あの約束を (厨二王子)
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プロローグ

すみません、なんかミスしました。
今回久しぶりに、メジャーを見て書きたくなりました。ストックが少したまってるので、暫く毎日更新をします。では、どうぞ!


「今日は試合で遅くなるから、冷蔵庫に入ってる出来たもの食べてくれ」

 

「……はいよ」

 

「たく、相変わらず子供らしくないな」

 

「悪かったな、子供らしくなくて」

 

 親父は俺に一言告げると、大きな荷物を持って仕事先へと向かった。俺は今日は休日なので、保育園はない。

 俺の親父は口は悪いが、あれでもプロ野球選手だ。たまにテレビで活躍を見るが、一応有名な選手だと思う……。

 

 俺に母親はいない。親父の話だと、俺が産まれてから暫くして、交通事故で亡くなったらしい。だから、普段はお爺ちゃんが来て、面倒を見てくれている……今日は来ないけど。

 

 でも、母親の顔は普通見た覚えなんてないはずだが、俺は何回か、うっすらだけど見たことがある。

 

  突然だが、なんか俺は転生者っぽい。ぽいってのは、別に二次創作みたいに死ぬ時に神様が特典くれるとかなかったし。

 前世の記憶もいろいろ最近になって思い出してきたが、何故か自分名前だけが思い出せない。ちなみに俺は前世ではオタクで、ちょっと女好きな大学生だった。最後の記憶はナンパに失敗して、車が突っ込んできたとこまで残っている。

 

 まぁ、そういうことで母親の顔も少しだが、見た覚えがあるということだ。

 

 もちろん親父には転生のことを伝えていない。なので多分親父は俺のことを、幼稚園児の癖に少し大人ぶっている、ひきこもりだと思っていることだろう。はっ、ビバ引きこもり。何度も親父からキャッチボールに誘われたが、その都度適当な理由をつけて引きこもった。いや…面倒くさいし。

 

 自分がある程度行動できるようになると、俺はこの世界のことを調べ始めた。すると、分かったことが、いくつかある。

 まず、この世界は前の世界とそんな変わらないということ。ただ何故か、そこまで詳しくないが、野球選手や球団の名前だけ微妙に違ったのは驚いた。

 そして二つ目が重要なのだが、今年が1992年で科学技術が全然発達してないということだ。未だポケベルやファミコンとか信じられない……。何よりそのことがショックだった。

 

 それと保育園の様子だが、こんな精神年齢が大人な俺が馴染めるはずもなく、孤高のボッチを貫いてる。ただ保育園は昼寝できるから最高だ。

 

「暇だな……。テレビでも見るか」

 

 俺は暇になったので、テレビをつけようとリモコンを探す。いつも、親父がどこかにしまってしまうので、探すのに苦労している。

 

「ないな……おっ、エロ本見っけ。しかし、普通もっと奥にしまっとくだろ……」

 

 リモコンを探していると親父のエロ本を見つける。今は幼稚園児だが、心は大学生だ。気にならないわけがない。俺はエロ本を少し覗くと、もとの位置に戻し、再びリモコンを探す。

 

「あった、あった」

 

 本棚の下を覗き、やっとテレビのリモコンを見つけると、テレビの電源をつけた。

 

『ブルーオーシャンズ対東京ウォリアーズ、九回の裏、2対0。東京ウォリアーズの攻撃をブルーオーシャンズが見事守り抜くことに成功』

 

 やっていたのは昨日の試合だ。ちなみに、親父はブルーオーシャンズにピッチャーとして所属している。まぁ、今のブルーオーシャンズのピッチャーと言えば、あの人だけど……。

 

『今回はこの男……本田選手が見事にさよならホームランを打ち、ブルーオーシャンズを勝利に導きました』

 

「すごいな……。それに引き換え、うちの親父は……」

 

 今日はあんまテンション高くなかったので、今夜の試合は出ることはないだろう。親父はなんかちょっと調子が乗っている感じがして、あまり好きではない。

 

「やっぱり暇。夜まで寝るか」

 

 俺の名前は茂野亮太。最近本田選手と共に活躍していて、プロ野球選手である茂野英毅の息子であり、転生者である。



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幼少期編
1話 誕生日


「亮太!今日は球場に連れてってやる」

 

「なんだよ、突然?」

 

「いいから、今夜行くから準備しとけよ」

 

「えー」

 

「じゃなきゃ、今日夕飯抜きだからな」

 

「……」

 

 夕飯を抜きだと……今日はやけに本気だな。俺は珍しく親父が強引に連れてこうとしているのを見て驚く。

 

「なんか知らんないけど、分かったよ」

 

「そうか。楽しみにしてろよ」

 

 親父は俺に一言告げると、楽しそうにどこかへ出て行った。親父のあのはしゃぎよう、何か忘れてるような……まぁ、いいか。

 

 俺は特に気にすることなく、テレビをつけた。

 

 

 

 

 

 時間が過ぎて、夜になると親父が帰って来た。

 

「亮太、準備出来たか?」

 

「できてるよ……」

 

「じゃあ、車に乗ってくれ」

 

 俺は親父に言われると、リュックを背負い家……アパートの一室から出て、下に止めてあった車に乗った。

 

「乗ったな……それじゃあ、出発だ!」

 

「おー」

 

 俺は親父のハイテンションに合わせる。

 

 ……面倒くさい。

 

 普通の幼稚園児のピュアな心ならこの状況でも平気だろうが、俺は生憎そんな心はとうの昔に置いていってしまった。俺が心の中で溜息を吐いていると、親父が運転しながら、俺に話しかけてきた。

 

「どうだ最近、保育園は?」

 

「ぼちぼちかな」

 

「なんだよ、ぼちぼちって。まぁ、保育園の先生から特に問題起こしてないようだしな、大丈夫か」

 

「ああ」

 

「ていうか、いい加減に友達作れ」

 

「やだ」

 

「そういうところは頑固だな、お前……」

 

 親父は呆れているが、努力はしてる……少し。しかし、出来るとは言ってない。

 

「野球をすれば、友達なんて直ぐできるぞ」

 

「いや普通に考えて、逆だろ」

 

 親父は地味に野球を勧誘してくる。どんだけ、息子に野球をやらせたいんだよ。野球は親父と、一回だけキャッチボールをしたきりだ。こんな感じで親父と会話をしていると、目的地であるブルーオーシャンズのスタジアムに着いた。テレビで見た通りである。

 

「ここで何するの?」

 

「来れば分かる」

 

 親父は俺の手を取って、スタジアムの中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 スタジアムの中へ入り、進んでいくと、眩い光が見えくる。そしてその光の先へ進んでいくと、いつもテレビで見ていた光景が広がっていた。白いベースに、試合が始まれば埋まるであろう客席、そして大きなバックスクリーン……そういえば、前世でも球場には来たことがなかったな、地味に感動した。

 

「ここで、何するんだよ。キャッチボール?」

 

「それもあるが……バックスクリーンに注目しておけよ」

 

「バックスクリーン?」

 

 俺は親父の言う通りに、点数板に注目する……すると。

 

「……あっ」

 

 バックスクリーンが光だし、″亮太誕生日おめでとう″の文字が描かれていた。

 

「誕生日おめでとう、亮太。どうだすごいだろ」

 

「……」

 

「はっはっは、驚いて声もでないか」

 

 確かに驚いて声が出ないよ。ただ驚いてるのはここまでのことするのかというところだけど。

 

 まぁ、でも……。

 

「ありがとう」

 

 俺は笑顔でお礼を言った。思えばこんなことを言ったのは、この世界に転生して初めてかもしれない。

 

「仕事が忙しくてお前の誕生日も、まともに祝ってやれなかったからな。五歳の誕生日になっちまったが、喜んでくれたなら良かったよ」

 

 親父は俺からお礼を言われ、喜んで笑っている。余程俺からお礼が聞けて、嬉しいんだろ。

 

 この後少しの間、久しぶりのキャッチボールを親父と共に楽しんだ。

 

「どうやら、上手くいったようだな」

 

「おお、サンキューな本田」

 

 突然、後ろから声が聞こえてくる。俺はそのよく聞いたことのある声に振り向いた。

 

「上の人たちの説得は、俺の後ということもあって、意外と上手くいったよ」

 

「ああ、本当に助かったぜ」

 

「なに、俺の時も協力してくれたからな、問題ないさ」

 

 その人物は最近テレビに出てきているブルーオーシャンズのバッター。

 

「あっ、よくテレビに出てるブルーオーシャンズのバッター」

 

 思わず声を出してしまう。

 

「おっ、よく分かったね。本田茂治だ、よろしく」

 

「茂野亮太です。親父がお世話になってます」

 

「おい、ちょっと待て……」

 

「はははっ、 良く出来てるね」

 

 俺の礼儀正しい挨拶に親父が突っ込み、本田さんは笑っている。

 

「唯一野球に興味を持ってくれないのが、欠点だ」

 

「たく、子供に趣味押し付けるなよな」

 

「そうだそうだ!」

 

「コイツら……」

 

 俺は本田さんの言葉に便乗して、親父を責める。

 

「まぁ、いいか。亮太腹減っただろ?飯食いにいくか」

 

「腹減った……」

 

「片付けは任せておけ。こちらがやっておく」

 

「悪いな」

 

「だから、大丈夫だって。……あっ、そうだ」

 

 本田さんが、突然何かを思い出したような声を出す。

 

「亮太くん、俺にも君と同じ年の子がいるんだ。今度ぜひ会って、仲良くしてくれると助かる」

 

「いいよ」

 

「ありがとう」

 

 俺は本田さんの頼みに返事をすると、親父とともにスタジアムをあとにした。

 

 これが俺と本田さんの最初で最後の出会いだった。

 

 そしてこの数ヵ月後、本田さんは東京ウォリアーズとの試合中、メジャーからやってきたジョーギブソンの球が頭に当たり、命を落とした。




今回の話は、五郎くんの誕生日の流れみたいな感じです。


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2話 まさかの出会い

お爺さんはオリキャラです。
では、どうぞ!


 父のチームメイトであり、友人であった本田さんが亡くなってから、親父は少し変わった。

 

「親父、明日は家にいるの?」

 

「わりい、明日も練習なんだよ」

 

「ふーん、体壊さないでね」

 

「……大丈夫だ」

 

 親父は一言俺に告げると、仕事へ向かう。親父は前から家に帰って来るのは少なかったが、本田さんが亡くなってからはさらに少くなった。恐らく本田さんがいなくなって、空いた穴を埋めようとがんばってるのだろう。今日はお爺ちゃんが保育園に向かえに来る予定だ。

 それと、親父がどう思ってるのか知らないが、俺は本田さんの件は事故だと思ってる。まぁ、スポーツで死人がでるなんて少ないわけじゃないしな。

 俺は一人考えながら、保育園に行く準備をする。鍵は親父から預かってるので、戸締まりを確認し、鍵を閉めて、アパートから保育園へ向かった。

 

 

 

 

 

「はーい。今日は皆で絵を描きましょうね」

 

「……」

 

 絵ね……何を描こうか。俺は考えると、今の時間と関係ないが、本田さんがデッドボールを受けた瞬間を思い出す。実際、あの試合はテレビで見ていた。しかし、本田さんには俺と同じくらいの息子がいたと言っていた。トラウマを抱いたり、恨んでなきゃいいんだが……いや、無理な話だな。俺も同じ立場なら、例え事故だと分かっていても同じ事を思うだろう。

 

「亮太くん」

 

「……」

 

 俺が考えることでもないし、まぁいいか。

 

「亮太くん!」

 

「……えっ、なんか呼んだ」

 

「えっ、じゃないですよ。なんですかボーッとして、体調でも悪いんですか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そう……なら、早く絵を描きなさい」

 

「はい……」

 

 俺は先生に言われ、絵を描こうとクレヨンを持つ。まぁ、野球のグローブでも描くか。

 

 俺はやれやれとばかりに、絵を描き始める。その時、何故か先生に睨まれたような気がした。というか可笑しいんだよ、普通は保育園の先生って若くて可愛いお姉さんの筈なのに、ここの教室の先生はおばさん。しかも、三年間ずっと一緒とか…何故だ。

 こうして、退屈な保育園の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 俺は保育園で待っていると、見覚えのある人物がこちらに来るのが見えた。

 

「おお、お爺ちゃんが向かえに来たぞ」

 

「お爺ちゃん!」

 

 俺のお爺ちゃんである……茂野友蔵だ。

 

「じゃあ、帰るか」

 

「うん」

 

 俺はお爺ちゃんと手を繋ぎ、帰り道を歩き始める。

 

「全く、英毅のやつ…孫の向かえにも来ないとは……けしからん!」

 

「ははは……」

 

 お爺ちゃんはさっきから、親父に対する愚痴を俺に向かって言ってくる。というか、幼稚園児に愚痴って…どーよ?

 そんな時、公園になんか外人っぽい顔の男が見えた。隣には七三分けをしている男の人がいる。んっ?あの人って、まさか…。

 

「ごめん、お爺ちゃん。忘れ物したから取りに戻るね」

 

「そうかそうか、なら速く家に帰ってくるのじゃぞ」

 

「はーい」

 

 今ままで迷惑をかけて来なかった俺への信用力を使い、お爺ちゃんと別れる。俺はその後、あの男がいる公園へと向かって走って行った。

 

 

 

 

 

 俺はその男に気づかれないように、後ろに回り、カバンにしまってあった落書き帳を持って言った。

 

「もしかして、ジョーギブソンさんですよね、メジャーリーガーの。サインください」

 

  そこにはテレビで最近活躍中であり、そして事故という形でも、本田さんの命を奪った男……ジョーギブソンがいた。

 

 俺が一言告げると、ギブソンはベンチに座りなが、こちらに振り向き、笑顔で落書き帳を受け取とる。隣にいた男の人……見た感じ、通訳の人だろう。その人は一応通訳している。

 

 ギブソンはやっぱりメジャーリーガーだけあって、いい体つきをしている。というかでかい。後、風格が違う。これが、メジャーリーガーか……。

 

『君の名前は?』

 

 ギブソンが英語で喋った後、通訳の人が訳してくれる。というか、前世で英語勉強したから、名前を聞く質問くらい分かるんだが……。

 

「亮太だよ」

 

 俺は子供っぽく、自分の名前を答える。するとギブソンは落書き手帳にサインを書き始めた。というか、サイン貰うなら色紙が良かったな。

 俺はギブソンを見る。確かニュースでギブソンは罪を償うために、これから日本で野球を続けるらしい。うーん、見た感じ、やっぱり悪い奴じゃなさそうなんだが……。俺はギブソンがどんな人物か、実際に見て確かめると、昔からお爺ちゃんが言っていたことを思い出し、聞いてみることにした。

 

『野球好きに悪い奴はいない』

 

 お爺ちゃんが毎日言っていた言葉だ。

 

 俺がその質問をすると、ギブソンと通訳の人は目を丸くして驚く。だが、ギブソンは笑顔でその答えを言う。俺はその一言に、ギブソンの野球への思いを感じた。俺はその答えに満足し、ギブソンたちに別れを告げ、家へ帰る。

 

 野球か……今度やってみようかな。

 

 

 

 

 

「不思議な少年でしたね」

 

『……』

 

 あの少年……いや、亮太だったか。最後の質問には、いろいろ驚いた。私はあの亮太の質問を思い出す。彼は最後、英語で質問してきた。

 

『あなたは野球が好きですか?』

 

 あの質問は本当に短い質問のはずなのに、私にはとても大きな意味を感じ、私は笑顔で答えた。

 

『ああ、もちろんだ』と。

 

 ふっ、また彼とはどこかで会えるような、そんな気がする。

  私は彼が去っていった方向を暫く見つめていた。

 



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3話 初めての友達

はい、この作品での重要人物の一人登場です。
では、どうぞ!


 ギブソンとの出会いから時が過ぎ、俺は小学一年生になった。親父も時間とともに落ち着き、今では過度な練習をすることは少なくなったと思う。でも、ブルーオーシャンズで試合に出る機会が増えたから、結局忙しいのは変わらず、あまり家には帰って来ない。

 それよりも、俺が小学生になったことにより、前よりも自由に行動できるようになったのだ。保育園の時はお爺ちゃんが向かえに来ないと外に出れなかったからな。今や夕飯の買い物も俺がやったりしている。

 

 ……さて、そろそろ学校に行くか。

 

 俺は誰もいないアパートの一室を確認して、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 先生の話通りなら、今日から授業が始まるらしい。はっきり言って、面倒くさい。前世の記憶がある俺にとっては、いちいち小学生の授業を聞く必要なんてないしな。後、どうやら俺はまたしても小学校生活もボッチになりそうである。やったね、ボッチ最高。

 今は昼休みになり、昼飯を食った俺は机にうつ伏せになり、寝ようとしていた。昼飯は親父が作ってくれた弁当だ。お爺ちゃんがあんまり来なくなったことで、親父は朝に弁当と夕飯を作って仕事へ行くようになった。

 俺は一番後の窓際の席なので、日差しが眩しい。俺はカーテンを閉めようと、席から立ち上がる。外を見ると、子供達が楽しそうに外で、いろいろなことをして遊んでいた。しかし、意外なことにこの学校で、野球をしている人はあまり見たことがない。てっきり俺は野球がブームなのかと思ったので、少し驚いた。

 カーテンを閉めた俺は、再び睡眠に入ろうと席に座り、机にうつ伏せになる。でも、そこで前の席から、大きな話し声が聞こえた。

 

 ……ほう。俺の睡眠を妨害するとは、ずいぶん生意気な小学生もいたもんだ。

 

 俺はちょっとイライラした様子で、顔を上げる。話に聞き耳をよく立てると、″お前の父さん人殺しだ″、なんて聞こえた。なに、そのお前の母さんでべそ的なあれは。しかし、人殺しとは物騒な言葉を出すなー。

 どうやら三人が一人に対して、集中的に悪口を言っているようだ。もう、誰から見ても分かるように、明らかないじめである。いじめられてる奴は金髪の男子で外人かな。別に、暴力を受けているわけじゃないし、俺は正義の味方でもないのでスルーしようとしたが、その三人が次に出した言葉を聞いて、思わず強く立ち上がった。

 

 ″人殺しの野球選手″

 

 俺はこの三人が言っている野球選手というのが、ギブソンだってことが分かった。ということは、いじめを受けている子は、話的にギブソンの息子なんだろう。あの人に息子がいたのか……。

 そしてついに、いじめっこの三人が悪口以外の行動に出る。消しかすをギブソンの息子に投げた。ガキか!……ああ、小学生だったな。

 思わず、変なことを思ってしまったが、それだけでは終わらなかった。投げた消しかすの何個がギブソンの息子に当たらず、俺の頭に当たったのだ。

 この瞬間、俺は大人気なくぶちキレた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと君たち……少しいいかな?」

 

「ああ?なんだよお前」

 

「俺たちの邪魔するなよ」

 

「そうだ、そうだ!」

 

 やばい……見れば見るほど典型的ないじめっこだな。

 

「いやね、君たちの投げた消しかすが、俺にも当たったんだよね」

 

「だから何?」

 

 ……うぜぇ。

 

 俺のイライラがさらに溜まっていく。

 

「いや、悪いことしたら、何かやらなくちゃいけない事があると思うんだ?」

 

「はぁ?」

 

「そんなの、ないよ」

 

「どっか行けよ」

 

 この三人のセリフを聞いた瞬間、俺はいじめっこのリーダーであろう男子の耳元にあることを呪詛のように呟いた。それを聞いた男子は顔色が青くなり、他の二人を連れてどこかへ行ってしまった。小学生ちょろ。まぁ、ちょっと悪いことしたらどうなるか、教えて上げただけだ。

 俺は放心している金髪の男子に声を掛ける。

 

「大丈夫?」

 

「うっ、うん……」

 

 金髪の男子はなにか戸惑いながら、俺の質問に答える。

 

「あの三人多分、これからも来ないから安心していいよ」

 

「何で助けてくれたの?」

 

「別に俺にも消しかすが、とんできたから動いたまでさ。運がよかったな」

 

「そう……」

 

 俺の一言を聞いた金髪の男子は、暗い表情をする。俺はその表情を気にせず、話を進める。

 

「後、俺が知ってる選手をバカにされたのが、許せなかっただけだ」

 

「もしかして、お父さんのこと?」

 

 金髪の男子がその一言を言ってきた時の目は、少なくとも好きという感情を抱いている人の目ではなかった。俺にはその目に憎しみを感じた。

 

「ああ、ジョーギブソンのことな」

 

「……」

 

 これは何があったかは知らないが、相当恨んでるな。見た感じ、まだ思ってることを表に出さないから、分かりにくいが。

 

「そんな怖い顔すんなよ」

 

「別にしてないよ」

 

「そうかい。あっ、お前の名前は?」

 

「……ジョーギブソンジュニア」

 

「なるほど。じゃあ、ジュニアって呼ぶわ。俺は茂野亮太、気軽に亮太って呼んでくれ」

 

「……」

 

 おうおう。絶対心の中で、馴れ馴れしい奴だって思ってるよこいつ。

 

「その様子じゃ、家で家族に構ってもらってないんだろ。俺も親父がプロ野球選手で、家に親父がなかなか帰ってこないから、似たようなもんだな」

 

「うちには母さんや妹がいない……」

 

「そうか、なら尚更だな。俺には母親がいない。というか、顔を見たことがない」

 

「ごめん……」

 

「なに、謝ってんだよ。別に気にしないよ」

 

「……」

 

 やばい、これ言わなきゃ良かったかな。この場に何か暗い雰囲気が広がる。

 

「仕方ながないな。この俺が日本での初めての友達になってやるよ」

 

「……」

 

「こらこら。そんな友達要らないなんて目するな」

 

 俺はそんなジュニアのことを無視して、手を差し出す。

 

「何、その手?」

 

「握手だよ。知らないのか」

 

「……」

 

 ジュニアは無言で、俺の手を取って握手をした。

 

「これから、よろしくな。ジュニア」

 

「……よろしく」

 

「さっそく、まだ昼休みもあるし。何かして遊ぼうぜ」

 

「何するの?」

 

「うーん、どうするか……」

 

 俺が何をするか考えていると、ふと教室にあるボール入れに入っていた、小さなボールが目にとまる。

 

 ……よし、やってみるか野球。

 

「なぁ、キャッチボールでもやってみないか」

 

 この出来事が俺とジュニアとの出会いであり、俺が野球を始める切っ掛けでもあった。



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4話 キャッチボール

タグを追加しました。何かつけた方がいいと思ったタグとかありましたら、構わず報告してくれると有り難いです。それと字下げしました。
では、どうぞ!


「そういえば、ジュニアはギブソンが嫌いなのか?」

 

「何でそう思うの?」

 

「なんとなく」

 

 俺とジュニアは教室で話した後、校庭でキャッチボールをしていた。しかし、グローブがないので、柔らかい小さなボールを近距離で投げ合っている。

 因みに俺は両利きだ。前世では右利きだったけど、折角だからとこの世界では左手も使ってみることにした。箸は右手、字を書くときは左手みたいな感じで。ボールも最初は左手で投げていたのだが、なんか変な回転が掛かって、取りにくいらしいので、今は右手で投げていた。

 

「……」

 

「何かあったのか?まぁ、別に無理に聞く気はないけどよ。友達なんだし、話したら少しは楽になるかもしれないぜ」

 

「……父さんのせいで家族がバラバラになった」

 

「……なるほど」

 

 家族がバラバラ……ね、離婚でもしたのかな。間違いなく、あの事故が一枚絡んでいるんだろうけど。まぁ、詳しい理由は分からないが……。

 

「それで嫌いなのか。そして、そんな父が許せないと」

 

「……」

 

「ならさあ……ギブソンが得意な野球で倒してみたら?」

 

「えっ……」

 

 ジュニアが俺の言った言葉に驚いた。

 

「まぁ、今のは例えばだけど。そのくらいの意気込みがないと、お前ずっと今のままだぞ」

 

「……」

 

 ジュニアが難しい顔で考える。しかし、野球で倒すねー、俺もよくそんな言葉が出たよな。まぁ、俺はプロ野球選手なんてならないけど。なれる奴なんて凄い少ないんだし、大変だからな。面倒くさがりやな俺には、不向きだ。

 やがて、暫く投げ合っているとジュニアがなにやら決意した顔になる。どうやら、答えが出たようだ。

 

「決めたよ。メジャーリーガーになって、父さんを倒す」

 

「そうか……まぁ、頑張れよ」

 

 俺はジュニアの答えを聞く。まぁ、こいつだったら、ギブソンの息子なんだし、センスもあるから、メジャーリーガーになれるだろう。

 

 この後は普通に投げ合って時間は過ぎ、昼休みは終わった。

 

 

 

 

 

「ジューニーア、一緒に帰ろうぜ」

 

「……」

 

「だから、そんなゴミを見るような目で見るなよ」

 

「はぁ、分かったよ」

 

 今日の一通りの授業が終わり、放課後になった。俺は帰りのホームルームが終わると、真っ先にジュニアのもとに向かう。いやー、友達いるっていいね。

 

「ジュニアって、この後も暇?」

 

「特にやることないけど……」

 

「じゃあさ、グローブを付けて、キャッチボールしようぜ」

 

 俺は元気よく、ジュニアを誘った。

 

「どこで?」

 

「俺の家の近くの公園で、グローブは俺の家のやつが二つあったと思うから」

 

「分かった……」

 

 俺はジュニアの返事を聞くと、ジュニアの手を取り、とりあえず俺の住んでいるアパートへ向かった。

 

 

 

 

 

 アパートへ帰ると相変わらず誰もいない。俺は親父が俺がいつでも野球を始めてもいいように用意していたグローブとボールを持って、外で待っているジュニアのもとへ向かい、近くの公園に向かった。アパートの近くの公園はそれなりに広くて、野球の試合ができるくらいはある。実はここ以外に、もっと施設が豊富なここより大きい公園があって皆がそこに行っているからなのか、この公園には人が少ない。

 公園に着くと、俺とジュニアは軽く肩を動かしす。すると、ジュニアが話し掛けてきた。

 

「いいの、これ使って?」

 

「いいんだよ、グローブの一つや二つ。それより速く始めようぜ」

 

 俺はジュニアに一言告げると、手に持っていたボールをジュニアのグローブに向かって投げる。距離が学校の時とは違いそれなりに離れているので、ボールがそれる。

 

「あっ……」

 

「どこに、投げてるの」

 

「わりぃ、わりぃ」

 

 届くことはできたが、コントロールは難しい。俺はジュニアに軽く謝り、ジュニアは後ろにいったボールを取りに行く。

 

「じゃあ、今度は僕が投げるよ」

 

「こい!」

 

「えい」

 

 ジュニアが投げたボールは俺の時とは違い、しっかりと俺のグローブのところへ向かう。

 俺はそのボールをキャッチした。

 

「すごいな。一発でこのコントロール」

 

「そうかな」

 

「だが、俺のコントロールはその上をいく!」

 

 俺が自信満々で投げると、そのボールは前に投げた時とは違い、しっかりとジュニアのグローブの中へ収まった。

 

「そのうち、また乱れるよ」

 

「ありえないね」

 

 俺はジュニアの言葉を否定し、ジュニアが投げたボールを、またキャッチする。

 

「そういえば、あまり気にしなかったけど、日本語話せるんだな」

 

「それなりに、日本にいるからね」

 

「ふーん」

 

 結局、俺たちは日が沈むまでキャッチボールを続けた。

 

 

 

 

 

 夕方にジュニアと別れてアパートに帰ると、珍しく親父が帰って来ていた。

 

「あれ、今日は帰り速いね」

 

「ああ、今日の会合が速く終わってな。お前こそ珍しく夕方まで……んっ、それグローブか」

 

「そうだよ。あっ、もう一つの友達に貸しちゃった」

 

「全然大丈夫だぞ。それにしても、お前に友達が出来て、野球を始める日が来るとは……感動だな」

 

「うるさい、大きなお世話だ」

 

 親父はよほど嬉しかったのか、感動して涙を流す。……そこまでなのか。

 

「……よし。それじゃあ、いっそのことプロ野球選手になるか」

 

「いや、ならないよ」

 

 俺は基本的に面倒くさがり屋だし、あきっぽいから無理だな。 後、ジュニアがギブソンの息子だということは、一応隠すことにしておいた。まぁ、知っても問題ないと思うけど。

 その後、俺と親父は久し振りに楽しく話し、夜親父のエロ本を見て、一日が終わった。



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5話 変な友達

今回はジュニア視点です。


 今日は休日で昼頃、いつもキャッチボールをしている亮太の家の近くの公園に来ていた。

 

「よーし、今日はバッティングやろうぜ」

 

「相変わらず、元気だね……」

 

「おうよ」

 

 今日も僕の唯一の友達は元気に叫んでいる。あの元気は一体どこから来ているのか。昨日、雨で遊べなかったから、余計に元気である。

 亮太には見たところ僕以外に友達はいなさそうだ。じゃあ、僕と一緒に遊んでいる以外の日は何をしているのか、気になったので聞いてみることにした。

 

「亮太は僕と遊んでいる日以外は、何をしているの」

 

「……そうだな、ゲームとか古すぎてやってないからな。美少女ウォッチングとかかな」

 

「……」

 

 最後のは聞かなかったことにして、ゲームが古いって……何年前のゲームをやっていたんだろうか。

 

「そんなことはいいんだよ。最初は俺が投げるから、ジュニアが打ってくれ」

 

「僕が最初でいいの?」

 

「いいんだよ、ギブソンのボールを打つんだろ。だったら、たくさんバット振らないと」

 

「……そうだね」

 

 こんな変な友達だが、とても優しい性格をしていると思う。いじめているのをわざわざ助けたり、気を遣うところとか。

 

「でも、それ大人用のバットだと思うよ」

 

「やべ、間違えた。直ぐに変えてくるわ」

 

 ただちょっと、抜けてるところがある。亮太は走って、アパートの方へ戻って行った。

 

 

 

 

 

「さて、気を取り直してバッティングやるか」

 

「フォームとかいいの?」

 

「テレビに出てくる選手の動きを大々覚えてるし、大丈夫だろ」

 

 僕は亮太の言葉を聞くと、とりあえずバットを持ち構える。亮太はピッチャーをやってるつもりなのか、大きく振りかぶり右手で……投げた。投げられたボールはなんと、僕の顔近く数センチを通り、後ろの木に当たる……って。

 

「危ないな!」

 

「わりぃ、わりぃ。本当に、なかなかコントロール出来ないな」

 

「しっかり、投げてよ」

 

「分かってるって」

 

 僕は溜め息を吐き、再びバットを構える。そして、結局亮太のボールがちょうどいいところに入るようになったのは、一時間後のことだった。

 

 

 

 

「じゃあ、次俺がバッターな」

 

「僕全然打ってないんだけど……」

 

「まぁ、気にするな」

 

「だから、ゆっくりでいいって言ったのに……」

 

 僕が文句を言ってると、当の本人は聞いているのか、聞いてないのか、バットで素振りを始めている。プロ野球選手の動きを思い出しながらやっているからなのか、少しぎこちなく感じた。

 

「んじゃ、こい!」

 

「はいはい……」

 

 僕は元気いい亮太のセリフを聞き、とりあえずコントロール意識しながら、右手で投げてみる。狙いはど真ん中。投げたボールは狙い通り、真ん中にいく。……だが、亮太のフルスイングは見事にボールを捉え、甲高い音とともに僕の後の上空へとんでいった。

 

「よっしゃ!」

 

「嘘……」

 

 僕はコントロールを意識したとはいえ、それなりに自信があったボールを打たれ、ショックを受ける。そして、とんでいったボールは止まることをいざ知らず、公園の近くの家の花瓶に直撃した。

 

「「あっ……」」

 

 思わず僕と亮太の声が重なる。

 

「……どうする?」

 

「いや、普通に謝ろうよ……」

 

「仕方ないか」

 

 僕たち二人はこの後、花瓶を割ってしまった家に行き、そこに住んでいる人へ謝りに行った。出てきた人物は優しいお婆さんで、僕たちは丁寧に謝る。すると、お婆さんは笑顔で僕たちにボールを返し、許してくれた。

 

 

 

 

 

「いやー、怖いおじさんじゃなくて良かったぜ」

 

「反省してるの?」

 

「してる、してる」

 

 ……絶対にしてないな。

 

 僕が一人確信していると、僕たちは公園へと戻って来た。すると、亮太がバットを僕に渡してくる。

 

「俺は打てたし、次ジュニアがバッターでいいよ」

 

 僕はこの言葉を聞き、少しイラッとする。

 

「いや、三振するまで投げる」

 

「やれるもんなら、やってみな」

 

 亮太は余裕そうに言うものの、直ぐに見事な空振りをして結局、あっさり僕がバッターになったのであった。

 

 

 

 

 

 遊び始めてから、数時間経つと夕方になっていた。今日は休日で沢山遊べたけど、時間は直ぐに過ぎていってしまう。

 

「ふぅ、今日はここまでにするか」

 

「そうだね……」

 

「まぁ、そう暗い顔するな。明日には会えるんだし。それより……あっ!」

 

 突然、亮太が大きな声を出す。一体どうしたのだろうか。

 

「かわいい女子高生発見。というわけでじゃあな、ジュニア」

 

 亮太は僕に一言言い残すと、走ってどこかへ行ってしまった。僕の唯一の友達は将来がとても心配です。なんか僕は亮太と関わってからか、少し大人になった気がする……気のせいかな?

 

 僕は一人首を傾げながら、自分の家に帰って行った。

 

 

 

 

 

 僕の家は高級マンション、その一室に住んでいる。もちろん、今日も誰もいない。僕は自分の部屋に行くと、亮太から借りたグローブを机に置く。

 

「……楽しかったな」

 

 僕は今日のことを振り替える。亮太と出会ってから、毎日が楽しい。すると、玄関から扉の音が聞こえた。どうやら、あの父さんが帰って来たらしい。そして、僕の部屋までやって来る。

 

「いるのか、ジュニア?」

 

「……いるよ」

 

「夕飯を買ってきた。リビングに置いてあるからそれを食べてくれ……グローブ?」

 

「父さんには関係ないよ……」

 

「そうか……」

 

 僕は一言父さんに、言い残すと自分の部屋を出て、夕飯があるリビングに向かう。この時僕は、父さんが嬉しいそうに笑っていることに気付くことはできなかった。



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6話 野球少女

お気に入り100突破ありがとうございます。
今回ヒロイン登場です。では、どうぞ!


 ジュニアと野球を始めてから、二ヶ月が過ぎた。時期的には夏に近づいてきて、少し暑い。まぁ野球をしたといっても、キャッチボールや軽いバッティングぐらいだが。

 今日までボールを投げてきて気付いたことがある。それはなんか俺の肩が強いということと、左手でボールを投げると、右手で投げた時とは違って変な回転がかかることだ。左手で投げた時に変な回転が掛かるのは、元々左利きじゃなかった事が関係しているのだろうか。しかし、前世では運動なんて全然やらなかったんだけど、プロ野球選手の息子だからか、前世の時よりも運動能力が高くなってるような気がしする。

 朝のホームルームが始まる前に俺が一人考えていると、ジュニアが話し掛けてきた。

 

 

「なんか今日は、上の階が随分とにぎやかだよね」

 

「そういえば、そうだな。……何かあるのか」

 

 俺は一人考えていたり、興味もなかったので特に気にしなかったが、今日のクラスの皆はにぎやかだ。特に男子。

 

「さっき小耳に挟んだんだけど、三年生に転入生が来るとらしいよ。それもかわいい女の子だって」

 

「ふーん」

 

「あれ、亮太だったら年上だし、もっと喜ぶかと思ったけど……」

 

「小学生じゃ興味ないよ。まぁ、十年経ってから出直してくるんだな」

 

「はぁ……」

 

 まぁ、俺にとっては三年生でも十分子供だしな。

 

 俺の一言を聞いたジュニアは溜め息を吐いた……何故だ?

 

 ジュニアと会話していると、先生が教室に入ってくる。それに気付いたジュニアは自分の席へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 午前中の授業が終わり、給食を食べ終わると昼休みになる。そして俺のもとに、ジュニアがやって来た。

 

「転入生見た?」

 

「見てないな。トイレでも行くときに、運よく会えると思ったんだけどな」

 

「僕も会ってないな」

 

「というかなんで転入生一人で、皆はそんなに騒ぐんだろうな?」

 

「やっぱ珍しいからじゃない?」

 

「ふーん」

 

 俺はジュニアの話を聞きながら、いつも通りにキャッチボールをするため、グローブを取り出す。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「おうよ」

 

 俺とジュニアはグローブを持って、勢いよく校庭に向かい走って行った。

 

 

 

 

 

 校庭へ行き、暫くキャッチボールをしていると、とある女子が俺たちのことを見ているのに気付いた。

 

「なんか、見てるね」

 

「もしかして、俺のことが好きなんじゃね?」

 

「……」

 

「バカ、そんな冷たい目で俺を見るな」

 

 ジュニアのいつもの冷たい眼差しが、俺に突き刺さる。俺は別にMではないので、喜ばない。

 そして、俺たちのキャッチボールが一旦中断したのを見て、その女子が俺たちのところへ歩いて来た。

 

「あっ、あの……私も混ぜてくれないかな」

 

 女の子は恐る恐るといった感じで、話しかけてくる。心の中では断られるだろうなんて、思っているんだろうが……あまい!俺はその考えをぶち殺す。

 

「いいよ」

 

「……えっ」

 

「なぁ、ジュニア。別にいいよな」

 

「もちろん!」

 

 少し離れたところから、ジュニアは大きな声で答えた。

 

「生憎俺らは、男女とかで差別はしないのさ」

 

 俺が一言告げると、女の子は何故か泣き始めた。

 

「えっ、ちょ……大丈夫か?」

 

「大丈夫……ありがとう。ほら、女の子で野球やってる子いないし、男の子には女の子だからって混ぜて貰えなくて……」

 

 女の子は自分の涙を右手で拭く。俺はその動作を見て、左手のグローブに気付いた。

 

「というかグローブして、やるき満々じゃないか。そんなとこで泣いてないで、速くキャッチボールしようぜ」

 

 俺は女の子の手を取ると、少し離れたジュニアのところへ向かった。

 

 

 

 

 

「へぇー、川瀬はピッチャーになりたいんだ」

 

 彼女は噂の転校生で、川瀬涼子っていうらしい。しかし、確かに背は高く見えるが、とても俺には年上には見えなかった。俺の精神年齢が高いからなのか。

 川瀬の球を受けてみたが、それなりに速く、しっかりグローブのところまで届いた。

 

「私、ギブソンに憧れていて……」

 

「っ……」

 

「げっ……」

 

 ジュニアはギブソンの名前が出てきたとたん、顔を曇らせる。しかし、道理で少しフォームかが似てると思ったら……憧れねぇー。

 

「あれ、どうしたの二人とも……」

 

「わりぃ、そういえば自己紹介してなかったな。俺の名前は茂野亮太。で、こっちがジョーギブソンジュニアね」

 

「ジョーギブソン……って、まさか……」

 

「そう、ジョーギブソンの息子さ」

 

「……」

 

「嘘……」

 

 アカン、川瀬が驚いて固まっている。……なんとかせねば。

 

「いや、一応俺の親父も野球選手でな」

 

「ブルーオーシャンズの」

 

 あっ、知ってるんだ。まぁ、最近親父よく試合に出てるからな……。

 

「なんかほら、野球選手の息子だからとかそんな感じで接しられると、ちょっと嫌なんだよね。しかも、ジュニアは少し訳ありなんだ。だから、普通に接してくれると嬉しい」

 

「分かった。それと…なんかごめんね」

 

「別に、誰が親父をどう思おうと勝手だし……」

 

「まぁまぁ、とりあえずよろしく」

 

 こうしてなんか嫌な空気だが、俺たち二人に野球少女が仲間に入りした。




指摘があったところで、本田選手はバッターの時の活躍時でした。さらに、茂野も同時にピッチャーてして活躍してるということで。いろいろ変えて申し訳ない。


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7話 相容れぬ二人

 涼子が仲間になってから時間は過ぎて、放課後になる。俺は涼子に説明をして、放課後、自分のアパートの近くにある公園で野球をしていることを教えると、元気のいい声でもちろん行くと答えた。

 ちなみに、何で川瀬を下の名前で呼んでいるのかというと、俺とジュニアは下の名前で呼び合っているのに、私だけ上の苗字で呼ばれるのは不公平だとか。まぁ、別にいいけどさ。

 そして俺たちはいつもの公園で、手始めにキャッチボールを始めようと思ったんだが……。

 

「……」

 

「……」

 

 相変わらずジュニアと涼子が嫌な空気を出している。ギブソンを嫌う者、片やギブソンに憧れる者……まぁ、普通に考えて、仲良くするのは無理だよな。しかし、めっちゃ仲良くとまでは言わないが、せめてこの空気だけはなんとかしてもらいたい……。

 俺は普段使わない頭を回転させ、考えた。

 

 どうするか……あっ、そうだ!

 

 俺は前世で見ていたスポーツ漫画を思い出しす。いっそのこと、お互いに好きな野球で対決させれば、最後は熱い握手で終わるのではないかと。

 よし、考えたら即実行。俺はさっそく二人に、俺の意見を伝えた。

 

「勝負?」

 

「そう、俺がキャッチャーやるから、涼子がピッチャー、ジュニアがバッター」

 

「ルールは?」

 

 二人の顔つきが変わった。おっ、やるきだな。

 

「ルールは簡単。涼子がジュニアを三振させたら、涼子の勝ち。逆にジュニアは打球をあの木よりも後ろへとばせたら勝ちだ」

 

 俺は涼子から少し後ろに離れている木を見ながら説明した。

 

「本当はもっと詳しくルールを作りたかったけど、どこがヒットとかよく分からないし。後、判定とかも分からないから適当で」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

「……」

 

 俺の説明を聞くと、ジュニアは手に持ったバットを振り、涼子は肩を動かした。

 

「あっ、涼子。できるだけ顔には、投げないでくれよ。マスクとか被ってないから」

 

「気を付けるわ」

 

 涼子は口ではそう言っているが、目はなんか、とてもそんな感じではなかった。

 

 ……アカン、言い出したの俺だけど、ちょっと怖くなってきたな。

 

 俺は所詮は小学三年生の球と思い込み、自分を落ち着かせた。

 この後、二人に準備が出来たか確認すると、俺を含め三人はそれぞれの位置に着く。

 

「それじゃあ、プレーボール~。なんちゃって……」

 

 こうして俺のふざけた声で、二人の勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 目の前で、ジュニアがバットを構える。やっぱマスクなどがないのは怖い。しかし、俺はそれでも二人の仲のため、強い意思で後ろへ下がりたい思いを抑えた。

 そして涼子の第一球、そのギブソンに似ているフォームで投げたボールはちょうど、ど真ん中に入る。ジュニアはバットを振らず、そのボールを見送った。

 

「これは文句なしの、ストライクだな」

 

「うん……」

 

 ジュニアは俺の判定に、頷く。球速は小三の割りには速い方だと思う……たぶん。俺はナイスボールって言って、球を返した。

 第二球、涼子が投げたボールは、さっきの真ん中、球一個分左に外れてとんでくる。しかし、ここでジュニアがバットを振る。バットに当たったボールはキャッチャーである俺の後ろへ

 とんでいく。

 

「ファール……だな」

 

 まさか、二球でボールを当てるとは……恐るべし、ジュニア。

 これでカウントは二ストライク……涼子が追い込んだ。

 俺は気を取り直して、グローブを構える。涼子を見るが、特に動揺した様子はない。

 第三球はさっきまでの明らかなストライクとは違い、ボールは思いっきり右に反れた。

 

「ボール」

 

 ジュニアはまたしても、バットを振らず見送る。まぁ、今のは分かるか。それにしても、涼子の奴はやっぱり、動揺してたのかな。

 俺は涼子を見るが、彼女は自分の握りを確認している。

 そして第四球、涼子は大きく振りかぶり、投げる。投げられたボールはこの四球の中で一番速い、それに対しジュニアはバットをフルスイング。ボールはバットに当たらず、俺のグローブへと収まった。

 

「ストライク、バッターアウト!涼子の勝ちだな」

 

「……はぁ、僕の負けだよ」

 

 俺はジュニアの顔を見る。負けて落ち込んでいるように思えたが、むしろやりきった顔をしていた。どうやら、もう大丈夫そうだな。

 涼子はというと、勝負に勝ったことが嬉しいのか、ガッツポーズしている。……本当に嬉しいんだな。

 俺はとりあえずそんな、二人を集めた。

 

「はい、今回の勝負は涼子の勝ち。お互いに礼」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 二人は声を合わせて、礼をする。いやー、このセリフ言って、みたかったんだよね。

 そして二人は顔を上げると、お互いの顔を見て突然笑い出した。

 

 なんだ?なんだ?

 

 俺は突然の二人の笑い声に混乱する。

 

「ごめん、自分でも分かってたはずだったんだけど、ちょっとむきになってた」

 

「それは、こっちのセリフだよ。そっちの都合もあるはずなのに……ごめんね」

 

 二人はお互いに謝り合う。よかった、よかった。その後二人は握手をし、まさかのこのタイミングで俺に声が掛かった。

 

「ほら、亮太も手を合わせて」

 

「えっ、なんで?」

 

「なんとなくだよ」

 

「なんだよそれ。まぁ、別にいいけどさ」

 

 俺たち三人はお互いの手を合わせて、笑い合う。

 こうして、涼子は本当の意味で俺たちの仲間になった。



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8話 夏祭り

 涼子が仲間になってから数ヵ月が過ぎて、夏休みになった。明日には子供達の夏休みの代名詞であるあの行事が開かれる。

 

「親父、明日夏祭りだから、お小遣い頂戴」

 

「あっ、そういえばそうだったな。ていうか、お前去年まで興味ないって、感じだったじゃないか」

 

「ああ、そうだな」

 

「やっぱり、友達ができれば、変わるもんだな」

 

 親父はにやにやしながら、俺にお小遣いを渡してくる。

 

 ……なんか、うぜぇ。

 

「楽しんでくるんだぞ」

 

「分かってるよ」

 

 親父にからかわれた次の日、ついに祭りの日はやって来た。

 

 

 

 

「後は涼子だけか……」

 

「そうだね」

 

 夜、俺とジュニアは待ち合わせをした、祭りが行われる神社に来ていた。俺とジュニアは待ち合わせの時間、五分前に来たんだが、涼子の姿が見えない。

 

「やっぱり、女性はこういうの準備に時間がかかるって言うけど……」

 

「どうかね」

 

「おまたせ」

 

 俺とジュニアが会話をしていると、後ろから声が掛かる。どうやら、涼子が来たようだ。

 

「遅かったな、俺らが……」

 

 俺はその服装を見て驚いた。浴衣だったのだ。

 祭りの日に浴衣は当たり前のようなものだが、これが涼子にはまた似合っていた。

 

「わお、浴衣似合ってるよ」

 

「……似合ってる」

 

「亮太は素直じゃないね」

 

「うるさいわ」

 

「ありがとう」

 

 ジュニアと俺は浴衣が似合っていることを伝える。涼子は笑顔で、お礼を言った。

 

 

 

 

「どこから回るの?」

 

「どうしようか?」

 

「ただ屋台を回るだけじゃつまらない、ゲームしながら回ろうぜ」

 

「「ゲーム?」」

 

 俺の発言に二人が首を傾げる。

 

「そう。金魚すくい、輪投げ、射的、玉当てで一番成果を出した奴が勝ち」

 

「面白そうだね」

 

「うん、やろう」

 

「じゃあ、決定」

 

 最後に俺が一言告げると、俺たちは屋台の方へ走って行った。

 

 

 

 

 

「へへへ、甘いなジュニア」

 

「僕、三匹」

 

「私は二匹」

 

「俺は十匹だ。金魚すくいは俺の勝ちだな」

 

「悔しい」

 

 金魚すくいは大差で、俺の勝ち。こいつらもまだまだのようだな。

 

「そういえば、何で金魚貰ってこなかったの?」

 

「んっ、……ああ、貰っても育てるの面倒くさいしな」

 

「僕も似たような理由かな」

 

「そうなんだ。私は大事にするけど……」

 

 涼子は手に持っている金魚の袋を大事に抱えた。

 

「次は輪投げだな……ついてこれるか?」

 

「もちろん」

 

 俺とジュニアはその一言を告げると、勢いよく走り出した。

 

 

 

 

 

「くそ……勝てたの玉当てだけって」

 

「はっはっは、これで俺の勝ちは確定だな」

 

 俺はジュニアに向かって、大きく笑う。とても、大人げない。そして、俺はあることに気付いた。

 

「そういえば、涼子は?」

 

「あれ?さっきまで付いてきてたけど……」

 

「「……」」

 

 俺とジュニアは思わず、顔を見合わせた。

 

 アカン……。

 

「はぐれた?」

 

「そうみたいだね」

 

「マジか……。俺は輪投げの方を見てくるから、ジュニアは玉入れのところを頼む。とりあえず、見つけたら奥のお賽銭箱のところに集合な」

 

「分かった」

 

 俺とジュニアは、涼子を探すためそれぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 私がほかの屋台を見ている間に、二人は走ってどこかへ行ってしまった。私は必死になって、二人を探す。

 

「もう、どこ行っちゃったのよ……」

 

 私はひたすら、探す。しかし、一向に見つからない。私の目から涙が出てくる。

 私は男子にも負けない強い子なんだから……こんなところで泣かないもん。

 私は精一杯、涙をこらえた。

 

「……」

 

「おっ、やっと見つけた。ここにいたのか」

 

 すると、私の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「勝手に……どこか行かないでよ」

 

「わりぃわりぃ、ちょっと興奮しちゃって」

 

 そこには、いつも私を……いや、私たちを導いてくれる男子……茂野亮太がそこにいた。

 

 

 

 

 

「ずっと、探してたんだから」

 

「ごめんって。今度ははぐれないように手でも、繋いでおくか」

 

「……」

 

 亮太は私に手を差し出してくる。私は無言で彼の手を取った。すると亮太は私の手を引き歩き始めた。

 

「しかし、どうして付いてこれなかったんだよ」

 

「……ほかの屋台見てた」

 

「なんだよ。言ってくれれば、止まったのに」

 

「んっ、まさか泣いてるのか?」

 

「泣いてないもん」

 

「本当か?」

 

「男子にも負けない強い子だから、泣かないもん」

 

「はいはい、すいませんでした」

 

 亮太は軽い感じで謝ってくる……バカ。すると、私はある屋台で止まった。

 

「……」

 

「んっ、もしかしてこの髪飾りが欲しいのか?」

 

 私の目に止まったのは、くじの屋台の景品の花柄の髪飾りだった。

 

「というかこれ、ハズレの景品じゃん。これがほしかったのか?」

 

「……うん」

 

 私は亮太の質問に、頷く。

 

「しゃあない、そこで待ってろ」

 

 亮太は私に一言告げると、屋台の方に行き、くじを引いていた……えっ?

 

 私は亮太の突然の行動に、驚いた。

 

「ほら、あげるよ。しかし、本当にこういうくじって当たらないものだな」

 

「……ありがとう」

 

「んっ?ああ、気にするな。今日の侘びだと思っていいよ」

 

 亮太にとってはくじのはずれくらいしか、思ってないだろうけど、私にとってはとても大切な宝物になった。

 亮太は再び、私の手を取って歩き出す。私には何故か、年下である亮太の背中がとても大きく感じた。

 

 

 

 

 

 暫く歩いていると、ジュニアの姿を見つける。

 

「おう、ジュニア。見つかったぜ」

 

「よかった、それとごめんね。……涼子大丈夫?」

 

「うん……」

 

 ジュニアが心配して、声を掛けてくる。私は静かに頷いた。

 

「これで一件落着。後は花火だな」

 

「もう、始まるみたいだよ」

 

「楽しみ!」

 

 私は先程までの迷子がなかったかのように、声を出す。

 そして、その声を出した同じタイミングで、花火が打ち上がった。

 

「きれい……」

 

「今日は楽しかったね」

 

「ああ」

 

 今日は色々あったけど、私にとっては思い出に残る最高の夏祭りだった。




すいません、オリ主とジュニア、涼子の年齢を変更しました。
オリ主とジュニアが一年生。涼子が三年生です。


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9話 約束

 夏祭りが終わって、次の日。今日で夏休みも、もう後半に入る。そんな中、午後俺たち三人は俺の家へ集まって勉強会をしていた。まぁ、俺はもう終わってるけど。

 

「そういえば、昨日の祭り楽しかったよね」

 

「ああ。というかその髪飾りそんなに気に入ったのか?」

 

「うん!」

 

 涼子は笑顔で頷く。まぁ、気に入ってくれたなら、いいんだけどさ。

 

 すると、ジュニアが俺の宿題を見ながら、聞いてきた。

 

「何で亮太は普段授業真面目に聞かないくせに、こんなに勉強できるの?」

 

「三年生の勉強もできるし……それ、私も気になる」

 

「えっ?天才だからじゃね」

 

「「……」」

 

 二人の絶対零度の視線が、俺に突き刺さる。はっはっは、いい気分。

 

 俺が一人、最高の気分を味わっていると、玄関の扉が開く。聞いていないが、親父が帰って来たようだ。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

「「お邪魔してます」」

 

「おう、亮太の友達か。すまんが仲良くしてやってくれ」

 

「大きなお世話だ……。今日は速いね」

 

「いや、この後直ぐにまた出なきゃいけないんだよ。だから、今日の夕飯はお金置いとくから、出来たもの食べてくれ」

 

「了解」

 

 親父は俺との会話を終えると、自分部屋へと向かって行った。

 

「すごい、茂野選手だ」

 

「すごいか……わからん」

 

 涼子はなんか喜んでいるが、やっぱり俺にはその辺分からない。確かに、最近活躍してるけどさ。

 

「そういえば、涼子はともかくジュニアはプロの野球の試合とか見るの?」

 

「あんまり」

 

「だと思ったよ。俺もニュースくらいでしか、見ないし」

 

「えー、面白いよ」

 

 涼子がもったいないと、俺たち男子二人に言ってくる。うーん、今度親父の試合でも見てみるか。

 俺が一人が考えていると、親父が自分の部屋から出てきた。

 

「もう、行くの?」

 

「ああ、出来るだけ早く帰って来るよ。それと、えーっと……」

 

「涼子です」

 

「ジュニアです」

 

「涼子ちゃんにジュニアくん、うちのバカ息子をよろしく頼むぜ」

 

「だから、大きなお世話だって」

 

「はっはっは、じゃあな」

 

 親父は最後に一言告げると、仕事へと向かって行った。

 

「いいお父さんだね」

 

「そうか?」

 

「うちのお父さんはもっと無愛想だよ」

 

「ギブソン……」

 

 なんか今度、ジュニアの家に行ってみたいな。

 

 

 

 

 

 それから数日後、俺たちは朝早くに俺の家の前に集合していた。

 

「おはよー」

 

「おう、おはよう」

 

「何でこんなことに……」

 

 涼子は朝だが元気な挨拶をし、俺はそれに返事をする。ジュニアは頭を抱えて、唸ってる。

 さて、なんでこんなことになってるのかというと、それは一日前に遡る。

 

 

 

 

 

「……もう、夏休みも終わりだな」

 

「色々あったよね。野球したり、祭りに行ったり、皆で集まって宿題したり」

 

 今日も俺たちはキャッチボールや軽いバッティングをしていた。そんな中、俺は突然宣言した。

 

「山を登ろう」

 

「突然、どうしたの?」

 

「嫌な予感がする……」

 

 涼子は俺の言葉を聞くと、首を傾げる。ジュニアは毎回俺のこのような発言を聞いて、ムチャなめにあってるいるので顔を青くした。

 

「いやさ、なんか山を登りたくなってさ。で、頂上でお互いの夢とか叫ぼうぜ」

 

「それ以外にも、どうせ理由があるんでしょ?」

 

「後、最近山ガールが流行ってるらしい。きれいなお姉さんがいるはず」

 

「いないよ」

 

 俺が一言告げると、涼子は怖い笑みを浮かべて、俺の言葉を否定してくる。なんか涼子が俺たちと関わって少し変わってきているような気がする……ホンマに怖いわ。

 

「というわけで、明日の朝登ります」

 

「明日の朝!?」

 

「また突然に……」

 

 俺の発言に涼子は驚き、ジュニアは呆れている。ふふふ、俺は決めたことは即実行なのだ。

 

「じゃあ、明日の朝八時に集合。分かってると思うけど、動きやすい格好でな」

 

「はぁ、分かったよ」

 

「……分かった」

 

 こうして、唐突に山登りが決定したのであった。

 

 

 

 

 

「以外にきつい……」

 

「言い出しっぺが、何を言ってるのさ」

 

「はぁ、はぁ」

 

 山登り始めて三十分、早くも俺のスタミナ切れが近い。バカな……最近運動してるから、いけると思ったのに。

 俺たちが登っている山は近所の裏山である。さすがに、大きな山は登れないからな……富士山とか。

 

「あと、何分くらいだっけ?」

 

「二時間くらいだよ……」

 

「なんやて!?」

 

 俺の質問に涼子が答える。どうやら先は長いようだ……。

 

「亮太、ガンバ」

 

「ほら、もう少し頑張ろうよ」

 

「んじゃ、頑張りますか」

 

 俺は渾身の力を振り絞り、山を二人とともに登って行った。

 

 

 

 

 

「着いたーーー!」

 

「やったね!」

 

「はぁ、はぁ。死ぬ」

 

 やっと、着いたか。しかし、この二人は本当に体力あるな。

 

「じゃあ、最後に将来の目標を叫ぶだっけ?」

 

「ちょっと、冗談半分で言ったんだ が……まぁ、ほかに人もいないし、大丈夫だろう」

 

「やろう、やろう」

 

 もう、二人ノリノリである、仕方ないな。しかし、目標か……。ギブソンはメジャーリーガーで、涼子はギブソンみたいなピッチャーかな。ギブソン……ね。そういえば、ジュニアはこれからのことどう思ってるのだろうか?。

 俺は気になったことをジュニアに聞いてみた。

 

「なぁ、ジュニア。ギブソンはこれから日本で野球をするつもりらしいが、お前はアメリカに帰りたいのか?」

 

「……僕は一度帰りたいと思ってる。妹や母に会いたいしね」

 

「そう……」

 

「まぁ、当然だよな」

 

 涼子もジュニアがいつかアメリカに帰ってしまうことを、うすうす気付いていたんだろう。あえて、触れなかった感じかな。恐らく、妹や母と会いたいだけじゃなく、日本という国と合わないから、という理由もあるのだろう。例え俺たちという存在がいても……。

 俺がジュニアにこのタイミングでこの事を聞いたのは、最近抱き始めた将来の目標を固めるためだ。

 

「アメリカに行ったら、めったに会えないな」

 

「そうだね……」

 

「よし、決めたぞ。俺」

 

「えっ?」

 

「俺もメジャーリーガーになってやる。そして、メジャーリーグの舞台でお前と再会する」

 

 最初はただ構ってやるぐらいの軽い気持ちだった。しかし、この二人と野球をしているうちに、前世を持っているこの俺にも、この二人との時間は掛けがいのないものになっていた。

 確かにメジャーリーガーは簡単になれるものじゃない……それでも俺はこの時、なりたいと思ったんだ。全く、まるで子供だな……ああ、今は子供だったか。

 

「まぁ、メジャーでも軽く捻ってやるぜ」

 

「負けないよ……」

 

 俺とジュニアで火花が散る。しかし、ここで涼子が声を出した。

 

「いいな……」

 

「涼子……」

 

「だって、私メジャーリーガーになれないから、二人と戦えない……」

 

「確かに……」

 

 女子はメジャーリーガーになれない。俺たちがメジャーリーガーになる頃に、ルールが変わってるとも思えない。

 俺とジュニアは思わず、無言になる。

 

「なら……」

 

「えっ?」

 

「なら、私はあなたたちの勝負を見届ける。だから、あなたたちが勝負する時、絶対私を呼んでよね。約束よ」

 

 涼子が、俺たち二人に元気よく告げた。

 

 たく、そんなの言われるまでもない。

 

「いいに決まってるだろ!」

 

「もちろん!」

 

 俺たちは山の山頂の近く、俺たちは一生忘れることのない約束をした。

 

 

 

 

 

「そういえば、亮太はどこのポジションやるの?」

 

「俺は……」

 

「「俺は……?」」

 

 ジュニアと涼子が興味しんしんで聞いてくる。

 実はどこやるかは大体考えてある。こんな面倒くさがりやか俺ができるポジション……そう。

 

「俺は最強の外野になる」

 

「「……」」

 

 二人は俺に冷たい視線を送ってくる……何故だ?

 




あくまでもオリ主の主観です。
後、ギブソンの三年間、日本で野球するという設定を、ずっとし続けるに変更しました。ジュニアがギブソンに抱く感情も、恨みから嫌いに変更しました。


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10話 クリスマス

 山で約束を結んでから時が過ぎ、冬になった。あの日から俺はランニングや筋トレなど、朝の日課として行っていた。ちなみに、親父にはまだメジャーリーガーになるとは言ってない。いや普通に恥ずかしいし……。

 そして今日はクリスマスの数日前、俺は涼子と共に壮絶な計画を練っていた。

 

「本当にやるの?」

 

「ああ。今日こそジュニアの高級マンションに進入する。そこで、クリスマスパーティーをやるんだ!」

 

「えーっと、どんな作戦だっけ?」

 

「なに、簡単だ。俺が独自のルートで入手したジュニアの合鍵を使い、部屋に進入する。そして、そこでクリスマスケーキを置いて、待機するんだ。あっ、クリスマスプレゼントも忘れるなよ、二人分」

 

「それって犯……」

 

「言うな。その先の台詞は予想できる」

 

「そう……」

 

 涼子は俺の言葉を聞き、納得する。いや、納得して貰った。涼子は溜め息を吐きながら、頷く。……何故だ?

 俺は涼子に今日の日程を伝えて、自分のクラスに帰って行った。

 

 

 

 

 

「今日の遊びはここまでかな」

 

「うん……そうだね」

 

「じゃあ、解散するか」

 

 俺たちはいつもの公園で野球をして、お互いの家に帰ろうとする。

 

「お先に」

 

「また明日な」

 

「じゃあね」

 

 ジュニアが先に帰って行く。俺と涼子は帰るふりをして、公園に残った。

 

「涼子、親から許可は取ったか?」

 

「特別に貰ったよ」

 

「よし、こっちも同じくだ」

 

 俺は涼子にしっかり親の許可を貰ったのか、確認する。今日は帰りが遅くなるので、親の許可が必要だったが、まぁ取れて良かった。

 俺は涼子の話に頷くと、近くに置いてあった段ボールを持ち出す。涼子はそれを見て、首を傾げた。

 

「それで何するの?」

 

「これで、隠れながら行くのさ。とりあえず、駆け足で先回りするぞ。ルートは確認済みだ」

 

「……分かったわ」

 

 俺と涼子は段ボールを被りながら、駆け足でジュニアより速く、彼の家に向かった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 僕は無言でマンションの玄関の扉を開ける。今日も父さんは仕事で、家にはいない。僕は部屋にあがっていく。そして家には誰もいない筈なのに、部屋に明かりが点いていることに、気がついた。

 

 ……泥簿?

 

 僕は玄関に置いてあったバットを持って、そっとその部屋へと向かう。部屋の前に着くと、緊張で少し固まる。

 そして僕は、勇気を振り絞り、思いっきり勢いよく部屋の扉を開けた。

 

「よっ、ジュニア。お邪魔してるぜ」

 

「……お邪魔してます」

 

「……」

 

 その部屋にはいつも遊んでいる二人が、当たり前のようにそこにいた。亮太に限っては寝転びながら、テレビを点けて見ている。とりあえず、亮太はムカついたので勢いよく殴っておいた。

 

 

 

 

 

「いやー、悪い悪い。ちょっとしたでき心で」

 

「どうやって入って来たの?」

 

「ジュニアの机の中にあった合鍵で」

 

「だから合鍵がなかったのか……」

 

 ジュニアは溜め息を吐きながら、片手で頭を抑える。なるほど、なるほど。溜め息を吐くほど、嬉しかったのか……納得だな。

 

「いやー、一回でもいいから、ジュニアの家に来てみたかったんだよ」

 

「マンションなのに、広いんだね」

 

「まぁね……」

 

 俺と涼子は部屋を見回す。俺は直ぐにある場所に向かった。

 

 

 

 

 

「何してるの?」

 

「んっ?ああ、ギブソンもお宝本持ってるかなーと思って」

 

 俺はギブソンの部屋らしき所に行くと、ベットの下をチェックした。

 

「お宝本?」

 

「ふっ、ジュニアにはまだ早いかな」

 

「なんか、むかつく」

 

 ジュニアは俺の一言を聞いて、少し機嫌が悪くなる。俺は気にせず捜索を続けた。

 

「というか、ここ父さんの部屋で、入ったらまずいから」

 

「はいはい、分かったよ。直ぐに……んっ?」

 

 俺は部屋を出てこうとしたところで、ある写真を見つけた。

 

「これ家族の写真?」

 

「そうだよ」

 

「ふーん」

 

 家族の写真を見るにそこには四人写っていて、皆仲が良さそうだった。

 

「仲よさそうだな」

 

「この時はね……」

 

 ジュニアの顔が曇る。仕方ないな……話題変えるか。

 

「まぁ、いいや。それよりジュニア、ケーキ食べようぜ。買ってきたんだ」

 

「相変わらず、準備いいね」

 

 俺はジュニアを強引に連れて、涼子のいる部屋に向かった。

 

 

 

 

 

「そろそろプレゼント出そうぜ。あっ、ジュニアのは高価なものだぞ」

 

「楽しみにしててね」

 

「僕は何も用意してないけど……」

 

「ああ、それは気にしなくていい。この家に入れてくれたことと、このお菓子がプレゼントってことにしておくから」

 

 ジュニアが申し訳ない顔をすると、俺は気にしなくていいと声を出した。

 

「じゃあ、俺から。涼子にはこれな」

 

「野球ボール?」

 

「こないだ公園で、俺がお前のボールなくしゃったからな。そのお詫びもかけて」

 

「気にしなくていいのに……」

 

 そういうわけにもいかないしな。それに、ボールは沢山あって俺も困らないし。

 

「次にジュニアのだが……あれだ」

 

「あれ?」

 

 俺が指差した先には、ジュニアと会ったばかりの頃、ジュニアにあげたグローブがあった。

 

「それって……」

 

「ああ、確かあれ貸しているってことだったけど、あれをプレゼントするよ。どうだ、嬉しいだろう」

 

「なんか、悔しいけど……ありがとう」

 

「はっはっは、どういたしまして」

 

 ジュニアは顔を俺から反らしながらお礼を言ってきた。うん、ツンデレだな。

 そして、次に涼子が俺たちへのプレゼントを取り出した。

 

「ブレスレット?」

 

「おー、洒落てるな」

 

 見たところそのブレスレットはシンプルなデザインのものだ。値段は高そうでもないが。

 

「三人お揃いよ。しっかり、お小遣いで買ったわ」

 

 涼子がその小さな胸を張り、答える。なんか、こういうのもいいな。

 

「じゃあ、有り難く貰っておくよ」

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 俺とジュニアはさっそく着けてみる。うん、なんかしっくりくる。そして、プレゼント交換かが終わると、テンションを上げて、俺は声を出した。

 

「じゃあ、ケーキ食べようぜ!」

 

「それが亮太の目的でしょ?」

 

「まぁ、私もお腹空いたし、いいじゃない」

 

 この後は、夜八時くらいまで俺たちは夜通し、クリスマスを楽しんだ。後、地味にギブソンと遭遇することを期待していたんだが、ギブソンが俺たちがいる間、家に帰って来ることはなかった。



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11話 突然の別れ

 あのクリスマスから時が過ぎ、俺は二年生、涼子は四年生になった。俺たちお馴染みの三人はいつも通り野球をしたり、たまにどこかに遠出したりして、楽しい時を過ごしす。……しかし、そんな楽しい日々は永遠に続くことはなかった。

 

「ジュニア……今日も来てないね」

 

「ああ、そうだな」

 

 俺が二年生に進級した数日後、ある日突然ジュニアの姿が見えなくなった。

 

「明日には来るよね」

 

「来るだろ。あいつも黙ってアメリカに帰らないだろうしな」

 

 涼子も心配している。

 この日はとてもこの後、遊ぶ気力はなかったので直ぐに、アパートに帰った。

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

「おう、帰ったか亮太」

 

「なんだ、親父……帰ってたのか?」

 

「おう。どうした、最近元気ないみたいだが……」

 

「何でもないよ」

 

 俺は親父に気にすることなく、荷物を自分の部屋に運ぶ。それとまだ親父には、メジャーリーガーになりたいことは、まだ言ってない。

 

「そうだ、亮太。大事な話がある」

 

「なんだよ、珍しい……」

 

 親父が珍しく、真面目な顔をしてこちらを見てくる。

 

「実はな……引っ越そうと思うんだ」

 

「どこに?」

 

「北海道だ」

 

 俺は突然引っ越しの話が、出て来て少し驚く。しかし北海道とか……遠いな。

 

「何で引っ越すんだ」

 

「これから先、登板がさらに増えそうでな。試合の影響で遠出しなきゃいけないんだよ。お前を一人残すわけにはいかないし……悪いな」

 

「そうかい……」

 

 事実、子供一人で残すのは普通しないだろう。それに、お爺ちゃんがいるが、もう年だ。とても、俺を任せることなんてできないだろう。

 

「今さらかよ」

 

「それに関してはすまん。色々あってな」

 

「別に気にしないよ」

 

 確かに、色々あったな。まぁ、それは俺もか。

 

「いつだ?」

 

「来週だ」

 

「また、急だな」

 

「お前が三年生なるタイミングで、引っ越したいからな。辛いと思うが、あの二人にも、お別れを言っておくんだぞ」

 

「分かってるよ……」

 

 俺は親父に、一言告げると自分の部屋へと帰って行った。

 

 

 

 

 

「さて、どう話すかな……」

 

 朝の教室、俺は二人にどう自分のことを伝えようか考えていた。俺は未だに登校してこないジュニアの席を見つめた。

 ……嫌な予感がする。

 

 そして、朝のホームルームの時間になり、いつも通り先生が教室に入ってくる。すると、先生はある衝撃な言葉を口にした。

 

「突然だが。ジュニアくんが諸事情により、アメリカに帰ることになった」

 

 この言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。俺は直ぐに意識を切り替えて、周りの声を無視し、手を上げて先生に質問する。

 

「ジュニアはもう……日本にいないんですか?」

 

「知らなかったのか……。昨日には、もう日本を出ているぞ」

 

 くそっ、嫌な予感が的中しやがった。俺は自分の唇を噛み締めた。

 

 朝のホームルームは終わり、俺は教室を出て行こうとする先生の元へ向かう。ギブソンの契約終了の期日までは、まだ少し時間があるので、ほかの理由があるはずだ。俺はその理由が聞きたかった。

 

「先生。まだ聞きたいことがあります」

 

「なんだ、またお前か。いいぞ、言ってみろ」

 

 先生は扉を開けようとしたところで、俺の方へ向いて、答えた。

 

「彼の父親は日本で野球を続けると言ったはずです。それが何で突然?」

 

「言いたいのはやまやまだが、個人情報に関わるからな……」

 

「お願いします、教えて下さい!」

 

「しかし……」

 

 先生は暫く悩む動作を見せると、頭を下げている俺の姿を見て、溜め息を吐く。

 

「分かったから、頭を上げろ。お前らしくもない」

 

「じゃあ……」

 

「ああ、教えてやる。でも、ここじゃダメだ、場所を変えよう」

 

 俺は歩き出した先生の後ろを付いていった。

 

 

 

 

 

 誰もいない教室で、俺は先生からジュニアがアメリカへ帰った理由を聞いた。

 

『アメリカにいる母と妹の事故死』

 

 それが理由だった。葬儀とかいろいろあるんだろ。でも……。

 

 俺は今までのジュニアとの……いや、三人との出来事を思い出す。

 

 でも、一言くらい言ってもよかったじゃないか。

 

 俺は今日の学校の時間、ずっとジュニアのことを考えていた。

 

 帰りのホームルームが終わり、暫くボーッとして、俺は席から立つ。たく、一日中男の事を考えてるなんて、俺らしくないな。

 

 俺が教室から窓を覗くと、涼子が校門の外へ走っていくのが見えた。先生がジュニアのことは仲が良かった涼子には伝えてあると言っていたので、彼女もショックだったのだろう。涼子の向かった先は大体予想できる。

 俺は涼子がいるであろう、いつも野球をしていた公園へ向かった。

 

 

 

 

 

「やっぱり、ここにいたか……」

 

「亮太」

 

 俺が公園に着くと、そこにいた涼子がこちらに向く。顔には汗なのか、涙なのか……水滴が付いていた。さらに、グローブとボールを持っていることから彼女のことだ、ずっとボールを投げていたのだろう。

 

「何してんだよ。ピッチャーにもなる奴がそんなに投げて……肩でも壊したらどうすんだ」

 

「亮太は何で平気でいられるの?私たち楽しく遊んで、野球して……あの約束までしたのに、何で……」

 

「あんな約束したからだよ」

 

「えっ……」

 

 涼子は俺の言葉を聞き、驚く。

 

 俺は思い出す。ジュニアが俺たちと野球をしている時も、その笑顔の裏には結局少しだが、自分の父親、ギブソンの嫌いな感情がそこにあった。さらに、アメリカでの交通事故。あいつは間違いなく、それはギブソンの憎しみに変わっているだろう。だが……。

 

「俺はジュニアが約束を忘れてないと信じている」

 

「どうして?」

 

「そんなもん、決まってるだろ。俺たちが約束したからだよ」

 

 俺は堂々と答える。まぁ、ジュニアは約束忘れていても、絶対にメジャーに上がってくるだろう。だがそれは……もしかしたら憎き父親を野球で倒すためかもしれない。それでも俺はあいつが約束を忘れて、ギブソンへの憎しみで野球をプレーをするんであれば……。

 

「まぁ、忘れていても俺がメジャーの舞台で思い出させてやるだけだ」

 

「亮太らしいね」

 

「だろ?」

 

 俺たち二人は笑い合う。そして、俺はこのタイミングで自分のことを話すことを決めた。

 

「涼子、俺からも大事な話がある」

 

 俺の言葉に涼子は首を傾げた。

 

 

 

 

 

「そう、亮太も……」

 

「ああ、来週にな」

 

 俺は涼子に、自分が引っ越すことを伝える。

 涼子はジュニアのことで少し吹っ切れたのか、冷静に話を聞いてくれた。

 

「まぁ、同じ日本にいるわけだし。会おうと思えば会えるけどな」

 

「ふふ、そうだね」

 

 涼子は俺の言葉を聞き、笑う。たく、本当は辛い癖に……。

 

「俺は夢のための第一歩として、ニ年後リトルリーグに入るつもりだよ」

 

「本当は三人で入りたかったけどね……。だったら私は一足速く、亮太が転校したら入ることにするわ」

 

 そう、メジャーになるためには、強くならなきゃならない。だから、そのためにも……。

 

「まずは、お前からホームラン打たなきゃな」

 

「負けないわよ」

 

 たく、涼子らしい……。

 

「じゃあ、次はリトルのマウンドで会おうぜ」

 

「ええ」

 

 俺と涼子は再会の約束をした。

 

 

 

 

 

 

「おい、亮太。準備できたか。……って、あれ?」

 

 俺は亮太の様子を見るために、あいつの部屋に来たんだが……いないな。どこ行ったんだ。

 

 そして、俺は玄関を見て、亮太の靴がないこに気付く。こんな夜に何してるんだ。

 俺も外に出ると、アパートの庭で亮太を見つける。

 

「八十八……八十九……」

 

 なんと、亮太はバットで素振りをしていたのだ。あの野球に興味もなかったあいつが。まぁ、スイングはまだまだ突っ込みどころ満載だか。俺は亮太に声を掛ける。

 

「バカ。こんな夜中に子供がバット振るな。やるなら、朝にやれ」

 

「親父か……あと少しなんだ。百回終わったら、辞めるよ」

 

「そうか。つーか、どうしたんだお前、突然素振りなんて」

 

「……ならなきゃいけないんだ」

 

「何に?」

 

「メジャーリーガーに……」

 

 メジャーリーガー……おい、本当にこいつに何があったんだ。俺は亮太の予想外の言葉に驚く。その後、俺は緊張した様子であいつの話を聞いた。

 

「そして……」

 

「そして?」

 

 そして……なんなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は最強の外野になる!」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、思いっ切りずっこけた。

 




これでこの三人の幼少期の話は終わりで、次回から原作のリトル編へ行きます。北海道編はないです。それと明日はちょっと投稿できないので、次の投稿は明後日になります。それにしても次のジュニアの登場はいつになるのか……。


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リトルリーグ編
12話 登校初日


「おい、乗ってくか?」

 

「いいよ、歩いていく」

 

「そうかよ、じゃあな」

 

「ああ」

 

 俺は親父と別れると、新しい通学路を歩み始める。

 

「もう下校時間過ぎてるから、空いてるな。というか、昨日の練習の疲れがまだ残ってるよ。肩が……」

 

 俺はメジャーリーガー宣言してからの今日までの日々を思い出す。北海道に行ってからは、今俺が住んでいる三船に来るまで転入の連続。そのお陰で、俺はボッチに逆戻りした。この三船ではゆっくりできるそうなので、割りと安心していたりする。

 さらに俺がメジャーリーガーになると親父に告げたことで、筋トレからバットの素振りまで、親父の指導のもと行われた。しかも、あの親父感動してか、あれ明らかに度が過ぎてただろ。死ぬかと思ったわ。

 

「まぁ、お陰で力が付いたからいいけど。しかし、この時間じゃ女子高生もいないな……つまらん」

 

 俺は新しい学校生活よりも、女子高生のことを考えていた。

 

 

 

 

 

「呼ばれたら、教室に入って来てくれ」

 

「分かりました」

 

 先生が教室入っていく。分かりますよ、入っていったら、女子たちの歓声が聞こえるんだろ。

 

 俺は変な思いを抱きながら先生の声を聞き、教室に入っていく。

 

「彼が転入生の茂野亮太だ」

 

「茂野亮太です。まぁ、気軽によろしく」

 

 俺が自己紹介を終えると、後ろの方に座っているオーシャンズの帽子を被った男子が、反応するが……。

 

 おかしい……歓声がないだと!

 

 俺は一人驚愕しながら、先生に言われた一番後ろの席に座る。そこはさっき俺の名前に反応していた、オーシャンズの帽子を被っている少年の席の後ろだった。

 

「オーシャンズの帽子ということは、お前オーシャンズのファンなのか?」

 

「ああ……って、お前、あのオーシャンズのエースの息子だろ。やっぱり、野球に興味があるのか?」

 

「あるけど……」

 

 野球に関することを聞くと目がキラキラする奴……こいつ、野球バカだな。

 

「名前は?」

 

「本田吾郎」

 

「本田?もしかして、あの本田選手の息子か?」

 

「えっ、おとさんを知ってるの?」

 

「昔会ったことあるんだよ。それっきりだけどな」

 

「そうなのか!」

 

 そして、俺が本田選手と区別するため、吾郎と呼ぶことにした。もちろん、吾郎も俺のことを亮太と呼ことになった。この後、吾郎からの質問攻めにあったが、先生に怒られたことで、それは終わる。次に学級委員決めに移った。

 

「さてじゃあ誰か、立候補するものはいるか?」

 

 先生の言葉を聞いた生徒たちは、見事に皆黙る。まぁ、普通に考えてやらないわな。

 

 シーンと静まる生徒を見て先生は溜め息をつき、言葉を出そうとするが……。

 

「はい、先生!」

 

「なんだ沢村、お前がやるか?」

 

「いえ、先生。僕は自信がないので小森くんを推薦します」

 

 手を上げた少年は、自分がやるわけではなく、隣にいる気が弱そうな少年を推薦した。

 明らかに推薦された少年はやるきが無さそうだ。たく、どこの学校にもいるものだな……こういう奴。

 

 小森を推薦した少年……沢村とぐるなのか、ほかの二人がこれに便乗する。

 

「小森、いいのか?」

 

「じゃあ、決めるぞ」

 

 いやいや先生、これで決めちゃいけないでしょ。俺が一人思っていると、吾郎の隣に座っていた女子が声を出す。

 

「先生、私やります!」

 

 そして、まさかの私やります宣言。度胸あるなぁ~。

 

「おお、清水立候補するか」

 

「はい」

 

 勇気ある女子……清水の言葉を聞くと、いじめられた男子である小森は安心した声を出す。

 そして、この後吾郎の余計な発言により、吾郎

 と清水は二人で痴話喧嘩に発達。

 

「やめんか!」

 

 先生が大声で、怒鳴る。この流れは……。

 

「二人は随分と仲が良いようだな。本田、お前が副委員長やれ」

 

「えーーー!」

 

 こうして、このクラスの副委員長は吾郎に決まるのであった。まぁ、どんまい。

 

 

 

 

 

 学校が終わり、放課後になると吾郎が元気よく、話掛けてくる。

 

「亮太さ。この後リトル見に行くんだけど、一緒にいかね?」

 

「いいよ。俺もまだ決めてないし」

 

「OK、じゃあ、行こうぜ」

 

 俺の言葉を聞くと、俺たちはさっそくリトルを見に行くことにした。

 

 校庭に出ると、沢村とその他が誰かの上履き……いや、小森の上履きを蹴り合っていた。

 そして、小森が必死に自分の上履きを追っていた。……屑だな。

 

 すると、吾郎が動いた。吾郎は蹴られていた上履きを取り、小森に渡す。

 

「あっ?何だよ」

 

 沢村がキレる。おお、怖い怖い。

 

 そして、吾郎は沢村を含め、いじめっ子である一人の上履きを強引に奪った。

 

「俺も混ぜてよ」

 

 吾郎の行動から、あいつが何をやるのか予想がつく。よし、俺も混ざるか。

 

「吾郎、パス」

 

「おう」

 

「なっ!?」

 

 吾郎は俺の声を聞くと、その上履きを俺の方に投げる。俺は片手でそれをキャッチした。

 

「ナイスー、じゃあ今度はこっちから、行くぞ」

 

「おお」

 

 今度俺は、蹴って吾郎のもとへとばす。すると、俺の蹴った上履きは、見事に吾郎の足下へ向かった。

 

「よっしゃー、このままシュート。なんてな」

 

 そして、吾郎のボレーが決まる。吾郎に蹴られた上履きは円を描き、校庭にあった池に落ちた。

 

 俺は吾郎のもとに向かって行き、ハイタッチをする。

 

「「イエーイ!」」

 

「うー、僕の上履きが……」

 

 いじめっ子の一人が、自分の上履きが池に落ちて悲しんでいると、沢村がこちらに来る。

 

「テメーラ、本田に茂野って言ったな。いい根性してんじゃねぇか。この沢村に喧嘩売って、楽しい学校生活が送れると思ってんのか?」

 

「今日のクラス替えで、そんな希望は捨てました」

 

「いやー、根性だけが売りでして」

 

 吾郎と俺は笑顔で、沢村に言葉を出す。

 

「ちっ、テメーら次あった時、覚えてろよ。行くぞ、小森!」

 

「……」

 

 小森は一瞬、こっちの方を見てくる。しかし、直ぐに沢村たちの方に付いて行った。

 

「なんだよ、あいつ」

 

「まぁ、いいじゃないか。それより、リトルの方行こうぜ」

 

「そうだな」

 

 気を取り直した俺たちは、吾郎に連れられリトルに向かって行った。小森か……今度話してみるかな。

 

 

 

 

 

「これから行くリトルは、三船ドルフィンズっていうリトルなんだ」

 

「へー」

 

 リトルね。まぁ、ガチガチじゃなければいいんだが。ちなみに、横浜リトルは前に少し覗いて来た。いやー、スパルタなので、却下したが。後、コーチが男だったし。

 

「たぶん、そこにするかな。家近いし」

 

「そうか。そういえば、亮太ってどこのポジション希望?」

 

「外野」

 

「へー。やっぱり肩とか強いのか?」

 

「自信はあるぜ。ちなみにバッティングもな」

 

「俺はピッチャーなんだ。今度勝負しようぜ」

 

「そのうちな」

 

 ピッチャー……ね。ピッチャーといえば、親父と涼子を思い出すが、果たしてどんな球を投げるのやら。まぁ、本田選手の息子だし、やっぱ速いのかなー。

 

 吾郎と会話していると、目的地であるグラウンドについた。しかし、小さいな。まぁ、このくらいの方が落ち着くが……。

 

 すると、吾郎のもとへ結構年をとったおっさんが近付いてくる。

 

「もしかして……吾郎くんかい?」

 

「うん、やっと四年生になったよ。おじさん」

 

「そうか、そうか。もう、あの君が四年生か」

 

 おじさんは嬉しそうに吾郎を抱いている。感動の再会ってやつか。

 

 その後、周りにいた子達が吾郎についておじさんに聞く。おじさんはあの本田選手の息子なんだぞと言うも、周りの子には伝わらなかった。というか、まだ俺の親父の方が伝わる気がする。

 そんな中、階段の方から見たことのない集団が現れた。

 

 ……面倒くさい、臭いがするぜ。




暫く、こんな感じで進んでいきます。リトル編はそんなに原作と変化はないです。少しまたフラグは立てるかも。


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13話 グラウンドを賭けて

 吾郎が知り合いだったおっさん……監督と感動の再会をしているところに、謎の集団が現れた。その先頭には少し太ったおっさんがいる、恐らくあのおっさんがリーダーなんだろう。そのおっさんは集団を停止されると、こちらに近付いてきて、話し掛けてきた。

 

「やぁ、どうもどうも」

 

「なんです、沢村さん。まだうちの使用時間ですけど?」

 

 沢村?

 

 俺は聞いたことのある名前に、首を傾げる。そしてやって来た集団の方をよくみると、あのいじめっ子の沢村の姿があった。

 

「悪いがね、安堂さん。今日からここは三船サッカー少年団の専用グラウンドになった」

 

「ええ!?一体どういうことですか……」

 

「昨日、自治会で決まったんです。とっとと、出て行って貰いましょうか?」

 

 あー、なるほど。この親にして、この子ありだな。俺が一人思っていると、沢村がこっちを見て、にやにや笑っている。……うぜぇ。

 その後は、監督がこっちはもともとグラウンドを使える時間が少ないのに何故なんだと聞くと、おっさんは自治会のことを表に出し、成果が出ない野球チームにこれ以上グラウンドを使わせても無駄だみたいなことになったらしい。

 

 いやー、汚いね。

 

 監督はおっさんの話を聞き、暗い表情になる。

 あのおっさんの言ってることが、正論で言い返せないんだろう。おいおい、それでいいのかよ監督。だが、ここで吾郎が声を出した。

 

「待てよ!」

 

「うん?」

 

 吾郎の言葉に反応し、沢村親子がこちらに振り向いた。

 

「おじさん、ドルフィンズは今何人いるの?」

 

「五人だけど……」

 

「じゃあ、俺と亮太を入れて七人か……」

 

 おっと、俺もいつの間にかチームに入れられてるぞ。まぁ、別にここに入るつもりだったからいいけど。

 

「九人集まれば、グラウンドを使わせてくれるんだろ」

 

「ダメだね。人をただ集めても、野球ごっこじゃ同じだよ」

 

「じゃあ、どうしたら……」

 

「そうだなぁ。商店街の草野球チームに勝てるくらいなら、皆さんも考え直してくれるだろう」

 

 こいつ、ボロを出しやがった。

 

 俺はこのおっさんが致命的な、隙を見せたことで少しにやける。

 

「本当だな!?」

 

「ああ」

 

 おっさんは吾郎の言葉を聞くと、グラウンドからサッカーチームの面子を連れて、出て行こうとする。……させるか!

 俺はすかさずおっさんに声を掛けた。

 

「待てよ、おっさん」

 

「おっさん……!?」

 

 おっと、おっさんじゃ、お気に召さなかったかな。俺は動揺しているおっさんに気にせず、話を進める。

 

「今のじゃただの口約束だ、信用できないね。知ってるぜ、大人の世界ではこういうの契約書とかに書き込むんだろ」

 

「このガキが……」

 

「監督。何か紙とペンはないか?」

 

「ああ、あるが……」

 

「直ぐに持って来て」

 

 俺が監督に言うと、監督はベンチに置いてあった紙と、ペンを持って来る。

 

「そうだな。ただこっちが勝ってグラウンドを使わせて貰うだけじゃ、こっちのデメリットに見舞わない。契約内容はこっちが草野球チームに勝ったら、あんたらは一生俺たちに干渉できないでどうよ」

 

「いいだろう。どうせ勝てることなんてできないんだ。ただしお前たちが負けたら、即解散ぞ」

 

「分かってるよ。じゃあ、ここにサインを。あっ、監督もここにお願いします」

 

 俺はおっさんと監督に紙にサインさせ、契約を成立させた。

 

 

 

 

 

 おっさんたちが去って行った後、ドルフィンズの皆が、商店街チームと戦うことになり、心配の声を上げた。それに対し、吾郎はどうせ腹の出たおっさんの集団だと笑う。しかし、監督が言うには、そのチームは野球経験者たちが集まっていて、尚且つ去年の野球大会で優勝しているらしい……。

 

 ……えっ、マジか。

 

 俺は監督の話を聞き、驚いて口をあんぐりと開けた。

 

 実は俺も吾郎と似たことを思っていて、楽勝だと思っていたからだ。しかし、吾郎は周りの諦める的な空気に関わらず、この話を聞いても、勝つ気満々である。だが、監督は吾郎に横浜リトルを勧めた。そして、この後は練習もできるはずなく、今日は解散することになった。

 

 

 

 

 

 次の日の朝、俺は学校に登校すると、下駄箱に貼ってあった紙に驚き、ずっこけた。しかも何がすごいって、その紙が下駄箱だけじゃなく、学校のあちらこちらに貼ってあったからだ。

 内容は三船ドルフィンズ募集。先着二名には給食のプリンをプレゼント、と書いてあった。

 

 プリン……地味に欲しいな。

 

 俺はそんな紙を見ながら、自分の教室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 教室に着くと、なにやら揉めている男女を発見しする。本田と清水だ。本当に仲いいな……お二さん。そんな二人の喧嘩は、途中でやってきた先生によって収まった。

 

 本当に仲が良いな、あいつら……。

 

 俺は机に肘をつきながら、どうでもいいことを思っていた。

 

 授業が終わると、清水が吾郎を連れてどこかへ行く。どうやら、吾郎は一人メンバーをゲットしたみたいだ……女だが。この時俺は、小三まで一緒に野球していた少女を思い出す。

 

 おっと、この考えはいけないな……

 

 俺は頭に浮かんだ一人の少女を思い出し、自分の考えを否定する。

 

「行くぞ。小森」

 

「うん……」

 

 少し大きな声が聞こえたので見てみると、教室の出口にたくさんな荷物を抱える小森の姿があった。

 

 ……さて、こっちも動くか。

 

 そして俺もドルフィンズのメンバーを増やすべく、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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14話 一歩踏み出す勇気

「よっ、小森!」

 

「えっと、君は……」

 

「なんだ、お前?」

 

 俺が下駄箱から校庭に出ると、見覚えのある四人を見つける。小森に沢村、取り巻き二人だ。

 俺は睨み付けてくる沢村を無視して、小森に声を掛けた。

 

「いやー、探したぜ。どうだ、俺と野球やってみないか?」

 

「えっ……」

 

 小森が野球に興味があるのか、俺の言葉に反応した。よし、食い付きは上々。

 

「はっ、お前何言ってんの?今から小森は俺らと帰るんだよ」

 

 たく、うるせぇな。

 

「黙れ、今俺は小森と話してるんだよ。外野は邪魔するな」

 

 俺が少し脅かしながら言うと、沢村は迫力に負けて一歩下がった。

 

「小森、こっちに来い」

 

「……ごめん」

 

 小森は俺の方から沢村の方に向かおうとする、しかし。

 

「逃げるのか?」

 

「……」

 

 俺の一言で、小森の動きは止まった。

 

「いい加減にしろよ。友達なんて待ってたって出来やしないぜ。大切なのは勇気ある一歩だ」

 

「一歩……」

 

「そうだ。だから、その一歩として俺と野球やらないか?」

 

「……」

 

 小森の中で、気持ちがかすかに揺れている。これは俺の印象だが、小森は優しい。さらに、沢村とも最初はこんな関係でもなかったかもしれない。

 

「僕は……」

 

「僕は?」

 

 小森は精一杯大きな声で、俺に向かって叫んだ。

 

「僕は野球をやりたい!」

 

「よし、よく言った」

 

 俺は小森に近づき頭を撫でた。沢村はその様子を悔しそうに、見ている。

 

「んっ、何だ。お前も野球やりたいのか?」

 

「……誰が野球なんかやるか。覚えてろよ、小森」

 

「沢村くん……」

 

 沢村は最後に一言を告げて、俺たちから去って行った。俺はその背中を溜め息を吐きながら、見つめていた。

 

 

 

 

 

「これで一人確保」

 

「後何人集めればいいの?」

 

「ああ、吾郎がもう一人集められそうだから、人数的にはこれでいいんだ」

 

「人数的には?」

 

「そんなことより、小森は野球経験はあるのか?」

 

「えっと、お父さんとよくキャッチボールしてたくらいかな……」

 

「マジか。じゃあ試しに、キャッチボールしようぜ」

 

 俺は小森に一言告げると、もしもの時に持ってきておいた二つのグローブを、鞄から取り出した。

 

「それじゃあ、はいこれ」

 

「どうも……」

 

 小森は遠慮ぎみにグローブを受けとった。たく、堂々としてればいいのに。

 

「最初は軽くな」

 

「うん!」

 

 キャッチボールを始めようとすると、小森の雰囲気が変わった。へぇ、やるじゃん。とりあえず俺はそんな小森に軽くボールを投げてみた。

 

「ほら!」

 

 俺の投げたボールは小森のグローブに向かっていく。小森はそのボールをビビることなく、綺麗にキャッチした。

 

「なるほど……。じゃあ、少し速くするけど大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ」

 

 俺の質問に小森は笑顔で答えた。よし……。

 

「じゃあ、これならどうだ!」

 

 コントロールはさっきより少し荒くなったが、

 ボールの速度は速い。それでも小森は先程と同じく、キャッチした。

 

「やるじゃないか、小森。このボールを取れるなんて……キャッチャーできるな」

 

「そうかな」

 

 いや、俺のコントロール悪い速球も取れるし、吾郎の球も取れるだろう。まぁ、まだ見たこと無いけど。

 

「とりあえず、今日はこんくらいにしておくか」

 

「うん」

 

「明日は吾郎にも伝えるし、あいつの球取って貰いたいからグローブ持って来てな」

 

「分かったよ」

 

 俺は小森に明日のことを話し、この場で解散することにした。

 

 

 

 

 

「おお、小森がメンバーに……てことはこれで人数揃ったな。……一人女がいるけど」

 

「なんだとー!」

 

「まぁまぁ」

 

 朝、小森を連れて吾郎に報告に行くと、さっそく吾郎は清水と喧嘩を始めた。毎度毎度よくやるよ。

 

「お二人さん、夫婦喧嘩は他所でやってくださいよ」

 

「「夫婦じゃねぇ」」

 

「息ピッタリじゃねぇか」

 

「あはは……」

 

 俺は二人の様子を見て突っ込み、小森は苦笑いしている。

 

「まぁ、そういうことだ。吾郎、放課後に球受けて貰え。キャッチャーもできるかもしれないぞ」

 

「本当か!?頼むぜ、小森」

 

「うん」

 

「俺は今日の放課後に用があるから、顔を出せないわ」

 

「……って、お前は来れないのかよ」

 

「悪いな。ちょっと変にいじになってる奴をしばかなくちゃならないんだ」

 

「「「?」」」

 

 俺は遠くから睨んでいる男子をちらみしながら、言葉を出す。

 三人は俺の言葉を聞き、首を傾げた。

 

「まぁ、何はともあれ。これで試合ができるな」

 

「勝つ自信は?」

 

「あるに決まってんだろ。俺が全員三振してやるぜ」

 

 吾郎くんは自信満々である。やっぱ、球が速いのだろうか。この後は、清水のプレーをどうすかに話し合い、清水本人は一人騒いでいた。

 

 

 

 

 

 放課後になると、俺以外の三人は先に教室から出て行く。すると、俺の机に沢村がやってきた。

 

「……」

 

「おう、なんだい沢村くん」

 

 俺が近寄ってきた沢村に声を掛けると、奴は睨みはさらに鋭くなる。……ああ、怖い怖い。

 

「調度、俺もお前に話があったんだ。外で話そうぜ」

 

 俺は沢村を連れて、校庭に出て行った。




すいません、次の更新は明後日の木曜です。


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15話 いじめっ子の意地

昨日は投稿できず、申し訳ない。
それと今回文字数が少ないです。


「で、なんか用?」

 

「なんか用じゃねぇ。分かってるんだろう」

 

「おうおう、目付きギラギラさせちゃって」

 

「てめぇ」

 

 俺のふざけた言葉に、沢村はさらにキレる。そんな中、俺は話を続けた。

 

「たく、そんなに小森と一緒に居たかったのか、この寂しがり屋さんが」

 

「そんなんじゃねぇ。せっかくの荷物持ちがいなくなるから……」

 

「いい加減にしろ!」

 

 俺は沢村の言葉を遮って、怒鳴った。沢村は俺の迫力に負けて、一歩後ろに下がる。

 

「たく、一人王様気分てか。調子に乗るなよ、ガキが」

 

「なに……」

 

「そんなんじゃ、いずれ周りの奴なんて、直ぐにいなくなっちゃうぜ。というか、既にそれに近い思いはあるんじゃないのか?」

 

「黙れ!」

 

 沢村は俺の言葉を力強く否定すると、俺に向かって殴りかかってくる。俺はその拳を冷静に避けて、沢村の顔を軽く殴った。殴ったところからは少し血が出ている。

 

「痛ぇ……ちくしょう、小森にもこんなことはしてなかったぞ」

 

「あっそ」

 

「えっ……」

 

 沢村は俺の言葉を聞き、驚きで固まった。

 

「いや、別にそんなの関係ないし」

 

「なんだと!」

 

「いいか、てめぇは少しの悪ふざけのつもりで小森のことをいじめてたようだが、そのてめぇの傷とは違って、小森の心の傷は一生治らないかもしれないかもしれないんだぞ」

 

「……」

 

 小森は心が強かった……いや、友達がほしかった故の執着心か。まぁ、結局優しかったんだよな、だから小森は挫けることはなく、沢村たちの理不尽な命令に耐えることができた。

 

 沢村は俺の話を聞くと、顔を下に向けた。

 

 ……ようやく、自覚したみたいだな。

 

 俺はそんな沢村を置いて、校門の方に歩き始める。そして、沢村が俺に声を掛けて来た。

 

「俺はどうしたらいいんだ」

 

「それは自分で、考えろ」

 

「……」

 

「ただ、小森は屑な命令をしてきたお前たちを友達だと言ったんだ。これだけは忘れるなよ」

 

 俺は最後、沢村に一言を告げて校門から出て行った。

 本当は吾郎たちの様子でも、覗きに行こうと思っていたが、そんな気分では無くなってしまった。

 

 たく、俺も甘いな……男に説教なんて。あーあ、可愛いい女子高生でも探すか。

 

 俺は自分の変わった行動に溜め息を吐きながら、可愛いい女子高生を探すべく歩き出した。

 

 

 

 

 

 この次の日、屋上で俺と吾郎、小森についでに清水が沢村に呼び出されていた。

 

「すまなかった、小森」

 

「えっ」

 

 小森は突然の沢村の発言に驚く。吾郎、清水は突然の展開で、頭がついてきてないようだ。

 

「やっぱり、俺のこと恨んでるよな」

 

「沢村くん……」

 

 小森は小さく呟いた。ただ謝りに来ただけだろうか。今日の沢村は朝から何か考えてたみたいだし、やっと答えを出したか。

 

「そうだ、亮太」

 

「何?」

 

「俺も野球チームに入っていいか?」

 

 ……なんやて、コイツサッカーチーム入ってなかったか。

 

「罪滅ぼししたいんだよ……人数は集まってるだろうけど、人は多い方がいいだろ。ベンチでもいいから」

 

「だってさ。小森、どうする?」

 

「え、えっと、僕は大丈夫だよ」

 

「そうか……ほかの二人は?」

 

「小森がいいなら、俺はいいぜ」

 

「同じく」

 

「つーかお前、サッカーチームはどうするんだよ?」

 

「それは仕方ないさ……」

 

「そっか……」

 

 まぁ、いつ怪我するかとか、誰が辞めるとか分からないし、沢村の言う通り人は多い方がいいだろう。

 とりあえず、決まりだな。

 

「じゃあ、これでメンバー集めは終わりだな」

 

「よっしゃー、俺がお前たちの実力を見てやるぜ。清水ほどではないことを願う……」

 

「おい、それどういう意味だよ」

 

 また吾郎が清水に余計なことを言って、喧嘩をしている。俺と小森、沢村はその光景を見て、お互いに笑っていた。

 さて、後は監督とポジションの相談だな。

 こうして、俺と吾郎のメンバー探しは幕を閉じた。

 この後は四人でキャッチボールをしたんだが、結局一番下手だったのは清水だった。俺からしたら、沢村も同じようなものだったが……。




ちょっと投稿ペースが落ちます。2日に1話更新でやってこうと思います。


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16話 バッティングセンター

すいません。色々トラブルがあり、投稿が遅れてしまいました、本当に申し訳ない。貯めてあったストックも間違えて消してしまい、まっさらな状態です。投稿ペースは落ちてしまいますが、しっかりと投稿します。


「おい、これ最新ゲーム機じゃないか」

 

「すごいね、沢村くん」

 

「ああ、一緒にやろうぜ。小森」

 

「こら、学校の帰りにゲームセンターはダメだろうが」

 

「いや、ここはゲームセンターじゃないし、別にいいだろ」

 

「んっ?そうか、別にいいのか……」

 

 沢村は最新のゲーム機を見つけて、小森とやろうとする。しかし、清水が注意をしようとするが、見事に言いくるめられた。

 

「たく、お前ら俺たちはバッティングをしに来たんだろーが。ヤル気あるのか?」

 

「冗談だよ。分かってるって」

 

「あははは……」

 

 ついに我慢の限界か、吾郎が大声を上げた。

 

 

 

 

 

 今俺たちはバッティングセンターに来ていた。来た理由としては、やっぱりバッティングの練習をするためだ。清水と沢村に関しては広いグラウンドが使ず守備練習ができないので、俺と吾郎と小森がバッティングホームを二人に叩き込んでおいた。

 さらに、後から監督から連絡があって元々いたメンバーが一人いなくなったらしいのが、沢村が入ってくれたのでなんとかなった。いやー、沢村がチーム入ってて本当に良かったよ。俺は一人感動の涙を流し、この事を吾郎にも伝えると同じく感動の涙を流した。

 

「おいおい、見ろよ亮太。本田のやつ130キロのボール打ってるよ。あんな球、誰も投げないだろうに」

 

「小学生では投げれないだろうな。ただ、次の対戦相手は大人だぜ。もしかしたら、これと同じくらい速い球を投げてくるかもよ」

 

「はっはっは。どうせ、腹がぼよんぼよんな親父ばっかりだよ」

 

 沢村はまだ見ぬ対戦相手を鼻で笑う。しかし、俺はそれとはまったく逆の事を考えていた。

 

 なーんか、嫌な予感がするんだよな。

 

 俺はあの自信満々の沢村の親父を思い浮かべる。いくら相手が小学生とはいえ、あの自信がそれだけとは考えにくい。俺は考えてるのをやめて周りを見ると、吾郎だけではなく清水もバッティングを始めていた。沢村と小森が後ろから、見守っている。

 俺はもう一つ次の試合で懸念している事があった。それは吾郎のことだ。あいつは普段の行動を見ていると、少し自己中な行動が目立つ。なんか、全部俺が完投するなんて言っているが。あいつの球、小学生にとっては脅威だけど、大人にとってはちょうどいい速さなんだよな。まぁ、あいつの球が打たれなきゃいい話なんだけど。

 

 イタァーーーーーーーーー!

 

 突如清水の方から、絶叫が聞こえてきた。まぁ、清水と沢村の件については言うまでもないか。

 俺は次の試合に不安な感情を抱きながらも、次の大人が投げられそうな110キロあたりのバッターボックスに入っていった。

 

「はっ!」

 

 俺はしっかりと球を見て、バットを振る。俺が振ったバットは見事に球を捉えて、高く打ち上げた。しかし、その球はホームランの的のわずかに右に逸れる。

 

「ちっ、なかなか当たらないもんだな」

 

「110キロの球を普通に打てるなんてすごいよ」

 

「んっ、そうか。まぁ、コントロールがなー」

 

 いつの間にこっちに来たのか、小森が俺のバッティングを褒めてくる。俺は清水や沢村の様子を聞いた。

 

「予想は付くが、二人の様子はどうだ?」

 

「あははは、練習通りにバットを振れれば、大丈夫だと思うんだけど。今は本田くんが見てるよ」

 

「まぁ、俺としては守備の方をなんとかしたかったんだが……」

 

「グラウンドが使えないんじゃあ、仕方ないよね」

 

 実は放課後学校のグラウンドを使おうと思ったが、申請が必要らしく、通るのに一週間掛かるらしい。普通に間に合わない。キャッチボールはやってるんだが。

 

「やっぱ、俺と一緒で外野かな」

 

「亮太くんよろしく」

 

「はぁ、よろしくしたくないな」

 

 俺は溜め息吐きながら、答える。すると、吾郎がこっちの方にやって来た。

 

「お疲れ」

 

「たく、困ったもんだぜ。特に清水」

 

「あはは、今度は僕が行くよ」

 

「おう、頼んだぞ小森。俺ももう少ししたら変わるから」

 

 俺の言葉を聞くと、小森は清水と沢村のもとへ向かった。

 

「亮太は130キロいかないのか?」

 

「いや、今回はいいよ」

 

「て言うことは、お前は130キロ打てるんだな」

 

「はて、どうだろうな」

 

「次の試合、期待してるぜ」

 

「はっ、お前のピッチングもな」

 

 俺と吾郎はお互いを見て、笑い合う。そして、数日後、グラウンドを賭けた試合が始まる。

 

 ギャーーーーー!

 

 …………始まる。

 




今回文字数少なくて、すいません。


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17話 亮太の実力

 あのバッティングセンターの日から数日後、ついに三船リトルの運命を決める試合が始まろうとしていた。

 

「俺がピッチャー、小森が捕手、亮太がライト、清水がレフト、沢村センターだな」

 

「おいおい。妥当だが、あらためて見ると、やっぱ不安しかないんだが……」

 

「頼んだぜ」

 

「うわー、頼まれたくない」

 

「おい!」

 

 俺と吾郎がポジションについて話していると、清水が俺に思いっきりツッコンできた。いやー、いいツッコミだったぜ。

 この後監督がユニフォーム持ってきたり、沢村の親父が沢村に絡んでかたり、清水の着替えを隠したりしたが、無事試合が始まった。最初の攻撃はこちらからだ。

 

「相手のピッチャー、結構速いけど大丈夫か?」

 

「なんとかなるだろ。俺が一点もやらないぜ」

 

 俺がベンチで吾郎に話しかけると、元気のいい根性論が帰って来た。俺は打席に立った背番号四番の長谷川とピッチャーを見る。そしてピッチャーが投げた。ピッチャーの投げた球はとても速い球ではなく、山なりのスローボールだった。

 

「あれ……」

 

 長谷川は拍子抜けた声を出した。

 

「なんだ、あの球……」

 

「そうか、やっぱり手加減してくれるんだよ」

 

「あれなら、打てるかもしれねぇ」

 

「よーし。この回チャンスだー、いけー!」

 

 吾郎は立ち上がり、声を張り上げて叫ぶ。しかし、これなら長谷川は経験者だし、この回で俺の打席に回って来るかもしれない。だが、ここで俺の予想外の事態が起こった。

 長谷川と次の打席の前原が続けて三振になったのだ。

 

「お前ら何やってるんだよ。仮にも野球経験者だろうが!」

 

「いやー、最近バッティング練習をやってなくて」

 

 前原は苦笑いしながら、言い訳を言ってくる。

 

 いや……マジか。

 

 俺は驚き、空いた口が塞がらなかった。さすがに、あの球は打つだろうと思ったんだが。俺が一人考えていると、打席の音から打球の音が聞こえてきた。

 

「さすが、小森。ナイスバッティング!」

 

 小森がライト方向にヒットを打った。

 

 ……さすがだな。

 

 次の打席はスーパー少年、背番号一番の吾郎だ。二点は貰ったな。

 ピッチャーはまた手加減をし、そうとは知らず投げる。吾郎は磨かれたスイングで場外へとボールを叩き込んだ。グラウンドが一瞬静寂に包まれる。吾郎はそんか中、気にせずベースを踏み始めた。

 

「えっと、あれって場外だから打ち直しじゃないの?」

 

「それを場外ホームランって言うんだよ!」

 

「へー、さすがだな。て言っても、あの球なら当然か?」

 

 俺は吾郎のバットコントロールに舌を巻くまったく、ピッチャーも一流で、バッターとしてもあの実力とはな。うらやましい限りだ。しかし、次のバッターである三打席目の田辺が三振して、この回は二点で終わった。

 さて、次はこっちが守備か……。向こうのベンチを見ると、二点とられたというのに、へらへらしていた。

 

 まったく、余裕なもんで……。

 

 今度はグローブを着けている吾郎を見る。仕方ない、無理だと思うが一応声を掛けとくか。

 俺は吾郎に近づいて、声を掛けた。

 

「調子はどうだ?」

 

「絶好調だぜ。まっ、この回無失点で抑えるから、次の攻撃頼んだぜ」

 

「ああ」

 

 吾郎が自信たっぷりに俺に言うと、マウンドに向かっていく。俺はそんな吾郎に小さく小さな声で一言告げた。

 

「まぁ、無理せず周りを頼ってけよ」

 

「わかった、わかった」

 

 吾郎は聞こえてるのか、聞こえてないのか分からないが、俺に返事をしてマウンドに向かって行った。

 

 

 

 

 

 俺がポジションのライトに着くと、沢村が話し掛けてきた。

 

「まっ、あいつが投げるんだし、この回は無得点だな」

 

「しっかり、構えろ。こっちにボール飛んでくるぞ」

 

「えっ……」

 

 沢村が驚いた瞬間、同時に甲高いバットに球が当たった音が聞こて、沢村の五歩後ろに落ちた。俺はパニックになっている沢村に、指示を出す。

 

「沢村。ショートに投げろ!」

 

「おっおう……」

 

 沢村は精一杯の力で投げるが、少しコースがずれてしまう。

 

 しかし、これくらいなら……。

 

 俺はこのくらいのずれならショートの前原も取れるだろうと思った。しかし、前原は球を取ることは出来ず、カバーに入ったサードの夏目も球を取ることは出来なかった。

 

「おいおい、どーなってるんだよ。なんであいつの速い球を打てるんだ?」

 

「速いからだよ」

 

「えっ」

 

「なに、あの年の経験者にとっては絶好の球なんだ」

 

 俺は驚いている沢村にこの状況の解説を行った。しかし、その間にも試合は進む。なにやら、小森と吾郎が話しているようだ。正直今の吾郎に投げさせるぐらいだったら、下手な素人に投げさせる方がましなんだが……。

 そして、またしても吾郎の球がバッターのバットに当たる。バットに当たった球は今度、清水のレフト方向に飛んできた。

 

「えっ、え……」

 

 もちろん、清水はパニック状態。俺は取れないだろうと予想して、今度は沢村を越えて清水の後ろへ回りこんだ。

ボールは清水の頭に直撃して、地面に落ちる。清水は慌てボールを拾った。

 

「清水、ボールくれ」

 

「あっ、ああ」

 

 俺は清水から球を受けとると、今ベースを踏んでいるバッターを見る。

 

 ……ちっ、とろとろ歩きやがって。

 

 なにやら、小森が向こうから叫んできているが、俺は全身に力を込めて、足で踏み込み、大きく手を振り上げる。そして、球を全力で投げた。

 俺の全力で投げた球は地面に一度も着くことはなく、山なりで小森のグローブに収まった。

 

「えっ……あっ」

 

 グラウンドを包む静寂、小森も驚きで一瞬固まるが直ぐに我に帰り、ホームを踏んだ。ちなみに、バッターはホームと三塁の中間で固まっていた。

 

「ふぅー、肩痛。今度からは無理せず、中継頼ろう」

 

「おい、亮太。すごいな……」

 

「はっはっは。見たか、俺の豪肩」

 

 沢村が茫然と俺に話し掛けてきた。しかし、なんとか俺のスーパープレーで同点は避けたが、吾郎の方を見てみると、かなり落ち込んでる。あー、やばいな。

 

「本田、大丈夫か?」

 

「やばいな、あれ。荒れるぞ」

 

「はっ?」

 

 沢村は俺の言葉に首を傾げる。俺は吾郎の方を見ると、そこには何人かメンバーが集まり始めていた。

 その後、プレイは続行されるが、ヒットを打たれ二塁に進まれる。そしてまたメンバーが集まり、その中の三人がマウンドを去ろうとしていた。えっ、何やってんだあいつら。その後、なにやらベンチで固まった後、ピッチャーが何故か小森に変わった。近くにいた沢村と清水が、その行動に疑問の声を上げる。

 

「やっと、始まったみたいだぞ」

 

「なんで、小森がピッチャーなんだ?」

 

「やっと、この回終わるか」

 

「なんでだよ」

 

「見てたら分かるさ」

 

 そして、小森にピッチャーが変わると、さっきまでとは違いあっという間にツーアウトを取り、あっさりこの回が終了した。

 

 

 

 

 

 ベンチに帰ると、いじけてる吾郎と……なんだと!

 なんとそこには、ほかのメンバーを褒めている美女の姿があった。




試合経過 1回裏まで終わり、2対1 で1点リード

試合では次の試合から相手のチームで名前が分からない人は番号にする予定。今回のおっさんたちはなんか番号が分からないので。
今回あんな球投げたのに亮太が目立ってませんでしたが、次回でなんとかしたい……。ちなみに、桃子さんはヒロインではありません。


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18話 始めての一歩

今更ながら三船リトルの打順を。
前原 ショート
長谷川 セカンド
小森 キャッチャー
吾郎 ピッチャー
田辺 ファースト
清水 レフト
亮太 ライト
沢村 センター
夏目 サード

はい、ということで鶴田くんがいなくなりました。まっ、覚えてないか……。


 最初はいじけていた吾郎だが、監督の話を聞くと立ち直り、ほかの皆とも仲直りしたようだ。ちなみに試合の後に聞いたんだが、あの美人は吾郎の保護者で、桃子さんというらしい。保育園の先生だとか……うらやま。俺は自分の保育園の先生を思い出し、悲しい現実に涙を流した。

 

「どうやら、立ち直ったみたいだな」

 

「ああ。本田吾郎、完全復活だぜ!」

 

「次の回は俺の攻撃があるし、完全に追い討ちかけますか」

 

「期待してるぜ」

 

 俺は吾郎と話すと、次の打順の清水に話し掛けた。

 

「緊張してるかーい?」

 

「うっせ、話し掛けるな」

 

「まぁまぁ。もしも、ボールを当てたら、全力で一塁まで走れよ。あっ、バットはしっかり置くんだぞ」

 

「分かってるよ!」

 

 清水は俺に怒鳴ると、打席に向かって行った。

 

 ……さてさて、次は俺の打席だし、バット振っておきますか。

 

 俺は清水が打席に向かって行ったのを見送ると、バットを振り始めた。

 

 

 

 

 

 俺がバットを振っていると、バットに球が当たる音が聞こえた。どうやら、清水がヒットを打ったようだ。しかも、さっき俺が言った通り、バットを置いてきてる。

 清水がバットに当てた球はサードの方に飛んでいく。しかし、サードは取り損ない、少しバランスを崩した。吾郎は大声で清水に叫ぶ。

 

「突っ込めー!」

 

 清水は一塁へ着く寸前、体が前向きに倒れる。しかし、その先には……。

 

「セーフ」

 

 審判の声が、グラウンドに響き渡った。

 

「おいおい、やったぜ。次の打席は……」

 

「亮太、続けー!」

 

 吾郎が俺に大きな声で叫んでくる。まったく、そんなでかい声出さなくても聞こえてるって。

 俺はやれやれと言いながら、打席を立った。

 

 

 

 

 

 俺が打席に立つと、敵のベンチでなにやら沢村の親父が大きい声で話しているようだ。沢村の親父の話を聞いた相手の監督が、敵のピッチャーに指示を出す。すると、ピッチャーの顔つきが変わった。

 

 ……なるほど、ついに本気出しますか。

 

 相手のピッチャーが大きく振りかぶり投げると、その球は先程までの山なりの球なんかではなく、100キロ以上は出ている速球だったコースは見事にど真ん中。

 どうやら、そう簡単には終わらせてくれないようだ。

 

 

 

 

 

「ちっ、くそう。そこまでして勝ちたいのかよ。きたねーぞ」

 

「そうよ、そうよ」

 

 沢村と清水が相手のピッチャーにブーイングの声をあげる。しかし、俺は先程から亮太のバッティングホームについて考えていた。

 

「おい、どうしたんだよ本田」

 

「ここで決まるな」

 

「えっ?」

 

「お前らじゃ、分からないか。あいつのスイング、半端ないぜ」

 

 俺は沢村の質問に答えると、再び視線を打席に立つ亮太に戻した。

 

 

 

 

 

「……」

 

 俺は徐々に集中力を上げて行く。ピッチャーは再び手を大きく振り上げて、投げた。

 俺はまたストレートだと思いバットを思いっきりスイングする。しかし予想ははずれ、球は右に曲がった。

 

 ……ちっ。

 

 俺はバットを振る途中で、強引に球を当てに行く。俺が当てた球はファーストよりも、思いっきり右にはずれて……。

 

「ファール」

 

 これでストライクが二つ、追い込まれた。

 俺は慌てることなく、冷静になる。俺はあの二人と約束してから、決してただ遊んできたわけじゃない。筋トレやランニングと同じくらいにやってきた。外野を選んだ理由も楽そうだったという理由だったが、決して楽じゃなかったしな。親父の特訓も地獄だったし……。そして今日、俺はメジャーへの始めての小さな一歩を踏み出す。

 

「ふぅー」

 

 俺は軽く息を吐き、自分を落ち着かせる。俺は直ぐ次に来るコースを予想し、打つ球を絞り、相手の球に食らい付いていった。

 

 

 

 

 

「おいおい、どんだけ粘るんだよ」

 

「ほえー、すごい」

 

 沢村と清水は亮太のバッティングを見て、驚きの声を上げる。しかし、俺はあることに気づいた。

 

「沢村、清水。気づいたか?」

 

「えっ、何に?」

 

「距離だよ。どんどん伸びてるぜ」

 

「そういえば……」

 

 どうやら、二人も思い当たったようだ。すると、監督が俺に声を掛けてきた。

 

「吾郎くん。先程の肩といい、このバットコントロールといい、彼は一体何者なんだい?」

 

「なに、俺と同じ只の野球少年ですよ」

 

 俺はそんな監督の問いに、笑って答えた。

 

 

 

 

 

 俺は一回ファールになる度に、球の飛ばす距離を伸ばしていく。狙うはあの一球。そして、ついに十球目、俺の狙った球がやってきた。そう、少し浮いたカーブ。俺がその球を見逃すはずもなく、フルスイング。そして球はバットに当たる。そして、俺のバットに当たった球は外野方面に飛んでいき、ついにバックフェンスを越えた。グラウンドに一瞬静寂が訪れる。そして、こっちのチームのベンチに大きな歓声が上がった。

 

「俺の……いや、俺たちの勝ちだ!」

 

 このホームランにより、相手のチームに勝ち越しの二点という大きな打撃を与えた。

 この後、相手のチームに覚醒した吾郎から点を取ることができず、試合終了。四対一で今回の試合は幕が閉じる。

  こうして、俺たち三船リトルは初勝利という、新たな一歩を踏み出した。

 

 

 

 

  ちなみに、この後桃子さんの胸へ飛び込んでいったら、吾郎に殴られて阻止された。……何故だ?




試合終了 4対1 三船リトルの勝利

さて、次回ですが吾郎くんの横浜リトルの話はとばします。この時ですが原作通り、涼子と吾郎は会わないことにします。
そしてアメリカですが……オリ主は行けるのか。次回をお楽しみに。


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19話 アメリカ

久しぶりの投稿


 学校の六時間目、俺は教卓の前にいて、今クラスの視線を集めていた。この時間は将来の夢を発表をする時間で、俺の出番が回って来たのだ。

 

「俺の夢はメジャーリーガーになることです!!」

 

 俺は自信満々に自分の将来の夢を発言した。皆は俺の発言に一応、驚いている。沢村は小さい声で、美女に囲まれて生活することだと思ったなんて言っていたので、後でしばかなくては……。

 俺は吾郎のリアクションが気になったのでそちらを見てみると、何やら手元を見てにやけていた。

 

 ……何だ?

 

 俺は吾郎の行動に首を傾げながらも、発表が終わり、自分の席に向かって行った。

 

 

 

 六時間目が終わり学校が終わると、吾郎に呼ばれ、俺を含むいつもの面子が屋上に集まっていた。

 

「どうしたんだ吾郎、今日も練習か?」

 

 皆が集まると、呼び出した吾郎以外の気になっている俺たちを代表して、沢村が口を開いた。

 

「いや今日はな、これのことで集めたんだ」

 

「チケット?」

 

「そう、アメリカ行きのな」

 

「「「……」」」

 

 一瞬、この場が静寂に包まれる。そして……。

 

『なにーーー!!』

 

 吾郎以外の三人の声が重なった。

 

 

「アメリカといえば、やっぱうまい食い物が……」

 

「色々な観光スポットも……」

 

「それにアメリカン美女もな。というか、絶対吾郎はそんな意図でチケットを出したんじゃないと思うぞ」

 

「亮太の言う通りだ。これはだな……」

 

 すると、吾郎はチケットを貰った経緯を話し出した。このチケットはギブソンから貰ったものらしい。本来はあの美しき桃子さんと行く予定だったが、彼女が仕事で行けなくなり、チケットが一枚余ったそうだ。

 

「それに行けば、WBCの試合も見れるんだ」

 

「ほう~」

 

「すごいね、吾郎くん」

 

 俺は感嘆の声を上げ、小森もまた驚きの声を上げた。ちなみに、清水と沢村はまだ自分の世界に入っている。

 

「ということで、亮太か小森。一緒に行こうぜ」

 

「「待て待て待て」」

 

 吾郎が俺と小森に笑顔で提案してくると、尽かさず清水と沢村が突っ込みを入れた。

 

「何で、亮太と小森だけなんだよ!」

 

「そうよ、そうよ」

 

「いや、やっぱり野球知識あるやつと行きたいし、亮太なんかメジャーリーガーになるのが夢だしさ」

 

「そうだよね。僕の事はいいから、吾郎くんと亮太くんで行ってきてよ」

 

「ありがとな、小森。じゃあ……」

 

「「そんなぁ~」」

 

 清水と沢村はなんとか自分たちにもチャンスをと土下座をし始めた。というか、当事者を置いて事態がどんどん進んでいくな……。

 俺はこのままでは馬鹿二人が納得しないと思い、ある提案をした。

 

「じゃあさ、やっぱ小森にも悪いし、くじ引きで決めない?」

 

「いいのかよ。憧れのメジャーリーガーを生で見れるんだぜ」

 

「それは小森も一緒だろうし、そこの馬鹿二人も納得しないだろ。じゃないと、コイツらぐちぐち言ってくるぜ」

 

「確かに……」

 

 吾郎は渋々納得すると、紙とペンを用意してアミダくじを作った。

 

「行けるのはたった一人……」

 

「緊張するな……」

 

「おー、ゾクゾクする」

 

「うまい、料理……」

 

「じゃあ、ジャンケンで勝った人から好きなところを選びな」

 

『おう』

 

 俺たちはそれぞれお互いの方法で気合いを入れて、ジャンケンに臨んだ。

 

『最初はグー、ジャンケン……』

 

 

 

 

 

 

「おー、今アメリカが見えたような気がする」

 

「いや、見えねぇよ。アホ」

 

 俺は練習中に変なことを言っている、沢村に突っ込んだ。

 

「何で清水がアメリカに行くんだよ」

 

「仕方ないよ。アミダで決まったんだから……」

 

 小森も優しく沢村に声を掛けた。

 

「なんか俺はこんなことになるような気がしてた。つーか、あいつら二人でアメリカとか……絶対に何か縁があるぜ」

 

「そこ、何をボサッとしてる!」

 

『すいませーん』

 

 あのアミダから一週間後の土曜日、俺たちは練習にも関わらず、吾郎とアミダでアメリカ行きを勝ち取った清水はアメリカへ旅立った。正直、行きたかった思いもあるが、やっぱりアメリカに行くのはメジャーリーガーに挑戦するときだと自分に言い聞かせて、俺は今日の練習に臨んでいた。

 本来土曜日に練習はなかったのだが、あのサッカークラブからこのグラウンドを勝ち取ったお陰で、土曜日も日曜日同様に練習をすることができるようになった。

 

「しかし、暑くなってきたな」

 

「夏が近いからな。まっ、帰りにアイスでも食べながら、帰ろうや」

 

「それいいアイデアだよ!」

 

「はぁ、本来アメリカへ行けるはずが、アイスか……」

 

 俺の提案に小森は元気よく賛同するが、沢村は溜め息を吐いた。

 

 ……こいつ、いい加減ムカつくな。

 

 俺は沢村のケツを蹴飛ばして、練習に戻った。

 

 

 練習が終わり、俺と沢村、小森は三人で横に並びながらアイスを買うべく、コンビニに向かっていた。

 

「しかし、お前も野球始めて、大人しくなったな~、いじめッコ」

 

「うるさいな……反省したんだよ」

 

「あはは……」

 

 沢村は俺の言葉に面白く反応する。小森は苦笑いしていた。そして俺はそういえばと思い出す。

 

「沢村、お前の親父さんはあの後どうなったんだ」

 

「んっ、ああ。やり過ぎたって反省してたよ」

 

「そうかそうか。それは良かった」

 

「たく……」

 

 この会話の後も、楽しい会話をしながらコンビニに向かった。すると、コンビニの入り口に何人かの人影がいるのが見える。俺は思わず、そこから少し離れたところで立ち止まった。

 

「うわ不良だぞ、あれ……」

 

「別のコンビニに行こうか、亮太くん……って、どうしたの亮太くん?」

 

 小森は動かなくなった俺を不思議に思いながら、声を掛ける。しかし、俺は返事をしない。俺は自身の美少女レーダーが反応し、硬直していたのだ。

 

 そこには二人の不良と、女子高生の姿があった。




ということで、亮太くんはアメリカへは行けず、オリジナル展開です。後、ここからの話はとあるフラグです。正直、結構無理矢理なのでそこは黙認してくると、嬉しいです。次は速くて今週、最悪来週には投稿します。


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20話 女子高生

二日連続更新。


「はっ……いけない、ついつい気を失ってしまった」

 

「はぁ、何言ってんだよ。それより、速くここから離れようぜ」

 

 沢村は俺に速くコンビニから離れるように提案して来た。隣にいる小森も見てみるが、沢村の意見に賛成のようだ。しかし……。

 

「悪いな、二人とも。女子高生が困っているんだ」

 

「おいおい、嫌な予感が……」

 

「もしかして……」

 

 沢村と小森はこの後、俺の行動を予想できたのか二人共溜め息を吐いた。

 

「なら、やることは決まっている」

 

「あの~、拒否権は……?」

 

「俺に作戦がある。聞いてくれ」

 

「ないのね……」

 

 こうして、沢村と小森は亮太が立てた女子高生救出作戦に巻き込まれた。

 

 

「お嬢ちゃん、一緒に遊ばない?」

 

「楽しいことしようぜ!」

 

「……」

 

 私は周りの不良の話を無視して、先へ進もうとする。しかし、不良品たちは彼女の進む道を拒んだ。

 

「あれ~、どこ行くの?」

 

「どいて」

 

「何、聞こえないな~」

 

 すると、一人の不良の手が私の肩に触れる。

 

「すいませーん、そこ通りたいんですけど」

 

 その瞬間、一人の少年の声が響いた。

 

 

 

 

「すいませーん、そこ通りたいんですけど」

 

 俺は不良たちに話し掛ける。すると、彼らはテンプレ通りの反応をした。

 

「あぁ?ガキが何言ってやがる。あっち行きな!」

 

「しっしっ!」

 

 ここまでは予想通り。そして俺は作戦第二段階に移した。

 

「あのねー、お兄さんたちが退いてくれないから、さっきお巡りさん呼んじゃった。もうすぐ来ると思うよ」

 

「あぁ、んなことあるわけ……」

 

「「お巡りさん、こっちです」」

 

 不良がありえないと言おうとした時、コンビニから少し離れたところから、警察を呼ぶ声がした。すると、不良たちの様子が変わる。

 

「ちっ、仕方ない。引くぞ」

 

「おっ、おう」

 

 不良たちは警察のことは半信半疑のようだが、最悪の可能性を考えてコンビニから去って行った。

 

「大丈夫ですか?」

 

 俺が子供らしく、女子高生の安否を確認した。すると、彼女は俺の姿を見て一瞬目を丸くし、笑顔で言葉を返してくる。

 

「大丈夫よ。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 俺も子供らしく、笑顔で照れたふりをした。すると、彼女は……。

 

「アイスでも奢るわ。そこに隠れてる二人にもね」

 

 彼女が一言告げると、コンビニの裏に隠れていた沢村と小森が出てくる。

 

「あっ、本当ですか。ありがとうございます」

 

「えっ、えっと。どうも……」

 

 沢村はあからさまに嬉しそうな顔をし、小森は遠慮がちに返事をした。

 

「……」

 

 そして、俺だけは気付いていた。彼女が見せた、俺たちが着ている野球のユニフォームを見た変わった反応に……。

 

 

 不良に絡まれいた女子高生にアイスを奢って貰うと、彼女が俺たちに質問してきた。

 

「あなたちはどこかの野球チームに入っているの?」

 

「はい、三船ドルフィンズっていうところに。聞いたこともないかもしれないけど……」

 

「ふーん」

 

「じゃあさ、お姉さんはどこの高校に通ってるの?」

 

 俺がまた子供らしく質問すると、彼女は目を鋭くさせて答えた。

 

「私、これでも高校野球部の監督やってるの。だから、人を見る目はあるんだ。だからその演技、やめていいわよ」

 

「なんだ、気付いてたのか。それで、どこの高校?」

 

 俺は彼女に素を暴かれても、気にせず質問した。

 

「海堂高校」

 

 ……海堂高校。確かここ神奈川の甲子園、常連高だったな。

 

「すごいや、あの名門高の監督やってるんだ!」

 

 小森はその高校のことを知っていたのか、興奮しながら答える。沢村はやっぱり知らないらしい。

 

「二軍だけどね……」

 

「それでも……すごいです」

 

「ありがと」

 

 彼女は笑顔で小森にお礼を言った。そして次に、俺が質問した。

 

「ねぇ、海堂高校って確か神奈川でも横浜の方の高校だよね。何で三船まで来たの?」

 

「夏の予選の調整に練習試合に来たのよ」

 

「……」

 

 俺は彼女の今の言い方が気になった。そして、俺は彼女にとって、核心を突く質問をする。

 

「じゃあ、名門海堂の二軍監督に質問。あなたにとって、野球で最も大事なものってなんですか?」

 

「……結果よ」

 

 俺はこの時、彼女に小さな迷いを感じた。

 

 

「結果、ね……」

 

「そうよ、悪い?」

 

「いや、別に」

 

 俺は彼女の言葉を軽く返す。彼女の仮面が少しずつ剥がれてきた。すると、沢村がこの空気を変えるべく、口を開く。

 

「そういえば、他の選手たちはどうしたんですか?」

 

「高校に帰ったわ。私もこれから帰るとこだったの」

 

「はは、そうなんですか……」

 

沢村は乾いた笑顔で言うと、再び静かになる。

 そしてこのまま解散しそうな時、俺は彼女に一つ御願いをした。

 

「そうだ。ぜひ、名門海堂高校の練習を見てみたいな」

 

「なんですって?」

 

 彼女は俺の発言を聞き、睨めつけた。すると、彼女はこちらを睨めつけた後、にやりと笑って答える。

 

「いいわ、今回助けてくれたお礼よ。小学生のあなたには少し速い気がするけれど、見せて上げるわ。海堂のマニュアル野球を」

 

「それは、楽しみだ」

 

 俺が挑発的に言うと、彼女は懐から二千円を取りだし、俺に渡した。

 

「それは交通費よ。明日の二時に正門前に来て頂戴。後、海堂高校の正門に着いたら、警備員に言いなさい。話を付けておいて上げるから」

 

「それで、なんて言えば?」

 

「早乙女静香に呼ばれ来た……ってね」

 

「はいよ」

 

 こうして突然、俺の海堂高校の見学が決まった。




はい、まさかの早乙女さん登場回でした。ちなみに年齢は予想です。大体このくらいかな~的な。なので、あんまりそこは突っ込まないでくれると嬉しいです。では、次回もお楽しみに!


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21話 海堂高校の過去

 俺は明日の海堂高校への見学を決定した後、いつの間にか夕方になり、皆と別れて家に帰る。家に帰ると、玄関には靴が二足あった。この家は俺と親父の二人しか住んでいないので、お客さんが来ていることになる。俺は靴を脱いで、リビングに向かった。

 

「おう帰ったか、亮太」

 

「お邪魔してるよ」

 

 俺がリビングへと行くと、二人のおっさんが俺を出迎えてくれた。一人は俺の親父である茂野英毅、そしてもう一人は親父がプロ野球選手である関係で昔から顔馴染みのスポーツ記者である霧島栄二さんだ。栄二さんと親父は高校からの顔馴染みでもあるらしい。

 

「お久しぶりです。栄二さん」

 

「二ヶ月ぶりだな……。にしても、相変わらず行儀いいな、お前も少しは見習え」

 

「うるせぇ」

 

 栄二さんは親父に小言を言うと、親父はその言葉に一言返した。

 しかし、ここにスポーツ記者の栄二さんがいるとは……丁度いい。俺は後で栄二さんに連絡して聞こうと思っていた海堂高校について聞いてみることにした。

 

「あの栄二さん、海堂高校について何か知っていますか?」

 

「海堂高校?なんでまた……」

 

「何だ亮太。小学生でもう高校の心配か?」

 

「あんたは黙れ」

 

「俺の扱いひど!?」

 

 俺は親父を静かにさせ、栄二さんに海堂高校について聞く。栄二さんは俺が海堂高校について聞くことに疑問を抱きながらも、しっかりと話してくれた。

 

「海堂高校か。あそこはあの事故があるまではいい野球をしていたんだが……」

 

「あの事故?」

 

「ああ、あれは確か六年前……」

 

 栄二は静かに語り出す、甲子園を賭けた試合で起きた一人のピッチャーの悲劇を……。

 

「無理をし、投げ続けて命を落としたピッチャー……か」

 

「ところで亮太くん、何故海堂高校のことを……?」

 

「ああ、それはですね」

 

「それは?」

 

「女子高生を助けるためですよ」

 

「「?」」

 

 親父と栄二さんは俺の言葉に、首を傾げた。

 

 

 

「着いたか……。意外に時間掛かったな」

 

 俺は朝速く家を出ると、電車に乗り、海堂高校へとやって来た。しかし、海堂高校は思ってたより大きく、正門を探すのに時間が掛かってしまった。朝速く出て正解だったな。

 正門前に着くと、見覚えのある女子高生が声を掛けてくる。

 

「あら、時間通りね」

 

「あれ、待っててくれたんだ?」

 

「小学生が高校の正門前で、じっとしてたら変でしょ?」

 

「確かに……」

 

「あと、その鞄は?」

 

 彼女は俺の持っている大きい鞄に気付くと、気になったのか俺に聞いてきた。そして俺は一言答える。

 

「秘密です」

 

 彼女は俺の鞄の中身を気にしながらも、俺を連れて、海堂高校の中に入って行った。

 

 

 

「やっぱ、中も広いな」

 

「この高校には普通科とスポーツ科があって、野球部はスポーツ科に属しているわ。そして、スポーツ科は一切授業を受けることはないのよ……って、小学生に言っても分からないか」

 

「ああ、分かるから続けていいよ」

 

「あなたって、本当に小学生?」

 

「正真正銘の小学生です」

 

「勉強熱心なのね」

 

 俺は彼女の解説を聞きながら、高校の中を回って行く。今日は休日なので人はあまりいない。

 正直、俺の感想としては圧巻の一言だった。まず広い。なので移動の際にはバスを使ったりもしたんだが、本当に広い。なんか山もあったし。どこぞのテーマパークよりもデカいんじゃないだろうか……。

 そして次に施設。トレーニングルームがたくさんあり、機器も最新の物ばかりでとても充実していた。彼女は二軍の監督なので二軍の宿舎しか、見せて貰えなかったが、そこだけでも凄いと感じることが出来た。

 見学が始まって二時間経つと、最後に今二軍のエースがピッチングをしているというので、それを見せてくれるらしい。俺は待ってましたとばかりに彼女に付いて行った。

 

 

 

 俺は彼女に連れられ練習場に着くと、そこにはキャッチャーのミットにピッチャーの球が収まる音が鳴り響いた。

 

「どう、彼は二軍のエースよ。しかも、一軍に上がることも確定してるわ」

 

「いい球を投げるな……でも」

 

 まるで、何かに縛られているようだな。

 

 俺は球を投げている彼に、そんな感想を抱いた。

 

 

 

 俺は隣にいる早乙女に声を掛ける。

 

「なぁ、あんたはそんな野球でいいのか?」

 

「どういう意味?」

 

「昨日、知り合いから聞いたよ。六年前の事故……お前の兄さんのこと」

 

「なんですって……」

 

 俺が栄二さんから聞いたこの事件に対して思ったることは、なんとも言えないってことだった。投げ続けた早乙女の兄さんの意思、そしてそれを止めなかった監督やチームメイト。一概にどちらも悪いとは言えない。ギブソンのデッドボールと同じだ。でも、俺は……俺には早乙女の兄さんが妹に伝えたかった野球はこんなマニュアル野球じゃないと思ったんだ。

 

「あなたに何が分かるっていうのよ!」

 

「分かるわけないだろう。本人じゃないし、当事者でもないんだから。でも……」

 

 俺は少し間を置いて、言った。

 

「でも、お前の兄さんのプレーは昨日見たし、聞いた」

 

「兄さんの……」

 

「ああ。さてと……」

 

 俺は視線を早乙女から、二軍のピッチャーに視線を移すと声を掛けた。

 

「ねぇねぇ、お兄さん。俺と勝負しない?」

 

「はぁ?ガキが何を言ってやがる」

 

「えっ。もしかして、小学生に勝負で負けるのが怖いのかな?」

 

「ちっ、この手のガキはしつこいからな。速攻で片付けてやるよ」

 

 ……一応ほかの作戦も用意してたんだけど、バカで助かったな。

 

 

 俺は着ていたジャージを脱ぐと、ドルフィンズのユニフォーム姿になる。そして、俺は大きな鞄の中からスパイクを出すと、今履いている靴と履き替えた。

 

「ちょっと、何を勝手に。というか、あなた初めからこのつもりで……」

 

「まぁ、マニュアル野球で育て上られた選手が小学生に敗北なんていうのはないだろ。しっかり見ておけよ、あんたの兄さんが本当にお前に残したかった野球を」

 

「……」

 

「まぁ、もう答えは知っていると思うけどな……」

 

「何をぶつぶつ言ってやがる。速くバッターボックスに入りやがれ」

 

 俺はさっきから煩いピッチャーを無視しつつ、近く立てられていたバットを持ち、バッターボックスに向かった。

 

 さて、やりますか……。

 

 俺はバッターボックスでバットを構え、相手のピッチャーと向かい合った。




はい、皆さんどうでしたか。スポーツ記者はオリキャラです。後、二軍のエースはもっとクールにしたかったんですが、それじゃあ挑発に乗りそうになかったのでこんな感じになってしまいました。では、最後に次回予告。

突然の海堂二軍エースとの勝負、果たして亮太の運命はいかに!?

次回 『野球への思い』
約束の舞台へ駆け上がれ!!


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22話 野球への思い

今回は少し長いです。それと勝負は一打席勝負です。前の話しにも加筆しました。


 日曜日、見事グラウンドを手に入れた三船ドルフィンズはそのグラウンドでいつも通り練習をしていた。そんな中、監督が今日来ているメンバーを確認するべく点呼をする。

 

「今日来てないのは吾郎くん、清水ちゃん、亮太くんの三人か……。最初の二人はともかく、亮太くんのことで何か聞いている人はいるかね」

 

 監督は集まっているメンバーに問いかける。すると、沢村と小森が静かに手を上げた。

 

「あ~、なんか用事が出来たらしくて、いけないみたいです」

 

「僕も同じように聞いています」

 

「そうか……。じゃあ、守備の練習から始めるから、それぞれ位置に着いてくれ」

 

 監督が指示を出すと、皆がそれぞれの位置に着くべく、動き出す。

 そして沢村と小森は移動中、静かに話しながら向かった。

 

「亮太くん大丈夫かな?」

 

「あの空気だったからな……。もしかしたら、向こうの選手と戦ってたりして」

 

「あはは……まさか」

 

「まっ、さすがのあいつでも、そんな事はしないよな」

 

「そうだよ、たぶん」

 

「「……」」

 

 小森と沢村は静かにお互いの顔を見ると、少しして誤魔化すように笑い出した。

 

 

 

 俺は海堂高校の二軍のエースと向かい合うと、バットを構える。最初の投球練習を見る限り、右投げで変化球を使っていなかったが、あの海堂の二軍のエースが変化球を持っていないわけはないだろう。そして球の速さは大体、130から140くらいか。

 俺は一人考えながらバットの素振りを終えると、勝負開始の合図が響いた。

 

「プレイボール!」

 

 とりあえず、初球は粘ってあいつの変化球を出させてやる。

 

 俺はバットを構え、集中力を上げる。そしてピッチャーが振りかぶって投げた。投げたボールは一直線のストレート……しかも、速い!

 俺は数秒降り遅れて、空振りしてしまう。

 

 ちっ……。

 

「ストライク!」

 

 審判の声が響いた。

 俺はバットを握り直し、再びバットを構えると次の球について考える。球速はさっきの予想通りだ。もし変化球を持ってるのなら、たぶん次の球で使ってくるだろう。

 そして、相手のピッチャーの第二球。相手のピッチャーの投げた球は先程の一直線の球とは違い外角に向かう、それも速い。……スライダーだ。俺はこの球を強引に当てにいき、球は真横に飛んでいった。

 審判の声が再び響く。

 

「ファール」

 

 俺は改めて海堂高校二軍エースの球を受けて実感した。

 

 ……重い。

 

 こないだ戦った大人のピッチャーとは違い、謂わば現役の球だ。球の速さは同じくらいでも、球の重さや切れが違う。

 俺はもう一度、相手の球を思い浮かべて軽くバットで素振りをする。

 

 ……よし、感じは掴んだ。

 

 俺はこの後も打球をどこにどうやって飛ばすか頭を使ってイメージしながら、自前のしつこさで相手のボールに喰らい付いていった。

 

 

 

『変な子』

 

 それが私が最初に彼に会った時の感想だ。

 彼は名も知らない不良に囲まれた私を救い、私は只の子供がテレビのヒーロー番組にでも見て助けたのかと思って、アイスを奢った。

 その後、適当にあしらって帰ろうとしたところに彼は私に向かって……。

 

『じゃあ、名門海堂の二軍監督に聞きます。あなたにとって、野球で最も大事なものってなんですか?』

 

 彼はこの質問と共に、なにか分かったような視線を向けてくる。私は何も分かってない癖にそんな視線を私に向ける彼に不快な気持ちを抱いた。

 その後、話を続けていると彼は最後に、海堂高校の見学を申し込む。なにか企んでいることは私にも分かっていたけど、私はこの機会に彼を見極めようと思い、彼の海堂高校の見学を許可を出した。

 

 待ち合わせの午後二時に正門に向かう。今日は二軍の練習はなく、一軍に上がるピッチャーはキャッチャーと共に自主練をしているだけだ。私が正門に着いて暫く待つと、彼がやって来た。

 そして後は彼と話ながら、私は海堂高校の施設を案内しながら見て回る。さらに、これは会った時から感じていたが案内の中で私は彼の小学生離れした発言と反応にとても驚いた。

そして暫く見て回ると二軍のエースがピッチングをしている施設に着く。そして彼は兄さんのことを誰から聞いたと言い、さらに私に一言告げる。

 

『なぁ、あんたはそれでいいのか?』

 

 私を見透かしたような言葉。この時、ふと兄さんの顔が頭の中を過ったような気がした。

 そして、私は自分でもわかってるはずの答えを隠すように、大声を出す。

 

『あなたに何が分かるっていうのよ!』

 

『分かるわけないだろう。本人じゃないし、当事者でもないんだから。でも……』

 

 彼はさらに真剣な表情で告げる。

 

『でも、お前の兄さんのプレーは昨日見たし、聞いた』

 

 彼はそう告げると、二軍のエースに一打席の勝負を仕掛けに行った。

 彼のバットの振りを見てみると、小学生の中でも上出来だろう。でも、所詮は小学生レベルでだ。二軍のエースの球では打つことはできないだろう。しかし、彼はそんなの関係なしにバッターボックスに立っていた。

 

 

 

 果たしてもう何球ファールをしているだろうか。彼がバットを握り直す仕草を見ると、彼の手が痺れているのが分かる。

 何故彼はこんな勝負に、そこまでやるのだろうか。私には分からない。いや……分からないふりをしていた。

 そして、私は迷っていたんだ。今の海堂高校の野球は結果である勝利、選手の安全が第一。でも兄さんの楽しい野球はない。選手の意思を尊重しない野球、それがマニュアル野球だ。もう、兄さんのような人を出さないように。

 そして、今目の前にいる少年のプレーを見る。眩しい……いや、眩しいというより、泥臭い。でもなんでだろ、ポジションも違うのに彼の姿が兄さんと重なる。兄さんが笑顔で私に言ってきた言葉が甦る。私の中で、二つの野球への思いがぶつかり合った。

 そんな時、勝負する前の彼の言葉が私の中に響く。

 

『まぁ、もう答えは知っていると思うがな……』

 

 そしてその瞬間、バットに球が当たる甲高い音が聞こえた。

 

 

 

 俺は何度も相手のピッチャーの球に喰らい付いていくと、その都度バットを握り直しながら、手が痺れてきたので手の感覚を確認する。

 

「かぁ~、腕痺れる」

 

「おいおい、しつこいな!」

 

「しつこさだけが、武器でして」

 

 俺は相手のピッチャーにの文句を軽口で返した。しかし、このままではいずれ三振するのも時間の問題。そんな時、ふと昨日の親父の言葉を思い出した。

 

 

 

『親父、自分より格上のピッチャーの球を打つにはどうしたらいい?』

 

『何だ突然』

 

『いいから』

 

『そうだな。やっぱタイミングと足腰かな』

 

『タイミングと足腰ね……』

 

『たく、さっきの海堂高校の話しといい、今度は何をしようとしてるのかは知らないが、ほどほどにしとけよ』

 

『分かってるっての』

 

『まぁ、お前には二年で身につけたスイングと分析力がある。それを精一杯フルで使ってみればなんとかなるんじゃないか?』

 

 

 

「ふぅー」

 

 俺は親父の言葉を思い出し、一息をついた。

 

 ……相手は自分のスライダーに自信を持っている。なら、狙うは外角のスライダーだな。

 

 俺は相手のピッチャーの狙い球を絞った。そして目を閉じ、相手のピッチャーの動きを思い出す。

 

 思い出せ。相手のピッチャーの足運びから、手の動きまで……それを自分のスイングと合わせるんだ。

 

 俺は目を開ける。そして、脳内でイメージしながら、バットを構えた。相手のピッチャーが大きく振りかぶるのを確認する。そして、勢いよく投げた!

 球は外角に向かっていく……予想通り、スライダーだ。

 俺はそのスライダーに、イメージ通りのスイングを合わせる。そして……

 

 

 

 

 

 

「もらったぁーーー!!」

 

 俺のバットは見事に球を捕らえて、高校野球ではライト前にヒット。少年野球ではホームランである。俺は離れて呆然と見ている早乙女に向かってガッツポーズをした。早乙女はなにか答えを出したのか、静かに笑っている。俺は彼女の元へ向かっていく。

 そして、俺には彼女の笑顔が最初に会った時に見た作られた笑顔ではなく、心の底から出た笑顔に思えてならなかった。

 

 

 

「俺の勝ちだな」

 

「そのようね」

 

「いい笑顔だったぜ」

 

「なっ……」

 

 彼女は照れながら、小さく見なかったことにしてと呟いた。残念、もう脳内保存済み。

 

「……礼は言わないわ」

 

「別にそんなのいらないよ。その笑顔で十分だ」

 

「バカ……」

 

「野球バカです」

 

 俺は屁理屈を言うと、ふと相手のピッチャーの方を見て、彼女に言う。

 

「あのピッチャーはいいのか?」

 

「彼ね。少し調子に乗っていたから、いい薬になったわ」

 

「そうかい、ならいいんだが」

 

「もう、夕方ね。とりあえず、正門まで送るわ」

 

「それはどうも」

 

 外へ出ると、もういつの間にか夕方になっていた。時間が経つのはあっという間だ。

 そして、俺と早乙女はバスに乗って、正門へ向かった。

 

 

 俺は早乙女と正門に向かっている途中、口を開いた。

 

「なぁ、俺は野球には楽しさは重要だと思うけどな」

 

「……」

 

「たとえさ、マニュアル野球でもいつか怪我するかもしれないし、この世に絶対なんてないわけじゃん。だから……」

 

 俺は彼女と向き合って告げた。

 

「だから、俺は選手と一人一人と向き合うことが大切だと思うぜ」

 

「考えとくわ……」

 

「考えろ、考えろ。時間はたっぷりあるんだし」

 

「小学生の言葉とは思えないわね」

 

「さてさて、どうだろうな」

 

 俺は適当に誤魔化した。

 

「まぁ、俺はメジャーリーガーになる男だし、そんな言葉出てもおかしくはないだろ」

 

「メジャーリーガー?」

 

 早乙女は俺の夢を聞いて、首を傾げた。

 

「あなたがメジャーリーガーね」

 

「おう。どうだい、海堂高校二軍の監督から見て、俺はメジャーリーガーになれると思うか?」

 

「そうね……今のまま成長していけばなれるかもね。でも、この世に絶対はないわ」

 

「そうだな……」

 

「だから、今度はあなたがなにか迷った時、道を見失った時に海堂に来なさい。私が導いて上げるわ。メジャーへの道を」

 

「ふっ、そんな時はよろしく頼もうかね」

 

 俺は笑いながら、彼女に言葉を告げた。すると、バスはいつの間にか正門に着く。

 

「んじゃ、この辺でお別れだな。今日はいろいろ見せてくれて、ありがとよ」

 

「どういたしまして」

 

「そうだ。暇だったら、夏のドルフィンズの試合でも見に来たら?」

 

「暇だったらね。じゃあ」

 

 早乙女は俺に一言告げると、再び海堂高校の中に入って行った。 まったく、素直じゃないね。

 さてと……

 

「俺も行きますか」

 

 俺は彼女の最後に見せた笑顔を思い出し、少し笑いながら家に帰って行った。




はい、こうして海堂高校の話しは終わりで次回から原作へ戻ります。この話しはまぁフラグです。そして、彼女のでかいおにいさ……いや、姉も出そうかなと思いましたが、出さないことにしました。高校編で出てきます。後、次の話までまた少し空きそうなので、楽しみに待ってくれると嬉しいです。では、また次回に!


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23話 合宿

 海堂高校での対決から一週間後の日曜、俺はいつも通り、グラウンドで練習をしていた。

 

『ひび割れて、全治3ヶ月?』

 

 ドルフィンズの皆の声が一斉にハモる。吾郎が左腕に包帯を着けて、グラウンドに現れた。彼いわく、どっかのバカなやつにベットから突き落とされたらしい。すると、俺が清水の方を見る、彼女はあからさまに目をに反らした。

 

 ……何故だろう、その現場が簡単に想像できる。

 

 そして、吾郎が来てメンバーが揃ったことで、ドルフィンズの練習が本格的に始まった。

 

 

 練習が終わると、吾郎が監督にある提案をする。

 

「えっ、合宿?」

 

「うん。せっかくの夏休みだし、皆もっと集中的に練習すればもっと上手くなると思うんだ」

 

「合宿か……。このチームが強かった頃は山梨の方でやっていたんだが」

 

「いい、じゃん。そこでやろうよ」

 

 そして、この話が聞こえたのか、小森たちも集まって来る。しかも皆も意外と乗り気なようだ。もちろん、俺も合宿には賛成なのだが、俺的には海が良かった。やっぱ、水着っていいよね。

 しかし、監督は困ったような声を出す。

 

「しかし、そこは強豪が集まる共同合宿所なんだよ」

 

「共同合宿?」

 

「まぁ、監督が言いたいのはそんな強豪が集まるところに行っても、俺達は弱いから心良く思われないし、実力差を実感してモチベーションを無くして欲しくないのさ」

 

 俺は首を傾げている清水たちに向けて、少し解説した。

 

「亮太くんの言う通りだ。しかも、強豪同士で練習試合も行われるからね……」

 

 監督は暗い感じで、俺達に告げて来る。しかし一人、そんな空気を吹き飛ばす子供がいた。

 

「なんだよ、おじさん。そりゃあ、すっげーいい場所じゃんか」

 

 吾郎が一言告げるが、皆はドン引きである。

 

「しかし、吾郎くん。亮太くんも言っていたけど、今の自分達のチーム状況じゃ、差がありすぎて……」

 

「全然OK。一気にレベルアップするチャンスじゃねぇか!」

 

「それはどうかな……」

 

 沢村が呆れたように言った。俺や吾郎はともかくとして、他の皆では自信……あるかどうか分からないが、力の差を感じなくなってしまうかもしれない。

 そんな中、吾郎は冷たい言葉を俺達に投げ掛ける。

 

「えっ、お前らってそんな無くすような自信、あったっけ?」

 

 正論ですね、はい。まぁ、実力を知れるにはいい機会か……。

 

 吾郎の言葉を聞いた清水と沢村は静かに固まる。そんな中、小森が元気な声で賛成の声を上げた。それから、他の皆からも賛成の声が聞こえてくる。

 

「まぁ、いいんじゃないんですか。本人たちが行くって言ってるんだし」

 

「うーん……よし!」

 

 監督はなにやら、考える仕草をした後、皆と同じく元気の良い賛成の声を上げる。

 こうして、俺達三船ドルフィンズの夏合宿が決まった。

 

 

 

 そして、時があっという間に経ち、夏休みに入り、夏合宿当日になった。今俺はドルフィンズの皆と共に、バスで合宿所に向かっている。

 

「いい景色だな」

 

「ああ」

 

「おいおい、楽しみですって顔に書いてあるぞ」

 

「なっ……」

 

 バスの中で皆がババ抜きなどのゲームで盛り上がっている中、俺は隣に座っている吾郎をからかっている。

 すると、バスは合宿所に到着した。そして、着いたのはいいが……。

 

「まぁ、少しは予想してたよ……」

 

「あんまり、期待はしてなかったけどさ~」

 

「ここに一週間泊まるのかよ」

 

 そこは誰でも見れば理解できるほどの、ボロアパートだった。俺達はそんな合宿所に驚きながらも、中に入って行く。そして、部屋の中に入ると何故かデブが寝ていた……えっ?

 

「誰か寝てるぞ」

 

「おじさん、部屋間違えてるんじゃないの?」

 

 吾郎が監督に部屋の確認を取るが、どうやら間違ってる訳じゃないらしい。ということはこのデブが間違えているのか?

 

「おい、おっさん。ここはおっさんの部屋じゃねぇ、三船リトルの部屋なんだよ」

 

 吾郎は怒鳴りながら、デブを踏みつける。

 すると、デブが反応した。

 

「おっさんって僕のことかな?」

 

『えっ?』

 

 皆がデブの突然の声に驚きながらも、デブは立ち上がった。

 

「ひどいな、君。ちょっと太めな野球少年に向かって、おっさんはないよなぁ~」

 

「えっ、野球少年……?」

 

 吾郎が顔をひきつらせながら呟いた。

 

 確かにどう見ても、少年には見えない。というかあの体型で野球できるのか?

 

 そして、この後は吾郎が何故かお尻叩きをされて、デブは去っていった。

 

「何だったんだ?」

 

「さぁ?」

 

 俺は沢村の問いに質問を問いで返す。ちなみに、吾郎と監督と小森はデブを追って行った。残ったそれ以外のメンバーはベランダでたむろっている。……んっ?

 

「たく……がは!?」

 

 なんと、突然外のグラウンドから、球が飛んできて沢村に当たった。怖っ!

 よく見たら吾郎たちも、そのグラウンドにいる。しかも、吾郎はマウンドに立っていた。勝負でもしているのだろうか。

 俺は倒れている沢村を無視して部屋に戻り、荷物の整理をしに行った。

 

 

 

 夜になると、皆で部屋に届いた夕食を食べる。部屋は汚いが、飯は旨かった。

 そしてこの時、吾郎たちから北関東の代表であり、あの太めの野球少年(どうみてもデブ)のいる久喜というチームと練習試合をすることを伝えられた。聞くところ、吾郎があのデブを三振させて、練習試合を認めさせたようだ。

 

 ……さすがだな。

 

 まぁ、あの球を簡単に打てる小学生の打者はそうはいないだろう。

 しかし、北関東代表か……相手に取って不足なし。

 

 俺は子供のように、明日の練習試合を楽しみにしていた。




投稿ペースは遅めですが、こんな感じで投稿していこうと思っています。後、結構先になると思うんですが、これから他作品……というより、ダイヤのAとかの要素を少し入れようと思ってます。主に敵とか……。後、アンケートを活動報告に書いたので、目を通してくれると嬉しいです。回答もそっちでお願いします。
では、次回もお楽しみに。


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24話 超野球少年

3ヶ月ぶりですね、お待たせしました。1ヶ月に一回は最低でも投稿できるように頑張りたい。他の作品も同じく。


「暑いなぁ~」

 

「おい、集合だ。いくぞ」

 

「はいはい」

 

 暑い日差しの中、俺は沢村に声をかけられて皆の集まっているグラウンドの真ん中へ向かう。

 皆が集まり審判が礼と言うと、ついにデブがいる久喜リトルとの試合が始まった。吾朗は変わらず左手を負傷中だが、なんと試合には出るらしい。というか、あいつ以外にピッチャーいないしな。ちなみに、表の攻撃は久喜リトルだ。

 俺はライトのポジションについて守備位置を確認したりしていると、攻撃陣と守備陣の入れ替えが始まる。どうやら、吾郎が早くも三人を三振したようだ。

 

「相変わらず速い球投げるな~、吾郎は」

 

「というか、あの球打てる小学生なんてあまりいないし」

 

「まったく、ボールが飛んでこないから退屈だよ」

 

「……」

 

 俺は沢村の言葉を聞きながら思い出す。そういえば、こないだの大人たちとの練習試合の時もこんな感じだったなと。

 俺はこのまま何事もなく、無事に試合が終わることを心の中で祈っておいた。

 

 

 

 

 

「ボール」

 

「よっしゃー、ラッキーラッキー」

 

「これで1アウトで、1、2塁だな」

 

 俺たち三船リトルの攻撃は打席一番の前原がヒットで1塁にで、打席二番の長谷川が送りバントで前原を2塁に進む。そして現在、小森がフォワボールになり、1アウト、1、2塁という状況になっていた。

 そして、次の打席はエースである吾郎。左腕が負傷中なので少し心配だが……。

 吾郎はなんといつもの右打席ではなく、左打席に立つ。すると、監督が驚きの声が上がる。俺もよく頭が回るなぁと思うと同時に、まさかなという思いが生まれた。

 

 おいおい……。

 

「なるほど、左打席ならバントが打てる!これだったら速く1塁につけるはずだ」

 

「……」

 

 俺は監督が正しいことを言っているのは分かっていたが、今から吾郎がやろうとしていることを思うと思わず苦笑いが出る。

 そして、ピッチャーはボールを投げる。すると、吾郎は……。

 

「悪いね。俺、バント嫌いなんだよ」

 

 吾郎は監督たち、さらに敵のチームの予想を大きく裏切りボールを天高く上げる。バットに当たったボールは見事にフェンスを越えていった。

 

 こいつ、何者やねん。

 

 三船リトル全体で大きな歓声が上がる。するといつの間にか、塁に出ていた三人がこちらのベンチに帰ってくる。俺は吾郎に話し掛けた。

 

「さすがだな。でも、無理すんなよ」

 

「おう。お前こそ、ホームラン打てよな」

 

「たく、そんな簡単にホームランなんて打てねぇだろうに」

 

 清水が安定の三振を取って、俺は目の前の超野球少年のすごさを実感しつつ、バッターボックスに入る。

 こいつの球はベンチでよく見ておいたが、速度もそこまで速くない。吾郎にはさっきあんなことを言ったが、確かにこの球ならホームラン打つのにそこまで苦ではないかもしれない。

 俺はバットを構える。ちなみに、バッターボックス前に素振りはしていない、イメージは固めているが。下手にうまいスイングを見せると、あのピッチャー、絶対敬遠するだろうし。

 

「ふぅーーー」

 

 俺はバットを構えて軽く深呼吸し、集中する。

 そしてピッチャーがボールを投げる。俺はあえて見送る。

 

「ストライク」

 

 吾郎はいきなりホームランを打ったが、俺はこれからを意識する。あの海道の二軍のエースとの勝負を思い出す。

 そして、ピッチャーの第二球。アウトコースに向かう。俺はあえてポールをホームランの判定よりも少し右側に飛ばす。

 

「ファール」

 

 

「ほっ」

 

 敵のピッチャーが安心した声を上げる。俺は狙い通りにいき、思わずにやける。

 俺は同じような打球を数球繰り返す。すると、相手チームの監督が大きな声を上げる。さらに、ピッチャーのボールもキレがなくなってきてるように見えた。これ以上はこちらの他のメンバーがくだりそうだし、頃合いか。

 

「……やっぱり、遅いな」

 

「糞!」

 

 ピッチャーは先程までとは違い、力任せにボールを投げる。俺は狙いをホームランに変え、ボールをバットの芯に当て、力強く踏み込む。

 そして、ボールは見事にフェンスを越えてゆく。そう、ホームランだ。

 突然のホームランにベンチにいる皆は口を開けたまま固まっている。吾郎だけはにやけていた。

 俺は軽い足取りで、塁を踏んでいく。ピッチャーの様子を見てみると、しっかりと体力を削ってくれたようだ。一方、キャッチャーのデブは悔しそうなこちらを見ていた。

 

 あと1ストライクだったから、強引にアウトを取りにいこうとしたのかな。

 

 これで点数は4対0。三船リトルは久喜リトルを大きく突き放した。正直、俺はこの時にこのまま勝てるだろうと思ったが、世の中そう上手くはいかないことを実感した。野球の試合だけども(棒)

 

 

 

 

 

「んっ、ボール?」

 

 私は突然こちらに飛んできたボールを拾う。今さっきまで子猫と戯れていたけど、今のボールに驚いて逃げてしまったようだ。

 

「こんなところにいたのか。そろそろ宿舎に戻らないとミーティングに間に合わないぞ」

 

「あっ、監督」

 

 後ろから聞き覚えのある声に振り向く。彼はサングラスをして少し怖い雰囲気を出しているが、うちのチームの監督だ。しかし、練習は厳しいけど。

 

「いえ、大丈夫です。直ぐに戻ります」

 

「ああ。そのボールは私が戻しておこう」

 

「ありがとうございます。そういえば、監督。こっちにボールが飛んできたってことはあっちのグラウンドでどこかのチームが試合をしてるんですか?」

 

「ああ、久喜リトルと……三船リトルがな」

 

「三船リトル?」

 

 監督が三船リトルのところで少しにやたような気がした。

 しかし、聞いたことのないリトルだ。

 もしかしたら、そこにこれだけの打球の距離を飛ばせる選手がいるのかもしれない。

 

「まぁいい、とにかく時間がないぞ。ほら、速く戻れ」

 

「はい!」

 

 私は監督に元気よく返事をすると、駆け足で宿舎の方に戻っていく。すると、何故か私の頭にある男の子の姿が過る。

 そういえば、彼もリトルに入れる年になっているはずだ。今どこのチームでプレイしているか分からないが、連絡をしてと言ったのに未だに連絡が来ない。もし、会ったらお説教ね。

 

 でも本当に会いたいな……亮太。




あと、放置状態だったTwitterの方でも小説のことも積極的呟いていこうと思うのでよろしくお願いします。


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25話 トラウマ

お待たせしました。更新遅めですが、これからもよろしくお願いします。


「はぁはぁ……」

 

「よっしゃあ、これで5点差!」

 

 試合が始まり、試合も終盤の6回裏。11対6になり劣勢に追い込まれていた。最初は俺たちがリードしていたが、突然の吾郎のデッドボールにより、吾郎はストライクが入らなくなり相手に大量得点を許してしまった。俺と小森が得点を取って粘ろうにも俺たちも毎回打席が回って来るわけでもない。

 気付けば試合が終わっていた。

 

『ありがとうございました!』

 

 敵のチームと大声で挨拶し、ふと吾郎の方を見ると彼はただ自身の手を見つめていた。

 

 

 

 

 

「ありゃ、深いな」

 

「おいおい、本田は大丈夫なのか?」

 

「近いうちにこうなるとは思ってたけど……」

 

 まぁ、練習試合中になって良かったと言うところだろうか。大会だったら終わっていたな。

 

 今俺は民宿の部屋で沢村と話していた。他の皆はそれぞれ別行動している。しかし、今の吾郎の状態からこれ以上他のチームとの練習試合は無理だろうな。

 

「なっ、なぁ何見てるんだ?」

 

「んっ、ああこれ」

 

 沢村が顔を赤くして興味津々で俺が読んでいる本を覗いてくる。もちろん、俺が持っているのは親父からこっそり拝借してきたエロ本だ。しかし反応がまるで子供だな、面白い。というか小学生か。

 

「興味があるのか?」

 

「ばっ、バカ。ちげぇよ……」

 

「ホントか?」

 

「ホントだ!」

 

 俺は沢村を横目に外を見ると、吾郎と小森がどこかに向かっていくのが見える。今は夕方でこんな時間に何の用だろうか?

 

「吾郎と小森がどこかへ行ったみたいだ。俺たちも行くぞ」

 

「えっ、本田たちが?」

 

「たく、こういう時こそチームメートを頼れよな」

 

 俺は直ぐに出られるように準備をする。

 

「ほら、早くしろ。これなら後で見せてやるから!」

 

「そうじゃねぇーーー!」

 

 こうして俺と沢村は吾郎たちが行った方向に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 吾郎たちが進んだ方向に走っていくと二人はグラウンドで吾郎はボールを小森はバットを持って向かい合っていた。

 その入口では清水が入るタイミングを伺っている。

 

「おっ、清水も来てたのか。さすがは本田の嫁」

 

「誰が嫁だ!」

 

「まぁ、確かに入りづらいがここで立ってても仕方ないだろ。行くぞ!」

 

「おっ、おう」

 

 俺たちはそのまま吾郎のトラウマの克服に協力するがしかし……

 

「おっそ」

 

「うるせぇ!」

 

 何度、挑戦してもあのいつもの生きた球すら投げられず。かつ、沢村にすら球をぶつけることも出来ない。

 

 これはあら療治が必要か……。

 

 そんな考えが俺の頭を過った時、吾郎が突然走りだした。こいつの考えは極端な野球バカだがそのアイデアはあなどれない。何か解決策でも浮かんだのか。

 俺たちは先に走っていった吾郎を追い掛けた。

 

 

 

 

 

「お願いだおじさん。明日、俺たちと試合をしてくれよ」

 

 おいおい、一体どんな状況だ?

 

 俺たちが吾郎に追い付くと、そこではなんか吾郎がグラサンのおっさんに試合を申し込んでいた。

 

 あれは確か横浜リトルの……

 

 横浜リトルはこの辺のチームでかならずというほど全国大会に出場するほどの猛者だ。俺たちはそんな猛者を倒して上に上がらなきゃいけないわけだが。

 俺も見学に行ったがどーもあのチーム色には合いそうになかった。それに家から遠かったし。

 なにより、美少女監督じゃないのがでかい。

 

 俺はとりあえず吾郎の方に歩いていく。

 

「吾郎どうした?」

 

「おい、亮太からも言ってくれ」

 

 うむ、分からん。

 

 吾郎は止まらず横浜リトルの面々に向き、自身の球を受けてみないかといい始めた。そういえば昨日、彼らは吾郎が不調じゃない球を見てたな。しかし、彼らは今の吾郎の様子に戸惑っている様子。

 そして俺はふと横浜リトルの監督を見るが、恐ろしいほどの鉄仮面。これはとても試合を受けてくれるムードではない。というか、吾郎はチームの練習を邪魔して、この態度で練習試合を頼むなど本当に試合を受けて貰えると思っているのだろうか。

 まぁ何にせよ、このチームと戦ってあいつ自身のトラウマがなんとかなるというのなら挑戦するのもいいか。さて人肌ぬぎますかねぇ。

 俺は横浜リトルの監督が口を開く寸前に一歩前に出た。

 

「練習の途中に邪魔をして申し訳ありません」

 

「君は?」

 

「彼のチームメートの茂野亮太といいます。今回は彼が失礼しました」

 

「……」

 

 恐ろしい威圧感である。俺はそれに耐えながら話を続ける。

 

「今彼は精神的な問題でボールをまともに投げることができない状態なんです。でも貴方のチームである横浜リトルと試合をさせてくれればもしかしたら彼がまたボールを投げられるようになれるかもしれない。無理なお願いだと分かっています。でもどうか、俺たちに協力してはくれないでしょうか。お願いします!」

 

「1イーニングだけでもいいんです。お願いします!」

 

「おっ、俺からも」

 

「私からもお願いします!」

 

 俺が頭を下げるのと同時に、小森や沢村に清水が便乗して頭を下げてくる。

 しかし、しきめつれつなことを言ってんなぁ、俺。さて、あの鉄仮面はどうでるか。

 

 俺は頭を上げて、鉄仮面をじっと見つめる。すると、彼は口を開いた。

 

「いいだろう。試合開始は午前十時からだ。

 それとそこの君。ここまで頼み込んでくれたチームメイトに感謝するんだな。次からはしっかりと人としてのマナーを守るんだぞ」

 

『ありがとうございます!!』

 

 アカン、めっちゃ好い人だった。

 

 こうして、俺たち三船ドルフィンズと横浜リトルの練習試合が決定されたのであった。

 

 

 

 

『横浜リトルと練習試合!?』

 

 案の定、宿に戻ると残されたチームメイトと監督の驚きの声が宿中に響き渡った。

 俺は飯を食いながら監督たちの声を右から左に聞き流していると、吾郎が申し訳なさそうにこちらに話し掛けてくる。

 

「悪い、亮太。今日は……」

 

「お前の真っ直ぐなところはいいと思うが状況によってうまく使い分けないとな。それがいい方向に進む時もあるが、ほとんどが悪い方向にいくだろうし」

 

「……」

 

「まっ、次からは気を付けろよ」

 

「……ああ」

 

 吾郎は申し訳ない顔をして俯く。

 しかし、こいつはこれからもこんな感じですいくんだろうな。

 そして俺はこの瞬間、明日の試合についてあることを切り出す決意をした。

 

「吾郎、お前本当に悪いと思ってるならこれから俺が言うことに納得してくれるよな?」

 

「あっ、ああ」

 

「俺、明日お前の球とるわ。つまり、キャッチャーをする」

 

「…………はっ?」

 

 吾郎が俺の突然の発言に固まる。

 このくらいで固まって貰っては困る。次の俺の言葉こそ、重要な意味を持つのだから。

 

「そんで、俺はインコースしか構えないから」

 

「ああ、分かった?」

 

 吾郎は俺の言った意味がただ構える位置の問題と思い込み頷く。

 しかし彼がこの言葉の意味を真に理解するのは、明日の試合の一球目のことだった。

 



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26話 最悪な練習試合

更新遅くて申し訳ない


『よろしくお願いします』

 

 俺たち三船ドルフィンズと今回の練習試合相手のチームはお互い向かい合って頭を下げる。その対戦チームとは横浜リトル。神奈川の全国大会の常連チームだ。最初はいつものチームメイトはともかく、監督もこの練習試合を反対していたが、なにより吾郎のためだと説得し、急遽にこの練習試合が行われることになった。ドルフィンズは守りでのスタートだ。

 

「大丈夫か吾郎のやつ?」

 

「試合前のアップでは真ん中に投げれてたぞ」

 

「そうかよ。というかお前もキャッチャーできたのな」

 

「顔面にボールが向かってくるのはマスク越しとはいえ恐いし、咄嗟の判断も難しいから本来ならゴメンさ。でも今回は別だからな」

 

「おい、それはどういう……」

 

「ほら、走れ。もう皆ポジションに着いてるぞ」

 

「やべっ」

 

 沢村は慌てて自分が守るポジションに向かって走っていく。今回俺はキャッチャーなので動かなくていい。そして今回の試合、俺がやること、出来ることは限られている。バカの調子を治すにはやっぱりバカなことをしなくちゃいけないということだ。

 俺はマスクを被り、決められた位置に着いてミットを構える。俺の視線の先には投球ホームを確認している吾郎の姿があった。

 俺は準備完了の合図を送ると彼は首を縦に振る。そのまま彼は何度かミットにボールを投げた。コントロールはそれなりでやはりバッターボックスに人がいなければインコースに投げれるようだ。

 

 ……さて、荒療治の始まりだ。

 

 審判である、向こうの横浜リトルの監督が大きな声で宣言する。

 

「プレイボール!!」

 

 こうして俺が思うに歴代最低な練習試合が幕をあげるのであった。

 

 

 

 

 俺は審判の声を聞きつつ、視界に写るピッチャーである吾郎の様子を見る。吾郎は特に変わった様子もなく、いつもと変わらないフォーム、表情。俺が構えるミットの位置はもちろんインコースだ。吾郎は振りかぶりボールを投げる。しかしその瞬間、彼の体は無意識にボールのコースを変えた。そのコースは俺の構えたインコースとは真逆のアウトコース。本来、キャッチャーはこの場合に反射的に反応しなくてはいけないが俺は反応しなかった。しかし相手の一番のバットがそれをとらえる。ボールはファーストの真横を通りヒット。ランナーは一塁で止まった。

そして第二球。吾郎はまたしてもボールを無意識にアウトコースに向かって投げる。そして俺はミットを……

 

 

 

 

 

 

 一ミリもミットを動かさなかった

 

「はっ?」

 

「ボール!……ほう」

 

 ピッチャーである吾郎は俺のおかしな行動に気が抜けたような声を出す。バッターも予想外の展開に固まっていた。唯一、審判であるおっさんがカウントを言いながら関心したような声を出す。彼は気付いているのだろう、俺がわざとボールを捕らなかったことに。

俺はミットをインコースに構えたまま、その場から一歩も動かない。そう、動かないのだ。

 そんな俺を見た吾郎は俺の後ろにあるボールを取るべく走り出す。そして彼はボールがあるところにたどり着いてボールを拾い、セカンドに投げようとする。しかし、一塁にいたランナーは既に二塁を通り過ぎており、彼は慌てて三塁に投げる。サードはボールを受けとるがそれよりもランナーが三塁にたどり着くのが速かった。

 

「セーフ」

 

 審判の声が鳴り響く。

 そんな中、吾郎は俺に近づき俺の肩につかみかかってきた。

 

「おい、ふざけんな!どこの世界にピッチャーのボールを取らず、あまつさえボーッとするキャッチャーがいるんだよ!!」

 

 吾郎は俺に怒鳴り続ける。真面目にやれだの、キャッチャーに向いてないだの、やっぱり小森にキャッチャーやってもらうだの。

 まったく……

 

 この男はこの試合の意味をまったく理解していない。

 

 俺は溜め息を吐くと、掴みかかってくる吾郎を押し離す。

 

「ばっかじゃねぇの」

 

「あぁ!!」

 

「俺は言ったはずだぜ。インコースにしか構えないってな」

 

「なっ」

 

 吾郎が驚くのは分かる、思っていなかったんだろうそのままの意味だなんて。

 

「投げれば済む話だろ」

 

「ふざけんな、ピッチャーはインコースだけじゃねぇ!」

 

「はっ!」

 

 俺は思わず笑いがこぼれる。

 

「前にも沢村が言ったと思うけどよ、いらないんだよ。似たコースにしか投げれないバッティングセンターのピッチングマシンみたいなピッチャーなんて」

 

「くっ」

 

 するとベンチから監督が慌ててこちらに駆け足で向かってくる。この騒ぎはまずいと思ったのだろう。

 

「とっとりあえず、落ち着いて」

 

「おっさん、キャッチャー交代だ!」

 

「それは認めん」

 

「なに!」

 

「彼をキャッチャーから下げるのであれば、残念だがこの試合はやめさせてもらう」

 

「ふざけんな、どうして」

 

「……」

 

「……ちっ」

 

 吾郎は渋々グラウンドに戻っていく。監督もハラハラしながらベンチに戻っていた。無論、俺も元のポジションに戻りミットを構える。構えたところはもちろんインコース。

 しかしこの後も吾郎はインコースに投げれず、何度もボールは俺の後ろに行く。そしてそれを吾郎は何度でも取りにいく。さらに審判のおっさんも明らかにストライクのボールもボールにカウントする。当然、彼は文句を言ったが審判は相手にせず彼のイライラは最高点まで到達し、ついにがむしゃらにボールを投げてしまう。そのボールは俺の顔面に直撃した。彼のボールは小学生の中でも速いものであり、さすがにマスク越しでも痛みや衝撃を感じる。

 

 

「なっ!」

 

 さすがの吾郎もこれには顔に動揺が走る。他の皆からも心配の声が上がった。

 それでも俺は倒れたりせず、ミットをインコースに構えたままだった。




名付けてキール戦法
※7/22 キャッチャーがボールを取らなかったときバッターが走るというのを修正しました。


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27話 亮太の思い

遅くなってすいません。なんとか更新してきます。



「……すっ、すまん」

 

「たく、なにがすまんだ。いてぇ、だからキャッチャーは嫌いなんだよなぁ」

 

 さすがに心配になった吾郎が俺の元にかけよってくる。遅れて監督もこちらにやってきた。

 

「大丈夫か?」

 

「問題ありませんよっと」

 

 審判にも大丈夫だと言い、思わず転んでしまったので尻についた土を払う。すると吾郎がこちらをみずどこか遠くを見ていて体も震えているのを確認した。どこからどう見てもピッチャーとして球を投げられる状態ではない。

 俺はため息を吐くと審判のグラサンにタイムを取り吾郎の後ろに移動する。

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

「膝カックン」

 

「ぐわっ!」

 

 俺は必殺、膝カックンを吾郎に直撃させる。まったく体に力を入れられなかった吾郎はその衝撃に耐えられるはずもなく地面に崩れ落ちた。

 

「なに済んだこのやろぉーーー!!」

 

「ははは、なんだ元気じゃねぇか」

 

 俺は大きな声で怒鳴りつけてくる吾郎を見ながら笑ってやる。

 

「そんな人殺しちゃった顔しやがって。よく見ろちゃんと生きてんだろ」

 

「なっ、それはマスクがあったからだし……」

 

「小4のお前がなにを心配してやがる。うぬぼれ過ぎだ。それともお前はそんな顔面狙いまくってしまうノーコンピッチャーなのか?」

 

「んな訳あるかよ!」

 

「んじゃ、答えが出てるじゃないか」

 

 俺は吾郎の肩をつかんで目を見て語りかける。男と見つめ合う主義はないがここは仕方ない。

 

「この前はああは言ったがそれは俺らはお前がインコースに投げれる男だって知ってるからそう言ったんだ」

 

「……でも」

 

「後ろを見ろ」

 

「……」

 

 吾郎は俺の指示を聞き、後ろに振り返る。チームメイト全員がこちらの方を向き心配そうな視線を送っていた。

 

「ここまでの大量ボールを出しても誰もお前を下げようなんていうやつはここにはいない見たいだぜ。信頼されてる証拠だ」

 

「……」

 

「きばれよ、本田吾郎」

 

 俺は吾郎にボールを渡すと彼は元のポジションへ戻っていく。

 

「もう、いいのか?」

 

「さて、どうでしょう」

 

「ふん……プレーボール!」

 

 審判の声がグラウンドに響き渡る。

 俺は吾郎の方に視線を向けると彼は真っ直ぐと俺のミットに集中していた。

 

 乗り切ったみたいだな。

 

 そして吾郎の投げた速球は彼の狙い通りに俺の構えていたインコースに収まった。バッターは思わず打ちにくいインコースの球に振り遅れてしまう。

 

「ストライク!!」

 

 審判のジャッチの声がまたもグラウンド上に響き渡る。それはまさしく本田吾郎復活の証明に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「たく、なんだよあの野郎。俺がインコースに投げた瞬間、試合を終わらせやがって」

 

「文句言うな。試合を受けてくれただけでも感謝するんことだぞ。なのにお前と来たらお礼さえ言ってなかったとは……。礼儀だろう」

 

「うっ、それはあのグラサンが直ぐにいなくなったから……」

 

「嘘つけ。ずっとガーガー文句を言って言わなかっただけだろ」

 

「くっ!」

 

 俺は夕方、吾郎を引き連れて横浜リトルの監督の元に向かって言った。ちなみに監督はもう先にその横浜リトルの監督の元に向かっていた。俺は吾郎をそこに連れてくように頼まれた訳だ。まぁ、聞きたいこともあったし別に良かったんだけど。

 

 そんなことを言う内に目的の部屋に着く。俺はドアをノックする。すると、中から声が聞こえてきた。俺たちは中に入っていく。

 

「来たね、二人共」

 

「君たちか」

 

「……今日試合、わざわざ俺のためにありがとうございました」

 

 おいおい、不満なオーラが出てるぞ。

 

 一応、俺も流れで頭を下げる。

 すると、横浜リトルの監督は大人の対応で言った。

 

「別に構わない。君のために試合をした訳ではないからな」

 

「なんだと!」

 

「落ちついて吾郎くん」

 

「では何故?」

 

「ふっ、それは……」

 

 横浜リトルの監督はなにやら昔話を始める。それは彼がリトル時代の話しだった。当時、リトルの中でレギュラーをかけて行われた紅白戦でエースを争うライバルにデッドボールを与えてしまったらしい。しかしその友達であった相手は当たってしまう方も悪いんだと笑ったそうだ。

 

「さてそいつがいたらあの試合の場でどういうかな。こう言うだろうさ、誰にだって間違いはあるさ。だから当たってしまったオトサンが下手くそだったんだ。たがら頑張れよ、吾郎ってな」

 

「まさか……」

 

「そう、その人こそお前の親父、本田茂治さ。あいつが残したかった野球……まぁ、今のお前なら分かるだろう」

 

「……ありがとうございました!!」

 

「ならいい。次に君たちと戦える日を楽しみにしている」

 

 その後、監督が再度お礼を言い部屋から出る。

 吾郎の顔を見るといつも通り……いや、それ以上に晴れ晴れとした顔をした。

 

 やれやれ、これで問題解決かな。

 

 時計を見るともう時刻は夕飯の時間を指していた。俺たち三人は三船ドルフィンズが集まるところへ戻ろうとする。

 

 しかし……

 

「……嘘。亮太、ねぇ、亮太だよね!?」

 

 突然と懐かしい声が俺の耳に届いた。



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