たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生 (osero11)
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番外編
『君の名は。』を観て思いついたネタ集


 映画『君の名は。』を見てネタを思いついたので、息抜きのつもりで小説を書いてみました。

 今回は主人公視点で書きたいと思いますので、そこの点はよろしくお願いします。また、PKMN要素も一応あります。

 意識して書いたわけではありませんが、もしかしたら映画の内容のネタバレが含まれているかもしれないので、ネタバレを嫌う方は念のためお読みにならないでください。
 全くの別人という設定ですが、『君の名は。』の登場人物が出てくるものと思ってくれて構いません。その点はご注意ください。同時に、そのキャラクターのキャラ崩壊も小説内で起きていますので、『君の名は。』の登場人物のイメージを損ないたくない方は決して読まないでください。
 また、今回はヤンデレなどの成分も含まれていると思われますので、そういうものを苦手とする方も読むのをお控えなさってください。

 それでは、どうぞ。


 ネタ① (彼女を)スパークル(するもの)

 

 昨日はいつものように帰宅し、いつものようにお風呂に入り、いつものように食事をとり、いつものように床に就き、いつものように眠りについたはずだった。

 

 なのにどうして、目が覚めたら全く見覚えのない部屋にいるのだろうか?

 

「……どこ、ここ……?」

 

 そう呟く私の問いかけに答えてくれる人は、少なくともこの部屋にはいなかった。いや、すやすや気持ちよさそうに眠っている人間は一人いた。それも私の腕の中に。

 

 見たところ5,6歳くらいの少女が私の腕の中で寝ているが、いつ入り込んできたのだろうか。いや、目が覚めたら知らない場所にいることにくらべれば、それは些細な疑問だ。

 それ以上に私がこの少女を見て驚いたのは、彼女の顔が異常なほど私にそっくりなことだ。長い黒髪という共通した特徴を除外してみても、きっと10人中9人は瓜二つだと断言するくらいには似ているはずだ。私の昔の写真を持ってくれば、そこにはこの子にそっくりな少女が写っているだろう。

 

 一体なぜ自分がこんな状況に置かれているのか、さっぱり理解できない。夢かと思って頬を抓ってみても痛いだけだし、昨日はアルコールを一切摂ってないから酔っているわけでもないだろう。じゃあ、やっぱり誘拐とかだろうか。でもなぜに少女が腕の中に?

 

 そんなふうに、自分がここにいる原因を推察していると、腕の中の少女が身じろぎして、目をパッチリと開いた。

 あ、瞳の色は私と違って灰色なんだなー。そんなことを思っている私に、少女は笑顔を浮かべて言葉を発した。

 

「おはよう、お母さん」

 

「……は?」

 

 目覚めてから回り続けていた私の頭脳が、彼女の言葉を聞いて一時停止するのを私は確かに感じた。

 

 

 

 

 

「あー……どう? おいしい?」

 

「うん。おいしいよ、お母さん」

 

「あー、うん。それはよかったなー……あははは……」

 

「……お母さん、起きてからずっと様子がおかしいけど、どうしたの?」

 

「え!? う、うん。お母さん、ちょっとまだ寝ぼけてるみたい。少し待ってくれればいつもの調子に戻るよ?」

 

「そっか! よかった!」

 

 解せぬ、というのはこういう状況を指す言葉なんだろうなー、とか思いながら、私の『娘』らしい少女、『青葉理紗』と私は話している。

 

 お母さん、と言われて停止してしまった脳みそをなんとか再稼働させ、自分が母親だったらすることリストを脳内でたたき出し、なんとか母親らしく演じることができた。

 ……なぜ自分がそんなことをしたのかはよく分からないが、自分を『母親』として認識しているこの少女を傷つけたくなかったんだろうと自己完結しておこう。

 

 さて、彼女が朝食をとっている間に軽く状況をまとめてみよう。献立表が冷蔵庫に張り付けてあったおかげで、この少女に怪しまれることなく料理ができたのは幸運だった。

 

 まず最初に、昨日家で就寝した後、眠っている間に、私は見知らぬ場所に運び込まれただろうということ。

 ここがどこなのか調べようとしてみても、身に着けていたのは笛の形をしたよくわからない物体だけで携帯電話やスマートフォンといった通信端末が見当たらないのだ。

 

 第二に、この少女のこと。

 当然のことながら、私は『理紗』という名前の子どもを養子にとった覚えなんてないし、ましてや出産した覚えもない。にもかかわらず、どうしてこの少女は私を『母』と呼び、慕ってすらいるのか。

 直観だが、この少女のことと私がここにいることとは無関係ではないだろう。

 

 第三に――これが一番重要かもしれない――()()見たこともないような技術が使われた物がこの部屋にたくさんあること。

 朝食に使う食材を使うときに気が付いたけど、この家にある冷蔵庫は、一見よく見慣れたものと同じものに見えるが、ちょっと調べてみると私が知っているもの以外の技術が使われて作られたことがわかった。

 一応私だって一人の科学者だ。化学、物理学、数学などの基本的な知識は頭の中に入ってるし、既存の技術かどうかは少し調べてみれば分かることだ。よっぽどひどい思い違いをしていなければ、ここにある家電製品に使われている技術は私の知らないものばかりなのだろう。

 

 ……だめだ、頭が痛くなってきた。目が覚めたら見知らぬ場所で、見知らぬ子に母と呼ばれ、見知らぬ技術を見る羽目になるとか、どうして想像できるのよ……。

 もうやだ、帰ってピクミンやりたい。……あ! そういえばピクミンはどうするの!? ここで買えるの!? ここでプレイできるの!? ゲーム買うためのお金は!? ここは日本なの!? それとも外国なの!? そもそもここは地球のどこかなの!? もしかして別世界とかなの!? じゃあピクミンのゲームなんて存在しないの!!??

 

 ……ああああああああ~……もうやだぁ~……。帰ってピクミンやりたいよ~……。ドドロでピクミン増やしまくりたいよ~……。

 

 まさかのピクミンをやれないという絶望に沈む中、リモコンのボタンを押す音が聞こえ、理紗ではない誰かの声が聞こえ始また。

 ああ、理紗がテレビの電源をつけて、ニュースでも見てるんだろうなー……とか思っていると、失意の中にあるにも関わらず、私の脳みそは現状に対する情報を少しでも集めようとニュースの内容に耳を傾け始めた。

 

『昨日の正午ごろ、首都クラナガンで魔導師による乱闘騒ぎが起きました。

 乱闘に参加した魔導師の数は5人で、どうやら些細な喧嘩がエスカレートしてしまったようです。

 幸いにも、近くにいた管理局の魔導師たちとピクミンのおかげで被害は少なく――』

 

 ――そして私は、気づけば外に飛び出していた。

 

 

 

 

 

 走る。私は走る。どこへ向かうべきなのか頭では分かっていないのに、心がそれを理解しているかのように私は()()へ走っている。

 

 

 

 ――いつも私は、画面の向こうにいる彼らを眺めることしかできなかった。

 

 

 

 速度、時間、距離。どれをとっても、自分の限界を超えて走っていることだけは確かだ。それにもかかわらず、私の体は息切れを起こしもしなければ疲れを感じもせず、足はなお走ることをやめようとしない。

 

 

 

 ――いくら私が彼らに指示を出すことが出来たとしても、彼らに触れることは決してできないのだと思っていた。

 

 

 

 自分の体が想像以上にタフなことに対する驚きを覚える暇もなく、私は走りつづける。ずっと会いたかった彼らに会うために。

 

 

 

 ――ああ、神様。もしあなたがいらっしゃるのなら、私はあなたに心から感謝します。

 

 

 

 視界の右端に建物が映り、何かの練習場のような広場が映り、そしてそこにいるたくさんの()()を見つけたとき、私の体に明らかな異常が起こった。

 

 

 

 ――例えここが私のもといた世界じゃなくても、彼らに出会える世界に送っていただけたのですから。

 

 

 

 今まで全速力で走ってきたというのに、黒い光が足を包んだかと思うと、足にこれまで感じたことがないほどの力強さが宿り、それまでの3倍以上の速さで彼らのもとへ走っていくことができたのだ。

 

 

 

 ――ああ、神様かもしれないし、ほかの誰か、何かかもしれない。

  もしかしたら悪魔かもしれない。

  それでも、ありがとうとしか言う言葉が見つからない。

 

 

 

 向こうが私を知らない可能性すら考えず――むしろ知っている方がおかしいのかもしれないが――私は彼らに向かって、思いっきりの愛情をこめてダイブした。

 

 

 

 

 

 ――だって、決して会えないけど、ずっと会いたいと思っていたピクミンに会えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、この小説の主人公は……

 

「前世の私と……入れ替わってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 

 

 

 

 つまり、青葉理央(前世)⇄青葉理央(今世)の入れ替わりネタでした。

 

「前前前世からずっと、ピクミン大好きやったよ……」

 

 

 

 

 

 ネタ② 似た者同士……?(時系列的には理紗と出会う前くらい)

 

 最近、秘書がついた。……何を言っているのかわからないと思う人がいるかもしれないので、分かりやすく説明しようと思う。

 

 実はこのところ、ピクミン関連の書類仕事が増えてきて、ろくにピクミンと接する時間が取れなくなってきたため、中将にJI☆KA☆DA☆N☆PA☆Nという名の脅迫……もとい、お願いをしたところ、ようやく秘書官をつけてもらえることになったのだ。

 

 正直もっと早くにつけてもらいたかったのだが、なんでも私の事務能力が非常に高く、作業量が多くても単独で処理できているからという理由で必要ないと思っていたらしい。

 ふざけんな。たとえ一人で処理できたとしても、勤務時間を全部消費してやっと終わらせられる量をやらせるな。ピクミンと触れ合える時間が無くなるじゃないの。

 ……そこ、「仕事全部終わったら、余った勤務時間は遊んで過ごしていいわけじゃないんだぞ」と言いたそうな顔しないで。そんなの私が一番わかってるけど、ピクミンは日が出ている間しか(基本的には)オニオンの外にいられないんだからしょうがないじゃない。

 

 そんなこんなで、一般局員M・Mさんが私の秘書官としてやってきたのだった。

 

「初めまして、今日からアオバ一等陸佐の秘書官を務めさせていただきますM・Mです。

 よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします、M・Mさん」

 

 ちょっと違うかもしれないけど、最初の挨拶はだいたいこんな感じだったと思う。M・Mさん(プライバシー保護のため、イニシャルで名前を記す)は私よりも6歳ほど年上だけど、魔導師じゃない一般局員であるため、小娘の私よりも階級は低めの女性だ(精神年齢についてはこっちのほうが上だろうけど)。

 ちなみに、私は年上の相手に対して、階級が自分の方が上でも基本的に敬語を使う主義の人間である。ただしクロノ・ハラオウン、てめーはダメだ。あの男は、個人的に敬語を使いたくないタイプなのだ。

 

 その話は置いといて、M・Mさんが秘書官になってくれてからは、私一人が書かなきゃいけない書類の量が一気に減ってホントに助かった。おかげで仕事を早めに終わらせて、ピクミンとの時間をたっぷりとることができるようになった。感無量です。

 ……たまにポンコツになることもあるけど、基本的には優秀な事務員さんで良かったと心から思っている。

 

 ……ただ、ときたまポンコツになる以外にも大きな欠点が、彼女にはあったのだ。

 

 

 

 

 

Case.1 タキニウムが不足している場合……

 

 

 

 

 

「……タキくん、タキくん、タキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキくんタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンtkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkntkkn……」

 

「……またか……」

 

 彼女、M・Mさんは、重度の彼氏依存症なのだ。

 例えば、予定以上の仕事を押し付けられ、帰る時間が少しでも遅くなると、彼女はこんなふうに壊れてしまい、「虚ろな目で仕事をしながら愛しい人の名前を口走り続けるマシーン」と化してしまう。

 そして仕事が終わるや否や、心が体を追い越すような速さで退社するのだ(管理局は会社じゃないけど)。

 これなんかは軽い方で、さらに悪化した場合、仕事することもやめて彼氏の名前をブツブツ呟くだけになったり、髪を結っている紐(本人はそれを、組紐だとか呼んでた)をいきなり手に取り、なぜか匂いを嗅いだりするのだ。

 

 正直言って、引くなんてレベルじゃない。怖すぎる。ヤンデレっていうのは、こういう人のことを言うんだろうなぁーとしみじみ思った。

 

 以前彼女に、その彼氏とやらの写真を見せてもらったことがあったけど、まあイケメンだなと思ったくらいで、どうしてそこまで彼に心奪われることになったのか、私にはさっぱり分からない。というか理解しちゃいけない領域だと思うの。

 ……まあ、恋愛の経験なんてない私が、恋する乙女(年齢的にギリギリ?)のことを理解しようとするのがおかしい話なのかもしれないけど。

 

 そんなこんなで、仕事がたくさんたまる日には、秘書官の(彼氏に対する)ヤンデレ化という、今までとはまた違った意味でストレスがたまる羽目になった私なのであった。

 ……いや、いつもはだいぶ早めに仕事を終えて帰宅させているけど、本来の定時を迎えるころにはこうなっているから、もしかして前の部署ではいつも仕事終わりにはこんな感じになっていた……? まさか問題児を押し付けるような感じで私のところに異動させた!?

 

 うっわ! 信じられない! あのひげダルマぁ……! 私のことを何だと思ってるんだ! 

 頭きた! 電話で少し文句言ってやろう!

 

 もしもし! レジアス中将ですか!? 少しお尋ねしたいことがあるんですけどねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼女と似た者同士って、どういうことですか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case.2 ピクニウムが不足している場合……

 

 

 

 

 

「……ピクミン、ピクミン、ピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmnpkmn……」

 

「……ハア、またなの……? ほんっとに、この人は……。ピクミン好きすぎやろ……」

 

 ああもうだめだかれこれ5時間32分18秒もピクミンに会えてない鬱だ死のうWhy?なんでこんなに仕事があるのなんで私はピクミンに触れ合えないのなんで世界はこんなに私に冷たいのああくそ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だこんなの夢だ悪夢だ目を覚まそう目を覚ましたらきっとピクミンが目の前にああそうだピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case.3 タキニウムおよびピクニウムが著しく不足している場合……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……タキくん……。

 

――……ピクミン……。

 

 

 

 

 

――……タキくん、タキくん。

 

――……ピクミン、ピクミン。

 

 

 

 

 

――タキくん、タキくん、タキくん、タキくん。

 

――ピクミン、ピクミン、ピクミン、ピクミン。

 

 

 

 

 

――タキくん、タキくん、タキくン、タキクン……

 

――ピクミン、ピクみン、ピkuミン、piクみn……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクン

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タキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクン

タキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクン

タキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクンタキクン……

 

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ピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミンピクミン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          「タキクン/ピクミン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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タキクンピクミンタキクンピクミンタキクンピクミンタキクンピクミンタキクンピクミン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※数十分後、早急にタキクンとピクミンが彼女たちのもとに手配され、タキニウム及びピクニウムの摂取により精神が安定状態に戻りましたので御安心ください。

 

 

 

お☆し☆ま☆い




 自分、クリスマスイブの朝になんてもんを投稿してるんだろう……と、書き終わった後で思いました。

 ちなみに前書きのPKMNは、P(ポンコツ)K(かわいい)M(Mさん)N(なの)の略です。ピクミンではないです。こじつけですね、ハイ。すみませんでした。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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短編の章(~Strikers)
一応の設定集


 一応オリ主やピクミンに関する設定をこちらの方に載せておこうかと思います。あくまで設定しか載せておりませんので、本編にしか興味がないという方はご覧にならないようお願い申し上げます。

2016/3/12 修正しました。


-青葉(あおば) 理央(りお)-

 

 この小説の主人公。特典として前世に自分が愛してやまなかったゲームに出てくる『ピクミン』と、それに関する諸々を転生前に出会った女神にもらって『魔法少女リリカルなのは』の世界に神様転生した。身長は165センチメートルで、黒髪黒目の典型的な日本人的な容姿だが、顔は端正でスタイルもそこそこである。

 

《経歴》

 前世の彼女は、その世界で歴史上最高の科学者として非常に有名だった。大学在学中にも多くの発明をし、教授たちの度肝を抜いたのだった。大学卒業後はその本領を発揮し、多くの発明で温暖化や砂漠化などの地球の環境問題を解決していった。彼女の当時の助手いわく、「エジソンを軽々と飛び越える」ほどの天才らしい。しかし本人にはあまりその自覚はなく、あと10年や20年すればこんな技術ぐらい発見されるだろうと思っている。むしろ『ピクミン』のゲームを作った人たちのほうがよっぽど天才だ、とさえ思っている。(ピクミンLOVEな人だからしょうがない。)しかし、人類史上最高の天才といわれた彼女も、とある出来事により死亡してしまった。(ここについてはまだ表記できない。)享年33歳であった。

 

 転生した後の彼女は、神の仕送りやデバイスの中の変身魔法などをうまく使いながら、若返った体の年齢に見合った生活を送っていた。その生活の中で、ピクミンを増やしたり成長させたりするほか、自分自身も体を鍛えたり魔法の練習をしたりして、なにか面倒ごとが起こった時に対応が取れるように用意をしていた。そんな生活の中でも、ピクミンたちとの交流を楽しんだりしていた。

 

 原作におけるPT事件や闇の書事件にも参加したが、ここら辺はまだ詳しい部分はどうするか決まっていないので省略する。

 

 小学3、4年生のころ、一つの進路先として管理局を検討し、そこで地上本部の悲惨な現状を知り、ミッドチルダ地上本部に入局した。ピクミンを戦力として地上本部に貸し出ししたことにより、首都クラナガンの治安は一気に良くなったため、当時のクラナガン市民や地上本部の局員たちからはすでに英雄として見られていた(ただし、理央自身の戦闘能力などは高くなかったので、エースやストライカーとしては認められなかった)。さらに、とある事故(?)によりピクミンの数は100億以上になったため、ミッドチルダ全体にピクミンという戦力がいきわたるようになった。このため、理央はせいぜいクラナガン限定の英雄から、ミッドチルダ全体の英雄、『七色の英雄』としてミッドチルダに住む人々から尊敬されるようになった。

 

 高校3年までは、緊急事態を除き休日や平日の放課後でしか地上本部での仕事をしていなかったが、高校卒業後は本格的に地上本部に勤務するようになった。今ではピクミン専門総司令官にしてピクミン指揮専門特別教導官としてミッドチルダで活躍している。ちなみに、19歳現在(Strikers開始前)の時点での階級は一等陸佐である。(そろそろ准将に昇格とのうわさも……?)

 

《人柄など》

 冷静な性格である。また、前世が科学者だったためか、合理的な考えも持ち合わせている。少し冷めたような印象も見受けられる。しかし、精神的に傷ついた子供に対しては自分の知識や経験を用いて何とか立ち直らせてあげようと行動するぐらいには人情を持っている。

 

 ピクミンに対して異常なほどの愛情を持っており、前世からピクミン関連のことで暴走することがたびたびあった。そのさい、前述した冷静さやら合理的な考えやらは吹き飛んでしまう。ただし、ピクミンの利益になりそうなことに関しては、自分の頭脳をフルに使うこともよくある。今やピクミンは『家族』だと感じている。

 

 次元航行部隊、通称“海”を優遇し、地上部隊、通称“陸”の存在を軽視する管理局上層部に対しては批判的な考えを持っている。各管理世界で犯罪が起こった時に“陸”が即対応できるようにするためにはそれなりの魔導師と予算が必要なのに、それらが不足するほど“海”の方に優れた魔導師や潤沢な予算を割り当てるのはおかしい、各次元世界の治安維持を軽視していると考えているからである。この考えは、理央が地上本部で働く大きな要因にもなった。

 

 また、ほとんどの場合、魔導師のみが戦力とされる管理局の体制にも不信感を募らせている。生まれつきの資質によって大きく変動する戦力は安定的ではなく、危険を招く可能性もあると考えているからだ。なので、こっそりと魔導師自身の資質に頼らない、デバイスに近いタイプの新たな魔導兵器の開発を独自に進めている。

 

《能力》

 主に、呼んで集める、一斉に攻撃させるなど、ピクミンを指揮することに長けている。女神からもらったデバイスの補助もあり、彼女一人でも最大1億のピクミンを指揮できることが判明している。場合によってはこれからも伸びる可能性がある技能である。

 

 彼女単体の戦闘能力としては、魔力にあまり頼らない近接戦闘を得意としている。ただし、それはストライクアーツやボクシングのような格闘技に基づいたものだからではなく、単純に腕から繰り出されるパンチが強力なものだからである。ピクミンを投げたり引っこ抜いたりすることを繰り返ししてきたおかげで腕の筋肉が発達しているからである。自分の魔力をまとわせただけのパンチならガジェットⅢ型の装甲を貫くことができ、デバイスの身体強化の補助魔法によって強化されたパンチなら聖王の鎧を一時的に破壊することも可能である。(本人曰く名前は【理央パンチ】。)

 

 ほかの攻撃魔法や防御魔法、捕獲系魔法にいたっては全くの才能がないといっていいほど使うことができない(愛用しているデバイスが笛型というのも一つの理由かもしれないが)。変身魔法、補助魔法、結界魔法、移動魔法も、デバイスがないと発動させることができない。ただし、ピクミンを連れている場合には魔改造された【ピクミンつながり】を攻撃手段として使うことができる。

 

 また、ある程度それぞれの魔導師の能力を把握していれば、ピクミンではなくても、彼らに適切な指揮を出せるので普通の指揮官としての能力もそこそこある。

 

《所有デバイス》

 女神からもらった笛型のストレージデバイスを長年使用している。名前は『ドルフィン』。名前の由来は『ピクミン』に出てくるオリマー愛用の宇宙船『ドルフィン号』と、『ピクミン2』でオリマーたちをサポートする『ドルフィン初号機』である。ストレージデバイスなのでAIはなく、返事も『OK,captain.』としか答えられない。オリマーたちの使っている笛と同じ形、色である。いくつもの補助魔法、結界魔法、移動魔法や変身魔法のほか、ピクミンたちに指揮を出すための特殊な魔法『指揮魔法』が登録されている。

 

 さらに、理央の要望により『ピクミン2』に出てくる『探査キット』の機能も持っている。(たんけんねぶくろ、ロケットパンチ、ダッシュブーツ、メタルスーツZ、フレア・ガード、アンチ・エレキはバリアジャケットを展開したときに機能が働く)。ちなみにバリアジャケットはコードギアスに出てくるゼロの衣装から仮面を取り除き、黒ベースから白ベースにしたような衣装である。(前世、理央がコードギアスのアニメのゼロの服装をたまたま見て「あ、これ機会があったらきてみたいな」と思った結果がこれ。)

 

-ピクミン-

 

 理央の特典として女神にオニオンともども生み出された存在。特典なので、ある程度の強化や設定の変更などがされている。

 

《全体》

 理央にあった大きさになっている。足の先から葉っぱにかけて、大体のピクミンの身長は140センチ、紫ピクミンは155センチ、白ピクミンは120センチ、羽ピクミンは80センチほどである。

 

 通常は地上に100匹しか出すことができないが、理央が19歳の現時点で合計100京匹出すことができる。しかし、実際にいる数を考えると、出せるのは100億匹程度になる。

 

 ピクミン1匹1匹の体内には、この世界において基本的な『力』として用いられている『魔力』を使うためのリンカーコアが存在する。その魔力量はランクにするとBぐらいだが、これはあくまで葉っぱピクミンの時のもので、蕾ピクミンになるとB+、花ピクミンになるとA-、さらに花ピクミンの状態でゲキカラスプレーによって興奮状態になるとA+にまで上昇する。指揮者の指示によって魔法を使用する。また、集団になって同時に魔法を使うことで、よりランクの高い魔法を使うことができるようになる。

 

 また、相手を直接叩いて攻撃する時は、相手が人間だったり、指揮者が非殺傷にするよう指示した場合には非殺傷設定が付いた攻撃になる。

 

《赤ピクミン》

 炎熱変換の資質を持ち、魔法を使うときは魔力を炎に変換して魔法を使う。また、原作と同じくどんな炎にも耐えられる。直接攻撃する上では一番の攻撃力を持つ。

 

《青ピクミン》

 今のところこのピクミンしか使えない、独特の変換資質“水”を持つ。どちらかというと攻撃のために魔法を使うことよりも、火事を消すために魔法を使うことが多い。ピクミンの中で唯一水の中で呼吸ができるので、水難救助をすることで動員されることも多い。

 

《黄ピクミン》

 電気の変換資質を持ち、魔力を電気に変換して使用する。こちらも原作と同じく、電流が体に流れてもノーダメージであるだけではなく、葉・蕾ピクミンから花ピクミンに成長する。停電などが起こった地域に大勢で向かい、復旧するまで電力を補う役割も持っている。こちらも電気の攻撃は効かない。

 

《紫ピクミン》

 ほかのピクミンと比べ、このピクミンが使う攻撃魔法には特徴がない。しかし、紫ピクミンに魔力をまとわせて、直接投げて攻撃すると、AAランク相当の防御魔法でも1回で破ることができる攻撃になる。また、ほかのピクミンより重いものを運べる。ただし足はほかのピクミンよりも遅い。

 

《白ピクミン》

 こちらも攻撃魔法にはこれといった特徴はないが、それとは別に毒を精製することができ、その毒を自動的に魔力を使って非殺傷設定にしてから放出することができる。また、レーダーのような赤い目で地面に埋まっているものを探すこともできる。いかなる毒にも耐えることが出来る。足も他のどのピクミンよりも早い。

 

《岩ピクミン》

 魔力を自動的に全身にまとっており、AAランクの殺傷設定の魔法をくらっても死んでしまうことはない。攻撃魔法に特に特徴はなし。集団で防御魔法を使わせると、非常に強力な防壁が展開される。数によっては、スターライトブレイカーも防げる。

 

《羽ピクミン》

 ほかのピクミンより攻撃魔法の威力が格段に低いため、あまり戦闘向きではない。しかし空戦魔導師に対抗する上で一番有効なピクミンなので、いざ戦闘というときは大勢で攻めさせることが多い。また、羽ピクミンに運んでもらうことで、空戦適正のない魔導師でも空を飛んで戦うことが一応可能である。

 

《オニオン》

 原作にない紫、白も含めて各色1色ずつある。ちなみに形状は『1,2』の時のものに類似している。こちらも原作に沿っているとだけ言っておこう。

 

-とある無人世界-

 

 理央がピクミンを育てるための場所として女神が用意した世界。管理局では無人世界として認知されている。ドルフィンの中にはここへの移動魔法があらかじめ登録されていた。移動手段はそれくらいしかない。ここの世界には、ピクミンとオニオンに理央、さらに理央が許可したヒト、モノしか入れない様に女神が細工している。

 

 最初に転送された場所にはヤマシンジュやペレット草、それにタマゴぐらいしかないが、別の場所にはちゃんとほかの原生生物たちがいる。大体の地形は原作に類似している。




 これはあくまで現段階での設定なので、必要によっては変更されたり追加されたりすることがありますのでご注意ください。つまらないものでしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。


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たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生

 初投稿です。駄文です。無駄に長いです。オリ主です。チート?です。正直、それほど原作に詳しいわけでもないので、独自設定も入ってしまうかもしれません。そういうものに不快感を覚える方は、どうぞご遠慮ください。それでもいいという寛容な方のみご覧ください。

2015/11/30 修正しました。
2016/03/12 再び修正しました。
2016/04/07 読者の方からのご指摘を受け、効果音を消したりなどの修正をしました。
2016/09/14 改行などの修正を加えました。
2016/10/23 誤字報告を適用しました。


 時空管理局。数多の次元世界を管理するための組織である。

 旧暦の時代、最高評議会とよばれる人物たちによっておよそ百年前に設立されたこの組織は、次元航行艦船や魔導師による武装隊などの戦力を有する強大な組織として知られている。

 

 そんな時空管理局は大きく二つの勢力に分かれており、そのうち次元航行艦船を所有し、多くの次元世界を行き来しているのが次元航行部隊である。

 次元航行部隊は、次元の海におかれた本局を本部としており、各次元世界に散らばるロストロギアの回収や次元犯罪者の逮捕など、次元世界での活動を主としている。そのため、もう一つの勢力である地上部隊よりも上層部に優遇されており、地上部隊の数倍の予算が割り当てられているほか、高レベルの魔導師が集中的に所属している。

 

 これは、ロストロギアの危険性や時空航行艦船にかかるコストなどを考慮すれば当然のことかもしれないが、そのせいで上層部に軽視され、予算・人員などが不足している地上部隊からしてみればたまったものではない。

 特に、時空管理局設立の地であり、本拠地であるミッドチルダの地上部隊の本部、通称ミッドチルダ地上本部のトップはこの問題に頭を悩ませていた。

 

 時空管理局の本拠地、つまり事実上、時空管理局の管理下に置かれた次元世界の統治世界であるミッドチルダでは、時空管理局のやり方に反対するテロリストやらがよく事件をよく起こすのだ。

 それだけならともかく、ミッドチルダの魔法技術はほかの次元世界よりもずっと発展しており、魔法を使うための魔力を精製するリンカーコアの保持者および魔導師も数多くいる分、魔法を使った犯罪も頻繁に起こるのだ。

 

 管理外世界とされる地球では、銃などの武器や人員をそろえることで、増える犯罪の数に対抗することができる。

 しかし時空管理局は、銃や剣などの武器のほか、ミサイルや爆弾、核兵器などの兵器を質量兵器として、管理世界での使用を禁止している。これは、旧暦の時代では、これらの兵器は世界を滅ぼすほど危険だったとする最高評議会の考えを反映した管理局の法律である。

 

 そのため、地上本部はわずかな、本局の魔導師と比べてずっとランクが低い魔導師たちで事件に対処しなければならなかった。

 局員のほか、民間人にも犠牲者が出てしまう事件が、たびたびミッドチルダ、特にその首都であるクラナガンで起こった。

 地上本部は何度も上層部に、高ランク魔導師の配属などの改善を求めたが、聞き入られることはなかった。

 こうして、上層部に優遇される次元航行部隊、通称“海”と上層部に軽視される地上本部、通称“陸”の間に確執は起こり、徐々にその溝は深まっていった。そして“陸”はクラナガンを中心として起こり続ける犯罪に、必死で対処していかなければならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう、「だった」のだ。とある魔導師が来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの首都クラナガンのとある住宅街にある一軒の家、その寝室でひとりの女性が目を覚ました。

 歳は10代後半にみえ、黒いストレートヘアーと黒い瞳から、彼女は日本人のように思われる。その容姿は決して悪くなく、顔だちは少し子供らしい面影を残しているが整っており、スタイルもなかなかのものだった。

 彼女は目を覚ますとすぐに布団から抜け出し、キッチンに向かい、朝食の準備を始めた。

 

 彼女の名前は青葉(あおば)理央(りお)。第97管理外世界「地球」出身の魔導師であり、ミッドチルダ地上本部の一局員として働いている。

 なぜ管理局の管理下にない世界の出身である彼女がミッドチルダで魔導師をしているのかというと、それは彼女の同い年の知り合いが深く関係している。

 

 彼女の知り合いである高町なのはは、小学三年生のときに、地球で起こったロストロギアによる事件がきっかけで魔導師となった。

 事件はロストロギアであるジュエルシードが、次元空間内の事故によって地球に落下したことから始まる。

 ジュエルシードの暴走体に襲われていたジュエルシードの発掘者、ユーノ・スクライアからインテリジェントデバイス、レイジングハートを受け取った彼女は、見事ジュエルシードを封印し、ユーノとともにほかのジュエルシードを回収していった。

 しかし、ジュエルシードを探し、回収していくほかの魔導師とジュエルシードをめぐり戦いが起きる。

 その戦いの途中、ジュエルシードが次元震をおこし、その反応を感知した管理局のL級次元航行艦アースラが地球に向かった。

 なのはとユーノはリンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウンを中心としたアースラメンバーと接触し、彼らと協力しながら事件を解決に導いていった。

 

 その際に、なのはの自宅近くに住んでいた理央にもリンカーコアがあり、魔導師としての適性があることが判明した。

 なお、彼女たちと同年代の男子二人も魔導師であることが分かった。彼らは魔力量だけならSSSランクに届くほどの才能があり、態度の差こそあるがジュエルシード回収に協力の意思を見せていたことから、リンディ・ハラオウンは彼らにも協力してもらうことにした。

 また、理央はあまり興味がなさそうだったが、リンディ・ハラオウンに言葉巧みに説得され、一応事件解決に協力することになった。

 こうしてジュエルシードによる事件、その名をPT事件は4人の魔導師によって解決に導かれたのだった。

 

 PT事件が終わった後しばらくの間は、なのはや理央たちは平穏な生活を送ることができたが、その年の12月にまたロストロギアによる事件に巻き込まれた。

 闇の書というロストロギアによって引き起こされたこの事件、闇の書事件も彼女たちのほか、管理局のアースラスタッフと前の事件でなのはと友達になったフェイト・テスタロッサに加え、闇の書の本当の姿である夜天の魔導書の守護騎士ヴォルケンリッターとその主である八神はやてによって解決された。

 

 これらの事件をきっかけとして、なのはや理央たちは地球出身にもかかわらず、管理局で魔導師として活動するようになった。

 ちなみになのはやほかの魔導師たちは本局勤務なのに対して、理央はミッドチルダの地上本部勤務である。

 理由としては、彼女の魔力量はあまり多くなく、「魔導師ランクが高い本局よりも地上本部のほうが、自分に合っている環境で働きやすいのではないか」という風変わりなものなのだが、実際エリートぞろいの本局で、しかも同年代で入るほかの魔導師は全員才能あふれているという状況で働くのは確かに気まずいものかもしれない。

 これに関してはなのはは残念そうな表情をし、リンディは難色を示したが、万年人手不足である地上本部は喜々として彼女を迎え入れた。

 

 そして理央は休日などに魔導師としての仕事を地上本部でしながら、学生として学業に励んでいたが、一年ほど前に高校を卒業してからは地上本部で本格的に仕事をし始めたのだ。

 ちなみになのはたちは中学を卒業してから本局で本格的な仕事を始めた(理央はそんな彼女たちの話を聞いて「私立の、それもエスカレーター式の学校に通っておいて中卒とか、何考えてんだよ」と思ったそうな)。

 

 そんなかんじで、地球出身の魔導師の理央は今や地上本部の一局員として頑張っているのである。

 

「………よし」

 

 理央はいつも通りに朝食を完成させ、「いただきます」と手を合わせてつぶやいてから朝食を食べ始めた。

 米を主食、味噌汁をスープとした日本風の朝食。地球からは遠く離れたミッドチルダに来ても、日本人の彼女はこういう食事をいまだ好んでとっているのである。

 

 食事も終わり、食器や調理器具を洗った後、彼女はパジャマから管理局の制服に着替えるため、自分の寝室に戻った。

 パジャマを脱ぎ、下着だけを身に着けた状態になる。そのまま制服を着ようとするが、ふと自分の体を見て、つぶやいた。

 

「……生まれ変わっても、あまり体型は変わらないのね」

 

 そう、この青葉理央はいわゆる神様転生なるものを体験したのである。

 

 前世の彼女は普通……とはあまりいいがたい人生を送ってきたのだが、それでも神様という存在や転生について説明されたときはさすがにキョトンとしてしまった。

 なぜ神様が理央を転生させたのかというと、端的に言うと彼女は善行を積みまくったので、としか言いようがない(詳しい話は長すぎるので省かせてもらう)。

 33歳独身で死んでしまった彼女は特に前世に未練を残したわけでもなく、記憶を持ったまま新しい人生を送れるのならと、転生することに決めた。

 

 ちなみに、前述した魔力量SSSランクの男の魔導師たちも神様転生した人物で、こちらは別の神のミスによって死亡してしまったため転生することになった(理央なら、「神様がミスするのってアリなの?」とあきれ返るだろうが)。

 

 神様転生した人間は主に、前の世界ではゲームやアニメなど物語の舞台とされた世界によく似た世界に転生される。むろんこの世界は、いうなれば『魔法少女リリカルなのは』によく似た世界である。

 しかし、あくまで()()()()()()なので、転生者の行動などによって、アニメなどとは異なる歴史を歩むことにもなりえるのである。

 

 それについては神様が教えるわけでもなく、転生した男の魔導師たちは自分の転生した町や知り合った人物の名前が、自分の記憶の中にある『リリカルなのは』の知識と一致したことから、自分はアニメの世界に転生したと思ったのである。

 しかし、理央は『リリカルなのは』を見ておらず、耳にしたこともなかったので、ファンタジーな世界に転生したとは思いながらも、アニメの世界に転生したとは微塵も思っていないのである。

 ただし、事前に『魔法』という存在については神様から丁寧に聞かされていたので、厄介なことに巻き込まれても、理央には心の準備はできていた。

 

 さて、神様転生した人間は、たいていは転生する世界が少々前の世界と比べて特殊なことから、神様から『特典』というものを能力としてもらっている。

 それは頑強な肉体だったり、天才的な頭脳だったり、たぐいまれなる幸運だったり、はたまたゲームやアニメに出てくるような超能力だったりする。

 男の転生者たちはそんなゲーム・アニメの超能力のほかに、魔力量SSSを特典としてもらっている。

 ただし彼らは神のミスによって転生するとはいえ、前世での行いはあまりいいものではなかったため、善行を積んだ理央がもらうべき特典よりは弱いものとして自動的に設定されている。

 

 そんな特典でさえ非常に強力なのだから、理央はもらった特典によって、魔力量が少なくても、とても強く、あるいは賢く、あるいは幸福で、あるいはそのすべてを兼ね備えているのだろうと思うだろう。

 さて、そんな彼女はいったいどんなふうに破格の存在であるかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんまり、そんなことなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筋力などは、確かに腕の筋肉などは目を見張るほど鍛えられたものであるが、べつに特典で強くしたわけではないし、そこまで怪力といわれればそうでもない。ただ、長時間の使用に耐えられるようにはなっている。

 そのほかの筋肉も、ほかの女性魔導師とあまり変わらない。空戦適正が彼女にはないので、足はそれなりだが、とくに特筆するべき点ではない。

 

 頭脳のほうも、確かに科学や数学といった方面に優れているが、それは前世が科学者であったり、魔導師であったりすることが主な理由で、これにも特典を使ってはいない。おまけに、ミッドチルダの魔法技術と地球の科学技術は全くの別物なので、前世の知識はあまり使う機会がない。

 

 運についても、住んでいる世界が少なくとも二度も滅びかけたので、むしろ悪いほうだろう。

 

 つまり、彼女は特典によって超人的な力を手に入れたかと聞かれれば、彼女自身は手に入れていないと答えるほかにないだろう。

 むしろ、転生者は神がいろいろと手をまわして生活できるようにしてくれるが、3歳という年齢で、親も兄弟も保護者もなしに転生しないといけないので、その分彼女は転生して損をしているともいえる。

 

 そんな彼女、青葉理央はいま、制服に着替え終えて、自分のデバイスを懐に入れ、家を出るところであった。

 彼女はふと、自分が転生したときに最低限の必要品としてもらった自分のデバイスを見つめる。ホイッスルのような笛のかたちをした、ストレージデバイス。待機状態でも起動状態でも同じ大きさのそれは、特殊な機能をもちあわせているとはいえ、やはり彼女の特典のすべてとしてふさわしいといったものでもなかった。

 しかし、もう10年以上も愛用してきたそのデバイス。転生した当時のことを思い出しながら、ほんの少し感慨深くそれを見つめた後、上着の内側のポケットにしまい、理央は家を出た。

 

「戸締り用心、っと」

 

 玄関の鍵を閉め、用心深く確認した彼女は、駐車場に停めてあるバイクにのり、ヘルメットをかぶって、彼女の勤め先である地上本部に向かってバイクを走らせた。

 

 自宅から地上本部へ向かう途中に見えるミッドの町並みはとても平和なものであった。

 子供たちは元気に、談笑しながら登校し、主婦たちは物干しざおに洗濯物を干して、今日はいい天気だといいたそうに青空を眺め、にこやかに笑っている。おじいさんおばあさんは散歩をしており、顔を合わせたら挨拶、そのまま昔話にはいることなどもあった。

 

(…変わったわよねぇ…)

 

 理央はそんな風景を見ながら、心の中でつぶやいた。

 

 頭の中はもう大人だとはいえ、まだ体は子供。二度目の人生はどういう進路を進んでみようかと思い、小学生の頃はいろいろと調べていた。

 前世と同じく科学者になるか、管理局員になるか、フリーの魔導師にでもなるか、選択肢はかなりあったので、様々な情報を集めてみた。もちろんミッドチルダや地上本部の情報も。

 そして彼女は知った、当時の地上本部の現状を。本局に優秀な魔導師を取られ、予算をとられ、疲弊している現状を。

 

 

 

 そして彼女は思った、これはないだろうと……。

 

 

 

 警察や軍隊の仕事である治安維持、裁判所の役割である法務執行などの機能を管理局が受け持っているのならば、次元世界の人々の安全を守るための地上本部には十分な戦力を備えさせる義務が、そして犯罪者を法の下、しっかりとさばく責務があるはずだと理央は思っている。

 しかし、上層部は地上部隊の重要性に目を向けることなく次元航行部隊ばかりを贔屓し、優れた魔導師もそちらにばかり回している。

 裁判に至っても、魔導師として本局で働くことができそうな人間には、あまり重い刑罰を与えられることはなく、むしろ前科がある人間にも関わらず本局で採用する傾向がある。

 

 理央はこの現状に頭を痛めた。地上の平和をろくに守る気がないんだったら、最初からそんなものを守らないで、別の組織でも作ってその組織に治安維持の仕事を全部委託しろよ、そんでもってそこから魔導師引き抜くなよ、と彼女は思った。

 裁判にいたっても、魔導師かそうでないか、優秀かそうでないかで裁判の判決が変わるんだったら、管理局の私利私欲が間違いなく関わっているんだから、どう考えても不当なものだろ、被害者やその遺族がいたらぶち切れるわ、とあきれ返った。

 

 確かに、裁判のほうは納得できない部分がかなりあるが、それでもフェイト・テスタロッサや八神はやてのような、一方的に加害者と言えないような被告人に関しては、罪が軽くなるのはまだ理解できる(完全に納得はできないが)。

 しかし、地上本部、特にミッドチルダの地上本部の戦力不足などについては全然納得できるものではなかった。地上の平和、ひいては人々の命を軽視するとは何事だ、と(元)大人として問い詰めたい気持ちになった。

 

 だからこそ自分は、地上本部で仕事をしたいと思ったのかもしれないな、少しでも地上の平和に貢献するために。理央はそう考えて、少し口の端をゆがませた。

 

 地上本部の現在の実質上のトップ、レジアス・ゲイズ中将は非常に優れた手腕をもつ人物だと彼女は思っている。

 彼は武闘派として本局に危険視される人物ではあるが、彼なりのやり方で、少ない地上の戦力で平和を守っていたのだ。彼がいなかったら、地上の犯罪による犠牲者はもっと増えていただろうと理央は考えている。

 アインへリアルも魔導師の戦力が不足するなかでは重要な戦力になるだろう。そもそも、魔導師のように個人の資質に頼るような戦力では心もとないのだ。その点では、安定的な戦力であるアインへリアルを導入しようとする中将は正しいのだと彼女は思っている。

 

 少し黒いうわさが絶えないが、まあそれもトップとしてはしょうがないことだろう、人々の安全を軽視しているような上層部よりは平和のため頑張っている中将のほうがまだましだ、と理央は考えている。

 まあ、黒いうわさがある以上妄信的になるわけではないが、と心の中で付け加える。

 

 なんにせよ、いまの地上では、10年ほど前と比べて犯罪の犠牲者はほぼゼロだといっていいほどに減少し、犯罪件数も減って治安も安定している。

 まあ、4年前の空港火災のような事故は起こるが、それでも安定しているほうだろう。

 

 ――そう、まるでなにか『大きな力』がはたらいているかのように。

 

 理央はふとバイクを止め、通りがかった陸士隊の駐屯所近くのグラウンドで訓練をしている陸士たちの姿をじっと見つめた。

 陸士たちは皆、地上の平和を守るため、人々の命を守るため、必死に訓練し、犯罪を防ぎ、事件を解決しようと頑張っているのだ。

 そんな彼らの姿を満足そうに見つめ、頷き、理央はバイクで走り去っていた。

 

 ――彼らの、そして自分の望む『平和』がこれからもずっと守られますようにと、願いながら。

 

 この10年間、地上は『平和』だった、まるでなにか『大きな力』がはたらいているかのように。本格的にでこそないが、

 

 『青葉理央が地上で魔導師として働き始めてからずっと、平和なのだ』。

 

 陸士たちは、理央が走り去った後も、元気な声を上げながら訓練を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元気な声を上げて、『ピクミン』たちに指示を出す訓練をしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、『ピクミン』である。

  

 あの、赤、青、黄の三色に、『ピクミン2』では紫、白が加わり、さらに『ピクミン3』では岩ピクミンと羽ピクミンが追加された、あのピクミンである。

 

 すなわち、青葉理央の『特典』とはピクミンに関するいろいろであり、決して『平和を守る能力』とか、そういった大層なものではないのである。

 

 しかも、原作のピクミンのような2~3センチメートルの体長ではなく、体格はそのままで、ちょうど130センチメートルぐらいの大きさなのだ。

 そんなピクミンたちに、陸士たちは自分の声とデバイスを使って指示を出し、ピクミンを使った訓練をしているのである。

 

 

 

 ちなみに、そのデバイスは、理央の持つデバイスの劣化コピーであり、オリジナルと同じ笛の形をしている。

 

 

 

 理央が神――このとき理央を転生させたのは女神だった――にこの特典を要求したとき、女神は「はい?」と思わずそう言ってしまったそうな。

 まあ、ゲートオブバ◯ロンやらアン◯ミテッド・ブレード◯ークスなどを要求されると思っていたのだから、当然といえば当然だった。

 

 『ピクミン』は理央が前世で初めてプレイしたゲームなのだが、そのときから理央はそのゲームの面白さにはまってしまった。

 限られた1日という時間の中でいかに効率的にピクミンを動かし作業を進めていくか。複雑な仕掛けを、手持ちにあるピクミンをどのように役割を分担させながら攻略するのか。

 それ以外にも、ボスなどの強敵に挑んだとき、一つ判断を間違えたら多くのピクミンをなくしてしまう結果につながってしまったことが、理央にとっては指導者の責任の重さなどの現実じみたことに直結しているように感じ、ショックを感じると同時に、「このゲームは大切なことを教えてくれる」と子供心に漠然と感じ取ったものだった。

 

 今思えば、このゲームで培われた、効率的なやり方を求める考え方や、判断を誤らないようにする注意力などが、のちに理央が科学者としての職に就くきっかけとなったのかもしれない。

 

 そんなこんなでピクミンというゲームが好きだった理央は、転生特典としてピクミンを、むろんそのままではいろいろと困ることがあるのでいろいろと改善、というか改造してもらうことを前提として要求したのだった。

 

 かつてそんな特典を要求した転生者はいたのだろうか?

 そんな特典を、至極真面目な顔をしながら要求する理央に、女神は体をわなわなと震わせながらこう叫ぶように答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッサイコーーーーですぅぅぅ!!!!!!」

 

 

 

 

 女神も、ピクミンが大好きだったのだ。

 

 

 

 

 

「でしょ!? サイコーでしょ!? ピクミン!!」

 

「はい! それはもう! すっごくいいです!!」

 

「後ろから100匹連れまわしながら歩くって爽快感とか覚えそうでしょっ!?」

 

「はい! サイッコーにハイってやつだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!な気分になれそうです!!」

 

「正直、ピクミン以外のほかの特典なんて、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!! な感じしかしないのよ!! 

 ピクミンこそが私の1番よ!! ナンバーワンよ!!」

 

「「同志よっっっ!!!!」」

 

 ガシィッ!と効果音が出そうなほど熱く抱擁を交わす二人のピクミンファン。

 残念美人だった。二人とも、かなりの美人なのだが、それを圧倒的に上回る残念ぶりであった。

 あまりにも熱くなって、どこぞの『世界』の名を持つスタンドを従える吸血鬼みたいになるほどの残念ぶりであった。

 

 しかしいくらピクミンが好きだといっても、原作通りに2~3センチの大きさにしてしまったら、どんなに数をそろえても「ぷちっ」とつぶされてしまう、そんなものをそのまま特典にすることはできない。

 なので、理央と女神の間で、ピクミンを特典として十分にふさわしいものとして設定しなおすための会議、その名も『ピクミン超強化会議』がおこなわれた。

 

「名前が少しダサいような……」

 

「こういうのはノリが大事なんですよ(^^♪」

 

 そしておこなわれたピクミン強化計画。ピクミンを理央に合わせた大きさにするのは当然のこと、転生する世界にある『魔法』もピクミンが使えるように決定され(ちなみに、理央が転生したら魔導師になるのは女神のほうですでに決めていた)、ピクミンを増やし、成長させるための場所についてもむろん用意された。

 そのほかにも、それぞれのピクミンが使える魔法の種類、ピクミンを指揮するための笛のデバイス化、さらにそれに組み込むべき魔法や『2』の探査キットについてなど、さまざまな議題が上がり、会議は5時間にもわたって続いた。

 その一部を抜粋したものがこちらだ。

 

「ゲキカラスプレーもやっぱり必要ですか?」

 

「当たり前じゃない、あれは戦術の切り札よ。あれがなかったら危ないときにどうすればいいかわからないもの。

 ……まあ、ゲキニガスプレーは魔導師とかにも効いたら、ほかの科学者とかに成分を分析されて悪用されるだろうから、いらないわ」

 

「それを聞いて安心しました。まあ、そんなことはしないと思ってましたがね。

 ピクミン1匹の保有魔力量はどのくらいにします?」

 

「うーん……。よくわからないけど、Bくらいあればいいんじゃない?

 それよりも、ピクミンらしく集団で魔法をつかうことによって、より強力な魔法を出せるようにしてちょうだい」

 

「わかりました! その辺は任せてください!」

 

「……ところで、『3』のオニオンについてどう思う?」

 

「え? あのミニトマトもどきのことですか?」

 

「あー……、やっぱりそう思う?」

 

玉ねぎ(オニオン)って名前なのに形がミニトマトになっちゃってますからね……。

 正直、前までのオニオンのほうが私はよかったと思います」

 

「うん。そーだよね」

 

 若干、作品についての批判も混じっていたが、何とか満足のいく設定を作り上げることができた二人だった。

 そして、ついに転生の時、つまり、二人の別れの時が来た。

 

「たった5時間くらいしか一緒にいなかったのに、なんだか寂しいわ。同志だからかしら」

 

「そうですね、私も寂しいです。

 でもあなたが次の人生でも善い行いをたくさんしたら、また会えるでしょうね」

 

「あら、その時はまた転生させてもらえるのかしら?」

 

「いえ、その時は神様見習いになってもらいます」

 

「……は?」

 

「実は、人間が善行を積み、人々に感謝されると、その感謝の念がその人の魂の持つエネルギーに変換され、その人の魂の格、とでもいうべきものが高まります。

 転生するときは、その格に見合った特典しか、神は与えることができません。

 まあ、どんなものかは転生者が決めるのですが」

 

「……それで?」

 

「その魂の格がある程度高まると、特典が与えられなくても、肉体がなくても、魂、つまり精神体だけでいろいろな特殊能力が使えるようになります。その状態が神様見習いです。

 あなたは前世で大変善い行いをしたので、今でも神様見習い一歩手前なんですよ」

 

「(アレでそんなにねぇ……。)ちなみにあとどれくらいでその神様見習い?」

 

「道に迷ったおばあちゃんを交番まで案内するまでです」

 

「うわ簡単っ! せめて目的地までにすればいいのにっ! それでいいのか神様見習い!?」

 

「神様見習いは神の指導の下、いくつもの世界の崩壊を事前に防いだり、あなたのように善行を積んだ人間を転生させることを数百年おこなうことで、一人前の神になることができます。

 ……ちなみに現在世界の崩壊を防ぐための神は不足しているので、拒否権はないですよ(^^♪」

 

「……要するに、神様の数が少なくていくつもの世界が危険だから、善人を記憶を持ったまま転生させて魂の格を上げさせたり、神様見習いを増やしたりして神様の数を補充していって、問題を解決していきたいのね」

 

「(さすがに話が早いですね……。)ごめんなさい、こんなことに巻き込んでしまって」

 

「いいわよ、別に。それでも記憶を持ったまま転生できるのは幸運なことでしょうし、自分の住んでいた世界が結局崩壊するのも嫌だしね。

 その代わり、次の人生はめいいっぱい楽しみながら長生きするつもりだけど、それでいいわよね?」

 

「……はい、もちろんです。それはあなたの当然の権利です」

 

「まあ、神様見習いになったとき、わたしの担当はあなたになるんでしょう?」

 

「ええ、そういうことになりますね」

 

「ならなおさら良かったわ。短い間だったけど、あなたとは話も合うし、一緒にいてとても楽しかったから」

 

「……理央さん……」

 

「また、必ず会いましょう」

 

「はい、必ず」

 

「ふふ……。そういえばあなたの名前をまだ聞いていなかったわね。教えてくれるかしら?」

 

「えへへ、まだ内緒です。次あった時まで楽しみにしていてください」

 

「はあ、わかったわ。…………じゃあ、またね」

 

「…………はい、また会うその日まで」

 

 こうして、青葉理央は女神と再会の約束をして、新たな生をうけたのだった。

 だが、彼女はこのときまだ知らなかった、自身の特典の強大さを……。

 

 

 それから彼女は転生してから6年後に事件に巻き込まれるまで、女神の施しによって金銭の問題には頭を悩ませることはないので、幼稚園と小学校に通いながら、残りの時間でピクミンを増やし、成長させ、もしトラブルに巻き込まれても大丈夫なように備えをしてきた。

 最初のうちは子供一人で住んでいるからか、市役所の職員などが家に来ることもあったが、デバイス内に登録してあった変身魔法と女神が事前に用意していた変身後の人物の戸籍などのおかげでうまくごまかしながら一人で生活することができた。もともと家事はできるので、理央はお金があれば一人での生活に問題はなかった。

 途中、近くの公園で寂しそうにしている女の子を元気づけるため行動したり、異常な髪の色で妙に顔の整った同年代の男の子を見かけることもあったが、いたって平穏な生活だった。

 また、ピクミンを投げたり引っこ抜いたりする習慣がこのころから続いているので、腕の筋肉は非常に強くなっていき、ピクミンを長時間投げたり引っこ抜いたりするのにも耐えられるものとなっていた。

 

 そして、PT事件に巻き込まれてからは、前述したとおり、魔導師になって地上本部で働き始めたのである。

 そのさい、ピクミンは当初、理央の個人戦力として地上本部に連れてこられ、彼女が事件を解決するのに必要な程度の存在だった。

 しかし、理央が女神からもらったデバイスにある、ピクミンを指揮するための機能を地上本部の技術部が不完全ながらも解析し、その機能が一部、だが十分に使える程度に搭載されたストレージデバイスを発明・量産することが可能となってからは、ピクミンは地上本部の戦力に大きく貢献するようになった。

 

 このデバイスをもった魔導師を指揮官として、ピクミンによる小隊がいくつも組織された。

 この小隊であれば、高ランク魔導師である犯罪者を相手に戦闘を行っても、ピクミンたちが使える合体魔法によって勝利を収めることがほとんどであった。

 また、火災などが起こっても、火に対して無類の強さを誇る赤ピクミンが被災者を救助し、普通の魔導師が持たない“水”の魔力変換資質をもつ青ピクミンが消火をするというように、災害救助に関しても非常に重要な役割を持つようになった。

 

 このようにして、青葉理央の特典である『ピクミン』は、地上本部が平和を守るうえで非常に重要な存在になったのだ。

 そして、いまや地上の低ランク魔導師たちはピクミン小隊をうまく指揮することによって地上の平和を守ることに大きく役立てるようになったので、多くの地上の魔導師たちはピクミン指揮の訓練を日夜おこなっているのである。

 

 ……なぜ地上に100匹しか出せないはずのピクミンでここまでできるのかと聞きたい人もいると思う。なぜならそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いま、ミッドには約50億のピクミンがいるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なにを言っているのかわからねーと思う人もいるだろうが、理央にはよーくわかっている。そう、『ピクミン超強化会議』で決めた強化の結果がこれだ。

 

 地上に出せるピクミンの数が100匹ではもしものときに少し不安だ、という理央の意見を受け、女神は地上に出せるピクミンの数を次のように決めた。

 

 

 もともと出せる100匹に、転生してからの年数分だけ10を掛け合わせた数にすると。

 

 

 つまり、転生してから1年がたったら、100匹×10で1000匹、2年がたったら100匹×10×10で10000匹地上に出せるというように、転生してから1年がたつごとに引き出せる合計が10倍になっていくのである。理央が転生してから16年経つので、単純計算で100京匹引き出せることになる。

 だが、もちろんそこまでピクミンの合計数が多いかというと、全く届かないので、ある意味その数は無駄に増えていっていることになる。

 しかし、これのおかげで、50億のピクミンを地上に下ろすことができるのだ。

 

 では、なぜ50億もピクミンを増やすことができたのかというと、少し説明が必要となる。

 

 転生した理央はいろいろと確認をしてしばらくした後、さっそくデバイスの中にある転移魔法を使って、ピクミンを増やすことのできる世界にワープした。

 そこでオニオンやピクミンを初めて見たり、触ったり、引き連れたりした時の理央の感動やはしゃぎっぷりは省略させてもらう。ちなみにこの時点で全色そろっていて、紫や白のオニオンも特典によって存在していた。

 理央はある程度落ち着いた後、ピクミンを増やすために周りの状況を確認したが、チャッピーなどの危険な原生生物はおらず、代わりに1や5、10や20など多種多様なペレット草がそこらへんに生えていた。しかもピクミンを増やしやすいようにか、『1』で出てきたヤマシンジュの姿も見られた。

 

 しかも10体も。

 

 理央ははじめて自分の手でピクミンを投げたり指示を出すのに悪戦苦闘しながらも、最初の一週間でピクミンの数を徐々に、しかし確実に増やしていった。

 そうしてピクミンの扱いにもだいぶ慣れ、かなりピクミンの数が増えたある日のことだった。そこら辺のペレットをある程度回収し、ヤマシンジュの真珠もすべて回収したので、さあ帰ろうかと転移魔法を使おうとした時、ふとポコンという音をきいたのでそちらを振り向くと

 

 ヤマシンジュの真珠が、できていた。

 

 は?と思いながらもその真珠をまた回収。するとほかのヤマシンジュの真珠もポコンと復活。それを回収したらまた……というふうに、その日で合計20個の真珠(ピクミン換算で1000匹)を回収した。

 後日、ヤマシンジュのこの謎の現象を解き明かすため、いろいろと調べた結果、ヤマシンジュは真珠を取られても1時間で真珠を再生させることが発覚した。このことを知った理央はこう思った。

 

(……まさか復活する時間って、実際のゲームの時間に基づいているのか……?)

※『ピクミン』の世界での1日は、現実での約15分ほど

 

 そういうわけで、1日で一気にピクミンを増やせることが判明してからは(元からそうだった気もするが)、ペレットと合わせて1日に2000匹も3000匹もピクミンの数を増やすようになった。

 そんな状態は少なくともPT事件まで続き、管理局に理央の存在と能力が知られたころには、ピクミンの総数は200万をゆうに超えていた。しかも一匹一匹は少なくともBランクの魔力量を持っているので、見方によっては(というかどこから見ても)非常に強大な軍隊に見えただろう。

 

 だからこそ、“海”の提督であるリンディ・ハラオウンはそんな強大な戦力を持つ理央が本局ではなく地上本部に行くことに難色を示し、どうにか本局に来るように説得したのだ。

 まあ、理央は「私は地上に行きたいから地上に行きたいんです。あなた方がどんなに説得してもその意志を変えるつもりはありません」と一蹴してしまったが。

 

 一方、地上本部はそんな戦力を連れてやってきた理央を大いに歓迎した。そして、ピクミンがほかの魔導師の指揮の下で働けるようになったときは、地上本部の当時の戦力不足を嘆いていたレジアス・ゲイズ中将たちは大いに喜び、動員できるだけのピクミンを使って、地上の犯罪の取り締まりなどを強化した(オニオンは小型化して持ち歩けるように設定しておいたので、楽々ミッドに持ち込むことができた)。

 

 200万を超える魔力量B以上のピクミンの働きはめざましかった。犠牲者を出さずに犯罪を解決する可能性が非常に高くなり、今までのように悲惨な事件によって出る犠牲者の数も大幅に減少した。

 問題点としては、夜はピクミンはその習性上オニオンにこもり犯罪解決に乗り出せないことがあったが、まあそれぐらいのもので、あとは夜勤の魔導師に任せるだけだった。

 それでもやはり夜に犯罪が急増することもあったので、レジアス中将はその対策として昼でも夜でも使えるアインへリアルの開発を進めているのだが。

 

 ただ、さすがにピクミンが200万いても、クラナガンを守るのが当時の精いっぱいだった。レジアス中将たち地上本部の幹部としては、クラナガンの平和を守るだけでもう十分だと感じていた。ただ、もうちょっとピクミンの数が増えて、ミッドチルダ中の平和が守れたらいいほうかなー、という風には考えていた。

 理央もそんな考えをあたまの片隅で持っていたが、現状のペースではさすがにミッド全体をカバーすることは無理にもほどがあるだろうと思っていた。むろん、レジアス中将たちもそう考えていた。あの日が来るまでは。

※ちなみに、日没になったら、理央以外の魔導師に引率されているピクミンたちも、無事にオニオンに戻ってくる。たとえどんなに離れていても、すごい速さで戻ってくる。普段絶対出せない、マッハの速度で戻ってくる場合もある。ナニソレコワイ

※ちなみのちなみに、理央はしっかり確認するのでそんなことはないが、回収し損ねたピクミンがいた場合、原生生物はいないので食べられて死ぬことはないが、翌日すごく冷淡な目で自分を回収し損ねた魔導師に執拗な攻撃を一日中加え続けるという。ナニソレコワイ

 

 ピクミン小隊がクラナガン中で活躍するようになったころ、ある小隊がロストロギアの違法取引をしている犯人を捕まえ、帰還しようとしたとき、ふと1匹の、犯人との戦闘中にフリー状態になったピクミンが、一つの小さな結晶を見つけた。

 それは犯人が持っていたロストロギアの一つで、ジュエルシードのような膨大な魔力が濃縮された結晶体だった。

 ピクミンはひょいをそれを持ち上げ、てくてくとどこかに向かって歩いて行ったが、小隊長であった魔導師は、そのことに気付かずに犯人を護送するのだった。

 

 一方こちらは地上本部のオニオン用スペース。ピクミンがオニオンに帰れるように、いつも理央はここにオニオンを置いているのだ。

 スペースは外の、土壌がある場所につくられており、そこは地上本部勤めの局員たちの休憩スペースでもあった。今は十数人の局員がそこで休憩を取っていた。(ちなみに、オニオンは『3』の合体式ではないので、1色につき1機?、合計7機?おいてある。)

 

「いやー、しかしちょっと前までは犯罪や事故の後始末に追われてろくな休憩も取れなかったのに、今ではよくこんなにゆったりとした時間を送れるよなー」

 

「ほんとだよ全く。ピクミンのおかげで犯罪者がバンバン捕まっていってるんだからだろーなぁ。

 ピクミンを怖がって、犯罪者たちもおちおちクラナガンで犯罪を起こそうとは思っていないんだろ」

 

「事故とかでもピクミンが大活躍だもんなー。

 特に火災と赤ピクミンの相性良すぎ。消防隊要らないんじゃね?」

 

「いや、それがな、リオ・アオバ曹長のバリアジャケットも赤ピクミン並みに耐火性に優れていてな。

 それの機能を応用した防護服を、今うちの技術部と各地の消防隊とで共同開発しているらしい」

 

「……リオ・アオバ曹長って、あの?」

 

「そう、ピクミンという、大多数で強力無比な戦力を地上本部にもたらした、あのリオ・アオバ曹長。俺たちよりずっと年下の嬢ちゃん」

 

「はー。やっぱスゲーな、あの嬢ちゃん。本人の魔力量は、俺たちと変わらないCなのに」

 

「レジアス中将なんて、あの嬢ちゃんが来る前までいつもどっかピリピリしていたのに、あの嬢ちゃんとピクミンが活躍し始めてからそんなこともなくなって、むしろニッコリとほほ笑むようにもなったらしい。……あの厳つい顔で」

 

「……ああ、ソレ俺見たことあるよ……。

 アレはそう、開いてはいけないパンドラの箱のような……ウッ、今思い出しただけでも……」

 

「オ、オイ!! 大丈夫か!!」

 

「ああ、大丈夫だ、問題ない。一番いい装備を頼む」

 

「何を言ってんだ? ……まあ、アオバ曹長とピクミンの恩恵を、今俺たちもこの休憩という形で受け取っているのは確かなんだけどな」

 

「そうだな、アオバ曹長さまさま、ピクミンさまさまだよな」

 

「しかもピクミンに給料いらないし。光合成でもしてんだかなんだかわかんないけど飯もいらないし。そこにあるオニオンでほぼ無限に増えるだろうし」

 

「まさにピクミンさまさま、いやピクミン大明神さまだな」

 

「そのうえいつの間にかうちのマスコットキャラクターにもなってるもんな。子供たちや女性に大人気らしいぜ、ピクミン」

 

「……え、ナニそれ初耳。あんな無表情で? むしろ怖いと思うんだけど」

 

「そこがまたいいんだってよ、うちの職員にもファンいるし。

 ほら、ゼスト隊のクイントさんやメガーヌさんもファンなんだぜ。近々、ピクミン指揮の訓練も受けるつもりらしい」

 

「あの人たち、ピクミンいなくても十分強いだろ……。

 むしろあの人たち前線向きなのにどうしてピクミンを指揮する側に回るんだよ……。

 どんだけピクミン好きなんだよ……」

 

「それだけ人気ってことさ。……ん? 噂をすれば……」

 

 一人の局員が赤オニオンに向かって歩いていく赤ピクミンの姿を確認する。それだけで彼は、ピクミンが何かをオニオンに運んでいるのだとわかる。ときどき、放置された生ごみやらをオニオンに運ぶピクミンの姿が目撃されているからだ。

 もちろん、それらを栄養源としてオニオンが新たなピクミンを生み出すことも知っている。最初はみんな生ごみから生まれたピクミンを忌避していたが、もうすっかり慣れてしまっていた。

 

 赤ピクミンに気付いたのは彼だけではなく、ほかの局員たちもにこやかに何かを運んでいる赤ピクミンを見守っている。その何かは、小さな宝石のようなものだった。局員たちが赤ピクミンを見てなごんでいる間に、赤ピクミンは赤オニオンの下にたどり着き、オニオンはピクミンを運んできたものを吸収した。

 

 

 直後、マシンガンがぶっ放された。

 

 

 は?と、周りの局員たちは、突然鳴り響いた、連続した何かの射出音に呆然とした後、質量兵器によるテロが起きたのかと思い至り、すぐパニック状態に陥った。

 しかし実際は、赤オニオンが吸収した宝石は実はさっきのロストロギア(魔力凝縮体)であり、あまりに大量のエネルギーだったので、とてつもない数のピクミンを生産しないといけなくなったことによって起こった出来事だったのだ。

 

 あまりにも大量すぎるエネルギーを吸収したので、早くピクミンを生産しないと内側からエネルギーが暴発して破裂してしまう。それを防ぐために赤オニオンは、ピクミンの種を一気に、まるでマシンガンのように地面に射出し続けることでピクミンを短時間で生産しまくったのだ。

 

 しかしそんなことつゆほども知らない局員たちは、赤オニオンがピクミンを生み出し終える2時間後までパニック状態になったままだった。(地面に勢いよく種が射出されたときの土埃で状況がうまく把握されなかったのも原因の一つだった)。

 ようやく騒動がおさまったころ、レジアス中将はこのピクミンを放置した小隊長とピクミンの総責任者である理央(本人は初耳)を自分の執務室に呼び出し、烈火のごとき怒りの怒号を浴びせた。

 

 そして、騒動の始末書を書かされることになった哀れな小隊長は退出され、部屋に残され、私、関係ないじゃんと内心愚痴ている理央にレジアス中将は話を切り出した。

 

「……リオ・アオバ陸曹長」

 

「……はい」

 

 理央はムスッとした表情を浮かべたまま返事をした。

 

「今回の騒動の一つの原因となったのは、ロストロギアの膨大なエネルギーを赤オニオンが吸収したことによって大量のピクミンが生み出されたことで間違いないな?」

 

「……そうですね。お話が確かならば」

 

「……ちなみに、この騒動でいったいどれほど赤ピクミンが生み出された?」

 

「……そうですね、私のデバイスの計測機能によると、約1億匹です。(”ひきぬきメガホン”がなかったら、引っこ抜くのに過労死するところだった)」

 

「……そうか……」

 

「…………」

 

「……実は、今回捕まえたロストロギアの違法取引を行っていた人物はな、“海”のほうでも追っていてだな。そいつとそいつが扱っているロストロギアは本来こちらの管轄だと“海”がのたまってきた。

 まあ、いうなれば手柄の横取りだな。まったく、“海”の連中はいつもいつも……」

 

「……それが、私がここに残された理由とどう関係するというのでしょうか?」

 

「まあ聞け。“海”のやつらが言うには、今回オニオンに吸収されたロストロギアと同じものを容疑者は100個ほども持っていたらしい。

 こちらが調査したところ、確かに奴のデバイスの中にはほかのロストロギアと同じようにそれらが収納されていたのを確認した。」

 

「…………(“海”のほうからもロストロギア喪失の責任を取らされ降格、あるいはクビ、最悪の場合逮捕になるって話になるのか……?)」

 

「それでだな、間違いなく犯人の取り調べのほうは奴らにとられることになる。それでそのロストロギアのほうだが…………」

 

「…………」

 

 依然として、理央はムスッとした表情を浮かべていた。

 

「『そんなものはない』と、奴らに『正直に』伝えようかと思う」

 

「……はい?」

 

 だが、レジアスのその言葉を聞き、キョトンとした表情になった。

 

「もうすでに売り払われたのではないか、とでも伝えればいいだろう。

 なに、実際に『ない』ものは『ない』んだ。『奴らが確認したとき』に『ない』のだったら、奴らもこちらを必要以上に追及しようとはしないだろう」

 

「……あの、レジアス中将? そのロストロギアは今こちらに『ある』のでは……?」

 

「『今』はな。……さて、話は変わるが、アオバ曹長。わしは首都クラナガンだけではなくこのミッド全体を、ピクミンによって平和にできないものかとつねづね考えていた」

 

「……はあ。(それと今回の事件にいったい何の関係がっ……!!? いや、まさか!?)」

 

「しかし、いかんせんミッド全体を守るにはピクミンの数は少なすぎる。今のペースではそれが実現するのは数百年も先になるかもしれん、『突発的な何か』で急増しない限りはな……」

 

 その瞬間、レジアスの周りの空気が変わった。心なしか「ドドドドドドドドドドド」という効果音が見えてきそうだ。理央も生唾を呑み込み、レジアスの次の言葉を待った。

 

「アオバ曹長、本局から事件の担当者が来るのは『四日後』だ。その日まで……」

 

「…………」

 

 

 

「全力でっ! ピクミンを増やせっ!!」

 

 

 

「だが断……じょ、冗談ですって! やりますって! だからそんな怖い顔しないでくださいお願いしますっ!!」

 

 

 

 

 

 その後、オニオンスペースでは三日間にわたってマシンガンのような音が鳴り響いたという。そこでリオ・アオバ曹長の姿を見かけたという職員もいたが、真実は定かではない。

 

 

 この三日間で、いったい何をオニオンに吸収させたのかは理央は語らないが、というか語れないが、理央はおよそ100億匹のピクミンを増やすことに成功したのである。

 そしてそのうち半分はオニオンに待機させ、残りの50億匹を地上で働かている。その甲斐あって、ついにピクミンはミッド全体の平和を守れるほどに強大な戦力となったのだ。

 

 理央はこの結果に満足している。たとえ犯罪の片棒を担がされても、地上の平和を守れれば彼女はいいのだ。地上で働く魔導師たち、ミッドにすむ人々、そして自分の望む平和が実現すればそれでいいのだ。

 

 理央は地上本部に備え付けられた駐輪場にバイクを停め、ヘルメットをはずし、入り口に向かって歩いていく。扉をくぐれば、彼女の局員としての一日がまた始まるのだ。

 

 ――そう、彼女は自分の望む平和が実現すればそれで――

 

「リオ・アオバ一等陸佐がおこしだぁぁぁぁぁ!! 全員、けいれぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

ビシイィィ!!

 

「「「「「「「おはよーございます!! アオバ一等陸佐!!」」」」」」」

 

 理央は本部に入った途端、また見たくもないものを目にすることになった。

 

 いつも理央が出勤する時間帯に、彼女をピクミンとともにミッドを守る英雄として崇拝する局員たちが入り口から彼女の執務室まで、彼女が通るためのスペースを真ん中に開けて二列に並んでいるのだ。そして理央がやってきたら、このとおり、敬礼をして彼女が自分の部屋に入るまで列と敬礼を崩さないのだ。

 

 理央は彼らに直接やめるよう頼んだり、上司に言ってやめさせようとしたのだが、決してやめようとしない。

 

 なので理央は少しでもこの居心地の悪い空間を抜け出すため、急いで自分の執務室へ急ぐのだ。

 自分の部屋についた理央は、扉を開け、入り、閉め、自分の椅子にドカッと座った。

 

「……ぐっ! また胃が……!」

 

 理央はこの異常なまでの英雄扱いにここ数年胃を痛ませていた。いくらなんでもこれはやりすぎだろう、と何度も思う異常な扱いは、ストレスとして彼女をむしばんでいった。

 

「……いつになったら私の望む(胃の)平和はおとずれるのかしらね……」

 

 皮肉なことに、彼女はミッドやそこに住む人々の平和は守れても、ある意味それが原因で彼女の(主に胃の)平和は守れないでいた。

 

「……はあ」

 

 彼女、青葉理央は今日もピクミンとともに自分の胃を犠牲にしながら、ミッドの平和を守るため働くのだった。

 

 

 




 魔法生物リリカル☆ピクミン 爆☆誕
 オリ主(の胃)は犠牲になったのだ……ピクミンの活躍……その犠牲にな……。

 こんなくだらない小説をここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。最初に一応注意はしておきましたが、読んで不快な気持ちになった方、申し訳ありません。
 
 もともとこのネタは「ピクミンとなのはを組み合わせた小説ってないよなー」と思い書き始めたものです。さすがにそのままのピクミンではどうやっても活躍できそうにないので、特典という形でいろいろと強化しました。(強化しすぎてオリ主は胃を痛めましたがw)
 ちなみにオリ主の名前は、『ピクミン1,2』の主人公である「オリマー」から「オリ」を取り、反転させて「リオ」にしました。(まあ、某赤い帽子の配管工の名前からあたまの文字を取っても同じになりますが。)名字の「青葉」はピクミンの頭にある葉っぱにちなんで名づけました。

 なお、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、これは1発ネタの短編のつもりで書きました。続編を書いたり、連載にしたりする予定は、私自身の事情もあり一切ありません。今後のStrikersやVividでどうなるかは、皆様のご想像にお任せします。
(しょうじき、小説を書くのがここまで大変だとは思いませんでした。)

 最後までこの小説を読んでいただき本当にありがとうございます。もうハールメンで小説を書くことはないと思いますが、この小説を暇つぶしとして楽しんでくださった方がいれば幸いです。それでは、さようなら。


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理央のとある休日

 一発ネタのつもりで書いた前作ですが、意外と好評な感想が多く、次回作を楽しみにしているというありがたい感想もありましたので、この話を書いてみました。もう出ないものと思っていた方、申し訳ありません。
 
 注意事項としては、オリ主、チート、原作死亡キャラ生存などの原作改変、独自設定とみられるところがある(今回は特に)、駄文、無駄に長いなどに加え、キャラ崩壊がございます。これらの要素を苦手とし、不快感を覚える方はブラウザバックを推奨します。
 
 さらに、途中からシリアスが入るほか、非常にクサいと思われるかもしれないシーンもございます。文才の無さがそれらをよりひどいものに見せる可能性もありますので、そういうものに対しても不快感を覚える方は読まないようにお願いいたします。

 どうか、以上のことに対して寛容な方のみご覧ください。

 それでは、本編をどうぞ。



2016/ 1/21 修正しました。
2016/ 3/12 再び修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文のところを修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


「ん~~~、いい朝」

 

 とある朝、『リリカルなのは』の世界に『ピクミン』を特典としてもらって転生し、現在はミッドチルダ地上本部の一等陸佐にして地上の英雄である少女、青葉理央はいつもよりも上機嫌な様子で自宅にて目覚めた。

 それもそのはず、今日は彼女にとっては仕事がない日、つまりは休日なのだから。

 

 10年前と比較すると、50億のピクミンによってミッドチルダの犯罪の数は激減し、人々の安全とミッドの平和は保たれている。今やピクミンはミッドチルダにとって欠かせない存在となっているのだ。

 しかし、ピクミンを指揮する魔導師の数は足りないというほどではないが、余裕があまりない状態にある。

 それゆえにピクミン指揮のプロフェッショナルである理央は時々、数か月にわたりミッドチルダ各地にある陸士部隊を転々とまわり、ピクミン指揮専門の教導官として陸士たちに笛形デバイスの使い方やピクミンの色ごとの特徴、指示の出し方などを教えまわっているのだ。

 

 それだけではなく、未来ある若者たちもピクミンを指揮できるようになるべきだというレジアス中将の考えにより、陸士訓練校でも特別教師として訓練生たちにピクミンの指揮を教える授業を頻繁に行っているのだ。

 特に最近は、ミッド中を飛び回ったり訓練生たちにわかりやすいよう教えたりすることに忙しい日々を送っていたのだ。理央は疲労がたまりにたまって、そのうち倒れるんじゃないかと思うほどに働いていた。

 そんな状態が続いたのも昨日まで。ようやく仕事が落ち着き、一週間の有給を今日からとっていたのだ。彼女の機嫌がいいのも当然のことなのだ。

 

 今日の目覚めてからの理央の行動は早かった。彼女はてきぱきと朝食を作って食べ、外出用の普段着に着替えてから家を出た。

 彼女が家を出たのはまだ七時ごろ、どうしてそんな早い時間から家を出るのかというと理由は一つである。

 

「今日は久しぶりのピクミンたちとのお出かけ、いや~全く、今から楽しみね~♪」

 

 そう、久々の休暇を使いピクミンたちとの外出をより長く楽しむためである。

 今でこそピクミンは地上の戦力として広く知られているが、もともとはこの少女、青葉理央の個人戦力なのだ。

 つまり、地上の魔導師たちがピクミンを使うことができるのは、あくまで理央が地上本部にピクミンを「貸出」している状態だからなのだ。

 ピクミンの所有権はあくまで彼女にあるので、地上の戦力としてピクミンが数えられている現状で理央が私的な理由でピクミンをオニオンから連れ出したとしても、何の問題もないのだ。

 まあ、オニオンの中には50億のピクミンがまだいるので、数百匹連れ出そうが数千匹連れ出そうがぶっちゃけ問題ないのだが(その場合、別の問題が生じることになるが)。

 

 そんなわけで、彼女はオニオンがある地上本部に向かってバイクを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上本部近くのパーキングエリアにバイクを停めてから地上本部に向かい、理央はさっそくオニオンの下へ行き、ピクミンを呼び出そうとしていた。

 

「今日も各色1匹ずつでいっか~。前に5万匹くらい連れてお出かけしようとしたら大騒ぎになった挙句、レジアス中将にものすごく怒られてとんでもない量の始末書書かされたし……。

 いいじゃん別に、5万匹ぐらい。ピクミンかわいいんだし」

 

 とんでもないピクミン馬鹿である。正直この点においては、「なのはたちは俺の嫁!」とか言い出すような類の転生者よりもずっとたちが悪いのがこの転生者、青葉理央である。

 ちなみにこのとき、ピクミンを引き連れているのを見たとある赤いマントを着た髭もじゃの大男が理央に「余の盟友にならぬか? 余の『王の◯勢(アイオニオン・ヘタ◯ロイ)』を貴様のピクミンで武装させれば、間違いなく最強の兵団が出来上がる」と勧誘したとかいう話があるが、真実は定かではない。

 

 話は戻って、理央は各オニオンからピクミンを1匹ずつ呼び出し、彼女の笛形デバイス「ドルフィン」を使って、ピクミンたちが人間の子供に見えるように変身魔法をかけた。

 これは、以前大勢のピクミンを連れ歩くことを諦めて少数で出かけたときにも、『ピクミン』が地上を守ってくれる生き物、いわばマスコットキャラクターであることが人々の目を引いてしまい騒ぎになり、全然休暇を楽しめなかったことがあったために行っている処置である。

 

 変身魔法もかけ終わってあとは最寄りの駅に行きそこから電車に乗ってショッピングモールに向かうだけ。

 さあこれから楽しい一日の始まりだと胸をドキドキさせながら理央はピクミンとともに一歩前へ……

 

「あ!! リ、リオ・アオバ一等陸佐!! おい、お前ら!! アオバ一等陸佐にけいれ「人違いです無視してくださいぃぃぃ!!!」あっ!! ま、待ってくださいアオバ一等陸佐!!」

 

 ……踏み出そうとしたが途中局員(信仰者)に出くわしてしまったため、ピクミンたちを抱えてまさに脱兎のごとく逃げ出した。休日に胃の痛くなることはご免なのだ。

 そんなわけで理央は、ピクミンを抱えて最寄りの駅まで全速前進していくのだった。

 ちなみに、バイクはピクミンを乗っけきれないので使えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふう、危ない危ない。こんな素晴らしい日に仕事仲間(狂信者)に捕まってたまるもんですか」

 

 なんとか仕事仲間で地上を守る同志(ファンという名の変人)から逃げ出した理央は、無事ピクミンたちとともに目的地のショッピングモールに到着していた。

 ちなみにピクミンたちは、目がきょろきょろした可愛い10歳くらいの男の子の姿をしている。見ようによっては、いわゆる男の娘に見えなくもない、もともと性別なんてないし。

 「なんて可愛いショタッ子………ハアハア(*´Д`)」とピクミンに近づいてきた怪しいお姉さんやらおじさんやらは理央がとっさに使った北斗百裂拳によって空の彼方へ吹っ飛ばされてしまったがどうでもいいことだ。それだけ可愛らしいということだ。

 

「さてと、まずは映画館ね」

 

 理央はそう言った後、ピクミンたちを連れて近くの映画館、『MIDシネマズ』へ入っていった。

 

 MIDシネマズの中に入った理央はチケット売り場のほうへ行き、自分の大人一人分のチケットとピクミンたちの子供七人分のチケットを購入した。

 そしてすぐにピクミンたちを連れてこれから見る映画のスクリーンがある部屋に向かい、入り口にいるスタッフにチケットを見せてから入り、スクリーンの前にある椅子にピクミンたちを座らせてから自分も座った。

 彼女たち以外にも映画を見に椅子に座っている人たちは大勢いて、この映画が人気であることがうかがえる。

 

 理央たちが席についてからしばらくすると、スクリーンに今話題になっている数々の映画の予告ムービーが流れ始める。

 『TOMATO トマト -POTETO THE MOVIE-』や『劇場版ツカイマモンスター 双子のリーゼ』などのアニメに加え、『ドラゴンパーク4 ドラゴンワールド』や『ヤーメネーカー:ジェネシス』や『ナイト無限書庫 聖王の秘密』のように別世界(海外)で作られた映画の予告も流れ、さらには今ミッドチルダで「一番見てみたい映画」ランキング1位に輝く特撮怪獣映画、『ナノラ』の特報映像もスクリーンに映し出された(なぜか最後の映画の予告を見て理央は苦笑した)。

 

「いやー、でもみんなで映画を見に来るのもほんま久しぶりやなー」

 

「そうですね、最近は主も私たちも新部隊の設立やガジェット・ドローンの破壊などで忙しかったですし」

 

「今日はみんなで映画を見に行くことができてほんとによかったですね、はやてちゃん」

 

「まったくだな! せっかくとれたはやてとあたしたちの休みなんだから、ギガ楽しー休日にしないとなっ! 

 ………にしてもナノラって……ぷふぅっ!」

 

「ヴィータ、笑うと後で後悔することになるぞ」

 

「あわわ! ヴィータちゃん、スターライトブレイカーで吹き飛ばされちゃうですよー!」

 

 そんな感じの会話(女性5人、男性1人)が聞こえたが、理央はこれから見る映画に夢中だったため気が付かなかった。

 『ナノラ』の予告映像が終わり、映画泥棒やマナーについての映像も流れた後、スクリーンに映し出されたのはMIDシネマズのボール状のロゴマークを立体にしたものだった。

 その後ろから赤ピクミンが飛び出し、ボールに乗って玉乗りの要領で画面の左側へと転がしていく。そう、これはピクミンとMIDシネマズのコラボ映像なのだ。

 

 画面左端へとボールがたどり着いたとき、ピクミンはボールに乗ったままボールを反転させた。

 すると、二つの穴が開いたボールの側面が映し出される。その二つの穴からは、アルファベットの『M』が見えた。

 そうして反転し終わったすぐ後に、青ピクミンが穴から顔を出し、外に飛び出してきた。それに続くように赤、紫、黄色、青、白、岩ピクミンたちが穴から次々と飛び出してくる。よく見ると、それぞれ手に何か持っている。

 合計10匹のピクミンたちが穴から出てきて、一列に並び、こちらのほうを向いた。そして全員一斉に手に持っているものをこちらに向けて立てるように置いた。

 それは『MID CINEMAS』と読むことができる、アルファベットのオブジェだった。黄ピクミンが『N』を『Z』のように置き間違えたことに気付き、すぐに置きなおしたのはご愛嬌というものだろう。

 

 黄ピクミンが文字を置きなおしたら、すぐ文字を置いたピクミンは右側に向かって画面外へ走り去っていき、代わりにロゴから10匹ほどの羽ピクミンたちが飛び出した。

 羽ピクミンたちは螺旋状にロゴを囲むように飛んだかと思うと、ロゴの上の部分を囲みながらつかみ、さっきほかのピクミンたちが運んだ文字の上へロゴを運んでいった。ロゴの上の赤ピクミンはひどく動揺していた。

 やがてロゴを上へ運び終えると、羽ピクミンたちは手を放し、また螺旋を描くように飛んだかと思うと、そのまま並んで飛んで行ってしまった。

 

 赤ピクミンはロゴが落下し、安定するまで動揺していたが、ロゴの動きが落ち着いた後は羽ピクミンたちが飛び去って行く様子をただ眺めていた。

 これでようやく一息つけるかと思われたが、突然雰囲気がガラッと変わり、赤ピクミンはまたも動揺し始める。

 そして何かの鳴き声が聞こえ、赤ピクミンは後ろを向いたが鳴き声を上げ思わず飛び上がってしまった。

 なんとそこには、雄たけびを上げる怪獣『ナノラ』の巨大な姿があったのだ。いつの間にかナノラのテーマが流れ、ナノラの巨体の影を背景にして映像は終了した……。

 

「くくっ……ぶっふぉww駄目だwwたえきれねあははははははははは!! なんだよあれ! ナ、ナノラ、ひぃー、ひぃー……ぎゃははははははははは!!」

 

「あ、あかんでヴィータ、ぷふっ、わ、笑ったらあか、くくっ、あかんよ、あkあははははははは!!」

 

「ちょ、ちょっと、ふふっ、はやてちゃん! ヴィータちゃん! ほかのお客様に迷惑でしょ……、ふくっ」

 

「主はやて、いくらなんでも笑い過ぎなのではないでしょうか……?」

 

「は、はやてちゃんとヴィータちゃんが壊れちゃったですぅぅぅぅ!?」

 

「リイン、今はそっとしておいてやれ」

 

 なんかさっきの人達がうるさいが、理央は映画に夢中になっているので気付かない。

 そして、ようやく本編が始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よかった。最高だったわ、今まで見た映画の中で一番」

 

 映画が終わり、出口からピクミンたちを連れ出てきた理央は、感動に打ち震えながら涙を流し、つぶやいた。

 それほどまでにこの映画は彼女にとって心を大きく動かされるものだったのだ。その感動は計り知れないものであり、彼女の前世を含めても理央がここまでの感動を覚えるのは数えるほどだろう。

 

 なぜ彼女の心はこの映画を見てここまでの高ぶりを見せているのか。それは映画のタイトルを見るだけでも理解できるだろう。

 

 

 

 そう、その映画の名前は『PIKMIN(ピクミン) Movies』

 

 

 

 青葉理央とピクミンたちも製作に協力したこの映画は、遊んだり、仕事をしたり、考えたり、おびえたり、泣いたり、笑ったり、驚いたり……そういったピクミンの姿が映った短編集なのだ。

 理央も、ミッドの人々にピクミンは単なる戦力じゃないと改めて伝えたいという気持ちで、この映画の製作に積極的に協力した。むしろシナリオを自ら提案したりピクミンの演技の監督も自分でやったりと、彼女が中心となって映画が製作されたといってもいいほどだ。恐るべしピクミン愛。

 

 さて、理央がシナリオにいろいろ口出しした結果、故意になのか偶然になのかはわからないが、この映画、とあるものとそっくりに作られてしまった。

 そう、ピクミンの短編アニメーション集、『PIKMIN Short Movies』とそっくりなのである。

 無論、大のピクミンファンである理央が前世の時にこれを見ないはずもなく、大人になっても一日に最低でも3時間、長い時には一日中見ていたことがあるほどはまっていたほどだ。

 そのため、たびたび仕事仲間に迷惑をかけ、疲れさせていた。そのとある一場面がこちらである。

 

「あ~、やっぱピクミンは最高だわ~」(ウォーウォーミャー

 

「せんせー、そろそろ出発のお時間で……せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? またですか!!? またなんですね!! もういい加減長時間見るのやめてくださいっ!!」

 

「長時間じゃないわよっ! まだほんの5時間よ!」

 

「十分すぎるほど長時間ですよ!! 

 今日は学会で世紀の発明を発表する日なんですよ!!? 

 『地球温暖化を止めて、地球の気温を最適なものにまで直し、挙句の果てに北極、南極の氷も修復することができる発明』なんて、エジソン軽々飛び越えてんですよ!!?

 どーしてそんな奇跡のような発明の発表に胸を膨らませるわけでもなく、ピクミンのアニメを楽しんでんのかなこの人はっ!!?」

 

「ピクミンこそが奇跡の産物よっ!! あんな発明のどこにピクミンに勝る要素があるってのよ!!?」

 

「ピクミンのほうが勝る要素絶対少ないでしょうがっ!!? 

 ああもうほんとにこの人は……この前の『砂漠を一気にマングローブにできる発明』の発表会のときも結局ピクミン3に夢中になっていて遅れたし……どうして恐ろしいほどの天才であると同時にそれ以上に恐ろしいピクミン馬鹿なの……?

 とにかく早く来てください!! 最近は助手である私まで白い目で見られているんですよ!!?」

 

「いや~!! あと1時間は見る~!!」

 

「いい大人が駄々をこねないでください!! ほら、3◯Sなら移動しながらでも見れますし、ね!?」

 

「いやよ~!! 今は大画面のテレビで見れるW◯iUがいいの~!!」

 

「もうこの人嫌だぁぁぁぁぁ!!」

 

 この後、電源がつながったままのテレビとW◯iUと一緒に移動することに何とか落ち着き、無事発表会には遅れずに到着したのだった。

 ちなみに、当時理央の助手をしていたこの人は、今の理央の約3倍の頻度で胃が痛くなったという。

 

 そこまではまったピクミン、映画を作るにしてもこの理央が手を抜くことなどするはずもなく、映画製作に携わった人が誰でも(あくまでも短編集としては)最高の出来だと思うほどに『PIKMIN Movies』は素晴らしい作品として完成したのだった。そのクオリティの高さは並の映画監督が舌を巻くほどだ。

 しかし、同時に彼女は原作を深くリスペクトしていたので、シナリオのほかにもいくつか原作に基づいた部分もある。その一つが上映時間で、この映画の上映時間は原作とほぼ同じで20分ほどで作られている。

 

 

 

 

 

 ちなみに、この映画の料金は大人一人1600円ほどである。

 

 

 

 

 

「いくらなんでも高すぎるやろ!! 1時間半くらいやろなと思っていたのに……。

 許さへん!! 絶対許してたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「は、はやてがおかしくなっちまった!! ギガこえぇ、ギガこえぇよぉ!! 

 なんとかしてくれよ、シグナム!!」

 

「なんでそこで私に振るっ!!? お、落ち着いてください、主はやて!! 

 ………主はやて? なぜ騎士甲冑をまとっていらっしゃるのですか? 何をなさるおつもりですかっ!!?」

 

「はやてちゃぁぁぁぁぁん!! お願いだから落ち着いてぇぇぇぇぇ!!」

 

「うわあああああああん!! はやてちゃんが、はやてちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「こ、この魔力、初代リインフォース以上………!!? 

 だが、盾の守護獣として、仲間も、主の名誉も守り切る!! てぉあああ!!」

 

 なんか後ろの方で「響け! 終焉の笛、ラグナロク!!」とかいう声が聞こえるが、ピクミンの短編集をスクリーンで見れた感動で心をいっぱいにしている理央にとってはどうでもいいことだ。

 前世ではせいぜい大型テレビぐらいのサイズでしか見れなかったピクミンの映像を、現世ではスクリーンの大画面で見れたことに感激の涙を流しながら、次の目的地に向かうために理央はピクミンを連れて映画館を出ていった……。

 

 

 

 

 

 

 なお、この翌日の新聞で『MIDシネマズ爆発!! 高ランク魔導師の八つ当たりか?』という一面が飾られるのだが、始末書を書かされるとある二等陸佐とその守護騎士以外にとっては全く関係のないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや~、それにしても今日はほんとに楽しめたわね~♪」

 

 日も暮れかかったころ、理央はショッピングモールをすでに立ち去り、電車に乗って地上本部に一番近い駅で降り、そこから地上本部までピクミンを連れ歩いていた。

 

 映画館を出た後、理央はピクミンたちとゲームセンターでUFOキャッチャーを楽しんだり(ピクミンの人形があったので理央はこれでもかというほど獲っていった)、カートレースのゲームで盛り上がったり(何気にピクミンたちがうまかった。ピクミンスゴイ)、近くのレストランで食事を摂ったり(なぜかピクミンたちは固形物でもチュー…といった感じで吸っていた。蕾や葉っぱのピクミンは花になっていた)、近くの広場を散歩したりして一日を過ごした。今日は、理央にとっては最高の休日となった。

 そんなわけで、ふ~ふふ~ふ~ふふ~ふ~♪、と鼻歌を歌いながら理央は帰宅していた。

 

「……ん? あの子どうしたのかしら?」

 

 今、理央は車道の横にある歩道を歩いているのだが、ほんの1,2メートル先には交差点と信号機、それに横断歩道が見える。

 さらに、理央がいる側と、車道を挟んで反対側の歩道をつなぐ横断歩道の上には、そこでたたずんでいる男の子の姿が確認できるのだ。

 茶髪の、背の高さから8歳ぐらいに見える男の子だった。

 どうやら向こう側からこちらへ渡っている最中だったらしく、顔を確認できるのだが……

 

「泣いている……?」

 

 そう、男の子は泣いていたのだ。男の子がしゃくりあげるたび、口からはひくっ、えぐっ、という声が漏れた。

 目からはとめどなく涙があふれ、彼がどれだけ心を乱されているかその様子から察することができた。

 

 なんであの子はあんなところで……? 理央がそんな疑問を抱いた瞬間、突然クラクションが鳴り響いた。

 理央が驚いて音が鳴った方を振り返ると、車が猛スピードで走ってきた。しかも、反対車線を、である。

 

 どうやらクラクションを鳴らしたのは別の車で、あの車への文句のつもりらしい。

 幸い事故こそまだ起こっていないが、その車が進む先にいる、その車を視認したドライバーたちはみんな車をバックさせたり歩道のほうに乗り上げたりして、ぶつからないようにしようとパニック状態だ。

 

 ――暴走車!? 理央がそう思ったのもつかの間、すぐに最悪の事態が差し迫ってくることに気付いた。

 

「車の進む先に、あの子がっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は泣いていた。悲しくて悲しくて、ただ悲しくて泣いていた。

 

 少年が生まれたのはこのミッドチルダではない。第3管理世界「ヴァイゼン」、そこが少年の生まれ、育った世界だった。

 その世界の町で、少年は周りの人たちと幸せに過ごしていた。

 

 

 しかし、それはある日、唐突に終わりを告げた。

 

 

 ヴァイゼン遺跡鉱山崩壊事故。町の人達は全員死亡し、生き残ったのは少年ただ一人。

 当時の少年は深い悲しみに沈むと同時に、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。

 その穴を埋めたものは、事故の犯人だと少年が思い込んだ「藍色の羽の刺青の男女」への憎しみだった。

 

 一人になり、浮浪児となった少年は、町を壊した犯人への憎しみだけを心の糧として生きていた。

 そのため、山中で一人暮らしをしながら、復讐するための力をつけるために修行もしていた。

 彼は、犯人を深く憎むことによって、町の人達を亡くした悲しみを一時的に忘却していた。

 

 そんな日々が続いたのも、とある陸士に出会うまでだった。その陸士はミッドチルダの陸士部隊に所属しているのだが、自主トレーニングをしにヴァイゼンを訪れていたのだ。

 その陸士は少年を発見・保護し、ヴァイゼンの保護施設に彼を預けた。その後も陸士はたびたび少年の勉強や生活の面倒を見に訪れた。

 そんな陸士との交流の中で、少年の中にある憎しみは次第に小さくなっていった。陸士のやさしさが彼の中にある憎悪を沈めたのだ。

 

 今ミッドチルダに少年が来ているのも、その陸士が少年を自分の家族や親友に紹介するためにヴァイゼンの保護施設から連れてきたからなのだ。

 しかし、ちょっとしたトラブルがあってはぐれてしまい、少年はひとりでさまよっていたのだ。

 

 少年ははじめは泣きこそしなかったが、その心は一人になった不安でいっぱいだったのだ。

 

 ――もしかしたら、自分はもうあの人に会えないのではないのか

 

 ――もしかしたら、このまま自分はまたひとりぼっちになってしまうのではないのか。

 

 ほかの人は全員死に、自分だけ生き残った。過去の忌むべき出来事が、少年の不安を増大させ、心をむしばんでいった。

 そして少年が横断歩道を渡っている最中、彼は目にしてしまった。

 

 

 

 

 

 母親と父親に囲まれ、子供が無邪気に笑っている姿を。

 

 

 

 

 

「――――ぁ――――」

 

 

 

 

 

 少年の頭には、かつてヴァイゼンで過ごした楽しい日々がまるで走馬燈のように、現れては消えていった。

 とても楽しかったあの日々。同年代の子供たちと遊んでいたあの日々。いたずらをしては怒られ、そのあとまたみんなで笑いあった日々。子供の自分にとっては、永遠に続くと思われたあの日々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはもう二度と、取り戻すことができないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅう、ぐす、ひっく、うぇ」

 

 気が付けば、少年の目からは大量の涙が流れ出ていた。涙は少年のほほをつたり、地面に落ち続けていった。

 とめどなく涙は流れ続け、それはまるで彼の底知れない悲しみを表しているようだった。

 

 ある時は他者への憎悪によって、ある時は他者からのやさしさによって、胸の奥に押しとどめられていた悲しみは、再び独りになった不安と、かつて幸せだったころの自分を連想させる家族の姿によって、一気にあふれ出てきた。

 悲劇がおきてからまだ時間もたっていない現状では、少年が自分の悲しみを抑えることは非常に難しかった。少年はただ涙を流し、悲しむことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆえに気付くことができなかった。自分に襲い掛かる危険に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!!」

 

 少年がその声に聞き、顔を上げたときにはもう遅かった。車が走ってくる音に気付きそちらを向くと、車があと4,5メートルといったところまで近づいてきていたのだ。

 しかもとても速いスピードで近づいてきており、あと数秒もしないうちに少年は車にはねられるだろう。

 もはや避けられないと思われた”死”にたいして、少年は自分でも驚くほど冷静であった。

 

 

 

(……もう、生きててもどうしようもないしな……)

 

 

 

 町の人達はみんな死んだ。自分に優しくしてくれた人はいなくなってしまった。

 復讐したとしても町の人達が帰ってくるわけではない。ならいっそのこと死んでしまった方が楽なのではないのか。

 

 少年にやさしく接した陸士は、実際はほんの少しの間はぐれているだけで生きていればすぐ会えるに違いないのだが、事故の悲しみを思い出した少年はひどくネガティブになってしまい、もう会えないものと思い込んでしまったのだ。

 

 生きることを諦め、死を受け入ようとしたとき、少年は周りの景色がひどくスローモーションになっていることに気付いた。あんなにすごいスピードで向かってきた車も、今はとてもゆっくりだ。

 視界の端で、女性が自分と同じくらいの子供たちとなにかしているように見えるが、涙で視界がにじんでよく見えない。

 

 死ぬ直前になると、周りの景色がスローモーションになるって本当だったんだな……。

 そんなことを思いながら、少年はすでに死んでしまった町の人々のことを思い出した。

 自分が死んだら、また会うことができるかな? また、あの楽しい日々を過ごすことができるのかな? そんなことを考えて、少年は意識を手放した。天国で、自分たちがまた幸せに過ごせることを願いながら…………

 

 

 

 

 

 そして、車は無情にも少年に向かって突っ込んでいき、少年の体は宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は1秒もたたないうちに意識を取り戻した。

 

 

「――――え?」

 

 

 そう、少年は生きている。()()()()()宙を舞っているのだ。

 実際、上から自分がついさっきまでいたところを車が通りすぎているところが見えるので間違いない。

 

 一応死の危険からは回避されたが、まだ周りの景色はスローモーションなので、少年はなぜ自分が助かったのか確かめてみることにした。

 よく注意してみると、自分の服が後ろから誰かに、あるいは何かに引っ張られるのを感じられる。おそらくその人、あるいはそれが自分を空中に引っ張り上げ、助けてくれたのだろうと少年は思い、服が引っ張られる方に顔を向けてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無表情な子供たちが7人、連結していた。

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええええ!!?」

 

 あまりにも予想外な光景に、少年はさっきまで抱いていた悲しみも生への諦観も忘れて、ただただ驚いてしまった。

 少年の服をつかんでいる子供はほかの子供に足をつかんでもらっていて、その足をつかんでいる子供もまた別の子供に足をつかんでもらっていて、その子供もまた……という風に、彼らは足をつかんだ形で連結していた。

 そして少年から見て7番目の子供の足を、さっき視界の端に移った女性が両手でつかんでいた。

 少年はただただその奇天烈な光景に驚くばかりであった。

 

 と、少年がある程度状況を把握したとき、少年の見る世界は再び元の速さに戻った。

 少年は、車がまた物凄い速さで動き出し、自分がいたところをあっという間に走り去ったのを見た直後、自分の視界がグラっと傾き、目まぐるしく回り始めたと思ったら、いつの間にか女性がいる方の歩道に着地してしりもちをついたことに気が付いた。

 周りをよく見ると、さっきの子供たちも歩道に着地しているのが見える。どうやらこの女性、さっきの体勢から子供たちをまるで鞭のようにしなやかに動かし、器用にこちら側の歩道に自分たちを降ろしたようだ。

 はっきりいって信じられないが、実際自分が体験したのだからそう信じるしかない。

 

「みんな、お疲れ様。……ったく、あの暴走自動車。次見かけたら岩ピクミン投げまくって、車も運転手もぼこぼこにしてやる」

 

 なんだか恐ろしいことを言ったかと思うと、女性はこちらに気付くとゆっくりと歩いてきた。

 黒髪に黒い瞳。それなりに整った容姿。だがそれ以上に少年の印象に残ったのは、彼女が醸し出す雰囲気だった。

 

 まだ二十代ぐらいに見えるのに、まるで50年は生きてきたかのようなオーラと落ち着きを彼女は見せていたので、その雰囲気に飲み込まれるように、さっきまで不安に駆られたり死にそうな目にあったのに、少年は心を落ち着かせることができた。

 女性は少年を丁寧に立たせてから、自分の目線を少年に合わせてこう話しかけた。

 

「大丈夫だった? 何があったのかは知らないけど、横断歩道で周りも気にせず泣いてたら危ないのよ。

 パパやママはいる? はぐれちゃったの?」

 

 優しく話しかけてくる女性に、少年は同じく自分に優しく接してくれた陸士のことを連想し、事情を説明し始めた。

 

「あの、オレ、ここに来たの初めてで、オレ、家族も周りの人も死んじゃって、オレの事保護してくれた人がここに連れてきてくれて、でも、途中ではぐれちゃって……」

 

 さっきまでいろんなことが起こったためか、しどろもどろになりながらも事情を説明する少年。女性はただ少年の話を黙って聞いていた。

 

「それで、オレ……なんだか、一人で歩いていると、昔のこと思い出して、あそこの横断歩道で、なんか、幸せそうな家族をみたら、なんか、死んじゃったみんなのこと、思い出しちゃって……」

 

 説明をする少年の目からは、その時感じた悲しみがまたよみがえってきたのか、涙があふれ始め、それに伴い、少年の語気も荒くなってくる。

 

「なんかもう……なんで……なんで自分だけ生き残っちゃったんだろうって思って……! 

 こんな、グス、こんなつらい思いをするくらいなら、もう……、みんなと死んじゃったほうが楽なんじゃないかって! 

 そしたら車がやってきて! でも、もう生きていたくなくて! このまま死んじゃったほうが、みんな、みんなと一緒になれるから……」

 

 そのまま少年は黙り込んでしまった。目からは涙がまたとめどなく流れ出てくる。顔を伏せ、むせび泣いている。

 子供たちは、そんな様子の少年をただじっと黙って眺めていた。

 

 女性は、少年の話を聞き終わってしばらくは黙って少年を見つめたままだったが、突然すっと優しく少年を抱きしめた。

 突然抱きしめられたことに少年は驚くが、女性はそのまま言葉を紡ぎだした。

 

「…………とても、つらい思いをしたのね。私みたいな人間にはわからないのでしょうけど、死にたくなるほど寂しくて、悲しかったのね」

 

 女性はそう言ったかと思うと、優しく少年の肩をつかみ、ゆっくりと自分と少年との距離を少し開け、少年の目線を再び自分に合わせた。

 少年は思わずドキッとした。なぜなら、女性の目はとても真剣で…………そして、それでいて驚くほど優しい雰囲気を感じ取れるものだったからだ。

 

「でもね、死んじゃったとしても、必ず死んじゃった人達に会えるわけじゃない。それどころか、もう二度とほかの人には会えないようなところにあなたは行ってしまうかもしれない。

 そうなったら、あなたはひとりのまま。その苦しみはいつ終わるものかわからなくなり、それこそ地獄に送られたかのように永遠に苦しみ続けることにもなりうるのよ」

 

「じゃ、じゃあどうすればいいんですか?」

 

 少年は女性に尋ねた。復讐しても、死んでも駄目だというのなら、どうしたら過去のこの苦しみから、悲しみから解放されるのか、その答えを少年は知りたかった。

 少年の言葉を聞き、女性は少し微笑んでから答えた。

 

「希望を捨てないこと」

 

「…………え?」

 

「どんなに悲しい時でも、どんなに苦しい時でも、最後まで生きるという希望を捨てないこと」

 

「…………そ、それだけですか?」

 

「そう。……そういえば、あなたを保護してくれた人がいたわよね」

 

「あ、は、はい。その人、オレにとても親切にしてくれて、だからその人のこと大好きで」

 

「その人と一緒にいるとき、悲しい思いはしなかったでしょ?」

 

「そりゃそうですよ! だってその人と一緒にいると、とても楽しくて……」

 

「それが答え」

 

「え?」

 

「大切な人たちをなくした悲しみは一生消えることはないわ。もちろんそのことで苦しむこともある。まるで心にぽっかりと空いた穴のように残ることもある。

 でもね、そういう時人は、他の人と一緒にいることで悲しみや苦しみを癒し、心の穴を埋めることができるの。

 まあ、私が前読んだ本の受け売りなんだけど、私も似たようなことがあったし」

 

「……そ、そうなんですか?」

 

「ええ、そうよ。私やあなただけじゃない、世の中には大切な人を失って、悲しみ、苦しんでいる人がたくさんいる。

 そういう人たちは、互いに慰めあい、励ましあい、支えあって前に向かって進んでいるのよ。なんでだか知ってる?」

 

「……な、なんでですか?」

 

「世の中には悲しいこと、苦しいことがあるように、楽しいこと、嬉しいことがあるのを知っているからよ」

 

「たの、しいこと? うれ、しいこと?」

 

「ええ、あなたも、事故で大切な人たちを亡くしたけど、その後で自分に優しくしてくれる人に出会ったでしょう?」

 

「!!」

 

「人生プラスマイナスゼロとか、悪いことがあれば必ずいいことがあるとは言わないけど、世の中には必ず、自分が幸せになれるチャンスがある。

 その人たちはそれを手に入れるために、ともに進んでいるのよ。

 ……まあ、誰かと一緒にいるだけでも、楽しく過ごしたりすることで悲しみを癒すことができるから、その人たちは支えあっているとも言ってもいいんでしょうけど。

 どちらにせよ、死んじゃったら手に入らないでしょうね」

 

「……オレも、その人と、スゥちゃんと一緒にいるときはとても楽しくて、悲しい気持ちになんか、これっぽっちもなりませんでした。

 でも、もしスゥちゃんもいなくなったら……」

 

「そうならないように頑張りなさい」

 

「へ?」

 

「世の中には幸せになれるチャンスもあれば、不幸をまねくきっかけのようなものもある。幸せをつかむにしろ不幸を退けるにしろ、何かしらの努力が必要になることもある。

 だから、あなたがその人をなくしたくないのなら、精いっぱい頑張って、なくさないようにしなさい。それが、あなたにできることよ」

 

「……はい!」

 

「ふふっ、じゃあ、わたしたちはそろそろ「そこの女性! 少しお話を伺わせてください!」……ああ、厄介なことになり始めた」

 

 少年が声をした方を振り向くと、そこには男性の陸士の姿が見えた。

 陸士はなにやら怒った様子でこちらの方を向いている。

 

「ああ、はい、なんでしょうか。今ちょっと帰るところなんですけど」

 

「その前にこちらの質問の答えていただきたい! まず、あなたは先ほどの事故に関わっていますね!」

 

「事故……? ああ、さっきこの子がひかれそうになったことか。

 事故というより事件のような気もするけど……それが何か?」

 

「何かじゃないでしょう!! そこの子供たちを使って救助らしきことをしたと多数の目撃者が証言しています! 

 近くの監視カメラで映像を確認しましたが、最悪の場合全員死んでしまうような危険な方法ではなかったですか!! 

 どういうつもりであんなことをしたのか、説明していただきたい!!」

 

「……ああ、なるほど。私には素の姿が見えるけど、そういえば他の人にはただの子供に見えるんだっけ」

 

「何をいってるんですか!」

 

「ちょっと待ってください、今伝えますから……ドルフィン、変身魔法解除」

 

『OK,captain』

 

 彼女の上着のポケットのあたりから若干高い声がきこえたと思うと、突然7人の子供たちの姿が変化していった。

 少年と陸士はこの子供たちの変化した後の姿、すなわち本当の姿を見て驚いた。

 なぜなら彼らは地上本部のマスコットキャラクターであり地上の平和を守る存在でもある……

 

「ピクミン!? 変身魔法で人間の子供になっていたのか!? 

 いやしかし、ピクミンを任務でもなく私用で連れ歩くなど…………」

 

 そこまで言って彼はハッと気付いた。そう、いるのだ。そんなことができる人物がたった一人。

 

 その人物は個人戦力としてピクミンを所有しながらも、ピクミンを地上本部へと貸し出し、ミッドチルダ地上に平和をもたらしたことで有名だった。

 さらには、その人物は佐官に昇進した現在でも、特別教導官としてミッドチルダ各所の陸士部隊、訓練校に出向きピクミン指揮の指導をしている、まさにピクミンのカリスマとでもいうべき存在。

 

「ま、まさかあなたは……!」

 

「ったく、せっかくの休日だってのに、結局最後はこうなるのか。全く嫌になる。」

 

 今や地上の英雄、『七色(なないろ)の英雄』として語られるその人物の名前は……

 

「地上本部勤務ピクミン専門総司令官兼ピクミン指揮専門特別教導官、青葉理央一等陸佐です。それで質問とは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、ほんとに危なかった。もう少しでこの子が死んじゃうところだった。せっかくの休日も台無しになるところだった。

 

 理央が名乗った後、いままできつくあたってきた陸士は若干こっちが引いてしまうほどの勢いで謝罪の言葉を繰り返し言いまくり、コメツキバッタのようにペコペコ頭を下げてきたかと思ったら、「後始末は全部自分がやっておきます!!」と言い残して暴走していた車が向かっていった先へ目にもとまらぬ速さで走っていった。

 

 それもそうだろう。ミッド地上本部ならびに地上部隊の魔導師たちにとっては、理央はただ自分の力で事件を解決していくようなエースなどではない。理央本人以外の地上の魔導師、すなわち魔導師ランクが低い彼らにもピクミンという戦う力を分け与えた、いわば大恩人のようなものなのだ。

 低い魔導士ランクゆえに高ランク魔導師の犯罪者に対して太刀打ちができずに殉職してしまうという出来事もピクミンという戦力を使えるようになってから劇的に減少したことは、陸士たちにとってはとてもありがたいことだったのだ。

 だからこそ地上の、特に低い魔力量などの理由で自分自身の戦力に不安を持っている魔導師たちは、理央のことを深く尊敬し、英雄としてあがめているのだ。

 

 理央にとっては正直それは誤算だった。確かに地上の平和をピクミンたちと協力して何とかしたいとは考えていたが、別に英雄として祭り上げられたいわけではなかったのだ。

 むしろ異常なまでにそんな態度をとられると、ストレスになるのでやめてほしいくらいだ。

 でも今更ピクミンを使わせなくしたところで昔の治安の悪いころに逆戻りなので、そうなるくらいならと耐えているのだ。あと一等陸佐だからお給料もいいし。

 

 そんなわけでさっきの陸士は理央に対して失礼になる態度を取ったことを心の底から申し訳なく思ったからこそ物凄い勢いで謝り、休日中の理央にわざわざ手間をかけさせたくないと考えて自分ひとりで後始末をすると言ったのだ。

 

 陸士が走り去った後、理央は改めて少年の無事を喜ぶと思うとともに、さっき少年が危ない目にあったことを思い出し身震いした。

 せっかくのピクミンとの休日という楽しい思い出が、男の子が目の前で死んでしまうというトラウマになってしまうのも理央にとっては耐えきれないことだった。

 

(もし私が【ピクミンつながり】を使えなかったら、ほんとにどうなっていたことやら)

 

 【ピクミンつながり】、『大乱闘スマッシュブラザーズX』にてオリマーが使うことができる必殺ワザである。

 この技はゲームにおいてはせいぜい連れているピクミンをつなげて斜め上に飛ばすことぐらいしかできないが、女神からこの技も特典の一部として使えるようにしてもらった理央は、最大100匹のピクミンをつなげることができるほか、とある冒険家が使っている鞭以上に自分の思うがままにつながったピクミンを振るい操ることができるほどの技にまで昇華させていた。

 ちなみに、スマブラXは一応ピクミンが出るということで理央はプレイしていたのだが、この技を特典に入れるかどうかで理央と女神は相当悩んだという。

 

 何かの役に立つかもしれないということで一応特典に入れておいたけど、使うことができてよかったと、理央は心の底から思った。

 理央が改めて少年の方を向きなおしたら、少年は口をぽかんと開けて理央をじーっと凝視していた。

 

「……お姉さんって、あの『七色の英雄』だったんですか」

 

「ちょっと待って、どうしてミッドに来たばかりの君がそんな恥ずかしい呼び名を知っているのかな!?」

 

「え、えっと……、オレのお世話になっている人、スゥちゃんっていうんですけど、その人の親友がそう呼んでいて、よくその人の話をしているってスゥちゃんが言っていました。

 なんでも、その人のお兄さんが危ないときにピクミンに助けられたからだって……」

 

「……じゃあピクミンのことも知っているのね?」

 

「は、はい。まさかあんなことができるとは思ってませんでしたけど」

 

「(またそんな感じなのか…なんでどいつもこいつも私を英雄なんかにしたいのやら……。)

 そ、そう。じゃあそのスゥちゃんによく言っておいて。私はそんな中二みたいな名前はぜぇ~~~~~~~~~ったいに!! お断りだ!! って」

 

「は、はい……(そんなに嫌なのか……?)」

 

「……ふう、じゃあこれから、私があなたと一緒にそのスゥちゃんっていう人を探してあげるわね」

 

「え!? い、いいんですか!?」

 

「ええ、もういいのよ。休日は十分に楽しんだ後で、家に帰ってる途中だったし……それに、この子たちと一緒に入れる時間はもう終わりだしね」

 

「え?」

 

 理央がそう言った瞬間、突然ピクミンたちはピクン、と何かに反応したかのように動いたかと思うと、みんな同じ方向に向かって走っていった。

 

「あっ! ピ、ピクミンたちが勝手に! 早く追いかけないと!」

 

「大丈夫よ、いつものことだから」

 

「え?」

 

「ピクミンはね、日没の時間帯になると自分のオニオンに帰る習性があるの。

 だからね、いま私が連れていたピクミンたちも、地上部隊のほうにいるピクミンたちも、ミッドにいるピクミンたちはすべてこの時間帯になるとオニオンがある地上本部のほうに急いで帰っていくの。毎日、ね」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 確かにもう夕日が沈み始めている時間だ。ピクミンが日没になるとオニオンに帰る習性を持つのならば、帰るのも当然の時間帯かもしれない。

 

「……それにしてはほかのピクミンを見かけませんけど」

 

「ああ、今はミッド中の地下にピクミンがオニオンに帰るためのパイプが張り巡らされているから、そこを通って帰っているのよ。

 ちなみにそのパイプを作ったのもピクミンたちよ♪」

 

「…………ピクミンっていったい何なんですか」

 

「ピクミンは天使よ!!」

 

「いきなりおかしくなりましたね! 

 ………でも、本当にありがとうございました。命を救ってもらっただけじゃなくて、励ましくださって。

 おかげでオレ、今まで以上に前を向いて生きていくことができそうです」

 

「いいのよ、別に。子供を助けるのは、大人として当然の役目なんだから。

 ……ただ、最後にこれだけは言わせてね」

 

「え~と、なんでしょうか」

 

「いい? さっきも言ったように、世の中には悲しいこと、苦しいことがたくさんあるように、楽しいこと、うれしいこともたくさんあるの。

 でもね、自分の命はどう頑張ってもひとつしかないの。………レイガイハナイコトハナインダケド」

 

「え? 何ですか?」

 

「ううん、何でもないわ……だから自分の命を大切にしなさい。命さえあれば、また頑張ることができるんだから……。

 それに、亡くなった町の人達も、あなたには生きて幸せになってほしいと願っているはずよ」

 

「……ありがとう、ございます。」

 

「ほら、もう泣かないの。さあ、そろそろそのスゥちゃんを探しに行くわよ。

 ひとりになって大変だったんだぞーって怒ってあげなきゃ」

 

「……ぐすっ、ふふっ、はい♪」

 

「ふふ、その調子♪ ………そういえば、あなたの名前をまだ聞いてなかったわね。

 なんてお名前か、聞かせてもらえる?」

 

「……あ、はい。オレの名前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トーマ、トーマ・アヴェニールです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、地上本部では……

 

「おい、まだアオバ一等陸佐はいらっしゃらないのか?」

 

「まあ待て、今日はあの人はピクミンと一緒に休日を楽しんだはずなんだ。

 だったら、ピクミンをオニオンに返すためにここに戻ってくるはずだろう?」

 

「……そうだな! 帰ってきたら今度こそ日頃の俺たちの感謝の気持ちを伝えないとな!」

 

「そうよね! 私たちの思いをちゃんと伝えないとね!」

 

「そうだよね、あの人のおかげで僕たちの負担もかなり減ってるんだし……あれ?」

 

「どうした?」

 

「ピクミンが全色1匹ずつ……合計7匹でかたまって帰ってきた。珍しいね」

 

「本当だね……って、あれは今日アオバ一等陸佐が連れていたピクミンじゃないか!」

 

「「「ナ、ナンダッテー!!」」」

 

「そ、それじゃあアオバ一佐はここにもう来ないの!?」

 

「そ、そんな……そんなことって……!」

 

「クッ! じゃあわざわざ午後から仕事さぼってここで見張っていたのは全部無駄だったのかよ!」

 

「俺なんて今日一日サボって結果がこれだぞ……! 

 くそぅ! なんで俺たちの思いを受け取ってくれないんですか!? アオバ一等陸佐ぁーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「    お前たち、何をしている……?    」

 

 

 

 

 

ビクゥ!! ……ぎぎぎぎぎぎ……

 

 

 

 

「「「「「ゲエッ!! レジアス!!!」」」」」」

 

「ゲエッ!!、とはなんだゲェッ!!とは!! それに上官を呼び捨てにするとは!! 

 貴様ら徹夜で残業決定だぁぁぁぁ!!!!」

 

「「「「「ひ、ひええぇぇぇぇ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

お☆し☆ま☆い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 理央の休日はいかがだったでしょうか? 今回は原作主人公を登場させてみました(といっても、Strikersではありませんが)。
 理央が、見方によってはクサい、偽善的だと思われるような発言をしましたが、その場面を見て不愉快になった方がいたら、申し訳ありません。オリ主とトーマを話させてみたくて書いてしまいました。本当にすみませんでした。

 やはり今回の話も無駄に長くなってしまいました。シリアスをもっと削った方がよかったのではないかと思います。次の話を書く際は、短めにしてみようかと思います。今回の話も皆様に楽しんでいただければ幸いです。

 これにて今回の話も本当におしまいです。皆さま、ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

 


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理央となのは ちょっとした昔話

 前回の投稿から10日ぐらい経ちましたが、最新話が書き終わったので投稿したいと思います。
 今回の話はできるだけ本文を短くしようとしたため、一万字程度にまとまっております。なので、読みやすいと感じる方もいれば、内容が少なくてつまらないとお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。あらかじめ、その点はご了承ください。

 オリ主、チートなどの要素は目次や小説情報の方に記載されておりますのであらかじめそちらをご覧ください。
 今回も、見る方によっては偽善的に感じる場面がございますので、そういうものに不快感を覚える方はご遠慮ください。
 それでもかまわないという寛容な方のみどうぞご覧ください。

 それと、今回から非ログインユーザーの方も感想を書けるようにしましたので、ご了承ください。

 それでは、本編をどうぞ。


 
2016/ 3/12 修正しました。
2016/ 4/ 8 ダッシュや地の文を修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


ピッピ、ピピ、ピピピピ、ピピピピピ……。

 

 ミッドチルダ地上本部のとある一室、そこで理央は書類を作成していた。

 といっても、普通の、地球でよく知られるような書類の作り方ではない。ここミッドでよくあるような空中に浮いた電子パネルをタッチしながら作る書類だ。

 前世ではワープロで研究結果などを書類にまとめていた理央にとっては、最初の方こそこの方法での書類の作成は新鮮でいろいろと苦労も多かったが、今ではすっかり慣れてしまっていた。

 

 いま書類にまとめているものといえば、部隊ごとに分けられたピクミンの割り当ての確認とその数の調整や教導用のピクミンの細かな指揮の出し方、ピクミン関連のイベント出演の願書に対する返事、ピクミン、ピクミン、ピクミン……。

 理央が書かなければならないこれらの書類の量は膨大である。しかし、その内容のほとんどがピクミンに関係するものであることから、書類の量が多いのは彼女が一等陸佐という高い階級についているからではなく、現在ミッド地上において戦力としてもマスコットとしても知らない者はいないほどの人気を誇るピクミンのカリスマといってもいい存在だからだろう。書類の中には、『ピクミンに事務仕事をさせる試みについて』なんていう内容のものもある。

 

 理央は書類をほぼノンストップで作成し続けていた。理央がこのように効率的に書類を作れるのには理由がある。

 

 1つは経験。前世は科学者として多くの研究と発明を繰り返していた理央は、その経過や結果をまとめ報告する時のために何度も何度も書類にそれらを記録し残していたのだ。

 そのため、大体の書類のまとめ方は経験でわかるのだ。

 

 そしてもう一つはマルチタスク。魔導師である以上に膨大な数のピクミンをいくつもの役割に分けて指揮する理央にとって、複数の思考行動や魔法の処理を行うことは必然だったため、マルチタスクの習得は必須だった。

 もともと彼女の頭脳が極めて優秀だったのも相まってか、マルチタスクの技術はいとも簡単に習得され、今では軽く10もの物事を同時に思考できるようになっていた。

 もちろん、今作成している書類に関してもマルチタスクを使うことで、頭の中ではいくつかの書類の内容が常にまとまっている状態である。

 

 前世での経験と現世で習得した技術、これらを使って理央は次々と書類を仕上げていき、書き始めてからものの数時間もしないうちに今日の分の書類仕事を終わらせてしまった。

 仕事を終わらせた理央は、フゥ、と一息ついてからつぶやく。

 

「やっぱりマルチタスクがあると便利ね~。一度に何種類もの内容を頭の中でまとめられて、あとはそれを書類にしちゃえばいいんだから。

 おいで、ピクミンたち~♪」

 

 最後の言葉は笑顔とともに部屋の片隅にいた生き物、ピクミンに向けて発せられた。

 理央はピクミンを、非常時の戦力兼仕事のストレスの癒しとして仕事中も常にそばに置いているのだ。

 

 声をかけられたピクミンたちは作業をやめ、ウォー、ワーという声を上げながら理央の方に向かっていった。

 転生してからの16年間、理央はピクミンたちとの触れ合いをしなかった日は一日としてなく、愛情をもって接し続けてきた。

 そのため、ピクミンたちも理央にはよくなついていた。

 

 ちなみに今部屋にいるピクミンは軽く50匹を超えている。ピクミンの数が多すぎる気もするが、(一応)非常時の戦力でもあるのでそこは普通だろう。

 むしろそこまで広くない部屋にピクミンを50匹も一度に入れておく理央の方が異常なのである(今更であるが)。

 

 そんな数のピクミンが一斉に理央に迫ってきたので、彼女はピクミンの山に埋もれることになってしまった。

 普通の人だったら、ピクミンにぎゅうぎゅうに押されて息苦しくなるだろう。

 しかしそれでも理央は苦しそうな表情を見せることなく、むしろ恍惚の表情を浮かべている。さすが理央(ピクミン馬鹿)

 

 理央がピクミンに囲まれて悦に浸っているとき、コンコンと彼女の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 いくらピクミンLOVEな理央でも、誰かが来たときにピクミンに埋もれたまま応対するわけにもいかない。

 ちっ、と理央は軽く舌打ちすると、ピクミンたちに部屋の隅で待つようお願いしてから椅子に座りなおし、どうぞ、と部屋の外で待つ人物に部屋に入るよう促した。

 

 ガチャリ、と扉を開け入ってきた人物の姿を確認し、理央は思わず目を見開いた。

 それもそのはず、入ってきた人物は地上部隊の局員ではなく、教育隊、それもその中でもエース級が集まる戦技教導隊の魔導師だったからだ。

 

 長い栗色の髪をサイドポニーにしてまとめており、戦技教導官の白と青を基調とした制服に出てくる体つきからは、彼女のスタイルの良さがうかがえる。顔だちの良さもあいまって、かなりの美人といえるだろう。

 しかし管理局の女性魔導師たちは、彼女の美しさ以上に彼女のその天才的な魔導師としての資質に羨望していることだろう。

 

 彼女は希少なレアスキル『魔力収束』を保有し、魔法を覚えてから1年もたたないにも関わらず、PT事件、闇の書事件解決に大きく貢献し、そのほか多くの事件を解決しながらも戦技教導官として多くの魔導師たちを育ててきたことで有名だった。

 今やだれもが無敵と認めるほどのS⁺級魔導師であり、「エースの中のエース(エースオブエース)」とまで呼ばれる彼女の名前は……

 

「久しぶりだね、理央ちゃん」

 

「……そうね。お久しぶり、なのは」

 

 理央の昔からの知り合いでもある、高町なのはだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはにとって青葉理央とは、大切な友人の一人だった。

 

 幼いころ彼女の父である高町士郎が仕事で大けがをしてから、彼女の家族たちは士郎がいない穴を埋めようと営業している喫茶店の仕事で忙しい日々を送っていた。

 そのため、彼らにはまだ幼いなのはにかまってやれる時間もなく、「いい子にしててね」という言葉をかけるぐらいしかできなかった。

 

 そのため、なのはは毎日公園に行き、いい子に、誰にも迷惑をかけないようにしていた。

 ほかの誰かと遊ぶことが家族の迷惑につながるのではないかという恐れから、公園で遊んでいるほかの子供との遊びを楽しむようなこともしなかった。

 つまり彼女は独りぼっちだったのだ。

 

 まだ幼いなのはにとって孤独とはとてもつらく、耐えがたいものだった。

 しかし、自分はいい子にしてなければならない。まだ幼いがゆえに家族の手伝いを十分にできるはずもなく、むしろ失敗して迷惑をかけてしまうだろう。母も兄も姉もみんな自分のするべきことをしっかりとやっている。だったら、まだ何も役に立つことができない幼い自分は、こうやって誰の迷惑にならない様にすることが一番なのだ。自分がどんなにつらくても、これは自分がしなきゃいけないことなんだ……。

 このような思いが彼女に孤独のつらさを耐え忍ばせた。

 それ故に、なのはは一人ぼっちで、ただただつらい日々を送っていたのだ……。

 

 

 

 

 

 とある人物が、彼女に話しかけるまでは。

 

 

 

 

 

「ねえ、そこの女の子」

 

「え?」

 

 なのはがいつものように公園で一人ブランコに乗りながら、家に帰る時間をただただ待っていた時に、その人物は話しかけてきた。

 話しかけてきたのは、長い黒髪に黒い目、身長は165センチくらいと平均より少し高めの女性だった。買い物帰りなのか、買い物かばんを肩にかけている。

 スタイルの良さと整った方である顔立ちから、美人な人だな、となのはは思った。

 

 しかしなのはの心はすぐに、この全く知らない人物に対する不審感と、もしかしてなにか迷惑をかけてしまったのではないかという不安でいっぱいになった。

 実際にはなのははこの人物に対し迷惑をかけるようなことは全くしていないので気に病む必要などは全くないのだが、迷惑をかけちゃいけないという自身の強迫観念が普通なら考え付くことがないその可能性をありうるものとして思い込ませていた。

 

 そんななのはの心情を知ってか知らずか、女性はしゃがみこんで自分の目線をなのはに合わせることで、なのはの緊張をほぐそうとした。

 

 もうお分かりかと思うがこの女性、当時の青葉理央が変身魔法を使って変身した姿である。

 理央は今日の買い物を済ませ自宅に帰っている途中だったのだが、今日はいつも行っている店が休みだったため、別の店で買い物をして帰っている途中だったのだ。

 そのため、いつもは通らない公園そばを通ることになり、その時偶然一人でブランコに乗って寂しそうにしているなのはの姿が目に入った。

 近くに親がいる様子もなく、ほかの子供と遊んでいるわけでもない。そのままにしておくのは後味が悪いと思った理央はなのはに話しかけたのだ。

 

「あ、あの、何でしょうか」

 

「ああ、ごめんね。あなた一人で寂しそうにしていたから、どうしたのかなと思って話しかけちゃったの。

 ほかの子と遊んでるわけでもなくて、お父さんやお母さんも一緒にいないみたいだから、どうしたのかな~って」

 

 やっぱり迷惑をかけちゃったのかな。なのははそう思って、思わず目に涙がたまる。

 自分はいい子にしてなきゃいけないのに、約束破っちゃった。自分の不甲斐なさや情けなさを感じ、そのままエグッ、ヒクッ、と泣きじゃくりそうになったとき、理央は優しくなのはに声をかけた。

 

「ごめんね、大丈夫? なにか悪いこと言っちゃったかしら」

 

「いえっ……グスッ、だいじょう、エグッ、大丈夫ですので、ヒクッ、気にしないで……」

 

「なにかつらいことがあるのなら、私に言ってみたらどうかしら? 全くの赤の他人だけど、だからこそ力になれることもあるかもしれないから。

 つらいことは抱え込むだけじゃなくて、吐き出すことも必要なのよ」

 

 理央は優しく諭すように話した。

 当時、人に迷惑をかけることはしてはいけないことだと思っていた普段のなのはなら、赤の他人に自分が困っていることを話すなど、自分の苦しみを他人にも押し付けるものだと思って決してしなかっただろう。

 しかし、理央の真摯な態度と情緒不安定になった彼女の心が大きな要因となって、なのはは理央に自分がなぜ一人でいるのか、その理由を話し始めた。

 

 父親が仕事で大けがをして意識不明の重体であること。自分以外の家族は実家が経営している喫茶店で、父親がいない分の穴を埋めようとずっと忙しく働いていること。そして、何もできない自分はせめて「いい子にしててね」と言われた通り、誰の迷惑にもならないように一人でいた方がいいと言って、なのはは黙ってしまった。

 涙はもう止まっているが、目は泣きはらして真っ赤になっており、顔は苦しそうな表情を浮かべていた。

 

 その話を聞いた理央は、顔こそ聞き始めた当初から真面目な顔を保ち続けてはいたが、頭の中ではさてどうしたものかと悩んでいた。

 こんな小さな子を一人で放置しているような状態は異常だとこそ思っているが、家族のほうは理由が理由であるために責めることはできず、またそちらの方から状況を改善させるのは難しいのではないかと思っていた。

 公園で遊んでいる子供たちを説得して一緒に遊ばせたとしても、本人が迷惑をかけちゃいけないと常に考えているのなら、あまりうまく溶け込むことはできないだろう。

 

 名案はないものかと頭の中で必死に思考を巡らせていたが、そこは前世では人類史上最高の科学者と呼ばれた人物の頭脳、すぐに案は浮かんだ。

 結構詐欺みたいな部分もあるが、まあそれは()()()()()()()()()()()仕方のないことだと思って割り切った。

 すぐにそれを実行するため、理央はまたなのはに優しく話しかける。

 

「そう……つらかったわね。一人ぼっちは話す相手がいなくてさみしいわよね。

 そんな思いをしてるのにまだ家族のためになると思って我慢していたのね。こんなことできる子はそんなにいないわ。えらいわね」

 

「いえ……私は何もできないから……これくらいしか……」

 

「でも、その年でそんなにつらいことを我慢し続けるなんてすごいことだわ。

 ……ねえ、あなたに1つ頼みごとをしたいんだけど、いいかしら?」

 

「えっ……? あ、は、はい! 私にできることなら!」

 

 なのはは突然頼みごとをしたいと言われて一瞬呆けてしまったが、こんな自分にもできることがあるのならと思わず勢いづいた調子で返事をしてしまった。

 返事をした後でなのははハッと我に返り、それが本当に自分ができることなのかと不安に思ってしまい、うろたえてしまった。

 しかし、理央はそんななのはの様子をほほ笑ましげに見つめてから、頼みごとの内容について話し始めた。

 

「実はね……今、私は親戚の子の保護者をしてるんだけどね、仕事の関係で日本中を転々と回らないといけないの」

 

「え? えっと……その子のお父さんやお母さんとかは……?」

 

「……それがね、この前事故で亡くなってしまったの」

 

「あ……、ご、ごめんなさい……」

 

「いいのよ、気にしないで。でね、親戚の中でその子の保護者をやれそうな人は私ぐらいしかいないっていう理由で、私が今までその子の面倒を見ていたの。

 その間ずっと仕事を休んでいたんだけど、最近そろそろ仕事に復帰しないとまずいかなぁ~、ていう感じになってね、その子と一緒に引っ越そうとしたの。

 でも、その子……『両親と住んでいた場所から離れたくない!』ってわがまま言って、どうしても無理に連れていくことが出来なくて……。

 たまには帰れるけど、ほら、その子が一人でちゃんとやっていけるかどうか心配でね……」

 

「そうなんですか……」

 

「それで悩んでいるときにあなたに出会ってね、だったら、あなたにその子の友達になってもらったらいいんじゃないかと思ったの」

 

「…………え?」

 

 

 

「お願い。その子の、青葉理央の友達になってもらえないかしら?」

 

 

 

「え、えええええええええええええ!!?」

 

 

 

 そう、理央のいい考えとは、青葉理央としてなのはの友達になること。

 自分が一緒にいればなのはが寂しい思いをすることはなくなるだろうし、保護者の方から自分のことを見てもらうようにお願いされていれば、『いい子にしていないといけない』という強迫観念が理央との交流を妨げることはなく、逆に積極的に交流させようとするだろうと理央は考えたのだ。

 つまり、『いい子にしないといけない』という思い込みを逆に利用し、交流関係を持たせようとしているのだ。

 

 さらに、友達になることによってなのはの家族の状態、特に今大けがをしているという父親の状態についても詳しい情報を手に入れることが可能となる。

 幼少期というのは人生においてこれからの生き方やトラウマにも影響しうる重要な時期であるから、『いい子にしないといけない』というこの暗示のようになっている思い込みが、なのはのこれからに悪影響をもたらすかもしれないと理央は考えていた。

 その対策として、なのはの父親が回復し、家族で行っているという仕事も落ち着いて来たら、なのはの友達となった自分の方から当時のなのはの心境や状況について説明し、家族のほうから『いい子にしないといけない』という強迫観念を消し去ってもらうように働きかけるつもりだった。

 もちろん、家族だけで彼女の思い込みをなくせなかった場合は、表面上は同い年の友達であり、実際は人生の先輩である自分がどうにかしようと理央は考えていた。

 

「で、でも……私なんかが友達になってもその子の迷惑になるんじゃ……」

 

「心配しないで。その子、素直な子じゃないから友達がいなくてね……あのままじゃろくな大人になりそうにないの。

 だから、あなたのようないい子に友達になってもらったら私にとってありがたいことだし、あの子の将来にもいいことなの」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫、自分に自信をもって。あなたならきっとその子のいいお友達になれるわ。

 こんなに小さいのに誰かのためにつらいことを我慢しようとしているような、とってもいい子なんですもの。

 ……それにね、こんないい子がこれ以上寂しい思いをしているのは私としても嫌なの」

 

「え? や、やっぱり迷惑を……」

 

「ああ、違う違う。迷惑だとか迷惑じゃないとかそういう話じゃなくてね……こんなにも頑張っているんだから、たまにはつらいことを忘れて楽しい思いをするべきだと思うの」

 

「え?」

 

「あなたがつらい思いを抱え続けなきゃいけないのは、どうしようもない理由からだとは思ってる。

 でもね、だからといってただただつらい思いを抱えて、一人で頑張り続けるのは少し違うと思うの。

 誰か自分の苦しみや悲しみを相談できて、一緒に背負えるような相手を持って、困難なことをどうにかして乗り越えるのが一番だと思うの。

 もちろんその分相手の悩みを聞いたり解決するのに協力する必要があるけどね」

 

「だれ、か?」

 

「そう、家族だったり、学校や幼稚園の先生だったり、友達だったりね……。

 そして、困難なことを乗り越えたとき、お互いに喜び合うの、『やったね!』って。

 自分の悩みが解決された時はもちろん嬉しいだろうし、その人のが困っていることを解決出来たら、きっと嬉しい気持ちになるわ」

 

「でも、それじゃあ相手に迷惑をかけちゃうんじゃ……」

 

「それは気にしないでいいの。相手は自分の悩み事を解決したいと思うはずだから、迷惑に思うことはないわ。あなただって、家族の役に立ちたいと思っているでしょう? それと同じことよ。

 逆に家族があなたの今の状態を知ったら、仕事で忙しくても必死にあなたとの時間を作ろうとするでしょうね」

 

「そ、それはダメ! おかーさんやおにーちゃん、おねーちゃんに迷惑はかけられません!」

 

「え、ええ……(よっぽど迷惑をかけたくないのね、やっぱり根は深いか……)。

 少なくとも今は無理よね……でもお父さんが元気になって、仕事が忙しくなくなったら、思う存分家族に甘えるといいと思うわ。

 きっとご家族のほうもあなたが苦しむのなんて望んでないでしょうから……。

 だから、その時まで苦しい思いを一人で抱え込まないためにも、うちの子と友達になってほしいの。お願いできるかしら?」

 

「……私にはまだよくわからないけど、それでお姉さんやその子の役に立てるのなら……その子の友達にしてください!」

 

「ええ、もちろんよ。ありがとう、こんなお願いを引き受けてくれて

(とりあえず第一段階はクリアってところかしらね……)」

 

「いえ、気にしないでください! 

 ……そういえば、お姉さんのお名前をまだ聞いてませんでした。お名前、聞かせてもらってもいいですか?」

 

「ええ、いいわよ。私の名前は、青葉り……」

 

「り?」

 

「……り、理香よ(あ、危なかった。思わず本名を言うところだった)。

 そ、そういえばあなたのお名前もまだ聞いていなかったわね。教えてくれるかしら?」

 

「はい! 高町なのはです!」

 

「なのはちゃんね、理央にはよろしくするよう伝えておくわ。

 これから理央のことをよろしくね、なのはちゃん」

 

「はい!」

 

 

 

 これが、なのはにとっては別の人物としてだが、理央となのはの邂逅の一部始終だった。

 その後理央はなのはと無事友達になり、なのはの寂しさを埋めながらも少しずつ「いい子にしていないといけない」という彼女の精神的な歪みを直していった。

 彼女の父、高町士郎の意識もしばらくして回復し、退院して家の仕事に復帰してからは喫茶店の仕事も落ち着き始め、なのはの家族も彼女のための時間を持てるようになった。

 

 そこで理央はなのはの家族に、士郎が大けがをして喫茶店の仕事があわただしくなっていた当時、なのはが一人でどのように過ごし、自分のことをどう思いながらつらい日々を過ごしてきたのかを話した。

 気付かなかったとはいえ、まだ幼いなのはにそんなつらい思いをさせてしまったことに家族は全員深く後悔し、なのはにそのことを謝りながら、「なのはは自分たちにとってかけがえのない、大切な家族だ。つらい思いをしているのなら一緒に背負うから、もう二度と一人で抱え込もうとしないでくれ」という旨の話を涙ながらに語った。

 

 なのははその話を聞き、呆然とした表情を浮かべたかと思うと、彼女の目から一筋、涙がほほをつたった。それをきっかけにして、まるでダムが決壊したかのようになのはは目からどんどん涙を流しながら、大声をあげて泣いた。

 家族からの暖かい話は、彼女が当時抱えていた寂しさからくるつらい思いに泣きたい気持ち、愛する父が目覚めて帰ってきたときに、大声で泣いたら迷惑が掛かるかもと考えできるだけ表面に出さない様にしていた泣きたい気持ち、今の話を聞き、家族が自分をここまで大切に思っていたのかという嬉しさからくる泣きたい気持ち……そんな内側に押し込めていた泣きたい気持ちを一気に外へ解放させたのだ。

 

 兄と姉と父が涙ながらに――心配させないようにだろうか――精いっぱいの笑みを浮かべながら優しくこちらを見つめている。

 母は泣いている自分を、もう二度とこの子に寂しい思いをさせるものかと言わんばかりにしっかりと抱きしめている。

 自分に暖かく接してくれる家族に囲まれながら、なのはは理香が言っていたことを理解した。

 

 

 ――ああ、家族ってこんなにも暖かいものなんだな。

 

 

 なのはは心の中で、自分に優しく接してくれ、誰かと苦しみや楽しみを共有することの大切さとその機会を与えてくれた理香と、自分の寂しさを埋めてくれた大切な友達であり、家族の暖かさを思い出させてくれた理央に深く感謝した。

 後日、理央はなのはから感謝の言葉とともにこの話を聞き、自分のしたことが結果的にいい方向に向かったことに満足したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからもう十数年、二人は家庭の事情などから違う学校に通わなくてはならなくなり、小学校に入ったころから一緒にいられるのは放課後や休みぐらいしか無くなってしまった。

 同じ管理局で働くようになってからも、動機などの違いによりなのはは本局、理央は地上本部と働く場所が別々になったため、直接会うことが出来る時間はすっかり減ってしまった。

 それでも、なのはにとって理央は大切な友人であることには変わりないし、理央の方もなのはのことを、自分が懇意にしている数少ない人間だと思っているのだ。

(まあ、理央にとってなのはは友人というよりもかわいい妹分といった方がいいかもしれないが)

 

「今日はどうしたの? アポもなしに突然来たからびっくりしたわ」

 

「今日はお休みだったんだけどね……理央ちゃんのことをふと思い出しちゃったから、つい来ちゃった。

 ここに来たときに受付の人に取り次いでもらえるように言ったんだけど、いくら待ってても連絡が帰ってこなかったから部屋に来たの」

 

「……ああ、ごめんなさいね。基本連絡は受け付けない様にしていたからそのせいね」

 

「…………もしかして、()()が原因?」

 

「そう。()()が原因でそうしてたの」

 

「あはは……、いつも大変だね、理央ちゃん」

 

「まったくよ……まあ、ある意味自業自得なのかもしれないけど……ハア……」

 

 彼女たちの言う()()とは、理央を慕う地上部隊の局員(手の付けられない馬鹿)たちである。

 彼らの勢いはとどまることを知らず、何の対策もしなかったら理央の部屋には彼らの感謝の気持ちという名の迷惑メールならぬ迷惑連絡がひっきりなしに届いてくるのだ。

 もはや彼らは、レジアス中将や理央でも抑えきれない地上本部最大の問題点かもしれない。

 

 ……というかこの前「オール・ハイル・アオバリオ!!」って大勢で叫んでたけどアレは何なの? なんでわざわざ英語で言うの? ふつうそこに入るのは私の名前じゃなくて国の名前とかでしょ? マジやめて。胃の痛さがヤバいからマジやめて。せめてやるなら家の中だけでやって。いや、できれば家の中でもしないでほしいけどとりあえず私の胃をこれ以上攻撃(ダイレクトアタック)しないで。もう私の(胃の)ライフはゼロなのよぉっ!

 

 そんな感じに理央が彼らの行動を思い出し頭を痛めていたとき、なのははピクミンたちと戯れていた。

 彼女がピクミンの存在を知ったのは、理央の存在が管理局に知られた小学生のころであり、そのためピクミンたちとはそれなりの関係を築けていた。

 ウォーウォーミャーミャーと言いながら背中に上ってきたり腕にぶら下がったりするピクミンたちを可愛いと思いながら、なのははその様子を微笑ましげに見つめていた。

 

「……まあ、私もちょうど今日の分の仕事が終わったところだし、せっかくだから久しぶりに一緒に出掛けましょうか(ピクミンかわいい)」

 

 理央はピクミンたちが遊ぶ様子を見て頭の痛みを吹っ飛ばし、そう言った。

 

「え? もう? いくらなんでも早くないかな?」

 

「この前まで忙しく働いていたから、他の人が気を使ってくれたのよ。

 さ、行きましょ」

 

「あっ! 待ってよ~!」

 

 理央はそう言うとなのはと遊んでいたピクミンたちを連れ、部屋の出口に向かっていった。なのははあわてて理央たちの後を追っていったのだった。

 

 




 今回は理央となのはの出会いの話にしてみました。
 途中、理央が偽善的に思えるかもしれない発言をしましたが、それらに対して不快感を覚えた方は、申し訳ございません。今後の話でもこのような発言をする可能性は高いので、どうしても我慢ならないという方は、どうかこの小説をお読みにならない様にお願いいたします。

osero11「話は決まっているのに……! 書こうとすると間違いなく一万字は軽く超えてしまう……! 前回の話より短くしようと思っているのに……! いったいどうすればいいんだ……!!」

????「なにosero11? 話がどうしても一万字以内に収まりそうにない? osero11 それは無理矢理一話にまとめようとするからだよ。逆に考えるんだ。『二話にしちゃってもいいさ』と」

 というわけで(どういうわけだよ)、これは一応前編ということになります。後編の方では、理央がなのはと一緒にお出かけします。
 またかよと思う方もいらっしゃるとは思いますが、自分なりにこの前とは違うアレンジを加えてみたいと思いますので、どうぞ次の話も読んでいただきますようお願い申し上げます。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。最後にちょっとしたおまけを付け加えたいと思いますので、もしよかったらご覧ください。
 次回の更新もどうか楽しみにしてお待ちください。





 おまけ もしなのはと理央が人語を話せなかったら……




「なのなのな~のは?」

「ピク? ピクピ~ク。ピクピクピク、ピック」

「なの!? なのなの!?」

「ピックン!! ピクピクピックン!!」

「なの~~~~~~~~~!!」

「ピク~~~~~~~~~!!」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………いい年してるのに、こんな遊びするんじゃないわね…………」

「……………………うん………………………………」





「お、おい見ろよ、あの高町一等空尉とアオバ一等陸佐が……」

「あ、ああ……。まるでリンゴのようにまっかだ……。めっちゃかわいい……」

「や、やっぱりあの二人はできてるって話、本当だったのか……」

「ば、馬鹿なこと言うな!! 
 あのピクミン一筋のアオバ一佐と無類の砲撃好きの高町一尉が、人間に恋するわけないだろう!!」

「そんなこと言ったらあの二人に殺されるぞ……まったく……」

「りおたんとなのはたんハアハア(*´Д`)」













 このあとめちゃくちゃKO☆U☆GE☆KIした(砲撃半分、物量攻め半分ほど)。



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理央となのは 新部隊の話と理央の能力

 今回は、理央となのはの休日に起こった出来事についての話ですが、理央となのはの会話シーンこそ長いですが、実際に休日を楽しんでいる場面は書けませんでした。
 理央となのはのキャッキャッウフフな休日を期待していた方、申し訳ございません。
 代わりに、ピクミンの戦闘描写(?)を今回書くことが出来ましたので、どうかそちらの方をお楽しみください。

 また、今回は過激な表現も多少含まれておりますので、その点はご注意ください。
 相手を精神的に追い詰める描写が苦手だという方は、どうぞご遠慮ください。
 そういうものは大丈夫だという方のみ、どうぞご覧ください。

 それでは、本編の方をどうぞ。



2016/ 1/21 修正しました。
2016/ 3/12 再び修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文の修正を行いました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


 ここは管理局ミッドチルダ地上本部にある、青葉理央一等陸佐の仕事部屋。休日を利用して親友である理央を訪ねていた高町なのははそこにいた。

 そして理央の方も今日の分の仕事をすべて終わらせたため、久しぶりに二人で出かけるところだった。

 

 なのははピクミンを連れ部屋の出口へ向かう理央を急いで追っていったが、それがあだになった。出口の前で理央が急に立ち止まったのだ。

 まさかいざ出ようとするところで急に立ち止まられるとは思っていなかったため、なのはは出口の方へ、つまりは理央の方へ勢いよく突っ込んでいき、

 

「あうっ!!」

 

 ドカッ!!という音を立てて、理央に衝突した。

 

「わっ!!」

 

 しかもすぐ前にはドアがあったため、理央は押された反動でガツン!!と顔をおもいっきりドアにぶつけてしまった。

 

「ぶべっ!!」

 

 理央の口から女の子らしくない声が出てしまったが、彼女の精神年齢はもう50歳近くなので、彼女にとっては今更屁でもないだろう。

(ちなみに今更だが、理央本人の希望でここの部屋のドアは自動ではなく、手動だ。理由? 自動にしていたら、勝手にどんどん入ってくる迷惑な人たちがいるからだ)

 

「…………」

 

「……ご、ごめん理央ちゃん……まさか突然立ち止まるとは思わなかったから……。

 どうしてわざわざ立ち止まったのか教えてくれないかな……?」

 

 理央はぶつけた鼻のあたりに手をあて軽い回復魔法を使いながら、なのはをにらんだ。

 なのははその視線に申し訳なさと若干のおびえを感じながら謝罪の言葉を言い、そのうえでどうして急に立ち止まったのかを尋ねた。

 

「……私自身に変身魔法をかけるためよ」

 

「え? どうしてわざわざ変身魔法を?」

 

「今日は一日中部屋で仕事したりピクミンたちと遊ぶ予定だったからその必要はなかったんだけどね……。

 この姿のまま部屋を出てみなさい、すぐに()()()()がやってきて騒いで、もう出かけるなんていう予定が吹っ飛ぶに決まっているわ」

 

「……ああ、うん。わかったよ。確かにそうだね」

 

 あいつらとは誰か、もう言うまでもないだろう。地上本部にて理央を、死後に英霊にしたいのかというほどの勢いで英雄扱いする魔導師(バーサーカー)たちである。

 なのはと理央は、そろってため息をついた。空のエースオブエースと陸の英雄、この二人でもお手上げの状態になるほど彼らの勢いはものすごいのだ。

 

「で、あいつらの目を欺くために、私が『青葉理央』として認識されない様に変身魔法を使うってわけ」

 

 そう言うと理央はドルフィンに命令し、変身魔法を使った。

 するとたちまち理央の姿は別人のものへと変わっていった。

 変身魔法の光は消えていき、なのはは理央が変身した姿を見ることが出来るようになった。

 理央の今の姿は、性別こそ変わっていないようだが、執務官の黒い制服を着ていて、スタイルもよくなっているような感じがする。

 漆黒のように黒い長髪は、流れるような金髪になっていて、瞳の色も黒から赤へと変わっていた。

 なるほど、その姿はどこからどうみても理央ちゃんとは思えな……

 

「……って、その姿、フェイトちゃんのだよね!?」

 

 そう、今の理央の姿は、なのはの親友であるフェイト・テスタロッサにそっくりである。

 しかし、フェイトのような儚げながらも優しそうな雰囲気ではなく、理央のどこか冷めたような雰囲気をまとっているため、不自然さがどうしても目立ってしまう。

 

「だって、あなただってエースオブエースとして局内では有名なのよ? 

 普通の局員の変装をしたとしても一緒にいるあなたが有名な分、結局気を引くことになるじゃない。

 その際、ただの局員がどうしてあなたと一緒に出掛けるのかって、今度はそっちの意味で私が騒がれることになるでしょ。

 だったら、テキトーに決めた格好よりもあなたと一緒にいるイメージが局内で一番自然なフェイトの恰好をした方が、ある程度目立つけどよっぽどましなのよ」

 

「そ、そんなに私とフェイトちゃんって一緒にいるのかな……。

 たしかにプライベートではよく会うかもしれないけど……」

 

「そのプライベートでの印象が局内で強いんでしょう。

 あなたたちが休日はよく一緒にいることが多いって地上部隊(こっち)にも伝わってくるんだから……。

 挙句の果てに、『あの二人はレズカップルなんだ』っていう噂まで出ているのよ」

 

「うっ!! ……た、確かに、薄々そんな噂があるとは思っていたけど……。

 うう、フェイトちゃんの恰好で言われると複雑だよ……」

 

 これは余談だが、本局では一部の局員たちの間で『なのフェイ』と『フェイなの』、どちらが至高にふさわしいか激しい論争が繰り広げられているという。

 ちなみに、これはなのははもちろん理央も知らないことだが、本局、地上本部にかかわらず『理央なの』派閥と『なの理央』派閥が、管理局における【薄い本 百合カップリング】の覇権をめぐって日々争っているという。

(なお、本人たちには全くその気はない。ないったらない)

 

「じゃあ、気を取り直して出かけましょうか。おいで、ピクミンたち~♪」

 

「なんか納得いかないよ……」

 

 こうして、ようやく彼女たちは部屋を出て、遊びに出掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て、地上本部を出た理央たちは町へとくりだしていた。

 途中理央たちを見掛けた局員たちは、局内でも有数のエースたちの姿を見てある程度は興奮していたが、理央本人を見掛けたときのような激しい反応は見せなかったので、理央がフェイトの恰好をしたのは正解と言えるだろう。

 

「じゃあ、さっそく休日を楽しんじゃいましょう」

 

「その前にフェイトちゃんの変装を解こうよ。もうこの違和感に耐えられそうにないよ……」

 

 なのははもう、違和感バリバリのフェイトの存在に耐えきれなくなっていた。

 ああそうね、と理央は返事してからドルフィンに変身魔法を解いてもらった。

 長い金色の髪は黒く、赤い瞳も黒くなり、そこにいたのはいつも通りの理央の姿であった。

 理央の変装が解けたのを見て、なのはは安堵のため息をもらした

 

「はあ~……やっと戻ってくれた。

 理央ちゃんが変装しているとわかっていても、やっぱりあんな感じのフェイトちゃんは見ていられなかったよ~」

 

「確かに私とフェイトじゃ性格とかが違い過ぎるからそう言われても仕方ないわね……。」 まあ、それは置いといて、まずはどこに行きましょうか?」

 

「え? う~ん……まさか出かけることになるとは思わなかったから考えてなかったけど……とりあえず一緒に買い物してみたいかな。

 今まで理央ちゃんと出かけたときのことをよく思い返してみると、理央ちゃんと一緒に買い物とか楽しんだことってそんなにないし……」

 

「私が買い物をそんなに楽しむような性格じゃないからね、それはきっと。

 ……じゃあ近くにデパートがあるから、そこにでも行きましょうか」

 

「うん、そうだね」

 

 理央となのははこれから行く目的地をデパートに決め、そこまでの道を歩き始めた。

 その後ろにはピクミンたちが50匹あまりついてくる。ときどき転んだりするピクミンもいるが、すぐに立ち上がってこちらを追ってくる。

 そんなピクミンたちの様子を、理央は時々後ろを振り返りながら確認し、顔をにやけさせていた。

 

「……理央ちゃん、本当にピクミンのことが好きなんだね」

 

「というより愛しているわね、確実に。

 もうピクミンがいてくれるだけで人生は虹色のバラ色よ!」

 

「虹色のバラ色って……七色なのか一色なのかはっきりさせてよ……。

 私が初めてピクミンのことを知った時もそんな調子だったような気がするよ……」

 

「ああ、あの時の事? ……あの時は大変だったわよね~、どっかの誰かさんが『友達に隠し事なんてひどいよ!!』って怒って、そのままへそを曲げちゃって、機嫌直すのに骨を折ったことがまるで昨日のことのように感じられるわ~」

 

「うっ!! ……だ、だって本当にショックだったんだよ! 

 理央ちゃんに隠し事されて……」

 

「私がリンディさんから話を聞くまで、あなたが魔法を使っていたことやジュエルシードを集めていたことを知らなかったんだけど?」

 

「うっ!! ……うぅぅぅ…………」

 

「はいはい、悪かったからそんな顔しないの。

 ……まったく、ちょっといじくるとすぐそんなふうになるのは相変わらずよね」

 

「うぅ……いつまでたっても理央ちゃんにかなう気がしないよぅ……」

 

「(精神年齢的に30歳も年下の相手に負けたらショックで寝込んじゃうわよ。)

 そんなわけないじゃない、魔力量や魔導師としてのセンスはあなたの方がずっと上なのよ。そういう意味では私の方があなたにかなわないわよ」

 

「……前に模擬戦をやった時に、圧勝してたよね? 

 ジュエルシード事件の時だって、理央ちゃんも協力し始めてから、一気に解決につながってったし……」

 

「あれは羽ピクミンを1万匹くらい連れてた時の話でしょう? 単体としての私とあなたでは、計り知れない差があるのをいい加減理解しなさい。

 それにジュエルシード事件だって、私がなんやかんやで巻き込まれた時にはもうほとんど解決し始めていたじゃないの」

 

「でも……」

 

「そう言えば、ジュエルシード事件にはもう二人、あなたと私とユーノ以外にも解決のために協力を申し出てたじゃない? 闇の書事件にも出てたみたいだけど、あんまり接点がないから忘れちゃったわ。

 その二人って確か魔力量がSSSランク並にあったわよね? その二人はどうしてるの?」

 

「…………」

 

「? どうしたの?」

 

「……ごめん、理央ちゃん……。その二人の話はあんまりしたくないの……」

 

「……うん、事情はよくわからないけど、なんとなく今のあなたからシンパシーを感じる。

 私の胃を痛ませるヤツらに苦しむ私と今のあなたが重なって見えるわ」

 

「うん、たぶんそれであってる。

 ……理央ちゃんみたいに、なんか、直接的では……ないかなー?と、思うんだけど……なんか……ね……」

 

「……お互い、頑張りましょう」

 

「……うん」

 

 なんとなくお互いを励ましあった二人であった。

 彼女たちが話題にしている二人とはいったい何者なのか? どんな人物なのか? それはまだ誰にもわからない……。

 

 出してはいけないことを話題にしてしまったため、テンションが下がっていた理央となのはだったが、明るくなりそうな話の内容を思い出したため、理央はなのはに話しかけた。

 

「そう言えば、新部隊に出向になるんですってね」

 

「え? ……あ、あぁ! うん! そうだよ! 

 はやてちゃんの新部隊! 時空管理局本局、遺失物管理部、『機動六課』!」

 

「まさかはやてが自分の部隊をね~……。

 いろいろコネとか使わないと、到底無理そうな年齢での部隊設立だと思うんだけど?」

 

「あはは……。確かにリンディさんやクロノくん、それに聖王教会のカリム・グラシア理事が後見人になってくれているんだけどね……。

 でもはやてちゃん自身も結構頑張ってたんだよ?」

 

「まあ、それは大体わかるけど……それでもやっぱりちょっと異常でしょ」

 

「上級キャリア試験にも合格してるんだから、そこまで変だとは思わないけど……。

 フェイトちゃんやヴィータちゃん、シグナムさんも機動六課に来るんだよ。

 みんな、はやてちゃんの部隊で一緒に働けるのを楽しみにしているんだ。

 ……この前の事件で、危うくナシになるところだったけど」

 

「ん? 何か言った?」

 

「う、ううん! なんでもないよ!」

 

「ならいいけど……。にしても、オーバーSランクの魔導師が3人に、ニアSランクが少なくとも2人……レジアス中将が聞いたら、間違いなく切れるわね。『優秀な魔導師の無駄遣いだー!!』って……。

 でもそのメンツだと、部隊ごとに決まっている保有魔導師ランクの総計規模を大きく上回ると思うんだけど……」

 

「ああ、そのことなら大丈夫だよ。六課に入るときに、私やフェイトちゃんにはやてちゃん、シグナムさんにヴィータちゃんには魔力の出力リミッターがかけられて、私たちの魔導師ランクを下げることでその条件はクリアされる予定だから。能力限定っていうんだけどね」

 

「……ちなみに、だいたいどのくらい下げる予定なの?」

 

「えっと……はやてちゃんは4ランクダウンで、私やフェイトちゃんとかの隊長たちはだいたい2ランクダウンになる予定かな。

 だから、はやてちゃんはAランクに、私たちはAAランクくらいになると思う」

 

「……本当に無駄遣いね。いくら親友だからって、そんなに優秀な魔導師たちを一つの部隊に集めて、しかもそんなに魔導師ランクを下げるなんて……。

 ピクミンがいるとはいえ、いまだ地上本部での優秀な魔導師の不足に悩むレジアス中将が聞いたら発狂するんじゃないかしら」

 

「あ、あはは……。で、でも、主に現場で活動する私たち隊長たちのリミッターははやてちゃんの許可で解除させてもらえるし、はやてちゃんのリミッターだって、直属の上司のクロノくんやカリム・グラシアさんが許可してくれれば解除させてもらえるんだよ。

 だからそんなに無駄遣いしてるってわけじゃ……」

 

「…………」

 

「理央ちゃん?」

 

 なのはが六課における能力限定について話していた時に、理央は突然黙り込んでしまった。なのははそのことに疑問を覚えるが、理央はなにやら神妙な顔をしたまま一言も発しない。

 そのまましばらくたって、理央は歩みを止めてなのはのほうに向き合った。

 なのはは驚いて立ち止まり、理央のほうを見てみたが、理央は真剣な顔をしたまま言葉を紡ぎだした。

 

「…………なのは」

 

「な、なにかな? 理央ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機動六課について、なにか隠していることがあるんじゃないの? 例えば、設立目的とか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 なのはは、一瞬何を言われたかわからなかった。

 確かになのはは六課への出向を決めるときに、ほかの機動課のようなロストロギアの回収と管理が目的であるというのは建前で、本当の設立目的は別にあるとはやてから話を聞いていた。

 しかし、それなりの交流関係を築いているとはいえ、はやてが地上部隊の英雄としてあがめられている理央に本局所属の部隊へ出向の誘いをするとは到底考えられなかったので、理央はそのことを全く知らないとなのはは思っていたのだ。

 

 実際、理央には機動六課への出向の誘いはきていないし、あったとしてもレジアス中将あたりが断固拒否するだろう。

 にも関わらず、理央は機動六課が秘密を抱えていることに気づいた。それはなのはにとってはあまりにも予想外すぎることだった。

 驚きで固まるなのはに、理央はさらに続けて言う。

 

「管理局内でもほんの一握りしかいないSランク魔導師を一つの部隊に三人、さらに付け加えるならニアSランクも二人も所属させてる時点で十分戦力が異常……。

 魔力の出力リミッターをつけて保有ランクをうまくごまかしているみたいだけど、それも部隊長や後見人の許可で解除可能……」

 

「り、理央ちゃん……?」

 

「あとこれは偶然聞いた話なんだけど、本局所属なのにミッドチルダ地上本部(うち)の管轄であるこのミッド地上に部隊が置かれるんでしょう? 

 “陸”と“海”の間には確執があって、レジアス中将も“海”を毛嫌いしてるのに、わざわざそんなことをするなんて、“陸”に対する嫌がらせとかははやてのことだからないと思うから、よっぽど深い事情があるのね………。

 それこそ、さっき言った異常な戦力のことも考えると……」

 

 

 

 

 

 

 まるで、ミッド地上(ここ)でとんでもない事件が起きるってわかってるみたいに……。

 

 

 

 

 

 

 なのはは、ただただ驚愕するしかなかった。部隊に入る自分でさえ、本当の目的は詳しくは知らされていなかったのに、ただ部隊の情報について少し聞いただけの理央は、当事者である自分よりも真実に近いと思われる推測を立てたのだ。

 

 なのははあらためて、理央の洞察力、いや、頭の回転の良さを思い知ったが、そんななのはに対し理央はさらに言葉をつづけた。

 

「ピクミンを過信していると思われるかもしれないけど、今の地上の平和は、ほとんどピクミンのおかげで成り立っていると私は思っているわ。

 戦力としてだって、今50億のピクミンが各地で働いているうえに、オニオンの方にもなにかあった時のためにもう50億のピクミンが常に待機している。

 それでも対処しきれないほどの大きな事件を、はやては何かしらの方法で予知した。

 だからこそ、もしもの時に精鋭たちでその事件を解決するために、機動六課を地上に設立しようとしている、私はそう考えているわ」

 

「え? で、でも、はやてちゃんは自分の部隊を持ちたいって言ってたから、それが理由なんじゃ……」

 

「だとしても、わざわざ自分の部隊をこんな突っ込みどころ満載の部隊にする理由にはならないでしょう?」

 

 なのははごまかすために苦し紛れの言い訳をしたが、理央にはやはり通じないようだ。

 理央は少し悲しそうに顔をしかめてから、なのはに諭すように話をつづけた。

 

「お願いだから、自分からそんな危険なことにあいにいかないでちょうだい。

 ただでさえあなたは11歳の時に撃墜されて大けがを負っているのよ。今はもう完治しているように見えるけど、いったいどこに後遺症が残っているのかわからないのよ。いざっていう時にその影響が出たら、最悪命を落とす可能性が高いわ。

 親友の役に立ちたいっていうあなたの気持ちはわかるけど、自分のことをちゃんと考えて、部隊に入るかどうかを今からでも考え直した方がいいと私は思っているわ」

 

 なのはは、理央の話を黙って聞いていた。

 理央の言葉一つ一つが、なのはの心に確かなぬくもりを与えていた。理央が自分のことを、本当に心配してくれている。そのことはなのはにとってとても嬉しいことだったのだ。

 そんな喜びを心の中でかみしめながらも、なのはは答えた。

 

「……そうだね、私はそんなに詳しくはやてちゃんからは伝えられていなかったけど、よく考えてみるとそういう部隊なんじゃないかって、そう思えてきたよ……。

 確かに今度の部隊では、また危険な目にあうかもしれない」

 

「だったら……!」

 

「それでも」

 

 なのはは理央の目を見据えて、はっきりと言った。

 

「そうだとしても、私は機動六課に行くよ。はやてちゃんのためだけじゃない、今後起きるかもしれないその大きな事件で苦しむ人たちを救えるのなら、危険な目にまたあうとしても、自分の力を出し惜しみしたくないから……」

 

 理央はなのはの返答を聞き、目を見開いたが、ほんの数秒もしないうちに納得したかのように目をゆっくりと閉じ、フッとすこし笑って口を開いた。

 

「……そうよね、あなたは誰かのためになるなら、自分が危険な目にあっても必ずやり遂げようとする娘だったわよね。私と友達になった時だって、わた……理香さんにお願いされてのことだったし」

 

「あ、あはは……ずいぶん昔のことだね……。

 でも、それを抜きにしても理央ちゃんと友達になれて本当によかったと思っているんだよ。私と家族の間にあった溝を埋めてくれたのは理央ちゃんなんだもん」 

 

「それも結構昔の話よね……。まあ、いいわ。あなたの意志を変えるのは到底無理そうだし……機動六課に行くのを止めたりはしないわ。

 ……ただし! けがだけはしない様に気をつけること! あなたがけがをしたら、ご家族やフェイトたちが心配するんだからね」

 

「は、はい……」

 

「……ふう、言いたいことも言ったし、そろそろデパートにつきそうだし、買い物を楽しむことにしましょうか。

 ……そうだ、せっかくだからあなたやフェイトの出向祝いのプレゼントを買いましょう。

 あと、はやてたちにも部隊設立のお祝いにプレゼントを用意しましょうか」

 

「あ! それいいね! きっとみんな喜ぶよ!」

 

「フフフ……それにしても、平日なのにここら辺はやけに人が多いわね…。今日はセールでもあるのかしら……。

 はっ!! まさかついに『ピクミン4』の発売がっ!!?」

 

「『ピクミン4』ってなんなの理央ちゃん!!? 

 ……それにしても、ほんとに人が多いね……。なにかあったのかな?」

 

 理央やなのはがデパートの近くまで来たとき、デパートの周りには大勢の人がいた。その大半がデパートの方を向いており、隣にいる人と何かを話したり、手に持っている携帯端末をデパートの方に向けていたりしていた。

 

 よく見ると、デパートや駐車場の出入り口には、魔力で構成された赤いテープ、管理局の方で使われる、関係者以外は入れないようにする『進入禁止』のテープが張られている。それを確認した理央となのはは、なにかしらの事件だとすぐに判断して、近くにいるであろう、この事件を担当している管理局員たちを探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分くらいして、対策本部と思われる場所を発見した二人は、事件解決のために責任者と思われる人物に名乗り出ていた。

 

「時空管理局本局所属、戦技教導隊の高町なのは一等空尉です。

 偶然こちらに来たのですが、事件解決に協力させていただけませんか?」

 

「時空管理局ミッドチルダ地上本部所属の青葉理央一等陸佐です。

 高町一尉と同じく偶然こちらに来たのですが、なにか協力できることはありませんか」

 

「お、おお! 本局のエースオブエースに、地上本部の英雄が来て下さるとは有り難い! こちらこそご協力していただけることに感謝します! 実はですね……」

 

 なのはと理央の顔がよく知られているだけに、向こうも協力に対しては歓迎的のようだ。その責任者は理央たちに、事件の内容について話し始めた……。

 

「……つまり、今まで別の世界でテロ活動を行っていた犯罪グループが、今回このミッドの、あのデパートでテロを行っているというわけですね」

 

「ええ……お察しだとは思いますが、テロが起こった際デパートの中には大勢の民間人がいまして、やつらに人質として彼らが捕まっている状態なので、うかつに手が出せない状態でして……」

 

「相手から、なにかしらの要求はありましたか?」

 

「いいえ、まだ何も……」

 

「……別世界で今まで活動していたってことは、ピクミンについてもあんまり知らなかったってことね。道理でテロなんて起こせるわけだわ」

 

「でもこの状況は少しまずいと思うよ。人質がいるから、下手に手を出すこともできないし……」

 

 彼からある程度、事件の概要を聞き終わった理央たちは、どうすればいいのかさっそく話し始めた。

 

「……もしも非殺傷設定で建物を壊すことがなかったら、なのはのスターライトブレイカーで一気に決められるんだけどね……」

 

「人質ごと撃っちゃうの!?」

 

「非殺傷設定が一番役に立つところはそこだと思うんだけどね……。

 まあ、トラウマは残るでしょうけど。具体的に言うと、ピンク色を目にするたびに心停止するくらいには」

 

「ひどいよ理央ちゃん!!」

 

「冗談はさておき「冗談!? ホントに冗談だよね理央ちゃん!!?」落ち着きなさい、なのは。デパートの詳しい見取り図とかはありますか?」

 

「あ、はい。こちらになります」

 

 責任者の彼は、理央にデパートの見取り図を渡した。理央はそれをじっと見始めたが、「これじゃちょっと厳しいな」とか「やっぱり天井裏から行けば……」とかぶつぶつ言い始めた。はたから見ると危ない人に見えなくもないが、その場にいた全員は知っていた。

 理央はただ、地上本部にピクミンをもたらしただけで英雄と呼ばれているわけではない。ピクミンをうまく指揮し、多くの事件を解決していったことで英雄と呼ばれるようになったことを彼らは知っていたのだ。

 

「あの、もう一ついいですか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

「もっと詳しい設計図を用意してもらえませんか。配水管とか、電気系統とか、天井裏みたいな細かな隙間とかもわかりそうなやつも」

 

「は?」

 

 思わず責任者である彼はあっけにとられてしまった。そんなところを通れるわけではないのに、聞いてどうしようというのか、彼だけではなくその周りのいるほとんどの人物には全く理解できなかった。

 しかし、理央と長い付き合いであるなのはだけは、理央がどうしてそんなことを聞くのかわかっていた。

 理央は口の端を吊り上げながら言葉を発した。

 

「私にいい考えがあるんです。それと、近くの陸士部隊にも連絡をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはデパート内部の最上階、そこでテロリストたちは人質をとって立てこもっていた。それはこの階だけではなく、下の階も同様である。

 

 彼らがテロを起こす理由、それはいたって単純で、時空管理局を打倒して自分たちが全次元世界の支配者になり替わるためである。無論、戦力差ではかなうはずもないので、こうして人質をとり管理局に対して要求することによって潰そうと考えているのだ。

 

 しかし彼らはこれまで同じようなテロを別世界にて何度も繰り返していたが、そのたびに各次元世界の地上部隊によって妨害され、目的を達成することが出来ず、失敗続きであった。

 それですっかり下がってしまった仲間たちの士気を上げるために、彼らのリーダーは管理局のおひざ元であるミッドにて今回のテロを起こすことを画策したのだ。

 

 今回のテロは事前準備を念入りにおこなったため、比較的順調に進んでいた。あとはこちら側から管理局に対して、全権を明け渡すように要求するだけ。

 向こうが法と平和の守護者を名乗っている以上、人質を無視してこの要求に応えないはずはないだろうと、テロリストのだれもが思っていた。彼らのだれもが、自分たちの勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 ――これから、絶望のどん底に落とされるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「っつ!!」

 

 最上階にて、武器(デバイス)を右手に持ちながら人質を見張っていたテロリストの一人が、突然自分の首筋を左手で抑え苦悶の声を発した。その顔は一瞬苦痛に歪んだが、すぐに不機嫌そうな表情に変わった。

 男の様子を見ていた仲間の一人が、彼に声をかける。

 

「どうした?」

 

「いや……首筋に急に痛みが走って……ちょっと首のうしろの方を見てくれないか?」

 

「なに? わかった」

 

「どうだ? なんかわかるか?」

 

「いや……とくになにもないが……」

 

「そうか? 気のせいだったのか……?」

 

「しっかりしろよ。今回これさえ乗り切れば、管理局に代わって俺たちが支配者になれるんだからな」

 

「わかってるよ。……へへ、今までさんざん邪魔されてきたが、ついに俺たちが管理局に勝利できるんだな。

 勝った暁には、管理局の連中をこき使ってやろうぜ」

 

「ああ、俺たちが苦汁をなめさせられた分、あいつらに存分に仕返ししてやるさ。

 ……そういえば、そろそろリーダーを含めたほかのやつらとの定時連絡の時間だな。おい、俺が連絡するから、お前は人質を見張っといてくれ」

 

「ああ、わかった」

 

 声をかけた方の男が、見張りをもう一人の方に任せて、念話で仲間と交信し始めた。

 

《こちらシグマ。アルファ、そっちの様子はどうだ?》

 

《こ、こちらアルファ!! た、助けてくれ!!》

 

《ど、どうした!!? アルファ!? 何か問題があったか!!?》

 

《ば、バケモンが!! 小人のバケモンがうじゃうじゃわいてきやがる!! 

た、助けてくれ、たす、ギャアあああああああああああああああああああああああああああ………》

 

ブツッ

 

《お、おい!! どうした!!? アルファ!! 応答しろ!! アルファ!!》

 

 1階を守っていた仲間からの念話の内容が切羽詰まった様子であったことと、突然念話が切れたことに動揺するテロリスト。何が起きたのかわからないという不安を抱えながらも、彼はほかの仲間とも交信を始めた。

 

《こちらシグマ!! アルファの方で何か問題が生じたらしい!! ベータ!! ガンマ!! そっちでアルファの状況を把握してくれ!!》

 

《や、やめろぉ……! こっちに、こっちに来るなあああああああああああああああああ!!》

 

《ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさひいぃぃぃぃ!!》

 

「ひぃっ!!」

 

 仲間からの気が狂ったような内容の念話を受信して、思わずテロリストは悲鳴を上げた。

 もはや不安は、得体のしれないモノに対する恐怖に変わっていた。さっきまで感じていた勝利の予感は、今や濃厚な恐怖に塗りつぶされていた。

 その後も彼は、無事な者はいないかどうか確認するため、仲間たちに念話で話しかけ続けた。

 

《おい!! 誰でもいい!! 状況を把握できる奴、いや、無事な奴はいないのか!!?》

 

《ひぎゃああああ!!》《ひいいいいい!!》《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!》《ウボァー》《ひでぶ!!》《ぐふっ!》《目が、目がああああ!!》《○×△□=¥~~~~!!》《くぇrちゅいおpppppp!!》《あsdfghjklllllll!!》《zxcvbんmmmmmmm!!》

 

 テロリストの男はあまりにも多くの断末魔に、おもわず腰を抜かしてしまった。ドンッとしりもちをついた音が最上階に響いた。

 もはや彼の心には余裕なんてものはなかった。今まで管理局に何度も作戦を妨害されてはきたが、こんな状況に追い込まれたのは初めてだった。念話で通信できた相手は、例外なくパニック状態。発狂したのも何人かいるだろう。

 

(……ミッドチルダの管理局のやつらは、化け物を保持しているのか……? 

 この分だと他の階にいるリーダーも、他の奴らもやられているだろう……俺たちだけでもなんとか助けてもらうように交渉しないと……)

 

 もはやテロリストの彼には、仲間のことなぞどうでもよかった。管理局員ならともかく得体のしれないモノ相手に戦えるほど、彼は仲間を大事にできるような人間ではなかったのだ。

 そして彼は急いで立ち上がり、もう一人の仲間に他の階でのこの異常を伝えて、人質を使ってここから逃げ出そうと声をかけようとした時……

 

「!!? ……いっつ……!」

 

 首筋になにか、液状のものがかかったと思ったら、鋭い痛みをそこに感じた。いったい何が起きたのか、武器(デバイス)を持っている利き手とは逆の左手で痛みが走った箇所を触れてみたが、そこは濡れてすらいなかった。

 痛みももう治まっていたため、気のせいだと思って仲間に声をかける。

 

「おい! 他の階の奴らの様子が変だ!! いったん人質を使ってここから逃げだすぞ!!」

 

 その言葉に、捕まっていた客たちは主に二つの反応を見せた。もしかしたら助かるかもしれないという淡い期待を抱いた表情をする者と、このテロリストにさらわれるのではと恐怖を顔に出す者。

 そのうちがやがやと騒ぎ始めたので、テロリストは「うるせぇ!!」という怒号とともに近くにあった柱に向かってデバイスから魔力弾を発射し、柱を破壊した。そんな威嚇行為に客たちは恐怖の声を上げた。

 その男は舌打ちとともに彼らを一瞥すると、再度仲間に声をかけた。

 

「おい! お前も早く逃げだす準備をしろ!! 俺たち以外全員やられちまっているかもしれねえんだぞ!?」

 

「……か、体が……」

 

「あん?」

 

「体が、全く、動かねえんだよ……!! く、口は動かせるんだけどよ、ど、どうしても首から下が動かねえんだよ……!!」

 

「な、なにを言って……!?」

 

 瞬間、声をかけた男の体にも異常が現れた。口は動く。だが、首から下を動かすことが出来ない。腕も、脚も、指先に至るまで動かせない。背中や腹を動かして、姿勢を変えることもできない。首から下の、全身の筋肉がマヒしているのだ。

 こうして、おそらくデパート内で最後に残ったテロリストである彼ら()体を動かすことが出来なくなり、バケモノの餌食になるしか道はなくなったのであった。

 

 さっきまで自分たちの勝利を信じて疑わなかった男たちは、体が動かせないという現実にただただ恐怖し、絶望するしかなかった。

 しかも、さっきまで念話をしていた男は、これから来るかもしれないバケモノの存在をひどく恐れていた。仲間と同じ最期は送りたくない。あんなふうになりたくない。そうは考えていても、体はピクリとも動かない。

もはや恐怖で狂ってしまいかねないほど、男の心はかき乱されていた。

 

 

 

 

 

 ――そして、ついにソレは姿を現した。

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 ピョコッと階段から顔を出したのは、人型の生物だった。しかしその身長はせいぜい140センチくらいだ。

 全身は赤色で、目と鼻以外に人間に似通った特徴をその顔に見ることはできない。足も短かければ、腕も短い。頭頂部はまるでタワーのように天に向かって伸びており、そのてっぺんには葉っぱが一つついている。

 

「赤ピクミンだ!!」

 

 それを見た人質の中の一人の小さな子が、そう叫んだ。ほかの人質たちもそのピクミンの姿を見て、助かったと喜び始めている。

 しかし、ただ二人、テロリストの男たちだけが現状に混乱していた。

 なぜあんな珍妙な生き物がここにいるんだ? なぜ人質(こいつら)ピクミン(こいつ)の姿を見てこんなに喜んでるんだ? 頭の中ではどんどん疑問があふれてくる。

 そのうち、さっき逃げようとした男の頭の中にふと、ある一つの可能性が浮かんだ。

 

 

 ――もしかして、バケモンってこいつのこと?

 

 

「ぷっ、くくく、あはははははははははは!! ばっっっっっかじゃねーの!! こんなひょうきんな奴のどこがバケモンだっつーんだよ!!? 

 こーんなちんまいやつにやられた他の奴の気が知れねーぜ!! まあ、どうせそんだけ臆病な奴らだったってことなんだろーけどなぁ!!」

 

 男は、ピクミンがバケモンと呼ばれるだけの力を持っていないと思った。それもそうだろう、ピクミンの容姿は、お世辞でも凶暴とか凶悪とは言うことが出来ない。マスコットキャラクターぐらいにしか見えない。

 男は今まで、こんな生き物を恐れていた自分が滑稽に思えてしまい、大いに笑った。

 赤ピクミンと呼ばれたその生き物は、男の方へ走ってきた。その走り方もどこかしら可愛らしく、どう見てもバケモンと呼ばれるような生き物とは思えない。

 

「ああ!!? どうしたよ!!? まさか俺をどうにかするつもりなのか!? そんなちっこい体で!!? 

 無理無理!! てめーの攻撃なんて魔法使わなくても効かねーっつーの!!ぎゃはははははははは!!」

 

 男は、ピクミンを思いっきり笑い飛ばした。もう一人の方は、なにが起きているのか状況を全くつかめずにいて呆然としていた。

 男が笑い続ける中、ピクミンはついに男にたどり着き、しがみつき、ヤッという可愛らしい声とともに、頭を鞭のようにたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ドカッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふぐああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 その直後、男は自分にたたきつけられた痛みに絶叫を上げた。まるでさっきまで笑い飛ばしていたのが嘘のように、体を動かせない彼は苦悶の表情を浮かべ、目から大粒の涙を、口からは唾液をこぼしながら、ただただイタイイタイと泣き叫んでいた。

 痛みで頭の中が真っ白になりそうな中、彼の頭には再び疑問があふれてくる。どうしてこんな奴の一撃でこんなにも痛みを感じる? こいつのどこにそんな力がある? そんな疑問があふれてくるが、それらはたったひとつの答えで解決された。

 

 

 ――そうか、こいつがバケモンだからか。

 

 

 男が痛みでもだえ苦しむ中、事態は彼らにとって最悪の形で収束し始める。

 

 階段から、大勢のピクミンが姿を現し始めたのだ。その数、5、10、20、30、40……そこまで確認して、男は絶望し、数えるのをやめた。

 たった1匹でもこれなのに、そんなに現れてどうしろというのか。耐えろというのか? 無理に決まっている。男は心の底からそう思った。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 

 上からゴトンという音が聞こえたので、なんとか首を傾けて上を見てみると、天井裏がいくつも外されていた。いや、それだけならまだいいだろう。外された後からピクミンたちがこちらに降りてくるのだ。

 そのピクミンたちは階段の方から上ってきたピクミンたちと合流して、テロリストたちを囲んだ。その数、ゆうに100匹いるだろう。

 

 もはやあわれなテロリストたちの心は、絶望で満たされていた。

 さっきまで見張りをしていた男など、顔面蒼白で、恐怖に染まった目でピクミンたちを見ながら、失禁までしていた。

 さっきまでピクミンを馬鹿にしていた男も、ピクミンに対して恐怖しか持っていなかった。ひょうきんだといったピクミンたちの顔が、無表情でこちらを、まるで獲物でも見ているような顔に見えて仕方がなかった。

 

 そして突然ビクンと反応したかと思うと、一斉にピクミンたちは中心にいるテロリストたちに向かって勢いよく走りだした。

 仲間の方は絶望と恐怖にまみれた断末魔を上げ、ピクミンを馬鹿にした男は、ピクミン(バケモン)から逃れたい一心で、叫び声を上げた。

 

「俺のそばに近寄るなああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デパートで起こったテロは無事鎮圧した。けが人は多少いるようだが、死傷者や重傷者がいないのは幸運だったと理央たちは安堵した。

 まあ、犯人の方は精神的にそうとうなダメージを受けたが。

 

 今回理央がとった作戦は、ピクミンを遠距離から細かな指示を出して指揮し、ピクミンのみで犯人たちを捕まえるというものだった。

 

 まず、近くの陸士部隊からピクミンを必要な数だけ借りた。このとき重要なのは、白ピクミンがある程度いるということだ。白ピクミンは、犯人を無力化するのに大いに役立つためである。

 

 次に、エレベーターシャフトや配水管、電気やガス管などが配置されているわずかな空間や天井裏の空間などを通らせて、ピクミンたちを各階に侵入させた。人間が入れないような少しの隙間でも、人より体が小さく、柔軟なピクミンならではの侵入経路である。

 

 その後各階で、天井裏からテロリストをばれない様に確認した後、白ピクミンに指示を出して毒を首筋に垂らさせた。理央の白ピクミンは多種多様な毒を扱うことが出来、その中には肌に触れたらすぐに人体に吸収され、首から下をマヒさせる効果を持つ毒もある。今回使ったのがそれだ。

 この毒を使って、各階にいるテロリストたちを無効化していった。

 

 最後は物量押しである。相手が動けなくなったら一気にピクミンに攻撃、もとい確保をさせる。それと同時に人質の救助を行い、それが両方とも終わったら別の階の支援である。

 

 これは彼女のデバイス、ドルフィンがピクミン指揮において優れた補助機能を持ち合わせていたことに起因する。ドルフィンには、立体的に各色のピクミンがどこにいるのかを正確に表示する機能と、その1匹1匹に細かな指示を出せるようにする機能が備わっていた。

 これらの機能があったからこそ、理央はピクミンたちに巧みに指示を出し、事件を解決することが出来たのだ。

 

「……って言っても、そのマップみたいな機能はともかく、指示を詳しく出すことについては、理央ちゃんの指揮魔法の使い方がとても上手だからだと思うんだけど……」

 

「まあ、自分で言うのもなんだけど、ピクミンを指揮することに関しては誰にも負けないと自負しているわ」

 

 犯人が全員捕まり、人質も一人残らず解放されたことを確認した後、理央となのはは事件の後始末を対策本部の陸士たちに任せて、別のアパートへ買い物しに向かっていた。

 ちなみに事件の際に借りていたピクミンたちはちゃんと返しておいた。

 

「でも結局、私何の役にも立たなかったな~。

 ピクミンだけでの潜入作戦だったから、私が戦うわけにはいかないし、それ以外のことでもなにも出来ることはなかったし」

 

「もともと休日を楽しみに来てたんだから、気にしないの。

 それよりも、早く他のデパートに行ってプレゼントを買いましょう。

 おいで、ピクミンたち~♪今度こそ休みを楽しみましょう~♪」

 

「あっ! もう! 理央ちゃんはピクミンにかまい過ぎだよ~!! ちょっと待っててば~!!」

 

 理央はまたピクミンを連れて、なのはを置いていったまま歩き始めた。そんな理央を、なのはもまた走って追いかけるのだった。

 

 その後、理央となのはは無事プレゼントを買って、休日を存分に楽しんだという。

 




 理央となのはの休日はいかがだったでしょうか? ほとんど休日ではなかったですが、それなりに楽しめる内容になるようにしたつもりです。
 今回のテロの場面にて不快な気持ちになった方がいらっしゃったら、申し訳ございませんでした。

 この二人が休日を楽しんでいる場面は、ピクミンがほとんど関係なくなるので書かない予定なのですが、ある程度読者の皆様の方から希望がございましたら、番外編として書きたいと思います。

 次回は、原作では死亡してしまったクイントさんとのやり取りを、昔話を交えながら書きたいと思います。その際、プレシアやアリシアがどうやって生存したのかも明らかになると思いますので、どんな方法を使ったのか知りたいという方は是非ご覧ください。

 今回もおまけを最後に付け加えておきましたので、よろしかったらご覧ください。最後までお読みいただきありがとうございました。




 おまけ もしも理央の指揮官ぶりが奇跡を起こす0の人みたいだったら 




「W-2、マヒ毒発射」

ドピュッ! ウワ、カラダガウゴカナイ!

「B-7、水の魔力弾を」

ドパァッ! ウワ、ミズノマリョクダンダト!?

「Rグループはそのまま前進」

ドドドドドド! コイツラマリョクダンガキカネエ!

「これで……チェックだ」

ドカーン!! ワーユカガヌケター!!

「はははははははは!! やれるじゃないか!! 
 やれる! やれるぞ!! ブリタニアを倒すことが!!」

「理央ちゃん!!? どうしちゃったの!!? 突然人が変わっちゃったみたいになったけど大丈夫なの!!? ブリタニアって何なの!!? 正気に戻ってよ!! 
 理央ちゃん! 理央ちゃああああん!!」










 おまけ② はやてへのプレゼント




「主、青葉からなにやら宅配便で贈り物が……」

「贈り物? 理央ちゃんから? いったいなんやろ?」

「なんでも、新部隊設立を祝ってのプレゼントだと同封されてあった手紙に書いてありますが……」

「なんやって!? うわあ~、ほんまうれしいわ~。あのクールな理央ちゃんからっちゅうのが嬉しさを倍増させてくれるわ~。
 いったい何を送ってくれたんやろか~?」(バリバリ


 ₎狸の置物₍


「……そういえば、ナカジマ三佐って理央ちゃんの知り合いやっていう話を聞いたことあるなー……」

「あ、主……。! ま、まだ中に何かありますよ! ほら、これです!」


 ₎『PIKMIN Movies』のDVD(理央がもらったものを焼き増ししたもの。しかも『壊す
               なら映画館じゃなくてこっちにしてね♡』とご丁寧に書か
               れている)

「…………」

「……今日、飲みにいこか……」

「……はい……」

 このあと、めちゃくちゃやけ酒した。


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理央、108部隊に行く

 少し遅めですが、メリークリスマス! あと一週間もたたないうちに新年を迎える日に投稿することになってしまいました。
 今年の投稿はこれで最後になると思います。来年の投稿は、私自身の都合で、早くとも2月くらいになると思います。なので、しばらくの間は投稿できないと思いますので、ご了承ください。次回を楽しみにしている方、申し訳ありません。

 今回は前回のような戦闘描写はありません。まあ、いつものことですが。
 しかし代わりに、理央とゲンヤ・ナカジマ、クイント・ナカジマとの会話シーンや、プレシアとアリシアの登場シーンのほか、アリシアやプレシア、クイントを生存させた方法が出てきます。「そんなの納得できない!」という方もいらっしゃると思いますが、こうやってしか蘇らせそうにないのでご了承ください。

 ちょっと今回は登場人物のキャラをつかみ損ねているかもしれませんので、ご注意ください。
 また、駄文もより目立ってしまっているかもしれませんので、不快な気持ちを覚えるかもしれないという方はご遠慮下さい。
 「許せる!」という寛容な方のみご覧ください。

 それと、ちょっとした重大発表もありますので、あとがきも出来れば読んでくださいますようお願いいたします。

 それでは、本編の方をどうぞ。



2016/ 1/22 修正しました。
2016/ 3/13 再び修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文などを修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


「ピクミン専門特別教導官の青葉理央一等陸佐です。

 今回は、私がピクミンについての詳しい説明と指揮の教導を行いたいと思いますので、よろしくお願いします」

 

 テロなどの騒ぎもあったものの、最終的にはなのはとの休日を楽しんでから数日後、理央はピクミン指揮の教導のため、ミッドチルダの陸士108部隊を訪れていた。

 そして今はちょうど、部隊の訓練場にて彼女がピクミン指揮の教導を始めるところであった。

 理央が今話題の魔導師だからか、教導をこれから受ける魔導師たちのあいだからひそひそ話が聞こえる。

 

「あの人が『七色の英雄』か……。

 なんだかイメージと違って……その……覇気っていうものがないよな……」

 

「いや……ピクミンの指揮に長けているんだから、別に覇気とか無くてもおかしくないだろ……。

 本人の魔力量もCくらいしかないって聞いたぞ……」

 

「それでも、ピクミンを指揮して多くの事件や事故を解決していって、実績を上げてるんだもんなぁ……」

 

「おまけに俺たちみたいな、魔力量が少ない魔導師にもピクミンの指揮を教えてくれるんだもんなぁ……」

 

「マジ理央様女神ッス!! 一生ついていくッス!!」

 

 最後の声だけ、周りにビリビリと響いた。 

 

「ちょっ!! 声デカッ!!」

 

「ここにもリオ・アオバ一佐の崇拝者が!?」

 

「バ、バカ!! そんな大きな声を出したら……!!」

 

「……あの、すみません……。おなかが痛くなってきたから、帰ってもいいですか……」

 

「「「「「わあああああああ!! すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんんんん!!」」」」」

 

「この馬鹿野郎が!!」

 

ボカッ!!

 

「あいたっ!!」

 

 ……とまあ、理央の教導が始まる前はいつもこんな感じにひそひそ話がされ、そのたびに理央を尊敬する(理央の胃を痛める)局員が騒ぎ、理央が胃を痛める流れになるのだ。

 そして、いつものように、まるで注意事項のように、理央は教導を受ける生徒たちに自分が思っていることを伝えてから教導を始めるのだ。

 

「私は皆さんにピクミンの指揮をお教えしますが、だからと言って私は、皆さんが戦いにおいてピクミンにのみ頼るようになってほしくないと思います。

 私がピクミンの指揮に長けているのは、あくまでピクミンを指揮することぐらいしか長所がないからです。皆さんは私と違い、ピクミン指揮以外にも優れた能力をそれぞれお持ちのはずです。ピクミン指揮にこだわるよりも、ご自分が得意となさる魔法とピクミンによる集団戦法をうまく組み合わせて戦うのがベストな戦い方だと思っています。

 今でこそピクミンは、ここミッドの重要な戦力として見られていますが、だからと言って皆さんが持つ能力をまるっきり無視してまでピクミンを使って戦うことを強要したくありません。私の教導はピクミン指揮における基本を皆様に覚えてもらうだけのもので、その後はそちらのほうで皆様なりの戦い方というものを模索してもらいたいと思っています。

 ……長くなってしまいましたが、どうかこのことをよく覚えていただきますよう、よろしくお願いします」

 

 理央はそう言って、生徒たちに頭を下げた。

 これは理央が、地上でピクミンの指揮にこだわった戦い方をする魔導師を見たときから思っていることだ。

 ピクミン指揮の教導を受ける陸士たちにはもちろん、指揮魔法以外にそれぞれ得意とする魔法がある。その魔法をピクミン指揮と組み合わせて戦うのが普通だと思っていたのだが、なかには自分が得意とする魔法よりもピクミン指揮のほうにばかり訓練をして、自分の生まれつきの才能を無駄にしてしまう陸士がいることを理央はその時に知ったのだ。

 

 それはとてももったいなく、非効率なことだと理央は強く感じた。

 例えば召還魔法を使えれば、遠距離からピクミンを大量に呼び寄せて戦力を増強させることが出来るし、インクリースタイプの補助魔法が使えれば、ピクミン一匹一匹の戦闘能力を上げることが出来るのだ。

 自分なりの魔法を使えば、指揮単体で戦うよりもずっと優位に立って戦うことが出来るのだ。それ故に、理央は生徒たちに自分なりの魔法を使う前提でピクミン指揮の魔法を学んでほしいと伝えているのだ。

 

 その言葉はいつも、教導を受ける魔導士たちの心に強く響いていた。

 ミッドの英雄として、管理局内でも、市民の間でも尊敬されている人物が、自分たちの魔法を、自分たちを認めている。そのことが、生まれつきの資質である魔力量が少なく、エースのように魔力量が多い他の魔導師たちにいつも劣等感を抱いていた彼らにとってとても嬉しかったのだ。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!! 理央様マジめが

 

「「「「「おめーはもう黙ってろ!!」」」」」

 

ドカバキベキグシャ!!

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ははは………。それでは、教導を始めます! 

 皆さん、わからないことがあったら説明の後に聞いてくださいね!」

 

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、それでは午前の教導はここまでにしたいと思います。

 午後の教導は二時間後に始めたいと思いますので、それまで十分に休憩を取ってくださいね」

 

「「「「「「は、はい~……」」」」」」

 

 教導がいったん終わったころには、生徒たちはもう疲労困憊(ひろうこんぱい)であった。

 生徒や理央のまわりにも、フリー状態になって体を休めているピクミンが1000匹くらいいた。

 ちなみに理央は生徒やピクミンたちとは対照的に元気そうである。教導の最中にピクミンたちと存分に触れ合えたからだろう。よく見ると肌がすごくつやつやしている。さすがはピクミンLOVE。

 

「おれたちにできない事を平然とやってのけるっ! そこにシビれるけど憧れないィ!」

 

「憧れはしないのかよ! あとお前もう黙ってろよ」

 

「じゃあ私は先に建物の方に戻りますね。お疲れ様でした~!」

 

「「「「「「お疲れ様でした~!」」」」」」

 

 理央はその場にいたピクミンをすべて連れて、108部隊の建物の方に戻っていった。

 ピクミンを全員連れていくのは、フリーの状態のままだとたまにどっかに行ってしまうことがあり、それを防ぐためである。

 理央本人がピクミン全員を連れて歩きたいというわけでは……ある。ピクミンLOVEだからしょうがない。

 

 しかし1000匹も連れて歩いているので、建物の外にいた陸士たちの目を引くことは必須である。

 理央が膨大な数のピクミンを連れて歩くのを見た陸士たちの間からはざわめきが聞こえてくる。

 

「お、おいアレ……アオバ一佐じゃないのか? 

 無類のピクミン好きとは聞いていたが、まさかあそこまでとは……」

 

「あ、ああ……間違いない。あんな大量のピクミンを連れて歩くなんて、アオバ一佐くらいしかいないだろう……。

 どんだけピクミン好きなんだ……」

 

「うちのクイントさんも大概だけどよ……。

 あの人、ゼスト隊が解散してからクロスレンジ主体からピクミン指揮主体になったんだよな……」

 

「あの人、シューティングアーツで娘二人を相手にしても全く負けないんだぜ。それでピクミン指揮のほうにまわるとか、正直ありえないとしか思えねーよ。

 ……ピクミン指揮のほうでも、しっかり活躍してるけどよ……」

 

「ピクミンLOVEとはいったい……うごごご!」

 

 そんなこんなで周りの注目を集めながらも、建物の入り口にたどり着いた理央。すると理央は、少し残念そうな顔をしながらも、自分のデバイス「ドルフィン」を懐から取り出し、命令した。

 

「ドルフィン、ここにいるピクミンたちを全員()()して」

 

『OK,captain』

 

 ドルフィンが応答したと同時に、理央が連れていたピクミンたちの足元に、黒いミッドチルダ式の魔法陣が浮かんだ。

 魔法陣が発する光が強くなり、その黒い光はピクミンを包み込んでいく。

 やがてピクミンの姿がすっかり光に覆われ黒くなったかと思うと、その形をかえ、それぞれ小さな黒い光の球になった。

 そしてその球はドルフィンのほうに一斉に飛んでいき、ドルフィンの中に吸収されていった。

 

 この魔法は、なのはがかつてジュエルシードをレイジングハートの中に収納したものに近い魔法だが、ドルフィンは女神お手製のデバイスのため、レイジングハートよりも大容量でかつ物体だけでなく生物も収納することができる。

 よって、1000匹のピクミンなら容易にドルフィンの中にしまうことができ、ピクミンが邪魔にならない様に建物の中に入って移動することが可能となるのだ。

 

 ちなみに、理央が少し残念そうな表情をしたのは、ピクミンと少しの間だが触れ合えなくなるからである。

 

 ピクミンを自分のデバイスにしまった理央は、108部隊の建物の中に入り、授業再開までに昼食をとってしまおうと食堂の方に移動した。

 食堂に来て、値段が安めの定食を注文したあと、食事の乗ったトレーを受け取り、適当な席に座って昼食を食べ始めた。

 

(ピクミンの基礎知識に関しては、やっぱりみんな把握出来ていたか~。まあ、ピクミンはもうミッド地上部隊の重要な戦力だから、当然と言えば当然なんだけど。

 午後からは基本的な指揮の仕方をしっかり教えればいいわね。

 ……にしても、やっぱりピクミンと触れ合えるのはいいわね~♪)

 

 理央が昼食を食べながら午後の教導の内容について思考を巡らせていたとき、一人の男性が理央のそばの席に座った。

 

「よっ、久しぶりだな。『英雄』の嬢ちゃん」

 

「……その言い方はやめてくださいと申し上げたはずでは? ナカジマ三佐」

 

「はっはっはっ! いいじゃねえか。

 実際、地上部隊のほとんどの連中がお前のことをそう呼んでるんだからよ」

 

 そう、彼の名前はゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。陸士108部隊の部隊長にして、さきほどの陸士たちの話題に出ていたクイント・ナカジマの夫である。

 ちなみに、八神はやては一時期この部隊で研修に来ていたことがあり、そのことがあって彼女はゲンヤのことを師匠と呼んでいる。

 

「私はあくまで、ピクミンを指揮することしかできない魔導師ですよ。本当の英雄はピクミンでしょうに……」

 

「そのピクミンを戦力として地上部隊に貸し出してるんだから、そう呼ばれてんだろ」

 

「…………(どうにもこの人を言い負かすことが出来そうにない。一応精神年齢は同じくらいのはずなのに……)。

 それで、何の御用ですか、ナカジマ三佐?」

 

「ああ、今回うちの連中を鍛えてやってくれている礼と……あとは、トーマの奴を助けてくれた礼を言いにな」

 

「トーマ? ……ああ、トーマ・アヴェニールという、男の子のことですか?」

 

「ああ、そうだ。うちのスバルが保護した子どもなんだ。

 この前、お前さんが休日の時に助けてくれたんだってな。その日はスバルがえらくお前さんに感謝していた様子だったぞ」

 

「実際にトーマを送り届けるまで、トーマの言うスゥちゃんが三佐の娘さんのスバルだとは思いもよりませんでしたよ。

 あの時にさんざんスバルからお礼を言いまくられたから、お礼なんていいですよ。

 部隊の教導だって、上からの命令で来ただけですし」

 

「お前さんは相変わらず、人からの称賛や感謝を素直に受け取ろうとしないんだな」

 

「これが私ですから」

 

「そういうところも相変わらずだな」

 

 理央は10年ほど前、当時地上本部の首都防衛隊のゼスト隊に所属していたクイントを通してゲンヤと知り合った。

 ゼスト隊が解散してクイントが陸士108部隊に移動になってからも理央とクイントの交流は続き、それに伴いゲンヤともそれなりの付き合いがあるのだ。

 

「そういえば、ギンガやクイントさんがここにいないみたいなんですけど……」

 

「ああ、あの二人は今はちょっとした捜査でいないんだ。

 クイントの奴が張り切ってたよ、『久しぶりにピクミンと一緒にいられる!』ってな」

 

「ああ、その気持ちすごくわかります! 私も書類仕事ばかりしなくちゃいけないときはむしゃくしゃしますけど、その後にピクミンと触れ合えると、なんともいえない爽快感と解放感と幸福感が……」

 

「わかったわかった! わかったから落ち着いてくれ! 

 全く……お前もクイントもどうしてピクミンの話になるとそんなに熱くなるんだか……」

 

 ピクミンの話が出て、理央は一人で盛り上がり始めたかと思われたが、不意に真剣な顔になった。よく見ると少し悲しそうにも、申し訳なさそうにも見える。

 ゲンヤはそんな理央の表情の変化に疑問を覚えたが、理央は真剣な顔のまま言葉を発した。

 

「……奥様の体の調子は、大丈夫ですか……?」

 

 ああ、なるほど。うちの女房の体を心配していたのか。ゲンヤの心の中で合点がいった。

 

 クイント・ナカジマはゼスト隊に所属していたが、ゼスト隊はとある事件、戦闘機人絡みの事件の捜査にのり出してから間もなく壊滅した。その時にクイントを含めたゼスト隊員たちは全員致命傷を負った。

 その後、行方が分からなくなったゼスト・グランガイツとメガーヌ・アルピーノを除いた彼女たちは復活こそしたが、その体は取り返しのつかない状態になっていたのだ。

 

 彼女たちがそんなことになった責任は自分にもあると理央は思っていた。

 当時のゼスト隊にはピクミンを扱える魔導師がいなかった。彼らの強制捜査に、自分もピクミンとともに参加していたらこんなことにはならなかったのではないか。理央はゼスト隊が解散してからずっとそう考えていたのだ。

 

 当事者の夫であるゲンヤから言わせてもらえば、理央にそんな後悔を抱えてほしくはなかった。

 危険なことに介入し、時には死と隣り合わせの状況にもなるのが彼らの仕事だった。まだ若いころから、彼らのような武装隊員を助けられなかったと後悔していては身が持たなくなるというのがゲンヤの意見だ。

 そもそも、隊長であるゼストが急に捜査をおこなったので、理央の方に連絡がいくはずもないのである。

 

 何より、自分の妻などのゼスト隊のほとんどのメンバーが今生きているのは、ある意味理央のおかげである。

 確かに、それが原因で妻は少し人とは違う体になってしまったが、戦闘機人として生み出された二人の娘を人間として見ている自分たちに関しては、クイント本人も自分自身もまったくそのことを気にしてはいない。

 ほかのゼスト隊メンバーたちも、命が助かっただけもうけものだし、そんなに不便な体でもないしまあいいかと深刻には考えていない。

 むしろゲンヤは理央に、妻たちの命を助けてくれたことを誇っていてほしいとも思っていた。

 

「いつものように元気にやってるよ、一度死んじまったとは思えねえほどにな」

 

「……そうですか」

 

「あんまり気に病むもんじゃねえぞ。お前さんのおかげで、うちのクイントや他のゼスト隊メンバーも生きていられているんだからよ」

 

「……それでも、やっぱり気にするものは気にします。ゼストさんやメガーヌさんもまだ行方不明ですし……。

 それに、事件の数日後にメガーヌさんの娘さんも突然いなくなってしまいましたし……」

 

 ゲンヤは理央の答えを聞き、ハア、とため息をついた。

 どうやってこの頑固な後輩を説得しようかと思っていたゲンヤだったが、おっ、と理央の背後を見て何かに気が付いたかのように反応したかと思うと、ニヤリと笑って理央に再度話しかけた。

 

「そんなに気にしてるんだったら、直接本人から話を聞いてみたらどうだ? 気持ちも軽くなるかもしれねえからよ」

 

「はい?」

 

 理央がすっとんきょうな返事をした直後、理央は背後から突然誰かに抱きしめられた。

 理央が驚いて後ろを振り向くとそこには……

 

「お久しぶりね、リオちゃん♪」

 

「か、母さん! いくらリオさん相手でも一等陸佐なのよ!? そんないきなり抱き着くなんて失礼なんじゃ……あ。

 お、お久しぶりであります! リオ・アオバ一等陸佐!」

 

「……クイントさん……。ギンガ……」

 

 ゲンヤの夫であり、現在は陸士108部隊のストライカーであるクイント・ナカジマと、その娘、ギンガ・ナカジマであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはミッドチルダ南部、アルトセイム地方。そこにとある二人の親子が住んでいた。

 

 母親は軽くウェーブのかかった長い黒髪を持った女性で、優しげな表情を浮かべながらも自分の娘を見つめている。

 そんな母の視線を感じながらも、金色の長髪と赤い瞳を持った娘は、これから仕事に出かける準備をしていた。

 

 母親の名前はプレシア・テスタロッサ。かつて大魔導師として名をはせた魔導工学研究者にして、生命操作技術『プロジェクトF.A.T.E』を完成させ、その技術を用いてフェイト・テスタロッサを誕生させた人物である。

 10年前はPT事件を起こした重犯罪者として逮捕されたが、その高い魔導師ランクから本局の嘱託魔導師として管理局への奉仕活動をすることによってその罪を許されることになった。

 今もまだ嘱託魔導師として働いているのだが、今日は彼女の仕事は休みなので家にいるのである。

 

「じゃあ行ってくるね、ママ」

 

「ええ。行ってらっしゃい、アリシア」

 

 そしてここにいる彼女の娘の名前はアリシア・テスタロッサ。プレシアが誕生させたフェイトのオリジナルであり、プレシアの実の娘である。

 彼女は約36年前の次元エネルギー駆動装置『ヒュードラ』の暴走事故で亡くなってしまい、それが原因で母親であるプレシアは失ったアリシアを取り戻そうと狂気に堕ちて生命操作技術に手を出してしまった。

 

 しかし、彼女が生み出したフェイトは、クローンだけあって姿かたちこそアリシアと瓜二つだが、様々な面でアリシアとの違いが存在していた。

 アリシアは左利きに対してフェイトは右利き。活発で明るい性格のアリシアと違ってフェイトは控えめでおとなしい性格。そしてなにより、アリシアには魔法資質がなかったのに、フェイトは高い資質を持っていたのだ。

 

 プレシアはこのことに深く絶望すると同時に、なまじ姿が似ている分失ったアリシアのことを思い起こさせるフェイトの存在を憎悪した。そして、アリシアを取り戻すために、失われた技術が眠る地、『アルハザード』を目指すようになり、フェイトをその為の道具として見なすようになった。

 そして10年前、ジュエルシードを集めて虚数空間を通じてアルハザードへの道を開くために、PT事件を起こしたのだ。当時、彼女の体は病魔にむしばまれており、プレシア自身の寿命もそう長くはなかったことも、なりふり構わずに事件を起こす要因になっていたのだろう。

 

 しかし、10年前のPT事件にて、理央のおかげでアリシアがよみがえり、プレシアの不治の病も同じ方法で奇跡的に治ったのだ。プレシアが狂気にとらわれる原因はなくなったのだ。

 

 アリシアを取り戻したことで、プレシアは本来の優しい人柄に戻り始めた。そのため、アリシアが生き返ってから少しして、プレシアはフェイトもアリシア同様に自分の娘だと思うようになった。

 そして、アリシアを生き返らせることに躍起になっていたとはいえ、フェイトに対し冷たい態度を取り、ひどい仕打ちをしたことを激しく後悔した。

 

 ちょうどそのころ、リンディはプレシアに、フェイトを養子としてハラオウン家に引き取らせてもらえないかどうかと提案していた。

 PT事件の裁判においてフェイトは実行犯として扱われるが、母親のプレシアがフェイトを利用していたと証言されれば、無罪に比較的近い形で判決が下る。しかし、重犯罪者となってしまったプレシアと一緒にいたままだと、実は親子で結託して裁判でだましていたのかもしれないと、後々非難を受けることになるかもしれない。

 だからこそ、ハラオウン家にフェイトを養子に出させたほうがいいのではないかとリンディは提案したのだ。

 

 プレシアはその提案を受け入れた。プレシアもそのように考えていたこともあったが、何より自分と一緒にいることでフェイトがこれ以上傷つくことを恐れたためだ。

 

 そして裁判が終わり、そのあとの闇の書事件もひと段落ついた後に、フェイトはハラオウン家に養子に出され、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンを名乗ることになった。

 その時、フェイトやアリシアは互いに離れ離れになることを悲しんだが、「もう会えないわけじゃない」というプレシアやリンディ、クロノの言葉に説得され、涙を流しながらもお別れの言葉を言い合った。

 しかしそれからも、アリシアとフェイト、プレシアは互いに都合がついた日に、『家族』として集まって互いの近況などを話し合っていた。

 

 それからもう9年がたち、フェイトはいまだにハラオウン家の方にいるが、プレシアとフェイトの関係はすっかり修復されていた。今では、プレシアはフェイトのことを、自分の自慢の娘だとはっきり言うことが出来る(ちなみに、この言葉を聞いたフェイトは大泣きしてしまった)。

 フェイトもまた、10年前から変わらずプレシアのことを、優しい母親として見続けていた。

 アリシアの方も、フェイトのことを自分がほしがっていた妹として見ていて、姉として可愛がっている。

 

 彼女たちは幸せだった。過去に悲しい出来事がいくつも起こった家族だとは思えないほどに幸福だった。

 

 アリシアが、フェイトが、そして誰よりプレシアが、この暖かい家族のぬくもりを取り戻すきっかけをくれた理央のことを感謝した。

 確かに、アリシアとプレシアは少し人とは違う体になってしまったが、そんなことはこの幸せを手に入れられたことに比べれば些細なことだとプレシアとアリシアは思っていた。

 なによりも、『家族』と一緒にいられる幸せを与えてくれた理央の存在は、プレシアにとってまさに奇跡のように感じられたのだ。

 

 アリシアもすっかり大きくなり、自分で働くようになった。アリシアが働いているのはとてもあたたかい職場で、アリシアの体のこともみんな受け入れている。

 彼女が仕事に就くまで、アリシアが体のことでひどいことを言われないかどうか心配ばかりしていた自分が滑稽に思えると、プレシアはアリシアの就活当時のことを思い出して笑った。

 

(ああ、にしてもいつもながらなんて可愛らしいんでしょう……。フェイトのほうはおとなしめで……なんていうのかしら……そう! 大和なでしこのような美しさと可愛らしさがあるんだけど……アリシアの方は活発で元気な子だから……、とてもキュート! キュートだわ!! ああ……ほんと可愛い……。あの子の快活さがはっきりわかるほどの明るい表情……。まるでルビーのように美しい赤い瞳……。太陽の光を浴びてとってもきれいに輝いている長い金色の髪……。フェイトよりも身長が低いのも可愛らしさを増しているわね……。しかもよく『私はフェイトのお姉ちゃんなのに、フェイトの方が身長が高い!』って気にしているのがまたなんとも可愛らしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でもなによりも、頭にぴょこんと生えたあの葉っぱがほんっとキュートでたまらないわっ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、プレシアとアリシア……いや、彼女たちだけでなくクイントを含めた旧ゼスト隊メンバーたちは全員ピクミンとして蘇っているのだ。

 

 いや、正確に言うと『ピクミン』として生まれ変わったというのは語弊がある。

 基本的な体の構造は人間のものなのだ。そこに、色ごとに分かれたピクミンの特徴(魔法への耐性や得意とする魔法など)と魔力量の大きさなどが加わり、さらに頭のてっぺんに新たな器官として葉っぱと茎?が付いたのだ。

 つまり、人間としての体にピクミンの体や体質の一部などを加えられたうえで、彼女たちは復活したのだ。

 

 ちなみに、プレシアとアリシアは黄ピクミンの体質と葉っぱがつけられてよみがえった。生まれつき電気の魔力変換資質を持っていたプレシアと、その血を引くアリシアだからだろうか。

 クイントの方は赤ピクミンだった。彼女はパワーファイターだから攻撃力の高い赤なんだろう(適当)。ほかのゼスト隊メンバーはいろいろなピクミンがベースである。

 

 彼女たちは、自分が半ピクミン(いや、4分の1ピクミン? 8分の1ピクミン? 9と4分の3ピクミン?)として生まれ変わったことに対し、悪感情は全く抱いてなかった。

 どうせ死ぬ位なら、ピクミンとして生まれ変わった方がずっと得だろう、人気者だし。プレシアやアリシアを除いても、旧ゼスト隊メンバーたちはそんな風に前向きに考えて気にしていないのだ。

 むしろピクミンになれたぜヒャッホォォォォォォォォォゥ!!と言わんばかりに大喜びする人物もいたという。誰とは言わないが、ゼスト隊の分隊長で、行方不明になったもうひとりの分隊長と仲のいい同僚で、彼女とインターミドルで都市決勝で戦ったこともある陸士108部隊の部隊長の妻で二人の戦闘機人の母親だと言っておこう。

 

 ちなみに、プレシアはピクミン自体に対してはそこまで好意を抱いているわけではないが、(いろいろと)ピクミンのいいとこ取りをして魅力が増したアリシアに対して、異常なまでに抱いている愛情が膨れ上がっていた。一度失ってしまったからということもあるのだろうが、ヒュードラの事件前に比べて自分の娘たちを、特にアリシアをさらに溺愛するようになっていた。

 

(ああほんと、天使のような可愛らしさと女神のような美しさを兼ね備えた私のアリシアはなんてキュートで愛おしいんでしょう……。頭でぴょこんぴょこんと動く葉っぱがアリシアの素晴らしさをさらに上げてくれているわ……。ほんとアリシアがよみがえったきっかけになったあの子には感謝してもし足りないわ! アリシアを取り戻させてくれるだけじゃなくて、さらに可愛らしさを付け加えてくれたんですもの! ……ああ本当に本当に可愛らしくてたまらないわ……。いつもの満面の笑顔をうかべた表情も嫌なことがあってちょっと泣きそうな表情もすやすやと眠っているときの安らかな表情も怒った時の表情も恥ずかしそうな表情もおかしなことがあって大笑いしている表情もムスッとした表情も………どれもこれもがキュートでさいっっっっっっっこーーーーよ!! ああわたしのアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシア………)

 

 そんなことを考えて、顔がとんでもないことになっているプレシアの表情を見ることなく、アリシアは仕事に出かけるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だからメガーヌのこともゼスト隊長のことも、ルーテシアのことも大丈夫よ。

 私と旦那がしっかり解決するから、理央ちゃんは今まで通りに頑張ってくれれば十分なんだから」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「よし! 元気になったわね!」

 

 クイントは、ゼスト隊壊滅後も自分と旦那はこっそりと戦闘機人事件について独自に捜査を進めていることや、告発の機会をうかがっていることを伝えて、落ち込んでた理央を励ましたのだった。

 

「それに体のことだって、むしろ感謝しているくらいなのよ。

 アンノウンに致命傷を与えられたけど、今はこうやって生きていて、旦那や娘たちと過ごせているのは理央ちゃんのおかげなのよ?」

 

「……ですが……」

 

「それにピクミンと同じ体なんて、素敵じゃない♪」

 

「そうですね! なら何の問題もないですね!」

 

「そこで納得しちゃうんですか!? 母さんもちょっとおかしいわよ!」

 

「「だってピクミンかわいいし」」

 

「ああもう! このピクミン好きたちは~!!」

 

 ギンガは二人のピクミン馬鹿のめちゃくちゃな言葉に頭を抱えた。

 確かに母が生きて帰ってきてくれたことは嬉しいし、そのことで理央に感謝こそしているが、そんなあっさりと切り替えられるのもどうかと感じてしまうのである。

 基本的な体の構造は人間のものなのだが、メリットばかりとはいえ、一応ピクミンの体も含まれているのだ。少しばかりは気にするべきなのでは? 

 真面目なギンガにとって、この二人のピクミン好きの思考は理解できないモノであった。

 

「そう言えば、()()()は元気ですか? 確か今年で5歳になるんでしたよね?」

 

「ああ、ツバメね。元気よ、とっても。

 最近はギンガもスバルも家にいないことが多いから、ツバメが家に帰ってからの癒しなのよね~。ついこの前まではスバルが保護したトーマっていう子もかわいくてたまらなかったんだけど、もう帰っちゃったしね………。

 まあ、仕事場での癒しはピクミンだけどね!」

 

「そ~ですよね~!」

 

「あと旦那」

 

「おいやめろよクイント、照れるじゃねえか」

 

「え? 三佐が癒し? 冗談でしょう?」

 

「おい嬢ちゃん、それはどういう意味だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにツバメとは、クイントとゲンヤとの間に生まれた実子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度言う、実子である。決してスバルやギンガのように引き取った子でもましてや戦闘機人でもなく、クイントが妊娠してできた子である。

 

 さらに繰り返して言うことになるが、今のクイントの体は一応ピクミンの部分もあるが、基本的な構造は人間のものである。だから妊娠しようが出産しようが何の問題もないのである。

 ちなみに、ツバメの体はピクミン的な部分はどこにもない。

 

 クイントはもともと子供を産むことが出来ない体質であったが、(一部)体がピクミンになったためか、いつのまにか妊娠していたのだ。その際に、夫であるゲンヤや娘のギンガ、スバルだけでなく、理央までも大騒ぎしたのだが、今となってはいい思い出である。

 ちなみに、なんとなくそのことを感じ取っていたのか、クイントは当時とても冷静だったのが彼らの印象によく残っている。

 

 しばらくはツバメやピクミンの話で盛り上がっていた理央とナカジマ一家(108部隊所属)だったが、もうそろそろ教導が再開される時間になった。

 

「あ、もうそろそろ午後の教導を始めないといけない時間なので、訓練場の方に行きますね」

 

「おう、そうか。久しぶりに話せてよかったよ。

 戦闘機人事件の方はこっちの方でちゃんと調べておくから安心しな。

 お前さんはいつも通りに頑張ってくれりゃあ、俺たちだけじゃなくて他の部隊の奴らも助かるんだからよ」

 

「……わかりました、ナカジマ三佐」

 

「自分も、アオバ一佐とお話しすることが出来て光栄でした!」

 

「はは……真面目なのもいいけど、たまには肩の力を抜くのも大事よ、ギンガ」

 

「そうよ、あなたはいっつも硬いんだから。リオちゃん相手にはもっとリラックスしなさい」

 

「……母さんはむしろなれなれしすぎるよ……。一応母さんよりもリオさんのほうが階級が高いんだよ……。

 ……まあ、いつものことだからもうあきらめたけど……」

 

「いーのいーの♪ 相手がいいって言ってるんだから。

 ……あ、そうだリオちゃん。教導の方に私も参加してもいい? せっかくだから存分にピクミンと触れ合わないと」

 

「わかりました。じゃあ、一緒に行きましょうか」

 

 そう言って、理央とクイントは食堂を出て外にある訓練場の方に向かっていった。

 

「あ、じゃあ私も捜査について報告書をまとめないといけないので、これで」

 

「おう、じゃあまた後でな」

 

 ギンガも報告書をまとめるため、食堂を出ていった。

 残されたゲンヤはギンガが食堂を出ていくのを見送った後、顔をしかめ、重い溜息をついた。

 

「……地上本部、それもレジアス中将につながりあり……か……。

 ミッド地上部隊(うち)のトップがそんなことを援助しているとはいまだに思いたくねえがな……。リオ、お前さんは巻き込まれんなよ……」

 

 ゲンヤにとって、理央は家族を救ってくれた恩人である。そんな恩人が危険なことに巻き込まれない様にと、ゲンヤはただただ願うばかりであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはミッドチルダ北部、ベルカ自治領にある聖王教会本部。その一室にて、二人の人物が面会をしていた。

 

 一人は管理局員。現代ではもはや全く使われていない古代ベルカ式の魔法を使いこなす総合SSランクの魔導師にして、新しくミッド地上に設立される部隊、機動六課の部隊長である八神はやて二等陸佐。

 

 そしてもう一人は聖王教会の教会騎士団所属の騎士。はやてと同じく古代ベルカ式魔法の継承者で、『予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』という、未来の出来事を詩文形式で予言する希少技能(レアスキル)を保有する女性であるカリム・グラシア。

 

 この二人は8年前からの付き合いで、まるで姉妹のような関係を築いていた。はやてが機動六課を設立する際にも、後見人としてカリムの方でいろいろと手助けをしてくれるほどの間柄である。

 

「ありがとな~、カリム。六課のこと、いろいろとやってくれて」

 

「気にしないで、はやて。もとはといえば、部隊は私の方からお願いしたものだし……」

 

「それでもやっぱり、カリムが実質的に六課の立ち上げをやってくれているおかげで、私は人材集めに専念することが出来てるんや。ほんま、ありがとう」

 

「お礼を言われるほどのことじゃないわよ。

 ……え~と、はやて……一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

「どうしたん? 何でも聞いてええよ」

 

「その……この前の事件の後、大丈夫だったかしら……?」

 

「……ああ、あの事件か……。

 ごめんな、心配かけてもうて。ちょっとイラッとすることがあって……。

 もう絶対そんな失態やらへんから、安心してな」

 

「あ、あはは……。イラッとして、映画館爆破……」

 

 そんな間柄でも、やっぱり話しにくいことはあるようだ。

 カリムが乾いた笑みを浮かべたかと思うと、すぐに真剣な顔に戻り、話に戻った。

 

「教会の方でも『予言』の解釈を進めてはいるんだけど……あまり進歩は見られないの……。

 そっちの方はどんな具合かなと思って、今日ここに来てもらったんだけど……なにかわかったこととかある?」

 

「残念ながら、こっちの方も進歩ナシや。うちの子たちがロストロギアを求めて自律行動をするガジェットの破壊をしてくれているんやけど……ガジェットからは今のところ何も手がかりを見つけられへん。

 一応『古い結晶』というのは、ガジェットが探している、通称レリックと呼ばれるロストロギアだと思うんやけど……」

 

「……いずれにしても、予言は防がないといけないわ。大変なことになると思うけど、がんばって」

 

「任せといてな。私たちがちゃんと、ミッドの平和を守って、管理局の危機も防いでみせる」

 

 機動六課とはもともと、カリムのレアスキルによって書き出された予言、そこに記されたとある事件を防ぐために設立された部隊なのだ。

 その予言には、ロストロギアをきっかけとした管理局地上本部の壊滅と管理局システムの崩壊を匂わす文章が書かれていた。

 管理局の崩壊、それは全管理世界が未曽有の危機に陥ることにもつながる。そんなことを起こさせないために、彼女たちは少数でも精鋭を集めた部隊を設立したのだ。

 

 カリムとはやては、全次元世界の平和のため、予言を実現させないという意志を強く持つのだった。

 その予言の内容とは、以下のとおりである。

 

 

 

    古い結晶と無限の欲望が集い交わる地

    死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る

    死者たちが踊り、なかつ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、

    それを先駆けに二人の小人の王は争い、

    あまたの海を守る法の船も砕け落ちる

 

 

 

 青葉理央の存在が、この予言にどれほどの影響をもたらしているのかはまだわからない。

 しかし、地上本部の英雄として活躍する彼女が、この予言に記された事件に巻き込まれることは、避けようのない運命なのである……。

 




 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 この小説を読んで不快感を覚えてしまった方は、毎度毎度のことながら申し訳ありません。
 この小説を楽しんでくれた方がいるのなら、幸いです。

 はい、クイントたちはピクミンになって復活しました(真顔)。といってももう人間といってもいいほどなんですけどね。
 ちなみに理央にとっては不慮の出来事で、遺体やらほぼ死にかけの体やらを勝手にピクミンたちがオニオンに運んだ結果、こうなったという設定です。
 知っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、元ネタは『1』からです。さすがにこれ以上はネタバレになるので言えません。ご了承ください。

 クイントもピクミンLOVEです(断言)。本編には書かれていませんが、ピクミンとの捜査から帰ってきたときには肌がつやつやしています。
 ちなみにメガーヌもピクミンLOVEです。ルーテシアやゼストは違います。プレシアは親ばかです。
 理央はとんでもないことをしでかしたのかもしれませんね(何をいまさら)。

 あと、クイントの実子ですが、特に物語に深くかかわるわけではありません(オイ)。強いて言うなら、クイントの体は基本的人間だということを強調するためだったり、クイントが生きていたら今頃子供を妊娠した経験があるのではないかという憶測から出しました。
 ツバメという名前にした理由はおそらくお分かりになると思います。強いて言うなら、ペガサス、ヴィーナス、ジュピター、シリウスなども候補に入ってもおかしくなかったです。ちなみに女の子です。

 で、前書きの方にあった重大発表の方なんですけど……













短編『たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生』の投稿を打ち切りたいと思います。





















来年からは、()()()()()『たぶんほかに類を見ない特典をもっての転生』を投稿していきたいと思います!!


 ……すいません、悪ふざけがすぎたかと思いましたが、どうしても皆様を驚かせてみたくてしてしまいました。本当に申し訳ございません。

 さすがにこのまま短編のままで書いていくのもアレだな~と思い始めたので、いっそのこと来年から連載として書いてみたらどうかと思いまして、こうすることに決めました。
 まあ、更新スピードが速くなるとか、そういうことはないと思いますのであまり過度の期待はなさらない様にしてください。フラグもちゃんと本編の方に残しておきましたし、予想できてた方もいらっしゃると思います。

 というわけで、来年から短編の章を抜け出し、Strikers編に入っていきますので、今後ともよろしくお願いします。

 最後の方におまけも用意しておきましたので、良かったらご覧ください。ここまで読んでいただきありがとうございました。それでは皆様、良いお年を。





おまけ① 理央とクイント、メガーヌの女子会?
 
 8年ほど前……

「あ~、やっぱりピクミンは可愛いわね~♪」ウォーウォー

「ほんとほんと、うちの虫たちと同じように召還出来たらいいのに。
 私、虫の召還ぐらいしかしてないからピクミンを召還できないのよね~」ミャーミャー

「ああ、それならピクミン用の召還魔法陣を今開発中みたいですよ」ワーワー

「え!? それほんと!? 
 やだ~! いつでもどこでもピクミンと一緒にいられるなんてしあわせよ~♪
 ルーテシアの遊び相手にもちょうどいいだろうし~♪」ワッ!?ワーワー

「ちょっとメガーヌ!? あなただけうらやましすぎるわよ!! 
 私には!? 私にはないの!?」ヤッ、ウォーウォー

「……あー……残念ながら……というかシューティングアーツとピクミンとはあまり関連性がないので……」ワーワー

「嘘だっ!! 嘘だと言ってよ理央ちゃん!!」ワー・・・←ピクミンがあまりの迫力に逃げる声

「あら? 残念だったわねクイント? 
 まあ私はピクミンと一緒に楽しくやってるから、あなたは歯ぎしりでもして見ていたら? ふふふふふ……」ミャーミャー

「……さすがに男一人捕まえておけなかった人の言うことは違うわよね~……」

「……今なんて言った?」ワー・・・←ピクミンがあまりの迫力に(ry

「男も捕まえられないで逃げられちゃうような人は、せいぜいそうやって自慢してればいいんじゃないのって言ったんだけど?」

「……ちょっと表にでましょうか? 久しぶりに……切れちゃったよ」

「来なさいよ、メガーヌ。召還獣なんかに頼らずにかかってきなさい」

ヤロォォォブッコロシテヤラアアア、ドンガラドガッシャンメキバキグチャドカメメタァ・・・

「……地上本部は、今日も平和ね……」ウォー!

「……俺の部下が、いつもすまないな……」





おまけ② 午後の教導(仮)

「ひゃっはああああ!! 
 ピクミンがたくさんでテンション上がりまくりだぜええええ!!」

ズドドドドドドドド!!

「ぎゃあああああああ!!」

ドカーン!!

「投げるととんでいくのはピクミンだ!!
 投げるともっと長い距離をとんでいくのは訓練されたピクミンだ!! 
 ホントピクミン指揮の訓練は天国だぜ!!」

ブオンッ! ドカッ!

「ぐええええええええ!!」

「だ、誰か! アオバ一佐とクイントさんを止められる奴はいないのか!!?」

「む、無理だ!! あんなバーサーカーどもをどうやって止めろって言うんだよ!!?」

「あ~、ようやく報告書書き終わって……て!!? 
 母さん!? 理央さん!? いったい何やってるの!!?」

「「いやっほおおおおおおおおおおおおう!!」」

「しょ、正気に戻ってえぇぇぇぇぇ!!」






終わり!!


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Strikersの章
第一話 空への翼/それは突然の辞令なの?


 久しぶりにお読みになってくださった皆様、お久しぶりです。なんとか2月中に投稿することができました。今回もお読みいただき感謝いたします。

 はじめてお読みになった方、読んでいただきありがとうございます。
 一応、タグのほうをご覧になって、不愉快な要素が含まれていないかご確認ください。もし不快に感じる要素がおありでしたら、ブラウザバックのほうをお願いいたします。

 それではStrikersの章、はじまります。



2016/ 3/13 ダッシュなどを修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。



 ちいさいころのあたしは、本当に、弱くて、泣き虫で。

 

 悲しいこととか、辛いことに、いつもうずくまって。

 

 ただ、泣くことしかできなくて。

 

 

 

 炎の中から助けだしてもらって、連れ出してもらった、広い夜空。

 

 冷たい風が優しくて、抱きしめてくれる腕が、暖かくて。

 

 助けてくれたあの人は、強くて、優しくて、かっこよくて。

 

 泣いてばかりで、なにも出来ない自分が情けなくて。

 

 私はあの時、生まれて初めて心から思ったんだ。

 

 

 

 泣いてるだけなのも、なにもできないのも、もういやだって。

 

 強くなるんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー新暦75年 4月 ミッドチルダ 臨海第8空港近隣 廃棄都市街ー

 

 四年前に発生した空港火災により人が住むことが不可能となった廃棄都市………そこは現在、陸戦魔導師の昇格試験の試験場として使われていた。

 

 試験の受験者は制限時間内に各所に設置されたポイントターゲットをすべて破壊し、ゴールにたどり着くことが出来れば、試験に合格し、より高いランクの魔導師になるのだ。

 ただし今行われているBランクへの昇格試験は、ターゲットやそのほかの機械からの妨害攻撃があったり、破壊してはいけないダミーのターゲットがあったりと、簡単にはクリアできない要素が多くある。

 

 特に一番の難関が、受験者の半分以上を脱落させている最終関門の大型オートスフィア。中距離自動攻撃型の狙撃スフィアで、廃棄された高層ビルからの狙撃に対処することが出来ない陸戦魔導師が数多くいるのだ。

 

 しかし、現在試験を受けている二人の若き魔導師たちは、この最難関を見事突破し、破壊すべきポイントターゲットをあと一つだけ残してゴールへと向かっていた……。

 

 

 

 

 

 試験場のゴールでは、試験官であるリインフォース・ツヴァイ空曹長が二人の受験生が来るのを待っていた。

 

 リインフォース・ツヴァイ。八神はやてが作り出したユニゾンデバイスの管制人格であり、初代リインフォースの後裔にあたり、「第5のヴォルケンリッター」と言ってもいい存在である八神家の末っ子である。

 彼女は八神はやてをはじめとした八神家の面々と同様、管理局の一魔導師として活躍しているのである。

 

 彼女のマイスターにあたる八神はやては今回の試験の受験者二人を自分の新部隊『機動六課』にスカウトしたいと考えているため、この試験の試験官を彼女、リインフォース・ツヴァイが担当しているわけなのである。

 ちなみに、上空からはヘリで、八神はやてと彼女の親友であるフェイト・テスタロッサが、また別の場所からは彼女のもう一人の親友が試験の様子を見て二人の実力を測っていた。

 

「……あっ! 来たですねー!」

 

 制限時間が刻々と終わりに近づいていく中、リインフォース・ツヴァイ、リインは遠くからゴールに向かってくる受験者二人の姿を確認した。

 

 15歳ほどの青いショートヘア-の少女が、同じくらいの年のオレンジのツインテールの少女を背負い、ローラーブーツ型のデバイスを走らせてこちらに向かってきていた。

 

 青い髪のボーイッシュな少女はスバル・ナカジマ。かつて首都防衛隊のゼスト隊に所属していたクイント・ナカジマと陸士108部隊の部隊長であるゲンヤ・ナカジマの二人の養子であり、クイントの遺伝子情報から作られた戦闘機人である。

 彼女は、11歳のころにとある魔導師に救助された経験から、その魔導師のように泣いている人を助けられるほど強くなりたいという思いを持って管理局の災害救助担当の部隊で働いていた。

 

 もう一人の、オレンジ色の髪をした少女の名前はティアナ・ランスター。スバルより歳が一つ上で、彼女と同じ部隊に所属している管理局の魔導師である。

 彼女の兄、ティーダ・ランスターは本局の優秀な執務官であり、彼女はそんな兄を誇りに思っている。そしてそんな兄と同じ執務官になることを目指し、まずはより高いランクの魔導師になることに目標として彼女は日々努力しているのである。

 

 試験中、最終関門の少し前で足首を痛めてしまうトラブルが起き、自分だけは今回の試験を諦めようとしていたティアナだったが、スバルの説得と考えにより試験の続行を決意、そして彼女たちはそのチームプレイで見事に最終関門を突破し、あと一つのターゲットを残してゴールを目指していた。

 

「あと何秒!?」

 

「16秒! まだ間に合う!」

 

 そんなやり取りをしながら、ティアナはスバルに背負われたまま、彼女が愛用している拳銃型のデバイスを最後のターゲットに向け、オレンジ色の魔力弾を発射した。

 魔力弾はそのままターゲットに向かい、それを破壊した。

 

「はい! ターゲット、オールクリアです!」

 

 つまり、彼女たちはすべてのターゲットを破壊したので、あとはゴールに向かうだけとなったのである。

 最後のターゲットが破壊されたのを見届けたスバルは、制限時間内にゴールにたどり着くため、自身が持つありったけの魔力をローラーブーツ型のデバイスに注ぎ込んだ。

 

「魔力! 全開いいぃぃぃ!!」

 

 ローラーブーツは音をたてて速度を上げていき、車輪からは砂ぼこりだけでなく火花まで出はじめた。

 ティアナはスバルの背にしっかりとつかまっていたが、おっちょこちょいな一面がある自分の相棒にたいして、ひとつ聞いておきたいことがあった。

 

 

「ちょっ! スバル! 止まるときのこと考えてるんでしょうね!?」

 

 

 それに対する相棒(スバル)の答えは……

 

 

 

「えっ?あっ……」

 

 

 

 考えてなかった、アチャー

 

 

 

「うわぁ……!」

 

「嘘ぉ……!」

 

 そんな本人たちのことなぞお構いなしと言わんばかりにドンドンスピードを上げていくローラーブーツ。ゴールにいる試験官も「あ…なんかチョイヤバですー」と言葉を漏らすあたり、やっぱり危険な状況なのだろう。

 

「「うわああぁぁぁぁ!!」」

 

 ものすごいスピードで走る二人はそのままゴール。制限時間内にはゴールにたどり着けた、問題はどうやって止まるのかだが。

 

「「うわああぁぁぁぁ!!」」

 

 しかしゴールした二人の先には、なんとがれきの山が!! 廃棄都市なので、建物が壊れたり崩れたりしたがれきがこのようにおいてある場所もあるのだ。

 前にフェンスが置いてこそあるが、そんなもんどうしたといわんばかりの勢いでそこに猛スピードで突っ込みそうな二人。少なくとも止まれないということはなくなっただろう。間違いなく大けがはするが。

 

「「うわあああぁぁぁぁぁ!!」」

 

 一瞬自分の死を覚悟した二人の脳裏には、まるで走馬灯のようにいくつもの映像がよぎっていった。

 自分や姉を家族として迎え入れてくれた父と母の姿。

 小さいころ拳銃のおもちゃでよく遊んでくれた自分の兄。

 ピクミンにデレデレな自分の母親。

 ピクミンに助けられた自分の兄。気が付いたら(一部)ピクミンになって帰ってきた母親。

 兄のことを無能だとか侮辱していた上司、をピクミンとともに精神的にも肉体的にもぼこぼこにしてくれた英雄。

 訓練校でよく見かけたピクミンの現物、ピクミンの映像、ピクミンの写真、ピクミンの絵……アレ? ピクミン頻度多くない?

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……アクティブガード、ホールディングネットもかな……」

 

『Active Guard and Holding Net』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ズドドドドドドドドーーーーーーーーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女(・・)がその二つの魔法を発動させたとき、桃色の魔力の爆発がそこで起こった。いや、正確に言うのなら、魔法を発動させたときの光の広がり方と、ものすごい勢いで走ってきた二人が受け止められたときの衝撃と音でそう感じるのだ。

 その様子を、はやてとフェイトは上空のヘリから身を乗り出して見ていた。

 

 桃色の光が収まったとき、がれきの前には桃色の網が張り巡らされ、白いモニュメントが地面から生えていた。

 スバルは網に受け止められ、ティアナはモニュメントにつかまっていた。

 

 どうやら、白いモニュメントは緩衝の役割を持っていたらしく、網と緩衝材のおかげで二人は大けがをすることなく止まることができた。

 

「むーーーっ!! 二人ともっ!! 危険行為で減点です!!」

 

 上からリインが、右のほうに彼女のストレージデバイスである『蒼天の書』を浮かばせながら、降りてきた。

 どうやら二人が、止まるときのことを考えていなかったことに怒っているようだ。

 

「頑張るのはいいですが、けがをしては元も子もないですよ!! 

 そんなんじゃ、魔導師としてはダメダメです!!」

 

 リインが怒るのももっともである。

 ただ目的を達成するのが重要なのではなく、しっかり自分の身の安全や問題が起きないように気を付けて任務を遂行するのが管理局の魔導師として大切なことなのである。

 だから、リインが言っていることは正しいのだが、二人はそのことよりも気になっていることがあった。

 

 

 

「ちっさ……」

 

 

 

 ティアナはそうつぶやいた。

 そう、彼女、リインフォース・ツヴァイは、人型のサイズだった初代リインフォースと比べて、身長が30センチくらいととても小さな体なのだ。ゆえに、彼女は移動するときは常に浮遊、または飛行していて、今も浮遊しながらスバルたちのほうを見ている。

 

「まったくもう!」

 

「ハハハ、まあまあ」

 

 ふくれっ面になったリインをなだめる声が、どこからか聞こえてきた。

 その声につられて、リインとスバル、ティアナは声がしたほうに顔を向けた。

 

 

 

 

 

「ちょっとびっくりしたけど、無事でよかった」

 

 

 

 

 

 上から、栗色の髪を長めのツインテールにまとめ、白いバリアジャケットをまとい、左手にデバイス、『レイジングハート』を持った女性の魔導師、『高町なのは』が飛行魔法を使いながら降りてきた。

 

「とりあえず試験は終了ね。お疲れさま」

 

 なのははそう言うと、発動させた魔法、アクティブガードとホールディングネットを解除し、同時にスバルとティアナに軽い浮遊魔法を使った。

 すると白いモニュメントと桃色の魔力でできた網は消えていき、受験生二人はなのはが使った魔法によって丁寧に地面に下ろされた。

 

「むーっ」

 

 リインはどこか不満そうな表情だったが、なのはの言うことを素直に聞いている様子だった。

 ちなみにスバルは、どこかボーっとした様子でなのはを見ていた。

 

「リインもお疲れさま。ちゃんと試験官できてたよ」

 

「わあーい! ありがとうございます! なのはさん!」

 

 なのはの言葉に、まるで子供のように(と言っても、外見は子供だし、精神年齢的にも子供と言ってもいいのだが)喜んだ。

 そしてなのははバリアジャケットを解除し、白と青を基調とした教導官の制服姿になった。

 

「まあ、細かいことは後回しにして……、ランスター二等陸士」

 

「あっ、はい」

 

 なのはからの呼びかけにティアナは答えた。

 

「けがは足だね。治療するから、ブーツ脱いで」

 

「あっ! 治療なら、私がやるですよー!」

 

「あ、えと……すみません……」

 

 治療を行おうとするリインに返事しながらも、ティアナはちらりとスバルのほうを見た。

 スバルはなのはのほうをじっと見ながら、思わずつぶやいた。

 

「なのは……さん……」

 

 4年前、自分を炎の中から助け出してもらった恩人。泣いていただけの、何もできなかった自分に、強く変われるきっかけをくれたあこがれの人。

 そんな人と思いがけない再会をして、スバルは茫然としたままその名前を呼んだ。

 

「うん?」

 

「あっ! いえ、あの……! 高町、教導官! 一等空尉!」

 

 なのはがこちらのほうを向いて、ようやくハッと冷静になったスバル。慌てて言い直すが、なのははゆっくりとスバルに近づきながら言った。

 

「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから」

 

 そしてすこし懐かしむように、こう続けた。

 

 

 

 

 

「4年ぶりかな。背、伸びたね、スバル」

 

 

 

 

 

「……! えと、あの……あの……」

 

 なのはの言葉を聞き、スバルは言葉に詰まってしまった。その目には、少しずつ涙がたまっていく。

 

「うん……。また会えて、うれしいよ」

 

 なのははそう言うと、スバルの頭に手を置いた。

 スバルの目の涙はどんどんたまっていき、ついに目から流れ出した。それを合図にしたかのように、スバルは両手を目に当て、本格的に泣き出してしまった。

 

 自分の命を救ってくれた人が、自分を変えるきっかけをくれた人が、今まであこがれていた人が、4年たった今でも自分のことを覚えていてくれて、さらには再会を喜ぶ言葉をかけてくれた。それがとても嬉しくて、スバルの目から涙が次々とあふれてくるのだ。

 

 感動と、言葉に表しきれないほどの嬉しさから涙を流し続けるスバルを、なのはは優しい目で見つめるのだった。

 

 その様子を、はやてとフェイトはヘリからじっと眺めていた。

 

「さて、なのはちゃん的に二人はどやろ? 合格かな?」

 

「ふふ……。どうだろうね?」

 

 スバルとなのは、この二人の4年ぶりの再会が、スバルたち若き魔導師たちがストライカーとして成長していく日々の始まりになることは、まだスバルとティアナには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 ミッドチルダ地上本部ー

 

「……というわけで、アオバ一等陸佐、新部隊の部隊長に

 

「なるわけないでしょうが、頭どうかしたんですかレジアス中将」

 

「中将、少し失礼な言い回しですが、アオバ一佐の言うことはごもっともかと」

 

「……わかっておる、軽い冗談のつもりだ」

 

「いや、『話がある』って言われて部屋に来た途端、『というわけで』で部隊長にされたらこっちはたまったもんじゃないですよ。

 だいたい、新部隊の設立なんていろいろと準備が必要で時間がかかるでしょうに」

 

「……一応、人員はある程度心当たりがある」

 

「はあ……。どんな人たちなのですか?」

 

「近年、お前のことを尊敬しているといって問題を起こしまくっている局員(害悪)たちだ。

 正直お前が隊長をやる部隊に押し込んでおけば、もう問題は起こさないだろうと「辞めますよマジでピクミン連れて」すまんかった」

 

「中将……本当に発言には気を付けてください」

 

 地上本部では、どこぞの試験場の感動的な場面なんて知ったこっちゃねえと言わんばかりに愉快なやり取りが行われていた。

 ここの実質的なトップが、部下の(あくまで肉体年齢は)19歳の小娘にそれはもうきれいな土下座で謝り、彼の娘はあきれた目で自分の上司である父親を見ていた。

 

 古くからの武闘派で強硬派で地上の正義の象徴で、地上本部には彼に心酔する人物もいて、強い正義感やカリスマ性、優れた統率力も持ち、さらには本部長の先輩であるために実質的には地上本部のトップであるレジアス・ゲイズ中将だったが、ここ最近は理央に頭が上がらなかった。それほどまでにピクミンが地上本部にとって大きい存在となっているのだ。

 

 しかしいくら地上本部の戦力といっても、しょせんは理央からの借り物。理央がピクミンを連れて管理局をやめてしまったら、治安が悪い状態に逆戻りなのだ。

 一度どうにかしてピクミンの所有権を地上本部のほうに移そうと画策していたこともあったが、すぐに理央に気づかれ、理央が発狂するほど怒りくるって一種のクーデターが起こったことは、レジアスにとってかなりのトラウマであった。

 それ以来、理央にはあまり逆らえなくなってしまったのだ。

 

「……まあ、それはいいとして、本題は何ですか?」

 

 理央は気を取り直してレジアスに質問した。まさか本当に新部隊をしろというわけではないだろう。

 レジアスは土下座をやめ自分の椅子に座り直し、話を再開した。

 

「ここ、ミッド地上に新しくできた新部隊の話なんだがな……」

 

「え? 本当の話だったんですか?」

 

「いや、お前の部隊じゃない。それどころか地上本部(われわれ)の部隊ですらない。“海”の奴らの部隊だ」

 

「ああ、確か名前は『遺失物管理部 機動六課』でしたっけ?」

 

「ああそうだ。まったく忌々しい。“海”の連中はこの部隊を皮切りに、我々が必死の思いで守っているこの地上をいいようにしようと考えているに違いない。だいたい“海”の連中はいつもいつも地上本部をないがしろに……」

 

(また愚痴が始まったよ、レジアス中将は極度に“海”が嫌いだからね~……。こんなに凝り固まった考えがなければいい人なのに。

 まあ、こんだけ強く主張しなかったら自分の意見を認めてもらえなかっただけなのかもしれないけど)

 

 理央はレジアスのお小言を聞きながら、内心またかとあきれていた。

 確かにレジアス中将は、組織のトップとして優れた人ではあると理央は思っている。しかしその一方で、自分の考えに固執しがちなのはトップとしてどうなのかと思っている。トップとしてもう少し柔軟な思考を持ってもらえたら、と理央は頻繁に感じていた。

 まあ、理央自身も“海”に対してあまりいい感情を持っているわけではないのだが。

 

「……で、その新部隊のことで、私にどのようなご用事で?」

 

 もしかして、隊長陣とそれなりの知り合いである自分に密偵でもさせるんだろうか? 理央はそう考えていたが……

 

「いや、奴らに出過ぎた真似をさせないように注意してもらいたいだけだ。手柄でも立てられて、“海”が地上に介入しやすくなってしまったらいかんからな。

 地上の平和は我々が守っているということを、“海”の連中に思い知らせてやらんとな」

 

「…………それだけですか?」

 

「? ああ、いつも通りに仕事をしてくれれば、それでいいのだが……」

 

「…………すみません、今日の仕事はもうすべて終わりましたので、これで帰らせていただきます。

 お疲れさまでした。さようなら、また明日お会いしましょう」ペコッスタスタスタ

 

「なっ!? ま、待て!! 待つんだ、アオバ一佐!!」

 

 理央はレジアスの返答を聞くなり、さっさと部屋を出てってしまった。

 レジアスは理央を止めようとしたが、結局理央はそのまま行ってしまった。

 

「……中将、わざわざ呼び出しておいて、それを伝えるだけではアオバ一佐が機嫌を損ねるのも当然かと……

(さんざん愚痴を聞かされた後ではたまったものじゃないでしょうね……)」

 

「……そうかもしれんな……」

 

「ですが、よろしいのですが? 機動六課の隊長陣とアオバ一佐は長い付き合いの友人だと聞いています。

 もしこの件をきっかけに、こちらの情報を向こうに引き出されるようなことがあれば……」

 

「それには及ばんだろう。

 アオバはピクミンの扱いに優れているだけではなく、頭のほうも切れるやつだ。奴らに情報を漏らすようなへまをしないだろう」

 

「しかし、情に流されて、ということも……」

 

「それならばとっくの昔に、ピクミンを連れて“海”のほうに異動になっているだろう。そうしないのは、奴がピクミンがいないときのミッド地上の治安状態をよく知っているからだろう。

 なんだかんだ言って、やつは正義感がそれなりに強い、いまだに地上本部で働いているのも、ミッドの平和のことを思ってのことだろう」

 

「……ピクミン、ですか」

 

 レジアスの娘、オーリスはピクミンという存在について、不安を感じざるを得なかった。

 確かに今現在、ミッド地上がピクミンによって平和を保っている状態であることは彼女ももちろん知っている。そのことで、地上の平和をなんとしても守らなければいけないという父の心の重荷がだいぶ軽くなったことも彼女は知っているし、それについて彼女は理央に感謝もしている。

 また、ピクミンはかつてレジアスが地上本部の戦力として検討していた(している、ものもあるが)戦闘機人や人造魔導師と同じく量産可能で安定性のある戦力であり、さらに違法性もなく堂々と増強することができるから、戦力としてこの上ない存在であることもわかっている。

 

 しかし、ピクミンが動けるのは基本的に日が出ている間だけなのだ。4年前の空港火災の時みたいに、夜など日の出てきていない間に起きる事故や事件に対してはピクミンで対処することができないのだ。

 もし夜の間に、ミッドチルダを揺るがすような大事件が起きたのなら、ピクミンに頼り切っていることが多い地上本部では対応できないのでは、とオーリスは考えていた。

 

 そのための対抗策として例の計画(・・・・)が進められているのだが(と言うよりは、進めさせられている(・・・・・・・・・)のだが)、結果が出るまではいまだに時間がかかる。

 はたしてこのままで本当にいいのか……オーリスの中には不安が渦巻いていた。

 

「……確かに、お前が不安に感じるのもわかるぞ、オーリス」

 

「!?」

 

「そう驚くこともないだろうに……。

 ピクミンという単語を聞いてお前が悩むことは、戦力として夜に動かすことができない欠点についてなのだろう?」

 

「……はい。」

 

 ――やはり、この人にはまだまだかないそうにない。

 

 オーリスは、レジアスに自分が抱いていた不安を話すことなく指摘されて、改めて自分の未熟さを感じ取った。

 レジアスはそのまま話を続ける。

 

「確かにワシもピクミンに頼り切りの状態に不安を感じなかったわけではない。

 なにより、ピクミンはしょせんアオバからの借りものであって、アオバの個人戦力であることには変わりないからな……。下手をして奴の逆鱗に触れたら、ピクミンを連れて出て行ってしまい、昔のような悲惨な状態に逆戻りだ。

 そのうち、やつによって地上本部が支配されるのではないかと恐れた日もあった……。まあ、本人の性格から、そんな面倒なことはお断りだと逆につっぱねられるだろうがな」

 

「……確かに本人の性格を考えたら、そう言うでしょうね。ピクミンと戯れることができればそれでいいという人ですから」

 

「ふっ、そうだな……。

 まあ、それは置いといてだ……一度アオバのやつに、そのことについてどう考えているのかを聞いてみたことがあった。『夜に動かすことができない戦力では、ミッドをを守り切ることはできないだろう?』とな……。

 そしたらやつは何と答えたと思う?」

 

「『そんなこと知ったことではない』といったところでしょうか?」

 

「まあ、だいたいは合っているな」

 

「だいたい……?」

 

「……やつはな、『ピクミンは戦力としては戦力の一つでしかなく、ほかの戦力がそろうまでのつなぎでもある。』といってのけたよ」

 

「!? あ、あのアオバ一佐がですか!?」

 

「いや、むしろあのアオバだからこそだろう……。

 確かにやつは無類のピクミン好きで、本人の戦闘能力もピクミンに頼り切っている。しかし、その分我々とは違い、ピクミンを単なる戦力として見ているのではなく、自分に近しい存在、家族や友人といったものとしてとらえているのだろう……。ゆえに、戦力としてピクミンを最大限活用しようとはあまり考えていないのだろう……。

 それに一度言ったが、やつは頭がよく回る。戦力としてピクミンが不十分である点も、十分承知しているのだろう。だからこそ、ピクミンに頼り続けるのではなく、ピクミンで事件や事故に対処するうちにそれ以外の戦力をそろえることが、本当の意味で地上本部の無視できない問題点である戦力不足を解決する手立てだとやつは理解しているのだろう。アインへリアルしかり、な……」

 

「……意外でした。アオバ一佐はピクミンに頼り切ることをよしとしているものかと……」

 

「やつはピクミンバカだが、地上の未来のことを考えられん馬鹿ではないということだろう……。いや、逆にピクミンに頼り続けるつもりもあったワシのほうが馬鹿だったというべきか……。

 ふっ、ワシももう引退を考える時期になったのかもしれんな……」

 

「中将……」

 

「わかっておる。アインへリアルの完成と戦力化、それと例の計画(・・・・)が終わるまでは引退するつもりなどない。公表するつもりもな……。

 最高評議会からの命令とはいえ、ゼストを死なせてしまった以上、もう引くことなどできん」

 

「……どこまでも、お供します。レジアス中将」

 

「……お前にも苦労を掛けるな、オーリス」

 

「いいえ、あなたが選んだ道ですから……」

 

 こちらでも、本来あるべき道から外れた行いでも、正義のためにと着々とある計画が進められていた。

 間違った道だとわかっていても、もう彼は止まることはできない。なぜなら、唯一無二の親友を犠牲にしてしまったのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 ミッドチルダ某所ー

 

 そこには異常な光景があった。

 

 壁にはぎっしりと人が入れるほどのポッドが並べてあり、そのいくつかの中には人が保存液と思われる液体の中で眠っているのだ。

 彼、彼女たちはみな、ここの主の身勝手な人体実験の被験者にされた、もしくはこれから被験者にされる予定の人たちである。

 

 このポッドが並べてある通路の奥の部屋では、ここの主――白衣をまとい、金色の瞳をギラギラと光らせた男――が、空中ディスプレイに映し出された画像や資料を見ながら不気味に笑っていた。

 

「ああ……、タイプゼロに竜召喚士、それに生きて動いているFの残滓たちまで……。

 素晴らしい! 素晴らしい実験材料となりえる者たちばかりじゃないか! 

 機動六課! まさに最高の素材たちじゃないか! ク、クク……ハハハハハハハハ!」

 

 この男こそ、これから機動六課の前に立ちふさがる敵であり、ミッドチルダに未曽有の大事件を引き起こす張本人である、無限の欲望ことアンリミテッド・デザイア、ジェイル・スカリエッティなのである。

 彼は、管理局の最高評議会によって、伝説の地『アルハザード』から発見された人間の細胞を培養して生まれたクローンであった。その頭脳は、まさにアルハザードの遺児と言うに値するほどの優秀さを誇っており、ゆえに、最高評議会は彼を重用しているのだ。

 

 しかし、この男に、その名の通りの無限の欲望を与えたのは彼らの大きな間違いであった。

 彼は自らが欲望のままに動ける世界を欲し、最高評議会と管理局という鎖から解き放たれるための計画を着々と進めていたのだ。

 

 今や計画は、『聖王の器』さえ発見できれば最終段階へと進めるほどに進展している。

 『聖王の器』が彼の手に渡ったとき、それはすなわち管理局崩壊の危機を招く大事件が起こることに他ならない。

 彼の計画を阻止することこそが、まだ彼女たちは知らないだろうが、管理局崩壊の危機を防ぐために設立された機動六課の宿命なのだ。

 

「ハハハハハハハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 彼は笑っていた。なんと彼女たちは自分の最高の実験素体たちを集めてくれたのだろうか。直接会ってお礼を言いたいくらいだ。

 そんなことはかなわないとわかっていながらも、スカリエッティはそう思わずにはいられなかった。彼はそんなことを思いながら、狂ったような笑い声を上げ続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭に、茎と葉っぱを生やして。

 

 




 皆さま、今回のお話はいかがでしたでしょうか? もし私の力量不足で不快な気分をされてしまった方がいるなら、申し訳ございません。こんな感じで話を進めていくつもりですので、ご理解のほどよろしくお願いします。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。おまけのほうをいくつか書いておきましたので、よかったらご覧ください。感想がおありでしたら、お待ちしております。













おまけ① ミッドで出てきたとあるゲーム














 二匹のピクミンが、満月の美しい、風が強く吹きすさぶ草原で向かい合っていた。

 一方は赤ピクミン、もう一方は紫ピクミンだが、両者の共通点としては、どちらも相手を倒さんとする強い意志がその瞳にこもっていることだろう……。

 彼らとしては珍しく、両腕を相手に向かって構え、まるで格闘技で勝負をしようとしているように見える。

 彼らはじっとしたまま、頭の茎を風に揺らしながら向かい合っていた……。












――刹那、彼らは同時に走り出した。





 彼らの中にある意志は、もはや相手を倒せと吠えるばかり。そして二匹の、相手へと繰り出した拳はぶつかり合い―――――!



















「さあ~、買った買った! 最新型ピクミン対戦格闘アクションゲーム、『ピッ拳』がついに発売開始だよ~!! 
 今なら初回特典として『伝説の英雄 リオ』のアバターももらえるよ~! さあ~買った買った!」

キャーキャーワーワーアカピクミンカッケームラサキピクミンモイイナーリオサマサイコー・・・













「……『○ッ拳』のパクリじゃね? でも買っちゃお~っと♪」

おまけ② 最初の……














「そこに3匹ポ○モンがいるじゃろう? 
 ほっほ! モ○スターボールの中にポ○モンが入れてあるんじゃ。
 むかしはわしもバリバリの(以下省略)お前に1匹やろう! ……さあ選べ!」


・『アカハピク』
 あかいはっぱポ○モン タイプ:ほのお、くさ
 説明:一見一匹に見えるが実は何十匹も重なっている。
    いつもモ○スターボールの中には何十匹も入っている。
    どんな攻撃も炎タイプなら効かない。むしろ力が増す。

・『アオハピク』
 あおいはっぱポ○モン タイプ:みず、くさ
 説明:一見一匹に見えるが実は(以下省略)
    どんな攻撃も水タイプなら効かない。むしろ体力が増す。
    たぶん特性は『ちょすい』。

・『キイハピク』
 きいろいはっぱポ○モン タイプ:でんき、くさ
 説明:いっけ(以下省略)
    ハイハイ『ちくでん』『ちくでん』( ´∀` )













「ちょっと待って! 最初の3匹が全部くさタイプだなんておかしいわ! 
 まあピクミンだから別にいいけど」

「いやツッコむところもっと別にあるじゃろ。ツーカ別にいいのか」


 ちなみに、『ハ』(葉っぱ)→『ツボ』(蕾)→『ハナ』(花)の順に進化します( ´∀` )












おまけ③ 理央の秘密

「実は、最初にプレイしたのは『ピクミン』じゃなくて、『ピクミン2』の方なの。ちょっとおかしいわよね。
 でも、楽しいから別にそんなことどうでもいいわよね♪」













 



















 構想段階では、主人公を13番目の戦闘機人(ナンバーズ)にする案もありました。
























「………………………………え?」←稀なアホ面を見せる理央













 といっても、キャラも名前も考え方も全然違うんですけどね。神様転生じゃないオリキャラですし。



お☆し☆ま☆い


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第二話 機動六課/今日の主人公はサイエンティストなの?

 タグをいろいろいじくってしまい、すみません。タグに入れるべきことを入れなかったせいで不快になった読者の方がいたらしく、その反省点を生かして整理することになりました。そのせいで迷惑をかけてしまった方、大変申し訳ありませんでした。
 これからもタグを変更する場合もあるかもしれませんので、ご了承ください。一応申し上げておきますと、『ピクミン』においてはタグから取り除く予定はありません。

 タグの方をご覧になって、不快になる要素がないという方だけどうぞご覧ください。それではStrikers第二話、始まります。



2016/ 3/13 修正しました。
2016/ 4/ 8 会話文を修正しました。
2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


 とある大きな建物の前に、理央は立っていた。レジアスの部屋から退室した後、理央は地上本部を出てここに向かっていったのだ。

 

 理央は建物の前で自分の身だしなみを軽く整えると、建物の中に入っていった。

 

 自動ドアを抜けた先には、とても広く、豪華な輝きに満ちたロビーがあった。しかし彼女は、前世でよくこういうところに入ったことがあるためか、あまり興奮したり緊張したりすることはなかった。

 

 ロビーに入った理央は、まっすぐ受付の方に向かっていく。

 

「カレドヴルフ・テクニクス社のミッドチルダオフィスにようこそいらっしゃいました。

 どのようなご用事でしょうか?」

 

 受付嬢がそう理央に問いかけてくる。それに対し理央は答えた。

 

「お世話になっております。今日の13時にこちらのほうに伺う連絡をしておりました、管理局ミッドチルダ地上本部の青葉理央と申します。

 第3新型魔導端末開発部の方とお約束をいただいておりますが、お取次ぎ願えますでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんな経緯があって、八神二佐は新部隊設立のために奔走」

 

「4年ほどかかって、やっとそのスタートを切れた……、というわけや」

 

 試験を終えたスバルとティアナは、試験場の近くにある管理局の建物に場所を移された後で、はやてとフェイトに新部隊へのスカウトをされていた。そしてちょうどいま、二人から新部隊設立の経緯を聞き終えたところだった。

 

「部隊名は時空管理局本局、遺失物管理部、機動六課!」

 

「登録は陸士部隊、フォワード陣は陸戦魔導士が主体で、特定遺失物の捜査と、保守管理が主な任務や」

 

 さらにリインとはやてが、部隊の詳しい説明をし始めた。

 ティアナはその話を聞きながら、質問をした。

 

「遺失物……「ん?」ロストロギアですね?」

 

「そうや」

 

「?」

 

「でも広域捜査は一課から五課までが担当するから、うちは対策専門」

 

「なるほど、そうですか」

 

 ティアナの質問にはやてとフェイトが答える中、スバルはなにかわからないことがあるといった表情を浮かべた。

 はやてがさらに説明を続けている最中に、スバルは念話でティアナに話しかけた。

 

《ティア! ティア!》

 

《なによ?》

 

《ロストロギアってなんだっけ?》

 

 わかってなかったんかい。それでいいのか管理局員。

 

《うっさい! 話し中よ! 後にして!》「あ、はい」

 

「あう……」

 

 ティアナは念話でスバルを一蹴すると、はやてに返事をした。一方、一蹴されたスバルはうなだれてしまった。

 

「で……、スバル・ナカジマ二等陸士、それに、ティアナ・ランスター二等陸士」

 

「「はい!」」

 

 スバルのほうは少し面白い顔をしながらも、はやてからの呼びかけに二人は答えた。

 

「私は、二人を機動六課のフォワードとして迎えたいて考えてる。

 厳しい仕事にはなるやろうけど、濃い経験は積めると思うし、昇進機会も多くなる。どないやろ?」

 

「あ、えーと……」「あ、あの……」

 

 はやてから発せられたスカウトの言葉に、スバルとティアナは動揺するが、そこにすかさずフェイトが話しかけてくる。

 

「スバルは、高町教導官に魔法戦を直接教われるし……「あ、はい……」、執務官志望のティアナには、私でよければアドバイスとか出来ると思うんだ」

 

「あ、いえ……、とんでもない、といいますか……、恐縮です、といいますか……」

 

 フェイトからの提案に、スバルとティアナは顔を見合わせるが、そこに一人の人物が入ってきて、二人の視線はそっちの方にいってしまった。

 

「えーっと……、取り込み中、かな?」

 

「ふふっ。平気やよー」

 

 入ってきたのは、スバルの憧れの人物であり、はやてとフェイトの親友である高町なのはだった。

 なのはは、はやてとフェイトが座っているのと同じソファに座った。

 

「とりあえず、試験の結果ね」

 

「「!」」

 

 なのはの言葉に、スバルとティアナは身を固くする。

 

「二人とも、技術はほぼ問題なし」

 

 なのはの言葉に、スバルは一度安堵した様子を見せたが……、

 

「でも、危険行為や報告不良は見過ごせるレベルを超えています」

 

 その言葉を聞き、スバルとティアナは苦い表情になった。

 

「自分やパートナーの安全だとか、試験のルールも守れない魔導師が、人を守るなんて、できないよね?」

 

 なのははさらに言葉を続け、彼女の近くに飛んできたリインはうんうんとうなづいている。

 

「うぅ……」

 

「はい……」

 

 なのはの厳しい言葉にスバルは軽くうめき声をあげ、ティアナは元気のない様子で返事をした。

 

「だから残念ながら……二人とも不合格」

 

「うぅ……」

 

 なのはから伝えられた、不合格という結果にスバルは顔を伏せてしまった。

 

「……なんだけど」

 

「「えっ?」」

 

 しかし、そこから続けられた声を聞き、スバルとティアナは驚いた様子でなのはの顔を見る。

 

「二人の魔力値や能力を考えると、次の試験まで半年間もCランク扱いにしておくのは、かえって危ないかも、というのが、私と試験官の共通見解」

 

「ですー」

 

 なのはとリインはそう続けて言った。

 確かにアクシデントがあったとはいえ、二人が与えられた課題をクリアしたことに変わりはないのだ。

 そういう意味では、二人はBランク魔導師として十分な能力を持っているといっても過言ではなかった。

 

「ということで、これ」

 

 そう言いながらなのはは、二人の方に二つの封筒と一枚の紙を差し出した。

 

「特別講習に参加するための申請用紙と推薦状ね。

 これを持って本局武装隊で三日間の特別講習を受ければ、四日目に再試験を受けられるから」

 

「え……? ええ……?」

 

「あ……?」

 

 なのはからの思いもよらない言葉に、スバルとティアナは少し混乱した。

 

「来週から、本局の厳しい先輩たちにしっかりもまれて、安全とルールをよく学んでこよ? 

 そしたらBランクなんて、きっと楽勝だよ。ねっ!」

 

「! ありがとうございます!」

 

 再試験のための手配をしてくれたなのはの思いやりにスバルとティアナは笑顔になり、なのはに頭を下げた。

 

「合格までは試験に集中したいやろ?」

 

 はやてからの言葉に、二人は頭をあげて彼女の方を見た。

 

「あたしへの返事は、試験が済んでから、ってことにしとこか」

 

「「すみません! 恐れ入ります!」」

 

 はやての言葉に二人は起立して敬礼のポーズをとった。敬礼しながらも、二人は目を見合わせてほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

「あー……、なんかいろいろ緊張したー……」

 

「まぁーねー」

 

「不合格は残念だったけど……、まあしゃーないよね」

 

「ま、再試験に引っかかれたのは幸運だったわ」

 

「だね」

 

 なのはたちとの話が終わり、二人は建物の外でリラックスしていた。

 芝生の上で、スバルは腰掛け、ティアナは寝っ転がりながら話をしていた。

 

「でさ、新部隊の話……ティアはどうする?」

 

 スバルは顔をティアナの方に向けながらそう問いかけた。

 

「アンタは行きたいんでしょ。

 なのはさんはあんたの憧れなんだし、おんなじ部隊なんてすごいラッキーじゃない」

 

「まあ……そうなんだけどさ……」

 

「あたしはどうしようかな……。

 遺失物管理部の機動課っていったら、ふつうはエキスパートとか、特殊能力持ちが勢揃いの生え抜き部隊でしょ? そんなとこに行ってさ……、今のあたしが、ちゃんと働けるかどうか……」

 

 ティアナは不安げな表情を浮かべて空を見上げながらそう答えていたが、ふとスバルの顔の方を見て、彼女が何故かにやけた表情を浮かべていることに気づいた。

 

「ふふふーん」

 

 しかもどこか得意げな様子だ。ティアナはそんな彼女の様子を見て、なんだか少し恥ずかしい気持ちになりながらも問いかけた。

 

「なによ、気持ち悪い」

 

「うふふふっ」

 

 ティアナからの辛辣な言葉にも表情を変えることなく、にやけていたスバルだったが、突然表情を真剣なものへと変え、自分の思っていることを伝えた。

 

「『そんなことないよ! ティアもちゃんとできるって!』って、言ってほしいんだろー?」

 

 途中までは真剣な表情だったが、後半になってからはどこかからかうような表情を浮かべながらスバルは言った。

 それを聞いたティアナの額に青筋が浮かんで、彼女はスバルの尻を思いっきりつねった。

 

「うわー!! いたいいたたたたたたたいたいいたいいたいいたい! あーあー! ギブギブギブギブ!」

 

「なーによそれは! 言ってほしくないわよ! バカ言ってんじゃないわよ!」

 

 最後にふんっ!と鼻を鳴らしながらそっぽを向き、ティアナはスバルの尻をつねるのをやめた。

 

「あー、いってー……。……ねえ、ティア……」

 

 スバルからの呼びかけに、ティアナは顔をスバルの方に向けなおした。

 

「あたしは知ってるよ。ティアは口ではふてくされたこと言うけど、本当は違うんだって。

 フェイト執務官にも、内心ではライバル心メラメラでしょー?」

 

「ラ、ライバル心とか、そんな大それたもんじゃないけど……。

 知ってるでしょ? 兄さんと同じ執務官はあたしの夢なんだから。兄さん以外の執務官から勉強できるならしたいっていう気持ちはあるわよ……」

 

「だったらさ、やろうよ! ティア!」

 

 スバルはティアナの方に身を乗り出し、まっすぐな目でティアナを見ながら自分の思っていることをはっきりと伝えた。

 

「あたしはなのはさんに、いろんなことを教わって、もっともっと強くなりたい! 

 ティアは新しい部隊で経験積んで、自分の夢を、最短距離で追いかける!」

 

 スバルからの真剣な言葉に、ティアナの顔も引き締まる。

 

「それにー♪」

 

「?」

 

 が、そこから続けられた言葉は

 

「当面まだまだ二人でやっと一人前扱いなんだしさぁ、まとめて引き取ってくれるの嬉しいじゃん♪」

 

 ティアナの顔にまた青筋を浮かばせた。ティアナは、今度はスバルの頬を思いっきり引っ張った。

 

「いふぁいいふぁいいふぁいふぁい! ふぃぶふぃぶふぃぶふぃぶ! ふぉめんなさいふぉめんなさい!

(いたいいたいいたいいたい! ギブギブギブギブ! ごめんなさいごめんなさい!)」

 

「そ・れ・を・言うなー! めっちゃくちゃむかつくのよ! 何が悲しくてあたしはアンタとコンビ扱いなのよっ!!」

 

 ティアナは頬を引っ張るのをやめ、またそっぽを向いて言葉を続けた。

 

「ふんっ! まあいいわ。うまくこなせれば、あたしの夢への短縮コース。

 あんたのお守りはごめんだけど、ま、我慢するわ」

 

 スバルは一度きょとんとした表情を浮かべたが、そのあとすぐ笑い出した。

 

「ちょーっと、何笑ってるのよ」

 

「ふふふ、別に笑ってない……」

 

 そんな二人の様子を、なのはとはやては建物の上の階から見ていた。

 

「あの二人は、まぁ入隊確定かな」

 

「だね」

 

「なのはちゃん、嬉しそうやね」

 

「二人とも育て甲斐がありそうだし、時間かけてじっくり教えられるしね」

 

「ふふっ。それは確実や」

 

 余談だが、なのはは教導官になる以前から、才能の持ち主や強く育つ可能性の持ち主を見つけるとこのような感じで目が輝く癖がある。そういう意味では彼女にとって教導官はまさに天職とでもいうべき職業であることがわかるだろう。

 

「新規のフォワード候補は、あと二人だっけ? そっちは?」

 

「二人とも別世界。今、シグナムが迎えに行ってるよ」

 

「なのは! はやて! お待たせ!」

 

「お待たせですー!」

 

 二人がそんなやり取りをしていると、フェイトがやってきて二人に話しかけてきた。その肩にはリインもいたが、声をかけるとすぐにはやての方に飛んで行った。

 

「ほんなら次に会うんは、六課の隊舎やね」

 

「お二人の部屋、しっ……かり! つくってあるですよー!」

 

「うん!」

 

「楽しみにしてるね」

 

 その後、なのはとフェイトははやてとリインの二人と別れて帰っていった。

 

「うーん、さて、それじゃあ隊に帰ろうかな」

 

「私、車で来てるから中央まで送ってくよ」

 

「ほんと!? ありがとう!」

 

「そういえば、なのは。体調は、平気……?」

 

「あははは! 平気平気! 全然問題なし!」

 

「だったらいいんだけど……」

 

「心配性だなー、フェイトちゃん。私の頑丈さは知ってるでしょ?」

 

「知ってるけど……心配はするよ……。友達だからね……」

 

「ほんとに平気だから、心配しないで」

 

「うん……」

 

(うん、やっぱりこの優しくて心配性で、どこか儚い感じがするフェイトちゃんがしっくりくる。間違っても理央ちゃんのようなフェイトちゃんはあったらダメなんだよ)

 

 フェイトがなのはの体を心配する中、なのははなのはで全然別のことを考えていた。

 以前デパートでテロが起こった日に理央が変装したフェイトのイメージがなのはの印象に残ってしまい、時折彼女を苦しめていた。

 

 ひどい時には、夢でジュエルシード事件での記憶がよみがえったのだが、なぜかフェイトが性格が理央のようになっていて、大切な思い出を穢されているように感じたなのはは「ちがう……ちがうよ……」と言いながら最悪の目覚めを迎えたこともあった。

 

 そんなこんなで、フェイトの性格が本当に優しそうだったのか今日まで自信が持てなかったなのはは、今日再会したフェイトがいつもの優しいフェイトであったことに内心とても安堵していた。

 

「それにしても、理央ちゃんにもこの前心配されるし、私ってそんなに危なっかしく見えるのかなー? (まあ、理央ちゃんが心配してくれたのは、機動六課がどんな部隊か、あんなほうに予測していたのもあるけど)」

 

「理央も心配してたの? というより、理央に会ってたの?」

 

「うん、この前……デパートでテロがあった日にね。

 あの日はちょうど休日だったから、理央ちゃんところに遊びに行ってたんだ」

 

「……ちょっと意外。理央はあまり、心配とか、そういうのしないと思ってた」

 

 フェイトがそう思うのも仕方ないかもしれない。フェイトが初めて理央に会ったのはジュエルシード事件の時だが、事件中に二人が話すことはあまりなかったのだ。

 もちろん、母や姉を救ってくれたことに感謝はしているが、その時の反応は「ああ、べつにいいよ、そんなの。偶然二人が助かっただけだし、私が想定してたわけじゃないし」という風な軽いものであったため、フェイトは理央のことをどこか冷たい人だと感じ取ったのだ。

 

 その後も、小学校が別であることもあり、あまり二人が接する機会はなく、フェイトが理央に抱いた印象は変わらないままだったのだ。だから、なのはの言葉はフェイトにとって意外なものだったのだ。

 

「ううん。友達だもん、ちゃんと心配してくれるんだよ」

 

「……友達、か……」

 

 なのはにとって理央は、自分が二人と出会うずっと前からの友人であることはフェイトもよく知っている。しかし、だからこそフェイトにとって理解できないでいることがあった。

 

「……それならどうして理央は、地上本部のほうに行っちゃったんだろうね……」

 

 なのはをはじめとした自分たちは本局で働くようになったのに対し、理央はミッドチルダの地上本部のほうで魔導師としての仕事をするようになってしまった。

 どうして彼女はなのはの友達なのに、なのはと同じ本局で働いていないのか……。それが、フェイトが理央にたいして抱いている疑問だった。

 

 ぽつりと漏らしてしまった一言だったが、すぐに口に出してしまったことにハッと気づき、なのはのことを気にして慌て始めた。理央のことを友達と思っているなのはにそんなことを聞かれては、なのはが傷ついてしまうかもしれないと思ったからだ。

 しかしなのはは笑顔のままで、フェイトに言葉を返した。

 

「ははは、理央ちゃんは管理局のどこで働こうか、かなり真剣に考えていたからね。

 頭のいい理央ちゃんのことだもん。いろいろ考えた結果、理央ちゃんは地上本部に行ったんだから、たぶん私が理解できないようなすごい理由なんじゃないのかな」

 

 この言葉は、なのはの嘘偽りない言葉だった。

 確かに理央が地上本部で働くと自分に言ってきたときは驚いたし、寂しい気持ちにもなったが、同時に頭のいい理央のことだからちゃんとした理由があるのだろうと納得できた。

 

 それに、同じ本局で働いているはやてとフェイトとだって、教導官、執務官、捜査官と進路が分かれて、中学生くらいまでは結構同じ任務に就いたりしていたが、卒業後はあまり会えなくなることが多くなっているのだ。理央も本局で働いていたとしても、結局会う回数が今と大して変わるわけではないとなのはは考えていた。

 

「……うん、そうだね。理央ってかなり頭がいいもんね。

 ジュエルシードの力を完全に引き出して操れる機械を作れる人が保護者だもんね」

 

「あー……、あれは本当に驚いたね……。まさかあんな機械を理香さんが作れるとは思ってなかったし、理央ちゃんのほうも、あれでプレシアさんが起こした次元震を止めて、挙句の果てに時の庭園を直しちゃうなんて想像もできなかったよ……」

 

 なにをしてんだ理央さん。ロストロギアもコントロールできるとか、天然チートもいいところである。

 

「それはおいといて……、機動六課の隊舎に移ったら、休日に理央ちゃんのところに遊びに行くのもいいかなと思ってるんだけど、フェイトちゃんもどう?」

 

「うん、そうだね。私も理央の最近の様子とか見てないし、プレゼントのお返しとかもしたいしね」

 

 そんなやり取りをしながら、なのはとフェイトは外へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ、クラナガンのとある駅で、一人の男の子がきょろきょろとあたりを見回していた。

 

 歳は10歳で、ツンツンとした赤い髪が特徴の彼の名前はエリオ・モンディアル。今度新設される部隊『機動六課』のフォワードの一人となる少年である彼は、今この駅で迎えに来る人を待っていた。

 

 時計の機能を持つ腕のデバイスを確認しながら人を待っていたが、ピンク色の髪を後ろにポニーテールにして束ねている、コートを着た女性の姿を見て、エリオは彼女に駆け寄った。

 

「お疲れ様です!」

 

 彼がそう声をかけると、声をかけられた女性、八神はやての守護騎士、ヴォルケンリッターの烈火の将であるシグナムは目を彼の方に向いた。

 

「私服で失礼します! エリオ・モンディアル三等陸士です!」

 

 エリオは敬礼しながら言葉を続けた。シグナムは「ああ……」と納得した声を出しながら、体を彼のほうに向けた。

 

「遅れてすまない。遺失物管理部、機動六課のシグナム二等空尉だ。長旅ご苦労だったな」

 

「いえ!」

 

 そう、エリオを迎えに来る人物とは、彼が機動六課で所属することになる分隊『ライトニング』の副隊長を務める予定のシグナムだったのである。彼女は、ライトニングに所属する予定の新人二人を迎えにここに来たのだった。

 

 彼女はあたりを見回し、もう一人の新人の姿を探したのだが、どうにも見当たらない。シグナムはエリオに聞いてみることにした。

 

「もう一人は?」

 

「はい……、まだ来てないみたいで。

 ……あの、地方から出てくるとのことですので、迷ってるのかもしれません。探しに行ってもよろしいでしょうか?」

 

「頼んでいいか?」

 

「はい!」

 

 シグナムから許可をもらったエリオは、もう一人の新人、キャロ・ル・ルシエを探しに行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカレドヴルフ・テクニクス ミッドチルダオフィス 第3新型魔導端末開発部ー

 

「あっ! アオバさん! ようこそいらっしゃいました!」

 

「ええ、お久しぶりです」

 

 一方そのころ理央は、カレドヴルフ・テクニクス社の第3新型魔導端末開発部を訪れていた。

 開発部のメンバーと思われる女性が理央に挨拶をしてきて、理央は挨拶を返した。

 

 CW社の新型魔導端末開発部では、耐久性、魔法の展開速度、情報処理能力など、様々な面でより優れたデバイスを開発しようと日々デバイスの研究がおこなわれている。

 特にこの第3新型魔導端末開発部では、使用者が行使する魔法をより強力にするための研究がおこなわれていた。

 

 理央は個人的に(・・・・)この開発部とのデバイスの共同開発をおこなっていた。

 実はあまり知る人はいないのだが、理央はデバイスマイスターとしての資格を取っていたので、デバイスの知識は頭に入っているのだ。

 ちなみに試験はなぜか満点を通り越して120パーセントの点数だった。恐るべし青葉理央。

 

「いつもいつもすみません、素人の考えで意見させてもらってるだけで、あまりお役に立てなくて……」

 

「いえいえ! とんでもないです! アオバさんのご意見はもう本当に革新的で、本来なら10年かけないと結果が出せないプロジェクトだと思われていたのに、まさかわずか半年でもう終わりが見えてくるとは……。

 我々は管理局本局の開発部の方々とも共同開発をしたことが一度だけあるのですが、正直アオバさんとの共同開発の方が何十倍も効率がいいです! 

 むしろこちらの方が従来の技術にこだわりすぎていて、逆に足を引っ張ってるのではないかと……」

 

「そんなことあり得ませんよ。私はただ、素人だからこそこうした方がいいのではと感じたことを皆様に申し上げているだけで、実際にそれを新たな技術として昇華なさっているのは皆様ではないですか。

 やはり皆様がたいへん優秀な頭脳とチームワークをお持ちだからこそ、本来長い時間をかけることで到達することができる技術を、こんなにも早く発見なさることができたのだと私は思っております。私がそんな皆様のお力になれたのでしたら、それはとても喜ばしいことだと感じています」

 

「アオバさん……! ありがとうございます! アオバさんのご期待に沿えるよう、我々は全力を尽くす次第です!」

 

(あー疲れる。やっぱりこういうところで敬語を使うってなれないんだよなー。前世では自分が研究室のトップだったから敬語を使うのはあまりしなかったし、偉い人との話とかの面倒ごとはよく秘書(あの子)に押し付けてたからなー……。

 にしてもほんと、ここまでうまく誘導するのは大変だったわー。まあ、ここの人たちがなかなか優秀なおかげもあって半年で終わったんだけど)

 

 理央は丁寧な言葉で相手のことをほめていたが、内心では失礼極まりないことを考えていた。

 というより結局ほぼお前が考えた技術なのか。理央、(いろんな意味で)恐ろしい子……!

 

「ははは、……ところで、今はどのあたりまで進んでいるのでしょうか?」

 

「あ、はい。今はちょうど試作品の実験をしている最中でして……」

 

「はぁ、見せていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです! こちらにどうぞ」

 

 理央は女性に案内されて、試験場と思われるかなりの広さがある部屋にやってきた。

 そこでは、数人の魔導師たちが杖型デバイスを使って、魔力シールドが張られているスフィアに魔力弾や砲撃で攻撃していた。彼らが持っているデバイスがおそらく試作品なのだろうと理央は思った。

 

「彼らの魔導師ランクは、管理局基準ではCランクにあたるものだと判断されます。魔力量もまた、それに準ずるものかと」

 

「なるほど……ということはあのスフィアのシールドは、AAランクの魔法で破壊できるものに設定されているわけですね」

 

「そうなりますね、最終的には理論上、Cランクの魔導師でもAAランク相当の出力の魔法を使えるように作られていますから。これが成功すれば……」

 

 二人がそんなやり取りをしていると、実験に参加していた一人の魔導師が放った魔力弾がスフィアが張っていたシールドを破壊した。それに続くように、ほかのシールドもどんどん魔導師たちの攻撃で破壊されていく。

 それを見た開発部の女性は喜びの悲鳴を上げ、理央の両手を握りピョンピョン跳ね始めた。

 

「やった! やった! やりましたよ! ついに実現しましたよ! やった! やった!」

 

ピョンピョン

 

「は、ははは……、おめでとうございます(人目もはばからずピョンピョン跳ねてる……。よっぽどうれしいんだろうなー、やっぱり……。もうこの人たちだけの成果ってことでいいよね)」

 

「これであとはコストだとか量産体制だとかをどうにかできれば、もう大ヒット間違いなしの製品の完成ですよ!」

 

ピョンピョン

 

「え、ええ……そうですね。私もとても楽しみです(いやもうピョンピョンはいいから)」 

 

「あ……でも、Aランク以上の人が使ったら、出力機関がオーバーロードして暴発してしまうんでした……。そこも改善しないといけないですね……」

 

 女性は跳ねるのをやめ、シュンとなって落ち込んでしまった。

 

「ええ、でもそれはまたの機会でいいのでは? このままでも十分ニーズには応えられるわけですし……(やっと止まってくれた……。まあそれはわざと仕組んだことなんだけどね)」

 

 このデバイスこそ、理央が地上本部の新たな戦力として用意しているものである。

 低ランク魔導師が強力な魔法を使うことができるデバイス……それは高ランク魔導師が少ない地上部隊にとってはとても相性がいいのではないかと理央は考えた。そこで理央はCW社との共同開発でこのデバイスを作ってもらったのだ。

 後はこれが市場に出て地上の魔導師たちが使えるようになれば、低ランク魔導師の陸士でも高ランク魔導師の犯罪者に対応できると理央は予想していた。

 

 ではなぜAランク以上の魔導師には使えないように作らせたのか? それは必要以上に広いランクで使える様にして、高ランク魔導師の犯罪者もより強力な魔法を使える様になったら、元も子もないからだ。

 まあ、ミッドに現れる高ランク魔導師の犯罪者の大半がAAAランクどまりなので、AAランクの出力の魔法が使える陸士数人がいればたぶん大丈夫だろうと理央は考えていた。

 

 

 

 むろん理央なら、もっと高ランクの魔導師が使える様にすることも、出力をもっと上げることもできるのだが。やっぱ恐ろしい。

 

 

 

 なぜ管理局の開発部でこのデバイスを開発させなかったのかについては、またの機会に話すことになるだろう。

 

「じゃあ後は、大量生産ができるように調整をするのと、生産のためのラインを作るだけですか」

 

「えっ……あ、はい。そうなりますね。

 ……すみません、急にあんな行動をとってしまい……」

 

「いえ、かまいませんよ。それほど嬉しかったということなのでしょうし……。

 あと少しですが、最後までよろしくお願いしますね」

 

「あ、はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 天才科学者、青葉理央。たとえ前世の知識があまり使えなくても、そんなこと知ったこっちゃねえと言わんばかりに彼女は新しい発明品を生み出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、こちらはエリオとシグナムがいるクラナガンの駅。エリオは同じ部隊に所属するキャロを探しまわっていた。

 

「ルシエさーん! ルシエさーん! 管理局機動六課新隊員のルシエさーん! 

 いらっしゃいませんかー! ルシエさーん!」

 

「はーい! 私ですー! すみませーん! おそくなりましたー!」

 

 エリオが名前を呼びながら探していると、少女の声が聞こえてきた。

 エリオが声のした方を見ると、民族衣装のような服を着た少女が、手に大きなバッグを持ちながらエスカレーターを下りてやってきていた。顔はフードをかぶっていてよく見えない。

 

「あ、ルシエさんですね! 僕は……」

 

 エリオが彼女に気づいて自分の紹介をしようとしたとき、キャロはエスカレーターの段差を踏み外してしまった。

 

「ああっ!」

 

「!」

 

 彼女が階段から転げ落ちそうになった時、エリオの腕のデバイスから魔法発動時の音声が聞こえた。

 

『Sonic Move』

 

 その直後、エリオはまさに雷のような速さで動き、転びそうになったキャロを受け止め、そのまま上の階までキャロを運んで行った。

 

 しかし、途中でフードが外れてキャロの顔があらわになってしまい、エリオの視線は彼女の顔の方にいってしまった。そのため、エリオは着地に失敗し、キャロを上にして倒れてしまった。

 

「「うぁっ、うわあああ!」」

 

 その際キャロが持っていたバッグも地面に落ちてしまったが、地面に落ちた後でなぜかそのバッグはもぞもぞと動いたのだった。

 

「あいっててて……。す、すみません、失敗しました」

 

「い、いえっ、ありがとうございます。助かりました。……?」

 

「あ」

 

 二人は、失敗したことを謝ったり助けてくれたことに感謝したりなどのやり取りをした後、とある事実に気づく。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャロの胸に、エリオの手が思いっきり当たっているということだった。

 

 

 

 

 

「あっ……!」

 

 とっさのこととはいえ、狙ってやったことではないとはいえ、結果的にセクハラをしてしまったエリオは固まってしまったのだが……

 

「あ、すみません。今どきます」

 

「あっ、あのっ、こちらこそすみません!」

 

 キャロはまるでそんなことどうでもいいかのように普通にどいたのであった。彼女自身がもともとそういうことを気にしない性質なのか、あるいはそういうことに疎い彼女の保護者の影響なのか、彼女はそういうことに無頓着のようだ。

 エリオも顔を赤くしながら彼女に謝った。

 

 すると、さっき落ちたバッグがまたもぞもぞと動き出し、二人もそのことに気づきバッグの方に目をやる。

 

「キュー」

 

 バッグのふたが開き、中から出てきたのは、竜の子供とでも言うような外見をした生き物だった。

 全体的に白く、蝙蝠のような翼を持ち、目が赤く、鼻の上に角があるその外見は、まさに竜といっても過言ではないだろう。

 

「ああ……。フリードもごめんね。大丈夫だった?」

 

「キュクルー!」

 

「竜の……子供……?」

 

 エリオが竜の子供と思われるその生き物、フリードに目を奪われる中、キャロはエリオに話しかけてきた。

 

「あの、すみませんでした。エリオ・モンディアル三等陸士ですよね?」

 

「あ、はい!」

 

 エリオが少し身を固くしながら答えると、キャロはまたかかってしまったフードを外しながらキャロは自分と竜の紹介を始めた。

 キャロはピンク色のセミショートで、エリオと同じ年頃の少女だった。

 

「はじめまして、キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります。

 それから、この子はフリードリヒ。私の竜です」

 

「キュクー!」

 

 フリードはキャロのもとに飛んできて、キャロが広げた両手の上に着地し、翼を広げながら鳴き声を上げた。

 

 これが、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ……、金色の閃光、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが保護した槍騎士と竜召喚士の初めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、ミッドチルダのとある場所では結界が展開されていた。

 

《ヴィータちゃん、ザフィーラ、追い込んだわ。ガジェットⅠ型、そっちに3体!》

 

 足元にベルカ式の魔法陣を展開し、仲間に念話で通信をする白衣を着た金髪のセミショートの女性は、八神はやての守護騎士、ヴォルケンリッターの湖の騎士、シャマルである。

 

 その近くでは、カプセルの薬のような形をした機械が3体、建物と建物の間を低空飛行していた。その前には、青いオオカミが立ちふさがっていた。

 

「ておあぁーーーー!!」

 

 オオカミが叫ぶと、地面から銀色に輝く突起状が飛び出ていき、そのいくつかがカプセル型の機械のうち一つを突き刺した。突き刺された機械は耐え切れず、爆発四散した。

 

 このオオカミもまたヴォルケンリッターであり、盾の守護獣、ザフィーラという。

 そしてこの機械を破壊した魔法は『鋼の軛』と言い、本来は地面からの拘束条で相手を突き刺し動きを止める魔法なのだが、このような使い方もできる。

 残った機械はそのまま飛び去ろうとするが……。

 

「でぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 そのうちの一体は、上から降ってきた少女が振るったハンマーの一撃をくらい、そのまま壁に激突し、爆発した。攻撃をした、

 オレンジ色の髪を三つ編みのおさげにした少女はすぐに次の攻撃の体勢を整える。最後の機械は急上昇して逃れようとした。

 

「アイゼン!」

 

『Schwalbefliegen!』

 

 少女が手に持ったハンマー、彼女のデバイスに呼びかけると、デバイスは魔法を発動し、一つの鉄球が彼女のすぐ近くに出現した。

 彼女はその鉄球を手に持ち、上に放り投げ、タイミングを合わせて……

 

「えいっ!」

 

 デバイスで強打した。まるでゲートボールのようだが、それとは比較にならないほどの力を込めて鉄球は打たれた。

 打たれた鉄球は強力な破壊力を持ち、そのまま機械に向かっていき、貫いた。鉄球に貫かれた機械は爆発し、すべての機械は破壊された。

 

 この少女もヴォルケンリッターであり、鉄槌の騎士、ヴィータという。見た目は少女のようだが、その強さは烈火の将であるシグナムにもおくれを取らないほどのものである。

 

「片付いたか……」

 

「シャマル、残りは?」

 

 ヴィータに聞かれ、残りの機械の反応があるかどうかシャマルは調べた。

 

「……残像反応なし。全部つぶしたわ」

 

「出現の頻度も、数も、増えてきているな」

 

「ああ、動きもだんだん賢くなってきてる……」

 

「でもこれくらいならまだ、私たちだけで抑えられるわ」

 

 破壊された機械のそばにいるザフィーラのもとに、ヴィータ、シャマルが下りてきた。

 

「そうだな」

 

「ド新人に任せるには、ちょっとメンドイ相手だけどな」

 

「仕方あるまい。我らだけでは手が足らぬ」

 

「そのための新部隊だもの」

 

「はやての……、いや、わたしたちの……新部隊……」

 

 

 

「機動六課、かぁ~」

 

 スバルが帰りの電車の中で思わずつぶやいた、この機動六課が動き出す日は、刻々と迫ってきているのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あ! アオバ一佐! 見にきてくださったんですか!? ありがとうございます!」」」

 

「アイエェェェェェ!? ナンデ!? ナンデヤツラガココニ!?」

 

「あ、地上本部の陸士さんたちが、個人的に実験に協力してくださったんです。

 本当に地上本部って親切な方が多いんですねー♪」

 

「そういうことは先にっ……!! うっ、胃が痛み始めた……」

 

 実験に協力したのは、理央の信仰者(胃の破壊者)たちだったという。

 

 

お☆し☆ま☆い




 これにて今回のお話の本編は終了です。今回のお話を読んで不快になってしまった方がもしいらっしゃるなら、申し訳ございません。これが私の小説ですので、なにとぞご理解お願いします。

 次回はついに理央以外の転生者を出すつもりです。正直入れても入れなくてもそんなに変わらないキャラなので、あまり期待しないでくださいね。

 最後におまけをいくつか書いておきました。よかったらご覧ください。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。













おまけ① ミッドで出てきたとあるゲーム その2(禁断の一言)

「今年の冬、ついにピクピクモンスター、略してピクモンの最新作が登場!! その名も……


















『ピクピクモンスターSUN』!! 『ピクピクモンスターMOON』!!

 さあみんな、お店に急いで予約にいこーぜ!!
 新しい冒険が、みんなを待っている!!」

 ワーワーマジカ、スゲーナオイ、サッソクヨヤクシニイコー・・・














「…………『ゼット』じゃないの……?」













 ゼットじゃないんです( ´∀` )

おまけ② なのはの一言は彼の琴線にふれたようです

「来週から、本局の厳しい先輩たちにしっかりもまれて、安全とルールをしっかり学んでこよ? 
 そしたらBランクなんて、きっと楽勝だよ。ねっ!」

「お前は知っているのか……? Bランク取得の難しさを」

「え、だ、誰……?」

「なぜわからないんだ……!? 
 多くのCランク以下の陸戦魔導師は、空も飛べず、十分な魔力も持っていない……。だから、自分はBランク魔導師になれないと知っていたのだろう……。
 彼らの……彼らのC以下のランクは、そんな彼らの悔しい気持ちの表れなんだ!!」

「そ、それは大げさなんじゃ……」

「それを嘘だとは言わせないっ!! ……………言わせてなるものかっ……!
 現実を見ることもなく! 高みに立って俺たちを楽し気に観察して!
 ふざけるなっ!! 事実は一つだけだ!

 お前たち高ランク魔導師は、低ランク魔導師(俺たち)をバカにしたんだよっ!!!」

「ご、ごめんなさい~~~~!!」

・ルル・ランペルー……管理局地上の陸士部隊に所属するCランク魔導師。
          上から見下されるのが嫌い。そういうやつも嫌い。

 でもまあ、なのはのこの発言はふつうにCランク以下にしかなれない魔導師の心を傷つけますよね。












おまけ③ NGシーン集

「兄さんと同じ執務官はあたしの夢なんだから。兄さん以外の執務官から勉強できるならしたいっていう気持ちはあるわよ……」

「ティアってほんとにブラコン」

「黙れシスコン」



「ほんなら次に会うんは、六課の隊舎やね」

「お二人の部屋、しっ………………………………………………………………………」

「……リイン?」

「……………………………………………………………」バタン、キュー

「あ、あかん! タメすぎて窒息しとる!!」

「だ、誰かー!! 救急車ー!!」



「やった! やった! やりましたよ! ついに実現しましたよ! やった! やった!」ピョンピョン

「は、ははは……おめでとうございます」

「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」ピョーン!! ドカッ!! パラパラパラ・・・

「……だからって天井突き抜けるほど高く跳ぶ……?」

 

お☆し☆ま☆い


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第三話 集結/現場はピクミンがいっぱいなの?

 前回から更新が遅れてしまい、申し訳ありません。早くも少しスランプ気味になってしまい、ほかの作品を書いてみたりしながら調子を取り戻して執筆しておりました。

 タグをいろいろと整理させていただきました。今回は、暴力的だと捉えられるかもしれない場面がありましたので、警告タグに「R-15」を追加させていただきました。ご了承ください。

 今回はようやく、主人公以外の転生者が登場します。また、前回はピクミンのピの字も出てきませんでしたが、今回はちゃんと活躍しますのでご安心ください。戦闘場面も出てきますので、そこの点もどうかご了承ください。

 それでは、始まります。

2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


ー新暦75年 管理局 ミッドチルダ地上本部ー

 

 ピッピ、ピピピピピ、ピピピ、ピピピピピ……

 

「……これでよしっと。ふう、これでようやく今日の分の仕事も終わりね~」

 

 機動六課が本格的に部隊として活動し始める日も、理央は相変わらずピクミンに関する書類をまとめていた。

 書類の数はそれなりに多く、普通なら一日かかりそうなほどあるのだが、理央はマルチタスクと経験ですいすいこなしていって、仕事開始から5時間くらいで全部の書類を処理し終えていた。

 

 さて、今日の、というより最近の理央の仕事はこの書類仕事だけなので、実質今日の理央の仕事は終わってしまったのである。

 そうなると、理央が早く仕事を終わらせた分だけ、彼女が暇する時間が増えるのである。

 そういう時はどっかに出かけたりするのが彼女の習慣なのだが、今日の彼女には特に行きたい場所はなかった。

 

「……また暇になってしまった……。最近は教導とかでミッドチルダ中をアッチコッチ行かなくていいから楽だけど、逆に書類仕事を早く終わらせ過ぎて暇になる時間が多くなるのもある意味困りものね……。

 この前みたいに出かけようにも特に出かけたいところはないし……はあ~、どうやって暇をつぶそうかしら……」

 

 おそらく誰もが、彼女はこういうことを言うんだろうなと思っているだろう。実際、前世で仕事を早く終わらせた彼女はこのように言うことが多かった。

(もっとも、彼女の仕事=世紀の大発明ということがしばしばだったので、偉い学者さんたちやらマスコミやらが彼女のところに押し寄せてきて、すぐ暇だとか言っている場合にならなくなるのだが。)

 

 しかし、忘れてはいけないのは、彼女がピクミン馬鹿だということだ。

 今世で実物ピクミンと出会った彼女がピクミンと戯れる絶好の機会を「暇」として見過ごすわけがなく、こういう時はいつも部屋に待機させているピクミンと遊んでウハウハしているのだ。

 

 理央は仕事を終えると満面の笑顔になり、笛型デバイス「ドルフィン」を吹きながら「おいでおいで~♪」と、部屋にいるピクミンを呼び寄せた。

 

 ピクミンはテテテ・・・とかわいらしく鳴きながら理央の方に走っていく。

 それを見て理央は両手を開き、たくさんの花開いた薔薇をバックに背負っているような幸せそうな表情を浮かべ、そのまま走ってくるピクミンを受け止め抱き上げた。

 

 ウフフフ……アハハハ……と笑いながら、ピクミンを自分の肩に乗らせたり、ピクミンを抱きしめたり、ピクミンを背中に乗せてお馬さんごっこ?をしたりする理央の様子は、まるで純粋な乙女のようだった。

 そしてそのまま理央は定時になるまでピクミンと遊び続けようと……

 

 

 

『失礼します。アオバ一佐、緊急の連絡で……ヒィッ!?』

 

 

 

……したところを、突然開かれた回線によって断念せざるを負えなかった。理央は、純粋な乙女のような表情を、恋人の浮気相手の○○を切り開き、さらには恋人の○○を抱えてnice boatした少女のような表情に一変させたので、通信相手の方はおびえた声を出してしまった。

 そんな表情のまま、理央は背中に乗せていたピクミンを優しく降ろし、椅子に座り直した。

 

「失礼しました、こちらアオバ一等陸佐です。ご用件は?」

 

 怖い、怖すぎる。そんな目で対応されたら怖いんですけど。

 相手のほうは頭部と股間の方に寒気を覚えながらも、震えた声で理央の質問に答えた。

 

『は、はい。じ、実は、デバイスの材料となる鉱石の密輸を行っている犯罪グループの本拠地と思われる建物に、事件を担当していた地上本部の密輸対策部隊が突入していたのですが、どうやら犯人たちの中にSランク以上の魔導師がいたらしく、苦戦しているようです』

 

「密輸対策部隊が? あそこの部隊にはピクミンを指揮できる魔導師がいるでしょ? Sランクの魔導師くらいならどうにかなると思うんだけど……」

 

 理央はようやく表情を戻しながら、疑問に思ったことを聞いた。通信相手である陸士は表情が戻ったことにほっとしながら答えた。

 

『それが……、訓練は受けていたようですが、実戦で指揮するのは初めてだったり、()()()()をうまく使わせることに慣れていないので、Sランク以上の高ランク魔導師に対抗することができない魔導師ばかりのようで……』

 

「…………」

 

 リオは黙って頭を抱えた。

 確かにピクミンが50匹ほどもいれば、魔法による攻撃の指示を()()()それぞれに与えるだけでもAAAランクまでの魔導師に余裕で勝てる。しかし、Sランク以上の魔導師が相手だと、魔法の威力が違いすぎてこううまくはいかなくなるのだ。

 

 例えば、AAAランクの魔導師が張ったシールドやバリアなら50匹のピクミンたちが()()()()()放った攻撃でも破ることができるが、Sランクの魔導師ならかなり楽に防がれてしまうのだ。

 逆に、岩ピクミンに張らせたシールドやバリアも、ピクミンたちがそれぞれ独立して防御魔法を発動しているのなら、Sランク魔導師が放つ攻撃に耐え切れないことが多いのである。

 SランクとAAAランクの間には、大きな壁があることがこのことからわかるだろう。

 

 しかし、理央と女神によるピクミンを強化する話し合い、『ピクミン超強化会議』で理央は、ピクミンが()()()()()()()()()()()()()使()()ことで1匹1匹がそれぞれ別々に魔法を使うよりもずっと強力な魔法を使える様にしてほしいと女神に頼んでいた。

 その強力な魔法はのちに『合体魔法』と呼ばれ、ピクミンの指揮における理央の強さの秘訣のうちの一つとなった。 

 

 だが、強力ゆえにその扱いは非常に難しく、マルチタスクと指揮魔法に優れた魔導師でないとこの魔法をピクミンに使わせることができないのだ。

 ミッドチルダでこの魔法を使用させることができるのは、理央とクイント・ナカジマ、その他十数人ぐらいである。

 

 したがって、そのほかの指揮魔法が使える魔導師では、Sランク魔導師に対抗することは非常に難しいのだ。

 まあ、Sランク魔導師の犯罪者なんてめったに現れないので、そもそもそんな事態がおこるのはとてもまれなのだが。

 

 ――時間をかけて、うまく使わせることができる魔導師が育つのを待つしかないわね、やっぱり。

 

 理央がそんなことを思っている間に、陸士は話を続ける。

 

『レジアス中将が、急ぎピクミンを連れて現場に向かえとのことで……』

 

「……わかったわ、場所は?」

 

『はい、場所はクラナガン北部の……』

 

 理央は場所を聞くなりすぐにピクミンを連れ、部屋を出た。

 今、最強のピクミン使いの力の一端が現われようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 管理局 遺失物対策部隊 機動六課隊舎ー

 

 理央が部屋を出る数時間前、機動六課隊舎の部隊長オフィスには部隊長であるはやてとリインの姿があった。

 

「う~ふふふ♪ このお部屋も、や~っと隊長室らしくなったですね~♪」

 

「ふふ、そやね。リインのデスクも、ちょうどええのが見つかってよかったな~」

 

「えへへ~♪ リインにぴったりサイズです~♪」

 

 はやては普通のデスクに、リインは彼女の小さな体に合ったデスクに座って話をしていた。リインは自分のサイズにぴったりな机が見つかったことがよっぽど嬉しいのか、とてもご機嫌な様子だった。

 

 二人が話をしていると、入り口の電動ドアの扉の方からブザーが鳴り響いた。これは、部屋に入る人が、部屋の主である部隊長に入室を知らせるためのブザーだ。

 はやてはそれに気づき、「はい、どうぞ」と部屋の前にいる人物たちに入室を促す。

 

 扉が開き、「「失礼します」」と部屋に入ってきたのは、二人の女性だった。

 

「あっ! お着換え終了やな!」

 

 はやては椅子から立ち上がりながらそう二人に声をかけた。その女性たちは、六課の制服に身を包んだなのはとフェイトだった。

 

「お二人とも素敵です~」

 

 リインもそう二人を褒めた。確かにいつもの教導官や執務官の制服ではなく、茶色を基調とした制服を着た彼女たちの姿も魅力的なものだと言えるだろう。

 

「あははは」

 

「ありがとう、リイン」

 

 リインの言葉になのはは少し恥ずかしそうに笑い、フェイトは笑顔になってお礼を言った。

 

「三人でおんなじ制服姿は、中学校の時以来やね。なんや懐かし~」

 

 はやてはそう言いながら二人に近づいていった。その言葉になのはとフェイトも嬉しそうに微笑んだ。

 

「まあ、なのはちゃんは飛んだり跳ねたりしやすい教導隊制服でいる時間の方が多くなるかもしれへんけど……」

 

「まあ、事務仕事とか公式の場ではこっち、てことで」

 

 なのはの言葉に、はやてとリインが笑顔になったかと思うと、フェイトはなのはのほうに目配せをしながら言葉を発した。

 

「さて、それでは」

 

「うん」

 

 するとなのはとフェイトは姿勢を正し、敬礼のポーズをとった。

 

「本日ただ今より、高町なのは一等空尉」

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」

 

「両名とも、機動六課へ出向となります」

 

「どうぞ、よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 そう、これは単なる形式的な挨拶であった。親しき中にも礼儀ありというか、上司と部下という関係だからという理由があり、親友の間柄でも一応形式的な形で済ませておいたのだ。

 

 しかしそんなとってつけたような挨拶をしたのがおかしかったのか、なのはとフェイトが笑い出し、それにつられてはやても笑い出した。

 

 そんなほんわかした雰囲気のなか、フェイトがあることに気づく。

 

「あ、はやて……あの机の上に置いてある置物って……?」

 

「あ、アレかぁ……アレはな、理央ちゃんがこの前、部隊設立のお祝いにって送ってくれたものなんよ……」

 

 

 

 ――ピシッ!!

 

 

 

 瞬間ッ!! なのはの脳裏には! 理央と買い物に行った時の回想が!!

 

 

『ん~、どれにしようかしら……。あっ!これがいいわね~』

 

『え? どれどれ? 何選んだの理央ちゃん?』

 

『これよこれ、この狸の置物』

 

『へ~、結構かわいいね。……でもなんで狸?』

 

『いや、なんとなく。

 強いて言うなら、最近のはやてってタヌキみたいに腹黒だから、改めて自覚してもらうのにいいんじゃないかな~って』

 

『……え? ちょっと待って、いやほんと待って理央ちゃん。

 最近のはやてちゃん、そのこと結構気にしてるとこあるから、いやほんと待ってって』

 

『じゃあレジ行ってくるわ』

 

『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!? いやほんと待ってって!! はやてちゃんほんと気にしてるから!! あ! ほら! ピクミンの人形があるからこっちにしy……き、消えた………? え!? 理央ちゃんが持ってるってどういうこと!? あ、ありのまま今起こったことを……え? 全部自分用!? はやてちゃんの分はやっぱりその狸!? いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!? もうやめて! はやてちゃんのメンタルはもう限界なんだよ!? あ、だ、だめえええぇぇぇぇ!!』

 

 

 ――はやてちゃんも、なにもオフィスに持ち込むことなかったのに……。

 

 なのはは、理央によっていともたやすくおこなわれたえげつない行為に頭を痛めた。せっかくいい雰囲気だったのに、台無しである。

 

「そうなんだ……。アレって何の動物なのかな? アライグマ?」

 

「狸やよ……まごうことなき狸なんや……」

 

 フェイトの質問に答えるはやても、どこか疲れ切った表情をしている。理央からの贈り物(という名の精神攻撃)がよっぽどこたえていたんだろう。

 ちなみになのはが知る由もないが、理央の贈り物は狸以外にもう一つあったがために、はやてはこんなにもダメージを受けているのである。

 

 気まずくなってしまったなのはに、疲れ切った表情をするはやて、そんなはやての状態に苦い笑顔を浮かべるリインに、一人だけそんな周りの状況にキョトンとするフェイト。そんな四人のもとに、とある男たちが近づいてきていた。

 

 部屋の電動ドアが開き、四人がそちらに目を向けると、全員苦い表情を浮かべた。

 そこにいたのは……

 

 

 

「よお! なのは! フェイト! はやて! リイン! みんな久しぶりだな!」

 

 

 

 彼らと同じ地球出身の魔導師、神無月(かんなづき)栄介(えいすけ)だった。

 彼が保有している魔力量はSSSランク相当で、さらには所有しているレアスキルが非常に強力かつ有用なものであることから、管理局の若手魔導師の中でも注目を集めているエースである。

 おまけに美形なので、女性職員の中にはたくさんのファンもいる。

 

 彼は、かつて嘱託魔導師としてなのはたちとともにPT事件や闇の書事件を解決した魔導師の一人であり、その時に見せた魔導師としての才能の高さから管理局の武装隊にスカウトされ、小学三年生のころから管理局の本局で活躍してきた。

 そんな彼がどうしてここにいるのかと言うと、その闇の書事件を通じて知り合い、小学生からの付き合いであるはやての部隊設立を祝うためにこの機動六課の隊舎に来ていたからである。

 

 ちなみに、機動六課設立のことをどうやってか知った彼は、自分も機動六課に出向するために、部隊長であるはやてや後見人のクロノ・ハラオウンにその意思を伝えたり、機動六課への出向願いを自分の上司に提出したりとかしていたのだが、「魔導師としてのランクが高すぎる」という理由ではやてやクロノから(やんわりと?)断られていたので、出向することはできなかった。

 確かに魔力量はSSSランクもあるが、魔力運用などの魔法を使いこなすための技術が低いので、彼の魔導師ランクはAAAランクにとどまっているのだが、それでも隊長陣にかかっているリミッターをさらに強くする理由となるには十分なほど高い。

 これ以上のリミッターがかけられると、さすがにほかの隊長陣が前線に出たときのリスクが高くなりすぎるので、はやてたちが断るのも当然だろう。

 

「う、うん……。栄介君、久しぶり……」

 

「げ、元気だった……?」

 

「あはは……。わ、わざわざ来てくれてありがとなー……栄介君……」

 

「ウゲッ! わざわざこんなタイミングで来ないでほしいですー!」

 

 なのは、フェイト、はやてはそれぞれ作り笑いを浮かべながら栄介に挨拶を返した。

 なお、リインが率直すぎるのはしょうがない。生まれてから9年も経ってない彼女に、三人のように本心を上手く隠せと言う方が酷なのだ。

 

「そ、そんなこと言うなよリイン……。

 ……ん? こんなタイミングで(・・・・・・・・・)……? 一体何かあったのか?」

 

「こんな気まずい状況で来られても迷惑なだけですー! というより基本的にはいつも迷惑ですー! さっさと帰ってほしいですー!」

 

「そ、そこまで言う必要はないだろ……。

 みんな、何があったかは知らないけど、元気出せって。せっかくのかわいい顔が台無しだぜ」

 

 英介はそう言いながら、ニコッという擬音がつきそうな笑顔を向けた。

 

「うっ! ……う、うん……」

 

「あ、ありがとう、栄介……」

 

「あ、あはは……や、やっぱり栄介君はお世辞が上手やな~……」

 

 栄介の言葉に、微妙な笑顔で返す三人。はやての横ではリインが苦虫をかみつぶしたような顔になっていた。

 ここまで見ると、この神無月栄介という男は、一見イケメンな好青年(?)のように見えるが……

 

「ところでなのは、あの時の怪我は大丈夫か? また痛くなってないか? 

 ちょうど腕の立つ医者を見つけたから、今度行ってみないか? ついでに俺と食事でも……」

 

「い、いや! 別にいいよ! シャマルさんにいつも診てもらっているし! もう痛まないし! たぶん完治してるし!」

 

「そうか? ならしょうがないな……。

 あ、じゃあフェイト、今度俺と食事に行かないか? 

 ジェイル・スカリエッティの情報を集めているんだろ? 俺が調べたことをその時にでも……」

 

「え!? う、ううん! 別に! 大丈夫だよ! スカリエッティに関する情報なら心当たりあるし! その人から詳しく聞くから!(身内だけど……)」

 

「そ、そうか……(プレシアが生きているからか……チッ)。

 なのはとフェイトが行けないなら……はやて、一緒に行かないか?」

 

「ファッ!? い、いや私は……そう! 部隊長! 部隊長やからいろいろと忙しいんや!

 ごめんな~栄介君、どうやら誰も一緒に食事に行けないみたいやで~! ほんま残念やな~!」

 

「一緒に食事になんて行けるわけないです! 一昨日来やがれです~!」

 

「そ、そうか……みんな行けないのか……。とても残念だな……。

(クソッ! どうしてみんな予定が空いてないんだ! 

 普通オリ主であるこの俺とのデートぐらいできる状況であるべきだろうがっ!!)」

 

 そう、この神無月栄介という男、表面上は紳士的(?)だが、中身はハーレム願望の転生者の一人だったのだ。

 彼は前世にて、リリカルなのはを原作とした二次創作を数多く鑑賞してきた。そのため、今回の転生時において、自分こそがオリ主であり、原作の女性キャラたちを次々と惚れさせてハーレムを作る権利があると勝手に思い込んでしまったのだ。

 彼自身の思考自体はいわゆる「踏み台」と言われるかませ役のような人物たちと同じものだが、彼は前述したとおり数多くのリリカルなのはの二次小説を読んできたので、もちろん踏み台とされる転生者がどのような態度をとり、行動をするのかよく知っている。だからこそ、表面上はこんなにもみんなを思いやっている(?)態度をとっているのだ。

 

 しかし、こんな感じで栄介は、出会ったころからいつもいつもなのはたちにアプローチを仕掛けてくるので、なのはたちは栄介のことを激しく嫌ってこそいないが(リインは除く)、すごく苦手にしていた。

 そんな状態にも気づかずいつもの調子で栄介はアプローチしてくるので、なのはたちは彼のことが小学生のころからずっと苦手なのだ。正直、顔を合わせないことがどんなにも幸せか、とさえ思っていた。

 

「じゃあさ、空いてる時を教えてくれよ。俺が合わせておくからさ」

 

ニコッ

 

「え!?」

 

「ふぇ!?」

 

「なん……やと……」

 

「なん……ですと……」

 

 栄介からのさらなる追い打ち(思いやり)に、なのはたちは激しく動揺した。

 一体全体どうしてここまでしつこく誘ってくるのか。あれか、やっぱり自分たちに気があるのか? でも絶対嫌だ。だって気色悪い感じが何となくするもん。というか、ニコッってするのやめろマジで。気持ち悪いだけだから。気持ち悪さを倍増させているだけだからマジで。

 

 なのはたちが動揺しているあいだも、栄介はニコニコと笑って彼女たちからの返事を待っていた。

 そんな彼の気持ち悪い(素敵な)笑顔をちらちらと伺いながら、彼女たちは神に祈った。ああ、神様……どうかこの状況から私たちをお救いください……!

 

 

 

 

 

『あ~、やっぱりピクミンは最高ですね~。

 特に2なんてお楽しみ要素が盛りだくさんじゃないですか~』ウォーウォーミャーミャー

 

 

 

 

 

 あ、この神様ダメだわ。ピクミンのことしか頭になさそうだわ。こういうのにこういうことで頼っても無理そうだわ。主に経験則で。

 

 しかしその時、彼女たちに救いの手が……!

 

「やめろ、神無月」

 

「なっ!? ……いたのか、氷室」

 

 いつの間にか部屋の中には、神無月栄介と同じ転生者であり、管理局のエースでもある氷室(ひむろ)(ただし)がいて、しつこくなのはたちに勧誘してくる栄介を止めていた。氷室の声を聞き、栄介は驚いたような表情を浮かべたが、すぐに彼の方を向き、忌々しげに彼の顔をにらんだ。

 

「ブザーも鳴らさず入ってくるとは、いつものことながら失礼な奴だな」

 

「それはお前も同じことだろう? ……まあ、嫌がるなのはたちを無理やり誘おうとしているところを見ると、お前も相変わらずはた迷惑な奴のようだな。

 お前のようなストーカーに追いかけまわされるなのはたちの気が知れんな」

 

「なんだとっ!!」

 

「栄介君! 悪いけど、せっかくの新部隊設立の記念日なんや。今日ぐらいは騒ぎを起こさんでほしいなー」

 

「……くそっ、はやてのおかげで助かったな、氷室」

 

「ふっ、はたしてそれはどちらのことなんだろうな? え? 神無月?」

 

「――――――――ッ!!!!」プルプル・・・

 

 栄介からの皮肉にまったく気にも留めず、逆に栄介を煽る正。その言葉に激昂した栄介は氷室に掴み掛かろうとするが、はやてからの一声でやめざるを得なかった。

 最後に負け惜しみのような一言を正に放つが、それすらも気にせず、逆に煽る材料にして挑発してきた正に、栄介はただ怒りで身を震わすことしかできなかった。

 

「大丈夫だったか、みんな?」

 

「あ……う、うん……」

 

「あ……ありがとう正……」

 

「あー……ありがとなー正君……。

 ちょっとだけ、栄介君からのお誘いはしつこいかなーて思-てたところなんよ……」

 

「…………」

 

「気にするな。いつものことだ」

 

 なのはたちからのお礼の言葉に、正はどこか冷めた様子で返した。

 

 この氷室正も、栄介と同じくSSSランク相当の魔力を持ち、強力なレアスキルを所持している管理局のエースだった(その割には、魔導師としてのランクも栄介と同じでAAAランクどまりなのだが……)。

 彼もまた、PT事件や闇の書事件を解決してきた魔導師の一人である。

 

 正となのはたちとの関係も小学生のころからで、そのころからこのように、しつこくアプローチしてくる栄介を正が止めてきていた。だから、彼女たちはその点においては(・・・・・・・・)正に感謝していた。

 

 さて、この氷室正という男も顔が整っており、一見するとクールなイケメンに見えなくもないが……

 

 

 

(踏み台ザマァァァァァァwww毎度毎度懲りずに俺の引き立て役になってくれてありがとよwwwひゃっはああああああああああああ!! 

 これでなのはたちも俺のクールさにさらにメロメロになっただろうよwwwうひひひひひひひひひひwww)

 

 

 

 とまあ、頭の中はこんな感じで、栄介と同じくハーレム願望を持つ転生者なのである。

 ちなみに、なぜ頭の中ではこんなことを考えているのに、少しさめたような態度をとっているのかというと、彼は「クールなオリ主ならハーレム間違いなしだぜ!!」と考えているため、頭の中がどんなに煩悩いっぱいでも、表面上はクールな感じでふるまっているのである。だがまあ……

 

(また顔がにやけてる……いつも栄介君を止めてくれるのは嬉しいけど、なんか正君も同じ感じがするんだよね……)

 

(どうしてあんな顔をするんだろう……。

 正には悪いけど……ちょっと、いやかなり気持悪い……)

 

(うわー……。あの顔、また気持ちの悪い妄想してるんやろな~……。

 正直、どっちもどっちって感じや………。こんなのと同じ職場っていややわ~……。

 やっぱり理央ちゃんと同じ地上本部の方がよかったかも……。いや、理央ちゃんにいじり倒されるから無理やな。ストレスマッハや)

 

(まったく、どうしてこの二人はこんなに気持ち悪いんでしょうか! 吐き気がするです! 

 なのはさんたちや理央さんのような立派な魔導師さんたちを見習ってほしいものです!)

 

 内に秘められているはずの煩悩が顔に出まくっていて、彼女達から思いっきり引かれていたので、まるで意味がなかった。

 正直、この転生者たちへのなのはたちの好感度はかなり低かった。できれば顔を合わすのは年に1度ぐらいまでに済んでほしいとまで思っていた。まあ、実際それぐらい思われても仕方ないくらい、彼らはなのはたちに劣情を抱いているわけなので、当然と言えば当然なのだが。

 ちなみになんだかんだで、この四人の理央への好感度は高い。

 

「あ~……ごめんな~、二人とも。せっかく来てもらったのに悪いんやけど、これからそろそろ部隊長としての挨拶があるし、仕事もあるしでいろいろと今日は忙しくなると思うから、今日のところはもう帰ってもらえへん?」

 

 はやては内心、「さっさと帰って!」と思いながら二人にそう声をかけた。

 

「(え? もう? ……まあ、はやてたちからの好感度も上がっただろうし、それで十分だろう。新人たちとのフラグ立てはまた今度ということで……フヒヒヒwww)

 ……そうか、わかった。改めて、新部隊設立おめでとう、はやて。じゃあな」

 

「(チィッ!! モブ野郎のせいでせっかくのなのはたちとのフラグ立てが!! ……まあいい、彼女たちは既に俺にぞっこんだから、またいつでもいいさ。いつかこのくそモブは叩き潰すとしよう)

 そうか、邪魔して悪かったな。じゃあみんな、また今度な!」

 

 そう言い残して、正と栄介は部屋から出て行った。彼らが出ていく様子を見送ったなのはたちは、ハァ~……と、重めのため息をついた。

 しかし、彼女たちが話を再開するよりも前に、部隊長室の扉のほうからブザーが鳴った。

 

「あっ、どうぞー」

 

 はやては部屋の外にいる人物に入室を促した。すると扉が開き、一人の男性が入ってきた。

 

「失礼します」

 

 一礼しながら入ってきたその男性は、なのはたちよりも身長が高く、銀色の髪の毛を少し長めに伸ばしていて、眼鏡をかけていた。

 彼はなのはとフェイトの姿を確認すると、彼女たちに声をかけた。

 

「あっ、高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰しています」

 

 二人に敬礼をしながら挨拶の言葉をかけてくる青年に、なのはとフェイトは一瞬「会ったことがある人物なのか」ととまどってしまったが、すぐに心当たりが出たので、少し自信が持てない様子ではあるが、二人は確認してみることにした。

 

「えーっと……」

 

「もしかしてグリフィス君?」

 

「はい、グリフィス・ロウランです」

 

 敬礼を解きながら、なのはたちからの問いかけに答える青年ことグリフィス。

 

「うわー、久しぶりー! ていうかすごーい! すごい成長してるー!」

 

「うん! 前見たときは、こんなちっちゃかったのに……」

 

 前会った時からのグリフィスの成長ぶりに、なのははテンションが上がり、フェイトは自分の胸の前のあたりに手を浮かせながら驚いていた。

 

「そ、その節は、いろいろお世話になりました」

 

 若干恥ずかしそうにしながら答えるグリフィス。

 

「グリフィスもここの部隊員なの?」

 

「はい」

 

「私の副官で、交替部隊の責任者や」

 

「運営関係も、いろいろと手伝ってもらってるです」

 

 フェイトがグリフィスに質問し、グリフィスはそれに答えた。さらに、はやてとリインが続けて説明した。

 

「お母さん、レティ提督はお元気?」

 

「はい、おかげさまで。あっ、報告してもよろしいでしょうか」

 

 グリフィスは表情を切り替え、はやてに聞いた。はやてはそれに頷き、「どうぞ」と促した。

 

「フォワード4名をはじめ、機動六課部隊員とスタッフ、全員揃いました。今はロビーに集合、待機させています」

 

「そっかー。結構早かったなー。

 ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん、まずは部隊のみんなにご挨拶や」

 

「「うん!」」

 

 そして、部隊長であるはやての挨拶が行われ、機動六課の活動が本格的に始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ークラナガン北部 とある犯罪グループの本拠地ー

 

 現在この場所では、管理局地上本部の密輸対策部隊と密輸を行っている犯罪グループ、それぞれの魔導師たちによる戦闘が行われていた。密輸対策部隊のほうには、ピクミンやそれを指揮する魔導師の姿もちらほらと見られる。

 

「おい! まだ応援は来ないのか!」

 

「アオバ一等陸佐がもうすぐ来るとのことです! それ以外は、残念ながら……。」

 

 中年の男性からの問い掛けに、20代と思われる男性が答える。今、彼らは窮地に陥っていた。

 

 1時間前までは、ピクミンによって彼らが優位に立てていたのだが、相手側のSランク魔導師が戦闘に参加し始めてからは状況が一変してしまった。

 こちらの魔導師たちの攻撃はおろか、ピクミンの魔力弾による攻撃もその魔導師の防御魔法に防がれて通じなくなり、逆に今まで向こうの魔導師たちの攻撃を防いできた岩ピクミンの防御魔法も、彼の砲撃魔法によって破られ続けていた。

 

 部隊員たちや指揮官の指示に従っているピクミンたちは、後退したり物陰に隠れたりしてなんとかやり過ごしているが、それもいつまでもつかわからない。彼らは一刻もはやく増援が欲しかった。

 

「くそっ! まさか奴ら、Sランク魔導師を雇ってやがったとは!」

 

「予想外でしたね。こんなことになるなら、最初からアオバ一佐に応援を要請していれば……」

 

「すみません、隊長。私がふがいないばかりに……」

 

 笛型のデバイスを持った、魔導師の女性が自分の無力を悔いるかのように中年の男性、分隊長に謝った。

 彼女は今回の作戦に参加した中でピクミンを指揮することができる魔導師の一人で、この分隊長と行動を共にしていたのだ。彼らの近くにはピクミンも十数匹くらいおり、その女性の指揮下にいた。

 

「馬鹿野郎! そんな泣き言言ってる暇があったら、応援が到着するまで持ちこたえられるように気合を入れろ!」

 

「! はっ、はい!」

 

 分隊長からの激励に、彼女は弱音を吐くのをやめ、返事をした。

 現在、彼らはロビーのような広い空間で、バリケードをピクミンに作らせながら応援を待っていた。こういうときにもピクミンは頼りになるもんだな、と分隊長は感心しながらも、今のこの状況に頭を悩ませた。

 

(Sランク魔導師の出現により、こちらは一気に不利な状況になってしまった……。念話で確認したところ、今のところどうやら全員無事らしい。だが、この状態も長くは持たないだろう……。

 はやく援軍が来てくれないと、こちらに死者が出ることも……ッ!!!)

 

 この状況に、彼ら側に死者が出る場合も考え始めた彼は、突然思考を中断せざるを得なかった。なぜなら……

 

 

 

 

 

 

 ピクミンたちが作っていたバリケードが、砲撃魔法によって破壊されてしまったからだ。

 

 

 

 

 

「……ったく、手間かけさせやがって。ゴミはゴミらしく地べたにはいつくばって死んでろっつーの」

 

 壊されたバリケードの向こうから、敵側の魔導師が手に杖型のデバイスを持ってやってきた。この男こそ、彼らが恐れていたSランク魔導師であり、さっきピクミンが作ったバリケードをいともたやすく砲撃魔法で破壊した人物でもあった。

 

「!! くっ! 岩ピクミン! ラウンドシールド!!」

 

 女性が使った指揮魔法と言葉に従い、彼女の隊列にいた十匹程度の岩ピクミンたちが、ヤヤヤッという掛け声をあげながらそれぞれ独立してラウンドシールドを展開した。

 岩ピクミンは、ピクミンの中では防御魔法をもっとも巧みに発動させることができる。特に、岩ピクミンの体質が魔法資質に反映されているのか、攻撃を固く弾く、または反らすことを目的としたシールド系の魔法防御を得意としていた。だから、岩ピクミンが発動させたこのラウンドシールドは非常に強力なものなのだ。

 

「けっ、またそれか。いい加減飽きたんだよっ!!」

 

 

 

パリン! ズドォォォォォォォォォォォン!!

 

 

 

「きゃあああああああ!!」

 

「「ぐわあああああああ!!」」

 

ワアアアアアアアア・・・

 

 

 

 だが、そのシールドさえも、敵が放った砲撃魔法はあっさりと破ってしまったのだ。

 なんとか部隊員たちとピクミンは砲撃魔法の直撃を避けたが、砲撃が近くの床に当たり発生した衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

 

「おいおい? もう終わりかよ? もうちょっと抵抗してくれてもいいんだぜ?」

 

 Sランク魔導師は、下品なにやけ顔を浮かべ、見下した調子で言ってくる。彼らはそんな言葉を聞き悔しい気持ちでいっぱいだったが、どうすることもできなかった。

 

 あまりにも圧倒的すぎる力の前に、彼らは何もできなかったのだ。

 頼りになっていたピクミンですら、Sランク魔導師にかなわない。ましてや自分たちでは全く歯が立たないだろう。彼らの胸中は、そんな思いでいっぱいだった。ピクミンを指揮していた魔導師の女性は、悔しさのあまり目に涙を浮かべている。

 

「まあ、どうでもいいか。ゴミは早く掃除しないとな」

 

 そう言いながら、敵のSランク魔導師は手に持ったデバイスを通じて魔法を発動させ、砲撃のチャージを始めた。

 もはや、どうしようもないほどの力の差を目の当たりにして、管理局の魔導師たちにあらがおうとする意志はなかった。ただただ、自分たちの非力さを嘆き、悔やむ気持ちを抱えたまま、死を受け入れようとしていた。

 

「死ね」

 

 そして敵の砲撃魔法が放たれ、容赦なく彼らの命を奪おうと、管理局の魔導師たちとピクミンに襲い掛かった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ピクミンつながり】!!」

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 Sランク魔導師は、砲撃が当たってからの数秒間は、自分の砲撃によって管理局員(ゴミ)は消滅したと思った。だが、視界の隅に、砲撃に当たって消滅したはずの彼らとピクミン、それにもう一つ人影を確認し、彼らがまだ生きていることを悟った。

 チッ、と舌打ちした後、彼はそちらの方を見た。するとそこでは、黒い髪を長く伸ばした女性が、局員たちのほうを向き敬礼のポーズをとっていた。

 

 

 

 

 

「遅れて申し訳ありません。大事がないようで何よりでした。

 地上本部の青葉理央一等陸佐です。今からそちらに協力させていただきますので、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 理央は、仲間である局員たちにそう声をかけてから、敵である彼の方を向いた。その目にはいつもとは違い、相手を倒そうとする意志が強く込められていた。

 

 

 

 局員たちとピクミンの危機を救ったのは理央であった。彼らが砲撃に当たる直前、理央は連れてきたピクミンたちを【ピクミンつながり】で局員たちの方に伸ばし、そのままそのピクミンたちを彼らとピクミンに巻き付けて、自分のほうに思いっきり引っ張りよせたのだ。

 

「あ。悪いけど、あなたが連れているピクミン、ちょっとこっちに協力してもらうから」

 

「え?」

 

 女性の返事も聞かず、理央はドルフィンを吹いて、女性局員が連れていたピクミンを自分が使えるようにしてしまった。

 彼女が「ウェ!?」と驚くのも気に留めず、理央は敵であるSランク魔導師を睨んでいた。

 

「なるほど、アンタが地上本部の『英雄』か……。

 ひゃはははは! こいつはラッキーだぜ!」

 

「あら? ラッキーじゃなくて災難の間違いじゃないの?」

 

「はっ! たかがCランクの魔導師でも、名前が知られてるテメェを殺せば、俺の名前も高く売れるってもんよ! 

 俺に出会ったことを後悔しながら死んでいくんだな! ひゃははははははははは!」

 

「……あなた、言ってることが小悪党すぎるわよ? それじゃまるで自分から『これからやられます』って言ってるみたいね」

 

「なっ!! だ、黙れこのアマぁ! この俺の砲撃で消し飛ばすぞっ!!」

 

「まあ、私を殺すっていうなら、さっさと魔力弾を撃つなり、ご自慢の砲撃とやらを撃つなりすれば? まあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私 に は 効 か な い で し ょ う け ど ね♪」

 

「ぶっ殺す!!」

 

 理央の挑発に簡単に乗った相手は、すぐに砲撃のチャージを始めた。

 

「ちょっ! なに挑発してるんですか! 

 奴の砲撃を見たでしょう!? 絶対オーバーSはありますよ!?」

 

「まあ、落ち着いてください。あの程度なら大丈夫ですから」

 

 理央の周りの局員たちは絶句してしまった。自分たちではまったく歯が立たなかった砲撃を、『あの程度』と言った理央の言葉が衝撃的すぎたのだ。

 唖然としている局員たちをよそに、理央は指揮魔法を発動させる。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 そして砲撃がついに放たれ、理央たちに直進していった。しかもおそるべきことに、前の砲撃よりも込められた魔力が段違いだ。つまり、さらに強力な威力を持っていることに他ならない。

 砲撃の軌道上にいた局員たちは思わず目をつむり、二度目の死の覚悟をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合体魔法発動、【ユナイテッド シールド】」ウォー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドカァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……バ、バカな……」

 

 局員たちが目を開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 さっきまで威勢の良かったSランク魔導師の顔は驚きに満ちており、砲撃を受けたはずの理央とピクミンたちは、なにごともなかったかのようにそこにしっかりと立っていた。

 しかし、なによりも彼らの度肝を抜いたものは、理央の前に張られていた巨大な円形のシールドだった。そのシールドに込められている魔力の量が半端ではなく、間違いなくあの砲撃に使われた魔力の量を超えているだろう。

 

「クソッ! クソッ! クソッ!」

 

 敵はやけくそになったのか、今度は複数のスフィアを展開し、魔力弾を発射してきた。だが、すべて巨大なシールドに防がれて、攻撃が彼らに届くことはなかった。

 だんだんと相手の顔に恐怖の色が浮かび、攻撃もそれに伴い苛烈なものになっていったが、それでもシールドは破れなかった。

 

「なんでだ!? この俺はSランクの魔導師なんだぞ!? なのになぜこの俺の攻撃が通じない!? ふざけるな!! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

 Sランク魔導師である男に、もう強者としての余裕はなかった。ただ、Sランクとしてのプライドがズタズタになっていく感覚と、得体のしれないものに対する恐怖が彼の中にあった。

 完全に冷静さをなくした敵を見て、理央はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 さて、ここでどうしてSランクもの砲撃を理央とピクミンたちが防げたのかについて説明しよう。

 

 理央が行ったことは、単純に言えば、さっき女性魔導師が岩ピクミンに対し行ったことと変わりない。『岩ピクミンにシールド系の防御魔法を使わせた』、これだけである。

 

 ではなぜ、さっきの女性魔導師が指示したときには防ぐことができず、理央が指示したときには防ぐことができたのか。ここに合体魔法の利点がある。

 

 さっきの女性魔導師の指揮魔法は、岩ピクミンに対し()()()防御魔法を発動させるものだった。そのため、それぞれのピクミンが発動したシールドはせいぜいAAランクのエネルギー量の攻撃までしか耐えることができず、Sランクの威力を持つ砲撃魔法に破られたのだ。

 

 しかし理央が使った指揮魔法は、岩ピクミンに対し、()()()()一つの防御魔法を発動させるようにするものだったのだ。

 これにより、十数匹の岩ピクミンが力を合わせて、Sランクの砲撃をも防ぐシールドを作り出したのだ。

 

 

 

 

 

 さらに、ピクミンが使う合体魔法にはもう一つ秘密がある。

 

 例えば、赤ピクミン二匹に合体魔法を使わせたとしよう。

 

 赤ピクミンは炎の魔力変換資質を持つが、炎をまとった魔力弾を使わせるとした場合の、赤ピクミン一匹が使う魔力弾のエネルギー量を1とすると、赤ピクミン二匹が合体魔法によって作り出した魔力弾のエネルギー量はいくつになるだろうか。おそらく、1と1、足して2になると思う人が多いだろう。

 

 しかし、女神による恩恵を受けた合体魔法のエネルギー量は、相乗効果により合体魔法を発動させたピクミンの数を二乗した値となる。よって、赤ピクミン二匹が作った魔力弾の威力は2×2で4となる。

 

 

 

 では、赤ピクミン十匹に発動させた場合はどうなるのだろうか?

 

 

 

 ピクミンの数を二乗した値、つまりピクミンの数である10を、同じく10でかけた分まで相乗効果として上がるため、一匹が作った魔力弾の威力をはるかに上回っていることがわかるだろう。

 

 ためしに計算してみると、赤ピクミン十匹の合体魔法の威力は10×10で100……つまり、赤ピクミン一匹が使う魔力弾の100倍の威力があることがわかるだろう。

 

 この相乗効果こそが、合体魔法の最大の強みであった。この相乗効果により、岩ピクミン十数匹が作り出したシールドは、岩ピクミン一匹一匹が作れるシールドの百数倍もの防御力を持てるようになり、Sランク魔導師が繰り出す攻撃にもびくともしないのである。

 

 

 

 

 

「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! 

 この俺の攻撃がっ! こんな奴らなんかにっ!」

 

 そうとも知らないSランク魔導師は、ただただ無意味な攻撃を繰り返すだけだった。

 相手が完全に冷静さをなくしたことを確認し、理央は不敵な笑みを浮かべたまま、そうそうに決着をつけることに決めた。

 

「どうしたのかしら? まさかSランク魔導師ともあろう者が、さんざん痛めてつけてきたピクミンの防御魔法も突破できないの? ん? そーなの?」

 

「このアマァ……!!」

 

「ねえねえどんな気持ち? 今まで圧倒的に勝ってたのに、急に自分の攻撃が毛ほどにも通用しなくなってどんな気持ち? Sランクという誇りを持ってたはずなのに、Sランク(笑)だったって知ってどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち?」

 

「このアマァァァァァァァァァァァ!!」

 

 理央の挑発に激昂したSランク(笑)魔導師は、ついに自分のありったけの魔力を使い、砲撃魔法のチャージを始めた。

 彼の人生において今まで使ったこともないような、まさしく最大の威力を誇るであろう砲撃を使うことに、男は勝利を確信した。

 

 たとえどんなに強力な防御であろうと、この俺様の最強の砲撃を防げるはずがない。そう彼は確信していた。

 今までの焦りはどこに行ったといわんばかりに、彼はニイィと口の端を釣り上げた。

 

「この俺のブレイカーで跡形もなく消滅しなっ!! このアマァァァ!!」

 

 そして砲撃のチャージが終わった。男はデバイスを勢いよく理央の方に向け、砲撃を発射した。

 Sランク魔導師である彼が放った、正真正銘彼が出せる最大の破壊力と殺傷能力を持った砲撃は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合体魔法発動、【ユナイテッド フレイム】」ウォー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 赤ピクミン二十数匹によって放たれた合体魔法にあっけなく呑み込まれ、そのまま合体魔法はSランク魔導師に直撃し大ダメージを与えた。合体魔法による炎熱砲に直撃し、吹き飛ばされた男はその勢いのまま壁に激突した。

 

「グギャア!!」

 

 男の口からつぶされたような声が出た直後、男は壁から滑り落ちてそのまま気絶した。男が手に持っていたデバイスは彼から遠くに吹き飛ばされ、バラバラになっていた。

 デバイスがないのでは、砲撃魔法のように繊細な魔力のコントロールを必要とする魔法は使えない。これでもう彼は、すくなくとも先程のような強力な砲撃を使うことはできないだろう。

 

「……はっ! や、やりましたね! アオバ一佐!」

 

「俺たちが手も足も出なかったあの男を、あんなにもあっさりと……」

 

「すごい! すごすぎです! アオバ一佐!」

 

 理央があっさりとSランクの魔導師に勝ってしまったことに局員たちはあっけにとられたが、我に返ったとたん大喜びしながら理央に言葉をかけた。しかし肝心の理央は、彼らのそんな言葉が聞こえないかのように、倒れた男に向かって歩き始めた。

 

「……アオバ一等陸佐?」

 

 そんな彼女の行動に局員たちは疑問を覚えたが、そのまま様子を見守ることにした。理央は倒れた男にたどり着き……

 

 

 

 

 

「ほら、起きなさい」ペシペシ

 

 

 

 男の頬を叩いて、起こそうとした。

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 理央のまさかの行動に驚く局員たち。すると、男は目を覚ましてしまったではないか。

 

「……ぅ……ぁ……?」

 

「あ、起きたわね」

 

 目を覚ました男は、目の前にいる理央を憎悪のこもった目でにらみつける。

 

「……この………アマ……よく………も……」

 

「やっぱりダメージが深くてうまくしゃべれないみたいね。まあ、あなたの言い分なんて聞くつもりもないから好都合だけど」

 

「………こ………ろす………ぜっ………たい………に………!」

 

「いや無理だって。デバイスもないし無理だって」

 

「き、危険です! アオバ一佐!」

 

「い、今我々がバインドをかけますから! 早くその男から離れて!」

 

 たとえデバイスがなくなって、大ダメージを受けていたとしても相手はSランク。下手したら理央が殺されてしまうかもしれない。

 

 局員たちはすぐさまデバイスを構え、バインドをかけようとするが、理央は手で彼らを制した。局員たちはぎょっと驚くが、理央はかまうことなく言葉を続ける。

 

「まあ、私があなたを起こしたのは、一言言っておきたいことがあっただけだから、それが済んだらもう一度寝てても構わないわよ」

 

「くそアマ………! てめぇだ…けは………ぜったい………に………ころ………す………!」

 

「……まあ、殺す殺すって言うのは勝手だけどさ、一応……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――殺される覚悟をもってから言った方がいいわよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一言、そのたった一言で、言われた本人はおろか周りにいた局員までもが凍り付くような寒気を感じた。それほどまでのプレッシャーが、言葉とともに理央から発せられたのだ。平気そうにしているのは、その言葉を発した本人とピクミンたちのみだった。

 

「あなた……本気で『死ぬ』って思いをしたことないでしょ? だからそんなふうに、できるはずがないのに殺す殺すって言ってるんでしょ?」

 

「ぁ………ぅ……」

 

「まあ、私だって()()()()()の殺し合いなんて、さすがにしたことないけど、ちょっと弱肉強食の世界で過ごしていたことがあってね……そこでいろいろとためになることを学んだのよ。

 特に死にかけるような体験はしといてよかったと思ってるわ。おかげで、窮地に陥った時でも頭の回転がいつも通りに、いや、それ以上によくなったんだからね」

 

「ば……化け物………!」

 

「失礼ね、人間よ。……さて、私が言っておきたいことは一つ。ピクミンは私にとって家族。その家族に手を出そうとしたんだから、ちゃんとお礼はしないとね」

 

「ひっ!」

 

 男は理央から逃げるために体を動かそうとするが、大きすぎた魔力ダメージで体が全く動かなかった。それでも必死で逃げようとする男の襟首を、理央は左手でつかみ立ち上がった。

 

「た、助けてくれ! 殺さないでくれ!」

 

「殺すわけないでしょ。ただちょっと、」

 

 ――そして理央は右手を後ろに引き、

 

「私の方から直接――」

 

 ――薬指から親指を順番に折り曲げていって

 

「お灸をすえる――」

 

 ――こぶしを固く握りしめ、

 

「だけだから――」

 

 ――そのこぶしを思いっきり

 

「ね!!」

 

 

 

 ――男のみぞおちにたたきこんだ。

 

 

 

「○▲□×~~~!!!」

 

 そして男は、声にならない悲鳴を上げ、再び気絶した。

 

「……さて、私はほかの分隊の方の援護に向かいますので、これで」

 

 そう言い残して、理央とピクミンたちは去っていった。局員たちは、ただ理央の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー機動六課 隊舎ー

 

 初日に行われた新人たちの訓練も夜になって終わり、なのはとフェイトは隊舎のシェアルームで眠りにつくところだった。

 

「新人たち、手ごたえはどう?」

 

「うん、みんな元気でいい感じ」

 

 フェイトは六課の制服を脱ぎながら、なのはに新人たちへの教導の調子を聞いた。フェイトの質問に答えるなのはは、すでにパジャマに着替えていた。

 

「そう……。立派に育っていってくれるといいんだけどね」

 

 制服の上着をハンガーにかけながら、フェイトはそう言った。

 そんなフェイトになのはは、自分の教え子たちを心から思いやっている様子で答えた。

 

「育てるよ、あの子たちがちゃんと、自分の道を戦っていけるように、ね」

 

 スバル、ティアナ、エリオ、キャロ……4人を立派なストライカーに育てるためのなのはの教導は、始まったばかりなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー地上本部ー

 

「……いや、確かに援護に向かえとは言ったが……それでも合体魔法の使い過ぎで建物半壊はやりすぎだ!!」

 

「てへっ♪」ウォーウォー

 

 

お☆し☆ま☆い




 これにて今回のお話の本編はおしまいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 前回の話はピクミンが全然出てきませんでしたが、その分今回はしっかりと活躍させることができました。
 合体魔法の威力は、最初はピクミンの数に二分の三を(ピクミンの数-1)の数だけかけた値という設定だったのですが、「チートすぎね?」と自分で思うところがあり、ピクミンの数を二乗した値になりました。それでもチートかもしれませんが。

 ほかの転生者、ようやく出すことができました。そして出番は(ほぼ)終了です(ええっ!?)。出したには出したんですが、正直いてもいなくてもストーリーに関係ありません。強いて言うなら、ちょっとした後始末のために出しました。かわいそうだが、他転生者よ……お前(の出番)はここで死ぬのだ……。
 その分、ほかのオリキャラ(非転生者)が活躍する予定ですので、期待なさるならそちらの方にご期待ください。

 六課の新人訓練、まさかの丸ごとカット。まあ、彼女達なら原作通りやってくれてるでしょう(無責任)。彼らをこれからどうしようか、本当に迷ってます。

 最後に恒例のおまけをいくつか書いておきました。よかったらご覧ください。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。












おまけ① 新人の訓練のはずなのに……(If)

「私たちの仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために私たちが戦うことになる相手は……これ!」

「「「「!」」」」バッ

シーン……

「「「「…………?」」」」

「あ、あれ……?」

「た、大変です! なのはさんー!!」

「ど、どうしたのシャーリー!?」

「ガジェットが全部、いつの間にかピクミンに破壊されてます~!!」

「……ごめん、ちょっと予定変更。みんなはピクミンを全部戦闘不能にしておいて」

「「「「え?」」」」

「わかった……?」

「「「「は、はい!!」」」」

 この後、エースオブエースと英雄の間で戦争が勃発したとかしてないとか……。



おまけ② え? いまさら?

『ピクミン4発売決定!』(2015年9月時点)













osero11「え? そなの?」(2016年3月時点)

 いや、まったく知りませんでした、ホントに。



お☆し☆ま☆い


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第四話 ファースト・アラート/人造魔導師!?もうひとりのイレギュラーなの!

 約2週間ぶりに投稿しました。今回は前回の後書きにあったオリキャラの登場回です! ですが、今回は六課のほうに焦点がおかれています。訓練と、新デバイスの支給と初出動の場面ですね。理央の出番は最初と最後くらいになります。

 あと、すみません。前回はピクミンを活躍させましたが、今回は彼ら(?)の活躍の場はありません。期待なさっていたかた、申し訳ございません。
 その代わりに、理央とピクミンがいる影響で六課のとある人がキャラ崩壊するかもしれないので、そちらにご注目ください。

 それでは、始まります。

2016/ 9/16 改行などの修正を加えました。


ー新暦75年 5月 午後0時 ミッドチルダ 地上本部ー

 

 4月に密輸対策部隊がとある犯罪グループの本拠地へ強制捜査をおこなった際に、彼らの援護に向かい敵を殲滅(鎮圧)してからというもの、理央は主に書類を書いたり整理したりする日々を送っていた。たまにいくつかの陸士部隊を訪れ、ピクミンの指揮に関する教導をおこなったりはしたが、少なくともここ一か月のあいだは彼女が戦闘に出ることはなかった。

 

 今日も与えられた書類仕事をパパッと終わらせた理央は、自宅に帰ることにした。いつもより処理する書類の量が少なかったため、だいぶ早めの退社となった。

 出口に向かうまでに出会った仕事仲間たちにも、理央はあっさりとだが別れの挨拶をしていた。

 

「お疲れ様でした」

 

「「「「「お疲れさまであります!! アオバ一佐!!!」」」」」

 

 いつものことながら、理央に過剰なまでの信仰心を持つ局員たちは、彼女に対する尊敬の気持ちを出しすぎた態度で接してくる。

 理央は彼らの対応に苦笑いで返しながら、地上本部の外に出ていった。そして、いつものようにバイクにまたがり、エンジンをかけ、いつものように自宅へとバイクを走らせていった。その様子は、まさにいつも通りの理央だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼女の胸の内はいつも通りではなかったのだ。

 

 

 

 

 

(……なんか、いつもとは調子が違うのよね……)

 

 今日の理央は、一見するといつも通りの理央なのだが、よくよく観察してみると()()()()()()()()()()が多く存在することがわかる。

 

 例えば、いつもより早めに帰ったこと。理央がピクミンを愛してやまない人間であることは、もはや周知の事実だ。そんな理央なら、仕事が終わった後は、中に膨大な数のピクミンが待機しているオニオンがある地上本部で、勤務時間ぎりぎりまでそのピクミンたちと遊んだり楽しんだりするのが普通だろう。実際、そうしている日が大半だ。

 しかし、今日の彼女は、特に用事があるわけでもないのに、ピクミンと戯れることをせず仕事が終わったらすぐに自宅に帰ろうとしている。いつも通りの彼女とはとても言えない。

 

 例えば、局員(信仰者)たちに対する反応が非常に薄いこと。いつもの理央なら、過剰なまでに崇拝してくる彼らの態度に胃をひどく痛めることだろう。

 しかし、今日の彼女はせいぜい苦笑する程度の反応しか示さなかった。実際、彼女の胃はまったく痛まなかった。これもいつも通りの彼女なら、あり得ないことだった。

 

 これらのことから、理央はいつも通りではないことがわかるだろう。

 実は今日の朝から彼女は奇妙な予感を覚え、そのことで頭がいっぱいになっているのだ。そのため、いつものように局員(信仰者)たちに胃を痛めたり、ピクミンたちと遊んだりすることをせず、まっすぐ自宅に帰っているのだ。

 

 理央がそのことに気づいたのは、帰り道もあと半分といったところまでバイクを走らせていた時だった。理央は、今日の彼女自身の行動を自分らしくないと感じながらも、胃を痛めることも、地上本部に戻ってピクミンと遊ぼうと考え直すこともせず、ただただ自宅に向かってバイクを走らせていた。

 

 

 

 その予感は、まさに奇妙なものだった。いいことの前兆のようにも感じるし、逆に悪いこと、いや、正確に言うなら、あまりいいものと言えないような、過去に起こったことがこれから発覚するという感覚を覚えるものだった。

 しかしなによりも、その予感は理央にこう告げているような気がした。

 

 

 

 

 

 ――これから起こることには、覚悟が必要だと。

 

 

 

 

 

(……前に一度だけ、こういう予感がしたことがあったわね)

 

 理央は以前にも、同じような感覚を覚えたことがあった。といっても、それはある意味()()理央の話ではない。彼女がピクミンの指導者として生まれ変わる前、つまり()()()理央に似たようなことがあったのだ。

 

 確かに、それはある幸せの始まりを告げるものであったし、同時に知らないうちに築かれていた彼女の罪があらわになることを知らせるものでもあった。なにより、予感したものは並大抵でない覚悟をする必要があることであった。

 その予感はまさしく、今回の予感と同じもののように理央には感じられたのであった。

 

 しかし彼女は、いま予感しているものと前に予感したものは、おそらく違うものだろうと考えていた。

 確かに、感覚はとてもよく似ている、思わず()()()のことを鮮明に思い出してしまうほどに。だが、いま自分が生きている世界は、前世で自分が生きていた世界とは全くの別物なのだ。

 今世で生を受けた時から住んでいた世界は、前世に住んでいた世界と名前こそ同じ「地球」だが、前世の自分を知っている人間はおろか前世の自分が知っている人間も誰一人としていなかったのだ。ましてや、前世の自分が影も形もないというのに……。

 

 そこまで考えて、理央はネガティブになりかけた思考を元に戻し、自嘲気味に笑った。

 

(死んだときこそ後のことはみんなに任せれば大丈夫だと思い、転生すると聞いた時にも前世に未練はないと思ったのに、今になって昔に戻りたいなんてね……)

 

 過去に戻ることはできない。そして、前世で生きた世界に行くことはできない。それこそ、理央がこの予感はそのときのものとは違うものだと決定づける根拠であった。

 これ以上この予感について考え込んでも気分が落ち込むばかりでしょうがないと思った理央は、地上本部に戻ってピクミンと楽しい遊びをして忘れようと思い、どこかUターンができる場所を探し始めようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その瞬間、彼女は()が使われた感覚を、確かに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!!??」

 

 理央は驚きのあまりバイクを横転しそうになったが、かろうじて持ちこたえた。しかし彼女の頭の中は、あり得ないことに対する驚愕と、その原因を追究しようとする思考で埋め尽くされていた。

 その時の理央は、彼女らしくないことだが冷静さが失われて、ピクミン以外の一つのことで頭がいっぱいになっていた。

 

 しかし、それも無理はないことだろう。その使われた()とは、転生させた女神が彼女に与えた特典の中ではまさしく彼女の奥の手と呼ぶにふさわしいもの、女神の手によって肉体を構成された理央だからこそ使うのを許された力なのだ。

 自分にしか使えないはずの、奥の手の中の奥の手であるとっておきが使われたのだ、冷静でいろというほうが無理があるだろう。

 

「! こっちね!」

 

 激しく動揺してしまった理央だが、すぐにその()が使われた場所を、おおざっぱだが独自の感覚で把握し、そこに向かってバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 理央がそこにたどり着いたとき、その場所にはトラックが、ボディが大破した状態で横転していた。

 横転しているトラックを見つけた理央は、すぐにバイクから降りてキャブのほうに向かい、運転手の安全を確認した。

 

 運転手は気絶していたが、幸いにも目立った外傷は見られず、キャブのほうも全く破損していなかったので、比較的安全かつ容易に救助することができた。

 運転手をトラックの外に運び出し、安全なところに寝かせた理央は、すぐに付近の陸士部隊のほうに通報した。

 

『はい、こちら陸士58部隊です』

 

「こちら地上本部の青葉理央一等陸佐です。

 クラナガン東部のB-27地区の地下道路でトラックの横転事故が発生。現在確認できるけが人は、トラックの運転手が一名、軽傷です。

 至急捜査員と救急車の手配をお願いします」

 

『は、はい! わかりました!』

 

 通報を終えた理央は、付近の状況をもう少しよく調べてみることにした。

 トラックの周りには、積み荷と思われる缶詰や飲料ボトルなどの食料品が散らばっていたが、トラックが横転した原因ではないと理央は直感していた。

 

(……どう考えても、()()が原因なのよね……)

 

 理央がここに来る原因となった()()()の行使、それがこの事故を引き起こしたんだと理央は予測していた。ならば、近くにその力を使った誰かがまだいるのかもしれない。理央はそう考え、周囲を警戒しながら探索した。

 

 すると、来たときにはトラックの陰になって見えなかったが、トラックの向こう側を調べるために回り込もうと移動し始めたときに、理央の視界にとあるものがチラッと映った。

 

「……生体ポッド?」

 

 そう、そこには生体ポッドの、ちょうど台座の部分が落ちていることに気づいた。しかもその生体ポッドは、公で使われている治療用ポッドの類ではなく、人造魔導師や戦闘機人の製造・保存用に使われている違法な代物であった。

 理央は、前に戦闘機人事件を独自に追っているゲンヤやクイントから同じものの写真を見せてもらったことがあるため、すぐにその事実に気づき、警戒心を強くした。するとその時、理央はあることに気づいた。

 

 その台座の部分から、ちょうどいま理央がいる場所からはトラックの陰になって見えないところに向かって、保存液と思われる液体が伸びているのだ。

 つまりそれは、生体ポッドの()()があったのなら、そちらのほうにあることを示していた。

 

 ――念のため、()()を使う覚悟もしておいたほうがいいわね。

 

 理央は、この生体ポッドとその中身もトラックの積み荷の一つであり、そして、この生体ポッドの中に入っていたのは人造魔導師、あるいは戦闘機人の可能性が高いと思った。それが、自分にしか使えないはずの力をどうやってか使用し、トラックを横転させたのだと彼女は当たりをつけた。

 場合によっては、どこからかこの奥の手の情報が洩れるリスクも考慮したうえで対処しなければならない。そう考えた理央は、いつでもその力を使えるように気を引き締め、その力を使ったであろう()()がいるトラックの裏側へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、理央の思考は停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同日 時空管理局遺失物管理部 機動六課隊舎ー

 

「はい! せいれーつ!」

 

 なのはの掛け声とともに、彼女のもとに機動六課の新人フォワード陣が集まっていった。スバルやティアナはともかく、まだ体が発達途中のエリオやキャロも、息を切らしながらもすぐにやってきた。

 

 なのは主導の訓練が開始されてから二週間、本出動もなかったため、新人たちは訓練漬けの日々を送っていた。

 この二週間、新人たちは主に基礎体力を鍛える訓練を受けており、そのためまだ10歳という年齢のエリオとキャロにもそれなりの体力がついてきているのだ。

 

「じゃあ、本日の早朝訓練、ラスト一本。みんな、まだ頑張れる?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 なのはからの問い掛けに、元気よく答えるフォワードメンバーたち。

 

「じゃあ、シュートリベーションをやるよ。レイジングハート」

 

『All right,Accel Shooter』

 

 なのはの足元にミッドチルダ式の桃色の魔法陣が展開され、同じくピンク色をした誘導弾がいくつも出現していく。そして、それぞれの誘導弾はなのはを守るかのように、彼女を中心として高速で回り始めた。

 

「私の攻撃を5分間、被弾なしで回避しきるか、私にクリーンヒットを入れればクリア。

 誰か一人でも被弾したら、最初からやり直しだよ。頑張っていこう!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 つまり、相手は魔力の量にリミッターをかけていて、かつこちらは四人(と一匹)がかりとはいえ、彼らは管理局でも名高いエースオブエースに一撃でも攻撃を当てなければいけないのだ。

 

「このボロボロ状態で、なのはさんの攻撃を5分間さばき切る自信ある!?」

 

「ない!」

 

「同じくです!」

 

 ティアナからの問い掛けに、スバルとエリオが答えた。

 

「じゃあ、なんとか1発入れよう!」

 

「はい!」

 

「よーし! 行くよエリオ!」

 

「はい、スバルさん!」

 

 彼らの方針が決まったところで、まずフロントアタッカーであるスバルとガードウイングのエリオが攻撃態勢をとる。

 

「準備はオッケーだね。それじゃあ……」

 

 なのはは手をゆっくりと振り上げ、それにともなって誘導弾も動きを変える。

 

「レディー……ゴー!!」

 

 そしてなのはが手を振り下ろすと同時に、スバルたちに魔力弾が襲いかかる。

 

「全員、絶対回避! 2分以内で決めるわよ!」

 

「「「おー!!」」」

 

 ティアナの指示に三人が答えた次の瞬間、魔力弾が彼らのいた地面にぶつかり炸裂した。しかし、四人とフリードは寸前で回避しており、魔力弾に当たった者はいなかった。

 

 土煙が立ち込める中をなのはは観察していたが、彼女の後ろにウイングロードが展開されたのに気づき、すぐに後ろを振り返る。

 

「うおおおおおーーーー!!」

 

 なのはが振り返った先では、スバルが拳を構えながらウイングロードの上でローラーを走らせ、雄たけびを上げてなのはに向かって突進してきていた。

 一方、その近くの廃ビルの窓からは、ティアナが射撃魔法でなのはを狙っていた。

 

「アクセル!」

 

『Snap Shot』

 

 それを確認したなのはは、アクセルシューターを操作し、二人に向けてそれぞれ一つずつ誘導弾を発射した。桃色の魔力弾は、一直線にスバルにティアナに襲い掛かっていく。

 

 しかし、誘導弾は二人を貫通し、二人の姿はオレンジ色の光を少し残して消え去ってしまった。

 

「シルエット……やるね、ティアナ」

 

 なのはが感心したようにつぶやく。

 そう、なのはに攻撃を仕掛けようとした二人の姿は、ティアナが幻術魔法【フェイク・シルエット】で作り上げた幻だったのだ。

 

 なのはがティアナを称賛する一言をつぶやいた次の瞬間、彼女のすぐ隣でウイングロードが展開される。そのことに気づいたなのはがすぐ上を見上げると、ティアナの幻術魔法【オプティックハイド】によって今まで姿を隠していた本物のスバルが、ウイングロードの上を走りながら拳を構えて攻撃を仕掛けようと突進してきていた。

 

「でりゃあああああああ!!」

 

 なのははすぐに防御魔法【ラウンドシールド】でシールドを張り、スバルの攻撃を防いだ。

 スバルはシールドを何とか破ろうとするが、なのはが張ったシールドはなかなか破ることができなかった。その数秒間のあいだに、なのはは先ほど幻影を貫通したアクセルシューターを操作し、その誘導弾でスバルに向けて攻撃を再開した。

 

 自分に向かってくる誘導弾の存在に気がついたスバルは、ローラーを後ろに向けて回転させ、後ろに飛びのくことでなんとかぎりぎりのタイミングで誘導弾を回避した。

 

「うん、いい反応」

 

 なのははスバルがしっかりと回避できたことに、満足そうにうなづいた。後ろに下がったスバルはウイングロードに着地するが……

 

「わっ、とと……」

 

 着地した瞬間にバランスを崩し、ウイングロードに乗りながらもその勢いのまま下に滑り落ちていってしまった。

 

「うわああああああああ!」

 

 どうやら、バランスを崩したことだけではなく、ローラーブーツの調子が悪いのもスバルが滑り落ちた原因のようだ。

 

「わっ、とと、と、と、つぅ……」

 

 なんとか体勢を取り直したスバルは、ウイングロードの上を走りながら、自分を追ってくる誘導弾から逃げていた。

 

「《スバルバカッ! 危ないでしょう!》」

 

「うっ、ごめん……」

 

 怒りのあまり、思わず念話だけではなく肉声でもスバルを叱責するティアナ。それに対してスバルは誘導弾から逃げながらティアナに謝った。

 

《待ってなさい、今撃ち落とすから》

 

 ティアナは自分の拳銃用デバイスを構え、オレンジ色の魔力弾を精製し、スバルを追っている誘導弾に狙いを定めた。そして引き金を引き、魔力弾を発射しようとした。

 

 

ガスン!

 

 

「うえっ!?」

 

 だが、ティアナのデバイスの調子も悪かったのか、不発に終わってしまった。

 

「あーーーん! ティア援護ーーー!!」

 

 いまだに誘導弾に追いかけられ続けるスバルが悲鳴を上げる。このままだと魔力弾はスバルに直撃してしまうだろう。

 

「このっ、肝心な時に!」

 

 ティアナは急いでデバイスから空になったカートリッジを排出させ、新しいカートリッジをセットしなおす。そして魔力弾を作り直し、スバルを追っている誘導弾に向けて3発放った。

 

「来たっ!」

 

 それを確認したスバルは跳び上がった。すると、ティアナの魔力弾に追いかけられているなのはの誘導弾はスバルを追うのをあきらめ、下に逸れた。

 役目を果たしたティアナの誘導弾は、彼女のコントロールを外れてなのはの魔力弾が向かったのと同じ方向にとんでいった。

 

 スバルの様子を観察するなのはの後ろでは、キャロがグローブ型のブーストデバイス「ケリュケイオン」の助けを得ながら、エリオに加速の効果を与える補助魔法をかけていた。

 

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を」

 

『Boost Up Acceleration』

 

 キャロの詠唱により発動したその魔法は、エリオの槍型のアームドデバイス「ストラーダ」に対し発動し、より素早い攻撃を繰り出すことが可能な状態へとさせた。

 

 そしてキャロの補助魔法が発動したすぐ後、エリオの足元に浮かんでいたベルカ式の魔法陣がより強く輝き、ストラーダの噴射口からは黄色の魔力が激しく噴き出し始めた。

 

「あの、かなり加速がついちゃうから、気を付けて」

 

「大丈夫! スピードだけが取り柄だから」

 

 キャロが心配そうな様子でエリオに注意を促す言葉をかけるが、エリオは励ますようにその言葉に答えた。

 

「いくよ、ストラーダ!」

 

 その時、なのははティアナの誘導弾を華麗な様子でかわしていたが……

 

「キュクルー!!」

 

 真上からのフリードの口から吐き出される火炎弾【ブラストフレア】による攻撃に気づいた。2,3発放たれたそれらをかわした後、なのはは攻撃態勢を整えたエリオを攻撃するため、彼の方に向かって移動を始めた。

 

「エリオ! 今!」

 

 ティアナからエリオに指示が飛ぶ。キャロから速度上昇の魔法をかけてもらい、最高の速度で攻撃を放てる今こそなのはに一撃与える最大のチャンスだった。

 

「いっけええぇぇぇぇぇ!!」

 

『Speerangriff』

 

 エリオは槍を後ろに引き、かけ声を上げて魔法を発動させた。その直後、ストラーダはロケットのジェット噴射のように魔力を噴射させ、エリオはその勢いのままなのはに向かって突撃していった。

 

 その新人たちによる息の合ったコンビネーションを見て、なのはは少しほほ笑んだ。

 その直後、エリオとなのはは激突した。土煙が激しく舞い上がり、二人の姿を覆い隠した。

 

「うわあっ!」

 

 先に土煙の中から姿を現したのはエリオだった。後ろに吹き飛ばされたエリオだったが、廃ビルの上に着地することができた。

 

「エリオ!!」

 

「外した!?」

 

 スバルはエリオのことを気遣い彼に声をかけ、ティアナは今のエリオの攻撃が外れたと思い、驚きの声を上げた。

 

 そして、土煙が収まり、空中に浮くなのはの姿が確認できるようになった。一見すると、彼女は無傷のように見えた。

 

『Mission Complete』

 

「お見事! ミッションコンプリート」

 

 しかし、レイジングハートとなのはのその一言が、エリオたちが彼女に一撃与えられたという事実を示してくれていた。

 

「ホントですか!?」

 

 ダメージを受けていないように見えるなのはの姿を見ながら、エリオがなのはに確認をとろうとする。

 なのはは自分のバリアジャケットの左胸のあたりについた焦げ跡を指し示しながら、彼らが一撃与えることができたことを再度伝える。

 

「ほら、ちゃんとバリアを抜いて、ジャケットまで通ったよ」

 

 なのはの言葉を聞き、エリオとキャロの二人は顔をほころばせる。

 

「じゃあ、今朝はここまで。いったん集合しよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 こうして、新人たちの今朝の訓練は終了した。

 なのはは地面に下り、バリアジャケットを解除し、六課の制服姿に戻った。そしてなのはは集合した新人たちに歩み寄りながら声をかけた。

 

「さて、みんなもチーム戦にだいぶ慣れてきたね。」

 

「「「「ありがとうございます!」」」」

 

「ティアナの指揮も筋が通ってきたよ。指揮官訓練、受けてみる?」

 

「い、いやあの……戦闘訓練だけで、いっぱいいっぱいです」

 

 なのはからのさらなる訓練のお誘いに、ティアナは謙遜した様子で(内心、「これ以上ハードな訓練は御免だわ」と思いながら)断った。そんなティアナの様子がおかしくて、スバルはつい笑ってしまった。

 

「キュル? キュクル?」

 

「え? フリードどうしたの?」

 

 そんななか、フリードが突然なにかを気にし始めたのように鳴き声を上げながら首をかしげた。そんなフリードの様子にキャロも気が付いた。

 

「なんか、焦げ臭いような……」

 

 フリードの次にエリオが異変に気づき始めた。エリオの言葉から、ティアナがその異変の原因に心当たりがつき、スバルに声をかけた。

 

「あっ……! スバル、あんたのローラー……」

 

「えっ?」

 

 そしてスバルたちが視線をスバルのローラーブーツに向けると、右足のローラーが黒煙を上げながらショートを起こしていたのだ。

 

「あっ! うわっ、やばっ……! あちゃー……」

 

 スバルは、壊れてしまった右足のローラーを外しはじめた。その様子をなのはは黙って見つめていた。

 

「しまったー……。無茶させちゃったー……」

 

 いまだに黒煙を上げている右足のローラーは、スバルに抱きかかえられた。

 

「オーバーヒートかなー? あとでメンテスタッフに見てもらおう?」

 

「はい……」

 

「ティアナのアンカーガンも結構厳しい?」

 

「はい……だましだましです……」

 

 なのはからの質問に答えるティアナ。実際、訓練校時代から使われ続けている二人のデバイスは、メンテナイスを定期的におこなっているとはいえ、本格的なデバイスマイスターではない二人の整備ではあまりうまくいかず、寿命が近かったのだ。

 

「みんな、訓練にも慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなー」

 

「新……?」

 

「デバイス……?」

 

 なのはの口から出てきた言葉に、新人メンバーたちはキョトンとしてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 訓練が終わった後、なのはと新人たちは話をしながら隊舎に戻っていた。

 

「じゃあ、いったん寮でシャワー使って、着替えてロビーに集まろうか」

 

「「「「はい!」」」」

 

 なのはに元気よく返事をした新人たちであったが、ティアナは向こうから自分たちのほうに向かってくる車に気がつく。

 

「あれ? あの車って……?」

 

 そしてその車はなのはたちのすぐ近くで停まり、窓が開いて運転席と助手席に座った人たちの姿が見えるようになった。

 

「フェイトさん! 八神部隊長!」

 

 キャロからの言葉に、フェイトとはやてはうなずいて返した。フェイトたちが乗っている車に驚く新人たち。

 

「すごーい! これフェイト隊長の車だったんですかー!?」

 

「そうだよ、地上での移動手段なんだ」

 

 スバルが驚きの声を上げ、フェイトがそれに答えた。

 

「みんな、演習のほうはどないや?」

 

「あー……えへへ」

 

「頑張ってます」

 

 はやてからの問い掛けに、スバルはあいまいな返事を返し、ティアナはしっかりと答えた。

 

「エリオ、キャロ……ごめんね、私は二人の隊長なのにあんまり見てあげられなくて」

 

「あ、いえそんな……」

 

「大丈夫です」

 

 フェイトは申し訳なさそうにエリオとキャロに謝るが、二人は特に気にしていないという旨の返事で言葉を返した。 

 

「四人ともいい感じで慣れてきてるよ。いつ出動があっても大丈夫」

 

「そーかぁ。それはたのもしいなぁ」

 

 部隊長であるはやてからの「たのもしい」という一言に恥ずかしそうに笑う新人たち。

 

「二人は、どこかにお出かけ?」

 

「うん、ちょっと6番ポートまで」

 

「教会本部でカリムと会談や。夕方には戻るよ」

 

 なのはからの問いかけに答えるフェイトとはやて。どうやらはやては後見人の一人との会談のために出かけるようだ。

 

「私は昼前には戻るから、お昼はみんなで一緒に食べようか」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ほんならな~!」

 

 はやての言葉とともに走り去っていく車を、新人たちは敬礼のポーズをとりながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーミッドチルダ北部 ベルカ自治領「聖王教会」大聖堂ー

 

 聖王教会とは、管理局と同じく、危険なロストロギアの調査と保守を目的としている宗教団体である。

 

 かつてベルカを統一し、数々の偉業を成し遂げた古代ベルカの王の一人である『聖王』やその血縁者、彼らに仕えた騎士たちなどを信仰の対象としている聖王教会は、宗教団体の中では次元世界で最大の規模を誇っている。

 また、統一によって戦乱時代にあったベルカに平和をもたらした聖王の意思を尊重している彼らは、人々に危険をもたらす可能性のあるロストロギアを回収することで今の平和を守っていこうとしているのだ。

 

 そのため、目的を同じくする管理局との関係は比較的良好で、聖王教会の依頼を管理局が受けたり、管理局の任務に各世界の聖王教会が協力するといったことも珍しくないのである。また、カリム・グラシアのように管理局に籍を置く騎士も少なくはない。

 

 特に八神はやては、ミッド式や近代ベルカ式の魔法が繁栄している現在では希少な古代ベルカ式の魔法を所持しているため、カリムとの私的な関係はもちろん、技術協力などの公的な関係においても聖王教会とは非常に友好的な関係を築いていた。はやてはそういう意味では、管理局内では聖王教会の助けを一番得ることができる人物だと言えるだろう。

 

 その聖王教会の、ミッドチルダ北部にある大聖堂にて、聖王教会の理事であり教会騎士団の騎士でもあるカリム・グラシアは自室で書類仕事をしていた。といっても、理央のような電子媒体ではなく手書きで書類を作成しており、羽ペンで優雅に仕事をこなしていた。そこに、彼女の秘書であるシャッハからの通信が入る。

 

『騎士カリム、騎士はやてがいらっしゃいました』

 

「あら、早かったのね。私の部屋に来てもらってちょうだい」

 

『はい』

 

「それから、お茶を二つ。ファーストリーフのいいところを、ミルクと砂糖付きでね」

 

『かしこまりました』

 

 シャッハの一礼とともに、映像付きの通信は切られた。

 カリムは羽ペンをペンスタンドに戻し、書類を机のわきに寄せて来客を迎える支度を整える。

 

「よしっと」

 

 その直後、カリムの部屋のドアがノックされた。どうぞ、とカリムは入室を促してから席を立つ。

 部屋のドアが教会に所属している壮年の男性によって開かれ、はやては案内役であった彼に軽く会釈してからかぶっていた頭巾を外しながら部屋に入った。ちなみにはやては今、六課の制服の上にベルカ伝統の外出用の頭巾と上着を着ている。

 

「カリム、久しぶりや」

 

「はやて、いらっしゃい」

 

 久しぶりに妹分に会えたカリムは、笑顔ではやてを出迎えた。

 

 

 

 

 

 二人の挨拶から少しして、カリムの部屋の窓際のテーブルの上にはティーセットとクッキーが並べられ、はやてとカリムはお茶を楽しみながら話をしていた。

 

「ごめんなー、すっかりご無沙汰してもうて」

 

「気にしないで。部隊のほうは順調みたいね」

 

「えへへ、カリムのおかげや」

 

「うふふ、そういうことにしとくと、いろいろお願いもしやすいかな」

 

「あはは。なんや、今日の会って話すんは、お願い方面か?」

 

 しばらくのあいだ談笑していた二人だったが、そこまで話してカリムは表情を少し曇らせ、電子パネルを出してそこにあるボタンをいくつかタッチした。

 すると、近くの窓のカーテンが自動的に閉まり、二人のそばにいくつかの電子画面が出現した。その中には、カプセル型の機械――ガジェットⅠ型やナイトホークのような形状をした機械、さらには丸い形状の機械などが映し出されたものもあった。

 

「これ、ガジェット……? 新型?」

 

「今までのⅠ型以外に、新しいのが二種類。戦闘性能はまだ不明だけど、これ」

 

 そう言うとカリムは丸いガジェットが映し出された画面を手前に寄せ、詳しい情報を表示させた。

 

「Ⅲ型は、わりと大型ね」

 

 画面に映し出されたⅢ型は、成人男性よりも大きかった。

 

「本局にはまだ正式報告はしてないわ。監査役のクロノ提督にはさわりだけお伝えしたんだけど……」

 

「……これは!」

 

 はやての目線は、頑丈そうな箱が映し出された画面に注がれた。

 

「それが、今日の本題。一昨日付でミッドチルダに運び込まれた不審貨物……」

 

「レリック……やね」

 

 そう、この画面に映し出された箱は、超高エネルギー結晶体であるロストロギア、『レリック』を運ぶためのものなのである。

 このレリックは、外部から大きな魔力を受けると周辺を巻き込む大災害を起こすほどの爆発を起こす恐れがあるため、このような頑丈な箱で厳重に持ち運びをしないといけないのだ。

 

「その可能性が高いわ。Ⅱ型とⅢ型が発見されたのも、昨日からだし……」

 

「ガジェットたちが、レリックを見つけるまでの予想時間は?」

 

「調査では、早ければ今日明日」

 

「せやけど、おかしいな……。レリックが出てくるのが、ちょう早いような……」

 

「だから、会って話したかったの。これをどう判断すべきか、どう動くべきか……。

 レリック事件も、その後に起こるはずの事件も、対処を失敗するわけには、いかないもの……」

 

 顔をうつむかせるカリムを見て、はやては電子パネルをタッチしてカーテンを開けた。それに気づいたカリムは少し怪訝そうな表情を浮かべてはやてのほうを見た。

 

「はやて?」

 

「まあ、何があってもきっと大丈夫。カリムが力を貸してくれたおかげで、部隊はもういつでも動かせる。

 即戦力の隊長たちはもちろん、新人フォワードたちも実践可能。予想外の緊急事態にも、ちゃんと対応できる下地ができてる。そやから、大丈夫!」

 

 はやては困惑するカリムを安心させるように言った。自分たちの夢が集まった新部隊なら、どんな状況でも乗り越えることができると信じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー機動六課隊舎ー

 

 シャワーを浴びた後、ロビーに集まった新人フォワードたちはなのはに連れられ、デバイスの整備をおこなう部屋に連れてこられた。そして今はちょうど、リインフォースツヴァイと機動六課の通信主任兼メカニックデザイナーのシャリオ・フィニーノ一等陸士から新デバイスに関する説明を聞かされていたところであった。

 

「うわぁ……! これが……!」

 

「あたしたちの、新デバイス……ですか?」

 

 スバルの前にはネックレスになっている青いクリスタル型の、ティアナの前にはカード型のデバイスが待機状態で宙に浮いていた。

 

「そうでーす! 設計主任、あたし! 協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんとリイン曹長!」

 

「……はあ……」

 

 シャリオことシャーリーの説明を聞いていても、新デバイスがもらえるということに実感を持てず、ティアナはちゃんとした返事ができなかった。

 一方、エリオとキャロの前には、腕時計型の待機状態になっているストラーダと、宝玉に羽がついたようなアクセサリー型になって待機しているケリュケイオンが浮いていた。

 

「ストラーダとケリュケイオンは変化なしかな……?」

 

「うん……そうなのかな……?」

 

「違いまーす! 変化なしは外見だけですよ」

 

「リインさん!」

 

「はいですー!」

 

 エリオとキャロが話し合っていたところに、上からリインが飛んできた。二人の目線はリインの方に向き、そのままリインは話を続ける。

 

「二人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、感触に慣れてもらうために基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです」

 

「あ……あれで最低限!?」

 

「ホントに……?」

 

 二人が驚くのも無理はない。その最低限とされる今までの状態ですら、魔法の威力や効果を十二分に引き出して使うことができたのだから。

 

「みんなが扱うことになる四機は、六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と経験の粋を集めて完成させた最新型! 部隊の目的に合わせて、そして、エリオやキャロ、スバルにティア、個性に合わせて作られた、文句なしに最高の機体です」

 

 リインが使った浮遊魔法によって、四つのデバイスが浮き上がり、リインのもとに集まっていく。

 

「この子たちはみんな、まだ生まれたばかりですが、いろんな人の思いや願いが込められて、いっぱい時間をかけてやっと完成したです」 

 

 そして四つのデバイスはリインから離れ、それぞれの所有者のもとに飛んでいった。

 

「ただの道具や武器と思わないで、大切に、だけど性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげてほしいですー!」

 

「うん。この子たちもね、きっとそれを望んでるから」

 

 シャーリーからの一言があったところで、整備室の自動ドアが開き、なのはが入ってきた。

 

「ごめんごめん、お待たせ―」

 

「なのはさん!」

 

 なのはがやってきたのを見ると、リインが嬉しそうになのはのもとに飛んでいく。

 

「ナイスタイミングです。ちょうどこれから、機能説明をしようかと……」

 

「そう、もうすぐに使える状態なんだよね?」

 

「はい!」

 

 リインがなのはからの問いかけに答えると、モニターに待機状態になっている4つのデバイスが映しだされた。

 そして、シャーリーがデバイスの機能に関する説明を始めた。

 

「まず、その子たちみんな、何段階かに分けて出力リミッターをかけてるのね。

 一番最初の段階だと、そんなにびっくりするほどのパワーが出るわけじゃないから、まずはそれで扱いを覚えていってね」

 

「で、各自が今の出力を扱いきれるようになったら、私やフェイト隊長、リインやシャーリーの判断で解除していくから」

 

「ちょうど、一緒にレベルアップしていくような感じですね」

 

「あ……出力リミッターっていうと、なのはさんたちにもかかってますよね?」

 

 出力リミッターに関する説明を聞き、なのはたちにもそれがかけられていることを思い出したティアナがなのはに確認をとる。

 

「ああ……私たちはデバイスだけじゃなくて、本人にもだけどね」

 

「ええ!?」

 

「リミッターがですか?」

 

 なのはの言葉を聞き、スバルとエリオが驚きの声をあげた。ティアナとキャロも、驚いた表情をしている。

 

「能力限定って言ってね、うちの隊長と副隊長はみんなだよ。私とフェイト隊長、シグナム副隊長とヴィータ副隊長……」

 

「はやてちゃんもですね」

 

 彼女に続けて答えたリインの言葉に、なのはは頷いた。ティアナを除いた新人たちは、なのはたちの言ったことの意味がよく分からず、首をかしげている。

 

「え~っと……」

 

「ん~?」

 

「ほら、部隊ごとに保有できる魔導師ランクの総計規模って決まってるじゃない」

 

「あ! あはは……そうですね……」

 

 シャーリーの言葉で、エリオとキャロ、スバルはようやく理解することができた。

 

「一つの部隊でたくさんの優秀な魔導師を保有したい場合は、そこにうまく収まるよう、魔力の出力リミッターをかけるですよ。

 ……正直、これのおかげで厄介者が入ってこれなくなって助かりました」

 

「え? リイン曹長、なにか言いましたか?」

 

「いえ、何でもないですよー」

 

「まあ、裏技っちゃあ裏技なんだけどね」

 

 リインがシャーリーに続けてリミッターと保有ランクに関する説明をした。ボソッと最後に呟いた言葉に、若干の黒い気持ちが入っているのはリイン本人しか知らない。

 リインの後でシャーリーが、リミッターはある意味、一つの部隊に多くの優秀な魔導師を集めるための裏技だと説明した。

 

「うちの場合だと、はやて部隊長が4ランクダウンで、隊長隊はだいたい2ランクダウンかな」

 

「4つ!? 八神部隊長って、SSランクのはずだから……」

 

「Aランクまで落としてるんですか?」

 

「はやてちゃんもいろいろ苦労してるですぅ……」

 

「なのはさんは……?」

 

 SSランクのはやてが、自分たちとランクが一つしか違わないくらいにまでランクを落としていることにティアナとエリオは驚いた。

 スバルは、なのはのランクがどこまで下がっているか気になって、彼女に質問した。

 

「私はもともとS+だったから、2.5ランクダウンでAA。だからもうすぐ、みんなの相手をするのはつらくなってくるかなー」

 

「隊長さんたちははやてちゃんの、はやてちゃんは直接の上司であるカリムさんか、部隊の監査役、クロノ提督の許可がないとリミッター解除はできないですし、許可は滅多なことでは出せないそうです……」

 

「そうだったんですね……」

 

 なのはが質問に答えた後で、リインが心底残念そうに言った。エリオとキャロもリインの言葉を聞き、しょんぼりした表情になった。

 

「まあ、隊長たちの話は心の片隅くらいでいいよ。今はみんなのデバイスのこと」

 

「はい」「はい」

 

 なのはの言葉に、ティアナとエリオが順に返事をした。

 

「新型も、みんなの訓練データを基準に調整してるから、いきなり使っても違和感はないと思うんだけどね」

 

「午後の訓練の時にでもテストして、微調整しようか」

 

「遠隔調整もできますから、手間はほとんどかからないと思いますよ」

 

「はあ~……。べんりだよねぇ、最近は」

 

「便利です♪」

 

 なのはが呆れた風に言うのも無理はない。彼女が局に勤め始めたころは、いちいち調整用の容器に入れなければ微調整もできなかったのだ。時代の変化を感じざるを得なかった。

 

「あ、スバルの方はリボルバーナックルとのシンクロ機能も、うまく設定できてるからね」

 

「ホントですか!?」

 

「持ち運びが楽になるように、収納と瞬間装着の機能も付けておいたよ」

 

「うわぁ~♪ ありがとうございます!」

 

 スバルは、リボルバーナックルの持ち運びが楽になるようにしてくれたシャーリーにお礼を言った。

 スバルはお礼を言った後、とあることを思い出し、そのことをなのはに聞いてみることにした。

 

「あの、なのはさん……実は聞いてみたいことがあったんですけどいいですか?」

 

「うん? どうしたの?」

 

「以前の部隊ではよく見かけたんですけど、ここの部隊に来てからピクミンを一匹も見かけてないんですけど、なんでなんですか?」

 

「あー……。うちは本局所属だからね……。ピクミンは地上本部の戦力だから、借りられなかったんだ……。

 それに、うちの部隊にはピクミンを指揮できる魔導師もいないしね……」

 

「そうだったんですか……」

 

《バカスバル! それくらい最初に気づきなさいよ!》

 

《ひどいよティア~!》

 

 なのはは少し苦々しい表情になってスバルの質問に答えた。PT事件や闇の書事件で、理央が指揮するピクミンのすごさを目の当たりにしてきたなのはだからこそ、今回機動六課がピクミンという戦力を貸してもらえなかったことをとても残念に思っていたのだ。

 ちなみに、ピクミンは魔導師ではないため、保有できる総計規模とかは基本的にはないものとされている。

 ティアナは少し抜けている自分の相棒を念話で叱責した。

 

「あの、リイン曹長」

 

「キャロ? どうしたですか~?」

 

「スバルさんとなのはさんのお話に出てくる『ぴくみん』って何ですか?」

 

 キャロの質問に、その場にいた全員が驚いて彼女のほうを見てしまった。しかし、それはしょうがないことだろう。

 エリオは訓練校に見学に行ったときにミッドにいるピクミンのことを聞いているし、スバルやティアナは訓練校時代によくピクミンのことを学んだ上に、前の陸士386部隊では災害担当部にいたので、赤ピクミンや青ピクミンと一緒に行動することはよくあったのだ。

 シャーリーだって訓練校にいた時からピクミンのことをよく知っているし、なのはやリインに至ってはピクミンがミッドに広まる原因となった人物のことまでよく知っているのだ。だからこそ、ピクミンのことを知っているのは彼女たちにとっては常識だったのだ。

 

 しかし、キャロはつい最近まで別世界である「スプールス」の自然保護隊に所属していて、それ以前にもミッドに来たことはなかったのだ。彼女がピクミンのことを知らないのは当然のことだろう。

 一番初めに立ち直ったティアナがキャロに聞いてみることにした。

 

「えーと……。キャロ、もしかしてピクミンのこと知らない?」

 

「あ、はい……。生き物、なんですよね?」

 

「うーん……ほら、ここにはいないけど、ミッドチルダの所々で人間みたいな体をした生き物がいたでしょ? あれがピクミン」

 

「ああ! あの子たち、ピクミンっていうんですね! 

 なんだか仲良しで、強そうな子たちだな~って思ってたんですけど」

 

 ――強そう? あれが? いや、確かに集まると強いけど。

 

 その場にいるキャロ以外の全員の思いが一致した瞬間であった。

 確かに、ピクミンの見た目は強いとは程遠いイメージがある。しかし、自然保護区で数多くの野生動物を見てきたキャロだからこそ見ただけでわかったのだ。ピクミンの一匹一匹が持つ強さはもちろん、集団でこそ発揮されるピクミンの驚異的な潜在能力を、キャロは見た瞬間に直感したのだ。

 

 次に口を開いたのは、一応集団ならではのピクミンの強さを知っているなのはだった。

 

「まあ……確かにピクミンは集まると強いよね……。

 特に理央ちゃんが指揮すると、とんでもなく強くなるしね」

 

 なのはの言葉を聞き、ティアナの体がピシッ!と固まってしまった。ほかのみんなは、そんなティアナの様子を疑問に思ったが、ギギギギ…とティアナは首をまわしてなのはのほうを向いた。

 

「アノ……ナノハサン……?」

 

「ど、どうしたの、ティアナ……?」

 

「ソノ『リオチャン』ッテ……モシカシテアオバイットウリクサノコトデスカ……?」

 

「そ、そうだけど……それがどうしたの?」

 

 なのはの言葉を聞いたティアナは跳びあがり、そして空中にいたまま土下座のポーズをとりそのまま着地した。いわゆるジャンピング土下座だ。

 

「お願いします!! ぜひアオバ一等陸佐に私のことを紹介してください!!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 ティアナのいきなりすぎる行動に、ほぼ全員がポカーンとしてしまった。ただ一人、スバルだけはティアナの行動に苦笑いしていた。

 なのははティアナの尋常じゃない様子に激しく動揺しながらも、なんとか口を開いた。

 

「ど、どうしたのティアナ!? いきなり土下座なんてして!?」

 

「お願いします!! お願いします!! お願いします!!」

 

「ねえティアナ!! お願いだから私の話を聞いて!!」

 

「あー……なのはさん、たぶん今のティアには聞こえていないと思いますよ」

 

 なのはがスバルの声を聞き彼女の方を向くと、スバルが少し呆れた様子を含んだ顔を浮かべていた。

 

「ス、スバル……。いったいティアナはどうしちゃったの……?」

 

「実は……昔、ティアのお兄さんが任務中に理央さんに命を救ってもらったことがあって、その時からティアにとって理央さんはお兄さんと同じあこがれの人らしいんです……。

 たぶん、一度でも会ってみたいっていう気持ちが強いから、こんなにも必死に……」

 

「お願いします!! お願いします!! お願いします!!」

 

 にしてもちょっと必死すぎるんじゃないだろうか。なのはは冷や汗を浮かべながらティアナの必死すぎる土下座を見てそう思った。

 下手に会わせたら理央の胃に多大なダメージを与えることになるだろう。できるだけ理央の胃を痛めないように、ティアナの態度を改めさせてから会わせようと、なのはは心に決めた。

 

「……って、あれ? 理央さん? スバル、理央ちゃんのことを親しそうに呼ぶんだね?」

 

「え? ああ、実はあたしの母さん、昔は地上本部勤務で理央さんと交流があったんですよ。今でも時々、理央さんはあたしの家に来ることがあって――」

 

 スバルが言い終わらないうちに、ティアナの全力の右ストレートがスバルの顔に入った。スバルは「ギャフン!」と言いながら床に倒れ、ティアナは横になったスバルに馬乗りになって猛ラッシュを彼女の顔面にたたきこんだ。

 

「げふっ! ティ、ティア、がふっ! や、やmごふっ!」

 

「あんたはっ!! どうしていつもいつも大事なことを言っとかないのよ!! 

 もしあんたがそのことをちゃんとあたしに言っとけば、もっと早くにアオバ一佐に会えたかもしれないのにっ!!」

 

「あ、そうだった」

 

「この大バカアホタンチンスバルがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「ティ、ティアナやめてーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやてを目的地まで送り届けたフェイトは、車を走らせて機動六課に帰っていた。今は高速道路を走っており、はやての留守中に部隊を任されているグリフィスと通信越しに話していた。

 

「うん、はやてはもう、向こうについてるころだと思うよ」

 

『はい、お疲れ様です』

 

「私はこの後、港湾地区の捜査部に寄って行こうと思うんだけど、そっちはなにか急ぎの用事とかあるかな?」

 

『いえ、こちらは大丈夫です。副隊長お二人は交替部隊と一緒に出動中ですが、なのはさんが隊舎にいらっしゃいますので』

 

「そう……」

 

 そろそろ道路から降りるため、フェイトは車を道路の右側に寄せた。その時、車のフロントガラスに『Alert』と表示された画面が映しだされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、機動六課の隊舎のほうでも異変が起こっていた。なのはたちがいる部屋では、ありとあらゆるモニターに『Alert』と表示され、けたたましい警報が鳴り響いていた。

 さすがの緊急事態に、ティアナもスバルを殴るのをやめていた。

 

「このアラートって……!」

 

「1級警戒態勢……!?」

 

「グリフィス君!」

 

 なのはは通信越しにグリフィスに呼びかけた。

 

『はい! 教会本部から出動要請です!』

 

『なのは隊長! フェイト隊長! グリフィス君! こちらはやて!』

 

 なのはとフェイト、それとグリフィスのもとに、はやてからの通信が開かれた。フェイトは即座に、はやてに現在の状況について質問をした。

 

『状況は?』

 

『教会騎士団の調査部で追ってた、レリックらしきものが見つかった! 場所はエイリの山岳丘陵地区! 対象は、山岳リニアレールで移動中!』

 

『移動中って……!?』

 

『まさか……!?』

 

 はやての言葉に、フェイトとなのはは悪い予感がした。そしてその予感は、残念なことにあたりだった。

 

『そのまさかや……。内部に侵入したガジェットのせいで、車両の制御が奪われてる。

 リニアレール車内のガジェットは、最低でも30体。大型や飛行型の、未確認タイプも出てるかもしれへん。いきなりハードな初出動や。なのはちゃん、フェイトちゃん、行けるか?』

 

『私はいつでも』

 

「私も」

 

 急な出動要請にも関わらず、すぐに行けるとなのはとフェイトは答えた。優秀なSランク魔導師である二人は、こういう緊急事態に直面したことも少なくはないのだ。

 

『スバル! ティアナ! エリオ! キャロ! みんなもオッケーか!?』

 

「「「「はい!!」」」」

 

 新人たち四人も、はやてにしっかりとした声で返事をした。

 

『よーし! いいお返事や! 

 シフトはAの3、グリフィス君は隊舎での指揮、リインは現場管制!』

 

『はい!』

 

「はい!」

 

『なのはちゃん、フェイトちゃんは現場指揮!』

 

「うん!」

 

『ほんなら……』

 

 

 

 

 

 ――機動六課フォワード部隊、出動っ!!

 

 

 

 

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

 新デバイスを受け取ったばかりの新人フォワード陣を待ち受けていたのは、機動六課での初出動だった。はたして彼らは、無事に任務を達成することができるのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理央が見たものは、たった一人の少女だった。

 地面に倒れている少女の周囲には、生体ポッドの一部だったと思われるガラスの破片が散乱していた。おそらく、事故が起きたときに割れたのだろう。

 

 少女は何も身にまとっておらず、全身のいたるところが保存液と思われる液体に濡れていた。このことから、この子がさっき理央が危惧していた人造魔導師、あるいは戦闘機人である可能性があることがわかる。

 少女の身長は大体5、6歳児くらいの高さで、理央の位置からは彼女の横顔がよく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、理央の思考は停止したままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その横顔があまりにも―――に似ていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ありえない……」

 

 結局、理央の口から出てきたのは、否定の言葉だけだった。

 

 理央の口からその言葉が出てきた直後、少女は身じろぎをした。それを見た理央はハッと気づき、急いで彼女のもとに駆け寄り、やさしく抱き起こし、呼びかけた。

 

「しっかり! もう大丈夫だから! 目を開けて!」

 

 いつもの理央らしからぬ、冷静さを激しく欠いた呼びかけだった。しかし、その少女は理央の呼びかけによって目を覚ました。

 まぶたが開けられてあらわになった彼女の()()()()()()()()を見て、理央はようやく落ち着きを取り戻した。

 

「だ…れ……?」

 

「……ごめんね、起こしちゃって。でも、ちょっとだけ聞きたいことがあったの。お名前、なんていうの?」

 

 理央は、少女に軽い回復魔法をかけながら問いかけた。

 内心、名前があってほしいと願っていた。この子が、ちゃんとした生まれの子であってほしいと理央は願っていた。しかし……

 

「……わ……から……ない……」

 

 少女は、名前を答えられなかった。

 

「……そう……。ごめんね、後はゆっくり寝ててね。無理やり起こしちゃって、ホントにごめんね」

 

「う…ん……。ありがとう……」

 

 そう言って、少女はまぶたを閉じ、再び眠りについた。理央は少女の体を見て、()()()()()()()()ことを確認してから、この少女が()()()を使ったと確信し、傷がないことを確かめたので回復魔法をかけるのをやめた。

 

 この子が名前を答えられなかったのは、単に幼いからだったのかもしれない。しかし、この少女が()()()()()使()()()()()()()力を使ったことから、その可能性はほとんどないと理央は気づいていた。

 

 理央は少女の見た目と抱き起こしたときの重さから、少女が機械のパーツが使われた戦闘機人ではないと推測した。とすると、人造魔導師である可能性が一番高い。それも、おそらくプロジェクトFの技術で作られた……

 

(……この子の名前がわかれば、なんて……自分にとって都合のいい期待だったわね……)

 

 理央はそう思いながら、抱いている少女の顔をどこか悲しげな表情で見つめた。そして彼女は、今日の朝から続いていた予感は正しかったのだと実感した。

 

 

 

 

 

 その()()()()の少女の顔は、()()()()()()()であった……。




 これにて今回のお話の本編はこれでおしまいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 この少女……一体誰の○○○○なんだ……!? はい、おわかりですね。あえて言いませんが、もう皆さまお分かりですね。伏字の部分もなんて書いてあるかご存知ですよね。彼女が出番が多くなる予定のオリキャラです。
 彼女が今後、物語にどう関わっていくのかはもう決めてあります。重要人物です。転生者(笑)とは扱いがまるで違います。この少女がこれからどんなふうに物語にかかわってくるのご想像しながら、活躍にご期待ください。

 はい、ティアナさんも理央を尊敬する局員の一人です。でも、あんなでも常識はちゃんとあるので会わせても大丈夫……なはずです。
 そしてピクミンの強さを一瞬で看破したキャロ、野生動物あふれる自然の中で育ったからこそわかるんです、はい。

 理央の()に関しては、後々の話で出てくる予定なのでご心配なく。
 ……え? にしてはフラグっぽい文が多すぎる? な、何のことですかなー(;´・ω・)

 最後に恒例のおまけをいくつか書いておきましたので、よかったらご覧ください。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。





おまけ① 何かが違う訓練

「私の攻撃を5分間、被弾なしで回避しきるか、私にクリーンヒットを入れればクリア。
 誰か一人でも被弾すれば、最初からやり直しだよ。頑張っていこう!」

「ほぉー、じゃあ俺の突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)で一撃で決めてもいいわけなんだな」(槍)

「待ってください、ラン…エリオ! これはチーム戦! 協力して彼女を倒さなければなりません!」(拳)

(起源弾……被弾者の魔力は暴走し、自らの肉体を瞬時に死滅させる…)カチャカチャ(銃)

「あなたのような人物と戦えることを光栄に思います。いざ、推して参る!」(竜)

「えっ、ちょっ」

 



 この後めちゃくちゃにされた。



おまけ② 全然凡人じゃないティアナさん

「シルエット……やるね、ティアナ」

「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 スバルがなのはに向かって突進してきた。なのはは彼女をアクセルシューターで攻撃するが……

フッ

「またシルエット!?」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

「今度は5人も!?」

 スバルのシルエットがどんどん出てきて、それを魔力弾で撃ち落とし続けるなのは。しかし、スバルのシルエットはなくなるどころかどんどん増えていく。

「くっ! 一体どうなってるの!? ティアナの魔力量だと、これだけ出すことは不可能のはず……」

『気づいてなかったんですか?』

「!? ティアナ!? 一体どこから!?」

『あなたは私の幻術にかかったんですよ……。私の最高の幻術、【月詠】にね……』

 嘘です。というかこんなティアナ無理です。



おまけ③ 普通ならこうなる

 そろそろ道路から降りるため、フェイトは車を道路の右側に寄せた。その時、車のフロントガラスに『Alert』と表示された画面が映しだされた。

「えっ、ちょっ、ま、前が見えな、キャアアアアアアアアアアアア!!」

ドカアァァァァァァァァン!!












 普通に事故った。



おまけ④ ティアナランドシェイク(If)
※お食事中の方はご遠慮ください。

 ティアナは、スバルの衝撃的発言(?)を聞いてからスバルにラッシュしていたが、突然スバルの襟元をつかみ思いっきりゆさぶり始めた。

「このこのこのこのぉーーーー!!」

「あばばばばばばばばばばばば!!」

「ティ、ティアナ…もうそのへんに……」

「うっ……」

「ス、スバル……?」

「? なによ、言っとくけどまだ許したわけじゃ…」

 そこまで言って、ティアナは言葉を止めてしまった。なぜなら、顔を青くしたスバルの口からネジがはみ出しているのに気づいてしまったからだ。

「ス、スバル……あんたまさか……」

「う、お、おv(ピーーーーーー・・・・・・・・・)





 この後、二人にこの部屋の後片付けが命じられたのは言うまでもない。
※一応言っておきますと、出たのは機械の部品という設定です。



お☆し☆ま☆い


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第五話 星と雷/ここは(いい意味でも悪い意味でも)ピクミンの巣窟、ミッドチルダなの

 投稿が遅れて申し訳ありませんでした。本当は5月のゴールデンウィークに投稿するつもりだったのですが、いろいろとアクシデントが起きて書き上げられませんでした。

 それと、今回もピクミンの活躍はありません。主人公の出番もほんの少しなので、ご了承ください。どちらかというと、作者自身が戦闘描写に挑戦しているといった感じの話になってしまっていると思いますので、そんなのは御免だ!という方はお読みにならないほうがよろしいかと思います。

 主人公が出ている場面以外は、大体作者が原作を文章で書いてみようと試みた感じになっております。主人公が出てくるのは最初と中ごろ、最後の部分なので、オリジナルにしか興味がないという方はそこの部分だけ読むというのもアリかもしれません。

 それでは、始まります。


 理央が生体ポッドの中に入っていた少女を発見してから数十分後、近くにある陸士部隊――陸士58部隊の隊員たちが事故現場に到着した。

 彼らは現場に着くなり、周辺の道路の封鎖やトラックと積み荷の調査などを始めてくれた。

 

 向こうのほうで呼んでいた救急車も同じころに現場にやってきた。今はちょうど救急隊員が、トラックの運転手を担架に乗せて救急車に運び入れているところだった。

 

「アオバ一等陸佐、お疲れ様です」

 

「お忙しいところ、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

 

 58部隊の隊員が数人、少女を胸に抱いている理央の方にやってきて敬礼した。

 

「いえ、発生した事故への対応は局員として当然の義務ですし、もう帰宅する途中でしたのでお構いなく。それよりも、事故現場を見て気づいたことをデータにしてデバイスにまとめておきましたので、捜査のお役に立てて下さらないでしょうか?」

 

「ああ! ありがとうございます! 何から何までおこなっていただいて申し訳ありません」

 

「いえ。ドルフィン、さっきまとめたデータをこの人のデバイスに送って」

 

『OK,captain.』 

 

 理央の命令とともに、彼女の笛型デバイスから隊員が持っているデバイスにデータが転送された。ちょうどデータを転送し終えたとき、一人の救急隊員が理央のもとにやってきて話しかけてきた。

 

「あの……アオバ一佐」

 

「なんでしょうか」

 

「その子も事故現場にいたのですよね。一見けがはないようですが、万が一ということもあるので、できれば彼女も病院に搬送して精密検査を受けさせたいのですが……」

 

「わかりました。ですが……」

 

「? どうしましたか?」

 

 少しのあいだ口ごもった理央に、救急隊員は疑問を覚えたが、すぐに理央は言葉を続け直した。

 

「……この子が目覚めたとき、さっきまで傍にいたはずの私がいなくなっていると不安になるかもしれないので、私も同行してもよろしいでしょうか」

 

「……わかりました。では、一緒に車の方へ」

 

「ありがとうございます。……すみません、そういうわけで現場検証にはこれ以上協力できません。通報したのは私なのに、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

「いえ! もともとアオバ一佐はすでに本来の仕事を終えていらっしゃるので、どうぞお気になさらないでください。むしろ、ここまでご協力してくださったのですから、我々の方が頭が上がりませんよ」

 

「それに、現場検証よりもその子を安心させてあげることの方が大事ですわ。やっぱり、『七色の英雄』のお名前は伊達じゃないんですね!」

 

「は、ははは…。(今の流れでどうして『英雄』になるの?)それでは、失礼します」

 

「「はっ! お疲れさまであります!」」

 

 隊員たちの敬礼を背に、理央は少女を抱えたまま救急車に乗り、車の中のベッドの上に少女を下ろした。そして、理央と少女を乗せた救急車は最寄りの病院に向けて出発した。

 

 ベッドの上で静かに寝息を立てている少女の顔を見ながら、理央は一人、物思いにふけっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはをはじめとした機動六課フォワード陣は、現在ガジェットの襲撃によって制御不能の事態に陥っているリニアレールが走る山岳地帯の上空を飛んでいるヘリに乗っていた。

 ヘリを操縦しているのは、機動六課のヘリパイロットを務めるヴァイス・グランセニック陸曹である。

 彼は、ヘリ操縦士としては最高位のA級ライセンスを保有するパイロットであり、飛行魔法を使うことができない新人たちの主な移動手段であるヘリの操縦を任せるのに十分すぎるほどの人材であった。

 

 現場のほうでは、リニアレールを襲撃している最中のガジェットⅠ型に加え、その付近の上空からは航空型のガジェットⅡ型が出現し、その貨物車両に向かいつつあった。

 一方、市街地にいるフェイトはパーキングに到着し、車をそこに停めて飛行魔法で現場に向かうところだった。

 

「ヴァイス君、私も出るよ! フェイト隊長と二人で空を抑える!」

 

「うっす! なのはさん、お願いします!」

 

 暴走するリニアレールの上を飛んでいるヘリの中で、なのははこれから来るフェイトとともに上空のガジェットⅡ型を迎え撃つ旨を操縦士のヴァイスに伝え、ヴァイスはそれに応じた。

 

『Main hatch,open』

 

 そして操縦桿近くから聞こえてくる機械の音声とともに、ヘリの後ろのハッチが開かれた。なのははここから飛び出し、飛行魔法で飛んで出撃するのだ。

 

「じゃあ、ちょっと出てくるけど、みんなも頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」

 

「「「はい!」」」

 

「はい!」

 

 なのはからの激励に、スバルとティアナ、エリオはすぐに返事をしたが、キャロだけはほかの三人よりも少し遅れて返事をした。そんな彼女の様子を見ていたなのはは、キャロ……、と名前を優しく呼びかけながら、彼女に歩み寄っていった。

 

「大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても……。離れてても、通信でつながってるから、一人じゃない。だからピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法はみんなを守ってあげられる優しくて強い力なんだから、ね?」

 

 なのははキャロの頬に手を当てながら、キャロを元気づける言葉をかけた。まっすぐと見つめてくるなのはの目を見て、キャロの緊張は少しほぐれた。

 

 

 

 

 

 フェイトは車を駐車場に停めた後、彼女のインテリジェントデバイス「バルディッシュ・アサルト」をセットアップし、バリアジャケットを身にまとい飛行魔法で空へ飛んだ。

 

「ライトニング1、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、行きます!」

 

 そして大空へと飛び立ったフェイトは、そのまま雲を突き抜け、なのはたちがいる現場へと猛スピードで向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 現場のほうでも、なのはがヘリから飛び降り、首にかけていたインテリジェントデバイス「レイジングハート・エクセリオン」を起動させ、バリアジャケットを装着した。

 

『Accel Fin』

 

 そしてレイジングハートの電子音声とともに魔法「アクセルフィン」が発動された。彼女の足の内側に一枚ずつ、外側に二枚ずつついた、合計六枚の魔力でできた羽が彼女の飛行魔法の補助をしてくれるのだ。

 

「スターズ1、高町なのは、行きます!」

 

 そしてなのはもまた、リニアレールへ向かっているガジェットⅡ型の大軍のもとへ飛んで行った。

 

 一方ヘリの中では、リインが新人四人に任務の詳しい説明をおこなっていた。

 

「任務は二つ、ガジェットを逃走させずに全機破壊すること、そしてレリックを安全に確保すること。ですからスターズ分隊とライトニング分隊、二人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら車両前後から中央に向かうです」

 

 リインの近くに浮遊している画面には、レリックを運んでいるリニアレールが映っている。さらに、その七両目の車両がズームして映し出された画像と、レリックが入ったケースの画像が新たに映し出された。

 

「レリックはここ、七両目の重要貨物室。スターズかライトニング、先に到達したほうがレリックを確保するですよ」

 

「「「「はい!」」」

 

 リインからの指示を聞き、新人たちははっきりと返事をした。リインは六課の制服姿からバリアジャケットに着替え、さらに説明を続ける。

 

「私も現場に下りて、管制を担当するです!」

 

 

 

 

 

 リインが説明しているとき、なのはとフェイトはもうガジェットⅡ型のいる空域まで飛んできていた。

 

「こっちの空域は二人で抑える! ロングアーチは新人たちの方のフォローをお願い!」

 

『了解!』

 

 フェイトは機動六課のロングアーチに、通信で新人たちのサポートをするように指示を出し、向こうにいるグリフィスがそれに応じた。そのすぐ後に、ヘリの方から飛んできたなのはとフェイトは合流した。

 

「おんなじ空は久しぶりだね、フェイトちゃん」

 

《うん、なのは。四年ぶりくらいになるかな》

 

 二人は念話で会話していたが、すぐに後方から自分たちに迫ってくる複数のⅡ型の群れに気が付いた。

 さらに、前方から飛んできたⅡ型の群れが、青色のレーザーで二人を攻撃してきた。

 なのははいくつも放たれるレーザーを華麗にかわしながら、桃色の砲撃をほぼノータイムで放った。

 桃色の砲撃は、彼女の前方を飛んでいたⅡ型を何体か破壊したが、さきほどレーザーを放ってきたⅡ型は無傷だった。

 

 なのはにレーザーを放っていたⅡ型は大きく旋回し、彼女の攻撃から逃れようとしていた。

 その時、なのはのブーツについた翼がさらに大きく羽ばたき、彼女の飛行スピードが段違いに上がった。

 移動速度を上げたなのはは、そのまま先ほどのⅡ型の群れの後ろに回り込んだ。

 

『Accel Shooter』

 

 レイジングハートの音声とともに、なのはが発動させた魔法によって大量の誘導弾が作り出され、前を飛んでいる三機のガジェットに向かって発射された。

 桃色の誘導弾はガジェットに直撃、その装甲にいくつもの穴をあけ、撃ち抜かれたガジェット三機はすさまじい爆発を起こして活動を停止した。

 

『Haken Form』

 

 ガジェットの爆発により生じた黒煙の中から、バルディッシュ・アサルトを近接戦闘用のハーケンフォームに切り替えたフェイトが飛び出した。

 本体から直角に展開されたヘッドと、船体から発生している黄色の魔力刃の様子から、さながら今のバルディッシュは鎌のように見えた。

 

「はあああああああ!!」

 

 彼女の掛け声とともに、金色の魔力刃がバルディッシュ本体から勢いよく放たれ、魔力斬撃となって二機のガジェットを切り裂いた。

 そして、機動六課の隊長たち二人とガジェットⅡ型の大軍による激しい空中戦が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 一方、ヘリはすでにリニアレールのほぼ真上で滞空しており、新人たちはハッチから車両に飛び降りる準備を終えていた。

 

「さーて新人ども、隊長さんたちが空を抑えてくれてるおかげで安全無事に効果ポイントまで到着だ。準備はいいか!?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 ヴァイスは新人たち四人に発破をかけ、四人はしっかりとした返事でそれに答えた。

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」

 

「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

 

「「行きます!」」

 

 まず最初に飛び降りたのは、新人フォワード陣の中では1、2番目に年齢が高いスターズ分隊の二人だった。

 そしてリニアレールへ落ちていく二人は、新たに相棒となったデバイスの名前を呼んだ。

 

「行くよ、『マッハキャリバー』」

 

「お願いね、『クロスミラージュ』」

 

 

 

 ――セットアップ!

 

 

 

『『Standby Ready』』

 

 そして、スバルの持つクリスタル型のデバイス「マッハキャリバー」とティアナの持つカード型のデバイス「クロスミラージュ」が光り輝きながら起動し、二人はバリアジャケットをまとっていった。

 

「次、ライトニング! チビども、初めての実戦だろうが、気をつけてな」

 

「「はい!」」

 

 そして、ライトニング分隊に所属するエリオとキャロが飛び降りる番になった。しかし、下のリニアレールを見るキャロの表情はどこか少し不安げだった。

 今まで自然保護隊に所属していたキャロにとっては、危険を前提としたこういう現場に向かうことは初めてだったのだ。

 そんなキャロが不安になってしまうのもしょうがないことだろう。

 

 

 

 もっとも、それとは別の不安の方がキャロにとっては大きいものなのだが。

 

 

 

 そんなキャロの様子に気付いたエリオは、キャロに笑いかけながら声をかけた。

 

「一緒に降りようか?」

 

「え?」

 

 突然のエリオからの申し出に一瞬キョトンとなったキャロだったが、エリオから手を差し出され、「うん!」と答えながら彼の手を握った。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

 

「きゅくるー!」

 

「「行きます!」」

 

 そして二人もヘリから飛び降り、彼らの繋がれた腕に装着されたデバイス、「ストラーダ」と「ケリュケイオン」がそれぞれ黄色と桃色の光を放ち始めた。

 

「『ストラーダ』」

 

「『ケリュケイオン』」

 

 

 

 ――セットアップ!

 

 

 

 そして二人もバリアジャケットを装着し、新人たち四人はリニアレールの屋根に無事に着地した。

 

「……あれ? ねえ、このジャケットって……」

 

「もしかして……」

 

 自分たちのバリアジャケットのとある特徴にスバルが気付き、声を上げた。

 エリオとキャロもそれに気が付き、自分たちのバリアジャケットをまじまじと見つめている。

 そこにリインがやってきて説明を始めた。

 

「デザインと性能は各分隊の隊長さんのを参考にしているですよ。ちょっとクセはありますが高性能です」

 

 自分たちの隊長たちのものを参考に設定されたバリアジャケットを見て、ティアナとスバルは少しのあいだ感慨に浸っていた。

 特にスバルの方は、あこがれのなのはと同じようなデザインだからか、うれしそうな表情を浮かべている。

 

「! スバル! 感激は後!」

 

 しかし、すぐにここが現場だということを思いだしたティアナのその一声でスバルは現実に引き戻された。

 その直後、スバルたちの足元近くの屋根が不自然に盛り上がった。そしてそこから、空から飛び降りてきたスバルたちを敵と認識した車内のⅠ型ガジェットによる攻撃が飛び出し、屋根の破片が宙を舞った。

 

『Variable Barret』

 

 敵を認識した二人のデバイスは戦闘態勢に移行し、最初にティアナが「ヴァリアブルバレット」を放つ準備をした。

 

 ヴァリアブルバレットとは、通常の魔力弾の周りに膜状のバリアを張って、それを相手に向かって放つ攻撃魔法である。

 魔力弾を膜状バリアで包むことで、AMFなどのフィールド魔法を外側の魔力の膜だけで中和させ、その間に本命の中身の魔力弾はフィールド内に入り込み、その効果を受けずに対象を攻撃することができる、いわば対フィールド魔法用の射撃魔法なのだ。

 

 ちなみに、普通の射撃ではなく誘導弾に魔力の膜を作る魔法は『ヴァリアブルシュート』と言い、ティアナは機動六課での初めての訓練にて、AMFを発生させるガジェットⅠ型をこの魔法で破壊していた。

 

「シュート!」

 

 ティアナのかけ声とともに放たれた二発の弾丸は、見事AMFに守られているⅠ型の中心にあるカメラを貫通し、Ⅰ型を二体破壊した。

 

「うおおおおおおおー!!」

 

 勇ましいかけ声とともに、破壊された屋根からリニアレールの車内に飛び込んでいったスバルは、母から譲り受けた右腕のアームドデバイス「リボルバーナックル」でガジェットⅠ型を叩き潰した。

 

「たあああああああー!!」

 

 破壊したⅠ型を右手でつかみ、マッハキャリバーを走らせ、スバルはコードを伸ばしてきたⅠ型に向かって、つかんでいるⅠ型を思いっきり投げ飛ばした。

 ごしゃあっ、という音を立てて二体のⅠ型は激突し、その後二体とも爆発四散した。

 

 直後に彼女をレーザーの嵐が襲ったが、スバルは華麗にかわし、再び走り始めた。

 

『Absorb Grip』

 

 マッハキャリバーの電子音声とともにグリップ力が高まり、スバルのスピードはさらに上がり、いくつものレーザーが放たれるなか、スバルはその勢いに乗って車内の壁を走った。

 

「リボルバー……」

 

 右から、左から、そして前から、レーザーが飛んでくるなか、彼女が狙うのは目の前で攻撃をしてくるⅠ型。

 スバルは、リボルバーナックルの手首部分にあるナックルスピナー――魔力を加速、回転の力を加えて撃ち出す、あるいは打撃の威力強化をおこなうための歯車状の機構――を高速で回転させ……

 

「シュート!!」

 

 Ⅰ型に向かって、ナックルを勢いよく突き出した。ナックルスピナーによって発生し、撃ち出された衝撃波がⅠ型に襲い掛かった。

 

 

 

ドグォン!!

 

 

 

「うわわ! ……っと。」

 

 無論Ⅰ型は破壊されたのだが、衝撃波のエネルギーはそれだけでは収まらず、その車両の屋根に大きな穴をあけ、さらにはスバルもその穴から一度外に吹き飛ばされてしまった。

 

『Wing Road』

 

 しかしここで、マッハキャリバーが「ウイングロード」を発動した。

 スバルの足元から水色の帯状の魔法陣が展開され、マッハキャリバーはその上を走っていった。

 そして着地できそうな場所を見つけてから、キャリバーはウイングロードを降り、スバルを無事にリニアレールの屋根に着地させた。

 

「うわぁ……。マッハキャリバー、おまえって、もしかして、かなりすごい?」

 

 スバルは、自分の危機を救ってくれたマッハキャリバーに対して、思わず感嘆の声を漏らした。

 

「加速とか、グリップコントロールとか、それに、ウイングロードまで……」

 

『私はあなたをより強く、より速く走らせるために作り出されましたから』

 

「……うん。でも、マッハキャリバーはAIとはいえ心があるんでしょ? だったら、ちょっと言い方を変えよう」

 

 マッハキャリバーの言葉に、スバルはこう返した。

 

「おまえはね、あたしと一緒に走るために生まれてきたんだよ」

 

 その言葉は、ある意味スバルの出生に深くかかわるものだった。

 

 彼女と姉のギンガは、妹のツバメのように、母クイントがお腹を痛めて産んだ子ではない。

 戦うための『道具』として、戦闘用の機械に適合するように遺伝子を調整され、人工的に作られた生命、それが彼女たち『戦闘機人』だった。

 

 しかし、クイントは彼女たちを、戦いの『道具』として見ることなどせず、心を持った『人間』として今日まで育ててきた。

 そのことにスバルやギンガは、深い母の愛情を感じるとともに、大きな感謝を抱いていた。

 

 だからこそスバルは、マッハキャリバーのことをただの自分の『道具』ではなく、ちゃんとした心を持った自分の『相棒』と思っており、キャリバー自身にもそれを認めてほしかったのだ。

 

『同じ意味に感じます』

 

「そうかもしれないけど違うんだよ~、いろいろと」

 

『考えておきます』

 

「……うん!」

 

 彼女のその思いがキャリバーに通じる日が来るのか、まだだれにもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーミッドチルダ クラナガン第3中央病院ー

 

 理央を乗せた救急車が最寄りの病院に着き、少女は救急隊員や病院からでてきた医師や看護師たちにストレッチャーに乗せられて検査室へと運ばれていった。

 理央は検査室の前まで少女についていったが、少女が検査を受け始めてからは、部屋の前にあるベンチに座って検査が終わるのを待っていた。

 

 しばらくは手を組んでじっと待っていた理央だったが、不意に立ち上がり、近くにいる医師に話しかけた。

 

「お忙しいところすみません、少しよろしいでしょうか」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

「今この検査室で検査を受けている少女に関することなのですが、ひとつお願いが……」

 

 それは、理央が落ち着いた状態で彼女の姿と顔を見てから確信していることを、まぎれもない事実として確かめるための頼み事だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いまだ暴走するリニアレール、その車両の一つにティアナがいた。彼女の目の前には、漏電し、動かなくなったⅠ型の姿があった。

 

『ティアナ、どうです?』

 

「ダメです! ケーブルの破壊、効果なし!」

 

 ティアナは、そうリインからの通信に答えた。

 彼女はリインの指揮のもと、リニアレールの制御システムにクラッキングしていたガジェットⅠ型をケーベルもろとも破壊したのだ。

 クラッキングしているガジェットを破壊すればリニアレールが止まるかもしれないという予測のもとに行われたのだが、もはやこちらからシステムに干渉しなければ止まらなくなっていたらしく、結果としてはリニアレールの暴走はまだ続いている。

 

『了解! 車両の停止は、私が引き受けるです! ティアナはスバルと合流してください!』

 

「了解!」

 

『One Hand Mode』

 

 リインの指示を受け取ったティアナは、いったん左手の拳銃をクロスミラージュに収納してもらい、次の車両へと走っていった。

 

「しっかし、さすがは最新型。いろいろ便利だし、弾丸精製までサポートしてくれるのね」

 

『はい、不要でしたか?』

 

「アンタみたいに優秀な子に頼りすぎるとあたし的には良くないんだけど、でも、実戦の時には助かるよ」

 

『Thank you』

 

 ティアナがクロスミラージュと会話しながらも目的地まで向かうなか、リニアレールの屋根の上を飛んでいたリインは、通信でロングアーチと情報をやり取りしながら先に進んでいた。

 

「スターズF、四両目で合流。ライトニングF、十両目で戦闘中!」

 

「スターズ1、ライトニング1、制空権獲得!」

 

「ガジェットⅡ型、散開開始! 追撃サポートに入ります!」

 

 機動六課の隊舎にある指令室、そこでシャーリーと通信士のアルト・クラエッタが現場の状況を報告していたとき、出入り口のドアが開き、そこから聖王教会から戻ってきたはやてが指令室に入ってきた。

 

「ごめんなぁ! お待たせ」

 

「八神部隊長!」

 

「お帰りなさい!」

 

 部隊長補佐のグリフィスとシャーリーがはやてに迎えの言葉をかけるなか、部隊長であるはやては指令室にある自分の席に腰かけた。

 席につくはやてにグリフィスは現在の状況を簡潔に伝え、シャーリーも報告を続ける。

 

「ここまでは、比較的順調です」

 

「ライトニングF、八両目突入! ………エンカウント! 新型です!」

 

 

 

 

 

 いっぽう現場のほうでは、ライトニングF、エリオとキャロの二人が、屋根の上から見下ろす形で、壊された屋根から見える球のように丸いガジェット、ガジェットⅢ型と対峙していた。

 

 エリオとキャロの姿を視認したⅢ型は、ベルトのような腕を勢いよく伸ばし、攻撃を仕掛けてきた。

 Ⅲ型から繰り出された攻撃を二人は跳躍してかわし、リニアレールの屋根に着地したキャロはすぐさま桃色の魔法陣を足元に展開した。

 

「フリード、ブラストフレア!」

 

「きゅくるー!」

 

 追撃を仕掛けてくるⅢ型に対し、キャロはフリードに迎撃の指示を出した。

 キャロの指示に従い、彼女の竜であるフリードは火炎弾を口の前の収束していく。

 

「ファイア!」

 

ドォン!

 

 そしてフリードのブラストフレアがⅢ型に向かって放たれたが、Ⅲ型はそれをベルト状の腕で弾き飛ばした。

 すぐ近くの岩壁に弾き飛ばされた火炎弾は、ぶつかると同時に大きな爆発を起こした。

 

「おおりゃあああああああ!」

 

 間髪を入れず、ストラーダの先に電気に変換された魔力をまとわせながらエリオがⅢ型に突進していった。

 そしてエリオは跳躍し、ストラーダを振り上げⅢ型に向かって勇猛果敢に斬りかかっていった。

 

「でやぁっ!!」

 

 エリオはストラーダを振り下ろし、電撃も加わりより強力になった一撃をⅢ型に叩き込むことができた。

 しかしⅢ型は、エリオのその一撃に破壊されるどころか、ダメージを受けた様子さえ全く見せなかった。

 

「ぐっ……! 堅い……!」

 

 それもそのはず、このガジェットⅢ型は他のⅠ型、Ⅱ型と比べて防御面が強化されており、生半可な攻撃は通用しないつくりになっているのだ。

 さらに、Ⅲ型がほかのガジェットより優れている点はもう一つある。

 

 エリオがⅢ型の防御の高さに攻撃を通すことができないなか、ガジェットⅢ型から特殊なフィールドが発生した。

 するとエリオのストラーダに付与されていた威力強化の魔法は、そのフィールドに触れたとたん消滅してしまった。

 それだけにはとどまらず、フィールドはまわりにどんどん広がっていき、Ⅲ型からかなり離れた位置にいたキャロの魔法陣すら打ち消してしまった。

 

「AMF……!?」

 

「こんな遠くまで届くなんて……!?」

 

 そう、このAMF(アンチ・マギリング・フィールド)の効果範囲の広さこそがこのガジェットⅢ型の一番の強みであった。

 

 AMFとは、その効果が及ぶ範囲内の魔力結合をほどくことによって魔法を無効化するAAAランクのフィールド系高位防御魔法であり、機械でありながら、ガジェットはどの機体もこの高位魔法を発生させる機能を持っている。

 なかでもⅢ型は、Ⅰ型やⅡ型と比べて機体が大きい分AMFの効果をより強力にするだけの余地があったので、他の機体よりも広範囲で魔力結合を解除できるように設計されているのだ。

 

 魔法を無効化され、さらにはⅢ型のベルトにストラーダを絡ませられてしまったエリオは徐々に不利に陥っていった。

 

「あ……あのっ……!」

 

 彼と同じように魔法を解除させられ、AMFの効果で発動することもできないキャロは、屋根の上から苦しい状況に立たされているエリオに声をかけた。いや、声をかけることしかできなかった。

 訓練でも戦ったことがない新型のガジェットにエリオがやられてしまうかもしれないという不安で心がいっぱいなのに、魔法を使って彼を助けることができない彼女にできることは、声をかけることだけだったのだ。

 

「大丈夫だから! 任せて!」

 

 エリオがそう声を張り上げた直後、Ⅲ型の正面に取り付けられた三つの砲門が怪しく光る。Ⅲ型の異常を察知し、エリオは上に跳躍した。

 Ⅲ型の砲門から青いレーザーが発射され、上に逃れたエリオを追いかけるようにⅢ型が砲門を動かしたため、レーザーはガジェットのいた車両の屋根を切り裂いた。

 

 Ⅲ型の背後に着地したエリオだったが、攻撃を仕掛けようとした瞬間にⅢ型がグルリとエリオの方に向き直り、逆に彼がⅢ型に連射されたレーザーによって追い詰められていった。

 そしてついに、Ⅲ型のベルトによる攻撃にあたってしまい、悲鳴を上げながらも壁にたたきつけられてしまった。

 

 エリオが追い詰められていく様子を、心を不安で埋め尽くされながらも、キャロはただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 実は、キャロにはエリオを助けることのできる『力』がある。

 

 

 

 

 

 第6管理世界にある「アルザス」という土地、そこで生活する「ル・ルシエ」という少数民族の娘としてキャロは生まれた。

 ル・ルシエは竜とともに暮らし、竜を使役する召喚部族で、その中でもキャロは竜召喚士として類まれな才能を持っていた。本来なら彼女は、優しくしてくれる部族の人々に囲まれながら、しっかりとした訓練を受けて、一人前の竜召喚士として成長していっただろう。

 

 

 

 

 

 彼らが畏れる守護竜の力すらも使うことのできる才能さえなければの話だが。

 

 

 

 

 

 キャロの『力』は、あまりにも強すぎた。「強すぎる力は災いと争いを呼ぶ」として、キャロは長老から故郷を追放されてしまったのだ。

 たった一人で旅に出された彼女は、しばらくしてから管理局に拾われたのだが、そこでも居場所はなかった。

 「竜召喚」という希少な技能を持つキャロだったが、召喚士としての正規の訓練も教育もほとんど受けないうちに部族を追放されてしまった彼女には、うまく自分の竜を制御するだけの技術がなかったのだ。

 そのうえ、キャロ自身が戦いに怯えており、主の気持ちが竜にも影響を及ぼしたことも原因の一つとなり、ほんの少しの刺激でもフリードはすぐに暴走してしまっていた。

 

 故郷からの追放、心の通じあっているはずの竜の暴走は、キャロの心に自分の『力』に対する恐怖を生み出し、どんどん大きくしていった。

 その恐怖もまた竜の制御がうまくできない原因の一つとなり、管理局のどの部隊も彼女を持ちあまし、「役立たず」の烙印を押されるようになり、孤独になっていった。

 

 いつしかキャロは笑顔を忘れ、一人ぼっちのままただただ自分の『力』に怯える日々を送っていた。

 

 

 

 

 

 ()()が、現れるまでは。

 

 

 

 

 

「確かにすさまじい能力を持ってはいるんですが、制御がロクにできないんですよ」

 

 その日、キャロのもとに一人の執務官が保護者になるために訪れていた。そのときに彼女を担当していた局員は、その女性はキャロの能力に目を付けたのだと()()()して、キャロの『力』についての彼らの見解を述べていた(説明をしていた)

 

 執務官の前に座らされたキャロは、つらい表情を浮かべながらも、局員の話をただ黙って聞くことしかできなかった。

 

「竜召喚だって、この子を守ろうと竜が勝手に暴れまわるだけで、とてもじゃないけどマトモな部隊でなんて働けませんよ。せいぜい、単独で殲滅戦に放り込むくらいしか……」

 

「もう結構です。ありがとうございました」

 

 もう聞くことはないといわんばかりに、その執務官は説明する局員を制した。

 

「では……」

 

「いえ」

 

 彼女を引き取ることをあきらめたのだろうと思った局員の予想は、執務官の次の言葉で大きく裏切られた。

 

「この子は予定通り、私が預かります」

 

 執務官の、フェイトの言葉に一番驚いたのは、他でもないキャロ本人だった。

 

 

 

 

 

 フェイトに連れ出された外には、雪が降っていた。キャロは彼女にマフラーを首にかけられながら、フェイトに問いかける。

 

「私は……今度はどこへ行けばいいんでしょう……?」

 

「それは、君がどこに行きたくて、何をしたいかによるよ」

 

 フェイトから帰ってきた答えにキャロは不思議そうな顔をする。まるで、()()()()()()()()()()()かのように。

 

「キャロは、どこへ行って、何をしたい?」

 

 キャロの見たフェイトの笑顔は、どこか儚げで、しかし慈愛と優しさに満ち溢れたものだった。

 

 

 

 ――考えたこともなかった。

 

 ――私の前にはいつも私が居ちゃいけない場所があって、

   私がしちゃいけないことがあるだけだったから。

 

 

 

「ぐあああああああ!!」

 

 壁にたたきつけられうまく動けないエリオはⅢ型の腕に絡み取られ、再び壁にたたきつけられた。そしてⅢ型は、エリオをつかんだまま屋根にできた切れ目を腕で押しひろげ、彼ごと腕を車両の外に出した。

 

「ああっ!」

 

 ガジェットの腕の中で気絶してしまっているエリオの姿を見て、キャロは思わず声をあげてしまった。そしてガジェットはエリオを高く放り投げ、

 

 

 

 エリオは、崖の下に落ちていった。

 

 

 

 その瞬間、キャロの脳裏にエリオと過ごした数々の思い出がよみがえった。

 初めての出会い、初めての訓練、初めての出動……。機動六課に来てから、ずっと彼とは一緒だった。

 彼は、フェイトに同じように保護された兄弟のような存在であると同時に、初めてできた友達でもあった。

 ずっと一人で、自分の『力』に怯えながら過ごしてきた自分に優しくしてくれた、大切な人たちのひとりなのだ。

 

「エリオ君……」

 

 キャロの目に涙が浮かび、それと同時に、彼女の中にある『力』が覚醒し始める。

 

「エリオくーーーーん!!」

 

 キャロはエリオの名を叫びながら、崖の下に落ちていくエリオを追いかけるために自身もリニアレールの屋根から飛び降りた。

 

 

 

 

 

「ライトニング4、飛び降り!?」

 

 一方、六課の指令室では、アルトが驚きの声を上げた。

 それもそうだろう、彼らは陸戦魔導士で、飛行魔法なんて使うことができない。

 そんな彼らが30メートルは確実にあるだろう高度から落下しているのだ。驚かない方がおかしいだろう。

 

「あの二人、AMFがあるのにあんな高高度でのリカバリーなんて……!?」

 

「いや、あれでええ」

 

 しかし、はやてはそれでいいと答えた。はやてのその言葉に、シャーリーが納得して声をあげた。

 

「ああ! そっか!」

 

 

 

「そう、発生源であるガジェットから離れれば、AMFも弱くなる」

 

 指令室とレイジングハートで通信していたなのはがそう言った。

 

「だから使えるよ、フルパフォーマンスの魔法が!」

 

 

 

 

 

 落ちていく中で、キャロは必死にエリオに向かって手を伸ばしていた。初めてできた友達を、大切な人を失いたくないから、彼女は必死に手を伸ばす。

 

 

 ――守りたい……優しい人を……

  私に笑いかけてくれる人たちを……

 

 

 かつてキャロは、自分の大きすぎる『力』に運命を翻弄され、自分が何をしたいのかさえ考えることもできずに、ただただ自分の力に怯えて孤独に過ごしていた。

 しかし、今のキャロには、優しく笑いかけてくれる人がいる。一緒に楽しく過ごしている仲間がいる。大好きな人たちが、たくさんいる。そしてキャロは、そんな人たちともっと一緒にいたいと思った。

 

 自分の『したいこと』を見つけた少女は、今――

 

 

 ――自分の力で……守りたい!

 

 

 今までの怯えを振り払い、自分の『力』で大切な人を守ることを決意したのだ。

 

 

 

『Drive Ignition』

 

 

 

 キャロがエリオの手をつかんだ瞬間、AMFの効果範囲から外れたことによってキャロの魔法が発動した。

 キャロの桃色の魔力が球体となって二人を包み込み、少しずつ落下のスピードを落としていく。

 キャロは自分の作り出した球体の中で、静かにエリオを抱きしめた。

 

 完全に落下が止まり、その場で浮遊している二人のもとに、上にいたフリードが飛んでやってくる。

 

「フリード、今まで不自由な思いさせててごめん。私、ちゃんと制御するから」

 

 キャロがフリードに優しく話しかけていると、キャロの腕の中にいたエリオが目を覚ました。目覚めたエリオが見たのは、今までにないほど強い意志のこもった目をしたキャロの顔だった。

 

「いくよ、竜魂召喚!」

 

 次の瞬間、キャロたちを覆っていた球状の魔力が爆発するかのように膨れ上がった。

 

「蒼穹を走る白き閃光。わが翼となり、天をかけよ」

 

 キャロが詠唱することによって、彼女の竜フリードリヒは真の姿へと戻っていく。今までよりもはるかに大きく羽ばたかれるフリードの翼に、エリオは感嘆の声を漏らしながら見入っていた。

 

 今まで何度もフリードを暴走させてきたキャロだが、もうそんなことは決してないだろう。なぜなら、彼女はようやく、自分のしたいこと、守りたい人を見つけられたのだから。

 

「来よ、わが竜フリードリヒ。竜魂召喚!」

 

 

 

 

 

 ――グオオオオオオオオオオ!!

 

 

 

 

 

 そして、大きく膨れあがったはずの球体すら内側から破裂させ、その中から現れたのは、エリオとキャロの二人を背に乗せ、10メートルを超えた巨体を持つ、真のフリードリヒの姿だった。

 

 

 

 

 

「召喚成功!」

 

「フリードの意識レベル、ブルー! 完全制御状態です!」

 

「これが……」

 

 六課の指令室では、グリフィスがフリードの真の姿を見て驚きの声を漏らしていた。

 

「そう。キャロの竜召喚、その力の一端や」

 

 

 

 

 

 一方、リニアレールの屋根の上では、リインと行動中だったスバルとティアナが真の姿に戻ったフリードを見て驚きの声を上げていた。

 

「あれが……」

 

「あのチビ竜の、本当の姿? デカすぎでしょ……」

 

「かっこいー……」

 

 

 

 

 

 フリードを竜魂召喚で元の姿に戻した後も、キャロはエリオを目をつむったまま抱きしめていたが、ふとエリオの顔を見て、彼を目覚めていることに気が付くと、慌てて彼を離した。

 

「ご……ごめんなさい!」

 

「あ……ああいや、こ、こちらこそ」

 

 なんとなく気まずい雰囲気になってしまった二人であった。しかし、そんな二人のことなぞお構いなしと言わんばかりに、さっきエリオを崖の下に放り投げた三型が、彼らを完全に無力化するために、自身の空けた穴からリニアレールの外に出てきた。

 

「フリード、ブラストレイ!」

 

 ガジェットの姿を確認したキャロは、最初と同じようにフリードに火炎で攻撃するように魔法で指示を出した。しかし、フリードの口の前で収束していく火の玉は、最初の時のそれと比べものにならないほどに大きなものだった。

 

「ファイア!」

 

 そしてフリードの口から発射されたのは、火炎弾という生易しい攻撃などではなく、まさに火炎砲とでも呼ぶべき炎の激しさと効果範囲の広さを誇る一撃だった。

 しかし、そんなフリードの一撃をまともに受けたにもかかわらず、Ⅲ型は平然としていた。

 

「やっぱり、堅い」

 

「あいつの装甲形状は、砲撃じゃ抜きづらいよ。僕とストラーダがやるから、サポートをお願い」

 

「うん」

 

 エリオと話し合ったキャロは、フリードの上でエリオに補助魔法をかける準備をする。

 これまで自分の竜召喚の力に怯えていたキャロは、補助魔法を入れた自分の魔法全般にも自信を持つことができなかった。

 しかし、フリードを完全に制御できている今のキャロなら、まさに最高の状態で魔法を使うことができる。

 

「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を」

 

『Enchant Field Invade』

 

 キャロが使う補助魔法は、「エンチャント・フィールドインベイド」。対象に、フィールド貫通の効果――つまりは、AMFを無効化する効果――を与える魔法である。これで、エリオの使う威力強化の魔法を無効化されることを防ぐのである。

 

 さらにキャロは、もう一つ、補助魔法の準備をする。

 

「猛きその身に、力を与える祈りの光を」

 

『Boost Up! Strike Power』

 

 「ブーストアップ・ストライクパワー」、対象の打撃力を上げる魔法であり、エリオの威力強化の魔法を使っても貫けなかったⅢ型の装甲を破るためにこの魔法が使われた。

 

「いくよ、エリオ君!」

 

「了解、キャロ!」

 

 キャロの合図により、エリオはフリードの頭からⅢ型に向かって思い切り跳躍する。

 

「たあああああああーー!!」

 

 Ⅲ型に攻撃を仕掛けるエリオに、キャロが二重の補助魔法をかける。

 

「ツインブースト! スラッシュ&ストライク!!」

 

 キャロの使った二つの魔法は、エリオのストラーダに吸い込まれていく。

 

『Enfant』

 

 そしてストラーダの噴射口からは、補助魔法をかけられたことにより、キャロの桃色の魔力があふれ出てきた。

 Ⅲ型は今度こそエリオを排除しようと、アームケーブルやベルト状の腕を伸ばし、彼に攻撃してくる。

 

「はああああああ!!」

 

『Stahlmesser』

 

 しかし、キャロの全力の補助魔法をかけてもらったストラーダの魔力刃による斬撃で、すべて軽々と切り裂かれてしまった。

 

『Explotion』

 

 エリオはⅢ型に、今自分が放てる最大の攻撃を繰り出すため、ストラーダのカートリッジを二発ロードした。

 二発のカートリッジをロードしたことによって、ストラーダの噴射口から噴き出す空気の勢いがすさまじいものとなり、エリオの足元には三角形のベルカ式魔法陣が浮かび、そこからあふれ出る電流がストラーダの攻撃をさらに強力なものへと変えていく。

 

「一閃必中!」

 

 そしてエリオは、目にもとまらぬスピードでⅢ型に突進し

 

 

 

 

 

 ストラーダの桃色の魔力刃が、Ⅲ型を貫いた。

 

 

 

 

 

「でぇぇりゃあああああああ!!」

 

 そしてそのまま、エリオはストラーダを上に振り上げ、今までエリオを苦しめたⅢ型は、ストラーダの魔力刃によって下から上に大きく切り裂かれ…

 

 

 

ドグオォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 大爆発を起こし、完全に破壊されたのだ。

 

 

 

 

 

 エリオたちが新型ガジェットを倒した様子は、六課の指令室のモニターにも映し出されていた。そしてそこから、事件は一気に収束に向かっていく。

 

「車両内、および上空のガジェット反応、すべて消失!」

 

「スターズF、レリックを無事確保!」

 

『車両のコントロールも取り戻したですよ! 今停めまーす!』

 

 リインからの連絡により、機動六課の初出動が成功に終わったことをロングアーチスタッフたちは確信した。

 新型のガジェットが出てくるなどのアクシデントもあったが、誰も大きなけがもすることなく無事に終了したことに全員安堵していた。

 

「まあ、ほんならちょうどええ。スターズの三人とリインはヘリで回収してもらって、そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしよかな」

 

『はいです!』

 

「ライトニングはどうします?」

 

 はやてとリインのやり取りのあと、ライトニングへの指示はどうするのか、グリフィスがはやてに尋ねた。

 

「現場待機、現地の職員に事後処理の引継ぎ。よろしくな」

 

 

 

 

 

 エリオたちをモニターで見ていたのは、機動六課のロングアーチだけではなかった。

 ()もまた、六課の優秀なスタッフのだれにも気づかれることなく、エリオやキャロ、それになのはやフェイトのことを()()していたのだ。

 

『刻印ナンバー9、護送体制に入りました』

 

「ふむ」

 

 リニアレールが映し出されている画面とは別の画面には、薄紫のウェーブがかかった長髪に金色の瞳をした女性の姿があり、通信を通して()に報告をしてきた。

 

『追撃戦力を送りますか?』

 

「いや、やめておこう。レリックは惜しいが、今回は彼女たちのデータが取れただけでも十分さ」

 

 彼女からの問いかけに、()はそう答える。

 ()は、さらになのはやスバル、キャロなどの六課の前線メンバーたちの画像を新たに映し出す。

 

「それにしても、この案件はやはり素晴らしい。私の研究にとって、興味深い()()がそろっているうえに……」

 

 彼がそこまで言ったところで、エリオとフェイトの二人の映像が映し出された。

 二人の姿を目にした()、ジェイル・スカリエッティは口の端を釣り上げて笑った。

 

「この子たちを、生きて動いているプロジェクトFの残滓を手に入れるチャンスがあるのだから……」

 

 スカリエッティ以外誰もいない薄暗い部屋の中で、彼の笑い声が怪しく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、彼の頭に生えた茎と葉っぱがぴょこぴょこ動いているのが、 このシリアスな感じをダメにしているのだが。

 通信の向こう側にいる女性、ウーノはスカリエッティの頭にあるピクミンの茎を見ながら、はあ、とため息をついた。

 

 そもそもなぜピクミンの茎が彼の頭から生えているのかというと、話は数年ほど前にさかのぼる。

 

 当時、ミッドチルダ全体で活躍し始めたピクミンに興味を持ったスカリエッティは、ピクミンを数匹拉致して実験しようと考えていた。

 しかし、いざ拉致しようとしたところで、ピクミンは彼らのことを確実に敵だと認識していたらしく襲い掛かってきた。

 なんとかおとなしくさせ、さあ持って帰ろうとしたところで、どこからか31巻のブチ切れイ○ミさんのような表情をした鬼神RIOが現れ、ピクミンを放って命からがら逃げかえることしかできなかったのだ。

 その時のことを、作戦に参加したチンクは「魔導師だとか指揮官だとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった」と語っている。

 

 だがそこは腐ってもマッドなスカリエッティ。オリジナルが無理ならクローンを作ればいいじゃないというマリーさんも真っ青になるような理論で、ピクミンの細胞だけを採取して、いつものように培養液に浸して生体ポットで育てること一カ月。

 三分クッキングならぬ一カ月クローニングでできたピクミンがこちらです。

 

 

 

 

 

 葉っぱの代わりにキノコが頭に生えたピクミンと、なんか手足(というより根)が妙にうにょうにょしたピクミンが出来上がっていたのだ。

 

 

 

 

 

「ドクター……これはいったい……」

 

「ふむ、赤ピクミンがオリジナルのはずなのだが、どうやらどれも種類が違うようだね。

 母体がなければほぼ同一の能力を持つピクミンを作ることは不可能なのか……?

 ふふふ、非常に興味深いじゃないか、ウーノ」

 

 そんなこんな言っている間に、生体ポッドの向こう側からスカリエッティの姿を視認した、うにょうにょした手足のピクミンが突然ポッドから飛び出し、彼に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 そしてスカリエッティは、ピクミンに寄生されてしまったのである。

 

 

 

 

 

 かなり過程が省略されているようにも感じるが、事実それくらいの超スピードでピクミンが彼の体に入り込み、共存関係を構築してしまったのでこれが一番正しい表現のはずである。たぶん、きっと。

 

 無論、最初は彼の周りの人間(?)は大騒ぎしたが、その後の精密検査などを通して(不思議なことに)これからの生活にはまったく問題がないみたいだからいいじゃないか(本人談)という結論にまとまったので、スカリエッティはピクミンとの共存を今日まで続けているのである。

 

 ウーノも最初こそ反論していたが、自身の敬愛するドクターがそう言うのならと今では考えを改めている。

 だがしかし、どうしても彼女には気になっていることがあった。それは……

 

 

 

 

 

 ――やっぱり、ドクターにアレに似合わないんじゃないかしら…。

 

 

 

 

 

 スカリエッティのイメージと、彼に生えた可愛らしいチャームポイントとのミスマッチ感であった。

 

 そんなウーノの視線に気づくことなく、無限の欲望に突き動かされ非道な実験を行う天才科学者スカリエッティは、頭にかわいらしい葉っぱを生やして笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検査が終わり、少女は検査室から運び出され、現在は病室のベッドに寝かされていた。検査が始まる前と変わらず、少女は静かに眠っていた。

 その表情は、理央が寝かせてからずっと穏やかなものだった。

 

 少女が眠る病室の前では、少女の検査を担当した医師と理央が検査結果について話をしていた。

 

「それで、あの子の容体はどうなのでしょうか?」

 

 理央がそう医師に問いかけ、医師は理央からの質問に答えていく。

 

「検査開始時は心拍数が若干高めでしたが、今は安定していますし、バイタルサインも比較的良好です。

 交通事故に巻き込まれたわりには外傷もなく、先天的なものも含めて疾患はないようです」

 

「そうですか……よかった……」

 

 理央は医師の言葉を聞き、安堵のため息をついた。

 

「ただ……」

 

 そこまで答えて、医師は苦々しい表情になって言葉を続けた。

 

「先端医療技術センターや時空管理局の本局のほうから提供していただいたデータと照らし合わせた結果、彼女はやはり人造魔導師だということが判明しました……」

 

「……そうですか」

 

「それと……頼まれていた検査の結果についてなのですが……」

 

 医師は一度言葉を切り、理央に頼まれて調べたことの結果を伝えた。

 

「……提供していただいたアオバ一等陸佐の細胞から採れた遺伝子データと、あの少女の遺伝子データがほぼ100パーセント一致しました。あの少女は間違いなく……」

 

 

 

 

 

 ――アオバ一等陸佐、あなたのクローンです。

 

 

 

 

 

「……やはり、そうですか」

 

 確信していたこととはいえ、理央の心にその言葉は重くのしかかった。

 

 今やピクミンはミッドチルダで最大の戦力として見られている。

 そのため、そのピクミンを純粋な『力』として求める人間――それも犯罪者とされる人物たち――は少なくはないだろう。

 しかし、ピクミンをクローニングするのは非常に難しく、例えクローンを作れたとしてもオリジナルとなったピクミンのスペックを全く再現することが今の技術ではできていないのだ。

 違法研究者ながら、生命操作技術においては歴史に残るほどの天才であるジェイル・スカリエッティですらピクミンの完全なクローニングには成功していない。

 ピクミンのクローンを作っても、色ごとに特化した能力を持つという大きな利点を持った状態のピクミンの軍隊を手に入れることは不可能なわけである。

 

 

 

 しかし、ピクミンの()()()となる人物のクローンはどうだろうか。

 

 

 

 指揮魔法もほかの魔法と同様、人によって得意不得意が分かれる魔法である。

 ピクミンに合体魔法をうまく使わせる人が使えない人と比べて少ない人数であることからそのことがわかるだろう。

 中でも、理央はピクミン指揮においては最高の才能を持っているといっても過言ではなかった。

 現段階で判明している限りでは、彼女は最大一億匹ものピクミンの位置や状態を把握しながら、彼らに同時に指揮を出して自分の意のままに行動させることができる。

 さらに、一万匹のピクミンに合体魔法を使わせることができることもわかっているのだ。

 理央は、他の追随を許さないほどの指揮魔法の才能を持っているのだ。

 

 ゆえに、あの少女――理央のクローンが作られたのだろう。

 魔導師のクローンなら、ピクミンのものよりもオリジナルに近い能力を持ったクローンが簡単に作れる。

 完璧なピクミンの軍団を自分たちで作ることができないのなら、ピクミンの統率者となる人造魔導師を作り、その魔導師の指揮魔法で地上本部にいる100億匹ものピクミンを操り、そっくりそのままいただいてしまおうというわけだ。

 (管理局)の戦力は激減し、自分たちは強大な軍隊を得るという、まさに一石二鳥の考えであった。

 

 

 

 ――……くだらない。

 

 

 

 理央は自分のクローンを作った者たちの思考を推測し、その人間たちに怒りを感じた。

 何より、彼女はそんな人間たちの自分勝手な都合であの少女が生み出されたということに心を痛め、自分がその原因の一つであることに罪悪感を感じていた。

 

 彼女がもしミッドにピクミンを持ち込まなかったら、優れたピクミンの指揮官として活躍しなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない。

 あの少女が一部の人間たちの私利私欲のためだけに生み出されることもなかったかもしれない。

 それは確かに、十分にあり得ることである。

 

 しかし、理央がもしピクミンを地上本部の戦力として貸し出していなかったら、事件や事故で、民間人にも、管理局員のほうにも、より多くの死者を出していたかもしれない。

 それも十分にあり得ることなのである。

 いや、ピクミンが来る前の地上本部の戦力の不足具合を見ると、ほぼ確実にそうなっていたと言っていいだろう。

 全体的に見れば、彼女がピクミンを人助けの役に立てたことは間違いではないのだ。

 

 それに、どんなことをしても過去には戻ることはできないのだ。

 たとえ今どんなにやり直したいと理央が願ったとしても、過去に起こったことをなかったことにすることは不可能である。

 理央には、あの少女が人造魔導師として、自分のクローンとして生まれたという過去をなかったことにするのは無理だとちゃんとわかっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、彼女の中には一つの強い覚悟がうまれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの少女の保護者って……どうしたらなることができますか?」

 

 理央と話していた医師は、理央から突然発せられた言葉に驚いた。

 理央は、彼女の言葉に驚愕する医師の様子を気にもしないで、自分の意思をはっきりと伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、あの子の親になります」

 

 そう口にする彼女の目には、引き込まれるような強い覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

 




 これにて今回のお話の本編はおしまいです。ここまで読んでいただきありがとうございました。

 原作の戦闘描写などはいかがだったでしょうか? いまだ駄文で申し訳ありません。これからも精進する所存でございます。

 ……はい、スカさんはピクミンに寄生されました。『2』に出てくるハチャッピーやコッパチャッピーと同じような状態です。元に戻る方法は彼にもわかりません。それでもスカリエッティは元気に悪だくみしています。
 ちなみに、クローンでつくったピクミンたちはほぼ使い物にならないので、骨折り損のくたびれ儲けというやつです。まあ、そのうちいいことあるでしょう(適当)。

 そして、なのはさんより先に理央さんがシングルマザーになりそうです(笑)。理央がすぐに「親になる」という決意をしたのは、自分がその子のオリジナルだからというのも理由の一つなのですが、実はそれとは別の理由があります。
 まあ、そこについてはのちのち明らかになると思います。あまり期待しないでお待ちください。

 最後に恒例のおまけをいくつか書いておきました。キャラ崩壊などもありますが、そこは気にしないという方は、よかったらどうぞお読みください。
 最後まで読んでいただきありがとうございます。





おまけ① キャロの奇妙な冒険

 エリオは、崖の下に落ちていった。


 

 
 瞬間!! キャロの脳裏には!! キャロ自身の青春が!!



「エリオくーーーーん!! 桃色竜の波紋疾走(ピンクドラゴン・オーバードライブ)!!」

バリバリバリバリバリ!

「ビリッときたあああああああ!!」



おまけ② 正直作者もその対応はどうかと(ry

「あの二人、あんな高高度でのリカバリーなんて……!?」

「いや、あれでええ」

「ああ! そっか!」

「そう、発生源から離れれば、AMFも弱くなる。使えるよ、フルパフォーマンスのまh」



グシャッ! テレッレ レレッレ レレッレレン♪



「………………アレ?」

「愚かな指揮官が……そうなることぐらい、普通に読んでいた」

・ルル・ランペルー……久しぶりの登場(ただし一言のみ)。



おまけ③ 正直作者もその対応はどうかと(ry パート2

「あの二人、あんな高高度でのリカバリーなんて……!?」

(以下省略)

「使えるよ、フルパフォーマンスのまh」

シュッ!! ガシッ! ストッ・・・

「……え?」

「……あ、あれ……? 僕はいったい……?」

「あ、あなたは……?」

「……魔導師というやつの世界はどうなってるのか知らないが、俺たちの世界でルールや掟を守れないやつはクズ呼ばわりされる。
 けどな、これだけは共通している。仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」

・通りすがりの忍者……たぶん六代目。七代目の方じゃないと思う。













おまけ④ キャラ崩壊注意

~第四話より~

「しっかり! もう大丈夫だから! 目を開けて!」

 いつもの理央らしからぬ、冷静さを激しく欠いた呼びかけだった。しかし、その少女は理央の呼びかけによって目を覚ました。まぶたが開けられてあらわになった彼女の瞳は……













某瞳術のように、真っ白だった。



「白○!!」ギン!

「やめなさい」ドス

「あたっ」


お☆し☆ま☆い


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第六話 進展/理央お母さん誕生なの?

 前回の投稿から約4カ月……大変遅れて申し訳ありませんでしたぁ! こんなにも長いあいだ、お待たせしてしまってすみません……。

 今回もまさかのピクミンの出番なしです……。最近は、理央と彼女の養子となる少女にばかり焦点を当ててしまい、この小説の肝であるはずのピクミンを全く出せずにごめんなさい……。
 次回はどうにかして出すつもりですが、もしもどうしても出すことができなかったら、番外編などを書いてピクミンの活躍をお見せすることも考えようと思います。

 それと、個人的な事情で申し訳ないのですが、これからしばらくの間は執筆することができなくなると思います。執筆活動を停止する期間がどれほどのものになるか分かりませんので、次の更新がいつになるかも目処が立っていません……。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。

 それでは、始まります。


 少女は、自分の手にある()()の扱いに悪戦苦闘していた。

 

 ほんの数日前まで少女は彼女を保護していた施設で、もっと扱いやすい道具――スプーンやフォークとかいう名前だった――を使って食事をしていたのだが、()()が保護施設から少女を引き取ってからは、()()を使う練習を食事のたびにさせられていたのだ。

 

 しかし、少女は、()()に対して悪い感情など抱いていなかった。むしろ、目を覚ましてから今まで優しく接してくれて、おいしい料理も作ってくれる彼女のことを慕っているくらいだ。

 ()()()()()()()()()()()()()服の着替え方やトイレでの用の足し方まで丁寧に教えてくれるので、少女にとって()()の存在はありがたかった。

 

 それでも、それでもである。少女が()()――箸というらしい――をうまく使うことができないことを知っているのに、食事のたびにそれを使わせようとするのは少し意地悪なんじゃないかと、彼女は思わずにはいられなかった。

 ちなみに今、その()()はトイレに行っているので、少女は()()に箸の使い方を教わることも手伝ってもらうこともできなかったのだ。

 

「……むぅ」

 

 少女は自分の手にある、その二本一対の棒を睨み付けた。彼女の目の前にあるのは、昨日施設で食べたハンバーグ。ほとんどの子供がそれを好むように、彼女もまた食べたときにハンバーグが好物になった。

 あの時はスプーンを使って楽々食べられたのだが、今では箸を持たされ食べるのも一苦労だった。

 少女は自分の好物をうまく食べられないことに少し腹を立て、忌々しいという雰囲気を漂わせながら箸を睨み付けていた。

 

 

 

 

 

「あら、まだ箸が使えないの?」

 

 

 

 

 

 そう少女に声をかけたのは、トイレから戻ってきた()()だった。()()に気がついた少女は、涙目になりながら()()に訴えかけてきた。

 

「前のほうが食べやすかった……」

 

「だ~め。仮にも日本人なら、やっぱり箸を使うのが普通でしょ? 手先も器用になるし」

 

「うぅぅ……」

 

 ()()の(少女視点で)残酷な言葉に、少女は目にさらに涙をためて泣きそうになる。

 

「はいはい、ちゃんと持ち方を教えてあげるから、そんな顔をしない。こんなの慣れちゃえばなんてことないんだから」

 

「……意地悪」

 

「意地悪で結構」

 

 そう言いあいながらも、()()は箸を持った少女の利き手に自分の手を添えながら、持ち方を手と言葉で教えていき、少女は素直に彼女のいうことをじっと聞いていた。なんだかんだ言いながらも、お互いに相手のことが嫌いなわけではないのだ。

 

「ほら、親指と人差し指と中指のあいだに一本挟んで……」

 

 ()()によって指を箸に添えさせられ、箸の正しい持ち方を教えられながら、少女は()()()()()()()()()()箸の持ち方を思い出していく。

 

「中指と薬指のあいだにもう一本挟んじゃえば……」

 

 そして()()が少女の手に箸を握らせ終えたときには、少女は完全に箸の持ち方を()()()()()()()()()()()()

 

「! できた! できたよ!」

 

「うん、よくできたわね。えらいえらい」

 

「えへへ」

 

 少女は、箸の正しい持ち方ができたことを満面の笑みを浮かべて喜んだ。()()、青葉理央はそんな少女の様子に笑顔になりながら、(少女視点で)困難なことを達成できた少女のことをほめてあげた。

 少女は理央に褒められて、さらに嬉しげな表情を浮かべた。

 

「でも、持てるようになっただけじゃだめよ? ちゃんと使えるようにもならないと」

 

「うっ! ……わ、わかってるよ~……」

 

「ほら、目をそらさない。使い方もちゃんと教えてあげるから、もう一度頑張りましょう」

 

「……うん! わかったよ、『お母さん』!」

 

 笑顔を理央に向けながら、理央の養子となった少女、『青葉(あおば)理紗(りさ)』は元気に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オンドゥルヤメスィマッツァンディサ!? ウァオブァイッツォリクスァ!?」

(訳→「本当にやめてしまったんですか!? アオバ一等陸佐!?」)

 

「ウゾダドンドコドーン!」

(訳→「嘘だそんなことー!」)

 

「オデノゴゴロハボドボドダー!」

(訳→「俺の心はボロボロだー!」)

 

 ちょうどそのころ、ミッドチルダ地上本部では局員たちが血涙を流しながら叫び声を上げていた。

 あまりのショックで情緒不安定になりすぎて、悲鳴を上げている局員全員の言葉がオンドゥル語に変換されてしまっている。ぶっちゃけ知らない人が見たら引きまくるレベルである。

 

 いや、頭を抱えたり、壁にガンガンぶつけたりしながらオンドゥルってるこの連中はまだマシなほうだと言えるだろう。なぜなら

 

「諸君 私はアオバ一佐が好きだ

 諸君 私はアオバ一佐が好きだ

 諸君 私はアオバ一佐が大好きだ

 

 赤ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 青ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 黄ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 紫ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 白ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 岩ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 羽ピクミンと戯れるアオバ一佐が好きだ

 

 本部で 現場で 街中で 自宅で 平原で

 草原で 凍土で 砂漠で 海上で 空中で

 

 この地上でピクミンと戯れるありとあらゆるアオバ一佐が大好きだ

 

 

 

 (以下省略)

 

 

 

 史上最萌のクーデレ(アオバ一佐)が数えることすら億劫なピクミンの山に埋もれて、そのアヘ顔をさらしているのを想像したときなど絶頂する(絶頂すら覚える)

 

 

 

 (以下省略)

 

 

 

 諸君 私はアオバ一佐を、ピクミンにデレたアオバ一佐を望んでいる

 諸君 私に付き従う地上部隊戦友諸君

 君たちは一体ナニを望んでいる?

 

 さらにデレたアオバ一佐を望むか?

 ピクミンにデレまくったヌけるようなアオバ一佐を望むか?

 クーデレの限りを尽くし三千世界の男どもをヘブン状態にするアオバ一佐のアヘ顔を望むか?」

 

 

 

『アヘ顔! アヘ顔! アヘ顔!』

 

 

 

「よろしい ならばストライキだ」

 

 と、こんな調子でストライキを決行する集団まで現れる始末だからである。

 

 なぜ地上本部がこんな末期な状態に陥ってしまったのかを説明するためには、話は数日前にさかのぼる。

 理央は、少女を保護した次の日、出勤してきてすぐにレジアス中将の部屋を訪れた。

 レジアス中将は、事前の連絡もなしに訪れてきた理央の行動を疑問に思いながらも、話を聞いてみることにした。

 

「それで、いったい急に何の用だと言うのだ、アオバ一佐?」

 

「休ませていただきます」

 

「なに?」

 

「ですから、長くて1年、短くても数カ月くらいの休みをいただきたいと思います」

 

「い、いや!? 少し待たんか!? 全く理解が追いつかんぞ!?」

 

 レジアス中将は、いきなりの理央の『休みます』発言に混乱してしまった。

 無理もないだろう、ピクミンのカリスマ兼(ひそかに)アイドルとして、地上部隊で働く大勢の局員たちの崇拝の対象となっている理央が、しばらくのあいだ仕事はおろか職場に顔すら出さないといい始めたのだ。

 そんなことになってしまったら間違いなく暴動が一つや二つ起きる、というかマジヤベェ、と危惧したレジアス中将は、なんとか理央を説得しようと試みる。

 

「だいたい、なぜいきなり休むなどと言い始めたのだ!?

 貴様がいなければ、騒ぎを起こす局員が大勢いることぐらいお前なら理解できるはずだろう!?」

 

「私としては、もう彼らと顔も合わせたくないのですが……」

 

「!? ま、まさか……」

 

「いえ、正直それも休みの目的のうちの一つと言っても過言じゃないんですが、私がお休みをいただこうと思った最大の理由は別にあります」

 

「その理由とやらは、いったい何だというのだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供ができました」

 

「………………What?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、人事部のほうにはもう話を通しておきましたので、緊急の時以外は呼び出さないでくださいね。

 ああ、簡単な書類仕事とかなら家でもできますから、デバイスのほうに送らせていただいたらやりますよ。

 ただ、本部のほうに出勤することはしばらくないと思いますので、そのおつもりで」

 

「ま、待て! 聞かなければならんことが一気に出てきたぞ!?

 おい! 待たんか! 待ってくれ! アオバ一等陸佐! 頼むから待ってくれ!」

 

 そんなこんなで、レジアス中将には要点だけを伝えた後、理央は養子として引き取った理紗のために休みを取り始めたのだ。

 そして、理央が突然長期の休みを取り始めたという情報は人事部のほうからすぐに漏れ、その知らせを聞いた局員たちは血の涙を流して嘆き、悲しみ、失意のどん底に沈み、暴動を起こすまでに至ったのだ。

 

「どうしてこうなったのだろうな、オーリス」

 

「アオバ一等陸佐だからこそ、なせるわざなのではないでしょうか、中将」

 

 レジアス中将と、彼の娘であり秘書官でもあるオーリス・ゲイズはどこか諦めたような雰囲気を漂わせながら、血涙を流してオンドゥル語で叫びまくったり、もうアレな意味でヤバい演説をしたり、それを聞いたりしている局員たちの様子を黙って見ていた。ちなみに、演説している局員の階級は三佐であった。レジアスは彼の階級を下げることを決めた。

 

 そんな彼らが、さらなる地獄へ突き落とされると誰が予想できただろうか。

 外から帰ってきた一人の局員が、そんな地獄をもたらす爆弾を持ってやってきた。

 目と鼻と口からどうしようもないほどの量の透明な液体をあふれ出させ、もう何も信じられないと訴えてくるような絶望の表情をその顔に浮かべながらも、彼は魂の限り叫んだ。

 

「ち、ちくしょぉ……! こ、こんなこと……残酷すぎるぅぅぅぅぅ!! あのアオバ一佐に……

 

 

 

 子 供 が で き ち ま っ て い た なんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、(局員たちの)時が止まった。

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……?」「アオバ一等陸佐が……ママさんになってただと……?」「嘘だっ!!」「中に誰もいませんでしたよ……?」「相手のクソ野郎はどこのクソ野郎だ!」「相手の男死すべし慈悲はない」「鬱だ……死のう……」「鬱だ……魔女化しよう……」「これがNTRというやつなのか……? ハアハア(*´Д`)」

 

 

 

 

 

「とりあえず、その子の父親は999%殺しでおk?」

 

「「「「「おっkぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダ……

 

 

 

 

 

 理央の相手(ということになっている男)のことなんて検討がつくはずもないのに、その場にいたほぼすべての局員たちはいずこへと走り去ってしまった。

 室内なのに、ヒュー……ともの悲しい風が吹き、レジアス中将とオーリスだけが、その場に取り残されていた。

 

「……もう、勝手にしろ」

 

 何もかもあきらめたような表情で、レジアスはぼそっとつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな地上本部の惨状とは全く関係なく、初の緊急出動から数日後を迎えた機動六課のほうでは、その数時間後、新人たちの午前の訓練が終わったところであった。

 

「は~い! じゃあ午前の訓練終了~!」

 

 なのはの掛け声とともに、その日の新人たちの訓練を担当していた、スターズ分隊の隊長なのは、副隊長のヴィータ、ライトニング分隊の隊長フェイトの前に、訓練を終えたばかりの新人たちが集まる。

 初出動前よりハードな訓練を受けた新人たちの誰もが泥だらけで、荒い息をしながら地面に座り込んでいた。

 

「はい、お疲れ。個別スキルに入ると、ちょっときついでしょ?」

 

「ちょっとと……いうか……」

 

「その……かなり……」

 

 なのはの言葉に、呼吸を荒くしたままティアナとエリオが答えた。

 以前の訓練は、なのはとの模擬戦やガジェット対策など、四人で協力しながら目標を達成する訓練が中心だったのだが、今では隊長や副隊長と一対一、もしくは一対二という状態で受ける訓練が主なものとなっている。

 訓練とはいえ、オーバーSランク、ニアSランクの魔導師、騎士を相手にしているので、四人で連携をとる内容ではなくなった分、以前と比べて非常にきついように感じるのは当然のことだろう。

 

「フェイト隊長は忙しいから、そうしょっちゅう付き合えねーけど、あたしは当分お前らに付き合ってやるからな」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

 ヴィータの言葉に、彼女の容赦ない指導を受けたスバルが顔をひきつらせながら答えた。

 

「それから、ライトニングの二人は特にだけど、スターズの二人もまだまだ体が成長していく最中なんだから、くれぐれも無茶はしないように」

 

「じゃあ、お昼にしようか!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 フェイトの思いやりのある言葉となのはの一言に新人たちが返事をして、それから七人は訓練場から隊舎の方へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「あっ! みんなお疲れさんや~」

 

 隊舎の前まで戻ってきた七人にそう声をかけたのは、シャーリーやリインとともに車に乗り込もうとしていた八神はやてだった。

 

「はやてとリインは外回り?」

 

「はいです、ヴィータちゃん!」

 

 はやての部下であり、家族でもあるヴィータの質問に、リインが答える。

 

「うん、ちょうナカジマ三佐とお話してくるよ。

 スバル、お父さんやお母さん、お姉ちゃんになにか伝言とかあるか?」

 

「あ……いえ、大丈夫です」

 

 はやてからの質問に、ナカジマ三佐、という単語に思わず反応してしまったことに気づかれたスバルは少し苦笑いしながら答えた。

 そんな話をしながらも、はやてたち三人は車に乗り込み、エンジンをかけた。

 出発の準備を終えたはやてに、なのはとフェイトが彼女を送り出す言葉をかける。

 

「じゃあ、はやてちゃん、リイン、いってらっしゃい」

 

「ナカジマ三佐とギンガによろしく伝えてね」

 

「うん、わかった」

 

「いってきまーす!」

 

 そして、なのはたちに見送られて、はやてとリインを乗せた車は陸士108部隊の隊舎へと出発していった。

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ここは機動六課隊舎にある食堂。

 はやてたちを見送った後、新人たちとシャーリーはここに移動して昼食を摂っていた。

 

「なるほど……。スバルさんのお父さんもお母さん、それにお姉さんも、陸士部隊の方なんですね」

 

 フォークに巻いたスパゲティを口に運びながら、キャロはそんなことを言った。

 

「うん、八神部隊長も一時期、父さんの部隊で研修してたんだって」

 

「へぇ~……」

 

 スバルはスパゲティをどんどん口に運び入れながら、キャロにそう返した。

 ちなみに、彼女と横にいるエリオの皿に盛られているスパゲティの量は他のメンバーより多く、前線に立つ彼女たちがいかに体力を使う役割を担っているかがよくわかる。

 

「しかし、うちの部隊って関係者つながり多いですよね。

 隊長たちも幼馴染同士でしたっけ?」

 

「そうだよ。なのはさんと八神部隊長は同じ世界出身で、フェイトさんも子供のころはその世界で暮らしていたとか……」

 

 ティアナからの問いかけに、シャーリーがパンを食べながら答えた。

 数年間、執務官補佐としてフェイトとともに仕事をしてきたシャーリーは、彼女たちの関係についても詳しく知っているのだ。

 また、シャーリーほどではないが、彼の保護責任者でもあるフェイトから話を聞いていたエリオも会話に加わる。

 

「え~と……たしか管理外世界の97番でしたっけ?」

 

「そうだよ」

 

「97番って、うちの父さんのご先祖様がいた世界なんだよね」

 

 目の前にある大皿からスパゲティを自分の皿に移しながらスバルは言った。

 

「そうなんですか?」

 

「うん、そうなんだよ」

 

 エリオの質問に答えながら、スバルは少なくなっていたエリオの皿にもスパゲティを盛りつけ始めた。

 エリオはスバルに軽く会釈し、あることに気づいたキャロが再び話に加わる。

 

「そういえば、スバルさんの名前の響きとかなんとなく似てますよね、なのはさんたちと」

 

「そっちの世界には、あたしも父さんも行ったことないし、よくわかんないんだけどね。

 あっ、でも同じ世界出身の理央さんが、ときどきその世界のお土産を持ってきてくれたりしてくれるんだよ」

 

「あんたがその話をもう少し早くしてくれれば、あたしもアオバ一等陸佐にもっと早く会えていたでしょうにね」

 

 そう言って、ティアナはじとーとした目でスバルを睨んだ。

 自分がアオバ一等陸佐に憬れているのを知っていて、なおかつその人と交流があるくせに、紹介しようという考えをつい数日前まで思いつかなかったことを、ティアナはいまだに根に持っていた。

 相棒に刺すような視線を向けられているスバルは、アハハ……と苦笑いを浮かべることしかできず、ほかのメンバーもそんな二人の様子を苦笑しながら見ていることしかできなかった。

 

 微妙な雰囲気をどうにかしようと、スバルはエリオに話題を振ることにした。

 

「そ、そういえばエリオはどこ出身だっけ?」

 

「あっ、僕は本局育ちなんで」

 

 エリオのその一言で、彼の事情を知っている者やなんとなく察してしまった者は表情を歪めるが、スバルは全く気づかず、無神経にもさらに話を続けてしまう。

 

「管理局本局? 住宅エリアってこと?」

 

「本局の、特別保護施設育ちなんです。8歳までそこにいました」

 

 そこまで聞いて、さすがにスバルも聞いてはいけないことを聞いてしまったことに気づき、やってしまったという表情に変わった。

 

《バカ!》

 

《うあぅ……》

 

「あ、あの……気にしないでください。

 優しくしてもらっていましたし、全然普通に、幸せに暮らしていましたので」

 

「ああ! そうそう、その頃からずっとフェイトさんがエリオの保護責任者なんだもんね」

 

「はい!」

 

 念話でティアナに責められながら、申し訳なさそうな顔をするスバルを気にして、エリオは当時の生活は苦しいものではなかったから気にする必要はないと語り、シャーリーはそれに続けるように、彼の保護責任者になったフェイトのことを話題に出す。

 

「もう物心ついたころから、いろいろとよくしてもらって、魔法も、僕が勉強を始めてからは時々教えてもらってて、本当に、いつも優しくしてくれて……」

 

 彼女の話をするエリオの表情はとても輝いていて、執務官という忙しい役職についていながらも、フェイトが時間の合間を縫って、どれだけエリオに愛情をもって接していたかがわかるようだった。

 

「僕は今も、フェイトさんに育ててもらってるって思っています。

 フェイトさん、家庭のことで子供のころにちょっとだけ寂しい気持ちをしたことがあるって……。

 だから、寂しい子供や悲しい子供のことをほっとけないんだそうです。

 自分も、優しくしてくれる、あったかい手に救われたからって……」

 

 10年前、愛していた家族に傷つけられ、絶望のどん底に叩き込まれた彼女もまた、孤独にさいなまれる子供たちを救う存在として成長していたのだ。

 そう、拒絶されても必死になって呼びかけ続けて、かつて自分を立ち直らせてくれた少女と同じように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、これからどこに行くの?」

 

「昔、お母さんがいろいろとお世話になった人のところよ。

 お母さんが、理紗のお母さんになるために必要なことを教えてもらいに、ね」

 

「?」

 

 午前中は勉強などをしながら過ごして、昼食を食べ終えた後、理央は理紗をパジャマからよそゆきに着替させていた。

 着脱衣もまだおぼつかない理紗の着替えを理央が手伝いながら、二人は会話していた。

 

 着替えが終わり、外出の準備をすっかり終えた理央は、理紗を連れて家を出た。

 いつもならこのままバイクに乗って出かけるのだが、今日はバイクに乗せるにはまだ幼い理紗を伴っての外出なので、バスや電車などの公共交通機関を使いながら目的地を目指すことにした。

 

「初めてのお出かけだけど、迷子にならないように手をしっかり握っててね」

 

「うん! お母さんも迷子にならないでね」

 

「フフッ、わかったわ。

 じゃあ、親子初めてのお出かけに、しゅっぱーつ!」

 

「おー!」

 

 曇りのない笑顔を浮かべて会話をする二人は、彼女たちの容姿が非常によく似ていることも相まって、本当の親子のようだった。

 満面の笑みを顔に浮かべながら歩く理紗の手を引きながら、理央は最寄りのバス停へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー陸士108部隊 隊舎 部隊長室ー

 

 

「新部隊、なかなか調子いいみたいじゃないか」

 

「そうですねぇ、今のところは」

 

 陸士108部隊の隊舎にリインとともにやってきたはやては、部隊長室でゲンヤと話をしていた。

 一緒に来ていたリインは、今は六課でのスバルの様子などを話題にギンガと話していた。

 

「しかし、今日はどうした? 古巣の様子を見にわざわざ来るほど暇な身でもねえだろうに」

 

「うふふ、愛弟子から師匠へのちょっとしたお願いです」

 

 二人で軽口をたたきあっていると、部屋に入室者を知らせるブザーが鳴り響いた。

 

「おう、入っていいぞ」

 

 ゲンヤが入室を促すと、自動ドアが開いた。ドアの前にいたのは、急須と茶碗を乗せたお盆を持ったギンガとリインの二人だった。

 

「失礼します」

 

「ギンガ!」

 

「八神二佐! お久しぶりです!」

 

 久しぶりに顔を合わせた二人は、顔をほころばせた。はやてに挨拶をしながら部屋に入ってきたギンガは、テーブルの上に茶碗を置き、ゲンヤとはやての茶を入れ始めた。

 

「おう、悪いな」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 にこやかに交わされる、そんな親子のやり取りをはやてが見ていると、またもや入室を知らせるブザーが鳴り響く。

 ゲンヤはブザーの音を聞き、今日ここにもう一人来ることを思い出した。

 

「あー……そうだった。今日は『アイツ』も来るって言ってたなぁ」

 

「アイツ?」

 

 はやてとリイン、それにギンガは、ゲンヤの言う『アイツ』が誰なのか全く分からずキョトンとした顔を浮かべた。

 ドアの向こう側にいる人物に、入っていいぞ、とゲンヤが声をかけると、自動ドアは開いた。その先にいたのは……

 

「お久しぶりです、ナカジマ三佐。それとギンガに、リインにはやても」

 

「こんにちは~!」

 

 先ほど家を出た、理央と理紗の青葉親子だった。

 そう、この親子は家を出た後、バスなどを乗り継ぎながら、ここ、陸士108部隊を目指していたのだ。

 

「リオさん! この前の教導依頼ですね! お久しぶりです!」

 

「理央さん! 久しぶりに会えて、リインはとっても嬉しいですー!」

 

 ギンガとリインは、久しぶりに見る理央の姿に笑顔を浮かべた。

 特に長いこと理央に会っていなかったリインは、本当に嬉しそうな顔をして理央の周りを飛び回り始めた。

 そんなリインの喜びようを、理央は顔に微笑を浮かべながら黙ってみていた。

 

 しかし、はやてだけは理央の姿を見たとたん、表情がひきつったものへと変わっていた。

 それも無理はないだろう。なにしろ、この前彼女から送られてきたプレゼントの一件をいまだに引きづっているのだから。

 それが無くとも、本局と対立しているレジアス中将の部下だったり、昔いっしょにお風呂に入った時のスキンシップ(過剰)以来、自分に対してかなり意地悪になったりなどの理由から、青葉理央は八神はやてにとって苦手な人トップ3に入る人物なのだ。

 

 それでも、それでもである。例え相手がすっごく苦手な人物だとしても、自分は本局で彼女は地上本部だとしても、はやては二佐で理央は一佐……つまり理央ははやての上官である。

 仮に理央が私的な用事でここに来たとしても、挨拶ぐらいはしっかりしておくというのが礼儀というもの。そう覚悟を決めて、深呼吸してから、はやては理央に話しかける。

 

「ほ、ほんま久しぶりやなー。元気だったかー、り、理央ちゃん」

 

 かなり引きつった笑顔だが、久しぶりに会った友人(だったらいい相手)への挨拶としては及第点な出だしで、はやては理央に話しかけた。

 はやてから話しかけられた理央は、顔に微笑をたたえたまま、はやてのほうを振り向いた。

 

「ええ、ほんとに久しぶりね、()()()()()

 

 

 

プツン

 

 

 

「誰が子狸やぁぁぁぁぁ!!

 久しぶりに会った友人に言うセリフやないやろぉぉぉ!!」

 

「いや、ちょっとした愛称のようなものじゃないの」

 

「何が愛称や! 悪意に満ち溢れた呼び名やろ!

 この前のプレゼントも悪意満載なものばっかりやないか!」

 

「は? 狸の置物はともかく、DVDに関してはあなたが勝手に気にしているだけでしょ? 自業自得じゃないの」

 

「きいいいぃぃぃぃぃ!!」

 

「は、はやてちゃん! 落ち着いてくださいですぅ!」

 

「八神二佐! お気を確かに!」

 

 今にも理央にとびかからんとしているはやてをギンガが羽交い絞めにして抑え込み、リインとともに必死になだめていた。

 ゲンヤはそんな理央たちの様子にため息をつくと、理央の方を向いて話を始めた。

 

「で、今日は午後からクイントのやつを借りたいんだっけか?」

 

「はい。この子を引き取るうえで、子育て経験者のクイントさんから、ミッドチルダの育児について、いろいろと教わっておいた方がいいと思いまして」

 

 そう、ミッドチルダで理紗を育てるうえで必要なことをクイントから教えてもらうために、理央は今日ここに訪れたのだ。

 ミッドチルダに住んでから一年がたち、地球にはない家具や電化製品の使い方や交通ルールなど、生活に必要な知識はだいたい身に着けた理央であったが、いかんせん子育てとなると、子供用の服はどこで買った方がいいのか、仕事に出かけるときにどこに子供を預けた方がいいのかなど、知っておくべきことを彼女は全く知らないのである。

 それ以前に、自分の出身世界である地球での子育ての仕方と、ミッドチルダでの子育ての仕方が全く同じという保証はないのだ。自分の勘違いでのちのち困ったことが起こることを考えたら、頭を下げて教えてもらった方が何倍もいいだろうという結論に落ち着き、こうしてクイントに教えを乞いにやってきたのだ。

 

 ちなみに、地球で育てることも一応考えたのだが、もしも理紗に何かあった時のことを考え、自分の仕事場があるミッドチルダで育てることに決めた。

 

「まあ、今日の午後からクイントのシフトは空いてるから構わねぇぞ。

 しかし、お前さんも母親になる日が来るとはなぁ……」

 

「あはは……やっぱり私って、母親って柄じゃないですよね……」

 

「いや、確かにお前さんが母親になるイメージは全くわかなかったが……」

 

「おかあさ~ん!」

 

 ゲンヤガが話している最中に、理紗が理央の足にギュッと抱き着いてきた。よく見ると、さっきの(はやて)の怒り様が怖かったのか、目に涙がたまっている。

 理央は怖がって自分に抱き着いている理紗を優しく抱き上げると、大丈夫よ、声をかけながら、背中をゆっくりと撫でてあげた。理紗は、母親のあたたかなぬくもりを感じることで落ち着きを取り戻し、その表情は安心したものへと変わっていった。

 

 そんな親子の様子を見て感慨深い気持ちになりながらも、言葉を続ける。

 

「……実際になってみると、案外しっかりした母親になれてるじゃねえか」

 

「それほどでもないですよ」

 

 ゲンヤの言葉にそう返しながらも、少し照れた様子を見せる理央。そんな理央に抱っこされながら、理紗は幸せそうな表情を浮かべている。二人の姿は、まさに親子のそれだった。

 

 一方、そんな二人の様子を、理紗が母親に抱き着いた時ぐらいから、はやてとリインの二人はポカンとして見ていた。理央が養子縁組で理紗を自分の子供にしたことを知っているギンガは、彼女たちの姿と昔の自分とクイントの姿を重ねているのか、目に浮かんでいた涙を手で拭っていた。

 事情を知らなリインは、いまだに思考停止している自分のマイスターの代わりに、近くにいるギンガに聞くことにした。

 

「え、えーと……あの子って、理央さんのお子さんなんですか?」

 

「あ、はい。なんでも、ほんの少し前に家族のいないあの子を娘さんとして引き取ったそうです」

 

「家族がいない? 親戚の子とかじゃないんですか?」

 

 リインは、瞳の色を除いて、理紗と理央の顔がこれ以上ないと言っていいほど似ていることから、理紗は理央の親戚だと思っていたが、ギンガの話からどうやら違うみたいだと察する。

 リインから質問された途端、ギンガの顔に陰りができる。

 

「いえ……私も父から少ししか聞いていませんが……どうやら、理央さんの遺伝子情報をもとに作られた人造魔導師だそうで……」

 

 そこまで聞いて、リインの表情も暗くなり、思わずといった様子で理紗を見つめた。

 人造魔導師が生み出されるのは、だいたいの場合兵器として利用するためだ。

 人と違う生まれ方をし、理央に拾われなければおそらく兵器としてその命を使いつぶされていただろうその少女に対し、心優しいリインは憐憫の気持ちを抱いたのだ。

 

 そんなリインの視線に気づいたのか、理央は理紗を抱きかかえたままリインに近づくと、右手の人差し指で軽くリインの頭を小突いた。

 

「あうっ!」

 

「そんな顔しないで。生まれ方がどうであれ、この子はちゃんとした人間よ。

 お腹を痛めて産んだ子じゃなくったって、どう生まれたかなんて本人も周りもまったく気にしない、立派な大人に育て上げてみせるんだから」

 

 そう笑顔で宣言する理央の顔を見て、リインは改めて彼女の洗練された人間性を実感した。

 生み出されてから、はやて、なのは、フェイトと、人格・魔導師としての資質共に優れた魔導師を長年見てきたリインだったが、中でも理央は断トツに優れた人物だと思っていた。

 

 確かに、彼女自身の魔導師としての資質は決して高くないが、ピクミンを指揮することに関しては他の追随を許さず、わずかな数のピクミンしか連れていなくとも、合体魔法やその頭脳を駆使することで、なのはやフェイトといったSランクオーバーの魔導師とも互角に渡り合える理央は、リインにとって輝いて見えたのだ。

 

 さらに、三人と同年代とは思えないほどの落ち着きを常に備え、困っている人がいたらさりげなくフォローを入れる彼女の人柄もリインが憧れる要因の一つだった。

 生まれてばかりのころのリインにとって、そんな理央の姿は自分が目指すべき「大人」の象徴であるかのように思え、それ以来憧れの象徴にもなったのだ。

 

 リインが理央のことを輝いた目で見つめ、はやてがいまだに思考停止する中、理央はゲンヤやギンガと二、三言ことばを交わすと、理紗を連れてクイントのもとへ向かったのであった。

 

 

 

 

 

「……養子とはいえ、理央ちゃんに子どもができてるなんて、ホンマびっくりしました」

 

「まあ、俺も最初聞いたときはマジかと思ったけどな」

 

 理央たちが出ていき、リインたちも退室した後でようやく思考が再起動したはやては、疲れた表情を浮かべてお茶を飲んでいた。そんなはやての様子を、ゲンヤはおもしろそうに眺めていた。

 

「それで、愛弟子から師匠へのお願いっていうのは何なんだ?」

 

「あ、はい。お願いしたいんは、密輸物のルート捜査なんです」

 

 そう言いながらはやては席を立ち、空中に電子画面を出現させる。画面には、機動六課で数日前に回収したものと同じロストロギア、レリックが映されていた。

 

「お前んとこで扱っているロストロギアか」

 

「それが通る可能性の高いルートが、いくつかあるんです。

 詳しくはリインがデータを持ってきていますので、後でお渡ししますが……」

 

 はやてからの答えを聞き、お茶を一口すすってから、ゲンヤは話を再開する。

 

「まあ、うちの捜査部を使ってもらうのは構わねえし、密輸捜査はうちの本業だ。

 別に頼まれてもいいんだが……八神よぉ、他の機動部隊や本局捜査部じゃなくて、わざわざうちに来るのは何か理由があるのか?」

 

「密輸ルートの捜査自体は彼らにも依頼しているのですが、地上の事はやっぱり地上部隊が一番よく知っていますから」

 

「まあ、筋は通ってるな」

 

 そう言って、ゲンヤはお茶をもう一口飲んで、はやてに答えを聞かせた。

 

「いいだろう、引き受けた」

 

「ありがとうございます」

 

 その返事を聞いたはやては笑顔を浮かべ、嬉しそうにゲンヤにお礼の言葉を述べた。

 

「捜査主任はカルタスで、ギンガはその副官だ。二人とも知った顔だし、ギンガならお前も使いやすいだろ?」

 

「はい。うちの方はテスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいんじゃないかと」

 

 そう言いながら、はやてもゲンヤの向かい側のソファに座り、お茶を口に運んだ。

 茶碗をテーブルに置いてから、はやては再び話を切り出した。

 

「スバルに続いてギンガまでお借りする形になってしもうて、ちょっと心苦しくはあるのですが……」

 

「なぁに、スバルは自分で選んだことだし、ギンガもハラオウンのお嬢と一緒の仕事は嬉しいだろうよ

 しかしまあ、気がつきゃお前も俺の上官なんだよなぁ。魔導師キャリア組の出世は早いなぁ」

 

「魔導師の階級なんて、ただの飾りですよ。中央や本局に行ったら、一般士官からも小娘扱いです」

 

「だろうなぁ……おっと! すまんな、そういえば俺も小娘扱いしてたな」

 

「ナカジマ三佐は、今も昔も私が尊敬する上官ですから」

 

「……そうかい」

 

 はやての言葉にゲンヤが少し微笑を浮かべたところで、通信が入ってきた。

 

『失礼します、ラッド・カルタス二等陸尉です』

 

「おう、八神二佐から外部協力任務の依頼だ。ギンガ連れて、会議室でちょっと打ち合わせしてくれや」

 

『はっ、了解しました』

 

 画面の向こうにいた短髪の男性がゲンヤに返事をして、通信は切られた。

 

「……っつーこった」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「打ち合わせが済んだら、飯でも食うか。女房のほうも、後で合流できる時間で用事が終わるらしいしな」

 

「はい! ご一緒します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸士108部隊で協力任務に関する会議が行われている時、理央と理紗、それにクイントはクラナガンでも有数の多彩な品ぞろえを誇るデパートで買い物をしていた。

 

「いやー、子育てに必要なものが思った以上に地球と変わらなくて安心しましたー」

 

「ふふ、子供たちが必要とするものぐらい、世界が違っても皆ちゃんとわかってるってことかしらねー♪」

 

「違いないですねー♪」

 

 理央は理紗に必要なものが思った以上にすんなり揃えることができて、そしてクイントは、あまり時間を気にしないで自身の娘であるツバメのための買い物ができてご機嫌だった。

 クイントは両手に、理央は左手を理紗とつないでいるため右手に大量すぎるくらいの数の買い物袋を抱えているのだが、魔力で強化している二人にとって全く問題はなかった。

 

 一通りの買い物を終えた三人は、近くにあった公園のベンチに腰を下ろして休憩することにした。

 

「おかあさ~ん、おやつほしいよ~」

 

「はいはい、ちょっと待っててね」

 

 そう言うと理央は、買い物袋の中からさっき買ったもののひとつであるシュークリームを取り出し、理紗に渡した。

 

「はい、どうぞ。クリームがこぼれないように気をつけてね」

 

「わーい♪ おかあさんありがとう~♪」

 

 理央にお礼を言って、おやつをもらって笑顔になった理紗はビニールの包み紙を破いていった。そんな娘の様子を、理央は微笑みを顔に浮かべて眺めていた。

 

 

 

 しかし、そんなほほえましい親子の姿を、クイントはいつになく真剣な顔でじっと見ていた。

 

 

 

 そして、そんな二人が織りなす光景を見て、この数日間ずっと理央に聞きたかったことをこの瞬間に聞こうと決意し、クイントは理央に話しかける。

 

「理央ちゃん、ちょっとお話ししてもらってもいい?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 クイントに話しかけられた理央はクルリと顔を彼女の方に向けたが、彼女の顔がいつもと違いひどくまじめなものであることに気づき、理紗の方に向けていた体の向きも直すため、ベンチに座りなおした。

 

「理央ちゃん、今から一つだけ質問をするから……真剣に、正直に答えてくれる?」

 

「……はい」

 

 理央の返事を聞き、クイントは一つ深呼吸をしてから、理央に問いかけた。

 

 それは、理央が自分のクローンである少女を、養子として、わが子として引き取ると聞いてから、ずっと彼女に聞きたかった事。

 

 それは、かつて自分が選んだ道と同じ道を進もうとするからこそ、確かめておきたかった事。

 

 それは、なにより……自分が『母親』だからこそ、彼女に問いかけなければならないと、強く心に感じた事。

 

「理央ちゃん、あなた……」

 

 

 

 

 

 ――あの子の一生を、背負う覚悟はある?

 

 

 

 

 

 クイント・ナカジマは、かつては子供ができない体の女であった。

 そのことで何度涙を流したか本人にも分からないし、そんな体の自分を、それでも愛してくれるといった旦那の愛情と優しさに何度うれし涙が流れたかも知らない。

 ともかく、自分は妊娠することができない体だから、母性というものとは一生無縁だろうと、クイントはそう考えながら日々を過ごしていた。

 

 

 

 しかしある日、そんな彼女の人生にも転機が訪れる。

 

 

 

 それは、とある違法研究所で、二人の子供を保護したことから始まった。

 二人は、彼女たちの母親がお腹を痛めて産んだ子ではなかった。そもそも、生物学上の『母親』というものが、彼女たちの場合は誰に当たるのかすらもあいまいだった。

 

 彼女たちは、戦闘機人であった。機械が埋め込まれた超人兵器を作り出すために、生まれる前から機械をその身に受け入れられるように遺伝子に調整が加えられ、人工的に生み出された生命体。

 いうなれば、彼女たちは『人』ではなく、『兵器』としてこの世誕生したのだ。

 

 のちにクイントの提案で彼女たちをナカジマ家の養子に迎えたのだが、正直この時の行動に深い理由があったわけではない。

 しいて言うなら、彼女たちの身の上に同情したのかもしれないし、わずかにわいてきた『母親』というものへの憬れが、そういう行動をとらせたのかもしれない。

 理由はどうであれ、顔つきとか髪の色とかが似てるから、と言いながらクイントとゲンヤは彼女たちを娘として引き取り、「ギンガ」と「スバル」という名前を付けた。 

 

 正直、出産したこともない彼女にとって育児は初めての経験であった上に、一度に二人も引き取ったこともあり、その日から始まった子育ては困難を極めた。

 着脱衣や食事の仕方などはもちろんのこと、大人であるクイント達は知っていても子供であるギンガたちは知らない、社会のルールや常識を覚えてもらうのも一苦労だった。

 苦労はそれだけにとどまらず、ギンガとスバルの二人が些細なことで喧嘩したとき、初めのころはどう対応すればいいのかクイントもゲンヤも全く分からずおおいに動揺したし、苦手なものが入っていたという理由で自分が作った料理を拒絶されたときなど、クイントはひどく落ち込んだ。

 

 育児の専門書を買いあさり、一つ一つ問題を解決していきながらも、クイントの心には常に不安が付きまとっていた。

 母親を名乗ってはいるけど、私はあの子たちのことをちゃんと分かっていないのではないのか。こんな調子で、本当にあの子たちを立派に育て上げられるのか。やっぱり、自分は母親に向いていないのだろうか。

 そんな憂鬱な思いが、母親となり、スバルとギンガという二人の命の責任をその身に背負うようになった彼女を苦しめていた。

 

 それでも、彼女は二人を、自分の子どもとして育ててよかったと心の底から思っている。

 専門書や、人生の先輩である子持ちの同僚から学んだことを、子育てにうまく活用できたときは本当に嬉しかったし、幼い二人が少しずつ成長し、出来ることが増えていくたびにクイントの胸の内は喜びに満ち溢れた。

 なにより彼女は、二人とともに過ごす日々が、二人の笑顔が、自分たち夫婦にも無限に笑顔を与え、幸せをもたらしてくれていることを実感し、もし二人がいなかったら知ることもできなかっただろう、この彩りにあふれた暖かい世界をくれた自分の子どもたちに深い愛情と感謝の想いを抱いているのだ。

 

 だがしかし……いや、得られるものが果てしなく大きいからこそ、子どもを育てるということは並大抵の苦労で済むようなものではない。

 なにせ、その子がどう育つかは、親の努力と根性、それに心構え次第なのだ。ほんの少しの間違いでも子どもの人生は大きく変わり、堕落につながり、最悪の場合、死を招く結果になることもありうる。

 親が背負っているものは、子どもの過去であり、現在であり、未来であり、人生そのものなのだ。

 

 だからこそクイントは、自分と同じように子供を引き取り『母親』となろうとする理央に対し、その子の人生を、命という重荷を背負う覚悟があるのか確かめずにはいられなかった。

 もし理央が、たんなる同情や、自分をもとに作られたクローンだからという理由で生じた責任感、罪悪感などであの子を育てるつもりなら、あなたが育てるべきではないと厳しく諫めようとクイントは考えていた。

 

 子どもを育てるということは、あなたが思っているよりもはるかに大変で、その身に重い責任を担うものだ。覚悟もなく……いや、あったとしても、中途半端な覚悟で子どもを引き取るのは、あの子の将来に破滅をもたらすだけだ。そんな思いだけで育てるつもりなら、あなたみたいな人間は母親になるべきではない。

 たとえ、どんなに辛辣な言葉を吐いたとしても、あの少女のため、そして生半可な意志で母親という道に入りかけている彼女のため、クイントは理央を説得しようと思っていた。

 

 だけどもし、理央がそれでも母親になると言うのなら、精一杯支えてあげようとも思っていた。

 母親になってくれるという人物がいるだけでも、親も兄弟もいない人造魔導師である少女にとっては十分幸運なことなのだ。ここで理央から無理に引き離された結果、頼りになる人が現れるかどうかもわからない孤児としての生活を少女が送ることも、クイントは危惧していた。

 子どもを育てる責任がどれほど重いものなのかは、頭のいい理央なら育てているあいだにきっとわかってくれるだろうし、だからといって彼女がその責任をほっぽりだすような人柄でないことはクイントも知っている。

 

 子育てをした経験のない理央が十分な覚悟をしているとは思えないが、それは最初のころの自分も同じ。

 だったら、ここでちゃんと自分がしようとしていることを理央にはっきり意識させ、そのうえで予想以上の育児の大変さに困窮する彼女を自分がサポートすればいいのだと、クイントはそう考えていた。

 

 クイントは、母親としての並々ならぬ思いを込めた自身の問いかけに対し、しばらく彼女の目をまっすぐ見つめたまま沈黙を保っている理央を、真剣なまなざしで見つめ返していた。

 理央は一度深く目を閉じ、静かに、ゆっくりと息を吐きだし、そして再び目を開いた。

 

 

 

 

 

 ――その目を見た瞬間、クイントの全身にぞっとした感覚が走った。

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 理央のその目に戦慄したクイントは、驚いた表情で理央の顔を見つめる。

 クイントはなぜ、こんなにも動揺しているのか? その理由は他でもない。

 

 

 

 

 

 理央のその目に、尋常ではないほどの覚悟が込められているのを見たからだ。

 

 

 

 

 

 

 理央は子育てに対し、それに見合うだけの覚悟を持ってはいないだろうと考えていたクイントにとって、これは予想外すぎることだった。

 これまで子どもを育てたことがないはずの理央が、自分の問いかけに対して、なぜここまでの覚悟をその瞳に映すことができるのか、クイントにはまったく理解できなかった。

 

 理央の目に込められた途方もない覚悟にあっけにとられているクイントに対し、普段の彼女からは想像もできないほど研ぎ澄まされた雰囲気を纏い、理央は口を開く。

 

「……確かにきっかけは、『あの子は自分のクローンだから』という責任や、その事実からきた罪悪感かもしれません」

 

 厳かな様子で言葉を紡ぎだしていく今の彼女には、いつものようなクールさはまるで感じられなくて、

 

「ですが、あの子を育てるということがどういうことなのか、理解していないわけではありません」

 

 周囲の人間に「友人はいるが、愛しているのはピクミンだけではないのか」とすら言われることもあるほどのピクミン好きであるはずの、いつもの彼女の姿は全く見られなくて、

 

「あの子を育てるということは、きっと大変なのでしょう。辛い時もあるのでしょう。

 この体にのしかかる命の重責に耐え切れず、なにもかもを捨て去りたい気持ちになってしまうような、最低の人間に成り下がるかもしれません。

 ……それでも、あの子を立派な人間に育てるって、自分とあの子に誓ったんです」

 

 その時の『青葉理央(理央)』は、いつもの『青葉理央(彼女)』とはまるで違うのに、確かに『青葉理央』という人間なんだと感じられて、

 

「私があの子を導いて、立派な大人になるための道を歩ませます。

 私があの子と同じ目線に立って、将来について相談できる人間になります。

 私があの子の踏み台になって、未来に向かって羽ばたく手伝いをします」

 

 ただ一つだけ、今の理央に言えることがあるとすれば……

 

 

 

 

 

「そのための覚悟は……理紗の人生を背負う覚悟は、とっくの昔にできています」

 

 どうしようもないくらいに、『母親』の顔をしているということだ。

 

 

 

 

 

「まあ……これくらいの覚悟で十分なわけないんでしょうけどね、子育てって……」

 

 突然、真剣だった顔に自嘲めいた笑みを浮かべた理央はそう言って、さっきまでの自分の勢いをごまかすかのように、買い物袋の中からもう一つのシュークリームが入った包み紙を取り出した。

 理央がもくもくとシュークリームを食べ始める中、先ほどまでの理央の尋常ならない様子に気圧されていたクイントは、ようやく思考を再開することができた。

 

(……一体この子は、どうしてここまでの覚悟ができるの……?)

 

 クイントは、理央が子育てに対して抱いている覚悟は、大したことないものだと思っていた。子どもを育てた経験がないはずの理央が、子育てがどれほど大変で、責任の重いものかを知っているとは到底思えなかったからだ。

 しかし、理央の覚悟の大きさは、クイントの想像をはるかに上回るものだった。クイントは、子どもを育てたことのない理央が、なぜそこまで強固な意志であの子を育てようとすることができるのか、少しも分からなかった。

 

「おかあさ~ん……」

 

「ん? 理紗? どうしたの?」

 

 クイントが理央の覚悟の深さについて考えさせられていると、理紗が不満げな声で理央に声をかけてきたため、理央は手にシュークリームを持ったまま彼女のほうを向いた。

 声と同じく、理紗の顔も不満気な様子であり、その手には一口かじられた跡があるシュークリームが握られていた。そのかじられた跡からは、中に入っている白い生クリームが見えた。

 そのシュークリームを持った理紗が、理央に不満げな様子で声を上げる。

 

「この中のクリーム、おいしくない!」

 

「…………え?」

 

「そっちはおいしいかな?」

 

 その言葉にあっけにとられる理央の手から、理紗はシュークリームをひったくってかぶりつく。

 「あっ! ちょ、ちょっと……」と理央は慌てるが、そのシュークリームを食べた理紗の顔に笑みが戻る。

 

「こっちはおいしー! そっちのはお母さんにあげるよ!」

 

「…………え? だってそっちはカスタード……あれ?」

 

 混乱する理央の手に、理紗は生クリームの入ったシュークリームを置く。

 手に生クリームの入ったシュークリームを乗せられたまま絶賛混乱中の理央をよそに、カスタードクリームが入ったシュークリームを、理紗はおいしそうにパクパクと食べるのだった。

 




 これにて、今回の話の本編は終了です。ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

 今回は、理央の子育ての様子や、それに対する彼女の決意を中心に書いてみました。といっても、どちらかというとクイントの子育てについて書いたような……。
 偽善的な部分もあって気に食わないと思う人もいるかもしれませんが、書きたくて書いてしまいました。申し訳ございません。

 リインは理央のことを尊敬していますが、はやては理央のことを苦手としています(笑)この小説のはやては、理央に(いろんな意味で)勝てないということでわかっていただけると幸いです。

 え? 地上本部が荒れすぎですって? ナ、ナンノコトデスカー? 
 まあ、彼らが999%殺しにするような男はいないし、これから現れることもないでしょうから、大丈夫でしょう。たぶん、きっと、メイビー。

 それでは、おまけのほうもよかったらどうぞ。





おまけ① ピクミンの新作ゲーム?



 ――それは、平和なミッドチルダに起こった大事件であった。



 ある日、時空管理局が今まで認知していなかった世界からやってきた、ロボット軍団を操る悪の企業がミッドチルダに進行してきた。
 その企業が持つ、管理局すらもその存在を知らなかったオーバーテクノロジーによって、ミッドチルダの機械類はすべて制御が奪われ、瞬く間にミッドは支配されてしまった。

 この事態にピクミンだけでは対処しきれないと判断したアオバ一等陸佐は、敵が所有していた「インベーダーアーマー」という兵器を奪取し、これをもとに開発した「ピクミンアーマー」をピクミン一匹一匹に装備させ、戦力の強化を図った。
 さらに自身も、自ら製作した「メカカアーマー」という強化メカに乗り込み、自分自身の戦闘力を大幅に強化した。
 昔は科学者だったという、いつもはまるでストーリーに関係ない主人公の設定が活かされた瞬間であった。

 オーバーテクノロジーを持った悪の企業と、超常の頭脳を持つ理央とピクミンたちの戦いが、今始まろうとしていた――!










 『星のピクミン メカカプラネット』絶賛発売中!

「今なら特典で、『ピンク色のなんだか丸い物』もついてきますよー!」

「ポヨ♪」

「おいばかやめろ」



おまけ② 完全に時期逃した……orz

 パン、パパンと決行花火が打ち上げられる音が響き渡る……。
 これから競技が行われるであろうグラウンドには多くの選手が集まり、そしてその周りを囲むように設置された観客席には、数え切れないほどの人々が座って、開会を待ちわびている。

 そう、これから行われるのは、4年に1度しか行われない祭典。各世界から集められた競技者たちが、メダルを、いや……全世界の頂点を奪わんがために熾烈な戦いを繰り広げる、歴史に名を残す祭。

 そして開会式が始まり、今まさに開催の号令が会場に響き渡る――!










『ただいまより、第1回リオ・ピクミンオリンピックを開催いたします!!』



――ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!



 そう、これはリオ・ピクミンオリンピック。全世界で一番ピクミンの扱いがうまい者を決めるための戦いである――! (理央は除く)










「……なんだ、この夢……?」

 無論、ある日の理央の夢の中の話であった。



おまけ③ 完全に時期逃した……orz その2

 パン、パパンと決行花火が打ち上げられる音が響き渡る……。
 これから競技が行われるであろうグラウンドには多くの選手が集まり、そしてその周りを囲むように設置された観客席には、数え切れないほどの人々が座って、開会を待ちわびている。

 そう、これから行われるのは、4年に1度しか行われない祭典。各世界から集められた競技者たちが、メダルを、いや……全世界の頂点を奪わんがために熾烈な戦いを繰り広げる、歴史に名を残す祭。
 ちなみに、ピクミンは出ない。絶対に出ない。

 そして開会式が始まり、今まさに開催の号令が会場に響き渡る――!





『ただいまより、第256回リオ・春光拳オリンピックを開催いたします!!』


――ウオオオオオオオオオオオォォォォ!!










「……マ、ママァー!」

 無論、リオ・ウェズリー(6)という少女が見た、奇妙な夢の中の話である。



おまけ④ 名前

 あの事故現場にいた少女を引き取ることを決めた理央だったが、実は一つ悩みがあった。

「う~ん……なんていう名前にしよう……」

 そう、あの少女の名前である。本人に聞いてみたところ、あの少女には名前がないそうなので、引き取り手となる理央が名前を決めることになったのだ。
 
 どんな名前にしようか悩む理央は、ベッドで寝ている少女を見ながら考えることにした。

「う~ん……瑠璃という名前は……なんだか微妙だ……。
 青葉……桜……。いや、それはないな。これもなんか微妙だ。
 星奈……は、どっかで使われているような気がする……。
 アルトリア……は、外国人の名前だし……ていうかなんでそんな名前を考えついたんだ、私は」

 激しく悩み理央だったが、不意に『理紗』という名前が思い浮かび、ピンときた。
 そして理央は、眠っている少女に顔を近づけ、優しく話しかける。

「ふふっ、あなたの名前、決まったわ。い~い?




















                  『君の名は。』




















 青葉理紗。
 ……なんなの、今の間は……」

 その頃どこかの宇宙で、とあるサ○ヤ人と界○神の体がチェーーーーンジ!!していた。


お☆し☆ま☆い


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