星熊童子とONE PIECE (〇坊主)
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出会い
星熊童子とゴム人間


 
※一部を修正
 
※更に修正。情報の追加



 

東の海は平和な海

 

ある者は住みやすいと言い、ある者は退屈だと言う

 

そんな海でも地元じゃ有名な孤島(しま)がある

 

興味本位で近づいてはいけないよ?

 

ここの海の主すら近づかない危険地域だ

 

昔ある海賊船がそこの島に寄ったのさ

 

島のなにかの怒りを買ったんだろうね

 

互いに衝突したらしいよ

 

その日に限っては平和な海なんて存在しなかったね

 

衝突しあった時、空はパックリと割れていたほどさ

 

その後何事もなく平和になったが真相はよくわからん

 

賊が島の主を揶揄(からか)ったとも、不発弾が爆発したとも聞く

 

近くを通りかかった商船は人影を見たと言っていたが嘘か誠か判断しかねるが、あったことのある海賊はこう言った

 

あの島には鬼がいる・・・ってね

 

船を出すならあんたも気をつけな

 

…ってあんた!その島はあぶねぇぞ!・・・…行っちまった。大丈夫かねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   【星熊童子とONE PIECE】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東の海(イーストブルー)のとある孤島。

 

 そこの海岸に座り、瓢箪から盃に酒を注ぎながら海を見つめる女性が一人存在する。

 

 腰辺りまで届く金の髪に和の国を彷彿とさせる着物を身に纏った女性であるが、普通の人間ではない。それは彼女の額に生えた赤い一本角がそれを証明していた。

 

 彼女はしばらく酒を堪能した後に何を思ったのか盃と瓢箪を足元に置いて立ち上がり、その場で海に向かって正拳突きを一回行った。

 

 至極普通の正拳突き。

 

 しかしただそれだけで女性から少し離れた場所で爆発したかのように水柱が上がり、近くを飛んでいた鳥達が一斉に身の危険を感じて飛び去っていっていく。それを確認した後、女性は再び座り酒を盃に注ぎ始めた。

 

 彼女からすれば特にこれといったことをしたつもりはない。ただ海に向かって正拳突きを行った。それだけのことであの結果を生み出したのである。

 

 彼女の名は“怪力乱神”星熊 勇儀(ほしぐま ゆうぎ)

 

 後に世界の歯車を回すことになる麦わら海賊団に所属し、海軍本部の大将すらも警戒することになる生粋の変わり者(バトルジャンキー)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく二次創作などであるような神様転生をした私は孤島で覇気の練習をしながら時間を過ごしていた。前世で男であった記憶や他の漫画などの知識はあるがこのONE PIECEの世界の知識はまるでない。

 姿を変えて転生したというよりは生を受けた際に前世の記憶が残っているような感覚だと言ったほうがいいのだろう。

 ONE PIECEは日本が世界に誇る超有名な漫画であって、ジャンプを買ったり立ち読みしていた自分からすれば知識が無いということはまず有り得ないことだ。有り得ないことなのだが現にこの場所がどこかも知らず、どうなっているかもわからないという現状に陥っているのだが、勿論これには理由があった。

 

 私自身が神様に頼んだのである。

 

 転生させた神様は別の意味で理不尽だった。

 何せ転生させるけどチートしか認めないという、極めて面倒な考えを持っていたのだ。

 この世界に転生することを知って、覇気を使えるだけで充分だと告げたら足りないといわれたのが記憶に新しく、どんなチートを得ようかと悩んだものだ。覇気を扱えるだけでもチートな気がするのだが、結局それだけでは許されず、こちらが折れることとなった。

 一方通行(アクセラレータ)のような反射能力や慢心王が持つ【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】のようなチートを勧められたが些か強過ぎる。なのでそれなら自分が好きだったキャラの性能を引き継ぎ、覇気も扱えるようになって転生する代わりに原作知識を消してくれと言ったことで今に至る。

 種族ではなく、悪魔の実にしたことに神様は当然渋っていた。しかしこれ以上は無理と頑なに言ったことで何とか折れてくれた経緯があるがそこはどうでもよいだろう。

 

 自分のこの姿は東方projectの登場人物である“山の四天王”の一人、星熊 勇儀。つまり鬼になったのだ。悪魔の実は動物(ゾオン)系幻獣種 ヒトヒトの実 モデル“鬼”というところだろうか。モデル“星熊童子”でもしっくりくるが気にしない。転生時に自分が決めたことだ。動物系が何を指すのかとかヒトヒトの実とは何かなどと言った疑問はあるがその辺は今の私が考えても仕方がない。よって放置だ。

そしてなぜか実を食べた後に生えてきた角が消せないのが地味に面倒ではあるが、常時戦闘能力は高くなっているのが救いだろうか。もっとも星熊 勇儀になったのだから角を消す機会なんてないとは思うが面倒なのは面倒なのだ。軽い愚痴も言いたくなる。

 

 そして性格。こちらは鬼というか勇儀姐さんよりになっているのか前世と比べるとさっぱりとしている。

 

 己の身体能力。こちらはただでさえ戦闘能力が馬鹿でかくて強い鬼なのに、身体強化できる“武装色”や周りの状況把握能力が向上する“見聞色”そして気を飛ばしたり威圧できる“覇王色”という不思議パワーまで使えるとあってはチート極まりないと言ってもいいと思うのだ。

 

 初期値が高いだけに神様が転生時に用意したこの島がなければ碌な修行すら出来なかったことだろう。暇だったこともあって鍛えていたのだが、これがなければ前にやってきた海賊に負けていた。あのときは引き分けということになったが、今度は勝つ。シャンクスとか言ったか、彼には知らなかったことを教えてもらった恩もあるし、いずれまた出会いたいものだ。

 

 

「回想はさて置き、どうしようかねぇ...」

 

 

 眼前にはいつも自分が使っているハンモックに寝ている麦わら帽子を被った男。

 人の場所を取るなと怒るべきか、寝ていることを尊重してそのままにさせておくべきか少し悩んだが、今すぐに使う訳でもないため後者を選択。お腹を満たすための獲物を探しにその場を後にする。

 

 結局その男が目覚めたのは勇儀がイノシシを捕まえて物理的に調理をしている時だ。

 寝起きにも関わらず他人が焼いている肉に涎を隠そうともしない姿勢には苦笑ものだったが、それがこの男の魅力でもあるのだろう。何回か言葉を交わしたが不快にならない。それどころか引き込まれるような魅力がある。なにより嘘を嫌う性格のようだ。とても好感が持てる。

 

 

「おめぇなんでこんなとこにいるんだ?」

 

「私はずっとここにいるからねぇ。ただ気ままに暮らしていただけさ。それよりアンタこそなんでこんな場所にいるんだい?…と、そういや名乗ってなかったね。私は星熊 勇儀だ。アンタは?」

 

「俺か?俺はルフィ。海賊王になる男だ。ここにいるのはこの島に鬼がいると聞いたからだ!」

 

 

 ルフィと名乗った男は気持ちがいい笑顔を向けた後、手に持っていた肉を胃に納めていく。ゴム人間になったお陰でなのか顔が凄く膨らんでいたが問題なさそうだ。

 

 

「鬼ってのは十中八九私のコトだろうさ。…海賊王…そうかい。夢があることはいいことだね」

 

「ああ!おめぇはねぇのか?」

 

「これといってやりたいことなんてなかったからね。夢なんて考えたことなかったよ。強いて言えば強敵と戦いたいぐらいか?・・・まぁ」

 

 

 現状に満足してたんだろうね。と話しつつ盃を口に運ぶ。

 そんな私に何かを感じ取ったのだろう。ルフィはならさとこちらを向いて続きを告げ、それを聞いた私はこう返す。

 

 

 

 

 

「おめェ、俺の仲間になれ!」

 

 

「別に構わんが・・・私を失望させてくれるなよ?」

 

 

 

 

 

 そうして盃を交わし、日夜を過ごす。

 

 Dの名を持つ少年と鬼を宿した若き女性が次の日からその孤島から姿を消した。

 彼らが世界に名を挙げ、少なからずの注目を浴びる様になる日はそう遠くない。

 



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東の海
星熊童子と海賊狩り 1


 
 
 描写を追加するため二つに分けました。
 この話に変化はありません。
 
 


「おーい、勇儀!飯ねぇか?」

 

「おいおい、ルフィ。いくらなんでも消化早すぎだろう?食べてまだ一時間経ってないよ」

 

「そうですよルフィさん。もうちょっとしたら町があるんですから、頑張りましょう」

 

 

 手漕ぎ舟に乗ってそんな会話をしながら次の町を目指す。人が増えているが彼の名前はコビーと言うらしく、海軍に入りたいらしい。海賊王になると断言しているルフィは気にした様子でもないため自分も気にしない。海軍として敵対するのもまた一興だ。

 

 コビーの夢を叶えてやるべく雑用係を押し付けていたアルビダという女海賊をワンパンしておいた。そのときに多少説教染みたことを言ったが、命を取っていないだけありがたく思って欲しいものだ。

 そして食料をある程度積んで海軍基地があるという町へ航海に出たのだが流石の鬼。手漕ぎ舟でも持ち前の腕力でどんどん進んでいくことが可能であったし、なにより疲労なんてない。こういう時だとかなりうれしい。

 

 船を止め、勝手に消えていかないようにロープで括り付けた後、町に足を踏み入れたのだがどうもおかしな感じだった。ルフィ達は何も思うところはないようだが、“見聞色”を身に着けていることで住民たちの感情を微量ながら感じ取れたのかもしれない。

 

 

「そこのアンタ。ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかい?」

 

「…見ない顔だね。なんだい?」

 

「ここに“海賊狩り”と呼ばれている男がいると聞いてこの町にやってきたんだが…」

 

「!??!」

 

 

 ご丁寧にその男以外の住民も“海賊狩り”の単語を聞いた瞬間に私たちから距離をとった。

 どうやらこの町ではその単語はNGワードのようだ。それにこの町の基地のトップにいるモーガンという男の名前も同文らしい。気を付けよう。

 

 

「はっはっはっは!この町のやつら面白いなーっ!」

 

「妙ですよ…!なんだか僕不安になってきました。いつ脱走するかもしれないロロノア・ゾロの名前に過敏になる気持ちはわかりますが、なぜ海軍大佐の名前にまでおびえるのでしょうか?」

 

「そうさねぇ…名を出すことすら烏滸(おこ)がましいのか、そいつがここの住民を弾圧しているのかのどっちかじゃないか?」

 

「そんな真顔で考察されるととても怖いんですけど!!」

 

「あくまで可能性の話だよ。そんなにビビってると海軍に入ったとしても苦労するよ?」

 

 

 コビーと話をしている間に海軍基地についていた。ルフィは塀をよじ登って中に捕まっている魔獣がいないかを探して、それらしい人物を見つけたようで移動を開始。個人的には基地であるのに見張り無しで普通によじ登れそうな高さの塀だけというのはどうなのだろうかと思っていたりする。

 

 

「ほらあいつ」

 

「・・・!!」

 

「どうした?」

 

「く、黒い手ぬぐいに腹巻・・・!なんて迫力・・・っ!これが本物のロロノア・ゾロ・・・!!!」

 

「本当かい?ちょっと失礼するよ」

 

 

 ゾロを見て腰を抜かしそうになっているコビーの横を失礼して中の様子を確認する。

 そこには両腕と腹を縄で何重にも縛られた“海賊狩り”がそこにいた。手ぬぐいをしているせいで目つきが悪く見える。口から血が出ていた後もあり、確かに迫力がある。

 

 

「あいつ、ボロボロだけど・・・この状況だと縛ってる縄解けば簡単に逃がせるよな」

 

「そうだねぇ。いくらなんでも監視が緩すぎやしないかい?まるで逃がしてくださいって言ってるようなものじゃないか」

 

「ば、馬鹿なことを言わないで下さい二人とも!!あんな危ない奴を逃がしたら暴れますよ!町だって無事じゃ済まないかも知れないんですよ!」

 

「おい お前」

 

「ん?」

 

「ちょっとこの縄解いてくれねぇか?九日間飲まず食わずでこのままずっと居てな。・・・俺でも流石にくたばりそうだぜ」

 

 

 コビーが騒いだおかげかはわからないがこちらに気づいたゾロは縄を解いてくれと言ってくる。九日間も野ざらしでよく生きているな。本当に人間なのだろうか?

 

 

「解いてくれるなら礼は勿論する。その辺の賞金首をぶっ殺してその賞金全てをてめぇにやる。嘘は言わねぇ。おれは約束は守る(・・・・・)

 

「…ほぅ?」

 

「だ、駄目ですよ二人とも!口車に乗っては!縄を解いたとたんに僕らを殺して逃げるに決まってるんですから!」

 

「殺されねぇよ。おれは強いからね」

 

「ハハハハッ!!それもまた一興さ。それにルフィはともかく私を殺すのは相当手間がかかるよ?」

 

(こ…この人達はもぉぉお!!)

 

 

 ギロリと表現されそうな視線をこちらに向けてくる。ルフィの自分は強いという言葉と殺されるというコビーの言葉に対して面白いと笑う勇儀に対して懐疑的な感情を持ったのだろう。

 

 

―――ガタッ

 

 

「ん?」

「え!?」

「?」

 

「しーっ」

 

 

 そんな自分たちとは別に塀を乗り越えるために梯子がかかる。

 誰かと思い目線を向けるとコビーと同い年かそれよりも年下の女の子が静かにしてくれというジェスチャーをした後、ゾロがいる海軍基地の中へと入っていく。コビーが止めるが気に留めることはなく、そのまま少女はゾロに近づいておにぎりを出した。

 

 先ほどの自分たちに対する接し方とは異なり閉鎖的に帰れと叫ぶゾロだが、どうも本心で言っているようではなさそうだ。おそらくあの子に被害が出ないように強気に出ているのだろう。

 

 そんなときに入ってきたのはマッシュルームカットをしたいかにも親の七光りを受けていそうな男だった。自分をモーガンの息子だと言っていることからこの町では偉い立場なのだろうということが予想できる。

 それだけならいざ知らず、少女が作ってきたおにぎりを無断で食し、まずいと言って踏みつける始末。流石に頭にくる。さらに後ろで待機していた海兵に少女を塀の外に投げ捨てろとまで命令していた。

 

 

「さっさとこのガキを外へ投げ飛ばせっていってんだよ!俺の命令が聞けねぇのか!!」

 

「は、はい!只今!(すまない嬢ちゃん!)」

 

「い、いやぁぁあ!!」

 

「ほっ。大丈夫かい?」

 

 

 少女を受け止めて声をかけるが泣きながらその場で崩れ落ちてしまった。

 少女に意識を置いていたらルフィがいないことに気づく。あのモーガンの息子がいなくなったところを見て中に入ったのだろう。ゾロと話をしているようだ。

 

 

 

「おれはルフィ。今海賊になる仲間を探してるんだ」

 

「海賊・・・?そうかい。自分から悪党に成り下がろうなんて御苦労なこった。こんなとこじゃなく、別の所に当たるんだな」

 

「海賊になったのは俺の意志だ。・・・それと先に言っとくけどおれはお前をまだ誘うつもりはねぇよ。お前、悪い奴だって評判だからな」

 

「悪い奴ね…」

 

 

 ハン…!と鼻で笑うゾロは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「ここで一か月生きたままつっ立ってりゃ助けてやるとさっきの奴と約束(・・)してんだ。別にお前に逃がしてもらわなくとも問題はねぇよ。自力で生き延びて、おれの為すべき目的を成し遂げる!海賊になりたいなんて言うもの好きな奴を探すんなら他をあたるんだな・・・・・・・・・おい、ちょっと待て」

 

「ん?なんだ?」

 

ソレ(・・)・・・とってくれねぇか?」

 

 

 ゾロの目線の先には踏みつけられて泥だらけになったおにぎりの残骸。

 さっさと食わせろと急かすゾロに負け、ルフィは拾ったおにぎりを口に放り込む。当然ながら砂や泥が混じっているおにぎりを口に含んだためにジャリジャリと嫌な音が聞こえてくる。

 

 

「・・・だから言ったろ?死にてぇのか?」

 

「ゴブッ・・・うるせぇよ。あとさっきのガキに伝えておいてくれ…『うまかった』と『ご馳走さまでした』…てよ」

 

「!……はは!任せろ!!」

 

 

 そうして戻ってきたルフィは町に戻ってあの少女に頼まれたことをちゃんと伝えに走って行った。

 対して未だに磔になっているゾロに勇儀は視線を向ける。泥が混じったおにぎりを食べたのだ。口の中は悲惨なことになっているに違いない。ここでルフィに一声かけて、勇儀はゾロの元へ向かった。

 

 

 

 

 

「よっ。さっきはかっこよかったよ」

 

「あァ…?さっきの女か。帰りな。さっきのバカ息子に告げ口されたくなけりゃよ」

 

 

 先ほどの子供ほどではないが女である私に対しても冷たく当たるゾロ。彼なりの心配というところか。このツンデレさんめ。

 

 

「それなら心配いらんさ。誰かくればわかるし、そもそも誰もこの場を見れない(・・・・・・・・・・)

 

「?どういうことだ?」

 

「今は他人の目を気にする必要なんかないってことさ。…飲むかい?」

 

「なんだそりゃあ?」

 

「何、あんた飲まず食わずだったんだろ?これは水さ。私が飲んでるのさ日本酒に分類される酒だけどね」

 

「なら酒の方をくれ。水はいい」

 

 

 差し出した水には目もくれずに酒をよこせと急かしてくるため、原作勇儀の持ち物である 星熊盃 に酒を注いで口に運ぶ。

 

 この星熊盃はどんな酒であれどこれに注がれた酒のランクそのものを上げる鬼の名品。一升ほどの量が入り、酒であれば純米大吟醸に変えるものだ。それに加えて本来なら伊吹 萃香(いぶき すいか)が持っている瓢箪 息吹瓢 も現在持っているため、実質毎日飲み放題という贅沢な生活が出来るのである。

 

 日本酒というものを飲んだことがあまりないのか驚いたゾロであったがしばらく酒を飲ませた後「うまかった。ありがとう」と言ってくれるため、悪い気はしない。

 

 

「なぁ、あんた。どうして律儀にあいつらの言い分を聞いてるんだい?」

 

「…海軍(あいつら)約束(・・)してるからだ。一月このまま耐え切れば解放するっていう約束をな」

 

「その約束(・・)を守るために律儀にここにいると。…いいねぇ、その気概。気に入ったよ。さっき船長(キャプテン)と話していたようだが、私からも言わせてもらうよ。あんた、仲間にならないかい?」

 

「お前もあいつの仲間ってか。あいつにも言ったががお断りだ。好き好んで海賊なんていう外道になる気はなんてさらさらねぇし、そんなもん俺は望んじゃあいねぇ」

 

「…自棄(やけ)に嫌うねぇ。それならあんたも悪い賞金稼ぎだなんだ言われてるそうじゃないか」

 

「それはさっきも言われたよ。だがな、世間がおれをどう見ていてどう言ってるかなんて興味もねぇし関係もねぇ。おれの信念に後悔するような事はなに一つやっちゃいねぇからな。今までも、そしてこれからもだ。海賊になるよりも俺には成し遂げることがある。だから海賊なんて悪党に成り下がるつもりもねぇ!!」

 

「そんなこと知るかっ!お前を仲間にするっておれは今決めた!というわけで仲間になれ!」

 

「てめぇまた来やがったのか!勝手な事言ってんじゃねぇよ!」

 

 

 コビー達と共に町に戻ったルフィは再びこちらにやってきたようだ。

 ゾロの言い分なんて一切無視して仲間にすると言い張るこの姿勢はそう簡単に崩せるものではない。

 

 

「縄解いてやるから仲間になれ!」

 

「てめぇはさっきからおれの話を聞いてんのか!」

 

「まぁ落ち着きなよ。私は星熊 勇儀さ。ところであんたは刀使いだと聞いてたけど、刀はどうしたんだい?」

 

「・・・・・・取られたよ。あのキノコ頭のバカ息子におれの大切な宝をな・・・・・・!」

 

「へー宝物を盗られたのか。そりゃ一大事だなー・・・よっし!おれがお前の宝物を奪ってきてやる。返してほしけりゃおれの仲間になれ!」

 

「質悪ィぞてめぇ!!」

 

 

 はっはっはと笑うルフィはそのままゾロの制止を聞かずに基地へと走っていく。

 

 

「基地に・・・それも一人で乗り込むつもりか…バカかあいつは…!」

 

「ははっ。ああなったら止められんさ。あの程度の海兵に負ける男じゃないよ」

 

「…あっ!勇儀さん!ルフィさんはどうしたんです!?」

 

 

 コビーがやってきて町で何があったのか事情を話す。

 それに伴ってモーガンの息子 ヘルメッポが約束を初めから守る気がなかったことを知ってゾロは困惑していた。コビーは捕まる理由がないとゾロの縄を解き始める。

 

 

 ところで鬼は嘘を嫌う種族である。

 「勇気のある者や正直な者」を好み、逆に「臆病な者、狡猾な者、虚弱な者」を忌み嫌う。

 

 今回ヘルメッポが行った行為は正直な者を蔑ろにする狡猾な者だ。つまり忌み嫌うタイプの存在だ。今の気持ちを表すならスペルカードではない“三歩必殺(マジもん)”をあのキノコにぶち込みたいくらいだ。

 

 

「…そうかい…コビー。今すぐ半歩後ろに下がりな!」

 

「えっはい…うわっ!!」

 

 

 コビーが半歩下がった瞬間、コビーの足元に弾丸が着弾した。

 “見聞色”を解放していた今の状態であれば、この東の海(イーストブルー)にいる海賊の攻撃であれば当たることなどないだろう。

 ゾロに近づいて縄を引きちぎる。その行為に唖然とする二人だがこの際気にしない。

 

 

「そこまでだ!貴様たちにはモーガン大佐への反逆罪がかかっている!無駄な抵抗は止めろ!お前たち三人を今この場で処刑する!!」

 

「処刑すると言ってるくせに抵抗は止めろとは傲慢なことだねぇ・・・ゾロはともかくコビー。あんたは私の後ろに居な」

 

「おい!向こうは銃だぞ!お前どうするつもりだ!?」

 

「ただの銃だったら特にやることもないさ」

 

 

「おめぇらぁ!さっさと基地を取り囲め!それとあの麦わらの小僧は絶対逃がすんじゃねぇぞ!俺の権力に逆らったことを後悔させてやらなきゃ気が収まらねぇ!」

 

 

 海兵が銃を構えながら取り囲むなか、片腕が斧になっている男がこちらへと近づいてくる。

 どうやらあの男がこの町のトップであるモーガンという男なのだろう。

 

 酒を口に運びながら海兵達へと近づいていく。辺りの様子をも探ることが出来る見聞色。これを使える勇儀はルフィがこちらに飛ぼうとしていることを察知していた。

 銃口を向けられても一切物怖じしない様子の勇儀に海兵はびびっているようだが、怒りに我を忘れているモーガンはそんなことは気にしない。

 

 

「射殺しろ!!!」

 

 

ズドドドドドドドド

 

 

 ハチの巣になるはずであったその体は途中で割り込んだ(ルフィ)によって阻まれた。

 “ゴムゴムのロケット”で飛んできたルフィがその弾幕を一身に受けたのである。

 事情を知らない面々は当然驚くが、私は何も驚かないし、心配もしない。

 

 

「効かーん!!んなっはっはっは!!」

 

 

 ゴムゴムの実を食べた全身ゴム人間 モンキー・D・ルフィ。

 ただの銃弾など意に返さず全て弾き飛ばした。

 

 あり得ない事態に海兵たちは腰を抜かしている。

 

 

「生身で銃弾を弾き変えすだと!?てめぇ・・・!一体何者なんだ!」

 

 

 明らかに普通の人間では起こりえない出来事を目の当たりにした後、ゾロはそう呟く。

 こちらに振り返り、口角を上げてルフィはこう言った。

 

 

 

「おれは、海賊王になる男だ!!」

 

 



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星熊童子と海賊狩り 2

 
 
 綺麗なモーガンが出来ました
 
 


   海賊王になる

 

 

 他の人間が聞けば高らかに笑い出すであろうその宣言。

 それを堂々と告げる眼前の男にゾロは唖然とするどころか自分に似たものを感じ取った。

 

 自分よりも強かった少女と突然の死別。

 そして心に誓い、強くなると約束したあの日を思い出す。

 

 

「ほら!お前の宝物持ってきたぞ!3本あってどれかがわかんねぇから全部持ってきたけど、おめぇの宝物はどれだ?」

 

「三本ともおれのだよ。…おれは三刀流(・・・)なんでね」

 

「そっか。なぁゾロ。ここで生きるために俺らと一緒に戦えば政府にたてつく悪党に成り下がる。悪党になって俺らと共に生き延びるのとこのまま処刑されて死ぬの、どっちがいい?」

 

 

 いい笑顔でそう問いかけてくる麦わら帽子のゴム人間。

 

 ふざけるなと思った。

 

 自分の(宝物)を出汁に仲間になれと言ってくるのだ。怒りは多少なりとも存在する。

 だがそれよりもこんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 

「悪魔の息子かァてめぇはよ・・・まァいい。目的を為すために、おれはこんなところでくたばってる暇なんて存在しねぇ。約束を守れずに死ぬくらいなら、無様にでも生き延びてやろうじゃねぇか!」

 

 

 銃が効かないとわかって剣で切りかかってくる海兵8人を三刀流ですべて受け止め、動くと切ると威圧する。

 

 

「海賊にはなってやる・・・約束(・・)だ!だがなおれには野望がある。それは世界一強い大剣豪になること!!こんな状況になっちまったせいで悪だのなんだの言っている余裕なんざねぇが、どんな悪党に成り果ててでもおれの名を世界中に轟かせる!てめぇがもしおれの野望を断念するようなことをしてみろ。そのときは腹を切っておれに詫びろ!いいな!」

 

「勿論だ!世界一の剣豪!海賊王の仲間なら、それくらいすごいやつになってくれないとおれが困る!!」

 

「・・・ケッ、言いやがる」

 

「うっし!しゃがめゾロ!ゴムゴムの…“鞭”!!」

 

 

 ルフィの足が一気に伸び、ゾロが止めていた海兵をまとめて薙ぎ払った。

 

 ゴムゴムの実を食べたゴム人間。己の体を自在に伸ばせるようになったこの能力は銃撃や打撃を無力化する。

 斬撃を通してしまうのが痛いところであるが、遠距離武器の大半を無力化出来るこの能力はとても優秀だ。

 

 

「た・・・大佐!あいつらは我々の手にはおえません!」

「銃弾が効かないなんて無茶苦茶だ!」

「『悪魔の実』の保持者に、“海賊狩り”のロロノア・ゾロ・・・!勝てるはずがない・・・っ!!」

 

 

「情けねぇ奴らだ・・・そうかい、なら大佐命令だ。今弱音を吐いた奴ァ・・・いますぐ頭を撃って自害しろ」

 

 

「「「 !!? 」」」

 

 

「ここのトップは俺だ!その俺の部下に弱卒なぞ不要!存在する価値もない!命令だ、さっさと自害しろ!!」

 

「悪いが、させないよッ!」

 

「ッッ!?てめぇ・・・」

 

 

 弱音を吐いた海兵を自害させる命令を出したモーガンに勇儀が殴り掛かる。

 右手と一体化した斧で防がれはしたがその場から吹き飛ばして海兵達から距離をとることが出来た。

 

 海軍に仇なす賊が自分たちを庇うように戦う姿を海兵たちが驚きながら見ているが気にせずに、それでいて巻き込ませないように適度に攻撃を行って邪魔をする。

 

 

船長(キャプテン)。アンタにバトンを渡したほうがいいかい?」

 

「いんや、気にしねぇで思いっきりやっていいぞ勇儀」

 

了解(サー)。さて、船長の許可も得た。傲慢な上司さんよ、相手させてもらうよ」

 

 

 片手に盃を持って酒を注ぎながらそう宣言する勇儀に対してモーガンは怒りが沸点に達した。

 今から戦うと宣言しているにも関わらず盃に酒を注ぎだす行為は明らかに嘗めているととられてもおかしくはない。

 

 

「てめぇ何のつもりだ…!!」

 

「これは私なりの気づかいというやつでね。これから私は盃から酒を一滴も零さずに戦う。一滴でも零したら私の負けだ。どんな手を使っても構わないから、あんたは気にせずかかってくればいいよ」

 

「~~ッッ!!ふざけるなァぁぁああ!!」

 

 

 自慢の斧を振り回して切りかかってくる動作を見聞色で見切り、動作を最小限に抑えて躱す。斧を躱し、蹴りを避け、体当たりを往なす。ちょくちょく攻撃を加えていることもあり、短い時間ではあったが一方的にモーガンが弄ばれているようにしか見えない。

 

 

「……お前といい、あの女は何者だ…?」

 

「勇儀か?…シシシ。勇儀はおれの夢をバカにせずに受け入れた、大切な船員(仲間)だ!」

 

 

 嬉しそうな声は戦闘中の勇儀の耳にも届いていた。

 心底からそう思っているのだろうその声音に勇儀は若干の恥ずかしさを覚える。

 

 

「~~ッ!!てめぇ・・・俺を前にして余所見してんじゃぁねぇよ!!」

 

「おやおや、あんたからはそう見えたのかい?ならすまないねぇ」

 

 

 薙ぎ払うように斧を振るうモーガンの攻撃を舞うように飛んで避ける。

 傷は疎か髪一本すらも斬れていない現状にモーガンは躍起になっているようだ。

 

 最も酒を片手に一切零さずに避けられ続ければ頭にくるのも当然なのだがそれは置いておく。

 

 

「ここで最も偉い俺に盾突いた罪は軽いもんじゃねぇ・・・てめぇもあそこにいる麦わらの小僧と共に葬ってくれる」

 

「さっきからあんたは権力だの偉いだの・・・それしか言葉を知らないのかい?」

 

「ほざけ小娘!!」

 

「おっと」 

 

 

 呆れる勇儀は振り下ろされた攻撃を避ける。

 先ほどから軽くモーガンの攻撃をいなしているが、それはなかなかの芸当だ。バターを切るかのように鉄格子を切っていることから生身で触れてしまえば真っ二つになってしまうだろう。

 

 自慢の切れ味であっても勇儀には届かないのが現実なのだが服が斬られるのが嫌なために勇儀はずっと避け続けている。それすらも防ぐ手段も持っているのだが、今の趣旨には合わないために使用していない。

 

 

「そぉら!」

 

「――ッ!?ぐぁ・・・!」

 

 

 幾多の攻撃を躱した後、モーガンは地面に身体を叩きつけられる。

 右腕を一体化した斧を振り回すことに意識を置きすぎていたモーガンの足を払ったのだ。

 虚を突かれ、受け身を取ることも出来なかったモーガンは肺の息を全て吐き出す。それによって体を強張らせた。

 

 

「モーガン大佐が手も足も出ないなんて・・・!」

「あ、あの女どんだけ強いんだ・・・」

 

 

 一方的な展開に海兵たちは唖然。賞金首にもなっていない女に恐怖の対象であったモーガンが負けるなど誰も予想出来なかっただろう。

 勇儀は立ち上がろうとしているモーガンに近づいていく。

 

 

「ぐッ・・・くそが・・・」

 

「あんたがどれだけ権力を持っていて偉いとしてもね、あんたの権力程度じゃあ私の力には敵わない。そういうことさ。初心に帰って出直してきな」

 

 

 腕に力を込め、勇儀が戦いを終わらせようとした時、

 

 

「待てぇ!!!」

 

 

 制止する声に動きを止めた。

 肩で息をしているモーガンは勇儀が背を向けたことで何とか起き上がったようだ。

 

 声がしたほうを見るとモーガンの息子 ヘルメッポがコビーに向かって銃を向けている光景が目に入る。銃を構えつつも腕や足が震えているのがわかるため、人の命を奪うことが怖いのだろう。彼自身も撃ちたくはない、といったところか。

 

 

「こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねぇ!ちょっとでも動いてみろ?動けばこいつの頭が吹っ飛ぶぞ!!」

 

「ヘルメッポ様・・・・・・・・・・・・!!」

 

 

 ゾロやルフィ、そして勇儀のような肝の据わった存在ではない少年に銃を向ける大佐の息子に困惑している。無関係とは言えないが一般市民にしか見えない少年に銃を向けていることが信じられないといった様子だ。

 そんな銃を向けられているコビーだが、出会って短い間に度胸がついたと言えるだろう。

 

 

「ルフィさん!勇儀さん!僕は・・・あなた達の邪魔をしたくありません!!例え死んでも!!」

 

 

「「ああ。知ってるよ」」

 

 

 コビーの覚悟を理解したルフィはヘルメッポに向かって拳を定め、後ろで斧を振りかぶっていたモーガンに対して勇儀は笑って“鬼”の能力を発揮させ、腕に力をこめる。

 弾幕ではなく物理であるが原作からこの名前を拝借しよう。

 

 

―――ゴムゴムの・・・

 

―――光鬼・・・

 

 

「“(ピストル)”!!」

 

 

 ルフィの拳がヘルメッポの顔面へと吸い込まれ、

 

 

「『金剛螺旋』!!」

 

 

 勇儀の腕がモーガンの斧を打ち砕き、そのままアッパーの要領で空へと打ち上げた。

 

 力を入れすぎたのかすこし空に滞空しすぎている気がするが気にしない。これはモーガンの恐怖からこの町が解放されたことを表す花火になったのだ。

 空をしばらく飛んだ後、落下してきたモーガンを見て一気に海兵達が沸き立った。

 

 

「や、やったーーーーっ!!!」

「ついに、ついに解放された!!!」

「モーガンの支配が終わったんだァ!!」

「海軍バンザーイ!!!」

 

 

 モーガンの圧政に苦しめられていた海兵達は喜び合い、一部は町の住民に知らせるために全力疾走していたほどだ。相当な喜びがあるのだろう。

 成り行きでここまで来たとはいえ、ここまで喜ばれるとは思ってもみなかった。

 

 

「なんだ。上司がやられたのに喜んでやんの」

 

「・・・・・・本当はみんな・・・モーガンが怖かっただけなんだ!」

 

「・・・・・・っっ」

 

「っと。大丈夫かい?」

 

 

 モーガンが倒れたことで完全に開放されたゾロは突然倒れそうになり、勇儀が支える。

 心配して声をかけるがそれに応えるように腹から返事が返ってきた。

 

 そこで勇儀たちはゾロが9日間の間何も食べていないことを思い出したのだった。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「はァ食った・・・!流石に9日も食わなかったせいで極限だった!!流石に死にそうだったぜ」

 

「ふーん、じゃあどうせ一ヶ月は無理だったんだな」

 

「そんなおめェは何で空腹の俺より食が進んでんだよ。おかしいだろ、どんな原理でその腹に収まってんだ?」

 

「ルフィのおかげでいつも食料難だからねぇ。本当によく食べるもんだ」

 

「なんかすいません・・・僕までご馳走になってしまって」

 

「いいのよ!町が救われたんですもの!」

 

 

 モーガンを倒して場所はおにぎり少女の宅に移る。

 ゾロの空腹を訴える鳴き声を聞きつけて少女の母親は娘を助けてもらったことへの感謝と事実と異なった認識を持っていたことへの謝罪を込めてルフィ達に食事を振舞ってくれた。

 町を解放してくれた英雄を一目見ようと窓の外から中を覗くものも多くあり、辺りは賑やかになっていた。

 

 

「やっぱりお兄ちゃんはすごかったのね!」

 

「ああすごいんだ。おれはこれからもっとすごい男になるぞ!」

 

「・・・それはいいとして、ここからどこへ向かうつもりなんだ?流石に今から向かう場所を決めるなんてことはねぇんだろ?」

 

「目的地は決まってる。“偉大なる航路(グランドライン)”だ」

 

「!!?また無茶苦茶すぎますよルフィさん!ゾロさんが入ってようやく三人目なんですよ!?そんな少人数で“偉大なる航路(グランドライン)”へ入るなんて死にに行く様なもんです!!あの場所は世界中から屈強な海賊たちが集まってきているってこと、本当にわかっているんですか!?」

 

「そうは言っても“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”や海賊王を目指すのなら必ず通らなくちゃいけない道だろうからねぇ」

 

「だろうな。おれは構わないぜ」

 

「2人ともですか合意なんですか!?僕はあなた達を心配して言っているんですよ!!」

 

 

 机を叩きながら心配するコビーであるが、この家や家具が誰のものであるか忘れてはいないため、落ち着けとコビーを宥める。

 机から立ち上がりコビーはルフィと向き合った。

 

 

「ルフィさん、勇儀さん。僕らは・・・出会ってつきあいは短いけど、友達ですよね!!」

 

「当然だろ?海軍になろが海賊になろうが、友達であることに変わりはないよ」

 

「まぁここで別れちゃうけどな。おれたちはずっと友達だ」

 

 

 2人の肯定の言葉を聞いて改めて決意を表明するコビーは初めて出会った頃とは大違いだ。

 コビーの中の信念がなんなのかはわからないが海軍に所属してからもやっていけるだろう。

 

 

「失礼する!」

 

 

 そんな中で家に入ってきたのはこの町の海軍中佐。

 そして彼の口から出てきた言葉は立ち去れという警告であった。

 

 

「なんだその言いぐさは!」

「てめェらだってモーガンの圧政になにも出来ずに従っていたじゃねぇか!」

「この人たちは我々の命の恩人だぞ!!」

 

 

 恩を仇で返すような海軍の対応であるが、こちらは略奪などを行わない義賊のような存在であるとはいえ海賊。世界の治安を守ることを目的とした組織が賊に恩を受けるようなことがあってはならないのだろう。

 

 

「・・・行くか。おばちゃんご馳走さま」

 

「そうだね。二人とも体調には気をつけるんだよ?」

 

「・・・・・・」

 

 

 それがわかっているのかルフィやゾロも何も反論せずに席を立つ。

 三人が席を立ち上がり家から出ようとするのだが、コビーだけ出ようとしないことに中佐は疑問の声を上げる。

 コビーの一人立ちに三人は背を向けて聞いていた。

 

 

「僕は、僕は!彼らの仲間じゃありません!!」

 

 

 不運で海賊になっていた少年はこの場で独り立ちする。

 

 意識せずに三人は口元が笑っていたのだろう。

 

 

「待ちたまえ君達!・・・彼が言っていることは、本当かね?」

 

 

 中佐は足を止めさせて、言及する。

 何を思ったかルフィはコビーがアルビダ海賊団の元で下っ端として動いていたことを言おうとして、途中で止めさせられた。

 

 

「やめてくださいよ!!!」

 

 

 コビーがルフィを殴りつけたのだ。

 その後すぐに数倍にして殴り返していたのが大人げないというかなんというか。

 

 

「止めたまえ!!君らが仲間じゃないことはよく理解した!即刻この町から立ち去りなさい!!」

 

 

 だがこんなサル芝居を打ったことも価値があったようだ。

 三人が家から出ていった後、コビーは海軍に入りたいと頭を下げ、それを許諾された。これからの将来はコビー自身が決めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 船を出す準備を終えて、この町から出航しようかというところでコビーが私たちを呼ぶ。

 

 

「ルフィさん!勇儀さん!本当に、ありがとうございました!この御恩は一生忘れません!!また会いましょう!!」

 

 

 礼をしているのがコビーだけでないことに気づいてルフィは笑い、ゾロは皮肉を垂れる。勇儀は何も言葉には出さないが酒を飲みつつ、片腕を上げて返事を返していた。

 この場にいるのが一人ではないことをコビー自身は気づいていないのだろう。

 

 

 

   全員敬礼!!!

 

 

 

 コビーの背後で一斉に海賊に向かって敬礼する全海兵の姿がそこにはあった。その背後には海軍の意図がようやくわかった住民らも自分たちの船出を祝福している。

 海兵を含めた町の全住人が海賊の船出を祝う奇妙な光景は、海賊が海の向こうに姿を消すまで止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい友達をもったな」

 

 

 海賊の姿が見えなくなったところでコビーに中佐が声をかける。

 彼もルフィがサル芝居を打っていたことには気づいていた。だがモーガン大佐がいなくなり、実質この町の安全を守るトップとなった彼は彼らの考えを汲み取って乗ることにしたのだ。

 

 

「先ほどの敬礼は海軍軍法の規律を犯すものである。よって全員これから一週間はメシ抜きだ!」

 

「「「「はっ!!!」」」」

 

 

 海賊の中でも異質な存在感を持ったルフィ達をこの町の住民たちは忘れることはないだろう。

 彼らに今後どれだけ懸賞金が掛かったとしても、彼らの中では町を救った英雄ということには変わりがない。

 恐怖から解放されたこの町は、今までの数倍の活気を宿した平和な町へと生まれ変わったのである。

 

 

 

 

 その一方で牢獄の中に入れられたのは大佐であった男。

 自慢の戦斧も粉々になっており、ただの凶器に成り果ててしまっているが男はそれをまじまじと見つめていた。

 

 

「――――・・・・・・くそが・・・全く・・・なんで俺は忘れていたんだろうな・・・」

 

 

 鎖につながれ、身動きが取ることが出来ない男はかつての自分が背負っていたモノを思い出していた。

 

 否、思い出されたと言った方が正しいのだろうか。

 

 思い出すは3年前。今ではすっかり勢いをなくした海賊団。死んだとされている(・・・・・)男。そして敗北した自分。

 そう負けたのだ。

 偽物の船長を本物と思い込まされ、捕らえたことを評価されて昇進していった。催眠術にかかり、本物だと思い込んでいた自分はそれを誇っていたのだ。

 

 しかし、一角の女に殴られて思い出した。ショック療法に近いものだろう。

 自分は良い様に踊らされた。偉いと思っていた権力も虚構の礎であったのだ。道化を演じていただけの己に気づいてしまった。

 

 海賊に利用され、それで得た権力を振りかざす自分など偉いなんてものではない。ただの愚か者だ。

 悔しくて涙が出てくるが悔やんでいる暇などない。こうして真実に気づけた自分は幸運だったのだ。最もそれでもあの女はいずれ捕まえてやるが。

 

 

「・・・また、やり直す。待っていやがれ女・・・ぜってぇ俺が捕まえてやる」

 

 

 だったらやり直せばいいだろ。

 自分を殴り飛ばしたあの女ならばそれに近い事を言う気がする。

 それに従うのも癪であるのだが、このまま圧政を強いていた罰を受けねばならない。

 

 殺されることはないが、重い処罰を受けるであろうモーガンはそれでも清々しい顔つきになっていた。それは海軍に志願した時と同じ顔であったのだが、誰もその顔を見ることはなかった。

 

 



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星熊童子と泥棒猫 1

 
 
※ 少し語尾がくどかったので修正
 
 


 

 

「腹へったーーーー」

 

「・・・・・・思ったが海賊になると言っていたお前らが航海術持ってねぇってのは流石におかしいんじゃねぇか?」

 

「基本船は私が漕いでたから気にもしてなかったからね。というかそれを言うならゾロも海をさすらう賞金稼ぎなんじゃないのかね?」

 

「おれは最初から自分のことを賞金稼ぎと名乗った覚えはねェよ。ある男を探すために海へ出てから自分の村に戻れなくなっちまって、仕方ねぇからそこらの海賊を狩って生活費を稼いでた・・・それだけだ」

 

「なんだ、お前そんな年で迷子か」

 

「その言い方はやめろ!」

 

 

 コビー達と別れて気づけば数日過ぎていた今日この頃。

 船がそこまで大きくないために積荷もそこまで多くなかったため、食料がすぐに尽きてしまった。飲料は勇儀が持つ伊吹瓢のおかげで抑えることが出来ているが、食料ではそううまくことが運ばなかった。

 

 

「「腹へった」」

 

「アンタら昨日も同じようなこと聞いたよ」

 

 

 船を漕ぐこともせずに仰向けに寝転がる2人にそう勇儀は言うが、そもそも帆があるのに活用していない今の現状の方がおかしいことなのかもしれない。

 そんな空を見上げていたルフィが飛んでいる鳥を食おうと提案し始め、ゴムゴムのロケットで飛んでいく。

 

 

「なるほどねぇ・・・」

 

 

 そのまま事の成り行きを見ていたのだが、肝心のルフィは鳥に(くわ)えられたまま、運ばれていった。

 

 

「ぎゃーーーっ助けてーーー!!!」

 

「あほーーーーーーっ!!一体何やってんだてめぇはァ!!」

 

「ぷぷ…あはははははっははは!!!」

 

「何笑ってんだ!追いかけるぞ!!」

 

 

 間抜けなルフィを見て大爆笑している勇儀から櫂を奪い取って追いかける。鳥と船の競争をしばらくしていると

 

 

「そこの船ぇ!頼む止まってくれぇ!!」

「とまれぇ!」

 

「遭難者か!・・・こんな時にっ!」

 

「なら私が通り過ぎるついでに引っ張りあげるさ。そのまま進みな」

 

 

 遭難者が海から助けを呼んでいた。

 ゾロは止まらずに無理やり突っ切る様子だったため、勇儀が通り際にまとめて引っ張り上げる。だが引っ張り上げた三人。態度が悪かった。

 

 

「アンタら無事かい?」

 

「助かりやした。(…いい女だ。やりてぇ)」

 

「(胸もでけぇし、最高じゃねぇか)」

 

「(やっちまうか)おい、船を止めろ。俺達ァ“道化のバギー”様の一味のm」

 

「ちょいとアンタら。今さっき小声で話していたことを大にして言ってくれるかな?」

 

 

 頭を鷲掴みにして勇儀は笑顔で話す。メキメキと頭から出てはいけない音がしているが気にしない。助けた恩を即仇にして返そうとする輩はお陀仏にするに限る。ゴミはごみ箱に。餅は餅屋だ。

 何を話していたのかを聞き出した後、滅多打ちにしたのだが因果応報というものだろう。

 

 笑顔でフルボッコにした後、バギーの一味と名乗る三人組に船を漕がせる。

 文句も垂れていたが一瞥して黙らせる。太った男が何やら嬉しそうな表情を浮かべていたのだがこの際無視だ。

 

 なんで海賊が遭難していたのかを聞いていくと一人の女が背景にあるらしい。

 海を知りつくし、天候を読み切る航海術。

 今の自分たちに一番足りないものを持った存在だった。

 

 

「あの女は探し出してブッ殺す!」

「そんな事よりも盗られちまった宝をまずどうするんだよ!?」

「そうだぜ!このまま手ぶらで帰っちゃおれ達はバギー船長に・・・!!」

 

「そのバギーってのは誰なんだ?」

 

「俺達が所属する海賊団の頭です。東の海(イーストブルー)にいるのに“道化のバギー”を知らねぇんで?“悪魔の実シリーズ”のある実(・・・)を食った男で、恐ろしい人なんだ!!」

 

「・・・へぇ」

 

「悪魔の実を・・・ねぇ」

 

 

 配下の人間すら語るのに冷や汗をかくほどの男。

 一体どんな人物なのか、勇儀たちは想像を膨らませていくのであった。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 勇儀らの船がルフィを追いかけている最中、ルフィを銜えた鳥はまっすぐ進み、オレンジの町に辿り着いていた。

 数多くの家が立ち並んでいるこの町はまったく人気が感じられない。

 この町は先ほど話題に上がっていた男“道化のバギー”が武力によって制圧し、圧政を敷いているため誰も外を寄り付こうとしないのである。

 

 

「失礼します。バギー船長!港の空からこちらへ向けて何かが飛んできています!」

 

 

 見張りの一人が空を飛ぶ異物を確認し、船長へと報告する。

 サーカスの一団のピエロを模した見た目をしており、自分を侮辱する存在は仲間の船員(クルー)であっても容赦はしない厳しい性格だ。

 

 

「・・・目ざわりだな。大砲で撃ち落とせ」

 

「はっ!!」

 

 

 双眼鏡でその異物を確認するやすぐに撃てと命令する。

 厄介事は来る前に始末するにすぎる。普通の人間は大砲で撃てば死ぬし、なによりあの高さから落ちれば無事ではすまない。そう判断しての射撃命令だった。

 

 懸賞金 1500万ベリー “道化のバギー”

 

 この男の失態は撃ち落とした人間が能力者である可能性を頭に浮かばせなかったっことだ。

 常人であれば、そもそも鳥に銜えられて空を旅することなどないのだがら…

 

 

 

 

 

「待ちやがれ女ァーー!」

「泥棒女ァ!おれ達の海図を返せぇー!!」

 

 

 ルフィーを撃ち落とす前にそんな会話をしている時、その下に位置する場所では刃物ありの鬼ごっこが繰り広げられていた。

 海図を手に逃げる女性とそれを必死で追いかける複数の男。盗られた海図を取り返そうと必死な形相がこの海図の重要性を示していた。

 

 

「やっと手に入れたのに返すわけにもいかない・・・!ようやく見つけたわ・・・偉大なる航路(・・・・・・)の海図っ!!」

 

「クソッ!すばしっこい女だ!早く取り返さねぇと俺達の命も危ねぇ!」

「わあってるよ!俺だって船長の砲弾で死ぬのは御免だ!」

 

 

 逃げている女性はルフィ達が目的としている偉大なる航路(グランドライン)の海図を持っていたのだ。

 全力で追いかける男たちの速度に徐々に徐々に追いつかれ、手が届くほどの距離に達したとき

 

 

ドォォォン!!

 

 

 空で爆発が起き、彼女たちの間に人が落ちてきたのだ。

 

 

「ひ・・・人が、空から降ってきやがった!」

 

「何・・・?」

 

 

 当然理解が追いつかない4人は走ることを忘れて眼前を見つめる。

 

 

「うわっ生きてる!!」

 

「あーー助かった!!」

 

 

 その先には砲撃によって鳥から解放されたルフィが平然と立っていた。通常なら死んでもおかしくない高度であったにも関わらずだ。

 そんな衝撃的な場面に出くわして我に返った最初の人物は…

 

 

「お・・・!親分(・・)っ!!私を助けに来てくれたのね!?ありがとう。後は任せたわよ!!」

 

 

 何も知らないルフィに全ての厄介事を押し付けて一目散に逃げだした。無駄に洗礼された行動である。

 

 

「・・・何言ってんだあいつ?」

 

「・・・親分(・・)が子分のためにわざわざ残ってくれるのかい・・・」

 

「子分をかばうってことだな。お陰で探す手間が省けたぜ!!」

 

あの海図(・・・・)は海賊“道化のバギー”様の持ち物だ!!さっさと返しやがれ!!!」

 

 

 盗人が親分と呼んだ男に対して三人はルフィを取り囲み、海図を返せと言いながらルフィの頭を殴りつけた。

 突然殴られた、そのことにルフィは怒ったわけではない。ただ、友達から貰った大切な宝物に触れられたことに怒ったのだ。

 

 

「おい、おれの宝物に触るな」

 

 

 故郷近海にいる海の主を殴り飛ばせる力を持ち、勇儀と出会ってからは殴り合い(じゃれあい)を日頃から行ってきたルフィに下っ端が敵うはずもなく、地面に伏す結果になるのであった。

 

 

 

 

「強いのねあんた。(サーベル)相手に素手で勝っちゃうなんて!」

 

「あ!さっきの奴。おめぇは一体誰だ?」

 

「私は海賊専門の泥棒 ナミって言うの。さっきのは謝るわ。私だってあそこで捕まるわけにはいかなかったのよ。・・・それとどう?私と組む気はない?」

 

「海賊専門・・・?」

 

「そう!私は海賊からお宝を盗む専門の泥棒よ!私と組めばお金には困らないわよ!」

 

「そうか。嫌だ!」

 

 

 突然厄介事を押し付けられたルフィはバッサリと拒絶する。

 そもそもルフィ自身盗みの行動自体に良い考えを持っていないこともあり、組みたくないとはっきり言い切った。その場を去ろうとするルフィだが、ナミはルフィを止め、一先ず人目を避けようと提案。もぬけの殻となった民家で身を隠すことにしたのである。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「着きましたゾロの旦那!勇儀の姐さん!!」

 

「何だ?やけにがらんとした町だな。人気がねェ・・・」

 

「いや、恥ずかしながらこの町は現在我々バギー一味が襲撃中でして・・・」

 

 

 そんな中、町の港に勇儀たちが到着していた。遅くはなかったのだが、疲れただろうと勇儀が途中で漕ぐのを交代したために早く到着したのである。

 未遂に終わったとはいえど襲おうとした自分たちを労わる勇儀の姿を見て彼らは感動。自然とバギー一味の三人は姐さんと呼ぶようになっていた。ゾロはただただ怖かっただけであろう。

 

 

「じゃあとりあえずそのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかも知れねぇ」

 

「そうだね。頼んだよお前たち」

 

「「「はいっ!姐さん!!!」」」

 

 

 勇儀の言葉に気合いを入れて案内する三人に対してゾロはテンションたけぇなと呟き、勇儀はその光景を見て笑う。案内に従ってバギーがいるという酒場に来たのだが、バギー一味は派手に宴会を開いていた。

 

―――なぜかルフィを檻に入れて。

 

 

「ぶっ・・・ぷぷぷ・・・本当にアイツはこちらの予想を・・・斜め上に裏切ってくれるね・・・・・・っ!!お腹が・・・痛い・・・っ!」

 

「おれはすでに呆れの境地に達してきてんだが、ほんとによくあれで航海できたな」

 

 

 海で鳥に攫われた人間が、やってきた町で縛られて檻に入れられているなど誰が予想出来ようか?いや、出来ない(反語)

 そんなルフィを見て再び笑い出す勇儀と呆れた表情をするゾロ。ゾロはともかく勇儀は腹を抱えて動けなくなってるほどだ。相当ツボに入ったのだろう。

 

 そんなことをしている時、バギーはルフィに大砲を向けて一人の女性に撃つよう指示していた。何を言ったのかは大まかに予想がついた。

 一味全員から撃てとのコールが鳴り響き始めたのだ。

 

 

 

 なぜこんなことになっているのか。

 

 少し前に時間を遡る。

 海賊専門の泥棒だと名乗る彼女 ナミが世界で一番嫌っているのは海賊なのだ。

 

 彼女は始めは手を組もうと誘っていたがルフィが海賊とわかるや否や反抗的な態度をとるようになる。

 だが今彼女を追っているのは東の海(イーストブルー)でも名のあるバギー一味。ただ逃げても追いつかれるのが目に見えていた。そのために彼女はルフィを騙して策を実行に移したのである。

 

 真正面から入り、縛ったルフィを見せて一味に入れてくれるよう懇願する。

 派手好きでノリがいいバギーはそれを了承。そしてその後ナミの忠誠を誓わせるべく、撃つように命令したのである。

 

 

 

(・・・参ったわ・・・こんなことになるなんて・・・)

 

 

 大砲の横で立ち尽くすナミはどうしようと思考を巡らす。

 彼女は大の海賊嫌い。むやみに人を殺めることは自分が嫌いな海賊と同類の存在に落ちてしまうことだと理解していた。だがそれをしなければバギーの機嫌を損ねる結果となり、生き延びるために行った策で自分が死ぬ結果になってしまう。

 

 

「おまえ、手が震えてるぞ」

 

「!」

 

 

 そんな葛藤で震えるナミをルフィは見抜く。

 

 

「中途半端な覚悟で海賊を相手にしようとするからそうなるんだ」

 

「・・・…!覚悟って何?人を簡単に殺して見せることがあんたの言う覚悟になるわけ?」

 

「違う。・・・相手取るのに、自分の命(・・・・)を賭ける覚悟だ!」

 

「・・・・・・っ!!」

 

 

 情が移ったわけでもない。ただ非道な海賊と同類になりたくなかった。その一心でナミは勝手に火をつけようとした船員の頭に三節棍を叩きつけた。

 

 

(しまった・・・!つい・・・!!)

 

「てめぇどういうつもりだァナミぃ!?この俺様がてめぇを折角部下に迎え入れてやると言ってんのに!!あァ!!?流石に寛大な俺でも許容できねぇ!野郎共!派手に殺せ!!」

 

 

 後悔するもすでに遅し。

 バギーの怒りは沸点に達し、殺せと叫ぶ。さらに運が悪く、マッチの火が導火線へと引火してしまっていた。

 三節棍を振るうも曲芸に特化したバギーの一味はひらりひらりと攻撃を躱す。そうこうしているうちに火が大砲へと近づいていた。

 

 

「・・・…ッッ!!」

 

「・・・!?お前・・・!」

 

 

 ナミは導火線の火を両手で抑えつける。

 あまりの熱さに声が出ない。だがナミは火が消えるのを確信するまで離さなかった。

 

 自分たちから背を向けてまで必死に火を消そうとするナミを見過ごす人間ではない船員は奇声を上げながら跳びかかる。だがその手に持ったナイフがナミに届くようなことはなかった。

 

 

「女一人に何人がかりで襲ってんだ」

 

「全く情けない男どもだね」

 

 

 バギーに会うために酒場までやってきた二人がまとめて気絶させたのだ。

 

 

「・・・えっ?」

 

「勇儀ィ!!ゾロォ!!」

 

「!!」

 

「ゾロ!?」

 

 

 ルフィの口から出た人名にどよめきだった。

 

 “海賊狩りのゾロ”

 

 この名は東の海(イーストブルー)で活動する海賊たちにとっては死神のような名前だったのだ。

 

 

「あ、アイツ・・・あの男のことをゾロって言わなかったか?」

「“海賊狩りのゾロ”!?なんでそんな奴が泥棒と喋ってんだ・・・!?」

 

「あいつの言ってた仲間って“海賊狩りのゾロ”の事を言ってたの・・・!?どうなってんのよ・・・!?」

 

 

 ナミを含めた全員はこれを理解できていない。

 ナミに至っては海賊を名乗る男が海賊狩りを仲間にするなんていう意味不明なことを理解できるはずもなかった。

 

 

「やーよかった。お前らよくここがわかったな!早くこっから出してくれ」

 

「お前なァ何遊んでんだルフィ・・・!鳥に連れていかれて追いかけてみりゃ今度は檻の中へ引きこもりやがって・・・アホ!」

 

「いやぁ、ほんとにアンタといると退屈しないね」

 

 

 そんなことは気にしない三人は再会を喜ぶのを他所に、バギーはゾロに声をかける。

 

 

「刀三本を所持する男、ロロノア・ゾロに間違いねぇな。なんだい、俺の首でも取りに来たか?」

 

「いや興味ねぇ。おれはもう海賊狩りはやめたんだ」

 

「そうかい。だがおれはてめぇに興味ある。てめぇをここで殺せば俺の名が上がるってもんだ!!」

 

「やめとけ、死ぬぜ」

 

 

 ゾロとバギーの邂逅はすぐに決着がついた。少なくともゾロはそう思ったことだろう。開始と共にバギーを切り伏せたのだ。ルフィは弱いとまで言い切ってる。

 

 

「なんて手ごたえのねぇ奴だ・・・」

 

 

 ゾロは剣を収めてルフィの方へと歩みを進め、ナミは未だに笑っている一味に対して気味悪がっていた。

 

 

「へっへっへっへっへ!!」

 

『 あーはっはっはっは!!! 』

 

 

 終いには大声で笑い出す一味にゾロが鍵を渡せと急かす。勇儀はそんなゾロの背後でナイフを構えていた手を掴み、思いっきり圧をかけた。

 

 

「そうさね。ちょいと分かり易すぎる騙し手には笑いが出るよ」

 

 

「~~~ッ!??いっででででぇぇぇえええ!?!!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 切られた死体から発せられる叫び声に驚くルフィ達。

 そして笑っていた一味の面々は不意打ちを防がれたことに驚愕していた。

 一味が笑っていた理由を三人が理解したと勇儀は把握し、腕をバギーの元に投げる。腕はそのままバギーの腕へと戻っていく。何故ばれたと言わんばかりの表情をしているバギーにはっきりと言い放つ。

 

 

「なぜばれたとでも言いたそうだね、簡単さ。胴を真っ二つにされて血が出ない人間なんていない。もし出ないのはそいつが人形か何かの能力者だと相場は決まっているんだよ」

 

「・・・あっ」

 

 

 普通の人間は刃物で切られれば血が出るのだ。それすらなく胴体が地面に転がるなんてのはあり得ない。ナミはそんな当然の事実に気づいた。そしてそれを冷静に対処した勇儀に驚く。海賊狩りだけでなく、この女も相当やばい存在だと理解した瞬間でもあった。

 

 

「さってと」

 

「・・・…へっ?」

 

 

 ガコンッ!っといい音がなり、一味からは変な声があがる。

 勇儀は大砲を真逆に動かし、砲口をバギーたちの方へと向けたのだ。それも片手で。

  

 そのことを理解するのに数秒要した後、全員一斉に騒ぎ始めた。

 

 

「ぬあぁぁああ!?あの大砲の中には“特製バギー玉”が入ったままだぞ!?」

 

「なにぼさっとしてんだい?点火しな」

 

「え・・・は、はい!」

 

「よ、よせぇぇぇええ!!!」

 

 

 砲弾一つで町を吹き飛ばす威力を誇るバギー玉。

 それが自身に向けられ、そして無慈悲に発射された。

 

 砲から撃ちだされた砲弾は、見事にバギー一味を巻き込んで酒場の屋上を吹き飛ばしたのである。

 

 



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星熊童子と泥棒猫 2

 

 

「今のうちにとんずらするよ。ところでアンタはなんだい?」

 

「・・・あ、わ、私は泥棒よ」

 

「そいつは今からウチの航海士になる女だ!」

 

 

 撃ちだされたバギー玉によって巻き上がった煙を利用して逃げようとする勇儀はまず知らない人物に質問を投げる。自分を泥棒と言い切る女に対してルフィはいい笑顔で言い切った。

 

 

「っ・・・まだ言ってんの!?そんな余裕があるならあんたは檻から出る方法を考えたら!?」

 

「いや問題ない。ルフィ、てめぇは檻の中にいろ!!」

 

 

 明らかに重そうな鉄の檻を肩に抱えてゾロは歩き始める。

 先ほどルフィ(船長)に失態を見せてしまったせいかは知らないがその目には強い意志が宿っていた。

 

 

「ちょっ・・・あんた何でそこまで・・・!」

 

「おれはおれのやりてぇ様にやる。口出しすんじゃねぇっ!!」

 

「・・・!」(海賊のクセに・・・なんでそこまで・・・!)

 

「・・・そこまでの意志があるなら私からは何も言わないよ。行くよ、泥棒さん」

 

「待って。私は檻の鍵を盗んでから行くわ。・・・あのままじゃ何もできないでしょ」

 

「・・・そうだね、わかった。ゾロ、先に移動してな。私は航海士(・・・)さんと鍵探しに洒落込むよ」

 

「えっ、ちょ!」

 

「なにさ、アンタ見つかった時どうするつもりだい?心配なさんな。私は少なくともあの二人より探す能力があると自負しているよ」

 

 

 あの人数の中で鍵を盗むと豪語したナミを勇儀は見直していた。あのまま火をつけてルフィを大砲の的にすることが出来たのだ。反射的とは言えそれをせずに守ろうとしたこと、むしろ反射的に行ったことに好意を持った。根はやさしい人間なのだとわかっただけで十分だ。

 

 すぐにナミが鍵を盗んできたため、彼女を担いでそのまま跳ぶ。

 煙が晴れる頃には、ルフィ達は屋上から姿を消すことになったのである。

 

 

「~っっっ!ナメやがってあの4人組っ!!ジョーダンじゃねぇぞおいっ!!お前ら!俺様は誰だ!!」

 

 

『 我らの海賊“道化のバギー”船長です!! 』

 

 

「その通りだ!!」

 

 

 海図を奪われ、虚仮にされ、そして自慢のバギー玉でさえも利用されたバギーは本気でキレる。

 すでに彼にはルフィ達をただの泥棒とは見ておらず、己の一団と敵対(・・)する勢力だと認識していた。

 

 

「奴のようなぽっと出の奴らには海賊の一団(・・・・・)を敵に回す事の本当の恐ろしさを教えてやる必要がある。そこで“猛獣ショー”と洒落込もうじゃねぇか!!おい、モージを呼べ!」

 

「バギー船長、お呼びで?」

 

「さっきここを目茶苦茶にしやがった奴らを血祭りにあげて来い。方法はいつも通りお前に任せる」

 

「・・・それはつまり、“海賊狩り”ロロノア・ゾロの首は私がとってもよろしいので?」

 

「構わん」

 

「了解しました。お任せを」

 

 

 バギー一味の副船長“猛獣使いのモージ”

 ライオン(相棒)と共に麦わら達の首を取るべく駆けていく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・フゥ―・・・だいぶ酒場から離れた。ここならやつらもすぐに追いつきゃしねぇだろう・・・しかし一旦退いたはいいが、この檻は厄介だな・・・!」

 

「そうなんだ。これが開かねぇとあの赤鼻が来たとしてもおれは何も出来ねぇ・・・でも勇儀たちが鍵を探してくれるって言ってんだ。大丈夫だろ」

 

 

 檻を引きずるのを止めて近くにあった柱に座り込む。そして気づけば目の前に犬が一匹座っていた。

 全く動かない犬にルフィが目つぶしを仕掛け、それに当然怒った犬が噛みつき始める。噛まれたことにおこったルフィと目つぶしされたことに怒った犬が戦闘し始めた。海賊の一団から逃げているとは思えないほどの楽観ぶりだ。

 

 

「・・・なぁルフィ。勇儀とかいうあの女。一体なにもんなんだ?」

 

「ん?勇儀はおれの仲間だ」

 

「違ぇよ!おれが気づかなかった攻撃に気づいて未然に防いだり、斧を素手で壊したり砲塔を片手で持ち上げたり・・・おかしいだろ。前者はおれの修行不足だからいいとして、もう一つはなんだよ。あれ明らかに普通の女じゃないだろ。それに今まで言わなかったがあの角なんだよ。生えてるのかあれ?」

 

「そうだねぇ。これはれっきとした体の一部分さ。それに私を普通の人間と一緒にするのは可哀そうだよ」

 

「・・・勇儀って言ったかしら?あなた本当に何者なの?あのバギーのように悪魔の実シリーズでも食べたわけ?」

 

 

 ルフィの元に戻ってくればゾロが愚痴っぽいことを言っていた。聞かれなかったから何も言っていないこともあっていろいろと考えが頭の中にあるのだろう。担いで連れてきたナミもなにやら悟った様な表情で問いかけてくる。どうやら屋根を飛んだりして移動するのは刺激が強かったようだ。

 

 

「そうさ。私も詳しくは知らないが食べたのは動物(ゾオン)系ヒトヒトの実 モデル“鬼”ってところじゃないかねぇ。角あるし、これを食べてから力なんかも上がったからねぇ」

 

「へぇー勇儀、おめぇも能力者だったのか」

 

「「なんでお前(あんた)が知らないんだ(のよ)!!」」

 

 

 カッカッカと笑う勇儀にルフィが初めて知ったという反応をし、なんでだよと二人が返す。

 ルフィに聞かれたことなかったから話してもない事を忘れていた。隠すつもりはなく、ただ聞かれなかったから話さなかっただけである。

 

 

「なぁ勇儀ィー。お前この檻壊せねぇのか?」

 

「壊せるだろうけど破片とか刺さって絶対痛いだろうからやめときなルフィ。鍵もしっかり航海士さんが盗ってきたから」

 

「いやちょっと待って」

 

 

 何か気に障るようなことを聞いたのかナミが待ったをかける。視線はナミに移すが手は鍵を開けるために動かすことを忘れない。

 

 

「アンタこの檻壊せるの!?それなら私がわざわざ鍵を盗ってくる必要なかったじゃない!」

 

「いや、それだとこの檻は使い物にならなくなるじゃないか。鍵がちゃんとあるなら使わないと鍵の意味がないだろう。物は大切にの精神だよ」

 

「・・・…なんだかアンタらを相手にすると自分が馬鹿馬鹿しくなってくるわ…」

 

 

 なんで海賊に説かれなくちゃいけないのよ・・・と項垂れるナミを他所に檻の鍵を開けてルフィを解放する。

 ルフィが出れたと喜ぶのを見つつ勇儀が近くにいた犬の頭を撫でまわしていると胴と腕と足だけ鎧を身に着け、肝心の急所だけ隠れていない防御性能ガバガバな恰好をしたおじさんが近づいてきた。

 

 

「なんじゃ小童ども。シュシュが見知らぬ奴に吠えないのは珍しい…」

 

「シュシュ?」

 

「誰だおっさん」

 

「わしか?わしの名はプードル。ここの町長じゃ!!」

 

 

 オレンジ町の町長 名をプードルと名乗った彼が白い犬(シュシュ)の話をしてくれた。

 シュシュが番犬をしているこの店は町長の親友が開いた店であるということ。そしてその主人はすでに病でなくなっているということなどだ。

 

 

「シュシュは頭のいい犬たから、きっととうの昔に主人が亡くなったことも知っておるだろう。それでも一歩もここから動こうとはせん。餓死してでも動かんだろう。・・・シュシュにとってこの店はそれほどのかけがえのない宝なんじゃ」

 

「そうなんだ・・・」

 

 

グオオオォオオオオオ・・・!!!

 

 

 番犬(シュシュ)の過去を聞いてしんみりしているところに獣の声が割り込んでくる。

 突然のことで身体を強張らせるナミと町長は近づいてきているのが“猛獣使いのモージ”だと気づいてすぐさま逃げ出した。

 

 

「見つけたぜぇ。俺はバギー一味猛獣使いのモージだ・・・ってあれ、お前なんで檻から抜け出してるんだ?」

 

「あぁ、鍵盗って使ったからねぇ。不安かい?」

 

「変な着ぐるみかぶってなにやってんだ?」

 

「っ!初対面でいきなり失礼だな貴様ァ!これは着ぐるみじゃねぇ!おれの髪の毛だ!!」

 

「じゃあ尚更変だな」

 

「やかましいわぁ!!」

 

 

 自分の見た目を指摘したルフィにやめろと叫ぶ。だがそんなことは無視してルフィは安定のマイペースだ。

 勇儀はシュシュを横に置いてライオンに近づく。

 

 

「言っとくが俺がこの世に操れない動物はいないんだぜ」

 

「ほーらいい子だ」

 

ガルルルルル…!!

 

「例えばそこにいる犬にしてもだ。見とけ、お手・・・あああっ!!」

 

 

 モージがシュシュに噛みつかれ、情けない声を上げる。

 勇儀は威圧するライオンに対して笑顔で接した。

 

 

「いい子だ・・・ な っ ? 」

 

ガrっ!?・・・・・・ク、クゥン

 

「お前は所詮名も売れないそこらにいるコソ泥だ・・・ってリッチー?」

 

 

 先ほどから情けない鳴き声を上げるライオン(リッチー)にモージは何事かと声を上げ、その光景に驚愕した。

 自分にしか懐かないと思っていたリッチー(相棒)が勇儀の前で服従のポーズを取っていたのだ。たった数秒の間に何が起こったのかモージ()には理解が出来なかっただろう。

 

 

 

 

 

 笑顔で接する。

 それだけでリッチー(猛獣)は目の前の存在に敵わないことを本能で理解した。

 しかし経歴が呼び覚ました。主人に従えと。

 

 威嚇した――効かない。

 爪を立てた――傷つかない。

 噛みついた――歯が通らない。

 

 普通に、ごく普通にわかった。

 自分では目の前の存在に絶対に敵わないと。

 

 そうして猛獣(リッチー)は勇儀にひれ伏したのである。

 

 

 

 

 

「お・・・お前・・・どうやってリッチーを・・・」

 

「モージと言ったかい?お利口で実にいい子じゃないか。何の敵意もなく(・・・・・・・)懐いてくれるなんて躾がしっかりされている証拠だね」

 

「んな・・・っ!?」

 

 

 あり得ない。

 

 勇儀の言葉をモージは否定する。

 彼とてリッチーを手懐けるための努力は惜しんでいないのだ。始めに出会った時も死ぬような思いをしたこともある。そんな経験をしているからこそ、今の現状はおかしいことだと言い切った。

 

 

「あり得ない・・・あり得んぞ!リッチーに何をした!?」

 

「そんなことはいいだろ?アンタは(やっこ)さんの一味、私たちの敵さ」

 

「だな」

 

「アンタらの船長に伝えておいてくれよ」

 

「・・・!~~ッ!?」

 

 

 そんなことは知らない勇儀にとってはモージの考えなど興味もない。

 困惑しているモージを掴んで、酒場がある方へとハンマー投げの要領で投げ飛ばす。

 

 

「かくれんぼは終わり。さっさとケリをつけようってね」

 

「ああああああああっ!!」

 

 

 モージはそのまま空へと飛んで行った。着地のことは考えていないが向こうでなんとかしてくれるだろう。

 

 

「さて、行こうかね船長」

 

「おう!」

 

「だな」

 

「っ・・・お前らこの町へ来た目的は何じゃ。なぜあんな海賊と関わる!?」

 

「目的ならさっき決めた!偉大なる航路(グランドライン)の海図と航海士を得る事だ!」

 

 

 自分たちが手も足も出ない海賊をあしらうように追い払う三人を見て、町長が言葉をひねり出す。元々は事故でこの町に来たのだが、ルフィは今目的を据えたようだ。

 

 

「町長さんはみんなの元に帰りな。奴さんとの戦闘に巻き込まれるのは嫌だろう?」

 

「しかし・・・ぬぐぐぐぐぐ・・・・・・!!もう我慢できん!!酷さながら!さながら酷じゃ!!シュシュや小童小娘まで戦っているというのに、何故町長の儂が指をくわえて傍観せねばならんのじゃ!!」

 

「ちょっと町長さん落ち着きなさいよ!」

 

「男には!!たとえ無理でも退いてはならん戦いがある!!違うか(わっぱ)共っ!!」

 

「そうだ!おっさん!」

 

「その通りさ」

 

「のせるな!!」

 

 

 この町をつくる40年前にもこの町長を含めた市民は海賊に襲われて故郷を追われた。そこから今まで長い時間をかけてここまで立派な港町に成長させたのだ。町民たちで作り上げたこの町は町長の宝と言っても過言ではない。それをバギー一味に好き放題させるのに限界がきたのだろう。

 

 

「奴らは突然現れた馬の骨。そんな輩にこれまでの40年を消し飛ばす権利など存在せん!!町長は儂!!儂の許しなく奴らにこれ以上町で好き勝手な真似はもうさせん!!いざ勝負!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ町長さん!あいつらの所へ行って何ができるのよ!無謀すぎるわ!!」

 

「ッ~~無謀は承知!!だが、儂はやらねばならんのじゃ!!」

 

 

 町長(プードル)を止めようとしたナミだが男の覚悟を受けて止めた。

 立ち上がった男の瞳には涙が溜まっていたのである。死ぬとわかっていてもやらねばならないと覚悟の涙だった。

 

 

「町長さん・・・泣いてた・・・」

 

「そうかい?私は見えなかったけどね」

 

「おれもだ。・・・盛り上がってきたみてぇだな」

 

「しししし!」

 

「笑ってる場合か!あんたのその自信はどっから湧くのよ!」

 

「おれはあのおっさん好きだ!絶対死なせない!これはもう決定事項だ!それにおれ達が目指すのは偉大なる航路(グランドライン)。こんなところで躓いているわけにもいかねぇ。おれ達はこれからもう一度海図を奪いに行く!だから仲間になってくれナミ!海図も、宝もいるんだろ?」

 

「ッ!・・・…私は海賊にはならない!“手を組む”って言ってくれる?互いが為すべき目的のためにね!」

 

 

 手を差し出してきたナミはルフィに同意し、手を勢いよく合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モージの連絡はまだなのか?」

 

「はい!ですがモージ副船長にかかればもうすぐかと」

 

・・・………ぁぁ――

 

「・・・ん?なにかこっちに飛んでくるぞ!」

 

「なに?」

 

――ぁぁぁぁあああああああ!!

 

「んなにぃ!?」

 

 

 ゾロを仕留めに行ったモージの連絡を待っていたバギー一味は空から飛んできた物体に驚いた。その物体は先ほど揚々と出ていったモージだったのだ。投げられた勢いが強く、モージはそのまま半壊した屋上につっ込むことになったのだが、壊れた廃材がクッションの役目を果たしたのか致命傷にまでは至らなかった。

 だが衝撃が強かったのか当たり所が悪かったのか、モージはそのまま勇儀から言われた言葉を伝えることなく気を失うことになった。

 

 

「あ・・・あのモージ副船長が・・・」

 

「あの野郎共・・・!おれはもうキレた!!てめぇら町を消し飛ばす準備はまだか!!急げ!!」

 

 

「―――準備出来ました!!」

 

「よーし撃・・・」

 

 

「道化のバギーっ!!儂と勝負しろぉぉぉおお!!!」

 

 

「・・・?なんだあの男は・・・」

 

 

 バギーは部下の惨状を見て、バギー玉を町に乱射するように命じる。

 少しして砲弾の準備が整い、今にも発射しようとする瞬間に彼らの下から呼ぶ声が聞こえた。

 

 “町長”プードル。

 

 男を懸けてバギーに勝負を挑む。

 だが格下の男とまともにやりあうバギーではなく、

 

 

「・・・っが!?」

 

 

 “バラバラの実”を食べたことで発現した能力を使って首を握りしめ、町長の首を掴んだまま宙へと持ち上げて大砲を向ける。彼にとっては町長など周りを飛ぶハエ程度の認識でしかなかった。故に彼の言葉など意に返さない。

 撃てと命じはしたがすぐにバギーは自身の異常に気が付いた。逆に強い力で自分の手を握られていたのである。

 

 

「麦わらの男っ・・・!現れたな!!」

 

「ああ!約束通り、お前をぶっ飛ばしに来たぞ!!」

 

 

 プードルを助けたルフィの後ろには海図を盗んだ小娘と有名な海賊狩り、そしてバギーに屈辱を与えた女が立つ。ナミは戦うつもりがないようだがそこは適材適所。戦いは脳筋に任せるに限る。

 

 

「ゲホッ・・・!・・・小童(こわっぱ)共・・・何しに来た。余所者は引っ込んでおれ。これは儂の戦いじゃ!儂の町は儂が守る!この戦いに手出しは無用!」

 

「・・・アンタのソレは勇者じゃない、ただの自殺志願者さ。寝てな」

 

 

 ルフィに助けられながらもバギー一味に突っ込んで行く勢いだった町長を勇儀が後ろから気絶させる。流石に地面に寝転がすのは危険なので近くの壁に寝かせた。

 

 

「(スゥ~~)デカッ・・・(ばな)ァァァアア!!」

 

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

「ええ~~っ!??」

 

「ハッハッハ!!」

 

「・・・!??」

 

「てめぇよくも言ってくれやがったな麦わらァ!!ハデに撃て!バギー玉ァ!!!」

 

「そんな砲弾(もの)がおれに効くかっ!ゴムゴムの・・・“風船”っ!!」

 

 

 自慢の鼻(コンプレックス)を指摘され、有無を言わせずバギー玉を発射する。

 それがなんだというかのようにルフィは自分の体を膨らまして逆に砲弾を弾き返すという荒業をやってのけた。

 

 

「人間技じゃない・・・!何よ今の風船みたいに膨れたの!!」

 

「ゴムゴムの・・・“風船”だ!!」

 

「それが何かって聞いてんのよ!!」

 

「ハハッ。ルフィは私と同じように悪魔の実を食べたゴム人間だからね。あのぐらい造作もないのさ」

 

「・・・まったくだ。先に言えよ・・・」

 

 

 何度目かわからないが説明しろと叫ぶナミにルフィが能力者であることを告げる。ゾロはゴム人間であるとはわかっていたが砲弾まで跳ね返せることは知らなかったため、相当慌てていた。

 跳ね返されたバギー玉が直撃したことで酒場は見るも無残な見た目になってしまったが、仲間を盾に身を守ったバギーと参謀長のカバジが無傷で現れる。しかし二人は無傷でも他の船員(クルー)達はやられてしまった様子だ。

 

 

「ここまでの被害を受けてしまうとは・・・旗揚げ以来最大の屈辱ですね船長」

 

「ハァ・・・おれァアもう怒りでものも言えねぇよ・・・」

 

「船長。その怒り、参謀長の私が請け負いましょう!」

 

 

 一輪車をフルスロットルで回し、その場から急速に接近して剣を片手にルフィに対して攻撃を仕掛ける。しかしその剣はゾロが間に入ったことによって阻まれた。

 

 

「剣相手ならおれがする!さっきの雪辱も晴らさなきゃ気がすまねぇ」

 

「光栄だねぇロロノア・ゾロ・・・一人の剣士として貴様を斬れるとはなァッ!!曲技っ!“カミカゼ百コマ劇場”!!!」

 

 

 剣士として斬れると言いながらも最初からコマを飛び道具として使うのはどうなのだろうかなどと考えてはいけない。

 一見ただの独楽にしか見えないがよく見ると一つ一つ刃がついている。下手に受けると予想外のダメージを負ってしまうだろう。勇儀はそのことに気づいたが何も言わない。ゾロならそれぐらい全て弾き返すことは容易であるとわかっていたし、何よりもこれは剣士としての一騎打ち。割り込むのはゾロを侮辱するに等しい行為だ。

 

 だからこそ、余計な手を加えてゾロを処理しようとしたバギーを許すつもりはなかった。

 飛ばした腕を叩き落とし、そのまま追撃を加える。

 

 

鬼気狂瀾(きききょうらん)

 

 

 拳より撃ちだされた衝撃によって瞬時に腕が地面へとめり込む。割と本気で打ち込んだのだが骨が折れていないのが不思議だ。

 

 

「~~ッ!?!てめぇ・・・っ!!?」

 

「バギーって言ったかい?真剣勝負(ガチもん)に水を差すような真似はするんじゃあないよ」

 

 

「フンッ!船長の手を借りずとも貴様くらい殺せるわ!!曲技“納涼打ち上げ花火・一輪刺し”!!」

 

「・・・おれはお前の下らねぇ曲技(・・)に付き合うつもりなんてねぇ。三刀流奥義・・・“龍巻き”!!」

 

 

 上空から剣で一刺しにしようとしたカバジを登り龍の如く旋風が襲い掛かる。

 突如生み出された暴風によりカバジは為すすべもなく打ち上げられ、そのまま高所から地面に打ち付けられることになった。

 

 

「がッ!?バギー一味が・・・こんなコソ泥(・・・)ごときに・・・!!」

 

「残念だがおれ達はコソ泥じゃねぇ。海賊だ!・・・雪辱は晴らしたぜ」

 

「おうしっかり見たよ。後はおれがやる。勇儀は下がってろ」

 

「・・・私的にあいつは一発殴りたかったが仕方ないね。なら私はちょっとナミの護衛に行くことにするよ」

 

 

 船長が決めたことなら何も言わない。ゾロはまだ戦える様子であるがバギー相手では相性が悪すぎるため、町長の傍で待機し、勇儀は先ほどルフィに一声かけてどこかに向かっていったナミの護衛をしにその場を離れた。

 

 

「てめぇらが海賊だと?」

 

「そうだ!偉大なる航路(グランドライン)の海図をよこせ!」

 

「それが狙いか・・・言っとくがあの場所は名もない海賊がやすやすと通れる航路じゃねぇ。無名のてめぇらなんが偉大なる航路(グランドライン)に何の用がある!観光旅行でもするつもりか!!?」

 

「海賊王になる」

 

「・・・!!!ふざけんなっ!ハデアホがァ!!てめぇが海賊王!?てめぇがそれならおれは神か!?世界の宝を手にするのはこの俺だ!どこぞの知らねぇ馬の骨が、夢見てんじゃねぇ!!」

 

 

 海賊王になると言い切ったルフィに対して笑い、怒りだすバギー。

 無名の海賊が名乗っていいようなことではないと切り捨ててナイフを飛ばす。

 

 

 麦わらの一味の船長 対 バギー一味の船長

 

 

 その開戦の合図が今鳴った。

 

 



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星熊童子と泥棒猫 3

 

「ゴムゴムの・・・“(ピストル)”!!」

 

 

 投げられたナイフを避けて反撃へと転じるルフィ。

 腕を伸ばしての攻撃は単調で読みやすい。そのためバギーには体を少し捻っただけで避けられてしまう。

 

 

「面白い能力だ。だがしかし、伸びきった腕は隙だらけだ!斬り刻んでや「ゴムゴムのぉ~!」ッ!!?」

 

 

「“バラバラ緊急脱出”っ!」

 

「“鎌”っ!!」

 

 

 “(ピストル)”で攻撃しつつ、次の攻撃に移るために伸ばした腕を奥の窓に引っ掛ける。そしてその腕を戻すことによって発生する勢いを利用してバギーの首元を攻撃しようとしたルフィであったが、黒ひげ危機一髪を模した回避技で避けられてしまう。

 一度発生した勢いを消すことが出来ずにそのまま家に突っ込んだことで崩れてしまうのだが、ルフィは何のダメージもない様子で立ち上がった。

 

 

 

「・・・な、なんて戦いなの・・・!夢でも見てるみたい・・・」

 

「残念だがこれは現実なのさ。航海士さんもいずれはこんな戦いをせざるを得なくなると思うから今のうちに慣れときなよ」

 

 

 そんな二人の戦いを酒場の奥にある小屋から見ているナミは始めてみる光景に息を飲む。能力者同士のぶつかり合いを見るのは彼女も初めての体験であり、周りに出る被害がどれほどになるのか全く予測がつかなかった。

 勇儀はそんな彼女を見つけて声をかけたのだが、未だに警戒されている様子だ。

 

 

「・・・っ!?・・・ってあんたか。私は海賊にならないって言ったでしょ。なんでまた私の近くにいるのよ、加勢に行かないの?」

 

船長(ルフィ)が自分でやるって言い切ったからねぇ・・・男なら有言実行してもらわなきゃ困るってものさ。私がここにいるのは航海士さんの護衛ってとこだねぇ」

 

「・・・ハァ・・・その航海士さんって言い方やめてくれない?私にはナミっていう立派な名前があるの。私もあんたのことを名前で呼ぶわ」

 

「おやそれは失礼した。すまなかったねナミ」

 

 

 マイペースな勇儀に毒が抜かれたのか警戒を解いてくれたナミは海賊を嫌悪していながらも気になるのか観戦を続ける。

 

 

「これはおれの宝だ!!この帽子を傷つける奴は絶対許さねェっ!!」

 

 

「「!」」

 

 

 いつの間にか帽子を傷つけられ、それに激高したルフィに勇儀とナミは共に目を疑った。

 二人ともルフィがあそこまで取り乱した姿を見たことは無く。何も動じない性格なのだと思っていたからだ。

 

 

「そうかい。そんなに大事もんなら自分でちゃんと守れ!!」

 

 

 ルフィが宝物と言った麦わら帽子にバギーはナイフを思いっきり突き立てた。

 腕を元に戻したバギーのナイフには帽子が刺さったままであり、バギーはその様をみて高笑いし始める。

 

 

「それはシャンクスとの誓いの帽子だ!!」

 

「何?って事ァこりゃシャンクスの帽子かよ。道理で見覚えがあるわけだぜ!・・・ペッ!」

 

「!!」

 

 

 ルフィの帽子を地面に捨て、あろうことか唾までかけたことに怒ったルフィは思いっきりバギーの胴を蹴りつけた。それを見て多少スッキリするが、バギーが行ったことに勇儀の気が高ぶっていた。要するに怒っていた。

 

 

「ちょ、ちょっと勇儀!落ち着きなさい!アンタがそんなに気を張ってたらここにいるのがばれるでしょうがっ!」

 

「そうかもしれないねぇ・・・だが私は許せないんだよ。他人のとはいえ、大切なものを傷つけるだけならともかく笑うなんて行為はね・・・!それにルフィはあの帽子をシャンクスとの(・・・・・・・)誓いの帽子と言ったんだ・・・これを怒らずしてどうしろっていうんだい?」

 

 

 ナミは勇儀がシャンクスの名前に反応したのが何故かわからなかったが、今の彼女をこのまま待機させることは出来なかった。このままここで暴れられれば、宝を盗むという自分の目的にとって大きな障害になってしまう可能性があるからだ。

 

 

「勇儀、ちょっと私と来て宝を運ぶの手伝って。このままアンタのとこの船長が戦ってんでしょ?なら勝つことを信じてあげないといけないってさっき言ったばかりじゃない。護衛としてきたのなら私に手を貸してちょうだい」

 

「・・・・・・そうだったね。私としたことが情けない。わかった、どこだい?」

 

「こっちよ」

 

 

 怒りでルフィが言ったことを蔑ろにするところだったことに気づかされた勇儀は我に返る。そのままナミについていき、宝を袋へと詰め始めた。何回かに分けて運ぶようでナミは袋に詰めた宝を持って先に出ていった。

 

 

「海中がダメだとわかったなら、海上の全ての財宝をおれのものにしてやると決めたんだ!!このバラバラの実の能力でな!」

 

 

 ナミの出たタイミングが悪かったのだろう。

 ちょうどバギーが上半身と下半身を分けて宙に浮いている時に袋を持って小屋から出てきたのだ。財宝を全て己の物にすると断言しているバギーには宝を盗もうとするナミには容赦しない。

 

 

「つまり俺の宝に触れる奴はどんな虫けらだろうと生かしちゃおかん!!てめぇはとっとと俺の財宝を離さねぇか!!」

 

「しまっ!見つかった!!」

 

「どこまでもこのおれを出し抜けると思うな!財宝を離さなくともそのままハデに斬り刻んでやるわ!」

 

 

 バギーは宝に目を奪われすぎた。先ほどまで戦っていた人間に意識を置くことを忘れていたのだ。

 ルフィの目の前には全く微動だにしないバギーの下半身。上半身には追いつかないとわかったルフィは隙だらけの股間めがけて思いっきり蹴りを加えた。

 

 

「はうっ!!うごおおおっ!?!」

 

 

 ナミからすれば突然バギーが苦しみだしてその場に落ちたように見えただろう。ルフィがバギーの下半身に攻撃を加えたことを理解して安堵した。

 

 

「おいナミ!その宝置いてどっか行ってろ!またこいつに追いかけられるぞ!」

 

「宝を置いていけですって!?あり得ない!なんで私の宝(・・・)を置いていかなきゃならないのよ!!」

 

「・・・なっ!て、てめぇの宝だァ~!?」

 

「当ったり前でしょ!海賊専門の泥棒をやってる私が、たった今宝を海賊から盗んだんだからこの宝は私のもの(・・・・)だって言ってんの!!」

 

「あーなるほど」

 

 

 ナミの言い分はルフィを納得させるものだったようでルフィは頷いている。だが当然バギーにとっては理解できるものでもなければ納得できるものでもない。どんな教育を受けてきたと怒鳴ればナミに海賊に間違いを正されるほど堕ちちゃいないと返した。

 全く持ってその通りである。

 

 

「そうかい・・・俺の財を離さんと言うなら・・・覚悟は出来てるんだろうな・・・バラバラ~“フェスティバル”ッ!!」

 

 

 バギーは自分の体を細かに分けてあらゆる方向へ動かしていく。細かく分裂しているため先ほどのような股間を攻撃することもできない。さらに的が小さいので避けられてしまう。

 そんな状況であるのだがルフィはバギーの足だけは飛べないことに気づく。足を捕まえて靴を脱がせる。そのままくすぐったり叩きつけたり捻ったりするたびに―――

 

「ぶうっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

「ふぐっ・・・・・・!!!」

「うぎゃぁぁあああああ!!」

 

 と分かり易い反応をしてくれた。あまりの反応にルフィも何とも言えなくなってしまっていた。

 

 

「いい加減にせぇやコラァ!!」

 

「いい加減にするのは・・・あんたよっバギー!!」

 

 

 ルフィに意識が向いている隙にナミは宝が詰まった袋を思いっきりバギーの顔面に向かってぶつけようとしたのだが、逆にバギーに袋を掴まれてしまった。バギーはナミから多少の妨害があると見越して手をナミの直線状に置いていたのだ。そのため袋をつかむことが出来たのである。

 

 

「なっ!・・・離せ・・・っ!」

 

「離せだァ!?宝から手を離すのは・・・てめぇの方だろうがぶべらぁ!!??」

 

 

 背後から一突きしようとしたバギーの頭を思いっきり蹴飛ばす。

 吹っ飛ばした元凶は遅れて小屋から出てきた勇儀だった。袋に宝を詰め込む作業に時間を使ったのか、両肩には二つの袋を担いでいる。

 

 蹴られたバギーの頭部はそのままルフィの元に飛んでいく。

 遠くから見ていたルフィは勇儀の行動を理解し、すでに両腕を後ろに伸ばして準備をしていた。

 

 

「背後から刺すなんて大人げない・・・ルフィ!後は任せたぞ!」

 

「おう!任せろ!!ゴムゴムのォ・・・」

 

「ちょ、ま・・・待て!やめろぉぉおお!!」

 

 

 頭部だけでは何の抵抗も出来ないままバギーは叫ぶ。

 しかし当然やめるつもりがないルフィの掌底がぶつけられ、

 

 

「“バズーカ”ァ!!!」

 

 

 そのままバギーの頭部は空の彼方へと飛んで行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った!!」

 

 

 バギーを飛ばした方を見つつ、ルフィは両腕を上げた。

 実際にはバギー一味の船員も何人か起きているようだが、船長が負けたことで動かない方が得策だと判断したらしい。だれも動くことはなかった。

 

 

「よしナミ!これでお前も俺たちの仲間になるんだよな!」

 

手を組む(・・・・)の!いいよ。あんた達といると私も儲かりそうだしね!」

 

 

 宝の袋に顔を押し付けて幸せそうな表情を浮かべているナミ。それだけならいいのだが宝の金額を言い当ててるところがなんとも残念な感じだ。

 

 

「・・・その帽子、そんなに大切なの?」

 

「ああ。でもまあいいや。まだかぶれるし!バギーも吹っ飛ばしたから気は済んだ」

 

「・・・あとでその帽子貸しなさい」

 

「えっやらんぞこの帽子は」

 

「直してあげるって言ってんの!穴だらけじゃ使い物にもならないでしょ!!」

 

「お前、いい奴だな!!」

 

 

 ルフィとナミの人間関係も悪くないようだ。

 嫌悪している対象でも気を許してしまうのは彼の魅力だろう。

 

 

「ほら、いつまで寝てるんだいゾロ?起きな」

 

「・・・・・・んん・・・?・・・終わったのか?」

 

「船長が見事に決めた。海図も宝も手に入ってるしで何の問題もないよ」

 

 

 カバジを倒したあと静観せず、夢の国に旅立っていたゾロを起こして事が済んだことを告げる。

 終わったと気を緩めていると戻ってこない町長を心配した町民たちが、武装して全員こちらにやってきたらしい。

 

 

「町長!!しっかりしてください!」

「くそっ!一体何があったんだ!!」

「こんなことするのは海賊の仕業に違いない!!」

 

「あぁ、すまないね。私が気絶させたよ」

 

『!?』

 

 

 気を失っている町長に気づいて町民たちが駆け寄っていく。

 それを見てすまないねと勇儀は謝るが町民たちの怒りに火が付いた。一斉に武器を向けてくる。

 

 

「お前らうちの町長をこんな目にあわせといて・・・」

「言い訳は聞かんぞ!」

「何者だ貴様ら!まさか海賊か!?」

 

(うっ殺気・・・!ここで泥棒(・・)だの海賊(・・)だのうっかり口走ったりでもしちゃったら殺されそう…!)

 

「「海賊だ(だね)!」」

 

「!!!やっぱりそうか!!」

 

「ははは!!」

 

「ばかっ!!なに言ってるの!?」

 

「本当の事じゃないか。すまんが嘘は言わない質でねぇ」

 

「逃げるぞ!」

 

 

 一斉に走り出すルフィ達海賊とそれを追いかける町民達。

 話をややこしくするなとナミは怒るがルフィはいい町だと言い出した。

 

 

「見てみろよナミ。みんなが町長のおっさん一人のためにあんなに怒ってる。どんな言い訳してもきっとあいつら怒るさ!」

 

「ははっ!違いないね」

 

「・・・!」

 

 

 路地に回って港へ向かう。町民たちに追われていたにも関わらず、比較的安全に船に辿り着いた。

 路地を通る際、シュシュが町民たちを足止めしていたのだ。何も口には出さなかったが全員が心の中で感謝の念を送ったことは言うまでもない。

 

 

「はぁ・・・なんで私たちが町民に追いかけられなきゃなんないのよ・・・」

 

「いいじゃないか。用事は済んだんだからさ」

 

「そりゃそうなんだけど・・・」

 

 

 町民に追われたことで疲れたのかナミはぐったりしそうな勢いだが、ルフィ達はそんなことがない。ナミが盗って(乗って)きた船を見てかっこいいとルフィは羨ましがっている。

 ナミの船には助けたバギー一味の三人が乗っていたが、勇儀やゾロがいると知るや否やそのまま酒場の方へ走っていった。平和に事が済むのはいいことだ。

 

 多少の食料を積みこみ、先ほど盗ってきた宝の袋を一つをルフィの船に、もう一つをナミの船に。そして最後の一つを港近くにある家の前に置いて出航の準備を行う。ちなみに袋を一つ町に置いてくるのはルフィの独自行動であり、それに気づいたナミによって海に落とされそうになっていたのだがそれは笑いのネタとして船に提供された。

 

 

 

 

 

「すまん!恩にきる!!」

 

 

「気にすんな!楽に行こう!!」

 

 

 

 

 

 出航間際に町長と行われた会話。

 海賊と名乗りはしたものの実際にやっていることは完全に義賊。

 

 勇儀は伊吹瓢から星熊盃に酒を注いで口へと運ぶ。

 

 初めにルフィに誘われたときは昔から伝わる鬼のように略奪や殺戮を行う海賊になると思っていた。だがルフィは略奪・殺戮(そんなこと)には見向きもせず、興味も湧かない。その癖に海賊王になると言った彼に問いかけたことを思い出した。

 

 

『・・・あんた、海賊王になると言ったが、どうやってなるつもりだい?数多いる海賊たちを全員支配下にでも置くのかい?』

 

『いやそんなことはしねぇ。おれはただ、自由に生きる!世界で一番自由に生きたやつが、海賊王だ!!』

 

 

 本来であるならさっきのバギーのような考え方が海賊としての有り方としては正しいのだろう。

 だがルフィ(こいつ)はそうじゃない。

 力での支配など欠片も頭に置いていないのだ。

 この広い世界において自由とはなんなのか。それを仲間と共に探してみてもいいかもしれない。

 

 

 ルフィは海賊王

 

 ゾロは世界一の剣豪

 

 ナミはわからないがそれ相応の目的がある

 

 そう思った。

 

 自分も何かを見つけるいい機会なのかもしれない。

 

 

「・・・まぁまず探さなきゃいけないものがたくさんあるがねぇ・・・」

 

「ん?勇儀なにか言ったか?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

 

 盃を上に掲げ誓う。

 

 

 まずは現状を悩ませている食料問題を解決すると。

 

 



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星熊童子と森の主

 
 
 まさかのランキングに瞬間ですが載らせていただきました。
 ありがたや・・・ありがたや・・・

 精進していきますので今後ともよろしくお願いします。
 
 


 

 

「帽子が直ったーーっ!!!」

 

「穴を塞いだだけの応急処置よ。ちゃんとしたとこで修理しとかないと穴が開くわよ。でも帽子を強く突いたりしない限り大丈夫・・・話をちゃんときけぇぇえ!!」

 

「ぎゃあああああ!!??」

 

 

 穴だらけだった麦わら帽子が直り喜ぶルフィはナミが建てたフラグを最速で回収した。あまりの回収の速さにナミがルフィに針を突き立てたほどだ。それでもまた直してくれる辺りがとても優しい。私だったら見捨てる。うん。

 

 小さな船に詰め込んだ食料も大食漢が二人も入れば雀の涙程度だというもの。すぐに無くなってしまい、ナミに食べ物を恵んでもらう羽目になっている。

 ナミには呆れられているが本当にこればかりは何も言えない。何も持たずに航海して食料は現地調達なんて頭がおかしいと言われても仕方がない。麦わら海賊団に属している三人が逸般人のためやりくり出来ているが、普通ならば餓死しに行くレベルの酷さだろう。

 

 

「おい!島だ!!」

 

 

 そんな中でルフィは島を見つけた。ナミ曰く無人島だから行くだけ無駄だという。

 

 

「仲間になってくれる奴いるかなぁ?」

 

「食料でも積めりゃ上出来だな。俺達には明日の心配が足りねぇらしい」

 

「その達の中に私も入っているのかい?不名誉なことだねぇ」

 

 

 そんなことをルフィが当然聞いているわけもなく、櫂を漕いで無人島へと向かっていた。

 ナミも仕方なくついては来たが言った通りの無人島。人の気配などは何もなかった。

 

 

「ホントに何もねぇ島だなぁ!森だけしかねぇのか?」

 

「最初に無人島だって言ったでしょうに・・・仲間探すの無人島に来てどうすんのよ」

 

「確かに仲間探しで無人島に来るのはおかしな話だね。でも急いでるわけでもないし、いいんじゃないか」

 

「おいゾロ!下りて来いよ!」

 

「ゾロはさっきから寝てるよ。船番ってことで寝かしといてやりな」

 

「わかった!よし行こう!」

 

 

 寝ているゾロを放置とも言うが寝かしておいて勇儀たちは森へと入る。

 人の手が一切加えられていない森なのだが・・・

 

「コケコッコー。コッ、コケッ」

 

 鶏のような鳴き声をする生き物やウサギの耳が生えた蛇がいたり、

 

「ガルルルル・・・」

 

 立派な(たてがみ)があるブタなどが辺りに徘徊していた。

 

 こんな珍妙な生物を見るのは自分が暮らしていた孤島以来だ。

 あの島にはクック先生のような生き物がいれば、ダーカー種のような不思議生命体もいた。容姿はこちらの方が圧倒的にかわいらしいが似たようなものだろう。

 

 

『 それ以上踏み込むな!! 』

 

 

「ん?」

「おっ?」

「えっ?」

 

 

 森に入ってすぐにどこからともなく声が聞こえる。

 声の方向は…後ろか?

 

 

『後一歩でも森へ踏み込んでみろ!その瞬間に森の裁きを受け、その身を滅ぼすことになるのか・・・?』

 

 

「しるか。何でおれに聞くんだ」

 

「何なの一体・・・」

 

「どっかその辺にいるのか…」

 

 

『 踏み込むなと言った筈だ!! 』

 

 

 声から判断して森の番人と名乗った男は忠告を無視したルフィに発砲した。

 その銃弾を飛んできたボールを受け止めるように、反射で掴んでしまった。これには我ながら驚くほかない。

 

 

『 ・・・!!?・・・・・・ええ!!?? 』

 

 

「・・・おどろいたー。今の銃でしょ?よく掴めるわね」

 

「・・・なんか反応が小さくないかいナミ?私自身これでも驚いてるんだよ?」

 

「私はもう勇儀が行う行動に驚く行為が馬鹿馬鹿しくなっただけよ」

 

 

 勇儀だから仕方ないで済ませるナミに若干のショックを受けつつも銃弾が飛んできた方向へ向かう。

 そこには発砲に使ったであろう銃と黒いマリモが乗った宝箱が置いてあった。

 

 

「なんだこれ?」

 

「・・・さぁ?」

 

「目茶苦茶怪しいわね…!」

 

 

 マリモを囲んで怪しむ三人に居ずらくなったのか足が生えてそのまま走って逃走。瞬時にこけて起き上がれなくなるコンボを繰り出した。こけた後に威張るおまけ付きである。

 

 宝箱に詰まった男は ガイモン という男で、元海賊船の船員(クルー)であったようだ。

 その際の不祥事で体が壊れた宝箱に詰り、20年物間そのままで生活してきたらしい。

 

 

「20年ってのァ・・・長いもんだ。こんな格好だから髪の毛も髭も伸びっぱなしでボサボサ。眉毛なんて繋がっちまっている。・・・現にこうやってまともに人間と会話するのも20年ぶりよ」

 

「・・・・・・」

 

 

 そんなガイモンの口を掴んで引っ張り始めるルフィ。

 20年の間フィットしつづけたのは伊達ではなく、全く抜ける様子ではなかった。彼を宝箱から救出するには彼の体に衝撃が加わらないように宝箱を壊すしかない。当然その後には柔軟運動を行わせることが必須だ。

 

 元海賊であったことで偉大なる航路(グランドライン)に興味をもったガイモンにルフィはその海図を見せる。

 

 

「おれは海図の見かたなんてさっぱりわからん!」

 

「なんだそうかおれもだ!!」

 

 

 ははははは!と笑いあう二人は海賊の会話では全くない。

 

 少しした後にひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を目指すと言ったルフィを見てガイモンは突然島を離れない理由を語り始めた。

 

 

  未練

 

 

 それがガイモンの理由(わけ)だった。

 箱に詰まった日、大岩の上で見つけた総計5個の宝箱。

 それも箱に詰まったことで岩を登れなくなり、ガイモンはその宝箱を守り続けることにしたのだ。

 

 

「わかったわガイモンさん!その宝あなたの代わりに取ってきてあげる!」

 

「本当か!?・・・お前らに話して本当に良かった!!」

 

「お前海賊専門の泥棒だったよな?」

 

「バカな事言わないで!私だって場くらい弁えるわ!!」

 

 

 そうやってガイモンの話に出てきた大岩へと向かったのだが、勇儀はガイモンに提案・・・というよりも自分のわがままを持ちかけた。

 

 

「ガイモン。あんた、その箱から出たくないのかい?」

 

「・・・そりゃ宝箱に詰まったこの体は不便極まりないさ。さっきみてぇにこけたら誰かの手を借りねぇと起き上がれねぇ。だがさっき言ったろ?箱を壊そうとしたら運動不足の俺の体がイカレちまう」

 

「それはあくまで宝箱を壊すほどの衝撃が加わったらの話だろう?それがなければいいんじゃないかい?」

 

「そりゃそうかもしれないが・・・宝箱ってのは文字通り宝を入れるためのもんだ。そう簡単には壊せねぇぞ」

 

「その方法は問題ない。なんて言ったって私だからね。ただそれをやるにはあんたの合意がないとできないさ。そのままの姿で生きたいなら私は何も言わないし、その箱から解放されたいなら私はあんたに被害が出ないように箱を壊すだけだよ」

 

 

 それを聞いてガイモンは少し黙った。

 不慮の事故とはいえどもそれから20年の間ずっとその生活を続けてきたのだ。その生き方が変わることを良しとするか否とするかは本人次第だ。

 少し考え、悩み、ガイモンは口を開いた。

 

 

「おれは・・・」

 

「おーい!あったぞ宝箱っ!5個ある!!」

 

「!!よっしゃでかした!ここへ落としてくれ!勿論おれに当たらんようにな!わっはっはっは!!」

 

「いやだ」

 

「んん?」

 

「なに!?」

 

「な・・・なにバカな事言ってんのよ!冗談やめて早く落としなさいよそれ全部!!」

 

「そうさいルフィ。この状況でそれはないよ」

 

「いやだね。渡したくねぇ!」

 

 

 大岩に腕を伸ばし、ガイモンが見つけたという宝箱を5つ見つけたルフィだが宝箱をこちらに落とそうともしない。先ほどの態度とは打って変わって独占しようとするルフィにナミは怒るがそれに反してガイモンは涙を流し始めた。

 

 

「麦わら!・・・お前ってやつは・・・・・・いい奴だなぁ・・・!!」

 

「・・・!!」

 

「なっ・・・どういうこと!?あの宝箱はあんたの宝なんでしょう!」

 

「この箱に詰まって20年。薄々な・・・思ってたんだ。・・・それでもなるべく考えないようにしていたんだが・・・ないんだろう?宝の中身が・・・」

 

「え」

 

「なっ・・・」

 

「・・・・・・うん。全部空っぽだった」

 

 

 ガイモンが20年もの間守り続けてきた宝箱の中身。それは空っぽの空き箱だという事実だった。

 勇儀やナミはその考えに至らず、その結果に唖然としている。

 

 

「宝の地図が存在する財宝に・・・よくある話だ・・・!地図を手に入れた時にはすでに奪われた後のスカを掴んじまうことがあるってな・・・」

 

「そんな・・・20年も守り続けた宝がただの箱だったなんて…」

 

「救われないねぇ・・・」

 

「・・・はっはっはっは!!まぁくよくよすんなよおっさん!20年で俺たちが来てよかったよ!あと30年遅かったら死んでたかもしれないんだ!!」

 

「麦わら・・・」

 

「これだけバカをみちまったらもう“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”しかねぇよ!おっさん!もう一回俺と海賊やろう!!」

 

「・・・お前ッ!おれを・・・誘ってくれるのか・・・!!本当にありがてぇ・・・でもな・・・」

 

 

 宝箱の真相を聞いて重くなっていた一同にルフィは笑い出す。明らかに無理やり笑っていることがわかるが今はその行動がありがたかった。

 自分が目指す夢にガイモンを誘うルフィであるが、ガイモンが出した答えはNO。珍しい動物が多く存在するこの島で生き物を守る森の番人を続けるとのことだ。20年もの間暮らしてきた家族のような気持ちを持っているのだ。

 

 

「誘ってくれてうれしかったぜ。それに宝がなくなって気が楽になった。俺は改めてこの島でのんびりやるさ。・・・勇儀って言ったな。先ほどの提案、受けさせてもらっていいかい?」

 

「・・・!わかった・・・動くなよ?」

 

 

 ルフィに遮られた答えだがガイモンはそれを受けた。

 勇儀はそれを受け入れ、ガイモンに当たらないように側面の宝箱の両端に手刀を添え、瞬時に振り下ろした。

 

 

  鬼刀(おにがたな)禊太刀(みそぎだち)

 

 

 武装色ではなく、純粋な能力で強化された手刀で箱のつなぎ目を一気に叩き斬る。

 本来なら飛び上がってから相手に叩きつける技なのだが宝箱ならそれは不要。ちなみにこの技は某隠しボスの拳を極めた人のパクリスペクトだ。これを使えば斧なしで薪を作ったりもできる便利な技である。

 

 禊を喰らった宝箱は紙を裂くようにきれいな裂け目を見せてゴトリッと側面が落ちる。そのまま背中側の面を同じ要領ではがすとガイモンと宝箱が分けられ、本来のガイモンが生まれた。

 

 

「・・・ガイモンさん。よかったの?」

 

「ああ。岩の宝箱の真相がわかった。さっきも言ったが気が楽になってな。20年経ったが心機一転、一人間としてこの島で生きるよ」

 

「その前に軽く身体を解すよ。そのまま力を抜いてな」

 

 

 もう驚かないナミがガイモンに問うが、当事者のガイモンはむしろ不便極まりなかった宝箱から解放されたことで笑顔を見せていた。今は勇儀の微細な力加減によって箱型になっていた体が解されている。

 

 

「・・・ふう。時間をかけてある程度は解したよ。だけど20年ぶりなんだ。いきなり動くようなことはやめなよ?ゆっくりでいいんだからね」

 

「ありがとう。今日は最高の日だ!宝箱から解放され、心の荷も下り、さらには仲間に誘ってくれる友まで出来た!最高だ!お前らには必ずいい仲間が集まる!“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”はお前が見つけちまえ!お前らの活躍をおれはここで楽しみに待ってるぞ!!」

 

「ああ!そうする。じゃあなおっさん!」

 

 

 座ってこちらを見送るガイモンとその島の動物たち。ルフィ達は彼らを背に船を出航させる。

 

 海へと出た彼らの心は今の天気を表すかのように晴れ渡っていた。

 

 



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星熊童子と長鼻狙撃手 1

 

 

「・・・流石にこのままじゃ無謀だわ!」

 

 

 ガイモンと別れて航海中。ナミは何を思ったかそう言った。

 

 

「何が?」

 

「このまま偉大なる航路(グランドライン)へ入ること!」

 

「確かにな!この前おっさんから果物たくさんもらったけどやっぱ肉がないと力g」

 

「食料の事いってんじゃないわよ!」

 

「確かに酒を好きに飲めねぇってのもなんかつれぇしな」

 

「飲食から頭を離せっ!」

 

 

 とにかく頭の中が食べ物だらけな男二人にナミが叫ぶ。

 酒は勇儀の伊吹瓢から得られるのだがゾロは質よりも量を取るようでかなり飲まれてしまうため、勇儀が飲む量を制限しているのだ。それもあってゾロの頭の中は酒のことで頭がいっぱいだった。

 

 

「いい?私達の向かってる偉大なる航路(グランドライン)は世界で最も危険な場所なの。全員が“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を求める以上、その場所は私たちが想像もつかないような強力な海賊たちが蠢いている。当然こんな小舟じゃなく、強力で頑丈な船に乗ってね。船員の頭数にしてもあんたら3人じゃ少なすぎるし、この船の装備の無さとも相まって偉大なる航路(グランドライン)に入って無事でいられるとは思えないわ」

 

「それは一理あるねぇ。偉大なる航路(グランドライン)の海賊たちはバギー一味のような船よりももっと大きなものに乗っているだろうし、シャンクスの船も実際大きなものだったからねぇ」

 

「・・・ん?お前シャンクス知ってんのか?」

 

 

 シャンクスの単語に反応したルフィが聞いてくる。

 自分の宝物の本来の持ち主の事はやはり聞きたいのだろう。

 

 

「そういえば勇儀。あんたルフィの帽子が傷つけられたときにかなり怒っていたわよね?そのシャンクスって人は・・・・・・ん?シャンクス?」

 

「おうさ。赤髪で海賊旗を掲げててねぇ。一度戦い(やり)あった仲さ。シャンクスとの闘いは楽しかったねぇ・・・」

 

「ちょっと待って。いやほんとにちょっと待って!シャンクスってあの“赤髪”のシャンクス!?」

 

「ん?ナミもシャンクスの事を知ってんのか?」

 

「知ってるも何も“赤髪のシャンクス”はかなり有名な大海賊(・・・)!!東の海(イーストブルー)でも名が通っているぐらいよ!!そんな大物と戦ったってどういうことよ!!」

 

 

 “赤髪のシャンクス”は前回戦ったバギーよりもはるかに有名な海賊として名を馳せているらしい。

 世情に疎いルフィや勇儀はそのことに感心しつつも本人を知っているため、素直に納得していた。

 

 

「どうもなにも言った通りさ。一日の間だけだったが真剣(ガチ)でやりあって、その後に酒を飲んで好敵手()として語り合ったよ。今度出会ったらまたやりたいねぇ」

 

「“赤髪”にそんな感情持てるってどんだけよあんた・・・」

 

「だからシャンクスの事知ってんだな!ししし、まだ会うわけにはいかないけど、おれもシャンクスに会いてぇ!」

 

「あんたもまったく・・・それと勇儀はシャンクスと戦えるほど強いのになんでルフィと一緒に航海してるのよ」

 

「なんでも何も誘われたからさ。シャンクス達は何か調べものがあったようだから何もなかったけど、ルフィは純粋に仲間として接してくれたからねぇ。私が認めた船長(キャプテン)船員(クルー)として迎え入れられたんだ。覚悟がなきゃ人として廃るってものさ・・・っとと、大陸が見えてきたねぇ」

 

 

 海図通りに進んだことで大陸が前方へ見える。

 今回の目的地であった場所 シロップ村。食料は当然のこととして多少の物資を船に積むのが今回の目的だ。

 

 船を近くの海岸へと寄せて波に攫われないように杭をした後、地面へと降り立った。ここ何日かは海上で過ごしていたことで久しぶりの地面である。

 

 

「ふーっ。久しぶりに地面に下りた」

 

「お前航海中はずっと寝てたもんな」

 

「うるせぇ。それよりさっきから気になってたんだが・・・あいつらだれだ?」

 

 

 ゾロの視線の先にはこちらを見下ろす4つの視線。鼻が長い男と子供と思われる三人組だった。最も子供たちはすぐに逃げ出してしまったために長鼻の男が取り残されることになってしまったので実質一人だ。

 

 

「・・・・・・おれはこの村に君臨する大海賊団(・・・・)を率いるウソップ!人々はおれを称えて“わが船長”キャプテン・ウソップと呼ぶ!この村を攻めようという浅はかな考えがあるならやめておけ!おれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ!!」

 

「うそね」

 

「んなっ!?ばれた!!」

 

「ほらばれたって言った」

 

「言っちまったァ~~~っ!!おのれ策士め!」

 

 

 初見のナミに嘘を見抜けられて嘆くウソップ。おそらくナミが乗ってきた帆がバギー一味の物のままなので私達がバギー一味であると勘違いしているのだろう。偵察として高台で監視していたがあまりにもバレバレであり、すぐに見つかってしまったために虚勢を演じた・・・と。

 

 

(・・・虚勢のためであっても嘘は嘘・・・だが守るために出た嘘って感じだね)

 

「はっはっはっは!お前面白ェなーっ!」

 

 

 せっかくの虚勢もすぐにバレてルフィに笑われる。

 海賊旗の事を話してバギー一味ではないことを理解させるとウソップは近くの飯屋へと案内してくれた。

 

 

「仲間とでかい船を探してるのか・・・まァ大帆船ってわけにゃいかねぇが、この村で船を持ってるのはあそこ(・・・)しかねぇな」

 

「あそこって?」

 

「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒立ってるんだが、そこの主だよ。でも主と言ってもまだいたいけな少女。それも病弱で寝たきり娘さ・・・!」

 

「え?どうしてそんな()がでっかいお屋敷の主なの?」

 

「おばさん肉追加!!」

「酒を頼む」

「このランチの追加を頼んだよ」

 

「てめぇら話聞いてんのか!!?」

 

 

 一切話を聞いていなさそうなルフィ達に怒鳴るウソップ。勇儀は食べながら話を聞いているがルフィとゾロは食べることに熱中している。怒鳴ったところで効果はないだろう。

 

 

「・・・もう一年くらい前になるかな、病気で両親を失っちまった。可哀そうに・・・手元に残ったのは莫大な遺産とでかい屋敷、そして何十人の執事たち。どんなに金があって贅沢できようと、両親を失うこと以上の不幸な状況はねぇよ」

 

「そう・・・…。止めね。この村で船のことは諦めましょ。ここじゃなくて別の町か村をあたればいいわ」

 

「そうだね。別に急いでいるわけでもないから問題ないね」

 

「だな。肉も食ったし、いっぱい買いこんで次を目指そう!」

 

「・・・ところでお前ら、仲間を探していると言ってたな!」

 

「そうだ。心あたりがあるのか?」

 

 

 ルフィの至極真っ当な疑問にウソップはキメてこう言った。

 

 

「おれが船長(キャプテン)になってやってもいいぜ!!」

 

「「「「ごめんなさい」」」」

 

「はえぇなおい!!」

 

 

 4人が揃っての即答に流石のウソップも驚愕せざるを得なかった。

 4人揃って初めての一致団結だったのかもしれない。

 

 しばらく食事を続ける4人を置いてウソップは時間だと言って退席していった。

 何か用事があるのだろう。出されたものを食べ終えてどうするかを話し合っていると飯屋の扉が勢いよく開かれる。ウソップ海賊団と名乗る先ほど逃げ出した少年たちだ。

 ルフィとゾロが軽く脅かし、そしてなぜかナミを見た少年たちは気を失ってしまったのだが、少し経つとそのまま復活を遂げて普通に接してくる。ウソップは先ほど話に上がっていた病弱な少女に会いに言った様子。

 

 

「ウソップはその屋敷に何しに行ったんだ?」

 

うそつきに(・・・・・)!」

 

「だめじゃないか・・・」

 

 

 理由に勇儀は呆れるがどうやらただ嘘をつきに言ったわけではないらしい。ただ嘘をつくわけでなく、相手もそれを理解して話を聞いている様子。

 

 

「へーじゃあお嬢様を元気づけるために1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」

 

「うん!」

 

「おれはキャプテンのそんな“おせっかい”な所が好きなんだ」

「おれは“しきり屋”なとこが好きなんだ」

「ぼくは“ホラ吹き”なとこが好きだ!!」

 

「とりあえず慕われてることはわかった」

 

「人の好意はそれぞれってことかねぇ」

 

 

 日常的に嘘をついているらしいウソップであるが屋敷の少女に対して1年間も通い続けているのは好感が高い。だがその日常的に嘘をついてきたシワ寄せが来なければいいのだが…

 

 

「もしかして屋敷のお嬢様はもう元気なのか?」

 

「うん。この1年でだいぶ回復してきたんだ。キャプテンがずっと元気づけていたおかげで!」

 

「うっし!じゃあ屋敷に船を貰いに行こう!!」

 

「何言ってんの!さっき諦めるって言ったばかりじゃない!」

 

 

 そんなナミの制止もいに変えさずルフィは屋敷へと進んでいく。ナミは嘆き、勇儀とゾロは諦めの境地だ。

 村に立つ豪邸は明らかに他の家とは違っていた。広大な敷地を有していて門までしっかりとついている。富豪とは聞いていたが実際に目の当たりにすると感嘆の声が出てしまう。

 

 ちょうど昼だったのか門番が不在の状況をいいことにルフィが門をよじ登って敷地に入り、ご丁寧に門を開ける。そんな行動をしたことで屋敷内の人間に気づかれてしまうのだがルフィ達が知る由もない。

 

 

「あははは。・・・で、その大きい金魚はどうしたの?」

 

「その時切り身にして小人の国へ運んだがあまりの大きさにまだ喰いきれないらしい。そしてまたもや手柄を立てたおれを人は敬意を表してこう呼んだんだ」

 

「「「 キャープテーン!! 」」」

 

「そう!キャプテン・・・ゲッ!お前ら一体ここに何しに来たんだ!」

 

 

 屋敷の主とウソップが楽しそうに話している途中に割り込んだルフィ達。ウソップはこの場所にルフィ達が来たことに驚いた。屋敷の主 カヤ は自分へ頼みがあるというルフィにその頼みを聞こうとしたのだが…

 

 

「そこにいる君達!屋敷の中で一体何をしている!!」

 

 

 眼鏡をかけた如何にも生真面目で頭が固そうな執事がこちらを見ていた。

 

 

「困るね。許可もなく勝手に屋敷に入って貰っては!」

 

「げっ、執事・・・」

 

「あ、あのねクラハドール!この人たちは」

 

「今は結構ですお嬢様。理由なら後でキッチリ聞かせて頂きます!」

 

 

 クラハドールという執事はカヤの言い分に一切聞く耳を持たずに帰るように促した。

 ルフィの船が欲しいという頼みを駄目だと即答で返されたことでルフィは落ち込んでいたがそれをゾロが宥めていた。正直敷地に不法侵入してくる見知らぬ人間に船という大きな物をくれと言われて渡す人間はいないと思うのだ。

 

 

「・・・!君は・・・ウソップ君だね?」

 

「・・・・・・!」

 

「君の噂はよく聞いているよ。村で評判だからね」

 

「あ・・・ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」

 

「門番がよく君をこの屋敷で見かけるというのだが、一体何の用があってこの屋敷に入ってくるのかね?」

 

「それはあれだ・・・おれはこの屋敷に伝説のモグラが入って行くのを見たんだ!あまりの大きさにおれはそいつが本物だと確信したね。で、そいつを探しに・・・」

 

「・・・フフっ。全く・・・よくそんな滑らかにと舌が回るもんだね。ある意味で尊敬しよう。私は君の父上の話も聞いているぞ」

 

「何?」

 

 

 カヤを元気づけに屋敷に侵入していたと面と向かって言えないウソップは自分の十八番(オハコ)でもある嘘をついてその場をやり過ごそうとするが、クラハドールには通じない。

 勇儀自身も自分の身を守るために軽率な嘘をつくウソップに苛立ちを多少だが覚えたのだが、執事が言った言葉にその気もなくなったのだ。

 

 

「君は所詮ウス汚い海賊の息子(・・・・・・・・・)だ。そんな海賊の息子が何をしでかそうと驚くことはない。・・・が、これ以上ウチのお嬢様に近づくのはやめてくれないか!」

 

「・・・・・・・・・ウス汚いだと・・・!?」

 

「海賊の息子である君と主であるお嬢様とでは住む世界が違うんだ。侵入してまでお嬢様に接近してくる理由はなんだ?金か?いくらほしい?」

 

「・・・ちょいとあんた。いくらなん「言いすぎよクラハドール!!」ッ!!」

 

 

 クラハドールの言い分に声を上げたのは彼が仕えるお嬢様 カヤからだった。

 主の言葉に対して真実を述べているだけだと返すクラハドールはウソップを貶す言葉を続ける。

 

 

「君には同情するよ・・・君も恨んでいるのだろう?自分の家族を捨ててまで村を飛び出した“財宝狂いのバカ親父(・・・・・・・・・)”を」

 

「クラハドール!!」

 

「それ以上親父をバカにするな!!」

 

「・・・?なにを無理に熱くなっているんだ。君も賢くない・・・こういう場面こそお得意のウソ(・・)をつけばいいのに。本当は親父は旅の商人なんだ、とか本当は親父と血は繋がっていないとかね」

 

「ッッうるせぇ!!!」

 

 

 限界に達したウソップはクラハドールの顔面を殴りつける。嘘はつけど温厚なウソップを見てきたカヤや少年たちは驚愕している。

 

 

「おれは親父が海賊であることを誇りに思っている!!勇敢な海の戦士である親父の息子であることをおれは誇りに思っている!!確かにお前の言う通りおれはホラ吹きだ!だけどな!そんなおれが海賊の血を引いているというその誇りだけは、偽るわけにはいかねぇんだ!!!」

 

 

 ウソップが叫んだことは彼の中の信念。

 これだけは曲げないという“意地” 

 

 それを全員が聞いたのだが殴られて言われた本人は全くそれを受け止めようとせずにさらに海賊であるということで貶す。

 ウソップはさらにもう一度殴ろうとしたのだがカヤに止められ、そのまま屋敷から出て行ってしまった。

 

 

「・・・・・・!そうかあいつ・・・!思い出した・・・!」

 

 

 先ほどから頭に何かが引っかかっていたルフィは詰まりが取れてその疑問が氷解したのかウソップを追いかけて屋敷を出る。それに倣ってゾロたちも屋敷から退散していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇクラハドール。どうしてあんな言い方をしたの?私だって黙ってウソップさんと話をしていたのは悪いと思っている。だけどあんな追い返し方ってないじゃない!」

 

「もう3年前になりますか・・・私がこの屋敷にやってきてからあの日の事は忘れもしません・・・!」

 

 

 ウソップ達がいなくなって静かになった屋敷でカヤは仕えてくれている男 クラハドールに対応が悪いと責める。それを聞いてクラハドールは己の過去を語り始めた。

 当時居場所であった船を追い出され、そのまま路頭をさまよっていたところにカヤの両親に声をかけられたことなどを話す彼にとって、恩人の令嬢を守りたいだけなのだとカヤは感じた。

 

 

「・・・私もクラハドールには感謝してるわ。だけど誤解しないで。彼はとてもいい人なの」

 

「ですが!彼がいい人かどうかは別の話!」

 

「・・・・・・もうわからず屋!!」

 

 

 言い過ぎたと自分でも思っているようだがそれでもウソップのことを認めようとしない頑固者(クラハドール)に声を荒げるが、先ほどの険悪な空気はなくなっていた―――。

 

 

 

 

 

「・・・ただ嫌悪だけで言った言葉じゃないみたいだねぇ・・・」

 

 

 そんな会話を屋根の上で勇儀は聞いていた。

 ルフィ達に習って一緒に出ていくことも考えたのだが、クラハドールの過剰な反応と平然と他人を貶す姿勢に対して疑問を持った勇儀は屋根の上で気配を隠すことにした。勿論カヤがウソップとクラハドールの口論を聞いて落ち込んでいたら励まそうとも考えていたのだが、クラハドールの口から出た言葉で先ほどの対応の理由(わけ)を理解した。

 ただでさえ病弱なのに富豪の資産を持っているという背景があるとそれを狙ってくる輩が当然出てくる。それらから彼女を守るために執事は過剰に海賊のワードに反応するのだろう。

 

 盃を傾けながらルフィ達の元に戻るタイミングを計っていた勇儀であったのだが、クラハドールが一人で屋敷から出かけて行く。勇儀はそれに対して何の感情も抱かず、己の好奇心だけでついていくことにしたのであった。

 

 



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星熊童子と長鼻狙撃手 2

 
 勇儀姐さんが強すぎて話の構築が辛い
 


※一部の言葉を修正
 


 

 

 ウソップは村から離れた海辺で一人、遠くの海を眺めていた。

 周りの雑音は聞こえず、ただ波打つ音が辺りに響く。

 

 

(・・・・・・まさか手を出しちまうとは・・・)

 

 

 ウソップは先ほどカヤの前でクラハドールを殴りつけたことを多少なりとも後悔していた。

 クラハドールはカヤに仕える執事であり、彼女に尽くしているのは自他共に認める。村の住民全員に聞いてもそうだと肯定が返ってくるだろう。

 彼がカヤを障害から守るために海賊の息子である自分が屋敷に近づかないように言ったことも理解はしていたが故になんとも言えない感情がウソップの中に存在していた。

 

 

「すぐに町に戻る気も起きねぇし・・・どうしようかな・・・」

 

「よっ。ここに居たのか!」

 

「ぶっ!!何だてめぇか!普通に声をかけろバカ!!」

 

 

 突如眼前に逆さまになったルフィの顔が現れたことで驚いたウソップ。近場の木から降りたルフィは先ほど氷解していた疑問を投げかけた。

 

 

ヤソップ(・・・・)だろ?お前の父ちゃん」

 

「・・・・・・・・・・・・え!?お、お前何でおれの親父を知ってんだ!?」

 

 

 ルフィの口から自分の父親の名前が出てくるとは思わなかったウソップは理由を問す。そして“赤髪のシャンクス”の船に乗っていることを知って人生で一番驚いた。自分の親が世界に名を馳せる大海賊の幹部になっていると知れば誰だって驚くだろう。

 

 幼少期の頃にルフィはフーシャ村にてシャンクス達と出会った。そこでの事故でルフィはゴム人間になり、海を泳げないカナヅチになってしまったのだ。

 シャンクス達がフーシャ村に滞在していたとき、ウソップの父親であるヤソップから息子の話を飽きるほど聞いていたこともあって、ウソップの事に気づけたのだった。

 

 

「ヤソップは立派な海賊だった!自由に生き、自分に嘘をつかない立派な男だったよ」

 

「・・・だろう!?果てがあるのかもわからねぇこの広大な海へ飛び出して、命をはって生きている親父をおれは誇りに思っている。もういねぇけどおれの母親も親父を誇りに思ってたんだ!・・・なのにあの執事は親父をバカにした・・・おれの誇りを踏みにじったんだ!!」

 

「あいつはおれも嫌いだ!でもお前、あんなこと言ってたけどお嬢様の所へはいかねぇのか?」

 

「・・・・・・・・・さァな・・・あの執事がさっきの言葉に関して謝罪をしに頭下げてきやがったら行ってやってもいいけどよ」

 

「・・・あの執事が?」

 

「そうそう。あの執事あの執事・・・なんでここにあの執事がいんだァ!?」

 

 

 ルフィが崖の下を指さす先には話題に上がっていたクラハドールの姿があった。村に住むウソップでも見かけないという男と一緒にだ。カヤに付きっ切りだった執事がなんの理由もなくこんな人がほとんど来ない場所に来るはずもないために二人は身を隠しながら話を盗み聞きすることにした。

 

 

 

 

  ―――――――――――

 

 

 

 

 

「おい、ジャンゴ。この村で目立つ行動は慎めと言った筈だぞ。村のど真ん中で堂々と寝やがって」

 

「ばか言え。一体どこが目立ってたんだよ。あと俺は変でもねぇ。」

 

「・・・計画(・・)の準備は出来てるんだろうな」

 

「当然だろ。だからこそ俺はここにいるんだぜ?いつでもいける“お嬢様暗殺計画(・・・・・・・)”をな」

 

暗殺(・・)なんて聞こえの悪い言い方はよせジャンゴ。これは事故なんだからな」

 

「あぁそうだった事故・・・!事故だったな“キャプテン・クロ”」

 

 

 

 

 

  ―――――――――――

 

 

 

 

 

 カヤに仕えてきた男の口から出てきた発言にルフィはともかくウソップは息を飲んだ。ジャンゴと呼ばれた男がクラハドールのことを“キャプテン・クロ”と呼んだのである。ウソップはその名前に心あたりがあった。

 

 “キャプテン・クロ”またの名を“百計”のクロ

 

 どんな略奪でも緻密に計算された行動で足を掴ませない手腕と目的のものを得るためなら手段を厭わない残虐性を兼ね備えたクロネコ海賊団の船長。

 そんな彼も3年前に海軍に捕まって処刑されたという話なのだ。それが生きているというのは驚愕する事実だろう。

 

 

「・・・おい、あいつら何言ってんだ?」

 

「・・・・・・そんなことはおれが聞きてぇよ。でもキャプテン・クロってのは知ってる。でもあいつは3年前に海軍に捕まって処刑されたと聞いたぞ・・・!」

 

 

 

 

世間的(・・・)にキャプテン・クロが処刑されたあの日、あんたはこの村で突然船を降りて3年後にまたこの村へ静かに上陸しろときた。・・・あんたの言うことを聞いて間違った試しはねぇし、被害も常に最小限だから当然信用もしてる。だからこそあんたの計画に協力はさせてもらうが・・・分け前は高くつくぜ?」

 

「当然くれてやる。だがそれは計画がしっかりと遂行されて、何の問題もなかったときだ。今回の計画はただ殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様はあくまでも偶然起こった(・・・・・・)不運な事故で命を落とすんだ。そこのところを間違えるなよ?」

 

 

 キャプテン・クロと呼ばれたクラハドールは計画の重要性をジャンゴに言い聞かせる。

 彼がこの村に来る3年前から計画は進んでいたのだ。

 周りの人間から信頼を獲得し、カヤお嬢様を慕い、仕えていたという実績を残した。病弱なカヤがもし海賊に襲われるという不運な事故(・・・・・)に見舞われて命を落としたとしても、財産を譲る遺書を自分に尽くしてくれたクラハドールのために書いていてもおかしくない状況を作り上げたのだ。

 

 シロップ村がたとえ海賊によって壊滅していても、運よく(・・・)生き残った執事がいても不思議ではない。

 海軍にも賞金首にも狙われずに大金を自分の元に収める準備は最終段階へと移っていたのだ。計画の要であるジャンゴ率いるクロネコ海賊団も準備を終えている。あとはクラハドールが合図を送るだけ。

 

 

「・・・やべぇ!なんてやべぇ事を聞いちまったんだおれは・・・!!」

 

「おいウソップ。一体何なんだ?なんかやばそうだな」

 

「(お前も一緒に聞いてただろうが!仲間を身代わりにしてまで計画を進めてきたってのか・・・!?やばい、やばすぎる・・・本物(・・)だあいつら!!カヤの屋敷の財産を3年前からずっと狙っていやがったってことだ!!大変な奴を殴っちまった・・・殺される!カヤも殺される!村も襲われる・・・やべぇ・・・マジでやべぇ・・・・・・!!)」

 

「・・・・・・」

 

 

 ウソップの解釈を聞いてルフィはそのまま立ち上がった。

 当然見つかることを危惧したウソップは伏せるように言い聞かせるがそのままルフィは下で話している二人に聞こえるように大声で言い放った。

 

 

「 おい お前ら!!お嬢様を殺すな!!! 」

 

「「!!!」」

 

(・・・今は隠れてやり過ごすのが普通だと思っていたが・・・やっぱりルフィはその常識の枠に収めてはいけないね)

 

 

 クラハドールことクロとジャンゴの会話を聞いていたのはルフィとウソップだけではない。好奇心でなんとなくついてきていた勇儀も隠れて話を聞いていた。クロ達がルフィ達に意識を向けている隙に勇儀はその場を離れてウソップ達の元へ向かう。

 そしてルフィ達の元に到着すると同時にルフィが崖から落ちていった。

 

 

「・・・・・・え?」

 

「おい!!お前っ!大丈夫か!?」

 

 

「あーあー・・・殺すつもりはなかったんだがな・・・完全に頭から落ちやがったな。この高さだ。首が完全にイッちまってもう助からねぇだろうな。・・・どうするクロ?もう一匹殺しとくか?」

 

「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄なことだ」

 

 

 突然ヒモ無しバンジーを決め込んだルフィに唖然とするがルフィは“ゴムゴムの実”を食べたゴム人間。あの高度で落ちたとしても死にはしない。クロ達もルフィが能力者であるという考えが頭にないため、落下死したと思い込んでいる。勇儀は見つかると面倒になると判断し、近くの木に身を隠した。

 

 

「明日の朝に計画を決行する。夜明けと共に村を襲え。村の民家も適度に荒らしてあくまでも事故を装ってカヤお嬢様(・・・)を殺すんだ」

 

「わかった」

 

「・・・!!明日・・・」

 

「聞いたかいウソップ君?今君が聞いた通り実行させてもらう。君が私たちの話をどれだけ聞いていたとしても、私の計画が揺らぐことなど在りはしない」

 

「っ!・・・くそっ!!うわぁあああ!!」

 

「・・・おいおい大丈夫なのか?村で俺たちのことをばらされでもしたらたまったもんじゃねぇぞ?」

 

「心配ない。彼がどれだけ喚こうとも、おれの計画は狂わない」

 

 

 ウソップが何を言おうと何をしようとも計画が狂うことはない。そう断言するクロにウソップはその場を離れて一刻も早くこの事を伝えるべく走りだした。それを見たジャンゴが本当に大丈夫なのかとクロに聞くが返ってきた答えは問題ないだった。

 

 

「村が誇る一番の嘘つき男が何を言おうと誰も信じることはない。計画は言った通りに進める」

 

 

 例え彼が事実を村人につきだそうとも村人が彼を信じるようなことは万に一つも在りはしない。ウソップを処分するより、彼が事実を行ってくれるほうが計画は円滑に進む。そう判断した男はジャンゴと別れ、屋敷へと悠々と戻っていった。

 

 

 

 

 

「やばい!大変だっ!俺が育ったこの村のみんながっ!カヤがっ!!全員殺されちまうっ!!おれはみんな大好きなのにっ!!この村が大好きなのにっ!!」

 

「そうかい。ならちょいと待ちな」

 

「えっ・・・そげぶっ!!?」

 

 

 駆けるウソップを掴んで強引に止める。

 村で嘘つきと称される彼を向かわせても誰も相手にせず、逆効果をもたらしてしまう。クロが彼を逃がした理由も大方それが理由だろう。

 

 

「・・・っ!お前っ!なんで邪魔をするんだ!あいつらの仲間かよ!!」

 

「落ち着いて冷静になって考えな。クロとやらがあんたを逃がした理由を頭に思い浮かべるんだ。そうすりゃ私があんたを止めた理由もわかる」

 

「・・・・・・っっ!!」

 

 

 勇儀がウソップを止めた理由。それはウソップ自身が一番わかっていた。ただクロの激変とその計画に冷静さを欠いていたのだ。日頃から嘘をついて生活していたウソップは今日ほど今までの自分を恨んだことはないだろう。日頃の態度がそのまま自分に返ってきているのだ。

 

 

「・・・だが・・・だがよ・・・おれはこの村を守りてぇんだ!はやくしねぇとカヤや村のみんなが殺されちまう!」

 

「それをさせないために動くんだろう?あんたが村全体を混乱に落としてどうすんだい?それこそ被害が大きくなるだけさ。あの男は少なくとも夜明けまでは動かない。ならあんたはルフィ達と共に迎撃の準備でもしてな。あいつらは他のやつらよりもだいぶ強いからね。手を貸してくれるはずだよ」

 

「・・・お前も聞いていたのか・・・。あんたはどうするんだよ!それにルフィはさっき落ちて死んじまったぞ!」

 

「ルフィはゴム人間だからあの程度の高さは死なないのさ。おそらくまだ寝てるんだろう。そして護衛するには気配を消せる奴が最適さね。私がカヤや村の住民を守ってあげるよ。・・・感謝しなよ?私が嘘つきさんに手を貸すんだ。情けない姿晒すんじゃあないよ?」

 

 

 勇儀はそのまま跳躍し、村へと向かう。

 目的地は元凶がいる屋敷の屋根の上。そこでいつでも行動を移せるように辺りと狡猾な男(クラハドール)を監視するのだ。3年もの月日を使ってまで人を欺くその姿勢に、勇儀は慈悲を与えるつもりなどない。

 

 

「・・・・・・・・・!!」

 

 

 対するウソップも勇儀の言葉を信じてその場から駆け出す。ルフィの元へだ。

 偽っていた男の計画を聞いて手を貸すと言ってくれた女性。勇儀の実力を知らないウソップからすれば止めろと言いたくなる提案のはずなのだが、彼女がいうと否定よりも先に安堵の感情が入り込んできた。

 

 この人が言うなら大丈夫

 

 そんな感情を持たされたウソップはすでに姿が見えない勇儀を止めるのをやめ、彼女の言葉を信じてルフィの元へと向かっていく。ウソップが辿り着いた先には先ほどと全く変わらない姿勢のルフィがいた。近づいてみると彼女が言った通り、寝息を立てながらだ。

 何とかルフィを叩き起こそうとしているとルフィの仲間であるゾロとナミが合流。どうやら勇儀が伝えたようでウソップ海賊団の子供たちもついてきていた。

 

 昼が過ぎ、夜がやってくる。計画が実行されるという夜明けまでの時間はあとわずか。ルフィ達はどうするのかを思考していた。

 

 

「おれは村のみんなに日頃からウソをついて生きてきた。・・・そんな俺が村のみんなにこのことを言い回ったとしてもみんなから信じてもらえるはずがなかったんだ。お前らの仲間に諭されなけりゃおれは村へ行って叫んでたよ・・・おれが甘かったんだ!」

 

「そう言っても結局海賊は本当に来ちゃうんでしょ?あの勇儀がそう言うんだから私も来たのよ」

 

「ああ、間違いなくやってくる。でも当然村のみんなはこのことを知らねぇ。誰一人としてこの村に海賊が襲ってくるなんて思っちゃいない!明日もいつも通り平和な一日が来ると思ってる!だからおれはこの海岸で海賊共を迎え撃ち!この一件を本当になかったことにする!!ウソつきで村のみんなに真実が伝えられないのなら、その事実自体を嘘にして無かったことにするのがおれの通すべき筋ってもんだ!!」

 

「「「キャプテン・・・」」」

 

「そっか。おれ達も加勢するぞ」

 

「・・・言っておくけどアイツらの宝は全部私のものだからね。絶対渡さないわよ」

 

 

 勇儀が言った通りルフィ達はウソップの話を聞いて手を貸すと言う。出会って間もないルフィ達が力を貸してくれることに信じられないウソップであったが本気なのだとわかると自然と涙が溢れてきた。

 だがその涙を隠すようにウソップは彼らに背を向ける。そしてウソップ海賊団の三人に帰るように促したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...どうやらあの男は村を捨てて逃げだしたようだな」

 

 

 ウソップにジャンゴとの会話を聞かれたその日の夜。クロは屋敷に設けられた自室でその事実を意外だと受け止めていた。

 

 あの男はあの男なりの思い入れがあるのだと予測。自分が海賊を差し向けていることを村の住民に向かって叫びだすのかと思っていたのだが、そのようなことは一切起きなかった。

 恐らく誰も信じてくれないことを理解して逃げ出したのだろう。あの男が騒いでくれれば好都合だったのだがどちらにせよ計画に影響はない。

 

 

「ククク・・・もうすぐだ。もうすぐ俺の元に大金が転がり込んでくる。実に楽しみだ」

 

 

 黒猫は夜道を照らす月を眺めながら笑い始めた。

 

 

 

 

 

「ジャンゴ船長、起きてください。もうすぐ夜明けになりますジャンゴ船長。そろそろ起きてください」

 

 

 黒猫海賊団の船員が寝ている船長を起こすために扉を叩く。軽く返事が聞こえた後に扉が開き、ムーンウォークをしながら船長であるジャンゴが出てきた。

 

 

「あ、船長おはようございます」

「船長おはようございます」

 

「バカヤロウおめぇら。『おはよう』って言葉はな、朝日とともに言うのがおれのポリシーなんだ。今はなんだ?まだ月も落ちねぇ真夜中だぞ?」

 

「そ、そりゃ失礼を!」

 

「・・・・・・わかったならそれでいい。野郎共!おはよう!!」

 

((((えぇええ・・・!))))

 

 

 朝日とともに言うジャンゴであっても、起きたなら定型文を言いたくなるのだろう。先ほどの自分の言葉など知らないとでも言うように挨拶をしたジャンゴにショックを受ける船員たちであったがそれもすぐに歓喜の声へと変化する。

 

 

「随分待たせたな野郎共!漸く出航だぁ!!」

 

 

「「「「オオオ―――――っ!!!」」」」

 

 

 計画がついに開始した。1週間の間動くにも動けなかった彼らはこの時を待ちわびていたのである。

 無防備に存在する村を根こそぎ奪うべく、黒猫の船は移動を開始したのだ。

 

 



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星熊童子と長鼻狙撃手 3

 
 違う!勇儀姐さんが勝手に!
 
 書いているとキャラが動き出すって本当なんですね。
 


「・・・おやクラハドールさん。こんなに早く起きていらっしゃったのですね」

 

「・・・・・・えぇ。ついつい気が高ぶってしまっていましてね。目が覚めてしまったのですよ。…ん?これは?」

 

 

 日も上がっていない早朝。屋敷の執事であるメリーはクラハドールが起きていることに気づいて部屋へと入った。夜は明けていないが今日はクラハドールがこの屋敷に来てからちょうど3年目を迎える日だ。

 今クラハドールが見つけた包装された箱は屋敷の主であるカヤが彼のために作った特注品の眼鏡である。

 

 

「それはお嬢様から貴方へのプレゼントのようです。何でも今日はあなたがこの屋敷へ来てちょうど3年目になるとかで。所謂記念日というやつですね」

 

「・・・・・・記念日…」

 

「えぇ、あなたの今の眼鏡はよくズレる様なので、なんとお嬢様が設計して特注なさった品なんですよ!本当にもう・・・よく気の利く優しい方だ・・・」

 

 

 カヤの気づかいに涙を浮かべるメリーに対してクラハドールことクロはこのことに嘲笑を浮かべていた。もうすぐすれば夜明けが訪れ、ジャンゴに指示した通りに村を襲うだろう。関係者は当然皆殺し。海賊たちも例外はない。

 

 

「フフフ・・・」

 

「?」

 

「記念日というなら確かに記念日だ。こんな素敵な日は胸が高鳴るというか、血が騒ぐというか・・・」

 

「・・・な!!!」

 

 

 受け取る張本人がカヤが作ったその眼鏡を足で粉々に踏み砕く。

 普段真面目にお嬢様のことを心配し、気を使っているこの男がまさか主のプレゼントを踏み砕くなんて予想が出来るはずもない。メリーはクラハドールが起こした行動に理解できず、声を荒げた。

 

 

「ク・・・!クラハドールさん!?あんた!お嬢様のプレゼントに何を!!」

 

「プレゼントなら勿論受け取りますよ。・・・だがこんな物ではなく、この屋敷まるごとだがな・・・!!」

 

 

 海賊をしていた時のクロの獲物は『猫の手』

 手袋の指もとに刀がついた独特な武器だ。

 日頃から彼は眼鏡を直す際に掌で直す癖があったのだが、それはこの武器を多用していた頃に染みついてしまったことによるもの。

 

 本来この計画を完全に実行するにはクラハドールが元・海賊キャプテン・クロであることがばれてはならない。そのため、メリーがこの事実を知ったということは彼を始末する必要が出たのである。

 猫の手を装着したクロに対してメリーは動くことが出来なかった。真面目な彼がなぜこのような凶行に出たのかがまるで理解できなかったのだ。

 

 高速歩行術である“抜き足”を使ってクロはメリーへ斬りかかる。

 戦闘訓練など受けていないメリーには防ぐことは愚か反応することすら許さない。まさに無慈悲な一撃だ。

 

 

「・・・ッ!??」

 

 

 そんな一撃を放とうとしたクロは悪寒を感じ取り、すぐさま身を屈めて横へと飛んだ。斬ることを強制的に止めてでも行った行動は結果的に彼にとって正解だったと態勢を整えたクロは確信した。彼の居た場所には新たな人物が割り込んでいたのだ。

 

 

「おや?随分勘が鋭いね。気配を消して首をへし折るつもりだったんだが、避けられたか」

 

 

 自分の攻撃が避けられたというのに楽しそうに笑いながら笑えないことを言う女。その人物は先日ウソップ(嘘つき男)と同じように屋敷に無断で入っていた者の一人。

 赤い角で腰まである長い金髪、そして特徴的である雅な服装。一度見ただけであるがその特徴的な印象をクロは覚えていた。そして他人であろうこの女は何故自分の邪魔をするのか理解できなかった。

 

 

「・・・なぜこの場所にいる?」

 

「今見た通りさ。私はあんたが村の住民たちに害を加えないように見張っていただけ」

 

「始めから気づいていたというのか?ありえん。・・・俺の計画をいつ知った?」

 

「ありえないも何もあんたが昨日ジャンゴとやらと話していたじゃないか。私はそれを陰で聞いていただけの話だ。あんたが村の住民や屋敷の人間を殺すと言うからにゃわたしゃそれを防ぐためにここにいるんだよ」

 

 

 勇儀が計画の事を知ったのは必然と言えば必然なのだが、好奇心が勝ったことによる偶然だ。

 頭がキレるこの男は自分がつけられていたことに驚きの表情になりながらも距離を取る。

 

 

「・・・そうか。てめぇはおれの計画の邪魔をするってことか。ならこの場で死んでもらう」

 

「いいねぇ。大将が本気で私を狙いに来るなんて熱いじゃないか。もう夜は明けた(・・・・・)がやる気のようだね」

 

「何・・・っ!?」

 

 

 勇儀に指摘され、外を確認すると太陽が昇り始めていた。

 ジャンゴに指示したのは夜明けとともに襲えだ。つまりジャンゴはなにかにモタモタしているか、他の者にやられて動けなくなっていることを意味する。

 

 

(あの野郎共・・・あとで皆殺しだ・・・!だが今はこいつを仕留める・・・!)

 

 

 クロは“抜き足”を展開して瞬時に勇儀へと接敵。対象を斬り伏せるべく行動を起こす。だがそれは彼の死期を早める結果になった。『猫の手』での斬撃は勇儀の黒くなった(・・・・・)腕で止まり、腕を掴まれる結果になったからだ。

 

 

「!??」

 

「ルフィ達なら効いていただろうが、見誤ったね。私にただの斬撃は効かないよ?」

 

 

 掴んだ腕を引っ張りあげ強引に窓から屋敷の外へと出る。

 室内で行動を起こすと屋敷の中が大変なことになるのがわかっていたための行動であり、未だ放心状態になっているメリーの安全を気遣っての行動だ。外に出るや否や瞬時に勇儀はクロを上に投げ飛ばした。

 対するクロは女の身でありながら全く抵抗できないその力に驚愕。自分の武器も効かないことが証明されてしまったことで頭の中ではどのように打開するかを思考錯誤していたのだが、浮遊感を感じて思考を止めざるを得なかった。

 

 “抜き足”も最終手段の“杓死(しゃくし)”ですらもこれは地上の、地面に足をつけていることで効果が発揮されるものだ。空中に投げ出されてしまってはこの強みを完全に取り払われたことを意味する。

 宙にいる己の下には落ちてくるのを構えて待機している女の姿。

 

 

 一つ。――一歩目で体を崩して、隙を生み出す。

 

 

「私の知らないとこで策略を巡らすのはかまわないさ。だがね・・・」

 

 

 落ちてくる箇所を予測し、勇儀は全身に力を込める。

 

 

(あり得ないあり得ないあり得ない――っ!!)

 

 

 クロは今から己に降りかかる事柄を真っ向から否定する。3年もの月日を投資して練り上げた計画だ。ここで終わるわけにはいかない。

 

 

 二つ。――二歩目で持ちうる力を込め、

 

 

 落ちる勢いを利用したクロは『猫の手』を勇儀に向ける。

 だがそんな事を勇儀は意に返さない。

 

 

「私がそんなこと許すとでも思っていたのかい?」

 

 

 三つ。――三歩目で必殺の一撃を放つ。

 

 

「 おれの計画は!絶対に狂わないっ!! 」

 

 

 クロの手に付けられた刀が勇儀の額へと迫る。

 勇儀の拳がぶつかり合う。

 

 

――四天王奥義・・・

 

 

「『 三 歩 必 殺 』!! 」

 

 

 己の範囲内で放たれるは回避不可能の文字通り一撃必殺。己が“覇気”を用いず能力だけで打ち込める全力の一投。ソレを刀を躱しつつ顔へと叩きこむ。

 

 三歩あれば一撃で人間を沈めることができるという中国拳法の理念を凝縮したかのような究極の一撃。

 殴ったクロから衝撃が突き抜け、その周りに風を生み出した。技を打ち込んだ反動で勇儀が立つ地面が沈む。

 

 

「ラァァァァアアアアッ!!」

 

 

 久しく感じていなかった衝撃の重さに勇儀は歓喜しながらも腕を振りぬいた。全霊の威力を以て、クロは螺旋を描きながら飛んでいく。それに満足した勇儀は未だに動けないメリーに事情を話すべく、屋敷の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっ~~!!くそ!あと刀が一本でもありゃあ・・・」

 

 

 北の海岸ではゾロと黒猫海賊団が誇る船の番人 ニャーバン・兄弟(ブラザース)が剣劇を繰り広げていた。本来ならば三刀流のゾロは刀一本で二人の攻撃を往なしている。これは最初の邂逅時に抜いていなかった刀二本を取られてしまったのだ。事態を動かすためにナミがゾロの刀を回収しに向かうがジャンゴのチャクラムによって怪我を負わされてしまう。

 ウソップは最初の防衛時に攻撃を受けすぎていたために動くことが出来ず、ルフィはジャンゴの催眠術によって眠りについている。そしてナミはたった今肩を裂かれてしまった。

 圧倒的不利になってしまったこの現状を変えたのはこの場にいる者たちではなかった。

 

 

「・・・オイ・・・なんかとんでくるぜ・・・」

「なんだ・・・あれは・・・?」

 

 

 ルフィの攻撃で動けなくなっていた船員(クルー)達が最初に気づいて、その後ウソップ、ジャンゴ、ゾロ達の順で気づく。明らかに何かがこちらへと飛んできているのだ。

 その何かはクロネコ海賊団の船員たちが作っている塊へと突撃。そしてその物体がなにかを確認し、船員(クルー)たちは村を襲う戦意が一気に冷えたのだ。

 

 

「きゃ・・・“キャプテン・クロ(・・・・・・・・)”!?」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 

 カヤの暗殺計画を立てたクロネコ海賊団の元船長。その張本人がボロボロの姿で飛ばされてきたのだ。一人で海軍の一船を落とすほどの戦闘能力を持った男は完全に気を失っており、立ち上がることはなかった。

 

 

「・・・ど、どういうことだ・・・?」

「し、知らねぇよ・・・」

「キャプテン・クロが・・・」

 

「おいおい、どういうことだよ」

 

「なんであの執事がここに飛ばされてきてんだ・・・?」

 

 

 ウソップ達は当然として、ジャンゴもこの現実を理解できていない。

 いくら3年のブランクがあったとしてもクロは無音戦闘術を保持した男。自分でも勝てない男が村の住民にやられるとは到底思えないし、なによりも彼自身それほどの実力者が村にいることを知っていたのなら警戒を怠っていないはずだ。この醜態を晒しているクロを見ると殴られたのがわかるほどの凹みが出来ていた。

 つまり100mを4秒で走れる無音の移動術“抜き足”を用いるクロの速度に追いつき、さらにこの場にいる者たちに気づかれないほどの距離から殴り飛ばしたということになる。

 

 

「クロ・・・あんたが言っていた計画は完璧なんじゃなかったのかよ…!なんでおれらよりも先にやられてんだ・・・」

 

「せ、船長・・・!どうしますか!?」

 

「どうもこうもねぇ!本人がやられたとあっちゃあ計画なんて成立するはずがねぇだろうが!退くぞ野郎共!」

 

「生憎だけどそれは待ってもらいたいねぇ」

 

 

 撤退の合図を出すジャンゴに待ったをかける存在が現れた。

 クロを倒し、この場まで殴り飛ばした張本人。星熊 勇儀である。両脇に二人の人間を抱えてきたようで、勇儀は到着したと言って二人を地面におろした。

 勇儀に抱えられてきた二人。執事のメリーとカヤ本人だ。

 

 

「・・・!カヤ!何しにここに来たんだ!ってかなんで連れてきてんだ!」

 

「なんでも何も本人の意思さ。自分の命を狙っていた事実は遅かれ早かれ知ることになるんだ」

 

「・・・ここに来る間に話は聞いたわ。でも私・・・どうしても信じらなくて・・・!クラハドールが海賊だなんて事は・・・!でも海賊に“キャプテン・クロ”って呼ばれてるってことは、本当なのね・・・!」

 

「カヤお嬢様・・・」

 

「メリー、私は大丈夫。気持ちの整理がまだ追いついていないだけだから・・・」

 

 

 勇儀はクロを殴り飛ばした後、放心状態だったメリーを抱えてカヤがいる一室に向かった。少々強引であったが話をつけて抱えてきたのである。当然彼女自身思う節などあるはずもなく、信じられないと言った状態であったがクロネコ海賊団の反応を見て受け入れざるを得なくなった。

 

 

「おい勇儀。まさかこれはお前がやったのか?」

 

「あぁそうさ。そこにいるウソップに屋敷は任せろと約束(・・)したからねぇ。本当は戦うつもりはなかったんだが、屋敷の人に害を加えようとしていたからね。ちょいとお灸を据えさせてもらったよ」

 

 

 当然と答える勇儀には怪我どころか衣服に傷一つついていない状態だ。ジャンゴはその事実に更に唖然としていながらも逃げる準備を始めたのだが、ナミによって叩き起こされたルフィにより阻止され、殴り飛ばされる結果に終わる。

 クロネコ海賊団のトップ達がやられたことを確認した船員(クルー)達はルフィの雄たけびとともに一斉に逃げ出して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カヤの暗殺計画を阻止したのだが、これはウソップの意向に従ってこの一件は他の住民たちには知らせないことになった。ウソップ海賊団の子供たちは反対をしていたのだが本人の強い希望により説得。屋敷に仕えてくれていたクラハドールは急遽旅に出たということで納得させた。

 

 

「ありがとう!お前たちのお陰だよ!お前たちがいなかったら、村は守りきれなかった」

 

「何言ってやがんだ。お前が何もしなきゃおれは動かなかったぜ」

 

「おれも」

 

「・・・・・・」

 

「どうでもいいじゃないそんな事。宝が手に入ったんだし」

 

「おれはこの機会に一つ。ハラに決めたことがある」

 

 

 ウソップの覚悟を聞いた一同は素直にそれを受け止めた。

 

 そして後日。この村にあるメシ屋でいつも通りに飲み食いをしていたところ、カヤが声をかけてきた。

 ナミは体調の事を気にしていたが、どうやら精神的な気持ちが原因で重くなっていたようで、ウソップの活躍によりだいぶ回復に向かっていたらしい。

 

 カヤは今回のお礼も込めて、ルフィが頼み込んでいた船を一隻くれるというのだそう。

 カヤに連れられて海岸に向かった一同は目の前にある帆船に感嘆の声をあげるのだった。

 

 

「お待ちしておりましたよ。少々古い型ですがこれは私がデザインしました船で、カーヴェル造り三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル“ゴーイング・メリー号”でございます」

 

 

 羊の顔の形をしたかわいらしい船首に立派な砲門がついており、航海するには全く問題ないその大きさ。なによりもルフィ達はこれが今から自分たちと旅をする船だという喜びから目に見えてわかるぐらいの表情をしていた。

 

 

「良い船だなー!!」

 

「航海に要りそうなものは全て積んでおきましたから」

 

「ありがとう!ふんだりけったりだな!」

 

「至れり尽くせりだアホ」

 

 

 汚名挽回ばりの間違いをするルフィにゾロが訂正。ナミはメリーから船の設備のことを聞いており、勇儀はメリー号を感慨深そうに眺める。

 

「うわぁぁぁああああああ止めてくれぇええええええっ!!!」

 

 そんな中でウソップらしき声が坂道から聞こえる。振り返るとリュックと思わしき球体が勢いをつけて転がってきていた。

 

 

「何やってんだあいつ」

 

「このコースは船に直撃だ」

 

「ならとりあえず止めとくかい」

 

 

 勇儀がリュックを受け止め、ウソップは感謝を告げる。

 ウソップは村の住民に言わないまま村を出るとのことでウソップ海賊団も解散したとの事。

 

 

「・・・やっぱり海へ出るんですねウソップさん・・・」

 

「ああ、決心が揺れねぇうちにとっとと行くことにする。止めるなよ」

 

「止めません。・・・そんな気がしてたから」

 

「おいおい、なんかそれもさびしいな・・・・・・今度村に来るときはよ、ウソよりずっとウソみてぇな冒険譚を聞かせてやるよ!」

 

「うん。楽しみにしてます」

 

 

 末永く爆発しろと思ったのは悪くないと勇儀は思った。

 とても素敵な関係を築きあげれている二人は下手をすれば一生の別れにもなる可能性があるというのに、笑顔でまた会うと約束しあっているのだ。

 カヤとの別れを済ました後、ウソップはメリー号ではなく、小さな帆船の隣に立った。

 

 

「お前らも元気でな。またどっかで会おう」

 

「なんで?」

 

「あ?なんでってお前・・・愛想のねぇ野郎だな・・・これから同じ海賊やるんってんだからそのうち海であったり・・・」

 

「何言ってんだ早く乗れよ」

 

 

 ウソップの言葉をゾロはバッサリと切り捨てる。

 出会って日は浅いが考えていることはみんな同じようだ。

 

 

「おれ達もう仲間だろ」

 

「え・・・」

 

 

 ウソップは何を言われたのか一瞬理解できなかった様子。心のどこかで本当は望んでいた展開が実際に起こったのだからとてもうれしかったに違いない。

 減らず口を叩くウソップがメリー号へと乗り込んでいく姿を嬉しそうに見つめるカヤとメリーの姿がそこにあった。

 

 

「よーし!新しい船と仲間と共に、出航だァーっ!!」

 

「「「おおぉおおお!!!」」」

 

 

 船を出す声が自然と大きくなる。

 仲間と掲げるは酒の入ったジョッキだ。ガシャンと互いに鳴らし合い、航海開始から初めての酒盛りへと洒落込んだ。

 

 

 新たな仲間と共にひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を目指す旅は漸く始まりの合図を鳴らしたのである。

 

 



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星熊童子とヨサクとジョニー

 
 

   「ありのままでいこう」


     作:人生はもっとニャンとかなる!
  
 
 

※11月17日 誤字修正




 

 

「できたぞおれ達の海賊旗がっ!!どうだお前ら!?」

 

 

 これがおれ達のマークだと自慢げに掲げるルフィには悪いがとても大袈裟に掲げれるものではない。

 ウソップは絵心がないと言うし、ナミはある意味芸術ではと言う始末。ゾロもある意味恐怖だなと言うほどにひどいほどの絵。歪な形の骸骨におそらく麦わら帽子であろうそのトレードマークを身につけたその海賊旗は子供が描いたと言っても受け入れられるだろう。

 ふと、これを堂々と掲げて襲ってくる海賊の姿を頭に思い浮かべてみる。

 

 襲撃で壊れた船、蹂躙して襲い来る敵を殲滅していく船員(クルー)。そして背後に描かれた“ルフィの絵(死の象徴)

 

 ・・・・・・確かに恐怖の存在だ。

 

 

「私だからはっきり言うが下手だねぇルフィ」

 

「全くだ。海賊旗はおれが描く!」

 

「ちゃんと描いてくれよウソップ」

 

「お、おう!任せろ!!」

 

 

 海賊旗を率先して描こうとするウソップに勇儀が牽制する。大方予測は出来るがこれを機に自分の海賊旗でも描こうとしていたのではないだろうか。

 ちなみにだがウソップと勇儀の人間関係は悪くはない。だがウソップは勇儀の事を多少怖がっていた。それはウソップが加入して酒盛りが終わった時の会話が発端だ。

 

 

 

 

 

「ウソップ。私は船長(ルフィ)が決めたことに思うところはないが、念のために言っておくよ。私の前で嘘をつくのは自重することだね。言ってもいいが・・・相応の覚悟を持って貰う」

 

「・・・も、もし言ってしまったら?」

 

「そうさねぇ・・・・・・あそこの海に立っている岩があるじゃろ?」

 

 

 勇儀が指さす先には出っ張った岩が見える。ウソップもそれを確認して次の言葉を待った。

 

 

「これを、こうじゃ」

 

 

  ドゴォン!

 

 

 そんな音を立てながら岩はまるで砲撃を受けたように吹き飛んだ。

 勇儀が行ったのは少し本気で打ち込んだ正拳突きだ。始めに孤島で行っていたものと同じモノである。それを己の身一つで起こした勇儀にウソップは唖然。それ以降勇儀の前で嘘はつかないと心に決めたウソップであった。

 

 その光景をみたルフィやゾロに原理を問われたり組み手をしたりとすることになったのだがそれは今は関係ない話だ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこともあり、ウソップは勇儀の前では嘘はつかない。

 勇儀自身も自分の前で言われなければ特に思うこともないのでそれ以上険悪な仲になってはいない。

 

 ウソップの絵のセンスのお陰で帆が芸術作品になる事態は避けられ、“ゴーイング・メリー号”は“海賊船 ゴーイング・メリー号”へと生まれ変わったのであった。

 

 

「はーっ疲れた!」

 

 

 帆に描き終えて一休みしていた4人だったが、ルフィが突然大砲の練習をし始めた。しかしうまくいかないのか的外れな所に飛んでいく。ウソップが代わりに砲撃するとなんと一発で岩山に直撃させて見せたのだ。これによりウソップは“狙撃手”のポジションに収まることになった。

 

 

 

 

 

「 海賊共ォっ!出てきやがれ!!てめぇら全員ブッ殺してやる!!! 」

 

「「「「!?」」」」

 

「何だ!?」

 

 

 ラウンジで会話をしていた所に突如船に聞きなれない声が入ってきた。声でわかるほどの怒りを持ってこの船に乗り込んできたその存在は近くのタルなどを壊しているのだろう。粉砕音が響いている。

 

 

「なんだいあんたは?」

 

 

 勇儀は声の主を確かめるべく扉を開けて甲板へと戻た。

 声の主は大層ご立腹の様子でこちらに切りかかってくるのだが、勇儀は貰ったばかりの船を傷つけないように立ち回る。

 

 

「名もねぇ海賊如きが・・・てめぇらは断じて許さん。おれの相棒を殺す気かァ!!」

 

「あんたの相棒を私たちがどうこうした記憶はないが・・・船を壊すな!」

 

 

 男が刀を振り下ろす前に勇儀はチョップで男の頭を叩き落とす。

 勢い余って少し加減が出来ていなかったこともあり、男は立ち上がれなかった。

 

 

「終わったのか?・・・ん?お前っ!ジョニーじゃねぇか!」

 

「えっ・・・えっ!?ゾ、ゾロのアニキ!!?」

 

「?ゾロの知り合いかい?」

 

 

 船を襲撃してきたグラサンの男。どうやらゾロと面識があるらしい。ヨサクと呼ばれた男もいるようなのだが病気にかかって倒れたとのこと。

 

 

「こいつが倒れたのは数日前。突然青ざめて気絶を繰り返し始めたんだ!原因はまったくわからねぇ。しまいにゃ歯も抜けるわ古傷が開いて血が噴き出すわで、もうおれァどうしていいのかわからねぇもんで、一先ず岩山(・・)で安静を保っていた所で・・・この船から砲弾が飛んで来たんです」

 

「「!!」」

 

「あー・・・」

 

 

 先ほどの怒りのわけを聞いて納得する勇儀とすぐに頭を下げるルフィとウソップ。どう見ても先ほどルフィ達が行った砲撃の練習が原因だ。

 ヨサクと呼ばれた男の優しい言葉でルフィとウソップは心の中が罪悪感で一杯になった。

 

 

「賞金稼ぎの“ヨサクとジョニー”っつたらよ・・・この東の海(イーストブルー)でも時にはビビる海賊もいるくらいの名になった。・・・そんな『賞金稼ぎ』のコンビを長年共にやってきた大切な相棒だぜ・・・!アニキ、こいつ・・・・・・死んじまうのかなぁ・・・!!」

 

「・・・ルフィ!ウソップ!キッチンにライムあったわよね?今すぐ絞って持ってきなさい!」

 

「「ラ・・・了解(ラジャー)っ!!」」

 

「ナミ?」

 

「ライム・・・・・・?」

 

「突然なにを・・・?」

 

 

 ナミがルフィ達に指示したのはライムを絞って持ってこいとのこと。

 それに関してジョニーとゾロ、勇儀は頭を傾げるが理由をすぐに教えてもらった。

 

  壊血病

 

 それがこの病気の名前らしい。

 一昔前までは原因不明の難病だったらしいのだが、最近になって原因が発覚したとのこと。

 

 

「この病気の原因は植物性の栄養不足によって引き起こされるものよ。昔は保存のきかない新鮮な野菜や果物なんかを載せてなかったから・・・でも保存技術が進化している今ではそこまで絶望的な病気ではないわ。ちゃんと栄養補給して安静にしてれば治るわよ」

 

「本当ですか姐さんっ!」

「すげーなお前、医者みてぇだよ」

「よく知ってるな」

「とてもありがたい豆知識だねぇ」

「おれは最初からお前はやる女だと思ってたよ」

 

「船旅するならこれぐらい知ってろ!!あんたたちほんといつか死ぬわよ!!」

 

「うおおっ!漲るっ!!栄養全開復活だーっ!!」

「おぉお!やったぜ相棒ーっ!!」

 

「そんなに早く治るかっ!安静にしてろって言ったでしょ!!」

 

 

 船旅をする人間だというのに基礎知識が欠けている面々を怒鳴るナミは突然復活し、喜びだした男にツッコミを入れていく。

 彼女はこの船の貴重なツッコミ役として定着した瞬間だ。

 

 

「助けていただき感謝します。申し遅れました。おれの名はジョニー」

 

「あっしはヨサク!ゾロのアニキとはかつての賞金稼ぎの同志です!」

 

「「どうぞお見知りおきを!」」

 

 

 復活したヨサクと共に改めて自己紹介をする二人であったが流石にすぐに回復するはずもなく、ヨサクは再び血を吹いて倒れた。自分たちの身に起らなかったことが幸いだが、船旅からは切っても切れないものがあると一同が認識したいい機会だった。

 

 

「長い船旅には外敵だけじゃなくてこんな落とし穴もあるってことか・・・難しいねぇ」

 

「あいつだって俺達に遭わなきゃ死んでた訳だしな・・・」

 

「そうね。船上の限られた食材で長旅の栄養配分を考えられる“海のコック”・・・これが必要になってくるわ」

 

「よく考えれば海賊だろうが海軍だろうが、海の上では必要不可欠な『能力』ってわけだ」

 

「決まりだ!次は“海のコック”を探そう!船で美味いもん食えるようになるし、悪い事なんてないしな!」

 

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 ヨサクとジョニーの教訓を生かして次に狙う仲間は料理人(コック)

 ルフィはただ美味いものを食べたいだけだろうが、何年もの長い期間旅をするのにコックがいないと食材がすぐに尽きてしまう。管理能力に長け、さらにバランス配分を考えた料理を作れる人材は必要不可欠だ。誰もこの判断に異議を唱える人間はいなかった。

 

 

「アニキアニキ!コックを探しに行くんすか?」

 

「なんだ?なにかあるのかジョニー」

 

 

 手を上げてアピールをするジョニーにゾロは何かと返す。ジョニーは一同の話を聞いて思い当たるところがあるようだ。

 

 その場所は“海上レストラン”

 

 響きだけでも美味しい料理が提供されてそうな名前に期待の声を上げた。

 

 

「“偉大なる航路(グランドライン)”の傍に位置する場所に店を構える海上レストラン。当然やべぇ奴らの出入りもあるから気をつけねぇといけねぇ位置にあるけどもコックを探すにはもってこいの場所だ。今から船を進めていけば2・3日程で着くはず。それにアニキがずっと探していた“鷹の目の男(・・・・・)”も現れたことがあるって話ですぜ」

 

「!・・・・・・」

 

「よかったら案内しますぜ!」

 

「たのむーーっ!!」

 

 

 ジョニーの提案に賛成するルフィ達。

 一方ゾロはジョニーが話した鷹の目の男に会える可能性に湧き上がる思いを感じていた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「着きやした!海上レストラン!!ゾロの兄貴!ルフィの兄貴!ウソップの兄貴!ナミの兄貴!勇儀の姉御!!」

 

「・・・なんで私はアニキなのよ・・・」

「ん?」

「おおっ!」

「これはこれは・・・」

「ああっ!」

 

 

 ルフィ一同が到着したのは“海上レストラン『バラティエ』”

 

 レストランに相応しい大きさを確保した船であるが、メリーの羊の先頭のような魚の頭を模したシンボルが目立つ。

 尾の部分や入口の部分を見ての予想であるが、あの部分が開くことで外での食事を楽しめる作りになっているのだろう。まさにレストランに相応しい。

 

 

「どーっすかみなさんっ!これが海上レストラン『バラティエ』です!」

 

「でっけー魚っ!!」

「すっげー!!」

「ファンキーだなぁおい!」

 

「・・・ん?」

 

 

 外観を見て様々な反応を見せる麦わらの一味の面々であるが、メリー号の背後から別の帆船が近づいてきた。

 帆を見るからに明らかに海賊の船ではないことがわかる。それどころか明らかに海軍のマークが描かれていた。

 

 

「か・・・海軍の船!!」

 

「いつの間に・・・!」

 

 

 メリー号の隣に海軍の船が並ぶ。当然海賊旗を掲げている自分たちの船に気づかない海軍でもなく、中から人が出てきた。どうやら海賊を視認して即砲撃ということはなさそうだ。

 

 

「この辺じゃ見かけない海賊旗だな・・・おれは海軍本部大尉“鉄拳のフルボディ”。お前らの船長はどいつだ?名乗って見ろ」

 

「おれが船長のルフィ。海賊旗はおととい作ったばかりだ!」

 

「お・・・おとといきやがれっ!」

「ぶふっ!それいけるぜ相棒っ!」

 

「おれはウソップだ」

 

 

 名乗るルフィにそれに対して洒落を言うヨサクとジョニー。そしてさり気なく名乗っていくウソップ。

 仮にも向こうは海軍の大尉なのだが、こちらはそんなことお構いなしにマイペース。フルボディは何事も無かったかのようにスルーしていく。

 

 

「お前が船長か。男5人に女が2人・・・少人数のくせに大層な船を持ちやがる」

 

「おうさ。うらやましいのかい?」

 

「バカ言え角の女。いくらおれでもその程度じゃ嫉妬心すら起きねぇよ・・・・・・なんで角生えてんだ?」

 

「女の身体について躊躇いもなく聞くのは男としてどうかと思うよ?」

 

「・・・そりゃ悪かった。ついつい思ったことが口に出ちまったらしい。・・・そしてそこの二人組は見たことあるな・・・賞金稼ぎだったか。何度か海軍の施設に出入りしていたな・・・ついに海賊に捕まっちまったのか?」

 

 

 フルボディという大尉はヨサクとジョニーのユニットの存在を知っているらしく、海賊の船に乗っていることが理解できないらしい。勇儀の角のことを思考の外へと放り投げ、二人に海賊に捕まったのかと皮肉気に聞くとヨサクとジョニーが笑いながら違うと返して世間知らずを黙らせるべく愛刀を以て躍り出る。それを鎮圧されるのに20秒はかからなかった。

 

 

「「か・・・か・・・紙一重か・・・」」

 

「お前らすげぇ弱ぇな」

 

「い・・・いやなかなかやるぜあいつ」

 

「さすがのおれ達も紙一重だ」

 

「いや、何してんだお前ら」

 

 

 あまりのあっけなさにルフィ達は呆れ、フルボディもくだらなさそうな表情を浮かべている。

 険悪なのかわからない空気になっていたのだが、海軍の船から聞こえる女の声がそれを変えた。

 

 どうやら海軍の大尉も今は任務中ではなく、食事を楽しみに来ただけらしい。ご丁寧に次は気をつけろと念を押してきた。

 

 

「!・・・ジョニー。これなに?」

 

「ん?ああ・・・そいつぁこの海にいる賞金首のリストですよナミの姉貴。そいつらブッ殺して海軍に渡せばリストの下に載ってる額の金が手に入るんす。多少の危険はあれどもボロい商売でしょ?それがどうかしたんですか?」

 

「・・・ナミ。そいつになにか思い入れでもあるのかい?」

 

「・・・ッ!う、ううん!何でもないわ」

 

 

 ジョニー達が持っていた賞金首のリストを手に取り、固まったナミに勇儀は声をかける。一枚のリストを握り占めていることからその人物に何らかの思いいれがあることが予想出来た。

 

 

(海賊“ノコギリのアーロン”懸賞金 2000万ベリーね・・・)

 

 

 ウソップのような人間はいるが明らかにギザギザした鼻と人間の肌とは異なる色合いの男はただの人間ではない。ナミが言葉を出さずにリストを握りしめるのにも訳があるのだろうと勇儀は追及するのはやめた。

 

 

「・・・ねぇ、勇儀」

 

 

 追及することを止めた勇儀にナミが問いかける。

 

 

「あんたは・・・この海賊をどう思う?」

 

「どう思うと言われてもねぇ・・・何とも思わないさ。戦ったことは愚か会ったこともないんだ。実物を見てないのに嫌悪を抱くなんてことは出来ないし、好意を抱くこともないさ・・・・・・(あんた的にそいつになにか思い入れがあるんだね)」

 

「・・・ッ!」

 

 

 しまったという反応を見せるナミだが、勇儀は頼まれてもないのに助け船を出す気はない。彼女的にはとても重要な案件なのかもしれないが、勇儀にとっては所謂他人事だからだ。

 

 

「ナミがどう思っているのかは知らないけど、この東の海(イーストブルー)でその懸賞金を背負っているその男と戦ってみたいねぇ。ただの人間ではなさそうだし、どれだけ強いのか気になるね」

 

「・・・勝てると思ってるの?」

 

「当然さ。私を誰だと思ってるんだい?」

 

 

 勇儀は確信を持って言うとナミは何も言わなくなった。

 クロネコ海賊団の船長を一人で降した実力を知っており、“赤髪”と戦ったことがあるという勇儀の話から真っ向から否定するのも無理があったからだろう。

 

 周りの事など気にも留めずに勇儀とナミは無言を貫く。

 目的であった海上レストランの屋上が何故か大破し、船長であるルフィが船から消えていたことに二人が気づくのはもう少し先になるのだった。

 



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星熊童子と海のコック



 「マイナスをプラスに変えることができるのは、人間だけが持っている能力だ」

 
    by.アルフレッド・アドラー
 
 


 

 

 どうやらウチらの船長は砲弾を真正面から跳ね返してなぜかレストランに直撃させたらしい。そしてそれを海軍のせいにせず、現場へと直行して謝りに行っているとのこと。

 ナミは海軍のせいにすればいいのにと嘆いていたが、素直で悪く言えば馬鹿正直な所がルフィの魅力である。素直で嘘をつかないのはいいことだ。

 

 

「謝りに行ってから結構経つが遅せぇなルフィの奴・・・」

 

「海軍のせいにして責任を全部押し付ければいいでしょうに・・・ホントにバカ正直なんだから・・・」

 

「雑用でもさせられてんじゃねぇのか?一ヶ月くらいよ。てかこのまま待っているってのもあれだしよ!もうおれ達だけでレストランに行かねぇか?」

 

「そうだねぇ。ルフィがいつ戻ってくるのかもわからないし、ホントに雑用してるかもしれないねぇ。様子見がてら行くとしようか」

 

 

 このまま待つのも退屈だというウソップと勇儀の案に乗っかったゾロとナミ。船長以外の4人は一般の客としてレストランの扉をくぐる。

  

 中は海上レストランに相応しい装飾が施された立派なものだ。予想以上のテーブルが並び、どの机にもお客が座って食事を楽しんでいる。

 レストランにしては少々騒がしい気もするが海賊や海軍、そして一般市民が入り乱れて利用する場所だ。このぐらいは普通なのだろう。

 

 こちらに気づいた店員に4人だと告げ、席へ通される。運ばれてきた食事を軽く嗜んだ後に麦わら帽子の男について聞いてみた。

 

 

「麦わら帽子・・・?ああ、あいつか。あいつはここで1年雑用として働くんだってさ」

「オーナーもよくそのレベルで許したもんだよ。砲弾充てられたんだぜ?」

「そうだよな」

 

 

 そんな会話を聞いているがゾロ達は特に深刻な表情でもなく、楽しそうな顔つきだ。

 砲弾を跳ね返したのはともかくレストランに直撃させたのはルフィの落ち度。誰も気にすることはなかったし、何よりも料理がおいしくてそんなことはどうでもよくなっていた。

 

 

「げっ!お前ら!!」

 

 

 出された料理を楽しんでいるところに聞きなれた声が耳に入る。

 雑用として職場に放り込まれた男。噂のルフィその人だ。

 

 

「よっ雑用君。ここで一年も働くんだってね」

 

「ぷくく。エプロン似合わねぇなルフィ」

 

「流石に一年は待てねぇな。船の旗描き直していいか?」

 

「無事なようだね。・・・むっ、この料理は私の好みだ」

 

 

 自分を置いて食事を楽しんでいる4人にルフィは怒るが勇儀たちはただ笑うばかり。

 ゾロがウソップに話しかけている最中、ルフィがコップの中にハナクソを投入していたが見事にバレて飲まされることになった。それを見ていたゾロ以外の3人は机を叩いて大笑いしていたのだがおいておこう。

 

 

「ああ海よ!今日という出会いをありがとう。ああ恋よ!この楽しみに耐えきれぬ僕を笑うがいい!」

 

 

 突然ルフィの背後からポエムを言いながら近づいてくる男が一人。実際に出てはいないが背後にいくつものハートが見える。どう見てもナミ目当てだろうか。

 

 

「僕は君達となら海賊にでも悪魔にでも成り下がれる覚悟が出来ている!しかしなんという悲劇!君達と僕らにはあまりにも大きな障害が存在してしまっている!」

 

「障害ってのは大方おれのことだろうサンジ」

 

「げっクソジジイ!」

 

 

 サンジと呼ばれた男がクソジジイと呼ぶコックスーツを身につけた義足の男。長いひげを三つ編みにしているところに深いこだわりを感じる存在だ。

 

 

「・・・ふん。そんなにそいつらと行きたいならいい機会じゃねぇか。さっさとここ辞めて海賊になっちまえ。お前はもうこの店には要らねぇ。そのほうがこの店はうまく回るからよ」

 

「・・・おいクソジジイ。おれはここの副料理長やってんだぞ。おれがこの店に要らねぇとはどういうこった!」

 

「真面目に動いたと思えば客とすぐに面倒起こし、相手が女とみりゃすぐに鼻の穴膨らまして口説きにかかる・・・ろくな料理も作れやしねぇし、この店にとって重荷でしかないと言ったんだ。てめぇはここのコックどもからもケムたがられてる始末。そんな奴をこの店に置いてギクシャクするぐれぇなら海賊にでもなんにでもなって早くこの店から出てっちまえ。そっちのほうがこちらとしてもありがてぇよ」

 

「・・・んだとォ!?」

 

 

 自分が貶されたことよりも料理を貶されたことに激怒するサンジはここの店のオーナー ゼフに掴みかかる。しかしそのままゼフはサンジの腕を掴んでテーブルに投げた。

 料理は全て神がかった早業で頭の上や両手に確保できていたのだが、ここのコックたちはとても血気盛んな様子だ。ヨサクとジョニーもここの店は騒がしいと言ってはいたがここまでとは思わなかった。

 

 

「・・・っ・・・てめぇがおれを追い出そうとしても、おれはこの店でずっとコックを続けるぞ!!てめぇが死ぬまでな!!」

 

「てめぇに心配されずとも俺は死なん。あと100年生きる」

 

「けっ・・・口の減らねぇジジイだぜ・・・!」

 

 

 

「・・・うんよかった。おっさんの許しが出たな。これで海賊に・・・」

 

「なるか!!」

 

「なんだよ。さっき海賊にでもなるとか言ってただろ」

 

「言葉のあやってもんを知らねぇのか雑用!」

 

 

 ゼフとサンジの会話を聞いてルフィは何の問題もないと笑顔で声をかけるが当然サンジはそれに反発。少しの間言い合いになったものの、周りの迷惑だと勇儀が告げるとサンジはすぐに姿勢を正してそれに答えた。

 壊された席から移動してサンジからデザートの提供があったのだが、それは勇儀とナミだけであった。

 

 

「おい!ナミ達には詫びがあっておれ達には何もなしかよ!男女差別だ!訴えるぞこのラブコック!!」

 

「てめぇらには粗茶出してやってんだろうが!文句垂れる前にまず礼の一つでも言いやがれ長鼻野郎!」

 

「お!?やんのかコラ、手加減はしねぇぞ!やっちまえゾロ!」

 

「いや、てめぇでやれよ・・・」

 

 

 最もなことを言うウソップに対して男であるからなのか対応が厳しいサンジ。

 ナミはサンジが提供した“フルーツのマチュドニア”とワインを嗜んでいる。それをルフィが大口を開けて割り込もうとしたところをナミに叩き落とされていた。

 

 

「サンジと言ったかい?」

 

「はい。なんでしょう麗しきマドモアゼル」

 

「流石に対応の差が大きすぎるよ。こいつらにも何か出してやってほしいんだが・・・ダメかい?」

 

「いえお任せを!すぐにご用意いたします!」

 

 

 勇儀の珍しい悲しむような表情にサンジは瞬時に行動を開始。目に見えぬ速さでデザートをウソップとゾロの前に並べていく。女性が普段見せない表情というのはとても破壊力があるというもの。

 男の頼みは一切聞かないが、女の頼みならば即座に行動するサンジの人間性がよくわかる場面だ。

 

 素早く行動に移してくれたサンジに勇儀がお礼を込めた行動をするとサンジは鼻の下を伸ばし、鼻血を垂らしそうになりながらそのまま去って行った。

 

 

「勇儀も優しいのねー。こいつらのためにそんなことしてあげるなんて」

 

「流石に女という理由だけでここまでの差がでると罪悪感が湧くんだよ」

 

「ずりぃぞお前ら!おれには何もないのかよ!!」

 

「おい雑用!!てめぇはいつまで油売ってやがる!さっさと仕事しやがれ!!」

 

 

 再び現れたサンジにルフィは連れていかれるのを眺めつつ、食事を終えた一同はルフィを置いて船へと戻ったのだが、海に異常が現れたのはそれから少ししての事。

 メリー号の比ではなく、海上レストランのバラティエもはるかに勝る超大型船。

 それが見るも無残な姿で眼前に現れたのだ。

 

 ガレオン船のシンボルはドクロの両脇に敵への脅迫を示す砂時計が描かれた海賊旗。

 段々と近づいてくる大型ガレオン船の持ち主は東の海(イーストブルー)で50もの艦隊を保有した海賊艦隊の提督として名を馳せている男

 

 懸賞金1700万ベリー “首領(ドン)・クリーク”

 

 少し前に偉大なる航路(グランドライン)へと入って行ったはずの艦隊がこの場に姿を見せたのである。

 

 当然この出来事にレストラン内部は大混乱。

 一部の客はすでに船へと乗り込んでいつでも逃げる準備を整えている。

 

 

「おい!これはやべぇぞゾロ!勇儀!さっさと船出して逃げたほうがよくねぇか!!?」

 

「今すぐ船を出してくれぇ!」

「アニキぃ!おれ達ァ死にたくねぇ!!」

 

「ちょいと静かにしてな。判断を急ぐのは良くないよ」

 

「ちょっと勇儀!ゾロ!あんた等はなんでそんなに冷静なのよ!」

 

 

 初めて見るその巨大さとボロボロであることでの不気味さにウソップ達は慌てるがゾロは片手を刀に添えて無言を貫き、勇儀はリラックスしながら盃を傾ける。逃走を諦めている訳ではない。ただ船員たちが自身等の船をここまでボロボロにされたことで、戦意が残っているとは思えなかったからだ。

 

 

「おい勇儀。お前はどうする?」

 

「あんたは行くつもりかい?そうさねぇ・・・私はここで船番をしておくよ。(やっこ)さんがこちらに来る可能性も勿論あるからねぇ」

 

「そうか、わかった。おいウソップ。行くぞ」

 

「お、おおおおれかよ!!?」

 

「怪我しないように踏ん張るんだよ」

 

「お前は止めねぇのかよぉ!?」

 

 

 ゾロに引っ張られて連れていかれるウソップにエールを送りつつ勇儀はボロボロになったガレオン船を眺める。その後ろ姿を訝しげにみるナミの姿があったのだが、勇儀が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾロとウソップが艦内へと入った時、親玉と思わしき金色の鎧に身を包んだ男と自分たちの船長が相対していた。

 50もの戦艦を保有しながらも渡ることの出来なかった力なきものを阻む境界線“偉大なる航路(グランドライン)”にもう一度挑戦すべく、ゼフの日記を奪おうとするクリークにルフィは反論。海賊王になるのは自分だと言い切った。

 

 

「今から戦闘かルフィ。手を貸そうか?」

 

 

 言い合いが少し長かったため、空いていた席に座って待っていたゾロは収まってきたところに声をかける。が、ルフィは一人で戦うと言って座ったままでいることを促した。

 

 

「ハッハッハッハ!!そいつらはお前の仲間か!随分とささやかなメンバーだな!!」

 

「何言ってんだ、あと3人いる!!」

 

「おい、お前今のに俺をいれただろ」 

 

 

 何の問題があるのかと自信をもって言い切るルフィにクリークは反論。兵力5千の艦隊を持っていながら壊滅に追い込まれたクリークとしては嘗めきっているとしか思えなかった。

 だがルフィはそんなクリークの怒りなんぞに気にも留めない。

 

 

「その5千の奴らが弱いだけだろ」

 

 

 はっきりと言い切ったのだ。

 それを聞いていた周りのシェフや市民たちは青ざめていき、クリークも怒りで血管が浮き上がる。

 

 

「・・・・・・いいか貴様らに猶予をやろう。おれはこの食料を船に運んだ後、部下共に食わせてここへ戻ってくる。死にたくねぇ奴はその間にこの店を捨てて逃げるといい。おれの目的は航海日誌とこの船だけだからな。俺のありがたい助言を無視してまで死にたいというなら、俺が直々に葬ってやる。だが麦わらの小僧。てめぇはちゃんと、確実におれが殺してやる。逃げるなよ?」

 

 

 クリークは眼前の男を始末することよりも、部下に食料を持っていくことを優先した。袋に入れられた食料を担ぎ、ボロボロになったガレオン船へと戻っていく。

 クリークがいなくなったことで台風の目に入った時のように静かになった船内はクリーク海賊艦隊に所属する男 ギン から謝罪の言葉が響いた。

 

 クリークにはこの船には手を出さないことを条件として連れてきたとのことだが、結果は見てのとおりで裏切られた。もしこの場に勇儀がいたらクリークは即海に身を投げ出されることになっていただろう。悪運が強い男である。

 

 

「サンジさんすまねぇ!こんなことになっちまうなんて思ってもいなかったんだ・・・!!」

 

「おいてめぇが謝ることじゃねぇぞ下ッ端。この店のコックがそれぞれ自分の思うままに動いた、ただそれだけの事だ。てめぇがとやかく言うことじゃねぇ」

 

「オーナー!!あんたまでサンジの肩を持つような真似をするとはどういうことですか!?」

「そうですよ!事の原因はメシを恵んだあの野郎にあるんですよ!!」

「オーナーの大切な店をあいつは潰す気なんだ!!」

 

 

「 黙れボケナス共!! 」

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

 オーナーのゼフがギンを責めないことに異を唱えるコックたち。日頃から溜まっていた鬱憤も含めて騒ぎ立てていたところにゼフの喝が飛ばされた。

 オーナーとして、かつて“赤足”と呼ばれたゼフ。彼とサンジがこのレストランを作り上げる前に出会った壮絶な過去。それが2人の深層に存在している。

 餓死寸前まで追い込まれた状況、広大な海の一部の岩山に取り残され、食料と水を日に日に失っていく恐怖。それを経験しているがためにサンジがギンやクリークに食事を提供したことにゼフは何も言わない。それどころか内心褒めてすらいた。

 

 そんな過去を知らないコックたちであるが二人の姿勢に感化され、各々が武器を手に来る時に向けて備えていく。海上レストランで働くコック全員、誰一人として逃げようとしない様子に慌てたのはギンだ。

 

 

「な・・・何やってんだあんた達!首領(ドン)の力はさっき見たはずだろう!?逃げたほうがいい!」

 

「おいギン勘違いしてるんじゃねぇぞ。腹を空かせた奴にメシを食わせるまで(・・)はコックとしてのおれの正義。・・・だけどな、これからこの店に来るのは腹いっぱいになった客でもねぇ略奪者だ。そいつらがこの店を奪おうとするってなら俺がブチ殺そうとも文句は言わせねぇ。それが・・・たとえてめぇでもだ」

 

「・・・・・・!!」

 

 

 止めようとするギンにサンジは警告を飛ばす。相手がどんな存在であれども容赦はしないと言い切ったサンジにギンは唾を飲み込む。そんなやり取りを見ていたルフィはやはりサンジを引き込みたいらしく、提案してくるがウソップはクリーク海賊艦隊が攻めてくることに対して逃げようと提案していた。

 ルフィ達もいずれは“偉大なる航路(グランドライン)”へと乗り込んでいくことになるため、ルフィはいずれぶつかることになると武者震いをしている。

 

 

「そういえばギン。お前“偉大なる航路(グランドライン)”のこと何もわからねぇって言ってたよな。行って来たのにか?」

 

「・・・・・・わからねぇのは事実。信じきれねぇ・・・いや信じたくねぇ。あの海での出来事が本当に現実だってことが・・・七日目に突然現れた・・・たった一人(・・・・・)の男に、50もの艦隊が壊滅させられたなんて・・・!!」

 

「はぁ!?」

「ばかな!」

「たった一人に50もの艦隊が壊滅に追い込まれただと!?」

 

 

 ギンの口からでた言葉は一同に驚愕をもたらすのに十分だった。

 戦艦1隻や2隻であれば東の海(イーストブルー)においても行える猛者は存在する。だがその数倍の50もの数をかなりの速さで捌いて沈めていったというのだ。明らかに普通では考えられない強さ。これに驚かないほうが珍しいだろう。

 

 

「あの時に嵐が来なかったら、おれ達の本船も完全にやられていた。本船がそんなザマなのに仲間の船が何隻も残っていると思えねぇ・・・ただただ恐ろしくて現実だと受け止めたくねぇんだ・・・!あの男の人をにらみ殺すかと思うほどの・・・鷹のように鋭い目(・・・・・・・・)を思い出したくねぇんだ!!」

 

「何だと!??」

 

 

 その言葉に一番反応したのはゾロ。

 同じ剣士として、高見を目指すために越えると誓った存在だ。

 

 

 

 世界最強の剣士の称号を冠する存在

 

 “鷹の目のミホーク” 

 

 それがクリーク海賊艦隊を潰した男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん?なにかこっちに近づいてきますよ勇儀の姉御」

 

「なんだ?小舟に誰か乗ってる・・・?」

 

 

 船番を任されていたヨサクとジョニーはメリー号・・・というよりは海上レストランへと向かってくる存在に気づいた。船と言うよりも棺を改良して作ったと言っても問題がないだろう。船の外側の角には点々と蝋燭が灯され、外装は漆黒でコーティングされている。帆も真っ黒なこともあって明らかに異質な存在感を放っていた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 ある程度近づいてきたことで船に乗っていた男の姿を視界に収められるようになった。

 勇儀もその姿を確認。そして瞬時に東の海(イーストブルー)では早々お目にかかれない強者であると理解した。

 

 

「・・・・・・!!!あ、ああああいつは!?」

 

「た・・・鷹の目の男・・・!!」

 

「知っているのかい?」

 

 

 賞金稼ぎユニットであるヨサクとジョニーはその存在を理解して震えあがった。なぜこんな海にいるのかと叫びだすほどだ。それほどの人物なのだろう。

 

 

「当然です!奴は王下“七武海”の一角を担う男“鷹の目のミホーク”!!世界政府公認の奴らは当然強い!めちゃくちゃ強いんです!!」

 

「・・・へぇ。気になるね」

 

 

 ヨサクはあまりの衝撃で言ったのだが、これは今の勇儀に言ってはいけない言葉だ。

 

    強い 

 

 バギーやクロとは違う政府公認の海賊の一角。当然弱いわけがない。

 彼らと互角に戦えることが証明できれば偉大なる航路(グランドライン)に入って行っても通用することが証明されているようなもの。そんな男を前にして勇儀は居ても立ってもいられなくなった。

 

 

「“鷹の目のミホーク”っていうあんた!」

 

「!?ちょっ!姐さん!」

「何声をかけちゃってるんすか!?」

 

「・・・・・・何だ?」

 

 

 盃と瓢箪をその場に置いた(・・・・・・・・・・・・)勇儀が声をかけ、ミホークはそれに反応する。

 剣士でもない、それどころか男ですらない存在に声をかけられるとは思っていなかったのだろう。言葉は少ないが要件を言えと目で伝えてくる。

 世界が認める圧倒的強者を眼前に収めて勇儀は豪勢な料理を目にしたかのような輝きを笑みに収めて言い放つ。

 

 

「私と手合わせ願おうか」

 

 



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星熊童子と最強の剣士

 
 
 「楽しきと思うが楽しきの基なり」
 
   by.ドストエフスキー
 
 


 

 

  うぉぉぉおおおおおおおおお!!

 

 

 

「・・・ッ!!来るぞ!!」

 

「ふざけんな!絶対守り抜くぞ!!ここは俺たちの居場所なんだ!あいつらに奪われてたまるか!」

 

 

 海上に響くはボロボロになったガレオン船で息を吹き返した海賊たち。船長であるクリークを筆頭にして船員は戦意を高めていく。

 そしてそれを迎撃すべく立ち上がるは海上コック。各自がそれぞれの武器を手に取り、いつでも戦闘できるように構えていた。

 

 ハシゴを滑り降りるように姿を現す海賊達は鼓舞しきった状態で一気にレストランを襲う手筈であった。しかしそれは瞬時に不可能に終わることになる。彼らが根城としていたガレオン船。それは人が紙を裂くように、綺麗に真っ二つにされたからだ。

 

 

「・・・!??な、何が起きたぁ!??」

 

「“首領(ドン)・クリーク”!!ほ・・・本船が・・・斬られました!!」

 

「斬られただと!?俺が誇るこのガレオン船が斬られただとォ!?バカな話があるかぁ!!」

 

 

 巨大なガレオン船が真っ二つになるという奇天烈な出来事に驚愕したのは海賊だけではない。撃退すべく構えていたコックたちも騒然としている。

 巨大ゆえに誇る質量が海へと沈み、海上レストランすらも飲み込もうと迫っていたがオーナー ゼフの判断により錨が上げられたことで巻き込まれて沈没することはなかった。

 

 ルフィ達もガレオン船が斬られてからすぐ、メリー号の安全を確認するために瞬時に動く。

 勇儀が船に乗っているが、あれに巻き込まれて船が沈んでしまっている可能性も当然存在している。安否の確認に動くのは当然のことだった。

 だがルフィたちの視界に入ったのは荒れた海原と溺れないように必死になって泳いでいるヨサクとジョニーのみ。彼らを引き上げて話を聞くと、ナミが船と宝を盗ってそのまま逃げてしまったということだった。

 

 

「あの女・・・最近自重していると思ったらこのタイミングで事を起こしやがって・・・!油断も隙もねぇ!!」

 

「・・・!ちょっと待てよ!船には勇儀が乗ってたはずだろ!?どうしたんだ!?」

 

「「!!」」

 

 

 ウソップの言葉でルフィとゾロは我に返る。

 勇儀自身言っていたが悪魔の実の能力者だ。悪魔の実を食べたものは総じてカナヅチになってしまい、泳ぐことは出来ずに力が抜けて溺れてしまう。船に勇儀がいないのだとしたら彼女はすでに海の底にいる可能性もあるのだ。

 

 

「!そ、それが・・・勇儀の姉御が・・・!!」

 

「そうっす!まずいんですよ!アニキ!!」

 

「このままだと勇儀の姐さんが死んじまう!」

 

「っ!?どういうことだ!状況を教えろ!!」

 

 

 ヨサクとジョニーは勇儀の事を思い出して慌てだした。

 その慌てようにルフィ達は最悪の事態を想定しただろう。だがヨサクの口から出た言葉にゾロは頭を打たれたような衝撃を襲った。

 

 

「勇儀の姐さんが鷹の目のミホーク(・・・・・・・・)と戦ってるんです!!」

 

 

 ヨサク達がガレオン船を指さして言った言葉を聞いて、そしてガレオン船で起こっている出来事を見て、唖然とするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっはっはっははは!!!良いねぇ!最高だよ!!」

 

「・・・なんという剛力の持ち主よ」

 

 

 互いに譲らず、一進一退の攻防を繰り広げる鷹の目の男と一角の女。

 斬撃を躱し、拳撃を往なす。

 刀と拳という近接戦闘を主とする戦い方のはずなのだが、互いの間合いが接近させることすら許さない。

 素人が見れば明らかに離れた場所で素振りをしているように見えるだろうが、そこから生み出される結果は幾多の水柱が立ち上がり、船の残骸を切り刻んでいる。当然船に乗っていた海賊たちがそれに巻き込まれているが、二人にはそんなこと気にも止めることはなかった。

 

 

「まさかこんなにでっかい船を真っ二つにするとは思わなかったよ!世界最強の剣士の名は伊達じゃないってことだね!」

 

「・・・それを平然と相殺(・・)した女が何を言う。それほどの力を持ちながら名が知られていないことに驚愕したぞ」

 

「活動し始めたのは最近だからねぇ。名が広まってないのは、当然だよッ!!」

 

「――ッ!!」

 

 

―――力業『大江山嵐』

 

―――開斬“海割り”

 

 

 拳から放たれるは膨大な衝撃破。大きさにして人などを軽く飲み込む大きさのソレをミホークへ叩きつけようとするがミホークは黒刀でそれを切り裂いた。

 斬り裂いたことで拡散した攻撃が辺りに風を発生。それに伴って波が発生し、壊れた船の残骸が攫われて移動を開始する。

 

 

「実に強力な“覇気”よ。俺の刀を素手で受け止めるだけでなく、衣服にまで覇気を纏わせるか」

 

「流石にアンタの攻撃を素で受けるのはやばそうだからね。守りに関しては私も努力したんだ。服が破れるのは嫌だからね。これぐらいできなきゃこっちが困るってもんだ」

 

 

―――黒刀“斬”

 

―――鬼刀『禊太刀』

 

 

 

 ギィィイイン!!

 

 

 

 互いに残骸を足場にしながら飛ぶように移動し、勇儀の跳躍からの手刀にミホークは刀を合わせる。黒刀と黒腕が重なりあうたびに金属音が鳴り響く。

 手刀で黒刀と張り合うという明らかに異常な行為を平然とやってのける勇儀にミホークは関心と呆れが半々と言ったところか。足場としている残骸が壊れるまで剣戟を続ける。

 

 

 遠すぎる。

 

 

 超人二人の戦いを見ていたゾロが始めに思った感想はそれだった。

 不安定な足場を跳びはねながらぶつけ合う攻撃はどれも必殺になりうる一撃。間合いを離したと思ったら衝撃波で対抗し、瞬時に間合いを詰めたと思えば一撃必殺と言ってもよい攻撃を何度も繰り出す。

 そこから生み出される影響は周りの被害をみれば一目瞭然だ。迎撃しようとしていたコックは疎か、襲撃しようとしていた海賊たちすら、まるで夢を見ている様に二人の戦いから目を離すことが出来ない。

 

 ミホークは迫りくる攻撃を剛で斬り伏せ、時に柔で外す。

 勇儀は切り裂きにくる斬撃を叩き落とし、時に避けながら攻撃を繰り出す。

 

 もし自分がミホークと戦う時、勇儀のように善戦出来るだろうか?

 いつ無くなってもおかしくない不安定すぎる足場を跳躍しながら最強の剣士が繰り出す斬撃を往なせるのだろうか。

 

 ゾロは自分が勇儀の立場になった時、ミホークと互角に戦えている自分を想像することが出来ない。

 手を伸ばせば届くどころか、姿を見ることすらできない。

 それほど自分が目指す場所が遠いのだと確信させられた。

 

 

「・・・力もある。“覇気”も申し分ない・・・が、如何せん経験不足か」

 

「ッが!?」

 

 

 幾多の剣戟を制したのはミホークだった。

 黒刀の剣先ではなく、柄を使って勇儀の頬を殴りつけたのだ。

 黒刀を前にして、刀は刃で攻撃するという先入観があるが故に予測することが出来なかった勇儀はその攻撃を受けはしたがすぐに体制を立て直す。数分は疎か、数秒で意識外の攻撃から回復しただけでも十分褒められるであろう。だがその数秒がこの戦いで致命的な隙を生む。

 

 

「・・・まだやる気か?」

 

「・・・あぁー。今のは流石に致命的だったか。流石に背を取られて刃を添えられたとなればぐぅの音も出ない。私の負けだ」

 

 

 勇儀の首筋に添えられるはミホークの愛刀である黒刀『夜』。

 それも背後を取られての結果に勇儀は素直に負けを認め、戦意はもうないと両手を上げた。

 

 

「・・・どうかね?あんたから見て、私は偉大なる航路(そちら側)でも通用するかい?」

 

「申し分ない。ただ経験が能力に対して追いついていないな。それが補完されれば十分だろう」

 

「そうかい。そりゃあよかった」

 

 

 力はあるが経験不足。そうバッサリと言われた勇儀は負けたことに少々残念そうであったが、ミホークに対して礼を述べる。東の海(イーストブルー)では滅多に見ることが出来ない圧倒的強者によるじゃれ合いが今終わった瞬間でもあった。

 

 

 

 勇儀がミホークに対して持ちかけたのは手合わせ。それも完全な自己満足を求めての行動だ。

 その際に威圧されたことで傍に居たヨサクとジョニーは気を失いかけていたのだが、勇儀はそれを楽しそうに笑い飛ばした後にヨサク達の船へと乗り込んだ。

 

 近づいた後に何度か言葉を交わした後、クリークの一味が騒ぎだしたことに対してミホークが不愉快そうに船を叩き切った後、勇儀にも同じ攻撃を繰り出したのだがそれを相殺。相殺されるとは思っていなかったミホークが勇儀のポテンシャルに興味を持ったことで今回の手合わせが実現した。

 そしてその結果は勇儀の降参。人外との戦闘経験はあっても、対人戦の経験が不足していたことによる差が決着を分けたと言っていいだろう。

 

 

「負けはしたがいい経験になった。感謝するよ」

 

「こちらも楽しめた。貴様の名はなんという?」

 

「勇儀。星熊 勇儀だ」

 

「勇儀か。憶えておく」

 

 

 互いに楽しめたと言葉を交わし合う。

 ミホークはそのまま自分の船に乗り込もうとしていたのだが・・・

 

 

「待て!!」

 

「・・・・・・」

 

「ゾロ?」

 

 

 ゾロがこちらに近づいてきたのだ。

 よく見れば手が少し震えている。こちらに近づいてきてどうするつもりなのかと勇儀は思っていたのだが、あろうことか勇儀が行ったことと似て似つかない勝負を申し込んだ。

 

 

「哀れな・・・弱き者よ。貴様もいっぱしの剣士であれば剣を交えるまでもなく、おれとの実力の差がわかるはず。それも先ほどのじゃれあい(・・・・・)を見ていたのならば猶更よ。おれに刀を突き立てる勇気は己の心力か?」

 

「おれの野望のため。そして親友との約束のためだ」

 

 

 腕につけたバンダナを頭に移し、ゾロは刀を抜いた。

 船を軽々と廃材にしたあの戦いをじゃれあいと言い切るミホークの言い分にクリーク一味の船員(クルー)は言葉を失っている。コックたちも然りであり、一端のゾロも自分とミホーク、勇儀の間にある力の差を理解していた。

 だがそれを理解していながらも、ゾロはこの場で何もしなければ自分の中で決定的な何かが崩れると確信していた。

 

 

「力の差を知りつつもおれに挑みに来る武勇・・・それは褒められたものではない」

 

「・・・ゾロ、やめときな。わかってるんだろう?」

 

「黙ってろ勇儀。・・・わかってる。だが、奴と、追い求めた奴と!出会ちまったからには・・・動かねきゃいけねぇだろうが!!」

 

 

 ミホークと対峙している男が“海賊狩り”だと気づいたクリーク一味にコックたちはざわつきだす。

 世界最強の剣士と海賊狩り。

 一体どちらが強いのかと再び二人の場を見つめ始める。

 

 ミホークは勇儀との戦いで使っていた刀を背に戻し、首にかけていた十字架を手に取った。

 それは単なるアクセサリーではなく、十字架の形をしたナイフだ。ミホークはそれを武器としてゾロと対峙する。

 

 ゾロはそれを見て、何も言わない。

 力の差はこれでもかと見せつけられた。そしてミホークに敵わなかった勇儀にも一度も勝てていない自分が勝てる道理などあるわけがない。

 故に黒刀でなく、ナイフに持ち替えられたことに屈辱を覚えはすれども激高することなどしなかった。

 

 先に攻撃を仕掛けたのはロロノア・ゾロ。

 得意の三刀流を構え、技を放つ。

 

 

「三刀流“鬼斬り”!!」

 

「――・・・」

 

 

「ゾロ・・・?」

 

「アニキの“鬼斬り”が止まった!!?」

 

「出せば100%相手が吹き飛ぶ大技なのに!?」

 

 

 ミホークは一歩も動かずに、ナイフでそれを制した。微動だにせず、ゾロを見据える。

 すぐに身を引き、再び技を放つも結果は同じ。三本の刀で攻撃しようとも全てナイフでいなされている。

 

 

「~~ッ!!うおぉおおぉおおっ!!」

 

「・・・なんとも凶暴な剣よ・・・・・・」

 

 

 ミホークに全ての攻撃をいなされながらも思うは親友との約束。

 一人旅を始めてここまでの記憶。

 

 

「貴様は何を背負う。強さの果てに何を望む?・・・弱き者よ」

 

 

「!!アニキが弱ぇだとこのバッテン野郎!!」

「てめぇ思い知らせてやる!その人は・・・」

 

「やめろ手を出すな!・・・ちゃんと我慢しろ・・・!!」

 

「ルフィ・・・」

 

 

 ゾロが弱いと言い切ったことで激高したヨサクとジョニーをその場で抑えつけるルフィ。すぐにでも手を出しに行きたいであろう気持ちを抑え、ゾロの戦いを見届ける。

 相手は長年追い続けてきた男 鷹の目のミホーク。

 この戦いを邪魔することはゾロの思いや生き様を全てヘシ折ってしまうことをルフィは理解していた。ゾロと始めに出会ったときに約束したことを忘れるルフィではない。勇儀も男の戦いに一切手を出すことも、助言するようなこともせずに見届ける姿勢だ。

 

 

(遠い・・・遠すぎる・・・だからと言って・・・退いていい理由にはならねぇだろうがぁ・・・ッ!!!)

 

 

―――三刀流“虎狩り”

 

 

  ズバン!!!

 

 

「・・・・・・・・・!!」

 

「「アニギぃぃぃぃいいっ!!」」

 

 

 ゾロが放つは“鬼斬り”と並びにゾロが誇る大技。

 刀を背に構え、力と共に一気に振り下ろす大技は受けた相手を確実に吹き飛ばすほどの威力を有する。しかしその攻撃を見切られ、ミホークが操るナイフが逆にゾロの心臓部へと突き刺さった。

 刺されたことで叫ぶヨサクとジョニーの声が、ゾロの耳には遠く聞こえた気がした・・・。

 

 

 

  ―――

 

 

  

「相当な力だね。その力で刀を振ってよく駄目にならないものだよ」

 

 

 ここに来るまでの航海中、勇儀と手合わせをしていたゾロはそういわれた。

 

 

「攻撃を受けていて思ったがあんたは力に頼りすぎなんじゃあないかい?叩き切る剣じゃなく、切り裂く刀を使ってるんだ。もうちっと力の流し方を覚えたがいいと思うよ。力だけに頼るのは愚策じゃないか?」

 

「叩き切るんじゃなく、切り裂く・・・」

 

「なんていうんだったか・・・柔の剣と剛の剣だっけ?あんたはちと剛に頼りすぎている気がするね。柔も極めたほうが効率よく斬れるんじゃないかい?」

 

「別に柔の剣が使えねぇってわけじゃねぇよ。ただこっちのほうがおれに合ってるから使ってたってだけだ」

 

「そうかい。使えるならそれを私に見せてみなよ。正面から叩きつぶすからね」

 

 

 勇儀にそう言うと勇儀は楽しみを見つけたような表情になり、ならそれを使ってみろと言ってくる。

 ゾロはその挑発に乗り、勇儀に斬りかかった。

 

 

 

  ―――

 

 

 

(なんで今そんなことを思い出してんだ・・・刺されたってのに・・・)

 

 

 ミホークに刺され、いつでも殺されるという状況であるにも関わらず、走馬灯のように頭に浮かんだのは勇儀との手合わせする場面だった。

 剛で敵わないなら柔で抗う。そんなことを思いながら斬りかかったあの時は結局勇儀にかすり傷すら負わせられずにゾロの負けになったのだが、いずれ追いつき、抜かすと誓った場面。

 斬れると信じ、刀を己の一部として扱えるようになればいいのではないかと言った勇儀の言葉が頭に残る。忘れてはいけないような気がしたからだ。

 

 

「・・・このまま心臓を貫かれたいか?何故退かん」

 

「わからねぇ。ここを一歩でも退いちまったら、おれの中で、大事なもんが全部ヘシ折れて、この場所に二度と返ってこれねぇ気がする・・・」

 

「そう。それが敗北だ」

 

 

 ゾロの考えを肯定するミホークを見て、ゾロは己の中で何かがかみ合った。自然と口から笑いが出てくる。

 自分が頭に浮かべていた疑問をミホーク(目標)が肯定したのだ。間違っていなかったことにゾロはよかったと思った。

 

 

「なら猶更退けねぇ…ここで退いて、今まで生きてきたおれの人生全て否定して、帰ってこれなくなるぐらいなら・・・死んだ方がマシだ!!」

 

「!」

 

 

 ゾロの覚悟を聞いて、ミホークはナイフをゾロから引き抜いた。

 

 

(強き心力よ。敗北よりも死を選ぶか)

 

 

 敗北して助かるよりも、死んで勝負に逃げないほうを選んだゾロにミホークは敬意を評した。

 世界最強の名は伊達ではない。ミホークはその名を冠するまでに数多の剣士と切り結んできた。その際に情けない姿を晒す者や、勘違いで死んでいく者、慢心で志半ばで折れる者などをこれでもかと見てきたのだ。

 

 もしゾロがここで折れていればミホークは完全に興味を失い、そしてナイフを突き刺していただろう。だがゾロが選んだのは敗北よりも死。己の道・己の心が折れない強靭な精神力を前にして、先ほどの考えを改めた。

 

 

「・・・・・・小僧。名乗ってみよ」

 

「・・・ロロノア・ゾロ」

 

「ゾロか。憶えておく。久しく見ぬ“強き者(・・・)”よ。その強き心力を有する男に最たる敬意と礼儀を以て、世界最強のこの黒刀で沈めてやろう」

 

 

 ミホークがナイフを仕舞って背の黒刀を抜いた。

 それはミホークが抜くほどの相手だと認めた証。圧倒的な実力差はあれどもミホークに認められた決定的な瞬間であった。

 

 

(これが最後の一撃か・・・外したら死ぬな・・・世界一か死ってか・・・いや、違う・・・外したら死ぬ?ちげぇだろ・・・当てて勝つ(・・・・・)

 

 

 最後に構えたゾロは一矢報いるという弱気な考えを切り捨てた。

 勇儀との手合わせで言われた事が頭に残る。そしてこれは大切なことだ。斬れるからこその刀。使い手がそれを信じれずにどうするのだと。

 弱気で挑むのは己を認めてくれたミホークに対する無礼でもある。胸部を刺され、血もかなり失っている。そんな状態であっても、弱気で向かい合うのはあってはいけない。後ろ向きになっていた自分に喝を入れ、刀を握る手に力を込める。

 

 

(ここで勝つ。・・・野望を叶えるためにも・・・くいなとの約束を果たすためにも・・・!!おれが信じねぇで何を斬れる!ぜってぇ勝つッ!!)

 

 

「強き者、ロロノア・ゾロよ。ここで散れ!!」

 

「はァ・・・はァ・・・ッッ!!己の理想()に・・・斬れぬ物なし!」

 

「ッ!!」

 

 

 (相棒)を信じるはそれを振るう自分自身。決して疑わず、相手を斬れると信じて通す。

 狙うは最強。最強であると疑わず、慢心せずに風車のように刀を回す。

 

 対するミホーク。何かに気づき、瞬時に構えを変えた。

 

 

「三刀流奥義!!!」

 

「・・・―――黒刀・・・」

 

 

 溜を終えたゾロは一気に飛び出し、間合いを詰める。

 ミホークはその場で迎撃の構える。

 刀を振るうのは互いに同じ。

 

 

「 “ 三・千・世・界 ” !! 」

 

「“月影”」

 

 

 瞬時に斬り抜け、背を向け合う。

 両者の間に鮮血と砕けた刀が飛び散る。

 

 

「・・・・・・つえぇな・・・最強の壁は・・・」

 

 

 両手に持っていた砕けた刀を一瞥し、ゾロは意識を手放した。

 




 
 
 Q.
何でミホークと勇儀の戦いでは斬らなかったのにゾロは斬ったの?
 
 
 A.
勇儀のは手合わせというじゃれあいであってミホークを殺す気が全くなかったため。それに対してゾロは完全にミホークを斬って越えるために挑んだことでミホークもそれに乗った感じ。 
 


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星熊童子と航海士 1

 
 
 「『できる、できない』を決めるのは自分だ」

 
    by.松岡 修造
 
 


 

 

「ゾロォーーっ!!うわあああああああああ!!」

「ゾロ!!」

「「アニキーーーー!!」」

 

 

 最強の剣士と海賊狩り。

 

 この戦いを制したのは鷹の目のミホークであった。

 嵐の如き突撃を受け流しつつも黒刀をゾロの胴体へと滑り込ませたのだ。

 微細なミスが起これば己にダメージを受けかねない攻撃を見事に捌き、一刀を以て斬り伏せる。黒刀の一撃を受けた衝撃でゾロが手に持つ無銘の二振りは修繕不可能のレベルまで砕け散った。

 

 袈裟に斬られたゾロ本人はそのまま気を失って倒れこむ。位置が悪く、そのまま海に落ちようとしているところを勇儀が受けとめた。ゾロの容体が心配で海へと飛び込み、泳いできていたヨサクとジョニーを掴んでそのまま小舟へと跳躍。すぐにゾロを寝かせる。

 深く斬りつけられてはいるものの、ゾロは即死はしていない。ミホークが殺す気がなかったためだろうが、このまま放置していれば出血多量で死ぬことは容易に予測できた。

 

 

「チキショォオッ!!ゴムゴムのォ~!!」

 

「若き剣士の仲間か・・・貴様もまた、よくぞこの戦いを見届けた・・・!」

 

 

 そんなことは知らないルフィは腕を伸ばしてミホークへと攻撃を繰り出す。・・・が、腕を伸ばした後、体当たりを決行。だが線がわかりやすく、攻撃は読みやすい。さらに怒りで単調になっている攻撃は難なく躱された。

 躱されたことで廃材に突っ込んだルフィはすぐに体制を整える。立て直したところでミホークがルフィに言葉をかけた。

 

 

「そう急ぐな。心配せずともあの男はまだ生かしてある」

 

「!!」

 

「アニキ!アニキィ!!返事をしてくれ!!」

「船に傷薬ぐらいあるだろう?すぐに持ってきな!」

「わ、わかりやした!!」

 

 

 ジョニーの声に我に返るルフィの視線の先には勇儀によって船に乗せられたゾロが傷薬をかけられているところだ。気を失っているゾロに対してミホークが声を張り上げる。

 

 

「我が名はジュラキュール・ミホーク。ここで貴様が死ぬには惜しい。己を知り、世界を知って、強くなれロロノア!この先幾年月でも最強の座にて貴様が登ってくるのをおれは待つ!猛る己が心力を挿して、この剣を・・・このおれを越えてみよロロノア!!!」

 

「・・・・・・鷹の目のミホークにここまで言わせるとは・・・あいつ、相当気に入ったのか」

 

 

 ミホークの行動に驚いているのは偉大なる航路(グランドライン)を経験しているゼフ。世界の頂に立つ男が一介の剣士にここまで言い放ったことに驚いたのだ。

 周りのコックたちは言葉を失っている。

 

 

「ロロノアの仲間の小僧よ。貴様は一体何を目指す?」

 

「海賊王!」

 

「なるほど・・・それはただならぬ険しき道ぞ。このおれを越えることよりもな」

 

「これからなるんだ、知らねぇよそんなこと!おいウソップ!ゾロは無事か!!?」

 

「無事なわけねぇだろぶった切られてんだぞ!!でも生きてる!気を失っているだけだ!!」

 

 

 傷薬だけでなく包帯も巻き始めているウソップが叫ぶ。生きているゾロの容体を悪化させないために慌ただしく動くウソップ達であったが、行動を止めざるを得なかった。

 ゾロが唯一無事であった刀を掲げたのだ。

 

 

「・・・ル、ルフィ・・・聞こえる・・・か?ガブッ!ガハッ!!」

 

「アニキ!!しゃべらねぇでくれ!」

「アニギ!!」

 

「二人とも黙ってな。ゾロの言葉が聞こえない」

 

 

 勇儀がヨサク達を黙らせるとゾロは言葉をつづけた。

 

 

「不安に・・・させたかよ・・・おれが、世界一の・・・剣豪にくらい(・・・)ならねぇと・・・お前が困るんだよ・・・なっ・・・!ガフッ!・・・・・・おれは、・・・おれはもう!二度と敗げねぇから!!!あいつに勝って!大剣豪になる日まで、絶対に!絶対にもう、おれは敗けねぇ!!!・・・ハァ・・・はァ・・・文句・・・あるか、海賊王!!」

 

「しししし!!ない!!!」

 

 

 ゾロの覚悟を聞いたルフィは笑顔で答えた。それを聞いたゾロはすぐに気を失う。そしてウソップ達によって船の中へと運ばれていった。

 

 

「勇儀といい、ロロノアといい、良いチームだ。偉大なる航路(グランドライン)へ入った後、成長したお前たちとはまた会いたいものだ」

 

 

 ゾロの宣言を聞き、ミホークは表情には出さないものの喜んだ。

 退屈であったために暇つぶしを決行して、クリーク海賊を追い詰めていたミホークは最弱と評される東の海(イーストブルー)での思わぬ収穫に満足していた。これからこの者たちが世界に名を馳せていくことも確信している。

 

 

「ちょっと待てや鷹の目・・・!悪いこったぁ言わねぇ。帰る前に死んで行けや!!!」

 

 

 不意打ちの如く銃弾の雨を作りだすクリーク。

 弾丸がミホークを貫くよりも早く、ミホークは海を斬ることで波の壁を作り出す。下手をすれば人を攫えるほどの威力の波は弾丸を飲み込んで、海の底へと押し込んでいった。

 

 

「・・・チッ、あの野郎逃げやがったか」

 

 

 ミホークが逃げたことを悟ったクリークは毒づくが、すぐに思考を入れ替える。

 本来の目的は海上レストランをそのままいただくこと。今から一番為すべきことであり、それ以外は順位が下がる。慌ただしい船員を黙らせるとすぐにレストランへと向かい合った。

 

 

「うわっとっとと!!」

 

 

 ルフィはミホークが海を巻き上げた衝撃でその場から飛ばされ、レストランの柵になんとかしがみついていた。

 海に落とされなかったことに安堵し、すぐに船員に指示を飛ばす。

 

 

「お前ら!先に行っててくれ!俺はまだここでやらなきゃいけねぇ!」

 

「・・・!わかった!おれ達はナミを必ず取り戻してくるから、お前はコックをしっかり仲間に入れてこっちに来い!6人揃ったら、そんときゃ行こうぜ!“偉大なる航路(グランドライン)”に!!」

 

「ああ!行こう!!」

 

 

 メリー号を追いかけるためにそのまま出航したウソップ達はルフィと別れる。

 その後ミホークという最大の難敵が消えたことによって活気づいた海賊たちの雄たけびと海のコックたちの鼓舞の声が海域一面に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇儀やゾロを乗せた船をウソップはそのまま進めていく。

 海のコックたちとクリーク一味の騒がしい喧噪の声が聞こえなくなったところで勇儀は思ったことを口にした。

 

 

「なぁウソップ。『バラティエ』にメリー号を泊めていた筈だろう?なんでヨサク達の船で向かっているんだい?あの船はルフィじゃ動かせないだろう?」

 

「お前知らなかったのかよ。メリー号や宝はナミがまとめてトンズラしちまったんだよ。だけどルフィがどうしてもナミを航海士にしたいらしくてな。今から追いかけに行くってことさ」

 

「メリー号ごと持っていかれたってわけかい?・・・はははは!」

 

「おま・・・笑いごとじゃねぇだろ!カヤからもらったメリー号を盗られたんだぞ!お前は何も思わねぇのかよ!」

 

 

 ナミの行動を知って勇儀が笑い出す。

 ウソップ的には勇儀が怒ると思っていたようで、まさか笑い出すとは思わなかった様子。

 

 

「いやはや、まさかナミがここまで大胆な行動に出るとは思わなんだ。いつか行動するとは思っていたがここまでとはね」

 

「お前、ナミがおれ達を裏切るって思ってたのか?!」

 

「・・・あー、そういやぁウソップはあの時居なかったね。ルフィが勝手に航海士としてのポジションにナミを入れ込んでいたが、ナミ自身認めていなかったんだ。共に行動していたのもあくまで“手を組んでいた”だけ。ナミはまだ仲間として正式に入っていたわけじゃないんだよ。今ナミが行動したってことは私達と関係を切っただけのこと。私個人としては特に思うことはない・・・。・・・・・・」

 

 

 そこまで勇儀が言ったあと、肝心なことに気づく。

 常に手元に置いておいた盃と瓢箪がないのである。ミホークと闘いをする前に船に置いたままにしていたのだ。外に置いておくと海に落ちる可能性があったために船内に入れて置きはしたが、今現在メリー号はナミが乗って行ってしまっている。

 つまり状況が状況なだけに仕方ないのだが、“星熊盃”と“伊吹瓢”共にナミに盗られた形になる。その二つはこの世界に生まれ落ちてから常に持っていた物であり、勇儀にとってルフィの帽子と同じように大切にしていたものだ。

 

 そのことに気づいた勇儀は先ほどまで楽しそうにしていたのから一変して真顔になり、そのまま備え付けの櫂を手に船尾へと移動。すぐさま漕ぎ始めた。

 並の筋力ではそこまで航海に影響は及ぼすことはないが、生憎勇儀には鬼の筋力が備わっている。風の力で動いていた船は勇儀が生み出した推進力を得て数倍の速さになって動き始めた。

 

 

「お、おい勇儀?どうした?」

 

 

 真顔で更に全力で漕いでいる姿は正直な所怖い。

 ウソップは顔を引きつらせながら問うが回答は急がねばの一言のみ。ゾロがミホークとの戦いで負傷しているため、今いる戦闘要員は勇儀だけになってしまっているのだが、これで大丈夫なのかと頭を抱えるウソップであった。

 

 

 

  ―――

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!このまま進むとあの場所(・・・・)に着いちまうんじゃねぇか!?」

 

 

 勇儀の働きによって船は想定以上の速さで進んでいく。

 海上レストランから結構な距離を進んだところでヨサクが何かに気づいて声を上げた。

 

 

「?あの場所ってなんだ?」

 

「この先にはアーロン一味が支配している土地があるんです!このまままっすぐナミの姉御が行ったのだとしたら奴らに見つかっちまう!」

 

「アーロン?・・・あぁそういやナミはよくそいつの賞金首のリストを見ていたね。だったら猶更そこに向かわなきゃいけないだろう?船を盗られてるんだし、何よりもいかないと私の物も盗られたままになっちまう」

 

「確かにそうなんですが、これはルフィの兄貴たちにも知らせなかきゃいけないことですよ!このまま奴らと敵対するのはほんとにまずいんですから!」

 

 

 ウソップや勇儀の言葉に対して本当にまずいというヨサク達。相手は個体数は人間よりも少ないとは言えど、海中を自由自在に泳ぎ回ることが出来る魚人海賊団。

 海で戦う事にでもなれば万一も勝てる見込みは存在しないだろう。況してはこちらの戦力の一人は大けがを負い、もう一人は能力者。海で彼らと戦うことは自殺行為の何者でもない。

 

 

「かといって今から船を戻すわけにもいかないだろう?あれだけの事を言ったんだ。最低でも船は取り返しておきたいところだ。私があんた等どっちかを投げ飛ばそうとしても流石に届かないだろうし・・・どうしようか?」

 

「泳いでいけばいいじゃねぇか。ヨサクおめぇ泳ぐの得意だったろ?行ってこい」

 

「そ、そんなアニキ!殺生な!いくら何でもこの距離だと力尽きますって!!」

 

「なにかいい方法がないかねぇ・・・ん?ありゃ魚かい?」

 

「だな。結構でけぇな」

 

 

 船の横では人を丸のみ出来そうな魚が海上付近を泳いでいる。

 ふと勇儀は何を思ったか船の中へと入って行き、すぐに出てくる。その手には魚の餌にでもするのか食料があった。

 それを魚の近くに投げてやり、それを食べたらまた近くに投げるを繰り返し、船に魚を寄せていく。頑張れば手が届きそうな場所まで誘導した後、勇儀は行動を開始。一瞬だけ腕を海の中に突っ込んだ後、水を持ち上げるように高く腕を掲げた。

 その結果何かの攻撃を受けたように水柱が上がり、近くの魚は空へと投げ出される。落ちてくるその魚を掴んだ勇儀はそのまま悪い笑みを浮かべた。

 

 

「おっし、ヨサク。あんたこいつに乗って『バラティエ』まで行きな」

 

「え、あ・・・はい?勇儀の姐さん。何を?」

 

 

 勇儀から逃げようとする魚――見た目は明らかにサメ――はビチビチと暴れようとするが勇儀の圧に負けて静かになる。その後に餌付けをしてながら提案する勇儀の言葉をヨサクは何を言っているのか理解できなかったに違いない。

 

 

「いや、だからルフィ達の元に向かう手段だよ。こいつに乗って行けばすぐに着くんじゃないかい?」

 

「いやいやいやいや!!明らかにサメじゃないっスか!?こいつに乗ったら最後、二度とアニキ達に会えなくなっちまう未来しか見えませんって!!」

 

「そう言うな。ほれ」

 

 

 カプッ

 

 

「えっ」

 

 

 サメの口の中にヨサクをピットイン。

 サメの歯がホオジロザメのように鋭くなっていないのが幸いだ。最もやってることは明らかに虐待レベルの行動なのだが。

 下半身を丸飲みにされたヨサクは今の状況を理解できずにいた。そんなことは当然無視して勇儀がサメに語り掛けている。

 

 

「いいかい?このままあんたはまっすぐ進むんだ。今口に入れてるやつはたべちゃあいけないよ?重要な伝言役なんだ。ずっとまっすぐ進むと大きな船がある。そこまでこいつを運んでやってくれ。ヨサクに食べ物持たせておくからちゃんと行ってくれ。・・・頼んだよ?」

 

 

 傍から見れば可哀そうな人にしか見えない行動であるが、サメはそれを理解したかのように海へ戻り、ヨサクが溺れないように海上すれすれを泳ぎだす。

 

 

「だばだばばばばばばばばああばばばばばばば!!」

 

「ヨサクぅ!頼んだよぉ!」

 

 

 突然サメの口に入れられて、餌を持たされたヨサクは理解できぬままそのままサメと共に姿を消した。綺麗にまっすぐ進んでいったのであのまま行けば大丈夫だろう。

 

 

「なはは!いやぁ昔から動物と意志疎通とまではいかないが、こちらのことを理解してくれるんだよ。こういう時にはほんとに助かるね」

 

「流石に理解が追いつかなかったぜ・・・」

「・・・・・・なにもツッコまねぇぞ」

「・・・死ぬなよ、相棒」

 

 

 ヨサクが消えていった後、正気に戻るのに時間がかかったウソップ達はやはり勇儀もルフィと同じく変わり者だと再確認。そして彼らはヨサクの身に起ったことに対して何もいうことはなく、無事を祈った。ただただ無事を祈った。自分があの立場に成らずに済んだことに安堵した。彼らは薄情であった。

 

 

 

 

  ――

 

 

 

 

「おお!長旅だったな。どうだった、今回の収穫は?」

 

「上々ってとこ。でも心にポッカリと穴が開いちゃった気分。あまりいいものじゃないわ」

 

「シャハハハハハ!!おめぇ一体いつからそんなセンチメンタルなことを言うようになったんだナミ!盗みと裏切りはお前の十八番(オハコ)だろうがよ!」

 

「あら、そうだったかしら?」

 

「まぁいいさ!俺は今機嫌がいいんだ。おう同士たちよ!長旅から仲間が帰ってきた!宴の準備だ!」

 

「「「「 うぉおおおお!! 」」」」

 

 

 懸賞金2000万ベリーがかけられている海賊“ノコギリのアーロン”の元に一人の女性が友人に出会うように自然体でアーロンへと近づいていく。それをアーロンは何ら疑問を持つこともなく受け入れた。

 魚人では非ず、人間である彼女がアーロンに気安く声をかけることはアーロンの思想を知っていれば死を招く行為だ。だがアーロンは怒るどころか歓迎の意志すら見せている。もしも彼に支配されている人間から見ればその光景は驚愕するものだろう。

 

 だが実際はそこまでに至るほどのものではない。そのわけは彼女の肩にあるタトゥーが答えを出していた。

 ノコギリザメをモチーフとしたそのマークはアーロン一味の海賊旗に使用されている物とまったく同じもの。つまり彼女は人間でありながら魚人海賊団 アーロンの一味の仲間であるのだ。

 

 アーロン一味幹部 ナミ

 

 それがナミの裏の顔。

 ルフィ達と出会うずっと昔から彼女はアーロン一味の仲間だったのだ。

 

 

「それにしてもおめぇあんな大層な船をもかっさらってきたならそのままこのアーロンパークに来ればよかったねぇか。手間だったろう?」

 

「そうでもないわアーロン。それにここの入り口の前に船があっても邪魔なだけでしょう?ならそこらへんに放置しておく方がいいわ」

 

「シャハハ!ちげぇねぇ!」

 

 

 近くにあった紫色の瓢箪(・・・・・)を手に取り、アーロンは歓喜の声を上げた。

 



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星熊童子と航海士 2

 
 
 航海士1を投稿した際の感想でほぼ全てがアーロンの追悼で笑ってしまいました。感想を書いてくださった皆様、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました!
 
 
※海軍少佐を海軍大佐に修正しました。ご指摘ありがとうございました。
 



「つ・・・着きやした・・・!」

 

「これがアーロンパークってやつかい?でもメリー号が見えないねぇ・・・」

 

 

 何事も無く目的地へと到着した勇儀たちは斬りこもうと提案したゾロを抑え込みつつメリー号を探す。

 ナミがアーロンの元に向かったとしてもこちらがまずやらねばいけないことは盗られたメリー号の捜索と星熊盃・伊吹瓢を取り返すことだ。最も後者は勇儀にとって最優先事項である。

 

 

「おっ!あったぞメリー号!あんなところに泊めてやがる!」

 

「でも泊まってる場所がなんかおかしいっすよ。地図上ではこの辺りにココヤシ村とゴサの村あるんすけど、あの場所だと二つの村の間に泊めてることになります」

 

「そうかい。ま、見つけたんだからいいさ・・・ねっ!」

 

「ちょっ!姉御!?」

 

 

 少し船を進めるとメリー号を発見をしたがジョニーがその位置について疑問を持った。が、生憎この世界の地理など知るわけでもなく、興味を持たない勇儀は気にも留めずに跳躍し、メリー号が泊まっている近くに着地した。

 

 

 楽しそうに話し合っていた魚人たちの間に入るように。

 

 

「・・・えっ?」

 

「ん?あぁ、すまない邪魔したね。私はあの船に用事があるからこれにて失礼」

 

 

 日本人が人の間を通り抜ける際に手刀を前に出すように勇儀もそれに倣って魚人たちの間を抜けていく。

 突然現れた異端者(人間)に唖然としていたが我に返り、船に乗り込もうとしていた勇儀を呼び止めた。

 

 

「おい貴様は何者だ!?その船に一体なんの用事がある!」

 

「ん?私は勇儀。通りすがりの忘れ物を探しに来た人間さ」

 

 

 もういいかい?

 そんな言葉を返しつつ勇儀は船に踵を返そうとするが魚人たちに妨害された。

 

 

「まぁ待ちな。この船は今俺らアーロン一味が受け持ってんだ。貴様はこの辺じゃ見かけたことがねぇ。不審人物はまず取り調べしなきゃならねぇ。反乱因子は摘み取るに限るからな」

 

「アーロンさんの所にあんたを連れていく。選択する権利はねぇぜ」

 

 

 

「(おいおいおいおい!こりゃまずいっすよウソップの兄貴!!)」

 

「(待て待て待ておちちちつけ。勇儀よりもまずおれ達が見つからないように行動しなければいけねぇ!仲間がいるとバレたら向こうも仲間を呼ぶ可能性だってあるんだ。生憎奴らは俺たちに気づいていない!難が過ぎるまでここで待機だ!)」

 

 

 勇儀を囲むは3人の魚人たち。

 ジョニーとウソップは勇儀が魚人に囲まれていることを確認すると、その場で船を止めて成り行きを見守ることにした。

 

 

「そういやあんた、突然空から現れたが一人で来たのか?」

 

「いや?船でここまで来たよ?ほら、あそこさ」

 

「何!?」

 

 

「「・・・・・・・・・ッッ!!??」」

 

 

 ここに来てのまさかの裏切りにウソップ達は驚愕する。

 バレてしまったので隠すこともないのだが、勇儀の表情は悪だくみをする際に浮かべる笑みを浮かべていた。

 

 

「同行者も居やがったのか!おめぇらも・・・」

 

「まぁ、そんな面倒なことを私がやる義理なんてない。あんたらは寝てな」

 

「「・・・えっ・・・・・・」」

 

 

 勇儀からウソップ達が乗る船に魚人たちが視線を移した瞬間、彼らは地面に倒れこんだ。動く気配もなく、遠くからでも気を失ったことがわかる。

 ゾロも目を見開いているが、勇儀が行ったのはただの威圧。瞬間的に圧を高めてぶつけただけだ。暖かい部屋から冷え切った場所に移った際に体に鳥肌が立つように、物に勢いよくぶつかる際に身体が本能的に強張らせるように、瞬間的に高密度の威圧をかけることで反射的に意識を飛ばしたのだ。

 

 気を失った三人を放置したまま勇儀はメリー号へと飛び乗って船内へと入っていった。

 

 

「あんにゃろう・・・わかっていたが只者じゃねぇな・・・」

 

 

 ガレオン船を真っ二つにした最強と互角の戦いを繰り広げた一角の女の気迫を感じ取ったゾロは、目指すべき目標の高さを再確認して言葉を吐く。

 ミホークとの戦いで微かな違和感・・・とは言えないものの、何かに手が届きそうな感覚がしたのだがあれは一体なんであったのだろうか。

 

 そんなことを考えるゾロであったが、彼自身気づいていない。

 あの交錯した一瞬、ほんの瞬間的であったが黒刀『夜』と競り合ったことに。

 

 その後、慌てた様子の勇儀が魚人を叩き起こしている姿を確認し、再び騒然とするウソップ達であった。

 

 

 

 

 

 

   ――― 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとアーロン!あんた一体どういうつもり!?」

 

「あァ?どうしたってんだナミ?俺がお前になにかしたか?」

 

「あんたのとこの海軍が私のお金を奪いに来たわ!あんたが(けしか)けたんでしょ!約束は守るんじゃなかったのか!!」

 

「おいおい、一体俺がいつ約束を破ったんだァナミよ?」

 

「・・・・・・ッ!!」

 

 

 笑みを絶やさないアーロンはナミの口を手で塞ぐ。

 海軍を送り込んだことを本当に知らない・・・というわけでもなく、初めからこうするつもりだったという笑みだ。アーロンの反応を見て、ナミは確信した。この男は初めからこうするつもりだったのだと。

 

 

 アーロン一味が平和な東の海(イーストブルー)にやってきてからナミを含めた村の住民たちにとって最悪の時がやってきたと言っても過言ではない。

 人間よりも優れた身体能力と魚本来の特性を兼ね備えた魚人海賊団に抗った住民たちもいたが、その者たちは悉く壊滅。村もいくつか滅ぼされ、その魔の手もナミの生まれ故郷であるココヤシ村にも伸びてきたのだ。

 交友があった隣町のゴザの村が見せしめとして地図上から消されて以来、アーロン一味に従う方針にした村は月初めに奉具を収めることを強要され、収められなかった村は消されていく。村長を含めた住民たちは生き残る戦いをすべく、どんな要求にも従い、そして耐え忍んできたのだ。

 

 ナミは元々ココヤシ村の住民だった。彼女が海賊嫌いなのも本心からだ。

 アーロン一味が襲撃してきたとき、ナミが最も不幸だったのは海図を書くことに長けていたことだった。海賊団の襲撃に当時まだ8歳の子供であったナミが海図を隠そうとしても限界がある。そこでばれてしまったのだ。

 

 勧誘という名の強制的な拉致を受ける際にナミは母親と言っても過言ではない女性 ベルメール を殺された。更に強制的にタトゥーを彫らされ、仲が良かった村の住民たちからは裏切り者扱いを受けてきたのだ。

 ナミが生まれ故郷であるココヤシ村を守るためにアーロンに持ち掛けた取引。それが1億ベリーものの大金を以て、アーロンからココヤシ村を買い取るという内容だ。

 それを成し遂げるために綺麗であった手を汚して窃盗や裏切りを繰り返し続けて8年。1億まで残り500万ベリーに差し掛かったところに今回の海軍の強制徴収。目の前にいる魚人の男は一生1億ベリーを貯めさせずに使い潰すつもりであったのだ。

 

 

 それを理解し、無力さを痛感したナミの瞳からは大量の涙があふれ出てくる。

 絶対に許さないと、殺してやると頭に刻み込みながらも今の自分では殺すどころか傷一つ負わせることが出来ないことを知っていたからこそ、悔しかった。

 

 

「安心しろよナミ。俺だってそこまで鬼じゃねぇ。例え一億ベリー揃えれなかったとしても、世界中の海図を書き終えた暁には解放してやるからよ。シャーッハッハッハッハ!!」

 

「――ーっ!!!」

 

 

 一生解放しない。

 言葉を選んでいるがアーロンが言っていることはそういうことだ。

 現場に居ながらも何もできないことを悟っているナミは何とかアーロンの手を払うとそのままアーロンパークから走りだした。

 

 

「あんたもなかなかえぐいことをするなァ。アーロンの旦那」

 

「ナミほど優れた航海士を俺は知らねぇ。折角優秀な駒がいるのに手放す必要なんかねぇだろう?」

 

 

 そりゃそうだ。そんな魚人たちの笑い声がアーロンパークに満ちる。

 活気に溢れているアーロンパークの門が吹き飛び、笑いが一気に沈静化するのはナミがアーロンパークから出ていった後、すぐの出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畜生、畜生畜生!!

 

 アーロンから逃げるように走りながらナミは言葉を吐き捨てながら走った。

 サメ男のしたり顔が頭に残る。逃げ出したくても村のみんなのことを考えると逃げることも許されない。自分が死ぬなんて以ての外だ。

 

 

「アーロン・・・アーロンアーロンアーロンッ!!!」

 

 

 ただ走った。周りのことなど目にも留めずに走った。

 あふれ出る涙を拭うこともせず、口から出る罵言を止めることも出来ないまま走り続けた。

 

 村が襲われた後、海軍に救援を呼んだこともあった。

 だがそれはアーロンと癒着している海軍大佐によって妨害され、救いがないと教えるように目の前で船を沈められた。あの時の住民たちの顔が頭から離れない。最後の綱だった取引も今ではないも同然だ。

 これからも続くであろう絶望にナミは感情を自分で止めることが出来なかった。耐え続けた8年もの月日が無駄足に終わり、解放されることが無いとわかった以上自分ではもうどうすることも出来ない。

 

 

「前を見ないと危ないよ、ナミ」

 

 

 がむしゃらに走るナミは投げかけられた声に足を止めた。聞き覚えのある声だったからだ。

 『バラティエ』でトンズラを決めたときに置いてきた者が今この場所に何故いるのか。そんな疑問が湧く。

 

 

「・・・なにかあったのかい?」

 

「・・・・・・追ってきたのね。なに?私に償いでもさせるつもり?生憎だけど私は今あんたに構ってる暇はないの」

 

「償いなんてさせるつもりは無いが、一つ聞かせてくれ。“アーロンパーク”ってのはナミの後ろにある建物であってるかい?」

 

「・・・そうよ、それがどうしたの!?乗り込むつもりなら止めておきなさい。あそこにいるのは魚人海賊団を率いる凶悪な男。いくらあんたが強かろうとも殺されるわ」

 

「ふーん・・・そうかい。それならそれで構わないさ。私個人の用があるんでね」

 

「っ!!ふざけないで!殺されるとわかって そうですか って通せるとでも思ってるわけ!?あんたのような無謀な奴から死んでいくの!さっさとここから去りなさい!」

 

「私達と関係を切ったわりにやけに気を使ってくれるじゃないか。赤の他人なのに」

 

「―――ッ!!ふざけるな!!」

 

 

 無関係だと言う勇儀にナミが吠える。

 赤の他人と言われたことに対してナミは叫ばずにはいられなかった。

 

 

「関係ない?ふざけるな!私はあんた達から宝も含めて盗んだ!だけどあんたがアーロンに会う必要なんてない!ここから消えて!今すぐこの村から出て行って!!宝は返すから船を使って帰って!!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・っなによ、なによ!出てけって言ってるでしょ!出ていけ!出ていけ!!」

 

 

 ナミの言葉に何も言わず、ただ立つ勇儀にナミは拳をぶつけるが気にも留めない。

 出て行けと言葉を吐きながら勇儀の胸を叩くナミの拳からだんだんと力が抜けていき、最後にはナミは泣き崩れる。それを勇儀はやさしく抱きとめた。

 

 

「っ!・・・ひぐっ・・・うっ・・・」

 

「正直な所私にゃナミの辛さはわからない。さっきも言ったように私はここと無関係な人間さ。過去も知らないしアーロンがどんな奴なのかも知らない・・・だけどね、

 

 『友達』を泣かされて黙っている女じゃあないんだよ」

 

「!!・・・う、うわぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 胸の中でナミが泣き出すまで時間を有さなかった。

 今まで耐え忍んで泣くことはあっても他人にその涙を見せるようなことをしてこなかったのだろう。人肌の温もりを感じつつ泣き続けるナミを抱き留めていると落ち着いてきたのか少しずづ泣き止んできた。

 

 

「もう・・・大丈夫そうだね」

 

「うん・・・ありがと。人前で泣くなんて本当に久しぶりだわ。私にここまでさせちゃうなんて・・・この件は高くつくわよ?」

 

「ハハッ!それなら今から支払ってくるとするかね!只でさえ私のモンを持ってるんだ。さっさと返してもらうとするよ。それにナミまで泣かすたぁ黙ってられないからね」

 

「・・・いくら止めても聞かないでしょうし、もう私から止めないわ。でもね、これだけは言わせて。・・・・・・死なないでね」

 

「死なないさ。私を誰だと思っているんだい?」

 

 

 思いっきり泣いたことで気持ちに整理がついたのかナミが勇儀を気遣う。勇儀の性格を理解しているのか止めるのは無意味だと悟ったのだろう。そして最後の希望に縋る様な印象を勇儀は受けた。

 ミホークとの戦闘を知らないナミは勇儀の強さを知らないが、クロネコ海賊団のクロを単独で倒したりしていることからかなりの戦闘力を有していることを知っていた。故に信じたのだ。

 

 ナミを離して勇儀はアーロンパークへと足を進め、門の前で足を止める。普通ならば誰かを呼ぶか素直に門を開けるかをするのだが生憎そんなつもりは無い。

 拳で門を木っ端微塵に粉砕した後、アーロンパークへ悠々と足を踏み入れた。

 

 

「アーロンってやつに用がある。どこにいるんだい?」

 

 

 沈黙している海賊たちに勇儀は大きく言い放つ。

 そこに付属した笑みは極上の獲物を見つけた時のような獣のようで、美しい笑みだった。

 



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星熊童子とノコギリザメ

 
 
 アーロン君に『一人で頑張ったで賞』を進呈します。
 
 


 

 

「・・・アーロンってのは俺のことだが・・・何の用だ?」

 

 

 門を破壊して侵入してきた女を見据えてアーロンは自分がそうだと答えた。

 見たことが無い顔だったこともあり、警戒心を上げておく。額に角が生えている女が普通の女の訳がない。それもアーロンパークの門を破壊した張本人とあっては尚の事だ。

 アーロンが慕っている男、現・七武海のジンベエ。その男が着ている衣装に似た雅な着物を見事に着こなしている金髪の女は賄賂を渡しているネズミ大佐からの情報はない。ニュースや賞金首のリストにも載っていない存在だろう。

 

 多少の警戒心を抱きながらもアーロンは眼前の女を嘗めきっていた。

 なぜならアーロンは『魚人こそが至高の種族』という思想を持っているからだ。

 

 人間の数倍の筋力と耐久力を持ち、水中を自由自在に泳ぎ操る魚人という種族こそ、万物の霊長であると信じているアーロンは門を破壊した勇儀を見て多少は出来る女としてしか見なかった。

 魚人と比べて身体能力が遥かに劣る人間に何かされようとも微動だにしない。ましてやダメージを負うなどあり得ない。

 

 

「あんたが今持っている盃と瓢箪。それを返して貰いにきた。その二つは私の所有物なんだ。返して貰うよ」

 

「シャハハハ!初対面の相手に物を返せとせがむか!この二つは最高の品・・・そう簡単には渡せねぇよ。本当にてめぇの物なのかもわからねぇのに渡すわけねぇだろう?」

 

「あぁ、言葉が足らなかったようだ。すまないね・・・あんたに拒否権はない」

 

「―――ッッ!?!」

 

 

 そんな自身と誇りを胸に抱いているアーロンは予測出来なかった。

 女の言葉と共に自分の身が吹き飛ばされるなど予想できるはずもない。下等種族と見下している人間相手なら猶更だ。

 

 吹き飛ばされ、塀が崩れる。頬に感じる痛みから殴られたとアーロンは理解した。

 そう。痛みを感じたのだ。下等種族の女の攻撃で、だ。

 殴ってきた女を睨むとその手には瓢箪と盃が収まっている。あの一瞬で奪われたことに怒りが湧き出る。

 

 

「あんたがどれほど偉くてどれほど強いかなんて関係ない。興味もない。あんたは私の宝を勝手に盗っていき、私の許可もなく使用した。・・・まぁそれについては百歩譲っていいとしよう。だけどそれ以上にあんたはやらかしちまったのさ」

 

「あァ?俺の記憶が正しけりゃてめぇとはさっき言ったように初対面のはずだが?俺が一体なにをやらかしたってんだ?」

 

「私の『友』を、泣かすなよ」

 

 

 勇儀の表情は怒りではない。笑ってもいない。通常時に近いもの。

 それであっても先ほどとは明らかに違う異質さを醸し出していた。

 

 

「私はあんたに対してお願いでもなく、提案でもない。ただ報告をするだけだ。『私の宝は返して貰う』そして『ナミは私達(・・)が貰っていく』そしてそのために『あんたらはこの海から消えてもらう』」

 

「クククク。そうかい・・・てめぇはナミの差し金ってことか。丁度良かった・・・俺は今この怒りを誰かにぶつけてやりてぇところだったんだ」

 

 

 起き上がったアーロンのこめかみには欠陥が浮き出ている。勇儀の報告はアーロン達から聞けば不利益しかないもの。それも見下している存在に上から目線で言われれば怒るのも当然だ。

 

 アーロンの目が鋭いものへと変化する。

 勇儀は知らないがその目は怒りが頂点に達した海王類が見せるモノと同じもの。それ即ちアーロンの怒りが頂点へ達したことと同義である。

 

 

「――!」

 

 

 少量の水を手に取ったアーロンはおもむろにそれを勇儀へと投擲。それを一瞬訝しんだ勇儀は避けて躱す。

 すぐにアーロンは行動に移す。近場に水が存在するこのアーロンパークは地上戦を行うとしても最高の場だ。多少の水があれば己の身体能力を存分に発揮することが出来る魚人にとって最高の狩場と化していた。

 

 

「“(トゥース)ガム”!!」

 

「早いねぇ!」

 

 

 散弾のように飛ばしてくる水滴はマシンガンと思わせるほどの威力を誇る。それを波状攻撃にしながらも自分の歯を引っ抜き、手に収めて噛みつき攻撃を繰り出してきた。

 勇儀はその牙に噛みつかれないように身体を動かして躱し、アーロンは己の筋力にモノを言わせて連撃をかますが勇儀は攻撃の合間を縫った。

 

 

―――光鬼『金剛螺旋』

 

「がァッ!?」

 

 

 胴体へと滑りこんだ正拳がアーロンの身を後方へと飛ばす。

 人間の女に吹き飛ばされるアーロンを見て呆気に取られる船員(クルー)達であったがすぐに我を取り戻した。

 

 

「アーロンさんだけが海賊じゃねぇぞ!!」

「覚悟しろ女ァ!!」

 

1対1(タイマン)勝負に水を差すものじゃない・・・失せろ」

 

 

  『鬼気狂瀾』

 

 

「がっ!?」

「うっ・・・」

 

「お前ら!?・・・チィ!魚人空手“千枚瓦正拳”!!」

「嘗めんなよ!“水千砲”!!」

 

 

 瞬間的な威圧によってドサドサとその場に崩れ落ちる仲間を見て、アーロン一味の幹部たちは動く。

 

 エイの魚人である クロオビ は己の必殺技を放ち、

 キスの魚人である チュウ は勇儀の退路を無くすように水で弾幕を張る。

 

 互いに合図はしていないものの即興でコンビを組んだことは多々ある2人。瞬時に連携を組んで挑んでくる姿勢は評価に値するものだろうが相手が悪かった。

 

 

「力業『大江山嵐』」

 

 

 勇儀が放つ一撃が文字通り千の数もの水を撃ち潰し、正拳ごと衝撃で腕を砕く。

 ミホークとの一戦でこの攻撃は斬られているが実際の威力は大砲の比ではない。勇儀自身戦艦一隻程度なら容易に破壊できる威力であると自負している技だ。技名をつけているのは伊達ではない。

 

 

「ッ!!クロオビ!チュウ!!」

 

 

 吹き飛ばされた仲間に駆け寄るアーロンだが、幹部二人とも意識を失っているため返事がない。

 怒りがすでに頂点になっているのに加えて、目の前で同胞がやられたことで今にも憤死してしまいそうな表情へと変化する。

 

 

 「下等種族如きが・・・我が同胞をここまで傷つけてくれやがって・・・俺は女と賢い人間は好きなんだが・・・てめぇは死刑確定だ。八つ裂きにしてこのアーロンパークに掲げてやるよ」

 

「そいつはすごい。この後に無くなる場所に飾るたぁ面白い趣味を持っているようだ」

 

「――ッ!!吠えてろ!」

 

 

 叫びと同時に勇儀は吹き飛ばされた。

 

 

「っ!?」

 

 

 身を翻して威力を抑えこみ、壁に着地する。

 衝撃波ではない何かを喰らったことに驚く勇儀。その原因を作った張本人はすでに姿を消していた。

 

 

「・・・・・・見失った?いや、相手は魚人・・・つまりうm」

 

「“ 鮫・ON・DARTS(シャーク・オン・ダーツ) ”!!!」

 

 

 姿を暗ましたアーロンがどこにいるのか。

 それに目星をつけ、海に視線を向けたと同時にアーロンが高速で突撃してきた。

 

 ノコギリザメの魚人であるアーロンが好んで使用するこの技は水と刃を通さない鋭利な鼻を使用した高速刺突。水中では身体能力が向上し、自由に動くことが出来る最大の利点を最大限に使用したこの攻撃は外壁を貫通するほどの威力を持つ。人間が喰らえば風穴が空くことは必然的なものだ。

 

 それを最高のタイミングで放ったことでアーロンは仕留めたと確信した。

 普段のようにゆったりと攻撃に移るようなことはせず、一切の慈悲もなく攻撃に移ったのだ。避けれるはずがない。触れたのならそれは致命傷は確実だと、そう信じていた。

 

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 

 最もそれがただの人間であればの話であるが。

 

 

「・・・全く、痛い(・・)じゃないか」

 

 

 アーロンにとっての最高の一撃は勇儀の腕で防がれていた。咄嗟の判断で勇儀は筋肉を締め、鋼の如く固めた腕で重要部を護ったのだ。

 護りはしたが無傷ではない。文字の如く高速で飛んでくる刃物を受ければいくら固めても傷が入ってしまう。鼻先が刺さった腕からは血が流れ落ちていた。

 

 アーロンは“鮫・ON・DARTS(シャーク・オン・ダーツ)”でその程度のダメージしか与えられていないことに驚愕する。最高の条件でこの程度のダメージしか与えられないのかと。

 

 そして勇儀は相手の攻撃で怪我をしたことに驚いていた。 

 覇気を纏う暇がなかったとはいえ、本気で締めた腕はそこらの刃物を通さない防御力を誇っている。それを越えられたことに素直に感嘆しながらもすぐに行動を開始する。

 アーロンの頭を掴んで鼻を引っこ抜いた後、そのまま建物の壁へと叩きつけた。

 

 

「ッ!!」

 

「私に傷をつけるとは驚いた。だがそれだけだね」

 

「嘗めるな下等種族がァ!!」

 

 

 攻撃を数発喰らったアーロンはすでに万全の状態ではなくなっている。それでも立ち上がり、戦う意志を見せているのは魚人を誇っているのは自分の意地。

 

 

「上等種族である俺ら魚人には、ハッ・・・てめぇら下等種族では絶対に到達できない領域ってモンがある!」

 

 

 アーロンは横にあったアーロンパークの壁を蹴り壊した。

 壊れた場所は水路になっていたのか大量の水が溢れ出し、地面を瞬時に覆っていく。

 

 その様子を特に気にせず見届ける勇儀はある程度浸食したあと、何があるのかと問いた。

 

 

「グ・・・ハァ・・・、魚人特有の筋力があってこそ為し得る武術“魚人空手”・・・俺のはクロオビの比じゃねぇぞ!!」

 

「・・・ほぉう?それがあんたの切り札って所かい?いいじゃないか、来な。あんたのその誇りと共に、私が殴り潰そう」

 

「ほざいてろ人間風情がァ!!」

 

 

 辺り一帯が水を有するこの状況でアーロンが先に動く。先ほどの動きとは比べ物にならない速さで、地面を滑るように移動していく。

 移動の際もアーロンは水を撃ち出すことを忘れない。

 人間相手に使う気がなかった己の技を確実に当てるために相手を牽制する必要があるからだ。

 

 “撃水(うちみず)

 

 魚人たちの間ではそう呼称されるその技は己が手に少量の水が有れば特別な構えもなく使用できる射撃技。勇儀に対してアーロンが水をかけようとしたのもこの技で攻撃しようとしたためであった。

 

 対する勇儀は“撃水(うちみず)”を喰らいながらもそれを無視し、アーロンの攻撃タイミングを計りながら己の腕に力を込めていた。

 攪乱しようとするアーロンを他所に地面を踏みしめながら一歩また一歩と歩みを進める。

 

 

(こいつで仕留めてやる!)

 

 

 アーロンが当然狙うは必中、故の必殺。

 大気中の水分に振動を伝わせることで一点を集中破壊するその技は、鐘が鳴るように鈍くそして重く対象を崩壊させていく。人生で習い、そして己の必殺技として昇華させた型の一つ。

 

 気合いを体に捩じ込みながら空手の型のような構えを取って、勇儀の背後へ回り込む。

 放つ対象に意識を移すとこちらの動きについて来れなかったのか、こちらを向く様子もない。

 

 

(今だ!!)

「“魚人空手”『重梵鐘(かさねぼんしょう)』!!!」

 

 

 振り向かないのを好機と捉え、間合いを詰めて技を放った。放ってしまった(・・・・・・・)

 放った瞬間、アーロンは戦慄した。 

 

 

(何故・・・)

 

 

 勇儀が背後を向いている瞬間を狙って放ったのだ。

 状況変化が遅く感じるかもしれないが、人間から見れば文字通り高速移動。それも“撃水(うちみず)”による弾幕の応酬も含め、30秒と経っていないのだ。だからこそアーロンは信じられなかった。

 

 

(何故こっちを向いていやがる!!?)

 

 

 背後を取り、数秒経たずにそ最速で技を打ち込んだというのに有角の女はこちらに目を合わせて腕を振りかぶっていた。

 

 絶句するアーロンに対して勇儀は静かに奥義を放つ。

 

 

―――四天王奥義・・・

 

「『三歩必殺』」

 

 

 振り降ろされた拳と共に、周りの景色が吹き飛んだ。

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 新年最初のキャラ強化第一被害者はアーロン君でした。 
 それに伴って魚人空手を追加。これは完全なるオリジナルなので許してください!

 
・魚人空手“重梵鐘”

 大気中、または海中の水分を支配し、一点へと圧縮することで対象を圧殺する技。
 新年の除夜の鐘にかけて梵鐘を鳴らすように攻撃することからふと思いついた技で、アーロン君しか使わないであろう奥義。流石にジンベエの“武頼貫(ぶらいかん)”には敵わないがそれでも大物を食えるだけの威力を有すると思います。


 
 今回補足はこんなところでしょうか。戦闘に参加していないハチは次回に出てくると思いますよ。
 そして感想をくださった方々本当にありがとうございます。
 返信はあまり出来ておりませんが、しっかりと読ませていただいております。今後ともこの作品をよろしくお願いします。
 


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星熊童子と世界の対応

 
 
「チャンスをもたらしてくれるのは冒険である」
 
 
   by.ナポレオン・ボナパルト
 
 


 

 

「村長!俺たちはもう我慢できねぇ!」

「そうだ!頼みの綱だった海軍が裏切りやがったんだ!ナミがどれだけ必死になって動いてくれてたのかは俺たちが一番わかってる!」

「これ以上奴らに従っていられるか!!」

 

 

 そうだそうだと言いながら村長を説得しに来ている住民はココヤシ村の全員。鍬や鎌を手に取っている。

 

 住民たちが決起する少し前、海軍がこの村にやってきてた。

 そこでナミやノジコ、そして今は亡きベルメールが暮らす家へと押し入ったのだ。それだけでなく、約束を果たすためにナミが貯めていた1億近くになるベリーを全て海軍の権限だと言って奪っていったのだ。

 それはまさに裏切りの行為。仕方なく案内していた村長 ゲンゾウ もそれに対して言葉を失った。

 

 アーロン一味に支配されてから長い年月耐え忍ぶ戦いをすることを選択した村の住民は、これ以上耐えることは無意味であることを悟ったのだ。歯向かったところで勝てるとは思えずとも、行動せずにただ傀儡にされるのだけは我慢できなかった。

 

 

「皆の衆!俺達はアーロン一味が来てから長い間耐え忍んできた!だが俺も我慢ならん!!海軍は頼りにならん!最後の頼み綱だったナミの頑張りも、全て奪われた!!この村の解放という突破口が閉ざされた今、もう希望はない!元より!あの子の優しさを弄ぶあの魚人どもを我々は許さん!行くぞぉぉお!!!」

 

 

『 うぉぉぉおおおおおお!!! 』

 

 

 その時だ。

 村の住民が一致団結して雄たけびを挙げているその時に地面が揺れ、何かが崩壊する音が辺り一面に鳴り響いた。村長達からすれば完全に出鼻を挫かれた形になったために何が起こったのかを冷静に判断することが出来た。

 

 

「・・・え」

 

 

 村人の誰から出た言葉であっただろうか。

 それは個人ではなく、全員の口から出た言葉であったのかもしれない。

 

 村人全員の視線の先には、アーロンパークが崩れ落ちていく光景が映っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにもう!心配させないでよ!」 

 

「いやいや大丈夫だって言ってるだろう?大した怪我をしてないのだからさ」

 

「そうだけどそうなんだけど!アンタが怪我してるところ見たの初めてなんだから驚くに決まってるでしょ!・・・やっぱりそんなにアーロンは強かったの?」

 

「まずまずってとこだねぇ。少し前にミホークと戦ったせいもあってか苦戦するほどじゃなかったね」

 

「へ―・・・ミホークって?」

 

「“鷹の目”で有名な最強の剣士ですよナミの姉御。姐さんは『バラティエ』で戦ってるんです」

 

「へぇ、そうなんだ!あの七武海で有名な“鷹の目”のミホークと戦ったなんてすごいじゃないアホかぁ!!」

 

「痛っだァ!?!」

 

「「あの勇儀が痛がった!?」」

 

 

 崩壊したアーロンパーク。

 その場には崩壊させた張本人の勇儀だけでなく、ゾロやナミ達。そして無事にクリークを倒してサンジを仲間に連れたルフィ等が合流していた。

 

 無事にアーロンを倒した勇儀に安堵するナミであったが、海上レストランで王下七武海の一人と戦っていたことを知って拳骨を勇儀へと叩きこむ。ツッコミで振るわれたその拳を受けた本人の悶絶にルフィとゾロが揃って驚いた。

 何故か『愛のある拳は防ぐ術無し』という言葉が聞こえてきたが誰もそんなことを言っていないため置いておく。

 

 

「さて・・・アーロンはともかく、こいつはどうしようか」

 

 

 彼女達の前にはネズミと名乗る男を含めた海兵達が山積みにされていた。手柄は全て俺の物的なことを大声で叫んでいたためすぐにわかったのだが、碌なモンじゃない。

 アーロン一味という海賊が市民を支配していたのにも関わらず、海兵が手を出していない時点でここの海軍は黒であると断定。そのまま銃を向けてきた者から掴んでは投げ掴んでは投げ、ネズミという男には特別に『金剛螺旋』を喰らわせた。そのまま海へと飛ばしたのだが伸びた腕によって殴り返され、戻ってきていた。

 

 アーロンと親しい仲であろうこの男、大佐らしいが強さが見合っていない。戦闘能力だと前に戦ったモーガンの方が数倍強いだろう。賄賂で地位を登って行ったと推測できる。

 

 

「そう言えば居たわね・・・」

 

 

 今回の騒動を起こした中心人物の一人であるネズミを見たナミは三節棍で引っ叩いて無理やり起こすと奪われた金を含めた財宝を返せと命令する。

 帰り際に捨て台詞を吐いていたがこちらは海賊が海賊を名乗っている以上いつかは敵対するだろう。

 

 

「これで盗られたお金が帰ってきたら一件落着ってところかね」

 

「ししし、だな!これで仲間が6人(・・)揃ったんだ。偉大なる航路(グランドライン)に行こう!」

 

「・・・!!・・・・・・そういえばあんた達に言い忘れていることがあったわ」

 

 

 ルフィの宣言に驚いた表情をしたナミは観念したように息を吐いた後、ナミはルフィ達の前に立つと頭を下げた。

 

 

「みんなごめん!嘘ついて、そして船も宝も盗っちゃってごめんなさい!」

 

『 ・・・・・・・・・ 』

 

「怒られることを何度もしている私が言うのもおかしいかもしれないけど、ルフィ達の仲間に入れて欲しい。今度は“手を組む”んじゃなく、正式な“一味”として仲間になりたいの」

 

「そんなこと言わなくても、おれ達とっくに仲間だろ」

 

 

 ナミが全員の前ではっきりと自分の気持ちを言い切り、ルフィがはっきりと即答した。

 航海士はナミが良いとバラティエでも言い切っていたため、ゾロやサンジ等は素直に同意。ウソップもナミの過去を知ったために受け入れた。

 

 

「だけどいいのかいナミ?この村は海賊の手から離れたんだ。このままこの村で暮らすっていう選択肢もあるんじゃないのかい?」

 

「いいの。村はもう大丈夫だし、ゲンさんたちがいるから。それに私には『自分の目で見た世界中の海図を描く』っていう夢があるの。そのためにはどうせ海に出なくちゃいけないし、海賊であったとしてもルフィ達の船なら私は信用できる。命を懸けて助けて貰ったんだもの。私もその覚悟ってやつに答えなきゃね」

 

 

 勇儀は思ったことを聞いたのだがナミにはその選択はないらしい。

 アーロンとのしがらみから解放されたためなのか、一段と笑顔が輝いて見えた。・・・正直今は女なのだがドキッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解放された町は夜通しで宴を始めている。

 解放される日が来るまで村人たちは苦汁を飲み干すような生活を続けてきたのだ。解放されたこの日を喜ばない人などこの村には存在しない。

 

 時には笑い、時には歌う。そして時には涙するものもいるが周りの気づかいですぐに笑みへと変わっていく。

 10年もの時を越て、喜ぶのは村人だけではない。海賊として名乗りを挙げ始めた“麦わらの一味”の一同も同じだ。

 

 ルフィは辺りにある食べ物を腹に収め、

 ゾロは傷の治療を受けたあとに酒をたらふく飲んで、睡眠を決め込む。

 ウソップは高台へと昇って周りを盛り上げ、

 サンジは村の女性に声をかけて鼻の下を伸ばしている。

 一番の活躍をした勇儀は宴に直接参加することはなく、家の屋根で宴の様子を肴として月見酒を決めていた。

 

 

「ナミ・・・本気なのか?」

 

「うん。もうこの村は大丈夫だし、私は私の夢を叶えて来る」

 

「ま、アンタならそう言うと思ったわ。あいつらのお陰でうち等もアンタもようやく自由になったんだ。気が済むまで思いっきり伸ばしてきな」

 

 

 そんなアーロンパーク崩壊当日の夜。ナミは村長のゲンゾウ、義姉であるノジコに自分の心情を話した。

 辺りには彼女等以外人はいない。海を一望できるその場所は今は亡きベルメールが眠る高台だ。この場を選んだのは下で眠る彼女への報告も兼ねているのだろう。

 

 この村を出ていくこと。そして自分のやりたいことをこれからしに行くと。

 

 そんなナミに対してゲンゾウは複雑な表情を浮かべていたのだが、ノジコは納得しているのかナミを止めるような発言はせずにエールを飛ばす。

 血は繋がっていないとは言えども思いは伝わる。ナミはそれが嬉しかったのか少々顔に出る照れを隠しながらも笑顔を向けた。

 

 墓の前に座ったナミ達は、村で騒いでいる住民たちの喜びの声をBGMにしながら盃を交わす。

 ゲンゾウの帽子についている風車がカラカラと音を立てながら周り続ける。

 

 風もなく回る風車。それはベルメールが笑っているのを表しているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり世界政府直下の海軍本部へと移る。

 本来であれば定期的な集会などでしか使われることはない大部屋を使用して緊急会議が行われている。

 

 それは近頃活動が盛んになってきた“革命軍”の話から平和な海である東の海(イーストブルー)での大波乱までが話まで。それだけでなく今後の方針も含めての集まりだった。

 

 

「それはつまるところ東の海(イーストブルー)の支部で手に負える一味ではないということか?」

 

「そう言うことになる。東に巣くっていた“アーロン一味”は偉大なる航路(グランドライン)でも通用していた魚人海賊“タイヨウの海賊団”の傘下だった。牙を抜かれていたとは言えどもそこらに出てきた雑兵にやられるとは考えづらい」

 

「それだけではない。情報によれば“ノコギリのアーロン”を倒したとされる女は船長ではない(・・・・・・)とのことだ。これが何を意味するかわかるな?」

 

 

 その情報を聞いて多数の海兵らが騒めき立った。

 大物海賊の船長を名も無き海賊の船員(クルー)が倒す。そのようなことは普通であればあり得ない。

 そして己の実力以上の者を下につける船長など普通の精神であれば存在しないのではなかろうか。自分よりも実力が上であればそれだけ謀反を起こされる危険も高くなっていくからだ。

 

 つまるところアーロンを降した船員(クルー)を下に持つ船長(キャプテン)はより危険な存在である可能性が高い。

 実際に“首領(ドン)・クリーク”は船長とされる麦わらの男に敗北しているところから危険であると判断された。

 

 

「“道化のバギー”“首領(ドン)・クリーク”“ノコギリのアーロン”・・・どれも東の海(イーストブルー)でも上位に位置する海賊団。平均が3百万ベリーの海において初頭の手配から3千万(・・・)ベリー。そしてその船員(クルー)2千7百万(・・・・・)ベリーは異例の破格。ですが決して高いものではないとの判断をしています。これからの悪の芽は早めに摘んで拡大を防がねばならない!」

 

「うむ。こちらにも新たな芽が芽吹いてきているとは言え、問題は東だけではない。南や北だけでなく、ここら一帯でも荒れてきていますからな。頭数が足りなくなってきているのは問題。この判断は良いと思いますぞ。ですな?議長」

 

「はい。確かにこのラインが適切であると判断出来ますな」

 

 

 東の海(イーストブルー)で最近台頭してきたルーキー。その海賊団の名は“麦わらの一味”

 確認しているだけでも6人程度しかいない少人数の海賊団であるが、その中に賞金首としてのリストに挙げられたのは2人。これだけでも異例であり、異常であるこの出来事は先見を見るにあたっての楔としての機能を生み出す。

 もしすぐに狩られるならば良し。例え本当に危険であったとしてもこのようにリストに挙げておけば各支部は動向に目を光らせる。

 

 2人を挙げることを決定づけた面々はこれで話を切り、そして別の話題へと変えた。大変なのは東だけではない。ここ最近になってから各海が荒れ始めているのだ。

 海賊が台頭しているのに倣ってこちらも良い粒が出てきている。

 “海軍の英雄”が期待のある粒を見つけたように、海軍として最悪の事態を回避すべく行動するだけである。

 

 

  

 

  “麦わらのルフィ”

  モンキー・D・ルフィ

  懸賞金:3000万ベリー

 

 

  “剛拳”

  ホシグマ・ユウギ

  懸賞金:2700万ベリー

 

 

 

 

 海軍が出す賞金首のリスト。そこに新たに2人の名が刻まれた。

 最もこの初頭が悪い意味で充てに成らず、後日修正することになるのだがそれはこの場では無意味な話である。

 

 

 

 

 

 この話題に挙がっていた張本人達はと言うと

 

 

「ほらほらほら!!なぁに突っ伏してんだい?さっさと立つ!でないとあと5秒後に『金剛螺旋』(げんこつ)撃ち込むよォ!」

 

「は・・・はっ・・・・・・ッ!お、鬼かてめぇはッ!!」

 

「“鬼”だとも。わかってるじゃないか」

 

「は・・・腹へった・・・」

 

「そうかい。ならすぐに立たないとルフィのご飯は抜きな」

 

「うげぇ・・・」

 

 

 絶賛扱き&扱かれ中であった。

 

 普段であればルフィとゾロが主体で行っていたのだがクリーク戦で思った以上に怪我を負っていたルフィを鍛えるために叩き上げ、そして今回の件で自衛能力を上げるためにナミも巻き込む形で修行を再開したのだ。

 ナミに関しては完全な不運である。決してツッコミの拳が痛かった仕返しなどではない。

 

 そんな修行で一番やる気が高いのは意外にもナミなのが驚きだ。アーロンの一件があったためか本人も力をつけたいのだろうと予想。意欲的なのが良い所だろう。

 新たに仲間に加わったサンジに間食を頼んで一旦休憩することにして、ふと仲間のスペックを考える。

 

 

  船長のルフィ

 大食いで他人とは異なった魅力がある。最も戦闘能力は多少はあれどまだまだ。

 技も単純で見切り易いものが多いためそこの改善などが必要になってくるだろう。

 

  戦闘員のゾロ

 脳筋であり得ないほどの方向音痴。

 筋力は一線を駕す。世界最強を目指すならばミホークに倣って“覇気”を覚える必要も出てくるだろう。しばらくは精進あるのみ。

 

  狙撃手のウソップ

 命中精度はピカイチで船の整備も担っている影の功績者。

 へっぴり腰なのがマイナスだが猪突猛進が船長のこの一味にはいい清涼剤だろう。

 

  料理人のサンジ 

 脚技主体の戦うコック。

 悪くないのだが女に甘すぎるのが心配である。女は死んでも蹴らないと豪語したこともあって修行はとにかく回避能力を上げるのを主にしている。これで生存確率を今後上げていきたい。

 

  航海士のナミ

 彼女の拳骨はかなり強力。無意識ながら“武装色の覇気”が混じっているのではなかろうか?そうでなかったとしてもあれは武器だ。ゴムであるルフィをボコボコにしてたし、かなり痛かった。意外にも一味の最終兵器(リーサル・ウェポン)になりそうな予感。

 

 

 こう見ると自身も含めて癖が強いメンツだ。

 海兵のネズミとの件で目をつけられたのは確実で、いろんな障害が降りかかってくるだろう。当然ながら勇儀だけでは対処しきれないところも出てくる。最もそんなことなくともルフィの行動力にかかれば、喜々として面倒事に首を突っ込んで行きそうな予感がするが気にしたら負けな気がする。

 

 

「みんな聞いてー!『ローグタウン』が見えてきたわよ!」

 

 

 考え事に耽っているとナミが次の目的地を発見した様子。

 偉大なる航路(グランドライン)に入る手前にある町であり、別名『始まりと終わりの町』との事だ。

 

 

「あの町はかつて“海賊王”(ゴールド)・ロジャーが生まれて、そして処刑された町よ。食料や必要な備品なんかはこの町で手に入るからここに寄るわ」

 

「海賊王が死んだ町・・・そっか・・・ならおれは死刑台を見る。よーし行くぞ!ヤローどもっ!!」

 

 

『 うおーーっ!! 』

 

 

 ルフィの掛け声に船員が一斉に沸き立つ。

 一同は海賊王は生まれた町に思いを馳せながら船を進めるのであった。




 
 
 
 
 
 

・ネズミ大佐
 
 見せる価値ないよ!


・魚人 ハチ

 前回出すと言ったな・・・あれは嘘だ。
  

・ホワイト中将&ボルドー少将

「この活躍は勲章モノ。ですな?議長」
「はい。その通り」


・勇儀姐さんの名前

 ONE PIECEの世界で漢字は違和感なので片仮名の方が良いのでは?という意見を取り入れました。錦えもんのように名前が一部漢字なものもいますがそれだと明らかに違和感が出るのでいっその事全部片仮名に。
 実際に記者が名を聞いたとしても星熊 勇儀なんて漢字が出るとも思えなかったのでこのようになりました。てかリストはローマ字だし、いいよね!(錯乱)
 仲間間の呼び合いをどうするかを悩む所。
 

・ナミの拳
 
 どんな相手であれど割合ダメージを与える。ギャグパートであれば能力者・非能力者関係なしに効果的なある意味最強の拳。
 完全な自己設定。でも殴れる航海士って凄いと思う。凄くない?
 
 
・修行
 
 このままいけばウソップやサンジよりもナミが強くなりそうな予感。
 どうなることやら。


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偉大なる航路
一味と曹長と犯罪組織


 
 
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 辺り一面には嵐によって大雨がもたらされていた。

 突風が発生し、それによって忙しなく動いていた部下や民間人が足を掬われていく。

 民間を護るために賊を捕らえる彼らにとって、今の労働環境は最悪であろう。

 だがそれでも彼らは走る。絶対正義の名の下に。

 

 

「ハッ・・・ハッー・・・ぐっ」

 

 

 片膝をついて肩で息をしている彼も大枠は違えども、志を共にする者。

 世界の秩序を乱す海賊という存在を撃退し、捕縛することで平和を保つことを目的としている彼は眼前の存在に対して圧倒的な実力差を痛感していた。

 

 

「こいつが2700万だと・・・?賞金詐欺も大概にしやがれってんだ」

  

 

 賞金首のリストに載っている存在の実力を目の当たりにしてそう呟く。

 見栄を張った程度でこのレベルはあり得ない。確実に偉大なる航路(グランドライン)だけでなく、その後半の海である『新世界』でも通用すると確信できる実力だ。

 

 彼自身も“海軍本部”の大佐を担う実力者だ。

 そこらの海賊と当たったところで数秒で鎮圧出来るほどの実力を有している。

 

 それでも届かない。

 悪魔の実の中でも稀少と言われる自然系(ロギア)『モクモクの実』を食べたことで全身を煙のように変化させることが出来る彼は物理的攻撃の無力化は当然として、広範囲に渡っての攻撃や捕縛を行うことが出来る。

 その力ですら届かない。届かないばかりか、通用しないはずの打撃――拳――で逆にダメージを受ける始末。

 

 これは能力者同士の相性なんかではない。

 『海軍の英雄』と呼ばれる男のように、海軍本部でも一定水準以上の実力者たちが扱う力、それが“覇気”。

 それを目の前の女は使えるのだと彼は確信した。でなければ煙状態の己を捕まえるなど不可能だからだ。

 

 

「生憎今は急いでいる身なんでねぇ。ここらでトンズラさせてもらうとするよ」

 

「ぐっ、待ちやがれ!」

 

「待ってほしけりゃ精進することだ。次会う時にゃ全力を出せることを楽しみにしているよ」

 

 

 踵を返して走り去って行く有角の女の背を追いかけようとするも、身体がうまく動かない。

 瞬く間に距離を離され、姿が見えなくなってしまった。

 

 

「・・・ちっくしょうがァ!」

 

 

 彼はこの時に決めたのだろう。

 意地を通してでも有角の女を含めた麦わらの一味を捕らえると。

 

 彼の二つ名は“白猟のスモーカー”

 

 未来の海軍において最も多く麦わらの一味に挑み、そして追い込んだ男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜこのようなことになったのだろう。

 

 海軍本部の曹長を担う海兵 たしぎ は今の現状を見てそう思う。

 ローグタウンでの任に着いていた彼女はいつも通り見回りを行い、趣味の刀鑑賞を行うべく近くの武器屋へと足を運んだのだ。

 

 そこで出会った不思議な男。 

 

 妖刀と呼ばれた業物『三代鬼徹』の呪いを破って己の物にした男をたしぎは初めて目にしたのだ。

 だからこそたしぎはその男に怒りが沸き上がった。

 

 彼女は刀を金稼ぎに用いる者達を『悪』と見なして忌み嫌っており、世界中の名刀を『悪』と見なした者達から取り上げ、回収することを夢としていたのだ。

 たしぎの目の前で『三代鬼徹』と武器屋の最高の刀『雪走』を手にした男は最近台頭してきた海賊団“麦わらの一味”に所属する者であり、元賞金稼ぎとして手配されていた男だったということを知ったのだ。

 男はたしぎの夢を聞いた後にこう言った。

 

 「ならこの刀も奪うのか」と

 

 お前程度が出来るわけがない。男はそう思ってたが故に暗に自分のことを馬鹿にした発言だったのではないかとそう思った。故に怒ったのだ。

 その怒りを糧に港へと走る男に一騎打ちを挑み、そして敗北した。

―――否、実際は途中で乱入があったために決着がついていないのだが、あのまま斬りあっていれば自分が負けていたことなどわかっていた。それだけ実力差があった。

 

 だがそれでも諦めきれなかった。手が届く目的に対して手を伸ばさずを得なかった。

 最も今となってはそれが後悔に近いものになっているのだが。

 

 

「はっきり言って何故私まで巻き込まれなくてはいけないんですか!」

 

 

 今彼女は怒りの声を挙げながら、迫りくる剣戟を返していた。

 この場所はすでに偉大なる航路(グランドライン)。たしぎが元居たローグタウンに戻ることは困難になってしまったのだ。

 様々な海上環境が変わっていく中での航海を楽しくなかったとは思わない。だがそれでも民間人と思っていた人達から襲われるなど予想出来るはずもない。

 

 

「仕方ねぇだろ、お前も一緒に飲み食いしてたじゃねぇか」

 

「うっ、・・・た、確かにそうですけど私まであなた達の仲間だなんて思われたら堪ったものじゃないんです!なんなんですかこの人たちは!?」

 

「だから言ってんだろ、『バロックワークス』だってよ。ただ忠実に任務を全うする犯罪集団。社員内でも素性を知らせず、社長(ボス)のことすら一切秘密の結社だってな」

 

「~~ッ!だからなんでその秘密結社に襲われているのかを聞いているんです!!」

 

 

 たしぎの傍で同じように撃退しているゾロの言葉に対して若干言葉を詰まらせつつも返す。当然ながら刀を振るうのも忘れない。

 たしぎはゾロに及ばないものだが、剣技一本で海軍本部の曹長に登ってきた身だ。多くの場数を踏んでおり、賞金稼ぎ達の動きが単調に見えている。それに合わせて刀を振るい、対象を確実に着実に沈黙させていく。

 遠距離からの銃撃を躱しつつ一旦二手に別れ、迫りくる脅威を撃退していく二人は傍から見れば良き相棒に見えるのだが、それを指摘すれば二人揃って怒り出すだろう。

 

 それから少し経って、二人は『バロックワークス』の戦闘員を全員鎮圧して一息をつく。

 山積みになった男たちを見つつ、たしぎは何故こうなったのかと頭を抱えた。 

 

 

 

 

 ローグタウンでバギー一味が起こした一騒動。そこからの麦わらの一味の逃走を阻むため、海兵らは動いた。

 たしぎも一味の仲間であるゾロと切り結んでいたのだが、“剛拳”の乱入で中断することになる。その際ゾロが保有する名刀『和道一文字』を回収するチャンスが巡ってきたと思い、鞘を掴んだのが間違いだったのだろう。

 鞘を掴むやいなやそのまま周りの風景が瞬く間に変わっていき、辺りの景色が空に切り替わる。そして気づけば船へと近づいていき、意識が飛んだ。

 

 目を覚ましたと思ったらすでに出航した船の上。その次には訳も分からずに一味の進水式を共に実行し、そのまま海王類に食べられないように慌ただしく手伝いをする。

 何とか一息ついたところでようやく他の船員たちが自身の存在に気づいて驚く中、元凶(?)であろう女は腹を抱えて大笑い。船長と思わしき男も別にいいかと受け入れる始末。一味に不信感を抱く前に呆れた感情が出てきたのも仕様がないものだろう。

 

 このまま戻るわけにもいかないからと話し合った結果、偉大なる航路(グランドライン)で見つけた最初の町で降ろそうということになった。それだけならいいのだが最初の町『ウイスキーピーク』に着いた結果が今の現状だ。

 ここに来る前も暇なら修行に付き合えと引っ張りだされる始末。

 そのお陰で自分の無力さを痛感するいい機会になったのが悔しく思うが、細かいことを全く考えていなさそうな一味の雰囲気に気づけば自分も取り込まれていた。

 

 

「なんで襲われているかっつったら簡単だろ。その社長(ボス)から指令があったってことだ。生憎俺らの船長らは賞金首。狙う理由なんてそれで充分だろ?」

 

「・・・そうですね。そうでした。あなた達は海賊。狙われる理由はそれで充分でしたね」

 

 

 そういえば海賊だったと改めて理解したたしぎはそこで会話を切る。

 ゾロが何故名刀と名高い『和道一文字』を持っているのか、そして何故たしぎに苦手意識を抱いているのかなどを航海中に聞いていた。

 そこで彼女は思ったのだ。彼は本当に自分の中での『悪』なのかと。

 

 ゾロが目指すは世界最強の剣士。

 それは王下七武海の最強の剣士“鷹の目のミホーク”を倒すという事。

 すでに亡き幼馴染の約束を果たすために自分の武を極めていく彼を見て、改めて考え直す必要があるのではないかとたしぎは思ったのだが、その時は“剛拳”によって思考を中断していた。

 

 だが、今は違う。

 

 邪魔は在ったものの、周りにはすでに沈黙している彼らのみ。

 他の面々はお休み中で邪魔は無いため、想いに耽ることが出来る。

 

 ゾロはすでに酒瓶を片手に腰を下ろしている。たしぎもその場から動く気に為れずに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

「夜中だってのに随分と賑やかな町だ。まったく若い衆と来たら夜中になってもドンチャン騒ぎ。全く五月蠅い事この上ない」

 

「それについては同意の意ですがマザー、その言い方ですと貴女がすでにお歳のような言い方になってしまいますよ?・・・それにしてもつまらない仕事をおおせつかったモノです。こんな前線にわざわざ私達が向かう必要があるのですかね?」

 

 

 賑やかな喧噪を醸す町へ入って行く二人の姿がそこにはあった。

 ゾロ達の予想以上の強さを確認した一部の賞金稼ぎ達はその場から離れて難を逃れようとしていたのだが、その二人と出会ってしまったのだ。

 

 

「な・・・何だ貴様らは!一体誰だ!?」

 

 

 確認した二人はどちらも修道服を着込んでおり、パッと見れば親子のようにも見えなくはない。

 見ず知らずの二人を見つけて拳銃を突き付ける構成員に対して男の方は残念そうに頭を振り、女の方は見下すような視線を向ける。

 

 

「やれやれ、確かに我が社のモットーは“謎”。なのですがこういう場合には意思疎通が難しくなってしまいますね」

 

「関係ない。いっその事こいつらもやるか?」

 

「いけませんよマザー。仲間討ちは相応の理由がなければ行ってはいけないのです」

 

 

「~ッッ!!誰だと聞いているんだ!!!」

 

 

 拳銃を向けられてもペースを崩さない彼らに不気味さを浮かべる。

 近くで監視していた『バロックワークス』の仕置きラッコとハゲタカこと“13日の金曜日(アンラッキーズ)”ですら、彼らの登場に驚いているのだから逃げようとしていた賞金稼ぎ達にとっては重要なことだった。

 

 

「これは名乗りが遅れてしまい申し訳ない。私はMr.(ミスター)(シックス)。そしてこちらが」

 

「ミス・マザーズデー」

 

 

『 !!!? 』

 

 

「どうか覚えておいてください。無駄に命を消したくないのでしたら、道を譲っていただけると助かるのですがね」

 

 

 Mr.6と名乗った神父の言葉に賞金稼ぎ達はすぐに道を譲った。

 そうして出来た道を二人は歩いていく。

 

 

「・・・相変わらず温い奴だ」

 

「まぁそうカッカなさらず。血を流さずに邪魔な者達を退けることが出来たのですから行きましょう。私たちの任務を為すために」

 

「はぁ・・・早く終わらせて寝たい。酒に溺れたい」

 

「やれやれですね」

 

 

 つまらなさそうに呟くマザーズデーにMr.6は若干の苦笑を浮かべつつ、町の奥へと進んでいくのだ。目的の人物に向かって。

 

 

「・・・なにこの惨状。高々数人の海賊団に全滅ってわけか?まともに仕事すら出来ないのか貴様等は」

 

「ぐっ・・・!?!Mr.6!?ミス・マザーズデー!!」

 

 

 彼らが向かった先には今回の襲撃を行った親玉とも言える男が立ち上がろうとしている最中であった。

 周りの建物はボロボロになっており、ここまで来るまでにも所属している賞金稼ぎ達は全滅している現状を見てきたマザーズデーが嘗めているのかと吐き捨てた。

 それを聞いて驚いたのはMr.8。この町の町長 イガラッポイ と名乗っていた男であり、今まさに立ち上がろうとしていた男である。

 

 

 犯罪組織『バロックワークス』にはいくつかの独自ルールが存在する。その最たる例が徹底された秘密主義だ。

 

 その徹底した秘密主義によって社員たちは社長(ボス)の正体は疎か、仲間にすら己の素性を一切知らせない。名前すらもコードネームで呼び合うようにしているのだ。

 もし仮に明かされるのではなく、仲間の素性を知るために行動を起こしていた場合はいかなる理由であろうとも処罰が下される。もし素性を探るような事があるならばそれは社長(ボス)による指令に他ならない。

 また指令を達成することが出来なかった者にも等しく罰が下される仕組みになっているため、各々は必ず与えられた使命を全うすべく動く。言わば忠実な兵隊を生み出していた。

 

 社長が居るなら幹部もいる。

 幹部に位置する彼らを『オフィサーエージェント』と呼ばれる者達であり、コードネームMr.1からMr.6までの者達だ。この数字は単純に強さの順位を表しているだけでなく、組織としての地位も相応に高い。

 

 ゾロ達を襲撃したMr.8を含めたMr.6以降のエージェント等、つまりMr.7から下の者は『フロンティアエージェント』と呼ばれ、他の社員を率いて資金集めをすることが主な活動となる。ルフィ達を狙ったのも船長と副船長とされている女共に賞金首となっていたからだ。

 

 

 そして彼らはMr.6とその相棒。つまりMr.8ことイガラッポイよりも上司(うえ)の存在ということだ。

 さらに重要なのは彼ら『オフィサーエージェント』は重要な任務の時でしか動かない(・・・・・・)ということ。つまり彼らはMr.8等を笑いに来たというわけではなく、指令が下っているからこそこの場に存在しているのだ。

 

 

「・・・我らを笑いに来たのか?」

 

 

 Mr.8は最悪の予測を頭にチラつかせながらもそれを出さないように返す。

 出来れば予測と違っていてほしいと願いながらもだ。

 

 

「違いますよ。私達がこの場にいる意味をあなたがわからないとは言わせません。そうでしょう?アラバスタ王国(・・・・・・・)護衛隊長(・・・・)”のイガラム(・・・・)さん」

 

「!!?ぐぁあッ!!」

 

 

 反応する間もなくMr.8――イガラム――は叫ぶ。

 相対するMr.6の手には銃が握られている。イガラムは足を撃ち抜かれたのだ。

 痛みに耐えるイガラムを見下ろしたままMr.6は話を続ける。

 

 

「我が社の社訓は絶対的な“謎”。社内の誰であろうとも決して詮索してはならないことはあなた方もわかっていたはずです」

 

「ましてや対象が社長(ボス)の正体など言語道断。そして調べていけばその罪人はウチらに潜りこんだ王国の要人と来た」

 

「ただ潜りこんでいたのでしたら黙認されていたのかもしれませんが、あなた方が起こした事は大変罪深い。それゆえに社長(ボス)より遣わされたのが私達ということです。ご理解頂けましたかな?」

 

 

 笑顔と砲口を向けながら話すMr.6に対し、イガラムは思考することを止めない。

 イガラムと、そしてもう一人。彼らが『バロックワークス』に潜入し、社長と呼ばれる男 Mr.0 に探りを入れていたのは遊びではない。しっかりとした目的があったからだ。

 目的を果たすために彼らは命の危険を顧みずただの賞金稼ぎとして多くの海賊たちを狩っていたのだが、それがバレてしまい、あろうことか自分たちの事柄まで見抜かれてしまった。それは一刻を争う事態である。

 

 

「~~ッ!死ね!!“イガラッパ”!!」

 

「おっと」

 

「ぐぁッ!!」

 

 

 手に持つサックス型のショットガンを不意打ち気味に発砲させるも、Mr.6は分かっていたかのように身を返して避ける。それだけでなく避けながらもイガラムの左腕を射撃し、イガラムにショットガンでの攻撃を行わせないように立ち回っていた。

 

 

「あなたのように追い詰められてきた者達の行動パターンは大まかにですがわかりますよ。残念でしたね」

 

「Mr.6、何を遊んでいる。さっさと仕留めて終わらせるぞ。隠れては居るだろうが、“王女”がいるんだろう?」

 

「えぇ、確かにこの町に居るはずです。・・・・・・おや、どうやらマザーの後ろにある木箱の後ろに隠れておられるようだ。そうでしょう?Mr.(ミスター)(ナイン)、そしてミス・ウェンズデー」

 

 

(!!!)

 

「な、なんでバレた!?」

 

 

 Mr.6の指摘に困惑する者が二人。彼らが麦わらの一味をこの町へと誘導した二人でもあるMr.9とミス・ウェンズデーである。

 二人の姿を確認してすぐに身を隠していたというのにこの場がバレ、ウェンズデーは歯を食いしばった。

 

 

「・・・いや、もうミス・ウェンズデーという名前で呼ぶのは不適切ですね。そうでしょう?アラバスタ王国“王女” ネフェルタリ・ビビさん」

 

「化物・・・・・・!!」

 

「お・・・王女であらせましたかミス・ウェンズデー!!!」

 

「ちょっ・・・バカなことやめてよMr.9!!」

 

 

 相棒が王女であることを聞かされ、土下座を決め込むMr.9に対し叫ぶミス・ウェンズデーことビビ。

 彼女としては相棒の行動に若干の申し訳なさを感じながらもこの状況を打開する手段を考えたかった。だが、それは当然防がれてしまう。

 

 

「・・・・・・」

 

「えっ?きゃっ!?」

 

 

 ミス・マザーズデーがビビを地面に伏せさせ、動けないように圧をかけたからだ。

 あまりの早業にMr.9はその場から数歩下がり、イガラムは目を見開いた。

 

 

「チマチマと逃げられるとイラつくんでな。このまま抹殺させてもらう。懺悔の用意は出来ているか?」

 

「ビビ様ァ!!」

 

 

 ビビを拘束したマザーズデーはそのまま背にかけていた刀を抜く。

 イガラムはそれを止めようとするも片手足を撃たれた状態ではうまく動くことすらできない。ましてや目の前にMr.6が下手に動けないように見張っているのだ。

 

 

「りゃあああ!!」

 

「ッ!」

 

 

 マザーズデーが刀をビビの首に落とす前に、ビビの真上を金属バットが通り過ぎる。それに合わせてビビの身体が軽くなった。

 

 

「ミ、Mr.9!!」

 

「貴様・・・邪魔をするか・・・」

 

「・・・事情が俺にはさっぱりわからねぇが・・・目の前でペアを殺されるのを黙って見てはいられねぇ。さっさと行きな!ミス・ウェンズデー。時間を稼いでやるからよ」

 

 

 妨害したのはビビのコンビを組んでいたMr.9。

 状況がわからない彼であったが、直感でビビの味方に付くことにしたのだ。振るったバットを前に構え、マザーズデーからビビを護るように立つ。

 

 

「・・・そうか。そうか、そうか。ならば貴様もここで果てろ」

 

 

 それに激高したのは当然ながら邪魔をされたマザーズデーだ。

 刀を身よりも後ろに構え、突く態勢へと構えを変える。そして瞬時にマザーズデーの姿が消え、気づいた時にはMr.9の懐へと入り込んでいた。

 

 

「させません!!」

 

「っ!!?」

 

 

「おいおい、何で面倒事につっこんでんだあいつは」

 

 

 Mr.9の喉元を貫かんとした刀先は直前に外的要因によってずらされた。突然の乱入に驚く一同。

 この場に乱入してきたのは女。それも先ほどイガラムやMr.9と戦闘していた相手だったのだ。

 

 

「例え悪党であったとしても、私の前で死者を増やすような行為は許せません!」

 

 

 そう言い切った彼女はたしぎ。彼女は建物の上でゾロと先ほどのやり取りを静観していたのだが、Mr.9が殺されそうになったところで飛び出したのだ。その行動にゾロも苦言を呈しているが、彼女の耳には届いていない。

 

 

「ミス・ウェンズデー・・・いや、ビビ王女の方がよろしいですかね。アラバスタ王国の王女であるあなたが何故犯罪組織に属していたのかを問いたい処ですが、私は目の前の敵を制圧しなければなりません。行ってください」

 

「!!カルー!走って!!」

 

「クエー!!!」

 

 

 ビビはたしぎの意図を汲み取り、お供であるカルガモに乗って離脱を行う。Mr.9も続くように走りだした。

 それをマザーズデーは忌みたらしく、Mr.6は面白そうな表情で確認していた。マザーズデーは兎も角、Mr.6は手に持つ銃をビビに向けることすらしなかった。

 

 

「・・・はァ・・・どいつもこいつも私等の仕事の邪魔しやがって・・・おいMr.6。何故さっさと撃ち抜かない。あの程度で外すほど落ちぶれてないだろう?」

 

「いやぁ確かに私もそうしたい所だったのですが、乱入してきた方の仲間が私の上部に居るとわかっている以上は安易な行動をとれないものでしてね。というわけで貴方も下りて来たらどうでしょうか?居ることは分かっていますよ」

 

「・・・なんで俺まで巻き込まれなきゃいけねぇんだ・・・?・・・こいつらがどうなろうと俺は知らねぇってかそいつらは敵だしで俺にゃデメリットしかねぇ。一人でやってくれ」

 

 

 Mr.6はマザーズデーに対して悪びれた様子もなく、ゾロにそう提案する。

 降りなければすぐにでも撃たれる。そんな気配を感じ取ったのかゾロはしぶしぶ降りてきた後、敵対する意思はないと言い切る。それに反応したのはMr.6でもなく、ミス・マザーズデーでもなく、たしぎだった。

 

 

「んなっ!?あなたはそんなに薄情な人間だったのですか!?剣士を名乗ってるくせに!」

 

「剣士は関係ねぇだろぉが!!」

 

 

 そこから生まれた火種によって、二人はそのまま言い争いへと発展してしまう。

 二人の相性は悪くないものであるのだが、良くもない様だ。

 

 

「・・・・・・いくぞ、Mr.6」

 

「いいのですか?彼らは私達の妨害を行った者達ですよ」

 

「あいつらは後でも処理できる。それよりも目標を見失ったら面倒だ。さっさとこの町で処理するぞ」

 

「フフ。了解しましたよマザー」

 

 

 痴話喧嘩をしている二人を見て、Mr.6とミス・マザーズデーはその場から離脱した。

 それにたしぎが気づいたのは少ししてからだ。

 

 

「・・・あっ!!しまった!見逃した!!もう、あなたのせいですよ!」

 

「なんでそうなるんだよてめェは!」

 

「黙りなさい!さっさと追わなければ!!」

 

「・・・ったく、俺を巻き込むんじゃ・・・ん?何だてめェ」

 

 

 走るたしぎの背を見送ったゾロは踵を返そうとして、足に感じた違和感に気づく。

 ガムを踏んだとか靴ひもが解けたなどというものではなく、男がしがみついて居たのだ。先ほどの戦闘で戦っていた男がだ。

 無理やりにでも外そうと足を動かそうとするが思っていた以上の力で外すことは出来なかった。

 

 

「騎士殿!貴殿の力を見込んで理不尽な戦いもうし奉る!!」

 

「奉るな!てめェ等のいざこざなんて知るか!手を離せ!!」

 

「あの二人組は両者とも『バロックワークス』内でも屈指の実力者!私には阻止できん!代わって王女を守ってくださるまいかっ!どうか!!東の大国“アラバスタ王国”まで王女を無事に送り届けてくだされば・・・!かならづやあなた方に莫大な恩賞を・・・!!」

 

 

 ゾロは元々乗り気ではなく、完全に一眠りするつもりでいた。だがビビ王女を助けたいイガラムは当然許可出来るものではなく、必死になって説得にかかる。

 無意識だったのかもしれないがそれが良かったのだろう。

 

 

「その話乗った」

 

 

 イガラムが頼み込んだ本人ではなく、異なる人物が反応を示した。

 高台から見下ろすような形で見ているその人物はゾロにとって見知った顔だ。

 

 

「ほ・・・本当でずかっ!?」

 

「えぇ。10億べリーで手を打ちましょう」

 

「・・・!?」

 

 

 ナミが天使のような笑顔で、悪魔のような要求を押し付ける。

 

 10億ベリー。

 

 それは一般人が一生働き続けても集められる金額ではない。当然ながら王国の重要人物であったとしても、その額を簡単に出せるとは言い切れないのだ。

 確かにイガラム自身、莫大な報酬を差し上げると言った。だが要求金額が小国を買い取れるほどの大金とは想定していない。

 

 

「じゅ・・・10億・・・」

 

「まさか一国の王女の値段がそれ以下の価値だなんて言わないわよね?・・・出せ」

 

 

 必死の想いで繋ぎ止めた存在ではあるが、ナミを前にして早速イガラムはその事を後悔し始めていた。

 

 




     
 
 
 
 
・『バロックワークス』

 特に記していないが彼らは『ビリオンズ』
 一般的な平社員の立場である。特に活躍の場もなく、機会もないだろう。 


・Mr.6&ミス・マザーズデー
 
 原作では設定こそあるものの、一切姿を現さずに存在を忘れ去られた『バロックワークス』のフロンティアエージェント。今作ではその設定を拝借し、オリジナルキャラをぶっこんだことでこうなった。
 二丁拳銃を操る中年神父と大太刀を豪快に振るうJKシスターではあるが二人は夫婦であり、マザーズデーの方が年上。諸事情で二人はオフィサーエージェントに格上げされている。
 
 
・たしぎ

 痴話喧嘩を止めた勇儀によって海賊と共にすることになった海兵ヒロイン。これに伴い強化が必然的になった模様。
 ちなみにローグタウンの海兵達からマスコット的な立ち位置のためか、麦わらの一味に拉致されたという認識で血眼になって探しているとか。
 かわいい。


・10億ベリー
 
 1ベリー=1円という認識で問題なし。
 この世界の物価などはわからないため、基本的には現代社会と同じような認識でも大丈夫だとは思う。


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邂逅と覚醒

 
 
よもや半年放置していたにも関わらず、この作品に対してのメッセージが届くとは思わなんだ。


前回までのあらすじ
・たしぎ一味に入る(大嘘)
・歓迎されたと思ったら襲われた
・なんか強い奴が現れた


正直素直にかませ爆弾を出せば良かったと思いました。
 
 


 ゾロとたしぎが『バロックワークス』の賞金稼ぎ達と戦いを繰り広げている時、他にも行動を起こしている人物がいた。

 雅な着物を身に纏い、腰まである金髪がさらにその姿を美しくしている女性。他でもない海軍本部によって“剛拳”の名をつけられた星熊 勇儀その人である。

 

 この町『ウイスキーピーク』に到着した時、盛大な歓迎を受けた麦わらの一同であったのだが、それに対して警戒心を抱いたのは勇儀とナミ、そしてゾロであった。

 数多くのもてなしをされる中で適当に見繕った多少の食べ物を胃に収めた後、タイミングを合わせて抜け出して監視していた勇儀であったが、彼らが行動を起こすと同時にゾロとたしぎが動いたのに気づいて別行動に移ったのだ。

 はっきり言ってしまえば船が壊されていないかの確認である。

 

 

「ふーむ、特にこれと言った問題はなさそうだねぇ・・・まぁ、私自身船大工でもないから詳しいことはわからないんだが・・・」

 

 

 特にこれと言った外傷はなく、綺麗な状態のメリー号に勇儀は良かったと軽く安堵する。一応中も確認した後、再び町に戻って寝ているであろうルフィ達を起こしに行くつもりであった。だが甲板へ上り、船内への扉を開けようとしたところで勇儀は動きを止めた。

 

 

「・・・・・・やれやれ、一人でこの船に密航でもする気なのかい?生憎無許可での渡航は認められていないよ」

 

「あら、それは失礼したわ。あまりにもかわいらしい船だったからついつい乗ってしまったの。ごめんなさいね“剛拳”さん」

 

 

 ラウンジの上に存在しているみかんの木の辺りから聞きなれない声が聞こえ、その主が姿を現した。

 肩にかかるぐらいの黒髪に、肌の露出が高い衣装を身に纏った女性は勇儀に対して挑発とも取れる言い方で返した。

 

 

「・・・少しは勝手に乗り込んだことに対して反省の意志を示して欲しいものだがまぁいいさ。とりあえず...名乗りな」

 

「そうね。私の名前は――――」

 

 

 

 

 

  ―――――

 

 

 

 

 

 ビビとカルーは駆ける。背後より迫りくる脅威から全力で逃げる。

 

 目的地は街のシンボルであるサボテン岩の裏にある船。食料など必要な物資を積んでいる時間も惜しい。

 船に乗り、すぐに出発しなければオフィサーエージェントに追いつかれてしまうと確信していた。

 

 

「!!見つかった・・・・・・!!カルー、急いで!」

 

「クエーーー!!」

 

 

 故に全力で駆ける。

 助けてくれた女剣士や殿を務めたMr.9。そしてイガラムや王国の人達のためにもここで立ち止まっているわけにはいかなかった。

 相棒のカルガモ カルー はビビの王国内でもトップクラスの速さを担う超カルガモと呼ばれる精鋭だ。この速さが無ければビビはすでに捕らえれ、抹殺されていただろう。

 

 

「やれやれ、随分と逃げ回ってくれるものだ」

 

「確かにあのカルガモは大した脚力ですね。私達からここまで逃げおおせるとは」

 

 

 それを追いかけるは『バロックワークス』のエージェントMr.(シックス)とミス・マザーズデー。

 所々の場面で彼女等を打ち取ろうと銃を放っているが、動物としての本能で紙一重で避けていくカルーに対してマザーズデーは舌打ちを、Mr.6は素直に称賛していた。

 主を乗せて逃げるカルーは当然ながら凄いことなのだが、超カルガモを追いかけれるほどの身体能力を持った二人も十分異常なのだが、それは置いておこう。

 

 

「おいMr.6。このままじゃイタチごっこだ。周りを潰すぞ」

 

「フフッ。了解ですよマザー」

 

 

「・・・?静かになった・・・」

 

 

 鬼ごっこを続けていたビビは銃声が聞こえなくなったことで多少の安堵を抱く。が、それも数瞬だけだ。

『バロックワークス』に侵入し、そして重要そうなものからくだらないものまでの情報を多く漁り調べてきた彼女だからこその切り替えだった。

 

 

 Mr.6とミス・マザーズデー。

 

 

 彼らは組織の中でも掃除屋としての名が通った存在だった。

 犯罪組織である以上、今回のビビのように規則を破った者には相応の処罰が下される。そしてそれを実行する者もどこの組織にも存在するが、彼らはその汚れ役に特化した幹部なのだ。

 ビビたちはこの町ではまだ出会っていないが、ラッコとハゲタカが担っている任務失敗者への仕置き役である13日の金曜日(アンラッキーズ)。その上司だと言えばわかりやすいか。

 

 その情報も持っていたが故にカルーにすぐさま行動するように指示を出し、自身も警戒を強めたことが幸いであった。

 瞬く間に背後の建物が次々と崩壊を始めたのである。

 もしあのまま動かずにいれば建物の崩壊に巻き込まれていただろう。

 

 

「んなっ!?目茶苦茶な!!」

 

「黙りな。お前がちょろちょろと逃げ回るからだ。こちとらさっさと済まして帰りたい。わかるか?なのに貴様らと来たら悉く邪魔をしやがって・・・さっさとやられろってんだ」

 

「っ・・・お断りよ!!」

 

 

 頭上から聞こえる声に反応し、ビビが愛用してきた暗器を横薙ぎに振るう。

 マザーズデーは振るわれた暗器を軽くいなすがそれによって発生したわずかな時間をビビは活用する。

 

 懐から出したのは小さな玉。

 それを思い切り地面へと叩きつけると玉が割れ、煙が大量に溢れ出てきた。

 

 

「ッ!煙幕か!」

 

「せあぁぁぁああ!!」

 

「っ!?」

 

 

 不意打ちの煙幕からビビが起こした行動は正面突貫。

 流石のマザーズデーもこれに驚いたのか、反応が遅れた。が、秘密結社が誇る始末者だ。これで仕留められるようなヘマはせず、振るわれた暗器は頬を掠める程度に終わった。

 

 

「・・・っ、一国の王女と聞いて処理は簡単と思っていたが、どうやら予想以上に肝っ玉が据わっているらしいな。今の煙幕で逃げていればよかったものを・・・」

 

「生憎だけど私はあなた達からなんのリスクも侵さずに逃げ切れると思っているほど幸せな頭をしていないの。あなたを倒して逃げようと思っていたけど、それも厳しいようね・・・」

 

「たりめーだ。短期間の戦場を経験したぐらいでウチらを消せると思ったら大違いだ。そしてあんたの逃走劇もここまでだ」

 

 

 構えるマザーズデーに対してビビはカルーから降りた状態のままだ。

 観念したのかとも考えたが先ほどの行動から考えるにそれはない。

 そしてその答えは正しかったとすぐに理解した。

 

 

「間に合いました!」

 

 

 割って入ったのはたしぎ。

 あの距離から全力で駆けてきたのか、肩で息をしている。

 

 だがたしぎも海軍では部下を率いる立場であった者。この程度で剣筋がぶれるなどというミスは起こさない。勇儀による訓練もあったのなら猶更だ。

 

 先ほどまで戦闘していたビビを見て、特にこれと言った傷が無いことに安堵したたしぎはすぐにマザーズデーへと意識を向ける。

 相対するマザーズデーは怒りを通り越して無表情へと移行していた。

 

 

「・・・・・・はぁ・・・」

 

「・・・ため息をつくなんて随分と余裕ですね」

 

「ちげーよ。萎えて来てるんだよこちとらはな・・・今日だけで何回目だ邪魔をされるのは・・・?それも同じ奴からの妨害で、それも全て標的を追い詰めているところでの邪魔だ。何だてめぇは・・・英雄(ヒーロー)気取りにでもなってんのか?犯罪組織に与している王女の始末を何故庇う?一体その行動になんの利益がついている?」

 

「・・・利益や見返りなんて私は求めていません。ただ自分の中の“正義”を通すまでです」

 

「・・・・・・つまらん」

 

「ッ!」

 

 

 

 ギィィィン

 

 

 刀がぶつかり合う音が響く。

 それだけでなく、マザーズデーの太刀から剣戟が繰り出され、片っ端からたしぎは撃ち落としていた。

 

 上からは横に流し、横のは上へと衝撃を誘導する。

 斜めの袈裟切りは最小限の動きで躱し、突きも同じ処理で済ませていく。

 

 

「・・・チィ!」

 

 

 マザーズデーは自分の太刀筋を見切られていることに舌打ちをし、一旦大きく後ろへと下がる。

 最初に相対した距離間が再び生まれ、膠着状態へと状況が移っていく。

 

 

(これほどの太刀筋・・・偉大なる航路(グランドライン)に入って最初の町でここまでの猛者に出会うとは・・・恐らく実力や場数は相手の方が上。悔しいですが、彼らと出会う前の私であればすぐに斬り伏せられて負けていたでしょうね・・・)

 

(こいつ視線を外さない・・・しっかりとこっちの行動を見ていやがる。下手に責めると予期しない一撃を受けそうだ・・・が、まだまだ粗削りってところか)

 

 

 数撃で互いの実力を確認した二人。

 だが硬直してはいれども有利なのはマザーズデーの方である。

 

 一対一での戦闘であればよかったのかもしれないが、たしぎの背後にはビビがいる。マザーズデーの目標はあくまでもビビ。たしぎが下手に避けるようなものならすぐにでも首を取りに行く勢いであった。

 

 ビビ自身も下手に動くことは出来ない。なぜならマザーズデーの相棒であるMr.6の姿が見えないからだ。

 今カルーに跨るなどという隙を見せれば確実に撃たれる確信がビビにはあった。

 

 

(ふむ・・・あのお嬢さんは私達が思っていた以上に高貴な精神をお持ちのようだ)

 

 

 物陰からライフルを構えながら見ていたMr.6はビビの警戒心に称賛をおくる。

 自分らが追っているから警戒しているのは当然であるのだが、常人であればすぐにでも逃げ出そうとしているだろう。恐怖心に勝っているからこその待機を彼女は選択しているのだ。

 

 

(ですが、悲しいですねぇ…お生憎ですが、これも仕事なのですよ)

 

 

 Mr.6は嘘か誠かわからないことを考えながら、気づかれても当たりやすいように的が大きいビビの心臓を狙い、引き金に手をかける。

 

 

(さて・・・お別れです)

 

 

 殺気を限りなく抑えながら、Mr.6は引き金を引いた。

 彼が持っているライフルは他のと違って特別製だ。

 

 消音装置(サイレンサー)をつけていなくても銃声を限りなく抑え、弾速も早くなるように調整されたMr.6しか持たない物。

 銃口から発射された弾丸はそのままビビにも気づかれないまま彼女の心臓を捕らえ―――

 

 

「―――フッ!!」

 

 

―――たしぎの刀によって叩き切られた。

 

 

「・・・なんですと・・・?」

 

(・・・今の感覚は・・・?)

 

「あれを防いだだと・・・?チィッ!」

 

 

 

―――閃の技“双狼”

 

 

―――薄霧“時雨”

 

 

 

 無音の弾丸を切られ唖然とするMr.6を他所にそこからマザーズデーが斬りかかる。

 それを最初からわかっていた(・・・・・・・・・・)かのように技を置く(・・)

 

 先を見る目を持っているわけではない。

 たしぎにとってここに刀を置けば防げるという直感で動いただけであるが、その効果は絶大だった。

 速さも強さもマザーズデーの方が上であるにも関わらず先ほどとは違って対処する時間が極端に短くなっていた。

 

 

「ッ!」

 

 

 それに舌打ちをするのはマザーズデー。

 恐らく対応しているたしぎ本人もわかっていないだろうが、東の海(イーストブルー)の一曹長が偉大なる航路(グランドライン)で数多くの賞金首を狩ってきたマザーズデーと互角に戦えている状況が異常。先ほどからこちらの攻撃を読んでいるかのように立ち回っていることもそれを証明していた。

 恐らくは護衛対象を一人で護るという緊張感の中で偶然歯車がかみ合った結果であるため不安定ではあるのだろうが、それは後半の海で闊歩している猛者たちの技術。それを本能的に用いている証拠でもあり、潜在的能力があることの証明だ。

 

 

「―――メンドクセェが・・・使()()()

 

「?・・・――ッ!?」

 

 

 だがそのまま押し切られるほど軟ではない。

 持っていた刀を頭上で大きく回し、そのままの勢いで振り下ろす。

 たしぎもそれに対して迎撃するように動こうとするがマザーズデーの持っている()()に凄まじい悪寒を感じ取った。

 

 悪寒を感じ取るも反応が遅れたことで幾度となく行われた刀同士のぶつかり合いが発生。たしぎの刀が欠けた。

 

 

「!?刀が・・・!」

 

「まさかこんな序盤の海で()()を使うことになるとは思いもしなかったが・・・使った以上は確殺だ」

 

 

 たしぎの刀が欠けたことを視認したマザーズデーはそのままたしぎに突貫を仕掛ける。

 たしぎも突然冴えた感覚を頼りに受け流しながら応戦し始めるが、動揺が隠しきれていないためか動きがほんの少しだけ鈍くなっていた。

 

 始めは拮抗していたものの、マザーズデーが前進し始め、たしぎは一歩、また一歩と後退していく。

 このままいけば背後の壁にぶつかり、逃げ道がないまま斬り伏せられてしまうだろう。

 

 かといえど、ビビにできることと言えばたしぎから離れすぎずにMr.6の攻撃を予測するために壁へと背を預けることのみ。

 足手まといとなっている現状に対して唇を嚙むことしか出来ることはなかった。

 

 

 



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街からの出港

 
 
あけましたおめでとうございました
今年もよろしくお願いします()
 
 


 

 たしぎが海兵であるにも関わらず、ルフィ達の船でローグタウンを出港してしまったのは海兵人生では最も不幸な事柄であろう。

 職務を全う出来ずに海賊に連れ去られる。場合によっては離反と採られてもおかしくない内容だからだ。

 たしぎはとても真面目であり、海兵内でもアイドルポジションに遺憾ではあるが就いていた。そのため離反したとは考えれないだろう。

 一海兵として海賊と寝食を共にしているだけでなく、あろうことか海賊に強くなるための特訓を受けていると聞けば彼女の上司であるスモーカー大佐が聞けば憤慨モノだ。

 

 しかしたしぎは海兵として不幸なことであれども、己の人生としてはとても幸運であると言い切れる。

 海兵として活動している以上、世界の秩序を乱している海賊は『悪』だ。

 だが悪と断ずる組織で実際に暮らしてみて、狭いフィルターで視野を狭めることはいけないのだと学んだのだ。

 民衆を下に見て略奪を行う海賊。逆にそんな活動など眼中になく、己の夢のために海賊旗を掲げて大海原へと乗り込む海賊。

 大まかに分ければ海賊もこの二種類に分けられることに気づいた。ローグタウンで活動している頃であれば絶対にありえないと断言出来る。

 

 現在進行形で未熟なのは理解しているたしぎであるが、この船に居なければ気づけることも気づけなかった。

 航海した時間は短いながらもローグタウンの頃よりは明らかに強くなっていることも実感できる。

 平和な海でもある東の海(イーストブルー)。そこで活動する海賊はごく少数であり、戦闘技術もはっきり言ってしまえばそこまで必要ではなかった。だが麦わら海賊団ではそんな戦闘技術も高みに存在している。

 

 

 “剛拳”ホシグマ・ユウギ

 

 

 言ってしまえば彼女は異質。もっとわかりやすく言えば化け物だ。

 

 同じ人間のはずなのに肌は刃を通さず、握り拳だけで岩を砕く。彼女曰く動物(ゾオン)系の悪魔の実を食べたということだが、それだけで片付けていい問題ではない。

 物理的干渉を自動で無効化する悪魔の実自然(ロギア)系。そのモクモクの実を食べて全身煙人間となっているスモーカー大佐を難なく鎮圧したと本人から聞いたが、到底信じられなかった。

 なんでも“覇気”と呼ばれる技術を身に着ければ自然(ロギア)系相手でも触れることができると聞いた時は正直なんだそれはと考えた。東の海(イーストブルー)出身の者なのに、なぜそんな技術を身に着けているのも疑問ではあったが、それ以上になぜそれを海兵である自分にまで教えるのかが理解できなかった。

 

 

『なぜかって?成り行きさ。やましいことはない。ただの気まぐれだよ』

 

 

 肩身離さず持っている盃を傾けながらそうはっきりと言い放った時、勇儀が言いたいことをなんとなくであるが察したのだ。

 

 彼女は自分と張り合える猛者を増やそうと考えているのだと。

 

 海兵と海賊は分かり合えない者同士だ。今のこの関係もどこかでなくなる。

 だが最低限の技術と考えを教えておけば、勝手に高めてくれるのではないかとそう考えているのだ。

 そしていずれは自分の喉元に刃を突きつけるレベルにまで達するその時まで、楽しみながら生きていくのだろう。

 最もただでさえふざけた強さなのに、更に高みを目指して日々鍛錬している彼女を越える日は来ないような気がしないでもないが、それは置いておく。

 

 

 

 現在進行形で戦闘中であり、相手の攻撃で自分の得物が欠けてしまったというのにも関わらずそのようなことを考えてしまうことにたしぎは内心でため息をつく。

 先程の攻防で刀が欠けてしまったショックで動きが鈍くなってしまったが、たしぎの頭の中はすでに冴えていた。

 相手が動くよりも先に行動を予測することが何となくではあるが可能になり、避けるべきところは鍔迫り合いすら避けてこれ以上の損害を防ぐ。

 まるで自分以外がスローモーションになったかのような錯覚。

 それは相手の大太刀が黒刀へと変化していても変わりはない。

 

 

(……なるほど、これが“見聞色”ですか…そして相手は“武装色”。見事に分かれていますね)

 

 

 ユウギの本気(マジ)パンチを文字通り死ぬ気で躱し続けた成果がこの局面で現れ始めたのだ。

 座学で知識は頭に入れたものの、本当に自分がその技術をつかめるとは。

 

 

「――――チッ!!」

 

「――!くっ!!」

 

 

 全ての人間に宿る「意志の力」。

 実戦で常に扱えるようになるまで長期の鍛錬が必要になるが、たしぎはまだそこまでに至る最初の道を歩み始めただけに過ぎない。

 意識の高ぶりで感じ取れてはいるが精度にムラがまだ存在している。予測が外れたり、タイミングがブレたりと不安定な状況で何とかやりあえている今の現状はやはり厳しいと言わざると得ない。

 

 対して相手はやはり経験の差と言うべきか。こちらの動きを見切り始めており、うまくタイミングをずらす様に立ち回りが変わってきていた。

 大太刀を身の一部の如く扱うその技量に舌を巻きつつ、たしぎは背後の壁を駆けあがる。

 そのままバク宙の要領で身を空へと浮かべながら刀を振るうも、マザーズデーはうまく受け流してきた。このままではやはりジリ貧であると判断したたしぎはゆっくりと自分の動きを制限されない場所へと後退していく。

 

 

「イラつくねぇ…序盤にもほどがあるこの海で、名も売れてねぇ一兵にここまで手こずるとは…」

 

「そうですか?なら私達は偉大なる航路(グランドライン)でも通用するということですね。それはうれしい事です」

 

「ッ!!言ってろ!!」

 

 

 たしぎの挑発に対して何かが切れる音が聞こえた。

 イラつきが限界に達したのかものすごい勢いで切りかかってくる。だがそれはたしぎとマザーズデー、両者のものではなく、第三者の介入によって阻まれた。

 

 近くの倒壊していた建物が崩壊し、凄まじい戦闘音が響き渡る。

 破壊音と衝撃が響き渡り、二人の間に入るかの如く向かってきたのだ。

 

 

『ゾロ~~~~~~~~~!!!!』

 

 

「えっ、なに!?」

 

「―――!!」

 

 

 二人はすぐに距離を置いてこの騒動の原因を探る。

 それはすぐにわかった。

 麦わら帽子を被った見慣れた男が、三本の刀を扱う剣士に殴りかかっていたのだ。

 

 

「おれは お前を許さねぇ!!勝負だ!!」

 

「この野郎っ……!!人の話も聞かねぇで勝手な事を……言ってんじゃねぇ!!!」

 

 

 『ぬあああああああっ!!!』

 

 

 物が壊れ、それによって発生する破砕音が周囲の音を奪っていく。

 一対一で行われている戦闘でもこれほどの影響を与える戦闘をたしぎは見たことがない。

 そのためか目の前で行われている映像に目が行ってしまい、先ほどまで自分が戦闘をしていたことを忘れてしまうほど呆気に取られていた。

 

 

「……あいつら、本当に嘗めてくれるじゃねぇか…おいMr.6。いるんだろうが、何呑気に観戦していやがる。さっさと始末するぞ」

 

「やれやれ私は王女を打ち取るタイミングを計っていた所ですのに…それほどまでに溜まっているのですか」

 

「当然だろうが。これほどの屈辱は初めてだ。妨害したと思えば同士討ちをはじめやがってこっちは眼中にない。“バロックワークス”オフィサーエージェントの名折れでもあるが…なによりもどこまでふざけていやがるのか……!!」

 

 

 オフィサーエージェントである彼女らは『麦わら』海賊団の情報も知っている。

 東の海(イーストブルー)出身で懸賞金の初頭が3000万ベリーという平和を冠する世界では破格の額を付けられた存在であると。だがその程度の懸賞金であれば二人は難なく狩ってきたのだ。それがまさかのぽっとでのルーキーが率いる部下にここまで時間をかけることになるとは思っていもいなかった。

 そんな内情もあり、マザーズデーの限界も沸点に達している。

 それに気づいてはいるMr.6ではあるものの、自分から言葉を投げかけることはしなかった。今回の目標(ターゲット)に対して時間をかけすぎていることも事実であるからだ。

 

 Mr.6は未だに争っている二人を見る。

 本来の目的は自分たちの組織に侵入し、情報を盗み取っていたアラバスタ王女の抹殺だ。極端なことを言えば彼らは無視してもいい存在である。

 だがここまで虚仮にされた以上、むざむざと目標だけ仕留めてきたとしても逃げ帰ってきたともとられかねない。それは今後の活動に影響が出てくる可能性も孕んでいた。何よりも彼らもこちらの存在を知った者達。生かしておけば余計な情報が流れ出る危険もある。

 

 

「早めにケリをつけましょう。援護しますよマザーズデー」

 

「当然だ!殺るぞMr.6!!」

 

 

「「ゴチャゴチャうるせェな!!」」

 

 

 そんな判断もあり、邪魔をしていたルフィトゾロを抹殺しようと行動を起こそうとした二人で会ったが、そんなやり取りが戦闘中でも耳に入っていたルフィとゾロが瞬時に距離を詰める。

 

 

「なっ…!?」

 

「なん…!!」

 

 

 馬鹿にしてはいけない。彼ら二人は“偉大なる航路(グランドライン)”に入る前から勇儀の扱きを受け続けてきたのだ。

 相手の警戒を乗り越えて接近することなど朝飯前になっている。

 

 

「「勝負の…邪魔だァ!!」」

 

 

 完全に不意を突かれたMr.6とミス・マザーズデーはそれぞれ綺麗に拳と斬撃を食らって遠くの建物へと吹き飛んでいった。

 それを見ていたビビとたしぎは二人がここまでの強者であるとは思っていなかったのか、衝撃が抜けれていない様子だ。最も二人の実力を初めてみたのが同士討ちの最中でなければ素直に喜べていたのであろう現実が残念な話である。

 

 

「……邪魔ものはいなくなったなやるか」

 

「おお」

 

「やめろっ!!こん馬鹿共!!」

 

「「はぶっ!!??」」

 

 

 オフィサーエージェントを撃退したとは言えど、彼らの中では決着などついていない。そのため再び喧嘩を始めようとしたところにナミの剛拳が二人の頭を打ちぬいてそのまま地面とキスを強要させた。

 

 

「まったく…あんたらのせいで10億ベリーが逃げるとこだったじゃない…さってと。あなたが王女さんね」

 

「…どうして私を助けてくれたのかを聞いていいでしょうか?」

 

「えっ、それは海兵として」

 

「あぁ、そのことについては私が話すわ。ただその前にちょっと契約をしない?」

 

「契約?」

 

 

 海兵だからと説得を試みたたしぎを止めてナミはビビにある提案を示した。

 この場に来る前にイガラムと話した内容。それをビビに承認してもらうためだ。

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 月が綺麗だ。

 

 そんなことを思いながら有角の女性は盃を傾ける。

 雅な着物を着こなすその姿は魅入ってしまう何かがあった。

 

 

「………さてあんたはこれからどうするんだい?」

 

「ふふっ。どうしようかしら?」

 

 

 本来の船員(クルー)でもない人間が乗っているのにも関わらず、我関せずの姿勢で勇儀は伊吹瓢を傾ける。

 この身になってから酔うという状態になったことがない勇儀は冷静に目の前の女性を分析していた。

 

 目の前の女は内心に一物抱えていることは察したが、それでもなぜこの船から早急に退避しないのだろうか。勇儀が最初の邂逅で物理にモノを言わせればこのような状況に陥ってはいないだろうが、お茶を出して軽く話し合った末に記録指針(ログポース)をくれた以上悪い奴ではないと思う勇儀であるのだがふと疑問が浮かぶ。

 たがそれ以上に赤の他人に手解きを行うのだろうかと。

 しかし彼女を見るに、そんなことを聞いたところで流されてしまうのは目に見えていた。

 

 

「まぁあんたが構わないならいいんだが...船に変なことはしないどくれよ?航海中に沈んで終わりじゃあいくらなんでも悲しいからね」

 

「ふふっ。そのわりにはそれもそれで面白そうって顔をしてるわよ?」

 

「えっ、ほんと?」

 

「冗談よ」

 

 

 軽口を数回叩きあい、彼女は満足したのか頑張ってねと言葉を残して船から降りる。

 亀に繋いだ船でここまで移動してきたようで、こんな移動手段もあるのかと勇儀は素直に感心した。

 

 亀船の姿が丁度消える頃、出港しようとしていた船が爆発を起こし、メリー号の船員達とプラスワンが急いだようにやってきた。

 

 どうやら忙しい船旅になりそうだ。

 

 

 



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砂漠の王国へ

 
 
 前回の投稿時には約10か月もの空白期間があったにも関わらず、感想をくださり本当にありがとうございます。
 この場を借りて感謝を。
 
 展開をどうしようかと考えた結果、リトルガーデンやドラム王国はバッサリカットすることにしました。正直苦戦するどころではなかったのでね。仕方ないね。
 
 


 無事についたアラバスタ王国。

 道中で二人の巨人海賊団の船長らとのイザコザや病に侵されたナミを救うべく向かった医療大国であるドラム王国の揉め事などが起こったが、航海中も常に鍛えていることもあってそれほど苦戦もすることはなかった。

 むしろ苦戦されてしまっても困る。ルフィが目指す海賊王になるためには邪魔をするもの達を全員倒し、自分が最強であり、そして自由であることを全ての海に示さなければならない。

 それは詰まる所海軍本部や王下七武海、“赤髪”のシャンクスと言った大海賊にも遜色ない強さを有していなければ決して叶わない夢でもある。

 

 勿論勇儀がこの船に関わる以上、仲間内で足を引っ張り合うような事を起こしたくもなく、要介護をしたくもないので必要最低限の自衛は出来るようになるまでは鍛えていく考えだ。

 せっかくの船旅を行っていく中で、航海を基本的にナミとウソップ、そしてサンジが担っていることでルフィとゾロはこれといったことがない限りは勇儀の扱きを受けている。広大な海原を進んでいる時間こそ、他者との差を埋めて引き離していける大事な時間なのだ。航海にいつも目を輝かせているルフィに申し訳ないが、“覇気”の修行は絶対に譲らない。これに固執するわけではないが、何より必須科目だからだ。

 そんな日々鍛える麦わらの一味とたしぎの面々は“覇気”を完全に扱うにはまだまだである。だがルフィ、ゾロ、そして予想以上の早さでたしぎが頭角を現していた。“偉大なる航路(グランドライン)”の最初に訪れた町 ウイスキーピークで戦ったMr.6とミス・マザーズデーと刃を合わせたことで共感を受けたのだろうと当たりをつける。

 このペースで行けば“新世界”に入るまでに多少の力は備えることが出来るだろう。

 

 

「おぉーい!!勇儀ぃ!!早くしねぇと遅れちまうぞぉぉおーー!!」

 

了解(ヤー)、分かってるよ船長(キャプテン)

 

「おれ、ドラム王国以外の場所に来るの初めてだ。こんなに熱いものなんだな」

 

「ここアラバスタは砂漠の王国だからね。夜になるとドラム王国ぐらいの寒さになるからみんな気をつけてね」

 

「モチロンですビビちゅぁぁあん!!」

 

 

 そんな未来予想図を頭に浮かべているとルフィの急かす声が聞こえてくる。盃に注いでいた酒を一気に飲みほした後、軽く回して水気を一気に器から飛ばしたのちに邪魔にならないように背負う。

 これから向かうは砂漠の王国 アラバスタ。麦わらの一味が送り届けると誓った王女ビビの故郷だ。船が波に拐われないようにしっかりとくくりつけた後、全員降りて準備を進める。

 

 初めての船旅に期待を膨らましているのはドラム王国で仲間になった船医 トニートニー・チョッパー。

 元々はただのトナカイであったものの、ヒトヒトの実を食べ、その後に拾われたことで薬学の知識を備えた貴重な存在だ。そこら辺のチンピラ相手程度であれば簡単に蹴散らせる戦闘力を有しているため、アラバスタで行動させることに関しては誰も異論を挟まなかった。

 それどころかアラバスタ王国に向かうためには砂漠を越えて行かねばならない。毒草を含めた野草のデータが全て頭に入っている彼の知識はとても重宝するだろう。主にうちの船長が。

 

 そんなこんなでアラバスタまでに仲間を増やした麦わらの一味。

 彼らは王女を無事に宮殿に届けるべく、近くに存在する港町。名を「ナノハナ」で活動を行おうとしていた。

 

 

「よーーし!行くぞ!!メシ屋へ!!!」

 

 

 ………行おうとしていた。

 

 

 

 

 

    ――――

 

 

 

 

 

「あの店はやけに騒がしいな…何があった?」

 

「はっ!何でも店で料理を食べていたお客が突然死したという情報が…」

 

 

 麦わらの一味が長い船旅を終えて「ナノハナ」へ到着して活動を始めている頃、葉巻を咥えた男が近くのレストランの騒がしさに気づく。話では客が“砂漠のイチゴ”と呼ばれる毒グモを食べてしまったのではないかという話だ。

 それだけならご愁傷様で済んだ話なのであるが、その男と周囲の者たちにとって聞き捨てならない報告が飛び込んできた。それは本来前半の海ではお目にかかることのできない人物であり、彼が属する海軍本部も要警戒として賞金首にしている者だった。

 

 

「おいてめぇら。周囲を警戒しろ。仲間がいる可能性が高いからな」

 

「はっ!」

 

 

 事態が悪化することを予測して部下にそう命じ、自身はその人物がいるという店の扉を開く。

 着こんでいるコートに書かれた文字は“正義”。そして背に有する獲物は海楼石で作られた十手。

 いつでも戦闘になってもいいように、海軍本部大佐である“白猟(はくりょう)”のスモーカーは突然死したとされている男へ近づいていく。

 

 

 

「ぷほっ!!」

 

『うわっ!生き返った!!』

 

 

 スモーカーが意識を失った男に近づいている途中でその男は頭を上げる。完全に死んでいると思っていた周りの住民たちは突然の出来事に驚き、意識を失ったのは眠ってしまったという珍事が原因であることにそれぞれが激しいツッコミを入れていた。

 そんな周囲には目もくれずに再び食事を再開する男であったが、背後から待ったがかかる。

 

 

「よく大衆の面前でメシが食えるもんだな。“白ひげ海賊団”二番隊隊長“ポートガス・D・エース”」

 

「おっとあんたは海軍かい?こんな店にまでわざわざ見回りご苦労さん」

 

 

 近づいてくる男が海兵だと分かっていてもすぐに逃げようとしない二番隊隊長。諦めたのか、逃げようと思えば逃げ切れるという自信があるのかと問われれば確実に後者となるだろう。

  

 “白ひげ海賊団”

 

 この名前は世界中の海の中でも特別だ。

 なぜならこの海賊団は大海賊時代が訪れる前から存在するモノであり、海賊王ゴールド・ロジャーと覇権争いを行ってきた超有名海賊だからだ。

 海賊王亡き今、二代目の海賊王に最も近い男として海軍本部だけでなく、各国も警戒する存在になっている。

 その海賊団二番隊“隊長”を勤める男が大佐程度に遅れを取ることなど万に一つもあり得ない。

 そんな自信と事実をポートガス・D・エースは有していた。

 

 

「てめぇがいなきゃこの店に寄り道はしねぇ。てめぇほどの男が一体なんの用でこの海に居やがる」

 

「……ちっと弟をね。探しに来たんだ」

 

 

 目の前に敵対組織である海軍がいても尚余裕綽々の態度を崩さない男はなんの悪びれもなくそう答えた。

 それどころか食事の手を緩めない。ルフィほどの雑な食べ方ではないとは言えども明らかな挑発行為ともいえる。

 

 

「で、おれはどうすりゃいい?」

 

「大人しく捕まるんだな」

 

「却下。そいつは御免だ」

 

「オレ自身別の海賊を追ってここまで来ている。お前の首なんかにゃ興味はねぇ」

 

「じゃぁ見逃してくれよ。興味ないんならな」

 

「そうもいかねぇ。俺が海兵で、お前が海賊である限りな…!」

 

 

 能力を開放し、いつでも戦闘を行える状態へと移行したスモーカー。

 それに対して乗り気ではないのかエースは軽口を叩く。

 瞬きをしている間に戦闘が起こってもおかしくないこの状況の中で住民たちは固唾を飲み、彼らを刺激しないように動きを止めて見守るなかで、空気を読むことができないものが二人…

 

 

「うはーーーっ!!メシ屋だ!!ハラへったー!!!」

 

「ちょいとルフィ。うれしいかもしらんが叫びすぎだよ。目立ちすぎる」

 

 

 麦わらの一味でも政府が認める問題児である賞金首 モンキー・D・ルフィと星熊 勇儀である。

 幾多にある店の中からピンポイントでメシ屋を見つけ出す嗅覚に勇儀は呆れつつも、メニューをすぐに決めて席に着く。そのまま唖然としつつも本来の仕事に気づいた料理長の手によって運ばれた料理に手を付け始めた。

 それを見て先ほどまで一触即発の空気を生み出していた海兵と海賊はその光景に唖然とする。

 二人に全くと言っていいほど気づいていない様子であるルフィと勇儀であるが、彼らがいるのはカウンターに最も近いテーブルである。つまるところスモーカーとエースがいる真後ろの席であるにも関わらず、自分の目の前にある料理にしか目が行っていないのだ。

 実に神経が図太い二人である。

 

 

「…!!おい!ル「麦わらァア!!!」

 

 

 近くの椅子を破壊してついにスモーカーが吠えた。

 エースの言葉をかき消すほどの叫びは二人の耳に届いたようで、スモーカーの姿を確認したまま食べ物を口に運んでいくのを忘れない。

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「食うのをやめろ!!」

 

 

 うまそうに胃の中へと料理を入れていくルフィとマナー良く食べつつも皿をまとめていく勇儀。そしてそれを眺めるスモーカー。時間にして30秒ほどといったところか。我慢できなくなったスモーカーが制止にかかった。

 

 

「…あらあら。あんたはローグタウンに居た…スモーカー大佐、だったかい?まさかこんな…と思ったが翌々考えれば追ってくる理由は十分にあったね」

 

 

 丁寧に口元を拭いた勇儀はスモーカーがこの場所にいる理由に気づいた。

 たしぎの存在である。

 不慮の事故とはいえど、彼女は海兵から見れば麦わらの一味に人質の形で攫われた状態だったのだ。あまりにも船員と馴染んでいたために普通に一船員(クルー)として受け入れてしまっていた。

 ちなみにたしぎを鍛えていたのも他と戦うときに自衛程度はできないとなーという理由であった。決してたしぎが考えていた理由ではない。仮にもたしぎを攫う形に仕向けた張本人がこれであってはどうしようもないだろう。

 それに対して周りも不平不満を一切言っていない事実は“麦わらの一味”が有する緩さがどれほどのものなのかを表しているだろう。

 

 

「!!ばもぼいもめうい!!なんべぱんべもばびび!!」

 

「食べ終えてしゃべれ!!」

 

「んぼばば!!?」

 

 

 残飯を吐きつつもスモーカーにしゃべるルフィに鉄槌を入れる勇儀。

 その後、ルフィが口の中に存在する料理を胃に収めるまで5分ほどの時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素敵!こういうの好きよ!私!!」

 

「でも…これは庶民の衣装というより…踊り子の衣装よ…?」

 

「ど…どうして私まで…」

 

 

 場所は変わって港町の外れ。

 ルフィと勇儀を除いた一味のメンバーは人目が少ないのを利用して今後の活動のための物資調達を行っていた。

 一味の華でもあるナミ、ビビ、そしてたしぎは己の素性を隠すべく、普段の衣装とは異なり踊り子の衣装に身を包んでいた。

 三者三様の着こなしで、抜群のプロポーションを生み出している。

 どれだけ素晴らしいものかというと常にサンジの顔がだらけきっており、ハートが浮いているのが空目してしまうほどだ。

 

 一同がこれから行うのは砂漠越え。普段航海する装備では水が足りず、何よりも砂漠特有の寒暖差を乗り切ることができないからだ。それだけでなく、自分たち海賊や王女ビビの存在がB・W(バロックワークス)にばれないためにも変装の意味で新たに調達しなければならなかったのだ。

 今の彼らは知らないがルフィと勇儀がスモーカーに見つかっている以上、ほとんど無意味になっているのだが。

 

 

「たしぎもB・Wに顔がばれてしまっているんだから多少の変装はしとかないと!相手は王下七武海よ?向こうから海軍に連絡入れられたら大変でしょ?」

 

「まぁたしぎさんが海兵だってことをクロコダイルが知っているとは思えないけど、用心はできる限りしておいたほうがいいわ」

 

「あーそういえばそいつ海軍だったな。忘れてたわ」

 

「えぇ!?たしぎって海賊じゃないのか!!?」

 

「ちょっとどういう意味ですか!!私はれっきとした海兵!海軍本部の曹長です!!」

 

 

 完全に忘れてたと言い切るウソップに、そもそも海兵である事実を知らなかったチョッパーの反応にたしぎが叫んだ。

 たしぎ自身一味に馴染みすぎていると思ってはいたが、完全に仲間扱いされているとは思っていなかったのだろう。しかし描写はされていないものの、リトルガーデンではB・Wの追撃を共に撃退したり、ドラム王国ではナミの病に対してルフィと共に奔走したりもしているため、仲間扱いされていても仕方がなかったりする。

 

 

「てかどうすんだ?本来だったらウイスキーピークでそいつとは別れる予定だったろ?成り行きでアラバスタ(ここ)まで同行してはいるが、向こうは世界有数の大国だ。海軍とも連絡ぐらいなら取りあえるだろ。それならここらで別れるってのも選択肢にあるだろ?」

 

「おぉいこらマリモ野郎。てめぇたしぎちゃんに不満でもあるのかコラ」

 

「…えぇ。確かに私はここであなたたちと別れて、そして海軍と連絡を取り合うこともできるでしょう。海兵としてそれが最も合理的で、安定した方針であると思います」

 

「えっ」

 

「ちょっ、たしぎ?」

 

「でも安心してください。私は中途半端なところでこの件から身を引くつもりはありません。政府公認である“王下七武海”の所業を知ってしまった以上、私は見届ける義務があります」

 

 

 ゾロの意見に同意をしつつもそれはしないと言い切ったたしぎに一同は安心する。

 

 

「しかし!それもこのアラバスタで無事に紛争を止めることができたら、私は元の職場に戻らせてもらいます!いくら本来あり得ないほどの待遇をしてくださったとは言えども私は海軍。あなたたちは海賊!本来であれば水と油の関係なんですからね!!」

 

「ま、それに関しては仕方ねぇよな。船長(ルフィ)副船長(勇儀)が受け入れてるとは言っても海軍(向こう)がそう都合よく取るわけがねぇ」

 

「そうね。ま、今すぐに海軍に行かないと言い切っただけでも安心でしょ。嘘つかない性格だし、はっきり言って信頼できる仲間は多ければ多いほどいいわね」

 

「…信頼、しているんですね」

 

「当然よ」

 

 

 何故とはたしぎは聞かなかった。

 聞かなくても麦わらの面々は目で、雰囲気で語っていた。たしぎは信頼しても大丈夫な人物だと。

 それを察せられるたしぎも麦わらと共に船旅を過ごしてきたことで多少なりとも感化されているようだ。

 

 海軍では所属する海兵達から持て囃されたことは多々あれども信頼されているとはっきり感じとる機会はほとんどなかったこともあり、胸の中がすこし暖かくなったのを感じたたしぎであった。

 

 

「…ん?なんか向こうが騒がしいな」

 

 

 ほっこりしていた一同であったがふと騒がしくなってきた本通りに気づく。

 なにやら誰かを追いかけているようだ。

 

 

「おいおい、ありゃ海軍だ。なんでこの町に…!?」

 

「それだけじゃねぇな。えらい騒いでる…海賊でも現れたのか…」

 

「ん?でもなんか見覚えのある姿が追いかけられてるぞ」

 

「はァ?そんな馬鹿な事…」

 

 

 壁に隠れつつも追いかけられているのがだれがを盗み見る。

 刀を振りかざしながら追いかける海兵の先には麦わら帽子をかぶった男。その隣には二つのタルを担いで追随する一角の女性。

 

 

『お前らかーーーっ!!!』

 

 

 一味トップのトラブルメーカー ルフィはともかく、勇儀に対して一体何をやっているのかと頭を抱える麦わらの一同であった。

 

 




 

・トニートニー・チョッパー
 この作品ではバッサリとカットされたが本編ではリトルガーデンで病に倒れたナミを救うために向かったドラム王国で仲間になるトナカイ。 
 ヒトヒトの実を食べてしまったがゆえに同種や人間に迫害を受けて周りを信じることが出来なくなっていたがドクター ヒルルクの尽力によりそのあたりは改善され、医者としての知識が豊富である。

 今作では勇儀の扱きによって強化されていた一味によりこれといった苦戦もなくワポルが吹き飛ばされている。
 今後ワポルが出てくることはないと思う。


・スモーカー大佐
 海軍本部大佐として“白猟”の名を有する有望株兼厄介者。
 ローグタウンについてから海賊を一度も見逃したことのなかったことに自信を持っていたが、勇儀によって見事に粉砕。さらにたしぎを攫われた(海軍視点)ことによりより一層自分が牢屋へ叩き込むと意気込んでいる。
 ちなみにではあるが強化候補の一人でもある。果たして勇儀を打ち倒せる日が来るのだろうか。


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買い出しと要件

 
 
 感想をくださった方々、本当にありがとうございます。
 やはり読んでくれていると目に見えてわかるのは励みになりますね。

 今回の話は少し短めになってます。
 うまく引っ張れなかったんや…
 
 


 

 

「ほ~、ユバやエルマルと違ってすごい繁栄だね。確かにこれは夢の町と言われるだけはある」

 

「だな。枯れた町とは大違いだ」

 

「各地で雨が降らない中で、アラバスタやレインベースはその恵みを受ける貴重な場所なの。水があるところに人は集まるから、結果的にこれほどまでの発展になったのよ」

 

「それもクロコダイルの策略ってことか…」

 

 

 夢の町「レインベース」

 

 それは各地で雨が降らずに枯れていく中で、自然の恵みを受ける町。国の英雄と称される黒幕 王下七武海に属する男 クロコダイルが統治している場所だ。悪い言い方をすれば彼の庭でもある。

 そんな場所にナノハナで海兵の追撃を逃れた麦わらの一味はやってきていた。

 

 ビビの目的であった反乱軍を止めるために本拠地のユバに向かったのであるが、ほとんどが砂に埋もれて廃墟寸前となってしまっていた。

 それだけでなく、反乱軍はこれ以上疲弊しないために本拠地をカトレアという一味が始めに船を止めたナノハナの隣町に移してしまっていたというのだ。

 すぐに引き返そうとするビビであったのだが、それを止めたのはルフィ。

 彼がいる限り国防軍と反乱軍の戦いが止まることがないと主張した。

 いくら反乱軍を抑えようともアラバスタ乗っ取りのために何年もの時間を費やしてきた黒幕 クロコダイルの策略にかかれば消した火をすぐに灯すことも可能だろう。それならば先にクロコダイルを叩くことで火元を止める。実に合理的な方針であった。

 その案を出したルフィに対して一同が驚愕していたのはここだけの話である。

 

 そんな背景もあってやってきたレインベース。中央に位置する場所には最大のカジノ“レインディナーズ”というピラミッド状の建物が鎮座している。ワニの頭にバナナがついていることから、ついた名前はバナナワニ。

 そのバナナワニを象徴としてどの場所からでも見れるほどの建物の大きさを誇っている目的地は目につきやすく、最悪散り散りになったとしても集合しやすい場所でもあった。

 

 

「ん?あれ?ルフィとウソップがいないぞ?」

 

 

 ふと船長と狙撃手がいないことに気づいたチョッパーはどこに行ったのかと首を振りながら探していた、

 そこにナミがお使いを頼んでいたのだとたしぎが教える。

 

 

「ルフィ君とウソップ君ならナミさんがお使いを頼んでいましたよ。水の補充をって」

 

「そっか。ならおれ小便行ってくる」

 

 

 麦わらの一味は一本の木が立つ場所で邪魔にならないようにして二人を待っている。

 お使いだけであれば余計な食糧を買って来たり、飲み食いしたりしそうではあるもののそこまで大きな問題は起こさないであろうという航海士の判断である。

 

 

「水の買い出しに行ったのはルフィとウソップかい?んー…あの二人なら直帰することはないだろうし、私も付近を探索してくるよ。役に立つものあったら買ってくる」

 

「あ、なら私も行きます。打ち粉がもうすぐ切れそうなんですよ」

 

「あんまり遠出しないでよね二人とも」

 

 

 時間がありそうということでトイレに向かったチョッパー、何か目ぼしいものがないかと近くの売店へと向かう勇儀に刀整備に必要な粉を求めてついてくるたしぎは集合場所から離脱する。

 観光で来たわけではないが、せっかくした町だ。探索しないともったいない。

 B・W(バロックワークス)が潜んでいる中でも自然体に行動する勇儀は目立つ角を髪を頭にまとめ、それを服で隠している。雑兵に負けない勇儀ではあるものの、如何せん角は目立ってしまう。一味が潜伏していることがばれてしまえば事が大きくなってクロコダイルの元にたどり着く可能性も減ってしまうかもしれないための必要な処置であった。

 

 一味の中でも頭が回るナミやサンジが勇儀とたしぎを止めないのも、彼女らが根はしっかりとしており、問題を率先して起こさないことを理解してくれているからだろう。日頃の行いがルフィと違いすぎるのである。

 

 そこからの流れはある意味で芸術なのかもしれない。

 三人の姿が見えなくなった瞬間にお使いを頼まれた二人が海兵を引き連れて帰ってきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしユウギさん。なぜあなたは彼らと共に海賊を?正直なところ、あなたが海賊をまとめ上げていても全く問題ないと思うのですが」

 

「んん~私が海賊を?はっはっは!残念だけどそれはないねぇ。私は無人島で生活して、それで満足していたんだ。ルフィと出会わなければ一生をあの場所で過ごしていたと思うよ。もっとも船出したとしても良くて賞金稼ぎぐらいだろうさ」

 

 

 たしぎの素朴な疑問に対して勇儀はあっけからんと答える。

 海賊は確かに悪くはない。だが勇儀はあくまでもルフィが仲間に呼びかけたから海賊になっただけであるのだ。自分が率いる姿なんて全く想像できない。一人でぶらぶらと酒を飲みながら歩き渡るのならば想像もできるのだが。

 

 

「そうですか…あなたがただの賞金稼ぎに収まってくれていれば海軍としてはとても助かっていたのですけどね…」

 

「もしもで語っても今じゃ意味無いさ。それより刀屋はあそこじゃないかい?」

 

「へ?あっほんとだ。ありがとうございます」

 

「いいさ。私は別の店に寄っておくよ。集合は皆の元にしようか」

 

 

 たしぎが駆けて武器屋に向かったのを見送り、勇儀はそのまま近くの路地へと入っていく。

 向かうと告げていた近くの商店には見向きもせずにさらに遠ざかるように進路を進める。

 まるで迷路のような路地を進んでいき、人気が無くなった場所へと出てから漸く足を止めた。

 誰もいないと目で見てもわかる。

 だが人が3人ほど並べれる幅があるこの場所で、勇儀を見ている存在がいる。

 

 

「…で、私に何か用でもあるのかい?」

 

 

 恐らくは一味内では勇儀しか気づかなかった気配。

 というよりも勇儀にのみ気づけるように気配を出した、といったほうが今回は正しいのだろう。

 勇儀が虚空に語り掛けるとそれに答える声が勇儀の耳に届いた。

 

 

「わざわざ人気がない場所を選んで頂いて感謝いたす。“剛拳”ホシグマ・ユウギ殿」

 

「世事はいらんさ。私としてはあんたとは初対面のはずなんだが…まさか告白しにこんな周りくどいことをしたわけじゃあるまいて」

 

「無論。それと貴女の命を狙ったわけでもないことをご理解なされよ。私と貴女では戦闘力の差が顕著であるが故に、交戦の意思もありませぬ」

 

「それはわかってるさ。暗殺したいのならばさっきの大通りで毒でも入れ込めば済んだ話なんだ。でだ、早く本題を述べてもらわなきゃこちらも困る。仲間が待っているんでね」

 

 

 勇儀の正面に現れたのは全身を布で覆い、己の姿を見られないように徹底しているその男。喜劇団のような面をつけて顔すらも見せないようにする姿勢は裏で暗躍するものだと影ながら主張していた。

 ルフィが帰ってくるまでそこまで時間がない勇儀は男を急かすが、男はそれには及ばないと伝える。

 

 

「“剛拳”殿。残念ながら麦わらの一味はすでに集合地にはおりますまい。貴殿の船長が海兵に追われながら集合地へ向かっていたのが確認できたため、すでに目的地へと向かっている最中でしょう」

 

「へぇ…つまりこれはあんたらの思い通りってことか?交戦せずとも戦力をばらけさせるためにわざわざその役を買って出た…と」

 

 

 男の発言に勇儀は戦意を上げる。

 眼前の男を瞬殺し、屋根を飛び越えて進んでいけば多少なりとも現状を把握できるだろう。

 静かに拳を握り、目を細める。下手な動作を見せようものならすぐにでも頭と胴を別れさせる意志を固めたところですぐに男が勇儀の心情を察したのか抗議の声を上げる。

 

 

「お、お待ちください!私はB・W(バロックワークス)のものではありませぬ!むしろ我々(・・)は奴らの計画を妨害するためにこの場に赴いているのです!」

 

「―――どういうことだい?」

 

 

 B・Wの敵対組織。

 この国でそう名乗るのはおふざけではない。そこらの一般人に紛れて活動をおこなっているのが彼らB・Wだ。下手に耳に入ろうものならあらゆる手を使って抹消しにくることだろう。

 そのリスクを負ってまで勇儀に語り掛ける男を勇儀は多少なりとも信じることにした。

  耳をすませば大通りから慌ただしい声が聞こえてくることから、ルフィ達が海兵に見つかったことで逃げ回りながらクロコダイルの元へと向かっているのは確実だろう。

 

 勇儀が周りの状況を察したことに気づいたのか、男は流石ですと言葉を零す。

 周囲の警戒は勇儀と男共に怠っていない。先に状況把握をしている男にこそ勇儀はその言葉をかけたかったのだが、生憎時間がそこまでない現状だ。

 男もこれ以上時間をかけないように本題と名乗りを上げる。

 

 

「私は“革命軍”諜報部員所属の者。名は「ハナム」。今後貴殿と私の出会いがあるかは分かりかねますが、ここに告げておきます故。では“剛拳”殿、こちらへ。貴女と話がしたいと願う者がおります」

 

 

 ハナムと名乗る男は勇儀をさらに奥へと誘う。

 周囲の建物によって影が満ちている路地であるというのに、彼が示す道はより一層暗く感じ取れた。これ以上進むということは今まで勇儀が見たことのない闇へと向かうかの如く。

 

 しかし勇儀は臆することなく足を踏み出した。

 ルフィ達が心配ではない、というわけではない。ただここは“偉大なる航路(グランドライン)”。幾多の海賊と海兵が群雄割拠しているこの海で、いつかは勇儀がいなくても乗り越えなければいけない出来事もあるだろう。それが今か先かの違いである。

 

 

「ん?ハナムか。ってことがあんたが“剛拳”ホシグマ・ユウギで間違いなさそうだな」

 

 

 誘導された先には帽子を深くかぶった男が一人。

 砂漠近くでまだ暑いというのにも関わらずコートを身に着けた男を見て、勇儀は彼こそが自分と話がしたい者だと察した。

 

 

「ご存知の通り私がそのユウギさ。あんたの名前は?」

 

「…おおっと。そいや名乗ってなかった。俺は革命軍の“サボ”だ。要件は人材探し。ユウギ、革命軍(ウチ)に来てみる気はないか?」

 

 

 “革命軍”

 

 そう名乗るものと出会うことでこれから先にどのような変化をもたらすのか。

 それを誰も知る由もない。

 

 

 




 
 
 

 
 
・バナナワニ

 アラバスタ編でクロコダイルがペットとして飼っていた大型ワニ。
 極めて獰猛かつ貪食な性格で、海水にも適応し、海王類すら捕食するとのことから恐ろしさは野生内でも屈指だと思う。
 少し調べててバナナワニ園という動植物園が実在することに気づいて驚きました。


・革命軍

 いきなり出てきた革命軍。
 原作ではそこまで活躍が描写されていないためわからないが、今作では勝手に諜報部隊を作成。オリキャラぶっこみ。とやりたい放題である。
 オリキャラ…というかそのモデルはかなりわかりやすいと思う。今後出てくるかは不明。


 
 


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戦へ

 
 
 
メリークリスマス。
なお作者は仕事の模様。
 
 
 


 

 

 その人物を見たのは偶然だった。

 

 

 平和な海を関する東の海(イーストブルー)で活動している最中、ある町の中心で慌ただしい出来事が起こった。

 聞けばかつての海賊王が処刑されたあの場所で、首を落とされかけたものが落雷によって助かったのだと言う。

 ただの偶然で済ませれば簡単な話であったはずなのだが、騒動の中心に入る人物を見て頬が人知れずに上がっていくのを感じとる。自分とは無関係ではないその人物はこれから先の未来で必ず世界の歯車を回す存在だ。

 そんな麦わら帽子をかぶった少年がこの町 ローグタウンで活動する海軍本部大佐相手に悪戦苦闘しているのを視認しながら、いつ助け船を出そうかと考えていた時だ。その者が現れたのは。

 

 

――轟撃『一衝』

 

 

 一撃。

 その光景をどう答えるといわれたなら、まさにそれが当てはまる。

 静かに撃たれた正拳が一瞬にして煙を吹き飛ばし、本体を壁へとめり込ませた。

 

 海賊を捕らえようとしていたのは全身を煙に変えることが出来る自然系(ロギア)の能力者。

 自動で物理的干渉を無効化する自然の力を有している海軍の男を割り込んだ女性が難なく、それも一撃で退けてみせたことに驚いたことは今でも記憶に新しい。

 

 海賊が蔓延らないこの海で、まさか“覇気”を有し、それもかなり高度に練り上げられている者が存在していたとは思いも寄らなかった。

 その後調べてみようにも全くと言っていいほど情報がない。あってもそれは活動を始めて、海賊として名乗りを挙げてからしかなかったのだ。まるで突然湧いたかのように、彼女は現れたのだ。

 

 海兵を適当にあしらって自分の船へと向かう姿を確認したその時は、海軍に悟られぬ様にその場を去った。自分が手を貸さずともこの程度の障害は乗り切るだろうと思ってのことだ。

 

 

「ドラゴンさん!どこ行ってたんですか。ただでさえ大嵐なんですから早く戻りましょうよ」

 

「ふむ……すこし頼みがある。サボを呼んでくれ」

 

 

 後に一角の女性が麦わらの一味の船員(クルー)であると知るのは仲間と合流してからの話だ。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

「はぁ?革命軍に入れたぁ唐突すぎやしないかい?」

 

 

 サボと名乗る男の提案に勇儀は意味が分からないと表情が語る。

 初対面の相手に対して引き抜きを敢行してくる相手の意図が分からないからだ。

 

 戦闘が大好きで常日頃ルフィ達を扱いているが、世間の情勢に疎いわけではない。

 船旅中にニュース・クーから届けられる新聞から情報は得ていた。

 

 革命軍。

 それは打倒世界政府を掲げて各地で暗躍する反政府組織。

 麦わらの一味が成立して航海している間でも革命軍の思想の下にクーデターが勃発しており、現時点でも最重要犯罪集団として探し回っているという。

 それなのにも関わらず、自軍の情報を一切漏らさないように指揮しているのはただのテロリスト集団ではなく、それだけ統率力が取れた集団であることを意味していた。

 

 そんな世界にとって最も警戒せねばならない組織の者が勇儀と対面している。

 “偉大なる航路(グランドライン)”の中でも数多くの賞金首がいる中で、たった2千7百万ベリーの勇儀を指名してだ。 これがどれだけ異常な光景であるのかは裏事情を知っている者からすれば一目瞭然。わざわざ自分を選らんでくる理由が全く分からない。

 

 

「唐突なのはわかってるさ。おれだってドラゴンさんの指名を受けてなけりゃわざわざこの海までやってこねぇよ。だが逆に言えばあんたはドラゴンさんが一目を置くほどの人物だってのも理解している」

 

「…そりゃありがたいけどねぇ。私しゃあんたの事情も知らない。トップの顔もわからない。わざわざ引き抜きにきた理由も知らないのないない尽くし。そんなんで仲間になれってのは如何せん虫が良すぎる話だと思うんだが?」

 

「そんなことはこっちだってわかってる。だが革命軍(おれら)だってそんな悠長なことやってる時間はねぇんだ。素早くYESかNOで答えてくれ」

 

「ならノーだ。指名しながらその訳を話せない組織なんかと共に活動なんてできないね」

 

「―――まぁそうだ。だがおれも詳しくは聞かされてねぇんだ。言われたことはあんたとコンタクトをとってこい。そして協力を取り付けろ、だ。ドラゴンさんがなにを考えておれに伝えてきたのかはわからねぇが、革命軍(おれら)は敵じゃない。それだけはわかってくれ」

 

 

 即答。

 勇儀の対応にそりゃそうかと返すサボ自身もリーダーの判断に苦しんでいる様子だ。

 

 

――――ォォオ 

 

 

「ん…?」

 

 

 だが時間はそう待ってくれない。

 

 

――ォォォォォオオオオ

 

 

「さっきとはまた別に騒がしいねぇ」

 

 

―ウォォォォォオオオオ!!!

 

 

「ッ!!サボ殿!反乱軍がアラバスタへ総攻撃を仕掛けるとの情報が!!」

 

「はァ!?」

 

「ほんとうか!?もう少し時間があると予測していたが早めに行動に出てきたか…!」

 

 

 再び斥候を行っていたハナムからの情報で反乱軍がついに総攻撃を仕掛けるという情報に勇儀が驚きの声を上げる。

 枯れてしまった町から拠点を移したばかりだという情報からのこの事態だ。それほど切迫していたということか。

 

 

「何でも国王自らが出向き、町に火を放ったという証言が出ております。おそらくはそれが原因でしょう」

 

「国王が?何かの間違いだろ。ネフェルタリ国王は数少ない国民を優先して考える人物と聞いてるぞ」

 

「その通りです。が、諜報員がはっきりと目視で確認したと申しております。しかしながら私はそれこそ奴らの計画ではないかと予測しております」

 

「…可能性はなくはないな。国王軍と反乱軍両方に工作員がいるんだ。あいつらならやりかねない」

 

「つまり相手の中には変装の達人がいるってことかい?もしそうなら厄介だね。だれが味方なのかわかったもんじゃない」

 

 

 勇儀の言葉にサボも同調した。

 アラバスタの現国王であるネフェルタリ・コブラは常に民を想い、そして民のための方針をとっていたと聞いていた。そんな彼そっくりになれるだけでは済まないだろう。ほかの人物にも変装できるに違いない。互いにそう考えていた。

 

 

「ハナム、革命軍全員に伝えてくれ。俺たちはこのまま首都であるアルバーナへと向かう。半分に分けて行動するぞ。ここに残るものはこれまで通り工作に徹してくれ」

 

「御意」

 

 

 すぐに姿を消す彼を見届けた後、サボが勇儀の方を向く。

 

 

「おれはこれから首都に向かう。あんたはどうする?」

 

「私かい?んーールフィ達がどう動いているのかはわからんが、私も首都に行くとしよう。戦争を止めるのを王女さんと船長が約束してるんだ。できることがあるならやっておいたほうがいいだろうからね」

 

「助かる。こんな事態だ、人手は多いほうがいい。それと、くどい様だがこの騒動を止めた後にもう一度、あんたの答えを聞かせてもらう。その時はドラゴンさんの意図を何とか伝えるよ」

 

「そこまで言うなら後でしっかりと聞かせてもらうよ」

 

 

 こっちだと駆けるサボに勇儀は続く。

 目指すは首都アルバーナ。国王軍と反乱軍がぶつかると予測される中心地。

 互いの勢力がぶつかり合うまで、残り8時間を切っていた。

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 

「クハハハハ…ハッハッハッハ!!」

 

 

 そんな情勢を耳に入れた男の笑い声がある一室に響き渡る。

 アラバスタに存在するカジノ“レインディナーズ”の中でも特に厳重な警備の元で裏を知っているものしか入ることが許されない空間。隠された地下室。

 姿を隠すには絶好の場所で今回の首謀者である“王下七武海”サー・クロコダイルはギャラリーの眼前で勝ち誇るように事を話した。

 

 

「ここまで漕ぎ着けるまでに数々の苦労をした…!社員集めから資金集め、破壊工作、国王軍濫行(らんこう)の演技指導。それによってじわじわと溜まりゆく国へのフラストレーション。崩れ行く王への信頼…!!そうやって各々が行動する中でもみんな こう思っているのさ。アラバスタを守るんだ。おれ達がアラバスタを守るんだ…!!

 ハハハハ!!泣かせるじゃねぇか!国を想う気持ちが、それを想うからこそ国が滅びる要因になっちまうんだからなぁ」

 

「やめて!!どうしてこんなことができるの!!」

 

「あの野郎ォ~!この檻さえなけりゃ……!!」

 

「外道って言葉はコイツにピッタリだな」

 

「ククク…てめぇらもわざわざご苦労。最も王女さまをここまで連れてきたその悪運には驚いたが、それも終わりだ。能力者がその檻から出られることはねぇ。今後の情勢を楽しみに待ってな」

 

 

 王国の崩壊を望むB・W(バロックワークス)の社長が眼前にいるというのに誰も手を出せないのは彼らのおかれている状況にあった。

 麦わらの一味だけでなく、捉えようと追っていたスモーカーまでもが集まって一つの檻に閉じ込められているのだ。それもただの檻でなく、海楼石(かいろうせき)という特殊な石を用いて作られたもの。ダイヤモンド並みの高度と耐熱性を誇り、海と同じエネルギーを発するともいわれるその石は悪魔の実を食べた囚人らにつけられる手錠と同じものだ。

 海と同じエネルギーを発するその存在は触れた能力者の力を削ぐことができるため、体を変化させることが出来る自然系(ロギア)の能力者であっても脱出することが出来ないのだ。

 

 

「く……!!」

 

「オイオイ、何をする気だミス・ウェンズデー?」

 

「止めるのよ、この戦争を!!反乱軍よりも先に『アルバーナ』にたどり着けばまだ反乱軍を止められる可能性はある!!」

 

「ホォ…奇遇だな。おれも『アルバーナ』へ向かうところさ。てめぇの親父に一つだけ質問をしにな」

 

 

 ミス・ウェンズデーことネフェルタリ・ビビはミス・オールサンデーに両腕を後ろで拘束されている。

 それでも這いずるようにしてでも戦争を止めに行こうとする姿に一同は目を奪われた。国を想うその心に惹かれて一味はここまでやってきたのだ。

 

 しかしそれに待ったをかけるのがMr.0ことクロコダイル。

 彼は鍵を見せびらかし、そのまま地面へと投げ捨てる。そのまま地面にはねることはなく、床が開いてさらに下層へと落ちていった。

 

 

「クク、一緒に来たければ好きにすればいい…どの選択をしようがお前の自由(・・・・・)さ、ミス・ウェンズデー。奴らの殺し合いがあるまで8時間。ここから急いだとしてもそれ以上はかかるだろう。反乱を止めたきゃすぐにここを出るべきさ。さもなくば…何十万人が死ぬことだろうよ…!

 無論こいつらを助けてやるのもお前の自由。この檻を開けてやるといい、邪魔はしねぇ。だが俺としたことがウッカリ(・・・・)この床の下に鍵を落としちまったがな」

 

「バナナワニの巣に投げ込んでおいて白々しい…!!」

 

「クハハハハ!!じゃあおれ達は一足先に失礼するとするか…。それと伝え忘れていたがこの部屋はあと一時間かけて自動的に消滅する」

 

『  !?  』

 

「B・W社社長として使ってきたこの部屋はすでに不要の部屋。水が入り込み、ここはレインベースの湖に沈む。罪なき100万人の国民を選ぶか、それとも未来のねぇたった数人の小物海賊団を選ぶか。最もどちらも救える可能性は低い賭け。“掛け金(BET)”はお前の気持ちさミス・ウェンズデー。クク、クハハハハハ!!!」

 

「おいビビ!何とかしろっ!ここからおれ達を出せ!!おれ達がここで死んだら!!誰があいつをぶっ飛ばすんだ!!」

 

 

 室内に響く笑い声をかき消すように叫んだルフィの声に、クロコダイルの動きが一瞬止まった。

 背を向けていた状態からゆっくりと、首を動かしてクロコダイルはルフィ達を視界に収めた。

 

 

「……自惚れるなよ小物が…」

 

「…お前のほうが、小物だろ!!」

 

 

 睨みあう両者。

 互いに組織を率いる頭目として、どちらも引かない。

 

 しかし水没し始めている部屋で睨みあい続けるわけもなく、開いた床から出てくるバナナワニを見届けるとクロコダイルはミス・オールサンデーを連れてそのまま外へと出て行った。

 敵を目の前にして何もできない無力さと、彼に対する怒りでルフィが叫ぶ。

 

 

 どちらが泣いても笑っても、この事態が終息するまで残り8時間。

 

 



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阻止への第一歩

 
 
 
 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします!

 これからも5000字程度を目安に投稿を行っていこうと思います。
 今後ともこの作品を気ままに御覧なさってください。
 
 
 


 

 

 嫌な風だ。

 

 これから怒りと嘆きで彩られた飛沫が起こる。

 革命軍に所属し、これまでも多くの国が倒れ行く様を目の当たりにしてきたサボはすぐに察しがついた。

 

 如何にこれまでが幸せに満ちてきた国であっても、如何に闇を抱えてきた国であっても、亡びるときは皆同じ。最終勝者へとなるべく、勝つ覚悟と、死ぬ覚悟を有してぶつかり合う。

 自分たちと相手、それらが有する感情が混ざり合って狂気となり、そして自分たちでは殲滅するまで剣を手から離すことが出来なくなる。

 戦いが空間を支配し、砲撃と剣戟が木霊し、隣の首がもげようとも止まることが出来ない極限の状態。

 それが戦いの状態であっても止まれることがあるのなら、それは第三者の介入によって空気が入れ替わることでしかありえない。

 

 反乱軍の攻撃開始の報を耳に入れてからもうすぐ8時間が経過する。

 迎撃態勢に入っている国王軍に視認されない位置で待機しているサボは双眼鏡で遠くの景色を見る有角の女性へ意識を移した。

 

 

「ちなみにだが…あー敬称はつけたが良さそうかい?」

 

「いやいらねぇよ。無理しなくていい」

 

「それは助かる。サボ、あんたらはどうやってこれから反乱軍を止めようってんだい?もう動き始めてるんだろう?」

 

「ああ。ここに来るまでに伝えたが反乱軍内に同志がいる。今後の工作方針もすでに向こうにも伝わってるだろう。本当なら攻撃自体を無くすことができればよかったんだが、それは流石に無理だった。だからおれ達は反乱軍(あいつら)が攻撃を行う目的を奪うことにした」

 

「…“革命軍”による国家転覆かい?」

 

「それはねぇよ。裏で手を引いていたB・Wをとらえた後、雨を降らす」

 

「雨を…?そんなことが可能なのかい?いくら何でも自然現象をどうこうする方法はないだろうに」

 

「いや、それは世界的に有名ではないだけだ。雨を降らす方法は何個か存在する。手っ取り早く雨を降らせる粉なんてものもあるくらいだ」

 

「そんなのもあるのかい…。ってことはその粉を使って雨を降らせると」

 

「いや、それはB・W(バロックワークス)がこの国から雨を奪うために行っていたことだ。即効性がある粉だが、これには問題点もあってな。周りの雨雲をまとめて一か所で降らせる性質があるんだ。つまり周辺の地域の雨をすべて奪うことになってしまう。そんなことじゃ根本的に解決しない」

 

「おいおい。そんなこと言ってもすぐに降らせなきゃ反乱軍も止まらないだろう?衝突しちまったら多少の雨じゃ止まらないだろうに」

 

 

 雨を降らせる魔法の粉“ダンスパウダー”。別称“雨奪い”

 

 数年かけてB・Wがアラバスタ王国から雨を奪うために使用してきた方法をサボはすぐさま否定する。

 その場しのぎの方法を用いたところで別の場所で同じ被害が発生する。そんなことは革命軍も望まない。

 

 話を聞いた有角の女性――麦わらの一味 星熊 勇儀はそりゃそうかと納得した。

 反乱軍を止める方法は分かった。だがそれだけでは衝突までには間に合わない。それならどうするのか?それは自分たちがこの場で反乱軍を待っていることが答えであると理解したのだ。

 

 再び双眼鏡に意識を移して辺りを眺める海賊を見て、本当に不思議な奴だとサボは思う。

 

 “偉大なる航路(グランドライン)”の後半の海である“新世界”。

 そこで多くの活動を行い、海賊を見てきたサボであるが、彼女のように悠々と人助けに近いことを行う海賊は極少数。名のある海賊で言うと“白ひげ海賊団”や“赤髪海賊団”と言った大物海賊団もその少数に入るといえば入るのだが、赤の他人に対してそこまで身を挺する行動を取ることはないと報告を受けている。

 しかし彼女曰く、歓迎の町からアラバスタ王国まで、始めは敵対勢力であった人物を護衛。それから元凶を叩くために行動を船長自ら行っているということだ。

 

 そんな普通ではない海賊をルーキーの頃に目を付けたドラゴンさんの慧眼に感服する。

 だが実際に出会ってわかることは彼らは誘導しやすい存在ではないということだ。

 今は利害が一致しているが故の協力関係であるが、場合によっては敵対する可能性が多いに存在しているのを忘れてはいけない。

 

 

 馬が大地を蹴って進む音が聞こえる。

 それに伴って宙へと舞う砂塵が壁のごとく霞んでいる。何も知らないものが見れば濁流が押し寄せて来ているのではないかと錯覚してしまうほどの光景。それはこの戦闘にすべてをかけて挑んでいる証拠でもあった。

 

 

「あんたらの仲間が雨をどうにかして降らせるってのはわかった。どれぐらい持たせればいいんだい?」

 

「それはわからない。だがそう長くはないはずだ。おれの仲間は優秀な奴が多いからな」

 

「……そうかい。なら一番槍は頂くよ」

 

「え?お、おい!!」

 

 

 ニッっと笑った顔を見て、勇儀はサボの言葉を信じた。

 笑顔を見たからとかではない。只々己の中で信頼に足ると判断しただけの話だ。

 

 あのままレインベースでルフィ達と合流しようとしていれば国王軍と反乱軍の衝突に間に合うことはなかっただろう。

 間に合わせてくれたことの感謝でもあった。

 

 勇儀は待機で用いていた砂に埋もれてしまった庭園から身を動かして障害物がない場所へと移動した。

 相手は100万を超える大軍。

 しかし戦慣れした戦闘集団ではない。それならばやりようはいくらでもある。

 

 馬に乗り、各々の武器を構えて向かってくる存在が目で見てわかる距離になってきたのを確認し、勇儀は改めて状況を整理した。

 足場は砂で安定したとは言い難い。空気も熱く、満足に息をすることもできない。仲間との連絡は一切取っていない。そしてB・Wの動きも勇儀自身そこまで把握できているわけでもない。

 

 しかしそれでもできることはある。それが足止めだ。

 

 普通に考えれば無謀。

 これから戦争を仕掛ける者達が、たった一人。それも見ず知らずの存在一人を視界に収めたところで止まる道理など存在しない。

 

 それならば。

 

 それならばだ。

 

 

 己の武力によって、その道理を叩きつぶす。

 

 

「さて、勇敢な反乱軍。残念だがここで行き止まりだ」

 

 

――四天王奥義『三歩必殺』

 

 

 酒を飲み干し、盃を上空へと放り投げ、握り拳を地面へ叩き込む。

 軍艦を一撃で屠る剛腕から放たれる衝撃。これまでも強敵を一撃で撃退してきたその全てのエネルギーを足元の大地へと投下する。

 当然ながらその威力はその場で収まりきらずに逆流し、周囲の砂を一気に巻き上げただけでなく、地面に大きなクレーターを作り出した。

 

 それを視認する先頭集団が不意打ちだと警戒度を瞬時に高め、雄たけびを上げて進軍速度を速める。

 早めようとした。

 

 

 

 

「ガアアアアアァアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 “覇気”を声に載せて、軍衆へと解き放つ。

 奮い立たせるために用いられた雄叫びは時には相手の戦意を奪う武器として用いられてきた。それじゃ姿が見えずとも、声によってどれほどの軍勢がその場にいるかを示すわかりやすい指標だったからだ。

 

 

――鬼声『壊滅の咆哮』

     

――鬼符『鬼気狂瀾』

 

 

 彼らがアラバスタへと近づくにつれて大きくなっていた雄叫びを、一瞬で上書きする大咆哮。

 それに合わせて場慣れしていない者達の意識を刈り取る圧力を一瞬でかけて意識を奪う。

 体格は似たようなものであれども、眼前の存在は全くの別種であると、そう思い込ませるために勇儀はかつてない規模で力を込めた。

 

 いくら強者であったとしても100万の軍勢と正面からやりあったところで押し込まれる。

 出鼻を挫き、敵は国王軍だけでないことを知らせるためにはなによりもインパクトが大事なのだ。

 

 やるからには全力全開。

 それが功を制し、軍勢の動きが鈍くなる。が、止めるまでにはまだ足りない。

 

 

「~~ぬぅぅ…うらぁあああ!!!」 

 

 

――『一刀烈破』

 

 

 すぐさま真横へ手刀を振るい、直線状の砂を一気に巻き上げ地面に切れ目を作り出す。

 進もうとしていた反乱軍達の目には突如として砂の巨壁が生み出されたように見えただろう。

 

 流石にそこまでくれば遠くの者達も異常に気付く。

 反乱軍の戦闘集団だけでなく、後続の者たちの動きも勢いを削がれているのが感じ取れるほどだ。

 

 

「…ッ!!なんだ貴様は!!」

「おれ達の邪魔をする気か!?」 

 

 

 気を失った者達を守るように勇儀の前に立つ者達は声をあげる。

 各自で手に持つ剣を、槍を、そして銃口を。それを一身に向けられても尚、勇儀は笑う。

 

 

「生憎話す義理はない。あったとしても、あんたらは信じすらしないだろうさ」

 

 

 重力に身を任せて落ちてきた盃を取ってすぐに背負う。

 

 構えなどない自然体。それこそが勇儀が担う戦闘態勢。

 反乱軍に対して諭すような口調で述べつつ、一息ついて言葉を紡ぐ。

 

 

「名乗るとするなりゃこう名乗ろう。私は“海賊”。あんたらの邪魔しにやってきた。場所は広い、武器もある。闘志もある。私があんたらを邪魔するように、反乱軍(あんたら)も私を越えていく理由(わけ)がある。ならやることは簡単だ。おっぱじめようか!!!」

 

「ッ!!全隊!一人だと油断するな!軍とぶつかるつもりでかかれ!!」

『 ウォオオオオオオオオオオオオ!!! 』 

 

 

 首都アラバスタより25km。

 場所は広大な砂漠地点。

 

 後に歴史にも語られるアラバスタ最大の内戦の序章―――開戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やれやれ…まじかで見たがとんでもねぇなありゃあ…。“偉大なる航路(グランドライン)”前半の海に居ていい存在じゃないぞあれは」

 

 

 勇儀の一喝によって反乱軍は完全に出鼻を挫かれた。

 最初の威圧によって軽く見ても3万ほどは気を失ってその場に()してしまった。

 その後に続けて起こっている戦闘でも反乱軍の数多くが宙を舞い、そのまま意識を手放しているのが視認できる。

 

 最も反乱軍からすれば彼女の存在自体がイレギュラー。

 まさか100万もの大軍を一人で受け止めようとする者がいるとは思ってもみなかっただろう。それは裏で暗躍するものがいると考えてすらいないのならば尚更だ。

 しかし反乱軍としても勇儀一人に100万ぶつけるはずもなく、逃げ場がないように取り囲んで視界を塞いでいる間に大半の反乱軍は王国へと向かっているのが現状であるのだが始めの攻撃を警戒してからなのか、大きく迂回してから入口へ向けて部隊を差し向けている。これだけでもかなりの時間を稼げた。

 意識を飛ばしこそすれど、仕留めない勇儀に対して反乱軍は彼女の意図に気づいているだろう。

 ただの時間稼ぎであり、欲を出してこちらの戦力を削っておきたいのだと。現に反乱軍の被害は増える一方である。だがそれでも戦闘を行っているのは彼女に背後を見せようものなら致命的な打撃を受けることを理解しているからだろう。

 そんな戦場においてもいまだに怪我一つ追っていない彼女の運動神経に呆れつつも、自分のやるべきことをすべく駆けだした。

 

 

「…そっちの状況はどうだ?」

 

「はっ!!無事に話をつけることに成功したようです。しかしどれくらい時間がかかるかわからないと…!」

 

「いや十分だ。話がついたならこの作戦が失敗することはねぇ。お前らも気をつけろよ。国王軍だけじゃなく、反乱軍(そっち)にもB・W(バロックワークス)が隠れているんだからな」

 

「了解しました!サボさん、ご武運を!」

 

 

 反乱軍として身を投じていた“革命軍”の工作員たちはサボに敬礼をした後、前線へと向かっていった。

 

 サボがこれから行うのはB・Wの主要幹部たちの捕縛。これ以上情勢を引っ掻き回されてもたまらない。のだが、生憎幹部の顔は分かっていないのが現状だ。闇雲に探したところで無駄な時間を過ごすだけだろう。

 奴らの計画にとって最も邪魔になる存在がこの時に飛んでこないはずがない。そして彼らにとって息の根を止めてでもこの場にいてほしくない存在――王女 ネフェルタリ・ビビがやってくるはずだ。

 

 

「超カルガモとやらがどれだけ早いかわからねぇが、そう遅くなることはねぇだろうし、急ぐか」

 

 

 向かうは反乱軍が正面突破するであろう南の門。

 目的地へ向かうべく、サボは隠していたラクダの足を走らせた。

 

 

  




 
 
 
 
 
 
 
 
 
・ダンスパウダー

 原作において国王が首都のために他の地区から雨を奪ったように見せるためにクロコダイルが用意したもの。
 人工降雨船を用いてばれないように各地から雨を奪い、王国に対する怒りを焚きつけていた。

 別称“雨奪い”は効果の割に副作用がえげつないことと、裏組織が工作に用いていることから勝手につけました。なので原作をいくら読み返してもこんな言葉は出てきませんので気を付けて。


・勇儀の技

 四天王奥義『三歩必殺』や今回使った鬼声『壊滅の咆哮』のように原作などで実際に用いられている技はそのままの記入を。
 そしてオリジナル技は『』の前には何もつけないようにしました。

 前の話では書いていましたが、今後は『一刀烈破』のような記述になります。
 どうでもよい変更かもしれませんが、よろしくお願いします。




 ちなみにですが、この作品では“麦わらの一味”はMr.2と海上で出会っていません。ご了承ください。


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一味対組織

 
 簡単な前回の復習


・勇儀VS反乱軍
 
・革命軍行動開始

 



 

 

「オイオイオイ!それ大丈夫かい!?やれ大丈夫かい!?本当に来るんだろうねぇ王女と海賊共は!反乱軍の雄叫びがここまですでに聞こえてんじゃねぇーかね!これじゃ先に反乱軍が到着しちまうよ。まったく止める気があんのかい!?」

「間に合わないケースも当然あるでしょう?何しろ『レインベース』で彼らは大幅に時間をロスしているですもの」

「きぃ~~たぁ「何!?そうなのかい?!」

「衝突が起ころうがおれ達には関係がない。消せと言われたヤツをおれ達は消せばいいだけだ。最もそれができなかった奴らもいるようだが」

「…ッ!!言ってくれるねぇMr.1…!!今ここで叩き切ってやろうか!?」

「おやめなさいミス・マザーズデー。我々が任務をしくじったのは事実。ボスの情けで今生きているのは確かなのですから、私達はこれ以上の失態をしないように立ち振る舞うだけですよ」

「~~ッ!!!クソがっ!」

「おやめなさいなあなた達。これからが大事な時なのに仲間割れなんてみっともないわよ」

 

 

 場所は首都『アルバーナ』の西門に位置する岩陰に隠れて秘密組織“B・W(バロックワークス)”の主要幹部達が集結していた。

 

 これから戦争が起ころうとしている時でも慌てるようなことはなく、社長である“王下七武海”サー・クロコダイルの命によって目標が来るまでの間待機していた。

 なぜ反乱軍が来ると予測されている南の門ではなく、西で待機しているのかというとビビ王女がこの西門を通りすぎると考えられているからだ。

 王女が乗るカルガモ カルーはアラバスタ王国でも最速とされる超カルガモであり、長距離を短時間でかけることを可能にしていた。故に間に合うと踏んで待ち構えているのだ。

 

 王女を確実に仕留めるべく待機している幹部は7人

 

 胸に「壱」の入れ墨を入れた丸刈りの男であり、オフィサーエージェントの中でも最強の実力者と言われているMr.1。

 そしてそのパートナーであり、パーマをかけた長髪と露出度の高い衣装が特徴のミス・ダブルフィンガー。

 

 おかま道と書かれたコートを身につけ「2」の数字を模した白鳥を背負うオカマであり、今回の作戦においても重要な役割を担っていたMr.2・ボンクレー。

 

 言動がとてつもなくトロく、「4」と書かれた黄緑色の服を着た大男Mr.4。

 そのパートナーであり相方とは対照的なせっかちな中年女性であるミス・メリークリスマス。

 

 B・Wきっての狙撃手であり、任務失敗者の仕置き人であった13日の金曜日(アンラッキーズ)の上司に位置する『掃除屋』を担っていた神父。Mr.6。

 見た目はシスターの身なりであるが、スカート部分に大きなスリットを入れており、言動もかなりの好戦的な女性であるMr.6のパートナー。ミス・マザーズデー。

 

 

 7組いるB・Wのオフィサーエージェントのなかで4組もの面々を一つの場に集めている事実がどれだけ社長が危機感を持っているのか、それも特定の人物を始末するために残っている幹部のすべてを用いる分、どれだけ本気なのかを物語っていた。

 

 

「き~~~~てぇ~~~~~~~」

「んん~~?ちょっとォ~~あんた達あれ見てみなさいよォ~!!あちし達のほうに向かってきてるわよぉん!!」

「………!!カルガモ!?それも『超カルガモ』じゃないかい!!それも6人いるよ!!」

「…社長(ボス)の話では“Mr.プリンス”を名乗る奴が複数いると言ってたわ。2人増えていても数は合う」

「何人増えようが目標は王女(ビビ)一人だ。何をうろたえている」

「一人消せばいいって簡単に言うなMr.1」

「ふふっ、確かにあれ(・・)は単純でありながら効果的だ」

 

 

 Mr.4の声を遮りMr.2がカルガモの存在に気づく。

 最速の名を関する『超カルガモ』。それに乗る者たちを視認して、Mr.6は合理的だと笑った。

 

 

「あんた…どれが(・・・)王女だか当ててみなよ!!」

 

 

 カルガモに乗る全員が同じマントを着用していたのである。

 身を完全に覆い隠せるマントを着用していることで、どれが男で、どれが女なのかすら識別するのは厳しい。

 どれが本物かを確認しようにもそんなに悠長なことをしていれば、本物が反乱軍のリーダーと出会ってしまう可能性が極めて高まってしまう。

 

 故に先手をミス・メリークリスマスが取るべく行動を起こした。

 Mr.4は普段の言動とは相反して、素早く背に担いでいたバズーカを構え、弾薬を発射する。

 野球ボールの形状をしている弾薬はカルガモたちの前方に落ち、転がっていく。

 

 

「――!やっちまいな!Mr.4!!」

「!!それには近づくな!!」

 

 

 目の前で落ちた意図は時間差での爆破攻撃。

 それが何かにいち早く気付いた騎乗者が警告したことで被害は全くなかったが、まっすぐ突き進んでいれば爆発に巻き込まれて一羽は動けなくなっていただろう。

 そう断言できる破壊力を有していた。

 

 

「よけた!速いわねいっ!あの鳥達!!」

「南へは一人か…反乱軍の真正面へ向かうつもりか…!!逃がすわけねぇだろぅが!!」

「やれやれ、気が早いですねぇ…ですが、誰かが行かなければいけないもの。あれは私達が請け負いましたよ」

 

 

 初見で避けられたことに驚くMr.2を他所に、南門へとかけていく1羽のカルガモを追いかけて突貫していくMr.6とミス・マザーズデーを筆頭に、オフィサーエージェントたちは一斉に散開する。

 各オフィサーエージェント相手に対してカルガモに乗った二人。

 ある程度の距離を取ったと確信してから人気がない場所へと移ったのちに迎撃をするべく逃走をやめた。

 

 

「うっふっふ!よくここまでついてきてくれたわね!!」

「何ィ!?」

 

 

ある場所では建物が立ち並ぶ街中で、

 

 

「貴方たちは運がいいわ!なぜなら私こそがビビ王女!」

「何を…んんっ!いや、私こそがビビ王女です!」

「…………」

 

 

ある場所では広場で、

 

 

「ここまでくればいいだろ」

「…そうだな」

「ん?」

 

 

そしてある場所では首都への関門近くの休憩所近くで、

 

 

「さぁ、正体を見せてあげましょ」

 

 

各々が戦う相手がしっかりと追ってきていることを確認した後、一斉に姿を隠していたマントを脱ぎ棄てた。

 

 

『 残念 ハズレ 』

 

 

 B・Wからすれば想定外の面々。

 そして麦わらの一味たちからすれば想定内の状況。

 姿を現した中にビビ王女の姿はなく、事前に知らされていた各手配書の顔が眼前に居るだけだった。

 

 街中まで追ってきたMr.2にはウソップが。

 広場まで到達したMr.1、ミス・ダブルフィンガーにはナミ、そしてたしぎが。

 都市外まで追ってきたMr.4とミス・メリークリスマスにはゾロとサンジが。

 語られることのないアラバスタ内戦の秘話が開戦した瞬間である。

 

 

(ありがとう…みんな…!!)

 

 

 そして反乱軍を止めるために一人物陰に隠れる少女こそが本物のビビ王女。

 彼女だけを無事にリーダーと会わせるために身を投げうった仲間たちの無事を祈りつつ、彼女は相棒のカルーの足を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなやり取りが行われているなか、首都アルバーナの内部では重要人物たちに知られないうちに変化が起こっていた。

 

 

「チィ……せっかく弟に会えたってのにすぐに姿見失っちまうたァツイてねぇ…。なぁ?おまえもそう思うだろ?」

「バ…バイ。ぞうおぼいばす…」

「ほんど…すいまぜんでじだ」

 

 

 街中とは言えど風でハットが飛ばされないように押さえる男の背後にはボコボコにされたのか幾多の男たちが死屍累々たる有様を晒していた。

 元凶とされる男の問いかけに怯えながらも答える姿からは襲撃してきた加害者だとは思えない。

 だが悲しきかな。“偉大なる航路(グランドライン)”で活動する賞金稼ぎ達であっても今回ばかりは相手が悪すぎた。

 

 人差し指から発火させながらニヤリと笑う男は全世界名を轟かせる“白ひげ海賊団”の二番隊隊長であり、二つ名《火拳》を有する偉大なる航路(グランドライン)後半の海《新世界》でも単独で活動出来る実力者 ポートガス・D・エース。

 自然系(ロギア)の実である「メラメラの実」を食べた彼は全身炎人間であり、覇気を乗せた攻撃以外は全て自動で無効化する。覇気を纏わないただの拳銃や刀剣で敵う道理はなかった。

 

 そんな彼であるがこの海にまだいるのは理由がある。それが先ほど襲ってきたチンピラたちにも問うた弟の所在だった。

 本当は別の目的があって前半の海にまで一人で戻っていたエースであるが、血縁ではないが義兄弟であるルフィが無事にやってきたときのためにチョッパーの故郷であるドラム王国でも言伝を残していたのだ。

 アラバスタのメシ屋で偶然にも出会えたと思ったが海軍のスモーカーに邪魔されたこと。“麦わらの一味”が想像以上に練度が高く、海軍たちの追撃から逃れるのが早かったことも相まってエースはルフィを見失っていた。

 この国にルフィがいることが確定であり、何らかの行動をこの国で起こすことが分かっている以上、エースも急いでこの国を離れる理由がない。慌てたところで何の解決にもならないことを知っているエースは喧噪の流れに身を任せて王宮がある首都アルバーナまでやってきていたのだった。

 

 

「おいおい、なんだこのザマは…」

「!」

「てめぇがやったとみて間違いないか?」

 

 

 さて、気づいていると思うがエースがのした男たちはB・W(バロックワークス)の下っ端である。

 一定以上の実力者であれば力量差を判断して様子を見ることもあっただろうが、彼らは打ち取れれば莫大な賞金がもらえるという事実に目が眩み、馬鹿正直に正面から戦いを挑んだ。その結果が今の有様である。

 そんな彼らを下したエース自身はアラバスタでの一件は全くと言っていいほど無関係であるのだが、関係者が今の状況を視認したとあってはそう言ってはいられなくなる。

 

 

「まァそうだな。こいつらをやったのはおれだが、そういうあんたらは?」

「…やれやれ。まさかここであなたを拝める日が来るとは思いもしませんでしたよ。私はMr.6、そして隣はミス・マザーズデーです。以後お見知りおきを“火拳のエース”」

「おれのことは知ってるのかい?」

「この稼業やってる以上、てめぇのことを知らない奴はいねぇ。《新世界》を根城にする海賊がこんなとこまでご苦労なこった」

 

 

 超カルガモ部隊を追ってアルバーナ内部に侵入を完了したオフィサーエージェント Mr.6とミス・マザーズデー。彼らがエースと出会ってしまったのだ。

 

 踏み込む。そして切り捨てる。

 やったことはただそれだけであるがエースはただ受けるのでなく、躱した(・・・)

 エースの軽口を聞いたと同時に行動を起こす姿勢は不意を突いてでも厄介事を処理するという気持ちの表れだろう。

 

 

「いきなり斬りにかかるたァ血の気が多いお嬢さんだな。そして武装色の使い手か…!」

「チッ…素直に受ければ簡単に済んだモノを…」

「二人で行きますよマザーズデー。流石に一人で“火拳”は無謀だというものです」

 

(……あ~~ぶねぇ~~~~!!よくわかんないけど、頑張れ帽子の人!!)

 

 

 幹部二人と2番隊隊長が戦闘態勢に入るなか、本来ならば彼らに追われ、そして戦う予定であったチョッパーはこっそりと物陰に隠れながら様子を窺うのであった。

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 お久。


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合流と撃退

 
 
 
どんな内容にするか忘れちゃった
みんな忘れてるから平気やろ('ω')
 
  



 

 

 ワァァァァァアアアアアアア

 

 

 晴天での中で凄まじい地鳴りが響く。

 

 百万を超える軍勢が駆け出せば、多少なりとも大地は震える。それにプラスして敵対する軍勢が加われば猶更だ。

 首都内ではどこを見ても反乱軍と国王軍がぶつかり合い、互いに命を削りあいながら自分たちの正義を掲げて戦闘を行っている。中心部までは到達していないが、すでに少なくない命がこの戦争で消費されているのは遠くから見てもすぐに判断がつくだろう。

 つまりは反乱軍のリーダーと出会い、説得を試みようとしたビビ王女の考えは失敗に終わったということだ。

 

「…うっ……」

 

 互いに視認できるぐらいの距離になった瞬間に都市側から飛んできた一発の砲弾。

 ビビや反乱軍のどちらにも当たらなかったのだが、それが起こした結果はより戦闘を止められないものにしてしまったのだ。

 間を縫うようにして飛んできた砲弾が砂を巻き上げ、一瞬とは言えど姿を掻き消した。

 そのまま反乱軍の誰もがビビに気づくことがないまま通りすぎ、戦闘へと至ってしまったのである。

 

「…カルー…っ!」

「ク゛エ゛ッ……」

「あなた…私を庇って…!」

 

 大軍に飲み込まれながらもビビ王女が無事だったのは常にビビの傍に居たカルガモ カルーが居たからに他ならない。咄嗟に自身の羽根でビビを隠し、自分の身を犠牲にして彼女を護ったのだ。

 しかしながらそれはカルーに多大な負担を抱えさせてしまい、彼の身身体は人とラクダに踏まれすぎたためか至る所で出血していた。

 

「ごめんね…こうまでしても…!反乱は始まっちゃった……。だけど止めるわ!何度跳ね返されたって…!学んだのよ!諦めの悪さなら!!」

 

 反乱を止めることが出来無かった。その事実に涙で目の前が見えなくなりそうでもビビは諦めることはしない。

 “偉大なる航路(グランドライン)”最初の町で麦わらの一味と出会って以降、ビビは麦わらの一味が持つ強さを学んできたのだ。

 半数が罠に掛かってしまった時も、航海士であるナミが高熱に魘された際に船医がおらず治療の施しようがなかった時も、そしてレインベースでクロコダイルに捕まった時も。決して一味の面々は諦めるようなことはしなかった。

 

 その強さを真近で見てきたビビにとっては大変貴重な時間だっただろう。

 彼女は王女であるが故に本来であれば危険とは真逆の位置に置かれ続けてもおかしくはない。そんな彼女が自らB・W(バロックワークス)に潜入したときには用意周到な計画と、それを実行している男が海軍の権威で守られた“王下七武海”の一人だった時は頭の中が真っ白になりそうだった。

 自分と傍で活動を共にしてくれた親衛隊長イガラムの力を以てしても止めることは難しい。そう思っていた矢先に一味との出会いだ。これを運命と呼ばずしてなんというのか。

 

 そんな自分のために命を張ってくれる仲間がいる事実にビビは決して諦めることはしない。

 カルーを安全な岩陰に移動させたのちに立ち上がる。

 戦いは始まってしまった。だがまだ自分が行えることはあるはずだと。その覚悟を以て立ち上がったのだ。

 

「ビビ!!」

 

 側面からビビの耳へと声が届く。

 それはビビにも聞きなれた声だった。

 

「勇儀さん!」

「怪我はしたようだが、重症ではないようだね」

 

 黒幕であるクロコダイルが拠点としていた町「レインベース」で分かれたまま消息が分からなかった一味の仲間である星熊勇儀。

 その姿はビビが最後に見た時と同じ雅な着物を羽織っていたが、ところどころに汚れが目立っている。

 外傷は特に無いものの、彼女も反乱を止めるために行動をしてくれていたことを察するビビはどうしても謝罪の旨を告げたかった。 

 

「…ごめんなさい。反乱を止めることが出来なかった…折角みんなが命を懸けて戦ってくれているというのに」

「そう気落ちしなさんな。始まっちまったのはしょうがないさね。でも、その様子は諦めてないんだろう?」

「えぇ…!反乱軍は…まだ町の中心部には届いてないわ。ならチャカに話をつけれれば反乱軍は兎も角、国王軍の兵士たちは止められる!!…お願い!力を貸して!!」

「勿論さ!最も私自身、反乱軍の足止め程度にしかならなかったからまだまだ余裕があるんだ。やれることはさせてもらうよ?」

 

 ニカッっとこの状況でも笑う彼女に感謝しつつも、勇儀が言ったことに疑問を覚えた。

 反乱軍がビビの予想よりも進行速度が遅かったこととなにか関わりがあるのだろうかと。

 さらに言うなれば火急だと言わんばかりに馬を走らせていたことを思い出す。

 

「足止め程度って…一体何をしたのよ」

 

 恐る恐るといった様子でビビは勇儀にどんな行動をしたのかを問う。

 それに対して勇儀は何の遠慮もなく、盃を傾けながら言い切った。

 

「ん?ちと反乱軍に喧嘩を吹っ掛けてきた」

 

 その言葉を聞いてビビは自然と天を仰いだ。

 この人は一体なにをやっているのかと。

 

 ただでさえ緊迫した状況だというのにも関わらず、海賊が彼らを刺激すればそれが原因で戦争へと発展しかねない。

 最悪、国王が海賊を雇って反乱軍に当てたなどと言われてしまえばより状況が悪化する危険性もあった。

 

「半数とまでは言えんが、向こうにとっちゃ少なくない兵を戦闘不能にしといたんだ。むしろ被害が少なくなって良いと思ったんだがねぇ…」

 

 だが悲しきかな。

 ビビのそんな感情を知らない勇儀は特に気にした様子を見せない。それどころか被害が減ったのだからいいのではないかとでも言いたげの表情である。

 それにもしビビの想いを知っていたとしても、彼女はやはりこの手に限ると言って肉体言語に励んでいただろう。つまり結果は変わらないのだ。

 

 忘れることなかれ。

 彼女も変わり者海賊“麦わらの一味”の一員。

 本人と船長にはその自覚はないが、世間と他の一味間では“剛拳”とは麦わらのルフィが旗を掲げる前から共に活動している最古参。

 船長が船長なだけに行動が目立ちにくいがホシグマ・ユウギ=麦わらの一味副船長と世間では考えられている。その副船長たる彼女自身の感覚も世間一般から多少外れているのだ。

 

「まぁ過ぎたことを悔やんでも仕方ないさ。それよりも王宮に行くかい王女様?今ならなんと探さなくても護衛がついてくるよ」

「もちろん行くわ!ここで諦めるわけにはいかないもの!」

「はっはっは!んじゃぁ飛んで(・・・)いくよぉ王女さま!初回宅配サービスだ。…怪我したら勘弁な!」

「え?それってどうい――――」

 

 反乱軍と王国軍が衝突するという王国歴史においても非常に大きな被害を生み出した戦争の裏で、ビビの身体は初めて弾丸の如く、文字通りに(・・・・・)空を飛んだ。

 人間だれしも思ったことがあるであろう。

 空を自由に飛んでみたいというその想いを、今彼女は体感したのだ。

 自由気ままに空を駆ける鳥のように、彼女たちは空を駆ける。

 なお、その日起きた出来事についてアラバスタ王国王女 ネフェルタリ・ビビは己の日記にこう記している。

 

 もう二度とあの人の提案に乗らない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりアルバーナ南東ゲート。

 

 戦闘はすでに始まっており、辺りに爆炎が多数上がっている。

 この場で戦闘するものは4名。

 

 Mr.4、ミス・メリークリスマス

 

   VS

 

 ゾロ、サンジ

 

 

「……!!ったく、面倒くせぇ奴らだ…!!」

「ちょこまかと地面に潜りやがって……」 

 

 麦わらの一味の戦闘員でも上位の二人は普段とは違う戦いに苦戦を強いられていた。

 斬りかかろうにもミス・メリークリスマスには地面へと潜られて躱される。

 Mr.4の銃でありながら“イヌイヌの実”を食べた愛犬ラッスーから飛ばされる野球ボールをMr.4は手に持つバットで撃ち狙ってくる。それを斬ろうにも着弾と同時に爆発するように計算された時限爆弾であるために二人はうまいこと反撃が出来ていなかった。

 足元が流動的な砂であることも多少なり動きを制限されている原因なのかもしれない。

 

 事あるごとに喧嘩をしでかすこの二人ではあるが、現状況を考えてそのような状況にならないよう意識しているようだ。

 

「ったく!なんて面倒な奴等なんだ…!」

「銃に“悪魔の実”を食わせるったァ相当なモンだな…!」

 

「ふんっ!ここまでアタシらの攻撃をしのいだ奴は初めてだ!!このまま首都に行かせてたらさぞかし厄介だっただろうね!!」

「す~ご~~~い~~」

「この“バッ”!!敵を褒めてどうすんだいお前!さっさとブっ倒すんだよこのノロマ!!」

 

 敵対するはMr.4とミス・メリークリスマス。

 モグモグの実を食べたモグラ人間であるメリークリスマスは「町落としのドロフィー」という異名を冠している。

 地面を自由自在に掘り進み、敵を翻弄しながら強襲を仕掛けるのが彼女の戦い方だ。

 

 Mr.4も言動はのろまであれども行動は俊敏。

 女性に手をあげれないサンジが相手にしているが、その巨体から想像できない俊敏さに悪戦苦闘している最中だ。

 

 ふつうに戦うことができればゾロとサンジが優勢だろう。

 しかしこの地で幾度も戦闘訓練を重ねてきたB・W(バロックワークス)と比べて地の利が悪かった。

 常に流動する砂漠の足場では、うまく動くことがまだ慣れない。

 逆にいえばその一点を改善できれば彼らに勝利がグッと近づくだろう。

 

「チィ…。おい、クソコック!ちょっとだけで良い!時間を稼げ!」

「あぁ!?突然何を……」

 

 このままでは余計に時間を稼がれる。

 そう判断したゾロはサンジに呼び掛けた。

 さっさと眼前の敵を倒し、ビビ達の援護に向かうために。そしてその姿を見たサンジは一瞬言い返しそうになったものの、彼の姿勢を見て瞬時に気持ちを切り替えた。

 

「ミスすんなよマリモ!」

 

「ずいぶんと舐められたもんじゃないかい!」

「な~~~~~め~~~~る~~~な~~~~~」

 

 B・W(バロックワークス)幹部はそんな隙は与えないといわんばかりに猛攻を仕掛け始めるが、サンジはうまくさばいていく。

 女性を攻撃することは一切しないサンジではあるが、敵であれば多少なりの対応はできる。

 事実、少しの時間を稼ぐためにサンジは時限爆弾をうまいこと誘導し、爆発前に脚で撃ち返すことで反撃を狙っていく。

 なれない足場であってもこの短期間の戦闘で彼ら一味は、この砂漠という土壌に適応し始めていた。

 

「三刀流…龍、巻き!!」

 

「うおっ!?砂嵐が!」

 

 ゾロの龍巻きによってあたりの砂が一斉に巻き上げられる。

 それに驚いたミス・メリークリスマスだがすぐに冷静さを取り戻した。

 

「確かに視界を埋めちまえば下手にラッスーの射撃は狙いずれぇ。だがそれはあいつらも同じこと!この短時間では早々動けねぇだろ!撃ち込んじまいなMr.4!!」

「うぅ~~~~~~わかっ~~~~~た~~~~」

 

 愛銃ラッスーから放たれる時限爆弾は鉄球並みの重さを持ちながら爆発範囲は大砲並だ。

 この場から逃げるまたは迂回して背後を取ろうとしても一面の砂漠。砂に足が取られることでそう簡単に回り込むことが出来ないと判断したミス・メリークリスマスは先に爆弾を撃ち込めばその爆風によって先手を取れると考えていた。

 モグラの能力者である己にとって非常に有利なフィールドにいる以上、慌てずに積み状況に持っていけば問題ない。

 それは確かに正しいが、今回ばかりは相手が悪かったと言わざるを得ない。

 

「『三十六煩悩鳳(さんじゅうろくポンドほう)』!!!」

 

「“バッ”!!??」

 

 Mr.4が弾丸を撃ち込むよりも早く、大気を切り裂く一閃が地面を駆けた。

 常人離れした筋力から繰り出される斬撃は、文字通り“飛ぶ”。

 

 もしミス・メリークリスマスが“偉大なる航路(グランドライン)”で一流の剣士と相まみえる機会があればこの結果は変わっていたかもしれない。

 しかし彼女は剣士と真正面から相対した経験はなかった。それが災いする。

 正確に己を狙った一撃はメリークリスマスを飲み込み、彼女の意識を刈り取った。

 

 しかしゾロはこの技を出すために龍巻きを使用したのではない。

 Mr.4は反応は鈍重であるが、行動はその体格に合わず俊敏であり強靭だ。

 下手に真正面から挑むよりも確実さを奪い取るため、相手の認識外から攻撃を繰り出すことを瞬時に決め、サンジはそれを察知して行動に移したのである。

 

「フォ…?!」

「目を放してんじゃねぇぞデカブツ!!」

 

 ゾロが龍巻きを放つその直前。

 サンジはゾロの刀に乗り、技と共に上空へその身を放った。

 地上で巻きあがる砂嵐よりも視界が確保できるその場所で、勝負をつけに出たのである。

 

粗砕(コンカッセ)!!』

 

「!!!!」

 

 放たれるは踵落とし。

 空中で垂直に回転をかけることで威力を増し、完璧なタイミングで叩き込む。

 

 ミス・メリークリスマスが飛んできた斬撃によって倒された光景に驚いたMr.4では即座に対応する事は不可能であった。

 

 脳天から足先の地面にまで伝えられた衝撃。

 それは大男を戦闘不能にするには十分すぎる威力であったことは、勢いで巻き上げられた砂の壁を見れば一目瞭然であったのである。

 

「チッ。ずいぶんと足止めされちまったな」

「だな。環境でここまでやりづらいとは思ってもなかったぜ」

 

 タバコに火をつけて一服した後、方向音痴を連れてサンジは王宮を目指す。

 その過程で一緒に行動していたはずのゾロの姿が無くなるのはもはや運命であると言ってもよいだろう。

 

 

 麦わらの一味

ロロノア・ゾロ & サンジ

   VS

 バロックワークス

Mr.4 & ミス・メリークリスマス

 

 

 

 

 勝者

ロロノア・ゾロ & サンジ

 

 

 

 

 

 

 



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