空戦魔導士候補生の情熱 (蒼空の魔導書)
しおりを挟む

序章 入学と小隊結成
大空に情熱を懸ける少年


二次創作小説初挑戦です。

楽しんでいただければ幸いです。


何世紀も前に突如出現した異形の脅威《魔甲蟲》

 

この脅威の怪物達に地上を奪われた人間はいつしか空へと追いやられ数々の浮遊都市を建設しそこに移住して魔甲蟲の脅威に怯えながら生きていく事を余儀なくされることとなった。

 

人間には体内に魔力という事象干渉によって超常現象を引き起こすチカラを生まれつき持っている《ウィザード》と何も持たない《ナチュラル》の2種類に分かれており、魔甲蟲に対抗できるのは今のところ魔力のみであった。

 

それ故にウィザード達は魔甲蟲の脅威から人々を護る為に《魔術》や《戦技》などの戦闘術を創りあげ、魔甲蟲との闘争に赴くこととなり、何世紀にもわたって戦いが続いたが人類は日に日に追い詰められていった。

 

大空を支配し、蹂躙する魔甲蟲の脅威に怯えながら生きる人類だが、彼等には希望があった。

 

それは飛行魔術を行使し大空を自由に飛び回り、最前線で魔甲蟲達と戦闘を繰り広げるウィザード達・・・大空の守護者の存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は彼らを—————————《空戦魔導士》と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エグザイル歴四三六年、四月一日

学園浮遊都市《ミストガン》十一番区発着場—————

 

「おっ・・・おぷっ・・・・・うぇぇ・・」

 

絶対的数の少ない空戦魔導士の候補生を育成する学生による教育機関、それが学園浮遊都市である。

 

「ピュ・・・ピュイ?・・・・」

 

「あ・・ああ、大丈夫だハヤテ・・おぷっ・・」

 

たった今ここに着陸した連絡艇から一人の少年が顔色を悪くしながら気持ち悪そうに降りてきた。乗り物酔いというやつだろう、この少年はどうやら乗り物に弱いようだ。

 

「・・・ふう、落ち着いたぜ、んじゃ行くか!俺の空のテッペンに飛ぶための第一歩だ!!」

 

「ピューイ!」

 

その少年——————《ルーク・スカイウィンド》は、髪の色は基本的には空色だが髪型は規則性の無い様々な方向に髪束が突っ立ていて中でも異質なのは前頭部から触覚のように飛び出している二本の細い髪束であり、その髪束の毛先ともみあげと後ろ髪が黒い・・・なんか某カードゲームに出てきそうな奇抜な髪型であり、右肩に白い隼をのせている、眼は少し吊り眼気味であまり優等生という感じでは無く黒い学生服は着崩していて肩掛け袋を背負う様は他人が見たら変な奴に見えるだろう。

 

だがルークの眼は輝きに満ちていて未来に希望を感じているようである。

 

周りの人間がルークを見て不審そうにひそひそ話をする中で彼は前に歩き出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通学路———————

 

ルークの乗り物酔いはもう回復したようであり元気を取り戻していた。

 

「いい風だぜ、思わず眠くなりそうだ」

 

「ピュイ」

 

腕を上に伸ばし背伸びをしながら通学路を歩くルーク。

 

「まあここは我慢s「カナタ!なにこんなところで寝ているの?入学式に間に合うの!?」ん?」

 

ルークは声のする方を見てみると道はずれの芝生のうえで寝転がっている黒髪痩躯の少年とその隣に立ってその少年を叱咤する黒髪ポニーテールに薄紫色のリボンをした少女が眼に映った。

 

「ん、クロエか? 今日はミストガンで最高の季節の、さらに最高の気象だから、こんな日に入学式のかったるい話を聞きに行くなんてもったいない」

 

「いや、もったいないっt「お前も寝ていけ」いや、寝ていけって・・・」

 

少年は横の芝生を指してそう言い少女はその溜息をつきたくなる様な発言に呆れながら困惑し———

 

「・・・じゃあ少しだけ・・」

 

と言って少年の横の芝生に寝転がった・・・・少女は少し天然なようで、ミイラ取りがミイラになったようだ、なんともシュールである。

 

「・・・行くかハヤテ・・・」

 

「ピュイ」

 

なんとも言えない気分になったルークは先を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

段々と学園の正門が見えてきた、この辺りは経済経営科(エコノミック)の学生が経営する喫茶店などが立ち並び早めに登校してきた在学生などがそこらでくつろぐ様がみられる、時間に余裕をもって行動するのは学生の基本である。

 

「よし、あと少し」

 

正門まで真っ直ぐ歩いて行くルーク、するとどこからか話し声が聞こえてきた。

 

「だぁぁぁぁっ!!なんなんだよこのケーキはよ!!」

 

——————うるせぇ、一体なんなんだよこの耳鳴りがするようなクソ声は!?

 

ルークは聞こえてきた喚き声の方をウザそうに見やるとそこには喫茶店のテラスの席でくつろぐ異様な五人組がいた・・・・・・・まあ異様というかなんというか。

 

「うっさいわね、なんだっていうのよ!?」

 

金髪で肌が褐色の少女が紅いモヒカンで長身のガタイのいい厳つい大男に文句を言っている。

 

「だってよぉ、このケーキなんでか四等分に切り分けてやがるんだもんよふざけやがって!六等分だろう普通はよぉ!!」

 

「そんなのどうだっていいわよ!いい加減ウザイわよアンタのそのこだわり!!」

 

「ふざけんな!【6】はこの世で一番イカス特別な数字なんだよ!!この【ロクデナシ】女!!!」

 

「ウザッ!」

 

意味不明・・・ルークはそう思った、するとすぐ隣で苺クレープを食っているスキンヘッドの厳つい少年が二人に話し掛ける。

 

「ほっとけ、こう言いだしたら聞かねえからなこいつ」

 

更にその隣にいる深緑色のオールバックで黒いグラサンを掛けた長身のガタイのいい厳つい大男が言う。

 

「小隊の番号や規定人数にも文句を言っていたからな、始末に負えん」

 

「当たり前だろ!番号に6が無いうえに規定人数が3~5人、これを文句を言わずなんt「おい」あ”!」

 

モヒカン男が文句をいい続けているとグループの一番中央にいる紫色の短いリーゼントの眼つきの鋭い少年が話に割り込んできた、そして———

 

「黙って食え」

 

とモヒカン男をにらみつけながら言った。

 

「でもよぉ「黙って食え」・・・ああ・・」

 

一瞬眼が光ったかのような錯覚が起こるほど凄みがある、どうやらこの少年がリーダー格のようだ。

 

そして何事もなかったかの様にグループは静かに食事を再開し、リーゼントの少年は何故か裁縫をしていた。

 

———————学園浮遊都市に不良?さっきの寝てた奴といい治安悪いのかこの学園

 

そんな風に思っていたルーク、だが素行が悪いといえばルークも人のことは言えないのだが自覚がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園正門前—————

 

「到着、結構長かったなハヤテ」

 

「ピュイ」

 

沢山の学生で賑わう正門前、小隊の勧誘に後方支援科(ロジスティクス)の学生よる新入生への入学記念のピンバッジの配布、競技活動連合の競技人口増加のためのパンフレット配布などで在学生たちが奔走している様があちこちにみられる。

 

「さて、クラス分け表はどこかな「きゃぁぁぁぁっ」今度はなんだ?」

 

「引ったくりよ!誰かそいつを捕まえて!」

 

「・・・・やっぱ治安悪いのかこの学園浮遊都市」

 

学生の少女が叫んで向いている方向を見るとそこには学生バッグを抱えて逃げる中年の男が見えた。

 

殆どの人口が学生で占める学園浮遊都市において20代を超えた人間を見るのはまれでそんな中そういう人物がそういう犯罪を起こすときは決まってこういう一瞬で行う犯罪であることが多い、こそこそとやるには目立ち過ぎるからである。

 

「ちぃっ!待ってろあの程度の速さならすぐ「そこまでだ卑劣な悪党め!!」んっ?」

 

突如引ったくりの上から現れた赤い鉢巻と赤いマフラーを身に着けた白いツンツン髪の少年が引ったくりの背中を蹴り飛ばしそのまま地に踏みつけた、その上で少年は右ひざを曲げて引ったくりの後頭部を踏みつけ同時に左手の中指、人差し指、親指を立てその左手を右肩、額の前、そして真上へといちいち一動作ずつ止めながら移動させ真上へ左腕をピンと伸ばした瞬間同時に右手を閉じ顎の前へと瞬時に移動させるという奇妙なポージングをとり———

 

「ヒーロー見参っ!!」

 

などと言い放ったのでルークは自分の中でその少年の事を変人認定した。

 

「ふっ、決まったな!流石オレ、今日も悪はオレの前に倒れ伏す、そうなぜならばオレはヒーr「なにしてるのまた!?」ふぎゃっ!!」

 

意味不明な事を少年が言っていると背後から濃い茶色の長い髪を白いリボンでツインテールにした気の強そうな少女がハリセンで少年の後頭部をぶっ叩きそれにより少年が前に倒れて転がった。かっこつけ(はっきり言って周りはドン引きだが・・・)が台無しである。

 

「ちょっ?なにすn「皆さんどうもこのバカがお騒がせしました!」ちょおいなんでだよ!?オレはヒーローとしてひとd「それでは失礼します!」あいでででででっ!!耳引っ張んなっていでででででっ!!」

 

少年はそのまま少女に耳を引っぱられひきずられて連行されたて行った。

 

「・・・・んじゃあ、行くか・・」

 

「ピュイ」

 

辺りを沈黙が支配する中、ルークはクラス分け表に自分の名前が書かれていたクラス、空戦魔導士科(ガーディアン)予科一年C組の教室がある本棟へと向かうことにした。

 

「さ~て、どんな奴らいるのか楽しみだぜ」

 

大空に情熱を懸ける少年ルーク・スカイウィンドと学園浮遊都市《ミストガン》に集う仲間達やライバル達との大空の頂きを目指す物語が今、始まろうとしていた。

 




つ・・・・疲れた、このような疲れる作業をスラスラとこなす他の作者を尊敬します。

それではまた次回もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠りの森(スリーピングフォレスト)

原作空戦第8巻マジ感動!!

色々と考えさせられる巻でした。【命の選択】かぁ。

皆さんは明日世界が滅びるとしたらどう過ごしますか?

自分はエミリーと同じで遊び倒します。


本棟、空戦魔導士科(ガーディアン)予科一年C組教室—————————

 

「ふむ、この学園浮遊都市は治安が悪い・・・ですか・・その様な話は聞いたことがありませんが」

 

ルークは指定された席が前後同士だったことで先ほど知り合った金髪の少年《ロイド・オールウィン》と話をしている。ロイドに対するルークの第一印象は【なんかウスィーそうな奴だな】であり、せっかく知り合ったのに名前を忘れてしまわないか心配だった。

 

「つってもなぁ、実際に俺らと同じ新入生がサボろうとしていたり、喫茶店でどう見ても【The 不良】って感じの先輩らしき奴らが騒いでいたり、正門前で引ったくりがあったりしたんだぜ、そう思いたくもなるだろ」

 

———————一番おかしかったのはその後に現れた痛々しい奴だけどな・・・・

 

「新入生がサボろうとしていた・・・ですか、そういえばもう指定集合時間間近だというのに僕の後ろの席の人はまだ来ていませんね」

 

ロイドはいまだに空席である自分の真後ろの席を見やりそう言う、今この教室の席はロイドの真後ろの席以外すべてクラスメイトで埋まっていて、これから来るクラスの担任教官を今か今かと待つ態勢であり教室内はピリピリとした空気に包まれていた・・・・・・・・その時。

 

「お~、集まってんなぁヒヨコ共!」

 

教壇側のスライドドアが開き、そこから桜色の髪で右耳に青と白の縞柄のビーズアクセサリーを身に着けた大雑把そうな青年が出席簿らしき黒い書物をもって入室してきて教壇の前に立った。

 

この青年がどうやらこのクラスの担任教官の様であり、ホワイトボードに自分の名前をでかでかと書いて教卓の前に立ち不敵な笑みを浮かべて教卓の上に両手をついた。それを見たルーク達を含むクラスの新入生達は速やかに静まり返り青年に視線を向けた。

 

「今日からお前等の担任をさせてもらう《リーガル・エンディオ》だ、出身浮遊都市は《リューン》特技は木の板に木の棒をこすり付けて十分以内に火を熾すこと、趣味は木彫りの模型製作、25歳独身、現在彼女募集中だ!お前等とは一年間の付き合いになるが、まあよろしくな!・・・と言っても交替で他の教官もくるから形式だけの担任なんだがな」

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

担任であるリーガルは自己紹介をするが【彼女募集中】などとふざけたことを言ったので緊張して張り詰めた空気が一瞬でビミョーな空気になった。

 

学園浮遊都市は基本、完全学生運営であるのだがさすがに座学については学生だけでは不可能であり、座学の時間である午前中のみプロの空戦魔導士が講師として交替勤務で講義を行うこととなっているのである。(空戦魔導士の数は絶対的に数が不足している為、午後は防衛担当都市に戻る)

 

「んじゃ、これからお前等には自己紹介を前から順番に行ってもらう、そんじゃまずは・・・・・ん?一人来てないみたいだが休みか?」

 

リーガルは不在の生徒の名前を確認する為に出席簿を開いて確認する、するとリーガルの表情がいきなり固まる。

 

「・・・・・・・入学するのは知っていたが、まさか俺が担当するクラスとはな・・・」

 

リーガルはボソッと呟き生徒達に顔をむける。

 

「・・・・・お前等《カナタ・エイジ》っていう黒髪で何考えてんのかわかんねぇガキを登校中に見かけなかったか?」

 

まるでその不在の生徒を知っているかの様な口振りで生徒達に尋ねた。

 

————————カナタ?・・・・んん~その名前どっかで・・・。

 

その問いの答えを相談する為に周りの生徒達がひそひそ話をするなかルークはその名前に聞き覚えがある様な気がして首を傾げて考える。

 

「俺の予想だとそいつはどっかの芝生の上でクロe・・・幼馴染の女の子を巻き添えにして眠りこけていると思うんだが・・・」

 

————————って、あいつかぁぁぁぁぁぁっ!?十一番区出てすぐ近くの芝生でサボろうとしてた奴!

 

ルークは通学路を歩いている途中で見かけた少年の事を思い出して驚愕する、そしてルークは引きつった表情を浮かべながらリーガルに伝える。

 

「リーガル教官、俺そいつ十一番区近くで見ました・・・・教官が言った通りにサボろうとしてました・・」

 

「・・・・・はぁ、やっぱりか・・・・仕方ねえ、奴はあとで反省文書かせるとして・・・とりあえず自己紹介始めんぞ!それじゃあお前から」

 

不在の生徒の行方をきいたリーガルは呆れた表情をしながら気を取り直して目の前の生徒から自己紹介を始めさせた。

 

「まさか、ここに来て最初に見たサボりがクラスメイトだとはな」

 

クラスメイト達の自己紹介があまりにも地味なのでしらけてしまいロイドとひそひそ話をするルーク。

 

「縁というのは不思議ですね」

 

「ああ、つっても初日からサボるとかやる気あんのかって言いてぇな」

 

「ええ、しかしそういう人とは知り合っておいて損は無いと思いますよ?その人の犯した悪事をネタにして色々とたかr・・・ゲフンゲフンッ!・・・交渉できそうですから」

 

「・・・・お前意外と腹黒いな・・・・」

 

「いやですねぇ、要領がいいといって下さい」

 

「お前・・・「次、そこのお前!」お?俺の番か、よしっ!」

 

話の最中に明らかになるロイドの意外な面に顔を引きつらせていると順番がルークに回ってきた様でありルークは立ち上がり、そして・・・

 

「浮遊都市《イーストスラム》出身、ルーク・スカイウィンドだ!趣味は筋トレとハヤt・・・ダチと駄弁りながら散歩することと特技は喧嘩と風を感じることだ!・・・・・・・そして今ここにいる・・・いや、このミストガンにいる空士全員に宣言するぜ!!」

 

ルークは簡潔に自己紹介をしてからいきなり突拍子もないことを言い出す、ルークにはこの学園浮遊都市にきた目標があるのだ、その瞳に情熱と野望の炎を宿しそしてリーガルに向けて指をビシッと指して宣言する—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はこのミストガン・・・・いや、世界中全ての空士をぶっ倒して世界最強にして最高の空戦魔導士になる!!最強クラスの魔剣術でも戦略破壊兵器級の極太魔砲でもなんでもきやがれ!!全部打ち砕いて俺が大空のテッペンをいただくぜ!!!」

 

ルークはその内に秘める情熱を解き放った—————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場——————————

 

広さ縦横約1000m、高さ最大約300m、形はすり鉢状のスタジアムで学園浮遊都市中の空士達がその戦闘技術とチカラを競い合う為にあるこの場所に今、この学園浮遊都市《ミストガン》の関係者ほぼ全員が新たに仲間に加わる新入生達の入学式を執り行うために集まっており、現在その入学式のプログラム進行中の真っ最中であった。

 

「おーおー、今年もイキの良さそうなガキ共がぎょーさん入ってきとるやないか!」

 

そんななかですり鉢状の側面外周部の一部をくり貫くようにして作られている選手専用の待機所、そこにあるトンネルのようにくり貫かれた場所からフィールドに出場するための出口付近からフィールドを覗く五人の影。

 

「君はそう言うが大半が【バツ】だな・・・・まあ一昨年前の奴ら(今の予科三年生)よりは見込みがありそうだが」

 

「大事なのは今じゃなくてこれからどう成長するかが大事だろう」

 

「アハハハハッ!そうだね、ボクもそう思うよ」

 

それぞれが今年の新入生について今見たまんまの評価を付けている、彼らからは鍛えられた空士が持つ絶対的な制空圏を支配する風格や緊張感を漂わせる威圧感を感じさせる、明らかに強者だろう。

 

「・・・・今年から【あの子】も入ってくるのね・・・」

 

そんななかで今まで黙っていた一人の少女らしき人物が憂鬱そうに呟いた。

 

「おっ、そういやああのボウズも今年からやったな、なんや不満なんか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「弟に危険なことやらせたくあらへんのはようわかる、せやけどあのボウズが自分で選んだ道やで、それに文句を言うのは野暮言うもんやろ」

 

「だけど!」

 

「ほんならボウズが魔甲蟲に落とされへんよう見守ってやればええ、それが姉の役目とちゃうんか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「まあせいぜい見させてもらうで、こいつらがこの先の未来このデッカイ【空】を任せられるのかに値すかを」

 

少年らしき人物は新入生達の未来を期待するようにそう言った。

これから彼らに空の祝福があらんことを願って————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱデカイものはええのぉ!空もオッパイも!!」

 

「・・・って!どさくさに紛れて私の胸揉むなあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぐほぉぉぉっ!!・・・・ええ・・・・ブロー・・・・や・・・・ガクッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド——————————

 

「ちょっと喧嘩売り過ぎだと思いましたよさっきのは」

 

「へっ!あそこで宣言しないでいつするんだ?」

 

入学式のプログラムが進行する中、ルークとロイドはまたひそひそ話をしていた。

 

「これで君はクラス中を敵に回した様なものですよ、あの後皆君のこと睨んでいたしリーガル教官も【最強を目指すのも結構だが空戦魔導士は魔甲蟲から人々を護る為に存在することを忘れるな】とも言っていましたしね」

 

「忘れたわけじゃねぇよ、それに構わねぇだろどうせ全員ぶっ倒すんだし」

 

「でもそんな態度じゃどこの小隊にも入れてもらえないと思いますよ」

 

「小隊?」

 

ルークは聞き覚えのない話に首を傾げる。

 

「もしかして知らないんですか?今朝正門前でも勧誘していたと思いますが空戦魔導士は基本集団戦で戦闘するため小隊を組んで行動をするんですよ、学園浮遊都市で成り上がるのも個人ではなく最小三人、最大五人の小隊でやる為小隊に所属していないとランキング戦に出場することもできないんですよ」

 

「・・・・・・・マジ?」

 

「マジです」

 

全く知らなかった情報を聞いたルークは驚愕の表情を浮かべてから落胆した、入学案内にも書かれていたはずなのだが字だけの本を読むのが嫌いなルークはまともに読んでいなかったのだろう、大事なことは嫌いでもやらないと取り返しのつかないことになりかねない為しっかりやるべきだろう。

 

「まあ今決めなくてもこの後にやる新入生歓迎のレクリエーションでやるエキシビジョンマッチを見て決めればいいんじゃないですか?」

 

「・・・・・・そうするか・・・・」

 

『続きまして、《空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)》就任の挨拶です』

 

「・・・・・どうやら今年就任した空戦魔導士科長が出るみたいですよ」

 

新入生達の正面三階辺りの突き出たところに設置された壇の上で司会進行をしている黒髪で左眼下になきぼくろがある予科二年生の少女がプログラムを読み上げ壇に上がってくる人物に場を明け渡した。

 

その人物は身長190cmあるだろう長身で筋肉質なガタイ、癖っ毛のある黒髪でとてつもなく強い意志を秘める鋭い眼をしていて黒い学生服の上着を袖を通さずに肩に掛けるようにして着こなしているさまは上に立つものの風格を漂わせていた。

 

「今年から空戦魔導士科長に就任した《ジョバンニ・ジョルフィード》だ、このような責任感のある役職に就けたことを光栄に思う」

 

新空戦魔導士科長にして本科二年生であるジョバンニはフィールド内にいる新入生達を真っ直ぐと見て堂々とした態度で演説を始めた。

 

「これからお前達にこのミストガンで六年間切磋琢磨して学び、競い合い、生活している間に考えてほしいことがある」

 

ジョバンニは一呼吸おいて新入生達に問う。

 

「お前達にとって【空】とはなんだ?」

 

ジョバンニは毅然とした姿勢でさらに問う。

 

「夢か?護るべきものか?自由の象徴か?あるいは逆に魔甲蟲に怯えて過ごす地獄、牢獄と捉えるか!?この答えをこの六年間でお前達一人一人だけの答えを見つけてほしい!!」

 

この空をどう思うのか?それがジョバンニの問いだった、飛行魔術で空を舞い守護をする空戦魔導士、しかしその空に対しての想いがなければ、その役目の意味は理解できない。

 

「最後にこれからすぐに教えられるであろう《空士の回廊》を歩むことで重要な心構えの一つを俺の口から伝えさせてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな困難や逆境でも絶対に諦めるな!信じろ自分の感覚を!今までの訓練を!そして仲間達を!!俺達が勝つと信じて戦い抜け!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な困難に立ち向かいどんな強敵にも勝利できるのは決まって諦めない【不屈の心】を持った奴だ、空戦魔導士ならば避けて通れない【空士の回廊】を歩む為に必要な秘訣こそそれだった。

 

「話は以上だ、新入生諸君!健闘を祈る!!」

 

ジョバンニは強くそう言い放ち、壇を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場、東側観客スタンド———————

 

———————俺にとって空とはなにか?・・・か。

 

入学式が終わり新入生歓迎のレクリエーションであるエキシビジョンマッチが始まる為、ルーク達新入生は観客スタンドに移動して始まるのを待っていた。

 

———————俺にとって空とは上を目指す為の舞台だ・・・・・・けどなんか違う気がする・・・・。

 

ルークは四階観客スタンドの前にある落下防止のための柵の上に腕をついて伏せて考え込んでいた。

 

———————空戦魔導士科長が言っていたのはそんな見た通りのことじゃねぇ、もっとこう・・・・・・ああっ!わかんねえっ!!

 

「ルークそろそろ始まりますよ、見なくていいんですか?」

 

「おっと、考えていても仕方ねえか」

 

フィールドの中央上に浮かんでいる球体モニュメント《ソーサラーキューブ》が起動し、フィールド内でのダメージを精神的ダメージ・・・つまり非殺傷ダメージに変える《ソーサラーフィールド》が展開された。

 

そして、北側と南側それぞれにある選手入場口にある発煙筒から勢いよくカラースモークが噴出した。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ待たせした★ZE!!新入生歓迎レクリエーションのエキシビジョンマッチ!いよいよ開戦DA★ZE!!』

 

西側観客スタンド二階にある実況中継用の席にいる右が赤、真ん中が黄、左が緑のアフロで青い星形フレーム眼鏡を掛けた軽薄そうな青年が実況を開始しているのがみえる、よく見ると闘技場の至る所に中継カメラによる撮影スタッフが配備されているのも確認でき、どうやらこのエキシビジョンマッチはミストガン中で生放送されるみたいだ。

 

『実況・解説はお馴染、この《シグナルエースマン》DA★ZE!!さぁぁぁぁて、今年のエキシビジョンマッチは去年の《空戦武踏祭(エリアルソード)》に出場し見事ミストガン代表初優勝に輝いた現《特務小隊(ロイヤルガード)》《S45小隊》へのランクフリーチャレンジマッチ!!エントリーした勇気ある格下共が順番に立て続けにS45小隊に挑むという、最初ムリゲーで後の方になるにつれて有利になっていくアンフェアルールでのゲームDA★ZE!!』

 

実況開始と同時に南側の選手入場口から五人の空士が入場と共に飛行魔術を発動してフィールドに舞い上がり歓声が沸いた。

 

『先に現れた負け確のアンラッキーチームは、去年最終クォーターにてAランク入りを果たしたA42小隊!Aランクになっての初戦の相手が消耗無しコンディション万全の特務小隊とはアンラッキーにも程がある★ZE!!これで気を落とさないか心配だぁぁぁぁっ!!』

 

「・・・・ウゼェ実況だぜ、勝手に負けるときめつけてよ」

 

「まあ仕方ないでしょう、相手はあの・・・」

 

あまりにもチャレンジャーアンチな実況にルークはイライラしていると今度は北側の選手入場口から五人の別格の雰囲気を醸し出す空士がフィールド内に舞い上がり闘技場は爆発的な大歓声に包まれヒートアップする。

 

—————————・・・・・なっ!?あれは!!

 

『さあぁぁぁぁあお待ちかね!S45小隊の入場DAAAAAAAAAAAA!!ミストガン・・・いや、現全学園浮遊都市最強の小隊!!去年の空戦武踏祭では他を寄せ付けない圧倒的実力で優勝し、プロの空戦魔導士から見ても強すぎると評価されたミストガンの絶対的守護神達!!ここに降臨DA★ZEEEEEEEE!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S45小隊側空域————————

 

「アハハハハハッ!お祭り騒ぎだね!」

 

綺麗でサラサラの黒髪で透き通った碧い眼の幼い顔つきの少年が観客達に笑顔をふりまきながら手を小さく振っている。

 

「まったくこんな茶番に何故私達が出なければならないんだ!?エントリーしているのは全てバツな小隊じゃないか!」

 

計算高そうな少年が失望したかのように言葉を吐き捨てる。

 

「空戦魔導士科長が決めた事だから仕方ないんじゃないかな、まあこれも新入生への空の戦いの厳しさを教えるいい機会だと思っておこうか」

 

燃えるような白い髪でヘアバンドを額に身に着けた吊り眼の少年が腕を組みうんうんと頷いている。

 

「そやな、ザコ共を叩き潰すのを見せつけるんも良うも悪うもガキ共の刺激になるわな、ナハハ!」

 

ゴーグル付きの革の被り物を被る糸目の少年が同意して笑った。

 

様々な思考を巡らせるS45小隊の隊員達、そんなことをしている間に試合開始のカウントダウンが始まり隊員たちは指にはめている指輪・・・《魔術師の宝石箱(マギスフィア)》に魔力を注ぎ込み何もない空間からそれぞれ《魔装錬金(ミスリル)武装》を取り出して対戦相手の方を向き構える、だが糸目の少年だけ魔術師の宝石箱を自らの脚に向けて魔力を照射し特殊な魔装錬金武装が少年の脚に装着された。

 

「はじまるわ【ソラ】、【あの子】への選別としてこの試合は十秒で終わらせるわよ!」

 

空色の長髪の少女が魔弓を構えて意気込むと、カウントがまさに今ゼロになろうとしていた。

 

「・・・・・・こないなザコ小隊に十秒もいらんわ」

 

糸目の少年がそう言った瞬間、カウントがゼロになって試合が開始された——————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二秒あれば十分やで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、A42小隊の隊員達は全員地に墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東側観客スタンド————————

 

『瞬★殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!何が起こったんだ!?ド凡人のオレには理解不能DA★ZE!!だがこんな結果は判りきっていた事!当然勝者はS45小隊DAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

——————あの人達が出てきた時点でなんとなく分かっていたけど瞬殺かよ!?

 

S45小隊が入場してきたころから真剣に観戦していたルークは参考にもならない試合結果に呆れながらも驚愕していた。S45小隊に知り合いでもいるのだろうか、ルークはフィールド上空で余裕そうに元の北側空域にもどって次の挑戦者を待ち構えるS45小隊をじっとみつめる。

 

そして次のチャレンジャーであるA97小隊が入場してきてまた試合が開始され、今度は手加減しているようだが、それでもS45小隊優勢で試合が進む—————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内上空——————————

 

『さぁぁぁぁてここで新入生達に最強無敵の特務小隊、S45小隊のメンバーを紹介する★ZE!』

 

「そろそろ一人墜とさせてもらうよ!」

 

「クソッ!なめんnうおあ!?」

 

南側の空域でA97小隊の一人の魔剣士と戦闘をする黒髪碧眼の少年は青を基準にした白いラインが入った魔砲剣《マクスウェル》で魔剣士の魔剣と鍔迫り合いをしていて魔剣士がチカラを加えた瞬間に後退し、その為に大きく魔剣を空振りしてよろめく魔剣士、そこに少年はマクスウェルの切っ先を体勢を崩す魔剣士に向け魔砲剣に付いているリボルバー式シリンダー型の魔力縮退炉を五回転させた。

 

「クッ!《収束魔砲(ストライクブラスター)》か!?」

 

「ハイ残念賞!」

 

魔砲剣戦技————————————感電捕縛弾(エレキテルバレット)

 

「あ”べべべべべ!?じびれるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「もいっちょおまけだよ!」

 

魔砲剣戦技————————————氷結拘束砲弾(フリーズキャノン)

 

「冷たっ!!ってええっ!?動けねえ!?」

 

「んじゃ、最後にリクエストにお応えして」

 

「ま、待ってくれ!!!」

 

「ダーメ♪」

 

20万ボルトの電圧がかかっている魔力弾で魔剣士を感電させ、冷気を纏った魔力砲弾で魔剣士の体中を凍らせて拘束し、命乞いをする魔剣士に対して無情にも切っ先を向ける。

 

魔砲剣とは大剣の切っ先に砲口があるオールラウンドな戦術な可能な武装だが、非常に扱い難くそのために使い手は少ない。

 

『まずは一人目、その少女の様な愛くるしい容姿と笑顔の為女子達のアイドル的存在であり、魔砲剣士としても凄腕でしかも様々な属性変換付与の戦技を使うことから《元素の剣聖(オリジン)》の二つ名を持つ本科二年F組所属《リオス・ローレ》!!こいつホントに男なのかぁぁぁぁぁ!?』

 

魔砲剣戦技————————————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ってえげつねえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

虹色の魔力の奔流が魔剣士に至近距離で放たれ、そのままフィールド内の地面に魔砲ごと叩き付けられ大爆発が起こり、A97小隊一人目の撃墜判定が下された。

 

「ハイ、おしまい♪」

 

観客スタンドに向かって満面の笑顔でピースをするリオスであった。

 

『・・・・・それじゃあ続いて・・・・』

 

変則的加速(チェンジオブペース)——————————燃焼噴射超加速(アフターバーナー)

 

『ってうわあぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

「あ、レオそっちは終わったの?」

 

「ああ、これで二人目撃墜だね」

 

闘技場最北端の空域でソニックブームによる空気の爆発が起こったと思ったらその直後にヘアバンドを身に着けた吊り眼の少年が炎の紋様が刻まれている魔双剣《フレイムロード》を携えていつの間にかリオスの横にいた。

 

『ふ、二人目は炎の魔双剣士、しかしその男の真骨頂は圧倒的飛行速度!!そのスピードはゆうに音速を超えていて通り道には炎しか残らねえんDA★ZE!!《魂の炎(スピットファイア)》の二つ名を持つ男!!本科二年F組所属《レオ・オーバーグ》!!っつうかあんなトコから一瞬でここかよ!?』

 

魔剣戦技———————————空間強震破(ショックブラスト)

 

『うぼあぁぁぁっ!?地震、いや空間震動か?って親方ぁぁぁぁ!空から女の子があぁぁぁぁっ!!』

 

「囮で私を引き付ける策はマルだが、お前ではバツだ」

 

突如空間が揺れたと思ったら震動が止まった瞬間レオ達の右側真上から魔双剣士の少女が墜ちてきてそのまま墜落し、上から計算高そうな少年がゆっくりと降りてきた。

 

「キリク、そっちも終わったんだね」

 

「当たり前だ、こんなバツ共に遅れなどとってたまるものか」

 

「アハハハハ!キリクおつかれ~」

 

『さ、三人目は《石の審判者(ストーンジャッジマン)》の二つ名をもつ男、本科二年A組所属《キリク・リーヴェルト》言葉がでねぇ・・・』

 

「フンッ!どうやらこっちを狙って狙撃しようとしている輩がいるようだが・・・・・あれもバツだな」

 

リオスの収束魔砲(ストライクブラスター)の発砲からこの間わずか十秒であり、その為フィールド中が煙だらけの状態であるため、一人の魔銃士がそれにまぎれてキリク達を狙撃しようとしていたが・・・・次の瞬間その左方向から飛んできた一本の魔力矢が魔銃士を貫くのが見えた。

 

魔力矢が飛んできた方を見て見るとそこには魔弓を携えた空色の長髪の少女が澄ました表情で佇んでいた。

 

『四人目はS45小隊の紅一点、その魔弓の矢に狙われた敵はまるで茨に絡まれてしまったかのように逃げることができず、射貫かれる運命!!《茨の女王(ヴィターニア)》の二つ名を持つ空の女王!!本科二年A組所属——』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《リカ・スカイウィンド》・・・・・・俺の姉貴だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東側観客スタンド—————————————

 

「姉・・・・・ですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

S45小隊の茨の女王はなんとルークの姉だった。

 

一瞬驚くも平静を保つロイドは興味深そうにして話を続ける。

 

「ひょっとして最強の空戦魔導士を目指すのは姉を目標にしているからですか?」

 

「リカ姉じゃねぇ、俺が最強を目指すきっかけは——————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技—————————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如西側から【伸びてきた】巨大竜巻が煙を全て吹き飛ばし、東側観客スタンドの上を通過してソーサラーフィールドの結界を破壊して、空の彼方へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?ソーサラーフィールドが破壊された?確かあれは収束魔砲にも耐えうると聞いていたんですが・・・」

 

流石に驚愕したロイドは・・・・・いや、ルークを除く観客全員が巨大竜巻が飛んで行った方をみて唖然としている。その威力、まさに災害級だろう普通の空戦魔導士が出せる戦技じゃない、そして・・・・。

 

『ああっと!ここでA97小隊の小隊長が三番区に落下してきたとの情報が入ってきた★ZE!!試合終了!!最後に勝負を決めたのはこのバケモノ小隊の小隊長にしてミストガンの英雄!!《空の王(アトモス)》の名は世界中に知れ渡っていてこいつを知らない奴はモグリDA★ZE!!!本科二年A組所属《ソラ・グローリー》!!!』

 

巨大竜巻が止むとそこにはゴーグルのついた革の被り物を被った細目の少年が翼の装飾が施されている魔装錬金でできた靴を履いている左脚(右脚にも当然履いている)を正面に蹴り上げた体勢で滞空していた。

 

「【ソラ兄】ならこれくらいは楽勝だな、ホント相変わらずバケモンだぜ」

 

ルークは目標にしている憧れの人物を見据えて最強の空戦魔導士への道の困難さを感じるのだった。

 

『強すぎる、特務小隊のS45小隊!!彼らと対峙した敵はまるで脱出不可能の森に迷い込みその森の中で永遠に眠らされるかの如く成す術も無く敗北する!!故に彼らをひと呼んでこう呼ぶ—————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————《眠りの森(スリーピングフォレスト)》と!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作空戦第6巻で空戦武踏祭はカナタ達が幼少学校時代が最後でそれ以降開催されていないそうですが、この物語では独自設定でまだ開催しています。

また、座学の教官はプロの空戦魔導士が務めるの下りも独自設定です。というか完全学生運営なんてムリじゃね?

原作改変のタグを追加しておきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

連続拉致事件

カナタ「目的が同じ人間が集まって努力し続け、自分にできることを精一杯やれば自然と結果は出るもんだぜ」

あーあー聞こえませ~ん!!

マジ泣きそうでマジ無理で三話目投稿!!

ルーク「良い子はこんな大人になっちゃダメだぜ」


八番区裏通り————————

 

学園初日の日程が終わり現在午後六時三十分、すっかり日も暮れ暗い裏通りの道を三人の新入生の少女達が町の散策目的で歩いていた。

 

「なんかここ薄気味悪いよ~」

 

「まあ裏通りだしね、しかももう夜だし・・・」

 

「そういえばもうこんな時間か」

 

少女達は時間も忘れて散策に夢中になっていて時間を気にしていなかったのだろう、基本学生の夜遊びは御法度であり人口の殆どが学生で占める学園浮遊都市ではこの時間帯にはもう殆どの人は出歩いておらず、このような裏通りでは特に人気がなく不気味であった。

 

「ねえそろそろもう寮に行きましょうよ?ここ何か出そうで怖いよ~」

 

「そうね、じゃあ「ウヒヒヒヒ、こんな時間にこんなところで夜遊びとはイケナイロリっ娘達だねぇ」えっ!?」

 

少女達が身の危険を感じて指定された学生寮へと向かおうとしたその時、突如どこからか下品で不気味な声が聞こえてきてそして・・・。

 

「そんなロリっ娘達にはいいところにご招待してあげるウヒヒヒヒ!」

 

「「「い、嫌ああああああああっ!!」」」

 

悲鳴と共に少女達はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空戦魔導士科執務室———————

 

「お前がスカイウィンドの弟か、よく来たな、もう知っていると思うが俺が空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)のジョバンニ・ジョルフィードだ、以後よろしくな」

 

「あ・・・ああ、よろしく・・・・・します」

 

初日の日程が終了した放課後にルークは学園内放送で呼び出しを受け空戦魔導士科執務室にいた。

 

「かしこまらへんでもええでボウズ、ジョジョは多少生意気な口聞いても気にするちっさい男やないからな」

 

「誰がジョジョだ!?」

 

空戦魔導士科(ガーディアン)運営に関する書類が山のように積まれた机の前に毅然と立つ長身で筋肉質の空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)ジョバンニ、その左側でヘラヘラと茶化す眠りの森(スリーピングフォレスト)小隊長のソラ、そしてその左側でルークを睨みつけるルークの姉リカ・・・これが今ルークの目の前にいるメンツである。

 

「ボウズを呼び出したんはブラコnゲフンゲフンッ・・・弟想いのリカの為でなあ、まぁと言うてもただの意志確認やけど」

 

「意志確認?」

 

ソラの発言に首を傾げるルークの前にリカがルークを睨みつけながら立った、彼女の眼からは強固な意志を感じながらも慈愛の念や心配する感情も感じとれる。

 

「久しぶりねルーク、貴方にはここには来て欲しくなかったわ」

 

「ああ久しぶりリカ姉」

 

姉弟の再会にしては重々しい空気を醸し出して相対するふたり、そして先に口を開いたのはルークだった。

 

「リカ姉が俺を死と隣り合わせの空戦魔導士にしたくないのは分かっているつもりだ、それでも最強の空戦魔導士に俺はなるっ!世界中の・・・いや、俺の手の届く範囲でも大勢の人を護り、そして自分の夢を叶えるために!」

 

「・・・・・・」

 

意志が強く闘志を燃やした眼差しでリカに食って掛かるルークを見てリカは沈黙と共に威嚇するような眼でルークを見つめた後一回溜息を吐き、ジョバンニがやれやれだぜって感じで額に掌を当て、ソラが豪快に大笑いしながら口を開いた。

 

「ギャハハハハハハハハハッ!!ええわええわっ!夢の為ってえのが本命で大勢の人間を護る言うんはついでとみたで、そらそうやな!夢・野望を抱かずしてなにが男やねんギャハハハハハハハハハッ!!」

 

「ソラっ!!」

 

大爆笑しながらルークに賛同するソラを咎めようとするリカ、しかしソラはそんなリカに対して眼を見開き不敵の笑みを浮かべて答える。

 

「せやけどなリカ、ガキいうんは夢食って生きとるんやでほんまに、それを止める言うんは野暮いうもんやで、ボウズが自分で決めた道さかいそれ潰したらガキはダメんなる、そんなんアカンやろ?」

 

「・・・・・・・・はぁ、これだから男は・・・」

 

直球で夢について語るソラといまだに闘志を燃やした眼差しで真っ直ぐこっちを見ているルークを交互に見て溜息を吐き再びルークと向き合うリカ、そして。

 

「わかったわルーク、貴方の意志を認めるわ」

 

「リカ姉!」

 

「ただし!約束しなさい、未熟なうちは危険な事があったら私達を頼ること、それが適わないのなら自分の仲間達と共に立ち向かう事、その為の信頼できる仲間を見つける事、いいわね!?」

 

どうやら根負けして折れたみたいだが認める為の条件を出す、それらは全てルークの身を安じて出した条件でありリカは本当に弟であるルークのことを大切にしているのがわかる。

 

「ああ!もちろんだリカ姉、約束する!!」

 

「よろしい!これからよろしくねルーク」

 

「よろしく、リカ姉!」

 

ルークは条件を呑みリカと握手をする、これでふたりは本当の意味で再会を果たした。

 

「やれやれ、一件落着やな」

 

「そうだな、さて「失礼します、空戦魔導士科長」ん?ああいいぜ、入れ」

 

解り合った姉弟を見て感情に浸るソラとジョバンニ、そこに突然執務室の扉をノックしてから一礼をして入室してきた一人の少女がいた、彼女は入学式の時に司会進行役を務めていた予科二年生の少女だった。

 

「来客中に申し訳ありません、例の【連続拉致事件】の情報の資料が完成しましたので拝見してください」

 

「ん、ああわかった、わざわざすまんな」

 

「いえ、それではわたしはこれからランキング戦の資料の作成に取り掛かりますので失礼します」

 

「ああ、よろしくな」

 

一礼して退室する少女、それを見たルークは少し興味本位でジョバンニに問う。

 

「誰っすかいまの?」

 

「ん、あいつか?あいつは俺の補佐を務める《フロン・フラメル》、少し堅苦しい性格をしているがなかなか優秀でな、未来の空戦魔導士科長候補だ」

 

「気ぃ早すぎやろジョジョ?、アンタもまだ就任したばかりやのに」

 

「誰がジョジョだ!?・・・・・まあそういうわけであいつは将来お前達の上に立つかもしれねぇからな、覚えておいて損はないと思うぞ」

 

「ああ・・・・んじゃあ今言ってた連続拉致事件って一体?」

 

「・・・・・そうだな、お前達新入生も無関係ではないな・・・いいだろう」

 

連続拉致事件などという物騒な単語を聞いて情報の開示を求めるルークに対してジョバンニは開示しても問題ないと・・・むしろ知っておいた方がいいと判断し事件の概要を話し始めた。

 

「二週間前辺りからミストガンでは高魔力持ちの空戦魔導士科の学生が失踪する事件が多発していてな、《レイブンネスト》に捜索させたところ失踪現場には魔導人形【ゴーレム】生成の魔術が使用された形跡があった」

 

「魔導人形?」

 

「対象の物質に魔力を流し込んで人形兵器を作り出して操る特殊な術よ、行使できるウィザードが少なくて珍しい術だから知らないのも無理ないわね」

 

「ふーん、んで?」

 

「それがわかった直後に教皇浮遊都市《ベベル》の都市警察から緊急の通達があってな・・・これを見ろ」

 

ジョバンニは書類が山積みされた机の左端に設置されているキーボードを操作し空間モニターを机の真上に出現させる、そこには頭部の左右にだけ薄い髪が残った禿頭の中年男性が映されていた。

 

「こいつがベベルの監獄から脱獄してこのミストガンに潜伏しているらしい、名前は《モンド・スミー》以前は魔導科学者で希少魔術に精通していたが・・・奴には異常な性癖があったみたいだな・・・」

 

「は?性癖?」

 

ジョバンニがモニターに映されている男の説明をして突然性癖について言い出したので意味がわからないルークにリカが説明する。

 

「この男は【ロリコン】なのよ、気持ち悪い」

 

「そりゃあキモイな・・・・・それがなんの関係が?」

 

「この男が拘束された理由が【幼女誘拐・監禁】だからよ」

 

「そうだ、そして失踪した学生は全て予科生の女子生徒だ、つまり今回の事件の犯人は奴である可能性が高けえ」

 

「うわぁ・・・」

 

あまりにも生理的に嫌悪感を感じるモンドの話にドン引きするルーク。

 

—————今朝の正門前の引ったくりといい、マジで—————

 

「・・・ここ治安悪いんだなリカ姉」

 

「まったくレイブンネストは何やってるのよ?役に立たないわね」

 

「まあアイツ等は基本ミストガン内の警備が主な仕事やからな・・・って役に立ってあらへんやん!?ザル警備やな!!」

 

仕事が雑な治安組織に文句を言う一同、警備が楽で退屈な仕事だと思って手を抜いてやってはいけない。

 

「この情報は明日にでも学園内放送で公開して注意を呼び掛けるつもりだ、今までの被害者が女子生徒だからといって犯人の目的が不明な以上それ以外の生徒に危険が無いとも言い切れん、お前も気をつけておけ」

 

「ほんまにな、んじゃこの辺でお開きにするで」

 

窓の外を見て見るとすっかり日も暮れて暗くなり、明日全学園生徒に情報を公開することに決めてこの場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区はずれの公園———————

 

現在午後八時、多くの出店が建ち並び昼間は多くの人で賑わう商業街も今は殆どの出店は閉まっていて人はあまり見かけない。

 

「カナタ遅いな・・・」

 

そんな商業街のはずれにある公園のブランコに座り小さくブランコを漕ぐ黒髪ポニーテールに薄紫色のリボンをした少女《クロエ・セヴェニー》の姿があった。

 

「まったく、あの後結局放課後まで寝ちゃったしそのせいでわたしも反省文書かされる羽目になるしカナタはその反省文に【気分が乗らないからサボリました】って書いてリーガルさんに怒られてやり直しを書いていてわたしはここで待たされるし・・・・も~カナタのばかっ!」

 

自分を巻き添えにしてあげくにこんな暗い夜に待たせっぱなしにしている幼馴染の少年・・・カナタ・エイジに対して愚痴を吐くクロエ、しかしそれでも律儀に待っているところをみると二人は相当仲がいいようだ。

 

「・・・それにしてもリーガルさんがここで座学担当の教官を務めているなんて意外だったなぁ、リューン常駐の空戦魔導士の中でもエース級の人だからリューンから離れて仕事しないと思ったのn「ピュイ」・・・あれ?なんでこんなところに《シロハヤブサ》が?」

 

今日再会した知り合いのことを思い出して感情に耽るクロエだったがそんな時目の前の飛び越え防止の柵の上に白い隼がいてこちらを見ていたのに気づくクロエ。

 

「おかしいな、シロハヤブサが生息している空域の浮遊都市はもっと南のはず「ピュイ」・・・せっかくだからお話聞いてもらっちゃおうかな・・・」

 

そう言ってシロハヤブサに語りかけ始めるクロエ。

 

「こんばんわ、わたしはクロエっていうの」

 

「ピュイ?」

 

「ちょっとお話聞いてもらってもいいかな?」

 

「ピューイ!」

 

「うん、ありがとう」

 

十代前半の美少女とシロハヤブサが会話する様はなんとも和むものであるが、こういうときに吐き出したい事は吐き出してしまった方がストレスを軽減できるだろう。

 

「わたしには幼馴染の男の子がいるんだ、カナタっていうんだけどね」

 

「ピュイ」

 

「その男の子がさ、いつも何考えてるのかわからなくていつも突拍子もない事をやらかしてわたしを巻き込むし空戦の実技は鬱陶しいほど熱意をもってやる癖に座学はちょっとできるからっていつもサボるしそれなのにテストではいつも満点だしホント困った幼馴染だよね」

 

「ピュイ」

 

話したのは見事にカナタに対しての愚痴であった、どうやら振り回されているのは昔かららしい。

 

「・・・でもカナタってすごく面倒見がいいんだよ、七歳の時飛行魔術がうまく使えないわたしの為にずっと一緒に特訓してくれて・・・でも上空からわたしを落っことす方法は度が過ぎていると思うけど・・・それでもわたしはそのおかげで飛行魔術を習得できたんだ」

 

「ピュイ」

 

「他にもわたしはあまりにも出来が悪いから幼年学校の教官に嫌われていると思って学校に行きたくないと悲しくて泣いていた時だって相談に乗ってくれて一緒になってサボってくれてそれで一緒になって怒られて・・・確かにカナタは不真面目なところもあるけれど、それでもわたしには大切な幼馴染なんだ」

 

いいところも悪いところもよく知っている、これをよき理解者というのだろう、クロエ・セヴェニーにとってカナタ・エイジという存在は本当にかけがえのない存在なのだ。

 

「お話を聞いてくれてありがとうね!少しスッキリしたよ」

 

「ピュイ!」

 

さっきまで憂鬱だったクロエはすっかり元気になっていた。

 

「さて、それじゃあもう少し「ウヒヒヒヒッ!かなりの魔力をもつ幼女見ぃ~つけた!」っ!?誰っ!!」

 

気を取り直してカナタを待とうとしたクロエだったがその時、気味の悪い声が木霊した。

 

多発する【連続拉致事件】、その犯人の魔の手がまた一人の少女を陥れようと迫っていた。




女の子の会話書くの精神的にすげぇ疲れる!!

それを沢山書ける多作者やラノベ原作者ってマジすげぇ!!

それからフロンの喋り方が変だと思うでしょうけど、これは目上の人間には敬語で話すという独自設定です。(敬語間合っているか不安だけど)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

集いし星

第四話の投稿です。

今回からルーク達の本格的な戦闘があります。

そして原作主人公のアイツも登場!!

ではどうぞ!!


正門前——————————

 

「やれやれ、誰かさんを待っていたせいですっかり暗くなってしまいましたね」

 

「仕方ねえだろ、ソラ兄達の話長かったんだからよ」

 

辺りはすっかり暗くなり、他の生徒達はとっくに下校していて不気味なくらい静まり返った正門からルークとロイドが駄弁りながら出てきた、空戦魔導士科執務室での話が長引き夜になってしまうまで義理堅く待っていたロイドは表情こそ笑顔であるが内心穏やかではなかった。

 

「いえ、別に怒っているわけではありませんよ、しかしこんな夜遅くまで今日知り合ったばかりの人間を待っていたんですから夕飯の一つくらい奢るのがスジだとおもいますが違いますか?」

 

「・・・ホント足下見るなお前・・・」

 

他愛もない(?)会話をしながら歩く二人、ルークがロイドに夕飯を奢るのは決定事項のようだ。

 

「それにしても【連続拉致事件】ですか・・・今時そんなことをする変態がいるんですね」

 

「だな、しかも魔甲蟲から浮遊都市を護っている空戦魔導士科の学生を拉致するなn「ピュ・・ピュイ!」へ?なんだ?・・・・ハヤテ?」

 

二人が空戦魔導士科執務室での話の内容を話していると空から一羽の白い隼がフラフラと飛んで来てルークの右肩に乗った。

 

「シロハヤブサじゃないですか!?どうしてここに?」

 

「俺のダチのハヤテだ、ここにいるのは俺についてきたからだ」

 

もっと南の空域に生息しているはずのシロハヤブサが飛んで来たことに驚くロイドにその理由を説明するルークであったがハヤテの右肩を見てそこに傷を負っているのに気づき驚愕する。

 

「なっ!?どうしたんだハヤテ!その怪我!?」

 

「ピュ・・・ピュイ!」

 

「お・・・おいっ!?そんな怪我した身体で飛び上がんな!」

 

ルークが必死に呼び掛けても辛そうに必死に飛ぶハヤテ。

 

「ピュイッ!ピュイッ!!」

 

そしてその場で滞空して三番区の方を左の翼で指して何かを訴えるハヤテ。

 

「・・・・何かあったんだな、この先に!?」

 

「ピュイ!」

 

必死に訴えるハヤテを見て察するルーク、ダチと言うだけあってこの意思疎通は流石といったところだ。

 

「ピュイーッ!!」

 

そしてそのまま勢いよくハヤテは三番区の方へと飛んで行った。

 

「すまねぇロイド、俺はハヤテを追う」

 

「手伝いましょう、寄り掛かった船ですから」

 

「・・・いいのか?」

 

「ええ、夕飯を奢ってもらわないといけませんしね」

 

「お前なぁ・・・・・・ありがとよ」

 

ロイドの協力も得てルーク達は嫌な予感を胸にハヤテの後を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区噴水広場———————————

 

時刻は間もなく午後九時となろうとしている、昼は大勢の人で賑わっているこの場所も今は人っ子一人おらず噴水池の水の流れる静かな音だけが辺りに木霊していた。

 

「こっちかハヤテ!?」

 

「ピュイ!」

 

一直線に広場の大通りを飛行するハヤテを必死に追うルークとロイド、私用での飛行魔術の使用は禁止されている為二人は仕方なく走って追っていた。

 

「ピュイッ!!」

 

「ハヤテ!?・・・なっ!?あれは!」

 

ハヤテが大通りの先のT字路の方を見据えて何かを見つけたかのように鳴く、二人がそのT字路の方を見るとそこには茶色のロングコートを着た左右にだけ薄い髪を残した禿頭の中年男性が気味が悪い薄ら笑いをしながら黒髪ポニーテールでルーク達と同じくらいの歳の少女を肩に担いで移動している姿が見えた。担がれている少女は気絶しているようでありどう見ても親子には見えない、故にその中年男性が不審人物だということは見るからに明らかである。

 

「おい!何してるんだオッサン!?」

 

「ちぃっ!?見られたか!」

 

明らかに不審に思ったルークはすぐに中年男性を呼び止めようとするが、中年男性はそれに対してバツが悪そうに舌打ちして何故か右手のひらを地面に着くようにしてしゃがみ込んだ。すると突然手のひらを着いた場所の地面半径20cmが赤く光りだす。

 

「な、なんだ!?」

 

「あれは!もしかして!!」

 

「ピュイ!」

 

「来たれ地の魔人達よ!不滅の軍勢をもって我が敵を殲滅せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導人形生成魔術————————土人形の軍勢(ゴーレムフォース)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男が詠唱しそれが済むと突然男の目の前のコンクリートでできた地面が盛り上がり砕けそこから出てきた巨大な土の塊が人の形に変形する、身長は成人男性の二倍はあり全体的に角ばった形状をしており手足と胴体が巨大な岩のように太く強靭で顔に口と鼻は無く不気味に光る紅い眼光が獲物を狙う鷹のようにルーク達を視界に捉えていた。

 

「なっ!?これは!」

 

「土の人形・・・【魔導人形(ゴーレム)生成魔術】ですねこれは」

 

「それって空戦魔導士科長が言ってた、じゃあこのオッサンが・・・っていねえっ!?」

 

突然生成された魔導人形に動揺するルーク達は気が付くと男がすでにいないことに気付く、しかもその隣にも同じようにもう一体魔導人形が生成され数が二体となっていた。

 

ルークはどうしようかとロイドに聞こうとするとロイドはいきなり魔術士の宝石箱(マギスフィア)から魔剣を取り出していた。

 

「ちょ!?おいっ!」

 

「緊急事態です!交戦しても問題無いでしょう」

 

空戦魔導士科の学生は飛行魔術と同様に基本本格的な戦闘も許可なしに行うことは禁止されているが自分の身や民間人の身が脅かされそうな緊急事態に限り自らの判断で戦闘を行うことが許されている。

 

「・・・そうだな、よしっ!やるかっ!!」

 

戦意高揚したルークは右手の薬指にはめた魔術士の宝石箱を何故か自らの足に向けて光を照射した。

 

強い突風と共にエメラルドグリーンのウェーブのラインが入った魔装錬金(ミスリル)製の空色の靴がルークの足に装着された。

 

「!?・・・その魔装錬金(ミスリル)武装は!」

 

「《魔装靴》《ストームブリンガー》、俺の相棒だぜ!」

 

【空の王(アトモス)】ソラ・グローリーと同じタイプの魔装錬金武装をルークが装着するのを見て驚くロイドに対し自分の武器をまるで友を紹介するように答えたルークは続いて副武装の籠手を両手に装着して魔導人形の方を向きサッカーボールを大袈裟に蹴ろうとするように右脚を後方に高く上げてその場で静止すると上を向いた右足の裏の上に空気の球が発生した。

 

「ソラ兄直伝の戦技をくらえっ!!」

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技——————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

 

 

 

大袈裟に蹴り飛ばすように右脚を振りぬくルーク、すると蹴りぬいた瞬間にそこから打ち出されるように先が尖った竜巻が正面の魔導人形一体に延びて行きドリルのように貫いて魔導人形を砕いた。

 

「一気に終わらせてやるぜ!」

 

一体の魔導人形を撃破して調子に乗ったルークは弾丸の様な勢いでもう一体の魔導人形に突進する、それに対して魔導人形は向かって来たルークを迎撃しようと強靭な右腕をルークに向かって振るうがルークはそれを当たる直前に身体を捻って横に一回転するようにして回避してそのままの勢いで回し蹴りを魔導人形に叩き込み、魔導人形は砕け散った、怒涛の連続撃破である。

 

「一丁上がりっ!!」

 

「なるほど、空の王直伝の戦闘術でしたか、お見事ですねルーク」

 

「こんなのソラ兄に比べたらまだまだだぜロイド」

 

流れるように魔導人形達を撃破したルークを称賛するロイドだがルークは教えてもらった人にはまだまだ届かないと謙遜する、しかしそれは謙遜ではなく事実を言っているだけでありもしソラがやったのなら最初の戦技だけで二体の魔導人形を後方の建物ごとミストガン外の水平線の彼方までフッ飛ばしていただろう。

 

「ハヤテ、ちょっと来い」

 

「ピュイ!」

 

ルークはハヤテを呼びハヤテの右脚に紙を一つ縛った。

 

「ソラ兄達のところにそれを届けてくれ」

 

「ピュイ!」

 

ルークがそう言うとハヤテはこの場を飛び去っていく、脚に縛ったのは手書きの手紙のようだ。

 

「さてと、これd「ルーク!!まだ終わっていません!!」へっ?」

 

これで終わったかと思い安堵をするルークだったがその時、ロイドは前方に五体の魔導人形が生成されていることに気づき叫んだ。

 

「なん・・・だと・・・!!?」

 

「!?・・・ルーク、後ろです!!」

 

「うおっと!?」

 

術者もいないのにいきなり追加で生成された魔導人形達を見て驚愕するルークだったが、突如後方から一体の魔導人形が二人を強襲、なんとか二人は正面に飛び込むようにして地面を転がって緊急回避に成功する。

 

「後ろにも現れやがったのか!どうなってんだよ!?」

 

「ルーク、空に逃れましょう!奴等はどうやら近距離攻撃だけで飛び道具を使えないようですから空なら安全のはずです!」

 

「わかった!!」

 

形勢不利を感じたロイドは敵の攻撃パターンを推測し一時態勢を整える為に空へと逃れることを提案し二人は飛行魔術を発動して高度200mの空域まで飛び上がった。

 

「よしこれで・・・・・・嘘ですよね?」

 

しかし下方を見やると魔導人形達が肩の後ろに土でできた大きな両翼を形成してこっちに向かって飛んで追って来るのが見えた。

 

「おいおい、空なら安全なんじゃなかったのかよ・・・」

 

「何事も100%推測道理に行くわけではないんですよ」

 

「間違いは間違いだろ?つーわけで迷惑かけたんで奢りはなしな(笑)」

 

「そう言う貴方は何も策も立てずに無駄に動き回って迷惑をかけたので明日の朝食も奢るのがスジだと思いますがね?(笑)」

 

無駄口を叩いている間に魔導人形達に360度取り囲まれてしまった。

 

「・・・・・・これはマズイですね・・・」

 

「諦めんな!空戦魔導士科長に教えてもらった事忘れたわけじゃねぇよな!?」

 

「【空士の回廊】を歩む為の心構えですか?貴方じゃないんですから忘れませんよ」

 

「どういう意味だテメェ!?」

 

絶体絶命の危機、だがそんな時こそ空戦魔導士に必要不可欠な【不屈の心】が必要だ。

 

『どんな困難や逆境でも絶対に諦めるな!信じろ自分の感覚を!今までの訓練を!そして仲間達を!!俺達が勝つと信じて戦い抜け!!』

 

一人の男が言った【黄金の精神】全開の言葉が二人の頭の中を過ぎる、絶対に諦めない、二人の眼に闘志が宿るのだがしかし絶体絶命の状況は変わらない。

 

「おしっ!なんとしてでm「ルーク!?危ない!!」しまった!?」

 

気が付けばルークの目の前とすぐ後方、二体の魔導人形がルークにその強靭な右腕を振るわんとしていた。

 

完全に不意を突かれたルーク、防護服(プロテクター)も着ていないうえにこんな岩の様な腕で殴られたら大怪我では済まないだろう。

 

—————くっ!諦めてたまるかっ!俺は最強の空戦魔導士になるんだ!こんなところでやられてたまるかよチクショオオオオオオオオオオッ!!!

 

抱いた不屈の心もむなしく一人の空の守護者が墜とされようとしていた—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔砲剣戦技——————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・その時、突如下方から十六発の漆黒の魔力弾が飛来しルークに襲いかかって来た二体の魔導人形ごとルーク達の周囲半径20mにいた魔導人形達が撃ち抜かれた。

 

「なっ!?何だ!?」

 

「・・・どうやら思わぬ援軍が来たみたいですね」

 

突然の出来事に戸惑うルークと冷静に状況を分析するロイド、そんな時に撃ち抜かれて崩れ墜ちる魔導人形達の残骸の間を弾丸の様な速度で飛んで来てルークと背中合わせになるように滞空する一人の黒髪痩躯の少年———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、いい気分で寝ていたらリーガルに叩き起こされるわ、無意味な反省文書かされたりするわ、正直に書いたらリーガルの奴何故かブチギレてやり直しさせられるわ、クロエは薄情にも先に行ってしまうわで散々な一日だと思ったけど、面白そうな事やってんじゃねーか!」

 

漆黒の魔砲剣《グラディウス》を携えた少年【カナタ・エイジ】が不敵な笑みで————

 

「俺も混ぜろよ!」

 

と言い放ち戦況は一瞬で逆転した、真打ち登場といったところか。

 

「・・・・・・へっ!いきなり派手に登場して加勢とは大した役者だな、カナタ・エイジ!!」

 

同じく不敵な笑みを浮かべてそう言いながら向かって来た魔導人形一体を蹴り砕くルーク。

 

「んっ?お前に名乗った覚えもなければ会ったことすらねーぞ、ルーク・スカイウィンド!!」

 

そう言いながら不敵な笑みを浮かべたまま向かって来た魔導人形一体を袈裟斬りにするカナタ。

 

「お前もうC組じゃあ有名人だぜ、入学初日をサボった黒髪の何考えてんのかわかんねぇ奴ってな!」

 

そう言って向かって来た魔導人形二体を連続で殴り砕くルーク。

 

「ルーク、彼が今貴方の名前を言ったのはスルーですか?」

 

そうツッコミをさりげなく入れて魔導人形一体を切り裂くロイド。

 

「へっ!リーガルから聞いたぜ、お前クラスの自己紹介の時【最強の空戦魔導士に俺はなるっ!!】ってクラスの連中に啖呵切ったそうじゃねーか!そういう【蟲の触覚みてーなアホ毛をした変な髪のガキがいる】って言ってたぜ!!」

 

そう言いながら斜め上30m先で滞空する魔導人形三体を砲撃で撃ち抜くカナタ。

 

「ふざけんな!俺のチャームポイントを蟲の触覚言いやがって!!」

 

「それチャームポイントなんですか!?」

 

「プッ!?面白れーなお前」

 

「そこっ!気持ち悪い含み笑いすんな!!」

 

「ぎゃははははははははっ!」

 

「だからって高笑いすんなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

・・・・・・今日知り合ったばかりだというのにまるで昔からの友人同士の様なくだらない会話をしながら不謹慎に戦闘を続け優勢状態を維持する三人、しかし魔導人形の数は一向に減らずにむしろ増えていることにカナタは疑問を抱いた。

 

「・・・あのさ、なんなんだこいつ等?」

 

「どうもこうもねぇよ、こいつ等は禿頭のオッサン・・・多分空戦魔導士科長が言っていた【モンド・スミー】だろうよ、そいつが地面になんか魔導人形生成魔術っつうのを使ってできた土人形共だぜ、なんで次々と増えやがるんだかわかんねえんだ」

 

「ふーん、魔導人形生成魔術ねぇ」

 

ルークがカナタの質問に答えてカナタは何か思い当たった事があったようなと考える。

 

「・・・・・・それって確か土や水みてーな細かい物質や液体以下の物に使うには何か魔力が入ってる核みてーなもんが必要だって聞いたことがあるぜ」

 

「核?そういえばさっきの術者は術を発動するときに地面に手を着いていましたね・・・」

 

カナタの言った事に心当たりがあったことを思い出すロイド、そして三人は下方の三番区を見るとそこには先ほどルークとロイドがいた噴水広場の近くの大通りのT字路のところが紅く光っているのが見えた。

 

「・・・・・・あれだな」

 

「ああ、あれだな・・・」

 

ルークとカナタは互いに顔を見合わせて呟いた後に間をおいて不敵な笑みを浮かべてそれぞれの魔装錬金武装(エモノ)をその紅く光る場所に向けて—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技——————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

 

魔砲剣戦技——————————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが得意とする戦技を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区と四番区の境界付近の郊外、再開発地区最奥の三十層構造耐魔シェルター付き倉庫内———

 

「うう・・・うん?・・・」

 

過去に遺物発掘科(レリック)と機械科学科(マキナ)と万融錬金科(アルケミスト)がそれぞれの最高ランクの危険物を保管する為に造られたこの場所は今ではもう廃棄されていて中は埃が溜まっており、そこらに多数の害虫が徘徊しているのが見られて衛生上に非常に悪い場所となっていた。

 

「あ、あれここh『ドオォォォォォォォォォン!!』なに!?爆発音!?」

 

そんななかで今まで気絶していたクロエは眼を覚ますのだがその瞬間どこからか爆発音が聞こえてきたので彼女はなにが何だか分からず戸惑う。

 

「一体・・・えっ!?なにこれ?なんでわたし縛られているの!?」

 

クロエは何事かと思い起き上がろうとするが自分の両腕と両脚がウィザード拘束専用の耐魔ロープで縛られていた事に気づき、動揺しながら倒れ込んでしまった。

 

「ちぃっ!?【人工魔核】が破壊されたか、あのガキ共め」

 

「えっ!?誰っ!!」

 

今度は薄暗い物陰から左右にだけ薄い髪を残した禿頭の中年男性がクロエに近づいて来て目の前で彼女と同じ目線の位置になるようにしゃがみ気色悪い下品な笑みを浮かべながら彼女の頬をいやらしい手つきで撫で始めた。

 

「ひっ!?なにするの!?」

 

「ウヒヒヒヒ、やっぱり幼女はいい!お肌プリプリで可愛くてウヒヒヒヒッ!」

 

「嫌ぁっ!!」

 

嫌がるクロエの頬を満足するまで撫でてからようやく手を放して立ち上がり気色悪い笑みをしながらクロエを見下ろす中年男性。クロエは男に生理的嫌悪感を感じながらも勇気を振り絞り怒鳴る様に疑問をぶつけ始める。

 

「貴方誰っ!?何でわたしは縛られてこんなところにいるの!?それにここは何処!?貴方の目的は何っ!!?」

 

「ウヒヒヒヒ、一遍に質問するなと幼年学校で教わらなかったのかな?・・・まあいいか」

 

威勢良くも必死に質問をぶつけてくるクロエに対してその姿を楽しみながらも鬱陶しく思いつつ男はそれに応じて話しだした。

 

「ワシはモンド・スミーという偉大なる魔導科学者なのだよ!」

 

「魔導科学者?」

 

「そう、もっとも少々ヘマをしてベベルの監獄に投獄されていたがね」

 

「っ!?やっぱり貴方何か罪を犯した犯罪者なんだね!それで!?こんな事をしているということは明らかに出所したんじゃなくて脱獄したという事、そうだよね!?」

 

「ウヒヒヒヒ、御明察!いやぁ察しのいい幼女だねぇ、えらいえらい・・・まったくなにが【幼女誘拐・監禁の罪でお前を拘束する!!】だあの青二才が!全空戦魔導士のトップエースが調子にのりやがって!!」

 

中年男性・・・モンドの発言を聞いてクロエは推測しその答えを察してモンドにその答えをぶつけるがモンドはそれを聞いて何かを思い出したのかいきなり怒りだした、相当気に入らない嫌な出来事だったのだろう。

 

「今すぐわたしを開放して自首して!こんな事が許されると思っているの!?」

 

「うるさいわい!!今何もできない癖に威勢のいい幼女だな!!自分の立場をわかっているのか?これからワシと一つになるのに」

 

「えっ!?」

 

モンドは喚きだすクロエに怒りを顕わにして怒鳴ると突然身体を気味悪くくねらせ始める。

 

「貪欲なる獣、この現世(うつしよ)に現出せんが為に我が身を捧げんっ!!」

 

 

 

身体変態(メタモルフォーゼ)—————————暴喰王変身(トランスグラトニー)

 

 

 

身体をくねらせながらの詠唱を終えると突如モンドの身体が変化し始める。

 

身体中の肌は不気味な紫色になり身体は約四倍程肥大化して口が裂けて太い針山の様に鋭い牙が裂けた口の中に生えてきて前頭部にはまるで闘牛の角の様な角が生えてきた、その姿はまるで巨大な暴喰鬼(グール)のようだ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ウヒヒヒヒッ!!いいねぇ幼女の悲鳴は!!でも叫んだところで無駄無駄!この場所は耐魔シェルター三十層の廃棄施設の中で仮にここに学園の空士が駆けつけても手出しできまい!さあ、ワシと一つになろうかウヒヒヒヒヒヒッ!!!」

 

巨大な口を開き恐怖する身動きができないクロエを喰さんと彼女に迫るモンド。

 

「嫌っ!来ないで!!」

 

「ウヒヒヒヒッ!!」

 

そしてクロエの目の前に来たモンドは思い切り口を裂いて彼女を今まさに喰さんとしていた———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————助けて!カナタッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、二人から見て左方30mの耐魔シェルターの防壁をいきなり先の尖った竜巻と漆黒の砲撃が突き破ってきてモンドを直撃、逆方向の壁にふっ飛ばされた。

 

「ぐぼげえぇぇぇぇぇっ!!?」

 

「・・・・えっ!?」

 

もう駄目かと思い目をきつく閉じていたクロエは突然の出来事に目を見開き恐る恐る突き破られた方を向く、そしてそこに姿を現した人物を見た時彼女は心から安心した、先程から心を支配していた恐怖が消えたのだ、なぜなら—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の幼馴染になにしてんだ変態ヤロー」

 

「運良く直撃したな、スカッとしたぜ!」

 

「これって耐魔シェルターですよね?・・・一撃ですか・・・」

 

その人物は自分が最も信頼する幼馴染(+二名)だったのだから。

 

「カナタッ!!」

 

「よっ!クロエ、んっ?何だ縛りプレイか?お前そんな趣味が・・・」

 

「ないからっ!?早くこれ取ってよ!」

 

「台無しですね」

 

せっかくの再会シーンがカナタの無神経な一言で台無しになりながらも彼女を縛って拘束している耐魔ロープを全て切断してクロエを解放する。

 

「何故だ!?何故三十層の耐魔シェルターが!!?」

 

再会も束の間、ふっ飛ばされたモンドが起き上がってきた。奴はさっきの攻撃が直撃したのにぴんぴんしていたが突然襲撃してきたルーク達に驚愕の表情をしながら問う。

 

「へっ!この程度の壁抜きも出来ねぇで最強の空戦魔導士になれっかよっ!!」

 

「クロエ、いけるか?」

 

「うんっ!大丈夫!」

 

ルークが不敵な笑みを浮かべてモンドに言い放つ横でクロエが魔術士の宝石箱(マギスフィア)から先が碧い花の様な装飾になっていてそこに砲口がある杖・・・魔砲杖《ベネトナシュ》を取り出してルークの右にいるカナタの右に並び立った。

 

「さあ、あとはこいつをブッ倒すだけだぜっ!!」

 

今ここに主役の星達が揃った。

 

 

 

 

 

 

 




入学したばかりだというのにこんなに戦闘できるなんて変だと思ったと思いますが、原作第二巻のユーリの入学時の回想を見るとその時のユーリはある程度は戦闘できたみたいなんですよね。

だからこんな感じにしました。

でも【一撃で突き破るのさ!】って感じで耐魔シェルター三十層壁抜きしたのはやり過ぎだったかなぁ・・・・・・まいっか!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そして少年たちは大空を目指す

序章の最終話です!

今回少し流血描写があるので【R-15】と【残酷な描写】をタグに追加します。

この物語ではこの時点でのクロエはまだ【収束魔砲(ストライクブラスター)】を習得していません。


砲撃と竜巻によって壁に大穴が空いた薄暗い三十層構造耐魔シェルターの倉庫の中で緊迫した空気の中、【連続拉致事件】の犯人であるモンド・スミーは身体変態(メタモルフォーゼ)の魔術を使い暴食鬼(グール)となり、四人の幼き空士の卵達は今それに相対する。

 

「ワシを倒すだと・・・冗談を言うならもっと面白いギャグを考えるんだな、ウヒヒヒヒッ!」

 

「冗談かどうかは!」

 

「やってみてから言いやがれっ!!」

 

余裕そうに挑発するモンドに向かって一直線に弾丸の様な勢いで突撃するルークとカナタはまずルークが跳躍しモンドの顔面を狙って飛び蹴りを繰り出し、同時にカナタがモンドの鳩尾目掛け逆袈裟斬りを繰り出してそれぞれの部位に見事命中する・・・しかし————

 

「何っ!?」

 

「ちょっ!?硬てぇっ!」

 

今のモンドの皮膚はあまりにも強固であった為に二人の一撃はモンドに傷一つ付けられる事ができずに止められた。

 

「痒いなぁ、蚊でも留まったか?ねぇっ!!」

 

「「うああっ!!」」

 

すぐさま丸太の様に太い左腕を振るって二人を薙ぎ払うモンド、ルークは埃まみれの空の棚に突っ込み、カナタはクロエとロイドがいる場所の後方の壁に叩き付けられた。

 

「カナタッ!このぉっ!!」

 

すかさず紅い魔力砲撃をモンドに向かって放つクロエ、だが単調に真っ直ぐ一直線の弾道で飛ぶ砲撃はあっさりと見切られて躱された。

 

「おっと危ない、ウヒヒヒヒッ!惜しかっt「まだまだぁっ!!」ひょっ!?」

 

余裕で砲撃を躱して気味の悪い笑いをしながらクロエの方を向くとモンドの目の前には既に次に発射された砲撃が迫っていて更にその後方からも紅い魔力砲撃が何発も飛んで来ていた。

 

「ぐほぅっ!!」

 

そして命中する。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」

 

連射・連射・連射、休むことのない怒濤の連射砲撃が次々とモンドを襲い、粉塵が舞い、砲撃の直撃によって発生する爆発による爆炎が辺りを覆った。

 

実はクロエは射撃が得意というわけでは無く射砲撃の命中精度はそこそこである、砲撃の威力と手数で敵を圧倒する乱砲撃スタイル、それがクロエ・セヴェニーの戦い方だった。

 

「すげぇ・・・やったか?」

 

倒れた棚の山から今這い出て来たルークがそれを見て呆気にとられながらそう言う・・・だがそれはフラグだ。

 

「ウヒヒヒヒッ!今のは少し痛かったよ、でも残念でしたあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ひっ!?そんな嘘だよね!?」

 

爆炎の中から大口を開けて物凄い勢いでクロエを喰そうと突撃してくるモンド。

 

「危ねぇクロエッ!!」

 

「カナタッ!?」

 

その間にカナタが割って入り魔砲剣をつっかえ棒の様にモンドの口に縦に挟み込み抑え付けるが、純粋なチカラは暴食鬼(グール)となっているモンドと十代前半の年齢の子供であるカナタでは勝負にならない。

 

「ウヒヒヒヒッ!無駄無駄ァッ!!」

 

「くっ!」

 

「男のガキを喰うのは趣味じゃないが仕方ない、このまま二人まとめて喰ってくれる!!」

 

「カナタッ!」

 

ミシミシと軋む音がするカナタの魔砲剣グラディウス、今のモンドの顎のチカラはどうやら魔装錬金(ミスリル)すらも砕く程強靭だ。このままではカナタとクロエはモンドに喰われてしまうだろう。

 

「クソッ!!間に合え!!!」

 

今まで這いつくばったまま呆けていたルークはそれを見てやっと我に返って二人の窮地を救う為にモンドへと特攻をかける、だが距離が遠い。

 

「ウヒヒヒヒッ!終わりだあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕を忘れないで下さい」

 

魔剣戦技————————————————魔洸V字斬(バーチカルアーク)

 

「グホウッ!?」

 

「「・・・・・・えっ!?」」

 

絶体絶命のその時、いきなりモンドの右脇腹がV字に斬り裂かれその反動で左側に倒されてそのまま砂煙を巻き上げながら30mスライドして行って静止した。

 

「危ないところでしたね、大丈夫ですか?」

 

戦技を放ったのはロイドだった、魔剣を携えたロイドは涼しげな表情でカナタとクロエに声を掛ける。

 

「「・・・・・・・・・・誰?」」

 

「え!?」

 

だが、返ってきた返事はロイドにとって予想外の答えだった・・・更に—————

 

「ロイド!テメェ今までどこほっつき歩いてたんだよっ!?」

 

「ええっ!?ずっといましたよ一緒に!!」

 

ルークにもこう言われる始末・・・どうやらカナタとクロエに存在を認知されていなかった挙げ句にルークにも途中から存在を忘れられていたようだ・・・。

 

「クソッ!このウスィーガキ!どこから出てきた!?」

 

「もう僕泣いていいですか!?」

 

敵にまでこんな事を言われる始末、憐れロイド、ウスィー・・・。

 

「ガキ共がもう許さんっ!塵にしてくれる!!」

 

怒り狂ったモンドは腕を交差させて身体を丸めると身体が不気味に紫色に光りだす。

 

「なっ!?魔力が膨張している!」

 

「ここは危険だ!空に逃れんぞ!」

 

「わかったぜ!ハアッ!!」

 

魔蹴術戦技———————————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

この場は危険だと感じたルーク達は天井をルークの戦技でブチ抜いて全員飛行魔術を発動して倉庫から飛び出して満天の星空へと飛んで倉庫の方を見る、すると倉庫から魔力のエネルギーがドーム状に広がり倉庫から約半径120mの周囲を覆いつくしてから消滅する、そこには空に舞うルーク達を紅く鋭い眼で睨みながら佇むモンド以外なにも無かった。

 

「あそこにいたら終わってましたね」

 

「ああ、だけどこれで・・・・・・やっぱりこんな展開かよ!」

 

気が付くとモンドが紫色の歪な形の両翼を生やして下から向かって来るのが見えた、まさにデジャヴ。

 

「さっきの戦闘でわかったことだが、アイツはどうやら戦技じゃねーと効かねーみてーだな」

 

「だったら全員で全力の戦技をぶつけてやろうぜ!!」

 

あくまで推測に過ぎないが今のモンドには戦技じゃないと通用しないという事で策とも言えない作戦が決まった。

 

「へっ!んじゃまずは俺達からだぜ、クロエ!合わせろよ!!」

 

「うんっ!わかったよカナタ!!」

 

カナタが不敵な笑みを浮かべてクロエの隣に並び二人は約300m先から向かって来るモンドにそれぞれの魔装錬金武装(エモノ)を向け戦技を放った。

 

魔砲剣戦技————————————————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

魔砲杖戦技————————————————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

放たれた漆黒と紅の魔力弾が四つに分裂したあとそれぞれ更に四つに分裂して漆黒と紅の魔力弾が十六発づつになり合計で三十二発の魔力弾がモンドを迎撃すべく飛んで行った。

 

「グヌゥ!?こしゃくn「隙ありです!!」なにぃ!?」

 

飛んで来た三十二発の魔力弾を防御する為丸太の様に太く面積の広い両腕を前に交差させて身を屈めて身構えるモンド、魔力弾の群は容赦なくモンドに襲いかかり次々と命中して起爆した。それによりモンドの周囲が爆炎による煙に覆われてモンドは視界を封じられて困惑しその隙をついてロイドが煙の中からモンドに近づき戦技を繰り出した。

 

魔剣戦技————————————————魔洸四連斬(バーチカルスクエア)

 

魔剣に魔力を纏わせ飛び込みの前斬り、真下からの斬り上げ、上から下への垂直斬り、後方に大きく振りかぶっての上段斬りの四連撃がモンドの腹を斬り裂いた。

 

「グガボッ!!おのれクソガキ!!」

 

四角を描く様に斬り裂かれた腹部の深い傷から血を流しそれを右手で押さえながら苦痛と憤怒の表情でロイドを睨みつけるモンド、そしてロイドの後方から彼と入れ替わる様に突撃して来たルークがモンドに決定打を与えるための戦技を繰り出した。

 

「これでフィニッシュだ!くらえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

魔蹴術戦技———————————————突空崩撃(エアリアルインパクト)

 

「ぐぼがあああああああああああっ!!!」

 

左足の裏に高圧力の空気を魔力によって生成して小さな球体状に圧縮しそのまま敵に踏みつけるようにして蹴りつけてその圧力によって金剛石崩壊レベルの一撃を敵にくらわせる戦技がモンドの鳩尾にクリーンヒット、モンドの身体中の至る所に穴が空きそこから血が噴出してモンドは強烈な激痛により大声で悲鳴を上げてうずくまった。

 

「よしっ!こいつでとどめだぜっ!!」

 

勝負を決めようと今度は右脚で突空崩撃を叩き込もうとうずくまったままのモンドに突撃するルーク・・・だが。

 

「・・・・・調子に乗るなよ・・・クソガキ共がああああああああぁぁぁっ!!!」

 

「なっ!?・・・うがっ!!」

 

「ルーク!!」

 

突如モンドが顔を上げて憤怒の表情で咆哮を上げ、戦技を繰り出すモーションの途中だったルークの首をモンドは右手で掴みルークを吊り上げた。

 

「ぐあ・・・あ・・・」

 

「今助けます!」

 

「鬱陶しい!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

捕まったルークを救出しようとモンドへ攻撃を仕掛けるロイドだがモンドの左腕での薙ぎ払いによって弾き墜とされて地上の廃棄されたビルの窓ガラスを割りビルの中に突っ込んだ。

 

「ロ・・・イド・・・」

 

「よくもワシをコケにしてくれたな!このまま絞め殺してくれる!!」

 

「ぐうぅ・・・・ぁぁぁ・・・」

 

ルークを絞め殺さんとルークの首を絞める右手のチカラを更に加えるモンド、首を絞められる圧迫によりルークは強烈な苦しみを感じ喘いでいた。

 

「クソッタレめがっ!今思い出してもむかっ腹が立つわあの青二才が!ワシの楽しみをよくも邪魔しおって!!」

 

「・・・・・・?」

 

何かを思い出して怒りの表情で吐露するモンドをルークは苦しみながらも疑問を浮かべた表情で睨む。

 

「思えばあの青二才も貴様のような眼をしとったわ、ワシは一人でも多くの幼女を醜く老いていくのを防ぐ為に不老の薬を作る研究をしていた、その為に大勢の幼女を保護して実験をする必要があった」

 

モンドは思い出すままに語りだした、かつて【幼女誘拐・監禁の罪】で拘束された日の話を。

 

「ワシは楽しかった、幼女達に触れ幼女達の恐怖で脅えた愛くるしい泣き顔をみるのが!【助けてママ】なんて事を言って涙目の顔なんて最高だったねウヒヒヒヒッ!」

 

「・・・テメェ・・・」

 

目も当てられないような下劣で卑劣な話を実に愉快そうに語り笑うモンド、この男の性根は腐りきっているのが非常によくわかる程屑みたいな内容だ。

 

しかしモンドは急に冷めた表情で話を続ける。

 

「だが、とうとう不老の薬の試作品が完成し保護した幼女数人を使って投与実験を決行しようとしたある日、教皇浮遊都市ベベル防衛部隊の・・・確か《蒼天の光鳥(シャイニングブルー)》とかいうエース部隊だったな、そやつらがワシの研究所に押し入って来てワシを拘束したのだ」

 

どんどんと怒りの感情を現しながら語り続けるモンド。

 

「この実験は世の幼女達が醜く成長するのを防ぐ為に必要だというのに、クソッ!あの青二才が!!なにが【お前の欲望の為に子供達を陥れた事を後悔しろ】だ!これはこの世の幼女達を救う崇高なる目的の為の実験だったというのにそれを【欲望の為】などと侮辱しおったあの青二才だけは絶対に許さん!!」

 

自分勝手な物言いをして他者の所為にして罪の意識すらないこの男はもはや人として破綻していた。

 

「だからワシは心に誓ったのだ、ワシの崇高なる行いを侮辱したあの青二才に復讐すると!その為にはチカラが必要だった、だからワシはこのような魔術を習得しチカラを蓄えていたのだよ、高い魔力を持った幼女達を捕らえて喰してなぁっ!!!」

 

「!!!」

 

ルークはモンドの身の毛も弥立つ下種な発言を聞いた瞬間、彼の中の何かがキレた。

 

「そんな事の為に・・・この空を護る空士達の命を奪ったっつうのか・・・テメェ!」

 

ルークは激怒した、自分の欲望の為に夢に向かって飛ぼうとしていた奴等の命を奪いそして————

 

「そんな事だと!?ふざけるなよガキがっ!!ワシの崇高なる目的の前には空士の一人や二人の命など軽すぎてどうでもいいわいっ!!!」

 

空士の命をどうでもいいなどと暴言を吐いたこの男に対して。

 

「絶対に許さねえ!この外道ロリコン野郎がっ!!!」

 

怒りのあまり吼えるルーク、しかしそれを聞いたモンドはどうでもよさそうな表情で再びルークの首を掴んでいる右手にチカラを加えて締め付けた。

 

「ぐがぁぁぁぁぁ!!」

 

「ウヒヒヒヒッ!威勢がいいのはいいが今の自分の立場が分かってんのかガキ、貴様はできる事などなにもないわい!おとなしくくたばれっ!!」

 

「がぁぁぁ・・・・・・ぁぁ・・・」

 

ルークはもう限界寸前だった、圧倒的に絶望的な状況・・・だが。

 

「諦め・・・るか・・・」

 

「ぬ?」

 

ルークの眼は死んでいなかった、チカラを振り絞ってモンドの丸太の様に太い右腕を両手で掴むルーク。

 

「俺は・・・自分を・・・【俺達】を信じている・・・【俺達】が勝つと信じてい・・る・・・【俺達】はテメェなんかに・・・絶対に負けねえ!!」

 

空戦魔導士が【空士の回廊】を歩む為に必要な【不屈の心】、それは今一人の大空に情熱を燃やす空戦魔導士候補生の胸に宿っていた・・・・・それに彼は・・・・・一人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔剣戦技——————————————————魔洸V字斬(バーチカルアーク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐほぉっ!なにぃ!?」

 

さっき撃墜された筈のロイドが不意をついて後ろからモンドの背中を戦技でV字に斬り裂いた。モンドは急な激痛に襲われた事により誤ってルークを右手の拘束から解放してしまった。

 

「このガキ!いつの間に!?」

 

ロイドは額から流血していたがどうやら傷は浅い様であり平然とした笑みをしていた。

 

「余所見していていいんですか?」

 

「は?」

 

魔砲杖戦技——————————————————複数同時射撃(マルチショット)

 

「ぐほぉっ!?」

 

モンドが不意打ちして来たロイドの方(後方)を振り向いた瞬間に四発の紅い魔力弾が飛来して来てモンドの両脚と後頭部とロイドが傷つけた背中のV字傷に命中、それによりモンドはよろめいて体勢を崩し辺りは魔力弾が命中したときの爆発によって発生した煙に覆われた・・・そして——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ!ここまで狙い通りだぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

不敵な笑みを浮かべて魔砲剣のシリンダー型魔力縮退炉を五回転させながらカナタが煙の中からモンドに向けて飛び出してきた、なにを隠そうここまでの戦闘の流れは全てこの黒髪痩躯の少年の策だったのだ。カナタとクロエが弾幕でモンドの視界を封じルークとロイドが時間差をずらして攻撃して翻弄しそして最後にカナタが隙をついて煙に紛れて突撃して高火力零距離砲撃でとどめを刺す、倉庫から空に逃れてモンドが追って来る合間にカナタはそういう作戦を立てて全員に伝えていたのだ。

 

「このガキ共があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「とっとと消えろよ!ここは空戦魔導士(俺達)の空だ!!」

 

カナタはさっきルークが突空崩撃を叩き込んだモンドの鳩尾に魔砲剣《グラディウス》の切っ先を突き立て戦技を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔砲剣戦技—————————————————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ある戦技の中でも特に強力だがその分負担が掛かり一日に使う回数を制限せざるを得ない戦技を《制限戦技(リミットスキル)》と言う、砲撃系の戦技は殆どがそれに該当し今カナタが撃ったのもそれなのだろう、その証拠に撃った瞬間に反動が強すぎて衝撃波が発生し広範囲に亘って充満していた煙が全て吹き飛んで消えた。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

漆黒の暴力の塊の様な巨大な魔力砲撃に押し飛ばされてゆくモンド・・・これで決着かと思われたが約120m程押し飛ばされたところでモンドが砲撃を丸太の様に太い両腕両脚で掴み執念で押し返そうとしているのが見えた。

 

「おいおい、嘘だろ・・・」

 

「これは流石にもう厳しいかもしれませんね、もう魔力がこうやって飛行している分しかありませんよ」

 

モンドの執念に舌を巻き驚愕と動揺の声を上げるカナタとロイド。

 

「ワシは負けん!世界中の幼女達を醜い老いから救う為にも!ワシの崇高なる目的を侮辱したあの青二才に復讐を果たす為にも!!ワシは負けるわけにはいかんのだああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

徐々に砲撃を右にずらして弾き飛ばそうとするモンド、カナタが一日に収束魔砲(ストライクブラスター)を撃てるのは現時点では三発までだ、カナタは今日【人工魔核】を破壊するのに一発、倉庫の耐魔シェルター三十層を壁抜きするのに一発、そしてたった今一発で合計三発でありこれ以上撃てば成長途中のカナタの身体は無事では済まないだろう・・・いや、それよりももう魔力が底を尽き掛けてきているのが問題だろう、これでモンドが砲撃をやり過ごせばもうルーク達に勝機は無い。

 

——————————クソッ!こんなんで諦めてたまるか!何か・・・何か手は!?

 

最早万事休すかと思われた・・・その時————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首を絞められていたことにより意識が朦朧としていたルークは確かに見えた。

 

——————こいつは!?・・・・・道?

 

彼だけが見える空に敷かれた道が——————

 

「・・・・・へっ!」

 

自分から敵までの空に敷かれた勝利への道がそこにある。

 

「見えたぜ」

 

あとは———————

 

「勝利への《翼の道(ウィングロード)》」

 

その道を————————

 

「翔け抜けるっ!!!」

 

突っきるだけだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルークはすっ飛んで行った、倒すべく敵に向けて弾丸のように。

 

「なっ!?おいルーク!!」

 

仲間の制止を振り切って一直線にモンドへと突撃する。

 

「がはあっ!・・・ハァ・・・ハァ・・・ウヒヒヒヒッ!やったz「モンドォォォォォォォッ!!」何だ?」

 

たった今漆黒の砲撃を右に弾き飛ばしたモンドに向かって突撃しながらルークは雄叫びをあげた。

 

「このくたばり損ないがぁっ!」

 

モンドは向かって来るルークに巨大な右拳をチカラいっぱい繰り出す。

 

「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技————————————————螺旋空襲脚(スカイドライヴ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルークはモンドの10m程手前で右脚を軸にするように突風が発生する程超高速で三回横回転をしてその遠心力と魔力強化した左脚による必殺の飛び回し蹴りがモンドの繰り出した右拳と正面から激突した。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

「ぬううううううううぅぅぅぅぅ!!」

 

ルークの魔装靴とモンドの拳は衝突し互いのあまりの威力のチカラの衝突だったために強烈な衝撃波が発生した。

 

「くっ!」

 

「なっ!?なんて衝撃波だ」

 

「これだけ距離が離れていてこんなに強い衝撃なんて!」

 

カナタとロイド・・・そして更に後方にいたクロエにもその衝撃波は届いていた。

 

「負けん!負けんぞおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「ぐぅっ!!?」

 

金属同士がぶつかっているわけでもないのに火花が散り押し合うルークとモンド、だが徐々にモンドの拳がルークの魔装靴を押し返していた、モンドの執念は計り知れない・・・だが。

 

「俺だって・・・負けねぇ!俺は最強の空戦魔導士になるんだ!!こんなところでテメェなんかに負けている暇はねぇんだ・・・・・・だからっ!!」

 

「なっ!?なんだとっ!!?」

 

ルークにだって負けられない夢がある、ルークはその一心でモンドの拳を一気に押し返す。

 

「全力全開(フルバースト)だ!!邪魔すんなっ!!!」

 

ルークはそのまま一気に左脚を振りぬきモンドを斜め下四十五度の角度の軌道で地上にブッ飛ばした。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!?馬鹿なああああああぁぁぁっ!!!」

 

モンドは悲鳴を上げながらさっきいた倉庫に激突して倉庫が崩壊する、それにより粉塵と砂煙が舞いその辺りを覆い隠し、それが晴れたところで見えたのは巨大なクレーターとその中央でうつ伏せに倒れ伏す元の中年男性の姿に戻ったモンドの姿だけだった。

 

「・・・へっ!・・・やった・・・ぜ・・・」

 

魔力が尽きて飛行魔術が解除されて落下しそうになるルーク。

 

「ようやったなボウズ、せやけどこの様(ざま)やと及第点ってところやな」

 

「まったく!初日からこんな無茶をしてこの子は・・・」

 

「・・・ソラ兄・・・リカ姉・・・」

 

だけどそこへ魔装靴《ワールドストライカー》を履いたソラと魔弓《ブラッティローズ》を携えたリカが地上から飛んで来てソラがルークの腹を右腕で抱えるようにして落下を阻止した。

 

三番区の噴水広場の近くでルークがハヤテの脚に括り付けた手紙をハヤテは急いでソラ達のもとへと届けそれを見て二人は急いで駆けつけたのであった。

 

「ホンマに無茶しおって、リカなんぞ錯乱寸前ってレベルで焦っとったで」

 

「スマ・・・ン・・・」

 

「謝らなくていいわ、こうして無事だったんだもの・・・それに」

 

「おーいルークー!無事かー?」

 

「あの二人は誰なんだろう?」

 

「空の王(アトモス)のソラ・グローリーと茨の女王(ヴィターニア)のリカ・スカイウィンドですね」

 

「へぇーあれがミストガン最強の小隊、眠りの森(スリーピングフォレスト)の小隊長とその部下か」

 

「えっ?カナタ!?何で知っているの!?」

 

「んっ?言ってなかったか?お前がグースカ寝ている間に一回起きてエキシビションマッチ見に行ってたんだよ」

 

「そんな事言ってないよ!!なに一人だけ勝手に見に行ってるの!?」

 

「・・・約束もちゃんと守ったみたいだし大目に見てあげる」

 

後ろを見てみれば一緒に戦った三人の空士達がくだらないやり取りをしながらこっちに向かってゆっくりと飛んで来ているのが見えた。

 

【自分の信頼できる仲間を見つけて共に立ち向かう事】、ルークはもうその仲間達を見つけたのだ、彼らとなら共に大空のテッペンを目指せるとルークはそう感じていた。

 

「お疲れさんなボウズ、後始末はまかせな!」

 

ソラのその一言でルークは安心して二人に後をまかせ、ルークは新たな仲間達と共に三番区の噴水広場へと向かうのだった。

 

なお、このあとモンドはレイブンネストによって拘束され教皇浮遊都市ベベルの都市警察へと引き渡され【連続拉致・大量殺人の罪】で処罰される事となった。

 

こうしてルーク達の最初の戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区噴水広場————————

 

「それで?話ってなんだ?」

 

現在午前零時三十分であり深夜だ、当然ここには今ルーク達四人以外見当たらず満天の星空が見下ろすこの時間帯に話があるとここに連れてきたルークに他の三人を代表してカナタが問う。

 

「単刀直入に言うぜ、俺達で小隊を組まねぇか?」

 

ルークの話はこのメンバーで新規に小隊を創設することだった。

 

「予科一年生だけで小隊を・・・ですか?でもそれは明らかに不利だと思いますよ?」

 

そう、普通新規に小隊を創設する時は空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)が他の小隊の解散などであぶれた学生に辞令を出して組ませたり、実力者同士の上級生が組んで創設したりするのが主流だ、未熟にも程がある予科一年生はどこかの小隊に新規で入隊するのが普通であり負け続けるのがほぼ確定しているような予科一年生だけで小隊を組む輩など滅多にいない。

 

「へっ!困難上等だぜ!空は高いからこそ飛び甲斐があるんだ!それに俺はこのメンバーならどこまでだって飛んで行けると思う、どんな困難だろうと乗り越えて行けるとな!・・・お前等はどうなんだ?」

 

ルークはそれでもこのメンバーがいいと言い、三人に返事を求めた。

 

「・・・へっ!いいじゃねーか!気に入ったぜその理由」

 

「うん、そうだね!元々わたしはカナタと同じ小隊に入る予定だったし」

 

「やれやれ、じゃあ僕も付き合いますか、その最強になるという無謀な夢に」

 

三人の返事はYESだった、この満天の星空の下でルーク達は円になるように集まってこの先苦楽を共にする仲間達と向き合った・・・そして。

 

「改めてよろしくね!わたしはクロエ・セヴェニー、《魔砲士》だよ」

 

「ロイド・オールウィン、《魔剣士》ですよろしくお願いします」

 

「カナタ・エイジ、魔砲剣なんてロマン武器を扱う《魔砲剣士》なんてやっている、よろしくな!やるからには最強の小隊目指そうぜ!!」

 

「俺はルーク・スカイウィンド、将来最強の空戦魔導士になる《魔蹴闘士》だ!」

 

四人は全員で右手を重ねて自己紹介をする、大空の頂点を目指す為の情熱を秘めた空士が集まった小隊が今、結成された。

 

「ハッ!おもろい奴等やないか!そう思うやろリカ?」

 

「フフッ!そうね、これからが楽しみな子達ね」

 

すぐ近くの木の陰にはレイブンネストにあとを引き継いでルーク達の様子を見に来て小隊の結成を祝福するかのように見守っていた。

 

「やってやろうぜ!俺達はまずこのミストガンのテッペンを取る!!そして目指すは世界最強だっ!!!」

 

ルークが左腕を勢いよく上に挙げて星空の一番明るく光る星に向けて左手の人差し指を指して自らに秘める情熱を言い放った。

 

その後、ルーク達は翌日朝一番で新規小隊設立の書類を書き空戦魔導士科長に提出してジョバンニは渋ったが彼等の熱意を受けてこれを承諾した。新規に小隊を創設する場合与えられる番号は今空いている番号のなかで一番若い数字が与えられてランクは一番下のEランクから始まる、ルーク達の小隊にあたえられた番号は———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

E128小隊、これがルーク達の小隊の名前だった。

 

 

 

 

 

そしていよいよ始まる、彼等の・・・空戦魔導士候補生の情熱の物語が!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて序章終了!!

次回から《予科一年生の章》《初めてのランキング戦編》が始まります!

一つストックを作ってから一つ作る毎に一つずつ投稿するので次回の投稿は大分遅れると思います。

また、序章に出たキャラクター紹介も一緒に投稿します。

ではまた次回新章でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクター紹介その1

序章に登場したキャラクター紹介です。

原作キャラの過去は作者の想像ですので原作とは異なるところがあると思いますご理解ください。


ルーク・スカイウィンド

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科一年C組 E128小隊

 

出身浮遊都市:イーストスラム

 

使用魔装錬金武装:魔装靴ストームブリンガー 魔装錬金製の籠手

 

バトルスタイル:魔蹴闘士

 

二つ名:なし

 

好きな物(事・人):筋トレ 強い奴と戦うこと 苺 夢を一途に目指す奴

 

嫌いな物(事・人):人の夢を馬鹿にする奴 乗り物 座学とペーパーテスト

 

容姿:規則性の無い様々な方向に髪束が突っ立った空色の髪で特に異質な前頭部から飛び出している蟲の触覚の様な二本の髪束の毛先ともみあげと後ろ髪が黒いといった感じの某カードゲームのアニメに出てきそうな髪型で吊り眼な不良面・・・だが歳相応の童顔で身長は平均的。

 

詳細:この物語の主人公、【最強の空戦魔導士】を目指して学園浮遊都市ミストガンの空戦魔導士科(ガーディアン)に入学する。彼は好戦的な性格で強い奴と戦闘すると非常に闘志を燃やし何が何でも勝とうとして負けても絶対にそいつに勝つ事を諦めずその時の戦闘データを基にして自主的にトレーニングメニューを組み戦闘力を向上させたり新たな戦術を編み出したりして何度でも挑み続けるという【不屈の心】を秘める。ただし、戦闘時の頭の回転の速さとは対照的にペーパーテストなどの座学にめっぽう弱く毎回のテストで赤点を取るか取らないかの境目の点数を取るカナタ宣く【典型的な戦闘お馬鹿】である。おまけに某滅竜魔導士レベルで乗り物に弱く、乗り物に乗った瞬間に酷く酔う為《ホウキ》などは操れない(笑)。また、彼はバグレベルの体力馬鹿でありしかも訓練・摸擬戦大好きであり厳しい訓練や強い相手との摸擬戦を自分から進んでやる向上心の塊であり実技教練担当の教官達は【こいつとは二度と一対一(マンツーマン)で訓練したくない】【あのギラギラした眼が怖い】などと言う程である。シロハヤブサのハヤテをダチと呼び誰とでもすぐに打ち解けて仲良くなり、どんな相手でも臆せずぶつかって行く王道系(作者はそう思っている)主人公だ。

 

 

 

 

カナタ・エイジ

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科一年C組 E128小隊

 

出身浮遊都市:リューン

 

使用魔装錬金武装:魔砲剣グラディウス 魔装錬金製のダガー

 

バトルスタイル:魔砲剣士

 

二つ名:なし(現時点)

 

好きな物(事・人):諦めない奴 スカイボール シュークリーム

 

嫌いな物(事・人):努力する奴を馬鹿にする奴

 

容姿:黒髪痩躯で身長は平均より高め。

 

詳細:原作主人公、扱いづらい魔砲剣を使いこなし何かをする片手間に違う事をするなどかなり器用、頭の回転速度が非常に早くて洞察力に優れている為戦闘で突拍子無く策を思い付き周りをあっと言わせることが多い、ただ彼が突拍子無く思い付くのは戦術だけでなく様々なことを思い付く上に思い付いたらクロエなどの周りを巻き込んで即実行して周りの人間を混乱させる事が少なくないのが玉に瑕。彼は否定しているが人の面倒見が良くて困っている知り合いがいたら放ってはおけないし彼は気付いてはいないが人に物事を教えるのが上手くてそれを楽しんでいることもある、だがそれとは裏腹に彼は基本大雑把な性格をしていて自分に意味がないと思った座学などはよくサボリ肝心な事を唐突に言う挙句に【ん?言ってなかったか?】などと意地悪そうに言って周りを困惑させる為【何を考えているのかよく分からない奴】と言われる始末。ルークと同じく絶体絶命の状況でも決して諦めない【不屈の心】を持っていて逆境好き、チャレンジ精神旺盛で格下が格上にかつ【下剋上】が好きでピンチの時はその戦術眼と粘り強さをもって状況をひっくり返すエースの素質がある。

 

 

 

 

クロエ・セヴェニー

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科一年A組 E128小隊小隊長

 

出身浮遊都市:リューン

 

使用魔装錬金武装:魔砲杖ベネトナシュ

 

バトルスタイル:魔砲士

 

二つ名:なし(現時点)

 

好きな物(事・人):カナタを始めとする仲間達 物事に一生懸命な人 ピーチパイ

 

嫌いな物(事・人):命を軽く見ている人 仲間に危害を加える存在

 

容姿:黒髪ポニーテールに薄紫のリボンをしているおっとりとした少女

 

詳細:原作キャラ、カナタの幼馴染で良き理解者であり最早熟練の夫婦並の意思疎通ができる。争い事を嫌う優しい性格をしているが大切な仲間達を護る為なら躊躇わず身体を張る芯の強い精神を持っている。しっかりとした思考と性格の割りに意外と天然なところがあってカナタやロイドによくからかわれる。彼女は相当な努力家であり実は保有魔力は多くても戦闘スキルの習得などの覚えが悪くて幼年学校で教官達から【落ちこぼれ】と称されていたがカナタの協力や自らの根性で周りに食らいついていった。また、彼女は強力な魔力砲撃を主に使って戦う【魔砲士】であるのだが射撃スキルに秀でているわけではない為、高い魔力量による手数と威力で真っ向勝負をする乱砲撃スタイルでのアグレッシブで派手な戦い方をする。

 

 

 

 

ロイド・オールウィン

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科一年C組 E128小隊

 

出身浮遊都市:不明(原作で明らかにされていない)

 

使用魔装錬金武装:魔剣

 

バトルスタイル:魔剣士

 

二つ名:なし

 

好きな物(事・人):人をからかう事 人になにかを奢らせる事

 

嫌いな物(事・人):面倒事

 

容姿:金髪の美少年

 

詳細:原作キャラ、丁寧語で話すが人の足下を見るのが上手くて人をさりげなくからかったり何かと付けて食事などを奢らせたりして意外と意地が悪い。それ以外特に特徴が見当たらない、ウスィー・・・。

 

 

 

 

リーガル・エンディオ

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科一年C組担任教官 ミストガン空戦魔導士常識学担当講師 浮遊都市リューン防衛部隊一等空士

 

出身浮遊都市:リューン

 

使用魔装錬金武装:???

 

バトルスタイル:???

 

二つ名:???

 

好きな物(事・人):特技を披露する事 スタイルが良く強い心を持った同い年くらいの女性 自分の教え子達 焼き魚定食

 

嫌いな物(事・人):同性愛者 言う事聞かない奴 洋食全般

 

容姿:桜色の髪で右耳に青と白の縞柄ビーズアクセサリーをつけた大雑把な青年

 

詳細:独身二十五歳、学園浮遊都市ミストガン座学担当講師にして空戦魔導士科予科一年C組の担任教官、また彼の故郷でもある【リューン】の防衛部隊に所属するプロの空戦魔導士でありエース級の実力がある。カナタとクロエとは防衛部隊に配属された六年前からの知り合いでありカナタの突拍子も無い行動に頭を悩まされた一人である。彼は【木の板に木の棒を擦り付けて十分以内に火を熾す】という妙な特技や【木彫りの模型製作】といった妙な趣味を持っていてそれを人に披露するのが大好きであり授業で時間が余ると【仕方ねーなー】とか言って頼んでもいないのに嬉しそうにそれらを披露する楽しい性格をしている。年齢=彼女いない歴なのを非常に気にしていて彼女探しに躍起になっているのがしばしば見られ、しかも女性の選り好みをしていてなかなか彼女ができない、ちなみに彼の好みの女性は【同い年くらいのスタイルが良くて優しくて面倒見がいい強い心を持ったカワイイ系】の女性である。

 

 

 

 

ソラ・グローリー

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年A組 S45特務小隊小隊長

 

出身浮遊都市:イーストスラム(書類上)

 

使用魔装錬金武装:魔装靴ワールドストライカー

 

バトルスタイル:魔蹴闘士

 

二つ名:空の王(アトモス) ミストガンの英雄 最強の空戦魔導士候補生

 

好きな物(事・人):空 面白い奴 リカとルーク デッカイ物や夢 若い女性へのセクハラ行為

 

嫌いな物(事・人):束縛や制限 年増の女性 見込みのない奴

 

容姿:エア・ギアの武内 空(眠りの森時代)そのまま

 

詳細:ルークの兄的存在にして目標にして憧れの空士にしてミストガンの特務小隊(ロイヤルガード)S45小隊(通称、眠りの森(スリーピングフォレスト))の小隊長。圧倒的戦闘力を誇るS45小隊のメンバーを率いて昨年の【空戦武踏祭(エリアルソード)】にて他を寄せ付けない圧倒的実力で見事ミストガン代表初優勝を成し遂げて彼はその時にその場に空戦武踏祭を観戦していたプロのトップエースの空戦魔導士に【オレから見ても君は強い】と評価され現時点で最強の空戦魔導士候補生と称された。ルークに魔蹴闘士としての手ほどきをしたのも彼でありルークの成長と夢を目指すのをリカと共に見守るのが現在の楽しみである。六年前にルークとリカの故郷である浮遊都市イーストスラムにやって来てそのまま住んでいた為書類上出身浮遊都市はイーストスラムだが本当の出身は今のところ不明。

 

 

 

 

リカ・スカイウィンド

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年A組 S45特務小隊

 

出身浮遊都市:イーストスラム

 

使用魔装錬金武装:魔弓ブラッティローズ 魔装錬金製のダガー

 

バトルスタイル:魔弓士

 

二つ名:茨の女王(ヴィターニア)

 

好きな物(事・人):ルーク ソラ 素直な子供 焼き鳥丼

 

嫌いな物(事・人):言う事を聞かない人 命を粗末にする行為 苺

 

容姿:エア・ギアの野山野 梨花(眠りの森時代)の髪を空色にした感じ

 

詳細:ルークの実の姉にしてソラの彼女にしてミストガンのS45特務小隊のメンバー。周りにブラコンと呼ばれる程弟であるルークの事を大切に思っており本当はルークには命の危険が伴う空戦魔導士科には入ってもらいたくなかったがルークの熱意とソラの説得によって【信頼できる仲間を見つける事】を条件に認めることとなり実際に信頼できる仲間達を見つけたルークを見て嬉しく思っておりルーク達の成長と夢をソラと共に見守っている。

 

 

 

 

レオ・オーバーグ

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年F組 S45特務小隊

 

出身浮遊都市:インノケンティウス(書類上)

 

使用魔装錬金武装:魔双剣フレイムロード

 

バトルスタイル:魔双剣士

 

二つ名:魂の炎(スピットファイア) ミストガン最速の空士

 

好きな物(事・人):助け合い精神 何でもいいから思いきり叫ぶ事 後輩を教え導く事

 

嫌いな物(事・人):仲間を蔑ろにする奴 ピーマンとニンジン

 

容姿:エア・ギアのスピットファイア(眠りの森時代)そのまま

 

詳細:ミストガンのS45特務小隊のメンバー。【彼の通った空路は炎しか残らない】と言われる程優秀な空士でありその最高飛行速度は音速を軽々と超えるミストガン最速の空士である。彼は人と人との助け合いを大切にしておりそれは長年の付き合いである親友のリオスと出会った時から抱くようになったが今はまだ話さないでおこう。

 

 

 

 

キリク・リーヴェルト

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年A組 S45特務小隊副小隊長

 

出身浮遊都市:不明

 

使用魔装錬金武装:魔剣???

 

バトルスタイル:魔剣士

 

二つ名:石の審判者(ストーンジャッジマン)

 

好きな物(事・人):利の適った行動 有能な奴 マロンケーキ(本人は否定している)

 

嫌いな物(事・人):利に適わない行動 無能な奴 からしなどの辛い食べ物

 

容姿:エア・ギアのキリク(眠りの森時代)そのまま

 

詳細:ミストガンのS45特務小隊の副小隊長、計算高い思考をしており小隊の参謀役であり自分の利益にならない無駄な事を嫌ううえに人や人の行動に対していちいち【マル】【バツ】で評価する為周りに非常に鬱陶しがられている。

 

 

 

 

リオス・ローレ

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年F組 S45特務小隊

 

出身浮遊都市:インノケンティウス

 

使用魔装錬金武装:魔砲剣マクスウェル

 

バトルスタイル:魔砲剣士

 

二つ名:元素の剣聖(オリジン) 天才少年

 

好きな物(事・人):S45小隊の皆 甘い食べ物全般 賑やかなイベント

 

嫌いな物(事・人):ピーマンとニンジン ???(ネタバレ防止の為)

 

容姿:黒髪碧眼で童顔(女の子寄り)で低身長

 

詳細:ミストガンのS45特務小隊のメンバー。天真爛漫な性格をしていてミストガンが誇る天才少年であり座学・実技・戦闘どれを取ってもトップクラスでありその愛くるしい笑顔と容姿でミストガン中・・・・・・いや、昨年の空戦武踏祭の影響で世界中に女性ファンが大勢できてしまいミストガンの学園内には非公式でファンクラブができる程の人気者だ。彼には【眼にある秘密】があるらしくその秘密はS45特務小隊の仲間を始めとする一部の知り合いしか知らない。なお、彼にはあるトラウマが・・・。

 

 

 

 

ジョバンニ・ジョルフィード

 

所属:ミストガン空戦魔導士科本科二年B組 空戦魔導士科長

 

出身浮遊都市:ペルセウス

 

使用魔装錬金武装:???

 

バトルスタイル:???

 

二つ名:???

 

好きな物(事・人):スジが通った奴 向上心が高い奴 スカイボール 賭け事

 

嫌いな物(事・人):スジが通らない奴 外道な奴 やかましい女

 

容姿:身長190cmの長身で筋肉質のガタイで癖っ毛のある黒髪で強い意志を秘めた鋭い眼

 

詳細:ミストガンの現【空戦魔導士科(ガーディアンリーダー)】、【不撓不屈】を信条としておりスジが通らない事を嫌う熱い信念を持つ男である。故郷の【ペルセウス】にいた頃は所謂不良のレッテルを貼られていたがその空士としての手腕と実績でミストガンでの信頼を勝ち取った。彼にはある強力な特殊スキルを持っているのだがそれは物語の中で明かしていくとしよう。なお、彼は基本いつも仏頂面だが下種な事をしなければ怒る事は少ないのだけど、名前とファミリーネームの頭文字がジョと連続して続くからと言ってジョジョと呼ぶと反発されます。

 

 

 

 

フロン・フラメル

 

所属:ミストガン空戦魔導士科予科二年A組 空戦魔導士科長補佐 Cランクの小隊

 

出身浮遊都市:ペルセウス

 

使用魔装錬金武装:魔剣

 

バトルスタイル:魔剣士

 

二つ名:なし

 

好きな物(事・人):真面目な人間 自らを高める為の研鑽 故郷にいる妹

 

嫌いな物(事・人):いいかげんな人間

 

容姿:黒髪で左眼下になきぼくろがある

 

詳細:原作キャラ、予科二年生という低学年ながらもCランクの小隊のメンバーで空戦魔導士科長補佐という大役を任される超優等生。

 

 

 

 

シグナルエースマン(本名不明)

 

所属:不明

 

出身浮遊都市:不明

 

使用魔装錬金武装:なし

 

バトルスタイル:そもそも戦闘しない

 

二つ名:シグナルエースマン

 

好きな物(事・人):不明

 

嫌いな物(事・人):不明

 

容姿:右が赤、真ん中が黄、左が緑のアフロで青い星型フレーム眼鏡を掛けた軽薄そうな青年

 

詳細:全てが謎の実況解説者、空戦の試合がある至る所に現れて実況する男。暴言的な実況とウザイ語尾が特徴。

 

 

 

 

モンド・スミー

 

所属:なし(元教皇浮遊都市ベベル魔導研究員)

 

出身浮遊都市:ベベル

 

使用魔装錬金武装:なし

 

バトルスタイル:希少な魔術行使による戦闘

 

二つ名:なし

 

好きな物(事・人):14歳以下の幼女 エアロビクス運動(どうでもいい)

 

嫌いな物(事・人):男 14歳以上の女性 幼女に対する想いを侮辱する奴

 

容姿:左右にだけ薄い髪が残った禿頭の中年男性

 

詳細:幼女の為なら何でもやる変態ロリコン魔導科学者、かつて幼女達が成長するのを防ぐ為に教皇浮遊都市ベベル中の幼女達を拉致・監禁して身体の成長が止まる不老の薬の研究・作製をして拉致した幼女達に投与実験を実行しようとしたがその時に全空戦魔導士のトップエースを有するベベルの防衛部隊のエース部隊【蒼天の光鳥(シャイニングブルー)】によって【幼女誘拐・監禁の罪】により拘束される。その時に彼は彼を拘束したトップエースに言われた【お前の欲望の為に子供達を陥れた事を後悔しろ】という言葉を侮辱されたと逆恨みをしてそのトップエースに復讐をする為に脱獄して学園浮遊都市ミストガン行きの連絡艇に忍び込み密航して来てミストガンの高魔力量の予科生の女子生徒達を次々と拉致し、身体変態(メタモルフォーゼ)の魔術によって自身を暴食鬼(グール)化しその女子生徒達を捕食しては体内に魔力を集めて復讐の為の準備をしていた。非常に自己中心的な性格でそれを信じて疑わない救い様が無い男だがその為に執念が凄まじくてしつこい、しかし最後は最後に拉致したクロエを助けに来たルーク達に撃破されて再び拘束されてベベルの都市警察へと引き渡され重い刑罰を受けることとなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予科一年生の章 初めてのランキング戦編
空戦魔導士科(ガーディアン)育成カリキュラム開始


お待たせしました!《予科一年生の章》《初めてランキング戦編》開始です!

これに伴って感想を非ログインユーザーでも書けるようにしました!

なにか質問があったらじゃんじゃん書いてください!

ではどうぞ!!



《予科一年生の章》イメージOP『Can Do』

TVアニメ 黒子のバスケ OP1より


【連続拉致事件】の犯人であるモンド・スミーが拘束されて事件が解決した入学式の日から一週間が経った。

 

モンドの欲望の為に犠牲となった予科生の女子生徒達は二十八人にも及び、予科生というあまりにも幼過ぎる尊い命が失われた悲しみはミストガンの空士達の心に深く刻み込まれこれから同じ様な犠牲者を出すわけにはいかないと全力を尽くす事を心に誓った。

 

なお、犠牲者の死亡の詳細は親族達には伝えないのがミストガンの流儀であり犠牲者の親族達には死亡報告の通知書だけが届けられた。

 

そして現在、このような事件が起きたために数日遅れたが本格的に空戦魔導士科の生徒達の育成カリキュラムが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三六年、四月八日

希望の丘(ホープオブヒル)—————————

 

なだらかな丘一面に死亡した学生達を供養する為の白い十字架が無数に建てられたこの場所に今回の犠牲者達は埋葬された。

 

午前六時、今この場所の今回の犠牲者達が埋葬されている十字架の前で空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)のジョバンニ・ジョルフィードとその補佐であるフロン・フラメルが黙祷をしていた。

 

「・・・・・・俺は許せねぇ・・・」

 

黙祷を終えるとジョバンニは今にも激怒しそうな感情を込めて呻く。

 

「ガキ共を・・・増してや女である予科生達の命を己の欲望の為に奪ったゲロ以下の下種野郎のモンド・スミーは勿論だが、何より今回の事件でなにもせずにこのような犠牲者を出し、剰え未熟な新入生に危険な戦いをさせてしまったこの俺自身の事が!」

 

「・・・・・・」

 

血が滲む程強く握りしめている両拳がジョバンニの自分に対する怒りを大きさを物語っていた。こんな事で死ぬことは空士にとって魔甲蟲に墜とされて殉職するより屈辱であろう、そして命のやり取りをするにはまだ早過ぎる入学生であるルーク達に成り行きとはいえ危険な戦闘を余儀なくさせてしまったのだ、本来なら空戦魔導士科長である自分が対処すべき事なのにルーク達が戦闘を終えるまで気付かずにいた自分自身に対してジョバンニは怒りを抱かずにはいられなかった。

 

「・・・お気持ちを御察しします、しかし責任を感じているのなら再びこの様な犠牲を出さぬよう対策を練り行動すべきでしょう、この様なところで感傷に耽っている事ではない筈です」

 

「・・・フラメル・・・」

 

怒り心頭のジョバンニを見かねたフロンがそう言い、ジョバンニが我に返る。

 

「・・・立ち止まっているなんて貴方らしくないわよ、ジョバンニ・ジョルフィード」

 

「・・・・・久しぶりに素で話してくれたなフラメル・・・」

 

いきなり口調を変えて活を入れるフロンに対して懐かしそうにそう言うジョバンニ、どうやらこの喋り方が彼女の素なのだろう。

 

「貴方があまりにもみっともない姿を見せるからよ、貴方は昔からガサツで野蛮で協調性がないわたしの嫌いなタイプの男だったけど、スジの通ってない人間が嫌いで不良の癖に正義感が強くていつも前を向いて歩いている、それがわたしの知るジョバンニ・ジョルフィードという男なのよ、だから前を向きなさい」

 

「・・・・・・ふっ、やれやれだぜ」

 

フロンの活によりジョバンニは今やるべき事に気が付いたようでありそう声を漏らす。

 

「こんな俺だが・・・これからもついて来てくれるかフラメル?」

 

「なにを当たり前な事を言っているの?当然じゃない」

 

気持ちを新たにした二人は決意に満ちた表情で希望の丘を跡にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本棟、空戦魔導士科予科一年C組教室————————

 

「縮退魔力は事象干渉力を高めるために魔力を圧縮させたものなのはもう理解したな?」

 

午前八時より座学の授業が開始されC組では現在《空戦魔導士常識学》の授業が進行中であった。

 

「じゃあ次に射砲撃系の魔装錬金武装に付いている《魔力縮退炉》について説明するぞ」

 

今回たまたまローテーションで授業担当に当たったリーガルが教卓後方にあるホワイトボードの前に空間モニターを出して魔銃、魔砲杖、そして魔砲剣の魔装錬金武装の見取り図をそこに映し出して説明する。

 

「魔力縮退炉っつうのは魔力を流し込む事によってそこで自動的に縮退魔力を精製して蓄える精製炉だ、これらはこの図のように銃系統の武器の弾倉みてぇな形をしていて引き金を引く事によって精製した縮退魔力を自らに流し込み一時的に爆発的に魔力を高めて高威力の戦技を使用できるという代物だな、これが無くとも縮退魔力を精製すんのはできるっちゃあできるんだが・・・戦闘中に縮退魔力を精製している暇なんか普通は無えからな・・・なにか質問はあるか?」

 

「はい質問」

 

「ルークか、何だ?」

 

「縮退魔力を精製している暇がないんならさ、あらかじめ弾丸みたいな物に縮退魔力を内包して大量に持ち歩いてそれを魔力縮退炉に直接籠めて使用した方が効率いいんじゃないの?」

 

「・・・・・・・」

 

ふっ!いいアイディアだろ?とでも言わんばかりにドヤ顔でそう提案するルークだがそれを聞いたリーガルは呆れたようにジト眼になり、周りも沈黙して何とも言えない空気を漂わせていた、何故なら————

 

「あのな・・・そんなガキでも思い付くようなことが提案されなかったと思っているのか?・・・考えてもみろ、この魔甲蟲が蔓延る世界状勢でそんな物を作る素材が足りると思ってんのか?んでもって世界中の空戦魔導士がそんな物を消費し続けたらどうなると思うんだ?」

 

「へっ?そりゃぁ・・・」

 

「費用(コスト)が馬鹿みてーに掛かんだろーな、だから却下された」

 

「その通りだカナタ」

 

「・・・・・」

 

そう、それを製作して使用し続けるには材料が無限に必要なために費用が莫大に掛かる、仮にあったとしても世界に魔甲蟲が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していて今も色々な物が不足しているこの世界の人間達にそんな物を作って使用し続ける事など不可能だ。リーガルが逆に質問した事をルークの後ろの後ろの席で両腕を後頭部に組んで背もたれに寄り掛かってだらしない体勢で座って聞いていたカナタがルークの代わりにそう答えてルークは落胆して項垂れた。

 

「さて、これで今日やる内容は全部終わったわけだが、時間が余ったな・・・ふっ、仕方ねーなー」

 

思ったより早く今日やる授業内容が終わってしまい授業時間が余ってしまったが、それを見兼ねたリーガルが何故か照れるように右手で自分の後頭部をぼりぼりと掻きながら教卓の中から木の棒と木の板を取り出した。

 

「今から入学式の日に言った俺の特技を特別に披露してやるぜ!よく見てな!!」

 

「げっ!?おいリーガル!こんなところで火なんか熾したr「ウロロロロロロロロッ!!!」って聞いてねー!?」

 

リーガルが木の棒を教卓の上に水平に置いた木の板に突き立てて木の棒を両掌で挟んで空戦魔導士の並外れた動体視力をもってしてもまるで止まって見える程の超高速で木の棒をスクリュー回転させて木の板に擦り付け始めたところで昔からの知り合いであるカナタが止めようとするがリーガルは止まらない、そしてすぐに火が付いた。

 

ここは公共施設である学園の教室内だ、そんなところで火を熾せばどうなるかというと———

 

「きゃあああああぁぁぁっ!?」

 

「スプリンクラーから水が!」

 

「もぉびしょ濡れぇ」

 

当然防火設備である天井のスプリンクラーから水がシャワーとなって教室全体に降り注ぎC組の教室内はパニック状態となった。

 

「・・・・これから退屈しなさそうですね、やれやれ・・・」

 

これでは先が思い遣られると言うかのように今も項垂れているルークの後ろの席のロイドはそうぼやいて溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン第三訓練空域————————

 

現在午後一時、本来ならば午後からは各小隊ごとに集まって訓練やランキング戦の為のミーティングなどの小隊活動の時間なのだが、この日の予科一年生は戦闘ポジションの適性検査があった。

 

ミストガンの飛行高度は約3000mでありそれの更に上空の高度4000mの第三訓練空域に予科一年C組の生徒達と検査の試験官である本科三年生の生徒の姿があった。

 

「これで最後だぜ!」

 

この場所は蒼穹の空と遥か先まで続く雲海しか無く当然地面など無い、したがってここにいる人間達は皆飛行魔術を使用して滞空している。

 

人類の最大の敵、魔甲蟲の中でも最も多いデカいハエの様な形状をした化物————《アルケナル級》を模した《飛翔標的(ダミーバード)》の群、百二十体を的としてそれを予科一年生の生徒達が三人一組(スリーマンセル)で組んだ即席小隊で一組毎に全て自由に撃破していき、試験官がその戦闘を観てそれぞれのポジション適正を評価するというのが適性検査の内容であり、たった今ルーク・カナタ・ロイドの三人で組んだ小隊が飛翔標的を全て撃破して検査を終えたところだった。

 

「・・・何で標的が風船なんだ?俺達を馬鹿にしてんのか!?」

 

飛翔標的は実際はアルケナル級を模した赤い風船でありフワフワノロノロと其処らに漂うそれ等をただただ割っていくだけの作業という内容にルークは苛立っていた。

 

『11班検査終了、今から検査結果を伝えます、心して聞く様に』

 

そんな時試験官が通信結晶を通してルーク達に適正ポジションを発表し出した。

 

『ルーク・スカイウィンドとカナタ・エイジ、共に前衛適正が最も高いと結果が出ました、それにカナタ・エイジは魔砲剣士なので前衛をメインとしてたまに中衛に下がって砲撃するなど臨機応変の戦闘をするとよいでしょう』

 

「ん、前衛か・・・まあ予想通りだな」

 

「ていうか俺前衛しかできねぇしな・・・・そんなことより————」

 

ルークは前衛であることは初めから判り切っていたのでどうでもよく、それよりもこのふざけた検査内容について試験官に問い質す事のほうが重要だった。

 

「おい!なんなんだこの検査内容は!?風船を割る程度の事俺達が出来ないと思ってんのか!?」

 

ルークが通信結晶越しに怒鳴る。

 

『これは小隊の訓練にも採用されている立派な検査法です、それに逆に言わせればその程度の事も出来ないようじゃとても実戦になど出せないという事に他なりません』

 

「むしろこんな事もできねぇ小隊なんてあんのかよ?」

 

「もしあったらその小隊はEランク通り越してFランク小隊なんて呼ばれんだろーな」

 

「いや、ありえねぇだろ流石に・・・」

 

『・・・わかりましたね、ではこれで適正検査を終了します、速やかに解散するように!』

 

雑談をしている間に試験官が終了の指示をルーク達に伝えてルーク達の戦闘ポジション適正検査が終わった————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・僕は?」

 

試験官からも存在を認知されない程ウスィー存在感なロイドであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ルーク「遂に始まったぜ!俺達の最強を目指す物語が!」

カナタ「ああそうだな、へっ!楽しみだぜ!」

クロエ「でもそんなに簡単な道じゃないよ、これからランキング戦でミストガンの猛者達と試合をして勝っていかないといけないし」

ルーク「問題ねぇよ!俺達ならやれるぜ!それに勝つ為に助っ人を用意してるしな!!」

カナタ&クロエ「「助っ人?」」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『ランキング戦の内容と新たな仲間』

ルーク「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」


《初めてのランキング戦編》イメージED『ハレルヤ』

TVアニメ 空戦魔導士候補生の教官 EDより


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ランキング戦の内容と新たな仲間

独自設定注意!

今回小隊ランクのアップダウンの条件についての独自設定があります。

また、今回あるラノベの主人公をモデルにしたオリキャラが出てきます、注意して下さい。


小隊棟、E128小隊室————————

 

午後三時、ルーク達は先にポジション適正検査を終えていたクロエと合流して小隊棟のEランク小隊室が密集しているところの片隅に宛がわれたE128小隊室に集まってランキング戦について話し合っていた。

 

「第一クォーターの対戦表が発表されたよ」

 

クロエがそう言って映像機(プロジェクター)を起動して空間モニターを出した、そこにはリーグ戦形式の対戦表が無数にズラリと並んでいる映像が映されていてルーク達はE128小隊の名前が載っているEランクJブロックと表示された表に注目する。

 

「全部で十二戦やんのか!くぅ~燃えてきたぜ!!」

 

「あのさ、確かランキング戦は一年で四クォーターやるんだったよな?」

 

「そうですよ、四月から五月までに第一クォーターの十二戦、七月から八月までに第二クォーターの十二戦、十月から十一月までに第三クォーターの十二戦、そして一月から二月までの最終クォーターの計四十八戦ですね」

 

「ふーん、季節を跨いでやるんだ」

 

そう、今カナタが言ったようにランキング戦は季節ごとに分けて行われており、また試合がない月は調整期間でこの期間を使って次のクォーターに向けて対策を練ったり学園イベントがあったりする。

 

「それで?俺達がDランクに上がる条件は?」

 

カナタは質問を追加してそれにはクロエが溜息を一回吐いてから答えた。

 

「少しは自分で調べてよね・・・小隊ランクの昇級・降級は基本的にはランキング戦の一クォーター毎の成績によって決められるの、そしてその条件はランキング戦のランクが高ければ高い程厳しくなっていくんだよ、Dランク昇級の条件がEランク戦リーグそれぞれ二位以上、Cランク昇級の条件がDランク戦リーグそれぞれ一位、Bランク昇級の条件がCランク戦総合三位以上、そしてAランク昇級の条件がBランク戦総合一位なんだ」

 

クロエが述べたランキング戦の昇級の内容は気が遠くなる程シビアだった、そして昇級があるということは当然降級することもある。Bランク降級の条件はAランク戦総合ワースト三位まで、Cランク降級の条件もBランク戦総合ワースト三位まで、Dランク降級の条件はCランク戦リーグそれぞれ最下位、Eランク降級の条件もDランク戦リーグそれぞれ最下位、そしてこれは滅多にないがEランク戦であまりにも酷い成績の小隊は空戦魔導士科長の判断で解隊させられる事もあるという。

 

「これがランキング戦での昇級の条件なんだけど何事にも例外が存在するんだ、例えば戦闘系の学園イベントで優勝したり哨戒や討伐任務などで大型の魔甲蟲などを大量に撃破したとかで優秀な実績を出したりしたら空戦魔導士科長の判断でその小隊を昇級させてくれる事があるんだって」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「なあなあ!じゃあSランクになる条件はなんなんだ?」

 

「えっ!?」

 

クロエがカナタに話をしている最中にルークが興奮しながら話に割り込んで来た。

 

「俺達の目標は世界最強だろ?だったらこのミストガンでの目標はSランク・・・それもソラ兄達を超える小隊になることだろ!」

 

「そうだな、もしAランクになったって最強になれなきゃ意味ねーしな」

 

ルークとカナタが不敵の笑みを浮かべてそう言った、この二人はAランクなんかじゃ満足しないだろう。

 

「まったく、僕達はEランク小隊だというのにこの二人ときたら・・・」

 

「クスッ、でもそうだね」

 

身の程をわきまえない二人にロイドは呆れクロエは小さく笑って同意した。

 

「Sランク小隊になるにはAランク戦で一クォーター全勝且つその成績を見た空戦魔導士科長がSランク足り得ると評価されて認められる事が必須条件なんだってさ」

 

「Aランク戦全勝か!よしっ!必ずやってやるぜ!!」

 

「だからまだ僕らはEランク小隊なんですって・・・」

 

「へっ!だったらランキング戦で勝ちまくってとっととAランクになればいいだろクロエ?」

 

「フフッ!そうだね、でもあまり楽観視してかからないほうがいいよ、眠りの森(スリーピングフォレスト)がSランク小隊になってからミストガンの空士達は猛者揃いでランキング戦の難易度が凄く上がったって聞くし」

 

「上等だ!燃えてきたぜ!!よしっ!んじゃあ俺達の最初の相手はどいつらだ!?」

 

空は高いからこそ飛び甲斐がある、厳しい条件程燃えてくるタイプのルーク達は戦意高揚して気合を入れEランク戦Jブロックの対戦表の下に表示されている一戦目の対戦カードに注目した。

 

「えーと、俺達の相手は——————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————E35小隊だ!!」

 

ルーク達の試合は二日後、E128小隊のメンバーは試合に向けてそれぞれ戦闘訓練に励むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三六年、四月十日

闘技場、東側観客スタンド———————

 

「相変わらずEランク戦は盛り上がりがあらへんな・・・まっ、ザコ共の試合やししゃーないか」

 

この日はEランクの試合が行われることとなっていて現在午後二時十五分であり試合のプログラムの進行は滞りなく順調に進み今はE128小隊とE35小隊の試合開始前のインターバルだ。

 

入学式の日に行われたエキシビションマッチと違い観客スタンドには殆ど人がおらずソーサラーフィールドに包まれた闘技場内は静まり返って熱気が無い。わざわざランクが低い低レベルのEランク戦を見に来る人間など余程の暇人か変わり者ぐらいだろう、そしてこの東側観客スタンド三階の席にもそんな変わり者が三人いた。

 

「このガラガラな闘技場を見ていると昔を思い出すわ、懐かしいわね」

 

「そうだね」

 

ミストガンでは知る人ぞ知るS45特務小隊、通称【眠りの森(スリーピングフォレスト)】の小隊長【空の王(アトモス)】のソラ・グローリーとその部下にして恋人にしてルークの実の姉【茨の女王(ヴィターニア)】のリカ・スカイウィンドそして同じくソラの部下にしてミストガン最速の空士【魂の炎(スピットファイア)】レオ・オーバーグ、いずれもこの場には場違いな大物達がそこにいた。

 

「それもそやけどレオ、キリクとリオスはどないしたん?ボウズ達のデビュー戦全員で見に行く言うた筈なんやけど・・・」

 

聞くまでもなく彼らはルーク達の試合を見に来たみたいでありこの場にいない眠りの森のメンバーも誘ったらしいがここにはいない、何故なら———————

 

「キリクは【何故この私がバツ共の試合など観戦しなければいけない?】って言って拒否した。リオスはここに来る途中までは僕と一緒だったけどその時に大勢の女子生徒達に拉致された、多分今頃女子生徒達にもみくちゃにされていると思うよ」

 

こういう理由だった。

 

「つまりいつも通りの理由ね、まったく・・・」

 

「まっ、おらへんもんはしゃーないな!そないなことよりボウズ達の相手は・・・あのザコ共か・・・」

 

「E35小隊・・・確かここの小隊長はレオ、貴方と同じクラスだったわよね?」

 

「ああ、彼だね・・・彼を含めてこの小隊のメンバーはセンスはあるんだけど・・・」

 

どうやらE35小隊の小隊長はレオのクラスメイトのようでありレオはなんか問題があるかのように首を捻る。

 

「・・・まあ、なにを間違えたのか知らないけど彼らの実力は最底辺だし、リカの弟達の実力がこの前ソラの言った通りなら問題ない相手だと思うよ」

 

「・・・だとええんやけど・・・」

 

試合というのはなにが起こるか分からない、それにソラは何かを懸念しているようであり無言で今無人の闘技場フィールド内を見つめた。

 

試合開始まで後五分、それぞれの想いを胸に試合開始の瞬間を待つのであった——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで二人とも、僕達は今日は非番だけど君達は今日ソラは哨戒任務でリカはこの前の任務の報告書作成の仕事があったと記憶しているけど・・・」

 

「ルークの晴れ舞台なのよ!そんなの昨日徹夜で終わらせたに決まっているじゃないの!」

 

「面倒やからそこらのAランク小隊に押し付けたわ」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場、北側選手専用待機所————————

 

試合開始五分前、E128小隊のメンバーはルークを除いてこの場で待機していた。

 

「・・・遅い・・・」

 

白い着物の様な防護服(プロテクター)を身に纏い地上時代に絶滅した狼を模したシンボルマークと共にE128と刻まれたペンダントを首に掛けたクロエがそわそわしながら呟いた。

 

「ルークの奴なにやってんだ?もう試合始まっちまうぞ」

 

「なんでも【俺達がランキング戦で勝つ為の助っ人を連れてくるぜ】と言ってましたね」

 

「助っ人?」

 

ミストガンの学生服と殆ど変わらないデザインの防護服を着たカナタが疑問を言い同じデザインの防護服を着たロイドが事情を説明すると意味がよく分からなかったクロエが首を傾げた。

 

「一対どうしt「待たせたな!」」

 

「噂をすれば来やがったな」

 

通路から待機所に入る扉がバンッ!と勢いよく乱暴に開けられた、そこから背中に【sky wind】とロゴが入った黒いライダージャケットに黒いジーンズといったデザインの防護服を着たルークがまるでマツボックリの様な髪型の茶髪で眼が据わっている大人しそうな少年を連れて入って来た。

 

「遅せーぞルーク」

 

「わりぃわりぃ待たせたな」

 

「んで?そいつが噂の助っ人か?」

 

「ルーク、助っ人っていったって選手登録していない選手は出場できないよ?」

 

今クロエが言った通りランキング戦には小隊のメンバーとして選手登録されていないと出場できない、要するに助っ人を連れてきても無意味なのである。

 

「チッチッチッ!甘いな!ストロベリーシロップを掛けたストロベリーソフトクリームより甘いぜクロエ!!」

 

しかしルークは澄まし顔で三回舌を鳴らしてから浮ついたようなノリでそう指摘する。

 

「なにも戦闘だけが戦いじゃないぜ!なあギドルト!」

 

「その通りなのです!」

 

ルークが連れてきた少年に同意を求めると少年が一歩前に出てそう同意してE128小隊のメンバーに自己紹介をしだした。

 

「申し遅れましたのですE128小隊の皆さん、僕は《情報技術科(インフォーム)》予科一年B組に所属する《ギドルト・ストラトス》という者なのです!今回からこの前困っているところを助けてくれたルーク君のスカウトを受けてE128小隊専属の偵察・情報提供担当をさせてもらうこととなりましたのです、よろしくお願いしますのです!!」

 

「えっ!?情報技術科?」

 

「成程、そういうことか」

 

「ええ、あのルークがそのようなことに頭が回るとは意外でしたね」

 

自己紹介をして頭を下げるギドルトにクロエだけが困惑気味にオロオロしていたがカナタとロイドは助っ人の意図が分かったようであり納得していた。

 

「話を続けますが戦いにおいて情報というのは超重要なのです!偵察や聞き込み・ハッキングなどで得た敵のデータを基にして戦術・戦略や訓練メニューなどを組み対策を練る事ができるし自分達自身の戦闘データを取って弱点の克服や新しい戦技の習得などの参考にもできる重要なファクターなのです!」

 

「いや、ハッキングはしちゃダメだよ!?」

 

ギドルトが熱烈に述べた内容の中に聞き逃せない単語があったのでそこにツッコミをいれるクロエ、少なくともランキング戦においてのハッキングによる情報収集は不正である。

 

「それにしてもルーク、困っているところを助けたって言ってたがどういうことなんだ?」

 

「四日前に研修棟の廊下でこいつが何か重要なデータが入ったメモリーカードを落としたらしくて【情報技術者にとって命である情報データを失くすだなんてこのギドルト一生の不覚】なんて言って泣きそうになりながら探していたんでほっとけなくて一緒に探してやってさ、そんで見つけ終わったら【何かお礼をしなければ気がすみませんのです!僕にできることがあったらなんでも言ってくださいのです!】って言ったから使えると思って仲間にしたんだよ」

 

「なに勝手に仲間にしてるの!?」

 

「・・・ダメ・・・なのですか?・・・」

 

「うっ!」

 

カナタがルークにこうなった経緯を聞きルークがそう答えクロエがそれに対してツッコミを入れるとギドルトがクロエの目の前にきて潤んだ瞳でクロエを見つめて懇願した為たじろぐクロエ。

 

「僕はいいと思いますよ、その人の言う通り情報は重要ですし」

 

「そうだな、それに俺は熱意のある奴は大歓迎だぜ」

 

「なあ、いいだろクロエ隊長?」

 

「ううっ!」

 

クロエ以外のE128メンバーはギドルトの入隊に賛成のようであり小隊長であるクロエにギドルトの入隊許可を促した為に更にたじろぐクロエ、そして————

 

「わ・・・わかりました!ギドルト君の熱意に免じて入隊を認めます!」

 

とうとう折れて認めた。

 

「ありがとうございますなのです!それではまず最初に僕が集めたE35小隊の情報を提供するのです!」

 

ギドルトはお礼を言って一枚のA3サイズのプリント用紙を机の上に広げる、そこにはE35小隊メンバーのデータが書かれていた。

 

「E35小隊は去年の四月に創設した現在本科二年F組の《ヤマト・クサナギ》を小隊長とした本科二年生四人で構成された小隊なのです」

 

プリントの一番上に書かれている黒髪で若干眼つきが悪いがなんか頼りなさそうな少年の写真が張り付けられたところを指さして説明をする。

 

「・・・あのさ、全員本科生の構成で丸一年経ってんのにEランク小隊なの?」

 

疑問に思ったカナタが質問をする。

 

「はいなのです!彼らは小隊が創設されてからこのかたランキング戦全敗で周りから通称【雑魚小隊】と呼ばれていてミストガン最弱の小隊なのです」

 

「つまりこいつらは現在四十八連敗中なのな・・・」

 

「いえ、戦闘系の学園イベントにも積極的に参加していたので現在五十二連敗中でもしこのランキング戦第一クォーターで一勝もできなかった場合解隊させると空戦魔導士科長は言っているのですね」

 

「・・・・・・」

 

E35小隊はミストガン最弱の小隊だった、しかも今は小隊が無くなるかどうかの瀬戸際だという状況らしい。

 

「・・・それで?彼らの戦闘力はどうなんですか?」

 

次にロイドが質問をした。

 

「まず最初に小隊長のヤマト・クサナギは【クサナギ流魔刀術】という東洋の刀の形をした魔剣である魔刀を使った流派の使い手なのです、クサナギ流魔刀術とはヤマト先輩の家、クサナギ家に地上時代から伝わる流派を空戦の戦闘術として昇華させた剣術で確か【脳のリミッターを一時的に解除して脳内処理能力を加速させて超高速反応や常人の目では捉えられない程の高速移動ができる】みたいなのです」

 

「・・・それ、明らかに負担が掛かんな・・・」

 

「他のメンバーはそれぞれ魔双銃士・魔砲士・魔銃士の構成でいずれも女性なのです、ヤマト先輩が前衛でこの魔双銃士の先輩がオールラウンドの遊撃で他の二人がそれを中衛と後衛から援護をするという結構バランスがとれた小隊ですね」

 

「データを見るからには悪くない小隊だね、それなのにどうして・・・」

 

データを見れば見る程簡単に負ける小隊には見えない、ますます疑問が重なり続けて考えていたその時———

 

『間もなく試合開始時刻です、参加選手の皆さんは入場口の前に集合して入場の準備をしてください』

 

試合開始時刻を告げるアナウンスが待機所内に響いた。

 

「・・・時間みてーだな・・・」

 

「待ってました!よしっ!皆いくぜっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場————————————

 

『さあっ!次の試合はなんと予科一年のルーキーだけで構成された無謀な冒険をするE128小隊VS【雑魚小隊】でお馴染の身の程知らず共E35小隊DA★ZE!!』

 

西側観客スタンド二階にある実況中継用の席で赤・黄・緑のアフロの謎の実況解説者シグナルエースマンの実況が始まり北側と南側の選手入場口前の発煙筒からカラースモークが噴射されE128小隊とE35小隊のメンバーがそれぞれ同時に入場口から飛行魔術を発動して闘技場フィールド内へと舞った。

 

『ランクが低い?新規新鋭と言ってくれ!そう!奴等はチャレンジャー★DA!!雑魚いだなんて気にするな!ここではお前等もデカイ顔ができる最低ランクDA★ZE!!』

 

「・・・相変わらずウゼエ実況だぜ」

 

ルークは悪態を吐いて目の前の軍服の様な防護服を身に纏ったE35小隊のメンバーが飛び回りながら落ち着きが無くじゃれ合う様を見た。

 

「ヤマト~!これが終わったら二人きりでデートするわよ!いいよね?」

 

「は?」

 

「馬鹿者!なにを試合前に浮ついておるのだこの女は!?わ、私だってデートというやつを・・・違う!そうじゃない!!全然思ってなどおらん!!断じて!!!」

 

「わたくしを差し置いてそのような約束はさせませんわ!勝手な事をしないでくださいましっ!!」

 

「あの~皆さん?もう試合が始まる直前ですのでそろそr「「「クサナギ(ヤマト)は黙っていろ(て)(てくださいまし)!!!」」」・・・ハイ・・・」

 

E35小隊の小隊長であるヤマト・クサナギの周りで他の女性メンバー達がヤマトを巡ってケンカしていてヤマトが彼女らの顔色を窺うように咎めようとするも彼女達の圧力によって黙らされる様はルーク達を唖然とさせた。

 

「・・・試合前にふざけてんのかこいつら?」

 

「なんとも言えませんね・・・」

 

「ふーん、こいつが俗に言う【ラノベ主人公系無自覚ハーレム野郎】ってやつか」

 

「・・・なんでだろう?カナタがそれを言ってはいけない気がする・・・」

 

この様な会話をしながらそれぞれ魔術士の宝石箱(マギスフィア)から魔装錬金武装(エモノ)を取り出して試合開始のカウントダウンに備える・・・そして—————

 

『さあ!カウントダウンを始める★ZE!!』

 

「ちょっ!?お前らカウント始まったぞ!早く戦闘準備を!!」

 

「ええっ!?もう!?」

 

「早く魔装錬金武装を取り出すのだ!」

 

E35小隊のメンバー達が慌てて魔装錬金武装を取り出し、それぞれ配置について睨み合いカウントがゼロになる。

 

「E128小隊!行くよっ!!」

 

「E35小隊!状況開始ッ!!」

 

それぞれの小隊長の号令と共にE128小隊最初の試合の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

カナタ「始まったな、ランキング戦初戦!きっちり勝って次に繋げるぜ!」

クロエ「それもそうなんだけどさ・・・この小隊のシンボルマークっていつ作ったの?小隊の創設が認められた時に贈られてきた小隊運営に関する資料と一緒に付いてきたんだけれどカナタなにか知ってる?」

カナタ「ああ、それか?それは小隊創設願いの資料を出す時に俺とルークがデザイン画を一緒に提出したんだが」

クロエ「そんなの聞いてないんだけど!?」

カナタ「ん?言ってなかったか?」

クロエ「言ってないよ!!」

カナタ「悪ぃー悪ぃー、んでこれがそのデザイン画な!」

クロエ「どれどれ・・・ってこれ汚い字で【wolf(狼)】って書いただけじゃないの!?」

カナタ「まぁそれルークが書いた字だしな・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『ランキング戦初戦!VSE35小隊!!』

カナタ「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ランキング戦初戦!VSE35小隊!!

よく見たら今のE128小隊はクロエの逆ハーレム状態だな・・・。

逆に考えるんだ、紅一点とは素晴らしいとっ!!

なお、年末年始は家の都合で忙しくなりそうなのでたぶんこれが今年最後の投稿になると思います。

ではどうぞ!!

追記:改行の行間が多すぎて見ずらいとの意見がありましたので各話の改行の行間を短くしました。


午後二時二十分、E128小隊VSE35小隊の試合が開始された。

 

「「よしっ!いくぜっ!!」」

 

「えっ!?ちょっとっ!?」

 

試合開始と同時にルークとカナタがそれぞれ単独で相手の前衛であるヤマトに向かって突撃して行くのを見たクロエは二人を止めようとするが二人はお構いなしに正面から特攻をヤマトに仕掛けようとする・・・しかし・・・。

 

「飛び込んで来たわね!くらえっ!!」

 

ヤマトの後方左側にいるE35小隊の魔砲士がヤマトの約10m手前まで迫って来ていたルークとカナタに向けて砲撃を放った。

 

「へっ!甘いぜ!」

 

「こんなんで止められるかよっ!!」

 

ルーク達から見て砲撃はヤマトの8m左から斜めの弾道で飛んで来たのでカナタは若干下降して砲撃を潜るようにして避けて魔砲剣でヤマトに斬りかかりヤマトはそれを黒い刀身で橙色の刃の魔刀《秋水(しゅうすい)》で受け止めて弾き、カナタとヤマトはそのまま斬り合いを始めた。

 

一方ルークは砲撃を左側に沿う形で回避し上昇する・・・だがそこに————

 

「迂闊だな貴様、これで一人目だ!!」

 

魔双銃戦技————————————魔弾乱舞(クイックトリガー)

 

試合開始直前までヤマトの後方右側にいたE35小隊の魔双銃士がいつの間にか左側に回り込んでいて今は上昇したルークの正面で魔双銃を伸ばしきった両腕を交差するように構えて魔力弾をルークに乱射してきた。

 

「・・・・・・」

 

「なっ!?」

 

だがルークはそれを最小限の動きで全て躱しそのまま魔双銃士に魔装錬金製の籠手を着けた右拳を叩き込もうとする。

 

「くっ!」

 

それに対して魔双銃士は咄嗟に身を翻してルークの右拳を上に躱して綺麗な放物線を描くような軌道でルークの背後の上を取った。

 

———————貰った!

 

魔双銃士はそう確信して地面から見て逆さの体勢のままルークの後頭部を狙って一発の魔力弾を撃つ。

 

「・・・・・ふっ!」

 

「なんだとっ!?こっちを見ずに!?」

 

あろうことかルークはそれを振り返らずに頭を左に傾けるだけで避けて見せた、余りにも予想外なルークの躱し方を見た魔双銃士は驚愕する、そしてそれが大きな隙となった。

 

「おらぁっ!!」

 

「しまっ!?ぐうっ!!」

 

その直後にルークはさっきの魔双銃士と同じように身を翻して魔双銃士の方に飛び同じ逆さの体勢で左脚による鞭のように鋭い蹴りが魔双銃士に炸裂しそれを魔双銃士は自分の顔面の前に魔双銃を交差させるようにして受け止めるがチカラ負けして後方に弾き飛ばされた。

 

「くっ!?なんて重い一撃だ!」

 

なんとか踏ん張りを効かせて20m飛ばされたところで止まったが魔双銃士は額に汗を掻いていて余裕を失っていた。

 

「少し奴を見くびっていたようだ・・・私もまだまだだな」

 

魔双銃士はそう反省して気持ちを切り替えて真っ直ぐ向かって来るルークの迎撃の為に魔双銃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内、北側戦闘空域——————

 

「えーいとっとと墜ちんかいっ!」

 

「そうはいかないよっ!」

 

「これはなかなか手出しできませんね・・・」

 

紅と虹色の魔力砲撃が飛び交い至る所で相殺し合い爆炎と爆風が吹き荒れる、まるで戦争でもしているかのような光景でありこの惨状を作り出しているのはE128小隊小隊長のクロエ・セヴェニーとE35小隊の魔砲士による砲撃合戦の所為である。

 

「それにしてもアッサリ分断されてしまいましたね・・・いや、自分達から勝手に離れたのか・・・」

 

クロエの前に出て魔力障壁を展開し彼女の盾の役割をしているロイドがそう言って溜息を吐く、分断されてしまった原因は明らかにルークとカナタの個人戦闘(スタンドプレー)の所為だからだ。

 

「今は過ぎてしまった事を気にしている場合じゃないよ!ロイドはそのまま防いでて!連射で一気に押しきるっ!!」

 

砲撃の連射速度を上げて勢いをつけるクロエ、ロイドが相手の砲撃を防いでくれているおかげで攻撃だけに集中ができるのだ。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬっ!負けるかあぁぁぁぁっ!!」

 

それに対して相手の魔砲士はクロエの凄まじい砲撃の連射に対抗するように連射速度を上げる、しかし彼女とクロエとでは連射速度では圧倒的にクロエの方が上だ。

 

「うおっと!?」

 

撃ち合いの最中にクロエの一発の砲撃が撃ち合いを抜けてきて魔砲士に命中しそうになるが魔砲士は即座に砲撃を止めて間一髪で回避する、そもそも得意戦術が乱砲撃スタイルのクロエに対して彼女は一撃必殺の火力砲撃スタイル故に連射でクロエに勝てる筈がない。

 

「チャンスですクロエ!!」

 

「わかってる!はああああああぁぁっ!!!」

 

「ちょっ!?まって!タンマッ!!」

 

砲撃を止めてしまったのが運の尽きだった、虹色の砲撃が止んだところをクロエは一気に紅い砲撃の乱射で容赦なく魔砲士を追い撃ちする。

 

「きゃあああああぁぁぁっ!!」

 

全弾命中!魔砲士は悲鳴を上げながら砲撃の命中による爆発によって発生した爆炎に包まれた。

 

「やりましたか!?」

 

だがロイドがフラグを立ててしまった、爆炎が晴れるとそこには虹色の魔力障壁を展開して無傷だが肩で息をして疲労している魔砲士の姿があった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・まだこんなんで墜ちるアタシじゃないわ!」

 

口ではこう言っているがかなり辛そうだ・・・あんな高威力の魔力砲撃を防いだのだ、余裕なんてある筈がない。

 

「しぶといですね」

 

「でももう一息だよ!迅速に墜としてカナタ達の加勢に行くよっ!!」

 

この戦場はクロエ達が主導権を握った、このままだとE35小隊の魔砲士を撃墜するのも時間の問題だろう、クロエとロイドは気を引き締めて掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内、中央戦闘空域———————

 

「はぁっ!」

 

「ふうっ!」

 

漆黒の魔砲剣グラディウスと魔刀秋水がぶつかり合い鍔競り合う。

 

「・・・やるじゃねぇか」

 

「へっ!アンタもな!」

 

鍔競り合いから八秒後にお互いにそう言って剣(エモノ)を弾くようにして鍔競り合いを解きその反動を使って空を滑るようにして60m程距離を取って睨み合う。

 

この二人————カナタとヤマトはこの一分間斬り合いを続けてお互いの力量を計り合っていたらしい。

 

———————くっ!どうやら純粋な魔剣術の腕は奴の方が上みてーだな・・・

 

カナタは右肩に痛みを感じた、斬り合いの最中にヤマトの一撃が入ったのだ。ソーサラーフィールドの効力により非殺傷ダメージになるので傷はできないが痛みは感じるのでダメージを受ければ受ける程動きは鈍る。

 

———————・・・だったら戦術で勝負だ!

 

カナタはそう考えてヤマトに魔砲剣の切っ先を向けてシリンダー型の魔力縮退炉を一回転させた。

 

「いくぜっ!!」

 

魔砲剣戦技——————————————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

カナタがそう言い放つと同時に魔砲剣の切っ先からヤマトに向かって大きな漆黒の魔力弾が放たれヤマトに当たる直前で魔力弾が四つに分裂しそれが二回繰り返され、計十六発の魔力弾がヤマトを襲った。

 

「剣で勝てねぇから遠距離攻撃できたか!・・・だが甘ぇっ!!」

 

ヤマトは十六の魔力弾の隙間を見切って最小限の動きで躱す・・・だがそこに————

 

「っておいマジかよ!?」

 

気が付くとカナタが既にヤマトの眼前に迫って来て右手に持つ魔砲剣をヤマトの首を狙って振り下ろしていたがヤマトは一瞬動揺するもそれに反応して魔刀で受け止めようとした・・・しかし————

 

「なっ!?フェイクだとっ!?」

 

魔砲剣と魔刀がぶつかる直前でカナタは魔砲剣を引っ込めていつの間にか左手に逆手持ちで持っていた魔装錬金製のダガーをすぐさま下から斬り上げるように逆袈裟斬りを放った。

 

「っ!!」

 

「は!?」

 

なんとヤマトはそれをあり得ない反射速度で反応して魔刀を傾かせる事によってダガーを受け止めた。

 

——————おいおい、タイミングは完璧だった筈だぜ?

 

人間の反射速度は普通0.2秒でどんなに鍛えても限界は0.1秒だ、今のヤマトは0.02秒くらいの速度で反応していて普通人間には不可能な反射速度であった為にカナタは一瞬驚愕した。

 

そしてヤマトは魔刀で魔砲剣を弾いて離し—————

 

「ふっ!」

 

「!?」

 

なんといきなりカナタの目の前から消えた。

 

「うおっと!!」

 

そしてそれから一秒も経たずにヤマトはカナタの背後に現れてカナタに中段斬りを放つが、カナタはギリギリそれに反応して身を翻して躱し放物線を描くような軌道でヤマトから30m程距離を取った。

 

「・・・これに反応すんのかよ」

 

「・・・・・・ふーん成程な、これがさっきギドルトが言ってたやつか・・・」

 

ヤマトは完全に隙をついた筈なのにそれを躱したカナタに対して呆れるように驚き、カナタはヤマトの異常な反射速度と高速移動を見てさっき待機所で仲間になったギドルトが見せた情報の事を思い出した。

 

脳のリミッターを一時的に外す事によって脳内処理速度を加速させて超高速反応や目視不能の超高速移動ができるというのが今のヤマトのあり得ない一連の動作の正体だ。

 

「・・・どうやらこれを知っているみたいだな・・・なら慣れる前に速攻でケリをつけるっ!!」

 

ヤマトはそう判断して意識を集中し再び脳内処理速度を加速させる、その瞬間ヤマトの世界が変わった。

 

ヤマトの目には今世界の色が白黒に塗り替わり自分以外の動きが超スローモーションに見えていた。

 

———————これで決めるっ!!勝負あったな!!!

 

そしてすぐにカナタの後ろに回り込んでカナタの背中めがけて魔刀を振り下ろした——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはいつの間にか肩の後ろに右手で縦に背負う様にして位置を移動させていた魔砲剣に受け止められた。

 

「——————何ぃっ!!?」

 

流石にこれは驚愕せずにいられなかった、同じように脳内処理速度を加速させてスローモーションの世界に入らなければ反応することは不可能な筈なのにそれに反応したカナタに対して動揺するヤマト。

 

「そんな馬鹿な!?なんで!?」

 

「へっ!こういう時は後ろから来るっていうのが常識なんだよっ!!」

 

カナタはそう言い放つと共に振り返りその勢いと遠心力を利用してヤマトを弾き飛ばす。

 

「ぐっ!!」

 

少し上斜め前に50m程飛ばされたヤマトは空を滑るように止まって追撃してくるカナタを迎え撃つ為に魔刀を持った右腕を身体の正面からまわし左側の腰の少し後ろに魔刀を横気味に斜めに下ろすように構えて上半身を大きく捻って剣の間合いに飛び込んで来たカナタめがけて一気に魔刀を引き抜く—————

 

クサナギ流魔刀術————————————片車輪

 

鞘の無い抜き身の抜刀術、限界まで腰を捻り腰の回転に合わせて円を描く軌道で魔刀を引き抜き三百六十度を攻撃する全方向(オールレンジ)の抜刀術だ・・・・・だがそれは地上ならの話だ。

 

「げっ!?」

 

カナタは魔刀の下を潜るようにして躱してヤマトの懐に入った。今ヤマトは魔刀の勢いと遠心力に振り回されて体勢が崩れている、絶好のチャンスだ。

 

「くらえっ!」

 

「っ!!」

 

ヤマトに袈裟斬りを放つカナタ、ヤマトは脳内処理速度を加速させて無理矢理体勢を正常にして受け止めそのまま鍔競り合いに持ち込むもののこの数秒で脳内処理速度を加速させるのを連続で使用した為負担が尋常じゃなく掛かり肩で息をしていた。

 

「おしいっ!もうちょっとだったんだけどな・・・アンタやるじゃねーか!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・こいつら本当に予科一年かよっ!!?」

 

ヤマトはE128小隊の予科一年生離れした戦闘力に舌を巻かずにいられなかった。

 

各戦闘空域で全てE128小隊が優勢でこの試合は最早E128小隊が主導権を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場、北側観客スタンド———————

 

『E128小隊猛攻が止まらNEEEEEEEEEE!!強いっ!予科一年生だけの小隊ながらもこの実力、これは思わぬダークホースDA★ZE!!』

 

「凄い・・・ルーク君達こんなに強かったのですか!?」

 

シグナルエースマンのうるさい実況が響くなかで北側選手入場口の右側にある一階観客スタンドの前の通路にある落下防止の柵の上に右手を着いて左手で記録用のビデオカメラを持って身を乗り出すような体勢で興奮しながら撮影しているギドルトの姿があった。

 

彼の今の仕事はE128小隊が今後のランキング戦を勝ち抜く為の参考にする為一試合一試合のデータを記録することである、記録したデータを基に小隊メンバーの強化訓練メニューを作成したり弱点を克服する為の考察をしたりするのである。

 

「そこの生徒!危ないから柵から離れなさい!!」

 

「あっ!?すいませんなのです!」

 

通りかかった警備担当の上級生に注意されてしまった・・・ギドルトは警備担当の上級生に謝って柵から身体を離してから撮影を再開した。

 

「この調子なのです!勝利は目の前なのですよ皆さn・・・・んっ?あれは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場、東側観客スタンド———————

 

『このままだとE128小隊の勝利は時間の問題!やっぱり雑魚小隊は雑魚小隊だったか!?』

 

「驚いたな、まだ未熟ではあるけれど彼らがここまでやるなんて」

 

「あのお馬鹿!チームワークを考えなさいよ!」

 

「おおっ!まだまだやけどぼちぼち強うなったやん!流石ボウズやで!!」

 

観客スタンド三階の席でシグナルエースマンの実況に負けないくらいうるさく騒ぐミストガン最強の小隊の三人、レオは予想外のE128小隊の戦闘力に驚きリカは目の前数メートルで個人戦闘(スタンドプレー)をするルークを見て叱咤しソラはルークが入学前に会った時のルークより遥かに強くなっていたことに関心していた。

 

「それにしてもさっきのルーク君がE35小隊の魔双銃士の子の魔力弾を目視しないで躱したのってもしかしてソラと同じ才能・・・」

 

「そや、ようわかったなレオ」

 

レオが言っているのは先ほどルークが魔双銃士に背後を取られて後頭部めがけて撃たれた魔力弾を見ずに躱したことでありそれはソラと同じ才能によるものだというのだ。

 

「《絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)》、大気中の空気を感覚で超正確に把握できる特殊スキルやな。さっきボウズがやったのは敵が数ミリでも身体を動かす時、身体の周りに纏わり付く空気が乱れて発生する【風】を感知して相手の動きを把握したんやな、ほんでもって発生した【風】の強さを感じ取ってそいつの速度を計り【風】が発生し弾けた方向を感じ取って進行方向を割り出す、ワイらは例え敵が光の速度で動けたとしても反応できるんやで」

 

「そしてそれは魔力も同じ、例え目視不能で通常感知できない設置型の魔術でもソラとあの子は大気中に異物が混じっていれば二人には見えているも同じなのよ、まったくとんでもない空間認識能力だわ」

 

「成程、例え光の速度で動けたとしてもオゾン層より下にいる限り身体中に纏わり付く空気からは絶対に逃れられない・・・空戦魔導士としては恐ろしい才能だね・・・」

 

空を戦場とする空戦魔導士としての二人の才能は最高レベルだろう、なにせ空気中の敵の全ての行動を一瞬で把握できてしまうのだから。

 

「と言うてもボウズには欠点があるんやがな・・・」

 

「欠点?」

 

そう、しかしルークが絶対空気感覚を持っているにしては腑に落ちない点がある、それは入学式の日の夜の戦闘の時にルークは何度も不意を突かれてピンチに陥っている、絶対空気感覚を持っているならばそれは簡単に回避できた筈なのにだ・・・その理由とは—————

 

「ボウズは焦ったり気が動転したりして余裕を失くすと感覚が狭うなる欠点がある、そうなれば絶対空気感覚も無いのと同じさかいボウズは無敵やないんやで」

 

「あの子は昔っから落ち着きがないからね・・・本当にしょうがないんだから」

 

「ハハハ・・・」

 

【落ち着きが無い】、これがルークの弱点だった、まあ他にも【乗り物に弱い】とか【苺に目が無い】などの弱点があるのだがこれは気にしなくてもいいだろう・・・たぶん。

 

「それよりもワイが注目したんはあの黒髪のガキやな」

 

ソラはそう言ってフィールド内中央でヤマトと戦闘をしているカナタの方を見る。

 

「奴と戦っとるザコの特殊スキルは一応一級品や、せやけどあのガキはあのザコの高速移動を感覚だけで捉えおった、たぶんあのザコの殺気を的確に感じ取って躱したんやろうな、ワイら程やないけどあのガキも大したセンスを持っとるで」

 

ソラは腕を組んでカナタを称賛する、彼もまた高レベルの才能を持っているのだ。

 

「本当に将来有望な子達が集まったものだね・・・・・だけどこの状況は」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

ミストガン最強の小隊の三人のE128小隊に対する今の試合状況の感想は——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・アカンわ」

 

「ヤバイわね・・・」

 

「危ないね・・・」

 

三人がいるのとは反対側の西側観客スタンドの前を旋回しているE35小隊の魔銃士を見てそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内、北側戦闘空域——————

 

クロエ&ロイドVSE35小隊の魔砲士の戦闘は佳境に差し掛かっていた。

 

「くそっ!まだなの!?」

 

魔砲士はクロエの砲撃の嵐を回避しながらなにかを待っているように癇癪をあげる・・・その時。

 

「げっ!?やばっ!!」

 

紅い砲撃の一発が彼女の魔砲杖にヒットして彼女の手から離れてしまった。

 

「チャンスですね!これで決めますっ!!」

 

それを見たロイドが勝利を確信してクロエの前から離れ魔砲士に止めを刺しに行く。

 

他の戦闘を見てみると東側観客スタンドの前の空域ではルークがE35小隊の魔双銃士の鳩尾に突空崩撃(エアリアルインパクト)を叩き込もうとしている直前であってフィールド中央の空域ではカナタがヤマトに止めを刺そうと魔力縮退炉を五回転させて魔砲剣の切っ先をヤマトに向けて収束魔砲(ストライクブラスター)を放とうと切っ先に巨大な魔力の球が生成されているのが見えていた。

 

これで勝負あったか?——————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔銃戦技—————————————————鋭利射撃(スティンガースナイプ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった・・・・ロイドがクロエの前から離れた瞬間に二人から見て右斜め前の西側観客スタンドの前の空域から今までフリーだったE35の魔銃士がフリーになったクロエを狙って戦技を放ったのだ。

 

「・・・・・え?・・・」

 

先が鋭く尖ったような魔力弾がクロエを貫きクロエはなにが起こったか分からないような呆然とした表情を浮かべて————————

 

「————————」

 

そのまま意識を手放して地上に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内、東側空域———————

 

『・・・・E128小隊の小隊長・・・撃墜!?・・・・何が起こったんDAAAAAAAAA!!!余りにも唐突すぎてなにがなんだが意味不明DA★ZE!!』

 

「・・・・・はぁっ!!?」

 

訳が分からず声を上げるルーク、ランキング戦の試合の勝利条件は相手の小隊長が首から掛けている小隊のシンボルマークを奪うか相手の小隊長を撃墜するかである、そして今E128小隊の小隊長であるクロエが撃墜されたということは———————

 

『試合終了ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!この試合を制したのはなんと雑魚小隊でお馴染のE35小隊!!去年のランキング戦の一試合目から実に五十二連敗を喫していた雑魚小隊が!TU★I★NI勝利を掴んDA★ZE!!これは大ニュースDAAAAAAAAAAA!!!』

 

そう、ルーク達E128小隊の敗北を意味していたのだから。

 

「・・・・・俺達の・・・・・負け?・・・・」

 

今ようやく負けた事を悟ったルークはそう呟いていた。

 

「何・・・で?・・・」

 

E35小隊のメンバーが歓喜の声を上げている中でルークは呆然として地上に降り立って佇んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場、東側観客スタンド————————

 

「・・・・《啄木鳥の餌取(ハンティングウッドペッカー)》やな・・・」

 

E35小隊が使った戦術名をソラが呟いた。

 

「そうね・・・この戦術は囮の空士が派手な戦闘(パフォーマンス)で敵の戦力を引き付けて手薄になったところを本命の空士が隙を突いて敵の大将を仕留める大人数の集団戦向けの戦術よ、本来これは変異種(キメラ)を伴った魔甲蟲の大群を相手に使われる戦術で少人数でやるランキング戦の試合には向かない戦術だわ、それを使うだなんて・・・」

 

今リカが説明した通りこの戦術はランキング戦には向かない、3~5人の少人数でやるランキング戦ではどう考えても簡単にばれてしまうからだ。

 

「阿呆やな、E35小隊のザコ共が負け続けたわけやな・・・だがそれに負けたボウズ達はもっと阿呆やで」

 

ソラはそう評価して北側のフィールド内で気を失ったクロエを介抱するロイドを見た。

 

「あのウスィー金髪のガキはようやったほうやな、せやけど詰めが甘かったようやが奴が敗因やない」

 

ソラは次に目の前数メートルのフィールド上で今も呆然としているルークを見やる。

 

「この失態は個人戦闘(スタンドプレー)に走ったボウズと黒髪のガキのせいやで、いくら優れた才能と戦闘力やろうと行動を誤ってもうたら使い物にならへんねん、しょーもないわ」

 

ルークとカナタに厳しい評価を下すソラ、だが彼は次に期待するような眼差しでルークを見つめていた。

 

—————この負けを活かすんも殺すんもお前ら次第やでボウズ共、何で負けたんか気付くかどうか・・・それが奴等の重要な課題さかいそれが分からへんかったら今戦ったザコ共の一年前と同じになるでボウズ・・・

 

ソラ達は負けたルーク達を心配しながら闘技場を跡にした。

 

E128小隊ランキング戦第一戦目・・・敗北。




次回予告

ロイド「あ、ありのままに今回起こったことを話します!試合は僕達が優勢で進んでいって勝ったと思ったら負けていた」

カナタ「クロエあれ取って」

クロエ「はい醤油」

ロイド「何を言っているのか分からないと思うけれど僕も何が起きたのか分からないんだ!頭がおかしくなりそうでした!」

ギドルト「熟練夫婦みたいなのですねこの二人・・・」

ロイド「手品だとかイカサマだとかそんなチャチなものじゃ断じてありません!もっと恐ろしいものの片鱗を見ました・・・」

ルーク「このスープ味がウスィーな・・・ま、ロイドのウスィーさには負けるけどな」

ロイド「・・・・他作品ネタをやっても誰もツッコンでくれないんですか!?」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『ライバル達との邂逅』

ロイド「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!・・・誰か反応してください・・・」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライバル達との邂逅

FFRKの爆フェス爆死したぁぁぁ!!びぇぇぇぇぇんっ!!

ルーク「泣くなウゼェ!!」

カナタ「とにかく新年最初の投稿だ、気落ちする話はなしにしようぜ」


初めてのランキング戦に胸を躍らせながらも希望を懸けた初戦、ルーク達E128小隊は【雑魚小隊】で知られているE35小隊を相手に善戦したが相手の策略に嵌まり遭えなく敗退、ランキング戦を勝ち抜いて行く事の厳しさを身をもって味遭わされた・・・。

 

ルーク達はその日は気を落として学生寮・・・《アルテミア寮》へと帰って何もしなかったが、翌日には気を取り直して次の試合で取り返せばいいと言わんばかりに気合を入れて次の試合に向けて訓練に励んでいた。

 

ギドルトが記録してくれたE35小隊との試合のデータを基にして敗北した原因を模索して訓練メニューを組んだのだが考えついたのが【クロエの空間認識能力の向上】だとか【ロイドの魔力障壁の強化】だとか個人的な能力アップばかりであり、初戦で敗北した原因がルークとカナタのチームワークを無視した個人戦闘(スタンドプレー)の所為だということに全く気付かずにルーク達は個別訓練ばかりで訓練メニューを組んで訓練していった。

 

そして・・・・・一ヶ月の時が流れた・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三六年、五月十五日

闘技場—————————

 

ランキング戦第一クォーターEランクリーグJブロック第九戦目第一試合E128小隊VSE226小隊。

 

「くそっ!邪魔すんなっ!!」

 

この日までのE128小隊の試合の成績は八戦・・・・・・零勝八敗。

 

初戦の敗北を皮切りにルーク達E128小隊は連戦連敗、既に第一クォーターでの昇級は不可能となっていて後はもう消化戦となってしまった。

 

これまでに敗北し続ける原因を突き止める事ができなかったルーク達は結局ここまでの試合全てでルークとカナタが個人戦闘(スタンドプレー)をしてアッサリ分断されて最終的に小隊長であるクロエが撃墜されるといったパターンで敗北し続け、E128小隊は今では【雑魚小隊に代わるミストガン最弱の小隊】のレッテルが貼られ周りから【愚かにも予科一年生だけで小隊を作って負け続ける身の程知らず共】と馬鹿にされる始末であった。

 

そして現在の試合もまたルークとカナタの個人戦闘(スタンドプレー)によって分断されてしまいE128小隊は劣勢であった。ただでさえE226小隊のメンバーは規定人数フルメンバーの五人だというのに既にロイドが撃墜されていて三対五の圧倒的不利な人数差であり、今は敗北寸前の絶体絶命の状況であった。

 

南側の空域でルークはE226小隊の魔剣士による足止めを受けていた、中央の空域を見るとカナタもE226小隊の魔槍士による足止めをくらっていてカナタが必死になって魔槍士を撃墜しようと猛攻をしている姿がみられる、そして更に奥の北側の空域を見るとクロエがE226小隊の魔銃士二人と魔剣士の連携によって壁際に追い詰められていてもう後がない状態だった。

 

「どけええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

魔蹴術戦技———————————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

小隊長が墜とされれば敗北が決まる、ルークは魔剣士を蹴散らす為に戦技を使った・・・しかし。

 

「ぐあっ!?」

 

ルークが撃った竜巻杭打はアッサリ上に躱されてしまい隙だらけのルークに魔剣士の魔大剣が振り下ろされて斬られた。

 

「く・・・そ・・・」

 

隙も見ずにがむしゃらに戦技を単調に放って躱された挙句に焦って感覚が狭まった為に絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)が役に立たなくなってしまい簡単に攻撃をモロにくらったルークは意識を手放して地上に落下して行った。

 

それと同時に北側で小隊長であるクロエが撃墜されてしまい試合終了、この日E128小隊はランキング戦九連敗を喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三六年、五月十六日

三番区レストラン通り—————————

 

「くそっ!何で勝てねぇんだ?」

 

「ピュイ・・・」

 

シロハヤブサのハヤテを右肩に乗せたルークは悪態を吐きながら道を歩いていた。現在午後三時、E128小隊のメンバーは昨日の試合の反省会を喫茶店でスイーツを食べながら行う為に目的地に向かって歩いていた、なんでもクロエのクラスメイトの親が経営している店らしい。

 

基本的に学園浮遊都市に大人は移住することはできないが、経済経営科(エコノミック)からの特別な許可をもらうことによって移住・店舗経営をすることができる。

 

子供の事が心配で学園浮遊都市のルールを掻い潜ってついて来る親は少数だが存在する、特にいつ魔甲蟲に墜とされて命を落とすかもしれない空戦魔導士科(ガーディアン)の学生の親は心配するのも当然と言えるだろう。

 

「嘆いたって仕方ねーだろ?次勝ちゃいいんだよ」

 

「そうなのですけどおかしいですね、皆さんの欠点は毎回直している筈なのにどうして負けるんでしょうか?僕が取ったデータに間違いはない筈・・・」

 

ルークの右隣を並んで歩いているカナタはそう言って励ますがルークの左隣を並んで歩いているギドルトが疑問を口にしてまた悩む一同。

 

「・・・まあそれは甘い物でも食べながら考えようか・・・ほら、ここがそうだよ」

 

ルーク達の前を先導して歩いていたクロエが目的地到着を告げる、目的地である喫茶店は木造建築でできた三階建ての自然を感じるような建物だった。

 

「へーここがね、結構いいところじゃん!・・・ん?なあクロエ、この看板の文字はなんだ?見た事ねーけど」

 

カナタは喫茶店の入り口の横に立ててある設置型の看板に書いてある文字が自分には馴染みが無くて読めない為クロエに質問を問いかけた。

 

「これは《焔屋(ほむらや)》って読むみたいだね・・・なんでも地上時代の東洋の文字らしくて確か【漢字】っていうらしいね、この文字は今は浮遊交易大都市《イカルガ》やランキング戦の一戦目で試合をしたE35小隊の小隊長の故郷の浮遊都市《ヨシツネ》などの一部の浮遊都市で使われているみたいだよ」

 

「ふーん、漢字ねぇ・・・」

 

「凄いです!地上時代の文字がまだ使われているなんて知らなかったのです!これは新情報なのです!!」

 

「ハハハ・・・ギドルトは相変わらず情報には目がありませんね」

 

「どうでもいいから早く入ろうぜ・・・」

 

「ピュイ!」

 

クロエの説明を聞いてカナタは頭の片隅にでも覚えておこうと思っていてギドルトは自分の知らない情報が聞けて興奮しながらタブレットにメモをしてそれを見たロイドは苦笑いをしてルークは興味がなく怠そうにそう言った。

 

「それじゃあ入ろっか!」

 

クロエはそう言って焔屋の入り口の扉を開き店内に入って行き、ルーク達もそれに続いた。

 

店内は夕焼け空の様な装飾でありかなり広々とした空間でありなかなか開放的な感じだ、ルーク達はウェイトレスの案内で窓際の六人掛けのテーブル(左側手前にルーク、左側中央にギドルト、左側奥にロイド、右側手前にカナタ、右側奥にクロエといった席順)に着いて早速スイーツを注文する。

 

「俺ストロベリーショートケーキにストロベリーチョコレートトッピングで!」

 

「俺は焔屋特製シュークリームな!」

 

「そうですねぇ・・・僕はチーズケーキで」

 

「僕はバナナパフェでお願いしますなのです!」

 

「わたしにはピーチパイでお願いね!」

 

「ピュイッ!」

 

「かしこまりました」

 

——————ウチってペットの連れ込みってよかったっけ?・・・ま、いっか・・・。

 

注文をもらいに来たウェイトレスはテーブルの上にいるハヤテを見つめて数秒固まった表情をしていたがすぐにスマイルをして注文をもらって行き、注文したスイーツが全て運ばれて来るとルーク達は食事をしながら反省会を始めた。

 

とは言ったものの話の内容は結局個人的な強化ばかりの話や一対一での戦術の話などでありチームプレーに関しては全く触れていない・・・彼らはまだ負け続ける原因は個人個人が未熟な所為だと思っているようだ。

 

「クックックッ!なぁおい!こいつらあれだぜほら?雑魚小隊に負けた予科一年の奴等」

 

そんな時に目の前の通路を通りかかったガラの悪そうな四人組の少年達がルーク達に因縁をつけてきた。

 

「あ、ホントだ!ケッケッケッ!予科一年の分際で小隊作って見事に負けまくっているんだぜこいつら」

 

「それマジ!?ギャハハハハハハッ!ウケル~ッ!」

 

「ザコの癖こんなところでおしゃべりとか随分と余裕ですねぇ~、プッ!」

 

それぞれ赤髪・青髪・黄髪・緑髪とカラフルな色合いで三白眼で垂れ眼の学制服を着崩したチャラチャラとした四人組がルーク達を馬鹿にする。

 

「テメェ等・・・何か用か?」

 

それを聞いたルークは馬鹿にされた怒りを抑えながらも少年たちを睨みつけながらそう言う。

 

「ん?なんだぁこいつ?一丁前にガン飛ばしてきてんぞ」

 

「お前さぁ、なに予科一年の分際で俺達予科三年の先輩に口きいてんの?おらっ!」

 

「ぐっ!テメェ・・・」

 

青髪の少年がルーク達の席のテーブルの上にあった水入りのコップを手に取ってルークの頭にぶっかけた。

 

「少し礼儀ってもんを教えてやらねぇとなぁ!おらっ!立てよ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「ルーク!!」

 

「この!!」

 

「ピュイー!」

 

赤髪の少年がルークの胸ぐらを掴み上げて無理矢理席を立たせて殴り飛ばそうと拳を振り上げた。

 

「・・・・おい」

 

「あ”?」

 

その時、向かい側のテーブルにいた紫色の短いリーゼントの少年が立ち上がって赤髪の少年の振り上げた腕を後ろから掴んで止めた、赤髪の少年はイラついた表情で振り向くといきなりリーゼントの少年に殴り飛ばされた。

 

「がはっ!!」

 

「きゃああああああっ!!」

 

「不良が暴れているぞ!」

 

「早くレイブンネストを呼べ!」

 

赤髪の少年はルーク達のテーブルの上にふっ飛ばされてテーブルの上の食べものがそこらに散乱して店内はパニック状態になった。

 

「出たよ・・・アッシュの悪い癖が・・・」

 

「ああいう【自分も大したことない奴が格下で頑張っている奴を馬鹿にして優越感に浸る】のを見るのが大の嫌いだからなアッシュは」

 

「それより何なんだよこのケーキ!?何で六等分じゃねぇんだ!!」

 

「いい加減にしてよそのこだわり!ウザイのよっ!」

 

向かい側のテーブルにいるリーゼントの少年の仲間らしき四人がこのパニック状態の中で他人事みたいに平然と食事を続けている、その仲間達はスキンヘッドの厳つい少年、深緑色のオールバックで黒いサングラスをしたガタイのいい長身で厳つい大男、赤いモヒカンでガタイのいい長身で厳つい大男、金髪で褐色肌の少女といったいずれも独特な学生達だった。

 

———————えっ!?これどっちが不良!!?

 

E128小隊のメンバーはテーブルから避難していてこの惨状を見たクロエは混乱していた。

 

「てめぇ!この野郎よくm「ヒーロー見参!!」うぼぁ!?」

 

頭に来た黄髪の少年がリーゼントの少年に殴りかかろうとしたその時、突然後ろから白いツンツン髪で赤い鉢巻と赤いマフラーを身に着けた少年が黄髪の少年の背中にドロップキックをくらわしてきた。

 

「人を見下して馬鹿にする悪党共めっ!このヒーローたるこの《アスカ・イーグレット》様が成敗してくれるっ!!」

 

白髪の少年はそう言い放ちながらビシッと少年達を指さした。

 

「なにしてるのアスカ君っ!?」

 

我に返ったクロエが驚いて声を上げる。

 

「知り合いなのですか?」

 

「うんクラスメイトだよ、この焔屋の娘であるわたしの友達の幼馴染でもあるの」

 

「なんだクロエ、お前友達できたのか?意外だったな・・・」

 

「カナタそれどういう意味!?」

 

こんな時にこのような会話をするE128小隊のメンバーは結構肝が据わっているのかもしれない。

 

「この野郎!ふざけやg「おいっ!」あんだよっ!」

 

今度は緑髪の少年がアスカに殴りかかろうとしたが突然後ろから声が掛かりイライラしながら振り返る、すると————

 

「なめてんじゃねぇよっ!!」

 

「ぐふっ!?」

 

ルークがヘッドバッドをくらわせてきて床に倒れる緑髪の少年、ルークの怒りは頂点に達していてもう我慢できなかったようだ。

 

「な・・・何なんだてめぇ等!?」

 

残った青髪の少年がこの惨状に動揺しながらルーク達三人に問う。

 

「「「テメェ(お前)等まだやんのか!?」」」

 

「「「「調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!!!」」」」

 

しかし話を聞かずにルーク達は少年達を威圧してそのまま乱闘に発展してしまい、それはレイブンネストが駆けつけるまで続いた。

 

「どうしてこうなったんだろう・・・」

 

ただスイーツを食べに来ただけなのに何でこんなことになったのかと頭を抱えるクロエであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区噴水広場———————

 

「ごめんクロエ、ウチのお馬鹿が騒ぎを大きくして」

 

「ううん、わたし達の方こそごめんね、店内を滅茶苦茶にしちゃって」

 

濃い茶色の長い髪を白いリボンでツインテールにした少女《ミレーユ・グレイス》と謝罪し合うクロエ。彼女が焔屋の娘でありアスカの幼馴染で同じ小隊・・・《C140小隊》のメンバーである。

 

あの後数分後に逃げた客が通報したレイブンネストが到着したことにより鎮圧され乱闘は収まった。

 

店内で暴れたルーク達三人は始末書を書かされ騒ぎを起こした少年達四人はレイブンネストに連行されて行った、騒ぎを起こした張本人なのだから当然だ、恐らく何らかの形で罰せられるのだろう。

 

そして現在午後六時十五分、ここにいるのはルーク達E128小隊のメンバー五人と一羽、それとあの後ミレーユと共に駆けつけたアスカ達の小隊長である長身で長い茶髪を後ろで束ねた落ち着いた雰囲気の本科一年生の男子生徒《オリバー・ヒューイック》を含めたC140小隊のメンバー三人、そしてさっきルークを助けたリーゼントの少年達《E108小隊》のメンバー五人の計十三人と一羽だ。

 

日もすっかり暮れてここにいる人間以外誰もおらず空には満天の星空が煌いていた。

 

「君達がE128小隊かい?噂は聞いているよ、何でも予科一年生だけの構成されたチャレンジャー集団だって聞いているよ」

 

集まっていたルーク達E128小隊のメンバーの前にC140小隊の三人がやって来てオリバーがルーク達に話し掛けた。

 

「初めましてオリバー先輩、E128小隊の小隊長クロエ・セヴェニーです、本日はお忙しい中でうちの小隊の隊員が先輩の小隊の隊員を巻き込んでご迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ありませんでした!」

 

「謝らなくてもいいよ、悪いのは君達を馬鹿にして暴力を振るった予科三年生達なんだから」

 

「そうだぞクロエ、悪党の手から人々を護るのがヒーローであるオレの使命なんだから当たり前d「アンタは黙ってなさいっ!!」ばほぅっ!!」

 

「・・・いつも思うけどそのハリセンどこから出しているの?」

 

クロエがE128小隊を代表して挨拶と謝罪をして頭を下げオリバーはそれをする必要はないと言い調子に乗って便乗するアスカの頭をハリセンでひっぱたいて戒めるミレーユ。

 

「ハハハ・・・、ところで本題に入るけど君達はこのランキング戦まだ一勝もしていないらしいね」

 

「・・・あんたも俺達を馬鹿にすんのか?」

 

ルークはオリバーを睨みつける。

 

「そうじゃないよ、君達はなかなか強いと思うよ・・・【個々の戦闘力】はね」

 

「?・・・ほかより弱いから負けるんじゃないのか?」

 

カナタがオリバーに問う。

 

「・・・少しヒントをあげよう、僕達C140小隊は去年僕以外の隊員が卒業してしまったが今年この二人が入隊してなんとか今年のランキング戦第一クォーターまでにギリギリ人数が集まって小隊を存続させる事ができた、しかし僕らはCランク小隊であってその為僕以外は新入生でしかも三人という他よりも不利な条件で君達の二つ上のCランク戦を戦わなければならなかった・・・」

 

オリバーの話はルーク達にとってなかなか興味深い話だった、なにせいずれそこに至って超えるべき上位ランク戦の話なのだから。

 

「最初の第一戦目は・・・惨敗だった、当たり前だ・・・アスカとミレーユには悪いけど未熟者二人を抱えた僕達と万全な戦力の他のCランク小隊とじゃあ自力が違い過ぎるんだしね」

 

「誰が未熟d「ややこしくなるから黙ってなさいっ!!」うぼぁ!!」

 

やっぱり他より戦闘力が低いから負けるのかと思うルーク達。

 

「その後三戦も負けたけど【小隊としてどう戦うか】を考えながら勝つ方法を模索していって次の五戦目に僕達は初勝利を物にしたんだ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

ルーク達は驚いた、なんで他より自力で劣っているのに勝利できたのかと。

 

「それから僕達C140小隊は連勝を重ねてここまでの成績は九戦五勝四敗・・・Bランク昇級の条件はCランク戦総合三位以上だから第一クォーターでの昇級は難しくなったけどこのままいけば降級することもたぶんないだろうね・・・格別に戦闘力が上がったわけでもなくてね」

 

「じゃあなんで?」

 

「それは君達で見つけなければならない、【小隊としてどう戦うか】をね」

 

オリバーの話の意味は今はまだ分からなかった、しかしこの話は大きなヒントになるだろうとルーク達は思った。

 

「・・・後は彼らと話してみるといいだろう・・・EランクリーグJブロック一位独走中のE108小隊にね!」

 

「「「「「・・・・・なっ!?」」」」」

 

EランクリーグJブロックとはルーク達E128小隊が第一クォーターでエントリーして試合をしているリーグだ、オリバーから現在の自分達のリーグブロックのトップがそこの噴水の前にいる不良(?)集団だという話を聞いてルーク達は驚いた。

 

「あああああっ!!思い出しましたのです!!彼らはルーク君達が第一クォーターの最終戦で試合をするE108小隊なのです!隊員は全員今年二月末に学園浮遊都市《フォノメ》から転入してきた予科二年生で構成され現在Jブロックで九戦全勝の小隊なのですよ!!」

 

突然E108小隊のメンバーを指さして奇声を上げて自分が集めた彼らの情報を言う、今までうっかりしていたようで気付かなかったようだ。

 

「なっ!?転入生!?」

 

「あの人達がですか!?」

 

「というか全員わたし達とたったの一歳違いだった事に驚いたよっ!?」

 

「ピュイ!」

 

驚愕するE128小隊のメンバー、どう見ても圧倒的に年上に見える大男もいるのに自分達のたったの一つ上だと言われれば誰だって驚くだろう。

 

それじゃあ僕達はこれでと言ってこの場を跡にするC140小隊のメンバーを後目にE108小隊のメンバー全員が小隊長らしきリーゼントの少年を先頭にルーク達の方へと歩いて来てルーク達と向かい合った。

 

「おいテメェ」

 

「・・・何だよ?」

 

リーゼントの少年が一歩前へ出て威圧するかのようなドスの効いた口調でルークに話し掛けてきた、重い空気と緊張感が辺りを包み数秒が経つ、そして——————

 

「・・・・テメェ上着の右袖が解れてるじゃないか!?貸してみろ直してやるからよ!」

 

「「「「「・・・・・・はぁ!?」」」」」

 

裁縫(ソーイング)セットを懐から取り出してそう言った為、ルーク達は呆気にとられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————しばらくお待ち下さい———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ名乗ってなかったな、俺はこのE108小隊の小隊長(ヘッド)をやっている《アッシュ・クレイモア》だ」

 

リーゼントの少年・・・アッシュがルークの学生服の上着の右袖を見事な手際で直して自己紹介をした。

 

「んでもってこっちのグラサンの堅物が副小隊長(サブヘッド)の《グライド・ヒースネル》」

 

「よろしく頼む」

 

「こっちのハゲが《カイル・カーネルワイス》で」

 

「ハゲって言うなっ!!」

 

「こっちのガングロパツキンが《キャメロット・ブランジュ》」

 

「自己紹介ウザイけどよろしく」

 

「そしてこっちの【6】大好きのモヒカンのバカが《ロックス・フォーマルハウト》だ」

 

「当たり前だろ!?【6】は最高にイカス数字なんだからよ!あと誰がバカだ誰が!!」

 

自分の小隊のメンバーを紹介するアッシュ、メンバーの反応を見るにアッシュは結構慕われているようだ。

 

「・・・E128小隊のルーク・スカイウィンド」

 

「カナタ・エイジだ、よろしくな」

 

「ロイド・オールウィンです、よろしくお願いします」

 

「初めましてなのです!僕はE128小隊のサポートをしている情報技術科(インフォーム)のギドルト・ストラトスなのです!」

 

「ピュイ!」

 

「E128小隊の小隊長クロエ・セヴェニーです、本日は危ないところを助けていただき本当にありがとうございました!」

 

ルーク達もそれぞれ自己紹介をした。

 

「・・・アンタ裁縫得意なのか?」

 

ルークがアッシュにおもむろに質問をした、そんなに意外だったのだろうか。そしてそれに答えたのは本人ではなく彼の部下達だった。

 

「プッ!そりゃあ意外だよなぁ!」

 

「まぁアッシュみたいなナリだとねぇ」

 

「裁縫だけじゃなくて料理や掃除・洗濯も得意だしな」

 

「おかげでフォノメじゃひと呼んで【女子力のアッちゃん】なんて呼ばれてたんだぜ!」

 

「・・・・・余計なことを言うな」

 

ニヤニヤしながら語る部下達を額に左掌を当てて戒めるアッシュ、彼にとっての黒歴史を暴露した部下達に【後でおぼえてろ】とゆう視線を送って苦笑いをしているルーク達と再び向き合う。

 

「そんなことはどうでもいいだろ、それよりテメェ等俺達と同じJブロックなんだってな、知っているぞ」

 

アッシュは話を無理矢理切り替えた。

 

「テメェ等に言わせてもらうぞ、テメェ等は小隊(チーム)というものをわかっていない!それが分からない限り俺達がテメェ等に負けることは無い!!」

 

「なんだと!?」

 

「・・・・言ってくれるじゃねーか」

 

アッシュ達はルーク達の試合を見ていてその程度では自分達に勝てないと言い放ち、それを聞いたルークとカナタがアッシュを睨む。

 

「宣言させてもらうぞ、この第一クォーターで俺達はEランク戦全勝でDランクに昇級する!最終戦でテメェ等を倒してな!!」

 

アッシュは強気で高らかに宣言した俺達が勝つと。だがそんなことを言われて黙っている程この二人は臆病でないし身を弁えたりしない。

 

「そうかよ・・・ならこっちからも宣言させてもらうぜ!」

 

「へっ!このままいけば俺達と試合する前にアンタ達はDランク昇級が確定するだろーな!ならこう宣言させてもらうぜ!」

 

ルークとカナタはアッシュ達E108小隊に指をビシッと指して息を大きく吸い込む、そして—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「俺達は最終戦でアンタ達をブッ倒してアンタ達のDランク昇級の餞別として敗北をプレゼントしてやるぜっ!!!」」

 

これから先の長いランキング戦においてルーク達のライバルとなる空士達に向かって二人は不敵にそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

クロエ「ミレーユには迷惑掛けちゃったな、今度埋め合わせしなくっちゃね」

カナタ「それはそうとなかなか面白そうな奴等と知り合ったな」

ロイド「個性的すぎる人達ばかりですけどね・・・」

ギドルト「う~ん、でも眠りの森(スリーピングフォレスト)のメンバーを含めてミストガンの上位の空士は皆凄く個性的って聞きますなのですけどね」

ロイド「あれより個性的ってどんな感じなんですか?」

ギドルト「なんでも変な口癖の人とか【砲撃上等系男子】とか色々な人達から怒られそうな他作品キャラのソックリさんとかより取り見取りらしいのです!」

クロエ「何それこの学園浮遊都市大丈夫なのっ!?」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『緊急招集』

クロエ「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

緊急招集

今回オリジナル変異種(キメラ)が出てきたり新たな原作キャラ登場のフラグが立ったりします。

また、この物語にはソラ達を始め多数の他作品キャラに容姿がソックリのオリキャラが出ていますが中身は別人です。

また、他の二次創作小説ではよく登場キャラが仮面ライダーなどに変身したりガンダムなどの巨大ロボットに乗ったりしているのが見られますが、この作品では少なくとも味方側はその様なことはしません(と言っても自分は特撮ヒーローやロボットアニメの知識は無きに等しいから無理なのだが・・・)。

少なくとも味方側の戦力は全員空戦魔導士です。


エクザイル歴四三六年、五月十七日

学園浮遊都市ミストガン地下通路——————

 

時刻は午後一時、道先ずっと左カーブが続く螺旋状でその中央にある空戦魔導士科(ガーディアン)指令センターへと続く道をミストガン最強の小隊であるS45特務小隊・・・通称眠りの森(スリーピングフォレスト)のメンバー五人全員が小隊長であるソラ・グローリーを先頭にぞろぞろと歩いていた。

 

「いきなり緊急の呼び出しとはな・・・どこかのバツ共が何かやらかしたのか?」

 

S45特務小隊の副小隊長であるキリク・リーヴェルトが不機嫌そうに呟く。

 

「まあ行けば解るんじゃないかな・・・指令センターに呼び出した時点で大体察せられるけれど」

 

「アハハハハ!そうだね!」

 

「・・・・まあ、多分魔甲蟲がらみね」

 

空戦魔導士科指令センターとは所謂モニタールームだ、外部映像を複数のモニターに映し出してミストガン全域と近くの空域の様子を知る事ができ、ミストガンに魔甲蟲が近づけばすぐに把握できるのだ。

 

そんなところに呼び出したのだから十中八九魔甲蟲の・・・このミストガンを脅かす存在の話だろうと全員が判断した。

 

「そうやな・・・せやけど今回はたぶん大事やで、なにせワイらだけやのーてAランク小隊トップクラスの小隊長副小隊長数人が招集されとるようやしな」

 

「それはただ事じゃないね」

 

ミストガンの最大戦力は確かにソラ達S45特務小隊だが主力は彼等だけではない、S45小隊が特務小隊(ロイヤルガード)になってから多くの小隊が彼等に追い付こうと必死にその背中を追いかけミストガンの戦力は大幅に向上したのだ、その為Aランク小隊の上位陣はソラ達に匹敵する実力がある。

 

ソラ達全員に招集が掛かっただけでも大事だというのにそのような連中の小隊長副小隊長まで招集があったとなってはただ事ではないだろう。

 

そのような会話をしながら歩いて行くうちに正面に指令センターへの入り口である機械仕掛けの扉の前に到着してその扉が自動で開いた。

 

「来たで~ジョジョ!」

 

「誰がジョジョだ!?それと遅いぞ、他の奴等はとっくに集まっているぜ」

 

ソラ達は入室してソラが指令センターの中央に投影されているミストガン全体の立体映像の前にいた空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)であるジョバンニ・ジョルフィードに気さくに声をかけた、指定した時間に三十分も遅れて来たにもかかわらずおちゃらけた態度なソラに対してジョバンニは呆れた。

 

——————・・・これはまた錚々たるメンツだね。

 

——————フンッ!まあまあマルな連中が集まったな。

 

S45特務小隊のメンバーは入室するやすぐに辺りを見回して集まったメンバーを見てそれぞれ感嘆に思った、予想以上に名のある空士ばかりだったからである。

 

「ん、うまいかスバル?」

 

「クルックー!」

 

「ほっ!ほっ!・・・おっと!」

 

室内右側の段差になっているところを見てみるとそこに腰を掛けて左肩に地上時代に絶滅したマカロニペンギンのトサカの様な黄色い羽根飾りのトサカを持ち翼に雷マークの模様があり身体中から静電気がバリバリと漏れている黒い鳩・・・《サンダーバード》を乗せてそれにポップコーンを食べさせている長身で紫色の天然パーマの髪で垂れ眼のもっさりとした感じの少年と黒髪短髪で雪の結晶のマークが入った青いマフラーをしている何故か六つの小さいアイスキューブでお手玉をしている少年がいた。

 

—————ミストガン最古の小隊《A1小隊》の現在の小隊長《雷帝(サンダーエンペラー)》の《ラディル・アルベイン》とその副小隊長《氷帝(アイスエンペラー)》の《ノイス・マディン》、二つ名の通り【雷】と【氷】の属性変換付与の達人でその他の小隊メンバーも【風】【土】と異なる属性変換付与の戦技が得意で最近は念願の【炎】の変換付与を使う高魔力持ちの予科一年生が入隊したらしいね・・・多少問題がある新人らしいけど・・・。

 

彼等の情報を頭の中で整理するレオ、気の軽そうな二人だが彼等はかなりの手練れだ。

 

「はっ!ふっ!いつでも砲撃を斬れるよう鍛錬は怠らないようにしないとな!」

 

「ステップ!ステップステップッ!!今日も決まってるぜ!ステップッ!!」

 

室内左側の大規模通信結晶を操作するオペレーターの一人がいる席の前の辺りを見てみると中央の白い囲いの中に赤い星のマークが入った赤いスポーツキャップを被り黒い長髪を後頭部の頂点で縛ってポニーテール状にしている長身の少年が他人が聞いたら訳が分からないような事を口走りながら自身の身の丈より数センチ程大きい巨大な出刃包丁の様な形の銀色の魔大剣で素振りをしておりその隣で何故かブレイクダンスをしている平均より少し低身長でヘッドホンをしていて自身のサイズより明らかに大きめのダボダボの学生服を着た少年がいた。

 

—————【魔王すら凌駕する】と言われる《A29小隊》小隊長《魔砲士殺し(バスターキラー)》《テオ・セシル》にその副小隊長で【絶対音感】を持つという《不協和音の響蝶(ディソナンスバタフライ)》《ルーイ・トーイ》か・・・フンッ!まあまあマルだな。

 

彼等を見て頭の中で彼等を評価するキリク、ソラ達には及ばないもののこちらもなかなかの大物だ。

 

「アハハハハッ♪みんな集まっていr「リオスきゅぅぅぅぅんっ!!」んぷ!?」

 

リオスが辺りを見回しながら笑顔を振り撒き小さく手を振っていると突然彼の左から美しい金色の長髪で綺麗な真紅(ルビー)色の瞳のリカにも劣らないプロポーションの少女が興奮しながら危ない眼差しをして駆け寄って来てリオスを抱き上げてその豊満な胸にリオスの顔を埋めさせるように抱きしめた。

 

「リオスきゅん!リオスきゅん!!リオスきゅぅぅぅぅんっ!!!」

 

「んぷーーーーーっ!!」

 

「ちょっ!?リオス!なんっちゅう羨ましい事w痛っ!?」

 

金髪の少女の豊満な胸の中でもがくリオスを見て興奮しながら羨ましがるソラの右足を無言で思いっきり踏みつけるリカ、彼女である自分以外の女に欲情したことに腹が立ったのだろう額に青筋が浮き出ていた。

 

「リオスk「ね・え・さ・ん!」ひっ!?・・・アディア」

 

興奮してリオスを強く抱きしめ続ける金髪の少女の後ろから彼女の右肩にポンッと誰かの手が置かれて声をかけた瞬間、彼女の身体がびくっと強張り彼女がブリキ人形のようにギギギとぎこちなく首を後ろに向けるとそこには彼女と同じ金髪で琥珀(アンバー)色の瞳をした美少年が恐ろしいぐらい笑顔で彼女を威圧していた。

 

「僕言わなかったっけ?リオス先輩が来ても騒いで迷惑を掛けないようにって」

 

「ア、アディア・・・これは「姉さん、あっちで少し語り合おうか」イヤアアアアアアッ!!!」

 

金髪の美少女は手のチカラが緩んだ隙に抜け出したリオスを後目に金髪の美少年に首根っこを掴まれてミストガンの立体映像の物陰に引きずられて行き、その後すぐにそこから断末魔の様な叫び声が聞こえた・・・(合掌)・・・。

 

——————扱いが魔砲剣より難しい《魔錬装器》を扱う為に世界で三人しかいない《魔錬装士》にして《金色の死神(ゴルデンリーパー)》の二つ名を持つ《A16小隊》の小隊長《フェイト・アストレイ》とその弟で副小隊長にして飛行魔術の上位転成技である【カマイタチ】の達人《黄金の牙(ゴルドネファング)》の《アディア・アストレイ》までいるなんて一体何があったっていうのよ?

 

こんなに上位ランカーを招集するなんてただ事ではない、リカはそう思わずにはいられなかった。それもそうだろう、ソラ達ミストガン最強の小隊S45特務小隊に加えてAランク小隊の上位陣の小隊の小隊長副小隊長が三組も招集されたのだ、はっきり言って過剰戦力だ、つまりこれほどの戦力がなければ対処しきれない由々しき事態だと推測できる。

 

恐ろしく厄介な事件が予想される今回の招集、集められたメンバー達に緊張感が————

 

「やっぱり我慢できないっ!リオスきゅぅぅぅぅんっ!!」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

「うほぉ♪」

 

欠片もなかった・・・リオスが驚いて奇声を上げソラが欲情した表情で反応する、なぜなら立体映像の物陰でアディアに折檻されている筈のフェイトが物陰から飛び出して来たからである・・・黒の下着姿で・・・。

 

「リオスk『スパァァァン!』・・・・あ・・・」

 

フェイトがそのような変質者的な恰好で再びリオスに飛びつこうとした瞬間、彼女の右肩の数センチ上を見えない何かが通過してその正面にあった台座の上に置いてあった砂時計が真っ二つに切断されて何が起こったのか察したフェイトは恐怖を感じて立ち止まりギギギと首を後ろに向ける。

 

「まだ懲りていないようだね姉さん、それとその脱ぎ癖を直すよう前から言ってるよね?」

 

そこにはさっきより恐ろしい笑顔をして黒い刀身で銀の刃の魔双剣《スワロウテイル》を携えたアディアがいた、次々と問題を起こす姉にそろそろ我慢の限界のようだ、相当怒っている。

 

「我慢できへんっ!!フェイトちゃぁぁぁん!オッパイ揉ませてーなあああっ!!」

 

しかもフェイトの奇行でただでさえこの場は混乱状態だというのに性欲を制御しきれなくなったソラが恐怖で動けないフェイトにル◯ンダイブを仕掛けようと跳び上がるが————

 

「ふげっ!?」

 

「いい加減にしなさいソラ」

 

リカがすかさず魔術士の宝石箱(マギスフィア)から魔弓ブラッティローズを取り出して魔矢を放ちソラの学生服の後ろ首辺りを引っ掛けてふっ飛ばしソラを柱に貼り付けにした。

 

「・・・・おい!・・・」

 

指令センター内は段々と混沌状態になってきてジョバンニはイライラしてきた・・・。

 

「私の目の前でバツなダンスなどするな!不愉快だ!」

 

「ハッ!何だ?僕の華麗なダンスに嫉妬か!?ステップ!どうせお前はダンスがヘタクソなんだろ!?」

 

「なっ!?・・・いいだろう、貴様のダンスなど私の足下にも及ばないことを教えてくれる!!」

 

あるところではルーイの挑発に乗ったキリクがロボットダンスを始め————

 

「クルックー!」

 

「あああああっ!!?通信結晶が三つショートしたぁぁぁぁっ!!」

 

「ナハハハハハッ!あんまやんちゃすんなよスバル~」

 

ラディルの友であるサンダーバードのスバルが室内中を飛び回ってその体内に溜めてある電気の放電によって指令センターの設備が次々と故障してオペレーター達が騒ぎラディルはポップコーンを食いながら笑ってその光景を傍観し—————

 

「・・・負けるもんか、私のショタっ子への愛はこんなんで負けてたまるものかああああっ!!」

 

「姉さん・・・・・緒が切れる音が聞こえたよ・・・」

 

「ソラ!貴方って人は!いつもいつも!!」

 

「かんにんして~なリカ!」

 

「だああああっ!だめだストレス溜まってきた!どこかにすげぇ砲撃撃てる奴いないか?」

 

「そんなダサイダンスで僕に勝とうなんて百万年早いよ!!ステップッ!!」

 

「負け惜しみはほどほどにするんだなバツめ!」

 

「クルックー!」

 

「ラディルさん!貴方のペットでしょう!?なんとかして下さいよっ!!」

 

「スバルはペットじゃないダチだぞ」

 

「アハハハハッ!!お祭り騒ぎだね!」

 

————————————ブチッ!!

 

「やかましいっ!!鬱陶しいぞこのバカ共っ!!!」

 

収拾がつかないカオスな状態にジョバンニがついにキレて指令センター内に怒声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————しばらくお待ちください———————

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言う、全学園浮遊都市運営会議出席の為に教皇浮遊都市ベベルに出向していた学園統括長が帰りの連絡艇で航行している最中に未確認の新種の《変異種(キメラ)》を伴った魔甲蟲の大群に襲撃にあって亡くなった」

 

「「「「「「なっ!?」」」」」」

 

レオとノイス以外頭にデカいタンコブができているというシュールな光景のせいで緊張感が台無しだが、内容は相当重いものだった。

 

学園統括長とは学園浮遊都市の最高責任者の事である。

 

「後任の学園統括長は六月中に選定してこちらに出向するとベベルから通達があった・・・学園統括長の死は悔やまれるが今は目の前の危機に対処すべきだと判断してお前達を招集した、まずはこれを見ろ」

 

正面の巨大モニターに魔甲蟲の中で最も多い【アルケナル級】の大群勢と緑苔の生えた巨大な胡桃に巨大な口をつけて無数の触手を生やした形状の変異種《キメラ・デネブ》十二体、そしてその中心に超巨大で朱いマンタの様な形状でその身体は堅そうな甲殻で覆われていて更に全身の至る所から無数に砲塔らしき突起がある変異種がいた、それはまるで母艦(マザーシップ)のような圧倒的存在感だ。

 

「なっ!?」

 

「何なんだこいつはっ!?」

 

「・・・初めて見る変異種だな」

 

「それになんて数・・・」

 

予想以上の敵の規模に招集メンバー達は驚愕した。

 

「・・・へぇ、これはまたなかなか戦り甲斐のありそうな奴だ」

 

そんななかでテオは新種の変異種の無数の砲塔を見て不敵な笑みを浮かべてそう漏らす、凄く強力な砲撃を撃ちそうだと思ったのだろう。

 

「・・・始まったよテオの悪い癖が・・・そんなんだから【砲撃上等系男子】なんて呼ばれるんだよステップ」

 

そんなテオを見たルーイが自分の額に左掌を当てて嘆く、この癖の所為で彼は昔から碌な目に遭っていないのだ。

 

「こいつは《キメラ・カペラ》と呼ぶこととなった、こいつらは今このミストガンを中心として螺旋の軌道を描きながらここに近づいて来ている為間違いなくここを標的にしていやがるのが分かる、近いうちに襲撃してくると見て間違いねぇだろう、そこで防衛部隊の編制の為にお前達を招集させてもらったわけだ」

 

ジョバンニが今回の招集の訳を説明した、するとキリクが納得いかないような表情で口を開いた。

 

「貴様にしてはバツな対応だな、敵の居所が解っているのならこちらから仕掛けた方が遥かに効率的だ、違うか?」

 

キリクの言う事はもっともだ、わざわざ敵が準備を整えて攻めて来るのを黙って待っているよりも準備が整う前にこちらから出向き包囲して一気に潰した方が合理的だろう。しかしジョバンニは気難しい表情でそれに答える。

 

「・・・普通ならそうなんだが最近変異種が高い知性を持っているという情報が入った、全戦力で迎え撃っている間に別動隊がミストガンに攻め込んで来る可能性も否定できねぇ、それに包囲しても潰せないで消耗するだけの可能性の方が高けぇ・・・何故ならこの大群勢の数は——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————ざっと約十万だからだ」

 

「「「「「「なっ!!?」」」」」」

 

ジョバンニの口から明かされた敵の規模に一同は絶句する、彼等は全員魔甲蟲の群とは幾度も交戦した百戦錬磨の空士ばかりだがここまでの規模の大群勢は今まで見たことが無いからだ。

 

「俺は下手に打って出て行って消耗するよりここで万全な態勢を整えて迎え撃つ方が勝つ可能性が高いと視て防衛部隊を編成する事にした、その編成についてお前達の役割を説明する」

 

ジョバンニは毅然とした態度で説明しだした。

 

「ラディル・アルベイン、ノイス・マディン、テオ・セシル、ルーイ・トーイ、フェイト・アストレイ、アディア・アストレイ、以上六名は敵群襲撃時にそれぞれ自分の小隊の部下を除いたA~Bランク小隊の混成部隊を率いてミストガン手前の空域で迎撃してもらう」

 

「ちょっと待ってください!何故自分達の部下は除くんですか!?」

 

アディアが疑問を言う、連携し慣れた自分の部下達を中心に連携した方が遥かに効率がいいからだ。

 

「それについては今から説明する、グローリー達S45特務小隊はアルベイン達の部下達とC~Dランク小隊の混成部隊を率いて各市街地に展開して待機し侵入を許してしまった場合に備えてもらう」

 

「・・・成程、万が一の時の為に戦力は残しておくという事か」

 

「そういう事だ、第一優先は敵を駆逐する事じゃねぇ、ミストガンを護る事だぜ」

 

戦力を残しておくというのは防衛戦において基本中の基本だ、魔甲蟲と戦うことがこの世界の空戦魔導士の存在意義だがその前に浮遊都市の守護者であるということをジョバンニは忘れてはいなかった。

 

「俺達はなんとしてでもこのミストガンを護る!この前の連続拉致事件のような犠牲者はもうださねぇっ!!いいなっ!!!」

 

「「「「「「了解っ!!!」」」」」」

 

皆の想いは一つ、この戦いに勝利してミストガンを護る事、ミストガンの猛者達は確固たる決意を胸にここに誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区郊外—————————

 

「十万の魔甲蟲の大群な・・・まあどうとでもなる範囲やな」

 

日もすっかり暮れて満天の星空が見下ろす中、ソラは一人で散歩をしていた。

 

—————そんだけの数がおろうともワイは墜とされへん自信はある・・・せやけど間違いなく時間が掛かるやろうな・・・そないな間に多少の犠牲が・・・。

 

ジョバンニが出した魔甲蟲の大群勢討伐の策の事をソラは納得していなかった、確かに勝てる確率は防衛戦の方が高いかもしれないが犠牲者を出さずに討伐するならばやはり打って出て行った方がいいと個人的にはそう思ったからだ。それを成し遂げるだけの自信がソラにはある、だがやはり敵の数が多すぎる為にミストガン内部で戦闘をしたら犠牲者が出る可能性がある事を懸念してしまうのだ。

 

「・・・・・ん?」

 

ソラはそんな事を考えながら高さ約50mぐらいの抗呪素材(アンチカーズ)製のドーム壁の前を通りかかったところでその向こう側から何かの音が聞こえてきた。

 

——————こないな時間にこんなとこで誰が何をやっとるんやろか?

 

気になったソラはドーム壁の向こう側に通じるドアから向こう側のエリアに足を運ぶ、そこでソラが目にしたのはそのエリアの下層にて筒状の物体がある場所から約10m離れた位置に白い布で目隠しをし耳栓をして立つルークの姿だった。

 

「・・・あれは、あの時ワイがボウズに教えた・・・」

 

ソラがそう呟いた瞬間、筒状の物体の中から掌サイズの十個のカラーボールが発砲音と共に上に打ち上げられた。さっきの音はこの発砲音だったのだろう、そしてその瞬間にルークも動き出し万有引力の法則にしたがって落下してくるカラーボールを目隠しをしているにもかかわらず寸分の狂いも無く次々とキャッチして行き一つも地面に落とすこともなく十個のカラーボールを全てキャッチし終えた。

 

「絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)を鍛える為の基本訓練法・・・やっぱまだ個人のチカラ不足やと思っとるんやなボウズ・・・」

 

このエリアの入り口付近から下層で一人自主練をするルークを見下ろしてそう呟くソラ、ルークは昔から負けたり失敗したりすると自らなにがいけなかったのかを模索して自主練を繰り返すというやり方でやってきたということをソラは知っている。

 

「せやけど今回はそれやとアカンでボウズ・・・小隊というのを理解せえへんとランキング戦は勝てへんで・・・」

 

小隊戦で大切なのはチームワーク、ミストガンに来るまでずっと一人で自分を鍛え続けていたルークがそれになかなか気づかないのも無理はなかった。

 

ソラはこれ以上邪魔するのも野暮かと思いこの場を立ち去ろうとしたその時。

 

「諦めねぇ・・・」

 

ルークが呟いたその言葉を聞いてソラは立ち止まる。

 

「次は絶対に勝ってやる!今までに負けた奴等にも絶対いつかリベンジしてやる!俺は・・・負けねぇっ!!」

 

今度は球数を二十に増やして凄まじい気迫でカラーボールをキャッチして行くルーク、それはまるで全てを吹き飛ばす暴風を錯覚させるような気迫で自主練を続けていた。

 

「・・・・ハッ!そういえばボウズがワイに魔蹴術を教えてくれと言うてきた時もこないな夜空やったな」

 

ソラはルークの自主練をしている姿を見て昔の事を思い出していた。

 

そう、あれは五年前の事だ・・・。

 

 

 

 




次回予告

ジョバンニ「まったくあのバカ共は自重するって言葉を知らないのか?」

フロン「確かに困ったものです、彼等には上位ランクの空士としての自覚が足らないと思います」

ジョバンニ「・・・素で話しても構わねぇぞフラメル」

フロン「・・・貴方も自分の立場を自覚したらどう?そんな事じゃ部下達が自重しなくても仕方がないわね」

ジョバンニ「・・・・・」

フロン「それに貴方だって昔は素行が悪い不良だったじゃないの」

ジョバンニ「昔の事はいいだろうが・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『翼の道への出発点(スターティングウィングロード)』

ジョバンニ「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

翼の道への出発点(スターティングウィングロード)

数週間前から落第騎士の英雄譚の二次創作小説《運命を覆す伐刀者》の投稿を始めました。

この空戦情熱と共々応援よろしくお願いします!


浮遊都市イーストスラム・・・。

 

世界の南東の空域を飛行するこの浮遊都市は都市と言うには小さくて人口も約四千人と少ない。

 

また、都市内の建物は全体的に草臥れており古めかしく都市の中心には工場である高さ800mの鉄塔が聳え立ち塔の天辺から空気を汚染する排気ガスを排出していて空気が悪い。

 

治安も非常に悪く都市内にはゴロツキやチンピラが多く徘徊し毎日乱闘や暴行や窃盗などの事件が絶えない。

 

警備や防衛の空戦魔導士も殆ど配備されておらずまるで世界から見捨てられたかのような浮遊都市である為にこの浮遊都市は別名【荒廃浮遊都市】と呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三一年、八月一日

浮遊都市イーストスラム中央大工場地上780m地点外壁———————

 

工場である鉄塔の頂上にある煙突数本より排気ガスが噴出し空気は汚染されているがこの日は天気が良く空は鮮やかな蒼穹で彩られていた。

 

「ほっ!はっ!・・・もう少し・・・」

 

そんな蒼空の下で必死に鉄塔の外壁をよじ登る奇抜な髪型の幼き少年がいた、当時八歳のルーク・スカイウィンドである。

 

彼は生まれた時から空に憧れを抱いていた、少しでもこの大空に近づこうとこうやってイーストスラムで一番高い建物である中央大工場の外壁を無断で登ったのも一度や二度ではなく何度も人の目を盗んでは鉄塔をよじ登って蒼穹の大空を目指していた。

 

ルークは六歳の頃に飛行魔術は習得済みなのだが、このイーストスラムが荒廃浮遊都市と呼ばれる程の無法地帯だからといって許可も無く飛行魔術で空を飛ぶ事は禁止されている、それでもルークは大空に対する情熱を抑える事ができずにこうやって空に近づこうとするのだった。

 

「あと少s「GRYUUUUUUUUUUーッ!!」・・・・へ?」

 

ルークが鉄塔の頂上が見える位置まで登ったその時、突如後ろから空気が震える程の咆哮が聞こえた。絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)を持つルークはその咆哮を放った存在の事を正確に感じ取り場所を特定することは容易かった・・・真後ろだ・・・。

 

「・・・・・・・マジか?・・・」

 

そこには真っ赤な羽毛で全高20m以上はある大きな体躯で猛禽の鋭い瞳と爪を有している存在・・・巨怪鳥(ガルダ)が巨大な翼をはためかせて滞空し獲物を狙う様にルークを睨みつけていた。

 

なぜこんなところにと思うルークだったが巨怪鳥には幾つかの性質がありその一つが浮遊都市に卵を産み付けるというものがある、恐らくこいつはこの鉄塔に卵を産み付けようとしたところにルークという邪魔者がいたので怒ったのだろう。

 

「こりゃやばi「ピュ・・・ピュイ・・・」・・・ん?」

 

巨怪鳥をどうやり過ごそうかと思ったらいつの間にかルークの右手の甲の上にシロハヤブサの雛が震えながら留まっていた。

 

「・・・狙われていんのはコイツか・・・どうしたもんか・・・」

 

「ピュ・・・」

 

「心配すんな、お前を囮にして逃げようなんて考えちゃいねぇよ」

 

「ピュイ」

 

「ピィィィィィッ!」

 

「・・・・けどこれは・・・やべぇな・・・」

 

怯えるシロハヤブサの雛を宥めるルークだが内心かなり焦っていた、ルークはまだ自分の魔装錬金(ミスリル)武装は所持しておらず、しかも今は鉄塔の外壁の僅かな窪みに足や手を引っ掛けながらウォールクライミングをしている体勢なので身動きが制限されているためにこれでは逃げる事も反撃することもできない、絶体絶命だ。

 

「ピィィィィィィィッ!!」

 

「うああああああああっ!!」

 

巨怪鳥は鋭い足の鉤爪をルークの背中に向けてルークに襲いかかる—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に見た光景はルークの眼に強く焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技————————————突空崩撃(エアリアルインパクト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に右からフード付きパーカーを着てフードを被り翼の様な装飾の魔装靴を履いた糸目の少年が飛行魔術を使い弾丸のような速度ですっ飛んで来て金剛石粉砕級の踏みつけ蹴りを巨怪鳥に叩き込んだ。

 

「グピィィィィィィィイッ!!?」

 

「ワイの弟分になにさらすんねん阿呆鳥がっ!!」

 

戦技がクリーンヒットして気を失った巨怪鳥が落下して行く・・・この少年こそが近い将来空の王(アトモス)の二つ名で有名になる当時十二歳のソラ・グローリーだった。

 

——————凄ぇ・・・あんなデケェ鳥を一撃で・・・。

 

ルークは目の前の空の守護者の卵が大空を制する様に呆気にとられると同時に魅入った、まるで鷹ですら敵うことのない気高き風の様だとルークは思った。

 

「ふぅ、大事無いかボウズ?ホンマ毎度毎度こないなとこに登りおってリカがカンカンやで、ゲンコツの一発は覚悟しとくんやな」

 

「あ・・・ああ」

 

「ん?なんやねんボウズ鳩が電磁加速銃(レールガン)くらったかの様なツラして」

 

「いやそれ木っ端微塵になるよなソラ兄!?」

 

「ナハハハハハッ!まあ細かいこと気にすんなさかい比喩表現と言うやつやねんシケたツラすんな言うとるんやでボウズ」

 

「余計なお世話だ!それよりソラ兄、飛行魔術使用の許可は貰ったn「そこの幼年学生!飛行魔術の無断使用により拘束する!おとなしくお縄につきなさいっ!!」・・・ソラ兄っ!?」

 

「やばっ!?都市警備のおっちゃんや!逃げるでボウズ!!」

 

「ちょっ!?ソラ兄!?」

 

「ピュイ!」

 

先ほどソラが来た方角の空からイーストスラム都市警備隊のベテラン空戦魔導士がソラの方に向かって来た、つまりソラが飛行魔術を断りもなしに無断使用した為にソラを追って来たのである。

 

ソラはシロハヤブサの雛を抱きかかえているルークの右腕を引っ張ってそのまま猛スピードで逃げ出した。

 

その後ルークとソラは都市警備隊に怒られて厳重注意されイーストスラム東区の自宅に帰宅したらルークの姉で唯一の肉親である当時十二歳のリカ・スカイウィンドに叱られて散々な目に遭うルークとソラ、だがルークはこの日に将来最強の空戦魔導士になる夢を抱いた、そしてソラと同じ魔蹴闘士になろうと決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イーストスラム東区、ジャンク広場———————

 

街の光が消える真夜中の時間帯、排気ガスによって空気が汚染されている為に夜天には三日月と朱い星が一つだけしか無く他の星が全く見えなくて寂しい感じがした、更にこの場所はあちらこちらにジャンク品の山があり潤滑油の鼻に付く臭いが相まってかなり殺風景だ。

 

「・・・来たんかボウズ・・・待っとったで」

 

「ソラ兄・・・」

 

そんな機械の修理・改造好きな機械技師しか来ないような場所に二つの小さな影があった・・・ルークとソラである、ソラがこの広場の中央の一番高いジャンク山の天辺に腰を掛けて座りルークがそのジャンク山の後ろでソラの背中を見上げていた。

 

ルークはリカが深い眠りにつくのを見計らって自宅を抜け出して来ていつもこの時間帯にこの場所にいるソラに会いに来たのである・・・魔蹴術を教授してもらうのを頼む為に。

 

「よっと!」

 

ソラは立ち上がってルークの方に振り返り眼を見開いてルークを見下ろした。

 

殺風景なジャンク広場に静かな一陣の風が吹いた、三日月を背景にジャンク山の上に立って見下ろすソラの姿は十二歳という幼い年齢にも関わらず王者の風格を感じさせた。

 

「用は分かっとるで、学びたいんやろ魔蹴術を?」

 

「・・・・・ああ」

 

ソラの問いにルークは頷いた、それを聞いたソラは鋭い眼光でルークに問いかけた。

 

「なら、なんの為に魔蹴術を習得したいん?答えてみいボウズ、ワイが納得いく答えやないと拒否させてもらうで、見込みのない奴鍛えてもしゃーないし時間のムダやしな・・・」

 

するとルークはソラを真っ直ぐな眼で見てチカラ強く答える。

 

「世界最高にして最強の空戦魔導士になりたいからだ!今日、巨怪鳥を一撃で倒すソラ兄を見て夢を抱いたんだ!この大空のテッペンを目指したいとっ!!」

 

「・・・そんで?どないな理由でそんな夢抱いたん?聞かせてみい」

 

冷ややかな鋭い眼光でその理由を求めるソラ、ソラは今試しているのだ、ルーク・スカイウィンドという一人の少年が自分が魔蹴術を教えるに値するかを・・・・・静寂な間が緊張感を漂わせていてもう一度一陣の風が吹いてそれが静まった時、ルークの口が開いた。

 

「ソラ兄・・・—————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————夢を抱く事に大層な理由が必要?夢を抱く事そのものが大切なんだろうが!!」

 

ソラは呆気にとられた、灼熱の様な眼差しで真っ直ぐ自分と目を合わせてそんな普通の人間からしたらブッ飛んだ答えを言ったからだ、にも関わらずルークはその続きを言い放つ。

 

「何かに憧れ何かを夢見る、夢を抱いた瞬間が【原点】だ!後はその夢への翼の道(ウィングロード)を翔け抜けていくだけ!———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————夢を目指す為に魔蹴術を習得したい、それが俺の理由だっ!!!」

 

ルークはこの大空への情熱を乗せてソラにぶつけるように言い放った。

 

先の事をまるで考えていない突拍子が無くて滅茶苦茶な理由だ、普通の感性の人間なら【ふざけるなっ!!】と激怒するところだろう・・・だがソラは—————

 

「・・・プッ!ギャハハハハハハハハハッ!!!」

 

眼から涙を大量に飛び散らせる程大爆笑した。

 

「ギャハハハハハハッ!!ええわええわ最高やで!!ガキらしくてド正直な自分勝手な理由やないか!!ギャハハハハハハハハハッ!!!」

 

「笑い過ぎだろソラ兄っ!?」

 

ジャンク山の天辺で四つん這いになってジャンク品の足場を片手でバンバンぶっ叩きながら大爆笑するソラ、さっきの王者の風格はどこへやら・・・。

 

「スマンスマン、せやけどホンマに良かったわボウズ!もし【世界を護りたい】やとか【正義の為に悪と戦う】やなんてふざけたこと言うたら唾ぶっかけとったで!」

 

「?」

 

ソラの言った事が意味不明で首をかしげるルーク、今ソラが言った理由の例えは傍から見れば大変立派な理由だ、しかしソラはそれを否定する。

 

「ガキがそないな大層な事言う時はな、大抵大人共を見て真似しとるだけやねん、そうやなくても世界だの正義だの護るだの何も理解してへんガキの癖に綺麗事並べるだけのつまらんガキに教える事なんてあらへんわ!」

 

ソラの言う事も一理ある、まだ人生の四分の一すら生きていない八歳児がそんな大層な事を言ったって意味を理解しているわけが無い、何故ならそういう考えに至るのはこの長い人生の中で様々な人間と交流し色々な事を経験し続けて【世界】を知り【自分の正義】というものを見つけていき【自分が護りたい大切なもの】を理解するからだ。

 

「ガキの真の原動力っちゅうのは【夢】やねん!これはなにも知らへんでも上を目指して飛んで行ける【翼】やさかいガキが持つもっともゴツイ想いとチカラやで!」

 

【夢】、それは何も知らない子供がもっとも強い想いを抱けるものだ、何かを護るなどの責任感を持つ事ではないのだ。

 

「・・・じゃあ!」

 

それを聞いたルークは期待を高める、ソラの答えは当然————

 

「合格やボウズ!!そのデッカイ夢手助けしたるわ!!」

 

それを聞いたルークは歓喜の声を上げてガッツポーズをして喜んだ。

 

この約半年後にソラとリカはイーストスラムを離れて学園浮遊都市ミストガンの空戦魔導士科(ガーディアン)へと入学して四年間の間に名を上げていき、ルークはその間にソラに教えられた魔蹴術を磨いていきソラとリカの後を追ってミストガンの空戦魔導士科へと入学した。

 

これがルークの《翼の道への出発点(スターティングウィングロード)》だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクザイル歴四三六年、五月十八日

学園浮遊都市ミストガン、闘技場———————

 

『試合終了ーーーーーーーっ!!この試合を制したのはE119小隊!!それも自分達は一人も撃墜されずに対戦相手であるE128小隊全員を撃墜という完全試合(パーフェクトゲーム)!!一方E128小隊はこれで十連敗!身の程を知ったかルーキー共!!これがランキング戦DA★ZE!!』

 

「・・・・・また負けやな・・・」

 

「ええ、まったく・・・まだ解ってないみたいねあの子達」

 

ランキング戦EランクリーグJブロック第十戦目第七試合E128小隊VSE119小隊、試合結果・・・E119小隊の完全試合。

 

闘技場フィールド内で倒れて気を失っているルーク達E128小隊のメンバーが担架で運ばれて行く様を東側観客スタンド四階から見下ろしているソラとリカはルーク達の不甲斐無さに溜息を吐いた。

 

経験不足なルーク達はC140小隊小隊長のオリバー・ヒューイックに言われた【小隊としてどう戦うか】というのをまだ理解できていなかった。E128小隊とC140小隊との決定的な違いは豊富な経験を持つ本科生がいるかいないかだ、ルーク達128小隊のメンバーは全員新人である予科一年生である為に【小隊戦】の経験が不足しているのだ、故に今回の試合もルークとカナタが個人戦闘(スタンドプレー)をして分断されE119小隊が三人という自分達よりも少ない人数であるにも関わらず各個撃破されたのであった。

 

「・・・・なあリカ?」

 

「ん?」

 

「ワイらは立場上ボウズ達を贔屓して教えてやることはできへんけど・・・ヒントをくれてやるぐらいはええんやないか?」

 

「・・・はぁ、まったくしょうがない子達ね、で?何をするの?」

 

ルーク達の不甲斐無さを見兼ねたソラはリカにルーク達の手助けをする為の提案をした、ソラは見込みの無い人間は例え自分の弟分であろうと見捨てるのだが逆に見込みの有る人間にはとことん入れ込み手助けしてやりたくなる差別的なお人好しなのだ。つまりE128小隊はこのまま潰れるのは惜しいと思ったからそういう提案をしたのだ。

 

「ふっ、それは明日のお楽しみやな、リカにも手伝ってもらうで!」

 

「元からそのつもりよ、貴方だけに任せられるわけないじゃない」

 

「酷っ!?」

 

斯くしてソラとリカによる【E128小隊救済作戦】は明日決行される事となった。

 

果たしてその内容とは何か?そしてルーク達は自分達の小隊としての戦い方を見つける事ができるのだろうか?全ては明日ソラ達がやる事でルーク達が気付くかどうかに懸かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

リカ「で?一体何をする気なのソラ?」

ソラ「そやな・・・まずボウズ共を誘ってメシでも食いにでも行こか」

リカ「うんうん」

ソラ「そんでウェイトレスの姉ちゃんのケツの柔らかさを確かめるんや」

リカ「うんうn・・・え?」

ソラ「グヘヘヘヘヘ!この前行ったレストランにいいケツをした姉ちゃんがおったんでどんな触り心地か気になったしな!こりゃあ是非とも確かめに行かんと!」

リカ「真・面・目・に・か・ん・が・え・ん・かいっ!!」

ソラ「ウボァアアアアッ!?」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『ソラとリカの誘い』

ソラ「翔け抜けい!最強への翼の道(ウィングロード)!!」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ソラとリカの誘い

時系列がカナタ達が予科一年生の頃だから128小隊にユーリ(ツッコミ役)が不在な所為でクロエのツッコミキャラ化がすっかり定着してしまったな・・・。


エクザイル歴四三六年、五月十九日

更衣棟、マッサージ室———————

 

「あ”~生き返る~」

 

診療用のベッドの上に上半身裸でうつ伏せになるルークとルークをマッサージするカナタ。

 

現在時刻は午後五時三十分、小隊訓練を終えたE128小隊のメンバー達は疲れを取る為にこのマッサージ室で《医療医学科(メディスン)》の学生にマッサージを頼もうとしたのだが、生憎運が悪く医療医学科の学生達は研究発表会の真っ最中である為全員出払っていたので仕方なくカナタがメンバー全員をマッサージすることとなった。

 

「お前何でもできるんだなカナタ、この前の料理実習で作製してたマロンケーキもなかなか美味かったし」

 

「そりゃどうも」

 

空戦での戦術眼に勉学・書類作成・料理・メンタルケアとこいつにできない事は無いんじゃないかと思わせる程多芸なカナタを絶賛するルーク、無尽蔵の体力と不屈の心だけしか取り柄の無いルークとは大違いである。

 

「おしっ!こんなもんか」

 

「あ”~生き返ったぜ」

 

「カナタ、次わたしの番ね」

 

「はいよ」

 

隣のベッドの上に白いレオタード姿でうつ伏せになっているクロエがカナタを呼んでカナタはクロエのマッサージに取り掛かった。

 

しばらく寛いでいるとマッサージ室の出入り口からソラとリカが入室して来て———

 

「よっ!ボウズ共!夕飯食いに行かへんか?」

 

とソラが誘いの言葉を言った。

 

しかもソラ達の奢りだと言うのでルーク達は喜んで誘いに乗ろうとしたがクロエは悪いと思って断ろうとするのだが————

 

「あら?先輩の好意を無下にするっていうの?」

 

とリカが意地悪な笑みでそう言うので仕方なく誘いに乗って夕食を食べに行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区、レストラン通り、レストラン【ブルームスティック】————

 

この店は主に洋食中心のメニューで中でも人気なのが【レインボーチーズハンバーグ】とかいう七色のチーズが乗った異様なハンバーグ定食であり、これを見たクロエが————

 

「七色のチーズって何!?不気味だよ!」

 

とツッコんでいたがこれはチーズに様々な野菜と果物が混ぜ合わされた特殊なチーズであり多くのビタミンを摂取できる健康的なチーズであり尚且つ普通のチーズと味が変わらないので非常に人気が高いのである。

 

・・・・・それはさておき————

 

「キャアアアアッ!?」

 

「うほぉ!ええのぉ!やっぱピチピチウェイトレスのケツはプリプリしてて最高やで~」

 

「行く先々でセクハラしているんじゃないわよ!!」

 

「ぐほっおおっ!!」

 

「行く先々って・・・」

 

「ソラ兄、まだそのセクハラ癖治ってなかったのか・・・」

 

ルーク達が座っている席の近くを通りかかった若いウェイトレスの尻を通路側に座っていたソラが手を伸ばして撫で回したので怒ったリカがソラの顎に強烈なアッパーをくらわせてノックアウト、そんな光景にルーク達は呆れる以外になかった。

 

ちなみにソラが今頭に被っているのはいつものゴーグル付きの革の被り物ではなくスポーツキャップである。

 

「さ、お馬鹿なソラはほっといてオーダーをとりましょ」

 

そのまま気にせず何事もなかったかの様にメニューを決めるリカに苦笑いをしながらも頼むメニューを決めていくルーク達。そんな中でルークがストロベリークリームショートケーキをデザートに注文しようとしたらリカが苦い表情をしてルークにケチをつける。

 

「ルーク、私の目の前で苺を食べるなってあれほど言っているのに」

 

「リカ姉の言いつけでもこれだけは譲るつもりはねぇよ、苺を見たら死ぬとかならともかく、昔のトラウマで嫌いだってだけで遠慮して自分の好物を食わないなんて馬鹿馬鹿しいからな」

 

お互いに言った言葉が癪に障ったルークとリカは鋭い眼をして睨み合う、一触即発の雰囲気だ。

 

「いい、ルーク?あの忌々しい赤い悪魔の実で作られたジャムはがんになりやすい危険な物なのよ、汚らわしい」

 

「それはリンゴから作られたイチゴジャムの話だろ?食品添加物じゃねぇか!苺関係ねぇよ!」

 

「それに口の中に入れてかじった時に出るブツブツが沢山混じった汁!気色悪いったらありはしないわ!」

 

「それがいいんじゃねぇか!濃厚な甘い果汁の中のブツブツを噛み潰した時のあの感触がたまんねぇんだ!」

 

「一体それのどこがいいのよ?」

 

「リカ姉はこの良さがわからねぇなんて人生損してるぜ!」

 

「そんなのわからなくたって生きていけるわ!」

 

くだらない口喧嘩をするルークとリカにカナタ達は呆れる。

 

「・・・苺になんのトラウマがあるんだ?」

 

「ああ、そらな」

 

「うおっ!?いつ生き返ったんだアンタ?」

 

「死んどらんわいっ!」

 

リカの異常なまでの苺嫌いに疑問を抱いていたカナタにいつの間にか復活していたソラは答えようとしたら的外れな事を言われたのでツッコんでから語り始める。

 

「五年と半年前のミストガンに来る前のひよっこ時代の話やけどな、イーストスラムの最南東にビニールハウスの農園があってな、ある日ワイとリカとボウズはその農園の所有者のおっちゃんに苺狩りに誘わせて行ったんやが・・・ぷっ!」

 

「「「「??」」」」

 

昔の思い出を語るソラは突然思い出し笑いをしたのでカナタ達は突然何だと首を傾げる。

 

「苺狩りをしとる最中にリカは毛虫付きの苺を取って【きゃあああっ!!】言うてそこから逃げ出してな、ぷぷぷぷっ!走って段差につまずいてズッコケて集めた苺が入ったバケツに顔から突っ込んで顔面潰れた苺の汁塗れになってもうて大泣きしたんやで!ギャハハハ!それ以来リカは苺を見る度に蕁麻疹がでる程のトラウマにギャハハハハハハッ!!」

 

「人の黒歴史を勝手に話すな!」

 

「ぐほぉっ!?」

 

リカは本人の許可も無く自分の黒歴史を語ったソラに怒りの鉄拳をかまして、カナタ達はしょうもない理由だなと思った。

 

そんなところに赤い星のマークが入った赤いスポーツキャップを被った長身で黒髪を後頭部頂点で縛ってポニーテールにしている男子生徒がレストランの入り口から入って来てこちらに近づいてきた。

 

「来たぞソラ」

 

「おう!よお来たな!」

 

「遅いわよ、何してたの」

 

この男子生徒を呼んだのはソラとリカのようだ、ルーク達が知らない男子生徒だったので誰だと思ったルーク達だがギドルトは————

 

——————あれ?この人どこかで見た事があるような気がするのです。

 

と思い必死に思い出そうとしていた。

 

「最近砲撃を斬る機会がなくてストレスが溜まっていたからフェイトに頼んで砲撃を撃ってもらってそれを斬ってストレス解消してたんだが・・・はぁ、フェイトの雷光魔砲(サンダーレイジ)じゃ物足りないな・・・」

 

「貴方ねぇ・・・」

 

—————砲撃を斬るってもしかして!

 

「あの、ひょっとして【A29小隊】小隊長の【テオ・セシル】先輩なのですか?」

 

ギドルトは男子生徒にそう尋ねた。

 

「ん?ああそうだが・・・」

 

「やっぱり!」

 

「知ってるのギドルト?」

 

男子生徒・・・テオの事を知っていたギドルトにそう質問するクロエ、クロエはランキング戦初戦の後でギドルトに【僕のことも呼び捨てで呼んでくださいなのです!】とお願いされたのでそれ以来ギドルトの事を呼び捨てで呼ぶようになった。

 

「テオ先輩はAランクトップ3の小隊の一つの【A29小隊】小隊長なのです、テオ先輩は砲撃を斬るのが大好きな変z・・・凄い人で先輩の代名詞である戦技《魔砲斬り(バスタースラッシュ)》は砲撃魔術は勿論魔甲蟲が放つ呪力砲撃すら斬り裂く事から【魔砲士殺し(バスターキラー)】と呼ばれていて、過去に一対魔砲士五十人の変則マッチをやって無傷で魔砲士五十人を撃墜したという伝説を創り、更にミストガン最強は勿論ソラ先輩達S45特務小隊なのですがミストガン最強の空士となるとテオ先輩はソラ先輩に次ぐナンバー2の実力を持つ凄い空士なのです」

 

「この人が・・・ミストガンナンバー2!?」

 

ギドルトが話した事に驚くクロエ、つまり今ルーク達の目の前にはミストガンのトップ2の空士が揃っているということだ、驚くのも無理はないだろう。

 

「ははは!なんかむずがゆいな、で?こいつ等がお前が言っていた後輩達か?」

 

「そうやで、おもろそうなガキ共やろ?」

 

「ほう・・・・・ん!?」

 

「え!?・・・わたし?何でしょうか?・・・」

 

テオはルーク達と一人一人目を合わせていき、クロエと目を合わせるとしばらくクロエを見つめる。

 

「・・・・・ひょっとしてお前、魔砲士か?」

 

「えっ!?・・・は、はいそうですけど・・・」

 

「お!やっぱりか!魔砲士が醸し出す魔力を感じたんだよ!」

 

「ひゃっ!?」

 

クロエが魔砲士だとわかった瞬間にテオは嬉しそうな表情をしてクロエの顔の数センチ前にズイッと顔を近づけて興奮しながらクロエに話し続ける。

 

「お前名前は?」

 

「ク・・・クロエ・セヴェニーです・・・」

 

——————ち、近い近い!!

 

「クロエか!覚えたぞ!よろしくな!お前は将来俺が満足できそうな砲撃を撃つような予感がするから頑張ってトップクラスの魔砲士になってくれよ!そして将来俺にお前の最強の砲撃を斬らせてくれ!それかr「顔近いんじゃボケェッ!!」ふごぅっ!?」

 

数センチで口付けしてしまいそうな危ない距離で興奮しながらクロエに迫って話すテオをソラが横からどついて止めた。

 

「なにをするんだソラ!?」

 

「じゃかあしいっ!クロエちゃん怯えとるやないか!セクハラやでそれ!」

 

ソラの言葉に全員満場一致で【お前が言うな!】と思っていた、日頃の行いが悪い所為である。

 

「そんなんやからお前は【砲撃上等系男子】なんて呼ばれんのやで!?ちったあ自重せいやぁ!」

 

「お前に自重とか言われたくないな【セクハラ大魔王】!」

 

「なんやて砲斬り侍が!」

 

「うるさいぞ性犯罪者予備軍が!」

 

「「ガルルルルルルッ!!」」

 

さっきのルークとリカの口喧嘩よりくだらない喧嘩をするソラとテオ、後輩達が見ている中でそんなことをしている二人を見てリカは自分の額に掌を当てて何やってんのよと思い溜息を吐き、ルーク達は呆気にとられていた、先輩としての威厳が台無しである。

 

「・・・で?そろそろ本題に入ったらどうだ?」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

そんななかで突然カナタがリカにそう言ったのでルーク達は驚いた。

 

「マッサージ室で俺達を誘った時に平然を装っていたが眼が真剣だった、他の小隊の小隊長まで呼んでなんか俺達に用があるんじゃないか?」

 

「・・・・ランキング戦を見た時から思っていたけれどなかなか鋭い子ね・・・」

 

カナタの感の良さに感嘆とするリカ、そして喧嘩をしていたソラとテオが喧嘩をやめて席に座り本題に今日ルーク達を誘った訳を話し出す。

 

「まずテオを呼んだんはコイツが《競技活動連合》の一員でもあるからでな、審判をしてもらう為やな」

 

「「「「「審判?」」」」」

 

【競技活動連合】通称《競活連》はスポーツの大会などを取り仕切る組織である、その一員であるテオを呼んだのは審判をしてもらう為だと意味不明な事をソラが言うので疑問に思うルーク達にソラは話の本題を切り出した。

 

「なあボウズ共、ある競技でワイとリカと勝負せえへんか?ボウズ共が勝ったらランキング戦が勝てへん訳教えたるわ!」

 

「「「「「・・・・・・ええええええええっ!!?」」」」」

 

ソラが出した突拍子もない提案ととんでもない条件に驚いて叫んでしまったE128小隊のメンバー達であった。

 

果たしてソラ達の思惑とは?そしてなんの競技をしようとしているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

リカ「それにしてもテオ、よくあの変態ショタコン(フェイト)が貴方の趣味に付き合ったわね?」

ソラ「ああ、それワイも気になったわ」

テオ「・・・実は偶然にも人気少年アイドルグループ《サイクロンボーイズ》の握手会のチケットが手に入ったんだ・・・」

リカ「それって各浮遊都市を股にかけて活動する十四歳以下の構成のアイドルグループの事?」

テオ「そうだ、俺には不必要な物だったからサイクロンボーイズの熱狂的な大ファンであるフェイトに俺のストレス発散の手伝いの報酬として渡したというわけだ」

リカ「興奮して鼻血出しながらペンライトを振っているフェイトの姿が目に浮かぶわね」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『ディスク』

リカ「翔け抜けなさい!最強への翼の道(ウィングロード)!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ディスク

空戦第9刊見ました、空戦の大会だっていうのに殆ど陸戦ってどういうことだってばよ!?

今回は久しぶりのエア・ギア要素です!





四番区、競技活動連合が管理する《ディスク》の競技フィールド—————

 

多くの星々が見下ろす夜天の下、縦幅240m、横幅105mの長方形の土の競技区画(クレイコート)にルーク達の姿はあった、ルーク達は屈伸伸脚などの準備運動をしながらこれからやる競技である【ディスク】のルールについてコート中央最奥にいるA29小隊小隊長であり競活連のメンバーでもあるテオ・セシルから説明を受けていた。

 

「この競技のルールは馬鹿でも覚えられる程簡単だ、このコートを挟んだ先の相手の陣地にこの魔装錬金(ミスリル)製の円盤(ディスク)を運んで点数を競う競技だ、一回運んで【タッチダウン】する毎に一点が入り十点先取したらそのチームはワンセットをゲットする、そして先にツーセットをゲットしたチームが勝利だ」

 

徐に【ディスク】のルールを説明するテオ、基本的なルールを説明すると一呼吸を置いて説明を続ける。

 

「だがこの競技には細かいルールが存在する、まず———」

 

テオは説明をしながら懐から小型のソーサラーキューブを取り出して起動しコート中央の真上に浮かしてソーサラーフィールドを展開した。

 

「この競技は魔装錬金武装と飛行魔術は使用禁止だが、それ以外でなら何でも使用して相手選手を攻撃することができるから必ずソーサラーフィールドを展開してから行う」

 

「攻撃ありなんですか!?」

 

スポーツなのに攻撃があることに驚くクロエ、【ディスク】とはかなりバイオレンスな競技のようだ。

 

「そうだ、だが攻撃制限というのが存在する、まず円盤を持っている奴・・・これを《ディスクキーパー》というのだが、この【ディスクキーパー】は【誰に対しても自由に攻撃できる】んだが他の奴は【ディスクキーパー以外を攻撃する事ができない】、もしこのルールを破った場合は反則(ファウル)とみなして罰則(ペナルティー)として相手に一点与えてしまうことになる」

 

競技に反則は付き物だ、なんの競技でも如何に反則をしないかを注意してプレーするかが勝利の鍵となるのだ。

 

「制限時間は無い、どっちかがツーセット取るまで続く、以上だな・・・」

 

「ホントはこの競技五対五なんやけどこれはボウズ達四人のチームとワイとリカの二人のチームでやる、ワイ等は人数差以外のハンデとしてまず魔力を使わへんわ、ワイ等が魔力を使ったら勝負にならへんからな」

 

「・・・確かにそうみてーだな、悔しいけど流石は空の王(アトモス)と茨の女王(ヴィターニア)と言ったところか」

 

ソラとリカが醸し出す闘気と絶対の制空圏を感じたカナタは今はまるで敵わないと認めざるを得なかった。ちなみにギドルトは当然参加しても意味無い為、今はテオの隣でタブレットを開いてメモを取っている。

 

「そんでもう一つ、実はこの帽子には身体中から感じる風を遮断するっちゅう制限魔術が掛かっとる、これでワイは絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)を使うことができへん、これが最大のハンデやな」

 

「・・・・・・・」

 

「「「「絶対空気感覚?」」」」

 

————ボウズ、話してへんのか?

 

ソラは今日被ってきたスポーツキャップの鍔を掴んで説明するがルーク以外のE128小隊のメンバー達が絶対空気感覚を知らないことを聞いて呆けた。

 

「・・・・まあ、あとで教えたるわ」

 

ソラはルークと違ってどんなに気を散らそうとも絶対空気感覚が狭まることは無い、常に大空を感じて大空の全てを掌握する、故にソラは空の王と呼ばれるのだ、まさにこの空で敵無しの空戦魔導士候補生だ。

 

そんな反則級のスキルをソラのような上位クラスの空士が使ってプレーしたら魔力を使わなくても独壇場なのは確実だ、故に絶対空気感覚を使わないのが最大のハンデになるのだ。

 

そして細かい説明も終わり両チーム共位置に着く、配置はルーク達が北側でソラ達が南側、ルーク達の初期位置(ポジション)はルークとカナタが前衛(フォワード)でロイドが中衛(ミッド)でクロエが後衛(バック)、ソラ達の初期位置は二人共前衛という超攻撃的陣形(フルアタックフォーメーション)だった。

 

先行はルーク達E128小隊チームで始まるので円盤は小隊長であるクロエが持っていた。

 

「ソラ兄、忘れているわけじゃねえよな?俺も絶対空気感覚を持っているってことを・・・まさか俺なんかが使っても楽勝だなんて言うのか?」

 

ルークはソラに尋ねる、自分も絶対空気感覚を使えるのに何故ソラは使わないのかと、まるでお前なんかが絶対空気感覚を持っていても宝の持ち腐れだと言われているような気がして・・・その問いにソラは不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「思ってへんかったら言わへんわ」

 

ソラはルークを挑発するようにそう答え、ルークはそれを聞いて頭にきた。

 

「そうかよ・・・後悔すんじゃねえぞっ!!」

 

「じゃかあしいわ!そんなんやってみれば分かることやで!ワイとボウズとじゃあどんだけの実力の差があんのかをなあ!!」

 

「上等っ!!」

 

「試合開始(プレイディスク)!!」

 

ヒートアップする中で審判であるテオの試合開始の宣言と共にE128小隊の命運を懸けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「ルーク!」

 

「おうっ!」

 

試合開始からすぐに《スターティングディスクキーパー》であるクロエは円盤を前方右にいるルークに投げてパスしてルークはそれを前に走りながらキャッチして正面にいるソラに向かってダッシュした。

 

—————ソラ兄が絶対空気感覚を使わねえって言うんなら俺は絶対空気感覚をフル活用してワンサイドゲームにしてやるぜ!

 

「こいやぁボウズ!」

 

「いくぜソラ兄っ!!」

 

待ち構えるソラの5m手前でルークは絶対空気感覚で空間の風を感じ取って大気を掌握しフィールド全体の生物・物体の動きを読む。

 

————ソラ兄は右手で掌底を俺の額に打ち込んでふっ飛ばす気だな!かなり強い左脚の踏み込みだから凄ぇ痛えだろうな、そしてリカ姉がソラ兄の後ろに向かって走り出そうとしているから俺がソラ兄を突破したらその後ろに来たリカ姉がすぐさま潰しにかかるって寸法か!だがそれが分かれば問題ねぇ、ソラ兄を抜いたらリカ姉に一撃をくらわせてそのままタッチダウンだぜ!!

 

ソラ達の動きを読み取ったルークは予想通りに繰り出して来たソラの掌底を左に躱してその前方に回り込んでくる筈のリカを迎え撃つために右拳を魔力強化する・・・・・だが———

 

—————へっ!?リカ姉の動きが変わった?俺の左真横からダイレクトアタックして来ようとしてやがる・・・だったらそのまま・・・っ!?やばっ!!

 

「ほいっとな!」

 

ルークがあれこれ思考を張り巡らせているとソラが掌底を空振りした反動で体勢を崩すと見せかけてそのまま回し蹴りをルークに叩き込んで来ようとしていた為にルークは焦った。

 

「ルーク!こっちだ!」

 

左前方を走り抜けてパスを要求するカナタが見えたのでルークはカナタにパスを出そうとするが———

 

————駄目だ!リカ姉が急に進行方向を変えてカナタへのパスコースを塞ごうとしている、今投げたらパスカットされるのは目に見えているぜ!・・・だったら————

 

「あーだこーだ考え過ぎやなボウズ!もろた!!」

 

「しまっ———」

 

ソラはルークの顔面に回し蹴りを放つと見せかけて足払いをしてルークを転倒させる、ルークはその直前にパスを出す不安定な体勢だったので転倒と同時に円盤を放してしまいソラがそれをキャッチした。

 

「どあぁぁぁぁっ!!?」

 

「「「ルーク!!」」」

 

「余所見しとる場合やないでガキ共!」

 

「っ!?ロイド!ソラ先輩を止めるよ!」

 

「わかりました!」

 

派手に転倒した勢いのまま転がって行くルークを後目にE128小隊チームの陣地に向けて突撃して来るソラを止める為にクロエとロイドは魔装錬金武装がなくてもできる指向性魔力弾をソラに向けて連射する。

 

「ふっ!ほっ!あまいでっ!」

 

「くっ!なんて反応速度なの!だけどこれなら」

 

最小限の動きで走りながら魔力弾を躱し続けるソラの後方からカナタが突っ込んでくるのを確認したクロエはロイドと共にソラへの集中砲火の弾幕を濃くする、このまま足止めをしていればカナタがソラを止めてくれると思ったのだろう・・・だが———

 

「注意力散漫ね、そうやって一方だけに目がいってしまうのが貴方達の弱点なのよ」

 

「えっ!?」

 

「しまった!?」

 

「もう遅いで!」

 

クロエ達がソラに集中している隙にいつの間にかクロエ達の防衛ラインを抜けていたリカにソラはパスを出した、かなりの速さで風を切って飛ぶ円盤はクロエとロイドの間を抜けてその先にいるリカの手に収まりリカはそのままフリーになったE128小隊チームの陣地へと猛ダッシュする。

 

————魔力強化して走っているのに追い付けない!?なんて脚力なの!

 

クロエとロイドは反転して脚を魔力強化してリカを追うがリカは魔力強化もしていないにもかかわらずクロエ達と同じぐらいの速度で走っているので追い付けない。

 

「タッチダウゥーンッ!!」

 

リカはそのままE128小隊チームの陣地に入ってタッチダウンを決めた。

 

 

 

E128小隊チーム(以後Eチームと称する)0-1ソラチーム(以後Sチームと称する)

 

 

 

「やってくれんじゃねーか・・・」

 

「と、とんでもないですね・・・」

 

「迂闊だった、次はもっと周りをよく見ていくよ!」

 

「・・・・次はブチ抜く!」

 

ソラ達の凄まじいプレーに唖然とするルーク達は気合を入れなおして次のプレーに臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド中央外————

 

「凄い、ソラ先輩もリカ先輩もなんてスマートなプレイングなのですか!」

 

「おいおい本場の競技チームはこんなもんじゃないぞ、あれはルーク達のプレイングが目茶目茶なだけだ」

 

「えっ?どういうことなのですかそれは?」

 

今のワンプレーを見てギドルトはソラ達を絶賛するがテオはルーク達が下手くそだからだと言う、本場の競技チームによるディスクはもっと速くて激しい試合をするのだ。

 

「そもそもディスクにおいて最も重要な要素は【チームワーク】だ、チームの連係や戦略にそれに合わせたチームの編成やらプレー中の仲間と相手の位置の把握とそれを理解して素早く的確に行動する判断力、つまりチームがチームとして活動しなければ絶対に勝つことはできないということだ」

 

「チームワーク・・・」

 

ギドルトはテオの話を聞いて考えた、そして今までのE128小隊の活動とランキング戦の概要を思い出した。

 

————考えてみれば僕達は小隊として活動していたのでしょうか?・・・ルーク君達の弱点を何度も直して対戦相手のデータも欠かさず集めてランキング戦に臨んでいきましたのですが、それはあくまでも【個人的なもの】だったのです、そんな中で突然ソラ先輩達はこのようなチームワークを要求する競技で勝負を挑んで来るということは———

 

「・・・まさか、ソラ先輩達の目的は!」

 

「気付いたみたいだな、正直遅すぎるくらいだ」

 

ギドルトは気付いた、今のE128小隊に欠けている要素がなんなのかを。

 

「あとはルーク達がそれに気づいて自覚するだけだな、ちゃんと記録取っておけギドルト、チームプレーも入れてな・・・」

 

「はいっ!」

 

ギドルトは気合を入れなおしてデータを取る準備をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド内————

 

タッチダウンにより点数が入った時次のプレイングは点数を取られたチームから始まる、クロエからパスを受け取ったカナタが前方にいるリカに突撃する。

 

————確かディスクキーパーは誰に対しても攻撃できるんだったな・・・それなら!

 

リカまでの距離が20mに迫ったところでカナタはソラとリカに指向性魔力弾を放って牽制しながら走り続ける。

 

「ルークよりはまだマシってところね」

 

「ちょこざいマネやな」

 

リカは魔力弾を最小限の動きで躱して迫るカナタに右拳を振り上げる。

 

「ハッ!」

 

「っ!?」

 

だがカナタはリカが繰り出して来た右拳を横から左掌を打ち込んで受け流してそのままリカにショルダータックルをかましてリカの体勢を崩そうとする、しかしリカはカナタの両肩を掴んでチカラずくで地面に沈めようとするもののカナタは地面に叩き付けられると見せかけて左掌だけを地面について片腕逆立ちをしカポエラの要領でリカに連続蹴りを叩き込んで怯ませる。

 

「おらぁぁああああっ!!」

 

「くっ!」

 

リカはカナタの連続蹴りを上手くいなして対処していく、しかし———

 

「ほっ!」

 

「なっ!?」

 

カナタは軸にしていた左腕をバネのように曲げて跳び綺麗な放物線を描いてリカの真上を通り越した、流石のリカもこれには驚いたが————

 

「・・・上手く不意を突いたつもりでしょうけど・・・まだまだね」

 

「・・・チッ!ダメか・・・」

 

飛行魔術が使えない為にプレイヤーは空中では身動きが取れない、リカは一瞬で反転してカナタが地面に着地する瞬間円盤を抱えたカナタの右腕に横蹴りを打ち込んで円盤をカナタの腕から叩き落してそれをソラが拾った。

 

「リカ相手に打ち合ったんは仰天したさかい、ぼちぼちやるみたいやがディスク(これ)は相手殴っとるヒマがあるんやったら円盤前に進めとった方が断然お得なんやで!」

 

「ああ、そうみてーだな・・・」

 

そしてソラ達はそのままルーク達の妨害をアッサリと掻い潜ってタッチダウンを決めた。

 

 

 

Eチーム0-2Sチーム

 

 

 

Eチームの次のプレーはルークを前方右側カナタを前方左側に先行させてスターティングディスクキーパーであるクロエが直接円盤をキープして走って行ってクロエの判断でルークかカナタにパスを出しながら進むという作戦だった。

 

—————左のスペースが少し広い、よしっ!

 

ソラとリカの中央を抜けると見せかけて隙が大きい方にパスを出そうと周りを目視確認をしてカナタにパスを出したが————

 

「嘘!?反応された!」

 

「目線でバレバレよ!少しはフェイントを混ぜなさい!」

 

リカが簡単にパスコースを塞いでパスカットをして円盤がリカの腕に収まった。

 

「それと仲間を使おうとするのは正解だけれどもこんなに守備を疎かにしていたら点数を相手にプレゼントしているようなものだわ」

 

クロエだけではなくルークとカナタも突出していた為に守備がロイドしかいない、ロイド一人ではリカを止められる筈も無くリカはそのまま自らEチームの陣地まで円盤を運んでタッチダウンを決めた。

 

 

 

Eチーム0-3Sチーム

 

 

 

「ロイド!」

 

「さて、次は僕の番ですk「甘いでウスィーの!もろた!」ちょっ!?」

 

ロイドがパスを受け取った瞬間にソラがロイドから円盤を掠め取りカウンターでタッチダウンを決めた、その時間わずか八秒。

 

 

 

Eチーム0-4Sチーム

 

 

 

「何で僕だけこんな扱いなんですか・・・」

 

地面に両掌と両膝をついて落ち込むロイド、最近新キャラも増えてきた為にますますウスィーくなってきている(笑)。

 

そしてこの第一セットはルーク達Eチームが一点も取れないままソラ達のワンサイドゲームで試合が進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド中央外————

 

「そんな、ソラ先輩達はあんなにハンデがあるのに・・・」

 

あまりにも一方的な試合を見て動揺するギドルト、いくらソラとリカが特務小隊(ロイヤルガード)だからといってこの圧倒的なハンデでルーク達をここまで簡単にあしらうとは予想外だった。

 

「チームワークもそうだが、E128小隊の奴等は一人一人弱点があるな・・・」

 

「えっ!?そんな筈はないのです!ルーク君達個人個人の弱点は毎回直しているのですから」

 

審判をしながらE128小隊メンバーのプレーをじっくりと観察していたテオはルーク達に弱点があると指摘する、ルーク達個人個人の弱点は毎回データを基に訓練をして直している筈だが。

 

「こういう特殊な事をやると浮き彫りになることもあるんだぞ」

 

正攻法の訓練だけでは判らないことだってある、テオはE128小隊メンバーのディスクのプレイングを見て彼等の隠れていた弱点を見破ったと言う。

 

「まずクロエは馬鹿正直に目に頼っているな、確かに魔砲士などの射砲撃型の空士にとって目は最重要だがそれに頼りきっていたらアッサリと対処されてしまうぞ」

 

バトルテクニックには相手の目線を見て攻撃を読むというのがある、そのために完全に目に頼っていては幾ら強力な砲撃スキルを持っていても上位クラスの空士には通用しないのだ。

 

「まっ!俺は砲撃を躱すなんて勿体ないことはしないがな!」

 

「そ、そうなのですか・・・ははは・・・」

 

流石【砲撃上等系男子】、砲撃を斬る事に命を懸ける変z・・・逞しい男だ。

 

「それからカナタだが、アイツは仲間に頼らなさすぎだな、カナタの資料は見させてもらったがあの歳で収束魔砲(ストライクブラスター)なんて制限戦技(リミットスキル)を習得しているなどのとんでもない才能を持つ新人(ルーキー)だと思ったが、だからこそ周りに頼らなくてもできる事が多かったのだろうな、高い才能が全部利点になるわけではないということだ」

 

カナタはどちらかといえば頼るより頼られる事の方が多い、七歳の頃にクロエの飛行魔術習得の訓練に付き合ったのもカナタが面倒見がいいのもあるがそれ以外にも凄く頼りにされていたからだろう、しかしカナタ自身は他人に頼った経験が殆どないために【頼る】という選択肢が薄いのだ。

 

どんなに優秀な人間でも一人でできる事には限界がある、今カナタに必要な要素はスキルアップではなく仲間を頼ることだ。

 

「・・・ところで今気づいたんだが・・・あのロイドって奴いついたんだ?」

 

「え?」

 

ここで衝撃の事実発覚、ロイドの存在感がウスィー過ぎて審判であるテオがロイドの存在を認知していなかった(笑)。

 

「アイツは・・・・・わからん!存在もプレーも地味過ぎて」

 

「ええぇっ!?」

 

ザックリとした評価だ・・・つまり直す所が無い・・・。

 

「そして最後にルークだが・・・」

 

なんだか深刻そうな表情で語りだすテオ。

 

「アイツは特に問題があるな・・・有り余る才能に頼り過ぎ、短絡的な思考、自信過剰過ぎて今できる限界を理解していないなどかなりの欠点があるが、何よりも————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————恐怖を感じなさ過ぎだ・・・いや、ルークからは【全く恐怖心が感じられない】」

 

「えっ!?」

 

テオの言ったルークの弱点を聞いたギドルトは驚愕した、考えてみればルークは今まで不意を突かれて驚いたり負けて悔しがるなんて姿はしょっちゅう見るが恐怖している姿なんて今まで見たことがない、ギドルトのルークに対する印象は何事にも怯まず恐れずに立ち向かいどんな時でも諦めない不屈の心を持った空士だ、しかし実際はルークには恐怖が存在しないというのか?

 

「このままだとマズイぞ・・・・・恐怖心を感じないまま戦い続けたらアイツ・・・近いうちにいつか死ぬぞ」

 

「そ、そんなっ!?」

 

恐怖というのは人間が持つ危険信号だ、空戦魔導士に限らず全ての戦士は恐怖を物にする事で生き残る術を身に付けられるのだ、ルークがそれを感じないとしたら彼はどんな無謀な戦いも平気でやるだろう、テオが深刻になるのも頷ける。

 

 

 

Eチーム0-10Sチーム

 

Sチーム、1セットゲット。

 

 

 

第1セット目はソラ達のワンサイドゲームのまま決した。

 

「これがお前等とワイ等との実力の差やで、何がアカンかったんかよう考えてみるんやな」

 

「クソッ!次は巻き返すぜ!」

 

果たしてルーク達は自分達の欠点に気づき、ソラ達に勝利することができるのか?早くも後が無いE128小隊の命運は次の第2セットで決まる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ギドルト「ところでテオ先輩、何で先輩は競活連に入ったのですか?」

テオ「わかってないなギドルト、より強力な砲撃を斬る為には様々な動きを身に付けておかなければならないんだぞ」

ギドルト「へぇ~そうなのですか」

テオ「ああ、例えば四肢を拘束魔術で封じられている状態でも口に魔大剣を銜えて飛んで来る砲撃を斬ることができたり、口が封じられても身体中の関節を外して拘束魔術から無理矢理抜け出したりできるようになるぞ」

ギドルト「NINJAなのですか貴方は!?」

テオ「まあ、それすら叶わなくても俺の砲撃斬り魂にかけてブッた斬ってみせるがな!」

ギドルト「砲撃上等系男子ここに極まれりなのです・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『新たに見つけた翼の道』

ギドルト「翔け抜けるのです!最強への翼の道(ウィングロード)!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たに見つけた翼の道

空戦最新刊を見返して思った、「この攻城剣撃陣(バテリング・ソード)って戦術、序章の戦いで使ってるな・・・策とは言えない作戦とか書いちまったけど・・・」と気が付きました(笑)。





競技フィールド内—————

 

「次は俺にパスを回してくれ!今度こそソラ兄達をブチ抜いてやるぜっ!!」

 

セット間毎に設けられる十五分の休憩時間(ハーフタイム)、ディスクの試合はセット毎に陣地入れ替え(サイドチェンジ)をするのでルーク達はフィールドの南側の陣地で円になるように集まって作戦会議をしていた。

 

「落ち着けルーク、お馬鹿みたいに単独で何度も正面から突っ込んでも結果は同じだぜ」

 

「なっ!?テメェだって単独で正面から突っ込んで潰されてたじゃねぇかよ!」

 

「ああ、おかげであの二人がどう動くか確認できたしな」

 

「「「えっ!?」」」

 

「ん?言ってなかったか?幾らあの二人がミストガンの有名人だからといってもこの競技でどういう対応するかわかんねーからそれを確かめる為に敢えて1セット目は捨てて正面から突っ込んでいたんだが」

 

「んな事一言も言ってねぇだろうがっ!!」

 

「そういう事はわたし達に伝えてからやってよカナタ!」

 

「やれやれ」

 

仲間達になにも伝えずに勝手に行動していたカナタに文句を言うルークとクロエ、だがカナタの行動が間違っているとは一概には言えない、確かにソラとリカは空士としては超が付く程有名だがディスクでどういうプレーをするのかは流石にわからない、圧倒的に格上であるソラ達に対抗する為には何を捨ててでも情報は必須だ、故にルーク達はカナタをこれ以上咎めなかった。

 

「まったくもう・・・それで?何か突破口は見えたの?」

 

「まーな」

 

クロエは気持ちを切り替えていけるのか?とカナタに確認をしてカナタはそれに対して不敵な笑みを浮かべながら肯定した。

 

「というわけで次のプレーの策を考えついたぜ!お前等ちょっと耳貸せ」

 

「なにが【というわけで】なんだ・・・」

 

「凄く不安ですね・・・」

 

「大丈夫!根拠は無いけれどカナタが言うんならきっとなんとかなるよ!」

 

—————今、根拠は無いっつったか!?全然大丈夫じゃねぇじゃん!

 

ルークとロイドが心配する中クロエだけが何の疑心も抱かずにカナタを信頼していた、流石幼馴染だ、信頼度が半端じゃない。

 

「いいか、次のセットが始まったら—————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試合再開(プレイディスク)!」

 

「そんじゃ行くでリカ!」

 

「ええ!」

 

ソラ達Sチームの攻撃で第2セット目が開始されスターティングディスクキーパーであるソラがリカにパスを出しソラはそのままリカの右前方を走って先行して円盤を持ったリカがそれに続く。

 

「全員一斉掃射!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

一方ルーク達は始まると同時に四人全員で前方から向かって来るソラとリカに向けて指向性魔力弾を機関銃の如く乱射した。

 

「血迷ったんか?ディスクキーパー以外に攻撃してもうたら反則(ファウル)なん———」

 

放った魔力弾はソラ達の手前と左右の地面に着弾し砂煙を巻き上げてソラとリカの視界を遮った。

 

「うおっ!?滅茶苦茶するやんアイツ等!」

 

「だけれども所詮は浅い経験しか持たない予科一年生の浅知恵ね!この程度で———」

 

「うぉおおおおっ!!」

 

「はぁああああっ!!」

 

次に砂煙に紛れてルークとロイドがリカに突攻をする、しかし————

 

「私を沈められるとでも思っているの!?」

 

「ぐっ!?」

 

「ぐはっ!」

 

魔力強化したルークの正拳突きは左横から払われてルークは左に体勢を崩してよろめき、ロイドの繰り出した右拳は右手首に手刀を叩き込まれた事によりバランスを崩し次の瞬間頭を鷲掴みにされてそのまま地面に叩き付けられた。

 

「そして次は———」

 

「いっ!?ぐほぉっ!!」

 

—————後は煙から抜けたところを右から奇襲して来るみたいだけれど、甘く見たわね!この【茨の女王(ヴィターニア)】の眼はごまかせないわよ!

 

更にリカはパスと見せかけて煙に紛れてソラへのパスコースを塞いでパスカットをしようとしていたクロエにショルダータックルをくらわせてふっ飛ばしカナタが前方右から向かって来るのを確認しながら走ってその勢いのまま砂煙を抜けてその瞬間を狙って右から来たカナタの拳を左に躱した・・・だが———

 

『ピピィーーーーッ』

 

「ソラチーム、場外(アウトオブバウンズ)!!」

 

「なっ!?」

 

リカは自分が左側のラインを跨いでいた事に気づいていなかった。審判であるテオがホイッスルを鳴らしてリカの場外を宣告して試合が中断された。

 

「へっ!眼が良すぎると足下が見えなくなるってな!」

 

「・・・・やってくれるじゃない・・・」

 

リカの二つ名である【茨の女王】の由来はその規格外の動体視力と観察力と魔弓の命中精度にて敵がどんな動きをしようとも逃がさない、それがまるで全ての敵を切り落とすことのできない無数の茨で搦めとって仕留めるように見えたことからその名が付いたのである。

 

しかしリカはその眼の良さが故に敵の動きを第一優先に見る癖がある、カナタはそれを逆手にとってリカを左サイドに誘導したのだ、円盤を奪わなくてもこうすれば自分達に攻撃権がくる、リカは別に注意力散漫だったというわけではないが人間どんなに優秀でも完璧ということはなかなか無い、今回はまんまとカナタの策に嵌められたのだった。

 

「と言っても次はねーだろーな・・・次の攻撃は確実に点とらねーとな!」

 

「そう上手くいくかしらね」

 

「へっ!見てな!次も面白いことをしてやるよ!」

 

点数の変動が無くて試合が中断した場合はその場所から再開する、後方40m先にEチームの陣地がある所からEチームの攻撃で試合を再開した。

 

「そんじゃいくぜ」

 

クロエからのパスを受け取ったカナタが身を屈めてリカに突撃する。

 

「嘗めないで!そう何度も上手く行くと思っt「リカ!手ぇ出したらアカン!!」しまっ!?」

 

「ぐはっ!」

 

突っ込んできたカナタを迎撃する為に鞭の様に鋭くしならせた蹴りを繰り出すがソラが何かに気づいてリカを止めようと呼びかけてリカもそれに気づくがもう遅く、カナタの横っ腹に蹴りが直撃してカナタは地面に沈んだ。

 

『ピピィーーーーッ』

 

「ソラチーム反則(ファウル)!罰則(ペナルティー)によりE128小隊チームに1ポイント!!」

 

 

 

Eチーム1-0Sチーム

 

 

 

反則判定、それはディスクキーパー以外のプレイヤーがディスクキーパーではないプレイヤーを攻撃した時の判定だ、地面に倒れているカナタは円盤を持っていなかった、カナタはクロエからパスを受け取った瞬間ソラとリカにバレないようにコッソリとすぐ真後ろにいたロイドにパスをして、円盤を持っていない事がバレないように体勢を低くして突撃してファウルを誘ったのである。

 

「うわっ!ダッサイわリカ!予科生に二度も嵌められてもうてダッサイわ!」

 

「さっきクロエに注意力散漫だとか言っておいてそれはねーんじゃないの?」

 

「くっ!返す言葉も無いわ・・・ってソラ!?どさくさに紛れて一緒にディスるな!」

 

「だってダサイんやもん♪」

 

「・・・・後で覚えてなさいよソラ」

 

カナタとソラに弄られたリカは腸が煮え繰り返そうな程腹が立ったが事実なので後でソラに鬱憤を張らすと決めて心を落ち着けた。

 

「けどアンタに突っ込まなくてよかったぜ、早くにばれてたみてーだしな」

 

「当たり前やろ、まだまだガキなんかに出し抜かれる程特務小隊は甘くあらへんで!十年早いわ!」

 

————ワザと私に聞こえるように大声で言っているでしょ!?本当に後で覚えてなさいソラ!

 

その予科生に二度も出し抜かれた特務小隊のリカの前で当たり前のようにそう言うソラに握り拳が震える程苛立つリカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド中央外——————

 

「一点取った!?凄いのですカナタ君!」

 

「フッ、仲間を頼らない奴かと思ったが俺の思い違いだったようだな」

 

あの茨の女王を二度も出し抜いて初得点を取ったカナタを絶賛するギドルトとカナタの評価を改めるテオ。

 

「1セット目で完封されて圧倒的に不利だった状況の中リカの癖を見破ってわずかながら道を開くとは、カナタにはエースの素質があるみたいだな」

 

「エースの素質・・・なのですか?」

 

「ああ、優勢の時は攻撃の基点として主力となり劣勢の時は状況をひっくり返すキーマンとなる小隊の要、それがエースだ、今のカナタはまさにそれだったぞ」

 

カナタには敵の深層を見抜く観察眼と圧倒的逆境でも喰らいつく粘り強さを以って状況をひっくり返すエースの素質があることをテオは見抜いた、流石ミストガンナンバー2の空士だ。

 

 

 

Eチーム1-1Sチーム

 

 

 

「・・・と言っても相手は超が付く程の格上、そう何度も止めさせはしないか・・・」

 

テオはたった今ソラがルーク達のディフェンスを突破してタッチダウンを決める光景を見てそう呟く、やはり何度も止められる程ソラ達は甘くないようだ。

 

 

 

Eチーム1-2Sチーム

 

 

 

「カナタだけに頼り切りじゃダメだ、他の奴等もそろそろ気づかなければこのまま試合を持って行かれるぞ」

 

「そんな・・・」

 

テオはクロエのパスをパスカットしてカウンターでタッチダウンを決めたリカを見てこのままではルーク達は負けると悟り、ギドルトは動揺するように呻いた・・・・だが———

 

「・・・・・でも、多分クロエさんはそろそろ気づくと思いますのです」

 

ギドルトはたった今目の前でさっきと同じようにルークを右前方、カナタを左前方に先行させてリカと対峙するクロエを見てそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド内——————

 

————また左が少し広い・・・だけどそれはまたワザと隙を作っているに違いない

 

————流石に同じ事をするとは思わないけど目線でパスコースを探っている時点でバレバレよ

 

1セット目と違うのはクロエがリカと正面から対峙してソラが直ぐにカウンターできるようにクロエから見て20m後方いるという構図なので絶対に取られるわけにはいかない。

 

————・・・でももう大丈夫、さっきのカナタのプレーがヒントをくれたから!

 

クロエは目線をカナタの方に向けながら逆方向のルークにパスを出そうとする・・・しかし———

 

————そんな大雑把な動きじゃ目線と違う方に投げたって駄目よ、私は相手の動きを目で捉える事に関してはミストガン一だと自負しているの、こうして私の前でパスを出すと選択した時点で貴方の間違いよ!

 

リカはそれにアッサリと反応してパスコースを塞いだ。

 

「甘いわ!そんなんj————」

 

その瞬間クロエの口の右端が吊り上がったのが見えた、そしてクロエはなんと手首のスナップを利かせて円盤をリカの左肩の上目掛けて素早く投げ、左腕を伸ばしきっていたリカは反応はできたがそこから左肩の上を通り抜ける円盤をカットすることはできなかった。

 

————この子、私が反応するのを見計らって!?

 

反応されるのが分かっているのなら反応しても取れないようにすればいい、クロエは先ほどカナタが自分達を使ってリカを場外に誘導したのをヒントにして自分なりにリカを誘導したのだ、リカの規格外な動体視力を利用して。

 

「・・・上手く出し抜いたつもりでしょうけどその方向には誰も・・・はっ!!」

 

それでもリカはルークとカナタへのパスコースを完全に把握していたので一瞬クロエが無意味な方向に円盤を投げたと思ったがすぐに思い違いに気づいた、それはパスを受け取るプレイヤーが動く可能性だった。

 

「ナイスパスだクロエ!」

 

「しまった!」

 

円盤は綺麗なカーブを描いて正面に移動していたカナタの手に納まり————

 

「タッチダウゥーン!!」

 

誰も守りがいないためにカナタはそのままタッチダウンを決めた。

 

 

 

Eチーム2-2Sチーム

 

 

 

「ギャハハハハハハッ!!また出し抜かれおった!茨の女王の名が泣くでリカ!手ぇ抜き過ぎとちゃうんか?」

 

「・・・・・そうね・・・フフフフフフフッ!」

 

あまりにも不甲斐無いリカを見て爆笑するソラだったが、顔に暗い影を落として不気味に笑うリカを見てゾッとした。

 

————あ、こりゃ怒っとるわ・・・・ボウズ共、ご愁傷さま・・・。

 

そしてリカ・スカイウィンドの怒濤の逆襲が始まった。

 

「ルーク!同時にかかるぜ!」

 

「ああ!いくぜリカ姉!!」

 

「・・・・・・」

 

円盤を左腕に抱え正面切って走って来るリカに突っ込むルークとカナタだったが————

 

「ふごっ!?」

 

「なっ!?」

 

リカはルークとカナタの筋肉の動きを見切って二人がチカラを加える方向に合わせてそれぞれ軽いショルダータックルと左肩への掌底を軽く打ち込んで二人をスリップダウンさせて悠々と突破した。

 

「ロイド!一斉掃射!」

 

「わかりました!」

 

次にクロエとロイドが指向性魔力弾をリカとその目の前に乱射して彼女を攪乱しようとするが———

 

「・・・・・浅薄ね・・・」

 

リカは向かって来る魔力弾をその眼で全て把握して着弾しない最短ルートを解析して魔力弾の嵐を簡単に突破してしまう。

 

「ヤバイ!止めるよロイド!」

 

「まったく冗談じゃないですよ!」

 

「俺達もまだ終わってねーぞっ!!」

 

「リカ姉覚悟しろっ!!」

 

前後より一斉にリカに飛び掛かるE128小隊の四人、しかしリカはなんと四人全員の筋肉の動きを同時に把握して全員徒手空拳で地面に沈め、そのままタッチダウンを決めた。

 

 

 

Eチーム2-3Sチーム

 

 

 

「くっ!?マジかよ!?」

 

「怪物ですね・・・」

 

「これが茨の女王の真の実力・・・」

 

「リカ姉・・・」

 

地面に倒れ伏すルーク達は【チカラの一端】を見せたリカの実力に唖然とした、愚かな愚民共を見下す様にリカはルーク達を蔑んだ眼をして見下ろしていた。

 

「まだまだこんなもんじゃ終わらないわ、覚悟しなさい」

 

女王による蹂躙が始まった。

 

「いくぜリカnぐはっ!?」

 

格闘戦を挑もうとすれば筋肉の動きを掌握されて地面に沈められ————

 

「カナt「もう貴方のパスは通用しないわ!」そんな!?」

 

パスを出そうとすれば意識の方向を掌握されて投げた瞬間に一瞬でパスカットされ———

 

「「うぉおおおおおっ!!」」

 

「はぁあああああっ!!」

 

「くっ!?リカ先輩が止まらない!!」

 

「まだまだねっ!!」

 

「「「「ぐはっ!!」」」」

 

肉弾戦・遠距離射撃・不意打ちなど様々な手段で攻めて来るリカを迎え撃とうとすると筋肉の動き・魔力弾の数と飛行弾道曲線と弾道速度・意識の方向など様々な細かい情報をその眼で掌握して襲いかかって来る愚民共(ルーク達)を悉く容赦なく叩き潰した。

 

 

 

Eチーム2-8Sチーム

 

 

 

「大人げあらへんわリカ・・・」

 

暴虐の限りを尽くすリカにドン引きするしかないソラ、まさに蹂躙、女王に逆らう塵芥共はプチッと潰される運命だ、これが茨の女王(ヴィターニア)!これがリカ・スカイウィンド!!女王に逆らうことなど許される所業では無いのだ!!!

 

「やべーな、次取られたら後がねーぞ」

 

「もう落とせないね・・・皆、気張っていくよ!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

それでも彼等は諦めない、不屈の心がこの胸にある限り彼等は何度でも立ち向かうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド中央外————

 

「「・・・・・・これは酷い(のです)・・・」」

 

フィールドの外でリカの蹂躙劇を見ていたギドルトとテオも唖然としていた、幾らなんでも酷すぎると。

 

「リカの奴アイツ等にチームワークの大切さに気付かせるって目的忘れているだろ・・・」

 

「・・・やっぱりそうだったのですねテオ先輩」

 

「ああそうだぞ、E128小隊がランキング戦で負け続けているのは個人戦闘(スタンドプレー)ばかりしていてチームワークを疎かにしているからだ」

 

そう、今テオが言った通りE128小隊はチームワークに欠けていて、試合ではいつもルークとカナタが個人戦闘をして分断されて各個撃破されてきたのだ。この勝負は元々勝敗など関係ない、立場上表立ってルーク達を贔屓する事ができないソラ達がルーク達にチームワークの大切さに気付かせる為のものだったのだ。

 

「この【ディスク】ほどチームワークを要求する競技は無い、ソラはそこに目を付けたんだろう、これならルーク達はチームワークの大切さに気付くだろうと信じているってことだ」

 

「ソラ先輩・・・」

 

「カナタとクロエはもう大丈夫だろう、ロイドは元々連係できていたみたいだし存在感がウスィーから知らなかったが・・・まあ大丈夫だろう・・・・・後の問題はルークか・・・」

 

この勝負の意図に未だに気づかないのはルークだけだ、ルークは体力は無尽蔵で根性値はMAXだが理解力が乏しい故にこの状況で彼がチームワークを理解するのは難しいだろう。

 

「・・・きっと大丈夫なのです、ルーク君にはどんな時でも絶対に諦めない不屈の心があるのですから!」

 

それでもギドルトはルークを信じていた、ルークならば必ずチームワークの大切さに気付く筈だと、何故ならばルークはミストガンの空戦魔導士なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競技フィールド内————

 

「試合再開(プレイディスク)!!」

 

「頼んだよルーク!」

 

「おうっ!!」

 

試合再開と同時にルークがクロエからパスをもらって一直線に駆ける。

 

「来いやぁボウズっ!!」

 

「いくぜソラ兄っ!!」

 

ルークの進行ルートにはソラが立ちはだかる、一対一(ワン・オン・ワン)だ、ルークは絶対空気感覚で競技フィールド全体を掌握して必死にソラを抜き去る方法を考えた。

 

—————正面からの正拳付き?なら手首に手刀を叩き込んで逸らす・・・いや、それなら左右どちらかに躱した方がいいか?・・・・でもどっちに?———

 

あれこれ考えている間にソラの右拳がルークの顔面に迫る———

 

—————・・・やっぱ手刀だっ!!

 

「おらっ!・・・い”っ!?」

 

迫る右拳に対して上から手首に手刀を叩き込んでソラの正拳付きを叩き落すルーク、しかし叩き落した瞬間ルークはソラが勢いのまま頭突きを自分(ルーク)の額にぶつけて来ようとしているのを感じたので回避しようと思ったが、勢いよく手刀を叩き込んだ為に体勢を崩したので回避できない。

 

「考え過ぎやと言っとるやろがぁああああっ!!」

 

「がはぁあっ!!」

 

ソラが繰り出した頭突きはルークの額にクリーンヒット、あまりの威力にルークは地面を転がり円盤を真上に飛ばしてしまった。

 

「カバー!!」

 

「もう行ってるっつーの!」

 

「少し休みたいのですが・・・」

 

万有引力の法則に従い落下して来る円盤の落下地点にカナタとロイドとソラが集まって来て———

 

「「「うおおおおおおおおぉぉっ!!!」」」

 

落ちて来る円盤を巡って競り合いながらチカラいっぱいジャンプした・・・・そして———

 

「空でワイに勝とうなど百年早いわガキ共っ!!」

 

「「ぐはぁっ!!」」

 

ソラが競り勝ち円盤を掴んだ瞬間、跳んで腕を伸ばしきっている為に無防備状態のカナタとロイドに空中回転蹴りを叩き込んで二人をふっ飛ばし————

 

「リカァアアアッ!!」

 

そのまま空中でクロエの35m手前にいるリカにパスを出した。

 

「・・・・今だぁああっ!!」

 

リカがパスを受け取る瞬間のタイミングを計っていたクロエはリカが円盤をキャッチしようとした瞬間にリカに突攻を仕掛けた。

 

—————いくらリカ先輩の動体視力が規格外だからって体勢が整っていない状態で躱す事はできない筈!これならいけるっ!!

 

身体が円盤が来た後ろを向いている状態のリカが円盤をキャッチする瞬間を狙ってリカの背中に掌底を打ち込もうとするクロエ、タイミングはバッチリだ、魔力で強化して繰り出した掌底がリカの背中に炸裂・・・する筈だったが。

 

「・・・・だから貴方達は浅薄だと言うのよっ!!」

 

「えっ!?」

 

円盤をキャッチするかと思われたリカはその直前で身体を反転させてクロエの全力の掌底を右に躱してEチームの陣地に向かって走り出し円盤がクロエの横を通り過ぎた。

 

「しまった!?」

 

全力の踏み込みで掌底を繰り出したために体勢を崩して反転できないクロエを後目にリカは走りながら円盤をキャッチしようとしていた。

 

パスを受け取るタイミングで妨害されるなら距離を伸ばせばいい、クロエはリカを出し抜いたつもりが逆に出し抜かれてしまったのだ。

 

「さっきの仕返しよ!これで王手(チェック)ね!」

 

ここでタッチダウンを許したらマッチポイントだ、Eチームの陣地が目前に迫ったリカが円盤をキャッチする体制に入る、万事休すか!?————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが円盤はいつの間にか何故かそこにいたロイドの腕に納まった。

 

「都合よく前に来ましたね」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?ロイド!?」

 

「なんやてっ!?なんでそこにおるんやウスィーの!?」

 

「貴方がふっ飛ばしたんでしょう?忘れないでくださいよ」

 

なんとロイドはさっきのソラの回転蹴りでここまでふっ飛ばされていたのだった、怪我の功名とはまさにこのことだ、しかもロイドの存在感のウスィーさによりソラ達は勿論クロエすらも近くにいるのに気づかなかったので上手く横取りできたのだ、ウスィーのも上手く使えば武器になるということだ(笑)。

 

「後は頼みましたよ—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————ルークッ!!」

 

ロイドはリカが追い付いて来る前に180m先で既にSチームの陣地に向かって駆けだしているルークに向かって全ての想いを託すロングパスをチカラいっぱいを投げた。

 

「ああ!任せろっ!!」

 

物凄い速度で飛んで来る円盤を走りながらキャッチしたルークはそのまま全速力でSチームの陣地に向かって猛ダッシュするが———。

 

「甘いでボウズ!そう簡単にいくと思っとんのか!?」

 

ロイドが円盤をキャッチした時に既に自分達の陣地の前に回り込んでいたソラがルークの前に立ちはだかった、流石の対応の速さだ。そしてルークは意識を集中して絶対空気感覚で競技フィールド全体の空間を掌握する。

 

————・・・考えんじゃねぇ、感じんだ・・・勝利への翼の道(ウィングロード)を。

 

ソラの身体の動き・速度・膂力などを人間の身体の周りに纏わり付く空気の流れを感じ取って割り出し、最適な攻略方を見つけようとするルーク、ルークから延びて行く彼だけにしか見えない空気の道、それがソラに向かって無数に延びて行く・・・しかし———

 

————・・・クソッ!流石ソラ兄、どんな事をしてもダメみてぇだ。

 

延びて行った道は全てソラの前で無残にも消えてしまった、これが意味するのは現時点ではルークはソラに絶対に勝てない事を意味していた。

 

————これまでか・・・・・いや!俺は絶対に諦めねぇっ!!何か方法は—————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや手は無いかと思われたその時、後方から光り輝く一本の翼の道がチカラ強く延びて来るのが見えた。

 

「・・・・・へっ!そういう事かよっ!!」

 

たった今ルークは気付いた、一人で勝てない時はどうすればいいのかを———

 

「見えたぜ———」

 

自分に足りなかったのが何なのかを————

 

「勝利への翼の道!」

 

新たに見つけた翼の道を!!

 

「翔け抜けるっ!!」

 

 

 

 

 

————真ん前から向かって来るやと!一見阿保正直な突攻に見えるんやが今のボウズがしとる眼は破れかぶれな眼とちゃう、希望に満ち溢れとる眼をしとる!

 

ソラは突撃して来るルークの眼を見てルークは絶対の自信を持って突攻して来ているのだと確信した、もしソラが絶対空気感覚を封印しないでいたらとっくに気が付いていただろう、ルークの後方から向かって来る未来の黒いエースの存在に。

 

「よしっ!来いやぁっ!ボウズッ!!」

 

「いくぜソラ兄っ!!今度こそ俺は———」

 

向かって来るルークの顔面を狙って右拳を繰り出すソラ、ルークはそれを左にズレて躱すがその瞬間ソラが身体を半回転させて今度は左拳による遠心力を利用した裏拳をルークの顔面に繰り出した、その時———

 

「「俺達はアンタに勝つっ!!!」」

 

ルークの真後ろから全速力で向かって来たカナタがソラが繰り出した裏拳と反対側である数センチ右を駆け抜けて————

 

「ぐぼがっ!!」

 

「なんやとっ!!?」

 

ルークは裏拳が当たる直前にソラの脇の下から正面にパスを投げ、裏拳はルークの顔面にクリーンヒットしてあまりの威力にルークは鼻血を噴き出しながら地面に沈んだ・・・そして———

 

————クッ!ディスクキーパー以外は攻撃できへんから黒髪のガキを止められへん!!

 

ソラの右側を抜けて行くカナタに反応はできたが円盤を持っていないから止めることができない為対処ができない。

 

「届けぇええええええっ!!!」

 

そしてカナタはSチームの陣地の上に届くか届かないかの距離で真っ直ぐに飛ぶ円盤に向かってイチかバチか思いきり左腕を伸ばして飛びつき・・・・・見事キャッチに成功してその勢いのままSチームの陣地の上を転がった。

 

『ピピィーーーーッ』

 

「タッチダウゥーーーーン!!」

 

審判であるテオによる得点宣言が響き渡った。

 

「やっっったぁあああっ!!」

 

「やりましたね!ルーク!!カナタ!!」

 

200m後方から歓喜の声を上げるクロエとロイド。

 

「・・・まったくあのお馬鹿は、ようやく気が付いたみたいね」

 

弟の成長を見て嬉しく思うリカ。

 

「ギャハハハハハハッ!してやられてもうた!流石ボウズ共やな」

 

そして、最後の最後に出し抜かれて少し悔しそうにしながらも弟分達の成長が嬉しくて思わず高笑いをしてしまうソラだった。

 

「・・・へっ!どうだソラ兄!十年早いとか言っといて出し抜かれた感想はよ!」

 

「んな鼻血出しとって無様さらしとる癖に減らず口だけは一丁前やなボウズ」

 

地面に仰向けに寝転がって鼻血を流しながらも不敵な笑みをしてそう言い放つルークの横に立って言い返すソラ、ルークの顔を覗き込んで見ると彼は全力を出し切ったと言わんばかりに清々しい表情をしていた。

 

「もうワイ等が教えんでも分かったやろ?お前等に足らへんもんがなんなんかを」

 

「ああ、仲間達と協力する事だろ?」

 

「そや、気付くの遅いっちゅうねん」

 

「へっ!そうだな、馬鹿だぜ俺は」

 

ルークは寝転がったまま周りを見渡し歓喜の声を上げる仲間達の姿を見る。

 

「こんなにも頼りになる奴等がいるっていうのに自分のチカラで勝つことしか考えていなかったんだからな」

 

ルークは個人で強大な敵に立ち向かうことの困難さと愚かさを知った、下手をしたら何百回攻撃しても倒せない強敵と対峙することだってあるかもしれない、そんな時は仲間達とチカラを合わせて立ち向かうのだ、そうすればきっと何とかなる。

 

「・・・だけど俺は自分のチカラでソラ兄に勝つことを諦めたわけじゃねぇからな!いつか絶対に勝つぜソラ兄!!」

 

夢に燃える眼差しでソラと目を合わせてそう宣言をするルーク、ルークの夢はあくまで世界最強の空戦魔導士になることだからだ。

 

「ハッ!ナマ言うんやないわ!簡単には勝たさへんでボウズ!!」

 

ルークの宣言を聞いたソラはルークに拳を突き出して対抗宣言をするのだった。

 

そしてこの試合の意味はもうないと判断したソラ達は勝敗関係無しに時間が許す限りひたすらにルーク達とディスクをプレーした、やりすぎて夜の巡回警備をしていたレイブンネストに強制終了させられて反省文を書かされたが、ルーク達は大変意味のある有意義な時間を過ごせて大満足だった。

 

E128小隊はもう大丈夫だろう、チームワークの大切さを学んだのだから。

 

そしてその二日後の五月二十一日、E128小隊はランキング戦第十一戦目に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ルーク「ソラ兄達との秘密特訓によって仲間達とのチームワークの大切さを知った俺達E128小隊!」

カナタ「俺達は明日への希望を胸にランキング戦第十一戦目に挑む!」

ロイド「しかしどんな相手でも今の僕等は負ける気がしない!」

クロエ「そう、わたし達には仲間との絆と不屈の心があるのだから!」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『陽が昇れば夜が明ける・・・そして・・・』

E128小隊全員「「「「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」」」」


















クロエ「あれ?ひょっとして今回初めてまともに次回予告をした?」









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陽が昇れば夜が明ける・・・そして・・・

久しぶりにこっちを投稿します。

後、第一話の地の文があまりにも酷かったので少し書き直しました。





エクザイル歴四三六年、五月二十一日

学園浮遊都市ミストガンより30km北の空域————

 

高度は3200m、辺り一面蒼穹と雲海が広がるこの場所を空戦魔導士科(ガーディアン)本科一年一組所属のオリバー・ヒューイックが率いるC140小隊が哨戒飛行の最中であった。

 

「おらおらぁっ!ヒーローのお通りだぁあああっ!!」

 

「ちょっとアスカ先行し過ぎよ!隊列を乱しちゃ駄目でしょうが!!」

 

どんな時でも紅いマフラーと鉢巻を身に付けている自称ヒーローの予科一年生、アスカ・イーグレットがマフラーと鉢巻の裾を激しくたなびかせながら隊列を無視して猛スピードの滑空飛行でオリバー達の80m前方を勝手に先行していた。

 

濃い茶色のロングツインテールの予科一年生、ミレーユ・グレイスがそれを見かねてアスカに注意を呼び掛けるものの、アスカは聞く耳持たずといった感じで無視して爽快そうに飛行を続けた。

 

「まったくもう!今ミストガン近辺の空域は魔甲蟲の大群がうろついていてその警戒の為にこうやって哨戒しているっていうのに、あのバカ!もし今その魔甲蟲の大群と鉢合わせたら危ないじゃないの」

 

調子に乗って勝手な行動をするアスカに対して悪態を吐くミレーユ、つい四日前に約十万の数の魔甲蟲の大群生がミストガンに迫りつつある事が判明した為に警戒態勢になり、警戒態勢の間Dランク以上の小隊の哨戒任務が普段の三倍となったのである。

 

そのためミストガン近辺の空域はいつ魔甲蟲と遭遇してもおかしくはない状況だ、故に単独行動は危険なのである。

 

「確かに今単独行動するのは寛容できないね・・・急いで追いかけr・・・!?危ない!!」

 

「っ!?」

 

オリバーもアスカの行動は危険だと判断して大急ぎでアスカを追おうとしたがその時、突然二人の真横の雲に黒い影が映った。

 

「ふっ!はあっ!!」

 

そしてそこから巨大なハエの様な形状をしたこの世で最も数が多い魔甲蟲【アルケナル級】が一匹ミレーユを狙い飛び出して来たが、常に周りを警戒していたミレーユはアルケナル級の不意打ちを身を翻して簡単に躱しすぐさま魔術士の宝石箱(マギスフィア)から純白の両翼が装飾されていて砲口に翠色のレンズが取り付けてある魔砲杖《ドリアード》を取り出し、その砲口から白い魔力刃を現出させそのまま魔力刃付きのドリアードを振るってアルケナル級を両断して撃墜した。

 

「こいつ!?いつの間に!」

 

いきなり出現して襲いかかってきた魔甲蟲に驚きを隠せない二人、その時勝手に先行していたアスカが何故か嬉しそうに眼を輝かせながら興奮して戻ってきた。

 

「なあなあなあ!!」

 

「ちょっと!なに一人で勝手に行動しているのよ!あたし達今襲わr「そんなことより見ろあれを!」そんな事ってなによ・・・・・!!?」

 

「なっ!!?」

 

ミレーユは勝手な行動をしたアスカに文句を言おうとしたらアスカが興奮しながら自分が来た方角を指さしたので二人はアスカがさした方角に目を凝らす、するとそこには————

 

「「嘘でしょぉおおおおおっ(だろぉおおおおおっ)!!!」」

 

約1km先の空域から脅威が迫っていた・・・・超巨大な朱いマンタの様な形状の新種の変異種(キメラ)、【キメラ・カペラ】が率いる魔甲蟲の大群生が。

 

「どうだ凄えだろう!?アレを全部倒したらオレはヒーローとしての株がメチャクチャ上がるにちがいn「バカッ!逃げるのよ!!」ちょっ!?ふざけんな!!ヒーローが敵に背を向けるなんt「急いでミストガンに戻るよ!多分第一級緊急態勢になる筈だ!!」いででででっ!?引っ張んなってっ!!」

 

当然三人だけで戦闘をするのは危険だと判断したオリバーは一人であの大群生に突っ込もうとしているアスカの首根っこをひっ捕まえてミレーユに緊急離脱命令をだし、C140小隊は大急ぎでこの空域を離脱してミストガンに取って返した。

 

ミストガンの守護者達とこの世界の人類の宿敵である魔甲蟲の大群生とのミストガンの存亡を賭けた戦いの時は刻一刻と迫っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン、闘技場西側観客スタンド四階—————

 

「・・・・・・・」

 

「どうしたテオ、そんなに仏頂面で腕組んで?ステップ」

 

時刻は午後二時三十分、相変わらず全くと言っていい程観客がおらず冷めた感じのEランク戦試合前の闘技場のこの場に似つかわしくない四人の有名人達がフィールド内の空中で睨み合う二つの小隊がこれからランキング戦の試合をするのを観戦しに来ていた。

 

これから始まる試合は第一クォーターEランクリーグJブロック第十一戦目第五試合、E128小隊VSE166小隊、待ちに待ったルーク達の試合だ。

 

「・・・いや、何でもないから気にするなルーイ」

 

「・・・ならいいけど・・・」

 

この場にいるのは二日前にルーク達とディスクをやった三人とA29小隊副小隊長のルーイ・トーイだ。

 

「テオ、ワイ等がやれることは全部やったんやで、後はボウズ共次第なんやから心配したってしゃーないやろ?」

 

「そうよテオ、あの子達はしっかりとチームワークの大切さを学んだんだからきっと大丈夫よ」

 

「・・・・ああ」

 

テオがE128小隊の事を懸念しているように見えたソラとリカはテオに気にしても仕方がないと言う、しかしテオが懸念していたのはルーク個人の欠点が正されていないことであった。

 

—————あの後結局ルークからは一回も恐怖心を感じなかったな、この試合は恐らく問題なくE128小隊が勝利するだろう・・・だが、それでいいのか?アイツ等がEランクでいる限り実戦に出されることは無い、そうすればルークが無謀な戦いをして死ぬ事は無いだろう・・・それを考えたらE128小隊はこのまま負け続けた方がいいのではと考えてしまうな・・・。

 

ルークがこの先の未来で恐怖心を感じないまま成長していったら高い確率で無謀な戦いをして死んでいくだろう、テオはそれが心配で気が気でなかった、しかしそんな心配など時間は気にも留めずに試合開始時刻を刻んだ。

 

「さーて、この前までの無様さらしまくった試合とどうちゃうかお手並み拝見と行こうやないかボウズ共!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内—————

 

『さぁあああこれまでのランキング戦全敗!E128小隊のルーキー共はこの試合で初勝利を手にすることができるのか?それともまたランキング戦の洗礼を受けて無様に地に墜ちるのか?要注目DA★ZE!』

 

「クックック!まさかこんな形であの時の礼ができるとはなぁ」

 

「ケッケッケッケ!たっぷり痛めつけてやるぜ」

 

「ホントラッキーだぜ!E128小隊のザコガキ共が相手なんてよぉ、ギャハハハハハハッ!」

 

「終わったら祝勝会でもしよーぜ!どうせ楽勝だしな!プッ!」

 

相変わらずうるさいシグナルエースマンの実況が響く中でルーク達は飛行魔術を使って宙に滞空しながら今回の対戦相手であるE166小隊のメンバー達と向かい合っていた。

 

E166小隊の隊員達はなんと五日前に焔屋でルーク達にちょっかいを掛けて来た赤青黄緑のカラフル頭の不良予科三年生達だった。

 

「・・・何だ、アイツ等かよ」

 

「へっ!俺達の新しい戦術を試す相手にはもってこいなんじゃねーの?」

 

「ルーク、カナタ、手筈通りにお願いしますよ?」

 

「この戦術は二人が要なんだから油断しないようにね!?」

 

「「へいへい・・・」」

 

「【はい】は一回!」

 

最弱の小隊のレッテルが貼られたルーク達を馬鹿にするE166小隊のメンバー達だったがルーク達はそんなの気にも留めずに作戦の最終確認をしてからそれぞれ魔術士の宝石箱から魔装錬金武装を取り出して初期位置に移動して対戦相手と向かい合った。

 

『さあ、カウントダウンを始める★ZE!』

 

そして試合開始までのカウントダウンが始まった。E128小隊が南側でE166小隊が北側からのスタートだ、カウントダウンが進む毎に闘技場内の緊張が高まっていく・・・・・そして————

 

『試合開始っ!!』

 

試合開始の宣言がされた。

 

『さあ、始まった★ZE!果たして勝利するのは・・・・おおっとっ!?』

 

シグナルエースマンは試合の実況を開始しようとするが目に飛び込んで来た光景の所為で一瞬驚いてしまった、その理由は—————

 

『あのルーキー共はまだ懲りてないのかぁああっ!?E128小隊の前衛二人!いつものように正面から突っ込んで行った★ZE!!バカの一つ覚えとはまさにこのことDAAAAAAA!!』

 

今までのランキング戦の通り個人戦闘(スタンドプレー)を始めるルークとカナタの姿が見えたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北側観客スタンド四階—————

 

「チッ!アイツ等また個人戦闘始めやがった!」

 

ルークとカナタが懲りずに個人戦闘を始めるのを見て、深緑色の髪をオールバックにして黒いサングラスを掛けている大男、グライド・ヒースネルが悪態を吐いた。

 

五日前にルーク達と知り合って最終戦でルーク達を倒すと宣言したこのJブロック首位独走の小隊、E108小隊も全員この場で観戦をしていた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・マジ珍しいじゃん?アンタが静かに黙って観戦なんてさ」

 

いつもうるさくてやかましい赤いモヒカンの大男、ロックス・フォーマルハウトが腕を組んで無言で観戦しているのを見た金髪で褐色肌の少女、キャメロット・ブランジュが内心驚いていた・・・しかし———

 

「・・・・・羨ましい・・・」

 

「・・・・・・・・は?」

 

「羨まし過ぎるぜあのカラフル頭共!E166小隊だぁっ!?なんて羨まし過ぎな小隊番号だ!チクショー!オレ等の小隊番号と取り換えてもらいたいぜ!!」

 

「関心したアタイがバカだったわ!!」

 

【6】という数字をこよなく愛するロックスは小隊番号に【6】が二つも入っているE166小隊のことを盛大に羨ましがり、眼から涙を滝の様に流しながら吼えたのでキャメロットは呆れた。

 

「何やってんだアイツ等!?このまんまじゃまた負けんぞ!」

 

グライドと同じく突撃するルークとカナタを見てこのまま行けば負けると評価するスキンヘッドの少年、カイル・カーネルワイス、他のメンバー達も同じ考えのようだ・・・・しかし一人だけ違う考えの奴がいた。

 

「・・・・・テメェ等の眼は空洞か?」

 

「「「「は?」」」」

 

腕を組んで真剣に観戦している紫色の短いリーゼントの少年、アッシュ・クレイモアは一瞬目を光らせて仲間達の考えを否定した、その理由は—————

 

「なっ!?」

 

「後衛の奴等が後退して左右に別れて行って突っ込んで行った馬鹿二人も敵の中央を切り抜けながら左右に別れたぞ!?」

 

「そのままフィールド四方に展開したわ!」

 

「この陣形は!?」

 

フィールド内のルーク達がそれぞれ北西・北東・南西・南東の最端の場所を位置取った。まるで裏表が白と黒の駒をひっくり返し合って勝敗を決めるボードゲームで全サイドの場所を取って有利に進めるように位置を取って敵を包囲する戦術——————

 

「《端を取った白黒盤(リバーシサイド)》、どうやらこの試合はすぐに終わりそうだぜ!」

 

アッシュはE128小隊の戦術名を口にした後に自分の予想を言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場フィールド内————

 

『E128小隊!E166小隊を四方から取り囲んでヒットアンドアウェイを繰り返して追い詰める!今日の奴等はなんだか動きが違うぞ!?一体何があったと言うんDA★ZE!!』

 

「オイッ!何なんだよ!?話が違うじゃねぇかっ!?」

 

「何くっちゃべってんだテメェ!?隙だらけだぜっ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

あまりにも予想外なルーク達の戦闘にド胆を抜かれたように動揺するE166小隊小隊長である赤髪の少年は魔剣でルークと打ち合っていたが、そんな精神が揺らいでいる状態でルークに打ち勝てる筈も無く、胸にルークの払い蹴りをモロに受けてフィールド中央までふっ飛ばされ————

 

「「「「ぐほっ!!?」」」」

 

同じタイミングで同じようにそれぞれ吹っ飛ばされて来たE166小隊のメンバー達と背中から思いきりぶつかった。

 

「クソッ!あのガキ共調子に乗りやがって!」

 

「このままじゃすまねえぞ!!」

 

「ブッ殺してやるぜ!」

 

下級生にいいようにやられて頭に血がのぼっていて冷静さを失っているE166小隊のメンバー達。

 

「クックックッ!なに焦ることはねぇ」

 

しかし小隊長である赤髪は余裕そうに笑った。

 

「今の奴等は一人ずつバラバラに散っている状態、つまり壁を背にして一人で戦っているに過ぎない、そしてランキング戦は小隊長さえ墜とせば勝ちだ!」

 

赤髪は部下達に説明してフィールド南東にいるクロエを下品な笑みをしながら見た。

 

「あの女を全員で殺るぜ!他はシカトして構わねぇっ!!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

E166小隊のメンバー達は赤髪の号令と共に全員クロエに向けて突攻を開始した・・・だがクロエは今までの試合のうち半分はルークとカナタの個人戦闘の所為で単独で耐えきらなければならない状況に陥った、普通魔砲士などの射砲撃系の空士は混戦の場合周囲に敵が飛び交う状況で狙い撃たなければならないので仲間がカバーしなければ狙いをつけている最中に無防備状態で攻撃を浴びることになる、故に射砲撃系の空士は単独での戦闘は原則として御法度であるのだ。

 

それにも関わらずクロエは毎回単独での戦闘で長時間耐え続けることができた、何故かというと———

 

「悪いけど近づけさせないよ!はあああああっ!!」

 

「どぁああああっ!?」

 

「ふざけんなっ!なんっつう砲撃の連射速度だよっ!!」

 

「まるで城塞砲の軌道上のド真ん中にいるみてぇだ!!」

 

「クソがっ!!」

 

嵐のようなクロエの砲撃の乱射の前にE166小隊のメンバー達は魔力障壁を張って立ち往生、いや空中なので飛び往生するしかない。以前にも言ったがクロエは砲撃の威力と手数で真っ向から勝負する乱砲撃スタイルだ、故に彼女にはその常識は通用しない。

 

更にこの戦術、端を取った白黒盤は敵が膠着状態に我慢できずに一点突破を試みようかとしたところでフリーになった空士達が背後から一斉に敵に詰め寄り、ルーク達が入学式の日にモンド・スミーを相手に使った単縦陣で敵の一点に連続して戦技を叩き込んで一気に叩く戦術・・・《攻城剣撃陣(バテリング・ソード)》に移行できる。

 

「いきますよ!」

 

まず無防備になった四人の後方からロイドが魔剣を構えて凄まじい速度で突撃して来た。

 

「しまっt「もう遅いですよ!」」

 

魔剣戦技——————魔洸四連斬(バーチカルスクエア)

 

「「「「ぐはぁっ!!」」」」

 

ロイドは魔力を纏った魔剣による四連撃で四人纏めて切り抜けクロエの隣に並んだ。

 

「く・・・・クソ!こんn・・・・・ハッ!?」

 

斬られた衝撃とソーサラーフィールドによる精神ダメージの激痛で身動きが取れない中赤髪は真上を見上げた、そこで彼の目に飛び込んで来た光景は————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで決めるぜっ!!」

 

「悪く思うなよっ!!」

 

太陽を背景に右脚を後ろに大きく振り上げたルークとシリンダー型魔力縮退炉を五回転させて魔砲剣の切っ先を赤髪達に向けて砲撃体勢に入っているカナタの姿だった。

 

「チ・・・・・・チキショオオオオオオオオオオォォッ!!!」

 

「「うおおおおおおおぉっ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔蹴術戦技———————————竜巻杭打(パイルトルネード)

 

魔砲剣戦技———————————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

陽が昇れば夜が明ける・・・・・E128小隊の夜はこの一撃で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『き・・・・・決まったぁああああああっ!!E128小隊の前衛二人の必殺の戦技がE166小隊全員を飲み込んで轟音と共に地面に叩き付けられたぁあああああっ!!E166小隊全員気がブッ飛んでいるZE!!ここで試合終了おおおおおおおおぉぉっ!!ルーキー共がTU★I★NIやったZE!勝利したのはE128小隊っ!!初勝利DA★ZE!!!』

 

シグナルエースマンがE128小隊の勝利を高らかに宣言した、ルーク達はとうとう念願の初勝利を手にしたのだ。

 

「・・・・・勝ったのか?・・・」

 

「・・・・・ああ・・・」

 

「勝ったんだよな?・・・」

 

「・・・・・ああ・・・」

 

勝利したという実感が湧かずにルークが放心したまま同じように隣で放心状態のカナタに何度も確認をする・・・そして————

 

「「・・・・・・・いぃいいいいよっしゃぁあああああああっ!!!」」

 

二人は歓喜の雄叫びをあげて拳を合わせた、E128小隊はついにランキング戦で勝利したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時—————突如としてソーサラーフィールドが強制解除されてミストガン中に設置された悲鳴のような警報音、低く唸るような音の空襲警報が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西側観客スタンド四階—————

 

警報音が三度繰り返された後学園浮遊都市全体は数秒間静まり返ったが次の瞬間にはミストガン中のあちこちから一斉にどよめきが沸き起こった。

 

「・・・・遂に来たわね・・・」

 

「よりによって記念すべきボウズ共の初勝利の瞬間かいな・・・」

 

遂にこの時が来たのだ、学園浮遊都市ミストガンの存亡が懸かった戦いの時が———

 

「趣味悪いで・・・・・魔甲蟲共っ!!!」

 

ミストガンの守護者達と人類最大の敵である魔甲蟲の大群生との戦いの火蓋が今、切って落とされた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

テオ「とうとう来たか、あの無数の砲塔を生やした変異種が率いる魔甲蟲の大群生が!」

ルーイ「ニヤニヤすんじゃねぇよステップ!きめぇぞテオ!」

テオ「そうは言っても楽しみで仕方がなかったんだからな、あの変異種の砲撃を斬るのを」

ルーイ「砲撃だけかよステップ!?」

テオ「無論、奴自身もしっかりと斬るつもりだぞ、だが奴が放つと予想される多種多様な砲撃を次々と斬って行く爽快感を想像したらたまらなくてな、特に奴の主砲を斬る事を想像するともう!」

ソラ「盛り上がっとるところスマンが茶々いれさせてもらうで、お前等は最初突っ込んで来るザコ共の迎撃やとジョジョが言っとったわ、つまり【キメラ・カペラ】との戦闘はちょっとの間おあずけやな」

テオ「なん・・・だと・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『防衛戦開戦、Aランクの空士達』

テオ「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

防衛戦開戦、Aランクの空士達

空戦のメインである魔甲蟲との戦闘開始です、と言ってもこの小説はオリ主であるルークと128小隊がミストガン最強の小隊を目指す物語なのでこの先魔甲蟲との戦闘は少ないですが・・・。





学園浮遊都市ミストガンより3km北の空域—————

 

耳を劈くような羽音を幾重にも重ならせて轟音を大空に響かせながらミストガンへと向けて進行する約十万にも及ぶ魔甲蟲の大群勢・・・その最後尾に一人、ルークとあまり変わらない年齢の少女が何故か大群勢の後方から追従する様に飛翔していた。

 

「あそこに見えるのが——様がおっしゃっていた今回の標的である学園浮遊都市ですか・・・」

 

彼女は淡く輝く蒼玉(サファイア)のような長髪に白いジャケットと膝丈のブーツを履いている一見光彩奪目の美少女に見えるのだが・・・明らかに人間にしか見えない彼女が何故人類の天敵である魔甲蟲と共にいるのだろうか?

 

人間を喰らい、屠り、殺し尽くす・・・それが魔甲蟲の意志である筈だ、なのに何故か彼女の周りを飛翔する魔甲蟲達は彼女を襲わない・・・寧ろ彼女を仲間として認めているように追従飛行している。

 

外敵から都市を護る為の防護壁が3km先に見えるミストガンの外周部を覆っていく、この辺りの空域はミストガンの空戦魔導士科指令センターで監視されているのでこの対応の早さは流石と言ったところだ・・・しかし、そんなものは意味を成さないと言わんばかりに魔甲蟲の大群勢は止まる気配がない。

 

「さて、どう攻め墜とすとしましょうか・・・」

 

自らの顎に右手を添えてミストガン攻略の戦略考える少女の名は《キルスティ・バーミリオン》、彼女は今ある人物の命を受けてここにいる。

 

『キルスティ、キミには十万の群勢を率いてある学園浮遊都市を攻めてもらう』

 

『はっ、畏まりました——様』

 

『ハハハ、即答かね?まだ目的について話していないのだが』

 

『も、申し訳ありません!』

 

『ハハハ、構わないよ、楽にしたまえ』

 

『はっ、してその目的とは?』

 

『この世界の人間達は基本的には我々の敵では無い・・・だが、現状で唯一我々の脅威と成り得そうな物(ぶつ)がこの世界に存在するみたいなんだ、今言った学園浮遊都市にはそれの所有者が一人いるみたいでね、キミはその所有者を誘き出して始末して来てほしい、できるならばその物の回収をお願いするよ』

 

『はっ、畏まりました——様』

 

『期待しているよ、で、その物の名は————』

 

キルスティは戦略を考えながらその人物が言っていた目的について再確認をする。

 

「今回の目的は学園浮遊都市ミストガンを攻め圧倒的なチカラを以って蹂躙し、この都市のどこかにいるとされる《玉璽(レガリア)》の所有者を誘き出して始末、あわよくば玉璽を回収すること・・・必ずや成し遂げて見せます」

 

自分に命を下した人物を想い心に激を入れたキルスティは黒い大鎌を携えて目標であるミストガンを研ぎ澄まされた眼で睨みつけ進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン空戦魔導士科指令センター————

 

「状況はどうなっている?」

 

赤い警報灯が室内を赤く染め大音量の空襲警報が室内中に鳴り響く指令センターの出入り口が開き、空戦魔導士科長(ガーディアンリーダー)であるジョバンニが険しい眼をして入室してきて室内に緊急待機していたオペレーター陣に襲撃者の様子とミストガン内の現在状況の説明を要求する。

 

「現在外壁防護壁の展開は完了し都市内の避難誘導もEランク小隊各員により順調に進んでいます!この調子で進めばおよそ四十分で全市民の地下シェルターへの避難が完了する計算になります!」

 

「敵は現在、ミストガン周辺の空域に十万の戦力をいくつかに分散して展開しています!東西南北2kmの空域それぞれに【キメラ・デネブ】二体を伴う二万の魔甲蟲の大群がこちらに向けて進行中です!」

 

「残りの敵戦力は【キメラ・カペラ】を大将として北方3kmの空域にて待機している模様!現在進行中の合計約八万の群勢は我々人間でいう【先行部隊】だと予測されます!」

 

オペレーター陣が室内中央の立体映像に数万にも及ぶ数の赤い光点を表示しながらジョバンニに報告していく、この赤い光点は全て魔甲蟲だ、その赤い光点がミストガンの周辺空域を埋め尽くしている、人類の天敵たる存在の群勢がこの学園浮遊都市内の人間達を駆逐せんと包囲している状況を知ったジョバンニは立体映像を睨みつけた。

 

「とうとう来やがったか、こっちの準備は万全だがさて・・・どう動く?」

 

右手の人差し指と中指を自分の右の蟀谷に当てて敵の出方を見るジョバンニ、どうやら先に仕掛けずに敵の動きを見て対応する作戦のようだ。そして敵はすぐに動きを見せた。

 

「空戦魔導士科長!東方・南方・西方の魔甲蟲の群が一斉に急加速し始めて真っ直ぐこちらに向かって来ます!」

 

立体映像には北を除いた三方向に表示されている無数の赤い光点が隊列を組んで速度を速めたのを確認したジョバンニは何故か不敵な笑みをしていた。

 

「ふっ!こりゃあ都合がいいぜ、その空域はそれぞれあのバカ共が率いる精鋭連隊が配置されているからな」

 

まさに飛んで火にいる夏の虫だと言わんばかりにそう言ったジョバンニは室内の最奥中央にある大規模通信結晶の前に立ち、それを介してミストガン中の空士達に指示を出し始めた。

 

「全軍に次ぐ!これより学園浮遊都市ミストガンの防衛戦を開始する!全員死力を尽くせ!そして生きて帰って来い!!どうしても駄目そうなら今から言う言葉を思い出せ!!」

 

ジョバンニは一呼吸を置いて———

 

「どんな困難や逆境でも絶対に諦めるな!信じろ自分の感覚を!今までの訓練を!そして仲間達を!!俺達が勝つと信じて戦い抜け!!!」

 

入学式の時にも言った【空士の回廊】を歩む為の秘訣を言い放ち、それを合図にミストガンの命運が懸かった防衛戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km南の空域—————

 

暗雲が立ち込めているかのような錯覚を感じさせる約二万の大群で大空を埋め尽くすかのように飛翔し進行する魔甲蟲達、その身に宿すチカラは《呪力》、魔力より高い事象干渉力を持ち人類の理解が及ばない滅びのチカラ、そんな恐るべきチカラを持った群勢がドーム状の防護壁に覆われたミストガンを視界に収めようとしたその時———

 

変則的加速(チェンジオブペース)—————電光石火(ブリッツアクション)

 

突如ミストガンから飛来して来た二つの金色の閃光が最前列の魔甲蟲数十体を貫き両断して撃墜した。

 

「都市のショタっ子達とついでに市民達には指一本触れさせない!いくよアディア!」

 

「姉さんにとって市民はついで扱いなのか・・・」

 

金色の閃光の正体は【A16小隊】小隊長のフェイト・アストレイとその弟にして副小隊長のアディア・アストレイであり、二人は防護服(プロテクター)をその身に纏い閃光を錯覚させるような速さで飛翔して来てそれぞれの魔装錬金武装を以って敵を斬り裂いたのである。

 

フェイトは裾が長めの黒い軍服風のジャケットを着て同じ色のミニスカートを履いていて白いマントを身に付けているといった見た目の防護服を身に纏っていて、髪の両端を黒いリボンで縛ってツインテールにしている姿は普段とは違う可憐な雰囲気を感じさせるが性癖と言動の所為で台無しである。彼女の魔装錬金武装は機械的な黒い《魔戦斧》の様に見えるが、これは使用者の意志で様々な武装に変形する【魔錬装器】である、フェイトはこの魔錬装器《バルディッシュ》を武器に多彩な戦術を駆使する【魔錬装士】、別名《マルチウェポン》と呼ばれる世界で三人しかいないバトルスタイルの空士なのだ。

 

アディアは黒いノースリーブタンクトップを着てグレーの長ズボンを履いていて風で棚引く白いマフラーを首に巻いて身に付けているといった見た目の防護服を身に纏っているその姿は姉と違って容姿通りの凛々しさが際立つが、姉の言動と行動理念の所為で気苦労が絶えないと言っているかのように溜息を吐いている。彼は黒い刀身と銀の刃を持つ魔双剣【スワローテイル】を振るい手数と速度で圧倒する【魔双剣士】である。

 

「姉さん忘れてないよね?僕等の役目はこの群れの指令である二体の【キメラ・デネブ】を速攻で撃墜して敵の統率を崩すことなんだからね」

 

魔甲蟲が群れを成して浮遊都市を襲う場合は大体が《変異種指令型魔甲蟲》が無数の《原種型魔甲蟲》に指令を出して行動する、今回の場合全群の総司令が《変異種母体型魔甲蟲》である【キメラ・カペラ】であり、各先行部隊の指揮を取っているのが《中型変異種》である【キメラ・デネブ】である、この先行部隊の指揮を取っている【キメラ・デネブ】は二体、これらを撃墜すればこの群の指揮系統を崩壊させることができるのだ。

 

フェイトとアディアの役目は先行して敵の懐に潜り込み迅速に二体の【キメラ・デネブ】を撃墜して統率を崩し、後から来るミストガンの仲間達が戦い易くする事だ。レオには及ばないもののミストガン上位クラスの飛行速度を誇る実力者である二人にピッタリな役目である。

 

「解ってるよ、でも周りのアルケナル級が邪魔だね・・・一掃するかな」

 

正面600m先にいる一体の【キメラ・デネブ】を守護するようにその周囲を囲んでいる無数のアルケナル級を見てフェイトはそう呟きバルディッシュを魔力刃の魔鎌に変形させブーメランを投げるかの如く振り抜いた。

 

魔鎌戦技—————飛翔疾空光刃(ハーケンセイバー)

 

バルディッシュの魔力刃から光の斬撃が飛んで行き正面のアルケナル級半数を薙ぎ払った。

 

「姉さん、僕が道を切り拓くから姉さんは【キメラ・デネブ】を仕留めて!」

 

スワローテイルを八双に構えたアディアがフェイトにそう言ってから残像ができる程の速度で彼女が仕留め損ねた正面のアルケナル級に突撃して行き————

 

魔双剣戦技—————黄金の牙(ゴルドネファング)

 

全てに擦れ違い斬り抜けた一秒後、無数の斬撃の軌跡が道を塞ぐ全てのアルケナル級を細切れにした。

 

そして守りが手薄になったところでフェイトが【キメラ・デネブ】に向かって閃光の如く突撃する、その際に彼女はマントとジャケットを脱ぎ捨てインナーである黒いレオタードの上にミニスカートを履いているような恰好になり身体を軽くして自身の最高飛行速度を大幅に上げ【キメラ・デネブ】に迫って行く、その速度は音速に達していたので彼女が通った空間から周囲数メートルがソニックブームによって衝撃を受けた。

 

接近して来ているフェイトに気付いた【キメラ・デネブ】は無数の触手を伸ばして彼女を捕らえようとするが音速で飛翔するフェイトはそれをものともせずに中央から全て回避して正面突破した。

 

フェイトはいつの間にか魔力刃の魔双剣に変形させていたバルディッシュで【キメラ・デネブ】の真上から頭に叩き付けるように斬りかかる・・・しかし———

 

「呪力障壁!!?」

 

突如【キメラ・デネブ】の頭の前に張られた禍々しく光る障壁によって魔力刃が弾き返され———

 

「キャアアッ!?」

 

その反動で弾き飛ばされたフェイトに【キメラ・デネブ】の無数の触手が絡み付き彼女の身体を卑猥に縛り上げた為にフェイトは動きを封じられて拘束されてしまい———

 

「嫌っ、ちょ!?あっ!あんっ♥」

 

触手が薄くなったフェイトの防護服の中に侵入し彼女の白い肌を直接蹂躙してきた為にフェイトは嫌悪感を感じると同時に性感帯を刺激されて喘ぐ。

 

「あっ!ダメっ!やるなら!ショタっ子にぃぃ♥」

 

・・・他人が聴いたらドン引きするような事を身体をくねらせながら言うフェイト、彼女は今の状況を理解しているのだろうか?そんなフェイトに一本の極太い針のような触手が迫り彼女の身体を貫こうとしたその時———

 

「ひょ?」

 

突如飛来した真空刃がフェイトを拘束している触手と彼女を貫こうとしていた触手を全て切り落とし、解放されたフェイトは思わず呆けてしまった。

 

「人が苦労している時に随分と楽しそうにしているね姉さん」

 

今の真空刃はアディアが放ったカマイタチだ、冷たく怒気が籠った声が聞こえたと同時に閃光の如き速度でフェイトの許に飛んで来たアディアは恐ろしいくらいの笑顔だった、明らかに怒っている。

 

「ア、アディア・・・これh「この程度の呪力障壁ぐらい姉さんなら簡単に破れるでしょ?早くしてよ」・・・ハイ・・・」

 

私は好きで捕まったわけじゃないと反論しようとしたフェイトだったがアディアの威圧感にアッサリ負けてしょんぼりした気持ちで彼女は魔双剣の魔力刃を【キメラ・デネブ】の呪力障壁に向けてその切っ先に魔力を収束する。

 

魔錬装器戦技——————雷光魔砲(サンダーレイジ)

 

そこから雷の属性変換付与によって形成された巨大な剣のような形の砲撃が放たれて【キメラ・デネブ】の前に張られている呪力障壁に突き刺さって被爆し呪力障壁が砕け散った。

 

「キミも嫁入り前の人の姉に随分と卑猥な事をやってくれたね・・・少し、頭冷やしてもらおうか?」

 

アディアは全てを凍てつかせるような目で再び触手を繰り出してきている【キメラ・デネブ】を睨みつけて魔双剣を構え————

 

魔双剣戦技——————幻影奇襲(ファントムレイド)

 

アディアが三人に見えるような錯覚を感じる程の速度で迫る触手と【キメラ・デネブ】の身体をズタズタに斬り裂いた。

 

「じゃあとどめは任せたよ姉さん」

 

アディアは【キメラ・デネブ】の後方に斬り抜けてフェイトに後を託し音速でその場を離れると————

 

「はあぁぁぁあああっ!!」

 

同じく音速でアディアと入れ替わるようにして突撃してきたフェイトが魔双剣の魔力刃を一つに合わせて巨大な魔力の刀身を作って振り被り、野球のバットをフルスイングする要領で【キメラ・デネブ】に叩き込んだ。

 

魔双剣戦技—————災厄ノ暴剣(ライオットザンバー・カラミティ)

 

フェイトの制限戦技(リミットスキル)がクリーンヒットした【キメラ・デネブ】は斜め45度の角度で天高くブッ飛ばされて四散した、まずは一体撃破だ。

 

「へっ!汚い花火だ!」

 

「そんな姿で言ったって全然恰好付かないよ・・・スカートまで脱いでさ・・・」

 

「うおっ?いつの間に!」

 

四散する敵を見上げてネタをかますフェイトに近づいて来たアディアは呆れたように彼女に指摘する。フェイトは最後の突攻の直前無意識にミニスカートを脱ぎ捨ててインナーである黒いレオタードだけの姿になっていた。

 

「まったく、毎回毎回姉さんが脱ぎ捨てた防護服を戦闘中に広い集める僕と部下達の身にもなってよね、ほら敵が集まって来る前にこれを着t—————」

 

戦闘中フェイトが脱ぎ捨てた防護服を全て広い集めていたアディアはそれを取り出して彼女に渡そうとした途端、不意に百数条の光の束がミストガンの方角から飛んで来て二人の数十メートル先に飛翔する数百の魔甲蟲を塵に変えた。

 

「やっと来たみたいだね」

 

砲撃を放ったのはこの防衛戦の為に編成したフェイト達が率いるA~Bランク小隊の空士で構成された精鋭連隊だ、都市外四方に配備された各連隊の総数は約三千、ミストガンの中でも選りすぐりの空士達が二人が【キメラ・デネブ】一体を撃墜して敵の統率が崩れるのを見計らって応援に駆け付けたのである。

 

「遅いよみんな!」

 

「貴方達が速過ぎるんですよ」

 

「【魂の炎(スピットファイア)】に次ぐ飛行速度を持つ御二人に着いて行くのは困難なのですから勘弁してください」

 

後から来た空士達に愚痴を言うフェイト、元々二人が先行する作戦だと言うのに理不尽な物言いである。

 

「まったくだらしないんだから・・・・・それじゃあ私とアディアはもう一体の【キメラ・デネブ】を撃墜しに行くから援護は任せたよみんな!!」

 

「「「「「「「了解っ!!!」」」」」」」

 

「それじゃあ迎撃開始!!」

 

フェイトの号令と共に連隊の空士達は散開して戦闘を開始し、それと同時にフェイトは1km先に飛翔するもう一体の【キメラ・デネブ】目掛けて音速で突撃して行った・・・・・レオタード姿のままで・・・。

 

「・・・防護服を着直してから行ってよね・・・」

 

姉の防護服を抱えたまま落胆して気怠そうに姉の後を追う気苦労の絶えないアディアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km西の空域——————

 

フェイト達が戦闘を開始するのと同時刻、この空域では【A1小隊】小隊長のラディル・アルベインと副小隊長のノイス・マディン率いる精鋭連隊が魔甲蟲の一群との乱戦を繰り広げていた。

 

「ハァッ!」

 

天雷流魔刀戦技——————雷神破砕斬

 

ミストガンの学生服と同じデザインの防護服の上から背中と右胸に雷マークが刺繍されているチョッキを前を閉めずに着て、左腰のベルトに鞘に収まっている魔装錬金製の小太刀と脇差、そして魔刀用の鞘を差して帯刀し、紫色の電光を放つ魔刀《麒麟》を半月状に振るってカマキリのような形状をした魔甲蟲《プロキオン級》を斬り裂き爆散させたラディルがふぅっと息を吐いて魔刀を鞘に収めた。

 

「気を抜いている場合じゃないぜラディル!一体目の【キメラ・デネブ】は目前だぜ!」

 

ラディルと同じようにミストガンの学生服と同じデザインの防護服の上から背中と右胸に雪の結晶マークが刺繍されたチョッキを着ていつも身に付けている雪の結晶マークが入った青いマフラーを首に巻いたノイスが穂の両端に小さい穂が斜めに突き出ているコルセスカという形状の魔槍《ガスト》を振るって道を塞ぐアルケナル級を薙ぎ払い、一息を吐いているラディルに呼び掛けた。

 

隊員全員がそれぞれ異なる属性変換付与を使うA1小隊は全員自分が扱う属性のマークが刺繍されたチョッキを着て戦闘に臨むという決まり事を小隊長であるラディルが起ち上げている、各小隊長は自分の小隊の決まり事をある程度なら自由に決める事ができるのでそれが各小隊の個性を引き立たせる傾向がある。

 

「別に気ぃ抜いてたわけじゃないぞ、今でも気は張り巡らせてある」

 

「そんなことは分かってるぜ!気持ちの問題だ気持ちの!」

 

バチバチ静電気が発生している自分の天然パーマの髪をボリボリと掻きながら受け答えするラディルに対して指摘するノイス、彼は普段待機中にアイスキューブでお手玉をするなどでふざけているように見えるが、実際は落ち着きが無いだけで根は真面目であり、小隊の訓練メニューや任務の報告書の作成は彼が全て担当している、何故かというとラディルや他の隊員達が作成すると小学生の作文のような物しかできないからである、つまりA1小隊はノイス以外馬鹿しかいないのだ。

 

「ラディルさん!私達が【キメラ・デネブ】への道を塞ぐ魔甲蟲を排除します!」

 

「御二人は【キメラ・デネブ】を撃墜してください!」

 

二人の後方で魔砲杖を構えていた魔砲士数十人が一斉に砲撃を放ち、無数の光の束が【キメラ・デネブ】の前に飛翔していた無数のアルケナル級を塵に変え、その隙にラディルとノイスは【キメラ・デネブ】に接近する。

 

「うじゃうじゃと気持ち悪いぜ!だがオイラには関係ないぜ!」

 

【キメラ・デネブ】の蠢く触手に嫌悪したノイスは敵の40m手前まで接近するや否や弓を引く様に魔槍を構え身体を後ろに反らし———

 

魔槍戦技——————絶氷の騎兵槍(コキュートスランス)

 

勢い良く手前に突き刺す様に突きを放つとその瞬間に魔槍の穂の切っ先から先の空間が細長い円錐状に凍り、まるで巨大な騎兵槍(ランス)のような形状の氷がいつの間にか前方の【キメラ・デネブ】を貫いていた。

 

突きを放った魔槍の先の大気中の水分を凍らせて射程内の敵を貫く防御不能の戦技だ、最大射程距離は50m、一瞬にして凍り付くが故に射程内に入った敵は貫かれる運命なのだ。

 

「ナイスだノイス、後はオレがブッた斬るだけだな」

 

そして飄々とした態度で【キメラ・デネブ】に突き刺さった氷の騎兵槍の上に飛び乗ったラディルが左半身を後ろにさげて腰を落とし、鞘に収められた麒麟の柄を右手で掴み抜刀の構えを取る。突き刺さった場所から深緑色の液体をまき散らして狂い悶える【キメラ・デネブ】に向けてそのままの体勢で氷の騎兵槍の上を滑り下りるラディルは麒麟の鞘と刀身に電流を流して磁界を発生させ、【キメラ・デネブ】の懐に入った瞬間に彼は麒麟を超電磁加速銃(レールガン)の様な勢いで抜刀した。

 

天雷流魔刀戦技——————雷切

 

ラディルが使う《天雷流魔刀術》とは、彼の出身浮遊都市である《ドンナー》に伝わる雷の属性変換付与が使える魔刀士だけが使える流派であり、この流派を究めた者はこの世の全ての電気エネルギーを集束した究極の雷撃による斬撃、《雷神ノ裁剣》を習得すると伝えられているが未だ嘗て誰一人としてその極みに至った者はいない。

 

「よしっ、一丁あがりだ!」

 

「まだもう一体いるぜ!気を抜いている場合じゃねえぜラディル!!」

 

雷速より速い抜刀術で水平に両断された【キメラ・デネブ】が消滅し、雷帝(サンダーエンペラー)と氷帝(アイスエンペラー)の二つ名に恥じない実力を見せつけたラディルとノイスは妨害して来る無数のアルケナル級とプロキオン級を蹴散らしながらもう一体の【キメラ・デネブ】を撃墜しに凄まじい速度で飛翔して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより1km東の空域—————

 

この空域の戦闘は他より苛烈な空中格闘戦(ドッグファイト)が繰り広げられていた。【A29小隊】小隊長テオ・セシルと副小隊長ルーイ・トーイ率いる精鋭連隊の空士達が魔剣で、魔槍で、魔戦斧で、魔槌で、襲いかかって来る魔甲蟲の大群を縦横無尽に飛び回って迎撃していく、だが魔甲蟲達も負けじと集団で襲いかかり、空士の腸(はらわた)を喰い破り、強靭な牙で引き裂き、呪力弾で撃ち抜いたりすることで一人、また一人と浮遊都市の守護者達の命を奪っていく。

 

今、この美しい蒼穹の大空は血と爆炎で煉獄の様な緋色に染まっていた。

 

「・・・つまらん」

 

いつも被っているスポーツキャップを被り、手の甲に白い星マークが入った指貫グローブを両手に装着し、白いインナーの上から背中に白い星マークが入った赤いサバイバルベストを着て、空色のジーンズと白い星マークが入った赤いシューズを履いているといったデザインの防護服を身に纏ったテオが不満そうに身の丈より大きめの銀色の出刃包丁の様な魔大剣《エクシードバスタード》を振るって襲い掛かってくる【キメラ・デネブ】の無数の触手を薙ぎ払う。

 

「このような触手しか能が無い敵を斬っても無価値だ」

 

全ての触手を斬り落とされた【キメラ・デネブ】が激痛で狂い悶えながら斬られた場所から深緑色の液体をまき散らし、その胡桃のような巨体でテオに突撃して来たが彼はミストガンで二番目に強い空士、普通なら苦戦必至の中型変異種だが彼にはこの程度敵にもならない。

 

魔大剣戦技—————大雪断(ギガバスタード)

 

これはただ魔大剣に魔力を込めて上から豪快に振り下ろして叩き斬るだけの戦技だ、しかしテオが使うとこんな単純な戦技でも必殺の一撃となる。想像を絶する膂力で振り下ろされる魔大剣が大気を引き裂き衝撃波が彼の周囲半径800mを吹き飛ばし、【キメラ・デネブ】を縦に一刀両断して呆気無く撃墜した。テオはつまらないものを斬ってしまったと言わんばかりに鼻を鳴らしエクシードバスタードを背中に帯刀した。

 

「ステップ!楽勝だなテオ、流石だぜステップ!」

 

ヘッドホンを身に付けダボダボの黄緑色のパーカーを着て空色の短パンを履いているというデザインの防護服を身に纏っているルーイが円刃の投擲武装・・・《魔戦輪》《レゾナンスビート》を両手に携えてテオに近づいて気さくに声をかけてきた。しかしテオの表情は不満そうだ。

 

「確かに取るに足らない敵だが気を抜くんじゃないぞ、どんなに無価値な敵でも一瞬の油断で足下を掬われる事があるからな」

 

「随分とつまんなそうな面だなテオ、やっぱり砲撃を撃ってくる強敵じゃないとやる気出ないか?ステップ!」

 

「まあな・・・だがコイツらを全滅させれば【キメラ・カペラ】の迎撃に向かえる筈だ」

 

テオは敵の大将である巨大な身体中に砲塔を生やした大型変異種の事を思い浮かべると楽しみのあまりに凶悪そうな笑みを浮かべてしまう、彼の頭の中は今【どんな強力な砲撃を撃ってくるのか?】とか【砲撃斬り放題で気分爽快だろうな】とかの煩悩?でいっぱいだ、流石砲撃上等系男子。

 

「・・・フッ!楽しみだ」

 

「温度差激しいなステップ」

 

ルーイはムスッとしていた表情が一瞬で笑顔?に変わったテオを見て呆れた、分かっていた事だが呆れた、いつもの事だが呆れた。

 

—————この砲撃上等系男子は人間の三大欲求が全部【砲撃斬り欲】に変換されているのか?ステップ!気ぃ抜いてんのはどっちだよ・・・。

 

もはや病気だ、もう何も言うまいと思ったルーイはとっとともう一体の【キメラ・デネブ】も片付けようと次のターゲットの許へ向かおうとするが————

 

「・・・・待て、ルーイ」

 

唐突に険しい表情に変わったテオがルーイを呼び止めた。

 

「どうした?ステップ」

 

「・・・妙な空気を感じる」

 

嫌な予感がしたテオは辺りを見回す、彼は先程から何かが変だと思っていた、敵の戦術が単純過ぎると、【キメラ・カペラ】が高い知能を持っているのならここらで何か仕掛けて来る筈。

 

「・・・・・・」

 

いつの間にか襲い掛かって来ていたアルケナル級五体を無言で斬り裂いたテオは次の瞬間にミストガンの真上と真下に気配を感じてハッと振り返る、するとそこには———

 

「・・・・・予感的中だな・・・」

 

ミストガンの上下約200m先の雲から一体ずつの【キメラ・デネブ】率いるそれぞれ約二千の別動隊が姿を現した。

 

防衛戦はここからが正念場だ、果たして彼等はミストガンを護り抜くことができるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

フェイト「さあ、どんどん敵を墜としていくよ!」

アディア「姉さん凄い気迫だ、いつもは男の子の事しか考えていないのに」

フェイト「見縊らないでアディア、私だってミストガンの空士だよ!」

アディア「うん、そうだね、ごめん姉さん、僕は姉さんの事を誤解しt———」

フェイト「何で【リオス・ローレファンクラブ】会長の私がリオスきゅんの連隊の隊員として編成されなかったのぉぉぉおおお!?魔甲蟲を撃墜しまくって憂さ晴らししてやるぅぅうううっ!!」

アディア「ね・え・さ・ん!(怒)」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『都市内戦、空戦魔導士として』

フェイト「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

都市内戦、空戦魔導士として

学園浮遊都市ミストガン三番区郊外————

 

ミストガン周囲の空域でテオ達が戦闘を繰り広げている頃、E128小隊は避難誘導と逃げ遅れた市民の救助活動をする為に割り当てられた郊外区域を見回っていた。

 

「こっちは異常無しだ、そっちはどうだ?」

 

「こちらも異常無しです、ルークはどうですか?」

 

郊外と言うだけあって元々人気の無いゴーストタウンのような静けさの中、順調に安全確認を済ませて来たカナタとロイドが相互確認をする、この抗呪素材(アンチカーズ)製のドーム壁付近は元より人通りが少ないので避難も比較的円滑に進んでいたのだが。

 

「こっちも問題ねぇが・・・クロエはどうしたんだ?」

 

「さっき脚を挫いて捻挫して泣いていたガキを見つけて抱きかかえてシェルターまで飛んで行ったぜ」

 

「ええ、泣きじゃくる子供をあやしながら抱きかかえる様は包容力が高い姉のようでしたね」

 

ここにいないクロエの事を気に掛けるルークに二人はクロエの現状を話す、クロエが行方不明になったわけじゃないと安心したルークは意識を集中し絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)を使って周囲を探った。

 

—————空気がビリビリするぜ、嫌な感じの不純物が防護壁の小せぇ隙間から入って来て空気を汚染してやがる・・・これが【呪力】ってやつか・・・。

 

ミストガン近辺にいる魔甲蟲が放出する呪力の残滓が防護壁の僅かな隙間から入って来るのを肌で感じたルークはその悍ましさに僅かに身体を震えさせる、ルークは恐怖を感じないので気持ち悪いと感じたのだろう。

 

「子供は無事に届けて来たよ、任務を再開しようか」

 

そんな中でシェルターに子供を届けて戻って来たクロエが何故か嬉しそうに顔がにやけていた。

 

「なんだよ?なんかいいことでもあったのか?」

 

「うん!子供を届けたらシェルターの中にいた人達に沢山応援をもらっちゃった♪」

 

ニコニコしながら嬉しそうに自慢するクロエ、きっと市民達は空戦魔導士科(ガーディアン)の学生達を信じているのだろう。

 

「そっか、ならそいつらの期待に応えてやらなくちゃな!」

 

カナタの言葉でより一層気合いが入るE128小隊のメンバー達だったが、ルークは急に周囲の空気が重くなるのを感じてドーム状に覆われた防護壁が遮る空を険しい表情で見上げた。

 

「・・・嫌な予感がするぜ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空戦魔導士科指令センター—————

 

ミストガン周囲を防衛する精鋭連隊が魔甲蟲の先行部隊を順調に迎撃して行き緊迫した空気が少々緩んできていたオペレーター陣だったが突如ミストガンの真上と真下から敵の別動隊が出現した事によってどよめいていた。

 

「クッ!?俺としたことがもっと立体的に戦略を考えるべきだったぜ」

 

大規模通信結晶を介して指示を出していたジョバンニは自分の迂闊さを悔いながらも次の一手を打つ為に思考を張り巡らせる。

 

————各区域の市民の避難は大方完了し都市内部の各連隊の配置も済んでいる、上から来る奴等が防護壁を破って内部に侵入してもすぐさま迎撃できるだろう・・・問題は下から来る奴等だ、下方の外壁が破られれば一般市民が避難している地下シェルターまで一直線に侵入されてしまうだろう、それだけはなんとしても阻止しねぇとな、さてどうするか・・・。

 

ジョバンニが思考をフル回転させて迅速に戦略を考えていると彼の通信結晶に突然通信が入った。

 

『ジョバンニ、聞こえるか?俺だ、テオだ』

 

通信を繋いできたのは東側の空域を防衛していたテオだった。

 

「どうした?今新たな敵部隊の出現に対応する事に忙しい、手短に用件を言え」

 

『その敵部隊の迎撃についてなんだが、下の外壁を突破されたらヤバイんだろ?俺が単独で下から来る敵を迎え撃つ』

 

「何?今なんて言った?」

 

『俺が単独で迎え撃つと言ったんだ、この空域の【キメラ・デネブ】は二体共撃墜した、後はルーイにこの場の指揮を任せても大丈夫だろう』

 

ジョバンニはテオの提案を聞いて眉を顰める、幾らテオが優秀な空士だからといって単独で魔甲蟲の大群と交戦するのは非常に危険だからだ、下から来る魔甲蟲の数は約二千、プロの空戦魔導士のエースでもこの数相手に単独で渡り合うのは骨が折れるであろう。

 

『なに、心配しなくてもいい、【キメラ・デネブ】を撃墜したら援軍が来るまで無理はしないさ、北の最奥にいる親玉と戦る為の体力と魔力がなくなってしまうからな』

 

「・・・はぁ、仕方ない、マジで無理はするなよ、ヤバイと思ったらすぐに退避しろ、後はこっちで対応する」

 

そんなジョバンニの心情を知ってかテオは無理はしないと約束したのでジョバンニは仕方なく許可して通信を切った。

 

それと同時に大きな衝撃と轟音がミストガン全体を襲った。

 

「空戦魔導士科長!真上から接近して来た魔甲蟲の別動隊により防護壁が破られました!」

 

「敵が破られた防護壁から都市内部に侵入して来ます!侵入されたのは八番区、S45特務小隊のリオス・ローレ率いる連隊が配置されている区域です!」

 

オペレーター陣がジョバンニに現状報告をする、再び緊迫した空気が指令センター内を包む中ジョバンニはここからが正念場だと意識を強く持ち八番区にいるリオスの通信結晶に通信を繋いだ。

 

「ローレ、聞こえるか?応答しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八番区中央通り—————

 

『おい!聞こえているのかリオス・ローレ!?』

 

「あ、ごめん、お客さん(魔甲蟲)が沢山来てウキウキしていたから気付かなかった♪」

 

ミストガンが誇る天才であるリオスは実はかなりの戦闘狂(バトルマニア)である、たった今上の防護壁を破って都市内部に侵入して来た【キメラ・デネブ】一体が率いる二千の魔甲蟲の大群を高層ビルの屋上から見たリオスは無邪気な笑みを浮かべ耳に装着している通信結晶から聞こえてきたジョバンニの声に気付かない程楽しそうにしていた。

 

『・・・まあ、敵が侵入したのを分かっているならいい、直ちにg『空戦魔導士科長!北の空域の防衛ラインが突破されました!!突破した敵は【キメラ・デネブ】二体とアルケナル級を中心とした小型魔甲蟲三千体!それらが三番区付近の防護壁を破ろうと真っ直ぐ突撃してきます!!』・・・チッ!そっちは任せたぞローレ、やり方は任せる!』

 

「りょーかい♪」

 

ジョバンニは緊急の報告が入った為、その場をリオスに任せて通信を切った。

 

リオスは楽しそうに敵の大群を視界に収め自分の魔装錬金武装(エモノ)である砲剣マクスウェルを構えて飛行魔術を発動した。

 

「みんなー行くよー!僕が【キメラ・デネブ】を墜とすからみんなは援護してねー♪」

 

「「「「「「「きゃーーーー!リオスきゅうぅぅぅうううんっ♥」」」」」」」

 

「かわいいーーー♥しびれるぅぅうううっ!!」

 

「絶対に私が護ってみせるわ!」

 

「ウチらのリオスきゅんに手出しはさせへんでぇぇえええ!」

 

「リオスきゅん、ハァハァ♥・・・」

 

リオスは空を舞い自分が指揮を取る連隊の空士達に指示を出すと各配置についた空戦魔導士科の女子達がドン引きする程高いテンションで飛行魔術を発動して空を舞い狂喜乱舞する、C~Dランク小隊の女子達の多くがリオスの連隊に入るのを志願したのでここにいるのは殆ど女子だった。

 

ミストガン空戦魔導士科の女子生徒達はフェイトを筆頭に殆どがショタコンである、イケメンより可愛い男の子を愛でるのが好きなのが彼女達なのだ、ミストガン空戦魔導士科女子のトップであるリカはブラコンだし・・・・・駄目だコイツ等、早くなんとかしないと・・・。

 

「そんじゃレッツゴー♪」

 

リオスを先頭に防衛連隊の空士達が侵入して来た魔甲蟲の大群の迎撃を開始した。

 

「ほっ!はっ!とうっ!」

 

リオスは向かって来る無数のアルケナル級を砲剣で斬り裂きながらこの群の将である【キメラ・デネブ】に向かって弾丸のような速度で飛んで行く。

 

【キメラ・デネブ】へと向かうリオスを亡き者にしようと無数のアルケナル級やプロキオン級が次々に襲い掛かるのだが————

 

「私のリオスきゅんに手出ししてるんじゃないわよ!」

 

「汚い脚でアタシの天使に触れるな塵蟲がぁぁああっ!!」

 

リオスの後から追従する女子達が阿修羅や鬼神の様な形相をして凄まじい火力の砲撃で襲い来る魔甲蟲達を撃墜・・・いや、塵一つ残さず消滅させていった・・・。

 

「アハハハハ♪凄く大きい」

 

彼女達のおかげで真っ直ぐと【キメラ・デネブ】へと接近したリオスは交戦を開始した。

 

先手を打って来たのは【キメラ・デネブ】だ、うじゅるうじゅると誰もが生理的嫌悪感を抱くであろう無数の触手を向かって来るリオスに向けて伸ばした。

 

「ばっちぃから触らないで」

 

魔砲剣戦技—————紅蓮一閃

 

放出した魔力を属性変換付与により紅蓮の焔に変化させて砲剣に纏い、横薙ぎの焔の一閃が広範囲に亘って空間を焼き払う、伸ばして来た無数の触手はリオスが放った戦技によって炭となり崩れ落ちた。

 

「アハハハハ♪行っくよー!」

 

とびっきりの笑顔で【キメラ・デネブ】に接近したリオスはその周囲を旋回するように飛行して翻弄しながら攻撃を開始する。

 

魔砲剣戦技—————風姫の剣舞(シルフィードブレイド)

 

砲剣を覆うように属性変換付与によって出現した真空の刃が伸びて【キメラ・デネブ】の下半身に突き刺さる、リオスは身体をクルッと回して砲剣を振るいまるでダンスをするかのように舞う、【キメラ・デネブ】に刺さった真空の刃がそれに連動して動き【キメラ・デネブ】の身体の内側を引き裂き回転して【キメラ・デネブ】の下半身をズタズタに斬り裂いた、惨い戦技だ。

 

「ビリビリいくよー!」

 

魔砲剣戦技—————感電捕縛弾(エレキテルバレット)

 

「固めてコッチン!」

 

魔砲剣戦技—————氷結拘束砲弾(フリーズキャノン)

 

リオスは一旦距離を取ってから激痛でもがき苦しむ【キメラ・デネブ】に砲剣の切っ先を向けて20万ボルトの電圧がかかった魔力弾を撃って【キメラ・デネブ】を感電させ冷気を纏った魔力砲弾を続けざまに撃って【キメラ・デネブ】を凍らせて動きを封じ込めた。

 

戦技を行使する為の魔術を発動する為の術式は魔装錬金武装に彫られているルーン文字で魔力に意味を与える《刻印術式》と心に思い浮かべたイメージで現実に影響を与える《心象術式》の二種類である、複数の属性変換付与を使う場合は普通【刻印術式】を使う、発動する魔術が予め決められている刻印術式の方がスムーズに属性変換を行えるからである、しかしリオスが使うのは全て【心象術式】だ、実は彼はよりイメージが働く右脳が非常に発達している、その為リオスは想像力が豊かなのだ、複数の属性変換付与を扱える空士でも扱える属性の数は普通は二・三個であるのだが彼はその想像力を活かして数十という属性変換付与を使いこなし剣の才能にも優れる天才だ、故にリオスは元素の剣聖(オリジン)と呼ばれるのだ。

 

「これでとどめっ!」

 

魔砲剣戦技————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

シリンダー型魔力縮退炉を五回転させて縮退魔力を練り上げ収束魔砲を放つ、それはカナタの収束魔砲の三倍の大きさがありそれが凍り付いている【キメラ・デネブ】を飲み込んで破られた防護壁の穴を通って都市外に控えていた魔甲蟲達もろとも水平線の彼方へと飛んで行った。

 

「「「「「「「やったぁあああ!!」」」」」」」

 

「流石私のリオスきゅん!」

 

「可愛くてカッコイイ!」

 

「リオスきゅん抱いてー!いや寧ろ抱かせてー!」

 

リオスが【キメラ・デネブ】を撃破したことで戦闘中にも係わらず狂喜乱舞する女子達、その隙を狙ってアルケナル級が女子達に攻撃を仕掛けて来るが彼女達は邪魔だと言わんばかりにアッサリと撃墜した、ショタコンは無敵だとでもいうのか?(汗)

 

「さて、みんなー!あと一息だよ、頑張って行こー♪」

 

「「「「「「「はーーーーーいリオスきゅん♥」」」」」」」

 

リオスが気を引き締めて戦うように女子達に言うと彼女達は声を揃えてそう返事を返した、もはや宗教である。

 

とはいえ後は周りのアルケナル級を掃討するだけだ、返事と共に散開したリオス率いる防衛連隊は残りの魔甲蟲の掃討戦を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区西側商業エリア————

 

リオスが【キメラ・デネブ】を撃破したのと同時刻、この場所付近の防護壁も北側空域の精鋭連隊を突破して来た魔甲蟲の先行部隊の一部に破られ、都市内に侵入を許してしまっていた。

 

侵入して来たのは先行部隊の司令である【キメラ・デネブ】一体と三千体のアルケナル級の大群だ、これに対するはミストガン最速の空士、魂の炎(スピットファイア)の二つ名で知られるS45特務小隊のレオ・オーバーグ率いる防衛連隊であった。

 

「はぁぁああああっ!!!」

 

魔双剣戦技—————聖人炎十字(セントエルモス・クロスファイア)

 

白い炎を身体に纏ったレオが音速を超えまるで彼が二人に分身したかのように見える、その二人が真上と正面から攻撃対象の中心で交差するように【キメラ・デネブ】を斬り抜け纏っている白い炎が【キメラ・デネブ】を焼き尽くし空に炎の十字架が建つ、この世に災厄をもたらす者は聖なる炎十字に焼かれ灰となり塵となって消え去った。

 

レオは超音速で斬り抜けた勢いのまま上空に舞い上がりドーム状の防護壁の天井ギリギリの位置で滞空して辺りを見回した。

 

————妙だね、北の精鋭連隊を突破した【キメラ・デネブ】は二体だった筈、だけどここに侵入して来た【キメラ・デネブ】は一体だった、そこの穴から外を見てももう一体の【キメラ・デネブ】の姿はどこにもない・・・監視の誤報だったのか?

 

推測しながら破られた防護壁の穴の外や商業エリアを注意深く見回すレオ、だがどこを見ても見えるのはアルケナル級を中心とした魔甲蟲の部隊とそれに応戦する彼が率いる防衛連隊の空士達だけであり【キメラ・デネブ】の姿などどこにもない、レオは何か嫌な予感を感じていた。

 

————何なんだこの胸騒ぎは?僕は何か重大なものを見落としているようn————

 

その時、突如かなり近い場所から爆発音が聴こえてきた。

 

「なっ!?今の音はこの区画の郊外からか!?」

 

咄嗟に聴こえてきた方角から爆発の位置を逆算して割り出したレオ、彼の飛行速度ならここから十秒と掛からないだろう、レオはすぐにその現場に向かおうとするがしかし———

 

「なっ!?コイツらいつの間に!?」

 

何処からともなく出現した無数のプロキオン級がレオの行く手を阻んだ、アルケナル級ならともかくコイツ等を全て突破するのは幾らレオでも少々時間がかかるであろう。

 

————くっ!あそこはまだEランク小隊が避難誘導をしている真っ最中だった筈だ!しかもシェルターの入り口も近いし、これは非常にマズイ!!

 

蟀谷に冷や汗を掻くレオ、彼は迅速に邪魔をするプロキオン級達を突破しなければならないと判断し多少の無茶を覚悟して魔双剣フレイムロードを構え行く手を阻む敵達に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区郊外ドーム壁前————

 

担当区域の避難誘導を終えたE128小隊、チカラ不足で訓練生扱いとなっているEランク小隊は割り当てられた区域の避難誘導が完了した場合迅速にシェルター前に避難する手筈になっており、それに従い彼等は近くのシェルターまで後退しようとしていたのだが・・・その時————

 

「っ!?クロエッ!!」

 

「危ねぇっ!!」

 

「えっ?—————」

 

轟音と共に突然無数の触手が抗呪素材製ドーム壁を貫通して来て近くにいたクロエに襲い掛かって来た、絶対空気感覚を使うルークと殺気に敏感なカナタがいち早く危険を察知してクロエと迫る無数の触手の前に割って入り魔力障壁を展開するのだが—————

 

「うおぁああああああっ!?」

 

「ちぃいいっ!!」

 

「きゃあああああああっ!!」

 

触手が魔力障壁に激突した瞬間、あまりの威力と衝撃に耐えられなかったルークとカナタは庇ったクロエ諸共吹っ飛ばされ三人共後方の廃ビルの側面に小さなクレーターを作って激突してしまった。

 

「ルーク!カナタ!クロエ!」

 

「痛っつぅ!」

 

「何とか無事だ・・・」

 

「防護服着てなかったら重傷だったね・・・」

 

三人の身を安じたロイドが三人に駆け寄り声を掛ける、防護服を着ていたのが幸いして三人は無事だ。

 

三人が衝撃によるダメージの痛みを堪えながら立ち上がった瞬間ドーム壁が破壊されそこから一体の【キメラ・デネブ】が出現した、レオ達が戦っていた魔甲蟲達は囮だったのだ。

 

「何でこんなところに変異種(キメラ)が?」

 

「知るかよ!」

 

「僕等の敵う相手じゃありません、急いで退避しましょう!」

 

変異種は上位ランクの空士であっても撃墜するのが困難な難敵だ、ランキング戦でようやく一勝する事ができた程度の実力のルーク達が変異種と戦闘をしても返り討ちに合うのは目に見えている、ルーク達は一目散に退避しようとするが【キメラ・デネブ】が放った呪力弾が付近のシェルターの外壁を直撃して被爆した。

 

「なっ!?」

 

「シェルターが!!」

 

ルーク達は【キメラ・デネブ】が放った呪力弾がシェルターの外壁に直撃した事に動揺して声を上げた、抗呪性が非常に高い外壁なので呪力弾一発では破られないが何発も続けて撃ち込まれたら破壊されてしまうだろう、そうしたらシェルター内に避難した一般市民達が危ない。

 

「・・・やるしかねぇな・・・」

 

「・・・だな」

 

防衛連隊の空士が来る気配は無い、囮の魔甲蟲達が足止めをしているからだ、今シェルターを護れるのは自分達しかいない事を察したルークとカナタは前に出た。

 

「行くぜ、ストームブリンガー!」

 

「来い、グラディウス!」

 

魔術士の宝石箱(マギスフィア)から自分の魔装錬金武装(エモノ)を取り出して臨戦態勢に入る二人。

 

「何やっているんですか!?無謀ですよ二人共!!」

 

「そうよカナタ!ルーク!未熟なわたし達じゃ変異種には敵わないよ!」

 

変異種に向かって行こうとする二人を必死に引き留めるロイドとクロエ、しかしルークとカナタはそんな二人に強い意志を秘めた眼を向けた。

 

「確かに今の俺達の実力じゃ勝てねーかもしれねーな、でも今俺達がやらねーと避難させた皆が危ねーんだ、だったらやるしかねーだろ?」

 

「だけど!」

 

「クロエ」

 

カナタが真剣にそう言う、クロエが何とか引き留めようと反論しようとするが今度はルークが口を開く。

 

「俺達は空戦魔導士だ!Eランクでも浮遊都市を護る大空の守護者なんだよ!その俺達が浮遊都市の仲間達の危機を前にしておめおめと逃げ出すなんてやっちゃいけねぇんだよっ!!」

 

「っ!」

 

「・・・うん、そうだね」

 

確固たる信念を籠めたルークの言葉がロイドとクロエの心に突き刺さり、二人は戦場の定石に従って空士としての責務を放棄しようとしていたことに気が付いてそれを恥じ戦う覚悟を決めた。

 

ロイドとクロエも魔術士の宝石箱からそれぞれ自分の魔装錬金武装を取り出してルークとカナタと共に並び立ち、E128小隊の戦闘準備は整った。

 

「いくぜっ!!!」

 

ルークの一声を合図に全員飛行魔術を発動し【キメラ・デネブ】へと向かって飛翔して行った・・・今こそE128小隊全員の空士としての真価が問われる時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

レオ「あれ?ちょっと待って」

リオス「ん?どうしたの?」

レオ「原作で【キメラ・デネブ】が呪力弾を放ったシーンなんてなかったような・・・」

リオス「レオ、メタ発言はげ~ん禁だよ」

レオ「今更何を言ってるんだい?毎回メタ発言どころか色々な人達に怒られそうな発言も連発しているのに(特に前回のフェイトという名の変態)」

リオス「・・・アハ♪それもそうだね♪」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『新時代の空士達は集う、この大空に!』

レオ「翔け抜けよう!最強への翼の道(ウィングロード)!!」








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新時代の空士達は集う、この大空に!

空戦の原作第12刊が出てモチベーションが上がり、かなり久しぶりに空戦情熱の更新ができました!

次刊で空戦も最終刊か・・・次で終わると思うと愛読していた者として寂しく感じますね。





鋭い針のように鋭利な先端をしている無数の触手をシェルターに向けて伸ばし貫かんとしている【キメラ・デネブ】、このままではシェルターに避難した市民達が危険だ。

 

だが、そんな暴挙などミストガンの守護者達が許しはしない。

 

「させるかよっ!」

 

シェルターの破壊に集中するあまりに周囲の警戒が疎かになっている【キメラ・デネブ】の背後をとったカナタが【キメラ・デネブ】がシェルターに触手を繰り出す前に一発砲撃を放ち、それが【キメラ・デネブ】の背中に命中しその反動で【キメラ・デネブ】は体勢を崩してよろけ、触手がシェルターに放たれるのを防ぐ事に成功する。

 

「追撃します!はぁぁぁあああっ!!」

 

体勢を崩した【キメラ・デネブ】の懐にすかさずロイドが飛び込み魔剣で無数の触手のうち十分の一を斬り落とした。激痛によって斬り落とされた触手の切り口から緑色の液体を飛び散らしてもがく【キメラ・デネブ】がヒット&アウェイで空中に逃れようとしているロイドの背中を貫かんと鋭利な先端の一本の触手を伸ばして来たのだが。

 

「させない!」

 

廃ビルの陰に身を潜めていたクロエがロイドを援護するように魔力弾を放ち、伸ばしてきた触手がロイドの背中を貫く前に触手の先端に命中させて撃ち落としたのでロイドは無傷で距離を取る事に成功した。

 

そしてその隙をついて本命が【キメラ・デネブ】に突攻を仕掛ける。

 

「うおおおおおおぉぉおおっ!!くらいやがれぇぇぇええええええええっ!!!」

 

複雑に乱回転する暴風をストームブリンガーに纏い正面突破を図るルーク、カナタ達の攻撃の激痛によってもがき苦しむ【キメラ・デネブ】であったがそれでも構わず強引に無数の触手を突撃して来るルークに向けて繰り出し迎え撃つ、だが絶対空気感覚(フィール・ザ・アトモスフィア)が使えるルークにはそんなの関係ない空は彼の味方だ。

 

魔蹴術戦技—————疾風怒濤(ストームラッシュ)

 

空気の流れを読み切って全ての触手を掻い潜り正面突破に成功したルークは乱回転する暴風を纏った両足で怒濤のラッシュを【キメラ・デネブ】の胴体に叩き込み月面のように陥没だらけにして——

 

「フィニッシュだっ!!」

 

最後に決定打(フィニッシュブロー)として強烈な踏みつけ蹴りで【キメラ・デネブ】の巨体を蹴り飛ばしそれが近くの廃ビルに頭から突っ込んでビルが倒壊し粉塵が舞った。

 

「よしっ!思い知ったかっ!」

 

「へっ!いい感じで連携できたな」

 

「僕達も段々とチームワークというものがわかってきましたね」

 

「うん、これもソラさん達の特訓のおかげだね、今度お礼しなくちゃ♪」

 

ルーク達は全員空中に集合して上手く連携が決まった事を喜び合う、今日の試合までチームワークを疎かにしてきた所為で負け続けたE128小隊がここまで連携できるようになったのも二日前のソラ達とのディスク特訓のおかげだろう、ルーク達はソラ達には感謝せねばなるまいと心から思った。

 

「しかしよくあの巨体をブッ飛ばしたなルーク」

 

「へっ!ありがとよ!変異種っていっても大した事ねぇな、これならもうDランク以上の任務を受けても余裕なんじゃねぇか?」

 

「まったくルークはすぐ調子に乗るんですから・・・でもこれはやりましたかね?」

 

「うん、凄いよわたし達!Bランク以上の空士でも苦戦する変異種を倒しちゃったんだから♪」

 

【キメラ・デネブ】がブッ飛ばされて倒壊した廃ビルの方を見て敵が舞い上がった粉塵の中から出て来る気配が無い事を確認したルーク達は勝ったと思い少々はしゃぎ気味になっていた。

 

「・・・・・」

 

しかしカナタ一人だけはこの惨状に違和感を感じていた。

 

———なんか変だ、いくらなんでも楽勝すぎる、中型とはいえ敵は上位クラスの空士すら何人も葬られたあの変異種なんだぜ、俺達みたいな半人前がこんなに簡単に倒せるものなのか?

 

カナタの疑問はもっともだ、【キメラ・デネブ】はEランク小隊一隊だけで討伐できるような魔甲蟲じゃない筈、現に今ミストガンの外で戦っている上位クラスの空士達だって何人も【キメラ・デネブ】に命を奪われているのだから。

 

そしてその違和感はすぐに解消された、粉塵の中から飛んで来た一発の呪力弾によって・・・。

 

「危ねぇっ!!」

 

「えっ?」

 

三人が浮足立って油断している中冷静に辺りを警戒していたカナタがいち早く攻撃を察知して三人の前に出て魔力障壁を展開し飛んで来た呪力弾を防ごうとする、しかし———

 

「ぐおっ!?何だよこれ?とんでもねぇ威力d————」

 

魔甲蟲のチカラである呪力とは魔力の上位にあたるチカラだ、事象干渉力が凄まじく今の未熟なカナタの魔力障壁ではとても防ぎきれるものではない。

 

「ぐぁぁああああああっ!!」

 

「「うわあぁぁぁあああっ!?」」

 

「きゃぁぁあああああっ!?」

 

通常の空士が放つ魔力弾の被爆を遥かに上回る大爆発でカナタの魔力障壁が破壊され、爆風をモロに受けたカナタは後方奥に見えるドーム状の防護壁の内壁まで一瞬にして吹っ飛ばされて叩き付けられ、ルーク達三人も爆風の衝撃波によって上空に投げ出された。

 

「くっ!まだ生きてやがったのか!?」

 

周囲のビルよりも高い位置で体勢を立て直したルークは【キメラ・デネブ】を倒しきれていなかった事に悪態を吐いた、ルーク達は完全に油断していたのだ、彼等がまだEランク小隊の未熟者であるが故だろう。

 

「ロイド!クロエ!無事か!?」

 

「ええ、なんとか・・・」

 

「わたしも大丈夫、それよりカナタは!?」

 

ルークと同じく空中で体勢を立て直し滞空しているロイドとクロエにルークは大事は無いかと確認してから後方に吹っ飛ばされたカナタの方を見た。

 

「っ!?おいっ!カナタッ!!」

 

「カナタッ!!」

 

カナタは遠くにある防護壁に大の字でめり込んで身体中大怪我をしていた、爆風をモロに受けたうえに相当な速度で叩き付けられたのだろう、ルーク達は急いでカナタの許へと飛んで駆けつける。

 

「う”・・・しくじったみてーだ・・・」

 

カナタにはまだ意識があった。

 

「酷い怪我、急いで手当しなきゃ!」

 

「そうですね、ここは一旦離脱して————」

 

重傷のカナタを防護壁から引きはがしてロイドが肩を貸し、形勢不利と判断したE128小隊は仕方なく戦線離脱を敢行しようとしたのだが、その時復活した【キメラ・デネブ】がこっちに向かって凄まじい速度で飛んで来ているのが目に入ってしまいルークとクロエは身構えた。

 

「チッ!もう来やがった!?」

 

「ロイド、カナタをお願い!わたしとルークで退路を拓く!!」

 

「わかりました!」

 

重傷を負って戦闘不能状態のカナタをロイドに任せてルークとクロエは向かって来る【キメラ・デネブ】の左右に飛んで攪乱する、その隙にロイドがカナタを連れて離脱するという作戦だ。

 

「こっちだよノロマさん!」

 

「やーいやーい!バーカバーカ!」

 

狙い通り【キメラ・デネブ】が周りを飛び回って挑発する二人につられて無数の触手を二人に繰り出して来た、二人はその触手を上手く躱し続けて【キメラ・デネブ】の注意を引きロイドとカナタがいる場所から順調に引き離して行った。

 

————よしっ!今がチャンスですね!

 

【キメラ・デネブ】がルークとクロエにつられて離れて行くのを確認したロイドはカナタの右腕を自分の肩にまわして彼を担ぎ、その場から離脱を試みた・・・しかし———

 

「・・・・・これは詰みというやつかもしれませんね・・・」

 

まるでこの時を見計らっていたかのように物陰からいきなり現れた無数のアルケナル級がロイド達を包囲して退路を塞いでしまった、嵌められたのはE128小隊の方だ、【キメラ・デネブ】こそが囮でE128小隊の戦力を分断する事が奴等の策だったのだ。

 

「しまった!畜生っ!!」

 

「ロイドッ!!カナタァァアアアアッ!!!」

 

【キメラ・デネブ】を引き離していたルークとクロエもロイドとカナタの危機に気が付き、悔しさのあまりに悪態を吐き、絶望のあまり悲鳴をあげた。

 

そして仲間の危機に気をそらしてしまった二人の隙を突いて【キメラ・デネブ】が針の様に先端が鋭利な触手を勢いよくルークに向けて伸ばして来た。

 

「っ!!?ルークッ!!!」

 

「しまっ———」

 

触手の速度はこれまでにないくらい速かった、とてもじゃないけどこの不意打ちは躱せそうにない。

 

———クソ・・・間に合わねぇ・・・。

 

ルークはその時何故か迫る触手がスローモーションに見えた、知覚加速(オーバーレブ)というやつだ、つまりルークは絶体絶命の危機であるが為に走馬灯を見ているという事、もはやこれまでか————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、ルークと触手の間に影が飛び込んで来た。

 

「縮こまってんじゃねぇっ!この馬鹿がぁぁぁああああああっ!!!」

 

「へっ!?」

 

怒声のような叫び声と共にルークの目に入って来たのは中央に【烈風 壱丸八小隊】と赤い漢字で縦に書かれた大きな背中だった、暴走族が着る白い特攻服のような防護服をその身に纏った男の両手に装着されている中心に紅い水晶玉のような物が埋め込まれた銀色に輝くガントレット型の魔装錬金武装・・・魔籠手《烈風拳》の右拳が触手を打ち返したのだ。

 

その男、大地の激震のような凄まじい闘気を発し、紫色の短いリーゼントがトレードマークのE108の小隊小隊長(ヘッド)———

 

「ったく!さっきの試合見てちっとはマシになったかと思いきやこの体たらくとは、そんなんじゃ俺等にゃ届かねぇよ!」

 

「テメェは・・・アッシュ!?」

 

ルーク達のライバル小隊の小隊長《魔拳闘士》アッシュ・クレイモアが間一髪でルークを救ったのだった。

 

「何でテメェがここに!?」

 

「ロックスの馬鹿が逃げ遅れたガキをビビらせて泣かせちまって避難に手こずっていたところで爆発音がしたもんだから来てみればこの有り様、チッ!何でこんなところに変異種がいるんだよ?防衛の連中はなにやってんだ?」

 

別のエリアの避難を担当しているはずのE108小隊の小隊長が何故ここにいるのか?それは偶然にも彼等の避難担当区域はこのすぐ近くの三番区噴水広場であり、避難誘導が難航していたところで先程ルークが戦技で【キメラ・デネブ】を廃ビルに吹っ飛ばしてその廃ビルが倒壊した時の轟音が聴こえてきたのでアッシュは状況を確かめに出向き現在に至ったのだ。

 

「・・・って愚痴叩いてる場合じゃねぇな、来るぞ」

 

アッシュがルークを一瞥してそう促し目の前の【キメラ・デネブ】を睨みつける、奴は既に針のように先が尖った触手を二つ繰り出して来ていた。

 

「あぶねっ!?」

 

アッシュの登場で呆気にとられていたルークは危うく触手が直撃しそうになったが間一髪で躱し、しっかりと周囲に気を配っていたアッシュは余裕で触手を回避し———

 

「わたしがいる事も忘れないで!」

 

魔砲杖戦技——————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

いつの間にか【キメラ・デネブ】の真上で砲撃体勢をとっていたクロエが十六発の魔力弾を【キメラ・デネブ】に撃ち込んだのを合図に三人は【キメラ・デネブ】との戦闘を再開した。

 

・・・一方、無数のアルケナル級に包囲され危機に陥っていたロイドとカナタの許にも頼もしい助っ人が現れていた。

 

「ヒーロー見・参っ!!」

 

先程カナタが叩きつけられた事によって凹み脆くなった後方の防護壁を黄金の鳥類の翼を模った装飾が両端に施された棍型の魔装錬金武装をもって突き破って来たC140小隊のアスカ・イーグレットがその棍を華麗に振り回して無数のアルケナル級のうち五分の一を薙ぎ払い、決めポーズをしていたのだった。

 

「・・・・・とりあえず助かったとみていいのでしょうか?・・・」

 

「さぁ・・・な・・・」

 

突然の出来事にロイドとカナタは唖然として危機を脱したのか疑問に思った、現れた助っ人が敵集団のド真ん中でおかしなポーズをとっているのを見たら誰だってそう思うだろう・・・。

 

案の定アスカの背後に位置をとっているアルケナル級のうち三体がその隙にコッソリと彼に襲い掛かってきていた、しかし———

 

「ハァッ!」

 

なんといきなりアスカが持っている棍の三分の一部分が切り離された、その切り離された部分と残った部分はワイヤーで繋がれていて【節】となり、振り返り様に鞭のようにしなって襲い来る三体の敵を叩き墜とした。

 

そして更に残った部分が切り離された部分と対照的になるようにもう一ヶ所切り離されその部分もワイヤーで繋がっていて、アスカはその両端を持って横にするように構えた。アスカの持つ魔装錬金武装は【連結式の三節棍】だったのだ、一本のワイヤーで繋がった三つの小棒を接続するように連結させれば棍となり切り離して三節棍にする事もできる複雑な武器で魔砲剣と同じくらい扱いが難しいとされている、そんなこの連結式三節魔棍《ホウオウ》をアスカは自分の手足のように使いこなして戦う《魔棍士》だというのだから驚きだ、彼はお調子者ではあるが陰で相当な鍛練を積んだのだろう。

 

三体のアルケナル級が墜とされると同時に周囲のアルケナル級が一斉にアスカに襲い掛かるがアスカは三節魔棍の真ん中の部分を両手で持ち、嵐のような勢いで振り回して周囲360度から襲い来る無数の敵を迎え撃つ。

 

「かかって来い雑兵共っ!くらえ、《カイゼル流魔棍術》秘技!!」

 

カイゼル流三節魔棍戦技——————円征嵐

 

二重三重の円を描くように振り回された三節魔棍がアスカの周囲を空間ごと引き裂き襲い掛かって来た無数のアルケナル級は一体残らずズタズタに引き裂かれて跡形も無く散っていった、まるで無数の巨大ノコギリがアスカを中心にして周囲を切り刻むような光景だった。

 

「す、凄い・・・」

 

「・・・へっ・・・人は見かけによらないモン・・・だな・・・」

 

ロイドとカナタはアスカの戦いぶりに目を奪われていた、あの自称ヒーローのお調子者がこんなに強かったのかと驚いたようだ。

 

「まったく、コイツ等はヒーローが決めポーズをしている時は攻撃してはいけないというルールを知らないのか?常識知らずめ」

 

「そんなの魔甲蟲にわかるわけないでしょお馬鹿」

 

「うおっ!?ミレーユ、いつの間に!?」

 

「いつの間にってアンタのすぐ後ろから続いて突入したに決まっているでしょ?」

 

ホウオウの棍節を二ヶ所とも連結させて棍に戻し上にかざして円に見えるように振り回した後右に突き立てるように振り下ろしてから愚痴を言うアスカの背中から声が聴こえてきたかと思うと、いつの間にか彼と同じC140小隊のミレーユ・グレイスがアスカと背中合わせになるように滞空していた。

 

「まったく、魔甲蟲の大群勢をなんとか引き離して戻ってきた途端にミストガンの防護壁が外周を覆って入れなくなって都市内の防衛が不可能になったからせめて浮遊都市周辺空域の防衛連隊の戦闘の邪魔にならないようにしてひっそりと連隊が取りこぼしたアルケナル級を墜としていたら・・・このお馬鹿はいつの間にかどっかに消えているんだもの、正直焦ったっての」

 

「仕方がないだろ誰かが危ないとオレの感が叫んだんだから、案の定危機に陥っていた奴等を救えたんだしよかっただろ?」

 

ミレーユが言うにはアスカは独断で行動してたった今ロイドとカナタを救ったらしい・・・そこをミレーユが見つけて現在に至る。

 

「まったくもう、単独行動は厳禁だってあれほど言ったでしょう?ぜんっぜん分かってないんだから・・・ねぇ小隊長?」

 

注意しても全く反省しないアスカに呆れるように叱咤するミレーユは魔砲杖を構えて周囲のアルケナル級を警戒しながら今自分が通って来たアスカが空けた防護壁の穴の方を見た・・・すると———

 

「ああそのとおりだ、手間かけさせてんじゃねぇよクソガキが!」

 

という乱暴な声が突然その穴から聴こえてきた。

 

————なっ、何なんだこの重圧は!?空気がビリビリするぜ。

 

ロイドの肩に身を預けて気を失いかけているカナタが竦んで眼を見開く、突然辺りの空気が重くなったからだ。

 

「な、何なんですかこの声は!?一体誰がそこにいるんですか!?」

 

ロイドも強張って狼狽えていた、いつも度胸が据わっているカナタでさえ冷や汗を掻く程の重圧なのだから当然だろう。

 

そして、穴に近づいたアルケナル級数体を巨大な長方形の刀身を持つ魔大剣をもって暴風の如く粉砕しその男は現れた、逆立った長い茶髪で眼が吊り上がり、まるで鬼神のような貫禄と闘気を発する男が。

 

「誰かだと?まさか忘れたわけじゃねぇだろうなぁ?この————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————C140小隊小隊長、オリバー・ヒューイックをよぉっ!!」

 

その男・・・オリバーが穴の入り口で粉々にしたアルケナル級の【残骸】を踏み潰し肩に魔大剣を担ぎ上げて、蛮勇轟くその姿を現した。

 

「・・・・・えぇぇぇええええええええっ!!?」

 

あまりの衝撃にロイドは絶叫した。

 

「何驚いてんだウスィーの?」

 

とアスカが何言ってんだと言うかの如くロイドの絶叫に疑問を口にする。

 

「え?いやだって、あの人がオリバー先輩って!?」

 

ロイドは混乱してあたふたしている、当然だ、彼の知るオリバー・ヒューイックは落ち着いた雰囲気で温厚な性格の人物だ、あんなワイルドで野性味溢れる男ではない筈だ。

 

「・・・・ああ!そういえば言ってなかったっけ?」

 

ロイドが狼狽えている理由を察したのはミレーユだった。

 

「うちの小隊長は魔装錬金武装を持つと荒々しい鬼神のような空士になる二重人格なんだ」

 

「二重人格なんですか!?」

 

「・・・へっ・・・あの先輩はまともかと思っていたけれど・・・結局また変人だった・・・みてーだな・・・」

 

ミストガンの空士にまともな人間はいないのか?そう思うロイドとカナタであったが、彼等もそのミストガンの空士である事を忘れてはならない。

 

「この蟲野郎共!よくも好き放題やってくれたな!このオレ様がたっぷりと礼をしてやるから覚悟しやがれぇぇええええっ!!」

 

「一人称すら変わってるんですか!?」

 

雄叫びをあげて魔大剣《ワイルドカード》を振り上げ防護壁の穴から飛び出し飛行魔術で天高く舞い上がるオリバーの一人称が【僕】から【オレ様】になっていたのでいちいち驚くロイド、そんな事などお構いなしにオリバーは魔大剣を頭の上に豪快に振り上げて真下に飛ぶ無数のアルケナル級の上に急降下しながら魔大剣を叩き付けるように振り下ろした。

 

「ドリャァァアアアアアッ!!!」

 

魔大剣戦技————大雪断下ろし(ギガバスタード・ブレイク)

 

振り下ろされた魔大剣の衝撃波により無数のアルケナル級は纏めて粉々に粉砕された。

 

「すげぇ・・・」

 

「あれがCランク空士の戦技ですか、とんでもないですね・・・」

 

「どうだ!うちの小隊長は凄いだろう?それでこそヒーローであるこのオレの上司に相応しi「何でアンタが偉そうにしているのよっ!?」ぐはっ!?」

 

オリバーが放った戦技があまりにも凄まじかったのでカナタとロイドが唖然としている中、如何にも自分がやったかのように誇らしげに自慢するアスカの脳天にミレーユのハリセンスマッシュが炸裂した、このお調子者はこんな時でも平常運転であった。

 

しかし敵はまだまだ建物の隙間から溢れ出て来る、まるでゴ◯ブリのようだ、だが東の空から新たな援軍が駆けつけて来た。

 

「アッシュの後を追って来てみればなかなか面白そうな祭りをやっているな!」

 

「オレ達も混ぜろよ!」

 

「ガキをあやすのに手を焼いてイライラしたこのウザイ気分を晴らすのにはもってこいだわ」

 

「へっ!覚悟しろよこの【ロクデナシ】の魔甲蟲共がっ!!」

 

魔刀を持ったグライド・ヒースネルが、魔槌を振り回すカイル・カーネルワイスが、魔剣を構えるキャメロット・ブランジュが、魔戦斧を振り上げるロックス・フォーマルハウトが・・・ルーク達E128小隊のライバルE108小隊のメンバー達がそれぞれ自分の魔装錬金武装をもって空を蹂躙する魔甲蟲達を粉砕していく、なんとも頼もしい援軍だ。

 

「ハーッハッハッハッ!見たか!?このスーパーヒーロー、アスカ・イーグレット様と愉快な仲間達の実力h———痛っ!?」

 

低い廃ビルの屋上で調子に乗って高笑いする馬鹿(アスカ)の脳天に鬼神(オリバー)の無言のゲンコツが落ちた、オリバーは強烈な痛みで頭を押さえて蹲ったアスカを一瞥して遥か先の空で【キメラ・デネブ】と戦うルーク達を見据える。

 

「オイクソガキ、テメェはアイツ等を助けに行きな!ここはオレ様達だけで十分だ」

 

そう言ってルーク達の方に右手の親指を指してぶっきらぼうにアスカに指示を出すオリバー、もはやこの場はオリバー達が制圧したも同然の戦況だ、一人抜けたところで問題ないだろう。

 

「ヒーローなんだろ?ならとっととピンチになっている奴等を助けに行けよ!おら!急げっ!!」

 

「ぐへっ!わかったから蹴るなよ!痛ててて・・・」

 

————うわぁ、あの人変わりすぎじゃないですか・・・。

 

————怖ぇ・・・あの先輩は怒らせないようにしねーとな・・・。

 

アスカに乱暴な指示をする鬼神オリバーの声を二人がいる灰ビルの近くで聴いていたロイドとカナタは顔を引き攣らせて戦慄するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーク達の戦闘空域———

 

シェルター近くの上空にてルーク、アッシュ、クロエの三人と【キメラ・デネブ】の戦いは熾烈を極めていた。

 

「くそっ、いい加減墜ちやがれっ!!」

 

ルークは【キメラ・デネブ】が繰り出す無数の触手を掻い潜って奴が展開する呪力障壁に籠手を纏った左拳を叩きつけるがビクともしない。

 

「おらぁっ!!」

 

「はぁぁあああっ!!」

 

続いてアッシュが反対側から殴りかかりクロエが上から砲撃を放つという波状攻撃を浴びせるものの、【キメラ・デネブ】の呪力障壁は一向に壊れる気配がなかった。

 

「・・・ちぃっ!これが【呪力】ってやつか、面倒なんだよっ!!」

 

アッシュはそう吐き捨てて続けざまにラッシュを呪力障壁に叩き込んでいく、呪力は魔力の上位に位置するチカラだ、圧倒的な事象干渉力がある呪力障壁を破るには全然威力が足りない、変異種を相手にするのはEランク小隊であるルーク達にはまだ荷が重い、まるでそう言っているかのようにルーク達の攻撃の全てが通用していなかった。

 

頑張って頑張って頑張ってもどうにもならない・・・・・そういう時こそ・・・ヒーローの出番だ。

 

「待たせたな!スーパーヒーロー、アスカ・イーグレット!見・参っ!!」

 

カイゼル流魔棍戦技————無双突破

 

ルーク達の後方から弾丸のような速度で真っ直ぐ飛来したアスカがそのままその勢いを利用してホウオウによる突きを放ち呪力障壁にブチ込んだ、すると凄まじい衝撃波が発生して呪力障壁に亀裂が入る。

 

「でりゃぁぁああああああああああああああああっ!!!」

 

激しい押し合いの末、アスカは勢いと気合いによってそれに打ち勝ち、呪力障壁を崩壊させて討ち破り、そのままの勢いで【キメラ・デネブ】本体に呪力障壁を破壊した突きが突き刺さり、天蓋の防護壁にブッ飛ばし、【キメラ・デネブ】は凄まじい轟音と共に防護壁に叩き付けられたのだった。

 

「へっ!ざまぁないな!」

 

「テメェは、喫茶店の時の!」

 

「おう!このアスカ様が来たからにはもう安心だ!後は任せろ!」

 

「任せろって一人で戦ろうとしてんじゃねぇよ、相手は変異種だぜ?」

 

「まったくだ、ヒーロー気取りが調子に乗ってんじゃねぇ」

 

「んだと!?このリーゼントが!素直にお礼も言えないのかよ!?」

 

ルークとアッシュが【キメラ・デネブ】をブッ飛ばして鼻の頭を右手の人差し指で擦ってドヤ顔をするアスカの許に寄って話し始めたら何故か罵倒し合いになってしまった、だがそんな事をしている場合ではない——

 

「何やってんのみんな!?【キメラ・デネブ】を見て!まだ終わってないよっ!!」

 

「「「っ!!?」」」

 

ルーク達の後方にいるクロエが天蓋の防護壁に叩き付けられた【キメラ・デネブ】を指さして叫ぶ、【キメラ・デネブ】は先程アスカの強烈な突きが突き刺さった部分が凹んでいるものの何事もなかったかのように悠々とルーク達の前に舞い戻って来ていたのだ、どうやらアスカの一撃は致命傷には至らなかったらしい。

 

「・・・やっぱ協力するしかないか・・・」

 

「当たり前だ阿保が!」

 

もめ合うアスカとアッシュは【キメラ・デネブ】を目の前にして皆と協力し合う事を渋々決定し三人はルークを中央に横に並びそれぞれの魔装錬金武装(エモノ)を構えて眼前にいる強敵を睨みつけた。

 

「・・・やれやれ、最強の空戦魔導士への道は厳しいぜ・・・」

 

今までにない強敵を目の前にして自分が目指す目標は果てしなく険しいという事を痛感したルークは蟀谷に冷や汗を流した。

 

「・・・だけど・・・それでこそ目指す価値があるぜ!」

 

空は高いからこそ飛び甲斐がある、それがルークの価値観だ、【絶対に目の前の強敵を倒して先に進んでやる】、ルークはそういう強気な眼をしていた。

 

ルークの両隣の二人も彼と同じ強い眼をしている、三人の想いは同じのようだ、新時代の空士達が今この場に集った。

 

「・・・んじゃあ、いくぜっ!!!」

 

「「おうっ!!」」

 

新時代の空士達は挑む、この先の未来を懸けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

オリバー(鬼神モード)「ったく世話の焼けるクソガキだぜ、口答えしてねぇでとっとと逝けってんだ!(魔大剣を肩に担いでいる)」

ミレーユ「小隊長、字が違いますよ、アスカが世話の焼ける奴なのは同感ですけれど」

オリバー(通常モード)「ごめんごめん、少し気が立っていたみたいだ、言葉の使い方には気を付けないとね(魔大剣を地に刺して手を離す)」

ロイド「本当に魔装錬金武装を離すといつものオリバー先輩に戻るんですね、まるで別人だ・・・」

オリバー(鬼神モード)「あ”あ”っ!?どうでもいいだろうがそんな事!!世の中には色んな人間がいるんだ、ガタガタ抜かしてんなら舌引っこ抜くぞウスィークソガキッ!!(再び魔大剣を手に取って地から引き抜く)」

ロイド「・・・・・確かに僕って薄いのかも・・・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『俺達がミストガンの空戦魔導士だ!』

オリバー(鬼神モード)「さっさと翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!さもねぇと斬り落とすぞっ!!!」

カナタ「ミストガンには変人しかいねーな」

ロイド&ミレーユ「「君(アンタ)もその変人の一人なんですよ(のよ)」」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺達がミストガンの空戦魔導士だ!

原作『空戦魔導士候補生の教官』が遂に完結しましたね!空戦は自分がライトノベルに嵌まる切っ掛けでした。今までもですが、最終13・14刊も電子書籍限定のEXTRA MISSIONも大変面白かったです!

ルーク「カナタ・・・テメェ決戦である最後の最後でやらかしやがって・・・」

カナタ「ん?何がだよ?」

ルーク「何って、テメェが原作でやったのって中の人的なネタじゃねぇか?ミソラから白銀の魔砲剣を貸してもらって、白と黒の剣であれじゃまるで黒の剣s——」

コラァァッ!?ネタバレは禁止じゃぁぁああっ!!!

・・・原作の物語は終わりを迎えましたが、この空戦情熱はハーメルンが続く限りまだまだ続けて行きますよ!!

ルーク&カナタ「「みんな!これからもよろしくなっ!!」」


高位ランクの空士でさえ苦戦する恐るべきチカラを誇る変異種。

 

そんな強敵を相手に今、新時代を担う空士達が挑む。

 

「よしっ!行くz———」

 

変異種に一斉に掛かろうとルーク、アッシュ、アスカの三人が魔装錬金武装(エモノ)を構えた瞬間、彼等の一瞬の隙を突いて【キメラ・デネブ】が轟風が発生する程凄まじい勢いで太い一本の触手を繰り出して来た。

 

「ちょっ!?テメッ!?」

 

「チィッ!」

 

「不意討ちは卑怯だぞっ!!」

 

いきなりの不意打ちに三人は動揺する、ルークは慌てふためきアッシュはしくじったと強く舌打ちしてアスカは正面から来る触手に文句を言う。

 

「させないっ!」

 

成す術もなく三人の中央に位置するルークが触手に貫かれそうになったその時、三人の後方上から一発の紅い砲撃が飛来して来てルークの眼前に迫っていた触手を光の中に掻き消した、間一髪であった。

 

「わたしがいる事も忘れないでよね!」

 

「クロエ!」

 

「わたしが後方から援護するから、三人共思いっきりやっちゃって!!」

 

「お、おうっ!」

 

「上等だ!」

 

「おっしゃあ、任せろ!!」

 

ルーク達の後方150mでクロエが魔砲杖の先端を【キメラ・デネブ】に向けた射撃体勢で滞空しルーク達を鼓舞し、頼もしい後衛を付けたルーク達の士気が上昇する。

 

「さて、あんな化物相手に正面から突っ込むのは愚策だな・・・丁度前衛が三人だ、ここは《大狼の牙(ビーストファング)》で行くぞ!」

 

自分達と【キメラ・デネブ】の戦力差を考えて普通に戦うのはこちらが不利だと悟ったアッシュが戦術を提案する、【大狼の牙】とは三人の前衛を使う戦術であり、一人が正面から敵を惹き付けて二人が左右から挟撃するというまさに獲物を噛み砕く狼の牙のような陣形で迎撃する戦術である。

 

「は?何でテメェが仕切ってんだよ!?」

 

「そうだそうだ!ここはヒーローたるこのオレがリーダーとして指令を下すのが常識だろ!!」

 

敵と味方の戦力を分析して即座に適切な戦法を模索するアッシュは流石は現役の小隊長だと言える、しかし彼とは別の小隊に所属するルークとアスカは偉そうに場を仕切るアッシュが気に喰わなくて反発した。安いプライドで意地を張る二人にアッシュは呆れて溜息を吐く。

 

「はぁ・・・じゃあテメェ等は他に奴に有効な策を出せるのか?聞かせてみろよ」

 

自分が仕切ると言うからにはそれ相応の戦術を考えられるんだろうなとアッシュは二人に問う、当然だ、的確な判断力があり適切な指示を出して味方を引っ張れる者というのがリーダーとして最低限必要な条件なのだから。

 

「攻城剣撃陣(バテリング・ソード)でしこたま戦技をブチかまして爆殺!」

 

「ヒーローに小細工は必要ない!正々堂々と正面からブチ当たるに決まっているだろう!!」

 

「・・・・・阿呆が・・・」

 

「「んだとぉっ!?」」

 

アッシュの話を聞いていなかったのだろうか二人の戦術案はどちらも正面から戦いを挑む内容だったのでアッシュは魔籠手に覆われた右掌を額に当てて落胆する、ルークの案は対大型魔甲蟲用の戦術なのでまだマシと言えるのだが単縦陣で決めに行く戦術なので今回のように戦力差がありすぎる敵を相手にする場合は愚策だし、アスカの案に至っては論外だ自己的な価値観に忠実過ぎる。

 

あまりにも頭が悪いルークとアスカに蔑みの言葉を呟くアッシュに二人はカチンときてギャーギャー発情期のように騒ぎ立てて場を乱す、この非常時に喧嘩をしている場合ではない、この好機を敵が見逃す筈もなく【キメラ・デネブ】が喧嘩をして周りが見えていないルーク達三人に無数の触手を伸ばして来た。

 

「・・・・いい加減にして!!」

 

魔砲杖戦技—————拡散多弾頭射撃(マルチプルバースト)

 

「「うぉっ!!?」」

 

場と状況を弁えずに喧嘩をするルーク達に後方のクロエは頭にきていた、彼女は十六発に分裂する魔力弾をルーク達三人に被弾する擦れ擦れの間を通り抜けるように放って三人に迫る無数の触手を全て撃ち落とし、危うく魔力弾に当たりそうになったルークとアスカは仰天して驚き、恐る恐る後ろを振り向いてみると戦技を放ったクロエが蟀谷に青筋を浮かべて恐ろしい笑顔をこちらに向けているのが見えた、彼女は相当怒っている。

 

「戦闘中に喧嘩なんて何を考えているの?ふざけないで」

 

———うわぁ、クロエの奴キレてやがる、アイツ怒らせると面倒なんだよな・・・。

 

普段と変わらない声音で言って来るクロエだが眼が笑っていない、感情的に怒鳴り散らすよりも冷たい怒気の威圧感がある人間の方が恐ろしいものだ、恐怖心が無いルークは内心面倒だと思い黙り込んだ。

 

「ふざけているのはオレじゃない!勝手に指図してきたこのリーゼントg-——」

 

それでも反省の色もないアスカがクロエに抗議しようとするがその瞬間にひゅんっという風切り音と共にアスカの頬を何かが掠めた・・・・クロエの紅い魔力弾だ・・・。

 

「しっかりと判断を下せる人が指示するのは当然でしょ?況してやアッシュ先輩は所属は違っても小隊長、現役で隊員達を引っ張る空士なんだから彼の指示に従うのが最適だと思うんだけど、アスカ君、わたし何か間違った事言っているかな?」

 

「イエ、オッシャルトオリデス・・・」

 

クロエはいつもと変わらぬ口調ながら異様な迫力を発してアスカに問い、アスカはその迫力に気圧されて畏縮してしまいこれに応じざるを得なかった、メチャクチャ怖い、今のクロエには少なくともこの場にいる誰もが逆らえないだろう、アスカの片言がその恐ろしさを物語っている。

 

「・・・チッ、仕方ねぇな、今回はテメェの作戦に乗ってやr———」

 

クロエに口答えして怒らせるのは面倒だと思ったルークは仕方なくアッシュの言う事を受け入れ、三人はクロエをバックに再び【キメラ・デネブ】に向き合おうとするが、気が付いた時には既に敵は眼前に迫っていた。

 

「——ってまた不意打tうおおっ!?」

 

「まだ口上すら言ってないのに卑怯mぬおおっ!?」

 

疾風の如く伸びて来る無数の触手に慌てふためくルークとアスカ、喧嘩をして気が散っていた為にルークの絶対空気感覚は狭まっていたのだろう、敵の接近に気付いていなかったようだ。二人は再び不意打ちして来た【キメラ・デネブ】に文句を言おうとするがそんなの敵が大人しく聞いて待ってくれる筈がない。

 

「ボサッとすんなっ!!」

 

「注意力散漫だよ二人共っ!!」

 

魔拳戦技—————散蓮華(ブラストロータス)

 

魔砲杖戦技—————複数同時射撃(マルチショット)

 

そこへ冷静に対処していたアッシュが割って入り一瞬の内に僅かな縮退魔力を練成して魔籠手を着けた右拳の周囲に小さな乱気流を生み出し眼前に迫った無数の触手に向けてその右拳を繰り出す、突き放たれると同時に拳の周りを駆け巡る乱気流が弾け暴発するように空間を歪ませて捩じれ回転するミキサーのように無数の触手をグチャグチャに引き裂いた。四つ程逃したがそれはクロエが放った四発に分裂する紅い魔力弾によって撃ち落とされた。

 

そしてアッシュが勢いのまま前に出た。

 

「俺が惹き付け役になる!テメェ等は隙を見て奴を左右から挟撃しろ!」

 

「「おうっ!!」」

 

息を吐く暇もなく次々と連続で繰り出される触手の嵐をアッシュは真っ向から捌きながらルークとアスカに指示を出す、それを聞いた二人は調子のいい返事と共に散開して飛んで行き———

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

魔拳戦技—————疾風爆裂拳(バーストストリーム)

 

アッシュは速度が上昇し弾丸のような勢いで次々と伸ばされて来る触手の乱撃を縮退魔力の練成によってできた風圧の拳による猛ラッシュで次々と爆散させていく、絶え間なく続く空気の爆発が大気を揺らし敵を怯ませる、彼のような近接系の空士が戦闘中に縮退魔力を練成するのは至難の業と言われているにも係わらずそれを難なく熟しているのを見るに彼の神経の図太さはなかなかのものだと言えるだろう、アッシュの気迫によって【キメラ・デネブ】は慄き徐々に後退していく。

 

「今だ行けっ!!」

 

そして敵の意識が完全にアッシュのみに向いたのを見計らい、アッシュが号令を出すと敵の左右に展開したルークとアスカが敵に突攻を仕掛けに行く。

 

「うおおぉ、くらいやがれええぇぇぇぇっ!!」

 

「今こそヒーローの見せ場だっ!行っくぞおおおぉぉぉっ!!」

 

魔蹴術戦技—————突空崩撃(エアリアルインパクト)

 

カイゼル流魔棍戦技——————無双突破

 

左方よりルーク、右方よりアスカ、それぞれ突進の勢いのまま突破力が高い戦技を繰り出してその巨体に風穴を空けんと【キメラ・デネブ】に突攻を仕掛けた、敵の意識は前方で応戦するアッシュに集中したままで二人の奇襲に気付いていないかと思われた・・・が———

 

「ぐっ!?なんて堅てぇ障壁なんだよ!!」

 

「うぉのれ!蟲の分際でこのスーパーヒーローの一撃を止めるとは!!」

 

二人の戦技は【キメラ・デネブ】が出現させた呪力障壁に阻まれてしまう。

 

「「うああぁっ!!?」」

 

「ルーク!アスカ君!」

 

攻撃が阻まれるとすぐさま【キメラ・デネブ】が左右の二人に一本ずつ触手を繰り出し撓る鞭のように二人に叩き付ける、障壁に阻まれた反動で体勢を崩していた二人はそれを身体にモロに受けて後方に弾き飛ばされ、クロエの悲痛の叫びが辺りに響いた。

 

「ぐあぁぁっ!!」

 

「アッシュ先輩っ!!」

 

二人に振るわれた二本の触手は後方から正面に閉じるように振るわれたのでその勢いのまま正面のアッシュにその二本の触手で挟撃し、アッシュは強烈な二撃を同時に受けて後方に弾き飛ばされた。

 

「くっ!このっ!!」

 

クロエは【キメラ・デネブ】に三人を追撃させまいと奴に砲撃の乱射を浴びせる、しかしそれは全て敵の手前に展開された呪力障壁によって無力化されてしまう。

 

————ダメ、全く通らない!くっ、わたしもカナタのように収束魔砲(ストライクブラスター)が使えれば!

 

魔甲蟲の持つチカラである呪力の事象干渉力はウィザードの魔力を大きく上回る強大なチカラだ、これによって展開した障壁を突破するには収束魔砲のような限定戦技(リミットスキル)級の火力が必要だろう、先程アスカが無双突破で敵の呪力障壁を破壊できたのは遠距離から飛来した運動エネルギーによって限定戦技級の威力が出ていたからだ、クロエはそんな戦技を自分は一つも修得できていない事に歯痒い思いを抱き下唇を噛んだ。

 

【キメラ・デネブ】は難なくルーク達に追い打ちを掛ける、無数の触手を一斉に多方に伸ばし幼き空士達を貫かんと大気を刺し穿つ。

 

「クソッタレェェェェエエエエエエエエッ!!!」

 

大気を劈く風音と共に無数の触手が個々に不規則な動きをして弾丸のような勢いでルークに襲い掛かって行く、障害物の無い無防備な空中は危険だと判断したルークは触手の追撃を振り切るように急降下し廃棄ビルや街灯などを盾にした地面擦れ擦れの匍匐飛行で再び敵に向かって行く、上から降り注ぐ触手の豪雨が煉瓦で舗装された歩道やコンクリートの道路を刺し貫き破片と粉塵が舞う中ルークは苦難の表情を浮かべながら絶対空気感覚を駆使して触手の豪雨の中を掻い潜り【キメラ・デネブ】の巨体を眼前に捉えたところで急上昇し再びその巨体に迫る。

 

「今度こそ喰らe————」

 

それ以上言葉は続かなかった、無数の触手を突破して再び突空崩撃を放たんとしたルークに【キメラ・デネブ】が呪力弾を放ったのだ。

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

【キメラ・デネブ】の伸びきった無数の触手に退路を塞がれて避けきれないルークは成す術なく呪力弾の直撃を受けてしまった、被爆によってボロボロになったルークが強烈な衝撃波によって砲弾のように吹き飛び廃ビルに衝突、成長途中の身体が大の字で側面に埋まった。

 

別の空域を見てみるとアッシュとアスカも無数の触手による容赦の無い無差別絨毯乱撃に悪戦苦闘を強いられていて、遥か後方の空域にいるクロエは必死に無我夢中で砲撃を乱射して敵の呪力障壁の破壊を試みているが障壁には罅一つ入る気配がないのでかなり焦っており戦況は悪化の一途を辿っている、このままではルーク達が全滅するのも時間の問題だ。

 

————クソッ、諦めて堪るかよっ!やっとの事でランキング戦に一勝してようやく最強の空戦魔導士への第一歩を踏み出したんだ!こんなところでこんな奴にやられてその道が終わってなるもんかよぉぉぉおおおおっ!!

 

どんなに打ちのめされても不屈の心で立ち向かおうと奮起するルーク、夢を叶えるまで死ぬわけにはいかない、共に空を目指す仲間達に出会えた、未熟な所為で負け続けだったランキング戦でようやく一勝を手にする事ができた、これからだって時にこんなところでその道が閉ざされてしまうなんて冗談じゃない・・・しかし現実は非情である、廃ビルの側面に埋まったルークの目の前で先が鋭く尖った太い触手がその針のような先端をルークの脳天に向けて刺し貫かんと狙いを定めていたのだ。

 

そして・・・その凶刃は蛇が獲物を仕留めるかの如く空気を刺し穿ち発射された。

 

「ちくしょおおぉぉおおおおおおおおおおぉおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の仲間を、これ以上やらせるかよっ!!!」

 

魔砲剣戦技——————収束魔砲(ストライクブラスター)

 

「「「「っ!!?」」」」

 

触手がルークの頭を貫きかけた瞬間、クロエの後方から強い意志が籠った声が聴こえてくると同時に膨大な黒い魔力の奔流がクロエの真上を通り過ぎて【キメラ・デネブ】の周囲に展開された呪力障壁に突き刺さり貫通して【キメラ・デネブ】本体に直撃、その衝撃により【キメラ・デネブ】は体勢を崩しルークの頭を貫きかけていた触手は狙いがズレてルークの頭の横の壁を貫く、それによってルークの身体を拘束している壁が砕かれてルークは自由の身となり、アッシュとアスカを猛追していた無数の触手も動きが止まった、間一髪である。

 

「・・・今の黒い砲撃・・・まさか!?」

 

「そのまさかだぜクロエ」

 

「あ・・・」

 

クロエは声が聴こえてきた後方を振り返り、ルーク達三人も砲撃が飛来して来た方角の空を見た、そこには———

 

「カナタッ!!」

 

「ミレーユ!?小隊長も!?」

 

「ウチの馬鹿共まで・・・」

 

満身創痍の身体をロイドとミレーユに支えられて漆黒の魔砲剣を前に突き出す射撃体勢で滞空して不敵な笑みを浮かべているカナタ、その右隣で威風堂々と魔大剣を肩に担いで凶悪な笑みをしているオリバー、カナタの左隣で横一列に並んで気取ったポーズを取り揃ってドヤ顔をしているグライド等E108小隊員達・・・防護壁手前で無数のアルケナル級達と戦闘をしている筈の空士達が応援にやって来ていたのだ。

 

「・・・・・へっ!なんだ、もうそっちは片付いたのかよ?」

 

「ああ、みんなのおかげでな!それより随分と苦戦してるじゃねーか?」

 

「無様な姿曝してんじゃねぇぞクソガキ共っ!シャキッとしやがれっ!!」

 

「どうしたアッシュ、テメェはそんな蟲野郎に良いようにやられるタマじゃねぇだろう?」

 

「負けんなよアッシュ!やられたら百倍返しがE108小隊(オレ達)の鉄則だったろ!?」

 

「こんなウザくてかったるい仕事とっとと終わらせたいのよ、早くその蟲野郎を叩き殺してよね!」

 

「そうだ!そのロクデナシの蟲野郎を後六分で倒しやがれ!!」

 

「あれ?君誰だっけ?存在感ウスィーから気が付かなかった、ゴメン」

 

「いいんですよ・・・誰も僕の名前を呼んでくれなかったし・・・」

 

ボロボロになったルーク達を見てカナタ達は彼等に喝を入れる(一部おかしいのも混じっているが気にしたら負けである)、ルーク達はそれを受けて失いかけていた戦意を取り戻しルークとアスカはアッシュの許へと飛翔して集合した。

 

「派手にやられてんじゃねーか、なんなら俺達が手を貸してやろうか?」

 

「へっ!身体を支えてもらわねぇと飛んでいられねぇ奴は黙って観ていろよ!俺達三人で十分だ!!」

 

「ルーク!アスカ!仕留めるなら奴が収束魔砲をくらって怯んでいる今しかねぇっ!【攻城剣撃陣】で一気にケリを着けるぞ!!」

 

「ヨッシャァァアアッ!待ってました!ヒーローらしく格好良く決めてやるっ!!」

 

カナタの申し出をルークが拒否し、ルークとアッシュとアスカの三人は横一列に並び、カナタの収束魔砲の直撃による激痛でもがき苦しむ【キメラ・デネブ】を睨みつけて魔装錬金武装(エモノ)を構えた、いよいよ【キメラ・デネブ】と決着を着ける時だ!

 

「それんじゃあ行くぞ、まずはオレからだ!」

 

先陣を切るのはアスカだ、連結式三節魔棍【ホウオウ】を魔棍モードで先端を敵に向けるように構えると撃ち出された弾丸のような勢いで敵に向かって飛び出して行く。

 

「覚悟しろ魔甲蟲!二人の出る間も無くこのスーパーヒーロー、アスカ・イーグレット様が一撃で仕留めてy———ってちょっ!?マジかっ!!」

 

敵が怯んでいるのを良い事に調子に乗って直進横転飛行(エルロンロール)をしながら敵に向かって行くアスカだったが調子に乗ったツケが回ったようであり、未だにもがき苦しんでいる【キメラ・デネブ】が向かって来るアスカに気が付き無数の触手を苦し紛れに彼に繰り出して来た。

 

「舐めるなっ!こんな統率が取れていない触手を差し向けて来たところでこのスーパーヒーローの障害にもならないっ!!」

 

一瞬驚いたアスカだったが攻撃が正面からしか来ない以上慌てる必要はない、アスカは直進横転飛行を止めてホウオウの二つの【節】を切り離し三節棍モードにして二重三重の円を描く様に振り回した。

 

「受けてみよ!カイゼル流魔棍術秘技!!」

 

カイゼル流三節魔棍戦技—————円征嵐

 

アスカが振り回す三節魔棍がノコギリカッターとなって迫り来る無数の触手を全てズタズタに切り裂き彼は難なく突破する、そのまま【キメラ・デネブ】の頭上に舞い上がり、三節魔棍の片端を両手持ちにして振り上げ、頭上で三節魔棍の反対側の端が撓ると同時に勢いよく急降下した。

 

「これで終わりだ悪党ぉぉぉおおおおおおおおっ!!!」

 

カイゼル流三節魔棍戦技—————旋鋼撃

 

急降下をしながら風車のように高速縦回転をしてその遠心力の威力で撓る三節魔棍の外側の片端を敵に叩き付ける戦技・・・それが《旋鋼撃(せんごうげき)》だ、カイゼル流魔棍術の戦技の中でも最大級の破壊力を誇るこの一撃が直撃すればいかに変異種とて一溜りもないだろう・・・しかし———

 

「ぐっ!!?また障壁かよ、ちくしょおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

アスカの渾身の一撃は【キメラ・デネブ】が再展開した呪力障壁によって弾き返され無念にもアスカは綺麗な放物線を描いて吹き飛ばされて行く、旋鋼撃は強力な一撃だが変異種クラスの魔甲蟲が展開する呪力障壁を破るにはやはり【限定戦技】でなければならない。

 

「最低限の仕事はしたみてぇだな、おかげで難なく接近できたぜ!」

 

吹き飛ばされるアスカと入れ替わるように今度はアッシュが手に纏う魔籠手【烈風拳】の右に最大まで練成された【縮退魔力】を収束して山吹色の光を発し、弾丸のように一直線に【キメラ・デネブ】の手前に展開されている呪力障壁に向かって飛び、その膨大な縮退魔力が込められた右拳を大きく振り被る。

 

「この障壁は俺がブッ壊す!うおぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!!」

 

アッシュ・クレイモアという空士は近接系でありながら戦闘中に練成するのが難しい【縮退魔力】を自在に練成できる、彼の凄まじい集中力の高さがそれを可能にしているのだろう。彼が今から放つ戦技は超単純にして超難易度の高い一撃だ、ただ一瞬にして最大まで練成した縮退魔力を魔籠手を纏った拳に込めて敵に叩き付ければいい、シンプル・イズ・ベスト故に強い、それは極限まで高められた何者をも爆砕する太陽の光を放つ必殺の拳、これこそアッシュ・クレイモアの最強の限定戦技!その名も————

 

魔拳戦技—————山吹色の爆拳(サンライトイエロー・エクスプロージョン)

 

太陽の光を放つ拳が呪力障壁に突き刺さり極大の爆炎の柱が障壁を突き破った、想像を絶する威力だ、爆炎の柱がそのまま【キメラ・デネブ】の巨体を飲み込み焼き尽くす、やがて炎の柱は消え中から出て来た【キメラ・デネブ】は黒焦げになっていて文字通り蟲の息であった・・・後はもう止めを刺すだけだ。

 

「後は任せたぜ・・・ルーク・スカイウィンド」

 

「おうっ!!」

 

今の一撃で魔力が尽きたアッシュがガラスが割れるような音を立てて崩壊していく障壁と共に重力に引っ張られて落下して行くと同時にフィニッシャーを務めるルークが蟲の息で辛うじて浮遊している【キメラ・デネブ】の懐目掛けて弾丸のように突っ込んで行く。

 

「クロエやロイド、ミレーユにオリバー先輩、E108小隊の奴等、カナタ・・・そしてアッシュとアスカが造ってくれたこの勝利への翼の道(ウィングロード)を———」

 

ルークの眼にはもう見えていた、皆のチカラで切り拓かれた勝利への翼の道が———

 

「翔け抜ける!!」

 

その道を・・・ルークは翔ける、皆から託された想いを背負って!

 

「舐めてんじゃねぇぞ・・・・この蟲野郎がぁぁぁぁあああああああああああっ!!!」

 

魔蹴術戦技————疾風怒濤(ストームラッシュ)

 

【キメラ・デネブ】の懐に飛び込んだルークは魔装靴【ストームブリンガー】を履いた両脚に乱回転する暴風を纏わせ怒濤のラッシュをその巨体に叩き込んでいく。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

ルークは凄まじい蹴りの応酬で【キメラ・デネブ】の巨体を上へと追いやり、ミストガンを覆うドーム状の防護壁の天蓋の前まで押し上げて、そのまま右脚を後方に大きく振り上げて右足の裏に空気の球を生成、そしてその右脚を・・・・・敵の零距離で振り抜いた。

 

「耳の孔かっぽじってよぉぉく聞きやがれ!この触手野郎っ!!————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———俺達が、ミストガンの空戦魔導士だぁぁぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

魔蹴術戦技—————零距離竜巻杭打(パイルトルネード・ゼロ)

 

 

 

 

この空域に、この都市に、この世界を護る為に戦っている全ての空戦魔導士達の想いを代弁してルークが叫ぶと同時に零距離で放たれた巨大竜巻が【キメラ・デネブ】の巨体に風穴を空けて、竜巻はそのままその後ろの防護壁の天蓋をも突き抜けて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ルーク「原作が終わっちまったけど、俺達の戦いはこれからだぜ!」

カナタ「そうだな、ようやくランキング戦で一勝をあげて、勢いのまま中型変異種も倒したしな」

ロイド「でも勢いに乗っている時が一番危ないといいますよ?あまり気乗りはしませんが未熟者である僕らはこれに驕らず更に精進するべきでしょうね」

クロエ「そうなるとギドルトの考える訓練だけじゃ物足りないかもしれないね・・・そうだ!ギドルトのとは別にわたしが特別な訓練メニューを考えてあげようか?自分の限界越えに挑み続けるって感じの量にやり甲斐のあるやつを」

ルーク「おっ?特訓ってやつだな?おもしれぇ、いいじゃねぇかそれ!」

クロエ「でしょ?」

カナタ「あー、たぶんそれお前らしか完遂できねー特訓だなきっと・・・」

ロイド「僕は遠慮しときます」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『いざ、朱き母艦が待ち受けし空へ!』

ルーク「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)!!」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ、朱き母艦が待ち受けし空へ!

またまた久しぶり・・・というか約半年ぶりにこっちを更新です!





空戦魔導士科指令センター—————

 

「三番区にて三体目の【キメラ・デネブ】の消滅を確認!これで都市内部に侵入した中型変異種は全て撃破されました!!」

 

都市内部の監視を担当するオペレーターの一人が告げた吉報に室内が歓喜に包まれる、まだ数百体もの魔甲蟲が都市内部に残ってはいるが、敵部隊を指揮する中型変異種を掃討できた成果は大きい、これで都市内部の敵の統率力は崩壊したも同然なのだから。

 

「そうか、よくやった!これで後は———」

 

『都市下方の【キメラ・デネブ】は経った今撃墜した。やはりつまらん敵だった、これから残りのザコの掃討に移る。これで攻勢に出られるだろう?周辺の掃討が完了次第、俺も【キメラ・カペラ】の攻撃に合流する、俺が来るまで俺の楽しみの分は取っておけよ!?』

 

「・・・フッ、ならなるべく急ぐんだな。お前が来る前に決着が着いてしまっても文句は受け付けねぇぜ」

 

『おっと!ならこうしている暇はないな、忙しいから切るぞ』

 

都市下方の空域で戦闘中のテオからもジョバンニの通信結晶を通じて【キメラ・デネブ】撃破の報告が入り、これによってミストガンは陥落の危機を脱した。今度はこっちが攻める番だ!

 

「よしっ、これより攻勢に出る!東南西の各連隊を指揮する隊長・副隊長全員に告ぐ!防衛空域の敵の掃討を配下の隊員達に任せ、テメェ等は北の空域で待ち受ける敵群の総大将【キメラ・カペラ】を叩きに向かえ!!反撃だっ!!」

 

『『『『『了解っ!!!』』』』』

 

「都市内部のS45特務小隊は配下の隊員達と共に残りのザコ共を排除しつつ、いつでも出られるように備えておけ!万が一という事もあり得るからな。テメェ等はミストガンの切り札で最後の砦だ、いざという時は身体を張ってもらうから覚悟はしておけ!!」

 

『もちろん!』

 

『言われるまでもない』

 

『・・・わかった』

 

『アハハッ!りょーかい♪』

 

ジョバンニは通信結晶を通じて各隊長に指示を送る、だが一人だけ了解を返さなかった者がいた事にジョバンニは不審を抱く。

 

「オイ、グローリー!返事が聞こえねぇぞ!?こんな大事な時に一体何をしてやがる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十一番区、発着場近くの通学路———

 

『グローリー!ソラ・グローリー、応答しろ!!』

 

「うっさい、やかましいわジョジョ!ちゃんと聞こえとるっつうの!!」

 

人工芝の高台の道に立ち、経ったさっきルークが放った竜巻杭打によって大穴が開いた防護壁の天蓋を見上げていたソラは通信結晶越しに聞こえて来たジョバンニの怒鳴り声を鬱陶しく感じて怒鳴り返している。普通上司の命令に対して返事を返すのは一般常識で当たり前なのだが、自己中なソラに一般常識は通用しない。

 

『聞こえているのなら返事ぐらいしろよ、判断に困るだろうが・・・』

 

「そら悪うございました。こっちは問題あらへんよ、敵さんはそんなに来とらん、ザコ共の相手は部下達に任せてワイは高みの見物しとるくらいやからな♪」

 

『周囲の警戒ぐらいはしろっ!!まったく・・・分かっているんならいい。テメェに言う事じゃねぇが、万が一の備えは怠るなよ』

 

ジョバンニからの通信が切れるとソラは再び天蓋に開いた穴を・・・否、その遥か先の空を見つめる。

 

「ああ、言われんでも分かっとるわい。【その万が一はあの上におる】みたいやしな・・・」

 

ルークが天蓋に穴を開けた時からソラの絶対空気感覚は捉えていた。あの空の向こうより発せられる強大で禍々しい呪力のチカラを・・・。

 

———この襲撃の真の黒幕は【キメラ・カペラ】やない、今あの空の上から都市を見下ろしとる何者かや・・・にしても妙やな、呪力と一緒に魔力も感じるで・・・。

 

ソラはあの空から漂う魔力と呪力が入り混じった空気を不気味に感じていた。魔甲蟲のチカラである【呪力】と人間のチカラである【魔力】、その相反する二つが共存する事など普通はあり得ない。あるとすれば・・・。

 

———んなアホな事があるか、【あのチカラ】は万融錬金士(アルケミスト)共でも解明できへん、存在すらするのか疑わしいブラックボックスやで?人間だろうと魔甲蟲だろうと【あのチカラ】を宿す存在が居るやなんてあり得へん冗談や・・・。

 

ソラはある可能性を考え付き、首を横に振ってその可能性を否定する。【あのチカラ】とは一体何なのだろうか?・・・いずれにしてもミストガンに災いを齎しかねない存在を見過ごすわけにはいかない・・・。

 

「・・・悪いなジョジョ、ワイが行かなアカンようや。今度イチゴパフェ奢ったるから堪忍したってな」

 

親友にして上司の青年に謝罪を入れ、空の王は未知の脅威を取り除くべく空へと飛び立って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三番区郊外、上空———

 

皆の協力で【キメラ・デネブ】に零距離の竜巻杭打を炸裂させ、見事敵を撃破したルーク。

 

「へへへ、見たか・・・これが俺達の実力だ・・・ぜ・・・」

 

強敵を倒して安堵し、気を緩めた瞬間にルークはとてつもない疲労感に襲われた。そして気を失いかけた所為で飛行魔術が解除され、彼は真上の天蓋に空いた穴から差し込む陽の光を浴びながら重力に引かれて落ちはじめる。

 

「オ、オイッ!?」

 

「ヤベェ!」

 

「ルークッ!!」

 

ルークが落ちて来るのを確認したアッシュ、アスカ、クロエの三人が落下するルークを受け止めるべく落下地点へと慌てて翔け出して行くが、若干距離が遠い為にアッシュ達の飛行速度ではギリギリ間に合わなそうだ。幾ら防護服を着ているとはいえあの高さから地に落ちたら無事では済まないだろう、咄嗟の三人の救出行動も空しくルークが三番区郊外の地に頭から追突しそうになった・・・その時———

 

変則的加速(チェンジオブペース)——————燃焼噴射超加速(アフターバーナー)

 

急行するアッシュとアスカの間を音を突き破る速度で通り抜け、燃え盛る炎と共に現れた空士がルークを抱きかかえて落下を阻止したのであった。

 

「よく頑張ったね。そしてゴメン、また未熟な君達に危ない戦いをさせてしまった・・・」

 

ルークを救出した空士はミストガン最速の【魂の炎(スピットファイア)】レオ・オーバーグであった。

 

「レオ先輩!よかった・・・」

 

「なんだ、誰かと思えば魂の炎か、ったく脅かしやがる・・・」

 

「くぅぅ~、ヒーローであるオレを差し置いてどいつもこいつもいいところ持って行きやがって!」

 

「へへっ・・・真打ち登場ってか・・・」

 

「ですね。他の場所ではまだ戦闘中みたいですが、特務の空士が居るってだけで安心しますね」

 

頼れる助っ人の参上に仲間達は安堵の表情を浮かべながらレオの周りに集まり出した。レオは抱えているルークを優しく地に寝かして彼等を出迎える。

 

「皆、遅れてすまなかった。変異種相手によく頑張ったね、三番区に侵入した魔甲蟲は全て倒したからひとまず安心していいよ」

 

「え、本当ですか!?」

 

「ふぅ~、流石に疲れたぁぁ~・・・」

 

「なんだよミレーユ、だらしないぞ。C140小隊の一員としての気合いが足りないんじゃないか?」

 

「ははは、そう言っているけれど君だってもう限界じゃないか?まだ戦いは終わっていないんだ、休める時に休んでおくといいよ」

 

「オリバー先輩、本当に魔装錬金武装を手放すと性格戻るんですね・・・」

 

レオから三番区の敵は全滅したという報を聞き、安心して張っていた気が抜けた仲間達はへろへろになってその場にへたり込み出した。無理もない、オリバーを除き変異種との戦闘は初めての経験だったのだから。

 

「う・・・うぅ・・・ん?」

 

「あ、ルーク、意識が戻りましたか」

 

「良かった・・・も~、心配かけさせないでよね、手を焼くのはカナタだけで手一杯なんだから」

 

「ひでーなクロエ・・・ルーク、大丈夫か?」

 

「ん・・・あ、あぁ・・・俺達・・・勝ったんだよな?」

 

「ああ、俺達の勝ちだ」

 

「・・・へへ・・・そうか・・・」

 

レオが落下を阻止してくれたおかげで数分で意識が回復したルークはE128小隊の仲間達の顔を見て安心し安らかな笑みを浮かべている。安心させてくれる仲間というのは実に良い、この戦いで得た勝利は彼等をまた大きく成長させたのだった。

 

———へへっ・・・見てたかソラ兄、リカ姉。俺達は入学して一ヶ月で変異種を・・・・・ソラ兄?

 

その時、ルークは自分を覗く仲間達の顔の遥か先————ルークが竜巻杭打で天蓋に空けた穴から外に出て飛んで行く皮の被り物を被った空士の姿を見た。

 

———見間違いじゃねぇ・・・あれはソラ兄だ。いったい何所に行く気なんだ?・・・それに何だ?あの穴の先に見える空からすげぇ嫌な空気が流れ込んで来るのを感じる。うまく言えねぇけれど・・・なんかテレビの雑音を大音量で聴いたかような耳障りな感じ・・・嫌な感じだぜ・・・。

 

都市から出るソラの姿と一緒に冷静になったルークの絶対空気感覚が穴の遥か先の空から感じる謎のチカラを捉えていた。ルークは嫌な予感がしてソラを追い翔けたい衝動に駆られるが、生憎もう疲労で身体が動きそうにない。

 

「・・・ソラ兄・・・」

 

いずれにせよ、ここから先の戦いはルーク達未熟者の出る幕はない。ルークはソラの無事を祈りつつ疲労した身体を休める為に再び眼を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガンより3km北の空域—————

 

変異種母体型魔甲蟲【キメラ・カペラ】率いる十万の群はミストガンが誇る精鋭の空士達によって次々と撃破され、残りの戦力はミストガン周辺の空域に展開している数百体の雑兵と都市内部に侵入した中でまだ生き残っている数百体の雑兵、この空域に待機し総大将を護る凡そ六千の小・中型魔甲蟲等雑兵と二体の中型変異種【キメラ・デネブ】・・・そしてこの大群を指揮する総大将である大型変異種【キメラ・カペラ】のみとなった。

 

朱い甲殻に覆われたマンタの様な形状をした【キメラ・カペラ】は遥か下方の海にその影が覆ってしまう程巨大であり、その巨体の至る所に無数に存在する砲塔と下腹部に持つ無数のミサイルポッドが他を威圧する、正面から見える刺々しい頭部の上にある主砲と思わしき巨大な砲塔が前方に見える襲撃中の学園浮遊都市に標準が向けられている。

 

浮遊要塞の如きその姿はまさに母艦(マザーシップ)、一度その火力が撃ち放たれれば前方に浮かぶあの小さな浮遊都市など一瞬で空の塵と化すであろう・・・だが断言しよう、奴がそれを現実にできる可能性は限りなく低いと!

 

「さあ、ケリを着けるぞ。まずは周り敵を一掃する!!」

 

「「「「おうっ!!!」」」」

 

天雷流魔刀戦技—————剛進一雷

 

魔槍戦技—————絶氷の騎兵槍(コキュートスランス)

 

魔錬装器戦技—————三又ノ雷槍(トライデントスマッシャー)

 

魔双剣戦技—————旋魂の円刃(ソウルブラー)

 

魔戦輪戦技—————血染の鎮魂歌(レッド・レクイエム)

 

何故ならばそのような非道な行いなどミストガンを守護する空戦魔導士達が許さないからだ。この戦いの決着を着けにやって来た五人のAランク空士達が最前列を翔けるA1小隊隊長のラディル・アルベインの号令を合図に敵を殲滅すべく戦技を一斉に放つ。魔刀の突き放ちと共に撃ち放たれたラディルの轟雷が一直線状に魔甲蟲の雑兵共を穿ち、ノイスの冷気が魔甲蟲の雑兵共を氷の騎兵槍に閉じ込めて命を奪い、フェイトが撃ち出した三又状の雷閃が左方の【キメラ・デネブ】を貫き、アディアが振るった双剣から放たれた無数の円盤状のカマイタチが右方の【キメラ・デネブ】を細切れに切り裂き、ルーイが投げ放った無数の魔戦輪が空域全体を蹂躙し空を魔甲蟲の体液で染め上げた。なんとミストガンが誇るAランク空士達は総大将以外の敵を全て一瞬にして葬ったのであった。

 

後は敵群の総大将【キメラ・カペラ】を墜とすのみ、それでこの戦いの全てが決着する。果たしてラディル達は【キメラ・カペラ】を倒し、ミストガンを護り通す事ができるのであろうか?

 

「さぁて、残るはこのデカブツだけだな♪とっとと撃ち墜として、皆でこの前三番区にオープンした高級レストランにメシでも食いに行こう、ノイスの奢りで!!」

 

「オイラが奢るのかよ!?誰が奢るかこの天パー小隊長がぁぁあああああっ!!!」

 

護り・・・通せるの・・・だろう・・・か?

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ラディル「さーて、リカの弟ら後輩たちはバッチリ決めたんだし、先輩である俺たちがちゃんとシメないとメンツが立たないな」

ノイス「ああ、今度はオイラ達が決める番だぜ!」

フェイト「ハッ!?【キメラ・カペラ】を撃退したらリオスきゅんに【いい子いい子】してもらえるかも!・・・よしっ!気合いを入れて決戦に臨みましょう!!」

アディア「姉さん、気合いを入れるのはその鼻血を拭いてからにしてよね・・・はぁぁ・・・」

ルーイ「お互いに小隊長が問題児で大変だなステップ。溜息を吐きたくなる気持ちもわかるぜアディア、ステップ」

ノイス「アレ?そういえばテオの奴はどうしたんだぜ?見たところアイツだけ合流していないみたいだが・・・」

ルーイ「ちょっと野暮用だとよステップ。まっ、きっとすぐに追い付くさ、テオの奴【キメラ・カペラ】と戦うのを誰よりも楽しみにしていたんだしなステップ」

ラディル「あー、あの新種身体中にあんなに砲塔生やして砲撃撃ちまくりそうだしなぁ・・・」

ルーイ「そ、砲撃を斬るのがテオの生き甲斐なんだ。この砲撃を斬りまくれるチャンスをあの【妖怪砲撃斬らせろ】が見逃す訳ねーよステップ」

アディア「自分の小隊の小隊長を妖怪って・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『吼えろ我が戦技ッ!テオ・セシル、魂の魔砲斬り(バスタースラッシュ)』

ラディル「翔け抜けろ!最強への翼の道(ウィングロード)ってか!!よしお前ら、俺に続けーーーーーーっ!なーんてな!!」

ノイス「ちゃんとシメろよアホ小隊長が・・・」

アディア「小隊長が問題児なのはどこの小隊も同じか・・・はぁぁ・・・」




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吼えろ我が戦技ッ!テオ・セシル、魂の魔砲斬り(バスタースラッシュ)

「そんじゃあ行きますか!お前ら、オレに続けぇぇーーーーっ!な~んてなっ!!」

 

ラディルが景気付けにおふざけを言い放ちながら敵の総大将に向けて正面から先陣を切り、ノイス達四人が大型変異種の巨体を包囲しに行くよう四方に散ってその後に続いて行く。都市防衛戦の決戦の火蓋は切って落とされた。

 

敵の総大将の【キメラ・カペラ】は向かって来るミストガンの守護者達を迎え撃つべく下腹部のミサイルポッドから無数の呪力誘導ミサイルを発射、噴射口から吐き出されるドス黒い雲の曲線を無数に空に描きながら五人の空士達を墜とさんと隊列を入り乱れさせて突撃して行く。

 

「いきなり追尾ミサイルかよステップ!」

 

「みんなミサイルを引き付けるように【キメラ・カペラ】の周囲を飛んで!追尾式ならその性質を利用して敵にぶつける事が可能な筈!!」

 

「自分が撃った呪術で自爆させようって腹だね?さすが姉さん!」

 

「確かにあの巨体なら後ろから追って来るミサイルを引き付けてぶつけるなんて楽勝すぎるぜ!」

 

「おっし、そんじゃあフェイトの作戦を採用だ!お前等、しくじるなよっ!!」

 

「「「「おうっ!!!」」」」

 

ラディル達はフェイトが即興で出した作戦を実行に移す。

 

ラディルは正面から向かって来た五発のミサイルを最小限の動きで全て躱して正面突破、弧を描いて戻って来るミサイルを【キメラ・カペラ】の刺々しい顔に引き付けて行く。

 

ノイスは敵のマンタのような巨体の左翼付近を飛翔、後方から追って来る六発のミサイルから逃げ、【キメラ・カペラ】の朱い甲殻の表面の至る所に生えている無数の砲塔から放たれて来る呪力砲弾の威嚇射撃を回避し続けながら敵の左翼の甲殻で最も脆い部分を探って遊弋する。

 

フェイトは敵の左側上部の空を直進横転飛行(エルロンロール)で錐揉み状に閃光の軌跡を描いて翔け抜ける、後方から追撃して来る五発のミサイルを先導するように下方の【キメラ・カペラ】の背中に向けて急激な下方宙返り(スライスバック)で高速急降下、追尾するミサイルも全て同じように彼女の後を追う。

 

アディアは姉とは逆方向の敵の右側上部の空を飛翔、【キメラ・カペラ】の背中の表面を覆う朱い甲殻の至る所に生えている砲塔から牽制の呪力砲弾が掃射され黄金の少年魔双剣士を蒼穹の空から撃ち落とそうとするが、アディアは敵の巨体に向けてジグザグに迫りながら砲撃を掻い潜り、後方から追撃して来る五発のミサイルを敵の右背面に誘導して行く。

 

ルーイは右翼付近を悠々と飛び回り、敵が放って来る砲撃を踊るように躱しながら六発のミサイルを【キメラ・カペラ】が右翼下方に持っているミサイルポッドに着弾するように導こうとしている。

 

このような感じで作戦は順調に事が進み、彼等のプランは実行に移された。

 

「そぉら、主砲粉砕だ!おまけでそのブサイク面を整形してやらぁっ!!」

 

「ここが薄いぜ!」

 

「はっ!」

 

「ふっ!」

 

「ゴー・ホーム!そんでスクラップだステップ!!」

 

全員同時に狙った部位に向かい、追尾して来る全てのミサイルをギリギリまで引き寄せて急旋回(ブレイク)する。車は急には止まれないものだ、ラディルを追尾して来た五発のミサイルは彼の急旋回に対応出来ずに【キメラ・カペラ】の眉間から突き出ている主砲らしき巨大な砲塔に追突し、ノイスを追っていた六発のミサイルは左翼のどの部位よりも若干色が薄い部分に突き刺さり、フェイトの魅力的な尻を追っかけていた五発のミサイルは朱い甲殻の表面に建つ無数の砲塔の内の一つに纏めて被弾、同様にアディアを追撃して来た五発のミサイルも別の砲塔に直撃する、そしてルーイが誘導した六発のミサイルは元居た右翼下のミサイルポッドに帰宅した。

 

「BOON!」

 

高速機動でその場から離れて行くルーイがその速度を維持したまま振り返って指を鳴らした瞬間全ての呪力ミサイルが次々に被爆して爆音の遁走曲(フーガ)を奏でた。

 

すると【キメラ・カペラ】は「グォォオオーーーーン!」という唸り声を上げて若干だがその巨体を上方に反らす動きを見せる、どうやら自分が放った呪力ミサイルでの自傷はさすがに効果が有ったようであり、複数個所での被爆による激痛で苦しみ喘いでいるように見える。

 

「よし今だ!戦技で一気に叩みかけるっ!!」

 

それを好機と敵の巨体の真上を飛ぶフェイトがバルディッシュを魔大剣形態に変形させて一歩引くように構えて狙いを付けた。

 

「撃ち抜け、雷神ッ!!」

 

魔大剣戦技————速光斬馬刀(ジェットザンバー)

 

衝撃波と共に光刃の魔大剣を振り抜き、勢いのまま撃ち出すように巨大な魔力刃が怯んだ敵の巨体の背中に向かって伸展して行く。狙いは背中の中心だ、どうやらフェイトは極限まで伸ばした巨大な魔力刃で【キメラ・カペラ】の巨体を突き刺して中心から引き裂くつもりのようだ。

 

「行っけぇぇぇええーーーーーーーっ!!!」

 

音を突き破る勢いで伸びて行く金色の魔力刃を鼓舞するようにフェイトは雄叫びをあげる。彼女の狙い通りバルディッシュの巨大な光の刀身は敵の背中の中心に向かって伸びて行っていて、このまま行けば後一秒も経たないうちにフェイトの戦技は敵の巨体を串刺しにする事だろう。

 

そう・・・このまま行けば———

 

「くっ!?防がれた!そう簡単にはいかないか!!」

 

金色の魔力刃は敵の巨体を貫く直前で展開された呪力障壁に阻まれてしまった。

 

「姉さんの速光斬馬刀を受け止めたっていうのに障壁には罅一つ入っていない。あの戦技には障壁を破壊する特性が付与されているっていうのに・・・」

 

「流石は新種の大型変異種ってところか。ドンマイだフェイト、判断は良かったぞ!ただ奴(やっこ)さんの方が一枚上手だったみたいだな」

 

アディアが言ったようにフェイトの速光斬馬刀には障壁を破壊する特性があるのだが、魔甲蟲が行使するチカラは魔導士が行使する魔力より遥かに優れた事象干渉力を持った【呪力】だ。フェイトが放った戦技の事象干渉力が敵の障壁のそれに及ばなかった故に障壁破壊効果が無力化されたのだろう、いや、正確には上から【塗り潰された】というのが正しい表現だろうか・・・どちらにせよラディルの言う通り【キメラ・カペラ】のチカラがフェイトより上だっただけの単純な結果だった。故に彼女は悔しく思い、歯痒い苛立ちを覚えながら後退するしかなかった。

 

「本っ当に大型変異種って無駄にしぶとくて腹が立つな!こっちは早くこの戦いを終わらせて愛しのリオスきゅんと××したいっていうのに!!」

 

「お茶の間で発言できないような問題発言をしている場合じゃないってのステップ!」

 

「来るぜ!!」

 

よくもやってくれたな今度はこっちの番だと顔面半焼けとなった【キメラ・カペラ】が怒りの咆哮を上げて身体中の砲塔の発射口を周囲を飛び回るラディル達全員に向け一斉掃射、強大な暴力の塊の豪雨が嵐となってミストガンの守護者達に襲い掛かって来る。

 

「総員回避!なるべく一ヶ所に集まらないようにしろ、回避範囲が狭まるぞ!!」

 

ラディルの指示が全員に行き渡って身構えると同時に呪力砲弾の豪雨が殺到する。その一発一発がカナタの収束魔砲を凌駕する破壊力を秘めており、一発でもまともに直撃してしまえばいかにAランクの空士であろうとも撃墜は免れないだろう。

 

だから何が何でも全て避けきらなければならな為、ラディル達は魔力障壁を何重にも重ねて展開して耐えたり弾道を見極めて躱し続けたりして砲撃の豪雨をやり過ごして行く。

 

———・・・何だ?主砲はラディルが破壊した筈なのに何故だか主砲があった敵の頭の部分に何らかのエネルギーが徐々に集まっているような気がするぜ・・・?

 

その中でノイスは【キメラ・カペラ】が見せる微妙な身体の変化に違和感を感じ取っていた。

 

———さっきから気になってたんだぜ、あの朱マンタ、オイラ達にミサイルを撃って来た時から徐々に魔力とは違う悍ましい何かをあそこにチャージしているような感じがするんだぜ。チカラの流れを上手く隠していやがるから気付き難かったけど、オイラの感が正しければたぶんアイツはあそこに呪力を収束しているんだぜ・・・となると———

 

氷の防壁を作って飛来して来る無数の砲撃を危なげに防ぎ続けながら次に仕掛けて来る敵の一手を推測するものの、その解答に行き着く前に突然【キメラ・カペラ】の顔面にある巨大な口が大きく開く。その中から膨大なエネルギーを内包している極太の何かが頭を覗かせた瞬間ノイスはその一瞬で違和感の正体を悟り、顔面蒼白になって叫んだのだった。

 

———っ!?そういう事かっ!!

 

「誰かアイツを止めろ!あれが本当の敵の主砲だぜ!!ミストガンが狙われているってばよぉぉぉおおおっ!!!」

 

「「「「何ぃぃっ!!?」」」」

 

どこぞの七代目里長のような語尾を付けたノイスの絶叫がこの空域中に響き渡り、空士一同はそれを聞いて驚愕し【キメラ・カペラ】の開かれた口許にハッと視線を向ける。奴の口の中から姿を現していたのは先程ラディルがミサイルを誘導し自壊させた砲塔よりも二倍は大きな朱い砲身であり、その砲口は約3km先に見えるミストガンに狙いを定めていた。つまり先程破壊した頭部の主砲は囮(フェイク)、これこそが敵の真の主砲なのだ。

 

主砲の砲弾である膨大な量の呪力の収束は・・・もう既に完了していた。

 

「これはベリィマズィぞステップ!」

 

「想像もつかない強大なチカラを感じる、あれを撃たせたらミストガンが!!」

 

「撃たせるものか!!都市のショt・・・みんなは私が護る!!」

 

「お前ら、あの砲身を狙え!主砲の標準を傾けてミストガンから逸らすんだ!!」

 

【キメラ・カペラ】の全身の砲塔による全方位掃射は都市を撃滅せんと主砲を撃ち放とうとする今も続いており、その砲撃に防戦一方のノイスは動けない。他の四人が無理を通して玉砕覚悟で突っ込めばなんとか主砲の発射を防げる、あるいはミストガンから標準を逸らす事が可能かもしれないが、この呪力砲撃の豪雨の中を突撃するなど自殺行為に等しいだろう。しかしやらねば自分達の護るべき都市が砲の一撃にて墜ちる、浮遊都市の守護者たる空戦魔導士としてそれをさせるわけにはいかない。

 

ラディル達四人はそれぞれ魔装錬金武装(エモノ)を手に乾坤一擲の覚悟を持って前に出る。雨霰の如く降り掛かって来る呪力砲弾の流星群を魔刀【麒麟】と魔装錬金製の脇差の二刀流で斬りいなしながら徐々に距離を詰めて行くラディル、電光石火(ブリッツアクション)による音速機動で砲撃の嵐の中を掻い潜って迫って行くフェイト、姉に同じく電光石火の機動力を活かして砲撃を躱し続けながらカマイタチの斬撃を飛ばして主砲の砲身を切断しようと試みるアディア、軽やかに舞うように砲撃の流星群を躱し続けながら魔戦輪【レゾナンスビート】を投擲して【キメラ・カペラ】の大きな鉱石のような眼を潰して視力を奪ってやろうと狙うルーイ。

 

「うおぉぉおおおおぉおっ!間に合えぇぇぇええええーーーーーーーーーーっ!!!」

 

空士達は撃墜される危険を冒しながらもミストガンを護る為に必死の抵抗をするが・・・奮闘虚しく敵の主砲の発射を阻止する事は遂には叶わなかった・・・。

 

「クソッタレェェェエエエエーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

主砲の発射口に超高密度に収束圧縮された朱い呪力の光が渦巻くように輝きを放ち、『ズドォォォオオオオンッ!!!』という空をも揺るがす轟音と共に大気が爆散して眼前まで迫っていた学園浮遊都市の守護者達を吹き飛ばす。砲撃の嵐の前に何もできずにいたノイスの悲痛な叫びがこの空域に響くと同時に敵の主砲から撃ち出されたそれは蒼穹を蹂躙する極大の朱き光の柱、朱き母艦の鉱石のような眼に映されているチンケな浮遊都市など丸ごと飲み込んでしまう程巨大な極太レーザーはその浮遊都市を飲み込みこの空から滅さんと暴食の悪魔のような大口を開けて伸びて行った。

 

「止められなかった・・・チクショウ!!」

 

「護れなかった。このままじゃ・・・ミストガンの皆が・・・」

 

敵の主砲の発射を食い止める事ができなかった以上ラディル達は破壊の光が護るべき浮遊都市を飲み込む瞬間を指を銜えて見ている事しかできない。それが悔しくて溜まらなく彼等は絶望に打ち拉がれるしかなかった———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人を除いて。

 

「いや、どうやら泣き叫ぶ必要は無さそうだぜステップ」

 

「・・・は?」

 

「ルーイ先輩、それってどういう事ですか?」

 

「どうもこうもナッシングだぜステップ、アレを見ろよ!」

 

絶望感漂う中、A29小隊副小隊長ルーイ・トーイはこの空域を飛ぶ空士全員に希望を捨てるにはまだ早いと言って破壊の光が迫り来るミストガンの下方から上がって来ている一筋の光を指さした。

 

「あ・・・あれって!!」

 

「もしかして!」

 

「・・・そうか、ようやく来たのか・・・ハハハハッ!まったく、アイツ雑魚共相手に手間取りすぎだろ?大遅刻だなオイッ!!」

 

「ああ!対砲撃専門家の御到着だぜ!!」

 

ルーイが指した小さな光がミストガンに迫る破壊の光の前に立ち塞がる光景を目の当たりにして絶望の闇に堕ちかけていた空士達の眼に再び希望の光が宿った。圧倒的質量の呪力エネルギーが都市を撃ち墜とさんと迫ろうともそれが【砲撃】である限りあの光が護っているのならもう安心だ、何故ならばあの光の正体は———

 

「この剣を振るえる瞬間、この身を震わす威圧感に圧倒的破壊を齎す質量の砲撃、俺はこの時をずっと待っていたっ!!」

 

その男、魔砲士五十人を単独で撃墜するという伝説を創り、自身の丈より大きな銀色の出刃包丁の様な魔大剣【エクシードバスタード】をもって如何なる砲撃をも両断しに行く。その命知らずな勇猛さから付いた二つ名は【砲撃士殺し(バスターキラー)】。

 

「都市を破滅の危機より救う為!己が役目を全うする為!そして何より極上の砲撃を斬るという無上の喜びを得る為に———」

 

「「「「最後本音言っちゃった!!?」」」」

 

「いつもの事なんだからいちいち気にするなステップ、アレは不治の病なんだよ」

 

・・・三度のメシと美女よりも砲撃を斬るのが大好き過ぎて【砲撃上等系男子】という新たなジャンルを開拓してしまった砲斬り侍、妖怪砲撃斬らせろ。最低日に十度砲撃を斬らないと蕁麻疹に悶え苦しんでしまうという訳の分からない持病を持っているこの超変人こそが実質ミストガンナンバー2の空士にしてA29小隊小隊長、彼は———

 

「——このテオ・セシル!魂の刃(やいば)を振り下ろし、魔王の一撃を斬り裂かん!!我が剣、我が魂の一刀、その身に刻め!!吼えろ、我が戦技ッ!!!」

 

魔大剣戦技————魔砲斬り(バスタースラッシュ)

 

振り上げた銀色の魔大剣を巨大戦艦を両断する勢いをもって振り下ろす、全てを滅する朱き光の奔流に正面からの真っ向勝負だ!

 

「ぬおぉぉおおおおおぉぉおおおおぉおおおおおおおっ!!!」

 

テオの身体の何百倍も巨大な質量の朱を上から銀の刃が食い千切り飛沫を撒き散らす。男の咆哮に呼応するかの様に魔大剣は唸りを上げて朱を上から下へと切削して行き、振り斬ると同時に魔力が弾けて破壊の光を奥の奥まで縦に・・・両断!これこそがテオ・セシルの代名詞にして魂の一撃、例え魔王が放つ一撃すらも斬り裂く必殺の戦技【魔砲斬り】だ!!

 

「ア”ア”ーーッ!!超っ気持チィィーーーーーーーーーーッ!!!」

 

左右に断った極大レーザーがミストガンを避けて水平線の彼方へと去って行き、都市を救ったテオが先の先の空域まで行き届くような歓喜の雄叫び(?)を上げたのであった。

 

その姿を遠目で見ていたラディル達は———

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

それはもう全員沈黙する程DO★N★BI★KIしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園浮遊都市ミストガン上空6000m———

 

「あの砲撃を防ぎますか・・・まだまだ脅威には値しませんが、こちらの予想以上の実力はあるようですね・・・」

 

雲より高い空の上に魔甲蟲の大群勢を率いてミストガンに攻め入った敵の真の総大将の姿はあり、ラディル達の戦いを涼し気に、それでいて内心見下すように文字通りの高みの見物をしている。

 

淡く輝く蒼玉(サファイア)のような長髪をした光彩奪目の美少女【キルスティ・バーミリオン】・・・この空の戦場に場違いなこの少女は見た目はルーク達予科一年生と同年代に見えるのだが、その雰囲気は歴戦の戦士のように研ぎ澄まされていて付け入る隙が見当たらない。更に異質なのはその華奢な身体から血の匂いがするという事だ、その手にあるのは死神を連想する黒の大鎌、そんな彼女の周囲の空間は彼女が垂れ流しているのであろう魔力とも呪力とも言い難い禍々しいチカラに当てられて微かに歪んで見えている、それはまるで空が彼女の存在に恐怖して怯えているようだった。

 

———なるほど・・・さしずめ【天使の皮を被った死神】やな。

 

それが彼女の背中を奇怪な細眼で見つめて彼女の呟きを聴いていたソラ・グローリーが抱いたキルスティの第一印象であった。

 

「・・・お初にお目にかかります、空の王(アトモス)。呼び出しに応じていただき感謝します」

 

ソラの存在を目を向けずに認識したキルスティが振り返ってソラと向かい合い丁寧な口調で挨拶の言葉を言う。その外面は社交界のお嬢様の様に礼儀正しいが、その淡々とした声音は相手に礼儀を重んじてなど微塵も無く感じる。その証拠にソラに向けるその視線は周囲を飛ぶ小蝿を目に付くからという理由で仕方なく視界に入れているような慇懃無礼な眼をしており、明らかに友好的ではない。

 

そんな彼女の目線を受けてその意図を確信したソラは皮の被り物越しに後頭部を掻いてわざとらしく愛想笑いをする。

 

「ナハハ、成程なぁ。ワイはまんまとおびき寄せられたっちゅう事かいな。いやぁ有名人はホンマつらいわ~♪こないな将来別嬪さんに成んのが約束されたような嬢ちゃんにこないな人気の無いとこに呼び出されて二人っきr「無駄話は結構、貴様の妄想を聞いていたところで耳が腐るだけですから」・・・ノリの悪い嬢ちゃんやなぁ」

 

慇懃無礼な口調でソラの悪ふざけの腰を折るキルスティ、長々と雑談をする気は無いらしい。

 

「そんなら仕方あらへんな、ちゃっちゃと本題に入らせてもらうで」

 

この手の揺さぶりが通用する相手ではないと理解したソラはおちゃらけモードから真剣モードに切り替えて話を切り出した。

 

「魔力に混じって小っこいその身体から漏れて来とる嫌な感じのチカラで判るで、それは人類の怨敵たる魔甲蟲が有する【呪力】・・・あの魔甲蟲共の親玉は嬢ちゃんなんやろ?」

 

「・・・隠すつもりは微塵もなかったのですが、よく解りましたね?」

 

「アホ抜かせ、こないな場所で高みの見物しとる奴が無関係の訳あるかい。それにワイはちぃ~っと特別でな、どんなに上手く隠蔽しとっても空気中に混じっとる異物不純物を感知できるんや。何で嬢ちゃんみたいなのが魔甲蟲のチカラを持っとるのかは解らんが、少なくとも嬢ちゃんのソレはあの朱いデカブツを遥かに上回っとるし、何よりも嬢ちゃんのようなキレイな蒼髪の美少女ミストガンじゃ見掛けん上に近隣の浮遊都市の空士でもあらへんようやしな・・・手に持っとるソレ、魔装錬金武装やないんやろ?」

 

ソラがおもむろに指さしたキルスティの手にある大鎌はこの世の物とは思えない程禍々しくて物質の気配が感じられず、どちらかと言うと何らかのエネルギーが形を成して固体となったように感じられる・・・そしてその感覚は誤認ではない。

 

「ええその通りです。これは呪鎌《ハルパー》———私の呪力で形成し具現化させた武装」

 

「呪力の大鎌かいな、ホンマに死神やったみたいやな」

 

「・・・その認識は間違っていますよ。私は《殺戮の天使(セラフィム)》、狂い、乱れ、凶刃をもって下賤の者共の首を刈り取る処刑人」

 

「訂正や、死神よりも質が悪いな」

 

大鎌の峰を身体の真下に向けるようにして臨戦態勢に入ったキルスティに対し、ソラもまたそれに応じるように魔術士の宝石箱(マギスフィア)から魔装靴【ワールドストライカー】を両足に転射し装着する。どう見ても一戦交える雰囲気だ、ソラは目の前の光彩奪目の美少女が襲撃の黒幕である事が判った以上は彼女を見逃すわけにはいかないだろうし、キルスティは———

 

「戦う前に一応言っておきます。呪力を漏らして貴様を誘き出したのは学生空士最強と名高い貴様なら知っている可能性が高かったからです」

 

「知っている可能性?なんやねんそれは?」

 

「【玉璽(レガリア)】・・・この単語に聞き覚えはありますか?」

 

「・・・・・」

 

キルスティの問いを聞いた瞬間、ソラは神妙な顔付きになって細目を開いていた・・・。

 

キルスティが魔甲蟲の大群勢を率いてミストガンを襲撃した真の目的はこの世界に八つ存在している【王の証】レガリアの所持者を都市から燻り出す為であり、彼女はソラならその行方を知っているかもしれないと踏んで彼を自分の呪力を餌に誘き出した。そしてその情報をソラからチカラずくで聞き出そうというのだ。

 

———この男が情報を持っている確証はなく効率に欠ける方法だったので無駄手間になるかと少々不安でしたが、どうやらそれは杞憂だったみたいですね。

 

射貫くような鋭い視線は敵意の眼、光彩奪目の美少女に無言で向けるそれは明らかに肯定と主張していた。

 

「・・・その話は都市の取調室でなら答えてやってもええで」

 

「戯言を・・・」

 

空の王が解放した強大な魔力が大気を揺るがし凄まじい闘気が対峙する者に途轍もないプレッシャーを与える。全ての空は彼の領域、全ての空は彼の支配下、その王者の貫禄と絶対的な空域は下々の者共を戦慄に震えさせる事だろう・・・だがそれは下々の者である場合の話だ。王に畏れを成さぬ魔性の者には通用しない。

 

「貴様では私には勝てませんよ。どれだけ空の戦いに秀でていようとも貴様が呪力を持たない貧弱な魔導士(ウィザード)である限りこれは覆る事はない!」

 

「よく吼えるやないか、上等や。なら嬢ちゃんが見下しとる空の王のチカラ———存分に味あわせたるわっ!!!」

 

「ほざけっ!!」

 

張り詰めた緊張が頂点に達した瞬間、空の王と殺戮の天使は弾けて爆発するように飛び出し、暴風の如き蹴りと狂気の刃が円月の様に弧を描いて激突、嵐のような衝撃波が半径約5km内の雲を纏めて霧散させると共に雷の如き轟音がこの空を激震させるのだった・・・。

 

 

 

 

 




次回予告

テオ「ふふふ、どうしようか。まだ奴の主砲撃を斬った感覚の絶頂が納まりきらないぞ!もっとだ、もっと凄まじい砲撃を沢山斬らせて、俺を満足させてくれよッ!!」

ルーイ「お前はいったいどこの満族民だステップ!?いい加減にしろ!」

ジョバンニ「頼むからこれ以上は撃たせないようにしてくれ。ミストガン(こっち)は危うく奴の主砲が直撃するところで、冗談抜きにひやひやしたんだからな・・・」

リカ「はぁぁ・・・ウチのナンバー1空士はドが付く程の超スケベで、ナンバー2もこの通り超変人。こんなのがミストガンを代表する空戦魔導士だとか将来を担わせる後輩達にも悪い影響が及びそうで、ホンット頭が痛くなるわ・・・」

レオ「ハハハ・・・ところで、そのウチのナンバー1空士は何所に行ったか、みんな知っているかい?さっきから彼の通信結晶に回線が繋がらないんだけど、故障かな?」

フロン「嫌な予感。なんだか胸騒ぎがするわ・・・」

次回、空戦魔導士候補生の情熱『究極の空戦へ、空の王(アトモス)VS殺戮の熾天使(セラフィム)!』

フロン「翔け抜けなさい!最強への翼の道(ウィングロード)!!・・・ってこんな事言っている場合じゃないわ。まだ敵の親玉を倒せたわけじゃないのだし、私がしっかりしないと」




目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。