俺達/私達の関係 (クロウズ)
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〈本編〉
人物紹介


栢嶋(かやしま)家〉

 

・栢嶋(きょう)

 

  本作の主人公。栢嶋家長男。

 父親が再婚したことによって栢嶋家の長男となる。旧姓は武蔵野(むさしの)。アウトドア派で、主な趣味はサバゲ。

 焦げ茶色の髪に濃い緑の目をしている。身長は151㎝と小柄で、髪は犬耳のような癖毛があり、欠伸など仕草も犬を思わせるところがある所為で、義姉をはじめ、数人に頭を撫でられるなどされる。本人はこれを嫌がるも、一向に改善されないため半ば諦めている。

 私服のセンスはなく、『義弟』や『博多』など、変な文字入りTシャツを着ている。佐賀生まれなためか、風邪を引いたり困惑したりすると訛る。

 

 

 

・栢嶋乙女(おとめ)

 

  本作のヒロイン。栢嶋家長女。日本文化研究会所属、但し幽霊部員。

 母親が再婚したことによって京と義理の姉弟関係になる。京が好きで家では四六時中べったり。本人曰く「犬みたいで可愛い」「あくまで義弟だから」とのことだが、距離感はどう見ても家族のそれとは違う。残念美人。

 水色の長い髪と左目にある泣き黒子、キャラ弁作りが特徴だが、それよりも特徴的なのが、『義姉』や『春がすき』などの変な文字Tシャツである。残念美人。

 

 

 

〈京の同級生〉

 

木林(こばやし)(みやび)

 

  風紀委員。

 京のクラスメイトで不真面目な生徒に厳しい、堅物な生徒。東雲(しののめ)レイには特に厳しいが、実は彼女の幼馴染で彼女が大好きなだけである。その事を京に指摘されたり、クラスではよくからかわれたりする。

 

 

 

浦風(うらかぜ)すずめ

 

  日本文化研究会所属。クラス委員。

 京のクラスメイトで、乙女と同じように京を撫でたりしている。乙女と波長が合った。

 両サイドをお団子状にした黒髪のセミロングと古風な喋り方が特徴的な姉御肌な少女。その性格上、クラスの中心になることが多く、実際C組のクラス委員を担っている。

 

 

 

櫻井(さくらい)明音(あかね)

 

  放送委員。

 京のクラスメイトで、転校してきた京をその日に昼の放送で取り上げた。シュシュ集めが趣味なため、たまに服屋などで遭遇することも。

 

 

 

霧生(きりゅう)典子(のりこ)

 

  風紀委員。

 京のクラスメイトで、転校初日で教科書を揃えていなかった京のために貸してくれた少女。雅の仕事ぶりに感心しつつも呆れているところも。

 

 

 

岩本(いわもと)(たつる)

 

  歴史研究会所属。

 ある日京と出会い、その日に歴史研究会に勧誘した他クラスの少女。勧誘には失敗したものの、サバゲで一緒になることがある。

 

 

 

前田(まえだ)彩賀(さいか)

 

  歴史研究会所属。

 樹が京を歴史研究会に勧誘した時に一緒にいた少女。ニンジャ。

 

 

 

戸村(とむら)美知留(みちる)

 

  帰宅部。

 京のクラスメイトで、有名なコスプレイヤー。京のことを唯一ちゃん付けで呼ぶ。

 

 

 

熊田(くまだ)一葉(かずは)

 

  柔道部所属。

 京のクラスメイト。頭を使うより体を動かす方が好き。

 

 

 

東雲(しののめ)レイ

 

  帰宅部。

 京のクラスメイトだが、接点は少ない。ハッカー。

 

 

 

西紀(にしき)(れん)

 

  図書委員。

 京のクラスメイト。姉と妹に女装させられることがあり、女装が半ば趣味になってる少年。普段は男装してる女子にしか見えないらしい。

 

 

 

〈乙女の同級生〉

 

千代浦(ちようら)あやめ

 

  美術部員。

 乙女のクラスメイトで親友。彼女のキャラ弁が絵の創作意欲を湧き上がらせるのだとか。最近は義弟の京にべったりで京の話ばかりしていることから、異性として京が好きなのではと推測しているとともに呆れている。

 

 

 

火野(ひの)霞黒(かぐろ)

 

  写真部長。

 乙女のクラスメイトで、エレナの彼氏。ほぼ四六時中いちゃついているバカップル認定されている。本人は弁えているつもりらしい。詳細は『カメラと棒付きアメと』を参照。

 

 

 

望月(もちづき)エレナ

 

  写真部員。

 乙女のクラスメイトで、霞黒の彼女。バカップルの甘え担当で砂糖テロの主犯格。時間も場所も弁えたら負け。詳細は『カメラと棒付きアメと』を参照。



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プロローグ 『義姉』と『義弟』

こちらには

・オリ主
・独自解釈・設定
・不定期更新

などの成分が含まれてます。これらにアレルギーのある方は急ぎブラウザバックをしてください


 ―――親父が再婚した。それに伴って引っ越しすることになって、相手側の家に住むことになった。急な仕事が入ったからと先に行かされて挨拶に行った俺の前に現れたのは、文字の入った変なTシャツを着た髪の長い人だった。義姉になる人がいることを伝え忘れた親父は後で殴った。Tシャツはいい趣味してると思った。

 ―――母さんが再婚した。それで義理の弟ができるって言われたけど、私としてはどうでもよかった。だから何時来るかも気にしてなかった私は、着の身着のままで文字の入った変わったTシャツを着た義弟となる奴の前を出迎えることになった。シャツはいい趣味してると思った。

 

 

 

 

 

 4月のある日の朝。始業式も終り、授業が開始されるようになったそんな日に、新しい生活を送るようになった少年と少女が、ここ栢嶋(かやしま)家にいた。

 

 

「ふぁ~あ……ねみぃ………」

「やっと起きたんだ」

 

 

 キッチンに立ち、エプロンを身につけて2人分の弁当を作っている少女は栢嶋乙女(おとめ)。腰まである水色の長い髪と左目の下にある泣き黒子が特徴的な少女だ。顔立ちが良く長身なこともあり、目を引くことは間違いないだろう。

 欠伸を噛み殺しながら居間に入ってきた少年は栢嶋(きょう)。寝起きのため焦げ茶色の髪には寝癖が多く目は半開きと、だらしない格好だ。さらに格好で目に付くのは、彼の着ている『義弟』と書かれたTシャツだ。彼の姓は元々は武蔵野(むさしの)だったが、彼の父が乙女の母と再婚したことにより栢嶋家に越してくることとなり、こうして義理の姉弟となった。彼のTシャツは自己紹介のようになっているが、おそらくは偶然だろう。

 

 

「う~……義姉さんおはよ………」

「おはよ。弁当用意してるから、顔洗ったら自分で包んどいて」

「…りょーかーい……」

 

 

 洗面所へ向かう京を見送った乙女はエプロンを外し、着替えのため部屋へ戻る。その際に見えた、エプロンに隠されていたTシャツには『義姉』と書かれていた。こちらもおそらくは偶然だと思われるが、この姉にしてあの弟あり、である。

 

 

 

 

「いただきます」

「ん、どうぞ」

 

 

 着替えなどを済ませて食卓に着く2人。どちらも同じ学校・聖櫻学園の制服で乙女は3年生を表す赤のネクタイ、京は2年生を表す青のネクタイをしている。

 

 

「あ、そういえば京。義父さん達から連絡あった?」

「新幹線でトラブルがあったからもう1泊するかもって、今来た」

「そうなんだ。しかも今……」

「ベストタイミング、なのかな。うまー……」

(……なんで動いてるんだろ)

 

 

 味噌汁を啜った京はほっと息を吐き、犬耳の様な癖毛がパタパタと動く。それを眺めていた乙女は手を伸ばし、ポンポンと頭を叩いた後撫で始める。

 

 

「義姉さん、どうかした?てか撫でないで」

「いや、なんでも。やっぱ京って犬っぽいなって」

「だからそれ止めてって……撫でるなってば!」

 

 

 ずっと撫で続ける乙女の手を払いのけた京はすぐに朝食を平らげて食器を洗い始める。乙女の方も食べ終えると、食器を京に渡す。両親がいない時の食事はどちらかが用意をし、もう一方が後片付けをするようになっている。

 京が食器を洗い終えると待っていた乙女が京の鞄を投げ渡し、2人そろって家を出る。

 

 

「京はまず職員室に行くんだっけ」

「うん、確かそうだったはず」

 

 

 引っ越しや転校の時期が時期だったため、先日に転校手続きがようやく終ったことで京はこの日から正式に聖櫻学園の生徒になる。

 

 

「んじゃあ一応職員室までは案内するから、そっからは先生に任せるか」

「悪いな義姉さん。貰った資料ん中に校舎見取り図入ってなかったからさ」

「別に案内するくらいならいいって。ま、ついでに見取り図貰えば?」

「そうする」

 

 

 2人、そんな話をしながら学校へ向かう。これからの生活がどうなっていくか、頭の片隅に思いながら。




 ども、何度襲撃に備えても奇襲してくるエラー娘に勝てないクロウズです。
 『カメラと棒付きアメと』の9話目を投稿した翌日に投稿するという、ちょっとした無茶をやってしまいました。お陰でニンニンジャ―見逃した……………。


 こちら、『俺達/私達の関係』はご覧の通り、苗字がなかなか読まれない栢嶋乙女さんとの義姉弟設定で書かせていただきます。きっかけは前回のイベントの乙女さんがおかんっぽかったからですね。ほぼほぼ衝動的に書いたものですので、『カメラと棒付きアメと』ほど長くはならない予定です。



 それではこの辺で。暁の水平線に、勝利を刻みましょう!


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1話目

 乙女に職員室まで案内してもらった京は、そこで担任である教師と少し話をした後C組の教室に案内される。そして今、その教卓の前で自己紹介をしているところ。

 

 

「本日付けでこちらの2年C組に転校してきました、栢嶋京です。よろしくお願いします」

 

 

 何故か両足を揃え敬礼という仕方ではあるが。

 ここ、聖櫻学園には個性的な生徒が多いと言われるが、彼もなかなか個性的な生徒だった。

 

 

「あ、栢嶋の席はあそこね。ほいじゃ、席着いて」

「はい」

 

 

 指定された席は廊下側から2列目、後ろから2番目という位置。京はそこに向かい椅子に座ると、担任は教科書を開き授業を始める。

 

 

「んじゃ、授業始めるから質問とかしたかったら休み時間にねー」

(あ、そういや教科書まだだっけか)

 

 

 転校の時期が時期だった為、教科書一式はまだ手に入っていなかった。そして不幸なことに、左右どちらの席にも生徒はいなかったため、隣の席の生徒に見せてもらうということが出来なかった。このままでは授業をまともに受けれず、寝て過ごすという行動も気が引けてどうしようか考えていると。

 

 

「ねえ、転校生君」

「おうっ?」

 

 

 背中をつつかれ、振り返ると後ろの席の少女に教科書を突き出される。

 

 

「はい、今日は貸してあげる」

「お、おう。えーっと」

「ああ、私は霧生(きりゅう)典子(のりこ)よ」

「ありがとな、霧生。あと、転校生じゃなくて栢嶋な」

 

 

 教科書を受け取った京は頭を下げてそう訂正し、担任が説明している箇所のページを開き授業を受ける。

 

 

 

 

 

 そして、午前の授業を典子から教科書を借りることで何とか乗り切った京は昼休み現在、

 

 

「お昼の放送の時間です。本日は櫻井(さくらい)明音(あかね)がお送りします」

 

 

 クラスメイトであり放送委員である櫻井明音に捕まり放送室に連れて来られていた。なんでも昼休みの放送のゲストとして出てほしかったらしい。

 

 

「今回は私達のクラスに転校してきた新しい仲間、栢嶋京くんに来ていただきました。それでは栢嶋くん、自己紹介をお願いします」

「ご紹介に与りました、本日付でこちらに転校してきました栢嶋京です」

「栢嶋くんは以前はどちらに?」

「あー、佐賀生まれなんだけど、早い内に引っ越して去年までは山口に」

「では、今回が2回目ってことですね」

「そう、だな。まあ今回は、親父の再婚でこっちに来たんだけどな」

「へぇ~、そうだったんだ…………って、そういうのって放送していいのかな?」

「それくらいなら大丈夫だろうって連絡取ってるから気にすんな」

「いつの間に!?」

 

 

 そう驚く彼女にスマホを操作してその画面を見せ、余計な気を負わせない所を話していく。

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

『じゃあ、乙女先輩の義理の弟になったってことなんだ』

『まあ、そうなるな』

 

 

 

「へ~、乙女ちゃんの弟くんか~」

「あんたが男子に興味持つなんて珍しいね」

 

 

 今もなお続いている放送を聴きながら、乙女は自分で作った弁当をつつき、対面に座って昼食を共にしているクラスメイトの望月(もちづき)エレナを意外そうな目で見る。この望月エレナは三度の飯より女子が好きを地で行っているので、当然と言えば当然の反応。だが彼女には去年から付き合っている男子がおり、付き合い始めた当初は周りが呆れ返るほどまでにべったりだった。当時はクラスも違い接点もそこまでなかった乙女には知る由もなかったが。

 

 

「私だって、男の子に興味持つことくらいあるわよぉ。実際霞黒くんと付き合ってるし」

「ああ、そういえばそうだっけ。で、その彼氏クンは?」

「風邪でお休み。で、乙女ちゃんの弟くんってどんな子なの?」

「この放送聞いてたら解るっしょ」

「乙女ちゃん的にどう思ってるのかなぁって」

「どうって、少し手のかかる義弟だよ」

 

 

 それ以外のなんでもない、と言いたげに手を振る。エレナはそれでも他の言葉を待つようにしてこちらを見続けてくるので、無視を決め込む。

 

 

(そういえば、京の趣味ってあまり知らないな。あの子、普段何やってんだろ)

 

 

 

『というわけで、もうお別れの時間。来週のお昼休みにまたお会いしましょう。SeeYou.bye-bye』

 

 

 

「…………あ、聞きそびれ―――何か言いたそうだな望月」

「ん~?そんなことないわよぉ~」

 

 

 残念そうな目をスピーカーに向けていたようで、対面にいるエレナがニヤニヤしながらこちらを見てきていた。

 

 

「で、さっきの目はなんだったのかしらね~」

「……別に。そろそろ授業始まるんだから、とっとと戻りなよ」

「もう、いけずね~」

 

 

 頬を膨らませて席に戻るエレナに溜め息を吐き、机に伏す。その表情が少しばかり硬いのは、エレナにからかわれたのが原因かは、本人にしか解らない。

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 午後の授業も終り、大半のことは昼休みの放送で話したお陰でクラスメイトから質問攻めをされることがなくなった京は、3年生のフロアに来ていた。その理由としては乙女に会いに来たのだが、彼女のクラスが解らずどうするか悩んでいた。

 

 

「うーん、事前に聞いておけば……おっ」

「……あれ、京?」

 

 

 階段のそばで立ち往生していると、女子トイレから出てきた乙女と会う。

 

 

「わざわざ3年のフロアに来て、何か用?」

「一緒に帰ろうかなって」

「ああ。いいよ、今日は部活もないし」

 

 

 鞄など荷物を取りに一度教室に戻ると言って離れる乙女を待ち、戻ってくると並んで帰宅を始める。

 

 

「放送、聞いたよ」

「あー、だよな。俺変なこと言ってなかった?」

「平気平気。…………途中聞き逃したけど」

「おいおい……」

 

 

 その際の話題はやはり昼休みの放送や授業中など、京の話がメインとなった。転校初日でも問題なく過ごせたようで、その事を楽しそうに話す京の横顔を見て、乙女は優しく微笑んだ。




 ドーモ、羅針盤の妖精=サンに翻弄されまくってるクロウズです。
 ガールフレンド(仮)でのプレイヤーってC組在籍らしいので、京もC組に入れました。B組に入れるよりはやりやすいと思いたい。



 今日はこの辺で。Tea Timeは大事にしないとネー!
 あ、ガールフレンド(仮)きみと過ごす夏休み買いました


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2話目

 転校してきてから数日経ったある日、学校生活にも慣れてきた京はこの日の昼休み中庭を散策する。その手にはいつも通り姉の乙女が作ってくれた弁当があり、どこで食べようかと良さそうな場所を探しているのだ。以前は屋上で食べようと思っていたのだが、その日は先約が居り、その先約が同じ空間にいるのが嫌になるほどのバカップルと言える3年生の2人だったので早々に立ち去った。その2人が乙女のクラスメイトであり、教室でも常に甘ったるい空気を作っていると乙女が呆れた表情で言っていたので、どうやら相当参っているらしい。

 その2人はほぼ毎日いるようなので、昼休みの間は屋上に出られないなと思いながら歩いていると、

 

 

「おい、そこの貴様」

「おうっ?」

 

 

 何やら鋭い視線と声を掛けられたため振り返ってみると、自分を呼び止めたであろう少女が歩いてくる。スカートとリボンの色から2年生だと解り、首元に掛けたゴーグルと腰に提げられたポーチが異様に映る。

 

 

「貴様、見ない顔だな。所属学級と姓名を言え」

「先日、こちらの2年C組に配属されました栢嶋京であります」

「ああ、あの新入りだったか。自分はA組所属の岩本(いわもと)(たつる)だ」

 

 

 彼女の雰囲気に圧されたのか、敬礼をして答える京に近づくと、品定めをするかのように頭から爪先まで見てきたので少々居心地が悪くなってくる。

 

 

「……ふむ、中々良い体をしている」

「ヲっ!?」

 

 

 樹の視線から意識を逸らす為に現実逃避していると、いきなり二の腕を触られる。油断していた所での不意打ちだったため変な声を出した京は樹の手を振り払うように飛び退く。その動きは中々のものだったが持っていた弁当を落としそうになって足を滑らせこけてしまう情けない所を見せる。

 

 

「………大丈夫か?」

「な、なんとか…………弁当が心配だけど」

 

 

 あまりの出来事に、心配そうに声を掛ける樹に手を振って無事な事を伝え、起き上がって服を叩く。

 

 

「ならいいのだが……。時に貴様は、まだそれを食べてなかったのか?」

「何処かいい場所がないか探しててな」

 

 

 そう言って樹と別れ、再び散策していると昼休み終了までの時間が残り僅かとなってしまっていたのですぐ近くのベンチに腰掛けて弁当を食べることにした。今日の弁当もいつも通りキャラ弁だったが、京は特に気にした様子もなく食べていく。

 

 

 

 

 

「貴様も歴史研究会に入らないか?」

「……はい?」

 

 

 放課後になり、乙女のいる3年の教室に向かおうと教室を出たところで、待ち伏せをしていたかのような樹が入部届片手にそう言ってきた。それに対しての京の返事はどこか間の抜けたものだったが、歴史好きと一言もいっていないのだから当然の反応と言える。

 

 

「だから、貴様も歴史研究会に入らないかと」

「聞こえなかったわけじゃなくてな。誘う理由がないだろ?」

「あの時の貴様の自己紹介で、貴様も軍事に興味があることは解っているぞ!」

 

 

 腰に手を当ててビシッと指を突き出す樹に、京はそれだけで誘うのかと困惑した。あの時は咄嗟に出てしまっただけであって軍事自体にはそこまで興味があるわけではないのだが、とは口に出すのは躊躇ってしまう。なので、色々言いたい事はあるがその中で一番気になっている事を言う。

 

 

「ところで、隣の人はどちらさん?」

「それがしは前田(まえだ)彩賀(さいか)と申す。よろしく頼む、栢嶋殿」

「前田は自分と同じクラスで同じく歴史研究会に所属しているのだ」

「お、おう。よろしく……」

 

 

 手を出し握手を求める彩賀に、教室の入口前だから邪魔になるんじゃと思いながら応じる。

 

 

「それでどうだろう。栢嶋殿も入らないか?無論強制はしないが」

「んー、いや、折角だけど遠慮させてもらう」

「そうか。色々語り合いたかったのだが、仕方ない。だが、気が変わればいつでも自分に言いに来い。ではな」

(語り合うって、俺そこまで歴史詳しくないんだけどな……)

 

 

 嵐が過ぎ去った後の感覚に似ているなと、去っていく2人を見ながら現実逃避気味に思い、帰路に着く。

 

 

 

 

 

「ふーん、そんな事があったんだ」

 

 

 その日の夕食時、京は今日あった事を乙女に話す。乙女は味噌汁を啜り、楽しそうで何よりだと思いながら、疲れを吐き出すように話す京の言葉に耳を傾ける。

 

 

「まさか自己紹介の仕方だけで、勧誘されるなんて思わなかったよ。俺歴史詳しくないし軍事も興味あるわけじゃないし……」

「まあ、変わったのが多い学園だし仕方ないんじゃない?というかあんたに趣味って何かあるの?」

「義姉さん、それ流石に酷くないか……?」

 

 

 食べ終った後の食器をシンクに運び、ソファに深くもたれかかる。それから少しして乙女も食べ終ったようで、食器を洗い始める。

 

 

「や、だってあんたの部屋結構質素な感じだし」

「アウトドア派なだけだよ。走ったり泳いだり。っていうか、この前言ったよな俺?」

「あれ、そうだっけ?」

「………もう義姉さんなんか知らない」

 

 

 さらに深くもたれて拗ねてますと言わんばかりの京に苦笑し、食器を洗い終えた乙女は隣に座って宥めるように抱き締める。

 

 

「ごめんごめん、冗談だって」

「義姉さんの冗談解り辛い。あと首絞まるから……」

「まあまあ。あんたって年の割に小さいから、なんかこう、しっくりくるんだよね」

「数ヶ月前までは他人だった男子に普通抱きつけるか?」

「まあ今は姉弟だし、深く考えなくていいんじゃない?」

「そういうもんなのか?………だから撫でるなってば」

 

 

 いつものように頭を撫でてくる乙女の手を払い退けようとするが、抵抗空しくされるがままになる。

 

 

「んー、やっぱりこれは落ち着くね」

「俺はペットかよー……」

「仕草や癖毛が犬っぽい京が悪いんだよ」

「なんちゆう理不尽……」

 

 

 それで諦めたのか、小さく続けていた抵抗を止めると、乙女はさらに密着して撫で始める。身長差の所為もあり、京の顔がちょうど乙女の小振りながらも柔らかな胸に当たってしまっている為、乙女自身は気付いてないようだが思春期男児の京には十分な刺激となり、恥ずかしさで赤面する。

 

 

 

 そして、所用で出かけていた両親が帰ってきたことに気付かなかった2人はこの現場を見られて数日間からかわれたのは、言うまでもない。




 ドーモ、クロウズです。
 周辺のコンビニで例の棒付きアメが一向に見当たらなくなりストックが底をついてしまったことにより執筆速度が低下してしまいました、ごめんなさい。その所為もあって、逃避気味にガルフレ(♪)やモンハンクロスに入り浸ってました。
 だいぶグダグダ内容かもしれませんが、次回はもう少し早めに、かつしっかりしますのでこれからもお付き合いください、よろしくお願いします。



 今日はこの辺で。舞台裏は見ないでねー。


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3話目 『かちにげ』と『義姉が好き』

 5月の半ばになり、聖櫻学園の2年生はこの頃に修学旅行がある。この日を楽しみにしていた生徒は大勢いることだろう。京もその1人で、他クラスの生徒とも親睦を深めようと思っていたり、どんな事があったか等を家族に話そうと思っていたりしていたのだが、

 

 

「39.1℃……昨日より上がってるね」

「うー………」

 

 

 前日の夜に風邪で熱を出し、欠席せざるを得なかった。その看病をしている乙女は、平日であるにも関わらず制服ではなく『かちにげ』の文字が入ったTシャツ姿だった。

 

 

「ま、今日1日は安静にして、午後には病院行くよ」

「ん……でも、義姉さん学校………」

「こんな高熱出してる義弟放って行くほど冷たくはないから。お粥食べる?」

「……ん……食べりゅ………」

「(かわいい)ん、それじゃあ作ってくるけど、辛かったらすぐ呼ぶこと。いいね?」

 

 

 父は3日ほど出張、母はどうしても外せない用事の為午前中はいないので、休むと決めていた乙女はそう言って京の頭を撫でて部屋を出る。京は寂しそうにその背中を見つめるが声をかけることはせず、布団を深く被る。

 それから数分後、乙女が戻ってくる気配はなく、何もすることがなく手持ち無沙汰な京はベッドの中でもぞもぞと寝返りを打つ。アウトドア派な彼にとっては、じっとしていることが苦痛なのだろう。

 

 

「ん……義姉さーん………」

 

 

 呼んでみるも、もちろん返事はない。

 

 

「義姉さー……けほっけほっ…うぅー………義姉さんまだか………な……………」

「あ」

「……い、いつからそこに」

「元気無く義姉さんって呟いてた辺り、かな」

 

 

 お粥と薬をお盆に乗せて運んできた乙女に見つかり、ぷるぷると震える京。

 

 

「なるほど、京はお姉ちゃんがいないと寂しいんだ?」

「そんなこつ……………うん、寂しか……」

「素直でよろしい」

 

 

 伏し目がちに言うと、ベッドに腰かけ頭を撫でてくる。普段なら振り払うなどして抵抗するのだが、この時ばかりは自分から撫でてもらおうと乙女に寄り掛かる。彼女は肩をすくめ、京が満足いくまで撫で続ける。この時いつものように癖毛がパタパタと動いていたが、弄らないでおいた。

 その後、京は乙女手製のお粥を平らげ、今はすやすやと寝息を立てている。乙女が優しく頭を撫でてくれたため眠るまで時間はかからなかった。

 

 

「普段からこう素直だと、もっと可愛いんだけど」

 

 

 寝ている間に体の汗を拭き、背中側に『義姉が好き』と書かれたパジャマに着替えさせ、冷えピタを貼り替え、今は手を握り優しく頭を撫で続ける。

 

 

 

 

 

 昼には母も帰って来て、夕方になると熟睡していた京も起きたので病院へ行き、薬を貰う。帰宅後、朝よりは気分がましになったからと、乙女を自室に返し、京はベッドに潜りスマホを手に取る。

 

 

「んー……うわ、連絡いっぱい来てる……」

 

 

 ロック画面に並ぶ大量の通知に、風邪とは別に頭が痛くなりそうだった。その中でも特に多かったのはクラスメイトの戸村(とむら)美知留(みちる)だった。登録名はバイト娘にしているが、近況報告なのかその名前がずらりと並んでいた。

 

 

「……読むのは、後にして電話にするか………」

 

 

 掛けた直後に、時間的に大丈夫なのかと思っていたら1コール半で出た。

 

 

『やっほー京ちゃん。風邪大丈夫そう?』

「そこそこしんどいかな……。それより、あの通知の数はなんだ、軽いホラーぞ?」

『やーほら、せっかくの修学旅行に来れなかった京ちゃんの為を思ってですなぁ……』

「それはありがたいけど……どうせコスプレばかりだろ………」

『あ、バレた?いやー、やっぱり京都だといいものが多くてねぇ!他の学校の人達もいたんだけど意気投合しちゃって!』

「………あー、うん。それじゃ、眠くなってきたし切るな。木林(こばやし)らにもよろしく言っといてくれ」

『え?ああうん、了解了解。そんじゃまたねー』

 

 

 通話を終えた後は、連絡してきた美知留以外の友人達に返信していく。ただ、美知留の量が多いので見つけ出すのに悪戦苦闘した。そしてなんとか返信し終えると、力尽きたかのように眠り始める。

 

 

 

 

 

「んぉ……?」

「あ、起きた?」

 

 

 目を覚ますと、乙女が顔を覗き込んでいた。

 

 

「義姉、さん………?」

「うん。また汗掻いてたから、拭いておいたよ」

「……ありがと…………」

「お礼言うなら、早く治しなよ。それじゃ、お休み」

「ん……あ、義姉さん……」

「なに?」

 

 

 部屋から出ようとした乙女を引き留め、

 

 

「義姉さんのこと、すいとーよ……」

「……?うん?」

 

 

 それだけ言って寝てしまう。そもそも方言だったため乙女には伝わってなさそうではあるが。

 

 

 

「えーと、すいとーよっと……」

 

 

 自室に戻った乙女はクッションに顔をうずめて、先程京が言った方言を調べる。

 

 

「んー、何々……?佐賀弁で「好きだよ」かぁ……。まったく、どうせ寝ぼけて言ったから覚えてないんだろな」

 

 

 意味が解っても恥ずかしがることはなく、むしろ満更でもないようなだらしない笑顔になる。義理とはいえ弟にそう思われていることに悪い気はしないのだろう。

 

 

「これは、明日言ってや………くしゅん。………やば、感染(うつ)ったかな?」

 

 

 ほぼ1日中看病していたためその可能性はあり、寒気と共にくしゃみをすると早めに寝ようと布団にくるまり、これで風邪引いたら洒落にならないなと思いながら眠りについた。

 

 

 

 

 なお、この翌日乙女は案の定風邪を引き、ある程度快復した京に看病されることになった。その時の乙女は熱で頬が紅潮していて別の意味で一緒に居づらかったと、後に京は語る。




 どーも、最近グミばっか食べてるクロウズです。
 どっちでやろうか迷った末、こっちで風邪ネタやりました。風邪引いた時はほんと辛いんですよね、1人暮らしの時なんて特に、誰もいないから38℃出しただけで精神的に参りやすいですし、すっごく心細いんですよね。皆さんも風邪にはご注意を。
 書きながらその事思い出してたら、京がどんどん犬っぽく見えてきた………もう犬でいいかな。乙女義姉さんはきっとブラコン予備軍です。



 今日はこの辺で。五月雨を、あつめて早しって…芭蕉だっけ?


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4話目

「はよーっす」

 

 

 ある平日の朝、乙女はいつもより上機嫌な様子で教室に入る。

 

 

「おはよう。何やら機嫌良さそうだね、栢嶋さん」

「おはよう、千代浦(ちようら)さん。実は京がね」

 

 

 自席に鞄を置くと、クラスメイトであり友人でもある千代浦あやめの前に座る。あやめは折り紙をしていた手を止め、乙女に向き直り話を聞く。

 

 

「弟くんがどうかしたの?」

「うん、今日はいつもより寝ぼけててね。ふらふらしながら抱き付いてきてさ。それが可愛くて」

「そ、そうなんだ……」

「ほんと可愛いんだよ、京は。この前風邪引いた時も」

「お前はほんと、義弟のことになると饒舌になるな」

「それは霞黒(かぐろ)くんもおんなじじゃない?」

「んー?あぁ、お2人さんか。はよー」

 

 

 乙女の言葉に呆れたのは火野(ひの)霞黒。乙女のクラスメイトであり、去年まではよく授業をサボっていた写真部の部長だ。その彼と一緒にいるエレナは、人のこと言えないだろと笑う。

 

 

「おっす」

「乙女ちゃん、あやめちゃんおはよ~」

「おはよう。2人は相変わらずだね」

「もっちろん、ラブラブだからねぇ~」

「時間と場所を弁えてほしいんだけどな俺は」

「いや、あんたも弁えてないじゃん。あ、そうそう。あんたが探してる服、お店にあったよ?」

「え、あれあったのか………?」

「うん、普通に3着くらいあったって京が言ってた」

 

 

 乙女と京は変な文字Tシャツをよく集めているためか、変な柄Tシャツを買う霞黒とは服屋で会うことがあり、このように情報を提供し合ったりしている。情報交換自体は普通の事なのだが、その内容が内容だからなのか、エレナとあやめの2人は苦笑するしかなかった。ちなみに、霞黒が探していたのは麻雀牌がいくつも載ったTシャツだ。一体何を思って作られたのだろう。

 

 

「あの2人、似た者同士よね」

「乙女ちゃんはブラコンだし、霞黒くんはシスコンだもんねぇ」

「服の趣味も変わってるしね」

「そうなのよぉ。デートの時とかはマシなんだけど、部屋着がねぇ。この前の休日も」

「……あー、はいはい。惚気とかになりそうだからそこまでね」

「そんなつもりはないわよぉ。霞黒く~ん、そろそろ戻りましょ?」

「ん、そうだな」

 

 

 授業開始前となったので2人は先に席に戻っていき、

 

 

「じゃあ、私も戻るね」

「えぇ。お昼どうする?」

「京と一緒に食べるって言っちゃったんだけど、どうせなら来る?」

「いいの?弟くんとの邪魔しちゃって」

「京も文句は言わないだろうし。そんじゃ、また昼休みに」

「あ、うん」

 

 

 自席に戻った乙女は、授業の準備をしながら昼休みになるのを待ち遠しく思っていた。

 

 

 

 

 

「よし、昼だ」

「そんなに嬉しいの?」

 

 

 午前の授業も終り、昼休みになると乙女はうきうきとした足取りで京がいる教室へ向かう。その後ろを歩くあやめは小さな溜め息を吐き、そう問いかける。自分がいるとはいえ、義弟と昼を共にするのにここまで上機嫌だと、何か別の感情も混じっているのではないかと思わざるを得ない。実際乙女は京の事をどう思っているのかと何度か聞かれたことがあるが、あくまで義弟として見ていると答えている。

 

 

「弟くん絡みになると、別人よね……」

「可愛いからね。京ー」

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

 時同じくして、2年C組では、

 

 

「京よ、学食に行かぬか?」

「あー?」

 

 

 クラスメイトの浦風(うらかぜ)すずめに誘われていた。この少女、すずめは両サイドにお団子を結った黒髪のセミロングとそのどこか古風な喋り方が特徴的でクラスをまとめる姉的存在だ。今では京がすっかりクラスに馴染んでいることの何割かは彼女のお陰だという。

 

 

「学食じゃ。昼はまだじゃろう?」

「そうだけど、義姉さんと一緒に食べる約束してんだけど」

「むぅ、なら相席はいかんか?」

 

 

 寂しそうに言うすずめに、義姉さんに聞くと答えて乙女が来るのを待つ。その姿勢は餌をお預けされている犬のようで、それがすずめの心をくすぐる。

 

 

「義姉さんまだかなー……ぉ、おーいみやびーん」

「みやびん言うな。なんだよ」

「見かけたから呼んでみた」

「おぉ木林(こばやし)、ぬしも一緒に昼を食わぬか?」

「今逃げた東雲(しののめ)探してるからパスで」

「また逃げたのかあいつ」

 

 

 クラスメイトの男子、木林(みやび)は風紀委員である。彼が探している東雲レイも同じくクラスメイトの女子だが、普段から授業を抜け出したり登校拒否したりしている。彼は風紀委員だからとの理由で相手しているが、2人が幼馴染であり彼女に好意を抱いているのを、クラスメイトは知っている。

 その事でこれ以上からかわれるのが嫌なのだろう、雅は逃げるように探し出しに行く。

 

 

「まだ進展しそうにねーな」

「じゃのぅ」

「京ー」

「お、来た。義姉さーん」

 

 

 教室の外から声を掛けてきた乙女に反応し、立ち上がって手を振る。その姿はまさしく尻尾を振る犬そのものである。

 それを見て撫でようかとうずうずしていたすずめの前に乙女が向かい、両者が見合う。そして、

 

 

「京は」

「人懐こい犬」

 

 

 そう合言葉のように掛け合い握手をする。

 

 

「ちょお待っちおかしかよこん展開」

「訛ってるよ君」

 

 

 置いてけぼりとなっている2人とざわついているクラスメイトを他所に、乙女とすずめは笑い合っていた。そして結局、すずめを含め4人で昼食を摂ることになった。すずめが日本文化研究会に入部したのは、その日の放課後だった。




 ドーモ、クロウズ提督です生きてます。
 今回は『カメラと棒付きアメと』の主役2人とみやびんにお越しいただきました。同作者による作品間コラボみたいなのってやってみたかったんですよね。こういうのちょくちょく出ますので、よろしくです。


 次回は人物紹介ですね。え、すずめが何かに似てる?聞こえない聞こえなーい



 ではこの辺で。そこのけやぁ!


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5話目 『祀』

「京ー、あんた着付け出来る?」

「いきなりなにさ。出来ないけど」

 

 

 8月某日、乙女の質問に疑問を持ちながら答える。夏休みも残りわずかとなり、プールへ行ったりして終らせきれなかった残っている課題を片付けていた京は、全て済ませて彼のベッドでスマホを弄っている義姉の方へ顔を向ける。

 

 

「ほら、月末に夏祭りあるからさ」

「そうなんだ。義母さんは出来ないのか?」

「出来るよ?私も出来るし」

 

 

 これまでもそうしていたのだろう、あっさりと言ってのける彼女に京は溜め息を吐く。

 

 

「俺が出来たら俺にさせるつもりだったのか……?」

「いや、単に気になっただけ。さすがにそこまではしないよ」

「どの口が言うのか……」

「でさ、あんたも行くでしょ?」

「まあ、予定ないし」

 

 

 そもそもこちらに越してきて初めてなので夏祭りがあることなど彼は知らなかったのである。それを聞いた乙女は満足そうに頷いて、

 

 

「じゃあ決まりね。当日は他の子と約束しないように。浦風や戸村でもね」

「解った(なんでその2人なんだろ?)」

 

 

 ベッドから起き上がると机にあるマジックを取り、カレンダーに「義姉さんと夏祭り」と書き込み、そのまま京に抱き着いて頭を撫でてくるので、京は溜め息を吐いて課題の手を止める。表情は呆れているが、癖毛はパタパタと動いているので、この手のスキンシップが若干癖になりつつあるようだ。

 

 

「義姉さん、暑い……」

「そんなこと言って、嬉しいくせに」

「はーなーれーろー……!」

 

 

 抵抗するもいつも通り失敗に終り、ベッドまで引きずられてしまい昼寝の抱き枕役を強要させられてしまう。諦めた京は、手を伸ばしてエアコンの電源を入れる。

 

 

「おやすみー」

「出来れば離してほしいけど……」

「それは無理な相談だね」

 

 

 少しして寝始める乙女からは結局抜け出せれず、京もそのまま寝てしまう。

 

 

 

 

 

 そして、夏祭り当日。

 京は背中に『祀』と書かれたTシャツ姿で、乙女は白い梅の花が描かれた赤い浴衣で祭り会場を歩いている。

 

 

「京って何か得意なのある?」

「あー?まあ、射的くらいなら」

「ふーん。じゃあ、見せてもらおうかな」

 

 

 そう言って乙女は京の手を引っ張り、射的屋まで連れて行く。ここの景品は小さいものは箱入りのキャラメルから大きいものはくまのぬいぐるみまで様々だ。

 

 

「おっちゃん、一回分お願い」

「らっしゃい。やるなら一回300円だよ」

「はいよー」

 

 

 300円払って銃と6発のコルク弾をもらい、内一発を詰めて残りを右手に持つ。

 

 

「なに狙うの?」

「んー、適当に落とせそうなのをっと」

 

 

 そう言ってる間にもキャラメルを撃ち倒し、次弾を装填しもう一つのキャラメルに狙いを定めてそれも撃ち倒す。それで乙女と他の客数人から感嘆の声が上がるが京は気にせず、残り4発すべてをクマのぬいぐるみに使い、全弾命中したものの少し揺れる程度で倒すまでには至らなかった。続行するという選択もあったが京は選ばず、乙女と共に射的を後にする。ちなみに京が狙ったクマはその後、樹によって撃ち倒されたらしい。

 

 

「やっぱ4発じゃ無理か」

「ま、残念だったね。ん、あれって」

「あ、栢嶋くん。やっほー」

 

 

 ぶらぶら歩いていると、笹の描かれた白い浴衣姿の明音が声をかけてくる。彼女は金魚すくいをやっていたようだが、戦果は良くなかったのか、1匹だけ持っていた。

 

 

「珍しいね、こういうとこで知り合いに会うのって。栢嶋くんは、先輩と?」

「まあ、うん。そっちは1人か?」

「ううん、あと戸村さんも一緒だよ。今はたこ焼きを買いに行ってるの。栢嶋くんは私服なんだ」

「京の丈に合う浴衣なくてね。着せたかったなー」

「まあいいじゃんか」

「ああいたいた。櫻井さーん」

 

 

 そこへ、私服姿の美知留が合流する。右手にはたこ焼きのパックが2つ、左手にはリンゴ飴、そして斜め掛けにしたヒーロー物のお面と、かなり満喫しているようだ。その姿を見た瞬間、京は乙女の陰に隠れるようにして彼女の手を引く。

 

 

「あれ、京ちゃんに乙女先輩じゃないですか」

「義姉さん、そろそろ行こっか」

「え、いいの……?」

「ちょっと京ちゃーん!最近あたしの扱い酷くない!?」

「おうっ」

 

 

 逃げる京を逃がすまいと襟首を掴む。そのまま手を伸ばして腕を首に回してしっかりと確保する。

 

 

「せっかくだし、先輩達も一緒に回りませんか?」

「私は構わないけど」

「ほら、乙女先輩もこう言ってるんだしさー」

「絞まってる絞まってる。離してやんな」

「げほっ、ごほっ……」

 

 

 絞められた首をさすりながらせき込んだ後、乙女の陰から警戒心剥き出しで美知留を威嚇するも、絞められている間背中に当たっていた義姉よりも柔らかかった胸に目が行ってしまい慌てて視線を逸らす。

 結局2人とはそこで別れて、京はわたあめを、乙女はリンゴ飴をそれぞれ買って食べ歩く。乙女はこのことをSNSに上げ美味しそうにリンゴ飴をかじっているが、京は少し怒ったような表情だ。

 

 

「まだ怒ってんの?」

「だってあのおっちゃん、俺の事中学生って…………」

 

 

 その理由は、わたあめ屋の店主に身長のことから中学生と間違われたからだ。京の身長は150を少し超えた程度で、170近くはある乙女と並ぶとどうしても幼く見えてしまうのだろう。普段学校でも、典子といれば1年生に間違われたこともあった。

 

 

「そういう子供っぽいとこがあるのも問題かもね」

「お子様言うな……」

「そこまで言ってない。お、ほら京。花火上がったよ」

 

 

 乙女の指差す先の空で大小色とりどりの花火が次々と上がっていく。

 

 

「おー……!」

 

 

 まるで初めて見たかのように喜び、癖毛もパタパタと動く。それを見て乙女は、そういうとこも子供っぽいんだよと思いながらも口には出さず、そばで一緒に花火を見上げ続ける。

 

 

 

 そして花火が終る頃、眠くなった京は乙女にもたれかかり、彼女は起こさないように背負って帰路に着いた。




 ども、恐縮です。青葉―――じゃなくてクロウズです。まだ生きてます。
 今回は夏祭りでのお話でした。4月に書く話じゃないとか、そんな突っ込みは受け付けておりませんのであしからず。




 それではこの辺で。はいはい。艦隊出ますよー。


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6話目 『てーとく』と『日の出』

「ふぁ〜あ、眠い……」

 

 

 最近の栢嶋京の朝は早い。起きては散歩に出掛けるくらいには早い。ただし、それは休日の話である。

 欠伸をしながら散歩している彼は、『日の出』と書かれたTシャツにジャージ姿である。9月となると早朝は肌寒くなってきているが、彼は寒がる様子もなく散歩をする。

 

 

「……うし、そろそろ帰るか」

 

 

 スマホで時間を確認した後、朝食を食べれば何処かに行こうかと考えながら家に帰る。

 

 

 

 

「ただいまー」

「ああ、京。おかえり」

「ただいま義姉さーーって、それ俺のじゃん」

 

 

 帰ってきた京を出迎えた乙女の着ている『てーとく』と書かれたTシャツは言った通り京のものであり、少しばかり丈が合わずに隙間が出来、そこからへそが見えていた。

 

 

「あー、なんかちょっと小さいとは思ってたんだけどねぇ」

「着た時点で気付いたんなら着がえろよ」

「なに、お義姉ちゃんの裸が見たいの?やだ、えっち」

「言ってない」

 

 

 にやにやと体を手で隠しながらからかってくる乙女にも慣れたのか、適当にあしらう。が、

 

 

(義姉さんの……別に興味がないわけじゃないけど、見たいって言えば変態だし………)

 

 

 京も男なので内心では興味があったようだ。義理の姉という存在に、何かしらの背徳感を覚えるのだろう。そんな煩悩を振り払うために冷水で顔を洗い、頭をぶんぶんと振る。その様子を見ていた乙女がにやにやしていたことを、京は知らない。

 

 

 

 

 

 それから朝、昼と済ませた京は街に出る。といっても特にすることはないので、適当に目に付いた店(主に服屋)に入っては見て回るが、特に買うことはしない、いわゆるウィンドウショッピングのようなことをする。そして今は、

 

 

「おぉ、これはなかなか」

 

 

 服屋にて『日の丸』と書かれたTシャツを持って目を輝かせていた。彼が着ているTシャツと一文字違いなだけで、目を輝かせる程のものとは思えない。

 

 

「これは………Lか。他のサイズは、なし、と。……はぁ」

 

 

 自分の着れるサイズがなく、がっかりしながら元に戻し店を後にする。

 

 

「くるくるっと楽しきトキメキ、未来はキラりん……お、あれは」

 

 

「おーい、まだ回るのか?」

「ポーカーで負けたら1日付き合うって言ったのはミヤビンだろー?」

 

 

 歌いながら適当にぶらついていると、両手一杯に荷物を持った雅と、その荷物を持たせているであろうレイを見かける。距離があるので何を話しているのかは京には聞こえないが、デートでもしているのだろうと考えた。

 

 

「それにしても、あんなにも荷物持つのって、創作の中だけじゃないんだな」

 

 

 邪魔しないよう、気付かれないようにとりあえず写真を撮り、時間を潰そうと近くのファミレスに入ると、そこで偶然明音達クラスメイトに会い、一緒に行動することに。

 

 

「そういえば、京って運動神経いいのに、部活入ったりしないの?柔道部とか」

「部活なぁ、遠慮しとくよ。あちちっ」

 

 

 柔道部所属のクラスメイト、熊田(くまだ)一葉(かずは)に柔道部に勧誘されるも、そう言って断りコーヒーを啜る。

 

 

「京ちゃんはあたしとコスプレ作りをするって約束が」

「ないからな。適当言うなバイト娘」

「京ちゃん乗り悪いー」

「京って、美知留ととっても仲良さそうだけど、付き合ってたりするの?」

「ねぇよ」

 

 

 一葉の質問に即答する。仲が良いというよりは、美知留が執拗に絡んできているようなものなのだが、傍から見ればそう見えるのだろうか。

 それから少ししてファミレスを後にして、一行はあちこち見て回る。

 

 

「コスプレになりそうなのないかなー」

「戸村さん、さすがにコスプレ衣装はおいてないよ」

「お、これいいなー」

「さ、さば?京のいい基準が解らないんだけど……」

「わぁ~、かわいいシュシュがいっぱ~い♪」

「明音もはしゃいでるなー……」

「ねぇ京ちゃん、女装してみない?」

「しねぇよ」

 

 

 服屋でそれぞれ気になる服を見つけたり、

 

 

「そこだっ!」

「甘いぞ熊田ァ!!」

「両者一歩も譲らず、パックを打ち合ってます!先にゴールに入れるのはどちらでしょう!?」

「一番盛り上がってるのって、実況してる明音ちゃんかな」

 

 

 ゲームセンターで白熱したり、

 

 

「「ココロに、隠れた、カラフルな夢。君がいればー」」

「おーっ、2人とも上手ー!」

「なんでボクらまで……」

「悪いな、デートの邪魔して」

「デートじゃねぇよ、殴るぞ………!」

 

 

 雅とレイを捕まえてカラオケに行って熱唱したりと、その日を満喫した。

 

 

 

 

 

「それじゃ、また明日ー」

「おーう」

 

 

 日もすっかり暮れたところで解散し、今日1日であった色々なことをどれから話そうかなど考えながら、京も帰路に着く。散歩などの後、何かあれば帰って来るとその話をするのが、京の癖なのだ。今度は義姉と一緒に行こう、そう思いながら今日も1日が終る。




 お久しぶりです、クロウズです。3ヶ月も空けてすみません。
 今回は休日を過ごす京の1日にしてみました。なので乙女義姉さんの出番少なかったです。あれ、いつものことかな?いや、そんなはずは。次はこれの乙女義姉さん版にするか何かイベントにするか………むむむ。




 それではこの辺で。第一機動艦隊の栄光、ゆるぎません!


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7話目 『ほりゅう』

 栢嶋乙女の朝は早い。毎朝弁当を作るからだ。長い髪をポニーテールにして、焼き上がった卵焼きその他を弁当箱に盛り付けていく。

 

 

「んー、よし。京ー、そろそろ起きなよー」

 

 

 『ほりゅう』の刺繍が縫い付けられた自作エプロンを外し、まだ寝ているであろう義弟を起こしに2階に上がる。

 部屋の前に立ち、耳を澄ませてみるも中から音は聞こえず、ノックをしても返事はない。仕方なしにドアを開けて中に入ると、案の定義弟の京は気持ち良さそうに眠っていた。

 

 

「はぁ……。京、起きなよー」

「ん………義姉さん……?」

「そ、京の好きな義姉さんだよ」

「んー……」

 

 

 寝顔をじっくり見ていたい気持ちもあったが、時間も時間なので写真を撮るだけにしてから揺すって起こす。

 目を覚ました京はそれでも寝ぼけているようで、のそのそと起き上がり、乙女に抱き着く。

 

 

「ん……朝からスキンシップは嬉しいけど、時間押してるし顔洗ってきな」

「んー……」

 

 

 乙女は京をはがして洗面所に向かわせ、自分も部屋に戻って制服に着替える。

 

 

 

 

 

「それじゃあ京、また放課後にね」

「うん」

 

 

 2年生のフロアで別れた後は3年生のフロアに行き、自身のクラスである3-Aに入り授業の準備をしてクラスメイトと話し込む。

 

 

「はよーっす」

「おはよう、今日もご機嫌ね」

「京とスキンシップしてきたからね」

「ああ、そう……程々にね?」

「気が向いたらね」

 

 

 クラスメイトの一人が呆れた声で言うも、乙女はそう言って笑う。そうこう話しているうちに授業の開始を告げるチャイムが鳴るとともに教師が入ってきたので、自席に戻り授業を受ける。しかし、授業を受けながらも乙女は京のことを考えていた。

 

 

(京は授業ちゃんと受けてるかなー。1時間目は体育だって言ってたけど、どこだろ)

「じゃあここの問題を……栢嶋さーん、黒板の方見てくれないかしらー?栢嶋さーん」

(背低くてもあの犬耳は………お、いた。楽しそうだなぁ……)

「栢嶋さーん……仕方ないか、火野君、この問題解いてね」

「俺かよ……」

 

 

 結局この時間、乙女は授業そっちのけで京をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

「昼だー」

「今日は弟くんのとこに行かないの?」

 

 

 京のクラスへ行かずに弁当を広げる乙女にあやめが訊ねる。

 

 

「今日は友達と一緒に食べるって言っててね。ちょっと寂しいよ」

「解るわぁ~。霞黒くんも今日は男どもと食べるって言っていないのよ~……」

「うわ、急に湧いてくるなよ」

「あなた達は少し距離を置きなさいよ」

 

 

 頬をかきながら話す乙女に同意しながらにゅっとエレナが現れては乙女に引っ付いて悲しそうに愚痴る。乙女はそんな彼女を鬱陶しそうに引きはがし、その様子を眺めているあやめは苦笑しながら机を合わせる。その後3人で昼食を摂っていると、乙女が疑問を口にする。

 

 

「そういえば、火野って男友達いるの?」

「そりゃあいるでしょ」

「んー、桐崎くんとかだと思うけど、どうして?」

「いや、普段あんたとばっかだし、実はぼっちなんじゃないかって」

「「あー」」

 

 

 納得したあやめとエレナ。特にエレナは四六時中一緒にいると言っていいものなので、納得せざるを得なかった。

 

 

「そういう弟くんは?なんか、女の子といるとこばかり見るけど」

「モテモテなのかしらねぇ?」

「京は男女問わず友達いるよ。転校生パワーってやつだね」

「て、転校生パワー?」

 

 

 謎の単語に苦笑しかなかった。

 その後も乙女とエレナが、京が霞黒がと愚痴をこぼしたり惚気たりし、あやめはそれに相槌を打つ形で昼休みを過ごしていった。

 

 

 

 

 

 その放課後。

 

 

「それじゃあ、私と霞黒くんはこの辺でー」

「歩きにくいからそんなくっつくな」

「じゃあね、バカップル共」

 

 

 先に帰る2人と別れた後、乙女も帰るため京のいる2-Cに向かう。彼女は一応日本文化研究会に所属しているのだが、幽霊部員なので普段は行っていない。しかし京のクラスメイトを誘った手前全く行かないのも悪いのか、最近はよく顔を出しているようだ。

 

 

「京ー、帰るよー」

「おっと。京よ、迎えが来たようじゃぞ」

「んー……」

 

 

 教室に入り近付いてくる乙女に気付いたすずめが声をかけると、先程まで寝ていたであろう京が体を起こす。そしてそのまま、

 

 

「義姉さんだー……」

「おっとと」

 

 

 乙女に抱き着く。どうやら寝起きでまだ寝ぼけているらしい。

 

 

「これ、京」

「ああ、いいのいいの。いつものことだから」

「いつも何しとるんじゃぬしらは……?」

 

 

 すずめの疑問に乙女は笑うだけで答えず、起こさないように一度はがしてから京を背負いなおす。

 

 

「じゃあ浦風、私達はこれで帰るから」

「たまには部活に顔出して欲しいんじゃが」

「気が向いたらね。京がいない時とか」

「いっそ京も勧誘すればええじゃろ」

「…………それだ」

 

 

 今気付いた、と言いたげなはっとした顔に、何故今までそう思わなかったのかと、すずめは思ったが声に出さないことにした。

 それでも今日は帰ることを選び、部活勧誘は家ですることに。

 

 

「そっかぁ、京も誘えば良かったんだ。あんまり部活らしいことしてないし、ありかな」

「くぅ……すぅ…………」

(それにしても吐息がくすぐったい、変な気分になりそう……って、私は変態か)

 

 

 背負っているため寝息が耳や首筋にかかり、その度に背筋が震えてしまう。京はそんな義姉の様子などつゆ知らず、呑気に子供のような寝顔を晒している。残念ながら乙女からはどんな寝顔かは見れないが。結局京は家に着くまで起きず、その間乙女は京の寝息と寝言で悶々し続けたという。




 クロウズです。生きてます。
 最近就活に明け暮れてたためなかなか更新できませんでした。それでも死なない限り最後まで頑張りますのでどうぞよしなに。カメラと棒付きアメとの方もちゃんと更新します。



 前回は京メインだったので今回は乙女義姉さんメインにしました。次回は、小ネタとか番外編を作るかもしれません。



今日はこの辺で。兵装の手入れをしてきますね。


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8話目

 9月の半ばになると、聖櫻学園では文化祭の準備が始まりいつも以上に賑わう。京のいる2-Cも例外でなく、その準備に追われている。このクラスがするのはメイド喫茶、その為女子は衣装合わせで大変そうだ。そして男子は、一部の生徒が女装をさせられる羽目になっている。その一部の中に、京はいた。

 

 

「はあ、なしておいが女装ばせんといかんと………」

「京ちゃん可愛いんだし、いいじゃんか」

「おいにも………んん、俺にも男としての意地というか」

 

 

 訛りが出るほどショックなのか、美知留に採寸されながら愚痴をこぼしている。

 

 

「それにしても、京ちゃんって細いけど、ちゃんと食べてる?」

「しっかり食べてるよっ、悪かったな細いうえに小さくて!」

「そこまで言ってないよー。でも、これはちょっと心配するくらいだね~」

「ひぅ!?ちょ、くすぐったい!まさぐるな!」

「よいではないかー、よいではないかー」

「この、やめ………やめんか!」

「きゃん!?」

 

 

 あまりにもしつこかったため、拳骨を落とす。美知留は痛がっているが、これはまあ自業自得だろう。京はくすぐられた所為で肩で息をしながら、美知留を睨み付ける。が、京は童顔なので睨んでもそこまで怖くはないという。

 

 

「京ちゃんひどーい……」

「うらめしか、ちかっと反省ばせいっ」

「おーいオマエら、いちゃついてないでさっさとやっちまえー」

「その言葉、そっくりそのままお前に返す」

 

 

 珍しく教室にいるレイに注意されるが、そのレイは雅に膝枕をしてもらっていた。

 

 

「木林も、お前メニュー担当だろ。終ったのか?」

「大体の案は出尽くしたからなぁ。何も思いつかない」

「だからって膝枕は……」

「見てるこっちが恥ずかしいわ……」

 

 

 これではどこかのバカップル3年生と同じだと、典子と由紀恵は呆れていた。特に典子は、同じ風紀委員がこうも緩くなっているため一層深い溜め息を吐く。

 

 

「なあミヤビン、もう帰っていいだろー?」

「せめて何かメニュー案出してくれよ」

「んー、本格ピザで」

「窯が用意できないだろそれだと。まあ、大きめのオーブンで代用するか」

「お、ピザ作るの?」

「はいはい。戸村さんは早く栢嶋君の採寸済ませて、そこの貴方達も喋ってないで準備して、そして見吉さんは起きなさい!」

 

 

 由紀恵の指示が飛び作業が再開され、この日の準備が進んでいく。

 

 

 

 

 

 そして、数日が過ぎた櫻花祭当日。

 

 

「うー、すーすーすっと……」

「まあ、慣れないときついよね」

 

 

 ロングスカートを押さえて、恥ずかしそうにする京。隣では彼と同じく女装をすることになった西紀(にしき)(れん)が、慣れているのかミニスカートにもかかわらず平然とその場でくるりと回る。そんな2人を美知留がすかさずスマホのカメラに収める。

 

 

「いいよいいよー、恥じらう京ちゃんと笑顔の恋くん、これはいいよー」

「そうかな、えへへ」

「止めろっ、撮るなバイト娘!!」

 

 

 手で制すも、その度に別の角度から撮影される。その京とは対照的に、恋はノリノリで撮影を受ける。

 

 

「何で恥ずかしくないんだよ……」

「姉や妹に、何回も女装させられたから」

「ああ、そう……」

「お前ら、そろそろ準備しろー」

 

 

 客が来たので雑談を切り上げ、それぞれの作業に移る。

 

 

 

 

「お、おおお帰りくださいませ、ご主人様」

「ちょっ、帰しちゃ駄目だよ京ちゃん!」

(何この子かわいい)

 

 

 羞恥と緊張のあまり噛んでしまったようだが、好感だったようだ。それから何とか席に案内した京は、逃げるように近くにいた明音の後ろに隠れる。

 

 

「か、栢嶋君?」

「無理無理無理無理ちゃあがつかよこげんこつ……!」

「(かわいい……)うーん、どうしよう戸村さん?」

「ほら京ちゃん、恋くんを見てみなよ」

「ぅ……?」

 

 

 美知留に言われて恋を見てみると、

 

 

「はい、こちらオムライスです」

「お、俺に男の娘属性はなかったはず……!」

「ケチャップで男の娘と書いてください!」

「はい、かしこまりました〜」

 

 

 笑顔を崩すことなく対応していた。それも、端から見れば少女にしか見えないような仕草で。いや、知らない人からすれば近くで見ていても男だとは思わないだろう。

 

 

「しゃ、写真いいすか!?」

「もちろんです♪」

 

 

「あれくらい出来なきゃ」

「女装んちゃあがつかさば知らんからそげんこつ言えっとよ!?」

(栢嶋君、訛り出るくらい恥ずかしいんだ……)

「あっはっは、訛ってるから何言ってるか解んないなー」

「すみませーん、注文お願いしまーす」

「はいはーい。ほら京ちゃん」

「うぅ~………!」

 

 

 半ば涙目になって訴えるも、無慈悲に送り出される。諦めて接客に応じるも、

 

 

「メイドさんの涙目キタコレ!」

「こっち向いて下さいこっち!」

「きょ、許可なく写真ば撮るんは、止め……」

「訛りいい!男の娘なのがなおいい!!」

「下は、下はどうなってますか!?」

 

 

 注文を言うことなく写真を撮ってくる。あまりのしつこさに肩が震えだすも男達は気付かず、好き勝手に撮りまくる。そして1人がスカートの中を撮影しようとした瞬間、スカートの中に手を入れ隠していたモデルガンを引き抜き突き付ける。

 

 

「いい加減にしろよご主人。度が過ぎますよ……?」

「は、はひ………」

「さて、ご注文は?」

 

 

 視線の集まる中注文を取り、キッチンに移動する。

 

 

「ミリタリー系メイド……アリだな!」

「やばい、新しい扉を開きそうだ………!」

「俺もあの子に来てもらいたいぜ」

 

 

 どうやら好評だったようだ。それから何度か、モデルガンを突き付けられたいが為に京を指名する客が大勢いたという。

 

 

 

 

 

 そして、櫻花祭が終りを迎えた時。

 

 

「やーっと櫻花祭終ったっぽい~……」

 

 

 終ると同時にさっさと着替え制服姿に戻り、机に突っ伏す。あれから大勢の男性客や女性客、さらには乙女もやってきては指名され東奔西走の勢いだったため、体力が尽きているようだ。

 

 

「栢嶋君、お疲れ様」

「ぁー、櫻井か……お疲れ」

「大変だったね、あれは」

「まったくだよ……俺ばっかりで」

「でもお陰で大成功だったよ」

 

 

 差し入れとしてラムネを目の前に置き、前の席に座る明音。そのまま京の頭を撫で始める。疲れて払う気がないのか、京はされるがままになっている。

 

 

「撫でるなー……」

「ふふ。ねえ、この後予定空いてる?」

「……?空いてるけど」

「じゃあ、後夜祭一緒に行こ」

「まあ、いいけど」

「じゃあ、そういうことだからよろしくね」

 

 

 撫で終えると、委員会があるからと一度教室から出ていく明音を見送り、疲れきっているので少し寝ることにした。なお、あまりに深い眠りに落ちてしまったために明音との後夜祭に間に合わなくなりかけたのは、言うまでもない。




 ドーモ、クロウズデス。
 今回櫻花祭にしましたが、『カメラと棒付きアメと』の方とネタが被りました。偶然です、偶然ですからね!?てか今回乙女義姉さんが一回も出なかった。こんなこともあるんですね。
 最近めっきり寒くて風邪気味になってしまいました。皆さんも風邪にはお気をつけて。



 今日はこの辺で。気合!入れて!行きます!





人物紹介に〈西紀恋〉を追加します


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9話目

 ある日の放課後。体育館裏に一組の男女がいた。男子の方は栢嶋京。今日も犬耳のような癖毛が目立っている。そして女子の方は櫻井明音。京をこの場に呼び出した彼女はいつもは昼の放送などで知られるように明るいのだが、この日は借りてきた猫のようにどこか大人しく、顔を赤らめてもじもじとしている。

 呼び出された京は彼女が口を開くのを無言で待ち続け、その沈黙に耐えられないのかぎゅっと目を閉じたかと思うと、頬を叩いて京に目を合わせる。そして、

 

 

「ねぇ、栢嶋くん。私と、付き合ってくれないかな」

 

 

 はっきりと、そう告げた。それが京は予想外だったのか、フリーズしているように黙ったままである。再び訪れた沈黙が辛い明音は、またもじもじとし始め目をあちこちに泳がせる。

 

 

「……………うぅ」

「俺で……」

「え?」

 

 

 少ししてから京が声を出したが、その表情はどこか疑念を持っているようなものだった。

 

 

「俺なんかでいいのか?チビだし、男っぽくないし」

「確かに小さいけど、頑張り屋さんだし気配り上手なのだって知ってるよ。たまに悪ノリするとこあるけど」

「うぐ………」

「私、一緒にいたいなって思った男の子、君が初めてなんだ」

「………。結構スケベなとこあるけど、それでもいいのか?」

「栢嶋くんがいいの。ううん、栢嶋くんじゃなきゃ駄目なの」

「そっか。それじゃ、こんな俺でよければ」

「うん、これからよろしくね」

 

 

 そう言って差し出された明音の手を、京は握る。が、

 

 

「カーット!!駄目駄目!」

 

 

 突然茂みの中から漫研の3年生、小野寺(おのでら)千鶴(ちづる)が現れては2人の間に割って入る。

 

 

「なんでそこで手を握るのさ!腕を引っ張ってキスだって台本に書いてたでしょ!?」

「出来るわけないでしょうがキスなんて!馬鹿なんですか!?」

「小野寺ー、そろそろ京返してくれないかー?」

 

 

 どうも、先程の2人のやり取りは千鶴の用意したであろう作品の1シーンを演じさせていただけらしい。その千鶴が出てきたことから終ったか中断されたかと判断した乙女も、体育館の陰から出てくる。

 

 

「義姉さんまでいたの!?」

「ところで、これって先輩の作品なんですか?」

「いや、文芸部の子の。挿絵頼まれたから、せっかくだし誰かにモデルやってもらおうとね」

「3年には有名なバカップルがいるんだからそっちに頼めばよかったんじゃ……」

「あの2人今日早々に帰ったからね」

 

 

 私たちも帰るよ、と乙女は京の手を引く。

 

 

「じゃあな櫻井、また明日」

「うん、ばいばい栢嶋くん」

 

 

 引っ張られながら手を振る京に、明音も手を振り返す。2人が見えなくなると手を振るのを止めて、深く溜め息を吐く。

 

 

「はぁ……緊張した………」

「やっぱり告白だと緊張しちゃうんだ?」

「それはそうですよ。演技とはいえ、告白したのなんて初めてですし。それより、挿絵のモデルだけならシーンの再現はいらないんじゃ」

「まあまあ細かいことは気にしないで。それに、気になる男子に告白出来たんだし満更でもないんじゃないの?」

「細かくないと思いますが……それに、栢嶋くんとは何も……」

「ほほう?」

 

 

 恥ずかしそうに目を逸らすと、千鶴は眼鏡をキラーンと光らせ制服のポケットから1枚の写真を取り出す。それを見た明音は、一瞬で真っ赤になる。その写真には櫻花祭の後夜祭で2人が仲睦まじく寄り添っている様が写っていた。

 

 

「そ、それは!」

「随分と仲良さそうだけど、ほんとに何もないのかねぇ?」

「あ、あわわわわ……」

「ま、これはあげるよ。そんじゃねー」

 

 

 写真を明音に渡すと荷物をまとめて千鶴も帰る。残った明音は、写真を見つめ恥ずかしそうにしながらも小さく笑い、ポケットにしまって嬉しそうに帰る。

 

 

 

 

 

   ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

「まったく、小野寺には困ったものだよ」

「義姉さん……手痛いんだけど」

「あ、ごめん」

 

 

 無意識のうちに力を込めていたようで、慌てて手を離す。そして心配そうに見てくる乙女に、京は握られていた手をぷらぷらと振って大丈夫だと告げ、隣に並ぶ。

 

「義姉さん、もしかして怒ってる?」

「怒ってなんか、ないよ。……怒ってなんか」

「?」

 

 

 首を傾げて乙女を見上げると、いきなり抱き締められる。

 

 

「あー京は可愛いなー。嫉妬してた自分が馬鹿みたいだよ」

「義姉さん苦し……あとここ公道だから………!」

「あー、癒されるぅ~」

 

 

 バシバシと腕や肩を叩いて離せと訴えるも、乙女は幸せそうな表情でさらに抱き締めてその場でくるくると回る。するとそこへ

 

 

「オヤ、乙女サン?」

「ふぇあ!?」

「ふぎゅっ……!!」

 

 

 帰宅途中だったクラスメイトのクロエが声を掛けてきて、驚きのあまり腕に力を入れてしまい京から呻き声が発せられる。

 

 

「うわわ、京大丈夫!?」

「きゅう………」

「オー、いつも通り仲良しさんデスネー。ワタシも入れてくだサーイ!」

「え、ちょっ、待って……!」

 

 

 止めようとしたが時すでに遅く、ドーンと言いながら京を挟むように乙女に飛び込む。それによって京から潰されたカエルのような断末魔が上がる。クロエはそのまま京に手を回して抱き着き、乙女はどうしようかと困惑してる間に、京がぷるぷると震えだすも数秒ほどで意識を失った。

 

 

 

 

 

「ごめんって、京」

「ふん」

 

 

 意識を取り戻した京はあの後2人を小一時間説教し、今は乙女と2人で帰る途中。明らかに怒っていますと言わんばかりに素気ない態度で先を歩いている。乙女はその後ろから何度も謝っているが、京はまったく目を合わせようとしない。が、それも長く続かなかったのか、家に着く頃には並んで歩いていた。家に着いて京が自分の部屋に入ろうとし、

 

 

「京。私、京のこと好きだよ」

「はいはい、俺も好きだよー」

「そうじゃなくて」

 

 

 乙女の言葉を適当にあしらっていたら振り向かされ、彼女の唇が自分のそれに押し付けられる。

 

 

「……ふぇ?」

「………こういうこと」

 

 

 理解が追い付かず放心状態の京を置いて、乙女は頬を赤らめながら自分の部屋に入っていく。

 

 

「あー……やっちゃったやっちゃった………!!」

 

 

 部屋に入った乙女はベッドに飛び込みゴロゴロと転がりながら悶える。

 

 

「京と、キス……。~~~~っ!!」

 

 

 ピタッと止まり、先程のことを思い出してにへらと笑いまたゴロゴロと悶え始める。

 

 

 

 その夕食時、いつもよりぎこちない2人に両親は首を傾げていた。




 最新鋭軽巡のクロウズです。嘘です。
 今回ついに乙女義姉さんが動いたり、序盤での明音のやり取りが怪しかったりと、今後どうなることでしょうね。楽しみです。そろそろ終りが見えてきたかもしれません。幻かもしれませんがね。




 それではこの辺で。ほう、これはいいな、Спасибо.


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10話目 『絶対夜戦主義』

 あれから数日後。3連休の最終日であるこの日、京は朝早くから家を出て、『絶対夜戦主義』の文字が入った白のTシャツにジャージの上下で散歩をしていた。あれから乙女は、あの時の告白と行為が嘘だったかのようにいつも通りに接してきているが、京はあの事を意識してまともに会話できないでいた。

 

 

「はぁ……どうしよう」

 

 

 誰かに相談すべきだろうかと悩みながら散歩を続け、公園に足を運ぶ。早朝で誰もいないのか、公園は静かなもので、京はベンチに腰掛けて日差しに目を細めながら空を仰ぎ見る。空には数羽の鳥が飛び交い、それを目で追う。

 

 

「俺もああして飛べたら、今の悩み晴れるかな………?」

「やっほ、栢嶋くん」

「おうっ!?」

 

 

 自分でも聞こえるか怪しいくらいの小ささで呟いてみると、明音が上から顔を覗き込んでくる。それに驚いた京は体を震わせベンチから滑り落ちる。その際に頭を打ち、涙目でさする。

 

 

「わっ、大丈夫!?」

「いてて……さ、櫻井?なんでここに」

「散歩をね。栢嶋くんは?」

「俺も散歩を、ちょっと」

 

 

 伏し目がちに言うと、明音はそっかーと言って先ほどまで京がしてたように空を仰ぎ見る。

 

 

「今日はいい天気で、散歩日和だね」

「ん……そうだな」

「栢嶋くん、元気ないね。何か悩み事?」

「ちょっとな」

 

 

 この際明音に話そうかと考えたが、義姉に告白されてキスされたと話せば彼女は困惑するだけだろうと思いなかなか言い出せないでいると、

 

 

「実は、私もちょっと悩み事があるの」

「そうなのか?そうは見えないけど」

「そうかな。で、気を紛らわせようかなって散歩してて」

「……似たことしてるなぁ、俺達」

 

 

 明音が話してくれたことが自分の現状とほとんど同じだったことに、苦笑気味に笑う。そして吹っ切れたのか、明音の方を向き、

 

 

「………なあ、俺の悩み事、聞いてもらっていいか?」

「ん?いいよ、なにかな」

「実はこの前――」

 

 

 それから京は、乙女とあったことを話した。告白と、突然のキスのことを。明音は声を出さず、黙って京の話を聞いていた。その表情には驚きとは他に、どこか苦しそうな感情が見え隠れした。

 

 

「でもこの3日間、普段と変わらなかったからさ。どうすればいいんだろって」

(あの後、そんなことがあったんだ……)

「……?櫻井、大丈夫か?」

「えっ?ああうん、大丈夫だよ?」

 

 

 心配そうな目を向けられた明音は、慌てて手を振る。

 

 

「栢嶋くんは、先輩に対しての気持ちが決まってない感じなのかな?」

「まあ、それもあるかな。家族としては、好きなんだけど……」

「そっか……」

「……聞いてくれてありがとな。ちょっとすっきりした」

「ううん、いいの」

 

 

 明音ににぱっと笑いかけて立ち上がり、大きく伸びをする。それから明音の方を向くと、

 

 

「そういえば、櫻井の悩みって?」

「私?うーん、言わない方がいいかな」

「お、俺じゃ力になれないってことか……?」

「そうじゃないよ!そうじゃない、けど……」

 

 

 うつむいてもじもじとしながら言葉を探しているように見える明音の前に立ち、京は右腕を袖まくりして曲げ、左手をひじの内側辺りに添える。

 

 

「もしかしたら力になれるかもだし。お兄ちゃんに任せろ!」

「………。ぷっ、あはは。栢嶋くんはお兄ちゃんというより弟くんだよ。それに、私達同い年だし」

「た、誕生日は俺の方が早いし!ほら、いいから話す!」

「解った解った。あのね、実は私、好きな子がいるの」

「そ、そうなんだ」

 

 

 明音の悩みが予想外の悩みだったのか、軽く衝撃を受ける。

 

 

「その子は、背は低いけど頑張り屋さんで、でもどこか危なっかしくて」

「ふむふむ。聖櫻の生徒?」

「うん、同じクラスの子。えっと、櫻花祭の時に女装させられてて」

「へぇ……」

「お姉さんがいて、文字T集めが趣味で」

「ん?」

「あと、お祖父さんが元軍人って聞いたよ」

「んんっ!?ちょっと待った!」

 

 

 明音の言う相手の特徴を聞いて一度待ったをかけた京は、背を向けて何事か考えるように二言三言ぶつぶつ呟き、明音の方に向き直り、

 

 

「えっと、それって、俺……だよな?」

「うん。私は、栢嶋くんが好きだよ」

 

 

 そう聞くと明音はどこか恥ずかしそうに頷いた。京はどうしたものかと考える。義姉に告白され、その事で悩んでいたらさらにはクラスメイトにも告白されたのだ。明音が言わない方がいいと言っていた理由はこれかと理解したものの、今は答えが出てこない。それでも考え続けていると、明音が近付き頭を撫でてくる。

 

 

「んにゅ……いきなりなんだ」

「答えは、急がなくていいからね。じゃ、私帰るね。また明日」

「……あ、うん。また明日」

 

 

 手を振って別れ、去って行く明音の背中を見つめ続け、見えなくなると溜め息を吐く。義姉とクラスメイト、どちらを取るべきかと悩みながら、一度家に帰る。

 

 

 

 

 

「どうしたらいいと思う?」

「いきなり来て開口一番がそれか……」

 

 

 午後。昼食を済ませた京は雅の家に向かった。今朝のことも含め、からかったり面白おかしく吹聴しないであろう人物に相談しようと考え、白羽の矢が立ったのが雅なのだが、その説明もせずに先程の発言である。雅は呆れて、自分の足を枕にして気持ち良さそうに寝ているレイの頭を撫でる。

 

 

「で、何がどうだって?」

「先輩とクラスメイトに告白された。どうしたらいい?」

「どうしたらって、まずその2人をどう思ってるんだよ」

「2人とも嫌いじゃないんだけど、なんて返事すればいいか」

「恋愛対象じゃないなら振ればいいだろ」

 

 

 雅はそれしかないと、ズバッと切り捨てる。容赦ない彼の発言に少しむっとするが、彼の言う通り恋愛対象として見ていないので振るしかなかった。だがそうすることで2人を傷つけないだろうか、今の関係が壊れないだろうかと思ってしまい、それは避けていたのだ。

 

 

「でも、2人に悪いような……」

「好きでもないのに付き合う方が相手に悪いだろ」

「それは…そうだけどさ……」

 

 

 それでもうだうだしている京に苛ついたのか、雅はレイを起こさないように横にずらし、京の頭を叩く。

 

 

「ったぁ!?なんばすっと!」

「なんかムカついたから。ぐだぐだ言ってないで腹括れっての」

 

 

 解ったら帰れと、無理矢理追い出される。ドアの前でぽつんと一人立ち尽くすことになった京は仕方ないといった風に頭をガシガシと掻いて、その後夕方まで散歩をしてから帰ることにした。その間に、今後どうするかを考えながら。




 はいさい、クロウズです。沖縄県民ではありません。
 前回怪しかった明音はこういうことでした。それ故さらに悩み事が増えた京ちゃんは、どんな答えを出すんでしょうね。次回更新はもちろん未定です。




 それではこの辺で。仕方無い、特別な瑞雲をやろう


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11話目

 月曜日。結局あの後色々と考えたが、京は未だ答えを見付けられずにいた。そんな彼は義姉といるのが気まずいのか、1人で先に学園に向かい、誰もいない教室で自席に伏して深い溜め息を吐く。この日はあいにくの曇り空で、京は今の自分の心内を映してるようだと思った。

 

 

「はぁ……どうしよ」

「あれ?早いね栢嶋くん。今日日直だっけ?」

「わうん!?」

 

 

 急に声をかけられた京は、飛び跳ねてしまいそうになるくらいの勢いで伏せていた上体を起こす。声をかけてきたのは、今の京にとって顔を合わせづらい人物だった。

 

 

「さしゃ、櫻井……!?ななな、なんでここに」

「なんでって、ここC組だもん。おかしな栢嶋くん」

 

 

 京は慌てて隠れようかと考えたが、明音が前の席に座り、今更隠れたところでどうしようもなかったので諦める。どこか怯えたように、上目遣いで明音を見ると、彼女はじっと京を見ていた。

 

 

「っ!」

 

 

 それで目が合った京は恥ずかしくなり顔を伏せる。明音はそんな京の頭を撫でる。

 

 

「かわいいなぁ、栢嶋くんは」

「うるさい、かわいい言うな」

「ふふ。あ、そうだ栢嶋くん。ちょっといいかな」

「……んだよ」

 

 

 伏せたまま相手しようとしたが、ガタッと席を立つ音が聞こえ顔を上げて確認してみると、座っていた席の横にずれて両手を広げてスタンバイしていた。京は何をしているんだこいつは、とでも言いたげな表情で明音を見るが、彼女はそんな視線を向けられても両手は広げたまま。ただ、どこか恥ずかしそうにしている。

 

 

「……一応聞くけど、何をする気だ?」

「えっと、抱き締めていいかな?」

「……………いいけど」

 

 

 10秒ほど間が空いたが、明音の頼みを了承する。席を立って明音の前に立つと、抱き締められる。彼女からするとただ普通に抱き締めただけなのだが、身長差の所為で胸に突っ込まれる形になってしまい、京は真っ赤になり体温が急上昇していく。明音は京の状態を知ってか知らずか、長い間抱き締め続ける。

 

 

(うぅ……恥ずかしいけど、櫻井、柔らかい……)

「栢嶋くんあったかいね~」

「恥ずかしさで発火しそうだよこっちは……」

「そっか。…………ねぇ」

 

 

 明音は抱き締める力を緩めると一歩下がり、京の顔をじっと見つめ、ゆっくりと顔を近付ける。京は戸惑い逡巡するも、脳裏に乙女の顔が浮かんだことで明音の肩を掴みそっと離れようとしたところで、

 

「……お前ら、せめて鍵くらい掛けろ」

「「くぁwせdrftgyふじこlp!!?!」」

 

 

 本日の日直の雅に見られた。

 

 

「ここ、木林くん!?」

「おま、いつからそこに!?」

 

 

 2人は慌てて離れ、何でもなかったかのように平静を装おうとするが、目が合って頭から湯気が出るほど真っ赤になる。

 

 

「今さっきだよ。栢嶋、ちょっとこっち来い」

「………お、おう」

「俺は言ったよな?恋愛対象じゃないなら振ればいいって」

「そ、そうだけど……」

「ぐだぐだ言ってないで腹括れとも言ったけど、なんだ?櫻井と付き合うことにするか?」

「いや、その、違くて……」

「だったらさっさとはっきり告げろ。でなきゃ櫻井が可哀想だ」

 

 

 雅が手招きして京を廊下の方に連れ出して明音に聞こえないように話し合い、最後にはまた頭を叩いてどこかへ行く。叩かれた頭をさすりながら教室に戻った京は、先程のことから明音と顔を合わすと気まずくなり、彼女も気まずいのかお互い無言のまま時間だけが過ぎ、教室に生徒が集まりだしたため2人は苦笑いを交わしてそれぞれの席に戻る。

 

 

 

 

 

 その昼休み、京は屋上に出て大の字で寝転がる。教室にいれば雅がぐちぐち五月蝿いので避難しにというのと、今は1人になりたかったのだ。空を眺めても灰色の雲しか視界に入らず、気分は優れないが今の京には丁度良かった。

 

 

(うーん……あれは、そういうことなのかな……。俺、義姉さんが……)

「ああ、やっぱりここだった」

「んぇ?」

 

 

 汚れるのも気にせずごろごろしていたら聞き覚えのある声がして、起き上がって振り返る。その視線の先には、2人分の弁当を持った乙女が安堵したような表情で立っていた。先程のことで乙女への感情が解らなくなっていた京は、その彼女の顔を見ただけで赤くなってしまう。

 

 

「義姉さん……」

「お昼、まだでしょ?ほら」

 

 

 こっちに来て食えという乙女の手招きに応じ、弁当を受け取る。と、急に抱き締められる。

 

 

「ふぎゅっ、なにすんのさ」

「今朝方避けてた罰。しばらくこのままね」

「………義姉さん、ちょっといいかな」

「んー?何でも言ってごらん」

「じゃあ、少し屈んで」

 

 

 ぺちぺちと背中を叩きながら言う京に苦笑し言われた通り屈むと、肩を掴んだ京が背伸びをして乙女の唇に自分のそれを重ねる。まさかそんなことをするとは思わなかったのか、乙女は驚いて目を見開くがそれを受け入れ京を強く抱き締める。

 10秒ほどそうしていた後、どちらからともなく離れ、お互い頬を緩めて笑い合う。

 

 

「随分と大胆なことするね、京」

「たはは……。義姉さんのこと、好きだって解ったら、つい」

「そっか。ね、もっとしよっか」

「え、義姉さ――うわぁっ!?」

 

 

 ぺろりと舌なめずりした乙女はその場で京を押し倒し、覆い被さるようにして京にキスをする。ただ唇を重ねるだけでなく、舌を絡めたり京の舌に吸い付いたりと、どんどん過激になっていく。

 京はあまりの出来事にただただそれを受け入れる形になり、されるがまま。そんな時間が、昼休み終了まで続くこととなった。

 

 

 

 

 

 その日の放課後、結局昼休みには食べられなかった弁当を急いで平らげた京は、帰りの支度をしている明音の前に移動する。

 

 

「櫻井、ちょっといいか?」

「栢嶋くん?うん、いいよ」

 

 

 まだ少しばかりクラスメイトが残ってるので声を小さくして、

 

 

「ごめん。俺、お前の気持ちには応えられない」

「……そっか」

 

 

 京の答えに悲しそうな表情になるも、すぐにいつもの笑顔に戻る。そして席を立つと廊下の方をちらっと見て、

 

 

「でも、私諦めないからね。私は、栢嶋くんが好きだから」

 

 

 大きな声でそう言った。教室に残っていたクラスメイトやすぐそこの廊下にいた生徒達がざわつく中、すっきりした表情で京の頭を撫でて教室から出る。その際に、廊下に立っていた乙女と目が合い軽く頭を下げる。乙女は声をかけようしたが止め、教室に入ってくる。

 

 

「京、帰ろっか」

「あ、うん」

 

 

 しばらく放心していたが乙女に声をかけられたことではっとし、帰路に着く。

 

 

 

 

 

『で、結局どうなんだ?』

「だから、義姉さんと付き合うって」

 

 

 帰宅後早々雅から電話がかかり、めんどくさそうな顔でその相手をする。

 

 

「京~、ん~」

「ちょ、義姉さん今電話中だから」

『……まあ、風紀を乱すなよ?』

「うっせ。それじゃ、また明日」

『ああ』

 

 

 通話が終ると解るや否や、乙女がさらに密着してくる。京は恥ずかしながらも突き放すことはなく、それを受け入れる。

 

 

 

 

 ちなみにこの夜、昼休みでムラムラした乙女が夜這いを仕掛けてくるのだが、その事を京はまだ知らない。




 半年ぶりですね、最新鋭軽巡から超弩級戦艦になれたクロウズです。嘘です。
 悩んだ末京ちゃんが出した答えはこれでした。「この後滅茶苦茶……」はありません。昼休みに何やってんだこの姉弟は。



 次回はもちろん未定です。どれが更新されるかも不明です。



 それではこの辺で。ふふん…これが重雷装艦の実力ってやつよ…あ~よかった~活躍できて~


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12話目  “準NEW”

 義姉である乙女と恋人関係になってはや数週間、京は悩んでいた。それはこの事を両親にどう伝えるかで。

 元々乙女と京は距離が近く、恋人関係になってもこの数週間は特に何も言われたりはしていないがこのままというわけにはいかないと、いつかは伝えなければと思っているもののずるずると引き延ばしている。そしてその事を相談する為に、今回もまた雅の家に来ていた。

 

 

「義姉さんとのこと、いつ親に言えばいいかな……」

「今すぐ帰ってさっさと報告しろ」

「相談に乗る気なし!?」

「バイトあるんだよこっちは」

 

 

 さっさと帰れと、以前相談した時同様に追い返される。確かにこういったものは早くに言うべきだっただろう。しかし内容が内容な上に、今の今まで引き延ばしてしまっているため、義母の方はともかく父からの拳は覚悟した方がいいか。下手をすれば過酷な訓練を課せられるだろうかと、内心怯えている。

 

 

「一番まずいのは山奥にナイフ一本のみのサバイバルだ…あれだけは絶対に回避しないと……」

「何をぶつぶつ言ってるのだ、貴様は?」

「ぅわん!?」

「っ!?」

 

 

 頭を抱えながら色々と考えていたせいで、急に声を掛けられた京は思わず飛び上がって奇声、というか鳴き声をあげる。その声に驚いたのか、声を掛けた人物、樹は少し体を強張らせて身構えていた。

 

 

「いいい、岩本!?なしてここに!?」

「ただの散歩だが……それより先程の醜態はなんだ?ここが戦場なら死んでいたぞ」

「や、ちかっとば悩みが……」

「ほう?なら自分に話してみろ」

「え、いや、その……」

 

 

 腕を組み、威圧を与えるような目付きで見てくる樹から、怯えるように癖毛を押さえつつ目を逸らす。しかし樹は微動だにせずじっと京を見る。その視線に耐えきれなくなり、諦めて近くの公園に移動してから訳を話す。その結果、

 

 

「何を腑抜けている貴様は!」

「ピィッ!?」

「そもそもその様な事を上官とも言える両親に報告しないなど、軍法会議にかけられても文句は言わせんぞ!」

「そ、そんな重い……?」

「口答えするな!」

「すみません!!」

 

 

 ベンチの上で正座させられて説教されていた。癖毛はしゅんと項垂れ俯いている京と、そんな彼を見下ろすように仁王立ちしている樹は、傍から見ればまさしく飼い主と叱られるペットの図。京は若干涙目である。

 

 

「家族との関係が変わるのであれば、当然報告する義務があるだろう!なのに保身に走りそれを怠った貴様は恥晒しだ!階級を剥奪する!新兵卒からやり直せ!」

「いや、そもそも階級なんて持ってない…」

「口答えするなと言っただろう!」

「ぴゃい!」

「貴様のすべき事はなんだ!」

「義姉さんとの関係を報告することです!」

「そうだ!貴様の葛藤など不要物だ!微塵の価値もない!どの様な結果になろうとも甘んじて受けろ!いいな!?」

「イェス、マム!」

「よし、吉報を待っている」

 

 

 満足そうに頷き、樹は公園を後にする。

 残された京はベンチに座り直し強張らせていた体をほぐす。そして深呼吸を数回し、挟むように自分の頬を叩き、帰宅する。そして自分達の関係を両親に報告することを、乙女に話す。

 

 

「義姉さん。俺達の関係、親父達に話すよ」

「ん、そう。言い辛そうなら私から話そうか?」

「いや、俺から話す。だって、義弟だけど彼氏だから」

「……ふふ、男らしいねー」

 

 

 拳を握り自分の胸を叩く京を微笑ましくも嬉しく思い、乙女は彼を抱き締めて頭を撫でる。少しの間されるがままの京だったが、このままだと決心が鈍りそうなので両親がいるリビングへ向かう。乙女の手をしっかり握り、義姉弟から恋人関係になった事を報告するために。

 

 

 

 

 

「えー、今回の件で向こう1週間、義姉との接触禁止令を言い渡されました……」

『厳罰は免れたか。これに懲りたら上官への報告は怠るなよ』

『イェス、マム…』

 

 

 

「京との関係、今まで黙ってた罰だからって明日から1週間接触禁止って言われた……」

『まぁ、隠し通していいものでもないからねそれは』

「こうなったら今日のうちに既成事実を」

『やめなさい』

 

 

 両親への報告後、2人はそれぞれ相談相手に連絡をしていた。黙っていたことへの説教はあったものの結果としては受け入れてくれたようで、それでも罰は必要と課せられた接触禁止に嘆きながら。




 お久しぶりすぎます、クロウズです。お待たせして申し訳ありません。
 栢嶋義姉弟の関係、実はまだ両親に話してませんでした。一線越える前とはいえ事後報告ですね。悪い義姉弟です。でも受け入れてくれたので、これから自宅内でもイチャイチャすることでしょう。どこぞのバカップルみたく。


 もしかしたら次回の本編は最終話になるかもしれません。
 では、今日はこの辺で。さあ、私と夜戦しよっ?


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13話目  “NEW”

 父親に罰として課せられた1週間の接触禁止令。元々距離の近かった京と乙女の2人にとってそれは、苦痛を強いられるものだった。尤も、恋人関係になった事を両親に報告しなかったことが原因なのだが。触れ合いは出来ずとも顔を合わせ話したりは出来るため初日は問題なかったが、2日目からは触れ合えない故にもどかしさだけが募ってしまった。

 そんな日が4日続いたある日の教室。

 

 

「うぅ……京と触れ合えない……」

「自業自得だろ、それ」

 

 

 机に突っ伏して項垂れている乙女を見て、霞黒が呆れた様子でそう言う。一緒にいるあやめは同じく呆れて肩をすくめ、エレナは他人事と思えないのか、苦笑している。

 

 

「私も耐えられないわね〜……」

「まぁ、事後報告はダメね、内容が内容だし」

「そうだけどさー……」

「……どんだけショックなんだよ」

「じゃあアンタも想像しなよ。エレナと1週間触れ合えないこと」

 

 

 恨みがましそうに睨む乙女に言われて、霞黒とエレナは顔を見合わせる。この2人は去年から、周りが引くほどのバカップルとして有名だ。そんな2人が同じ罰を課せられるとどうするのか、そう思って聞いてみると、

 

 

「2日も保たないな」

「もうちょっと耐えなよあんたは」

 

 

 思ったより忍耐力がなさすぎて、今度は乙女が呆れる。実際に禁止令を出せばどうなるかと考えたが、所構わずイチャつくバカップルを引き離せばどんな砂糖テロが起きるか想像に難くないと思いとどまる。誰だって砂糖テロの戦犯にはなりたくはないだろう。

 

 

「あと3日、耐えれるかな……」

 

 

 ぼそっと呟いたそんな言葉は、始業を知らせるチャイムにかき消される。

 

 

 

  ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 乙女が教室で愚痴をこぼしている頃、2-Cでも同じ事が起きていた。

 

 

「うぅ…義姉さんと触れ合えない……」

「1週間だっけ?あと3日頑張ろ」

「先輩も、いつもに増して部活に顔出さんけぇの。まぁ、普段から来んのじゃが」

 

 

 力なく机に突っ伏す京の周りにいるのは、恋とすずめ、そして隣の席故に巻き込まれている雅。

 

 

「自業自得だろそれは」

「そうだけどさ……普段のハグとか寝る前のキスとか何も出来ないんだよこっちは……」

「なるほど、これは重症だね」

 

 

 栢嶋家の風紀がそこそこに乱れている事に、若干引き気味になる3人。これでまだ恋人になって1ヶ月も経っていないというのだから、今後が心配になる。

 その後は京を慰めつつ、授業が始まるまで他愛もない話を続ける。時折唸るような声を上げる京だが、その度に雅からデコピンを喰らう羽目になった。

 

 

 

  ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 接触禁止令を出されて1週間経った土曜日。ついに解除されたその日の午後、2人は布団に潜りベッドの上で抱き合っていた。閉められたカーテンの隙間から夕焼けが差し込み、部屋には2人の服が乱雑に脱ぎ捨てられていた。

 

 

「しちゃったね」

「まぁ、約束してたし」

 

 

 今日を迎えれば一線を越えよう、と罰を課せられた日にそう話をし、幸か不幸か両親とも不在だったので2人は朝から互いを求め合っていた。その為部屋の中は汗や体液などの匂いが充満しているのだが、2人は特に気にしていないようだ。

 

 

「それにしても、買ったばかりのこれもう使い切るなんて…京のすけべ」

「長時間ヤり続けてくる性欲魔人に言われたくない……」

 

 

 悪態を吐きつつも離れる気はないようで、さらに密着してはキスをし合う。朝から昼前まで続け、軽く昼食を摂ってからまた今まで盛りに盛っていた。

 

 

「もっとしたいけど、片付けとかしないとまずいか」

「うん。そろそろ、父さん達帰ってきそうだし」

 

 

 名残惜しそうにベッドから出た2人は、服を着替えて換気をし、散らばったゴミを捨てていく。両親が帰ってくるまでに何とか片付け終えたものの、2人の妙な雰囲気から諸々を察した母にしばらくの間弄られることを、この時の2人には知る由もなかった。ついでに父には盛りすぎないようにと説教された。




 お久です、クロウズです。スイカゲーム楽しい。
 2人が課せられた罰である接触禁止令は、栢嶋父だから出せました。これが火野父みたいな人だと出なかったですね。そんな禁止令も、解除されたその日にあんな事にまでなるとは栢嶋父も思ってなかったようです。あの義姉弟、性欲強すぎる……。

 次回こそこちらは最終回になるかも。
 では、今日はこの辺で。艦隊が帰投しましたー。お疲れ~ぃ!


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〈番外編〉
短編的なもの群


こっちでも小ネタ


《調理実習?》

 

京「調理実習なのはいいんだけどさ」E:『あさめし』エプロン

 

サスケ「よっし、張り切ってやるぞー!」

 

一馬「燃えてきたぜー!」

 

恭介「お前らは洗い物以外すんな」

 

京「なんで他クラスと合同なんだろな……」

 

雅「女子が何故か体育だからじゃないか?」

 

京「むさ苦しいんだけど」

 

サスケ「おい京、そんなこと言うなよ!友達だろ!?」

 

一馬「あの日校庭で誓い合ったじゃねぇか!」

 

京「俺はお前らみたいな変人と友達になった覚えはない!」

 

雅(そんなエプロンしてるお前も十分変人じゃ……)

 

サスケ「んもうつれないざます」

 

恭介「よそにちょっかい出してる暇あったらさっさと洗えこの馬鹿」ゴスッ

 

サスケ「いって!おいキョン!馬鹿になったらどうするつもりだ!」

 

一馬「そーだそーだ!暴力反対!」

 

恭介「これ以上馬鹿にならないから安心しろ」

 

京「あれは無視して始めるか」

 

雅「大体はお前に任せるなー」

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《一緒にお風呂》

 

ドザーーーー!!

 

京「み゛ゃーーーーっ!!」

 

乙女「さっきまであんなに晴れてたのに……!」

 

京「冷たいというより痛い!雨粒が痛い!」

 

乙女「もうすぐだから我慢しなよ!……着いた!」

 

京「うっへぇ……びしょ濡れ」

 

乙女「風邪引かないように、一緒にお風呂入ろっか」

 

京「うn………うん?」

 

―そして―

 

京(どうしてこうなった……)

 

乙女「ふ~、気持ちいい……」

 

京「義姉さん、これ一緒に入る必要って」

 

乙女「また風邪引きたくないでしょ?それに、大好きな義姉さんとお風呂に入れてるんだよ?」

 

京「くっつかないで!色々まずいから!!」

 

乙女「またまたー、本当は嬉しいくせにむっつりめ」

 

京「ちょっ、まっ……!」

 

乙女「……ん?何か固いのが………」

 

京「俺先に上がるから!」ザバァ!

 

乙女「あ、京っ。……なんだったんだろ?」

 

 

 

この後数時間はまともに口を利いてくれなかった。

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《身長》

 

典子「ねえ、栢嶋君。荷物運び手伝ってくれるのは嬉しいけど……離れ過ぎじゃない?」

 

←→(3m)

 

京「この前みたいな屈辱はもう御免だから。そもそも何でそんなに高いんだよ」151㎝

 

典子「私だって、好きでここまで伸びたわけじゃ……。でも、栢嶋君ほど小さいと撫でやすそうね」171㎝

 

京「その所為で義姉さんやら浦風やらに撫でられまくるんだけど!?てかお前もよく撫でてきただろ!」

 

典子「それは、ちょうど撫でやすいひく――高さだから」

 

京「今低さって言おうとしたか!?」

 

典子「き、気の所為じゃない?」

 

京「なら目逸らすなや」

 

典子「あははは…………」

 

 

 

この後、2人が並んだ際に1年生だと間違われたのは言うまでもない。

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《軍事なんか》

 

樹「栢嶋、今日こそはいい返事をもらいに来たぞ」

 

京「学校、サバゲの時だけでなく、ついに休日の家にまで来やがったか……」

 

樹「さあ!この入部届に名前を書け!そして自分と軍事について語り合おう!」

 

京「い・や・だ。もう硝煙の匂いも魚雷の何たるかも携帯食料の味も孤島のサバイバルも血を吐くようなCQCの特訓も思い出したくないんだ」

 

樹「…………」

 

京「大体、家にまで押しかけて………どしたと?」

 

樹「いや、まさかそこまで精通しているとは……まさか本当に軍の関係者か!?」

 

京(しまった!)

 

樹「どうなんだ!?もしそうなら色々と教えてくれ!」

 

京「…………祖父ちゃんが元軍人で、その所為で親父も軍人気質になって。無理矢理鍛えさせられたりして」

 

樹「おぉ……!やはり軍の関係者だったのか。ますます貴様が欲しい!」

 

京「大声で何言ってんだ!?それと、軍人は祖父ちゃんだけで俺は普通の高校生だから!」

 

樹「あそこまで言っておいて普通はないだろう。とにかく!自分は貴様を入部させるまで諦めんぞ!」

 

京「もう今日は帰れよ諦めろよでもって頭を撫でるにゃー!!やっぱり言うんじゃなかった………軍事なんか嫌いだーっ!!」

 

 

 

カンッ

 

 

 

 

 

 

 

《CV.あやねる》

 

つぐみ「そういえばさ、一葉と京って似てるよね」

 

京「んにゅ?」

 

一葉「似てる?」

 

明音「あ、私もそう思った」

 

京「櫻井までどした」

 

一葉「わたし達って、似てるかな?」

 

つぐみ「うん、声がね」

 

京・一葉「「声?」」

 

つぐみ「たまに一葉の話し声だと思ったら京だったっていうことがあってさー」

 

明音「そうだよね。私も時々聞き間違えるんだ~」

 

京「そう言われても……自分ではそんな風に思えないし」

 

一葉「確かに。何かの間違いじゃないの?」

 

明音「そう言うと思ったから、これを一緒に声に出してみて」

 

京「何々……『お姉ちゃんに任せなさい』?俺男なんだけど」

 

つぐみ「まあいいからいいから。ほら、せーの」

 

一葉「お姉ちゃんに、任せなさーいっ」ノリノリ

 

京「お、お姉ちゃんに任せなさーいっ」ハズカシイ

 

明音(かわいい)ホッコリ

 

つぐみ(かわいいなぁ)ホッコリ

 

 

通りすがりのここみん「ほほえま~」ホッコリ

 

 

一葉「で、どうだった?」

 

つぐみ「うん、やっぱり似てるよね」

 

明音「似てたねー」

 

一葉「2人が言うなら、そうなのかな」

 

京(女子と声が似てるって、男として複雑だ……)

 

 

 

他のクラスメイトに聞いてもらっても、似てると言われた

カンッ




 京の身長は151㎝に決まりました。高2男子でこの身長は……。

 某診断メーカーで遊んだら京ちゃんの声があやねるになったのでその勢いとノリで書いた。反省はしてない。


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ハッカー少女の心のバグ

――――――

「レイちゃんってパソコン好きなんだねー」

「小さい頃から触ってたからね」

「今も小さいじゃん……」

 

 

 子供の頃から、ずっとボクと一緒にいたあいつ。気が付いた時には、いつも隣にいた。

 

 

「うー……痛い………」

「履き慣れてない靴で遠出するから。たまたま俺がいたから良かったものの」

 

 

 何があっても側にいてくれて、なんだかんだ言って助けてくれることもあった。そんなあいつに、ボクはいつも頼ってた。あいつを困らせてた。

 

 

「だから、授業にはちゃんと出ろって!」

「五月蝿いなぁオマエはボクの母さんか」

 

 

 口煩くても、ボクにとって大切な幼馴染で親友。

 

 

――――――

 

 

「…………夢、か」

 

 

 いつの間にか寝てたみたいだ。伸びをしてから壁に掛けてある時計を見ると、22時を回ってた。どうりでお腹が空くわけだ。それにしても、小さい頃とかの夢を見るなんてね。なんとなくだけど、あいつに電話しよっと。

 

 

『もしもし?』

 

 

 わずか1コール半で出る辺り、相当暇してたのかね。

 

 

『レイ?どうした?』

「いや、何でもないよミヤビン」

『何でもないのに掛けてくるのかよ……』

 

 

 電話越しのミヤビンの声は呆れていた。まあ、こんな時間に電話掛けてきておいて何でもないはアホらしいよな。

 

 

「まあ、なんていうかね、ミヤビン何してるかなーって思ってね」

『なんだそりゃ。さっきまで風呂入ってたけど。お前は?』

「ボク?さっきまで寝てたよ。で、今すごくお腹空いてる」

『はぁ……今日の晩のカレー残ってるけど、食う?』

「食べる食べるー」

 

 

 そう言うとミヤビンは持ってきてくれるらしく、一旦電話を切る。ミヤビンが来るまで暇だな~、とは思うけど、

 

ピンポーン

 

 あいつん家、ボクの部屋の隣なんだよね。玄関まで行ってドアを開けてやると、ガンッて音がした。やっべ。そ~っと覗いてみると、カレーを持ってきたミヤビンが鼻を押さえてた。

 

 

「急に開けるなよ……」

「あはは、ごめんごめん。ほら、上がりなよ」

「ついでに掃除しろってことねって、片付いてるじゃん」

 

 

 部屋に上がったミヤビンがまず言った言葉がそれだった。いつもぐちゃぐちゃなわけないし、面倒でもボクだってやる時はやるし。で、あったかい内にとミヤビンから渡されたカレーを頬張る。鍋ごと持ってくるんじゃなくお皿に盛ってきたのは、ご飯がないと判断したからだろうね。実際ないし。ご飯炊くの面倒だもん。

 綺麗に食べ終った後、ソファにもたれてぼーっとしてるミヤビンに声を掛ける。

 

 

「ねぇ、ミヤビン。何かあったか?」

「なんでそう思うー?」

「なんとなく。強いて言うなら、幼馴染の勘かな」

 

 

 今日のミヤビンはいつもより声に覇気がないというか、やる気がないというか。そう言うとミヤビンは深く溜め息を吐いて、

 

 

「そりゃ、寝ようと思ったこんな時間に呼び出されたらな」

「うぐ……悪かったよ。って、本当にそれだけ?」

「………転校、するかもしれない」

 

 

 そう言った。ボクは最初その言葉が解らず、しばらくフリーズしてた。けど、ようやく理解した時、

 

 

「へ……?」

 

 

 としか言えなかった。それで、

 

 

「まだ決まってないし、しないで済むかもしれないけど」

「理由は?転校ってことは、こっからいなくなるかもしれないんだろ?」

「お、おいレイ?」

 

 

 気が付けば、ミヤビンに迫って肩を掴んでた。ミヤビンは困惑しながらボクの手を離してボクを座らせる。

 

 

「親父が仕事の都合で引っ越すからさ。それに、ついていかないといけないかもって」

「そ、んな……」

 

 

 ショックだった。何年もずっと一緒だったから、側にいるのが当たり前だったからただショックだった。

 

 

「じゃあ、俺は帰るよ。明日も早いし、お前も早く寝ろよ?」

「あ…………うん……」

 

 

 お皿を持って、ミヤビンは部屋を出ていく。ボクは1人残されたままミヤビンがいなくなってしまった時のことを考えた。けど、そんなことはすぐに振り払う。大切な幼馴染で親友、そのままでいいと思ってた。けど、今日、気付かされた。そのままじゃ駄目だって、ボクが、あいつのことをどう思っているのかを。

 

 

to be continued...




 続き物番外編、《ハッカー少女の心のバグ》です。続き物とは言っても、次回で終りそうですけどね。レイちゃん、主役ですよ主役。


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ハッカー少女の心のバグ改

 翌日、いつも通り堂々と遅刻してきたボクはちょうど授業が終ったタイミングで教室に入って席に着く途中、ミヤビンの席が空いてることに気付いた。授業は古文だったようで担当の響子ちゃんが何か言ってるけど、そっちは無視して委員長の八束(やつか)由紀恵(ゆきえ)に聞きにいく。

 

「委員長、今日ミヤビンはー?」

「それより東雲さん、遅刻は」

「まーまーいいから、ミヤビンは?」

「木林君?今日は来てないけど……って、東雲さん!?」

 

 

 来てない、そう聞いただけでボクは教室を飛び出す。後ろで委員長が何か言ってるけど無視だ。まさか、もういなくなったりしてないよね。勝手にいなくなるなんて、許さないからな……!

 

 

「廊下は走るなよ」

「ひゃっ!?」

 

 

 聞き覚えのある声がしたと思ったら急に腕を掴まれて思わず変な声が出る。

 

 

「ったく、転んで怪我したらどうするつもりだよ」

 

 

 そう言ってボクの腕を離す声の主、ミヤビンは呆れ顔でボクを見てくる。

 

 

「う、うっさいな。だいたいミヤビンが来てないのが………ど、どうしたのさそれ」

「ん?ああ、これか」

 

 

 昨日の今日で何があったのか、ミヤビンは左腕に包帯を巻いてた。

 

 

「いやぁ、今朝登校中に事故ってさ」

「はぁ!?」

 

 

 なんでも、不良に絡まれてひったくりに遭って、それを追いかけてたら信号無視した車と衝突したらしい。被トラブル体質かよ。でも、骨にちょっとひびが入った程度で済んでてほっとした。衝突した車もそこまでスピード出してなかったらしいし。一応ミヤビンの鞄はボクが持ち、教室まで一緒に歩く。

 

 

「そのまま帰っても良かったんじゃないの?」

「お前がまたサボってないか見に来たんだよ」

 

 

 そしたら予想通りだし、と小言を言ってくるから耳を塞ぐ。にしても、ミヤビンのやついつも通りだな。転校の件はどうなったんだろ?遠回しに聞くのもなんだから直接聞いてみると、

 

 

「俺は残りたいけどな……お袋も行くから、俺も連れて行くつもりらしい」

「そうなんだ」

「………」

「…………なに?ボクの顔に何か付いてる?」

 

 

 ミヤビンはボクの顔をじっと見ていたけど、その後なんでもないって言って顔を背ける。ボクはその後もじっと見つめるけど、こっちを向く気はないみたいだから途中で諦めた。

 それから教室に入ると、案の定ミヤビンはクラス中から心配されてた。ボクは邪魔になるからと、後で話があると言って自席に戻る。

 

 

 

 

 

 放課後、ボクは教室を抜け出すと屋上に出てミヤビンを呼び出す。途中、いきなり現れたB組の馬鹿共を追い返して待つこと10分弱、ミヤビンがやって来てはボクの隣に腰掛ける。

 

 

「で、話って?」

「うん、実はね」

 

 

 ミヤビンの肩にもたれかかって、ボクの気持ちを吐き出す。

 頑固で、馬鹿真面目で、変わり者で、特撮好きで、仕事熱心で、時にはいらないお節介焼いたりしてくるけど、いつも側にいてくれて、ボクを助けてくれる。ボクに、あったかい居場所をくれる。そんな大切な幼馴染を、ボクは、

 

 

「ボクは、オマエが好きみたいだ」

 

 

 いつの間にか、好きになってた。もしかしたらとっくの昔に好きになってたのかもしれない。それに、今まで気付いてなかっただけなのかもしれない。

 

 

「ボクはこうしてミヤビンと一緒にいるのが好き。ミヤビンは?」

「………俺も、お前と一緒にいるのは好きだ。お前が好きだ、レイ」

「そっか、良かった………」

 

 

 そう言ってボクを抱き寄せ、髪を撫でるミヤビンの手は、とてもあったかかった。

 その後ボクらは一緒にミヤビンの家に帰って、おじさんが帰ってくるのを待った。ミヤビンの転校を止めるためだ。

 

 

 

 

 

「なんなんだよあのクソ親父は!!」

 

 

 部屋に戻ったミヤビンは怒ってた。そりゃそうだよね、ボクらの仲がなかなか進展しないからってけしかけるための嘘だったんだもん。そのおかげで自分の気持ちに気付けたし、ミヤビンの気持ちも知れたから、ボクとしてはありだったと思うけど。

 

 

「まあミヤビン落ち着きなって」

 

 

 ベッドに座るボクの隣に座らせて、寄り添う。

 

 

「っと、どうした?」

「別にー。ただ、こうしてたいだけ」

 

 

 おじさんの嘘のおかげで見つかった、ボクの大切な人。絶対に、手放さない。そう思って手を握ると、向こうも握り返してきて、

 

 

「レイ」

「ん、いいよ」

 

 

 それを合図に、どちらからともなく顔を近付け、ボクらはキスをする。

 

 

 

end.




 はい、というわけで《ハッカー少女の心のバグ》完結です。
 実はこれ、俺達/私達の関係とどっちの題材でやるか迷ってたものです。もし乙女義姉さんにビビっと来てなかったらこの2人が主役を飾ってましたね。


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