不死の英雄伝 〜思い付き短編集〜 (ACS)
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体現者短編1


ーーーー此れはまだ、不死の英雄が高町家に居候して間も無い幼少期の一コマである。


短編1 幼少期ハロウィン

 

 

夏の蒸し暑さが残る''残暑''と言う物が落ち着き始めた十一月、俺は着流しを着て縁側で静かにお茶を啜っていた。

 

今日は四六時中一緒に居るなのはは隣に居ない、非常に寂しいが、今朝から美由紀さんと何やら内緒話をしていた為、またあの人が悪巧みでもしてなのはに適当な事を吹き込んでいるのだろう。

 

左腕の義手は現在メンテナンス中な為、隻眼隻腕の状態に逆戻りしており、空になった湯飲みに急須のお茶を入れるにはいちいち持ったり置いたりを繰り返す必要がある。

 

普段はなのはがお茶を注いでくれるのだが、偶にはこの様な日もあって構わないだろう。

 

そう思いながらも手にしていた空の湯呑みを置き、其処に緑茶を静かに注いで行く、確か…''玉露''だったか''宇治茶''だったか、兎も角そんな銘柄のそれは最近俺が良く口にする物だ、こう言う物をなのは曰くお気に入りの物、と言うらしい。

 

綺麗な緑色をしたそれをなみなみと注いだ俺は、息を吹きかけて熱を冷まして居る最中にお茶の葉の茎が立ちながら浮かんでいる事に気が付いた。

 

隣になのはが居れば『今日は良い事があるよ!!』とでも言うだろう、…………彼女には悪いが生憎と俺はそう言う類いの物は嫌っているのであまり良い返事は返せないだろうが。

 

息を吹きかけて茶柱を沈め、目を瞑りながら味わう様にお茶を啜る、熱さと苦味の中にある甘味を堪能しながら目を細めて我が使い魔へと視線を向ける。

 

庭でシフが気持ち良さげに秋風を浴びている、別に悪い事では無いのだが、日本には芸術の秋、運動の秋、そして食欲の秋と言う三つの秋が有るらしく、彼は三番目の秋を徹底して堪能し尽くしている為、最近首回りや胴回りに無駄な脂肪が付き始め、ぷよぷよとし始めている。

 

このままでは最下層の巨漢達の様な太っちょとなってしまう様な気がしないでも無い、運動させても消費と供給が釣り合っていない為、着々とデブ街道を突き進んで居る。

 

 

ーー本格的に太り始めたら対策を考えなくてはならないな。

 

 

騎士アルトリウスの忘形見のダイエットを考え始めるとキリが無い為、お茶請けに持って来ていた羊羹を口に運ぶ、個人的には羊羹よりも外郎の方が好きなのだが、なのはが態々俺の為にお小遣いを使って買って来てくれた物だ、今日から俺は羊羹派になろう。

 

そんな取り留めの無い事を考えながら羊羹と緑茶の組み合わせを味わいつつ秋風に揺れる薄の音を聞いていると、とたとたと木張りの廊下を走る軽い音が聞こえ、其方に目を向ける。

 

忙しない足音の正体はなのは、士郎さん達は鍛えている所為なのか足捌きがやはり他とは違うのでなのはの様に音を立てる事は無いので分かりやすく、桃子さんは割とおっとりとした女性なので足音の感覚もゆっくりな為彼女も又分かりやすい。

 

予想通りと言えば予想通りだったのだが、彼女の装いが少々風変わりだった。

 

 

先ず目立ったのは漫画やアニメに出てくる様な魔女のとんがり帽子、次に同じ材質の黒い外套とプラスチック製のステッキ、おまけに髪も下ろしており、所謂魔女っ娘と言う姿をしている。

 

可愛い事には可愛いのだが、しかしなぜ急にその様な姿をしているのだろうか?

 

俺のそんな疑問が顔に出ていたのか、なのはは胸を張ってこう言った。

 

「ブレンくん、今日はハロウィンだよ!!」

 

「ハロ、ウィン?」

 

「うん、ハロウィン!! トリックオアトリートって言ってみんなからお菓子を貰う日だよ!!」

 

 

トリックオアトリート、『お菓子をくれなければ悪戯するぞ』と言ったところだろうか?

 

 

「その、ハロウィン? と言う物がどう言う催しの物かは分かったけど……それとなのはがしている仮装とどう言う繋がりが?」

 

「えっと……似合ってない、かな?」

 

「この上無く似合ってるよ、普段の君も可愛らしいけど、今の君もとても愛らしい」

 

「にゃはは、ありがとうブレンくん。 んー、なのはもあんまり分からないんだけど、お姉ちゃんが言うにはハロウィンで仮装するのは決まりなんだって、ブレンくんの衣装もあるから後で着替えて一緒にお菓子貰いに行こうね!!」

 

 

仮装、か。

 

どうせ碌でもない衣装ばかりなのは想像に難く無いが、なのはがニコニコと楽しみにしている姿を見ているとその装いに身を包むのも悪く無い。

 

ハロウィンとやらには興味が無いのだが、参加しなければなのはは悲しむし、美由紀さんが情操教育の一環だからと無理矢理にでも参加させようとするだろう、ならば激流に身を任せるのも又一つの手だ。

 

そう思いながら湯飲みに手を伸ばした時、その中が空になっている事に気が付いた、そう言えば丁度三杯目を飲もうとしていた矢先になのはが来たので其方に意識を持って行かれたままだった。

 

仕方ないので一旦湯飲みを置いて急須を取ろうとしたのだが、既になのはが急須を持っており、俺の行動を先取りする様に俺が握っている空の湯飲みにお茶を注いでくれた。

 

何も言わなかったにも関わらず、俺の思った事が伝わった様になのはが注いでくれた湯気の立つそれに息を吹き掛けて冷まして居ると、又しても茶柱が立っている事になのはと共に気が付いた。

 

 

「あっ茶柱が立ってるよブレンくん!! 今日はきっと良い事があるよ!!」

 

「………………ふふっ、もう''良い事''は起きたよ、なのは」



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体現者短編 2





短編2 未来組ハロウィン

 

 

その日は珍しく仕事が少なく定時で帰る事が出来た。

 

カレンダーにはレヴィの文字で『今日はハロウィン!!』と記されていた為、簡単なお菓子を用意するには丁度良かった。

 

我が息子達はこの手の催しに微塵も興味が無く、オルステッド以外は相も変わらず頼り一つ寄越さない、時々風の噂で元気にしていると言う話を聞くばかり、まったく誰に似たのやら。

 

とはいえ、私も小言を言えるような立派な親では無い事は理解している為、溜息を零す事しか出来ないのが歯痒い。

 

思考が落ち込み始めた為、首を振ってそれを振り切り玄関の扉を開く、丁度夕飯が出来上がった頃なのか玄関先まで食欲を唆る匂いが漂っている。

 

玄関が開く音に気が付いたのか、忙しない足音が聞こえ、暫くするとレヴィが嬉しそうに飛びついて来た為、それを優しく抱き留める。

 

 

「お帰りなさい、お父さん!!」

 

「ただいまレヴィ、今日は思ったよりも早く帰ってこれたよ」

 

 

腰に抱きつき頰ずりしているレヴィの頭を撫でる、娘達はこうして頭を撫でられるのがお気に入りらしく、撫でているととても幸せそうな表情を浮かべている。

 

「所でレヴィ、その頭とお尻に付いている耳と尻尾は一体?」

 

「おばあちゃんが作ってくれたんだ〜、どう? 似合う?」

 

 

ピコピコと動く犬耳と犬尻尾、よく見ると狼のソレだ、恐らく人狼と言った所なのだろうがレヴィの感情に連動して動いている為か犬にしか見えない、……プレシアさんの趣味だろう、あの人は相変わらずだな。

 

「と、言う訳で、お父さん、とりっくおあとりーと!!」

 

「夕食前だよ、レヴィ。 お菓子はちゃんとご飯を食べてから、ね?」

 

「ぶーぶー」

 

 

膨れっ面になったレヴィだが、それに負けてお菓子を与えると私が叱られるので我慢して貰うしかあるまい。

 

レヴィを宥めながらリビングへと向かうと、今度は魔女っ娘姿のシュテルが私を出迎えてくれた。

 

 

「お帰りなさいお父さん、そしてトリックオアトリック。 お菓子は要りません(性的な)悪戯をさせて下さい」

 

「却下だ、大人しくお菓子で我慢しなさい」

 

「お父さんのお菓子(意味深)ですね分かります、さあどんとこいですよお父さん」

 

「……今日は、絶好調だねシュテル」

 

「ハロウィンですから」

 

 

胸を張ってドヤ顔をするシュテルだったが、なのはから念話が送られて来たのか胸を張ったまま盛大に冷や汗を流している。

 

毎度毎度クリスマスやお正月にはっちゃけ、その結果シュテルがなのはに叱られる一連の流れは我が家ではお馴染みの光景なので軽く頭を撫でてからその横を素通りする。

 

リビングに到着した私を出迎えたのはレヴィとお揃いの格好をしたユーリと、ドラキュラの様な姿をしたディアーチェだった。

 

 

「お帰りなさいブレンさん、それとトリックオアトリート、ですよ〜!!」

 

「お帰りなさいです、父上」

 

「ただいま二人とも、お菓子は食後にね」

 

「はいです!!」

 

「私は貰う側よりもあげる側ですよ、父上」

 

 

嬉しそうに食卓に向かうユーリと、ジト目で此方を見るディアーチェ、確かに未来と過去の時間旅行で一皮剥けた様だが、それでも私にとっては可愛い娘に変わりは無い。

 

わしわしと頭を撫で回すと真っ赤な顔をしながら俯向くのがその証拠、なんだかんだ言っていても根はまだまだ子供だ、しっかりしているのは良いのだが欲を言えばもう少しワガママを言ってもらいたい。

 

その後夕食を食べた後、お風呂で疲労を回復し、着流しに着替えて縁側で月を見ながらお茶を啜っていると背後からヴィヴィオが現れ、私の隣に座った。

 

その手には焼き立てのパイが乗った皿があり、彼女は私に向かって笑顔であーんをする。

 

 

「トリックオアトリート!! はいパパ、パンプキンパイだよ」

 

「お茶請けかい? 個人的には羊羹が外郎の方が嬉しいんだけどね、まあ此れも風情だ、美味しく頂こう」

 

 

そう言って、そのパイを食べようとしたのだが、私の言い方が気に食わなかったのだろう、すんでの所でパイを取り上げてそっぽを向いてしまった。

 

 

「もう!! そんな捻くれた事を言うパパにはこのパイはあげません!!」

 

「いやはやすまないね、昔はハロウィンでも和菓子を要求していたからつい癖で、ね?」

 

そんな事を言いながらヴィヴィオを宥め、その手の中にあるパイを食べさせて貰う、口にした後に教えて貰ったがみんなで作った物らしく、そう言われて背後を横目で見ると柱の影からレヴィとユーリが固唾を飲んで此方を覗いている。

 

 

「それで、パパ? お味の感想は?」

 

「非常に美味しいよ、お代わりが欲しいくらいだ」

 

 

そう言って啜るお茶には茶柱が立っていた。

 



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体現者短編3


if もしもブレンが色々開き直った神様だったら。

注意

ギャグ、設定崩壊、キャラ崩壊が含まれます。


短編3 転生者死すべし慈悲は無い

 

 

其処は始まりの火が鎮座する場所、本来の世界線の不死の英雄は己の存在を嘆き、存在が希薄に成る程の深き眠りに付いていた、のだが。

 

 

「と言うわけで、幸か不幸か私はこの世界の覇者、つまり神となってしまったのだよ」

 

「いや、だからな? 俺はテメーの事なんてのは微塵も興味ねーんだよ」

 

 

この世界の彼はなってしまった以上仕方ないかと逆に開き直ったようで、現在は有り余る神様パワーを使用して魂レベルで消滅した放浪者を再構築し、強制的に話し相手として居る所であった。

 

満足した人生だったと綺麗に幕を引いた放浪者には気の毒な話なのだが、それ以上に不死の英雄は暇であり、この場で生き返らせることが出来るのが放浪者のみだった為、所謂不可抗力と言う物であった。

 

 

「君の意見など知った事では無いよ、我が逆しま」

 

「少し見ねぇ内に随分偉くなったなァ、えぇ!!」

 

「神だからな、偉いに決まってーーーーん?」

 

 

ふざけた調子の口調だった不死の英雄だったが、唐突にその穏やかな雰囲気は四散し、刃のように鋭い殺気を放つ。

 

胡座を掻きながら鍾乳洞に凭れていた放浪者は、常人なら圧殺される程の殺気を全身に浴びながらも暇そうに欠伸をかまして居る。

 

 

「で? どうしたんだよ、んなに殺気立って」

 

「私の大切な世界に鼠が紛れ込んだ様だ、今から排除しに行くぞ」

 

「いってら〜、俺は現代の漫画読み漁るっつー大事な用事があるんだ、テメーだけで殺って来いよ」

 

「私はコミュ障な上引き籠りでね、通訳の君が居なければ目的が果たせない、という訳でボッシュートだ」

 

 

そう言って不死の英雄は指を鳴らし、放浪者の足元へ穴を開けて地上へと叩き落とす、ドップラー効果で流れる罵声を聞き流しながら次元の壁を斬り裂き自分だけは悠々と海鳴公園に足を踏み入れるのだった。

 

落下した放浪者、転生者狩りに無理やり参加させられた彼が落ちた場所は次元の狭間に浮遊する時の庭園、ーーーーの大浴場だった。

 

盛大な水飛沫を上げながら熱湯の中に着水する放浪者、なんたって自分がこんな目に合わなくてはならないのか、そんな悪態を吐きながら、銀髪のあんちくしょうを必ず殺すと誓いながら湯船から立ち上がると、其処には全裸の金髪幼女と同じく全裸の妙齢の女性が浴場に入る所であった。

 

 

時が止まった様な錯覚、顔立ちが似ている所を見ると親子の様だが、幼女の顔が下から赤く染まって行き悲鳴を上げる。

 

その瞬間放浪者は湯船から飛び上がる、それは彼の才能がプッシュした回避行動、そしてそれは正しく、先ほどまで彼が居た場所に紫電が叩き込まれていた。

 

派手な音を立てて水面に走る電流、いきなり攻撃された為、訳が分からないが目の前の女は自分の敵だと判断した放浪者はその脅威を排除すべく墓王の大剣を取り出し、一閃。

 

ーーーーしたつもりだった。

 

 

空中で墓王の大剣を取り出したまでは良かったのだが、自身の身体が何故か幼くなっており、その所為で身の丈を超える大剣に身体が引っ張られ、真空波を飛ばす一閃を振るう事が出来ずタイルの床に叩きつけられた。

 

 

「んだこれ!? 何で俺がガキの姿に『言い忘れていたが転生者は幼児の様でな、世界に負担を掛けずに地上に出るには彼らの通った道を使う必要があったのだが、その結果がこれだよ』ーーーーッ!! 逆しまァ!! そう言う事は先に言えぇぇえ!!」

 

 

人の思考を先回りする様な念話、その上『それと追伸だ、如何にも私は一目惚れと言う物をしたらしい、転生者狩りは全面的に君に任せたよ』と言う糞巫山戯た言葉を言い放ち、彼はそのまま念話を打ち切った。

 

 

「野郎……!! 決めた何時か殺すッ!! 必ず殺すッ!! 絶対に殺してやるッ!!」

 

「物騒な事を言うのは構わないけれど、貴方は何者かしら? 本来ならフェイトの肌を見たと言う罪で極刑物、けど貴方は失われた力を使用している様だし、場合によっては実験動物扱いにして生かしてあげるわよ?」

 

「吐かせよババァ、血色の悪りぃ面しやがって、病人風情が俺を殺れると思うんじゃねぇぞ」

 

 

さっきの一振りで以前の身体と今の身体の違いはハッキリと理解出来た、身体ごと持って行かれる何て事はもう無い、次は殺れる。

 

それ以前に幻影の刃で串刺しにすると言う方法も残っているのだ、万に一つも負けは無い。

 

 

そんな事を思いながら墓王の大剣を握る拳に力を込め、身を低くしながら敵の動きを注視していたのだが、向こうの方から臨戦態勢を解き、脱衣所から二人分のタオルを持って来て自分と幼女にタオルを巻き付ける。

 

 

「……取り敢えず貴方は只者では無いようだし、此処は大人しく引きましょう、分かったらさっさとお風呂から出て行ってくれないかしら? 私はこれからフェイトを治療(意味深)しなきゃいけないの」

 

「実の娘に欲情した上でヨダレを垂らす母親か、世も末だな……」

 

 

肩を落として湯船から上がり、浴場から外へと出る放浪者。

 

 

ーー彼はこの後、テスタロッサ家に居候する事となり、後に起きるジュエルシード事件や闇の書事件でブレン・シュトッフと名乗って高町家に居候する神と壮絶な殺し合いを開始する事になり、低級な神から無限の剣製や勝利の剣、必中の槍を貰って意気揚々と原作介入しようとした転生者の度胆を抜く事となる。

 

 

尚、転生者達は知らなかったが、この世界は敷かれている理によって神によって与えられた能力の悉くが一切通用しない世界となっている。

 

その為、事件開始時の思念体にすら重症を負わされたり、100%踏み台転生者のブレンに素手で伸されたり、ジュエルシードを求めて放浪者と対峙して半殺し以上の九割殺しにされたりと散々な結末となってしまうのだった。

 

しかも、ブレンは別の世界線の自分以上になのはに骨の髄まで骨抜きにされてしまった所為か、ゴキブリ以下の転生者に微塵も興味が無くなり、出会い頭に始まりの火を使って『どの様な事をしたとしても世界の流れを変える事が出来ない』と言う呪いを魂レベルで刻んで放置すると言うだけの処置で済ませている。

 

 

ある意味この世界線は平和な、なのかもしれない。



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体現者短編 4

注意!!

下ネタ回、夜の性活についてのお話です。


ps

何処までがセーフなのか分からなくなったので急遽R-18タグ追加(白目)

色々と覚悟して下さい(震え声)

追記

この程度なら大丈夫じゃね? と言う意見を貰いましたのでR-18タグを外しました。



短編4 未然に防げ、倦怠期!!

 

 

無駄に広い屋敷の一室、そこに住む者達が集まるリビングで、一目で高級と分かるソファーに寝転びながらアリシアはとある雑誌を読んでいた。

 

今日は本当に珍しくブレンを始め、なのは、フェイト、はやての全員が休みであり、子供達は学校、つまり夫婦だけの時間であった。

 

と言ってもブレンは書斎に居る為この場に居るのは女性陣のみである。

 

 

「ねーみんな、ちょっといい?」

 

そう言ってソファーから立ち上がるアリシア、彼女はその声に反応したなのは達をテーブルに座らせると、所謂ゲンドウスタイルでこう切り出した。

 

 

「実は、私が今読んでいるこの雑誌に『夜の営みのマンネリ化は倦怠期の原因となる』って書いてあるんだよね、でさ普段みんなブレンとどんなプレイをしてるのか参考までに意見交換したいんだけど、良いかな?」

 

「いや、その……アリシアちゃん? 良いかなって言われても……」

 

「姉さんまた、そんなゴシップ記事に影響されて……」

 

「んー、まあでも、それも一理あると言えば一理あるなぁ」

 

 

困惑するなのはと嘆くフェイト、顎に手を当てて考えるはやて、なのはやフェイトは兎も角どうやらはやては乗り気の様である。

 

「な、なんで態々そんな恥ずかしい事話さなきゃいけないのよ!!」

 

「私は全然大丈夫だよ? ソフトなのからハードなのまで、大抵のプレイは経験済みだから」

 

 

顔を真っ赤にしながら抗議するアリサとさりげなくとんでも無い事を言ったすずか、アリサはさりげなくとんでも発言をした彼女に目を丸くしていたが、世の中には知らない方が良い領域が有る為、彼女は追及する事を諦めた。

 

 

「兎に角、偶には変わったプレイをするのもブレンとの夫婦生活を円満にする物だと思うので、先ずはフェイトからカミングアウトしようか? さあ、ハリーハリーハリー!!」

 

「えっ? わ、私から?」

 

 

姉の権力を振るって妹を犠牲にする姉の鏡である。

 

 

「え、えっと……。 私は普段から縛られたり鞭打たれたり蝋燭使われたり、かな? 最近は手足固定して一切身動き出来なくなってから目隠ししてヘッドホンで大音量のノイズ聞かされながらギャグボール噛んで極太のバイブでお尻を同時に責められつつめちゃくちゃに犯され続けるのにハマってるよ? 」

『…………』

 

「今度私もやって見ようかな?」

 

 

リビングに訪れる静寂(すずか以外に)、口ではなんだかんだ言いながらもなのはやアリサは他のみんなのプレイ内容に興味を持っていたのだが、トップバッターがコレである。

 

話題を振ったアリシアは机に突っ伏して早々に後悔していた、我が妹は割とそっちの気がある事は知っていた、犬化した時など自ら首輪をせがんだ程なのだから多少は覚悟していたのだが、時を追う毎に連れてより一層悪化した様だ。

 

 

「こほん、えー、はい、気を取り直して次!! 正妻のなのは!!」

 

「えっ!! 私も!?」

 

「当然!!」

 

「うぅ……、じゃあ次は私です」

 

 

そう言って項垂れるなのは、五人の視線が突き刺さる為適当な事を言って煙に巻く事は出来そうに無い。

 

女は度胸だ、それに自分は別に変なプレイはしていないから変な視線を浴びる事は無い、うん大丈夫。

 

 

「私は手錠を使って自分とブレンくんを繋いでから抜かず離さずでずっとするって言うのが普通かなぁ、あっ勿論誰にも邪魔されない様に始まりの火の力を使って作った『私とブレンくん以外侵入出来ない』って言う法則がある専用の部屋の中でね? その部屋は私とブレンくんだけの聖域だから見せてあげられないんだ、ごめんね? それと時々首筋にキスマーク付けてから出勤して貰ったり、逆に付けてもらったりするだけだよ? 前は大王の大剣で色々出来たからもう少し幅広く出来たんだけど……」

 

『………』

 

 

なのはのヤンデレ一歩手前の発言内容と、ヤンデレ特有のレイプ目によってまたも訪れる静寂。

 

まともとは一体なんなのか?

 

因みにそのなのはとブレン以外が入る事の出来ない部屋はベットと手錠のみが置かれ、壁や天井に隙間無く自分達のツーショット写真が貼り付けられている為、常人の神経なら発狂間違い無しである。

 

神として覚醒してしまったなのはは感性が''多少''周りとズレて居るので彼女の中の独占欲があらぬ方向に昇華してしまったのも仕方ない話である。

 

「ええい!! まともな娘は居ないのか!! 次はやて!! レッツゴー」

 

 

言い出しっぺの意地なのか、はたまた現実逃避なのか、ヤバ気な目をしたなのはを正気に戻す為に声を張り上げはやてを指差すアリシア、内心やぶ蛇なんてレベルじゃ無かったと早々に後悔していたのだが、こうなっては辞めるにやめられ無い。

 

「な、なんや前二人のインパクトが強すぎて私は全然普通やでホンマ。 弱味握られて権力者に無理矢理手篭めにされるって言うありきたりな設定のプレイ内容やから!! 小道具ゆーても局のオフィスとか書類とかを100%再現する程度やから!! 例の大人のオモチャで年齢差作ったりしてるだけやから!! なっ、普通やろ?」

 

「ねぇはやて? 一個良い?」

 

「どないしたんや、アリサちゃん」

 

「いや、あの、立場的に洒落になって無いと思うんだけど……」

 

 

方や司令、方や総帥、確かに洒落にしては笑えない。

 

 

「ちっちっち、分かってへんなぁ、そのリアル感がええんや、ホンマに無理矢理言う事聞かされて強姦されてるって感じが堪らんのや」

 

 

うっとりとした表情で顔を赤らめ、次はどんなネタで行こうかと言う事に頭を巡らせ始めたはやて。

 

因みに彼女の言う100%再現とは、ブレンや自分のオフィスとそのエリア一体の完全再現であり、積まれている重要書類も本物の重要書類を再現した贋作、更に更に嘗て六課で使用していた企業連製の幻影装置の改良型を配備、深淵歩きや龍狩りを完全再現可能なソレは更に進化し、『質量を持った幻影』と言う何処ぞの鉄仮面も驚愕の代物であり、会話も可能である。

 

つまり何が言いたいかと言うと、『其処で働く者ごと完全再現した職場でお代官様プレイをしている』と言う事だ、十分上級者である。

 

 

残り三名、アリサ、すずか、アリシアの三名なのだが、アリシアはこの流れですずかに回すのはマズイと判断、そのままアリサに視線を向け、『今度こそ流れを変えてくだしあ( ; ; )』と言う思いを込める。

 

アリサはうっ、とつまり顔を真っ赤にしながら小さく頷く。

 

 

「三人とも上級者過ぎて参考にならないから次!! はい、アリサどうぞ!!」

 

「うぅ、覚えてなさいよ!!」

 

 

なんたってこんな羞恥プレイを受けねばならないのだろう? 自分はフェイトの様に真性のマゾではないのだ、恥ずかしさで悶絶死しそうである。

 

そんな思いを飲み込み、無理矢理前向きに考える。

 

喉元過ぎればなんとやら、腹を決めてサクッと喋った方が身の為だ、深く考えるな。

 

 

「わ、私は別に特別な事はしてないわ。頭撫でてもらったり、抱き締めて貰いながら耳元で愛を囁いて貰って、その後に優しいキスして貰ったりよ。 と、兎も角あんた達みたいに変わった事はやってないわよ!!」

 

 

補足するなら彼女はブレンにお姫様の様に愛でられるだけで満たされる為、行為の最中は終始従順である。

 

つまり普通だ。

 

 

「や、やっとまともな意見が出た……、けど次すずかなんだよねぇ……」

 

「私も普通だよ? 首筋に噛み付いて血を吸いながら私が上になるの、その後は上の口も下の口もお腹一杯にして貰ってから、その日の気分で責めたり責められたりだよ? 私はどっちでも行けるからね。 ふふっ、それとブレンくんの血と精液は本当に美味しくって、一回飲んだら薬物中毒者みたいに飲まなきゃダメなレベルになっちゃってるんだ、だからそれらをいっぱい飲める様に本当に色々やってるよ? 色々と、ね?」

 

「うん、大丈夫、ノーサンキュー、ゴメンなさい」

 

 

即謝った、吸血鬼故に可能な吸血がどれほどの興奮を彼女に与えるのかは人間たるアリシアには分からない事であったが、明らかに思い出しただけで発情している所を見ると、最高にハイッて奴なのだろう、その内無駄無駄ァ!!とか貧弱貧弱ゥ!!とか言い出すかも知れない、触らぬ神に祟り無しだ。

 

 

「ちぇー、結局参考になるのが一個も無かったなぁ」

 

会議を続けたいけどフェイトは変態呼ばわりに凹んでるし、なのはとはやてとすずかは自分の世界へゴートゥーヘブン、アリサは羞恥心が振り切ってフリーズ、だめだこりゃ。

 

 

尚、アリシアは身長の問題がある所為で『兄妹プレイ』or『親子プレイ』が主になっている。

 

コンプレックスを刺激するプレイ内容な為、どうにかして変化を付けたかったのだが、結果はパンドラの箱を開けただけに終わってしまった。

 

余談ではあるが、アリシアもコンプレックスを刺激するプレイ内容に屈辱を感じながらもそれ以上に言い知れぬ程の快楽と絶頂に病み付きとなっている節がある、妹の真性を実は姉も持っていたのだろうか?



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体現者短編5

何故か思い付いてしまったネタ、所謂TS転生物。




短編5 if グヴィン戦後のブレンが転生inゼロ魔

 

 

雲一つ無い快晴、今日はトリステイン魔法学院で進級試験が行われる日である、絶好の試験日和。

 

何の因果か、私は世界を創世した後に新たに人間として生を受けていた、ロードラン時代に使用していた装備や魔術書等も手元に残っており、ソウルの業も問題無く使用出来る為、よもや又不死の呪いに侵されているのではと疑っていたが、今日までダークリングは発現していないので一先ずは安心して余生を過ごす事が出来ると判断し、スローライフを満喫する事を決めている。

 

校舎の屋根の上で両手を頭の後ろに回しながら日向ぼっこ件昼寝をする俺の下では生徒達が召喚した使い魔を見て一喜一憂する声が聞こえて居る、まあ生涯を共にすると言っても過言ではないのだからその気持ちも分からなくは無い。

 

 

しかし、彼らとは違い使い魔に関しては俺にはあまり関係の無い話。

 

使い魔召喚の儀、この世界の魔法学院で進級する為に必要な物であり、それを成功させる事で漸く一人前として認められる儀式だ。

 

だが生憎と今生でも俺は才能と言う物に縁遠く、魔法が不得手であり、未だにこの世界の系統魔法と言う物に目覚めておらず、魔法使いとしては半人前以下の落ちこぼれ。

 

故にボイコット……とまでは行かないが、周りの皆がそれぞれ使い魔を召喚し終えるまで昼寝をしていたのだが、そんな俺を呼ぶ声がする事に気が付いた。

 

 

微睡みの中に沈もうとしていた俺を引き起こしたその声の主は『キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー』成り上り国家とトリステインではあまり好かれていないゲルマニア出身の少女であり、見事なプロポーションをしている。

 

彼女の周りには男性が集まる様で、女生徒の幾人かは彼女の事を誘蛾灯と揶揄する程モテる女性だ、そして俺の友人の一人。

 

 

「ーーー、ーーーーーーーーーーー」

 

 

寝ぼけた脳では彼女の言っている言葉は聞き取れなかったが、口の動きで判断するに『そろそろあなたの番よ』かな? そう言われて下を見ると、他の生徒達は既に召喚を終えており、全員が上を見上げていた。

 

 

「了解した、今から降りるよツェルプストー」

 

「いや、降りるったって、其処屋根の上でしょ!? どうやって降りるのよ!?」

 

「こうやって、さ」

 

 

そう言って、俺は空中に身を投げる、一瞬の浮遊感の後に訪れる落下、重力に身を任せてそのまま地面に向かった俺は着地の際に体のバネで衝撃を吸収する。

 

だが、転生した所為か身体が華奢になってしまっており、地味に衝撃を殺せていなかった様で足が痛い、まだまだ身体が出来ていないみたいだな。

 

そんな事を思いながら立ち上がった俺だったが、大股で近寄ってきたツェルプストーに頭を引っ叩かれた、それも思いっきりだ、以前ならなんとも思わないのだが、この身体になった所為か涙腺が緩み、少し涙目になってしまった。

 

 

「痛いぞツェルプストー、私が一体何をしたと言うのだ」

 

「だ・か・ら!! あんたはなんで毎回毎回『女』だって事忘れてる様な行動取るのよ、バカ『ルイズ』!!」

 

「? 下着の事か? 別に見られても困る物では無いし、そもそも今日は履いてるんだ、文句を言われる筋合いはーー」

 

「履いてないのが普通はおかしいのよ!! それと淑女は見られたら困るの!!」

 

「私は淑女とは程遠いからな、別に問題はあるまい」

 

「あるわよ!! 大有りよ!! あんたは可愛いんだからそんなんだと何時か取って食われるわよ!!」

「この貧相な体つきの私をか? それこそまさかだろう? 何なら試してみようか」

 

 

そう言って俺は制服のブラウスを脱ごうとし、もう一発頭を引っ叩かれた。

 

見れば周りの男性の何人かは前屈みになり、股間を手で抑えている、この俺の体に反応してしまったのだろうか、物好きな人種達だ。

 

 

兎も角、試験官であるコルベール先生が咳払いをしながら先を進めているので仕方無しに使い魔を召喚する事に決めた、出来るかどうかは分からないが。

 

と言うのも、俺の魔法は何故か悉くが爆発してしまう為、召喚魔法である『サモンサーバント』を行えるか不明なのである。

 

別にどうしても進級したい訳では無い為、あまり乗り気では無かったのだが、周りの視線の所為で針の筵なのでとっとと済ませよう、なんだか居た堪れない。

 

 

そうして俺はサモンサーバントの詠唱を終え、それを発動したのだが、珍しく、と言うより今生で初めて魔法が成功した、ソウルの魔術は問題無く扱えたのでこの魔法もその類なのだろうか?

 

周りから騒めきが聞こえる、それはそうか、ゼロのルイズと自称する程魔法が使用出来なかったのだ、そんな俺が一発で魔法を成功させたのだから驚愕は無理も無い、俺自身が一番驚いているしな。

 

 

目の前に現れた魔法の鏡、その中から現れたのは一人の少年であった。

 

その少年は何が起きたのか分からないと言った表情を浮かべていたのだが、一目見て俺は彼がこの地の人間出ない事を察する事が出来た。

 

理由は彼の服装や手に持っている道具、服の質感や履いている靴の製作技術は勿論、用途不明の道具の加工技術、肌の張りや清潔な身体は健康的な生活をしている証拠であり、且つ彼は杖やマント等を装備していない上にサモンサーバントに困惑している事から貴族ではない為、平民と予想される、そしてこの様な生き生きとした平民はハルキゲニアではあり得ない存在だ。

 

大陸の外の者、若しくはエルフの様な長命種だろうか?

 

しかし彼の服に使用されている布は質感や製糸技術からして技術の差が現れ過ぎている、それも十年や二十年では済まないレベルの差だ、大陸の外が其れ程進歩しているのであれば歴史が停滞しているこの大陸は一瞬で滅ぼされている。

 

ならエルフの様な長命種か? しかし耳は普通だ、直接触って確かめても変化は無く、触診で軽く調べただけだがフェイスチェンジの様な魔法が使用された形跡は無い、そもそも身体中を弄られているのに顔を赤らめるだけで敵意を向けてこない以上エルフの心配は無さそうだ、尤も? 変態なエルフで無ければの話だがな。

 

 

「では少年、大人しくしていてくれたまえ」

 

「へっ? いやあの、これって一体どう言う状態ーー」

 

「説明は後でしよう、少年も晒し者のままでは居たくはあるまい」

 

 

そう言って俺は少年の顎を持ち上げ、コントラクトサーバントを行う為、彼と唇を交わす。

 

その瞬間背後から落胆の声がちらほらと上がり始めた、『ああ、あのクールなヴァリエールの唇がぁぁぁあ』とか『そんな馬鹿な、たかが平民の分際でヴァリエールの唇を!? 其処を変われ、割と切実に』とか『ルイズたんはぁはぁ』とか聞こえている所をみると、割と俺も慕われているらしい。

 

俺は使い魔のルーンが刻まれる痛みで左手を抑えて悶絶する少年の手を摩りながら、どうにもスローライフは送れそうに無いなと内心でため息を吐いた。

 



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体現者短編 6


普通に考えたら総帥の娘って言うのは幼い子供には地獄以外のなんでも無いですよね、殆ど家に帰って来ないブレンも親としては最低な部類ですし。

そんな訳でどうしようも無いファザコンの、ちょっとシリアスなお話。




短編6 少女の思い 〜高町シュテル〜

 

 

私は、お父さんが嫌いだ。

 

 

物心付いた頃には殆ど家に帰って来ていない、テレビ画面の向こう側の人物、それが私のお父さんに対する印象だ。

 

学校行事は勿論、地球で言うクリスマスやお正月にも顔を出さず政務に没頭し、家庭を顧みない。

 

お母さん達はそんなお父さんを受け入れているのかも知れないが、私達の事を考えているのだろうか?

 

オルステッド達はやはり性別の違いか、あまり気にした様子が無く、偶に帰って来た時に剣の稽古を付けて貰うだけで満足している。

 

ディアーチェは器が大きいのか寧ろお父さんの手助けを如何にかしてする事が出来ないかと日夜努力している、私もお父さんの役職を知らない訳では無いし、色々とやる事が多いのだろうとは理解している。

 

 

だがしかし、それでも私は『時空管理局総帥』『不死の英雄』と言った肩書きを持った父親では無く、普通のお父さんが欲しかった。

 

特にレヴィはそうだろう、この娘は良くも悪くも純粋だ、お父さんに甘えられ無い寂しさをぶつけようにも母親も執務官、出張や急な仕事が多く彼女も又家を開ける事が多い、その為夜遅くまでお父さんやフェイトさんの帰りを待って膝を抱えている姿を良く目にする。

 

その度に寝室に連れて行ったり、姉さんやアリシアさん、プレシアさん達にお願いしたりして彼女を寝付かせては居るのだが、一人で寝るのは心細いらしく、必ず誰かが側に居ないと寝ることが出来ない。

 

こんな親、誰が好きになると言うのだろうか?

私はディアーチェの様にその背中を追うつもりは無いし、レヴィの様に純粋に両親を愛している訳でもない、オルステッド達の様に武勇伝に憧れる子供でも無い、寧ろ憎悪の念が強い。

 

だからこそ、私はお母さんが泊り込みで教導をする日に家出をする事にした、その日は丁度入れ替わりにお父さんが帰って来る日だから打って付けだ。

 

どうせ彼は気が付かない、私が家出した事に、そして言ってやる、出勤前のあの人に貴方は父親失格だ、と。

 

 

ーーーー作戦決行日、妙に勘の鋭いお母さんが出勤してから私は直ぐに外へ出た、普段から日の明るい内に街中へ繰り出している為特に不審がられはせず、お父さんが帰ってくる前に家を抜け出す事が出来た。

 

生憎と天気は曇天で清々しい気分に浸る事は出来なかった為、早々に前もって見付けていた廃墟内に身を潜める事にした。

 

こう言った場所には浮浪者なり、暴漢なりが屯しているのが常だが、不思議とこの場所だけは人が寄り付いていなかった。

 

理由は簡単、寒いのだ、防寒具が役に立たない程に。

 

日当たり最悪、かつ湿気だらけで壁が結露する、その上窓が割れていて吹き抜けだ、好き好んでこんな場所に集まるまい。

 

持ち込んでいた防寒具に身を包み、三角座りをしながらじっと時間が過ぎるのを待つ。

 

天気予報では今日は晴れだったのだが、如何やら外れてしまった様で、同じく持ち込んでいたラジオからは前日の予報と真逆の事を言っていた、……当てにならない物だ。

 

 

ーーーー下らないラジオ番組を垂れ流しながら小説に目を通していると、既に時刻は夕方を過ぎていた。

 

物語の中に没頭していた私を現実に引きずり出したのは身を切るような寒さ、窓の外を見れば季節外れの雪が降っていた、それも帰ることが出来ないほど激しくだ。

 

立ち上がろうにも身体が震えて言うことを聞かない、壁に手を当てると結露した部分が凍結しており、軽い霜焼けをしてしまう。

 

徐々に増す冷気、体の末端から感覚が消えて行く、吐く息が白くなり、眠気が私を襲い始めた。

 

私は、死ぬのだろうか?

 

 

別に、それでも構わない、此処で私が死ねば彼はその名声に傷を付ける事になる。

 

私は生きる事を諦め、引き換えにお父さんに復讐する事が出来るならばと納得し、迫る眠気に身を委ねようとした。

 

 

ーーーーその時だった、割れた窓から炎を纏ったハルバードが撃ち込まれたのは。

 

切先や刀身を床に当てない様に床に石突きの部分が突き刺ささったハルバード、大気すら焼き尽くすその魔槍は冷凍庫の中の様だった室内を暖める。

 

 

 

「漸く見つけたよシュテル、遅れてすまないな、もう大丈夫だよ」

 

 

優しい口調で、ロープと滑車を使って割れた窓から中に入って来たのはお父さん、何時の間にロープを張ったのかと疑問に思っていたが、よく見るとハルバードの竿部分にロープが括り付けられていた。

 

肩や頭に積もった雪を払いながら、お父さんは私の前でしゃがみ、視線をあわせる。

 

叱られるのだろうか、呆れられるのだろうか、そのどちらか、或いは両方だとしても私は貴方を父親失格だと罵り返してやる、そんな意を込めて睨み付けた私だったが、彼は予想外の一言を発した。

 

 

「本当に無事で良かった、今日は君の誕生日だと言うのに姿が見えないから心配したんだよ?」

 

「覚えて、たん、ですか?」

 

 

実は、今日は私の誕生日だった、お母さんも本当に申し訳なさそうに何度も何度も謝りながら出勤して行った。

 

「当たり前だ、私は君にとっては自慢にもならない最低の親だろうが、私にとって君は自慢の娘なんだ、忘れる訳無いだろう、毎年プレゼントも用意して居るじゃないか」

 

「…………お母さんが、お父さんの分も買ってくれていると思っていました」

 

「誤解が解けて何よりだよシュテル」

 

 

そう言って、お父さんは私の隣に座ると、私を抱き抱えてコートの中に入れました、所謂膝の上抱っこの状態です。

 

 

「手足の感覚が無いんだろう? そんな時に急に温めると指が取れる、だからこうやって患部を摩って摩擦なんかである程度温めてから火やお湯で温めるんだよ」

 

「…………」

 

 

労わる様に私の手足を暖めるお父さん、吊り橋効果とでも言うのか、あっさりと私の中にあった憎しみは消えてしまいました。

 

ですが、やはりこれだけは言っておきたかったので、キッパリと言ってあげました。

 

 

「お父さん、私は貴方が嫌いです」

 

「……うん、知ってる」

 

「家の事を後回しにして、家族の事を後回しにする貴方は父親失格です」

 

「………うん」

 

「……だから、だからこれからは、これからは気を付けて下さい」

 

「善処するよ」

 

「善処、では困ります、約束してください」

 

「……分かった、約束するよ」

 

 

ーーーー私は、お父さんが嫌いです。

 

ーーーーですが、ほんのちょっぴりだけ好きになりました。

 

ーーーーお父さん、約束はちゃんと守って下さいね?





さらさらと自室で日記を書いているシュテル、真面目な顔をしている様に見えて口元からは淑女にあるまじき涎が垂れ始めている為、碌でもない物だろう。


「ふふふ、此れで仕込みは終わりました、後はこの私の独白が綴られたこの日記にお父さんが目を通し『昔は苦労を掛けたな、良しなら今日は何でも一つ言うことを聞いてあげよう』と言った所で美味しく頂いて貰うと言う完璧な計画、我ながら一分の隙もありません!!」


ガッツポーズをするシュテル、彼女も今や中学生、反抗期真っ盛りである筈の年齢なのだが、そのファザコン振りは止まる事を知らない。

そして、実に珍しい事に今回の作戦は良い所まで行き、一緒に寝る約束を取り付ける事に成功したシュテルは薄い本に出てくる見境が無くなるレベルの精力剤と勝負下着を用意して意気揚々とブレンの寝室に向かったのだが、其処にはディアーチェとレヴィが居た為猛然と彼に抗議、しかし自分の子供達に寂しい思いをさせた側としてはシュテルのみを特別扱いする訳もなく、結果としてディアーチェ達も連れて来たのだ。

最初は不貞腐れていたシュテルだったが、ブレンの上に乗り、そのまま抱き着く様にして大人しく眠りに着いた、彼女が大人しく引き下がった理由は、敢えて精力材を使用して4Pと洒落込むのも悪くは無いが、やはり初めてはマンツーマンが良いと言う色ボケ回路真っ只中の発想の結果だったりする、尚ディアーチェやレヴィはそれぞれ左右の腕で腕枕されながら眠っている。

因みに、レヴィは喜んでブレンの腕に抱きつきながらその肩を枕として眠りに付き、思春期真っ盛りのディアーチェは隠れファザコンの所為で悶々としてしまって眠れていなかったりする。


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体現者短編7

レヴィ回、シリアスは浮かばなかったので明る目(願望)で。

時系列はレヴィ達が割れペン追跡する少し前くらい。


短編7 少女の思い 〜レヴィ・テスタロッサ〜

 

槍を突き合わせて間合いを測る。

 

ジリジリとすり足で相手との距離を調節し、打つべきタイミングを探して行く。

 

しかし待てども待てども隙らしい隙が見当たらない、相手の攻撃を誘う為の隙はそこら中にあるというのに、決定打を与える事の出来そうな致命的な隙が見つからない。

 

必殺の一撃、ソレを最速で相手の急所へと突き立てる為に相手の虚を突き、それによって生じる一拍の空白を狙い撃つ事、それは争い事の基本としてお父さんが僕達に教えてくれた唯一の事だ。

 

僕ら兄妹は皆その事を基盤として戦っている、この様な場合でもそれは当て嵌まるのだが、今回は相手が悪い。

 

一瞬の思考、打つ手が無い事への焦燥から流れた冷や汗が目に入り込み、僕は一瞬目を瞑ってしまった。

 

––––––––––その瞬間勝敗は決し、僕の頭をハリセンが引っ叩いた。

 

 

「また負けたぁぁぁあ!! おとーさんもう少し手加減してよ!!」

 

「目隠しと利き腕を後手に縛った状態でこれ以上どう手加減したら良いんだい、レヴィ?」

 

「ぶーぶー、だってさっきから全然勝ててないじゃんか!! 次は一歩も歩いちゃダメだからね!!」

 

「もう彼此二時間は打ち合っていると思うんだけど……」

 

「僕が勝つまでやるの!!」

 

 

10戦10敗、5敗目からはハンデを付けて貰っていたと言うのにこの体たらく、しかも毎回一撃当てるところか掠らせる事すら出来ていないのだ、頭に血が上るのも仕方ないだろう。

 

道場内に篭っていた所為で身体が汗ばんで来て不快感を覚えるが、そのような事は御構い無しと言うように先端に真綿の詰まった麻袋が嵌められた棒を一閃する。

 

 

「レヴィ、私はもう第一線を引いて十数年は立っているんだよ? 少しは休憩させてくれ、その間に如何して君の攻撃が当たらないか教えてあげるから、ね?」

 

しゃがみ込んで僕の目を見つめながらお父さんはそう言う、けれども肩で息をしている様には見えないし、疲労していると言う割には汗も掻いていない、本当に疲れているのかもしれないがお父さんは基本的にポーカーフェイスだから判断が難しい。

 

「うー、じゃあちょっとだけだよ?」

 

軽く悩んだが、僕は王様(ディアーチェ)しゅてるん(シュテル)みたいに頭がよく無いから考える分だけ折角のお父さんとの時間が無駄になると判断して渋々休憩を入れる事にした、勿論僕が座るのはお父さんの膝の上だ。

 

本当は休憩なんて入れたく無い、体を動かして向かい合って居ればお父さんは僕を見てくれるし遊んでくれる、だけどそれ以外だと急な仕事とかやらなきゃいけない事があるとかで僕の前から居なくなってしまう、しゅてるんが僕達の中で一番お父さん大好きなのもそう言うスキンシップを取る事でお父さんとの繋がりを感じているからだ、僕の場合はこうやって身体を動かす事、だから本当は休憩など入れたくなかった。

 

 

「さて、約束通り如何してレヴィの攻撃が当たらないのか、その辺りのお勉強を開始しようか」

 

「……そーだよ、如何して僕の攻撃が当たらないのさ!!」

 

「ちゃんと説明してあげるから静かに、ね?」

 

「……うん」

 

「良し、良い子だ」

 

 

そう言って、お父さんは口元を僅かに綻ばせて僕の頭をわしゃわしゃと撫でる、お父さんのこの手とこの笑顔は大好きだ、今よりももっともっと一緒にいて欲しいと思ってしまう程に。

 

しゅてるんの家出事件以降は帰って来る頻度も遊んでくれる頻度もグッと多くなったけど、それでもやっぱり寂しい物は寂しい。

 

お父さんと一緒に居る時は出来るだけ楽しむ事に決めていたのに、こう言う時は如何しても俯いてしまう、心配を掛けない様に笑っているべきなのに。

 

俯いてしまった僕を撫でる手が止まる、また急な仕事だろうか? それとも落ち込んでしまった僕を嫌いになってしまったのだろうか?

 

ネガティヴな思考に飲まれている僕の頭は碌な事を考えない、だからこそお父さんが無言で慰めるように優しく抱き締めてくれた時は、少しだけ胸が温かくなった。

 

 

「…………レヴィの攻撃が当たらない理由はね、動きが多いんだよ」

 

 

お父さんは優しく、あやすように僕に言い聞かせる。

 

 

「槍を構えて、視線で隙を伺い、切っ先を揺らして照準を定め、踏み込んだ後、漸く刺突が疾る、計4つ刺突に掛かる動きに此れだけ掛かっていては一流や超一流と言った天才達には太刀打ち出来ないよ?」

 

 

そう言ってお父さんは僕の肩を叩いて立ち上がる、膝の上に座っていた僕は素直にその上から降り、お父さんの顔を見る。

 

多分泣きそうな顔をしていただろう、また二時間ぽっちで何処かに行ってしまうのかと思っていた僕は涙目だった筈だ。

 

しかし、お父さんはまたくしゃっと僕の頭を撫でた後、奥からカカシを引っ張り出して来て、徐に道場の真ん中に置いた。

 

そして竜狩りの槍を取り出し、ソレをスッと構える、が。

 

––––––––––構えたと思った瞬間、案山子はその槍頭に貫かれていた。

 

目では到底捉えきれない程の速さ、神代を駆け抜けたお父さんだからこその絶技、それまでの鬱蒼としていた胸の内や、ネガティヴな頭が一気に晴れ上がる程凄い一撃だった。

 

血払いをする様にお父さんは竜狩りの槍を一閃し、『こう言う事だよ』と言って興奮している僕の方へ振り返る、そして僕がもう一回やってとせがむ前にお父さんは更に口を開いた。

 

 

「私も昔は君と同じ事で足元を掬われてね、矯正するのに随分と手間取ったものさ」

 

「おとーさんも?」

 

「私は才能がからっきしだからね、お陰で殺され掛けた、あの時白霊が居なかったら私は間違いなく一回死んでいただろうね」

 

 

やれやれと懐しむように溜息を零すお父さんだけど、一回死んでいたって言う発言がおかしいと思うのは僕だけかな?

 

 

「まあ私の事は兎も角だ、レヴィには才能が有る、それもお母さん譲りの飛びっきりの才能が」

 

「…………おとーさんに掠らせる事すら出来ないのに?」

 

「なに、直ぐに当てられる様になるさ、一回私の動きを見てその目に焼き付けただろう? だったら大丈夫さ」

 

 

そう言って、お父さんは竜狩りの槍をくるりと回して石突きの部分を僕に向けて突き付けた、何となくお父さんの言いたい事は分かる。

 

しかし、しかしだ––––––––––。

 

 

「だからこの槍は君に託そう、君の未来を切り開く為の手足として使ってくれ」

 

「で、でも、これって僕なんかが使っても良いの?」

 

 

当然躊躇った、何故ならばお父さんの差し出す竜狩りの槍は正真正銘の神槍、お母さんの持つ贋作とは訳が違う。

 

四騎士の長、竜狩りのオーンスタイン、彼の振るった神具で、お父さんが餞別として竜狩りから渡された代物、僕なんかが振るう資格など–––––。

 

 

「資格ならあるさ」

 

 

僕の思いの内を読んだような一言、優しい目をしたお父さんは確信している様に僕に向かってはっきりとそう断言した。

 

–––––資格が無い訳が無い、何故なら君達は私の自慢の子なのだからね。

 

 

この数日後、僕は王様としゅてるんと共にとある物を追って数千年後の未来へと旅立つ事になる。

 

––––お父さんから託された槍を携えて。

 




数千年後の未来(ドラングレイグ)に行く前のレヴィはこんな感じ、其処での戦いや様々な人間模様で経験を積んで一皮向けました。

PS

シリアスは浮かばないと言ったがアレは嘘だ(白目)


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体現者短編 8


(ギリギリ)クリスマスだから短編の方を投稿いたします(白目)


短編8 メリークリスマス!!

 

 

 

––––––––12月25日、この日はイエスキリストと言う人物の誕生日らしい。

 

右手にチキンを持ちながらカレンダーの日付を見ていた俺はそれが何故この様などんちゃん騒ぎと関係があるのだろうかと少し真面目に考えていたのだが、視界の端にいるなのはが楽しそうにはしゃいでいる姿を見ると割とどうでも良い事なのかも知れないと思い直し、彼女の側へと移動する。

 

 

春先に厄介になる事になった高町家では情操教育とか言う物の一環で季節の行事と言う物を極力行う事にしているらしく、クリスマスも例外では無い様で食卓の上には所狭しと様々な料理が並び、桃子さん特製のケーキが中央に鎮座している。

 

兎に角クリスマスとは目出度い日なのだろう、そう俺は思っていたのだが、何やら美由希さんの様子がおかしい。

 

 

『カップルなぞ滅んでしまえ』とか、『キリストの聖誕祭にイチャかましてんじゃないわよ』とか、『なのはにすらブレンが居るって言うのに』とか、ブツブツ言いながらジュースを飲んでいる。

 

カップル云々の話がクリスマスと何の関係があるのか聞きたかったのだが、なのはがケーキを一緒に食べようと誘ってくれたので其方を優先する事にした。

 

……………と言うより、純粋に負のオーラが全開になっている美由希さんに近寄りたく無かったのが本音である。

 

 

 

ケーキや料理をなのはと一緒に食べ終えてから暫くゲームなどで遊んでいると、士郎さんが赤い靴下をクリスマスツリーに掛けていた。

 

あれはクリスマスの前日から渡されていた物で、欲しい物を紙に書き込んで中に入れておくとそれが『サンタクロース』なる人物の手によって翌日枕元にプレゼントされると言う物らしい、取り敢えず紙が渡された直後に『なのはのしあわせ』と書き込んだら士郎さんが凄く悩んでいた事が印象的だったのを覚えている。

 

ツリーに掛けられた靴下は俺の分となのはの分の二つ、願い事は子供限定で叶う物らしく、美由希さんや恭弥さん達の分は見当たらない。

 

なのはの欲しいものは一体何だろうか? 覗いてみたい衝動に駆られていた俺だったが、格ゲーに熱中していたなのはが船を漕ぎ始めたので彼女を寝かせて部屋まで連れて行く。

 

義手のお陰でなのはと一緒にゲームをする事が出来るのは嬉しいのだが、手加減が出来なかったり、致命的に下手くそだったりするお陰で、何時も何方か一方的な展開になってしまうのが困りモノだ。

 

昔取った杵柄とでも言うのか、格ゲーやパズルゲームだと相手の動きをフレーム単位で見切れてしまうため、後出しジャンケンで勝っている感が否めない。

 

なのはは負けず嫌いな上、頑固だから勝てるまでゲームを止めようとせず、ひっそり手を抜いて負けようにもあっさり見抜かれてしまい、涙目で睨まれるためどうしようも出来ず、こうして寝落ちを待つしかゲームから解放される道は無い。

 

逆に双六ゲーやRPGでは赤マスに百%とまったり、回復を忘れて全滅の連打となるためゲームにならない、数え切れない程のブレンが破産したり死亡したりしているのでその手のゲームは直ぐに終わってしまう、…………切実に中間のゲームが欲しい。

 

 

そんな事を思いながらなのはを部屋にまで運び、眠たげに眼を擦る彼女をパジャマに着替えさせる。

 

もぞもぞと着替え始めたなのはだったが、心身ともに限界が近いらしく殆ど眠った状態の様だったため、着替えが途中で止まってしまった。

 

仕方ないので俺がそのままパジャマを着せてあげたのだが、彼女はそのまま俺に抱き付いて寝てしまって離れなくなってしまった。

 

何時もの事なのでなのはを抱き上げてベッドへと潜り、瞼を閉じる。

 

昔は''寝る''と言う事すら忘れていた為、意識が途切れるまで起きて–––––いや、忘れていたと言うのには語弊があるか、戦い詰めの人生だった為寝る事を恐れていた所為で眠れなかったと言う方が正確だな。

 

初めてこの家で過ごした一夜は常に混沌の刃を抱えており、起こしに来た恭弥さんに『抜き身の刀』と称される程酷い顔をしていた。

 

だがなのはが隣で寝ていてくれると不思議とそんな事は無く、自分でも驚く程安心して眠る事が出来た、一目惚れとは言えだ、どうやら俺は骨の髄までこの子を愛しているらしい。

 

俺はなのはの温もりや匂いに包まれながら、懐かしい事を思い出して眠りに落ちて行った。

 

 

 

 

–––––––朝まで目を覚ます事は無いだろうと思っていた俺は深夜に意識を覚醒させる。

 

僅かにだが板張りの床を歩く音が聞こえる、意識を集中させなくては聞き逃すような小さな音だが、確実にその音はこの部屋を目指して進んで来ている。

 

なのはの腕の中から抜け出し、音を殺しながらベットから出た俺は床に耳を当てて相手の歩幅や床の軋みから大凡の体重と体格を割り出した。

 

相手は十代から二十代の男性、然も足音や床音を最大限に殺している所を見るとかなりの手練れと見た。

 

 

混沌の刃をソウルから取り出し、鞘付きのまま突きの体勢に入る、抜刀しない理由は単純に血でこの部屋を汚したく無かったからだ。

 

息を殺し、気配を周りに溶け込ませながら殺気を四散させる、気取られる前に一撃で仕留める。

 

ドアの前に男が立ち、扉が開く、その瞬間に足音を殺しながら踏み込み、鳩尾に向けて刺突を放つ。

 

扉の先に居たのは白い髭を蓄え赤い帽子と服を来た大きな袋を携えた男、彼は扉を開けた瞬間刺突が放たれたと見るや否や、開いたドアを閉める事で擬似的な白刃取りを行い、直撃を間逃れる。

 

ある程度の手練れなのは分かっていたので、止められた事に落胆はせず、義手の力を最大限に発揮しそのまま柄を殴りつけて挟まっている混沌の刃を射出、男はそのまま横っ飛びに避け、一目散に逃げ出した。

 

何が目的かは知らないが、なのはの寝込みを襲おうとしたのだ、死んで貰う。

 

混沌の刃を拾い直した俺は赤い不審者との鬼ごっこを夜通し繰り広げる事になるのだった。

 

 

後々知ったのだが、俺がこの時執拗に追い回していた人物が『サンタクロース』で、更に成人してから告げられたこのサンタの正体は実は兄さんだったらしく、『あの時は本気で死ぬかと思ったぞ』と呆れた。

 

 

 

 

「––––––とまあ、コレが私の子供の頃のクリスマスだよヴィヴィオ」

 

「うわぁ……、叔父さん御愁傷様」

 

「今では私はサンタの格好をしてシュテル達にプレゼントを配る番なのが感慨深いよ」

 

 

–––––––この後私はヴィヴィオにプレゼントを渡し、寝ているシュテル達にプレゼントを渡しに行ったのだが真改とカイムがかつての私と全く同じ行動を取るとは思いもせず、街中を鬼ごっこしながら二人を仕留める事になるとは思いもしなかった。

 





尚、なのはのクリスマスプレゼントのお願いは『ぶれんくんといっしょにたのしめるげーむとぶれんくんのしあわせ』

ゲームの方は美由希さんがチョイスし、鬼ごっこしてるブラザーズの隙を突いてひっそりとなのはの枕元に置きました。


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