限られた日々のなかで〜女神と歩んだ1年〜 (月白弥音)
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prologue?〜いつかのミライ〜

「すみません、少し道を開けてください!」

道行く人に道を開けてもらいながら、私はみんなは歩いて通ったところを横になって進む。私のそばには大きなキカイがあって、ここ3か月くらいでお世話になった人も一緒。

ちょっとみんながいないのは寂しいけど、少し我慢だよね。

昨日も忙しいはずなのにみんなで時間合わせて来てくれた大切な友達で、活動は1年間だったけど、いつも一緒にいたかけがえのない仲間。私は昨日もらった言葉と一緒にみんなの顔を思い浮かべる。

一回やるって決めたら周りも巻き込むリーダー

 

 

 

「待ってるからね。ファイトだよっ!」

 

 

 

 

大和撫子な歌詞担当

 

 

 

 

 

「ありきたりですが……必ず、帰ってきてくださいね」

 

 

 

 

 

おっとりした衣装担当

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、この子がいれば皆でいつも一緒っ!」

 

 

 

 

 

 

そう言えば九人のマスコットもらったっけ。ちゃんと荷物に入れてもらったよ。

3人の幼馴染が始めた活動も最初はいろいろあったなぁ……

そういえば私あの頃は……ふふっ

それから

アイドルが大好きな子

 

 

 

 

 

「が、頑張ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

運動神経抜群な元気っ子

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。応援してるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

素直じゃない作曲担当の子

 

 

 

 

「帰ってこなかったら許さないんだから」

 

 

 

 

 

 

3人の一年生が入って六人になった。この子たちの勧誘は大変だったな~

そして、自称宇宙ナンバーワンアイドルさんが入って……

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来てしくじってくるんじゃないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

みんな……実際に頑張るのは私じゃないんだけど……

でも私が万全の準備できてないとやれないことだからやっぱり私も頑張らなきゃだね。

最後に加わったのは頑固な元生徒会長様と

 

 

 

 

 

 

 

 

「必ずうまくいくわ。支えてくださってる皆さんを信じて」

 

 

 

 

 

 

 

スピリチュアルガールさん

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。うちのパワーもたっぷりあげたし、カードもそう言っとるよ」

 

 

 

 

 

 

 

カード見せられたけど、ごめん、私タロット読めないの。

これで九人。この九人といろいろなことをやってきた、私の大事な思い出。

 

 

みんながあっちでやったのっていつだっけ? ほんとは一緒にいきたかったけど……あんな状態じゃ無理だったよね。

結構辛いはずなのにこんなに冷静に考えられるなんて不思議。何でかな? みんなが励ましてくれたから? ちょっと不安だったけど、みんなのお陰で何となりそう、かも。

きっと今度ここを通るときには自分の足で歩けるはずだよね。そしたらみんなでまた行こうね、今度は観光だけのために。

みんなの力があったから私はあそこに行ける。ほんとにありがと。ちょっと出掛けてくるけど、絶対帰ってくるからね。

 

 

 

 

 

じゃあ、またね。いってきます



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1章 出会いと再会~道が再び交わるとき~
#1 始まりの日


「……ふぅ、よいしょっと」

桜の花びらが舞い散るなか、この一年で登りなれた長い坂道を上りきると、校門を淡い桃色に彩られた音ノ木坂学院高校が見えてくる。私、白崎夢花(シラサキ ユメカ)が通ってる学校でお母さんも通ってたんだって。

今日は始業式、私の新しい一年の始まりの日。

ーー私、今日まで生きられたよ。

校門と昇降口の間で桜を見上げながら、声には出さないけどそんな感慨にふけってみる。

「夢花ちゃん、おはよ!」

突然後ろから声をかけられて、私は少し驚きながら振り向く。

「ああ、美優《ミユ》か。おはよ」

去年一緒のクラスだった美優だった。去年はなんだかで一番一緒にいたかも。あの子達とはあれだったし……

「あっ、ごめん……驚かしちゃった?」

「まあ、ちょっとね。でも大丈夫だよ」

「でも、夢花ちゃんは……」

まだ心配そうな美優。まあ、私のこと知ってればそうだよね。

「大丈夫、それくらいじゃこれも止まらないよ」

胸にそっと手をおいて私は美優の顔を見る。それから少し頑張って速く歩いて

「ほら、クラス分け見に行こ。早くしないとおいてくよ」

「あ、待ってよ!」

美優の声が聞こえたけど、そのまま掲示板に歩いていった。

私の胸、正確に言うと心臓には拡張型心筋症っていう大きな爆弾を抱えてる。さっき美優にしすぎなくらい心配されたのはこれがあるから。もちろん多分あのくらいなら大丈夫だとは思うけど、些細なことでもすごく心配されちゃってそれが結構辛い。この小さい学校じゃあ珍しいから少なくとも二、三年のほとんどが知ってると思う。心配してくれてるのかもしれないし、どう接していいのかわかんないのかもしれないけど、みんなの接し方がまるで腫れ物を扱うみたいでなんか嫌な気持ちになる。実際、先生たちもそういうところあるし、あんまりこんな生徒いないと思うから仕方ないことかもしれないけど。私としては普通に、いつも通りでいいんだけどなぁ……

私だって最初はやりたいこと何もできなくなって、大好きだったことも奪われて、しばらくどうしていいのかわかんなかったし、イヤになって関係ない人に八つ当たりしてた。こうやって考えられるようになるまで結構時間かかったから、みんなに普通にっていうのは難しいかもしれない。だけど私は出来るだけ普通に生活したい。とにかく生きてたい。それがみんなにわかってもらえると嬉しいんだけどな。

「夢花ちゃん? どうかした?」

ぼんやり考えてたからか不思議そうな顔した美優が私の顔を覗き込んでた。

「ううん、なんでもないよ。今年はクラスどうなるかなって考えてた」

「確かにね〜。あ、あそこだ! 見てくるよ、ちょっと待ってて」

クラス分けの一覧を見つけた美優が前に頑張って進んでく。平均より小さい私とあんまり背が変わんないからちょっと大変そう。さすがにあの中に入るのはこの体じゃなくてもいやかも。人混みを眺めてると美優が帰ってきた。

「夢花ちゃんと私別々になっちゃったよ……」

「そっか。でも二クラスしかないんだから会いに行こうと思えば行けるし、ね」

「そうだよね!」

そういえばあの子たちはどうなんだろ? 一緒じゃないとうれしいけど、いつまでもこんな風にしてるわけにもいかないよね……ほんと、どうしよ

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、なんであんなに人集まってたの? 去年はどうだったかわかんないけど、あれが普通なの?」

校内に入った私はさっき気になった人の多さを質問してみる。

「……それを私に聞く? 私、別に留年したわけじゃないよ! ていうか私たちが最初にあったの入学式だったよね!?」

「確かに。わかるわけないよね」

「もう、たまに夢花ちゃんって変なこと言うよね」

そんなに私変なこと言ってたかな……無自覚なら怖いけど

「でも今日は特別かも。ほらあれ」

「ん?」

美優が指さした廊下の掲示板にでかでかと貼ってあったのは

「は、廃校……?」

と書かれてた。いや、私だってだんだん生徒数が減ってきてたのは知ってたし、そうなるかもとは思ってはいたけど、いざそう言われるとやっぱりショックだった。一応今いる生徒が卒業するまでは無くならないみたいだけど、それでもやっぱりさみしいな……

「え! 夢花ちゃん、あの子大丈夫かな!?」

「へ?」

突然話を振られて変な声が出た。美優の視線を追うと廃校の張り紙を見て倒れたらしい人が両側から友達に支えられてた。

「……あの人たちが何とかするでしょ。ほら、早くいかないと間に合わないよ」

「う、うん。そうだね」

そう話してる間にその人は保健室に運ばれていった。私はみんなに抜かれながらゆっくり教室に向かう。途中でさっきの人たちに追い付いたけど、私は目を合わせないように横を通り抜ける。

「……あっ」

そんな声が聞こえた気もしたけど、私は立ち止まらないで教室に入った。

……あ、美優忘れてた。ごめんね、美優。

 

 

 

 

 

教室でまず前に貼ってある名簿を確認する。……よかった、あの三人は違うクラスみたい。でも二クラスしかないのに去年も今年も全員違うなんてある意味すごいよね。

なんとか他のこと考えて意識しないようにしてたけどやっぱ無理。私が教室に入った瞬間から聞こえてきた、ほら心臓が悪い子だよ、とか、可哀想、とかひそひそ聞こえる私の話。まあ去年ほどじゃないけど、気になるものは気になる。私はちょっと気を付けてもらえば良いのに何でこうなるんだろ? 段々慣れてもらうしかないよね。去年一緒だった子が隣の席だったからここからうまく伝えていけるといいな。

「よろしくね」

「うん。よろしく、白崎さん」

そのあと、私たちのクラス担任の先生がSHRで改めて廃校についての説明をしてくれた。よく聞くとまだ廃校が完全決定な訳じゃないみたい。入学希望者が定員を下回った場合、廃校になるってことだった。

「定員を下回った場合、かぁ……」

「私たち生徒会も何かしようとしてはいるみたいだけど、そう簡単にはね……」

休み時間に遊びに来た美優と廃校阻止できないかって話をする。あ、さっきのことはちゃんと謝ったよ。

結局、生徒会の美優はまだしも、一般生徒、特に私みたいな人は大人の決定を覆すような影響力があるわけない。でも、もしかしたら……あり得るかもしれないひとつの可能性が思い浮かぶ。あの三人なら……もしなにか手伝えることがあれば手伝いたい。でもいまさら、だよね。

「美優もなにか手伝えそうなことがあったら言って。協力するから」

「うん、ありがと。そろそろ私戻るね」

「うん、また」

休み時間の終わりを告げるチャイムを背に、美優はあわてて教室に戻った。



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#2 ハジマリノヨカン

昼休みも放課後も美優と廃校についてなんとかできないかって話してたけど、私たちの頭じゃ大人の決定を覆すようなアイデアは浮かばなかった。

「はぁ~なかなかいい案思い付かないね」

って突っ伏す美優。私もゆっくり体を動かしながら、そうだねって返した。

「やっぱりもっと突拍子のないこと考えるような人じゃないとなのかもね~どっかにそんな人いないかなぁ」

一人すっごく思い当たる人いるけど……

「そんなこと言っててもしかたないよ。それよりいいの? 生徒会、今日集まりあるんじゃなかったっけ?」

私が自分の腕時計を見せながら聞くと

「そうだった! ごめん、ありがとっ!」

謝ってるのか感謝してるのかわかんない返事をしてばたばた教室を出てった。美優も忙しそうだよね、ホントに。

さて、私も行こうかな。置いていける教材を机のなかに入れて軽くなった鞄を持って私も教室を出る。そして階段を上がった。

 

 

 

 

「ーーよし」

黒光りするふたを開けて、私は白と黒の歯に手をかける。そして指を動かして音を紡いでいく。

逃げていく音をなんとか五本の線のなかに閉じ込めて、今度は違うのを捕まえて、前のを逃がして……

そんなことを繰り返して少しずつ終わりに近づけていく。

全部失った私が唯一手に入れたものーー作曲。入院中にお父さんが暇潰しにって作曲用のソフトを入れたパソコンを持ってきたのがきっかけだった。他にもなんか色々持ってきてくれたものがあった気もしたけど、特に私が気に入ってやっていたのは作曲だった。っていうか他にやらなかったかも。

もともとピアノはやってたし案外出来るんじゃないって思って始めたんだけど、これが結構難しい。ホントにモーツァルトさんやベートーベンさんみたいな有名な作曲者はともかく、今いろんな歌手の歌を作曲してる人たちも本当にすごいと思う。

今さわってた曲は私のはじめての挑戦、歌。歌詞が乗ることを前提に伴奏とメロディーの両方を作る。これが本当に難しい。伴奏はまだしも、メロディーは伴奏ともマッチングや歌いやすさも考えないといけない。私の今回のテーマ、未来のことも考えないといけないし……

「あれ?」

考えながら顔をあげると携帯が着信を示してた。

「あ、やば」

お母さんからだった。メールも来てた。完全に怒ってるよね……私はピアノを急いで片付けて校門に急いだ。

 

 

 

 

「ごめん、お母さん! 待たせちゃったよね?」

校門の近くで車を止めて待っててくれたお母さんにとりあえず謝る。

「そんなに待ってないわよ。でも……」

「お姉ちゃん遅いよー、もう」

その声に後ろの席を覗くとランドセルを抱いた妹がいた。

「ああ、結衣も一緒だったんだ。結衣もごめんね」

車に乗りながら妹にも謝る。

私が中三のときに拡張型心筋症を発症してから、学校が始まってから最初の2‚3日はお母さんに行きか帰りのどっちかを車で送ってもらってる。家であんまり動かなかったのに、突然学校で動く量が多くなるからいつもより疲れ易くなる、らしい。私はあまり気にしたことないし、主治医の先生も私が大丈夫ならいいって言ってたんだけど、お母さんは結構気にしてていつの間にか毎学期の恒例みたいになってる。まあ、私に水分制限と塩分制限がついてるからこの三人で車に乗っててもおやつを食べにどっか寄ってく、みたいなことはできないんだけど。そう考えると結衣にも迷惑かけてるよねって思う。もちろんこれだけじゃないんだけど。

「どうだった、学校」

「うん、大丈夫だったよ。いつも通り」

「……穂乃果ちゃんたちとは?」

「……違うクラス」

「そう……」

穂乃果たち、私の幼馴染み。幼稚園くらいのころだっけ、ことりが引っ越してきてそこから小中高と一緒。でも今は色々あって疎遠になってる。ううん、私が一方的に距離をおいてるだけ。前みたいにまた一緒にいたいけど、もういまさら仲直りなんて無理、だよね。

「そういえば、お母さん。音ノ木坂、廃校になるかもしれないんだって」

私は無理矢理話題を変えるように今朝の話をする。そして思い出す

『あっ……』

懐かしい優しい声。

「やっぱりねぇ、そうなるんじゃないかって思ってたのよ」

「え、じゃあ私、お姉ちゃんやお母さんと一緒の学校いけないの?」

当然音ノ木坂に行くつもりだった結衣はかなり驚いてる。

「うーん、一応音ノ木坂が人気になって、入学希望者が多くなればいいんだけどね。半年やそこらで爆発的に人気が出るなんてことはないでしょ?」

「ならUTXの真似すればいいじゃん」

「あのお金持ち高校の何を真似しろと言うのかな、結衣ちゃん?」

来年中学生なんだからもうちょっとその辺のことがわかってもいいと思うんだけど……

「アイドルだよ、スクールアイドル! ほら、ARISEみたいな。そうすれば人気になるんじゃない?」

「あー、なるほど……そういえば結衣、ARISE好きだもんね」

「うん、好き! だからさ、音ノ木坂でもスクールアイドルやればいいじゃん!」

確かにスクールアイドルは今全国的に大人気だし、私も知らない訳じゃない。結衣が話してるARISEは前ダンスやってた私からすればまだ粗削りなところが目につくけど、十分すごいと思う。

「でも、あの人たちは専門的にその事を習ってるんだよ。私たちと違うの」

「そんなことないよ。お姉ちゃんが教えてあげればいいじゃん! 曲も作れるし」

「ふふ、穂乃果ちゃんが聞いてたらやるって言いそうね」

「もう、お母さんまで……手本が見せられなきゃ表面上しか教えられないし、素人の私が作った曲じゃ……そもそもできるかもわかんないのに」

「なんかお姉ちゃんらしくない。でも、穂乃果ちゃんたちがスクールアイドルやり始めたら絶っ対応援するけどな~」

「三人とも可愛いから絶対いいアイドルになりそうよね~」

二人だけで盛り上がってる話を聞きながら私は窓を開ける。

吹き込んでくる風に目を細めながら外を見ると電線に止まっていた三匹の小鳥がふらふらしながら空へ飛び立っていった。



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#3 カコトノソウグウ

自分の部屋にあるパソコンの前に座った私はいつも通り作曲に使っているソフトを起動させる。

「ーースクールアイドル、かぁ」

いつもならそのまま打ち込みを始めるけど、さっき結衣に言われたことが気になった。ソフトをバックグラウンドで起動させながら、ネットでスクールアイドルについて調べてみることにした。

へぇ、一口にスクールアイドルっていってもいろんなグループがあるんだ。結衣が好きなA-RISEみたいにそれ専門の学科にいる人ばっかりかと思ったら、どっちかって言うと珍しい方らしい。もちろん、なんか流行ってるからやってみたっていうグループも多いみたいだけど、中には真剣に素人だけどアイドルになりたい! っていう思いで活動してる人もいる。

音ノ木坂と同じ廃校寸前の学校のスクールアイドルもいた。もっとも、そこの学校はすでに廃校が決まっていて、最後の思い出作りみたいな感じらしいけど。そういう学校のことを知るとちょっと寂しい。

「みんな頑張ってるんだな~」

ゆっくりと少しだけ伸びをしてからブラウザを閉じる。

「よし、私もガンバろ」

気持ちを入れ直して私は譜面と向き合って、ヘッドホンを着ける。

最後までは一応完成したから、あとはこれをどうアレンジしていくか。この曲のイメージとメロディーライン、その二つとうまく折り合いをつけながら使う楽器を選ぶ。一回音をつけてみてイメージと違って、またやり直してみて。プロの編曲者さんならきっとある程度頭のなかで構想が練れるんだろうな、とか思いながら着けては外してを何度も繰り返す。

 

…………………

……………

………

 

 

「……ちゃん、お姉ちゃん!」

肩を叩かれて結衣に呼ばれてることにようやく気づいた私はヘッドホンを外してくるりと結衣に向き直る。

「ごめん、ごめん。ちょっと真剣にやり過ぎちゃった。どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ。晩ごはん出来たって何度も呼んでるのに……もう」

そう言われて壁にかかってる時計を確認する。もうすぐ7時、二時間近く編曲をやり続けてたんだ。

「ずーっとやってて、お姉ちゃん、からだ大丈夫?」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがと。さて、ご飯だご飯だ。早くしないとおいてくよ」

「あ、待ってよお姉ちゃん! 結衣が呼びに来たのに……」

先に行くっていってもすぐに追い付かれるんだけど、私は結構このやり取り、好きなんだよね。

でも、二時間やってまだ一番の部分すら終わってないって……完成はまだ先になりそうかな……

 

 

 

私の発病から塩分制限されてる私に合わせてうちのご飯は全体的に薄味になった。結衣も最初のうちは味ないーって文句言ってたけど、今は何も言わないでいてくれる。慣れただけかもしれないし、私を気遣ってくれてるのかもしれない。それはよくわからないけど、小学生のくせに周りの大人に合わせるようにしてるのはちょっと気になる。もっといろんなことをして遊びたい盛りだと思うーー少なくとも私は穂乃果に引っ張られて海未やことりと一緒に毎日外で遊び呆けてた。ときどき結衣も連れてったなぁ……結構ハードに遊んでたから結衣はだいたい疲れ果てて家に帰る前に寝ちゃって、私がおぶって帰ってたっけ。

「どうしたの、お姉ちゃん?」

私の前でお夕飯を食べる結衣が聞いてきた。

「ううん、なんでもない」

「ふーん、変なの」

まさか結衣のこと考えてたなんて言えないよね。だって恥ずかしいし。

 

 

 

 

 

 

次の日、私は放課後にまた音楽室に向かっていた。昨日打ち込みはしたけど、少し気になるところを見つけたから。ピアノで弾くと良さげに聞こえるのに、なんか全体を編曲すると変な感じがするのはなんでかなぁ? 出来れば自分で解決したいんだけど、どうしても無理ならお父さんに聞くしかないかな……学生時代にお父さんが曲作ってバンドで演奏してたって言ってたし。今は普通のサラリーマンだけど。お母さんともそのライブで初めて会ったとかなんとか……って、それは今どうでもいいの! 考えすぎると詰まるのはそうだけど、あまりにも関係なさすぎ! なんて、自分で突っ込んでるからいつもと違うことにすぐには気がつかなかった。

「あれ……?」

いつも私が使ってる音楽室からピアノの音が聞こえる。それに続いて歌声も聞こえてきた。

私、曲を作るのはもちろんだけど、色んな音楽を聞くのも好きだから、毎月結構な曲数聞いてるんだけど今聞こえてくる曲は聞き覚えがなかった。もちろん私が聞いてない曲も多いし、分からない曲もあって当然なんだけど、流れてくる大体の曲がわかるって思ってた私はちょっとショックだった。

「それにしても綺麗な声……」

ピアノの音もきれいだけど、それ以上に声が私には印象に残った。今までこんなことする人いなかったし、今年入ってきた一年生? ううん、そんなことどうでもいい。

ーー知りたい。この歌を歌ってる人を。

自然と速くなる歩く速さをなんとか抑えつつ、それでもいつもよりは少し速めに歩いて音楽室に行く。

もうちょっとで誰が歌ってるのか分かると思ったとき

「きれーな声……」

別の方向から聞こえてきた声に私は慌てて来た道を少し引き返して曲がり角に隠れた。

穂乃果の声。

いつも私たちを見たことのない世界に連れて行ってくれた魔法みたいな声。一番楽しそうなことに全力で向かってく穂乃果が私たちを誘ってくれた声。

そして……

 

 

 

 

 

ーーゆ、ゆめちゃん……。……ごめんね

 

 

 

 

 

 

 

私が涙を含ませてしまった声。

いつの間にか歌は終わっていた。音楽室のドアが開いてるから、穂乃果は中に入ったみたい。

私はその場から逃げるように離れて、校門のところで待っててくれてると思うお母さんのとこに急いだ。



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#4 幼馴染み

SIDE穂乃果

昨日、スクールアイドルをやるって決めた私、ことりちゃん、海未ちゃんの三人。アイドルと言えばやっぱりライブ!

と言うわけで早速講堂の使用許可を貰いに行ったんだけど……生徒会長に反対されそうになって、すっごくドキドキした。副会長のお陰で使えることになって本当に良かった~。

衣装はことりちゃんが作ってくれるって言ってるし(海未ちゃんはミニスカート反対してたけど可愛いからそのまま作ってってことりちゃんに頼んじゃった、えへへ)、グループの名前は……みんなに決めてもらうことにしたし、次は練習場所! 

校内をぐるぐる回って見たけど結局どこにも空いてる場所がなくて屋上でやることにしたの。雨の日は使えないし、日陰もないから休むところもないけど贅沢は言ってられない! 早速練習だーって意気込んだけど、曲が……ないっ!

と言うわけで、今日穂乃果のうちに三人で話し合って決めることにしたんだけど……

「海未ちゃん、遅いね、はむっ」

「そうだね~はふ」

海未ちゃんがこない。もうそろそろ練習終わってくるはずなのに。早くしないとことりちゃんと二人でお団子食べちゃうよー

「二人とも、ダイエットはどうしたのですか?」

「「ああっ!」」

わ、忘れてた……今日からダイエットするんだったっけ。

「はぁ、それで話し合いは進んだのですか?」

「うん、とりあえず案だけは……」

「……? 二人とも、なぜこっちをみるのです?」

「海未ちゃん、中学生のころ、ポエム書いたことあったよね~?」

ことりちゃんがそう言った途端、海未ちゃんは立ち上がって出ていこうとする。でも穂乃果、海未ちゃんがそうすることはわかってたもんね。先回りして扉を封鎖! えへへ、穂乃果もたまには役に立つでしょ?

「絶対に嫌です! だいたい、中学のときのも本当に恥ずかしかったんですよ」

「そんな~」

「海未ちゃん……」

穂乃果ががっかりしてるとことりちゃんが胸に手を当てて、目を潤ませた。ま、まさかこれは……

「おねがぁい!」

……っ! 何度か見たことあることりちゃんの必殺技みたいなの。穂乃果までドキッとしちゃったよ。でも、これをやって海未ちゃんが落ちなかったことは、ない。

「……ずるいです。分かりました、引き受けましょう」

やったー! さすがことりちゃん。

「それで、作詞は私がやるとして、作曲は?」

こっちはことりちゃんとかなり真剣に話したこと。あ、別に適当に海未ちゃんにしよって決めた訳じゃないよ。ただ、最近はうまく話せてなかったから。私のもう一人の幼馴染み。

「うん、夢ちゃんに頼めないかなって思ってるんだけど……」

「っ! 穂乃果、それは」

海未ちゃんの目が大きくなった。

「ことりも最初に聞いたときはビックリしたけど、いつまでもこんな風になってるの、やだから……ちょうどいい機会じゃないかなって思うの」

夢ちゃんのところにお見舞いに行ったとき、私は夢ちゃんを傷つけちゃった、と思う。

夢ちゃんが倒れたのは夢ちゃんの中学最後のダンスのコンクール直前。穂乃果は当然、コンクールに出られると思ってて、三人でお見舞いに行ったときその事を話題に出しちゃったの。そしたら……

ーー穂乃果にはわかんないよ! もうダンスも出来なくなっちゃって、ましてや普通の生活もできない。もう今までみたいには何もできなくなった私の気持ちなんて! もうほっといて、二度と来ないで!

って言われちゃって。慌てて謝って病室を出てきちゃったはいいけど、なんだか気まずくてそれからはお見舞いどころか、退院してからもはなせなくなっちゃった。

「……か、穂乃果!」

「ふぇ、どうしたの、海未ちゃん」

気がついたらすごく近くに海未ちゃんの顔があった。

「どうしたのじゃありません。夢花に頼むのはいいとして、正面から頼む気ですか?」

「回り込んでとか、難しいこと穂乃果にはできないから。まっすぐ、ぶつかるよ!」

「……ふふ、あはは」

突然海未ちゃんが笑い始めた。

「どうしたの、海未ちゃん。私、真剣なのに!」

「いえ、あれこれ考えていた私がバカらしくなりました」

「やっぱり、穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんだね♪」

なんか誉められた、んだよね?

とにかく明日、夢ちゃんに突撃だ!

 

 

SIDE夢花

「夢ちゃん、いる?」

私の体がとっさに固くなった。私を夢ちゃんって呼ぶのは幼馴染みの穂乃果とことりしかいない。どうしようかと思ってるうちにその声の主、穂乃果が私のところに来て

「久しぶり。今、ちょっといい?」

と私を教室の外に連れ出した。そのまま穂乃果に着いていくと屋上につれていかれた。

扉を開けるとそこには海未とことりが待ってた。

「久しぶりですね、夢花」

「久しぶり、夢ちゃん」

「……久しぶり、二人とも」

挨拶を返しながら私は日陰に座る。

「ごめんね、突然こんなところに連れてきて。実は私たちスクールアイドルやることにしたの」

「……知ってる。ポスター見た」

やっぱり、どうしても素っ気なくなっちゃう。前どうやって話してたんだっけ?

「それで、良かったら協力してほしいなぁって思ってるの」

私がもう前みたいに踊れないことを知ってて言ってきてるの? 私が何を協力できるって……

「前、たしかピアノをやっていましたよね。もしできるなら作曲をお願いしたいのですが」

……っ! 私が、入院中からやってることを知ってるの?

「……私をバカにしてるの? それとも貶してる?」

「え……」

「私が前みたいに踊れないこと知ってるよね?」

「だ、だから別にダンスを教えてもらいたい訳じゃ……」

「もうそう言うの見たくないんだよ……もう私が前と同じように踊れることはないんだから」

そんなこといっても仕方ないのに。治ったらもう一度頑張ろうって決めてるのに。いくら頭ではわかってても口は勝手に動いていく。

「そんなこと……」

「それに何で今さら……自分に必要なときだけまた声かけるんだ」

「そうじゃない、そうじゃないよ! どうしたの、夢ちゃんらしくないよ!」

「いままで距離置いてたのに」

「っ! そ、それは……」

違う、私が一方的に距離をおいてただけなのに。

「私は、みんなともう一緒にはいない。私、みんなのこと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌いだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、最っ低だ、私。




やっとμ'sメンバーと絡んだ~けどギクシャク!
もう少しシリアスが続きます。


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#5 ほんとのきもち

『みんなのこと、嫌いだよ』

 

 

「はぁ……」

屋上からそのまま逃げてきた私は教室で突っ伏してた。

完全に終わっちゃった、よね。私、穂乃果たちのこと嫌いだなんて思ったことないのに……あんなこといっちゃったらもう前みたいになんて戻れないよね……

それから授業が始まっても、私は集中なんて全然できなくて何度も先生に注意された。

「どうしたの、白崎さん。何かあった?」

となりの席の橋元さんにも聞かれたけど、素直に話す気にもならなくて適当にはぐらかしちゃった。なんだか申し訳ない気持ちにはなったけど、私にそんなこと考える余裕はなかった。

 

 

 

放課後、いつも通り美優が私のとこに来た。

「そう言えばさ、うちのクラスの穂乃果ちゃん、今日午後からやけに静かだった、ていうか上の空だったんだよ。なんかあったのかな?」

……やっぱり、そうだよね。

「……」

「夢花ちゃん?」

「え?」

「夢花ちゃんもなんかあった?」

「……ううん、なんにもないよ」

素直に言えない。私が穂乃果たちを傷つけたんだなんて。

「ウソだよ。夢花ちゃん、なにか隠し事があるとき絶対手を握るもん」

「だから、何でもないって!」

つい大きな声を出しちゃった。もうだめだ私。美優が気にしてくれてるのに、それすら拒否してる。

それを自覚しつつもどうすることもできなくて、美優が私の声に驚いてる間に私は教室を出た。

昇降口を出て、校門の近くのお母さんがいつも車を止めるとこに行ってみると、まだお母さんが来てなかった。珍しいな、お母さんの方が私より遅いなんて。しばらく待ってたけどいつまでたっても来そうにない。お母さんに連絡してみようと思って携帯を開いて、気がついた。

――今日から私徒歩帰りじゃん。

気がついて少し寂しくなる。今、私完全にひとりぼっちだ。一人歩いて帰る道はいつもより長く感じて、気のせいか心拍数も少し上がってる気がした。いつもなら何気なく前を通ってる穂むらの前も、今日はなんだか通りづらくて、わざと違う道を通って帰った。

 

 

 

 

「何かあったでしょ?」

家に帰ってすぐにお母さんに言われた。

「止めてよ、お母さんまで。別になにも……」

「穂乃果ちゃんたちとなんかあったのね」

「……敵わないよ、お母さんには」

私は降参した。いつもいつもお母さんは鋭い。

「そりゃ何年あなたの母親やってると思ってるのよ」

まあ、確かに。もうそろそろ17年になるね。

それから、今日のことを一通り話した。穂乃果たちを傷つけたことも、美優にも悪いことをしたことも。

「ふうん、なるほどね。穂乃果ちゃんらしいわね」

納得したように頷く。

「それで?」

「え?」

「別に穂乃果ちゃんたちのこと嫌いじゃないんでしょ?」

お母さんにそう聞いてきた。

「それはもちろん」

「じゃあ、美優ちゃんのことは?」

「もちろん嫌いじゃないよ」

「なら素直に謝ればいいじゃない」

「簡単に言わないでよ。美優はまだしも、穂乃果たちは……」

私は言葉につまった。今さら私がそんなこと言えるわけない。

「そう。夢花、あなたはどうしたいの?」

「私は……」

私は穂乃果たちとまた前みたいに仲良くしたい、困ってるなら出来る限り手伝いたい。でも今さらそんなこと……

「まあ、決めるのは夢花よ」

そう言って私に背を向けたお母さんは、そんなこと気にするとは思えないけどね、って言いながらキッチンに入っていった。

決めるのは私自身、か。

私も自分の部屋に入ってベットに寝転がって、机の横に置いてあるパソコンを横目見る。もし私の趣味が頑張ろうとしてるあの子たちの役に立つなら……でも今さら何て言えばいいのかわからない。あんなひどいこといっちゃって、やっぱりやる、なんて言えるわけないよ……

「お姉ちゃん!」

「びっくりした! 驚かさないでよ、心臓止まるかと思うじゃん」

結衣に大きな声で呼ばれた私はとりあえず注意した。私が言うと洒落にならないからね。

「お姉ちゃんがそう言うとほんとに怖いから止めて! それにさっきから呼んでたよ、ひたすら無視されてたけど」

「そ、それはごめん。で、どうしたの?」

「お母さんがそろそろご飯だよ~って。お姉ちゃんパソコンやってると気がつかないときあるから」

「そっか、ありがと。……あっ、結衣!」

出ていこうとする結衣を慌てて呼び止める。

「ん、なに?」

「ねえ、友達と大喧嘩してもしかしたらもう二度と元通りにならないかもしれないとき、結衣ならどうする?」

「ほのちゃんたちのこと?」

「……知ってたの?」

「さっきお母さんから聞いた。それで、結衣ならどうするかだっけ? 自分が思ってることを素直に言う、かな? だってまた元通りになって遊びたいもん!」

「そっか、ありがと」

結衣が面白そうに笑ってる。

「どうかした?」

「ううん、お姉ちゃんも結構悩むことあるんだなって思って」

「バカにしてる?」

「全然。だってお姉ちゃん、病気のこともそうだけど、いつもすっごく前向きじゃん! だからそんな風に悩んだりもするんだなぁって思って」

確かにそうかも。新学期になって少し緊張してたのかな? 最近やけにこんな風に悩んでることが多かったかも。いつまでも前やっちゃったことを考えててもしかたないよね。今どうするか考えないと!

私は結衣を抱き締める。

「わっ! もう……」

こういうときってどっちがお姉ちゃんなのか分からないよね。結衣、私が心筋症になってから急に大人になったから。

ちょっと寂しかったりもするけど。

「結衣、ありがと。お陰でいろいろ振りきれたよ」

抱きしめて頭を撫でながら改めてお礼を言う。

「えへへ、どういたしまして!」

しばらくそうしてたらお母さんに遅いって言われたけど、まあいいよね。




やっと本来のキャラ設定通りの夢花に戻った……
あと結衣(小学六年生)が思ったよりずっとかわいい。

感想、誤字脱字報告などなどお待ちしております。


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#6 仲直り

昨日早く寝ちゃった私はいつもより朝早く目が覚めた。ちょうどいいや、なるべく早くみんなに謝りたいし。それに、あのことも、ね。

「お母さん、もうそろそろ行くね!」

「今日は早いのね。……うん、答えは見つかったみたいね、いってらっしゃい!」

「うん、行ってきます!」

「あ、お姉ちゃんももう行くの?」

そっか、小学生な結衣は出るのが早いんだ。

「うん、途中まで一緒にいこっか」

私は結衣と一緒に家を出る。結衣は集団登校だからうちのすぐそばの集合場所までだけど、私はどうしても言っときたいことがあった。

「結衣」

「ん?」

「えっと……昨日はありがとね。お陰で答えが出せたよ」

「そうなんだ! ならよかった~」

まるでなんにもしてないよって言われたみたいでちょっとイラッと来た私は結衣を抱えて頭をグリグリした。

「いたいいたい! いきなり何するの!」

「別にー。ほら、集合場所着いたよ」

「ぶぅ~」

ほっぺたを膨らませて怒る結衣を気にしないで集合場所に送り出す。

「じゃあね、結衣」

「うん、行ってきます!」

 

 

「ふーふんふっふふーん」

結衣と別れた私はこの前できた曲を鼻唄で歌いながら学校に向かう。これ、歌にするつもりだったから歌詞も考えないとなんだよね~まあ、すぐに作らなくてもいいし、ゆっくり考えよ。

そんなことを考えてるうちにいつの間にか校門の前に。そういえば、今朝は家をいつもより早く出たからか信号に引っ掛からなかったなぁ。

 

教室に入るとまだ人は少なかった。美優もまだ来てないんだ。海未とことりは穂乃果と一緒に来てるから多分結構ギリギリに来ると思うからそっちは昼休みにして、とりあえず美優を待とうか。

美優がくるまで本を読むことにして、私は鞄から最近読んでる本を取り出す。今読んでるのはOLさんで都会の萎びた野菜が嫌で毎日会社帰りに野草をとって帰ってる人のはなし。結構衝撃を受けたけど私は好き。あり得ないってよく言われるけど。

元々本はよく読んでたけど、倒れてからもっと読むようになった。外で遊べなくなったし、作曲もそんなポンポンできるもんじゃないし、一番手頃だったのかも。今では月20冊くらいは読んでるかな。

「……!」

しばらくして美優の声が外から聞こえた。顔をあげて時計を見ると読みはじめてから五分くらいしかたってない。

「美優!」

廊下を歩く美優に声をかける。

「あ……夢花ちゃん」

「美優、昨日はごめん!」

「え……?」

美優が驚いたように変な声を出した。

「私、いっぱいいっぱいで、心配してくれてたのに……」

「良かった……」

「え……?」

今度は私の番だった。良かったって、何で?

「だって、昨日の夢花ちゃんはとっとも辛そうな顔してたけど、今日は全然そんなことない! 二年生になってから一番いい顔してるよ」

「美優……ありがと」

私は笑顔で言えた。そういえば、新学期になってからあんまり笑ってなかったかも。そんなことにも気づいてないなんて。

「今日は生徒会ないから昼休みに」

「あ、美優。今日、私昼休みにやらないといけないことあるから……」

「そっか、じゃあ休み時間にいくよ」

「わかった」

美優にはちゃんと謝れた、むしろ私が元気付けられた感じだけど。あとは穂乃果たち、ちゃんと謝らないと。

 

 

 

 

 

三時間目の授業が終わって昼休み。私はご飯を食べてから屋上に向かおうと教室を出る。穂乃果たちが何となくそこにいる気がした。

階段を上ろうとしたところで

「……夢ちゃん」

上から呼ばれた。見なくてもわかるふわふわしたことりの声。私は手だけ振ってことりが居るところへ行く。

「穂乃果たちは?」

「二人とも屋上だよ。私も今から行くとこ」

「私も一緒に行っていい? ……昨日のこと、あるし」

「もちろん」

「ことり、昨日はごめんなさい」

「ううん、全然。でも良かった、また夢ちゃんとしっかりお話しできた」

「……ごめん」

「あ、別にそんな意味で言ったんじゃないよ! ただほんとにうれしかったんだ。夢ちゃんの気持ち、ことりにもちょっぴりだけだけど分かるから……」

そういえばことり、幼稚園の頃足悪かったんだっけ。五歳くらいのときに手術して治って普通に生活してるし、今じゃほとんどその傷も分からないから忘れてた。

「穂乃果ちゃ~ん、夢ちゃん連れてきたよ~」

屋上の扉を開けるとそこには穂乃果と海未がいた。

「穂乃果……」

「夢ちゃん……」

しばらく沈黙が流れる。そして、

「「あのさ!」」

「……引き分け、だね」

最初は穂乃果と雪ちゃんの間でのルールだったこれ。私と穂乃果の間でやり始めたのいつだっけ? まさか今になって役に立つとは思ってなかったけど。

「私、夢ちゃんのことなんにも考えてなくて、このまま離ればなれみたいになってるの嫌で……でもまた夢ちゃんを……」

穂乃果、やっぱり私があのとき言っちゃったこと、気にしてたんだ。

「私の方こそ、皆、ごめんなさい。それと、お見舞いに来てくれたときのことも。こんな風に言うだけじゃ許してもらえないだろうけど……」

「いいえ、許すどころか、最初から怒っていませんよ」

「え?」

朝も同じようなことあったよね。でもまさか、怒ってないなんて……

「だって、私たちは夢ちゃんのこと信じてるもん!」

ことり、嬉しいこといってくれるじゃん。

「二人とも……本当にごめんね」

「もう気にしなくていいよ、前みたいに仲良くしてくれれば!」

「ありがと……」

また最初みたいな沈黙が私たちを包む。ことりと穂乃果、穂乃果と海未が頷き合って私の前に並んだ。

「夢ちゃん、穂乃果は、ううん、穂乃果たちはやっぱり夢ちゃんにつくってほしい、私たちの始まりの曲を!」

やっぱり穂乃果まっすぐだ。いろいろ大変だったけど、始めてみる知らない世界に連れてってくれる。

「はいこれ」

穂乃果がポケットから丁寧に折り畳まれた紙を出した。

「穂乃果、それは……!」

「海未ちゃんが歌詞作ってくれたんだ。読んでみて」

私は言われるまま紙を広げる。そこには海未の几帳面な字が並んでいた。ざっと目を通すだけでも三人の覚悟が伝わってきた。

「すごくいい歌詞だと思う。明るくて、前向きで……私、曲をつけたくなっちゃった」

「え、それじゃあ……!」

「うん、私に作曲、やらせてもらえる?」

あれだけ悩んでたのに、いざ言うってなったらすごく簡単に口に出せた。

「うん、よろしくね! 夢ちゃん!」

穂乃果に抱きしめられた。その外からことりが海未を巻き込んで抱きついてくる。私も今までの分を取り戻すように強く抱きしめ返した。




若干のSID設定が使われました! 矛盾がない程度にこれからも出てきます。

夢ちゃんが作った曲はなんなのか! わかった方は是非感想の方へどうぞ~

なお、これからも2ヶ月ほど受験のため更新を休止します。受験が終わり次第更新を再開します。
と言うわけで、しばらく先にはなりますが次回もよろしくお願いします!


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★楽しいメリーなクリスマス!

ある冬の日、私はちょっと先生と教室で話してたから、部室にいくのが遅くなった。だから着替えとかしてると悪いと思ってノックしようとしたんだけど……

「なんか話し声が聞こえる……?」

着替えてる様子はなかったからそのままドアを開けると、いつもの席に座ってなにかを話してた。

「えっと、何してるの?」

「あ、夢ちゃん! もうお話終わったの?」

「うん。それよりなに話してたの」

いくら最終予選が終わったと言っても、本選に向けて練習しなきゃなのに。

「来週のことを話してたのよ」

「来週?」

「うん、ほら一週間後って丁度クリスマスやろ。みんなでパーティーでもしよか~って話してたんよ」

ああ、なるほど。そう言えば確かに来週クリスマスだっけ。

「もちろん、夢ちゃんも参加するよね?」

「私はいいよ。いろいろ私に合わせてもらわないといけなくなるし」

当然のように私を数に入れてた穂乃果に私は参加を断る。塩分制限がかかってる私と一緒にパーティーをするってことは料理に制限ができちゃう。合宿とかならまだしもさすがにねぇ……

「気にすることないにゃー」

「そうだよ。夢花ちゃんが来てくれた方が私も嬉しい」

「ま、まあ別に私はどっちでもいいんだけど」

この一年組の反応も大体予想できてたよ。きっと絵里たちも同じように説得してくるんだろうな。うん、まあしょうがないか。

「わかった、一応お母さんに聞いてみてからね」

私だってもちろん参加したい。お母さんの塩分管理の予定次第だけど、たぶん大丈夫なはず。私の塩分制限は一日あたりでかかってるから他のところで調整してもらえばいいからね。

「やったー」

「また料理を作るのはにこでしょ? 私の方からもメニュー提案するけどにこが考えてるものがあったら材料だけ教えて。塩分量の計算するから」

「わかったわ、明後日までには考えとく」

また迷惑かけちゃうけど、やっぱり楽しみ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレゼント交換か……」

自分の部屋でベットに横になって考える。外寒くなってきたし、買いに行くのはちょっとなぁ……でもなにか作るって言っても……

「お姉ちゃん、ごはんできたって!」

「わかった。それと結衣、別にそんなに大きな声じゃなくても聞こえるよ」

「しょうがないじゃん、お姉ちゃんヘッドホンしてたら聞こえないんだもん」

それは確かに。それならしかたない。

「そう言えば結衣は今年のクリスマスプレゼント決まった?」

「うん、決まったよ。今年はFiiU貰うんだ!」

「ああ、あのゲーム機ね。サンタさんは?」

「前も話したじゃん! 去年のクリスマスの夜、プレゼント持ってドアを開けたお父さんと目があったって」

私は自然にサンタの存在なんて信じなくなったけど、結衣は正体を見ちゃって信じなくなった。一番夢が壊されるやつだよね、これ。その時まで私も言わなかったから、朝、サンタさんってお父さんだったんだねって小声で言われたときは本当にビックリした。

「ごめんごめん、そうだったね」

「まあ、覚えてないふりして頼んだけど」

「頼んだんだ……」

「お父さんには内緒ね」

結衣の将来が少し怖くなった。

「はいはい。あっそうだ、私からのプレゼント、なにがいい?」

「お姉ちゃんからの? うーん……あっ、ストラップ欲しい! 前のやつもよかったけど、そろそろ新しいの欲しい、かな?」

「ストラップ?」

「ほら、私の誕生日プレゼントにくれた」

「ああ、ビーズのね! わかった、じゃあそれ作るよ」

私が一昨年の結衣の誕生日にプレゼントとしてあげたのがビーズのストラップだった。それ以来結衣はずっと筆箱につけてくれてる。それの新しいのが欲しいってことだと思う。

「やった、お姉ちゃんありがと!」

じゃあ、結衣の作るついでにパーティー用のも作っちゃお。たしかビーズは残ってたはずだし、あのあと作ろうとして途中のが何体かいた気がするからそれを使えばいいよね。ご飯食べたら材料と相談してどうするか決めよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーズのストラップを作ったり、にこから言われた料理の塩分量の計算して、お母さんと相談して材料とか調理法とか変えてもらったりしてるうちにクリスマス当日が来た。

「ん~、なんとか2セット作り終わった~」

ビーズなんて触ったの二年ぶりくらいだったから最初はなかなか苦労したけど、だんだん感覚を思い出して前みたいにできるようにはなった。簡単なの作ろうと思ってたのにいつの間かけっこう難しいのになってた。もうちょっと簡単なのにすればよかったよ、ホントに。

「お姉ちゃん、おはよ」

「おはよ、結衣。はい、クリスマスプレゼント」

透明なビニールにちょっと綿入れてMerryChristmas! っていうシールをクリスマスカラーのリボンと一緒に貼っただけの簡単な包装をしたビーズのストラップを手渡すと結衣のテンションが急激に上がった。

「お姉ちゃんありがとう!」

結衣が好きな水色のドレスを着たクマのストラップ、背中のリボンに結構苦労したんだよ~。ちなみにパーティー用のはこのピンクバージョン。

さっそくお母さんたちに見せにいった結衣を見て私も嬉しくなった。たしか前のは犬だったんだっけ? もう結構前のことだから忘れかけてる。その時もこんな風に喜んでくれたっけ。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

今日のパーティー会場は穂乃果の家。うちから五分もかからないから私に優しい。

穂乃果の家に着くとμ'sメンバーはみんな来てて自分の分担をこなしてた。

「あ、夢花。来ましたね。早速ですが厨房の方にいってもらえますか? にこがさっきから待っています」

「ん、わかった」

海未に言われた通り厨房に行くとことりとにこが慌ただしく動いてた。

「ごめん、二人ともちょっと遅くなっちゃった?」

遅刻はしてないけどなんか待たしちゃったみたいだから一応謝る。

「全然大丈夫だよ~」

「あんたがいなくてもできることはやっといたわ。早くしないと間に合わないわよ」

「そうだね、じゃあまず……」

私のからだのことを考えて、極力食塩を減らすためにケーキをプリンにして、鳥はレモンで焼く。後は全体的に薄味にしてもらってパーティーメニュー完成! ちょっと固めのプリンだからちゃんとデコレーションもできるけど、やっぱりちょっと違う気もする。

「それじゃあ、メリークリスマス!」

みんなで一斉にクラッカーを鳴らす。少し火薬臭くなっちゃうけどこれもパーティーならではって感じだよね。

「クリスマスのチキンって言えばやっぱり大きいのをたれで焼くイメージだけどこれも良いね!」

「本当にそうね。ところでこのピザは? 普通の生地ではないみたいだけど」

「それ、お餅を使ってるんだ~穂乃果ちゃんのお父さんに協力してもらったの」

餅ピザはことりのアイデア。普通に生地をつくるを食塩が入るからってお餅を薄く伸ばして生地の代わりにした。今度うちでもやってみよ。

「でもこれ大丈夫なの? 対して薄味になってない気がするんだけど」

真姫ちゃんはやっぱり心配してきた。さすが病院の子。指摘が鋭い。

「大丈夫だよ。今回目指したのは減塩だけどなるべく味を落とさないこと。これで食塩相当量が一人あたり大体1.6g位だから」

「そう、ならいいんだけど」

「じゃあ、デザート食べる前にプレゼント交換しようよ!」

「凛もさんせーい!」

「じゃあさきにやっちゃおっか」

そう言ってことりが自分の後ろにあるみんなのプレゼントが見えないように入ってる箱を持つ。

「ことりが動くより箱を回した方が早いわ。回しかたを決めましょ」

じゃんけんの結果私は一番最後、つまり残り物になった。私、じゃんけん弱……

「はい、夢花ちゃん」

「ありがと、かよちゃん」

とりあえず私のじゃなかった。自分のを確認したら机の下に一回隠す。

「じゃあみんな一斉に出すよ。せーのっ」

全員が持ってるプレゼントを確認して自分のを探す。

「あ、ことりのやつ、私のだ」

「やっぱり! 前、夢ちゃんがビーズやってるの見たことあったからもしかしてって思ったの! とっても可愛い!」

「すごいわ、よく出来てる」

アクセサリー作りが趣味な絵里に褒めてもらうのは嬉しい。もちろんことりに喜んでもらえただけですごく嬉しいんだけど。

「夢花ちゃんのは私のだ」

「かよちゃんの?」

なんだろ、かよちゃんっていうとお米以外思いつかないんだけど。包みを開けて出てきたのは

「えっと、これアルパカ?」

「そう! さわり心地も学校にいるアルパカとそっくりなの」

アルパカのぬいぐるみだった。確かにすごくさわり心地が良くてずっともふもふしてられそう。

「すっごく気持ちいい……かよちゃん、ありがとね」

 

 

 

 

プレゼントをひと通り確認した後、私が作ったプリンケーキを出した。プリンの上にイチゴを並べただけだけどけっこうケーキぽい、気もするけど、やっぱり違和感がなくはない。

「わぁ、美味しそう。夢花ちゃん早く切って切って」

私は凛ちゃんに急かされて包丁を入れて、十等分して配る。

「どう、かな?」

自分で作ってといてあれだけど、クリスマスといえばホールのスポンジケーキって感じがあるから少し不安だった。

「いいやん、こういうケーキもありやね」

希が真っ先に感想をいってくれた。

「ふほふほひひいほ!」

「穂乃果は口を空にしてから喋ろうか」

でも美味しいっていってくれたのは分かったよ。みんなの反応を見ながら私も食べる。味は我ながらいいできだと思う。

一般的にはこうだってことを気にしすぎなのかも。全然問題ないじゃん、プリンケーキ。心配して損した。

私はスプーンを置いてみんなの顔を見る。やっぱりみんなと一緒にいるっていいな。パーティー、できてよかった。

「どうかしたの?」

「ううん、何でもない」

ことりをうまくごまかして私はプリンケーキを一口食べた。さっきより甘くなった気がした。

 




思わず書いちゃった……勢いでかいたので若干キャラがおかしいかもです。


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#7 わたしのこと。

家に帰ってすぐに自分の部屋にこもった私は海未が書いた歌詞を読んで思い付いたメロディーを書き出していた。もちろん、これをただつなげただけじゃなんの面白味もない曲になっちゃうからここから色々足していかないとなんだけど……

「なかなか難しいなぁ」

私が個人的に作曲してる歌をさわってるときも思ったけど、歌詞がある歌を作るのは歌詞がない曲を作るのと全然違う。歌いやすさや歌詞とのマッチングを考えると今私のなかで浮かんだメロディーのいくつかは使えない。でもこれは捨てがたいし……なんて考えてるうちにどんどん時間は過ぎてお母さんが呼びに来るまで、1時間くらいかな、の間ではほとんど進まなかった。

 

 

 

 

「どう? 少しは進んだ?」

「全然」

今日は月二回の通院日、ってさっきお母さんが呼びに来るまで忘れてたんだけどね。

車を運転するお母さんの横で作曲ノートを広げて少しでも音符を増やそうとペンを動かそうと色々考えるけど、全然動かなかった。

これからに対する決意、新たなスタートを切る前向きなココロ……私が海未の歌詞から感じ取ったメッセージはうまく表現したいんだけどな……

「……か、夢花」

「ん?」

お母さんに肩を叩かれてノートから顔をあげるといつの間にか見慣れた病院の風景が広がっていた。

「ほら、早く降りなさい」

そう言われて慌ててシートベルトを外して外に出る。私が心筋症を発症してからずっとお世話になってる病院で、最近建て直したばっからしくて、とても綺麗な白い壁に覆われてる。なんでも最新設備もほとんど揃ってるとか。って私の主治医の朝倉陽菜《アサクラハルナ》先生が言ってた。

「……はい、今回もあまり変化はないみたいね。えっと、今高一だっけ?」

「今年高二になりました。いくら私が小さいからってからかわないでください」

「え……そういえばそっか」

もちろん頼りにはしてるんだけど、若いのにちょっと抜けてる? といかボケてる? とこはちょっと心配になることもある。それに年齢関係ないか。

「じゃあ夢花ちゃんはちょっと……」

「あの……」

「どうしたの?」

私は穂乃果たちとまた一緒に過ごせるようになって気になることがあった。

「学校の帰りにどこかに寄り道ってしてもいいんでしょうか」

朝倉先生は真面目な顔をして私と向かい合った。

「夢花ちゃん、あなたは確かにここ一年運動療法をしてきたことで動けるようになったかもしれない。だから普通の人と同じように動けるんじゃないかって思う気持ちもわかるよ。でもね、あくまでも私が夢花ちゃんの状態をみて決めた運動量だから出来るだけなの。それに水分と塩分の制限をしてるからっていうことももちろんある」

「……」

いつもと違う真面目モードの朝倉先生は少し怖くて、でも私のことを真剣に思ってくれてることはよくわかって何も言えなくなった。

「運動量の制限は今まで通り、ゆっくりとした歩行を多くとも一時間半くらい、完全に心拍数が落ちてからならもう少し歩いてもよし。体育のある日は体育の授業で私が設定した運動をやってそれ以外の運動は原則禁止、帰りもお母さんに迎えを頼むこと」

「……はい」

やっぱりダメかぁ。私としてはやれること増えたし、いいかと思ったんだけどなぁ。

「だから、それだけ確実に守ってくれれば寄り道は構わないよ」

「え?」

「だから寄り道してもいいよ。あ、でも買い食いはしないでね」

「はい!」

やった、これで安心して穂乃果たちと寄り道できる! あでもちょっと不安だから何回か秋葉原とか行ってみてからにしよ。

「じゃあ安心したところでちょっと先に出ててもらえるかな」

 

 

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 

 

診察室に二人残った朝倉と夢花の母親茉莉《マリ》。最近はなかった夢花抜きの話に茉莉は少し緊張していた。

「夢花ちゃん本人にあまり自覚はなさそうですが、残念ながら段々進行し続けています」

「それはいったいどういう……」

「前もお話ししました通り、夢花ちゃんの病気、拡張型心筋症というものは心臓の筋肉が薄くなり、心臓が肥大化して血液を送り出す力が弱まるという病気です。投薬と水分、塩分制限、運動療法を行い進行は遅くなっていますが、快方に向かってはいません」

「っ!」

突然告げられた事実に驚き、茉莉は短く息を吸った。震えそうな言葉を押さえながら茉莉は質問する。

「それでしたらなぜあの子にあんなことを?」

「寄り道の件ですか? あれは彼女にとってプラスになると思ったからです。人との関わりが生きる力になると思うので」

 

 

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 

 

「ゆーめちゃん!」

待合室で作曲ノートとにらめっこしてると私を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、美月さん! こんにちは」

声の主はここの看護師さんで私のことを結構気にかけてくれてる澄川美月《スミカワ ミヅキ》さん。私がはじめてこの病院に来たときの担当看護師でこの病院で一番若い看護師って言ってた気がする。

「新しい曲?」

「はい、友達に頼まれて」

「へぇ、友達に。バンドかなんか?」

「スクールアイドルって知ってます? それを目指してる子達に頼まれたんです」

「スクールアイドル、私も知ってるよ! やっぱりARISE良いよね!

……それにしても人のために作曲やるなんてちょっと変わったね」

一瞬興奮した美月さんはすぐに落ち着いて話題を少し変えてきた。変わった、か……確かに作曲自体に負のイメージが連想されやすかったけど、最近は違うかも。これも穂乃果たちのお陰って思うとちょっと悔しい感じはあるけど、きっとそうなんだと思う。

「ね、今日はピアノ空いてるよ」

美月さんに言われたことを考えてると待合室の近くにあるピアノを指差しながら美月さんが声をかけてきた。

「弾かないですよ、まだできてないから。それにできても弾かないです。人に頼まれたものだし」

「え~そうなの、ケチ~」

「ケチって言わないで! でも他の曲なら……」

元々はたまにあるピアノコンサート用に置いてあるのを私は入院してたときから使わせてもらってる。

作曲に行き詰まってたし、少し気分転換に弾かせてもらうことにした。

鍵盤を叩く度に集まってくる視線、待合室全体がひとつになる心地いい感覚を味わいながら私はお母さんがくるまで2、3曲弾いた。



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#8 はじめてわかる難しさ

翌朝、私は穂乃果たちの練習を見るために神田明神に来ていた。

「お疲れ……ってかなりへばってるね」

「あっ! ゆめちゃん! おはよう」

「おはよー」

「おはようございます。来てくれたんですね」

「おはよ。うん、まあね」

昨日、私は三人と朝か夕方のどっちかの練習は付き合うって約束した。今日は初日だし、渡したいものもあったし、ね。

「で、今は何してるの?」

「階段ダッシュです。二人の体力や足腰を鍛えるのにはちょうどいいですから」

「じゃあ今度は海未の番?」

「そうですが……?」

ちょうど良かった。みんなの練習用に、といっても海未にしか今は出来ないと思うけど、持ってきたものがある。

「じゃあ海未、これちょっと聞いて」

私は海未にある曲を選択して音楽プレーヤーを渡す。

首をかしげながらもイヤホンを耳に入れて再生ボタンを押した海未。しばらくして海未が顔をあげた。

「これは……」

「私が歌を作ろうと思って前作曲したやつ。三人のは別で新しく作ってるからもうちょっと待っててね」

私がこの間完成させたあの曲を聞いてもらった。

誉めてもらいながら一旦音楽プレーヤーを返してもらう。

「ではなぜ……」

私に聞かせたのですか。きっとそう続きそうな海未の顔を見て私は少し笑いがこぼれた。

「この曲口ずさみながら走ってみて。あ、別に聞きながら走っていいよ」

さっきとは違うイヤホンに差し替えてもう一度音楽プレーヤーを海未に渡す。今度のイヤホンは片耳が断線して聞こえなくなったやつ。これだと耳を押さえて自分の音程を確認するのと同じことができる。

「はい、わかりました」

「大丈夫だと思うけど、無理しないで休んでね」

一応そう声をかけて私は階段を上る。って、結構この階段きつい!

「じゃあいくよ、よーいどん!」

ことりの合図でスタートした海未。海未が小さい声で歌っているのが聞こえてきた。

やっぱり当たり前だけど少し音がずれてる。そう思ってるうちに海未が階段を上りきって下っていった。

二往復目。聞こえてくる声が切れ始めた。これ以上はやめた方がいいかな。

「海未ストップ!」

海未が階段を上りきったところで止める。最初から飛ばし過ぎると体を壊す。それじゃ元も子もない。

「どうだった?」

「普段、より……はぁ、かなりきつい、ですね」

「でしょ?  一ヶ月後にはこれが楽に、とまでは言わないけどある程度の余裕をもってできるようにしないといけない。大変だけど頑張って。ことりと穂乃果は来週から同じことやるからね」

「はーい」

力なく返事をすることりとただ私を見てる穂乃果。

「どうかした?」

「ううん。ただこうしてゆめちゃんと一緒に入れるっていいなぁって思って」

なにも言えなかった。穂乃果のことだから単純にそう思っただけなんだと思う。でも私がそう思わせる状況を作ったのだと思うと少し気分が暗くなった。

「そ、そろそろ学校いく準備しないと! 穂乃果ちゃんとゆめちゃんも帰ろ」

助け船を出してくれたことり。特に穂乃果は、とすぐに続く海未のお説教。

もうさっきの重い空気はなくなっていた。

「ありがと、ことり」

穂乃果と少し離れてお礼を言う。

「ううん、気にしないで」

ことりは柔らかい笑顔でそう返してきた。

いつもこの笑顔で救われてるなって感じながら私も家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

学校から帰ってきてすぐ自分の部屋にこもった私はキーボードの前に座って作曲を続けていた。

歌詞が先にあってそのイメージで作曲するのって結構難しい。あと単語の文字数とかイントネーションとか、気にしないといけないことが多い。やっぱりプロの作曲家さんって凄い。

作業が一段落ついて時間を確認しようとしたとき、いつも通り結衣が夕飯で呼びに来た。

「どぉ、お姉ちゃん。出来てきた?」

「うん、大体ね」

「そっか」

とりあえず元になる原曲は八割くらいできた。出来たんだけど……なんかいまいちな感じがしてる。

でもその違和感がなにかよくわからない。

「そうだ。ねえ結衣、あとで曲聞いてよ」

「え、いいの!?」

「いいんじゃない? 他のひとには言わないでね」

「うん!」

もう楽しみで楽しみでたまらないという様子の結衣とまずリビングに向かった。先に夕飯食べないとまたお母さんに遅いって怒られちゃう。

 

 

 

 

 

「……ふう。やっぱ一曲全部弾くのはちょっと長いな」

「お姉ちゃん、本当にこれ今日一日で作ったの?」

「うん、まあほとんど。少し前考えてた旋律も入ってるけどね。で、どうだった?」

「すっごくいいと思う! お姉ちゃん、なんか違うって言ってたけど結衣には全然違和感なかったよ」

「うーん、気にしすぎなのかな……?」

結衣にそう言われると問題ないんじゃないかとも思えてくる。

でもやっぱりなにか違う。前作った旋律を使ったから? それとも……

「お姉ちゃん、あんまり無理しないでね。悩んでるならほのちゃんたちとも相談してみればいいじゃん」

「え? あ、うん、ありがと」

ちょっと考え込んでたからか一瞬結衣の言葉を理解するのに必要だった。

そうだよね。これは私の趣味でやってる作曲じゃない。穂乃果たちに頼まれたもの。

明日、みんなの意見も聞いてみよっかな。

そう決めた私はキーボードの電源を切る。寝る前にお風呂に入ろうと一度部屋を出た。

なんか最近結衣に助けてもらってばっかだな。



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★夢花のチョコ教室!

「チョコレート?」

「うん、ほらいつも一緒に作ってくれてるじゃん」

学校から帰ってきた結衣に言われて気がついた。そういえば日曜日ってバレンタインデーか。

「そうだった。今年はどうする?」

「みんな、金曜日に持ってくるって言ってたから……」

「結衣も金曜日に持っていきたい?」

「うん」

今日は水曜日だから今から凝ったことは出来ない。

私もお菓子作るのは好きだけど、全部のお菓子のレシピを知ってるわけじゃないから調べないといけないかもしれないし。

「何作るか決まってる?」

「えっとね、フォンダンショコラ、作ってみたいんだけど……結衣に出来るかな?」

「うん、出来るよ」

不安そうな結衣の言葉に私は即答した。

前作ったことあるから多分レシピ覚えてる。確か難しいことはなかったはず。一応確認しないといけないけど。

「本当!」

「うん、難しそうだけど意外と簡単なんだよ」

「じゃあそれ作ることにする!」

嬉しそうに言う結衣を見て私は何だかプレッシャーを感じていた。

これで出来なかったら。

もしそうなったときの結衣を思い浮かべて……いつも以上に真剣にやらなきゃ。

いつも手を抜いてる訳じゃないけどね。

「じゃ、今日のうちに買い物だけしとこっか」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。でもなるべく移動距離は減らそう」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

近くのスーパーに行くと

「何であんたたちがいるのよ!」

「私たちも買い物に来たからだよ、にこ」

にこがいた。

「んなことは分かってるのよ!」

「じゃあしかたないでしょ……ところでにこは何買ったの?」

「……妹たちとμ'sにあげる用のチョコよ。って言っても材料だけどね」

「にこもそうなんだ」

なんて話してるうちに買うものを指示してあった結衣が戻ってきた。買い忘れがないか私がチェックしてるのを横から見てたにこは

「さすがにそれだけ見ても何作るかわからないわ」

と呟いた。

そうだと思う。

だって買ったのはちょっと濃いめのチョコとココアパウダー、あと生クリームだけだもん。小麦粉と無塩バターはうちにあったし……

「あ! 粉糖忘れた!」

「なにやってるのよ。はい、今数えたら一個多かったからあげるわ」

にこが粉糖を結衣が持つかごに入れた。

「にこ、ありがとう」

「ふ、ふん、たまたまよ、たまたま! 返しにいくのも面倒だしちょうど良かったわ」

にこに感謝しつつ、別れて会計をしてるとやっぱり製菓材料コーナーに行ってるにこを見つけた。

本当に不器用だよね、にこって。

 

 

 

そのあと百均でラッピング用の袋やシール、マフィン用のカップを買って帰ってきた私たちは明日の準備をすることにした。

「準備って何するの?」

腰に青いリボンがついた白いエプロンをつけた結衣が聞いてくる。

「フォンダンショコラの中に入れるとろけるチョコを作るの」

「へー前日からやるんだ」

「これによって明日の作業が変わるから作っておきたいんだよ。別に明日一日だけでもできるけどね」

話しながら計量カップで生クリームを量って小さい鍋に移す。

「じゃあ火にかけてる間にチョコ刻もう」

「はーい」

ビターチョコを取り出して細かく刻んでいく。毎年、って言っても2、3年だけど、やってるだけあってこれはもう慣れたみたい。最初、板チョコに元々入ってる線で切って終わったって言われたときはビックリしたな。

生クリームを沸騰する寸前で火から外して刻んだチョコを入れる。

「まださわっちゃだめ!」

「え?」

「チョコが少し溶けはじめてからの方がダマになりにくいから」

「ふーん」

少し溶けたのを見て結衣は泡立て器でゆっくり混ぜ始める。多分生クリームが多いから大丈夫だと思うけど。

結衣の様子を見ながら全く同じ行程を私もやる。

「きれいになったよ」

結衣が見せてきた鍋の中のチョコはなめらかになっていい感じだった。

「じゃあ二つくらいに分けて棒状にしてラップで巻いて」

私がラップの両端をもってチョコが真ん中にいくようにして結衣がそこにチョコを流し込む。そのまま上でラップをあわせて棒状に。

「お姉ちゃんすごい」

「誰でも出来るよ。あとは冷蔵庫に入れとけばオッケー」

私も作ったチョコを一つ一つラップで丸めて冷蔵庫に入れた。

「お姉ちゃんは何作ってたの?」

「トリュフ作ろうかなって。結衣が作ったのはガナッシュっていってトリュフの中身にもなるんだよ」

「そうなんだ」

「うん。さて後は明日。とりあえず使ったものの片付けしよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私は朝から困惑していた。

「おっはよー! 夢ちゃん」

「あはは、おはよ~」

玄関を開けたら穂乃果とことりがいた。なんか大きい荷物をもって。

「ど、どうしたの?」

「前みたいに一緒に作ろうかなって……」

「穂乃果! ことり!」

「う、海未ちゃん」

「海未、急に大声出さないでよ。心臓止まるかと思うじゃん!」

「夢ちゃんが言うと怖いからやめて!」

ことりとそんなコントをしてる間に穂乃果は海未にこってり絞られてた。

「それより、入らないの?」

「いいの?」

「どうせ結衣と一緒に作るところだったし」

「だめです。夢花の迷惑も少しは考えないと」

「じゃあ海未は来ない?」

その間に穂乃果とことりはうちに入る。

「ああ、穂乃果、ことり……しかたありませんね。お邪魔してもいいですか?」

「もちろん」

海未のあとに続いて家に入る。

それにね、私が倒れる前にやってたことを今でも覚えてて来てくれたのがとっても嬉しかった。

「なんか一気に人が多くなったね」

「でも結衣はあと生地作るだけだから大丈夫だよ。ことりたちは何作るの?」

「私はガトーショコラ作ろうと思ってるんだ。穂乃果ちゃんはマドレーヌ、海未ちゃんはクッキーだって」

「ガトーショコラ! さすがこっちゃん」

「ふふ、ありがとう、結衣ちゃん」

和気あいあいと話しながら作業を進める。

「結衣は卵溶けた?」

「うん。次は無塩バターとココアパウダーと小麦粉入れるんでしょ?」

「そうそう。ちゃんとふるいにかけてね」

穂乃果たちはことりが指導してるし、私も自分のやろっと。

温度調整が難しいテンパリング。これがうまくいくかどうかで見た目が違うからね。

温度計をさして細かく温度をチェックしながら湯煎して溶けたら今度は冷やす。ある程度冷えたらもう一回形成しやすい温度になるように湯煎し直す。

「お姉ちゃん出来たよーあとカップに入れればいいの?」

「うん、その前に昨日のチョコだして結衣の指二本分くらいに切ってからね。あ、私のも一緒に出して」

「はーい」

冷蔵庫にチョコを取りに行った結衣との会話をきいてたことりが

「フォンダンショコラの中をガナッシュにしたんだ」

と聞いてきた。

「さすがことり。その方が失敗しないし、あとから加熱し直してもしっかり溶けるから」

「そうだね」

「相変わらずお菓子作りに関してのことりと夢花の会話はよくわかりません……」

私たちの話を聞きつつも手を休めずに生地を丸く抜いていく海未と

「ことりちゃん、夢ちゃん、ガナッシュって何?」

と手を止めて聞いてくる穂乃果。

「穂乃果、ことりが説明してくれるから手は動かして。生地休ませないといけないんだから」

「はーい」

「ええ、わ、私?」

「ことりちゃん、お願いします!」

「う、うん……」

説明してることりを横目に私は昨日のガナッシュにさっきテンパリングしたチョコをきれいにかけていく。お店みたいに綺麗、とはいかないけどそれに近いくらいにはね。あとは少し固まってきたらツノをつくって完成。

「お姉ちゃん、出来たの?」

「うん、大体ね。結衣も切り終わった?」

「うん」

「じゃあカップの1/3くらい生地を入れたらそのチョコを一個入れて、その上に生地をカップの八分目くらいになるまで入れて」

実演しながら結衣に説明して一個つくってあげる。

「分かった、やってみる」

スプーンを結衣に渡して私はオーブンの予熱を始める。先に海未とことり、温度をあげて結衣、最後穂乃果かな。

「予熱出来たよ。まず、海未焼こうか」

「わかりました」

真面目で几帳面な海未らしく丸型で抜かれたチョコチッブが入ったクッキー生地がきれいに並んでいた。天板二枚分あったから一枚は私が運んだ。

「ありがとうございます」

時間を設定してスイッチオン。あとは焼き上がるのを待つだけ。

私も冷えるのを待ってたトリュフにツノをつくって完成!

「あとはみんなのが焼けるの待つだけだね」

全部カップに入れ終わった結衣に私は頷く。ことりも型に入れてあるし、穂乃果も生地を休ませてるところ。

詰まるところ暇だった。

「何かする?」

ことりが控えめに聞いてきた。五人いるからゲームはしづらいし……

「じゃあウノやろうよ!」

「いいね、それ」

すぐに結衣が立ち上がって自分の部屋に取りに行った。その間にクッキーが焼き上がってことりのガトーショコラと入れ替える。

「35分だっけ?」

「うん、そう」

ことりもやっぱり2ホール作ってた。8等分したら1ホールじゃ足らないもんね。って私以外みんな焼き菓子なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

ウノで白熱してるうちに全員のが焼き上がった。あとはきれいにラッピングして……喜んでもらえるかな?

「……」

結衣がフォンダンショコラを五個だけ残してじっと見ていた。

「どうしたの?」

「今、みんなで食べない?」

そうだと思った。

「じゃあみんなでみんなの食べよっか。待ってて今お茶入れるから」

お菓子は、特にフォンダンショコラは焼きたてに限るよね!

「うーん、結衣ちゃんの美味しい!」

「ことりはさすがですね。とても美味しいです」

「海未ちゃんとほのちゃんのも美味しいよ」

「夢ちゃんもやっぱりすごいよね」

私のは結衣のと味は一緒だけど、調理法で若干風味が違うのは面白いよね。それにしてもうまくできて良かった。簡単だよっていっちゃったけどちょっと不安だったんだよね。でも……

「お姉ちゃん、ありがとっ!」

こんないい笑顔の結衣を見ると、私も笑顔になっちゃう。

私は照れ臭くなって残ってたフォンダンショコラを口に押し込んだ。

明日、みんなにきっと喜んでもらえるよ。結衣に頼まれてるμ'sの分もちゃんと渡すからね。




まさかの当日にいかないっていう笑
こういうのもありじゃないですか? 


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#9 相談にいこう!

昼休み、私は昨日できたところまでの音源をもって、となりの教室、穂乃果たちの教室にいた。

「珍しいね、夢ちゃんがこっちに来るなんて。どうかしたの?」

「うん、ちょっとね。ライブの曲で相談があって」

ことりの質問に答えたとたん、穂乃果がパンをくわえたままがばっと顔をあげた。

「μ'sの最初の曲、出来たの!?」

「穂乃果、相談があるといっているのですからまだできてないと思いますよ」

うん、ごめん、まだできてない。それより、

「み、ミューズ?」

まさか石鹸、じゃないと思うし……

「違います」

「さらっと心読まないでほしい、かな」

「夢花なら考えそうですから」

「普通そっちが先に出てくる人が多いでしょ。一応知ってるよ。ミューズ、英語読みだとムーサ。文芸を司る女神で、芸術を司るアポロンが主宰神なんだよね。人数は三人だったり四人だったり、七人だったりするけど、今一番主流なのは九人って説じゃなかったっけ? 確か、musicやmuseumの語源にもなってたよね」

「えっと……」

「穂乃果、夢ちゃんが何言ってたのかよくわかんなかったよ……」

あ、最近神話系の本読んでたから嬉しくってつい語っちゃった。

ちなみにムーサはゼウスと時間の神モシュネの子って言われたり、天の神ウラノスと大地の神ガイアの子どもって言われたりしてる。でもどっちにしろ近s……それいったらきりないか、特にギリシャ神話は。

「それにしても三人なのにμ'sって……」

「夢花ほど知っている人はそうそういないと思います。それで、相談とは?」

話が脱線しかけたところを海未が引き戻してくれた。

「そうそう。ちょっと違和感がある感じなんだけど、何でかよくわかんなくて……」

そう言って私は音楽プレーヤーを渡す。

ワクワクした様子でイヤホンを片耳に入れた穂乃果と真剣な表情の海未。全部聞いてもらってからことりと変わってもらう。私ももう一度一緒に聞いた。でもやっぱり違和感の正体は掴めなかった。

「どう、かな?」

「すっごくいい曲だよ! やっぱり夢ちゃんに頼んで正解だったよ」

「私もそう思う! 違和感なんて何も感じなかったよ?」

「私も同感です」

「そっかぁ……でも何か違う気がするんだよね……」

「でもそういう感覚はことりたちにはアドバイスできないし……」

「そうですね……」

みんなで考え込んじゃって少し沈黙が流れる。あ、穂乃果が声をあげた。

「そうだ、あの子だよ、あの子! あの子に聞いてみようよ!」

「あの子?」

「ほら、いつも音楽室でピアノ弾いてる一年生の!」

あのきれいな声の。私が穂乃果から逃げた時にピアノを弾いてた子のことだよね。

「放課後、一年生の教室に行ってみるよ。穂乃果、一緒に来てもらってもいい?」

「もちろん! 迎えにいくね」

「うん、よろしく」

話し終わった頃には昼休みももう少しで終わりそうで、私たちは急いで残ってるお弁当を食べた。

 

 

 

 

 

 

放課後、一年生の教室に行ってみるともう生徒は疎らだった。結構前にSHR終わったのかな?

「あちゃ~やっぱりいない」

「そっか……」

頼みの綱になりそうな子もいないんじゃほんとにどうしよう?

「にゃん?」

考えてると穂乃果に似た髪色をしたショートの子が横から話しかけてきた。って……にゃん?

「あの子は?」

「あの子?」

あれ、この会話、さっきもした気がする。

「ほらあの赤い髪の……」

「西木野さん、ですよね。ピアノのうまい」

あ、その子の後ろにもう一人いたんだ。ふわふわしてそうなかわいい子。

「そうそう、西木野さんって言うの?」

「はい、西木野真姫さん」

「その西木野さんって今どこにいるかわかるかな? もう帰っちゃった?」

焦れったくなって私から質問した。ふわふわした子は驚いたみたいだったけどショートの子はそんなことなくて

「多分音楽室じゃないですか? あの子、あまりクラスにいないんです。休み時間はいつも図書室だし、放課後はだいたい音楽室にいますよ」

「そうなんだ」

もしかしたら帰っちゃったかもしれないけど、音楽室にいってみた方がいいかも。

「えーと……って、そういえば自己紹介してなかったね。私は白崎夢花。でこっちは……」

「スクールアイドルμ'sの高坂穂乃果です!」

「一年の星空凛です」

「あ、えっと……小泉、はな、よ、です……」

「星空さんに、小泉さん、ね。教えてくれてありがとう。音楽室、行ってみるよ」

私と穂乃果が音楽室に足を向けたとき

「あの!」

さっきは大人しかった小泉さんが声をあげた。私たちは足を止めて振り向く。

「頑張ってください……アイドル」

穂乃果の顔が明るくなった。たしか私が作曲を引き受ける前に生徒会長から甘く見てるって言われてたんだっけ。

でも今こうしてちゃんと応援してもらえた。もちろん、友達とかクラスメートとか、知り合いだからって応援してくれる人はいたけど、穂乃果たちのことを全く知らない人が応援してくれてる。穂乃果にとってこんなに嬉しいことはないと思う。

「うん、頑張る!」

そう返して穂乃果は走り出した。

「小泉さん、ありがとう。ライブ、見に来てね」

私もそれだけ小泉さんに伝えてゆっくり穂乃果のあとを追った。




おかしい、なんで真姫ちゃんが出てこなかったの…


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#10 想いをかたちに

音楽室に近づくと前に穂乃果を見つけたときみたいにピアノの旋律ときれいな歌声が聞こえてきた。

「穂乃果!」

結局、音楽室まで穂乃果に追い付けなかった私は扉の前にいる穂乃果を呼ぶ。

「夢ちゃん、しー」

私の声に振り向いた穂乃果がくちびるに人差し指を当ててそう言った。

言いたいことは分かるけど元々そんなに大きな声で呼んでないって。

「あの子だよ、西木野さん」

穂乃果が指を指した。

すぐに入るのも今は演奏中だから悪いし、なにより私がもっとこの子の歌を聞いていたい。前に聞いたときも思ったけど本当にきれいな声。

そう思って聞いてるうちにいつの間にか演奏が終わっていた。

「あ、穂乃果はいいよ」

「えー、なんでなんで」

私が一人でいくことを伝えると私が予想してた通りの答えが返ってきた。

「こっちに付き合うより、自分の練習が優先、でしょ」

「でも……」

「いつ終わるかわかんないことで時間を無駄にしちゃだめ。少しでも練習しとかないと。ただでさえ時間がないんだから」

「……わかった」

渋々だけど折れてくれた。

穂乃果と別れたところで、私は音楽室に入る。

「こんにちは」

「だ、誰……ですか」

私のリボンを見て上級生だってわかったらしい西木野さんは無理やり敬語をつけた。

「私は二年の白崎夢花。よろしくね」

「一年の西木野真姫、です」

うん、知ってる。自己紹介は返してくれた。礼儀正しいけどちょっと素直になれない子、なのかな?

「あの……」

「あ、ごめん、何?」

つい病院でやってた人間観察をしちゃった。初対面の人にはよくやっちゃうんだよね。小泉さんたちにやらなかったのは急いでたからかな。自分でもその辺がよくわかってない。

「私に何か用、ですか?」

「うん、ちょっと。今歌ってたの、自分で作ったんだよね?」

そう聞いた瞬間、西木野さんが体をこわばらせた。

「……そうですけど」

「すごくいい曲だと思う。西木野さんの声にもよくあってた」

「あ、ありがとう、ございます」

「それでね、ちょっと相談にのってほしいことがあるの」

「相談? なんで私が」

面倒くさそうに視線を私からはずしても話だけは聞いてくれそうな西木野さんを見て少し笑いがこぼれた。

「なんですか」

笑われたのが不服だったのか面倒くさそうな視線を私に向けながら、言外になぜ笑ったのかという非難が込められてる。

「ううん、何でもない。作曲関係のことなんだけど、私のまわりにできそうな人が居なかったから」

話をするとなんだか西木野さんの表情が曇った気がした。まるでなにかを我慢してるようで。

「まあいいや。まだいるでしょ? あっちのピアノ借りて勝手にやってるから」

「え……」

私は無理やりやってもらうことにした。もうなんだか方法が穂乃果みたいだけど、なりふりかまってられないし、しかたないよね。

西木野さんがもう一台のピアノに座ったまま私を見てる。わざと私は気がついてないふりをしてμ'sの始まりの曲を演奏する。一度に全部弾くって実は結構体力使うんだけど、これで協力してもらえるならそのくらい、ね。何度もは無理だけど。

一通り弾き終わったところで私が違和感を感じてるところをもう一度弾く。

「ここなんか変な感じするんだよね~どうすればいいかな?」

独り言、っていうには少し大きい声で呟く。

「私に聞いてるの?」

「別にそういう訳じゃないよ」

「……そう」

私から視線をはずして自分の作業をし始める西木野さん。私は同じ箇所を何度も、でも少しかえながら弾く。もちろんほとんどは自分が考えるため。でも少し、西木野さんに聞いてもらうためって言うところもある。

「うーん……」

休憩もかねて一旦今弾いた旋律を考える。やっぱりどれもなんとなくしっくりこなかった。

「どうしよう……」

もう西木野さんのことなんて忘れて真剣に考えてたとき、触ってないはずのピアノからきれいな旋律が流れた。

「これならどう?」

西木野さんだった。まあ当然なんだけどさ、私と西木野さんしかいないし。

「……どうって聞いてるの」

少し恥ずかしそうに私に聞いてくる西木野さんはなんだか可愛かった。

「確かに流れにもよくあってるし、いいと思う」

「明るい曲だからって暗いところがあっちゃダメなんてことはないのよ」

「なるほど……」

確かに私は明るい、前向きっていうテーマに囚われてそういう旋律で全部構成しようとしてたけど、もっと自由に考えてもいいのかも。

「あとはどこ?」

「え……」

「どこって聞いてるのよ」

「手伝ってくれるの?」

「別に先輩のためじゃないですけどね。私の作業の邪魔なので!」

素直になれないのはよくわかったけどその言われ方はちょっと傷つくよ。

まあ、せっかくいってもらえたから手伝ってもらうけどね。

「あとはここと、ここと、あと……ここ」

楽譜を見ながら二人で相談を始める。

「先にいっておきますけど、次はやりませんよ」

手を止めないで私にそう言ってくる。

「どうして?」

「こういう曲あんまり聞かないから。それに……」

悲しそうな表情で西木野さんは言い淀んだ。

「それに?」

「私の音楽は終わってるから」

諦めがその言葉には込められていた。その理由を聞こうとして私は彼女の名字にひっかかりを覚えた。そういえば確か私が最初に運ばれた病院って……

「西木野病院……」

「そう、私はそこの娘。だから大学は医学部って決まってるのよ」

「……」

「だからしかたないじゃない。余計なことはしてられない」

「……そっか」

せっかく出来るのに出来ないってつらいよね。なんかさみしいよ……

「こんな感じでどう?」

西木野さんが書き直した譜面で弾いてくれた。それで気になったところを私が指摘してまた相談する。

次はないっていってた西木野さんも結構ノリノリで手伝ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

結局、下校時間ギリギリまでかけて私も、西木野さんも納得がいくものは出来た。

「ありがとね、真姫ちゃん」

「うぇぇ、べ、別に……」

きっと真姫ちゃんがいなかったらこんなに良い曲にはできなかった。

「じゃあね、真姫ちゃん」

「え、ちょ、ちょっと! 人に頼むだけ頼んで用事がすんだら先に帰るってどういうことよ!」

私は真姫ちゃんを無視して、ピアノを片付けてドアに手をかける。

「ねえ、真姫ちゃん」

「なによ」

「自分がやりたいことをせっかくやれるんだから、諦めない方がいいよ」

「え……?」

「人間、いつ自分がやりたいことできなくなるか分かんないんだしさ」

「……どういう意味よ」

真姫ちゃんの言葉を無視して私は音楽室を出た。

真姫ちゃん、その言葉の意味は自分で見つけないとだめだよ。

さて、いよいよだ。この曲から始まる。この曲のライブの出来でこれからが変わる。

穂乃果たちが、μ'sがいい『START;DASH!!』がきれますように。



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#11はじまり

μ'sの初めての曲が完成した次の日、私が編曲して音を増やしたやつを穂乃果たちに持っていった。

「穂乃果、出来たよ」

「本当!?」

「うん。お待たせ」

「待ってて、すぐ海未ちゃんとことりちゃん呼んでくるから!」

扉を大きな音をたてて開け閉めするほど慌てなくても。私は音源置きに来たんだから逃げないって。

 

 

 

それからすぐに屋上にいった私たちは、私が持ち込んだパソコンを使って出来た曲を再生した。真姫ちゃんに手伝ってもらって納得がいく出来にはなってるけど、実際に聞いてもらうとなるとやっぱり緊張する。

「どう?」

私は三人に感想をもらおうと思ってそう聞く。

「ちゃんと、曲になってる……」

「これが、私たちの……」

「私たちの、曲……」

誰も聞いてなかった。

「おーい、三人とも! 戻ってきて」

「はっ、どうしたの、夢ちゃん」

「だから、どう? なんか気になるところとかある?」

三人が戻ってきたとこで改めて同じ質問をする。

「ううん、全然! 気に入らないとこなんて何にもないよ」

「うん、ことりもこの曲好き!」

「私もです」

三人とも言葉は違うけど気に入ってくれたみたい。本当に良かった。

「夢ちゃん、ありがとう!」

そう言ってそのまま飛び付こうとした穂乃果。

「ちょっ、穂乃果ストップ!」

私の声に穂乃果だけじゃなくて海未もことりも止まった。

「そうやって飛んでこられると私のここ、止まっちゃうかもしれないから……」

そっと手を左胸に当てて穂乃果にそう言うと

「あ、そっか……ごめん……」

私がこの病気、拡張型心筋症を発症する前はよくこうやって飛びかかってくる穂乃果を受け止めてたけど、今はそんなこと出来ない。本当の意味で元通りにはなれないんだって自分でいって少し悲しくなった。

「そうですよ、穂乃果。もっと注意してください。あなたはいつもいつも……」

海未がなんとかいつもと同じように怒ろうとしてるのが伝わってくる。こういうとき、入院してて自然と身に付いちゃった他人の顔を見てその内面をある程度察する能力って本当に要らないと思う。

居心地が悪い沈黙がその場に広がった。きっかけがなくて誰も言葉を発せない。

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、夢ちゃん!」

その沈黙を破ったのは唯一パソコンの前から動いてなかったことりだった。

呼ばれた私たちはパソコンの前に集まってことりが呼んだ理由を知った。

「評価が……入った」

入れてくれたのは誰かわかんないけど、初めての評価が入った。

「……さて、練習始めるよ。本番まで後二週間しかないんだから」

とりあえず歌の練習から。ダンスは後で海未とことりが決めるっていってた。私はそのアドバイスをすればいいみたい。

とりあえず、歌を一通り教えてきた私は海未たちの振り付けの相談には関わらないで家に帰ってきた。

今日よくわかったのは歌うことも結構体力を使うってこと。最初は一緒に歌ってたけど一番のサビ辺りでもう大変だった。

そんなわけで自分の部屋のベッドに倒れこんだわたしは……

 

 

 

 

 

 

 

……しばらく寝てたみたい。およそ二時間くらい。お陰で体力はある程度戻った。

「お姉ちゃん、おはよ」

「おはよ、結衣」

夕飯が出来たから呼びに来たら寝てたんだよって結衣に怒られちゃった。

「ごめん、ごめん。起こしてくれてありがと」

「うん。それより珍しいね、お姉ちゃんがお昼寝なんて。ほのちゃんたちのは終わったの?」

「うん、ちゃんと出来たよ。穂乃果たちにも喜んでもらえた」

「だからそんなに嬉しそうなんだね」

「え、嬉しそう?」

自分では全く気付いてなかった。そんなに分かりやすく顔に出てた?

「なんていうか見てるこっちも嬉しくなっちゃうくらい。きっとそれだからお昼寝しちゃってたんだね」

「そうかも」

なんかこんな会話してるとどっちがお姉ちゃんなのか分からないよね。前にも思ったけど私が発症してから結衣は急に大人になったから、きっといろんなことを我慢してるんだろうなってやっぱり考えちゃう。姉としては妹の成長が嬉しい反面、自分のせいでっていう申し訳ない気持ちもあって素直に喜べない。

「あーあ、私もほのちゃんたちに会いたい! 今度つれてきてよ!」

かとおもったら今度はこれだもん。でもまだまだ子供のままで居てくれると私は嬉しい、かな。

「とりあえず二週間後の初ライブが終わったらね。それまではとにかく練習しないと本番に間に合うかわかんないから」

「はーい……」

つまらなそうに返事をした結衣は次の瞬間ぱっと花が咲いたように笑顔になって

「ねえ、そのライブ、結衣も見に行けないの?」

と聞いてきた。

「その日に一般公開してる訳じゃないしたぶん無理じゃない?」

「そっかぁ……」

さっきよりさらに大きく落ち込んだ結衣。

そんな結衣を見て

「三人のライブ、ビデオで撮っておいてあげるから、ね」

と声をかけた。

「ほんと!?」

落胆の表情から一転笑顔になった結衣。

元々撮るつもりだったから仕事が増える訳じゃないし。それに、この笑顔を見たら断れないよ。

「絶対だよ、約束だからね!」

「うん、任せて」

さて、こんなに楽しみにしてくれてるし、中途半端なパフォーマンスは出来ないよ。

穂乃果、ことり、海未。頑張ろうね



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#12私の思い

ライブ本番まで後少しに迫った今日、私はμ'sの朝練を手伝っていた。

海未の体力トレーニングと私の知識をもとに作ったダンストレーニングで最初に比べればかなり良くなった。でもやっぱり普段から運動してる海未はともかく、穂乃果やことりは基礎の基礎な体の柔軟性や体幹の筋肉が全然足りない。でもこのライブに間に合わせるのは無理だし……これからの課題ってことにしとけばいいか、とりあえず。

「夢ちゃん! 今の、どうだった?」

そんなことを考えてたら穂乃果に声をかけられた。私が見て今の時点で直せそうなことを指摘する。さっきからこの繰り返し。穂乃果たちが踊って、私が修正点を指摘して、それを踏まえてまた踊る。

「うん、わかった! じゃあ、もういっ……たぁい!」

休憩もそこそこにまた踊ろうとする穂乃果にとりあえずチョップすると、穂乃果は大袈裟に痛がった。

「今までずっと休憩なしだったんだからちょっと休む! 本番前に怪我したらどうするの」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

「ふーっ、終わったぁ」

あの後、細かいところの修正をして今日の朝練は終わり。やっぱり最初よりずいぶん体力がついた。前はへとへとになって倒れこんでたのに。

「頑張っとるみたいやね」

ストレッチをしてる三人を見てると後ろから声をかけられた。

「えっと……?」

見知らぬ巫女さんだった。いや、どこかで見た気が……

「あ、分からへんか。うちは音ノ木坂で副生徒会長をやってる東條希や」

「ああ、副生徒会長さんでしたか。ところでこんなところで何を……バイトですか?」

格好的にそうかと思うんだけど、神社にバイトってあるの?

「あるんよ。ところであなたが三人のこと見てたんやね」

「ええ、そうですけど、それがなにか?」

「ううん、何でもないんよ。頑張ってな」

「は、はい……」

「……「まーきちゃーん!!!」」

東條先輩がなにか言おうとした瞬間、穂乃果の大きな声が境内に響いた。

「だから心臓止まるかと思うから急に大きな声出さないで!」

「夢ちゃんが言うと怖いからそんなこと言わないで!」

「えへへ、ごめんごめん」

私に言葉にことりからツッコミが入った。穂乃果の態度に海未は叱り始めてるし、相変わらずだね、本当に。

「すみません、東條先輩。それで……っていない」

なにか言おうとしてたから聞こうと思ったのに、東條先輩はすでにいなかった。どこいったんだろ?

とりあえずそれは置いといて、穂乃果が捕まえた真姫ちゃんのもとに私もいく。

「おはよ、真姫ちゃん」

「えっと……」

「真姫ちゃん、この前私たち三人で歌ってみたの。結構上手く歌えたと思うんだけど、聞いて?」

「はあ? 何で私が……」

ここでツンデレ真姫ちゃん発動したよ。

「だって私を手伝ってくれたし」

「……」

黙りこんだ真姫ちゃん。それを見て穂乃果は不気味な笑いを漏らして、真姫ちゃんに飛びかかった!

そして真姫ちゃんが引いてる間にイヤホンを耳に押し込んで離れた。

諦めて聞く体勢になった真姫ちゃんの前に三人がならんで私たちで決めたμ'sの合言葉的なものを口にする。

 

 

 

「μ's」

 

 

 

この子に三人の歌はどう聞こえるのかな。

 

 

 

 

「ミュージック……」

 

 

 

 

 

 

少しでも気が楽になるようにいい評価だといいんだけど……そう願って。

 

 

 

 

 

「……スタート!」

 

 

 

 

 

 

でも私は忘れてた。パフォーマンスの上手さよりももっと重大な問題があったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理です……」

「で、どうなってるの、これ?」

屋上で縮こまってる海未を指差して穂乃果とことりに説明を求める。

「実は……」

話を聞いてわかった。海未は人前で踊ることが恥ずかしいらしい。そう言えば海未ってかなりの恥ずかしがりやだっけ。

「人前じゃなきゃ大丈夫だと思うんです、人前じゃなきゃ!」

「……そういうときよく言われるのはお客さんを野菜だと思え、だけど……」

「……私に一人で歌えと!?」

「そこ……?」

さすが海未、素晴らしい想像力。普通そこまで考えないと思うんだ。

「でも、これは本気で何とかしないと本番に影響が出るどころじゃないよね」

「うーん……」

ことりと私が真剣に悩んでるところで穂乃果は海未の手を取って

「こういうのは慣れちゃう方がいいよ! 夢ちゃん、穂乃果に任せて!」

私に自信満々に言い切った。

「ま、まあそこまで言うなら……」

「ありがと。じゃあ行こ!」

「行こってどこにいくの、穂乃果ちゃん」

「アキバだよ」

「アキバ?」

「うん、アキバでビラ配りだ!」

ビシッて効果音が付きそうなくらい綺麗にポーズを決めた穂乃果。こういうとこでも海未のトレーニングが効いてることが分かる。

「私はまだいくの怖いからパスで」

「うん、じゃあ行くよ、海未ちゃん、ことりちゃん!」

三人と別れて家に帰りながら気がついた。ビラ配りっていってたけど、今μ'sのチラシってライブのお知らせしかないんじゃ……今さらいっても遅いけど、そこで配っても誰もこれないよ……

 

 

 

 

次の日の放課後、今度は昇降口から校門の間でビラ配りをしていた。

ちなみに昨日は海未が現実逃避に走ったためなにもやらずに帰ってきたらしい。まあ、結果オーライだったよね。

いくら炎天下ではないっていっても長い時間直射日光の中にいるのは良くないから、私は昇降口から三人の様子を見ながらビラ配りをしていた。

「ねえ、あなた」

「はい? ……生徒会長」

私を呼び止めたのは生徒会長だった。穂乃果たちの話によるとたしかμ'sの活動をよく思ってないとか。

「あなた、確か心臓に病気を抱えているんだったわよね」

そう言われても私は驚かない。私のことは小さいこの学校では結構有名だし、殊、生徒会には私のサポートも一部頼んであるから、知ってるのは当然だ。

「ええ、そうですけど」

「なぜ貴女はあの子達の手伝いをするの? 自分の体を優先して治療に専念すべきではないの?」

「……治療に専念、ですか。できたらいいですね」

私は珍しく棘がある言い方になっていた。

「それってどういう……」

「私の病気、拡張型心筋症は心臓の筋肉が伸びて上手く心臓が機能しなくなる病気です。そして伸びきった心筋はもうもとには戻らないんですよ」

「っ!」

生徒会長の顔に驚きが広がった。私は少しうつむいて言葉を続ける。

「完治させるには誰かが死にかけるのを待ってその人の命と引き換えに心臓をもらうしかない……」

「そう……」

「でも!」

私は顔をあげて生徒会長と視線をあわせる。

「穂乃果たちは私を頼ってくれた。あんなにひどいことしたのに、前みたいになにもできないのに。

私は発症してからずっと“人間、いつ何ができなくなるかわからない”って思ってます。だから、私は三人の、μ'sの期待に応えたい。あなたが言うように、状況は好転しないかもしれない。それでも、私は穂乃果たちを応援する。例え応援してるのが私一人だったとしても、私が出来ることなら手伝い続けたい。そう思います」

私の思いをすべて生徒会長にぶつけた。

「……」

生徒会長はなにも言わずに歩き出していちゃったけど、ちょっとは思いが伝わってると嬉しい。

「夢花、あなたの思い、私たちもちゃんと受け止めましたよ」

「ことりたち、これからも頑張るからよろしくね」

聞かれてた~結構恥ずかしいよ、これ!

「夢ちゃん」

「なに、穂乃果?」

「一緒に頑張ろうね、最後まで!」

屈託のない笑顔。穂乃果の一番の魅力だと思うその元気な笑顔でそう言われたら断れないじゃん。元々断るつもりもないけどさ。

「もちろん! 途中で投げ出したら許さないよ」

 



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★お礼

海未誕ですよ!


「あの、夢花! ちょっといいですか?」

卒業式も終わってようやく春休みに入りそうなある日、私は海未に突然呼び止められた。

「う、海未! どうしたの?」

明後日は海未の誕生日。毎年恒例の誕生日会を今年もサプライズで穂乃果が企画してる。今までは私たち幼なじみ三人ーーっていっても去年は参加してないけどーーとゆきちゃんに結衣の六人だったけど、今年はμ'sが出来た。入る前に誕生日が来ちゃってた真姫ちゃんと希には出来なかったけど、他のメンバーには小さいけど誕生日パーティやった。今年度は海未で最後だからもちろん全員参加予定!

まあそんなわけで密かに準備してるからあんまり今海未と会いたくないんだよね……

「昼休み、生徒会室に来ていただけますか。夢花と二人で話がしたいんです」

海未はいつになく真剣な顔つきでそう言ってきた。その雰囲気に押された私はとりあえず頷く。

お願いしますね、と足早に自分の教室に戻る海未を見ながら、私はいつもと違う海未の様子に首をかしげるしかなかった。

 

 

 

昼休み。海未に言われた通り生徒会室に足を運んだ私は一応ノックをしてから中に入った。

「すみません、夢花はあまり動けないのにこんなところに呼び出してしまって」

私の姿を確認した海未がすぐに席を立って謝ってくる。

私は海未が座ってた席の近くの椅子を引いて座った。

「ふう……大丈夫大丈夫。校内の移動なら平気だしね、心配してくれてありがと。

それで、話って?」

持ってきたお弁当を食べながら話をして、海未に話をふった。

「はい、私がそんなこと言うのはおかしいことは十分わかっているのですが、えっと、その……」

「どうしたの? はっきり言わないなんて海未らしくないよ」

急にもじもじしだした海未に私も少し戸惑う。確かに恥ずかしさでこうなることはあるけど、今の様子はどう見ても言いにくさでこうなってる。

「その、明後日って……?」

………………え?

まさか、気づかれてた?

「えっと……」

「ですよね。毎年恒例なのでもうわかっていました。それに最近穂乃果がよそよそしいですし」

「そ、そうだよね……」

穂乃果ぁ~! でも考えてみれば当然か。サプライズとかいっても毎年恒例なんだし。

「でもどうして? 毎年気づいても知らないふりしてたよね?」

「はい、そうなんですけど……なんか申し訳なくて」

「申し訳ない?」

「はい。穂乃果の誕生日はまだことりがいるからいいですが、ことりの誕生日は私と穂乃果でやるのでどうも盛り上がりにかけると常々思っていたんです。私のことばかりあんなにしてもらっていていいのかと」

確かに、ことりの誕生日って学校でも行事が詰まってる時期でバタバタしてて結構直前まで準備してたこともあったし、穂乃果の誕生日はことりが大体のことをしちゃうから飾りつけとプレゼントの用意くらいしかすることないから。それが海未の言う申し訳ないってことなのかな?

「別にそんなに気にすることじゃないと思うけど。それで、どうしたいの? 海未のことだからもうやることは決まってるんでしょ?」

「はい、一応……」

そういって海未はポケットから折り畳んだ紙を一枚取り出して私に渡した。

それを広げて中身を確認する。

「……! これって……」

「私たちだけしか知らないものを作って私からのプレゼントにしたいんです。でも私一人じゃここから先はどうすることもできません。お願いです、夢花。手伝ってください」

言い切ると深く頭を下げた海未。それに私は驚いてすぐに顔を上げさせた。

「海未、もちろん手伝うよ。滅多にない海未からのお願いなんだから」

「一言余計です。でも、ありがとうござい「ただし、」……なんですか?」

「一緒に私の家に来ること。最後まで海未が関わらないと」

「もちろんです!」

今日原型ができちゃえば明日は休みだしなんとかなるでしょ。するんだけどさ!

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで当日。

海未はいま、穂乃果とことりと一緒に遊園地へ。

私たちはというと……

「どんどん包んで! 早くしないと間に合わなくなるよ」

穂乃果のお母さんに急かされてひたすらほむまんを作ってた。もちろん素人の私たちが作ったのなんて売り物にはならない。ありきたりのケーキじゃ面白くない、どうせなら面白いことをって考えた結果がこれ。

結婚式でよくあるような大きいももまんの中に小さいももまんがたくさん入ってるやつのほむまん版。

穂乃果のお母さんもお父さんも喜んで協力してくれた。とは言ってもそんなに大きなやつなんて作ったことなかったからちゃんとできるまで一週間はかかったって言ってた。でも一週間で作り上げるなんて十分すごいと思うんだけど……

餡を生地で包むこと30分、ようやく用意してもらった分が終わった。これの10倍くらいの量を毎日作ってるんだから本当にすごいよね、穂乃果のお父さんとお母さん。

あとは穂乃果のお父さんに大きい生地で包んでもらって仕上げはお願いした。それが出来る間に穂乃果の部屋を飾り付け。私は輪っかをつないで渡していく役割だったけどね。だって高いところに登るのちょっと怖いもん……

大体終わったところで穂乃果からの連絡が入った。

「みんな、そろそろ海未達が戻ってくるって!」

「こっちは終わったからいつでもいいわよ」

「了解っと」

穂乃果にOKを返してクラッカースタンバイ。元々わかってれば驚かないから平気なんだよね。

「ただいま~」

「お邪魔します」

海未達が戻ってきた。みんなとアイコンタクトをとって……

せーの

「「「「「「「「「海未(ちゃん)、誕生日おめでとう!」」」」」」」」」

同時にクラッカーも鳴らす。

「……びっくりしました。みなさん、ありがとうございます」

多分本当にびっくりしてる。さすがに海未もこれは予想外だったみたい。

「上がって上がって。みんなで海未ちゃんにプレゼント作ったんだ」

穂乃果が海未を引っ張って二階につれていく。それ続いてみんなも上がっていって一番最後のことりがほむまんを受け取った。

「じゃーん、穂むら名物ほむまんスペシャルバージョン! 海未ちゃん、切ってみて!」

「はい、ですが大きい以外特に違いは……っ! これは……」

「中に一杯普通のほむまんが入ってるの」

「花陽たちも中のほむまんは手伝わせてもらったんだよ」

海未はもう一度ありがとうございますと言ってからほむまんを食べた。いつもここで作ってるのと同じだから味は大丈夫だと思うんだけど……

「とても美味しいです。本当にありがとうございます」

「もう何回も聞いたにゃー」

それからみんなもほむまんを食べて楽しい時間を過ごした。

「あの、みなさん、今日は本当にありがとうございました。それで、ですね、私からのお渡ししたいものがあります」

解散ムードが漂い始めた頃、海未が突然そう切り出した。私は知ってるけど他の人は不思議そうに海未を見てる。

「夢花に手伝ってもらいましたが、私から私たちだけしか知らない、私たちだけの曲をお返しとして渡させてください」

そして海未は一人ずつCDを渡した。

「題名はSENTIMENTAL StepS。別れの曲、ではありますがこれ私たちの別れではなく、μ'sとの別れを思って作りました」

デモは海未が歌った。最初で最後の海未のデモになったね、そういえば。

結局、海未へのサプライズはうまくいかなかったけど、海未からのサプライズは大成功。協力した私も嬉しい。

とりあえずこの曲をμ'sで歌った音源は残しておきたい。私たちの本当に最後の曲だから。

「夢花、手伝ってくれて本当にありがとうございました」

「ううん。これからもよろしくね、海未」




まとめ方無理やり……
なかなかないと思いますけど、律儀な海未ちゃんならこういうことも考えるかなって感じたので形にしてみました。いかがだったでしょうか?


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#13 スタートラインの少し前

その日の夜、私は穂乃果に呼ばれて『穂むら』、穂乃果の両親がやってる和菓子屋に来ていた。一階が店舗で二階が住居。つまり穂乃果の家ってことだよね。

「こんばんは」

「いらっしゃい……ってもしかして夢花ちゃん?」

店番をしてた穂乃果のお母さんに見つかった。相変わらず商品のつまみ食いはしてるんですね……

「はい、お久しぶりです」

なんて挨拶をしてると奥の扉が開く音が聞こえて

「夢ちゃん来てるの!?」

穂乃果の妹、雪ちゃんが飛び出してきた。

「雪穂、久しぶ……」

「夢ちゃん!」

「ちょっ!」

いきなり飛びかかろうとしてきた。

「雪ちゃんストップ!」

「ふぇ?」

変な体勢で止まった雪ちゃんは穂乃果と同じように聞き返してきた。

「前ならいいけど、今はそれ受けると死んじゃうかもしれないから……」

「そ、そうだよね。ごめん……」

こういうとき、本当に嫌になる。前と一緒、そういうわけにはいかなくなってるから。

でも……

「でも、普通になら、ね」

シュンとしてた雪ちゃんを抱きしめて頭を撫でる。

「……なんか身長変わんなくなってない?」

「そりゃそうだよ。だって二年もたってるんだよ、最後に会ったときから」

「そっか……もう二年も、って私が成長してないみたいじゃん!」

「時間差すぎだよ! それに事実じゃん!」

そうなんだよ。何でか知らないけど高校入ってからそんなに身長伸びないんだよね……

私の病気と関係があるのかと思って朝倉先生に聞いてみたりもしたけど今のところそんなことはなさそうだって言われちゃったし。私の身長はどこへっ!

「あ、夢ちゃん。相変わらず、やっぱり雪穂ちゃんと仲良いんだね」

そのまま雪ちゃんを抱きしめてるとことりがそう言いながら店に入ってきた。私はしかたなく雪ちゃんから体をはなす。

「だって雪ちゃんだから」

「理由になってないよ!」

「それはいいとして、ことり、その大きい袋は?」

横で突っ込みを入れてくれる雪ちゃんを一旦おいといて、ことりが持ってる大きい袋に気がついた。

「うん、ついに出来たんだ、ライブの衣装。上でみんなで見よ」

私は雪ちゃんと別れて、二回に上がっていくことりのあとを追った。

 

 

「お待たせ~」

ことりのあとに続いて入った私はそのまま穂乃果のとなりに移動する。

「ことりちゃん、それってもしかして……」

「うん! さっき、お店で最後の仕上げをしてもらって……っと。じゃーん!」

「「「おぉー」」」

ことりが出したのはワンピース型のピンクの衣装。カーブのラインとかなんか難しそうな部分が多い。

「えっと、これ、本当にことりが作ったの?」

正直なところ、私の感想はそこだった。既製品だって言われても絶対に気がつかないほどのクオリティ。それが個人で、私の幼馴染みが作ったってことが信じられなかった。

「まあ、ほとんど。ちょっと大変なところはお店でやってもらった部分もあるけど……」

「すごい、すごいよことりちゃん! すっごくかわいいよ!」

いくらお店に頼んだ部分があるとしてもこの完成度はすごい。それにとっても可愛いし。

「ことり……」

海未の声は重かった。こんないい衣装をことりが作ってくれたのにどうしたんだろ?

「そのスカート丈は……?」

「えっ……あっ!」

スカート丈? あ、そっか。海未、恥ずかしいのね。

「だってしょうがないじゃん、アイドルだもん」

「アイドルならスカート丈は短く、なんてルールはないはずです!」

頑固だねぇ、海未。きっと最後には折れることになるのに。

「だって、海未ちゃんが悪いんだよ?」

「私が、ですか?」

「うん、小学校のとき、私にミニスカート持って迎えに来てくれたことがあったでしょ?」

「はい、正確に言えば穂乃果の、ですが」

そういえばそんなことあった。確か海未が偶々病院であって、その時にことりがロングスカートばっかりはいてる理由を聞いて、じゃあミニスカート持ってこうって話になったんだっけ?

「ですがいったいどういう関係が……」

「私ね、それ以来すっかりミニスカート派になっちゃったの!」

「……はい?」

「だからね、この衣装がミニスカートなのもしかたがないの。嫌、なんて言わせないよ?」

ことりにしては頑張った、というか事実なんだろうね。確かにそれから全然ロングスカートはかなくなったし。

「そ、そういう話で私を丸め込もうというのは卑怯です! それなら私は一人だけ制服で歌います!」

「むしろ制服の方が丈短い気が……それに、この衣装で三人が並んだらきっと綺麗なんだろうなぁ」

「夢花!」

「それにね、みんなで一緒の衣装の方がきっとうまくいくよ」

私がダンスをやってた頃、先生に言われたこと。

気持ちを揃えるために、まずは外見から揃えなさい。そうすれば自然に気持ちが揃い、動きが揃う。

これは本当だと思うから。三人で一緒の衣装を着てステージに立って欲しい。

「みんなでできてよかった、そう思いたいの」

窓にかけよってもう一度。

「思いたいのー!」

外に向かって叫んだ。本当に穂乃果はまっすぐだ。だから私たちはついてっちゃう。いろんなところに連れてってくれるから。

「それは、私も賛成」

「もう……三人とも、ずるいです。……わかりました」

 

 

 

神田明神にお参りにいくという三人と別れて私は家に帰った。

本番はいよいよ明日。

でも、どこかうまくいくだろうと楽観してる私は夜空の星が雲に覆われ始めていたことに気づいていなかった。



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#14 夢幻の可能性

「以上で新入生歓迎会を終わります。興味がある部活動がある人はどんどん体験入部に行ってみてください」

新入生歓迎会が終わった。この後はついにファーストライブ。

私たちは最後のビラ配りをするために外に出る。

「吹奏楽部に入部希望の方~」

「テニス部の見学はこちらです」

ほかの部活も少ない新入生をいかに集めるかの勝負だから気合入ってるなぁ。

「穂乃果たちも頑張らないと」

「そうだね」

穂乃果がことりとそう話してるのを見ていると一際大きな声が聞こえてきた。

「お願いしまーす! μ'sファーストライブやりまーす!」

海未の声だった。ビラ配りをしたおかげで少し吹っ切れたのかな? それともただ気合が入ってるからなのかな?

理由はどうなのかわかんないけど今の海未は始めたときに比べて生き生きとアイドル活動をやってる気がする。

「手伝ってくれるの?」

私が海未を見ていると横から穂乃果の驚きの声が聞こえた。

「夢ちゃん、ヒデコたちが手伝ってくれるって!」

「音響とか照明とか触ったことあるから調整できるから。リハーサルもやっておきたいでしょ?」

ショートヘアの子がそう言ってくれた。

まさか最初からこんな風に手伝いを申し出てくれる人がいると思わなかった。しかもステージ機材を動かせる人なんてなかなかいない。

「うん、やってもらえるとすごくうれしい! でも……」

「遠慮しないで。私たちも学校なくなるの嫌だし」

おさげの子がそう言ってくれる。

「ごめん。ところであなたたち、誰?」

私のクラスメートじゃないっぽいし誰だかわかんないんだよ……穂乃果の友達なのはわかるけど。

「そっか。夢ちゃんとおんなじクラスになったことないもんね。左からヒデコ、フミコ、ミカ。みんな去年も一緒のクラスで仲良くなったの。

それでこの子が夢ちゃん。私たちの幼馴染でμ’sの曲を作ったり、ダンスを教えてくれたり、いろんなことしてくれてるの」

ショートヘアがヒデコ、ポニーテールがフミコ、おさげがミカ、ね。たぶん覚えた。

「私も知ってるよ夢花ちゃんのこと。心臓病があるとか聞いてたけど大丈夫?」

やっぱり知ってる人多いなぁ……

「普段は無理しなきゃ大丈夫だから心配しないで。病人だからって腫物を扱うみたいにされるほうが嫌だから」

「わかった。でも何かあったらいつでも頼ってね。できる範囲で協力するから」

「うん、ありがと」

挨拶が一通り終わったところでミカにビラ配りを代わってもらって穂乃果たちは着替えに、私はその補助に、ヒデコとフミコはステージ機材の確認と準備に。それぞれ分かれて行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、着替え終了」

「ありがと、夢ちゃん」

穂乃果とことりの着替えが終わりあとは海未だけ……なんだけど、私の補助も断って一人でブースに入ったまま出てこない。大丈夫かなぁ。

「海未、大丈夫? やっぱり手伝おうか?」

「だ、大丈夫です! もう終わりますから……じゃーん、ど、どうでしょうか?」

ようやく出てきた海未はことりが作った二人と色違いの衣装を身にまとって……

「「え?」」

なぜかジャージをはいていた。

「どうでしょうかじゃないよ! さっきまでの海未ちゃんはどこ行ったの!?」

「い、いざ着てみて鏡を見たら急に恥ずかしく……」

もう、普段はあんなにしっかりしてて頼りになるのに自分のことになると本当に恥ずかしがりやなんだから。

私は穂乃果とアイコンタクトを取って海未に近づく。

「な、なんですか……」

警戒する海未を無視して私が後ろから海未を抱きかかえて

「往生際が」

「わるいよ、海未ちゃん!」

穂乃果がジャージを脱がした。私相手だと海未も本気で抵抗してこないからね。

海未を解放するついでに締まり切ってなかった後ろのファスナーを上げる。

「ね、補助必要だったでしょ?」

「はい、ありがとうございます。でも、やっぱり恥ずかしいです……」

そういう海未を穂乃果とことりが引っ張って三人並んで鏡の前に立つ。

「ね、こうしてみんなで立っちゃえば気になんないでしょ?」

「え、ええ」

やっぱり三人並ぶと決まるなぁ。さすがことり。

「ほら、三人とも。せっかくリハできる時間もらえたんだからやらないと損だよ」

「そうね」

ことりと穂乃果が控室を出る。

「ほら、海未も」

「わ、わかっています」

私も海未と一緒に部屋を出る。

「夢ちゃん、本当にいろいろありがとう。精一杯やってくるね!」

突然穂乃果にそんなことを言われた。

「まだ何にも始まってないのに終わりみたいなこと言ってどうするの。でも、私もこの一か月楽しかった。ありがとう。

さあ、穂乃果、ことり、海未。三人とも精一杯楽しんできて! 私は座席のほうで待ってるから」

「もちろん」

「うん」

「もちろんです」

これなら大丈夫。

きっとうまくいく。

そんな根拠のない確信めいたことは改めて座席のほうから入りなおした瞬間に崩れ去った。

「うそ……」

そこに広がってたのは無音の世界。人の声もしなければ姿もない。

つまり、お客さんがいない。見せるべき観客が誰もいなかった。

私はこうどうからなるべく急いで飛び出して外でビラ配りしてる二人に声をかける。

「どう?」

「頑張ってはいるんだけど……」

「人気がある運動部だと入部テストがあるみたいで……友達にも声をかけたんだけどみんな自分の部活で精一杯みたいで」

ついに今年の一年生は一クラスになっちゃってたし、さっきも思ったけどやっぱりみんな自分の部活に人を集める方に全力を尽くしてるのか。

どうしよう。そんなこと全く考えてなかった。

今取れる選択肢は二つ。

ひとつは今日のライブは中止して別の日にやること。これならまだ人を集められるだろうとは思う。でも、私はさっき見てきた、やる気に満ちた三人の姿を。そんな三人に今日はライブやめようなんて言えないよ……

もうひとつはこのままやること。でもお客さんがいないなかやらないといけないなんて……

「私たちもぎりぎりまで頑張ってみるから! そんなに気にしないで」

「ありがとう、ミカ。フミコもよろしくね」

「うん、任せて」

外の方を二人に任せて私は中に戻って美優に連絡を取ろうとする。

「出ない……」

そういえば美優は今日の新入生歓迎会の反省会があるって言ってたっけ。来たいって言ってたけどそれだから無理って言われたんだった。

あとは小泉さんたちが来てくれるかどうかだけどこれだとあんまり期待できないかも……

 

 

 

結局どっちにするという決断もできずに時間切れ。なにもせず座席に座ったまま開演時間直前になった。

この時間になってもやっぱり誰も来なかった。

開演を知らせる無機質なブザー音が講堂に鳴り響く。明るく照らされたステージが幕の間から見え始めてついに幕がすべて開かれた。

三人の笑顔はこの光景を見た瞬間崩れた。

「え……」

「穂乃果、ことり、海未……」

三人の顔を見て私はかけられる言葉がなかった。

「そりゃそうだ。世の中そんなに甘くない!」

穂乃果が泣き出しそうに顔をゆがめる。それにつられてことりも泣きそうになってる。

「……」

そうだった。私は決めたの。どうなっても私だけは穂乃果たちを応援するって。

「穂乃果、ことり、海未。歌って」

「え……?」

「みんなのために動いてくれたヒデコたちのために。私だってμ’sのライブを見に来た観客だよ」

今日まで努力してきた成果を披露して。みんなの努力が報われないなんて認めない……

そのとき、大きな音を立てて講堂ホールの扉が開いた。

「小泉さん!」

「あ、こんにちは……えっとライブは……?」

そう聞かれた私は穂乃果たちの方を見る。

「そろそろ始まるよ」

「うん、行こう! 全力で歌おう。そのために今日までやってきたんだから!」

照明が消えて前奏が始まる。ピアノソロから始まるこの曲。三人の始まりを飾る曲。

パフォーマンスの途中で何人か入ってきたのに気付いた。

よかったね、三人とも。少しだけど興味を持ってくれた人がいるみたいだよ。

後半疲れが出てきたのか少し腕が落ち始めた。頑張って、もう少し……

 

 

最後はきっちりポーズを決めた。練習以上、とはいかないけどほぼほぼ練習の成果はでたと思う。

まばらな拍手が起きる。穂乃果たちの顔は達成感で満ちていた。

そんな中、一つの足音が聞こえてきた。その主は

「……生徒会長」

だった。

「どうするつもり?」

まばらな、むしろほぼ空席の座席を見回しながら聞く。

「続けます」

「なぜ?これ以上やっても意味があると思えないけど?」

熱を持った穂乃果の言葉と冷たさを持った生徒会長の冷静な言葉。

生徒会長の言い分ももちろん正しい。でもね……穂乃果なら。

「やりたいからです!私、今初めての気持ちを持ってます。このままだれも見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも私たちが頑張ってとにかく頑張って届けたい。私たちがここにいて感じている、この思いを!」

……この前私が生徒会長に言ったこととほぼ同じじゃん。思いは一緒、だったんだね。

「いつか私たち、ここを満員にして見せます!」

私も気合を入れなおした瞬間だった。



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2章 誕生までの道のり~女神が集うまで~
#15 課題


「しっかし、言い切ったね。穂乃果」

「えへへ、つい……」

「ついじゃありません、まったく。穂乃果はいつも無計画すぎます」

「でも、そのくらいの意気込みがないと廃校阻止も難しいんじゃないかな~」

穂乃果たちの着替えも終わり、手伝ってくれた三人もステージ機材の片づけをし終わって帰ったあと、私は穂乃果にけしかけられて三人と一緒に講堂のステージに上がった。

ステージの上に立つなんて何年ぶりのことだろう。ステージに上がることから何年も離れているのにこうして立ってみるとあの頃の感覚がよみがえってくる。

あのたくさんのお客さんの声援を、歓声を、感じさせてあげたかった、そんなのは少し傲慢だけど……

「……ごめん」

気が付けば私はそんなことを口に出していた。

「え……?」

「本当は開演時間のもっと前にわかってたの、今日、お客さんがほとんど来ないかもしれないことが。ううん、もっと前から、新歓の後に部活勧誘があることを知ってたのにそれには関係なくお客さんが集まるって思ってた。本当に「そんなことないよ!」……え?」

「確かにお客さんは少なかったし、始まった時なんて誰もいなくて結局ダメだったんだって悲しくもなったけど、手伝ってくれたヒデコたちがいて、ここまで一緒にやってきてくれた夢ちゃんがいて。駆けつけてくれた花陽ちゃんやそのお友達。見せたい人にはちゃんと私たちの全力を見てもらえた。やってよかったって、本気でそう思えた」

「ことりもおんなじ。最初は悲しかったけど本当に楽しかったよ」

「私もです。それに日時に関しては指定した私たちの責任ですからそんなに謝らないでください」

三人にそう言われて返す言葉がない私。やっぱり傲慢すぎたかな?

「じゃあそういうことにしとこうかな」

「うん、そのほうが嬉しい」

「で、問題はこれからどうするか、だよね」

今日の調子では廃校阻止なんて夢のまた夢。むしろ生徒会長が言った通りこれ以上やっても意味があるとは思えない成果だった。

そんなこと言われて簡単に諦める穂乃果でもないし、この講堂を満員にするって宣言したから、今までよりももっと努力するっていうんだと思う。そのためにもまずやるべきことがある。

「とりあえず一人でもメンバー増やして部活動の設立を認めてもらわないと……」

「ことりの言う通りです。まずは基礎練習を続けながらメンバー勧誘を行わねばなりませんね」

「でも……誰を勧誘すれば……」

「西木野さんはどうかな?」

穂乃果が提案するその人は私にとってもμ’sにいてほしい人だった。

「作曲もできるし、一番妥当だよね。それでいて一番面倒くさそうだけど」

「とりあえず誘うだけ誘ってみようよ!」

「じゃあ穂乃果、明日の昼休み、一緒に勧誘に行ってみようか」

「うん!」

なかなかの長期戦になりそうだけどそれによってこれからのμ'sが大きく変わる。できれば入ってほしいなぁ。

私にいつ、何があるかもわからないし。

 

 

「ただいま」

「お姉ちゃん! ほのちゃんたちのライブは? どうだった?」

「うん、最終的には何とかなったよ……あっ」

「? どうかした、お姉ちゃん?」

「ビデオ、撮ってない……」

観客がいないとか、ライブ開催するかとかで悩んでビデオ設置すらするの忘れてた。

結衣に絶対怒られるよね、これ。

まあ結衣に怒られることは仕方ないにしても、穂乃果たちが自分たちのパフォーマンスを客観的に見れないことの方が問題だよね。気にしてもよくないだろうと思って穂乃果たちにはビデオのことは話してないから、反省会なんかで使うつもりはないだろうけど……

ヒデコたちの誰か、撮っててくれる人いないかなぁ……明日聞いてみよ。

「お姉ちゃん、結衣、本当に楽しみにしてたのに……」

「本っ当にごめん! いろいろバタバタしてて完全に忘れちゃってた」

「おねえちゃんのことだからたまたまだとは思うけどさぁ……」

怒るじゃなくて泣きそうな結衣を見てかなり困惑してる私。そんなに穂乃果たち、μ'sのライブ楽しみだったの?

確かに結衣はもともとスクールアイドル好きだし、ましてやそれが自分の幼馴染なんて言ったらそりゃ当たり前か。

「明日誰かビデオ撮ってないか聞いてみるから、ね。泣かないで結衣」

「ぐすっ、泣いてないもん。絶対だよ、約束だからね」

「うん、聞いてみるよ。でも、もし誰も撮ってなかったらごめんね」

小さく頷いた結衣を連れて私はリビングに入った。

「お帰り、夢花。結衣となんかあったの?」

「うん、実は……」

私が一通り、今日の出来事と結衣にビデオ撮影を頼まれてたことを話す。

「なるほど、それは夢花が悪いわね」

「うん……」

「それにしてもその生徒会長さんはすごいわね。冷静に、客観的に物事をとらえられてる。

まるで……」

「まるで?」

お母さんが濁した言葉の続きがわからなくて思わず聞き返してしまう。

「ううん、何でもない。さあ、ご飯食べましょ」

そう言って話をそらせたお母さんはそれっきりその話をしてくれることはなかった。

生徒会長にお母さんはいったい何を思ったんだろう……?




ファイナルライブに現地、LV参加された方、お疲れ様でした。
私も一日目に現地参加してきましたよ!
いいたいことはたくさんありますが、μ’s18人、本当にお疲れ様でした!
今が最高!この言葉がよく似合うと思います。
私が二次作品で彼女たちの思いを繋いでいく、なんて大それたことは言えませんが、少しでも近づけるようにこれからも精進していきたいと思いますのでよろしくお願いします!

あ、感想も待ってます


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#16 目標に向けて

翌日、私はまず昨日手伝ってくれた三人にビデオをとってないかを確認した。

「ごめん、撮ってなかった!」

「私も……だってあんな状況だったし……」

「私、照明と音響やってたし……」

だよねぇ、まさか撮ってくれてる人なんていないよね……はぁ、結衣になんて言おう。

穂乃果たちにも見せたかったけど……それは私が悪い、か。

とりあえず、真姫ちゃんのところ行ってみよっかな。

「わかった、ありがとね。じゃあまた」

三人にお礼を言って私はゆっくり音楽室に向かった。

 

 

 

 

「も~、夢ちゃん遅い!」

音楽室の前ですでに穂乃果が待っていた。

「ごめんごめん。珍しいね、穂乃果が早く来てるなんて」

「違うよ、夢ちゃんが遅いんだよ」

そっか、私が話してたからか。

「とりあえず行こっか」

いつも通り中でピアノ弾いてる真姫ちゃんを確認した私はノックをせずに音楽室に入って声をかける。

「こんにちは、真姫ちゃん」

「うぇぇ! ……もうびっくりさせないでよ!」

思った通りいい反応をしてくれた真姫ちゃんを見て私はしばらく笑いが収まらなくなった。

「笑わないで!」

「ゆ、夢ちゃん……? そろそろ……」

そう言われてもしばらく笑っちゃって収めるまでしばらくかかった。穂乃果にかなりひかれてる気もするけど面白いから止まらない。

「それで、何の用です?」

私の笑いが収まった頃を見計らって、本題を聞いてくる真姫ちゃん。

「うん、そうだね。本題を話そうか。はい、穂乃果」

私はそこで穂乃果に振る。そういえばなんかこんな風に重要なことの前に少し間を置くと話に集中してもらえるとか聞いたことがあるなぁ。全然そんなこと考えてなかったけど。

「ええ! わ、私!? え、えっと……

西木野さん、μ'sに入ってください!」

穂乃果がそう言った瞬間、音楽室から一切の音が消えた。

教室に入ってくる風で煽られたカーテンに撫でられた真姫ちゃんはそれで我に帰ったのか口を開いた。

「あ、あたしが? なんで?」

「だって、μ'sの曲作ったの真姫ちゃんだし……」

私がすぐに援護する。

「それはあなたが無理やりやらせたからでしょ! 前にも言ったでしょ、私の音楽はもう終わってるんです」

「あなたは本気で音楽を続けたいと思ってる。それに続けられる環境もある。あとは……実力かな?」

「ふざけないで! 何度言えばわかるの、私の音楽は!」

「終わってる、でしょ?」

これじゃあいつまでも平行線。

でも絶対、真姫ちゃんは本心で言ってない。自分のやりたい気持ちを強い意志で抑え込んでる。

「強いね、真姫ちゃんは」

「え?」

「本当はやりたいって思ってるのにそれを意志の力で抑え込んで目標に向かって頑張ってるところ。私には無理」

「穂乃果も無理だなぁ」

「穂乃果は例外でしょ」

「えぇ~、そんなことないよ! 穂乃果だってμ'sは頑張ってるでしょ」

「確かにね。

まあそれはいいとして、自分がやりたいことと自分がしなきゃいけないこと。両立できたら最高だと思わない?」

とりあえず穂乃果をあしらって真姫ちゃんに私の思いを伝える。穂乃果のせいでうまく伝わったかわかんないけど。

「え……?」

「考えてみて。私たちはいつでも待ってるから」

「うん、少しでも可能性を感じたら私たちのとこに来てくれると嬉しいな」

私と穂乃果、二人で真姫ちゃんに言葉をかけて、私たちは音楽室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と穂乃果は階段を上がって屋上に向かう。

それにしても可能性を感じたら、かぁ。相変わらず考えてないときはたまにいいこと言うよね。

可能性を少しでも感じたらそこに向かって突き進む。

それが私の、μ'sの原動力。

うん、なんかできそうな感じがしてきた。あれの方もできそうだしもう穂乃果たちに言ってもいいかな。

「ん? 突然笑ってどうかした、夢ちゃん?」

いつのまにか笑っちゃってたみたい。確かに突然笑い始めたら変な人だよね。

「ううん、何でもない。早くいこ」

さすがに穂乃果にだけ言うわけにいかないしね。

「あ、穂乃果ちゃん、夢ちゃん! どうだった?」

屋上の扉を開けるとすぐにことりが聞いてきた。

「ごめん、やっぱり無理だったよ……」

「それはそうですよね……」

海未も少し残念そうな顔をした。

「ところで夢花、今日の練習は何をするんですか? START:DASH!を練習し続けます?」

「ううん、新しい曲の準備をはじめよっか」

私は何気ないように言った。

「そっかぁ、新しい曲ってえぇ!」

「「「新曲!?」」」

おお、いい反応してくれた。

「いつの間に新曲なんて作ったの!?」

「本当です! 私まだ作詞を……」

「私も衣装、考えてないよぉ」

「だ、大丈夫、大丈夫!」

みんな意識高すぎだよ。特に海未、結構作詞するの乗り気だったんじゃん!

「START:DASH!ができる前に少しの間練習で作った曲があったでしょ? あれに歌詞をつけてるの。明日くらいにはできると思うんだ」

「ああ、なるほど。私はてっきりあれをライブ用に使うのかと思っていましたが、違ったので驚いていたんです。こういう理由だったのですね。

しかし、今なぜ新曲を? 新メンバー獲得を優先させて、新曲はそのあとの方がいいのでは?」

さすが海未、すごく建設的な意見だね。私もそう思って結構悩んだんだよ。

「でも、μ'sってPVないじゃん? 私が取り忘れちゃったから悪いんだけどこの前のライブ映像ないし……」

「あ……そっか、私たちのことを紹介できる動画がないんだ」

頭の上に電球が光るような感じでことりの顔が明るくなる。

「そうそう、そのための曲があった方がいいかなって思ったし、あとずっと同じ曲を練習するのも嫌になるし、ね」

本当はもう一つの理由もあるけど、これは今はなさなくてもいいよね。

「まあとりあえず! 新曲はどうでもいいとして、基礎練習とSTART:DASH!の復習しよっか」

三人の元気な声が屋上に響く。

 

 

 

 

 

 

――可能性を感じたら一直線に

 

 

 

 

 

――だってそこに私たちが目指す未来があるから

 

 

 

 

 

 

――昨日から今日へ、今日から明日へ

 

 

 

 

 

――少しずつステップアップ

 

 

 

 

 

 

 

――1日ずつ、ススメ→トゥモロウ



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#17 とにかくススメ!

土曜日、私は久しぶりにμ'sの朝練に参加するために神田明神に向かっていた。昨日のうちにことりにパソコンは頼んだから持ってきてくれてるはずなんだけど、持って来てくれなかったら私来た意味なくなっちゃうんだけど……

「おーい! ゆ~めちゃ~ん!」

神田明神の中から穂乃果の声が聞こえる。って、私、いつも穂乃果たちが練習してる男坂じゃなくて随神門の方からきたのになんで気づかれてるの?

「昨日ことりにパソコン頼んだでしょ? だから夢ちゃん来るんじゃないかなぁって三人で話してたの」

そりゃそうだ。朝練に絶対いらないパソコン持ってきてって頼んだらそう思われるのは当然だよね。

「ことりにパソコンを頼んだということはできたんですか?」

「うん、できたよ」

私はカバンの中からCDを出して見せる。

「「「おお!」」」

三人の歓声が重なった。

「ことり、パソコン出してもらえる?」

「うん。ちょっと待っててね」

そう言ってことりは自分のバックに走って行った。

「ねえ、なんでことりちゃんだったの? 穂乃果の方が家近いのに」

「だって、穂乃果、忘れそうじゃん」

「確かにそうですね」

私と海未でうなずいて穂乃果は馬鹿にする~ってことりに泣きついてことりが宥めるいつもの流れをやったあとことりのパソコンが起動した。

私はCD入れて三人に聞いてもらう。曲自体は聞いてもらってるけど歌詞がちゃんと曲とあってるか心配。まあ、もしなんかあったら海未に手伝ってもらえばいいし。

「どう、かな? なんか変なところあった?」

曲が終わっても何もしゃべってくれない三人に私は不安になって思わず聞いてしまう。

「ううん、そうじゃなくて……本当にこれ夢ちゃん一人で作ったの?」

「うん、そうだけど……」

「これ、すごくいいと思う!」

「私もいいと思います!」

「穂乃果も! 早くこのの曲歌いたい!」

うれしいことに好評だった。よかった、自分一人で作り上げるのは初めてだったからドキドキしたけど、また作りたいな。

「じゃあ今日からこの曲の練習をってわけにはいかないから基礎練習やってね。筋トレと柔軟、あと発声も。特に穂乃果」

「ふぇ? なんで私だけ~!」

「だってこの曲、頭から穂乃果のソロだから」

「ふーん、そっかぁ……って、ええ! ソロ!?」

私が何気なく言った言葉に穂乃果が大声をあげて驚いた。

「そんなに驚くことじゃないでしょ? リーダーなんだから。あ、大丈夫、安心してちゃんとみんなにもソロあるから」

とりあえずそれだけ言って私は立ち上がる。

「じゃあそういうことだからよろしくね」

三人にそう言って私は神田明神を出て行った。

最後まで穂乃果は騒いでたけど、実際やり始めればちゃんとやってくれるから問題ないでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

私が家に入ると結衣が二階から降りてきた。

「あ、おふぁよ、おねぇちゃん」

「おはよ、結衣。今起きたの?」

「うん、そだよー」

まだ眠いのかいつにもまして話し方が幼い。

それより……

「結衣、いくら休みの日だからって生活リズム崩しちゃだめだよ」

靴を脱ぎながらそういうと

「もう、おねぇちゃんまでおかぁさんみたいなこと言わないでよぉ」

「ならちゃんと起きなさい」

突然のお母さんの登場。私も驚いた、いつからいたの、お母さん……

まあこうなると

「……はい」

結衣もそう答えるしかない。

「お帰り夢花。朝ごはん出来てるから早く入ってきなさい。結衣も顔洗ってきなさい」

「「は~い」」

私と結衣はぴったりおんなじ反応をして私はリビングへ、結衣は洗面所に行った。

 

 

「あ、ねえ結衣」

朝ごはんの途中、私は思いついたことがあって結衣に話しかける。

「ふぁ? ふぉふぇ~ふぁ~ふぃ?」

「うん、とりあえず結衣、口の中にもの入れてしゃべるのはやめようか、それくらい待っててあげるよ」

私の顔を見ながら頷いて急いで飲み込む。

「んく。で、何? お姉ちゃん」

「今日さ、結衣暇?」

「暇だけど、どうかした?」

キョトンと私を見る結衣。

「私とちょっと出かけない?」

「お姉ちゃんと? 行く行く! え、でも……」

不安そうに私を見つめる結衣が言いたいことはわかる。

運動制限がある私と出かけても大丈夫なの? ってことだよね。

「大丈夫だよ。ちょっと練習するだけみたいなもんだから。それに結衣がいてくれて方が安心でしょ? ねぇ、お母さん?」

「そうね、夢花一人だと無茶しそうで心配だし。結衣がいてくれた方が嬉しい」

「わかった、じゃあ行くよ」

「ありがと、結衣」

どこに出かけるかも大体決まってる。そのためにどうしても結衣に来てほしかった。

 

「じゃあ行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね。

……無茶だけはしないでね」

お母さんは最後の言葉だけ小声で言った。

「うん、言われたことは守るから」

私もお母さんに小声で返す。

「「いってきます!」」

私と結衣は元気よく挨拶をして出て行った。




なんと、私の小説がコラボすることになりました。
コラボ先はシベリア香川さんの『ラブライブ!~幻のメンバー~』です!
私のとシベリアさんのと一話ずつつながりがある形で投稿するのでどちらも読んでいただけると幸いです。


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#18 お出かけ

「でさ、お姉ちゃん。出てきたはいいけどどこ行くか決まってるの?」

歩きながら私を見上げてくる結衣。でも前よりだいぶ身長差がなくなってきてるんだよね……

ていうか、本当になんで私身長伸びないんだろ……?

「お姉ちゃん?」

「ああ、ごめんごめん」

身長のことで少し悩んでたら結構黙っちゃってたみたい。

「で、どこに行くか、だっけ? 大丈夫ちゃんと決めてあるよ。

今日はアキバに行くの。一応私もスクールアイドルの手伝いしてるしいろんな情報を仕入れていきたいなって思って。だから結衣にも来てほしかったんだよ」

ゆっくり歩きながら私は今日のお出かけの目的を説明する。

ネットでも調べられないことはないんだけど、やっぱり実際に見たり来たりしないとだめだなぁって改めて思った。

「そうなんだ! じゃあ任せて。私のおすすめいろいろ連れてってあげるね!」

「うん、お願いね。あ、でも私の心臓のことは気にしてくれると嬉しいな」

「そっか……じゃあ一番大きいところ一つだけ行こっか」

「じゃあそうしよう。案内よろしく」

私だけだとたぶん探して歩きまわてる間に時間になっちゃうから、スクールアイドルがもともと好きな結衣に案内してもらう方がいい、その作戦は成功だったみたい。実際、結衣は私の要求に沿って行くお店を決めてくれたし、たぶん中で案内もしてくれる。

なんか妹に頼りっぱなしっていうのもお姉ちゃんとしては微妙なんだけど、まあ自分が得意なところをお互いに補完していく方がいいよね。

 

 

 

 

 

 

「でっか……」

結衣の案内で行ったそのお店の大きさに私は圧倒された。

「ねえ結衣、ここ本当に全部スクールアイドル関係のものしか売ってないの?」

「うん、そうだよ。ここ『school idol paradise』――略して『SIP(シップ)』とか『スクパラ』とか呼ばれてるけど――はこの7階建ての建物全部がお店で、各フロアごとその地方のアイドルのグッズが置いてあるの。あ、一階は今話題になってるアイドルのグッズが並んでるからお姉ちゃんはとりあえず一階だけ見ればいいんじゃないかな」

多いとは思ってたよ、うん。今やスクールアイドルは全国どこにでもいるとは思ってた。でもいくら何でも多すぎでしょ!

「大丈夫、ビル自体は高いけど中はそんなに広くないから」

「そ、そうなんだ……」

結衣にそう励まされながらとりあえずお店に入ってみようかと思って入口の方を見たら人だらけになっていた。って、あれどういうこと!

「ねえ、結衣あの列は……?」

「え? ……ああ、そういえば今日ってNORN(ノルン)の新曲の発売日なんだよ。今結構人気のスクールアイドルでランキングではA-RISEに次いで二位なんだよ!」

「ああ、あのグループの。へぇ、そうなんだ。あれ、それなのに結衣は買わないの?」

結衣って確か決まったグループが好きなんじゃなくてスクールアイドル全体として好きだったはずだからてっきりこのCDも買うのかと思ったんだけど。

「うん、ほんとは買いたいんだけどね……この前A-RISEのCD買っちゃったから……

私のおこづかいじゃ二か月分ないと足らないし、しょうがないかなって」

悲しそうな結衣の顔を見て私は少し考えた後財布を取り出した。

「え、いいよお姉ちゃん!」

「結衣と違ってお母さんから毎月結構おこづかいもらってるから気にしないでいいの。私の一か月のおこづかいで余裕で買えるし」

「でも……」

「もう、そんなこと気にしないの。今日のお礼だから。それに結衣が買ったら私も聞かせてもらえるんだし」

「それなら……」

「あれ、白崎先輩?」

結衣とそんな押し問答をしながら列のの近くに行くと、誰かから声をかけられた。

「あ、小泉さんに星空さん!」

振り返るとμ'sの初ライブに駆けつけてくれた一年生の二人がいた。

「ふたりは何を……ってNORNだよね」

「はい! なんといっても今回のCDは4枚同時発売。メンバーの小鳥遊(たかなし)ほむら、園崎美海(そのざきみみ)影面陽菜(がげともひな)の三人のソロ曲が入った各メンバー版とNORNの新曲がもう一曲入ってるNORN版。各一枚ずつは手に入れるべきです! なにしろ美海と陽菜のソロ曲は今回が初出ですから、見逃せません!」

正直に言って私かかなり驚いていた。この前会った時は人見知りで恥ずかしがり屋な子かと思ってたのに、アイドルの話をし始めるとこんなにしゃべるんだ……

「かーよちん、かーよちん!」

「ふぇ!……はぅ……」

星空さんの反応を見る限りアイドルの話をするといつもこうなのかな。よっぽどアイドルのこと好きなんだね。

「すみません、私、また……」

「ううん、気にしないで。むしろもっとお話ししてみたくなった」

「結衣もです!」

「えっと……」

「あ、ごめん、紹介してなかったね。私の妹でスクールアイドル大好きな結衣。で、この二人は私の学校の後輩で穂乃果たちの初ライブに来てくれた小泉花陽ちゃんと星空凜ちゃん」

今更ながらお互いを紹介しあう。

「とりあえず結衣も並んで買ってきなよ。私はその間に中見てくるから。

小泉さんたちもあとでもう一回会おうよ。せっかくだからちょっとお話ししようよ」

そう小泉さんたちと約束して私はCDの列とは別になってるお店の入り口に入った。



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#19 スクパラ

お店の中に入ると少し薄いピンクの内装にグッズが所狭しと並んでいた。

「えっと……まずは一階の注目スクールアイドルのところを見るのがいいんだっけ」

私は一人そう呟いて店を回り始める。

一階にある棚は列ごとに一つのスクールアイドルを特集してるみたい。確かにあのランキングで名前を見たことあるスクールアイドルのグッズとかCDとかがいっぱいある。

ブロマイドにアクリルキーホルダー、タオルにポスター、ね。今は大した活動やってないからお金大丈夫だけど、これからもっとライブやるかもしれないことを考えるとμ'sもなんかグッズを作った方がいいのかも……

それにしてもNORNのメンバーの名前って穂乃果たちと似てるよね。

そんなことを考えながら私はA-RISEとNORNの新譜といくつかのグッズを買った。

「あれだけ並んでたらまだ時間かかるねよ……ちょっと疲れちゃったけどどこで待ってよう……? あ、そういえば前、結衣がこういうお店にコメント書く場所があるとか言ってたよね。ここにもあるのかな? そこなら多分……っと、やっぱりあった。あそこに椅子があるからそこで待たせてもらおうかな」

近くにあった休憩室みたいなところでまだ戻ってこない結衣たちを待ってることにした。

 

 

 

 

「ごめん! お待たせ!」

「す、すみません……」

「あ~来た来た。気にしなくていいよ、いい休憩時間になってたから」

私の連絡でここまで来てくれた三人と合流した。

「ごめんね、急にお話ししたいなんて言って。二人とも何か用事あった? もしあったら……」

「い、いえ! 全然大丈夫、です……」

「今日はかよちんとここに買いに来る以外特に決まってなかったから大丈夫にゃ」

「ならよかった。それじゃあどこに……っていっても私がそんなに動けないからあそこでいい?」

私の都合ですぐそこにあったハンバーガーショップを指さす。

「え、でおお姉ちゃん……」

私が小泉さんたちをさそうと結衣が心配そうに私を見上げてきた。

「大丈夫、ちゃんと水筒持ってるから」

「そういうことじゃなくて……」

「あの……」

「ああ、大丈夫。さあいこっか」

私は結衣の手を引きながらスクパラから外に出る。

慌てて私たちを追いかけてきてくれる小泉さんと星空さん。

そんな私をさいごまで結衣は不安そうな顔をしていた。

 

 

 

みんなが戻ってくる間、私は席を取って待っていた。

結衣にはあんなに心配されてるけど、私は朝倉先生に言われたこと、買い食い禁止とか運動制限とか、そういうことはきちんと守ってるんだけど。朝出てくるときもお母さんに言われたけどそんなに無茶してるつもりないのに。

「あ、ありがとうございます、私たちの分まで……」

「ありがとうございます」

「ううん、気にしないで。私が勝手に誘っただけだから」

小泉さんと星空さんのお礼に私は手を振ってこたえる。ちなみに二人の分は私が払った。だって勝手に誘うだけ誘ってお金は自分で、なんて悪いじゃん。

「結衣も戻ってきた。

じゃあ改めて。星空さん、小泉さん、μ'sのライブに来てくれてありがとね。その……どうだった?」

「結衣もその話聞きたいです!」

見に行けなかった、そのうえビデオも見れなかった結衣がこの話に食いついてくる。

「凛はアイドルとか詳しいことよくわかんないですけどすごくいいと思いました!」

「私も、お客さんがあれだけしかいない状況であれだけのパフォーマンスを見せたμ's。まだ活動を始めたばかりということもありまだパフォーマンスはぎこちない部分もありますが、これからに期待できる……ってごめんなさい、私また……」

やっぱり小泉さん、すごい。一回見ただけなのにこれだけの分析をしてくれるなんて、すごい熱意だね。

「アイドル、好きなの?」

「はい! かよちんは昔からアイドルが大好きなんです!」

なぜか星空さんが答えた。

「結衣もスクールアイドル大好きです!」

「それはぜひ一度お話ししたいです」

こっちはこっちで意気投合してるし。

「あ、そうだ! かよちん、せっかく白崎先輩にも会ったんだから、μ'sに入れてもらいなよ!」

「「えっ?」」

私と小泉さんの声が重なる。

「そ、そんないいよ……」

「でもせっかくなんだから……」

「星空さん、自分の意見を他人に押し付けるのはよくないよ。

でも……小泉さん、考えてみて。私たちはいつでも待ってるから」

「私も、二人ともアイドルに向いてると思いますよ」

結衣も応援に回ってくれた。ありがと。

「えぇ! 凛も!? 嘘だよ、かよちんは可愛いからいいけど、凛は……ほら髪だってこーんなに短いし」

ん? 星空さんが突然慌てた?

多分結衣の言葉に反応したんだろうけど……なんか結衣、変なこと言った?

思わず小泉さんの方を見たら、静かに首を横に振られた。たぶん私が聞いちゃいけないことなんだろうな。

少し心残りもありつつ二人と別れた私は、そのことを考えながら結衣と話して帰った。

 

 

 

 

 

次の日、私は衝撃の事実を告げられる。

 

 

 

「お姉ちゃん! ほのちゃんたちの動画アップされてるよ!」




前回予告したコラボですが、

第一章(映日果執筆)    5/14 21:00
第二章(シベリアさん執筆) 5/15 21:00

に投稿されます。よろしくお願いします!


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#20 衝撃

あとがきについにあれが…


「μ'sのライブ映像、出てるよ!」

「え……?」

私は結衣の言葉に耳を疑った。

「ほんとに?」

「うん! お姉ちゃんもパソコンで調べてみてよ」

そう言われた私はすぐにパソコンを立ち上げてμ'sのページを開く。普段から使ってるホームページの管理画面には

『一般ユーザーから動画が公開されました』

ってちゃんと通知が来てた。通知の日付は昨日だから多分投稿されたのはその前。

昨日はアキバまで歩いて結構疲れちゃったからパソコンを触らないで寝ちゃったからたぶん気付けなかったんだ。それにまさか私たちの身内じゃないところから投稿されるなんて思ってなかったから、私も投稿動画はチェックしてなかったし。

「これアップしたのお姉ちゃんじゃないよね?」

「うん。多分来てくれた誰かが撮ってくれてたと思うんだけど……誰が撮ってくれたんだろ……」

小泉さん、星空さん、あと小さいツインテの子――あの子も一年生かな? ――、あと生徒会長。後ろから見てて小泉さんと星空さんはそういうことやってなさそうだったし、生徒会長は……ない、と思うし、そうなるとあのツインテの子かな?

「昨日あった2人の話聞いたらすっごく気になっちゃったからあってよかったぁ。もう、お姉ちゃんが忘れるから……」

「あはは……ごめんなさい」

とりあえず謝るしかない。

「小泉さん、だっけ? が言ってた通りうまいグループと比べちゃうとまだまだな感じするけど、お姉ちゃんの曲も、海未ちゃんの歌詞も、ことちゃんの衣装も、ほのちゃんの笑顔も……三人のダンスも。私は好き!」

「結衣……ありがと!」

いつもの穂乃果たちを知ってるからかもしれない。知り合いだから故のお世辞かもしれない。でも結衣からそう言われて、私はすごく嬉しくて。思わず結衣に抱きついた。

「お姉ちゃん? ん〜、苦しいよぉ」

結衣が私の胸の中でもがく。朝からいつまでもそんなことしてる訳にはいかないからから私は結衣を放した。

「びっくりした……突然すぎるよ!」

「ごめんごめん。なんか嬉しくなっちゃってさ」

文句を言いながらどこか嬉しそうに見える結衣と私はお母さんに怒られる前にとリビングへ朝ごはんを食べに行った。

 

 

 

 

 

 

 

学校で穂乃果たちに会ってすぐ動画と結衣の評価の話をした。ただ、学校にパソコンを持ってきてるわけじゃないから放課後に穂乃果の家に集まってその話をしようってことになった。私は月一の検査のために昼休みで早退しちゃったんだけど、穂乃果たちはメンバー集めしてたのかな?

あ、ちなみに今回も変化なし。よくも悪くもなってないってことでした。

で、朝倉先生の話が、というか私のピアノ弾いてる時間がいつもより長かったのか、病院から帰ってくるのがおそくなった。つまり、何が言いたいかっていうと……

 

穂乃果たちとの約束に完全に遅刻だよ!

 

なるべく急いで、って言っても早歩きくらいが限界なんだけど、穂乃果の家、穂むらに行くと入り口でことりと会った。

「あれ? ことり、どうしたの?」

「あ、夢ちゃん! あのね、穂乃果ちゃんのパソコンが壊れちゃったみたいで……」

「ああ、なるほど。それで取りに行ってきてくれたんだ」

私の言葉に頷くことり。近いんだから私に頼めばいいのに。

「きっと夢ちゃんが病院から帰ってきてるかどうかわかんなかったから、穂乃果ちゃんも気にしたんじゃないかな?」

「そうかな?」

「そうだよ」

そんな会話をしつつ階段を上がっていって穂乃果の部屋に入ると、

「あれ? 小泉さん?」

いるなんて全く思ってなかった小泉さんがいた。

「もしかして、本当にアイドルに?」

ことりが素早く小泉さんの隣に座って聞く。

「い、いえ……」

「うちの店に偶然来たから御馳走しようかなぁって。穂むら名物穂むら饅頭、略してほむまん! おいしいよ」

「それもいいけど動画確認するためにことりにパソコン持ってきてもらったんでしょ」

「ああ! そうだった!」

「忘れてたんですか……」

「違うもん! 覚えてたもん! ただちょっとあれなだけで……」

あいかわらず……ことりがパソコンを置こうとすると小泉さんがおせんべいが入ったお皿をどけてくれた。

「で、どこにあるの、夢ちゃん?」

「えっとね、確かここに……あった!」

私が朝見た動画を出して再生してあげる。

「ここきれいにできたよね!」

「うん、思わずガッツポーズしそうになっちゃった」

自分たちでも結構振り返りちゃんとできてるじゃん。自分たちのことになるとうまく批評できなくなる人がいるからどうかなって思ったんだけど、ちゃんとできててよかった。

「あ、花陽ちゃん、ごめん。そこじゃ見にくくない?」

穂乃果が端にいた小泉さんに聞く。でも反応はない。本当にこの子はアイドルが好きなんだなぁ。

「小泉さん!」

「は、はいっ!」

海未が小泉さんの名前を呼ぶ。

「アイドルやってみない?」

「わ、私は……それに向いてないですし……」

「私だって向いてるとは思いません」

「私も向いてるとは思えないよ。でもスクールアイドルならやりたいって思う気持ちがあればできる!」

「私はすごくおっちょこちょいだよ!」

「穂乃果のは関係ないね。でも気持ちがあればできるっていうのは本当だよ」

穂乃果はうしろでなんでなんでって騒いでるけど気にしない。

「ゆっくり考えてみて。私たちはいつでも待ってるから」

穂乃果はそう言って締めくくった。

小泉さんに星空さん、それに真姫ちゃん。

三人ともμ'sに入ってくれればいいんだけど……





【挿絵表示】

夢花と



【挿絵表示】

結衣ちゃん

のキャラ絵をいただきました!
書いてくれたのはひかるさん(https://twitter.com/shine_1113329)です。
ありがとうございます!


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★コラボ回 第一章 必然の出会い

シベリア香川さんの「ラブライブ!~幻のメンバー~」とのコラボです!
っていってもあちらのキャラあんまり使えてないですけど…


七月、中学二年生になった私はあと一か月に迫ったダンスの大会に向けて最後の練習をしていた。

「1 2 3 4……」

先生が作ってくれたお手本ビデオに合わせつつ、カウントに必死で食らいつく私。

右手を振り上げながらジャンプ。体ごと右を向いて両手を体の真ん中から円を描いて胸の前でそろえる。腕を上げる時、一緒に左足を上げる。

揃えたら二回跳ねて、手を伸ばしながら体ごと左を向いてまた胸の前でそろえて……っと、また失敗した。

このあと手をパタパタしたら体が正面を向くから足そろえちゃダメなのにまた揃えちゃった。

「はぁ、難しいなぁ……」

「はい、どうぞ。夢ちゃんのダンス、大変そうだね」

穂乃果たちと同じくらい仲がいい同じダンス部のなっちゃん、本名香川菜月がが私にスポーツドリンクを渡しながら声をかけてくれた。

「ありがと。大変だよ……でも、これくらいしないと舞里さんには勝てないと思うんだ」

「舞里さんって確かあの強豪校の?」

「そうそう、エースって言われてる人。舞里さん、今年で中学卒業だからさ、次同じ大会でれるのは私が高校になってからじゃん? だから今年は何としても舞里さんに一矢報いたいって思ってるんだよ」

いつもより熱がこもってた私の言葉になっちゃんは少し笑った。

「夢ちゃんがそんなになるなんて珍しいね。わりといつも冷静な感じなのに」

「え?」

私ってそんな風に思われてたの!? 私結構遊んでるだけだと思うんだけど……

「まあ、なんていうかやるときはしっかりやるしさ、いろんな人に教えてるし、まあ私も教えてもらってるけど、周りをよく見てて頼りになるなぁって思ってるよ」

「うまくなれる方が楽しいから私にできる範囲でやってるだけだし、結構自分のことで精一杯で周りなんてほとんど見てないよ」

「へぇ、そうなんだ。でさでさ、そんな舞里さんにこだわる理由は何? なんかあったの?」

「うーん、あんまりおもしろい話でもないけど……そんなに気になるなら話してあげるよ」

私は舞里さんと初めて会った時のことを思い出す。

あれはたしか、小学4年生くらいで、二回目か、三回目の大会の時のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その大会はいつもと違って私と同い年くらいのだけじゃなくて五年生や六年生もいっぱいいた。

当時の私にはそこにいるみんなが大人のお姉さんに見えた。

いつもなら私たちのスクールの人が全員パフォーマンス終わったら帰るんだけど、その日は私が初めて入賞したから、最後まで残ってなきゃいけなくて、その人たちのダンスを見ることにした。

その中で私が一番気をひかれたのはきれいな長い髪をした女の子、それが舞里さんだった。

ダンスを体いっぱいに表現して、とっても楽しそうで、私は一瞬で舞里さんに魅了された。そして私もあんな風に踊れるようになりたいって思うようになった。

翌年、私は舞里さんと同じクラスで大会に出た。

自分で言うのはどうかと思うけど、初めて入賞した大会から力をつけて、私は上位三人くらいに残れるようになってた。

私と舞里さんは順調に決勝まで勝ち残って、そのとき初めて自己紹介をした。

「クラス上がってきてすぐここに来れるなんてすごいね! 夢花ちゃんは絶対才能あるよ。私も負けてられないなぁ」

そう言ってもらえたことがすごく嬉しくて、私は決勝で全力のダンスをした。舞里さんに追いつきたい、その一心で。でも……

結果はボロボロだった。今ならその失敗もわかる。舞里さんを意識しすぎて私が目指した楽しいダンスを忘れちゃってたから。

それに気がついたのは結構経ってたからだったけど、そのあとも舞里さんとは大会でよく顔を合わせて、ある意味ライバルみたいな存在になった。勝ったり負けたり負けたり負けたりばっかだけど、お互いに切磋琢磨できる、そんな関係になれたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、舞里さんがこの大会で中学生として出るのは最後だから勝たせっぱなしで終わりたくはない……ってこと」

「なるほど。勝てるよ、きっと。こんなに頑張ってるんだもん」

「ありがと、やれるだけやってみるよ」

なっちゃんと私は別れて自分の練習に戻った。

舞里さん、今回はどんなダンスなんだろ? でも、負けないよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、あっという間に一か月はすぎ大会当日を迎えた。

「あ、舞里さん!」

入り口ですぐ舞里さんの学校の集団と出会った。

「あ、夢花! 久しぶり」

すぐに私に気が付いて学校の集団から離れてこっちに来てくれる舞里さん。

「舞里さん、来てくれるのはありがたいですけど学校のとこから離れて大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫大丈夫。あの子たちは団体の方だから、関係ないの。

それでどう、調子は?」

「万全ですよ。ダンスも仕上げてきましたし、勝ち逃げはさせませんよ」

体を動かして好調なことをアピールする。

「そう? じゃあ楽しみにしとくよ。でも、負けるつもりはないけどね」

じゃあ、お互い頑張ろ、そういって舞里さんは自分の待機場所に戻っていった。

私の出番は最初だから待機場所に行かないで、アップを始めるためにそのままアップ会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、やってきた私の出番。

大丈夫、やれる、できる。さんざん練習したんだから。

あとは、あと楽しんでやるだけ。

私は目をつぶる。そして私のダンスの曲の前奏が始まった。

敬礼した状態で待機してた私は体を大きく開いてジャンプ!

しばらく基礎の技をつなげただけの簡単なとこ。ここでミスは許されない。

でも、そんなことどうでもいい。楽しい! ずっとのまま踊ってたい。

すっかり私の頭から細かい注意点は消えてた。ただ、このままダンスを楽しみたい。

曲はサビに入って私が何度やってもできなかったところ。でも今の私ならきっとできる!

体は私を離れて勝手に動き出す。私はこの瞬間を楽しんでるだけ……

 

 

………………………………………

 

……………………………………

 

………………………………

 

……………………………

 

………………………

 

 

いつの間にか私の番は終わってた。終わったのがわからないくらい楽しかったなぁ。

さて、この組の最後が舞里さんだから、楽しみだけど、ちょっと不安。私、本当に勝てるかな?

そう思ってるうちに舞里さんの番。

私がドキドキしてると舞里さんが私にウィンクしてきた。相変わらず余裕だなぁ。

舞里さんが位置につく。そして、曲が始まった。

序盤は私と同じで基礎の技。でもやっぱり私よりはるかに完成度が高い。

曲の盛り上がりは最高潮になって、サビに入る。

3回跳ねて腕と一緒に腰を振る。もう一度3回跳ねて、今度は前に踏み出しながら大きく腕を開いて胸の前で合わせる。

簡単な動作。難易度としてはおそらく私の方が難しいことをやってるけど、見た目の綺麗さだけで言ったら舞里さんの方が上。

私がどう評価されてるのかはわからないーーこの大会は審査員五人がそれぞれ10点満点で評価して最高点と最低点を除いた三人の平均点が得点になる仕組みで、大会中に得点は公開されないーーけど、私は舞里さんのダンスを見た瞬間勝てないことを確信してしまった。

やっぱり、舞里さんのダンスはすごいね。私はまだまだだよ。

 

 

 

 

舞里さんの出番は割と最後の方だったから最終的な結果はそんなに待たずに出た。

結果は……

予想してた通り舞里さんが一位、私が二位。

舞里さんの最後の大会、私、結局全然舞里さんに届かなかったな……

「夢ちゃん……」

「え……?」

「泣いてる、よ……」

なっちゃんにそう言われて初めて気づいた。私の目から涙が溢れていた。

「な、何で泣いてるんだろ、私。変だね」

顔を手で拭っても涙は溢れてくる。

「夢ちゃん」

気がつけばなっちゃんに抱きしめられてた。

「我慢しなくていいんだよ。夢ちゃんは私に隠れて誰からも見えないから」

私の中で何かが崩れ去った。それを自覚した途端今よりもっと涙が溢れ出てきた。

「うっ、ううっ……勝ちたかったよぉ、せめてもっと近づきたかったよぉ……」

「そうだね、悔しいね……」

しばらく私は人目も気にしないで声をあげて泣いた。

「ほら、夢ちゃん。そろそろ表彰の時間だよ。行ってこないと」

なっちゃんにそう言われて時計を確認すると確かに表彰式の時間が迫ってた。

「なっちゃん、その……ありがと。行ってくるね」

私は笑顔を作った。うまくできてるかどうかはわからないけど、なっちゃんも笑顔を返してくれた。

そして、表彰式。舞里さんにあった私はすぐに泣いてたことを見抜かれた。

「まさか、夢花が私に負けて泣くなんてね〜」

「しかたないじゃないですか、私だってびっくりですよ」

ちょっと怒った感じで言葉を返す。

そんなことは御構い無しにやっぱり終わってすぐ夢花のとこに行くべきだった、なんてふざけてる舞里さん。それを見てると自然と笑顔になれた。

「そうそう、その顔。ダンスしてる時、一番乗ってる時のその笑顔。いつもそれを忘れないで」

「えっと……どういうことですか?」

「あ、そうだ! お互いの学校の集まりが終わったら入り口のとこにある看板で会おうよ」

私の疑問には答えてくれないで、あとで会う約束をしようとする舞里さんはいつも通りで。

どういうことかよくわかんないけど、とりあえずさっきの舞里さんの言葉は心にストンと落ちた。

私は舞里さんに頷いて、表彰式のための移動で連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

私が学校の集まりが終わって看板のところに行くと、既に舞里さんが待ってた。

「すみません、待たせちゃいました?」

「ううん、大丈夫だよ。そんなに待ってないから」

舞里さんの隣に立ったはいいけど、言葉が出ない。言いたいこと、聞きたいこと、色々あった気がするのにいざこうやって立つと言葉が出ない。

「終わっちゃった〜最後の大会。めっちゃ楽しかった!

夢花は? どうだった?」

先に口を開いたのは舞里さんだった。

「私も、楽しかったです。……舞里さんには負けましたけど」

少し意地悪く言ってみたら

「まさか泣いちゃうなんてねぇ」

って逆にからかわれた。本当に敵わない。

「私、夢花といつも一緒に大会出て、競い合って本当に楽しかった。一年間、先に行って待ってるね」

「そのまま待っててください。その間に私はもっともっと力をつけますから」

「早くここまでおいで、その頃には私はさらに上にいるから」

お互いに自分の力の向上を約束して、大会での再会を約束して。

私たちは別れた。それぞれの新たな道に向かって。

 

 

 

 

 

 

4月。

私は中学最後の時を迎える。

今年は舞里さんの代わりに私が優勝するんだから。

私は机に飾ってあるあの大会で舞里さんと撮った笑顔の写真を見る。

表彰式の後、少し涙が残ってる変な顔で笑ってる私と、全開の笑顔で写ってる舞里さんの写真。

再会の約束の証。

「よしっ!」

私は決意を新たに自分の部屋を出た。




さて、楽しんでもらえたでしょうか?
明日、シベリアさんの「ラブライブ!~幻のメンバー~」の方で第二章が投稿されます!
あとがきでは少し遊んでいるのでそれも含めて読んでもらえると嬉しいです!


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#21 覚悟の先に

アドバイスを元に書き方少し変えてみました。
どちらの方がいいか、よろしければコメントください


翌日、日直だった私はいつもより早く学校に来ていた。

朝早い学校は人の気配が少なくてちょっと怖いっていう人もいるけど、私は結構好きかな。もともと朝の空気って、結構好きだし、誰もいない校舎って逆になんか気持ちい感じがする。まあもちろん夜の学校でこうなるのは絶対ごめんだけど。別にホラー自体苦手じゃないけど、やっぱり、ねぇ。

職員室に向かう途中、私はすれ違った先生みんなに声をかけられる。

私みたいに面倒くさい生徒は有名になっちゃうんだよね、対応に困るんだろうし。

だから、私に接するときは基本的に、すごく気を張って接してくるか、面倒くささをうまく隠そうとして接してくるかのどっちかしかないんだよね。正直なところそういう風にされるの嫌なんだよね。

あ、でも二人だけそうじゃない人がいたっけ。

一人はことりのお母さんでこの学園の理事長。それはちっちゃいころからの付き合いだから当然だけど、もう一人。

今前から歩いてきたあの女の人、うちの学校の保健室の先生。

 

「あ、夢花ちゃん! おはよう。今日は早いのね、日直?」

 

「おはよう、こつめ先生。うん、そうなの、朝早いのは好きだけど、ちょっと大変」

 

保健の先生の小鼓(こつづみ)(めぐみ)、通称こつめ先生。

 

「もぅ、みんなそう呼ぶんだから……できれば私は小鼓先生って呼んで欲しいんだけどなぁ」

 

「いやもうこつめ先生はこつめ先生だよ」

 

こつめ先生と私はほとんど歳が離れてない。

確か初めて来た学校がここなんじゃなかったっけ?

だから申し訳ないとは思ってるんだけど、自然と敬語が外れちゃうんだよね。あと、反応が可愛いし!

でも、私にとってはことりのお母さんと同じか、それ以上感謝してる人。

私が音ノ木坂を受けるとき、病気の配慮してもらわないといけないからその申請を先にしないといけなかったんだけど、最初は受理されなかったの。

そのあと突然許可が下りて、授業料の割引、教科書の支給なんかがついた特待生的な立場で入学できるかもしれないことになった。あ、もちろん入試で合格しないといけなかったんだけどね。

で、ここからはあとで聞いたんだけど、このとき、ことりのお母さんとこつめ先生が受け入れに賛成してくれて、最終的に反対派を押し切ってくれたらしい。

こつめ先生がそのときに、私の対応は全て引き受ける、みたいなことを言ってくれたらしくって入学してすぐからずっと気にかけてもらってる。

 

「夢花ちゃん? どうかした?」

 

他の先生から嫌味のように言われた話と去年1年のこつめ先生との関わりを思い出してたら黙っちゃってたみたい。

 

「ううん、なんでもない。

いつもありがとう、こつめ先生」

 

「突然どうしたの?

まだ今年も始まったばかりだし、もう1年あるんだからそんな終わりみたいなこと言わないの」

 

「えへへ、そうですね。特に私みたいな人じゃ余計ですよね」

 

「本当にだよ!」

 

本気で心配してくれてるし怒ってくれる。

よくある普通の関係。なかなかそうやって関わってくれる人がいないからその普通さが私には心地よかった。

 

「ねえ、ところで日直の仕事はもうしてきたの?」

 

「あ……」

 

こつめ先生とのお話が楽しくて忘れちゃってた……

こつめ先生もあーあって感じの顔してるし! 気づいてたなら教えてよね!

 

「とりあえず職員室行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい、ゆっくり行くんだよ〜」

 

こつめ先生はひらひらと手を振って見送ってくれる。私は口だけは急いでるけど走れないから気持ち急いで歩く程度。

それがなんだかおかしくて、私は少し笑いながら職員室に急いだ。

 

 

放課後、日直の日誌を書いてると開いてる窓から微かに歌声が聞こえてきた。

穂乃果たちかなって思って聞いてたけど、明らかに穂乃果たちの声じゃなかった。

誘われるように教室を出て、声の主を探し始める。どうやらこの子たちは中庭で練習してるみたい。でも……合唱部もないし、この学校で他に歌を練習する人なんていたっけ?

そんなことを思いながら中庭に向かっていると、1人は途中でわかった。

西木野真姫ちゃん、音楽が好きな真姫ちゃんが誰かに声出しを教えてる……?

いったい誰に?

気になって中庭を覗いてみるとそこにいたのは

 

「小泉さん……?」

だった。

 

「あーあーあーあーあー」

 

真姫ちゃんのリードに小泉さんが続く。

あまり声を出さないからか小泉さんの声はまだ小さいけど、だんだん声が大きくなってきた。

 

「どう、気持ちいいでしょ?」

 

「うん、楽しい」

 

小泉さんはとても楽しそうで、真姫ちゃんも照れてはいるけど嬉しそうだった。

これは2人とも入ってくれるかな?

わたしはそんな期待をしながら教室に戻って日誌を書き上げる。

それから急いで荷物をまとめて日誌の提出をしに職員室に向かう。

 

「先生、日誌書き終わりました。よろしくお願いします」

 

担任の先生に日誌を渡して、焦る気持ちを抑えつつ、でもいつもよりは早く階段を上って屋上のドアに手をかけた。

 

「私……小泉花陽っていいます!

声も小さくて、運動も苦手で、得意なことなんて何もないです。でも! アイドルへの気持ちは誰にも負けないつもりです!

だから、私をμ'sのメンバーにしてください!」

 

小泉さん、花陽ちゃんの覚悟の言葉が聞こえた。

穂乃果と花陽ちゃんが握手をする。みんながそれを見てる中私は屋上に出て、花陽ちゃんを連れてきた2人に声をかける。

 

「それで? 真姫ちゃんと凛ちゃんはどうするの?」

 

「どうするって? 私はやらないって言ってるでしょ!」

 

「り、凛も……かよちん、応援してるよ!」

 

2人とも私の言外に含めたμ'sに入らないのっていう質問にしっかりと断りを入れて、屋上から出て行ってしまった。

 

「えー、なんでよー! 一緒にやりたいって思ってたのに……」

 

単純に人数を多くしたい穂乃果とは違い、

 

「凛ちゃん、西木野さん……」

 

花陽ちゃんの言葉には寂しさが込められていた。




こつめ先生のキャラ絵をこのキャラの元になっていただいたこつめ@G線上のうなぎパイ(@HiNoRu_060601re)さんに書いていただきました!
ありがとうございます!

ver.雑

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ver.本気

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#22 明日に向かって!

新メンバー、花陽ちゃんが加入したμ's。

でも、すぐに花陽ちゃんにもPVとか歌に参加してもらうわけにもいかなくて。とりあえず花陽ちゃんには筋トレと柔軟、あと基礎トレをやってもらうことにして、穂乃果たち三人は明日に迫ったPVの撮影に向けて最後の練習をしてもらっていた。

 

「ごめんね、隣でダンスとかやってる中一人でこういう練習で」

 

「いいえ! 私、いきなりでしたし……それより! 新曲のPV撮影が見られるんですよね! それの方が見逃せません……!」

 

「あ、うん、そっか。最後にこの前のライブの曲の復習もやるからその時に、ちょっと踊ってみよっか」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

「気負わなくても大丈夫だよ。穂乃果も最初はスピンするたびに転んでたから」

 

自分ができないかもっていう緊張からか、気負っちゃってるみたいだったから穂乃果の話をしたけど、よかった。笑ってくれた。

やっぱりかわいい子は笑顔が一番だよ。

 

「海未、そっちはどう?」

 

「はい、何とか大丈夫そうです」

 

「オッケー! じゃあ最後、一回通そうか」

 

そして前奏とともに始まる穂乃果のソロ。

音がほとんどない状態からでもぶれずに声を出せるようになってる。

それに、やっぱりさすが穂乃果たち。三人でピッタリ手をつなぐところとか、フォーメーションを崩さずに進むとか、息を合わせないといけないところもきっちりあってる。

私もだけど、お互いをよく知ってる幼馴染ってやっぱりいいね。

隣で花陽ちゃんも真剣に穂乃果たちの様子を見てる。

この子は本当にアイドルが、スクールアイドルが好きなんだって改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

新曲のPV撮影の日。

私や穂乃果たちのお母さんたちにも協力してもらって車を運転してもらったり、撮影してもらったり。

曲は歌ってもらってるけど、あとからかぶせる予定。

やってもらって思ったけど、穂乃果たちって案外運動神経いいよね。

階段からジャンプして手すりを滑るってシーンもあったけど、穂乃果、それも一発で成功したし。

もちろん、気を付けて運転してもらったっていうのもあるけど、車をよけながら踊るシーンも一発だったし。

基本撮り直したところがダンスのずれとか、ミスとかそういうのばっかりだったのは素直にびっくりだよ。

無理なら変えないとだなぁとか、練習どれくらいかかるかなぁとか結構いろんなこと考えてたのに無駄な心配だった。

でも、けがとかそういうことにはならなくてよかった。そんな危ないことさせちゃってから言うのもどうかって話なんだけどね。

 

「なんだか本格的なんですね」

 

「そう? 結構バタバタしちゃったし、撮影とかもまだまだだしね」

 

「そんなことないと思います! スクールアイドルの動画を見ていてもダンスPVだけの動画も結構ありますし」

 

「そうなんだ。でもこれは穂乃果たちの運動神経のおかげだよ。私も考えただけでちゃんとできると思ってなかったし。ただのダンスPVになるかもって思ってたよ」

 

「それでもですよ! ここまでのものを作ろうとすること自体がすごいです!」

 

「そうなのかな? まあでも、花陽ちゃんにそう言ってもらえるならそうなのかな」

 

もともと好きだった人からの太鼓判ってやっぱり嬉しいよね。

 

 

 

 

そんなこんなで撮影が終わって、今日のところはひとまず解散。

家に帰った私は学校の授業でやったことを思い出しながら動画の編集をしていく。

講堂でやったときよりもタイミングとか、静と動の切り替えがうまくなってるね。

毎日練習してるからそうじゃなきゃ困るんだけどさ。

 

「お姉ちゃん? そろそろご飯だよー」

 

「はいはーい」

 

多分ドアのところあたりにいるだろう結衣に返事をして一度動画を保存。

 

「お姉ちゃん、ほのちゃんたちのビデオ大変?」

 

「うーん、まあやったことないからね……大変ではあるけど、楽しいよ。3人とも頑張ってくれたし」

 

「うん、結衣も見ててすごく楽しそうだなぁって思った!」

 

「ちょっと危ないこととか、大変なとこもあったのにね」

 

「やっぱりみんなスクールアイドルやるのが好きなんだよ」

 

「きっとそうだね。

あ、そうだ! PVできたらチェックするの一緒にやろうよ」

 

「いいの!?」

 

「もちろん」

 

嬉しそうに跳ねる結衣。

作った人がチェックすると自分がやったからってミスに気付かなかったりするからね。私はそれで何度学校のテストで点数落としたかわからないよ。

まあとにかく一緒にやってくれる人がほしかった。こういうの頼めるの、やっぱり結衣なんだよね。結衣ならいろんなスクールアイドルのPVも見てるだろうし。

ご飯を食べ終わった私たちは動画のチェックをするために一緒に出来上がった動画を見る。

結衣が大興奮でなかなか進まなかったけど、なんとか終わらせた頃には結衣はもう寝たあとでサイトにアップだけして私もベットにダイブ。

これで、2人も……そう思いながら気がつけば私も寝ていた。

 



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#23 葛藤

今年最後の投稿です!
ギリギリだけど何とか間に合った…


ススメ→トゥモロウをアップした次の日。

 

「お姉ちゃん! これ見て!」

 

私の部屋に来た結衣が私のパソコンを手慣れたように操作してある画面を出した。

 

「お姉ちゃん、ほのちゃん達の動画、再生数がすごいよ! ツイーターでも話題になってるし!」

 

アイドルページ、所謂ユーザーページに書かれているのは大量のコメント通知。

そして一日しかたってないとは思えない閲覧数。

つまり穂乃果たちの歌が、μ'sの歌がたくさんの人に見てもらえてる。

人気になり始めてる。

ただの数字なのにすごく大切なもののように感じて。

 

「よかったね、お姉ちゃん!」

 

「うん……結衣もありがとね」

 

少し泣きそうなのをなんとか隠して結衣を抱きしめた。

うーん、何かあると結衣を抱きしめちゃうのよくないとは思ってるんだけど結衣も嫌がらないし何よりも抱き心地がいいし。

 

 

まあいいよね!

 

 

そう思いながらもう少し抱きしめてた私は結衣に朝ごはんって言われるまでそのままだった。

今日、学校行ったら何か変わってるかな、少し期待しながら私は朝ごはんを食べた。

お母さんにも結衣にもにやにやしてて気持ち悪いって言われたけど……あはは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

夢花の期待通り後押ししたい人にも彼女たちの曲はしっかり届いていた。

 

「可能性感じたんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の部屋で一人パソコンの画面を見つめる真姫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ進め……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空の下、星を見上げる凜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は願いを持っていた。

誰にも言えない願い。

 

 

 

 

 

 

 

やりたいことがあった。

 

 

なりたいものがあった。

 

 

 

 

 

だが、それはかなわぬ願いのはずだった。

 

 

 

 

 

 

自分のことより優先しなければならないことがあったから。

 

自分には絶対に似合わないことがわかっていたから。

 

 

 

 

 

 

諦めたはずだった自分の願い。

それが手に届くかもしれなかった。

それを感じさせてくれる場所があった。

 

 

 

 

それでも。

 

 

 

 

1人じゃ弱いから。

自分では無理だとどこかで思ってしまっているから。

最後の一歩が踏み出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 

 

「真姫ちゃん」

 

いつも通り、真姫ちゃんは音楽室にいた。

でも、今日はいつもみたいにピアノを弾いてなかった。

 

「白崎、先輩」

 

今一番合いたくなかったというように顔をゆがめた真姫ちゃん。

 

「考えてくれた? μ'sに入ること」

 

「わ、私は……」

 

やっぱりまだ悩んでる……まあ簡単には決められないよね。

 

「穂乃果たちの新曲、聞いてくれた?」

 

「聞きました。た、たまたまよ、たまたま! たまたまちょっと調べてただけで……」

 

「穂乃果たちのこと調べてくれてたんだ!」

 

「うええ! ち、ちがっ、そんなんじゃ……」

 

ほっぺたを赤くして必死になってる真姫ちゃん可愛い!

気になってた、ってことだよね。

 

「真姫ちゃんはお医者さんにならないと、なんだよね」

 

「そうよ、だからもう私の音楽は終わってるの。ううん、終わらせなきゃダメ、なの……」

 

「本当に?」

 

「ええ、そうよ、私は……」

 

まただ、やっぱり真姫ちゃんは無理してる。

ほんとに真姫ちゃんは強いね。

でも、だからこそ私は。

 

「やってもいいんじゃない?」

 

「っ! ふざけないでよ! 医学部に入るのがどれだけ大変かわかってるの!?」

 

「なんとなくだけどね。でも、やりたいことをやるくらいの余裕はあると思うよ」

 

「勝手なこと言わないで! 私は……音楽をやってちゃいけないの……」

 

やってちゃいけない?

私が不思議そうな顔をして真姫ちゃんの方を見るとぽつぽつと話し始めた。

 

「私、小さいころからコンクールに出てて優勝も何度もしたことがあるんです。

 私の最後になったのコンクールのとき、なぜか父がきて。今まで一度も来なかったのに。

 ステージがかそれを見つけたときはすごく驚いたんですけど、頑張ろうと思って精一杯弾いたんです。

 でも、終わったときに客席を見たらもうパパはいなくて。そのコンクールで優勝できなかった私は家に帰ってか らパパに何を言われるかとどきどきしてたのに何も言われなくてただ静かに、高校に言ったらしっかり勉強やれ よって言われて……だから、父が気に入らないピアノも、音楽も、やっちゃいけないんです……」

 

な、なんか思ったよりすごい話だね……

でも、お父さん本気でそう思ってたのかな……?

 

「なら、真姫ちゃんの音楽はこんなにも人を魅了するって見返してあげればいいじゃん」

 

「無理よ、私の音楽は……」

 

「やってみなきゃわからないよ。そしてそれを試せる場所がここにある」

 

私は真姫ちゃんに手を差し出す。

 

「私はやってもいいの?」

 

「いいんだよ。もちろん、自分の夢をかなえるための勉強は必要だけどね」

 

もう、いつも強気な真姫ちゃんはここにいなかった。

 

「私は音楽をやっていいの?」

 

「うん、私たちと一緒にやってほしい」

 

真姫ちゃんは目を瞑る。

もう一度目を開いたとき真姫ちゃんの目にはいつもの強さが戻っていた。

 

「やってやろうじゃない! 当分パパには内緒だけど……」

 

「うん、真姫ちゃん、屋上いこ!」

 

私は真姫ちゃんの手を取って屋上に連れていく。

 

「あれ、星空さん?」

 

「白崎先輩に、真姫ちゃん?」

 

私は少し驚いてすぐ笑顔になった。

そして、今日、μ'sに新しい仲間が二人増えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

朝練を覗きに行くと仲良くやってるような一年生三人の姿があった。

花陽ちゃん、コンタクトにしたんだ。

可愛いよ、よく似合ってる!

 

「あ、夢ちゃん、おはよ!」

 

「穂乃果、それに海未とことりも」

 

「三人とも頼もしい後輩だねっ!」

 

「そうですね」

 

6人になったμ's。

みんな、これからもっと頑張ろうね。




はい、これで今年最後の投稿です。
うちの真姫ちゃんはちゃんと女の子らしい弱さを持った子になりました。
弱さを表に出せる、というのが正しいかも。
キャラ崩壊? かもしれませんがそれがいやだったひとごめんなさい。


丁度4話の終わりですね。
来年は2期まで終わらせたいなぁ…


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#24 ストーカー……?

μ'sが6人になってから2週間が過ぎた。

μ'sは7人だって穂乃果たちはいつも言ってくれるけど、マネージャーみたいな感じの私はスクールアイドルグループのメンバーの人数には入らないと思うからμ'sは6人+私、みたいな感じだと思う。

なんだけど……

 

「それでは新生μ'sの練習を始めます! 1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4……」

 

「5!」

 

「ろ、6!」

 

「7……?」

 

「7人だよ! 7人! 「歌うのは6人だけどね」でもでも! いつかこの6人は神シックスとか、仏シックスとかって呼ばれるんだねぇ……!」

 

「仏じゃ死んじゃってるからね?」

 

練習のたびにこの点呼して感動する穂乃果はある意味すごいんだけど憧れはしないかな……もちろん、穂乃果のエンジンには尊敬するけどね。

さて練習……あ……

 

「雨、だね……」

 

「またぁ!」

 

穂乃果が文句を言いつつ屋上にとりあえず上がる。それに続いてほかのみんなも走って行っちゃって私は置いてけぼり。

走れないことはないけど不安だし、自分が無理して迷惑かけるわけにもいかないしね。私はゆっくり上って行こっと。

屋上に続くドアからみんな何かを見てた。

 

「何見てるの……って……」

 

凜ちゃんがなんかすごくアクロバティックに動いてた。

え、もはや体操選手のレベルだよ、それ。

そして最後はきれいに止まって決めポーズ!

……からの土砂降り……

凛ちゃん大丈夫かな?

 

「私帰る」

 

「真姫ちゃん、帰っちゃうの?」

 

「だって練習できないならいる意味ないじゃない」

 

「私も今日は……」

 

花陽ちゃんも。

でもこの雨なら練習できるようになることはないだろうし仕方ないかな。

 

「そうですね、今日は練習休みにしましょうか」

 

「えーなんでなんで!」

 

「凛たちがばかみたいじゃん!」

 

「ばかなんです」

 

海未、何もそこまで冷たく……

私は二人にとりあえずタオルを渡してみんなを引き留める。

 

「でもこのまま帰るのもあれだからちょっと寄り道して次の曲のことも考え始めようか」

 

「もう?」

 

「だってせっかく人数増えたし廃校阻止のためならガンガン活動しないとね」

 

まあ単純にもっとみんなとの距離を縮めたいっていうのもあるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけでやってきましたハンバーガーショップ。

私、食べれるものないけどね。こういうお店は基本的に塩分多すぎて制限一発アウトになるから食べることをあきらめてるところもあってメニューを見ずに席の確保をした。

私が座った席の仕切りまたいで反対側の席にすごい帽子をかぶった人が座った。

あの人、サングラス外さないし帽子かぶったままだし変な人……

まあ関わらなきゃいいよね……?

 

「穂乃果! こっちこっち!」

 

7人座れる席を確保して穂乃果を呼ぶ。穂乃果が動くとみんな付いてくるからね。

って……

 

「穂乃果、多くない?」

 

穂乃果のお盆、ポテトすごく多いんだけど。

 

「私も注意したんですけどね、ストレスを食欲にぶつかると太りますよって」

 

「だってだって!」

 

「だってって言っても食べ過ぎはダメ。太ってダンスできなくなるなんて言ったら大変でしょ?」

 

「あ、あぅ……ことりちゃん、夢ちゃんと海未ちゃんがいじめる〜!」

 

「あはは……」

 

ことりも困っちゃってるじゃん……

 

「ところで、夢花先輩は何も食べないんですか?」

 

凛ちゃんの質問。そっか、普段穂乃果たちとしか外で遊ばないから忘れてたけど他の人はそこまで知らないんだよね。

 

「うん、まあちょっとね」

 

心配させたくないし言わなくてもいいよね……?

真姫ちゃんにはじっと見られてたから笑顔を返しておいた。

 

「それよりも、朝の人のことのほうが問題よ。解散しなさいって言われたんだっけ?」

 

「うん……START:DASH!! もススメ→トゥモロウも結構上手にできたと思うんだけど……」

 

「アイドルとしてやっていくと少なからずそういう人もいますから……」

 

「なかなか大変だにゃ……」

 

みんなが少しおし黙る。

 

「それよりも練習場所よ。どこかないの?」

 

真姫ちゃんが沈黙を破った。

強気なのはいいんだけど敬語ほとんど使えないよね、真姫ちゃん……そんなこと言いつつ私は全く気にしてないんだけどね。

 

「部活動申請できないと教室が使えないんだよねぇ……」

 

「申請、できないんですか?」

 

「部員が5人以上いないとって生徒会長が……?」

 

え、穂乃果、もしかして……

 

「部活動申請してないの……?」

 

「5人いるじゃん! 忘れてたー!」

 

「忘れてたんかーい!」

 

あれ、今μ'sメンバーじゃない声が……

でもどこから……?

 

「とりあえず、明日申請しに行ってみましょう」

 

「うん! はぁ、なんか安心したらお腹空いちゃった……?」

 

隣の席から伸びる手が穂乃果のハンバーガーを持って行こうとして……あ、戻した。

で、逃げた!

 

「あ、この人朝の!」

 

この人が?

完全にストーカーだよ、これ……

 

「なによ、朝も言ったでしょ。あんたたちは歌もダンスも全然だめ。だからとっとと解散しなさい!」

 

「穂乃果のポテト返してよ!」

 

「そっち!?」

 

花陽ちゃん、穂乃果はそういう人なの……

 

「買って返して!」

 

まだ粘るんだ……

ストーカーさん、結局穂乃果に根負けして逃げちゃった。

本当は少し話聞きたかったけど乱闘になるかもって思うとどうしても動けなくて……

残された私たちは走り去るソフトクリームみたいな頭を見送るしかなかった。



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#25 アイドル研究部

「許可できない?」

 

放課後、部活動設立の申請書を出しに来た私たちは生徒会長の言葉に耳を疑った。

 

「ええ、すでに音ノ木坂にはアイドル研究部という類似の部活が存在しています」

 

「部員は1人なんやけどね」

 

作った時はいたけど減っちゃったのか……

 

「そのため、あなたたちの申請を受けるわけにはいかないの。

これで話は終わり……」

 

「……に、なりたくなかったら」

 

静かに副生徒会長が生徒会長の言葉を遮った。

 

「アイドル研究部に話をつけてきてってことですか?」

 

私が言葉を引き継ぐと柔らかい笑顔を返して来た。

やっぱりこの人、掴み所ないなぁ……

 

「希!」

 

副生徒会長の言葉に私たちは少し救われた。

まだ、可能性はある。

でもその前に……

 

「少しいいですか、生徒会長」

 

「何かしら?」

 

私に厳しい目が向けられる。

かなり怖い……でも、ここで負けちゃだめだよね。

 

「以前、穂乃果たちが一度申請に来たはずですがなぜその時に教えていただけなかったのでしょうか? 本来ならその時点で存在を教え、その部活に加入させるというのが正しい対応だと思うのですが」

 

「それは……」

 

言い淀んだ生徒会長に口を開かせずに私は言葉を被せる。

 

「忘れていた、とは言いませんよね? 今即座に否定したんですから恐らく全ての部活を把握しているはずです」

 

そこまで言って私はハッとなる。

さすがに言いすぎた!

 

「すみません、少し口がすぎました。ですが……」

 

言い過ぎは謝るけどこれだけは言いたい。

 

「もしその理由が個人的なものなら。

正当な理由がないのなら。立場を利用して私たちの邪魔をしないでください」

 

2人が目を見開く。

穂乃果たちがアワアワしてるのはとりあえず気にしないで私たちは生徒会室を出た。

 

「あの、夢ちゃん?」

 

ことりが私に声をかけてくる。

 

「なに〜……?」

 

返事をしながら私はことりに寄っ掛かる。

 

「きゃっ……って大丈夫?」

 

心臓がすごくばくばくしてる。息も……

あの場では頑張ったけど緊張で心臓が……

 

「はぁはぁ……た、多分大丈夫……しばらくすれば治るから……」

 

みんな心配そうに私を見てる。まだ、これなら平気なのに……

 

「心臓病だって言うのは聞いたことあるけどそんな簡単なものじゃないわね……」

 

真姫ちゃんはなんとなくわかっちゃったかな?

 

「ごめんね、もう大丈夫! アイドル研究部のところいこ」

 

「大丈夫なのですか? もう少し休んだ方が……」

 

海未の言葉にみんな頷く。

みんな心配性だなぁ……

 

「とりあえず平気だよ。まあだめなら突然倒れるけどね〜」

 

『それだめだから!』

 

おお〜みんなにつっこまれた。

 

「さ、みんな行くよ」

 

いつまで経っても埒があかないと思った私はみんなを置いて先に歩き始める。

みんなもバタバタ私の後を追って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

「あ、あんたたち……」

 

アイドル研究部の部室の前であった人。

唯一の部員らしい先輩。

 

「あの、ストーカーさん?」

 

どうやら、穂乃果たちに昨日の朝解散しなさいって言って、放課後も付いて来てたストーカーさん(仮)がそうだったみたい。

 

「あ、あの……」

 

「にゃにゃにゃにゃー!」

 

声をかけようとした穂乃果を謎の威嚇で怯ませてその隙に部室に入って鍵をかけた先輩。

 

「部長さん! 開けてください!」

 

「外から行くにゃー!」

 

そう言って凜ちゃんが走り出す。

 

「えっと、私たちは……」

 

「待ってよっか」

 

ことりが言う通り私たちまで出て行っても仕方ないし待ってるしかないよね。

 

 

 

しばらくして戻ってきた。何故かストーカーさん(仮)が鼻に絆創膏貼ってたけど。

部室に入れてもらうとA-RISEの他にも色々なアイドルグッズが所狭しと並んでた。

す、すごい……

 

「勝手に見ないでくれる?」

 

「こ、これは……!」

 

あれ、花陽ちゃんが何か見つけたみたい。

 

「伝説のアイドル伝説DVD全巻BOX! 持ってる人に初めて会いました……」

 

「それ、そんなにすごいの?」

 

何気なく質問した穂乃果。

 

「知らないんですか!」

 

そう言って穂乃果をパソコンのところへ連れて行く。

っていうか、使っていいの……?

 

「伝説のアイドル伝説は各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDBOXでその貴重性から伝説の伝説の伝説、略して伝伝伝とよばれアイドル好きなら誰もが知ってるDVDBOXです!」

 

花陽ちゃんってこんなキャラだっけ……?

アイドルのことになるとキャラ変わるのかな……?

 

「ネット通販、店舗共に瞬殺だったこれを2セットも持ってるなんて……ス・キ」

 

「家にもう1セットあるけどね」

 

「ほんとですか!?」

 

「じゃあみんなで……」

 

「ダメよ、それは保存用」

 

即座に却下されたその提案に花陽ちゃんが伝伝伝……と泣きながら突っ伏す。

花陽ちゃん……

 

「かよちんがいつになく落ち込んでるにゃ〜……」

 

よっぽど見たかったんだね……そんなにすごいんだ、伝伝伝。帰ったら結衣に聞いてみよっと。

 

「ああ、気づいた? アキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ」

 

部長さんが違う方に声をかける。

 

「ことり、知ってるのですか?」

 

ことりが何か見つけたのか。

でも、なんかただ見つけただけな感じじゃないけど……

 

「ネットで手に入れたから本人とは会ってないんだけどね」

 

部長さんがそういうとどこかホッとしたような顔を浮かべた。

なんだろ……?

でも、今は交渉だよね。

ねえ、ところでさ?

 

いつ始まるの?



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#26 一緒に!

「アイドル研究部さん!」

 

「にこよ」

 

「にこ先輩! 実は私たちスクールアイドルをやっておりまして」

 

ようやく始まった交渉……はいいんだけど、にこ先輩がすでにいやそうな雰囲気でてる……

まあ私たちに解散しなさいって言ってくるくらいだからそんな気はしてたけどね。

 

「どうせ希から話をつけて来いとか言われたんでしょ。まあ、いずれそうなるとは思ってたわ」

 

「それじゃあ!」

 

「お断りよ」

 

ほら、やっぱり断られた。

 

「あんたたちみたいなアイドルを冒涜してるようなのはとっとと解散すべきよ」

 

う~ん、にこ先輩にとってアイドルは憧れというか、神聖なもの、みたいな感じで、たぶんにこ先輩が思い描くアイドル像と違うところがあるからそういわれるんだろうけど……

何が違うんだろ……

 

「でも私たち、いっぱい練習して歌もダンスも!」

 

「そうじゃない。そういうことじゃない」

 

そこで言葉を切ったにこ先輩はなんだか威圧感があって。

私たちは誰も口をはさめずにこ先輩の言葉を待った。

 

「あんたたち……ちゃんとキャラづくりしてるの?」

 

「キャラ?」

 

どういうこと?

 

「お客さんがアイドルに求めることは夢のような時間でしょ? だったらそれにふさわしいキャラっていう物がある。

ったくしょうがないわねぇ……」

 

くるっと後ろを向いたにこ先輩が振り向いた瞬間……

 

「にっこにっこにーあなたのハートににこにこにー笑顔とどける矢澤にこにこ! にこにーって覚えてらぶにこっ!」

 

な、なんというかこれは……一昔前のイタイアイドルなんじゃ……

 

「これはちょっと……」

 

「私無理」

 

「ちょっと寒くないかにゃ?」

 

「ふむふむ」

 

うん、みんなの感想が正しいと思う。

花陽ちゃんだけはすごく熱心にメモってたけど。

でもにこ先輩的には当たり前だけど嫌だったらしく……

 

「あんた、今寒いって「いえ! すっごくいいと思うます!」」

 

「あ、でもこういうのいいかも」

 

やばいと思ってフォローしたときにはすでに遅く。

 

「そのくらいなら私だって!」

 

「出てって」

 

「え?」

 

「いいから出てって!」

 

穂乃果が実践しようとする前に追い出されてしまった。

でも、本気でいやなわけじゃなさそうなのはなんでだろう……?

どちらかというと私たちのことを思ってくれてるからこそな気もする。

 

「やっぱりおいだされたんやね」

 

「希先輩」

 

一年生たちを先に帰らせて私たちは昇降口で話を聞くことにした。

副生徒会長から聞いたことに私は思わず聞き返す。

 

「スクールアイドル? にこ先輩が?」

 

「うん、一年生のころやったかな、同じ学年の子と結成してたんよ」

 

「やめちゃったんですか?」

 

「にこっち以外の子がね。アイドルとしての目標が高すぎたんやろうね、ついていけないって……」

 

そんな……

それだから、私たちに……

 

 

きっとうらやましかったんやと思うよ。

 

 

μ'sの歌やダンスの指摘ができるってことはそれだけ私たちの動画を見てるってこと。

興味を持ってくれてるってこと。

 

「なかなか難しそうだね……」

 

「はい、先輩の目標は高いですから……私たちの説得に耳を貸してくれそうにもありませんし」

 

「そうだよね……」

 

私たちが悩んでる中、一人違うことをいう子がいる。

 

「そーかなぁ?」

 

穂乃果、私たちを振り回すけどいつも見たことのないセカイに連れてってくれる人。

 

「にこ先輩はアイドルが好きで、昔アイドルやってて、それで私たちに少し興味を持ってくれてるんでしょ?」

 

「うん」

 

「あと何かちょっとあればうまくいきそうな気がするんだけどなぁ……」

 

「相変わらず穂乃果は具体性ないね」

 

「それはそうだけど! あ……」

 

穂乃果の声に道の反対側を見るとにこ先輩がいた。

私たちの視線に気づいたのかすぐ逃げていっちゃった……

あれ、これ前にも……

 

「追いかける?」

 

「今追いかけても逆効果かもしれません……」

 

「「あー!!!」」

 

思い出した、あの時!

 

「これって、海未ちゃんと一緒じゃない?」

 

「私も同じこと思った! ことりもほら、海未と初めて会った時……」

 

「ああ、あの時の! 確かにそうかも!」

 

そんなことありましたっけ? って私たちに聞いてくる海未を無視してにこ先輩をμ'sに入れる作戦、明日実行だ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、急いで私がアイドル研究部の鍵を借りてみんなを中に入れる。

もう一度鍵を閉めてからにこ先輩が来るのを待つ。

鍵はにこ先輩が合いかぎを持ってるらしいから私が持ってても平気だよね。

少し待ってるとにこ先輩が部室の前で合いかぎを取り出した。やっぱり持ってたね。

というか持ってなくて探してたらそれはそれで困るんだけど。

って、いけない! 私もなか入らなきゃ!

 

「こんなことで押し切れると思ってるの?」

 

にこ先輩、違いますよ、押し切るんじゃなくて。

 

「私はただ次の曲の相談をしているだけです。音ノ木坂学院アイドル研究部所属のμ'sの七人が歌う次の曲の」

 

「七人……?」

 

少し驚いてるかな?

まあそうだよね。穂乃果らしいっちゃ穂乃果らしいけど。

あの時も……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、夢ちゃんおにね!」

 

「すぐ捕まえちゃうんだから!」

 

「ゆめちゃ~ん! がんばれ~!」

 

私はまだ元気に遊べてた頃。

ことりは手術する少し前だったから鬼ごっこには参加してなかったんだけど観戦してた。

遊んでるうちに穂乃果は一緒に遊びたそうにしてる同い年くらいの女の子を見つけて。

 

「次、あなた鬼だよ! 一緒にあそぼ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……って、強引に海未を誘って。

穂乃果には本当にかなわないよ。

雨が上がった空を見上げると穂乃果たちが練習してる屋上に目が行く。

きっとみんな楽しそうにやってるんだろうなぁ……

さて、私もみんなに心配かけないようにちゃんと検査してもらわないとね。

 

 

 

にこ先輩、私たちμ'sをよろしくお願いします。



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#27 リーダーの素質

μ'sも7人になったし、そろそろ新しい曲の作曲始めなきゃなぁ、大分海未の作詞も終わったみたいだし。

日直の仕事で遅くなったわたしはそんなことを考えながら部室に向かっていた。

 

「……あれ? みんな……?」

 

ふと窓越しに見た中庭に部室にいるはずだったμ'sのメンバーがいた。

あ、でもにこ先輩がいないのかな……?

 

「あっ! おーい、夢ちゃーん!」

 

穂乃果に気づかれた。

そうやって呼ぶの恥ずかしいからやめてって言ってるのに……

まあでも、今はなにやってるか聞きたいしちょうどよかったのかな。

 

「なにしてるのー?」

 

わたしも出来るだけ大きい声で聞く。

 

「なんかμ'sの取材だってー!」

 

取材?

まさかTVの取材じゃないだろうし……

なんの取材だろ?

 

「一旦部室に戻るから夢ちゃんはそのまま部室にいて〜」

 

戻ってくるんだ。わたしが降りなくていいんだね。

教えてくれてありがとう、ことり。

とりあえず私は部室に行ってよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校紹介ビデオ?」

 

「そうなんよ」

 

副生徒会長の説明でピンとくる。

そういえば来月オープンスクールあるんだっけ。

そのための準備しなきゃだもんね。

 

「で、このありのまますぎる穂乃果と海未のビデオがとられてたわけね……」

 

「プライバシーの侵害です!」

 

ことりが穂乃果のビデオ……この子なら楽しんでやるね。

 

「よーし、こうなったらことりちゃんのプライバシーも……」

 

仕返しにカバンを漁ろうとするんじゃないの。

でも、ちょっと面白そうだし止めないでおこうかな?

 

「あれ……?」

 

穂乃果が声を上げた瞬間、ものすごい速さでことりがカバンのチャックを閉めて後ろ手に隠した。

 

「ことりちゃん……?」

 

「ナンデモナイノヨ」

 

「でも……」

 

「ナンデモナイノヨナンデモ」

 

すごい早口だし片言だし絶対何かありそうだけど……

この様子じゃ言ってくれなそうだし諦めるしかないかな。

でもすごく気になる……

ことりが私たちにもあんなに隠そうとするなんて今までなかったから余計に……

 

「うちは誰かを支えることしかできんから……」

 

あ、ことりのこと気になりすぎて話聞いてなかった。

なんでこの話に?

 

「まあ、うちのことはええやん」

 

本当に自分のこと話そうとしないよね、副生徒会長。

入院してると自然に相手の様子から感情とか、考えとか読み取れるようになるらしくて、例に漏れず私もなんだけど、それでも副生徒会長の思ってることがわからない。

私がまだまだなのか。

 

「取材が来るってほんと!?」

 

っ!?

はぁ……なんだ、にこ先輩か……

もうちょっと静かに入ってきてくださいよ……

 

「心臓止まるかと思うじゃないですか」

 

「夢ちゃんがいうとシャレにならないからやめて?」

 

ことりさん、その笑顔が怖いです。

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

「うん!」

 

「ほら、君らも中庭行くよ〜」

 

ことりとお話ししてる間にみんなが移動を始めてた。

 

「あれ、にこ先輩は……?」

 

いつの間にかツインテを解いてた。

というか、なんかトリップしてた。

 

「ああなるとにこっち、なかなか戻ってこないから……」

 

副生徒会長、にこ先輩の扱いよくご存知なんですね……

えっと、ごめんなさい、私も先行きますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから各個人のインタビューのような、遊んでるような……というのを撮った後、屋上で練習風景の撮影。

 

「あんなに遊んでるような感じやったのに練習になると目が変わるんやね」

 

って副生徒会長、希先輩が褒めてた。

あと、副生徒会長って呼ぶのを強制的にやめさせられた……まあ、なんとなくそう呼んでただけでどっちでもよかったんだけどね。

練習が終わってからは穂乃果のうちに行くって言ってたけどそれはパスさせてもらって先に家に帰った。

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「リーダーは誰がふさわしいか。そもそも私が加入した時点で考えるべきだったのよ」

 

穂乃果のうちでなんで穂乃果がリーダーなのか、という話になったらしい。

で、にこ先輩的には熱意があって、みんなを引っ張っていけて、精神的支柱になれて、尊敬されている人がいいらしい。

 

「海未先輩かにゃ?」

 

「なんでやねーーん!」

 

あ、にこ先輩がなりたかったんですね……

まあ、センターも変わるって話だったしね。

あと一応年上だし。

 

「無理です……」

 

だよね〜だろうと思ってたよ。

 

「だいたい、穂乃果はそれでいいのですか? リーダーはおろか、センターの座も奪われようとしているんですよ?」

 

「あっ、そっか。うーん……まあ、いっか!」

 

「「「「え〜!!」」」

 

まあ、なんとなくそんな気はしてたけど……

穂乃果はそういうのにこだわらないもんね。

 

「じゃあ、ことり先輩?」

 

「副リーダーって感じかな?」

 

「じゃあ夢花先輩は?」

 

え?

私?

 

「私はあくまでも手伝いというか、マネージャーみたいな存在だからμ'sのリーダーになるわけにはいかないかな」

 

「でもダンスだってすごく……「凛ちゃん」」

 

ごめんね、凛ちゃん。でもそれは無理なんだよ。

穂乃果たちは寂しそうな顔で私を見てるけど、別にダンスができないのは仕方ないしみんなのせいじゃないのに。

なんでそんな顔するかな。

 

「とりあえず私のことはいいじゃない。みんなの中からリーダー決めないと」

 

そう、あくまでも私は手伝い。

だから、リーダーはμ'sの中から決めないと。

……で、いい加減しかたないわねぇって言い続けてるにこ先輩に話を振ったほうがいいのかな?

 

「もうこうなったらしかたない!」

 

にこ先輩が声を上げた。

あの、だからお願いだからおどかさないで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、結局総合すると同じ点数だったんだ」

 

「はい……」

 

カラオケ、ダンスゲーム、ビラ配り。

最後のはなんか点数ができるものでもない気がするけど、その合計点数の一番高い人がリーダーってことにしたらしいんだけど……

 

「結局、みんな同じくらいってことだね」

 

「どうするのよ、これじゃ決まらないわよ?」

 

「じゃあなくていいんじゃないかな?」

 

なくてって……

 

「ええ!?」

 

「リーダーなしのグループなんて聞いたことないわよ!?」

 

「だいたいセンターはどうするのよ?」

 

それが決まらないからこその話だったんだしね。

真姫ちゃんナイス。

 

「だってみんな今までそれで練習してきたし。

センターなんだけど、みんなで歌うってどうかな?」

 

みんなで?

今までだってそうだったし、それにセンターの話は……?

 

「私、考えたんだ。なんかね、みんなで順番に歌えたらなって。それはとっても素敵だなって」

 

……はぁ、なんていうか、穂乃果らしいっていうか。

なんか考えてたのがバカらしくなってくるよね、穂乃果の発想の前では。

 

「そういう歌、できないかな?」

 

「まあ、歌は作れなくないけど……」

 

歌詞担当の海未が。

 

「そういう曲、なくはないわね」

 

「多分、作れると思う」

 

作曲チームの真姫ちゃんと私が。

 

「ダンスはそういうの無理かな?」

 

「ううん、今の7人ならできると思うけど!」

 

振り付け担当のことりが。

 

「ならそれがいいよ! みんなで歌って、みんながセンター!」

 

ほんと、あなたの発想には負けるよ、穂乃果。

 

「私賛成!」

 

「好きにすれば」

 

「凛もソロで歌うんだー!」

 

「わ、私も?」

 

「やるのは大変そうですけど」

 

1、2年生の気持ちはまとまった。

あとは……

みんなでにこ先輩を見る。

 

「しかたないわね、ただし、私のパートはかっこよくしなさいよ?」

 

「了解です、にこ先輩」

 

みんなの思いがまとまる。

 

「よーし、じゃあみんなで練習だー!」

 

穂乃果が部室を飛び出す。

それに続いて私たちも部室を出る。

 

「でも……本当にリーダーなしでいいのかな?」

 

あれ、ことり。まだそんなこと聞くの?

 

「決まってるよ、とっくに。ていうかこんなことは決め直すこともなかったんだよ」

 

「不本意だけどね」

 

真姫ちゃんは本当にやる気があるのかないのか言葉だけじゃ分かりにくいね。

ほんとはやる気満々なくせに。

 

「はい、何にも囚われずに一番やりたいことへ、楽しそうなものへ怯まずまっすぐに一直線に。それは穂乃果にしかできないことかもしれません」

 

そうそう、穂乃果だからこそ、μ'sがあるんだよ。

きっと、私や、海未や、ことりじゃだめだったんだと思う。

これから訪れるだろういつか(someday)に向かって。

いつか(someday)穂乃果の、μ'sの、私たちの願いが叶うことを信じて。

どこまでもまっすぐに進むエンジンになれるのはきっと穂乃果、ただ一人なんだと思う!

さぁ、これから忙しくなるぞ〜!



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#28 ラブライブ!

「お姉ちゃん!」

 

「ん? おはよ、結衣。どうしたの?」

 

「もう、どうしたのじゃないよ! お姉ちゃん見てないの!?」

 

「いや、結衣、見てないのって、何をか言わないとわからないよ?」

 

「あーもう、今はそういうのいいの! とにかくついにあれが始まるんだよ!」

 

「だから結衣あのね?」

 

「もう、いいからパソコン貸して!」

 

「あ、こら勝手に……もう、しょうがないなぁ……それで、何が始まるのっていうの?」

 

「だからこれだよ、お姉ちゃん!」

 

「っ! これって……!」

 

「うん、ついに、ついにだよ!」

 

「そっかぁ……前から予告されてたスクールアイドルの祭典、「ラブライブ!」本当に嬉しそうだね」

 

「うん! もちろん、お姉ちゃんたちμ'sも出るんだよね?」

 

「たぶん穂乃果ならすぐに出るっていうだろうね」

 

「だろうねって、お姉ちゃん、あんまり乗り気じゃないの?」

 

「ううん、もちろんせっかくなら出たいよ? でも、ラブライブに出れるのはランキングの上位20組だけ。いくらμ'sが最近急激に順位を伸ばして、サイトのピックアップアイドルになってるって言っても上位20組の枠に入るのはなかなか難しそうだなってこと」

 

「そっかぁ……でも、ほのちゃんならなんとなくやっちゃう気がする!」

 

「ふふ、実は私もちょっと期待してるんだ」

 

「それに……」

 

「ん?」

 

「お姉ちゃんもいるし!」

 

「なんでそこで私の名前が出てきたのかわかんないけどやれるだけのことはするよ」

 

「うん、頑張って!」

 

ラブライブか……本気で出場狙うなら新曲、かなぁ……

あんまり新曲やりすぎても1つ1つの曲の完成度が低くなるから良くないとは思うんだけど、オープンスクールもあるし、今から練習すれば間に合うかな?

テストもあるのか……あとでみんなと相談しなきゃね。

 

 

 

 

 

放課後、穂乃果たちと話しながら部室で待ってると

 

「た、助けて……」

 

いきなりドアが開いて花陽ちゃんが入ってきた。

 

「助けて?」

 

「じゃなくて」

 

だよね、びっくりした。

 

「大変です!」

 

「だから何が大変なのよ」

 

「かよちんが急に走るからびっくりしたにゃ〜」

 

少し遅れて真姫ちゃんと凛ちゃんも部室に入ってくる。

 

「もしかして……」

 

「多分夢花先輩正解です。ついにラブライブが開催されることになったんですよ!」

 

さすが花陽ちゃん、情報が早いね。

私も知ってはいたけど多分結衣に言われなきゃ今まで知らなかっただろうなぁ。

開催されるかもっていう話は聞いてたんだけどね。

 

「ら、ラブライブ……!」

 

これはさすがに穂乃果も……

 

「って何?」

 

やっぱり知らなかった……

 

「穂乃果、スクールアイドルやってるんだからそれ関係の情報は調べておこうよ……」

 

「夢ちゃんその言い方はひどいよ! 穂乃果だってちゃんと調べてるよ! A-RISEとか他のスクールアイドルの曲たくさん見てるもん!」

 

「穂乃果ちゃん、多分夢ちゃんが言ってることそういう意味じゃないと思う……」

 

「全く穂乃果は……しかし、私もあまりよく知らないので説明していただけますか?」

 

「いいけど……多分、私より花陽ちゃんの方が詳しいと思うから説明、お願いしていい?」

 

「は、はい! もちろんです!」

 

素早くパソコンも前に移動した花陽ちゃんはすごい速さでパソコンを操作。

これは完全にアイドル付きのスイッチが入ってるね。

いつもならもっとゆっくりだもん。

いつももっと堂々としてればいいのにって思うからこの感じの方がいいのかもしてないけど……それはそれで花陽ちゃんの良さを奪っちゃうのかもね。

 

「スクールアイドルの甲子園、それがラブライブです。エントリーしたスクールアイドルの中からランキングの上位20位までがラブライブに出場。その中からナンバーワンを決める大会です! 噂には聞いていましたが、ついに始まるなんて……!」

 

「まあ細かい要項はもう少しあるんだけどね、大会の概要としてはこんな感じ。説明してくれてありがとね、花陽ちゃん」

 

スクールアイドルが全国的に人気になっている今だからこそ開催に踏み切ったんだと思う。大きい会場を抑えるにはある程度の客入りを見込みたいと思うし。

それとは関係なく、私たちにとっては音ノ木坂の名前を全国的に広められる一番のチャンス。

でもそれにはなかなかきつい状況だけど……

 

「出場するスクールアイドルは……1位のA-RISEは確定で2位、3位は……チケット販売はいつからでしょう? 初日特典は……?」

 

「花陽ちゃん見に行く気?」

 

「穂乃果、そんなこと聞いては……!」

 

「当たり前です! これだけのスクールアイドルが一堂に集まるイベントはかつてありません! つまりアイドル史に残る一大イベントですよ! 見逃せません……!」

 

「花陽ってアイドルのことになるとキャラは変わるわよね」

 

「凛はこっちのかよちんも好きだよ」

 

海未、ほらって顔してるけど、多分穂乃果はそういう意味で聞いたんじゃないと思うよ?

 

「なーんだ、私、てっきりラブライブ出場目指して頑張ろうっていうのかと思った」

 

「やっぱりね」

 

穂乃果ならきっとそういうと思ってたよ。

 

「ふぇええええ! そ、そんな私達がなんて恐れ多すぎます……!」

 

「キャラ変わりすぎ」

 

「凛はこっちのかよちんも好きだにゃー」

 

どっちも魅力的な花陽ちゃんに違いないもんね。

それにしてもみんな気づいてないのかな?

 

「っ! 穂乃果ことり!」

 

「わぁ……!」

 

「順位が上がってる!」

 

「やっぱり見てなかったんだ。なんとなくだけど、ラブライブへのチケットが見えつつあるんだよ」

 

「急上昇中のピックアップアイドルにも選ばれてるしコメントもこんなにたくさん……!」

 

「だからね、最近……」

 

「ちょっと待った。あとは準備しながら話そ。目指すなら目指すで練習やらないとだし」

 

とりあえず話すことは話したしあとは着替えとか準備運動しながらできるしね。

じゃあ私はいつも通り先に行って準備をっと。

はぁ、それにしても階段多いよねぇ……屋上で練習してるから、当たり前、なんだけど……上がるだけで疲れちゃう。

ふぅ、私も頑張らないとね。こんなこと言ってられない!



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#29 理由

「出待ち!?」

 

へぇ、スクールアイドルでもそんなことあるんだ。

まあ在学中の学校も、練習の日程もある程度書いてあるし、授業の予定は学校のホームページを見ればわかるし当然なのかもね。

 

「私、そういうの全然ない」

 

「アイドルは強烈な格差社会でもありますから」

 

花陽ちゃん、それ全然フォローになってないからね?

むしろ傷を深くした可能性もあるからね?

 

「みんな特大ニュースよ!」

 

「にこ先輩、お願いですから驚かせないでください、死にますよ、私が」

 

「夢花がそういうと冗談にならないので本当にやめてください」

 

そうはいうけどね、こうやって言っていかないと本当に驚いて死ぬなんて笑えないことになるかもしれないから諦めて?

私だって、まだ死ぬなんてごめんなんだから。

 

「えっと、ごめん」

 

「いえ、次から気をつけてくださいね? それで、ニュースってなんですか?」

 

「ついに、ついに始まるのよ! スクールアイドルの祭典……「ラブライブ、ですか?」……知ってたの?」

 

なにこの子たち怖い。ほんわかしてる人ってほんわか人を痛めつけるの?

 

「それでどうするつもり? 当然出るわよね?」

 

「そのつもりです!」

 

「それじゃあ先に学校の許可取りに行く?」

 

「……誰に?」

 

「もちろん、生徒会長に」

 

一応「各部の申請は原則生徒会を通すこと」ってことになってるからねぇ。

とりあえず行くだけいいってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

というわけで生徒会室。

 

「ガッコウノキョカァ?ミトメラレナイワって感じだよねー」

 

なんか微妙に似てるような似てないようなモノマネしないの。特徴は捉えてるしそんな反応な気はするけど。

 

「でも今度は間違いなく生徒を集められると思うんだけど……」

 

「そんなこと関係なく私たちのこと目の敵にしてるわよね」

 

「はっ、まさかにこの人気を取られるのを恐れて!」

 

「それはない」

 

「ツッコミはや!」

 

真姫ちゃんさすが。私もそれはないと思う。

でもなにもなく否定してるとも思えないんだよね。

あの正義感の塊みたいな人が頭ごなしに否定するとは考えにくいと思う。

でもそれがわかるためにはあまりにも情報が足りないし、そんなことは今はどうでもいい。とりあえず学校の許可をもらわないと。

 

「直談判しに言っちゃダメなの?」

 

「まあ一応原則としてって書いてあるからダメではないと思うけど……」

 

「なんとかなるでしょ、親族もいることだし」

 

ああ、確かにね。ことりがいるからなんとかなるかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、さらに入りにくい雰囲気……」

 

「そう?」

 

「そうだよ! 夢ちゃんは何度か来たことあるから平気かもしれないけど」

 

そっか、私は病気の件で配慮のお願いに来たり、報告に来たりしてるから何度か来てるけど普通はそんなに来ないよね。

 

「……よし、行くよ?」

 

穂乃果がノックをしようと手を伸ばす。

 

「あら、お揃いでどうしたん?」

 

「副会長……」

 

って、ことはきっと……

 

「っ! あなたたち……」

 

「タイミング悪……」

 

やっぱり、生徒会長も一緒か。

 

「理事長にお話があって来ました」

 

真姫ちゃん頑張るね。

でも生徒会長は動じてない。

どっちもさすがというかなんというか……

 

「各部の申請は生徒会を通す決まりよ」

 

「申請とは言ってないわただ……」

 

「真姫ちゃん、上級生だよ」

 

穂乃果、今のはナイスだよ。

これ以上ここで揉めるのは避けたい。ただでさえ難しい状態なのにここで捕まっちゃったら許可なんてこぎつけられなくなる。

 

「どうしたの?」

 

ことりのお母さん!

とりあえず話は聞いてくれるみたい。

 

「一年生たちはここで待ってて? 私たちが話してくるよ」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ラブライブ」

 

「ネットで中継もされ、全国に放送されることになっています」

 

「うまくいけば学校の名前を広められると思うの!」

 

「私は反対です」

 

まあ口を挟んでくると思ったよ。

なんで私たちのことをここまで嫌うのか、なんでここまで否定するのか。気になる。

 

「理事長は学校のために学校生活を犠牲にするべきではないとおっしゃいました。であれば……!」

 

「そうねぇ、でもいいんじゃないかしら、エントリーするくらい」

 

やった!

ことりのお母さん、やっぱり優しい!

でも生徒会長が言ってたことも気になる。

学校のために犠牲に……?

 

「なら生徒会も学校存続のために!」

 

「それはダメ」

 

「なぜです! なぜ彼女たちの肩を……まさか、私情で……?」

 

ことりを睨んでも……気持ちはわかるけど。

なんで私たちの目の敵にするのかなんとなくわかった。でもそれだけじゃない気がする。

 

「そんなことないわ。彼女たちとあなたの違いは簡単なことだと思うけど」

 

「……失礼します」

 

「ごめん、穂乃果、ことり、海未」

 

私も生徒会長を追いかけて理事長室を出る。

って、ちょっと生徒会長も希先輩も歩くの速くない!?

 

「何か用?」

 

よかった止まってくれた。

 

「ええ、私たちにどうしてそんなに手を出してくるのか理由を聞きたくて」

 

「夢花ちゃん……」

 

「あなたたちみたいに遊びでやっている人にこの学校のことを任せたくないだけよ」

 

「遊びって!」

 

「スクールアイドルだかなんだか知らないけど私には全て素人にしか見えない。一番力があると言われるA-RISEにしても素人に毛が生えたくらい」

 

「むしろ、生徒会長は何を求めているんですか? 誰もプロとして指導を受けている人はいません。その人たちに」

 

「学校の名前を背負って出て行くということはそれだけ責任もあるのよ。指導を受けているかどうかなんて関係ないの。その名前を背負って出て行けるほどの技術がない。特にあなたたちにはないからやめてほしいって言っているのよ」

 

「生徒会長は昔何かやられていたんですか?」

 

「ええ、幼い頃にね」

 

少し寂しそうな顔を一瞬だけして生徒会長は歩いていってしまった。

 

「希先輩」

 

「ごめんな〜うちもこれからバイトや。でももしかしたらバイト中は暇かもしれんなぁ」

 

さすが、ちゃんと伝わったみたいだ。

とりあえず、部室に戻ろうかな。

 

「あの、なんで私についてくるんですか?」

 

「気にせんでええよ、たまたまやから」

 

たまたま、じゃない気がするけどなぁ……

まあいっか。そういえば私が出て着るとき何か条件があるとか言ってたような……

 

「ただいま〜さっきはごm……って何この状況」

 

「おかえり、夢ちゃん。あ、あのね、これは……」

 

「理事長から今度の期末で赤点とる人がいたらエントリーしちゃダメって言われちゃって……」

 

「ああ、それで穂乃果と凛が……」

 

「あとにこ先輩もなんですけど……」

 

そっか、三年生だもんね、教えられる人がいないんだ。

なら、私がやろうかな。

入院中暇すぎて高校の数学だけだけど全部なんとなくやってるから多分教えられると思うし。

 

「それはうちが担当する」

 

「希先輩が?」

 

「うん、任せとき」

 

「じゃあお願いします」

 

あれ、結局私は……



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#30 かけちゃいけないもの

「ん〜……」

 

勉強して凝り固まった体を伸ばす。

あ、でも急に伸ばしすぎると息止まって心臓に負担がかかっちゃうから注意しないと。

あれ?

 

「みんなは……?」

 

いつの間にか私を置いて帰っちゃったみたい。

もう、みんなひどいなぁ……

あ、ことりから連絡きてた。

えっと……

 

『ごめんね、夢ちゃんに声かけたけど集中しててえ反応してくれなかったから先帰るね。鍵だけ返して置いてください!』

 

……私のせいだったね。

う〜ん、私の悪い癖だよねぇ、一回集中しだすと切れるまで余程のことがない限り反応しなくなるところ。

逆にいいところでもあるって言われるけど……こういう時にはダメなところだって思っちゃう。

そういえば希先輩のところ!

時間は……そろそろ6時、まだ大丈夫、だよね?

とりあえず行ってみよっか。

 

 

 

 

 

 

 

神田明神はまだこっちにスロープあるから楽だけどこれも結構きついはきついよね……!

あれ、あそこで希先輩といるの海未……?

 

「お、ちょうどいいところに来たね」

 

「ゆ、夢花!? どうしてここに?」

 

「それはこっちのセリフ。どうして海未こそ希先輩と?」

 

「それは夢花ちゃんと同じやよ。エリチのことや」

 

「生徒会長の?」

 

「はい、さっき生徒会長とあったんですが……A-RISEも含めスクールアイドル全て素人にしか見えないって……」

 

そっか、私があの時言われたこと、海未も言われたんだ。

それで知ってそうな希先輩を頼って。

 

「教えてください、生徒会長のこと」

 

「ん、ええよ。エリチは幼い頃バレエをやってたんや。その年齢にしてはかなり上手だと言われていたらしいんよ。

これがその時の動画や、見る勇気、ある?」

 

「そんなに……見ます、夢花もいいですよね」

 

「もちろん」

 

なるほどね、ダンスとバレエ、確かに違うところもあるけどどれくらい上手いかくらいはわかる。

多分生徒会長もそんな感じたったんだと思うけど……

うん、確かに上手い。4、5歳、くらいかな?

そのくらいの年齢にして()()は素晴らしいと思う。

生徒会長の見た目の可愛さもあってかなり神童とかって持て囃されたんじゃないかな。

でも……

 

「こ、こんなに……ありがとうございました、希先輩。失礼致します」

 

海未……

 

「いいタイミングやと思ったんやけどなぁ……」

 

「確かに()()はすごいと思います。スクールアイドルが素人に見えるというのも納得です。ですが……」

 

「ですが、何?」

 

「希先輩、生徒会長がバレエの大会で優勝したっていう話、聞いたことありますか?」

 

「……うちは少なくともないかな」

 

やっぱり。

確かに生徒会長はすごいと思った。

でも。

バレエでもダンスでも技術と同じくらい大切なものがある。

私たちが踊っている曲を楽しむ気持ち。

たくさん努力をしたんだと思う。

いろんな期待を背負ってたんだと思う。

だからきっと余裕がなくなって音を楽しめなくなった。

生徒会長の技術はピカイチだった。

でも、楽しむ気持ちがないから、そんな余裕がなかったから。

どうやってもそれ以上に行かなかった。

 

多分、そういうことなんだと思う。

そして多分今も。

 

「エリチも普通の女の子なんやよ。そこだけはわかってあげて欲しいんや」

 

「はい、なんだか色々わかった気がします。私たちがやるべきことも」

 

「それやったらいいんや。夢花ちゃんも体調気をつけてな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

私は帰りながら考える。

今の私たちがしなければいけないこと。

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「……来ない」

 

まああの勉強しないといけない三人が来ない理由はわかるけどね。そこに荷物置いてあるしほのかのバッグから制服のシャツ見えてるし。

でも海未もなんて……昨日の生徒会長の動画、余程衝撃的だったのかな……

それにしてもだいぶ暑くなってきたね〜そろそろ梅雨も終わりで練習がたくさんできる夏休みももうちょっとでくる。

うまくいけば夏休み明けにはラブライブの本大会。そのためにも夏休み中に何回かライブはやりたいところだよね。

一応海未と相談してオープンスクールと夏休みにどこかでライブやるための曲は作ってるけど、間に合うかな……?

みんなの頑張り次第だけど本当にすぐ覚えてくれるからすごいと思うよ。私はこんなに早く覚えられなかったもん。

 

「あ、夢ちゃん、きてたんだ」

 

「穂乃果、他の二人も気は済んだ?」

 

「……うん」

 

あ〜これは何かされたな、多分後ろでいたずらっぽく笑ってる希先輩に。

あ、後ろに海未もいる。なんだ、先に気づいて連れ戻しに行ってくれてたんだ。

さて、じゃあ3日後に迫った試験に向けて勉強勉強っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果!」

 

っ!

う、海未……びっくりさせないでよ……

 

「あ、すみません、夢花。それより穂乃果今日から試験まで泊まり込みます! 合宿です!」

 

「鬼ィ……」

 

あはは……ファイト、穂乃果。それもラブライブのためだよ。

それにしてもいつ外に出たんだろ……また気づかなかったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして無事試験も終わって。

にこ先輩と凛ちゃんは無事赤点回避。

穂乃果はなぜかまだ来ない……

テストもらった時いつになく残念そうな顔してたのがすごくきになるんだけどまさか、ね……

 

「穂乃果! 今日で全教科返ってきましたよね!?」

 

「まさかあんた、赤点取ってないでしょうね?」

 

「ほのかちゃぁん!」

 

「うん、もうちょっといい点だと良かったんだけど」

 

見せた点数は確かに赤点を回避、どころかほぼ平均点で。

 

「よ〜し! 練習だ〜!!」

 

「ら、ラブライブ……!」

 

「まだ目指せるって決まっただけよ」

 

「それでも前進だよ。先に上行ってて。理事長のところ寄ってから行くから」

 

「わ、わかりました!」

 

多分ことりのお母さんも結果を知ってるんだと思うけど礼儀として伝えに行かないとね。

 

「どういうことですか! ちゃんと説明してください!」

 

生徒会長……?

理事長室の前で中から生徒会長の悲鳴のような必死の声が聞こえた。

穂乃果が少しだけドアを開けて中の様子を伺う。

 

 

「ごめんなさい、でもこれは決定事項なの。音ノ木坂学院は来年度から生徒募集をやめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「廃校とします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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#31 突然の知らせ

「廃校ってどういうことですか!?」

 

「ちょっと穂乃果!」

 

飛び込んだ穂乃果を追って私たちも中に入る。

 

「あなた!」

 

「今の話本当なんですか!?」

 

「……ええ、本当よ」

 

「そんな……」

 

さすがに急すぎるよね……

幾ら何でもことりのお母さんがそんなことするとは思えないしきっと何か私たちが聞いてないことがあるんだと思う。

 

「待って、きっと私たちが聞いてないことがあるんだと思う。そうですよね?」

 

「ええ、さすが夢花ちゃんね。廃校にするというのはオープンキャンパスで行うアンケートの結果が悪ければということよ」

 

「な、なんだ……」

 

「安心している場合? オープンキャンパスは二週間後の日曜日。そこで結果が悪ければ本決まりということよ」

 

「そ、そんなぁ……どうしよう……」

 

思ったより深刻だったね……

一応オープンキャンパスでライブはやるつもりで曲を作ってたけど……

 

「理事長、オープンキャンパスでのイベント内容は生徒会で提案させていただきます」

 

「……止めても聞きそうにないわね」

 

「失礼します」

 

海未……?

出て行く生徒会長に対しての視線がきになる。

どうしたんだろ……

 

「とりあえずみんなに伝えなきゃ!」

 

「理事長、あの……」

 

「ええ、わかってるわ。みんな頑張ったのね。行っていいわよ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

さすがことりのお母さん、ちゃんとわかってくれたみたい。

そのために練習着できたし当然かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー! じゃあやっぱり凛たち後輩のいない高校生活!?」

 

「そうなるわね……」

 

「そんなぁ……」

 

「私は気楽だからその方がいいけど」

 

「とにかく、オープンキャンパスでライブをやろう!」

 

って、え?

 

「穂乃果、もともとやるつもりなかったの?」

 

「私と夢花ですでに曲を作っていたのですが……」

 

「ええー! なんで穂乃果には言ってくれなかったの!?」

 

あーそっか、穂乃果はこういうプリント一切読まない人だった……

オープンキャンパスがあることなんて絶対知らなかったよね……

 

「ごめんごめん。もうできるから頑張ってもらうよ、センターさん」

 

「そ、そうだよね! 頑張らないと……っ!」

 

やっぱり穂乃果は穂乃果だなぁ……

とにかく練習をしなきゃ!

 

「あ、先にアルパカさんの餌とお水変えてきていいですか……?」

 

「うん、いいよ。飼育委員だったもんね」

 

「あ、凛も行くにゃー!」

 

「先に上いってるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、最初からやってる穂乃果たちはもちろん、一年生もにこ先輩も基礎はだいぶついたよね。

でも……

 

「凛ちゃん? あんまりお家でストレッチやってないでしょ?」

 

「に゛ゃ゛!? そ、そんなこと、な、ないよ……?」

 

「本当に? 凛ちゃんは運動神経はいいんだから体硬いと怪我しやすくなるからね? ストレッチはちゃんとやって体柔らかくしてね?」

 

「にゃ、にゃーん……夢花先輩怖いにゃ……」

 

私と違ってまだ元気に動けるし才能もあるから怪我しちゃうのは勿体無いと思うからね。

 

「ことりと花陽ちゃんはもう少し筋トレ増やしても大丈夫そう? 少しきつくなるけど大丈夫?」

 

「が、頑張るよ!」

 

「わ、私もです!」

 

二人は逆に体は柔らかいけど筋力はあまりないから長い時間同じ体勢のキープとかは結構苦手に見える。

だからみんなより多めに筋トレしてもらわないと。ちょっときついけど頑張って……!

 

「穂乃果と真姫ちゃんはもっと全体的にバランスよく鍛えていこうね!」

 

「「は、はい!」」

 

「ふふ、あんたたちもまだまだね。にこはとーぜん完璧よね?」

 

「いえ、にこ先輩は何もかも足らなすぎです」

 

「うげっ!?」

 

「夢ちゃんあんなに容赦なかったっけ……?」

 

あっ……

少し焦りすぎ、なのかな。

あと2週間。

まだ対して基礎もできてないってなればさすがに焦るよ……

 

「さて、ではダンスの練習を始めましょうか」

 

いいタイミングだよ、海未!

私の考えの整理にもちょうど……ん?

海未……? いつもとなんだか違う気がする……

どうしたんだろ……?

 

「1、2、3、4……!」

 

うん、前より揃ってきた。もちろんまだ甘いところはあるけど……

 

「よし! いい感じ! これならオープンキャンパスに間に合うね!」

 

「……まだです」

 

「え?」

 

「まだタイミングがずれています……」

 

海未……まさか……!

 

「わかったもう一度やろう」

 

「1、2、3、4……!」

 

うん、さっきよりタイミングあった。

まあ、全体で見ればあってるように見えるだけで細かいところは結構ずれてるんだけど……

多分、きっと……

 

「かんぺきー!」

 

「そうね」

 

「やっとみんなにこのレベルに追いついたわね」

 

なんでにこ先輩はそんなに自信満々なんですかね……

 

「まだです」

 

「え……」

 

やっぱりね……

やっぱり海未、生徒会長のこと……

 

「何が気に入らないのよ! はっきり言って!」

 

「……感動できないんです」

 

「感動?」

 

「はい、今のダンスでは全然……」

 

これは、ちょっとまずいかな。

今のままじゃダメなのは事実。

でも、ミューズの良さは別にあると私は思う。

 

「海未、ちゃんと話した方がいいんじゃない?」

 

「そうですね、実は……」

 

「あ、ちょっと待った。先に私と話そうか。なんとなく私と考えてること一緒だと思うし」

 

「は、はい……」

 

「じゃあ今日はクールダウンしたら解散! あとでグループ通話で話すからよろしくね」



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#32 練習を頼もう

「海未、やっぱり生徒会長のこと……」

 

「はい……」

 

海未は日本舞踊やってるし違いはあってもタイミングのズレとか技術面はわかっちゃうから余計なんだよね、きっと。

 

「ね、海未。生徒会長のバレエを見てどう思った?」

 

「すごいと思いました。私はバレエのことをよくわからないですが、素晴らしい技術を持っていると思いました」

 

「うん、私もそうだと思った。すごかったよね、生徒会長。じゃあもう一つ質問。楽しそうだった?」

 

「えっ……?」

 

「どう思った?」

 

「それは……少々一生懸命すぎて楽しんでいるようには見えなかったですが……」

 

う〜ん、やっぱりここが舞踊とダンスの差なのかな。

あんまり表情で何かってない感じがするし。

 

「まあいいや。それで、さっきみんなに話そうとしてたことって生徒会長にダンスを教えてもらおうってことだよね?」

 

「どうしてそれを!? は、はい、その通りですが……まさか夢花も?」

 

「うん、私も。私が外から言葉だけで説明するのも中々難しいところに来たから、ね」

 

「そうですか……夢花、何も言って来ませんが本当に体調は大丈夫なのですか?」

 

「え? どうしたの急に」

 

「単純に心配なのです。夢花は昔から誰にも言わずに無理しますから」

 

あれ?

私そんな無茶したことあったかなぁ……

結構堅実な感じで生活してたと思ってたんだけど。

 

「とにかく! 何か変化があればすぐに言ってくださいね?」

 

「は、はい……」

 

なんだかんだですごく心配してくれてたんだね。ありがとう、海未。

だから今日もわざわざ私の家に来てくれたんだ。

もう、そういうところ不器用だよね、海未って。

まあ今日入ってくれたからよしとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええ! 生徒会長に!?』

 

みんな驚きすぎだよ! 聞いてた私が驚いたよ!

 

「話ってそんなこと?」

 

「絶対嫌ってるよね、凛たちのこと」

 

「つーか嫉妬してるのよ嫉妬」

 

やっぱりみんなあんまりいいイメージは持ってないよね。

今までされてることがされてることだけになかなかね……

 

「私は反対。潰されかねないわ」

 

「それに生徒会長ちょっと怖い……」

 

「凛も楽しいのがいいな〜」

 

「そうですよね……」

 

「大体、夢花はそれでいいわけ? あんたの仕事取られるのよ?」

 

「え、私?」

 

そっか、私から見てると自分の体の状態とできることってわかるからいいけど周りからはそう見えるもんね。

 

「私が自分の体を使わずにみんなに説明だけで教えるのはそろそろ厳しくなって来てるかなって思ってたの。だから私的にはちょうどいいかなって感じ、かな」

 

「夢ちゃんがいうように夢ちゃんが教えてくれるのが辛くなってその代わりに身近にいる上手い人に教えてもらおうってことでしょ?」

 

「そ、そうですが……」

 

さすが穂乃果。一番いいたとことろだけを簡単にまとめてくれた。

こういうところはすごいのになんで勉強できないんだろ……

 

「だったら私は賛成! 頼むだけ頼んでみようよ!」

 

やっぱり、穂乃果は穂乃果だ。

一番楽しそうなところに臆せず飛び込んでいく。

ほんと、真似できないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が練習を?」

 

「はい! お願いします!」

 

生徒会長は私と海未を見る。

 

「残念だけど、私は生徒会の仕事があるから」

 

「そこは安心してください。私が代わりにやれる分はやります」

 

そういうとは思ってたからね。

あらかじめ希先輩に話はしてあるよ。

 

「あなた……! 希!」

 

「うちは知らんよ? せっかくだしやってあげればいいやん」

 

「……わかりました。あなたたちがやっていることを理解はできないけど人気があることは確かだし引き受けましょう」

 

「……! ありがとうございます!」

 

「ただし、やるからには私が納得する水準まで頑張ってもらいますからね」

 

「が、頑張ります!」

 

頼んだよ、みんな。

うまくいけばμ'sのスキルアップは間違いない。

そして……

 

「ほな、うちらは仕事を片付けよか」

 

「はい、いろいろありがとうございます、希先輩」

 

「うちは何にもしとらんよ」

 

相変わらず、いまいち考えが読めないよねぇ。

元入院患者としてはある程度顔色伺って自分の状態を把握してたから結構相手のこと読めると思ってただけにちょっと悔しい。

それにしても結構な量あるんだね。

って言っても一時間くらいで終わる量かな。

 

「夢花ちゃん、結構こういう作業得意なん?」

 

「あんまりやったことないのでよくわからないですけど……」

 

「処理が早いなって思って。……エリチのこと、わかってくれてんやね」

 

「どうですかね? なんとなくわかった気もしますけど……少なくとも生徒会長に対する考えは変わりましたね」

 

「そんならええんや」

 

相変わらずよくわかんない人だなぁ

あ、凛ちゃんが叫んでる。きっと硬いこと指摘されてるんだろうなぁ……

 

「これ全部終わったのでチェックお願いします」

 

「ん〜っと、うん、おっけーや」

 

「じゃあ私は屋上いきますね」

 

「うん、ありがとうな〜」

 

「いえ、これくらいは」

 

聞こえてきた感じ基礎の反復ばっかりみたいだったね。

生徒会室の窓が開いてたからある程度の指示は聞こえたけど……

考えてたところでちょうど階段で生徒会長とあった。

 

「意外ですね」

 

「……! 何が意外だっていうのよ」

 

「ここでオーバーワークさせちゃえば穂乃果たちを、少なくともオープンキャンパスまでは動けないくらいにはできたのに、生徒会長はあえて基礎の反復練習ばかり。彼女たちの今後を考えて、ですか?」

 

「……違うわ。ただ彼女たちに自分たちがいかに実力がないかを感じ取ってもらって諦めてもらおうと思ったのよ」

 

「私も基礎練は結構させてたんですがなかなか追いつかなくて……ありがとうございました」

 

「話はそれだけ? あなたは彼女たち本人以上に実力の無さをわかっているのでしょう? 無理だと言ってあげた方がいいんじゃないの?」

 

「まさか。一回くらいじゃ穂乃果たちの気持ちは伝わりませんでしたか? 課された基礎練についていけないからって諦めるような子達じゃないですよ、みんな」

 

私の話を無視して階段を降り始める生徒会長。

 

「生徒会長」

 

「何かしら?」

 

「さっきの言葉、あれはμ'sの実力とポテンシャルをしっかり考えての言葉ですか? それとも、過去の自分からの言葉ですか?」

 

「っ!」

 

今度こそ生徒会長は私を無視して階段を降りていってしまった。

 

 

 

生徒会長、あなたの本当の気持ちはなんですか?



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#33 本当の始まり

「おはよ〜」

 

「おはようございます。今日は夢花も参加するんですね」

 

「ううん、今日も私は不参加。昨日のハードな練習でみんなどうかなって思って」

 

「確かに、生徒会長の練習はただの基礎ばかりだということでしたが今の私たちではやはり大変でしたね……」

 

今までそんなにきつく基礎練習やってなかったからねぇ……

急にあれをやるのはちょっと辛かったよね、きっと。

でも、さすが生徒会長。

筋肉痛にはかなりなってるみたいだけど体自体の疲労は残ってないみたいだね。

ギリギリまで絞られてるからまあ辛いとは思うけど、辞めさせる必要はないよね。

 

「じゃあ私は生徒会の手伝い、行ってくるね」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「うん、任せといて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリチ、どんな感じだった?」

 

「どう、というのは?」

 

「他の子達のの様子見に行ったんやろ? きっと夢花ちゃんならそれからエリチの様子がわかるんやないかなって」

 

「さすがにそれは無理ですよ」

 

なんか、買いかぶられすぎじゃない?

私そんなに大したことないと思うんだけど……

 

「そういう希先輩こそどうなんですか? 私たちが生徒会長に練習を見て欲しいとお願いした時、星が動き出したって言ってましたよね?」

 

「……聞こえてたんやね。もう少しやと思うんやけどなぁ……?」

 

もう少し?

なんの話をしているの?

本当にこの人、掴み所ないなぁ……

 

「ごめん夢花ちゃん、ちょっと外出てくるね」

 

「あ、はい、わかりました……」

 

どこに行くんだろ?

まあいっか。私はとりあえずこれやっちゃおっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しょうがないじゃない!!!』

 

っ!?

び、びっくりしたぁ……

どうしてみんな私を驚かそうとするのかな、まったく。

それはそうと、今の声、生徒会長だよね?

えっと、ごめんなさい!

扉に近づいて私は外の会話を盗み聞きする。

 

『自分が不器用なのはわかってる! でも! 私が……今更アイドルをやろうなんて言えると思う?』

 

『あっ!』

 

生徒会長……

そっか、生徒会長、諦めてなかったんだ……

 

「希先輩」

 

「夢花ちゃん。ごめんな、見苦しいところ見せたな」

 

「いえ、全然。希先輩が生徒会長を助けたいっていう気持ち、よくわかりましたから」

 

「夢花ちゃん、うちじゃ、うちじゃダメみたいなんよ……だから、お願い」

 

「穂乃果たちをお願いします」

 

私はゆっくり生徒会長を追う。

きっと今ので希先輩なら気づいてくれるだろう。

それまでに私は生徒会長と話して時間を稼がなきゃ。

さて、どこから行こうかな。

あんまり動き回りたくないから一番近い三年生の教室から行こうか。

ところで、生徒会長って何組?

3クラスしかないって言っても先に聞いておくんだったかな……

まあ、きっとなんとかなるでしょ。片っ端から探していこ!

 

「あっ……」

 

いた。生徒会長。一番手前のクラスだったんだ。

 

「生徒会長」

 

「あなた……どうしたの? あの子たちの練習を放り出してきたことに文句を言いにきたの?」

 

「いえ、まさか。ただお話をしにきただけですよ」

 

「別に私は話すことなんてないわ」

 

「なら勝手に私から話させてもらいます。生徒会長、あなたのバレエの動画を希先輩から見せてもらいました」

 

「っ!」

 

「純粋にすごいと思いました。あの歳ではありえないくらいの技術を持っていたと思います。でも、あのバレエに楽しさはなかった。

何かに追われているようで、何か大きいものを背負わされているようで。表情は笑顔でも楽しさからくるものじゃなくてそうしなければならないからしている作った笑顔でした」

 

「……あなたに何がわかるっていうの? 私はおばあさまの期待に応えなければならなかった。だから必死に努力してそれで……」

 

「何もわからないですよ? だって私は生徒会長じゃないですから。その努力は無駄だったんですか?」

 

「だ、だってそうじゃない……結果のない努力なんて無駄なものに決まってるじゃない!」

 

「なら今やっている廃校阻止の努力も無駄なんですね」

 

「そ、それは……」

 

「結果のでない努力だって無駄なわけない。私は私がやれなくなるまで頑張って努力してみんなと楽しんだダンスを無駄だったなんて思いたくない」

 

「……」

 

「生徒会長、絵里先輩だって本当はそうなんじゃないんですか? 素人みたいだからっていうのももちろんあったと思います。でも、絵里先輩は穂乃果たちに昔の自分を重ねていたんじゃないですか?」

 

これは完全に私の推測でしかないけど。

そうでないと説明がつかない。

わざわざ動画を撮ってネットに公開した理由。

後悔なんてしなければ他の人の目になんて止まらなくて知名度が上がらなくて諦めていた可能性が高かった。

そもそもライブを見にきた理由。

海未から聞いたんだけど、絵里先輩の妹にμ'sのライブを見せた理由。

私が都合よく取っているだけかもしれないけど。

私はそうだって思ったから。

 

「だったらやりましょうよ、あの時の夢の続き。せっかくほころびそうになったんです、今度こそ咲かせましょうよ、夢という大きい花を」

 

「何を言っているの? さっぱりわからないわ」

 

「さっきの希先輩との口論、聞きました。きっと受け入れてくれますよ」

 

だよね、穂乃果。

後は頼んだよ。

 

 

 

 

 

 

「絵里先輩! お願いがあります。μ'sに入ってください!」

 

穂乃果が教室に入って絵里先輩に手を差し出す。

 

「な、何言ってるの? 私は別に……」

 

「希先輩から聞きました。後、今の夢花との話も」

 

「やりたいならちゃんと言いなさいよ」

 

「にこ先輩には言われたくないけど」

 

真姫ちゃん、なんだかいつもにこ先輩の当たり強いよね……

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私やるなんて……大体、おかしいでしょ? 私がアイドルなんて……」

 

「何がおかしいんですか? 極度の人見知りやおっちょこちょいですぐに振り付け間違える人なんかがいるですよ? 何もおかしいことなんてないじゃないですか」

 

「やってみればいいやん。理由なんて必要ない、本当にやりたいことってそんな風に始まるんやない?」

 

おずおずとほのかの手を握り返す手が一つ。

もちろん、絵里先輩の手だった。

 

「わぁ!」

 

「これで8人!」

 

「ううん、違うよ、ことり。ですよね、希先輩」

 

「あちゃー、気づかれてたかぁ」

 

「μ's、ムーサは神話では元々3人だったんだよ。だから私もてっきり詳しい人がつけてくれたんだと思ってたけど……最初から9人にするつもりだったんですね、希先輩」

 

「そこまでお見通しだったんやね。占いで出てたんよ、このグループは9人になった時道が開けるって。だからつけたん、9人の歌の女神『μ's』って」

 

「の、ぞみ……全く、呆れるわ」

 

本当にね。

他人のためにここまでできるのは本当にすごいと思いますよ、希先輩。

 

絵里先輩が教室のドアに向かって歩き出す。

 

「どこへ?」

 

「決まってるでしょ。練習よ!」

 

「やったぁ!!!!」

 

 

 

9人の女神はここに集い、この先どんな困難も乗り越えていける、そう思っていた。

でも確実、ゆっくりとその女神を刈ろうとするものが近づいていたことをこの時の私は想像もしていなかった。



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#34 次に向けて

「ゆーめちゃーん!」

 

あ、なんかヤバそうな気がする。

振り向いて声の主の位置を確認……って、止まった。

 

「どうしたの、穂乃果?」

 

「ビックニュースだよ、夢ちゃん!」

 

「いや、そうじゃなくていつもならそのまま飛び込もうとしてくるからなんか拍子抜け」

 

「あー夢ちゃんひどーい! 穂乃果だってそのくらいは考えるもん!」

 

なら最初からやらないで欲しかったんだけど……

でもそれはそれでちょっと寂しく感じたりもするな……

穂乃果にそんな意識ないことはわかってるけど、私だからって特別扱いみたいでちょっといや。

実際は仕方ないことだし、配慮してもらわないと困るんだけど……

 

「夢ちゃん? どうしたの?」

 

「んーん、なんでもない。それよりビックニュースって?」

 

「それは部室に行ってから! みんなにも話したいもん!」

 

廃校関係か、μ'sに関係したことか……

ランキングはかなり上昇したけど、まだラブライブ出場圏内じゃないし……

なんだろ?

あっ、そういえば……

 

「この前のオープンキャンパスの結果ってどうなったの?」

 

「え? 結果?」

 

「オープンキャンパスのアンケートの結果。それによっては廃校確定になるって話だったでしょ? ……ってまさか忘れてたわけじゃないよね?」

 

「も、ももも、もちろん覚えてたよ! い、いくら穂乃果だってそんな大事なこと忘れるわけないよ!」

 

穂乃果、絶対にそのこと忘れてたよね……

さすがに穂乃果でも廃校のことを完全に忘れてたわけじゃないと思うから、廃校のことよりも大きな穂乃果的ニュースがあったんだよね。

ますます気になる……

でもなぁ……

 

「あれ、夢ちゃん? 何してるの? 早く部室行こーよ」

 

「ごめん、私、今日病院いかなきゃなの」

 

「そっか……じゃあ夢ちゃんには先に教えてあげるね! なんとなんと……!」

 

 

 

「部室が広くなったの!」

 

 

 

「あ、隣の部屋使えることになったんだ。衣装とか、着替えとか、部室じゃあんまり場所がなかったもんね〜」

 

「夢ちゃんなんで知ってるの!?」

 

「知ってるもなにも先生に頼んだの私だし」

 

にこ先輩が入った時点で先生にお願いしてあったんだけど、部室の使用は部活動会議の中でしか許可できないとかなんとかで先延ばしにされてたんだよね。

そっか、やっと申請通してくれたんだ。待ったの一月もないくらいだけど。

 

「夢ちゃん……! ありがと〜!」

 

「突然飛びつかないの!」

 

「えへへ、ごめんごめん。つい……」

 

この子は自分がちょっと前に言ったこと思い出してくれないかな……

まあこの方がよっぽど穂乃果らしいけどね。

 

「あ、電話来た。じゃあ私は病院行ってくるね」

 

「あ、うん、気をつけてね?」

 

「ありがと。穂乃果たちは練習頑張ってね」

 

「うん!」

 

相変わらず元気だなぁ……

ちょっと羨ましくもなる。

今更言っても仕方ないんだけどさ。

私は私ができる限り楽しくいなきゃね。

さて、そのために私は病院行きますか〜

ちょっと気になることもあるし……

 

 

「お待たせ」

 

「ここに車を停めとくの邪魔になりそうで心配なんだから早くきてよ」

 

「あはは、ごめんごめん。あれ、結衣は?」

 

「今日、病院の日だって忘れてて遊ぶ約束しちゃったって言ってたわよ」

 

へえ、珍しい。結衣が私の病院についてこないなんて初めてじゃない?

さて、9人になって部室も広くなったんだけど次の曲どうしようかな。

そろそろ夏だし、夏っぽい曲にしようかな……

そういえば今μ’sのランキングって……

確認してなかったことを思い出して私はランキングサイトを開く。

 

「うそ……」

 

「どうしたの、夢花?」

 

「μ’sのランキングが50位まで上がってて結構びっくりしてる」

 

「μ’sって穂乃果ちゃんたちのよね。凄いわね。本当に夢花も穂乃果ちゃんたちもすごいわ」

 

噛みしめるようにお母さんはすごいを繰り返した。

私、手伝ってはいるけど別にパフォーマンスをしてるわけじゃないし大したことはしてないんだけどなぁ……

 

「さて悩んでるところ悪いけどもう着くわよ」

 

そう言われて顔を上げるともう病院の駐車場だった。

朝倉先生、元気にしてるかな?

 

 

 

「最近よく夢花ちゃんのことよく見るよ。学校の友達と仲良く頑張ってるみたいじゃない」

 

「え、朝倉先生μ’sのこと知ってるんですか?」

 

「少しだけどね。私がって言うよりは澄川さんが見つけてきたのよ」

 

あー……そういえば美月さんに前に話したかも……

 

「それでわたしの都合で今回だけ一ヶ月空いちゃったんだけどどう? 前から大きく体調が変わったとか違和感があるとかそう言うのはない?」

 

「そうですね……あんまりないですけど……」

 

「その顔は何かあるって顔だね。どんなに小さくても変わったことがあるなら教えて欲しい」

 

「私の体力が落ちてるからだと思うんですけど前より疲れを感じるような感じがします」

 

私の言葉を聞いて朝倉先生の表情が少し険しくなった気がした。

 

「そっか。それじゃあ疲れすぎてもよくないから運動療法のメニューも少し変えたほうがいいかもしれないね。今度次の診察の時に測定し直そうか」

 

「わかりました。あの先生」

 

「ん? なに?」

 

「大丈夫ですよね、私。穂乃果たちとこれからもやっていけますよね?」

 

どこか突然不安になって思わず朝倉先生に聞いてしまう。

 

「……ごめんね。私は大丈夫だよって言ってあげたいけどそんな無責任なことは言えない。でも友達との夢も夢花ちゃんの夢も叶えられるように頑張ってフォローはするから」

 

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

 

そうだよね、こんなこと聞かれても困るよね……

 

「よし、じゃあまたね夢花ちゃん。お母さんはちょっといいですか」

 

私は診察室を出る。

美月さん、今日来てるかな?

ちょっと行ってみようかな、そう思った私は休憩室に向かった。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

「夢花ちゃんが疲れやすくなっていることを自覚するようになったと言うことは進行が早まっていると考えてもいいかもしれません。詳しくは来週の検査で明らかになると思いますが……」

 

「そんな……これからどうなるんですか、夢花は」

 

「心臓移植を検討したほうがいいかもしれません。その間の繋ぎとして人工補助心臓の埋め込みという選択肢もありますし入院治療と言う選択肢もあります。しかしどちらにしても心臓移植のためにはお金がかなりかかるというのも事実です」

 

「そうですよね……最近夢花がすごく楽しそうに学校に行くようになったんです。まるで病気になる前に戻ったみたいで……」

 

「同感です。私も夢花ちゃんにあんなこと聞かれると思いませんでした。まだいきたいと思ってくれるようになったのはいいことです。出来るだけ私たちも命の炎を長く燃やせるように全力を尽くしますのでお互い頑張りましょう」



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