹴りを放つその姿は宛らウィル・A・ツェペリその物。流石数多の人外を相手にしてきた実力は伊達ではない。

 

 

「お前ら混ぜたらそれこそカオスじゃねぇか。頭丸めて出直して来やがれ!」

「お、俺既に丸めてるんだけど……」

 

 

 黒板に突き刺さるエロガキ二人。綺麗に着地した丈城はやれやれという顔でオーフィスとアーシアの頭を撫でる。

 

 

「あのなぁ、 そうやって下心丸出しで突貫したって避けられるのは明白じゃねぇか。第一お前ら女子との出会い求めすぎ。ちったぁ謙虚になりやがれ」

「わ…わ、わかってねぇなジョジョ! 学生の身という自由な今だからこそ! 美少女との出会いを求める必要性があるのだ!」

「俺たちは野郎としてこの世に生まれてきた……! ならば己の欲のために魂を燃やして生きるべし! 俺たちの真実はそれ一つだ!」

「オーフィス、判定」

「……キモい」

「「ごっっフェアアアアアアァァァッッ!?」」

 

 

 煩悩まみれの眼鏡と丸坊主に丈城がトドメとして選んだのはオーフィスだった。ジト目で放たれた一言は二人の心を大きく抉り、再起不能に追い込んだ。

 とりあえず二人はこのまま捨て置き、引き続きそっぽ向くアーシアをもにゅもにゅして遊びはじめる。

 

 

「ジョジョ」

 

 

 すると今度はゼノヴィアが話しかけてきた。彼女も彼女で入ってきたときに一悶着あったのだが、一応ここでは伏せておく。説明すると長くなるから。

 

 

「…おぅ、オメーか」

「先日は突然あんなことを言って申し訳なかった。私は君のことを深く考えずに突っ走りすぎたようだ」

「うん、それ以前の問題もあるけどまぁいいや。とりあえずわかってくれたのならそれでいいよ」

「ああ。だからこそ、いきなりそういったことは難しいと思うんだ」

「……ん?」

 

 

 一見して反省しているようなゼノヴィアの口振り。しかし丈城の過敏な下ネタセンサー(?)が何かを探知。その表情に怪訝さが滲む。

 

 

「まずはこれらを用いて練習しよう」

「……『世界(ザ・ワールド)』」

 

 

 そう言って、何やら手提げ付きの小さな箱を取り出したゼノヴィア。しかし疑惑が確信に変わった丈城が先手を打って『世界』を発動。ゼノヴィアが開けようとした箱をひったくって中身を確認した。

 刹那彼の顔が引きつり、無言で閉じて時を再始動。

 

 

「おや?」

「おいゼノヴィア、この中身はなんだ?」

 

 

 箱がないこと、それがいつのまにか丈城の手元にあることに気付くゼノヴィア。問い詰めたところ、それは案の定アレを詰めた箱だった。

 

 

「えっと、確か (自主規制) (自主規制) (自主規制) (自主規制) に (自主規制) と……」

「わかった! もうええっちゅうねん! それ以上公然の場で垂れ流すなァッ!!」

 

 

 放送禁止用語を連発するR18指定の口をアイアンクローで塞ぎ、憤怒の形相で阻止しにかかる丈城。その際箱を放り投げてしまい、宙を舞ったそれはオーフィスの手元へ見事にフォールイン。

 

 

「……? 変な棒」

「ギャアアアァッ!? オーフィスめっ! こんなバッチいの触っちゃいけませんっ!!」

「バッチいとは失礼な。使った後は毎回ちゃんと洗っているぞ」

「洗ったとかの問題じゃねぇんだよ!! モラル的な面でOUTだっつってんだよ!! というか今しれっと使ったっつったか!?」

「桐生さん、この玉がいくつも繋がったものは…?」

「あーこれはねぇ」

「桐生ゥゥウウウウ───────ッッ!! アーシアになんつーもん渡しとんじゃァァァアアアアアッッ!!」

 

 

 更にスイッチが入った桐生がアーシアに串団子状の物体を手渡す始末。即座に『(ザ・ハンド)』で引き寄せ奪取し、ゼノヴィアの玩具箱(意味深)に突っ込んで強制封印。荒い呼吸を整える。

 

 

「ハァー…ハァー…と、とにかく! これは学校が終わるまでボッシュートだ! いいな!?」

「い、いやだg「I・I・NA?」…お、おぅ……」

 

 

 殺気を放ち始めた丈城を見て流石に食い下がるのをやめたゼノヴィア。『クレイジーダイヤモンド』でボコられた記憶がいいブレーキになった。

 

 

 とりあえず下関係のトラブルだけは勘弁してくれと既に故人、ならぬ故神となった神に軽く祈っておく丈城であった。

 

(←To Be Continued…)

 





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第45話《粘土言語》

お久しぶりです、不定期が板についてきてしまっている尾河です。
今回は問題児第3号のセラフォルーが登場します。個人的にヒロインに加えようかどうか悩んでる次第です。だって色々似通ってるんだもん。

それでは、どうぞ。



 午前中からハプニングが続出した丈城のクラスだったが、そんなこんなで駒王学園の授業参観がスタートした。

 

 今更な話ではあるが、丈城の座る席は教室の一番窓側の列の三番目にある。ここは教壇や後ろからは意外にも見えづらい位置にあるため、それをいいことに丈城は授業中に隠れて何かしらの作業をやっていたりする。

 今日は授業参観ということもあり、前々からリアのクラスに仕掛けておいた監視カメラ三台の映像をモニタリングしていた。

 

 

(おーおー、やってるやってる)

 

 

 カメラはクラスのテレビの上部と教室後方の掃除ロッカー内、天井の火災報知機の中に仕込んである。いずれもリアがよく映る位置だ。そして彼女が座る席の後ろには父兄として参加しているゼクスとその父……ジオティクス・グレモリーの姿が。勿論二人はリアの授業風景を視察するために出席しているわけなのだが……。

 

 

(うっひゃあ……二人ともはりきってんなオイ)

 

 

 ゼクスはテレビのスタジオ収録で使いそうなクレーンカメラを用いて撮影を敢行しており、ジオティクスもロケで使いそうな集音マイクを引っ張り出してセットする始末。当然教室内は騒然となっており、担任教師はどうすればいいかわからなくなって結局苦笑いで済まそうとする。

 

 

 そして髪の色と同じくらい耳まで真っ赤に染め上げたリアが一人。

 

 

(…………ドンマイ、リア)

 

 

 被害をこうむる契約主を憐れみつつ、丈城はモニターから視線を外して自身の授業に集中することにした。

 

 

「はーい、それじゃあ授業を始めますよー」

 

 

 リアのクラスの授業は世界史だが丈城のクラスの科目は英語だった。後ろの方にはアーシア目的でやってきた通常武装の兵藤夫妻他、数々の父兄が足を運んできている。ちなみにオーフィスは引っぺがして両親に押し付けた。

 

 丈城のやることはいつも通り。スタンドでイカサマ付与した語学力でスイスイ授業を進めるだけである。

 

 

 

 …………と、思っていたのだが

 

 

「じゃあ配布するものあるから、全員一つずつ取ってってねー」

(((((…………一つ、ずつ?)))))

 

 

 教師が配布したのは授業のプリント……ではなく、何故か粘土板と紙粘土1ブロック。丈城を含めた教室内の全員が頭に疑問符を浮かべていると、次の瞬間教師はとんでもない一言を口にした。

 

 

「いいですかー、いま渡した紙粘土で好きなものを作ってみてください。人でも動物でも家でもいい。自分がいま脳に思い描いたありのままの表現を形作ってください。そういう英会話もある」

(((((嘘つけェェェ───────ッッ!!)))))

 

 

 とってつけたようなこじつけくさい理由で生徒の手元に粘土が配布された。ツッコみたくなるのは当然だろう。しかし授業の一環であることには変わりないので、半ばなし崩し的に授業が開始。

 

 

「「アーシアちゃん、頑張れ!」」

「楽しそう。我も、やりたい」

 

 

 丈城の父母はアーシアに熱を注ぎ、この状況を一切疑問に思っていないオーフィスは羨ましがる。生徒たちは制作に入ってはいるものの、未だその表情には疑問の色が目立っていた。

 

 

(っはァ〜、全然やる気がでねぇ。英語と粘土とかミスマッチすぎるぜ)

『いつものゲス戦法みたくやればいいじゃないか。相棒』

(勝手が違ぇよ勝手が……)

 

 

 そんな中、ただ一人手をつけていなかった丈城は腕を組んで難しい顔をしていた。

 

 

『とりあえず何か形を作っておけばいいんじゃないのか? 玉とか四角とか』

(それはそれで適当すぎるだろ……まぁ、やらないといけないのは知ってるし、それなりに形は作っておくさ)

 

 

 とは言ったものの授業に参加しなくてはならないのはわかっているが、一向に手が進まない。どうしたものかと思考を巡らせている内、ドライグの一言からある事を思いついた彼は早速粘土に手を伸ばした。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 クラスが作業を開始してから30分後。

 

 

「ひ……ひょ、兵藤君……!」

「……あるぇー?」

 

 

 丈城の机の上に鎮座しているのは立派な球体……とは大きくかけ離れたオブジェだった。

 壁を破壊しながら進撃する超巨大種に立ち向かう、○体◯動装置を纏った人物が三人。しかも粘土の成型色ではなくちゃんと塗り分けが綺麗になされており、小規模ながらも大規模な戦いの様子が忠実に再現されていた。

 

 

『……相棒、一体何を作ろうとしたんだ?』

(いやぁー……最初"玉"っつーから皇帝ペ◯ギン3号と皇帝ペ○ギンX作ろうとしたんだけど、途中色々手ェ加えてったらこーなっちった)

『何でサッカーから命懸けの戦いに発展してんだよ……』

(俺に聞かれてもなぁ……)

 

 

 ちなみにスタンドを使って細かい装飾を施したのは言うまでもない。

 

 

「前々から只者じゃないと思っていたけれど……こんな才能を持ち合わせていたなんて! 兵藤君、やはり君は素晴らしい!!」

 

 

 何か壮大な勘違いをしている教師は丈城の手を取って目をキラキラ輝かせる。クラスメイトも何事かと席を立って近寄り、机の上の激戦オブジェを見て驚愕。そこに父兄までも加わり、誰かが放った金額発言が一瞬にして教室内をオークション会場に変えた。

 

 

「六千で売ってくれ!」

「私は七千出すわ!」

「いいや、俺は一万出そう! これは俺のものだ!」

「オイコラ! 売ってもねぇのに競りをすな!」

 

 

 まぁ言わずもがな、売る気などさらさらない丈城であった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「これは凄い。やはりジョジョの器用さはずば抜けているね」

 

 

 昼休みの新校舎屋上にて。

 なんとか渇望の権化と化したクラスメイトと父兄達の手から作品を守り抜き、丈城が一呼吸入れているとゼクスが話しかけてきた。その顔はやたら艶々していて、やり切った感が出ている。どうやらいい映像が撮れたようだ。

 とりあえずゼクスにも作品を見せてみると、目を丸くしながらも鑑定士のように丁重に扱って眺めている。さすが上級悪魔なだけあってその手の芸術品の扱いは手慣れているようだ。

 

 

「それ、よかったらゼクスにあげるぜ。オークションにかけられるより丁寧に扱ってくれる人にもらわれたほうがそいつも本望だろ」

「いいのかい? ありがとう。大切にさせてもらうよ」

 

 

 雑にされるよりいいと、丈城はゼクスに作品を譲ることに。もらったゼクスは心底嬉しそうに転移魔法で作品を収納。丈城に礼を述べた。また一つ二人の友情が深まった瞬間である。

 

 

 するとそこへ

 

 

「あっ、サーゼクスちゃ~ん! やっほー☆」

「ここにいたか。サーゼクス」

「おや、父上にセラフォルー。屋上に足を運んだらちょうどジョジョ君と出会って、つい話し込んでしまいました」

 

 

 ジオティクスともう一人、見知らぬコスプレ姿の少女が並んでやってきた。彼女の服装は最近オーフィスに付き合わされて見ている魔法少女系のアニメのもので、気になった彼は早速ゼクスに問いかける。

 

 

「ゼクス、あのミルたんの衣装着た奴は誰だ? 親戚か?」

「ん? あぁ、そういえば彼女とは初対面だったね。彼女はセラフォルー・レヴィアタン。ソーナ・シトリーの姉君さ」

「レヴィ……? ってことはアイツが現役の四大魔王の一角か!? ……の割には威厳もクソもねぇ風貌だなありゃ」

「ハッハッハ、まぁ私が言うことではないが今の魔王はフリーダムさが前面に強く出ているからね。堅苦しいと上手くコミュニケーションが取れないだろう?」

『あっちは違う意味でコミュニケーションが取れんと思うぞ、サーゼクス・ルシファー』

 

 

 身も蓋もない二者二例の反応を笑って過ごし、ゼクスはやって来た二人に丈城とドライグを紹介する。

 

 

「ねぇ、サーゼクスちゃん。この子が噂のスタンド使い君?」

「そうとも。彼が『赤き龍』を宿し、幾多のスタンド能力を有する者、兵藤丈城君だ。もっとも周りには"ジョジョ"と通しているがね」

「プレッシャーと常識をはね返す男・兵藤丈城! 俺のことはジョジョと呼んでもらおう!」

『そして宿主に振り回されてる二天龍の一角でーす』

 

 

 揃わぬテンションで挨拶の一言を口にする丈城とドライグ。その落差に流石のゼクスやジオティクスも苦笑いを見せるが、セラフォルーは至って普通 (?) に挨拶を返す。

 

 

「はじめまして☆ 私、魔王セラフォルー・レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」

「うん、ムリダナ」

「あるぇっ!?」

 

 

 が、早々に呼び名を却下された。

 

 

『ま、その二つ名を公の場で口にするのは流石に抵抗があるわな。コイツのつけるあだ名の方がよっぽど使いやすいぞ、セラフォルーの魔王』

「ふえーん、そんなぁ〜」

 

 

 ドライグにも異を唱えられ、敢え無く撃沈。ガックリとわかりやすく項垂れてしまった。それを見た丈城は妥協案とばかりにこう持ちかける。

 

 

「気にすんなっての。よーは公で口にしても問題ねぇあだ名ならいいわけだ。ちゃんと考えてやるって」

「ホント!? ジョジョ君ありがと☆ お礼にギューってしてあげる♪」

「契約主に見つかるとヤベーイからそいつァ遠慮しとくぜ」

 

 

 やたらテンションの浮き沈みが激しい魔王であった。

 

 

「まぁ名前がセラフォルーだし……フォルンでどうだ? ゼクスみたいに名前の後半からとったけど」

「フォルン……うん! それいいね☆ ルンっていうのが可愛らしくてO.K.だよ!」

 

 

 満面の笑みと全身で喜びを表現するセラフォルー、もといフォルン。ますます魔王かどうか怪しくなる丈城とドライグだったが、彼女と交代するようにジオティクスが丈城に近づいた。

 

 

「君が噂に聞く赤龍帝ジョジョ君だね。初めまして、ジオティクス・グレモリーという。現グレモリー家当主でリアスとサーゼクスの父親だ」

 

 

 流石に見知った悪魔の父親だとあの態度が影を潜めたか、丈城も紳士の如く歩み寄ってジオティクスの握手に応じる。

 

 

「どうも、保安官のロバートです (キリッ」

『何処の新○劇だオメーは。先に兵藤丈城って名乗ってるだろうが』

「ハッハッハッ、ちょっとした通過儀礼だぜ」

 

 

 訂正、いつも通りでした。

 

 

「リアスがいつも世話になっているよ。最近じゃ次期当主としての風格がさらに強まって、親として誇らしい。これも偏に眷属のみんなやジョジョ君がリアスを支えてくれているおかげだ。これからも娘をよろしく頼むよ」

『ジオティクス・グレモリー、そりゃ逆だ。殆どコイツのせいでリアス・グレモリーが日に日に強固になっているようなものだ』

「任しといてくれよ、リアのおやっさん。この俺がいれば未来永劫目の前の信号全部青だぜ!」

『そりゃオメーが赤信号構わず突っ切って全方向から来た車全部吹っ飛ばしてるからそうなるんだよ』

 

 

 ドライグの突っ込みにやっぱり反省の色を見せない丈城に、ジオティクスは改めてゼクスが"面白い"と称した理由がわかった。上級悪魔を前にしても全く畏怖せず、堂々と構えていられる芯の強さ。誰が相手でも臆することのない精神力をゼクスが気に入ったのだと。

 

 

「スターも獲得してないのにムテキとか、やっぱあたいってば最強ねっ!」

『もうヤダこの人間……』

 

 

 まぁドライグの精神状態を見る限り、その考察は恐らく的外れだと思うのだが。

 

 

「あ、そうだ! サーゼクスちゃん、ジョジョ君、今から体育館でコスプレの撮影会をやろうと思ってるんだけど一緒にどぉ?」

 

 

 すると思い出したようにフォルンが手を叩き、自身のコスプレ撮影会に二人を誘う。

 

 

「コスプレかい? 僕は別に構わないけれど……ジョジョはどうする?」

「俺も参加させてもらうぜ。せっかくだし十八番の進化系で盛り上げてやろうじゃないの! パーリナァイッ!」

『実の兄と父親の前でアレをやるつもりか……自重もクソもねぇな』

「エ、自重? ナニソレシラナイ」

『オイ!』

 

 

 とりあえず丈城とゼクスはこの誘いに乗ることに。丈城の十八番に約一名の不安が残るものの、ここには明確なブレーキ役が一人もいない。阻止することは叶わないだろう。

 

 

 人間×上級悪魔×魔王による企みが今、動き出す。

 

 

『そこまで仰々しいものじゃねぇだろ、コレ』

 

 

 ごもっとも。

 

(←To Be Continued……)

 




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第46話《悪しき戯れと書いて悪戯と読む》

4ヶ月ぶりのお久しぶりぶりでございます、尾河です。

就活もひと段落つき、とりあえず投稿を再開します。読者の方にはお待たせしてすいません。

それではどうぞ。


((ダダダダダ………))

「「……………………」」

 

 

 教室にも戻っていなかった丈城を探していると、同じく授業参観に来ているという四大魔王の一角、セラフォルー・レヴィアタンを探していたソーニャと鉢合わせたリア。自分の兄と父親も姿を見かけていないことから、また何かよからぬことを企てているのではと推測。魔王二人とゲスタンド使いの性格を知っている二人はすぐに合同で捜索にあたった。

 

 その途中、偶然出会った裕斗の一言により、二人は目的の人物たちがどこにいるのかを即座に突き止めるのだった。

 

 

 

 

 "あ、部長。それにソーナ会長まで。……ということは体育館にいた部長はジョジョ君かな?"

 

 

 

 

(部長と会長……絶対怒っているだろうね)

(だな。顔見なくてもわかる。というか見れねぇよ。怖すぎて……)

 

 

 裕斗の後に合流したサジも瞬時に事態を把握。半ばなし崩し的に体育館へ向かうことに。二人の表情は読めないものの、おおよその検討はつく。だってすれ違う生徒やら教員やら父兄やらがの顔が引きつっているんだもん。まぁ二人とも悪魔だからこれが正しいっちゃあ正しいのだけれど、それはさておき。

 

 いつのまにか状況を察した朱乃と小猫、ゼノヴィアとそれに連れられたアーシアも合流し、疾風の如く校舎内を駆け抜けて体育館に到着した。

 扉の前に立ったリアとソーニャは互いに顔を見合わせ大きく頷く。その際一瞬見えた横顔は明らかに殺気立っており、こめかみにはくっきりと血管が浮かんでいた。戦慄する眷属達を尻目に、二人は扉を開けた。

 

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

 

 一言で表せば羞恥という名の光景。

 

 カメラのシャッター音だけが体育館にけたたましく響き、内部は大人数でごった返していた。彼らは目の前の光景に一心不乱となり、新たにやってきたリア達の存在に一切気づいていない。

 

 そしてリア達も目の前の光景……壇上を支配する被写体を見た直後、二人の頭に共通の漢字二文字が浮上した。

 

 

 

 "死刑"、と─────────。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「はいはーい☆ 今度はこっちよ〜♪ それ〜☆」

「ヒヨオォー! ィヤウッ!」

「火星に代わって、折檻よ!」

 

 

 片や、魔法少女の衣に身を包んだ魔王少女。

 

 

 片や、スパニッシュニンジュツを戦闘スタイルとする仮面の貴公子魔王。

 

 

 片や、契約主に姿を変えて火星を司る◯ーラー戦士にマー◯パワー・メイクアップした悪質ゲスタンド使い。

 

 

 そしてそれを自前の一眼レフでパシャパシャ撮りまくる上級悪魔 (主な被写体は三人目)。

 

 

 体育館で突如催されたゲリラコスプレイベントは思いのほか大盛況で、調子にのったレイヤー達はサービスポーズを連発していた。

 魔王二人はまだいい。問題はリアの姿をした丈城が本人不在をいいことに好き勝手やっていることだ。以前から彼女のモノマネをしているものの、本人からはやはり認められていない (にも関わらず丈城はやり続けている)。加えて本人の父親が止めるどころか容認してしまっている。全くもって悪質極まりない。

 

 

『……相棒、グレモリーの娘に知れたらえらいことだぞ?』

「へーきへーき。どのみち認められるわけないんだし。まっ、許可があろうがなかろうが関係ないけどなッ!」

『グレモリーの娘の決定権が皆無に等しいんだが……』

「真似するけどいいよね? 答えは聞いてない!」

『こいつぁひでぇ』

「おーい、こっちに視線をくれないかー?」

「はーい!」

『オイちったぁ止めろ親父』

「フフフ……我が妹の虚像ながら、なんと美しい」

『黙れよナルシスト仮面』

 

 

 唯一の常識人であるドライグのツッコミも虚しく、好き勝手暴走運転を続ける四人は一向に止まらない。このまま放って考えるのをやめた方がいいのかと悩んでいた時だった。

 

 

「火の星! 火星を守護にもつ戦いの戦士! ◯ーラー◯ーズs(ドギャン!)タコスッ!?」

『あ』

 

 

 突如、体育館の入り口から飛んできたパイプ椅子が丈城の顔面にクリティカルヒット。その肢体が綺麗な弧を描いて後ろに吹っ飛び、撮影会が一瞬にして凍りつく。

 

 

 

 さらに

 

 

 

((ゾク……ッ))

「「「「「!!」」」」」

 

 

 その場にいた全員の背筋に冷たいものが走り、背後から漂うとてつもない殺気に気がつく。ギギギ…とブリキ人形の如く振り返った彼ら、そして壇上のコスプレ魔王二人の視界にそれはいた。

 

 

 

「ふふふ…………!!」

「ははは…………!!」

 

 

 

 双眸を爛々と光らせ、逆光を浴びたかのように黒く染まった顔。二人が纏うオーラは最早瘴気か何かかと呼ぶに相応しく立ち込めており、不気味な猫背姿で佇むその様子は正に魔人。

 

 その視界には、既にロックオンされた身内魔王二名しか映っていない。そしてターゲット目掛け、二人の手に握られたパイプ椅子×2が高速で放たれた。

 

 

 刹那、ゼクスとフォルンは悟った。

 

 

 あ、終わったな☆と………

 

 

 ☆☆☆

 

 

「全く油断も隙もないんだから……。ソーナ、データの方は?」

「問題ないわ。一つ残らず削除しといたから大丈夫だと思う」

 

 

 それから数分後。

 

 魔王二人と悪質ゲスタンド使いの粛清を済ませ、撮影した写真を全て回収し焼却処分。ついでにジオティクスを除いたカメラマン達の記憶を物理的に……ではなく魔法で消去したリアとソーニャは、無理矢理正座させた四人を前に仁王立ちしていた。その後ろには距離を置いてサジや裕斗たちが固唾を飲んで見守っている。

 

 

「ジョジョ!」

「んだよ!」

「何逆ギレしているのよ! 私の物真似はやめろって散々言っているでしょう!? というかそのカッコはなによ!?」

「なにって……火星を司る炎の〇ーラー戦士だよ。確かお前が憧れてたのって月の方だっけ?」

「そっちじゃないわよ! 私が言ってるのは今のあなたの状態! なんで下顎から下が私で上から首だけのジョジョなのよ! 気持ち悪いからやめて頂戴!!」

「しょうがねぇだろォ!? オメーが投げたパイプ椅子が上顎部分の『黄色の節制(イエロー・テンパランス)』ぶっ飛ばしたんだから!」

「しれっと責任転嫁しないで! 何処の戸愚◯よ!」

「まだまだァ、やるねェ。だがまだ20%だァ……!」

「それ弟ッ!!」

 

 

 流石、転んでもただでは起き上がらない男。反省の色を見せるどころか開き直り、ついでにネタに走る始末だ。完全に契約主を煽っている。

 

 

「俺は無敵だっ!へへへ! ニェーへh「フンッ!」ラヴ◯カッ!?」

 

 

 そして便乗してネタに走った実兄をパイプ椅子チョップで強制沈黙。次ふざけたら殺すと言わんばかりに目を釣り上げ、滅びのオーラを纏わせたパイプ椅子を肩に担ぐ。

 

 

「I・I・WA・NE?」

「ハーイ」

 

 

 ハリセンに次ぐ新武装を獲得したところで、矛先はフォルンへと向けられる。

 

 

「セラフォルー様もですよ! 一緒になって何をされているんですか! 魔王としての自覚がなさ過ぎます!」

「だってだってだってぇ〜! ソーたん今日のこと黙ってたんだから! もうお姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」

「こうなるのが目に見えていたからです! 只でさえお姉様だけでも手に負えないというのに、ジョジョ君と合わさったら最早災害クラスで問題を起こしかねないので!」

「SAVE THE LIFE! レ◯キュー◯ォース、緊急出場!」

「あなたは黙っていて! もうッ!」

「フーイ」

 

 

 こちらも血管が切れそうな勢いでヒートアップするソーニャ。サジもなだめたいが、行ったら行ったで八つ当たりされるだけなので近づけない。

 それはリア眷属も同じらしく、代表して裕斗がサジの肩に手を置いて瞑目する。ここは黙って傍観しておいたほうがいいという事なのだろう。

 

 

「お父様まで……ジョジョ達とつるんで一体何をしているのですか!」

「リアスに頼んでも断られてしまうだけだからな。彼の変装は実にクオリティが高いとサーゼクスから聞かされていたから、彼らの催しに参加させてもらったのだよ。しかしよくぞここまで立派に育って……。ここに来られなかった妻の分まで、今日は思う存分張り切らせてもらうとしよう」

「お父さま! もう!」

 

 

 その手にしっかりと一眼レフを握り締め、目頭に涙を浮かべるジオティクス。ちなみにリア達がしっかりと消した筈の丈城リアのコスプレ画像を、彼がこっそり携帯電話に移し替えていたことは……まぁ黙っておこう。

 

 と、そこへ

 

 

「やぁ丈城。ここにいたか」

「よぉ、親父」

 

 

 同じく参観に来ていた丈城の父母が、フィーアに連れられやってきた。流石に親には戸愚◯マー◯を見られるのはマズイのか、即座に『黄色の節制』を解除。元の制服姿になって立ち上がった。

 

 

「ジョジョくん、お二人がご両親かな?」

「あぁ、そうだぜ。最も目当てはアーシアだけどな」

「そうか……うむ」

 

 

 するとジオティクスが立ち上がり、丈城の父母に歩み寄って握手を求めたのだ。

 

 

「はじめまして、リアスの父です」

(なんだ、通過儀礼はしないのか)

『するわけないだろうが、オメェじゃあるまいし』

 

 

 若干のつまらなさを感じつつ、双方の親のファーストコンタクトを眺める丈城とドライグ。だが目の前の父親は一転して緊張し始め、母親と一緒に顔面蒼白。震える手で握手に応じる。

 

 

「こ、こ、ここここここここここれは、どらうも! あっ、えっと、兵藤丈城の父です! リアスさんにはお世話になっておりまして、えーと、その……」

「いえ、こちらこそ、リアスがお世話になっておりまして。 いずれご挨拶に伺おう

 と思っていたのですが、なにぶん私もサーゼクスも多忙な身でして、なかなか機会を作れませんでした。このたび幸運に恵まれたようです。今日はお会いできて光栄です」

「そ、そんな! 私たちも一度ごあいさっしなければいけないと父さんと──いえいえ、

 夫と話していたのでしたのですわ」

(キョドってんなー。ま、不慣れのせいもあるけど)

『あれがスタンダードなんだよ。わかったかイレギュラーの権化』

(サーナンノコトカサッパリ)

『オイ!!』

 

 

 ドライグのツッコミを棒読みスルーしつつ、横目で隣のリアを見る丈城。その顔は髪よりも真っ赤に染まり、明らかに照れていた。いくら上級悪魔とはいえリアはまだまだ年頃の乙女だ。決して伝説のB◯A呼ばわりしてはいけない。女の子だから。

 

 

「うむ。落ち着いた場所でお話ししたいものです。ここは目立つ。何よりもお互いの子供たちが恥ずかしいでしょうし」

 

 

 二人の反応を見たジオティクスはそう提案すると、裕斗に案内役を頼んだ。

 

 

「木場くん、すまないが落ち着ける場所まで案内してくれないだろらか?」

「はい。それではご案内します」

「それではリアス、ジョジョくん。私は少しお話をしてくる。サーゼクス、あとは頼めるな?」

「はい、父上」

 

 

 こちらも早着替えを済ませていたゼクスが立ち上がって一礼。そして移動を促された父親が丈城に向き直る。その表情に余裕は一切なかったが。

 

 

「丈城、父さんと母さん、ちょっと話してくるから」

「おう」

 

 

 短く返事をして体育館を出て行く両親の背を見送る丈城。すると今まで父親とジオティクスの影に隠れて見えなかったのか、母親の背にオーフィスがおぶわれていた。

 

 

「…すぅー……すぅー……」

 

 

 退屈だったのか、それとも発見だらけで疲れたのか。いずれにしろ電池が切れた人形のように大人しく眠るオーフィス。母親の表情とも相まって、その容姿は本当の母子のようにも見える。

 

 

「親は親で話す事があるみてーだし、そろそろ俺らも引き上げようぜ。午後の授業もあるし、遅刻しちゃ割りにあわねぇだろ」

「そう…ね。そうしましょうか」

 

 

 腕時計を確認して丈城がリア達にそう切り出す。いつのまにかかなりの時間が経過していたようだ。気分を切り替えて満場一致し、続いて丈城達はその場を後にしようとする。

 

 最後に体育館を出ようとサジがふと立ち止まり、振り返ってあれをどうしようと思索する。

 

 

「ついてこないでください!」

「いやぁぁぁん! お姉ちゃんを見捨てないでええええええっ! ソーたぁぁぁぁん!」

「『たん』付けはお止めになってくださいとあれほど!」

「……………………」

 

 

 魔王少女と生徒会長の追いかけっこの収集を一瞬つけようかと思ったが、止めたら止めたで余計な被害を被ると判断。無情にもサジは絡まれる前にその場から急ぎ足で離脱する道を選んだのだった。

 

(←To Be Continued……)




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第47話《久しき実家にて》

読書の皆様こんにちは、尾河です。

お知らせになりますが、今回と第48話を投稿した後は昨年本城淳さんとコラボした外伝(丈城勢視点)をお送りいたします。尚外伝は章で区切って投稿するため、それ以降の第5部の話は第48話から続く形で投稿させて頂きます。なので第5部の間は最新話が分かりづらくなるため、予めご了承ください。

長文になりましたが、それでは第47話スタートです。



「あら! アーシアちゃん、良く映ってるわ」

「ハハハハ! やはり娘の晴れ姿を視聴するのは親のつとめですよ!」

「………………」

「これは…かつてないほどの地獄だわ……」

 

 

 その日の夜。

 

 仮住まいのアパートではなく、久々に父母がいる実家へ帰ってきた丈城達を待ち受けていたのは、双方の授業参観を撮影していた映像の鑑賞会だった。

 主な参加者は丈城の父母にゼクスとフィーア、ジオティクスの保護者ーズ。そしてカムフラージュしたままのリーフとオーフィス。アーシアもその中に含まれており、多少恥ずかしそうにしながらも映像に見入っていた。

 

 そんでもってリビングの端っこには耳まで紅潮させたリアが体育座りですみっ〇ぐらしし、限界が近いのが見え見え。対照的に丈城は窓辺に寄りかかって庭を眺めつつ、手にしたグラスのコーラをちびちびと口にしていた。

 

 

『随分と冷静じゃないか。グレモリーの娘っことシスターは赤面しているというのに』

「別に俺のはいいよ。後で俺の映ってるカットと撮影した記憶を消せば証拠は残らねぇ」

『サーゼクス・ルシファーとジオティクス・グレモリーはいいのか?』

「隠し撮りした別日のリアの日常映像で手を打つ」

『自分の為に女売りやがったコイツ…』

「等価交換だから問題ねぇっての。変な表現やめい」

 

 

 まぁこの男のことだから問題はないと見ていいだろう。だがリアにはこの羞恥に耐えられるスキルは身についていない。例えればアレである。某船〇さん並にアウト寸前である。イジメか。

 

 そんなピーク真っ只中の妹に追い打ちをかける様に

 

 

「見てください!うちのリーアたんが先生にさされて答えるのです!」

 

 

 丈城の父と日本酒 (二本目) を飲んでいたゼクスがトドメの一言を言い放ち、遂にリアのキャパ量がオーバーフロー。顔を覆ってリビングを飛び出してしまった。

 

 

「ああもう耐えられないわ! お兄さまの変態人形師!」

(スパ───ン!!)

「レリ〇ス・ク〇ーバーッ!?」

 

 

 そして嫁に張り倒される魔王。

 

 

「ハァー…やれやれだぜ」

 

 

 そろそろ自分の映像が流れるのに飽きてきた丈城はコーラをクッと飲み干し、リアの後を追ってリビングを出るのだった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「……………………」

「いたいた。何してんだよ、ンなとこで」

 

 

 二階へ上がってみると、奥の部屋の前でリアが拗ねていた。額を組んだ腕に押しつけて顔を隠し、ピクリとも動かない。理由は分からなくもない。現に丈城もリアの付き添いを名目に抜け出してきたわけなのだから。

 

 ひとまず落ち着かせようと、丈城はリアに近寄り───────

 

 

 

 

 

 

(ガチャッ)

「………?」

 

 

 リアがもたれかかるドア……の手前の部屋のドアを開けた。

 

 

『グレモリーの娘。相棒の部屋はこっちだぞ』

「そっち親父達の部屋だよ」

 

 

 そして盛大に勘違いした本人は………

 

 

 

 

 

 

「………なんでこっちの部屋じゃないのよ」

「責任転嫁するんじゃあない」

 

 

 顔を上げて丈城を睨むリア。その目は若干涙で潤んでおり、分かりやすく頬を膨らませていた。

 改めて丈城の部屋に入ると、彼女は早々に彼を抜き去ってベッドに倒れこむ。その流れで枕に顔を埋め、微動だにしなくなる。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「……………スー、ハー…スー、ハー…」

「人の枕の匂いを嗅ぐなアホ」

「……ジョジョの匂いがしない」

「当たり前だよしばらく使ってねぇんだから」

 

 

 やると思ったと呟いてベッドに腰掛ける丈城。そのまま微妙な空気が漂っていたが、やがてリアが口火を切る。

 

 

「ジョジョ」

「ん?」

「ジョジョは……私と出会えて幸せ?」

「どした急に」

 

 

 唐突な質問に戸惑う丈城だったが、間髪入れずリアは回答を迫る。

 

 

「いいから答えて」

「………………」

 

 

 仕方ないので、丈城は包み隠すことなく返答した。

 

 

「……今は楽しいよ。前は変な連中に絡まれたぐらいにしか思ってなかったけど、日常や戦いを通して認識がだんだん変わってきた。今こいつらを失えば絶対寂しくなるって」

「ジョジョ……」

「お前は群を抜いてだ。ここまで波長が合う奴ってなかなかいない。だから幸せだと思ってるよ」

 

 

 そう簡潔にまとめ、言ってて恥ずかしくなった丈城。誤魔化すために遠い目をするが、起き上がったリアが覆いかぶさるように彼に抱きついた。

 

 

「私もジョジョと出会えて幸せよ。もうあなた抜きの生活は無理ね。光栄に思いなさい。私の心中はあなたで結構占められているのよ?」

『大方、余計なことをしないかとか真似するなとかいったものだろう?』

「……そうね」

「オイコラ」

 

 

 やはりそれは含まれているようだ。

 

 

「でもやっぱり、御家存続のためにも婿は欲しいわ。そう思わない? ジョジョ」

「まぁ……な。うん」

「自分の婿は自分で育てることにしたの。どうせなら自分の理想は自分で育成したいわ。

 そのほうが早いのよ。もう結婚式のことも考えているのよ? 私は和式がいいわ。披露宴は日本のどこかがいいわね。風景の締麗な場所というと─────」

「……一応聞いておく。その教育相手は俺じゃねぇよな?」

 

 

 今まで推測段階だった考察を流れで聞いてみると、こんな解が返ってきた。

 

 

「そう言って欲しいかしら?」

「オーケーわかった。この話題は切り上げよう」

 

 

 抱く腕の力を強め、先程よりも囁くように迫るリア。諸々を察した丈城がいつも通り話を終わらせようとするが……

 

 

「……ッ!」

「うおおっ!?」

 

 

 いきなり丈城をベッドへ引き倒し、そのまま馬乗りになったリアが肩を強く押さえつけた。

 

 

「な、なんだよ!? どうした急に!?」

「切り上げさせないわよ。ジョジョ」

 

 

 真剣な眼差しで頬を膨らませ、譲らないとばかりに力を込める。

 

 

「いっつもそう。私がアプローチしても素っ気なかったり、今みたいに強引に切り上げたり……。私たちもう高校生なのよ? 身も心も成熟しているのだから、せめて二人っきりの時ぐらい構ってほしいわ」

「あのねリア、日本には"壁にリリアン障子にメアリー"っつー言葉があってじゃの?」

『相棒、それを言うなら"壁に耳あり障子に目あり"じゃないか?』

 

 

 ありきたりのネタを挟むもリアは解放してくれない。それどころか両手で頭をガッチリ固定され、じりじりと顔を近づける。どう考えても唇を狙う気満々だった。

 

 

「………ん…」

「待てぇーリアーッ! それ以上はストップだァ! さもないと……ッ!」

 

 

 ちょっと前のファーストキス奪取が脳裏をよぎり、パニック寸前の丈城。この危機を脱するべく、彼は右腕でドアの向こうを指し示す。

 

 

「さもないと…何かしら?」

「さもないと…全編ノーカットで映像に残るぞッ!!」

「ギクッ!」

 

 

 ドアの向こうから聞こえた小さな動揺の声。よくよく見るとドアが少し開けられており、そこからキラリと光るカメラのレンズが。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………オニイサマ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして目のハイライトを消した悪魔が一人。

 

 

 ゆらりと丈城から離れ、幽鬼の如く左右へ揺れながらドアへと接近するリア。その向こうでは急いでドアを閉めて退散する足音。

 

 

 

 

 次の瞬間、リアが転移魔法を使った。

 

 

 

 

「ギャアァァ─────ッッ!?」

『……逝ったな』

「あぁ……逝っちまったな」

 

 

 下の階から僅かに聞こえてくる親友の悲鳴。それはすぐに何かを殴打する鈍い音と水音にかき消され、多少アーシアのものと思しき悲鳴まで聞こえてくる。早すぎる親友の死に、一人と一匹は静かに黙祷を捧げた。

 

 

「まだサーゼクス様は死んでおりません。勝手に殺さないでください」

 

 

 と、そこへ入れ替わるようにフィーアが現れた。

 

 

「しょうがねぇよ。ああなったリアは相手をぐちゃみそにするまで止まらねぇぞ」

『止められないこともないがそんな面倒くさいことしたくないでゴザル』

「赤龍帝、あなたまで……」

 

 

 諸々投げやりな態度のドライグにフィーアは軽く頭痛を覚える。

 

 

「はぁ……まぁいいでしょう。サーゼクス様は現在手を離せない状態のため、代わりに私がサーゼクス様の言伝をお話しさせていただきます」

 

 

 そう言って一礼したフィーアは、今晩サーゼクスが話そうとしていた話題について切り出した。

 

 

「リアス様の封じられた眷属、もう一人の『僧侶(ビショップ)』についての話を」

「もう一人の……『僧侶』だと?」

 

(←To Be Continued……)

 




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