異界、影に生きる (梵唄会)
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まとめ(2016/01/22 00:00:00更新)

主人公設定と年表など適当に纏めたものです。
参考にまでにどうぞ。


~影ちゃんのスペック~

 

名前:天日影(テンピカゲ)、偽名『黒兎、卯月』

 

身長:144cm(変化時:153cm)

体重:ヒミツ

スリーサイズ:ヒミツ

 

幻術:使えないが何故か分身には効かない。

忍術:忍者ではない為、基本的な忍術は使えないが数個は使える。忍術は使えないがチャクラ操作はなかなか。

体術:格闘は余り出来ず腕力は無いが、走力のみ忍びの上位クラスに匹敵する。

 

◆技

ー忍術ー

・瞬身の術

・お色気の術(変化の術)

・螺旋丸

ー影遁ー

・影の盾(影を形成し相手の攻撃を防ぐ)

・影しばりモドキの術(影を巻き付け相手を拘束する)

・影錐槍の術(影から鋭い影で相手を突き刺す)

・兵杖那由多の術(影を武器に形成する)

・黒曜螺旋槌の術(溝の入った巨大な円錐形の影を高速回転させながら貫通させる。対城壁技)

・影貫礫の術(影の中から弾丸状の影を回転させながら無数に飛ばす技)

・影木の葉落としの術(木の葉状の刃を無数に形成し高速で落とす。空気抵抗により揺れ無規則な軌道で相手を切り刻む。空間に影を形成する為暗い場所でないと使えない)

・影牢の術(影の柱を突き出し牢を作る)

・影鏡の術(相手の姿形を真似影を形成し操る)

・黒渦(螺旋丸の影版。利点は影から作るので手以外からも作れる。夜は見えずらい。光のある場所では作れないのが難点。作ったものは光では消えないが威力は半減)

・影津波の術(影を波のように変形させ対象を呑み込む技。呑み込んだ後、固形化し閉じ込める事ができる)

 

◆称号

・幻の何でも屋

・木の葉の屋台のお姉さん ✕現在休業

・石の国の大名

・石隠れの里長

・暁の新人

 

 

◆影の能力

〇分身を作る

・影分身とは違い並行して思考する。

・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。

・分身と入れ替わる事が可能。

・距離が開くと距離により、その分タイムラグが発ににの生する。

・入れ替わった場合、入れ替わった先の分身のダメージ状態に依存する。

・基礎能力は本体と同じ。

・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。

・思考のリンクを利用し通常より数倍の密度での考察が可能。(命名:影ネットワーク)

 

〇影の変形

・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。

・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来なない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。

 

〇影ヘの収納

・影の中に物を収納できる。生物は不可。

・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。

・状態は収納時と同じ状態になる。

 

〇死体の使役

・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。

・記憶は死亡時の時のもの。

・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。

・行動範囲は分身と同じ。

 

〇成長の停止

・影は成長しない。

 

〇マーキング

・自分の影を対象に仕込み、その周囲の音を収集する。

・その影から分身を作ることが出来る。

・マーキングに強い光を当てると消滅する。

 

〇影化

・分身体のみ使用可能。

・その身を影にする事で物理攻撃を無効にする。

・影化使用時に強い光にあてられた場合分身体は消滅する。

 

〇空間の圧縮

・任意の空間を圧縮し、一部開放する事で開放時の膨張により指向性の衝撃波を生む。

・気体系の術を無効化でき、開放時に圧縮した術の熱量が加わる。

 

 

~年表~※原作開始を1年とする

 

◆前22年

・主人公産まれる。

・うみのイルカ、ヤマト誕生。

・バキ(8)忍者学校卒業。

 

◆前21年 主人公1歳

・はたけカカシ(5)忍者学校卒業。

 

◆前20年 主人公2歳

・第二次忍界大戦終結。小国同士の紛争過激化。

・はたけカカシ(6)中忍昇格。

 

◆前19年 主人公3歳

・マイト ガイ(7)忍者学校卒業。

・薬師カブト誕生。

・サソリ(12)抜忍。

 

◆前18年 主人公4歳

・主人公がナルトの世界だと気付き修行を始める。

・エビス(10)、猿飛アスマ(9)、夕日紅(9)、シズネ(9)、うちはオビト(9)、リン(9)忍者学校卒業。

・干柿鬼鮫(10)忍者学校卒業。

 

◆前17年 主人公5歳

・うちはイタチ誕生。

・桃地再不斬(9)忍者学校卒業。霧隠れ他受験生皆殺し。

 

◆前16年 主人公6歳

・第三次忍界大戦勃発。

・ヤマト(6)、うちはオビト(11)、リン(11)中忍昇格。

・霧隠れの忍者学校卒業試験の改善。

 

◆前15年 主人公7歳

・白、テマリ、芸術は爆発だ!!誕生。

・猿飛アスマ(12)、マイト ガイ(11)中忍昇格。

 

◆前14年 主人公8歳

・アンコ(10)忍者学校卒業後、大蛇丸(36)の下につく。

・夕日紅(13)、シズネ(13)中忍昇格。

・はたけカカシ(12)上忍昇格。

・神無毘橋の戦いでうちはオビト(13)戦死。

 

◆前13年 主人公9歳

・第三次忍界大戦終結。

・薬師カブト(6)木の葉の里に。

・木の葉と砂の間に同盟条約が結ばれる。

・波風ミナト(19推定)四代目火影就任。

・日向ネジ、ロックリー、テンテン、サイ誕生。

 

◆前12年 主人公10歳

・うずまきナルトたち誕生。

・うずまきクシナ(27推定)尾獣を抜かれ死亡。

・九尾の妖狐が襲撃。

・波風ミナト(20推定)、イルカ両親戦死。

・主人公両親事故死。

・うずまきナルト(0)九尾の人柱力。

・我愛羅誕生→我愛羅母死亡→我愛羅(0)一尾の人柱力。

・猿飛ヒルゼン(56)再就任。

・主人公(10)家出。ここの時点で能力を覚醒し成長が止まる。

・両親を殺してしまった白(3)を拾う。

 

◆前11年 主人公11歳

・うみのイルカ(11)忍者学校卒業。

・禁術開発がバレて大蛇丸(39)抜忍。

・自来也(39)大蛇丸を追うため里を出る。

 

◆前10年 主人公12歳

・大蛇丸が新たなアジトを興す。

・三代目風影がサソリにより傀儡化。

・うちはイタチ(7)忍者学校卒業。

 

◆前9年 主人公13歳

・薬師カブト(10)忍者学校卒業。

・はたけカカシ(17)暗部入隊。

・日向ヒナタ(3)誘拐未遂事件。

・日向サジ(32)死亡。

・日向ネジ(4)呪印を刻印。

・大蛇丸(41)一度目の転生により弱体化。

・うちはイタチ(8)写輪眼開眼。

 

◆前8年 主人公14歳

 

◆前7年 主人公15歳

・うちはイタチ(10)中忍昇格。

 

◆前6年 主人公16歳

・うちはイタチ(11)暗部入隊。

・ううちイタチがうちはシスイを殺害し万華鏡写輪眼開眼。

・原作ではこの頃からうちはイタチなどが暁で活動しデイダラ(9)を勧誘していたり、大蛇丸がうちはイタチの身体を奪いに行くなど謎の事態が発生していた為よく分からないので作者の自己解釈と独断で時期を改変しました。申し訳ありません。

 これにより大蛇丸が抜けるのが6年後になり、デイダラの加入が7年後になってしまいました。

 

◆前5年 主人公17歳

 

◆前4年 主人公18歳

・うちはイタチ(13)暗部隊長昇格。

・うちは一族虐殺事件。

・サスケを残しうちはイタチ抜忍。その後、暁に入る。

・桃地再不斬(22)が主人公のせいにより白抜きでクーデタを起こすが失敗。そのまま抜忍。

・サソリによって薬師カブト(15)が大蛇丸の下に。

 

◆前3年 主人公19歳

・主人公がうちはイタチとエンカウント。その後、暁(特に大蛇丸)に追われることとなる。

・薬師カブト(16)中忍試験を初めて受けるが落ちる。

・大蛇丸(47)が二人目の転生。

 

◆前2年 主人公20歳

・主人公大蛇丸の嫌がらせ開始。波風ミナト、他忍具などを入手。

・主人公(分身)が木の葉の里に帰還。その後、屋台を開業。

・石の国でクーデタが起き成功。主人公が石の国の大名及び里長に就任。

・大蛇丸がうちはイタチの身体を狙い反逆を起こすが失敗。ターゲットをうちはサスケに変更。

・主人公が暁に入る。

 

◆前1年 主人公21歳

・石の国の経済上昇。他大名と交渉し代官何名か取得。

・デイダラ(14)が暁に入る。

・日向ネジ(12)、ロックリー(12)、テンテン(12)忍者学校卒業。

・ガトーが波の国を牛耳る。

 

◆原作開始 主人公22歳

・天日影が木の葉の里に帰郷。ナルトに初接触。

・屋台開店(目的:周囲の同化)

・うずまきナルト(12)など忍者学校卒業。

・ナルト大橋任務。

(目的:ナルト・サスケの強化、再不斬の援護。

結果:ナルト九尾解印、サスケ写輪眼開眼、再不斬が仲間に)

・中人試験。

(目的:大蛇丸の抹殺。

結果:大蛇丸死亡後屍鬼封陣、音の四人衆取得、主人公怪しまれ目的もほぼ達成したため二度目の故郷との離別)

・木ノ葉崩し。猿飛ヒルゼン(69)戦死、大蛇丸(50)戦死、他多数戦死。

・ナルトと自来也が五代目火影にする綱手を搜索。

(目的:大蛇丸の死亡で無くなった三竦みの戦いのフォロー

結果:三忍レベルの戦いを経験させる事は出来たが、血液恐怖症克服成らず螺旋丸取得させられなかったのでほぼ失敗)

・大蛇丸のアジトの解体が始まる。



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1話・回想と日常

戦闘中の口調を変更しました(2015/12/10)


□主人公視点

 

 

 私は転生者である。

 死んだと思ったら、新しく産まれ変わっていたという意味で転生者だ。不幸なことに性別が女に変わってしまうおまけ付きで。

 名前は天日(テンピ)(カゲ)。残念ながら、病気か知らないが産まれ付き声を出す事が出来なかった。そんな事を気にせず両親は大切に私を育ててくれたけど。

 

 産まれた当初は随分田舎に転生したなと思ったが、四年後私が何処に産まれたのか判明した。

 四歳になって母親と散歩した時に、前世の記憶にあるものを見た。知っているものを見付けたのなら本来喜ぶべき事なのだろうが、その時の私は正直喜べなかった。

 何故なら私が見たものは、岩壁に掘られた三つの顔。その名も火影岩だ。そう、此処は死亡フラグ満載の漫画、NARUTOの世界だったのだ。

 まだ三つしかないと言うことは猿飛さんが火影という事で、これから、九尾が襲来するという事だ。幸か不幸か私は、忍者の家系では無い一般人だった。最悪でも、戦いに駆り出されることは無い。しかし、この世界に生きる以上、弱いままではいつ理不尽な死が訪れてもおかしくない。生き残る為には鍛えるしかった。

 チャクラとか言う訳の分からない不思議エネルギーを見様見真似で漫画と同じ方法で鍛えつつ、同時に身体も鍛えた。格闘技などはどうしようもないので、逃げ延びる事だけを考えて基礎を鍛えていった。

 

 この世界がナルトの世界だと気付いてから三年後。国同士の小競り合いが過激化し第三次忍界大戦に発展した。まだ、弱い私には、飛び火がこちらまで来ないように祈りつつ終結を待つしかなかった。

 

 そして、大戦を無事乗り切り更に三年後。ミナトさんが火影に就任した。そして原作の知識が正しければ来年には九尾が襲来する。私は両親に木の葉の里を出るようにいったが説得に失敗した。最後まで前世の記憶があり原作の知識を打ち明ける事は出来なかったのだ。私は後悔した。何処かに修行し力をつけた事に慢心が合ったのだろう。九尾襲来の時私は両親を亡くしてしまった。十一歳夏。多くの悲しみが木の葉の里を包んだ。

 

 独り身になった私に、ある変化が起きた。両親の死の影響か血継限界が覚醒した。いや、本当に血継限界かは分からないが。新しい能力は影の操作だが、奈良家の忍術とは違う異質なものだった。副次効果で十年経った今でさえ何故か外見が十一歳のままなのだ。明らかにヤバい能力だ。大蛇丸などに捕まってしまえば解剖されるだろう。

 両親のいない今木の葉の里なんぞになんの愛着もない。世紀の変態大蛇丸から一刻も早く離れなければならない。原作に関わるなんてもっての外だ。そうと決まれば荷物を纏め私は木の葉の里を出た。

 

 里抜けして九年後、今から一年前。ヤバい奴を見た。うちはイタチだ。いきなりのエンカウントの為つい反応してしまう。それにより、戦闘になってしまった。

 私は遠くに影により作った分身と本体を入れ換える。コレが本当の影分身、なんちゃって。私の分身と戦闘するイタチを残し逃走を開始した。

 何故か、分身の作成は写輪眼には感知されないようだった。忍術の影分身とは違い、影の分身は分身であり私だ。分身の情報は同時に知覚出来る。

 暫くして、私の影はイタチの天照により、文字通り影の様に消された。勿論普通の死に方ではない。それにより、私の逃走がバレてしまった。

 この接触以降、私は暁に狙われることになった。特に大蛇丸に。そうやって暁から逃げつつ各国を点々としているうちに今に至るわけだ。

 

 

 

「ふふ、お久しぶりね」

 

 げ、大蛇丸。合いたくない奴ランキング永遠の一位の座を独占する人間。何故、私の居場所がバレたのだろうか。やはり変態の力か。

 私はいつものように分身を作り逃走をこころみる。

 

「今日こそ貴方をいただくわ」

 

 いただいて私をどうするつもりだ。如何わしい事でもされるのか? 陵辱エンドなんてごめんだ。

 せいぜい時間を稼がせて貰おう。私は影を形成し文字をつくる。

 

『そろそろ、諦めたらどうだ?』

『何度やっても無駄』

『私はもう此処には居ない』

 

「ふふ、それはどうかしら?」

 

(それはどういう……!?)

 

 逃走する私の影と入れ替わった私の前に人間が二人、現れる。アレはイタチさんと鬼鮫さんか。イタチさんのしつこさも大概だね。

 それと、もう一つ作った影の前にサソリが現れた。こんないたいけな少女に暁が四人でとか外聞的にどうなのだろう。早く滅びないかな、このロリコン集団。

 だが、何人来ようが無駄だ。この私を倒しても第二、第三の最大六百六十六の私がいる。私を殺したければ六百六十六全ての私を同時に殺すか、直〇の魔眼でも持ってくるんだな。最悪、各国に散らばせた私の影と入れ替わればいいから難しいぞ、フハハハハ! ……うん、私も思うよ。これなんてチート?

 

『イタチと鬼鮫か?』

 

「何故分かったのか興味深いけど……。それは後で調べればいいわ。今度ばかりは貴方も終わりね」

 

『今度もいつもと同じ事だ』

『私は影』

『何者も影を捕らえることは出来ない』

『貴方たちの光が強ければ私はただ消えるだけ』

 

 私は完全に相手の索敵範囲から離脱し、影の文字を残して、分身を消し去った。原作の知識で相手の能力は知っているのだ。戦うだけ時間の無駄だ。一人くらいには勝てるかも知れないが、一人殺せば相手は本気になる。

 

 今回も生き残った。本当に勘弁してほしい。大人しく尾獣でも集めていればいいのに。

 私は本体に意思の焦点を合わせると、古い小さな小屋に入った。

 

「おかえりなさい。影姉さん」

 

『ただいま』

 

 目を細めて微笑みながら出迎えるどう見ても美少女の少年。どう見ても白さんですね。

 今から七年ほど前、水の国をぶらついている時、血の中の男の死体と一緒に竚む子どもを見つけた。

 普段なら厄介事は見て見ぬ振りをしていただろう。しかし、この時の私は両親を無くし里を出たばかりで、ぽっかりと心に空いた虚無感がまだ胸の内に燻っていた。そのせいか、心に同じ穴を持つ子どもを拾ってしまったのだ。

 傷を舐め合い、そのおかげで大分気も楽になった。しかし、時が経ち白の成長が進むにつれて私は頭を抱えた。再不斬さんの嫁拾ってきちゃった、と。水の国で名前が白の時点で気付けば良かったのだが、三次元化している上にその時は頭も回らない状態だったので気付け無かった。今更無責任に、原作キャラと関わりたくないので「はい、さようなら」とはいかず、ズルズルと今に至る。まぁ原作とは違い忍びとして育たなかったので、今では家庭的な自然を愛する立派な乙女と成長している。そのうち、何処ぞの馬の骨の拐われないかお姉ちゃんは心配だ。

 

「いやぁ、白ちゃんもますます綺麗になったねぇ。いつ嫁にいっても大丈夫だ」

 

 にゅっ、と私の影から現れたこいつの名は波風ミナト。四代目火影じゃないですかヤダー。自業自得なんだけどね。

 私の謎の影の能力。謎とはいえ大まかな能力はなんとなくわかる。だが、大まかな事しか分からないのだ。そして、よくも知らぬままに能力の一つを大蛇丸への意趣返しに使ってしまったのだ。

 

 

 

 数ヶ月前、バレないように大蛇丸のアジトに潜入した。この頃からカブトさんはいらっしゃったらしい。という事はそろそろ原作開始か。胃がキリキリする。

 大蛇丸のアジトに潜入した私は、いつも迷惑をかけられている腹いせに色々と物色したのだ。高価そうなものをどんどん影の中にへと入れていく。私の影は物をその時のまま保存する事が出来るのだ。なんていうか、世紀の大泥棒になれそうな能力だ。ならないけども。

 その中で見つけた、ミナトさんの遺体が封じられた巻物。私は何も考えずに死体も影の中に放り込んでしまったのだ。

 

「ん? 此処はどこだい? あぁ、良いところにお嬢さん。此処がどこだか分かるかな?」

 

 そしたらなんと、影の中からにゅうっと魔人のように復活してしまったじゃないか。

 

(ファッキンジーザス)

 

 喰らった人間を私の影とする事が出来るらしい。生きている人間にも可能なのかはまだ分からないが。兎も角これなんてチート?

 

「あれ? お嬢さん聞こえて無いのかな? もしかしてオレ、やっぱり幽霊になったとか?」

 

 私が無視していても、相変わらずにこやかに話しを進める波風ミナト。オートモードかよ。私の影なのに。消せないのかな。いや、消せる様だ。しかし、一度消すと既に死体も消滅しているから、もう一度やり直す事も出来ないし、穢土転生すら出来ないだろう。

 

『聞こえている』

『ここは大蛇丸のアジト』

『他に質問はありますか? 波風ミナトさん』

 

「……大蛇丸。それに君、オレを知っているって事は。そうだね、最初の質問だ。オレは死んだのかい?」

 

 真剣な表情になり直ぐに返事を返す。やはり、原作通り頭が良いらしい。少しの情報からすぐさま予測建てる。

 

『肯定です』

『貴方は九尾の封印時に亡くなりました』

『覚えていませんか?』

 

「……思い出したよ。ナルトに九尾を封印してオレは死んだんだ。死んだのなら、どうして僕は此処に居るのかな」

 

 記憶は残るのか。そうじゃなきゃ、赤ん坊に近くなる。大きな赤ん坊の面倒観るなんて絶対に嫌だ。

 

『私の能力です』

『死体を影に喰らわせる事でその人を私の影とする』

『生き返ったのかは定義による』

『生とは肉体に依存するとするならば貴方は死んでいる』

『精神にと考えるなら生き返ったと言っていい』

『でも残念ながらそれを証明する事は私には不可能』

『貴方が自身の意思を信じるかは貴方次第』

 

「うん。今は信じるよ。それでオレはコレからどうなるのかな?」

 

『自由にしていい』

『貴方を影にしてしまったのは偶然』

『私の意図があった事では無い』

『大蛇丸への嫌がらせをしていたところ隠されていた貴方の死体を影にしてしまった』

 

「あの大蛇丸に嫌がらせか。お嬢さん面白い子だね」

 

『私の名前は天日影』

『私は二十一歳だからお嬢さんではない』

 

「俺より歳上か! 十歳くらいかと思ったよ。じゃあ影ちゃんと呼ぶね」

 

(それでも、ちゃんか)

 

『この能力が目覚めてから成長する事は無くなった』

『貴方も影になったのだから成長する事は無くなるでしょう』

 

 完全に肉体が無くなったわけではない。私には本体というようなものが存在し鍛えれば筋力も上がる。だから少しずつでも成長はしているはずだ。きっと。

 

『話を続ける』

『私に害にならないのなら何をしてもいい』

『消えたいのなら消してあげる』

 

「それは勘弁。折角生き返ったんだからね。わざわざ消えたくは無いよ」

 

『そう』

『では貴方の息子の元に行くか?』

 

「……。オレは既に死んだ身だ。闇雲に戻っても混乱させるだけだ。それに君が死ねばオレも消えるのだろう。なんせ今のオレは君の影だから。なら、取り敢えず君の側に居るよ。良いかな、お姫様(かげちゃん)

 

『では宜しくお願いしますね四代目(ロリコン)

 

「ちょ! 君、二十一歳でしょ! それにオレにはほら、愛する妻が居るから!」

 

『では、あの世に行ったら貴方の愛する妻に報告しておきましょう』

『貴方の夫はロリコンに成ったと』

 

「ほんと、止めてよね!」

 

『そんな事よりも、こんな薄気味悪い場所から早く出ましょう』

 

「そんな事って! 大蛇丸のアジトから出るのは賛成だけどさ。オレにとってはそんなこ……」

 

 

 

 と、いうことがあったのだ。分かってます。完全に自業自得です。

 

「ふふ、僕なんてまだまだですよ。あ、そろそろご飯が出来るので座って待っていて下さい」

「そうかい? いつもすまないねぇ」

「いえいえ」

 

 勝手に和気藹々と始める二人。白は嫁発言をスルーするな!そして四代目火影。自由にしていいとは言ったが、お前は自由過ぎるだろ。罪状にホモも追加しておこう。あの世で嫁に半殺しにされればいい。

 日々、暁に追われ。プライベートはこのカオス空間。

 平穏ってなんだっけ?

 




~影の能力研究~
◆分身を作る
・影分身とは違い並行して思考する。
・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。
・分身と入れ替わる事が可能。
・基礎能力は本体と同じ。
・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。
◆影の変形
・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。
・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来ない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。
◆影ヘの収納
・影の中に物を収納できる。生物は不可。
・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。
・状態は収納時と同じ状態になる。
◆死体の使役
・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。
・記憶は死亡時の時のもの。
・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。
◆成長の停止
・影は成長しない。


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2話・帰還

□主人公視点

 

 

「そうだ。木の葉に行こう」

 

 何言っちゃってるんだ、このお兄さんは。逝っちゃってるからって、なんでも無責任に発言して良い訳じゃないんだぞ。まあいい。どうせ本か何かの影響でも受けた何時もの戯れ言だろ。

 

「お茶のおかわりは要りますか? 影姉さん」

 

『ありがとう、白』

 

 やっぱりいい子だな、白は。荒んだ心がどんどん癒されてく。もう、再不斬さんなんかにくれてやるものか。ずっと私のものだ。

 

「ちょっと、無視しないでよ」

 

 私達がミナトさんを意図的にスルーしていると、騒ぎ出す。あんたは、子どもか。

 

『なんですか?』

『今忙しいんです』

『お饅頭あげるので後にして下さい』

 

「いや、和んでるだけじゃん。話だけでも聞いてよ」

 

 お饅頭は貰うんだ……。

 

『仕方ありませんね』

『今度はどんな戯れ言ですか?』

 

「ありがとう。影ちゃんの優しさに涙が出るよ。それで、本題だけど木の葉の里に行かない?」

 

『行きません』

『一人で行ったらどうですか?』

 

「そんな、つれないこと言わないでよ。そもそも、僕が君から離れられない事知っているクセに」

 

 そう。この影の能力での使役には制限があったのだ。私の使役する影となった死体(私はファントムと命名した)の可動範囲は武器や分身の生成範囲と同じ距離までだ。

 つまり、私や私の分身からは離れられないのだ。四六時中、付き纏われるなんて悪夢すぎる。

 

『……』

『以前は余計な混乱は避けたいと言っていた』

『いきなり行きたいなんて、どういう心変わり?』

 

「いやぁ。やっぱり、一目でいいからナルトに合いたくなってね。大丈夫だよ。ほら、変化していればバレないって」

 

『そういう心の弛みがいつの時代も悲劇を生むんですよ?』

 

「お願い! 父親としては、息子の成長を見たいんだ。見るだけだから、頼むよ」

 

 彼女にセッ〇スをせがむ男みたいだな。そうやってクシナさんに迫ったのだのうか? ……生々しい想像はやめよう。

 まぁ、私としてもいくら不本意とはいえ、勝手に生き返らせてしまった負い目がある。

 

『仕方ありませんね』

『見るだけですよ』

 

「ほんとに?」

 

『はい』

『分身を木の葉の里に向かわせたので、そちらに行ってください』

 

「ありがとう! 影ちゃん、行ってくるね」

 

 そう言うとミナトさんは影の中に沈んで行った。騒がしい人間が消え、一気に静かになる。

 

「行っちゃいましたね」

 

『ごめんね白』

『今回もお留守番』

 

「いえ、僕は影姉さんの側に居る事が一番幸せですから」

 

 ニッコリと微笑む白。嬉しい。素直に嬉しいんだが、内から湧き出る罪悪感が! 原作での再不斬さんと白の関係を知っているだけに、いたたまれない。すまん、再不斬さん。白は幸せにすると約束するよ。

 

『今度、2人で旅行に行こっか?』

 

「ほんとですか?わー、嬉しいな。影姉さんと旅行なんて初めてですね」

 

 

 

 十年ぶりの木の葉の里。最後に見たのは九尾が暴れた後だが、随分と復興が進んだな。

 周囲の気配を探り、人目がない事を確認し合図をする。あらかじめ、ミナトさんと決めていたものだ。変化したまま入里すればバレるだろうから、私の影の中に入っていてもらったのだ。

 合図を受けたミナトさんは私の影の中から出てくる。その姿は変化しており、私の外見と同年代くらいの黒髪の少年だ。私と兄弟といってもまずバレないだろう。写輪眼には気を付けなければならないが、この里の写輪眼の持ち主は三人。片方は額当てで隠し、もう片方は開眼すらしていない。ダンゾウさんは侮れないが、そもそも引き篭もりだから合うことはないだろう。

 

「懐かしいなぁ」

 

『感慨に浸るのは後です』

『先ずは宿を取りましょう』

 

「手厳しいね」

 

『歳上ですから』

 

 産まれたのは私の方が後だが、ミナトさんの生きていた年数よりは一つ上だ。前世も加えたら、私は四十代後半になる。

 

「そうだった。頼りにしてるよ、お姉ちゃん」

 

『はい、愚弟』

 

「相変わらず辛辣だね」

 

■ミナト視点

 

 

 長い間ずっと眠っていた気がした。深い深い。まるで海の底の様な。そんな場所から強い力に引き上げられ俺はその眠りからおこされた。

 眠りから覚めた俺を待っていたのは、一人の少女と十年後の未来だった。

 少女の話では俺は少女の影となって生き返ったらしい。話を聞いても良くわからない能力だ。忍術とは違う、どこか異質な。深く考えても分からないことだ。大切な事は、彼女の能力により俺が生き返らせられたという事だ。

 俺の魂は陰と陽に別れ、一つは屍鬼封陣で死神の下に。もう一つはナルトの中に九尾と共に封印したハズ。死体から俺を生き返らせたと言うことは、もしかしたら完全に二つに分かれたわけではなく残っていたのか。もしくは死体の情報から新しく生み出されたか。……死神からかすめ取ったのか? ……いや、コレは無いな。

 

 この力でクシナや、大切な人を生き返らせて欲しいという気持ちはある。しかし、執着により死んだ者を生き返らせるコトは良くない事だ。ソレは人の死を軽くしてしまうだろう。俺の勝手で世界の摂理を安易に崩しては成らないだろう。

 俺を生き返らせてしまったのは完全な事故だと少女は言っていた。そうだろう。もし、使うとするのならば、見ず知らずの俺よりも、きっと彼女の両親に使うハズだ。しかし、彼女が能力を使い生き返らせる事はない(※火葬してしまった為です)。

 たぶん、本質的な所で理解しているのだろう。コレは人の有様をねじ曲げる行為だと。その、大きな力を手にすれば俺ですら誘惑に負け使ってしまうかも知れない。それでも使わないのは、たぶん彼女の信念によるものだ(※自分の周りに付き纏われるのが鬱陶しいからです)。彼女が確固たる意思を持って制御するならば、俺が俺のわがままでソレを曲げてしまう事があってはならない。

 

 少女の名は天日影という。能力と同じ名を持つなんて面白い偶然だ。年齢はなんと俺よりも一つ歳上らしい。幻術かと思ったが、成長が止まってしまったようだ。一種の不老だろうか。殆ど不死のようなものだし不老不死と言えなくもない。

 とはいえ、俺の見立てによれば影ちゃんの不死性も完全なものではない。完成度の高い分身のため影ちゃん自身と見分けがつかないが、影ちゃんが怪我をすればちゃんと血も出る。分身と入れ替わってしまえば傷は無かった事になってしまうが、一撃で致命傷を負ってしまえば入れ替る事も出来ないだろう。それに影の性格を考えて、あの娘が大切にしている白という少年が人質に取られて自分だけ逃げるのは考えずらい。

 まぁ、コレは近くに居る俺だから気付けたコトだ。彼女の警戒心は野生の動物並みだから、基本人前で本体でいる事はまず無い。白と俺以外の人間が本体に近寄れば直ぐに入れ替わって本体を逃がす。

 コレも、近くで能力を把握出来る俺だから気付けたコトだが、分身との距離が遠いほど、入れ替るまでの時間がかかるらしい。

 

 影ちゃんの基礎能力は極めて高い。忍者では無いため忍術を全て捨てて鍛えてきたせいだろうか、身体能力は走力に関してはマイト・ガイ並で、チャクラ操作のセンスも悪くない。たぶん、影の操作の感覚と応用出来るのではないだろうか。いつだったか教えて欲しいと言ってきた瞬身の術を数回で会得してしまった。

 と言うか、そこら辺の忍びよりもよっぽど忍びらしい。俺が言うのもおかしな話だけど、忍びが忍ばずガチの能力で戦い合うのってどうなんだろう。自来也さんなんか、個性の塊で忍びらしい忍術を殆ど使わなかったぞ。……やめとこう。そこら辺は突っ込んではいけない領域だ。

 

 そして、影ちゃんの能力を狙ってか、執拗に影ちゃんを追い回す暁という組織。大蛇丸やイタチくんをはじめ、高い実力を持った忍者で構成された犯罪組織。あの、素直でいい子だったイタチくんが。……いや、彼の実力を考えると暗部に抜擢されていてもおかしくはない。大方、ダンゾウさん辺りがスパイとして送り込んだのだろう。

 影ちゃんを襲ったメンバーは、俺が知っている限り、角都・大蛇丸・鬼鮫・サソリ・飛段の六人だ。彼らの口振りから見て他にもメンバーがいると見て間違いない。そんな彼らの目的が何かは分からないが、もし暁が木の葉と敵対してしまった時には無事では済まないだろう。

 しかし、何故か影ちゃんは木の葉の里にだけは分身を置いていない。確かに、俺は既に退場した身であるが、元火影として、一人の父親として、里の危険をどうしても見過ごす事は出来なかった。だから本当は、俺自身影ちゃんから離れる事が出来る事を教えなかった。影ちゃんを利用する事になってしまうが、一つだけでも木の葉の里に影ちゃんの分身を置いておきたかったのだ。

 

 

 

 十年ぶりの木の葉の里には随分様変わりしてしまった。それでも、そこに生きる人の活気は俺が知っているままだった。

 クシナの墓におとずれる。この時影ちゃんから、死体が無くては生き返らせ無いという事を聞き、残念に思った自分に苦笑した。どんなに我慢していようが心の合いたかったのだ。それと同時に吹っ切れた。出来ないものは仕方が無い。クシナの分まで沢山見て、後で殴られよう。そして、話すんだ。

 ナルトを探すと直ぐに見つかった。里の子供たちをが仲良く遊ぶ姿。ナルトはそれを遠く見ながら独りで居た。

 俺は直ぐに理解した。里を破壊し沢山の死を招いた九尾。それを身に宿すナルト。災厄の悲しみは怨みへと変わりナルトに向かうのは必然だったろう。

 

『いいのですか?』

 

「ん? 何がだい?」

 

 影ちゃんが、地面に文字を書く。俺は知らばっくれるが、影ちゃんが何を言いたいのか大体理解できた。素っ気ないように見えてこの子は本当に優しい子だ。人の痛みを知っている。

 

『ナルトさんの元に行かなくていいのですか?』

『今の姿では父親だとはわからないでしょう』

『元々己に枷をかけているのは貴方自身』

『貴方の心のままに』

 

 そう。ナルトに会わないのは俺自身の弱さもある。ナルトに一人に全てを背負わせてしまった罪悪感。いい歳して本当に不甲斐ない。本当に駄目な父親だ。影ちゃんに気まで使わせてしまって。ここで引くくらいならいっそう死んでいたままの方がマシだろう。

 

「うん。ありがとう影ちゃん。行ってくるよ」

 

『後で十倍にして感謝の気持ちを形にしてください』

 

 影ちゃんの照れ隠しに苦笑する。本当に素直じゃない。感謝を形にしてしまったらきっと俺は借金地獄だ。一生返し切れないな。取り敢えずナルトと一緒に一楽のラーメンでも食べに行こうか。




~影の能力研究~
◆分身を作る
・影分身とは違い並行して思考する。
・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。
・分身と入れ替わる事が可能。
・距離が開くと距離により、その分タイムラグが発生する。new
・入れ替わった場合、入れ替わった先の分身のダメージ状態に依存する。new
・基礎能力は本体と同じ。
・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。
◆影の変形
・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。
・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来なない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。
◆影ヘの収納
・影の中に物を収納できる。生物は不可。
・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。
・状態は収納時と同じ状態になる。
◆死体の使役(命名:ファントムnew)
・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。
・記憶は死亡時の時のもの。
・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。
・行動範囲は分身と同じ。new
◆成長の停止
・影は成長しない。


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3話・木の葉の里で

□主人公視点

 

 

 ナルト少年への監視が無い事を確認すると、ミナトさんは独りでブランコをこぐナルト少年の下へ行く。どうでもいいことだけど、独りでブランコに乗ると孤独感が倍増するのは何故だろう。

 

「なんかよう」

 

 ブスっとした表情で、ミナトさんに問いかける。お、珍しくミナトさんが困っている。面白いので静観しよう。

 

「はは、そんな所に1人で居るから暇なんだろ。暇なら俺と遊ぼうぜ!」

 

 あっ、対応に困ってキャラが壊れた。爆走兄弟レッツ&ゴーに登場する司会兼解説役のミニ四ファイター氏みたいになってる。どうか、ナルト少年と分かれる時には元に戻りますように。私は静かに神に祈った。

 

「え? 兄ちゃんいいのか? 俺ってば……」

 

「なんだ、用事があるのか?」

 

「いや、そんなの無いってばよ! あのさ、あのさ! 兄ちゃんってばアカデミーに居ないよな」

 

「ああ!」

 

「じゃあさ、忍術とか見た事無いんだろ。俺が開発した忍術、特別に見せてやるってばよ!」

 

「そうか! ソレは楽しみだな!」

 

「へへっ」

 

 そう言って2人は走り去って行く。暑苦しいテンションに付いていけない。

 ……いや! 私がついて行かないとミナトさん消えちゃうじゃん! ちょ、二人とも。声が出せないから、追いかけるしか無い。クソッ。なんで無駄に走るんだあの二人は。

 

 

 

「なになに? ねぇーちゃんも教えて欲しいの?」

 

「……」

 

「アレ? 反応がねぇってばよ」

 

「あ、ごめんね。うちのお姉ちゃん声が出ないんだ」

 

「そっか……。(それより、兄ちゃんってば大丈夫か? 顔がボロボロだってばよ)」

 

「(大丈夫。いつもの事だよ)」

 

「(女ってこえぇな)」

 

「(……あぁ)」

 

 小声で話しているが全部聞こえている。ミナトさんがボロボロなのは、いい加減あのノリがウザかったからだ。仕方のない事なのだ。

 それよりナルト少年が開発したというのはかの有名なお色気の術だろうか。卒業試験まであと二年あるはずだが、この頃から覚えていたのか。

 

「まぁ、ねぇーちゃんにも教えてやっても良いんだけどさ。女にはあんまり良さがわからねーからなぁ」

 

「まぁまぁ。仲間外れにしちゃ可哀想でしょ」

 

「……それもそっか!」

 

「……」

 

 別に仲間から外してくれて大いに結構だ。ただ、またどっかに行って仕舞わないように、目が離せないだけだ。仲間に入れて欲しい訳では断じてない。いや、ツンデレとかじゃなくて、マジで。

 

「じゃあ早速見せるってばよ! 忍法、お色気の術!」

 

 煙と共に、現れる全裸の女性。ミナトさんは真顔で冷静を保っているが、鼻から血が止まらない。親が子のエロ忍術にやられるってどうなんだ?

 まぁ、私から言わせてもらえば、……30点だな。まだ子どもだから仕方ないといえば仕方ないが、先ず全裸と言うのが安直すぎる。持論になるが、全裸=エロでは断じてない。煙で大事な所を隠しているがチラリズムでもない、ただ知識が無いから隠しているだけだ。「うっふーん」という台詞も色気よりギャグが先に立つ。そして、原作であった「お色気の術」の上位版「ハーレムの術」。エロス界において質より量が勝ることはない。それを証明してやる。

 私はナルト少年を殴り術を解除する。

 

"挑戦者よ"

"血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ"

"真理と節理"

"罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ"

……変化!

 

「な、なんだってばよ」

 

「す、凄まじい! なんて気迫だ!」

 

(黙れ! 見よ、コレがエロスだ!)

 

 変化の煙が晴れて、半分脱げかけの、それでいて大事な所は隠す白い着物を来た十七歳程の女性が現れる。モデルは未来の私だ。……永遠に訪れないだろう未来だが。胸は大き過ぎずバランスを意識し腰周りからヒップにかけての曲線美を作り上げ、それを肌に吸い付く濡れた布で身体のラインを表現する。着物の真っ白な透明感が火照った身体を強調し、なんとも言えない女性の艶かしさを見せつけた。完成とは程遠いが、……そもそもエロに完成は、無い!

 

「し、師匠」

 

 私の言いたい事は伝わったようだ。言葉がなくても通じ合える。素晴らしい。コレを機会に今後も精進して欲しい。

 

「ふ、どうやらナルトも本物の女性には、敵わなかったようだね(後でその術ゆっくり見せてくれない?)」

 

 ミナトさんの言葉で冷静になる。やっちゃった。暴走してしまったようだ。気分を盛り上げる為に他の漫画の詠唱まで使ってしまった。まだまだ私も未熟なのだな。反省しよう。

 それと、また一つクシナさんに報告することが増えてしまったらしい。残念だよ、ミナトさん。

 というか、変化の術は初めて使ったが見様見真似で出来てしまったな。コレがエロスの力か。

 

「そろそろ日も落ちて来たし、一楽でも行こうか。僕がラーメンをおごるよ」

 

「まじか! 兄ちゃんいいヤツだな」

 

「はっはっは」

 

 ラーメンは良いんだけど、その鼻血止めてからにした方がいい。さっきから出っぱなしだ。

 

 

 

「じゃあな! 兄ちゃんと師匠」

 

 元気に手を振りながらナルト少年は去って行く。

 結局、師匠で定着してしまったのは予想外の痛手だ。コレが何時か災いを産む気がしてならない。まぁいいか。

 ナルト少年は、元気が過ぎるが親が居ないにもかかわらず純粋で真っ直ぐに育っている。

 

「だろ?」

 

 心を読むな。

 

「さてと、宿に行こうか」

 

 そう言い歩き出そうとするミナトさんの服を引っ張り停止させ、私は拾った枝で地面に文字を書く。影文字が使えないと本当に面倒くさい。

 

『宿は宿代が勿体無いからキャンセルしました』

『以前私が住んでいた家の所有権が私のままに成っていたので』

 

「え? 影ちゃん木の葉の里に住んでたんだ」

 

『はい、その時は両親も一緒でしたが』

 

「……そっか」

 

『まだ、使えそうだったので掃除しておきました』

『そちらに、行きましょう』

 

「わざわざ、ありがとね影ちゃん」

 

 私は干していた布団を中に入れる。もう一度使うと思わかなったな。

 

「うわ、影ちゃん、コレ少しかび臭いよ」

 

「……」

 

 十年使ってなかったからなぁ。やっぱり駄目になってたか。私は、影から二つ寝具を取り出して並べる。……少し離しておこう。さっきのセリフを思い出した。いや、まぁ、私が悪いんだけども。

 

『コレを使って下さい』

 

「いやぁ、本当に便利だね影ちゃん。一家に一人必需品だよ」

 

 そう言いながら布団に入っていく。もう寝るのか。別にいいんだけど、布団敷いたとたんに飛び込むとか、子どもか。

 

「影ちゃんのぬくもりを感じるね」

 

『死にますか?』

 

「すみません冗談です」

 

 干していたあと、そのまま収納したからその状態で出てきたのだろう。私のぬくもりではない。ミナトさんはやっぱり床の上にでも寝れば良いんじゃ無いだろうか。

 

 私は腰を下ろしそのままに座禅を組んだ。身体能力は本体が運動しないと成長しないが、チャクラや影の制御の修行は分身で充分だった。多分、思考がリンクしている恩恵だろう。だから、分身に時間が出来ればこのコントロールの修行を習慣づけている。

 それに私は肉体的には十一歳。多くを吸収する成長期だ。実際には成長していないから永遠の成長期と言っても過言ではない。だから、精神的な修行が一番伸びるのだ。

 

「影ちゃんさ。木の葉の里に近づかなかったのって、やっぱり両親のせい?」

 

 修行を続ける私の側でミナトさんが、ボソッと呟いた。柱状に回転させていた数十の影が少し歪む。いや、動揺したわけじゃなくて、ミナトさんの珍しい真面目な声に驚いただけだから。……私は誰に言い訳しているんだ?

 確かに、いくら危険でも両親が生きていて木の葉の里に残るならば私も側に居たのだろう。そう言う意味では両親が亡くなったから木の葉の里を離れたと言えなくもない。

 私は、形成していた影を消した。思考に集中し頭を冷やしていく。

 そもそも、最初に木の葉の里から出たのは危険だからだ。一般人の私が原作主人公に関われば命が幾つあっても足りない。

 だけど、この世界では何処にいても危険なのは同じ。むしろ、原作開始前までは木の葉の里の方が安全だったかもしれない。

 それでも頑なに、それも分身すら木の葉の里から避けていたのはどうしてだろう。……避けていた。そっか、逃げていたんだ。両親の死を原作のせいにしてこの世界の現実から。

 それでも、ミナトさんにそれを教える気はない。ミナトさんに気付かされたとか悔し過ぎる。まぁ、ミナトさんだけではなく木の葉の里に来てセンチメンタルになっていた影響も無くはないだろうけど。

 

『違いますよ』

『ただ大蛇丸とかイタチやマダラなど生み出してきた魔境が怖すぎて近づかなかっただけです』

 

「はは、違いない。影ちゃんも木の葉出身だしね」

 

『どういう意味ですか』

 

 心の違いを見透かされたか。この人は飄々としながら鋭過ぎる。いつの間にか、この人の手のひらの上で転がされている気がする。まあいいか。

 

『……私の分身が木の葉にあったら便利ですね』

 

「え?」

 

『そしたら、ミナトさんがいつでもナルトくんに会えるから』

 

「く、アハハハ。そうだね、ありがとう影ちゃん。ぷぷ」

 

 何故笑われるか意味不明。殴っておこう。(チャクラ)を込めてだ。

 

「な、何故?」

 

『愛です』

 

「……それは……重いな(物理的に)」



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4話・働く事

□主人公視点

 

 

「影ちゃーん、暇だよ」

 

 例の如く、穀潰し(ミナトさん)が騒ぎ立て、分身の術まで使い私の周りを旋回している。マジこの人何がしたいんだ。取り敢えず影で分身を串刺しにし、黙らすか。

 

「すぷらったっ!」

 

 ぽふんとコミカルな音を立てて消えていく。

 

「ちょっと、なんで実体まで狙うのさ」

 

 仕留め損なったか。私の影の一つが丸太を串刺しにしていた。これは変わり身の術だ。この世界の大いなる謎の一つ、この丸太は何処から来るのだろう。様式美というのは分るんだが。

 

『すみません』

『外しました』

 

 そもそもあの術、どれが本物なのか見分けなど私にはつかないからな。

 

「……外れて良かったよ」

 

『それで何ですか?』

『私は修行で忙しいのですが』

『そんなに暇なら水の国に居る分身の下へ行ったらどうですか?』

『ちょうど仕事で商船の護衛をしているんです』

 

「ソレはまたの機会にするよ。まぁ、暇って言うのは冗談でさ。俺ら働いて無いじゃん?」

 

『一緒にしないで下さい』

『私は日々一生懸命働いていますよ』

『白の為に』

 

「いや、そういうことじゃなくて。木の葉に居る影ちゃんってこと。俺達は木の葉の里に暮らしているわけじゃない?」

 

『外聞的には』

 

「でしょう?それで、お金は何処から来てるの?」

 

『それは私の分身が……』

 

「気がついた? 俺達はここで暮らしているわけだけど、援助も受けていない俺達が働かずに生活しているのは外から見たらおかしいわけ」

 

 盲点だった。時々こういう事を言うから無視できない。もしかしてわざとだろうか。たまに真面目になるミナトさんのギャップかっこいい、みたいな。これでクシナさんが釣れたのかも知れない。イケメン爆ぜろ。

 

「ということで影ちゃんは何か案があるかな?」

 

 コレは既にやりたい事が決まっている顔だ。この流れもすべてミナトさんの計算だろう。きっと心の中で、何処かの新世界の神のようにドヤっているに違いない。非常に遺憾な事だが私の負けだよ。

 

『無い』

 

「そっか! 僕にいい案があるんだ。影ちゃん屋台持ってたよね? ほら、俺って超優秀な忍びじゃん。だから、他の事とかする余裕無かったんだ。実は夢だったんだよね、屋台の店主とか」

 

『そうですか頑張って下さい』

 

「何言ってるの? 影ちゃんも一緒にやるんだよ。ほら、もう配置決めてるんだから!」

 

 そう言ってミナトさんは巻物を広げた。どれどれ。

 

店主・オレ

調理・影ちゃん

材料調達・影ちゃん

会計・影ちゃん

接客・オレと影ちゃん

その他雑用・影ちゃん

 

(……ほう)

 

『ふ・ざ・け・て・る・の・か!』

 

「あう、あう。だって俺、平和のために日々戦いに明け暮れていた戦士だから、そういうのやった事無いんだもん」

 

『だったらコレから覚えればいいでしょう!』

 

 さっきから、あいだあいだに入ってくる自慢が腹立たしい。お前が忍びとして優秀だったのは分かっているんだよ! 無能では火影に成れないはず。成れないよね?

 

「適材適所じゃん。やってくれたら螺旋丸教えてあげるからさ」

 

 !?……。私の中で葛藤が渦巻く。螺旋丸はロマンだ。折角NARUTOの世界に来たのだから是非とも覚えたい。

 個人的に螺旋丸は何度も試そうとしたが、その試みは何れも失敗に終わった。乱回転と言われても、一から十まで操作している私にとって難しいのだ。分身のリンクによる影ネットワークを駆使しても、乱れ複雑にどんどん加速し高速で回転するチャクラの軌道を制御するのは難しい。原作と同じ方法で修行してみたが、計算に不確定要素が加算されてチャクラが霧散してしまうありさまだ。感覚でやってのけてしまう天才達が恨めしい。

 もしかしたら、螺旋丸を開発したミナトさんなら何か有用なアドバイスをくれるかもしれない。しかし、ミナトさんにいいように使われるのは癪だ。

 

「知ってるよ。あの影の回転させてる練習。螺旋丸使いたいんじゃないかな? 俺が教えれば直ぐに習得出来るかもしれないんだけどなぁ」

 

 うぐぐぐぐ。あの憎たらしい笑みを直ぐに捻り潰したい!

 

『わかりました』

『手伝います』

 

「えぇ? 字が小さくて見えないよ」

 

(見えてるくせに!)

 

『わかりました!』

『手伝わせて下さい』

 

「そんなに頼むなら仕方ないな。一緒に頑張ろうね影ちゃん」

 

 ……。この恨みはらさでおくべきか。いや、人を呪わば穴二つ。おおらかな心で許してやろう。私は大人、私は大人、私は大人。

 

『それで、何がやりたいか決まっているんですか?』

 

「だから、屋台だよ?」

 

「……」

 

『屋台と言っても色々あるじゃないですか』

『おでんとか焼き鳥とかラーメンとか』

 

「全部やろうよ」

 

「……」

 

 やばい。この人、自分がやりたい筈なのに過程に至っては完全に他人事だ。ミナトさんの意見を全部取り入れて行けば、たちまち過酷な労働環境に見舞われるだろう。代替案を提出し私が先導しなくては。

 

『では比較的食材の入手と調理法が単純なおでんをやりましょう』

『そろそろ寒くなって来ましたのでちょうど良いかと』

『夏になったら焼き鳥に変更し冷えた麦酒を提供しましょう』

 

「いいね! なんかテンション上がって来たよ」

 

 本来私もこういうのは好きだ。ただ、ミナトさんに使われるのが嫌なだけで。嫌いだったら手間暇かけて屋台を作ろうなんて思わないだろう。

 

『私も少し楽しくなってきました』

『世界各国から究極の食材を集めてきます』

『多少のストックは有りますが』

 

「おお!」

 

『屋台ではお酒も重要です』

『以前の仕事で雪の国の杜氏をしている人と仲良くなりました』

『名酒らしいので幾つか分けてもらいましょう』

 

「さっすが! 影ちゃんにまかせれば万事解決だね!」

 

 当たり前だ。巷で噂の“幻の何でも屋”とは私の事だ。影のように現れ依頼を解決し影のように消えていく私、恰好いい。

 まぁ事の真相はなんてこともない。この世界は腕さえ有れば仕事に事欠かない。荷物を運ぶのには用心棒は必須だし人の困り事は金になる。世が荒れてる今は困り事など山のようにある。だから忍びなんて組織があそこまで巨大化したのだろう。

 細々と金を稼ぎながら暁に嗅ぎつけられないうちに消える。それを繰り返していたらいつの間にかに噂に成ってしまっただけなのだ。

 とはいえ、やるからには完璧を求める。例えミナトさんの手伝いとしても手を抜くつもりは無い。某魔砲少女のように全力全開。オーバーキルもいとわない。

 

『任せて下さい』

『料理も私の分身(スキル)を駆使してすぐにマスターして見せます』

『大船に乗ったつもりでいてください』

 

 先ずは、屋台の改造から。……この際一から作ってしまうか。

 

 

 

 記念すべき私たちの屋台開店初日。私はお色気の術色気なしバージョンで開店の準備をしていた。此処に分身を置くことを決めてから外に出る時はこの姿だ。本当に便利だ。各国で依頼をこなす時も違和感無く受けこなせる。

 

「あ、師匠! それに兄ちゃん。何やってるんだってばよ」

 

「……」

 

「あぁ、ナルト。こんにちは。今日から屋台をやる事にしたんだ。良かったら食べていくかい? 特別に今日だけタダにしてあげる」

 

「マジで!? 兄ちゃんってば太っ腹! あ、でもまた師匠に怒られるんじゃ。……ってそういえば師匠なんでお色気の術つかってんだ?」

 

「大丈夫だよ。あと、姉さんは客寄せだよ」

 

「そっかぁ! 大人ってば単純だからな。師匠の綺麗だから騙されてバンバンお客も来るってばよ!」

 

「……」

 

「だから、ナルトも秘密だよ。あ、じゃあ今日のは口止め料ってことで」

 

「いしし。兄ちゃんも悪だな」

 

「……」

 

 くそ。突っ込めない。完全に作業をしているのが私だけに成ってしまった。巻物は意外と高いし、影文字に変わるものを早く見つけなくてはならない。

 親子として見れば微笑ましい一幕なんだけど。……そういえば、ナルト少年は知らないけど親子なんだよなぁ。だめだ、真相を考えたらブルーに成ってしまう。

 

「あ、そろそろ第一号が出来そうだね。ナルトなに食べる」

 

「おお! なんか色々あるってばよ。じゃーあ、卵とおでん、コレは欠かせないな。あと、……兄ちゃんそのみどりの何?」

 

「何だろ? 影ちゃんわかる?」

 

 分かるに決まってる。私が作っているんだ。それと波風ミナト。私は料理も会計も雑用も、出来ることはやってやる。だけどな、店主ならメニューくらい把握してくれ。

 私は黙って壁にかかっているメニューの一覧から一つ指差す。

 

「あぼかど? 何それ?」

 

「頼んでみればいいじゃん。姉ちゃん、あぼかど。あ、俺にもね」

 

「……」

 

 キレちゃだめだ、キレちゃだめだ、キレちゃだめだ。こういう時は般若心経だ。色不異空空不異色色即是空空即是色……。私は般若心経を心で唱えながら言われるがままに配膳していく。

 

「うめぇー! 師匠すげぇ美味しい!」

 

 私は美味くない。一部の人にとっては美味しいかも知れないが。

 冗談は置いといて、私が苦労して集めてきた食材たちだ。どれも一級品。食材の味を活かした料理法なのだから美味くて当たり前だ。もし不味いなんて言われた日には私の中の般若が開放される事だろう。

 

「あれ? イルカ先生じゃん。おーい、イルカ先生ぇー!」

 

「ナルト! お前こんなところで。……あ、すみませんコイツが迷惑をかけていませんか?」

 

 大丈夫。ナルト少年はいい子だ。絶賛迷惑中の隣の男を何とかしてくれ。

 

「大丈夫、心配するなって」

 

「そうだってばよ。迷惑とかぜんぜんかけてねーし」

 

 そう言う二人をみたあと、イルカさんは私の方を向くと何かを悟ったのか軽く頭を下げた。お互いの心が通じた瞬間だった。

 私はおでんをいくつか見繕い空席に置く。

 

「あ、私は……」

 

(大丈夫。これは私の気持ちです)

 

 イルカさんの言葉を手で遮り、座るように促した。

 

「すみません。じゃあ、少しご馳走になります」

 

(いえいえ。お互い大変ですね)

 

 一杯目は麦酒が良いだろう。私はジョッキに麦酒を注いだ。

 

「あの二人。……なんで会話になってるんだってばよ」

 

「……さぁ」

 

 五月蝿い。言葉にしなくても伝わることもあるんだ。卵でも喰っていろ。二人の皿に卵を一つずつ乗せる。

 最早どうでも良い事なのだが完全に私の屋台になっているな。

 

「姉ちゃん、俺も麦酒」

 

 いや、ミナトさん。……駄目だから。




~影の能力研究~
◆分身を作る
・影分身とは違い並行して思考する。
・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。
・分身と入れ替わる事が可能。
・距離が開くと距離により、その分タイムラグが発生する。
・入れ替わった場合、入れ替わった先の分身のダメージ状態に依存する。
・基礎能力は本体と同じ。
・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。
・思考のリンクを利用し通常より数倍の密度での考察が可能。(命名:影ネットワーク)new
◆影の変形
・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。
・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来なない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。
◆影ヘの収納
・影の中に物を収納できる。生物は不可。
・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。
・状態は収納時と同じ状態になる。
◆死体の使役(命名:ファントム)
・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。
・記憶は死亡時の時のもの。
・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。
・行動範囲は分身と同じ。
◆成長の停止
・影は成長しない。


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5話・戦う事

ご意見により、影蟷螂から兵仗那由他の術に改名しました。
兵仗とは武器を意味し、とにかく沢山のということを表すのに那由他を付けました(2015/12/10)


□主人公視点

 

 

 とある地下の一室。怪しく蠢く二つの影があった。

 

『さて諸君集まってもらったのは他でもない』

『来るべき一戦に備えてのことだ』

 

「諸君と言っても二人しか居ないけどね」

 

『五月蝿い』

『コレでどうだ』

 

 十人ばかり這い出てくる。コレで雰囲気は出ただろう。

 

「まぁ、影ちゃんがそれでいいなら良いんだけど」

 

『団員一号! 名前を呼ぶな!』

『私の事は総帥と呼んでもらおう』

 

「……後で恥ずかしくなるのは、総帥だよ」

 

 いつもはこう言う事にノリノリのくせに。今日は真面目になる日なのだろうか? 折角地下に基地を作り内装もそれらしくし、衣装まで揃えたというのに。

 

『納得してもらったところで話に戻ろう』

『我が仇敵、大蛇丸の事だ』

 

「あぁ、大蛇丸ね。総帥も随分好かれてるよね」

 

「……」

 

『その大蛇丸だが、近々暁から抜けるだろう』

 

「ッ! それは本当かい?」

 

『我が影ネットワークの情報だ間違いない』

 

 本当は原作の知識だけど。

 それよりも、いつになくミナトさんが真剣でやりづらい。なんだか、私が巫山戯てるみたいじゃないか。

 どんどん興が覚めてくる。なんだか馬鹿らしくなってきた。折角、数年前からコツコツと作り上げ特別にミナトさんを招待してあげたのに。コレなら一人でやれば良かった。もう、二度とミナトさんのノリに付合ってやるものか。

 はぁ、第一弾の会議内容が悪かったか。こういうの真面目にやると死亡フラグが立つから嫌なんだけどな。ミナトさんはいざという時に真面目になるから死ぬんだよ。

 

『私の情報によると大蛇丸が暁に入ったのはうちはイタチの身体が目的です』

 

「さっきの総帥とかはもういいの?」

 

「……」

 

『そして、そろそろ大蛇丸に動きがあるようです』

『大蛇丸が動くということは』

 

「イタチくんの確保に動く。そしてイタチくんに対峙するという事は同じく所属する暁と敵対するわけだね」

 

 大蛇丸の動きは危険を冒してでもずっと探っていたのだ。探られるだけではない。ストレスを乗数的に溜められているのだから、少しくらい発散させて貰わなくては割に合わない。

 

『そういう事です』

『成功するにしろ失敗するにしろ暁からの脱退は規定事項でしょう』

『そして私は密かにこの時を待っていた』

 

 ずっと、あのストーカー行為にはうんざりしていた。他のメンバーにも追われて居たのは同じだが、大蛇丸のしつこさは桁が違う。他の人は見つけたら捕まえるというスタンスなのに対して、奴だけは執拗に追ってくる。

 温厚な私も最早限界だ。攻撃は最大の防御。私は大蛇丸に引導を渡すべく虎視眈々と機を待っていたのだ。

 そして最初の機会が大蛇丸の暁脱退だ。私の知識では少なくともイタチとサソリが戦う事になる。逃げられはしたが無傷とはいくまい。傷ついたところを一気呵成で葬ってやろう。窮鼠猫を噛む。追い込まれた鼠の牙の威力、得と知るがいい。

 

『作戦は簡単です』

『例え大蛇丸がどんなに卑劣な罠を仕掛けたとしても』

『相手は腐ってもうちはの天才』

『無事でとは行かないでしょう』

 

「そうだね。イタチくんは忍びだから」

 

『忍びだから?』

 

「そう。影ちゃんは知らないかもしれないけど、忍びとは相手の裏の裏まで読むことを徹底させられる。彼が何処にいようと本質が忍びである事に変わりはないからね。なら、そう簡単にはやられないよ」

 

『例えそうだとしても確実性を優先します』

『私は状況に応じては諦めますが他の暁を誘導し一対複数を作るよう心掛けます』

 

「僕は?」

 

『ミナトさんは最終手段です』

『一番避けたいのは大蛇丸のアジトを荒らしていたのが私だとバレて、なおかつバレたまま逃してしまう事です』

『今回は今後を優先したいのでミナトさんが出なくてはいけない事態に成ってしまったら大人しく撤退しましょう』

 

 そう、ミナトさんは私にとって鬼札だ。こんな所でバラしてしまえば、大蛇丸を倒した時のメリットよりバレてしまった時のデメリットが上回ってしまうだろう。

 そして、ミナトさんを使っても大蛇丸を仕留められない事態に陥れば目も当てられない。私の存在に注目が集まってしまう上に、今後大蛇丸は今まで以上に、怨みまで重ねて私を追うことになるだろう。

 だから、まだミナトさんを使う時では無いのだ。機会はまだある。木の葉崩しの時、自来也と綱手との戦いの時。その時までは、また大蛇丸の影に怯える事に成るだろうが急いては事を仕損じる。焦って事を進めて失敗するのは二流のする事だ。

 

「やっぱり、影ちゃん忍びらしいよ」

 

『そうですか?』

 

「うん。どうだい木の葉の忍びにならないかい?」

 

『絶対に嫌です』

 

「そっか残念だな」

 

「……」

 

『さて、本題に入りますが』

 

「今のが本題じゃなかったのか」

 

「……」

 

『やがて来る戦いに備え私の強化に本腰を入れたいと思います』

『今回もミナトさんは役に立たないので』

 

「それは僕のせいじゃ無いんだけどね。ま、鍛えるのはいい事だと思うよ」

 

『いえ、修行は今まで通りにやります』

『今回やりたいのは技の名前付けです』

 

 火遁などは火の形や大きさが違うだけで技の名前が変わってくる。なら、私もかっこいい名前を付けてしまっていいだろう。

 そう、その為にわざわざミナトさんに来てもらったと言っても過言ではない。ミナトさんは腐っても螺旋丸という素晴らしい技の開発者だ。さぞや私の技にいい名前を付けてくれるだろう。

 取り敢えず外聞的にそれらしい理由付けも加えておく。

 

『影を形成するのはイメージが重要です』

『それぞれに名前を付ける事で、名前から瞬時に形を連想し形成のスピードの向上をはかるります』

『そして、予め技を決める事でその用途と性能を整理しておき使う時の選択をしやすくするのです』

『それに印や名前を使うと思わせる事で相手の意表も狙えます』

 

「言われてみればそうかも知れないね。影ちゃんには案があるのかな」

 

『取り敢えず、この力は総じて“影遁(ヨウトン)”と名付けてみました』

『技に関してはこれから考えます』

『先ずは……』

 

 そう言いながら影から円錐形の槍を突き立てる。私の中で最も使う機会の多い形態。

 

「あぁ、僕も何度かやられたヤツだね。名前は、それから連想できるようにする事も重要だから。……そうだね、単純に影遁・影錐槍(ヨウスイソウ)の術で良いんじゃない?」

 

 おぉ、流石ミナトさん。それっぽく恰好いい名前をあげてくれた。盾は我愛羅さんのアレに似ているからの、それから取って影の盾にしよう。防御技とか言う機会が無いからどうでも良い。

 影で相手を拘束する技も影縛りモドキの術でいいや。

 刃物状に変形し相手を切り付ける技は、状況に応じて様々な形態の形を取れることからとって兵仗那由他(ヒョウジョウナユタ)と名付けられた。

 私の絶招影炎覇断剣(ゼッショウヨウエンハダンケン)は却下となった。確かに基本技に付ける名前では無かったな。炎も出てないしね。

 コレで基本形態は決まった。

 

『ありがとうございます』

『なかなか良い名前が決まりました』

『あとの技はミナトさんにお披露目するのは初になるでしょうが』

『室内向きでは無いので外へ行きましょう』

『今丁度、石の国の抵抗組織(レジスタンス)の依頼で国家転覆を図っているところです』

『そこでお披露目しましょう』

 

「ちょっと! 影ちゃん何やってるの?」

 

『では待って居るので行ってきて下さいね』

 

 わたしは暴れるミナトさんを影で縛り付け影の中に引きずり込んだ。

 

 

 

「それで? 俺このこと全然聞いてなかったんだけど?」

 

『さっき初めて話しましたので』

 

「ちゃんと話してくれないと怒るよ? 事と次第によっては影ちゃんを止める。たとえ消されちゃってもね」

 

『怒らないで下さい』

『掻い摘んで説明します』

 

 この国は周辺の五大国家と比べれば里程度の大きさの弱小国家だった。第三次忍界大戦の影響をもろに受け衰弱の一途を辿り、大名が更に追い打ちをかけるように圧政をしいた。だが、それだけならまだ良かったかもしれない。それに抵抗を始めた民を処刑し始めたのだ。普通なら他の五大国が鎮圧などするだろうが、まだ戦争のダメージが抜けきれていなかったため放置された。その為に抵抗組織なんてものが出来てしまったのだ。

 

「石隠れの里はどうなって居るんだい」

 

『完全に大名側に付きました』

『お金を取れるだけとるつもりでしょう』

『最早末期です』

 

「……最悪だね」

 

『このままでは十中八九、大名側が勝つでしょう』

『しかし民無き国にお金は産まれません』

『いずれ貯蓄は底を尽き』

『その時石隠れの忍びがどう動くか』

『覇権を持つにしろ、絞り尽くして他の国に行くにしろ』

『この国は国として終わりですね』

 

「そうか、それで影ちゃんはどう動くんだい」

 

『最初から言ってるじゃないですか』

『抵抗組織に組します』

 

「その後は」

 

「……」

 

『仕事で傭われただけですから』

『依頼には全力を尽くしますがそこまでは責任をもてません』

 

「分かった。俺は影ちゃんの邪魔はしない。それでいいね」

 

 一時はどうなるかと思ったけど納得してもらったようだ。里の為に命をかけるような人だ。正義感が並大抵ではない事を忘れていた。

 どんな大義名分を掲げようと、規模は違うがやっている事はペインやオビト、ダンゾウと変わらない。犠牲の上に新たな正義を押し通すだけだ。

 道徳的に間違っている事は分かる。だが、この世界で犠牲無き信念を貫く事は本当に難しい事なのだ。ここの世界を回ればよく分かる。大蛇丸の人体実験など歴史の犠牲のほんの一部でしかないのだ。だから、信念も何も無い逃げているだけの私には彼らを否定する権利は無い。大蛇丸、てめーは別だけどな。

 だからという訳では無いが私が正義の為に人を殺す事は無い。必ず仕事で人を殺す。酷い責任転嫁だ。でも、そこら辺もミナトさんにとっては許容出来る事では無いのだろう。

 折れるとしたら私だな。私は優柔不断だからその場の雰囲気で流されてしまう気がする。

 

(私が言うのもおかしな話だけど、親子二代揃って私の忍び像と違うな)

 

 協力は得られなかったが元々一人でやるつもりだったし、ミナトさんに来てもらったのは名前を付けて貰うためだし。

 難易度的には高い方だけど暁との戦闘に比べれば遥かに気が楽だ。あの人達は一人で木の葉を壊滅に追い込む。そんなヤツが10人近く居るのだ。あの人達に襲われるのと比べればなんてことはない。

 

『はい、ミナトさんは見ているだけで十分です』

『後で格好いい名前をお願いします』

 

 そろそろ、抵抗組織の人たちは配置に付いたようだが。相手は腐っても忍び達。一枚も二枚も上手だ。今回の作戦も筒抜けの事だろう。しかし、彼らにとって私は不確定要素だ。

 私から一石を投じてしまうか。

 ドーン、ドーン、ドーンと夜の闇の中、重厚な音が響く。破壊音と共に城門は壊されていく。コレは螺旋丸を求め四苦八苦している時に生み出された副産物だ。巨大な円錐形の影に螺旋状の溝を作り高速で回転させながら突き刺す。

 対城壁用として有効な事が実証された。溜めが必要だから対人にはあまり使え無いだろうけど。

 壊された城門から兵士が出てくる。アレは浪人か。落ちぶれた侍崩れとはいえ彼らの中には強力な鎧とチャクラ刀を持つ者も居る。

 しかしそんな兵士がまるで玩具の人形のように、門から踏み出すと一人また一人と身体中に穴を開ける穿たれ全身から血を噴き出し倒れていく。

 弾丸状に形成した影を高速で回転させながら、秒間数百発におよぶ影の弾丸が彼らに猛威を振るって居たのだ。

 周囲の柱や壁も巻き込み、破壊尽くす。想像以上に凶悪だった。夜にしか使えないし、味方がいても使えない。悲鳴を叫ぶ間も無く壊滅させる為に集団への心理効果は薄いのも欠点だ。

 

 さて、そろそろ忍びが動き出す頃だろう。夜は彼らの絶好の狩場だ。だけど、夜の闇が味方するのは彼らだけではない。寧ろ夜は私のステージだ。ここら辺一帯の影と同調する。頭が焼き切れそうになるので広範囲にわたる索敵は一瞬だけしか出来ないが、一瞬で十分だ。

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

「な、なんだぁ!」

 

「クソッ! ゔぁあああ!」

 

 一人一人悲鳴と共に木々の間から落ちていく。赤く熟して落ちる果実のようだ。

 広範囲技。小さい木の葉のような無数の刃が、敵の周りを回りながら高速で落ちる。軽く平たい型の為空気の抵抗を受け、揺れながら敵を切り刻むのだ。

 

 敵の主要戦力は粗方は片付けた。もう、抵抗組織だけでも大丈夫だろう。私は影に溶け城の中を進んでいく。

 ーー見付けた。

 アレが大名だろう。周囲の人間にわめき散らし一人になると、裸の女をはべらせながら酒を飲む。実に醜い姿だ。どんな相手だろうが敵は敵だ。私は四方から照らす光源の一部を破壊し大名に影を作る。

 

「何奴!!っが!」

 

 それに気付き叫びだすが、既に手遅れだ。大名の背後から影の槍が脊髄を貫通し脳天に突き出る。

 ーー影遁・影錐槍。

 そばに居た女達がそれに気付き逃げていく。追う必要も無い。少し頑張り過ぎただろうか。ぼぉっとする。

 

「・・ちゃん! 影ちゃん!」

 

 いつの間にかミナトさんが呼んでいたようだ。

 

『すみません』

『少し酔いました』

 

「……影ちゃん」

 

 月に当てられたのか、血を見過ぎたのか、それとも両方か。戦闘の、特にこの様な戦の後はフワフワするような感覚になる事が多い。

 

「何はともあれ勝鬨を上げないとね!」

 

 そう言ってミナトさんは部屋から踊り場に飛び出した。

 

『ちょっと何言って……』

 

 ミナトさんの不可解な行動にボヤけていた思考を一気に回転させる。そうか! 奴の狙いは最初からコレだったのか! クソ、不味いミナトさんの口を……。

 

「敵将、この天日影が討ち取った!」

 

 慌てて私も踊り場に出るが間に合わなかった。風遁まで使い声を拡張して叫んでいる。

 まみミナトさんの狙いは、多分私の話を聞いた時からコレだったのだろう。抵抗組織は全て民で構成させれている。それではたとえ勝ったとしても、国を纏められるような人は居なかった。だから、そう遠く無いうちに他の国に吸収させるか、自然消滅する確率が高かった。

 ミナトさんは、私を最大の功労者として仕立て上げることで旗印とし最後まで責任を取らせようとしているのだ。巫山戯るな。二束三文の依頼じゃないぞ。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

 外から歓声がわく。忍びが勝鬨を上げるのってどうなんだろうな。

 

「えいえいおー」

「「えいえいおー!」」

「「えいえいおー!」」

 

 

 

『例の件は一先ず置いておいて技の命名ありがとうございました』

 

「いやぁ、参ったね。あんなに感謝されるなんて。あ、名前の事は気にしないでいいよ」

 

『煽動したくせによくいう』

 

 過ぎた事を悔やんでも仕方ない。だいたいの事は諦めた。なるべくなるさ。

 新しく決まった技の名前は三つ。

 城門を破壊した技は、黒曜螺旋槌(コクヨウラセンツイ)の術。影の弾丸は、影貫礫(ヨウカンレキ)の術。最後に使った技は、影木の葉落とし(カゲコノハオトシ)の術と名付けられた。

 

『まぁいい』

『そろそろ螺旋丸教えて欲しい』

 

「……影ちゃんに螺旋丸必要?」

 

『例え必要で無くとも、それとこれとは話が別です』

『約束ですから』

『大名兼里長の権限を使っても教えて貰いますよ』

 

「僕のおかげで成ったんじゃん」

 

『間違えていますよ』

『ミナトさんのせいで成ってしまったんです』

 

 そう、ミナトさんの口八丁のせいで私は石の国の大名兼石隠れの里長になってしまった。実力と結果も示してしまったので成すすべなく気が付いたら終わっていた。

 天国の父さん、母さん。前世の父さん、母さん。私は大名になったよ。

 まぁいい。プラスに考えるんだ。こうなってしまったら、自分好みの国に変えてしまおう。そして、何れは第七の大国にしてみせるんだ。

 

「まぁ、良いけどね。辛い修行になるよ」

 

『構いません』

 

「じゃあさっそくやろうか。基本はいつも影ちゃんがやってるのと変わらないんだけどね。まず手の平の上でチャクラを放出し回転しながら留める。うん、出来てるね」

 

『はい』

 

「ここからが重要な何だけど。こう、ギューンってやるんだ」

 

 ふぁっ!

 今、どうなったのかさっぱり分からなかった。ギューンってなんだ、ギューンって。

 

「違う違う、ソレは散らばしてるだけだから。こう、ギューンってやるんだよ」

 

 そのギューンが分からないんだ。もしかすると、この人も身体で覚える感覚派忍者だったのか。巫山戯るな。こんなの詐欺じゃないか。

 

「だから、違うって! ほら、もう一度」

 

 こんな訳の分からない体育会系なノリは私の分野じゃ無いのに。




~影ちゃんのスペックまとめ~
身長:144cm(変化時:153cm)
体重:ヒミツ
スリーサイズ:ヒミツ

幻術:使えないが何故か分身には効かない。
忍術:忍者ではない為、基本的な忍術は使えないが数個は使える。忍術は使えないのにチャクラ操作はなかなか。
体術:格闘は出来ず腕力は無いが走力のみ忍びの上位クラス。

◆技
ー忍術ー
・瞬身の術
・お色気の術(変化の術)
ー影遁ー
・影の盾
・影しばりモドキの術
・影錐槍の術
・兵仗那由他の術
・黒曜螺旋槌の術
・影貫礫の術
・影木の葉落としの術


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6話・戦いへ

□主人公視点

 

 

 石の国で政務に奔走する。崩壊寸前だった為に落ち着くまで一瞬の気も抜けない。財産を一度再分配し民衆を抑え士気を上げ、残る金でやりくりし立て直し、尚且国の基盤を作り上げていなかければならないし、各地の大名との顔合わせもあるし、里長として忍びもの面倒も診なくては成らない。

 政務に詳しい人は他国に逃げてしまっていたし、この国に残っていたのは金を使い潰していただけの能無しと、民、それから石隠れの残党しかいない。

 事の発端のミナトさんは私の分身との修行に夢中で使い物に成らない。そもそもミナトさんは火影だったとはいえ一年で殉職しているからノウハウも聞けそうに無い。

 現状、影ネットワークのある私だからどうにか成ってる。大蛇丸との戦いも控えているというのに、戦う前に過労死しそうだ。

 

『というわけで温泉行きましょう』

 

「ふふ、どういうわけですか? 影姉さん」

 

 可愛らしく、首をかしげる白たん。これだよ。私に今足りないのは癒しだ。

 

『私の大名就任祝い?』

 

「それは、おめでとうございます」

 

『あまり驚かないね』

 

「驚いてはいますが、影姉さんならと思いまして。次は大陸統一ですか?」

 

 いや、白さん。貴方の姉は何者なんだ。魑魅魍魎蔓延るこの世界で統一とか無理ゲー過ぎる。信頼が重過ぎるよ。

 ――けど、

 

『白が望むなら頑張るよ?』

 

「ふふ、僕が望むのは影姉さんだけですよ。だから、影姉さんの好きなようになさって下さい」

 

 逆に口説かれてしまった乙女の気分だ。白なら抱かれてもいいかも知れない。そこら辺の女の子より可愛いし。

 そもそも初潮が来ていないから、子どもも出来ないし意味無いか。

 

『ありがとう』

『ともあれ最近疲れが溜まっているので温泉に行こうかと』

『白も御一緒しませんか』

 

「お供します、影姉さん」

 

 

 

「そういえば、久しぶりですね。こうして影姉さんと二人で家を出るのは」

 

 大蛇丸が居たから白と一緒に出掛ける事が出来なかった。しかし、今は大蛇丸も準備でそれ所じゃないだろう。

 

『そうだね』

 

「ふふ、周りから見たら家族に見えるでしょうか?」

 

『見えると思うよ』

 

 ただし姉妹だが。勿論私が妹で白が姉だろう。

 ワスレナグサが彩られた薄水色の着物に身を包み、静々と歩むそれは大和撫子だ。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな人はおとぎ話の世界だけのことと思っていたけど、ここに存在しのだ。ただし男だが。

 元々母の着物で、一生着る機会は無いだろうが持ってきたのだが、出来心で白にあげてしまったのだ。予想以上に喜んでいたが女物で良かったのだろうか。

 あ、そう言えば白に何かをプレゼントした事が無かったな。初プレゼントが女物の着物とか。……私は最低な女だぁ。

 

「あれは、なんでしょうか?」

 

『あれ?』

 

 ふとあがる白の声に、思考を中断し私は視線を向ける。人だかりが出来て随分と騒がしい。アレは賭博場か。昼間からご苦労なことだ。

 

『賭博場』

『駄目人間の行き着く場所』

 

 賭博場、駄目人間。そういって連想されるのは綱手姫か。手本となる人間が賭け事に狂ってるのはどうかと思う。そういえば、自来也は色情狂だし、大蛇丸は殺人鬼だ。致命的な欠点を持たないと伝説には成れないということか。終ってんな忍界。

 

「オラァ! 表でろや」

 

「上等!」

 

 白と共に見物に励んでいると中から怒声が飛び交い、入口が壊された。

 はて、あの金髪とでっかく“賭”の文字が刻まれたハッピはどこか見覚えがあるな。

 

「はわわ、綱手様」

 

 考えるまでもない。我らが三忍綱手様でした。ホントろくでもない。昼間から賭け事やら喧嘩やらどうしようもない。

 威嚇的な笑みで厳ついお兄さん方に睨みをきかす綱手姫。若々し過ぎる。あれで四十九歳とか詐欺だろ。

 

『白はああいう風に成っちゃダメだよ』

 

「はい。影姉さん」

 

 分かっているのかいないのか。相変わらずニコニコと素直に返事をする。まぁ、私の白に限ってグレるなど有り得ないな。

 ともあれ、綱手姫はスルーが吉だ。関わらない方がいい。今日は疲れを癒しに来たんだから。

 

「ぶっ殺してやる、死ねやボケェ!」

 

「はひぃ!」

 

 シズネさんの悲鳴が聞こえるが気にしない。どうかヤクザの方が逆にぶっ殺されない事を祈るばかりだ。

 

『行きましょう』

 

「はい」

 

 

 

 温泉は家族風呂のある所を予約した。男性風呂では白が襲われてしまうだろう。

 私たちは、何度も一緒に入ったし今更だ。それに私の身体はこの有様だ。コレでは欲情出来ないだろう。

 掴む所の無い胸を寄せる。コレを谷間と言えるのだろうか。コレではただの溝だな。線にしか見えない。

 

「痒い所は有りませんか?」

 

『大丈夫』

 

「分かりました。お湯を流すので目をつぶってくださいね」

 

「……」

 

 白は甲斐甲斐しく私の世話をしてくれるのだが、たまに子ども扱いされているんじゃないかと思う時がある。

 

『次は私が白の背中流すよ』

 

「ありがとうございます」

 

 立ち位置を交代しタオルに洗剤をかける。

 綺麗な背中だ。腰周りも細いし、首筋から除くうなじが色っぽい。白の裸と分かっても少し興奮しそうだ。

 私は首を振り煩悩を消し、白の背中に触れる。

 

「ん、少しくすぐったいです」

 

『ごめん、これでどう?』

 

「はい。んぁ、気持ちいいです、影姉さん」

 

「……」

 

 白の声が色っぽく聞こえるのは気のせいだろうか。気のせいに違いない。これはきっと煩悩多き私に課せられた試練なのだ。

 本当に男だろうか。視線を下に向ける。良かった、やっぱり男だ。いや、アレがあるからと言って男だと言えるのだろうか。

 

「影姉さん、ありがとうございました。スッキリです」

 

『どういたしまして』

 

 私の方は逆に悶々としたよ。良かったね、スッキリして。

 身体も洗い流し二人で広々とした風呂につかる。露天で星空が絶景だ。排気ガスで汚れた元の世界の日本では見られない光景だ。

 

「そういえば、さっきふと聞いたんですけど」

 

『なに?』

 

「ここの宿、出るみたいですよ」

 

 出るって何だろうか? 大蛇丸か?

 も、もしかして、幽霊とか? ゆ、幽霊なんて非科学的な。そんなものが居るとしたら、私は何人に憑かれているか分からない。でも、私自身が幽霊みたいなものだし。もしかすると本当に居るのかもしれない? あばばばば。

 姉としての威厳と怪談話を天秤にかける。要らんな威厳なんて。もともと有って無いようなものだ。

 

『怪談話とかだったら止めて』

『お願い』

『苦手』

 

「あれ? 影姉さんこの手の話苦手でしたか。おかしいなミナトさんが」

 

「……!?」

 

『ミナトさんが?』

 

「はい。ミナトさんが、影姉さんは怪談話が好きだと」

 

 ほう。波風ミナトさんが。判決。有罪(ギルティ)

 ミナトさんと修行中の私の分身が未完成の螺旋丸を叩き込む。するとミナトさんは錐揉みしながら崖に飛んでいった。威力は上がっているようだ。完成は近い。

 

「あ、もしかしてミナトさん。また影姉さんに悪戯しようとしたんですね!」

 

『ごめんね』

『折角用意したのに』

 

「いえ、僕こそ。影姉さんに嫌な事してしまうところでした。後でミナトさんに注意しておきますね!」

 

『いいよ、お仕置きしたから』

 

「そうですか? まったくミナトさんは。影姉さんで遊ばないようにといつも言ってるのに」

 

 私で遊ばないようにといつも言っているのか。……二人の間て私はどういう認識なのか気になる。

 

『ねえ』

 

「はい?」

 

『ホントに……でるの?』

 

「……今日は一緒にねますか?」

 

『いいの?』

 

「はい。喜んで」

 

 ……私のカリスマ値って今いくつだろ。

 

 

 

 何もこんな日で無くても良いのに。つくづく大蛇丸とは相性が悪い。折角、白とのデートでいい気分で一日を終えられると思ったのに。

 大蛇丸を見張っていた分身が大蛇丸の動きを察知した。螺旋丸は未完成だが。ナルト少年と一緒の状況だな。違うのは本番で一発成功なんていう主人公補正がついていない所だ。螺旋丸無しでもいいか。

 さてと、一仕事しますか。白、お姉ちゃんちょっと頑張ってくるよ。白の頭を一撫でしてエネルギーを補充した。

 

『ミナトさん』

『大蛇丸に動きがありました』

 

「あれ? 僕には出番は無かったよね」

 

『はい』

『ですが、黙っているとミナトさん怒りますので』

 

「あはは、そうかい。頑張ってくるんだよ。いざとなったら駆けつけるから」

 

『“いざ”は有りませんので、ごゆるりと待っていてください』

 

「頼もしいねぇ」

 

 私のやる事は、“大蛇丸の戦いを監視し、大蛇丸が死ねばそれで良し。原作通り大蛇丸が逃げるならば、その首をかすめ取る。だが、追い詰められた獣は危険だ。直ぐに仕留められなければ撤退。”これだけだ。何もむずかしい事はない。私はやれる事をやるだけだ。

 

『無理はしないので』

『目的と手段を履き違える気はありませんよ』

『取り敢えず修行した分くらいは頑張ってきます』

 

「うん。頑張って。あ、そうだ。俺も見にいっていいかな」

 

『構いませんが、何故?』

 

「僕も大蛇丸さんとは因縁があるし、イタチくんとも面識があるからね。見届けておきたいんだ」

 

『分かりました』

『この分身は消してしまいますね』

『では行きましょうか』



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7話・闇討ち

小南さんの口調が曖昧だったので適当に書いてしまいました。
後で、原作を見ながら確認するかもしれません。申し訳ありません。


戦闘中の主人公の口調を変更しました(2015/12/10)


■イタチ視点

 

 

 里抜けし、暁に潜入して何日か経ち、俺は一人の少女と出会った。ただの偶然だったろう。しかし今思い返せば必然だったのかもしれない。

 

 最初の印象はただの少女だった。深い夜空の様に艶やかな黒い髪を背中程まで伸ばし一点に浮かぶ月の様な瞳。だいたい十歳前後だろうか。

 視線が合ったのは偶然だった。だが、彼女はその瞳に驚きを浮かべた。俺は彼女とあったことは無い。面識も無いはずだ。

 

「何故、俺を見て驚く?」

 

「……」

 

「だんまりか。仕方ない、力ずくは好きではないんだがな」

 

 俺は写輪眼を開き、彼女の瞳を覗く。

 しかし、彼女に瞳術をかけることは出来なかった。驚く俺の隙をつき、彼女は俺との距離をとった。

 少女ながらの身で良く鍛えられている。この程度の体術だけならさして問題は無いが、写輪眼の幻術を破った相手ならば、それだけではないはずだ。

 彼女の視線が一瞬下を向く。何か仕掛けるか、と思った瞬間に俺の影から黒い槍が複数、首に向かって伸びてきた。

 ――早いっ!

 

 俺は変わり身で攻撃を回避し、彼女の背後にまわりこみ攻撃を仕掛けるが、湧き出る影に阻まれる。

 攻防一体の影を操るか。奈良の影真似とは違う……。血継限界か?

 

「悪く思うな。天照」

 

 逃がしては元も子もないと、万華鏡写輪眼で天照を発動する。視界に入った影の盾ごと彼女に魔界の炎を召喚した。だが漆黒の炎が全身に身体にまわると、初めから無かったように彼女は消えていった。

 

「ククク。逃がしてしまいましたね」

 

「見ていたのか」

 

「はい。珍しいですね。万華鏡写輪眼まで使って逃してしまうのは。それ程の手練でしたか」

 

 暁のメンバーの一人である鬼鮫。彼の言う通り彼女の能力は厄介だった。まず、写輪眼クラスの幻術に対する耐性。攻防一体の影。そして写輪眼で感知すら出来ずに天照から逃げきった逃走術。俺から見てどれをとっても一流だ。

 そんな相手が俺を知る。俺が暁である事もバレていると考えた方が良いだろう。流石に真の目的までは知らないだろうが。

 

「仕方が無い。追跡は諦めるしかない」

 

「そうですね。クク、次は私のお相手もして頂きたいものです」

 

 

 

 発見次第、戦闘。そして逃げられている。そんな繰り返しが二年程続いた。

 不思議な事に彼女の外見が変わることはない。見た目通りの年齢ではないという事かもしれない。

 だが、あの力量なら納得が出来る。並大抵の忍びなら、俺達暁に囲まれて逃げるどころか、抵抗すら不可能だろう。

 だが、彼女は俺達複数を相手に立ち回り、足取りすら残さずに消える。それこそ本当に存在したのか不思議な程、痕跡は隠蔽される。まるで忍びの亡霊でも追っているようだ。

 世界各地で、何処にでも現れそして何処にも存在しない。それが俺の見立てる彼女の印象だった。

 知らずのうちに情報を盗まれ、決して捕まえる事は出来ない。忍びの理想形に近い。

 

「いい夜ね、うちはイタチ」

 

「……大蛇丸か」

 

「悪いけど、その身体いただくわ」

 

「……」

 

 やはり大蛇丸は今日のこの時を狙っていたか。

 大蛇丸は確かに強い。だが、彼女の得体の知れなさとくらべてしまえば、それ程恐れるものでもなかった。

 

「残念だが、話は本当だったようだな」

 

 背後からサソリが現れる。

 数日前、サソリに匿名で聞達があった。大蛇丸が裏切るということと、その際俺を狙って来るだろうということだ。

 おそらくは、彼女だろう。何処まで知っているのか恐ろしくある。

 もし、彼女だとしたら目的は何だろうか。内部分裂だとしたら知らせる必要はない。そういえば、彼女は大蛇丸に執拗に追い回されていた。それが理由だとしたら案外可愛らしい事だと苦笑がこぼれる。

 

「裏切り者は生かしておけない。此処で死んでもらう」

 

「クク、アハハハハハ。なんでバレていたのかしら? カブトかしら? まぁ、そんな事は後で聞けばいい! あなた達二人を相手に勿体ぶっても仕方ないわね。ふふ行くわよ。口寄せ・穢土転生!」

 

 穢土転生……。禁術ばかり使う大蛇丸らしい術か。

 出てきた柩は一つ。出てきたのは初代火影様だ。

 奴の狙いは、写輪眼を持つうちはの血継限界だろう。ならば、次に狙われるのはサスケだろう。生かしてはおけない、俺も最初から全力で行くとしよう。

 ――万華鏡写輪眼!

 

「サソリは初代火影をたのむ。大蛇丸は俺が殺る」

 

「ふん、しくじるなよ」

 

□主人公視点

 

 

 始まったか。大蛇丸が穢土転生を使い戦力が二つに分断された。

 というか、折角情報を送ったのに来たのはサソリさんだけかよ。もしかしてイタチさんは嫌われてるのか? イタチさん根暗そうだから暁でも浮いているのかもしれない。サソリさんもちょっと根暗っぽいから、根暗同士仲がいいとか?

 

 戦局は、さすが体術・幻術・忍術全てにおいて上回ると言わせるだけあってイタチさんが大蛇丸を押している。あれでうちの白より二歳しか違わないとか。

 

 サソリさんの方は自分の手を明かしたくないのか、逆に初代火影の木遁に押され気味だ。奴は傀儡を十体しか操っていない。明らかな手抜きだ。

 てめぇ真面目にやれや。ゾンビなんぞさっさと片付けちまえ。とサクラちゃんの様に、内なる影ちゃんが現れてしまう。

 

 そういえば、穢土転生なんて術があるということは幽霊もいるかもしれないのか?

 というか波風ミナト。コイツも幽霊みたいなものじゃないか? いや、ミナトさんは、火力を上げて物理で殴るが通用するから怖くない。

 

「ねぇ、影ちゃん。考え中のとこ悪いんだけど、大蛇丸逃げちゃうよ」

 

 ミナトさんに指摘され戦場に目を戻すと、諦めてしまったのか大蛇丸が逃走をはかろうとしていた。

 ――逃がすか。新術、影遁・影牢(カゲロウ)の術!

 大蛇丸の行く手を何本もの影の柱が地面から突き出し封じた。

 コレで私の居ることがバレてしまったな。予想以上に大蛇丸の撤退の判断が早かった。

 仕方ない。私も参戦させてもらうか。

 

「誰かと思えば、お嬢ちゃんじゃない。フフ、お嬢ちゃんから来てくれたのは初めてかしら。でも、ごめんなさい今は忙しいから後でいくらでも付き合ってあげるわよ!」

 

 そう言いながら、大蛇丸はクナイを投げ牽制する。

 

『それは御免だ』

『コレで最後にしてもらいたい』

 

 ――影木の葉落とし、加えて兵仗那由他の術。

 大蛇丸に影木の葉を降らせ、その中から影の刃で大蛇丸を狙う。

 大蛇丸は微塵にも切り刻まれる。がそれは薄い表皮だった。お得意の脱皮ですね、分かります。

 

「やっぱり、君だったか」

 

『何の事だ?』

 

「手紙」

 

『さて?』

 

 何故バレているんだ?解せぬ。

 

『私も協力する』

『背後から撃つなんて事がないことを願う』

 

「手助けなど……。俺一人で十分だが?」

 

『それは、失礼しました』

『逃げられそうになっていたのでつい』

『私としても大蛇丸に追い回されるのは御免だから』

 

「クック。そうか分かった」

 

 嫌味を言ったつもりなのに、いきなり笑い出した。どうしたのだろうか? 怖いから止めて欲しい。

 

「いつまでお喋りしてるのかしら? こちらから行かせてもらうわよ?――口寄せの術」

 

 これがマンダか。実物を見ると怖くてちびりそうになる。ちょっと濡れてしまったかもしれない。

 ……笑った人は想像してみればいい。頭部だけで人より何十倍も大きい蛇を。どや?

 

 冗談は置いておいて、あの質量は厄介だ。あちらが動くだけで大きな攻撃になる。でも、マンダが居ることは最初からシミュレート済みだ。対策は練っている。

 ――新術第二弾! 影遁・影鏡(かげかがみ)の術。

 

「凄いな。ここまでのものが作れたのか。だが、見た目は凄いがマンダに通用するか? ハリボテじゃなきゃ良いがな」

 

『さて?』

『やれるだけやってみます』

 

 影鏡の術は相手とそっくりに影を形成しただけの術だ。

 

「てめぇこの糞ガキ。大蛇丸に呼び出されただけでもイラつくのによ。俺様の模造品まで作りやがって。ぶっ殺してやる」

 

 蛇と戦うのはどうすれば良いのだろうか。天照でさっさと焼き尽くしてしまえと言いたいところだが、着火したところで脱皮されて終わりだ。

 いっその事マンダの口の中にイタチを放り込んで、中から燃やして貰うか。自分も巻き添えに成るだろうが尊い犠牲だ。

 そういえば天照って術者本人には引火しないのだろうか。サスケくんは天照で燃えた腕で殴られていたけど、引火して無かったような。

 イタチをマンダに投げようと思い、背後を見たらいつの間にか消えていた。残念だが仕方ない。私は私の仕事をやろう。

 

 大蛇丸を乗せるマンダがその巨体とは思えない速度で私の影マンダに接近しその首を噛みちぎらんばかりにくいついた。

 だけど、それは無駄だ。マンダの形をとってはいるが、影に決まった形は無い。変幻自在。それ故に影だ。

 ――形態変形、大ギロチン。

 噛み付かれた根元から影マンダの頭を吹き飛ばし、そのまま空中で巨大な刃に形を変え落とす。しかしマンダはすぐに身を引き、ギロチンを避けた。やはり大きすぎて変形に時間がかかり使い物に成らないな。

 だけど夜は私の世界だ。そう簡単には逃がしはしない。

 ――新術第三弾、影遁・影縫い(カゲヌイ)

 映画、バイオハザードのレーザートラップからアイデアを貰った。私の出来る極限まで細くした影の線にチャクラを通して強化し網目に組んだ。相手、質量と体積が大きい程効力を発揮する。

 その上夜であれば、まず見えないだろう。チャクラを通しているため、白眼にはバレバレだろうが。

 知らずにそのまま影縫いに突っ込んでくるマンダに、横回転させ細切れにした。

 やったか?

 

「死ね糞ガキがぁあああ!」

 

 ですよね。

 ドゴオオオオ! という地鳴りと共に背後の地面から怒声を喚き散らしてマンダが飛び出した。

 そのまま尻尾で私の影マンダを叩きつける。私の影マンダは叩き割られた水風船のように霧散する。

 どうやらハリボテだったようだよ、イタチさん。

 だけど、私の影マンダはこれで終わりじゃない。寧ろコチラが目的だった。

 霧散した影がまとわりつきマンダの動きを封じた。

 

「くそがああああ!」

 

「まだよ」

 

「いや、これで終わりだ」

 

 印を結ぼうとした大蛇丸の腕が黒い炎に燃やされる。ソレを大蛇丸は、躊躇いなく切り落とした。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! 覚えてなさい。これで終わりじゃないわ!」

 

 ボフンという音と共に消える大蛇丸。

 

「逆口寄せか。用意周到な事だ」

 

『逃げられた』

 

「ああ、だが奴の腕を奪っただけで収穫があったとしよう」

 

 ああ。イタチさんは知らないだろうが、このあと大蛇丸は不屍転生で新しい身体に移る。つまり収穫はゼロという事だ。全くの無駄骨に終わった。

 

「逃げられましたか」

 

「小南か。何時からここにいた?」

 

 本当だ。お前、いたなら手伝えよ。逃がしちゃっただろうが。

 

「さっき来たばかりです。さて、大蛇丸が抜けてしまったし、新しいメンバー探さなくてはいけませんね。君ははじめましてだったね。私の名は小南。いつかあって話して見たいとは思っていました。……ねぇ、君。随分強いみたいですね。良かったら暁に来ませんか? 暁の事は……知っていますよね。何度か交戦していますし」

 

 冗談はよして欲しい。私が暁に……。いや、冷静に考えると悪い話でも無いかもしれない。

 暁は戦力的にこの世界でほぼ最強に位置する。入っていれば、もう暁から追われる事も無いだろう。丁度大蛇丸も抜けた事だし身体も狙われる事も無い。逆に暁に成ってしまえば大蛇丸から手が出しにくいだろう。

 デメリットは抜け人で構成された組織の為犯罪者の仲間と思われることだが、顔がバレなければ問題ない。

 この世界で一番阻止しなければ成らないのは月の眼の計画だ。私など六百六十六体同時に思考するだけで頭が焼き切れそうになる。それなのに一人で果たして全人類の思考を制御する事など可能なのだろうか? もし制御出来ずに脳がオーバーヒートしてしまった時、術が解ければそれでいい。しかし解けなかった場合はどうなってしまうのか。最悪、全員植物状態になり人類滅亡エンドが待っているかも知れない。

 そんな事は御免だ。原作に任せておけばナルト少年がなんとかするだろう。しかし万が一の場合私が懐に入れば背後から闇討ち出来るかもしれない。

 これぞ、灯台下計画。完璧な作戦だ。

 

『良いですよ』

『だが、もし貴女方から襲うことがあったら貴女方の秘密バラす』

 

「何を……知っている?」

 

 殺気で空気が一気に重くなる。私みたいな小娘には辛い。心が折れそうだ。

 

『さて?』

『知っているかもしれないし、知らないかもしれない』

『でも、こう言っておけば襲いづらいだろう?』

 

 勿論秘密とは、小南さん達の目的だ。

 だが、簡単に知ってる事を知らせる気は無い。知らせずに行動を抑制するのだ。知っている事を知れば殺そうとするだろうし、分からなければ無闇に手を出すことは出来ないだろう。

 出されたところで元の関係に戻るだけだ。私に何のリスクも無い。

 暫く睨み合いながら膠着状態が続き、先に小南さんが殺気を崩すとその場の空気が軽くなった。

 

「良いでしょう、今から貴女は暁の仲間だ。名前は?」

 

『黒兎と呼んで』

『よろしく』

 

「ふん、オレは先に帰るぞ」

 

 サソリさん、生きてたのか。あなたは忍びらしく完全に空気だったよ。

 

『イタチは反対しないのか?』

 

「得体の知れない者を野放しにするよりも、手元に置いて監視していた方がましというだけのこと」

 

 さいですか。




~影ちゃんのスペックまとめ~
身長:144cm(変化時:153cm)
体重:ヒミツ
スリーサイズ:ヒミツ

幻術:使えないが何故か分身には効かない。
忍術:忍者ではない為、基本的な忍術は使えないが数個は使える。忍術は使えないのにチャクラ操作はなかなか。
体術:格闘は出来ず腕力は無いが走力のみ忍びの上位クラス。

◆技
ー忍術ー
・瞬身の術
・お色気の術(変化の術)
ー影遁ー
・影の盾
・影しばりモドキの術
・影錐槍の術
・兵仗那由他の術
・黒曜螺旋槌の術
・影貫礫の術
・影木の葉落としの術
・影牢の術new
・影鏡の術new
・影縫いの術new

◆称号
・幻の何でも屋
・黒兎
・木の葉の屋台のお姉さん
・石の国の大名
・石隠れの里長
・暁の新人


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8話・卒業と始まり(原作開始)

一年生飛ばしてしまいました。
閑話で暁の任務とか石の国の事など1年間の事を載せるかも知れません。

原作開始です。


□主人公視点

 

 

 私が暁に入って、一年と少し過ぎた。その間の話は割愛しよう。ただ政務と雑務に追われる日々で面白い事など特に無いだろう。

 

「師匠。……俺、大丈夫かな?」

 

 いつもの如くナルト少年が私の屋台に訪れる。

 ミナトさん? 彼は最初ばかりはやる気を欠片は見せていたが飽きたのか最近は屋台に顔すら見せないよ。来るとしても客としてだ。今頃、石の隠れ里で忍びを鍛えている。私が減らしてしまったので少数精鋭だ。

 もう屋台は私のもので良いと思う。辞めるにもリピーターがついてしまったのでやめにくい。自分が言うのもなんだが、安い、旨い、美人の店員と三拍子揃ってる。

 速いじゃ無いのかって? 普通、おでんの屋台にそこまで速さを求めない。遅いのは問題だけど。

 ナルト少年はため息をしながら机につっ伏す。今日は元気がないな。そうか、明日は卒業試験か。

 

『らしく無いねナルトくん』

『いつもの自信は何処に行ったんだい?』

 

 石の国で開発したペン。特殊な鉱石を使い、チャクラを通し質を変化させる。チャクラは色のついた液状の状態へと変わり、それが棒の先から対象に付着していく。つまりチャクラがインクになるのだ。三十秒程でチャクラは霧散し文字は消えてしまう為紙代も場所も選ぶ必要がなく文字がかける。

 半分私の為に作られたのだが、謎の需要が一定数あるため売り上げはまぁまぁだ。忍びしか使えない筈なのに、何に使っているのだろう?

 

「そうは言ってもよ」

 

『では、占って上げます』

 

「師匠ってば、占いなんてできたのか? 見たことないってばよ」

 

『こう見えても私、数年先の限られた未来まで見通す事が出来るんですよ』

 

「おお! なんだかよくわからねーけど、すげーってばよ!」

 

 もちろん、嘘だ。占いなんてした事も無い。ただ先を最初から知っているだけだ。だけど、未来を教える事は出来ない。私が何もしなくともナルト少年は困難を乗り越えて行くだろう。助言は自己満足に過ぎない。

 

『むむむ』

『ナルトくんは試験に落ちるでしょう』

『しかし下忍となり成長しやがて火影になる未来が見えます』

 

「なーんか、胡散臭いってばよ。師匠知らないかもしんねーけど、次試験に落ちたら下忍に成れないんだぞ。それと、コレから試験を受けるっていう可愛い弟子に向かって落ちるってどうなんだ?」

 

『ごめんなさい』

 

「でも、そうだな! 俺ってば火影になるんだからこんなとこでうだうだしてらんねーな! 師匠サンキュ」

 

「……」

 

「ご馳走様! 師匠いくら?」

 

『私は金で買えないよ』

『ナルトくんが立派に成ったら5000万両で考えてあげる』

 

「じゃなくてさ!」

 

『いいよ、出世払いで』

『その代わり、ナルトくんが火影になってもご贔屓にしてね』

 

「!?……へへっ。じゃあさ! さっさと火影になって師匠のボロい屋台、立派にしてやるってばよ! じゃあな師匠」

 

 ブンブンと手を振りながら去っていくナルト少年。

 私の屋台はボロいのではない。趣があるというのだ。この魅力は子どもにはわからないだろう。

 そして、火影の力で私の屋台立派にしたら職権乱用じゃないのかな? まぁ楽しみにしていよう。ヒナタ嬢に恨まれない程度にせいぜい貢いでくれ。

 

 ナルト少年は実際に見ると、無邪気で可愛らしいから庇護浴をくすぐるのだ。男の頃は浮かばなかった、守りたいというのとは少し違う感情だ。こんなことを考えていると、やっぱり女になってしまったのだなぁと感慨深く思う。

 別段に女になった事に忌避感は無い。辛いと言われている月のものも来ないし、男より筋力は落ちるといっても身体能力も前世と比べてしまえば遥かに高い。

 ただ違和感が少しあったり、女性らしい思考をしてしまった時に羞恥を覚えるくらいだろうか。

 二十年以上も女として生きて今更なことか。

 

「ここ良いかね?」

 

『どうぞ』

 

「ふむ、失礼するよ」

 

『ご注文は……』

『火影様!』

 

「あぁ、かしこまらないで良い。あぁ大根を一つよいかな?」

 

『はい』

 

 火影様がなんでこんなしょぼい店に。あ、自分でしょぼいとか思ってしまった。いや、そうじゃなくて火影様が来るような店じゃ、……ナルト少年か。すっかり忘れていたがナルト少年は火影様の庇護下にあった。ならナルト少年が通っているここに来ても不思議ではない。

 正体はバレないだろうか。変化の術を応用し影の分身そのものを成長した自分に変えているが相手は火影様だ。

 イタチさんでも見破れなかったから大丈夫か? ナルト少年がうっかり話していなければ大丈夫なはず。

 

「ほう、それはチャクラ筆か」

 

『知っているのですか?』

 

「最近話題になっていたのでの。アカデミーで実用される話もあがっておる」

 

 私は普通に使ってしまっていたが、このペンで綺麗に文字を書くには高いチャクラ操作能力が必要だったらしい。チャクラを入れ過ぎれば文字は濃くなり、逆に少なければ薄くなる。

 習字と似たような感じだろう。だから、綺麗な文字を書くには繊細なチャクラ操作が必要なのだ。違うのは筆の力加減かチャクラの量の強弱かだ。

 その為、チャクラ量の感覚を鍛えるのに文字という指針で図れるコレは最適らしい。そして、文字の勉強に紙代もかからない。

 最近、忍者の卵たちの教育に流行しているらしい。知らなかった。まぁ、開発した後は商人に任せてしまったからな。

 

「それにしても見事に操るのぉ。お主」

 

 そして、その下忍ですら操作の難しいペンを自在に操るおでん屋のお姉さん。怪しすぎますね、分かります。

 それに、私は暁に入っちゃっているから、疑っているとしたらその懸念はビンゴだ。大当たりだよ。

 私が里を出てた事も記録には残っているだろう。私の資料には目を通してから来ていると考えていいだろう。ということはその場しのぎで嘘をつくとかえって怪しさが倍増してしまうか。

 

『昔、里を出た時に石の国で手に入れました』

『使っているうちになれました』

 

「確かにお主は十年ほど里をでていたのぉ。その時のお主は十ほどか」

 

『はい。九尾が里を襲った時に両親が亡くなったので、心をまとめる為に旅に出ておりました』

 

「ふむ。……そうか」

 

 私の話に矛盾点は無いだろう。十歳の少女が旅に出るというのは少しおかしいかもしれないが、そこは事実なので仕方ない。

 

「いや。辛いことを思い出させてすまんのぉ。本当は、お主のことを聞きに来のでは無いのじゃ」

 

『いえ』

 

 やりすごしたか?

 いや、まだ油断は出来ない。油断させたところで言質を取るなど大いに有り得る。

 

「……お主は知っているのか?」

 

『何をですか?』

 

「九尾の事じゃ」

 

 そういうことか。今日は私の正体を暴くために来たのではなかったか。たぶんそれも含まれていたのだろうけど、まだ白に近い灰色の状態だろう。完全に油断は出来ないが、警戒は下げていいだろう。

 今日ここに彼が来たのは三代目火影ではなくナルト少年の保護者としてだ。ならば、私もナルト少年の友として話せばいい。

 

『勿論、ナルトくんに九尾が封じられていることは知っています』

『まだ、子供だったとはいえその時代を生きましたから』

 

「……そうか」

 

『でも、里の人のようにナルト君を恨むつもりはありません』

『確かに、私の両親は九尾の事件に巻込まれ、命を失いました』

『しかし、それを行ったのはナルトくんではなく九尾です』

『ナルトくんを恨むのは筋違いだと思います』

『私は』

『ナルトくんは素直で元気で、とてもいい子なので好きですよ』

 

「そうか、そうか」

 

 嬉しそうに笑う三代目。愛されてるなぁ。

 

『お皿が空ですね』

『何か他にご注文は有りますか』

 

「そうじゃな。玉子と竹輪と……萵苣(ちしゃ)の肉巻きをいただこう」

 

『ありがとうございます。お酒はいかがですか?』

 

「ふむ。……それもいただこうか」

 

 

 

 翌日、夜。

 ナルト少年は、やはり試験に落ちて落ち込んでいた。

 ミズキが原作通り素直なナルト少年を利用して封印の書を盗み出させた。三代目はナルト少年の原作よりも強力なお色気の術でのされているがわざとだろう。たぶん。

 私は影の海に沈みミズキを追跡する。

 

 どうでも良いけど彼は本当に中忍だろうか。動きが、私の知っている忍びと比べるとどうにも拙い。

 まぁ私の知っている忍びの動きは暁とミナトさんとかだ。比べては可哀想か?

 だけど、それを考慮してもIQ200の天才しか受からなかった難関試験を突破出来たとは考えづらい。

 中忍試験は年に二回。同盟国の砂の里。近隣の里、全てを通して行われるのに対して、合格者は年間十人に満たない。中忍からの任務は致死率がぐんと上がる為、中忍試験の合格者よりも旬死者数の方が多い。それなのに中忍や上忍が多い気がするのは気のせいだろうか? もしかして戦争で増やし過ぎ、財政を圧迫してしまった為に大名や五影達が口裏を合わせて、試験を難しくしているのでは無いのだろうか。

 考え過ぎか。生憎、石の国にはその様な重要な資料は無かった。

 

「つまりお前が、イルカの両親を殺し! 里を壊滅させた九尾の妖狐なんだよ!」

 

 考えているうちに、場は進展している。ミズキがついにばらしてしまった。というか、ミズキはなんでこんなことをしでかしたのだろうか?

 十年以上もこの里で忍びをやっていて火影や上忍、暗部の人達を出し抜けると思えるとは思えない。三十歳すぎて未だに中忍のままの自分に焦ったか。

 

「どうしてイルカじゃないと分かった!」

 

「イルカは俺だ」

 

 イルカさんに変化していたミズキをナルト少年に変化していたイルカさんが体当たりした。

 可愛い戦いだな、と思ってしまうあたり、もう人として終わっているかもしれない。いや、全てはあの人外たちのせいで、感覚が麻痺しているだけだ。

 

 言いたい放題叫ぶミズキにイルカがゆっくりと諭す。それを陰で見ていたナルト少年が歯を食いしばり静かに涙している。ミナトさんにも見せてあげたかったな。

 

「うぅ、ナルトォ」

 

『いつの間に』

 

 気付けば、背後でミナトさんが男泣きしていた。確かに感動的なシーンであったが私は覚めてしまったよ。

 感無量で飛び出さないように影で縛り付けておく。

 

 ナルト少年が多重影分身を展開してので、範囲内から逃げる。

 もう大丈夫だな。私が心配するまでもなく、彼は私よりも余程強い心を持っている。誰よりも強く輝く心の煌めきが見えた気がした。

 

『流石ミナトさんとクシナさんの息子ですね』

 

「……そうだね」

 

 コレが親の顔というのだろうか。目を細めて優しくナルト少年を見つめるその顔はとても綺麗に見えた。いつもとは別人だ。少し羨ましく思う。

 

「「『卒業……おめでとう』」」



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9話・木の葉の任務

今回は自己解釈が多く含みます。間違っているかも知れませんがよろしくお願いします。

戦闘中の主人公の口調を変えました。(2015/12/10)


□主人公視点

 

 

「師匠ぉ! 見てこれ、どう?」

 

『お似合いです』

『魅力が普段の三割増といったところでしょうか』

 

「へへっ」

 

 下忍となったナルト少年がさっそく木の葉のマークの入った額宛を見せびらかしにくる。

 

『それで、小隊の方はどうなんですか?』

 

「それが、聞いてくれよ師匠ぉー。サクラちゃんと一緒の班になったのはいいけどさ、いけすかねーサスケと一緒になったんだってばよ! それに担当の上忍も変な奴だしさぁ」

 

『それはそれは災難でしたね』

『それで担当の上忍は誰だったんですか?』

 

「えーっと、はたけカカシって人。師匠知ってる?」

 

 一般人の私に情報漏洩も甚だしいが、木の葉の里のそこらへんは結構オープンだ。流石に暗部や裏の情報には厳しい情報統制が敷かれているが、流石世界一の忍びの里と言えよう貫禄を見せている。

 因みに私の里では私の情報だけ極秘扱いだ。一度私に対する恐怖が植え付けられているため滅多に漏らす事は無いだろう。漏らされたら漏らされたで構わないけど。

 里内ではコードネームを使い顔を隠している。流石に大名の私は隠せないが、他の国にいる小娘の私が大名だとは思わないだろう。それ以上に雲の上の存在であるので、私の顔を知るものはそれこそ、他の国の大名か、クーデターに参加した者達だけだ。

 

 考えが逸れたが、はたけカカシの話だったか。

 はたけカカシは才能だけ見れば暁にも引けを取らないと私は思っている。

 オビトさんの死後(仮)、ステータスを写輪眼に全振りし、写輪眼に依存して基礎を伸ばす努力を怠っている気はするが、それだけ扱いに慣れるのに集中しなければならない程写輪眼は扱い辛いものなのだろう。

 

『はたけカカシさんですか』

『確か5歳でアカデミーを卒業し6歳で中忍になり、Sランク任務の達成回数は40近く、使える忍術の数は1000以上と言われ世界でもトップクラスを誇る天才忍者ですね』

 

 というか、Sランク任務の報酬は最低百万両だ。それだけで四千万両近く稼いでいる事になる。他の任務も加えたら二億は下らないだろう。

 そして一両は日本円にして約十円。単純計算で奴は二十億円近い資産を持っていることになる。ヤバい、ブルジョア過ぎて鼻水が出そうだ。

 因みに、うちの今の国庫資金は約十億両。はたけカカシ五人分とかふざけんな。

 

「……師匠、何でそんなこと知ってるんだってばよ?」

 

『おでん屋ですから』

 

「意味わからないってばよ。てかアイツってばそんなに凄い忍者だったのか? ぜんぜん見えねー。黒板消しトラップにも引っかかるようなヤツだぞ!」

 

『それはわざとですね』

『能ある鷹は爪を隠すものです』

『彼の場合は爪を出すリスクも高いのですけどね』

 

「ほぉん? よくわからねーけど、そついがよ。明日サバイバル演習やるっていうんだ」

 

『あー毎年恒例の』

『私のデータによると今までカカシさんが担当した下人は全てアカデミーに戻っていますね』

 

「まじかぁー。……うおぉー! アカデミーに戻りたくねーってばよ!」

 

『でも、ナルトくんたちならきっと大丈夫ですよ』

『仲間を信じ己を信じよ、です』

『さすればどんな試練も乗り越えていけるでしょう』

 

「師匠ってば、たまに師匠っぽいこと言うよな」

 

『ホッホッホ、そうじゃろう』

『あ、そうです』

『ナルトくん合格すると思って合格祝い買ってたんですよ』

 

 そう書いて、ポケットから装飾された包を渡す。ミナトさんと一緒に買っていたものだ。

 

「え! マジで! 何コレ?」

 

『必勝祈願の御守りです』

『明日の演習も頑張って下さいね』

 

「へへ。……師匠サンキュ」

 

 

 私が心配しなくともナルト少年は合格し、修行に任務とコレから忙しく成るだろう。そして、どんどん成長していくハズだ。

 対して私は、ぶっちゃけ中忍試験までコレと言ってやる事はない。いや、国営、政務や暁の雑務など細々とした事はあるけど、日常の範疇。当面は目新しい出来事は無いはずだ。

 ……政務や暁の仕事が日常って、私はいったい。いや気にしたら負けだ。

 

 

 

 ナルト少年が正式に下忍となって数日後、始めてのCランク任務をやるんだと報告しに来た。

 最近は雑用とかそういう任務でずっとブツクサと文句を言っていたから、その気合は計り知れないだろう。

 Dランク任務、割が良いと思うんだけどな。ペット探しや芋掘りで最低五千両。一日一つの任務だとしても日給最低五万円。二十日働けば月給百万円。どこの優良企業だ。さすが子ども達の憧れの職業ではある。

 因みに、Dランク任務の依頼料は報酬よりも遥かに低い。でなければ、依頼主は芋掘りなどに一日五万円以上も払えないだろう。そして、Cランク任務から仲介料として木の葉の里にお金が入っていくのだ。

 これが何を意味するか。そう、難易度の高い依頼から天引きされた報酬の一部がDランク任務の報酬として支払われて居るのだ。

 稼げるが難しい任務をこなす程、中間マージンが発生する。しかし割を食うシステムなのに対して誰も突っ込まないということは、それだけ下忍が大切にされているということなのだろう。

 ナルト少年の夢は火影だから、物足りない気持もわかる。そして、その純粋な気持ちが木の葉の忍びの子どもたちに宿るからこそ、このシステムが成り立つのだろう。

 私のは汚れきった大人の考えだ。政務に携わり心が汚れるのも加速した気がする。もう、あの頃には戻れない。

 

 さて、ナルト少年の初のCランク任務と言えば、ナルト大橋編だ。

 ここで大きな問題が発生する。再不斬さんの件だ。

 再不斬さんの嫁(今は私の嫁だけど)は私の元に居るのだ。つまり、原作通りに進めば、

 

 再不斬さんとカカシ小隊対決。

  ↓

 再不斬さんピンチ!

  ↓

 白たん居ない。

  ↓

 再不斬死亡。

 

 これだ。このまま進めばナルト大橋に着く前に再不斬さんが死んでしまう。

 そうすると、ナルト大橋での戦いが温くなり、サスケくんの写輪眼とナルトくんの人柱力の覚醒がずっと後になってしまうだろう。

 

『じゃあ、しばらく来れませんね』

 

「ま、余裕で任務達成してくるからよ! 師匠はお土産楽しみにしてな!」

 

 コレが親の心子知らずというものか。別に親でも何でも無いのだが。自分を慕ってくれるから構いたく成ってしまう。子ども欲しいなぁ。

 仕方が無い。ナルト少年の為に一肌脱ぎますか。元を言えば私のせいだし。

 

『気を付けて』

 

「おう!」

 

 親指を立てニッカリと笑うと、ナルト少年は黒いリュックサックを背負い門へ向かう。私は立ち去るナルト少年のリュックサックの中に自分の影をマーキングしておく。

 半年くらい前に使える様になった能力だ。マーキングをしておけばいつでもマーキング対象の周囲の音を察知し、そしてそこから分身を作ることが出来るのだ。

 弱点は強い光に当たるとマーキングが消えてしまうことと、マーキングは同時に3つが限界だ、ということだろう。さっきので最後だったので今はもう、マーキングをする事は出来ない。

 ナルト少年は無事小隊と合流を果たしたようだ。

 頑張れ。

 

 

 

「ケガはねーかよビビリ君」

 

 ぶふぉっ! シリアスな空気なのは分かるが、クッ……ププッ。

 門を出て直ぐに襲い掛かってくる忍びから、ナルト少年を守り飛び出た一言。

 何気ない言葉のはずなのに、サスケくんが言うとどうにもダメなのだ。ニヤけてしまう。天敵とは彼の事をいうのだろう。

 場面は見えないが絶対にドヤ顔しているはずだ。……駄目だ。想像するとまた。……くふっ。

 

 原作通り、ナルト少年が血抜きをして任務は続行されるようだ。

 どうでもいいけど、血液は一秒間に二十センチの速さで体をめぐる。戦闘とカカシさんの解説で五分は経過している。最早、毒は拡散しているだろう。

 たとえ傷口を開いたとしても、出てくるのはその周辺と後から送られてくる新しい血だ。毒の入った血は流れていってしまっている。

 解毒するには、その毒の解毒薬を飲むしか無いはずだ。

 ならば何故助かったのか。可能性は二つ考えられる。

 一つは九尾の不思議パワーで毒を押し出したか、解毒したか。次に毒なんて塗ってはおらず、ナルト少年の覚悟を確認する為にカカシさんが嘘をついたかだ。

 私は、後者だと考える。

 理由は毒に侵されているのに、慌てることなく任務の解説を話し出したこと。

 トップレベルの上忍であるにもかかわらず、血を抜かなければ成らないという適当な治療法を示したこと。

 遅効性という可能性もあるがカカシさんに言われるまで毒に気付かなかった事だ。所謂プラシーボ効果というものだろう。

 カカシさんはナルト少年が動け無かったのを見ている。しかし、この恐怖を乗り越えなければ忍びとして生きていく事は絶対に無理だ。

 だから、サスケくんとの差をわざと見せ付ける様な言い方で、ナルト少年をわざと煽り発破をかけて、忍びとして成長するように誘導したのだろう。それなのにドヤ顔(予想)でビビリくんって。思い出しちゃ駄目だ。この記憶は封印しよう。

 まぁ、真実は闇の中。全て私の憶測に過ぎない。

 

 

 暫く歩くと、水辺に付いたようだ。音から察するに船に乗ったか。

 場が落ち着くと、タズナさんは依頼内容の話を切り出した。

 

「えっ!? ガトーって。あのガトーカンパニーの? 世界有数の大金持ちと言われる!?」

 

 いや、……あんた。資産二億両(推定)の男がそんなにビビる海運会社の大富豪ってなんだ? 国を乗っ取ろうというくらいの大金持ちなのだから相当なのだろうけど。

 ……襲うか? いや、駄目だ! 肩書きは悪に染まっても、心まで染めてしまってはいけない。真っ当にいきるんだ。欲望よ消え去れ!

 

 ガトーはどうやらその莫大な資金を使い島国である波の国の海上交通・運搬を全て牛耳り更なる金儲けをしている様だ。

 しかし、橋が出来てしまえば独占していたルートが別れ利益が薄れてしまう。そこで忍びまで雇って妨害しようとしているのだろう。

 嘘までついて依頼したのは、波の国が超貧しいらしく大名ですら金が無いようだ。

 確かBランク任務の依頼料は高くて二十四万両。最低は十万両だ。個人としては高いが、国から見ればそう多くない額のハズだ。たぶん、橋の工事だけでいっぱいいっぱいで余裕の欠片もないのだろう。

 何故だろう、親近感がわく。かなり遠いいけど波の国とは仲良くしよう。

 どんなに貧乏でも不可侵を貫き非武装であり続ける波の国の足下を見て食い物にするなんて許せんなガトー。

いい事を思い付いた。これぞまさに一石二鳥の策だ。

 

 

 

 ガトーに命じられたのだろう。再不斬さんがタズナさんの暗殺に来た。

 予定通りといえど再不斬さんにはもう少し頑張って欲しかった。上忍が怒りに翻弄され下忍にしてやられるなんて情けない。

 そろそろ、私の出番だな。再不斬さんとの戦いで投げ出されたナルト少年のリュックに仕込んでおいた影から私の分身を作る。

 私は白みたいに千本を使えないし、仮死状態にするなんて事も出来ない。だから、

 

 ――影遁・影津波(かげつなみ)の術。

 

 横取りする事にした。

 カカシさんの水遁に吹き飛ばされた再不斬さんを影が呑み込む。影の中の謎空間に収納する事は出来ないが、変形した影で包む事は出来る、そしてチャクラを流して固めた。ミナトさんの螺旋丸を一発耐えられる程度の強度を持つから、おいそれと抜け出す事は出来ないだろう。

 分身をもう一つ作りその場に登場する。ひとつは戦況を見渡す為だ。死角が無ければそれだけアドバンテージを取れる。相手は写輪眼を持っているのだからこれくらいは許されるだろう。

 再不斬さんは、影の中にいる時は息をする事が出来ないが、……忍者なら大丈夫だ(偏見)。

 

「なんだってばよ! お前は!」

 

『黒兎と言えば分かるか?』

 

「知るか!」

 

 黒兎というのは私の二つ名だ。脱兎の如く逃げ出す事から鬼鮫さんが“兎ちゃん”と呼び出して何故か兎というのが広まり、私の攻撃が黒色主体なのも合わさって黒兎となった。

 可愛ので仕事の時は使わせてもらっている。お気に入りだ。初対面で名乗る時は基本ウサギちゃんのお面もセットだ。

 

「何ッ!? 黒兎だと!」

 

「知っているの? カカシ先生」

 

「ああ。世界各地で目撃されている何でも屋だ。神出鬼没でフラッと現れ依頼をこなしいつの間に消えている事から、別名幻の何でも屋とも呼ばれている。受けた依頼の中にはAランクレベルの任務も含まれると言われるのに、失敗例は無く、達成率は100%と言われている。屈強な大男だとか、長身の優男、女性、老兵、複数人居るなど正確な情報は殆ど無いが、共通して言われているのが謎の影の能力。そう、今のような術だ。写輪眼で解析出来ないところをみると忍術では無い、もっと異質な……血継限界か?」

 

『ご名答』

 

「まさか、子どもだったとはな。噂の時期から考えるに複数人というのは本当か? ま、そんな事はいい。そのお前が何故再不斬を殺した?」

 

『そこに居る老人を殺せば大金が手に入る』

『だから再不斬の代わりに頂こうと思いまして』

 

 瞬身の術で一気に接近する。最初に飛んで距離を取ろうとしたサスケくんの足を掴み地面に叩きつけた。

 

「がっ!」

 

「「サスケェ(くん)」」

 

 オリジナルの○○ェ頂きました。

 でもナルトくん、叫んでる場合じゃないよ。たまには師匠らしく、厳しさを教えてあげよう。

 

「サクラはタズナさんを守りながら退避しろ! クッ……!」

 

 兵仗那由他の刃を受け止めながらカカシさんは、指示を飛ばす。サクラちゃんには今回は用は無いから、逃げて貰って大丈夫。

 カカシさん達には悪いが、頑張って足止めをしてもらう。ナルト少年とサスケくんの成長の為にね。私も鬼になるよ。

 

 復活したサスケくんが手裏剣を囮に、背後から蹴りを繰り出す。

 が、遅すぎだ。そう言えばまだ木登りの修行もやっていないんだったな。体術はズブの素人と言えど私はこの世界で十年間戦い、生き延びてきた。まだ殺し合いも経験していない子どもの蹴りを受けてやるわけにはいかない。

 飛び込んできた、サスケくんにカウンターを合わせると影で数十メートル先の樹木まで殴り飛ばした。普段なら打撃では無く突き刺すのだが、殺すのが目的では無い。

 折角作ったダミーの印は使わない。カカシさんがいるから直ぐにダミーだとバレてしまう。無駄な労力だ。

 

 ナルト少年は無駄に分身を作り愚直に突っ込む。ただ手数を増やすだけでも有効ではあるのだが、それだけの為に使うにはチャクラの無駄が大き過ぎる。それに、基礎能力は変わらないから、ミズキさんと違って手数が増えただけでは私には届かない。

 私の影は全方位対応だ!

 一瞬にして影がすべてのナルト少年を殴り飛ばす。ナルト少年の分身が消え、ナルト少年本体がサスケくんと同じ様に殴り飛ばされ木に当たった。

 

『連携って知ってるか?』

『何の為の小隊だ?』

『君たちは今まで何を学んで来たのだ?』

 

「クッ!」

「うっ!」

 

 悔しそうにうめく二人に追い打ちをかけるように殴り飛ばす。

 

 カカシさんもそうだ。写輪眼に頼り過ぎ。さっきの戦いでも水遁に水遁をぶつけてどうするんだ。これでは千以上も術を覚えているメリットがまるでない。そして、忍術・体術・幻術を全て見切ると言っても目視しなければ意味がない。

 

『右側が、お留守だ』

 

 このように写輪眼の無い右側を集中的に責められれば写輪眼を十分に活かす事は出来ない。

 

 カカシさんが私の兵仗と遊んでいるうちにナルト少年が目覚めた。流石九尾の人柱力だけあって回復が早い。

 私はナルト少年を縛り付け拘束する。

 

「何するんだってばよ!」

 

『君は大人しく友達が殺られているのを見ていると良いでしょう』

『後で殺してあげます』

 

 そう、縛られたナルト少年に言葉を送ると同時に殺気も送り黙らせる。そういうのは得意では無いのだけど私程度の殺気でも十分だ。

 

 寝ている、サスケくんをダメージを与えないように蹴り飛ばし起こす。

 

「ぐぅ……ぁ」

 

『寝ている場合じゃないぞ』

『そう言えば君の名前うちはというのか?』

『以前うちはイタチという方と戦ったのだが、気のせいか』

『似ているのは顔だけで、彼の親戚にしては弱過ぎる』

『彼は強かった』

 

「てめぇ!」

 

 怒りに呼応してサスケくんの写輪眼が目覚める。予想通りだ。サイ○人と同じで怒りによって新たなる力が目覚めるというそういうアレだ。

 サスケくんは地面を蹴ると、よほど背後が好きなのか瞬時に私の後に躍り出る。

 先程より早くなっているが、瞳力が覚醒して身体能力が上がるのはどういう理屈だろうか? 動きやチャクラが解析出来るから、無駄を省き効率よく動かせるように成ったのだろうか。そうすると、元あったスペック以上の力は引き出せないということだな。

 

「おせぇ!」

 

 確かに私は周りと比べると遅いかも知れないが、たぶんそれはミナトさんたちが人外過ぎる程速いだけだ。

 そして、サスケくんはまだ私を遅いと言えるほど早くはなっていない。

 私の首を狙うカカト落としを、肩から伸びる影で掴み、棒状の影でサスケくんの首を刈り上げる。名付けて、逆さギロチン。……没だな。

 

 意識まで刈り取り地面に転がるサスケくんを傷めないように、しかし派手に蹴り飛ばす。

 

「止めろぉ!」

 

『五月蝿いですよ』

『何も出来ないのだから大人しくこの子が死ぬのを見ていろ』

 

「ふざけんな、クソぉ! クソおぉ!!」

 

「まずい!」

 

 紅いチャクラがナルト少年から吹き出す。やっと解けるか。これでノルマは達成だ。

 カカシさんは焦るが、影の本数を増やし足止めする。印を組ませる隙を与えるつもりも無い。

 

 覚醒したナルト少年が影の拘束を引きちぎる。完全に封印が解けたわけでは無いから、九尾の力と言ってもこの程度か。

 直線で突っ込んで来るナルト少年を、今度は包み込む様に影を置く。簡単に突破されるが、壁で置いた訳では無い。ナルト少年にまとわりついた影にチャクラを通し固める。流石に腕力だけでは、今のナルト少年では無理だ。

 私は完全に動きを封じたナルト少年の頚動脈を締め意識を奪った。

 

 もう、これ以上。戦闘する意味も無い。カカシさんに応戦していた影を収める。

 好きな人を傷付けるのは、思った以上に精神が堪える。

 イタチさんは凄いな。フリだけでもこんなに辛いのに、愛する人を殺すのはどれだけ辛いのだろうか? それも、人一倍愛情の濃い、うちは一族なのに。

 

「何のつもりだ?」

 

『戦闘に時間を掛け過ぎた』

『先に逃げた女の子も追うのにも手間がかかる』

『元々受けていた依頼ではないしこれ以上は割に合わない』

『無駄に命を奪うのは本意ではないが、この二人を守りながら戦うか?』

 

「いや、遠慮しておく」

 

「……」

 

『そうか』

『では、帰らせて貰おう』

 

 そう言い残し私はその場から立ち去った。

 

 

 

 ……やば。再不斬さん白目向いてる。眉毛が無いから一層不気味だ。

 呼吸が止まっているので胸を強く叩いてみる。死んでいませんように。

 

「ブハッ! ……てめぇ。ここはどこだ」

 

『いきなりですね』

『ここは、貴方がはたけカカシと戦闘した場所から南方に一理ほど離れたお寺ですよ』

 

「カカシッ! てめぇが俺をここに連れてきたのか。何が目的だ?」

 

『理由は特に有りませんが、気まぐれというのが近いと思います』

 

「そうか、じゃあな」

 

『ちょっと待って下さい』

 

 そう言って、立ち去ろうする再不斬さんを影で引き止める。お礼も言わずに何処に行くんだ。

 

「チッ、なんだ? 早く言え、殺すぞ」

 

『私はこう見えても石の国の隠れ里で里長をやっているんです』

『最近優秀人材を集めて入るんですがうちに来ませんか?』

 

「てめぇみてぇな餓鬼が里長ぁ! 断る。冗談は死んでからにしなぁ!」

 

 叫びながら首斬り包丁で私の首を斬り飛ばす。短気過ぎだ。

 

「……チッ、カスが」

 

『では、一回死にましたので話を続けますね』

 

「ッ!?」

 

 再不斬さんは私の死体を確認せずに踵を返す。しかしそれは勿論分身だ。私は分身を作り直し再不斬さんを引き止める。

 

「……何をした?」

 

『タネは秘密です』

『忍びなんですから人を見かけで判断してはいけませんよ』

『さて、先程は直ぐに断られてしまいましたがそんなに悪い話では無いと思いますよ』

 

「何ぃ?」

 

『例えばです』

『もし、ガトーが裏切ったらどうしますか?』

 

「殺す」

 

『それも良いでしょう』

『貴方は気に入らない者は殺していきます』

『しかし、その行動の結果更なる敵を作るでしょう』

 

「ふん。俺の目的を阻むのなら誰であろうと殺すまでだ」

 

『はい』

『ですが、その連鎖は続いていきます』

『これではいつに成るか分かりませんね』

『“国取り”』

 

「てめぇ!」

 

『落ち着いて下さい』

『霧隠れのクーデターは有名な話ですよ』

『少し考えれば誰にでも分かる話です』

『ガトーの下で働くのは金が目的でしょう』

『何事にもお金が必要ですから』

『違いますか?』

 

「……」

 

 抜け忍が仕事を取るのは大変な事だ。それこそ非合法な仕事や、足下を見られ今回のような何も保証のない仕事しか受けることは出来ない。

 

『私の下に来れば、安定して力を蓄える事が出来ますよ』

『反旗を翻す、ね』

『私は優秀な働き手が欲しい』

『そして、貴方は里を手に入れる力が欲しい』

『貴方に断る理由は無いはずですが?』

 

「……」

 

『今までと同じです』

『利用し利用される』

『小娘程度、利用出来なくては国取りなど夢のまた夢ですよ』

 

「……ふん。良いだろう。今はてめぇの提案に乗ってやる」

 

『ありがとうございます』

『しばらくは、一緒に頑張りましょう』

 

「チッ、小賢しい糞ガキが」

 

 握手を求めたが、舌打ちが帰ってきた。ツンデレめ。

 コレでガトーの戦力はガタ落ちだ。カカシさんたちの相手に成らないだろう。極貧大名の苦しみを知るがいい。

 

『しばらく、二人旅になりますね』

『しっかりと護衛して下さい』

 

「……てめぇには要らねぇだろ」




~新能力~
◆マーキング
・自分の影を対象に仕込み、その周囲の音を収集する。
・その影から分身を作ることが出来る。
・マーキングに強い光を当てると消滅する。

~新技~
◆遁・影津波の術
・影を波のように変形させ対象を呑み込む技。呑み込んだ後、固形化し閉じ込める事ができる。


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10話・成長と変化

□主人公視点

 

 

「おい、糞ガキ。金を寄越せ」

 

 朝から物騒な顔で物騒な事を言い出すこの男、桃地再不斬。つい先日石隠れに仲間入りした新入りだ。

 

『無い袖は触れないという言葉知ってます?』

 

「ああ?」

 

『うちにはお金が無いということです』

 

「てめぇ、騙しやがったな」

 

『騙したとは人聞きが悪いです』

『うちは完全歩合給制になっていますので』

『頑張って一緒に稼いでいきましょうね!』

 

 少女の胸ぐらを掴みながら怒鳴り散らす極悪面の男と、胸ぐらを捕まれぶらぶらと揺れる可憐な少女。どう見ても通報モノだと思う。

 

「糞がっ! 付き合ってられるか」

 

『何処に行くんですか?』

 

「辞めるんだよ」

 

 再不斬さんは私をそのまま放り投げる。美少女が態と受身を取らないで、尻餅をつき保護欲を誘っているのに無視するなんて、再不斬さんには人の心が無いらしい。それともやはりあっちの気が? いや、白が好きならノーマルか。

 

『あーあー、折角再不斬さんの目的の為にうちの里から何人か貸してあげようと思ったのになぁ』

 

「……」

 

 ぴくりと止まる、再不斬さん。流石に今のは聞き逃せなかったのだろう。

 

『まー、いいんです』

『どうせ』

 

 この鬼教官からは逃げられまい。

 

「あれー? 桃地くんドコイクノ?」

 

 私とお揃いの兎のお面をかぶったミナトさんが再不斬さんの肩を叩く。勿論事前に気配を消して。

 

 ミナトさんは石の隠れ里で教官をしているのだが、他にやる事が無いからなのか、かなり熱を入れて仕事をしている。いや、ミナトさんには給料は無いから仕事ではなく趣味みたいなものか。

 以前、少数精鋭と言ったが正しくその通り。波風ミナトの指導のもと総勢23名が日々鍛錬に励んでいる。

 最初の頃は頑張っているな、と思っていたがミナトさんの要求の幅はだんだんと広がり、今では全員で螺旋丸の習得が合格ラインだ。何人かは既に第三ステップまで入っている。

 ミナトさんは、

 

「木の葉の里には個性的な忍びしかいないからね。僕が教えた子たちは最初から忍びの形が決まってしまっていたから。それに対して、石の里の忍びは良い意味で無個性だ。教えるのが楽しくて仕方ないよ」

 

 と、イイ笑顔で言っていた。

 確かにミナトさんの教え子たちは個性的だ。リンさんの事は知らないが、オビトさんにカカシさん。確かに一癖も二癖もある人たちだ。一番、タイプの近かっただろうカカシさんも写輪眼を手にし、今ではコピー忍者はたけカカシだ。

 ミナトさんの様なタイプの忍びは、誰もいない。確かにそれは残念な事だろう。しかし、だからといってやり過ぎだと思う。

 いったい彼らは何処を目指しているのだろうか? 最終的にはミナトさんみたいに、常に瞬間移動で撹乱しながら、変態的な動きで敵に迫り、螺旋丸でトドメを刺すイヤラシイ忍びが量産されると思うと、……笑えない。

 私は心の中で彼らをミナト軍団と呼んでいる。最早、ミナトの里だ。

 先程再不斬さんが私の言葉に反応したのはこの為だ。金で下手な忍びや有象無象を雇うより余程戦力になる。

 初めて再不斬さんが、里に来た時に修行風景を見て、若干引いていたのを覚えている。分かるよ。私もドン引きしているから。

 

「ほら、桃地くんは遅れて入ったんだから、みんなより頑張らなきゃ」

 

「クソッ! てめぇ、この糞ガキ。極悪兎コンビが! 謀ったな!」

 

「ダメだよ。糞ガキじゃなくて、ちゃんと卯月様と呼ばなくちゃ」

 

 ミナトさんに引き摺られながら連れて行かれる再不斬さん。私には彼がこの先どのように成るのか想像もつかない。

 ただ、私が出来ることは彼の無事を祈る事だけ。

 ――どうかご武運を。かくあれかし。

 

 因みに、卯月様というのは里での私のコードネームだ。兎から卯。そしてに瞳の色から月を連想して、合わせて出来たのが卯月。流石ミナトさんだ。良い名前を付けてくれる。

 

 

 

 木の葉の里では最近、ヒルゼンさんに頼まれて、忍びの子どもたちにチャクラ文字教室を開いている。

 とはいえ教えることとは書く時のコツと子どもたちを見ながら駄目なところを指摘するだけだ。昔、書道もやっていたから綺麗な文字の書き方も教えられる。

 大変なのはやはり子どもというだけあって、忍びの卵でもじっさせて同じ事を教えるのは大変だ。むしろ忍びの卵だけあって元気も普通より有り余っている。希望制で希望した人だけ来ているから目立ってやる気のない子はいないのは流石だ。小さいと言って馬鹿には出来ない。

 

「てかさー、字上手く書けても強く成るのか? コレ!」

 

 中には例外もいるが。大方、エビス先生かヒルゼンさんに言われて来ているのだろう。

 

『うーん』

『先生は忍者じゃありませんし、強いわけでは無いのですが』

 

 そう言って、先日貰ったクナイを懐から取り出す。左手で持ち刃を上に向ける。

 

「それがどーしたんだ。上手く投げられても関係無いぞ!」

 

『いえ』

『見ていて下さい』

 

 ――セイッ!

 心の中で息を吐き、右手で手刀を振り下ろす。普通なら手の方が切れるだろうが、逆にクナイがキュイィィィンッ! という甲高い音を立てて切断された。

 感覚ではなく、一から十まで操作して螺旋丸を使える様になった私には容易な事だ。

 

「スッゲー!」

 

「「……」」

 

『しっかりとチャクラ操作を覚えれば、私でも簡単にこんな事が出来ます』

『他にも沢山忍術が使える様になったり、術も強力になる利点があるらしいです』

『何事も基礎が重要なのですよ』

 

 興奮する木ノ葉丸くんとは逆に周りは静まり返ってしまった。これでは授業にならないな。

 

『では今日はここまでにします』

『気をつけて帰って下さいね』

 

 教室が終わると子どもたちは静かなまま帰っていった。

 一人を除いて。

 

「さっきのどうやったんだ、コレ!」

 

 難しい事はしていない。少量のチャクラを極小さい面積で高速縦回転させただけだ。

 木ノ葉丸くんは下忍時に影分身、螺旋丸、大玉螺旋丸、手裏剣影分身などの技を短期間で覚える天才だ。とはいえ、扱うにはまだ難しいだろう。

 チャクラの形態変化の基礎から覚えなくてはいけない。

 

 ふと思ったのだが、歴代最強の火影と言われた猿飛ヒルゼン。幼いながらに複数の高難易度忍術を使いこなし、ペインの一人とも渡り合う猿飛木ノ葉丸。

 そして、猿飛アスマ。何も言うまい……ここら辺は木の葉のブラックボックスだ。

 

『そうですね』

『教えてあげるのもいいのですが辛い修行になりますよ?』

『先生も出来るようになるまでに十数年かかりました』

 

「望むところだ。火影に成るのに近道なんて無いんだぞ。コレェ!」

 

『そうですか』

『では、一緒に来てください』

 

 その言葉の裏を知る私は自然と頬が緩んでしまう。私は頑張る全ての子どもの味方だ。優しく、木ノ葉丸くんの頭を撫でてあげる。

 

「アレ? 影先生。今お帰りですか?」

 

『はい』

『イルカ先生も?』

 

「えぇ。あ、もし良かったら、こ、この後お食事でもどうでしょうか?」

 

『申し訳ありません』

『木ノ葉丸くんと用事がありまして』

 

「そうですかぁ……」

 

「残念だったな、イルカ先生。影先生は簡単にゲットなんて出来ないぞ」

 

「な、な、な、何を言ってるんだ木ノ葉丸!」

 

「ヘッ! じゃーな、イルカ先生!」

 

「こら、待ちなさい!」

 

 項垂れていたイルカさんは、木ノ葉丸くんに何かを言われて動揺する。いったい何を言ったのだろうか?

 木ノ葉丸くんは笑いながらイルカさんの言葉を無視して、私の手を引いて走り出した。

 一連の流れを理解出来ないが、取り敢えずイルカさんにお辞儀をして木ノ葉丸くんと一緒にアカデミーを後にした。

 

 

「何だ? コレ!」

 

 木の葉の外れにある林に来ると、私は水風船を膨らませて、木ノ葉丸くんに渡す。形態変化の修行法なんてこれしか知らない。

 そう考えると、習得する過程で段階的に忍びとして成長できる螺旋丸は実に合理的な技だと思う。

 

『見ていて下さい』

 

「ん?」

 

 私は左手で水風船をもちチャクラで回転させる。だんだん平ベッたくなり最後には、パンッ! と音をたてて破れた。

 

「おお!」

 

『アカデミーで習ったかも知れませんが、今のような行為を形態変化というそうです』

『先ほどクナイを切った技を使うには、この形態変化を自在にこなせるように成らなくてはなりません』

『水風船が割れないようでは習得は遠いですよ』

 

「よっしゃー! 速効でわってやるぞ! コレ!」

 

 うおおぉ! と叫びながら、パチャパチャという音をたてて水を回し始める。螺旋丸はナルト少年が教える技だからやめておこう。

 

『回転以外の方法で割っても良いですが目的は割ることでは無いということを覚えていて下さいね』

 

「分かってる! ううぉぉあぁぁいっ!!」

 

 流石猿飛の血をひいているだけあってチャクラの形態変化には見張るものがある。この分だと今日中に割ってしまうかもしれないな。

 もしかしたら中忍試験の時のナルト少年を超えてしまうだろうか? いや、ナルト少年には九尾と、私の中ではこの世界で最高の指導者である自来也さんが付いているのだ。大丈夫だろう。



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11話・白銀の夢

■白視点

 

 

 世界が彩り始めたのはいつ頃だろうか?

 以前の僕にはこの世界に何も無かった。真っ白な――。まるで白銀の雪景色のように。

 

 母が血継限界を持っていた事に気付いた父はその手で母を殺した。そして、その血を受け継ぐ僕を殺そうとした父を殺してしまった。

 信じられなかった。あんなにも愛して居たはずなのに人とは違う特異な能力を持つだけで殺せてしまうのだろうか。そして、僕自身も死の恐怖だけで愛していた父を殺せてしまうなんて。

 最後に見た、僕を見る父の瞳は息子を見る目ではなく、まるで人では無い何かを見る様な目だった。

 その時の僕には父と母が全てで、彼から必要とされて無い僕は、世界から拒絶されているように感じた。

 そんな時に出会ったのが影姉さんだった。

 

『一緒に来る?』

 

「……はい」

 

 最初からそこに居たかのように佇み、この現状に何も聞かず、ただ一言黒く浮かぶ文字と一緒にそこで僕を見ていた。

 抵抗する気は全くしなかった。

 僕を見る影姉さんの目は、僕と同じ世界に拒絶され孤独を知る人の目だった。だから、自分と同じ匂いを放つこの人に自然と惹かれてしまったのかもしれない。

 

 初めて合った時の影姉さんは、殆ど笑わず、それどころか表情すらあまり変えることの無い人だった。

 そして、その時の影姉さんは、まるで死に急ぐかのように自ら進んで危険な仕事をこなしていた。

 

 ある日、任務に同行していた僕が傷付けられると、影姉さんは鬼のような形相で、傷付けた忍び達を皆殺しにした。声の無い慟哭を上げながら、一瞬で全てを斬り捨て。……それこそ、肉片すら残らないほど切り刻み殺した。その時初めて影姉さんにも感情が有るのだと知った。

 その日の夜、影姉さんは僕の布団の中に潜りこんだまま寝た。

 隣同士に寝具をひいていたため、その時は間違えたのかと思ったが、その日から人を殺した日には、決まって僕を抱き締めながら眠るようになった。

 しばらくして眠っている影姉さんの、小さな背中が震えている事に気付いた。冷徹で誰よりも強い人のはずなのに、僕にはそれがとても弱々しくうつった。

 影姉さんは心が弱った時に隠さず、僕だけに縋る。それが、誰にも、父にすら必要とされていなかった僕が必要とされたようで嬉しかった。

 

 人の温もりという支えが無ければ、明日にも潰れてしまう。そんな危うさを持つ影姉さんと、誰かに必要とされなければ自分すら消えてしまいそうな僕。

 僕らは必要とし必要とされ、互いに依存し合う関係だったろう。いや、それは今でも変わらないかも知れない。むしろ、年月が経つにつれて影姉さんへの想いの深さは大きくなったと思う。

 

 変わったのは、影姉さんに感情がよく見え始めた事だ。

 時が変えたのか、何かきっかけがあったのか分からない。ただその時の影姉さんはこう言っていた。

 

『白、私はね、昔はただ生き残れば良かった。良いと思ってた。だけどね、この世界の大切な人達が死んで、私って何だろうって。……決められた運命を傍観する為だけに生まれてきたのかな? って。だけどね、白と出会って今度は失いたくないと思っている事に気が付いたんだ。私は何人も人を殺している。きっとろくな死に方はしない。でもね。気付いて初めて、この世界でこうしたいって夢が出来たんだ。白のいる……ううん。やっぱり秘密』

 

 その時の影姉さんは、いたずらっ子のような、それでいて優しい綺麗な笑顔で笑っていた。

 

 ああ――。それからだ。僕にも世界に色がついたのは。

 そして僕にも目標が出来た。影姉さんの夢が何か分からないけど、その夢ごと影姉さんを支えたい。と。

 

 

 

『白、おはよ』

 

「おはようございます、影姉さん」

 

 僕は揺すられながら目を覚ます。

 となりには姉さんの顔。成長して少し恥かしくなったが、それ以上に影姉さんが傍にいる事が何よりも嬉しかった。

 

『もう少し、ねる?』

 

「いえ、微睡むのも良いですが、今日は影姉さんと沢山過ごしたいので」

 

『そう?』

『白の寝顔を見られないのは少し残念』

 

「ふふ、それは少し恥ずかしいですね。では、朝食を作るので待っていて下さい」

 

『実はもう出来てる』

 

「え? 影姉さんが作ったんですか?」

 

『そう』

『今日は私と白が初めて出会った日だから』

『白にとっては素直に喜べないと思うけど』

『二人で過ごしたいと思って』

 

 勿論覚えていた。確かに、両親の命日でもあるが、影姉さんと初めて出会った日でもある。忘れるはずがない。

 

「いいえ。とても嬉しいです」

 

『それで』

『あの』

『プレゼントを用意したのだけど』

 

 そう言って影から装飾された箱を取り出す。

 箱を開けると、そこにあったのは雪の結晶を形どった髪飾りだ。僕の能力を見て選んでくれたのだろうか?

 昔はこの血継限界も忌み嫌うものでしか無かった。だけど、たった一人。影姉さんだけは、綺麗だと、好きだと言ってくれた。

 

『えっと』

『嬉しく無かった?』

 

 僕が黙っていると珍しく、オロオロする影姉さん。とても愛らしい。

 

「いえ、……とても、嬉しいです!」

 

 自然と涙がこぼれる。

 嬉しくないはずが無かった。影姉さんのプレゼントという上に、雪の結晶は影姉さんが僕の全てを受け入れてくれた証だ。

 影姉さんは、何となく感覚で選んだのかも知れない。それでも、むしろ、知った上で気にせず選んでくれたのが何よりも嬉しかった。

 

「ありがとう……ございます」

 

『よかった』

 

 安心したのか優しく微笑むと、影姉さんは何時ものように優しく、僕を抱きしめる。

 

 ――いつまでも、こんな時間が続けばいいのに。




次回、中忍試験に入ります。


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12話・中忍試験へ

□主人公視点

 

 

 六月末。

 おでん屋からクレープ屋に屋台を変える。この時期になると、中忍試験にあわせて知らない人間もチラホラと見えるようになる。

 人も多くなるから、片手で移動しながら食べられるものの方がよく売れる。

 

「すみませんお姉さん。その、チョコバナナクレープってやつ一つ貰える?」

 

『はい、かしこまりました』

 

 タイムリーに現れたのは、砂の里の額宛をして四つのボンボンを頭に付けた、大きな扇を持った少女。テマリちゃんか。忍びと言っても女の子。

 甘いモノの誘惑には勝てないのだろう。

 

『はい、お待ちどうさまです』

 

「ありがとう」

 

『彼処に居るのはお連れさんですか?』

 

「え、……って、カンクロウ! すみません、お姉さん。お代ここに置いておきますね」

 

 カンクロウ君がぶつかった木ノ葉丸君たちに絡んでいた。

 コレは、まずい。何がまずいかと言うと木ノ葉丸君は今や“木の葉のジェイソン・ボーヒーズ”。ジェイソンが使うのはチェーンソーではなく鉈だというのは置いておいて、木ノ葉丸君は私が教えた技を見事吸収してしまった。いやはや猿飛の血筋は恐ろしい。

 

 本職でない私が教えてもここまで伸びるのにアカデミーは何をやっているのか? 木登りの修行までくらいはやらせてもいいと思う。

 

 木ノ葉丸くんに教えた技は発動範囲こそ短いが当たれば致命打に成りかねない。

 木ノ葉丸君はまだアカデミー生。中忍や上忍なら問題ないと思うが下忍なら“油断していた”なんていう事もあるだろう。

 

「ジェノサイド・チェーンソー!!」

 

「うぉっ!」

 

 カンクロウ君に胸ぐらを掴まれた木ノ葉丸君は技名を叫びながらラリアットのようにカンクロウ君の首へチョップを放つ。

 

 技のネーミングは聞かれたときに、とっさに言ってしまった。あの、キラキラした瞳で名前を聞かれたとき、名前の無い、ただのチャクラを回転させながらするチョップです、とは言えなかったのだ。喜んでくれたのはせめてもの救いだ。

 

 狙われたカンクロウ君は流石に下忍。嫌な予感がしたのか、当たる直前にクナイの腹で首を守った。

 ガキィイイッ! という音を立てて弾き飛ばされる少し削れたクナイ。まだまだ回転数が未熟なのだろう。切断には至らなかったようだ。

 それに、強力な技を覚えてもまだまだ木ノ葉丸君に扱う技量はないな。

 

 カンクロウ君の手から木ノ葉丸は脱出すると、シュタッ! と猫のように着地した。

 

「危ないじゃん! ぬァッ!?」

 

 カンクロウ君が追い討ちをするようにクナイで木ノ葉丸君を狙おうとするが、外から飛んで来た手裏剣によって阻止された。

 

「何やってんだよ。ウスラトンカチ」

 

「サスケェ!」

 

「へぇ、平和ボケしてると思ってたけど。木の葉の忍びもけっこうやるじゃん?」

 

 サスケ君の登場にカンクロウ君の警戒が高まる。烏を構え、まさに一指触発だ。

 しかし、それも直ぐに終わる事になる。我愛羅君の登場に動きが固まるテマリちゃんとカンクロウ君。まるで蛇に睨まれた蛙だ。我愛羅君に睨まれ、笑顔が引き攣っているテマリちゃんは、少し可愛いと思う。

 

 我愛羅君にたしなめられカンクロウ君の怒りも鎮静化する。最後に何故か、サスケ君と我愛羅君が名前を交換し合い、この場は安全に解散となった。

 なんだこれ。決勝戦で会おうぜ! みたいなノリだろうか。

 

 テマリちゃんは我愛羅君が登場した時にクレープを落としてしまい、少ししょんぼりしていた。

 私は肩を落として去っていくテマリちゃんの手を引いた。

 

「えっ?」

 

『落としちゃったでしょ?』

『他の人には秘密ね』

 

 そう書いて、テマリちゃんが落とした時に作ったクレープを渡した。

 

「お姉さん……。ありがとう!」

 

 たとえ忍びだとしても、やっぱり子どもには自然な笑顔の方が似合う。

 

「テマリ、何してんだよ。おいていくじゃん?」

 

「あ、ああ。すまないカンクロウ。じゃあ、ありがとうね。お姉さん」

 

 呼ばれたテマリちゃんは、先に進むカンクロウ君と我愛羅君を追いかけて駆けていく。

 

 さて、もう一つフォローしなくてはいけないことが残っている。

 腐っても一応私も先生。たまには先生らしいこともしないといけない。

 

 

 

 木ノ葉丸君を追いかけ、少しして、一人のところを見つけた。先を行く木ノ葉丸君の手を引いて止めた。

 

「先生! 何してるんだこんな所で」

 

 私はこちらに振り向いた木ノ葉丸君に拳骨をした。

 

「イテッ! 先生、何するんだコレ!」

 

『何するんだ、じゃありません』

『アカデミーを卒業するまで人に使うのは禁止したじゃないですか』

 

「み、見てたのか。う、……でも」

 

『でも、ではありません』

『良いですか?』

『さきほど、木ノ葉丸君は彼の首を狙っていましたが当たれば死んでいたのですよ』

 

 言われてようやく、自分がした事に気が付いたのだろう。今更恐ろしくなり、その瞳に涙を浮かべて震える。

 

 もしかしたら、アカデミーが強い術を覚えさせないのは、このせいかも知れない。子どもにはまだ物事の分別が付いていない。力があっても振り回されるだけだ。

 そして、力に振り回された先に待っているのは、決して拭えない重ねた罪過への懊悩。それを抱えながら生き続ける事になる。それは、力に振り回された私が一番良く知る事だ。

 

『いいですか』

『貴方は忍びです』

『いつかはそれも避けられない日が来るでしょう』

『でもね、木ノ葉丸』

『なぜ、その拳を振るうのか』

『なぜ、戦うのか』

『なぜ、殺すのか』

『その意味を考えなさい』

『貴方は火影になるのでしょう?』

 

 そう、私と違って。

 原作のように進めばナルト少年が火影になるだろう。そして木ノ葉丸君が火影になるとしたらナルト少年を継ぐことになる。ならば、そこに修羅は要らない。

 

『自分の中で、その答えが見つかるまで私が教えた技は禁止にします』

『いいですね、木ノ葉丸』

 

「ゔゔ……。はい。ぜんぜぇ!」

 

 泣き出してしまった木ノ葉丸君の頭を撫でると、胸の中に飛び込んできた。

 根はいい子なのだ。ヒルゼンさんの孫でナルト少年の弟分だから、悪い子なはずが無い。

 

 木ノ葉丸君が落ち着くまで、背中を撫でてあげる。やはり、子どもは良いな。

 

 いっその事、私の権限で石の国にでっかい孤児院を作ってしまうか。

 他の国より軍備費と建築費が浮いているから、そこを上手く回せば。……うん。行けるかもしれない。計画を練って止められる前に一気に進めてしまおう。

 

 落ち着いた木ノ葉丸君を家まで送り届け屋台に戻る。殆どそのまま出てしまっていたが、何も手をつけられ無かった。他国の人間が増えている時期なのに、木の葉の里は本当に治安が良いと思う。うちの国も見習わなくては成らない。

 因みに石隠れの里は修練所と居住施設が有るだけで、治安も何も無い。これはうちの里だけでは無く、何処も似たようなものだ。例外的に五大国の隠れ里だけがちゃんと人里の形になっているに過ぎない。

 

「あれ? おでん終わっちゃったの?」

 

『あ、カカシさん。お久しぶりです』

『暖かくなったので、おでんも売れ行きが落ちてしまいましたので一旦終了しました』

 

「そっか、残念だなー」

 

『そう言えばカカシさんは甘いのはお嫌いでしたね』

 

「うーん。ま、食えない事は無いんだけど、どうにもね」

 

『そう言えば初秋刀魚仕入れたのですが、良かったら貰って下さい』

 

「え? 良いの?」

 

『はい』

『偶然頂いたもので、以前カカシさんが好きだと言っていたのでお裾分けです』

 

「悪いね。じゃ、有り難くいただくよ」

 

 本当はわざわざ元渦の国の海から仕入れて来たのだ。

 秋の季語にもなっている秋刀魚。実は夏が一番美味しい。夏の初めにとれる秋刀魚はまるまる太っていてたっぷり油がたっぷり乗っている。

 夏秋刀魚は近海では取れず、保存もきかない為に一部の人しか食べられない。だから、一般的に秋刀魚と言えば秋なのだ。

 そんな夏秋刀魚を入手する為に、わざわざ漁船に同行して捕ってきたのだ。

 だけど、こうして好感度上げて、上手いこと情報をもらして貰えれば安いもの。情報が貰えなくても仲良くしていて損は無い。

 

『カカシさんはナルトくんたちの担当上忍でしたよね?』

『今年は中人試験受けるのですか?』

『あ、この秋刀魚は足が早いので早めに食べて下さいね』

『お腹を壊して仕事に影響したら大変です』

 

「りょーかい。そう言えば、おねーさんってナルトと知り合いだっけ? なんか、ナルトの奴おねーさんの事、師匠って呼んでるけどどういう意味なの?」

 

 上手く誤魔化されてしまったようだ。やはり仕事の事はあまり話してはいけないのかな。

 

『秘密です』

『師匠なんて柄じゃ無いのですけどね』

 

 本当にそうだ。エロ忍術の師匠なんて不本意で不名誉に過ぎる。

 私がナルト少年のエロ忍術の師匠だなんて言えるはずもないので、私も笑いながら誤魔化す。

 

「まー、ナルトの事だからろくな理由じゃ無いんでしょ。じゃ、俺はここら辺で。秋刀魚ありがとね」

 

 ……鋭いな。

 

『はい。また遊びに来てください』

『ナルトくんもビシバシ鍛えて下さいね』

 

「アハハ。ご希望にこたえてビシバシ鍛えに行きますか。それじゃ、また」

 

 そう言い残すとカカシさんは、スッと瞬身の術でその場から立ち去った。

 

 聞かずともナルト少年は中忍試験に出るだろう。そして例のあの人もここに来るはず。ヴォルデモートでは無くて大蛇丸の事だ。どちらも似たようなものだけど。

 大蛇丸の事は嫌いでは無いが、私もまだ死ぬ訳にはいかない身だ。私は私のために、大蛇丸の命を奪う。

 

 日も落ちて、お客さんも来ないだろう。今日は店仕舞だ。

 店を仕舞い闇の中に身をゆだねる。

 影渡り。その身を影に同化させることで影を移動する新しい能力だ。

 戦いの前に出来ることは、やっておく。仕事で私がやる事は今も昔も誰が相手でも変わらない。やれることをやるだけだ。やった事の上に結果が生まれるのなら、ベターを積み重ねていくしか無いのだ。

 私はもう、後悔はしたくない。



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13話・死の森の迎撃戦

主人公の口調を一部変更しました。(2015/12/10)


□主人公視点

 

 

 私は今回で大蛇丸との因縁を終らすつもりだ。

 ならば、サスケ君に大蛇丸の呪印を付けられるのはまずいかもしれない。勿論使いこなせる様に成る可能性も十分にあるが、大蛇丸が居なければ十分に制御しきれずに暴走してしまう可能性もおおいにある。それに、もともとサスケ君にはない力だ。そんなもの無い方が良い。

 

 今回の第一の目的はサスケ君に呪印がかけられるのを防ぐ事。

 普通の人間なら、不確定要素の存在を知った時点で作戦を辞めてしまう恐れも有るが、相手は大蛇丸だ。奴のプライドがそれを許さないだろう。木の葉落としを優先するはずだ。しかし、作戦に支障のでる負傷をしてしまった場合、いくら大蛇丸でも作戦を続行する事は無いだろう。

 だから、絶対に殺せる確信を持てなければ、引き際を把握していなければ成らない。

 再度言うが今作戦の第一目的はサスケ君を守る事。あわよくば、大蛇丸の命を狙いたいがそれは多分無理だろう。地形は私を見方するが、時間が少ない。すぐに他の人が駆けつけて仕舞うはずだ。普通の人間が来るのは良いが、カカシさんや日向家、火影様が来れば私の正体も露呈してしまうだろう。

 故に今作戦で避けるべき事は、日向ネジくんと日向ヒナタちゃんとの遭遇だ白眼で覚えられてしまえば厄介。チャクラで人を見分けられる彼らは、私にとって一番の天敵とも言える。

 そして、木の葉の里から大蛇丸を無事撤退させてしまう事だ。

 

 やる事が決まってしまえば、後は期を待つだけ。

 中忍試験前に、ナルト少年をマーキングし時を待つ。

 

 順調に一次試験のテストが終わり二次試験が始まる。

 開始前のアンコさんの声に、少し反応してしまった。もしかしたら、私は少しM気質を持っているかも知れない。

 

 試験が始まってすぐに辺りから他の下忍の悲鳴が聞こえ始める。

 もう直ぐだ。

 大蛇丸との戦いの前の緊張感にだんだんと血の冷える感覚。思考が醒め、視界が広がる。これもまた、戦いに慣れていくうちに覚えてしまった戦うための技術だ。

 ナルト少年たちは順調に進んで行く。

 雨隠れの忍びがNARUTO少年に変化するが、サスケ君の名推理で順調に迎撃した。

 そういう頭脳プレイはサクラちゃんの出番じゃないのかな? テストの勉強が出来ても駄目ということか。

 写輪眼を使い見破らないという事は、もしかしたら写輪眼では幻術は見破れないのかもしれない。

 

 今後に備え、ナルト少年達が策を立てていると、突如豪風の音が鳴り響いた。

 来たか。

 おそらく大蛇丸の風遁だろう。

 飛ばされるナルト少年から、爆風に紛れて分身を作った。

 初めて対面する三忍クラスの殺気に呑まれるサスケ君とサクラちゃん。サクラちゃんは粗相をしてしまうが、アレは仕方ない。私も経験した事だ。

 

 引き腰のサスケ君を大蛇丸がいたぶる様に攻め続ける。

 そして、私はそれを見て気付いてしまった。

 ……なんて、いうか。似てるいるんだよな。サスケ君と大蛇丸。優勢時の話し方とか劣勢時の慌て方が。もっとも、大蛇丸の方が数倍劣悪だが。

 だから、サスケ君の台詞に血が疼いてしまうのかもしれない。

 

 ナルト少年が来ると場の空気は一転する。この頃から既に一種のカリスマがあったのか。しかし、この戦力差がそれで覆る訳ではない。

 覚醒したナルト少年に発破をかけられて、サスケ君も手裏剣や忍術を駆使して善戦するが、大蛇丸に傷を付けるには届かなかった。

 

 サスケ君たちもよく頑張ったがここからは、私の仕事だ。

 

 私は伸びた大蛇丸の首を狙い、影の刃を振り下ろす。しかし、三忍がこの程度で殺れる筈もなく察知されかわされる。下忍を相手にしていたのだから、油断していてくれれば良かったのに。

 ……音も殺気も無いはずなのに何故分かるのだろうか。私もなんとなく分かるのだが、何故分かるのかが分からない。

 

「貴女は、再不斬を殺した」

 

「お前ッ!」

 

 私の登場にサクラちゃんとサスケ君が叫ぶ。

 再不斬さんは死んで居ないんですけどね。

 サスケ君は以前、沢山挑発してしまったので私を見ると怒りが再発したようだ。助けに来たのに背中から刺されそうな殺気。

 フレンドリーファイヤが、無いことを切に願う。

 

「チィッ! 貴様は……」

 

『お久しぶり』

 

「……此処で貴方と戦うのには準備が足りないわね」

 

『イタチさんの劫略に失敗した貴方はきっとサスケ君を狙うと思っていた』

『せせこましい事だな』

 

「ッ……! コソコソと鼠のように這いまわっていれば良いものを!」

 

『図星を付かれて怒ったか?』

 

 怖い。あまりの恐怖に涙が出そうだ。でも、そうも言っていられない。

 

「イタチだと! お前やっぱりイタチの事を知っていたのか!?」

 

『秘密だ』

 

 今私が対面しているのは伝説の三忍なのだ。余計な事に気を使わせないで欲しい。

 

 日の刺さないような深い森の中も、私のテリトリーだ。

 そして、戦闘が派手に成ればなるほど戦況は大蛇丸に不利になる。制限された状況でどれだけ抗えるかな?

 時間は無い。一気呵成。

 

 ――弾幕はパワーだ。散れ 影貫礫!

 

 影の弾幕の嵐が周囲の木々を削りながら大蛇丸を襲う。左右前方から降り注ぐ弾丸の雨を、防御せずにギリギリで避ける。

 この術の性質は見抜いているのだろう。この術の真価は貫通力。生半可な盾ならば、盾ごと蜂の巣にしていた。

 このまま続けてもジリ貧だが、大蛇丸相手に手を休ませるのはまずい。

 

 まだだ。まだ終わらん!

 

 そう、自分に発破をかけて、影貫礫に術を追加する。影木の葉落としと螺旋槌だ。上下左右前方から大蛇丸を狙う。コレを耐えきれば化物だが、大蛇丸は正真正銘の化物。コレで殺れるとは思っていない。

 しばらく弾幕を浴びせ続けるが、大蛇丸の気配が消えたことを察知し攻撃対象をやめる。

 音が止み、攻撃の余波で巻き上げられた土煙が晴れる。木々はなぎ倒され、地面は抉れているが、そこに大蛇丸の死体は無かった。

 逃げられたか? いや……。

 見失ったなら上か下かと相場が決まっている。ならば、取り敢えず下だ!

 

 ――影遁・黒渦(くろうず)

 

 ただ、螺旋丸と同じ事を影でしいるだけ。それを地面に叩きつけると、半径三十メートル程のクレーターが出来る。

 

 二択は苦手だが今回は当たりだった。

 

「クッ……。何故」

 

『カン』

 

 ネタバレすると。大蛇丸が土遁を使える事は先ほど地面に潜んでいた事から分かっていた。そして、影木の葉の舞う中、上に回避する事はほぼ不可能。

 よって消却的に地中にいる可能性が高いと判断した。

 

 しかし、時間は掛け過ぎた。これで五体満足となるならば、これ以上続けるのは得策ではない。中途半端は望むところじゃないがタイムオーバーだ。

 

「あら。随分ボロボロじゃない。大蛇丸」

 

「フン。こんなものは怪我のうちに入らないわ」

 

 樹木を背にし、アンコさんが登場する。

 特別上忍だから戦力としては期待していなが、仲間が増えると少し心が楽になる。ヘイトが分散されるという意味で。

 因みに特別上忍とは、名前からして一見上忍の中で特別な存在なのかと思いきや、中忍の中で特殊なスキルが考慮され特別に上忍になった人たちの事だ。だから、戦力的な実力としては中忍なのだ。完全に名前負である。

 

 しかし、人が増えたと言っても私にこれ以上続ける気は無いので、大蛇丸が撤退するように促す。私の全力を持ってのポーカーフェイスだ。頑張れ私の表情筋。

 出来るだけ余裕を見せつけながら、薄ら笑う。

 

『興が削がれた』

『私は撤退する事にする』

『それとも、まだ続けるか?』

 

「……止めておくわ」

 

 いい判断だ。このまま続ければ、大蛇丸にとっては里な上忍や火影が押し寄せて来る。私にとっても引いてもらわなければ困る。

 大蛇丸は踵を返すと森の闇の中に飛んでいく。

 

「簡単に、逃がすと思ってんの!」

 

『させんよ』

 

 アンコさんにとっては絶好のチャンスだったのだろうが、私にとってはそうではない。

 このまま、ヒルゼンさんたちが来るまで粘ってるのも良いかも、という欲が出てくるが最初に決めた作戦を覆すのはあまり良くない。

 そもそも、この状況も考慮して引くと決めた事だ。ならば、ここは引き時だ。

 

 私は、追いかけようとしたアンコさんを影の刃で牽制し動きを止める。

 そろそろ、ネジが来る予定なので私も逃げなくては成らないのだ。戦闘は終わりにしてもらおう。

 

「貴女……。受験生じゃないわね。何故、大蛇丸を逃がした。何者だ? 答えろ!」

 

「……」

 

 わざわざ質問に答える意味は無い。既に大蛇丸は離脱し、私も消えてミッションコンプリートだ。ランクを付けるならCくらいか。

 とはいえ、ただ、このまま引っ掻き回して帰るのも目覚めが悪い。

 誰にも気づかれないようにサスケ君にだけメッセージを送った。

 

『もし、イタチさんの話を聞きたいのなら強く成りなさい』

『私が戦いたくないと思う程に強く』

『そしたら、私の知っていること』

『貴方の聞きたいことを教えてあげる』

 

 今のままではマサラタウンを出発したレッドがそのままポケモンリーグに挑む様なものだ。

 もっと強く成らなくてはならない。イタチさんたちの前に立つというのはそういう事だ。

 

『中忍試験頑張って』

 

「ッ!? 待てっ!」

 

 慌てて、サスケ君は私を呼び止めるが、待てと言われて待つ人はいない。

 私は闇の中に霧散させるように、分身を消した。



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14話・最終試験前夜

□主人公視点

 

 

「はぁー。俺って才能無いんですかね」

 

 二次試験も無事終わり、何故かイルカさんに夕食を誘われ、ご一緒していた。いつの間にか、イルカさんの苦労話になってしまったが、奢ってもらうだけというのも悪いので、これくらいは付き合わないといけないだろう。

 因みに私はお酒を飲まない。しっかりと身体が出来ていないせいか、アルコールを摂取すると前後不覚に成り、一晩の記憶が無くなってしまう。

 この世界で一晩自分を失うのは致命的だ。命がいくつあっても足りない。

 

『そんなこと無いですよ』

 

 お酌を注ぎながら話を聞く。どうやら成長したナルト少年の姿を見て、中忍試験を受けることに反対した自分より、試練を与える事で成長を促せたカカシさんに劣等感を覚えているようだ。

 忍びとしては、イルカさんは数回Sランクをこなしたとはいえ、カカシさんは現役で元上司だ。故に、確固たる差はイルカさん自身分かっているはず。

 しかし、教育者としての自負がイルカさんの中にあったのだろう。譲れない部分で負け、打ち負かされたというところか。

 一般人からしたら、木の葉の忍びの中忍というだけで十分エリートなんだけどな。

 

『勿論、忍びである以上強く成らなくてはいけないんでしょう』

『でも、イルカ先生が教えたからこそ真っ直ぐに強く成れるのだと思いますよ』

 

 人というのは、誘惑に悪意に怠惰に怒りに、様々な事が影響し最初の自分を変えていく。

 ナルト少年も例外では無い。親の居ない孤独と里の人間からの憎悪、才能への劣等感。それでも、ナルト少年は真っ直ぐに努力し続けている。

 元来の強さもあったのだろう。しかし、それでもイルカさんが与えた愛があったからこそ、曲がらずに強く在れるのだろう。

 

「そうですかね?」

 

『少なくとも私はそう思いますよ』

 

 忍びとして強くする事に関しては上忍のカカシさんの方が上手だ。しかし、人として強くする事は誰に出来る事でもない。

 どちらが上かという事ではなく、この時代に木の葉の忍びとして人に優しさを教えられるイルカさんは純粋に尊敬出来ると思う。

 

 しかし、イルカさんは納得のいかないご様子。でも、それもいいかもしれない。男なんてものは、いくら歳を取ろうとも“どちらが優れているか”という世界だ。他人の芝生が青く見えるくらいの方が丁度いい。

 しかし、ナルト少年も幸せものだろう。何処の世界を見ても、ここまで先生に想われる生徒は稀だ。ナルト少年はいたずらっ子だったから、出来の悪い生徒ほど可愛いの典型だろう。

 

『ナルトくんは可愛いですからね』

『取られて嫉妬するのも分かります』

 

「な、何言ってるんですか! そんなこと……」『無いですか?』

 

「……嫉妬とは少し違います。私はずっとナルトのヤンチャな面ばかり見てきましたから。しばらく見ないうちに忍びとして成長したナルトを見て少し寂しくなりました」

 

『親離れする子どもを見送る親の心境というやつですか』

『この機会にご結婚して子どもでも作ったらどうですか?』

 

「け、け、け、結婚!?」

 

『はい』

『良い人はいらっしゃらないんですか?』

 

「残念ながら。て、天日先生はどうでなんですか?」

 

『私ですか?』

『私も居ませんね』

 

 私は男性より女性の方に性的指向を覚える。だから男性と付き合うことは無いだろう。白くらい可愛いのならば話は別だが、男性と付き合っている自分を想像出来ない。

 

「そうなんですか。もし、良かったら……」

 

『それに、私は子どもがつくれませんから』

 

「え、?」

 

『子どもがつくれないんです』

『そんな女と付き合いたいような奇特な男も居ませんしね』

 

「それは……」

 

 いたとしても、お断りだ。本当の外見を知っているなら相手はロリコンだろうし、子どもが作れないと知ってて喜々して付き合いたいというような身体目的の男も嫌だ。

 もし、ロリコンではなくて、身体目的でも無く、子どもができなくても一緒に居たいと言うような人間が居るならば一考の価値はあるかも知れないな。

 そういう、愚直な人間は好ましい。性別関わらず一緒に居ても不快感は無いだろう。

 

『すみません、変なお話をして』

 

「私は……、天日先生がそうだとしても魅力的な女性だと思いますよ!」

 

『気を使ってくれてありがとうございます』

 

「いや、気を使っている訳では……」

 

『あ、そろそろ遅い時間ですね』

『お食事ご馳走様でした。美味しかったです』

『イルカ先生も身体にさわるので、飲み過ぎ無いように気をつけて下さいね』

『では、おやすみなさい』

 

 時間を見ると10時を回っていた。私は立ち上がり頭を下げる。

 店を出る時に、店長が酒を置きながらイルカ先生の肩を叩いていた。

 もしかして、知り合いの店だったのかもしれない。それで、私を誘ったのだろうか? 

 なかなか独特な味わいの和食だった。機会があったらまた来よう。

 

 

 

 食事処から帰宅途中、テマリちゃんがいた。私に話がある様だが、もしかしてずっと待って待って居たのだろうか?

 

『こんばんは』

『貴女はこの前の砂の里の……』

 

「テマリだ」

 

『テマリさんですね。可愛らしい、お似合いの名前です』

 

「カワッ! ……いや、世間話をしに来たんじゃ無いんだ。命が惜しければ早くこの里から出ろ」

 

「……」

 

 わざわざ、明日の木の葉崩しの忠告に来てくれたのか。クレープの御礼だろうか?

 義理堅い人間は大好きだけど、忍びとして少し心配になる。もし私が斥候の類だとしたら、少なくとも近いうちに何かあると、作戦が漏れる事になる。

 

「良いか、忠告したぞ。早くこの里から出ろよ」

 

 そう言って、返事を聞かずにテマリちゃんは去っていった。

 ああいう優しい子は平和な世界に生きて欲しいのだけどな。この時代では難しいか。弱ければ、運命を受け入れるだけしか出来ないのだから。

 

「今の子、砂の里のテマリちゃんだよね。おねーさん知り合いだっけ?」

 

 今度はカカシさんか。来客の多い夜だ。神出鬼没に背後に現れるのはミナトさんだけにして欲しい。

 

『こんばんは、カカシさん』

『この前クレープを食べに来てくれてたんです』

『たまたま会ったのですが、御礼を言ってくれました』

『いい子ですね』

 

「ん、こんばんは。わざわざ御礼をねぇ。今時珍しい子だ。あ、そうそうこの前の秋刀魚美味しかったよ。……あれ、ホントに秋刀魚?」

 

 私が砂の里の忍びと接触したタイミングで現れるのは、もしかしてマークされている? 予想より早いが、もしかしたら私は既に黒に近い灰色なのかも知れない。

 

『秋刀魚ですよ』

『ですが、確かに他の魚に近いかも知れませんね』

 

「いやいや、アレはアレで美味しかったよ。秋刀魚の新天地を見た気分だ。そういえば、話は変わるけどお姉さん、幻の何でも屋って知ってる?」

 

『いきなりですね』

『幻の何でも屋さんですか?』

 

「結構有名な話だと思ったんだけど、知らない?」

 

 探りを入れられて居るのか? バレるなら後一日は待って欲しい。

 

『知っていますよ』

『確か突然現れて何でも願い事を叶えてくれるお爺さんでしたか?』

 

「まぁ、噂は色々あるけどだいたいそんなもの。俺は組織化してると思っているんだけどね。もしかして、おねーさんもメンバーだったり?」

 

 噂が沢山有るのはわざとだ。この世界では下手に隠せば秘密は直ぐに漏れる。ならば、隠さずに広めてしまえばいい。下らない噂話と一緒に。木々を隠すなら森にということだ。

 カカシさんは「アハハハハッ」、なんて笑っているが目は笑って居ない。

 もし私を疑っているとしたら他に誰が共有している? まだ確定したわけでは無いから全員に話が回っている訳では無いんだろうが、少なくともヒルゼンさんは話が通っていると考えて良いだろう。

 まぁ、まだ最悪でもグレーゾーンだろうから、誤魔化しは効く。監視は付くだろうが、下準備は終わって居るから構わない。

 

『もしそうなら素敵ですね』

『ですが残念ながら違います』

 

「やっぱり違うかー。いや、職業柄ついつい考え過ぎちゃって。すまんね、変な話して」

 

『いえ、やっぱり忍者さんは大変そうですね』

 

「まーね、じゃ俺はこれで」

 

 疑いは晴れてはいないだろう。

 クサイとアタリを付けたのなら、出遅れる前に準備をしておく。コレはカカシさんの言葉だったか。

 明日の作戦に影響しなければ良いが。何を準備しているか調べておきたいが、釘を刺されて無闇に動けなくなってしまったな。



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15話・木の葉崩しと

□主人公視点

 

 中忍試験本戦当日。一回戦目は原作と違い、最初からシカマルくんとテマリちゃんだった。テマリちゃんは私をチラッと見て、その瞳に悲哀の感情を映すが、直ぐに試験に意識を戻した。

 結果は同じようにシカマルくんがテマリちゃんを捕えるがチャクラの限界かリタイアをし、テマリちゃんの勝利で終わった。

 

 ナルト少年とネジ君の戦いは、九尾のチャクラを纏ったナルト少年が試合を押し戻し、最後はナルト少年の十八番、影分身を駆使して勝利をおさめた。

 影分身を多用し、その無尽蔵なチャクラと瞬間的な閃きは目を見張るものがある。

 

「あ、師匠、来てたんだ。へへっ、見てた俺の勇姿」

 

『おめでとうございます』

『恰好よかったですよ』

 

「そうかな? 俺ってば、かなりイケてる感じ?」

 

『はい』

『イケイケだと思います』

『相手の子は凄い子だったのですよね?』

 

「まーね。でも、今回は俺の方が強っ、イテッ! 何すんのサクラちゃん」

 

「ナルト! あまり調子に乗るな。それで、この綺麗な人誰? あんたの知り合い?」

 

「あ、サクラちゃんは知らねーのか? 里で屋台やってるねーちゃん。俺のエロ忍術の師匠だってばよ」

 

『ちょ』

『何でバラしちゃうんですか!』

 

「アレ? 言っちゃ駄目だったっけ?」

 

 いきなりナルト少年が私との関係を曝露する。どう考えても、初対面人の紹介にエロ忍術の師匠は駄目だろう。

 普通の人間なら百パーセント悪意のある発言だが、ナルト少年だからそんなものは無いだろう。

 

 今まで遠慮する様に私を覗いていたサクラちゃんの目が百八十度変わり、ナルト少年と同じ者を見るような目に変わった。

 

「へー。アンタがナルトにあんな術を教えた変態……」

 

『誤解です!』

『私はナルトくんのお色気の術がお粗末だったので少しアドバイスしただけです』

『決して私が教えたわけじゃ』

 

「……へぇ」

 

 何故だろう。納得して貰えるどころか、弁解をする事に、サクラちゃんの私を見る目がキツく成る。今ならナルト少年の気持ちが分かるよ。

 コレは辛いね。

 

「エロ忍術の師匠ね。コレは言えないわな」

 

 ウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッッ!

 連鎖的にカカシさんにまでバレてしまった。というか、何故カカシさんがここにいるのだ。

 ……そうか! サスケくんへの呪印を防いだから、チャクラコントールが乱されずに原作より早く修行が終わってしまったのか。

 之ぞ正に因果応報というものなのか。

 コレなら正体がバレた方が良かった。私の知的な謎の美少女のイメージがガタ崩れである。

 

「コレ貸すよ。良かったら後で感想聞かせて」

 

「それってば、カカシ先生のエロ本じゃん!」

 

「きも」

 

「……」

 

 私はカカシさんから無言でイチャイチャパラダイスを受け取る。一度の過ちで、ここまで貶められるのは間違っていると思う。

 というかエロ本の貸し借りは男子同士でやって欲しい。決してその輪の中に女の子を入れるのは違うと思う。

 その同士を見るような目は止めろ。

 

「先生、サスケ君は?」

 

「ん? 今頃控え室に居るんじゃない?」

 

 話題はサスケくんの話に変わる。コレはサクラちゃんの慈悲だろうか。

 控え室に居るということは、ちゃんと階段を使って入るのだろう。観客席から飛び出るのは、普通じゃないしね。

 

 予定通りなら、そろそろ木の葉崩しが始まるはずだ。サスケくんの試合が始まる前に仕事に戻るか。

 今の私は売り子スタイル。クーラーボックスを首から下げて春巻きのように巻いたクレープと飲み物を売り歩く。

 

『では、そろそろ仕事に戻りますね』

 

「そういえばあんた、クーラーボックス担いでいるわね。何売ってるの?」

 

 仮にも歳上なのに、あんたって。私如き、あんたで十分か。何せサクラちゃんにとってはただの変態女だし。フフッ。

 

『クレープですよ』

『甘くて美味しいです』

『サクラちゃんも、お一つ如何ですか?』

 

「クレープ? あぁ、いのが何か話してたけどコレが」

 

『今回は売り歩きように改良しました』

 

「へぇ。一つ貰おうかしら」

 

『まいどー』

 

 お金を受け取りクレープを一つ渡すと、サクラちゃんは早速口に入れた。  クレープを食べたサクラちゃんは「変態でもこんなに美味しいものが作れるのね」と呟いていたが……。うん、悪意は無いよね。ごめんよ、変態で。ううぅ……。

 

 サクラちゃん達から離れて売り子を続けて直ぐに、サスケくんと我愛羅くんの試合が始まった。

 歓声に沸き上がる会場。まぁ、コレも娯楽の一つと言うことなのかもしれない。

 クレープはもう、売れそうに無いので仕舞う。私も少し見学するかな。

 

 

 

 我愛羅くんの暴走を期に木の葉崩しが始まった。幻術で会場の人間を眠らせて、風影に扮した大蛇丸がヒルゼンさんと一緒に会場から離れていく。

 予定通り屋根の上に飛んで行った。

 私は木の葉崩しが始まったと同時に、あらかじめ屋根の上に固定したマーキングの施してある袋から分身を作る。速やかにその袋を捨てると、瓦に変化して外していた瓦のあった場所に身を隠していた。

 

 影の無い昼間の屋根の上では足でまといにしか成らない。それに、ヒルゼンさんとの二対一だとまた大蛇丸が逃げ出してしまうかもしれない。

 心苦しいが確実性をきすには最後のあの瞬間まで待つしかない。

 

 戦いが始まり先に仕掛けたヒルゼンさんの手裏剣影分身を三つの棺が防いだ。盾に使うなんて罰当たりだと思ってしまうのは私が忍びでは無いからだろうか?

 ヒルゼンさんは三つ目の棺が開くのを阻止するが、一代目と二代目の穢土転生を成功させてしまった。

 これが千手柱間か。こんなに間近で見るのは初めてだが、流石初代忍びの神の威圧感は凄まじい。というか踏まれている。間近過ぎる。手裏剣影分身も当たりそうでヒヤヒヤしたし潜む場所を完全に間違えてしまった。

 

 そういえば、確か柱間さんはマダラさんと同格だった。ヒルゼンさんは確か歴代最強らしいから、全盛期はどれ程凄かったのだろうか。

 老いても尚、四代目が死んだ時に他の忍びを差し置いて再び火影の座に付くくらいなのだから忍びの神の名は伊達ではないのだろう。

 

 大蛇丸が柱間さんと扉間さんの意思を奪うと威圧感が消えた。

 意志一つでここまで変わるものなのか。正直、先程までの怖さは消え去った。

 

 戦闘が始まると土遁、水遁、木遁、口寄せ、影分身。凄まじいスピードでの応戦。戦況は目まぐるしく変わり、追い詰められたヒルゼンさんはついに屍鬼封陣を使ってしまった。屍鬼封陣により、崩れさる一代目と二代目。

 分身体で成功するという事は、影分身は魂も分割しているという事か? そう考えるとナルト少年が気軽にバンバン使っている影分身だが、少し怖い術のように思えてくる。

 

 屍鬼封陣を使い衰弱したヒルゼンさんを見て、チャンスと見たか、大蛇丸は突撃した。しかし、屍鬼封陣の謎の効力により大蛇丸は捕らえられることになる。

 

 あの後ろには死神が居るのだろうか。一度転生している身としては輪廻の輪から外れるのは怖い事だと思う。

 

 大蛇丸は最後の足掻きとして草薙の剣を呼び寄せる。術が使えないからコレは草薙の剣の特性なのだろう。

 私は変化を解くと、ヒルゼンさんに向かい飛んでいく草薙の剣を影の盾で防いだ。

 そして、そのまま私は動けない大蛇丸の胸を影の刃で貫いた。

 

「なん……だと……」

 

『ごめんなさい、大蛇丸さん。個人的な恨みはありませんが私のエゴの為に死んで下さい』

 

「ぐそ……がァ! こん……なところ……で」

 

 最後に息絶えた大蛇丸の首を切り落とした。長い付き合いだったが呆気ない最後だった。

 私は大蛇丸の死を確認し、ヒルゼンさんに向き直る。

 

「お主か」

 

『やはり、分かりますか』

 

 今の私は本来の姿で、しかも何時もの面まで付けている。それでも私が天日影だということは分かるらしい。

 

 きっと最初から怪しいと思いつつもずっと泳がされて居たのだろう。

 何故捕らえようとしなかったのかは分からないが、流石に忍びの神とまで謳わられた歴代最強の火影の目は誤魔化せなかったようだ。

 

「お主の意図は計りか兼ねていたがこれが目的だったか」

 

『はい』

『大蛇丸が木の葉の里を狙っていた事は分かっていたので』

 

 本当はナルト少年を見に来ただけだけど。大蛇丸の事ならば、中忍試験に紛れて来ればいいから。

 

「ワシらに話す事は出来なかったのか?」

 

『話して上手くいったかも知れませんでしたが、火影様はお優しい方なので』

『しかしどちらにせよ、最早過ぎた事です』

 

「……色々言いたいことはあるがの。最後にお主の本当の目的を聞かせて貰えんか? 何、どうせ死にゆく身。話してもお主の計画に支障はあるまい」

 

「……」

 

『やはり屍鬼封陣は失敗しても魂は持っていかれるのですか』

 

「屍鬼封陣も知っておったか。術はまだ失敗してはいない。死して尚大蛇丸の魂を掴み続けている。この術は発動したが最後、術者に逃れる術は無いよ」

 

「…………」

 

『そうですか』

 

 私はヒルゼンさんに目的の全てを話す。

 忍びという生き方に全ての人生をかけ、役目を全うした一人の男へのせめてもの手向けだ。私の目的も一緒に冥土に持って行ってもらおう。

 

「……そうか。修羅の道よの」

 

「……」

 

「勝手な願いかもしれんが、どうか火の意志を絶やさんでくれ」

 

『それは、私如きに消せるものではなく、時が決めること』

『しかし、貴方の意志は私が覚えておきましょう』

 

 火の意志とは即ち愛。人から愛は決して奪う事は出来ない。

 

「……そうか。そうじゃな」

 

『どうか安らかにお逝き下さいますよう』

 

「うむ……。さらば!」

 

 むんっ! という、一声と同時にヒルゼンさんは最後の力を振り絞りその身に封印術を行う。

 その魂は死神の中に縛られ続けるのだろう。この一人の老人の死に様はまさに動乱の時代を生きた忍びの最後といえよう。……これが忍び、いや、火影か。

 

 大蛇丸の部下は結界を解きがコチラに来る。私は最後にヒルゼンさんの瞼を下ろすと大蛇丸の首を取りミナトさん直伝の瞬身の術で離脱をはかる。

 頭だけだから、どうなるか分からないが、影の中に入れると復活する恐れがある。一時とはいえそれは嫌だ。

 

 というか、大蛇丸の部下は何故追いかけて来るのか? 確かに止めを刺したのは私だが復讐する程忠実な部下では無かったハズだ。いまさら、頭だけ取り返したところでどうにも成らないはずだ。

 暗部の方々は逃げた私達を深く追わずに、ヒルゼンさんと里の対応にまわることにしたようだ。

 

『いつまで付いてくるつもりですか?』

 

 里を出て暫く走り続ける。数キロ進んだところで私は立ち止まり振り返った。

 

「うるせぇ! てめぇ大蛇丸様を殺しやがって」

 

『復讐ですか?』

『そこまで大蛇丸に忠誠を誓っているわけでは無いでしょう』

『呪印による束縛もまた、大蛇丸が死んだ今無くなっているハズです』

 

「……」

 

『自由になったのだから好きに生きれば良い』

『死に急ぐ事は無いでしょう』

 

 立ち止まった時に身体にまとわりつかせていた影を硬化させ、同時に喉元に影の刃を突き付ける。

 たとえ、四人だとしても森の中で大蛇丸の部下に遅れをとるつもりは無い。

 

「クッ……」

 

『返事の前に動いたら殺します』

 

「影ちゃんは物騒だな。未来のある子どもたちなんだから、うちの里に来てもらえばいいじゃない」

 

「……」

 

 何時から見ていたのだろうか? いつの間にか自然に隣に立っていたミナトさんが唐突にそんなことを言い出した。大蛇丸の部下も突然現れたミナトさんにビビっている。

 

 ミナトさんの里のようなものだしミナトさんがそうしたいと言うなら好きにしたらいいか。うちの里は、どうなっても私のせいじゃない。成るようになれ。

 それに、この子達の事は、大蛇丸を殺した私の最低限のケジメでもある。

 

『そうですか』

『ミナトさんがそうしたいならそうしてください』

 

「うん」

 

「てめぇら勝手に何言って……うわっ、やめろ!」

 

 私は影で彼等四人をのみ込む。今度は頭を出す事を忘れない。空気が吸えないからね。

 私の影に飲み込まれ、頭だけ出した彼等はまるで黒い雪だるまだ。

 

『折角自由になれたのに』

『ご愁傷様です』

 

「ふざけ……」

 

 私は哀愁を込めて彼らを見る。罪悪感が出てしまうので、彼等が何かを言う前に頚動脈を締めて意識を奪った。

 

『行きましょうか』

 

「……影ちゃんも結構鬼だよね」

 

『? 痛く無いですよ?』

 

 別に酷い事はしていないと思う。寧ろ痛みも後遺症も無いから優しいだろう。

 

 里に戻った後は大蛇丸のアジトに行って実験体を開放するか。そういえば君麻呂くんも残っているんだ。確かあの子は大蛇丸信者だから私が大蛇丸を殺した事を知れば絶対怒るだろうな。

 それに、カブトさんも居るんだ。あの人も大概大蛇丸スキーだから私を狙うんだろうな。

 まるで蛇の呪いだ。死して尚私を苦しめるとはやりおる。

 まあ、なる様に成るし、なる様にしか成らないか。そこら辺はひとつひとつ片付けていこう。

 

 取り敢えずは一段落付いた。そろそろ、今度は私の計画の為に大きく動く時だろう。もう、私は止まらない。この世界にいい様に弄ばれてたまるか。



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16話・その後

□主人公視点

 

 

 里に残った私は、ヒルゼンさんの葬儀に顔を出す。魂はここに無く、葬儀などなんの意味も無いが、様式美というものだ。

 お多くの人々が悼み、その死を悲しみ涙する。それだけでもヒルゼンさんの一生が見える気がする。

 私が死んだ時はどれだけの人が悲しんだろうか。昔も、人付き合いの良くなかった私だ。片手で数える程居ればいいほうかも知れない。そう考えると、ヒルゼンさんが少し羨ましくなるが、私は私だと思い直す。

 

 葬儀が終わり、気丈にヒルゼンさんの死を受け止める木ノ葉丸君のもとに行く。

 

「影先生」

 

 肩を叩くと、何時もより元気無く私の名を読んだ。

 

『木ノ葉丸君は強いですね』

 

「……なにが強いんだ、コレ」

 

『大切な人の死を受け止めても自分で居られるのは強いと思います』

 

 私は受け止めきれなかったからな。大切な人が亡くなって変わらずに居られるの人は多くない。

 

「オレはジーちゃんのあとを継ぐんだからな。こんなところで弱音なんてはいてられねーんだ、コレ」

 

 唇を噛み締めながら気丈に私を見上げる、木ノ葉丸君に私は一つの巻物を渡した。

 

「なんだこれ?」

 

『私の開発した忍術を纏めた巻物です』

 

「え?」

 

『どうか、三代目様のような立派な火影になって下さい』

 

「あ、当たり前だ。先生、急に何言ってんだ?」

 

『理由は言えませんが、もうすぐ里をでます』

 

「なんで!」

 

『ごめんね』

『けど、木ノ葉丸たちと過ごした日々は楽しかったよ』

 

 巻物を渡したのは、最後まで面倒を見る事が出来ない事への罪滅ぼしもある。どうか、変わらずに真っ直ぐに力を使える人間になって欲しい。

 私は木ノ葉丸君の頭を一撫でして、その身を翻す。

 背後で私の名を呼ぶが、決して振り返らず。私が死ななければまた会うこともあるだろう。それまでのお別れだ。

 

 木ノ葉丸と別れてから、私は家のあった場所に戻る。そこには瓦礫があるだけで私の家は無い。

 家が崩れ落ちるような戦闘があったかなと考えたが、やったのは大方自来也さんだろう。

 口寄せとかいう質量兵器で、破壊の限りを尽くしたのだ。

 

 なんだかんだ言ってもやはり此処は私の家だった。過ごした思い出がある。ここを捨てるとはいえ、壊れた姿を見るのは悲しい。

 売ると決めたゲームのデータを消す時の悲しみを数倍にした感じと言えは分かるだろうか。

 

 でも、壊れてしまったのは悲しいが、最後に過去と決別するいい機会なのかも知れない。崩れた瓦礫の中から一枚の写真を拾う。家族で撮った、小さな頃の私の写真だ。

 写真を懐に入れ、私は瓦礫の中に火を付ける。ゆらゆらと揺れながら高く登る炎はまるで鎮魂火のようだ。

 

「天日影だな?」

 

「……」

 

 しばらく無心で、絶えず形を変えて燃え上がる炎を見つめていると、パチパチと跳ねる音に紛れて狐の面をした人間が三人私の元にやって来た。

 暗部の人間か。

 

「ダンゾウ様がお呼びだ」

 

 早速やって来たところをみると、ヒルゼンさんがずっと抑えていてくれたのだろう。何から何まで本当に頭が上がらないな。

 

 私は炎から目を離し、振り返る。黙っていた私が急に動くと暗部の人達は身構える。

 

「動くな! 抵抗すれば強制的に連れていく」

 

 とって食いはしないのに。

 その過剰な反応に笑みがこぼれる。

 

 色々あったけど楽しかったな。うん、楽しいと思えていた。

 だけど、第二の故郷とも言える木の葉ともお別れだ。二度も決別できる機会を貰えたのはある意味幸運だったかも知れない。もう一度、自分と向き合う事が出来た。

 

 さて、そろそろ暗部の方々も痺れを切らしてしまうな。感傷に浸るのは終わりだ気持ちを切り替えろ。

 演出は大切だ。観客は少ないが、最後くらい私らしく消えようではないか。

 どうせこの姿に成るのは、もう暫くないだろう。せいぜい、私の幻影を追いかけてもらおう。

 私は静かに笑いかけ、後ろに大きく飛ぶ。

 

「なっ!」

 

 空中で影化すると、ゆらゆらと揺れる炎の強い光にかき消されるように私の身体は消えていく。まるで炎に呑み込まれている様だろう。そして、最後に残るのは炎だけだ。

 

 

 

 時は変わり、次郎坊、鬼童丸、左近、多由也。音の四人衆を捕獲した私は、取り敢えず石の里に連れて来るために戻っていた。

 大蛇丸の首は、暁に持っていくため分身をつくり直接アジトに向かわせた。

 

「死ね、糞ガキ」

 

 里に戻ると早速再不斬さんが襲ってくる。飛雷神の術を使い同時に首斬り包丁で斬りかかってきた。私は動揺しつつもそれを表に出さず影化(カゲカ)の術でそれをかわす。

 影化の術は分身体のみの技で、文字通りその身を影にし、物理攻撃を無効にする技だ。強い光のある場所で使うと消えてしまううえに、物理攻撃しか無効に出来ないので余り使い勝手の良い技とはいえない。

 この技の特性だけみると、私はまるでRPGに出てくるようなゴーストみたいだな。

 

 それよりも、再不斬さんが飛雷神の術を使ってきた事に驚きを隠せない。単純に言えば、飛雷神の術はマーキングの施した場所に時空間忍術で瞬時に移動する、まぁ口寄せみたいなものだ。

 だが口寄せと違い、スキを無くすために色々な過程を省いているため、術の難易度が殆ど術者に依存する。ミナトさんがぽんぽん使っているから簡単そうに見えるが、極めて複雑なチャクラ操作と知識を必要とするのだ。

 再不斬さんはチャクラコントロールとか知識とかそういうのは苦手なイメージがあったが勝手な思い込みだったようだ。人を顔で判断してはいけないという良い教訓だ。

 よくよく思い返してみれば、強い人って美形かキワモノのどちらかなんだよなぁ。

 

「チッ。相変わらず亡霊みてぇな野郎だ。さっさと成仏しとけ」

 

『野郎ではありません』

『一応女です』

 

 サイレントキルに磨きをかけた再不斬さんが物騒な事を言う。一応真実にカスっているところが恐ろしい。

 しかし、最早生き汚いのは私の専売特許である。私以上に生き汚い人は大蛇丸かうちはマダラくらいだと思う。

 

『それよりも、喜んで下さい』

『今日は再不斬さんのお仲間を連れてきました』

 

 私がそう言うと、再不斬さんは私の後ろにある黒い球体から顔を五つ出した影ダルマに視線を移し、憐憫の表情を浮かべた。

 

「……哀れだな」

 

「……」

 

 客観的に見たら哀れに見えるかも知れないが、真実が見た目と反するのはよくある事だ。この子達にとってこれは幸せなことなのだ。と、思いたい。

 

『では里長から直々の命令です』

『子ども好きなミナトさん補佐官の再不斬さんは、ミナトさんと一緒にこの子達の面倒を見てください』

 

「よろしくね」

 

「……おい。俺はいつからコイツの補佐官になったんだ。それと、てめぇはいつからソコに居た。最後に俺はガキが大ッ嫌いだ。特にてめぇみたいなガキはよぉ!」

 

 額の血管が浮き出て今にもはち切れそうだけど大丈夫だ。これは何時もの再不斬さんのツンデレだから問題ない。

 私はその言葉を了承と受け取った。

 言葉ではああ言っているがちゃんと最後まで面倒を見てくれるだろう。

 

『やる気満々ですね』

『よろしく頼みました』

 

「おい、聞け糞ガキ」

 

「だから糞ガキじゃなくて、里長か卯月様って呼ばなくちゃ。ほら行こうか」

 

「やめろ! まだ、話は終わってねぇ。おい、離せ!」

 

 里の運営に関しては頭の八割りを麻痺させているから、彼らが何をやっているか私は良く理解出来ないが、彼等なら何も心配はいらない。私が出来ることは、仕事を持ってくることと、里を維持する為に細かいアレコレをするだけ。

 なるほど。コレが手を離れたナルト少年の成長を見たイルカさんの気持ちか。確かに胃がキュッとなるね。

 

 

 

 同日、分身で別れた私は大蛇丸の首を持って、暁のアジトにやって来た。

 

『裏切り者の首』

『私が入る前のだけどね』

 

「ッ! 大蛇丸を殺ったのか。……ご苦労」

 

 暁のアジトにいた小南さんに、大蛇丸の首を見せる。

 人の生首を、しかも大蛇丸の首を持ちながら移動するというのは、なかなかSAN値のすり減る行為だった。まだ私は正気だろうか?

 

 大蛇丸の死を確認した小南さんは驚きを見せたが、私が殺せるとは思っていなかったのだろうか。

 この任務は実力を測るという側面も含まれていたのかもしれない。私には表立った実績も肩書きも無いしこの外見だ。調べたくなるのも当然だろう。

 

 これで死ぬ様ならその程度の人間は暁に必要無いし、失敗してもターゲットは大蛇丸という大物だ。あわよくば、裏切り者の首が取れれば良かったということだろう。

 

「へぇ、コレが大蛇丸」

 

「……」

 

 大蛇丸が抜けた後に加入したデイダラ君が呟く。興味深げに生首を持ち上げたので、私はその手を影で叩き落とした。

 余り死んだ者を見世物の様に扱うのは好きじゃない。

 

「何すんだよ」

 

『手が滑りました』

 

「ああん? 喧嘩売ってるのか? 滑ったのはてめえの気色わりぃ触手だろうが」

 

『別に』

 

「調子にのってるね。うん」

 

「やめておけ。餓鬼か」

 

「チッ」

 

 サソリさんがたしなめると、舌打ちしながらも素直に引く。

 ここでデイダラ君が暴れればアジトに被害が及ぶ。独人爆撃機(ヒトリバクゲキキ)(私命名)の名は伊達では無い。

 

『イタチさんと鬼鮫さんは?』

 

「九尾の人柱力です」

 

 成程。木の葉の里か。

 今木の葉の里には私の分身が無いからどうなるか、少し不安だ。撤退するのを少し早まったかも知れない。

 

『鬼鮫さんか』

 

「何か問題でも」

 

『あの人は隠密に向いてない』

『完全に人選ミスでは?』

 

「……ふむ」

 

 顔、忍術、性格全てに置いて鬼鮫さんは戦闘特化型だ。

 と言うか、暁で隠密が出来るような人はイタチさんと小南さんと私と、能力的にゼツくらいだ。そう考えると、ここのメンバーはみんな濃すぎるな。

 

「では、念のためお前もフォローに向かってくれ」

 

『はい?』

『人選ミスではありますが、フォローの必要な人達でもないだろう?』

 

「念のためだ」

 

「……」

 

『分かりました』

 

「完全にやぶ蛇だったな。うん」

 

『デイダラ五月蝿い』

 

 なんだかやたら絡んで来るんだよな、デイダラ君。見た目の年下で暁に加入した日も近いから下に見られて居るのだろうか? 大蛇丸を倒したといっても、デイダラ君には大蛇丸の実力は分からないし。

 

 まあ、デイダラ君の言う通りやぶ蛇だったかも知れない。大蛇丸のフォローもしないといけないし暇じゃないんだけどな。

 ストレスで禿げなきゃ良いけど。

 

「そう言えば、ゼツを最近見かけませんが知りませんか?」

 

「……」

 

『さて?』

『分かりかねます』

『あの人がフラフラしているのは何時もの事だ』

 

「……そうですか」

 

 急に聞かれたので心臓が跳ねるが、それを顔に出さないように冷静を保つ。不審なところは無かったよね。私が不審なのは何時もの事だけど。

 

『では、行ってきますね』

 

 

 

 とはいえ、イタチさんたちが任務失敗する事は分かっている。最初からイタチさんに任務遂行する気が無いしな。

 形だけでも向かうのは以外とめんどくさい。それに、せっかくカッコ良く消えたのに、記憶に新しい内から舞い戻って来るなんてカッコ悪い。なんて言うか、締まらないよね。

 私の外聞の為にも絶対にバレる理由には行かない。

 

 取り敢えず、天日影Ver.青年に変化し木の葉の里に侵入し、取り敢えず原作で戦闘があった池の場所に向う。

 戦闘の形跡があったところを見ると、どうやら木の葉の上忍との戦いは終わってしまっていたらしい。

 これで、イタチさんたちが撤退済みだったらただの間抜けだな。何の為に恥ずかしい思いまでして木の葉に戻ってきたのだか。

 

 本当に戦闘が合ったのなら、カカシさんが入院している筈。撤退済みならばサスケ君も入院しているだろう。

 病院に入り、どうか入院していませんようにと願いつつ、私は看護師にサスケ君の病室を聞いた。しかし、私の願いは届かず、既にサスケ君はイタチさんにやられてしまったようだ。

 一応、サスケ君の病室に向かい確かに入院していることを確認した。

 

 いったい何の為に来たのだろうか。

 あ、そう言えば、カカシさんにイチャイチャパラダイスを返すのを忘れていたなと思い、カカシさんの病室に向かう。コレを返しに来たと思えば完全に無駄足じゃなかったな。

 感想などを手紙にしたため、イチャイチャパラダイスに挟みカカシさんの枕元に置いておく。

 

 もう、イタチさんたちも居ないし帰るか。

 ついでに、短冊街に寄っていくかな。大蛇丸が居なくなった影響も少し気になる。



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17話・諸行無常

あけましておめでとうございます。


□主人公視点

 

 

 大蛇丸のアジトの解体作業を個人で行うのは諦めた。というか、個人でそれを行うのは無理だ。

 下手に解体して、世界に散らばった大蛇丸の部下達が暴れて私のせいにされてもたまったものではない。

 

 取り敢えず、匿名でアジトのある国の大名に情報をリークする。場所と大蛇丸が死んだ事を知らせれば十分だろう。

 自分の国で手に負えなければ、他の国に援助の要請をするだろうし、私は最低限の責任は果たした、と言い聞かせる。

 大蛇丸や大蛇丸の部下達の性質を考えるに最悪小規模な紛争に発展しそうだけど、それはその国と大蛇丸のせいだ。

 大蛇丸の遺産も手に入ると思えばデメリットだけではないだろう。

 というわけで、大蛇丸の事については全て片付いたと思う。カブトさん? 知らない子ですねぇ。

 

 大蛇丸の事は記憶の片隅に追いやり、木の葉で無駄足となった私は、短冊街に来ていた。来たは良いが、ナルト少年達が何処に居るか分からない。

 仕方が無いので少し遊んで行く事にした。年中無休、一日に人の数倍働いて居るのだから少しくらい遊んでもバチは当らないと思う。

 仕事をせずに、一人だけで遊ぶとこんな事していて良いのかと思ってしまうのは病気だ。改善しなくてはならないと自分でも考えている。

 そんな事を考えながら短冊街をぶらついていく。流石に観光地だけあって活気に溢れている。

 人混みは嫌いだ。私を狙い、人混みに紛れて誰かが私を襲えば、分身体である私が死ぬ事は無いが、周りの普通に暮らしている人を巻き込む事になる。

 人の少ない方を選んで適当に進んで行くと、落ち着いた赤色の野点傘が目に入った。そう言えば長い事外でお茶を楽しんでいないなと思い、その店に立ち寄った。

 添えられた花も場に溶け込み、空間の一つとなる。花、茶器、作法、茶、香り、音。様々な物が融和して一つの芸術を作り上げる。父の趣味で嫌々付き合っていたものだが、いつの間にか私もこの一時を楽しむように成っていた。そこに、繋がりを感じるとより一層この時間を楽しめる気がした。

 ふらっと立ち寄ったこの店。茶の腕は中の上程だが、大衆に向けた店と考えるとなかなかの当たりを引いた。

 そう言えば、白とはまだちゃんとした茶を嗜んだ事は無かったな。今度一緒に来てみよう。きっと、とても似合うだろう。

 

「ああ! この前の仮面!」

 

 身を整え店から出ると、元気な声と共にばったりとナルト少年に出会った。会えなければそれでも良かったが、こうして出会うと運命を感じる。

 

「む、お主。その服、暁の一員かの? ナルト、こ奴とは知り合いか?」

 

『一応暁のメンバーではあるね』

 

 服でバレるとか、恰好いいけどこの衣装派手だと思う。一応、抜忍とか犯罪者の集まりの筈なのに隠れる気が無いとか男らしい。

 

「コイツに前、ぼこぼこにされたんだってばよ」

 

『記憶に無いな』

 

 さしも覚えていない風を装い、以前の犯行を無かったことにする。職業を聞かれたら、私もどちらかと言えば政治家だからね。兼業だが。

 

「お主も九尾が狙いか?」

 

『その反応だとイタチさん達と会ったようだね』

『ナルトくんが生きているとこを見ると失敗したか』

『流石のイタチさんも自来也様相手では辛かったのかな』

 

「お主には聞きたい事がある。大人しくしてもらおうかの」

 

『ここでやり合うつもり?』

『周囲の方を巻き込んで?』

 

「ぬう」

 

 私の家を壊した流石の自来也さんも一応の分別はある様だ。

 

『安心しろ』

『私は別に九尾を狙って居る訳では無い』

 

「なに? 暁は九尾を狙っているのでは無いのか?」

 

『私の任務では無いからな』

 

「任務があれば狙うと言うことかの」

 

『そうだと言えばどうする?』

『この街にはかの三忍である綱手姫も居るようだ』

『何なら二人掛かりで来ても良いぞ』

 

「ワシを前にして随分余裕だの」

 

「……」

 

 余裕など無いのだけどね。よくよく考えたらミナトさんは私の師匠と言えなくも無い。なら、自来也さんは師匠の師匠だ。

 どうせ、ここに居るのは分身体だし死ぬ事はない。自分だけ安全地帯から狡いとは思うが、この世界ではこれくらいの保険が無いと怖くて動けない。

 特に戦う理由も無いのだけどナルト少年の修行の力に成れば願ったり叶ったり。綱手さんが来るかは分からないが、頑張って説得して欲しい。

 

『二日間は此処に居る』

『殺しに来るもいいし、臆病風をふかせて尻尾を巻いて逃げるもいい』

 

 私は彼らの返答を待たずにその場をさる。背を向けた瞬間に襲いかからないあたり善人だなと、考えてしまう私は最近悪人側の思考に毒されているなと嫌気が差す。

 

 

 

「本当にまだ居るとはの」

 

 それから、一日経った頃ナルト少年と自来也さんは、どうやって説得したか分からないが、綱手さんを連れて郊外の耕地に荒野で月見をしていた私の元に来た。

 ついでに、血液恐怖症の克服も手伝ってしまおうかと思ったが、残念ながら分身体からは血が出ないので力にはなれそうに無い。

 

 私は湯呑みを影の中に落とし立ち上がる。とりあえず、分身を作りナルト少年を狙う。暁から狙われている今、自来也さんの側が一番安全だろうが、戦闘中となれば一番のウィークポイントでもある。狙うのは当たり前だ。

 

「印も無しに分身とはの」

 

 印を組むフリだけでもした方が良かっただろうか? まあいい。

 ナルト少年に接近した私にすぐさま反応した自来也さんが早速螺旋丸を作る。私はナルト君を蹴り、その反動で距離を取ってギリギリかわす。

 

「ぐっ」

 

「私も忘れて貰っちゃ困るよ」

 

 攻撃をかわし、まだ宙に浮く私を綱手さんがその剛力で私の腹を抉る。初対面の筈なのに挨拶も無しに、遠慮がない。

 思考がリンクしている為、痛覚も当然リンクする。この程度の痛みには慣れたが、内臓を抉られるのは気持ちのいいものでは無いのだ。少しは手加減をして欲しい。

 だが、私の分身は影分身のように攻撃されればポンポン消えるわけでは無い。耐久力も本体と同等程度にはある。

 私は左手で腹を貫いたままの綱手さんの腕を掴み影で固定した。綱手さんの剛力はインパクト時のチャクラ操作で火力を上げているため地の怪力があるという訳では無い。この程度の拘束でも簡単に抜け出す事は出来ないだろう。

 しかし、忘れてはいなかったが綱手さん以外にもう一人自来也さんが居る。綱手さんの動きを封じ攻撃しようとした私の頭を螺旋丸で吹き飛ばした。

 

 さっきから螺旋丸ばかり使っているのはもしかしてナルト少年の修行の為だろうか。人の事は言えないし、伝説の三忍と無名新参の私では客観的に見たら確かに格下では有るだろうけど、当て馬にされるのは少しカチンとくる。元々意味薄い戦いだったが少しやる気が出てきた。

 よもや、コレを使う日が来るとは。

 閃いたのはつい最近分身の服を見た時だ。服は勿論分身にも色が付いている。ならば、しっかりと構成を練れば影の形成にも色を付けられるのではないだろうか、と考えた。

 その発想は正解で、吸収する光を制御しているのか詳しい原理は分からないが色を付ける事に成功した。ならばアレができるのでは無いか? そう考えつつもついぞ試すことの無かった技。それを今ここで!

 

 ――逝くぞ三忍。チャクラの貯蔵は充分か。

 固有結界・無限の剣製擬(unlimited blade works)

 

 

 I am the bone of my shadow.

 ―――――― 体は影で出来ている。

 

Light is my body, and darkness is my blood.

     血潮は闇で 心は光。

 

 I have created over a thousand blades.

   幾たびの戦場を越えて不敗。

 

      Many escapes and sucker kill.

       数多の逃走と不意打ちは、

 

      Nor known to Life.

    ただの一度も理解されない。

 

   Have withstood pain to create many dead.

   彼の者は常に独り 屍の丘で勝利に酔う。

 

Yet, those hands will never hold anything.

   故に、生涯に意味はなく。

 

    So as I pray, unlimited blade works.

    その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

 宵闇を赤黒く染め、辺り一面に剣を創造し突き立てる。

 だが、その一本一本はハリボテだ。

 しかも夜限定の技。効果も大して無いが、強いて言うならば相手をビビらす事が出来る。あと、私の気分も高揚する。

 

「なんだ、コレは」

 

 相手が動揺しているうちに、私は両手で黒渦を作り出す。一度覚えてしまえば、コレはチャクラではなく影の為身体の何処からでも作り出す事が出来る。そして、コントロールも作っている分身体の思考を幾つか制御に回せばそう難しい事ではない。

 流石に精密な操作が必要な為、身体から離れて作ることは出来ないが。

 

「……黒い……螺旋丸?」

 

 作り出した黒渦を地面の中に、落としていく。二つ、四つ、六つ、八つ。

 これも、無限の剣製擬(ムゲンノケンセイモドキ)の効果と思わせてしまえ。

 黒渦の螺旋丸と違う所は二つ。一つは先に言った通りチャクラの噴出出来ない所からも作ることが出来る。そしてもう一つは、

 

「ナルト! 下がれ!」

 

 自来也さんがナルト少年を突き飛ばし、飛び引く。綱手さんも同様に退避し、直後その場の地面から黒い腕と黒渦が飛び出した。

 そう、黒渦のもう一つの特徴は影を伝い移動させることが出来る事だ。

 退避した三人の背後から狙っていく。

 

「何故コヤツが螺旋丸を……いや、螺旋丸では無いのか? そんな事よりもこれでは埒が明かんの。綱手!」

 

「おう!」

 

 小さく指を切り巻物に押す。遂に出たか質量兵器。山の様な怪物が二匹。私の眼前に現れた。

 

「うおおおお! ガマおやびんにでっけえナメクジ、スゲェってばよ!」

 

「自来也とナルトか。それに、綱手とカツユまで。……む? 何じゃここは?」

 

「あ奴の何らかの術で作られた空間じゃ。十分に用心しろ」

 

「あ奴? なんでい、餓鬼じゃねぇか」

 

「果たして、見た目通りの年齢かの? ブン太ァ、油だ!」

 

「いきなりかよ」

 

 もう、私で修行する余裕は無くなったのだろうか。口寄せしていきなり火遁・蝦蟇油炎弾を放つ。こんなの、人一人に放つ火力じゃないだろう。

 まぁ余裕が無くなったと言う事は対等と認めて貰えたという事だ。半分は見せかけだけど。

 目的がいつの間にかズレてしまったから戻さないといけない。とはいえ、ナルト少年を戦闘に参加させるには、ナルト少年を引き離さなくてはならない。自来也さん達から引き離すのは骨が折れる作業だ。

 

 それよりも、取り敢えず迫り来る目の前の炎を何とかしなければならないか。

 私は辺りの空間の影を圧縮し呑み込む。

 

「カツユ!」

 

 あれは、舌歯粘酸か。直撃したらアウトだろう。

 私は粘酸を吹き飛ばそうと思い、限界まで圧縮した蝦蟇油炎弾を指向性を加え一気に開放した。

 無数の爆撃をした様な音と共に開放された熱風が行く手をなぎ倒しながら、ガマブン太、カツユ諸共、自来也やナルト、綱手を吹き飛ばした。

 やった自分でも驚く凄まじい威力だ。正直ドン引きだ。

 流石の、ガマブン太とカツユもその爆風をモロに受け口寄せが消える。

 自来也さんや綱手さんはまだ戦えそうだが、ナルト少年が気絶してしまった。コレでは目的も果たせそうもない。戦いに夢中になってしまい過ぎたな。これでは、任務失敗だ。仕方が無いのでナルト少年には自分で頑張って貰おう。

 私は、固有結界擬を解いた。これ以上戦う理由も無い。

 

 自来也さん達が何か言っているが遠すぎて聞こえないし、聞く気力も無い。テンションがどんどん下がっていく。元々そこまで拘った戦いでも無かったし。

 恥ずかしい思いをして木の葉に行けば無駄足になるし最近散々だ。お祓いにでも行こうか。蛇の霊に取り憑かれている気がする。

 もう、用も無いし帰るか。

 

 暁のアジトの近くに居る分身体から分身を作り、アジトに向かわせ、失意のまま私は分身を消した。



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18話・舞台裏

申し訳ありません。この話は三人称となっております。ご注意ください。

三人称で書くのは初めてなので、変に感じるかも知れませんがゆるく見てくだされば幸いです。




■三人称

 

 

 時は遡り、三代目火影の葬儀が終わった後、ナルトの脳裏には様々な事が渦巻いていた。

 信念をぶつけて戦った我愛羅との事。里の為に命を懸けて散って行った忍び達や三代目。それらの命を悼む、親族や仲間、友人や恋人達。火影とは何か、忍びとは。

 

「人が死ぬってのは辛いな、やっぱ。あーあ、師匠何処いっちまったのかなぁ」

 

 ただ、胸の内を話そうと思い、忍びになる前に出会った少女の事を思い出していた。

 里の人間の多くが避ける中でも普通に接してくれる数少ない人間であった。性格は温厚で思慮深く、相談にも良くのってくれた。同年代の筈なのにずっと歳上と接しているように感じ、もし姉や母が居たのならばこのようなものだったのだろうかと夢想するほどであった。

 今回も話を聞いてもらおうと探して見たが、何時もの屋台どころか家すらも存在していなかった。

 

「戦死者の中には入ってなかったけどよ。心配だってばよ。師匠なら何があっても生き残ってそうな感じがすっけど、一応女だしなぁ」

 

 突然消えてしまった近しい人間。それもナルトにとっては気掛かりであった。

もし、木ノ葉丸とも影が共通の知人である事をナルトが知っていたなら、影が自分の意思で里を出た事が分かっていただろうが残念ながら両者共に影と親しい関係である事は知らなかった。

 

 しばらく宛も無く里を歩いていると、ぐぅーと腹の音が鳴り朝から何も食べていない事に気がついた。もし影を見つけたら昼御飯でも作って貰おうかと企んでいたが見つかりそうにもなく、ラーメン屋に目的地を定めた。

 何時もの様に一楽ののれんをくぐり、ラーメンを注文する。出来立てのラーメンを前により一層腹の音を大きくし鳴らせた。

 

「いっただっきまーす!」

 

「おう」

 

「聞いたとおりに来てみりゃ、本当にラーメンばっか食っとるようじゃのぉ」

 

「バァ、ベボゼンニン! ング……うっせーってばよ。それに、最初からラーメン食おうと思ってたわけじゃねーし」

 

「それより、話があるからさっさと食え」

 

「……今食べ始めたばっかだってばよ」

 

 湯気が立ち上り鼻孔を擽るラーメンを待ちきれんというばかりにすするナルトの後から、のっそりと自来也が現れナルトに話かけた。

 ナルトにとって自来也は何となく強い忍びだということは分かるが、それよりもただのエロオヤジという印象が先に立つ。そんなエロオヤジにせっかくの食事に水をさされ御立腹だった。

 食事も終わり、自来也は早速話を切り出したが、先ほどの事も有りなかなか頷かない。しかしそこは流石のナルトだ。自来也の口車にまんまと乗せられて、取材という名の修行の旅兼綱手の捜索に付いていくことを了承した。

 ナルトにとってサスケは何よりも譲れない相手だ。そのサスケの必殺技を超えるとあっては断れるはずも無いだろう。

 

 

 ナルトと一緒に里を出ることに成った自来也は、だんだんと四代目に似てきたナルトを見ると今は亡き嘗ての弟子を思い浮かべていた。だからだろうか。下忍であるナルトにあの術を託そうと酔狂な行動に出たのは。

 少し進むと宿場町にたどり着き二人は宿をとるが、自来也はそこにいた美女に釣れられてホイホイとついて行った。ナルトが暁に狙われると知りながらも釣られる辺り余程の女好きなのだろう。

 イタチも本当に女で釣れると思ったのだろうか、謎である。

 

「サスケ?」

 

 一人になったナルトの元に現れたイタチを見てナルトは最初にサスケを連想した。

 

「しかし、こんなお子さんに九尾がねぇ」

 

「ナルト君、一緒に来てもらおう」

 

「日がまだのぼってるいるうちから誘拐とはいい度胸だね。だけどそれはさせないよ」

 

「だれだ」

 

「あー! 師匠とたまに一緒にいる兄ちゃん」

 

 気を狙ったように現れたのは、波風ミナトもとい少年の姿に化けたミナトだった。

 ミナトは影が自分から離れられないと勘違いしているのをいいことに、しばしば勝手に影分身を使い一人で放浪していた。

 

「やぁ、ナルトくん。久しぶりだね。っと、悠長に挨拶なんてしてる場合じゃなかったね。そこに居るのはうちはイタチと干柿鬼鮫かな?」

 

「兄ちゃんしってんのか!?」

 

「まぁ多少はね」

 

「……あなたは何者ですかねぇ?」

 

「名乗る程の者じゃない、よッ!」

 

 話しながら、マーキングを施したクナイを投げる。ミナトはクナイをよけられたところを飛雷神の術でナルトとイタチ達の間に移りそのまま――。

 

「螺旋丸!」

 

 イタチの後ろから螺旋丸を狙う。螺旋丸が当たったイタチはボンっと煙を立てて消え、煙が晴れるとその後から無傷のイタチが現れた。

 

「飛雷神の術に螺旋丸。まるで誰かを思い出させるような戦い方だな。……その額当て、石隠れの忍びか」

 

「(まぁ、たぶん思ってる人本人なんだけどね)ナルトは先に逃げろ」

 

「何言ってんだってばよ! 俺も戦う!」

 

 イタチと鬼鮫から視線を離さずに苦笑するミナト。ナルトがいては十分に動けない。

 

「イタチィ!」

 

「おやおや、来客の多い日ですねぇ」

 

「サスケか。久しぶりだな」

 

「……アンタを殺す! アンタの言った通り、アンタを恨み憎みそして、アンタを殺す為だけにオレは……」

 

 一死触発。そんな空気の流れを変える叫びがそこに響く。写輪眼をその瞳に浮かべ眼を見開き、一心にイタチを睨むサスケがそこにいた。

 パチパチと空気が焦げ、サスケの腕を電気が纏う。

 

「生きてきた!」

 

 雷遁で活性化させた肉体で慟哭をあげながら、イタチに向かう。

 しかし、イタチのもとにたどり着くのはかなわなかった。

 

「はい、ストップ。 そこの二人も動かないでね」

 

 ミナトは走るサスケの腕を掴み床に押さえ付け、もう片方の分身がクナイと螺旋丸を構えイタチと鬼鮫の二人を牽制した。

 

「何しやがる! 離せ」

 

「ん、俺如きに簡単に拘束されるような忍びが、あの二人に突っ込んだところで何も出来ないよ。憎しみに囚われ冷静に状況を判断出来ない忍びを自由にさせる訳にはいかないね。それよりも、まだ続ける? 流石に自来也様と俺を同時に相手にするのは難しいんじゃないかな?」

 

「ぬ、バレておったか」

 

「街中で戦うのは俺にとっても本意では無い。流石に俺達が戦うとなると小さな被害では済まないだろうからね。逃げるなら追わないよ」

 

「……」

 

 状況が悪いと判断したか、イタチに続き鬼鮫はすぐさまその場から撤退していく。言葉通りミナトは追わなかった。

 

「てめぇ! なんで逃がすんだよ」

 

「ごめん、少し寝ててね」

 

 イタチを逃がした事が気に食わないサスケは騒ぐが、ミナトは気絶させることで黙らす。好き勝手騒がれては話も進められない。

 

「して、お主は何者じゃ。それに先程の技は螺旋丸か。使える者はそう居ないはずなんじゃがのぉ」

 

「なんて答えるべきか。……まぁ、いずれわかると思いますよ。これは俺から答えるべき事じゃないから」

 

「む、まて!」

 

「ん、じゃまた。ドロン」

 

 自来也の制止を無視し、ミナトは煙のように分身を消した。

 

「影分身じゃったか。……影分身であの実力。近々石隠れの里に行く用事が出来たのぉ」

 

 

 

 イタチと鬼鮫が立ち去り、ミナトの分身が消えた後、ダイナミックにマイト・ガイが登場した。

 気絶したサスケはガイによりお持ち帰りされて行った。

 

 残った二人は修行しながら、綱手を探していく。

 順調に一段階、二段階と螺旋丸の修得目指して段階をクリアしていくが、三段階目に入りようやく螺旋丸の難しさをナルトは理解した。

 影に言わせてみれば、自分が数年かけてようやく修得した技を数日でできるようになってしまってはたまったものでは無い。もっとも、影の場合は一から十の制御を全て自身の演算で行っている。例えると私達が普段簡単に行っている歩くという動作を、ロボットで構造を計算し重力稼働ベクトルなど調整してプログラムし歩かせているようなものだ。瞬時にそれを行うのは普通の人間ならまず不可能だろう。経験から感覚で覚え、技を自身のものとする。しかし影ネットワークによる並列思考がその絶技を可能とさせた。

 

 道中、乱回転するチャクラの制御に四苦八苦しながらも、ナルト達は短冊街にたどり着いた。

 

「ぬ? アレはもしや」

 

「ん? ああ! この前の仮面!」

 

 街に入った二人は偶然、ふらりと出てきた暁の着物を身にまとい兎の面をした子どもと鉢合わせた。客観的に見ると怪しさが滲み出ている。これでは鬼鮫の事など言う資格は無いだろう。

 

「む、お主。その服、暁の一員かの? ナルトこ奴とは知り合いか?」

 

 自来也の問に頷くナルト。対面する仮面の子どもも暁である事を認めた。

 自来也とて、仮面の子どものこの姿を見たのは初めてでは無かった。大蛇丸を殺し、その首を持って逃げた謎の子ども。よもや、暁の一員だったとは思いもしなかった。しかし、暁の一員だったのならば大蛇丸を殺しその首を持っていったのも納得できる。かつて大蛇丸は暁を裏切り組織を抜けたのだから。

 空間に浮かぶ文字は何らかの術か。何故声を出さないのか自来也は疑問に思ったがそれは一旦置いておく。

 

「コイツに前、ぼこぼこにされたんだってばよ」

 

『記憶に無いな』

 

 ナルトはなると大橋の任務の事を思い出し憤るが自来也は、暁の一員相手にむしろぼこぼこにされただけで済んで良かったなと心の中で突っ込んだ。

 

(しかし、何故その時に連れて行かなかったのかのぉ? 暁の狙いは尾獣の人柱力ではなかったのか?)

 

「お主も九尾が狙いか?」

 

『その反応だとイタチさん達と会ったようだね』

『ナルトくんが生きているとこを見ると失敗したか』

『流石のイタチさんも自来也様相手では辛かったのかな』

 

(わしだけでなく、もう一人居たんだがの。まぁ、此処で立ち話もなんじゃ。相手は暁。力ずくでも捕えて色々聞き出すとするかのぉ)

 

「お主には聞きたい事がある。大人しくしてもらおうかの」

 

『ここでやり合うつもり?』

『周囲の方を巻き込んで?』

 

「ぬう」

 

 臨戦態勢をとり、仮面の子どもを捕まえようと構えるが影の言葉で思い留まる。

 確かに人通りは多く、敵は子どもに見えても暁の一員だ。此処で戦えば被害は少しじゃ済まないだろう。少し短慮だったかと自来也は思い直した。

 

『安心しろ』

『私は別に九尾を狙って居る訳では無い』

 

「なに? 暁は九尾を狙っているのでは無いのか?」

 

『私の任務では無いからな』

 

「任務があれば狙うと言うことかの」

 

『そうだと言えばどうする?』

『この街にはかの三忍である綱手姫も居るようだ』

『何なら二人掛りで来ても良いぞ』

 

「ワシを前にして随分余裕だの」

 

「……」

 

『二日間は此処に居る』

『殺しに来るもいいし、臆病風をふかせて尻尾を巻いて逃げるもいい』

 

 そう書き残し、仮面の子どもは去っていく。二日間は此処にいると言ったが嘘か真かは自来也には分からない。しかし、此処で狙う事は出来ない。

 馬鹿正直に相手が待っているなら儲け者。綱手と合流しても居るようなら、お望みどおり捕らえようと自来也は言い聞かせ立ち去る仮面の子どもの背中をそのまま見逃した。

 

 

 

 綱手と合流した自来也は事情を話し、影の捕獲の協力を要請した。取り敢えず火影の件は保留となったが綱手の協力は得られる事になり、ナルトと自来也、綱手で影の元に向かう事となった。シズネは万が一の為に木の葉の里に向かった。

 

 仮面の子どもがまだこの街に居る事は、事前の調べで分かっていた。

 しかし、わざわざ人気のない場所を選び待っているのだから、随分舐められたものだと、逆に呆れてしまう。

 

「本当にまだ居るとはの」

 

 自来也の声にゆらりと影は立ち上がる。仮面の子どもの横でまるで闇が集まるように固まり分身を作る。色々な分身は知っているがあの様な分身を見るのは初めてだった。それに――

 

「印も無しに分身とはの」

 

 分身を作る時何の予備動作も無い。警戒を一段階上げる。

 仮面の子どもの攻撃から戦闘は始まり、静かに立ち上がっていく。

 

(速さは凄まじいが、体術は上の下といったところか? しかし、腹を貫かれても動き続ける分身には少し驚いたの)

 

 分身が消え本体の方をみると、心なしか仮面の子どもの周りの闇が濃くなっているように見えた。しかしそれは気のせいではなく、闇が仮面の子どものまわりを巻上がり、吹き荒れる。

 その嵐の中心に立つ仮面の子どもはゆらりと腕を上げると、ブワリと闇が仮面の子ども中心に広がり、――世界が塗り替えられた。

 夜だったハズの空は、血のように赤黒く染まり、彼方まで荒野が広がる。

 空から星は消えその代わりに星の数程の剣が無造作に高野に突き刺さっていた。

 

(まるで……墓地じゃのぉ)

 

「なんだ、これは」

 

 自来也の隣りに立つ綱手もこの光景に動揺する。最初に幻術を疑ったが、どうも幻術とも毛色が違うもっと異質なものに感じられた。

 この光景に目を奪われていたが、仮面の子どもは既に動き出している。手から黒い玉を作りぽとっ、ぽとっ、と地面に沈ませ。よく見ればソレは――

 

「……黒い……螺旋丸?」

 

 自来也自身が良く知るかつての弟子が生み出した術に良く酷似していた。仮面の子どもの動きが止まるのを見た自来也のカンが最大限の警告を鳴らす。此処でじっとしていては危ない。

 

「ナルト! 下がれ!」

 

 そのカンは正しく、突き飛ばされたナルトが立っていた足元から黒い手が伸びた。その掌には先程の螺旋丸に似た黒い玉。

 腕は次々に地面から伸び四方から自来也達を襲う。

 

(この腕はこの空間の効果か? それに――)

 

「何故コヤツが螺旋丸を……いや、螺旋丸では無いのか?」

 

 黒い玉が地面に当たると大きくクレーターが出来る。威力も螺旋丸と遜色は無い。

 一つ一つが、正しく必殺。ナルトを連れてきた事を後悔した。わざわざ、戦う約束をしたのは、自来也とナルトを分断させる為と思い、自来也はナルトを連れてきていた。だが、ソレは間違いだったようで。

 

(馬鹿正直に待っていた時は舐められたものだと思ったが、舐めていたのはこっちだったか。正しくコヤツも化け物じゃ。人一人守りながら戦うのはちと骨がおれるのぉ。仕方無い、一気に仕掛けるか)

 

「これでは埒が明かんの。綱手!」

 

「おう!」

 

 綱手も同じ考えだったようで、同じ印を組む。口寄せを行い、自来也と綱手はガマブン太とカツユを呼び寄せた。

 呼び寄せたガマブン太と協力し自来也は蝦蟇油炎弾を放つ。が――

 

(なぁ!? 之もこの空間の効果というのか!)

 

 放たれた、蝦蟇油炎弾は闇に飲み込まれ消えた。しかし、それで終わりでは無かった。

 蝦蟇油炎弾の後放たれたカツユの舌歯粘酸を飲み込まれたハズの炎弾が爆発の砲撃となり舌歯粘酸をかき消し直撃していないハズの自来也達諸共吹き飛ばした。

 その威力は凄まじく余波をもろに受けたガマブン太とカツユはダメージの大きさで消える。

 

(これ程とは。……最早、仙人モードしかないか)

 

 自来也達も無傷では無く、綱手も創造再生を使わされていた。

 しかし、仮面の子どもが追撃する様子は無く、それどころかこの空間をかき消した。

 

「何故!」

 

 何故止めをささないのか? ここまでして攻撃を止める敵の行動が理解出来ない。だが、何も答える事はなく仮面の子どもは去っていく。

 

(殺す事が目的ではない? ならば、何故戦う必要があった? 戦うこと自体が目的? ならば、この戦いには奴にとって何の意味があったのか? ……考えても分からぬ事か。今はそれよりも――)

 

「綱手。もう一度火影の件考え直してくれぬか。今の敵といい恐ろしく強い脅威が迫っておる。お主の力が必要なのだ」

 

「……あぁ。分かった。その話受けよう」

 

 三忍の二人を相手に無傷で圧倒できる、その程度の実力者が暁には複数居るのだと自来也達は考えた。

 そして、その脅威が奇しくも綱手がもう一度木の葉に戻る決意をさせたのだった。




最初ナルト視点で書いたのですが、色々思考するナルトがどうにもナルトっぽく無くなってしまい結局三人称にしました。


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19話・クーデタ上

□主人公視点

 

 

『無駄足だった』

 

 アジトに戻るとイタチさんと鬼鮫さんは戻っていた。

 

「すまない」

 

 私に愚痴られたイタチさんだが素直に謝る。まぁ、元々任務を達成する気が無かったとしても、自来也さんに邪魔をされ、木の葉の里ではマイト・ガイさんに邪魔をされては仕方が無い。

 マイト・ガイさんはこの世界で一番私を殺せる可能性の高い人間だ。本当に人間かどうか定かではないが、彼に狙われては、即効性の高い影貫礫で弾幕を張りながら死ぬ気で距離をとるしか無い。

 私が得意な相手は、遠距離タイプと鈍足なパワータイプだ。体術を極めた彼は私にとって最悪の相手と言える。

 というか、相性以前に死門を開いた彼の戦闘力は文句無しに世界トップレベル。正面から戦って勝てる人の方が少ない。とても怖いお人だ。願わくば一生会うことが無いように祈ろう。

 

『構わない』

 

「そんな事より何で失敗したのかな? うん」

 

「……三忍の自来也と螺旋丸や飛雷神の術を駆使する石隠れの里の忍びに邪魔をされた」

 

 自来也さんなら仕方が無い。自来也さんなら……ふぁ!? 螺旋丸や飛雷神の術を駆使する石の里の忍びってもしかしなくても量産型ミナトさんじゃないですかやだー。

 何で、暁と戦闘になるのだ? 私が暁の一員だという事は里の子達も知ってるし、敵対しないようにとも言っていたのに。

 

「自来也は分かるが、石隠れの里?」

 

「あぁ、かなりの使い手だった。それこそ記憶に残る四代目火影のような」

 

「うーん。無名の里だから気にしたこと無かったけど潰した方が良いかな? うん」

 

 ちょっと! やめてあげてよ。せっかく寝る間も惜しんでコツコツと大きくしてきたのに、空襲爆撃とかほんとにやめてよね。

 

『止めた方がいいんじゃないかな』

 

「ふん。あんな小さな里、オイラのC3で一撃なんだな。うん」

 

 止めるように促すが、デイダラくんはやる気満々のようだ。他のメンバーも止める様子が無い。

 あばばばば。どうしたらいい。流石にうちの里の子達は爆撃如きで殺られるようなヤワな鍛え方はしていないが、暁と戦争はしたくない。

 くっそー。誰がやったんだ。

 

『あー、えー』

 

「なんだ?」

 

 デイダラ君に指示を出していた小南さんが私を見る。仕方が無い、言うしか無いか。

 

『石隠れの里ってウチの里なんだよね』

 

「む? 黒兎は石隠れの里出なのか? ならば、情報を教えろ」

 

『そういう事じゃなくて、彼処は私のモノという意味』

『現在進行形で』

 

「「「……」」」

 

「という事は、もしかすると黒兎は里長なのか?」

 

『もしかしなくてもそうだね』

 

「……何故言わなかった」

 

『聞かれなかったからな』

『だから、潰すのは止めてほしい』

『私から暁に手を出さないように言っておく』

 

 せっかく秘密にしておいたカードだったのに、無駄なところで使ってしまったな。もう少し勿体ぶりたかったのに。ま、いいか。どのみち直ぐにバレていただろうし。

 というか隣の国の里長が私と同じ面をしているのに今までよくバレなかったなと関心する。それだけどうでもいいくらい弱小国家だったのだろうか。

 

「おい。なんでお前、里長なのに暁なんかはいってんだ?」

 

『元々、大蛇丸って変態に身体を狙われてて、大蛇丸が暁を裏切った時共闘したら成り行きでそのまま入った』

『暁に入っている事がバレたら他里から狙われるだろうが』

『バレなきゃいい話だし』

 

「へぇー」

 

 話を聞いたデイダラ君は興味を失ったように適当な話をした。大して面白い話でもないし仕方ない。

 

『私は里に向うよ』

『じゃあね』

 

 そう、言い残し、そそくさとアジトを立ち去った。

 

 

 

『再不斬さん』

 

 石隠れの里いにる私は、再不斬さんを見つけると呼び止めた。

 

「……なんだ」

 

『ちょっと水の国までクーデターに行こうと思うんだけど一緒にどう?』

 

「……ちょっとまて、今のは俺の聞き間違いか? それともいつもの冗談か?」

 

『いや、冗談じゃないですよ』

『少し計画は前倒しになってしまうけどね』

『実は準備は既に終わっているんです』

 

「おい、準備ってなんだ」

 

『いえ、以前約束したじゃないですか、クーデターの協力をすると』

『再不斬さんが修行にせいを出している間、クーデターの為の準備をしていたんですよ』

 

「……お前」

 

 マスクのせいで表情はよく分からないが、目を見開いて感動しているようだ。不良がちょっといい事するとイイ人に見えるというアレだろうか。所謂ギャップ萌えという。とすると、再不斬さんの心を射止めてしまったのだろうか? まったく私は罪な女だ。

 本当は再不斬さんの為というのは建前でクーデターは私にも旨味のある話だ。別天神の術の性質を考察するにオビトさんは四代目水影やぐらくんの側に居るはず。やぐらくんを監視している限りオビトさんの姿は見えないが、彼にちょっかい出せば何らかの行動に移してくれるだろう。

 釣れなかったら釣れないでもそれでいいが、もう外堀は埋めているんだ。そろそろ、ウロチョロされるのは目障りだ。

 

 今回のクーデターの根回しの為に、再不斬さんが外でクーデターの為の組織を組んでいるという事を暗に伝え、照美メイさんとの何度も交渉に望んだ。側に居る青さんに何度も邪魔をされつつも、暁やうちはマダラの情報を提示してなんとか協力体制を結ぶ事に成功した。

 第一目標としてやぐらくんに掛かっている幻術の解除。そして、背後に居るであろうマダラの討伐。

 作戦成功後の水影の決定権を譲る変わりに、再不斬さんに掛かっている罪過の取り消しと霧隠れの里への帰還の許可を貰った。

 

 本当はもう少し、戦力を強化したかったのだが、暁に里長の件がバレてしまったから仕方が無い。

 小南さんが口ではああ言っていたが、腹の中で何を考えているかは分からない。だから、万が一の事を考えて邪魔をされる前に、行動に移す必要があった。

 

『教官とウチの里の上から十人連れていくから』

 

「十分だな。助かる」

 

 べ、別に再不斬さんの為じゃないんだからね、と脳内でお約束の返事を返しつつ、私は手をひらひらと振りながらその場を去る。

 ミナトさんと量産型ミナトさん十人も居れば大丈夫だろう。量産型とはいえ、勝ち負けは別として暁とも戦える実力はあるだろう。

 音の子どもたちは今回は悪いけどお留守番だ。

 

 さて、水の国に向かう前にメイさんに声をかけなくてはいけない。

 ……今更だけど、なんでトップの私が一番動いて居るのだろう。

 

 

 

『こんばんわメイさん』

 

「卯月くん! どうしたのこんな夜に」

 

 メイさんに会いに部屋の前に行きノックをして入室する。男の姿に変化している為仮面は付けていない。その方がアラサー女子の照美メイさんにはいいと思ったのだが、思った以上に効果覿面で――

 

『苦しいですメイさん』

 

「あぁ、ごめんね。卯月くん」

 

 想像以上に好かれた。

 入ってきたのが私と分かると、たわわと揺れる二つの柔らかな果実を私の頭に押し付けて抱きしめる。ちゃんと女性が好きな私としては嬉しいのだけど、いつまでもこうしている訳には行かず、腕をほどいてもらう。

 この人はたぶん根っからのショタコンだ。外見は性別しか変えて無いので今の私は十一歳。それに原作でも我愛羅くんやサスケくんに好感を持っていたようだし。私が二十代と分かると「合法ショタ!」と言って口を抑え興奮していた姿を見た時は流石の私も引いてしまったが。

 そう言えばやぐらくんも合法ショタだ。もしかして、だから今まで放置してたのか? だとしたら筋金入りだ。そうでない事を祈りたい。

 

『メイさん、悪いんだけど計画が前倒しになるけど大丈夫?』

 

「どういう事?」

 

『実は、暁に感づかれて邪魔される前に動く必要があったんです』

 

「私たちの方は問題ないわ」

 

『ありがとうございますメイさん』

 

「じゃあ卯月くんの仲間が来るまではまだしばらく時間が有るわよね?」

 

 まぁ、やぐらくんの動きは私の分身が見張って居るし、此処で準備する事もほぼない。里に内部協力者が居るだけで、もう半分は作戦も成功しているようなものだ。

 

『はい』

『秘密裏に動いているので二日は掛かると思いますが、それまでは私のする事は無いです』

 

「ふふ、じゃあそれまでおねーさんと遊んでいましょう」

 

『まっ』

 

 メイさんは私に頬ずりしながら、身体を抱き上げた。こういう目論見があったとはいえ、こうもストレートに好意をぶつけられるのは恥ずかしい。

 

「卯月くんも、子どもじゃないんだから」

 

 いつの間にか、ベッドに押し倒され組み敷かれている。完全に主導権を握られてしまった。

 やはり色仕掛けとかそういう事は私には向いていない。反省する。そんな、やる直前になってか足がすくむチェリーボーイのように成りながら、身動ぎする。

 

「嫌いじゃないでしょ? こういう事」

 

 嫌いじゃない。私でもそういう事には興味がある。女の子になったとはいえ、メイさんのような豊満な身体に触れる機会なんて滅多にないんだ。

 しかし、彼氏彼女でも無い人間に簡単に身体を許してしまうのは如何なものだろうか。こういうものは順を追って一つづつ仲を深めていくものじゃないのか?

 

「脱がすね」

 

 メイさんは私の返事待たずに着物の帯を解いていく。

 ごめん、白。お姉ちゃん汚されちゃう。

 

 というか、一応私にも付いているがちゃんと機能するのだろうか。もし、機能せずに女の子とばれてしまったら今回の作戦も破談に成ってしまうかも。いや、バレなかったとしても、直前までいって機能しなかったら私は一生心に深い傷を負う事だろう。

 こんな事ならば、事前に調べておけば良かった。いや、正直に言うと少し誘惑はあったが、性別を変えてそういう行為をする事は、ちょっと変態っぽくて抵抗があったのだ。

 

「卯月殿来ていらっしゃるのですか。うづっ!?」

 

「チッ」

 

 混乱しながら半ば諦めると、丁度いいタイミングで青がやってきた。

 私はメイさんから脱がされた着物を拾い青さんの方に駆け寄った。

 

『いいタイミングだ青さん、助かったよ』

 

「いえ、それよりも卯月殿。早くお着物を」

 

『うん』

 

 まぁ、確かに私は裸だが今は男だ。そんなに目を背けなくても……ハッ! よく見たら青さんの頬が僅かに赤く染まっている。もしかして、ホ○!?

 再不斬さん、鬼鮫さん。思い返してみれば変態ばかりだ。もしかして霧隠れの里は変態が育ち易い土壌なのかもしれない。

 驚愕した。知らず知らずのうちに私は変態の里に来てしまっていたようだ。

 私は急いで着物を着ると部屋を飛び出す。

 

「ふふ。また後でね」

 

 ……私は、あと二日間貞操を守れるだろうか。

 




明日、下を投稿します。


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20話・クーデタ下

□主人公視点

 

 二日後。私たちはあらかじめ用意された商業船に紛れ込み水の国に入った。島国である水の国には普通の方法で入ってもバレてしまうだろう。ちなみに私は貞操を守りきったとだけ記しておこう。

 到着した私の里の子達は先にいる私を見ても驚く事は無い。私がそういうモノだと知っているからだ。

 里の子達は、私に対して必要以上に畏怖しているが、これは多分子どもの頃怖かった父親の印象で大人になっても頭が上がらないのと似たようなものだろう。あの時は少しやり過ぎちゃったかな、とは思わなくも無いがそれが戦争というものだ。仕方が無い。

 

「お待ちしておりました。私は照美メイ。よろしく」

 

「ん、ご丁寧にどうも。俺はトナミ、副リーダみたいなものだよ。よろしくね。うちの卯月君預かってくれてありがとう」

 

「……再不斬だ」

 

 一応、再不斬さんが立ち上げた組織ということで来ているので、皆額あてを取り、兎の面で統一している。暗部のような感じだ。

 一応、ミナトたちには、リーダー再不斬さん。副リーダーミナトさんもといトナミさん。私の立ち位置としては団員その一と説明をしている。

 

「……再不斬。久し振りね。取り敢えず五体満足でよかったわ。それと卯月君のことなら気にしないで。むしろ終わった後もずっとうちの里に居てくれて構わないわ」

 

『え"?』

 

「いーよ。ちゃんと可愛がってね」

 

「えぇ。勿論」

 

 ちょっと何を勝手に私の未来を決めているんだ。ミナトさんはアイコンタクトで『減るものでも無いし、ひとりくらい良いよね』と笑っている。実際はお面で笑っているかは分からないが気配は笑っていた。

 確かに減るものでも無いが、私の心がすり減るのだ。この人は私が沢山いると思って平気で無茶振りをしてくる。

 団員その一として上の言葉には逆らえない。それも承知の上でミナトさんは私を追い詰めるのだ。妻がクシナさんのような人だから違うと思っていたけど、この人はきっとドSだ。夜はクシナさんを虐めて(タノ)しんでいたに違いない。

 というか、真面目な顔合わせの場で私を抱き抱えるのはどうなのだろうか。先ほど再不斬さんに『この人と知り合いだろ。助けて』とサインを送ったのに『ざまぁ』と返された。相変わらずのツンデレっぷりだ。いい笑顔だったよ。

 

 しかし、いつまでもこのままグダグダやるのも時間の無駄だ。私が進めてしまうか。

 

『すみません』

『早速ですが今作戦の確認をさせて頂きます』

 

 ミナトさんの側に控えていた、影ちゃん。つまり私が注目を集める。

 

「あら? その子は?」

 

「ん? あぁ。この子は黒兎ちゃん。卯月君の双子の妹だよ」

 

『申し遅れました、黒兎と申します』

 

「そうなの? ふふ、良かったら貴女もうちの里に来る?」

 

「……」

 

『勿体ない話ではありますが遠慮させて頂きます』

 

「そう? ふふ、気が変わったら何時でも言ってね」

 

 戦慄した。この人はショタコンに加えロリもイケるのか。

 もしかしたら、霧の里行きが確定している我が一部と一緒がいいと思った、という可能性もあるのかも知れないが。

 

『ありがとうございます』

『では、説明を続けます』

『今作戦は今夜決行。まず里の北の裏側より侵入、照美様たちの先導で水影様を目指します。我々再不斬様と他三名が身柄を拘束し青様による幻術解除が第一目標。解除不可能と判断された場合、青様の合図により討伐に切り替えます』

『討伐となった場合大規模な戦闘になる可能性が高いので、我々以下七名と照美様達の持つ戦力で霧隠れの里に潜む敵対勢力の鎮圧に当てます』

『尚、不確定要素として、うちはマダラの介入が予想される為、カウンター要員としてトナミ様と私が控えます』

『以上ご質問はありますか?』

 

「マダラが来た場合は本当に貴方達に任せて大丈夫なのかしら」

 

 説明が終わり質問があるか聞くとメイさんは真面目な声で聞いた。しかし、私を抱いたままなので締まらないが。

 元々部下だった、再不斬さん率いる組織の二番手と団員その一があのうちはマダラを対処すると言っているのだ。疑いたくなる気持ちもわかるだろう。私も正体がオビトさんと分かっていても胃が痛い。

 

「ん。大丈夫。コッチは任せておいて」

 

 そもそも、私とミナトさんの目的はオビトさんなのだ。ミナトさんも過去の因縁が有るのだろう。自ら戦わせて欲しいと言って居たから、サポートに徹するつもりである。ただし、容易に神威を使わせる気も無いが。

 来ると確定してない敵に気負ってもせんのないことだけど。戦闘になっても最低限勝てなくとも負けない自身はある。ミナトさんが。

 やっちゃえミナトさん!

 

「……」

 

「大丈夫。之でも戦闘は自信があるんだ。それにね、再不斬君も昔のままだと思わない方がいいよ」

 

「……分かりました」

 

 傲慢不敵だがこれくらいに言ってくれた方がいいだろう。メイさんもしぶしぶではあるが納得したように了承してくれた。

 

 再不斬さんは、昔の水遁に加え螺旋丸、飛雷神の術。そして雷遁を幾つか習得していた。原作で最後に命を絶たれた雷遁を発現するのは因果な事だと思う。しかし、あまり使っている人を見ない組み合わせではあるが雷遁と水遁の組み合わせは凶悪だ。

 水遁に雷遁を通し、戦況が進むにつれて逃げ場を段々と削り、飛雷神の術と螺旋丸で止めを刺す陰湿な戦闘法は、元々サイレントキル(笑)をうたっていた再不斬さんにピッタリだけど。

 

「ん、他に聞きたいことはないかな? 無いなら、俺達はこれから夕刻まで休息をとり、日がおちたら行動開始にするけど」

 

「大丈夫ですわ」

 

「ん、それじゃ解散。各自しっかり身体を休めるように」

 

 ミナトさんの言葉で顔合わせは終了となる。しかし、話し合いに完全に我関せずの再不斬さんは一応リーダーになってるという事の自覚があるのだろうか? こんなところでサイレント発動してどうするんだ。

 

 

 

「じゃ、再不斬君、虎目さん、メノウくん、琥珀ちゃん。宜しくね。散ッ!」

 

 再不斬さんと、石垣虎目さん、メノウさん、葛葉コハクちゃんが瞬身の術で散開し青さんがそれに追随した。

 他の七名はメイさん達と別行動を取っていた。

 

『後は待つだけですね』

 

「……ん」

 

 ミナトさんは小さく返事を返す。その横顔からは感情を読み取ることは出来なかったが、この人なら戦闘に感情を持ち込む事は無いだろう。

 

 私達は何時でも動けるように、戦況を見守る。

 

「……土遁・四方石牢(シホウセキロウ)

 

 先ずは虎目さんが、ヤグラくんが住む家を石の結界で覆い退路を絶った。

 

「誰だ」

 

「久し振りだな。水影」

 

「貴様、再不斬」

 

「土遁・石柱鉃神逕(セキチュウシシンケイ)

 

「クッ!」

 

 地面から反り立つ石の柱。しかし、この技の本命は攻撃ではなく、ソレに彫られているマーキングの印が本質。造形が得意なコハクちゃんのオリジナル忍術だ。

 

「飛雷神の術」

 

「ちぃッ!」

 

 マーキングの施された石柱から飛雷神で移動したコハクちゃんが、螺旋丸でやぐらくんを狙う。やぐらくんギリギリで避ける事には成功したが――。

 

「残念だが終わりだ。「水遁(雷遁)・水雷牢の術」」

 

「なっ!? ガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 コハクちゃんのマーキングに飛雷神で移動した再不斬さんと再不斬の水分身による水雷牢の術で捕獲された。

 というか、飛雷神使える人が複数居るのは反則くさい。

 

 水雷牢の術は水牢の術に水分身が雷遁を使い強化した術だ。水遁の使い手でも逃れる事は難しいだろう。

 まぁ、尾獣を使わず、奇襲となればこんなものだろう。もし、操られていなかったならば、簡単にはいかなかっただろうが、フットワークを重視した忍び三人とやぐらくんの水鏡の術では相性が良いのでどちらにしても負けは無いと思うが 。

 

「申し訳ございません、水影様」

 

「ア゙オ゙ォ゙ぎざまア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 青さんが、拘束されたやぐらくんの前に立つ。どの様にして別天神を解くか興味があるが――。

 

 見学もここまでだ。

 

 やはり、すんなり終わらせてくれるハズも無いか。あちらはもう一人の私と仲間達に任せて、私は夜陰に乗じてやってきた一人の人影の前に立ち塞がる。

 

『来てくれると信じてましたよ。うちはマダラ』

 

「……何処のどいつか知らないが、俺の邪魔立てをするなら後悔してもらおう」

 

「何処のどいつとは……。忘れるなんて、酷いね」

 

 私達は予定通りに現れた、うちはマダラ、否、うちはオビトの行く手を遮った。私達にとってオビトさんは不確定要素であるが彼にとって私達もそうである。彼がそれを、みすみす見逃す筈が無いと信じていた。

 

 ミナトさんは仮面を外すと、いつもの笑顔を潜め嵐の様な殺気で相手を威圧していた。こんなミナトさんを見るのははじめてかも知れない。

 

「ッ! 貴様は四代目! ……亡霊が何の用か知らんが、生き汚い事だな」

 

『貴方がソレを言いますか』

 

 生き汚さに関しては、マダラさん、オビトさん。どちらにしても一流のものだろう。私は肩を震わせて笑う。

 

「おしゃべりはここまでだよ。何を企んで居るか知らないが十二年前の借り、今返させて貰う!」

 

「芸の無い、ソレはもう知っている!」

 

 マーキングの入ったクナイを投げるが、オビトさんは神威を使わずにかわす。飛雷神弐の段を警戒しての事だろうが、私は置き物じゃないのだ。忘れてもらっては困る。

 

 ――影遁・影錐槍の術。

 

 クナイを避けたマダラを、地面から伸びる八本の鋭い影が襲う。

 しかし、貫いたのは丸太。変わり身か。

 コレはヘイトが私に付いてしまっただろうか。

 

「木遁・挿し木の術」

 

 ――影化。

 

 腕から伸びくる木の槍を、影化する事で回避する。オビトさんは術が効かなかった事を瞬時に見抜き寅の印を結ぶ。

 

「火遁・豪火球の術!」

 

 ――圧縮、セット、解放。

 眼前を覆い尽くすような豪火球を影が呑み込み、レーザーのような熱線を放射する。

 オビトさんには当たらなかったが元々狙っていない。狙いは――。

 

「飛雷神・導雷」

 

 ミナトさんに向かい飛んだ熱線は、ミナトさんの作り出した時空の裂け目に吸い込まれ、次の瞬間オビトさんの頭上から放射された。轟音と共に周囲を巻き込み焼き尽くす。

 まるで長年連れ添った夫婦のようなコンビネーションだ。おっと、これ以上は怒られてしまう。主にミナトさんが。

 

「この程度ッガッァッ!」

 

「で、倒せない事はもう知っていたよ」

 

「クッ……何故」

 

「飛雷神のマーキングは決して消えない。ソレは、知らなかったようだね」

 

 煙が晴れる前に飛雷神の術で飛んだミナトさんの螺旋丸が、オビトさんの背中に突き刺さる。おそらく、神威で躱されあの一撃では倒せない事を読んでいたのだろう。

 

「アガッ……。最早これまでか。この戦いはお前達の勝ちで良い。だが、必ず計画は成功させる!」

 

 ミナトさんの螺旋丸を受けたオビトさんは、ボロボロになりながらも最後に言葉を残し消えていった。

 

「なっ!」

 

『神威でしょう』

 

 全く写輪眼は便利な瞳だ。

 だけどね、オビトさん。

 

 

 

「グッ! 逃げ切ったか……」

 

『いいえ』

『知らなかったのですか?』

 

 暗い穴蔵に声が響く。転移し終えたのだろう。荒い息を整えているようだ。

 しかし、安心するのは早すぎだ。あなたは一つ思い違いをしている――。

 

『私からは逃げられない』

 

「ぐあッ!」

 

 私は、先程の戦闘で攻撃がかすった時に付けたマーキングから分身を作ると、倒れるオビトさんを踏み付け右目の写輪眼を潰す。そして、ここの穴蔵の奥に目をむける。

 

 ――うちはマダラ。

 

 やっと貴方にたどり着いた。

 コレは想定していた作戦の中で最高の結果だ。

 フフッ! アハハハハハ! 感謝するよオビトさん。

 

『はじめまして、うちはマダラさん』

 

「クッ 月詠!」

 

『悪いがこの身が幻術に囚われる事は無いんです』

『疾く死ね』

 

 私が殺気を向けると、マダラさんはどうやら月詠を行ったらしい。しかし、幻術は私にとって悪手だ。

 私は何故か幻術にかかる事が無い。多分、数多の思考回路を持つ故にその一つが異常をきたしたとしても、自動的に他の思考が補完的役割を果たすのだろう。

 いくら強かったとしても、手札の無い動けぬ老人など私にとってタダの的だ。バラバラに引き裂き輪廻眼を潰した。

 

『さて、オビトさん』

 

「ッ!」

 

『月の眼計画でしたか?』

『悪いですがここまでです』

 

「ふざけるな。コレは平和な世界を作るための!」

 

「……」

 

『私、言葉がうまく無いから上手く伝えられないけどさ』

『なんなの、それ』

『そんなの誰も頼んで無いんだからさ』

『貴方は自分のエゴを通す為に力を振り翳す事を選んだ』

『どんな崇高な目的があったにしろ、私は私の価値観でそれを拒絶し抗った』

『その結果私が勝ち貴方は負けた』

 

「……」

 

『力の単純さに慣れ、対話する事を諦めた奴が今更何を言った所で詭弁だよ』

 

「……そうだな。だが、ゆめゆめ忘れるな。お前のその利己的な意志は厄災を産む。それもまた呪われた世界の一部でしかない事を知るだろう。いずれ、向けた刃が己を切り刻む事だろう。ガハッ……」

 

「……」

 

『それでも私は君達の意思を踏み躙り進むよ』

『それがこの世界に落とされた私が出来る唯一の復讐だから』

 

 対話する事を諦め力を振り翳す。いつか私も、オビトさんの様に他の誰かによって潰える時が来るかもしれない。だけど、そんな事は今更言われるまでも無い。

 私は賢くないし正義感もない。ただ物語通りに朽ちる事の出来なかった臆病者だ。

 

『じゃあね』

『良い旅を』

 

 おやすみオビトさん。

 負けるその時が来るまで、私は私の意思で抗い続けるよ。




少しだけ魔王っぽくなってしまったかも知れません。


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