大日本帝国は異世界にやって来ました~(見切り発車) (九六式雀)
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大日本帝国生誕!

――とあるユグドラシルの名高いギルド。

 

 そのギルドはかのアインズ・ウール・ゴウンと一戦を交えてこてんぱんに叩きのめされて半壊状態(全壊一歩手前)に陥ったものの、なんとか建てなおすことが出来た唯一のギルド。←ココ重要

 

 つまり、あのえげつない報復を繰り返すことで有名な血も涙もないギルドから生き残ったことで有名なギルド。

 そのギルドは都市一個丸々で構成されており、その広さはユグドラシル有数である。そんなギルドの名、それは――

 

 

 

――大日本帝国(ver2.0)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――「目標!前方の謎の化物、撃ち方始め!」

 

 男の叫び声が響く。

 

 パパパパン!という乾いた音がなり、目の前の化物達がなぎ倒されていく。

 

 「総員着剣!突撃いいいいいいい!」

 

 「大日本帝国ばんざあああああああああい!」

 

 鉄帽をかぶり、古めかしい三八式歩兵銃を手に持った兵士たちが次々と、壕の中から飛び出て、化物たちの中に突撃してゆく。

 

 「撃て!撃てええ!」

 

 ポンという音がなり八九式重擲弾筒から次々と八九式榴弾が発射される。

 そして、着弾と同時にはじけ飛ぶ化物。

 

 そして、煙が晴れると同時に悪魔たちと兵士たちの白兵戦がはじまった。

 

 「うおおおお!」

 

 「ぎやあああ!」

 

 あちこちから叫び声が、悲鳴が聞こえてくる。

 

 「――全員伏せろおおお!」

 

 その時、上空から黒い物体――250キロ爆弾が降ってきた。

 ものすごい轟音とともに化物たちの姿は消し飛ぶ。

 

 「ちくしょう!司令部め、俺達がいるってこと忘れてんじゃねえのか!」

 

 「ぜ、前方!一つ、馬鹿でかい化物が突っ込んでくる!」

 

 「あれはやべえ!逃げるぞ!撤退だ、司令部に報告しろ!」

 

 「お、おい!またくるぞ!」

 

 上空を見渡せばそこには編隊を組みながら急降下爆撃を加えてくる九九式艦爆の群れがいる。

 ヒュウウウと音を立てながら降ってくる幾つもの250キロ爆弾。

 

 「うわあああああああ!」――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ここはどこかの宮城(きゅうじょう)と呼ばれるところの地下。

 

 「赤城航空隊から報告。」

 

 女性の声が聞こえる。

 

 「敵の首領と思われし化物を撃破。敵の指揮系統が乱れ始めたとのこと。」

 

 これも女性の声だ。

 

 「よろしい。まさか突然攻撃をされ、砲兵部隊が壊滅状態に陥るとは思っていなかったが、これならなんとかなりそうだな。」

 

 今度はいかついおっさんの声だ。

 

 「さて、至高の君よ。次の命令を。」

 

 至高の君?誰だそりゃ。そんな恥ずかしい名前で呼ばれている奴がいるのか。全く、そいつの顔を見てみたいものだ。

 

 「如何なされましたか。至高の君よ。」

 

 うわあ、こいつ俺に向かってこんなこと言ってる。しかも目がガチだ。オフザケはよそでやってくれよ。

 

 「…一兵足りとも生かして返すな。殲滅あるのみだ。」

 

 仕方ねえなあ。ちょっとぐらい付き合ってやるか。

 

 「はっ、かしこまりました。」

 

 目の前にいるおっさんと女性が敬礼をして部屋を出て行く。

 

 「…。」

 

 しばらく静寂の時が流れ、俺は座っていたやけに豪華な椅子から立ち上がった。

 

 「あああああああああああああああああ!」

 

 俺は突然叫び声を上げて地面に転がり込み暴れまわる。そして、突然ピタッと止まりボソッと呟いた。

 

 「どうしてこうなった…。」

 

 俺の心からの叫びだ。

 

 「なんで、ログアウト出来ないんだよ…。なんで突然化物が攻めて来るんだよ…。」

 

 俺こと橋本吉彦、プレイヤー名「うぐいす」は10年も長いことやってきたユグドラシルのプレイヤーである。そして、このギルド、大日本帝国(ver2.0)のギルド長だ。

 

 このギルドの特徴はなんといっても夢のあふれる昔の兵器を用いて戦うという完全な縛りプレイである。つまり1945年近辺の兵器に夢と浪漫を抱いている者たちで構成されているギルドだ。

 

 ちなみに俺以外の他のメンバーは100人位いたけど皆やめてった。何故なら他にもっと面白いシュミレーションゲームが出来たからだ。全く、薄情な奴らだ。いや、俺もそのゲームしてるけどさ…。最後ぐらい一緒にいようよ。

 

 っていうか、ユグドラシルは本日24:00:00をもって終了じゃなかったのかよ。ユグドラシル2ってわけそもなさそうだし…。いや、それよりもなんでNPCが勝手に動いてんの?なんで勝手に喋ってんの?たしか俺、設定しかしてなかっただろ!

 

 いやいや、待てよ。それよりも化物って何?突然攻めてきたから急いで地下に隠れたんだけどさ。もしかして不法侵入とかで怒っているとかかな?もう…俺には化物に関してはすごいトラウマがあんだよ…。

 

 「…アインズ・ウール・ゴウンか。懐かしいな。でもあいつらだけは嫌だな…。あいつらがのせいでどれだけ俺が苦労したことか…。」

 

 かつて、このギルドはアインズ・ウール・ゴウンの異業種共にボコボコにされたことがあるのだ。いや、だってさあいつら噂じゃPKするらしいじゃん。それもえげつないPK。だからさ、攻めたんだよ…一回、そう一回だけ。うん、今思い出してもあれは反則だわ。八階層の化物は桁違い。なんかズル使っただろ。

 

 畜生…。あの後のえげつない報復行為によって俺のレベルは11まで下がったのだ!レベル100まで後9だったというのに。結局未だに俺のレベルは14だ。いやだ…。もうあの骸骨筆頭とする異業種共の顔なんて見たくもない。

 

 「ああ、どうかあいつらじゃありませんように…。」

 

 あいつらじゃないことを俺は信じてもいない神に祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――俺が地面を転がりまわっている頃。

 

 「デミウルゴス様。緊急事態でございます。」

 

 純白の衣装にカラスの嘴を模した仮面を付けた道化師が目の前のスーツ姿の悪魔に話しかける。

 

 「うん?どうしたのかね、プルチネッラ。」

 

 スーツ姿の悪魔は思いの外やさしい口調だ。

 

 「はっ、私の部下たちが羊狩りをしていましたところ、その羊達のものと思われる都市を発見しました。」

 

 「それで?何か問題があったのかね?」

 

 「はい、私の部下たちわ、そのもの達にも幸せをもたらそうとしたのですが、その者達はあろうことか私達に攻撃を仕掛け、私の部下を皆殺してしまいました。おお、なんて私わ不幸なのでしょう!!」

 

 スーツ姿の悪魔が少し顔を歪める。

 

 「ふーむ、それは一大事だ。確か君の部下は中級悪魔だったかな?だが、中級悪魔とは言えこの世界ではかなりの実力を持つからね。このことはアインズ様に報告する必要があるね。」

 

 「おお!アインズ様にその存在を知れてもらえるとは、その者達わなんと幸せなのでしょう!!」

 

 道化師は大きく手を広げて大変うれしそうに声を上げた。

 

 「本当に君は優しいんだね。自分の部下が殺されたというのに。」

 

 悪魔が笑顔で道化師に尋ねる。

 

 「はい、私わ敵の幸せも味方の幸せも願っております。ですが、彼らわまだ不幸です。アインズ様のお役に立てないのですから。故に彼らにわ私達の羊達のように幸せになって貰わなければなりません。」

 

 「そうだ、確かに君の言う通りだ。じゃあ彼らのことは君に任せたよ。ああ、あまりにも被害が出るようだったらすぐに撤退するように。アインズ様直々のご下命のほうが我々にとっては重要だからね。」

 

 「おお、デミウルゴス様。彼らにも慈悲をお与えになるのですか。感謝いたします。」

 

 そういうと、悪魔は顎をクイッと動かす。道化師はその意味を察し、仮面の下で大きな笑みを浮かべながら悪魔のいる部屋を後にした。

 

 「…都市か。たしか、あの辺りをこの前偵察をした時はそのような報告はありませんでしたね。」

 

 悪魔は少し顔を傾け、何かを考え始めた。だが、その笑みはまさしく悪魔が浮かべる笑みそのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――「うぐいす様。こちらが被害状況を記した報告書であります。」

 

 いかついおっさんこと立花久重(はちばなひさしげ)――俺のつくったNPCが俺の目の前に紙束を置く。

 

 「そして、こちらは今後の計画方針などの意見書です。すでに、海軍、陸軍共に戦闘準備は整っております。我々に手を出した奴らに目に物を見せてやりましょう。」

 

 立花の隣にはとんでもない美少女――誰だったかな?――が立っている。

 

 「…あっと、えーっと、ああ、ありがとう。下がってくれ。」

 

 「かしこまりました。」

 

 そう言うと二人はこちらに背を抜けて部屋を後にしようとする。

 

 「あっ、ちょっとまってくれ立花!」

 

 「はい?何でしょう?」

 

 そう言うといかつい立花は元いた場所まで歩いてくる。もう一人の美少女は「失礼します。」といって、部屋を出て行った。

 

 「何の御用でしょうか、うぐいす様。」

 

 相変わらず目がガチな立花がこっちを睨んでくる。こわい。

 

 「あのだな、その…あの人の名前なんだったっけ。」

 

 すると立花は何の迷いもなくズバッと答えた。

 

 「彼女の名前は生駒吉乃(いこまきつの)と申します。」

 

 良かった。ここで名前分かんなくて失望とかされたりしないで。そう言って俺がホッと胸をなでおろしていると、

 

 「お気に召しましたか?」

 

 「は?」

 

 え、ごめん、今なんて言った立花。

 

 「彼女は至高の君であらせられるうぐいす様をお守りする親衛隊の一人です。才能もあり、他のものと比べると親しい関係にもあります。后といたすのも問題は無いでしょう。」

 

 待て、話がぶっ飛び過ぎだ。なんだって?后?お前何考えてるんだ。

 

 「…立花。もう良い。下がって良いぞ。」

 

 「はっ、かしこまりました。」

 

 そう言うと立花は今度こそ部屋を後にした。

 

 「…はあ。立花は一体何を考えてんだ?后ってなんだよ。あいつにそういう設定した覚えはないんだけどなあ」

 

 とはいうものの今の俺がおかれている状況は少しづつ飲み込めてきた。まず、NPCが勝手に喋り出すのは別にプログラムされたからとかじゃない。恐らく、いや、確実にNPCたちは自分たちの意志だけで行動している。これから、あいつらの相手をせにゃならんのか…めんどくさいな。気分はもう完全にターンブルー(濃青色)だ。

 

 「…報告書に目だけでも通すか。」

 

 目の前におかれた紙束を手に取る。

 

 「なになに?まずは被害報告か…。戦死5名、負傷者は120名か…。敵は1000名近くだったそうだから奮闘したほうじゃないか。しかし、戦死者って蘇生できないのか?」

 

 ユグドラシルでは確か蘇生の魔法で生き返れたよな…。この世界でそれが通用するかどうかはわからんが。

 

 「他にも結構やられたな。南門の砲兵守備部隊が壊滅か。まあ、戦死者いないだけでもよしとするか。」

 

 武器の補充って可能なのかな。この都市にはそう言えば兵器の生産工場って設定の建物がいくつもあったな。あれは使えるのか?

 

 「…わからん事が多すぎる。どうしたら良いかわからん。…これは今後の方針に関する意見書か。」

 

 そう言うと俺は意見書を手に取りページを捲りだした。

 

 「ん?エネルギー問題?まじかよ石油はもって一年とか勘弁してほしいぜ。だからか、大臣共が他国に攻め入ろうって言ってんのは。別に他の国に石油があるとは限らんと思うが。」

 

 だが、これは非常に重要な問題だ。史実と同じ道なんて辿りたくない。

 

 「そもそも他国って何処のことだ。さっさと周辺地域に偵察するべきだな。」

 

 うん、方針はこれでひとまず決定。当面は情報収集に専念すること。

 

 「よし、これでよしっと。」

 

 意見書に自分の意見とサインを書く。

 

 「これ、立花に渡しといて。」

 

 部屋の扉の前に立っているメイドさんに渡す。

 

 「かしこまりました。」

 

 メイドさんはそう言うと意見書を手に取り部屋から出てった。

 

 「…そう言えば、俺まだ一回も外出たこと無いよな。ちょっと息抜きがてら外出てみるか。」

 

 うん、それがいい。俺今まで結構働き詰めだったし。

 

 

 




デミさん達の悪者臭、半端ねえ。





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第一回御前会議

今回は一切戦闘シーンがございません。ご了承下さい。


 

 

 この荒野地帯はゴブリン、オーガ、オークに代表される多数の亜人達が、無数の部族を作り日々紛争を繰り返している場所である。

 

 このどこまでも広がる荒野をひたすら歩いている見慣れない一団がいた。

 

 彼らは全員大きな背嚢を背負い、星のマークの付いた鉄帽、または帽子をかぶっている。そして、120センチを超える棒のようなものをを担いでいた。

 

 「――あそこか。」

 

 先頭を歩いている隊長と思わしき男が、後ろにいる眼鏡を掛けた男に話しかける。

 

 「はい、九七式司偵からの報告ではあの丘の上に集落らしきものを見たとのことです。」

 

 「うむ。大体標高は200メートルといったところか。」

 

 彼らが目を向ける丘にはほんの少しばかり靄がかかっている。

 

 「…不気味な丘だな。」

 

 「集落があるってんだったら、ここまで来て向こうから何も言ってこないのはおかしくないか?」

 

 「実は誰も居ないんじゃないかな。放棄された集落とか。」

 

 後ろについて来ていた数人の兵士が目の前の丘についての感想を述べ始める。

 

 「こら!そこ、何を喋っている。行軍中の私語は慎め!」

 

 眼鏡をかけている男が怒鳴る。その瞬間、喋っていた兵士たちが元の規律の取れた姿勢へと戻る。

 

 「まあまあ、そう怒鳴るな」

 

 先頭に立っている隊長と思しき男が眼鏡をかけている男をなだめる。

 

 「ですが…!」

 

 「まあ、良いじゃないか。これからあの集落に接触するんだ、向こうにとって俺たちはよそ者なんだから、なるべく友好的な雰囲気で接触すべきだろう。」

 

 これは決して間違った考えではない。下手な態度をとることで生じた偶発的な戦闘によって取り返しのつかない事態に陥ることは、何時の時代でもよくあることだ。

 

 「それに、司令部から何が何でも友好的な関係を結んでこいって釘を刺されてるんだ。絶対に成功させねばならん。」

 

 そして男は眼鏡を掛けた男の肩をたたいて更に続ける。

 

 「だからあんまり気張りすぎるなよ。気張りすぎて、集落にいるかも知れない可愛こちゃんに失礼したら、軍法会議ものだからな。」

 

 周りの者達の顔から自然と笑みがこぼれる。

 

 「よし、いい感じだ。その感じで丘のてっぺんまでいくぞ。」

 

 そう言うと彼らは丘に向けて歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――「おお、壮観だな。」

 

 眼前には赤レンガの駅や大正モダン風のコンクリートで出来たビル、伝統的な日本家屋といった統一感の無い建物が広がり、その様々な建物の間に通っているまだ舗装もされていない道路には路面電車や大勢の人が所狭しと歩いている。つまりは1945年ごろのまだ灰になる前の「帝都、東京」がそこにはあった。また空をみあげてみるとそこには青く澄み渡った青空が、そして白い雲が所々に浮かんでおり、更によく目を凝らしてみれば飛行機が編隊を組んで飛んでたりする。

 

 かつての世界では見ることが出来なかった、ユグドラシルの世界――ゲームの中でしか見ることができなかった光景が目の前に広がっている。

 

 「あれは赤城航空隊か。」

 

 空を飛んでいたのはどうやら先日の戦いで最も功があった第一航空戦隊に所属する赤城航空隊のようだ。彼らは向こうの海に浮かんでいる赤城を旗艦とする機動部隊の司令長官、南雲中将の部下たちである。

 

 ちなみにこの都市はユグドラシルにいる時から海に面しており、そこにかつての百人近い仲間たちは夢の塊を次々と浮かべていった。その数は250を超え、まさにどこかのアメリカに潰される前の大日本帝国海軍そのものであった。だが、維持費は掛からないように都市外のオブジェクトとして建造されていたため、異業種の者達にボコボコにされて一回、皆沈んでる。

 

 「はい、彼らは只今この都市の周辺を哨戒飛行中であります。」

 

 後ろから女性の声が聞こえてくる。振り返らなくてもわかるが、生駒吉乃の声だ。

 

 「他にも、陸軍航空隊が内陸方面へ哨戒機を飛ばしており、うぐいす様のご命令通りに偵察任務を遂行しております。」

 

 今度はおっさん――立花久重の声だ。

 

 この二人は事あるごとに俺の後についてくる。二人曰く自分の御役目だとか、どうのこうのだそうだ。一人で行動したいので一生懸命振り払おうと都市中を逃げまわったけれど、結局捕まった。後で聞いた話じゃ都市の全人口300万人を動員して捕まえたらしい。この都市の者達は皆グルでした。

 

 「なあ、もうどっか行っても良いんだぜ。俺は一人で十分だからさ。」

 

 もう一度説得を試みる俺。

 

 「諦めてください。うぐいす様。」

 

 ニッコリと笑顔で答えてくる二人。生駒の笑顔は美少女が浮かべる笑みそのものだが、立花、お前の笑顔は怖い。

 

 「皆、欲しがりません、勝つまでは。でやっております。上に立つうぐいす様がそのような様子は下のものに示しがつきません。うぐいす様もどうか耐え忍んでください。」

 

 ぐうの音も出ない。

 

 周りを見渡してみればあちこちにそういう看板が見られる。聴いたところによると、今この都市では非常事態宣言を全域に発令し、都市中で警戒にあたっているそうだ。まあ、突然異世界に転移して、その先で突然魔物に襲われりゃそうなるわな。

 

 「欲しがりません、勝つまではか…。一体何に勝つつもりなんだか。しかし、石油はほしいな。あれがないとこの都市の経済活動が麻痺ったままだ。それどころかこのままだと飛行機すら飛ばせなくなるぞ。」

 

 本当にこのままだと干からびてカラカラになった史実の日本ルートだ。それだけは御免被りたい。

 

 「石油の件に関しては周辺地域の哨戒ができ次第、地質調査を行う予定です。」

 

 「うーん…。この周辺に石油があればいいんだがなあ。」

 

 もしも石油がなかったら江戸時代の装備になるのだろうか。…石炭があるのならば明治時代ぐらいで済むかもしれない。

 

 「あ~あ、もう頭がいたい。気分転換に外にでかけたと言うのに、なんでこんな目に合わにゃならんのだ。」

 

 脳裏に浮かぶかつての100人近いギルドメンバーに向かって悪態をつく。あいつらがこんなギルドにしなければこんなに苦労することなんてなかったんじゃないだろうか。他のギルド…アインズ・ウール・ゴウンのように個人の戦闘能力を特化させる方面に力を注ぐとかさ…なんか心なしか全員こっちを向いてケラケラ笑っているように思えてきた。うざい。

 

 そんな俺が頭のなかのギルドメンバーに八つ当たりをしていると、

 

 「うぐいす様!おられますか!」

 

 突然ノックもなしに扉が開いて二人のNPCが飛び出してきた。

 

 「わう(Wow)!」

 

 びっくりした俺の口から敵性語が漏れでた。

 

 「何事か!うぐいす様の御前であるのだぞ!少しは礼儀というものを…!」

 

 生駒が二人のNPCを睨みながら怒鳴る。

 

 「申し訳ございません!」

 

 「ですが緊急事態です!」

 

 二人のNPCは必死の形相でそれを訴える。

 

 「構わん、言え。」

 

 立花が二人のNPCにそう命じる。

 

 「はっ、本日、一三一五に於いて哨戒任務を遂行しておりました第六飛行中隊が発見しました集落に接触を試みようとした第八小隊が行方不明となりました。そこで司令部は捜索隊を編成し一個中隊にそれを命じましたところ正体不明の化物…アンデットと思われる軍勢を確認したとのことです。」

 

 「また、そのアンデットと思われる軍勢はこの都市より約東に12キロ離れたところに位置する丘に陣を築いており、そこから現在、先遣隊と思われる一軍がこの東京に接近しているとのことです。」

 

 二人のNPCは不動の姿勢を持って命令に応える。

 

 「は?なんじゃそりゃ!!」

 

 あまりの事態についていけない俺が目を丸くして叫ぶ。

 

 「数は?」

 

 立花がいかつい顔を一層いかつくして二人のNPCに尋ねる。

 

 「先遣隊と思われる一軍の数はおよそ1万。また、丘にいる軍勢の数はおよそ5万以上と推測されます。」

 

 「各大臣にはこれを受けて緊急召集を誠に勝手ながら大本営付きでいたしました。」

 

 二人のNPCはそう言うと一糸乱れぬ動きで俺の方を向いた。

 

 「うぐいす様にも此度の召集には応じていただきたく。」

 

 「何卒、お願い申し上げます。」

 

 「お…おう、わかった。」

 

 会話の内容についていけない俺はとりあえず適当な返事をしておくことにした。

 

 「御車の手配はすでに済んでおります。」

 

 「大臣はもうすでに到着なさってあります。」

 

 しまった、もう準備しちゃってんのか。もう逃げれないじゃん。

 二人のNPCに連行されそうになっている俺は涙目で立花に助けを求める。

 

 「た、立花あ…。」

 

 「かしこまりました。」

 

 立花はそういうと俺の腕を掴んでポケットから何やら巻物――スクロールを取り出した。

 

 「いや!違う!そういうことじゃ…!」

 

 立花が取り出したものが何か瞬時に判断できなかった己の動体視力のなさに悔いる暇もないまま、俺といかついおっさんは《ゲート/異界門》の魔法で大臣たちの集う空間の中へ放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――華美を極めた建築物と調度品の数々が鎮座する神々しい空間。

 

 その神々の居城たる美の世界にはごく限られたものしか、その足を踏み入れることは許されていない。そう、この場所は全てで10階層あるうちの9階層と10階層という、至高なるこの地の支配者に認められた者のみしかこの光景を目に焼き付けることはできないのだ。

 

 その世界――墳墓だが――の41もある豪華絢爛な部屋の一つ。

 

 そこにはまるで闇が一点に集中し、凝結したような存在。骸骨の頭部を持つ異形の化物がいた。

 

 「…うーむ。」

 

 骸骨の化物がおもむろに口を開く。

 

 「冒険者の格好か…一体どんな格好がいいんだ?」

 

 骸骨――この外見と口調が全く合わない化物、彼こそがこの神々しい墳墓の支配者アインズ・ウール・ゴウンである。

 

 彼はどこかの14しかレベルがないようなギルド長と違って、100レベルである。

 

 だが、そんなユグドラシルの世界でも敵がいないようなアインズは鏡の前に立って、ある出来事と悪戦苦闘していた。

 それは、これから自分が作り出す恥ずかしくない偽装身分。つまりは冒険者モモンの格好だ。

 

 「なるべく普通の格好なのが良いよな…。」

 

 そう言うとアインズはため息――のようなもの――をつき鏡の前から離れ、巨大なベッドにダイブする。そして、ボフッという音を立てて着地したアインズはあえて手を使わずに――まるでイモムシのように――枕のもとまで体を動かし、顔を埋めて何事かを呟いた。

 

 「うーむ。わからん。どんな格好がこの世界において普通といえる恰好なのか全くわからん。」

 

 アインズがこの世界に来てはや8日が過ぎた。これまでアインズはとある村を救って村長から話を聞いたり、セバスやソリュシャン、シャルティアを外に送り出して情報収集に努めさせたり、いろいろしてきた。

 

 だが、まだ数十日しか経っていないのだ。彼らから得られる情報はまだ無いに等しい。そのため、アインズは自分もある一つの巨大な組織のトップとして価値ある情報とまでいかなくともこの世界における一般常識くらいは学ばなくてはならないと思っていた。ゆえの偽装身分である。

 

 「…貧相な格好してバカにされたくは無いし、あんまり派手な格好も嫌だ。」

 

 部屋付きのメイドにどんな格好がいいんだと尋ねたら、自分ごときが恐れ多いと断られ、アルベドに尋ねたらそのままが最も美しいお姿ですとか言われた。ああ、こんなことになるんだったらセバスに先に聞いておくべきだった。

 

 「何してる俺…。これくらい自分でなんとかできなくてどうする。大丈夫俺ならできる。」

 

 そうだ。皆と作り上げたこのナザリック地下大墳墓のためにも俺はこんなところで挫けてるわけにはいかないんだ。

 

 そうアインズが気を引き締めてもう一度鏡の前に立とうとすると――

 

 『――アインズ様』

 

 突然、落ち着いた深みのある言葉がアインズの脳裏に響く。

 

 「…デミウルゴスか。どうした、何かあったか。」

 

 アインズはその声の主を瞬時に判断する。ナザリックでもトップクラスの知恵者であるデミウルゴスは確かスクロールの素材集めに奔走していたはずだが…まさかそんなデミウルゴスが報告しなければならないほどの事が起きたのか?

 

 『お忙しい中、申し訳ありません。ですが、一つ報告申し上げたいことがございます。』

 

 「ん…?何だ。」

 

 『私のもとにつけていただいたプルチネッラの部下である中級悪魔数体とその他1000体が殲滅されたようです。』

 

 「…ぇ?」

 

 まじか…。確か中級悪魔ってデス・ナイト級の強さがあったはずだ。それが殲滅されたってことは少なくとも周辺国家では最強という事にされているガセフ・ストロノーフを遥かに凌ぐことになる。

 

 「それは一人で殲滅したのか?」

 

 これは確認すべきことだ。中級悪魔数体とその他諸々1000体に匹敵する個人がいるとするならばプレアデス以上の強さだ。

 

 『いえ、個人ではありません。恐らく500名近くの敵と交戦していたようです。』

 

 …なんだ。ちょい弱めガセフ500となら負けても仕方ないかな。

 

 「なるほど。わかった。スクロールの件はすべてお前に一任してある。好きにすると良い。」

 

 『ふふ…かしこまりました。』

 

 そう言ってデミウルゴスは思念による魔法を解除した。…なんか最後の方で微かに「流石はアインズ様」とか聞こえたけど気のせいということにしといた。

 

 「なんだか、デミウルゴスと話したおかげでなんか気分が晴れたな。よし…やるか。」

 

 そう言うと骸骨の化物はベッドから起き上がり、再び鏡の前で戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――御前会議は最初から荒れた。

 

 まあ、そりゃあこのお偉いさん達が揃っている場所に突然ギルド長と、いかついおっさんが降ってきたらそうなるだろうけど、

 

 「…やはり、相手の目的が何かわからないか。」

 

 「はい。一万人という数の少なさから考えますと、少なくとも都市攻略ではないかと…。」

 

 まず、これだ。この相手の数の少なさが、相手が何を考えているのかわからない原因だ。

 

 「陽動の可能性は?都市の兵をそちらに引き付けるということは考えられないか。」

 

 「どちらにせよアンデットなのだろう?42キロあれば大和の射程範囲だ。それで吹き飛ばせばよいではないか。」

 

 「はあ、簡単に言ってくれるな…。君は散布界という言葉を知っているのかね。」

 

 「陸軍さんの砲兵はまだ復活できないのか?というよりも相手は魔法が使えるそうじゃないか。そんな相手に銃や大砲が効くのか?」

 

 次に、これ。未知の敵であるため有効な対策を講じることが出来ないのだ。

 

 「やはり我々の機動部隊の航空部隊で叩くしか無いだろう。先日の戦いでも我々の部隊が相手に最も損害を与えたのだ。他の方々は引っ込んでいてくれも構わないのだぞ。」

 

 「な、なにを言っているのだ!先日の戦いでは貴様らの航空部隊のせいでこちらの部隊にも負傷者が出たというのに…!貴様らなどいなくても我々だけで片付けれたのだ。」

 

 「そのとおりだ。何よりも貴様らはうぐいす様の許可も得ないまま、軍を動かしたそうじゃないか。統帥権を犯したのだ。これは重大な軍機違反にあたるのだぞ。」

 

 そして最後にこれ、謎の派閥による対立構造だ。

 

 彼らにはこんな設定を組み込んだつもりはなかったのだが、なんかいつの間にか海軍VS陸軍VS参謀本部VS内閣、みたいな構造になっている。…絶対かつてのギルメン共のせいだな。勝手に書き換えやがって。しかもご丁寧に各派閥内での足の引っ張り合いまで。お?なんかやばい雰囲気になってきたな。あ~あ、とうとう席から立って軍刀抜いちゃったよ…。会議場で戦い始めるなよ。こういうところをうちのギルメンにはちゃんと設定して欲しかった。あいつらなんか適当だもんな。

 

 「まあまあ。皆、落ち着けって。」

 

 彼ら曰く最高意思決定者である議長の俺が、いい年したおっさんたちをなだめたので、彼らは大人しくなった。

 

 「…うぐいす様。意見具申よろしいですか。」

 

 すると、立花が手をあげた。

 

 「ん?ああ、いいよ。何?」

 

 俺が許可を出すと手をあげていた立花はおもむろに座っていた椅子から立ち上がった。

 

 「…私は、早急に彼らを殲滅すべきだと思います。」

 

 「だから、先程から言っているだろう奴らの目的がわからないままでは…」

 

 「はい、仰るとおりです。ですが、故に後手に回るのは危険です。相手が何を考えているのかは不明ですが、今現時点までに何一つコンタクトを取ってこないのです。もしかしたらなにか仕掛けてこないとも限りません。」

 

 「だが、殲滅する方法は?現時点では航空部隊の攻撃が有効であるとのことだが…」

 

 「陸上部隊が中心となって戦うべきでしょう。先日の戦いでの報告では三八式歩兵銃や八九式榴弾でも効果があったと聞いている。」

 

 その時、陸軍関係者の者たちから笑顔がこぼれ出た。逆に海軍航空部隊の関係者らは不満がありそうな顔をしている。ちなみに内閣関係者と海軍の他のお方は我関せず。俺は完全に蚊帳の外だ。

 

 「だが、もしも陸上部隊だけでやれなかった場合はどうするんだ。脚が速い航空隊といってもすぐに動けるわけじゃないんだぞ。それに石油の問題もある。」

 

 「ご心配なく。石油の無駄遣いはしないつもりだ。」

 

 「なっ、なに?」

 

 「石油の消費は最小限に抑えこむ。」

 

 「ふむ…。どうやら立花殿にはなにか考えがおありのようだ。是非その考えをお聞かせ願えないだろうか。」

 

 おお、なんかいい感じに会議っぽく会議が進行し始めたぞ。もしかしたら立花にはこっち方面の人をまとめ上げる才能が有るのかもしれない。…俺いらなくね?

 

 時計を見てみると、午後二時を切ろうとしていた。うーん、立花の話はなんか長引きそうだな…。ちょっとぐらい寝とくか。

 

 そう思うと俺は下を向いて目を閉じた。…その後のことはよく覚えてない。

 

 

 

 

 




次回、ナザリックVS大日本帝国 

 立花「石油がなくても勝てます!」

 俺「これはアカン。史実ルートや…!」

 



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