九尾に両親を殺された僕が左遷されナルトの世話係になった。 (柚子ゴル)
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前置きのような第一話
親の死に目を見れないのは仕方がないことだ。何故なら僕の両親はどちらとも忍びだったから。
任務に行く日に親に何度も言われた言葉を思い出す。私達は忍びだからもしかしたら貴方に会えなくなるかもしれないと。
でもそんなことを言っては必ず両親は帰ってきた。僕の両親はやなはた一族という少しだけ有名な一族らしい。
容姿端麗でありまた、異常なまでの回復力を持つ一族。どんな傷を負ってもすぐに傷が塞がる。
例えば、心の臓を刃物で突き刺したとしてもその刃さえ体から抜いてしまえばすぐ治る。首を切断したとしてもすぐさま頭と体をくっつければ癒着する。そんな僕の両親をみんなは「不死鳥」と呼んだ。それがなんだか誇らしくていつも僕は両親は死なないのだと信じていた。実際どんな事をしても死ぬだろうと言われていた任務も成功を収めているし怪我一つ見たことがない。それは僕が中忍になった時ですらそうだった。
しかし、実際はそうではなかったということを後に知ることになった。忘れもしない10月10日。その日、木の葉の里史上最悪最低な出来事が起こった。それは九尾襲来。理由は定かではないが、強烈な爆発音と風を受け、忍びは全員総出で出動した。
当然ながら僕の両親もだ。両親は僕を抱きしめまたお決まりの台詞を吐く。けれど死なないとわかっているのだから、はやく行きなよと急かす。僕も僕で中忍だから民間人を避難させないといけない。両親は名残惜しそうに僕から離れ九尾へと向かっていく。全く心配症なんだからと両親の背中を見る。動いている両親を見たのはこれで最後だった。
次に見たのは病院だった。傷一つない両親が横たわっていた。寝ているものかと思い起こそうとしたがなかなか起きない。そればかりかやけに身体が冷えている。もしかして寒いのかな?と思い、近くに居た医者に両親に毛布を頼んだ。しかし医者は首を横に振り残念ですが、お亡くなりになっています。と一言言い、お前なんかに構っている暇はないとでもいうように足早に去っていった。
僕はそんなわけないと叫んだが誰もこの混乱の中僕の叫びなんか気にも留めなかった。両親が死ぬなんて僕の頭の中になかった。傷一つないんだよ?こんなに綺麗な死体があるわけないと叫ぶけれどちらりと僕を見て医者は忙しい忙しいとぼやき見て見ぬ振りをした。
それから数日。やはり両親はまだ起きない。両親と仲が良かった同僚などが僕と両親を引き離そうとする。こんな事をしても両親は喜ばないと言う。どうしてそんなことをするのか、意味がわからなかった。だって僕はただ両親を家で寝かせているだけなのに。
家に食料がなくなり、一度外へ出た。スーパーの帰り道、人通りが少ない路地裏を通っていたら、話し声が聞こえて気配を消し、話に聞き入る。
「やなはた一族も可哀想だよな。あんな使い方されて。」
「確かになぁ。九尾の足止め、やなはた一族は回復するったって血を流しすぎたら死ぬんだろ?ならあんな大怪我させたならすぐ引っ込めないと駄目だよな?」
「それがよ、なんだか怪しいんだよそこが。」
「はぁ?何がだよ。」
「それがこの混乱に託けてやなはた一族の体が欲しかったんじゃないかって話だ。」
「はぁ?!」
「馬鹿声が大きい。やなはた一族は体がすぐ治るだろ?その力を解明したいやつが上層部にいてやなはた一族をあんな前線に出したらしい。」
「なるほどなぁ。事故で死なせてその体を解剖!ってわけか。ま、でもやなはた一族も大したことないな。不死鳥だなんて言われてたけど実際すぐ死んじゃったし。」
「そうだな。」
あははと笑いながら話す彼ら。わけがわからなかった。いや、まだ両親は死んではいない。けれどなんだか嫌な予感がして帰路を急いだ。
家に帰ると両親がいなかった。
代わりにいたのは気持ち悪い大蛇丸さん。三忍の一人大蛇丸さんはかなり苦手で嫌いだった。だけどそんなの関係ない。両親は何処と聞くとにこりと笑い言った。
「死んだ忍びの体は貴方のものじゃない。里のものなのよ?」
あれから数年。流石に今の僕は両親が死んだというのはわかる。
そしてあの九尾襲来でもともと少なかったやなはた一族は僕以外死んだことがわかった。不可解なことにやなはた一族の死体は行方不明なままだ。つまり、未だに両親の死体は何処にあるかはわからない。もはや解剖されているに違いない僕の両親は一体どうなってしまったのか。
あの後僕は泣き叫んだ。返してと言えば言うほど大蛇丸はにこにこと笑い、それは無理だわと言いのけた。火影様にも相談したが何もしてくれなかった。誰も味方などしてくれなかった。
そのうち両親の話はしなくなった。
やなはた一族は今でも名ばかりが先走りして実際は大したことないと言われている。
僕はそれが一番許せなかった。命を落としてまで戦った両親に対しその扱い。四代目は命を落として九尾を封印した英雄。僕は納得がいかなかった。両親をそんな風に無下にした奴らも、両親を足蹴にし英雄と成り上がった四代目も、何もしてくれない三代目も、そして何も出来ない僕も、全部が全部恨めしかった。
そもそも誰が両親の体を狙ったのかさえわからないこの状況でそれを確かめるにはある程度の地位を築かなければならない。忍びの世界は徹底した実力主義だから、上にいけばそれを知ることが出来るかもしれない。そして僕がある程度の地位を築けばきっと一族としての嫌な先入観も消えるはずだ。
そのためには力が必要でただひたすら力を磨き、上を目指す。地位を獲得するためにどんな汚れ仕事だってした。あいにく、僕は男でありながらやなはた一族で艶麗であり端麗でもあったから色任務もきた。それすらも地位が上がるならと喜んでやった。忍びのエリート集団、暗部になれた時の喜びは何にも変えることはできない。今は期待の新人として実力を惜しみなく発揮し時期隊長格とさえ言われている。
そんな僕に火影から直接話があると伝えられたのは数刻前。
それを聞いた時、暗部仲間はついに昇格か?!と騒ぎ出し、はやすぎるだろ!昇格するの!と僕の頭をグリグリ押さえつける。だけど僕はそんな暗部仲間の無礼すら気にもとめなく、僕の先輩であり先ほど僕に火影からの伝言を伝えた人をキラキラとした期待の眼差しを向ける。その先輩は困った顔しながらそうとは決まったわけじゃないぞと言った。
僕は嬉しくてすぐさま火影邸へと急いだ。その途中唯一の友達と言っていいうちはイタチを見かけてちょっかいをかけた。僕昇格するかもしれないんだと自慢する。もちろんイタチはとっくに分隊長になっていたわけだけど、優しく良かったなと言ってくれた。僕はイタチと別れ期待に胸を膨らませながら、火影室にノックをし、返事が来てから中へと入る。
そこには穏やかな顔をした三代目がいた。ああ、やっとここまできたと、まだ宣言されていないのにも関わらず何故か感極まる。しかし三代目から発せられた言葉は僕が全く予想していなかった発言だった。
「やなはたヤマト。お主は今日を持って暗部を辞め、うずまきナルトの世話係に任命する。」
それはいわゆる左遷命令だった。
しかも世話をする相手は、僕の憎き相手である九尾がいれられた四代目の餓鬼。
一瞬理解が出来なかった。何故僕?本当にそれは僕であってるのか?混乱してなかなか返事が出来ないでいると火影は眉をひそめ返事がないようじゃがと言った。僕は慌てて申し訳ありませんと謝り、抗議したかった。何故僕がと。好成績であるし仲間内で特に問題を起こさないよう注意してきた僕がなぜと問いただしたかった。けれどそれはできなかった。
火影の命令は絶対である。それに火影の雰囲気や目を見ればそんなの抗議など受け付けないと歴然とした態度で僕に接してきている。
僕はただ本当に、本当に小さなせめてもの抵抗として小声で震える声で了承しました。と答えた。
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第二話
火影室から出て未だ混乱する頭のまま、急いで暗部のロッカー室へと急いだ。僕は任務が終わり次第すぐに火影邸に行った。だから今は誰もいないはず…。
暗部ではなくなったのだから、僕専用のロッカーもなくなるだろう。ロッカーの中身を整理しているところを誰にも見られたくはなかった。
あんなウキウキしながら出て行った僕が実は昇格などではなく左遷だと知ったら元、同僚はどんな反応をするだろうか。きっと笑うだろう。よかったなと表上喜んでも自分よりも新人が隊長格になるのは心は穏やかでないはずだ。心の中でざまぁみろと言い、表上ではお前みたいな優秀な奴が残念だなと言うだろう。そんな奴らの目にはきっと馬鹿にしたような同情するような冷笑しているような視線で僕に絡めつくに違いない。そんなところを僕は見たくなかったし感じたくなかった。何故ならもっと自分自身が惨めになる。考えるだけでも吐き気がする。
暗部のロッカー室につき周りに誰もいないのを確認してから、ロッカーの中にあるものをカバンの中にいれる。
幸いそんなに大荷物にはならなかった。
ほっとしながらこれから自分はどうすればいいのだろうと考える。エリートの道を外れてどうやって昇格の道を目指せばいいのだろうか。そもそも火影には僕を昇格させる気がないのか?何故なら僕がやなはた一族だから、という理由で。僕が両親を探していることは火影も知っている。何故なら僕はどうしようもなく馬鹿だった頃、自分から情報を曝け出し、火影になんとかしてくれと頼んだからだ。しかし、両親を隠したことにもしも火影も絡んでいたら?僕が目障りで仕方がないだろう。だから左遷させた?
…嗚呼、僕はなんて馬鹿なんだ。火影すら信用してはならなかったのに。いや、そもそも本当に火影がその件に絡んでいたとはわからないが。
僕はギリっとはを噛み締め拳を握りくそっと呟きロッカーを殴った。ロッカーはベッコリへこみしまったと焦ったが別にいいかと思い直した。
「もう昇格するなんて道残されてねーし。」
僕はロッカー室の自身の名前が書かれたプレートをべりっと剥がす。これが唯一僕が暗部であるという証明になるものだったのに。プレートをぐしゃりと原型をなくさせ近くにあったゴミ箱に投げ入れる。カコンという小気味いい音がなった。
しばらくぼーっと今まで暗部になるために必死に努力をしてきたことを振り返る。そしてやはりこの理不尽さに納得がいかなかった。やはり火影もグルなのかと疑念を抱かざるおえない。
悶々としながらはやくロッカー室を後にするべきことを思い出す。暗部はいつ駆り出されるかわからない。つまり元、同僚がいつ来るかわかったものではない。今彼らに会ってしまったら自分はどうなるかわからない。
周りを注意しながらそそくさとロッカー室から出ようとすれば、途中で最悪な人物に会ってしまった。
「あれ?ヤマトじゃね?」
ピタリと僕の体が止まる。目の前には元、暗部の先輩が入り口で僕を見つめていた。しまったと思ったがこいつはまだ僕が暗部を辞めさせられたことは知らない。なんとか平常心を保ちニコリと笑った。
「こんばんは。任務ですか。先輩。」
「ああ、まぁな。それよりお前昇格したんだろ?すげーじゃねーの。え?この前入ったばっかなのによ。」
そう言って話す先輩の目にははっきりとした嫉妬や嫌悪が含まれていた。僕が入った当初からこの先輩は僕が気に入らないらしくいつも嫌みたらしく僕に絡んできた。もちろん今言った言葉も皮肉だろう。
「昇格だなんてそんな違いますよ。そこまで僕は優秀ではないです。
すみません。ちょっとこの後用事があって失礼します。」
頭を下げ急いでこのムカつく先輩から逃げようとする。しかしそれは先輩の手によって塞がれた。
「待てよ。その荷物はなんだ?昇格じゃないなら何故火影に呼ばれた?」
ちらりと先輩の目を見る。目だけは人を騙せない。その目にはただただ疑問が生じているようだ。しかしこいつがその理由をわかるのも時間の問題。何故なら今まで暗部をクビになった奴らもこうやって荷物をまとめひっそりと出て行ったから。その時僕は何をやらかしたんだかと他人事だった。まさか自分がその立場になるなんて思っていなかったから。黙っている僕に対し先輩は急にハッとして笑い出した。
「ははっ、お前まさか…なんだよお前まさか暗部を降ろされたのか?」
それでもなお黙っている僕に対して先輩は確信したようにもっと豪快に笑い始めた。
「あひゃひゃひゃ!なんだよお前!あーんな目キラキラさせといて辞めさせられたのかよ!やー、火影様も枠なことなさる。でも俺は残念だぜ?お前みたいな優秀なやつがまさか暗部を辞めさせられるなんて思わなかったからな?くっくっく。それで?暗部をおろされて?何やるんだよ。」
僕はぎゅっとカバンを握る手に力を込める。怒ってはいけない。一応相手は先輩なのだ。しかも今となっては同等ではなく僕の方が立場は下だ。こいつが飽きるまで付き合わなければいけない。もしも僕がこれからも昇格を狙うのならば。
黙っている僕に痺れを切らしたのか先輩は僕の顎をくいっとあげ耳元に口を持っていき、息を吹きかけながら呟いた。
「それともその美貌でまた色任務でもやるのか?」
にたりといやらしく笑い僕の目を見てくる。
その目は欲望と蔑みが織り混ざっていた。
こいつは僕に欲情でもしているのだろうか。憎たらしく思っていた相手が思いがけず立場が自分よりも劣ったものになり一種の興奮を覚えているのか。自分より弱いタイプの人間に対して優越感を感じるタイプか。
どちらとしても僕は実際男相手だろうが女相手だろうがこの美貌を活かして色任務をしてきた。しかしそれは望んでしていたものではない。フルフルと震えながらそれでも立場をあげるため、または両親に一歩でも近づくためにそれこそ本当に自殺を考える程思いつめてやってきたことだ。心の中で確かな殺意が目覚める。気にしていることをズバズバと言うこの男に。男は相変わらずムカつく顔で僕の顔を見てくる。僕は目を逸らさずキッと睨む。するとその男は堪らず、といった表情で僕に提案する。
「俺の愛人になるなら、世話ぐらいしてやってもいいぜ?」
カッと顔が熱くなるのがわかった。
何故僕はこんな男にこんな事を言われないといけないのか。意味がわからない。そもそも自分にはそんな男趣味などない。任務で男の相手をしたからといって僕は決してそちら側ではないし、プライベートではそんなこと微塵のかけらもしない。僕にとってはもはやそれらの事はトラウマであり自ら進んでやりたいとさえ思わない。黙っている僕に自分の意見を了承したと捉えた男は僕に顔を近づけてくる。もう気絶させて帰ろうと手を出そうとした時、別の誰かが先輩であった男に手刀を落とした。綺麗な長髪の黒髪をなびかせたった今手刀を施した相手に蔑んだ目を向ける男。うちはイタチ。僕はいきなりの登場に呟いた。
「イタチ…」
それに気づいたイタチは僕を探るような目で見て言った。
「お前がやられっぱなしとは。いつもは同じ立場の人間だったらもっと言い返すだろう?」
「……。」
うちは一族の中でも天才と言われるうちはイタチ。
こいつは僕の唯一の友人でありライバルだ。イタチもまた暗部でありしかも分隊長を務めるまでに成長している。
自分の中では勝手にライバルとしてイタチを見ていてずっと少しでも近づくために頑張っていた。
しかしそれもいまや天と地の差になったわけだが。そう思うとなんだか視界が涙でボヤけてくる。自分が唯一心を許せるのはイタチぐらいでイタチの前でしか本性を晒せない。だからイタチの前でしか泣けない。今まで泣きたいのを我慢してきた。だけどイタチが来たから泣いてもいいよね?なんて心の中で呟いてイタチの前で泣き出してしまった。
✳︎
泣き出した僕にビックリしたイタチは僕をロッカー室から人気のない外に連れ出した。
イタチはただただ泣きながら話す僕の話を黙って聞いてくれた。
火影の理不尽さとかも愚痴ったし、九尾を腹に宿した四代目の餓鬼の世話もやらなくてはいけないことも話した。その都度イタチは黙って頭を撫でてくれた。昔からイタチは僕が泣き始めると頭を撫でてくれる。両親がいなくなった時側で励ましてくれたのもこいつだし、今まで挫折しそうになった時いつも助けてもらっていた。感謝してもしきれない。逆にイタチが困った時絶対助けるからと言うけれどなかなかイタチは悩み事を話してくれない。
僕がしんと黙るとイタチはニコリと笑いながら僕に言ってきた。
「ヤマト、俺にも弟がいるが小さい子は可愛いぞ?」
ほがらかな顔をして言うイタチに僕は思わずまた始まったと眉を顰めた。
それから小一時間ほどイタチの弟、子供の可愛さの話を聞かされた。
次回はナルト登場です。
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第三話
散々泣いてイタチの弟話に付き合った後、僕はイタチと別れて家に帰る。
ちなみに家は九尾に少し壊されたが住めないほどではなかった。実際両親を家に連れ帰った時風が家に入る、または雨が降った時床が濡れる程度の壊され方だ。周りの被害案外酷く、どんどん建て壊し新築がたっていく。僕は両親と想い出の場所である家を壊す気なんてさらさらなかった。
しかし里は家を支える中心の木にヒビが入っているのを見つけ、家が倒れた時周りにも被害が来ると、危険と判断し家の取り壊しを勝手に決断。
外の任務から帰ってきたらそこには真新しい綺麗な家が出来ていた。そしてその工事費のお金は僕待ち。僕は勿論抗議したが、お前は忍びのくせに住人の事を考えられんのかと怒られ何も言えなくなってしまった。基本的に忍びには人権なんてものは存在しない。里のため、または住人のために働いているのだから。
それにしても九尾には両親じゃ足りず、たった一つの大きな想い出さえ奪い取ってしまう。そしてそんな九尾を腹に宿した餓鬼をこれから育てないといけないのか…。
家に帰ってソファーに倒れこみ、火影から貰った任務内容が書かれた紙を見てみる。
基本的にはうずまきナルトの世話、つまり食事や身なりを整えさせたり、教育をするらしい。
自分が九尾の世話をしなければならないとなると、吐き気がするがこれは任務。
下手に関わらなければいいだけだ。今までだって関わらなかった。
人気が無い路地裏で見知った顔ぶれの忍び達がナルトをサンドバックにし血塗れにしていてもスルーしていたし、自分からは危害を加えたりはしない。昔の、両親がまだ在住だった頃の僕ならきっとその血塗れの子供を助けただろう。
しかし、今助けるには色々な事がありすぎた。裏の社会も知ってしまったし、何よりあいつの、狐に良く似た顔が嫌いだった。だから誰があいつを虐げていても気にしない。むしろあの少年が泣いたりやめてと喚く都度、九尾が弱まっていくのを感じて堪らなかった。僕は手を出さない。ただ見守るだけ。勿論、他の子がそんな事を受けていたら止めに入るだろう。しかしあの子は特別だ。僕にとっても特別だし、里のものにとっても特別。だからこそ、その存在は無視できる。
「って、これ期日今日からじゃん。」
資料に目を通していたらなんと今日から早速世話をしなければならないらしい。やばいやばいと急いでナルトの家に向かう。任務を言い渡されてからだいぶ時間が経った。ご飯を食べさせなければいけないのに、初日から失態を犯すなんて最低最悪だ。
憎いという憎悪を上手く納めコントロールし、プライベートではなくこれは任務と気持ちを落ち着かせた後、うずまきナルトの家に着いた。
うずまきナルトの家はボロいアパートでここら辺周辺は誰も住んではいない。理由はまぁ明らかだろう。九尾を腹に宿したうずまきナルトが住んでいるからだ。火影は色々考慮してここに九尾を置いているようだが、これでは九尾を虐めたい忍びにとっては最高の場所だ。騒がれても周りに誰もいないし誰も気がつかない。勿論うずまきナルトには監視の暗部が付いているが、あの少年が黙って暴力を振るわれているのを見るとどうやらそれらの事は黙認しているらしい。
火影は火影でこの事実を知っているはずだ。水晶で時々ナルトを見ている。火影は大人達に九尾が入っていることを子供に教えてはいけないだなんて無駄なルールを作り、うずまきナルトを守った気でいるが、実際何もしていないと同じだ。僕の時と同じように火影は何もしない。現に今だって僕はうずまきナルトのアパートの玄関の前にいるが、ナルトの泣き声と呻き声、そして叫び声が聞こえる。笑いながら酷い言葉をはく大人の声がして、溜息が溢れる。
「面倒臭いなぁ…」
僕はそいつの暴力が終わるまで待たなければいけないのだろうか。正直さっさとご飯を食べさせて家に帰りたい。ご飯を食べさせた後にしてくれないかな…と思い、アパートのドアに手をかけ、ガチャっと音を立てて開けた。
そこにはやはり暴力的な場面が繰り広げられていた。所々苦無で切られたと思われる血が浮かぶ肌。栄養が悪いのかその肌は健康的な肌色とは言い難く青紫がかっていた。異様に細い腕や足はあらぬ方向に曲げられており明らかに折れていることが伺える。暴力を加えていた男はナルトの頭を鷲掴みにしていたが、僕が来たことによりぼとりと落とした。ナルトは気絶しているようで声も出さない。そして男は異様な速さで印を組み瞬進をして逃げた。
僕は無言で暴力を振るわれたナルトに近づき折られた腕や怪我を見てみる。
「随分と派手にやられてるな…。」
いくら何でも僕だってこんな事されてるこの子に同情がいかないわけではない。この子は何も悪くなくていわば一番の被害者である。ただ四代目の息子に生まれて九尾を入れられただけの被害者。もしも九尾さえ入っていなければこの子は四代目の息子と皆に愛されていただろうに。本当に可哀想な子だ。
だけどその同情も小さい煙を立てて傷跡を治していく九尾の力を見て失っていく。
結果論この子は九尾を入れられてしまった。それはどうしようもない事実でもう逃れられないだろう。僕が同情する余地なんて全くない。
とりあえず、世話係であるならばこの状態のナルトを手当てしなければならない。…よな?
手当て箱みたいな物はないもんかと周りを見渡し愕然とした。
カップラーメンのゴミは勿論そのまま、生ゴミは腐り虫が湧いてコバエが大量にこの部屋を蠢いている。特に台所は酷い有様でご飯を作れるスペースなんてものはない。床には何やらよくわからないベトベトしたものが付いている。壁には今まで暴力を振るわれた跡か、赤黒いものがへばり付いていて異様な雰囲気を作り出している。ベットや服を見れば散乱しシミだらけ、泥だらけ、きっとノミもすごいことになっているだろう。それに血の匂いで気がつかなかったが酷い異臭だ。うずまきナルトに夢中で周りを見ていなかった。
僕は思わず嘘だろ…と呟いてしまった。前の世話係は一体何をしていたんだ。もしかしなくとも僕がこれを片付けなければいけないのか?
なんとも言えない気持ち悪さが肌を駆け巡る。正直こんな汚部屋入りたくもない。しかし僕はこれから毎日ここに来ないといけない。
「あー…、くそっ。まずは掃除からか?」
とりあえず、家に帰ってゴミ袋と軍手と手当て箱と…新しいタオルや布団も持って来なければ…。
「世話係ってこんな事もしねーといけねーのかよ!」
叫びながら自分が出せる最高の速さで家に駆けて行った。
✳︎
「我ながら凄いと思う。」
すっかり綺麗になったうずまきナルトの部屋を見て呟く。
うずまきナルトの怪我を手当てしてからこのゴミ屋敷を綺麗していたら出るわ出るわ。ゴミがありえないほど出た。ゴミ袋は山の如く積み上がり正直触りたくないものが多すぎたがそれはまぁなんとか…軍手やらなにやらを使って頑張った。
あいにく死体処理よりは、まぁましだ。自分が殺した死体はなるべく跡形もなく消すようにしている。殺され方から特定されては嫌だし、何事も丁寧なのは良いことだよねっ!
ニコニコしながらうなづいていると未だコバエ取りでは取りきれていないコバエが周りを駆け巡り、イラっとしてしまう。コバエを壊滅させるのはなかなか難しい…。壁のシミの方が大変だったけどあんなの上から新しく壁紙を貼ればいいだけだ。
窓を開けてあるからそこからなんとか出て行ってはくれないだろうかコバエさん。
まぁそんなもの通じる訳もなく僕の体を休憩所にしてくるコバエを容赦なく叩き潰し、端っこのベットで寝ているうす汚い子供に目を向ける。
服が所々きれていて子供の青白い肌が露出している。青白いといってもどちらかといえば青紫だが…。先ほどおった切り傷はもう完治しているように見えるが、その身なりから栄養失調なのは明らかだ。
ゴミを片付けてて思ったのがこの子の偏った食生活。カップラーメンか市販の冷凍食品、または腐ったバナナって…。子供の食生活とは思えない環境に唖然としたわ。しかも部屋の調味料の所に忍びではない一般人に使ってもギリギリ死なない毒が置いてあったときなんてもう…。本当どうしようもねぇ奴ばっかだなと思った。しかしただ見て助けようともしない自分もその部類に入ると思えばかなりがっくりときてしまう。頭ではわかっていても身体が言うことを聞かないのだから仕方ない。今思えば感情を殺したただの道具になれなかったから暗部は駄目だったのだろうか。それならあのムカつく先輩だってそうだし、僕の方が任務成功率は上なのに。ムッとしながらうす汚い子供に近付く。
血の匂いと周囲の臭さで気付かなかったけどこの子供、かなり臭い。今までお風呂に入っていないのではないかと疑うぐらい臭い…。髪はガサガサで黒ずんでいるしよく見なくともフケがたくさんついている。幸いアタマジラミはいないようだ。それにしても…
「まじで前回の世話係何やってたんだよ…。」
とりあえず暫くはこの子供の世話をしなければならないのだから、身なりは整えさせよう。うす汚いのと一緒にいるなんて気持ち悪くて仕方がない。
とりあえずお風呂に入れてしまおうとお風呂場を探すと、幸いこの家にあったので勝手に沸かさせてもらった。お風呂場はカビが生えていてヌルヌルと気持ちが悪すぎたがなんだかその頃には目が慣れていて素早く綺麗にする事が出来た。
次はこの目の前の子供を起こし、風呂に入れる事だ。
丸まっている子供の頭を揺さぶってみる。勿論そのまま触るだなんてことはしない。軍手越しに起きろと声をかける。
すると呻き声をあげむくりと上半身をあげた。
ぼんやりと此方を見つめる子供。その目は伸びきっているだらしない髪で見えていない。しかし未だ寝ぼけているようで折れてはいない腕を持ち上げ目の当たりにごしごしと左右の運動をする。段々頭が覚醒してきたのか、子供とは思えない素早さで僕との距離をとってきた。体中が震えて痛む足を抑えながら子供は喋った。
「な、なんだよお前…。誰だよ。」
敵意をむき出しにして喋る少年をこっちが敵意向けてーよと一瞬冷たい目で見下ろし、すぐさま笑顔を作る。第一印象は大切だ。これは任務。今まで僕は任務を失敗したことがない。この不名誉ながら火影直々の任務の成功率を上げるためにはこいつの協力は不可欠だ。好かれていて損はないだろう。
「僕は世話係のやなはたヤマトです。
これから君の世話係になりました。
とりあえずお風呂を沸かしたので入ってきてくれませんか?その間にご飯を作っちゃいますね。君は栄養失調気味だから野菜を沢山食べないと」
「うるさい!出てってよ‼︎」
僕がペラペラ喋るのが気に食わなかったのか少年は癇癪を起こしたように叫び汚い布団を被る。あーあの布団も干さないと。それか捨てるか?まぁ今はどっちでもいいか。
未だ警戒心を解かずにいる少年に近付く。その都度びくりと震え後ずさる。遂に壁にぶつかり逃げ場がなくなると少年は泣きながらごめんなさいごめんなさいと呟いた。殴らないで蹴らないで痛いのはもう嫌だと喚く少年につい蹴り倒したくなる加虐心が湧くがそれをなんとか抑える。この少年はただのいじめられっ子の子供だ。九尾じゃない。九尾だったらこんなに僕を見て震えない。
そう言い聞かせ、少年に向かいニッコリと笑う。
そして抱きしめた。
びくりと驚いたように固まった少年。けれどそんなの気には出来ないほどの臭いにおいが鼻に付く。このまま絞め殺したい想いが芽生える。だけれど我慢する。そんな事してしまえ本当に終わりだ。火影に処分されるに違いない。きっと火影は僕がこの任務について何か失敗を犯すのを期待しているのかもしれない。僕を、やなはた一族を殺す、または正規に生きた怪我がすぐ治る実験台を得る理由が出来るわけだ。だから僕は絶対にこの任務を失敗しない。何がなんでもやりとげる。それが昇格が出来ないであろう僕の火影への復讐だ。
だから安心してよ少年。
僕は壊れ物を扱うように優しく少年を抱きしめる。さらにギクリと動く体を無視し、出来るだけ優しい声で言った。
「僕は君に暴力なんてしない。」
そう暴力はしない。だけど見て見ぬフリはするよ?他の忍びと仲違いするほど僕は君に愛情を感じていない。
「僕は君を傷付けたりしないよ。」
だってそんなことをしてしまえば、火影の思うツボだからね。
「安心して。仲良くしたいんだ。他でもない君と。」
利用価値がなくなるまで。
「駄目かな?」
人当たりのいい笑顔を浮かべる。優しく目尻を下げ少し眉毛も下げる。困った様にはみかむように、少し恥ずかしそうに笑いながら言えば、ほら。
「…俺と仲良くしてくれるの?」
縋るように、ぎゅっと少年の方から力をいれてくる。それに思わずニヤリと笑う。この子には表情は見えないから大丈夫。人の弱みに付け込むのは忍びとして常識だ。少年は人の愛情を何より欲しているはず。例えそれが偽物の愛情としても。
「ああ、勿論したいよ。」
例えお前が憎い奴のガキでも、九尾が腹のなかに入っていてもそれが任務と言うならば、僕はお前とだって仲良くするさ。
したいよと囁けば、少年はがばっと抱きしめていた体を離し今にも泣き出しそうな雰囲気で、本当?と聞いてくる。その瞬間僕はちょろいなと思い肯定の意味で優しく微笑んだ。
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