Fate/kaleid stage (にくろん。)
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1話 運命の夜ー岸波白野の場合

にくろん。です。
書きたかったFate二次。入り組んだ設定大好きな型月ファンのお目汚しになってしまうかと思いますが、自分の欲望に忠実に書いていきたいと思います。


もう一つの作品がスランプなんだよ…

それでは、よろしくお願いします。


体は剣で出来ている

I am the bone of my sword.

 

 

 

 

血潮は鉄で心は硝子

Steel is my body,and fire is my blood.

 

 

 

 

幾たびの戦場を越えて不敗

I have created over a thousand blades.

 

 

 

 

ただ一度の敗走もなく、

Unaware of loss.

 

 

 

 

ただ一度の勝利もなし

Nor aware of gain.

 

 

 

 

担い手はここに独り

Withstood pain to create weapons,

 

 

 

 

剣の丘で鉄を鍛つ

waiting for one's arrival.

 

 

 

 

ならば我が生涯に意味は不要ず

I have no regrets.This is the only path.

 

 

 

 

この体は、

My whole life was

 

 

 

 

無限の剣で出来ていた

"unlimited blade works"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んーーーー」

 

朝が来た。この世に奇跡的な生を受けて一般人として生きてきたけど、昨日それもぶち壊された。

 

 

『おっはよーはーくのんー。いい夢見れたー?』

 

 

この緑色のヘンテコステッキのおかげで。

 

…落ち着け私。もう記憶の彼方で思い出せない日々はもっと大変だったはず。

とりあえず、昨日のことを思い出してみよう。

 

 

 

 

私こと岸波白野はいわゆる転生者だ。

でも、前世の記憶なんてほとんどない。覚えているのは、月の聖杯戦争で優勝したこと、あの世界を閉じる報酬として並行世界に転生という形で命をもらったこと、そして四人の従者たちと戦い抜いたこと。

実際は一人しか従者はいなかったらしい。でも、転生するのに()というデータが足りなくて優勝した別の世界線の私を混ぜ合わせたーとか聞いた。おかげで、彼ら四人のことと月の聖杯戦争での優勝者ということしか前世の記憶は持っていない。でもぶっちゃけ今の私には関係ない。

私のすり合わせでもう二度と戦いの記憶は戻らなくなっていても、あの日々をともに駆け抜けた4騎のことは鮮明に覚えている。

たとえ違う私でも、彼らのことを覚えていたら、それは岸波白野なのだ、と最近思えるようになった。

 

 

で、今の私は穂群原小学校5年1組に所属している。

小学生超楽しい。友達とアニメの話をしたり、外で遊んだり、友達をいじり倒したり、前は経験できなかったことを思う存分楽しんでいる。

 

今日もそうだ。

親友の一人はお兄ちゃんと下校する———ってダッシュで帰ったけど、近所の公園で龍子や雀花たちと遊んで帰宅した。

 

 

「ただいまー」

 

私に親はいない。設定上は私を産んだ時にそのまま亡くなったということになっているらしい。親戚もいないので町にある孤児院がわりの教会で育てられた。といっても、あの神父たちに育てられたなど死んでも思いたくないが。

だって、親代わりの神父は世界各地を仕事とか言って放浪しなかなか帰ってこないし、姉代わりもちょっと人として問題のある性格をしているのだ。姉ももともと外国に住んでいて、たまに冬木に来ると思ったら、いつの間にか保健室で養護教諭をしているし。自由すぎるだろ我が家族。

 

というわけで、姉の意向もあって私は今アパートで独り暮らしをしている。家事?あの家族に揉まれてできないわけがない。小学校低学年のころには料理もマスターした。師は親友のメイドとお兄ちゃんだ。

 

冷蔵庫の中身をチェックして今夜の夕食を考える。平日だし手の込んだものは作らなくていいよねー。

 

 

RIRIRIRIRIRIRIRI

 

 

慣れた手つきで麻婆豆腐を作って食べ、お風呂を沸かしている間にマジカルブシドーを見ようと思ってDVDデッキを操作していると電話がかかってきた。

 

「もしもし、岸波です」

「私。カレン」

「あ。お姉ちゃん。どーしたのー?」

「今日遠坂のご息女が帰国するのは前に話したわね?ちょっと仕事の手が離せないから貴女が代わりに迎えに行って頂戴」

「凛姉のお迎えね、わかったよ。確かうちで遠坂邸のカギを預かってるんだよね」

「ええ、教会の方にあるわ。場所はあの子にも父から伝えてあるらしいけど、教会の奥の私室らしいから頼むわ」

「…毎度思うけど、無人の教会って…」

「大丈夫よ。あんな神父でもいる時は一応真面目だし、利用する人は私が保健教師って知ってるから夜にしか来ないわ」

「それでいいならいいんだけど…」

 

電話を終え、教会の鍵を持つ。あ、お風呂冷める…仕方ないか。

 

 

梅雨前のこの時期は過ごしやすい。軽装でバス停に向かう最中、空で光が瞬いた。

 

「ん?花火かな?まだシーズンには早いと思うんだけど」

 

その光は何回も場所を変えて現れる。何回か見ているうちに、ようやく鈍い私でもわかった。

あれは魔力のぶつかり合いだ。

何かが起こっている。

そう思うと駆けだしていた。

 

今の私は相棒たち(サーヴァント)もいなければマスターでもない。それでも駆けだしていた。

 

…実際は3歩ぐらいで思いっきりこけたけど。

 

 

「いっったぁーーー!」

 

何かが激突した頭を押さえて起き上がると目の前になんかヘンなのが浮いていた(・・・・・・・・・・・)

 

ソレは丸い輪っかを中心に緑のリボンを結んだような形をしていた。輪っかの中には2つの正方形がそれぞれ逆回転していて、周期的に八芒星(?)を描いている。

 

『はーい、一発目でアタリを引いたぜ流石僕!姉さんたちに自慢しよーっと!ハローお嬢さん、僕と契約して魔法少女になってよ!!』

 

 

 

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・逃げる。もちろん全力ダッシュだ。

 

 

そんなセリフをのたまうやつにいい奴なんていない。これが私の持論だ。小学生で見るもんじゃない(トラウマ)アニメからの教訓である。

 

謎の物体が全力で走る私に追いついてくるーーーって!

バカな!?学年最高速をイリヤと争ってる私に追いつくなんて―——

 

『ハイ確保ーー!』

 

捕まった私は新都の人気のない公園でそいつと相対するのでした、マル。

 

『まだまだ終わらないよー?』

「ナチュラルに心を読んだわね…で、あなた?でいいのかな、一体何なの?」

『あらま、意外と冷静だね。まあいいや、僕の名前はマジカルエメラルド。愛と正義のマジカルステッキですよー。さあ、僕を手に取って悪と戦いましょう!』

「そう。私は岸波白野。残念だけどお断りするわ」

『えー何でーー(僕にとって)楽しいよー魔法少女ー』

 

 

『羽エフェクトで空を飛んだりー』

 

定番ね。

 

『必殺ビームで敵を倒したりー』

 

イリヤ好きそうだなー。あ、マジブシ結局まだみてないなー。

 

『意中の相手に恋の魔法をかけたりー』

 

……

 

『並行世界に干渉したりとか!』

 

思わずつかみかかった。

 

『お、やっと反応してくれたねー』

「答えて。どういう意味?」

 

『自己紹介の途中だったのになぁ。まあいいや、改めて。

初めまして、岸波白野さん。僕は宝石翁の造り出した魔術礼装カレイドステッキの第三機。最後にして最新のステッキ、名をマジカルエメラルドといいます。以後よろしくね』

 

 

 

 

 

 

「つまり」

 

エメラルドに話を聞くこと数分。ようやく理解できた。

「エメラルドたちカレイドステッキは並行世界に干渉できる魔法使いの作った魔術礼装だから並行世界の住民がわかるってこと?で、ばらされたくなかったらおとなしく従えって?それに誘い文句に並行世界への干渉とか言ってみたけど、実は礼装単体じゃそこまでできないと」

『実際並行世界を感知できるのは僕だけだけどね。さすが最新型ってとこかな!それでも礼装だけで並行世界に干渉出来たらこの世は第二魔法を習得した魔法使いのオンパレードになっちゃうよ。脅すつもりもないよ。でも、僕を使役できる人って少ないからね、岸波さんにお願いしたいんだ』

「他を当たって」

『姉さんたちが冬木で任務だから無理だよー。僕はあくまでバックアップだけど、宝石翁のジジイにしか使われたことないし適正者がいるなら思う存分動いてみたいじゃん?おっさん以外にも使われたいじゃん!とくに相手が女の子なら!』

「でも…」

『それに。悩んでる暇はないみたいだよ?』

 

なんで?

って返事をする間もなくエメラルドとの間に黒いナニカが通り過ぎていく。

 

「きゃあ!?」

 

慌てて近くの木の裏に隠れる。え。え。なに今の。

 

”やっと見つけましたわバカステッキ。どうせ壊れないのですから全力で壊しに行って差し上げますわ!”

 

どこから聞こえてくるのかわからない。

何かを通したみたいな声は、相手の情報をつかませない。

黒いナニカがエメラルドを狙って…流れ弾あああ!

 

『うわ、ほんとに壊す気?』

”この程度では壊れないでしょう?少しおとなしくなったところを確保させてもらいますわ”

 

そうこうしている間に木々の間を駆け抜ける。黒いナニカは周りに着弾して木や地面をえぐっていく。

 

『あらー最初からクライマックスってやつだねー』

「ちょ!なにこの状況!?」

『悪の幹部が正義のアイテム()を奪おうとしているんだよ!』

「じゃあエメラルドがどっかいって!」

『ええーそんなの捕まったら終わりだよ?ここはひとつ!岸波ちゃんが一肌脱いで僕を助けてよ!』

 

と、今身を潜めていた木の横の木に黒いのがぶつかって幹からへし折れた。

 

……うん。覚悟を決めよう。そして後で契約解除してもらおう。

 

「どうすればいいの?」

『お!やっと決心してくれた!じゃあ僕を手に取ってーーーそうそう!よっしゃーーーマスター登録完了!はりきって多元転身(プリズムトランス)いっくよーーー!』

 

 

 

『コンパクトフルオープン!!

 

 

 

 

境界回廊最大展開!!

 

 

 

 

鏡像転送準備完了(Die spiegelform wird fertig zum!)

 

 

 

 

万華鏡回路解放(Offnunug des Kaleidoskopsgatter!)

 

 

 

 

新生カレイドエメラルド  プリズマ☆ハクノ!!

 

 

爆誕!!!』

 

 

 

淡い緑の輝きが広がり、私の服が変わっていくーーーって、裸!?

え、え、まっーーーあ、服ができてきた!

 

全体的に薄緑の色彩。

レオタード調の下着?のうえにミニの着物をベースにしたと思われる衣装。ってなんでこんなに短いの!?

しかも短いくせにスリット!?見える…ってそのためのレオタードか、じゃなくて!

あ、この腕の部分みたことある。東●の博麗●夢だっけこの脇チラ。リアルで初めて見たー(棒)

あ、エメラルドに似たリボンが出てきた。おお、ポニーテールで髪の毛を結ぶのか。

おお、着物と同じ色合いのニーソっぽいのも出てきた。足にはそれよりも淡い色の羽の意匠をあしらったブーツを纏う。

 

 

そして私は魔法少女になった。

 

 

…なんだろうこの疲労感。

 

 

”なっ!マスター登録ですって!?しかも一般人を!くうううう!やってくれましたわね!”

 

あ、攻撃がやんだ。へいへい、ピッチャーびびってるー。

 

 

「仕方がありませんわ」

 

 

とまさに身を隠していた木の裏から声がした。

え、そんな近くまで接近されてたの!?

 

慌てて飛びのくと同時に黒いナニカが直撃するーーーって痛くない?

 

『無駄だよー。僕たちの魔術障壁なめないでよね』

「確認ですわ。契約したふりをして逃げられたら元も子もないんですもの。それに、ガンドの手加減はしましてよ」

 

出てきたのは金髪ドリルのお姉さん…すごく、大きいです…

ま、まだ小学生だもん!未来があるもん!

 

圧倒的戦力差に打ちひしがれていると、今度は懐かしい声が聞こえた。

 

「ルヴィア!あんたねぇ、いくら人払いの結界を張っているからって暴れすぎよ!どーすんのよこの惨状!」

 

そんなセリフとともに現れたのは黒髪ツーサイドアップの女性(あかいあくま)。約束を忘れていたことに焦るが、それ以上に知り合いの登場についに限界を迎えた。もういやこの状況。

 

「り、凛姉えええええ!!!訳が分からないし、めちゃくちゃ怖かったよおおおお!!」

 

勢いよく抱き着き泣く私を「え?は、白野?どういうこと?」凛姉は慌てながらなだめるのだった。

 

 

 

 

 

以上回想終了。

そうだった。あのあと落ち着いた私と凛姉、ルヴィアさんで教会に行って説明されたんだった。

今冬木の霊脈を乱しているクラスカードを集めなければうんぬんかんぬん。

エメラルドは私が並行世界からきたことを黙っていてくれた。

 

『だって、はくのんはマスターだよ?マスターの言うことは聞くよ?(従うとは言わないけどbyエメラルド内心)』

 

とのことらしい。

うんうん、どこぞの金ピカに聞かせてやりたい。

 

正直凛姉が魔術師ってことの方が驚いた。だって小さい頃から私を気にかけてくれてた姉貴分だもん。カレン姉よりも姉らしいし。でも、凛姉とカレン姉に面識はない。神父嫌いの凛姉は必要最低限しか教会に来なかったし、カレン姉も海外での生活が長かったから。だからこそ、あの神父に任せれないってよく家に招待してくれた。うん、いいお姉ちゃんだ。うっかりだけど。

 

エメラルドも契約は解除しないって言い張るし(もし解除したら並行世界関連のことを言いふらすって脅された。早まったかなあ…)、仕方なく私が凛姉たちに協力することになったのだ。

 

朝ごはんに昨日の残りの麻婆豆腐を食べているとエメラルドが話しかけてきた。

 

『はくのーん、今日の予定はー?』

「平日だから学校だよ。っていうか、さっきからそのはくのんって呼び方なーにー?」

『友好の印だよマスター!親しくなって連携を取りやすいように!はくのんも僕にあだ名付けていーよ?』

「ええー。うーんと…じゃあ、エメ!」

 

後片付けをして、制服に着替えながら答える。

 

『なんか嫌だ。却下』

「ねえワガママ過ぎない!?」

 

その後も何個か候補を上げていく。

だがまあ、

 

「じゃあ、今度こそ!ラルド!ふっ、我ながら下からとるとは秀逸なセンス!」

『もうそれでいいよ…何がどうなったらレックウザとか江頭とかが候補に挙がるんだよ…秀逸すぎるよそのセンス…』

「う、うるさいわね!いいからラルド、学校に行ってくるからお留守番よろしくね!」

『了解マイマスター。いってらっしゃい、はくのん』

 

このように私も楽しんでいるのだが。

なにより、あいさつする相手が家にいるのがうれしい。それがこんなやつでもね。

 

 

「いってきます!」

 

 

そう言って学校に向かう。

 

 

 

こうして私こと岸波白野の新たなる非日常が幕を開けたのだ。

 

…新たなるって、前のことは覚えてないんだけどね。

 




バトルシーン以外のキャラの絡め方に悩み倒す…

出したいキャラ全部出そうぜスタンスはさすがにきついか…


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1話 運命の夜ー衛宮士郎の場合

この士郎はHF後です。


まともに書くと士郎の過去だけで二話くらいかかりそうだったので盛大なダイジェスト。

物語はついに次回から動き出します。


懐かしい夢を見た。

 

 

月夜の縁側でのあの日のことを。

 

 

誓った道は変われども、

 

 

守りたい気持ちは変わらない。

 

 

たとえ世界が変わっても。

 

 

 

 

 

 

 

体は剣で出来ている。

そう言ったのは俺だったか。

 

目覚ましが鳴る前に起きだす。これはもう日課みたいなものだ。

セラに怒られるから朝食担当は日替わりになったけどそれでも体に染みついた習慣は変わらない。

 

カーテンを開け、朝日を浴びながら時計を見る。まだ少し余裕があるな、と思い今朝の夢の影響か今までのことを思い出す。

 

 

 

 

 

目を閉じると今でも三か月前の二週間を思い出す。

何回も死にかけた。腕も付け替えた。最期には自我が飲み込まれそうになった聖杯戦争を。

 

自我を失いそうになりながら戦いを終え、最期の力を振り絞ろうとしたところで大切な、大切な(イリヤ)に助けられたのだ。彼女を犠牲にして。

 

そこからリハビリを初めて今日に至る。

ついに聖杯を解体する。

 

本当は遠坂ももっと実力を付けてからこんな大仕事に挑みたいらしい。

だが、イリヤが消失させた魔力も月日が経つごとに再び貯蔵されていく。現に、前回と今回のインターバルは10年しかなかったのだ。

幸い、前回の参加者の中での生き残りである時計塔のエルメロイⅡ世が協力してくれるとなって準備は順調に進んでいる。

 

「さて」

 

大空洞に三人でたたずむ。作戦…というか、俺の仕事は単純だ。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の多重投影による全投影連続層写で大聖杯の術式をぶち壊すだけだ。遠坂はロードが集めた大量の宝石に術式破壊で漏れ出した魔力を吸収させるという、一番責任がのしかかる役目となっている。ロードは才能がない自分は直接作業に関わるよりもサポートやバックアップに徹する方が効率がいいということで遠坂のサポートだ。

 

「いくぞ、二人とも」

 

ロードの緊張した声が大空洞に響く。こんな一大時に動ける聖杯戦争関係者が少ないため3人しかいないことでどうにも力が入っているらしい。もちろん俺もだけど。

 

「落ち着いてくださいロード。現状動ける関係者がここに揃っていて、事前準備もできる限りのことはしました。さすがに聖杯に繋がっていた桜を解体現場に付き合わせるわけにはいきませんし」

「わかっている。私だって元マスターだ。断たれたとはいえ一度は中身と繋がっていた彼女がここにいて起こることなんて予想ができない。あの中身を制御できるかもしれないが、あれに飲まれて再び中身が冬木を蹂躙するか、危険なかけにも程がある」

「あら。ロードともあろうお方がずいぶん魔術師らしくない発言ですね」

「当たり前だ。確かに魔導を極めるには必要ない感情だろう。だが、この町にはたった二週間でもお世話になった人たちがいる。自分を家族としてくれた人がいる。そんな人たちを見捨てるほど落ちぶれたくはないものだ。士郎くん、さっきから無言だが大丈夫か?」

「だ、大丈夫です、たぶん…」

「ちょっとしっかりしなさいよね!私たちができるのは魔力の処理だけなんだから。宝石を使い切った――みたいないざという時は宝石剣でぶった切るのも方法なんだし。解体自体は士郎の投影にかかってるのよ」

「う、うるさいな。わかってるよ」

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を多数展開するのには理由がある。

大聖杯の術式は様々な術式の複合によって構成されているからだ。

 

「さて、頼むよ士郎くん」

 

大聖杯の解体が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として大聖杯の解体は成功した。

だが、その世界の俺は死んだ。

理由は単純だ。いくら聖杯の魔力の大部分が桜に与えられ、イリヤが残りを使っていたとしても龍脈上にあるのも聖杯なのだ。宝石に限界ぎりぎりまで魔力をため、それでも不足した分は宝石剣を用いる。遠坂の言葉通り実行されたその策は一点のみ失敗してしまった。

宝石に蓄えるのは聖杯の魔力なのだ。遠坂自身の魔力を貯蔵するよりも宝石の劣化が早すぎた。

宝石から漏れ出た魔力から遠坂達をかばい、俺という存在は飲み込まれた。

最期に感じたのは、宝石剣の輝きで泥が完全に消し飛ばされたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺は目を覚ました。

…幻覚を見ているのか?

辺りに広がるのは崩れ落ちた建物と炎。完全な静寂。体中が痛い。

それに自分の手も小さい。

ああ、これはあの時の火事だ。走馬燈でも見ているのかな?

でも、そんな感傷も近づいてくる足音に打ち消された。

 

「よかった…!」

 

絞りだしたような声に目を向ける。

…そうだ。これはあの日だ。なら、見間違えるはずもない。

 

「本当によかった…!」

 

でもこれはどういうことなんだ?

なんで衛宮切嗣(爺さん)と白銀の女性が一緒にいる?

 

そして俺は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めると病院のベッドだった。

つけっぱなしのテレビで流れてくるニュース番組はあの大火事の話で持ち切りだった。だが、俺の知っている出来事よりも規模が小さい。

 

どういうことか悩んでいたら切嗣たちが入ってきた。

 

「やあ。気分はどうだい?」

 

あまりにもの懐かしさで言葉も出ない。謝罪の言葉も口を突いて出ようとしてくる。ごめん、爺さん。あんたの夢、諦めちまった…。正義の味方にはなれなかった…。衛宮士郎(過去の自分)を、理想を追いかけていた(衛宮切嗣に憧れた)正義の味方(ブリキの人形)を殺そうとした…。まて、なんだこの記憶。あいつの、移植した英霊(アーチャー)の腕からのフィードバックか?一度は自我を飲まれた後遺症なのか?

 

頭の中がぐちゃぐちゃになる。浸食自体が行われているわけではない。英霊に飲まれたおかげで、あいつの、赤い弓兵(未来の俺)の残滓が残っているだけだ。

 

「どうしたの?」

 

ふいに、柔らかい声がかけられた。

目を向けると、そこには姉によく似た白銀の女性がいた。どうやら反応のない自分を心配に思ったらしい。

 

「あ、ああ。なんでもない。大丈夫だ…です」

「そう?無理しなくてもいいのよ?」

「ありがとうございます。えっと…」

「アイリスフィールよ。アイリスフィール・フォン・アインツベルン。あなたの名前を教えてくれる?」

「え…」

 

アイリスフィール。確かイリヤの母親の名前だったはず。

ってことはこれは過去…?いや、あの日にアイリスフィールはいなかったはず。

そんなことを考えながら返事をした。

 

「士郎、です」

「そう。士郎くんね。早速、突然だけどこのまま孤児院に引き取られるのと私たち夫婦に引き取られるのとどっちがいい?」

 

そうして俺は、再び衛宮士郎としての生を受けた。

今度は温かい家族もできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来て三年たった。

今まで魔術の鍛錬は隠れてやっていたのだが、切嗣に俺が魔術を使えるのがばれた。車に轢かれそうになったイリヤを助けようとしたとはいえ、いきなり養子が魔術を使ったのだ。問題にならないわけがない。今の状況?イリヤが寝て、深夜の家族会議だ。セラと切嗣がヒートアップしているのを、アイリさんと俺、リズはそれを見ている。

 

「旦那様。差し出がましいようですが言わせていただきます。今の我々アインツベルンにとって外部の魔術師が紛れ込んでいたなど死活問題です。直接脳の中身を見て敵勢力を確認するべきです」

確認するべきです」

「セラ。君が家族のことを第一に考えていてくれていることはよくわかる。だけど、士郎も今は家族なんだ。彼のことも考えてやってほしい」

「しかし!」

「それに、チャンスなら引き取ってからの三年間いつでもあった。僕は正義の味方は諦めたけど、家族を守るためならなんだってしてやる。それは士郎にだってそうだ。この三年間の生活を見てきただろう?僕は自分の目で見た士郎を信じたい」

「…私もね。確かにイリヤを狙っているならチャンスは何度もあったものね。私も息子を信じたいわ。だから、士郎。話してちょうだい。あなたのことを。なぜ魔術を使えるのか、目的はなんなのか、貴方が思っていることを全部」

 

もちろん全部話した。話すかどうか悩んだけど、俺の家族はこの人たちだ。元の世界に未練がないわけではないが、それでも、ここで生きているうちに衛宮士郎の場合の願いはみんなの幸せから家族の幸せになったいた。

 

「そうか…。第五次聖杯戦争か…」

 

切嗣が深く息を吐く。アイリさんもつらそうな表情だ。

 

「まさか、聖杯が汚染されていたなんてね…」

「ああ。結果としてこの世界はそんな未来にならなくてよかった。それよりも士郎、その…自我は大丈夫なのかい?」

 

変わらず接してくれる切嗣に戸惑う。

 

「あ、ああ。もともとアーチャーは俺の未来なんだ。それにもう腕とは切り離されているからフィードバックもないよ。あいつの経験とかの残滓が残っていてあんまりいい気分じゃないけど…。それよりも二人とも。その…、いいのか?」

「なあに?」

「俺が今まで黙っていたこと…。結果として騙したみたいになったけど…」

 

そんなことか、とアイリさんと切嗣が顔を見合わせて苦笑する。

そしてふわり、と抱きしめてくれた。

 

「つらかったでしょう?誰にも言えなくて。ごめんね、気付いてあげられなくて。母親失格だわ」

「そんなこと…」

「僕からも言わせてくれ。士郎、すまない。君のことをわかっていたつもりだったんだ」

「そんなことない!俺が、俺さえこのことを黙っていたら今のこの奇跡みたいな幸せがなくなることはなかったんだ!この幸せのためなら、みんなの、家族のためなら俺は———!」

 

「「士郎」」

 

二人の声が被る。

 

「自分ばかり責めないで。あなたは私たちのために今まで苦しんできたのでしょう?これからは私たちにも背負わせてちょうだい」

「そうだよ。ふがいない父親かもしれないけど、僕にも背負わせてくれないかな?それに、家族の幸せのためなら、士郎はもっと自分のことを顧みてほしい。士郎も僕たち家族の一員だ。きみが幸せになれないと、親である僕たちも幸せにはなれないんだ」

「そうよ。私たちだけじゃないわ。イリヤだってそう。セラだってリズだって、みんながいて家族よ?家族の幸せを願わない人なんていないわ」

「…そう、ですね。シロウ。すみませんでした。貴方がそこまで私たちのことだけを思って抱え込んできたなんて露程も思っていませんでした。ですからその…ありがとう、シロウ」

「あ、セラがデレたー」

「黙りなさいリズ!あなたはもっと空気を読むというかメイドとしての心意気が足りません!少しはシロウを見習って働いたらどうです!」

 

空気が緩む。そこにあったのは何が起こるかわからない緊張感などではなく、どこにでもあるような家族の団欒だった。

 

家族からのありがとう、

それだけで救われた気がした———。

 

 

「さて、魔術ばれしたことだし堂々と士郎の鍛錬につきあうわよー!」

「そうだね。なんせアインツベルンの最期の集団だ。聖杯の術式とか奪いに来る連中がいないわけでもないしね。なんせ、士郎は英霊になる可能性を秘めているんだ。鍛えがいがあるぞ」

「そうね。息子が英霊になった未来があると思うといろいろ複雑だけど、このままだと封印指定まっしぐらだものね。もしもの時のためにできる限りバックを作ったりしておかないと。ウェイバーくんなんてどうかしら?」

「彼なら家柄にも囚われずに考えてくれるだろう。でもまあ、しばらくは根回しかな。この町には遠坂という真っ当な魔術師の大家があることだし、今まで以上に注意しないと」

 

・・・前世以上に鍛えられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから七年間、みっちり鍛えられた。

あの聖杯戦争時に比べても投影の錬度は段違いだろう。だけど、俺は鍛錬時に投影した赤い聖骸布を左腕に巻いている。

いくら投影の錬度が上がっても、俺がイメージするのは最強の自分だ。現時点の自分からみえる衛宮士郎の到達点は前世でバーサーカーを倒した俺だろう。そういうイメージを奮起しやすいように巻いているのだ。

 

「僕たちは外を守る。だから士郎は内側から守っといてくれ」

 

海外で活動するようになったじいさんからの言葉だ。

聖杯(イリヤ)がいるからこそ、日常を守るため二人は海外で活動している。だからこそ、俺もこの日常を守るために尽力しよう。

 

 

イリヤが起きだすまでの間、二週間ほど前からの違和感についてセラたちに聞こうかな、とか思いながらリビングに行くと、すでにイリヤがいた。

 

「おわっ!イリヤ、今日は朝早いんだな」

「おはよ―お兄ちゃん。うん、いろいろあってね…」

 

ん?すっごく疲れているように見えるけど…。本人が大丈夫って言うんだから気にしていても仕方がないか。

 

「そうか。無理するなよ」

「はぁーい。ねーお兄ちゃん、お腹すいたー。なんか作って!」

「だめだ。勝手に作ってセラに怒られるのは俺なんだから」

「ぶー。けち」

「なんとでも言っとけ」

 

和やかな日常。新聞やニュースをチェックしても表立った異常は見当たらない。

イリヤと雑談しながら時間をつぶし、みんなで食卓を囲む。弓道部にはもともと所属していないので朝練の時間に追われることもない。

 

「む、今日のフレンチトースト。また腕を上げてる…」

「あたりまえです。和食こそシロウさんに後れを取りますが、洋食ではまだまだ負けるつもりはありません」

「とか言ってセラ、必死に料理の研究してる」

「そう思うならリズこそ家事を多少は手伝いなさい!長男に任せきりのメイドがどこにいますか!」

「ここ。ぶいー」

「ここ、じゃありません!」

「お兄ちゃんのも好きだけどな」

「ありがと、イリヤ」

「シロウ!妹に手を出してはいけませんよ!」

「出すかばか。イリヤはあくまで妹だ」

「べ、別に出してくれてもいいのに…」

「何か言ったか?」

「なにも!言ってない!あ、もうこんな時間!ハクノが迎えに来る!ごちそうさま!」

 

慌ただしくイリヤが二回に上がる。

 

「シロウ」

 

イリヤがいなくなったタイミングでリズが声をかけてくる。

 

「地脈が乱れている。何か起こるかもしれないから気を付けて。決して無茶はしないよーに」

「地脈が?わかった。俺一人でどうにかできることでもないし、注意しておくだけにするよ。ありがとう」

 

言葉は簡潔に、要点を交換する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮士郎()には前世の記憶がある。

この世界でのあの火事で心が死んだ■■士郎として二度目の生を受けた。

 

だからこそ、何気ない幸せだけでも守り抜く。

たとえ正義の味方になれなくても、これが俺の得た答えだから。

 

 

 

 

 




わかりにくいと思うので補足です。
HFトゥルーエンド後ホロウ前に大聖杯の解体が行われ、その際士郎は膨張する聖杯の泥に飲まれ死亡。その後、泥を消し飛ばすために凛が宝石剣を使った影響で消え去る寸前の士郎の意識が並行世界の■■士郎の精神死亡直後の体に憑依し、この作品の衛宮士郎になりました。

さらに、腕士郎の後遺症として英霊エミヤの経験も多少は知っています。特に、召還されたことで思い出した聖杯戦争のこととか。自我が崩壊するほど浸食されていたから仕方がないよね。だから、メインはHF士郎ですが、実感は薄いけど一応全ルートの記憶があります。第五次のエミヤの性質上UBWの記憶は微妙にぼかすというか、なんとかしますが。

この世界の聖杯戦争についてはまたどこかで話すかな?
たぶん相当先になりそうですが。


これでプロローグは終わりです。
前書きの通り、次から物語は始まります。
ただ、この作品は岸波白野と衛宮士郎のW主人公なのでどうしても片方にしか焦点を当てられない回があります。ご了承ください。


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2話 初戦

FGO遂にやっとレベル100になりました。
というか、修正入るとはいえ曜日修練所強すぎ…バーサーカーとマリーで地獄を見た。

一週間で閲覧2000超えお気に入り50とかさすがFate。書いている本人が一番びっくり。

作中の◆以下は士郎視点で、■以下は白野視点です。
イリヤや凛からの白野の呼ばせ方もわかりやすいように変えています。なんとなく察してください(笑)

基本外人組にはカタカナ表記でがんばってもらいます。


ちなみに、ルビー契約時に士郎のラッキースケベはありませんでした(笑)


 

「おはよーイリヤって、なんかすごい顔してる」

 

イリヤと学校に向かうため迎えに行ったところ、慌てた様子の親友が出てきた…のはいいんだけど、なんかすごく疲れた顔してる。

 

「ハクノ、おはよ…。いやちょっとね、昨日の晩いろいろあって…」

「士郎兄にお風呂にでも乱入された?」

「そんなイベントは起きなかったよ!?ちょっと予想外のことが立て続けに起こったというか」

「イリヤも?人生ってままならないよね…」

「そうだね…」

 

小5にして悟りを開く私たち。そっか、イリヤにもいろいろあるんだなぁ。

そして学校に到着。

 

「おはよーイリヤ、白野。相変わらずお熱いことで」

「おはよ、雀花。そりゃあ、イリヤの家族にはよくしてもらっているからね。姉妹みたいなものよ。あれ?美々は?」

「向こうで那奈亀と一緒に龍子の相手をしてるよ」

「?何かあったの?」

「あー。龍子の奴、タイガーの宿題忘れたんだとさ。写させろーって暴れまくってたから取り押さえて写させないお仕置き中」

 

 

『うおおおおおお!うーつーーさーーーせーーーーろおおおおお!』

『普通に頼むならまだしも、暴れる奴には写させないよな』

『まぁ、自業自得だもんね…。龍子ちゃん、ごめんね』

『うおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

「この通り」

「あ、ははは…」

 

 

 

 

 

みんなで授業を受け、放課後。

靴箱でイリヤがわなわなしているのに遭遇した。

…傍から見たらやばい子じゃん。しかも手に持ってるのは手紙?ラブレターかな?

言い忘れていたが、イリヤはかなりモテる。そりゃそうだ。透き通るような銀髪に雪のように白い肌。妖艶に見える赤い目も、本人の人懐っこさのおかげで冷たい印象はなく愛らしいものになっている。でも本人に浮いた噂はない。イリヤ自身が色恋沙汰に反応しないからだ。まあ、意中の相手が義理の兄なのだからしょうがない。

それに、イリヤに手を出す輩がいたら私が黙っていない。あの子をどこぞの馬の骨ともわからないやつに渡したりなんかするもんですか。イリヤが欲しければこの私を倒していくがよい!

 

と、話が逸れた。

問題はあの手紙の送り主だ。男子だろうが女子だろうがイリヤに手を出したやつは殴っ血Kill。

 

「イリヤどうしたのー?ラブレター?」

「ち、違うよ!って、ハクノ!?どうしてここに…」

「私も家に帰るところだもん。というより今後ろ手に隠したものを出しなさい…!」

「は、ハクノ!?顔!めちゃくちゃ怖いよ!?」

 

なに。イリヤの貞操を守れるなら私の顔の一つや二つ…。

 

と、そうこうしている間にイリヤが逃げた。って滅茶苦茶速い!

あいつ、普段の競争は同じくらいなのに逃げ足となるとさらに加速するってどういうことよ!

 

結局そのまま逃げ切られた。くそう。

でもあそこまでしてイリヤが逃げるなんて珍しいな。普段のイリヤなら嘘じゃないって見せてくるはずなのに。ってことはやっぱり本物?

 

 

 

 

 

悩んでいる間に家に着く。とりあえずイリヤのことは明日問い詰めるとして、今日はこの後ラルドと訓練だ。

いきなり実践なんて無理。せめて、自分の性能だけでも確認しておかないとね。

 

ラルドを呼び、郊外の森まで歩く。夕食代わりのお弁当も用意したし、訓練の後そのまま凛姉に合流しても大丈夫だ。

 

「とりあえず、ラルド。転身しよっか」

 

転身してステッキを構える。

 

「で、私は何ができるの?」

『メインは魔力砲だね。チャージしてぶっぱ!』

「…え、割と脳筋?」

『魔法少女はステゴロよりも可憐に舞わないと!って痛い痛い!たたきつけないで!』

「ラルドの考えじゃなくて、接近されたらどうするのよ!」

『殺られる前に殺る』

「ふざけんな」

『でも、実際問題僕たちカレイドステッキって使用者に無限に魔力を供給するから砲撃戦で十分なんだよ』

「うーん…納得はできないけど理解したよ。早速練習しよっか!」

 

目標、目測10メートルほど前の木。

魔力を貯めてっっ!

 

放射(シュート)!」

 

放った緑の魔力の塊が木に当たり、真ん中くらいまで食い込む。

 

『初めてにしては上出来だね』

「うん、自分でも想像以上だった」

『よし。じゃあ次は魔力の効率的な運用かな…攻撃のバリエーションを増やすのもいいね』

「散弾みたいな?」

『そうそう』

 

むー。

難しい。イメージは出来ても、実際その通りいくかと言われたらまた別の話で…。

 

「あーもう!散弾って言われても難しいよ!」

『想像以上に難易度高かったね…。この際、散弾は諦めて一発の威力と弾速を上げてみようか』

「はぁーい…」

 

とりあえず…。まずは弾速最大!名前は…

 

速射(クイック)!」

 

発射した直後、15メートルほど離れた木の幹に穴が開く。

 

『おおー!すごい!タイムラグは一秒もないよ!しかも弾速が早い分威力が拡散せずに飛んでるね!貫通力だけみたらさっきよりも上だね!』

「うん。それにこの技だと弾が小さい分、魔力の消費も抑えれそうだわ」

『ほえー。いきなり課題二つもこなしちゃった。はくのんすげー』

 

ふははは。もっと褒めるがよい。私は褒めたら伸びる子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の夕食担当はセラだからスーパーに寄らずに家に帰る。毎日食事を作らなくてもいい生活にも慣れてきた。

 

地脈の乱れが観測できたとリズに聞いたから、今晩から町の巡回をするつもりだ。

切嗣が海外に行く前に内のことは任せたといわれ、そこからも鍛錬を怠らなかった。町のことになると少し出過ぎたマネかなとも思うけど、正義の味方に憧れていた身としては看過できない。

 

 

夕方、夜は聖杯戦争の時と同じくらいの時間帯に行動しようと思って準備をしているとイリヤが帰ってきた。

あれ?学校から帰ってくるには遅い時間だな。友達と遊んでいたんだろうか?

 

「おかえり、イリヤ。遅かったな」

「お兄ちゃん。ただいまー。ちょっとハクノと遊んでて…」

「なら夕食に招待すればよかったのに。白野なら顔なじみだし、一人暮らしは不便だろうに」

「そ、ソウスレバヨカッタネー」

「ん?表情硬いぞ?喧嘩でもしたのか?」

「お、お兄ちゃんには関係ないもん!」

 

と二階へ駆け上がっていく。ヘンなイリヤ。

 

イリヤは夕食時もどこかおかしかった。溜息と達観したような遠い目をしている。

 

「そんなに悩むなら早く仲直りすればいいのに」

 

って言っても、

 

「喧嘩してるわけじゃないって!私にもいろいろあるの!」

 

と避けられる。俺、何かしたかなぁ?

 

イリヤのことも気になるが、今日は巡回に向かう。セラリズの許可は得ているから、、万が一俺が家に帰れない事態になっても大丈夫だ。

 

「さて」

 

どこから回ろうかな。我が家は新都にほど近いところにある。前世の衛宮家は深山町にあったが、今は住宅街だ。それだけで外部の魔術師の目を欺けるだろう。

 

少し悩み、柳洞寺に向かうことにした。ここら一体の地脈の元締めみたいになっているところだし、何といっても前世では大聖杯が設置されたほどの場所だ。地脈の流れの変化に無関係とは思えない。

そう決めると自転車を準備する。なにもなければいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けて、お弁当を食べた私は凛姉に言われた集合場所にいた。

 

「って言っても、夜の学校ってねえ…」

 

初等部から高等部まで同じ敷地にある穂群原学園はマンモス校だ。同じ学校でも高等部なんてほとんど縁がない。イリヤが授業中にぼーっと眺めているくらいだ。

そんな高等部の校庭にやってくる。まだ誰もいないみたい。

 

『あれれー?おーかしーぞー?呼び出した側が呼び出された側より後に来るのー?』

 

とことんこのステッキは凛姉たちが気に食わないみたい。姉妹機たちをぞんざいに扱っているかららしいけど、そこまで嫌味っぽくならなくても…。

 

「お待たせ白野」

 

あ、凛姉だ。

 

「あれ?凛姉一人?ルヴィアさんは?」

「呼んでるわけないじゃないあんな金髪ドリル。さっさとカード回収して、私たちの手柄にするわよ。幸い、こっちにはステッキが二本ある(・・・・・・・・・)しね」

「2本?凛姉も転身するの?」

「誰がやるかあんなこっぱずかしい恰好!!」

 

凛姉そう思ってたんだ。

 

「白野みたいに事故でもう一本のステッキの所有者も決まっちゃったのよ」

「それはそれは何ともご愁傷さまなことで…」

「ほんとに。あのバカステッキに比べたらエメラルドなんて優しいわ」

 

え”。

 

これが優しく見えるステッキって…。

何ともそのマスターに同情を禁じ得ない。きっと息を吐くようにおもちゃにされ、食事するかのように脅迫されているんだろう。かわいそうに。

 

 

 

 

 

 

 

そうして待つこと数分。

 

「お、ちゃんと来たわね」

「そりゃあんな脅迫状出されたら…」

「ん?なに?」

「いえなんでも…無自覚…」

 

親友(イリヤ)が既に転身してやってきた。

 

「ってなんでイリヤはもう転身してるのよ?」

「いやあ、さっきまでいろいろと練習していて…って!ハクノ!?なんでここに!?」

「そっかー、凛姉の言う被害者ってイリヤだったのかー」

「え?なに?あんたたち知り合いなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど…。そういうわけでハクノも魔法少女になったんだ。理解したくないけど理解したよ」

「よかったねイリヤ。友バレどころか一緒に落ちていったわ」

『やっほー赤姉さん。元気してたー?』

『おお!その声はエメラルドじゃないですか!こっちは全然元気ですよー!そっちもいいマスター見つけたみたいですね』

『はくのん筋良いから期待性大だよ』

「いやいや、想像力もとい妄想力でイリヤに勝てる人なんてなかなかいないよ」

『そうですねー。昨日私が契約したときなんかその場にいないお兄さn「ルビー!!!」おおっと、口止めされちゃいましたー』

「ふむ。ルビーだっけ?私は岸波白野。気軽に白野って呼んでね。で、後でその話詳しく」

『そうですよーみんなのステッキカレイドルビーちゃんです!よろしくお願いします白野さん!仲良くなれそうな雰囲気がプンプンしますねえ!」

 

同感だ。弄りがいのあるイリヤにこんな面白礼装がついたのだ。イリヤ大好きっ子の私としてはふふふふ…。

 

ちなみにみんなによく間違われるけど、私は別にイリヤLOVEなのではない。LIKEなのだ。だから、士郎兄への想いも知ってるし、ちょっとあれだけど叶って欲しいとも思っている。まあれだ。付き合いが長いせいで父親みたいな気分になっているのだ。似てない姉妹でもいい。

 

 

「無駄口はあと。準備はいい?そろそろ行くわよ」

「う、うん!」

「大丈夫よイリヤ。あなたは私が守るもの」

「やめて!魔法少女になってそんなセリフは非常に怖い!」

『じゃあはくのん、多元転身(プリズムトランス)いっとくよー!』

 

変身シーンは今回は割愛。次やるときは二人同時バージョンだ。

 

 

 

『半径4メートルで反射路形成!境界回廊一部反転します!』

 

ルビーの声と同時に魔法陣が構築される。

 

「えっ…な…なにをするの?」

「落ち着いてイリヤ。カードがある世界に飛ぶのよ。そうね…無限に連なる合わせ鏡。この世界をその像の一つとした場合…それは鏡面そのものの世界」

 

 

 

 

そして世界は反転する。

 

 

 

 

「鏡面界。そう呼ばれるこの世界にカードはあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

なにここ…。

格子状の空だけじゃない。同じ場所のはずなのに雰囲気が全然違う。密度の濃い魔力で維持されているような…。

 

 

「詳しく説明している暇はないわ。来るわよ!」

 

 

校庭の中央。

黒い空間からソレ(・・)は現れた。

紫の長髪に黒い服。人の形をしているが間違いない。あれは彼らと同じサーヴァント(英霊)だ。

 

「イリヤ!何ができる!?」

『付け焼刃の特訓では基本的な魔力弾射出くらいは問題なく行けます』

「じゃあ練習がてら一発かまして!それを見てからどう動くか考える!」

 

まずは戦力の確認。英霊相手だ。普通は敵うはずがない。だが、無限の魔力供給が可能なカレイドステッキなら希望はある。

 

イリヤと話している間に凛姉が宝石を爆発させた。でも、あんまり効果がないみたい。

 

「やっぱ魔術は無効か…!高い宝石だったのになぁ」

 

こんな時までケチらないでほしい。余裕をもって優雅たれ、だっけ?家訓の実践くらいがんばろうよ凛姉…。

 

「いい、2人とも。魔術は効かなくても魔力そのものならダメージを与えられるの。だからあんたたち二人にかかってるの。任せたわ!」

「ええっ、投げっぱなし!?」

 

校舎の陰に隠れる凛姉。

仕方がないけど、仕方がないけどさあ…。

ここ数分で凛姉の株が不安になってきたが、今はそれどころじゃなかった。

 

「イリヤ!」

 

英霊が鎖の付いた鉄杭を飛ばしてきたのを間一髪避ける。

まずは距離をとらないと。ってもう逃げてる速い速い。

 

「たーっ!」

 

イリヤの魔力弾は速度が遅く、英霊に躱された。それどころか反撃まで仕掛けてくる。

なるほど、速度なら私の方が速くて、威力はイリヤの方が大きいみたいね。

 

『砲撃タイプじゃ追いきれませんね。散弾に切り替えましょう。イメージできますか?』

「やってみる!特大の———散弾!!」

 

イリヤ、散弾撃てるんだ…って、うええ!?範囲が広すぎる!一撃の威力が落ちちゃう!

 

「やった?」

『いいえ、おそらく今のでは…』

「イリヤ危ない!」

「え————

 

舞い上がった土埃の間から再び鉄杭がとんでくる。くそっ、間に合え!

 

速射(クイック)!!」

 

幸い、放った弾は鉄杭を弾き飛ばした。そのままイリヤが私の横まで戻ってくる。

援護するため連射する。何発か当たったが、少しよろめかせるくらいで目に見える効果は薄い。

 

「あ、ありがと!」

「どういたしまして。それよりイリヤ、私の弾じゃあんまり効果ないみたい。だから、できるだけサポートするからイリヤの魔力砲きっちり当ててね」

「うへぇ。がんばる…」

 

役割分担だ。私の通常弾だとイリヤのものより威力が落ちるっぽいし、サポートに徹しよう。威力は低いけど弾速が速い弾で出来ること…。

 

 

落ち着いて、相手の動きをよく見る。どこにどう動くか、癖を見抜くつもりで。

速射(クイック)で進路を限定し、イリヤが狙いやすい位置まで誘導する————!

 

 

「今よ!」

砲射(フォイア)!」

 

イリヤの魔力砲が直撃する。チャージマックスなのかかなりの高威力だ。これなら————

 

『まだだよ!』

 

ラルドの声に反射的にその場に倒れこむ。今の今まで頭があった位置を鉄杭が通っていった。

なによあれ、障壁が無ければ即死コースじゃない…!

 

鉄杭を追うようにして英霊が私方へと駆けてくる。距離はあるが、相手の敏捷的に回避は間に合わない。

 

 

 

くそ。どうする?

迎撃?———無理だ。私の威力じゃ抑えきれない。

通常界へ反転(ジャンプ)?———そんな時間あるわけない。

考えろ。活路を見つけろ。使えるものは全部使え。

周りがスローモーションで見えるほど全力で脳をフル回転させていると、英霊と戦っているからかふと前世の4騎のことを思い出す。

 

 

剣、弓、術、金、劇場、刀、良妻、鎖、炎、皇帝、赤、狐、荒野、我、執事、薔薇、鏡、正義――――

 

 

導かれるようにステッキを構え、魔力砲を放つ。イメージするのは赤い背中。

 

 

爆射(バースト)!!!」

 

 

込めた魔力のわりに小さな魔力砲は向かってくる英霊に飛んでいき、回避するそぶりも見せないままぶつかる。今までの威力を考えたら当然だ。だが今度の魔力砲は当たった威力で攻撃するんじゃない。

彼の技のように————

 

 

英霊に当たった刹那、魔力砲は爆発(・・)した。

 

 

その隙に相手から距離を取る。と同時にイリヤが追撃した。

 

「大丈夫!?」

「うん。なんとかね」

 

なんとかうまくいった。壊れた幻想(ブロークンファンタズム)もどき。ほんっとぎりぎりのタイミングだった。

 

でも、相手もこのままでは終わらせてくれないらしい。

 

突如空気の感触が変わった。圧迫するような密度の濃い殺気が周囲に満ちる。

 

慌てて英霊の方を見ると、かすれた土埃の隙間からその姿が見えた。でも————

 

「”宝具”を使うつもりよ!逃げて!」

 

英霊の前には血で描かれた魔法陣が広がっていた。

 

遠くで凛姉の声がする。

 

まずい、まずいまずいまずい!!!

脳裏によぎるのはさっきも思い出した4騎の宝具。まずいってもんじゃない。サーヴァント同士ならともかく、人間で耐えれるものじゃない!

 

「イリヤ!逃げて!」

『少しでも敵から距離を離さないと!』

「早くこっちへ!ダメもとで防壁張るから!」

『エメラルドも全魔力を魔術障壁、物理障壁に変換してください!耐えてくださいイリヤさん!』

「なっななな何が起こるのー!?」

 

 

 

 

 

騎英の(ベルレ)—————————…

 

 

 

 

 

 

聞こえてくる英霊の真名解放。

くそっ!耐えるしか——————

 

 

 

「クラスカード”ランサー”。限定展開(インクルード)。」

 

 

 

 

声が、した。

身を竦める私たちの横を猛スピードで通り抜けていく誰か。

 

 

 

 

 

 

刺し穿つ(ゲイ)————————」

 

 

 

 

 

 

その手には朱槍が握られていて————

 

 

 

 

 

 

死棘の槍(ボルグ)!!!」

 

 

 

 

 

 

その槍は英霊の左胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「”ランサー”接続解除(アンインクルード)。対象撃破。クラスカード…」

 

朱槍がステッキへと変わり、溶けるように英霊が消えカードが現出する。

 

「”ライダー”。回収完了」

 

 

「え…だ…誰……?」

 

イリヤが呆然と呟く。

そこには青の衣装を纏い、ステッキを握った黒髪の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー…魔法少女のライバル登場、って早すぎない?アニメだと6話以降もしくは2クール目の展開じゃん…」

『案外テコ入れかもね』

「ハクノたち緊張感無さすぎじゃない!?」




技名…シュートもフォイアもショットもイリヤとミユが使ってる…
ひねり出した限界がこれです。そうだよFGOだよ!
アーツとかどうしよう…

まああれです、プリヤ原作でも言ってる通りFate原作との差異とか細かい矛盾とかは大目に見てやってください汗

感想、評価くださった方ありがとうございます。
モチベアップです。この更新スピードがいつまで続くかわかりませんが、がんばります。


誤字、脱字、感想、注意点、意見などありましたらよろしくお願いします!



…士郎のがっこうぐらしはツヴァイ編まで保留かな、凛もルヴィアもいないし。


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3話 すれ違い

更新遅れてすみません。
先週風邪で死んだあと、FGOイベとモンハンにいそしんでました。

評価バーの色が初めて変わって高まりましたありがとうございます。

そんなありがたい中、今回の話は賛否両論あると思います。文字数少な目だし、正直自分でも満足のいく出来じゃないんで改稿するかも…。

無印編は白野の人間関係を描けたらなと思っています。

あ、そういえば呼符で金セイバー演出来ました。
…デオンくんちゃん、お前じゃない。



 

「無様ですわね遠坂凛!まずは一枚!カードはいただきましたわ!」

 

ルヴィアさんが高笑いしてる。現状を把握しよう。おーけー。

 

まず、英霊…あの女の子いわくクラスは騎乗兵(ライダー)だったらしいけど、あいつが宝具を撃とうとしてきた。その発動前に青いコスチュームの魔法少女(仮)が倒して助かった、ってところだよね。

で、その女の子を連れてきたと思われるルヴィアさんが高笑いしてて、凛姉が苦々しそうにうめいてる。イリヤとルビーは新たなライバル?に慄いてる…のかな?

 

「ステッキ所有者(ホルダー)の数は多くても、指示を出す人間がダメダメですとなーんにもできないんですわね!オ————ッホッホッホ!!」

 

………

なんて言うんだろう…凛姉に口撃してるつもりなんだろうけど、私たちまでバカにされてるような気がする。

 

「ここしかないというタイミングで如何にして必殺の一撃を入れるか…その一瞬の判断こそが勝負をわけるのですわ。だというのに————相手の宝具に恐れをなして逃げ惑うなど笑止千万!!とんだ道化ですわね遠坂凛!」

「やっかま————「ふうん、じゃあルヴィアさんはどんな宝具でも相手が発動する前に仕留めきれるんだ」————白野?」

 

少しケンカ腰になってるのは自覚する。昨日襲われていたのもあってルヴィアさんに若干の苦手意識があるのも自覚している。でも、凛姉を侮辱するのはいただけない。戦いの記憶はなくなっても、あの4騎の宝具を覚えている以上そういうわけにはいかない。

 

「ミス,キシナミ、でしたわよね。その質問には是、と答えておきましょう。そもそも宝具というのは英霊の伝承を基にした必殺の一撃。発動前に倒すのは必然といえるでしょう」

「そうね、その考えは間違っていないわ。でも、相手は英霊————人間を超えた存在です。そんな相手を先手必勝で倒せるの?」

「私———いえ、ミユに預けたクラスカードは槍兵(ランサー)。その限定展開(インクルード)刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)。心臓を穿つという事象を確定させた後に放つ必殺の一撃。それをもってすれば造作もないことでしてよ」

 

「違う」

 

私の一言に戸惑ったような雰囲気が流れるが、気にせず続ける。

 

「因果を捻じ曲げる槍。それは確かに強力だけど、それに頼り切りじゃ勝てない。英霊はもともとの身体スペックが違いすぎるし、宝具を甘く見すぎです。たとえ必勝の一撃でも躱されることもある。避けられなくても、それに耐えられるだけの防具を持つものもいる。相手の宝具だって一撃じゃないかもしれない。圧倒的な物量での攻撃だったり、自分に有利な条件の形成だったり。決めつけて、先入観を持って戦うのは————

 

 

 

「ハク、ノ?」

 

 

 

———————っ」

 

 

戸惑ったような親友の一言に、早口でまくし立てていたのが思わず途切れる。

…しまった、話しすぎた。思わず頭を抱えたくなる。

イリヤは不思議そうな顔をしているがステッキたちは黙ったままだし、青い少女は私をじっと見つめてる。凛姉は戸惑ったような視線を向けているし、ルヴィアさんは———ルヴィアさんは疑うような視線を向けてきている。

そりゃそうだ。「岸波白野」は哀れな事故でステッキを持った一般人なのだ。そんな私がいきなり宝具や戦闘について語りだしたら何か裏があるんじゃないかって思うだろう。

 

 

 

「————すみません、先に戻ります」

 

 

いたたまれなくなりその場から反転(ジャンプ)する。

 

凛姉たちの視線が、痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白野がいなくなった後、私たちは境界面の崩壊に巻き込まれないよう元の世界に戻った。

正直、妹のようにかわいがっていた白野の反応に戸惑いが隠せない。

 

「遠坂凛。あの少女は本当に一般人ですの?」

「わかんない。私が面倒を見ていたときにそんなそぶりはなかったし、何より魔術師にしては思考に無駄がありすぎる。…私が言えたことじゃないけどね。イリヤ、あの子の学校での様子はどんな感じなの?」

 

私たち以外誰もいない校庭で問う。

 

 

「…ハクノは、ハクノは私の親友だよ。ちっちゃい頃から仲が良くて…一緒にアニメ見て、遊んで、勉強して、遊んで。魔法少女が好きな女の子だよ」

 

 

…イリヤも知らない、か。

イリヤは状況がわかっていないようで戸惑ったっまま答えてくれた。この子は正真正銘一般人だ。さっきのことがわからなくても、親友がルヴィアに好印象を持たれていないことは察したようで不安そうな顔をしている。

 

 

「もし魔術関係者の手にカレイドステッキが渡ってしまったらどうなるのかわかっていますの?宝石翁のあの礼装の価値を知るものが————」

「わかってる。それでもルヴィア、あの子のことは私に任せてくれない?きっちりとはっきりさせて、しっかり判断してくるから」

 

 

その後も少し話したが、結局ルヴィアは私に任せてくれた。いろいろ言っているけど気にしてはいるんだ。かわいいとこあるんじゃない。絶対に口には出さないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺には何もなかった。そのことに安心しつつも違和感を覚えながら深山町の方を巡回し、せっかくここまで来たのだからと学校も見ていくことにする。

あと地脈の異変に関係ありそうなところって言うと、郊外の森くらいかな…。

 

 

そんなことを考えながら自転車をこいでいると、前から見覚えのある少女が歩いてきた。

 

「あれ、白野じゃん。どうかしたのか?」

「士郎兄…」

 

こんな夜遅くに歩いているから一言言おうと思ったが、憔悴した顔を見て口を噤む。

 

「…送っていくよ」

 

 

 

 

 

気の利いたことが思いつかず、黙ったまま一緒に歩くこと数分。ポツリポツリと話し出してくれた。

 

「士郎兄は何にも聞かないんだね」

「あー、すまん。気の利いたことが言えなくて」

「そうじゃないの。その…いつもの士郎兄なら怒りそうだなって思ったから」

「そんなの俺もだ。こんな時間にほっつき歩いていたのは一緒なんだし。…イリヤには内緒にしといてくれよな?」

「…ふふっ、どうしようかなー」

「………」

「そんな顔しなくても話さないって!心配性だなあ」

 

それに、と白野は続ける。

 

「ちょっと話づらいしね」

 

夕食前のことを思い出す。イリヤのやつ、喧嘩していないんじゃなかったのか?

 

「喧嘩でもしたのか?」

「ううん、違うよ。ただ…ただ、私が一方的に話し辛いだけ」

「…そっか」

 

 

 

そのまま再び沈黙が下りる。

 

「でも」

 

ふと言葉が漏れた。思い出すのは前世で愛した人()の姿。一人で抱え込んだ結果、どうしようもないくらい道を間違え、壊れ、それでも帰ってきた大切な人。

もう戻ることはできないとわかり、過去のものとして割り切る事が出来るようになったのはそう遠くない。

 

「一人で抱え込みすぎるなよ。イリヤだって藤ねぇだって他の友達だって、もちろん俺だって白野のことは大切に思ってるんだからな」

 

桜は相当特殊な事情があった。でも、白野はまだ戻れる。悲しいすれ違いはもうこりごりだ。

 

 

「あり、が、とう…」

 

しばらくしてすすり泣くような声で白野が答える。

そうだ。俺はこの日常を守るって決めたんだ。

 

 

 

 

その後、白野を送り届けてから自宅に帰る。思いがけないところで、決意を再確認することになったけど、まあ、いい機会だったと思うようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎兄に送ってもらい、家に帰って一息つく。

 

思いのほか、ラルドたちとの出会いは私の精神に影響を与えていたらしい。

考えてみると納得もする。何やかんや言って、私は10年間も転生者であることを隠し通してきたのだ。それが昨日ラルドにばれてしまい、凛姉たちが魔術師だとわかって、いつばらされるかと脅され、今までの日常を壊されるんじゃないかって無意識のうちにすごく負担になっていたみたい。

 

そう簡単に気持ちは切り替わらないけど、前向きに考えるしかないんだ。

 

 

『ごめんねはくのん。僕に並行世界関連のことがばれたのが想像以上に負担になっていたみたいだね』

 

ラルドもそう言う。ホントそうだ。家に誰かいるーって浮かれていた今朝の自分が恨めしい。

 

「ねえラルド。あなたから見てさっきの私ってどうだった?」

『…正直、聞きたいことはいろいろあるよ。なんでそんなに戦闘に向けて意識の切り替えが早いのか、とか英霊についてなんで詳しいのか、とか。でも、答えなくていいよ。僕も無意識のうちにはくのんを追い詰めていたんだ。これ以上負担になりたくない』

「なんで?」

『マスターだからさ。いろいろ言っているけど、僕のマスターははくのんだけだよ』

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

これからのことを考えよう。

やっちゃった分は仕方がない。まずはみんなに信用してもらわないと。

特に、お世話になっていた凛姉に。並行世界関連のことはまだ言えないし、言う決心もついていないけど、それでも誤解は解いておきたい。ルヴィアさんも…ルヴィアさんも、正直苦手だけど仲良くしたい。あの青い少女のことも結局何も知らないし、私は逃げただけだ。

 

 

とりあえず明日、と決意を固める。

 

話せることを凛姉に話そう。これ以上不信感なんて持たれたくない。




一応補足です。
ルヴィアは慢心も若干ありますが、任務遂行に堅実性を持とうとしています。その結果が近づいてゲイボルグなんですけど。そんな中、素性の知れない少女が英霊や宝具について知っているそぶりを見せると、そりゃ疑いたくもなります。
実際、宝具についての概要を知る機会など現代では伝承保菌者(ゴッズホルダー)についてでしょうし。
まあ、彼女も一般人だと思っているミユにステッキ取られていますが、それは相手を一般人だと思っているからなわけで。無限の魔力供給が可能な魔法使い宝石翁謹製の礼装が魔術関係者の手に渡るとか普通に考えてやばすぎますもんね。

予定としては、次は月曜くらいになるかな?
学校とキャスター戦一回目までくらい進みたいです。

…今回の話、文句とか来ても豆腐メンタル作者に特攻ダメしか入らないから(汗


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4話 転校生

えげつなく閲覧伸びてる…って思ったら、日刊ランキング18位(12/5 11:30頃)になっていました。
読んでいただいている方、ありがとうございます。


FGO,イベント中に当たった☆4以上がデオン、紅茶、アン&メアリー、リミゼロって…
沖田欲しかった…


12/8 加筆しました


 

翌日。

朝のホームルームにて。

 

「美遊・エーデルフェルトです」

「はーい、みんな仲良くしてあげてねー」

 

……忘れてた。

新たなライバル登場ってことは転入生フラグじゃない…っ!

 

斜め前の席のイリヤも達観したような素振りを見せる。

 

「席は窓際の一番後ろね。イリヤちゃんの後ろ…ってわからないか。白野ちゃん、隣の席だし気にかけてあげて―」

 

ぐううう。タイガーめ、今日に限ってなんで!気まずさとかいろいろとやりづらいよ!

 

 

「休み時間。屋上にきて」

 

横の席に着いた美遊さんが私にだけ聞こえるような声量で話しかけてくる。

…無理だと思うなあ。転校初日の休み時間なんてお約束イベントをスルー出来るとは思わないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定、休み時間になるとすぐに美遊さんの席は質問する人で見えなくなる。

困ったような顔で見られてもごめん、こればっかりは…。

 

少し悪いと思いながら手を合わせてごめん、と目線で伝え、先にイリヤと話すことにする。

教室をぐるっと見渡したら————あ、いた。

窓際で何してるんだろ。

 

 

「イリヤ、ちょっとい「うひゃああ!?」…どうしたの?」

「あ、ハクノか。よかったー」

 

イリヤの肩越しにルビーと美遊さんが持っていたステッキがいるのが見える。ああ、なるほど、事情を知らない人から見たらこの歳にもなって学校に魔法少女のおもちゃを持ってくる子に見えるよね。

 

『初めまして。私はサファイア。弟がお世話になってます』

「あ、初めまして。岸波白野です。弟…?」

『エメラルドのことですよー。私が長女、サファイアちゃんが次女、そしてエメラルドが長男にして末っ子なんです!』

「へぇー………って!ラルドって男の子だったの!?」

『あくまで便宜上です。私たちに性別なんて関係ありませんから。エメラルドは姉さんが弟がいいーってごねた結果です」

 

あんたが元凶か。

 

『まあ、僕のベースは姉さんたちだから女性寄りなんだけどね』

「いや、女の子ベースの男の子って」

 

いいんだろうか。

 

『もはや慣れだよ』

 

いいんだ。

 

「で、イリヤたちは何をしていたの?」

「あーその…」

『私の自己紹介と、黒化英霊の使用する宝具について説明していました』

『そういえば白野さんは宝具について知っているようでしたけど、エメラルドにでも聞いたんですか?』

「うん。昨日の実践前に練習していた時にちょっとね」

 

どうやらルビーたちはラルドが説明したと思っているらしい。

そっちの方が都合がいいし、凛姉たちにもそう説明しよう。…ごまかせるといいなあ。

 

『その時は戦闘前の説明をさぼったことを追及してはぐらかそう』

「そうね。…って心を読むんじゃない」

「?どうしたの?」

「なんでもないわ、こっちの話」

 

 

「サファイア。あまり外に出ないで」

 

とそこで美遊さんが声をかけてくる。その向こうから様子を見る美々たち。

あー、これはなんか言われたな。

 

『申し訳ありませんマスター。イリヤ様にご挨拶をと思いまして』

「誰かに見られたら面倒。学校ではカバンの中にいて」

「あ…あの…」

「美遊さん。話をするなら放課後でいい?学校にいる間はお互い厳しいと思うし。特に転校初日なんて…」

「…それでいい」

「あ…」

 

イリヤに口を挟まれる前に要点だけを伝えると美遊さんはそのまま立ち去って行った。

 

「なんか…声かけづらい雰囲気?」

「まあどうせ放課後に聞きたいことは聞けるでしょ。で、そこのあなたたちは何しているの?」

「やー美遊ちゃんにフラれちゃって…」

「観察よ観察!いろいろ質問してもきょとんとしてるし、なんか急に立ち上がったと思ったら

 

”少しうるさいわね”

 

だよ!?」

「うわあ」

「ああいうクールキャラは今までいなかったからな!くうう!手合わせしてみたいぜ!」

「何考えてんだ嶽間沢流最弱」

「とりあえず美人さんだよなー」

「あれが噂のツンデレなのか!?フラグ探して落とそうぜ!」

「いや、すでに白野とイリヤがフラグを入手していると見た」

「え…女の子同士で…」

「三角関係ってやつか!」

「イリヤちゃんと白野ちゃんと美遊ちゃんで………」

 

 

ダメよ美々、そこから先は地獄よ。

 

 

 

 

 

その日の授業はすごかった。

 

算数ではなんかうん、学力はすごいらしい。タイガーいわく中学範囲の数学らしいけど…小5…。

図工では全然意味が分からないけどなんかピカソみたい。タイガーが泣いてた。美術力もすごい。

家庭科に至ってはすごく料理がうまかった。遂にタイガーが吠えた。

 

 

「あ、でも麻婆豆腐は白野ちゃんの方が上ね。まともに作ってくれた場合だけど」

「せんせー、辛くない麻婆はマーボーじゃありません」

「白野ちゃん基準で考えないで!あなたのはまともに作ればおいしいんだから!」

 

 

心外な。

泰山の麻婆豆腐に比べたらまだまだ修行不足だ。

 

 

 

 

そして体育。

短距離走ということでイリヤの気合が半端ない。大方、完璧超人美遊さんに負けてられるかってとこかな?

でもまあ、私も気合が入っている。

麻婆以外にも見せ場がないと。

 

 

 

 

 

「ろ…6秒9!?」

「すっげー!」

「白野とイリヤが負けた!?」

「無敵キャラだ—————ッ!」

 

 

 

 

 

————負けました。

…く、悔しくなんかないんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは何者なの?」

 

さて放課後です。単刀直入に来られました。

 

「何者って…ハクノも私もステッキに巻き込まれてカード回収をすることになった普通の人だよね?」

 

イリヤナイス。

 

「なら昨日の対処の速さは?」

「事前にラルドに宝具とかは聞いていたからね。けがしたくなかったし慎重になっていた結果かな」

 

苦しいけど今はこれで誤魔化すしかない。さすがにばれるわけにはいかないし、早すぎる。

 

「…そう。そういうことにしておくわ。それじゃああなたたちはどうして戦うの?」

 

…なるほど。

この質問をしたかったんだ。この子も巻き込まれた子だと思っていたけど、そうじゃないのかな?

 

そんなことを考えてる間にイリヤが思っていることを話していたみたい。

 

「————から、このカード回収ゲームも楽しんじゃおうかなーって…

「もういいよ」

……え?」

 

「その程度?そんな理由で戦うの?遊び半分の気持ちで英霊を打倒できるとでも?」

 

言葉に詰まるイリヤ。そりゃそうだ。命がけという実感もなく巻き込まれたイリヤは本当にアニメの世界に紛れ込んだかのように思っていたんだろう。そんなイリヤが戦いに対する心構えなんてできているとは思わない。

 

「あなたは戦わなくていい。カード回収は全部私が終わらせる。せめて私の邪魔だけはしないで」

 

そのまま歩いていく美遊さん。って、ちょっと言い過ぎだ。誰も彼もが立派な心構えなんて持っていないんだから。

 

…私、戦う理由どころか昨日の弁明も満足に出来てないじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

朝、正門をくぐった瞬間に言いようのない違和感にとらわれる。

自分でもよろけなかったのが不思議なくらいだ。

 

「おはよう衛宮。…?どうかしたのか?」

「…あ、ああ。おはよう一成。なんでもない。ちょっと立ちくらみしただけだ」

「ならいいが。体調管理くらいしっかりこなせ」

「返す言葉もないな」

 

授業に身は全然入らなかった。

あの感覚。不快感は段違いだけど、前世での(アーチャーの)経験したライダーの結界宝具の中に立ち入ったときみたいだ。

つまり、学校に結界が張られているかもしれないということで…いや、あの感じはむしろ無意識のうちにずれていたものが元に戻った(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)というべきか。

 

「———みや。おい衛宮!」

「っ!うわあ!ってなんだ慎二か」

「なんだってなんだ。人が話しかけているんだから反応しろよ」

「あー悪い。考え事してた」

「はあ?僕の話以上に大事なことってあるの?まあいいや、叔父さんがもうすぐ仕事から帰ってくるんだ。それで悪いんだけど———」

「ああ、屋敷の掃除か。広いもんな慎二の家」

「あーいや、今回は違う。桜のやつが衛宮先輩に迷惑なんてかけられませんーって張り切っていたから。じゃなくて!その、桜が掃除するから…」

「???どうしたんだ?はっきり言わないとわかんないぞ?」

「—————ッッッ!だから!僕の部屋まで掃除されるんだ!桜に!」

 

ああなるほど。

 

「ベッドの下と箪笥の一番下と机の二重底の本か」

「みなまで言うなッ!ってなんでばれてる!?」

 

そりゃあ桜に相談されたし。

 

「と、とりあえず!預かっといてくれ衛宮!今度何かおごるから!」

「いいよ別に。俺と慎二の仲だろ?」

 

とりあえず、セラやイリヤにばれると殺されるからなんとかしないと。

 

 

 

 

 

 

放課後、少し学校をまわってみる。違和感はなく、むしろ正常なくらいだ。

やっぱり、昨日までは俺も気づかないくらい少しずつ地脈がズレていたってことか。そしてそれが元に戻った、と。

 

そこまで考えて、ふと昨日の深夜に学校に向かっているときに会った白野を思い出す。

…まさか、な。

 

きっと考えすぎだろう。

でも、今日の巡回は教会の方に行ってみよう。確かあそこにも地脈が流れていたはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

…気まずい。

時刻は夜の9時。夕食を食べていると凛姉がやってきた。

でも、家に上がろうとしないから仕方なく近所の公園にやってきた。

 

「—————これでよし、と。待たせたわね白野。防音と人払いの結界を張ったから、何を話してくれても大丈夫よ。さて、単刀直入に聞くわ。白野、あんた魔術関係者なの?」

 

やっぱりそう来たか。

 

「英霊とその切り札である宝具についての知識。戦闘時における円滑な思考回路。なにより、状況の理解が早すぎる。普通魔術師なんて信じないわよ?」

「イリヤは?」

「あの子は別。思考そのものが幼いし、今回のことをゲームとしてとらえている節があるわ。白野は小さい頃から見ていたけど、魔術関係者には見えないわ。…あの教会で仕込んでたのかもしれないけど」

 

後半は声が小さすぎて聞こえなかったが、凛姉はまだ私を信じてくれているのはわかった。

信じてくれた上で、どういうことか聞いているんだろう。

 

「…宝具、と英霊についてラルドに聞いたよ。さすがに戦う前に準備はしたかったし。それ以外は…そのこと以外は今は言えない。ごめん。いくら凛姉でも…」

 

嬉しかった。

元々ラルドに聞いた、で貫ける相手じゃないのだ。そんな凛姉が信用してくれている。

 

つらかった。

そんな凛姉に言えないことが。裏切っているような気がした。

でも、話せない。並行世界から来たなんて、凛姉はバラさないだろう。だけど、どこから話が漏れるかわからないのだ。こんな実例(並行世界への干渉)を体現している私なんて、魔術関係者からしたら垂涎モノの実験材料だ。

 

 

 

 

 

「…………はぁ。わかったわよ」

 

 

数分か、数十分か。もしかしたら数秒だったのかもしれない。

時間の概念がわからないほど重い沈黙を破ったのは凛姉だった。

 

「そんな顔で謝ってこられちゃ、こっちが悪者みたいじゃない」

「え———————」

「ひっどい顔よ?悔しさと申し訳なさがにじみ出てるし、涙でぐっちょぐちょ。せっかくの美人が台無しだわ」

 

顔に手を当てる。知らぬ間に涙も出ていた。

 

「ルヴィアには私から説得しておく。任務を言ってきた上司にも白野たち3人のことは報告しない。だから今まで通りなさい?あんたは私の妹分なんだから、優雅に魅せないとね」

 

「凛、ねえ…」

 

「代わりに!いつか絶対白野の隠していること、教えなさいよ!でないとあんたのこと守れないじゃない」

 

 

ああ、そうだ。

これが、遠坂凛なんだ。

気高く、優雅。

 

私は一生この姉に敵わないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙ぐむ白野を見て思う。

ああ、ほんとに私は甘い。

 

初めて会ったのは7年ほど前か。10年前にお父様が亡くなって、桜がいなくなった真実を知って、綺礼が後見人になった。それでも教会にはあんまり寄りたくなかったから極力実家で魔導の研鑽を積んでいると、教会で子供を引き取ったって聞いた。それがあの子だった。

 

あんな神父に任せておけないって幼いながらも面倒を見てあげたっけ。まるで桜にできなかったことをするみたいに。

 

魔術師としては心の贅肉だ。

 

こんな感情必要ない。

でも、捨てるわけにはいかない。

白野も妹だ。しかも、ぎくしゃくしていた桜との仲も取り持ってくれたんだ。

 

そんな妹を、姉が信じなくてどうする。

 

 

 

きっちりはっきりさせるってルヴィアに言ったのになあ。

 

 

それでも。

せめて、この子が話してくれるその日までは。魔術師遠坂凛ではなく、岸波白野の姉の遠坂凛でいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日付が変わる。

 

「よし。そろったわね!」

 

凛姉はあの後ルヴィアさんを説得しに行ったらしい。不承不承納得してくれたそうだ。

 

橋のふもとに全員揃う。

けど…イリヤと美遊さんはなんか、空気が重い。学校帰りにあったことだけじゃなくて、そのあとにも何かあったのかな?

 

「油断しないようにね、二人とも。敵はもちろんだけど、ルヴィアたちがどさくさ紛れて何してくるかわからないわ」

『お二人の仲の悪さに巻き込まないでほしいものですねー』

 

「速攻ですわ。開始とともに距離を詰め一撃で仕留めなさい」

「はい」

「あと可能ならどさくさ紛れて遠坂凛も葬ってあげなさい」

「……それはちょっと」

『殺人の指示はご遠慮ください』

 

「すうー、はあー。よし!」

『いける?はくのん?』

「ばっちり。油断しないで行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくわよ。3…2…1…」

 

 

 

 

『限定次元反射炉形成!』

 

 

 

 

 

ステッキたちの声が重なる。

 

 

 

 

 

『境界回廊一部反転!』

 

 

 

 

魔法陣が私たちの足元に広がる。

 

 

 

 

接界(ジャンプ)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、2戦目の開幕だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ながら、原作の桜と今作の白野って立場被るなあと。
凛の妹だし、士郎に料理教えてもらっているし。
…やばい、桜に殺される未来が。回避せねば。

そう言えば、EXTRAのシナリオ集発売ですね。ゲーム未プレイでしたので予約しに走ってきました。



誤字脱字ありましたらご指摘お願いします。

読み直したら飛ばしまくってるなぁ…加筆するかも


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5話 敗戦、そして

おき太は結局来なかったよ…
師匠も来ないのにアンメア宝具2になりました。あ、アタランテも来ました。


そういえば、友人と話していたんですがダイジェスト版でもこのプリヤでの第四次聖杯戦争って書いた方がいいですかね?
たぶんやるとしてもツヴァイのクロ編最終話に挟むか、そのあとに第四次編としてやるかになるので相当先ですけど…

あ、前話に凛視点を加筆しました。
流れは変わってないので、そのまま続きを読んでくださっても大丈夫です。


 

 

 

 

5分後。

 

・・・

・・・・・・

 

 

 

負けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って早すぎるよね!?

最新話冒頭がいきなりこれって!

 

とりあえず状況を説明しよう。

 

 

 

鏡面界へとやって来た私たちを待ち受けていたのは空一面に展開された魔法陣とその担い手(英霊)だった。

 

 

 

 

「な…」

 

 

 

 

 

言葉も出ない私たち。

そりゃそうだ。転移したら頭上一面に自分たちへと狙いを定める魔法陣が敷き詰められているのだ。

 

 

「ねえルビー、これって…」

『ええ。どうやら向こうは……戦闘準備万端だったようです』

 

 

ルビーの言葉が終わると同時に降り注ぐ魔術。

隙間なく降り注ぐソレは確実に私たちの命を狙っていた。

 

 

「きゃああッ!」

 

 

一撃一撃が重い…っ!

魔術障壁を最大にしてもここまでの威力って…っ!

 

「ひぁぁーっ!?」

『魔力障壁の展開規模を最大まで拡大!離れたら死にますよ凛さん』

「じょっ…冗談じゃないわ!」

 

凛姉のことはイリヤたちが守ってくれているみたい。この弾幕相手だと厳しいところもあるけど、生身よりかは確実に安全なはずだ。

 

 

 

『はくのんどうする?相手の弾幕を見る限り僕たちの魔術障壁でも突破されるかもしれないけど』

「突破される前に反撃に出たいよね…。この状態で動ける?」

『動けないことはないよ』

「じゃあイリヤのところまで行こう。イリヤに守ってもらっているうちに反撃してみる」

『おっけー』

 

障壁を維持したままイリヤのそばまで行く。

 

「ハ、ハクノ!?大丈夫?」

「なんとか!それよりイリヤ、私も障壁に入れてくれる?タイミングを見て反撃してみる!」

「わかった!」

 

 

ルビーの障壁に入り、魔力をチャージする。

 

 

 

『あらー、ちょっとまずいですね。エメラルド、障壁に少し魔力を回せますか?』

『どうしたの赤姉さん?』

『私のランクA魔術障壁でも受けきれないんですよ。もう持ちそうにありません』

「ッッ!ラルド!ルビーの障壁を強化できる?」

『任せて!』

 

 

そんな!

これじゃ役割分担して戦う意味が…!

 

球体で全方位に張られた障壁に薄緑の魔力が通る。

 

仕方がない、これでもう少しはもつだろう。残った魔力を確実にチャージする事に専念しよう。

 

 

 

「最大出力…!砲射(シュート)!!」

 

 

 

と、横から特大の魔力砲が発射された。

美遊さんの魔力砲!?私がイリヤと二人掛かりでやっと撃てそうなのに、一人でやったの!?

 

「ミユさん!」

『すかさず反撃ですか。やりますね』

「遠距離戦なら望むところですわ!撃墜(おち)なさい!」

 

さすが自信満々に一人でカード回収をするって宣言するだけのことはある。一人でもあそこまで正確に反撃できるなら充分な自信と戦力だ。

 

 

英霊めがけて飛んで行った魔力砲————たぶん私の通常弾よりも強い。イリヤの最大砲射(フォイア)よりかは少し威力が下がるみたいだけど————はそのまま魔法陣の奥に構える英霊へと直撃——する前に防がれた。

 

 

 

「……っ!」

「そんな!」

「なっ…弾いた!?」

 

ウソでしょ!?

あの威力の魔力のカタマリを瞬時に防ぐなんて!

 

 

魔力砲の当たったあたりの空間には、平面上の新たな魔法陣が展開されていた。

 

 

って、なにあの規模…。転移して見た攻撃魔法陣はまだ準備をして待ち構えていたんだって思えば理解できる。

でも、今現れた魔法陣は間違いなく無かった。

つまり、美遊さんの攻撃(・・・・・・・)を目視して(・・・・・)即座にあの規模(・・・・・・・)で展開した(・・・・・)ということだ。

 

「でたらめだ…」

「あれは…魔力指向制御平面!?まさかこれほどの規模で…!」

 

 

 

でも、おかげで弾幕が薄くなった。

この密度なら抜ける!

 

 

「最大収束…爆射(バースト)ッッ!」

 

 

苦し紛れに使った前回とは違う。

しっかりと最大まで魔力を収束させ圧縮した。これならたとえ外れたとしても爆発の余波で多少なりともダメージが見込めるはず!

 

 

 

 

でもそんな思惑はかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■—————…」

 

 

 

 

 

 

 

私たちの理解できない言葉で、魔術師の英霊は詠唱する。

 

 

 

 

 

風が吹き荒れ、私の放った魔力砲を飲み込み、そのまま私たちを閉じ込める結界となる。

慌てて起こした爆発も、荒れ狂う風に飲み込まれる。

 

 

 

 

「くそ…っ!!」

「たっ…竜巻!?」

「まずっ…閉じ込められた!」

『あ、イリヤさん。上見てください上』

 

「う、え?」

 

ルビーの声に一同頭上を見上げる。

 

 

 

「う…ええぇぇぇー…」

 

 

 

 

 

竜巻の中心部、そこにはいまだ詠唱を続ける英霊と、尋常じゃない大きさまで展開された一つの大きな魔法陣だった。

 

 

 

 

「こっ…これはもしかしなくてもDieピンチ?」

『完全に詰みですね―これは』

「竜巻で逃げ場を塞いで、その中心に大規模な術式を展開って…この敵、意地悪すぎるでしょ…」

「悠長に話している場合かー!」

「ててて撤退ですわ撤退ーッ!」

 

 

 

「早く!早く早く早く!」

 

 

 

 

 

 

 

「早く————————ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私たち目掛けて発射された魔術を目前に—————

 

 

 

 

 

————転移が間に合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてギリギリのところで元の世界に戻ってきたのだった。

…まあ、放たれた魔力の余波で全身ボロボロだけどね。

 

 

 

にしてもどうしよう…。あんな敵、想定外すぎる。

弾幕の間を縫って射撃しても、あの魔力反射平面?の前では私たちの攻撃なんて無力すぎるし…。

 

 

「まるで要塞でしたわ…。あんなの反則でしてよ」

『もう魔術の域を超えていましたしね。おそらく神代の魔術…そりゃ障壁で相殺できる範囲をかるーく突破してきますよね』

「あの魔力反射平面も問題だわ。あれがある限りこっちの攻撃が届かない」

『攻撃陣も反射平面も座標固定型みたいだから魔法陣の有効範囲外、つまり魔法陣の上まで飛んでいければ戦いにはなると思うけど…』

「練習もなしにいきなり飛ぶなんて、ねえ…」

 

「あ、そっか。飛んでいけばよかったんだね」

 

 

 

 

 

………

ん?

イリヤ、今なんと?

 

 

 

 

「え?な、なに?」

 

フワフワと浮かぶながら首をかしげるイリヤ。

え、なんで飛んでるの?

 

「ちょっと!なんでいきなり飛べるのよ!?」

 

あ、凛姉が代弁してくれた。見ればルヴィアさんも美遊さんも唖然としている。

私?もちろん驚いている。驚きすぎて逆に落ち着いているくらいだ。

 

『すごいですよイリヤさん!高度な飛行をこうもサラッと!』

「そんなにすごいことなのコレ?」

「わ、私もルヴィアも丸一日練習してようやく飛べるようになったのよ!?」

「強固で具体的なイメージがないと浮くことすら難しいというのにいったいどうして…」

 

 

 

あ、でも練習すれば飛べるんだ…ってことは!

マンガやアニメみたいに空を縦横無尽に駆け巡ったりできるってこと!?

くっ、そうと決まったら———飛ぶ!私は飛ぶんだ!I can fly!!!そうだ!

 

 

「どうしてと言われても…魔法少女って空を飛ぶものでしょ?違うの?」

((なっ…なんて頼もしい思い込み…ッ!))

 

凛姉とルヴィアさんの心の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

—————ふむ。

要は強力な思い込みさえあれば飛べる、と。

ならば話は簡単だ。意識しろ。

イメージするのは常に最強の自分(空を飛び回る魔法少女)—————

 

 

 

 

「くっ…負けてられませんわよミユ!あなたも今すぐ飛んでみなさい!」

「人は……飛べません」

「なっ…なんて夢のない子供…ッ!」

 

 

 

 

周囲のことは意識の外に、目を閉じ、自分の中へと埋没する。脳裏に浮かべるのは空を飛ぶ自分の姿。

イメージは実を結び実体を伴う。そして、今ここに強固な幻想と成す——————ッ!

(*あくまで白野のイメージです)

 

 

 

 

 

 

「そんな考えなのだから飛べ————…へっ?」

 

 

 

 

 

目を開けると私は宙に浮いていた。

 

 

 

 

 

やっっったああああ!!!

 

飛んだ!飛べたよ私!

伊達にマジカルブシドーを見ていないよ!ついに!この!私が!飛んだ!鳥だ!鳥になった気分!いや!鳥なんざ甘い!今日から私はTUBAMEだッ!

 

 

 

 

 

「…白野まで…って、この子がここまではしゃぐって」

「…はっ!私もハクノも飛べたってことは—————まさか!マジブシごっこ空中戦Ver.ができるってこと!?」

 

 

 

「「「……は?」」」

 

 

 

「そうだよイリヤ!これで二人で感想を言い合ってシーンを再現しようってなってもあんなことにはならない!遊具の上からハイジャンプする必要なんてなくなったんだよ!」

「やったよハクノ!!!」

 

 

周囲の視線が痛い気もするけど気にしない——気にしないよ!?

これでヘンなケガをして士郎兄に怒られることがなくなるなんてこれっぽっちも————いや、これっぽっちしか思っていないんだから!

 

 

 

 

「…ミユ。帰って特訓ですわ。あんな二人に負けててよろしいの?」

「…それでも…!人は…っ!飛べません…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

深夜、教会の周囲を探ってみる。

 

 

 

 

 

………ここも、異常はないみたいだ。

 

おかしいな、学校に異変があった以上聖杯戦争縁の場所は怪しいと思ったんだけど。

 

自転車を漕ぎながら考える。

ほかには、郊外の森か?それならここからも近い。ついでに見に行ってみよう。

 

 

徒歩で回るには遠いが、幸い自転車もあることだし。

 

 

 

 

 

 

 

森に着いて後悔した。

意識しないとわからないが、地脈が確実に歪んでいるのがわかったからだ。

 

「まいったな…」

 

そのまま森を軽く探索した結果、明らかに原因らしき歪みがある場所を発見してしまった。

こういう時、世界の異常に敏感なのがありがたいのかそうじゃないのかわからなくなってくる。

 

このまま見過ごすわけにはいかない————けど、地脈の正常化なんて専門外もいいところだ。

俺の魔術は異端に特化したものなんだから。

 

と、そこまで考えてふと思う。

 

「固有結界で上書きした後に、世界からの修正を受けたら一緒に正常化できるんじゃないのか?」

 

ふむ、そうと決まれば実践————したいところだけど、正直今の俺の魔力量じゃ固有結界を展開した後が続かない。

もしそんなときにこの事態を引き起こしている魔術師だか何だかが攻撃してきたとしたら————碌な反撃もできないだろう。

 

「世界を切り裂く剣、なんて弓兵(アイツ)の知っている乖離剣くらいしか思いつかないしなあ。あれは複製できないし」

 

切れ味がいいだけなら簡単なんだけど、とぼやきながら結界内を検索する。

だがめぼしい結果は返ってこない。そりゃそうだ、あったとしても世界を切り裂く、なんて神造兵器の域だ。複製なんてできないだろう。

 

 

—————ん?ああ、この剣だと…境界は切れるかもしれないけど、現状可能性は低い…かな。

 

 

 

仕方がない、セラリズにこの場所を報告して有効な手段を考えてもらおう。

 

 

 

 

 

 




無限の剣製内の剣群考えるのって超ムズイ。
いいじゃないか、偽・螺旋剣Ⅱとか干将莫耶、赤原猟犬とか原作で出てきたやつばっかりでも!
というか、ほぼほぼこれだけなんだよなあ出てきたの…ルルブレとかアイアス、エクスカリバーイマージュ、ナインライブス…

少ない。。。


あ、前書きの第四次関係については活動報告で集計します。
感想にアンケ関連は違反らしいので書かないでください。

普通に感想は感想欄で大丈夫です。
誤字脱字などの指摘、感想待ってます。

……士郎の出番は、もう少し待ってね


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6話 特訓

FGO日記!
金曜日の時点で特別交換券と伝承結晶分の当たり5回引き終わったのでのんびりと素材集め。なぜこの引きが石ガチャで来ない。

プリヤの小説を読みました。
マンガよりも描写が文体の分細かい上にOVAやDVD特典の話も盛られていて面白かった…が、どうしよう。小説を読むとマンガベースの戦闘が薄く感じる…

まあ、敵を強化するにも無印はきついよねーってところで最新話ですどうぞ。


 

翌日の放課後。

郊外の森にやってきました!

 

飛べるといっても魔力効率などにまだ無駄がある。

これをどうにかしないと飛行しながら魔力砲を撃つなんてこともできないわけで、特訓しにやって来たのだが。

 

「何やってるのよイリヤ…」

『うわぁ…』

「違う!違うんだってばぁ!!!」

 

 

 

 

———イリヤが先にいた。なぜか女豹のポーズで。

大丈夫なのだろうかこの子?いや、実際かわいいし涙目上目遣いとか鼻血が出そうなほどイイけどそういうことじゃなくっていやそういうことなんだけどこんな屋外で魔法少女コスした美少女が女豹のポーズって誰かに見られたらまずいっていうそいつの記憶をリセットするまで殴ッ血Killというかその前に私がやられるというかこんなの反則だs——

 

 

 

『あらーついにバレてしまいましたねイリヤさん!昨日からコツコツと練習していた秘策だったのに!』

 

なるほど理解した。

つまりこのルビーはこうして洗脳というかあざとさを覚えさせようとしていたんだろう。

…ふむ。

 

「自分かr「ルビー。他に何の練習した?」って聞いてハクノ!」

 

『えっと例えばー』

「え、え、え、ちょっとま——」

 

イリヤのセリフを遮るようにイリヤはその場でくるっと一回転し、ほっぺたに指を当てにっこり笑う。

この間、スカートはふわりとはためいたが謎の光によって決してその秘奥はあらわさなかった。

 

 

 

『「はいかわいいーーー』」

 

 

 

「ふざけんなッ!」

 

私とルビーのハモリにイリヤが突っ込む。

心外な。

 

 

「かわいいものはかわいいもんねールビー」

『そうですよ。魔法少女にとっての最大の武器それはかわいさ!イリヤさんクラスなら鍛えれば男性特攻+確率で即死+ステータスダウンくらいの宝具に匹敵しそうです!』

「それ、魔力砲に付与できないかな?ポーズ決めて射出で男性特攻とスタンみたいな」

『いいですねいいですね!名付けるなら”女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・イリヤスフィール)”とか”女神の視線(アイ・オブ・ザ・イリヤスフィール)とかでどうでしょう!?』

「いいねイイね!この際、男性特攻どころか魅惑付与だね!」

 

 

「いいかげんにしてーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

「で、何もせずに帰ってきたと」

「う…悪い。でも、俺だけじゃ対処できないと思ってさ」

「もーまんたい。実際判断は間違っていない」

「ですね…勝手に固有結界での塗りつぶしなんて馬鹿げた発想を実行されていたら斧剣(ハルバード)で折檻していたところです」

 

 

ほっと胸をなでおろす。

そんなことがあったら—————間違いなく社会復帰に時間がかかってる事態になっていただろう。

 

 

昨日————時間的にはもう今日だったが、帰宅した後みんな寝付いていたので話すのが放課後、イリヤが出かけた後になってしまった。

 

 

「ですが、確かにその剣ではシロウさんのいう歪みを排除できるかわかりませんね」

 

セラが見解を話してくれる。

 

「そうなんだよな…あくまで”届く”ことに重点を置いてある剣だし」

「となるとやはり匿名で遠坂あたりに情報を流す、というのが最善手でしょう。あまり派手に動いて此方のことを悟られるわけにはいきませんし」

「だな」

 

 

10年前に俺が拾われた原因が聖杯戦争だということはわかっている。が、俺の知っている第四次聖杯戦争とは違うみたいだ。細かいことは依然として語ってくれないけど、セラとリズがこうして生きていることや聖杯戦争自体あんまり認知されていないこと、そう簡単に遠坂に頼れないことからもわかる。

 

…いつか、真相を知る事が出来るのだろうか。

 

あの妖怪みたいなジジイがおとなしいのも気にかかるけど。

 

 

「とりあえず、今晩もう一度森に行って、細かい座標を特定してくるよ」

「無茶だけはしないでくださいね」

 

 

 

 

 

「おふざけはこれくらいにして、」

「自覚していたんだ…」

 

当たり前だ。

 

「飛行を完全にマスターしないとね。今回の相手だと特に」

「え?でももう私たち飛べるんじゃ?」

『いえいえ。魔力の効率運用や高速飛行などやることはまだまだありますよ。魔力自体無限に供給できても、一度に個人が扱える量に制限がありますから』

「ってことは細かい動作の練習と攻撃しながらの飛行とかの練習かな?」

『だねー。二人いるから空中での摸擬戦とかもいいかもね』

 

 

 

 

2人で転身して空中に浮く。

そしてそのまま距離を開け、お互いにステッキを構える。

 

『ルールは簡単です。相手を地面に着けた方が勝ち。余程の攻撃じゃない限り障壁の突破はできませんし、万が一けがをしても私たちが自動回復(オートリジュネーション)かけているので大丈夫ですよ』

 

『じゃあ—————

 

 

 

 

————スタート!!!』

 

 

ラルドの掛け声とともに全力で横にスライドする。するとさっきまでいた場所を飲み込むほどの魔力砲が通過していった。

 

 

いやいやいやいや。

いくら回復できるからってさすがに——————

 

 

『外れましたよイリヤさん!もっと動きを制限するように!』

 

あんたのせいか!!!

 

「特大の————散弾ッ!」

 

 

イリヤから長大な弾幕が放たれる。

全部躱せたら確かに飛行訓練になるけどさすがに無理だ。だからこそ———反撃に移らせてもらおう。

 

「ラルド、障壁と飛行にだけ魔力を集中できる?」

『できるかできないかで言えばできるけど…ってそういうことか。わかったよ』

 

そのまま私の体が緑の魔力に包まれる。よし。

 

「せぇーのっっ!」

 

 

一気に加速し、弾幕に飛び込む。そしてそのまま

 

「え?」

 

直接イリヤに魔力砲を叩き込む!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

あの後何回も摸擬戦を繰り返し、飛行と攻撃に関してはだいぶうまくなったと思う。

 

「そういえば」

 

とイリヤが声をかけてきた。ん?どうしたのかな?

 

「これ、凛さんに預かってるんだけど」

 

って見せてきたのはArcherと書かれたカード。

 

「カードってことは…これが?」

『そうだよ。クラスカードだね。これが今回の任務の対象だね』

『付け加えるならこちらの陣営にはランサー、アーチャーそして昨日回収したライダーのカードが手元にあります』

 

アーチャー、ね…。

その言葉で思い出すのは赤い弓兵。黒白の双剣を手に、黒弓で翻弄した無名の英霊。私が月で共に戦った相棒の一人だ。

 

 

「とりあえず試してみよう…えーと、限定展開(インクルード)!」

 

ルビーにカードをかざし唱えると、その姿は黒弓へと変わっ————た…って…え…。

 

 

「え……?」

 

 

「わ、わ、すごいなあ。これが伝説に出てくるような英霊の使っていた武器なんでしょ?これさえあればもう勝てちゃうんじゃない?遠距離からこう、シュバッって!」

 

 

イリヤが話していることも頭に入らない。

黒弓に釘付けになったままだ。

 

見覚えがある、どころじゃない。私は知っている。あの弓の持ち主を。そう直感が告げている。

 

「あれ?ルビー、矢は?」

『ありませんよ。凛さんは手元にあった黒鍵を矢代わりに使っていました。あ、黒鍵というのは魔術師の一部が使う投擲剣のことです』

「えー!こう、魔力を矢にするとかできないの?」

『そんなアニメ昔ありましたねぇ。でも、できません☆そんなわけで、弓を使うというイリヤさんの発想は確かに素晴らしいですが、今回はできませんね』

 

そうこうしている間にルビーが元に戻る。

あ、限定展開(インクルード)には時間制限もあるんだ。

 

『はくのん?』

「…いや、私たちも試してみよう」

 

 

あの英霊を知っている。いや、でも彼の能力を考えるとその大元の英霊なのかもしれない。

とりあえずこのことはまだ、私の内に秘めていよう。

 

 

 

 

 

ライダーのカードの限定展開(インクルード)は予想通り鎖付きの釘剣だったので、使うのに癖がありすぎるということで使用するのは保留になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば美遊さん、どんな特訓をしているんだろ

 

 

 

「きゃあああああああああああああっっっッッッ‼」

 

 

 

う、ね…?」

 

 

 

…なんだろう今の声は。

 

 

 

「ん?何か振って————き……たぁぁああああ!?!?」

 

 

「お、親方!空から女の子が!」

「そんな場合!?」

 

間一髪避けたイリヤに突っ込まれる。

 

 

 

 

 

 

『全魔力を物理保護に変換しました。ご無事ですか美遊様』

「な…何とか…」

 

 

 

 

空からやって来た女の子は美遊さんだった。

 

 

「ミユさん!?なんで空から…」

「リンゴは木から落ちる…つまりはそういうこと…」

 

ようやくそれだけを口にした美遊さんはよろよろとサファイアを杖代わりに立ち上がった。

 

 

「……飛んでる」

「はい。ごく自然に飛んでいらっしゃいます』

 

あ、美遊さんの目が死んでる。

そりゃそうか。飛べないと信じていたのに私たちが簡単に飛んでいるもんね。

 

ちなみに何回も繰り返した摸擬戦のおかげでかなりスムーズに飛ぶ事が出来るようになっている。

 

『美遊様、ここはやはり…』

「………昨日の今日で言えたことじゃないけど…空が飛べなきゃ戦えない…その…教えてほしい…飛び方…」

 

 

あれ?

 

 

「大変よイリヤ。雀花の言う通りいつの間にかフラグ回収していたみたい」

「とうっ」

 

 

ルビーで頭をどつかれた…っ!

しかも丁寧に魔力で強化して!痛い…っ!

 

 

頭を抱えて悶絶している私を尻目に、イリヤの家でのマジブシ鑑賞会が開催することになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得…できない…!」

 

あーやっぱり。

完全な理論派の美遊さんからしたら、魔法少女アニメで飛べるようになるとは思わないもん。

 

「これ…が…?」

「うん。私たちの魔法少女のイメージの大元だと思う…恥ずかしながら」

「航空力学はおろか慣性や重力、作用反作用すらも無視したでたらめな動き…」

「いや、アニメなんだしそこまで考えて作っているものなんてないと思うよ…」

 

マジブシ5話、空の華を見ながら美遊さんが呟く。

なんか、愕然としているのが伝わってくる…。

 

『実体験に依らないフィクションからのイメージのみとは思いませんでした』

『イリヤさんの空想力はなかなかのものですよー』

「…褒めてるの?」

「イリヤの場合、妄想力かもね」

『あーそうですね。夢見がちなお年頃の少女は現実(リアル)非現実(フィクション)の境界があいまいになりがちですから』

「…褒めてないよね」

 

『このアニメを全部見たら美遊さん飛べるようになりそう?』

「ううん…たぶん…無理」

「じゃあ美遊さん。いっそ、サファイアにそういう飛行機能があるって思いこんじゃえば?そうすれば理論とかすっ飛ばして飛べるようになるかも」

「でも…」

 

 

 

 

『あーもう!ルビーデコピン!』

 

ズドン、とルビーの羽のデコピンがきまる。

大丈夫かな今の音…。しかも煙出てるし…。

 

 

 

『美遊さんは基本性能は素晴らしいですが、そんな固まり切った頭では魔法少女はできません!イリヤさんを見てください!理屈や行程をすっ飛ばして結果だけをイメージする!そのくらい能天気で即物的な方が魔法少女に向いているんです!』

「さっきからひどい言われようなんだけど!」

「事実だから仕方ない」

「ハクノ!?」

『そうですね、美遊さんにはこの言葉を贈りましょう。

 

 

 

”人が空想できることすべては起こり得る魔法事象”

 

 

 

これは私たちの創造主たる魔法使いの言葉です』

 

 

 

 

「…物理事象じゃなくて?」

『同じことです。現代では実現できないような空想でも遠い未来では常識的な事象なのかもしれません。発展しすぎた科学は魔法と変わらない、とも言いますし。それを魔法と呼ぶか物理と呼ぶかの違いです』

 

 

すごく、実感できた。

月の聖杯戦争における聖杯、ムーンセルは地上全ての事象を観測し続けた結果、望む未来に対してのプロセスを演算できるようになったものだ。量子コンピュータを魔術的概念で実現させた神の自動書記装置。起こりえた可能性を選択することで使用者の望むように事象を書き換えることができる。しかも、電脳機構SE.RA.PHすらもムーンセルの触覚だった。

 

なにより、その力で私は転生を果たしたのだ。

第二魔法ともいわれる事象を。

 

 

あくまでも電算機としての能力しか持たないはずなのに、成してしまった。つまりは、ルビーの言うことも納得できる。

 

 

「まあ…つまりアレでしょ?

 

考えるな(Don't think!)空想しろ(Imagine!)!”

 

とかいう…ってうわー…すごく納得いかないって顔ですね…ってハクノまで…」

 

「「…………」」

 

 

 

人が感傷に浸って、ルビーもたまにはいいこと言うんじゃないって思っていたのにこの子は…。

 

 

 

「そう。あまり参考にならなかったけど「おい」少しは考え方がわかった気がする」

「あ…帰るの?」

「また…今夜」

「あれ?家どこなの?」

「…向かい」

 

 

へ?

 

 

『行っちゃいましたね』

「また今夜、か。”あなたは戦うな”とか言われた昨日よりはだいぶ前進したかな」

『あとは三人でキチンと連携が取れればいうことなしなんですがねー』

 

「いや、イリヤ。あなた昨日あんなこと言われた直後に家の前で鉢合わせしたの?」

「あ、そっか。ハクノは知らなかったんだね」

「うわあ…気まずっ」

「あは、は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時刻は十二時。

再び冬木大橋。

 

「さあ、リターンマッチよ。もう負けは許されないわ!」

 

凛姉の声と共に鏡面界への転移魔法陣が展開される。

 

 

 

 

 

 

さあ、再戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郊外の森。

前世ではアインツベルンの森とも言われた場所の、地脈の歪みの中心座標を把握し、足がつかないように郵便として遠坂邸あてに送った。

 

 

その帰り道、そういえば前世の俺の家も聖杯戦争に縁の深い場所じゃん!って思いつき、再び冬木大橋を渡る。

ここまで来たら手間は同じだ。ついでに見ていこう。

 

 

 

「俺の家だと…やっぱり土蔵かな?セイバーを召喚した場所だし」

 

 

そんな考えも、無理やり中断される。

うっすらと空気に広まる魔力によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————この感覚を、俺は知っている。

柳洞寺で、魔術師の英霊をセイバーと共に倒した時に感じたものだ。

 

 

 

—————————この感覚を、私は知っている。

柳洞寺で、小僧()を拉致した英霊が準備万端で待ち構えていた時のものだ。

 

 

橋のふもとへ、感じる世界の違和感の元へと自転車を置いて歩いていく。

 

 

 

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 

 

 

聖骸布を投影し、左腕に巻き付け結ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————さあ、聖杯戦争を続けよう。

 

 

誰かが、ニヤリとそう呟いた気がした。

 

 

 

 

 




そんなわけで次回、キャスター戦。

遂に士郎出番だよ!やったね!

ミユの飛行訓練のヘリコプター落下は視点的な問題で割愛させてもらいました。申し訳ない。

誤字脱字の指摘、感想お待ちしています。

あ、第四次聖杯戦争アンケも継続中です。今のところダイジェスト形式の予感。


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7話 再戦と交錯

やべえ年末年始超忙しい

メリークリスマス!
バイトですが(笑)


 

 

「いい?複雑な作戦を立てても混乱するだけだから大まかな役割分担だけしっかりするわよ」

 

 

 

鏡面界へ接界(ジャンプ)する前にした簡単な作戦会議を思い出す。

 

 

「小回りの利く白野とイリヤで陽動と攪乱担当、突破力のある美遊は本命の攻撃担当ね」

 

 

 

 

 

 

接界(ジャンプ)した先は冬木大橋の下だ。ここならば相手の攻撃範囲外ということもあり、凛姉とルヴィアさんの待機、指示場所となっている。

 

接界(ジャンプ)完了!いい?作戦通りに行くわよ!」

「二度目の負けは許されませんわ!」

 

 

2人の魔術師に叱咤され、私たちが飛び出す。

 

 

「ねえ、なんか魔法陣増えてない?」

『だいたい1.5倍くらいになっていますね』

 

 

イリヤとルビーの会話が聞こえる。実際、空を覆う魔法陣の密度が上がっている。

 

と、そこに幾筋もの赤い光点が密集してくる—————って、

 

「うひゃああ!?」

 

慌てて前方へ回避するや否や、地面に初撃が着弾する。

 

『早く空へ!次弾、来るよ!』

 

 

ラルドに言われるまでもない。全力で低空を高速飛行———そして、後ろから爆発音が聞こえると同時に空中へと舞い上がった。

 

確認するとイリヤはもう魔法陣の弾幕を抜けようとしている。

美遊さんは…

 

「…ねえラルド」

『なに?はくのん』

「美遊さん、飛ぶってか、跳んでない?」

『跳んでるね』

 

美遊さんが空中をまるで足場があるかのように跳び上がっていく。

しかも踏みしめるたびに加速していっているような…。

 

『魔力を固めて足場にしているみたいだね』

「あんなこともできるんだ」

 

 

空中における自由度でいうと、私たちの方が断然高いだろう。

だが、ステッキによって強化された身体能力で跳ぶ美遊さんの方が瞬発力や一瞬の最高速度は勝っているように見える。

 

「ラルド。私もあれ、できるかな?」

 

長距離ならともかく、一瞬の隙を突く場合は跳躍の方が便利かも。

 

『んー。できなくはない、と思うよ。でも、連続しての使用は今は無理だと思う。自分の跳躍距離、速度、その他もろもろを計算して魔力を固めて足場にしないと、着地できずにバランスを崩すとか、固めた魔力に激突するとかやっちゃいそう』

「なるほど。つまりそんなことを考えながら実行できる美遊さんマジパねえ」

 

 

そんな会話の最中もイリヤが距離を保って散弾を撃ち続ける。

 

 

「と。私も!爆射(バースト)!」

 

イリヤの散弾は新たに展開された魔法陣に阻まれて届いていない、が、さすがに広範囲に向けて撃っているおかげか移動を妨害している。

そこで私の爆射(バースト)を魔法陣にぎりぎり当たらないくらいの場所で爆発させる。

爆風にさらされた英霊はわずかに魔法陣の陰から姿を見せ————イリヤの散弾に捉えられる。

 

 

——————よし!!!

少しずつだがダメージを与えている!

これで少しは隙を作れるはず。そうすれば美遊さんの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)でトドメを刺せる!

 

 

勢い付いた私は秘策を展開する。

イリヤの家から帰った後に思いつき、練習した技。

 

 

創成(アーツ)砲門(ゲート)

 

爆射(バースト)が赤い弓兵の壊れた幻想(ブロークンファンタズム)をイメージして作ったなら、これは金ピカの宝具。または弓兵の一斉掃射をイメージして作ったもの。

 

私の背後に6つの魔法陣が展開される。

ラルドの提案を受け、この魔法陣は私との距離の座標を固定しているので飛んでいても自動的に私についてくる。

 

 

装填(チャージ)完了!爆射(バースト)連続放射(フルオープン)!!!」

 

発射される6つの爆射(バースト)

一撃一撃の威力は下がるが、散弾を撃てない私にとって数少ない密度で攻める攻撃だ。

 

ちなみに自動で再装填(リチャージ)するようにしてある。

爆射(バースト)にすれば1つの魔力砲に込める魔力が少なくても爆発させることで威力の底上げが可能だし、そのおかげで途切れることなく連続で弾幕を張れる。

 

 

「いっけええええ!!」

 

 

私の魔力砲が爆発し、相手を揺さぶる。かといって回避しようとすればイリヤの散弾に捉えられる。

それが数度繰り返された後。

 

 

 

——————ここだ。

私は背後の魔法陣を二つ減らし、その魔力で

 

 

速射(クイック)!」

 

を放つ!!

 

 

 

今まで爆発を繰り返してきた魔力砲が急に段違いの速度で英霊を襲った。

それは完全な不意打ちだったようで、隠れていた魔法陣から完全にその姿を押し出すことに成功した。

 

 

「よし!」

「これで!」

 

キャスターを完全に無防備にする事が出来た今なら!

 

 

 

 

「クラスカード”ランサー”、限定(インク)——————

 

 

 

 

私たちの中で最も瞬発力のある美遊さんが距離を詰めようとしたとき、キャスターの姿が空中から掻き消えた。

 

 

 

「ミユさん、上!」

 

 

切迫したイリヤの声が響くが、一瞬遅かった。

 

 

美遊さんの上に瞬間転移したキャスターが手にした(スタッフ)で殴りつけた。

 

 

「美遊さんッ!」

 

 

杖そのものにそこまでの攻撃力はない。キャスターそのものの直接攻撃力もだ。だが、斥力と魔力を纏わせた杖の一撃は美遊さんを空中から地面へとたたきつけるのに十分な威力があった。

 

「がぁッッ!?」

 

「ミユさん!」

 

 

「転移魔術ですって……!?」

「そんな、あの魔術は神代の…」

 

凛姉とルヴィアさんが驚いているが無理もない。空間転移なんてそう簡単にできることじゃないからだ。それはカレイドの魔法少女である私たちでも同じらしい。飛行の練習をするときに、飛ぶくらいならサイヤ人みたいに瞬間移動すればいいんじゃ?ってラルドに聞いてみたらそう言われた。

 

 

「と、ま、れえええええ!!!」

 

美遊さんへの追撃を防ぐように背後に待機させていた魔法陣から魔力砲を放つ。が、一度披露したからには隠す必要なんかないとばかりに転移を繰り返し、少しも妨害できている気配がない。

 

「ミユさん!」

 

イリヤの声に思わず下を見ると、無数の赤いレーザーライトに照らされる美遊さんがいた。起き上がろうといているが、タイミング的に回避は間に合いそうにない。

 

 

背筋に冷たいものが走る。

 

 

絶体絶命。

今まさに攻撃魔法陣が瞬こうとした時、

 

 

 

 

どんっ、と美遊さんの体が横にとばされる。

 

 

 

「…ルヴィアさん…っ!?」

「あんのバカ!」

 

美遊さんの驚きの声と凛姉の叫び声が響く。

 

 

「ルヴィアさん、ナイスフォロー!」

 

 

矢のようにイリヤが接近し、そのまま美遊さんを抱えて一気に飛翔する。

 

キャスターは美遊さんを狙っているのか、そのまま飛翔するイリヤを狙い続けた。でも、

 

 

 

「ぬっ、抜かりましたわ!爆撃の有効圏内にーっ!」

「さっさと橋の下(こっち)に戻れバカ!」

 

 

せっかくかっこよかったのに締まらないなあ。

 

 

 

「大丈夫?」

「うん、なんとか。ミユさんもけがはない?」

「ええ」

「にしても、どうするよ…」

 

 

背後の砲門の数を魔力の効率を考えて3門まで減らし、速射(クイック)を使ってけん制しながら二人に聞く。それでも弾速最大のものに比べると速度は落ちるが。イリヤも散弾を放っているが、転移を使う相手にはあまり効果が見られない。

 

 

 

「…1つ、手がある」

 

そんな時、美遊さんが提案してくれた。

 

「どうするの?」

「それに賭ける、しかないか」

「説明するわ。聞いてくれる?白野の速射を見て思いついたんだけど—————」

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよルビー!」

『いつでもどうぞ!』

 

充分な初速を付けてイリヤが一気に前進する。

 

「イリヤスフィールが前に!?」

「だーっ、あのバカ!せめて役割分担くらい守れーッ!」

 

 

 

下で二人が吠えているが気にしない。

 

美遊さんの空中跳躍を手本に、魔力を固めて足場にしてその場でステッキに魔力を集中させる。飛行するよりも、一か所にとどまるならこっちの方が魔力効率がいい。

 

離れたところで、美遊さんも同じように魔力を集中させているのが見える。

 

 

 

「どうせ逃げられちゃうのなら…どこに転移しても当たるような—————弾幕を張ればいい!!」

 

イリヤの声が響く。

 

 

「お願い!跳ね返して!極大の——散弾ッッ!!」

 

 

そして放たれた散弾は魔力指向制御平面の裏側(・・)に当たって反射し、放ったイリヤにさえ予測できないような極大の弾幕を形成した。

 

 

キャスターもこれには驚いたようで、転移直後に防御魔法陣を作る。

 

 

だが。

 

 

 

 

「「最大弾速……」」

 

 

 

私たちは転移して回避できないこの状況を待っていた!

 

 

 

狙射(シュート)!」「速射(クイック)!」

 

 

 

今までの速射(クイック)とは込めてある魔力の量が違うソレは美遊さんの魔力砲と共にイリヤにばかり注意して無警戒だったキャスターに直撃し、そのまま地面へと叩き落した。

 

 

「や…やったか!?」

「イリヤダメそれフラグ!!!」

『まだです!敵の魔力補足しています!』

 

イリヤがあんなこというから!

と、返す暇もなくステッキを構えなおすが、

 

 

Zeichen(サイン)————爆炎弾7連————」

Anfang(セット)————豪風弾5連————」

 

 

「「炎色の荒嵐(ローター・シュトゥルム)!!!」

 

 

凛姉とルヴィアさんの放った宝石魔術による大爆発に飲み込まれた。

 

 

「やっぱ…強いんだねあの二人」

『普段の言動を見ていたら疑わしいからね。今回は意外と役に立ったね』

 

私たちの下に展開されていた無数の魔法陣が消えていくのを見ながらラルドと話す。

 

横にはルビーが打ち上げたのか、イリヤ型の花火まで上がっている。

 

 

「降りてきなさい美遊。カードを回収して帰りますわよ」

 

ルヴィアさんが美遊さんを呼んでいる。

私たちもそろそろ降りよう。

 

足場にしていた魔力を霧散させ、飛行に切り替える。

 

『お疲れさまはくのん』

「ありがと。ギリギリだったね…。イリヤ型の花火、ルビーかな?」

『そうみたいだねー。祝砲らしいよ』

「?声は聞こえない…こともないけど、結構距離あるのに…通信機能でもあるの?」

『あるよ』

「あるんだ」

 

 

 

 

その時だった。

私たち全員が巨大な魔力を感知したのは。

 

「…ッ!?」

 

 

全員があわてて右方向を見る。

そこには———そこには巨大な魔法陣が三つ並び、その中心にはボロボロになったキャスターがいた。

 

「あの魔法陣は昨日の———ッ!?」

『まずい!空間ごと焼きはらうつもり!?』

 

 

驚愕に包まれている間に、美遊さんだけが動き出していた。

 

「ミユさん!ダメ!!」

「間に合わあない!!!」

 

私たちの悲鳴が重なる。

距離が開きすぎている!!!

 

 

———横から強烈なプレッシャーを感じた。

見ると、イリヤが巨大な魔力砲を作っていた。

 

これなら!!

 

 

何も考えず、魔力砲に乗る(・・)

 

 

「ミユさん!限定展開(インクルード)を!」

『はくのん!?!?」

 

 

そのままイリヤに撃ち出された。

 

 

圧倒的な速度で美遊さんに近付く。

美遊さんの跳躍と同じだ。魔力砲を足場にすれば一時的だが圧倒的に加速できる。

 

サファイアにランサーのカードを限定展開(インクルード)しながら振り返った美遊さんの顔が驚きに満ちている。

 

 

—————なんだ。そんな顔もできるんだ。

 

 

昨日の帰り道やさっきの飛行訓練を思い出して、美遊さんの表情にちょっとにやけそうになる。

 

そのまま野球のバットのようにラルドを振りかぶり、魔力を貯める。

 

その意図を察してか、美遊さんも膝を曲げ、跳躍の体制をとる。

 

 

「そのまま—————いっけええええ!!」

 

そしてフルスイングと共に魔力砲に美遊さんを乗せて撃ち出す!!!

 

 

「———————————……ッッ!!!!!!」

 

 

そして、今度こそ。

呪いの槍は魔術師の英霊を貫き、キャスターを撃破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美遊に向かって魔力砲を撃つなんて!なんて無茶をしますのこの子はーっ!」

「あんたもよイリヤ!あんなことぶっつけ本番でやるな!」

 

「「痛だだだだだだ!?!?」」

 

2人して凛姉とルヴィアさんに頭をぐりぐりされる。

 

超痛い。

 

「ああもう。反省した!?」

「「ず、ずびばぜん…」」

 

2人して涙目で答えたら、美遊さんのこともと言われた。

断ることもなく、そのまま暴走しそうなルヴィアさんから逃げるように美遊さんのところまで行く。

 

「おつかれ美遊さん!」

「ケガ、ない?」

 

「ええ。大丈夫。ありがとう」

 

おろ?

なんか心なしか表情が柔らかい気がする。

 

「?なんかかわったねミユさん」

 

イリヤも感じたのかそんなことを言っている。

 

「そ、そんなこと…それよりも、そろそろ戻ろう?」

 

あ、なんかはぐらかされた。

 

「なんか隠しt」

 

ズドォォォンッッッ

と響いた重低音に、私の言葉は遮られる。

 

 

 

 

 

『……最悪の事態です』

「ど、どういうことルビー!」

「あり得るのそんなこと…」

『完全に想定外…ですが、実際に起こってしまいました…!』

「…っ!凛、姉!!!」

『やばいよ…!』

 

 

視線の先には。

全く動かない凛姉とルヴィアさん、そしてその二人を見下ろす黒い剣士。

 

 

「2人目の敵なんて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレはそこにあった。

 

うっすらと滲むキャスターの魔力の元を探していると、そこは橋の麓だった。

 

———士郎は知る由もないが、その場所はイリヤたちが接界(ジャンプ)した場所でもある。

 

その場所で、突如俺の目の前で世界にヒビが入った。

 

 

「な……」

 

 

どう見直しても、亀裂だった。

さらに言えば、その向こうからより濃厚な魔力が流れ込んでいる。

 

「これが…地脈の歪みの原因なのか…」

 

キャスターよりもさらに覚えのある魔力に腰が引けそうになる。だってそうだ。

この魔力は———————

 

 

物思いに耽りそうな思考を無理やり正される。

 

 

——————————————(エクスカリバー)……。

 

 

実際に聞こえたわけではない。

ヒビが入っているからといって伝わるわけではない。

 

 

だが。

この魂は。衛宮士郎の魂は聞き間違えることはない。

 

土蔵での輝くような出会いを。

私の代わりに■と契約した彼女を。

 

————大空洞にてライダーと共に戦った彼女を。

 

 

改めて、虚空に浮かぶヒビを見る。

これならば、境界を切り裂かなくても届くかもしれない。

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

昨日考えた剣を、丁寧に複製する。

その宝剣の意味を。意義を。概念を。決して漏らさないように。

 

 

そしてできたのは両刃の中華剣。

刀身に文字が彫られているその宝剣の名は

 

 

 

天に轟く人支の宝剣(倚天の剣)————!」

 

 

 

三国志の英傑、魏の曹操が所持していた宝剣の一振り。

鉄を泥のように切断し、人を支える剣として所持していたが、その本質は天によりかからせる、天を貫く剣だ。

 

そして天とは人とは違う領域のことを示す場合がある。

 

その概念を固め、異界へと届かせる剣に改変したのだが————おそらくは空間に亀裂がなかったら干渉する事すらできなかっただろう。

 

 

 

でも。

今回はその亀裂を貫き————俺を届かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の前で、宝具が放たれた。

三人の中で唯一転身したままの私がイリヤと美遊さんをその余波から守る、が。

 

 

「凛姉!ルヴィアさん!」

 

 

返事は帰ってこない。

 

 

圧倒的な黒騎士の前に私たちじゃかなわないと、ルビーとサファイアを使い凛姉とルヴィアさんが立ち向かった。

 

だが、押しているようにもみえた状況は黒騎士の放った宝具により一変する。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)って…」

「あの有名な…アーサー王だというの…?」

 

 

呆然としたイリヤと美遊さんの声が聞こえる。

 

 

早く接界(ジャンプ)して逃げないと。

————凛姉たちを置いていけない。

 

 

 

 

 

 

そんな葛藤の中、誰も動けないでいると、突如その光は現れた。

 

 

 

 

 

私たちが始めに接界(ジャンプ)したあたりに突如白い光が生まれる。

 

眩いその光に、黒騎士も含めた全員の目が奪われる。

 

 

 

 

 

 

そしてその光が収まるとそこにいたのは、

 

 

「お兄…ちゃん…?」

「…士郎…兄…?」

「……っ」

 

美遊さんの息をのむような雰囲気も感じるがそれどころじゃない。

 

 

 

 

 

そこにいたのは赤い布を左手に巻き付けた親友の兄(衛宮士郎)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




年内の投稿はあと一話いけるかなーというところです。
凛とルヴィアの戦闘は原作と同じなので割愛。
小説だとルヴィアがせっせと準備した魔法陣が167個も展開されていて、漫画だと6個だったのにやべえ…

次回、オルタVS士郎
HFにてライダーと共に戦い、ようやく辛勝した相手にどうするのか作者。

…まあ、アーチャーの腕からの浸食がリアルタイムでないだけましかな


誤字脱字などありましたらよろしくお願いします。
アンケ、感想も待ってます。


…もうオリ宝具なんて考えねえ(爆


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8話 参戦、追想

年内ラスト更新。
月曜5時を目指していたけど、過去最高の文字数だ間に合わなかった…


戦闘なので視点変換はあまり入れたくなかったのですが、W主人公が揃っているから結構変換しまくってます。

あと、原作通りのところは端折ったりしています。あくまでオリ部分だけ…のはずだったのに過去最高の長さ……

悩んだ結果分割することに。
後編は加筆して投稿するので年内は厳しいかな?

それでは本編どぞ!
……これが今の描写力の限界。


 

俺を包んでいた光が収まる。

 

目を開くとそこには、

 

 

「お兄…ちゃん…?」

「…士郎…兄…?」

「……っ」

 

いつも見慣れた(イリヤ)と、和服?みたいな奇妙な服を着た妹の親友(岸波白野)、初めて見る黒髪の少女がいた。

 

さっきまでいたところと変わらないように見えるけど、空には格子状の模様が並び、地面にはえぐれたような箇所がたくさんある。

 

 

……それだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れもしない。

 

 

 

黒く染まった美しい騎士が、ひときわ深い亀裂のそばにいた。

 

 

 

 

どういう…こと…?

 

横を見ると、戸惑ったように固まったままのイリヤがいる。美遊さんも唖然としている。

 

 

 

—————それどころじゃなかった。

 

凛姉たちの救助もしなくちゃいけないのに、士郎兄までこんなところに出くわしちゃうなんて!!!

 

 

「お兄ちゃん!」

 

イリヤが悲鳴のように叫ぶのと同じくらいのタイミングで、黒騎士が士郎兄に斬りかかった。魔力の霧を集めてはいないけど、それでも十分に人を殺せる。

 

 

 

 

「————ッッッ!!!」

 

 

声にならない叫び声をあげながら士郎兄を庇おうと疾走する。

凛姉とルヴィアさんと共に、ルビーとサファイアもどこかへいっている。宝具の一撃を食らったんだ。絶望感が過ぎるが、今動けるのはラルドがいる私だけだ。

 

 

 

 

 

 

だが、黒騎士と士郎兄までの距離は、あまりにも遠かった。

 

 

 

 

後ろでイリヤと美遊さんの悲鳴が聞こえる。私自身、なにを叫んでいるのかわからないほど吠えている。

 

 

そして無慈悲にも、聖剣が振るわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何度目の驚愕だろう。

 

 

 

 

 

士郎兄までは、黒騎士の一撃を、

 

 

 

虚空から取り出した、見覚えのある陰陽(白黒)一対の中華剣で受けきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…ッ」

 

 

反応、できた。

 

 

とっさに投影した干将莫邪を交差させ、セイバーの聖剣を受けきる。

恐らく手加減されたのだろう。じゃないと、真正面から受けきれるとは思わない。

 

 

 

 

「ふッ!」

 

そのまま滑らすように聖剣を受け流し、返す刃で一撃を狙う。が、その攻撃は見切られ、バックステップで回避される。

 

 

だが、距離が開いた。

 

 

「イリヤ、白野!こいつは俺が引き付けるから、早くここから逃げろ!」

 

 

なぜこんなところにいるのかはわからない。

深夜、一人で歩いている白野を見て地脈を歪めている原因かと邪推したけど、この雰囲気じゃ違うだろう。

 

 

だから三人に向けて逃げるように言ったのに、

 

 

「士郎兄!凛姉が!ルヴィアさんが!」

「お兄ちゃん!ダメ!!!」

 

!?

凛姉…白野の言うその人は遠坂だ。家に遊びに来ているときによく聞いた名前だ……って遠坂!?

あいつ、留学から帰って来てたのか!?

 

いや、それよりも泣きそうな声からするに、セイバーと戦ってやられたのか?

 

 

 

 

「くそ!遠坂達を探して、安全な場所まで———」

 

言い終わる前に突如黒い斬撃が飛来する。

 

間一髪躱したけど…あの黒い魔力の霧を剣に纏わせて飛ばしているのか!?

 

 

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

干将莫邪を再び投影する。

だが、手数が圧倒的に足りない。

 

 

セイバーと何度も打ち合いながら全力で考える。

既に干将莫邪は何本も砕かれ、その度に投影しなおしているがじきに中身が伴わなくなることは間違いない。

 

 

アーチャーの剣技を模倣し、鍛錬してきた俺の技は防御重視の剣技だ。それが幸いして未だ致命傷は避けているが、剣自体の神秘に差がありすぎる。

 

 

 

「■■■■————」

 

 

 

セイバーの叫びが聞こえる。

咄嗟に双剣を破棄し、脚力の強化に全力を注いで飛びずさる。

 

それでも空気を巻き込んだその一撃の余波を食らい、数メートル吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「が—————ぁっ」

 

 

呼吸が止まりそうになりながらも、頭の中で設計図を作ることはやめない。

むしろ————距離が開いた。

 

 

 

 

「—————停止解凍、全投影連続層射!!」

 

 

 

干将莫邪の設計図を破棄した分を使い、無理やり待機させていた剣群を続く第二撃を放とうとしているセイバーに向けて放つ。

さっきまでは距離が近すぎて使う事が出来なかった。でも、まだ近いけど今ならば使える!

 

 

セイバー目掛けて飛んでいく剣群のほとんどは宝具でない刀剣類だ。それでも十分な弾幕になる、と次の攻撃に備えるべく投影に集中しようとする。足止めできるとは思わないが、少しでも時間を稼げればその分精度の高い投影ができる。

 

 

 

「■■■■■————」

 

 

 

 

だが、そんな思いは粉々に砕かれる。

 

 

剣を振るうことすらしない。

黒い魔力の霧をそのまま身に纏い、聖剣からブースターのように魔力を放出させながら剣群を突き抜け—————大した傷もなく、勢いのまま剣の柄で殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「ぐ————ぁあああああッッッ!!!」

 

 

 

 

今度こそ吹き飛ばされた。

遠く、イリヤたちの声が聞こえるがそれどころじゃない。強制的に吐き出された酸素を求めるように喘ぐが、殴られた腹部が強烈に痛む。

起き上がることすらできずに、涙の滲む目でぼんやりとセイバーを確認すると————再び魔力の霧を聖剣に纏わせていた。

 

 

 

「…っ、投影、開始(トレース・オン)…っ」

 

 

 

痛む体を無理やり起こしながら設計図を思い浮かべる。

回避は無理だ。せめて少しでも回復しないと。

 

幸い、さっきと同じなら撃ち出されるのは宝具(エクスカリバー)じゃない。希望的観測だが、宝具じゃないなら防げるかもしれない。

 

 

 

 

「■■■■■————!」

「———投影、完了(トレース・オン)!」

 

 

 

セイバーとの射線上に大剣を6本投影する。それは俺が前世でイリヤを守るために狂戦士(バーサーカー)本人が持ち、俺が投影することでイリヤの従者(バーサーカー)を討った岩の斧剣。十分な設計図を作る事が出来なかったが、その分数を投影した。これなら————。

 

 

 

1本目、たやすく粉砕され破片は霧散する。

2本目、そのままの勢いで両断される。

続く3本目、4本目も破壊され———5本目で斬撃の魔力が薄くなっているのを確認できた。

6本目は拮抗する。

 

 

————いける。

セイバーの斬撃に含まれていた魔力は、斧剣を貫くごとに減っていっていた。6本目で拮抗しているなら、そのまま霧散させれるまで耐えられる!

 

 

 

 

 

「■■■■■————!」

 

 

 

でも俺は完全に失念していた。

差し迫る命の危機に、完全に頭から離れていた。

 

 

 

 

 

 

斬撃は、1度で終わるとは限らない。

 

 

 

後を追うように飛来した斬撃が次々と重なり、わずかばかりの拮抗など完全に吹き飛ばし、巨大な斬撃となって襲い掛かる。

 

 

投影は間に合わない。回避も間に合わない。そもそも、バーサーカーの斧剣を投影したのだってさっきの一撃のダメージが少しでも抜け、多少なりとも動けるようになるまでの時間稼ぎだったんだ。

 

 

 

—————死ぬ。

濃厚な死の気配に包まれる。

 

 

 

 

 

「士郎兄ーッ!」

 

 

だが、目前に迫った死は、自分の横へと通過していた。

倒れそうな体を、白野が支えながら横に回避できた。…にしても、年上を支えられるって…。

 

 

 

「大丈夫!?」

「何とか…それより、白野。それ…どういうことなんだ?」

 

そのまま白野は飛びながら(・・・・・)俺を抱えてイリヤたちの横に着地した。

 

 

 

 

 

間に合った…。

 

ギリギリのタイミングだった。

 

 

士郎兄が黒騎士と戦闘を始めたときは心臓が止まるかと思った。駆けだしていた私はそのまま合流しようかと思っていたけど…思わず、足を止めてしまっていた。

 

イリヤと美遊さんも後ろの方で声を失っている。

 

 

士郎兄は、虚空から次々と剣を取り出しながら黒騎士と戦っていた。

 

 

「—————停止解凍、全投影連続層射!!」

 

そんな呪文と共に放たれる剣群にそれをものともしない黒騎士。

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

詠唱も、姿も違う。

 

 

 

 

だけど————その姿を幻視した。

 

 

 

 

 

「ハクノ——————ッッッ!!」

 

 

イリヤの悲鳴に、現実に戻される。

 

 

士郎兄は地面に倒れたまま巨大な剣を間に何本も挟み、黒騎士の斬撃を耐えようとしている。

でも、私たちからは黒騎士が追撃を放とうとしているのが見えた。

 

 

慌てて全速力で士郎兄を捕まえ、横っ飛びをする。

なんとか、回避できた…。

 

 

 

 

 

士郎兄をイリヤたちの元に連れていく。

 

 

「お、お兄ちゃん…だよね?」

「ああ。でも、説明は後だ。あのセイバーをどうにかしないと」

「セイバー…?あれのこと?」

「っ、ああそうだ」

 

 

明らかにまずっ、って顔。

嘘を付けない士郎兄らしい…けど、今の私はそれどころじゃない。

 

 

「士郎兄…」

 

思わず声が漏れるが、言葉にならない。

 

 

 

本当に、士郎兄なのか。

彼は、士郎兄と関係があるのか。

 

 

—————人々の正義の味方の概念の体現者の、無銘の英霊の継承者なのか。

 

 

 

答えは、出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバー、という名前は知られていなかったのか。

やらかした、と思う。誰も知らない情報を知っていたんだ。後で追及されるのは想像に難くない。

 

でも、今は目先の脅威をどうにかしないと。

 

 

無言の白野と黒髪の少女が気になるが、ひとまずは置いていこう。

 

 

「どうする?アイツ相手に何か手はあるのか?」

 

セイバーを見ながら、三人に問う。何故かセイバーはその場から動かず、剣も構えずに佇んでいる。

 

『とりあえず、シロウさん?でよかったかな?貴方の傷をちょっとでも治療するよ』

「わ…ステッキが…話した?」

『そのことも含め、後で話すよ。シロウさんに聞きたいこともあるし。はくのん、僕をシロウさんに当てて』

「あ、うん。わかった」

 

そのまま腹部に当てられたステッキから緑の魔力が流れ————完治とはいかないが、だいぶ傷が癒された。

 

『さっきの戦いぶりを見ている限り、この中で唯一あの英霊に対抗できる可能性があるのはシロウさんだけだからね』

「助かる。確かここに遠坂もいるんだったな」

「お兄ちゃん、凛さんのこと知ってるの?」

「ああ。イギリスに留学する前同じクラスだったからな…なんでこんなところで再会するんだよ…」

『とりあえず、凛さんルヴィアさんを救助して、いち早くここからの離脱。これを目的に動こう。あれ相手に勝てるとは思わないよ』

「そうだな。治療してもらって悪いけど、たぶん俺じゃアイツに勝てないし時間もあんまり稼げない」

「……じゃあ。私とラルドがバックアップにはいる」

 

 

「「白野!?」」「ハクノ!?」

 

 

思わぬ提案に白野以外から驚きの声が上がる。

 

「だってそうでしょ?現状士郎兄以外に戦えるとしたらラルドがいる私だけなんだから」

「そうだけど…」

「泣きそうな顔をしないでイリヤ。あくまで撃破じゃなくて、凛姉たちを救助するまでの時間稼ぎなんだから。無理する…とは思うけどそう簡単にやられるつもりはないよ」

 

白野が俺を見ながらそう答える。

 

「それでも心配なら…できるだけ早く凛姉たちを見つけて。そうすれば早く逃げられる」

「わかった」

「ミユさん!?」

「現状、それしか方法はない。…こっちも頑張るから、絶対無理はしないで」

「美遊さん…わかった」

 

 

少女たちの話がまとまる。

…置いて行かれた気がしたけど、仲良いことは良いことだよな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

もう何度目かもわからない干将莫邪の設計図を脳内に保持しながら、あいつ(アーチャー)が使っていた黒弓を投影する。

 

横で白野が息をのんでいるが、今は意識の外に置いておく。

 

 

続いて投影した剣を改変する。刀身をより長く、鋭く。さらに、改変した剣の設計図を干将莫邪の設計図と共に保持する。

 

 

 

剣を、弓につがえると同時に白野が動き出す。

 

「ラルド!凛姉みたいに…身体強化に7、物理保護3!!!」

『無理しないでね!』

 

弾丸のように駆けだした白野はステッキの先端に魔力を貯めながら低空で疾走する。

 

セイバーも迎え撃つように剣を振るう————が、それを紙一重で避けた白野はそのまま懐へ潜り込み、ゼロ距離で魔力砲を放つ。

 

魔力の霧に妨害されず、直撃した魔力砲はセイバーの体制を崩し、

 

 

「ふッ!」

 

そのタイミングを狙い、()を放つ。

吸い込まれるように放った矢はセイバーに向かう…が、圧倒的な直感が働いたのかそのまま叩き落される。

 

でも、白野への追撃は防げた。

 

その間に白野は体勢を立て直し、矢を迎撃し無防備なセイバーに向け再度ステッキを振るう。

その魔力砲はまともに直撃し、爆発した。初めて目に見えてセイバーが勢いよく後ろに弾かれる。

 

 

————ここだ。

追撃の投影を繰り返し、矢を連射する。さらにアーチャーに比べると錬度は低いが壊れた幻想(ブロークンファンタズム)まで披露する。

 

 

 

 

舞い上がった砂ぼこりが晴れると、セイバーの甲冑がところどころ砕けて素肌を晒していた。

 

「嘘…でしょ…」

 

だが、それさえ魔力の霧に覆われると治ってしまう。

 

 

 

 

 

————覚悟を決めろ。

 

アイツを止めるのは、俺の役目だ。

確実に命を奪わないと、セイバーは何度でも動き出す。一撃で消滅させるか、サーヴァントと同じなら心臓か頭を潰さないと。

 

 

 

そう決心する。

倒さなきゃならない。彼女とは別なのはわかっている。それでも…セイバーの最初のマスターは俺なんだから。幸い、今の彼女からは理性を感じない。これは確実だ。じゃないと、二人がかりとはいえここまで戦えるとは思わない。

 

 

撃鉄を上げる。

思考がさらに一段階上がる。と共に、左手の聖骸布の結び目に手をかける。

 

 

 

 

もし。

もし、あの時セイバーに一人で相対していたのなら———

そんなことを思い、結び目を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎兄の左手の赤い布が解かれた———と同時に、前衛を務めていた私の前に飛び出す。

 

「しろ———」

 

声をかける間もなく双剣と聖剣が交わり、二人の剣戟が交わされる。

 

 

 

 

ああ、間違いない。

ここに至って、私は確信していた。

 

 

 

赤い弓兵の戦闘スタイルは、細かい差異はあるが士郎兄とほとんど全く一緒だった。

加えて、使う武具は共通している。

 

 

士郎兄は、あの弓兵の子孫。

伝承保菌者(ゴッズホルダー)として彼の武具、戦闘スタイルを引き継ぎ伝える者なんだ、と。

 

もしかしてすると、彼の宝具(固有結界)すら引き継がれているのかもしれない。

 

でも、それなら私にできることもある。

無銘の英霊の動きなら知っている。ならば、完璧なサポートができる。

 

 

 

「ラルド、ぶっつけ本番の創成(アーツ)ってできる?」

『…強固なイメージがあったら、できないことはないよ。でもどうするの?あの戦いは一つの神話としてあってもおかしくないよ?』

「直接攻撃はしない。少しでも動きを制限出来たら…それだけでも十分なはず」

 

そう決意して創成(アーツ)のイメージを作る。

 

————防御壁と、鎖。

この二つに集中する。

 

 

 

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

いつの間にか黒騎士との距離を開けていた士郎兄の声が届く。

 

 

そして、両手に握っていた双剣を———投擲した。

 

 

 

「————鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

 

 

「!!!」

 

 

この技は!

 

 

黒騎士は首目掛けて挟み込むように飛来する魔力の込められた双剣を容易く撃ち払う。黒白の双剣が後方へと弾かれる。

 

 

「————凍結(フリーズ)解除(アウト)

 

彼の詠唱が響く。

 

 

 

 

「————心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

 

 

再び士郎兄の両手にさっきと同じ双剣が現れ、即座に黒騎士へと斬りかかる。

 

 

 

 

「————心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

 

 

 

すると、後方に弾かれたはずの二振りの陰陽剣が導かれるように士郎兄の手の剣へと引き寄せられ、手に持つ双剣と合わせて4つの斬撃が同時に黒騎士を襲う。

 

 

 

 

「■■■■————ッ!!」

 

 

 

 

だが、黒騎士は目元を覆うバイザーを砕かれながらも驚異的な反応でその全てを打ち払う。4つの斬撃は砕かれ、士郎兄は一見無防備な姿をさらした。

黒騎士は無理な体制をしているが、理性を失っている分野生の勘とでもいうべき恐るべき直感による迎撃は見事に成功し、士郎兄へと視線を向ける。

 

 

 

創成(アーツ)(チェーン)!」

 

一瞬、金ぴかの鎖の名前にしようと思ったが、そんなことをしたら並行世界とか関係なく殺される気がしたのでやめておく。

 

ともかく、虚空から飛び出した四角形を連ねたような魔力の鎖は黒騎士の足元と腕を狙う。

 

突如現れた鎖に黒騎士は驚いたのか、バックステップと共に聖剣を薙ぎ払い鎖を粉砕した。だけど、一瞬でも士郎兄から注意が逸れれば十分だ。

 

 

 

3度、双剣が姿を現す。

 

 

 

 

 

白野のバックアップが無ければ危なかった。

理性のないセイバーだと、ライダーと共に破った黒化したセイバーよりも弱体化しているものだと思い込んでいた。

 

理性のはぎ取られた獣同然の直感は、前世の黒化セイバーのそれよりもより強化されていた。

実際、あの鎖が無ければ無理な体制ながらも余裕をもって迎撃されていたであろう。

 

 

 

——————でも、凌いだ。

 

 

 

 

両手に再び投影した干将と莫耶を構える。

 

 

 

 

————唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

 

まだバックステップの体制のまま空中にある体を捉える。

 

 

————両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!

 

 

 

鶴翼三連。

 

 

 

 

 

 

 

喉元を狙った鋭い一撃はしかし、再度集約していた黒い霧に阻まれた。

 

 

 

「—————ッ」

 

 

完全に獲ったタイミング。人体の動きの限界を狙ったその一撃すら、ため込んだ魔力による霧の防御を貫けなかった。

 

 

 

セイバーが完全に俺たちから距離を置いた。

射撃では効果が薄く、近接で策を講じても突破する。切り札である鶴翼三連ですら白野の援護がなければやられていた。

 

 

「士郎…兄…!」

「まず…い…!」

 

ここにきて完全に手詰まり。

 

そんな俺たちへ向けて、セイバーはその聖剣を左腰に構え引き絞った。

 

 

 

 

 

 

空間が軋む。

黒い魔力の霧がすべて聖剣に集約され、その輝きは黒く染まる。

 

 

 

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)だけでは防げない。

それは前世において身をもって知ったことだ。

 

 

————ないのならば、作れ。

元よりこの体は、それのみに特化した魔術回路だ。

 

 

 

「——————投影、開始(トレース・オン)

 

固有結界並みの魔力を注ぎ込む。どうせこの一撃を超えないとその先はない。残りの魔力をすべて注ぎ込む。

 

 

 

 

 

目の前の聖剣を視る。

————あの剣は造れない、とアイツからの知識が悲鳴を上げる。

 

 

 

 

それでも、

 

 

創造の理念を鑑定し、

 

 

基本となる骨子を想定し、

 

 

構成された材質を複製し、

 

 

製作に及ぶ技術を模倣し、

 

 

成長に至る経験に共感し、

 

 

蓄積された年月を再現する。

 

 

 

 

 

 

手を伸ばし続ける。

諦めるな。俺の魔術は第一に自分を疑ってはいけない。俺自身の心を映す。

 

造れないなら、届かないならば補え。あるものは何でも使え。

 

 

 

 

 

——イメージするのは常に最強の自分だ。

アイツ(アーチャー)にできなかった?それがどうした。

 

それならば、未来の俺(アイツ)を超えろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてここに幻想は身を結ぶ。

目の前の本物とは比べようのない劣化品。固有結界の中ならばもう少しましなモノができただろうが、残った魔力の大半をつぎ込んで出来た聖剣の贋作はすでに綻びを見せ、ところどころ崩れ始めている。

 

 

それでも、魔力が足りずに綻びが生じていても。

内包する神秘を解放しながらならば一度限りでも振るう事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———束ねるは星の息吹。輝ける生命の奔流」

 

 

 

 

 

 

思わず口をついて漏れ出す。

贋作といえど、彼女の聖剣だ。無様に扱うことなどできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「———卑■鉄■。極光は反■する」

 

 

 

 

驚くべきことに、理性は宿っていないはずの彼女の声が聞こえる。それはまるでこちらの聖剣を、黒く染まってもなお試すかのようで……。

 

 

 

 

 

「——この身は未だ、彼の聖剣へと身を焦がす」

「—————光を■め」

 

 

 

 

 

 

 

2振りの聖剣から光が溢れる。

方や眩いほどの星の光。方や全てを呑み込む黒い光。

 

 

 

 

 

そして—————

 

 

 

 

 

 

 

「—————偽・永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

「——————約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

聖剣は解放された。

 

 

 

 

幻想へと還りながらもその神秘を放出させ、文字通り自らの刀身を消費して放たれた極光と、黒く染まりながらも最強の幻想としての一撃を繰り出す極光。

 

 

 

共に最高峰の一撃は、

 

 

創成(アーツ)防護壁(ボルグ)!!」

 

 

間に魔力障壁を挟み激突した。

 

 

 

 

 

奇しくもそれは、俺がセイバーを倒した時の焼き直しの様で。

内包する神秘の差により押し返されるはずの一撃は拮抗した。

 

 

 

「———————っッッッ!!!」

「———————■■■ッ!!!」

 

 

 

限界を超え魔力を注ぐ。すでに刀身は極光の中に消え、内包していた神秘も解放しつくされる。

相手の黒い極光は未だに衰えず、最強の聖剣としての一撃を体現する。

 

 

 

声を枯らしながら黒白の極光の激突は依然続き、

 

 

 

 

そしてそのまま—————二つの極光は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟に士郎兄の攻撃を援護するかのように障壁を張ったが、間違いではなかったと思う。すごい一撃だったけど、それだけに届かないと思ってしまった。

 

想像以上だったのはあの2撃の間に挟まれたときの衝撃だった。少しでも気を抜けば消えてしまう。常に全力で、ラルドから供給される無限の魔力を障壁に注ぎ込んでいないと一瞬で飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

思考が、覚醒する。

あれ…士郎兄の援護をしていたはずじゃ…。

 

全身の痛みをこらえながら立ち上がると、

 

「え…」

 

そこはクレーターの淵だった。

 

地形が変わるほどのことを…?

 

 

そこまで考えたとき、ズキッと頭が痛んだ。

 

 

「あ…う…。し、士郎…兄…?」

 

宝具の激突は相殺による大爆発で終わった…の?

周りを見ると、すぐ近くに士郎兄が倒れているのを見つける。焦ったけど、意識はあるみたい。

 

「大丈夫?」

「ああ…って言いたいけど、無理だな。もうナイフ一本すら作れない。体も無茶しすぎて動かない」

「え…じゃあラルド、治癒を…」

『無理だよ。今ははくのんの治癒に全力を使っているんだ。本当はもう動けないくらいダメージを受けているのを無理やり魔力で誤魔化しているんだよ?余力なんか残っていないよ』

 

「…!あの黒騎士は!?」

 

 

たぶん気絶していたんだろう。あの後どうなったのか全く覚えていない。

 

「それは私から」

「美遊さん…無事だったんだ」

「うん。あとごめんなさい。ルヴィアさん達を探そうにも戦闘の余波を気にしていたらそれどころじゃなかった…」

 

本当に申し訳なさそうな美遊さん。

 

「仕方ないさ。アイツ相手に手加減なんてできない。周りのことまで俺たちの手が回らなかったのは事実だ」

 

士郎兄は前を見たまま視線を変えずに答える。

 

「…ルヴィアさんたちの救助をしようと思った私とイリヤスフィールは、戦闘を見て近付くことをあきらめたの。それで、遠回りをして1回目の宝具の跡地を調べていたら」

『私が美遊様に合流しました』

「サファイア…!ってことは!」

『ええ。気絶したままでしたが凛様達は姉さんが保護しています。宝具が当たる前に地中に避難しました』

「そこで私も転身して参戦しようとしたら…あの爆発が起きたの。正直イリヤスフィールを守るだけで精一杯だった」

「よく生きていたね私たち…」

『そればっかりは運が良かったとしか』

「で、そういえばイリヤは?」

 

 

そこまで聞くと、気まずそうに、あるいは説明しようにもできないような感じで美遊さんは黙ってしまった。

 

「え…」

 

最悪の事態を思い浮かべる。

 

「大丈夫だ」

 

そこで士郎兄に声を掛けられた。

 

「生きてはいる。でもあれは…」

 

困惑した士郎兄の視線の先には誰もいない。

 

 

 

……いや、違う。

転身している私は魔力を眼に集中させる。

 

すると、

橋の麓にいる私たちから遠く離れたところ。たぶん、美遊さんがキャスターを撃破したくらいの場所で赤い装束を纏ったイリヤが黒騎士を圧倒していた。

 

 

 

そしてその姿は少女のものだが、私のよく知る無銘の英霊によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




士郎のエクスカリバー・イマージュはEXTRAのものよりも数段劣化品です。
理由としては、大前提としての魔力不足、固有結界内ならば代用するモノを含めて用意できているものを一から準備しなければいけないのを改変などもせずに無理やり補ったせいでツギハギだらけということです。
そのせいで世界からの修正を早々に受けてしまう劣化品になるのですが、逆に言うと安定感がなく固有結界ほどではないが膨大な魔力を消費する代わりに壊れた幻想的に使用すれば一回は撃てる文字通り捨て身の切り札にもなります。

まあ、完成品の永久に遥か黄金の剣や約束された勝利の剣に比べると段違いに威力は低いですが。

…こんな説明でわかりました?
できるだけわかりやすく説明しようにも、自分の中の設定を説明しづらいというか語彙力欲しい…。

白野が無銘さんに気づかないのは、英霊に至る人物がこんな身近に、しかも近代にいるとは思わない、というごく当たり前の先入観から来ています。しかも今回自分で折り合いを付けちゃったので、疑問に思ったりしてもなかなかたどり着けなくなっちゃいました……。

でも実際先入観ってなかなか離れないよねってところで。

それではロンドンの特異点を修正してきます。マシュ、まさかお前…

拙作を読んでいただきありがとうございます。来年もまた、よろしくお願いします。


誤字脱字などのご指摘、感想、評価いつだも待ってます。アンケもまだ集計中ですよー。

それではみなさん、よいお年を。


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9話 弓兵

ふふふ。
前回年内ラストといったな!あれは嘘だ!

どうもにくろん。です。
旅行なうなので予約投降につき返信が遅れますのこと。

EXTRAのシナリオ集やばいですな。未プレイ勢だったので読みふけっていました。
コードキャストの詳細があればさらにはくのん強化できたのに(笑)

それでは本当の年内ラストです。
本編どうぞ。

…美遊と士郎の絡みを書くのがつらい。


 

 

イリヤがセイバーを圧倒している。

 

やっていることはさっきまでの俺とあんまり変わらない。違うのは圧倒的なまでの魔力の量と纏っている雰囲気だった。

 

 

 

 

気絶から目が覚めると、宝具の撃ち合いをしていた場所よりも橋の方に移動していた。たぶん最初に放たれた宝具によってできたクレーターのところにいた。

そばには和装のまま気絶している白野。そして黒髪の少女がいた。

 

 

「おに……士郎、さん」

「ああ。えっと…君…は?」

「————っ。……美遊。…美遊・エーデルフェルトです」

 

一瞬、何かを言いよどむようにして名乗ってくれる。

 

「美遊、か。ごめん、俺が気絶してから何があった?」

 

 

何かをこらえるように泣きそうな顔をした美遊はポツリポツリと話してくれた。

 

宝具の撃ち合いは相殺による大爆発で終わったこと。白野と俺はそのまま気絶してしまい、エメラルドと美遊が橋の下まで運んだこと。

 

 

 

 

————俺と白野の意識がないのを見たイリヤが、セイバーに単身挑んだこと。

 

 

それを聞き、思わず立ち上がろうとしたが体が動かない。

 

「無理しないで!…ください!さっきまでの戦闘でもうボロボロなんです!」

「…そう、か。治療とかはできないのか?」

『私は所有者(マスター)しか治療できません。申し訳ありません』

「そんな……!じゃあイリヤは一人で!?」

「それも…多分大丈夫です。おに……士郎さんと白野の影響で黒い騎士も弱っているように見えますし、英霊そのものならばともかく、アレは英霊の現象のようなもので英霊そのものよりも弱体化されているらしいですから」

「英霊の…現象…?」

 

 

 

戦闘中の違和感を思い出す。

想定していた前世のセイバーよりも攻撃力は確かに弱体化はしていた。でも、それは理性を失っているから理性をもって戦っていた彼女より弱体化されていたんだと思い込んでいた。直感などが鋭かったから余計にそう思う。

 

 

でも。

 

 

一撃目。

魔力で強化されていなかったとはいえ、英霊でもない俺の投影品の干将莫耶であの聖剣を受け止められた。

全投影連続層射を魔力放出のブーストで突き抜け、そのまま剣の柄で殴られた時もダメージはかなり大きかったが一撃で昏倒させられたわけじゃない。ましてや、直後に無理をしたが投影することはできた。

 

 

 

本当に、弱体化していた……?

 

 

 

確認するべく、戦闘が行われていると思わしき場所に目を向けると——————赤い弓兵(アーチャー)の格好をして戦っているイリヤがいた。

 

 

 

「え…?」

 

 

 

理解が、追いつかない。

 

 

 

 

干将莫耶を両手に持ってはいる…が、解析したソレは俺の投影品よりも更に劣化している投影品だ。

だが、込められた圧倒的な魔力により、強度だけ見れば俺の物よりも高いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

—————俺は、この戦いを見逃してはならない、と直感が警鐘を鳴らす。

 

 

 

アーチャーの力を使うイリヤ。

理性を持たない、英霊の現象としてのセイバー。

 

 

 

共に正規のものではない、ハリボテの英霊が剣戟を交わす。

 

 

 

 

 

 

「————投影、強化(トレース・オーバーエッジ)

 

 

イリヤの詠唱と共に両手の干将莫邪がピシピシと変形する。それはまるで鳥の翼のように巨大になり、より殺傷能力が上がっているのが視える。

 

イリヤはそのまま強化した干将莫邪で斬りかかる。

セイバーとまともに打ち合っても壊れないほど強化されたそれは確かに強力だ。

 

だが、干将莫邪の強みはその引かれ合う特性だけではない。守りの剣技に徹する際、それ自身の大きさが通常の剣よりも小振りなおかげで取り回しやすく、二刀扱っても体の動きを阻害しない柔軟な動作ができる。でも、イリヤの今使っている強化された干将莫邪は元のものよりも二回りほど大きくなている。

 

 

「■■■■————」

 

そしてそんな隙を彼女が見逃すはずがない。

理性のない剣技でも、元の彼女の力量からすると十分な脅威となる。セイバーの振るう聖剣と右手の干将が当たる—————前にセイバーはわずかに身を引き干将をいなし、懐へと潜り込む。

 

 

—————うまい。純粋にそう思った。

あそこまで接近されたら通常の干将莫邪ならともかく、今の巨大な干将莫邪なら振るう事が出来ない。セイバー自身も潜り込むために剣を後ろへと流した体勢だが、もともとあの距離では振るえないことを考えると————

 

 

 

「イリヤ!」

 

腹部の鈍痛と共に次の行動がわかる。

 

想像した通りセイバーはさっき俺にやったようにそのまま聖剣からジェット噴射のように魔力を放出し、イリヤを吹き飛ばそうとする。

 

「まずい、このまま吹き飛ばされたら——」

 

魔術回路に魔力を通し手助けするべく投影しようとするが激痛に襲われ一瞬間が空く。

 

 

しかし、イリヤは振りかぶった左手の莫耶を投げつけるように振り下ろした。

懐だろうが関係なく放たれた攻撃に、セイバーはタックルを止め魔力を纏わせた聖剣を振り上げ迎撃する。その隙にイリヤはバックステップとバク転を繰り返し距離を取る。しかもただ距離を取ったのではなく、回転によるひねりを加えながら勢いをつけ、次々と投影した干将莫邪を投擲する。

 

強化されたものは最初に持っていたものだけだが、続く6本の干将莫邪が撃ち込まれセイバーの居るあたりから爆発音と土埃が立ち込める。

 

 

そうして距離を取ったイリヤは、

 

 

 

 

「———————投影、重装(トレース・フラクタル)

 

 

    ——————————偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

 

 

 

 

いつの間にか投影していた黒弓に捻じれた剣をつがえ放った。

 

 

 

土埃を吹き飛ばしながら進むそれはセイバーが首を傾けたすぐその場所を通過し、川へと着弾し大きな水しぶきを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその戦いは、再び聖剣へと集約する黒い魔力の霧によって帰結する。

 

 

 

 

 

「————投影(トレース)…」

 

 

 

 

セイバーの宝具の予兆に、イリヤが対抗すように唱える。

だが、アーチャー(アイツ)があの聖剣を投影できないのはここにいる誰よりも俺が知っている。

 

 

だからこそ、

 

 

「…——————完了(オン)

「———……っ」

 

 

 

————イリヤの手に握られた間違えることのない聖剣に声が出ない。

 

 

そして。

 

 

 

「———約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

「———約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

 

 

最強の聖剣の撃ち合いとなった。

 

 

さっきの戦闘でイリヤが英霊エミヤをその身に宿しているのはわかっていた。詳細はは知らなくともイリヤが小聖杯としての機能を持っていたのは知っている。今は封印しているとアイリさんと切嗣に言われたが、そんな彼女ならば星の鍛えた最強の聖剣すらも投影できるのかと戦慄する。

 

 

 

「————ぁぁああああ”あ”あ”!!!」

 

 

そして2つの聖剣の撃ち合いは…真に迫る贋作の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いったい何度驚かされるのだろう。

 

キャスターの撃破後に現れた黒騎士。

乱入してきた士郎兄。

聖剣を受け止め、無銘と同じように戦う士郎兄。

 

それに折り合いをつけたと思ったら気絶して。

目を覚ますと今度はイリヤがアーチャー?

 

 

一体いつから無銘の英霊のバーゲンセールが始まったんだ。

 

イリヤの戦いを見ながら現実逃避気味に考えていると、さっきの焼き直しのように。

今度は本物と本物の聖剣が激突した。

 

 

「————っっ!」

 

頭を押さえ、姿勢を低くして余波に耐える。

 

 

 

 

 

そしてそれが収まると、一枚のカードと

 

 

「っ!イリヤ!」

 

倒れ伏すイリヤがいた。

 

イリヤの全身が光ったと思うと、胸のあたりからカードが飛び出し元の服装に戻る。

 

 

 

いったい、あれは…。

 

 

 

士郎兄、美遊さんと共にイリヤに駆け寄り、容体を見ながら考える。

 

 

「大丈夫、だ。脈も安定しているし、魔力の乱れも今はない」

「よかった…」

「それにしてもさっきの姿って「だあらっっっしゃあああ!!!」……て…」

 

「やっと出れた!白野!イリヤ!無事!?」

「美遊!!!大丈夫ですの!?!?」

 

 

 

 

 

 

現れたのは、地面を掘削するためかルビーで転身したままの凛姉とボロボロの衣服を身にまとったルヴィアさんだった。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 

 

 

「や、やあ遠坂。久しぶり…?」

「なんで衛宮くんがここにいるのよおーーーっ!」

「殿方に…殿方に…きゅう~」

 

 

マジカル凛姉は羞恥から発狂し、ルヴィアさんもところどころ肌がむき出しになって…なんとも露出度が高くなっている服装を理解したのか目を回した。

 

 

「忘れなさい!!!!!」

 

ルビーから魔力砲が飛び出し、士郎兄が逃げる。

 

とりあえず。

 

 

 

「…そろそろ接界(ジャンプ)しないと境界面崩れそうじゃない?」

 

 

 

 

 

という私の言葉でその場のカオスは収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元の世界に戻る。

しばらく休んでいたおかげで体は動くようになったので、眠ったまま動かないイリヤは俺が背負っている。

 

 

 

「ごほん…。えーっと、改めて。なんで衛宮くんが鏡面界にいたの?」

 

なんて答えるべきか。

 

「あー…。それよりも、なんで遠坂がイリヤと関わりがあるのかを知りた…い…んだけど…」

 

鋭い眼光に思わず萎縮する。

 

「なに?質問しているのは私なんだけど」

「そうはいくか。妹がこんな騒動に巻き込まれていたんだ。気にならないわけがない」

「妹!?」

 

なんだ。知らなかったのか。

 

「そうだ。俺のことは明日にでも必ず話す。だからとりあえず、ダメージが大きそうなイリヤを連れて帰りたい。でも、さすがに状況を知っておきたい」

 

我ながらよくすらすらと出てくるなあ。

 

「うぅ…。そういうことなら仕方ないわね。イリヤは偶然、たまたま私たちの領域に巻き込まれたのよ。で、その原因がそこのステッキ」

『どうもー。マジカルルビーちゃんです』

「ああ。遠坂の」

「私の姿は忘れて!!!…とりあえず、そこのイリヤと白野、美遊の三人は各自ステッキに巻き込まれて私とルヴィアの騒動に巻き込まれたの」

 

なるほど。

 

「それより、本当に衛宮くんの事情を話してくれるのよね?」

「当たり前だ。俺だって戦ったんだ。詳しく知りたいし、そのためなら話すことだってするさ」

「そう…って戦った!?あれと!?」

「ああ。さすがに一人じゃきつかったから手伝ってもらって、そのうえで負けたけど」

 

どうせ話すことだし、白野か美遊から話は聞くだろうから隠しても意味はない。

 

「転身した私とルヴィア二人掛かりでも押し負けたのに…。どうやって?」

「わるい。それも明日話す…そろそろいいか?あんまり長居してイリヤが風邪をひいたら困る」

「ああ、ごめん…絶対話してよね」

 

 

 

そうして家に帰る。

さて、セラリズと、出来たら海外のアイリさんや爺さんと相談して話せることを決めないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれと生身で戦って無事だなんて…。白野、美遊。どんな感じだった?」

「私は遠目にしか見れませんでしたが…激しい戦いでした」

「うん。士郎兄は互角以上に戦っていたよ。私の補助がなくてもほとんど関係なかったし」

 

まあ、あの英霊の子孫なんだ。

何ら不思議はない。

 

でも、凛姉はそうじゃなかったみたいで。

 

「カレイドの魔法少女の補助なしで互角以上…?なんでそんなバケモノが冬木に、しかも私の知らないところでいるのよーっ!まずい。衛宮くんが敵になった場合私たちで勝てるかどうか…」

「凛姉凛姉。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。だって士郎兄だよ?」

「なんでそう言い切れ…士郎兄?白野、もしかしなくても知り合いなの!?」

「あれ、言ってなかったっけ?士郎兄はイリヤのお兄ちゃんで、よく遊んでいる私にもよくしてくれてるんだ」

 

 

その後、凛姉に士郎兄のことを根掘り葉掘り聞かれた。

とりあえず、英霊の子孫ってのは伏せといた。なんでわかったのか追及されると私もやばいし。

 

「なによそれ…学校の衛宮くんと変わらないじゃない…」

「そういえば凛姉が留学する前は同級生だったっけ?」

「そうよ。…私をだまし続けてきたんだとしたら遠慮はいらないわね」

 

うわー。凛姉の目が血走ってきた。

士郎兄、超逃げて。

 

 

「とりあえず二人とも、お疲れさま。連戦なんてきつかったでしょ?家に帰ってゆっくり休むといいわ」

 

 

 

そう言われ自宅に帰る。

ちなみにまだ目を回していたルヴィアさんは凛姉が運んで行った。

 

 

 

『はくのん。今日の士郎さんとイリヤさんの戦いに心当たりあるの?』

 

自宅に着き、お風呂に入っていると唐突にラルドにそう聞かれた。

 

「…なんで?」

『士郎さんの戦闘を見ている時のはくのんおかしかったもん。途中から吹っ切れたみたいだけど、イリヤさんのあの姿を見てまた同じようになっていたし』

「わかってたんだ」

『そりゃあね』

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ラルドは私が並行世界から来たの知っているよね」

『うん』

「私ね、転生、って呼ばれる形でやって来たの」

『転生…それでも前世の記憶があったら第二魔法に分類されるね』

「並行世界の干渉、だっけ。そこでね…私はある戦いをしていたんだ。そしてその時私と共に戦ってくれた英霊が、あの二人の戦い方と同じだったんだよ」

『英霊…戦い…。それは確かに言いづらかったね。ありがとはくのん、僕に話してくれて』

「ううん。あの二人を見たら…私もちょっと、吐き出したくなったから」

 

アヒルの人形をぐにぐにしながら続ける。

 

「私の中で折り合いはつけていたの。でも、やっぱり目の前で見ると懐かしいというか…ね」

 

 

 

 

 

 

 

そのあとは詮索もせず、じっとラルドは私の愚痴を聞いてくれていた。

 

 

このことを話せた最初の相手。

一般人には絶対与太話として受け入れてくれないであろう話を受け入れてくれるラルドに、私は信頼を寄せ始めていた。

 

 




白野は無銘さんが似ていたということしか話していません。月の聖杯戦争や、ほかの3騎についてもノータッチです。懐かしさを慰めてもらっていただけです。

さてあらためて。
拙作を読んでいただいてありがとうございます。プリヤ原作を読んで、士郎出したい、あれ、戦ってるシーンで無銘さん思い出すんじゃね?EXTRAやってないけど混ぜたい!そんな勢いから書き出した拙作が多くの方に楽しまれているようでありがたいです。日間ランキングに載ったりや評価バーに色がつくのも初めてでほんとに嬉しかったです。

また来年もこんな作品ですがよろしくお願いします!
それではよいお年を!



誤字脱字などの指摘、感想、評価はいつでも受け付けています。
第四次のアンケもまだまだ募集中です。よろしくお願いします。


……正月のFGOガチャ、闇過ぎるなぁ


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幕間 interlude

遅ればせながらあけましておめでとうございます。
今年も拙作をよろしくお願いします。

今回はタイトル通り幕間です。話は進みません。
というか、若干間が空いて書きづらいのでリハビリ感覚…めっちゃ短いです。というかドライ読んだら書かなきゃならない気がした。おかげでドライのネタバレが含まれております。

極論、今回の話は読まなくても今後の展開には関係ないです。
ネタバレしてほしくない方はブラウザバックをば。
…これで感想欄でネタバレすんな!とか、イラついたから低評価!とかされたらさすがに病みます。
ここまで言ったんだから読んだ場合は各自の責任でお願いします。いやほんと、バックしても今後の展開に影響はないからね。


あ、正月闇ガチャ、呼符でアルジュナドレイク姐さんやってきました。SSR確定では孔明さんでした。

…カルナ金時玉藻欲しかったなあ。


——————interlude1—1—————

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 

協力者(イリヤスフィール)の声に心を折られそうだった。

つい先ほど、彼女の事を認めてもいいと思ったはずなのに。

 

 

 

 

そのセリフは現実を知るにはあまりにも残酷で。

 

 

 

 

彼は私の本当の兄ではないとわかっていたはずなのに。

 

 

 

 

 

息が詰まりそうだった。

 

 

 

 

 

そこまでの黒化英霊との闘いなど微塵も感じさせずに。

 

 

 

 

戦う前に見た彼は記憶の中にある兄の姿で。

戦う姿はそれをさらに思い出させる。

 

 

でも。

 

 

 

「お、お兄ちゃん…だよね?」

「ああ。でも、説明は後だ。あのセイバーをどうにかしないと」

「セイバー…?あれのこと?」

「っ、ああそうだ」

 

彼は、(美遊)を見ていない。

 

 

 

 

言葉が出ない。

美遊・エーデルフェルト(わたし)ではなく、朔月美遊()でもない。

衛宮士郎の妹の美遊は、ここにはいない。

 

 

 

 

実際に彼と直接話すとさらによくわかる。

何度も口をついて言葉が出そうになる。

 

 

恐らく、あの黒騎士——セイバーと彼が戦っていなかったら、きっと私はお兄ちゃんと呼んでしまっていただろう。

あの戦いを見たときに受けた衝撃で、劣化しているとはいえ英霊と打ち合っているのを見たおかげで思わず口をついて出ることがなかっただけ。

 

 

 

————ああ、それでも。

 

 

 

「お兄、ちゃん————…」

 

 

今だけは。

ベッドでうずくまる今だけは。

会いたいって、頭を撫でてほしいって思っても。

抑えきれないこの思いを少しだけでも漏らしていいよね。

 

 

 

 

 

 

————少女の嗚咽は、まだ(・・)誰にも届かない。

 

 

 

 

 

 

——————interlude1—2—————

 

 

 

美遊と共にルヴィアを回収し、美遊にもう休んでいいと告げ部屋に返し、しばらくしてルヴィアが復活した。

 

「で、サファイア。実際宝石翁の魔術礼装ってかなり魔術的に重要なあなたの立場から見て衛宮くんはどうだった?」

 

 

今晩最大のイレギュラー。

単身で英霊と渡り合い、死なずに生還した魔術師。

 

もしこれが私たちの敵になるのなら、強大な敵になるだろう。

 

『…使っている魔術に関してはなんとも、ですね。身体能力を強化していたのは当たり前なのですが、全体的に戦闘に関する慣れが感じられました』

「どこかの派閥に所属している可能性は?」

『現時点ではわかりません。使っている魔術も強化以外はあまりよくわかりませんでした』

「…それはカレイドの礼装としても?」

 

 

だとするとまずい。

このステッキにわからない魔術を使うとすると、対抗策の取りようがない。

 

「……とりあえず、衛宮という家系を調べましょう」

 

 

出来ることはこれくらい。

明日、衛宮くんと相対する前に何かつかめるといいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サファイアは投影について察していますが黙っています。通常の投影とあまりにも違いすぎているので確証がないのと、イリヤのインストールについて伏せておくためです。


…美遊のを書きながら、何回「くすくすわらってごーごーごー」って書きかけたか。
ドライのシリアスがstay nightレベル…というか救いがなさ過ぎて。プリヤのギャグはどこに行った。続きが気になるぞおい。

あぁ、四章で分かった事とか使いたい……

本編の続きは各種テストとレポートが終わってからかなあ。
少し、また間が空くと思いますがよろしくお願いします。

誤字脱字などの指摘、評価、感想など待っています。


改めて、本年もよろしくお願いします。


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10話 管理人

エミヤ、ドレイクの最終再臨完了!
さあアルジュナ、次は君だ。

蛮神の心臓と歯車に師匠のところを周回する日々。

あ、単発6回ひいたらみこーん礼装とオルタ来ました。

というか、今回のイベント、シナリオ神でしたけど敵強すぎません…?キャプテン二コラ、おめーは許さねえ


執筆中深夜一時。
うっかり(わざと)召還したらオルタ二枚目来ました(震え声


今回は説明回です。
思っていることを正確に文字にするのって難しい…。


 

「とりあえず、遠坂が聖杯戦争のことを知らないようなら黙っておく方がよろしいでしょう。あとはシロウさんのことをどう説明するか、ですね」

『ああ。衛宮の名前を調べられると僕の経歴は簡単に出てくるしね。アインツベルンの名前は時計塔の彼らの協力でほぼ完ぺきに隠蔽してあるし、資料通り”魔術師殺し衛宮切嗣は10年前紛争地で女性と恋に落ち、子を授かり命の大切さを悟ったことで魔術的な活動を休止した。が、自らの生活に干渉しようとする輩には以前にもまして苛烈な制裁を加えるようになった”という設定を貫くべくだろうね』

「とすると、俺は”命の大切さを悟った切嗣が養子として引き取った孤児”で、”たまたま魔術の才能があり、自衛のために学んでいた”ってところかな」

 

深夜、家に帰った俺はイリヤを寝かせた後にセラとリズ、Skype越しに切嗣とアイリさんで話し合っていた。Skypeを使ったのは魔術師は科学を忌避する傾向にあり、盗聴や魔力漏洩の心配がなく海外で活動する二人と連絡が取れるからだ。

 

『そうね。実子であるイリヤに魔術を仕込まなかったのは女の子だからっていうのと、魔術から足を洗うためとでも言っとけば大丈夫でしょ。先代の遠坂は聖杯戦争について伝えていなかったみたいだし、前回の様子じゃ伝える暇もなかったでしょうしね』

「となると、お嬢様が聖杯というのはばれていないとみていいでしょうが…今晩の熱はシロウさんから聞く限り、封印が一度解けています。聖杯としての機能をほとんど破棄し、残りを封印していたとしても10年間で貯め込んでいた魔力の解放の反動は大きい様で…」

『宝石翁の魔術礼装は?』

「ここ」

 

リズがカメラに向かってルビーを突き出す——が、それはアインツベルン謹製の封印魔術で機能を完全に停止させていた。

 

『うわあ』

「本来ならここまで完璧に封印できていなかったでしょう。でも、契約主であるお嬢様の今日の疲労度合いと、もともと礼装に備わっていた必要時以外封印する機能の起動、さらにシロウさんの投影で完全に不意を付けましたから」

「かなり分の悪い賭けだったけどな」

 

 

その後も話し合いは続いた。

イリヤのこと、俺のこと。どこまで話すか、隠すべきことはなにか。

 

 

 

「よし。じゃあ俺はエルメロイⅡ世と切嗣(爺さん)の協力の元、魔術師として活動せず自衛のためでしか魔術を使わないから遠坂に知らせていなかったと。後見人はロードで、ロードはそんなこちらから手を出さない限り無害な非正規魔術師を、管理人(セカンドオーナー)に下手に知らせて問題がこじれないようにしていた。こんなところでいいか?」

『ああ。封印指定になるかもしれないことは本人たちに直接魔術が見られるまで伏せておこう。何か言われたらウェイバーくんに黙っているようにいわれたとでも言っておけばいい。新作ゲームで取り持ってくれるはずだ』

 

 

うわ、丸投げしやがった。

今度雁夜さんを通してお菓子とゲームでも差し入れよう。

 

 

 

 

 

次の日、イリヤは学校を休んだ。藤村先生曰く、熱を出しているらしい。

昨日のあれが原因じゃなきゃいいんだけど…。

 

ちなみに美遊さんも休んでいる。なんでも、保護者がダウンして家事をしないといけないらしい…けど、絶対に士郎兄対策を凛姉たちと考えさせられているよね…。

 

「というわけで。みんなでイリヤのお見舞いに行かない?」

 

 

 

―————————

 

 

 

イリヤが半裸でメイド服の美遊さんを押し倒していた。

 

 

 

 

な、なにを言っているのかわからないと思うけど、私も何を言っているのか…。

幻術とか催眠術とか、そんなチャチなものじゃあない。もっと恐ろしいものの片鱗を———って

 

 

「イリヤ…私というものがありながら…っ!」

「お、落ち着け白野!」

「は、裸ッ!?ってかメイド服!?これは———使えるッ!」

「雀花ちゃんも落ち着いてー!…でも女の子同士でなんて…イリヤちゃんに美遊ちゃん…」

「嘘だろ美々まで陥落した!?」

「はっはー!いいぜみゆきち!プロレスごっこだな!俺が相手になってやる!」

「てめーらいつの間にそんな仲に…プレイか!そういうプレイなのか!」

「ダメだこいつら。完全に私の手に負えない…っ」

「ちょっと写メらせてもらうねー」

「美々今すぐ消せ!白野が無言なのが超怖い!なんか森山家に伝わる怪力でさえ一気に弾かれそうなオーラなんだけど!?」

 

 

 

 

龍子が暴れ、美々が暗黒面に踏み出そうとする。イリヤはパニックになり、雀花は腐る。美遊さんは怒涛の勢いに押され呆然とし、私は那奈亀に拘束される。

 

 

 

————一言で言うとカオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、家に帰らず直接エーデルフェルト邸へ向かう。

といっても、自宅の向かいなのだが。

 

「全く、遠坂もこんな遠回りな伝え方しなくても…」

 

下駄箱に入っていた手紙を片手に一人愚痴る。

視たときから嫌な予感はしていたんだ。

 

案の定手紙には

 

”今日の放課後、16時にエーデルフェルト邸まで一人で来い。場所は衛宮くん家の向かい”

 

と定規で書いたような文字が。

 

ご丁寧に最後には”もし来なかったら■■”と塗りつぶされた文字があった死。

 

 

 

ちなみに、手紙を手にしたときたまたま近くにいた一成と森山の級友二人は

 

 

「な…ッ!衛宮に恋文…だと…!?ええい、こうしちゃおれん。柳洞寺に空き部屋を作らねば!」

 

とダッシュで帰っていき、もう一人は

 

「え…衛宮くんに…そんな…桜ちゃんだけでも手一杯なのに…まだライバルが増えるの…?」

 

と、後半は小声過ぎてよく聞こえなかったがうなだれていた。

 

 

 

と、そうこうしているうちに家に着いた。

家に着いた、ってことはエーデルフェルト邸の向かいなわけで…

 

「はあ」

 

気が滅入る。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ」

 

出迎えてくれたオーギュストという執事に連れられ、奥の部屋に招かれる。

そこは応接間…らしき場所なのだが、正体不明の人物()を迎えるからか、いたるところにこれ見よがしと宝石が飾り付けてあった。牽制目的だろうか。俺にはわからないけど、魔術的な防衛機構を他にも備えているだろう。

 

目の前のテーブル、その上座にはルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと遠坂凛が待ち構えていた。オーギュストさんも無言でその傍らにつく。

 

 

「まずは改めて自己紹介を。私はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。エーデルフェルト家現当主ですわ」

「私は必要ないと思うけど一応。遠坂凛、遠坂家現当主よ」

「む。これは丁寧に。俺は衛宮士郎。魔術使いだ」

 

現当主という二人の肩書に比べ霞むが、これくらいしか言いようがない。

封印指定一歩手前とか、錬鉄の英霊(候補)とか口が裂けても言えないし、魔術師としての衛宮の家系は切嗣の代で終わりなんだから。

 

 

「「…は?」」

 

でも、その答えは目の前の二人にはお気に召さなかったようで。

 

「魔術…使い?魔術師じゃなくて?」

「ああ。そうだ」

「どういうこと?あなたは衛宮切嗣の跡を継ぐべく魔術師殺しとして魔術を修めているんじゃないの?」

 

切嗣まで調べられていたのか。

 

「違う。魔術はあくまでも自衛の手段だ」

「どうだか。同じように銃火器を用いて魔術師を殺しまわっていたところの長男のセリフよ?そのまま鵜呑みにすると思っているの?」

「あー。その前提条件が間違っているんだ」

 

いや、一時期の”魔術師殺し”衛宮切嗣について調べたのならそういう結論になってもおかしくないけど。

 

「前提条件?」

「ああ。親父———切嗣は魔術の継承なんて考えていない。そもそも、俺は養子なんだ」

「なっ…!?実子であるイリヤを差し置いて魔術を習っていたというの!?どうりで生身で英霊に相対するだけの実力が…さしずめ、衛宮の秘蔵っ子ってところかしら」

「あーーもう!だから!違うって!!」

 

あまりにも話が進まないので強引に進める。

でも、それも仕方がないだろう。アインツベルンに関わった者たちがその存在を秘匿している今、衛宮の家系を調べたら先代の封印指定や”魔術師殺し”衛宮切嗣についての情報があふれているんだから。土地を守る管理人(セカンドオーナー)として必要以上に警戒するのは当たり前だ。

 

…って考えると、自己紹介で魔術使いって名乗ったのは宣戦布告に取られてもおかしくないな。完全に俺の判断ミスだ。

 

 

 

そして初めから説明する。

 

衛宮切嗣が魔術師殺しとして活動していたのは紛れもない事実として、10年前を境に活動をやめた理由。

 

衛宮士郎は孤児であり、切嗣に拾われた後に魔術の素養が見込まれたこと。

 

今は魔術と縁を切るために切嗣は海外で活動していること。

 

実子であるイリヤを血生臭い世界から守るために、衛宮士郎は魔術を防衛手段として学んでいること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり」

 

若干憤慨したように遠坂が話す。

 

「衛宮切嗣は紛争地で出会った女性と恋に落ち、彼女を通して命の大切さを知ったと」

 

頷く。

 

「そして、魔術から足を洗うために実子には魔術を伝えなかったけど、たまたま拾ったあなたに素養があったから鍛えたと」

 

またも頷く。

 

「衛宮くんは根源を目指し研鑽する魔術師じゃなくて、衛宮切嗣に対し恨みがある魔術師からの防衛手段として魔術を利用する魔術使いってこと?」

「その通り」

「で、ロードはそれを理解したうえで私たちに黙っていた…と?」

管理人(セカンドオーナー)の遠坂に伝わってなかったのならそういうことになるな」

 

うがぁーと頭をかかえる遠坂。なんかぶつぶつ言っている…やばい、寒気がする。

そんな中、今度はルヴィアが話しかけてきた。

 

「ミスタ。貴方は根源を目指すつもりはない、ということでよろしいので?」

「ああ。正統な魔術師の二人には悪いけど、俺にとって根源をめざすことに意味はない。あくまで魔術は手段なんだ。切嗣が断ち切ろうとしている魔術から身を守るために、今の日常を守るためだけに俺は魔術を修めているんだから」

 

本心を語る。

正義の味方に憧れた衛宮士郎は死んだ。今は、手の届く範囲の人を救えたら、その結果俺を助けてくれたイリヤ(姉さん)の笑顔を見られたのなら———

 

あのイリヤとこっちのイリヤが別人なのはわかっている。

でも、自我が崩壊した俺を救ってくれたのは紛れもなくイリヤだ。別人でも、返しきれないほどの恩がある。

 

「本当にいいんですの?」

「…?何が?」

「見ようによっては、貴方のお義父様が貴方を拾ったことは自分の家族を守るための生贄としての機能を含んでいるように思います」

「ちょっとルヴィア!?」

「黙っていてくださいミス遠坂。家族を守るうえでの道具として魔術を学ばされたとは思わなかったんですの?」

 

慌てたかのようにこちらを見る遠坂。

 

 

 

目を閉じ、その言葉を反芻する。

 

浮かんできたのはあの火事。

 

 

 

”よかった…本当によかった…!”

”ありがとう…ありがとう…!”

 

 

まるで救われたのが自分のように涙を流す切嗣。

 

 

 

 

 

だが、これは前世(前の記憶)だ。

 

 

 

一度死に、再びあの火事で拾われた俺。

救ってくれた切嗣(親父)アイリさん(母さん)

魔術を使った後、信じてくれた二人。

アインツベルンの二人の従者。

 

そして何より。

 

”お兄ちゃん!”

 

姉であった妹。

 

 

そうだ。強制されたからなんかじゃない。

衛宮士郎()は自分でこの日常を、温かい家族を守るって決めたんだ。

 

 

 

だから————

 

 

「ああ。そんなことは思ったことはない。俺は、自分の意志で今ここに立っているんだから」

 

堂々と胸を張って宣言しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人はしぶしぶ納得してくれた。

完全には誤魔化し切れていないのは遠坂の反応を見ていたらわかる。でも、見逃してくれるだけでも十分だ。

 

「これが遠坂の言う”心の贅肉”ってやつかな」

 

自分の部屋で一人呟く。

 

 

「いい?今まで黙っていたことは見逃してあげる。代わりにカード回収任務に協力なさい」

 

俺の事情を話した後、遠坂はそう切り出した。

 

「私たちは今、時計塔の宝石翁の指示で冬木の地に現れた魔術礼装、”クラスカード”を回収する任務が与えられているの」

 

どこからともなくホワイトボードと眼鏡を出し、遠坂が説明する。

見逃してくれるなら是非もない。もともとイリヤも巻き込まれていたんだ、兄の俺が参戦しても問題ないだろう。

 

「これは冬木の霊脈に潜り、莫大な魔力を蓄えているわ。それに対抗するべく与えられたのがあのステッキたち。性格に難があるけどね」

 

ふむふむ。

 

「で、クラスカードはそれぞれ英霊を宿しているの。それが霊脈から得た莫大な魔力を糧に現象として再現される。これが昨日衛宮くんも見た英霊の現象、便宜上黒化英霊と呼んでいるわ」

 

やっぱり同じ黒化英霊でも桜のあれとは違うんだな。

 

「ステッキとクラスカードを併用することで限定的に英霊の力を利用できるのだけど、ステッキのない私たちには関係のないこと———なのだけど。普通なら対魔力スキルで魔術が効かないからこそ純粋な魔力弾を放つステッキが必要なのに、どうやってあのセイバー(規格外)と戦闘できたんだか」

 

う、そういわれても…。

遠坂のジト目がつらい。というか殺されそう。

 

「まあいいわ。直接この目で見させてもらうから。で、重要なのはここ。クラスカードはその魔力で外界の影響は受けるけど干渉されない空間を作り出しているの。それが昨日あなたも来た鏡面界」

「つまり暴れ放題の便利な戦闘フィールド?」

「そんな認識で構わないわ」

 

便利すぎる。

 

「これはあなたのいう日常を守るためでもあるの」

「ああ。わかっている。地脈の異変なんて大事、下手に教会とかが参入して来たら衛宮の所在がばれるしな」

 

念のため、俺たちのことは時計塔に伝えないでほしいことを話すと、

 

「当たり前じゃない。一般人にカレイドステッキが契約した上にフリーの魔術師が参戦しているなんて報告できないわよ。代わりに裏切ったら速攻であなたのことは報告するから」

 

とのこと。

…ロードには迷惑をかけるなぁ。

 

 

 

 

 

ひとまず今夜、再びあの鏡面界へと赴くことになっている。場所は俺が目星を付けていた郊外の森だ。イリヤとは後で合流する。向こうで会えば、イリヤが俺の参加を拒否する間もなく強引に俺も鏡面界へ行けるしな。

 

そう考え、昨日の戦闘で消費した魔力と今日回復した魔力、そこから使用できる武具をリストアップしているとそいつらは現れた。

 

 

『はぁい、士郎さん。改めて初めまして。カレイドステッキ、マジカルルビーちゃんです!』

『いきなりごめんねー。同じくマジカルエメラルドだよ』

 

…一瞬身構え、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の設計図を脳内に展開した俺は悪くないはず。

 

「初めまして…になるのか?昨日会っただろ?」

『そこは様式美ですよ。こうして面と向かって会話するのは初めてじゃないですか』

 

それもそうかと納得し、やって来た要件を聞く。

 

『一応私のマスターはイリヤさんですからお兄さんに挨拶しておこうかと』

『僕ははくのんがマスターだし、はくのんと面識のある士郎さんには話を通しておかないと、ね?』

「なるほど。二人の戦闘中の安全面は大丈夫なのか?」

『魔術障壁、物理保護ともにAランク相当だよ。英霊相手にこの基準で大丈夫かは別として、平均的な魔術師程度なら何ら問題ないよ』

「そうか…それならよかった」

『……実はですね。もう一つお話があるんですよ』

「…?別にいいけど…」

『サファイアちゃんが録画していた昨夜の戦闘を拝見しました』

「———ッ」

 

 

一気に肝が冷える。

あれが見られた?しかも録画?

 

 

まずい。遠坂達に見られたら。

いや、それどころかこいつらが上に報告したら———

 

 

『——あぁ!慌てないで!見たのは僕たちステッキだけ!録画映像は消去したよ!』

 

 

————その言葉を聞き、余計に疑問点が広がる。

なんでわざわざそんなことをする必要があるんだ?

 

 

『単刀直入に聞きます。士郎さん、貴方は————並行世界の関係者ですか?』

 

 

 

 

 

時が、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、そう、思ったんだ?」

『僕たちカレイドステッキの創造主が誰だかわかる?』

 

 

唐突な質問。

 

そんなのわかるわけ————

 

 

 

 

 

 

 

————カレイドステッキ。万華鏡。

     ————並行世界。第二魔法。

 

 

 

 

 

 

 

———遠坂凛の宝石剣(・・・)

 

 

 

 

 

 

”宝石翁から与えられた、遠坂家の宿題”

 

 

 

 

 

確かその銘は————

 

 

 

 

 

 

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ…」

 

 

 

『よくできました』

『我々は宝石翁ゼルレッチより作られた魔術礼装です』

 

 

 

 

 

 




バイトを入れすぎてとびとびで書いていたから支離滅裂…。いろいろ張っといたから余計にそう思うのかも。
無印は戦闘が書きたいんだよなあ。フラグいっぱい撒いているけど。

作者の本番はツヴァイからと思っています。
ドライの展開考えるのたのしいいいいいい(そこまで続くかな


誤字脱字などの指摘、感想、評価待っています。


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11話 暗殺者

今日は我らが遠坂凛の生誕祭にして運命の夜ですよ。

召還の準備は整った。さあ、ガチャを始めよう。

…凛のペンダントと偽臣の書、500年の妄執って。

…アーチャー召還のタイミングでの召還は凛のペンダントでした。
いや、あっているけどそうじゃない。


2016 2/2 日間ランキング14位になりました。
この場で感謝を。いつも読んでくださってありがとうございます。

徹夜からの深夜テンションで勢いで書いた今話、後で確認するのが怖いぜ!
そんなこんなで本編どうぞ。


 

 

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

第二魔法、並行世界の運用を操る正真正銘の魔法使い。

遠坂家の後見人にして、宝石翁、カレイドスコープ、万華鏡などの二つ名を持つ人外。

 

 

『といっても、私やサファイアちゃんは並行世界に干渉なんてできませんけどね。限定的に並行世界の魔力を運用できるだけですが』

『実際にその機能が限定的にでも運用されているのは僕だよ。カレイドステッキの最新機、マジカルエメラルドには並行世界からの干渉の感知機能があるんだ』

 

迂闊だった…のか?

流石に礼装がそんな機能を持っていると誰が予想できるのか。

 

仕方がない、切り替えよう。いや、ここは切り替えるしかない。

 

「なるほど。で、だ。俺をどうしようっていうんだ?宝石翁にでも引き渡すのか?」

『いいえ。そんなことしませんよ。なにせ単身で並行世界を渡る化け物ですよ?サンプルなんて必要ありません』

「なら、なにが目的なんだ?」

 

いつでも戦闘を行えるように体勢を立てながら聞く。

 

『そうだね、言うならば確認、かな』

「確認?」

『うん。僕はいろんな機能が姉さんたちに比べて搭載されてある分、制約も多いんだ。だからこそ、その機能で確認できた士郎さんがどんな存在なのか知りたかったんだけど…』

 

どうする。

ここで正直に話すか、黙ったままでいるか。

 

悩んだ挙句、

 

「…話すべき時が来たら、その時は全部話すよ」

 

先送りにした。

 

 

俺の経歴を話すなら避けては通れない聖杯戦争。カード回収にセイバーが現れたということは、こちらの世界にも何らかの関係があったはずだ。

10年前の第四次聖杯戦争。

いよいよ、その詳細を聞く時が来たのかもしれない。

 

アイリさんと切嗣が次に帰ってきたとき、聞き出す必要があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、日付が変わるころ。

ラルドの姿が見当たらない私は待ち合わせの時間に遅れるんじゃないかって心配していると、イリヤがラルドを連れてうちまでやって来た。

 

「ハクノいるー?」

「なんでイリヤとラルドが一緒にいるのよ…」

『赤姉さんについていったから』

「おい」

 

 

 

 

指定された郊外の森まで他愛のない話をしながら二人で歩く。

イリヤに昨晩の話はしない。士郎兄のことも、イリヤ自身の変化のことも、気付いていないのならば言わない方がいい…と思う。

 

「もう熱は大丈夫なの?」

「うん、日中には下がって暇だったし」

「そうね、美遊さんを押し倒していたもんね」

「だから誤解だって!」

 

あ、凛姉たちが見えてきた。

 

「お、二人とも来たわね」

 

腕組みしながら凛姉がいう。その横にはルヴィアさんと美遊さんもいる。

 

「あ!ミユ!さっきはごめんね?」

 

 

……ん?

今呼び捨てに…

 

「あら。イリヤスフィール、いつの間に美遊のことを呼び捨てにするようになったんですの?」

「今日、イリヤのお見舞いに行ったときに。…友達に、なったから」

 

…ほう。

 

「美遊さんからしたら私は友達じゃないの…?」

 

存外ショックだ。

あれだけ一緒に死線を潜り抜けたんだ。もうそれ相応の絆があったっていいと思っていたのに。

 

「え、いや、そんなことは…」

「ミユ」

 

イリヤが微笑みながら諭す。こいつこんな顔できたのか。

無言で見つめ合うイリヤと美遊さん。数瞬後、美遊さんは私の目を見て意を決したように————

 

「…っ、————…、」

「ミユ、深呼吸深呼吸」

 

すぅー、はぁーと大きく深呼吸をする美遊さん。

イリヤがうまく舵を取ろうとするのがわかる。

 

 

 

そしてついに。

 

 

「…。えっと…岸波…さん、私と、友達になってください!」

「…!…うんっ!もちろん、喜んで!よろしくね、美遊!」

「!!…うん、白野!」

 

 

こうして仲間から友達へ、戦闘前に絆を深めた私たちだった。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろいくわよ」

 

ほほえましそうに眺めていた凛姉が言う。

五人で森の中へ。進んでいくとそこには、

 

「お、来たか」

 

赤い布を左手に纏い、黒い弓を抱えた士郎兄がいた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

イリヤが驚いている。って、え、士郎兄説明してなかったの?

 

「あー、イリヤ。今晩から俺も協力することになっている。あ、セラたちには内緒な」

「え、え、え、ええ」

 

あー、わかりやすくうろたえているなあ。

でもそりゃそうか、想い人に魔法少女コスを見られているんだもん。

 

言い忘れていたが、私たちは全員転身済みだ。

 

「どう?座標は間違ってないんでしょうね?」

「俺が探知したのはこのあたりだ…どうだ?」

「…ええ、間違いないようですわ」

 

その間に魔術師たちは話を進めていく。

 

「それじゃ、全員気を引き締めて。前回みたいな大物がまたいるとは思いたくないけど、警戒しておくに越したことはないわ」

 

 

そしてステッキたちが魔法陣を構築する。

さあ、戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

鏡面界に到着する。

警戒心を引き上げ、急な奇襲に対応できるようにするもそんな気配もない。

 

「敵もいないしカードもない…不気味ですわね」

『いっそ魔法少女らしくド派手に魔力砲をぶちかまして辺り一面焦土に変えるくらいすればいいんじゃないですか?』

「それは俺たちにも被害が出るからやめろ」

 

話しながらも警戒を止めない。

 

 

 

 

—————そういえば、こんな風に殺気も何もなく俺を殺そうとした敵がいたな。

ふと前世での聖杯戦争を思い出す。そんな場合ではないのに。

 

あれは確か柳洞寺で、相棒(セイバー)が脱落した夜…

 

 

 

そこまで思い出してはっとする。

 

「気を付けろ!気配遮断の—————

 

 

だけど忠告は遅く、イリヤの首筋に短剣が刺さった。

 

「—————!!!!」「イリヤ!」

砲射(シュート)!!」

 

美遊が魔力砲を放つがその先には誰もいない。

 

「イリヤ!」

『大丈夫です!物理保護が効きました!薄皮一枚です!」

「油断しないで!どこにいるかわからない!方陣を組むわ!」

 

遠坂の号令の元、四方を警戒する。

中心にイリヤとその護衛に白野、四方を残る三人で見渡す。

 

遠坂達は宝石を、俺は弓に投影した黒鍵をつがえる。魔力効率と投影の隠ぺいのために黒鍵を選んだが、相対する英霊によってはそんなことは考えずに全力で行くしかないけど。

 

「不意打ちの上、完全な急所狙い…気を抜かないで!ステッキ所有者はともかく私たちは即死の攻撃よ」

「多分気配遮断のスキルだ。それに奇襲…ということは暗殺者の英霊だ」

「なんて面倒な英霊もいるんですこと…!」

 

互いに気を抜かずに警戒する。

 

 

 

 

だが、それも無意味に終わる。

 

 

「な…ッ」

 

絶望感が包む。

俺たちは、完全に包囲されていた。

 

『敵を視認…総数五十以上!』

「なんてでたらめ…」

「軍勢なんて聞いてない!」

 

 

だが。

 

 

「全員守りを固めろ!数を減らす!」

 

俺ならできる。

 

投影開始(トレース・オン)

 

脳内に展開するのは無数の刀剣群。宝具でなくていい。今は速度を重視する。

 

「———憑依経験、共感終了

 

  ———工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)

 

空中に剣群が現れる。

相対するようにアサシンたちは短剣を投擲し、

 

「————停止解凍、全投影連続層射!」

 

俺はそれを無視してアサシンを狙った。

 

『物理保護障壁展開規模を最大に設定!』

 

後ろでステッキたちの声が聞こえる。

それに合わせて広がった障壁が全員を包み込み、短剣から身を守った。

 

でも、俺が放った剣は数人のアサシンを殺したが、避けたものもいた。

 

「くそ、これじゃジリ貧だ」

「このまま引きこもっていても仕方ないわ。火力を集中して突破、一度体勢を立て直しましょう」

「一度引くのは?」

「昨日の奴ほど強くはないし、数の暴力さえどうにかすれば何とかなると思うの」

「凛姉。無責任すぎ」

「でも実際どうするんだ?」

「現状、囲まれているのが一番まずいわ。だから、一点突破した後、囲まれないように立ちまわりながら一人ずつ撃破していくのが一番現実的だと思う。逆にまずいのは範囲攻撃とかでこっちの視界がふさがること。気配遮断してくる相手に、自分から視界を妨げるとか下策にも程があるわ」

 

確かに、現状一番の案に思う。

 

「問題は体力が続くかだな」

「それと魔力もね。となると、魔法少女を私たち三人の周りでの障壁を張る防御役に二人、攻撃役に一人でローテーションを組んで、私たちが司令塔兼サポーター、出来る範囲で相手を処理するのがベストかな」

 

方針は決まった。

 

「カウント3で突破するわよ」

 

遠坂とルヴィアが宝石を構える。俺もそれに倣うように、双剣を構えた。

ついさっきまで投影を隠すつもりだったけど、そんなことは言ってられない。いざとなったら助けてロード。

 

 

 

「3…2…1…行くわよ!」

 

 

障壁が解かれ走り出す。

 

「包囲を突破するわ!イリヤ、白野、美遊!!」

「「はい!!」」

 

2人の魔法少女が返事をする。

が、妹の返事がない。

 

「イリヤ!?」

 

振り返ると、倒れたままこっちを見るイリヤがいた。

 

「か…からだが…動かない…っ!」

『魔力循環に淀みが…!?物理保護、維持できません!』

 

ルビーの声に真っ白になる。

なに言っているんだ————そう怒鳴る前に思い出す。

 

————まさか、毒!?

 

 

 

イリヤに向かって無数の短剣が投擲される。

間に合わない。

間に合わない。

間に合わない。

 

焦燥だけが募る。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

爆発がすべてを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

 

昨日から爆発に巻き込まれたばかりだなーって的の外れたことを思いながら立ち上がる。

咄嗟の障壁は多少なりとも機能し、凛姉たちを無傷ではないものの守った。

 

 

 

「なに…これ…」

 

爆発の中心から声が聞こえる。

 

「私が…やったの…?」

 

そこには無傷のイリヤが。

————よかった、無事で。

 

安堵しながらイリヤを見ると、目が合ったイリヤが途端におびえだした。

 

「イリ、ヤ?」

 

「ミユ…ハクノ…凛さん…ルヴィアさん…お兄ちゃん…」

 

あ…。

今の私たちは重傷ではないが傷を負っている。でもそれはさっきまでなかった傷だ。

 

「血…そんな…私が…」

 

「イリヤ、落ち着いて―——」

「何…なの?どうして私がこんなこと…敵も…お兄ちゃんたちも巻き込んで…」

 

士郎兄の言葉も聞こえていないようでイリヤは震え出す。

 

「こんなの…こんなの…ッ!もういや!!」

 

そしてそのまま離界(ジャンプ)し、鏡面界から去っていった。

 

 

 

 

 




無印はあと4話くらいかな?構想なので変わるかも。

皆さんは500万DL礼装の絵柄決めましたか?自分は武内絵で悩んでいます。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがあればお願いします。




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12話 決戦前夜

バサクレス戦、書きたいシーンが多すぎてどうしよう。
一話にまとめると同じような展開が同じ話で出てきそう、というか出てくる。

悩みは尽きないものです。


…文才があればなあ

あ、英霊肖像はマシュにしました。あとメフィストでマテリアルコンプできるのに…いない…

お気に入り1000件突破&UA60,000超えありがとうございます。



 

 

「逃げやがった…」

 

ルヴィアと遠坂の心の声が聞こえる。

でも、仕方ないだろう。戦う心構えが出来ていない小学生の少女が、得体のしれないチカラに振り回された結果、身近な人を傷付けそうになったんだ。そのショックは計り知れない。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、衛宮くん」

 

カードを回収し、現実世界へと帰還すると遠坂が声をかけてきた。

 

「どうした?」

「イリヤのこと。巻き込んでしまった責任はこちらにあるわ。それにさっきのこと…あの子、もう戦わないって言いだすかもしれない」

 

確かにあり得るだろう。

 

「その時は私たちだけでも戦います」

 

と、そこに美遊が混ざる。

 

「正体不明の制御できていない力を持っている人となんて共闘できません」

「ちょ…!?」

「そうだね。私も同意見」

 

遠坂が口を挟む前に白野が続く。

 

 

「ルヴィアさん、カードは7枚、なんですよね?」

「え、ええ。そうですわ」

「なら話は単純です。明日の夜、私たちがそれを回収すればもうこんなことをする必要はなくなる」

「その通りよ」

 

遠坂が、白野の言い分に何か得心がいった、というように頷いた。

 

 

「わかっているならいいわ。ルヴィア、帰るわよ。あなたたちもしっかり休んで明日に備えなさい」

「なっ、遠坂凛!あなたという人は————」

「はいはい、後で聞くから。あと衛宮くん。貴方もどうするのか、決めたなら連絡をちょうだい」

 

そう言って遠坂は文句を垂れるルヴィアを引きずっていった。

 

 

 

 

さて、と。

 

「ありがとうな、二人とも」

 

残った妹の友人二人に言う。

 

「明日で全部終わらせて、イリヤの負担をなくそうと考えてくれたんだろ?」

「あ、やっぱり士郎兄にはばれた?」

「多分遠坂も気づいていると思うぞ」

「士郎…さんは」

 

振り絞るような声色。

 

「士郎さんは、どうするんですか?」

 

その瞳に映る不安の色。

でもそれは友人の兄を心配する色合いとはまた違う、どちらかというと身内を慮るような色合いで—————。

 

 

いや、俺は何を考えているんだ。

 

頭に浮かび上がった疑念を晴らすかのようにかぶりを振り、答える。

 

「俺はもちろん、明日も戦うよ。白野たちと同じで、さ。俺も(イリヤ)にはこんな危険な世界からは離れていてほしかったんだ。でも、関わってしまった。じゃあ、兄である俺が出来るのは精一杯のフォローと後始末だけさ」

 

 

俺は戦う。

残ったクラスに対応する英霊が何なのかわからないけど、早く済ますことで妹の不安を拭う事が出来るのなら。

 

 

そう考えていたからか、俺は美遊の羨望のまなざしに気付かなかった———————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。

それはすがすがしいもの。

小鳥たちは囀り、草木は光を浴びて青々と輝く。

この時期だと、もう少しするとセミの合唱も聞こえるようになるだろう。そう思うと、この間までのカエルたちの輪唱も懐かしい。

 

 

「———ぃ、————って?」

 

 

確実に夏の足音が聞こえる。

ああ、もうすぐそこまでやって来ているんだろう。身も心も開放的になる夏が。

夏といえば海に山に花火にお祭り。

水着や浴衣も新調しないと。

あ、キャンプも行きたいなぁ。

 

 

「———い、白野も—————」

 

 

そうだ、久々に魃さんに麻婆を監修してもらうのもいいかもしれない。

あの辛さがたまらない泰山の麻婆。その根源は私を以ってしてもまだ一部しか再現できていない。この機会に免許皆伝を目指すのもいいだろう。

 

 

「————って、いい加減反応しろ白野!」

 

 

ぐりん、と肩に乗せられた手に引っ張られ強引に体を向けさせられる。

むう。現実逃避していたのに。

 

 

「どうにかしてくれって白野!なんかわからないけどあの二人の雰囲気はやばい!」

「何があったか知らない?白野ちゃん?」

 

美々と雀花が迫ってくる。

それもそうだ。

 

いつもはそこにいるだけで花が咲いたような笑顔を振りまくイリヤが、登校してきてからそんなオーラが微塵も出していないのだ。

それだけでもクラスの男子は慌てているのに、美々が「何かあったの?」と疑問に思って聞いても「何にもないよ?大丈夫ー」なのだ。

 

 

大丈夫といって大丈夫だったやつが今までいるのか。

 

 

そんなこんなで混乱しているクラスに今度は美遊が入ってきた。

そうするとイリヤはあからさまに美遊を避け、美遊もそんなイリヤを避ける。そんな何とも空気の悪い雰囲気が出来上がっていた。

 

 

「く、くう…こうなると余程空気の読めない馬鹿か、どうしようのないアホがいないと状況の打破は厳しいな…」

「っはよー、エブリデイ!今日のスカイはサンデイだぜ!」

「「「余程空気の読めない馬鹿でどうしようのないアホがきた!?!?」」」

 

どうしよう。突っ込みが追い付かない。セリフから突っ込めばいいのか、この狙ったようなタイミングを突っ込めばいいのか、いやまて、そもそもなんであのバカ(龍子)は英語でもないカタカナを?

 

 

混乱している間に龍子は騒乱の中心(イリヤ)にも挨拶をする。

 

「ぅオーっス、イリヤ!今日のご機嫌ハウドウユーゥ!」

「……龍子は元気だねー……」

 

ピシリ、と龍子が硬直する中、私たちの心は一つになった。

 

 

 

 

——————アイツ、やりやがった。

 

 

 

龍子からしたらイリヤは、那奈亀や雀花のようにキックやチョップで突っ込まない、とても話しやすい(私たちから見たらボケやすい)相手なのだ。

 

なのにこの薄い反応。

 

「オーゥ、ソーバッド」

 

でも龍子はくじけない。

薄い反応がどうした。そんな相手からも突っ込みが返されてこそ、真のボケではないのかといわんばかりにくじけない。

 

「なんだよ元気ねーな!朝からそんなんじゃミッドナイトまで持たねーぞ?朝飯食ったか?昼飯は?間食と晩飯は大丈夫か?」

 

しかしイリヤは反応を返さない。

 

「おいおい、本当に大丈夫か?なぁ、美遊!お前からも言ってやれよ!」

 

ならば周りから巻き込むまで————と龍子は盛大に地雷を踏みぬいた。

 

 

 

 

—————アイツ、やりやがった(二回目)

 

 

 

居た堪れない空気がクラスを覆う。

そして、世間の風は龍子に冷たかった。

 

 

 

「うるさい。静かにして」

 

美遊の放った一言に龍子は再び固まり、えぐえぐと泣きながらゆっくりと私たちのところまで帰ってきた。

大丈夫龍子。貴女の犠牲は忘れない。

 

「ちくしょう。誰か俺にやさしくしてくれ…!」

「はっはっは。このうじ虫め」

 

いっそ晴れやかに笑顔を浮かべ那奈亀が龍子の頭をなでる。

 

「さっすが龍子。空気が読めていないな」

 

と、雀花。

全く容赦がない。

 

 

 

 

 

「それはそうと、白野。あんたもだろ?イリヤと何かあったのか?」

 

雀花の言葉にドキッとする。

 

 

「え、何のこと…?」

「違うなら違うでいいんだけどさ、あれだけ仲がいい白野とイリヤが今日一言もしゃべってないんだぞ?何かあったのかって普通思うって」

 

……そんなところに気付いていたのか。

すごいなぁ、と思いながらも返す。

 

「うん、ちょっと…ね。大丈夫、何とかするから」

「ったく、大丈夫が大丈夫じゃないのは白野もだぞ?」

 

うりうりーとほっぺたをいじられる。

…大丈夫だ。今夜、全部終わらせるんだから。

 

 

 

 

 

 

「いい加減引っ張るのやめて!」

 

…つねられすぎて赤くなってる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日一日、イリヤに避けられていた。

夕食も口数少なく、食べ終わるとすぐに自室に引きこもってしまった。

 

 

 

「全く…生活はきちんとしてほしいものです」

「そう言うなって」

「そうそう。聖杯として封印されていた分の魔力が使われていたんでしょ?得体のしれない力におびえている」

「そうは言っても…士郎さん。ちゃんと、今日で終わらせてきてくださいね?」

「もちろんだ。これ以上イリヤの負担を増やしてたまるかってんだ」

 

 

今日の待ち合わせは早い。

10時に新都の駅前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に待ち合わせ場所には全員揃っていた。

 

「一応イリヤから辞表は貰っていたんだけど…やっぱり来ないか」

「ああ」

 

そのまま五人で移動し、ビルの屋上までやって来た。

 

——————ああ、ここは。

アーチャー(アイツ)の生前の記憶に残っていたビルだ。

屋上に上がるまで気づかなかった。でもここは、初めて相棒(セイバー)の宝具を見た場所なんだから。

 

あの日。

天駆ける天馬と星に鍛えられた剣の激突。

 

己の非力さを呪う場所。

自分の存在が彼女の枷となってしまった戦い。

 

 

————ここはエミヤシロウの原点であり、分岐点の一つだ。

 

 

 

 

「ミーティングを始めるわ」

 

遠坂の号令に引き戻される

そうだ。今はこっちに集中しないと。

 

「カードが確認されている座標はこのビルよ。今まで回収したカードの分鏡面界は縮小されていると思うから立ち回りには気を付けて」

「最後のカード、ということは最も長く地脈から魔力を吸い上げているカードということ。全員決して油断しないように」

「質問。今回の戦術は?」

「最大火力での正面突破。昨日みたいな搦め手を使うのは一騎だけだとヤマを張るわ。じゃないと対策も何もないもの」

「ということは、全員の援護を受けて私が刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)を使って一撃必殺を狙う、ということですか?」

「その通りよ」

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)を避けられたらどうするんだ?」

「因果律を捻じ曲げる必中の槍でしてよ?そんなことはないと思いますが…」

「…可能性の話だ。相手は劣化しているとはいえ英霊。どんな手段や宝具を持っているかわからないし、避けなくても盾で防がれるかもしれない」

 

事実、セイバーは回避しアーチャーは盾で受け止めた。

 

「…そうね。その可能性は正直考えていなかったわ。となると…セイバーの約束された勝利の剣(エクスカリバー)くらいしかなさそうね。何にせよ、ゲイボルグが効果を発揮しなかったときはすぐに撤退よ。その反省も踏まえてもう一度作戦を立てるわ」

 

方針は決まった。

さあ、最終戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接界(ジャンプ)して最初に目に入ったのは空に浮かぶ格子模様の狭さだった。

どう見てもビルの周囲にしか展開されていない。

 

こんな狭いところで…。

 

この間の黒騎士を思い出す。

もしあんな奴が現れたら————。そんな嫌な予感を拭いきれずに緊張感を高める。

 

「どこにいるかわからない、全員気を抜くな」

 

士郎兄が陰陽一対の中華剣を構え、警戒を促す。

ピリピリとした空気が一番高まった頃!

 

 

 

ズズン…と空気が軋んだ。

 

 

 

 

「■■■■、■■—————」

 

 

 

屋上の端に現れたソレは黒く染まった巌の巨人。

 

「な————ッ!」

 

士郎兄の顔が引きつり、

 

 

 

「■■■■、■■■—————ッッ!!!」

 

 

巨人が突進してきた。

 




ようやく終わりが見えてきた無印編。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。


バサクレス戦のビルはセイバールートでライダーと戦ったビルです。
プリヤ読みながらstay nightで戦闘のあったところにクラスカードがあるなーと思ったのでこのビルはそうだろうな、ということから。

…この理論だとバゼットさんはランサーは教会だと思いますが、アーチャーは…どこだ?どこで手に入れたんだ?
柳洞寺はドライに繋がる爆心地、飛び散ったカードが元の所在にあるわけないと仮定すると省かれるし…港のコンテナ置き場かな?


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがあればよろしくお願いします。
…最近誤字ひどいんだよなぁ


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13話 狂戦士の魂

—————バレンタインイベント、いつになく本気でガチャを回す必要がある。
我らが嫁王ブライド、それを手に入れるにはあまりにも高い壁。

しかも彼女はEXTRAバージョンでなく、奏者に出会っていない状態と聞く。

手にするカード(課金)は少ない。
しかし、ここで使わずしていつ使う?


さあ、血で血を洗う抗争(ガチャ)の幕はあける。
問おう。マスターたちよ。
武器の貯蔵(預金残高)は十分か?



…スノボウェア代どうしよう…真剣にやばい…一式新調しないとやばいのに…

今回の話を書いているときに嫁王ブライドのお知らせはずるいと思う。


 

バーサーカーが迫ってくる。

その圧倒的なまでに鍛え上げられた肉体から、強靭な腕がうなりをあげて叩き付けられる。

 

 

砲射(シュート)!!」

 

それを散開し回避する私たちの傍ら、最も近い位置にいた美遊が魔力砲を放ち、その反動で距離を取る。

狂戦士の攻撃は暴風のように荒々しく、大きく地面を陥没させる。

 

「美遊大丈夫!?」

「なんとか!」

『絶対に攻撃に直撃しないで!僕らのAランク物理保護でもあれの前じゃ紙装甲だ!』

 

 

ラルドの悲鳴にも似た絶叫に、背筋に冷たいものが走る。

 

 

Anfang(セット)———!!」

 

凛姉の宝石魔術が炸裂し、その衝撃波が屋上を襲う。

直接魔術が効かないのならば、その衝撃を利用しようとしているみたいだ。

 

 

 

 

だけど、狂戦士は止まらない。

鋼の肉体を盾に、そのまま突進してくる。

そしてその進路上に無造作に短剣が投げ込まれ、

 

 

「————壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 

一瞬ののちに内包している魔力を爆発させる。

 

全員がラルドの一言に危機感を覚え、決して攻撃を食らわないように必死に立ち回る。

カレイドの魔法少女の物理保護を突破する破壊力。

生身で受けるにはあまりにも危険すぎる。

 

 

 

だが。

 

「くそ、今回の鏡面界が狭すぎる…ッ!」

 

そこが問題だった。

ビル一つ分の鏡面界。

内装を含めると広く思うけど、バーサーカーの突進力を思うと屋上は狭すぎる。

相手からすると一息で詰められる距離。

常に危険の伴う立ち回り。

 

それは確実に私たちを消耗させていた。

 

 

放射(シュート)!!」

 

美遊が魔力砲を放つ。

 

しかし、バーサーカーは気にすることなくそのまま突進し、魔力砲は肌に触れると同時に弾かれた。

 

放った魔力砲は大してダメージを与えた様子はない。

むしろ表面でかき消されたような…

 

「対魔力————いえ、あの感触を見るにおそらく宝具の類です!」

 

美遊が叫ぶ。

 

『…間違いないでしょう。推測するに一定ランクに達しないすべての攻撃を無効化する鋼の肉体()…それが敵の宝具です』

「なんだって最後に厄介な…」

 

 

 

「————フッ!!」

 

一息の間に二射、タイミングを外すようにさらにもう一射矢が放たれる。

士郎兄は超人染みた集中力で狂戦士の目を狙い続ける。

少しでも矢に注意を向けないといけないように動き、私たちへの攻撃の邪魔をする。

 

しかしそれは巨人の振るう腕に弾き飛ばされ決定打になりえない。

 

 

「■■■■————!!」

 

狂戦士は吠える。

そしてそのまま強引に、攻撃を続ける士郎兄へと殴りかかる———が、再び現れた二振りの中華剣で受け止め、反動を利用し距離を取る。

 

爆射(バースト)!!」

 

追撃から士郎兄を守るように今の私が使える最も高い攻撃力を持つ爆射を放つ。

それはバーサーカーへと確かに当たり爆発する。

 

でも、その爆発によって舞った粉塵をかき消すように圧倒的なまでの暴力が振るわれる。

 

 

「が、———ぁ」

 

離れた場所で士郎兄が起き上がるのが見える。

ガードしているように見えたけど、あの理不尽なまでの力のカタマリはそれすらも突き抜けてダメージを与えていたみたいだ。

 

叫びたいのを我慢して爆射を続ける。

既にキャスター戦で見せた砲門は展開済み。それでも魔力砲は相手に傷を与えず、せいぜい着弾時の衝撃でけん制できる程度。

 

 

「■■■、■■————!!!」

 

と、その時巨人が跳躍した。

足場は崩れ、ビルの内装が露出する。ただの跳躍でこの破壊力。

 

着地した狂戦士は一歩で加速し————私の目の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

音や言葉を置きざりにしてその右腕が迫ってくる。

その一撃は確実に私の命を刈り取ろうとし、

 

 

 

 

 

 

目の前にバーサーカーがやって来た時点で倒し始めていた体の、ほんの数ミリ前を通過した。

 

 

轟ッッッ!!!!

 

 

その風圧だけで無茶な体勢を取っていた私は完全に体勢を崩し、

 

「————投影完了(トレース・オン)!」

 

続いて飛来した長剣が狂戦士の肩に突き刺さった。

 

 

「ナイスですわミスタ!」

 

 

ルヴィアさんが叫び、

 

Zeichen(サイン)————————」

Anfang(セット)————————」

 

「「獣縛の六枷(グレイプニル)!!!」

 

 

続くように投擲された凛姉とルヴィアさんの宝石が煌き、魔法陣を展開しバーサーカーを拘束する。

布のような拘束具で雁字搦めに押さえつけ、さらにその上から三角錐状の結界が張られ、内部を圧迫し続ける。

 

 

私は、巻き込まれないように無理やり飛翔し距離を取った。

すると、眼下でタイミングを見計らうかのように、美遊さんがサファイアにランサーのクラスカードを限定展開(インクルード)し、待機しているのが見えた。

 

「■■■■————!!!」

「逃、が、す、かああああ!」

 

猶も抵抗し、拘束具を引きちぎり結界から逃れようとするバーサーカーに、凛姉がポケットからさらに宝石を取り出して投擲し、拘束を強化する。

 

 

「■、■■————!!」

 

 

狂戦士は強く足場を踏みつけ、ビルの屋上に穴を空けることで逃れようとする。

 

だが、

 

「甘くってよ!」

 

同じようにルヴィアさんが宝石を使い、屋上の地面を強化し、さらには凛姉と二人で拘束による圧力を分散するように力の流れを誘導し、ビルの倒壊を防ぐ。

 

 

それでも拘束しきれない。

でも得られた数瞬。

 

そこを見逃さず美遊さんは距離を詰め、

 

 

刺し穿つ(ゲイ)——————

 

 

 

 

 

     —————————死棘の槍(ボルグ)!!!」

 

 

必殺の槍が心臓を貫いた。

 

 

 

 

一息つける。

そんな風に若干弛緩した空気は、

 

 

 

 

 

 

「まだだ!こいつの真名はヘラクレス、宝具の能力は蘇生だ!」

 

士郎兄の絶叫が聞こえる。

 

 

 

え————、

 

 

「ごふ———っ」

 

反応を返す前に振るわれた腕に、美遊が弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

くそ、最悪の展開だ。

 

バーサーカーと相対した後、忠告が遅れた。

忠告するため距離を取っても、この狭い屋上でバーサーカーを相手にするとほとんど意味がない。

生半可な集中力じゃこちらが死んでしまう。

みんなが狙われないように注意が分散するように攻撃を続け、射で時間を稼ごうにも真正面から打ち破られた。ガードしたとはいえ直撃を食らった俺が、呼吸を整え戦線に介入できたのはゲイボルグを放つ直前。

忠告を放つ前に一瞬気が緩んだ美遊が振り回された腕にひっかけられた。

 

 

「俺が時間を稼ぐ。遠坂達は態勢を立て直してくれ」

 

返事も聞かずに夫婦剣をを投影し、強化する。

傷を与えることが最上だが、今はこいつの攻撃を裁くことに集中する。

 

 

嵐のような連撃を耐える。

拳をいなし、避け、防いだ干将が砕ける。

ノータイムで再び投影するが、今度は莫耶が折れる。

 

最も馴染んでいる夫婦剣の投影だから間に合っているが、この分だとそう遠くないうちに投影が追い付かなくなる。

不死殺しの剣を投影するにも、今の状況でほかの設計図を展開している余裕はない。

 

セイバーと戦った時にも感じた自分の限界を思い知る。

 

 

 

「うお、おおおおお!!」

 

それでも。

負けるわけにはいかない。ここで俺がやられたら終わりだ。

神経を、血管を、筋肉を、魔力回路を限界まで酷使する。

 

拳に合わせ夫婦剣を振るい、衝撃を逃がす。

続く蹴りは倒れ込むように回避し、莫耶を叩き付け無理やり体勢を整える。

僅かな隙は、その眼孔を突くように夫婦剣を振るう。

 

 

そうして作り上げたわずかな猶予は、

 

「準備オッケーよ!衛宮くん!撤退するわ!」

 

遠坂の声を耳へと届けた。

 

 

 

 

 

—————すごい。

 

純粋にそう思った。

あの狂戦士、士郎兄曰くヘラクレスという大英雄相手に一歩も引かずに打ち合う士郎兄。

 

 

凛姉の声に反応し、両手の双剣を投擲する———と同時に爆発させる。

 

その爆風をも使い、こちらに駆けてくる士郎兄。援護するように私は魔力砲を放つ。

美遊は離界(ジャンプ)用の魔法陣を維持している。

 

 

離界(ジャンプ)完了まで5、4、3—————』

 

サファイアのカウントダウンが始まる。

それは士郎兄がぎりぎり間に合うラインで———

 

 

『2————』

 

嫌な予感がした私はいつでも動き出せるように身構える。

士郎兄が魔法陣へと足を踏み入れた。

そして、

 

 

『1———離界(ジャンプ)——美遊様!?』

 

魔法陣から美遊が踏み出すのを見て思わず私も外に出る。

 

 

 

「ちょ-——」「貴女た———」

 

 

 

そしてそのまま凛姉たちが離界(ジャンプ)した。

 

 

 

 

 

 

「白野まで残らなくてよかったのに」

 

ビルの内部に潜り込み、一息ついたところで美遊が話しかけてくる。

 

「友達を一人こんなところに残せないよ」

『何を…二人とも撤退してください!』

『そうだよ!いくら何でも無謀すぎる!』

「そういうわけにもいかないよ」

 

ラルドとサファイア、二人のカレイドステッキが諫める中私は答える。

 

「だって…ここで撤退したらイリヤが呼ばれる。戦いを嫌がっているイリヤが」

「白野も…うん。そうだね。…イリヤは私を初めて友達って言ってくれた人。イリヤを守るために———」

「私たちが今日、ここで全部終わらせる!!!」

 

 

『…とはいっても勝算はあるの?』

『エメラルド…!?』

『仕方ないでしょ?無謀な特攻ならここで絶対に止める。逆に勝算があるなら全力でバックアップするのが僕たちカレイドステッキの役目なんだから』

「…ここからのことは、秘密ね。絶対に」

「———美遊にもあったんだ、秘策」

 

 

狂戦士が徐々に迫ってきているのがわかる。

そんな中、最終確認をする。

 

「ラルド、貴方は並行世界に接続できるのよね?」

『限定的にだけどね』

「その並行世界って選べるの?」

『目印がないとさすがに…だから宝石翁とかの魔法使いの力が必要なんだよ』

「それが聞ければ充分。私に全部賭けてくれる自信はある?」

『———なるほど、そういうことか。オッケー、全力を尽くすよ』

 

 

 

 

 

 

『カード…?』

 

美遊がクラスカードを取り出すと、サファイアが不思議そうな声を出した。

 

 

 

「——————どうしてできたのかはわからないけど、以前イリヤがやって見せた」

 

 

美遊はそのままセイバーのクラスカードに魔力を通し、地面に叩き付ける。

すると、そこから巨大な魔法陣が展開された。

 

 

「これが、カードの本当の使い方」

 

 

展開された魔法陣に魔力が循環する。

 

 

 

 

 

 

 

「—————告げる!

 

汝の身は我に!汝の剣は我が手に!

 

聖杯のよるべに従い、この意この理に従うのならば応えよ!」

 

 

 

 

通路の先の天井が崩落し、狂戦士が降り立つ。

 

 

 

 

「誓いを此処に!

 

我は常世総ての善と成る者!

 

我は常世総ての悪を敷く者————!!!」

 

 

 

 

魔力が渦となり、美遊を包んでいく。

 

『美遊様!』

 

 

狂戦士に脅威を覚えたサファイアが忠告するが、美遊の詠唱は止まらない。

 

 

 

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天!!!

 

——抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

もちろん私だって見ているだけじゃなかった。

 

ラルドを介し、意識を集中させる。

手繰り寄せる縁は細く、普段ならば意識することすらできない。

 

 

 

 

 

「————カレイドステッキ、機能開放」

 

 

 

でも、手にしている礼装は超の付く一級品。

黒騎士戦のイリヤを見て気付いたこと。

イリヤの変身。クラスカードの名称。

 

この騒動を聖杯戦争だとするのなら—————

 

ステッキを握る手から緑のラインが伸び、肩まで達する。

 

 

 

 

 

『マスター岸波白野を接続点(ポイント)とし、座標検索開始。

 

 

    —————座標特定、完了』

 

 

ズキン、と頭に鈍い痛みが広がる。

まるでわずかな断片を頼りに、手探りで手繰り寄せるような感覚。

 

目印があるのならば限定的に並行世界の運用という第二魔法を模倣できるカレイドステッキ。

ならば、この礼装を私が使えば—————私自身が目印になる。

 

 

 

 

 

 

 

『疑似回路設定————完了。

 回路(パス)の構築―———完了。

 

 接続固定—————完了!!』

 

 

 

 

並行世界からやって来た私だけが使える反則のような裏技。

でも、私だけの特権。

 

バーサーカーがこちらを睨む。

 

 

 

 

『カレイドエメラルド、全権限解放!

 

   ——————並行世界限定接続(パラレルコネクト)!!!』

 

 

 

 

膨大な魔力がステッキを通して、形成された回路(パス)に流れ込む。

そして、それは急に押し返されるようにして、更なる魔力と情報を持ってステッキへと到達し————

 

 

—————その瞬間、私は限定的に繋がった(・・・・)ことを感じた。

 

 

彼女風に言うならば、”勝者特権”とでも呼ぼうか。

 

 

 

「————月の聖杯ムーンセルに、月の勝者岸波白野が告げる!

 

 我が手に剣を!

我が手に薔薇を!

我が手に喝采を!」

 

 

死にたくない。

ただその一心で契約した前回とは違う。

 

カレイドライナーである時だけの反則染みた契約。

それは私が最も信頼する英霊の内の一人。

 

情報の海から、さらに私を目印にして掬いだす。

 

 

 

「月より来たりて我が身に宿れ、我が相棒(サーヴァント)が一騎!」

 

 

普通に召喚し、維持するには魔力が足りない。

ならば。無限の魔力を持つカレイドライナーのその身に写す。

 

夢のごとく儚い、一時のみの顕現。

 

主体が私である以上、彼女の意識を喚べるかすらわからないが、本来あるはずのなかった幻のような再会。

 

 

 

 

 

 

狂戦士が突進し、圧倒的な暴力を内包する左腕が振るわれる。

そして私たち二人を渦巻く魔力が収束し————

 

 

 

 

「「—————夢幻召喚(インストール)!!!」」

 

 

 

 

魔力の奔流と共に、その拳は黄金の剣に阻まれた。

 

 

彼女はそのまま聖剣を以って拳を押し返し、

 

 

 

「はああああっ!」

 

 

私の振るった赤き大剣が狂戦士へと迫り、それを嫌ったのかさらに距離が開く。

 

 

 

 

魔力の奔流により立ち込めていた煙が収まる。

そこには。

 

 

青い礼装を身に纏い、星の鍛えし最強の聖剣を携えた美遊と。

 

赤き男装を身に纏い、炎を思わせる深紅の大剣を携えた私がいた。

 

 

 

 

 

 

 

意思無き大英雄ヘラクレスよ。

括目するがいい。

ここに並び立つはブリテンの誉れ高き騎士王と、ローマに咲く誇り高き皇帝。

 

 

生前の12の試練に勝るとも劣らない一戦。

 

 

その第二ラウンドの幕が、赤と青の騎士(セイバー)によって切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無印イチ書きたかったシーンその2、赤と青の共闘。
その3とその4はおそらく次回。ちなみにその1はセイバー戦。

セイバー戦と違い、小分けにすることにしましたバサクレス戦。
士郎はがんばったんだ。一回退場で。

カードを介した夢幻召喚と白野の夢幻召喚は全く原理が違います。
しかし、夢のように儚く、幻のような召喚ということで夢幻召喚と呼称しました。
読みも変えようかと思ったのですが、ムーンセルから汲み出した情報を宿すのでインストールとそのままの読みに。

いろいろ批判はあるとは思いますが、拙作ではこんな感じですのでよろしくお願いします。


いやほんとブライド欲しいんじゃが。
…新品のスノボウェアっていくらじゃろ…

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


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14話 黄金劇場

嫁王は来なかった…
70連ガチャ…来た☆4鯖はデオン…お前沖田狙いの時にも来たよな!?
金演出で高まったのに…


パティシエールが限凸しました☆

…くそう、、、


今回の話を書きながら思った。
…俺、難易度高めに設定するの好きだなぁ。目指せハードモード。難易度ルナティック。
ドライ前だけど突っ走るぜ!

というか!らっきょコラボですよ!
世界観を壊さず展開してくれる!シナリオ超たのしみ!うわぁぁぁ!財布が!
CMもクソかっこよかったですし!
くっそぉ、FGOは型月という自社コンテンツでいくら稼ぐんだ……嫁王に続きこのコラボ……
式さんが配布と信じて、CM再生してきます。イリヤとキャスニキとメディアリリィと師匠とディルムッド……お前、冬木マラソンしてたら巻き込まれたのか……

執筆中にコラボ発表でおかしなテンションです、何か申し訳ない


 

原初の火(アエストゥス・エストゥス)が拳と正面から撃ち合うが、筋力の差によって弾かれる。

しかし、その隙を埋めるかのように私の後ろから美遊が走り込み、聖剣を振るう。それは私を追撃しようと迫っていた拳をはじき返し、距離を取ることに成功した。

 

「くそ、ビルの中じゃ狭すぎる…!」

 

魔法少女のままならば、私たちに利点のあったビルの中。

バーサーカーは壁をぶち抜いて攻撃することができるが、どうしてもその速度と威力は開けた場所での直撃に比べると弱まるからだ。

 

でも、英霊を身に宿している私たちだと話は違う。

英霊のステータスを十分に生かす事が出来ずにいた。

 

狂戦士の肉体と私たちが持つ剣が幾度となく交わり、しかし決定打に欠ける戦闘は続く。

ビルの通路での戦いは膠着状態に陥っていた。

 

 

「白野!」

 

美遊が魔力をジェット噴射のように放出し、バーサーカーに肉薄する。

そのまま拳と聖剣は鍔迫り合いを行うかのように拮抗した。

 

その隙に私はバーサーカーがぶち抜いた壁から部屋に入る。廊下だと分が悪い。

 

幸いにも、その部屋は開けたオフィスのようだった。

 

よし、ここなら充分な広さも、机とかの遮蔽物もある———!

 

隕鉄の鞴を握りなおすと同時に離れた位置の壁に大穴が空き、バーサーカーが部屋の中へと吹き飛ばされてきた。

 

「————っ!」

 

反射的に剣を担ぎ上げるようにして構えて力を蓄え、踏み込むと同時に確かな一撃を鋼の肉体に刻み込む。見ると、美遊は魔力放出をうまく使い、自分の体ごとバーサーカーを押し込んだようだった。

 

 

 

「■■————!!!」

 

振り回された腕が私たちを弾き飛ばす。暴風のような一撃は周囲の机やコピー機を粉砕し、まき散らす。

散弾のように降ってくる残骸に注意しながらもすぐさま体勢を整え、着地する。

バーサーカーは私と反対方向へと弾かれた美遊に接近していた。

 

 

美遊は空中で魔力を放出し、うまく距離を取ろうと動いている。が、接近するバーサーカーは地に足を付け、しっかりと踏み込んでいるからかあまり距離が離れない。

だが、美遊は体を捻り無理やり体勢を立て直し、そのままの勢いで聖剣を滑り込ませた。

 

ゴッッ!!と鈍い音と共に突き刺さる拳。ピンボールのように美遊は撃ち出された。

聖剣一本分とはいえ直撃を避けた美遊に追撃が迫らないように援護するべく、私は机を使い死角を縫って駆けつける。

 

走り込んだままの低い姿勢から、跳ね上がるように手にした大剣を振り上げる。

それは、完全には模倣できていないが、セイバー(私の従者)の剣技の模倣だった。

 

不意を突いた一撃はバーサーカーの顎にクリーンヒットする。

そしてすぐさま追撃をかけるように、遠心力を利用して横なぎの一撃を放つ。顎への一撃にひるんでいた狂戦士はそれに対応できず、原初の火(アエストゥス・エストゥス)をもろに食らった。

 

 

「————っはぁ、っ」

 

その致命傷の一撃も、未だ命を刈り取るには至らない。返す右の拳をバーサーカーに密着するように避け、攻撃してきた腕の下を潜るように背後を取る。そのまま流れるように大剣を振るうが、後ろを見ないまま強引に掴むように振るわれた左の掌に弾かれる。

 

一進一退の攻防。

英霊をこの身に宿すことで成り立つ均衡。

 

先ほどまでとは違う手ごたえに震える。

—————でも、このままじゃだめだ。

この大英霊を超えることはできない。

 

もう数えるのが億劫になるほどの衝突。

高速の戦闘は時間感覚を鈍らせ、士郎兄たちを逃がしてどれほど経ったのか正確にはもうわからない。

そんな一瞬の油断が命取りになる攻防の中、再び私の剣が狂戦士を確実に捉えた。

 

 

「—————ッ!」

 

渾身の力を籠め、刃を食い込ませる。

ずぶり、と大剣はさっき与えた横一文字の傷の下側へと潜り込む。しかし狂戦士は自分へのダメージを度外視し、私の頭上で手を組み、頭へ振り下ろそうと振りかぶる。

 

でも、接近していた美遊の持つ聖剣が背後からバーサーカーを貫いた。

 

バーサーカーの動きが止まる。

 

 

 

確かに心臓への一撃。

 

 

 

「…も、もう、動かない———っ!?」

 

美遊の期待するような声もむなしく、固まったまま逆再生のように徐々に回復していく英霊。

 

「くっ!」

 

ならば、復活する前にもう一度殺すまで!

————そう思い、再生する傷から引き抜いた大剣を腰溜めに構え、渾身の一撃で心臓を狙い振るった剣は刺さらず、いともたやすくその体表に弾かれた。

 

「うそ!?」

 

冗談じゃない!

明らかに体表の硬度が上がっている。もしかして、死因に対する耐性まで獲得するの!?

 

 

「美遊、一回退避しよう!」

 

既に、オフィスは見るも無残な姿になっていた。遮蔽物たり得るものもほとんど残っていないここならば、上が開けている屋上の方がまだマシだ。

 

斬撃が通らないならばと、美遊と協力して剣戟を打撃として打ち込み、強引にビルの窓からバーサーカーを叩き出す。

そしてそのまま、

 

「落ちろおおおお!」

 

地面へと叩き落す!

 

 

私たちはそのまま反動をも利用し、英霊の状態を保ったままで屋上へとビルの外壁を駆け上がる。そういえばいつまでこの状態は持つんだろう?残り時間がわからないままでのこの綱渡りはかなり危ない。

 

『お二人とも、大丈夫ですか?』

 

と、その時美遊の握る聖剣からサファイアの声が聞こえた。

 

「驚いた。その状態でもしゃべれるの?」

『はい。ステッキの状態よりも自由度は下がりますが、会話程度なら支障はありません』

『ちなみに僕もしゃべれるよ』

 

ラルドも大丈夫なようだ。

 

「でも、時間がない。そろそろあのバーサーカーも登ってくる頃」

「正直、何回再生するのかわからないからかなり厳しいよ…」

『英霊の状態が解ける条件は詳しくは不明だね。でも、僕の感触だと、僕らからの魔力供給が続いているうちは、一瞬で蓄えている魔力を放出しつくさない限り大丈夫だと思うよ』

『エメラルドに同感です。おそらく、宝具の真名解放クラスの魔力消費でもない限りは大丈夫でしょう。しかし、クラスカードはそもそも原理が解明さえていない魔術礼装です。急な転身など、不測の事態を視野に入れといたほうがよろしいかと』

 

宝具の真名解放…ね。

 

「美遊。約束された勝利の剣(エクスカリバー)であれ、倒しきれる?」

「…士郎さんの言う通り、あの英霊がヘラクレスだとすると12回殺す必要があると思う。私たちはたぶん2、3回しかまだ殺していない。…セイバーの宝具で10個分の命のストックを削り切れるかどうか…」

「…なら、私が隙を作る。できる限り弱体化させてみるよ。だから、美遊は確実に決めることだけを考えて」

 

ダンッ!とビルの下から衝撃が響く。

そして間もなく屋上に現れる狂戦士。

 

 

「…ふぅ」

 

呼吸を整える。

 

「いける?」

『はくのんこそ』

 

ラルドからの魔力供給を確かめる。

————大丈夫。しっかりと満ちている。

 

夢幻召喚(インストール)では互角の闘いへと持ち込めた。

なら、英霊たる神髄を解放すれば、優勢に出れるはず。

 

時間制限がつけられるけど仕方がない。どのみち、聖剣の一撃を叩き込めるかが正念場だ。

 

 

 

—————うむ。それでこそ余の奏者だ。

 

聞こえるはずのない満足げな声ににやける。

 

 

 

 

 

「オリンピア・プラウデーレ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、セイバー。

貴女にこの劇場を捧げよう。

 

 

 

 

 

「門を開け、独唱の幕を開けよ!」

 

 

 

 

薔薇が、舞う。

 

 

 

 

 

 

 

白野を包み込む雰囲気が変わる。

どうなっているのかわからない。薔薇の花びらを幻視した。

 

 

 

「レグナム カエロラム エト ジェヘナ

————築かれよ摩天、ここに至高の光を示せ!」

 

 

 

魔力が荒れ狂い、鏡面界を響かせる。

 

負けじと、私も自分の責任を果たすべく聖剣に魔力を込め始める。

 

 

 

 

 

「我が才を見よ、万雷の喝采を聞け!」

 

 

 

 

 

吹きすさぶ魔力に色がつく。

荘厳な雰囲気が広がり、場を包み込む。

 

「…これは」

 

世界を覆いつくす大禁呪。

それに酷似した予兆が広がる。

 

 

 

 

 

「しかして讃えるがよい、黄金の劇場を!」

 

 

 

 

白野の詠唱が紡がれると同時に変化は起こった。

世界が塗り替わる。

赤い薔薇の花吹雪が舞い、鏡面界(異界)宝具の中(舞台)へと招き蕩う。

 

 

 

————そこは黄金の劇場。

帝政ローマの第5代皇帝が造り上げた、至高の劇場。

”楽神アポロンに匹敵する芸術家”であり、”太陽神ソルに匹敵する戦車御者”であると自分を疑わなかった暴君の絶対皇帝圏。

 

 

その名も、

 

 

 

 

 

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)!!!」

 

 

 

 

 

黄金の舞台に立つ赤き皇帝(岸波白野)の期待に応えるべく、聖剣を握る手に力が籠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、宝具の展開は賭けに近い。

この黄金劇場でバーサーカーのステータスダウンを狙い、聖剣を確実に当てることが目的だけど、宝具の維持にかかる魔力を考えると私自身が十全に戦えるとは限らないからだ。

 

それでも、あの狂戦士相手だと賭ける価値がある。それほどまでに手ごわい。

 

 

 

「はああああっ!」

 

 

隕鉄の鞴を手に斬りかかる。

バーサーカーの動きはさっきまでよりも鈍く、宝具の影響を受けていることがわかる。現に、先ほどまで筋力差で打ち負けていた攻撃が鍔迫り合いのように拮抗している。

 

 

「■■■■————ッッ!!」

 

後ろで魔力が高まるのを感じる。

バーサーカーもそれを察したのか美遊を攻撃しようと動くが、私がその行く手を阻む。

 

息をつく暇もない連撃。

宝具の展開を含めて、魔力がゴリゴリ減っていくのがわかる。ラルドからの供給が徐々に追いつかなくなる。

 

だけどここを突破させるわけにはいかない。

 

 

「らああああっ!!」

 

 

仲間が、友達が私を信じて力を貯めているんだ!

ここで引いたら女が廃るってもんよ!

 

 

「白野っ!!!!」

 

 

5分か10分か、はたまた5秒もない数瞬の間だったのか、既に数えるのも億劫なほど拳と剣を交えた。何度も拳が体に当たり、同じくらい剣が傷を刻み込む。招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)のおかげで減少した筋力では本来ほどの威力が出ていないが、それでも十分なダメージが蓄積されている。

濃密な時間は正常な時間感覚を鈍らせていたけど、仲間(美遊)の声は耳へと届いた。

 

 

ああ、耐えたんだ。

 

 

万感の思いを込め、残る魔力を剣に込める。

黄金劇場は大丈夫だ、まだ持つ。

ならば、美遊(友人)のために隙を作ろう。

 

 

ステータスダウンを起こしているバーサーカーは先ほどまでに比べると動きが鈍い。体にも多くの傷がついている。

だったら、隙くらい作れるはずだ。

 

 

剣を構え、剣技を模倣する。

脳裏に浮かべるのは皇帝の剣技。

絶対皇帝圏の内部でのみ完璧に再現される技。

 

 

 

「天幕よ、落ちろ———!」

 

 

 

構えた剣を解放する。その技の名は

 

 

 

 

花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!!」

 

 

 

 

完璧に相手の体をとらえたその剣戟は、狂戦士を刻み付けながら弾き上げ、

 

 

 

 

約束された(エクス)—————

     

 

 

      ————勝利の剣(カリバー)!!!」

 

 

 

私の上を通過した聖剣の一撃がその体を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人…無事なんでしょうね…」

 

鏡面界から戻ってきた俺たちは対策を練っていた。

その一環でバーサーカーの真名を告げると遠坂達は絶句し、鏡面界に残った二人を心配していた。

 

俺が真名を看破したことは置いておいて、今は白野たちをどう救出するかに重点が置かれていた。

 

「やはりイリヤスフィールの協力がないと…カレイドステッキの力がないと鏡面界へと接界(ジャンプ)できませんわ」

「衛宮くんがこの前やって来た方法は?」

「あれは無理だ。もともと空間に亀裂が入っていたからこそ無理やり介入できたけど、今はそんな予兆も何もない」

「そう…嫌がるイリヤを無理に連れ出したくはないんだけど、そうも言ってられないわね」

 

 

話がまとまり、イリヤを迎えに家に向かう。

最悪、ルビーだけを連れてこればいい。

 

間に合うのかどうか、不安を抱えながら家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迸る星の一撃は凄まじく、バーサーカーを吹き飛ばした。

 

 

「はぁっ、はぁっ…っ」

 

 

痛む体を押さえ、一息つく。

いつの間にか美遊も私も、夢幻召喚(インストール)は解除されていた。

 

黄金の劇場は聖剣の解放と共に消え去り、辺りは元のビルへと戻っている。

 

 

「だ、大丈夫?」

「な、何とか…」

 

美遊はサファイアを手放していた。

一撃で夢幻召喚(インストール)が解除されるほどの魔力を込めたんだ。力が抜けていても仕方がない。

 

『無理しないで、今全力ではくのんを回復させているから』

 

ラルドからの魔力供給が再開される。いくら無限の魔力供給ができるといっても、このダメージを回復させるには相応の時間がかかるらしい。

 

「これで倒せたの…かな?」

「どうだろう?油断は、しない方がいいと思うけど…鏡面界もまだ崩れていないし」

 

そう言いながらも疲労は色濃く、座り込んでしまっている。

 

「…今の間に、接界(ジャンプ)したほうがいいのかな?」

「…いや、どうだろ。もし死因に耐性が付くとすると、ここまで追い詰めた以上撤退せずに仕留める方がいいと思うけど…」

 

 

力を籠め、立ち上がる。

美遊もサファイアを握り直し―————異変に気付いた。

 

「白野っ!」

「うん!」

 

鏡面界が狭くなった(・・・・・・・・・)

崩れるのでもない。

ただ、その空間が小さくなった。

 

 

鏡面界はクラスカードが霊脈からため込んだ膨大な魔力を糧に構築されている。

それが戦闘前に比べて狭くなったということは————。

 

 

 

「■■■■■■■■ッッッ!!」

 

 

 

聖剣の痕跡。

崩れ去ったビルの屋上の一角から、ソレは這い上がって来た。

 

 

渦巻く魔力が収束し、肉体が修復される。

さっきまでの巌のような肉体とは違う。

 

腰布一つだった巨人の姿は今、変化していた。

盛り上がる筋肉を締め付けるように装着された腕輪。胸元で輝く獅子の首飾り。これらを装飾するかのように鎖が巻き付き、バーサーカーの身に纏われている。腰布は強靭な獣の毛皮に覆われ、足には頑強な脛当てが装着されている。髪の毛さえ猛々しく広がっていた。

何よりも目を引くのは、さっきまで見られなかった全身に広がる赤いラインだった。それは顔や体にしっかりと刻み込まれ、荘厳で神聖な雰囲気を、理性を感じさせない狂戦士に与えていた。それだけではない。灰色だった肉体は赤黒く染め上がり、血管のように赤いラインが浮かび上がっている。猛々しさと神聖な雰囲気、両方を纏ったまま狂戦士はより荒々しく存在していた。

 

さらに驚くべきはその右手。

虚空をつかむような仕草を行ったと思ったら、金色の粒子がそこに集まりだし、金の巨大な戦斧を形成した。

 

 

明らかにさっきまでとは違う雰囲気。

一回りも二回りも大きくなった圧倒的な存在感。

 

 

鏡面界を圧迫するほどの魔力を集め、狂戦士はその器を強化し再生した。

 

 

 




はい。やっちゃいました。
バサクレス、再臨させちゃった。第三再臨のつもりだからきっと大丈夫、おそらく、なんとか…
イメージはアニメプリヤでの一番最後のバサクレスがFGO第三再臨の戦闘装束を纏っている感じです。

原作よりも美遊たちの疲労度は少ないのでマシなはず。序盤からグレイプニル使ったり士郎居たりしたし。
…がんばらねば。

恐らくあと2話で無印終了です。
がんばります。

感想、評価、誤字脱字などの指摘があればお願いします。


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15話 万華鏡の劇場

触媒にストロベリーハーゲンダッツ準備完了。
…サーバー重すぎ…







 

唸る斧剣。

弾ける空気。

衝撃波はそれだけで脅威となり、ギリギリで躱す私たちには余裕はない。

 

今、私たちが生き残っているのはバーサーカーを挟んで屋上の対角線の場所をキープしているからでしかない。片方に攻撃が集中している間に準備を整え、出来る限り援護をする。するとターゲットが入れ替わり、お互いの役割も逆転する。

相方の回避能力を信じないと成功しないこの作戦は、いつ切れるかもわからないほど細い綱渡りの様相を呈してきた。

 

 

『く、っそう!転移する暇も、ましてや並行世界(パラレル)限定接続(コネクト)をする暇もない!本気でやばい、よっ!』

 

ラルドからの魔力供給を身体能力の強化に注ぎ込み金の斧剣を避け続ける中、焦れたようにラルドが叫ぶ。

そんなこと言われても、この状態は壊せない。

美遊も私もギリギリの状態で維持している均衡。いや、明らかな劣勢。些細なことで崩れるこのバランスは私たちの寿命をわずかながらにも延ばしているんだから。

 

 

そんな奇跡のような天秤も、あっけなく崩れ去る。

 

「が—————っ」

 

本当に、些細なことだった。

金の斧剣を躱し、距離が詰められすぎたと感じた私は、小柄な体を生かして至近距離から死角を縫い離脱しようとした。

バーサーカーがこの状態になってから初めての試み。失敗した時のリスクを考えるとできなかった回避行動だけど、そんなことを言っている余裕はなくなっていた。

 

惜しむらくは————バーサーカーの巨体の影を黄金の鎖が追従していたことか。

 

さっきまでは無かった鎖。

それは先ほどのバーサーカーの復活と共に現れていた腕輪から延びていた。

 

潜り込んだ腕の下、真正面からその鎖に当たった私は抵抗する暇もなく吹き飛び————屋上の入り口に叩き付けられ屋内へと崩れ落ちる。運悪く、屋内の階段をも転げ落ちた。

 

『はくのん!?はくのん!!!』

 

ラルドが呼んでいる。

でも私は、ぜひゅー、と荒い呼吸を繰り返すのみで、答えらえない。

息をするのが辛いとは思わなかった。

視界もチカチカとホワイトアウトする。

鎖が当たった箇所は痛さを通り越して感覚がない。

 

頭が真っ白になる。

もう何も考えられない。

 

 

————そんなわけないだろう。

 

 

無理やりにでも状況を確認する。

体を預けている地面から振動が断続的に伝わってくる。

 

 

————全く、君らしくもない。

 

 

振動が伝わっているということはまだ美遊は無事だ。

私がいなくなって劣勢には違いないけど、まだ生きている。

 

 

————この程度で諦めるのか?

 

 

なら、助けないと…!

いつかの自分の死を思い出す。あんな冷たい恐怖、友達に味わわせるわけにはいかない———!

 

 

————ふッ、それでこそマスターだ。

 

 

沈んでいた意識が覚醒する。

体力は戻っていないけど、まるで水中から上がったように体の重さが抜けている。

体が動くなら問題ない。

 

「ラル、ド。いくよ———!」

 

 

 

全身に力を込めて屋上へと舞い戻る。

そこでは今まさに、振りかぶられた斧剣が美遊へと振り下ろされる瞬間だった。

 

「あ、ああああぁぁぁあああ!!!」

 

なけなしの魔力をラルドに込めておいてよかった。

全力で放った魔力砲は金の斧剣に直撃し、軌道が逸らされた斧剣は美遊のすぐ横の地面に当たり屋上が陥没する。

足を怪我していた美遊はその崩落に巻き込まれ階下へと落ちていくが、美遊なら大丈夫だろう。

 

 

「■■■■———」

 

ゆっくりと斧剣を構え、狂戦士は私を睨めつける。

私もラルドに魔力を籠め、ひるまずに叫び返す。

 

「もう!これ以上私の友達を傷付けさせない!!」

 

はったりだ。

私だってもう限界に近い。

でも、この気持ちは本当だ。

 

美遊を、イリヤを、凛姉を、士郎兄を、ルヴィアさんを、もう傷付けさせない。

 

気炎を上げ、不退転の覚悟を決める。

 

 

そんな私を

 

「よく言った」

 

頭上から降り注ぐ刀剣と魔力砲と共にねぎらう声が聞こえた。

狂戦士は剣群に貫かれながら、魔力砲で足場を崩され落ちていった。

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

 

遠坂達をビルで見張り番に残し、自宅に向かい全力ダッシュをしていると、

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

上から声がした。

見ると転身し、ピンクの衣装を身に纏ったイリヤが降り立つところだった。

 

「イリヤ!?その恰好…ってそれどころじゃない!白野たちが危ないんだ!」

「私も聞きたいことが…って、え!?」

 

イリヤの手を取り、来た道を引き返す。

 

「…その恰好。決心はついたんだな?」

 

走りながら問いかける。

昨日の弱々しさはイリヤから感じられない。

何かを決意したような、芯の通った力強さを感じる。

 

「———うん。私のせいでミユにもハクノにも迷惑をかけたから。それでね…ママにも後押しされたんだ」

 

アイリさんが帰って来ていたのか。

イリヤに何を話したのか気になるところだけど、今、妹の決心が揺らぐようなことは聞きたくない。

 

「だって二人とも私の…私の大事な友達だから…っ!もう…もう私のこのチカラからは逃げない!二人を助けるためなら、なんだってする!」

「————よく決心したな」

 

本当に。

兄として妹の成長が嬉しくもあり、少し寂しくもある。

 

「じゃあさ。まずは仲直りしないと、な」

 

走りながら微笑みかける。

何故かイリヤは赤くなっているけど、しっかりと頷いた。

 

「うんっ!」

 

さあ、ビルが見えてきた。

 

 

 

 

ビルの屋上までイリヤに運んでもらう。

俺が階段を上がるよりもよっぽど早い。

 

「来たわね」

 

そこで遠坂達は準備万端とばかりに待ち構えていた。

 

「待っている間に考えた作戦を説明するわ。私たちの宝石魔術じゃ一度はバーサーカーを殺せても、その先がない。だから、私たち二人はいざという時のための補助要員よ。主な役目は帰還、退避用の魔法陣を作れる場所の確保と退避時の時間稼ぎ。衛宮くんは美遊と白野を回収している間の囮を頼むわ。…悔しいけど、貴方の近接戦闘の技量はこの中で一番よ。少しでも長く時間を稼いでちょうだい。それで…イリヤ、貴女は戦えるの?」

「うん。もう、逃げません」

 

力強く返すイリヤ。

 

「…いい返事ね。なら、鏡面界に残っている二人とできるだけ早く合流なさい。それが衛宮くんへの最大の補助になるわ。三人揃ったらあなたたちの判断に任せるわ。二人の傷の具合によっては即刻退避よ。無理だけは禁物。いいわね?」

 

「———はいっ!」

 

 

ルビーから魔法陣が展開される。

 

「…悪いわね、衛宮くん」

「何が?」

 

申し訳なさそうに話しかけてくる遠坂。

 

「貴方に一番危険な役目を任せちゃって。貴方の魔術がどんなのか把握もしていないのにそんな立ち位置を任せちゃって」

 

そう言う遠坂の顔は苦々しい。

横のルヴィアもいつにもまして不機嫌そうで————なんだ、二人とも自分の力不足を呪っているのか。

 

「いや。遠坂達の作戦が一番現実的だ」

「でも!…無茶だけはしないでよね」

「もちろんだ。それにな、遠坂」

 

魔法陣が反転し、境界面へと到達する。

 

「囮って言っていたけど、別に倒してしまっても構わないだろう?」

 

きょとんとする遠坂。

その顔がだんだんと崩れていき————

 

「ええ!勿論よ!!」

 

 

さあ、開戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

イリヤの魔力砲と共に投影した不死殺しの刀剣類を降らす。

それは確実にバーサーカーの肉体に突き刺さり、傷を与えた。

 

さっき退避するまでとは様子が違う。

バーサーカーの手には金の斧剣が握られ、その巨体を装飾する武具を身に纏っていた。

明らかに強化されている。

 

狂戦士は階下から跳び上がり、崩落した穴から屋上へと舞い戻ってくる。

 

「士郎兄!!!」

 

屋上の入り口付近から白野の声が聞こえる。あそこなら遠坂達に近いな。

あれは美遊だろうか。崩れ去った屋上から覗く、階下の廊下に積みあがった瓦礫の山の陰にうずくまっているのが見える。

 

「お兄ちゃん」

 

イリヤが俺の横に並び立とうとするのを伸ばした左手で遮る。

 

「イリヤ。お前は先にやることがあるだろう?」

 

くい、と白野たちを指し示すが、イリヤはそちらに行くのを渋っている。

 

「信用しろ。妹たちが仲直りする時間くらい稼いで見せるさ。それにな」

 

右手を肩に、聖骸布の結び目に手をかける。

 

「案外簡単に倒しちゃうかもしれないぞ?」

 

拘束を、解き放つ。

目の前にいるバーサーカーは、かつて()が敵わなかった大英雄。

俺が死に物狂いで、文字通り自分の存在をかけてトドメを刺せた大英雄。

 

それが、あの時(俺と私の記憶)以上に強力になっているのだ。

 

迸る魔力は膨大で。

元からほぼ存在していなかった理性はさらに削ぎ落とされ。

それでもなお圧倒的な存在感を放つヘラクレス。

 

ああ、こいつに勝てば。

この聖骸布(戒めの証)から解き放たれるのかもな。

こいつを超えれば、それは確実にあの時の自分(イメージする最強の自分)を超えられる。

 

そう思いながら一歩踏み出す。

 

同時に、大英雄が世界を揺るがす咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

撃鉄を上げる。

魔力回路は最初から全開だ。

 

手に持つ双剣は夫婦剣干将莫耶。

隙を見て放つのはハルペーなどの不死殺しの剣。

 

斧剣を、拳を、腕を、足を、鎖を避け、いなしながら一秒先の未来を勝ち取る。

突き、薙ぎ払い、斬り降ろし、殴り、蹴り、突進を躱し、2秒先の未来で生存する。

 

確実に傷を与える事が出来るのは不死殺しの概念が宿った剣群のみ。

しかしそれは、慣れていない俺が振り回すのには適していないから、干将莫耶で防ぐ。

圧倒的な暴力に正面からぶつかって勝てるわけがない。全力で強化した体を操り、攻撃を逸らすことに神経を注ぐ。

 

————視ろ。

 

狂戦士の動きを読み切れ。

待機させた剣を投擲する最高のタイミングを。

 

————視ろ。

 

次の攻撃を読み取れ。

1%でも生存率を上げろ。

 

狂戦士の動きに合わせ、俺の動きも最適化されていく。1秒先で生き残ったらそのまた1秒先の未来を勝ち取る。

高速域での戦闘は、確かな死の未来を曖昧に変化させていた。

 

「フッ!」

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)は使わない。

至近距離での剣戟でそんなことはできない。

 

代わりに、空いた分の思考を使い更なる投影品の設計図を準備する。

 

 

前世において俺が操った狂戦士の宝具。ほぼ同時に急所へと叩き込む九つの剣閃。

 

俺が勝つ上で一番現実的であり、かつ実績がある技だ。

 

 

————だが、それで足りるのか?

 

一抹の不安がある。

この狂戦士からは、かつて敵対したイリヤのバーサーカーが誇っていた数々の武芸は失われている。しかし、それを補って余りある魔力を保持している。

 

どうする。

 

鼻先をかすめる斧剣を無視し、己の中に埋没する。

 

体は剣で出来ている。

 

()(オレ)を探すのに、目の前の剣群を蔑ろにすることはない。軌道を読み、躱し、いなす。避けきれないものは剣を盾に少しでもダメージを減らし、逸らす。

無理な反撃はしない。守りに徹し、確実なタイミングでのみ、投影射出による攻撃を重ねる。

 

————あった!

 

アイツの経験を掘り起こし、発見すると同時に、躱しきれなかった拳が交差した夫婦剣に突き刺さり爆散する。

 

あまりにもの衝撃に距離が離される。

息が止まりそうになるが、無理やり呼吸する。

 

 

 

「————投影(トレース)開始(オン)

 

開いた距離を幸いに、新たな武器を作り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イ、リヤ…?」

 

瓦礫の山から這い出してきた美遊が、イリヤに肩を貸されながら呟く。

 

 

「行ってきなさい」

 

いつの間にか近くにいた凛姉とルヴィアさんに見送られ、イリヤたちのすぐそばまで移動する。

 

 

「どうしてここに…」

 

無理やり連れだされたのか?

私たちが士郎兄たちを逃がしたせいで。ここまで追い詰められているから。

 

美遊も同じ気持ちなのか、どことなく不甲斐無さそうな面持ちをしている。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

唐突に、イリヤが頭を下げた。

思わず美遊と顔を見合わせる。

 

 

「わたし————バカだった」

 

 

屋上から聞こえていたはずの激しい戦闘音が遠ざかった気がした。

 

 

「何の覚悟もないまま、ただ言われるままに戦ってた。戦っていても、どこか他人事だったんだ。親友と一緒に魔法少女になって、空まで飛んで、まるでアニメの中の魔法少女みたいだって。こんなウソみたいな闘いが現実に起こるはずもないって…」

 

 

イリヤの声が震える。

 

 

「その、”ウソみたいな力”が自分にもあるってわかって……急に…全部が怖くなって…」

「イリヤ…」

「ハクノが、親友がそれでも何も言わずに戦い続けて。美遊は、友達は私を巻き込まないよう戦いから遠ざけて…そんな二人に甘えて…」

 

 

ぐし、と目尻を拭うイリヤ。

 

 

「でも、本当にバカだったのは、逃げ出したことだ!」

 

 

イリヤの慟哭が響く。

 

 

「”友達”を見捨たままじゃ、こんな”親友”に甘えてばかりじゃ、前へは進めないから…ッ!」

 

 

三本のステッキが共振する。

 

 

「だから私は!自分の意志で戦うって決めたんだ!」

 

決意の籠った強い目で、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは立ち上がった。

 

 

 

 

 

「…行こう」

 

美遊がイリヤに右手を伸ばす。

 

「…そうだね。終わらせよう」

 

私はイリヤに左手を伸ばす。

 

 

「—————うんっ!」

 

そして、イリヤは両手で————私たちの手をしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

 

 

三人そろって屋上に上がる。

 

 

そこでは苛烈な戦いが繰り広げられていた。

圧倒的な力を、死の隙間を縫うように生き延びる士郎兄。時々飛来する剣は狂戦士に突き刺さり、ヘラクレスの姿をまるで武蔵坊弁慶のようにしていた。

 

 

「す、すごい…」

 

 

剣の何本かは関節部に突き刺さり、狂戦士の駆動を妨げる。そして生まれたわずかな動きのブレが士郎兄の生存率を上げる。

 

 

「————投影(トレース)開始(オン)

 

 

士郎兄の詠唱が聞こえる。

 

両の手でしっかりと掴むのは豪奢な黄金の剣。

どことなくセイバーの聖剣に似ている。

 

 

「――――憑依経験、共感終了」

 

 

構える士郎兄の存在感が増した気がした。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

イリヤの声が聞こえる。

ちら、と視線を向けると、3人でしっかりと寄り添い立っていた。

 

————そうか、無事に仲直りできたんだな。

 

3人の目が、力強く訴えかけてくる。

この攻撃を以ってトドメを刺そうと思ったけど、ここは————。

 

兄として、妹たちの露払いを務めることを決意する。

 

どくん、と胸にしまっていたカードが熱を持つ。

 

「え—————」

 

ひとりでに浮き上がるのはArcherと書かれたクラスカード。

なにかご利益があるかも!と一人バーサーカーに向かう前、イリヤと遠坂に押し付けられたクラスカードだ。

 

黄金の剣を手に、憑依経験により狂戦士の経験だけを憑依させている俺の前で発光するクラスカード。

その光は俺を包み込み—————

 

「え…」

 

新たな装いへと変わっていた。

左手首に巻き付いているのはさっき解いた聖骸布の一端のままだが、体と足に武士風の赤い甲冑と脛当てが装着されている。腰布はあの赤い弓兵の外套のような布が巻かれ、白い羽織が肩にかかる。

 

それは偶然か必然か。

クラスカードが士郎の魔力と共鳴し、この一瞬だけ十分な魔力を士郎に与えていた。

 

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を構える。

本来はこの剣の技ではない。しかし、この剣は弓兵が俺だったころにヘラクレスを打ち破った剣だ。この剣で、彼の技を模倣する。

 

過去の経験が積み重なる。

 

自分自身で放った過去。

斧剣から読み取ったことのある経験。

今、その経験だけを憑依させている狂戦士の記憶。

相棒と共に此の剣で放った黄金の一閃。

 

 

 

 

 

「■■■■———ッッ!!」

 

 

バーサーカーが渾身の力を込めた斧剣がうなりをあげながら接近し、

 

 

 

 

 

是、射殺す百頭(ナインライブスブレードワークス)!!!」

 

 

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)によって放たれた絶技と交差する!!!

 

 

 

その一瞬にも満たない交錯は、

 

 

 

 

 

 

バキィィィイイイン

 

 

 

 

 

互いの得物の柄を残し打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

溶けるように士郎兄の姿が元に戻る。

 

私たちの視線を受けた士郎兄の狙いが変わるのがわかった。

多分、直接バーサーカーを倒すんじゃなくて、私たちのために武器を壊したんだ。

 

ならそれに応えないと。

 

 

 

 

 

キィィィィイイイン

 

 

 

 

 

ステッキの共鳴音が高まる。

 

「これは…」

「うん。できるよ。私たち三人なら」

 

三本のステッキが交差し、中心にセイバーのクラスカードが浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————”並列限定展開(パラレル・インクルード)”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———それは、得物を無くした獣が私たちへと突進しようとするのと同時のこと。

 

 

 

 

鏡面界に再び薔薇が咲き乱れ、風と共に舞い上がる。

 

 

 

 

 

鏡面界が塗り替わり、舞台は燦然と輝く黄金の劇場へ。

 

 

 

 

 

佇む主役は三人。それぞれの手に聖剣を携え巨人に相対する。

 

 

 

 

舞台の上で、主役に祝福を与えんとばかりに燦爛と輝く、その一二本の黄金の光はまるで————

 

 

 

 

 

 

万華鏡(kakeidoscope)————」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「——————————!!!」」」

 

 

 

 

 

 

太陽が闇を貫き、黄金劇場は終幕を迎える。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

長い長い、私たちの夜が終わった。

 

 

 

 

 




満を持して無印戦闘終了。

ご指摘があったので少し解説を。
士郎が是、射殺す百頭をカリバーンで使えたのは、HFルートにおいて士郎自身がこの剣技を使用したからです。斧剣から生前のヘラクレスの経験を読み取ったのではなく、自分に憑依させたヘラクレスの経験と、自分が一度放ったという経験、それをもとに勝利すべき黄金の剣で彼の絶技、是、射殺す百頭(ナインライブスブレードワークス)を再現しました。

わかりづらくてすみません。

士郎の一時変身はコミックウォーカーでプリヤ最新話を読んだらやらないといけない気がした。ついでに後で使うかも?

あと一話で無印終了です。
賛否両論あるとは思いますが、よろしくお願いします。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。

日曜日か月曜日に無印最終話投稿できるといいな。


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16話 そして。

刀式来たあああああ!!!

吼えた。叫んだ。ガッツポーズした。
全体即死させるとかサクサク周回できるううう



 

「お、終わった…」

 

深く深く息を吐き、ようやく一心地着いた。

この数日間でどれだけの死線を潜り抜けたんだろう?月よりも多いかも…いや、そうでもないような…。

 

「ハクノーっ!」

 

イリヤが飛びついてくる。見ると、美遊もなんとなくうずうずしているようにも見える。

 

無言でスッ…と腕を開けると、気付いた美遊が顔を赤くしながら遠慮がちに飛び込んできた。

…うむ、かわいい。

 

「えへへー。二人ともごめんね?それとありがとう」

 

腕の中でイリヤが言う。美遊と顔を見合わせ、同時に返す。

 

「「友達だもん!」」

 

 

 

 

 

地面に転がり、格子状の空を見上げる。

離れた場所では、イリヤたちがわいわいとしているのが聞こえる。戦闘中はあまり注視出来なかったが、きちんと仲直りできているようで安心する。

 

「お疲れさまです」

 

そんな俺にルヴィアが声をかけてきた。遠坂も後ろにいる。

 

「そっちもな。けがはないか?」

「全然大丈夫よ。衛宮くんこそ大丈夫?」

「ああ。直撃は避けていたし、体は大丈夫だ。その分魔力はスッカラカンだけどな」

 

先ほど一瞬だけ装いが変貌したことを思い出す。あの時、潤沢と呼べるほどに自身の体に満ちていた魔力は、今や見る影もない。

 

「聞きたいことは山ほどあるけど、今日は置いといてあげるわ」

「ええ。感謝しなさいミスタ」

 

2人がそんなことをおっしゃる。

嫌な予感しかしない。

 

「…遠坂にしては優しいんだな」

「私にしてはって何よ!」

 

がーっと吼えるあかいあくま。

被っていた猫が吹き飛んでいるのはいいんだろうか。

 

「今日は衛宮くんの活躍が無かったら本当にやばかったんだから。感謝くらいしてるっての」

 

抱き合うイリヤたちの元へ向かう遠坂の小さな呟きが風に乗って聞こえてくる。

…これは聞こえていないふりをした方がいいんだろうな。

 

 

「仲良くするのもいいけどそこの三人!そろそろ戻るわよ!」

 

こうして俺たちは、最後の鏡面界を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなで元の世界のビルの屋上に降り立つ。

当たり前のことだけど、鏡面界(向こう)と違ってビルに穴は空いていないし、崩れているところもない。同じビルなのにさっきまでの戦闘を感じられないから、まるで夢でも見ていたんじゃないかって思ってしまう。

 

他のみんなも、こっちの世界に戻って来てからどことなく気が抜けているようにも見える。

 

「私が持つアーチャー、ライダー、アサシンに」

「私の持つランサー、キャスター、セイバー。そして今入手したバーサーカー…」

「これで、ようやくすべてのカードの回収完了。コンプリートよ」

 

凛姉とルヴィアさんはカードの確認をし、士郎兄は一歩離れたところから私たちみんなを見守るように壁にもたれかかっている。

 

「イリヤ、白野、そして美遊」

 

凛姉がそう切り出すと、ルビーとじゃれていたイリヤがおとなしくなった。

 

「…勝手に巻き込んでおいてなんだけど、あなたたちがいてくれてよかった。私たちだけじゃたぶん、勝てなかったと思う。最後まで戦ってくれて…ありがとう」

 

凛姉が私たちに頭を下げる。

 

胸の奥から、じんわりとした温かいものが溢れてくる。魔法少女三人で顔を見合せ、みんなで微笑む。

 

「それじゃ、このカードは私が倫敦(ロンドン)に…」

 

そこまで言った時、スリ師もびっくりな鮮やかな手つきで、凛姉の手からルヴィアさんがカードを抜き取った。

 

「ホ—————ッホッホッホ!!最後の最後に油断しましたわね遠坂凛!御安心なさい!カードはすべてこの私が大師父の元へ届けて差し上げますわ!貴女は管理人(セカンドオーナー)らしくそこの問題魔術師の報告書(後始末)をなさい!!」

「んなああああッ!?」

 

そのままホバリングするヘリコプターから延びてきた縄はしごをするすると登るルヴィアさん。

 

「ちょ、ちょっと!あんた手柄独り占めする気かこの!」

「ホーッホッホ!」

「それどころか衛宮くんの事情(厄介ごと)まで全部押し付ける気か!」

「それに関しては管理人(セカンドオーナー)の正式な仕事でなくて?」

「ちょっとは手伝いなさい!!!」

 

そのままルヴィアさんは逃走。

凛姉は身体能力を強化し、追跡していった。

 

 

 

何とも言えぬ空気のままその場は解散となり、私たちは家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

いつも通りイリヤと合流し、学校へ向かう。

 

「昨日までのことが嘘みたいだよね」

「あ、ハクノも?私も起きたとき、そう思ったよ」

『普通の人なら体験しないことですし、かなりの数の死線を潜り抜けましたからねー』

「ほんと、よく生きていたよね…」

「甘いわよイリヤ。まだまだ死ねるから」

「何その予言!?」

 

他愛もない話をしているうちに学校に着く。

 

 

 

 

 

「なんていうか」

 

昼休み。

唐突に雀花が切り出してきた。

 

「もう、あんたたちの仲がどうなっているか私にはよくわからんのだけれども…昨日までケンカしてなかったっけ?」

 

視線の先には、椅子に座る私。

の上にちょこんと腰掛け、イリヤの腕にぴっとりとくっ付く美遊。

 

「やー…気のせいじゃない?きっとすべてが」

 

イリヤが苦笑いしながら返す。

いや、その言い訳は苦しすぎるだろ。

 

むふーと美遊の頭を撫でながら私も苦笑いする。

美遊はされるがままだ。あ、口元がぴくぴくしている。気持ちいのかーそうかーかわいいじゃないかこのやろう。

 

気分が良くなり、そのまま撫で続ける。セイバーで培ったテクニックがこんなところで役に立つとは。

 

「ハク子のやろー!俺たちの知らないところで美遊ルート攻略してやがったのか!」

「一夜にして何というデレっぷり…というか美遊そんなキャラだっけ!?」

「小学五年生にして謎の包容力があるという白野…やはりその噂は本当だったのか!」

「何その噂初耳なんだけど」

「本人の知らないところで流れるのが噂ってやつだな」

 

包容力、というところでうんうんと頷くイリヤと美遊。あんたたちもか。

 

「実際、ハクノの包容力はすごいよ。何度ハクノに助けられたことか。お姉ちゃんみたいだもん」

「白野の謎の安心感と信頼感」

 

…まあ、二度目の人生だから、ということにしておこう。

 

 

「まーいいや!ミユキチも丸くなったということで、今後とも仲良くしていこーぜっ!」

「は?どうしてあなたと仲良くしなくちゃいけないの?」

 

ハイタッチしようとする龍子の手をガードし、美遊が答える。

私たちを見てにやにやしていた連中も、仲良いなーとか言いながら微笑んでいた人たちも含めて、クラスメート全員の空気が凍った。

 

「私の友達はイリヤと白野だけ。あなた達には関係ないでしょう?もう二人に近付かないで」

 

あまりにも唐突で突っ込めなかった。

 

「う…」

 

じわりと龍子の目に涙がたまり、

 

「うおおおアアァァーッ!」

「な、泣かせたぞーっ!」

「ちょっとミユーっ!?」

 

「とうっ!」

 

どすっ、と鈍い音と共にチョップが美遊の頭に突き刺さる。

シュウウウウウとなんか煙が出ているけど気にしない。

 

わなわなと震えている美遊に言う。

 

 

「言い過ぎ。もっと周りのことを考えて」

 

涙目の美遊は少し間をあけて、

 

「うん」

 

と返した。

 

再び驚愕がクラスを包み込む。

 

「あのエーデルフェルトさんを手なずけた…だと!?」「やばい美遊さん超かわいいんだけど」「いやはくのんだろ、なんだあの包容力」「私、何かに目覚めそう」

 

待って最後言ったの美々だよね!?

 

 

こうして、私たちの日常は相も変わらずに続いていくのだった。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦闘から一日たち、登校した俺を一成と慎二が迎える。

 

「おい、聞いたか衛宮!今日転校生がくるってさ!」

「む、間桐。その話題は俺から話すとさっき決めたはずだが」

「細かいなあ生徒会長さんは。いいじゃないか。でさ、その転校生女子らしいんだよ。かわいいかな?かわいいかな!?」

「落ち着け間桐。その件なんだが、最新情報によると留学生らしい」

 

む。

猛烈に嫌な予感がしてきた。なんだろう。

 

「————なんだが、衛宮。そこのところどう思う?…ってどうした、顔色が悪いが」

「あー、悪い。ちょっとぼーっとしていた。大丈夫だ。で、なんだって?」

「大丈夫ならいいんだが…その留学生はイギリスから来るらしい。英国からやってくる才女とあれば、美しく気品が溢れた女性に違いないと思うのだが衛宮はどう思う?と聞いたんだ」

「だからさ、生徒会長は夢を持ちすぎなんだって!学校で優等生だからって性格がいいとは限らないぜ?ほら、うちの学校にもいたじゃんか猫被った優等生!」

「————あの女狐のことは忘れよう」

「————そうだな、悪かったよ柳洞」

 

慎二の言葉に二人してどんより沈む。

そりゃそうだ。慎二は桜の一件で某優等生の世話になったし、一成はもともと天敵だ。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

と、そのタイミングでチャイムが鳴る。

担任の先生が教室に入って来たので俺たちは各自席に戻った。

 

「えー、今日は皆さんに転校生を二人、紹介します」

 

2人、のところで教室が大きくざわめく。

一成は、なぜ俺のところに情報が来ていない…と歯噛みしているし、慎二はもう一人の性別が気になるのかそわそわしている。

 

「さあ、喜べ野郎ども!先生の独断と偏見で言わせてもらうと二人とも美少女だッ!」

「「「うおおおおおおおおおッッッ!!!」」」

 

割れんばかりに轟く野太い歓声。

物理的に教室が震えているんじゃないか?これ…。

 

「さあ自己紹介を!といっても、みんな一人は知っているんだけどな」

 

ガラッ、と扉が開き、二人の少女が入ってくる。

穂村原の制服に身を包み、一人は黒髪をツーサイドテイルに纏め、もう一人は金髪を縦にロールさせている。

 

そこまで認識した途端、俺は頭を押さえ突っ伏した。

視界の端で慎二と一成がこの世の終わりのような顔をしている。

 

 

「みなさん、お久しぶりです。以前この学校からイギリスに留学した遠坂凛です。向こうの学校の制度を使い、期限付きですが再び日本で学ぶことになりました。改めてよろしくお願いします」

「初めまして。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。遠坂凛とは学び舎を共にする学友で、以前からこちらの学校のことを伺っておりました。一度は訪れてみたいと思っていた日本の学び舎に通う機会ができて大変うれしく思います。これからよろしくお願いいたしますね」

 

 

 

 

俺の日常は、波乱に満ちたものになるらしい。

 

 

 

 

 




これにて無印完結です。
半年間お付き合いいただき、ありがとうございました。

美遊のデレっぷりは、作者の予想もしていないところ。書いているうちに気が付けばなんだこの可愛い生物。
白野の包容力云々は前にそれっぽいことを書いたので強化した感じです。

ツヴァイ編は少し間を挟んで更新していく予定です。
つきましては、以前行ったアンケートの締切を3月9日いっぱいとさせていただきます。ご了承ください。

改めまして、行き当たりばったりなこんな作品を読んでくださってありがとうございます。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらお願いします。


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17話 日常

皆さまお久しぶりです。
3週間弱間が空きましたにくろん。です。

戦闘のプロット練ったり、刀式2枚目当てたり、日常考えたり、天草四郎当たらなかったり、伏線考えたり、アストルフォ当たらなかったり、バイトしたり、エクステラ発表で発狂したりしている間にこんなに開いちゃいましたすみません。

星3のギル君すら当たらなかった。PS4かVITAかどっちでエクステラ買おう。まずPS4…

幕間で日常ほのぼのも考えたのですが、文字数や今後の展開上、本編の中でやることにしました。ツヴァイ原作でも日常編が多かったですし。

そんなわけで、今話からツヴァイ編です。
今回はプロローグですので話は短め、お待たせしてしまったのに申し訳ありません。

それでは本編どうぞ。

…巌窟王モーションかっけえ



―—interlude2-1——

 

暗い、闇の中。

私はずっとここにいる。

 

誰もいない。

 

なにもいない。

 

 

そんなことを考える余地さえがなかった。

 

 

でも、あの時から。

 

 

私が私を使った時に、急に世界が開けた。

 

眩い閃光。

文字通り命の危機。

非日常の世界(魔術の領分)

 

濃密な死の気配。

そんな中で、私は目覚めた。

 

 

私を無かったことにしようとした、素敵なママとパパ。

覚えておいてよね。

 

 

そして…。

 

私の記憶から流れ込む、一際大きな存在感を放つ二人。

最近もう一人増えたよね。

 

 

 

———お兄ちゃん、ハクノ、ミユ。

 

 

三人のことを思う。

思うし、想う。

 

 

彼女(・・)のことだから気づいてはいないだろう。

いくら私でも、私じゃないと気付けなかった。

 

 

鮮やかな剣閃。

虚空から現れる刀剣。

ステッキを振るう二人。

 

 

(彼女)とは違い、最初からあの世界を知っていたとしか思えない三人。

 

 

 

この三人なら—————

 

 

 

―—interlude out———

 

 

 

 

 

 

 

ぶるっと震える。

うう、なんか寒気がしたけど…風邪でも引いたかな?

 

あの騒動から今日でほぼ一か月が過ぎた。

ルヴィアさんと凛姉はこのまま日本に滞在することになったらしく、士郎兄の生活がすごいことになったらしい。

 

イリヤ曰く士郎兄の学校生活は、

なにかしら毎日物が壊れる。

柳洞寺のご子息と、慎二さんの震えが止まらない。

盛大なナニカが起こったはずなのに、全く記憶がない。

 

らしい。

 

…え、士郎兄、大丈夫なの?

 

 

 

 

でもまあ、今はそんなことより

 

「で、いつ頃に海に行く?」

 

こっちの方が重要だ。

 

「夏休みが安パイだろ!俺はいつでもウェルカムだぜ!」

「みんなの予定を合わせないとね」

「お盆以降だとクラゲが怖いし…やっぱり7月中かな」

「あー、7月だと宿題終わらせてからじゃないとセラが文句言いそう」

「セラさんなら確かに。私はお姉ちゃんが帰ってくるか予定を聞いてからかな」

 

どんどん話が広がっていく。

海に行く話から、海で何をしたいか、何をするか。

海にも行くなら山にも行こうと那奈亀が提案し、あ、7月末はダメだわ祭りが…と雀花がハイライトの消えた目をする。脱ごうとする龍子を抑えながら、カオスになろうとする場を美々が何とか舵取りする。

 

見慣れた日常。

 

つい一か月ほど前の殺伐とした一週間がまるで夢みたい。

 

「そういえば美遊ちゃんって水着どんなのを持ってるの?」

「おいおい、水着は現地のお楽しみだろ?」

「まあ、とはいえ参考程度に。どうなんだ?」

「…学校指定?」

「そんなんじゃダメだって!どうせならこう、ばーっとさ、普段着れないような…」

「いや、むしろ私たちのブランドを利用するには学校指定(スクール水着)のほうが」

「さすがにダメな大人が寄ってきそうだから却下で」

「となると買いに行かないとなー。今日の帰りとか見に行かない?」

「あ!賛成!」

 

話がまとまったところでチャイムが鳴る。

放課後が楽しみだ。

 

 

 

 

 

「どうにかしてくれ衛宮!」

 

もう何度目かにもなる慎二からの救難要請。

今回はどうしたんだと目を向けると、

 

「だから、姉———遠坂先輩はもう少し遠慮というものを覚えてください!今日は私が先輩のお弁当を作る日なんです!」

「へえ。言うようになったじゃない間桐さん。でもそれは私がこっちに帰ってくる前の話でしょう?あいにく、今日は衛宮くんにこっち(・・・)の話があるんです」

「ッ!そうですか…なら仕方ありませんね」

「わかってくれたようで何よりだわ。なにもここから先ずっと、って話じゃないの。ひとまず(・・・・)今日は貸してくれるかしら?」

「ええ、ええ。そういうことなら仕方ありません。そちら(・・・)の話、ということは無論、エーデルフェルト先輩もお呼びするのでしょう?私から話を伝えておきますね」

「ちょ…!?…考えたわね桜…!」

「そう何度も姉さんには負けませんっ!」

 

…俺は何も見ていない俺は何も見ていない俺は何も————

 

「現実逃避するなよ衛宮!俺はもうだめだ。あの二人が揃った時点で負けは決定しているんだから、お前だけが頼りなんだよ!」

「そうは言っても…俺もあんな死地に行きたくないぞ」

「なんだよ!美女二人に言い寄られておいてそれか?」

「今の状態を見てもそう思うのか?」

「ごめん」

 

桜と遠坂が言い争う周りには、見物していた男子諸君が倒れていた。

2人の言い争いがヒートアップするにつれ魔力が呼応するように高まり、その余波で耐性のない者が順に倒れていっているのだ。質の悪いことに、二人とも俺なんかと比べ物にならないくらい魔力を持っているし、何より微妙に口喧嘩をしている二人の攻撃性が魔力ににじみ出ている。

ちなみに、それを知ってか知らずか二人は認識阻害の簡易結界を張っているので、異変に気付く人はいない。俺は魔術を知っているし、慎二は家柄上慣れてしまっているのであまり効果がないようだ。

 

 

遠坂達が来てからこんなことは日常茶飯事になりつつある。

遠坂と桜。

遠坂とルヴィア。

遠坂と桜とルヴィア。

言い争いが起こると、だんだんとヒートアップしていき、犠牲者が出始める。

 

「なんでさ」

 

 

今日も平和だなー。

 

 

 

 

 

 

 

放課後になり、いつもの帰り道とは違い新都方面へみんなで進む。

とりあえず、水着の下見のためにショッピングモール”ヴェルデ”に行く途中だ。

 

「そういえば新都に藤村先生の同級生の店があるらしいけど、みんな知ってた?」

「あ、コペンハーゲンじゃないそれ?」

「イリヤは知っていたんだ」

「うん。前にお兄ちゃんが話していたからたまたまね」

「相変わらずのブラコンっぷりですなー」

「ブラっ!?そ、そんなんじゃないって!」

「はいはい。でも確か、そのお店酒屋さんだったはずなんだけど…イリヤのお兄さんって高校生だよな?何で知って————」

 

雀花の言葉を私たちは最後まで聞くことはなかった。

なぜなら、曲がり角から突然現れた漆黒のリムジンが急停車し、中から延びてきた手に掴まれて引き摺り込まれたからだ。

 

「あ…」

「リ、リンさん!」

「ルヴィアさんまで!」

 

勿論この車の所有者はこの人なわけで。

この人たちが動く案件と言ったら厄介ごとしかないわけで。

 

「急なことで悪いんだけど、三人とも」

「「任務(しごと)よ」」

 

 

 

————ここから、また新たな非日常が始まった。

 

 

 

 

 

 




短めですがキリがいいのでここまでです。
クロ登場からは話をしっかりしないとな…。

活動報告でのアンケートの結果、②のプリヤなんだから細かいところは気にしない、でもダイジェスト形式でいいから軽く読みたい、で進めることにしました。
…というか、がっつり書くことになったら本編が全く進まない上に別小説状態になってしまう。
クロ編の最後の方で触れていきますが、ダイジェストの合間のことは皆さんの想像力にお任せします。

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。

…章管理でツヴァイ編って作った方がいいのかな。



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18話 兄妹?

遅くなってすまない…。
バイトが忙しくて執筆時間ガガガ。

エクステラに続き、EXTRAアニメ、HF続報が発表されましたね!
楽しみすぎる…。

プリヤの最新刊も発売されましたし、ドライアニメも楽しみ過ぎます!
…サファイアはどうなるんだろうか。

クロ編、ほとんど書くことがないことに気付き愕然としました。
バゼットからは考えていたのにな…。


 

凛姉たちに続き、円蔵山の中腹を進む。

地脈の正常化という任務に当たり、私たちの持つステッキたちの力を必要としているらしい。

 

魔法少女に転身するのもあの戦い以来だ。

 

道中、底なし沼などの致死性のトラップもあったけど、無事に円蔵山の大空洞にたどり着く。

 

 

「まさか山の中にこんなところがあるなんて…」

「それよりも道中で死にかけるとは思わなかったわよ…」

「あはは…」

 

ぶつくさ言いながら凛姉たちはてきぱきと準備を進める。

カバンから取り出した大きな針?を突き立て、それを中心に魔法陣を敷いていく。

 

「地礼針設置完了っと」

 

針の先端は木のように大きく広がり、明らかに不安定そうなのにびくともせずに突き立ったままになった。

 

「ここからはあなたたちの出番よ。魔力を思いっきりこの礼装に込めていきなさい。そうすればあとは地脈へと自動的に流れて、拡張化術式を起動するはずよ」

「大丈夫。ステッキのおかげであなたたちに負担はほとんどないはずよ。遠慮なくやってしまいなさい」

「カウントダウン3…2…1…魔力注入開始!最大出力よ!」

 

凛姉たちの言葉を受け、全力でラルドから魔力を放つ。

 

「いけるわ…出力そのまま維持!充填率順調に上昇中よ!」

 

その声に呼応するかのように地礼針の広がりは大きくなり、木々の枝を思わせる先端から余剰魔力が輝きだす。

 

「90…100…115…!」

 

枝葉の輝きは増し、大樹そのものが煌々と輝きだす。

 

「120!!Offnen(開放)!!」

 

そして合図とともに蓄えられていた魔力が解放され、地脈へと一気に流れていった。

 

 

 

「………これで終わり?なんだかあっけないね」

「一応はね。効果のほどはまた改めて観測しなくちゃいけないけど…」

「作業は終了。早く帰りますわよ。こんな地の底、長居するところでは…」

「———ちょっと待った。これは———!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴオオオッ!!

 

 

違和感を感じて叫ぶと同時に地礼針を中心に大きく地面がひび割れた。

 

「ノックバック!?」

「そんな!出力は十分だったはず―——ってまずいですわ!逆流が来ます!」

 

大空洞の天井へと大きく魔力の奔流が叩き付けられる。

崩壊した岩盤から岩が降り注ぐ中、ソレは起こった。

 

 

 

イリヤが凛姉のポケットへと右手を伸ばし―——

 

 

「クラスカード”アーチャー”。夢幻召喚(インストール)!!!」

 

 

あの夜(セイバー戦)見せた赤い外套を纏った姿へと変貌した。

 

そして同時に私たちに向かって降り注ぐ岩に手を伸ばし、

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

光の盾を展開した。

 

 

 

覚えがあるどころじゃない光の盾。

彼の弓兵が誇る防御宝具。

 

しかしそれは私が識る者とは違い、少し岩を押しとどめるだけにとまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫?はくのん』

「げほっ…なんとか…みんなは?」

「私は大丈夫でしてよ…美遊!?」

「はい、大丈夫…ルヴィアさんが出血多量です!」

 

「イリヤ!どこ!?」

 

「うーここだよー。なんかあたまいった―…打ったかも…」

「よかったイリ」

 

イリヤの方を見た全員が絶句する。

なんせイリヤが

 

「「え……」」

 

二人いたから。

 

 

 

 

 

 

 

放課後になりマウント深山の商店街を歩く。

今日の買い出し担当は俺だから、献立を考えつつ八百屋を冷やかしていると、急に地面が揺れた。

 

「おお!?」

「地震だ!」

「みんな無事か?」

 

幸いそこまで規模は大きくなく、商店街の人たちの安否確認も念のためといった感じだ。

 

「士郎くんも大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です。念のために家の方も見てくるので、今日はここでいいですか?」

「もちろんだよ!イリヤちゃんとセラさんによろしくね」

 

だけど、今の地震に違和感を覚えていた俺は帰路を急ぐことにした。

 

マウント深山を抜け、新都へと足を進める。

 

 

 

と、不自然なまでに人の気配が途切れていることに気付いた。

 

「え…」

 

物音ひとつしない世界。

意識を変える。

なぜ今まで気づかなかったんだ。

 

それほどまでに精巧に人払いの結界は機能していた。

 

 

「さすがね。おにーちゃん」

 

不意に頭上から聞こえてきた声に反応し、地面を転がる。

ガガガッ!、とさっきまでいた場所に見慣れない(見慣れた)刀剣類が突き立っていた。

そしてふわりと目の前に降り立った少女は———

 

「イリ、ヤ?」

「正解よ」

 

問答無用で赤い外套を纏ったイリヤは干将莫耶を振るってくる!

咄嗟に学生鞄を強化し盾にしたが、次の攻撃には耐えられないだろう。

 

「ふうん。強化の魔術、ね。やっぱりお兄ちゃんは最初からそっち側だったって訳」

 

イリヤは追撃をかけてくることなく干将をくるくると回し呟く。

 

「…どういうことだ?」

「それは服装のこと?それともこの剣を持っていること?それとも…私自身?」

「全部だ!」

 

イリヤを傷付けないように刃を潰した干将莫耶を投影し構える。

幸い、ここら一帯にはイリヤが張ったと思われる認識疎外と人払いの結界が張られている。神秘の漏えいや一般人の巻き添えは考えなくていいはずだ。

 

「優しいのね。でも、それじゃあ私には勝てない」

 

イリヤはそう言い、空中に手をかざす。

 

「お兄ちゃんがこっち側なら容赦はしないわ。パパとママの前にお兄ちゃんから片付けてあげる。———投影開始(トレース・オン)

 

見慣れた、魔力による紫電が煌き、空中で形作る。

現れた刀剣類の数は10。

 

「死んで」

 

慈悲のかけらもなく放たれた10の殺意を前に俺は、

 

「———そうじゃない」

 

新たな投影をすることなく、両手に握った干将莫耶だけで切り抜けた。

 

 

「な————」

 

 

今のイリヤの言動で俺はあることを思い出していた。

それはヘラクレスのマスターであった前世のイリヤ。今のイリヤは彼女によく似ていた。

 

姿が、じゃない。

持っている力と考え方のアンバランスさが。歪なままの純粋さが。

 

それを思い至ったと同時に、気付いてしまった。

 

このイリヤは、聖杯としてのイリヤ(・・・・・・・・・)だ、と。

 

 

おかしくはない。

アイリさんたちがアインツベルンを捨て、一般人として生きていくうえでイリヤとアイリさんという聖杯の器の問題は避けては通れなかったはずの問題だ。切嗣は大丈夫、って言っていたけど、おそらく封印していたんだろう。

 

そう考えると、カード回収任務の時のイリヤの変貌にも納得がいく。

 

 

「くっ!」

 

イリヤはそのまま接近戦を仕掛けてくる。

しかしそれは干将莫耶を用いた接近戦でしかなく、身体能力にものを言わせた連撃。確かに効果的だろうが、英霊たちと戦ってきたことのある俺からすれば経験が圧倒的に足りない。

 

速い、鋭い、重い。

 

耳元で唸る刃は確かに危険だ。

でも、鍛錬を重ねた先の巧さが感じられない。

 

「ウソ…」

 

なかなか当たらない攻撃に距離を取ったイリヤは焦ったように唇を噛みしめる。

 

「イリヤ。お前がどういう思いで今まで過ごしてきたのか、俺にはわからない。だけどな、アイリさんたちも考え抜いた結果だと思うんだ。だからまず―——殺すなんて言う前に、しっかり話し合ってみないか?」

「———ッ!わかったような口を、利くな!!!」

 

途端、逆上したイリヤはさらに投影を増やす。

聖杯としての機能を持ったイリヤ。封印されてきた彼女の怒りが、憤りが牙を剥く。

中には名だたる宝具も紛れているが、俺から見たら劣化品そのもの(・・・・・・・)だ。

 

「贋作どころか劣化品じゃないか…これはな、心を現すんだよ」

 

そもそも、いくらあの夜と同じように英霊の力を身に宿していても、アーチャー(エミヤシロウ)の能力の本質は特異なものだ。

心を現す世界から、その一端を紡ぎ上げる。それ故に自身の想いが現れる。

手本を見せるかのように干将莫耶を幻想に破棄し、名もない一本のロングブレードを投影する。

 

「そんな無銘の剣でこの剣群を防げると思うの?」

「防げなきゃここで出す必要なんてないさ」

 

その言葉を皮切りに、飛来する剣群を叩き落していく。

 

切り上げ、払い、振り抜き、叩き落す。

 

その動作が30を超えるころ、剣群は尽きていた。

 

「なんで…」

 

刃毀れすらないロングソード。

 

「途中から、剣に重みを感じなくなったぞ。コレ(・・)は存在を疑問に思った瞬間に脆くなる。疑ったな?イリヤ」

「ッ!」

 

愕然としたイリヤはその場を動かない。

 

「家に帰ろうイリヤ」

「————」

 

無言のままイリヤは一歩踏み出し、

 

「ホントに、お人よしね」

 

俺の足元に残っていた一本の剣を爆破した。

 

 

 

 

 

「—————————ぁ」

 

白煙の中、間一髪切り抜ける。

全身に鈍い痛みが広がり、制服のズボンは裾のところからズタズタになり、そこから覗く肌には火傷の跡が見える。

 

そして気付いた。

 

人払いが解除されている。

 

「くそ———」

 

逃げやがったな、と悪態を飲み込み家路を急ぐ。

とにかく家に帰らないと。こんな姿誰かに見られるわけにはいかない。

 

セラとリズに相談するべきか悩みながら動ける全速力で深山町を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやほんと、クロ編原作通りなんだよな…。
改変する箇所もあんまりないし、バゼット以降しかプロット考えていなかった自分にも驚きです。原作と同じこと文章にするこのめんどくささ…(笑)

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


カルナもエドモンも来なかった。

朝、あとがきを書きながら思ったこと。
———深夜テンション怖い


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19話 ツインズ

五章たのしかった。
ネタバレしないようにしないと、ぽろっと言っちゃいそう。でもああいう展開大好きだったり...(笑)

エイプリルフールのリヨさん酷使度合いが半端ねえ型月。
確かにほかの方の負担は減ったどころか無くなったけど…ww

あ、呼符でナイチンゲール来ました。10連でレオくん、ショタ慎二、カレスコ2枚目だったんで今回は勝利かな

...深刻なランサー不足。


 

今日、登校するなりイリヤはボロボロだった。

原因を聞く間もなく、美遊と一緒に保健室へと運ぶ。

 

「ハクノ…ミユ…私もうだめかもしれない」

「しっかりしてイリヤ!何があったの!?」

「暴走トラック、頭上から植木鉢、ドーベルマンの集団、水道管の破裂、電線の断裂、ガス管破裂…朝からこんなに不幸が続くなんて…」

「何その不幸(幸運E)

 

どこぞの青タイツもびっくりだ。

 

「大したけがはないわ。かすり傷程度よ」

「あ、折手死亜先生」

「つまらないわね。次来るときは内臓破裂みたいな半死半生のけがをしてきなさい」

「カレン姉…」

「あら。誰かと思ったら愚妹じゃない。貴女もけがしたの?」

「人の不幸をそこまで喜べるのはさすがお父さんの血を継いでいるだけのことはあるよね」

「私程度と一緒にしたらあの人の方が可哀そうよ」

 

「…白野の知り合い?」

「あ、ミユは知らなかったんだね。私も最近知ったんだけど、ハクノのお姉ちゃんらしいよ」

「折手死亜華憐といいます初めまして。愚妹がいつもお世話になっています」

「人格破綻な保健室養護教諭よ。付き合い方には注意すること」

「あはは…」

 

「まあいいわ。ベッドは貸してあげるから、良くなったら勝手に戻りなさい。私は出かけるから」

「ん。教会まで?」

「ええ」

 

そう言って出ていくカレン姉。

ほんと、見た目は良いのにあの性格じゃあね…って、それはもう無理か。

 

「腕は確かだから怪我は大丈夫だと思うけど、体調とかほんとに大丈夫?」

「うん。昨日のこともあるし…」

「あー、そのことね」

 

思い返すのは二人のイリヤ。

短い邂逅だったけど、ほんとに生き写しのように似ていた。

 

「心当たりとかは?」

「ないない。あるわけないよー」

 

体調に問題はないと言い張るイリヤを信用して、少し神妙な空気が流れる。

 

『まーなんにせよ早く何とかするべきですね。正体がどうであれ、イリヤさんと全く同じ顔をしたコスプレ少女が世間に解き放たれたわけですから』

「ほんとだよ!誰かに見られたら絶対に誤解される!」

 

じたばたとベッドの上で暴れるイリヤ。

そしてガバッと起き上がり、

 

「いっそのこと捜索願とか―——」

 

突然窓を破って飛んできたサッカーボールが顔面に突き刺さった。

 

 

「……」

「イ…イリヤ…」

 

ヘンな汗をかきながら美遊が恐る恐る聞く。

 

モブハモーバエビアブ(今日はもう帰ります)!」

 

早退を決め込むイリヤだった。

 

 

 

イリヤとそれに付き添う美遊を見送る。

 

『はくのんは早退しないの?』

「私くらい残らないと、あの二人のノートを誰がとるのよ」

 

当然、保健室に行ったイリヤはともかく、勝手に帰った美遊に怒り気味の先生。

 

「まったくもー。イリヤちゃんだけじゃなくて美遊ちゃんも?小学生の内からサボりとは先生感心しないなー。みんなはあんな不良になっちゃだめよー」

 

…ちょっと語弊がある言い方な気もする。

 

 

 

 

 

その夜。

 

「白野。明日、あの黒イリヤを捕縛するわよ」

 

私の土曜日…。

 

 

 

 

 

 

「まったく。一体どうやったらこんな怪我をしてくるんですか!」

 

聖杯としてのイリヤと戦った後、家に帰ると普段通りのイリヤがいた。

内心の動揺が悟られる前に自室に戻り、手当てをしていたら、案の定気付いていたセラに看護される。

 

「…セラ。そういえば詳しく聞いたことがなかったけど、第四次聖杯戦争の顛末ってどうなったんだ?」

「…シロウさん。貴方が気になるのはもっともです。ですが、私から話す権利はありません。奥様か旦那様に直接聞くか、お二人が健在なことから察してくださいまし」

「いや、そういうことなんだろうとは思っているけど、やっぱり…な。イリヤの現状も詳しく知らないんだ。改めて気になると、さ」

「…そう、ですね。私から話す事が出来ないのは変わりませんが、奥様に一報入れておきます。あまり期待しないでいてください」

「充分。助かるよ」

 

火傷を簡易な治癒魔術で治療し、ほつれた制服を修繕する。

脳裏に過ぎるのは前世でのイリヤ。

 

「姉さん…」

 

正直、事前に知っていないと思い当たりもしなかっただろう。

己を犠牲に大聖杯を閉じたイリヤ(姉さん)

そんな彼女と同じ機能を持ったイリヤ。

 

同じだけど違う人物。

 

昨日のイリヤはパパとママ―——つまり、切嗣とアイリさんの前に俺を殺すと言った。両親に対する殺す発言。———想像しかできないけど、封印されたことに対する反抗だろうか。とすると、俺への殺意は———…。

 

「魔術師の家庭ってことを知っていたことかなぁ」

 

娘を無かったことにした、という事実を容認していた、とでも思われているんだろうか。正直、細かい事情は知らないけど、イリヤからそう思われていたとしてもおかしくはない。

 

「話し合いが必要かな」

 

まずは誤解を解かないと。

そして、そのためには聞くことを先延ばしにしていた第四次のことが重要になってくるはず。

 

アイリさんたちはいつ帰ってくるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

無性にプレミアロールケーキが食べたい。

 

そんな衝動に襲われ、新都付近のケーキ屋さんで購入。ついでに切れかけていた茶葉も買い帰宅する。

 

 

―—————…。

 

『はくのん』

 

ラルドの呼びかけを無視し、鍵が開いていた(・・・・・・・)家のドアを開け、中に入る。

 

「ケーキと紅茶でいい?」

 

そして中にいた黒いイリヤ(・・・・・)に問いかける。

 

「…なんで動揺しないのよ」

 

 

 

お湯を沸かし、紅茶を淹れる。

凛姉に鍛えられたが、かすかに残る記憶の彼からは及第点を未だ貰えない腕前だろう。

 

「ありがと。———美味しい」

「どういたしまして」

 

もっしゃあ…とプレミアロールケーキを頬張る。

 

これだ。

 

どんどん回復している気がする。

 

「で、どんな用?」

 

紅茶で口を湿らし問う。

 

「一晩匿ってくれない?」

「家出少女か」

『ちょ!いいのはくのん!?正体不明の相手を!』

「正体不明とは失礼ね。私はイリヤよ」

『そうじゃなくて!』

「ラルド。マイルームへの不法侵入程度で慌てちゃいけないわ。私が帰って来た時に奇襲をしなかった時点で敵じゃないわ」

「そうそう。今はハクノに敵対するつもりはないわ」

 

納得できなさげなラルドには悪いけど、この程度じゃ私は驚かない。私を驚かせたけりゃ、AUOでも連れて来い。

 

———余計なことを言った気がする。

 

沈黙が居間に降りる。

そそくさと、二つ目のプレミアロールケーキを咀嚼していると、不意にイリヤが聞いてきた。

 

「何にも聞かないのね」

「聞いていいの?」

 

間髪を容れず返す。

 

「聞かれたくないことなんて誰にでもあるでしょ。言いたくないなら言う必要ないわ」

 

ごっくん、とロールケーキを食べ終わる。

もう一本買えばよかったか…いや、この時間に三本はまずい。主にカロリー的な意味で。

 

「ごはん、食べる?」

「…いただくわ」

「おっけー。残り物だけど許してね」

 

 

洗い物も済ませ、日付が変わるころ。

なんとなく談笑していたイリヤがふと思い出したかのように聞いてきた。

 

「そういえばさ、ハクノっていつからこっち側なの?」

「こっちって?」

「魔術的な意味」

 

なるほど。

 

「どうして?」

「私が見たのは少ないけど、ハクノが素人らしくないなって。()に比べて適応が早すぎるし、何といっても臆してなかったし」

 

それはカード回収任務の事だろう。

まいったなあ、ルヴィアさんに言われたことを蒸し返されるとは思わなかった。

 

今でこそルヴィアさんは私を受け入れてくれているけど、戦闘で実績を出し、凛姉が説得して、ようやく認めてくれたんだから。

 

「うーん。それに関しては理由があるんだけど…あんまり言えるようなことじゃないからねー。魔術に関わったのはこの前のカード回収が初めてだよ」

 

前世を除いて。

まあ、前世では魔術とは別の電脳技術が発展していたようだけど、発展しすぎた科学は魔法と変わらないって誰かが言ってたし大した問題じゃないだろう。

 

あれ?そうすると魔術に関わったのって本格的にカード回収任務が初めてになるのかな。

 

「…嘘は言っていないようね」

 

どうやって判断したのこの子。

 

若干戦慄を覚えながらジト目で睨みつけていると、イリヤは慌てたように

 

「ちょ、直感よ直感!」

 

って弁解しだした。怪しい。

 

「うー、ほんとなのに」

「大体、自分のことは話さないくせに私のことを聞き出そうとするのが悪い」

「う…」

 

気まずそうに眼を逸らす。

自覚していたのか。

 

「いいけどね。あ、鍵はドアポストに入れといてねー」

 

ポイっ、と家の鍵を投げ渡す。

 

「へ?」

「どうせ朝にはどこかに行くんでしょ?戸締りだけはよろしく。あ、布団はそこの押し入れに入っているのてきとーに使っていいからね」

 

伝えるだけ伝えて、じゃあねーと部屋に戻る。

 

明日を待たず、ここで捕縛してもいいかもしれない。

でも、私の直感が警鐘を鳴らしていた。

 

彼女の問題を解決するのは、イリヤだと。

 

 

 

「…———ありが、と」

 

ドアを閉める前、大事そうに鍵を握りしめながら言った小さな呟きは、確かに私へと届いていた。

 




次回、クロ捕縛作戦。
美遊と士郎はもう会っているし、クロと士郎も会っているから衛宮家での全員集合はありませんw

クロ編、メインはアイリの語る第四次になりそうな予感。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


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20話 捕縛作戦

おおお、ジャンヌウウウ(来ない
イベントの周回効率が悪い。キッツイ。

今回は駆け足気味です。白野視点。
何回も言っているように、クロ編は手を加えれる箇所が少なくてな…全編オールカットも視野に入れたレベルでの書きづらさ。


執筆中に九州で大きな地震がありました。
みなさん大丈夫ですか?作者の友人も何人か九州にいるので、安否確認を急ぎました…無事でよかった…
地震も最近増えてきています。対策と準備をしておきましょう。ほんと、気を付けてください。


 

翌日、朝起きると黒イリヤはもういなくなっていた。

 

『ありがと。白野』

 

そう書かれたメモを机に置いて。

 

「ラルド。どうせ起きてたんでしょ?」

『うん』

「あの子、大丈夫だった?」

『はくのんには何も手出ししようとしてなかったよ。僕の質問には何一つ答えてくれなかったけどね』

 

若干怒り気味のラルド。

仕方ないなーと思いながらルヴィアさんの家に行く準備をする。

 

昨日の今日で悪いけど、捕まえさせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

昼前にルヴィアさん邸に集まる。

メンバーは凛姉、ルヴィアさん、イリヤ、美遊、そして私。

 

士郎兄にも協力を求めようとしたらしいけど、イリヤが断ったらしい。

曰く、

 

「あんな私を見て誤解してほしくない」

 

らしい。

誤解して欲しくないなら、伝えるべきだと思うんだけどな…。

 

 

「作戦はこうよ」

 

いつも通り凛姉が話を始める。

…メイド服なのは触れないでおこう。

 

「まず————…」

 

 

 

 

所変わって円蔵山中腹。

ぷらーん、とイリヤが簀巻きにされて木に吊るされていた。

 

「ねえ!これって意味あるのーっ!?」

 

そんなイリヤの前には、ルヴィアさんがお金の限りを尽くした豪勢な食事———ではなく、士郎兄お手製のお弁当が置いてある。

 

当初は豪華な食事を配置するはずだったけど、イリヤを釣るにはこっちの方が効果が高いという私の進言による変更だ。

 

「シェロのお弁当…」

「衛宮くんの…」

「おに————士郎さんの…」

 

若干三名ほど様子がおかしいけど放っておく。だって私は頼めば食べれるもんね!

 

「はー…リンさんを信じた私がばかだったのかな…」

 

イリヤの呟きが風に乗って聞こえてくる。

まあ、こんなあからさまな罠なんだから仕方な———

 

「んー」

 

((((ほんとに来たっっ!?))))

 

三白眼で宙づりになったイリヤを眺める黒イリヤ。

 

「なんかあからさまに罠過ぎてリアクションに困————これは!お兄ちゃんのお弁当!?」

「あー!食べないで!それは私が食べるんだから!」

「知らないわ!私をおびき寄せるために用意したんでしょ?なら私が食べていいはず!てなわけでいただきます!」

 

「「誰があなたに!!!」」

 

叫びながら草むらから飛び出した凛姉とルヴィアさん。やっぱり食べたかったんだ。

 

捕縛対象切替(フィ————ッシュ)!!」

 

凛姉がイリヤを釣るしていた布を引き、魔術を行使する。解けた拘束の中からルビーが現れ、イリヤが転身すると同時に自動で布が黒イリヤを再拘束した。

 

「ふん…」

 

しかしその拘束は虚空から取り出した双剣により断ち切られる。

でも、わずかに生じたその隙を、

 

Zeicben(サイン)————

 

 

   —————見えざる(フォアストデア)鉛鎖の楔(シュヴェーアクラフト)!」

 

ルヴィアさんの拘束魔術で押さえつける!!

 

「くっ!!」

 

流石の黒イリヤも堪えているように見える。なら、ここで追撃をかける!

 

「魔力収束…」

 

前方に構えたステッキに魔力を収束させる。

 

「重力系の捕縛陣ね。でも、バーサーカーの時と比べるとランクが落ちるわ!」

 

地面を破壊して捕縛陣から逃れようとする。

でもそれは予想済み!!

 

速射(クイック)!!」

 

双剣を地面に叩き付けた瞬間ならば、防御態勢はとれない!

 

狙いすました最大速度の一撃は、

 

「やっぱりね!!」

 

突如出現した剣斧に遮られた。

 

「————偽・射殺す百頭(フェイクナインライブス)。準備しておいてよかったわ」

 

バーサーカーの持っていた剣斧に遮られ、そのあとも連弾した魔力砲は届かない。

 

「く————っ」

 

魔力砲の密度をさらに上げる。

爆風によって舞い上がった土煙が辺りを覆い始め、凛姉たちが見えなくなる。

 

「あら、あらららら?これは…」

 

訝しむ気配を感じるけど、絶え間なく弾幕を張り続ける。爆音と煙にさらされ、周囲の様子を探れなくなったところで、

 

「————フッ!!」

 

歪な短剣を構えた美遊が突撃する!

 

「このタイミングだとそう来るわよね」

 

スっ、と現れた左手に美遊の短剣が絡めとられる。

 

「はぁい、サファイア。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)なんて、いきなりウィークポイントを突いてくるじゃない」

「くっ!」

 

慌てて距離を取る美遊。でも、そのままサファイアはかすめ取られ、右手の剣で野球のように打ち飛ばされてしまった。

 

「魔法少女の弱点。ステッキはちゃんと持っていないとね」

 

そしてそのまま自分を拘束しようとしていた魔術布を掴み、発動しようとしていた魔術に干渉する。

 

「リンもルヴィアもちょっとおとなしくしておいてよね」

「ウソ!?拘束布を逆利用された!?」

「ああっ…なんか既視感が…」

「わー!早速やられているし!」

 

悠々とイリヤに歩み寄る黒イリヤ。

その間に私は降り立った。

 

「最後の障害はあなたって訳、ハクノ」

「たとえ私がやられたとしても、第二第三の私が————」

「いや、それはそれでキモイ」

「あんたが言う?」

「それもそうね」

 

創成(アーツ)(ブレード)

 

ステッキの先に魔力で編んだ刃を作り出す。凛姉がやっていた手法だ。

 

「…ふざけているの?」

「なにが?」

「その刃。魔力の厚みが全然違う。そんな刃を潰した剣で私を倒せると思っているの?」

「殺すことが目的じゃないからね」

「そう…。ならそのまま————やられちゃえ」

 

見覚えのある黒白の双剣を振るってくるイリヤ。そのまま魔力刃で受けきる。

続く斬撃も、身体強化をフルに使って何とか対応する。

 

「それにっ!ね!」

 

刃を振るいながら言葉を紡ぐ。

 

「魔力を編んだこれにはこんな使い方もあるんだ、よッッ!」

 

弾かれた勢いを利用し、ステッキを大きく振りかぶる。

 

「そんな見え見えの一撃———」

 

でも、そんな大ぶりの一撃は余裕をもって回避されそうになる。そこに走り込んで来るのはイリヤ。黒イリヤは頭上の私に気を取られ、まだ気づいていない。

 

「特大の———砲射(フォイア)!」

「な———ッ!?」

 

至近距離で放たれた魔力砲。

いくらイリヤの戦力が下がっていたとしても、この戦闘中ずっと溜めていた分の魔力を使った攻撃だ。無視できるものじゃない。

 

急なその砲弾を咄嗟に、だけど確実に避けたことは称賛に値する。でもね。

 

「隙ありぃぃぃいい!!」

 

ステッキを振り下ろしながら魔力刃を解放する(・・・・・・・・)

叩き付ける速度も加算されたゼロ距離の魔力砲。

ソレは確実に黒イリヤに当たり、着地地点にある底なし沼(誘導してきた目的地)に叩き落した。

 

「がぁ———ッ…く、でもこの程度!投影(トレース)———…!?」

「残念ね」

 

底なし沼に落ちた黒イリヤを見下ろすのは拘束されていたはずの凛姉とルヴィアさん。

 

「隙をつくためとはいえ、わざわざ自前の礼装に捕縛されるなんてね…」

「あら?若干ほんとに捕まりかけたのは?」

「それを言うならあんたもでしょ」

「なんで…魔術が使えない…!?」

「そうそう。その底なし沼は私たち謹製のトラップよ」

「五大元素全ての性質を不活性状態で練り込んだ完全秩序(コスモス)の沼!”何物にも成らない”終末の泥の中ではあらゆる魔術は起動しない!」

「貴女の剣を出現させる魔術もここでは無意味よ」

 

ふふふ、ははは、と歯の隙間から笑いがにじみ出す二人。

 

「オ——ッホッホ!!間抜け!間抜けですわ!!」

「今時底なし沼にハマるなんてこっちこそリアクションに困るわ!」

「ほらほらどうしますの?こうしている間にもどんどん沈んでいきますわよ?」

「うう、ぅううぅうううう…!」

「あら、この子ったら泣いちゃって…かわいそうに…」

 

(((こ、この人たちは…)))

 

「とてもじゃないけど、この間同じトラップに引っかかった人たちとは思えないよ…」

『全くです。そんなんだから私たちに愛想をつかされるんですよ』

「はいそこシャラップ!!」

 

「………ッ!!」

 

 

うあーーーーーん

 

 

そして、イリヤに手出ししない、と自分から約束させたことで沼から救出したのでした。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!黒イリヤだとかイリヤだとかめんどくさい!あんた、クロね!」

「わたしは猫か…」

 

…とんでもない名付けを見た気がする。

 

現在、クロを確保した私たちはルヴィアさん邸の地下室にいた。

 

「————これで良し、と」

 

イリヤから抜いた血と宝石を使って、クロのお腹になんか模様を描く凛姉。

 

「痛覚共有の呪いよ。ただし、一方的な、ね」

「そういうこと…これじゃあ、相打ち狙いでしか殺せないわね」

「話が早くて結構」

 

イリヤを殺そうとするクロ。

その行動を制限するための呪術らしい。

 

その後も凛姉が尋問———というか、質問を繰り返すけど、クロははぐらかすばかりで答えようとしない。

 

「ったく…。白野といい衛宮くんといいクロといい、なんでこう面倒な案件が揃うかなあ」

「あ、お兄ちゃんは私のこと知ってるから」

「「「はあああああ!?!?」」」

 

はぐらかすどころか、盛大に引っ掻き回される。

 

「どどどど、どういうこと!?」

「昨日襲い掛かったら返り討ちにあったの。さすがお兄ちゃん」

「返り討ち!?衛宮くんはあなたの正体を知っているの?」

「うーん…どうだろ?」

「埒があきませんわ、シェロを呼びましょう」

「待った。もう少しこっちで情報を整理してからの方がいいわ」

「…それもそうですわね」

 

クロを拘束したまま、地下室を封印する。

 

「さてと。これで少しは時間を稼げるといいんだけど…」

 

でもそんな淡い期待は、いつも使ってる会議室のドアを開けると同時に断たれた。

 

「遅いじゃない」

「…なんでいるのよ…」

「あの程度、()を閉じ込めておくには役不足よ」

 

そう言ってクロは当然のように席に着く。

 

「…すっごくきもい」

「キモイとは何だ!おんなじ顔のくせに!」

「同じだからこそ余計にだよ!」

 

不毛な言い争いが続く中、ふとずっと静かな美遊に疑問を持ち話しかける。

 

「美遊?さっきからどうしたの?」

「…白野。あなたはどう思う?」

「どうって…ああ、クロの事か。正直、戸惑っているところはある、かな。でも、あの子自体の敵意は実はそんなに大きくないと思うんだ」

「どうして?私にはそうは思えない。士郎さんを襲っているし、何よりイリヤのことをを本気で殺す気だった」

「うーん…なんて言うか…本気だったけど、本気じゃないように思ったんだ」

「?」

「自分でもなんでそう思ったのかよくわからないんだけど、美遊もあのクロの姿に見覚えがあるでしょ?」

「それは、あの時のイリヤの…」

「うん。でも、あの時はセイバーを打ち負かすほどの力を持っていたんだよ?弱体化したのかもしれないけど、いくら何でもイリヤ一人を殺すのに手間取りすぎていると思う」

 

私が違和感を感じた理由はここなんだ。

仮にとはいえ、アーサー王と撃ち合い勝利したイリヤと同じ姿をしたクロ。もし彼女がイリヤから分裂した存在で、そのおかげで弱体化していたんだとしても、朝の登校中のトラック事故や花瓶の落下、猛犬に襲わせるなんて回りくどすぎる。実際魔法少女としてのイリヤ自身が弱体化しているんだし、それこそ一人になったところを狙えば簡単に殺せたはずだ。

 

「だから、なんだろう———」

 

適切な言葉が思いつかない。

 

思い込んだまま突き進んでいるんじゃない。

確かに殺したいって想いは本物なんだろう。でも、それだけじゃなくて———。

 

「あ———」

 

同じように何かに気付いたように美遊が顔を上げる。

その視線は未だ言い争いをするイリヤとクロに向いていて。

 

「構って欲しい…?」

「それだ!」

 

構って欲しい。自分を見てほしい。私はここにいる。

そんな想いが見え隠れしているんだ。

 

だからこそだろう。

さっきまで命を狙われていたイリヤが多少のわだかまりを感じつつも気楽そうに言い争っているのは。

 

「———差し詰め、末っ子かなぁ」

「ふふっ、言えている」

 

すっきりして顔を見合わせる私たち。

 

「あーー!二人とも何とかして!」

「はいはい」

 

じゃあ、何とかこの姉妹を仲直りさせる方法を考えなくちゃね。

 

 

 

 




白野の包容力、謎の母性という伏線回収。
原作を読んでいて思ったことを書くためこうなりました。士郎を狙ったのも、自分を認識してほしかったから、という想いからの暴走です。

恐らく、クロ本人は封印されたことへの恨みと混ざって自覚していないかと思いますが。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。

前書きにも書きましたが、みなさん地震などの災害にはほんと気を付けて…


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21話 シンジツ

邪ンヌ…フランちゃんが代わりに来たよ!
ニコ生も最高でした。ノッブww

AUOと青セイバーのモーションかっこいい。
コミックウォーカーでのプリヤ最新話かっこいい。


今回は原作との大きな乖離があります。今更ですが。
前回白野と美遊が気付いたことによるバタフライエフェクトというかなんというか。


 

かぽーーーん

 

ふいー、極楽極楽。

私たちは今、ルヴィアさん邸の大浴場にいる。

 

「なんで私まで…」

「まあまあ。クロもお風呂くらいいいじゃない。どうせ痛覚共有でイリヤを狙えないんだし」

「相打ち覚悟で狙うかもよ?」

「そのつもりならとっくにしてるでしょ」

 

お風呂場だからか、声が若干反響する。

 

「とりあえず、今後どう動くのかとか整理したいしね」

「この国に古くから伝わる裸の付き合い、というやつですわ」

 

ここにいるメンバーは私、イリヤ、クロ、美遊、凛姉にルヴィアさん、ステッキたちだ。

 

「さて、棚上げしてきたことだけど確認しておこうかしら」

 

いつものように凛姉が切り出す。

 

「正直言って私たちにとってクロは焦点ではないわ」

「え?そうなの?」

『イリヤさん鈍いですねー』

「イリヤの命を狙っていること…も確かに重要だけど、この子の行動を死痛の隷属(痛覚共有)で制限できる今、問題なのはクラスカード”アーチャー”が消えたことよ」

「そうです!クロのことに気を取られて聞きそびれていましたが、イリヤスフィール。貴女、大空洞でカードを使って変身していましたよね?」

「あー…。そういえば」

「あんなカードの使い方、私たちどころか協会ですら把握していなかった。一体どうやって…」

「う―――ん…どうやってって言われても…。この際だから話すけど、実はセイバー戦の時も同じように変身したの」

「「なっ!?」」

「うまく説明できないけど、どうしようもなくなった時にどうにかしたいと思ったら、どうすればいいのか何となく浮かんできて、気が付けばどうにかなっている…みたいな…?」

「疑問形で返されても返事になっていませんわーーっ!!」

「だ、だって自分でもよく分かっていないんだもん!!」

 

凛姉が無言になった。

これは何か考えているんだろうけど…。パズルのピースが揃いきっていない。

全体像は見えてこないけど、たぶんこの中心にいるのは———。

 

クロとイリヤを交互に見遣る。

 

無くなったアーチャーのカード。

変身したイリヤ。

現れたクロ。

 

「一種の召喚器……クラスカード…クロの出現…イリヤの弱体化…」

 

ブツブツと呟く凛姉。

そして、

 

「イリヤ。貴女はどうしたい?」

「へっ?私?」

 

イリヤ(核心)へと切り込んだ。

 

「私たちの目的は全クラスカードの回収。正直に答えると、それさえ果たせるのなら他のことはどうでもいいわ。だからこそ、収拾の形は中心であるイリヤの意思に従う」

「———…。」

「聞かせて。貴女の答えを」

 

重い沈黙が、大浴場を包む。

 

僅かな身動きから起こる波紋に否応なく意識が向く。

水滴の音がやけに大きく響く。

 

誰も何も言わない。

全員が、イリヤを見ていた。

 

 

 

 

数分後。

 

「正直、私の答えなんてぼんやりしすぎてわからないよ。でも、そうだね…。ハクノがいて、ミユがいて、リンさんもルヴィアさんもいる。たまたまなっちゃった魔法少女だけど、だからこそ初めて見る親友(ハクノ)の側面を知れたし、新しい友達も増えた。———クロが私の命を狙う理由なんてわからないし、怖いけど、それ以上に楽しいことがこの一か月は多かったんだ。だから———」

 

少女は、並行世界(原作)ではたどり着かなかった答えに初めから到達する。

 

「———私の望みは、みんなで居たい、かな」

 

 

————さっきまでとは違う沈黙が降りる。

 

美遊は何かをこらえるように膝を抱え、凛姉とルヴィアさんは驚きを隠しきれていない。私も、こんな世界(魔術世界)にどっぷりと浸かっているわけではないけど、前世で聖杯戦争を勝ち残って来たからか、魔術と関わりを切らない選択をしたイリヤに驚愕を隠せない。

 

中でも最も驚いているのは———

 

「———なんでよ」

 

この子なんだろう。

 

「私はあなたを殺そうとした。明確な殺意を持っていたのよ?そんな私をなんで受け入れる事が出来るのよ!?」

「確かに殺されるのは怖いよ!さっきだって、あんな間近で剣なんて見るの初めてだったし…でも!クロも私じゃない(・・・・・・・・)!」

 

「え…?」

 

聞き逃してはならないことを言われた気がした。

 

「ね、ねえイリヤ。今のってどういうこと?」

「何というか、うまく言えないけどわ———「はい、そこまで。」——え?」

 

いつの間にかその女性(ひと)はそこにいた。

手に持たれているのはバスタオル———いや、あれは!

 

「全く。家の前の豪邸にイリヤちゃんが二人も入っていくんだからママ心配しちゃった。思わずシロウにこんなの(身隠しの布)まで用意させた甲斐があったわ。——あ、安心して。ここのセキュリティはばっちりよ?私だって特級の礼装を何個か使ってシロウと誤認させないと入ってこれなかったんだから」

 

「な…な…!」

 

驚きでわなわなと震えるルヴィアさん。油断なく八極拳の構えを取る凛姉。

 

そして顔面蒼白なイリヤ。

 

「なんでママがここにいるのーーーっ!?」

 

「とりあえずみんな、のぼせる前にお風呂からあがろっか?」

 

豊満な肢体を惜しげもなく晒している彼女、アイリスフィール・フォン・アインツベルンはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー。いい湯でした」

 

満足げな顔でアイリさんが牛乳片手に言う。その牛乳の栄養はどこに行くのか。

 

「…お粗末様でした。それでミセス、貴女は———?」

「そうね。改めて、私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。そこのイリヤの母よ」

「お母様!?え、姉じゃなくて!?」

「嬉しいことを言ってくれるわねーリンちゃん。正真正銘母ですよ?ああ、もちろんシロウの母でもあるからよろしくね」

「お義母様!!」

「ちょ!ルヴィア!!」

 

混沌とする場にあははーと見つめるアイリさん。

絶対この人楽しんでる…!

 

「アイリさん。このタイミングで、ってことはイリヤたちの——?」

「そうよハクノちゃん。とりあえず全員揃ってから———って来たわね」

 

会議室のドアを開けて入って来たのは士郎兄。

なんかちょっとやつれてる。

 

「あら?シロウ疲れてる?」

「そりゃあ、いきなりあんな投影(礼装)を準備させられたらな…。しかも結局自前の礼装でランク上げているし…」

「仕方ないじゃない。剣じゃなかった以上貴方には限界があるんだし、伊達にアインツベルンの集大成じゃないわよ」

 

家族の登場にイリヤは固まったまま。

クロは隙を見てアイリさんを狙っているそぶりを見せるけど、凛姉たちに警戒されて動き出せないでいる。

 

「さて、全員揃ったことだし」

 

何故か眼鏡をかけてホワイトボードに書き出すアイリさん。

 

「”おしえて!アイリママ”のコーナー!子供たちからの質問に気分次第でなんでも答えるわよー」

 

なんか始まった。

 

「えっと…」

 

まず質問するのはイリヤ。

 

「なんでママがここにいるの?」

「まずそこからかー。このエーデルフェルト邸の侵入者結界はね、登録されている人には反応しないようになっているの。だから私は気配を遮断できる礼装を身に着けて”アイリスフィール”としての存在を限りなく薄めた後、シロウって誤認するように幻術作用のある魔術を限定的に使って結界を騙して入って来たのよ。さっきも言ったようにイリヤちゃんが二人いたしね」

「な———!まさかそんな穴が!」

「そこまで悲観しなくてもいいと思うわ。気配遮断だけじゃおそらく侵入できなかったし、私もシロウが登録されていることを知っていたから誤魔化せたんであって、純粋な侵入者にはばっちりの効果よ」

「魔術って…」

「察しの通りよイリヤ。貴女がこっちの世界に関わったことはシロウに聞いているわ。———そこの、クロと呼ばれていたイリヤちゃんのこともね」

「っ!お兄ちゃん!?」

「あー。そこのクロ?とはおととい辺り戦ったんだよ。結果、心当たりがあったからアイリさんに聞いてみたんだ。———そろそろ、俺も知りたいと思っていたし」

「えっとミセス…。シェロが魔術を学んだことについて、私たち二人は大まかな話を聞いています。そのうえで、母は一般人だと。魔術師殺し(メイガスマーダー)がその活動方針を改めるきっかけとなった人物と聞き及んでいました。しかし———…。アインツベルンという魔術の名門なんて、時計塔所属の我々は知らなかった。一体貴女方は———?」

 

「そう、ね。まずはそこから話すべきかしら。時にイリヤちゃん。貴女の一番知りたいことは何?」

 

「…前みたいに誤魔化さないで、ちゃんと教えて。知りたいの。私は…なに?クロのこともそう。あんな普通じゃないチカラ、私がなんで持っているの?」

 

「…さて、大まかな疑問はこの二つね。これらに応えるには私たちのバックグラウンドを知った方がいいでしょう。の、前に。これに署名をお願いね」

 

アイリさんがカバンから取り出したのは人数分の書類。

 

「な!自己強制証文(セルフギアス・スクロール)!?」

「ええ。念には念を入れてね。簡単なモノよ。」

 

目を通す。

単純に、アインツベルンの魔術儀式や実態に存在、衛宮の所在地などを他言しないという誓約。

でも、必要に応じてアインツベルンと衛宮の両当主が同意すれば話すことを許可する、ともある。

これの一体何が問題なんだろう?

 

自己強制証文(セルフギアス・スクロール)はね、その当人だけに課される誓約じゃないのよ。たとえ命を差し出しても、次代に継承される魔術刻印がある限り死後の魂すら束縛される強制の呪い。どんな手段を用いようとその魂に刻み付けるこの誓約は解呪不能なのよ」

「ええ。だからこそ、魔術師にとっての最大限の譲歩でもあり、めったに見られない誓約です」

「そこまでわかっているなら話は早いわ。これは私たちから出せる最大限の譲歩。———私たちも血統じゃない、次代への糸を守るための誓約よ」

 

各々が署名するかどうか悩む中、私と美遊だけはすぐに名前を書けた。

 

「白野!?そんな簡単に…」

「もともと、私は後ろ盾が凛姉たちくらいだから。こうして魔術に関わる以上、不透明とはいっても名門っぽいアインツベルンの加護はありがたいんだ。なによりイリヤもいるし」

「私も。もともと関わりが薄い私たちにとっては、こんな誓約なんてほとんど意味がないようなものだから」

 

『まあ、僕たちもですねー』

 

ラルドの声に反応すると、ステッキたちがどういう仕組みか署名していた。

 

『私たちカレイドステッキはもともと特級の魔術礼装です。自己強制証文(セルフギアス・スクロール)によって多少の制限はかけられようとも、宝石翁の礼装である私たちに手出しできる存在なんてほとんどいません』

『加えて、署名することで強制とはいえ信頼を得られるんだから安いもんだよ。いざとなったら万華鏡ジジイに解呪してもらえば…』

『赤姉さん。その場合確実に廃棄されると思うよ?なんというか…性格的に。新しいマジカルルビーmkⅡとかになりそう』

『なんとッ!?』

 

そしてさらに数分後。

 

「———よしっ!」

 

と凛姉、ルヴィアさんが署名した。

 

「もともとステッキの所有者が変わっている時点で報告なんてできないしね」

「それに、今まで多くの疑問が残っていたイリヤスフィールについてわかるのなら。ええ、十分な賭けでしょうとも」

 

「さ、みんなが署名してくれたところで始めましょうか」

 

全員分の自己強制証文(セルフギアス・スクロール)を回収したアイリさんが言う。

 

「アインツベルンの行った儀式。それと、10年前のことをね」

「10年前…」

「ええ。そこを境にアインツベルンの表立った行動は無くなったわ。当時、この冬木で行った大魔術儀式。聖杯戦争について話しましょうか」

 

「聖、杯…」

「戦争?」

 

 

聞き覚えがありすぎる儀式名。

確か———月の聖杯戦争はもともと地球のものをベースにしていたんだっけ?

 

そんな衝撃もあったけど。

能面のように無表情なクロよりも。

対極のような表情のイリヤと美遊の方が気になった。

 

 

「あ、時計塔で思い出したけど、ウェ———エルメロイⅡ世もこのことは知っているから」

「「はあああああ!?!?」」

 

 

 




美遊との決闘、アイリ乱入はカット。
戦う理由であるイリヤの考え方の変化による影響です。

次回はおそらく全編アイリ視点、遂に来たぜ第四次聖杯戦争編。

空白の部分は皆様の想像力で保管をお願いします。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
また、最近感想のお返事が遅れております。リアルでの生活がなかなかに忙しいのもありますが、きっちり全部目を通しております。お返事を送れなかったとしても、執筆のモチベーションになっていますので、よろしくお願いします。


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22話 第四次聖杯戦争秘話

お待たせしました。
GW?そんなのシラナカッタヨ…ZEROイベやっと完走した…アサシンエミヤ?征服王?知らない子ですね。

感想のお返事もできていませんが、全部読ませていただいています。ありがとうございます。
前話で日間ランキング9位に載っているのを見たときは遂に一桁代きたかと狂喜乱舞しました。

感想でみなさん血生臭い第四次聖杯戦争を思い浮かべているようですが、すみません。アイリ生存ルートの時点で鯖脱落は限られているんだ…

ダイジェスト形式ということで、悩んだ結果こうしました。
というか、今回の話を書く前にZEROイベはずるい。


 

「まずは聖杯戦争について話しましょうか」

 

アイリさんはそう言って口火を切った。

 

「これはその名の通り、万能の願望器である聖杯を巡って、七騎の英霊とそのマスターが血で血を洗うような凄惨な戦争のことよ」

「いきなりからごめんなさい、七騎の英霊?」

「ええ。参加者は各々の英霊(サーヴァント)を使役し、最後の一人となった者に聖杯が授けられるわ」

「そんな馬鹿な…」

「言いたいことはいろいろあるだろうけど、先に進めるわね」

 

凛姉やルヴィアさんの驚愕を他所に、話は進んでいく。

 

 

 

 

遠坂にエーデルフェルト。

両家も聖杯戦争に無関係じゃないのよ?

 

…ふふ、不思議そうな顔ね。追って説明するわよ。

 

 

まず、この聖杯戦争はここ、冬木の地で行われていたの。教会と協会の監視が及びづらく、独自の発展を遂げた極東の島国。これほど秘密の儀式をするにふさわしい場所はなかったわ。

 

そして始まりの御三家と呼ばれる、聖杯戦争のシステムをくみ上げた家系があったの。

 

———ええ。私たちアインツベルンだけじゃないわ。

 

聖杯の器を用意するアインツベルン。

協会と教会から手が届きづらく、豊富な地脈を持った土地を提供する遠坂。

英霊召喚というサーヴァントシステムを構築したマキリ。

 

この三家から成り立っていたの。

 

…凛ちゃん?大丈夫?

 

え、お父様から聞いていない?

そうでしょうね。貴女のお父上は先の聖杯戦争の参加者だったのだから。

 

話を戻すわ。

 

この聖杯戦争はある一つの目的のために行われていたの。

”根源への到達”

魔術師としての到達点を、ね。

 

勿論、各々の家系でその思惑は違ったとは思うわ。

でもそこは問題じゃないの。

 

七騎の英霊の魂ともいえる高濃度の魔力を以って根源への穴を穿つ事が出来る以上、おまけともいえる余剰魔力でも十分”万能の願望器”足り得るのだから。だからこそその蜜に誘われて外部の魔術師が参戦してきた。

 

エーデルフェルトは三回目に行われた聖杯戦争の参加者よ。60年前だったかしらね。

 

——そうよ。この儀式は失敗した。だからこそ、10年前の第四次聖杯戦争まで続いていたの。

 

 

私はそのために調整された聖杯だった。

 

 

 

「ちょっと待って」

「どうしたのイリヤちゃん?」

「ママが聖杯だったってどういうこと?」

 

思わず話を切ったイリヤ。

周りの面々も同様だ。

 

「簡単よ。ママは聖杯としての機能を持たされた人間だったってこと。魔術師の世界では、生まれる前の赤ん坊に手を加えるのなんて日常茶飯事なのだから。———まあ、さすがに1000年も続いている家系だからこその荒業みたいなものだけど」

「な———」

 

固まったままのイリヤ。

急にそんなカミングアウトは重い。

 

「その聖杯としての機能とはいったい?」

「簡単よ。脱落したサーヴァントの魂をその器に溜めておくだけ。そして、基準に達したとき、私の中の小聖杯から冬木の大空洞に存在する大聖杯へと還元し、その魔力の解放で孔を穿つの」

「そんな!?英霊の魂を貯蔵!?あり得ないわ!」

「もちろんよ。原理上、四騎の英霊の脱落で私の人間としての機能は停止するはずだったわ」

 

事もなさげに言うアイリさん。

でもそれって…。

 

「そんなことって…」

「当時の私には覚悟があった。アインツベルンの悲願を達成するという覚悟が」

 

でもね、と続く。

 

「万全を期すべくアインツベルンのマスターとして切嗣がやって来たのよ」

 

 

 

 

忘れもしないわ。

アインツベルンが恥も外聞もかなぐり捨てて依頼したマスターとして、衛宮切嗣はやって来たの。

 

聖杯戦争は魔術師同士の殺し合い。だからこそ、魔術師殺し(メイガスマーダー)として名を馳せていた彼に白羽の矢が立ったのね。

 

でも。

 

冬に閉ざされた城で私たちは恋に落ちた。

 

話が変わってないかって?

 

いいえ。同じ話よ。

 

お爺様はアインツベルンの悲願を達成するべく私たちを用意した。

でもね。

私たちの間にイリヤが生まれたの。

 

その時思ったわ。

 

この子のためなら、たとえ千年の悲願だろうが捨てられるって。

 

魔術師としては間違った判断なのかもしれない。

それでもね、イリヤちゃん。

私たち二人にとって、それまでの価値観を覆すくらい貴女の存在は大きかったの。

 

そこから私たちは何回も話し合ったわ。

どうあがいても、聖杯戦争のあと私はいなくなる。そのあとイリヤちゃんをどうするのか、アインツベルンに残しておくべきなのか、とかね。

 

その結果、私たちは聖杯戦争を止め、アインツベルンを潰すことにした。

 

 

 

 

 

「は?」

 

思わず変な声が出た。

 

今までの話は、概ね俺の知っている流れと一緒だった。

なのに、急にアイリさんから飛び出した爆弾発言。アインツベルンを潰すだって?

 

「どうしたのシロウ?」

「え、いや、潰すって…」

「言葉通りよ。アインツベルンを実質仕切っているのはお爺様だったから、もし私たち夫婦が帰れない事態になったとき、イリヤにどんな仕打ちが及ぶか…。考えただけでも恐ろしかった」

 

実際、俺の世界では切嗣への憎しみの感情を募らせたイリヤは、自分の寿命なんて度外視でやって来ていた。

純粋なまま、捻じれて育ってしまっていた。

 

「幸い、聖杯戦争がはじまるまで8年もの月日があったから、下準備は十分に出来たわ」

 

———ん?

 

「ねえ、アイリさん」

 

今まで黙っていた白野が声を上げる。

 

「その…第四次聖杯戦争って10年前なんだよね?今の話だと、その8年前にイリヤが生まれたことになっているんだと思うんだけど…」

「いいところに気付いたわね。その通りよ。イリヤちゃんは18歳ですっ☆」

 

 

……

 

「「「はあああああ!?!?」」」

 

やっぱりイリヤは()なのか。

 

「まあ、その辺は諸事情あるんだけどね。クロちゃんのことも関わってくるわよ?———ああ、安心して。イリヤ自身は10歳で間違いないから(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

簡単に言うとね、イリヤちゃんはもし私が失敗した時のバックアップだったのよ。

 

———その通りよ、凛ちゃん。

 

イリヤにも聖杯としての機能が(・・・・・・・・・・・・・・)備え付けられていたの(・・・・・・・・・・)

 

冬木に来るにあたって、アインツベルンにイリヤを置いていったら勝手に聖杯としての調整が始まる。

そうならないために、私はイリヤを冬木に連れてくるだけじゃなくて、干渉できないように封印したの。

 

ええ。その肉体、精神と共に聖杯としての機能(・・・・・・・・)をね。

 

その時はそれが最善だと思っていたの。

申し開きのしようもないわ。

 

でもその甲斐あってか、アインツベルン本家からの干渉からイリヤを守ることには成功した。欠点として、人の身に余る聖杯の機能を封印するのに8年も時間がかかったことかな。

 

それでもこうしてイリヤ自身の安全は確保できた。

 

 

 

そうなったら、次の問題は今代の聖杯の器としての私をどうするか、ということになったのよ。

 

アインツベルンだけの問題なら何とかなったでしょうけど、聖杯戦争を立ち上げた他の御三家に角が立つ。下手に共闘されて、私たちが脱落したら元も子もないし。

 

そこで私たちは必死に、全力で情報を洗ったわ。

遠坂にマキリ。今は間桐と名を変えた二つの家系のウィークポイントになりそうなところ、交渉に使えそうなところ、考え方、家柄、立場。

そして一つの可能性を見出した。

 

 

聖杯戦争が起こる数年前。

遠坂の次女が間桐に養子に出されたことを知ったの。

 

 

 

 

 

ギリッ、と凛姉が歯を食いしばる音がする。

なんてことはない。

 

凛姉にとって、桜さんとの関係が修復されたとはいっても、疎遠になったという事実は変わらないんだ。

 

「この養子縁組の話は魔術の世界において珍しいことではないわ。ただ、間桐の当時の当主、マキリ・ゾォルケンの意図を読み切れなかった当時の遠坂の当主と、遠坂の家族のことを気にかけていた間桐の男性にとってはそうではなかった」

「——ええ。その通りよ。お父様は桜のためだけを思っていたけど、間桐はそんなことはなかった。雁夜叔父さんはそんな桜のことを、お母様のことを気にかけていたわ」

「だからこそ。イリヤという我が子を守ると決めたからこそ。この二人は味方にできると私たちは踏んだのよ」

 

 

 

 

親ってものはね、どこに行っても子供のことを想っているものなの。それが間違った方向だとしても、子のことを想わない親はいないわ。特に、魔術師の世界では魔術を継承させるための大事な糸としての側面もあるし。

 

 

私たちはまず、間桐雁夜に接触したわ。

 

当然、彼は桜ちゃんの仕打ちを知って怒った。間桐と遠坂への憎しみを燃やしていたわ。

でも、それは認識の問題。

遠坂も、桜ちゃんの不幸を願っているわけじゃないんだから。

 

そこで、私たちは彼ら二人を接触させることにしたの。もちろん、私たちも交えて。じゃないと、間桐雁夜(一般人)の感情論と遠坂時臣(魔術師)の考え方がぶつかったところで答えなんかでないでしょうからね。

 

予想通り彼らは荒れたわ。

一般人としての意見と魔術師としての意見は相容れない。二人とも求めているのは家族の幸せだったのに。

2人だけなら決裂したであろう話し合いも私たちがいることでクッションになる事が出来た。だからこそ、折を見て私たちのイリヤを守るって言う意見を話せたんだと思う。

 

時臣さんは大層怒っていたわ。

魔術師としての誇りはないのか、アインツベルンの歴史はどうするのか、ってね。

 

それでも、雁夜さんを落ち着かせて、間桐の魔術鍛錬について順序立てて説明してもらったら血相を変えて納得してくれたわ。私たちと雁夜さんに謝罪までして、共闘を持ちかけてくれた。

 

 

 

私たちは勝利条件を決めたわ。

アインツベルンは、聖杯戦争の中止。遠坂と間桐は、マキリ・ゾォルケンの討伐と。

 

サーヴァントの召喚自体は可能になっていたけど、私のことを考えると4騎までしか落とせない。

ならどうするのか。

 

———私たち三人で、一騎を使役すればいい。

 

その英霊が脱落してしまったら、次の英霊を召喚する。こうすることで、召還時点からの負担を減らすことにしたわ。

幸い、遠坂と教会は結託していたから、裏から手を回して霊器盤を騙してくれたわ。

教会の代行者が召喚したアサシンを使って遠坂が情報を収集し、遠坂とアインツベルンの手で簡易マスターとして雁夜さんを擁立することで間桐の正式なマスターとしてサーヴァントを召喚し、マスターとして冬木にやってきそうな魔術師を魔術師殺し(メイガスマーダー)が妨害する。

 

妨害を潜り抜けてマスターが冬木に揃ったのは、すべての準備が終わった後だったわ。その中にも仲間になってくれそうな外来のマスターがいた。ライダー陣営のマスターは、恩師を見返すためだけにやって来た才能のない青年だったわ。それでも彼は自らのサーヴァントに惹かれ、尊敬し、憧れた。王の臣下足るべく、その覇道を心に刻んでいたわ。取るに足りない青年だった彼が、聖杯戦争で一番成長していた。

 

彼とそのサーヴァントは、恩師とそのサーヴァントと一対一で戦うことを条件に協力してくれることになった。

 

ここまで状況が揃ったら動くだけ。

そう思った時に事が起こったの。

 

遠坂が情報収集の一環と言って、アサシンに冬木の大空洞を調べさせていたんだけど、そこにある大聖杯が汚染されていたことに気付いたの。

 

原因は、エーデルフェルトも参戦していた第三次聖杯戦争。

そこで召喚されたサーヴァントの影響で、無色であるはずの聖杯の魔力が黒く染まっていた。

 

遠坂とアインツベルンは直ちに大聖杯の機能を停止させ、封印することを決意したわ。だけど、間桐は違った。

 

黒く染まっていようが聖杯は聖杯だ、と。

 

 

ランサーとライダーの闘いが決着がついた後、大空洞で待ち構えていたマキリ相手に最後の闘いが始まったわ。

 

遠坂時臣とケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

秀才と天才が手を組み、陰から魔術師殺しが支援する。でも相対するのは蟲を本体とする人の身を外れた化け物。千日手の様相を呈していたわ。

 

 

それと同時にもう一つの決戦が行われていたの。

決着はついたといっても、お互い激しく損傷しながらも存在を保っていたランサーとライダー。そこにバーサーカーを加えた私たちの軍勢と、一般人を無差別に虐殺していたキャスターの闘い。

 

雁夜さんは魔術師としての才能がないからってバーサーカーのマスターとしてウェイバーくんと一緒にそっちで戦っていたわ。

 

未遠川でのその決戦は、ライダーとバーサーカーの宝具の開帳によって幕を閉じたわ。同時に、全員の魔力不足による脱落が始まった。

 

それだけだと、4騎の脱落のはずだった。

なのに、なぜかアサシンまで脱落していたの。

 

遠坂曰く、アサシンのマスターの指示によってサーヴァント戦に参加していたみたいだけど、ウェイバーくんたち曰くその場にいなかったと。今となっては何をしていたのか真相はわからないままね。

 

とにかく、5騎目の脱落が起こってしまった。

ライダーが何とか現界を保っていてくれたおかげで、ウェイバーくんから念話を受けて状況を把握できた私は賭けに出た。

 

切嗣たち三人が共闘して時間を稼いでいる間に、私を大聖杯に接続したの(・・・・・・・・・・・)

勿論、逆流に飲み込まれる危険もあった。でも、その前に私の中の4騎分の魂を大聖杯へと送る事が出来れば———って思ったの。

 

結果、賭けとしては成功したわ。

私から4騎の魂は移動した。そして、汚染された魔力は増え、活性した。

 

そんな…って思ったわ。

こんなことってない。こんな絶望があるのかって。

 

大聖杯からあふれた泥は、呪詛となって大空洞から地脈へと蹂躙していった。本能的に、あの泥に触れてはならないって思った。

同時に、念話で泥がライダーを狙って地脈を伝っていると伝えられたわ。

恐らく、完全な存在として確立するためにより高密度の魔力を求めていたんでしょうね。

 

とはいっても、既に限界ギリギリのライダーになす術はない。泥に飲まれる前に座へと戻ることが優先された。

 

行き場を失った泥は冬木の町を浸食し始めたわ。

地脈の活性化ポイントから噴出したの。

 

———そうよ。公民館の跡地よ。

 

こうなったら、大聖杯を吹き飛ばせる火力を持った英霊を召喚するしかないかって思った時、彼らは提案したの。

 

遠坂時臣は、凛と桜に聖杯戦争のことを伏せておいてくれ、彼女たちを頼むと。

衛宮切嗣は、僕の魔術礼装の効果を増幅させる事が出来れば何とかできるかもしれないと。

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、ウェイバーにソラウを頼むと。

 

三人の男は協力したわ。

 

切って繋ぐ、という概念を極限まで増幅させ、炎と水銀により蟲をすべて泥へと叩き込み、時臣さんは———切嗣の礼装を抱えて大聖杯へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「———…どういう、こと?」

 

重い沈黙を凛姉が開く。

 

「切嗣の礼装は対象の魔術回路を切ってめちゃくちゃに繋ぐ弾丸だった。その意味を、概念を増幅させることで大聖杯の魔術基盤をズレさせることができると踏んだの」

「そうじゃない!なんで———なんでお父様がッ!?」

「時臣さんは言っていたわ。今、この場にいる者の中で聖杯について一番詳しいのは、この土地を管理し守って来た自分だ。衛宮切嗣の魔術礼装でより悪化した方向へと繋がる(・・・)ことの無いよう、手を加える必要がある、と。それに最もふさわしいのは自分だとも。———それと。桜ちゃんの現状を知らなかったことへの罪滅ぼしとも言っていたわ。せめて、桜と凛が明るい未来を歩けるように、この身は魔術師でなく父親としてその未来を守る行動をしたい、と」

 

「そんな…お父様…充分貴方は…」

 

「私たちの制止も聞かずに飛び込んでいったわ。ケイネスは生き延びようとしていたけど、戦闘中に泥に触れたみたいで…達観したように、すべての蟲を巻き込んで泥へと落ちていった」

 

アイリさんの顔は酷い。

当時を思い出しているんだろう。やるせなさ、不甲斐無さ、無力さがに対する悔しさがにじみ出ていた。

 

 

「私と切嗣はせめて町の人を救おうと急いで公民館へと向かったわ。多くの人が生死の境を彷徨っていた。その中でも一番ひどかったのが…シロウ。貴方よ。シロウを助け、私たちの養子として引き取った後、半年もかけてイリヤの封印を解いた。そして、この日をイリヤの誕生日にしたのよ」

 

世界が死んだように音がない。

 

「ウェイバーくんは時計塔に戻り、講師として大成した。今はロード・エルメロイⅡ世を名乗っているわ。雁夜さんは急造マスターとしての反動からか、魔術を扱えなくなった。代わりに、ルポライターとして魔術と一般の境界の問題を伝えているわ。切嗣を含め、私たち四人は聖杯戦争のことを内密にすることに決めた。術式を組んで封印して、時間をかけて内部の魔力を浄化しながらゆっくりと放出していくとはいえ、もし何かの拍子に封印が解除されたら大変だからね。それと同時に、あの聖杯戦争に関わった人たちの後ろ盾になるべく動いた。凛ちゃんが出来るだけ魔術を学びやすい環境に、桜ちゃんが後ろめたくならないような環境に、イリヤが魔術を知らずに生活できる環境に」

 

「桜は、なんで遠坂に帰ってこなかったの?」

「…雁夜さんを含めた私たちの判断よ。彼女の魔術の素養は素晴らしく高かった。だからこそ、封印指定なんてかかる前に確かなバックボーンを必要としていたの。冬木の地には遠坂という名門がある。間桐なんて衰退気味の家系には目もくれないような立派な家系が。遠坂に注目が集まっている間に、エルメロイⅡ世と雁夜さんで基礎を固めるために間桐に残したの」

「……」

 

私は何も言えない。

すれ違っていた姉妹の仲を修復するのに手を貸した私は、彼女たちの想いを痛いほどにわかっているから。

 

「10年前のことはこれくらいよ。クロちゃんはたぶん、イリヤちゃんに危険が迫ったときに封印が一時解けるように細工をしておいたから、何らかのマジックアイテムと聖杯としての機能が合致した結果生まれた、奇跡のような存在なのだと思うわ」

 

 

 

そうして、長い長い話が終わった。

 

 

 




重い。

想像以上にうん、おかしいな、アイリは万能のシリアスブレイカーのはずなのに。

ダイジェストだとこんな感じです。まともに書いたら、各陣営の動き、思惑、戦闘、言峰覚醒などもろもろの要素がまだまだあるよ!伏せてあることもあったりなかったり。

次でクロ編ラストかな?
待ってろよ、ダメットさん…!

誤字脱字などのご指摘、感想、評価などありましたらよろしくお願いします。

P,S,
フレポ2000連でアンリマユ来なかった…
予約投降の仕様が変わってる…。


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23話 クロエ・フォン・アインツベルン

優雅なトッキ―人気に笑いましたw
たまには優雅な作品があってもいいんじゃない…?ww

SAOとワールドトリガーのクロスの構想とか思いついちゃって執筆欲がそっちに流れ無いよう自制しつつ仕上げました。
クロのところは久々に納得いく出来。そのあとの日常が描写苦手だ…。

…ガチャ?
久々にイベント期間に一枚も金鯖が来なかった…ピックアップ仕事していない金すら…。


 

何度目かわからない、重い沈黙が流れる。

 

アインツベルンだけでなく、凛姉の遠坂、桜さんの間桐まで関係している大きな話が終わった。そんな中、当事者でない私たちはどんな反応を返せばいいのかわからない。

 

「…その通りよ」

 

クロが沈黙を破った。

 

「私の正体はイリヤに封印されていた”聖杯”としての機能。それが封印されているうちにイリヤの中で疑似人格として成長し、カードを核にすることで存在する事が出来るようになった奇跡のような存在よ。でも!だから何!?もともとイリヤは私じゃない!生まれる前から調整され続け、生後数か月で言語を理解しあらゆる知識を埋えつけられたわ。なのに、貴女はそれを封印した。機能を封じ、知識を封じ、記憶を封じた。普通の女の子として生きる?なら…なんで私のままじゃダメだったの?すべてをリセットするなんて都合が良すぎるわ。その結果、疑似人格()が生まれたのは誤算だった?残念ね、人格だけだった、封印されていた私は!こうして肉体まで得たわ!」

 

クロの叫びが響く。

 

「…いいわ。普通の生を生きるイリヤがいることも。それでいい。ならせめて!私には魔術師としてのイリヤを、生をちょうだい!私をアインツベルンに帰して!!!」

 

慟哭。

それはあまりにも残酷で。

 

ただ自分を見てほしかった少女の心からの叫び。

 

 

 

 

「———アインツベルンはもうないわ」

 

 

そんなクロの想いも断ち切られる。

 

「前回の聖杯戦争のあと、私たちはアインツベルンの総本山を解体したの。名実ともに、私たちが最後のアインツベルンよ」

 

 

「なに…それ…。それじゃあ、私の居場所は!どこにあるのよ!!!」

 

クロから魔力が放出される。

 

「な…!?」

「危険ですわ!退避を———!」

 

「全部奪われた!全部失った!何も…何もない!」

 

「クロ!やめて!」

『イリヤさん危険です!転身を———イリヤさん!?』

 

「クロ!何もないなんて…そんなこと言わないでよ!」

 

「イリ、ヤ…?」

 

「私は言ったじゃない!みんなで一緒に居たいって!そのみんなには、クロもいるんだよ?このまま———このままけんか別れみたいなことなんてしたくない!」

「…貴女分かっているの?私は貴女の命を「そんなこと関係ない!」ねらっ…て…」

「だって…だって!私たちは双子みたいなものなんだよ?そんな、家族を一人になんてしたくない!」

 

イリヤの叫びが響くや否や、クロの体がブレ始める。

 

「…そっか。ありがと。でも…もう限界よ。私の体を構成している魔力に限界が———ぷ!?!?」

 

 

 

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

 

 

イリヤがクロにキスをした(・・・・・・・・・・・・)

なにを言っているかわからないと思うけど、私も何が何だかわからない。幻とか妄想とか、そんなちゃっちいもんじゃねえ…もっと百合百合しいものの片鱗を…じゃなくて!

 

「イリヤ!?何を!?」

「——っぷはぁ!」

 

「魔力供給…どうして…」

「だからって…勝手に出てきて勝手に消えないでよ!」

 

呆然とするクロ。

 

「正直言うとね、ママの話を聞いても私あんまりショックを受けていないんだ。おかしいよね…。自分が魔術の道具として生まれてきたなんて、世界観が変わっちゃうくらい大きなことのはずなのに。でもね、私が平静でいられるのはきっと…クロ(・・)が傷ついているから」

「イリヤ…」

「私が背負うはずだったものを、貴女が代わりに背負っていてくれたんだ。…ごめんね。今だけじゃなくて、昔から、私の中にいる時からずっとそうだったんだね」

 

イリヤの独白と共に、サァァァ…とクロの体が再び薄れていき、輪郭がぼやけ始める。

 

「っ!クロ!?」

「どうして!?魔力は供給したはずなのに…!?」

『供給だけではだめなんだ…!崩壊が止まらない!』

 

「もういいわ。消える前に、私のことを望んでくれて、私のために泣いてくれる人がいるだけで、きっと私がいた意味はあったわ」

「……っ!こんな時まで強がらないでよ!」

 

クロの体の崩壊は止まらない。

 

「くそ、何か手は…!」

「ラルド!ステッキ三本使っての魔力供給は?」

『それだと問題の先延ばしにしかならないよ!クロ自身の核が揺らいでいる…もう長くはもたない!」

 

「お兄ちゃん…白野…」

 

「意味とか、無意味とか、そんな理由で決めないで!私だけじゃない!お兄ちゃんも、ハクノも、ミユも。もちろんリンさんとルヴィアさんだって今の話を聞いて何も思わないわけないじゃない…!欲しいものがあるんでしょう!!??」

「そうよ、クロちゃん。貴女はもうイリヤちゃん(・・・・・)じゃないのよ。クロとして、この世に生まれた大切な私の娘なのよ!」

「ママ…」

 

「願ってよ…!なんでも願いをかなえる聖杯なんでしょう?だったら、自分の望みをかなえてよ!!」

 

「私…は…」

 

 

 

 

「家族が、欲しい」

 

士郎兄とアイリさんが優しく微笑む。

 

「友達が、欲しい」

 

私と美遊が、クロを見つめる。

 

「何の変哲もない、普通の暮らしがしたい…」

 

凛姉とルヴィアさんが顔を見合わせ、うっすら微笑む。

 

「…それより、何より」

 

イリヤが、クロを抱きしめる。

 

 

 

「消えたく、ない…!ただ…生きていたい…!」

 

 

恐る恐る腕をイリヤの背に回し、決意するかのようにクロはしっかりと、何かを確かめるようにイリヤをきつく抱きしめる。

 

もう何も取りこぼすことのないように。

自分の存在を、受け入れてくれる人を、ここにいてもいいという証明を。

すべてを確認するかのように、しっかりと抱きしめ合う。

 

 

その嗚咽交じりの心からの願いは一筋の光となって冬木の空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで。イリヤちゃんのいとこのクロエちゃんです!ちゃーんと家族の一員として扱うこと!」

 

我が家のリビングにて、絶句したまま固まるセラ。

 

「おーそっくり。私はリズ。よろしくー」

 

フレンドリーに挨拶するリズ。

 

「さ、自己紹介しなさい?大丈夫。何も怖がることはないわ」

「...うん。私は、クロエ・フォン・アインツベルンです。えっとイリヤの従妹...になるのかな?今日からよろしく...お願いします!!」

 

クロはこうして衛宮家の一員として、正式に家族として迎え入れられた。

 

 

 

 

 

 

数日後、ぎこちないままでも、生来の天真爛漫さが功を奏したのかクロは我が家に馴染みつつある。一番の功績はイリヤが何の隔たりもなく接しているからだろう。

 

クロはイリヤと共に小学校にも通うようになった。

聞いた話だと転校初日に一悶着あったそうだけど、とうに解決して問題ないらしい。

 

そして問題はこの日の夕食時に起こった。

 

 

「そういえば、イリヤとクロってどっちがお姉さんなの?」

 

リズの放った何気ないこの一言によって。

 

「姉...!なんて素晴らしい響き!私は知らずのうちに姉デビューを果たしていたのね!」

「なんでイリヤが姉なのよ!私に決まっているでしょ!」

「わーたーしーでーすー!だいたいクロが姉って...ふっ」

「なんで鼻で笑った!?」

「だって...姉より優れた妹なんていないって聞いたもん」

「なによその信憑性のかけらもない情報!それなら私の方が姉に決まってるじゃない!イリヤが私に勝てる要素ってあったかしら?」

「そ、そんなのあるに決まってるじゃない!」

「えー、ほんとでござるかぁー?大体、生まれた順なら私の方が「はーい、クロちゃんネタバレ厳禁よ」…ぁーい」

「ふっふーんだ、クロだって一回私のことお姉ちゃんって呼んでいたし、私が姉ってことでけってーい!」

「あれは皮肉ってもんでしょ!大体そんな言い方する子供っぽいところが姉らしくないのよ!」

「童心を忘れていないって言ってよね!露出が高ければ姉って訳じゃないんだから!」

 

「「ぬぬぬぬぬぬ」」

 

切嗣(親父)、帰ってこないかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おおおおりゃああああ!!!」」

 

ズザザザザザーーーと教室にスライディングしてきたクロとイリヤ。

よく見るとイリヤの髪飾りはルビーの羽になってる…ってことは転身してる?

 

「ぜぇ…はぁ…私の方が少し早かった!」

「はぁ…ふぅ…転身までしといてそのざま?何なら私の方が速かったし!」

 

そして始まる不毛な争い。

 

「おはよう、イリヤ、クロ」

「おはよー。なにしてるの?」

「あ、ミユにハクノ!おはよ!ねえ、私の方が教室に入ってくるの早かったよね!」

「おはよう!私の方が速かったわよね!?」

「ほぼ同着だと思うんだけど…何してるの?」

 

 

 

 

 

「なるほど、勝った方が姉、ねえ…」

 

大体の事の成り行きを聞く限り、この二人は仲がいい。よかった、あんなことがあったから心配していたわ。

 

「姉…とか関係あるの?」

「大アリよ!いい、ミユ。姉とはその称号だけで様々な分野で妹に勝ち越せる奇跡の身分なのよ?それを勝ち取れるんならなんだってやるわ!」

 

あー、でも、この姉争奪戦はめんどくさいな。

気持ちはわからんでもないけど、私の姉って言うと社会不適合者(カレン姉)あかいあくま(凛姉)だからなあ。立派なんだけど、いろいろ欠けてるし。…って、あ。

 

 

「そういうことなら、今日の体育のドッジボールと家庭科の調理実習で勝負たらどう?」

 

「「それだ!!!」」

 

かくして、イリヤとクロの闘いのゴングは鳴り響いた。

 

 

 

 

 

あれ、火に油を注いだかな、私…。

 

 

 

 

 




クロ編、完結!next、バゼット編…の前に日常パート。
バゼット以降はほぼシリアスというか、日常ないからなあ…ドライとか特に。

出来るだけ早くこの作品を更新できるように頑張ります。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
感想のお返事はできていませんがすべて読ませていただいています。執筆のモチベーションや、展開を広げるにあたっての意欲向上に大きな原動力になっています。ありがとうございます。


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24話 姉争奪戦

レポートやらバイトやら…忙しい…
ああ、吐き気がする(式感

今話は食戟のソーマ、テニプリなどを参考にしました。
なにが言いたいかというと…察してくれ(笑)

…どうしてこうなった(やっちまった


 

「さて始まりましたイリヤVSクロ、姉争奪戦!第一ラウンドは4時限目の家庭科の調理実習です!」

「お題はパウンドケーキ!小学生でも手軽に作れるお菓子です!」

「さて、気になるチーム分けは…公正なじゃんけんの結果こうなったー!」

 

「…いや、なにやってるのよ三人とも」

「ハクノまで…」

 

いやだって、盛り上げないと。

 

 

ちなみにチーム分けは、

Aチーム、クロ、美遊、美々、那奈亀。

Bチーム、イリヤ、私、龍子、雀花。

 

「おかしくない!?」

「厳正なジャンケンの結果でしょ?」

「まあ確かに戦力差はねえ…」

 

単純に、美遊と美々で十分だ。那奈亀が食べること専門でも、この二人が居ればよっぽどなことにはならないだろう。

それに比べて…。

 

「こっちは過負荷(マイナス)…じゃなかった、天然バカ(マイナス)の人材…」

「ははははは!!」

「お前のことだからな」

 

雀花のツッコミにもキレが…。

 

「ちなみにみんなは料理に自信はあるの?」

「図工以外オール2だが何か!」

「メガネなのに!?」

「麻婆なら任せて!」

「一人暮らしだよね!?お兄ちゃんたちに教わっていたよね!?」

「早くハンバーグ作ろうぜ!」

「もうやだこの班ーっ!」

「案の定何を作るのかすらわかってないな…」

 

 

そして、闘いのゴングが鳴った。

 

 

「まあ、そう心配するなって。お菓子作りは分量が命だけど、逆に言えばレシピ通り作れば失敗しないんだから」

「そ…そうだよね。落ち着いてやれば大丈夫なはず!」

 

雀花の言葉通り、レシピに忠実に三人で作り上げていく。あと一人?戦力外は知らない。

 

「よし!ここまでは順調だね!」

「そうだな!次は…と」

「えっと…バターをクリーム状になるまで混ぜて、そこに砂糖を投入…!?」

 

イリヤが砂糖の分量を量りボウルに入れようとした時、それは起こった。

 

「ふんふふんふふーん」

 

まるで音符でもついてそうな鮮やかな手つきで、一瞬目を離した私たちの隙をついて奴は現れた。

 

そのまま奴は懐から取り出したボトルを、イリヤが砂糖を投入するタイミングで同じようにその中身を投下する。

 

 

 

「タツコが何か入れた———ッ!?!?」

「「お前何してんだコラァーーーっ!?」」

 

思わずぶん殴った私と雀花のは悪くない。

 

「なに入れた!?何を入れたんだ!?」

「な…ナツメグ…ハンバーグには入れるだろ…」

「しまったこいつまだハンバーグを作る気で!?」

「余計な知識ばっかり持ってるなあ!」

 

これ以上動けないように簀巻きにして放置する。

 

 

「…どうするよこれ…」

 

目の前にあるのはナツメグの入った生地(惨状)

どう頑張っても、お菓子になることはない生地だ。

 

 

「あはははっ!無様ねイリヤ!」

「!!こっ…この声は!」

 

ばっと振り返るイリヤ。

そこには窓際で椅子の上に佇み、不敵な笑みを浮かべる敵がっ!

 

「クロ!」

 

「いや声とか以前にわかるだろ」

「お約束ってやつよ雀花」

 

「パウンドケーキにナツメグ?貴方らしい滑稽な味に仕上がりそうじゃない」

「ううううううっ…!そっちこそどうなのよ!」

「どうって…こう?」

 

クロの指さす方向にはウエディングケーキ。

 

…は?

 

 

「材料が余っていたからつい…」

「あれはみんなの予備の分!!!」

 

大河が吠えた。

 

「まずいよ、イリヤ。敵は美々に完璧なパウンドケーキを作らせたうえで、私たちにやり直しがきかないように策を練っていたわ…!」

「というかクロ、あなたなにもしていないじゃない!」

「人を使うのも能力だわ。それに、姉ポイント的に人使いの粗さ(こういうの)は高いんじゃない?」

「…確かに」

「雀花!?実体験がこもったような深い同意はやめて!」

「いやー、うちのお姉のことを考えるとあながち間違いじゃないから…」

「そういえば採点を決めていなかったわね…。私たちは全員両陣営に分かれていることだし、ここは公平にお兄ちゃんに決めてもらうのはどう?」

「士郎兄に?でも持って帰るまでに腐らないかな?」

「ケーキだし大丈夫じゃない?それに、持って帰ることを伝えたら冷蔵庫で保管してもらえるみたいだし」

 

「お兄ちゃんに…採点…」

 

あ、イリヤの目に炎が。

 

「こうしちゃいられないわ。ハクノ、手伝って!まだ何か方法があるはず…!」

「そうは言われても…」

「まあ待て白野。イリヤの目は死んでいない」

 

確かに炎は未だ灯ったままだけど…。

 

「ここからどうするっていうのよ!」

 

 

 

 

 

 

ダンッッ!!

 

 

 

 

私の叫びと共に、イリヤは調理台にその食材を叩き付けた。

ラベルの張られたそのビンは…

 

 

花椒(ホアジャオ)に…唐辛子?」

「なんでこんなものが調理室…に…!」

「そうよ、気付いたようねスズカ…!私たちの班には、これを持ち込んだ犯人()がいる!そしてその人は、穂村原学園が誇る麻婆の使い手…ッ!」

 

「…いいの?イリヤ。これを使うということは、後戻りはできないわよ?」

「…うん。どうせ、このままじゃお菓子として食べることなんてできない。そうなったらいっその事、総菜パンのように(・・・・・・・・)調理するしかない!」

「———貴女の覚悟は受け取ったわ」

 

シュル…と三角巾を結びなおす。

 

「さて、反撃開始よ!」

 

 

 

 

 

 

フライパンにごま油、すりおろしにんにくを炒める。香りが立ったら、挽肉を少々に豆鼓(トウチ)、豆板醤、胡面醤(チンメンジャン)と粉唐辛子を加え、焦がさないようによく炒める。

 

「待ってどこから挽肉なんて…」

 

そんなの調理実習の日には持ってきているに決まってる。理由?調理室(ここ)に私の私物(香辛料)がある時点で察してね。

 

普段なら鶏がらスープを加えるところだけど、ないものねだりはいけない。それに作るのは麻婆豆腐じゃないんだから。少し水を加え、紹興酒と醤油で味を調える。

 

———違った。味のベースを整える。

 

既に教室には暴力的なまでの香りが広がる。昼食前の空腹を、さらに刺激していく。

 

塩、胡椒で元が出来たら、パウンドケーキの生地を投下。しっかりと生地に練り込む。こうすることで本来の麻婆よりも口当たりが柔らかくなるはず。

 

そうなると鶏がらスープが無かったのが痛いな…。味が薄くなってしまう…?これは!

 

「中華調味料の〇覇…!」

「いろいろアウトッ!!!」

 

粉末状の味〇を生地に少量練り込む。

これだけでも味に奥行きが出来るはずだ。

そして、ムラが無くなる様にしっかりと練り上げ、成型する。

そこにワンポイント、あらかじめとっておいた元の生地で薄く麻婆生地を包み込む。イメージは中華まん。二種類の味の違う生地を生かしてみる。挽肉をちょっとでも入れたおかげで、ナツメグの残念さは緩和されているはずだ。

 

あとはこれを焼き上げる。焼いている間に、生地と同じように混ぜる前にとっておいた麻婆に水溶き片栗粉を加えとろみをつけ、ねぎの小口切、ラー油を垂らした麻婆ソース作る。焼きあがったパンの表面に麻婆ソースを薄く塗れば…!

 

 

「…これが、私の全力よ…!!」

 

即興料理、麻婆パンの完成だ。

 

 

「すっげぇ…」

「パウンドケーキとは…」

「しっとりとした食感のパウンドケーキの中にシャキッとしたねぎの口当たり、挽肉の香ばしさ、それらを包み込みさらに食欲を加速させるような麻婆の味わい…!」

「辛いのに、辛いのに!止まらない!!!」

 

ちなみに辛さ控えめです。

本気を出すには食材(辛さ)が足りない。

 

「やってくれたわねイリヤ…!」

「ハクノ…何とかなるかと思ったけどまさかここまで…!」

 

 

 

 

 

 

 

料理対決は、私の勝利に終わった。

 

 

 

…あれ?趣旨変わってない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、5時間目と時間は過ぎ現在は6時間目。体育の時間だ。

 

「料理対決はおじゃんになったけど、ここで真の姉を決めるわ!」

「ええ、望むところよ!」

 

チーム分けはさっきのまま。

戦闘力では五分五分だ。

 

 

————と思った時期が私にもありました。

 

 

「なんでイリヤとクロが同じチームなの!?」

「私たちは気付いたのよ…」

「いやそういうのはいらないから」

「まあそう言わずに。私たちが姉争いをしている中で、ようやく誰が一番の姉ポイントを稼いでいるのか気づいちゃたんだ」

「さっきの調理実習ではっきりしたわ。(イリヤ)のフォローをし、かつ()の問題の時も全部わかったような顔をしてたハクノ。貴女が真の姉候補()だってことに!」

「あーイイ感じにぶっ飛んでんなあ」

「雀花、そう思うなら止めてよ」

「無理無理。締め切り前のお姉と同じ雰囲気出してるもんアレ。末期だよ末期」

 

というわけで。

 

「イリクロチーム対白野チームのドッジボール対決、スタート!」

 

掛け声とともに、私のチームの龍子の顔面にボールがヒットする。

 

「あ、顔面セーフか」

 

…イリヤ、それはさっきの仕返し?超怖いんだけど…。

 

 

ともあれ私のチームのボールだ。

 

「雀花、任せた」

「いいのか?」

「うん」

 

そこそこの速さのボールは寸分違わずそれはクロへと飛来し、

 

「ふんッ!」

 

あっけなくキャッチされる。

 

えー…。

 

「おかえし、よ!」

 

返す一球は雀花をアウトにした。

これで私のチームの内野は龍子と美々…あ、美々もアウトになった。

 

「どう?ここまで追い詰めたわよ!」

「仕方ない。大人げないとは思ったけど…そっちがその気なら!」

 

ラルド、と小声で声をかける。

同時にその意図を察したラルドにより、衣装チェンジなしで転身する。

 

「な…!なら私だって!」

 

あー、これはイリヤも転身したわね。

豪速球の応酬が始まった。

 

お互い、自分たちが脱落した時点で負けるのは目に見えている。だからこそ互いをターゲットにし、渾身の一撃を放ち続ける。

 

「はあああっ!」

 

不意を打つように強く回転をかけボールを横に投げる。

 

「どこに投げて…!」

 

与えられた回転により大きくその軌道はねじ曲がり、バウンドすることなくコートの外からカーブを描いてクロに迫る。

慌ててキャッチしたクロの手中で大きく音を鳴らしながら回転は徐々に収まっていく。

 

「初見で私のブーメランス〇イクを対処するとはね…」

「危なかったわ。さすがね。ならこれは、どうっ!?」

 

クロは上に軽くボールを投げ、引き絞った右手で殴り飛ばした———!?

 

「ぐううううっ!」

 

幸い、正面だったから受け止められたけど、なにこの威力…!

 

「イグナ〇トパス…いえ私の波〇球を止めたわね…!」

「108まであるの!?」

 

その後の応酬は言わずもがな。

叩き付けるような勢いの球(ダンクスマッシュ)に、強制的にコートの外に弾かれる球(白野ファントム)。5巡後にアウトになると宣言すれば、18巡後だと宣言し返す。身体強化に回している魔力はやがて漏れ出し、三人の体をうっすらと輝かせる(天衣無縫の極み)。曲がれと叫べば鋭角にボールが曲がり、相手の骨格を透視する。やがて五感を支配し、ボールへの感覚を失わせる。

 

そんな攻防が続いた。

 

 

 

 

 

「「「はぁ…はぁ…はぁ…」」」

 

授業もあと5分ほどで終わるかという頃。

満身創痍の三人は未だコートに立っていた。

 

残るプレイヤーは三人を除き、美遊のみ。転身した美遊は周りへの被害を抑えるべく苦心していた。

 

「これが、最後の攻防ね」

 

そう宣言し、クロがボールを構える。

その構えはさっきまでとは違う。

 

片膝を立てて、両手でボールを固定している。

その後ろに立つのはイリヤ。

 

「———まさか」

 

イリヤの右手に魔力が集中していくのがわかる。

固く握りしめた拳を腰溜めに、全身の筋肉を引き絞る。

 

大地を踏みしめ、足、腰、肩、腕と力を伝達し、

 

 

 

「ジャジ〇ンケン、グー!!!」

 

 

 

ボールを撃ち抜いた。

 

 

目の前に迫る豪速球の威力は今までとは段違い。

恐らくキャッチするのは無理だろう。

 

ならば。

 

 

 

「ああああああああああ!!!!」

 

 

 

前に構えた腕でレシーブする!

上に弾き上げようとする力と、私を弾き飛ばそうとする力が拮抗する。

 

そして遂に。

 

 

 

 

 

私が組んでいた腕が弾かれ、その反動でボールはまっすぐにイリヤに向かって返っていった。

 

 

「へ———ぶぉぅ…!?」

 

ワンバウンドはしたもののその威力は計り知れず、イリヤの腹部にクリーンヒットする。

と同時に、

 

「忘れてた…痛覚…共有…」

 

クロもダウンした。

 

でもそんな私も限界で。

 

 

そのまま私の意識は暗転した———。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

保健室で砂糖たっぷりの緑茶を啜っていると、義妹が起きだす気配がした。

この職に就いてしばらく。

私の体質を利用した仕事をしばらくしていないおかげで視力などの身体能力の低下が抑えられているのか、義妹の表情がはっきりと見える。

 

「あれ…カレン姉…?」

「おはよう。全く、起きたのなら早く帰りなさい。もう放課後よ」

「えーっと…」

「体育の途中で怪我したらしいわ。といっても、打撲くらい。どうせならもっと危篤寸前みたいな状態で来なさいな」

「妹に向かって殺生な…。みんなは?」

「貴女が起きる前に帰っていったわ。白野のこと気にしていたみたいだけど、私たちが姉妹だって知っていたからとりあえずは安心して帰ったみたい」

「あはは…ご迷惑をおかけします」

 

ほんとに。

奇跡か偶然か必然か。

数奇な運命の彼女たちの友人に私の妹がなるなんてね。

 

無駄に面倒な子たちが揃っているわ。

これに意味はあるのか意味はないのか。

 

何か起こるのか、何にも起きないのか。

 

「まあ、どうでもいいでしょう」

「?どうしたの?」

「こっちの話。そういえばあの神父もそろそろ帰ってくるみたいなことを言っていたわよ」

「げぇ…尊敬はしているんだけどなー性格がねー」

「それに関しては全面的に同意するわ。とりあえず、一回教会の方も掃除しないとね」

「わかった。準備しとくね」

 

そう言って白野は保健室を出ていく。

 

 

 

 

未だに使い慣れないパソコンを立ち上げ、教員としての定時連絡を立ち上げる。

 

「暇ね…半死半生の患者でも運び込まれないかしら」

 

 

本日も異常なし、と。

 

 

曖昧なバランスを保っている日常を示すかのように画面に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 




深夜テンションでの執筆ってこうなるのかー(前も経験した気が)

バゼット、海、祭り(未定)、美々の堕天、ギル戦…書きたいことはいっぱい。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
感想のお返事は返せていませんが、全部読ませてもらっています。モチベーションアップにつながっています。
いつもありがとうございます。


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25話 来訪者

1か月もお待たせしまして申し訳ありません!
6月は部活が忙しかった…レポートとかテストも…。

この間に羅生門は終わるし、天竺は始まるし。
ガチャ?きよひー礼装7枚、きよひー(鯖)3枚がやって来たよ…50連の10連ごとにどこかに絶対きよひーいたよ…そうか…俺が安珍だったのか…。
モーさん礼装も引きました。

鯖?すまないさんとナーサリー…かわいい…


というか天竺イベひどくない?


 

今俺はルヴィア邸の応接室にいる。

 

理由としては簡単だ。

カード回収任務が終わり、一か月が経った。今日はその事後報告。遠坂が地脈の異常がないか確認、報告してくれるらしい。

 

「早いものですね」

「そうだな」

 

それはつまり、遠坂とルヴィアが穂村原学園高等部にやって来て1か月経ったということでもある。

 

———ほんと、いろんなことがあった。

 

まあそんなことは置いておこう。思い出すと頭が痛いし。

 

「ふふふ。ロンドンに居たままですと、こうしてシェロと逢うことなど無かったのでしょうね」

「どうだろ。一応、魔術師としてのエルメロイⅡ世と面識があるわけだし、遠坂の同郷のよしみで何か駆り出されそうな気もするな」

「そのロードの事ですが、彼の工房に大戦略ゲームという日本のゲームがあったのですが…?」

「あれは俺が送ったんじゃないよ。知人であることには変わりないけどな」

 

他愛もない話が続く。

日常なんてこんなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

———リンゴーンリンゴーンリンゴーンリン…

 

 

そんな日常(平和)は、かくも容易く崩れ去る。

 

「っ!オーギュスト!」

「はっ!」

 

慌てて立ち上がるルヴィアに、先行するように玄関ホールへと向かうオーギュスト。

 

「ルヴィア!」

「シェロ、侵入者です!侵入者対策の結界が破られました!」

「な!?オーギュストさんは」

「オーギュストなら大丈夫ですわ。我がエーデルフェルト家につかえる執事なのですから。それよりも貴方です。このタイミングでやってくる侵入者なんて、十中八九魔術師でしょう。もし協会からの使者などの場合、バレるのは拙いはずです」

「だけど…大丈夫なのか?」

「愚問ですわ。優雅に迎え撃って見せましょう」

「…わかった。なら、せめて物陰から見させてくれ。やばそうになったら俺も出る」

「それは———っと、もう時間がなさそうですね。そうならないように善処しますわ」

 

先に進んだオーギュストさんを追う。

 

 

 

「…————客人それぞれに合った御もてなしをするのも、一流の執事の務め。貴女のようなただならぬ殺気を纏った客人には、それ相応の歓迎をいたしましょう」

「私を満足させたかったら、この三倍は持ってきなさい———っ!?」

 

玄関ホールでオーギュストに相対していたのは赤髪の麗人だった。動きやすそうなスーツを着用し、肩には野球のバットケースのようなものを下げている。

 

そんな彼女に、ルヴィアは問答無用でガンドを撃った。

 

超人的な反応をした彼女の拳に叩き落されるガンド。

 

「やっとお出ましですか」

「貴女は———。なぜ今になって」

「エーデルフェルト嬢。貴女と私の接点なんてそう多くない。聡明なあなたなら気付いているはずだ。———カードを渡してもらいましょうか」

「…ふ。プレゼントを催促するなど淑女としてあるまじき行為ですわ」

「生憎、そういう教育は受けていませんので。———それで、返答は」

「もちろん、NOですわ!オーギュスト!」

「御意」

 

ダンッ!、と床を踏みしめ、一気に距離を詰める執事。その両手にはトンファーがいつの間にか握りしめられている。

 

「ぬぅあああっっ!」

 

鋭い一撃を麗人は肩から下げていたケースで受け止め、握り込んだ拳を間髪を容れずに叩き込む。しかしそれはトンファーによって受け止められ、その衝撃を利用するかのように両者が後ろに跳躍し距離が広がる。

 

「お嬢様。対処(おもてなし)レベルを引き上げても?」

「構いませんわ。さすが封印指定執行者、といったところでしょうか。バゼット・フラガ・マクレミッツ嬢」

 

まるで説明するかのように———実際、侵入者の素性を知らない俺に向かって説明しているのだろう———声をかけるルヴィア。

 

「そちらこそ拍子抜けです。聞けば宝石翁から特殊魔術礼装を授けられたとか。なぜ使わないのです?それとも———使えないのですか?」

「客人をもてなすのに大師父からのお力添えを利用するなど笑止。エーデルフェルトへの侵入者は私たちが誠心誠意もてなして差し上げますわ」

「…そうですか。では、そのつまらないプライドを抱いたまま敗北を味わうといい!」

 

両手のグローブを整え、接近する封印指定執行者。

矢のように疾走する彼女を阻んだのは、執事が取り出した2丁のマシンガンだった。

 

「!?」

 

ためらう様子もなく銃弾がばらまかれる。1丁操るのですら制御が難しいマシンガンを片手で1丁ずつ構えるなんて、正気の沙汰じゃない。

 

「無粋な!」

 

魔術師にとって、その近代兵器というわかりやすい脅威は侮辱にしかならないだろう。それでもオーギュストさんがそれを使うのは———魔術への適性がないからだろうか。

 

銃弾の雨を掻い潜るように跳躍し、2階部分の踊り場を疾走する。

超人染みた身体能力でも、あの鉄の雨に打たれたらただでは済まないろう。彼女もそう理解しているのか、食い破られないように必死に走る。

そしてそのまま突き当りにたどり着くや否や、再び玄関ホールに向かって跳躍する。それはまるで自分の体を砲弾のように扱った突進で。

 

 

バッゴオオンッッ!!!

 

 

着地した地点を砕き、巨大な瓦礫を生み出す。

バゼットはその裏に身を潜め、直後、鉄の弾丸が牙を剥く。

 

「お嬢様」

「ええ」

 

無造作に放った宝石がきれいな放物線を描き、銃弾を受け止める瓦礫の裏へと投げ込まれる。

そして煌いたと思うと、内包していた魔力を解放し、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

「すげ…」

 

2階部分の死角でその戦闘を見遣る。

前衛を務めあげるオーギュストさんに、的確なバックアップに徹するルヴィア。

この爆発で、死んではいないにしろダメージは大きいはずだ。

 

と、爆風を受けボロボロになっていた瓦礫が崩れる。そこから姿を現したバゼットは———

 

「無傷…!?」

 

「ふう。いい連携です。だが、私を倒すにはまだ足りない」

 

意にも介さない様子で現れた。

 

「それでは、こちらから行きましょう」

 

ガギィイン、と人体ではありえないような音を両の拳を打ち付け鳴らし、接近する。

オーギュストさんは弾を出し尽くしたマシンガンを交差させ受けるが、

 

「な———」

 

一撃でマシンガンが粉砕され、階段の2階部分へと弾き飛ばされる。

何とか着地したオーギュストさんはそのまま手すりの台へと手を振り降ろし、その内部からさらにマシンガンを取り出す。

 

「仕込みがいろいろあるようですね」

 

そのまま手すりを滑り降りながらマシンガンを乱射する。それを回避しようとするバゼット。しかし、何かに気付いたように顔を上げ、顔の前で両腕をクロスし弾幕へと突っ込む。

 

「!?」

 

これにはオーギュストさんも動揺し、弾切れ直後の動作がわずかに鈍った。

 

失策を悟ったオーギュストさんは袖口からナイフを取り出すが、

 

「遅い」

 

既に接近していたバゼットが硬化のルーンを施した拳を振るい、オーギュストさんはそのまま瓦礫の山へと沈んでいった。

 

でも、それを見逃すようなルヴィアじゃない。

 

バゼットが拳を振り抜き、その威力でオーギュストさんとの距離が開いた直後、再び宝石が煌く。

完璧なタイミング。

 

「甘い!同じ手が二度も通用すると思っているのですか?」

 

しかしそれは爆発する前に回避され、

 

「ええ。もちろん思っていませんわ」

 

その逃げた先を追うように宝石の軌道が変化する。

 

「ゴフぁ…っ」

 

爆発せず、高濃度の魔力を帯びた鉱石の弾丸として扱われた宝石は脇腹へと着弾し、一瞬呼吸が止まったのか苦しそうなうめき声をあげる。

 

 

その隙にガントと宝石魔術で追い立てるルヴィア。

断続的に続く爆音の中、

 

「衛宮様」

 

埋まっていたオーギュストさんがいつの間にかすぐそばまでやって来ていた。

 

「!大丈夫ですか!?」

「私のことはお気になさらず。それよりも、今から彼女を宝石庫へと誘導します。貴方はそこで待ち伏せしておいていただけませんか?」

 

眼鏡越しに、老戦士の双眸が覗き込んで来る。

 

「え…でも、俺の闘い方じゃ」

 

密室よりも、玄関ホールみたいに少しでも開けた場所の方が戦いやすい。

 

「ええ。十分承知です。ですがあそこの扉、気付いておられますか?」

 

彼が指し示す方を見ると、わずかに隙間の空いた扉。そしてそこからは遠坂が戦闘を凝視していた。

 

「遠坂!?」

「その通りです。業腹ですが、バゼット嬢の戦闘能力は飛びぬけています。宝石庫がいくら武器庫足り得ていても、決定打とはならないでしょう。しかし、陽動にはなるはずです」

「なるほど。この場面で、遠坂が何の策も持っていないはずがない、と」

 

そのとおりだ、とばかりに頷く。

 

「無礼を承知でご助力願います。我々だけで打倒できれば御の字ですが…常に最悪を想定しておくのも必要かと」

「わかった。じゃあ、このまま2階を通って地下の宝石庫へ向かうよ」

「お願いします。少しでも長く足止めしますので、どうかお嬢様を」

 

俺が潜んでいた壁を殴りつけ、そこからさらにマシンガンを取り出す。というか、どれだけマシンガンを隠しているんだよ。

 

射撃を始めるオーギュストさんを尻目に、宝石庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

宝石庫に身を潜めた数分後、ルヴィアとバゼットがなだれ込んでくる。

 

「なるほど…宝石庫ですか。ここに保管していた例の礼装を回収しに来た…というわけではなさそうですね」

「ええ。それに訂正を申し上げますわ。我々エーデルフェルト家にとってここは宝石庫ではなく———弾薬の詰まった武器庫(・・・)ですわ」

 

言葉と共に色とりどりに輝きながら浮かび上がる無数の宝石。

 

「なるほど。ならばすべてを蹂躙した後、ゆっくりと探索するとしましょう」

 

そして再び、何度目かもわからない両者の衝突が始まろうとする直前、意識を逸らすかのように割り込む。

 

 

あらかじめ投影しておいた黒鍵を投擲する。

 

「———っ!?」

 

突然現れた、意識の外からの攻撃に、バゼットの対応が遅れる。

それでもその拳で叩き落そうと体が動くのはさすが封印指定執行者といったところか。

 

でも。

 

「ぐ———ぅッ」

 

触れた拳から衝撃が伝い、部屋の端へと弾き飛ばす。

 

鉄甲作用。

黒鍵を用いた投擲技法。その衝撃は大きく、百戦錬磨の執行者と言えど不意打ちのこの攻撃には対処できなかったようだ。

 

「ナイスですわ!」

 

格上の相手が晒した隙を見逃すようなルヴィアではない。

ばら撒かれていた宝石が連鎖的に瞬く。

 

「踊りなさい。私、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと宝石魔術の奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

連続する爆発が重なり、大爆発へと規模を広げる。さらに使った宝石は薄くだが5属性を帯びた鉱石。爆発する順

を操作することでこの国に伝わる陰陽道の五行相克を利用し、威力を増加させる。

 

広がる土煙は濃く、地下のこの部屋を半壊させるまでに至った。

 

 

 

 

 

 

「今のは、危なかったです」

 

 

土煙のカーテンの向こうから声が聞こえる。

 

「更なる伏兵、しかも鉄甲作用を使えるものが潜んでいるなど考えもしませんでした」

 

スーツが破れ、ところどころには血がにじんでいる。

だが、一番目を引くのは———

 

「このケースに施されていた防御術式を咄嗟に発動させて正解でした。———とはいっても今の一撃でもう機能停止まで追い込まれましたか。開閉部も歪んでいるようですし、1個取り出すのが現状精一杯のようだ。認めましょう、貴女方は間違いなく強者だ」

 

この部屋に来るときに持って来ていたのか、野球バットのケースのような細長い筒がひしゃげている。

それでも悠然と彼女は告げる。

 

 

「でも、私の方が強い」

 

再び拳を打ち鳴らすバゼットに向かい、干将莫耶を両手に携える。

 

静寂が辺りを支配する。

 

 

———パラ…と半壊した天井部分から瓦礫が落ちると同時に、二人とも動き出す。

 

「———フッ!」

「———シッ!」

 

拳と剣が交差し、互いをはじき合う。

すぐさま逆手の剣を振るうも、拳に阻まれる。

 

高速の攻防。

攻め手と防ぎ手が目まぐるしく入れ替わる。

 

干将莫耶が弾かれ、少しでも投影を隠すべくポケットから取り出したかのように見せかけながら黒鍵を投影し、投擲する。

それにバゼットが対応している一瞬で弾かれた干将莫耶を幻想へと破棄し、再び新たな双剣を投影し両手に携える。

 

そんな行為を数度繰り返した後。

 

「ふう———。これで7度目ですか、その双剣が現れるのは」

 

バゼットが隙を見せないまま問いかけてくる。

 

「弾かれてなお、持ち主の手に現れる特性があるのか、同じものが複数用意されているのか、それとも今作り出しているのか、幻術を用いているのか———仮説はいろいろ立てましたが対処法は簡単です」

 

嫌な汗が頬を伝う。

 

「弾かれた後、その手に再び現れるまで一瞬間が開く。その間に仕留めてしまえばいい」

 

ゾッとするほど冷たい声で宣言される。

 

「———それに、その剣は———」

 

続く言葉は、いつの間にか目の前にいたバゼットの拳を咄嗟に交差させた干将莫耶で受け止め———しかしその威力で吹きとばされた俺の耳に遅れて届いた。

 

 

 

—————クラスカード”アーチャー”の回収の時に見ました。

 

 

そして俺は崩れた天井から一階部分に向かって宝石庫から撃ち出された。

 

 

 

 

 

 




始まりましたバサカ女編。
最後の士郎を吹っ飛ばしたのはアニメのバゼットさんがオーギュストをぶっ飛ばした感じです。
白野の活躍はもう少し待たれよ。


誤字脱字などの指摘、評価、感想などありましたらよろしくお願いします。感想は返せていませんが、全部読ませてもらっています。


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26話 遭遇、明かされる事実

プリヤドライ放送に間に合った…!
今回くそ難産な話を駆け足気味に書いたので書き直しをするかも…?戦闘までの運びがなかなか難しい…
というか、半分寝ながら書いたので朝に読み返すのが怖いところ。


バゼット編、考え直したら戦闘より優先されることがいろいろあって驚き。


 

部屋で宿題をしながらクロと話をしていると、妙な振動があった気がした。

 

「ねえクロ。今何か揺れなかった?」

「気のせいじゃない?地震があったようには思えないし」

「気のせい、なのかなあ…」

「そうよ。あ、この水着かわいいー!」

 

ベッドの上でごろごろしながら雑誌を眺めるクロ。

いーなぁ。私も水着を新調しようかな…。

 

「それより宿題は?」

「えー。イリヤがしてくれているじゃない」

「写させないからね!」

「けち」

 

 

…――――ォォォン

 

「っ!やっぱり気のせいじゃない!」

「?どうした――――え」

 

ズズン…と小さいけど、確かに地面が揺れた。

 

「イリヤ!」

「うん!」

 

ルビーを掴み、家を出る。

目的は正面の豪邸。

 

「なんとも…ない?」

「ちがうわ。これは魔術的な結界のおかげで誤魔化されているのよ。…たぶん、門を開いたら今のルヴィア邸の状態(・・・・・・・・)がわかるはずよ」

 

ごくり、と生唾を飲み込む。

 

「じゃあ、開けるよ」

 

 

ギィィィィ、と開いていく正門。

そしてその奥には――――

 

「え…」

 

崩れ去り、瓦礫の山になったルヴィアさんの家と、わずかに燃えている炎。

そして、

 

「侵入者対策の結界が作用していないということは、登録されている人物ということ…ふむ。増援としたらいささか遅かったですね」

 

それらを背後に歩いてくるスーツ姿の女性。

 

『そんな…あの人は…』

「知ってるのルビー!?」

『協会の封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツ…!カード回収任務の前任者です!』

 

 

そして、蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、今日は茄子ときのこが安いな…」

 

卵の特売ついでにスーパーにて買い物を済ませる。

一人暮らしで油断していたけど、久々にカレン姉たちとご飯を食べるなら冷蔵庫の中身を補充しておかないと。

いろいろ購入して重くなったスーパーの袋を手に家に向かう。この後はイリヤの家で宿題をするかマジブシ鑑賞会だ。

 

「あれ?」

 

鼻歌を歌いながら歩いていると、コンビニの袋を携えた美遊を見つけた。

 

「どうしたの?」

「あ、白野。ルヴィアさんにお使い頼まれたの。———セブンの水ようかん」

「マイブームなのかな…?」

「きっと何かしらの魔術的な意味合いがあるはず…」

「賭けてもいい。絶対ない」

 

そんな風に冗談を交えながら同じ方向へ進む。イリヤの家と美遊の家は向かいだから楽だ。

 

「———っ」

 

角を曲がればもう到着する、という時に気付く。

 

———わずかだが、魔力の余波がにじみ出しているということに。

 

「美遊!」

 

走って角を曲がっても、辺りに異変はない。それはつまり。

 

「エーデルフェルト邸に異変が…?」

「この結界でも誤魔化しきれないって…一体中で何が…」

 

結界の作用で自動的に閉じられる門扉の前で佇む。

言いしれぬ圧迫感。

 

 

「…———いこう」

 

意を決して、美遊に呼びかける。なにより、ここは美遊の家だ。

 

ギギギ…と門を薄く開け、

 

 

「う…ぐぁ…」

 

転身したイリヤの手を、粉砕せんとばかりに踏みつけている女性が目に入った。

 

 

瞬間、意識が真っ赤に燃える。

 

一瞬で転身した私たちが挟撃をかける。

美遊が女性の後ろに立ちサファイアで殴りつけ、

 

創成(アーツ)(ブレード)

 

魔力で編んだ刃で私が切り裂く。

 

しかし息もつかぬ連撃は右腕でガードされ、スーツがはじけ飛ぶ。

 

「く…!次から次へと…!」

「あは…。やっと来たわね。こわーいお姉ちゃんたちが」

 

「クロ!?」

 

イリヤの後ろで、クロが息も絶え絶えな様子で倒れている。

美遊にイリヤを任せて、相手を警戒しながらクロに駆け寄る。

 

「無事!?」

「…じゃないわね。正直やばい。(アーチャー)とイリヤの二人掛かりで負けたわ。たぶん、お兄ちゃんたちも…」

「そんな…彼女はいったい…」

「バゼット・フラガ・マクレミッツ。協会の封印指定執行者よ」

 

なんでそんな化け物…。

 

「カード回収任務の前任者らしいわ。ほとんどのカードが奪われちゃった…」

「そんな…」

 

あんなに苦労したのに…。

 

 

 

轟ッッ!!!

 

 

クロの容体を観察しようとした時、魔力が吹き荒れた。

 

「これは…!」

 

天に一筋の流星が昇り、こちらを見下ろす。

伝承の一幕。

再現された神話。

 

 

そこにいたのは、天馬に跨った美遊だった。

 

「いったい何が…」

「やっぱり美遊も使えるのね」

「あの時のセイバーみたい…」

 

私たちが呆然としている間にも、天馬の一撃はバゼットに襲いかかる。

流星となった突進はそのまま突き進み、方向を変え、2撃目、三撃目と続いていく。

 

 

「桁違いの突進力…!そうか、これがクラスカード”ライダー”の真の力…!!」

 

美遊がライダーと化し、英霊の一撃を放ち続ける。

 

だが、バゼットはそれを防ぎ、逸らし、耐え続ける。ダメージを負いつつも、戦闘を続ける。その眼は勝機を探るかのようににらみ続けている。

 

「ラルド」

 

だからこそ。

この一瞬だけは完全に奇襲になる。

 

「最大収束、爆射(バースト)!!!」

 

今込められるだけの魔力を込め、最大の爆発を引き起こす。

頭上にばかり注意していたバゼットはそれに気づかない。

 

 

————振り向きもしなかった。

 

 

 

 

 

爆炎が吹き荒れる。

視界が不明瞭になる。

 

 

 

 

 

「ふむ。危なかったな、執行者よ」

 

聞き覚えのある、声がした。

 

「やっと着きましたか」

「無茶を言うな。協会と教会のしがらみは重々承知しているだろう?」

「ええ。だからこそ、貴方は私に協力してくれるかと思ったのですが」

「現にこうして居るではないか。これでは不満かね?」

「いいえ。貴方のことだ。誤魔化せるように策を張って来たのでしょう」

「理解しているようで重畳。しかしこれは———どうしてお前がここにいる?」

「知り合いでもいたのですか?」

 

戦場に似つかわしくない応酬。

まるでここは日常の延長かと錯覚しそうなほど、緊張感がない。

 

「ああ。なにしろ今の一撃を放ったのは他でもない———私の娘なのだからな」

 

白野。

 

そう声をかけてくる、漆黒のカソックを纏った神父。

この世界で、私を養ってくれていた養父。

 

「言峰…綺礼…」

 

彼がそこにいた。

 

 

 

 

 

誰も動かない。

天馬で俯瞰している美遊も、直接相対している私も、もちろん怪我を治癒している最中のイリヤとクロも。

 

「娘…?しかしあのステッキは」

「ああ。彼女は養子だ。いやはや、まさかお前がそのステッキを使用しているとは」

「え…綺礼…なんで…」

「なに。バゼットに頼まれたのでな」

 

簡潔にそう答え、ゆっくりとこちらに踏み出してくる。

 

「そうか…出自自体不明瞭なことが多かったのはそういうことか」

「なんのこと…?」

 

迫ってくる養父に、怯えを隠せない。

 

「そのステッキはな。長らく適応者がいなかった礼装だ。宝石翁の最新鋭の技術の結晶。扱える人物を選ぶのも当然の事だろう」

 

音を切り裂き、矢が飛来する。

しかしこともなさげに、それをつかみ取った。

 

「ほう、いい奇襲だ。だが、軽い」

 

瓦礫から体を起こしつつも狙撃をした士郎兄。

全身に傷を負いながら、戦意は消えていなかった。

 

「言峰ェ…綺礼…っ!!」

 

隠すこともせず、干将莫耶を構えて突進してくる。

 

「おおおおおおッッ!!」

 

その声をBGMに、美遊とバゼットの戦いも再開した。

 

 

 

 

 

 

士郎兄の連撃を真正面から迎え撃つ綺礼。

 

「筋はいい。手数もある。10年もしたらいい戦闘員になっていただろうな」

 

傷だらけの体に鞭を打って戦う士郎兄。

そんな状態でも鋭い剣戟を、拳や黒鍵を駆使して対処する綺礼。

 

攻め立てているのは士郎兄でも、優勢なのは綺礼だった。

 

『はくのん。どうしたの?』

「…ラルド。私は、どうしたら…」

『…それはどっちの味方をするかってこと?』

 

 

美遊のおかげで、バゼットたちとの距離は離れている。

今なら問題なく夢幻召喚(インストール)できる。

それでも、あんなのでも、育ての親とは―――

 

「いいのか白野。―――死ぬぞ?」

 

ゾッッと悪寒が包み込む。

 

間違いない。この人は―――娘だろうと容赦なく殺すことができる人だ。

 

無理やり意識を整え、ラルドを構える。

今の戦闘を見ている限り、接近戦では勝ち目はない。

 

なら。

 

「ラルド!」

『いくよ―――平行世界限定接続(パラレルコネクト)!!!』

 

一度座標特定をしたからか、以前よりスムーズに繋がった(・・・・)

 

「来て!セイバー!!」

 

彼女に繋がったと認識すると同時に、赤い礼装が展開される。

 

「はああああ!!」

 

隕鉄の鞴(アエストゥス・エトゥス)を振りかざし、綺礼に士郎兄から距離を取らせる。

 

 

「父に剣を向けるか」

「安心して。綺礼が本気で来ない限りは死なないと思うから」

 

感じる雰囲気のまま軽口を叩いてみるも、圧迫感は拭えない。

誤魔化すかのように力強く踏みしめ、大剣を一閃する。

 

勿論、峰打ちだ。

 

ガギィィン、と異音が響いた。

 

「な…!?」

 

殺すつもりはなくても、確実に意識を奪うはずの一撃。

それをあろうことか、肘と膝で挟み込むようにして受け止めていた。

 

「疑似英霊か。確かに驚異的な戦闘力だが、本来の英霊より格が落ちると見える」

 

そしてそのまま迫ってくる拳を何とか回避し、再び距離をとる。

 

「なんて無茶苦茶な…!」

「では、こちらから往くぞ」

 

カード回収の時に戦った黒化英霊たちに引けを取らないほどのスピードで近付く綺礼にとっさに反応し、大剣の腹で受け止める。

 

それを、あろうことか綺礼は拳が触れる直前で急停止し、

 

「フッ———!」

 

地面からの反発力と突進の運動エネルギーを、腰を捻り柔軟に伝え、その莫大な力を余すことなく拳に乗せ、

 

「———シッ!!」

 

 

 

———気が付いたら、瓦礫に埋もれていた。

 

 

「が、ああああっっ」

 

お腹が焼けるように痛い。

目の前がチカチカして、周囲の様子が何もわからない。

 

 

痛い痛いいたいイタイいタイイタい————

 

 

いつの間にか夢幻召喚(インストール)も解けて、声にならないうめき声を漏らしながら、ラルドの治癒で回復するのを待つ。

 

 

「ふ。やはり面白い。手加減したとはいえ、さすがカレイドステッキに選ばれただけのことはあるな」

 

あれで手加減だって?

反論する余裕もなく、涙目で見上げる。

 

そこには私を庇うかのように士郎兄が立っていた。

 

 

「下がれ。親子の会話の最中だ」

「この状況で信じられるか」

「そうか」

 

返事を聞くまでもなく八極拳の豪拳がうなりを上げる。

それを士郎兄は進路上に何重にも投影した剣群を盾に、威力を減衰させる。必死に、後ろにいる私を守るために士郎兄は剣を振るい続ける。

 

それでも。

 

さっきから、何か———。

 

なんとか動ける程度に回復してきたところで、隙を見て距離を取るために目の前の攻防を観察する。

そして気付いた。

 

「貴様。攻撃力に欠けると思いきや、守り重視の戦闘か。それだけではないな———私の攻撃方法を知っていると見た」

 

そうなのだ。

確かにダメージを蓄積させていっているけど、士郎兄は綺礼からの致命傷を防いでいる。

 

「———…昔、似た拳闘家と戦ったからな」

「珍しい部類の者が居たようだ」

「自覚はあったんだな」

 

 

「———時に白野」

 

綺礼の視線が士郎兄を抜け、私に注がれる。

その状態でも隙は見せない。士郎兄も下手に動けないのか、お互いにけん制し合って膠着状態となる。

 

何だ?もう動けるとでも判断されたのか?

 

「エメラルドのマスターということは、つまりはそういうこと、というわけでいいのかね?」

 

「…———なに?」

 

「?ああ、知らないのか」

 

 

 

「カレイドステッキ3号機。マジカルエメラルドの使用者条件についてのことだ」

『!?』

「一部の者には知られているぞ。だからこそ、使用者を血眼で探しているわけだが」

「どういうこと?」

 

綺礼が敵ってことだけでも手一杯なのに、これ以上はお腹いっぱいだ。

 

「簡単な話だ。他の二機と違い、そのステッキは並行世界の運用(・・・・・・・)に関係した人物にしか扱えない」

 

 

 

……

 

 

「…———え」

 

 

隙を窺っていた士郎兄も思わず固まる。

並行世界の運用にかかわった人物。それが意味することは。

 

「魔法使いというわけではあるまい。差し詰め———並行世界出身、といったところかな?それでもにわかには信じ難いが」

 

 

 

私の超ド級の事情(爆弾)が炸裂した。

 

 

 

 

 




無印編からビミョーに撒いていた、エメラルドの使用者条件を遂に開示。
そんな人物見当たらないから宝石翁にしか使われなかった不遇礼装です。機能はすごいのに。

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
感想のお返事は返せていませんが、執筆の大きなモチベーションになっています。何層をくれた方、評価をしてくださった方、ありがとうございます。


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27話 裏話と停戦

更新速度が遅くてすみません。
プリヤに合わせて週げ一更新したい…テスト期間は無理だ…。
ギル君かわかっこいい。

鬼ヶ島礼装コンプして茨木とマルタが来たので満足。
さあ、6章だ!輝けるアガートラム、ニトクリスとかクトゥルフかよ…エジプトってことはネフレン=カとか来ちゃう?輝くトラペゾペドロン…ニャル…円卓…ガヴェインつっよ…円卓やべえ…ああ!窓に!窓に!!

今話は言峰さんキャラ崩壊かも。
原作言峰を大事にしたい人は注意です。これが作者の限界だった…




 

並行世界出身。

 

この世界での養父から放たれた言葉はこれ以上なく的確で、私自身の境遇を指し示していた。

 

「安心するがいい。別に封印指定に登録しようなんて気はない」

「その言葉が信用できるとでも?」

 

何故か士郎兄が激高しているけど、私の頭を通り過ぎる。

 

———ばれた。

 

今までひた隠しにしてきたのに。

まさか、ラルドの使用条件にそんなものがあっただなんて。

 

「娘をそんな人体実験に差し出すような真似などしないさ。私としては、今まで謎に包まれていた娘の実態を知れた良い機会だったというわけだ」

「なんで、そんなに割り切れるの…?」

 

思わず問いかける。

 

「簡単なことだ。白野。別にお前が並行世界出身だろうが何だろうが、今の私の娘(・・・・・)ということに何ら変わりはないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

なんだこいつは。

 

これがあの言峰綺礼なのか?

 

自分の知識とのあまりにもの齟齬に、違和感を抑えきれない。

アイツ(アーチャー)の記憶でも、俺の記憶でも、言峰は絶対的な悪として俺と敵対していた。

だけどこいつはどうだ?

 

白野が憑き物が落ちたかのように泣き崩れているが、俺は一切警戒を解かない。

 

そのまま白野と一言二言話した言峰は、

 

「さて、衛宮士郎。少し話そうか」

 

場所を変えることを提案してきた。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は切嗣の息子で相違ないな?」

「ああ。それよりお前は本当に言峰綺礼なのか?」

 

疑問を口にする。

 

「———フ」

 

違和感が消え去り、素顔が見え隠れする。

 

「お前が気付いた通り、私の本質は変わらない。さすが切嗣(同種)の息子、同類を嗅ぎ付けるのは得意と見える」

「ならどうして」

「私は確かに悪だ。他人の不幸でしか幸福を感じることができない決定的な異端者だ。話には聞いているだろう?先の聖杯戦争でそれをこの上なく実感したのだ」

 

だが、と話を続ける。

 

「私はそれを良しとしなかった」

 

決定的な違いを。

 

「根本的には、進むべき道を探求していたあの頃と何ら変わっていないだろう。本質的な悪は変わらない。だが、こんな私を愛した(もの)がいたのだ。散々寄り道をしたが、あの戦争で気付いた。例え私が悪であろうと———彼女の想いだけは無為に出来ない、と」

 

まあ、代行者の任務でガス抜きをしないとやっていられないのも事実だがな、と神妙な空気をぶち壊すかのように続ける。

 

「じゃあ、白野のことは…」

「あれは私が選んだ娘だぞ?並行世界なんて些事は関係ない。強いて言うならば…アレに躾と称して愉しんだことは私の中で大切な財産(愉悦)だ」

「やっぱり変わんねえじゃねえかこんちくしょう」

「ははは、人間そう簡単に変わるまい。お前が私を毛嫌うように、我々は相容れない。それは一度死んだからと言って変わらないだろう?」

 

 

 

 

「やっぱりお前は」

「詳細は違うがな。私はこの私に貴様の知る私の知識を得ただけだ。経験の伴わない知識など何の役にも立つまい」

 

 

ギリ、と干将莫耶を握りしめる。

 

「いったいいつからだ?」

「10年前。町中に泥が溢れる前に私はサーヴァントに裏切られた」

 

アイリさんの話では語られなかった物語の裏側。

 

「分裂し弱体化したアサシンを間桐に奪われてな。さすが令呪システムを考案しただけはある。そのアサシンに二重スパイをさせ、動向を調べた後間桐は監督役()から奪った預託令呪を使い、私の令呪に対する耐性を植え付け、令呪による強制戦闘を行った。暗殺者とはいえ英霊相手に私も戦ったが…流石に群体相手ではきつかった。多くの個体を葬ったおかげでアサシン自体の戦闘力も落ちたが、それは同時にその魂の大部分を座へと送る事となった」

「———ってことは、アイリさんにアサシンの魂が入っていったのは…」

「大方、不完全とはいえ英霊の魂の大部分だ。それに足りない部分は他の大英雄の魂で補ったのだろう。結果として町に泥が溢れ、死ぬ寸前の私はその泥に覆われた。心臓は呪いにより補完され、他の世界の私自身の知識の一部を継承し生きながらえることに成功した、というわけだ」

 

「俺については?」

「私との戦闘で確信したよ。初対面にも拘らず必要以上の警戒心。過去に対処したことがあるかのような戦闘。そして私自身の知識。これ以上説明は不要かね?」

「———いや、いい」

 

なんてこった。

どうやらこの言峰は———かなり丸くなった言峰らしい。

 

「求道し続けた結果、一度死んだ知識があるのだ。ならばいっそ、他人のために生きるのも悪くはない。その過程で、醜悪に歪んだ人間の本性を垣間見る事が出来るのだからな」

 

 

訂正。

言峰はやっぱり言峰だった。

 

「そういえば、エメラルドの使用条件ってお前も含まれるのか?」

「いや、私ではダメだろう。仮に扱えたとして、断片的な知識しか有していない私では並行世界の運用としては不完全だ。十全にステッキを操れるとはいくまい」

「やけに具体的だな」

「———数年前、宝石翁ゼルレッチに遭遇してな」

「———ああ」

「——————……礼装からの魔力供給が、限界だった」

 

カレイドマーボーとどこかから聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

話し合いを終え、イリヤ達のところへと戻る。

会話で穏便に進んだとはいえ、そこまでに散々痛めつけられた体は酷く痛む。

 

「大丈夫?」

「ああ、白野こそ…」

「…うん。私は、大丈夫」

「…あー、その、なんだ。俺だって気にしないぞ。ここにいる白野が俺の知っている白野なんだし」

「!!———……ありがと」

 

お互い肩を貸し合ってゆっくりと進む。

 

「———なんだ、衛宮士郎。人の趣味をとやかく言うつもりはないが…警察には捕まるなよ?さすがに擁護できん」

「なんでさ!?」

 

 

 

 

 

「戻って来た———ってどういう状況なの…」

 

開口一番突っ込む遠坂。

 

「よかった、二人とも無事だったんだな」

「ええ。それより…二人ともボロボロなのは仕方ないとして…なんで綺礼が…」

 

屋敷の宝石庫から吹っ飛ばされるときに入り口付近で隙を窺っている遠坂が見えたから、気絶している間にやられたのかと思ったけど。

 

「いざという時のための地下通路に逃げ込みまして…それよりそちらの方は…?」

「紹介が遅れた。この度、バゼットにエーデルフェルト邸を襲撃する際の助っ人として頼まれた言峰綺礼だ。教会の代行者もしている」

「なぜ代行者が執行者と!?」

「プライベートな付き合いがあったのでね。ああ、協会にも教会にも伝えるつもりはない。あくまで私は個人的な助っ人だからな」

「よく言う。英霊と正面から戦闘できる人が」

「貴女がそれを言うかバゼット———。ああ、加えてそこの岸波白野の養父だ。いつも娘が世話になっている」

「はあああああ!?」

「え、ハクノのお義父さんが魔術関係者で…めちゃめちゃ強くて…?」

「ああ、そこの衛宮士郎なら先ほど完封したところだ」

「お兄ちゃんを!?!?」

「イリヤ、クロ、落ち着いて…!」

 

 

「衛宮くん、私疲れた…」

「奇遇だな遠坂、絶対こいつ愉しんでるよ…」

 

 

 

 

「ふむ。つまり、その8枚目のカードを回収するまでは停戦協定を結ぶと」

「ええ。共通の敵がいる以上、私たちが争っている場合ではないわ。このカードが他のカードと同じように冬木にやって来たのなら、もう2か月も地脈から魔力を吸い上げ続けているんだもの。どんなバケモノになっていることやら…」

 

思わず、ゴクリと唾を飲む。

 

このカードたちが、仮に俺の知っている第五次聖杯戦争を模しているなら…。

過去に相対した英霊を思い浮かべる。

 

イリヤが率いたバーサーカー。

俺自身が契約し、泥に飲まれ敵対したセイバー。

遠坂と契約し、俺たちを庇い腕を遺したアーチャー。

初日にセイバーと共に倒したキャスター。

臓見が蟲と共に使役したアサシン。

共闘し、最後まで桜のこと想い現界し続けたライダー。

 

 

さらに自己に埋没する。

 

(アーチャー)と因縁があり、何度も殺り合ったランサー。

キャスターが契約し、柳洞寺の門番となったアサシン。

 

———黄金色に輝いた、人類最古の英雄。

 

 

 

思わずかぶりを振る。

流石に、アレがいるなんてことはないだろう。なんて言ったって彼の英霊は第四次の生き残り。五次を模しているならいる方がおかしい。

 

「どうしたの衛宮くん?」

 

無言の俺を心配したのか、遠坂が声をかけてくる。

 

「あー、いや悪い。さっきのダメージのせいかぼーっとしてた」

「あー。それもそうね。ここにいる全員が少なからず傷を負っているんだもの。バゼット、綺礼。細かい作戦なんかはまた追って連絡するわ」

「了解しました」

「ああ、それなんだが、私は一週間ほどしたら再び海外に行くのでね。頭数には数えないでくれ」

「———ウソでしょ…」

「こんなところで言ってどうする。北欧の列車やら、山岳地域の施設など仕事はまだまだある。たまには休暇くらいいいだろう?」

「とか言って泰山食べに来ただけでしょうが」

「そうとも言う」

 

 

さっきまでの険悪な空気はどこへやら、和やかな空気が流れる。

これを見越してやったんだろうか、遠坂には頭が上がらない。

 

 

———だけど俺は。8枚目のカードに対する嫌な予感を拭えずにいた。

 

 

 

 

 




というわけで、実はの裏設定。言峰さん微憑依。全部の知識はないよ、自分が愉悦を求める部員だった、ということと断片的な桜ルート知識。なじみ深かったギル以外の英霊はほとんど知らないです。

本質は変わっていないので、他の自分が求道と覚醒で一生を使い果たしたなら自分は別の道を生きれば違う見方を得られるのではないか、という考え方で”言峰綺礼らしくないこと”をコンセプトに生きています。死徒とかを相手に愉悦してガス抜きをしていますが。

白野への躾は茶碗の扱いや麻婆などの教養を学ばせ、ちゃんとできていないと「この程度も…」みたいに扱い、絶望感に浸る娘を見て愉悦していました。ご近所さんには養子をとり、礼儀に正しく育てていると神父としての評価が上がり、世間の風当たりは良いためより一層愉悦に身が入ります。これぞ愉悦スパイラル。

そう言うわけで、白野が並行世界出身だろうが自分には関係ないと割り切っています。だからこそ、抵抗なく真実を知っても受け入れる事が出来ました。

誤字脱字などの指摘、評価、感想などがあればよろしくお願いします。感想のお返事は返せていませんが、執筆への大きなモチベーションアップにつながっています。


次こそ、早く投稿する…(フラグ)


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28話 さまーばけーしょん

期末が終わり、バイトと合宿と実習とで時間が取れませんでした。
麻婆は教養に入ります。


6章シナリオたのしー!ってなった後の1周年ガチャ。
確定ガチャではサモさん。いや、セイバー☆5、3人目…。単発でアルテラ(2枚目)セイバーオルタ(3枚目)茨木童子(2枚目)来ました。
いやほんと、金鯖30いるのに、なんなら宝具3とかのもいるのに偏りがひどい。槍欲しい。セイバーはもう式もアルテラも2だから…。


って想いながら引いた水着ガチャ。
———見せてやろう、羅生門から清姫ばっかり引き続けている俺の安珍パワーを!(10連に1枚は礼装にしろ鯖にしろきよひーいました。なんなら呼符10連にも)

水着10連、爆死。
まだ、そして最後の単発で来ました。槍きよひー!!焦らすのがうまいんだからー。
そんなこんなで開拓は清姫の仰せのままに。きよひーかわいい。

近況報告が長くなりましたが、本編スタートです!


 

激戦から数日。

私たちは今——————

 

「「「「「海だーーーーーっっっ!!!」」」」」

 

 

 

———海にいる。

 

 

 

事の始まりは単純。

 

イリヤと美遊とクロの誕生日に海で遊ぼうって話になっただけだ。

その際美々が覚醒しちゃったのは置いておいて…。

 

 

「士郎兄も引率ありがとう」

「いいんだ。俺だって海に来るのは久しぶりだし」

 

「イリヤイリヤ」

「なに?ナナキ?」

「白野が話しているイリヤのお兄さんは知っているけどさー、あっちのメガネ男子はどなた?」

「おっとそうか。お初にお目にかかる。柳洞一成だ」

「みんなを引率するのに俺一人じゃ心もとないから応援を頼んだんだよ。お山の柳洞寺の息子さんだ」

 

一成さんはうんうんと頷いている。

 

「へー。わざわざありがとうございます」

「そうかしこまらなくてもいい。衛宮の妹とそのご学友なら俺の義妹(いもうと)のようなものだ」

「(今ルビがおかしかったような気がしたんだけど!?)」

「(ルビって何よ。ただの気のいいお兄さんじゃない)」

 

「ほほうほうほう…」

 

きゅぴーんと雀花のメガネが光った。

 

「それでお二人はどのような関係で?」

「「関係?」」

 

あ、この目は。

 

「関係って言っても…まぁ、普通の人間関係だよな?」

「ふむ…。普通の一言で済まされるのもいささか寂しいな。衛宮にはいつも生徒会の雑務を手伝っていてもらってな。堅実で確実な仕事ぶりにはいつも感謝している。衛宮がいなかったらと思うと、俺は生徒会長としてどうしていいものかわからんよ」

「なんだよ急に…褒め殺しか?煽てたってなにも出ないぞ?俺は自分が出来ることをやれる範囲でやっているだけだ。それに、俺がいなかったところで生徒会長(おまえ)がどうとでも仕切れるだろ」

「いや、お前がいなくてはだめだ。衛宮お手製の弁当を食えないとなると俺の士気にかかわる」

「そんなことか…まあ張り合いがあっていいけどさ」

「それに、あの女狐どもとの緩和剤がいないと俺がストレスで死んでしまう」

「そこかよ!」

 

「雀花ちゃん…」

「美々…」

 

「「アリガトウゴザイマシタッッ!!」」

 

そのあと、雀花と美々は夏の締切に間に合うかなーとか何とか言っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白野、ちょっといいか?」

 

みんなで遊んでいる途中、少し休憩していると士郎兄に呼ばれた。

 

「どうしたの?」

 

何かあるって訳でもないから返事を返す。

 

「言峰のことで少し、な」

 

 

 

 

みんなから離れた岩場。

遠くから波の音に紛れて喧騒が聞こえてくる。

 

「言峰が養父って本当なのか?」

 

いきなり核心をついてきた。

 

「うん。そうだけど…知らなかったの?」

「教会に引き取られたとは聞いていたけど、まさかアイツとはな」

「あれと知り合い?」

 

それならこの態度にも納得できる。

確かに、本性を知っていれば養子を引き取ったなんて発想は生まれないだろう。

 

 

「—————白野。これから話すことは他言無用で頼む」

「?」

「俺もな、並行世界の関係者なんだ」

 

 

 

 

 

……——————え。

 

 

 

「そのうえで、エメラルドに聞きたい。俺はお前を使えるか?」

 

 

 

 

 

この質問をするのに、白野に俺のことを説明しないわけにはいかないだろう。なんて言ったってエメラルドの現保有者だ。

 

「ちょ、ちょっと待って士郎兄。並行世界出身って…え?」

『驚いているところ悪いけど、はくのん、それは本当だよ』

「ラルド!?知っていたの!?」

『あんまり広めるようなことではないからね』

「実際知っているのはイリヤ以外の俺の家族とステッキたちくらいだ」

 

「そんな…私以外にもいたなんて」

『この冬木という街自体が何かしらの要因になっているんだと思うよ。アイリさんが言っていた聖杯戦争。正直、並行世界の運用って魔法に関わる物として、これ以上なく胡散臭い(・・・・)儀式だ。7騎もの英霊を型にはめるとは言え、召喚し使役するなんて発想自体がまずありえないよ』

「確かにぶっ飛んではいるよなぁ」

『それを成し得てしまうほど潤沢な地脈に、隠ぺいが施されているとはいえ()常を認識(・・・・)してい(・・・)ても気(・・・)付けない(・・・・)住民たち…。これはひょっとすると、ひょっとするかもね』

「ラルド、どういうこと?」

『単純に認識できないような魔術的な引力が発生しているのかも、って思ったんだ。奇跡にも等しいことでも、起こり得る可能性を引き寄せやすくなっているとでもいうのかな?でないと、聖杯戦争の戦闘なんて隠ぺいできないでしょ。それだけじゃない。冬木以外では全然見つからなかった並行世界の関係者が多く現れたことも、聖杯としての機能でしかなかったはずのクロが自我を持ったことも、クラスカードなんて特級の礼装が現れたことも、何かしらの理由があるのかなって思っただけなんだけど…邪推しすぎたかな』

 

…確かに、エメラルドの言うことには一理ある。

だが一体。

何に引き寄せられているんだ————?

 

 

 

 

『まあ答えの出ない話は置いといて!士郎さんが僕を使えるかって質問だったね』

 

少し強引な気もするが、澱んだ空気をエメラルドが打ち払う。

 

『答えとしては単純。士郎さんは僕を使えるよ。ただし、機能面に問題が出てくる。なぜだかわからないけど、士郎さん相手だと治癒や魔力供給はできても障壁を展開できない。カレイドライナーになっても、下手したら一撃で即死みたいなこともあるよ』

「障壁っていうと…物理保護と魔力障壁か?」

『そうだね』

「そうか。それなら———問題ないな」

『それにしてもどうしたの?まさか転身したくなった??』

「誰がするか!」

『凛さんのお父さんは赤姉さんでしていたけど』

「ウソだろ時臣さん…」

 

知りたくない事実が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、士郎兄と別れてイリヤたちの元に向かう。

 

「けどまさか士郎兄まで並行世界の関係者だったなんて」

『ほんと、この街は何なんだろうねー。教会も協会も放っておかないよこんな怪しいところ』

「あはは、は」

 

笑うに笑えない。

 

 

「———ィ、いかが———」

 

「そういえば、海の家って龍子の家が経営しているんだっけ?出番少ないのに濃いキャラクターしているよねあの人たち」

『その濃いメンツにはくのんも入っているよ?』

「やだなあ、家族じゃないよ———濃いのはほら、友達がうん、沼にハマったからね…」

 

思わず遠い目になる。

思い出すのは雀花に相談されて遊びに行った日のこと。

 

押入れの隙間から見てしまった禁断の世界。

スケアクロウ×ドルフィン、神父×殺し屋、マフィア×パイナップル、FBI×公安、槍弓。

そしてそれを熱心に語る美々(友人)

 

 

————小学生での覚醒は、早いんじゃないのかな?

 

 

「アイ———、い————か――」

 

 

一定の理解は示そう。

そう言う世界の需要も理解している。

これしきの事で友達を止めるつもりはない。

 

でも。

 

————サークル参戦は早いんじゃないかな?

 

「アイスキャンディ、いかがですかッッッ!!!」

「さっきからうるさい!」

 

気にしないで居ようと思ったのに、思考が思わずさえぎられる。

そして目の前にいたのは———

 

「な——バゼット!?」

「む、貴女もいたのですか」

 

何故かアイスを売り歩いているバゼットだった。

 

「なんでここに!?」

 

ラルドを構える。

 

「そう警戒しないでください。私は事を構えるつもりはありません」

「信用できるとでも?」

「そちらの心境はどうであれ、上での交渉の結果です。今の私は———ただのアイスキャンディ屋さんです!!」

 

———はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、今回の件で協会からの資金が降りず、弁償代だけで口座が止まってしまったと」

「はい。———しかし!お金など日雇いで稼ぎ、食料はその辺りの草木を食べれば問題ありません!」

「文化圏で生活している人として大丈夫なのそれ…」

「当人の価値観次第です。任務先によっては食料が汚染されていることなどざらですから」

 

この人に優しくしようと決めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、僭越ながら俺が。イリヤ、クロ、美遊。お誕生日おめでとう!」

「「「「「おめでとーーー!!」」」」」

 

こうして海の家での誕生日会が始まった。

 

移動するまでに、バゼットの押し売りに合ったり遠坂達の8枚目のカード回収の下準備に遭遇したりしたけど、何とか問題なくパーティが開催される。

三人とも、プレゼントを喜んでくれているようで何よりだ。

 

 

だけど。

 

 

 

 

”単純に認識できないような魔術的な引力が発生しているのかも、って思ったんだ。奇跡にも等しいことでも、起こり得る可能性を引き寄せやすくなっているとでもいうのかな?”

 

”冬木以外では全然見つからなかった並行世界の関係者が多く現れたことも、聖杯としての機能でしかなかったはずのクロが自我を持ったことも、クラスカードなんて特級の礼装が現れたことも、何かしらの理由があるのかなって思っただけなんだけど…”

 

エメラルドの言葉が。

 

 

”イリヤに出会えたこと、みんなに出会えたこと、士郎さんに出会えたこと。今日まで生きてこられたこと。その全てに———…感謝します。———ありがとう”

 

そう微笑んだ美遊が今にも泣きそうに思えたことが。

 

 

 

なにか、パズルが当てはまったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

———interlude3———

 

黒い、黒い、靄の中。

 

 

実体を持たないナニカが蠢く。

 

 

”殺せ、殺せ、殺せ”

 

 

怨嗟の海に沈んで尚、その魂は原形を保つ。

 

残る意識は少ない。

 

長い間、魔力を貯め込んだおかげで力は格段に付いたがその代償に思考が鈍る。

 

 

 

”殺せ、殺せ、殺せ”

 

 

 

それでも意識の欠片に残る理性。

 

 

この程度の泥、飲み下してこそ。

 

 

 

しかし、あまりにも濃密な魔力の濁流に呑み込まれる。

 

 

 

 

”セイ……ハイ……”

 

本能が求めるモノ。

 

そして。

 

 

”ハク………ノ……”

 

 

どこかの欠片を遺して。

 

 

ーーーーーInterlude outーーーーー




今回は、原作で描写されたシーンはカットしました。
お待たせしたうえで知っている描写を重ねるのもテンポが悪いなーと思ったので。

祭りとかいろいろ考えていましたが、どうもギャグだけじゃそろそろ内容が…。
そんな訳で、シリアス成分を増加させ、プリヤを加速させることにしました。次回はギル戦かな?

感想は返せていませんが、すべて目を通しています。呼んでくださっている方の意見を聞けてうれしいです。これからも頑張ります。
誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


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29話  8枚目のカード

前話の感想、BLネタにみなさん反応しすぎ(笑)

…イリヤが出ない。
100連でアンジェリカ限凸、ずんがずんが2枚限凸、美遊二枚、メディアリリィ4枚、ナーサリー(二枚目)、マリー(水着に着替えて来い)、エレナママ二枚、茨木童子(3枚目)でした。


金術演出で期待を裏切られ続けること7回…

イベも後半戦、財布がずんがずんがするぜ


 

俺たちは今、再び海に来ている。

時間帯は夜で、場所もルヴィアが建造した地下施設だけど。

 

「全員揃いましたわね」

「バゼットは?」

「休戦協定は結んでも、仲間になった覚えはありませんわ」

 

「作戦は頭に入っているわね。手筈は昨日確認した通り。小細工なしの一本勝負。最も合理的かつ効率的な戦術、すなわち———初撃必殺」

「おそらく過去最大の難敵でしょうが、先に倒してしまえば問題ない、ということです。それだけに持てる最大の火力を展開する必要があります」

「その下準備を整えるのがルヴィアと俺の役割———で合ってるよな」

「ええ。そのうえで衛宮くんには攻撃にも参加してもらいたい———。無茶を言っている自覚はあるわ。でも、私たちの中で一番戦闘に優れているのは衛宮くんなの。———頼めるかしら」

「ああ。もちろんできる範囲で、になるけど」

「充分よ」

 

白野たち四人は適度な緊張感を持ったまま話しているのが見える。

 

「よかった。もっと緊張しているかと思ったけど」

「ふふ。本番こそリラックスして挑むべきですわ」

「そういう意味では安心ね」

 

 

 

 

「———暗くて殺風景。EXTRAステージにしては華のない舞台ね」

セイバーの宝具(招き蕩う黄金劇場)でも使ったらいい?」

「ちょっと二人とも。もう少し緊張感をもって…」

 

長い階段を下り、辺りを見渡してそんなことを話す。

3人とも何気なく話しているように見えて、美遊の様子を窺うのを忘れない———と言っても、肝心の美遊は気付いていないみたいだけど。

 

「はーくのっ」

「どうしたのクロ」

「気付いているんでしょ」

 

やっぱりこの子も。

 

「美遊?」

「そう。8枚目のカードがわかってから明らかに様子がおかしいものね。イリヤは踏み込まないみたいだけど…ハクノはどうするつもり?」

 

聞くと、海で私がいない間にそんなことをしていたみたい。

…私は。

 

「今は聞かない、かな」

「どうして?」

「理由は二つ。戦闘前にあんまり動揺させたくないってことと、話せることならもう相談してるでしょ」

 

私自身の事情(並行世界出身)もあることだし、言いたくないことと言えないことの境界は本人が見極めるべきだ。

 

「だから。この戦いが終わったら聞き出すんだ———」

「ちょ、やめてよね!そんなフラグ建てるの!」

「あぁ、安心した———」

「だからやめなさいっての!!」

 

そんなことを話している間にもう時間が迫っていた。

 

 

「どうする?遅刻者は放っておいて先にやっちゃう?」

「それもやむなしかしら…」

「時間まであと5秒…」

 

 

 

3…

 

 

 

2…

 

 

 

1…

 

 

と時間が過ぎ、

 

「ゼロ」

 

その声と共に空からバゼットさんが降って来た。

その眼光は鋭く、私たちと戦った時に壊れた斬り抉る戦神の剣(フラガラック)のケースも修復されている。

 

「———始めましょうか」

「配置について!ジャンプと同時に攻撃を開始するわ!」

「確認です。私は貴女たちのあとに戦闘を開始する、ということでいいのですね」

「ええ。お互い邪魔はしないでよね」

「もちろんだ」

「敵からの反撃はイリヤの物理保護と衛宮くんの防御にかかっているわ。それを抜いたとしてもイリヤはダメージを受けないように!」

「え?なんで?」

「忘れたの?イリヤ、クロ、バゼットさんは痛覚共有があるでしょ」

 

あ!と私からの指摘に完全に忘れていた顔になるイリヤ。

 

「———そんな呪い(もの)、とうに解呪済みですが」

「え!?」

「腕はいいが性格の悪いシスターに祓ってもらいました。それほど難解な呪いではなかったようですし」

 

———まさかと思うけどそのシスターって…。

 

いや、今は置いておく。

帰ったら聞くことが増えただけだ。

 

「ま、ここまで来たら呪いがあろうがなかろうが関係ないわ。この戦いは、どちらがカードを手にするか、それだけの勝負よ!」

 

魔法陣の輝きが一層強まる。

 

「———いきます!」

 

境界面へのジャンプ。

それは世界がずれるような奇妙な感覚。

 

この時のそれは、今までのよりもひどく長い感じがして。

ようやくズレきった時、そこには。

 

 

黒に染まった悪意が満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒い魔力の霧!?」

「セイバーの時と同じ…いや、あの時以上!」

 

彼我の魔力の差に怯みそうになる。

 

「狼狽えるな!敵が強大であることはわかっていたはずだ!」

 

士郎兄が黒弓を取り出しながら告げる。

 

「まずは私ですわね———準備を進めなさい!」

 

そう叫んだルヴィアさんは魔力の霧に阻まれて見えない英霊へと突き進む。

 

超高密度の魔力の霧は、それ自身が盾にも矛にもなりうる。

それをルヴィアさんは舞うように躱しながら、現実界で仕込んでいた魔法陣のキーとなる箇所へ宝石を埋め込んでいく。

 

境界面は現実の影響を受ける。

今回、地下をわざわざ掘ったのは戦闘する空間を確保する他に、そこ自体に仕込みをするためだった。起動するための宝石自体は境界面で使わないと効果が得られないけど、それでも下準備のあるなしで魔術の強度は段違いに変わってくる。

 

「これで———最後ッッ!!」

 

そして、最後のくぼみに宝石が嵌められる。

5つの宝石が魔法陣に従い魔力を循環させ、魔術を発動させようとする。

 

Zeiben(サイン)———!!!」

 

西洋に伝わる4元素を東洋における5行説と関連させ、発動する場所である日本に合わせてカスタマイズした術。五行説における相乗を利用することで本来よりも術式に満ちる魔力量が跳ね上がる。

 

世界蛇の口(ヨルムンガンド)!!!」

 

5つの宝石から放たれた魔力の鎖は中心へと突き進み、黒い霧をも貫いて雁字搦めに拘束した。

 

勿論私たちもただ見ていたわけじゃない。

 

「イリヤ、美遊!チャージ20秒!」

 

「…なるほど。吸引圧縮型の捕縛魔法陣で敵を拘束しつつ、魔力のチャージの時間を稼ぐ。そして…」

 

Vom Ersten Zum dreizehnte(1番から13番)

 

Eine Folgeschaltung Drehkompression(直列起動、回転圧縮)————」

 

凛姉が宝石を13個宙に放る。

 

「白野!」

「ラルド!」『合点!』

 

その宝石は回転を始め、私が流し込む魔力を糧に強度を上げていく。

宝石と凛姉と私の魔力を圧縮し、回転の中心、その増幅路へと導かれる。

 

「美遊!イリヤ!」

「オッケー!」

 

準備はできたとばかりに二人に声をかけると、そのチャージした魔力砲を砲台へと接続する。

 

「…砲台か!」

「そうよバゼット。魔力の高速回転増幅路。私だけだと単純な威力の底上げに留まるけど、白野が協力してくれることでこの砲台は更に凶悪化するわ———!」

 

抑えきれない極大の魔力が、砲身から燐光となって溢れだす。

この砲台では、増幅させ続ける魔力を抑えきれない。

 

ならばどうするのか。

 

「回転させることで圧縮と増幅を図っていたけど、やっぱりこうなるか…ッ!」

「みんな、気合を入れなおしてね…!行くよッ!」

 

凛姉以外の三人で、無理やり砲台を維持する。その間に、凛姉が砲台の方向性を少し変える!

 

「———満たせ、13の宝石()

 

撃つのではなく、穿つ。

 

「砲身、展開———術式、起動!」

 

詠唱に合わせて回転数がさらに上がり、荒れ狂う魔力が暴風となる。

 

 

「3人とも今よ!

 

    

    ———最果てをも轟かす槍(ロンゴミニアド)!!!!」

 

 

そしてその砲台を———いや、暴風を纏った槍を投擲する。

それは例えるなら砲台自身を砲弾とする暴挙。

特大の魔力が込められた爆弾として扱う術式。

 

黒い霧はなす術もなくかき消され、極大の魔力で構成された槍が直撃し、内包していた魔力を拘束術式もろとも爆発させる。それはまるで壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

破格の一撃は、敵を中心に広がった爆発で地下空間自体を拡張した。

 

「…ぐ、なんて魔力だ…!」

「カレイドの魔法少女3人掛かりの大規模爆破術式よ!崩壊を想定して壁自体を現実(向こう)で補強、強化しておいてよかった!仕上げよ!クロ、衛宮くん!」

 

 

 

相手からの攻撃に備えて高めていた魔力を、すべて投影へと注ぎ込む。

 

「クロ。お前が聖杯としての力を持つなら———」

「わかっているわ。一番の、あの聖剣しかない」

 

詠唱をせず、クロが集中状態へと突入する。

なら俺も。

 

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)———」

 

 

やることは変わらない。

 

 

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

製作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現する。

 

 

2人で黒弓へと()を番える。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)———!!」

偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)———!!!」

 

 

それぞれ真名を解放し、その宝具そのものを爆弾として扱う!

 

 

「「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」」

 

 

 

 

 

————だからこそ。

俺たち二人だけが気付いた。

 

 

俺たちの攻撃が届く直前、堅牢な盾に阻まれたことに。

 

咄嗟に盾を解析する。

あの攻撃を防ぎきる盾なら宝具に違いない。もし真名がわかれば対策を立てられるかもしれない。

 

そんな期待は淡く崩れ去る。

 

「名前が…ない?」

 

性能も、込められた神秘も超一流。

宝具でありながら宝具としての名を与えられていなかった。

 

「イージス…」

 

ぼそっとクロが呟く。

確かに一瞬頭をよぎったが、それにしては違和感が拭えない。

 

「まさか————」

 

その答えはすぐにわかった。

単身飛び出したバゼットの体に突き立つ剣群を見て、わかってしまった。

 

 

「ギ…ギィアアアアアアアア!!!!!」

 

足元から広がる黒い霧から無数の武具を宙に浮かべて、英霊は吠える。

 

「なに…あれ…。なんなの…一体何が!」

 

イリヤが叫ぶ。

 

「遠坂!退避だ!!」

「ッ!白野!」

 

「うん!バゼッ———」

 

呼ぶ声は、バゼットの心臓へと突き立つ剣によって妨げられた。

 

「あれはもう…!」

 

一目でわかる致命傷。

それを受けてなお、

 

「条件、完了…!」

 

彼女は進む。

自信の死をも相手を欺く隙を作るのに利用して。

 

「蘇生のルーン!?」

「宝具クラスの魔術(奇跡)を…!?」

「正真正銘、バーサーカー女ってことね」

 

その間に、イリヤの元に全員集まる。

 

「ジャンプの準備をして!」

「でもバゼットさんは———」

 

目前には英霊を殴り続ける執行者。

体を穿っても、魔力の霧によって修復される。加えて、無造作に現れる無数の武具。

少しでも距離が開けば防戦一方になっていた。

 

「あれは助けられない」

 

すがるようなイリヤに、無慈悲にクロは告げた。

 

「なんの冗談って感じ。アレ、何だかわかる?」

「まさか…」

 

美遊が息をのみ、遠坂達は苦々しげに顔を歪める。

 

「そう。あれ全部…宝具よ」

 

 

 

 

 

 

 

全員が絶望感に包まれる中、私は気付いていた。

いや、気付いてしまった。

 

あれは、私の従者(サーヴァント)だ。

 

視るも眩い黄金の輝きは黒に染まり、理性の欠片も感じさせないような状態だけどわかってしまう。

あれほどの武器を所有し、無造作に扱う英霊なんて、一人だろう。

 

呆然としている私の手をイリヤが掴む。

 

「ハクノ!とりあえずジャンプの準備を———」

 

そのセリフを最後まで続けれなかった。

 

彼が急に動きを止め、バゼットを弾き飛ばしたからだ。

そしてそのままぐるん、と首をこちらに向け———

 

「■■、ノ———」

 

一斉に剣群が飛来する!

 

「物理保護———!」

「そんなの効くわけないでしょ!宝具相手には宝具しかない!」

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

開かれた花弁は4枚。1枚1枚が城壁に匹敵する盾も、徐々に壊れていく。

 

「ハクノ!早く脱出を!もう盾が持たない!」

「で、でも!」

「何故か貴女が狙われているの———ミユ!」

「わかった!」

 

有無を言わさぬ強さで引っ張られる。

 

「行きます、離界(ジャンプ)!!」

 

そしてそのまま凛姉たちと一緒に離脱した。

 

 

 

 

 

 

「まったく、世話が焼ける」

 

そう言って、弓を射る。

 

「お兄ちゃん!?」

 

剣は、今まさにクロを貫こうとした槍を弾いた。

 

「なんでここに!?」

「俺のセリフだ。妹二人を置いて逃げられるか。…というわけで、バゼット。頼むぞ」

「ええ。倒す以外安全に帰れる保証はありませんし」

 

金属球を3つ、拳の周りで浮遊させながらバゼットは言う。

 

「クロ、イリヤはサポートを頼む」

 

そして返事を聞かずに突っ込む!

 

すぐ横をバゼットが並走し、ともに剣群を打ち払う。

 

「おおおおおおおお!!!」

「はあああああああ!!!」

 

だが、対処が徐々に追いつかなくなる。

当然だ。数々の宝具の原典。現代を生きる俺たちには過ぎた兵器だ。

 

だから。

 

「バゼット———!」

 

彼女一人をさらに進ませる。

2人に分散していた攻撃が集中するが、

 

「全投影連続層射!」

 

すぐさま同じ武具を以って撃ち落とす。

二人掛かりで近付いたぶん、バゼットの到達が早い。

撃ち漏らした剣をフラガラックで切り払い、押し寄せる死をも踏破する。

 

そしてついに剣群を抜け。

 

「殺った———」

 

目の前に鏃が浮かんでいた。

 

——回避、不能。

 

投影を飛ばすにもバゼットの体で陰になり、そもそも今から投影するには間に合わない。

 

———一手、届かな…

 

その鏃はバゼットの額を

 

「世話が焼けるわ」

 

貫く寸前、弾かれた。

 

視線の先にはクロ。

黒弓を携え、用意していた剣を放ち窮地を救った。

 

「バゼットさん!お願い!」

 

イリヤが障壁を使って敵を拘束する。

一瞬しか効果がないが、英霊に匹敵する身体能力を持つバゼットには十分だった。

 

 

 

「硬化、強化、加速、相乗———!!!」

 

音速を超えた拳は心臓を貫きカードをえぐり出す!

 

「よし!」

「決まった!」

「素手で心臓貫通って…!!」

 

遠目にも、バゼットがカードを握っているのが見える。

 

「グ…」

 

 

 

 

「■■■■————!!!!!」

 

 

 

「そんな!」

 

バゼットが弾かれ、何とか体勢を整えつつすぐそばに着地する。

心臓を貫いた拳には何も握られておらず、痺れた様に痙攣しているのを押えている。

 

「馬鹿な…!カードをえぐり出されてなお動けるのか!!!」

 

そして。

そいつの真名に確信を持つ。

 

 

泥から浮かび上がったのは、柄が黄金に輝き、3つの黒い筒が重なったような剣だった。その異形の剣の筒がそれぞれ回転を始める。

 

 

「セイ、ハイ……ハク、ノオオ”オ”オ”!!!」

 

 

世界が裂かれる寸前、ギリギリ俺たちは離脱に成功した。

直前に聞いた声の意味を考える暇もなく。

 




英雄王扱いが難しい。ギル君書きたい。
プリヤアニメも佳境、カレイドステージもよろしくお願いします。

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。



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30話 監視者

イリヤ来た。


————ああ、安心した。


 

現実界に戻った直後、イリヤとクロ、士郎兄がいないことに気付いた私たちはただ祈る事しかできなかった。

 

すぐ戻らないと!と焦る心とは別に、あそこに戻ってもただ無力だ、と認識している私もいる。

美遊も、ルヴィアさんも、凛姉も、みんながどうしようもない無気力感と戦いながらどうするか話し合っている。

 

「…やっぱり、一瞬接界(ジャンプ)してすぐに戻ってくるしか」

「でも、それだと向こうでどんな危険が待ち構えているか…最悪、ジャンプの完了と同時にやられるかもしれませんわ!」

「だったらイリヤたちを見捨てるっていうの!?」

「誰もそうとは言っていないでしょう!?私たちが倒れたら元も子もないですわ!!」

 

言い争うこと数分、突如地面に魔法陣が展開された。

 

「これは———ッ!?」

 

突然のことに身構えているうちに魔法陣の輝きは増し———そこから士郎兄たちが、誰一人欠けることなく帰って来た。

 

「ッッ!!」

「よかった…っ!!」

 

「脱出…できたの…?」

『いやはやー、間一髪でしたね』

「なんだったのアレ…」

 

「この馬鹿!!!」

 

凛姉が叫ぶ。

 

「なんであんな見るからに死地ってわかる場所に残ろうとするのよ!衛宮くんもクロも残るし…無事だったからよかったものの…」

「無事…とは言い切れないようですね」

 

ルヴィアさんの視線はバゼットさんに向いている。

 

「いったい何があったんですの?」

 

 

 

「———地獄…いえ。神話を見ました」

 

 

 

重苦しくバゼットさんが告げる。

 

「…わかったことは二つ。あの英霊の正体は不明ですが…クラスはアーチャーです」

「「!?!?」」

 

弓兵(アーチャー)

そのカードの英霊はあの無銘の正義の味方で、バゼットさんが私たちがカード回収任務をする前に単身撃破したはずの英霊。

 

だからこそ。

 

「二枚目…」

 

同じクラスのカードがあるという事実。これは、他のカードにも言えることじゃないかって思えてくる。

 

「もはやあの英霊は私たちの手には負えない。カードの回収ではなく別の解決案を模索するべきだ」

「私も同感ね。正直2度も戦うのはごめんだわ。とにかく一度協会に指示を仰いで…」

 

凛姉の言葉が不意に途切れる。

原因は単純。

 

 

魔法陣を展開していた(・・・・・・・・・・)空間に亀裂が走ったからだ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

ビシッ!!と音が響く。

 

「なに!?何の音!?」

「これはいったい…」

「亀裂が広がって…割れていきます!!」

「ラルド!」

『全員、不測の事態に気を付けて———』

 

 

異音は止まず、取り返しのつかない悪寒が駆け巡る。

そして。

 

 

世界が割れた。

 

 

 

亀裂は大きく広がり、その奥の闇は深く見通しが利かない。

なのに。

根源的な恐怖を纏ったナニカは確かにそこに存在する。

 

斑模様に渦巻くような闇は、その裂け目から泥を垂れ流し、

 

 

 

「ア”、オ”オ”オ”■■■———!!!!!」

 

 

()鏡面界()を破り現れた。

 

 

 

 

想定の外側の事態に遭って、誰一人動けない中真っ先に行動したのは———

 

 

Zeichen(サイン)———」

投影(トレース)———」

 

ルヴィアさんと士郎兄だった。

 

ルヴィアさんが起動した術式に反応し、地下空間の壁が崩落していく。

 

「爆発!?」

「まさか最終手段を実界(こちら)で使うことになろうとは…」

「崩れる!」

 

 

「———完了(オン)。食らいつけ———赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

天井の崩落に合わせて士郎兄が放った矢は紅く、敵へと噛み付く。でも、すぐさま泥から飛び出した鏃に阻まれてしまう。

爆発の有効圏内で壊れた幻想(ブロークンファンタズム)を使用するのかと思いきや、緋の猟犬は再び敵へと食らいつく。

 

「この間に!生き埋めになるのは敵一人で十分だ!!」

 

イリヤと美遊と私で、士郎兄、凛姉、ルヴィアさんを飛んで引き上げる。

クロとバゼットさんは自力で階段の手すりを駆け上がっているけど、その速さは私たちに引けを取らない。

 

「想定外のことが起こりすぎている———‼!敵がこっちの世界に出てくるなんて!」

『いったい鏡面界(向こう)で何があったの姉さん?敵も虚数軸の移動手段を持っているの?』

『…いいえ。恐らく…』

「多分、敵が最後に出した奇妙な形の宝具。あれが鏡面界(世界)そのものを切り裂いたんだ」

「お兄ちゃん…?」

「士郎兄…?」

 

 

「どんな宝具を持っていようと…160万トンのコンクリートと720万トンの地層に押しつぶされれば———!!」

「いや…ダメ…かもね…」

 

下を見ていた凛姉が言うや否や、地層を砕きながら黒いナニカが飛翔した。

 

 

それは崩落する地下空間よりも、脱出しようとする私たちよりも速く岩盤を砕き、外へと飛び出した。

 

「なんてこと…」

「敵が…市街地(そと)に出てしまった…!」

「いくつ宝具を持っているのよアイツ?後出しで秘密道具を出されちゃかないっこないわ!」

 

ゆっくりと黒い船は市街地の上空を旋回する。

 

「市街地からなるべく離したいところだけど、空中にいる限り手出しはできないわね…」

「カレイドライナーの三人なら飛べます!」

「美遊、落ち着いて。確かに私たち三人は飛べるけど…近づいたところで勝算がなさすぎる。あの無数の宝具のうち一つでも市街地に落ちたら…」

「白野…。なら海側に誘導して地面に叩き付けるしか…」

「…こっちの全力は通用しなかった。だから…」

 

そう。

あの王に対抗するには同じように無限の武具を用いるか、それらを上回る究極の一を用意するしかない。

 

 

「————豚の鳴き声がするわ」

 

凛、としたこの場に似つかわしくない声が響く。

 

全員がその声に反応し———それ以上に告げられた言葉に驚愕し、振り向いた先に彼女はいた。

 

 

 

「全く。名家の魔術師二人に執行者が雁首並べてピイピイと…。白野、貴女も私の妹ならもっとしゃんとしなさい。

———貴女ならこのくらい容易でしょう(・・・・・・・・・・・)?」

 

 

「な…な…なんで、なんでここにカレン姉が!?!?」

 

というか何そのカッコ!?!?

 

「無様な女ね」

「妹…?白野、この女は?」

「えっと…」

「あら、貴女が留守の間、貴女の家の鍵を預かっていた教会のシスターのことを忘れているのかしら?」

「私は白野に預け———って、まさかあんた…」

「察しの通りよ。———初めまして。そこにいる岸波白野の義理の姉のカレン・オルテンシアと申します。先日は父がお世話になりました」

「え…白野の姉ってことは…まさか言峰の———!?」

 

士郎兄がまるで信じられないものを見たかのように絶句している。

 

「誠に遺憾ながら。あんな人格破綻者でも父です」

「なんでさ…」

 

「カレン・オルテンシア。聖堂教会所属。此度のカード回収任務のバックアップ兼、監視者です」

 

そんな士郎兄を尻目に、よどみなくバゼットさんが答える。

 

「保健の先生っていうのは嘘だったの!?」

「ウソというか…趣味?けがをした子供を間近で見るのが楽しくて」

「そうだ…カレン姉はこんな人だった…」

「私としてはいつの間にか魔術(こっち)にあなたが巻き込まれていたことの方が驚きなのだけど。———いや、いつの間に、というより最初から(・・・・)ね」

「!?」

「白野。それに貴方たち。表立って動くつもりはなかったのですけど、迷える子羊たちがあんまりに無様でかわいそうだったものだから助言を差し上げます」

 

ピシッ!と指を空に掲げ、月夜に浮かぶ船を指すカレン姉。

 

「道を見つけるプロセスなんて決まっています。——————観察し、思考し、行動なさい。貴女方にできることなんて、たったそれだけでしょう?」

 

「———”祈りなさい”じゃないの?教会の人間とは思えない言葉ね」

「信仰のない者に教えを説くほど疲れることはないわ。それに、これは教会の人間として以外に妹の友人たち(・・・・・・)に向けた言葉よ」

 

 

————。

 

 

「白野。なにを悩んでいるのか知らないけど、貴女がここまで信頼する人よ。多少は気を抜いて、頼ってもいいと思うわ?」

「カレン姉…?」

「姉は何でも知っている。この世の真理ね」

 

「……街に明かりがありません」

 

妙に心に響くカレン姉の言葉の真意を謀る前に、美遊が気付く。

 

「正解。周囲一キロ四方に人避けと誘眠の結界を張ってあるわ。…それが私の仕事の一つだから。———さあ、これで人目を気にする必要は無くなったわ。では次は?はい、そこの日焼け少女」

「日焼け違う!あからさまな誘導が癪に障るわね。まあ、簡単に言うとアイツをどうするかよ。何故かさっきから浮いているだけで結局何もしていないわよね」

 

「意思がある、とでも?」

 

現象に過ぎないはずの黒化英霊にそんなものが…?と慄く魔術師二人を置いて、士郎兄が口を開く。

 

「聖杯、白野」

「?それがどうし———まさか!?」

「ああ。アイツが鏡面界で最後に発した言葉だ」

 

バッ!と全員が私を振り返る。

その中でも特に、カレン姉の目はまるで私を試しているようで。

 

ーーーああ、そうか。

 

唐突に理解した。

カレン姉の視線には、糾弾するような意思はなかった。そこにあるのは気遣いと好奇心。

 

 

私が、みんなに打ち明けられるかどうか試していたんだ。

この友人たちが、困難な状況下において(いもうと)に並び立ち、共に支え合う仲間(友達)に足るかどうか。

私を通して確かめようとしている。

 

 

 

”姉は何でも知っている”

 

 

その言葉の通り、いつからか気付いていたんだろう。

私が少なからず魔術を知っていると。

 

魔は魔を喚ぶ。

真っ当な光の中で生活していようと、それは素質を持つというだけで周囲に影響を与えているらしい。

 

だからこそ、逆境を乗り越える友人が出来るか気を揉んでいたのか。

 

 

 

まったく、私の姉は二人とも不器用すぎる。

 

 

「———私は、あの敵を———王様を止めるわ」

「王…様…?」

「みんな、今まで黙っていてごめん。私ね…もともとこの世界の出身じゃないんだ」

 

全員の目が驚愕に染まる。だけどまだ半信半疑みたい。

中でも、美遊は様子がおかしい。それでも話はやめない。

 

「転生っていうのかな。ばらばらのパズルみたいに、覚えていることは限られているけど…私には前世の記憶がある。それも…ここより未来の」

 

だんだんと、疑いの目線が薄れていく。

 

「私は…4人の岸波白野の人生の欠片の結晶。異なる世界で、転生を果たすためにその魂のデータを統合された岸波白野。吹っ切れたと思っていたけど…話してみたらまだわだかまりがあったんだね」

 

空中で旋回する船の音だけがやけに響く。

 

「それでも、今は関係ない。私は岸波白野()だって胸を張って言える。———前世も、並行世界も知るもんか。ここに生きているのが!岸波白野()だ!!!」

 

ラルドから回路(パス)を繋ぐ。

王に対抗するには———王しかない。

 

 

 

並行世界限定接続(パラレルコネクト)完了———!』

「月の聖杯ムーンセルに、月の勝者岸波白野が告げる!」

 

 

轟ッ!と風が轟く。

 

 

「我が手に力を!彼の王の一端を!黄金の、王を!!」

 

 

 

夜空に浮かぶ月が、より一層輝きを増す。

 

私の魔力に反応したのか、はるか上空の王がこちらを見下ろす。

 

 

「月より来たりて、我が身に宿れ———!!」

 

こんな命令口調で怒られないだろうか。

…というか殺されそう。

 

 

 

夢幻召喚(インストール)!!」

 

 

 

 

 

 

魔力の繭が白野を包み、その姿を覆いつくす。

 

そして―――。

 

 

 

「サーヴァント、ギルガメッシュ。夢幻召喚(インストール)完了」

 

 

黄金の繭が解けると、そこには人類最古の英雄王の力の一端が顕現していた。

 

 

「———これが、私の権力(チカラ)。並行世界の未来における月の聖杯戦争で勝利した私の技術。この身に英霊を降ろす事が出来るわ」

 

誰も、声を発せない。

 

「———行くわ。王様を止める」

 

グググ、と力を溜める白野を俺たちはただ見送る事しか―――。

 

 

 

 

「ああもうッ!!!」

 

 

 

 

吹っ切れたかのように遠坂が叫ぶ。

 

「白野!!!後でたっぷり説明してもらうわよ!!」

「もちろん私にもですわ!!」

 

「「だから!」」

 

「ぶっ飛ばしてきなさい!」「絶対負けるんじゃないわよ!」

 

そして二人に続くように。

 

「ハクノ…かっこいいね!」

「私も戦う…!」

 

強い意志を見せる友達(イリヤと美遊)が。

 

「全く…ハクノも超級の爆弾じゃない」

 

仕方ないとばかりに剣をクルクルさせるクロが言う。

 

 

 

俺も、どこかで怖がっていた。

この世界からしたら異端者だということは自覚している。だから、みんなに受け入れてもらえないんじゃないかって。

 

でも、勇気を振り絞った白野を見て改める。

 

 

———この程度で揺らぐような信頼関係じゃない。

 

この世界は―――きっと、もっと確かなモノだって。

 

 

「行きなさい!交戦はできるだけ避けて、白野をメインで!」

 

遠坂の声に後押しされるように三人が飛び出す。

飛べない白野はイリヤに抱えられている。

 

 

 

そして、黒く染まった王は———。

 

 

 

 

 

白野を一瞥し、飛んでくるのを目視したのか円蔵山へと進路を向けた。

 

 

 

 




話が進まぬ…。

納得できない方もいるかと思いますが、作者的に白野が事情を話す、ということは物語において大きなポイントと捉えています。もちろんあんな説明で凛たちは納得していません。それでも受け入れ、送り出すのは信用しているから。
転生してからの積み重ねがあるからこそ自分の知っている岸波白野を信じ、多少の無茶を聞く感じです。心の贅肉ともいう。

ツヴァイは主人公が一歩踏み出す話のつもりです。


■■■

王の…(ゲートオブ)財宝(バビロン)!」
「そんな…どうしてここにあるの…!?」
「敵を———押し出す!!」

「あははは、こんなことってあるんだね。泥の僕とこの僕。ほとんどがあっち持ちってのが辛いね」
「王…さま…?」
「がはッ……。術式が起動しました———聖杯戦争が、始まります」
「全く。ここはどうしてこうも…いや。ここだからこそ、なのかな」


『8枚目のカード…その英霊です!!』


次回、31話 黄金の幼王。

泥が蠢く山の麓で、王と従者は邂逅する。



*内容は変更する恐れがあります。期待しすぎないでお待ちください。

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


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31話 黄金の幼王

遅れて申し訳ありません!!!!!!

家のWi-Fiルーターが壊れて、修理した後最新話の執筆データが亡くなっていたせいで執筆意欲が急転直下でマイナス方向に振り切っていました。ホントに申し訳ない。

エクステラのおかげで気力を補充しました。
ネロ可愛い。作者はまだ序盤なのでネタバレはやめてね…。考察楽しいー!


 

夜空を駆ける。

この身に王様の力を宿しているとはいえ、相手はその王様そのものだ。確実に勝てる保証はない。

 

「とりあえず、と」

 

王の財宝(ゲートオブ・バビロン)から天翔る王の御座(ヴィマーナ)を繰り出す。

 

———予想通りだ。

 

目の前にいるギルガメッシュは、8枚目のカードを媒介に座へとアクセスしているんだろう。それに対して私の夢幻召喚(インストール)はSE.RA.PHにある月の聖杯(ムーンセル)に記録された、データとしてのギルガメッシュをこの身にコピー&ペーストしている。もちろん細部は違うんだろうけど、私個人としての認識はそんな感じだ。

 

つまり、同じギルガメッシュという英雄の力を扱えるということ。

 

展開した天翔る王の御座(ヴィマーナ)に乗り、はるか前を飛行する英雄王を見る。

相手も同じ宝具。でも、向こうは悠々と飛行している。

 

だから、

 

「今のうちに追いつく!」

 

魔力を込める。

イメージを整え、一気に加速して距離を詰め————

 

 

 

 

「ゥェェェ―——!?!??」

 

 

———イメージとかけ離れた飛行に全身が悲鳴を上げる。

 

 

なんで!?

 

ヴィマーナは一瞬のうちに英雄王を追い越し、尚も加速し続ける。

 

「ぎ、グぅ…」

 

まさか。

物理保護の上からでも感じる圧倒的なGに耐えつつ、強制的に方向転換を試みる———と、そのままありえないような変態軌道を描き180度ターンする。

 

「ぅ、ぷ…」

 

 

 

———今ので分かった。

 

 

私にはこのヴィマーナ(モンスターマシン)は乗りこなせない。

肉体面にかかる負担もそうだけど、単純に運転技術が足りないんだ。

 

降って湧いた災難に、さらに疑問が出てくる。

 

「…もしかして、王の財宝(ゲートオブ・バビロン)も使いこなせないんじゃ…」

 

焦る私を尻目に、英雄王は近付いてくる。

同じ宝具を駆るからか、蔵へと続く門が無数に展開され私に狙いを付けてくる。

 

「く、っそおおお!!」

 

がむしゃらに展開できた門は6つ。相手が20を超える砲門を向けてるのに...!!

 

「■■■■━━」

 

放たれる数々の宝具の原典。その武具の一つ一つが確実に命を狙ってくる。

咄嗟に盾を取り出すも、お構い無しに放たれる攻撃に削られていく。

 

でも、生まれた隙で新しい宝具を取り出す!

 

天翔る黄金の羽靴(タラリア)———!」

 

オリンポス12神の一柱、ヘルメスが履いていたという黄金の羽をもつサンダル。それを装着した私は不格好ながらも安定した飛行をして盾を削り取った武具を回避する。

 

「■■■■—————!!!」

 

それでもまだ降り続ける弾幕。

幸い、相手の上空を飛行しているからか街への被害は0に抑えられている。

 

「はぁぁああ!!!」

 

王の財宝(ゲートオブ・バビロン)で無作為に刀剣を射出する。

持ち主のギルガメッシュとは違い、蔵の貯蔵物を把握していない私が出来ることは、剣、槍、盾など大雑把に引き出すことだけ。天翔る黄金の羽靴(タラリア)を取り出す事が出来たことすら偶然に等しい。

 

殺到する剣群を、さらに多くの剣弾が叩き伏せる。

相殺しきれなかった宝剣が私へと迫ってくる。

 

 

———王の財宝(ゲートオブ・バビロン)は蔵への門を開く宝具だ。

 

 

ふと脳裏に思い浮かんできたその言葉に、起死回生の一手を見出す。

 

右手を迫り来る宝剣へと翳し、王の財宝(ゲートオブ・バビロン)を開く。

そうして繋がった門へと、剣群は吸い込まれていく(・・・・・・)

 

「成功した!」

 

喜びをそのままに、続く剣へと再び手をかざし門を開く。

イメージとしては簡単なことだ。

 

飛来する剣群を、宝物庫へと戻す。

 

たったそれだけ。

それが、相手の宝物庫から私の宝物庫へと移動しているだけなのだ。

 

同じ英霊の力を持っているからこそできる裏技。十全にギルガメッシュの力を扱えない私だからこそ思いついた。

 

武具が打ち出され、宝物庫へと回収される。

返すように刀剣を射出しても、それを上回る数の弾幕に阻まれる。

 

いたちごっこ。八方ふさがり。

 

決定打を叩いこめないまま戦場はついに円蔵山の上空へとやって来た。

そうして———遂に。

 

 

 

均衡が破られた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

気付いたのは偶然だった。

黄金の波紋。王の財宝(ゲートオブ・バビロン)の特有の現象。

何度目かの攻防の末、わずかな隙を突こうと槍を放つ準備をする私の目の前で、その波紋から黒い泥が溢れだした。

 

「ハクノ———!!!」

 

 

不意打ち気味に波紋から零れ出た泥は滴り落ち———波紋のすぐ真下にいた私へと降り注いだ。

 

 

 

「———っ、———ッ!!!」

 

 

そこからは一瞬で。

崩れるように落下していく私のすぐ真下に開かれた王の財宝(相手の宝具)の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハクノ———!!」

 

空中に飛び出したハクノは、周りに被害が出ないようにうまく注意を引き付けながら戦っていた。

正直、あんな剣とか槍を何本も吸い込むなんて、あの英霊は何だろうって考える時間が出来るほど互角の闘い。時間稼ぎにはうってつけだった。

 

それがどうだ?

 

(イリヤ)が関われないような攻防の末、私の親友はあの黒い泥に呑まれて消えてしまった。

 

砲射(フォイア)!!」

 

思わず放った魔力砲も、

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

続けて放った刃も、まるで効果がない。

 

意にも介さないように、黒い英霊は進んでいく。

 

 

『イリヤさん落ち着いて!闇雲に攻撃しても———』

「イリヤ!このままじゃ貴女も標的になる!」

「そんなこと、気にしてられない!」

 

ルビーとミユが私の身を案じていてくれているのはわかる。

それでも———

 

「このままじゃ、ハクノが!!!」

 

 

 

 

そうして、おもむろに英霊()は空中に波紋を描き———

 

 

円蔵山へと宝具が降った。

 

 

 

 

 

爆音。

 

 

 

 

神代の神秘を秘めた一撃は、柳洞寺のある山の頂上付近をきれいさっぱり吹き飛ばし、

 

 

 

 

「なに…これ…」

 

その剝き出しになった大空洞の跡には、広大な魔法陣が描かれていた。

 

「そんな…どうして、どうしてここにあるの…!?」

 

ミユが何か言っているけど、その呟きは私にまで届かない。

なぜなら———

 

 

「フはハハ■は、■■ハ■ハハハ————!!!」

 

狂ったように響く笑い声にかき消されているからだ。

 

「魔法陣!?大空洞の地下にこんなものが…!」

『途方もなく巨大で複雑な術式です…!!というか、何か…この術式、見覚えがあるような…?』

 

ルビーの戸惑ったようなセリフを追及する暇もなく、魔法陣は起動する。

 

 

この間、ミユたちと地脈へと魔力を注ぎ込んだ起点から膨大な魔力が放出され、竜巻のように蜷局を巻く。それは敵の姿を簡単に包み隠すほど巨大だ。

 

———このままじゃ。

 

言いようのない不安が押し寄せる。

確証はない。ハクノが捕まったこと以上に、目の前の術式(・・・・・・)の起動に(・・・・)危機感を覚える(・・・・・・・)

 

「まずいよ…。何だかわかんないけど…!!」

 

体の赴くままに飛び出す。

 

「!!!イリヤ!」

「手伝ってミユ!アイツを魔法陣の外に出す!」

『だめですよイリヤさん!交戦は白野さんを中心にと言われたでしょう!?彼女が捕まった今、下手に刺激を与えて反撃でもされたら対処の仕様もありません!』

「わかってる!でも!」

 

きっと取り返しがつかなくなる!!!

 

斬撃(シュナイデン)!」

「最大出力———放射(シュート)!!」

 

二つの攻撃が魔力の竜巻へと衝突する。

 

「敵は!?」

「まだ渦の中に…!」

「でも渦が晴れた!これなら直接…!」

 

全開で飛び、ルビーを構える。

 

「敵を押し出す!!」

 

——早く!

 

速く。

 

———早く!!

 

(はや)く。

 

————早く!!!

 

この儀式(・・)を止めないと!!!

 

 

 

 

ガクンッ…と押す力が急に鈍くなる。

 

なに!?

これってまさかもう…間に———

 

 

 

————合わなかっ―——

 

 

「——た…は…?」

「あら?」

 

 

「うやあああああああ」

 

勢いのままに山の斜面へと転がり落ちる。

 

「イリヤ!何が…!?」

 

遠くでミユが叫んでいる声が聞こえる。

 

「い、イタタタ…。一体何が起こった…の…ん?」

 

なんだこれ。

手にやわらかいものが…。

 

「イッ…イリヤ…ソレ…ッ!」

 

駆けつけたミユが固まってる。

 

「へ?」

 

私の目の前には。

 

「いったー…。キミさあ、もうちょっと優しくしてくれないかなぁ?あ、その左手のことも含めてね」

「———■■■■■■!!!??」

「うわあ、ちょっとちょっと!いきなり魔力砲は酷くはない!?っていうかバーサーカーなのかな!?!?」

 

全裸の金髪美少年がいたのでした———。

 

 

 

 

 

 

 

「速度を合わせる必要もないでしょう。先に向かいます」

「私も行くわ」

 

バゼットとクロが先行する。

今私たちは円蔵山のふもとまで移動し、そこから徒歩でイリヤたちを追いかけている。この非常時に山道を走るために私とルヴィアの速度は遅すぎるらしい。歯噛みしながらも前へと進む。

 

 

 

数分前。

 

「かッ…!!」

 

山道の途中で唐突にカレンが崩れ落ちた。

 

「!?」

「なに!?」

「がはッ……。術式が起動しました———聖杯戦争が、始まります」

 

敵襲かと身構える私を手で制しながら彼女は告げる。

 

「聖杯戦争!?」

「その血は…!?」

「これは魔術(監視)の反動。気にしないでいいわ。私はただのカナリヤだから。それよりも…この術式。アインツベルンのものではないわ」

 

私たちに緊張が走る。

 

「疑問なのは、誰がどうやってアインツベルンの術式と今の術式を入れ替えたのか。———私の知っている情報を伝えておきます。私の仕事はあくまで監視。事実から真実を導き出すのは、あなたたちの仕事です。

———3か月前。大空洞のほぼ真上、直径約200メートルほどの円状の範囲内の木々が前触れなく消失しました」

「消失…?」

「ええ。そこだけ、ぽっかりと。そしてその同時期に冬木市にクラスカードが出現しました。ここからが重要なのですが…。私は大空洞を往来する人間を監視していました。聖杯戦争が再び起動するかの監視をも兼ねて。———そんなある日、入った人数と出てきた人数が合わない日があったのです」

「私の事ね」

 

クロがそう言うけど、カレンは首を横に振る。

 

「貴女の時も驚いたわ。4人入ったはずが、英霊とも人間ともつかない者が一人増えているんだもの。———でも違う。増えたのは貴女だけじゃない。入った人数は0。それなのに、一人大空洞から現れた。その人物は———」

 

 

 

 

 

 

「ルヴィア。あんた、気付いていたの?」

「———いいえ。ただ、覚悟はしていましたわ」

 

 

そこからは会話はなく、ただ走り続ける。

 

———白野、イリヤ、美遊。

 

ちゃんと無事でいてよね…!

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。とりあえずは落ち着いたかな?」

 

数分かけて落ち着きを取り戻した私たちに少年はそう言う。

…こ、この数分はすごく長く感じた…!

彼に服を着せるのに苦心したり、膨張する魔力の渦から三人で逃げたり…。

 

…今更ながら、よく私この子を助けたなー。

 

『いやー。しかしいったい何がどうやら。一体どういうことなんですコレ?』

「それこそ僕が聞きたいねー。僕だって突然のことで混乱しているんだから。———全くおかしいよ。あんな風に混ざってる(・・・・・)だなんて」

『混ざってる…?』

 

 

 

ドクン。

 

 

急に空間が拍動した気がした。

 

「おっと、時間切れかな?君たちの持っているカードだけじゃなく、残りのカードも近づいてきている。やっぱり引かれ合うものなのかな。ねえ、美遊ちゃん?」

「ミユ…?」

 

どうしてここでミユが…?

 

「あははは、こんなことってあるんだね。泥の僕とこの僕。ほとんどがあっち持ちってのが辛いね」

『まさか…そんな…‼!』

「ど、どうしたのルビー!?」

 

『この少年は…8枚目のカード…その英霊です!!』

「全く。ここはどうしてこうも…いや。ここだからこそ、なのかな」

 

 

紅い双眸でこちらを見据える金髪の少年は、否定することなく言葉を続けた。

 

「…まさか、記憶があるの(・・・・・・)?」

「僕はそこらの英霊とは違う。———ごめんね、僕の半身は聖杯がどうしても欲しいみたいだ。何せ君は…」

「それ以上口を———開くな!!」

 

感情のままに殴りかかるミユ。

どれは少年の前に現れた半透明の板に阻まれて———。

 

「まさかあの大空洞周辺の空間ごと移動するとは思ってもいなかったよ。そうだね…彼女(・・)を見つけたときのように胸が高鳴っているよ」

 

余裕の顔で王は告げる。

 

「眠ってばっかりの君が、随分とお転婆になったものだ。もしかして秘密だったのかな———?」

 

———並行世界のお姫様(・・・・・・・)、と。

 

 

 

「並行世界…?ミユも…?」

「隠し事を暴くのは趣味じゃないんだけど。彼女が明かして尚隠し続けるのはフェアじゃないからね」

「まさか白野のことも…!」

「美遊ちゃんとは事情が違うけどね。まあ、許してよ。運が悪かったと思って諦めてね。これが君の———運命(Fate)だと思って」

「そ、そんなの聞いてられない!ミユも、ハクノも返して!」

 

「心外だなあ。美遊ちゃんの事情はこの召喚(・・・・)にあたって知識を埋め込まれている。それに対して白野は———なんて言えばいいんだろう?あの泥にまみれた僕が、記憶と共に消えていきそうな理性が最後に見つけ、求めた女性(ヒト)だからね。細かいことは僕も知らないけど———仮にも()が求めていたんだ。わざわざ手放す道理はないだろう?」

 

後ろで未だに渦巻く魔力を指さして、黄金の波紋が空中に浮かぶ。

 

「さっきの僕も無茶したものだ。(ギルガメッシュ)の力を一端とはいえ扱っていた彼女を拘束するのに泥を使うなんて。破滅せし報復の凶刃(ダインスレフ)禱叶える死滅の破剣(ティルフィング)、その他、”呪い”と親和性の高い宝具に泥を浸み込ませ、宝物庫内を浸食する。矛盾するようだけど、白野が英雄王の一端を宿していないと3倍案件だよ」

 

そこから黄金の鎖に縛られたハクノが現れる。

 

「ハクノ!!」

 

夢幻召喚(インストール)が解除された状態のハクノ。

嫌でも不安が掻き立てられる。

 

「ん…ぅぅ…」

 

うめき声と共に、うっすらと目を開ける。

 

「王…さま…?」

「ハクノ…!よかった!」

 

心の底からほっとする。

あとはハクノを取り返して、ミユを守るだけだ!

2人がどんな重い過去を抱えていたって関係ない。だって…今、私たちは友達だもん!

 

「君の知る僕の記憶は僕にはないんだ、ごめんね。やっぱり、泥の汚染から白野を僕のデータが守っていたみたいだね」

 

ぐっと気合を入れなおす。

そうだ、まだ負けてなんかいな————

 

 

 

 

「さて、終わらそうか」

 

魔力の渦から巨大な黒い腕が飛び出し、がっちりとミユを掴み取った。

 

「ミユ!?!?」

 

ジャラララ、と鎖が蠢きエメラルドが投げつけられる。

 

「それは返すよ。彼女(白野)を起点に月に繋がればいろいろ思い出せるかもしれないし」

 

そのまま黒い魔力の奔流が彼を包み込む。

 

「待ってて、今助ける!」

 

でも、斬撃(シュナイデン)!と放った刃は黒い腕を覆うかのように現れた無数の盾に防がれ、続く散弾は魔力の波を貫けない。

そんな間に、竜巻が止み黒い巨人が現れる。

 

『これは…なんという…』

「こんなものが…英霊…!?」

「ああ。みにくいね。中途半端な受肉で(理性)を失ったからかな?回路(パス)を繋いでいるとはいえ、独立した2個体になっているわけだし」

 

鎖を手繰り、彼は宣言する。

 

「もう諦めなよ。白野(彼女)美遊(彼女)も。万能の願望器たる聖杯を降霊させる儀式———聖杯戦争。僕ら英霊をも利用しようとする迷惑な話だけど、生まれながらに完成された聖杯(美遊)がいるのなら話は単純だ。この戦争は止まらない。死にたくなければ、カードを置いて逃げなよ」

 

 

 

 

 

「諦められるか、ってんだ」

 

絶望が、死が、辺りを蹂躙する寸前にその声は聞こえた。

 

「やっぱり立ちふさがるんだね」

「もちろんだ———。誰もが幸せであって欲しいと。その感情は、きっと誰もが想う理想だ。だから諦めるなんてしない。ましてや、妹分に幸せであれって想うことも、理想と言われる俺の(想い)も、けっして―――――決して、間違いなんかじゃないんだから…!」

「大人の僕と違ってこの僕は寛容だ———それでも、あの僕(本能)と直接繋がっているからか感情に愚直なのかな?———贋作者(フェイカー)、どうしてもお前だけはこの英雄王()の癇に障るらしい!!!」

 

 

さっきまでの鏡面界での激闘。

その傷も汚れも気にしないまま、いつもの格好のお兄ちゃん(正義の味方)はそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 




緊縛はくのんVer.天の鎖(エルキドゥ)

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
不定期更新ですが、楽しんでいただけたら幸いです。



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32話 王の蹂躙

エクステラ、ポケモン、FF、7章…ゲームラッシュで執筆時間が足りない。

前回の投稿から今回までの一月でジャック、ランスロット(2枚目)、セイバーアルトリア、イシュ凛、キャスギル来ました。
———全部単発で。単発教最高。

年末までに7章終わらすぞー!


 

先に円蔵山へ向かっていてよかった。

遠目にも激しい戦闘が収まったかと思えば山の頂上付近が爆散し、強化した足で急ぐと白野が捕えられているのが見えた。

 

白野を縛る鎖は黄金の波紋から伸びていて、

 

———思い出せ

 

確かに宝具としての神秘を内包しているのが一目で見て取れた。

 

「もう諦めなよ。白野(彼女)美遊(彼女)も。万能の願望器たる聖杯を降霊させる儀式———聖杯戦争。僕ら英霊をも利用しようとする迷惑な話だけど、生まれながらに完成された聖杯(美遊)がいるのなら話は単純だ。この戦争は止まらない。死にたくなければ、カードを置いて逃げなよ」

 

そしてその王たる自信に満ちた発言が聞こえた途端、”情報”としてしか知らなかった知識(経験)が蘇る。

 

 

 

———お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、自分には負けられない!

 

———お前が倒せ。

 

それはアーチャーがどこかの世界で経験した聖杯戦争の記憶。

過去の自分を消すことで守護者となった自分の存在を消すために戦った、一人の男の記憶。

 

同時にこれ以上なく思い知る。

 

あの英雄王(英霊)は衛宮士郎と相容れない存在だということに。

 

だからこそ。

 

「諦められるか、ってんだ」

 

明確に言い放つ。

 

「やっぱり立ちふさがるんだね」

「もちろんだ———。誰もが幸せであって欲しいと。その感情は、きっと誰もが想う理想だ。だから諦めるなんてしない。ましてや、妹分に幸せであれって想うことも、理想と言われる俺の(想い)も、けっして―――――決して、間違いなんかじゃないんだから…!」

 

 

それは、正義の味方を目指した衛宮士郎の根幹。

壊れたブリキ人形だった俺が抱いた、たった一つの理想の果て。借りものだろうが何だろうが、至った自分が保持していたモノ。

 

きっと、今の俺の想いとは違うんだろう。

2度死んだ俺の理想(願い)。あの世界でイリヤ(姉さん)に助けられた俺が持った一つの願い。

 

 

 

家族の幸せ。

 

 

 

単純だろう。笑うなら笑え。

でもこれが———

 

 

———俺の本物(・・)の想いだ。

 

 

 

「大人の僕と違ってこの僕は寛容だ———それでも、あの僕(本能)と直接繋がっているからか感情に愚直なのかな?———贋作者(フェイカー)、どうしてもお前だけはこの英雄王()の癇に障るらしい!!!」

 

 

背後に広がる20余りの波紋。

そこから放たれるのは英雄が所持する宝具の原典!

 

投影(トレース)完了(オン)!」

 

即座に視線を走らせ、宝具を視る。

そしてそのまま解析した宝具を即座に投影し射出する。

 

空中で贋作と真作が激突し、爆発と共に四散する。

 

「ハ———贋作で僕の財宝を相殺しますか!まったくもって度し難い!」

「言っていろ英雄王———!」

 

続く第二射、第三射も同じように相殺する。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

宝具の撃ち合いの中、突然イリヤが魔力砲を放つ。

 

「イリヤ!?」

「君まで混ざるのかい?」

 

「当たり前でしょ!友達を見捨てて逃げるなんてできない!」

 

そのままイリヤは宙を駆けギルガメッシュへと接近する。

 

「く———投影(トレース)完了(オン)!」

 

咄嗟に、イリヤに迫る剣弾を剣で射る。そうやって援護をしたからかイリヤはギルガメッシュへとたどり着き、

 

限定展開(インクルード)!!射殺す百頭(ナインライブス)!!!」

 

クラスカードを使って岩の斧剣を召還し振り下ろす!

 

大英雄と名高いヘラクレス。

そんな彼が振るった巨大な斧剣は確かに幼い英雄王の頭を狙っていたが、

 

劣化品(レプリカ)じゃ原典(オリジナル)には勝てないよ」

 

幼い姿とはいえ、そんな一撃で死ぬ者が世界最古の英雄王であるはずがない。

 

真・射殺す百頭(ナインライブス)!!!」

 

原典のソレは巨大な黄金の弓だった。

いやそれはすでに弓と呼べる代物ではない。人間が一人で放てるサイズじゃないソレはバリスタと呼ぶにふさわしい威容を誇っていた。

 

バリスタに番えられた矢も相応に大きく、大槍と呼べるモノ。

 

「なっ」

 

放たれた大槍は彼の伝承を再現したかのように9つへと分裂する。

 

「イリ———」

 

投影は間に合わない。

4つの矢がレプリカを砕き、ルビーとカードが分離する。

そして残りの5つの矢は———

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

レプリカを砕くわずかな隙にイリヤを守る様に広がった4枚の花弁を食い散らし、そのままイリヤを貫いた。

 

「————、」

 

脳が冷える。

世界から温度が消える。

 

大きく弾む心臓の音だけが熱く体を駆け巡る。

 

「逃げていればよかったのに。そうすればこんなふうに無駄に命を散らすなんて…」

 

過程をすっ飛ばす。

確実にアイツを殺せる武器を。剣に拘る必要はない。

 

必要なのは、必中不可避の即死の武器———。

 

 

投影(トレース)完了(オン)!!!」

 

剣でないそれは消費する魔力が増える。

だけどそんなこと知ったことか。

 

ミシリ、と左手から異音が響く。

 

「———偽・刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

贋作ながらも、その宝具は折り紙付き。

心臓を貫いた、という結果をかけていさせてから放つ因果逆転の呪いの槍。

 

「———四角連なる叫びの警鐘(オハン)。この盾はその魔槍と出典を同じくするケルトの盾だ。曰く持ち主の危機を察知し知らせるという。———同郷の呪いの朱槍。その発動前に(・・・・)感知して(・・・・)知らせる(・・・・)。心臓に当たってから放たれる因果を覆すなんて容易いことだ」

 

 

呪いの朱槍は、泥から現れた4つの角を持つ黄金の盾に防がれる。

 

「———ア、」

 

漏れ出た音は何の音か。

意識しないまま吐き出された空気を自覚するとともに、

 

「あ、ぐあああああああああ!」

 

槍を投擲した左腕が内部から裂ける(・・・・・・・)

内から爆ぜた傷からは血が滴り落ち、

 

 

 

 

ミチミチ、ギシギシ

 

 

 

 

傷口から無数の剣がひしめき合っているのが見て取れた。

 

「うぐ、あ」

 

思わず左腕を抑えて蹲る。

高ぶり、暴走寸前だった魔力の手綱を必死に握る。

 

「ふうん…」

 

此方を見下ろす英雄王に慢心の様子は見えない。脂汗を堪えながら蹲る俺から目を逸らさない。

 

だからだろう(・・・・・・)

 

ギルガメッシュがそれに気づかなかったのは。

 

 

 

視線の先、二つに分かたれたイリヤの体が霞んで消える。

そしてそこから現れたのは暗殺者(アサシン)のクラスカードとサファイア。

 

つまり(・・・)

 

「ルビー!」

『あいあいさー!』

 

イリヤは俺に向かって英雄王の意識が逸れたわずかな隙に再びルビーを掴み転身する。

 

そしてそのままギルガメッシュの眼前へと躍り出て

 

砲射(フォイア)!!!」

 

ゼロ距離で砲撃をぶち当てる!!!

 

 

 

 

 

 

 

「…驚いた」

 

 

 

 

爆発によって舞い上がった煙の奥。

 

「まさか泥なんかに助けられるとは」

 

晴れた煙の向こうに幼王の姿はあった。

黒い泥が体表を覆い、かつての英雄王の鎧のように装飾されている。

 

本能(向こう)の僕が所持していた鎧をわざわざ着せるなんて、独立した個体同士だというのに、まるで僕が核になっているみたいじゃないか」

 

「…ミユとハクノはどこ?」

僕たち(・・・)の中さ。ちょうど中心部あたりかな?ちゃんと生きているよ。…でも気を付けて。キミはここで死ぬかもしれない」

 

地を這う泥から次々と剣や槍の穂先が生えてくる。

 

「く———」

「うまく避けてね」

『イリヤさん!?』

 

届かない。

必死に暴走を抑え込んでいる俺じゃ、一手届かない。

 

今度こそイリヤが死んでしまう。

 

 

そうして打ち出される宝具を———投影で弾きながら、クロがイリヤを救出した。

 

「「クロ!!」」

「バッカじゃないの!?こんなやつを前にあんな距離を保つなんて!!っていうかこいつ何なのよ!?」

「攻撃方法から見て、おそらく8枚目のカードでしょう」

 

クロだけではない。

 

「バゼットさん!!」

 

頼もしい援軍がやって来た。

 

 

 

 

 

 

「あの中にミユと白野が…!?」

 

走り、宝具の掃射を避けつつ状況を説明する。

 

「まさかミユまで並行世界関連だなんて…」

 

…俺も、とか言い出せる空気じゃないよなぁ。

 

「どうりであの翁が首を突っ込んでくるわけだ」

「でもどうするのよ!助けるにしても、こんなの近付くことすら…」

 

「…相手の戦力を分断する方法はある」

「お兄ちゃん?」

「どういうことですか衛宮士郎」

 

三人の視線が集中する。

 

ギルガメッシュ(アイツ)の言葉を信じるなら、あれは本能と理性の二つに分断されているらしい。そのうえで、あの無限にも思える宝具の大部分は本能側———デカブツの方が所有している。理性(小さい方)回路(パス)を繋ぐことで扱う分には問題ないようにしているというか…手綱を握っているようなもんだとおもう」

 

「つまり、理性と本能の回路(パス)を分断すれば、少なくとも本能の方は理性的な宝具の掃射(・・・・・・・・・)を行う事が出来なくなる、と」

 

その通り、と首肯する。

 

「問題点があるとしたら…どれだけの宝具を所有しているのかがわからない以上、無差別な掃射をされる可能性があるってことね」

「ま、待って!でもそれじゃ、分断された片方を倒す間にもう片方が暴れるんじゃ…!それにアレ(・・)を倒せるとは…」

 

ちらり、と円蔵山の山頂付近へと目を遣る。

 

大きく肥大化したヒトガタの泥人形。その頭部らしき部位に足場を作り、黒く染まった黄金の鎧を纏う幼い英雄王。黒の浸食は鎧だけに納まっていて、足元の泥人形とは陰で接続されているのが見て取れる。

 

宙に黄金の波紋はもう浮かんでいない。

広がる泥の地平から産み落とされた剣山が次々と撃ち出されていく。

 

「…最初の質問の戻るようですが、どうやって接近するのです?」

 

具体的な案を考え込む。

 

 

 

 

 

「なかなか当たらないな。それなら、もっと大雑把にいこうか」

 

そんな最中に泥の巨人が持ち上げたのは、巨人の身の丈ほどもある大剣。

視ただけでわかる。あれは投影できない。

 

星が、神が生み出した絶対の神秘。

 

「さすがにもう避けてとは言えないな」

『薙ぎ払いが来ます!イリヤさん上空に…!』

「バゼット!私たちは一度下がるわよ!」

「くっ…!」

 

 

「2人とも、こんな気持ちだったのかな」

「…イリヤ!?」

 

突然止まったイリヤに声をかける。

 

「バーサーカーとの闘い。私が逃げていた間、ミユもハクノも逃げずに戦ってたんだよね。到底かないっこない敵と」

 

どうしてなのかな。

 

消えそうなその呟きを耳にする。

 

 

————。

 

 

 

『美遊様も白野様も、イリヤ様が友達だから…と』

 

 

 

ぐ、と体に力を籠める。

 

 

 

 

———現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。自信が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。

 

 

 

ああ、その通りだ。

神造兵器は投影できない。

 

 

それがどうした(・・・・・・・)

 

 

「何をしてるのイリヤ!早く逃げるわよ!?」

「しかし逃げ場など…!」

 

木々をなぎ倒しながら、大剣が迫り来る。

 

「関係ない私を巻き込んでごめん、って。私にだけ聞こえるように捕まる寸前にミユは言ったんだ」

 

山の表面を削るような一撃。

 

「逃げられるはずがない。私、しなくちゃいけないことができた。二人を…絶対取り戻す!そして、ミユをひっぱたく!」

 

「はぁ!?」

 

 

「じゃあ、まずはあの攻撃を防がなきゃだな」

 

神造兵器を防げない?逃げ場はない?

理解していたはずだ。俺の魔術回路が何に特化していたのか。

 

それでも。

 

「勘違いしていた。俺の剣製ってのは剣を作ることじゃない、自分の心を形にすることだったんだ」

 

一歩、みんなを守る様に前へ踏み出す。

 

「「お兄ちゃん!?!?」」

 

突然のことに驚く皆を他所に、問いかける。

 

「エメラルド。———力を貸してくれ」

 

そう、それは決して難しい筈はない。不可能な事でもない。もとよりこの身は、ただそれだけに特化した魔術回路なのだから。

 

『いいんだね、士郎さん』

 

そう言って飛来してきたエメラルドを右手で掴む。そしてそのまま左肩、弓兵(アイツ)の記憶で見た、別の俺が遠坂の魔術刻印を移植していた場所へと押し当てる。

 

 

 

 

———途端に、膨大な魔力が体を巡る。

 

27本の魔術回路を全力で使う。

エメラルド自身の機能で身体能力の強化は行われているから、反動や暴走による怪我も強引に治癒させる。

 

溢れだす魔力が紫電を走らせ、左腕を緑の魔術回路が駆け巡る。

 

 

 

「———投影(トレース)完了(オン)

 

 

地を這うように展開した剣群(弾丸)を同時に射出。

その勢いで迫り来る千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を頭上へとはじき出す!

 

 

 

「———贋作者(フェイカー)。まだ噛み付くか。それほど贋作(玩具)が好きなら———真作(本物)を以って蹂躙しようじゃないか」

「———贋作が本物に劣ると誰が決めた」

「なに?」

 

「往くぞ、英雄王。————武器の貯蔵は充分か?」

 

 

そして、世界が赤く燃える。

 

 

 

 

 




怒涛の原作名言ラッシュ。


誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


書く時間が、足りない。


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33話 剣の世界、夢の続き

ありがとうFGO。

コアトルと分かり合ったうえで熱いシナリオに燃えた七章。
素材柱の討伐、それぞれの柱のシナリオ、最終決戦…
美しく、切なく、ただただ満たされたラストでした。

ほんとありがとう。第二部楽しみにしています。


あ、エルキドゥ2枚当たりました。




 

魔術回路に火を灯す。

 

言の葉に魔力(想い)を乗せて、世界へと出力する。

 

 

「——————体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

 

 

血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood)

 

 

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades)

 

 

 

幾度もの運命を超え(At the end of the world no one knows)

 

 

 

幾度もの終焉を知る(Nor fate arrives here)

 

 

 

彼らの両の手から零れた雫は(Scoop the drop which fell up and scrape)

 

 

 

この器を以って受け止めよう(I'll stop by this my life)

 

 

 

なぜならきっと(Because surely)

 

 

 

この体は無限の剣で出来ているのだから(My fate is "unlimited blade works")———!!」

 

 

 

詠唱と同時に炎の波が唸りを上げる。

それはまるで海原を駆ける大波の様で、燃えるがままに現実を浸食する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———空は高く、風は謳う。

 

それは、衛宮士郎(俺たち)が見た夢の景色。

 

 

 

透き通るような青空と、地平の彼方に佇む錆び付いた物言わぬ歯車。

 

薄く緑が覆う大地には、無数の剣が墓標のようにその存在感を示している。

 

一陣の風が世界を薙ぎ、揺れる緑は湖面を彷彿とさせる。

 

 

 

英霊エミヤの腕(様々なエミヤの経験)正義の味方を諦めた(前世の)俺、そして再び手に入れたかけがえのない家族や友人の存在は、確実に俺の心を変革していた。

 

 

 

「改めて問おう、英雄王。この大地に突き刺さる無数の剣。これらは全て偽物、おまえの言う取るに足らない存在だ。だがな、偽物が本物にかなわないなんて道理はない!———往くぞ英雄王、武器の貯蔵は充分か!?」

「ほざいたな雑種!!」

 

俺の意思1つで飛来したロングソードを掴み大地を駆ける。

いつの間にか、エメラルドの姿はない。代わりに、黒のボディアーマーと赤の外套の姿になっていた。

 

この固有結界を展開した時、全員の場所を操作した。相対する黄金の幼王と俺。泥の巨人はそのパスこそ切れなかったけど、距離を離すことに成功していた。

 

「衛宮くん!?」

 

固有結界の有効範囲内へとたどり着いていた遠坂とルヴィアはイリヤたちと合流させている。これできっと、有効な作戦を立てて戦うはずだ。

 

 

英雄王が飛ばしてくる宝具の原典と全く同じ(贋作)を剣の丘から引き抜き、相殺する。

 

爆炎が広がるも、さらに後ろから飛来した宝具にかき消される。今度は相殺せずに、回避に徹する。

 

「はああああ!!」

 

ロングソードで斬りかかる。

しかし、英雄王も余裕をもって取り出した剣を振るい迎撃してくる。

宝具と名もない刀剣。その接触は当たり前のようにロングソードが断ち切られて終わる。

そのまま返す刃で狙ってくる剣を、咄嗟に投影した干将莫邪で迎撃する。

 

「やっぱり干将莫邪(これ)が一番対応できる、か!」

 

少し距離を取り、独り言ちる。

お互い弓兵のクラスだ。この距離は決して安心できる距離ではない。どれでも、英霊相手の接近戦よりかはマシに思えた。

 

「…結界内に保持している剣なら、タイムラグなしで呼び寄せられるのか。宝物庫から取り出す手間がかかる僕より手順が少ない分、先手を取り続ける…厄介だね」

 

英雄王がその眼でこちらの戦力を分析してくる。

 

———厄介だ。

 

慢心していた方がよっぽどやりやすい。

試すかのように再度撃ち出される剣群を相殺しながら考える。

乖離剣を取り出される前に接近を試みるが、泥の巨人からも降り注ぐ武具の対処に追われる。

 

「お兄ちゃん!こっちは任せて!」

 

何度か繰り返すうちに作戦を立てたのか、イリヤとクロが巨人の相手をし始めた。

 

激しい戦闘が続く。

 

「確かに、世界そのものが敵だとさすがにすべてを相手にするのは、ね。なればこそ。一息に焼き尽くそう!!!」

 

一際大きく門が開く。

 

乖離剣を出すのかと思ったら違う。

あれは———さっきの神造兵器と対を成す剣。古代メソポタミアで崇められ、神格を得た一振り!!

 

万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)!!」

 

歪な形の、灼炎を宿した大剣が現れる。

 

「大サービスだ。千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)!!」

 

そして、さっき打ち払った大剣も姿を現した。

 

「う、おおおおおお!!!」

 

神造兵器と相対するにふさわしい刀剣はこの世界にはない。

なら、この世界すべて(衛宮士郎のすべて)を以って代えさせてもらう!

 

世界中の剣が集結する。

名剣、宝剣、業物、神剣、魔剣、妖刀、鋭刃、鈍、斧剣、名刀。

 

全ての剣が束ねられ、一斉に殺到する。

そしてそのまま、二つの神造兵器と打ち合う!!!!

 

剣が灼かれ、地が抉れる。

だが、この打ち合いは拮抗している!!!

 

「今よ!!」

 

そして、このタイミングを狙ったかのように遠坂達が動き出した。

 

「——————、」

 

一息で懐に潜り込んだバゼット。その身に着けているスーツやグローブにはルヴィアと遠坂二人掛かりでの強化が施されていて、もともとバケモノ染みていた身体能力をさらに強化していた。恐らく、強化された身体能力と感覚の齟齬をなくすために思考加速の魔術も使っているんだろう。

 

一瞬のうちに放たれた神速の拳。

 

正確に見切れてはいないが、少なくとも5発は放たれたそれは英雄王の体を撃ち据えた。

 

「ぐ、ぁっ」

 

初めて見て取れたダメージ。

だけど無理せずバゼットは下がる。途端、今いた場所を宝具の雨が降り注ぐ。

 

「ダメージは与えました。ですが、これ以上は警戒されているでしょう」

「上出来!そのまま私たちの護衛お願い!行くわよルヴィア!」

「ええ!Zeichen———!」

 

遠坂達が宝石を投げ魔力を装填する。

対魔力を持っている英雄王を狙うのではない。

放たれた魔力は、幼王の後ろでイリヤとクロが抑えていた泥の巨人と英雄王を繋ぐ()へと突き刺さった!

 

「■■■、■———!!」

回路(パス)が———!?」

 

撃ち込まれた魔力により、少なからず魔力回路に乱れが生まれる。

 

全員で生み出したこの隙を見逃すわけにはいかない!!!

 

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!!!」

 

 

魔術殺しの短剣。

契約を破壊する、裏切りの魔女の宝具は確かに英雄王と泥の繋がりを切断した。

 

 

 

英雄王が手綱を握っていたそれが解放され、溢れだした泥から際限なく宝具が撃ち出される。

そして———

 

「まさか、こんな結末になるとはね」

 

パスが切れたおかげで万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)が出力負けして、その猛威を潜り抜けた1本の剣が幼王に突き立っていた。

 

「選定の剣に貫かれるとは。僕も焼きが回って来たかなあ」

 

そう言って英雄王は自らの半身が放った宝具の雨に呑まれて消えていった。

 

 

 

 

「■■■■———!!」

 

声にならない咆哮をあげ、残ったバケモノが武具の雨を降らす。

 

同じ剣群で相殺しようにも、神造兵器の迎撃にこの世界の刀剣はほぼすべて使い切ってしまっていた。再び固有結界を展開するか、投影しない限り剣は取り出せない。

 

投影ではすべての対処はできないとわかりつつも、わずかでも生存の可能性を上げるために剣を創り出す。

 

「「投影(トレース)開始(オン)!」」

 

その声は重なり、俺とクロの投影で迫り来る剣群を相殺しきれた。

 

「クロ!」

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

「なんとか———!?」

 

突然魔力が切れ世界が崩壊する。

そして元の世界に戻ると同時に俺の姿もいつもの格好に戻り、

 

『ごめん!時間切れだ!』

 

赤の外套がエメラルドに変わった。

 

「時間切れ?」

『うん。完全なリンクが出来ていなかった状態での固有結界の維持はここが限界だ』

「そうか…いや、それでも助かった。ギルガメッシュを撃退できたんだから」

「そうは言っても、まだあのデカブツが残っているわよ?どうするの?」

 

 

「——————大丈夫だ」

 

見上げたその先。

満月を背景に、ルビーで転身した状態でサファイアを手にするイリヤの姿が見えた。

 

 

 

 

爆発的な魔力が空中に拡散し、まるで翼のように広がる。

赤と青のその姿。

 

カレイドライナーの真骨頂。

ツヴァイフォームと呼ばれる、ステッキたちの真の力。

 

「はああああああ!!!」

 

ステッキの先に創り出された魔力刃が、宝具の盾を切り裂く。

放たれた魔力弾は迫り来る剣群を爆散させる。

 

 

「う…」

 

「クロ?大丈夫か…?」

 

周りにバゼットたちが集まってくるがクロの様子がおかしい。

 

「うん。…あの子、無茶しちゃって…!」

 

「まさか!」

 

ルヴィアが思い至ったように声を荒げる。

 

「あの魔力の奔流は明らかに人一人で使える魔力量を超えてます!いくらステッキから無限の魔力を供給できても、何らかの代償を払わないとあの魔力行使は不可能———!」

「その通りよ。たぶん、この感じだと筋系、神経系、リンパ系、血管系辺りを魔術回路として誤認させて大出力を支えているわ。———たぶん長くはもたない」

「なっ!?イリヤ…!」

「でもそれは相手も同じだ。あれだけ派手に魔力を使えば、枯渇するのも時間の問題だろう」

 

 

 

「■きの■だ———!!!」

 

唐突に、幼王の声が響き渡る。

ハッとして見ると、泥の巨人のその腹部。上半身だけ残った英雄王がそこに在った。霊基が損傷しているからか、泥の浸食を防ぎきれておらず、その眼には狂気が見え隠れしている。

 

「世■■裂くは■■乖■■———!!」

 

そして泥の巨人が手にしていたのは原初の鍵。

世界を拓き、原初の理を成した権能。

 

3つに連なる円筒はそれぞれ逆回転をして、渦巻く空気の断層が世界を軋ませる。

 

 

「ルビー!サファイア!全部使って!!」

 

イリヤも負けじと声を荒げる。

 

「これが私のすべて———!!!」

 

魔力が高まり、極大の一撃が撃ち出される!!!

 

 

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!!」

多元重奏飽和砲撃(クウィンテットフォイア)!!!!」

 

 

溢れんばかりの魔力の奔流と世界を裂く空気の断層が衝突する。

 

視界が白く染まる。

 

 

 

 

 

 

———!

 

 

 

——————!!

 

 

 

—————————!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼を、開く。

 

 

爆心地となったそこは大きなクレーターが広がり、ギルガメッシュの様子は確認できない。

 

 

 

———ああ、安心した。

 

それでも確認できたものがある。

 

溢れんばかりの魔力が粒子となり、天へと昇る。

月夜のその幻想的な雰囲気の中、三人の少女がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ツヴァイ、あと一話。

年内ラスト更新です。今年もお世話になりました。
気付けばこの作品も1年。ここまで続いたのも皆様のおかげです。
亀更新な拙作ですが、今後ともよろしくお願いします。

オリジナル詠唱、英語の部分はフィーリングです。細かい文法とか気にしないで…(切実

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。


ちょっと補足というか詠唱の補填?
英語部分は意訳して日本語部分と合わせてこんなつもりです。
(幾度の戦場を超え不敗、の次から)
様々な世界の終わりを知り、幾度もの運命を超え
運命はここに至り、幾度もの終焉を知る

彼らの両の手からこぼす雫を、掬い上げてかき集めて
この体で受け入れて、この器を以って受け止めよう

なぜならきっと、私の運命と
この体は無限の剣で出来ているのだから

こんなつもりです。
賛否両論あるかと思いますが、拙作の士郎はこの詠唱です。ご理解ください。また、作中で全ての剣を使い切った、とありますが、固有結界展開時に内蔵していた剣が無くなったということです。結界内でも新たに投影するには魔力が必要ですし、内包していた剣は神造兵器と衝突した際に壊れています。贋作を用いて神造兵器と撃ち合ったので。


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34話 物語の続き

あけましておめでとうございます(遅い

一月はすみませんでした。レポートやら課題やらテストやらピックアップやらで時間が取れず…お月見と宝物庫AP半減とバレンタイン脳死周回とほんと時間ばっかりかかって…

福袋?山の翁?巌窟王?ばれんたいん?
晩鐘は私の財布を指し示しているようだ…

そんなわけで2017年初更新です。
短めです。ごめんなさい。

あ、遂に初のガチャ☆4の宝具が5になりました。メディアリリィめ…イアソンはどこじゃ…
アンメアも4まで来たし、騎金時の立場がやばい


 

「イリヤ!!!」

 

みんなが、イリヤの元へと走る。

私たち三人はお互いに視線を交わし、噛みしめるかのように歩を進める。

 

「ミユ。ハクノ…」

 

三人で、無言で見つめ合う。

魔力の残滓が、黄金の塵のように舞い散る。

 

「…泣いてるとこ、初めて見た」

「「え…?」」

 

思わず、美遊と顔を見合わせる。

 

美遊の目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

 

「ハクノも、ほんとに無事でよかった…。並行世界だとか、なんだって関係ない。二人とも私の友達なんだから…もっと頼ってよ…」

「イリヤ…」

 

私にも向けられたその言葉。

重く、温かい友達の言葉。

 

『美遊様!!ひどいです!私を置いていくなんて…!』

「サファイア…うん、ごめんね」

 

「はぅ…」

 

転身を解いたイリヤが崩れ落ちる。

 

「イリヤ!?大丈夫…?」

「えへへ…平気。ちょっとめまいがしただけ」

「ならいいんだけど…」

「うん。クロも、ごめんね?」

「…ふん」

 

「白野…大丈夫だった?」

「美遊が言う?お互いみんなに迷惑かけたね」

 

「ほんとに!もう!」

 

凛姉まで我慢ならないとばかりに叫んできた。

 

「白野!あんたが何か抱え込んでいたなんて、私もルヴィアも知っていたのよ!?あんたが話してくれるまで待とうって思ったけど、こんなタイミングで暴露することないじゃない!」

「あー、はは…」

 

返す言葉もない。

 

「しかも美遊も白野も二人そろって並行世界!?あーもう!宝石翁の思惑のまんまじゃない!」

「しかも、エメラルドを限定的に使ったってことは、シェロもですわよね…?」

「そうよ!衛宮くん!?説明しなさい!!」

 

うがーと吼える凛姉。

 

「ミユ。ハクノ。私ね、わかってたんだ」

 

なだめる士郎兄を尻目にイリヤが話しだす。

 

「2人が何か大きな秘密を抱えているって。ミユは付き合いが短かったし、ハクノに至ってはクラスカード回収まで魔術を知っているなんて思いもしなかった。魔術に関わっていく中で、ハクノたちが何か抱えてるって気付いても、わかっていたのに踏み込めなかったんだ。その秘密に触れちゃったら…もう元の関係に戻れない気がして…」

「そんなこと!私だって、こっちでも魔術に関わるなんて思いもしなかった!まさか、イリヤが関わるなんて、ましてや美遊みたいに同じような状況の人に出会うだなんて!」

「私も…!自分の事しか考えていなかった!イリヤたちを巻き込みたくなかった!だって…だって…!」

「…さっきハクノにも言ったけどね。二人とも私の友達だから、友達が苦しんでるなら…もうほっとかない!覚悟しててよね!!」

「「うん…うん…!!」」

 

自分の目に涙が浮かぶのがわかる。視界が滲む。

 

『あらー?絶対ひっぱたくんじゃなかったんですかー?』

「あはは…そのつもりだったんだけど、こんな二人の顔見ちゃったらできないや」

 

私も、ちゃんと説明しよう。

並行世界で生き抜いた、岸波白野(彼ら)の人生を。戦い抜いたその一生を。

 

もう迷いはない。

だって、彼女たちは受け入れてくれるという確信があったから。

 

ここから、もう一度やり直そう。

岸波白野(わたし)の人生を。

 

「ほら、帰ろう?私たちの家に———!」

 

イリヤが両手を出してくる。

バーサーカーのクラスカードを回収した時みたいに、美遊と二人でその手を取ろうとする。

 

いつの間にか、士郎兄たちは喧嘩を止めてこっちをほほえましそうに見ていた。

士郎兄のことも聞かなきゃね。

 

そうして、激戦を終えてようやく日常に帰ろうとする私たちを

 

 

 

 

 

 

”割れた空が覆いつくした”

 

 

 

 

 

 

「なっ…何が…ッ!?」

 

空が裂け、割れた欠片から紫電が降り注ぎ全員の動きが阻害される。

 

「みん…な…!」

 

轟く雷で耳が鳴る。

周囲の状況が確認できない。

 

夢幻召喚(インストール)

 

そんな中でも、やけに耳に付く声が聞こえた。

 

降り注ぐ雷が止み、明滅する視界で動く影。

その肢体を、踏まれたカード(・・・・・・・)から魔力が奔り転身する。

 

「なんなのよ…こいつら…!」

 

「はン!ようやく見つかったと思ったら、何だかおまけがウジャウジャいるんですけどー?」

「捨て置け。今は最優先対象のみを回収する」

 

ようやく見えるようになったその姿。

一人は巨大な鎚を持ち、全身を包帯のような帯で装飾した少女。

もう一人は言うまでもない。英雄王を夢幻召喚(インストール)した白野と同じような姿をした女性がいた。

 

「お迎えに上がりました美遊様」

「嫌…!戻りたく…ない…ッ!」

 

まさかとは思ったけど、この人たち…!

 

「…そんな口を利けるとは。ですが、バカンスはもう終わりです」

 

美遊が捕らえられる。

視界の端で、バゼットが特攻しようとしているのが見える。

 

だが。

 

「揺り戻しだ」

 

空の亀裂がさらに大きく広がり———いや。

世界が割れた(・・・・・・)

 

鏡面界のような隙間が広がったかと思うと、さらにそれを覆いつくすかのように世界が白に染まる。

 

「真っ白に…!?」

「なにも見えな…」

「ハクノ…ミユ…!!」

 

そして、全身の感覚が遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————interlude3—1—————

 

カツン、カツンと靴音だけが鳴り響く。

暦の上では夏のはずなのに、外は一面の雪景色。

数年前には異常だったこの事態にも慣れてしまった。

 

「首尾はどうだ?」

「うーん…どうだろ」

「自信満々、とはいかなさそうだな」

「当たり前だ。俺は元々こんな柄じゃない。たまたま縁あって、ここに居るんだから」

「…そうだったな。土壇場でこそ輝くのが君だったな」

「勘違いするなよ?彼はともかく俺自身はそこまで大層な人間じゃない。お前こそ、世界を救うのはお手の物じゃないのか?」

「フ。君こそ勘違いは止めたまえ。俺にできることなんざたかが知れてる。精々、徒労に終わることを願うよ」

 

礼装の手入れをしながらの応酬。

会話を交わす二人の男の間には緊張はなく、それなりに親密な空気があった。

 

「で、だ。彼はその…どうだった?」

「覚悟を決めていたよ。さすが、死に損なっただけのことはある。他の死者の人格を置換しただけの自動人形(オートマタ)とは文字通り違ったよ」

「そうか…よかった。彼が健在で俺がいるなら、使える手も増える」

 

暖炉にくべてある薪が崩れる。

 

「行くぞ」

 

窓から覗くどんよりとした雪雲———いや、冬木の(ソラ)を見て呟いた。

 

「揺り戻しがきた。———エインズワースに反撃の時だ。聖杯を、獲るぞ」

 

 

 

男の手には、一つの指輪が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしておいてこのクオリティーに泣ける。

ドライは、めちゃくちゃオリジナルです。
やりたい展開全部盛り込もうとしたら、友人に収集つかんぞと止められました。

それでも!選んで盛り込みます。
だって、自分が見たいシーン書きたいよネ!

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。
本年も、拙作をよろしくお願いします。


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