ハイキュー!!anotherstory~もうひとつの太陽~ (武田兎)
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プロローグ

もしも翔陽達が全国に行けなかったらという設定で話が進んでいきます。
そういうのが苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでもいいという方はよろしくお願いします。




私はバレーボールが嫌いだ----------------------

 

いつも一緒におままごとをしてくれるお兄ちゃん、縄跳びで遊んでくれるお兄ちゃん。

 

お母さんに怒られた時もお兄ちゃんはいつも私をかばってくれた。

 

いつも私を助けてくれる、遊んでくれる。そんなお兄ちゃんが私は大好きだ。

 

でもそんなお兄ちゃんも学校でバレーを始めるようになってからは前のように遊んでくれなくなった。

今日こそ遊ぼうとねだる私にお兄ちゃんは『ごめんな』と言って頭を撫でて家を出ていく。

 

取り残された私はいつも思った。

 

 

お兄ちゃんを奪ったバレーボールなんか大嫌いだ!!

 

 

 

 

ここは宮城県のとある体育館、本日はなにか館内で大会でもあるのか体育館の外に居ても大きな歓声が漏れだして聞こえてくる。

そんな体育館からほんの150メートル位離れた場所であろうか、体育館へ続く道の真ん中で大声を出し立ち止まっている少女の姿があった。

 

「つかれたー帰ろうよーお母さーん!!」

 

癖の強いオレンジの髪の少女は小さな腕をブンブンと回し、人目もはばからず大声で目の前を歩く母親に叫びかける。

 

「なっちゃん!!ほらお兄ちゃんの試合見に行くんだからちゃんと歩いて!!」

 

なっちゃんと呼ばれる少女こと私、日向夏は近くの宮城県内の小学校に通うごく普通の小学3年生である。ただ普通の子とちょっと違うところがあるとすればこの小柄な体格のおかげで初対面の人はほぼ確実に実際の年よりも下に見られてしまうところだろうか。

母には年下に見られてしまう原因は身長だけでなく、オレンジ色のクセ毛を首筋で二つに縛ってある姿が余計に子供っぽいからと言われるが、いかんせんこの髪型は愛着があり私自身気に入っているのでやめる気はない。

そんな私が本日母と外出してきたのにはある理由があった。

 

「だって私バレーなんて興味ないもん!!むしろ嫌い!!」

「うふふ、なっちゃんはお兄ちゃん大好きだもんね。お兄ちゃんが高校でバレー部に入った最初の頃はバレーにお兄ちゃん取られたって良く泣いてたもんね。」

「そ、そんなことないもん!!」

「でも今日は…今日だけはちゃんとお兄ちゃんの事見てあげてね。」

 

もう2年も前の話をされて顔を赤くする私を見て母は優しく微笑む。

そう、本日の外出した目的は兄である日向翔陽の試合を見に行く為であった。

兄は中学では実現できなかった正式なバレー部に高校に入学してやっと入ることができ、時に笑い時に涙し部活から帰って来ては本当に楽しそうな顔で今日あった出来事を私に話してくれた。

兄の話では同い年に「とびお」というすごいバレーの上手くて怖い人がいるらしく、その「とびお」がムカつくとかでもすげー!!と「とびお」の話をしている兄は心底楽しそうであった。

 そんなバレー馬鹿な兄が初めて昨夜、私と母を大会を見に来てくれと呼んだのだ。

その言葉に母は一言「わかった」と神妙な顔で言っていたが、その意図は私には理解できない。

今も昨晩と同じく母は神妙な面持ちで会場に向かっている。

 

「なんで?確かにお兄ちゃんの試合を見に行くのは初めてだけど、どうせ明日もその先もずっとお兄ちゃんはバレーバレーばっかなんだろうし見る機会なんてこれからいくらでもあるじゃん。」

「違うの…違うのよなっちゃん…だって今日は…」

 

そうこうしているうちに私たちの目の前には会場である体育館が見えてきた。

そして体育館の入口には本日行われている大会の名称が看板で出ており看板にはこう書かれていた。

 

 

 

 

宮城県春高校バレー予選大会 決勝 烏野高校 対 白鳥沢高校

 

 

 

 

 

 

 

 

会場に着くと応援席に居る数えきるのが不可能な程の大勢の人たちの熱気と歓声に圧倒される。

あまりの人の多さに呆気に取られている私を母は手を引き応援席へと連れて行く。手を引かれながら館内の中心に一面だけ貼られているバレーのコートを見てみると2校の選手たちが各自ウォーミングアップをしている。

どちらの選手も顔は試合が始まってもいないにも関わらず真剣そのもので緊張感がこちらにもビリビリと伝わって来るほどだった。

 

そしてなにより…

 

「大きい…」

 

コートにいる選手達の身長は私が想像していたよりも格段に高かった。

普段見ている高校生の基準が兄なので仕方ないと言えば仕方ないが…

兄が普通の男子高校生よりも身長が小さい事は知っていた。しかし大きい人と比べてもせいぜい10センチ位かと思っていたが下手をすれば頭1個分でも足りない位の差がある。

本当に兄はあんな大きい人達の中で戦っているのだろうかと思っていると母が私の肩を叩き会場のある一点を指指す。

その指の先を見たとき思わず私は叫んでしまった。

 

「お兄ちゃん!!」

 

間違えるハズがない、あのコートでアップを始めようとしている一際背の小さな選手は正しく兄である翔陽だ。

本当に試合でるんだ…と関心する一方で私は不安も抱いていた。

当然だ、バレーボールといえば背の高い人がやるスポーツの代名詞。

現にテレビに映るプロの選手は皆途方も無く背が高い。今コートの中にいる人達もそこまでとは言わないが翔陽の身長は優に超えている。そんな中で本当に活躍なんてできるのだろうか、と思っていると翔陽の登場から観客席がザワつき始める。

 

「おいあれが烏野の10番か…2年前あの牛若と渡り合ったっていう」

「ああ…あれから2年、ずっと決勝までは上がってはいるが烏野はまだ一度も優勝はしていない。全て決勝で白鳥沢に負けている。」

「そうか…じゃあ今回も…」

「いや、今回の烏野はやばい。なんてたって準決勝であの伊達工に圧勝してるんだ。あの鉄壁ですら烏野の10番をついに捉えることができなかったからな」

「じゃあもしかしたら」

「ああ、この勢いなら烏野はついに倒せるかもしれない、王者白鳥沢を!!」

 

隣の人達の話を聞いて自然口がポカーンと開く。周りから見たら今の私の顔はひどく間抜けに見えただろう。

しかしそれ以上に今聞こえてきた会話が信じられないのだ。え?あの人達がさっきからベタ褒めしてる烏野の10番ってお兄ちゃん?なんで?あの巨人の街に紛れ込んだ小人が?とあまりの混乱に兄に対してなんとも酷い事を思っていると母親にまた肩を叩かれた。

 

「ほらなっちゃん、始まるみたいよ」

「え?え?え、えっと、が、頑張れ!!!お兄ちゃん!!!」

 

私の意識が混乱で飛んでいる間にコートにいる選手達は既に整列している。

そしてお互いに並んで礼をした後、選手達はコーチの元に集合しようとしてる時だった。母の突然の振りに声の裏返りながら発した私の大声が翔陽に聞こえたのかこちらに向かって拳を突き出しニカッっと笑ってみせた。

 

(お兄ちゃん今…こっちに気づいた?そう言えば生でバレーの試合見るの初めてだな…)

 

思い起こせば家ではプロバレーの試合があるとよく見ていたが直にバレーの試合を見たことはなかった。

その初めての試合が兄の試合とは…私が期待に胸を膨らませているとついに開始のホイッスルが会場に鳴り響いた。

 

 

「すごい…」

 

私の口からは自然とその言葉がこぼれる。なんとも素っ気ない表現だが今目の前の光景を表現する言葉を私の9年間の人生では持ち合わせてはいないのだ。

ただ瞬きする時間すらも惜しいと感じ、私は食い入るように試合を見ていた。

試合自体もさすが高校生の県大会決勝ということもあって素人の私から見てもとてもレベルの高いものだった。

しかし私が惹かれたのソコではない。私が先ほどから魅入っているのは烏野高校の10番、実の兄である日向翔陽の存在である。

 

 

「あ、また…」

 

コート上から再び一羽の烏が飛び出す。

相手がどんなに背が高くても、どれだけ手が長くても空へ飛び出した烏を捉えることは-----------------

 

 

 

できない-----------------------

 

 

 

小さな烏の一撃に会場が歓声の雨に包まれる。

それもそうだ、あの誰よりも小さな選手が一体何点決めたというのだ。

その選手が自分の兄だなんて興奮のあまりその場でピョンピョン飛び跳ねてしまう。

 

「すごい…すごい!!すごいね!!お母さん!!」

「うんそうね」

「そうねじゃないよ!!あのお兄ちゃんがあんなバーって行ってドーンって決めちゃうんだよ!!もうなんて言えばわかんないけどすごい!!とにかくすごいね!!」

「なら、なっちゃんもやってみたら?」

「え?」

 

唐突な母の言葉に面を食らう。

 

「バレーボールやってみたら?」

 

バレーボールは大きな人がやるスポーツ、ずっとそう思ってきた。

でもその考えを今、目の前で兄が壊してくれた。

私もなりたい、あんな風に自由にコートを飛んでみたい!!

 

「…私にもなれるかな?あんな風に、お兄ちゃんみたいに…」

「きっと慣れるわよ、だから今は、ね?」

 

そう言って母はニコリと微笑みながらコートを指差す。

 

「うん!!頑張れお兄ちゃん!!」

 

私は誰よりも大きな声で兄を応援した。

あんなすごい兄のいるチームなのだ、例えどんなに相手が強くても負けるわけがない。

私はこの時一部たりとも兄達烏野の勝利を疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし------------------------

 

 

 

 

 

 

 

「試合終了!!セットカウント3-2で優勝は白鳥沢高校!!春高へのチケットを手にしました!!」

 

 

 

 

 

 

 

烏の夢は無残にも敗れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから兄は抜け殻のようだった。

何を話しかけてもうん…としか言わず夜中に人知れず泣いていたのを見かけた事もあった。

何よりも大きな変化はバレーについて何も話さなくなったことだ。

あの大会の後、母からあの大会は兄の高校最後の大会であると教えられた。だから私と母をあの会場に呼んだのだろう。

優勝しこれが俺のチームメイト達だと私達に見せたかったのだろう。

しかしその夢は崩れ去った、前半まで決まっていた洗練された兄の攻撃が後半からは徐々に捕まっていき決定打をなくした烏野は僅差で敗れてしまったのだ。

あの試合の光景は今でも私の脳裏に一瞬一瞬まで鮮明に焼きついて離れない。

 

「お兄ちゃん…」

「……」

 

私は自室に行こうとする兄を呼び止める。

兄は私の方を振り返ることもなく足を止めただけで何も答えない。

母にはしばらくそっとしといてあげなさいと言われたけれどもうこの状態が一ヶ月近くになる。今日どうしても兄に言いたいことがあるのだ。

 

「あのねお兄ちゃん、今更だけど試合すごかった。あんな大きな人達の中でお兄ちゃんがバレーボールやってるなんて知らなかったよ。」

「……」

「私バレーボールって大きい人がやるスポーツだと思ってたけど、すごいねお兄ちゃん何回も決めてまるで羽が生えてるみたいだった。」

「……」

 

兄はずっと無言であったが徐々にプルプルと背中を震わせ始める。

 

「結果は残念だったけど、お兄ちゃん達はすご」

「知ったような事言うなよ!!」

 

廊下に久々に聞いた兄の大声が響き渡る。

そして兄は私の方に振り返ると泣きながら私の肩をがしっと掴んだ。

 

「どんなに頑張ってもどんなに努力しても負けたら意味ないんだよ…最後の大会だったんだ…山口や月島…それに影山とバレーができる高校最後の大会だったんだよ…」

「…お兄ちゃん」

「先輩達とも約束したのに絶対に俺たちが全国へ行ってオレンジコートに立つって…でも俺は…守れなかった…」

 

兄が私の前に崩れ落ちる。

きっと兄はあの大会に私の想像では計り知れない程の想いを込めていたのだろう。

チームメイトでもない私にはソレを知ることはできない。

 

だから知りたい---------------------

 

兄がこんなに本気になったバレーボールがどんなものなのか

 

なりたい-----------------------

 

兄のように会場中から歓声が上がり、どんな大きな相手にも負けない『小さな巨人』のような選手に

 

「お兄ちゃん…私に教えてバレーボール…」

「え?」

「お兄ちゃん夢は私が叶える!!私がお兄ちゃんの後を継ぐ!!」

「なっちゃん…」

 

その時涙で視界が霞んでいた翔陽は見た。

目が霞んでいたせいで見えた幻だと思うがその時の翔陽には夏の後ろには小さな羽が生えているように見えたのだ。

一瞬驚いた翔陽であったが直ぐに自分の涙を袖で拭いて夏の頭にポンッと手を置く。

そして自分でも久しぶりだと思うほどしてなかった笑顔で夏に答える。

 

「なっちゃん…」

「任せていいのか…?俺達の夢…」

「うん絶対にお兄ちゃんみたいになってチームメイト達と絶対に全国に行く!!」

「おう…俺の俺達の夢…夏に託した!!」

「うん!!」

「じゃあまずはトスから教えてやるぞ!!」

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

そして時は過ぎ6年後、烏野高校に新たな雛鳥が羽ばたく----------------------

 

 

 

 




原作キャラはこれからドンドン出して行く予定です。
感想、意見などありましたらドンドン書き込んでください。
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