仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~ (龍騎鯖威武)
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幕間
登場人物(主人公Side)


はじめまして、龍騎鯖威武です。
今回自分の大好きな作品二つをクロスオーバーした作品を作ってみました。
Kanonのキャラクターは、ほぼ原作のままですが、仮面ライダー龍騎は城戸真司とオーディン以外、この作品オリジナルのキャラクターです。
ではどうぞ。



龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

この物語の主人公。

「仮面ライダー龍騎」の異世界と「Kanon」の世界のどちらの世界の住人でもない。

5年前に両親を失い、孤児院で生活をはじめて2年後にモンスターに襲われ、そのとき助けられた城戸真司に憧れ、共に生活していたが、1年前、窮地に立たされたときに城戸真司が囮となり、彼から5つのカードデッキを受け取り、「仮面ライダー龍騎」として戦うことになる。1年間で戦闘技術はかなり上昇し、仲間の中では、ほぼ最強。モンスターやライダーに関する知識も多い。

「雪の街」から離れ、モンスターから人々を守るため孤軍奮闘していたが、モンスター討伐と最近良く見るある夢の真相を突き止めるために、故郷でもある「雪の街」に訪れ、様々な人々と出会いや再会を果たす。

典型的な正義感の強い明るく心優しい少年だが、大切な人々を失うことが多かったため、少々寂しがりな面もある。人々の幸せが壊れることを非常に恐れている。

7年前の記憶が断片的に抜け落ちている。

 

 

月宮あゆ

「Kanon」の世界の住人。

竜也が7年ぶりに再会した夕暮れの「雪の街」に現れる少女。

7年前に冬休み中「雪の街」に住んでいた竜也と出会い、友達になる。「うぐぅ」が口癖で、一人称は「ボク」で喜怒哀楽が豊かな性格。たいやきが大好きで、その情熱は、悪意は無いものの、諸事情により食い逃げをしてしまうほどである。ドジな面があり暗い所や怖い話が大の苦手。竜也とは7年前にまた会う約束をしており、それをずっと信じていた。街でよく捜し物をしているが、なぜか本人もそれが何か覚えていない。

竜也が龍騎として戦う姿を目の当たりにして、彼を心配し、力になろうと努力する。

 

 

相沢祐一=仮面ライダーナイト

「Kanon」の主人公。

親の海外赴任に伴い、7年前から叔母の水瀬家に居候させてもらっている。夜の学校で舞と共に魔物退治をしていたときに竜也と出会い、カードデッキを受け取り、「仮面ライダーナイト」として戦うことになる。

少し皮肉屋で、名雪達からはよく「意地悪」「極悪人」などと評されるが根は優しい。

どちらかというと、冷めた性格ではあるが、どんなときでもみんなの幸せを第一に考え行動する。

原作と違い、あゆ、真琴とであった過去はない。

 

 

川澄舞=仮面ライダーファム

「Kanon」の世界の住人。

祐一の上級生で3年生。夜の学校で祐一と出会った、クールで謎めいた少女。自分のことを「魔物を討つもの」と称して剣で武装し、夜の学校で祐一と共に「魔物」と対峙している。

彼女もまた天涯孤独の身で、唯一の肉親であった母親は、現在投獄中の囚人によって殺された。

夜の学校で祐一と共に魔物退治をしていたときに竜也と出会い、カードデッキを受け取り、「仮面ライダーファム」として戦うことになる。感情表現が苦手で普段は無口で無表情のため誤解されがちだが、本当は心優しい性格。だが、「魔物」との戦いで周囲から不良、問題児として白眼視されている。舞の真の優しさを知っている佐祐理だけは親友として付き合っているため、佐祐理に対して危害を加えようとする者には激昂する。

 

 

北川潤=仮面ライダーライア

「Kanon」の世界の住人。

祐一のクラスメート。明るいムードメーカーでツッコミ的存在。教室では、祐一の後ろの席に座っている。

恋愛系は奥手らしく、好意を持つ香里とよく一緒だが、冗談を除いてはその気持ちを打ち明けられないでいる。目の前の現実を知っておきながら何も出来ないことが大嫌いな性分で、様々なことに首を突っ込みたがる。ちなみに友達である人のほとんどから苗字でしか呼ばれないことを、ほんの少しだけ気にしている。

香里と栞が窮地に立たされたときに、竜也からカードデッキを受け取り、「仮面ライダーライア」として戦うことになる。

 

 

美坂香里

「Kanon」の世界の住人。

名雪の親友で祐一のクラスメイト。祐一や名雪に対するツッコミ役で委員長を務める学年一の秀才。名雪の物真似をするなどお茶目な一面もある。美坂栞の姉だが、本人は妹はいないと言って否定していた時期があった。部活に所属しているが、作中では明らかにされない。明確な口癖は明らかになっていないが、「言葉通りよ」という台詞を多用している。

仮面ライダーの存在を知ってからは、北川のサポートを主に行う。

 

 

美坂栞

「Kanon」の世界の住人。

儚い笑顔が印象的な少女。好物はアイスクリームで、真冬の雪国においてもバニラアイスを平気で食べられる。反対に辛いものは苦手。口癖は「そういうこと言う(する)人、嫌いです」。以前、重い病に侵されていたが、今は全快し普通に学校に通っている。控えめで目立たないが、意志は強い。趣味でスケッチをするが、人物画は苦手。また、もぐら叩きをやっても一回も叩けないなど反応速度が非常に鈍い。仮面ライダーとして戦う竜也たちをヒーローにあこがれるような眼差しで見ている。

 

 

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

「Kanon」の世界の住人。

名前の「シュウイチ」は「仮面ライダー龍騎の異世界」が融合したために改変されたもの(元の名前は不明)。

祐一が通う学校の生徒会長。学校の風紀を乱す者を嫌う生徒会長を地で行く性格で、舞を目の敵にして処罰しようとする。しかしそれは、学校と深くつながっている父親から無理やりやらされているだけで、舞は無実だと信じている。舞たちが仮面ライダーとして戦う姿を見て、竜也から半ば強引にデッキを受け取り、「仮面ライダーゾルダ」として戦うことになる。

 

 

倉田佐祐理

「Kanon」の世界の住人。

舞の親友で「あははーっ」が口癖のお嬢様。成績が良く、舞とは対照的にいつも笑顔で人当たりが良く社交的な事から、学校では人気者。天然気味で、時に祐一をハラハラさせる程の胆力とツッコミを見せる。料理上手で舞のお弁当係を自認する。快活だが物腰が非常に丁寧で、後輩である祐一に対しても「さん」付けし、舞以外の人間に対しても常に丁寧語で話す。一人称は「佐祐理」。仮面ライダーの存在を知ってからは、舞や祐一のサポートを主に行う(内容はお弁当係がほとんど)。

 

 

水瀬名雪

「Kanon」の世界の住人。

祐一の従姉妹で2年生。「雪の街」で最初に再会した少女。片親で、母親の秋子によって女手一つで育てられた。普段はおっとりした性格だが、一途で芯の強い一面も併せ持っている。よく語尾に「だよ」や「もん」とつける癖がある。祐一と同じクラスで席も隣同士。低血圧で朝が弱い。

昔、ある少年と仲が良かったが、祐一が越してきてからは、連絡が取れなくなっている。

 

 

水瀬秋子

「Kanon」の世界の住人。

祐一の母方の叔母で、名雪の母親。性格は穏やかで寛大、聡明にして豪胆。普通なら頼みにくいことでも「了承」の一言で何でも1秒で引き受けてくれる。原作では職業不明で、娘の名雪ですら知らないが、この世界では編集社「WATASHIジャーナル」の編集長。年齢不詳で、大きな娘がいるとは思えないほど若々しい。料理の腕は天才的である。手製のイチゴジャムは名雪の大好物であるが、甘くないジャムもあり、その独創的な味は他者を絶句させる。

仮面ライダーの存在は、謎の存在としては認知しているものの、明確な存在は知らないはずだが、知っているような素振りも稀に見せる。

 

 

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)

「仮面ライダー龍騎」の主人公。

劇場版「仮面ライダー龍騎 ~EPISODE FINAL~」の城戸真司と同一人物。

最後の仮面ライダーとして生き残ったが、オーディンの野望を阻止するために、この世界に移動し、彼から5つのカードデッキを奪い、1年前まで、自身が持つデッキとは違う、この世界の「仮面ライダー龍騎」として戦っていた。窮地に陥ったとき、竜也にカードデッキを託して、シザース、ベルデ、アビスの囮になり、現在は行方不明。

竜也にとって憧れの存在であり、様々な教えを説いたその言葉は、今の竜也の人格の形成に大きく影響していると言える。

原作とは性格が大きく違い、なぜか冷静沈着。しかし根本的な意志は全く変わりない。

本人は知らないが、竜也を始めとした者たちからは、伝説的存在として尊敬の念を集めている。

 




いかがでしょうか?
わたしは精一杯、このキャラクターたちに命を吹き込みますので、お気に召しましたら、次回をお楽しみください。さまざまな仮面ライダーからゲストも、いつかたくさん呼ぶ予定です。
ではまた・・・。



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第一章 赤い龍
第1話 「Kanon」


 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

毎日見ている夢。

 

終わりのない夢。

 

赤い雪、赤く染まった世界。

 

夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。

 

せめて、流れる涙をぬぐいたかった。

 

だけど、手は動かなくて。

 

頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて。

 

見ていることしかできなくて、悔しくて、悲しくて、大丈夫だから、だから泣かないで。

 

約束だから…。

 

それは誰の言葉だったろう…夢は別の色に染まっていく。

 

 

 

 

 

真っ白な雪景色の中で、赤い異形が、別の異形と争う姿が見える。

 

「はあっ!」

彼は、宿命を背負って戦い続ける赤い異形。

<FINAL VENT>

「はああああああああああぁ!」

赤い異形は飛ぶ。赤い龍と共に空高く。

「だああああああああああああああああああああぁ!」

雄叫びと共に、赤い異形は、別の異形に向かって突撃した。

別の異形は、凄まじい爆発と共に消え去った。

「はぁ…」

戦いが終わった安心感か疲労感か、深い溜息をついた赤い異形は、その姿を変えた。

そこにいたのは、何処にでもいるような少年。

彼がたった今、異形となり、戦っていたことを誰が予想できただろう。

「行こう…。あの街に」

近くにおいていたスクーターに乗り、再び目的地へと走らせる少年。

 

自分の中に渦巻く…。

 

疑問…

 

真実を求める心…

 

受け継いだ願い…

 

そして…

 

自分自身の願いのために…

 

 

 

 

雪…

 

雪が降っていた…

 

思い出の中を、真っ白な結晶が埋め尽くしていた…

 

数年ぶりに訪れた、白く霞む街で…

 

今も降り続ける雪の中で…

 

おれは、あの娘に出会った…。

 

 

 

 

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

      追われてるんだ・・・。

 

 

いや、それって・・・。

 

 

      わ、びっくりです。

 

 

帰り道、教えてくれないかな?

 

 

      お、おばけ!?

 

 

逃げて、早く!!

 

 

      あれって・・・!?

 

変身っ!!

 

 

第2話「龍の騎士」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 「龍の騎士」

 

朝の7時頃、一人の赤と黒を基調とした服を着た少年が年季の入った橙色のスクーターを走らせている。

「7年ぶりだなぁ・・・。相変わらず、寒い…」

 

「龍崎竜也」

 

この物語の主人公である。

彼は7年ぶりに自分の故郷「雪の街」に帰ってきたのだ。

・・・というのも、彼はある事情で、ふるさとを離れなければならなかった。

「仮面ライダー龍騎」であった「城戸真司」という青年とともに、この世界にはびこる怪人「モンスター」を相手に戦ってきた。現在、城戸真司は行方不明であり、竜也が仮面ライダー龍騎として戦っている。

 

彼がこの街に戻ってきた理由は二つ。つい最近、失踪や変死を始めとした、モンスターが関与する怪奇事件がこの街で頻繁に起こり始めたため。

もう一つは、最近ある夢を見るからである。一見、訳が分からないが、彼にはどうも引っかかる点があった。

夢の内容はこうである。

 

 

7年前の幼い日の自分が泣きじゃくる少女をなだめ、一緒にたい焼きを食べている。しかし、その少女の名前も顔もまったく思い出せないのだ。まるで記憶の中から誰かが意図的に抜き取ったかのように。

 

 

この夢に竜也はどうしても思い出せない7年前の記憶にまつわるのではないかと考え、モンスター退治の目的とともに、この夢の真実を突き止めるためにこの街に舞い戻ったのだ。

 

この街に来てから30分もせずに、自分が住んでいた家に到着した。

あまり大きくなく、標準の家よりやや小ぶりであるが、今は亡き両親との思い出が詰まった大切な家である。

ガチャ・・・

「うわっ、ほこりっぽいなぁ・・・。7年間も放っておいたらこうなるよな」

まず彼には、家の大掃除が課せられた。

幸い、家の中に掃除道具は不都合のない程度だが揃っており、掃除は何とか行えるようだ。

・・・一人なので、かなり時間がかかるようだが。

半日経った夕方頃、家の掃除が終わった竜也は、まず自分が空腹であることに気がついた。

「昼は何も食べてないしな・・・よっしゃ、買い物にレッツゴー!」

城戸真司の口癖をまね、竜也は街へと繰り出した。

ちなみに城戸真司が、龍騎として戦っていた頃、日本の政府がモンスター1匹を倒す度に城戸真司に標準の生活が出来る程度のお金を渡していた。本来は、凄まじい大金なのだが、城戸真司は今の位で良いと言ったのだ。竜也が龍騎を引き継いでも、それは今も変わらない。

街は7年前とずいぶん変わっていた。当時、よく遊びに行っていた商店街も、随分と風変わりした。

そして・・・

 

「・・・スーパー無くなってる!?」

 

スーパーマーケットがあった場所は本屋になっていた。今現在、どこに何があるのかさっぱり分からない。時間の経過の恐ろしさを竜也は身に染みて感じた。

「とりあえず、道を聞く他ないな・・・。あ、すいませーん!」

「なんだ・・・?」

「うにゅ・・・?」

竜也は偶然、通りすがった自分と同い年くらいの少年と少女に声をかけた。

少年のほうは竜也よりほんの少し背が高く中性的な顔つきであり、少女のほうは腰までかかる青い髪で少々眠そうにしていた。

「おれ、7年ぶりにこの街に戻ってきたんだけど、商店街が昔と随分変わっててスーパーまでの道がわかんないんだ。良かったら、道を教えてくれない?」

「そういうことなら、交番に行け。おれ達は忙しい」

少年がそっけなく答えると

「祐一、不親切だよ・・・。スーパーなら、わたし達も今行くところだったから、一緒に行く?」

「本当に!?いやぁ、すごい助かる!!」

「名雪、知らない奴について行ったら、誘拐されるぞ」

「わたし、もう子供じゃないよ」

「い、いや、おれ誘拐犯じゃないんだけど・・・」

「分かったよ、名雪に免じて道案内してやる。誘拐犯」

「いやだから・・・」

変わった二人組みだと竜也は思ったが、今は相沢祐一と水瀬名雪に頼むしか方法はなかった。

・・・実際、交番の道も分からなかったので。

 

歩いて十数分ほどすると、スーパーに辿り着いた。

「7年前とだいぶ変わったな。あの頃と全然場所が違うし。ありがとう、祐一に名雪さん」

竜也は、この時間の間に親しくなった二人にお礼を言った。ちなみに、竜也は女の人は呼び捨てにしない主義である。幼い頃はそういう癖はなかったので、いつ頃かは分からないがそういう癖がついていた。

「気にするな。困ったときはお互い様だ」

「そうだよ~。ふぁいと、だよ」

「何がファイト・・・?」

竜也は疑問があったが、買い物をするうちに忘れてしまった。

その後はそれぞれ、家路に着く。

「またね~。今度、うちにおいでよ」

「いいの?だったら、機会があったらお邪魔するよ。じゃあ、またね」

「さらばだ、孤独な少年。おれは家族のいる暖かい家庭へ帰ることにする」

「祐一、極悪人だよ。もう、早く行くよ」

「うお、引っ張るな名雪!買い物袋が落ちる!」

「はは・・・(楽しそうでいいな・・・)」

竜也は、人一倍寂しがりやであり、孤独でいるのは苦手だった。今では随分慣れたが、嫌いであることに変わりはない。祐一に悪意はないだろうが(からかうつもりはあったが)、先ほどの一言がひどく辛く感じた。

先ほどより重く感じる買い物袋を持って、改めて家路に着く。

と、そこへ・・・。

 

「そこの人っ!」

 

幼そうな少女の大きな声が聞こえる。だが、竜也は落ち込み気味なためか気づかない。

「どいて、どいて~!」

「・・・?」

2度目の声でやっと気づくが、時すでに遅し。少女は目の前だった。

「うおあぁ!?」

「うぐぅ!どいてぇ!」

 

ドシンッ!

 

「どあっ!」

「うぐっ!」

二人はものすごい勢いでぶつかり、竜也は豪快に尻餅をつき、少女は竜也の上に倒れた。

 

「あたた・・・あっ、大丈夫!?」

「うぐぅ・・・痛いよぉ・・・」

竜也の目線の先には、赤くなった鼻をミトンの手袋でさする、ダッフルコートに赤いカチューシャの少女がいた。手に持っていた紙袋はとても温かそうに見えた。年齢はよく分からないが、竜也より年下だろうか。

「ごめんね。怪我はない?」

「ひどいよぉ、避けてって言ったのに・・・。怪我はないけど・・・」

「ほんとにごめんね。考え事してて・・・」

女の子に迷惑をかけ、さらには半泣き状態にまでさせるとは、どうやら、今日はツいてないらしい。

「あっ!話しはあと。走って!」

「へ?うわっ!ちょ、ちょっと!?」

少女に強引に引っ張られ、家路とはまったく違う方向に連れて行かれた。

 

少女は、竜也を連れてどんどん進んで行く。

辺りは夕日に染まり、道に少し残っていた雪は橙色に煌いていたが、竜也と少女にはそれを気にする余裕がなかった。

「ねぇ!どこまで連れて行くつもり!?」

「いいから走って!」

 

それからどれくらい走っただろうか・・・。

近くにあった喫茶店の中に入った。「百花屋」という名前だったが、竜也は始めて見る店だった。おそらく、竜也がこの地に居ない間に建てられた物だろう。

二人は店に入って、すぐ傍にあった2人がけの誰もいない席に座った。

「はぁ・・・はぁ・・・ここまでくれば・・・もう大丈夫だね・・・」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・いったい、何がどうしたの?まったくわけが・・・」

「追われてるんだよ・・・。キミも一緒に走っているところを見られたとしたら、キミも危ないよ・・・。」

少女は思いつめた顔で、竜也の質問に答えた。

彼女の表情からして、只事ではないと竜也は感じた。彼女は危険な目に遭っている。自分にも危険が及ぶほどだから、相当危ない筈だ。

不意に、ウェイトレスがメニューとお絞りを持ってやってきた。・・・竜也は喉がカラカラで、一刻も早く水が欲しかったが、残念ながら、彼女は持ってきていなかった。

「いらっしゃいませ、ご注文は・・・」

「しーっ!あとで・・・!」

「あ、店員さん、水ください。この娘のぶんもお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

ウェイトレスが離れると、竜也は本題に入った。

この少女の事情を聞かないことには、彼女の危険を取り除いてやることも出来ないだろう。

「ところで、追われてるって一体・・・」

「・・・あっ!」

竜也が少女に尋ねると彼女は外を見て、不意に顔を隠した。竜也が外に目をやると、辺りを見まわすエプロンをつけた男性が見えた。中年くらいの男性だが、彼からは悪意は感じられない。というより、とても気前が良く、優しそうな男性だった。視線を戻すと、いつの間にか水が置いてあった。少女はずっと顔をテーブルにつけたままであるのをみると、まともな挨拶は出来なかっただろう。

竜也は少し申し訳ない気持ちになりながらも、その話題には触れずに最初の話題に入った。

「追われてるって、あのエプロンをつけたおじさんに?」

「・・・うん」

「おれの見る限りでは、優しそうなおじさんだけどなぁ・・・」

「人は見た目で判断しちゃだめだよ・・・!」

声は小さいが、強く言う少女に押されて、何故か少し納得した。しかし、エプロンをつけているところがどうしても解せなかった。

「あの人、何でエプロンつけてるのかな?」

「たい焼き屋さんだからだよ・・・」

「・・・たい焼き屋?」

たい焼きという言葉とともに、視線の先にあった紙袋を見て、竜也には嫌な予感がした。

事情を聞いてみると、

「あのおじさんのたい焼き屋さんでたい焼きを買ったんだ。・・・でも、お金がないことに気がついて・・・」

言葉を遮ることはしなかったが、ここまでの内容からすると全て予測できる。彼女があんなに急いでいたのも、これが原因だったのだろう。

「そのとき、猫ちゃんがやって来て、置いていたたい焼きをつまみ食いしようとしてたの・・・。そしたら、おじさんがものすごい怒って、それで怖くなって・・・」

「走って逃げて、おれにぶつかった?」

「・・・うん」

決まった。この娘は食い逃げで自分は悪事に手を貸した。彼女に悪気があるかどうか置いておくが。

「いや、それって・・・食い逃げだよ」

「うぐぅ、他にも理由があるんだよぉ」

「理由?」

「複雑な事情なんだけど・・・」

「聞くよ。言ってみて?」

「話せば長くなるけど・・・」

「大丈夫、時間はあるから」

彼女の理由がまともである事を期待して聞くが、その答えは・・・

 

「すっごくお腹がすいてたの」

 

・・・続きが語られない。

「それで・・・」

「それだけ」

「それだけ?」

「それだけ」

 

3分後。

「うぐぅ~!」

竜也は少女の手を引っ張りながら、たい焼き屋まで歩みを進める。彼は人一倍正義感が強いので、こういうことは解決しないと気が済まないのだ。

「ほら行くよ!たい焼き屋さんに謝らないと!」

「明日、ちゃんと行くも~ん!」

「明日じゃダメだよ!おれも一緒に謝るし、お金も払ってあげるから!」

とは言え、この少女が悪い子には見えなかったので、一緒に謝ってあげるつもりだ。

 

たい焼き屋さんに謝った後・・・。

「はむっ!・・・やっぱりたい焼きは焼きたてが一番だよね!」

「そうだね・・・これうまいな」

懲りていないのか、謝った後はまるでキラキラするような笑顔でたい焼きをほおばっている。しかし、彼女の笑顔を見ていると責める気にはなれない。むしろ、一緒に笑いたくなる。

そう思っていると、ふと気がついた。ここがどこだか分からないのだ。

「・・・ところで帰り道は?」

「え?ボクはキミについていってるだけだよ?」

「おれも同じ・・・ってことは」

竜也にとって今日は厄日のようだ。

「もしかして君も知らないの?」

「おれ、今日この街に帰って来たんだ」

「帰ってきた?」

少女は不思議そうな顔で尋ねるが、その表情は気にせずに答えた。

「うん。7年前までここに住んでたんだけど、両親が死んでから遠くに住んでたから、この街のことがよく分からないんだよ・・・。随分と変わってたし」

竜也の言葉に少女は期待するような表情に変わる。

「もしかして・・・竜也くん?」

「え・・・どうしておれの名前を?」

その直後、少女は少し涙ぐむ。

「やっぱり・・・あの時と似てたもん。ボクのこと心配してくれるし、優しいし・・・」

「一体、君は・・・うっ!?」

続きの言葉を紡ぐ前に、頭に強い痛みが走る。頭の中に手を突っ込まれているような感覚だった。

「うあぁ・・・ぐっ!」

「だ、大丈夫?」

そして、心配そうに自分を見つめる少女を見た途端、痛みの引きと共に一部の記憶が鮮やかに蘇った。彼女のことがすぐに分かった。目の前に居る少女こそ、夢の中で出会う少女だった。少し成長しているようだったが、面影はしっかりと残っていた。彼女の名前は・・・

「・・・あゆ?」

そう「月宮あゆ」だった。彼女は幼い日に出会ったあゆだったのだ。

「うん、そうだよ!」

「久しぶりだね・・・あの時とぜんぜん変わらないね」

「うん、キミも・・・おかえり、竜也くん!」

ギュッ!

「うわ、あ、あゆ!?」

自分に抱きつくあゆに、竜也は困り果てる。感動の再会とは言え、あたりの人に見られたら・・・。とは言え、引き剥がすことも出来ない。

「わ、びっくりです」

・・・案の定、とおりすがった少女に見られた。

「あゆ、人に見られてるって!」

「ふぇ?あっ・・・」

あゆは、顔を真っ赤にしてあわてて竜也から離れた。

「あ、ごめんなさい。では」

ストールを着た少女は気まずそうに、この場から離れようとする。

竜也はボーっと彼女の姿を見送るが・・・

「あ、ちょっと待った!」

「はい?」

「帰り道を教えてくれないかな・・・」

今日は道を聞いてばかりだと竜也は思った。

 

彼女は道案内をするとともに、この町のいろんなところに何があるのかを教えてくれた。これで道に迷うことはないだろう。

道案内をしていく間に誤解は晴れ、さらに互いの自己紹介もした

ストールを着た少女は「美坂栞」。竜也より一つ年下で、この近くの高校に通っているらしい。彼女はとてもロマンチストな性格で、竜也とあゆの再会を「運命の再会」とまで言うのだ。

「カッコいいですね。そういった運命の再会って」

「運命ってそんな・・・」

「うん!ボク、竜也くんにいつも会いたかったもん」

二人の少女に振り回されっぱなしで、竜也は結構疲れたようだ。

そのとき・・・

 

キイィィン・・・キイィィン・・・

 

 

竜也にしか聞き取れない音が聞こえた。モンスターの接近音である。何時しか、竜也の顔は険しいものとなる。

「・・・どうしたんですか竜也さん?」

 

刹那

 

キシャアアアアアア!

 

「「きゃあああっ!」」

蜘蛛のような姿をした、異形の生物が現れた。あゆと栞はその怪物に怯えるが、竜也はそうはいかなかった。彼には役目があるからだ。

「お、おばけ!?」

「逃げて、早く!」

竜也は今まで何度もそうしてきたように、二人を逃がした。しかし、二人とも竜也の事が気がかりで、近くの物陰から見ていた。

 

そして、彼女たちは目撃する。もう一つの異形を・・・。

 

竜也は手のひらに納まるほどの黒く長方形の物体を取り出す。それには龍の顔のようなレリーフが刻まれていた。

それを怪物の前に突き出すと、竜也の腰に白銀のベルトが現れる。

「あれって・・・!?」

 

「変身っ!」

 

竜也がそう叫び、手に持っていた「カードデッキ」をベルトの中央に装填する。

するといくつかの虚像がオーバーラップするように現れ、竜也を眩い光で包み込む。

あゆと栞の眼に竜也の姿はもうなかった。そして居たのは、赤いスーツを身に纏った異形だった。

名は仮面ライダー・・・「仮面ライダー龍騎」。

雪の街に、龍の騎士が降り立った・・・。

 

「しゃあっ!」

 

 

 

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

次回!

 

これって、ヒーローですね!

 

         おれにヒーローなんて似合わないよ・・・。

 

ボク、力になれる?

 

         戦うことは大変だけど、辞めるつもりはない。

 

約束だよ。

 

         あの日の約束・・・。

 

 

第3話 「戦いと約束」

 

 

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一

美坂栞
水瀬名雪



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第3話 「戦いと約束」

 

仮面ライダー龍騎は蜘蛛に似た怪人「ソロスパイダー」と向かい合いファイティングポーズを取る。

幸い、あたりにあゆと栞以外の人はおらず、場所も開けた土地なので、移動する手間は省けた。

「シャアアアアアアアア!」

先手はソロスパイダーだ。腕にある鋭い爪が、獲物である龍騎を襲う。

しかし龍騎は

「・・・はぁっ!」

ガキィン!

なんと左腕で防ぐ。普通なら切り落とされたであろう。そうならなかったのは、龍騎の召還機「ドラグバイザー」が竜也の左腕を守ったからである。

「たあっ!」

ドガァッ!

「グギッ!?」

龍騎は余っていた右腕を思い切り振り上げ、ソロスパイダーを殴り飛ばす。その強力な拳にソロスパイダーは数メートル吹き飛ぶ。

怒り狂ったソロスパイダーは先ほどよりもさらに勢いを上げ、その凶刃を龍騎に振りかざす。龍騎は先程ベルトに装填したカードデッキから、一枚のカードを引く。そのカードには紅い青龍刀が描かれていた。左腕に装着された召還機「ドラグバイザー」にカードを差込み、読み込ませる行為「ベントイン」を行った。

<SWORD VENT>

ドラグバイザーから無機質な音声が流れると、空から光と共にカードに描かれていた青龍刀「ドラグセイバー」が龍騎のもとに現れる。それをソロスパイダーに負けじと、龍騎はドラグセイバーを右手に斬りかかる。

「でやぁっ!」

ザンッ!

「ギシャアアアアッ!!」

ドラグセイバーは凄まじい切れ味で、ソロスパイダーの右腕の爪を切り落とした。あまりの痛みに膝をつき絶叫するソロスパイダー。

そのときの龍騎はどこか悲しそうな雰囲気があった。

 

物陰で見ていたあゆはそのことに気付く。

「竜也くん、悲しそう・・・」

「あゆさん?」

栞には感じ取れなかったのだろう。不思議そうな表情であゆに聞いた。

無理もない。今の竜也の顔は、龍騎の巨大な赤い目と額の龍の紋章が特徴の仮面に覆われているため、外からは表情が読み取れない。しかし古い友人であるからなのだろうか、あゆには分かった。あの竜也であった真紅の戦士は戦いたくて戦ってるわけではない。何か、使命感の様なもののために戦っているように思えた。

「だって・・・あんなに辛そうな竜也くん、初めて見たよ・・・」

「・・・そうでしたか。でも、わたし達には・・・」

「止めないと!」

「えっ!?」

「だって、あんな竜也くん見てられないよ!」

「あ、あゆさん!竜也さんが逃げてろって言ってたじゃありませんか!」

栞の制止を振り切り、あゆは龍騎の元へ走った。

 

龍騎はソロスパイダーに対して優勢だった。今まで戦い続けてきた経験もあるからか、苦戦はしなかった。彼は渾身の力でソロスパイダーを蹴り飛ばす。ソロスパイダーはされるがままに、吹き飛ばされる。

龍騎はカードを引く。それにはカードデッキや仮面の額の部分にも刻まれた龍の顔の紋章が描かれていた。

これを使えば勝てる。そう確信した。

そのとき、

「まって!」

「あゆ!?」

あゆが龍騎にしがみつく。女の子の力とは思えない力だった。突然のことに龍騎は困惑するが、すぐにあゆを引き剥がそうとする。

「あゆ、離れて!危険だ!」

「もういいよ!あんなに悲しそうにしてる竜也くん見たくない!」

この状況を好機と見たか、ソロスパイダーは龍騎とあゆに襲い掛かる。しかも、あろうことかソロスパイダー側にあゆが居たため、彼女が凶刃に晒されることとなった。

「シャアアアアア!」

「危ない!!」

咄嗟のことだったが、龍騎はすぐに気付き、あゆを抱きかかえて避ける。しかし、

ザァッ!

「うあっ!」

「竜也くん!!」

うまく避けきれずに、龍騎は右腕を切りつけられた。比較的、装甲の薄い部位だったため、深刻とまでは行かないが、鋭い痛みが襲う。

「いっつつ・・・あゆ、大丈夫?」

「ごめんなさい!ボクのせいで・・・」

「あゆが無事なら儲けもの。栞ちゃんは?」

「まだ隠れてる・・・」

「よし、あゆもさっきのところに隠れてて。おれなら大丈夫だから」

「でも・・・」

「いいから。ね?」

あゆに心配をかけないように、見えないと分かっていても、仮面の下で優しく微笑む。

龍騎に促されたあゆは戸惑いつつも、先程隠れていたところへ向かう。

再びソロスパイダーに向き直った龍騎は、持っていたカードをベントインする。

<FINAL VENT>

その音声と共に、空から真紅の龍が現れた。龍騎の契約モンスター「ドラグレッダー」である。

龍騎をはじめとした仮面ライダーは、契約モンスターの力を使うことにより常人を超えた力を発揮するのである。契約モンスターの力でライダーの力も上下するが、ドラグレッダーは比較的、強力なモンスターなので、龍騎も能力値だけで言えばライダーの中でトップクラスである。

ドラグレッダーは、龍騎の周りで円を描くようにして飛ぶ。

「ふんっ!はあああああああああああ!」

そして龍騎は力を蓄えているのだろうか。力強いポーズで構え、腹の底から湧き出るような声で叫ぶ。

足をそろえ、強く地面を蹴る。すると龍騎は、空に飛び上がった。身体をひねり、小さく丸める。その先にはソロスパイダーがいた。

ドラグレッダーは口から、灼熱の火炎「ドラグブレス」を吐く。その瞬間に龍騎はとび蹴りのポーズを取る。

「だあああああああああああっ!」

ドガアァァッ!!

ドラグブレスの凄まじい勢いで龍騎は急降下し、ソロスパイダーに激突し、強烈な爆発とともにソロスパイダーは跡形もなく消し飛んだ。

龍騎の必殺技「ドラゴンライダーキック」。その威力は数十メートル離れていたあゆと栞にまで余波が来たほどだった。

「ひゃあっ!」「きゃあっ!」

あまりの力に吹き飛ばされそうになるが、近くのものを必死に掴んだおかげで吹き飛ばずに済んだ。

龍騎が炎の中から現れる。デッキをベルトからはずし、変身を解く。そこには竜也がいた。

その表情は酷く疲れているようだった。

 

「竜也くん・・・」「竜也さん!」

隠れていた二人が心配そうな表情で駆け寄ってくる。右腕が少し痛むが、それを悟られないように取り繕う。

「二人とも平気?怪我は?」

「ボクは大丈夫・・・」「わたしも平気です。竜也さんは?」

「なんともないよ。二人を守れてよかった・・・」

ファイナルベントの余波が少し心配だったのだが、二人とも平気そうなのを見て、竜也は心から安堵した。

「ありがとうございます。竜也さん、すごくカッコよかったです!まるでヒーローですよね!」

栞は戸惑う反面、竜也の戦いに感動していた。彼女は、誰かを守るために戦う正義のヒーローというものにも、とても憧れていた。

しかし、竜也は困ったように笑い、

「はは・・・カッコよくなんてないし、おれには、ヒーローなんて似合わないよ・・・」

「え?」

「・・・でも、そう言ってくれたりする人がいると嬉しいよ。ありがとう、栞ちゃん」

栞は、竜也の先程の表情に困惑したが、彼の言葉で再び栞も笑顔になる。

「た、竜也くん、怪我してる!!」

先程から、黙りっぱなしだったあゆは、竜也の右腕を見てびっくりして大声を上げた。

コートの袖口から出血していたのだ。先程のこともあり、あゆはとても悲しくなった

「あ・・・血が」

「うぐぅ・・・やっぱり、あのとき・・・」

「あぁ、これはさっきのファイナルベントで、その辺の建物にぶつかったと思う。あゆを庇ったときはそんなに痛くなかったよ?」

嘘だった。あゆを心配させないため、罪悪感を持たせないためだった。幼い頃からあゆも竜也もそういう性格だった。二人とも、とても思いやりがあった。

「・・・でも、手当てはしないと!」

「大丈夫だよ。帰って水にでもつけたら・・・」

「わたしに任せてください」

栞はポケットの中から、消毒液や包帯などの医薬品が出てきた。どこから見ても、栞のポケットに入る量ではなかった。

「どこにこんなにたくさん入るスペースが・・・」

「それは秘密です。あ、そこに座ってください」

栞に言われたとおり、近くにあったベンチに座る。栞が竜也のコートの袖を捲り上げると、二の腕から出血していた。龍騎のスーツに守られたため、あまり大きな傷ではないが、放っておくのは好ましくない。栞は、慣れた手つきで竜也の手当てを行う。心配そうに見守るあゆに気づいた竜也はニッコリと微笑む。

「あゆ、大丈夫だって。男だったら、傷の一つや二つ付けないと強くなれないんだよ?」

「・・・そうなの?」

「そうなの。それに、この傷のおかげであゆを助けられたんだから」

「うぐぅ・・・やっぱり、ボクをかばったせいで・・・」

「あ・・・」

竜也は墓穴を堀り、嘘は早くもばれてしまった。何とかフォローする言葉を探す。

「でも、気にしないでよ。あゆが悲しい顔したら、守った甲斐がなくなるよ?さっきのたい焼き食べてたあゆの笑顔が、おれは好きだから」

栞は竜也の手当てを終わらせた。

「終わりましたよ」

「ありがとう。おれ一人じゃ、こんなにうまく出来なかったよ」

「どういたしまして。それより竜也さん、さっきのあゆさんへの言葉、ある意味告白ですね」

「え!?」

「へ?あ、いや・・・これは・・・」

竜也とあゆはリンゴのように顔が真っ赤になる。それを見た栞はくすくすと笑い、それにつられて竜也も苦笑いをした。あゆも、なぜか笑えた。ようやく、さっきの3人に戻れたようだ。

 

栞と別れ、あゆと竜也は夕闇の中を歩く。

「ねぇ、竜也くん」

「・・・ん?」

あゆは、意を決して聞いた。

「戦い・・・やめない?」

「・・・」

「だって、竜也くん、あのとき悲しそうだった・・・」

あゆの脳裏には赤い戦士の姿が浮かぶ。今回は自分のせいで迷惑がかかったし、この想いも単なる押し付けであることは分かっている。

それでも、大切な友達の戦う姿が、あゆには見ていられなかった。

「あゆ、戦うことは大変だし苦しいけど、おれは戦いをやめるつもりはない。仮面ライダーであることから逃げることはしない」

ある程度、想定した答えが返ってきた。あゆにはなぜ戦い続けるか分からないが、竜也はこれからも戦うつもりだ。

ならば、せめて・・・

「それなら、ボク・・・竜也くんの力になれない?」

「力・・・?」

「うん。ボクに、竜也くんが今やってることを無理やり、止めることはことは出来ないよ。だからせめて、竜也くんの力になりたくて・・・」

竜也は無言になる。あゆは、竜也に更なる迷惑がかかったと思った。

「ご、ごめんね。ボクなんかがいても、迷惑に・・・」

「じゃあこれからも、おれにあゆの笑顔をみせてくれる?」

「え・・・?」

「あゆの笑顔を見ると、元気が湧くんだ。これからの戦いで辛くなったときや苦しいときは、あゆの笑顔が、おれの何よりの力になる筈だから。ダメかな?」

竜也は、今の自分の正直な気持ちを告げた。あゆは、涙を流しながらも微笑む。竜也が自分を受け入れてくれたことがとても嬉しかった。

「ほら、涙拭いて!笑顔を見せてくれる約束だよ?」

「うん!じゃあ、指きりしよ?」

「あぁ!そういや、昔もこんなことたくさんしたっけ」

「えへへ、そうだね」

あゆは、ミトンの手袋を外す。竜也の小指とあゆの細くてやわらかい小指が絡み合う。

「「ゆ~びきった」」

二人はお互いに微笑む。

「約束だよ」

「うん、約束」

 

竜也の表情がいきなり変わった。何かを思い出したようだ。

「あっ!今日の晩飯がない!」

「えっ!?」

「探さないと・・・あら?」

竜也が買った夕飯の食材はすべて、通りすがった道に置いてあった。どうやらもとの道まで戻ったようだ。

「あった!おれの晩飯!」

「よかったね」

 

その後、それぞれの家へと帰るときが来た。

「じゃあ、ボクはここで」

「送っていかなくて平気?」

「うん。まだそんなに暗くないから大丈夫」

「そっか。気をつけてね」

「うん!ばいばーい!」

あゆは、夕闇の中へとあっという間に消えた。竜也は手を振りながら、それを笑顔で見送った。

「約束か・・・あの日の、約束・・・」

約束という言葉を呟きながら、竜也も家路へ歩みを進めた。

 

「龍崎竜也、仮面ライダー龍騎・・・。長い間、捜し求めていましたが、ついに見つけましたよ」

竜也は、自分の後ろで黒いコートを着た若い男が、竜也と同じようなカードデッキを左手に持ち、彼を見つめていたことは気付かなかった。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

次回!

 

 

ここにも、モンスターが・・・。

 

         ボクも一緒に行く!

 

わたしは魔物を討つものだから・・・。

 

         祐一と、女子高生剣士?

 

おれ達にも、背負ってるものがあるんだよ!

 

         ・・・何かが違う。

 

 

第4話「真夜中の学校」

 




後書き
いかがだったでしょうか?
ライダーはちょびっとだけでしたね。口調でばれるかもしれませんが、誰だかわかりますか?
次回は川澄舞が登場し、新たなライダー誕生の予感・・・!?
お楽しみに・・・。


キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

美坂栞

黒いコートの男



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第二章 雪の街の戦士たち
第4話 「真夜中の学校」


 

 

夕飯を済ませた竜也は食器を洗い、家でくつろいでいた。

「今日はいろいろあったなぁ・・・」

今日一日の出来事を思い出していた。古い友人との再会、新しい人々との出会い。一人でいることの多かった竜也にとって、この一日の出来事はとても刺激的だった。

これからも、さまざまな人との出会いがあることに期待を膨らませ、寝床につくことにした。

しかし・・・

 

キイィィン・・・キイィィン・・・

 

「またか・・・!?」

それは後回しのようだ。モンスターの反応音が耳に入った瞬間、竜也は家から飛び出て、反応のする場所へと向かった。

不意に、後ろから・・・

「まって!」

少女の声が聞こえた。聞きなれた声だった。後ろを振り向くと、先程別れたばかりのあゆがこちらに向かって全力で走ってきている。

「あゆ、帰ったんじゃないの?」

「そうなんだけど、高校から、物凄い音が聞こえて・・・」

「高校?」

「だから、さっきのおばけが来たのかと思って・・・」

竜也は確信した。方向からいっても間違いない。

「おれもさっきモンスターの気配を感じたんだ。たぶんそこだな・・・」

「いくの?」

「ああ、おれが行かなかったら、犠牲になる人がいるかもしれない。そんなのは嫌だから」

「だったら、ボクもいく!」

あゆの突拍子もない言葉に竜也は驚いた。彼女に心配させていることは理解しているが、その行動はモンスターとの戦いに巻き込まれる危険性がある。

「それはダメだよ!危険だし、万が一あゆに何かあったら・・・」

「竜也くんだって、もっと危険な目に遭ってるよ!」

竜也は、これ以上説得していても聞いてくれそうにないと感じ、あゆの願いを聞き入れた。

それにこの口論が長引けば、モンスターによる犠牲者が増えるかもしれない。

「・・・わかった、全力で君を守る。でも、もしおれが駄目になりそうなときは、おれに構わずに、周りの人を連れて一目散に逃げて。これだけは約束して」

あゆがうなずくと、竜也はカードデッキを取り出した。それをかざし、白銀のベルトが現れる。

「変身っ!」

竜也が叫び、デッキをベルトに装填した瞬間、幾つもの虚像がオーバーラップするように現れ、仮面ライダー龍騎に変身した。

変身直後に、ドラグバイザーにアドベントカードをベントインした。

<ADVENT>

無機質な音声とともに真紅の龍ドラグレッダーが現れる。

龍騎はあゆの手をとり、

「乗って。こいつなら、より早くモンスターの居場所に行ける」

「う、うん」

あゆは、巨大な龍に怯えていたが、ドラグレッダーは暴れることなくあゆが乗ることを受け入れた。龍騎も続いてドラグレッダーの後ろに乗る。

「ドラグレッダー、頼む!」

「ガアアァァ!」

龍騎の言葉に呼応するようにドラグレッダーは咆哮して飛翔し、モンスターの居場所に、凄まじい速さで向かった。

 

 

一方、高校の校舎内・・・。

広い廊下で二人の少年と少女が、目に見えないモノと対峙していた。

「祐一、気をつけて」

「ああ、分かってるよ!」

少年は今日の夕方ごろに竜也と出会った祐一である。木刀を構え、目に見えない「魔物」の攻撃に対応できるように集中する。

髪を結んだ少女の方は静かに西洋刀を構え、魔物の様子を伺っている。

程無くして、魔物は音も無く少女に襲い掛かった。

「やあぁっ!」

ザンッ!

しかし少女は冷静に魔物を回避し、スキの出来た魔物の背中を西洋刀で切り裂く。

大振りな一撃ではなかったが、魔物には十分な効果があった。

少女は、西洋刀を振りかざして魔物を貫く。

魔物は命を失ったかのように、ゆっくりと消えたのが分かった。

「舞、やったのか?」

「はちみつくまさん」

舞と呼ばれた少女は、頷きながら彼女のイメージには合わない言葉を言う。肯定の言葉のようだ。

二人が安堵したそのとき、

「ギイイイィ!」

「「!?」」

二人が見たことの無い異形が襲い掛かってきた。とっさによけることが出来たが、一瞬でも反応が遅れていたら、異形の餌食になっていただろう。

魔物とは明らかに違う存在だった。今までの魔物は、姿は見えず気配だけで確認できる存在だったが、この異形は、はっきりと目視できる。

猪のような姿に、胸部から突き出した大砲のようなものが特徴的だった。

「舞、これも魔物か!?」

「違う・・・これは魔物じゃない」

二人は戸惑いながらも、目の前の敵に対し、臨戦態勢に入る。

異形が二人に襲い掛かろうとするが、

「ガアアァァ!」

ズドォ!

鼓膜が破れるような咆哮と共に、ドラグレッダーが開いていた窓ガラスから入り、異形に頭突きをお見舞いした。異形はたまらず吹き飛び、壁に激突する。

「・・・龍?」

二人が呆気にとられていると、ドラグレッダーは窓から出て行き、代わりに龍騎とあゆが同じ窓から入ってきた。

しかし、あゆは窓の淵に足を引っ掛け

 

べちっ!

「うぐっ!」

顔から思い切り床にたたきつけられた。

 

「あ、あゆ!大丈夫!?」

「うぐぅ・・・平気・・・」

赤くなった鼻をさすりながらも、あゆの言葉を聞いてほっとした龍騎は、祐一と舞に向き直る。

「大丈夫ですか!?・・・あれ、祐一と女子高生剣士?」

異形は、祐一のことを知っているような口ぶりだが、祐一は全く身に覚えがない。

「・・・だれ?」

「おまえ、おれを知ってるのか!?」

「・・・まあ、話は後でいいや。あゆ、二人を安全なところへ!」

「うん、二人とも、こっちに来て!」

「あなたは・・・」

「お、おい!何だよおまえら!説明しろよ!」

「いいから!」

少女は、二人の手を引いて、廊下の先の暗闇へと溶け込んでいった。

 

龍騎は3人が視界からいなくなるのを確認した後、「モンスター」と睨み合う。

「このタイプはワイルドボーダーか。素早いうえに、あの胸の光弾が厄介だな・・・」

龍騎は以前、このモンスターと同じタイプのモンスターに対峙したことがあった。

故に、このモンスターの特徴とその強さは理解していた。しかし、所持しているアドベントカードや今までの戦闘経験を駆使すれば、そう強敵でもない。三人のことも気になるので、出来れば早々に決着を付けたかった。

「しゃあっ!来い!」

龍騎はファイティングポーズを取り気合を入れると、龍騎とワイルドボーダー、両者とも駆け出した。

 

あゆ、祐一、舞は、先程の廊下とはかなり離れた階段に身を潜めた。

祐一はとりあえず、初対面の少女に自分の疑問をぶつけた。

「おまえらは一体何者なんだ?あの怪物を知ってるのか?」

しかし、あゆは首を左右に振って、

「あのお化けは「モンスター」って言って、ボクも今日の夕方に初めて見たんだよ。ボクと一緒に来た人はボクの幼馴染で「仮面ライダー龍騎」って言うんだ。これも、さっき教えてもらったばかりだよ」

あゆは、龍騎の正体をあえて隠して二人に説明した。竜也は隠せと言った訳ではないが、彼女はそうしたほうが良いと判断した。

次は舞が、あゆに尋ねた。

「・・・仮面ライダー龍騎は人間?」

「もちろんだよ。今はボク達を守るために一生懸命、戦ってるけど、いつもはとっても優しい男の子だよ」

あゆは人間だということ、とても優しい人であることなどは正直に話した。

「・・・勝てるの?あの怪物に」

「きっと大丈夫。ボクは信じてるから」

あゆは強い意志のこもった瞳でその言葉を述べた。祐一はあゆのその表情に驚いていた。こんな小さな女の子がこんなにも強い想いをもてるのかと。

突然、舞は立ち上がり、

「魔物・・・。仮面ライダー龍騎の場所に向かってる。・・・しかも二匹」

「何!?」

「え、どうしたの?」

あゆは、先程の表情はどこへ行ったのか、きょとんとした顔で二人を見つめていた。

「この子、どうしよう・・・」

「おまえ、名前は?」

「あゆ、月宮あゆだよ」

「じゃあ、あゆ。おれ達はもう一度、仮面ライダー龍騎のいるところに行く。たぶん、あいつが戦ったことのない怪物がいるからな。おまえはここで待ってろ」

「えっ・・・でも」

あゆが戸惑うのは訳があった。今日の夕方、あゆが龍騎の戦いに首を突っ込んだばかりに、彼は怪我を負ったのだ。戦えない人の介入は龍騎にとっては足枷になるかもしれない。

竜也の名前を隠していたので、龍騎という名前にいつも通り「くん」をつける。

「龍騎くんは、普通の人が戦いの近くに来たら、いやと言われても守ろうとするんだよ。二人がもしモンスターに襲われたら・・・」

舞は、持っている剣を見つめ、握っていた手にさらに力を込めてあゆを見た。先程のあゆに負けないほど強い意志のこもった瞳で。

「おれ達にも背負ってるものがあってな」

「そう。わたしは、魔物を討つ者だから・・・」

「魔物・・・?」

「祐一」

「ああ!」

 

「でやぁっ!」

バキィ!

龍騎は先程のソロスパイダー戦の如く、ワイルドボーダーを圧倒していた。

<STRIKE VENT>

アドベントカードをベントインし、ドラグレッダーの頭部を模した「ドラグクロー」が、龍騎の右腕に装着された。

「はああああぁ・・・たあっ!」

ゴオォッ!

龍騎は力強く構え、右腕を思い切りワイルドボーダーに向けて突き出すと、ドラグレッダーとドラグクローがドラグブレスを吐き出した。

「グギャアアアァ!」

ドガァン!

凄まじい火炎に成す術もなく、ワイルドボーダーは爆散した。

「よっし!・・・あゆたちが心配だな・・・」

龍騎があゆたちの元へ急ごうとするまさにそのとき、

 

ズガァ!

「ぐあっ!」

龍騎の背中に強い衝撃が走った。振り向くが、そこには何もいない。

「なんだ、一体・・・」

ガキィ!

「うあっ!」

次は右側から龍騎を狙ってきた。

「くそっ!やっぱりモンスターが・・・ん?」

龍騎は毒づく途中で、ある疑問に気付いた。

先程の攻撃を受けるまで、モンスターの接近を伝える、仮面ライダーにしか聞こえない反応音が聞こえなかった。こういったタイプのモンスターは初めてだった。

「新しいタイプか・・・?気配で感じ取れるかな・・・」

龍騎は仮面の下で目を閉じ、精神を集中させ、目に見えない敵の存在を感知しようとする。

しかし、心の奥で焦燥に駆られ、集中は乱れていた。

(・・・何かが違う。・・・こいつはモンスターじゃないのか?)

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

おまえ、竜也じゃないか!

 

          あれは魔物・・・。

 

魔物・・・?モンスターじゃなくて?

 

          おれ達はそれぞれの専門分野があるみたいだな。

 

戦わせて。あなたと同じ力で・・・。

 

           信じるよ、二人を。

 

 

 

第5話「闇夜を切り裂く二人の剣士」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一
川澄舞




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第5話 「闇夜を切り裂く二人の剣士」

龍騎は見えない相手に、今までのモンスターとは何か違和感を感じていた。

「反応のないモンスター・・・ほんとにこいつはモンスターなのか?」

答えは見つからないが、目の前の見えない存在は、人々を脅かす脅威であることに間違いはないはず。

倒さなくては、何の罪もない人々が傷つけられ、命を落とすだろう。

龍騎は先程と同じように、意識を集中させ、見えない敵の気配を感じ取ろうとするが、

ガキンッ!

「ぐうっ!・・・くそ、気配で感じ取れない。どうやって戦えば・・・」

分析している間にも、見えない敵は攻撃を休めない。

背後から見えない敵が、龍騎目掛けて襲い掛かろうとしたそのとき、

「はあっ!」

「うおっ!?」

ザンッ!

見えない敵、魔物を自身の剣で切り裂く者がいた。

その者は先程、この戦闘に入る直前に出くわした少女だった。

「あなたは、祐一と一緒にいた・・・」

龍騎の言葉に舞は静かに頷くと、剣を構え、魔物を睨み付ける。

月光に輝く剣と、魔物を狙う鋭い瞳の少女は、どこか幻想的な雰囲気があった。

龍騎は少女の姿に一瞬、見とれていたが、すぐに我に返り、舞に警告をする。

「危険だよ!ただでさえ見えないモンスターなのに、普通の人間が敵う相手じゃない!」

「ちがう、あれは魔物・・・。そして、わたしは魔物を討つ者」

はじめて聞く言葉だった。

魔物・・・。モンスター以外にも、人々を脅かす存在がいるのか?

「魔物・・・モンスターじゃなくて?それに魔物を討つ者って・・・」

「どうやらおれ達は、それぞれの専門分野があるみたいだな」

「祐一・・・?」

後ろから、祐一が走ってきた。彼の言葉を聞くかぎり、モンスターと魔物は同一の存在ではないらしい。

「あゆは!?」

「安心しろ。今は一人だが、舞に聞いた限り、魔物はこの辺りにしかいないから、あゆに危険は無いってよ」

「そうか・・・でも心配だな・・・」

祐一はあゆは安全であると答えるが、龍騎の言うとおり、少々心配であることも事実だ。

「だから、あんたはあゆの所にいけ。魔物は、おれと舞がやる」

祐一は、あゆと関わりが深そうな龍騎を彼女の元に行かせることにした。おそらく、龍騎は不慣れな魔物との戦いで疲弊しているはずだ。休息を与えることも兼ねての考えだ

「でも、それは・・・いくら、戦ってきたからって、剣だけじゃ・・・」

しかし龍騎も、一度始まった戦闘を放棄することなど出来るわけがなかった。二人は今まで、魔物との戦いを繰り広げてきたようだが、普通の人間であることに変わりは無い。一般人をほうって逃げることは龍騎の性分では許せないことなのだ。

「じゃあ、仮面ライダー龍騎、あんたの力を貸してくれないか?」

「おれの力?」

祐一の妥協案に龍騎は戸惑う。

「ああ、あんた見たところ、おれ達の知らない怪物を相手にしてきたんだろ?魔物の気配は舞にしか感じ取れないから、舞の指示に従って攻撃してくれ。舞はあんたみたいに鎧は装備してないから、いつも心配でな。あんたがいれば、魔物も早く退治できる。舞、いいだろ?」

「はちみつくまさん」

「はちみつ?くま?」

今、魔物と対峙している少女が、彼女のイメージからは想像も出来ない言葉を述べた。

しかも、この状況下ではよっぽどのことが無いかぎり聞かない単語だ。

頭上に?マークが浮かぶ龍騎に、祐一は冷静に

「OKって意味だよ。ちなみにNOはぽんぽこたぬきさんだ」

「なんだそりゃ・・・?まあいいか。じゃあ・・・えっと、舞さんだっけ・・・名字は?」

「川澄・・・川澄舞」

「じゃあ舞さん、おれに指示出して。頼むね。あと、仮面ライダー龍騎って長いから、龍騎でいいよ」

舞はゆっくり頷くのを確認すると、龍騎と祐一は舞の両隣に立つ。

<SWORD VENT>

龍騎はリーチの長いドラグセイバーを呼び出し、いつでも攻撃に対応できるよう準備した。

「龍騎、右!」

「だあっ!」

ザンッ!

舞の指示通り、龍騎は右側を思い切りドラグセイバーで振りぬくと、確かな手応えが感じ取れた。

「あたった!」

「・・・効いてない」

「何!?」

舞の言葉を祐一は信じられなかった。今の音から言っても間違いなく直撃だった。しかし、たいしたダメージはないのだ。

 

キィィィン・・・キィィィン・・・

 

「モンスター!?」

「え・・・」

「ギイイィ!」

ドンッ!

「くっ!」

なんと、新たなるモンスター「シールドボーダー」が現れ、あろうことか、仮面ライダーでない舞を攻撃した。

いくら、戦闘慣れしている舞でも、モンスターとの戦いは不慣れ。魔物と対峙した龍騎のようにあっという間に不利な状態になった。

祐一は舞と違って魔物を感知できないうえ、モンスターに対する対抗手段もない。

「舞さん!・・・こんなときに・・・」

ガンッ!

「うぐあっ!」

一方の龍騎は魔物に攻撃される。

長時間の変身と多大なダメージが積み重なり、ついに龍騎は変身が解けた。

 

唯一無事である祐一は、龍騎のその素顔を見て息を呑んだ。

「おまえ、竜也じゃないか!?何で、おまえが・・・」

そう、今日出会ったばかりの龍崎竜也であった。

「くっ・・・今はそんなことどうでもいい!この状況はまずい・・・舞さんを連れて早く逃げて!」

「バカか!おまえも連れて行く!」

祐一は竜也と舞を背負って廊下を走った。

 

あゆは3人が戻ってくると安心して近づく。

「良かった・・・無事だっ・・・」

しかし、近寄ると、舞と竜也はところどころに打撲や傷があった。

「ひどい怪我・・・大丈夫!?」

「平気・・・」

「へへ、ごめんあゆ。ちょっとドジった・・・」

祐一に庇われながらも舞は平静を装い、竜也はおどけて見せたが、あゆには誤魔化せなかった。

「どうしよう・・・」

「大丈夫。ちょっと休んだらすぐ復活するから」

竜也はあゆを心配させないように振舞うが、すぐに変身することは困難だった。

舞は、ある方法を思いついた。しかし、うまくいくかどうか分からない上に、竜也の了承を得なければならない。

「竜也、あなたの仮面ライダー龍騎の力、貸して・・・」

「え・・・」

「舞?」

「わたしはモンスターに対抗できないし、あなたは龍騎になっても魔物に対抗できない。でも、わたしが龍騎になれば・・・」

確かに、その方法は有効かもしれない。

「・・・ごめん、それだけは出来ない」

だが、竜也は賛同することが出来なかった。

「なぜ?」

「一度、仮面ライダーになったら、いろんなものを背負わなきゃいけない。仮面ライダーになったとしても、全てのモンスターに勝てるとは限らない。あなたにこの十字架は重過ぎると思う」

仮面ライダーであることの苦しさや辛さを出来れば他人に痛感して欲しくなかった。

 

刹那

 

「ギイイィ!」

「うわっ!た、竜也くん!」

運の悪いことにシールドボーダーが現れた。

「そんな・・・追ってきたのか!?」

「魔物もいる・・・」

「共闘してるのか・・・!?」

「分からない・・・」

策がない。いや、あることはある。その方法を使えば、確実にこの場を切り抜けられるだろうが、それはどうしても避けたかった。

竜也は思いつく別の最善の方法を考えた。

「みんな離れて、おれが何とか時間を稼ぐ。その隙に学校から脱出して。いいかいあゆ?」

「でも、そんなこと・・・」

「ダメになりそうなときは、おれを見捨てて、周りの人と一緒に逃げるのが約束だよ」

「でも・・・」

「おれは平気。こんなところで死ぬつもりはないから」

あゆは、戸惑いつつも迷いを振り切り、祐一と舞の手を引こうとする。

しかし、

「うおおおおおお!」

「ゆ、祐一くん!?」

「祐一!?」

何を思ったか、祐一はモンスターと魔物に、木刀で立ち向かっていった。

「祐一逃げて、はやく!」

「竜也、おまえばっかり辛い思いする気かよ!?おれ達を何で頼らない!?」

「それは・・・みんなに辛い思いをして欲しくないから・・・」

「ふざけんなよ!たとえ仮面ライダーにならなくても、辛い思いはするモンだ!」

祐一に同調して、舞も竜也を説得した

「祐一の言う通り。それに、今ここでわたし達を頼らなかったら、もっと後悔することになるかもしれない。あなたもわたし達も・・・」

ガキィッ!

「うあっ!」

「祐一!」

「くっ・・・おれ達は、この場を切り抜ける。四人で力を合わせれば、きっと切り抜けられるはずだ!」

「竜也、もう一度力を貸して」

どうしてもこの手は使いたくなかったが・・・。

この二人になら、任せられるかもしれない。竜也は先程却下した案を受け入れることにした。

ただし、別の形であったが。

「二人をおれは信じてみる。これを使って!」

竜也は二人にあるものを渡した。

「これは・・・」

「カードデッキ。これで仮面ライダーに変身するんだ」

それは、龍騎とは別のカードデッキだった。祐一には蝙蝠のようなレリーフが、舞には白鳥のようなレリーフがそれぞれ刻まれていた。

「別のヤツ、持ってたのかよ・・・」

「出来れば巻き込みたくなかったけど、これを使ったら最後、モンスターとの戦いからは逃げられなくなる。覚悟できる?」

「ああ、承知の上だ!そうだよな、舞?」

「はちみつくまさん」

カードデッキを強く握り締める。二人の覚悟の表現だろう。

「あゆ、ちょっと待っててね。すぐに決着をつけてくるから」

「わかった。気をつけてね・・・」

竜也はあゆに笑いかけ、モンスターと魔物に向き直る。その表情は、大切なものを守ろうとする強い意志があった。

 

竜也はカードデッキをかざし、それに習い、祐一と舞も同じ動作を行う。

3人の腰に、全く同じ白銀のベルトが現れる。

「「「変身!!」」」

それぞれカードデッキを装填すると、幾つもの虚像がオーバーラップするように現れ、竜也は仮面ライダー龍騎に、祐一は蝙蝠をモチーフとした西洋の騎士のような仮面ライダーに、舞は白鳥をモチーフとした白いマントが特徴の仮面ライダーにそれぞれ変身した。

「これは・・・」

「祐一は仮面ライダーナイト、舞さんは仮面ライダーファム。どっちも剣を使った攻撃に特化した仮面ライダーだよ」

新たなる仮面ライダーの誕生であった。

魔物とシールドボーダーは少し怯んだが、即座に3人へ襲い掛かった。

「だあっ!」「おりゃあっ!」

ドガァッ!ズバァッ!

「グゥオオオォ!」

龍騎はワイルドボーダーに渾身の力をこめて殴る。ナイトも同時に腰に装備していた剣型の召還機「ダークバイザー」で切り裂く。

シールドボーダーは重量級だったが、2人のライダーの攻撃には堪らず吹き飛んだ。胸にあった盾は粉々に砕けてしまい、もう使い物にはならないようだ。

「す、すげぇ・・・力が強くなったし、ぜんぜん疲れない・・・」

「これが仮面ライダーの力。どんなに心優しい人でも、この力を身に付けた途端、力の凄まじさに陶酔して心を失い、悪の道に堕ちる事もある。だから、2人には使って欲しくなかったんだ」

説明する龍騎にナイトは疑問を覚えた。彼が悪の道に堕ちたとでも言うのか?

「何でそんなこと知ってるんだよ。おまえ、悪には見えないぞ?」

「ある人から、教えてもらったんだ」

「誰だよそれ?」

「それはまた今度教える。また来るぞ!」

龍騎の言葉どおり、怒り狂ったシールドボーダーが2人のライダーめがけて突進してきた。

 

「はあっ!」

ドスッ!

一方、ファムは腰に携帯してあったレイピア型の召還機「ブランバイザー」で魔物を突き刺した。

しかし、龍騎と同様、有効な攻撃ではなかった。

「効かない・・・」

シールドボーダーと応戦しながらも、ファムの様子がおかしいことに気付いた龍騎は考えを巡らす。

(ライダーの攻撃は聞かないのか?じゃあ、あの2人はどうやって倒してたんだ・・・?)

ふと目をやると、心配そうに見守るあゆの足元に舞が先程使用していた西洋刀があった。

そこから、一つの答えを導き出した。

「もしかして・・・あゆ!足元の舞さんが持ってた剣を、舞さんに渡して!」

「わ、わかったよ!はい、舞さん!」

投げ渡すのは危険であり、手渡しも戦いに巻き込まれる可能性があったため、あゆは床に滑らせるように渡す。

ファムは魔物の攻撃を避け、受身を取りながら剣を掴み取る。

「舞さん、その剣だけが魔物に有効なはずだ!それを使ってみて!」

龍騎の指示にファムは頷くと、いつも使っているように剣を構える。いつもよりその剣は不思議なほど軽く感じた。

「てぇいっ!」

ザンッ!

目には見えなかったが、ファムにははっきりと分かった。魔物は舞の剣の一閃の前に消え去った。先程感じていたもう一匹の魔物の気配はここから感じ取れないことから、おそらく逃げ遂せたのだろう

「倒した・・・」

変身を解除した舞は、ほっと胸を撫で下ろす。

「しゃあっ!あとはシールドボーダーだけだ!・・・どりゃあっ!」

「グオオッ!?」

今までの苦戦が不思議なくらい、龍騎とナイトは優勢だった。

龍騎は窓の外から、シールドボーダーを校庭へと投げ飛ばした。

「トドメだ。祐一、デッキからアドベントカードを引いて、持ってる剣にベントインして」

「ベントイン?」

「カードを剣にセットすること。早く!」

ナイトは龍騎の説明どおり、デッキからアドベントカードを引き、ダークバイザーにベントインした。

龍騎も同時にベントインする。

<FINAL VENT><FINAL VENT>

「キキイィ!」

空から、ドラグレッダーと巨大な蝙蝠が飛来する。

「なんだコイツ!?」

「ナイトの契約モンスター「ダークウイング」。あ、舞さんの契約モンスターは白鳥型の「ブランウイング」。ファイナルベントのときは、契約モンスターが一緒に攻撃してくれるはずだよ」

「そうか。じゃあ、いくぞ!」

ナイトは窓の外から空高くジャンプし、龍騎は構えを取る

「とおっ!」

「ふんっ!はあああああああああぁ!」

龍騎もナイトに続き、空高く飛び、ナイトの背中にはダークウイングが張り付きマントのような「ダークウォール」に変化する。

「はあああぁっ・・・だあああああああああぁ!」

「はあああっ!」

ズガアアアアアアァ!

龍騎はドラグレッダーのドラグブレスを纏ったドラゴンライダーキックを発動させ、ナイトはダークウォールをドリルのように変質させ急降下する「飛翔斬」を発動した。

 

舞とあゆは校庭のほうまで急ぐ。

そこは炎の海となっていたが、辺りのものは破壊されておらず、無事であった。

炎の中から、龍騎とナイトが出てくる。その後、炎は有り得ないほどの速さで消えた。

どうやら、普通の炎とは違うらしい。

その場所から、眩い光の塊のようなものが現れる。

それをドラグレッダーは吸収した。

「なんだアレ?」

「食事みたいなものかな。2人ともこれからは、定期的に契約モンスターにあれを食べさせないとダメだからね」

ドラグレッダーの食事を確認した後、

2人はカードデッキを引き抜いて変身を解き元の姿に戻った。

「やったな、舞!」

祐一の言葉に、舞は少し表情を和らげ頷く。

あゆは心配そうな顔で竜也を見つめていた。

「竜也くん・・・大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!ほら、あゆも笑って。心配ないから!」

竜也が無事そうなのを確認して、あゆはその場にへたり込んだ。

とっさに竜也が支える。

「うおっと・・・あゆこそ大丈夫?怪我はしてない?」

「へーき。安心して力が抜けちゃった。うぐぅ・・・よかったぁ~」

4人はそれぞれ、勝利を分かちあった。

 

竜也は、この場は切り抜けたものの、2人がライダーになったことに罪悪感を覚えた。

「ごめん。結局巻き込んじゃった・・・」

「わたしは大丈夫。それに、わたし達もあなたを魔物との戦いに巻き込んだ」

「そういうことだ。お互いも持ちつ持たれつ、これからもよろしくな」

「ああ、よろしく」

二人の言葉に少し救われた気がした。

「祐一、そろそろ帰りたい」

「そうだな。じゃあ、おれ達はこれで」

「あゆ、おれ達も帰ろっか」

「うん。祐一くん、舞さん、バイバイ!」

あゆは別れのときくらい明るく別れようと、笑顔で元気いっぱいに手を振る。

舞と祐一は手を振りつつ、帰路に着いた。

「ところで、もう暗いけど送っていこうか?」

「うぐ・・・大丈夫・・・」

実は、あゆは暗いところが苦手で、お化けや幽霊の類は大嫌いだった。しかし、竜也は相当疲れているはずなので、あまり迷惑はかけられないと考え、一人で帰ることにした。

「バイバイ、竜也くん!」

「またね!」

勇気を振り絞り、思い切り駆けていった。あゆがいなくなるのを確認した竜也は家に帰ることにした。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

                   探し物してるんだ・・・

 

おれも探すよ!1人より2人ってね!

 

                あら、いらっしゃい。名雪か祐一さんのお友達?

 

名雪さんのお母さんなんですか!?

 

                よう、相沢!お、そいつってもしかして・・・

 

はじめまして、妹がお世話になったみたいね。

 

                栞ちゃんのお姉さん?

 

 

 

 

第6話「探し物」

 

 

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム


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第6話 「探し物」

夢・・・。

 

夢の中にいる。

 

そこでは一人の少女がいた。

 

彼女は母親を失った悲しみで泣いていた。

 

おれは必死になぐさめ、彼女とたい焼きを食べた。

 

彼女が、頬を濡らしながらみせた、儚い笑顔。

 

いつも、そこで夢は途切れていた。

 

誰かが、奪ったかのように・・・。

 

 

 

 

起床後、竜也はメモ帳になにやら、ぶつぶつ呟きながら書き込んでいた。

「・・・仮面ライダーナイト、仮面ライダーファム変身。現時点で出会った仮面ライダーは、龍騎を含め、ナイト、ファム、シザース、ベルデ、アビスの6人だが、シザース、ベルデ、アビスの変身者は不明。まだ出会っていない7人のライダーのうち、ライアとゾルダは装着者いまだ存在せず、残りの5人は変身者がいるかどうかも不明。・・・っと」

龍騎として戦う以上、こういった詳細を記述することも大切なことである。

仮面ライダーの詳細が記録されていたメモ帳を閉じ大きな欠伸をすると、自分の部屋から出て、食卓に向かう。

 

「おはようございます・・・」

まだ少し寝ぼけているのか、誰か居るわけでもないのに朝の挨拶をする。

少し焦げ臭い気がしたが、竜也はまったく気にしなかった。

「おはよ、竜也くん!」

元気いっぱいの少女の声が聞こえる。

おかしい。誰もいない筈なのに。

竜也は目をゴシゴシと拭い、前を見ると・・・。

「どわっ!あ、あゆ!?」

ゴンッ!

「いてっ!」

椅子にちょこんと座ったあゆがいた。あまりにも意外な出来事に仰天し、近くの食器棚の角に頭をぶつけた。

「うぐぅ・・・そんなに驚かなくても・・・」

あゆは困った顔で竜也を見つめる。なぜ彼女はこの家を知っているのだろうか。

「・・・でもどうやっておれの家を?」

「だって昔、家に連れてきてもらったことあるよ?」

「そうだっけ・・・」

竜也は7年前、あゆと遊んでいたときにこの家につれてきたことがあった。その当時は両親も生きており、とても幸せだった。

「そういや、なにしに来たの?ここ何もないよ?」

「ボク、今日からここに住みたい!ここで、竜也くんの家政婦になる!」

「へ・・・?」

「すこしでも竜也くんの力になりたいんだ!」

あゆはなんと、この家に住み込みの家政婦になることを宣言する。

「すごく嬉しいけど、ご家族の方は心配してないの?」

「ボクの家には誰もいないんだ・・・」

あゆは寂しそうに答える。竜也は昔、あゆに聞いたことを思い出した。

彼女は家族がいないのだった。

母子家庭だったあゆは、7年前に、唯一の肉親であった母親さえ失っていた。

彼女の心の傷に触れてしまったことを竜也は酷く後悔した。

「ごめん・・・。おれ、無神経だった・・・」

「ううん、竜也くんは悪くないよ。・・・やっぱり、迷惑かな・・・?」

あゆは、さらに寂しそうに問う。

自分と同じ、家族のいないあゆは、もしかしたらよりどころを求めていたのかもしれない。

それに、自分に新しい家族が出来ると思うと、とても嬉しい気持ちになった。

彼女の家になりたい。竜也はそう心から思った。

「そんなことないよ!じゃあ、あゆにお世話になろうかな?これからよろしく!」

「竜也くん・・・うん!ボク、がんばるよ!」

あゆはいつもの明るさを取り戻し、笑顔でうなずく。

ともかく、あゆはこの家のお客さんであることには間違いない。家政婦的なことを言っていたが。竜也は、彼なりのもてなしをすることにした。

「・・・あっ!おなか減ってるよね?今すぐ、朝ご飯作るからね」

「そ、そのことなんだけど・・・」

あゆは後ろめたそうにキッチンを見る。不思議に思った竜也も同じ場所に目をやると、

其処には・・・。

「なんすか・・・これ?」

キッチンはしっちゃかめっちゃか。コンロを埋め尽くすフライパンは丸こげ、お皿も数枚割れ、食材が至るところに散乱していた。

「ごめんなさい・・・。竜也くんにおいしい朝ごはん作ってあげようと思ったんだけど・・・」

竜也は急いで、冷蔵庫に入っている昨日買い込んだ食材(昨日の夕飯と今日の朝食分)を確認する。

 

・・・無かった。

 

「あぁ・・・おれの朝飯が・・・」

「ほんとにごめんなさい・・・」

涙目になるあゆ。正直、こちらが泣きたいのだが、悲しそうにするあゆを見ていると責めることはできなかった。

「いいよ!じゃあとりあえず、片付けよ?朝飯は何とかするから」

「うん・・・」

彼女の住み込み家政婦への道は険しそうだった。

 

片付けが終わった2人は、街に繰り出した。朝食を買うことが目的だった。

「何食べたい?あゆの入居記念にリクエストに答えるよ」

集合住宅じゃないのだが・・・。

彼なりにボケてみたが、あまり受けは良くないらしい。

「あはは・・・入居記念って・・・。あ、たい焼き食べたい!」

(苦笑い・・・(泣))

ちょうど、たい焼き屋のある道にさしかかったようだ。

「昨日も食べたけど・・・。うまいからいいか。すいませーん」

竜也は、たい焼き屋のおじさんに声をかけた。

「いらっしゃい!お、この前のお嬢ちゃんと、兄ちゃん!」

「昨日は、ほんとに迷惑かけてすいません。今日は、ちゃんとお金もって来ましたので・・・良ければ、これからも良い関係でお付き合い願えますか?」

「しっかりしてるねぇ・・・。お嬢ちゃん、いい彼氏捕まえたね!」

「え・・・」

「お、おじさん・・・」

2人は顔が真っ赤になる。

その話題を何とか変えて、たい焼きを4つ購入した。焼き立てで湯気が立っている、なんとも美味しそうなたい焼きだった。

「まいど、またおいで!」

「「ありがとうございます」」

 

たい焼きを食べながら、二人は朝の商店街を歩いていた。ところどころ雪は残っていたが、空は晴れ渡り、とても良い天気だった。

竜也がふと横に目をやると、あゆがきょろきょろと辺りを見回している。

「何してるの?」

「探し物してるんだよ」

「探し物?」

今まで、そんなものを探していたような雰囲気が無かったため、竜也は少し意外に感じた。

「大切なものなのに…落としちゃって…大切な…すごく大切なもの…」

「何を落としたの…?」

竜也も彼女から情報を取り入れようとするが…

「あ、あれ…思い出せない…どうしたんだろ…思い出せないよ…」

「落としたのは覚えてるのに、何を落としたのか思い出せないの?」

彼女は戸惑っている。自分自身の記憶に戸惑っていた。

「大切なものなのに…大切なものだったはずなのに…はやく見つけないといけないのに…思い出せないよ…どうしよう…」

あゆは悲しそうに顔を伏せる。

竜也は、何もしてあげられない自分が情けなかった…。

しかし…。

「一緒に探そうか?」

せめて、彼女の力になることくらいは…。

自分に力を貸してくれるあゆに、自らも何か力になりたいと強く願った。

「え…でも、何をなくしたのか思い出せないのに・・・」

「大丈夫、何とかなるさ。1人より2人ってね」

「竜也くん…ほんとにありがとう」

あゆは竜也に笑顔を見せる。

2人はとりあえず、この商店街を全体的に探してみた。

 

2時間後…

「見つからないよ…」

「この辺りにはないのかな…」

商店街以外で遊んだ覚えも無いので、あてを失った2人は途方にくれた。

と、そこへ…

「よ、竜也」

「こんにちは~」

「祐一、舞さん。そちらは?」

「…わたしの友達」

祐一と舞が現れた。昨晩の雰囲気からは想像も出来ないほどの和やかな雰囲気であった。

もう一人見慣れない女の子がいた。緑のリボンが特徴的だった。

「はじめまして、倉田佐祐理と申します。龍崎竜也さんと月宮あゆさんですよね?」

佐祐理と名乗った少女は一礼し、にっこりと微笑む。名前を知っているあたり、祐一から聞いているのだろう。

「へぇ・・・舞さんのお友達かぁ」

「はじめまして、佐祐理さん!」

「竜也さんって・・・あの世間を賑わせている、紅い騎士さんなんですよね?」

「ぶっ!?」

「わっ!」

佐祐理のあまりに唐突な発言に、竜也はたい焼きを噴き出した。隣にいたあゆは、驚いて飛び退く。

「げほっ・・・げほっ・・・なんでそれを?」

「舞と祐一さんに聞きましたよ~」

「昨日、ドラグレッダーが飛ぶところを見たらしくてな」

「それを追いかけて、学校の外で竜也が変身を解くところを見ていて・・・」

「そこに舞と祐一さんがいたから、いろいろ2人に聞いたんです」

「悪いな竜也。言い逃れできなかったんだ」

「ごめんなさい」

祐一と舞は竜也に謝った。

「いや、いいけど・・・。じゃあ、祐一や・・・」

「おっと!」

ガッ!

「わぶっ!」

「わ、竜也くん!」

竜也は祐一にヘッドロックをかまされ、まともに喋られなくされた。

すると小声で、祐一が呟く。

「たぶん、佐祐理さんがおれと舞が仮面ライダーだってことを知ったら絶対に心配する。舞は彼女を心配させないために魔物と戦ってることさえ黙ってるんだ・・・。おまえが仮面ライダーってことはバレたが、おれ達のことは・・・」

「うふ、ふぁふぁった・・・(うん、わかった)」

祐一はヘッドロックを解く。

「はぇ~、どうしたんですか?」

「男同士のスキンシップだ。な、竜也?」

「う、うん。それにしても、いてぇ・・・。もうちょっと力、弱めてよ・・・」

「ああ、悪い悪い」

「それより竜也さん、ご存じないんですか?かなり話題になっていますよ」

佐祐理は先程の話題に入る。鞄から、雑誌を取り出す。

開いて、竜也にみせる。あゆも、隣から覗き込むように見る。

「ん?」

その雑誌には、こう書かれてあった。

 

“怪物と関東地域に出没していた謎の赤い騎士出現!正体は一体!?”

 

隣には写真が掲載されており、そこにはまさしく、モンスターと仮面ライダー龍騎が写っていた。辺りが夕焼けであるところを見ると、この街に来て初めて変身したときのようだ。

あゆや栞が写っていることを心配したが、掲載されている写真にそれらしい人影は無かった。

「あ・・・おれだ。昨日のことなのに、もう載ってるのか・・・」

「どうしよう・・・みんなにばれちゃったら・・・」

「大変ですねぇ・・・」

「・・・同感」

「右に同じく・・・ていうかおまえ、昔にも見つかってるのかよ」

(この2人も、バレたらやばいんじゃないのか?)

4人は竜也の行く末を案じていた。

最後の2人はボケのようだが・・・。ちなみに台詞は上から竜也、あゆ、佐祐理、舞、祐一である。

舞と祐一は他人のことのように言っていたが、竜也は2人のほうが気がかりだった。

しかし、話題にされたことは幾度かあるので、もう慣れていた。

「ま、悩んでても仕方ないよ。正体さえバレなきゃ身元も分からないだろうし」

「随分ポジティブだな、おい!」

祐一の鋭い突っ込みをスルーした竜也。

と、そのとき…。

 

キィィン…キィィン…

 

「みんな、離れて!」

「グオオオオオオオォ!」

そういったことを見計らったように、シマウマ型のモンスター「ゼブラスカルブロンズ」が現れる。

「な、なんなんですか!?」

佐祐理は、モンスターを間近で見たのは初めてだ。さすがに驚き、後ずさりする。

「あゆ、佐祐理さんを連れて隠れて!」

「わかったよ!」「あ、あの…!」

佐祐理は何か言おうとしたが、あゆに引っ張られて言葉を中止された。

「祐一と舞さんは…」

戦ってもらおうと思ったが、佐祐理に正体を隠していたため、それは適いそうもない。

「…一緒に逃げて!おれが何とかする!」

そう言って、デッキを翳す。

「変身っ!」

眩い光と虚像が竜也を包み込み、その姿を龍騎に変えさせる。

「あれが…赤い騎士…」

やはり、龍騎を間近で見るのも初めてな佐祐理は、彼に対しても驚く。

「しゃあっ!」

<GUARD VENT><SWORD VENT>

龍騎が2枚のアドベントカードをベントインすると、両肩にドラグレッダーの胸部と足を模した「ドラグシールド」が装備され、右手にはドラグセイバーも握られる。

攻守共に優れた戦法を取るつもりだ。

「だああっ!」

ゼブラスカルブロンズに突進するも、武装が増えたためにスピードが削れ、相手は素早い。

上手く攻撃できずに、避けられてしまう。

「くそ、この戦法はミスか…。なら!」

<ADVENT>

「ガアアアアアアアアアアアアアアァ!」

ドラグレッダーを呼び出し、ゼブラスカルブロンズに攻撃させる。この戦法は有効なはずだ。

ズガアアアアアァ!

「グワオオオオオォ!?」

予想通り、ドラグレッダーの動きには着いて来れず、攻撃を受けた。

「よし…!」

<STRIKE VENT>

龍騎は、ドラグセイバーを左手に持ち替え、アドベントカードをベントインする。

余った右手には、ドラグクローが装備され、龍騎の持つ武装は全て装着された。

「すごい…」「いわゆる、全部ベント…ってか?」

あゆと祐一は、単独で戦う龍騎の戦闘スタイルがかなり多い事を予想した。あれだけの武装が出来るのだから。

怯んだゼブラスカルブロンズにドラグクローで、強力な一撃を叩き込んだ。

「はあっ!」

ドガアアアァ!

「グゥオアアアァ!」

ドラグクローでの拳は、通常の拳の威力をさらに強化させている。よって、ゼブラスカルブロンズには有効な一撃だった。

傍にいたドラグレッダーと共に、構えを取る。ドラグクローファイヤーで、トドメを刺すつもりだ。

だが…。

「グオオオオオオォ!」

「な…!?まてっ!」

攻撃を想定したのか、ゼブラスカルブロンズは自慢の脚力で、撤退する事に成功した。

つまり、龍騎はモンスターを取り逃がしてしまった。

「逃がした…!」

悔しがりながらも、変身を解く。

 

「平気?」「うん、大丈夫。逃がしちゃったけど…」

戦いの後の竜也は、いつも不思議なほど穏やかだ。ついさっきまでの士気はまるで嘘のように。

「すまない、竜也」「いいんだよ。おれも平気だし」

祐一は、小声で竜也に感謝の言葉を述べた。

ふと思い出した竜也は、あゆ以外の3人にこれからどうするかを聞くことにした。

「祐一たちは、これからどうするの?」

「おれが居候させてもらっている家で、昼飯にするところだった」

「祐一くん、居候してるんだ」

普通の生活を送ってそうなイメージのある祐一にも、意外な一面があることに竜也とあゆは驚く。

「ああ、7年前に両親が海外に転勤になってな。それ以来、そこでお世話になってる。竜也は昨日、名雪って娘に会っただろ?あいつの家だ」

「そうか・・・祐一もいろいろ大変だなぁ・・・」

「まあな。ところで、おまえらも昼飯どうだ?」

祐一の言葉に、少し戸惑う竜也。

「え・・・あゆはともかく、おれも一緒じゃ迷惑にならない?」

「うちの家主さんは人が多ければ多いほど喜ぶんだよ。今日も、おれの友達がたくさん来ることになってるし、おまえらのこともきっと気に入るぞ」

「竜也くん、せっかくだからお邪魔しようよ」

「そ、そうか・・・?あゆがそう言うなら・・・」

「決まりだな」

祐一は勝ち誇ったような表情になる。何に勝ったのかは分からないが。

 

先程の場所から10分ほど歩いたところにその家はあった。

「ここ?」

「あぁ。とりあえず入るぞ」

祐一が、玄関を開けて中に入る。

「ただいま」

祐一の言葉に答えたのは若い女性。20代前半か後半といった雰囲気だった。

名雪にどことなく似ている所から、姉だろうと竜也は予測した。

「お帰りなさい祐一さん。舞ちゃんと佐祐理ちゃんもよく来ましたね」

「今日は、お世話になります~」

「お世話になります・・・」

「そちらは、名雪か祐一さんのお友達ですか?」

女性が竜也とあゆに目をやると、祐一が説明を始める。

「おれの友達です。今日の朝に言っていた2人ですよ。竜也、あゆ、名雪のお母さんでこの家の家主さんの水瀬秋子さんだ」

「えっ!名雪さんのお母さんなんですか!?てっきりお姉さんかと・・・」

「あらあら、お世辞が上手ですね」

「いや、お世辞じゃ・・・」

秋子は頬に手をあて、微笑む。

年齢が気になった竜也だったが、女性に年齢を聞くのは無礼なので、その質問は聞かないことにする。

祐一は今回、2人をこの家に呼んだ理由を話す。

「実は2人を今日の昼ご飯に誘ったんですけど・・・」

「了承」

「はやっ!」

あまりにも早い回答だった。

その時間、なんと1秒。

その後、竜也とあゆは水瀬家に迎えられた。

 

「どうぞ、ゆっくりしていってください」

「ありがと、秋子さん」

「ありがとうございます」

リビングに通されると、そこには数人の少年少女がいた。

その中に、カエルのぬいぐるみを抱きかかえた、昨日会った少女がいた。

彼女の家なので、いるのは至極当然なのだが。

「名雪さん、こんにちは!」

「竜也くん、こんにち・・・く~」

名雪は挨拶をすると思いきや、居眠りを決め込むのだった。

「な、名雪さん?」

「この人が、祐一くんのいとこさん?」

「うん、そうだけど・・・」

「おい名雪、寝るな!悪いな竜也、あゆ、こいつを寝室まで連れて行く」

「うにゅ・・・いちご~・・・く~」

祐一は、寝言を呟く名雪を背負って、部屋から出て行く

名雪もいたが、彼女とは別にその中で昨日、知り合った少女が一人いた。

「あ、竜也さんにあゆさん!」

「栞ちゃん!祐一と知り合いだったんだ」

「あたしのお姉ちゃんが、祐一さんと同じクラスなんですよ」

「栞ちゃん、お姉ちゃんがいるの?」

「こんにちは」

栞が竜也たちに話しかけると、隣にいたウェーブのかかった長髪の少女が、竜也たちに軽く挨拶をする。どことなく秀才でプライドの高そうなイメージがあった。栞とは似ても似つかない雰囲気であるが、兄弟や姉妹が似ていないのはお約束なのだろうか。

「昨日は栞がお世話になったわね。姉の美坂香里よ。よろしく」

「栞ちゃんのお姉さんなんだ。よろしく」

「よろしくね、香里さん」

香里のそばにいた少年も、便乗して竜也に話しかける。

「おまえが相沢の言ってた龍崎竜也と月宮あゆちゃんか」

「祐一の友達だよね?」

「おう、おれは北川潤。相沢のクラスメートで、香里の彼氏候補だぜ!」

ドスッ!

「ぐはっ!」

潤が高々に宣言すると、隣にいた香里が凄まじい勢いで肘打ちをかます。

まさに、クリーンヒット。潤は床に沈みこむ。

「誰が彼氏候補よ。彼の話、嘘だから気にしないでね」

「あはは・・・」

「ま、まあよろしく、えっと・・・潤でいい?」

竜也は潤がほかの人から名前で呼ばれなかったので、自分で呼び名を提案すると潤は意外そうにする。

名前だけでそんなに驚くことがあるのだろうか。

「おお、おれを下の名前で呼んでくれた友達はおまえが初めてだな。じゃ、潤でよろしく。おれも、2人は下の名前でいいよな?」

「うん、あゆでいいよ」

「おれも竜也で。こっちのほうが呼ばれなれてるしね」

2人は、潤とさらに仲良く慣れた気がして嬉しかった。

 

その後、さらに水瀬家に集まった人々と親交を深め、いろいろと談笑していると、

「みなさん、お昼ご飯出来ましたよ」

秋子が料理の完成を伝える。

その場にいた7人は部屋を出て行き、食卓へと向かった。

 

 

 

 

 

次回!

 

これめちゃくちゃうまい!

 

そのうち、オレンジ色のジャムを食ってみろ。この世のものとは思えんぞ・・・。

 

何だよ、あの怪物!?

 

潤、さがって!

 

あれって最近、噂の・・・

 

魔物・・・学校の外から出てきてる・・・。

 

 

 

 

第7話「無力という名の屈辱」

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤
美坂香里
美坂栞

倉田佐祐理
水瀬名雪

水瀬秋子


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第7話 「無力という名の屈辱」

食卓に向かう廊下の階段から祐一と名雪が降りてきた。

名雪は一度寝てすっきりした様子だったが、逆に祐一はだるそうにしている。

「おはよ~みんな。竜也くんの隣にいる娘が祐一の言ってた、竜也くんのお友達?」

「うん、月宮あゆ。よろしくね、名雪さん!」

「おい名雪、さっき会っただろう。・・・寝ぼすけ状態の名雪は何も覚えてないのか」

ボソッと毒舌を吐く祐一に、名雪は少し困った顔をする。

「う~、祐一の極悪人・・・」

「祐一、あんまり名雪さんをイジメちゃダメだよ。名雪さん、困ってるじゃん」

「祐一くんって、ちょっと意地悪だね・・・」

「しかたねぇよ、竜也にあゆちゃん。相沢はいつもこんな感じだからな」

「名雪さんをいじめる人なんて嫌いです」

「栞の言葉通りよ。相沢君、わたしの親友をイジメないでくれる?」

「祐一さん、今のは酷すぎますよ~」

「おいおい、そこまで言うかよ。たかが、冗談だろ」

ペシッ

「あいてっ!」

祐一の言動を非難するその他大勢。舞に至っては、祐一にチョップをかます。

これから、祐一はこのメンバーが揃ったときは、人をイジらないようにすると心に決めるのであった。

 

食卓には沢山の料理が並べられてあった。どれも見た目、香りは全て完璧といえる。

「すげぇ・・・こんなに美味そうな料理、見るのも久しぶりだよ。最近じゃ、すぐに済ませられるご飯ばかりだったからなぁ・・・」

「秋子さんの料理の腕はピカイチなんだ。・・・あるものを除いて」

絶賛する竜也に付け加えて、さらに賞賛の言葉を述べる祐一。最後の言葉は良く聞き取れなかったのだが竜也は気にしなかった。

「いただきまぁす!」

席に着くと同時に、真っ先に手をつけたのは竜也。さっきのたい焼きでは空腹を満たせなかったのか、いろんな料理にありつく。

「これめちゃくちゃうまい!」

「おいしい!秋子さん、料理上手なんだね!」

「あらあら、いっぱいありますから、遠慮なくどうぞ」

隣で祐一は竜也とあゆに、ふとこんな言葉をこぼした。他の人には聞こえないように、物凄く小さい声で。

「たしかに、秋子さんの料理は最高だ。でもな、今度オレンジ色のジャムを食ってみろ。この世のものとは思えないぞ・・・」

「へぇ・・・そんなにうまいの?」

「いや、違うんだがな・・・あのジャムは・・・」

祐一の言葉が終わらないうちに、秋子がビン詰めのジャムを持ってきた。中身はオレンジ色。

先程、話題に出たものらしい。

 

「祐一さん。今、このジャムのお話してましたよね?」

 

ジャムという言葉とオレンジ色のジャムに、その場全員の表情が凍りつく(秋子、竜也、あゆを除いて)。

舞の表情は変わってないように見えたが、額に冷汗が一筋。

「あ、秋子さん。おれ、腹いっぱいなんでこれで。ごちそうさま」

「わ、わたしも~」

「おれも・・・!」

料理はまだ少し残っていたが、秋子、竜也、あゆを除いた一同は、我先と食事を切り上げる。

「困りました・・・。誰も、このジャムは食べてくれないんですよ・・・」

「おれ、良かったら頂いてもいいですか?」

「ボクもボクも!」

秋子は二人の言葉にとても喜ぶ。

「嬉しいわ。じゃあ、パンを焼きますね」

数分後、こんがり焼けたパンが皿にならべられた。

その上にはオレンジのジャムがたっぷり。

ドアの向こう側で様子を伺っていた祐一は

(さらば、竜也、あゆ。お前たちのことは忘れんぞ・・・)

そう心で思い、ゆっくりとドアを閉める。

「このジャムって、オレンジジャム?」

「いいえ、違いますよ」

「じゃあこれって、原料は何ですか?」

「企業秘密です」

一切の詳細を明かさない秋子を少し不思議に思う二人だが、そんなことはすぐに頭の隅に追いやり、ジャムが塗られたパンにかじりつく。

 

「「うぐっ・・・!!」」

二人は先程の一同よろしく、一気に表情が凍りつく。

偶然か必然か分からないが、二人のリアクションは、全く同じものであった。

 

何とかジャムとの格闘を切り抜けた竜也とあゆは、秋子に礼を言い、栞たちと帰り路に着くことにした。舞と佐祐理はすでに別の道に分かれたので、現在は二人を加え、栞、北川、香里の5人である。

「うぐぅ・・・まだ、ジャムの味が口の中に残ってるよぉ・・・」

「あのジャム、どんな原料使ってるんだ・・・?」

「おれ達も知らない。わかるのは、おれ達が知ってる食べ物とは領域が違うことだけだ」

秋子のジャムを酷評する3人。特に竜也とあゆは、秋子の他の料理がとても美味しかったために、悪い印象はさらに大きかった。

「北川さん、そこまで言うことは無いのでは・・・」

「栞、あなたもあのジャムに良い印象は持ってないでしょ」

「うぅ~・・・」

秋子を擁護する栞だが、香里の一言に言い返せずに黙り込んでしまった。

こんな穏やかな時間がいつまでも続けばよかったのだが、現実はそうはいかなかった。

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

「・・・!?」

モンスターの接近音に竜也の表情は一気に険しくなる。あゆはいち早くそれに気付き、その様子に栞も感づくが、潤と香里は気付かなかった。

「竜也くん、もしかして・・・」

あゆに相槌を打った竜也は、他の人々の安全確保をあゆと栞に頼んだ

「来る・・・。あゆ、栞ちゃん、みんなを連れて安全なところへ」

「うん、わかった・・・」

「おい竜也、どうしたんだよ?」

「みんな走っ・・・」

 

「グゥオオ!」

 

間に合わなかった。

シマウマ型のモンスター「ゼブラスカルアイアン」が現れた。ゼブラスカルアイアンは破壊活動を始めた。雄叫びをあげながら、建物を破壊していく。

「「「うわああああああああぁ!!」」」

突然の異形の出現にパニックを起こし、一目散に逃げる人々。

逃げ遅れた少年が餌食になろうとしていた。

「あ、あぁ・・・」

「させるか!てあっ!」

ドカッ!

「グキィ!?」

竜也はゼブラスカルアイアンにドラゴンライダーキックの如く、とび蹴りを食らわせ、近くで襲われた少年を助け出す。

「走って、早く!あゆ達も!」

竜也の言葉に、あゆと栞は潤と香里の手をとり、走り去ろうとする。

しかし、竜也がその場から離れようとしないことに焦りを感じた潤と香里は竜也を連れて行こうとする。

「何やってるのよ!?早くしないと!」

「竜也、あの怪物に殺されるぞ!」

「いいから、早く!」

あゆ達は二人を引っ張ろうとするが、潤たちも負けておらず、その手を振りほどく。

このままでは、彼らの安全は保障できない。

「仕方ない・・・。変身っ!」

竜也は先程、少年を助け出したときにあらかじめコートの下に装着していた白銀のベルトにカードデッキを差し込む。

竜也は仮面ライダー龍騎へと変身した。

「しゃあっ!」

「あれは・・・最近噂の、赤い騎士!?」

「・・・」

潤は驚愕し、香里は言葉を失った。

あっけにとられている潤と香里を、あゆたちは急いで近くの物陰へと連れて行く。

「あのモンスターはゼブラスカルアイアン・・・真司さんから聞いただけで、初めて見るモンスターだけど勝負あるのみ。だあっ!」

龍騎はゼブラスカルアイアンに殴りかかる。その強烈な右ストレートはゼブラスカルアイアンに炸裂した。

・・・筈だった。

「え・・・!?」

なんと、ゼブラスカルアイアンは筋肉を縦に引き伸ばし、龍騎のこぶしを避けたのだ。モンスター自体、常識の存在ではないものの、あまりにも常識離れした行動に龍騎は唖然とする。

「そんな・・・」

ガキィ!

「ぐあっ!」

ゼブラスカルアイアンは即座に龍騎に鋭い角を模した腕で龍騎を殴りつける。

しかし、龍騎も負けてはいない。すぐさま立ち上がり、ゼブラスカルアイアンへ蹴りを食らわすが、やはり、筋肉を縦に引き伸ばして避ける。

「縦にしか伸びないなら・・・!」

<SWORD VENT>

「だあっ!」

龍騎はドラグセイバーを呼び出し、ゼブラスカルアイアンを縦に斬る。

ザンッ!

「ギイィ!」

ゼブラスカルアイアンは縦の攻撃には対応できないらしく、ダメージを受ける。

「よっし!」

ガッツポーズを取り、さらに畳み掛けようとする龍騎。

だが・・・

ガスッ!

「うあっ!?」

突然の奇襲。あまりのことに龍騎はまったく対応できなかった。

後ろを振り向くと、ゼブラスカルアイアンに良く似た亜種「ゼブラスカルブロンズ」がいた。

「ゼブラスカルブロンズ・・・!もう1体いたのか!?」

2対1。

今まで龍騎は「シアゴースト」「レイドラグーン」などの大量発生型モンスターとの戦い以外は、タイマン勝負が多かったので、一度に複数の一個体型モンスターを相手にしたことは少なかった。

 

遠くで見ていた潤たちにも龍騎の危機がはっきりと分かった。

「おいおい、ありゃピンチじゃないのか!?」

「でも潤くん、ボクたちには何も・・・」

「そうよ、今助けに行っても、あたし達じゃ何も出来ないし、無力なあたし達が行っても彼の足手まといに・・・」

香里は冷静に判断するが、潤は黙って見ていられなかった。

「うおりゃあああ!」

「き、北川さん!?」

突然、そばに落ちていた棒状の鉄の瓦礫を拾い、背後からゼブラスカルブロンズに殴りかかった。

カァン!

しかし、全くといっていい程、効き目はなかった。

ゼブラスカルブロンズはお返しとばかりに、潤を殴り飛ばした。

バキィ!

「うわぁ!」

「潤!」

堪らず吹き飛ぶ潤を、龍騎は見事にキャッチする。

「大丈夫!?」

「お、おう、平気だ。あ・・・!」

潤があせって向こうを見る。龍騎もそちらを見ると、先程から相手のいなかったゼブラスカルアイアンがあゆたちをターゲットにして迫ってきていた。

「グオオオオ!」

「「き、きゃあああ!」」

「香里、みんな!!」

「くそっ!間に合え!」

龍騎はあゆたちを救うべく、あゆたちの下へ駆け寄ろうとするが・・・

ガキィ!

「がはぁっ!」

ゼブラスカルブロンズに攻撃され、近づくことすらままならない。

攻撃の際、龍騎の変身が解除し、竜也の懐からエイのレリーフが刻まれたカードデッキが飛び出した。それは、潤のすぐそばに落ちた。

「これは・・・」

「潤、それはダメだ、返して!」

竜也はすぐさま、潤からデッキを取り戻そうとする。

「・・・これを使えば、お前と同じようなヤツになれるのか?」

「それはそうだけど、一度仮面ライダーになったら、どれほど苦しいか・・・」

「じゃあ、このまま香里たちを見捨てろって言うのか!?」

「そ、それは・・・」

「おれは、チャンスがあるのに無力で何も出来ないってのが絶対嫌なんだよ!」

潤は、無力というものが大嫌いだった。ここで香里を助けられないこともまた無力。

竜也は、昔のことを思い出した。

竜也の両親はモンスターに殺されたのだ。そのとき、怯えて何も出来なかった自分が許せなかった。今思えば、自分が龍騎として戦い続けるのも、潤と同じように無力であることが嫌だったからなのかもしれない。

「・・・潤、仮面ライダーになったらモンスターとの戦いからは逃げられなくなるよ。それでも戦える?」

「ああ、おれも仮面ライダーってやつになって、守れるモノを守る!」

竜也は、潤の覚悟を信じた。

「わかった。そのカードデッキは潤にあげる。一緒に戦ってくれ!」

「おう!」

竜也は傷ついた身体を酷使して立ち上がり、潤と共にカードデッキを構える。

2人の腰に白銀のベルトが現れた。

「「変身っ!」」

竜也は仮面ライダー龍騎に、潤は後頭部にあるエイの尾を模した弁髪が特徴の石竹色の仮面ライダーに変身した。

あゆたちもさすがに驚きを隠せない。

「潤くんも仮面ライダーに・・・」

「北川君が・・・」

ライアは自らの身体を凝視する。

「これが、仮面ライダー・・・」

「それは仮面ライダーライア。潤、あゆたちを助けて。おれはこいつの時間稼ぎをする!」

「ああ、任せろ!」

龍騎はゼブラスカルブロンズに掴みかかり、ライアはあゆたちの元へと駆けつけた。

「とあっ!」

ガッ!

「グオォ!」

ライアはゼブラスカルアイアンにタックルをお見舞いする。

「香里、みんな、大丈夫か!?」

「え、えぇ、あたし達は平気よ」

「OK、いっちょやってやるぜ!」

ライアは気合をいれ、ゼブラスカルアイアンと対峙する。先手はゼブラスカルアイアン。

ライアめがけて襲い掛かる。

「うおりゃあ!」

ドゴォ!

ライアはヤケクソ気味にゼブラスカルアイアンとぶつかり合う。しかし、パワーはゼブラスカルアイアンのほうが上だった。

「ぐわっ!?」

もんどりうって転げるライア。

「潤くん!」

「北川さん、大丈夫ですか!?」

「いてて・・・アイツなんて馬鹿力だ!」

「アドベントカードを使って!そうすれば、なにか突破口が開けるはずだから!」

ゼブラスカルブロンズに応戦していた龍騎はライアに指示を送る。

1対1の戦いなので、戦闘経験も高い龍騎は圧倒的にゼブラスカルブロンズに勝っていた。

「アドベントカード?これか・・・?」

ライアはデッキからアドベントカードを引く。左腕に装甲されていた召還機「エビルバイザー」が自動的に開く。そこにあった隙間にアドベントカードをセットする。

<SWING VENT>

ライアの右手にムチ状の武器「エビルウイップ」が装備された。

「よし、これで・・・たあっ!」

バチィン!

「グギィ!」

エビルウイップには電流が走っており、ゼブラスカルアイアンは身体を引き伸ばしても避けることは出来なかった。

「す、すげぇ・・・」

「潤、ファイナルベントを使ってトドメを刺すよ!」

龍騎の言葉に従い、ライアはアドベントカードを引き、2人同時にベントインを行った。

<FINAL VENT><FINAL VENT>

龍騎の下にドラグレッダーが、ライアの下にエイ型のモンスター「エビルダイバー」が現れた。

「ふんっ!はああああああああああぁ!」

「とおっ!」

龍騎は力いっぱい叫びポーズを取り、勢いよくジャンプし、ライアはエビルダイバーの背中の上に乗る。

「だあああああああああっ!」

「ぅりゃあああ!」

ズガアアァ!

ドラゴンライダーキックと「ハイドベノン」が炸裂した2体のモンスターは跡形もなく消し飛んだ。

炎の中から現れる2人の仮面ライダー。

「また・・・巻き込んじゃった・・・」

龍騎の仮面の奥の竜也の表情は、後悔に満ちていた。

しかし、変身を解いた潤は、

「巻き込まれたんじゃねぇよ。こっちから飛び込んでいったんだ」

同じく変身を解いた竜也の方に手を置き、歯を出して笑う潤。

竜也は彼の笑顔に少し救われた気がした。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

次回!

 

          君を見過ごすわけにはいかないな

 

久瀬さん、あまり酷いこといわないでくださいよ~

 

          祐一の学校の生徒会長さん・・・

 

竜也くんは、今日はヒマなの?

 

          映画?

 

 

 

第8話「目の前の現実」

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

倉田佐祐理
水瀬名雪

水瀬秋子


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第8話 「目の前の現実」

ここは祐一たちの通う学校。

生徒会室で、生徒会役員達が集められた

「・・・最後に、ここ最近、正体不明の怪物が出没している。そこでしばらくの間、休校すると学校長から報告があった」

生徒会担当の先生は生徒会役員達に説明をする。

最近、モンスターの出没がこの街で頻繁に起こり始めた故に、生徒の身の安全を守るために学校長が判断したのだ。

「仕方ありませんね」

そう呟いたのは、生徒会長の「久瀬シュウイチ」。彼の親は学校と強いパイプを持っている。生徒会長とは言え、久瀬個人の意見は学校の行事、校則などに多少影響があるほどだ。

実を言うと学校長の判断も、久瀬の両親が彼の身を案じて一刻も早くと催促したのが始まりであった。それが無ければ、学校の対応は多少なりとも遅れていたであろう。

当の久瀬本人は、怪物の噂などまったく信用していない。目立ちたがりの捏造だと思い込んでいたが、親の判断には逆らえなかった。

「とりあえず、今回話した以上の事柄を各クラスの生徒に報告しておくこと。もっとも、最後の件は下校時に担任の先生方から連絡があるがな。以上だ」

 

放課後。

「学校が休みだぜ!」

集団下校(といっても5人だが)の中、飛び跳ねて喜ぶのは潤。つい先日、仮面ライダーライアに変身を果たした少年だ。彼が仮面ライダーになったことは、祐一たちをはじめ、竜也と関わりがあり、なお且つ竜也が仮面ライダー龍騎であることを知っている者たち全員が認知している。つまり、この場では名雪以外は全員知っている。

祐一と舞に関しても同じである(佐祐理は除く)。

「もうすぐ、考査があるって言うのに・・・」

そうこぼすのは香里。彼女は、ここから少し遠い位置にある有名な医療大学への入学を目指している。それ故に学校での授業が受けられないのは彼女にとって結構な痛手だ。

「お姉ちゃんはすごく頭が良いから、大丈夫だよ」

「栞の言うとおりだ。おまえの頭脳、少しは分けてくれよ」

「あ、わたしも欲しい~」

香里を賞賛する栞と、香里の学力をねたむ祐一。隣にいた名雪は祐一に便乗する。

この3人の成績は標準程度だが、潤に関しては赤点ギリギリ。

当の潤本人は、まったく気にしていないが。

ちなみにこの5人は大抵、帰りが一緒である(部活のある名雪は時々外れるが)。

5人は談笑しながら、帰り道を進んでいくと、見慣れた2人組みが道端をキョロキョロ見回している。

「竜也さん、あゆさん!」

「怪しい奴らだな」

「祐一、それは酷いよ・・・」

栞は竜也たちの下へと駆け寄る。ボソッと毒舌を吐く祐一。

彼は昨日の件があるので、誰にも聞こえないようにしていたが、すぐ隣にいた名雪は聞き逃さなかった。

祐一は地獄耳と言いたかったが、これ以上の面倒はお断りなので、言わないことにした。

 

「お、栞ちゃん、それにみんなも」

「こんにちは!みんな、学校の帰り?」

「えぇ、そうです。お2人はもう帰っていたんですか?」

私服の2人の姿を見て栞はそう予測する。

しかし、竜也の返答は意外なものであった。

「え?おれは高校には通ってないよ?」

「そうなんですか?」

「どういうこと?」

「おれ、つい2日前にこの町に来たばっかりだし、おれには学費を払うお金なんてないし、両親もずっと前に死んじゃったからね」

栞と香里は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、申し訳なさそうな表情になる。

「ごめんなさい、わたし知りませんでした・・・」

「わたしも、無神経だったわ・・・」

「そんな謝らないでよ。高校にいけないのは確かに少し残念だけど、この生活も楽しいよ?それに、みんなみたいな、すごく良い友達がこんなにたくさん出来たんだから」

「そうなんだ。嬉しいよ」

いつの間にか会話に参加していた名雪は竜也に微笑む。

祐一は一つ腑に落ちないことを聞いた。

「じゃあ、竜也って働いてんのか?」

「いや、龍騎になってモンスターを倒すごとに、日本の政府の人が生活費をくれるんだ」

「政府・・・大きく出たな」

唖然とする祐一。と、そのとき

「じゃあおれ達にはくれるのか?」

がめつい潤。

「あ~どうなのかな・・・あ、あゆ学校は?」

話をうまく逸らす竜也。そして、少し気になっていたことに話題を振る。

「ボクの学校は今日、お休みだよ」

「あゆの学校って、どこにあるんだ?」

「この街のはずれにある森の中にあるよ」

「そんなところに、学校なんてあったっけ?」

あゆは会話に参加しつつも、先程からずっと辺りを探し回っていたが、彼女の探し物は見つからないらしい。

その様子を見て、名雪は最初に気になっていたことを聞いた。

「そういえば、あゆちゃんたちって何してたの?」

「あゆの探し物。でも、当の本人がどんなものだったのか分かってないんだよ」

「なんだそりゃ。まあいい、おれ達も手伝おうか、あゆ?」

あきれる祐一。しかし、彼は彼なりの優しさを見せる。他の4人も協力的であった。

「ほんとに?ありがとう!」

 

商店街をあちこち探すが、結局見つからなかった。

「7人がかりでもダメか・・・」

「みんな、ごめんね・・・」

あゆは、力になってくれる他の人々に謝る。

夕暮れ時で、日が完全に沈みきるのはもうすぐであろう。

そのとき、

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

竜也、祐一、潤がモンスターの反応を感じ取る。

その直後、蜘蛛型のモンスター「レスパイダー」と「ミスパイダー」が現れる。

「キイィ・・・・」

「みんな、モンスターだ!早く安全なとこへ!」

「わかったよ!」

竜也が叫ぶと同時に、あゆたちは近くの物陰に隠れ、仮面ライダーである祐一と潤は竜也と共にカードデッキを構える。

3人に白銀のベルトが装着される。

「「「変身!」」」

辺りに幾つもの眩い虚像が現れ、3人を包む。そうすると、龍騎、ナイト、ライア、3人の仮面ライダーが姿を現す。

始めてその姿を目撃した名雪は驚く。

「わ、祐一と北川くんと竜也くんが・・・」

「しゃあっ!」

龍騎は気合を入れて、レスパイダーに向かい、彼の掛け声と同時に、ナイトとライアはミスパイダーに攻撃をしかけた。

「はあっ!だあっ!でえっ!」

ガッ!ガキィ!ガスッ!

龍騎の猛攻の前に成すすべなく攻撃され続けるレスパイダー。

「相沢、武器借りていいか?」

「ったく、世話が焼ける・・・好きにしろ」

<SWORD VENT><COPY VENT>

感情の感じられない電子音声と共に、ナイトの手に「ウイングランサー」が現れ、そのウイングランサーから残像が現れ、ライアの手に渡ると、ナイトと同じウイングランサーが装備された。

コピーベントは対象とした仮面ライダーのアドベントカードを用いて呼び出した武器を複製して、自分の武器とする。仮面ライダーライアの特徴の一つである。

「たあっ!」「おらぁ!」

ザンッ!ズバァ!

2人のライダーは見事な連携でミスパイダーを追い詰める。

 

その様子を物陰で凝視する少年がいた。

「なんだ・・・あれは・・・?」

久瀬シュウイチである。彼は、学校の帰り道で複数の異形と遭遇したのだ。

彼は、最近話題の謎の怪物と騎士の噂を全く信じていなかった。いわゆる捏造と思い込んでいた。しかし、今もにわかに信じがたいが、目の前で起こることを受け入れるしかなかった。

 

「どぉりゃあ!」

ガッ!

龍騎はレスパイダーを勢いよく蹴る。

<STRIKE VENT>

「ガアアアアアァ!」

ベントインの音声を合図に、龍騎の右腕にドラグクローが装備され、空からドラグレッダーが飛来する。

「はああああぁ・・・・だあっ!」

ゴオオオオォ!ズガアァ!

ドラグクローとドラグレッダーの口からドラグブレスが吐き出される、ドラグクローファイアーの発動でレスパイダーは跡形も無く爆発した。

「せいっ!」「りゃあぁ!」

ザアッ!ドガアアン!

ミスパイダーもまた、ナイトとライアの攻撃の前に爆散した。この程度のモンスターはファイナルベントなどの強力な技を使用せずとも、一定のダメージを与えれば倒すことが出来るのだ。

戦いが終わり、3人は変身を解除し、身を潜めている友人達の元へと向かおうとする。

と、そこへ

 

「相沢君、北川君・・・君達は・・・」

「う・・・厄介な奴に見つかったな」

久瀬が、竜也たちの前に現れる。

それを見た祐一はばつが悪そうに呟く。

「祐一の友達ですか?」

「いや、僕は彼らが通う学校の生徒会長の久瀬シュウイチだ。君は・・・うちの学校の生徒ではないね」

「祐一の学校の生徒会長さんですか・・・。おれは、龍崎竜也です。高校は通ってませんけど、よろしくお願いします!」

竜也はあくまでも友好的に接するが、

「君達を見過ごすわけにはいかないな。今でも信じられないが、あんな化け物と戦っているとは・・・。うちの学校に危害を加えるつもりじゃないだろうな」

用心深い久瀬。彼の意外な態度に竜也は少し困った顔になる。

「そんなつもりはないですよ!おれはその危害を加えるヤツらから、みんなを守りたいだけで・・・」

「どうかな。君は何を根拠に戦っているのかも分からない。そんなやつが信用できるか?」

「そんな・・・」

「おうおう、生徒会長!さっきから聞いてりゃ、滅茶苦茶だな!」

割り込んできたのは潤。祐一も竜也の弁解を始める。

「こいつは、どんなことがあっても人を守ろうとしている。相当な覚悟を持って仮面ライダーになっている。出会って間もないやつだが、おれ達はこいつを信じているぞ!だから、おれ達も仮面ライダーになったんだ!」

「ふん、仮面ライダーだかなんだか知らないが、それが、危害を加えない者だという証拠はどこにもないだろう?君達だって、うちの生徒だとしてもいつおかしくなるか・・・」

「おまえっ!」

血が昇った祐一は久瀬に掴みかかる。

と、そこへ・・・

 

「お久しぶりですね、龍崎竜也君。2代目の仮面ライダー龍騎」

そこには、一人の戦士がいた。

金属感のあるオレンジを基調とし、蟹のレリーフがついたカードデッキをベルトに装着した戦士。そう、彼は・・・

「仮面ライダーシザース・・・!」

竜也の仮面ライダーという言葉に祐一は困惑し、潤は新たな仲間の登場と信じ、大いに喜ぶ。

「おい、おれ達以外にも仮面ライダーがいたのか・・・?」

「あんたも仮面ライダーか。おれ達も仮面ライダーだ。まぁ仲良くやってく・・・」

潤は握手を求め、右手を差し出すが・・・

「待って、潤!」

ガッ!

「ぐあっ!」

竜也の静止は間に合わず、潤はシザースに右腕で殴られた。

突然の事態に、潤は思わず倒れ、転がる。

「おい、北川!おまえ、何のつもりだ!?」

「貴方達も仮面ライダーなのですか。ならば話は早い。死んで頂きます」

「おい竜也、あいつは一体・・・」

「あれは、真司さんを狙って戦ってた仮面ライダー・・・」

「真司?誰だそいつは・・・」

「後にして。おれも、仮面ライダーと対峙するのは初めてだ・・・ここは何とか切り抜けないと・・・」

久瀬はさまざまな常識を越えた出来事に驚愕の連続。

「一体、何が起こっているんだ・・・?」

 

 

 

続く・・・

 

 

 

 

次回!

 

おれ以前に龍騎に変身していた人だよ

 

癖になるんですよ。そして頂点を極めたくなる・・・

 

     これを・・・!

 

待って!それは・・・

 

     父さん、あんたの言いなりになるのはもう御免だ!

 

 

 

第9話 「深緑の銃戦士」

 

 

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
水瀬名雪

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ

高校教師

黒いコートの男=仮面ライダーシザース


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第9話 「深緑の銃戦士」

シザースは左腕にある蟹の鋏を模した召還機「シザースバイザー」にアドベントカードをセットする。

「3対1は割に合いません。彼らにも手伝っていただきましょう。行きなさい」

<ADVENT>

「キシャアアアアァ!」

シザースの契約モンスター「ボルキャンサー」が現れる。蟹を模しているようだが、二足歩行で、人間よりひとまわりも大きいモンスターだった。

ボルキャンサーが現れると同時に、ヤゴ型モンスター「シアゴースト」が現れた。

その数、10体。

さすがに祐一と潤は動揺する。

「なんだよ、このモンスターの数・・・」

「おれ達でも、こんなに相手は出来ないぞ!?」

「あれは群れで行動するモンスター。単体はそこまで強くないけどこの数は・・・」

竜也は判断に悩む。身を隠しているあゆたちも気がかりである。

ここはすぐに退散したいが、この数のモンスターを放っておくことは出来なかった。

「とりあえず、あの白いモンスターを一掃してここを離れるよ。シザースには構わないで!」

「君は・・・」

「久瀬さんは安全なところに身を潜めて!ここはおれ達が何とかします!」

「わかった・・・」

「「「変身っ!」」」

再び変身した龍騎、ナイト、ライアは久瀬の安全を確かめるとシアゴーストの群れに向かい、地面を蹴った。

<ADVENT>

「ガアアアアアア!」「キキイィ!」「シュウウウウウゥ!」

3人は同時に契約モンスターを呼び出す。ドラグレッダーはドラグブレスを吐き、ダークウイングは超音波を使い、エビルダイバーは電撃を纏いながらシアゴーストの群れに応戦する。

龍騎たちも負けてはいない。アドベントカードの使いすぎは、戦いにおいて命取りになる。現在は剣型のダークバイザーを所持したナイト以外の2人は、肉弾戦のみで応戦している。

「はあっ!だあぁ!」「ふんっ!」「うおりゃあ!」

ザンッ!ドガッ!ガスッ!

モンスターの連携もあり、シアゴーストは思っていた以上に早く一掃できた。

「フンッ!」

ズガッ!

「がはっ!」

突如、ライアの背後からシザースが奇襲を始めた。

ライアは地面に叩きつけられる。

背中の痛みは、モンスターに与えられたダメージとは比べ物にならないほど大きかった。

「潤っ!」

ガキィ!

龍騎はシザースの攻撃からライアを守る。

両腕で防いだものの、防いでいる腕の部位から鋭い痛みが走る。

「いつまで耐えられるのでしょうね?」

「くっ・・・ドラグレッダー!」

龍騎が叫ぶと同時にドラグレッダーはシザース目掛けてドラグブレスを吐きかけた。

ドガアァ!

「グウゥッ!」

凄まじい爆発が起こる。煙が晴れたときには龍騎たちの姿は無かった。

「・・・チッ!いずれ必ず抹殺します。神のライダーの名の下に・・・」

 

次の日。

日を改めたが、祐一たちは竜也に聞きたいことが山ほどあった。

竜也の家に多くの友人が集められた。

家に住んでいる竜也とあゆ。そして、祐一、舞、潤、香里、栞、名雪、といった、竜也がライダーであることを知っている人が集められた。佐祐理は舞と祐一がライダーであることを知らず、会話に不便が生じる恐れがあったので、あえて呼ばなかった。

「川澄さん。君も絡んでいたのか・・・」

久瀬は、祐一たちが呼ぶことを拒否したが、竜也は誰にだって知る権利はあると、話の参加を認めた。

「舞さんが、どうかしたんですか?」

「彼女は、学校の窓ガラスを夜な夜な壊してまわるという噂だ」

「おい、久瀬先輩。あんたの言い分、間違ってるぜ」

「まぁ、祐一、久瀬さん。おれも、舞さんがそんなことやってないと思うけど、今はその話、置いておこう?」

竜也がこの場を何とか治め、仮面ライダーの話を始めた。

 

「あのライダーは一体何者なんだよ?」

真っ先に疑問を投げかけたのは潤。

「シザースは、悪の仮面ライダーだった。何の目的か分からないけど、契約モンスター以外のモンスターを操って、人々を襲っていた。正体はおれにも分からない。変身するところも解くところも見てないから・・・」

「仮面ライダーって、全員が正義の味方じゃないんだね・・・」

そういって目を伏せるあゆ。彼女にとって、竜也たちが仮面ライダーとして苦しい戦いを続けていることは、好ましくなかった。せめて、社会的に良いおこないをしてる竜也たちは、いい人に見られて欲しかったが、シザースのような悪のライダーがいるのでは、万が一、仮面ライダーの存在が明るみになった場合、竜也たちの立場も悪いものとなるかもしれない。あゆにはそれが悲しかった。

「仮面ライダーというのは、一体何人いるんだい?」

久瀬の言葉に一同は思い出したように疑問に思った。

仮面ライダーというのは全部で何人いるのか。なぜ、今まで疑問に思わなかったのだろう。

「おれの龍騎、祐一のナイト、舞さんのファムに潤のライア、そして昨日のシザース。それ以外には8人。全部で13人いるらしいんだ」

「あんなすごい力を持っている人が13人もいるんですか!?」

栞は唖然とする。他の者も驚愕した。

「他の仮面ライダーさんは誰だかわからないの?」

名雪の質問にも応じる。

「残りのライダーの中では、2人だけ出会ったことがある。仮面ライダーベルデに仮面ライダーアビス。どっちもシザースと同じ、正体がわからない悪のライダーだった。分かってるのは、昨日のように、シアゴーストたちを操っていて、誰かの指示に従ってた」

「その指示を出してた誰かって分かるのかしら?」

「ううん。ただ、仮面ライダーであることは間違いないんだ。真司さんがそういっていたから。「神の名を冠した金色の仮面ライダー」が黒幕だって。あと、おれが変身者のいないライダーのカードデッキをもう一枚持ってる。残りのライダーは会ったことも聞いたことも無いな・・・」

そういって、竜也は牛のシンボルがある緑のカードデッキを取り出した。

祐一は竜也の言葉で昨日戦闘中に聞いた名前を思い出す。

「そういえば、その真司って言うのは誰だ?」

すると竜也は、懐かしむような遠い目をしていった。

「城戸真司さん。初代仮面ライダー龍騎だった人だよ」

「その人って、一体どんな人?」

あゆが不思議そうに問う。

「本当にすごい人だった。今でも、おれの憧れだよ・・・」

 

おれが、両親を失って孤児院で暮らしてたときにモンスターに襲われたんだ。そのときに助けてくれたのが真司さんだった。おれは真司さんが龍騎に変身して戦うところを見た。そのときに思ったんだ。

この人みたいに、人を助けられるような人になりたいって。

だから、真司さんの家に押しかけていろんなことを教わった。

生活していく上で覚えなきゃいけないことや、戦うときに絶対になくしてはいけない信念や優しさ、勇気とかね。

 

でも・・・

「まずい・・・!」

「真司さん、大丈夫ですか!?」

仮面ライダーに襲われたんだ。その仮面ライダーがシザースとベルデとアビスだった。

「私達の勝ちですね。おとなしく、5枚のカードデッキを渡してください」

「オマエは生存競争に負けた。強者に従え!」

「それとも、この場で処刑して差し上げましょうか?」

でも真司さんは諦めなかった。

<ADVENT>

「ガアアアァ!」

真司さん・・・龍騎は、ドラグレッダーを呼び出して3人のライダーを炎の中に閉じ込めた。

彼らからは、おれと龍騎のやり取りには気付かなかったと思う。

「竜也、ドラグレッダーが戦っている間に、これをもって逃げろ!」

そういっておれに渡したのがナイト、ファム、ライア、ゾルダのカードデッキだった。

「じゃあ、真司さんはどうするんですか!?」

「あいつらは、俺がデッキを持っていると思い込んでいる。ここで奪われるよりマシだ!」

「でも、そんなことをしたら真司さんが!」

「ここで、正しい心を持った仮面ライダーを潰えさせては駄目だ。お前なら正しい心を持って戦えると信じている。仮面ライダー龍騎になって戦え!そして、お前が本当に信頼できる仲間に他のデッキを託して、共に人々を救え!」

「真司さん・・・」

「早く行け!」

龍騎は変身を解いて、最後に真司さんの使っていた龍騎のカードデッキを託した。

「また、会えますか・・・?」

「お前が人々を守り続けていれば、いつかまた会える」

「・・・ぜったいに死なないでください。真司さん!」

「・・・お前もな!」

「「しゃあっ!」」

 

「・・・それ以来、1年経ったけど真司さんには会ってない。今どこで、何をしているかもわからないよ」

一同は無言で聞いていた。明るく、優しく、正義感が強い竜也の心の奥には、想像も出来ないような過酷な過去があった。

「君は・・・そんな過去を・・・」

久瀬は今までの竜也への言動が、どれだけ残酷で非情なものかを思い知った。

「何というか・・・本当にすまない。僕は何も知らずに、君を傷つけていた」

「いいんですよ。あんな怪物と訳の分からないもの見せられたら、普通そうなります」

素直に頭を下げる久瀬に竜也はやさしく言う。

「竜也。城戸真司さん、わたしは・・・まだ生きてると思う」

舞の言葉に竜也は

「当然だよ。あの人は今でも、何処かで戦ってる。だから、真司さんが、いま出来ないことをおれがやるんだ」

「竜也くん・・・」

「祐一、舞さん、潤、それにみんな。改めて言う。そのためにも、協力してくれないかな?」

竜也は右手を差し出す。

祐一と舞と潤は竜也の右手をしっかりと掴み、他の一同もその手の上に自らの手を重ねた。

竜也はにっこりと微笑む。

「みんな、本当にありがとう」

彼らは今ここに、新たに決意をするのだった。仮面ライダーである者は共に戦うこと。そうでない者は仮面ライダーである者を支えること。そして竜也は城戸真司の願いを継ぐことを。

 

キイィィン・・・キイィィン・・・

 

モンスターの接近音を聞き取る4人の仮面ライダーである者。

「みんな、ここにいて。祐一、舞さん、潤、行くよ!」

竜也の言葉で、4人は竜也の家を飛び出した。

久瀬もみんなに気付かれないようについていった。

その手には先程の緑のカードデッキが握られていた。

「これを・・・そうすれば、彼らのように」

 

街では、昨日よりさらに大量のシアゴーストが蠢いていた。

「なんだよこいつら・・・」

「また会いましたね。愚かな仮面ライダー諸君」

仮面ライダーシザースとボルキャンサーもいた。

と、潤がいきなりシザースを指差し、叫ぶ。

「おい、ジーザス!何で、こんなことをする!?」

「ジーザス・・・?」

「じゅ、潤。ジーザスじゃ無くて、シザース・・・!」

「え、そうなの?」

「・・・」

指摘する竜也にぽかんとしている潤。舞と祐一はあきれてその場で立ち尽くす。

「ククク・・・どうやら、ライアはギャグがお好きのようですね」

「う、うるせぇ!」

顔を赤らめて地団太を踏む潤。相当悔しくて恥ずかしいらしい。

「さて、私が何故このような事をするのか知りたいのですね?・・・お話しましょう。やめなさい」

シザースの言葉で、ボルキャンサーのみならずシアゴーストたちも破壊活動をやめる。

「私は、ある仮面ライダーから言われたんですよ。願いを叶えてやるから手伝えと」

「まさか・・・神の名を冠した金色のライダー!?」

竜也の言葉にシザースはうなずく

「えぇ。手伝いとは、その方の邪魔をするライダーの抹殺」

「そんなことをして、何を望むんだ!」

「私は人を殺してしまいましてね・・・その隠蔽ですよ。この力が癖になるんですよ。そして頂点を極めたいと思うようになる。貴方たちを抹殺してね」

あまりにも自分勝手な望みに竜也たちは憤りを感じるが、

「お話はここまでです。さあ、行きなさい」

シアゴーストたちがいっせいに竜也たち目掛けて走ってきた。

「変身っ!」

4人もすぐに変身し、モンスターたちに応戦する。単体は大して強くないとは言え、大量のモンスターを4人で相手をするのはさすがに困難だった。

「はああぁっ!」

ザッ!ズバァ!ザシュッ!

ファムは先程呼び出した「ウイングスラッシャー」を華麗にまわしながらシアゴーストをなぎ払うが、絶え間ないシアゴーストの攻撃に徐々に押されてきた。

ガスッ!

「あうっ!」

背後からのシアゴーストの攻撃にファムはついに倒れる。

それを見たシザースは仮面の奥でほくそ笑み、シザースバイザーを構え、ファムに歩み寄る。

「まずはか弱い女ライダーですか」

「くっ!舞っ!」

「舞さんっ!」

「川澄先輩っ!」

ナイトが必死にファムを救うべく向かおうとするが、シアゴーストに阻まれて近づけない。

それは龍騎とライアもまったく同じだった。

シザースがバイザーを振り上げたその時・・・

バァン!

「グッ!?」

突如、シザースが衝撃を受けて後退した。

「なんだ!?」

ライダー達が衝撃の先を見ると、そこには・・・

「龍崎君。僕も君に協力しよう」

「仮面ライダーゾルダ!?・・・なんで!?」

「君がカードデッキを置き忘れていたから、使わせてもらった」

機械のような装甲を身に付けた緑の戦士「仮面ライダーゾルダ」がいた。

「その声・・・まさか久瀬さん!?」

「僕は正直、親の言いなりだった。生徒会長になったのも、川澄さんの問題行動の批判も、すべて、親に従っていたからだ。本当は、川澄さんは無実だって思っていたのに。自分で、何一つ決められなかった」

ガスッ!バギィ!

ゾルダはシアゴーストの群れをなぎ倒す。そして、ゆっくりと龍騎に近づく。

「だが、君は自分で決めていた。最初は尊敬する人の言葉からだったが、そこから全て自分の決断だった。だから、僕も自分で決めた・・・「仮面ライダーゾルダ」になると!」

「久瀬さん・・・」

「クク、ゾルダまで現れるとは・・・」

シザースが腕を高く掲げると、シアゴーストの群れが5人のライダーめがけて一斉に襲い掛かる。

「はっ!」

ダァン、ダァン、ダァン、ダァン、ダァン!

それを瞬時にゾルダは右腰に下げていた銃型召還機「マグナバイザー」ですばやく打ち落とした。

「龍崎君、相沢君、川澄君、北川君。君たちはまだこんなところで倒れることは出来ないはずだ!」

「・・・はい!」「まぁな・・・」「へへ、憎まれ生徒会長もいいとこあるんだな」「・・・わかった」

ゾルダの言葉にファムは立ち上がり、龍騎たちはさらに意気込んでモンスターたちを蹴散らす。

一人の仮面ライダーの協力はとても大きかった。

「せいっ!はっ!とあっ!」

ズガァ!ガシッ、ドガァ!

ゾルダはシアゴーストの群れを自慢の豪腕でなぎ倒す。

シアゴーストの大群も5人の仮面ライダーの活躍により少しずつ数を減らしていった。

「クソォ!」

自分の想像を超え、モンスターを圧倒するライダー達を前に徐々に冷静さを失っていくシザース。ついに苛立ちが頂点に達し、ゾルダに向かって攻撃を始めた。

「おのれ、おのれ、おのれェ!」

「ふっ!はっ!たぁっ!」

<SHOOT VENT>

ゾルダはシザースの攻撃を受け止め、一瞬の隙をついてマグナバイザーにベントインし、巨大な大砲「ギガランチャー」を呼び出し、シザースに狙いを定め、発射する。

ダァン!

「グアァ!」

<STRIKE VENT>

「はあああああぁ・・・だあっ!」

ゴオオオオォ!

隙だらけになったシザースをみて、龍騎はドラグクローを呼び出し、空から飛来したドラグレッダーと共にドラグクローファイヤーを発動する。

「クッ!」

<GUARD VENT>

ドガァ!

「グアアアアァ!」

ドラグクローファイヤーは龍騎の通常の技の中で最強の技。しかし、龍騎はパワーを少し低くし、シザースは「シェルディフェンス」をとっさに呼び出し防御に専念したため、変身解除までには至らなかった。

「とどめだ!」

「待ってくれ、私の負けだ!」

命乞いをするシザースに対して、ライアは耳を貸さない

ファイナルベントのアドベントカードを引き、エビルバイザーにベントインしようとするが、

「潤、それはだめだよ!」

龍騎が必死に止める。

「おい、あとちょっとで倒せるんだぞ!?」

「シザースの中身は絶対に人間だ!ファイナルベントなんて使ったら死んじゃうよ!」

「竜也おまえ・・・」

その隙にシザースは

「い、今だ!」

地面を蹴り、どこかへ飛び去った。

「待って・・・!」「くそっ!シザース!」

ナイトとファムがあとを追おうとするが、その姿はもう見えなくなっていた。

変身を解除した潤は竜也に掴みかかった

「何で止めたんだよ!?シザースをあのまま野放しにするのは危険だろ!」

「たとえシザースがどんな悪人でも、殺していい理由にはならない!」

竜也も負けずに抗議する。

「それに、せっかく出来た大切な仲間を、あんなライダーのために人殺しになんてしたくない・・・」

悲痛な声で訴える竜也。それを聞いた潤は自然と胸倉を掴んでいた手を離す。

「すまない、竜也・・・」

「大丈夫だよ。潤が間違った道に進まなくて本当に良かった」

竜也はまるで自分のことのように安心して胸を撫で下ろす。

そして、並び立つ5人の少年と少女。

城戸真司が竜也に託した仮面ライダーは、竜也の信じられる仲間によって今ここに揃った。

 

その日の夜。

久瀬は自宅へと帰りついた。

自分の父親が、リビングで座っていた。

「シュウイチ。休校期間中、家庭訪問をつけることにし・・・」

「お父さん。もう僕はあんたの言いなりにはならない」

久瀬は父親にはっきりと自分の意見を述べた。

人生初の出来事だった

「学校の休校は何とかするよう学校長に申し出ようと思う。あんたの息子である僕が言えば、学校は多少なりとも動いてくれるはずだ」

「貴様・・・どういうつもりだ?私はおまえの安全を・・・」

久瀬の父親は眉間にしわを寄せ、久瀬に言い寄る。

「あんたは、僕を思い通りに動かしたいだけだろう!?」

「なに・・・?」

久瀬は反論する。

「以前、学校で起こっていた問題児の件も、あんたの判断じゃなく、自分の判断で学校に持ちかけ解決する。僕はあんたの操り人形じゃないからな!」

久瀬はそう吐き捨て、自室へと戻った。

「ふふ・・・自分の決断か。いいものだな」

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

このたび、事件捜査のためにこの学校での調査を任された須藤です。

 

              なんだよぉ。一日だけの休校かよ・・・

 

何だよ最近のゲーム、クオリティ低いな。死ねばいいんじゃね?

 

              新しい仮面ライダー・・・?

 

邪魔しないでよ。世界一楽しいゲームなんだからさ。

 

 

第10話 「刺客」

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

久瀬の父

黒いコートの男=仮面ライダーシザース
???=仮面ライダーベルデ
???=仮面ライダーアビス

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)



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第10話 「刺客」

学校で生徒達を体育館に集め報告があった。

「休校の予定でしたが、現時点で生徒に何の被害も無いことを踏まえたうえで、本日からは午前中授業とします。なお、下校は必ず4人以上で下校すること」

教頭先生の言葉を聞いている生徒達。祐一の隣にいる名雪はうつらうつらと夢の国へ行きかけている。

「そしてもう一つ。この学校に警察の方が捜査すると共に、護衛について頂けるそうです」

教頭先生の言葉のあと、ステージに一人の若い刑事が上がってきた。

「このたび、皆さんの護衛につくこととなりました須藤マサキです。皆さんのことは私達、警察が全力でお守りします。よろしくお願いします」

 

放課後。

午前中の授業になったため、昼下がりを歩く祐一たち。

今日は、集団下校のとき人数が足りなかった舞と佐祐理、久瀬も一緒に帰ることとなった。

「なんだよぉ、一日だけの休校かよ~」

「よかったよ、北川くん。こうやって、みんなで学校に行けるんだよ?」

「あのね。あなたは赤点ギリギリなんだから、学校に出られることを幸せに思いなさいよ」

「お姉ちゃんの言うとおりですよ、北川さん。それに朝だけなんですよ?」

そう呟くのは潤。彼にとって、休みであったはずの学校(というよりも、面倒な授業)が再び続くと思うとかなり気が滅入るようだ。

そして、彼を応援する美坂姉妹と名雪。

「久瀬さん、本当にありがとうございます。舞のこと」

「かまいませんよ。僕は僕ができることをやっただけですから。それに、彼女もいろんなことを自分の意志で決めていた。僕はそれに非常に感銘を受けましたから」

「ありがとう。生徒会長さん」

久瀬に感謝の言葉を送る舞と佐祐理。彼は、学校に舞の処罰を取り消しにするように言った。彼の父親は学校にさまざまな支援をおこなっているので、さすがに多少は判断に時間がかかったが、舞の処分については「厳重注意」で済ませられた。

昨日の出来事のあと、久瀬は祐一たちに対して友好的に接するようになった。今では、彼もかけがえのない友達の一人だった。

 

それを遠くで見ていた少年。久瀬や舞たちと同じ3年生だ。

「あぁ~、何だよ最近のゲーム、クオリティ低いな。死ねばいいんじゃね?」

そうぼやき、手にしていた携帯ゲームを見つめる少年。そこには「達成率100%」の文字がある。

「ところでシザースさん、アイツらが金ピカさんの言っていた正義ぶってるライダーなわけ?」

そういって、ゲームをカバンに仕舞い、「芝浦シュン」は後ろに居た男に喋りかける。

須藤マサキだった。

彼こそ、仮面ライダーシザースの正体である。

「えぇ。今あそこに居るのは、ナイト、ファム、ライア、ゾルダの4人です。もう一つ、簡単にライダーとしての名前を呼ばないで下さい。ばれたらマズイのですよ」

「はいはい…」

須藤は警戒しているが、芝浦は

「一番、厄介な龍騎は貴方がたの学校の生徒ではないので、今ここには居ないようですね」

「ふぅん。あんまり強そうじゃないね。サイコーのゲームが出来るって聞いたけど、アイツらじゃ、もって3日くらいじゃん?」

嘲笑する芝浦に須藤は

「彼らは我々と同じ仮面ライダーです。数はすでに5人。あまり舐めないほうがいいですよ?」

「はいはい。負けたからって、そんなおっかなびっくりしなくてもいいのに。ま、気をつけますよ」

そういうと、2人はどこかへと去っていった。

 

時刻は少し前の9時ごろに戻る。

「すっかり、遅くなっちゃった・・・」

そういいながら起きてくる竜也。

あゆは家事全般を少しずつ覚えてきたが、料理を任せると、食材がとんでもないことになるので、料理は竜也の役割。彼は、もともと料理の技術があった城戸真司に教わったので、習った城戸真司や秋子などには遠く及ばずだが、そこらの主婦よりも料理の技術はある。

ちなみに餃子を作ることにおいては、秋子と同等かもしれない。

「白ご飯は炊いてるから、味噌汁と鮭の塩焼きを作るか。・・・あ、今日は気分を変えて、ムニエルとかいいかも。朝には胃がもたれるかもしれないけど、たまにはいいね。えっと、バターと小麦粉どこだっけ・・・」

そういって、料理に取り掛かる竜也。城戸真司から習った技術は中々のもので、テキパキとこなす。

味噌汁が完成し、鮭のムニエルももうすぐ出来る頃

「ふあぁ・・・おはよ~ございます・・・」

パジャマ姿のあゆが欠伸をしながら起きてきた。

「お、あゆ、おはよ。朝ごはん、もうすぐ出来るからね」

竜也はあゆにそういって、料理に再び集中する。

「あ、ボクやるよ!家政婦だもん!」

「え、でも・・・うわ、危ないって!」

あゆはそういって、竜也からフライパンを取り上げようとする。

竜也は余裕がある時、彼女に料理を教えていたが、まだまだちゃんとした料理が出来るほど上達していなかった。

なので、竜也は食材が駄目になることを恐れ、彼女に抵抗するが

ガチャン!

「きゃあっ!」

「うあっち!あちちち!」

勢いあまって、フライパンが弾けとんだ。あゆに被害は及ばなかったが、竜也はフライ返しを持っていた手を軽く火傷する。

 

結局、今日の朝ごはんは白ご飯に味噌汁という、竜也の想定よりも質素な朝食になった。

「うぐぅ、ごめんなさい・・・」

「別に大丈夫だって。それに、鮭のムニエルなんて、朝から胃にもたれるかなって思ってたしね。でも、おれがちゃんと教えるから、今のところ料理はおれに任せて。あゆに料理を振舞うの、結構楽しみにしてるから!」

「うん。ありがと、竜也くん」

うまく、あゆをフォローする竜也。あゆは、少し落ち込んだ顔から笑みがこぼれた。

(・・・かわいいな)

その笑顔に、竜也は少し胸の鼓動を早くする。あゆが住みはじめてから、このようなことが頻繁に起こるようになった。至近距離でのあゆの笑顔に竜也は弱いようだ。

「そういえば、竜也くん今日の予定は?」

「え?あぁ・・・おれは、何も無いよ。街に行ってぶらつくつもりだったけど?」

「ボクも今日、学校ないんだ~」

あゆは竜也の家に住みはじめてからも、学校には通っている。

あゆ曰く、好きなときに行って、好きなときに帰っていいらしい。制服は無く私服で、宿題は無しと、潤が聞いたら転校を必死に望みそうな学校である(香里が居るかぎり、本当に転校はしないだろうが)。

「そっか。じゃあ、どうしようか?」

「一緒に遊ぼうよ!」

あゆは楽しそうに、竜也へ2枚のチケットを渡す。

「映画?」

「うん、このまえ名雪さんの家に行ったとき、秋子さんから貰ってたんだ~」

「へぇ、映画かぁ・・・ずっとご無沙汰だったし、見に行きたいね!」

「きまり!じゃあ今日、見にいこ!」

竜也とあゆは、早々に後片付けと身支度を済ませ、映画館を目指して出かけることにした。

祐一たちが下校中、竜也とあゆは映画館へと向かう。

「ところで、今の映画って何があるの?」

「う~ん・・・ボクもよく分からないや。昔は、よくお母さんと一緒に行ってたけど・・・」

「そっか・・・」

あゆの母親の話が出てきたので、竜也はすぐに会話を中断した。彼女の心の傷に再び触れてしまうことを恐れたからである。

 

映画館に着く。

あゆは上映一覧に目を通す。竜也は横でチケットを見ながら、ぶつぶつと呟いている。

「えっと・・・チケットには、今日までの映画にしか使えないって書いてる。ちょっとケチだな・・・」

「仕方ないよ。えっと公開してるのは・・・こ、これだけ?」

そこには暗い雰囲気の背景に、包帯姿の女が大きく写ったポスターがあった。

他のポスターを探すが、今日までの映画はこれだけのようだ。

「ふぅん・・・ホラー系かな?」

「う、うぐぅ・・・」

 

一人の男が、自宅でとあるアイドルのPVを視聴している。なんとも美しい歌声だ。

突如、画面にノイズが走る。

不思議に思った男はテレビを叩くなどして改善を図るが、全く効果は得られない。

「ウウゥ・・・アアァ・・・」

女性のうめき声が画面から聞こえる。男は恐怖を感じるが、その場から身体が動かなかった。

次の瞬間

ザシュッ!

男の顔が凄まじい勢いで切り刻まれた。

 

・・・といった内容で展開する映画を見ている竜也とあゆ。

平日であったため、人は少なく、ほぼ貸しきり状態であった。

「うぐぅ・・・怖いよぉ・・・」

「確かに、これは結構怖いな・・・あ、あゆ、さっきから全然スクリーン見てないね」

「だって、怖いもん・・・」

おばけの類が大嫌いなあゆは、先程から目を力いっぱい閉じ、ダッフルコートをかぶっている。

一方、竜也は唐突に現れる幽霊や大きな音に時折、驚いたりはするが、一般的な驚き方である。

「そんなに怖かったら、入らなくても良かったのに・・・」

「で、でもぉ・・・」

あゆは竜也と映画を見に行くことを、とても楽しみにしていた。映画の内容よりも、竜也と一緒に見に行くことがあゆには重要だった。だから、たとえ苦手なホラー映画でも、あゆは勇気を振り絞って鑑賞に臨んだのだが、残念ながら、竜也はそこに気づいていない。

あゆの笑顔にドギマギしておきながら、乙女心に鈍感な少年である。

「・・・モンスターには、ここまで怯えてないよな。あっちのほうが危ないのに・・・」

竜也の独り言は、あゆの悲鳴でかき消された。

 

上映終了後・・・。

「ボク、もうヘロヘロ・・・」

「あ、あゆ、しっかりして」

その場にへたり込もうとするあゆを竜也が何とか支える。

あゆが、あまりにも疲れていたので、帰り道で百花屋に寄ることにした。

頼んだ、ホットココアを少し飲み、あゆはようやく落ち着きを取り戻す。

「ふぅ・・・ちょっと落ち着いたよ」

「よっぽど怖かったんだね。これから嫌なことは、ちゃんと嫌って言いなよ?」

「う、うん・・・」

竜也の言葉にあゆは頷く。竜也と一緒に見ることが重要だったのに結局、雰囲気を全く楽しめなかったあゆは「無理はするものじゃない」と心の中に教訓として覚えておくことにした。

 

話はもとの時間に戻る。

 

キイィィン・・・キイィィン・・・

 

祐一たちはモンスターの反応を聞きとる。

「グウウウウウウ!」

「えっ!?なんなんですか!?」

シアゴーストの群れが突如現れる。ドラグレッダーを除いて、モンスターを実際に見たことの無い佐祐理は突然の出来事に驚く。

「はあっ!」「せやぁ!」

ガッ!ドカッ!

しかし、戦いに慣れ始めた祐一と舞はすぐさま、生身で攻撃する。

「佐祐理、みんな!早く逃げて!」

「ま、舞?」

「北川、久瀬先輩!頼む!」

「おう!」「任せろ!」

祐一と舞は佐祐理の前で正体を明かすわけには行かなかったので、みんなと一緒に隠れる。

すでに、佐祐理についての事情を知っている潤と久瀬は、すぐさまデッキをかざす。

「「変身!」」

現れた白銀のベルトにそれぞれのデッキを装填し、ライアとゾルダに変身する。

「北川さんと久瀬さんも・・・あの竜也さんの仲間なんですか?」

「そんな所っす!いっくぜぇ!」「ふっ!」

<SWING VENT><SHOOT VENT>

バチィン!ドガァン!

ライアはエビルウィップでシアゴーストに電撃を食らわせ、ゾルダは「ギガキャノン」を装備し、シアゴーストを遠距離から追撃する。

<FINAL VENT>

ゾルダはマグナバイザーにベントインすると、巨大な水牛をモチーフとしたモンスター「マグナギガ」を呼び出し、腰部にあるスロットにマグナバイザーをセットする。

「こういうゴチャゴチャした戦いは好きじゃない。終わらせてもらう」

ゾルダはそう言い放つと、引き金を引く。

ズガガガガガガガガ!

マグナギガの脚部、頭部、両腕、胸部から凄まじい量の弾丸やビームが放たれた。ゾルダの必殺技「エンドオブワールド」である。

「うおぉい、生徒会長!あぶねぇって!」

ライアは必死に逃げ惑う。

数はそこまで多くなかったのであっという間に一掃できたが・・・

「オラァ!」「フンッ!」

ガキッ!ガスッ!

「ぐあっ!」「うっ!」

突如、背後から奇襲を受ける2人。そこには

「邪魔しないでよ。世界一楽しいゲームなんだからさ」

「今度は確実に抹殺します」

「げっ!シザース!?」「新しい・・・仮面ライダー?」

シザースと、鈍銀色のいかにも重厚そうな鎧を身に纏った仮面ライダーがいた。

「そ。オレは仮面ライダーガイ。金ピカさんからゲームの参加資格、貰っちゃったんで」

「ゲームの参加資格?」

「こ~れ」

「仮面ライダーガイ」はVバックルに装填されたデッキをポンポンと叩く。

「そういうわけで、ゲームの内容はお宅らの抹殺。さっきまで、お宅ら弱そうだと思ってたけど、意外と強そうだし楽しめそうだね!」

そのとき隠れていた祐一が突然、ガイとシザースの前に躍り出た

「ガイ!おれ達はゲームをしているつもりは微塵も無い!おれ達は人を守るために戦ってるんだ!」

「へぇ~人を守るねぇ・・・。確かにそれもゲームとしたら面白そうだけど、オレには向かないね。達成率100%なんて絶対無理だし?」

「きさまっ!」

ゾルダは怒り、ギガキャノンをガイに向ける。

「あぁ、それ無駄」

<CONFINE VENT>

ガイは左肩に装備された召還機「メタルバイザー」にアドベントカードをベントインする。

「なに!?」

すると、ギガキャノンが一瞬にして消え去る。

「いいでしょ、このカード。やっぱゲームの攻略は快適に進むためのアイテムがないと。あ、お宅らが詰まらなさ過ぎたらアウトだけどね」

<STRIKE VENT><STRIKE VENT>

「ウラァ!」

ガッ!

「うあっ!」

ガイは「メタルホーン」を、シザースは「シザースピンチ」を呼び出すと、祐一を突き飛ばし、ライアとゾルダに駆け出した。

 

 

 

次回!

 

おまえがシザースだったのか!?

 

では貴方は、この私に手を組んでほしいというわけですね?

 

            ライダーの敵はライダーってことを忘れんな!

 

あいつは!?

 

これで本当のゲームオーバーだ

 

 

 

第11話「呼び合う戦士」

 




いかがだったでしょうか?
少し、早足になっているような気がするんですが、とにかく急いでライダーたちを出さなきゃいけないのでお許しください。
ちなみに今回、竜也たちが見に行った映画のワンシーン、何のシーンだか分かります(ポスターは実際のものと全く違いますが)?
ホラー系ってことで、ちょっぴりアレンジ(?)して使ってみました。
次回はまたしても新たなライダーが現れます。あと、ガイやシザースの正体もバラそうと思っています。あと、学校での話題が多いので、竜也とあゆの出番は少ないです(今回もですが)。
ではまた・・・。


キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
芝浦シュン

???=仮面ライダーガイ



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第11話 「呼び合う戦士」

「ハアッ!」「ゼイッ!」

ガキィ!ズバァ!

シザースとガイはそれぞれの武器で、ライアとゾルダにダメージを与える。

ライアとシザースは戦闘経験の差があり、シザースがライアを翻弄している。

ゾルダとガイは両方とも戦闘経験に差は無いが、ガイ自慢の装甲と、強力なパワーで単純な力のぶつかり合いではガイが勝っている。

「がはっ、がはっ!くそぉ・・・このカニ野郎!」「バカみたいに硬いんだな・・・おまえの鎧」

祐一と舞は、佐祐理がいることで戦闘に参加することが後ろめたかったが、もはやそんなことを言っている余裕は無かった。

仲間を救うために、祐一と舞は立ち上がる。

「「変身っ!」」

佐祐理は目の前のことに戸惑った。

自分の親友である舞と祐一が、異形の姿へと変わったのだから。

「佐祐理はここにいて。わたしと祐一が何とかする」

ファムはそう言い放つと、ナイトと共にライアとゾルダに向かった。

「舞・・・祐一さん・・・」

 

「来ると思ってましたよ」

シザースは、ナイトとファムの行動が読めていたかのように腕を高く掲げる。

すると、辺りから再びシアゴーストが現れた。

「なにっ!?」「くっ・・・!」

突然の出来事に、ナイトとファムはなんとか対処するも、ライアとゾルダの助太刀は不可能だった。

「ハハ、なんだよ。やっぱつまんないな、オマエら」

呆れ口調で嘲笑するガイ。人を守るために戦っているのに、人を傷つけるライダーにされるがまま。屈辱だった。

 

「みんな、あきらめちゃダメだ!変身っ!」

突如、ナイトたちに向けた声が聞こえる。そして、変身直後の龍騎が空中で華麗に一回転しながら現れ、ガイとシザースにとび蹴りをかます。

ドガッ!ガキィ!

「ガハッ!」「グアッ!」

2人とも防御力は高いが、ドラゴンライダーキックを必殺技とする龍騎のキック力はそれを上回っていた。シザースとガイは地面に倒れこむ。

「潤、久瀬さん!しっかり!」

「ひどい・・・」

龍騎はゾルダを、龍騎についてきたあゆはライアを抱き起こす。

「へへ、来るのがおせぇよ・・・」「すまない、勝てなかった」

2人は平然を装おうとしたが、これだけのダメージを受けた状態では不可能だった。

「ごめん、遅くなった・・・。おれがもうちょっと早ければ・・・」

「竜也くんのせいじゃないよ!ボクが映画見に行こうなんていわなかったら・・・」

仲間の危機にいち早く駆けつけることが出来なかった2人は後悔の念にとらわれる。

しかし、そうも言ってられなかった。

「龍騎ィ・・・」「グッ・・・オマエが龍騎?やってくれるじゃん」

「シザースと・・・新たな仮面ライダー・・・?」

「仮面ライダーガイ。よろしく、龍騎」

「金色のライダー側についてるのか・・・?」

龍騎の疑問にガイは悪びれもせず答える。

「そ、楽しそうだったからね」

「お話はここまでにします。一旦引きましょう。5人相手では私達が不利です」

シザースの言葉にガイは面倒くさそうに答える

「ったく、しょうがないなぁ」

2人に呼応するように、シアゴーストの群れが龍騎たちを阻む。

「お、おい、待て!」

「これで決める・・・。竜也、下がって・・・!」

「わかった!」

<FINAL VENT>

「クエエエエェ!」

モンスターの群れに痺れを切らしたファムは龍騎の退避を確認し、切り札を使うと同時に、空から、巨大な白鳥型モンスター「ブランウィング」が飛来する。

ブランウイングが翼を羽ばたかせ、シアゴーストの群れを吹き飛ばす。

その先にはウイングスラッシャーを構えたファムがいる。

「はああああああぁっ!」

ザンッ!ズバッ!ザシュッ!

ドゴオオォ!

シアゴーストたちを1体ずつ一閃する。切り裂かれたシアゴーストたちは爆散する。

ファムの必殺技「ミスティースラッシュ」だ。

煙が晴れたときには、すでにシザースとガイは姿を消していた。

佐祐理は、祐一と舞を問い詰める。

「舞も祐一さんも仮面ライダーだったんですね・・・。どうして言ってくれなかったんですか!?」

「佐祐理さん、おれはあなたに心配をかけさせないように・・・」

「ねぇ、舞。佐祐理ってそんなに頼りない?」

「・・・」

「そんなことないと思いますよ」

3人の口論に突然入ってくる竜也。

「祐一も舞さんも、あなたのことを大切に思ってたから、あなたに迷惑を掛けたくなくて黙ってたんです。それは、あなたが頼りないとかそういう理由じゃないって、おれは思うんです」

「竜也さん・・・」

竜也は佐祐理に笑いかけ、次に祐一たちに振り向く。

「祐一、舞さん、ばれちゃった事は仕方が無いよ。でも、これくらいで3人の絆はなくなったりしないよね?」

ゆっくり頷く舞。祐一は頭を掻きながら

「おまえ、よくそんな恥ずかしいこと、堂々と言えるな・・・」

「へへ、まぁね。佐祐理さん、祐一たちを支えてあげてくれませんか?友達とか大切な人に支えられたり励まされると、おれ達仮面ライダーは、もっと強く、もっと優しくなれるんです」

竜也は心の奥では彼らの絆を壊すまいと必死だった。しかし、佐祐理はその想いや、祐一たちの行いを受け入れることが出来なかった。

「・・・舞と祐一さんのやっていることを止める権利はありません。でもそれを手伝うなんて、親友が傷つくのにそれを手伝うなんて・・・佐祐理には出来ません!」

佐祐理は遠くへ走り去ってしまった。

「ごめん祐一、舞さん。オレがライダーの戦いに巻き込んじゃったばっかりに・・・」

「おまえのせいじゃない。佐祐理さんとのことは自分達で何とかする。な、舞?」

「はちみつくまさん」

 

少し離れた場所で芝浦が携帯で通話を始める。

「では貴方達は、この私と手を組んで欲しいというわけですね?」

「組むつもりなんだろ、高見沢サン。いつものように砕けてくれよ。その喋り方キモイし」

電話越しの相手は丁寧な言葉遣いで話していたが、芝浦の言葉に口調を変える。

「・・・あんまり大人をからかうなよ、ガキが」

「ゴメンゴメン。あっち側のライダーが予想外に早く揃っちゃってさ。須藤サンがお宅に助けに来て欲しいってさ」

「・・・まぁいい、次の日そっちへ向かう。」

通話が途切れると、芝浦は携帯をカバンに直し、ニヤリと笑う。

「面白くなりそうだ・・・」

 

次の日。

学校では大変な出来事が起こっていた。

ガスッ!バキィ!

「オラァ!」「死ねっ!」

生徒達が突如、殴りあい始めたのだ。しかも、その生徒達は暴力とは無縁の成績優秀な優等生。

「おい、何考えてんだ!?やめろ!」

潤が生徒達を何とか止めようとするが、

「邪魔だ、どけ!」

ガッ!

「いてっ!まてまて!やめろって言ってんだろ!」

「どうしたんだ!?」

事態を聞きつけた久瀬が彼らを止めに入ろうとする。

しかし、彼の前に芝浦が立ちはだかる

「おもしろいでしょ?おれが仕組んだんだ。人間って案外単純だよねぇ」

「芝浦君、どいてくれ!」

「まあ、そういわずに。とめるからさ」

そういって、芝浦が携帯でメールを打つ。

「これで、そのうちあいつら止まるから。おれと遊ぼうよ」

そういって芝浦が取り出したのは・・・

「・・・カードデッキ!?そのマークは・・・おまえがガイなのか?」

「あったり~。おれ達だけ正体曝さないなんてフェアじゃないもんね」

「まったく・・・君というヤツは。正体を曝して何の得があるんですか?」

後ろから須藤も現れた。

「まさか、あんたも・・・」

「久瀬サン、北川クン。場所を変えましょっか?」

言いなりになるのは悔しいが、芝浦がライダーになって生徒達に危害を及ぼす危険性がある。不本意だが、彼の案は他の生徒の安全を保障する為、従うしかなかった。

 

4人は学校から離れ、少し開けた空き地に来た。

「なんだ、相沢クンたち呼ばなかったんだ。2人だけでオレ達に勝てる?」

「これは僕達への宣戦布告だろ?僕達だけで相手をする」

「リターンマッチってところだ!」

「あっそ。どうなっても知らないよ?じゃあ、須藤サン」

芝浦と須藤はカードデッキを構える。そして、他のライダーと同様に白銀のベルトが腰に現れた。

「やっぱり、おまえがシザース!?」

「「変身!」」

Vバックルにデッキを装填すると、須藤は仮面ライダーシザースに、芝浦は仮面ライダーガイに姿を変える。

「「変身っ!」」

久瀬と潤もすぐさまゾルダとライアに変身し、相手の様子を伺う。

「・・・貴方達をなぜこんなところに呼び出したかお分かりですか?」

「なに・・・?」

突然のシザースの質問にゾルダは戸惑う。

「私達が組んでいるライダーが他にいたらどうなります?」

「!?」

盲点だった。敵側のライダーは彼らだけだとは限らなかった。なぜ気付かなかったのだろう。

「ライダーはライダーの気配をモンスターみたいに感じ取れないから、昨日みたいに龍騎は来ない。ナイトとファムだけじゃ、高見沢サンには勝てないよ?」

ガイはライアとゾルダに拳を突き出し、親指を下に向けた。

「これで本当のゲームオーバーだ」

 

一方学校では、黄緑色のカメレオンをモチーフとした「仮面ライダーベルデ」が現れていた。

「さあ戦え!偽善者ライダー共!モンスター狩りもいいがよ、お前達ライダーの敵は、おれ達ライダーってことを忘れんな!」

学校内でヨーヨー型の武器「バイオワインダー」を使い暴れまわるベルデ。

その騒動に祐一と舞、一緒にいた佐祐理も駆けつける。

「祐一!」

「分かった!佐祐理さん、みんなを安全な場所に連れて行ってくれ!」

「舞・・・祐一さん・・・」

「お願いだ、あなただけが頼りなんだ!」

「・・・はい!みなさん、こちらへ逃げてください!」

佐祐理たちが避難したことを確認した祐一と舞はデッキを取り出す。

「「変身!」」

ナイトとファムはベルデの前に躍り出た。

「おれ達が相手になる。他のやつらには手を出さないでくれ!」

「はっ!だから、偽善者なんだよ!まずはオマエ等からだ」

ベルデはそう吐き捨て、アドベントカードを太腿部に装着された召還機「バイオバイザー」に装填した。

<CLEAR VENT>

無機質な音声が流れた瞬間、ベルデの姿は忽然と消えた。

「消えた・・・?」

「ここだァ!」

ガキィ!

「あっ!」

辺りを見回していたファムの背中に強い衝撃が走る。当たったのは、バイオワインダーだった。

「クリアーベントってことは、透明になってるのか・・・!?」

「今頃気付いても遅いわ!」

ガキィ!

「ぐっ!」

次はナイトに攻撃を仕掛ける。見えない敵の攻撃に対応する術を必死に探る2人。

「何か、方法は・・・」

ギリィ!

「うあっ!ぐうっ!」

ナイトは突如、首に手をやり、苦しみ始めた。バイオワインダーの糸でナイトの首を締め上げたのだ。

しかし、その糸さえも透明。ファムにはどうしようも出来なかった。

「祐一ぃ!」

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

      見落としていたな、ベルデ!

 

調子に乗るなァ!

 

      面白かったり面白くなかったり・・・ゲームってこういう時あるよね

 

鎌田さんとも連絡をとっておきましょう。

 

        やっと戻ってきた・・・この街に

 

 

 

第12話「帰り着く友」

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

生徒たち

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ


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第12話 「帰り着く友」

「がはっ・・・くそっ、放せ!」

「そう言われて放す奴は、よっぽどの馬鹿だろうな!」

「祐一!お願い、当たって!」

ベルデに為す術のない2人。ファムは闇雲に辺りをブランバイザーで振り回す。

「目障りだ。コイツと遊んでろ!」

<ADVENT>

ガキィ!

「きゃあっ!」

ベルデはカメレオン型モンスター「バイオグリーザ」を呼び出し、ファムに攻撃する。バイオグリーザも透明であるために、姿を見ることは出来ない。

「かはっ・・・」

その間にも酸欠により、意識が朦朧とするナイト。

万事休すと思われたそのとき

「祐一、舞さん!」

「たつ・・・や・・・」

「馬鹿な・・・なぜ現れた!?」

現れた竜也はすぐさまデッキをかざす。

「変身っ!」

龍騎に姿を変え、ナイトの救出に向かう。

しかし、ベルデは開いていた窓から、校庭へ器用にナイトの首をバイオワインダーで締め上げたまま逃走する。

ファムと龍騎は同じように窓から飛び降り、ベルデのもとに向かうが、ベルデは捕まるまいと校庭を飛び跳ね回る。

姿が見えない上に、これほど素早く動き回られれば、ナイトの救出は困難だ。

「さっきの声・・・それに、透明・・・魔物じゃないとしたら、ベルデか!」

「久しぶりだな、小僧!しかし、なぜオレがここにいると分かった?」

ベルデの問いに、龍騎は

「おまえ、バイオグリーザを呼び出したな!」

「・・・まさか!?」

「見落としてたな、ベルデ!確かに、おれ達ライダーは、同じライダーの気配は感じ取れない。でも、契約モンスターの気配は感じ取れる!」

そういって、龍騎は駆け出す。

ナイトに向かって。

「祐一、アドベントカード借りるよ!」

「な・・・に・・・?」

龍騎はナイトのデッキから、一枚のアドベントカードを引き抜く。

それを自分のドラグバイザーにベントインした。

<NASTY VENT>

「キキイイイィ!」

その音声と共にダークウイングが飛来する。

「舞さん、耳を塞いで!」

龍騎はファムに指示を送り、自身もその指示に従った。

ダークウイングは超音波で「ソニックブレイカー」を発動した。

「グウッ!?ヌアアアアァ・・・!」

唯一、耳を塞がなかったベルデとバイオグリーザは、その超音波で耳の鼓膜に激痛が走る。

集中力が乱れ、クリアーベントは解除され、バイオグリーザもその姿を現した。

ナイトはダークウイングと契約している故に、ソニックブレイカーのダメージは皆無だった。

「そこだっ!」

<SWORD VENT>

ザンッ!

バイオワインダーの糸を、ドラグセイバーで素早く切り落とす龍騎。ナイトはようやく苦痛から開放された。

「がはっ・・・げほっ・・・」

「祐一!しっかりして!」

喉の苦痛に咳き込み、倒れ伏すナイト、それを必死に抱き起こすファム。その2人の前に龍騎が立ちはだかる。

「調子に乗るなァ!」

「高見沢さん。引きますよ!」

ベルデの前に、シザースとガイが現れた。

「貴様等、ライアとゾルダはどうした?」

 

事は少し前にさかのぼる。

「ていやぁ!」「はっ!」

ガッ!ダァン!ドガッ!

ライアとゾルダは2人のライダー相手に善戦していたが、

<ADVENT><ADVENT>

ガイとシザースがそれぞれの契約モンスター、ボルキャンサーと「メタルゲラス」を呼び出した。

「シャアアアア!」「グオオオオオ!」

ガッ!

「ぐあっ!」「ぐうっ!」

突然の出来事に対応することが出来ずに、あっという間に追い詰められた。

「じゃ~ね」

ガイがメタルホーンを振り上げた瞬間、

「ガアアアアアアアア!」

ゴオオオオオオ!

突如ドラグレッダーが現れ、ガイとシザースにドラグブレスを放った。

「グアッ!」「ガハッ!」

吹き飛ばされたあと、煙の向こうにライアとゾルダの姿は無かった。

 

「龍騎のモンスターにまかれたんだよ!こっちも龍騎が来たんじゃ、分が悪いでしょ!?」

「チィッ!何やってんだ!」

「いいから、いきますよ!」

ドゴォ!

ガイはメタルホーンを地面に叩きつけ砂煙を起こし、その間に姿を消した。

龍騎は追うことはせず、ナイトの安否を確認する。

「しっかり!大丈夫!?」

「あ、あぁ・・・」

「ねぇ、なにあれ・・・?」

危険が去った後、生徒達がぞろぞろと出てきた。その異常な光景に驚愕している。

龍騎は小声で

「うわ、やばいな・・・祐一、舞さん、今日は早退して・・・!」

ファムはその言葉の指示通り、ナイトの肩を担いで高校を後にする。

龍騎は校舎にいる生徒に向かって

「皆さん、もう安全です!また怪物が出てきたらおれ達、仮面ライダーを呼んでくださいね!」

祐一たちの立場のため、何とか良い印象を持たれる言葉を力いっぱい叫び、龍騎も高校を後にする。

 

その日の夕方。

「竜也くん、おかえり」

あゆが竜也を迎えた。しかし、いつもは笑顔であるのに今日は元気が無い。

「あゆ、どうしたの?いつもより元気が無いけど・・・」

「な、なんでもないよ・・・」

あゆは昨日のことを引きずっていたのだ。竜也が仲間の危機にいち早く駆けつけることが出来なかったのは自分のせいだと責めていた。

竜也も、あゆがそのことで気が落ちていることは分かった。

あまり、踏み込む事ではないのかもしれないが、彼女の元気が無い姿は竜也にとってさらに辛いことである。

だから竜也はあえて、昨日のことに触れた。

「あゆ、もしかして昨日のこと・・・気にしてる?」

「・・・ボクのわがままのせいだよ・・・ボクのせいで祐一くんたちが・・・」

「違うよ。あゆと映画見に行かなかったら、祐一たちが危険な目に遭ってること、たぶん気付けなかった。仮面ライダーは仮面ライダーの気配を感じ取れないからね」

「でも・・・」

なおも自分を責めるあゆ。竜也は

「それにおれ、あゆと映画見に行けて、良かったと思ってる。怖がってたけど、あゆの意外な一面が見れたし、それに・・・その仕草が・・・ちょっと・・・かわいいかなぁって・・・思っちゃったり・・・してさ」

喋る途中で竜也は顔を赤くして下を向いた。面と向かって言うのはやはり恥ずかしく、あゆの目を見て話すことが出来なくなった。

当のあゆも竜也と同じように顔を赤くしている。

「えっと・・・もしかして竜也くん、すごくはずかしいこと言ってる?」

「う、うん。・・・はは、なに言ってんだおれ」

「あはは・・・」

竜也はおずおずとあゆを見て笑う。その姿が可笑しく、あゆもニコッと笑った。

少し恥ずかしかったが、彼女の気持ちを穏やかにすることには成功したらしい。

心の中で、竜也はガッツポーズをとる。

(しゃっ!なんとか上手くいったかな・・・?)

 

祐一と舞は帰り道の途中、佐祐理と出くわした。

「佐祐理・・・」

「佐祐理さん・・・」

「祐一さん、舞・・・ごめんなさい・・・」

頭を下げる佐祐理。突然のことに2人は動揺する。

「佐祐理、2人のことが本当に心配だったんです。でも心のどこかで、2人に距離を置かれたように思えて・・・それが寂しくて・・・」

頭を上げた佐祐理の目には涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

「だから、あんな辛く当たってしまって・・・本当にごめんなさい・・・」

「佐祐理、わたしもごめんなさい・・・。佐祐理に心配掛けないようにしてたのに、それどころか傷つけてた・・・。最初から、佐祐理を頼っていればよかった・・・」

「佐祐理さん。おれ達、あなたのことをずっと友達だって思ってます。舞やおれ、竜也たちがやってきたことを受け入れてくれませんか?」

「・・・はい。だって、友達ですもの。ね、舞?」

佐祐理は涙を拭って、いつもの優しく明るい笑顔で頷く。

舞は少しだけ笑顔になって頷く。

壊れかけていた3人の友情はここで修復された。

 

同時刻、とある場所で3人の影があった。

芝浦シュン、須藤マサキ、そしてベルデに変身していた高見沢イツキである。

「あぁ~あの龍騎、ウッザ!ゲームであるよね。面白かったり面白くなかったりさ。ああ、ムカツク!」

「貴様らが、奴のモンスターごときに踊らされるからだろうが!」

高見沢の言葉に芝浦は苛立つ。

「あのさぁ、アンタも龍騎に踊らされてたじゃん?大体、アンタのほうが経験長いのに何で?」

「何だと・・・!」

仲間割れが始まろうとしていたそのとき

「・・・どうやら、あの方からみたいですね」

須藤がそう呟き、2人に空から舞ってきた、一枚の金色の羽を見せる。

「あのライダーか?」

「えぇ、この羽に込められていた言葉は「仲間を集めろ」とあります」

どうやら羽に触れたライダーは、それに込められた言葉を感じ取ることが出来るようである

「王蛇の装着者はあの方が見つけ出すでしょうから、鎌田さんと連絡を取っておきましょう。彼はなかなか強力なライダー。4人ならば、龍騎たちを倒すことも可能。龍騎以外は最近変身したばかりですからね・・・」

須藤は笑みをこぼすが、その表情には邪悪な感情が込められていた。

 

その日の夜。ものみの丘で2人の少年がいた。

「やっと、戻ってきたね・・・この街に」

「おれは戻ってきたくは無かったが・・・」

一人は大人しそうな少年、もう一人は少し乱れた髪と服装の荒々しい印象のある少年だった

「なゆちゃん、元気にしてるかな・・・」

懐かしむかのように街を見つめる少年。

「まだそんな奴のことを引きずっているのか。彼女はおまえを見捨てたんだろう?」

ギロリと睨み付ける少年。睨まれた少年は弁解するように

「引きずってなんか無いよ、ミツル君?だって、英雄になるためには強くならなきゃいけない。なゆちゃんのこと引きずってたら、強くなれないからね・・・ここには過去と決別するために来たんでしょ?」

「それでいい、サトル。おれもここで過去と決別する。待ってろ、竜也・・・」

そういって、2人はあるものを握り締める。

それは紛れもなく、カードデッキだった。

 

とある場所・・・

「この力を私にか?」

「ああ、いずれここに訪れる者を倒せ。それが条件だ」

「良かろう。受け取るぞ・・・!」

 

続く・・・

 

 

 

次回!

 

秋子さんってジャーナリストだったんですか・・・

 

副編集長の鎌田です

 

       わたしの名前、覚えてる?

 

やっと会えたな、竜也ぁ!

 

       あいつは・・・!?

 

 

第13話「死刑宣告者」

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

虎水サトル
斉藤ミツル

生徒たち

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ

???

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第三章 過去に囚われた者
第13話 「死刑宣告者」


次の日の夜。

舞は魔物を退治するべく、愛用の剣とファムのカードデッキを持って、校舎に来ていた。

祐一と佐祐理も来ていたが舞の弁当の準備をしているためここにはいない。

彼女は魔物の出現に備え、それを待ちながら、2人のことも待っているのだ。

「来た・・・!」

舞がつぶやくと、何もない空虚に向かって走り出し、剣を振るう。

「はあっ!」

ザァン!

確かな手ごたえがあった。倒すことは出来たらしい。

「この感じ・・・」

竜也たちと初めて会ったときに取り逃がした魔物のようだった。

あの後の所在が分からなかったので、ここで倒せたのは一安心だった。

だが・・・

「くっ・・・!」

突然、舞は床に膝をつき、足を庇うように手を添える。

痛みはなかったが、足の力が抜けるような感覚に襲われる。

黒いソックスを少し下ろすと、膝下から爛れたような跡があった。

先程の戦いの中では怪我をした覚えはないし、こんな症状はまず無い筈だ。

「どうして・・・」

「舞!」

祐一の声を聞いた舞はすぐさまソックスを元に戻し、何とか立ち上がる。

程なく、祐一と佐祐理が廊下から見えてきた。

佐祐理は昨日の和解後、舞のサポートをおこなうことを決意し、彼女なりに出来ることをはじめたのだ。

「祐一・・・佐祐理・・・」

「魔物さんが出てきたの?」

舞は頷く。

「舞・・・ずっと聞きたかったが、魔物って一体何なんだ・・・?」

祐一は疑問を舞にぶつけた。

実は祐一は夜の学校で、偶然舞と遭遇したことを機に彼女に協力するようになったため、舞が何のためにどうして魔物と対峙するかは知らなかった。

「わたしにも分からない。ただ・・・祐一を狙ってる」

「おれを・・・?」

「祐一と会うようになってから、魔物が頻繁に現れるようになった」

これが、舞の知っている全てのことだった。

ふと思い出したように、魔物の気配を探るが、どうやらいないらしい。

「今日はもう出てこないと思う・・・」

「そうか・・・じゃあ帰ろうか、舞。教えてくれて、ありがとな。佐祐理さん、あとはよろしくお願いします」

「あはは~、わかりました」

佐祐理と舞は共に帰り、祐一は一人で帰ることにした。

 

次の日。

今日は日曜日。学生達は全員休みである。

「おはようございます」

「おはようございます、祐一さん。今日は早いんですね」

学校でもないのに、早く起きた祐一。家主の秋子は彼の挨拶を穏やかに返す。

彼女は挨拶をしながら、身支度を整えつつあった。

どうやら、仕事に行くようである。

「えぇ、少し。秋子さんはお仕事ですか?」

「えぇ、今日は少し忙しくて・・・」

(そういえば、秋子さんってどんな仕事してるんだ?)

「じゃあ、いってきます。名雪にも伝えて置いてくださいね」

「は、はぁ・・・」

一つだけ聞きたいことがあったのだが、その質問に答える間もなく、秋子は家から出て行った。

「おはよぉ~・・・ゆういち~」

起きたばかりだからか、眠たそうな名雪が現れた。

彼女に聞いたら分かるかもしれない。

「名雪、秋子さんってどんな仕事してるんだ?」

「うにゅ、仕事?う~ん・・・く~」

「寝るな!」

聞いたのは間違いだった。

ちなみに名雪も知らないらしい・・・。

 

と、言うわけで・・・

「あの・・・なんで、おれとあゆが・・・?」

「こまけぇことはいいんだよ。おまえら、どうせ暇だろ?」

「暇だけど、尾行って言うのはちょっと・・・」

「でも、探偵みたいで面白そうだよっ!」

半ば遠慮がちな竜也とウキウキ気分のあゆを引き連れて、祐一は秋子の職場を見つけることにした。

「とにかく行くぞ」

 

「祐一、どこいったの~?」

一方の名雪は眠気がさめたようで、外に出ていつの間にか消えた祐一を探してみることにした。

と、少し離れた場所から2人の少年が立っていた。彼らは、名雪をじっと見つめている。

名雪はその少年の1人に見覚えがあった。

「あ・・・!サトちゃん!」

昔よく遊んだ友達、虎水サトルだった。

「久しぶりだね~。わたしの名前、覚えてる?」

「・・・」

無言のサトル。彼の反応に、名雪は少し悲しくなる。

「覚えて・・・ないの?」

「覚えてるよ、なゆちゃん」

表情を変えないまま、答えるサトル。名雪は安堵する。

「よかった~、覚えててくれて。今までどうしてたの?」

「どうでもいいよね?」

急に冷たい言葉で言い放つサトル。

「だって僕がいなくなってから、今、会うまで僕のこと思い出さなかったよね?」

「え・・・」

「おまえが水瀬名雪らしいな」

一人黙り込んでいた少年が突然、会話に割り込む。どう見ても友好的な様子ではなかった。

「おれはサトルの友人、斉藤ミツル。なぜ、こいつがこうなったか分かるか?」

「どういうこと・・・?」

「分からないのか?こいつはおまえに友情以上の感情を持っていた・・・以前はな。だが、おまえはサトルの感情に気付かなかった。それは仕方がなかっただろう。こいつが軟弱だったからな」

「うそ・・・!」

名雪は突然の事実に戸惑うが、ミツルは構わず続ける。

「サトルは家族から虐待を受け、その心の闇をおまえに癒してもらおうとした。だが、おまえは平然とサトルを見捨てた。ちがうか?」

「そんなことない・・・わたし、サトちゃんを見捨ててなんか・・・」

彼女の言い分は真実だった。

だが、2人は聞く耳を持たない。

「口でなら、何とでも言えるよね、なゆちゃん。僕は君とお別れをちゃんと言って、過去と決別するためにここに来たんだよ」

「サトちゃん・・・」

「バイバイ、なゆちゃん。もう二度と会わないよ」

そう言い捨て、2人の少年は去った。

離れた後、サトルはミツルに

「ありがとね、ミツル君」

「構わん。だが、おれも一つやらなきゃならないことがある」

 

「申し訳ありません、秋子さん・・・」

「本当にすいません。出来心で・・・」

「ごめんなさい・・・」

「大丈夫ですよ。でも、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」

その頃祐一達御一行は、あっさりと秋子に見つかってしまった。

彼らの行いを秋子は簡単に許し、これまたあっさりと自分の職業を明かした。

「わたしは、ここで働いてますよ」

彼女についてきた先は、情報配信社「WATASHIジャーナル」。

ここの情報雑誌は祐一達も読む機会が多く、もともと大手企業が無いこの街では特に大きな会社かもしれない。立派に構える会社の前に竜也は見とれていた。

「すごいですねぇ・・・」

「よかったら、見ていきますか?」

「うん、みてみたいよ!」

秋子の誘いに一人、はしゃぐあゆ。

しかし祐一は

「仕事に不都合だったりしませんか?おれや竜也どころか、このうぐぅがいたら・・・」

「うぐぅじゃないもん!」

「祐一、ひどいな・・・」

祐一の悪口に抗議するあゆと竜也。

「構いませんよ。ここはもともと人が少ないので、来客は大歓迎です」

 

編集社内。

入ると、すぐに応接室へ通された。

「水瀬編集長、おはようございます。おや?君たちは・・・」

応接室に壮年の男が入ってきて、秋子に挨拶をした。

竜也を見て、一瞬顔をしかめたように見えたが、4人は気にしなかった。

「編集長って・・・秋子さん、編集長なんですか?」

「えぇ。おはようございます鎌田さん。この子達は、わたしの甥とそのお友達です。突然ですが、今日は見学をと思いまして・・・」

祐一の言葉に軽く返事をした秋子は、鎌田に上手く説明した。

これで、3人は何のお咎めもないだろう。もともと、秋子についてきたが。

「そうでしたか。いや、失礼。副編集長の鎌田です」

「相沢祐一です」

「龍崎竜也です。よろしくお願いします!」

「月宮あゆです!」

それぞれ挨拶をした。

「そういえば、編集長。今日はあの情報が・・・」

「また新たに・・・ですか。みなさん、ちょっと待っててくださいね」

そういい残し、秋子は鎌田と共に応接室から出て行った。

ふと、祐一が呟く

「秋子さんの表情からして・・・ライダーのことかもな」

「どうして分かるの?」

「ここは、情報配信社。あれだけドンパチやってたら、仮面ライダーのことだって正体は分からずとも、必ず耳に入ってくるはずだ。それに秋子さんは、基本的に怪物といった類は多分、好きじゃないだろ。ここまで考えれば・・・」

「祐一くん、すごい・・・」

祐一の見事な推理に、あゆは尊敬の念を抱く。

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

突如、モンスターの気配。反応音からして近い。

「あゆ、ここにいて。秋子さんにはうまく伝えといてね。祐一、いくよ!」

「ああ!」

 

モンスターはなんと社内にいた。その数は2体。

一体はワイルドボーダーとよく似た形状の鮫型モンスターと、両腕に刀を持った細身の鮫型モンスターだった。

「アビスハンマーにアビスラッシャー・・・まさか、仮面ライダーアビスがこの近くに!?」

「マジかよ!?」

「とりあえず、倒すよ!」

2人はデッキをかざす。

「「変身っ!」」

姿を変えた龍騎とナイトは、モンスターへと駆け出す。

しかし

「え・・・どこに行ってんだ?」

2体のモンスターは龍騎たちを無視して、廊下を走り去った。

今までになかった例。龍騎が唖然としていると

「おい竜也!あのモンスター、秋子さんのところに向かったぞ!」

「うそ!?」

2人は急いでモンスターのあとを追った。

アビスハンマーがドアを破ろうとしたそのとき、

「させない!でりゃあっ!」

ガッ!

龍騎が必死に取り押さえ、近くの窓を開け、そこから放り投げた。

「祐一、アビスラッシャーも何とか外に出して!あいつはおれが何とかする!」

「あぁ、任せろ!」

龍騎はアビスハンマーのあとを追い、窓から飛び降りる。

ナイトも龍騎に続き、窓からアビスラッシャーを放り出し、その窓から飛び降りる。

 

その頃、編集室で鎌田の様子が変わった。

秋子に気づかれないように笑う。

突然

「編集長。取材に行ってきます」

「え・・・このことを放っていくんですか?」

「その件と関係があることです・・・では」

 

モンスターとの戦いは外での第2ラウンド。

さすがに、契約モンスターであるためか強い。

「シャアアアア!」

バシャアアァ!

「うわっ!」「ぐっ!」

アビスラッシャーの口部から大量の水が高速噴射され、龍騎とナイトの動きを封じ込める。

そして

ズダダダ!

「「ぐあっ!」」

背後からの突然の攻撃を受けた。背中には大量の水。どうやら、高圧の水流弾らしい。

そこにはナイトは見慣れない仮面ライダーがいた。様子から味方ではないらしい。

「すみませんね、お2人とも」

「何だおまえ!?」

「おまえは・・・仮面ライダーアビス!?」

龍騎は見覚えがあった。城戸真司と別れたときに襲撃された仮面ライダーの1人だった。

アビスは龍騎を見やると、興味深そうに

「ほほう。やはり城戸真司ではありませんか。あのときくっついていた少年、龍崎竜也君ですね?」

「そうだ。おれは真司さんから、龍騎を受け継いだ・・・。そして、おまえ達の横暴を食い止めるための仲間も見つけられた!今度こそ、おまえ達を止めて見せる!」

龍騎の言葉を聞き、アビスは嘲笑するように口走った。

「ということは、あの場では取り逃がしてしまいましたが、どうやら城戸真司は死んでしまったようですね」

「違う!!」

アビスの言葉に龍騎は声を荒げた。はじめて聞く怒声であった。

普段、怒るイメージのない竜也とのギャップゆえか、ナイトは驚く。

「真司さんは死んでなんかいない!今もどこかで戦ってる!」

「それをどうやって証明するんです?」

「いままで真司さんは、どんな事があってもあきらめなかった。それに、おれが人を守り続けていればまたいつか会えるって約束したんだ。それが証拠だ!」

龍騎・・・いや竜也は、城戸真司に対しての信頼が強かった。ナイトは城戸真司という人物がどれほど凄い人物だったのかを改めて実感した。

「くだらない。そんな確証のないもの・・・信じないほうが良いですよ!」

アビスはそれを鼻で笑い、左腕の召還機「アビスバイザー」にアドベントカードをベントインした。

<STRIKE VENT>

「ヌンッ!」

アビスはアビスラッシャーの頭部を模した武器「アビスクロー」を構えると、アビスハンマーとアビスラッシャーと共に、龍騎とナイトに襲い掛かる。

ザアアアアァ!

「ぐっ・・・うあああああ!」「ぐあああああぁ!」

アビスクローをドラグクローのように突き出し、高圧な水流弾「アビスマッシュ」を発動する。

龍騎たちは何とか持ちこたえようとするが、龍騎は炎を主体として戦うライダー。水主体のアビスの攻撃にはめっぽう弱いのだ。ナイトはもともと防御力に特化していない故に、アビスの攻撃には耐えられず、両者とも吹き飛ばされた。

 

そこへ

「そいつはおれの獲物だぁ!」

アビスに凄まじい怒りの叫びを上げ、2人の少年が乱入した。

龍騎にはそのうち、1人の少年に見覚えがあった。

「・・・ミツル?」

「危ないですよ?死にたくなければ退きなさい!」

アビスは一般人にも容赦はない。アビスセイバーを振り上げて、ミツルに振り下ろす。

「ミツル、危ない!」

しかし、

「おれの獲物といっただろうが!」

ミツルはなんと、アビスクローを蹴り上げる。

さすがに、ライダーが武器を落とすことはなかったが、アビスはひるんだ。

「君は・・・!?」

「あなたと同じ存在だよ」

アビスの言葉にサトルが答え、2人は懐からあるものを取り出してかざす。

「・・・カードデッキ!?」

「「変身っ!」」

腰に現れた白銀のベルトにデッキを装填すると、その姿は仮面ライダーに変わっていた。どちらも体中が動物を模した、いかにも荒々しい姿だった。

「インペラーとタイガ・・・!?」

「仮面ライダー・・・!?」

「うおおおおぉ!」

「仮面ライダーインペラー」は雄叫びを上げ、アビスに駆け出した。

今までのライダーとは群を抜いたスピード。一瞬で、アビスとの距離を縮める。

「いえああああああぁ!」

ガガガガガガッ!

「グゥッ、ウガッ、ガアッ!」

アビスに凄まじいスピードで蹴りを加えるインペラー。猛攻の前に、アビスは成す術がなかった。

そして「仮面ライダータイガ」はアビスラッシャーたちに、巨大な斧型の召還機「デストバイザー」を振り下ろす。

「ああああぁ!」

ガァン!

「グギャアアアア!」

アビスラッシャーたちは堪らず、地面に叩きつけられた。

「おのれ・・・貴様らのことなど報告になかったぞ・・・!」

ザアアン!

アビスは毒づき、アビスバイザーで津波を起こす。

津波が消えた後はアビスの姿は消えていた。

 

龍騎はインペラーに駆け寄る。さっき、自分達を助けてくれたところから、味方と判断する。

「ミツル、久しぶり!」

「・・・」

「こいつ、誰だ?」

「斉藤ミツル。真司さんと会う少し前に暮らしてた孤児院で友達だったんだよ!」

龍騎の言葉に納得し、もう一人のライダー、タイガに目をやる。

「もう一人は・・・?」

「えっと・・・ミツルの新しい友達?」

「そういったところかな。虎水サトルだよ」

龍騎は昔の友との再会を喜ぶ、インペラーは黙り込んでいたがそんなことはお構いなしだった。

「まさか仮面ライダーだったなんて思わなかった・・・もしかして、おれ達と一緒に戦ってくれるの?」

正直、友人が仮面ライダーであることは喜ばしいことではないのだが、彼らが一緒に戦ってくれるとなると、とても心強い。

 

だが、その期待はあっさりと崩れ去った。

「せいっ!」

ガッ!

「ぐあっ!?」

「竜也!」

突然、至近距離からのインペラーの攻撃。

「やっと会えたな・・・竜也ぁ!」

「僕達は、君を倒すんだよ?君たちの味方なんて馬鹿馬鹿しい」

「ここでおれは、過去と完全に決別する!」

インペラーは龍騎を倒すべく、強靭な右足で攻撃を仕掛けた。

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

次回!

 

            サトちゃん、どうして・・・

 

英雄になるんだ。そうすれば、みんなが僕のことを・・・

 

            おまえも忘れたようだな、おれを見捨てたことを!

 

人を守りたくて仮面ライダーになったのに・・・

 

            君の手の内、見せてもらいますよ・・・

 

 

 

第14話「怒りの闘士」

 

 

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム
倉田佐祐理

水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

鎌田マサト=仮面ライダーアビス



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第14話 「怒りの闘士」

「うおおぉ!」

ドガッ!

インペラーは龍騎に強力なキックをお見舞いする。

「ぐあっ!」

とっさに両腕で防いだが、その威力は腕にしっかりと残った。

「竜也!」

ナイトは龍騎を助けるべく、インペラーを止めようとする。

しかし

「えあぁ!」

ズガァッ!

「ぐあぁ!」

目の前に立ちふさがったタイガがデストバイザーを振り下ろし、ナイトの胸を斬りつけた。

ナイトの鎧から火花が散る。まだ動けるものの、一発の攻撃でナイトは充分すぎるほどのダメージを受けた。

「ミツル君の戦いは邪魔させないよ、相沢祐一君。君の相手は僕だよ?」

「おれの名前を何で知ってる・・・!?」

ナイトは自分の名前を彼らに名乗った記憶はない。

その様子に、タイガは応える。

「僕はなゆちゃんの友達だよ。昔のね」

「名雪・・・?」

「なゆちゃんは、君のことをとっても楽しそうに話してた。うらやましいよ・・・」

突然、うつむいて悲しそうに言うタイガ。だがすぐに顔をあげ、狂気染みた声で

「だからね、もう誰にも嫌われないために英雄になるんだぁ!」

デストバイザーを振り回し、ナイトに攻撃を仕掛ける。

一方、龍騎はインペラーの攻撃に翻弄されながらも、戦うことを拒絶している。

彼にとって、友との争いは絶対に避けたい戦いである。しかし、それをインペラーは良しとしない。

「まって、おれはミツルと戦いたくない!おれがミツルに一体、何をしたんだよ!?」

「やはりおまえも忘れたみたいだな。おれを見捨てたことを!」

インペラーの言葉に戸惑う龍騎。

「おまえは、孤児院でおれを友といっておきながら、ある日突然消えた!そのことで、おれは周りから疫病神扱いされたんだよ!」

「そんな・・・」

龍騎こと竜也が消えた理由は、モンスターに襲われたからだ。そのとき城戸真司と出会い、彼に憧れ彼の家に転がり込み、孤児院を後にした。

その行動は、大切なかけがえのない友達を知らずに傷つけていたのだ。

「だから、おれはおまえに復讐する!この力はそのために在るんだぁ!」

インペラーが叫び、龍騎に鋭い蹴りを決めるその直前に

「まって!」

あゆが止めに入った。

彼女は窓の中から、外の様子を見ていた。そしてこの事態を目の当たりにし、彼らの戦いを止めるべく、龍騎を庇うように両手を広げて立ち塞がる。

インペラーは一般人を襲うつもりは無いらしく、間一髪のところで蹴りを中断した。爪先はあゆの頬にふれるか、ふれないか程の距離だった。しかしあゆは勇気を振り絞り、その場から微動だにしなかった。

「あゆ・・・」

「竜也くんは・・・キミを見捨ててない!だって、竜也くんはそんなこと絶対にしないもん!」

「だが事実として、おれは厄介者扱いを受けた。発端はそこにいる奴だ!」

「うぐぅ・・・それでも、ボクは竜也くんがそんなことしないって信じ・・・」

「あゆ、いいんだ」

突如として、龍騎はあゆの肩に手を置き、インペラーの前に出た。

「ミツルが言ってることは本当だ。見捨てるつもりは無かったけど、結果として見捨てた」

「え・・・」

「なに・・・?」

「だからおれを攻撃しても良いよ、ミツル。それで気が済むなんて思ってないけど、それがおれのせめてもの償いだ」

そういって龍騎は変身を解き、竜也の姿へと戻った。

「やめろ竜也、死ぬ気か!?」

「よそ見しないでよ!」

タイガの攻撃に翻弄されているナイトの忠告も聞かず、デッキを放り投げて両手を広げる竜也。

だがインペラーは攻撃しようとはしない。それどころか、龍騎と同様に変身をとき、ミツルへと戻る。

「同情など要らん!おれを・・・舐めるなぁ!」

ガッ!

「ぐっ!」

ミツルは竜也を力任せに蹴り飛ばし、ボロボロのコートを翻して踵を返した。

「いくぞ、サトル!」

「えっ・・・わかった。でああぁ!」

ナイトを突き飛ばし、変身を解いたサトルはミツルの後に続いて、街の中へと消えていった。

 

「竜也くん、祐一くん、大丈夫!?」

あゆは竜也たちに駆け寄る。ナイトも変身を解く。

竜也はあゆに起こされるが、その表情は痛々しいものだった。

「おれ・・・やっぱ真司さんみたいになれないよ・・・」

急に弱気な言葉を呟く竜也。

「真司さんみたいに、人を守りたくて仮面ライダーになったのに・・・友達を守れてなかった・・・」

「竜也くん・・・」

「何が真司さんの願いを継ぐだよ・・・」

祐一は竜也の背中をポンと叩く。

竜也が振り向くと、祐一はこう言った。

「しっかりしろ。おまえ、仮面ライダー龍騎だろ。今までおまえは、何一つ守れてなかったのか?」

祐一の言葉にうつむく竜也。たしかに守れたものもある。しかし、全てを守れているわけではない。

「全てを守ることは不可能だが、だからこそ精一杯、守れるものを守るのだ」

以前、城戸真司から教えられた言葉。しかし、そう思っていても、今までの戦いの中で守れなかったものの事を想い返すと・・・

「少なくとも、おれ達はおまえに守られた経験がある。それが今生きるという形で繋がってきている。おまえのやってきたことは確実に真司さんの願いを継いでいるはずだ」

祐一はそのことを知らない。だが、竜也の行動は全てが無駄ではない。もちろん、上手くいかなかったことがあったとしても、それにさえ、きっと意味があると祐一は確信している。

「・・・ありがと、祐一」

 

ものみの丘

そこにある小さな小屋。その辺にあるもので作っており、強度はおそらく弱いだろう。

そのなかでは、ミツルとサトルが座っている。

「くそ・・・」

「ミツル君、何であのとき、やめたの?」

「無抵抗の竜也をいたぶっても意味が無い。もしいたぶっても結局、それはあいつの思い通りになっていることに変わりない。どうせ復讐するなら、あいつが最も苦しむ方法を・・・」

ミツルはインペラーのデッキを握り締め、再度復讐を誓う。

 

その後、竜也とあゆと別れて自宅に帰る祐一。正確には居候なので自宅ではないのだが、今は彼にとっての家だ。

「ただいま・・・」

「お帰りなさい、祐一さん」

「お帰り、祐一」

この家の家主、秋子とその娘の名雪が迎える。日曜日ということもあってか、秋子は一足早く家に帰ってきたようだ。名雪はいつになく落ち込んでいる。

「どうした名雪、思いつめた顔して。いつもはボケっとしてるのに」

「・・・うん」

様子がおかしい。いつもは文句を言ってくるのだが、今日はうわの空といった感じだ。

理由はなんとなく分かる。おそらく、虎水サトルのことだろう。

しかし、祐一はあえてそのことは聞かなかった。彼にはそれくらいしか優しくする方法が分からないのだ。

「さ、玄関で立ち話もなんですから、早くあがりましょう。ごはん出来てますよ」

秋子の言葉で祐一は家に上がり、自室で着替え、昼食を食べる。

 

昼食後、祐一は部屋に戻り、後片付けをしている秋子と名雪だけが残った。

「お母さん、サトちゃん覚えてる?」

「サトちゃんって、虎水サトル君のこと?」

秋子もサトルのことは名雪と家でよく遊んでいた姿を見ていたので、よく覚えている。

「うん。今日の朝、7年ぶりにサトちゃんに会ったの」

「あらあら、よかったわね」

頬に手を当て、微笑む秋子だが、名雪は懐かしい友人にあったような表情ではなかった

「でもサトちゃん、わたしのこと嫌いになっちゃってた・・・わたし、どうすれば良かったのかな・・・?」

自然と顔を伏せ涙を流す名雪の肩を、ゆっくりと抱き寄せる秋子。

「大丈夫よ。サトル君はきっと、名雪のことが今も大好きなはずよ。だって、そうじゃないとあなたに会いに来たりしないわ」

「うぅ・・・ぐすっ・・・」

 

秋子がいなくなった編集社では、鎌田が須藤たちを集めていた。

そう、鎌田こそ仮面ライダーアビスの正体なのだ。

先程、インペラーにかなり痛めつけられたため、物静かな雰囲気ではあったものの、鎌田はかなり苛立っているようだ。

「どうなっているのですか?タイガとインペラーのことなど、報告に無かった筈ですが・・・」

「どうやら、あの方が装着者を見つけていたみたいですね。私達もこれが初耳です」

須藤たちも、タイガとインペラーのことは把握していなかったようだ。

芝浦が、鎌田に気になることを質問する。

「結局さ、タイガにインペラーって味方なの?敵なの?」

「敵でしょう。しかし龍騎側についているとも言えませんね」

「何故だ?オマエを攻撃してきたのは、龍騎を守ったんじゃないのか?」

高見沢の言葉に鎌田は、

「私に向かって「そいつはおれの獲物だ」と言っていました。おそらく龍騎のことでしょうから、どちらにもつかない第3勢力と考えるのが順当かと」

「全く、とんだ期待外れだったな」

「・・・」

高見沢の言葉に無言になりつつも、額に青筋が浮かぶ鎌田。

突然、座っていた席を立ち上がった須藤。

「・・・この状態では、一気にケリを付けることは不可能。わたしが一人ずつ、確実に潰します。まずは・・・ライアですね」

「どうしてライアなワケ?」

「彼の身辺を洗いました。彼が大切に想っている、同じ高校の女子生徒がいたので・・・彼女を人質にします。そうすれば・・・」

高見沢は鼻で笑い

「相変わらず、澄ました顔して卑怯な手を使いやがるな」

「忘れましたか?・・・わたしは卑怯もラッキョウも大好物なんですよ」

 

次の日。

潤は、香里と栞を迎えに行っていた。登校前には必ず迎えに行っているが、ときどき先を越される(栞はほとんど無い)。

それでもめげない潤は、かわいそうなのか、バカなのか・・・。

「かーおーりー!栞ちゃーん!」

朝から家の前で大声とは、近所迷惑である。

突っ込みどころ満載の潤。

しかし、香里たちの母親のなんと優しいことか、潤に親切に対応する。

「あら、北川君。香里達なら、さっき出たわよ?」

「あ、そうですか」

今日も置いていかれたらしい。しかも、栞も先に行ったようである。

がっくりと肩を落とす潤はとぼとぼと学校へと向かう。

 

学校。

教室に入ってきた潤は席に座り、頬杖をついて窓の外の景色を見る。

祐一と名雪はまだ来てないらしく、香里も見当たらないので、話し相手がいないのだ。

・・・香里が見当たらない?

先に来ているはずなのに、彼女の席にはカバンもない。

と、そこへ祐一と名雪も来た。

「ったく!いい加減、遅刻ギリギリに起きるのはやめろ!」

「うん、反省するよ・・・」

昨日よりは元気になっているが、まだ少し落ち込み気味の名雪と、遅刻ギリギリになっていることに焦っていたため、原因の名雪に怒鳴る祐一。

潤は2人に香里の行方を聞く。

「なあ、2人とも香里を見なかったか?」

「香里?見なかったが・・・」

不審に思う潤。

と、女子生徒の会話の中から、こんな会話が聞こえた。

「ねぇ、須藤さんってカッコいいね!」

「あ、あたしも思う!でも今日はいないみたい・・・残念だなぁ・・・」

祐一は気づかなかったようだが、潤ははっきりと聞き取った。

まさか・・・。

「相沢!今日、早退するわ!」

「お、おい!まだ授業始まってないぞ!」

祐一の言葉を無視して潤は廊下を走り去った。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

           おまえだけは許せない!

 

貴方は話が早い・・・

 

           わたし、北川君のこと信じてみるわ

 

だめだ潤!ファイナルベントだけはダメだ!

 

           何とかして見せるさ

 

 

 

第15話「笑顔の向こう側に」

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一仮面ライダーナイト
北川潤=仮面ライダーライア

水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

生徒たち
美坂姉妹の母親

水瀬秋子

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ
鎌田マサト=仮面ライダーアビス



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第15話 「笑顔の向こう側に」

潤はとりあえず学校を出て、街中を手当たり次第に探す。

「北川潤さん」

不意に、壮年の男から声を掛けられる。

「なんだ、あんた?今いそがし・・・」

「美坂香里さんを探しているのですね?」

潤は鎌田の言葉に動きが止まる。

「どこだ!?頼む、おしえてくれ!」

鎌田は少し遠くにある廃工場を指す。

「あそこで見かけました」

「礼を言うぜ!」

潤は鎌田に礼を言って、廃工場へと向かった。

潤が消えたのを確認すると携帯を取り出し、電話を掛ける。

「須藤さん、向かいましたよ」

「わかりました。さて、お手並み拝見と行きましょう」

通話が途切れると鎌田はニヤリと笑う。

「君の手の内、見せてもらいますよ・・・」

 

廃工場。

2人の少女が鉄骨に縛られている。

香里と栞だ。

須藤は、2人の前に立つ

「ちょっと、離しなさいよ!」「やめてください!」

「貴方達は餌です。北川潤、仮面ライダーライアをおびき出すためのね。大人しくしていて下さい。そうしないと手荒なことをするかもしれませんので・・・」

須藤が言い終わるか言い終わらないかで、工場のシャッターを開けて、潤が入ってきた。

「香里、栞ちゃん!」

「北川君!」「北川さん・・・」

「来ましたか・・・」

須藤は香里たちに向かおうとする潤の行く手を遮るように立ち塞がる。

「須藤、香里たちを返せ!」

「返して欲しいですよね?あんなに大切に想っている者たちですからね・・・」

潤の言葉を須藤は馬鹿にしたように返し、デッキを構える。

「返しても良いですよ?しかし、私を倒せば・・・ですね。変身!」

須藤はシザースに姿を変えて、シザースバイザーを構える。

「変身っ!」

対する潤もライアへと変身し、臨戦態勢に入る。

 

「北川ぁ!」「北川君!」「どこ・・・」

祐一は潤の様子を見て只事ではないと感じ、万が一に備え、舞と久瀬を呼んで街中を探しまわっていた。手がかりが無いので、見つけ出すことは非常に困難だ

仮面ライダーとして一番頼りになる竜也は、残念ながらあゆと共に姿が見えなかった。

「やっほ」

芝浦が現れる。

その後ろから、ベルデとアビスも現れる。

「芝浦、ベルデ・・・!」

「アビスまでいるのかよ・・・」

祐一はアビスの強さを身を持って痛感している。出来れば、今は対峙したくない相手だった。

「北川潤は、須藤さんの手によって消されます」

「邪魔しないで・・・!」

「それはこっちのセリフだろうが!」

「そ、邪魔しないでよ」

「我々がこの場で、君たちに死刑を言い渡す!」

「「変身!」」

芝浦はガイに変身する。

「くそ・・・舞、久瀬先輩、何とかここを切り抜けるぞ!」

「「「変身っ!」」」

 

その頃、竜也はあゆと共にミツルとサトルを探していた。

「ミツルたちを何とか説得する。多少の戦いは逃れられないかもしれないけど・・・」

昨日のことを通して、竜也は決意した。

ミツルを説得して、何とか彼と和解したい。

自分の正直な思いをしっかりと伝えれば、ミツルもきっと信じてくれる。

「きっと大丈夫だよ。だって、竜也くんは友達をとても大切にしてるから・・・」

あゆも竜也のまっすぐな心を信じ、彼らの関係が元に戻ることを切に望んでいた。

「おれを探しているのか、竜也?」

街の中でも人通りの少ないところで、ミツルは姿を現した。後ろにサトルもいる。

「ミツル、おれは確かにミツルに酷い仕打ちをしてしまったと思ってる。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、それはミツルを見捨てるつもりがあってやった訳じゃないし、今でもミツルのことをかけがえのない友達だと思ってる。信じて!」

「残念だが、おまえの言うとおり、言い訳にしか聞こえん」

竜也の必死な思いを込めた言葉も、ミツルには聞くことすら面倒に感じるようだ。

すぐさま、懐からカードデッキを取り出す。

「変身!」

サトルも続こうとするが、インペラーは手で制する。すぐに攻撃は仕掛けようとはしない。

「さあ、変身しろ」

「竜也くん・・・」

心配そうに竜也を見つめるあゆ。

「あゆ、大丈夫。ミツルのことはおれが何とかしてみせる。おれがまいた種だから」

あゆに下がるように促し、カードデッキを取り出す。

「変身っ!」

竜也は龍騎に姿を変える。インペラーは仮面の奥で薄く笑う。

「それでいい。本気でおれと戦え!それを捻り潰すからこそ意味がある!」

 

ナイトはアビスを、ファムはベルデを、ゾルダはガイを相手に奮闘する。

「経験不足の小娘ライダーが、オレに勝てるわけが無い!」

<CLEAR VENT>

姿を消すベルデ。しかし、ファム達も全く経験を積んでいない訳ではない。

アドベントカードについても知らないことが多かったが、竜也に以前、用途などを学び、完全とはいえないが、幾つかのことを覚えている。後は応用をすればいい。

「また、消えた・・・でも!」

<ADVENT>

ファムはブランウイングを呼び出す。

突風を起こし、広範囲の攻撃をおこなう作戦だ。おそらく、ベルデもこの攻撃は逃れることは不可能。上手くいけば、クリアーベントの効力を消すことも出来るかもしれない。

だが、その作戦を妨害する者もいることをファムは考えていなかった。

「させないよ」

ゾルダと戦っていたガイがアドベントカードをベントインする。

<COFINE VENT>

その音声と共に、ブランウイングは忽然と姿を消す。

「ブランウイング・・・!?」

「馬鹿が!」

ガスッ!

「あうっ!」

背後からベルデが蹴りを喰らわす。透明ではファムも対応できない。

「所詮、力の無い奴らだな。芝浦、上出来だ」

アビスとナイトの戦況は、圧倒的にアビスが勝っている。

「ヌアァ!」

ダダダダダダ!

「やばっ!」

<GUARD VENT>

「ぐっ・・・うあああああ!」

ダークウイングをマント型の防具「ウイングウォール」に変え、防御に専念するが、大量の高圧水流の弾丸の前には意味がなかった。

「私に勝てるライダーはいませんよ」

「くそ、どうすれば・・・」

ズダダダダ!

「効かないね!」

ゾルダが使うマグナバイザーの弾丸は、ガイをめがけて飛んでいくが、メタルホーンで防ぎきる。

そして、ゾルダの懐に飛び込む。

いくら防御に優れ、遠距離に長けていても、至近距離に近づかれてしまえば、むやみに発砲は出来ず、強力な攻撃を受ければ大ダメージは免れない。しかも、相手はパワータイプのガイ。

「ハアッ!」

ズガッ!

「ぐあぁ!」

「たいしたこと無いじゃん」

ナイトたちは絶体絶命。潤を助けるどころか、自らが危機に曝されてしまう。

 

少し前の時間にさかのぼる。

龍騎はインペラーの攻撃に応戦する。

さすがに戦うつもりで行けば、インペラーの攻撃を防ぎきることくらいは出来る。

「そうだ、戦え・・・。本気のおまえをおれは潰す!」

「ミツル・・・」

と、そのとき

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

モンスターの反応音が聞こえる。もちろん、同じライダーであるインペラーとサトルも例外ではない。

ちなみにこの反応は先程、ファムとナイトが呼び出した契約モンスターだ。

「モンスター・・・!?」

「余所見をしている暇があるのか!?」

ガッ!

「がはっ!」

しかし、インペラーは戦いを中断するつもりは全くない。それどころか、攻撃の威力はさらに激しさを増す。

「まって、ミツル!モンスターがいる!」

「ふざけるな、モンスターなど関係無い!」

「お願い!」

ふと、あゆがインペラーにむかって叫ぶ。

「お願い、やめて・・・。モンスターが近づいてるんだよ。このままじゃ、他の人が・・・お母さんみたいに・・・」

あゆが今にも泣き出しそうな表情で訴えかける。

インペラーはその表情を見て、動きが止まる。

ある少女の表情とそっくりだった。

(真琴・・・)

インペラーは変身を解く。仮面から現れたミツルの表情は、何かを必死に追い求めているようだった。

「あゆ、行こう!」

<ADVENT>

「ガアアアアアァ!」

龍騎はあゆを連れて、呼び出したドラグレッダーに乗り、モンスターの場所へと向かう。

「ミツル君!」

サトルの言葉ではっとするが、そこにはもう竜也たちはいなかった。

「くそおおおおおおおお!」

 

そして、向かった先には。

「モンスターどころの話じゃない!さっきの反応は契約モンスターだったのか!?」

ライダーたちの大混戦が行われていた。

しかも、ナイトたちは圧倒的に劣勢。龍騎はドラグレッダーから飛び降り、ナイトたちのもとへ向かう。

「え!?た、竜也くぅん!ボクを置いていかないでよぉ!」

取り残されたあゆは、ドラグレッダーの上で悲鳴を上げる。

彼女は本来、高いところは平気なのだが、この状況ではそうも行かない。不安定でそこらの建物よりもずっと高いところに居るのだ。しかも、頼っている龍騎がいなくなると恐怖は倍増。

「あ、ごめん!ドラグレッダー、あゆを安全なところに降ろしてあげて!」

ドラグレッダーは指示通り、あゆを降ろす。

龍騎はアビスたちの前に、ナイトたちを守るように立ち塞がる。

「ごめん、みんな!来るのが遅くなった!」

「た、竜也・・・」

「ほう、来ましたか。しかし、私には勝てませんよ」

ナイトはダークバイザーを杖がわりに立ち上がる。

「竜也。北川が須藤と・・・たぶん、香里たちもそこに捕まっている!」

「そんな!?・・・くそ、何とかこいつらを退けないと!」

龍騎は必死に思考をめぐらす。そして、彼なりの案を思いつく。この作戦にはナイトたちが戦えることが大切だ。

「みんな、まだ戦える?」

「なんとかな」「ああ!」「はちみつくまさん」

ナイトとゾルダとファムは、少しよろけながらも立ち上がる。

「アビスはおれじゃ対応できない。久瀬さん、お願いします!」

「わかった!」

ゾルダはさまざまな重火器を使うライダー。アビスの攻撃にも対応できるはずだ。

「祐一と舞さんはガイを!」

「まかせろ!」

ナイトが返事をし、ファムは無言で頷く。

ガイはパワータイプのライダーであり、防御にも優れている。逆に言えば、そのパワーと防御力の代わりにスピードを犠牲にしている。スピードに優れたナイトとファムが戦えば、勝機は見えるだろう。

つまり、龍騎はベルデを相手にするつもりだ。

今は姿が見えないが、探す策はいくらでもある。

「ドラグレッダー!」

龍騎はその場にいたドラグレッダーに、竜巻状の防御壁を作らせる。その風圧は凄まじく、ベルデは近づくどころか吹き飛ばされ、近くの壁に激突する。

ドゴォ!

「グオォ!」

クリアーベントの能力は厄介だが、使用者が衝撃を受けたり、集中が乱れたりするとその効果は持続しない。ベルデは姿を現した。

「クリアーベントはもう使えないぞ。勝負ありだ!」

「クソォ!」

ゾルダ対アビス。

両者とも遠距離攻撃に優れたライダーであるが、重火器の量などについてはゾルダが勝っている。

<SHOOT VENT><STRIKE VENT>

ゾルダは、ギガキャノンとギガランチャーを同時に呼び出し、強力な攻撃を行う。アビスもアビスクローで迎撃するが、ゾルダの火力が少しだけ上回っていた。

ズドォン!

「ガアアアア!」

ギガランチャーの威力は凄まじく、低級モンスターなら一撃で倒せるほどだ。その攻撃にアビスは堪らず吹き飛ぶ。ライダーであっても大ダメージを負うことは間違いない。

ガイはナイトとファムに翻弄されている。

「ちょこまかとウザッてェな!」

メタルホーンを闇雲に振り回すが、ナイトとファムはそれを正確に避ける。2人のスピードがあるからこそ出来るのだ。

「祐一!」

「ああ!」

<TRICK VENT>

ダークバイザーの音声と共に、ナイトは分身する「シャドーイリュージョン」を発動する。

4人に分身したナイトは、ガイに連続で攻撃を仕掛ける。

「はっ!」「とおっ!」「たぁっ!」「せやぁ!」

ザン、ズバッ、ザッ、ザシュッ!

「グッ、ガァッ、ガハッ、グアッ!」

さすがに、これだけの猛攻を受けたのであれば、ガイといえども、多大なダメージを受けることになる。

あっという間に、戦況はひっくり返った。

「チッ!いったん引くぞ!」

ベルデの言葉で、アビスが津波を起こして姿を消す。他のライダーたちも退散したようだ。

「竜也、助かった!」

「何とか上手く行ったね。とりあえず、潤を探そう!」

龍騎たちはドラグレッダーに飛び乗り、潤を再び探し始めるのだった。

 

「うああああ!」

シザースの攻撃に倒れるライア。

しかし、シザースに屈することなく立ち上がる。

「さて、どこまで耐えられるのでしょうね?」

シザースはそんなライアにも容赦なく、シザースバイザーで斬りつける。

ザンッ!

「ぐあっ!」

再び、地面に倒れ伏すライア。それでも、激痛が走る身体に無理を言わせ、必死に立ち上がる。

「北川君、やめなさいよ!」「そうです、このままじゃ死んじゃいますよ!?」

香里と栞の言葉にも耳を貸さず、シザースによろけながらも向かっていくライア。

「惚れた人の一大事で尻尾巻いて逃げるなんて、これ以上カッコ悪い奴がいるかよ・・・。それにな、おれは死ぬつもりは無い!」

「くさい台詞ですね・・・。虫唾が走る!」

<STRIKE VENT>

ガッ!

シザースピンチを右腕に装着し、ライアの左腕を掴む。鋏型のその武器はライアの腕を千切ろうと凄まじい力で圧迫する。

「ぐあああああ!」

「北川君!」

ライアは必死に抵抗するが、満身創痍の状態でシザースピンチを外すことは不可能。

腕が軋み、感覚が無くなっていく。

「ガアアアアアア!」

ドガァ!

「グオォ!?」

突如ドラグレッダーが現れ、シザースに体当たりをかます。その勢いで、シザースピンチはライアの腕から離れ、ライアはその場に膝をつく。

「潤!手を貸すよ!」

龍騎と仲間のライダーたち、それにあゆが工場の中に入ってくる。

「来るな!」

ライアは声を荒げ、龍騎たちを制し、ゆっくりと立ち上がる。

「せっかく、香里に良いとこ見せられるんだ。・・・おれにやらせてくれよ」

ライアは強がりなのか、それとも彼なりのプライドなのか、仮面の奥でにっと笑う。

「だめだ!このままじゃ、潤が死んじゃう!だから、おれたちも・・・」

龍騎が言い終わらないうちに、ナイトが龍騎の肩に手を置く。

「戦わせてやれ」

「祐一!潤に万が一のことがあったら、どうするんだよ!?」

「あいつなりの覚悟だ」

龍騎はまだ反論しようとするが、少し考えた後、変身をとく。

ナイト、ファム、ゾルダもそれに続く。

その様子を見て、ライアはシザースに向き直る。

「さぁて、続けようか?」

「舐められたものですね・・・私も!」

<COPY VENT>

ライアはシザースピンチを複製し、シザースに攻撃を仕掛ける。

「ハアァ!」

「さっきのお返しだ!」

シザースの攻撃を避け、右腕を掴む。先程のシザースと同じようにシザースピンチに力を入れる。

「グウァ・・・!」

力に負け、シザースはシザースピンチを落とす。

その瞬間、ライアはシザースの右腕を離し、自分の持っているシザースピンチと、シザースが持っていたシザースピンチを装備し、両腕で反撃する。

「うりゃああああ!」

ガキッ!ガッ!

「グアアアアア!」

「くぅっ!」

さすがに強力な攻撃であったのか、シザースは膝をつく。

対するライアも左腕に激痛が走る。あれだけダメージを追った左腕を酷使しているのだから、当然、無理に動かすとそのしっぺ返しが来る。

「おのれェ・・・!」

<FINAL VENT>

シザースは苦し紛れか、一度の変身に一回しか使えない切り札を使用する。その威力は不明だが、ファイナルベントである以上、シザースにとっての最大の技であることは間違いない。

今、ギリギリの状態であるライアがその攻撃を受ければ、おそらく・・・。

「潤、逃げて!」

竜也が必死に叫ぶが、ライアは逃げようとはしない。代わりに1枚のアドベントカードを引く。

そのカードは・・・。

「ファイナルベント・・・!潤、だめだ!ファイナルベントだけはだめだ!」

「安心しろ。何とかしてみせるさ」

<FINAL VENT>

ライアはシザースの攻撃に真っ向から挑むつもりだ。

それぞれ契約モンスターが現れる。

シザースはボルキャンサーに両腕でトスするように飛び、廃工場の屋根を突き破り、空中で「シザースアタック」の準備を行う。

対するライアもエビルダイバーの上に乗り、超高速でシザースに向かって突撃する。

シザースもライアに向かって、高速スピンで急降下する。

「うおおおあああああ!」

「デェアアアアアアア!」

ドガアアアアアア!

廃工場の屋根の上の空で大爆発が起こる。

「うああっ!」

その余波は竜也たちにもはっきりと伝わる。

「北川君!?」

真っ先に香里が辺りを見回す。

拘束されている故に自由に動けないので、煙が晴れるのを待つのみだった。

煙が晴れた先には、鎧がところどころ砕けたライアがいた。

「潤!」「北川!」

竜也たちもライアの下に走り寄る。

「無事だったんだね・・・よかった・・・」

あゆもほっと胸を撫で下ろす。

竜也も同じような表情だったが、何かを思い出したようにはっとする。

「須藤は・・・?死んだりしてないよね!?」

「ああ、あいつはあっちにいる」

ライアが指差した先には、エビルダイバーが気を失った須藤を乗せていた。胸部が上下していることから、生きているようだ。

彼はなんと、ハイドベノンの威力を調整したのだ。しかしそれは、非常に危険な賭け。少しでも強力すぎればシザースは死に、威力が弱すぎればこちらが死ぬのだ。

「ファイナルベントの威力をコントロールできたのか!?・・・いまだにおれもできないのに」

「へへ・・・ギリギリだけどな・・・」

そういうと、ライアは変身をとき、今にも倒れそうになりながらも、香里と栞のもとへ行き、彼女たちを自由にする。

「ありがとうございます、北川さん・・・」

「どういたしまして、栞ちゃん。どうだった、香里?カッコよかったろ」

心配をさせまいと、ジョークを行って香里を笑わせようとするが、彼女はずっと俯いている。

「バカ!もう二度と、あんなことしないで!あなたが死んだら、誰がわたし達を守るのよ!?」

「なんだよ・・・必死になったのに冷て・・・」

香里が顔を上げると、大きな瞳から大粒の涙がこぼれていた。

「死んだら・・・何もかも終わるのよ!?あなたがいなくなったら、わたし・・・」

「・・・すまなかった。心配掛けたな」

潤は真剣な表情で謝る。

「でも・・・カッコよかったわよ」

香里はそっぽを向きながら、ぼそっと呟く。

そのときの表情は少し、笑顔のようにも見えた。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

                       舞踏会?

 

舞のイメージアップを計画してるんだよ

 

                      チェッ!つまんねェ行事だな!

 

こんなときに・・・!

 

 

 

 

第16話「舞踏会」

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ
鎌田マサト=仮面ライダーアビス


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第16話 「舞踏会」

北川潤=仮面ライダーライアが須藤マサキ=仮面ライダーシザースを撃破した次の日。

学校では、いまだに危険に対する措置がとられているので、午前中だけの授業だ。

放課後に祐一は、舞と佐祐理と共に昼食をとっていた。といっても、あまり多く時間は取れない。一定時間になると、職員達が施錠するからだ。

「舞!」

「・・・?」「ふぇ、どうしたんですか祐一さん?」

祐一の突然の大声に少しだけ驚く2人。

舞の眼前に、一枚のチラシが突きつけられた。

祐一は今日、ある計画を立てていた。

「・・・近すぎて見えない」

「舞踏会だよ、舞踏会!・・・ほら、舞ってさ、誤解とは言え、今までの件があるから、あまり良い印象を持たれてないだろ?」

「・・・近すぎて見えない」

今までの件とは、魔物が窓ガラスを叩き割ったりすることに、舞が濡れ衣を着せられていたことだ。今では、久瀬が処置してくれたおかげで、お咎めは無く学校にも登校できているが、無実が証明されたわけではない。

祐一が舞にチラシを手渡す。

そこには、祐一たちの学校で行われている行事の説明があった。その中にでかでかと書かれているのが舞踏会の項目だ。おそらく、近いうちに行われる行事だから大きく記されているのだろう。ちなみに、生徒は自由参加。

「だからな、この企画で舞の本当はすげぇって所を参加した生徒達に、見せてやろうというわけだ」

「祐一さん、舞踏会って中止になったんじゃないんですか?」

佐祐理が言うのも無理はない。モンスターが街で暴れている故に、この行事は取り消しになっているものと佐祐理は思い込んでいた。

しかし、祐一は人差し指を左右に振り、

「ちっちっち、佐祐理さん。今日の朝、久瀬先輩に聞いた結果、今日の夜に行われることが決まってましたよ。こんなときだからこそ開催したほうが良いらしいです。ただ、時間は極端に短くなって、来るのにも5人以上の連れがいないといけないんですがね」

「そうなんですか~」

さらに説明を付け加える祐一。

「香里と北川も呼んでるし、人数は舞と佐祐理さんが来ればクリアです。久瀬先輩によると、外部の人も学校の生徒の友人か保護者なら、来ても良いらしいですよ」

「舞、せっかくだから行ってみようよ?」

佐祐理は早くも上機嫌になって舞を誘うが

「わたし、ドレスなんて持ってない・・・」

「あっ・・・」

盲点だった。舞はそういった衣装を持ってはいなかったのだ。

しかし、そこはお嬢様の佐祐理がフォローを入れる。

「心配いりませんよ、祐一さん。佐祐理がドレスは準備します。あ、そうだ!」

 

「「舞踏会?」」

佐祐理の言葉にきょとんとしている竜也とあゆ。

「ずいぶん、シャレた行事ですね・・・」

感心する竜也。確かに、舞踏会などといった学校行事は聞いたことが無い。

この街の高校の伝統なのだろうか・・・。

「はい、外部の方でも生徒のお友達や保護者なら参加できるそうですから、みんなで行きませんか?ドレスなどの衣装は佐祐理が用意しますから」

「ボクたちの知ってる人たちの中で誰か来るの?」

「佐祐理と舞と祐一さん、それに香里さんと北川さんも来るようですよ」

「へぇ~・・・竜也くん、ボク行ってみたい!」

早速、興味を示すあゆ。しかし、竜也はポツリと呟く

「舞踏会って、ようは踊るんですよね?おれ、全く踊れないんですけど・・・」

「あ、ボクも踊れないや・・・」

その場に行くことにばかり目が行って、肝心なことを忘れていたあゆ。

「踊るのは自由参加です。それに、基本くらいなら佐祐理が教えられますよ~」

少しの間考えていた竜也だが

「しゃっ!じゃあ佐祐理さん、お願いします!あゆ、夜までに覚えられるか分かんないけど、がんぼろうね!」

「うん!」

「あはは~、決まりですね!」

 

変わってここは高見沢邸。

須藤の逮捕を報道しているテレビを見ながら、残念そうにため息をつく芝浦。しかし、そこには失った仲間のことを悲しむといった感情は、一切存在しない。ただ、ゲームで重要だったアイテムがなくなってしまったかのような表情だ。

「須藤さん負けちゃったのかよ。あんなヘタレピンクエイにさ」

須藤は、祐一たちの手によって警察に引き渡され、殺人罪も立証され、あえなく御用となった。

ちなみに、シザースのデッキはいまだに残っており、竜也が保管している。

「そういえば今日、オマエの高校で舞踏会があるらしいな」

「あのつまんねェ企画のこと?」

芝浦は吐き捨てる。どうやら彼は、舞踏会を嫌っているようだ。

もちろん行くつもりは全く無かったが・・・

「あ、相沢クンたちも来るかも・・・ちょっと楽しめるかな」

 

商店街。

名雪は秋子に励まされ、自分から行動を起こすことにした。

「サトちゃん、どこにいるのかな・・・?」

そう、彼女はなんと舞踏会にサトルを呼ぶつもりなのだ。断られるかもしれないが、自分なりに頑張ってみようと決意している。

商店街にはおらず、そこから少し離れた林の中にサトルはいた。

雪を手ですくって、何かぶつぶつ呟いている。

「サトちゃん!」

「・・・なゆちゃん?」

商店街を走り回っていた名雪は、少し息が上がっている。

「そ、その・・・今日の夜・・・」

「なんで、僕の目の前に現れたの?」

サトルは名雪を睨みつける。その目を見た名雪は言葉を続けられなかった。

「鬱陶しいんだよ!もう二度と会わないって言ったよね!?」

声を荒げるサトル。しかし、その表情にはどこか未練がある。名雪にはそう見えた。

だから、続ける。

「今夜の舞踏会、一緒に来て欲しいんだよ!」

「え・・・?」

名雪の言葉にサトルは少したじろぐ。

そのとき

ドガッ!

名雪のすぐ後ろに立っていた木を、突如現れたミツルが蹴る。その風圧で、名雪の長い髪が少し揺れる。

その木はもう少し力が強ければ、折れていたであろう。ミシミシと音を立てている。

「きさま・・・何をふざけたことを言っている?」

「わたしは・・・」

「サトルを見捨てたのは、きさまだろうが!二度と、こいつに関わろうとするな!」

「あなたには関係ない!わたしはサトちゃんに聞いてるの!」

「なんだと・・・!?」

ミツルは憎悪のこもった目で名雪を睨みつける。

少し怯えていたが、名雪もミツルを睨み返す。が、ミツルは全く動じることは無い。

「返事を聞けば満足する?」

ふと、サトルが口を開く。

ミツルは答えを想定しているのか、軽く笑い、名雪は真剣な表情で答えを待っている。

「行くよ。なゆちゃんの想いが、すごく伝わったから」

「サトル、おまえ!?」

「サトちゃん・・・うん、待ってるからね!」

名雪は元気よく頷き、元の道へと帰っていった。

彼女の姿が見えなくなると、ミツルはサトルの胸ぐらを掴む。

「どういうつもりだ?過去と決別したんじゃないのか!?」

サトルは、ミツルの腕を放して言う。

「せっかくだから、メチャメチャにしたら面白いかなって・・・」

「・・・そういうことか。英雄には程遠い行いだな?」

「英雄になるためにやるんだよ」

 

その日の夜。

竜也とあゆはすでに疲れきっている。

レッスンの結果だろう。

「踊るって・・・結構大変だな」

「うぐぅ・・・絵本のお姫様がすごい人に思えたよ・・・」

「でも、お2人とも、すごく上手でしたよ。覚えるのはすごく早かったですし」

そういっていると学校に着く。

祐一、舞、潤、香里、栞、久瀬、名雪が高校の校門の前にいた。

「お、みんな集まってるね!」

竜也は、このメンバーを見てふと気付いたことがある。

「男の人・・・足りなくない?」

そう、男4人に対し女6人と、男が2人足りない。

「そういえば、誰がパートナーか決めてないな・・・」

考え込む祐一を見ていた潤は

「おれは、香里と踊るぜ!」

「ちょっと、勝手に決めないでよ!」

「じゃあ、誰と踊るんだ?」

潤の言葉に反論できない香里。

「・・・わたしに恥をかかせないでよ!」

潤と香里は昨日の一件が終わって、よく一緒に行動することが増えた。潤はとても喜んでおり、香里は満更でもない雰囲気だった。

「オーケーオーケー。それで、あとは?」

「龍崎君はどうするの?」

とつぜん、話を振られて驚く竜也。

「お、おれ?」

「どうやら、わたしの妹はあなたと踊るつもりで来たらしいわよ?」

「し、栞ちゃんが!?」

先程以上に驚く竜也。栞のほうに目を向けると彼女はにこにこ笑っている。

「えへへ、だって竜也さん、初めて会ったときから、優しくていい人だなって思ってましたから」

「うぐぅ・・・ボクも竜也くんと踊りたいよぉ・・・」

栞の言葉に、おずおずと出てくるあゆ。

「ほう。龍崎君、意外とモテるんだな」

「く、久瀬さん・・・」

久瀬の茶々に顔を真っ赤にする竜也。

「しかも、どちらも年下だとは・・・」

「うぐぅ・・・ボク、竜也くんや祐一くんたちと同じ17歳だよ」

「えっ、そうなの!?」「マジ!?」

祐一は目を丸くし、竜也でさえ驚いた。何せ彼女の見た目はどう見ても13~14歳程度。17歳には全く見えなかった。そういえば、年を聞いていなかったことを思い出した。

さっきから驚いてばかりの竜也である。

「竜也くん!」「竜也さん!」

「は、はいっ!?」

「「お願いしますっ!」」

2人の少女からのお誘い。2人とも大切に想っている竜也にとっては相当辛いものだ。

悩んだ挙句、その選択は

「・・・栞ちゃん、ごめんね。おれ、あゆと一緒に行きたいんだ」

「そうですか、残念です・・・」

ため息をついて、肩を落とす栞。

「じゃあ、ボクと?」

「うん。あゆ、おれと一緒に行こ」

「やったぁ!」

とりあえず、竜也の件は一段落。

「倉田さん。僕とご一緒してくれますか?」

「はぇ~、佐祐理とですか?いいですよ」

久瀬はあっさりと決まる。

そして、最後は祐一。

「舞、おれとどうだ?」

「祐一となら、踊るのは嫌いじゃない・・・」

彼女にとっての「嫌いじゃない」は嬉しいや好きなどの感情を表しているのである。

残りは、栞と名雪なのだが・・・。

「あゆさん、疲れたり踊れなくなったら、いつでも言ってくださいね!」

「うぐ・・・」

「竜也さん、そのときはご一緒してください!」

「あ、あぁ、そのときはお願いするよ・・・」

どうやら栞は竜也のことをまだ諦めていないようである。

「名雪は、どうする?」

「わたし、サトちゃんに申し込んでるよ」

「虎水サトルか、大丈夫なのかよ?」

「うん、だって来てくれるって言ってたもん」

嬉しそうに話す名雪。サトルだということが気がかりだが、今は彼女に任せておくほうが良いかもしれない。祐一はそう感じた。

会場内に行く前に、佐祐理の家の車が2台現れる。

「さ、みなさん、この中で着替えてくださいね。衣装もこの中にありますから」

まさに移動式衣装室。

 

着替え終わったのは男のメンバーが先だった。

「・・・遅い!」

「まぁまぁ、タキシードよりドレスのほうが着るのは難しそうだし・・・」

いらだつ祐一をなだめる竜也。

その後、すぐに女性陣が着替え終わり、車から出てきたので、早速会場に入る。

 

会場では観客や生徒共々、たくさん集まっていた。モンスターが暴れまわっている緊急時とはいえ、これだけ人が集まっているのはやはり、こういうときだからこそ楽しむものだと考えているのだろう。

ふと、会場からひそひそと話し声が聞こえる。

「ねぇ、あれって川澄先輩だよね?」「うお、チョー美人・・・」「悪い人でも、着飾るもんだよなぁ・・・」

祐一の考えはいい方向に進んでいた。まさに計画通り。

「やったな、舞」

そして、見慣れない彼らも少し注目されていた。

竜也とあゆである。

「あの子たち、誰?」「あの女の子、すごく可愛いな!」「男の子のほうは、見た目は普通だけど、優しそう・・・」

「お2人さん、早速注目の的の一組だな!」

はやしたてる潤に、香里は

「もう、なにやってんの!」

「うお、ちょっと香里!ひっぱんな!」

ずるずると引っ張られていく潤。

「来てよかったね、あゆ」

「うん、ボクもそう思うよ!」

アナウンスが流れる。

「ただいまより舞踏会のメイン、ダンスを行います。例年より短い時間ですが、みなさん、どうか楽しい時間をお過ごしください」

その後、音楽が流れる。

「サトちゃん来ない・・・」

少ししょんぼりとしている名雪。

それぞれがダンスを始めるが、その中でも注目されていたのはやはり

「川澄さん、こうやって見るとすげぇな・・・」「問題児扱いされてるのがうそみたい・・・」

なかなか好感触。このまま舞踏会が滞りなく進めば、舞のイメージアップは間違いないだろう。

 

しかし、運命とは時として残酷なものだ。

パキィ!

突然、会場内に用意されていたグラスが割れる。

生徒達が、うろたえていると

ドガァア!

「きゃあああ!」「うわああああ!」

会場のテーブルや装飾が破壊されていく。

「魔物・・・!」

「なんだと!?」

唯一、目視できる舞は魔物を見つめる。剣は一応持ってきていたのだが、この場には無い。対抗手段が無いのだ。

「あゆ、安全なところに隠れて!他の人たちも早く逃げてください!」

「おい、早く逃げろ!やべぇぞ!」

「落ち着いて!急ぐんだ!」

竜也たちは迅速に一般人の避難を行う。

魔物はある少女を狙っている。佐祐理だ。

「あ・・・あぁ・・・」

あまりの恐怖に身動き一つ出来ない。

「佐祐理!逃げて!」

 

遅かった。

 

ガッ!

魔物は佐祐理を殴り飛ばす。

少女の身体は宙を舞い、近くの壁に叩きつけられた。

「佐祐理いいいいいいいい!」

舞は喉が張り裂けそうになるほど叫び、会場から走り去る。

そして・・・

「きゃあっ!」

唖然としていた祐一が、女生徒の声で振り向くと、舞が剣を構え、魔物がいるであろう場所を睨みつけている。

まるで、夜叉のような表情だった。

「ああああああああああああああぁ!」

「やめろ、舞!」

祐一の言葉にも耳を貸さない。

叫び声を上げ、舞は魔物に斬りかかる。

しかし、魔物はそれを平然と避ける。

錯乱している状態では、魔物対等に戦うことなど出来ないのだ。

魔物を狙っているが、ほとんど暴れまわっている状態に近い。

「潤、祐一と久瀬さんには変身しないように言って。ここの生徒じゃないおれのほうが、今は戦いやすいから」

竜也は潤の耳元で呟き、ステージの裏に隠れる。

次の瞬間、

「はあっ!」

ガキィ!

ステージの袖から、龍騎が飛び出し、舞の剣をドラグバイザーで止める。

「落ち着いて舞さん!そんな状態じゃ・・・」

「うああああああああああああ!」

しかし、舞は全く聞く耳を持たない。龍騎にさえ、今向けている剣に力を加える。

そのとき

「オラァ!」

ガッ!

「うわっ!?」

龍騎を背後から襲い掛かるガイ。

「今、思いついたゲーム。川澄サンがあの透明な訳のわからん奴と戦ってる間に、こっちでオレと遊ぶ!」

「くそっ、こんなときに・・・!退くんだ、ガイ!」

「却下!」

龍騎がガイに手間取られている隙に、舞は魔物めがけて突っ込む。

「はああああああああああああぁ!」

「ま、舞さん!」

「余所見禁止!」

ガッ!

「うあっ!」

 

名雪は潤達と合流できずに、どうしようかとうろたえている。

と、そこへ

「なゆちゃん」

サトルが現れ、戦地へと歩みを進める。

「サトちゃん、危ないよ!」

「気にしないでよ。僕は君にとってどうでもいい存在なんだろ?」

「そんなこと無い!」

サトルは名雪の手を振りほどき、デッキを構える。

「えっ・・・?」

「変身っ!」

目の前にいたのはサトルだった存在、仮面ライダータイガ。

「サトちゃんも・・・仮面ライダーさん?」

「おおおあああぁ!」

 

龍騎はドラグセイバーでガイの攻撃をやり過ごし続ける。

そこへ

「うおおおおおああああああぁ!」

ガキィ!

「ウオォ!?」

タイガが雄叫びを上ながら現れ、ガイに殴りかかる。

「チッ、タイガかよ!?」

「君は引っ込んでよ」

「・・・無駄なゲームはしないことにするわ」

ガイはそういって、去っていった。

「さぁ、竜也君。あの人を止めよっか?」

「サトル・・・助けてくれるんだな。ありがとう!」

龍騎は喜び勇んで、舞を止めようとするが、

タイガが先に舞のところへ行き。

「はあっ!」

「あぁっ!」

タイガは舞の首を掴む。

「な、なにやってるんだ!」

「止め方は自由だよね?」

「うぅ・・・あぁ・・・」

タイガは舞の首を絞める腕に少しずつ力を加える。

「やめろ!」

龍騎が止めに入ろうとするが、

「えいぁっ!」

ドガッ!

「ぐあっ!」

「昨日の続きだ」

「ミツ・・・ル・・・」

インペラーも現れ、龍騎を阻む。

「はっ!」

「うあぁ!」

タイガは舞を近くの床に投げ落とす。

「うぅ・・・うあああああああああああぁ!」

舞は、立ち上がった瞬間に先ほどのように暴れだし、魔物を探し始める。

闇雲に剣を振り回し始めたそのとき

ザッ!

彼女は何かに覆いかぶされ、剣が何かに突き刺さる。

顔を上げると、苦痛の表情を浮かべる祐一がいる。

剣は、祐一の腕を突き刺していた。舞の手に生温かい血が滑りおちる。

「舞・・・いい加減にしろ・・・」

「祐一!祐一ぃ!」

 

タイガはその様子を見て残念そうに呟く。

「元に戻っちゃったのか・・・ミツル君、僕は帰るよ。後は頑張ってね」

「あぁ、任せ・・・」

インペラーはさらに、龍騎に攻撃を畳み掛けようとするが、場が少し落ち着いてきたために、生徒達が集まり始める。

「くっ、ここは退くか・・・」

少し苛立っていたが、インペラーはタイガと共に会場の窓を突き破って、どこかへ去っていった。

 

そこで一般生徒が見たものは、舞が剣で、祐一の腕を突き刺している姿だった。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

次回!

 

            わたしのせいで、祐一が・・・佐祐理が・・・

 

サトちゃん、どうして・・・?

 

            ここは僕が何とかしよう

 

こんなときだからこそ、みんなで力を合わせないと!

 

            イラつくぜ・・・こんな所に居ると

 

 

 

 

第17話「牢獄の中の狂気」

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ


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第17話 「牢獄の中の狂気」

「おい、なんだよあれ!?」「あ、あの時の…?」

生徒たちが見たものは、片膝をついている仮面ライダー龍騎と、舞が祐一の腕に剣を突き立てている姿。

舞は、はっとして祐一から離れる。同時に持っていた剣も祐一の腕から抜ける。

抜けた拍子に鋭い痛みが、祐一を襲う。

「くっ…」

「祐一!」

腕をかばう祐一に駆け寄る舞。

生徒たちは舞に対して嫌悪の表情を浮かべる。

言葉に出さなかったのは、そうしてしまえば、彼女に襲われると思い込んでいたためだろう。

 

ガッ!

「がはっ!」

突然、龍騎が後ろから衝撃を受けてよろめく。

魔物はまだ居るのだ。

彼らは仮面ライダーの力では対抗することが不可能。対抗するには舞の力が必要だ。

しかし、舞は全く動こうとしない。ショックが大きいのだろう。

(仕方ないか…)

彼女の状態からして、魔物と戦うことは不可能。それに今戦えば、さらなる誤解が舞に降りかかるだろう。

事情をあらかじめ祐一から聞かされていた龍騎は、集まり始めた生徒に叫びかける。

「透明な怪物です!今まで、窓ガラスが割れたりしたのは、やつらのせいなんです!舞さんは無実です!やつ等は、まだこの近くにいます。取り返しのつかなくなる前に、早く逃げてください!」

龍騎の言葉に生徒はどよめく。

「本当…?」「ハッタリじゃねぇの?」「でも、この前もあの人は助けてくれたよね…」

龍騎を信用するか否か。生徒たちは論議している。

「信じてください!少なくとも、おれたち仮面ライダーは、みなさんの味方です!」

「やっぱ、マジだろ…」「逃げよう…」

この言葉を信じた生徒たちの数人が、この場から避難を始めた。

それに乗じて、ほかの生徒たちも逃げ始める。

「何とかうまくいった…」

すぐに気持ちを切り替え、祐一と舞のもとに駆け寄る。

「いまなら、ほかの生徒たちはいない。辛いけど舞さん、この間に魔物を!」

「できない…わたしのせいで、佐祐理や祐一が…」

舞は剣を離す。

「いけ、舞!おまえにしか出来ないことだ!」

「祐一…」

「舞、今は辛いかもしれないし、戦うことに嫌悪するのもわかる。でも、今戦わないと、佐祐理さんみたいになる人が増えるんだ。おれ達には出来ないことだから頼む、魔物と戦ってくれ。佐祐理さんみたいになる人がこれ以上増えない為に!」

「おれたちも全力でサポートするから!」

祐一と龍騎の言葉で意思を取り戻した舞は、再び剣を握り、魔物がいるであろう方向を見る。そして、カードデッキを構える。

「変身っ!」

ファムに姿を変えて、剣を構える。その横に龍騎が並ぶ。

「竜也、魔物はすぐ近くにいる。合図を出すから捕まえて。その間にわたしが…」

「任せて!」

ファムの指示を待ち、龍騎は様子を伺う。

「来た!」

「だりゃあっ!」

龍騎は目の前の魔物にしがみつく。魔物に舞の剣以外の攻撃は通じないが、触れたりすることは出来る。

人間の数十倍の力でしがみつかれたら、さすがの魔物でも逃げ出すことは困難だ。

「はあああああぁっ!」

ズバアアァ!

その隙に、ファムは剣を振りかざし、思い切り振りぬく。

ファムは、魔物が完全に消滅したのを感じた。

「勝った…」

「しゃあっ!」

 

舞踏会の次の日

名雪は再びサトルを探していた。昨日のことを問い詰めるためだ。

彼は一人の人間を傷つけようとしたが、何の理由もなくサトルはそんなことをする人ではないことを名雪は確信している。

昨日と同じ場所にサトルは居た。やはり昨日のように、雪を手ですくって何やらぶつぶつ呟いている。

「サトちゃん…」

名雪の言葉にサトルは振り向く。

「やあ、なゆちゃん。昨日はどうだった?」

あれほど名雪を拒絶していたことが嘘のように、サトルは名雪に対して笑顔だった。

「どうして…どうしてあんな酷いことしたの!?」

「…知りたい?」

サトルは表情を全く変えずに語る。

「僕はね、英雄になりたいんだよ。英雄になれば、誰からも好きになってもらえる。でも、英雄になるためには強くならなきゃならない。そのためには、君への未練をなくさなきゃ。だからね、君に嫌われるようなことをしたんだよ。ミツル君の言うように、昨日の行動は英雄には程遠い行動だけどね」

名雪はそれを無言で聞いていた。

そしてサトルは一言、残酷な言葉を付け加えた。

「でも結構、楽しかったよ。なゆちゃんの友達が苦しんでる姿を見るの」

バチィン!

サトルは一瞬、何が起こったか理解できなかった。名雪が彼の頬を力一杯、叩いたのだ。

彼女の瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。

「サトちゃん…最低だよ…極悪人だよ!」

ドンッ!

「きゃっ!」

突如、背後から名雪は何者かに突き飛ばされた。名雪は体勢を崩し、地面に尻餅をつく。

「本当の悪人はどっちだ?おまえがサトルを見捨てなければ、こいつはそんな行動に走らなかった。サトルをこうしたのは他でもない。きさまだ!」

名雪を突き飛ばしたのはミツルだった。

「わたしはサトちゃんを見捨ててなんかいない!どうしてわかってくれないの!?」

必死に弁解する名雪。

「わかんないよ」

サトルが口を開く。先ほどの表情が嘘のようだった。今にも泣きだしそうな顔だった。

「あのとき、僕と一緒に遊んでくれたのに、相沢祐一君と仲良くして、僕を放っておいたくせに。なのに何で今更、僕にいちいち突っかかってくるのさ!?僕のことなんてどうでもいいくせに!」

これがサトルの本音だった。彼は名雪に見捨てられた。少なくともサトル自身はそう思っている。それが辛すぎて、歪んでしまった。しかし、心の中には今でも7年前の気持ちが残っている。今、悲痛に叫んだこの言葉がその証拠だろう。

「ちがうよ…ちがうのに…」

名雪はうつむいてかぶりを振る。

「いくぞサトル。いくら話しても無駄だ」

踵を返して、ミツルは姿を消す。

サトルもそれに少し遅れてから続いた。

名雪の姿が見えなくなると、サトルは誰にも聞こえないような声で呟く。

「…ごめんね、なゆちゃん」

 

同じ頃。

潤、香里、栞は水瀬家に来ていた。

祐一の見舞いだ。

昨日の件はすぐに教師たちの耳に伝わり、学校は当分の間、休校になった。

学校内でこのような問題が起きたならば、さすがに久瀬でも口出しができなかった。

しかし、龍騎である竜也の言葉を信じた生徒たちの証言によって、舞が濡れ衣を着せられず、今までの疑いが晴れたのは不幸中の幸いだった。

 

「みんな悪いな、心配かけて。だが、2日もすれば治るさ」

祐一の傷は浅かったので生活には支障ないが、ナイトとして戦うのは、今の時点では少し難があるだろう。竜也の判断が決め手となり、少しの間、戦うことはしないことになった。

「その様子じゃ、元気らしいな。あぁ~あ、見舞いに来る必要なんてなかった!」

ドッ!

「ごはっ!?」

潤に鋭い肘打ちを入れる香里。

「まったく…。相沢君、わたしたちに出来ることがあったらいつでも言って」

「わたしたち、いつでも力になりますから!」

隣で沈み込む潤をよそに、笑顔で祐一に話す2人。

「ありがとな、2人とも」

「お、おい!おれは!?」

 

潤たちが祐一の見舞いに行っている間に、竜也、あゆ、舞、久瀬の4人は、佐祐理の家に見舞いに行っていた。

彼女も大事には至らず、少し安静にしていれば、すぐに治るであろうと医師から診断された。

佐祐理の姿を見るなり、久瀬と竜也は頭を下げる。

「ごめんなさい。おれの力不足で…」

「本当に申し訳ありません。僕達がいながら、あなたを守ることができなかった」

「大丈夫ですよ~。佐祐理は平気です」

「元気そうだね。よかったぁ…」

数日前の仮面ライダーを拒絶していた彼女からは想像もできない。ここまで変われたのは、祐一や舞の佐祐理を大事に思う気持ちだろう。

「佐祐理。これからはしばらく仮面ライダーの戦いや魔物の戦いに関わるのは…」

「わかってるよ、舞。みなさんにも心配をかけないようにします。それが、今の私に出来る精一杯のことです」

舞の言葉を素直に聞く、佐祐理。

戦いのことにおいて冷静な対応ができるようになったのも、彼女の大きな変化だ。

 

そして…

ここは竜也たちのいる街と、そう遠くない場所にある拘置所。

その中にいる一人の囚人。

ガンッ!ガンッ!

檻に自身の頭をぶつけている。何度も何度も。

「おい、落ち着け浅倉!」

看守が叫ぶと、ゆっくりとその方向を見る。

その囚人「浅倉タカシ」の額にはおびただしい量の血が流れている。

「イラつくんだよ…こんなとこに居るとな」

ザァッ!

突如、異形の怪物が現れる。

「うわああああああ!」

ガルドサンダーは看守に襲い掛かり、捕食をはじめた。

捕食が終わるころには、非常事態を知らせるサイレンが鳴り響く。

「なんだオマエ?」

「…この場所から解放されたいか?」

もう一体の異形が現れる。その姿は金色に光り輝いており、眩しすぎてよく確認できない。

「私の意思に従い、力を貸すことを約束するなら、オマエにその苛立ちを消すことのできる力を与えよう」

そう言って、金色の影は浅倉にカードデッキを差し出す。そのデッキは毒々しい紫色で、中心にはコブラのレリーフが刻まれていた。

「フン、面白い。やってやるよ」

カードデッキを受け取ると、浅倉の腰部に白銀のベルトが現れる。

「変身!」

浅倉はカードデッキをベルトに装填する。

幾つもの虚像が現れ、浅倉の体を包み込む。

眩い輝きが起こり、それが晴れたところには新たな仮面ライダーがいた。

蛇を模した鎧を身に纏った狂戦士。

「契りは済んだ。さあ、来い!」

金色の影は、そう高々に宣言し、右腕を振り上げる。

すると、檻の中に銀色のオーロラが現れた。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

          脱獄だってよ…

 

アイツらか…?

 

          この世界は…ゲームなんかじゃない!

 

オマエ…オレが、ゲームを…面白くしてやったのに…

 

          近くにいた、オマエが悪い

 

こういうモンなんだろ。ちがうのか?

 

 

 

第18話「狂戦士」

 







キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

生徒たち
看守

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

金色の影


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第18話 「狂戦士」

朝、水瀬家では祐一がテレビのニュースを見ていた。

因みに今日は学校があるのだが、腕の怪我により少しの間、休みを取ることにした。

しっかり休養を取ることも、仮面ライダーとして人を守ることには大切である。

調子が悪ければ、本来の力は出せないのだから。

 

ニュースキャスターは一つの報道を伝えていた。

「昨日、殺人罪により無期懲役を言い渡された、浅倉タカシが脱走しました。浅倉がいた刑務所には、檻が凄まじい力で破壊されていた痕跡がありました。人間の為せる業とは思えませんが…」

 

「脱走だってよ、名雪。この場所の近くじゃないか…。気をつけろよ?」

「うん…」

隣にいた名雪はうなずくが、心此処に非ずといった様子であった。

いままで、名雪とサトルとの事に関わるのは敢えて避けていたが、名雪の様子を見て、祐一は思い切って聞くことにした。

「なあ、名雪。虎水サトルのことで悩んでるんだろ?」

「どうして知ってるの…?」

「本人から聞いたんだよ。おまえ、あいつと友達だったんだろ?おれに話せることがあったら話してみろよ。少しは力になれるかもしれないからな」

名雪は祐一の言葉で、過去のことを話すことにした。

 

祐一がこの家に来る前に、同じ街に住んでいた男の子に逢ったんだよ。その子が虎水サトル君…サトちゃんだった。

「サトちゃん、もうおうちにかえる時間だよ?」

「やだ、かえりたくない!かえったら、また叩かれる…」

サトちゃんは、家に帰るのが嫌だって言ってた。

「じゃあ、わたしのおうちにおいでよ!」

「でも…」

「ほら、いこ!」

今になって思えば、お母さんも多分、事情を知ってたから、サトちゃんが来ることを受け入れてたと思うよ。

「おかあさん、サトちゃんを家にいさせてもいいでしょ?おねがい!」

「了承」

しばらくの間、サトちゃんはわたしの家で暮らしてた。最初はまだ暗かったし、遠慮がちだったけど、少しずつわたしとお母さんに笑いかけるようになっていった。

「なゆちゃん、これからもずっと一緒に居てもいい?」

「うん、ずっと一緒だよ!」

そんな約束もしてた。

でも、いつからか様子がおかしくなった。

「サトちゃん。もうすぐね、わたしのいとこの祐一が来るって!」

「祐一…君?」

「うん、昔からよく遊んでいたけど、これからはずっとわたしの家に住むんだって!」

「そう…なんだ…」

それからしばらくして、サトちゃんは最初みたいに暗くなっていった。

そして…

「おかあさん、サトちゃんが居ない!」

「大変…探さないと!」

でも、サトちゃんの家に行っても、どれだけ探してもサトちゃんは見つからなかった。

それからずっと、サトちゃんは最近まで姿を見せてくれなかった。

 

「これが、わたしが知ってるサトちゃんとの思い出…」

「…おれのせいなのかもな」

祐一は今の話を聞いてそう感じた。自分が家に来なければ、サトルは今のような状態になることもなかったのかもしれない。

「そんなことない!祐一のせいじゃないよ!」

名雪は頭を振って否定する。

「…すまないな」

「ううん、だから祐一のせいじゃないよ」

名雪は再び頭を振る。

「…名雪、おまえはサトルのことどう思ってるんだ?」

祐一は聞く。

彼女のサトルへの感情を知らねばならない。

自分にも責任があるのだから…。2人の絆を修復することが、自分にとっての償いだと思うから。

 

「…す…き…だよ」

顔をこれ以上無いほど真っ赤にして答える名雪。

どんなに彼が変わってしまっても、どんなに拒絶されても、この想いがあるからこそ、サトルを救おうと頑張ってきた。

「そっか。なら大丈夫だ。あいつにちゃんと説明してやれば、わかってくれるさ」

「祐一…ありがとう…」

最近、笑わなくなっていた彼女は久しぶりに少しだけ笑顔になった。

 

「どいつもこいつもマジでウゼェ!」

芝浦は自室で苛立っている。

2日前のことだろう。せっかく上手くいっていたのに、タイガに邪魔をされたのだから。

と、そこに金色の影が現れた。辺りからは金色の羽をまき散らし、後ろにはガルドサンダー、ガルドストーム、ガルドミラージュといった鳳凰型モンスターを従えている。

この3体は契約モンスターなどではなく、操っているといったほうが正確だろう。

「…何?」

「仮面ライダー王蛇の装着者が決まった。彼と共に龍騎達を抹殺しろ」

影の言葉に芝浦は先ほどの苛立ちも忘れ、笑う。

「王蛇が?面白そうじゃん」

「ただ…恐らくオマエ達4人で正面から立ち向かっても、インペラーやタイガが割り込めば、勝利を収めるのは不可能。そこでだ」

影は仮面の奥で笑う。

「オマエがゾルダを倒せ。王蛇、ベルデ、アビスは他のライダーの時間稼ぎをして貰う」

芝浦はあきれたような表情になる。

「その作戦さ、前に須藤サンがやって失敗したんだけど?」

「龍騎達を散らせば良い。以前は全員同じ場所で戦ったが故に、相性の悪いライダーに変えられた。ならば、相性の良いライダーとずっと戦えるようにすれば良い話だ。都合の良いことに、現在、ナイトは戦線を離脱しているうえに、ライアは平然を装っているが、シザースとの戦いの傷がまだ癒えていない。上手くやれ、最高のゲームだぞ?」

「あっそ、分かりましたよ」

 

次の日

街の人々に騒がれれば厄介なので、浅倉は裏路地を徘徊していた。

背後から、芝浦が声を掛ける。

「浅倉サン」

「何だ、オマエ?」

「わかんない?」

訝しげな目で睨む浅倉の目の前に、芝浦はカードデッキを見せる。

「・・・ライダーか。何の用だ?」

「金ぴかサンから聞いてない?オレ達と組んで、龍騎を抹殺するんだよ」

「そんな話だったな」

合点がいったようになる浅倉だが、その目はまだ芝浦を睨み続けている。

「アンタにはインペラーとタイガの時間稼ぎをしてもらうから。2人は、ものみの丘にいるよ。結構、骨があるから楽しめるんじゃない?」

「楽しめる・・・?」

浅倉は一瞬、不思議そうな顔をするが、次の瞬間には大口を開けて笑う。

「ハハハハハハハ!そうだ、楽しまないとな!さぁ、始まるぜ・・・祭りがな!」

「よろしく、凶悪殺人犯サン」

浅倉がものみの丘に向かったことを見届けると、芝浦はカードデッキを構える。

「変身!」

ガイに姿を変え、アドベントカードをベントインする。

<ADVENT>

すると、メタルゲラスがガイの後ろに現れる。

「来いよ、生徒会長サン」

 

キィィン・・・キィィン・・・

久瀬の耳にモンスターの反応音が聞こえる。

「モンスターか・・・!」

久瀬は音のする方へ走る。

そこには、メタルゲラスを従えたガイがいた。

「芝浦・・・!」

「あそぼ。みんなもいろんなところでゲームを始めてるよ」

「この世界は・・・ゲームなんかじゃない!変身っ!」

ゾルダはマグナバイザーを構え、ガイに銃口を向ける。

「ゲームだよ。そしてお宅らは今度こそ本当のゲームオーバー」

 

その頃、竜也たちの目の前にそれぞれの仮面ライダーが現れた。

竜也とあゆの前にアビスが。

「アビス!?」

「君が例え、長い間戦い続けていたとしても、その期間は私のほうが上。それにライダーの相性が悪い君に、私は倒せませんよ」

あゆは心配そうに竜也を見る。

「あの仮面ライダーって、竜也くんが苦手な相手だったよね?どうしよう・・・」

「それでも戦う。誰かが犠牲になる前に!あゆ、下がって。変身っ!」

 

潤、香里の前にはシアゴーストの群れが。その数は10匹程度だろうか。

「おいおい、大量にいるな・・・」

「グウウウウウゥ・・・!」

「北川君、どうするの!?」

潤は未だ、シザースとの戦いのときに負った左腕の傷が癒えていない。

しかし、敵のライダーは集まりつつある。

今、祐一も戦えないのであれば、自分が休むわけにはいかない。

「決まってんだろ。戦うさ。ちょっと身体に無理言わせないとな。変身っ!」

 

舞の前にはベルデが現れる。

「ベルデ・・・」

「いくぞ、クソガキ」

「わたしはクソガキじゃない。わたしの名前は川澄舞、仮面ライダーファム・・・!変身っ!」

「ガキには変わりない。まずはオマエからだ!」

 

そしてものみの丘・・・。

「さぁ、祭りだ!」

ミツルとサトルが住む小屋に現れる浅倉だが、その中はもぬけのから。

どうやら2人は街のほうに行ったようだ。

「イラつかせる・・・この際、誰でもいい!」

浅倉は吠えると、ものみの丘を降りていった。

自分の欲望を満たすことのできる獲物を狩りに行くために。

 

龍騎対アビス。

「だああああぁっ!」

「デアァ!」

ザアアアアアァ!ゴオオオオオォ!

やはり相性が悪い。腕に装備したドラグクローから放つドラグクローファイヤーも、アビスマッシュの前に無効化されてしまう。

その水圧に押され、龍騎は吹き飛ばされる。

「うあああっ!」

「竜也くん!」

「知ってますか?他の場所で君の御仲間が、大変な目に遭ってるかもしれませんよ?」

「・・・まさか!?」

竜也が今、考えた予想は外れていない。舞、潤、久瀬の3人がそれぞれ、敵と対峙している。

おそらく、以前の戦いで相性を見抜かれ、こちらが不利な相手と戦っているのだろう。

「くそ・・・なにか・・・なにか策は無いのか・・・!?」

と、そのとき

<ADVENT>

「ギギイイイイィ!」「ギイイイイ!」

数体の「ギガゼール」「メガゼール」が現れ、アビスに襲い掛かる。

「グウゥッ!?」

「あれは・・・?」

「ガゼール達、アビスを足止めしておけ!」

「おのれ・・・退け!」

龍騎の背後から現れたのはインペラー。そう、ギガゼールとメガゼール達はインペラーの契約モンスターなのだ。

インペラーは他にも「ネガゼール」「マガゼール」「オメガゼール」と言った、ガゼール系モンスターを引き連れているのだ。

「ミツル・・・」

「もう邪魔者はいない。ケリを着けるぞ!」

言うや否や、インペラーは龍騎に向かってとび蹴りで襲い掛かる。

「はあぁっ!」

ガッ!

「くっ!」

インペラーの蹴りを防ぎきることが出来ずに、膝をついてしまう龍騎。

「貴様等ァ!」

<UNITE VENT>

自分を放っておいたことに激昂したアビスは、アビスハンマーとアビスラッシャーを呼び出し、その2体を融合させる。その姿はより鮫に近い姿となり、頭頂部にはノコギリザメを模した角、両側頭部にはシュモクザメを模したエネルギー弾を放つ武器を装備したホオジロザメ型巨大モンスター「アビソドン」が生まれる。

「ギシャアアアアアア!」

ドガアアアァ!

アビソドンはガゼール軍団を一撃で払い除け、龍騎とインペラー目掛けて、エネルギー弾を発射した

ドドドドドド!

「ぐおおああぁ!」

「うああああぁ!」

その威力は凄まじく、辺り一帯は煙に包まれる。

「・・・みんなが危ない。悔しいけど、あゆ、今のうちに一旦、引くよ・・・!」

「わかった!」

<ADVENT>

煙が晴れないうちに龍騎はドラグレッダーを呼び出し、その背にあゆと共に乗り、この場所から離れる。

煙が晴れたときには、龍騎とあゆはその場にいなかった。

「チッ、逃がしたか・・・!」

「くそぉ・・・!逃げるなあああああぁ!」

毒づいて、早々にその場を離れるアビス。どうやら、インペラーと戦うつもりは無いらしい。

一人取り残されたインペラーは怒りの咆哮を上げた。

 

ライア対シアゴースト軍団。

本調子ではないライアは案の定、シアゴーストたちに苦戦を強いられていた。

ガスッ!

「ぐあっ!・・・くっそぉ!左腕さえ、まともに動いてくれたら・・・!」

<FINAL VENT>

突如、どこからかバイザーの音声が聞こえる。

次の瞬間

「はあああぁっ!」

ドガアアアアァ!

黒い影が、凄まじい勢いでシアゴーストたちに突撃した。

ピンポイントな攻撃だったが、上手く攻撃できたらしく、シアゴーストは一掃できた。

炎が消えた場所にいたのは・・・。

「相沢君!?」

驚く香里。

無理もない。そこにいたのは怪我をしている筈のナイトだったのだ。彼は家にいるときに、モンスターの反応音を聞きつけ、黙っていられずに助けにきたのだ。

「いってて・・・無事か北川?」

当然、彼の腕は痛む。ファイナルベントという、仮面ライダーにとって一番、強力な技を怪我人が使ったのであれば、その反動は必ず返ってくる。

「おまえ、平気なのかよ!?」

「じっとしてる方が身体に悪い。だが、これ以上は手助けできないな・・・ファイナルベントも使っちまったし・・・」

変身を解く祐一と潤。

確かにこれ以上、腕を酷使すれば、完治はさらに遅くなるだろう。それだけは避けたい。

「香里、相沢を頼む。おれは他のやつらを探してくる」

「どうして?」

「なんとなく嫌な予感がするんだよ」

「その予感、当たってる!」

空から、ドラグレッダーに乗った龍騎とあゆがやってくる。

「ごめん、潤。アビスに足止めされてて・・・一足遅かった」

「やっぱりか・・・」

後ろにいたあゆはあわてて、ライアに伝える。

「舞さんや久瀬さんもたぶん、ほかの仮面ライダーに襲われてる!このままじゃ・・・」

「こうしてられないな・・・」

「潤、今は休んで」

「なに?」

龍騎の突然の言葉に戸惑う潤。

「いまはまだ、潤は戦えるけど、傷が治ってない。これ以上は、戦える状態で無くなるかもしれないから、少し休んで欲しいんだ。傷を治すために」

「くそっ・・・」

竜也の言葉は事実だ。受け入れるしかない。

「ごめん、潤。その傷が治ったら、また手を貸して」

「あぁ!早く言って来い!」

「あゆは潤たちと一緒にいて。ここから先は、あゆを守りきれるかどうか分からない」

あゆは素直に頷き、ドラグレッダーから降りる。

「竜也くんは大丈夫なの?」

疑問を投げかける。竜也は仲間の中で一番、戦っている。疲れや傷もあるのではないか?

「平気。まだ大きな怪我もしてないし、一番長く戦ってるおれが疲れてたら、みんなに示しがつかないしね。じゃあ、行ってくる!」

龍騎はドラグレッダーと共に、上空へと昇っていった。

仲間を救うために。

 

ファム対ベルデ。

すでにクリアーベントを発動し、姿を消しているベルデ。

「これなら・・・」

ファムはアドベントカードを引く。以前、ガイがいることで失敗した、ブランウイングの突風で、ベルデのクリアーベントを破る方法だ。

<ADVENT>

ブランウイングが飛来し、突風を巻き起こす。

その風で、ベルデは吹き飛ばされる。

「グウゥッ!」

姿を現すベルデ。成功だ。

「やった・・・」

しかし・・・

一人の男が姿を現す。

「やっと見つけたぜ・・・。此処かぁ、祭りの場所は・・・!」

「・・・っ!」

ファムは、その男に見覚えがあった。

以前、生まれたときから唯一の家族であった自分の母親。その母親を殺した男。忘れもしない。

浅倉タカシ・・・。

「浅倉・・・!」

「さぁ、楽しもうぜ」

浅倉は、懐からカードデッキを取り出す。同時に、腰部に白銀のベルトが現れる。

「仮面ライダー・・・!?」

「変身!」

Vバックルにカードデッキを装填すると、その姿は毒々しい紫色の、凶暴な印象のある仮面ライダーへと変わった。

彼こそ最凶のライダー、「仮面ライダー王蛇」。

「アァ・・・」

首を軽く捻り、軽く息を吐く。

「フン、頼もしい。芝浦の聞いたとおりだな。ここは任せよう・・・」

ベルデは、ファムが王蛇に気を取られている隙に、姿をくらます。

「どうして、お母さんを殺したの・・・!?」

ファムは怒りを込めて聞く。

「あぁ?知るか。多分、イラついてたからだろうな」

平然と答える王蛇。彼にとって、人の命を奪うと言うことはその程度のものでしかないのだ。ファムの腕は、次第に怒りで震える。

「許せない・・・!そんな理由で!」

ファムはブランバイザーを王蛇に向ける。

「ハハハ!いいぜェ?」

<SWORD VENT>

王蛇は、杖型の召還機「べノバイザー」にアドベントカードをベントインする。

その左手には、黄金の剣「べノサーベル」が握られる。

「はああああぁっ!」

ファムは王蛇に向かって、ブランバイザーを突き立てる。

・・・筈だった。

ガキィン!

「くっ・・・」

「オォ・・・どうした?」

しかし、それは意図も簡単に防がれた。

「ハッ!」

ガァッ!

「ああっ!」

王蛇は力任せに、ファムを振り払う。

彼女は成す術もなく払い除けられ、壁に激突する。

凄まじい威力だった。自分の知っている感覚で、これほど痛みを感じたことは無い。

魔物の攻撃やモンスターの攻撃、仮面ライダーから受けたダメージの全てを凌駕していた。

「ううぅ・・・けほっ、けほっ・・・」

思わず咳き込むファム。呼吸が苦しい。

「立てよ」

「うっ・・・!」

ファムの頭をつかみ、無理矢理、立たせる王蛇。

「ウオォ!」

ガキィ!

「ああぁっ!」

べノサーベルで思い切り斬りつけられるファム。胸部の鎧は火花を散らすどころか、ヒビが入る。仮面ライダーの武器を持ってしても、仮面ライダーの鎧を破壊することは容易ではない。王蛇の力はそこまで強いのか。

この時点で受けた攻撃は2回。たったそれだけで、ファムは満身創痍に陥るほどだった。

「歯応えが無さ過ぎる・・・」

「舞さぁん!」

空から龍騎がドラグレッダーと共に現れる。

今回はモンスターの反応で駆けつけた訳ではなく、手当たり次第に探していた結果、この場所での戦いを見つけたのだ。

「舞・・・?」

舞と言う言葉で、何か考えているような仕草をする王蛇。

「たつ・・・や・・・けほっ!」

そんな王蛇に構うことなく、ファムのもとに駆け寄る。

「しっかりして!」

「そうか・・・川澄舞・・・。そしてオマエは」

「あれは・・・仮面ライダー!?」

王蛇が漏らした言葉で、ようやくその方向を向く龍騎。

「竜也・・・と言うことは、龍崎竜也・・・。オマエが龍騎か?」

「おまえは・・・」

「竜也・・・。あいつは・・・わたしのお母さんを・・・殺し・・・けほっ!」

息も絶え絶えだが、必死に龍騎に伝えるファム。

「そんな・・・!」

「どうでも良いだろ、そんなこと。早くやるぞ」

「そんなこと・・・?」

龍騎は静かに拳を握り締める。

「自分勝手に他の人の命を奪っておいて、そんなことって・・・!」

「他にどう言えばいい?」

王蛇は逆に問いかける。

「おまえにとって人の命って、そんなに軽いのか・・・!?」

「あぁ?命に重さなんてあるか?」

「だとしたら、おれはおまえを絶対に許さない・・・!」

龍騎は、今にも叫びたくなるほどの怒りを必死に抑えていた。その怒りは、側で倒れていたファムにも伝わる。

竜也がここまで怒りをこめた姿を見るのは初めてだった。

「人の命は、この世界に存在するどんな物よりも重いんだ!!」

龍騎は王蛇に向かって全力で駆ける。拳にこれ以上ないほどの力を込めて。

その龍騎と王蛇の間を一つの影が通り抜ける。

「ぐああああぁっ!」

「久瀬さん!?」

その影はゾルダだった。

「くそっ!」

<SHOOT VENT>

ゾルダはギガランチャーを構える。

「無駄無駄」

<CONFINE VENT>

遠くにいるガイがベントインすると同時に、ギガランチャーは消える。

「やはりダメか・・・!?」

「大丈夫ですか久瀬さん!」

今までの怒りの気持ちを一瞬で捨て去り、大切な仲間の援護に気を掛ける龍騎。

感情のコントロールが出来るのも、城戸真司からの教えゆえなんだろうか。

それとも・・・。

「久瀬さん、ガイはコンファインベントをもう使ってしまいました。今なら何を使ったって無効化されません!」

「・・・そうか、ならば!」

<FINAL VENT>

バイザー音声と共に、マグナギガが姿を現す。

「ファイナルベント!?」

「フフッ」

ガイは鼻で笑い、再びアドベントカードを、メタルバイザーにベントインする。

<CONFINE VENT>

「なに!?」「そんな!?」

マグナギガは姿を消す。

「実はこのカード、一枚だけじゃないんだよね」

ガイが勝ち誇ったように笑ったそのとき

<RETURN VENT>

「?」

どこからか、バイザー音声が聞こえる。少なくとも、この場にいるライダーのものではない。

その音声の後、再びマグナギガが現れる。

「な、なんだよこれ!?」

「よく分からんが、いくぞ!」

「ま、まってください久瀬さん!」

龍騎の制止を聞かず、ゾルダはマグナギガに接続したマグナバイザーの引き金を引く。

ズガガガガガガガガガ!

とりあえず、ファムを安全な場所へと連れて行く龍騎。

王蛇とガイはその銃弾の嵐の中に見えなくなってしまった。

 

煙が晴れたとき

ガイの姿が見えたが、王蛇は見当たらない。

いや、見当たらないのではない。

「グ・・・アァ・・・」

崩れ落ちるガイ。その後ろには無傷の王蛇。

王蛇はガイの後ろにいたのだ。彼はガイをエンドオブワールドの攻撃を防ぐ盾にしたのだ。

「オマエ・・・オレが、ゲームを・・・面白くしてやったのに・・・」

苦しみながら、一言一言を搾り出すように喋るガイに対して、王蛇は悪びれもせず、こう告げる。

「近くにいた、オマエが悪い」

その言葉で、ガイは完全にキレた。

「ふ・・・ざけんなアアアアアァ!」

<FINAL VENT>

バイザー音声と共に、メタルゲラスが現れ、ガイの腕にはメタルホーンが装備される。

メタルゲラスが走りながら、ガイはその頭に足を掛け、猛スピードで突進する。

怒りのままにガイは、王蛇に最大の技「ヘビープレッシャー」を向けた。

「ウオオオオオオオ!」

「ハッ・・・面白い」

<FINAL VENT>

王蛇もファイナルベントを発動する。

「シャアアアアアアアアァ!」

背後から巨大なコブラ型モンスター「ベノスネーカー」が現れる。

王蛇はそれを確認すると、足を揃え、大きく飛び上がる。

「ハアッ!」

宙を一回転し、ベノスネーカーの口元にまで滞空する。

「デェヤアアアアアアアアアアア!」

ベノスネーカーは大量の溶解液を吐き出し、王蛇はその勢いで、ガイにバタ足キックで突撃する。

ドガガガガガガガ!

「グゥッ!ガァッ!ウアッ!」

何度も何度も蹴られ、ガイのヘビープレッシャーの威力は下がっていく。

そして・・・。

ドガッ!

「ウアアアアアアアアアアァ!」

力に負け、ガイは吹き飛ばされる。

鎧は完全に砕け、体中から火花が散る。

「ガァッ・・・!」

ドガアアアアアアアアアン!

最後には、凄まじい威力の爆発が起きる。

炎が消えたところに、ガイはおらず、代わりに王蛇が、何かを手に持っていた。

ガイのカードデッキだ。ガイの鎧はあちこちに落ちていたが、これは無事なようだ。

「そんな・・・!」

龍騎は両膝をつく。

「ひどい・・・。何でこんなこと!?」

「ハハハハハ!こういうモンなんだろ。違うのか?」

王蛇は心の底から笑っていた。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

            最高だ・・・イライラがすっかり消えた・・・

 

あのときのリターンベントって、一体・・・

 

            斉藤ミツルさん、はじめまして

 

サトちゃんの言う、英雄ってなんなの?

 

            よかったらボクに昔のこと、教えてくれない?

 

 

 

第19話 「雪の少女達」

 

 

 






キャスト


龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

芝浦シュン=仮面ライダーガイ
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ
鎌田マサト=仮面ライダーアビス

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

金色の影


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第19話 「雪の少女達」

王蛇は首を捻りながら快感に打ち震える。

彼は人を殺める感覚を、これ以上ない快感としてとらえているのだ。

そして、目の前にいる強敵に対しても、最高の悦楽を感じている。

「龍騎・・・。話によれば、オレたちと敵対するライダーで、ほぼ最強と見て良いそうだな」

「・・・」

龍騎は無言で聞いている。

はっきり言って、今すぐにでも殴りたい。

だが、一つの言葉が龍騎を踏み留める。

「たとえ正義でも、怒りに身を任せれば、そこで悪となり得ることもある」

城戸真司から教えてもらった言葉だ。

そして、不思議な感覚が、龍騎の気分を冷静にさせた。

これだけ残酷な行動を取った浅倉に対しての、怒りが少ない気がする。

まるで、悪に対する憎しみという感情が、異常なほど欠落した気分だ。

「そこのファムは、歯ごたえが無い。オマエなら楽しませてくれるよなぁ!?」

先手は王蛇だ。

龍騎に向かって全力で突進してくる。

「っ!?」

ガッ!

龍騎は王蛇の拳を両腕で防ぐ。

今までの戦いで、感じたことの無い衝撃だった。防御の体制をとっていたため、吹き飛ばされることは無かったが、それでも、踏ん張っている足が少しだけ後ろに下がった。

だが、龍騎も負けてはいられない。

「だあっ!」

ドガッ!

「ウオッ!?」

力一杯、王蛇を殴る。

突然のことゆえに、王蛇はまともに受け、地面を転がる。

「ハハァ!そう来ないとな!」

王蛇は立ち上がるや否や、喜びながら叫ぶ。

その姿に、ファムとゾルダは恐怖を感じた。

彼は痛みさえ、快楽に感じている。そんな相手と、どう戦うのか。

いくら、戦い慣れしている竜也=龍騎でも勝ち目が無い。

 

と、そのとき

「なんだ!?」

王蛇を銀色のオーロラが包み込む。

「緊急事態だ、来い」

銀色のオーロラから声が聞こえる。

まるで、頭に直接響いているようだった。

語りかけているのは王蛇に対してだが、龍騎たちにも、そう聞こえる。

その瞬間、オーロラは王蛇と共に消え去った。

「なんだったんだ・・・?」

あっけに取られていた龍騎だが、はっとしてファムとゾルダを見る。

ゾルダはガイとの戦いの傷が多少あるが、大事には至っていない。

問題はファムだ。王蛇との戦闘で深刻なダメージを負っている。

変身も解けていた。

「舞さん、大丈夫!?」「川澄さん!」

「うっ・・・く・・・」

舞は立ち上がることすらままならない。

「とりあえず、病院に!」「分かった!」

2人は変身を解除すると、舞を担いで、病院まで運ぶ。

その間、竜也はふと考えていた。

「あのときのリターンベントって一体・・・」

 

その姿を、近くの物陰で見つめる影。

タイガだ。

先程のリターンベントは彼が発動したものだった。

「わかんない。僕、何がしたいんだろう?英雄?」

彼は何かが崩れていた。

自分は、なぜ英雄になりたいのか?英雄になろうとした発端はなんだったのか?

英雄とは、どういうものなのか?

「わかんない・・・。わかんない、わかんない、わかんない!うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」

衝動に駆られ、タイガは泣き叫んだ。

 

一週間が経った。

「おつかい、おつかい~」

あゆは、竜也に頼まれてお使いに出かけている。

夕飯の買出しだ。

当の竜也は、舞や祐一のお見舞いだ。

幸い、舞の怪我の回復は良好で、祐一はほとんど治っている。潤の怪我も癒え、今はライアとして戦うことが出来る。

おそらく、仮面ライダーとして戦ううちに、自己治癒能力も多少、向上したと竜也は推測した。自分もこれまでの戦いで、怪我が治るスピードが速くなったことを自覚していた。

鼻歌交じりに、買い物をしていたあゆの視界に、少し見慣れた少年がいた。

ミツルだ。彼はあゆに気づいていない。

あわてて隠れるあゆ。

 

ミツルは珍しく、街を歩き回っていた。

ここ最近、サトルが戻ってこない。何かあったのだろうか。

「探しました、斉藤ミツルさん」

突然、声を掛けられた。

振り向くと、そこには物静かな印象のある少女が立っている。

制服から言って、名雪の通っている高校の生徒らしい。

「はじめまして、天野美汐と言います」

「何のようだ?」

ミツルは睨みつけながら、聞く。

いつの間にか、人を睨むことが癖となってしまったらしい。

「真琴のことです」

「・・・!?」

真琴、という言葉に過敏に反応するミツル。

必死に平然を装う。

「彼女と一緒に暮らしていたことがありますね?」

「だからどうした?」

「あなたに伝言を預かっています」

美汐の発言に少しばかり期待した。

もしかしたら、自分を救ってくれるかもしれない。と

「がんばれ・・・だそうです」

だが、それは彼にとって期待外れだったようだ。たぶん、彼女の以前の知り合いだろう。

伝えたい言葉も嘘と予想する。

そんな言葉だけを伝えるはずが無い。

「ふざけているのか?二度とおれの前に姿を見せるな!」

「いいえ、真琴があなたに伝える言葉がある限り、わたしはあなたの前に姿を現します」

ぴしゃりと言い放つ美汐。

「彼女は、わたしのたった一人の友達ですから」

「消えろ!」

ミツルがそう叫ぶと、美汐はさっさと歩き去ってしまう。。

「ミツル・・・さん」

ふと、怯えたような声が聞こえる。

声のするほうにはあゆがいた。

「きさま・・・竜也の・・・」

またしても睨みつけるミツル。

「あ、あの・・・よかったらボクに、昔のこと教えてくれない?」

「何だと・・・?」

教えられる訳が無い。彼女はおそらく、竜也の大切な人だ。

自分の心の憎しみを曝せば、竜也の耳にも伝わる。

「だめ・・・?」

少し上目づかいになるあゆ。

その仕草が、真琴に似ているような気がした。

「・・・誰にも喋らないことを約束しろ」

「わかったよ」

今日は真琴のことで、調子を狂わされている。

ミツルは、自分自身にあきれながら、過去のことを話す。

 

おれが竜也と孤児院で共に暮らしていたことは知っているな?

それは5年前のことだ。

その3年後、突然、あいつが消え、おれは独りになった。

生活に嫌気がさして、おれは孤児院を脱走した。

辿り着いたのが、ものみの丘だ。この近くの山にある。

そこで、おれは不思議な少女と出会った。彼女はものみの丘にずっと住んでいた。

名前以外、何も覚えていない彼女にとって、唯一の居場所だったらしい。

 

「くそ・・・!どいつもこいつもおれを、厄介者扱いしやがって!」

「あなたも独りぼっち?」

草原の真ん中で倒れていたおれの前に現れた少女がそれだ。

明るいが、どこか、悲しそうな表情だった。

「誰だ、おまえ?」

「あたしといっしょだね」

「目障りだ、消えろ!」

「あう・・・」

おれは最初、彼女を邪険に扱っていた。

次の日もおれは、ものみの丘にいた。

「あはは・・・」

彼女は、おれにあらゆる手を使って、いたずらをした。

「・・・えい!」

「子供だましで、おれを欺けるか!」

バババババババ!

「あ~う~!」

「バカが・・・!」

花火を彼女に投げ返したりしたこともあったな。

邪魔だと感じていたから、返り討ちにしてやった。

何日も、何日も。

ある日。

「はい」

彼女は眠っていたおれに花の冠をかぶせた。

「きさま、良い加減に・・・!」

今までのこともあって、怒りが頂点に達したが・・・。

「あうぅ・・・」

上目づかいに、おれを見つめる。なぜか、怒りの心が和らいでいった。

「えぇい、勝手にしろ!」

「あはは、あたし真琴。沢渡真琴!」

「・・・だからなんだ?」

「名乗ってよ。あたしも教えたんだから!」

なぜか名乗った。

「・・・斉藤ミツル」

「じゃあ、よろしくね。ミツル!」

それから、真琴はおれに、いたずらを成功させて見せると意気込んでいた。

全て返り討ちにしてやったが。

 

「おい、メシにするぞ」「あう~っ!肉まんね!」

「全く…たまには自分の手で食べ物を手に入れたらどうだ?」

「い~の!ミツルがご飯持ってきてくれるから!」

彼女に、久しぶりに安らぎを感じた。

「おれがいなくなったらどうする?」

「着いていく!ミツルのお嫁さんになったら、ずっと一緒だもん!」

「…バカが」

「あうーっ!バカじゃないもんっ!真琴!」

彼女になら心を許せるかもしれない。そう思った。

ずっとおれに関わってくれたから。

 

だが・・・

「あうぅ・・・くるしい・・・」「しっかりしろ。いたずらを成功させるんだろ?」

しばらくして、彼女は高熱を出した。

「ほら、拾い物だが、良いものを持ってきた」

初めて、誰かに贈り物を渡した。

「あうぅ…鈴…」「そうだ。これならおまえがどこに行っても、見つけてやれる」

必死になって看病した。助かって欲しかったから・・・。

だが、どうすることも出来なかった。

 

「今日は晴れてるぞ・・・真琴」

初めて彼女の名前を呼んだ。そのことで、彼女と向き合っていける気がした。

ちゃんと向き合えば・・・もしかしたら・・・。

「・・・だれ?」

「真琴・・・!?」

「手が動かない・・・こわいよぉ・・・」

でも・・・おそかった。

 

彼女は次第に弱り、おれのことを忘れ、言葉を失い、最後には赤子のようになって…

「ほら…鈴で遊ぼう。チリンチリンって鳴らすんだよ…」

「あうぅ…」

子供のような笑みを浮かべながら…。

「良いぞ。今度はおれの番だ。…よし、次は真琴だ」

「あ…ぅ…」

ゆっくりと目を閉じて…

「真琴…お前の番だぞ?…真琴…?」

「…」

真琴はいなくなった。

「たのむよ・・・もう一度、顔を見せてくれ!今度こそ、ちゃんとおまえと向き合うから・・・」

 

「結局、おれはどこでも独りか・・・」

「憎いか?」

そこからだった。おれの復讐が始まったのは。

「憎しみを解き放て。その力を与えよう。今日からオマエは、仮面ライダーインペラーだ」

「憎しみ・・・?そうだ、憎い!おれを見捨てた竜也!厄介者扱いした奴ら!そして、おれを忘れて消えた真琴!復讐してやる!復讐だ!変身っ!」

おれは復讐の力を手に入れた。

 

「暫くして知った。彼女は人間じゃない。妖狐という、ものみの丘にいる狐だ。おれは結局、人外としか接する事ができなかった。いや…その人外にすら見放された。残されたのは同じ境遇の仮面ライダーだけ。話はここまでだ」

ミツルは横を見る。

あゆは泣いていた。

「悲しすぎるよ・・・。真琴ちゃんだって、ミツルさんのことが好きだったはずなのに」

「忘れられてしまえば、何の意味も無いんだよ。分かったら消えろ。おまえを見ていると真琴を思い出す・・・。このままじゃ、おれがおれでなくなる」

「きっと竜也くん、ミツルさんの事を信じてるよ。真琴ちゃんだって・・・」

「消えろといっただろ!」

あゆは、びくりと反応し、とぼとぼと離れていった。

残されたミツルはポケットから、あるものを取り出す。

 

真琴に贈った鈴だ。

 

歯を食いしばってそれを握り、空を見上げて呟く。

「なぁ、真琴・・・。おまえなら答えを知っているのか?」

ミツルの言葉は、復讐の対象であるはずの真琴に向けていた。だが、答えはない。彼女は自分の前から姿を消したのだから。自分を忘れてしまったのだから。

それに、一度回った歯車はもはや止められない。

復讐こそが、彼の生きる糧となってしまったのだから。

「もっと、非情にならなければ・・・」

 

同時刻。

浅倉は、オーロラの中で金色の影と対面していた。

「なぜ、ガイを葬った?」

「緊急事態ってのは、それか」

浅倉は嘲笑する。

「弱い奴から喰われる。分かってるだろ?」

「それがガイだと?」

「悪いか?」

浅倉の言葉を無感情に聞く金色の影。

「戦力が削れたのは、好ましくない。だが、それを越えて、仮面ライダー王蛇という戦力の追加は価値の有ることだ」

金色の影は、浅倉から受け取っていた、ガイのカードデッキからアドベントカードを引き抜く。それは、メタルゲラスと契約した証であるカードだった。

見る見るうちに、ガイのカードデッキのレリーフは消えてゆく。

「使え」

「弱い奴のカードがいるか?」

「貴様は、その弱い奴を喰らったと言ったな。喰らったのなら、その力を糧にしろ」

「なるほどな、悪くない」

浅倉は、メタルゲラスのカードを受け取る。

 

美汐は自分の家へと帰り着く。

彼女には両親が居ない。いるのは、たった一人の友達。

「ただいま、真琴」

家の中で「沢渡真琴」は美汐の顔を見るなり、ニコッと笑う。

「あうぅ・・・」

今の彼女は、言葉を発することも難しいらしい。

美汐はやさしく、真琴の頭をなでる。

「斉藤ミツルさんに、あなたの言葉を伝えましたよ」

「ミ・・・ツ・・・ル・・・」

すこし、声が弱々しかったが、はっきりとミツルという言葉を発する。

今の彼女が発することの出来る言葉はこれだけなのだ。

「真琴の気持ち、きっと届きます。もう一人だけ、助けが必要ですけれど・・・」

そういって、美汐は再び外に出て行く。

近くには竜也が歩いていた。

「舞さんも祐一も何とか大丈夫そうだったな」

2人の回復を竜也は素直に喜んでいた。戦力が戻るという考えは全く無い。

ただ、友達が元気になることが嬉しかった。

そこに美汐が声を掛ける。

「龍崎竜也さん」

「?」

竜也が振り向く。

「斉藤ミツルさんのお友達ですね?」

「そ、そうだけど・・・君は?」

「あなたにお話があります」

 

サトルは、街を徘徊している。まるで、抜け殻のようだ。

「サトちゃん」

名雪が、後ろから声を掛ける。

「・・・」

反応が無い。構わずに言葉を続ける。

「サトちゃんにとって、英雄ってなに?」

「英雄・・・?」

ようやく反応したサトル。歩みを止める。

「わかんなくなっちゃった。誰にも嫌われない、みんなから好かれる人のことだと思ってたのに・・・どうすれば英雄なの?」

「サトちゃん。わたし、あなたが英雄になる必要なんて無いと思うよ」

名雪の言葉に、サトルは目を見開く。

「それじゃ、ダメなんだ!そうでないと、僕はみんなから嫌われたままなんだ!だから・・・」

「ちがうよ」

名雪は後ろを向いていたサトルの正面に立ち、そっと抱きしめる。

「みんな、サトちゃんのことが好きだよ。あんなに、サトちゃんの事、大切にしてるお友達だっている。たとえ、みんなに嫌われても、わたしだけは、サトちゃんのことを好きで、あり続けるから」

名雪は、そっとサトルに顔を寄せ・・・

 

2人の唇が触れた。

 

「信じて・・・」

名雪はそう言い残すと、走り去った。

「なゆちゃん・・・」

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

              人間はみんなライダーなんだよ!

 

おれは、どうすればいい・・・?

 

              邪魔を・・・するな!

 

英雄を捨てたら僕は・・・

 

              サトちゃん・・・

 

ミツ・・・ル・・・

 

              過去と決別する!

 

 

 

第20話 「決意」

 

 

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

川澄舞=仮面ライダーファム
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

金色の影



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第20話 「決意」

「そんなことがあったのか・・・」

近くのベンチで、美汐と話を終えた竜也。彼女はミツルの過去、真琴との関係などを伝えた。

「すべて、真琴から聞いた話です。そして、真琴はミツルさんから聞いたと言っていました」

「真琴ちゃんは今・・・」

竜也が真琴の消息を聞こうとしたそのとき

「真琴・・・」

「この娘が?」

竜也たちの前に真琴が歩み寄ってきた。

「あうぅ・・・」

必死に喋りかけようとする真琴だが、言葉が出ない。

「真琴は一度、記憶を無くしましたが、しばらくして戻りました。そのときに、ミツルさんの話を聞きました。しかし、それから程無くして、記憶を残して、再びこういう状態に・・・」

「そんな・・・」

真琴は竜也の前にやってくる。そしてしゃがみこみ、地面を指でなぞる。

すこし、字が歪んでいたが、こう書いてあった。

 

‘’みつるたすけて’’

 

「真琴ちゃん・・・」

「たぶん、真琴には分かっているんです。ミツルさんが、今、どんな状態なのかを・・・」

ミツルに対する想いはまだ消えてなかった。言葉が出せず、人との交流も困難になっていても、その気持ちだけを強く残していた。

「竜也さん、お願いします。真琴を、ミツルさんを・・・救っては頂けないでしょうか?2人がこのままなんて・・・そんな酷なことは無いでしょう?」

「絶対にやってみせるよ。真琴ちゃんの気持ちだって、ミツルに伝えなきゃいけない。それにミツルは、おれの大切な友達だから」

竜也は大きく頷く。今は恨まれているとしても、きっと伝わる。

斉藤ミツルという人間が、根本から変わってしまわない限り。

「真琴ちゃん、一緒に来てくれないかな?ミツルのところへ」

竜也に向かって、少しだけ微笑んで頷く真琴。肯定の意だろう。

「えっと・・・」

「申し遅れました。わたしは天野美汐といいます」

「じゃあ、美汐ちゃん。真琴ちゃんをちょっと借りるね。話を聞かせてくれてありがとう!」

竜也は美汐に礼を言い、真琴と共に、ミツルのもとへと向かった。

彼を救うために。

「頑張ってください・・・」

美汐はそう心から願って、帰路に着いた。

 

ミツルのもとに向かう竜也たちの前に、一人の男が現れる。

見た目は紳士というものを体現したかのような、壮年の男性だった

「おい、ガキ。その小娘をこっちに渡せ」

しかし、口から出る言葉は対照的であった。

竜也は真琴を庇うようにして、立つ。そして、真琴は怯えながら、竜也の後ろに隠れる。

「おまえは誰だ!」

「斉藤ミツルと、その小娘が会ってしまえば、面倒なことになる。奴がオマエ達を狙うことを、やめる危険性があるからな」

そういって、男は懐からあるものを取り出す。

それは・・・

「そのデッキは・・・おまえがベルデだったのか!?」

そう、この男は高見沢イツキ。

幾度となく竜也たちの妨害をしてきた、仮面ライダーベルデの正体だ。

「変身!」

高見沢は、ベルデに姿を変える。

 

そのころ鎌田は、ついに行動を開始した。

「いい加減、あの女の下で働くことは、我慢ならん。今日で終わらせる!」

彼が指示すると、アビスラッシャーとアビスハンマーが現れる。

「シャアアアアアァ!」

「水瀬秋子を殺せ。もう、記事になるようなことをしても構わん!」

アビスラッシャーたちは鎌田の指示通り、標的の抹殺のために駆け出す。

 

サトルは呆然と、その場に立ち尽くしていた。

「僕は・・・英雄にならなくてもいいの?」

英雄・・・。

自分が非力である故に、孤独だと思っていた故に、力を持ち、人々から名声を得られる存在に憧れていた。

だが、今の自分は非力ではない。今は仮面ライダーという、使い方によっては悪にも正義にも力を発揮できる存在。

そして・・・孤独でもなくなったのか?

「英雄を捨てたら・・・僕は・・・」

英雄に憧れ続けた自分が、英雄への願望を捨ててしまったら、どうなるのか。

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

「!?」

サトルは自然と、モンスターの反応をするほうへ向かう。

長い間、仮面ライダーであったが故の性なのか。

いや…。

 

ベルデ対龍騎。

いつもなら上手く戦えるのだが、今回はそうもいかない。

真琴が離れてくれないのだ。

「真琴ちゃん、危ないから離れて!」

龍騎が必死に叫ぶが、真琴は首を振り、腕にしがみつく。おそらく、怖いのだろう。

仕方がない。目の前には、とんでもなく強大な力を持つ存在がいるのだから。

「どうすれば・・・!」

「おれにまかせろ!」

<ADVENT>

「シュウウウゥ!」

突如、バイザー音声が響き渡り、エビルダイバーが姿を現した。

ズガァ!

「グオアァ!?」

ベルデは対処できずに、エビルダイバーの体当たりを受けた。

そして、龍騎の後ろからライアが現れる。

「潤、けがは!?」

「なぁに、もうピンピンしてるさ」

ライアは龍騎の肩に手を置く。

「よくわからないけど、野暮用があるんだろ?早く行って来いよ」

正直、復帰したばかりのライアを放っておきたくはないが、今回ばかりは彼の言葉に甘えることにした。

「ごめん、潤。すぐ戻ってくる。それまで耐えててくれ!」

龍騎はそう言い残すと変身を解き、真琴を連れて、走り出した。

だが…

「ま、真琴ちゃん!?」

なんと、真琴は竜也の手を突然振り払い、どこかへ走り去った。

すぐさま、竜也も後を追う。

「さぁて、黄緑カメレオン。この仮面ライダーライア様が相手だぜ?」

「フン、ライダーの名前で名乗ることは共感できる。人間はみんなライダーだからなァ!」

 

名雪は、自分の家に帰りついた。

家には秋子と祐一がいる。

だが、その背後から2体のモンスターが迫っている。

後ろから聞こえる唸り声に振り向いて、ようやく気付く。

「きゃあっ!」

「やっぱり来たか!」

ドッ!

「グギィ!?」「ガァ!?」

突然、扉が勢いよく開かれ、祐一が飛び出し、アビスラッシャーとアビスハンマーに体当たりをお見舞いする。

「祐一!」

「はじめて見たときから、こいつは秋子さんを狙っていた。ちょっとドロドロした話だが、秋子さんを狙うとしたら、編集長の座を狙っている奴だ。そんな奴は一人しかいない。だろ、鎌田?」

祐一の言葉で、近くの塀の裏から、鎌田が現れる。

「よく気づきましたね。ですが、それでお終いです。病み上がりでは、私に勝つことは不可能。この場で私が、死刑を申し渡す!」

「名雪、下がってろ!」

祐一は名雪を離れた場所にやり、鎌田と同時にデッキを取り出す。

「「変身!」」

2人はナイトとアビスに変身する。

 

一方、竜也はあゆと合流した。

「竜也くん!ミツルさんのことで話したいことがあるんだよ!」

「えっ…」

あゆは、竜也と共にミツルと真琴を探しながら、ミツルから聞いたことを話した。

話を聞いているうちに、2人はミツルと真琴の思い出の場所、ものみの丘にたどり着いた。

「うぐぅ…本当は、しゃべるなって言われたんだけど…でも、そうしないと…」

「ありがとう、あゆ。ミツルはいろんな人から見捨てられたと思っている…おれに対する恨みはともかく、真琴ちゃんのことは、教えてあげないと…」

「やはり喋ったか…」

後ろからミツルが現れる。とっさにあゆは竜也の後ろに隠れる。

「きさま…お喋りが過ぎたな…。竜也、ここまで知られたら、もう後には引けない。ここで決着をつけるぞ!」

「おれや真琴ちゃんに復讐して、それからどうするんだよ?」

「なに…?」

竜也の言葉に首を傾げるミツル。

「復讐しようとしている間は良いかもしれない。でも、果たしてしまったら、ミツルはどうする?」

「…」

ミツルはそこではじめて気づいた。

復讐を糧にしている自分は、それが終わってしまえばどうなるのか?

だが…。

「もう遅いんだよ…。ここまで復讐に囚われた今、この感情を捨ててしまえば…」

「あう…」

途中で喋ることをやめた。

目の前に、復讐の対象としつつも、逢いたいと望んだ人が現れたのだ。

「ま…こと…?」

あゆは、真琴を見るのは初めて。ミツルの話よりもずっと弱々しく、大人しかった。

「あの娘が、真琴ちゃん?」

「あうぅ…」

真琴はゆっくりだが、確実にミツルに近づく。

ミツルは、はっとして真琴を睨みつける

「やっと現れたな…!おれを忘れ、復讐鬼にさせた最後のきっかけ…おまえも復讐の対象だ!」

ミツルは真琴に向かって、走り寄る。

「もうやめろよミツル…」

竜也の悲しそうな言葉で、ミツルは止まる。

「真琴ちゃんに会いたかったんじゃないのか?大切な人なんだよ…?」

「黙れ!復讐がおれの糧だ!第一、そいつはおれのことを忘れたんだよ!」

ミツルは頭を抱えて叫ぶ。

「ミ…ツル…」

真琴の消え入りそうな言葉で、ミツルは目を見開く。

「真琴…!?」

彼女が、ミツルの名前をたどたどしいが呼んだ。もう覚えていないはずなのに…。

一歩ずつ近づいていく真琴。

「来るな!これ以上来ると…」

ミツルは怯えるようにデッキを翳す。

「変身っ!」

インペラーに姿を変え、両手を広げる。

「どうだ、見ろ!もう、おまえの知っている「ミツル」は死んだ!ここにいるのは、復讐に囚われた「仮面ライダーインペラー」だけ…!」

そんなことにも構わず、真琴はインペラーを抱きしめる。

「ミツ…ルぅ…」

「どうしてだ…!なぜ、今更!?」

「真琴ちゃんは、記憶を取り戻したけど、言葉が話せないんだ。それでも、ミツルの事だけは今でも想っている!だから力を振り絞って、ミツルって言葉だけは話してる…。真琴ちゃんが「がんばれ」しかつたえなかったのは、それしか伝えられなかったからだ!」

竜也の言葉を聞いているうちに、インペラーは変身を解いた。

「この娘がおれになんて言ったかわかるか?みつるたすけて…だって。言葉で言えないから…文字で書いて…」

「黙れ、うるさい、喋るな!ここで、真琴を受け入れてしまえば、おれは今までの自分を否定することになる!それは…おれ自身の放棄だああああああああぁ!」

ミツルは獣のように叫び、真琴と竜也に蹴りかかる。

「どうしてだぁっ!」

ドガァッ!

竜也はミツルを殴った。ミツルは地面に倒れる。

彼は、悪のライダー以外の人間には絶対に暴力を振るわない主義だ。それが、自分の大切な友人を殴った。

初めての事だった。

「竜也くん!?」

「竜也…」

「ここまで想ってる真琴ちゃんの気持ちを、どうして理解できないんだよ!?」

竜也は走り去った。

あゆは倒れているミツルに語りかける。

「黙ってろって言ってたのに、話してごめんね…。でも、真琴ちゃんも、竜也くんもミツルさんのことを信じてるって言ったよね?…ボク、何も言える立場じゃないけど、ミツルさんは、今でも優しい人だって思うよ…真琴ちゃんに復讐するって言ってたのに、その真琴ちゃんとの思い出の場所で、ずっと暮らしてたもん」

そう言って、あゆは竜也の後を追った。

取り残された2人。真琴は、ミツルのそばに寄り添う。

「ミツ…ル…」

「真琴…」

真琴は、近くの花を摘む。そして…。

「あう…」

花で作った冠をミツルの頭にかぶせる。

「…すまなかったな、真琴。竜也からの一撃と、おまえのおかげで、やっと目が覚めた」

ミツルは、真琴の頭をそっとなでる。真琴は嬉しそうに、そしてどこか恥ずかしそうにする。

「復讐なんて意味がなかった。おれの周りには、こんなにあたたかい人がいたのにな…。あいつにデカい借りができた。返してやらないとな」

ミツルは立ち上がる。

「来てくれ、真琴」

 

アビスとナイト。

アビスが圧倒的に勝っている。もともとアビスの能力が高いうえに、病み上がりのナイトでは戦うことは困難だ。

<STRIKE VENT>

「ハアァ!」

ザザァ!

「うわあああぁ!」

アビスクローから飛び出す、アビスマッシュの前に為す術もなく倒れるナイト。

「祐一!」

名雪がナイトを抱き起す。

「終わりです」

<FINAL VENT>

アビスの契約モンスターが合体して、アビソドンが現れる。

アビソドンの作り出した津波に乗り「アビスダイブ」の準備に入る。

広範囲の攻撃故に、今のナイトと名雪では回避することは困難…いや、不可能だろう。

しかし、

 

<FREEZE VENT>

「何!?」

バイザー音声と共に、アビソドンの動きが止まる。津波も消え去り、アビスは地面に叩き付けられる。

「なゆちゃん、祐一君、大丈夫!?」

現れたのはタイガだ。

「サトちゃん!」「虎水!?」

タイガは、アビスを見据えながら、名雪とナイトに語りかける。

「僕にとって、英雄なんて本当はどうでも良かったんだ!なゆちゃんに好きになってもらいたかったんだ!だから、みんなから好かれるような、英雄になろうとした。なゆちゃんが望むなら、僕は英雄を捨てる。本当に大切なのは、なゆちゃんだから!」

「サトちゃん…!」

今のタイガの仮面の奥にある瞳には、確かな光が宿っていた。

「おのれェ…タイガアァ!」

アビスは雄叫びをあげ、タイガに襲い掛かる。

<STRIKE VENT>

「はああぁ!」

タイガは、巨大な爪型の武器「デストクロー」を両腕に装備する。

アビスの攻撃をデストクローの手甲部分で防ぎ、渾身の力を込め、爪の部分で切り裂く。

「でぇやあああぁ!」

ズバァ!

「グワアアアアァ!」

さすがに強力な一撃であった。アビスはもんどりうって転がる。

<FINAL VENT>

「ガルルルルルルゥ!」

タイガがデストクローを捨て去り、ベントインすると同時に、虎型モンスターの「デストワイルダー」が現れる。

「うおおおおあああぁ…!」

タイガの両腕から冷気があふれ出す。

「グルルゥ!」

ザァッ!

「グオォ!」

デストワイルダーは自慢の爪でアビスを切り裂く。

「でぇああああああぁ!」

ドガアアアアァ!

グロッキーになったアビスに、冷気を込めた拳を突き出した。

タイガの必殺技「クリスタルブレイク」である。

小規模の爆発の後、変身が解け、気を失った鎌田と、アビスのカードデッキがあった。

「なゆちゃん、今までごめんね。もう大丈夫だから」

名雪はタイガを強く抱きしめた。

「わたしも、ごめんなさい…。サトちゃんを傷つけちゃって…」

泣いてはいるが、精一杯笑いかけている名雪を、タイガは優しく抱き返す。

「もういいよ。祐一君、なゆちゃんをお願い。僕にはもう一つやらなきゃいけないことがあるから」

 

竜也はあらかじめ龍騎に変身し、あゆと共にライアとベルデのいる場所にたどり着く。

「潤、遅くなった!」「潤くん、無事!?」

「セーフだぜ、竜也。ベルデは強力だ…いや、大したことないな。今日はおれとおまえでダブルライダーだからな!」

ライアは、冗談交じりに言う。

「ダブルライダーか…。良い響きだ!」

龍騎はすぐに共感し、ライアと共にベルデを見据える。

「ならば、こちらもダブルライダーと行こうか?」

「ウオォォ!」

ベルデが手を振り上げると、突如、王蛇が奇襲をかけてきた。

「うわっ!?」「あぶねっ!」

「何をやっている…。オレも仲間に入れろォ!」

王蛇は戦える喜びに打ち震えながら、龍騎とライアに殴りかかる。

「こいつが王蛇か!?」

「あぁ、気を付けて。こいつは今までの、どのライダーよりも強い!」

説明している隙に、ベルデはアドベントカードをベントインする。

<COPY VENT>

ベルデは龍騎に姿を変えた(以下、C龍騎)。

「うお、どうなってんだ!?」

「龍騎の力、使わせてもらおうか!」

C龍騎は、ライアに殴りかかる。能力はオリジナルの龍騎とほぼ互角。

それにベルデの力が上乗せしているため、さらに強力である。

ガスッ!

「がはっ!」

「潤!」

「龍騎ィ!」

ライアの身を案じた龍騎だが、間髪入れずに王蛇が襲い掛かる。

「くそっ、王蛇!おとなしく、刑務所に戻れ!」

「戻るかよ、あんな最高にイラつく場所にはなぁ!」

<SWORD VENT><SWORD VENT>

王蛇がベノサーベルを呼び出すと、龍騎もドラグセイバーを呼び出す。

「オオォラァ!」「はあぁっ!」

ガキィン!ガァン!

2人は巧みに武器を操り、ほぼ互角と言っていいほどの戦況だった。

しかし

<STRIKE VENT>

「なに!?」

「ウラァ!」

ドガッ!

「ぐあああぁ!」

王蛇はメタルホーンを呼び出して、龍騎の腹部に攻撃を仕掛けた。

突然のこと故に、龍騎は対応ができなかった。

「それは…ガイのメタルホーン…!?」

「あぁ、メタルゲラスの力を使ってるんだよ。いいぜ、イライラがすっかり消えた…」

王蛇は首を捻る。

絶体絶命…。

C龍騎とライアでは実力の差が大きく、王蛇は2体の契約モンスターがいる。いくら龍騎でも能力に差が出てしまう。

王蛇は2枚のアドベントカードを引く。それはベノスネーカーのファイナルベントと、メタルゲラスのファイナルベントだ。それを龍騎に見せつける。

「2枚あるぜ。どっちが好みだ?」

「こんなところで…負けられないのに…!」

王蛇は鼻で笑い、ベノスネーカーのファイナルベントをベノバイザーに挿入しようとする。

そのとき、

 

「「変身っ!」」

どこからか、声が聞こえ、龍騎達は辺りを見回す。

「せぇあぁ!」「たあぁ!」

ドゴッ!ガスッ!

そして、現れたインペラーが王蛇に蹴りをかまし、タイガがベルデを殴り飛ばす。

インペラーは真琴を抱きかかえている。

「チィ…!」「貴様等…!」

「ミツル、サトル!」「おまえら…!」「来てくれたんだね!」

インペラーは龍騎に手を貸す。

「立て。おまえに借りを返さなきゃならない」「僕達も、みんなと一緒に戦う!」

「わかってくれたんだ…!」「へっ、焦らせやがって…。待ちくたびれたよ!」

龍騎はインペラーの手を借りて立ち上がる。タイガも、ライアが立ち上がることを手伝う。

そして、真琴はインペラーから降りる

「見てろよ真琴。これがおれなりのケジメだ!ここで、本当の意味で過去と決別する!」

「オォ…。うまそうな獲物がわんさか出てきたぜ!」

王蛇は新たな敵の出現にも、さらに歓喜の声を上げ、龍騎とインペラーに襲い掛かる。

「ミツル、いくよ!」「おまえが仕切るな!」

インペラーは拒絶しながらも、龍騎と共に王蛇に立ち向かう。

が…。

またしても、銀色のオーロラが現れ、王蛇を包み込む。

「おい、もっと遊ばせろ!」

王蛇はオーロラの中で訴えかけるが、その意思を無視し、オーロラは王蛇と共に消え去る。

「また逃げた…!」

悔しそうに地団太を踏む龍騎。

そして、インペラーは。

「おい、そこのピンクライダー」

「なっ!?おれはライアだ!」

ムキになるライアを軽くあしらうインペラー。

「どっちでも良い。ここはおれとサトルにやらせろ。いいな、竜也?」

「ったく…わかったよ」「…頼む!」

ライアはぶつぶつ言いながらも、龍騎と共に下がる。

C龍騎の前にタイガとインペラーが立つ。

「サトル、英雄を捨てるつもりか?」「ミツル君こそ、復讐はいいの?」

2人は皮肉を言い合いながらも、仮面の中で軽く笑い、共に構えを取る。

「図に乗るなァ!」

C龍騎は怒りの叫びをあげ、タイガとインペラーに走り寄る。

「確かに龍騎だが…竜也の龍騎には足元にも及ばんな。てぇあぁ!」

ガスッ!

インペラーは嘲笑し、C龍騎の攻撃を避け、上段蹴りを決める。

その拍子に、コピーベントの効力がきれた。

「おのれェ…!」

「人のマネごとをしてるようなら、僕とミツル君には勝てないよ?」

「舐めるな!」

「グウウウゥ!」

ベルデの言葉で、シアゴーストたちが現れる。その数は相当だ。

とっさに構える龍騎とライアだが

「おれたちにやらせろと言った筈だ!」

<FINAL VENT>

「ギギィ!」「ギィィ!」

インペラーがベントインする。すると、辺りからガゼール系のモンスターが大量に現れる。

全てのシアゴーストは、ガゼールたちによって行く手を阻まれる。それでも、ガゼール達は数に余裕がある。

「はあああああぁ…せいっ!」

インペラーは合気道のような構えを取り、ベルデに向かってキックの体勢をとる。

「ギイイイイィ!」

ガッ!ガキィ!ガスッ!

「グフッ!ゴアァ!グゥア!」

残ったガゼール達はベルデに向かって、持っている武器や腕に着いている刃で攻撃しながら、駆け抜ける。

そして、最後にインペラーが龍騎と同じ様な、ライダーキックの体勢を取る。

「ああああああぁっ!てぇあぁ!」

ドガァ!

「グアアアアアアアァ!」

インペラーの必殺技「ドライブディバイダー」が炸裂し、ベルデは変身が解けた。

爆発が起こらなかったのは、インペラーがパワーを最小限に抑えたからだ。

残りのライダーたちも変身を解く。

「こいつ、高見沢グループの社長さんじゃないか!」

高見沢のことを兼ねてより知っていた潤は、かなり驚いた。

「とりあえず、こいつを運んでくれないかな。あゆとサトルもお願い」

竜也は2人に頼む。おそらく、ミツル達と話がしたいのだろう。

「はいはい」「わかった」「うん、ボクたちにまかせて」

2人はそれが分かったのだろう。素直に応じる。

 

あゆたちが離れた後、程無くして美汐が現れた。

「あうぅ…」

真琴はゆっくりと歩み寄るが、美汐はそれを手で制する。

「ミツルさんに、真琴の思いは届きました。わたしの役目は終わりです」

「美汐ちゃん…」

「真琴には、誰よりも大切にしてくれる人が帰ってきてくれました。今は、その人にたくさん甘えてくださいね。でも、これでお別れではありません。困った時はいつでも助けにきます。真琴はわたしの友達ですから。ミツルさん、真琴をよろしくお願いしますね」

「…わかった」

美汐はほんの少しだけ笑うと、歩き去って行った。

「あ…」

真琴は追いかけようとするが、ミツルが真琴の腕をつかむ。

「行くな真琴。もうどこにも行くな…」

「ミ…ツル…」

真琴はミツルの顔を見ると、ミツルに抱き着いた。

「竜也、感謝する。おれもおまえと共に戦おう。これ位しないと、この借りは返せそうもないしな」

ミツルは、竜也に向かって笑いかける。

久しぶりの笑顔だった。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                …2人ものライダーが消えたか

 

竜也、わたし達を鍛えさせて…

 

                じゃあ、真司さんから学んだことを教えるね

 

あいつは…!

 

                我が名はオーディン。13番目の仮面ライダー…!

 

 

 

第21話「金色の不死鳥」

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
北川潤=仮面ライダーライア

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ
鎌田マサト=仮面ライダーアビス

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇


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幕間
登場人物紹介(追加分~主人公side~)


 

沢渡真琴

「Kanon」の世界の住人。

ミツルがインペラーになる少し前に、彼と出会い、共に生活していた記憶喪失の少女。

いたずら好きな性格で、ミツルの寝ている隙にいたずらを繰り返すが、返り討ちに合うのが常であった。

唯一、自分を見つめてくれるミツルに恋愛感情があった。

実はものみの丘に住む「妖狐」が、記憶を代償に姿を変えたものである。

次第に妖力を失い、言葉を発することなど、生活に支障が出るさまざまな症状が現れ始め、最終的には、すべての記憶を失いミツルの前から姿を消したが、言葉を失ったまま記憶を取り戻して、美汐に世話をしてもらっている。

 

 

天野美汐

「Kanon」の世界の住人。

真琴の友達。ミツルと真琴が離れ離れになった後、真琴を自分の家に住まわせて、身の回りの世話をしていた。その時期に記憶を取り戻した真琴から、ミツルや、彼から聞いた竜也の話を聞き、特にミツルの今の状態を救おうと、影で奔走していた。

 

 

虎水サトル=仮面ライダータイガ

「Kanon」の世界の住人であるが、原作には登場していない。

子供の頃、両親からの虐待から逃げていたときに出逢った名雪に好意を持っており、仲良くしていた少年。しかし、祐一を見て、名雪は祐一が好きだと勘違いして、彼女の前から姿を消していた。その後、人から好感をもたれるには英雄になればいいと考え、「仮面ライダータイガ」として、自分と似た境遇であるミツルと共に戦うことになる。竜也達とは敵対しているものの、一般人を襲うことは無い。

本来は純粋で、優しい性格であるのだが、過去のことで性格が歪んでしまっていた。

名雪の思いが通じて、英雄への願望を捨てて竜也達の仲間となる。

 

 

斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

「Kanon」の世界の住人。

名前の「ミツル」は「仮面ライダー龍騎の異世界」が融合したために改変された(元の名前は不明)。

物心ついたときから両親がおらず、孤児院でも友達がいなかったが、竜也と出会い心を開くが、彼が姿を消し、後に出会った真琴も記憶を失って姿を消し、人間不信になる。

その後、自分を陥れた世界に復讐するため、「仮面ライダーインペラー」として、自分と似た境遇であるサトルと共に戦う。竜也達とは敵対しているものの、一般人を襲うことは無い。

サトル以外の世界全てを憎んでいるが、昔は思いやりがあり、友達を何よりも大切にしていた。

真琴達の想いを知り、自分の行動の無意味さを理解して竜也達の仲間となる。仲間ライダー内では実質的なサブリーダー。

 



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登場人物紹介(追加分~敵side~)

須藤マサキ=仮面ライダーシザース

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

「雪の街」で起こる怪奇事件の捜査をするために、警視庁から送られた若い刑事。

しかし、それは表向きの姿であり、真の姿はオーディンの手下「仮面ライダーシザース」として龍騎をはじめとする、モンスターたちと戦うライダーの抹殺のために送り込まれたライダー。普段は物腰が丁寧だが、仮面ライダーの力に異常といえるほど慢心しており、自らの勝利のためなら手段を選ばない卑劣な性格。

 

 

芝浦シュン=仮面ライダーガイ

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

祐一たちの通う学校で、ゲームサークル「マトリックス」を創り、サークルに入った生徒を裏からゲームのキャラクターのように操っている。この世界をゲームとしか考えておらず、弱いやつは死ねばいいとまで考えている。

オーディンから、最高のゲームができるという口車に乗せられ「仮面ライダーガイ」として龍騎達の抹殺に手を貸す。

 

 

高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

「雪の街」の隣市にある大手企業、「高見沢グループ」の総帥。全てを手に入れたかに見えるが、その欲望は尽きることはなく、超人的な力を得るためにオーディンと契約し、「仮面ライダーベルデ」となった。普段は紳士的であるが、その本性は過激かつ粗暴で、目的のためには手段を選ばない卑劣漢。

 

 

鎌田マサト=仮面ライダーアビス

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

秋子の勤め先の編集社「WATASHIジャーナル」の副編集長。

編集長の席をひそかに狙っており、そのためだけに、オーディンと契約し、「仮面ライダーアビス」となり、秋子を執拗に付けねらう。

須藤と同様、普段の物腰は丁寧だが、自分の保身のためなら、他人を陥れることもいとわない。

 

 

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

感情の赴くままに多くの人間を理由なく殺害し、拘置所に拘留されていた凶悪殺人犯。

自分の中に理由なく溢れてくる闘争心と憎悪に溺れ、常に暴力の中で生きてきたことから、身の回りに暴力がなくては生きられない性質を持つ。彼の凶暴さを金色の影に目をつけられ、「仮面ライダー王蛇」となり脱獄。オーディンの指示でさまざまな人間、ライダーを抹殺する。

舞の母親を殺した張本人だが、自身は人を殺しすぎて、それをはっきりと覚えていない。

 

 

 



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第四章 13人目
第21話 「金色の不死鳥」


鎌田はモンスターに頼らず、自分の力で秋子を殺そうとしていたこともあり、その証拠が真琴によって探し当てられ、須藤と同様に、警察へと身柄を引き渡された。高見沢グループは突然、解散を発表し、高見沢についても消息は不明となった。

サトルは名雪の家で暮らすことになり、ミツルと真琴は竜也の家で暮らすことになった。

サトルとミツルに関しては、秋子の協力でWATASHIジャーナルで働かせてもらえることにもなった。

3人は新たな生き方を見つけることができた。

 

数日後。

竜也は祐一たちに呼び出され、久しぶりに百花屋に訪れた。呼び出したメンバーが仮面ライダーばかりだったので、ミツルとサトルもついてきた。後は、気になってついてきたあゆ、美坂姉妹、佐祐理、真琴、名雪。

…結局、この物語で竜也や仲間の仮面ライダーと関わりが深い者は全員集まってきた。

「一体、どうしたの?」

竜也の言葉に、真っ先に口を開いたのは舞だ。

「竜也、わたしたちを鍛えて」

最近、祐一、舞、潤、久瀬の4人は戦いにおいて、完全に竜也の足を引っ張っていることを感じていた。自分たちが危機に晒されると、竜也が助けに来るというパターンが多くなっている。

「どう考えても、おれたちは竜也に比べて弱い。このままじゃ、いざというときに何もできないかもしれない」

「そうだよ、だから頼む!なんかコツか何か教えてくれよ!」

祐一の言葉に潤も同調する。

「確かにこのままでは、竜也どころか、おれやサトルの足手纏いになりかねないな。特にそこのピンク」

「なんだと!そもそも、おれはライアだ!いい加減に覚えろ!」

ミツルの呟きに食って掛かった潤。潤は歯軋りして、ミツルを睨みつける。相当悔しいらしい。

「あうぅ…ミツル…」

ふと、隣にいた真琴が悲しそうな目をしながら、ミツルの服の袖を掴む。

ミツルはため息をつく。

「…わかったよ、すまない北川。おれたちも手を貸そう。竜也ほどいかなくても、少しは教えられるはずだ。いいかサトル?」

「うん、僕たちのほうが祐一君たちよりも戦った経験は長いしね」

サトルもニッコリと笑って頷く。

サトルとミツルは、竜也が初めて龍騎に変身した時と、少し遅いが、ほぼ同じ時期に仮面ライダーになったので、実力に多少は自信がある。

「というわけだ。龍崎君、僕らを鍛えてくれ」

「ちょ、ちょっと待ってください。みんな、買い被りすぎだよ。おれはそこまで強くないから」

竜也は両手を振りながら、謙遜する。

しかし、あゆが急に竜也に訴えかけた。

「竜也くん、やってみようよ。竜也くんがどこまで強いかなんて、ボク分からないけど、みんなが頼ってるんだよ、竜也くんのこと」

あゆの言葉にかなりの時間、首を傾けて考えていたが、ようやく口を開く竜也。

「…じゃあ、おれが真司さんから学んだことを教えるね。どこまでやれるかわからないけど」

とりあえず、一同は百花屋から離れ、人目につかない広い場所へと向かった。

 

そのころ、浅倉は金色の影に苛立ちをぶつけていた。

「なぜ止めた?もっと遊べたのによ」

「あの状況を思い出せ。ライダーが4人では、どう考えても分が悪すぎる。王蛇でも敗北していただろう。以前、私が居た世界の王蛇は、他のライダーとは、能力を含めて一線を越えている。その能力を引き出すために、オマエを敗北させるのは勿体無い」

「勝ち負けなんて、どうでもいいんだよ!オレは戦えれば…。そういえば、ベルデは見捨てたんだな。なぜだ?」

浅倉は気になったことを聞いた。自分だけ助けたとしても、そばにいたベルデを助けないことはおかしい。

「ベルデはいずれ、反旗を翻そうとしていた。愚かにも、私を倒して更なる力を渇望していたのだ。例え味方であろうと、私に仇なすものは徹底的に排除する。今は見込みがあるが、貴様も例外ではないぞ」

金色の影は少しだけ凄みを利かせて、浅倉に語りかける。

「まぁ、オレは戦えるのなら、どうでもいい」

全く気にせずに、鼻で笑う浅倉。

「だが・・・今の状況は不味い。2人ものライダーが消えた。沢渡真琴の記憶と言語を消し、インペラーと引き離したにも拘らず、タイガを含めて彼らは敵にまわってしまった。不本意だが、龍騎達の前に姿を現そう。もう一つだけ不安要素も有る」

金色の影は、そう言い残すとオーロラと共に消え去った。

 

そして竜也は、特訓にちょうどいい場所を探し当てた。どうやらそこは採石場の跡地らしい。

特訓を始める前に祐一たちを集めて座らせる。

「焦らすなよ。早く始めようぜ」

「潤、これから話すことは、特訓する前に、絶対に覚えていて欲しいことだから聞いて」

真剣な表情の竜也に、少し縮こまる潤。

「仮面ライダーにとって、一番、戦いに影響するのは何だと思う?」

「・・・?」

「・・・経験・・・か?」

無言で首をかしげる舞と自分なりに答えを言う祐一。

「それもそうだけど、もっと影響するのは、『意思』だよ」

「意思?」

「そう。憎しみにしろ、愛情にしろ、そういった意志のファクターが直接、仮面ライダーの能力やその能力の引き出しに影響を及ぼすんだ。例えば、大切な人を守るために戦ってきたのに、その人を失ったら、力は著しく低下する。憎しみも、その対象を失えば同じように・・・っていう風に真司さんから学んだよ。潤がシザースと戦っていたとき、あんなにボロボロだったのに、勝利することが出来たのは、香里さんや栞ちゃんを守りたいと思う気持ちが強かったから」

一同は静まり返って、竜也の話を聞いていた。

「竜也、聞きたいことがある。おれは以前、おまえを憎んでいた。それが今は皆無だが、おれの力はそんなに下がっていないと思うが?」

ミツルの疑問にも丁寧に答える。

「それは、ミツルが真琴ちゃんを守りたいって言う気持ちが、同じくらい大きかったからだよ。逆に、大切な人を失っても、憎しみの感情が強くなったら、同じように・・・」

久瀬は、竜也に聞く

「じゃあ僕達は、まだ意志が弱いってことなのか?」

「経験の短さもあるだろうけど・・・。厳しいこと言うかもしれません・・・まだ弱いと思います。でもライダーになったばかりで意志が強い方がおかしいですよ。仕方ないんです」

竜也は申し訳なさそうに言った。

「でも、こればかりはおれが教えることはできない。おれはみんなに戦い方を教えるだけ」

そういって、すくっと立ち上がる竜也。

「さぁ、やってみようか。まずは・・・祐一!」

「お、おぉ!」

竜也が突然手を向け、飛び上がる祐一。

「変身して、おれと戦ってみよう」

 

数分後。

龍騎とナイトが対峙している。

「ファイナルベントを使ったら大怪我しちゃうから、それ以外のアドベントカードなら、何でも使っていいよ」

「分かった!じゃあ、いくぞ!」

<TRICK VENT>

ナイトはシャドーイリュージョンで3人に分身した。

ダークバイザーで龍騎に斬りかかる

「はあっ!」「せあぁ!」「とあっ!」

龍騎は3人がかりの攻撃を上手く避ける。

「たぁっ!はぁっ!だぁっ!」

ガッ!ドッ!ガスッ!

その後、背中やうなじにチョップを決める。しかし本気というわけではない。

その証拠に、ナイトは全く苦痛を感じないが、シャドーイリュージョンは解ける。

「リーチが長くても、闇雲に振り回したって、絶対にあたらない。相手をよく見て!」

「くそっ!」

今度は龍騎の懐まで駆け寄るが

「距離を縮めても同じ!」

ドンッ!

「うお!?」

ナイトのダークバイザーを持つ右腕を受け止めて、突き飛ばす龍騎。

「ナイトはスピードが速くて、ソードベントを使っているとき意外は小回りも効く。相手に正面から行かないで、相手の死角に向かって。アドベントカードも、トリックベントやナスティーベントみたいに特殊なものが多いから上手く応用して。次は舞さん!」

「おい、もう終わりかよ!?」

ナイトの抗議に龍騎は

「みんな平等に教えなきゃ。今は、おれが言った課題をこなすように努力して」

と返す。口答えできずに変身を解く祐一。

 

「はぁっ!」

ファムはブランバイザーで龍騎に立ち向かう。ナイトへの助言を聞いて、自分も小回りが利くはずと考え、死角に入ろうとする。

「だめだ!」

ドンッ!

「くっ!」

龍騎はファムの背中を取り、突き飛ばす。

「戦い方は良いけど、ファムとしてはあまり良くない。魔物との戦い方は、仮面ライダーの戦い方とは違う。戦闘スタイルを変えてみて。ファムの場合は手数が長所だから、参考にね。ファムはガードベントが強力だから、上手く使うといい筈だよ。よし、潤!」

 

「いっくぜ!」

<SWING VENT>

ライアはエビルウイップを振り回す。

「たあぁ!」

カァン!

龍騎はそれをジャンプで避け、ライアの脳天にチョップ。小気味良い音がしたのは気のせいだろう…多分。

「スイングベントは使い勝手が難しい。これに関しては慣れるしかない。ライアの最大の特徴はコピーベント。相手や味方が使う強力な武器をコピーして使えば、戦況は大きく変わる。武器が少ないのが辛いけど、上手くすればライアはものすごく強くなるから。次、久瀬さん!」

 

<SHOOT VENT>

「ふんっ!」

ドンッ!

ギガキャノンを龍騎に向けて放つが、受身を取って避ける龍騎。

「はあぁ!」

ブンッ!

「っ!?」

そのままゾルダの懐に入り込み、腹部に拳を突き出す。…とは言っても、本気で当てているわけでもなく、いわゆる「寸止め」というやつだ。

「ゾルダは遠距離タイプだけど、攻撃の前後に大きな隙が出来ます。その間に懐に入られないように、マグナバイザーで怯ませたりする事が得策ですね。シュートベントはその後の方が良い筈です」

 

「おれが教えられることはこれくらいだと思う」

一通り、教え終えた竜也。

祐一たち4人は唖然としていた。まるで手玉に取られている。

「改めて思ったよ。竜也くんって、ものすごく強い…」

「同感です。やっぱりヒーローです…!」

「わたしも、彼の見る目が変わった気がするわ」

「はぇ~、すごいです」

「びっくりだよ~」

ライダーではない女性メンバーも驚きの表情。2人ほど驚いてないような気もするが、まあ、置いておこう。

「最後に一つ。間違っても、憎しみや怒りで力を増すことはやめて」

竜也の脳裏に城戸真司から学んだ記憶がリフレインする。

 

「真司さぁん。もうそろそろ、仮面ライダーをやらせてくれてもいいじゃないですかぁ…。龍騎が良いですけど、他でも我慢しますから…」

その頃の竜也は15歳半ば。戦いのことを十分に理解できていなかった頃。

「まだ駄目だ。今のお前じゃ、戦うときの感情をコントロールできない」

「戦うときの感情?」

首をかしげる竜也。城戸真司は竜也の肩に手を置く。

「いいか。今のお前は戦いに対して、どういう感情を持っている?」

「えっと…人の命を奪うモンスターたちを絶対に許せないから、戦うんじゃないかと思います…」

竜也の答えに、ゆっくりと左右に首を振る城戸真司。

「それでは、まだ戦わせることは出来ない」

「じゃあ、どうすれば…」

「その答えは、自分で見つけろ」

城戸真司はそういって、後ろを向く。

「さぁ、帰るぞ。今日は餃子だ」

「ほんとですか!?真司さんの餃子、最高です!」

 

(今ならわかりますよ、真司さん。人を守るために戦えってことですよね?)

「竜也?」

舞が呼びかけ、現実に戻る竜也。

「あ、ごめん。真司さんのこと、思い出してた。とにかく、力を増すなら、別の感情でね」

「別の感情って、たとえば?」

訓練をしていないが、質問するサトル。

「…その答えは、自分で見つけないと」

 

その日から数日、戦闘技術を磨くために組手などを行った。

主に、龍騎はナイトとファムを(1人ずつ)、タイガがゾルダを、インペラーがライアを、それぞれ訓練の相手をした。

ナイトはウイングランサーを呼び出して、龍騎に攻撃を仕掛けるが、意図も容易く避けられる。

「祐一、ナイトの特徴を思い出して。ここではソードベントを使わないで!」

「あぁ、ダークバイザーだけってか!」

「祐一、人の話を聞いてない」

「うるさいな!」

 

ゾルダはタイガをマグナバイザーで一発でも当てようとする。

しかし、タイガは俊敏さに長けたライダー。そう簡単に命中することはない。

ダダダダダダダダ!

「射撃の練習には十分な俊敏さだ!」

「あまり余裕ないんじゃない?」

ザッ!

「くっ!」

「もっと、がんばろ?」

 

ライアは既にスイングベントを発動してしまった。コピーベントはインペラーがアドベントカードを使わないため、使用できない。

「どうしたピンク。おれは、まだアドベントカードを使ってないぞ」

「ったく、偉そうにしやがって!おりゃあぁ!」

「まだ無駄な動きが多いぞ。せあぁ!」

 

ひとときの休憩。

「あぁ…疲れたぁ…」

「お疲れ、北川君」

潤は地面に大の字で倒れている。そして、その潤に、予め冷やしておいたタオルを渡す香里。

「サンキュ、香里」

「お姉ちゃん。最近、北川さんと仲良くできる機会が少なかったから、いい機会だよ。もっと、お話したら?」

「う、うるさいわよ!」

栞の呟きに、真っ赤になって否定する香里だが、説得力がない。

サトルとミツルは、真琴と名雪と穏やかにお話をしている。

「ミツル…」

「よしよし、いい子で待ってたな」

「あうぅ…」

「サトちゃん、大変だったね」

「ううん。ぜんぜん平気。ありがと、なゆちゃん」

久瀬は柄にも無く、汗だく。しかし、それを拭ってくれるものは誰もいない…筈だったが。

「久瀬さん、どうぞ」

佐祐理が久瀬の額の汗を、冷やしたタオルで拭い、水を入れたコップを渡す。

「ど、どうも…」

「何かあったら、いつでも言ってくださいね」

「え、えぇ…」

佐祐理の満面の笑みに、顔を伏せる久瀬。少し良い雰囲気である。

竜也も意外と疲れていた。やはり変身前の体力は他の者と変わりないらしい。

「教えることも…結構…キツイなぁ…」

「竜也くん、大丈夫?」

あゆは心配そうに、竜也の身の回りの世話をする。

「ありがとう。あゆのおかげだよ」

「え?」

「最近、戦いで怒ったりすることがあってね。みんなに教えたとき、真司さんの言葉を思い出せたよ」

竜也は、無意識にあゆの頭を撫でる。あゆは顔を真っ赤にする。

「た、竜也くん…。ボク、子どもじゃないよ…?」

「あ、ごめん。…そういえば」

祐一と舞も同様に疲れ切っていた。

「くそぉ…全然ダメだな…」

「わたしも…」

「舞さん。聞きたいことがある」

竜也は舞の前に来て喋りかける。

「足、引きずってるよね?」

「…!そんなことない…」

竜也は、強引に舞のズボンを捲り上げる。

「おい、たつ…え?」

祐一は慌てて止めようとしたが、舞の素足を見て絶句した。

舞の足は膝下から焼け爛れたような跡があった。

「いつから…?」

「…ミツルとサトルと出会う少し前から。でも、怪我をしたような覚えはない。原因もなにか分からない…」

観念した舞は、竜也にすべて話した。竜也もそれが嘘だとは思わなかった。

「…取り敢えず、しばらくの間、戦うことはやめて。魔物は、おれたちで何とかしてみせるから」

 

「それは不可能だ」

 

突如、頭の中に響くような声が、この場にいる全員に聞こえる。

そして、銀色のオーロラが現れた。

「王蛇か!?」

とっさに身構える7人。

しかし、そのオーロラからは、眩い金色の光が溢れ出し、その中から人影が現れる。

それは…

「あいつは…金色の…仮面ライダー!?」

黄金の鎧を身に纏った、荘厳な印象のある仮面ライダーが現れた。辺りからは、金色の鳥の羽のようなものを、周囲にまき散らしている。

金色の仮面ライダー…。

竜也の言っていた最後の仮面ライダーと完全に一致している。

「謹聴するが良い。我が名はオーディン。13番目の仮面ライダー…!」

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

おまえが諸悪の根源か!?

 

私と共に戦え…!

 

              あいつが言っていることって…正しいんじゃ…

 

命を奪ってる時点で、それは正しいなんて言えない!

 

おのれ、ディケイド…!

 

 

第22話「戦いの意義」

 

 







キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斎藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン(金色の影)

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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第22話 「戦いの意義」

竜也は直ちに、仮面ライダーではない者を、避難させる。

「あゆ、みんな、安全な所に隠れて!あれが真司さんの言っていた、金色のライダーだとしたら…」

「わかったよ。みんな、早く逃げよう!」

あゆは残りの者たちを避難させる。

「変身!」

竜也、祐一、舞、潤、久瀬、サトル、ミツルの7人は仮面ライダーに変身する。

7対1の状況であるにもかかわらず、オーディンは全く動揺を見せない。

「おまえが諸悪の根源だな!」

ライアはオーディンに向かって叫ぶ。

「心外だな。私は悪業を行った覚えは無い」

「ごちゃごちゃ言うな!」

「待って、潤!」

龍騎の制止を無視して、エビルウィップを振りかざしたライアは、オーディンに攻撃を仕掛ける。

 

それと同時に、何処かの時計塔の鐘が鳴り響く。

 

「愚かな」

「うおりゃあ!」

バチィン!

電撃を纏ったエビルウィップは、ポツリと呟いたオーディンにぶつかる…筈だった。

「な…!?」

だが、オーディンは目の前から姿を消す。残っていたのは、金色の羽のみ。

そして直後に、ライアの後ろに姿を現した。

「北川、後ろだ!」

「えっ…」

ズガアアアアァ!

「ぐああああああぁ!」

インペラーは、ライアに指示を送るが、それよりも先に、オーディンはゆっくりとした動作で、ライアに向かって腕をぶつける。

たったそれだけで、ライアは数十メートル吹き飛ばされ、その先の壁に激突する。鎧も、あちこち砕けていた。

「くっ!」

その光景に恐怖を感じたゾルダは、オーディンに向かってマグナバイザーを連射する。

しかし、同じようにオーディンは姿を消し、ゾルダの背後に現れる。

「久瀬先輩!」

ナイトとファムは、ゾルダを救うべく、背後のオーディンに向かう。

ズガアアアアァ!

「うわあああああぁ!」

しかし間に合わず、先ほどと変わらぬ動作で腕をぶつけ、ゾルダは吹き飛ぶ。

「寄るな」

ドガアアアアアァ!

「うあああああ!」「あああああぁ!」

そして、走ってきたファムとナイトを、同様にあしらう。

「くそ…いくぞ、サトル!」「うん!」

タイガとインペラーは、同時にオーディンに向かって地面を蹴る。

だが、今度は姿を消すことはせず、右手をゆっくりと翳す。

ゴオオオオオ!

「ぐおおおおああぁ!」「わああああああぁ!」

すると2人は、凄まじい衝撃を感じ、やはり吹き飛ばされた。

この時間は1分にも満たない。それだけで一気に追いつめられた。

「みんなしっかりして!」

龍騎は、倒れ伏した仲間たちに走り寄る。

「命が大事だろう?ならば、私と戦おうなどと考えるな」

「なら、どうして現れた!どうしてみんなを傷付ける!?」

龍騎は質問と同時に、オーディンに攻撃を仕掛ける。

しかし、その拳はオーディンに当たることはない。彼が居た空間を通り抜けるのみ。

近くの壁に背を付け、死角を取られないようにするが、今度は目の前にオーディンが現れる。

「っ…!?」

咄嗟に避けようとするが、オーディンは、龍騎を逃すことはなかった。

「私に刃向うからだ」

ズザザザザザァ!

「うぐああああああぁ!」

辺りの金色の羽が龍騎に触れる度、鎧が切り裂かれ、小規模の爆発が何度も起こる

「ぐぅっ…がはぁっ!ぐあぁ…」

龍騎の仮面の下から真っ赤な血が滴り落ちる。恐らく、吐血してしまったようだ。

「竜也くんっ!竜也くんっ!」

「ぐぅっ…!あぁ…」

あゆは見ていられず、龍騎のもとに駆け寄り、彼の名を呼びながら揺するが、彼は苦しそうにもがくのみ。今まで、あゆが戦地に近づけば、どんなに傷ついていても、彼女の身を案じていた竜也。しかし、今回は彼女に身を案じることはない。苦痛が彼の感覚を支配していたからだ。自分が無力であることを、あゆは改めて強く感じた。

圧倒的過ぎる…。まるで歯が立たない。これが、金色のライダーとの差なのか?このままでは…

 

負ける。

 

「提案だ。私と共に戦え…!」

オーディンの言葉に一同は唖然とした。

「…説明が必要だな。私はモンスターの殆どを操作できるが、全てでは無い。シアゴーストやゲルニュート、ガルドサンダー等だけだ。オマエ達が戦ってきた、ソロスパイダーといったモンスターは、秩序なく暴れているのみ。オマエ達には、それを倒し続けて貰いたい」

倒れ伏していたナイトはオーディンに怒鳴る。

「おれたちは、言われなくても戦っている!」

「もう一つ。この世界で悪と言われる人間の始末だ」

「え…」

「問題無いだろう?なにも、罪も無い人間を殺せなどとは言っていない。…とは言え、オマエ達は心の有る者。人を殺すことに躊躇することは分かる。猶予を与えよう。明日の、この時間まで待つ。良き返事を待っているぞ」

そう言って、オーディンは銀色のオーロラと共に、姿を消した。

 

次の日。

まだ、オーディンとの約束の時間まで余裕はある。竜也の家に昨日の一同が集まった。

あちこちに血が滲んだ絆創膏や湿布を張り付けている祐一たち。

竜也は、オーディンによる攻撃の傷が深く、自分の部屋で、あゆに介抱されているため、この場にはいない。

「どうする…?」

久瀬が言っていることはもちろん、オーディンの提案を受け入れるかどうかだ。

「モンスターを倒せっていうのは構わない。だが、人間を殺すことは納得できないな」

尤もな意見のミツル。彼には、真琴が離れないようにしがみついていた。

「でも、断ったらどうなるか位、分かるだろ。今回ばかりは、竜也でも敵わない。おれたちが負けたら、やつの思う壷になるんだぞ」

祐一の言葉で、全員が俯いた。

正直、この場にいる誰もが、竜也が居れば、そして7人全員が力を合わせれば、何とかなるという気持ちが心の何処かにあった。しかし、それは昨日で崩れ去った。オーディンのたった一撃で、全員が倒れたのだから。

「でも、受け入れれば、それこそオーディンの思い通りになっちゃうよ…」

「でも、悪い人間だけって…正しいんじゃ…」

ポツリとつぶやくサトルに、頭を抱えて悩む潤。

悔しそうに、両手の拳を握りしめる舞。

「どうすれば…」

その近くで、香里、栞、佐祐理、名雪が円を描いて座っている。

「何もできないことって、こんなにも、もどかしいものなのね」

「竜也さんたちが、あんなに傷ついてるのに…」

香里と栞も、無力であるが故の悔しさを噛みしめている。

「じゃあ、今のわたしたちに何かできることって…ないのかな?」

「みなさんの怪我の応急処置くらいしか、わたしたちには…」

名雪の言葉に、今、自分の思いつく最高の考えを言う佐祐理。

 

「それだけでも…良いと思う」

「竜也くん!まだ起きちゃダメだよ!」

そこへ、体中に包帯を巻いた竜也と、彼を支えるあゆがやってきた。

「誰にだって…できることに限りがある。戦えるおれたちが異常なだけ。みんなが無力だなんて全然…思わない。みんなが応援してくれたり、助けてくれることが…おれたちにとって何よりも力になるから…」

他の人の言葉なら納得がいかなかったかもしれない。だが、つらい過去を背負い、長い間戦ってきた竜也の言葉だから、肯定できた。

「祐一、舞さん、潤、久瀬さん、サトル、ミツル。確かに…今の状態じゃオーディンに勝てないかも…しれない。でもさ、何のために…特訓してきたの?こういった困難に立ち向かえるように…するからこそだよね?だから、オーディンの要求は受け入れない。…命を奪ってる時点で…それは正しいなんて言えない!」

それだけ言うと、竜也は床に膝を着いた。

一同は、竜也に身を案じ、駆け寄る。

「でも…今回ばかりは、一緒に戦えないや…。これから先の戦いで…みんなに迷惑かけたくないから…。肝心なところで…本当にごめん…」

「気にすんなよ。おれたちも結構休んだりして、迷惑かけたからな」

潤は竜也に肩を貸し、何とか立たせる。

「それも借りを返すうちの一つだ。任せておけ」

「ミツル…」

ミツルが微笑んで言うと、真琴も嬉しそうに笑った。

「わたしも、今回は行く…」

「おれたちの特訓の成果、今こそ見せる時だな」

舞と祐一も決意を新たに立ち上がった。

「僕もだ。これは自分の決断だからな」

「僕も。なゆちゃんや、みんなが好きだから」

久瀬とサトルは意志のこもった瞳で言う。

6人は、一斉に家を飛び出した。

 

昨日の採石場に着くと、そこには既にオーディンが高台で佇んでいた。

「答えは決まったか?」

「あぁ、決まったぜ」

オーディンの問いに、祐一たちはカードデッキを翳すという形で反応した。

「それが答えのようだな…」

オーディンは感情がないように呟く。

「変身っ!」

姿を変えたナイト、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラー。

正直なところ、勝てる気がしなかった。昨日は惨敗だったうえに、今は一人、しかも最も頼りになる竜也が居ない。だが、逃げる訳にはいかない。竜也との約束だからだ。

オーディンは、仮面の奥で少しだけ表情を変える。だが、それがどういった表情かは分からない。

「私は、一人の妹を想う人間によって生みだされてから、長い間、意志を持たずに戦ってきた。だが、その人間が消えたと同時に、私は自由意志を手に入れた。そして、私が生まれた世界が消えてから、この世界に渡った」

オーディンの言葉にナイトは疑問を感じる。

「おまえが生まれた世界って…」

「私は、この世界の住人ではない。別の『龍騎の世界』で生み出された存在」

「別の『龍騎の世界』…?」

「平行世界というものだ。ここは、また別の『龍騎の世界』。この世界に渡ることができた理由は分からん。だが、この世界での私の役割は見つけられた。この世界を、真の平和へと導くことだ」

ライアは、憤りを感じた。

「だから、悪と言われる人間を殺すっていうのか!?」

「それこそが、平和への扉を開く鍵だ」

「言ってくれるな。王蛇のような、どうしようもない悪人を仲間にして、おれたちを殺そうとしておきながら…」

インペラーもオーディンに反論する。

「最初は本当に心のある者は、私に賛同するはずはない。だが、すでに私以外は王蛇のみ…。明らかに戦力不足だ。オマエ達を取り込まない限り」

「でもな…やっぱりアンタには賛同できないな」

「たとえ、どんなに悪い人でも、生きる権利はある…」

ゾルダとファムは、改めてオーディンの言葉を強く否定する。

「それに、なゆちゃんやみんなが悲しむ…」

「そして、命を奪ってる時点で、おまえは正しくない!」

オーディンは、鼻で笑う。

「やはり、ある程度、想像できた答えだったな。龍騎の入れ知恵だろう。まぁいい、これで心置きなく、オマエ達を消せる」

オーディンは組んでいた両腕を広げるが…

「…だが、今はその時ではない。奴らがこの世界に来る。それが済んでからだな」

そう言って、銀色のオーロラと共に姿を消した。

「覚えておくが良い。本当の敵は私ではない。いずれこの世界に悪魔が来る。全てを破壊する存在…ディケイド。それが本当の敵だ」

この言葉を残して。

 

竜也の家に戻ってきた祐一たち。

「大丈夫だった!?」

すぐさま駆け寄るあゆ。香里や佐祐理たちもそれに続く。

「あぁ、平気だった。何もせずにあいつは帰って行った」

ミツルは、説明する。

「ミツルぅ~…!」

真琴がミツルの声を聴いて、彼に飛びついた。彼女は少し泣いていた。よほど心配だったのだろう。ミツルは真琴の頭を撫でる。

「心配かけたな、真琴」

「サトちゃん…」

「大丈夫だよ。なゆちゃんが好きでいてくれるし、僕もなゆちゃんが好きだから。まだ負けられないよ」

名雪に対して優しく答えるサトル。

「久瀬さん、無事で何よりです」

佐祐理は穏やかに微笑んで言う。

「あ、あぁ…ありがとうございます…」

少しだけ、頬を赤くする久瀬。彼にはもう一つ戦う意味ができたようだ。

「北川君、これからもわたしたちを守ってくれる…?」

「あったりまえだ!おまえはおれの大切な彼女だからな!」

いつになく、不安そうに問う香里に自信ありげに答える潤。

いつもは、否定の言葉を言ったり、肘打ちで突っ込むが、今日は嬉しそうに微笑む香里。やはり、彼女も潤が好きなのだろう。

「舞、これからはおまえも…」

「もう少しだけ戦わせて。黙って見てるなんてできない。…それから休むから」

舞は祐一に懇願した。

「…ったく。もう少しだけだぞ」

祐一の言葉に、少しだけ頬を緩ませる舞。

6人は、この日常を守るためにも負けられないことを改めて誓う。

そして、一つだけ気になっている言葉。

ディケイド…。

いったい何者なのか?

 

オーディンは、ある人物と出会っていた。

「よく使ってくれてるようで、何よりだ」

その人物は、オーロラを眺めながら満足そうに言う。

「鳴滝か…。一つだけだが、条件は守った。龍騎達をディケイドと敵対するように誘導した。信じるかどうかは別だがな」

「それだけでも十分だ。ディケイドがここに来たなら、必ず倒してくれ」

「破壊するのならな…」

オーディンは、そう答えて去った。

鳴滝は、拳を握りしめる。

「いまだ旅を続け、破壊の影響を作り出す。おのれディケイド…!だが覚えておけ。ここが貴様の旅の終着点だ…!」

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

         龍騎の世界か…。

 

あれ、ここって百花屋じゃ…?

 

         おれたちはいろんな世界を旅しているんだよ。

 

きっと、竜也君たちを助けることが、この世界での、士君の役割です。

 

         さてと、お宝はどこかな?

 

あれが…ディケイド!?

 

 

 

 

第23話 「世界を旅する者」

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斎藤ミツル=仮面ライダーインペラー

鳴滝

仮面ライダーオーディン


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第五章(EX) 異世界の来訪者
第23話 「世界を旅する者」


ここは別の世界。

「この世界での役割は終わったな。後は、アイツらの物語だ」

「良い人でしたね。映司さん」

一人の長身の青年「門矢士」は満足げに呟く。彼の目線の先には棺桶と大量のメダルが描かれた背景ロールがあった。

そして、ある青年を思い出す長い黒髪の女性「光夏海」。どうやら、思い出しているのは、この世界で出会った青年の事らしい。

「まったく、この世界での本命のお宝「コアメダル」は手に入れられず、こんなちっぽけなものしか、手に入れられないなんてさ」

不満げに呟く青年「海東大樹」は、手の平にある10枚ばかりの銀色のメダル「セルメダル」を見つめる。

それは背景ロールに描かれているメダルとそっくりで、タカ、サソリ、ウナギなどと言った生物が刻まれていた。

「士、早く次の世界に行こう」

「わかってる。いちいち急かすな」

士を急かす、人当たりのよさそうな青年「小野寺ユウスケ」。

彼の言葉で、士はブツブツ文句を言いながらも、部屋に飾られた背景ロールの傍にある鎖を引く。

 

ガラガラガラ…

 

すると、新たな背景ロールが降りてくる。

その絵には、雪に染まった街とそこに舞い散る真っ白な羽、そして背中を向けて佇む赤い仮面ライダーが描かれていた。

「これって…」

そうつぶやく夏海。彼女…いや、この場にいる士、ユウスケ、大樹もその仮面ライダーには見覚えがあった。以前、幾度となく出会った仮面ライダー…。

「仮面ライダー龍騎…?という事は…」

ユウスケが結論を言う前に、士が答えを言う。

「別の龍騎の世界か…」

 

その日、怪我もほぼ完治し、少し雪が積もった外へ散歩に出かけた竜也とあゆ。

最近は、様々なことが目まぐるしく起こり、こんな穏やかな日は久々だった。

あゆは、竜也に買ってもらった大好物のたい焼きを、おいしそうに頬張る。

「うん、おいしい!久しぶりのたい焼きだよ~」

「本当においしそうに食べるね。喜んでもらえてよかった」

そのあゆを見ながら、微笑む竜也。

オーディンとの戦いから、10日も経っていないのだが、驚異的な回復力で竜也は全快を遂げた。以前、竜也は仮面ライダーになって戦っていた故に回復力も上がっていると推測していたが、最も長く戦っている竜也には、それが強く当てはまるようだ。

「そういえば、探し物もご無沙汰だったよね。久しぶりに探す?」

「ほんとに?ありがとう!」

最後のたい焼きを食べ終わり、満面の笑みで竜也に返すあゆ。

 

数時間後…。

「見つからないな…」

「やっぱり…」

探し物はやはり見つからなかった。探しているものさえ分からないのだ。そう簡単に見つかるわけがない。

「ちょっと、疲れちゃったね…」

「それじゃ、百花屋で休憩しよっか?」

竜也の言葉で、2人は百花屋へと向かった。

 

百花屋には5分ほどで到着した。

いつものように店のドアを開ける2人。

そこの看板が「光写真館」になっていることにも気づかず…。

 

扉を開けた途端、すぐに違和感を感じた。喫茶店というよりも、何処か民家のような雰囲気がある店だ。店だと判断したのは、目の前にカウンターがあるからである。

カウンターには、一人の女性が座っていた。おそらく、店番なのだろう。

「あれ…?ここって、百花屋じゃ…」

「いえ、写真館ですよ?」

「お店、間違えちゃったのかな…」

あゆが不安げに呟くと、竜也は女性…夏海に一礼して、あゆと共に早々にこの場を去ろうとする。

「あ、コーヒーくらいなら出せますよ。どうぞ」

ふと、店の奥から、一人の老人が2人を呼び止める。穏やかな笑顔の似合う、メガネをかけた老人だった。

「じゃあ、どうぞ…」

夏海も、自分の祖父である「光栄次郎」の言葉に従って、竜也とあゆを店内に通す。

 

「お邪魔しま…え!?」

「うぐっ!?」

竜也は部屋に入ってくるや否や、大声を上げて驚く。あゆはその竜也の大声に驚いた。

「なんだ?いきなり人の家に上がっておきながら、大声を上げるとは…」

「あ、すみません…」

部屋の中にいた士の不満げな声に、謝る竜也。

「士君!なんでいつも、そう口が悪いんですか!?」

「あぁ~、わめくな」

夏海は士を怒鳴るが、当の士は、適当に返す。

「ごめんね2人とも。こいつ、不器用なんだよ」

「おい、余計なことを吹き込むな。少なくとも、お前よりは器用だ」

ユウスケのフォローに口を挟む士。

「いい加減にしてください、士君!…笑いのツボ!」

 

グキッ!

 

「ぐっ!?…うははははは!…ナツミカン…はは、テメ…はははは…!」

ユウスケの親切さえも棒に振る士に業を煮やした夏海が、士の首筋を親指で突かれた瞬間、士は何故か爆笑する。

「「なに…あれ?」」

声がハモる竜也とあゆ。

「気にしないでください。あれは躾みたいなものです」

「そう…なんですか…」

「それより、どうしてあの時驚いたの?」

ユウスケの質問にはっと思い出す竜也。

「あ、あれです!」

竜也が指差した先は背景ロール…というよりも背景ロールに描かれた「後ろ姿の赤い仮面ライダー」だ。

「どうして、仮面ライダー龍騎が…!?」

「じゃあ君、龍騎を知ってるの?」

「知ってるも何も…」

そう言って、竜也が取り出したのは…。

「なるほどな…お前が…龍騎か…」

ようやく笑いが収まった士が、カードデッキを見て言う。

「た、竜也くん!そんな簡単に正体を明かしていいの!?」

「あ…」

驚いて自分の行動の重大さに、ようやく気付く竜也。

「心配しないでください。わたしたち、あなた達の正体をばらしたりしません」

「おれは、小野寺ユウスケ。君と同じ仮面ライダー、クウガだよ」

安心させるためか、自らの正体を明かすユウスケ。そう、彼は超古代の力を宿した戦士「仮面ライダークウガ」である。

「うそ!?」

「わたしもです。光夏海、仮面ライダーキバーラです」

「そうそう~」

ふと、部屋の中に入ってきたのは、小さな白いコウモリ。しかし、普通のコウモリではなく、頭から羽根と足の生えた、どこかマスコットキャラのような雰囲気だ。

「あたしはキバット族のキバーラ。あたしが手伝って、変身するのよ。ね、夏海ちゃん?」

「そうです。えっと…あなたたちの名前は?」

「あ、おれは龍崎竜也、仮面ライダー龍騎です」

「ボクは月宮あゆ。よろしくね」

とりあえず、敵ではないと感じ、改めて自己紹介をした。

そして、士が夏海とキバーラを押しのけて竜也の前に出てくる。

「とりあえず、この世界のことを教えてもらおうか?」

 

その頃、大樹はこの街を歩き回っていた。

「さてと、お宝はどこかな…?」

大樹の言うお宝とは、仮面ライダーに関するモノである。この世界ではカードデッキやアドベントカードのようなものだ。

ふと、そこに居た高校生くらいの少年と少女…祐一と舞だ。

大樹は何気なく、その二人を眺めていた。

 

祐一と舞は辺りをぶらついていた理由はやはり、久しぶりの穏やかな日だから、気分転換を考えての事だ。

「舞、どこか行きたいところはあるか?」

「…動物園」

舞は幼いころから、動物が大好きだった。特にウサギだ。なぜなら、それは母親との思い出の中で色濃く残っている動物であるから。

「すこし遠いぞ?足のこともあるし…」

「大丈夫だから…」

舞は祐一に強く願う。彼女は先ほどから、ほんの少し…殆ど気づけないが、足を引きづっている。恐らく、あの謎の爛れた痣だろう。

だが、それでも彼女の願いを叶えてやりたいと、祐一も考える。

「…わかったよ」

 

キィィン…キィィン…

 

だが、それは叶えられなかった。

「舞、おまえは下がってろ」

祐一はそう言って身構える。

「ギギギギィ!」

現れたのは、カミキリムシ型モンスターの「ゼノバイター」と「テラバイター」である。

祐一がカードデッキを構えると、腰にⅤバックルが現れる。

「変身っ!」

デッキをベルトに装填し、祐一はナイトに変身を遂げる。

 

それを遠くで眺めている大樹。

「仮面ライダーナイトか…。すっごく、欲しい」

そう言いながら、少し大きめのハンドガン型のアイテム「ディエンドライバー」と1枚のカードを取り出す。それは、アドベントカードなどとは異なり、一人の蒼い戦士の顔が描かれていた。

カードをディエンドライバーに挿入する。

<KAMEN RIDE>

龍騎達のバイザー音声とは全く違う音声が流れ、大樹は空に向けて引き金を引く。

「変身!」

<DIEND>

ディエンドライバーから再び音声が流れると、銃口から青い「ライドプレート」と、辺りに赤、青、緑の残像のようなものが現れ、大樹を纏う。

その瞬間、大樹の姿は灰色の戦士に変わり、ライドプレートはその戦士の頭部に配置される。それと同時に、灰色の部分が蒼に染められた。その姿は、カードに描かれていた蒼い戦士と全く同じだった。その名は「仮面ライダーディエンド」。

ディエンドは、ベルトのサイドバックルに装備されたホルダーから2枚のカードを取り出す。そこにはAのマークが前面に出された真っ赤な戦士と、カプセルのような装飾が頭部に施された緑色の戦士が描かれていた。 

そのカードを同じようにディエンドライバーに挿入し、引き金を引く。

「新入のお二人さん、いってらっしゃい」

<KAMEN RIDE ACCEL><KAMEN RIDE BIRTH>

音声と共に、やはり残像が現れ、カードに描かれていた2人の戦士を形作った。

ディエンドが召喚した仮面ライダー、加速の記憶を宿した「ガイアメモリ」の戦士「仮面ライダーアクセル」と、大量の「セルメダル」を活動源として戦う戦士「仮面ライダーバース」である。

「さぁ、振り切るぜ!」「さて、お仕事開始だ…!」

アクセルとバースはそれぞれ喋ると、ナイトとモンスターへと向かった。

 

テラバイターとゼノバイターは、背中に背負っていた巨大なブーメラン型の武器を使って、ナイトに攻撃を仕掛ける。

ガキィン!

「くっ!」

飛んできたゼノバイターのブーメランはダークバイザーで防ぐことができたが、背後に迫ってくるテラバイターのブーメランに気づかない。

ガギィ!

「なっ!?」

だが、ナイトが振り向いた瞬間、ブーメランは何かのエネルギーによって撃ち落された。

エネルギー弾が飛んできた先を見ると、バースが銃型の武器「バースバスター」を構えていた。隣には「エンジンブレード」を構えたアクセルもいる。

「なんだよおまえら!?」

「俺に質問するな」「悪い、秘密を守ることも仕事なんで」

アクセルはぶっきらぼうに吐き捨て、バースは冗談交じりな声色で答える。

そしてその奥には…。

「やあナイト君。取り敢えず、助太刀するよ」

「どうして、おれを知ってるんだ…?」

ディエンドはその問いには答えず、ゼノバイターとテラバイターにディエンドライバーを発砲する。

バババババババ!

「グギャアアアアァ!」

凄まじい威力だ。2体のモンスターはたまらず倒れる。

そして、ディエンドは1枚のカードを取り出す。そこにはディエンドと上空に2丁のディエンドライバーが描かれている。

<ATTACK RIDE CROSS ATTACK>

そのカードをディエンドライバーに挿入すると、アクセルはエンジンブレードに銀色のガイアメモリをセットし、バースはバースバスターのセルメダルが蓄えられたパーツを銃口にセットする。

<ENGINE MAXIMUM DRIVE><CELL BURST>

「ハアアアアアァッ!」「ウオオオリャアアアァ!」

ザァン!ドゴオオオオォ!

それぞれの武器から電子音声が鳴り響き、アクセルはテラバイターをエンジンブレードから出るエネルギーで切り裂き、テラバイターの身体には赤い「A」のマークが刻まれる。バースはバースバスターの銃口に充填されたエネルギー弾をゼノバイターに向かって発射する。

「ダイナミックエース」と「セルバースト」だ。

発動後、モンスターは爆散。

「絶望がお前のゴールだ」

そしてアクセルとバースも消滅した。

「お、おい!?」

「安心したまえ。彼らは僕が作り出した人形みたいなモノ。人間じゃない」

「そうか…」

ナイトがその答えに安堵すると、ディエンドは指を二本立てて、ナイトに向ける。その様子は、銃を構えているようにも見える。

「ところで、仮面ライダー…特に君のようなナイト。かなりレアなお宝だよ。ぜひ、手に入れたい」

そう言った途端

バババババ!

「ぐああああぁ!?」

突如、ディエンドはナイトに向けて発砲した。その威力はやはり凄まじく、ゾルダのマグナバイザーを上回っていた。ナイトは地面に膝をつく。

「祐一!」

舞が駆け寄る姿を見ても、ディエンドは向けていた銃口を下ろすことはしない。ただナイトに向かってゆっくり歩みを進めていたが、立ち止まることはした。

「どきたまえ。君たちには分からないだろう?お宝の価値が」

「あなたの言うことはよく分からない…。ただ、祐一はわたしにとって、何よりも価値があると思う。だから…わたしが守る!」

舞はカードデッキを構え、Ⅴバックルが現れる。

「変身!」

 

栄次郎から出されたコーヒーを飲みながら、士たちにこの世界のことを一通り教えた竜也。

要点をまとめているのは夏海。

「つまり…あなたは城戸真司さんからカードデッキを受け継いで、モンスターや悪の仮面ライダーから人々を守るために仲間の仮面ライダーと戦っているんですね」

「はい。でも…どうして、モンスターや仮面ライダーのことなんかを?」

竜也が疑問に思うのも分かる。仮面ライダーの話はまだしも、モンスターはこの世界でも大きな問題になっているのだから、彼らも知っていて当然な筈。仮面ライダーなら尚更だ。

その答えはユウスケが言った。

「俺達は、いろんな仮面ライダーの世界を旅しているんだ」

「訪れた世界の仮面ライダーを助けて、滅びの現象を止めているんです」

続いて夏海が答える。

「じゃあ、夏海さんやユウスケさんたちは…」

「俺達は、別の世界から来た」

言葉を遮って結論を述べたのは士。

「だからなんだね。仮面ライダーが13人全員揃ったのに、他にも仮面ライダーがいたのは」

あゆは、砂糖とたっぷりのミルクをいれたコーヒーを一口飲んで、呟く。

 

龍崎竜也が変身する、赤い騎士、仮面ライダー龍騎。

相沢祐一が変身する、闇夜の剣士、仮面ライダーナイト。

川澄舞が変身する、白夜の剣士、仮面ライダーファム。

北川潤が変身する、水と雷を司る戦士、仮面ライダーライア。

久瀬シュウイチが変身する、怒涛の銃戦士、仮面ライダーゾルダ。

虎水サトルが変身する、氷と白虎の闘士、仮面ライダータイガ。

斉藤ミツルが変身する、獣と速さの闘士、仮面ライダーインペラー。

須藤マサキの変身していた、最初の刺客、仮面ライダーシザース。

芝浦シュンが変身していた、重厚な鎧を纏う、仮面ライダーガイ。

高見沢イツキが変身していた、幻影の策士、仮面ライダーベルデ。

鎌田マサトが変身していた、大海を操る、仮面ライダーアビス。

浅倉タカシが変身する、狂気の大蛇、仮面ライダー王蛇。

そして、未だ謎に包まれた13人目、仮面ライダーオーディン。

 

そう、この時点で城戸真司の言っていた13人の仮面ライダーは全て現れていた。

だから、小野寺ユウスケの仮面ライダークウガ、光夏海の仮面ライダーキバーラの存在が疑問だったのだ。

「本当はもう一人、ライダーいるんだが…。あのコソ泥、この世界に来た途端に、お宝探しに飛び出した」

「もう一人いるんですか…しかもコソ泥って…」

士の言葉から、もう一人、仮面ライダーの仲間がいるらしい。

 

キィィン…キィィン…

 

「!?…モンスターだ!あ、栄次郎さん、コーヒーありがとうございます!」

「あ、まって!」

突如、竜也はそう言って写真館を飛び出し、あゆも後を追う。

「行きましょう!きっと、竜也君を助けることが、この世界での士君の役割です!」

「…じゃあ、行ってやるか」

「よし!」

「レッツゴ~!」

士、ユウスケ、夏海、キバーラの3人と1匹は、竜也とあゆに続いた。

 

そして、一人取り残された栄次郎。

「…あれ、みんな居ないね」

 

竜也とあゆがたどりついた先には、2体のイカ型モンスターが暴れまわっていた。既に、一部の建物は瓦礫と化している。

「あれは、バクラーケンとウィスクラーケン…!」

「おい、竜也!」

その声と共に士たちが走ってくる。

「わたしたちも手を貸します。キバーラ!」

「うふふふふ♪いっくわよ~?」

「ありがとうございます!あゆ、下がって!」

あゆは竜也の指示通り、近くの物陰に身を潜める。

夏海が呼ぶと、彼女の手にキバーラが収まり、ユウスケが腰に手をやると、バックルに霊石が埋め込まれたベルト「アークル」が現れる。

そして、竜也はカードデッキを翳す。

「変身っ!」

3人は同時に叫び、竜也は現れたⅤバックルにデッキを装填し、仮面ライダー龍騎へ、ユウスケはアークルのサイドバックルのスイッチに両手を置き、更に両手を広げると、仮面ライダークウガマイティフォーム(以下クウガMF)へ、夏海はキバーラから放出された薄紅色の光を纏い、仮面ライダーキバーラへとそれぞれ変身を遂げた。

「しゃあっ!」

龍騎はバクラーケンと取っ組み、キバーラは専用武器「キバーラサーベル」でウィスクラーケンに攻撃を仕掛け、クウガもそれに続く。

「はぁっ!だぁっ!」

ガッ!ドカッ!

ウィスクラーケンの攻撃を上手く避け、確実に一撃を決めていく龍騎。

「たぁっ!だりゃあっ!」

クウガMFも龍騎と同じく、肉弾戦で戦う。しかし、バクラーケンは四肢に付いている吸盤で壁を駆け回り、上手く攻撃が当てられない。

「ユウスケ!」

「ここは青のクウガだ!超変身!」

クウガMFが変身時と同じポーズを構えると、みるみるクウガの姿は変わり、体色は赤から青へと変わる。

水の戦士「仮面ライダークウガドラゴンフォーム」である(以下クウガDF)。この形態は瞬発力と機動性に長けている。近くの瓦礫の中から一本のパイプを拾うと、パイプは分子レベルで変化し、クウガDFの専用武器「ドラゴンロッド」に変わる。

「はああぁっ!」

クウガDFは地面を蹴り、高く飛ぶ。そのスピードは速く、バクラーケンも反応が遅れた。

「だりゃあぁ!」

ガキィ!

「ギィ!?」

「はああぁ!」

ザンッ!

「ガギャアアァ!」

ドラゴンロッドでバクラーケンを叩き付ける。地面へと真っ逆さまに落ちていくバクラーケンを、キバーラサーベルで思いきり切り裂くキバーラ。

「士、何やってんだよ!早く手を貸せよ!」

クウガDFは士を怒鳴る。

「こんなやつ等、3人でも勝てるだろ。…まぁいい」

文句を言いながらも、士は懐から白いバックル「ディケイドライバー」を取り出す。中央には赤いレンズが埋め込まれており、それを囲うように9つのレリーフが刻まれていた。

そのレリーフの中にはクウガの顔をイメージしたレリーフや、龍騎の頭部やカードデッキに刻まれたレリーフもある。

士はそれを腰に当てると、ディケイドライバーからベルトが現れ、士の腰に装着される。同時に左側にサイドバックルと本をイメージしたアイテム「ライドブッカー」が現れる。

ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。それは大樹、ディエンドが使っていたものとそっくりであり、違いは描かれている戦士はマゼンタを基調色としている。

「変身!」

士はカードを裏返し、ディケイドライバーに挿入し、バックルを閉じる。

<KAMEN RIDE DECADE>

ディケイドライバーが音声を発すると、辺りに10もの虚像が現れる。それはオーディンが使っている銀色のオーロラにそっくりだ。聞き覚えのある言葉に驚く竜也をよそに、それが士を纏うと灰色の戦士に変わり、ディケイドライバーから赤いライドプレートが現れ、戦士の頭部に配置される。するとディエンドのように灰色の部位がマゼンタ色に染まった。

彼こそ、仮面ライダーの世界を旅する戦士「仮面ライダーディケイド」である。

「あれが…ディケイド!?」

「手を貸すぜ、竜也。はっ!」

ガッ!

ディケイドはウィスクラーケンに向かって飛び蹴りをかます。

「イカなら…海釣りだな」

そう言いながら、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。そこには赤い目の戦士…どこか桃が割れたような形をしている。

「変身!」

<KAMEN RIDE DEN-O>

再びディケイドはカードをディケイドライバーに挿入すると、辺りに銀色の破片のようなものが現れ、ディケイドを纏う。すると黒を基調とした戦士に変わり、更に赤いアーマーと仮面が装着される。別の世界の仮面ライダー「仮面ライダー電王ソードフォーム」とベルト以外は全く同じ姿「仮面ライダーディケイド電王ソードフォーム」である(以下D電王SF)。

<ATTACK RIDE BOKUNI TURARETEMIRU?>

D電王SFは更にカードを挿入する。すると、赤い鎧が外れ、代わりに青い鎧と仮面に変わり「仮面ライダーディケイド電王ロッドフォーム」に変わった(以下D電王RF)。

「僕に釣られてみる?…これを言わなきゃならないのが難点だな。今度からフォームライドにするか」

D電王RFは変わった決め台詞を言って、自分で文句をつけた後、右腕に持っている「デンガッシャーロッドモード」を振り回す。すると、青い光線で精製された糸「デンリール」が、ウィスクラーケンを絡め捕る。

「大物ぉ!」

それはまさに海釣り。ウィスクラーケンが叩き付けられたときを見計らい。龍騎はドラグバイザーにアドベントカードをベントインする。

<FINAL VENT>

「ふんっ!はああああああああああああぁ!たぁっ!」

いつものように構えを取り、叫ぶとドラグレッダーが現れて、龍騎の周りを飛び回る。そして、天高く飛び、空中で体を捻る。

「だあああああああああぁ!」

ドガアアアアアアアァ!

ドラゴンライダーキックでウィスクラーケンに突撃すると、ウィスクラーケンは跡形もなく吹き飛んだ。

それを確認したD電王RFは、元のディケイドの姿へと戻った。

 

「行くよ、夏海ちゃん!」「はい!」

クウガDFとキバーラも必殺技を準備する。キバーラの背中に光の翼が生え、クウガDFはドラゴンロッドを振り回しながら、バクラーケンに駆け寄る。

「はああああああぁっ!」「やああああぁっ!」

ドガァ!ズバアアアアァ!

そして、クウガDFはドラゴンロッドをバクラーケンに突き刺し、キバーラは超高速で切り裂く。

「スプラッシュドラゴン」と「ソニックスタッブ」だ。

ドガアアアアアアァ!

その威力に、バクラーケンは為す術も無く、爆死した。

 

龍騎はディケイドに詰めよる。

「士さん、オーディンが言っていました…。全てを破壊する存在、ディケイド…あなたが世界の破壊者なんですか?」

「…」

「答えてください、本当のことを!」

「そうだと言ったら?」

ディケイドはやれやれとため息をつきながら答える。

「あなたを、とめます!」

<SWORD VENT>

龍騎はドラグセイバーを呼び出し、ディケイドに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

               俺はお前の敵じゃない

 

士君!ちゃんと説明してあげてください!

 

               ナイトよりも価値のあるお宝…?

 

なるほど、世界を旅する奴らか

 

               オォ…最高にいい獲物だな!

 

出でよ、仮面ライダーリベレ!

 

 

 

 

第24話「滅びの現象」

 

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

門矢士=仮面ライダーディケイド

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
キバーラ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
仮面ライダーバース
仮面ライダーアクセル

光栄次郎


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第24話 「滅びの現象」

第24話 「滅びの現象」

 

 

「はあぁっ!」

龍騎は果敢に立ち向かう。ドラグセイバーの一振りを上手く避けるディケイド。

「相手が龍なら…」

そう呟いて、ディケイドが取り出したカードには、雄々しい6本の金色の角を備えた戦士が描かれている。

「こっちは竜だな。変身!」

<KAMEN RIDE AGITO>

ディケイドライバーが読み取ると、ディケイドの身体は眩い輝きに包まれ、それが消えると、また別の世界の仮面ライダー「仮面ライダーアギトグランドフォーム」にそっくりな「仮面ライダーディケイドアギトグランドフォーム」に姿を変えた(以下DアギトGF)。

「そして、赤には赤だ」

<FORM RIDE AGITO FLAME>

さらにディケイドライバーにカードを読み取らせると、金色を基調としたDアギトGFは、見る見る赤く変わり、先程より装甲が増えた右腕には炎を宿した剣「フレイムソード」を握った「仮面ライダーディケイドアギトフレイムフォーム」に変身した(以下DアギトFF)。

「てぇああぁ!」

「ふんっ!」

ガキィ!

フレイムセイバーとドラグセイバーがぶつかり合い、火花が散るが、龍騎とDアギトFFは怯まず、ギリギリと鍔迫り合いに持ち込む。

「おい士、竜也君!やめろ!」「士君、ちゃんと説明してあげてください!」

元に戻ったクウガMFとキバーラがDアギトFFに掴みかかって叫ぶが、

「まぁ待て。俺にも考えがある」

そういって、DアギトFFは2人を押し退ける。

「説明ってどういうことですか…?」

龍騎は少し力を緩めて聞く。

「知りたきゃ、戦え。ぼやぼやしてると、世界が破壊されるぞ?」

ドンッ!

「ぐぅっ!」

「竜也くん!」

しかし、DアギトFFは答えを言わず、龍騎を突き飛ばす。

「この世界を破壊させたりしない!絶対に守り抜いてみせます!」

 

「せぇいっ!」

「よっ!」

ババババババ!

「うああぁ!」

ファムは、ディエンドに向かって、ブランバイザーを突き刺そうとしているが、ヒラリとかわし、ディエンドライバーで確実に攻撃していく。

「よせ、舞、戦うな!あいつが、また別の戦士を呼び出したら…。それにおまえの足だって!」

「関係ない!祐一はわたしが守る!」

ナイトの忠告にも耳を貸さず、足を少し引きずりつつ戦うファム。

と、そこへ…

「せあぁ!」「はあぁ!」

ガッ!

「うわっ!?」

突如、ディエンドに奇襲を仕掛ける者が現れる。

彼らは、2人にとっても心強い味方。

「随分、騒がしいと思ってきてみれば…」「僕達も戦うから、負けないで!」

そう、インペラーとタイガである。

「はは、他にも仲間がいたんだね?インペラーとタイガか…。お宝としては微妙かな?…それとも、ナイトよりも価値のあるお宝?」

「知ったことか。それより、おまえは誰だ?」

インペラーの言葉で、はっと思い出すディエンド。

「自己紹介がまだだったね。僕は海東大樹、またの名を仮面ライダーディエンド」

「仮面ライダー!?おかしいよ、仮面ライダーは全員現れてるのに…」

タイガの疑問にも律儀に答えるディエンド

「僕はこの世界の人間じゃない。いろんなパラレルワールドを渡り歩いている、トレジャーハンターさ」

「世界を旅する奴か…。そこに別の仮面ライダーが存在しても、何の疑問も無い」

納得するインペラー。確かに、ディエンドの言葉が正しければ、この疑問も解消できる。さらに、オーディンも別の世界の住民だったというのだから、信憑性は高い。

「理解出来てよかった。ご褒美にこれはどう?」

<KAMEN RIDE KICK HOPPER PUNCH HOPPER>

ディエンドはカードを挿入し、新たな仮面ライダーを呼び出す。それぞれバッタの力を宿した「仮面ライダーキックホッパー」と「仮面ライダーパンチホッパー」の高速戦士コンビ「ダブルホッパーライダー」である。

「斉藤、虎水!あれはディエンドの作り出した人形だ!気をつけろ!」

「まぁ見てろ」「僕らにまかせて!」

「いくぜ、相棒…」「兄貴となら、どこまでも…!」

そう呟いて、キックホッパーはインペラーに、パンチホッパーはタイガに襲い掛かる。

「ゼイィ!ハァッ!」「オォラァ!イアァ!」

ガッ!ガスッ!ドガッ!

「ふんっ!せいっ!」「やあぁ!たあっ!」

どちらも実力はほぼ互角…だったが、インペラーは少し距離をとって、アドベントカードをベントインする。

<SPIN VENT>

インペラーの右腕にギガゼールの頭部を模した「ガゼルスタッブ」が装備され、インペラーは地面に突き刺す。

「うおおおおおおおぉ!」

ガゼルスタッブは地面を軸にインペラーもろとも凄まじい勢いで回転する。インペラーは遠心力を利用したキックをキックホッパーに浴びせる。

ドゴォ!

「グアアアァ!」

ドカッ!

「ウッ!兄貴!?」

吹き飛ばされたキックホッパーはパンチホッパーにぶつかる。

「オマエは良いよなぁ…武器なんか持って」「どうせ俺達は…」

かなり嫉みと自虐的な発言を残して、ダブルホッパーは消えた。

「くそ…彼らは扱いが難しいんだよね。…ま、お宝はまた今度にするよ」

<ATTACK RIDE INVISIBLE>

カードを挿入すると、ディエンドは景色に溶け込むように消えていった。

「なんだったんだ…」「とりあえず、祐一君たちを!それから、竜也君にも教えないと!」

 

ガキィ!

「うわぁ!」「がはぁ!」

龍騎と元に戻ったディケイドはお互いの攻撃でよろける。

「どうした…お前の覚悟はそんなものか?」

ディケイドは挑発するが、本人も息が荒い。

「この世界には…いろんな人が生きてる!その世界を破壊するってことは…その人たちの希望、未来、命、夢を消すことですなんですよ!そうまでして、どうして!?」

「…」

龍騎の言葉が伝わったのか、ディケイドは変身を解除した。

それを確認した龍騎も変身を解く。

「竜也くん!」

あゆが竜也のもとへと駆け寄る。

「すまないな、竜也。お前を試したんだ。俺はお前の敵じゃない」

「え…?」

士の言葉が、一瞬理解できなかった。

「お前はまだ大人じゃない。お前の覚悟や、それに見合った実力があるかどうか、知りたかった」

「もう…破天荒過ぎですよ…」「なら最初にそう言えよ」「相変わらず、無茶苦茶ねぇ~」

士の仲間達から野次が飛ぶが、本人は図太いため、気にしていない。

「じゃあ、世界の破壊者って言うのは…」

竜也が一番気にしていたこと。彼がこの世界を破壊するのかどうか。士は少し苦笑いをしながら、こう応える。

「破壊者扱いされたことは何度かある」

「でも士は、今まで自分から世界を破壊したことはないよ。さっきも言ったように、旅の先で何度もその世界の仮面ライダーを助けてきた」

「一度だけ…どうしようもなくなったとき、士君は破壊者になりました。でも、世界を救う方法が一度破壊して再生することだったからで…」

士の言葉に付け加えるように、変身を解いたユウスケと夏海が説明する。

つまり、彼らはこの世界を破壊しようとはしていない。彼らの言葉を聞かなかった故に、無益な戦いを行ってしまった。なぜもっと冷静になれなかったのだろう。竜也は自分の行いを後悔した。

「士さん、本当にごめんなさい!」

「でも、竜也くんも本当は自分から攻撃するような人じゃないよ。いつもは優しくて、強くて、ボク達のことをすごく大切にしてくれてるんだよ。信じて」

「あぁ、大体分かった。とりあえず、これからはお前に協力する」

彼らは和解することが出来たようだ。だが、それを良しとしない者がいた。

「ディケイドォ!上手く龍騎を丸め込むとはな!」

突如、近くの建物から士に向かって、憎しみに満ちた怒鳴り声を上げる壮年の男。

ディケイドを目の敵にする鳴滝だ。

「あの人は…?」

「あいつは鳴滝。行く旅の先々で俺達に攻撃する厄介者だ」

「どうしてそんなことを…」

「さぁな」

士は両手を上げて、答える。

「だが覚えておけ、ここがお前の旅の終着点だ!そのために最強のライダーを用意した!」

鳴滝が右腕を振り上げると銀色のオーロラが現れ、その中から一体の青いモンスターが現れる。どことなくレイドラグーンに近いが、その姿はさらに厳つさを増している。

「あんなモンスター見たことない…」

「レイドラグーンが異常進化したモンスター「ボスドラグーン」だよ、この世界の龍騎」

「なんだ、ライダーと言っておきながら、怪人とはな」

士の嘲笑に全く反応せず、鳴滝は自信満々に答えた。

「ここからだ!」

鳴滝の言葉にボスドラグーンは左手に持っていたものをかざす。それは…

「あれって、竜也くん達と同じカードデッキ!?」

「まさか、モンスターが!?」

そう、カードデッキだ。中央には、トンボのレリーフが刻まれており、配色は金属感のある青。

「ヘン…シン…!」

ボスドラグーンは獣と人間が混ざったような、おどろおどろしげな声で呟き、腰に現れたVバックルに装填する。すると、龍騎達と同じように変身する。その姿はまさしく仮面ライダーそのものだ。

「彼の名は、仮面ライダーリベレ!さぁ行け、ディケイドを抹殺するのだ!」

「グオオオオオオオオオォ!」

鳴滝の命令に「仮面ライダーリベレ」は雄叫びで返し、竜也たちに襲い掛かる。

そして、鳴滝は銀色のオーロラの中に消えた。

「変身っ!」

<KAMEN RIDE DECADE>

竜也たちはそれぞれ、龍騎、ディケイド、クウガMF、キバーラへと再び変身し、リベレの攻撃に備える。

「グルルルルルルゥ…」

<ADVENT>

「グウウウウゥ!」

リベレは王蛇より一回り大きい杖型の召還機「ドラグーンバイザー」にアドベントカードをベントインすると、鳴滝の残した銀色のオーロラの中からシアゴースト、レイドラグーン、ハイドラグーンなどのヤゴ型モンスター、トンボ型モンスターが大量に現れる。その数は今までの比ではない。

「あゆ、祐一達を呼んできて!この数はおれや士さん達でも相手できない!」

「わかった!」

あゆが走り出す。

「手を貸すぜ!」「僕らも混ぜてもらおうか?」

突如、どこからか声が聞こえる。聞きなれた声だ。その声と共に現れたのはライアとゾルダ。龍騎にとってもこれは嬉しかった。

「潤、久瀬さん!とにかく大勢を一掃できるような武器で!」

<STRIKE VENT>

龍騎はそういって、ドラグクローを呼び出す。

「まかせろ!…ところでそこの3人は…仮面ライダーか?」

「あ、別の世界からやってきた仮面ライダーたちです。とにかくおれたちの味方です!」

ゾルダの疑問は龍騎によって解消され、ライアと共に改めてベントインする。

<SHOOT VENT><COPY VENT>

2人はギガキャノンを背負い、攻撃の態勢に入るが…

 

<STEEL VENT>

 

突如、何処からかバイザーの音声が聞こえ、ゾルダのギガキャノンが消える。

「なに…!?」

ギガキャノンは…

「ハハハハハ!最高に良い獲物だなァ!」

王蛇の手に渡った。この状況下での彼の参戦は苦しい。

「こんなときに…!」

ズダァン!

王蛇はモンスターたちを省みず、龍騎たちを狙ってギガキャノンを発射する。

「きゃああああぁ!」

攻撃を受けたのはモンスターのほんの一部とキバーラ。彼女はスピードに徹したライダーであり、逆を取れば防御を犠牲にしている。その上、強力なギガキャノンの火力。大ダメージは免れない。モンスターたちは一瞬で爆死する。

「夏海!」

すぐさま駆け寄り、抱き起こすディケイド。

「くそ…やめろぉ!」

龍騎は王蛇に攻撃を仕掛ける。王蛇はギガキャノンを捨て去り、龍騎のドラグクローを受け止める。

「楽しませろよォ!?」

 

ライアは残ったギガキャノンでモンスターの殲滅に徹するが、威力が高いゆえに上手く使いこなせない。

ズダァン!

「うおあぁ!やっぱ強力だな…!」

クウガMFとゾルダは共にモンスターたちを倒している。

「そこの…ゾルダ…だっけ?その銃、貸してくれない?」

「マグナバイザーですか?構いませんよ」

声からして年上だと思ったゾルダは、クウガMFに対して敬語で話し、言われたとおりマグナバイザーを投げて渡す。

「超変身!」

クウガの姿は緑色に変わり、マグナバイザーを手に取ると、それは見る見るボウガン型の武器「ペガサスボウガン」に変わる。

風の戦士「仮面ライダークウガペガサスフォーム」である(以下クウガPF)。

「ま、マグナバイザーが!?」

「ぐっ…!近くだとうるさいな…早めにケリをつける!たあぁ!」

クウガPFは超感覚のため、聴覚に苦しみながらも、上空を飛び回るレイドラグーンやハイドラグーンたちに向けてペガサスボウガンを放つ「ブラストペガサス」を発動した。

バシュッ!ドガアアアアァ!

「ありがと、助かったよ」

「は、はぁ…」

大勢を倒すことは出来たが、それでもまだ残っている。クウガPFの変身制限時間は50秒。すぐさまクウガMFへと戻り、マグナバイザーをゾルダに返し、2人はすぐさま攻撃を再開する。

「夏海、下がってろ。俺が片付ける!」

「ごめんなさい、士君…」

「ごめんねぇ~。ちょっと休憩させて…」

「変身!」

<KAMEN RIDE KABUTO>

ディケイドはキバーラを庇いながら、ディケイドライバーにカードを挿入すると、ディケイドの身体は昆虫と機械を取り入れた鎧に変わり、顎に着いていた角状のパーツがせりあがる。その姿はカブトムシを髣髴させる別の世界の仮面ライダー「仮面ライダーカブトライダーフォーム」とそっくりな「仮面ライダーディケイドカブトライダーフォーム」に変身完了した(以下DカブトRF)。

<ATTACK RIDE CLOCK UP>

「はあああぁ…たぁっ!」

ズアアアアアアアァ!

再び、カードを挿入すると、DカブトRFは速さの違う時間軸へと飛び込む「クロックアップ」を発動し、凄まじいスピードで駆け回り、モンスターたちを倒していく。

その様子にライアも唖然としている。こんな能力は初めて見た。

「み、見えない!?」

モンスターもかなりの数が減ってきた。クロックアップの時間切れなのか、DカブトRFはディケイドへと戻る。

「おまえら、手を貸せ!」

「あ、あぁ!」「よし!」「行きましょう!」

<FINAL VENT><FINAL VENT>

<FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DECADE>

「うりゃああああぁ!」「はっ!」

ドガアアアアアアァ!

ライアはハイドベノン、ゾルダはエンドオブワールドを発動し、自分の周りのモンスターをいっそうさせる。

「はああああああぁ!」「たああああああぁ!」

ディケイドとクウガは、共に地面を蹴って空中へとのぼり、ライダーキックの体制に入る。

クウガの右足は炎に包まれ、ディケイドの目の前には先ほど挿入したカードのホログラムのような映像が10枚現れ、モンスターに向かう。

ゴアアアアアアアアアアアァ!

「マイティキック」と「ディメンションキック」。それは、あたりのモンスターを一網打尽にした。残りは龍騎と王蛇のあたりにいる十数体のレイドラグーンだけだ。

「俺がやる」

ディケイドはライアたちに告げると、龍騎のもとへと向かっていった。

「オォラァ!」

ガッ!

「ぐあっ!」

龍騎は王蛇の拳を顔面に受け、よろける。その後ろからディケイドが王蛇に向かって、ライドブッカーソードモード(以下ライドブッカーSM)を構えて攻撃を仕掛ける。

「はあっ!」

ザァン!

「士さん!?」

「オォ!?…オーディンが言っていた破壊者、ディケイドはオマエか。楽しもうぜぇ?」

<SWORD VENT>

ガキィン!

王蛇はべノサーベルを呼び出し、ディケイドと鍔迫り合いに持ち込む。

「オラオラ、どうしたァ!?」

ガッ!

王蛇はディケイドの腹部を思い切り蹴る。腹を押さえ、少し後退するディケイド。

ふと、後ろにいた龍騎を見て、あることを思いつく。

「竜也、ドラグレッダーを呼べ。ちょっとくすぐったいぞ?」

「え?は、はい…。でもくすぐったいって…」

<ADVENT>

<FINAL FORM RIDE RYURYURYU RYUKI>

「ガアアアアアアアァ!」

龍騎は言われたとおり、訳も分からず、ドラグレッダーを呼び出す。

ディケイドがカードを挿入すると、龍騎の両肩にドラグシールドが、左腕にはドラグセイバー、右腕にはドラグクローが装着される。

「武器が全部装備されてる!?ど、どうなって…?」

「はっ!」

トン

「うわぁ!?」

龍騎の胸をディケイドが軽く叩くと、龍騎の身体はあり得ない方向へと変形し、まるでドラグレッダーとそっくりな龍に変形する。

ディケイドの能力の一つ「ファイナルフォームライド」。これは一定の仮面ライダーを武器や乗り物、支援メカなどに変形させる。龍騎の場合、ドラグレッダーを模した「リュウキドラグレッダー」になる。

「これって…ドラグレッダーああああああああ!?」

「いくぞ、竜也」

<FINAL ATTACK RIDE RYURYURYU RYUKI>

「はっ!」

「なんだかわかんないけど、取り敢えず!」

「ガアアアアアアアアアアアァ!」

ディケイドは新たにカードを挿入すると、先ほどのように地面を蹴り高く空を飛ぶ。

それと同時に、ドラグレッダーとリュウキドラグレッダーもドラゴンライダーキックのようにディケイドの辺りを舞う。

「面白い!」

<FINAL VENT>

王蛇もベノスネーカーを呼び出し、反撃の準備を始める。

「デェアアアアアアァ!」

「「はああああああぁ…だあああああああああああぁ!!」」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ!

ディケイドと龍騎の合体技「ディケイドドラグーン」。しかし、今回はドラグレッダーが新たに一体居る「ディケイドツインドラグーン」になって、王蛇に攻撃する。

「グアアアアァ!?」

その威力はべノクラッシュを上回っており、近くのモンスターを一掃し、王蛇は力負けして吹き飛ばされた。

ディケイドは上手く地面に着地し、リュウキドラグレッダーも龍騎の姿へと戻って、地面に着地する。

「グウッ…!…ハハハハハ、最高だ!もっと遊ぼうぜェ!?」

王蛇は限界を知らないのか、再び立ち上がるが…

「チィッ!またか、オーディン!」

銀色のオーロラが現れ、王蛇をさらっていった。

辺りを見回すが、リベレの姿も見当たらなかった。

「竜也く~ん!」

ちょうど、祐一、舞、サトル、ミツルを呼んできたあゆが到着する。

 

「あれ…?」

「あぁ、ごめん。終わった」

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

           あのときは何とかなったけど…

 

フン、戦力の追加としては悪くない

 

           お前は、間違っている…

 

残す言葉なんて、ありませんよ

 

           これだ…完成する!

 

呼ぶか、俺の旅の中で出会った仲間達を!

 

 

 

第25話「オーロラを越えた仲間」

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

門矢士=仮面ライダーディケイド

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
キバーラ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
仮面ライダーキックホッパー
仮面ライダーパンチホッパー

ボスドラグーン=仮面ライダーリベレ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

鳴滝




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第25話 「オーロラを越えた仲間」

リベレと王蛇との戦いの後、竜也たちは光写真館に集まった。

かなり人数が多いのだが、何とか入りきった。その中にはいつの間にか、大樹も混じっている。

「お帰り。おやおや、お客さんがたくさん。コーヒー豆、足りるかな…」

一人、店番をしていた栄次郎は来客の数に驚きながらも、コーヒーの準備を始める。

「あぁ、君たちはさっきのナイト君たちかな?」

「その声…海東か!?」

早速、ケンカムードの祐一と大樹。先ほどその場に居合わせた舞、サトル、ミツルも穏やかではない。

「海東、今回のお宝はナイトってか?いい加減、お宝探しはやめろ」

士は大樹に食って掛かる。しかし、海東は澄ました顔で両手を挙げてやれやれと呟く。

まるで先ほどの士のようだ。

「君にも分からないのか、お宝の価値が。でも、何よりも最高のお宝に言われたなら、黙るしかないね」

なんと、大樹はあっさりとナイト達を狙うことをやめた。あまりにもあっさり過ぎて、少し怪しいが…。

ふと、竜也が大樹に話しかける。

「あの…大樹さん。あなたが士さんの言っていた仲間のライダーですか?」

「そう。仮面ライダーディエンドだ。君は?」

「龍崎竜也、仮面ライダー龍騎です。祐一たちはおれの大切な友達です。仮面ライダーになるときも、相当な覚悟を持って戦ったんです。だから…」

「わかってるさ、僕も。仲間って言うのは、何よりも最高のお宝だってことくらい」

大樹は面倒に答えたが、その言葉の中に偽りがないことを、竜也は感じ取った。

「じゃあ、士さんたちと一緒に協力してくれますか?」

「任せたまえ。ただし、報酬としてお宝は頂くよ?ちなみにお宝の基準は僕で決める」

「みんな、大樹さんもこう言ってる。もうけんかはやめよ?」

竜也はなだめるように祐一たちを諭す。しかし、祐一たちはなんとなく納得がいかないらしい。

「助けてもらったら、デッキを取られるかもしれないんだぞ?」

「大樹さんは、仲間が何よりも大切だって分かってる。だから大丈夫だよ、きっと」

竜也の言葉で、その場は収まった。

ふと、士がぶつぶつと呟いている。

「そこにいる海東と喧嘩してた奴がナイトで、無表情がファム、金髪のアンテナがライアに、メガネがゾルダ、みるからに根暗な奴がタイガで、ボロボロコートがインペラーか。随分と仲間のライ…」

 

ドスッ!

 

「ぐっ!?…ははははは!夏海ぃ…せっかく、助けてやはははは!本気で皮剥くぞ…!」

「またですか!?竜也君が優しい子だから良かったですけど、もし喧嘩っ早い人だったらどうするつもりだったんですか!今頃、戦うことになってたかもしれないんですよ!?」

夏海は士に笑いのツボをお見舞いし、怒鳴る。隣で笑い転げる士を、祐一たちは少し引いた目で見ている。

「そういえば、この世界の士の役割って何だよ?」

ユウスケの質問で、士は思い出したように、名札を取り出す(笑い終えながら)。

「WATASHIジャーナル。…情報配信社らしいな」

「なに?おれとサトルはそこの新入りだが、そんな話は聞いてないぞ」

ミツルは士に聞く。

「この世界に来た途端に決まることだから気にするな。そこの編集長は知ってることになってると思うが…」

「じゃあ、とりあえず行ってみよ?僕とミツル君も、まだお仕事、残ってるし」

サトルの言葉で、竜也、あゆ、士、ミツル、サトルはWATASHIジャーナルへ行くことになった。

「じゃあ、祐一君、舞ちゃん。おれと夏海ちゃんにこの世界のいろんな場所を教えてくれないかな?」

「あぁ。舞は大丈夫か?」

「平気…」

「じゃあ、お願いします」

「うふふふ、いきましょ♪」

祐一は了承し、舞は祐一の言葉に頷き、ユウスケ、夏海、キバーラを連れて、この街を案内することにした。

「じゃあ、僕は自然とライア君、ゾルダ君と行動を共にするんだね?」

「えぇ。とりあえず、相沢君たちとは別のルートで案内しましょう」

「おう、香里たちも連れてこようぜ!」

残った大樹は、潤と久瀬と共にこの街を散策することになった。

 

ようやく全員分のコーヒーを用意してやってくる栄次郎。

「あら、またみんないない…」

 

その頃、鳴滝とリベレは、オーロラの中でオーディンと接触していた。

自信たっぷりの鳴滝に対して、オーディンはリベレをまじまじと見つめる。

「どうだ?私の持つ最強のライダーは」

「インペラーやアビスと似たタイプだな。どちらかというとインペラー寄り、モンスターに頼りきりではあるが、確かに能力は高い」

オーディンの分析通り、リベレは一体のモンスターと契約することによって、複数のモンスターと契約したインペラーとアビスに似ている。さらにその数は多いため、インペラーに似ている。

鳴滝はリベレのカードデッキを引き抜き、ボスドラグーンの姿に戻す。

「彼を、君の仲間に加えても良い。ディケイドの抹殺が捗るならばな。リベレの契約モンスターは別世界のモンスター、戦力は増える。悪い話ではないだろう?」

「フン、戦力の追加としては悪くない。ディケイドは必ず倒すことになる。リベレを引き取ろう」

確かに現在、士たちは竜也たちに協力している。オーディンと敵対することは間違いない。さらに現時点の戦力はモンスターを除けば、王蛇とオーディンのみ。今後の戦いで戦力を増やしておくことは得策だろう。

「では、期待しているよ」

鳴滝はオーロラを使い、姿を消す。

それと同時に、オーロラの中から浅倉が現れ、オーディンに噛み付くように詰め寄る。

「オマエ、また邪魔をしたな!?」

「ディケイドは9つもの世界の中核となる仮面ライダーの力を使える存在。そして、今は新たに2つの世界の中核となる仮面ライダーの力を手に入れたと聞く。オマエに敵う筈がない。オマエの命を救ったのだ、もう少し感謝したらどうだ?」

世界の中核になる仮面ライダーとは、竜也が変身する仮面ライダー龍騎や、小野寺ユウスケの変身する仮面ライダークウガが、それに当てはまる。ディケイドが変身した別の仮面ライダー、アギトやカブト、電王などもそうだ。

「知るか!オレは楽しみたい…足りないんだよ、これじゃあ…!もっと戦わせろオオオオオオォ!」

浅倉は苛立ちを爆発させ、叫びながら辺りの壁に殴りかかる。だが、それはオーロラの壁。全く破壊できないことが、浅倉の苛立ちをさらに募らせる。

オーディンは、浅倉の苛立ちを静めるために、新たな作戦を用意する。

「現在、龍騎達は別行動を取っている。特に人数の少ない、ライア、ゾルダ、そしてディエンドと戦え。リベレはナイト、ファム、クウガ、キバーラを相手にするのだ」

そう告げて、オーディンはオーロラを呼び出し、浅倉とボスドラグーンを別の場所へ連れさった。

 

辺りのオーロラが消えたそこは洋館のような大きな家の中。窓や鏡には所狭しと新聞紙が貼り付けられ、その中に、子供が描いたような男の子と女の子が手を繋いだ絵がある。

オーディンは、その絵を破れないようにゆっくりと剥がす。

そこから見える、鏡で創られたオブジェ。オブジェの中には先ほどの絵と似たような絵があるが、その絵には人が描かれておらず、描かれているものはどことなくモンスターに似ている。

それ以外は、草も木も建物もない、ただ荒れ果てた荒野。

 

そう、ここは…。

 

「こんにちは、秋子さん」

竜也たちはWATASHIジャーナルに到着し、社内に入る。

編集室では、秋子が黙々とパソコンに向かっており、その横で名雪が真琴と遊んでいた。

「なゆちゃん、来てたんだ」

「あ、おかえりサトちゃん、みんな。今、放課後に部活がないから、真琴ちゃんと遊んでたよ」

名雪は、祐一に伝えられて、秋子がここに勤めていることを知り、真琴は竜也の家に誰もいないとき、ここで面倒を見てもらっている。この部屋は普段、秋子以外に誰もいないため、仕事に差し支えないそうだ。

「おかえりなさい、ミツルさん、サトル君。それに竜也さんとあゆちゃん、よく来ましたね」

「編集長。今日、彼が新人社員として来るのですか?」

「あ…ミツル…!」

ミツルは、秋子に問う。その声に反応した真琴は嬉しそうに、ミツルに抱きつく。

秋子は頬に手を当てて答える。

「えぇ。門矢士さんですね。編集長の水瀬秋子です、よろしくお願いしますね」

「あぁ、ところで聞きたいことがある。この辺りで、奇妙な化け物や、そいつ等と戦う戦士の情報なんてあるか?」

士は、軽く返事をし、気になっていることを聞き返す。

「確かにあります。わたしが書いた記事ではありませんが、どうぞ」

パソコンの画面を士達に見せる。そこには、こう書かれていた。

 

「増え続ける怪人と、謎の戦士たち!」「謎の戦士の中に怪人側もいる!?」

 

写真には、龍騎やナイトをはじめとした仮面ライダー、さらにゲルニュートやシアゴースト、レイドラグーンなどのモンスターが写っている。中には、銀色のオーロラも載っていた。

「ほう。竜也、お前も有め…」

「うぐぅ、まって!」

「ぐっ!?」

突然、あゆが士の口をふさぐ。

ミツルがひそひそと話す。

「編集長に仮面ライダーのことは黙ってろ。正体がばれると心配して、戦わせてくれなくなるだろう?」

ミツルが話し終えると、あゆは士の口を開けた。

「秋子さん。この情報を追うこと、僕は反対します。危険ですよ」

サトルが気に掛けることも無理はない。下手をすれば、オーディンに目を付けられるかもしれない。非常に危険なことではあるが、詳細は伝えられない。

「確かにそう思うんです。でも、この情報をこの街の人に伝えないことは、危機意識を緩めてしまうと思うから、あえて伝えます。ただ…この戦士は一概に危険な存在だとは考えていません。それに、西洋の騎士のような戦士と、青い虎のような戦士を、わたしは知っているような気がするんです」

鋭いのか、やはり古い関係の人には分かるのだろうか、祐一とサトルが変身するナイトとタイガを気にしている。

 

キィィン…キィィン…

 

モンスターの接近音だ。竜也たちは一目散に、飛び出す。

「編集長、まだ用事がありました!申し訳ありませんが、また出ます!」

ミツルは秋子にそう言い残した。

「ミツルぅ…!」

「真琴、おまえはここに残ってろ!」

袖を強く握る真琴を無理やり引き剥がして、最後にミツルが出て行った。

「サトちゃん、みんな…」

「気をつけて下さい…」

秋子は名雪と同じように、祈るように見送った。

まるで何もかも知ってるかのように…。

 

一方、潤と久瀬と大樹は、香里と栞、さらに佐祐理を引き連れて、街を散策していた。

商店街には、沢山の人が行き交い、普段と変わりない生活をしていた。

「へぇ、モンスターが頻繁に出没する街にしては、随分と平和で、人も結構たくさんいるんだね」

「あはは~、久瀬さんや北川さん達が一生懸命、がんばってくれてるおかげですよ。だから、この街では人がたくさん行き交っているんですよ」

「倉田さん…」

久瀬は佐祐理の言葉に、少し頬を赤く染める。

「みなさん、この街にいるヒーローですよ!特に竜也さんは、とっても強くて優しいんです!」

相変わらず、竜也を褒めちぎる栞。よほど彼のことが気に入っているのだろう。

「ところであなたは、どうして戦っているのですか?」

香里の質問に大樹は少し微笑んで答える。

「お宝探しさ。でも、最近はお宝にも、人によっていろんな価値観の違いってモノが分かってきた。他の人には紙切れやガラクタに見えても、ある人にとっては何にも変え難いお宝だったり。だから、今は仲間と一緒にいろんなお宝を探しているのさ」

大樹は自分の考えていることを粗方伝えた後、香里と潤を見ながら、ふっと笑う。

「例えば、君にとって隣にいるライア君は、最高のお宝なんだろ?」

「え…ちょ、ちょっとやめてください、海東さん!」

おどおどする香里に対して、潤は、

「おれにとって、香里は最高のお宝だぜ!」

「あなたは黙ってて!」

ドスッ!

「ごふっ!?」

相変わらずの強力な肘打ちで、潤は撃沈。

「はは、恥ずかしがることはないよ。お宝は、手にしている時にはその価値に気付かないものさ。だから、そのお宝が手にあるときこそ、素直に…」

大樹が続けようとしたとき…。

「よう、ディエンド、ライア、ゾルダ。遊ぼうぜ?」

オーロラが現れ、その中から浅倉が現れる。すでにデッキを見せつけ、戦闘準備万端だ。

「ライア君、ゾルダ君。君たちのお宝、しっかり守りなよ」

<KAMEN RIDE>

大樹はディエンドライバーにカードを挿入する。

「あぁ。香里、栞ちゃん、隠れてろ!」「倉田さん、安全なところへ!」

それと同時に、潤、久瀬、浅倉もデッキをかざし、Ⅴバックルを装着する。

「変身!」

<DIEND>

4人は、ライア、ゾルダ、ディエンド、王蛇に変身を遂げる。

「アァ…。ゾクゾクする…!」

王蛇は首を捻り、手首をスナップさせ、べノバイザーにアドベントカードを二枚ベントインする。

<ADVENT><ADVENT>

「シャアアアアアアァ!」「グオオオオオォ!」

ベノスネーカーとメタルゲラスが現れ、ライアとディエンドに襲い掛かる。

残るゾルダに殴りかかる王蛇。

「ウオオオオオォ!」

「くっ!」

ダダダダダ!

接近戦に持ち込まれるのは非常に危険だ。マグナバイザーで応戦するが、王蛇はマグナバイザーの銃弾を受けても全く気にせずにゾルダに殴り倒す。

ドガァ!

「ぐあぁ!…っく、龍崎君から学んだ技法が、活かせない戦況とは…」

「何を訳の分からないことを言っている!」

一方、ディエンドはベノスネーカーを相手に戦っている。

「暴れん坊な蛇には、知的な戦士かな?」

<KAMEN RIDE ALTERNATIVE >

<KAMEN RIDE ALTERNATIVE-ZERO>

ディエンドは、カードを挿入し、新たな戦士を作り出す。

その姿は2人とも似通っており、黒の比率が高く、どこかコオロギを思わせる戦士。

仮面ライダーとは似て非なる戦士「オルタナティブ」と「オルタナティブ・ゼロ」。

「さぁ、行きましょう。多くを救うために…」「はい、先生…!」

オルタナティブ・ゼロの言葉で、オルタナティブは同時にベノスネーカーに立ち向かう。

「シャアアアアア!」

ベノスネーカーの溶解液を避けながら、2人は、カードデッキから龍騎達やディケイド達とはまた違ったカードを引く。どちらかというと、龍騎たちに似ている。

<SWORD VENT><SWORD VENT>

龍騎たちと同じようなバイザー音声、ただ無感情ではあるが男性の声ではなく、女性の透き通った声だ。その音声と共に、オルタナティブたちに大型の剣「スラッシュダガー」が装備される。

 

それを遠くで見ていた男。白衣を着ており、科学者のようだ。

「これだ…!私が求めていた、疑似ライダーシステム…。完成する!」

 

「うらああぁ!」

メタルゲラスをエビルウィップで絡めとるが、相手は重量級のモンスターかつ凄まじい力だ。逆にライアが振り回される。

「グオオオオォ」

「大人しくしろ!」

ザァン!

突如、オルタナティブ・ゼロが乱入し、スラッシュダガーでメタルゲラスの鎧を思わせる部分ではない所を切り裂く。さすがに強力な一撃で、メタルゲラスは少し暴れなくなった。

「あんた…」

「フフ、やはり昔戦ったときと同じだ。私は一度覚えたことは全て頭に入ってしまうのですよ。モンスターの戦闘パターンも例外ではありません」

オルタナティブ・ゼロはライアに自慢げに言うと、手を差し出す。

「貴方の力が必要です。協力してください」

「オッケー!」

ライアは手をとって立ち上がると、メタルゲラスに再度向き直る。

ベノスネーカーに果敢に立ち向かうオルタナティブ。後方でディエンドが援護射撃をしている。

「シャアアアアアァ!」

溶解液がオルタナティブの至近距離で吐き出される。ディエンドはとっさに避けるが、オルタナティブは避けきれなかった。

「ウアアアアアアァ!」

地面に倒れるオルタナティブ。その身体は少しずつ消滅していく。

「お前は…間違っている…」

ゾルダと戦う王蛇にそう言い残しながら…。

「はぁ!」

ズドォ!

ギガランチャーを使って王蛇に発射するが、やはり王蛇に意図も容易く避けられる。

「ハアァ!」

ザンッ!

「ぐうっ!」

べノサーベルで切り裂かれ、地面を転がるゾルダ。ちょうど、ライアやディエンドが乱戦している場に来た。メタルゲラスとベノスネーカーはそれを確認すると、王蛇のもとへと帰っていく。

<FINAL VENT>

ヘビープレッシャーを発動し、腕にメタルホーンを装備する王蛇。

「ハハハハハハ!」

狂気の笑い声を上げながら、メタルゲラスの肩に乗り、凄まじい勢いで突進する。

「みんな、隠れている君たちも固まりたまえ!」

<ATTACK RIDE BARRIER>

<ATTACK RIDE INVISIBLE>

カードを挿入するディエンドの言葉で、香里、栞、佐祐理は彼のもとへと駆け寄り、ライアたちもそれに続く。

ディエンドライバーから青い光の壁が現れ、ヘビープレッシャーを防ぐが、王蛇はお構いなしに勢いを止めない。さらに力を増して光の壁を破壊しようとする。

そして、ディエンドたちは少しずつ消えてゆく。複数人なので、時間がかかるらしい。

「急げよ!」

「黙ってくれないか!これだけ人数がいると時間がかかるんだ!」

言い争っているうちに、光の壁は少しずつヒビが入っていく。限界は近い。

ようやく全員の姿が消える。

それと同時に、壁は破壊され、残っているオルタナティブ・ゼロへと向かう。

<ACCEL VENT>

「ハアッ!」

ズガアアアアアアァ!

オルタナティブ・ゼロは超高速で王蛇へと激突する。ヘビープレッシャーのほうが威力は上回っていたが、寸でのところでオルタナティブ・ゼロはスラッシュダガーを犠牲に直撃を免れる。

王蛇は上手く着地するが、そこにオルタナティブ・ゼロの姿は見当たらない。どうやら消滅したらしい。

「チィッ!」

舌打ちして、オーロラの中へと消える王蛇。

 

一方、祐一たちもリベレと接触していた。

「グルルルルゥ…!」

「また鳴滝さんのライダーか…!?」

「みんな行きましょう!キバーラ!」

「はいは~い♪」

夏海の言葉で変身の準備を始める。

「変身っ!」

ナイトたちが変身すると共に、リベレはドラグーンバイザーにアドベントカードをベントインする。

<ADVENT>

オーロラから現れるレイドラグーンの群れを、見事なコンビネーションで翻弄するナイトとファム。

「全く!こんなタイミングで出てくるな!」

「祐一、戦いに集中して…!」

「みんなが剣を使うなら俺も!超変身!」

クウガMFは、レイドラグーンの槍型の武器を奪い取り、赤い身体は紫を基調とした重厚な戦士に変わる。

大地の戦士「仮面ライダークウガタイタンフォーム」にフォームチェンジした(以下、クウガTF)。それと同時にレイドラグーンの武器も大型剣「タイタンソード」に変わる。

「ふんっ!だぁりゃあ!」

ザァン!ズバァ!

重々しい足取りで、レイドラグーンをタイタンソードで蹴散らしながら、一歩ずつリベレへと歩いていく。

キバーラも、それに気付いてクウガのもとへと急ぐ。

2人で剣を構え、リベレに斬りかかるが、

「グルゥアアアアァ!」

ガキィン!

「なに!?」「そんな!?」

リベレは剣を白刃取りの要領で受け止め、それを強く握る。

2人は何とか離そうとするが、力が強く、全く離れない。

そのまま背中に装備されたトンボの羽を髣髴させる翼で、クウガ達諸共、空高く舞い上がる。武器を手放すことは痛恨だが、仕方なく武器を手放す。

…が、

「グウウウウゥ!」

シアゴーストが2体現れ、クウガとキバーラの腕を口から吐き出す糸で、リベレの腕と強く縛る。もう距離をとる方法はなくなった。そのまま、地面に直行するリベレ。

ズガアアアアアアァ!

「うああああああぁ!」「きゃあああああぁ!」

地面に叩きつけられた2人は変身が解ける。

「祐一、ユウスケさんたちを…!」

「あぁ!」

<FINAL VENT><FINAL VENT>

「はあああああぁ!」「せえええいっ!」

ズバアァッ!ドガアアアアアアアアアァ!

ナイトとファムはユウスケたちを守るため、飛翔斬とミスティースラッシュでモンスターを蹴散らし、リベレの前に立ちはだかる。

「グオオオオォ!」

<SHOOT VENT>

リベレはアドベントカードをベントインし、腕にハイドラグーンの翼に取り付けてある針「ドラグーンショット」を装備する。

ファムは、とっさにアドベントカードを使う。

<GUARD VENT>

「ガアアアアアアァ!」

バシュッ!

ドラグーンショットの巨大な針が射出したと同時に、ファムは「ウイングシールド」を装備し、特殊能力である相手を惑わす白い羽を当たりに撒き散らす。

ガキィン!

「うっ!」

何とか防ぐことは出来たが衝撃が強く、ファムは吹き飛ばされる。それをナイトが受け止める。

「グルル!?」

そのまま羽の中で姿が見えなくなり、相手を見失ったリベレ。

後を追うことが不可能と判断したのか、オーロラを呼び出し、その中へと消える。

 

竜也たちが辿り着いた先には、イモリ型のモンスター「ゲルニュート」が4体いた。

「今の僕らなら楽勝だね!」

サトルは自身ありげに言うが、竜也は何か引っかかっていた。

(今まで数で行動していたモンスターなのに…。まるで誘き出したみたいだ…)

「ボーっとするな竜也、いくぞ!」

ミツルの言葉ではっとして、竜也はデッキを構える。士はカードとディケイドライバーを取り出す。

「あゆ、安全なところへ!」

もちろん、あゆへの安全の配慮も忘れない。

「変身っ!」

<KAMEN RIDE DECADE>

それぞれ、龍騎、タイガ、インペラー、ディケイドへと変身する。

「しゃあっ!」

早速ディケイドは、カードを取り出す。そのカードには鷹を思わせるような仮面の戦士が描かれていた。

「虎のライダーとなら、こっちは動物園ってか?変身!」

<KAMEN RIDE OOO>

ディケイドの周りに様々な色のメダルのような映像が現れ、その中で赤と黄色と緑のメダルが残り、ディケイドを纏う。すると、頭部はタカ、胸部と腕はトラ、足はバッタの力を兼ね備えた「コアメダル」の戦士「仮面ライダーオーズタトバコンボ」とそっくりな「仮面ライダーディケイドオーズタトバコンボ」に変身する(以下DオーズタトバC)。

さらに別のカードを挿入する。

<FORM RIDE OOO LATORARTAR>

DオーズタトバCの姿は、頭部と脚部がライオンとチーターの形に変わり、ライオンの頭部は光り輝く。「仮面ライダーディケイドオーズラトラーターコンボ」だ(以下DオーズラトラーターC)。

「うわ、まぶしい!」「くっ!?」「目が痛い!」

龍騎達が目を眩ましていることをよそに、DオーズラトラーターCは猛スピードでゲルニュートに近づき、腕に装備された武器「トラクロー」で切り裂く。

ザァン!

「グギャアアァ!」

「何やってる、早く手を貸せ!」

「は、はい!」

龍騎たちもゲルニュートに攻撃を仕掛ける。

タイガはDオーズラトラーターCと共にゲルニュートへ畳み掛ける。

「はっ!」「でぇああぁ!」

ザァン!ズバァ!

デストバイザーで攻撃し、同時にトラクローで切り裂く両者。

「さて、今回はサービスパフォーマンスといくか。変身!」

<KAMEN RIDE KIVA>

<FORM RIDE KIVA GARURU>

DオーズラトラーターCはカードを挿入し、バンパイアをモチーフとした真紅の戦士「仮面ライダーキバキバフォーム」に似た「仮面ライダーディケイドキバキバフォーム」に変身し(以下DキバKF)、さらに青い狼男の力を宿した「仮面ライダーディケイドキバガルルフォーム」に変身した(以下DキバGF)。

「はああぁっ!」「いぇあああぁ!」

ザァン!ガキィ!

DキバGFは青い刀「ガルルセイバー」を振りかざし、近寄ってきた別のゲルニュートを切り裂く。その背後からインペラーが飛び蹴りを決める。

「続いてこれだ。竜也、来い。変身!」

「分かりました!」

<KAMEN RIDE HIBIKI>

さらに鬼の力を宿した戦士「仮面ライダー響鬼」に似た「仮面ライダーディケイド響鬼」に変身する(以下D響鬼)。

<ATTACK RIDE ONGEKIBOU REKKA>

<STRIKE VENT>

「はあああああぁ…だあっ!」「はあああああああぁ…てやぁあ!」

ゴオオオオオォ!

龍騎はドラグクローを構え、D響鬼は太鼓のバチのような武器「音撃棒・烈火」を構える。

両者とも強力な炎を使ってゲルニュートを攻撃する。

あまりの威力に、ゲルニュートは爆死する。

<FINAL VENT><FINAL VENT>

「ガルルルルルル!」「ギギィ!」

ザァン!ガキィ!ガスッ!

2体のゲルニュートはデストワイルダーの爪に切り裂かれ、地面に倒れ伏すが、その状態の2体をガゼールたちが凄まじい勢いで攻撃する。

後は冷気を拳に込めたタイガと、インペラーが襲い掛かる。

「でえぇああああああぁ!」「ああああああぁ…てぇあぁ!」

ドガッ!ドゴオオオオオオォ!

「後は俺がやる」

ゲルニュートは爆散し、残った1体のゲルニュートは元に戻ったディケイドが相手をするそうだ。

「変身!」

<KAMEN RIDE DOUBLE>

ディケイドを風が包み込み、新たに鎧が装着される。右は緑、左は黒を基調としている「仮面ライダーWサイクロンジョーカー」と似た「仮面ライダーディケイドWサイクロンジョーカー」に変身を遂げた(以下DWCJ)。

<FORM RIDE DOUBLE FANG JORKER>

<FINAL ATTACK RIDE DODODO DOUBLE>

「たぁっ!ファングストライザー!」

DWCJは「仮面ライダーディケイドWファングジョーカー」に変身し(以下、)、足に巨大な刃を構え、そのままゲルニュートへ攻撃した。

ドガアアアァ!

ゲルニュートは成す術もなく倒された。

 

と、同時に…

 

ズガアアアアアアアアアァ!

「うあああああああああああぁ!」

凄まじい衝撃を受け、4人は吹き飛ばされた。ディケイドも元の姿に戻る。

「あれって…もしかして!?」

現れたのは最強のライダー、仮面ライダーオーディン。

「あれは…」

「黒幕…。おれ達の戦いの発端です!」

ディケイドの質問に答える龍騎。この状況下では戦うことは不可能。

「世界の破壊者、ディケイド。旅はそろそろ終わったらどうだ?」

「生憎だな。俺はこんなところで負けない。お前にも負ける気はしない」

「やめろ門矢!あいつは俺達が7人がかりでも倒せなかった相手だ!」

インペラーが叫ぶ。そう、彼は万全の状態の7人の仮面ライダーを簡単に地面に屈させた。いくらディケイドが強くとも、勝ち目がない。

「士さん、この場は引き上げるために戦います!」

龍騎はそういって、オーディンに攻撃を開始した。

しかし、すぐに姿を消すオーディン。

現れた先は…。

「あゆ!?」

なんと、あゆの目の前。あまりのことにあゆは身動きが取れなくなった。

「月宮あゆ。なぜオマエはこの場に存在している?私の後ろ盾も無く…」

意味不明な言葉を述べるオーディン。あゆは震えながらも疑問を持つ。

「ど、どういうこと…?」

「オマエは…」

「あゆから離れろおおおおおおお!」

龍騎は力いっぱい叫び、オーディンにとび蹴りをかますが…。

「フン!」

ズアアアアアアアアアアァ!

「ぐああああああああああぁ!」

衝撃波を浴び、成す術もなく吹き飛ばされる。

「竜也!」「竜也君」「おい、しっかりしろ!」

龍騎は鎧が砕けそうになっているが、それでも立ち上がろうとする。

「あゆ…!あゆを守らなきゃ!動けえええええええぇ!」

「ここは引くか。変身!」

<KAMEN RIDE 555>

<FORM RIDE 555 ACCEL>

ディケイドは赤い閃光を放つ仮面ライダー「仮面ライダーファイズ」に似た「仮面ライダーディケイドファイズ」に変身し(以下Dファイズ)、さらに「仮面ライダーディケイドファイズアクセルフォーム」にフォームチェンジする(DファイズAF)。

<ATTACK RIDE ILUSION>

<START UP>

DファイズAFは4体に分身。さらに腕の機械を操作し、タイガ、インペラー、龍騎、そしてあゆを抱えて、この場を去った。

「あの少女は…」

 

離れた場所につく竜也たち。

「あのときは何とかなったけど…これじゃあ…」

「なら呼ぶか」

竜也は士の言葉に疑問を持つ。

構わず自身ありげに立ち上がる士。

「俺が旅の中で出会った仲間達を…!」

 

 

 

続く…

 

 

 

 

次回!

 

              この人たちが…?

 

映司、余計なことには首を突っ込むな!

 

              俺は戦うよ。もっと手は届きそうだし!

 

風都じゃなくても、街を泣かせる奴は容赦しねぇ…

 

               龍騎の世界…興味深い

 

これなら、オーディンを倒せるかも…

 

 

 

第26話「来訪するWとO/風と切札とメダルの戦士」

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

門矢士=仮面ライダーディケイド

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
オルタナティブ・ゼロ
オルタナティブ

水瀬秋子

ボスドラグーン=仮面ライダーリベレ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

鳴滝
白衣の男
光栄次郎

仮面ライダーオーディン


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第26話 「来訪するWとO/風と切札とメダルの戦士」

ここは別の世界。

少しだけ廃れかけた事務所「鳴海探偵事務所」で、一人の青年がコーヒーを飲みながら、思いに耽っている。

(ここ最近は、至る所に残されたガイアメモリの事件もようやく落ち着きつつある。ただ…俺の心は何処か落ちつかない。まるで、新たな危機を知らせているようだ…)

この青年は「左翔太郎」。爽やかな風が吹く街「風都」を「仮面ライダーW」として守り続けている、心優しいハードボイルド(?)である。

突如、事務所内にオーロラが現れる。

「士?」

その中から現れたのは士。かつて幾度か共に戦った、良き戦友である。ちなみに、以前は仮面ライダーの名であるW、ディケイドと呼び合っていたが、今は絆を深め、本当の名前で呼び合っている。

「翔太郎、依頼だ。フィリップ、竜と一緒に力を貸してくれ。別の世界で俺たちじゃ手に負えない戦いが起こっている」

 

ここはまた別の世界。

一人の奇抜な髪型の青年…正確には腕のみの怪人「アンク」が憑依している故に奇抜な髪形になっている「泉信吾」が一人の戦士「仮面ライダーオーズ」の戦いを見届けている。ここでは主人格であるアンクと呼ぼう。

「映司、これでいけ!」

アンクは3枚の灰色のメダルをオーズに投げて渡す。

「分かった!」

オーズタトバCは、オーズドライバーにメダルを差し替え、サイドバックルにあるオースキャナーでスキャンする。

<サイ ゴリラ ゾウ サゴーゾ…サゴーゾ!>

スキャンすると、オーズタトバCは、頭部にサイ、胸部と腕にゴリラ、脚部にゾウの力を兼ね備えた「仮面ライダーオーズサゴーゾコンボ」へとコンボチェンジする。

「うおおおおおおおおおぉ!」

ドゴオオオオオ!

雄叫びをあげながら、目の前の怪人「バッファローヤミー」に向けてゴリバゴーンを発射する。その威力は強烈で、バッファローヤミーは爆発した。

その中から出てきたセルメダル。それを拾い上げる者がいた。

「士…」

「ちっ、メダル泥棒の仲間か」

「手を貸してくれ、映司。お前に手を伸ばして欲しい世界がある」

「映司、余計なことには手を出すな!別の世界ってことは、儲かるメダルはゼロって事だ!」

拾い上げたのは士。突然の協力の依頼にアンクは憤慨する。

彼らは一度面識があった。と言うのも、竜也たちの居る世界の前に訪れた世界は、この世界である。

しかし、オーズサゴーゾCは協力的だ。

「いや、俺は戦うよ。もっと手は届きそうだし!」

 

そして、この物語の舞台となる世界に戻る。

「それで…この人たちが?」

光写真館の中に居る竜也たちの目線の先には、6人の青年がいた。

左翔太郎とその相棒であり、脳内に「地球の本棚」と呼ばれる地球の全ての記憶が入っている少年「フィリップ」。2人で仮面ライダーWへと変身する。そして戦友の一人「仮面ライダーアクセル」である「照井竜」。

「ここが龍騎の世界…興味深い、ゾクゾクするねぇ…」

「おいフィリップ、いつもの検索バカになるなよ。悪いな、竜也…だっけか?探偵の左翔太郎だ、こっちは相棒のフィリップ。ハードボイルドに何でも解決するぜ?」

「風都署警視、照井竜。仮面ライダーアクセルだ」

さらに仮面ライダーオーズである「火野映司」と、彼に力を貸しているアンク、さらに「仮面ライダーバース」である「後藤慎太郎」。

「君が竜也君だね。俺は火野映司、仮面ライダーオーズ。いっしょに頑張って戦おう!」

「仮面ライダーバース、後藤慎太郎だ。俺も世界を守るために協力する」

『Wの世界』と『オーズの世界』の仮面ライダーがここに集まった。

実際に戦った姿を見たことはないのだが、かなり頼りになる雰囲気である。

潤も答える。

「別の世界から、わざわざありがとな。よろしく頼むぜ!」

あゆも驚きを隠せない。士にはこんなにも大勢の仲間がいたのか。

「すごいよ!これだけたくさんの人が一緒に戦ったら…」

「確かに…。これなら、オーディンに勝てるかも…」

竜也の仮定の言葉ですぐに乗り気になるサトル。

「なら、今すぐにでも行こう!あっちは3人で、こっちは16人だよ!」

「思い立ったらすぐ行動か。確かに今なら可能性はある」

「15人だ。翔太郎とフィリップは2人で1人の仮面ライダーだからな」

士が祐一とサトルに説明していることをよそに、ミツルは少し思いとどまる。

「待て、考えてみろ。確かにこっちは大勢いるが、敵の仮面ライダーは3人とも強敵。特にオーディンはおれ達7人を同時に圧倒した、それも何の苦も無くだ。16人で勝てる確証は無い」

「わたしもそう思う…」

「僕も同感だ」

ミツルに賛同するのは、舞と久瀬。潤、サトル、祐一は勝利の可能性があると感じている。

士たちも同様、映司や翔太郎たちは、敵を実際に見たことはないが、戦うつもりではある。残る竜也だが…。

「危険かもしれないけど、もしこれで勝てるなら…。真司さんが言ってた。可能性は、諦めた時点で不可能になる。おれは戦ってみる価値はあると思う」

竜也の考えで戦うことが決まった。

久瀬は佐祐理の方を向く。

「倉田さん、いってきます」

「はい、佐祐理達は信じて待ってます」

佐祐理は正直、心配なのだが、彼らに精一杯の笑顔で送っていきたかった。

サトルは名雪の手をとって真剣な表情で話す。

「なゆちゃん。僕、がんばるから待ってて」

「うん。ふぁいと、だよ」

名雪は両手をグッと握って、可愛らしくガッツポーズを取る。

ミツルは、真琴の頭を優しく撫で、少しだけ微笑む。

「真琴、あゆたちの言うことを聞いて、良い子で待ってろよ。帰ってきたら、また一緒に遊ぼうな」

「あ…う…」

真琴は頷く。彼女に出来る唯一の反応だ。

潤は、香里の肩に手を置く。

「香里!帰ってきたら、デートでもしないか?」

「いいわ。なら、ちゃんと元気に戻ってきなさいよ」

「北川さん、気をつけてくださいね…」

美坂姉妹は潤の無事を祈った。

竜也はあゆに少しだけ申し訳なさそうに言う。

「あゆ、心配させてることは分かってる。でも…」

「大丈夫。ボクは竜也くんの…ううん、ボクたちの家で待ってる」

「ありがとう。帰りにたい焼き買ってくるよ。楽しみにしててね」

彼らは、自分たちの大切な人たちにそれぞれ言葉を告げ、オーディンとの戦いに赴く。

「いってらっしゃい」

家主である栄次郎は、優しく彼らを見送った。

 

「おのれディケイド…!別の世界のライダーを呼ぶとは…」

オーロラの中で歯をギリギリと鳴らしながら憎らしそうに言う鳴滝。

「案ずるな、私が負けることは無い。こちらには3枚のサバイブがある」

オーディンがそういって見せ付けたものは、2枚の金色の翼が描かれたアドベントカード。左翼のカードには風、右翼には炎を思わせる背景がある。

それぞれ「SURVIVE ~烈火~」「SURVIVE ~疾風~」と呼ばれている。

残る1枚「SURVIVE ~無限~」は、既にオーディンが恒常的に使用しているため、この場には無い。

「だが烈火と疾風は君の複製したものだ。オリジナルと比べて出力は弱いのだろう?」

確かに、この2枚のサバイブはオーディンの複製。オリジナルのサバイブはこの2枚よりもさらに能力が高い。複製の能力が低いのは、オリジナルのデータが無いにもかかわらず、複製したことが原因だ。

「確かにそうだ。しかし、オリジナルは城戸真司が所持している。今、城戸真司がどうなっているか判っている筈だ。奇跡でも起こらない限り、今の龍騎と接触は出来ない。つまり、今の龍騎達にサバイブは使用できない。勝機はまだ此方にある」

仮面の奥で笑うオーディン。だが、その直後、笑みが消える。

 

実は、オーディンは契約モンスターである、不死鳥型モンスター「ゴルトフェニックス」の力を全く使わずに、もう1枚、サバイブを作っていた。彼はそれを「最後のサバイブ」と呼んでいる。

その力は、自らの持つ無限のサバイブとほぼ同等の力を持っていると、オーディンは推測している。

 

現在、そのカードは行方不明。

以前、オーディンが言っていた「不安要素」はこれなのだ。

もし、それが彼らの手に渡ったら…。

「龍騎達が行動を開始した。見せてやろう、無限のサバイブの力を…」

 

手がかりはなかったので、初めにオーディンと遭遇した採石場に足を運ぶ達也たち。

「いた…」

舞が指差す先には、オーディンが佇んでいる。両隣にはボスドラグーンと浅倉を従えていた。

「やはり、総当り戦か…」

「ハハハハ!こいつは最高だ!死ぬまで楽しもうぜ!?変身!」

「ヘン…シン…!」

浅倉とボスドラグーンはカードデッキを翳し、王蛇とリベレに変身を遂げる。

竜也たちもそれに続く。

<CYCLONE><JOKER><ACCEL>

「アンク、メダル!」

後藤は「バースドライバー」を装着、セルメダルを一枚リストバンドから外し、アンクは「オーズドライバー」を装着した映司に3枚のメダルを渡し、翔太郎とフィリップ、照井はガイアメモリとそれぞれ「ダブルドライバー」「アクセルドライバー」を装着し、変身準備に入る。

「変身!」

<KAMEN RIDE DECADE><KAMEN RIDE DIEND>

<CYCLONE JOKER><ACCEL>

<タカ トラ バッタ タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ!>

この場にいるオーディンたちを除く、仮面ライダー全員が叫ぶと、竜也たちはデッキを装填し、龍騎、ナイト、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラーに、士たちはディケイド、クウガMF、キバーラ、ディエンド、翔太郎とフィリップはベルトにガイアメモリを挿入し、士が変身した仮面ライダーWサイクロンジョーカー(以下WCJ)に変身する。その途端、フィリップの意識は無くなり倒れる。映司は同じく士が変身した仮面ライダーオーズタトバコンボへと変身(以下オーズタトバC)、後藤と変身の掛け声にかなりの溜めがあった照井は以前、大樹が呼び出した戦士と全く同じ、仮面ライダーアクセルと仮面ライダーバースに変身した。

15対3。

普通に考えれば、こちらが圧勝だが、果たして…。

 

「デェアアアアアアァ!」

真っ先に動き出したものは王蛇。ナイトとファムに襲い掛かる。

「浅倉…!お母さんの仇!」

「舞、気をつけろ!」

ファムは意気込んで、王蛇と真っ向からブランバイザーで攻撃する。ナイトもファムを気遣いながら戦う。

しかし、王蛇はナイトとファムの片足をすくって引き倒し、両足で押さえ込み

「ハハハハハハハハハ!」

ガッ!ガスッ!ガキィ!

「ぐぅっ!ぐあっ!」「あっ!くうっ!」

狂ったように笑いながら、王蛇はナイトとファムをサンドバックの如く殴り続ける。

その姿を仲間たちは黙っていない。すぐさまインペラーとタイガが援護に入る。

「たあああああぁ!」「せぇああああああぁ!」

ドガッ!ガゴォ!

「ウオォ!?」

地面を転がる王蛇はすぐさま立ち上がるが、ナイトたちを守るようにライアとゾルダが立ち塞がる。

「良いぜェ…。戦いは、こうでないとなァ!」

<SHOOT VENT><SWING VENT>

「相変わらず、戦いを楽しみにするなんて…」「絶対に止めてやる!」

ライアはエビルウイップを、ゾルダはギガランチャーを構え、攻撃を開始する。

ズダァン!

「クハハハハハハハ!」

やはり王蛇は、笑いながらギガランチャーの弾丸を避け続ける。

すぐさま、インペラーとタイガが攻撃に移るが、

<ADVENT>

「シャアアアアアアアァ!」

「うっ!?」「あぶない!」

ベノスネーカーを呼び出し、溶解液をインペラーたちに向かって吐き出させる。

とっさに避ける2人だが、

「ウォオラァ!」

ガッ!ドカッ!

「くっ…!」「うわぁっ!」

避ける拍子に出来た、一瞬の隙を突いて殴る。

その時、ライアが奇襲を仕掛ける。

「うおりゃああああぁ!」

<SWORD VENT>

「アァア!」

ドガァ!

「どあっ!?」

しかし、王蛇はべノサーベルを呼び出し、ライアの攻撃を避け、彼の鎧を切り裂く。

明らかに強くなっている…。

アドベントカードの使い方や戦闘技術が、今までの王蛇よりも数段、上回っていた。

「やれ」

「シャアアアアアアアァ!」

ベノスネーカーは、王蛇の指示を受け、ナイトとファムを長い身体で縛り上げる。

絞め落とすつもりだ。

ギチギチ…!

「うぁっ…!」「くうっ…!」

少しずつ、ナイトとファムの体力を奪っていく…。

 

「グウウウウウゥ…!」

<ADVENT>

リベレがドラグーンバイザーにベントインすると、オーロラが現れ、中から凄まじい数のシアゴースト、レイドラグーン、ハイドラグーンが現れる。

「アクセル。もう一度、力をあわせよう」「了解した」

<ENGINE STEAM>

アクセルはエンジンブレードにメモリを挿入し、超高温の蒸気を噴出させながらモンスターの群れに攻撃を開始する。

「ああああぁっ!」

<CUTTERWING DRILLARM>

一方のバースは、セルメダルを2枚挿入し、背部に「カッターウイング」右腕に「ドリルアーム」を装着する。

「はあっ!」

ザァン!ザァン!ズバァ!

カッターウイングを取り外してブーメランのように投げつつ、ドリルアームで遠隔操作し、モンスターたちを翻弄する。

ディエンド、クウガMF、キバーラも続く。

「年の功。経験豊富なおじさんに任せようかな」

<KAMEN RIDE GAOH>

<KAMEN RIDE ANOTHER AGITO>

ディエンドは生物的なフォルムの光と闇の戦士「アナザーアギト」と、体中にワニと牙の意匠を取り入れた時間を喰らう戦士「仮面ライダーガオウ」を呼び出す。

彼らはかなり年を重ねており、経験地は高い。

「俺は、唯一無二のアギトとなる…!」「いいぜ。全員、俺が喰ってやる」

両者、低い声で呟き、ガオウは腰の武装を組み立てた「ガオウガッシャー」を構え、アナザーアギトと共に、モンスター軍団に攻撃を仕掛けた。

「超変身!」

クウガMFは大勢を素早くいなせるクウガDFにフォームチェンジし、レイドラグーンの武器を奪い取り、ドラゴンロッドに変化させ、振り回しながら縦横無尽に攻撃する。

「はあぁっ!」

ザァン!

キバーラもキバーラサーベルを華麗に構え、迫ってくる相手をひらりとかわしながら、確実に一撃を決めていく。

リベレは、遠くからチャンスを覗うように、その様子を見ている。

 

残るは、龍騎、ディケイド、WCJ、オーズタトバC。

オーディンに立ち向かうつもりだ。

「4人で私に敵うか?」

「勝てる!みんなの力と気持ちを信じているから!」

オーディンの質問に強く返す龍騎。

城戸真司から龍騎を受け継いで、この街に来るまでは、たった一人で戦い続けていた。

だが、今はたくさんの仲間が一緒に戦ってくれる。傷つけたくないという気持ちもあるが、それ以上に仲間がいることは何よりも心強い。だからこそ信じている。

勝てると。

「お前が、この街を泣かせる諸悪の根源か。たとえ風都じゃなくても、街を泣かせる奴は容赦しねぇ…!」

WCJの翔太郎側の意識はオーディンに強い対抗心を燃やす。彼は自分の生まれ育った街風都を守り続けている。だからか、この街も風都のように守りたいという気持ちが強くなっている。フィリップ側の意識も同様だ。

「あなたがこの世界をどうしたいかなんて、俺は分からない。でも、竜也君の話を聞く限り、あなたが正しいとは思えない。だから、止める」

オーズタトバCも拳を握り締め、オーディンと改めて向き合う。

「アンク、タジャドルでいこう!」

「まったく…。なくすなよ」

遠くで見ていたアンクはオーズタトバCに促され、渋々、赤いメダルを2枚渡す。

「エクストリームで勝負だ。ディケイド」

「あぁ」

WCJのフィリップ側の意思を聞き入れたディケイドは、オーロラを呼び出す。

その中から、鳥の形をしたガイアメモリ「エクストリームメモリ」が現れ、意識を失っていたフィリップの肉体をデータ化し、吸収する。

これは、彼の肉体はデータで構築されていることにより、分解、再構築が可能である身体だからだ。

<タカ クジャク コンドル タージャードルー!>

<XTREME>

オーズタトバCは頭部にタカ、胸部と腕部にクジャク、脚部にコンドルの力を備えた「仮面ライダーオーズタジャドルコンボ」へとコンボチェンジする(以下オーズタジャドルC)。その後、WCJはエクストリームメモリを手にし、ダブルドライバーに挿入し、展開する。Wの姿は中央部分が「クリスタルサーバー」に覆われた「仮面ライダーWサイクロンジョーカーエクストリーム」に強化する(以下WCJX)。

「良いだろう、教えてやる。圧倒的な力でな」

オーディンの語気が強まる。おそらく、今までよりも力を発揮するつもりだ。

左手を翳すと、黄金の光に包まれ、大型の杖型召還機「ゴルトバイザー」が現れる。

アドベントカードを引き、ベントインを行う。

<<SWORD VENT>>

他のライダーよりも、エコーの効いた電子音声が流れると、オーディンは金色の羽に包まれ、両手にゴルトフェニックスの翼の一部を模した、黄金の双剣「ゴルトセイバー」が現れる。

「プリズムビッカー!」

<SWORD VENT><PRISM><KAMEN RIDE BLADE>

龍騎はドラグセイバーを呼び出し、ディケイドは別世界の仮面ライダー「仮面ライダーブレイド」とそっくりな「仮面ライダーディケイドブレイド」に変身する(以下Dブレイド) 。

WCJXは盾と剣が一体化したメモリの力を引き出す武器「プリズムビッカー」をクリスタルサーバーから取り出し、プリズムメモリを挿入、剣の部分「プリズムソード」を引き抜き、戦闘態勢に入る。

オーズタジャドルCもメダルの力を引き出す装備「タジャスピナー」と「メダジャリバー」を構える。タジャスピナーは炎を射出する能力があり、攻撃面にも優れているのだ。

「はああああああああぁ!」

ゴゴゴゴゴォ!

4人は一斉にオーディンに向かって駆ける。オーズタジャドルCは走り寄りながらタジャスピナーから炎を連射する。

しかし、その炎はオーディンに当たることは無かった。

姿が消えたのだ。

「消えた!?」

「みなさん、オーディンは瞬間移動をします。気をつ…」

「オマエだろう?」

ズザアアアア!

「がはあぁっ!」

突如、オーディンは龍騎の目の前に現れ、ゴルトセイバーで切り裂く。

龍騎の鎧は一瞬にして砕け、体中から火花が散っている。

「竜也!」「竜也君!?」

DブレイドとオーズタジャドルCは龍騎に駆け寄り、オーディンから庇うように立ち塞がる。

しかし、そこにはすでにオーディンはいない。

「ハアァッ!」

ゴオオオオオオオォ!

「うわあああああああぁ!」「ぐああああああぁ!」

オーズタジャドルCとDブレイドが凄まじい衝撃を感じ、吹き飛ばされる。

吹き飛ばされた力の方向を見ると、ゴルトセイバーを振り下ろしたオーディンがいる。先程の衝撃波は、ゴルトセイバーの斬撃の余波なのだ。

余波だけでも、これほどの威力。

残ったWCJXの翔太郎側の意識は、フィリップ側の意識に問いかける。

「フィリップ、敵の弱点を検索できるか!?」

「不可能だ!僕の脳内の本棚は『Wの世界』の事だけだ。『龍騎の世界』は何一つ検索できない!」

「くそっ!」

WCJXは本来、クリスタルサーバーを介して地球という膨大なデータベースにフィリップの意識が侵入し、相手の弱点を探ることが出来るが、それは『Wの世界』限定の話。

オーディンは『Wの世界』の住人ではなく、ましてやこの世界の住人でもない。

弱点の検索など不可能なのだ。

「話をしている余裕があるとはな」

WCJXがハッとして前を見ると、すでにオーディンが目の前。

ガキィ!ドガアアアアァ!

「うおあああああぁ!」

とっさに盾にあたる「ビッカーシールド」で防ぐが、なんとオーディンのゴルトセイバーはビッカーシールドを、まるで紙を破るように破壊した。

その衝撃で、WCJXは吹き飛ばされ、近くの岩に激突する。

「中核に当たるライダーが、4人掛かりでこの程度か。笑わせる」

オーディンは、地面に倒れ伏す4人を嘲笑すると、片腕を振り上げる。

すると、金色の羽が大量に降ってくる。

 

しかし…

 

ズザザザザザザ!

「うあああああああああぁ!」「きゃああああああぁ!」

「ぐおおおああああぁ!」「くああああああぁ!」

標的は龍騎達ではない。リベレや王蛇と戦っているナイト達だった。

その様子を、仮面の奥では絶望の表情で見つめる龍騎。

 

おれのせいだ…。

おれが、戦ってみようなんて言ったから…。

 

苦痛に耐えながら必死に立ち上がろうとする仲間たち。中には、変身が解けた者や完全に意識を失った者もいる。先ほどの猛攻でアナザーアギトとガオウも消滅してしまった。

「消えろォ…」

ベノスネーカーのファイナルベントをべノバイザーにベントインしようとするが、

「待て」

突如、オーディンが止める。彼は変身が解けた竜也を見ている。

舌打ちするが、渋々下がる王蛇。

「龍崎竜也、聞きたいことがある。城戸真司からサバイブのカードを受け取ったのか?」

竜也はふと気がついた。

サバイブの存在は烈火のサバイブと疾風サバイブの存在を知っている。たった一度だが、城戸真司が実際に使用したところも見た。

そのカードを使用した龍騎の名は…。

 

「仮面ライダー龍騎サバイブ」

 

仮面ライダー龍騎の最終形態。その名の通り「生き残る」ための力を限りなく引き出した姿だ。

城戸真司によると、疾風のサバイブはナイトが使用することによって、最終形態である「仮面ライダーナイトサバイブ」になると聞いた。

だが、竜也は城戸真司からサバイブのカードを受け取った記憶は無い。

「烈火や疾風のサバイブは持っていない…」

「違う、最後のサバイブだ」

オーディンの言葉に疑問を持つ。サバイブのカードは2枚だけではなかったのか?

「その様子だと知らないようだな。サバイブのカードは「烈火」「疾風」そして私が恒常的に使用している「無限」のオリジナル、私の作り出した「烈火」「疾風」の複製が2枚。そして、行方不明である最後の1枚。計6枚が存在している。内、複製した烈火と疾風は私の手元にある。…だが、オマエ達はどうやら所持していないらしいな。城戸真司から聞いていないところから、おそらく城戸真司も所持していない」

オーディンの言葉が真実とすると、彼は少なくともサバイブのカードを3枚持っている。

城戸真司がオリジナルの疾風と烈火を持っていたので、5枚の持ち主は判明した。

だが、最後の一枚…。

これに関しては、これが初耳だ。城戸真司からでさえ、教えてもらっていない。

「この世界のどこかにある。これが分かっただけでも十分な収穫だ。覚えておけ、オマエたちがサバイブを所持していない限り、私に勝ち目はない」

オーディンはオーロラを呼び出し、王蛇、リベレと共に消えていった。

「最後のサバイブ…」

竜也が考えていると…。

 

<BEAST><VIOLENCE>

 

音のする方向を見ると、オーロラがあり、そこから2本のガイアメモリが飛び出し、倒れていたシアゴースト2体に一本ずつ侵入する。

すると、シアゴーストは別の姿になった。

野獣の記憶を封じ込めた「ビーストドーパント」と暴力の記憶を封じ込めた「バイオレンスドーパント」だ。彼らはいずれも『Wの世界』の怪人。

そして、さらに別のオーロラから2体の怪人が現れる。

「サメヤミー」と「リクガメヤミー」だ。彼らは『オーズの世界』の怪人。

「ディケイド!お前がこの世界に残り続ければ、続けざまに怪人を送り込むぞ!」

オーロラから声が聞こえる。おそらく鳴滝。

激痛の走る身体を何とか動かし、元に戻ったディケイドとWCJX、オーズタジャドルCが立ち上がる。

「さっきは、あの偉そうな奴に見せ場を取られたが…今度はそうはいかないぜ?」

「いくぜ、フィリップ…!」

「あぁ、翔太郎。ゾクゾクするねぇ…」

「ここで負けられない。もっと、手は届くから…!」

3人の仮面ライダーは、不屈の意志で戦う…。

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

               俺たちがいると、お前たちに負担をかける…

 

こいつは絶対に、大切な人、誰よりも尊敬する人の願いを守る!

 

               最後のサバイブが、勝利の鍵…

 

キサマ…ハ?

 

               通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!

 

 

 

第27話「世界の破壊者」

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 

 

 





キャスト


龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

門矢士=仮面ライダーディケイド

火野映司=仮面ライダーオーズ
左翔太郎&フィリップ=仮面ライダーW

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
仮面ライダーガオウ
アナザーアギト

アンク/泉信吾
後藤慎太郎=仮面ライダーバース
照井竜=仮面ライダーアクセル

ボスドラグーン=仮面ライダーリベレ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

鳴滝
光栄次郎

仮面ライダーオーディン


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第27話 「世界の破壊者」

バイオレンスドーパントとリクガメヤミーはディケイドが引き受ける。

「さぁて、そこで倒れているユウスケの力を使うか。変身!」

<KAMEN RIDE KUUGA>

ディケイドの身体は、ユウスケがクウガに変身するときと同じように変化し、「仮面ライダーディケイドクウガマイティフォーム」へと変身する(以下DクウガMF)。

「さっきの奴が金なら、こっちも金の力だ。30秒でケリを着ける」

<FORM RIDE KUUGA RISING>

新たなカードを挿入するとDクウガの身体に電流が走り、所々に金色のラインが入る。

クウガの「究極の闇」の力をほんの一部だけ引き出した「仮面ライダークウガライジングマイティフォーム」へとフォームチェンジする(以下DクウガRMF)。

OダジャドルCはサメヤミーを相手にする。

サメヤミーはいつの間にか複数体になっている。

「アンク、メズールのヤミーは沢山いるんだろ?こっちも数で!ガタガタ、ガタキリバ!」

「いちいち、コンボを使うな!どうなっても知らんぞ!」

アンクはOタジャドルCを罵倒して、緑のメダルを3枚渡し、それを受け取ったOタジャドルCはメダルを差し替え、スキャンする。

<クワガタ カマキリ バッタ ガータガタガタキリバ ガタキリバ!>

「いくぞ!」

「仮面ライダーオーズガタキリバコンボ」は凄まじい数に分身し(以下OガタキリバC)、サメヤミーと対峙。

「ビーストの弱点は検索済みだ。プリズムビッカー無しでもいけるよね、翔太郎?」

「あぁ、もちろんだ」

WCJXは、ビーストドーパントと対峙する。

「はぁっ!たぁっ!」「うぉら!はぁ!」「ふっ!やぁっ!」

ガッ!ドカッ!バキッ!ガスッ!

3人の仮面ライダーは敵を見事に圧倒する。これが彼らの本来の実力なのだ。

「悪いな、約束の30秒だ」「ぶっ放すぜ?」

<FINAL ATTACK RIDE KUKUKU KUUGA>

<XTREME MAXIMUM DRIVE><スキャニングチャージ!>

「はああああああああああぁ!」「ダブルエクストリーム!」

「うおおおおぉ…せいやあああああああぁ!」

ドガアアアアァ!ドゴオオオオォ!ドガガガガガガガ!

DクウガRMFの右足に電流が流れ、バイオレンスドーパントとリクガメヤミーを一瞬で倒した。この「ライジングマイティキック」本来は半径3㎞が火の海になるのだが、DクウガRMFは竜也達のことを考慮し、威力を下げた為、爆発は小規模となった。

WCJXは、エクストリームメモリから放出された、緑色の風のようなエネルギーを身体に蓄え、ビーストドーパントを両足で蹴る。WCJXの必殺技「ダブルエクストリーム」だ。先ほどのバイオレンスドーパントと共に、身体からメモリが排出され、身体は元のシアゴーストに戻り、メモリもろとも爆発する。

OガタキリバC達はサメヤミーの群れに一体ずつ「ガタキリバキック」を浴びせていく。

サメヤミーは一体たりとも残らずに、爆散を遂げた。

リクガメヤミーとサメヤミーからセルメダルが大量に現れるが、それをアンクは見逃さない。

本体である腕だけ分離して、メダルをかき集め、体内に吸収していく。

「大量だな。俺のメダルだ!」

「お前ら、こいつらを運ぶぞ。特に映司」

変身を解いた士の言葉で、翔太郎とフィリップは、祐一達を背負っていった。

ちなみに、映司はガタキリバCのまま運ぶ。

 

オーロラの中で鳴滝はオーディンに怒鳴り散らす。

「あのまま上手くいけば、ディケイドを排除できたのに…。なぜ見逃した!?」

「ディケイドは見たところ、この世界を破壊するつもりはないようだ。いずれこの世界から去るだろう。私にとっては、どうでも良い存在だ」

オーディンは、鳴滝に対して冷たく言い放つ。確かに、士は世界を破壊しようとはしておらず、この世界を自分の理想郷として作り上げるオーディンにとっては、影響は少ない。そのうちこの世界から去るのならば尚更だ。

さらに鬼のように怒り狂う鳴滝。

「ならば、リベレを君の仲間から切り離すぞ!」

「好きにすれば良い。まさか、リベレが私にとって、それほど影響がある存在だと考えていたのか?」

そう、オーディンにとっては、リベレなど、ほぼ影響のない存在だったのだ。モンスターの数に関しても、今は問題なく生み出すことが出来るのだ。

「ならば…!」

鳴滝はリベレを引き連れ、オーロラの中へ消える。

傍で話を聞いていた浅倉は鼻で笑う。

「ハッ…詰まらん奴らだ」

「終わりだな。リベレは恐らく、龍騎やディケイドが始末するだろう」

 

光写真館へと戻る一同。

「あう…ミツル…」「そんなに落ち込むな。すぐ治る」

「サトちゃん…」「ごめん、なゆちゃん。心配かけたね…」

「久瀬さん、大丈夫ですか!?」「平気…と言いたいんですけど…」

「ここまでボロボロになって…」「デートは、お預けだな…」

幾人かは、待っていた者たちから傷の手当を受けている。

その中で、うなだれている竜也。

「どうした?」

気になった士が竜也に話しかける。

「おれのせいです。おれが易々と戦うなんて言ったから…」

「気にするなよ、みんな生きてる。お前も、俺達もな」

翔太郎も竜也を元気付けるように励ます。

だが、竜也は机を強く殴って、叫んだ。

「下手をすれば、みんな死んでいました!もっと、冷静に考えれば…」

そんな竜也を、映司が優しく声をかける。

「でもさ、俺は君の意見に反対しなかったよ。どうしてだと思う?」

「え…?」

「あのとき、君がやろうとしていたことが、後悔しないため、必死に手を伸ばしてたからだよ。結局は届かなかったけど、手を伸ばさなかった後悔よりはいいと思うな」

「あぁ。コイツはバカだが、根性だけは見上げた奴だからな。だから使える」

「こいつと一緒に戦っているのも、自分にできる精一杯のことをやるため」

映司には、ある過去がある。自分の世界で紛争地域に滞在していたとき、ある少女と仲良くなった。

だが…その少女が窮地に陥ったとき、映司は救えなかった。

そのときの後悔を二度と繰り返さないため、映司は今、自分にできる最大限のことを、仮面ライダーオーズとして果たし続けている。

「そうさ。中途半端な覚悟じゃないだろ?」

声をかける翔太郎もそうだ。

彼には、誰よりも尊敬する師匠がいた。名は「鳴海荘吉」、またの名を「仮面ライダースカル」と言う。

2年半ほど前、翔太郎と荘吉は、地球の記憶を脳内に宿した少年…後のフィリップを救うため、ある組織の施設へ侵入した。

しかし、翔太郎の勝手な判断で、荘吉に痛手を負わせ、さらには殺されてしまうきっかけをつくってしまった。

今は、その罪を償うことを含め、フィリップと共に、風都を仮面ライダーWとして守り続けているのだ。

鳴海荘吉の忘れ形見として…。

「それでも…おれは…」

「ボクは竜也くんの事、怒ったりしないよ」

竜也の怪我を手当てしていたあゆが、突如話す。

「竜也くんは、みんなの命を粗末に扱ったりしないって分かってるもん。みんなのことを信じていたから、戦うって決めたんだよね?」

「…うん」

少しだけ頷く竜也。彼が仲間のことを強く信頼していることは事実だ。

 

キィィン…キィィン…

 

突如、モンスターの接近音が聞こえる。

「モンスターが…!」

「行ってきて」

あゆは、竜也の手をとって優しく握る。

「竜也くんがみんなを守るって気持ち、信じてるから」

「…行ってきます!」

竜也は、写真館を飛び出した。

「さてと、付き合ってやるか。夏海、ユウスケ。たぶん今回の相手はリベレだろう。お前らはここにいて、あゆたちを頼む。海東、映司、後藤、翔太郎、フィリップ。ついて来い」

珍しく、賢明な判断をする士。彼らは素直に従う。

 

だが…。

 

「グウウウウウウゥ!」

「くそ、こんなところまで来たのか!?」

写真館に侵入するシアゴーストの群れに、毒づく祐一。

照井は突然立ち上がり、

「ここは任せろ!」

アクセルメモリとアクセルドライバーを持つ。

「変…身っ!」

<ACCEL>

「さぁ…振り切るぜ!」

アクセルに変身を遂げ、シアゴーストの群れと組み合う。

「真琴達が心配だ。ここで戦わせてくれ!」

「僕も、なゆちゃん達を守りたい!」

「傷がまだ残ってて、上手く戦えそうもないからな。僕も」

「やるか!香里、見てろよ!」

ミツルたちは、ここで戦うつもりだ。今は何も言っていないが、舞と祐一も同意見らしい。

「くたばるなよ?」

「あぁ!」「はちみつくまさん」

はっきりと返す祐一と舞。

その言葉を聞いた士は、先ほど言ったメンバー達と共に、竜也のもとへと急いだ。

「キバーラ」「はぁ~い♪」

「俺はここで、みんなの笑顔を守る!」

「変身っ!」

夏海やユウスケ、祐一達もアクセルに続く。

 

「うわああああぁ!」「たすけてえええええ!」

街では、レイドラグーン達が大暴れしていた。

中には、一般人を襲うため、しがみついている者もいる。

「止めないと…変身っ!」

その場に着いた竜也は、すぐさま龍騎に変身する。

「しゃあっ!」

<SWORD VENT>

「はぁっ!だぁっ!でぇっ!逃げてください!」

ザンッ!ズバァ!

ドラグセイバーを呼び出し、レイドラグーンたちを一般人から引き剥がし、斬りつける。

「手を貸すぜ。変身!」

<KAMEN RIDE DECADE><KAMEN RIDE DIEND>

<CYCLONE JOKER>

<タカ トラ バッタ タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ!>

龍騎の前に、ディケイド、ディエンド、WCJ、OタトバC、バースが現れる。

「モンスターたちは、僕らに任せたまえ。あ、ついでにお土産」

<KAMEN RIDE SKULL><KAMEN RIDE BIRTH>

ディエンドはカードを挿入し、引き金を引くと、白い帽子を被った骸骨を思わせる戦士「仮面ライダースカル」と、後藤の変身するものと全く同じ「仮面ライダーバース」が現れる。

「行くぞ、翔太郎、フィリップ…」

「おやっさん…」「鳴海荘吉…」

そう、スカルは荘吉の変身した姿。口調もそっくり且つ、『Wの世界』の荘吉の記憶をも共有しているらしい。

2人…いや、3人は並び立ち、自分たちがそれぞれに決めた、覚悟の証である決め台詞を静かに口にする。

 

「「さぁ、お前の罪を…数えろ!」」

 

「よ、久しぶり後藤ちゃん。さ、一緒にお仕事だ…!」

「伊達さん…なんですか?」

後藤の変身したバース(以下Gバース)は、ディエンドの召還したバース(以下Dバース)に、どこか懐かしさを感じる。

後藤がバースに変身する前に、別の装着者がいた。その男は「伊達明」。1億円を貯め、手術費用を稼いでいた青年である。だが、その為に絶対に卑怯な手段や、非人道的行為は行わない。自分の命を繋ぎとめ、そして他の人々を救おうとした、後藤にとっては誰よりも尊敬する人物であった。

Dバースは、その伊達明の記憶を共有しているようだ。

「さぁ、君たちはリベレ君を探したまえ!」

「ありがとうございます、大樹さん!」

残ったディケイドと龍騎は、リベレを探し始めた。

 

光写真館からシアゴーストたちを追い出し、外で戦っている仮面ライダーたち。

<STRIKE VENT><SPIN VENT>

「でぇやぁ!」「とおぁっ!」

ザァン!ドガァ!

タイガとインペラーは、それぞれの武器でシアゴーストたちを薙ぎ払う。万全の状態ではないが、さすがに戦闘経験が高い故に、見事なコンビネーションだ。

<GUARD VENT><CORY VENT>

ゾルダはマグナギガの胸部を模した盾「ギガアーマー」を呼び出し、ライアもコピーベントで複製する。香里や佐祐理たちの壁になることに徹するようだ。

「僕たちがいるから、安心してください!」「鉄壁の防御にしてやるよ!」

<TRICK VENT><GUARD VENT>

ファムとナイトは、特殊な能力を宿したカードを使って、モンスターたちを錯乱させている。

「たぁっ!」「やあっ!」

ザァン!

ウイングシールドで錯乱させ、さらにシャドーイリュージョンでの分身攻撃。どちらともトリッキーな攻撃手段ゆえに、シアゴーストはほとんど手が出せない状況にある。

フォームチェンジ済みのクウガTFとキバーラは共にシアゴーストを翻弄している。

「だぁりゃあ!」「はっ!笑いのツボ!」

ガキィン!ドスッ!

「ググ!?グゲゲゲ…!」

特にキバーラはキバーラサーベルの柄をシアゴーストの首筋に突き刺す。それは本人の宣言どおり、笑いのツボだ。

シアゴーストは、どこか笑っているような様子で地面を転がる。効いているのだろう…多分。

「全て…振り切るぜ!」

アクセルは、ストップウォッチ型のガイアメモリ「トライアルメモリ」を起動させ、アクセルドライバーにセットする。

<TRIAL>

電子音声と共に、アクセルの身体は黄色く染まり、次の瞬間、真っ青な戦士に変わる。

超高速の戦士「仮面ライダーアクセルトライアル」だ(以下、アクセルT)

トライアルメモリを再び引き抜き、スイッチを押すと、液晶画面で時間が計測される。

「はああああああぁっ!」

ガガガガガガ!

音速で駆け回り、シアゴーストを攻撃し続ける。

数秒後…。

<TRIAL MAXIMUM DRIVE>

トライアルメモリのスイッチを再び押し、計測を止める。

そこで出た数字は「8.5秒」。

「8.5秒。それがお前たちの絶望までのタイムだ…!」

ドガアアアアアァ!

その言葉を最後に、アクセルTに攻撃されたシアゴーストたちは一瞬で爆発する

 

<LUNA TRIGGER>

「行くぜ、おやっさん」

WCJはメモリを差し替え、幻想と射撃能力を身につけた「仮面ライダーWルナトリガー」にフォームチェンジする(以下WLT)。胸部に現れた「トリガーマグナム」を構える。

スカルも専用の武器「スカルマグナム」を手に取り、帽子を目深に被る。

「フン!」「はぁっ!」

ババババババ!

WLTたちは、モンスターたちを翻弄する。

「次は接近戦だ、翔太郎」

<HEAT METAL>

WLTは、灼熱と鋼鉄の記憶を宿した「仮面ライダーWヒートメタル」にフォームチェンジした(以下WHM)。

背中に現れた「メタルシャフト」を引き抜き、両端に高熱の炎を排出しながら、シアゴーストを攻撃し続ける。

「強くなったな…」

スカルマグナムを撃ち続けるスカルは、WHMに聞こえないような声で呟く。

<CYCLONE JOKER><JOKER MAXIMUM DRIVE>

<SKULL MAXIMUM DRIVE>

WCJに戻り、スカルと共に、とスカルメモリとジョーカーメモリを右腰にある「マキシマムスロット」に挿入し、ボタンを叩く。すると突風が巻き起こり、WCJは空中に浮かぶ。

「ジョーカーエクストリーム!はあああっ!」「トアアアァ!」

WCJの必殺技「ジョーカーエクストリーム」と、スカルの「ライダーキック」がモンスターたちに炸裂し、一掃することが出来た。

WCJは変身を解く。翔太郎と、近くで意識を失っていたフィリップも2人のもとに駆け寄る。スカルは翔太郎の肩に手を置く。

「翔太郎、帽子が様になっているな。ようやく1人前として、認めてやれる」

「おやっさん…!」

「フィリップ、どうやら自分の罪を数えきったようだな…」

翔太郎とフィリップは、少しだけ嬉しそうに顔を伏せる。

「お前たちになら任せられる。これからの風都を頼むぞ、仮面ライダーW」

その言葉を最後に、スカルは消えていった。

 

 

「今日はシャウタ!」

OタトバCはあらかじめ、アンクから何枚かメダルを借りていた。その内の青いメダル3枚を差し替え、スキャンする。

<シャチ ウナギ タコ シャシャシャウタ シャシャシャウタ!>

OタトバCは、頭部がシャチ、腕と胸部がウナギ、脚部がタコの力を備えた「仮面ライダーオーズシャウタコンボ」にフォームチェンジする(以下OシャウタC)。

「たぁっ!」

バチィン!

腕に装備された電撃を纏った鞭「電気ウナギウィップ」を用いて、モンスターたちに電流を流しながら攻撃する。

が…。

「うあっ…!」

突如、OシャウタCは胸を押さえて膝を着く。

オーズにとって、同色のコアメダル3枚を使ったコンボは体力の消耗が激しいのだ。にもかかわらず、現在自分の使えるコンボを全て使ったがために、限界が来たのだ。

「くそ…タトバで行こう…」

<タカ トラ バッタ タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ!>

<スキャニングチャージ!>

OタトバCに戻り、もう一度メダルをスキャンする。するとバッタレッグが変形し、実際のバッタのような足に変わり、空高く飛ぶ。

そして両足を揃え、3つの光の輪をくぐりぬけながら、レイドラグーンたちに突撃する。

「せいやあああああああああぁ!」

ドガアアアアアアァン!

OタトバCの必殺技「タトバキック」だ。

「もう、限界…」

OタトバCは変身が解け、気を失った。

 

<CRAN EARM, SHOVEL ARM, DRILL ARM, CATERPILLAR LEG, CUTTER WING, BREAST CANNON>

Gバースはバースドライバーに、セルメダルを複数投入し、体中に武装を装備する。

バース最強の姿「仮面ライダーバース・デイ」だ。

「おぉ、バースのとっておきじゃん!ならこっちは…バース究極の「アレ」、サソリ君だ!」

<CRAN EARM, SHOVEL ARM, DRILL ARM, CATERPILLAR LEG, CUTTER WING, BREAST CANNON>

Dバースも同じように武装を呼び出すが、装備はせず、武装のみを合体させた、バースの強力な支援メカ「CLAW‘Sサソリ」である(以下Cサソリ)。

「いきますよぉ~!」「はっ!」

ドゴオォ!ズダァン!

Cサソリは、Dバースの動きに合わせて行動し、レイドラグーンを薙ぎ払い、Gバース・デイは、胸に装備された武装「ブレストキャノン」にエネルギーを集中させて、光弾を放つ。

同じ武装でも、全く違う戦闘スタイルが出来るのは、バースの特徴の一つである。

<CELL BURST><CELL BURST>

「ウォリャアアアアアァ!」「おおおおおおおおぉ…シュゥゥゥゥト!」

2人のバースは、自分たちの出せる最大限の必殺技を発動し、レイドラグーン達を一網打尽にした。

変身を解いた後藤は、Dバースに歩み寄る。

「またいつ会えるか分かんないけど、そのときまでバースを宜しくな、後藤ちゃん」

「そのつもりです、伊達さん。きっとまた生きて…」

Dバースは少しだけ笑っているような仕草を見せる。

「そんじゃ」

この言葉を残して、Dバースは消えた。

 

「ここでは、彼らかな。スペシャルサービス!」

<KAMEN RIDE DELTA GARREN IBUKI IXA>

ディエンドは、自分と同じ銃を使う仮面ライダーを呼び出した。

それぞれ「仮面ライダーデルタ」「仮面ライダーギャレン」「仮面ライダー威吹鬼」「仮面ライダーイクサ」という。

「帰る家を見つけるために俺は戦う!」「貴様達は、俺の手で倒す!」

「さぁ、行きましょう!」「その命、神に返しなさい…!」

ババババババババ!

ライダーたちは、それぞれの武器を構え、モンスターを攻撃する。

その隙に、ディエンドはカードを挿入する。

<FINAL ATTACK RIDE DIDIDI DIEND>

その音声と共に、銃口の先にたくさんのカードが円を描いた映像が現れ、ギャレン達を吸収する。

「はあっ!」

引き金を引くと、カードの映像は光弾へと変化し、極太のビームとなってレイドラグーンたちを破壊した。

ディエンドの必殺技「ディメンションシュート」である。

「決まったね」

 

「士さん、リベレが…!」

「グルルルルルゥ…」

龍騎が指差す先には、リベレがいる。相変わらず、唸っていた。

<SWORD VENT><STRIKE VENT>

リベレは2枚のアドベントカードをベントインし、シアゴーストの頭部を模した「ゴーストアタッカー」とレイドラグーンが装備している槍と同じ武器「ドラグーンランサー」を両腕に装備する。

「グオオオオオオオオォ!」

雄叫びと共にリベレは、龍騎とディケイドに襲い掛かる。

<ATTACK RIDE BLUST><STRIKE VENT>

龍騎はドラグクロー、ディケイドはライドブッカーをガンモードに切り替えるが、リベレはそれを許さない。

「ガウッ!」

ギシィ!

「なに…!?」「くそ…!」

ゴーストアタッカーから射出された糸が、ライドブッカーの銃口とドラグクローを縛り上げる。これでは攻撃が出来ない。

「グワァ!」

ガキィン!

「ぐっ!」「うあっ!」

龍騎とディケイドはとっさの攻撃に反応できず、まともに攻撃を受け、地面に屈する。

「オマエタチハ…シヌ…!「ネガイ」ヲ、マモレナイママ…!」

リベレは片言で龍騎たちに話しかける。彼にはどうやら言語を話す能力が、多少あったらしい。しかも、思考能力は人間とさほど変わらないようだ。

だからこそ龍騎たちに対して、ここまで残酷な言葉が言えるのだ。

「はっ、冗談抜かすな!」

ディケイドが突如、立ち上がり、リベレに反論する。

「破壊することしか出来ない奴が、こいつの願いを理解できるのか!?」

「士さん…?」

龍騎はディケイドを見つめるが、それに構わず続ける。

「こいつは戦いながら、大切な人々や、誰よりも尊敬し続ける人の願いと祈りを守り続けている!それは、ただ破壊することよりも、遥かに困難だ。だが、それでも竜也は戦う!ただ、その願いと祈りを守るためだけに!それが、龍崎竜也…仮面ライダー龍騎の願いだ!」

「キサマ…ハ?」

リベレは、首をかしげながらディケイドに問う。

ディケイドは、様々な世界で言い続けていた自分の存在の証拠を高らかに叫ぶ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ…覚えておけ!」

 

「変身!」

<KAMEN RIDE RYUKI>

ディケイドライバーにカードを読み込ませると、ディケイドの周りに龍騎たちと同じような虚像が現れ、ディケイドを纏う。

その姿は、龍騎と全く同じ姿「仮面ライダーディケイド龍騎」だった(以下D龍騎)。

「いくぞ、竜也!」

「はい!」

<SWORD VENT><ATTACK RIDE SWORD VENT>

龍騎とD龍騎はドラグセイバーを構え、リベレに走り寄る。

「グゥ!?」

「「はあっ!」」

ザァン!

「ゴガアアアアアァ!」

リベレはドラグーンランサーで防ごうとするが、2人の渾身の攻撃の前には意味を成さなかった。

<FINAL ATTACK RIDE RYURYURYU RYUKI>

<FINAL VENT>

「ガアアアアアアアアアアァ!」

「「ふんっ!はあああああああああああぁ!」」

2人は全く同じポーズを取り、地面を蹴って空高く飛び上がる。

その2人の周りをドラグレッダーが円を描くようにして浮いている。

「だああああああああああぁ!」「はああああああああああああぁ!」

ドガアアアアアアアアアアアァ!

「グギャアアアアアアアアァ!」

このときだけの必殺技「ダブルドラゴンライダーキック」でリベレに止めを刺した。

「やったな、竜也」「よっしゃあ!」

 

それから約半日後…。

光写真館の前で、

映司達や翔太郎達は、それぞれが自分たちのもとの世界に戻るといった。

「ここのことも気になるけど、君たちがいるなら大丈夫だと思って。それに、俺は俺の世界で精一杯手を伸ばさないと…」

「さっさと帰って、メダル集めだ」

「世話になったな」

映司達は、竜也達にそれぞれ別れの言葉を述べる。

「こっちこそ、ありがとうな。あんた達のおかげで、なんか勇気が持てた気がする」

祐一と映司は、共に笑いあった。

「俺たちはまた風都を守り続ける。仮面ライダーとして」

「君達は、この街を守ってくれ。自分の愛する街をね」

照井が全く何も言わないことを気にした、潤が尋ねる

「照井さんは、何か別れの言葉を言ってくれないのかよ?」

「俺に質問するな」

「えぇ~…」

「冗談だ。お前たちが、この戦いの呪縛を振り切れることを祈っている。俺が復讐の呪縛を振り切れたように…」

照井は軽く笑い、潤の肩に手を置いた。

「さて、帰り道はこっちだ」

士は、映司達と翔太郎達をそれぞれの世界へと帰すオーロラへ案内した。

彼らは、最後に少し振り返って、自分たちの世界へと戻っていった。

「士さんたちも、行ってしまうんですか?」

竜也が尋ねる。

「俺達がこの世界に残り続けると、鳴滝が別の世界から怪人を呼び出す。お前達に負担が掛かる」

士は、少し顔を伏せて言うが、すぐに顔を上げ、元気そうに答える。

「だから俺達はこれからも旅を続ける。それこそが俺たちの物語だ。」

「そしてここからの、この世界での物語は、竜也君たちの物語です」

「みんなと一緒に戦えたことを、おれは決して忘れないよ」

「僕らと共に戦えたことを、一生のお宝にしたまえ」

彼らは、再び別の世界へと旅立ち、自分たちの物語を紡いでいく。

「また、会えますか?」

竜也は、城戸真司と別れたときと同じ言葉を言った。

「いつか会える。旅を続けていたらな」

士は、そう言って手を差し出した。竜也はその意味を理解し、その手を握る。

「じゃあな」

そう言って、写真館へと戻る。

 

帰り道…。

「そういえば、大樹さんは、何も盗らないで行っちゃったね」

あゆがふと呟く。

「そういえば…ん?」

何かに気付いた竜也は、懐に手をやる。

「あっ!盗まれた!シザースたちのデッキがない!」

「えぇ~~~~~!?」

 

その頃の光写真館

「ふふ、少々微妙だったけど、十分な収穫だね」

大樹は、シザース、ベルデ、アビスのデッキを見ながらご満悦。

「やはりこそ泥か。他に興味がないのか」

士がそう言って、この世界で写した数枚の写真を取り出す。

彼が写した写真は、ピンボケや不思議な歪みがある。この世界でも例外ではなかった。

ただ時折、どこかその世界の物語を上手く表現した写真になることもある。

いくつか紹介しよう。

 

潤と香里が道を歩いている写真。横でその姿を微笑ましく見つめている栞。

香里の表情は、口をへの字に曲げて、そっぽを向いているが、ピンボケして香里の後ろに別の香里の顔が写っている。その表情は明らかに心から楽しそうに笑っていた。

 

佐祐理が久瀬に笑いかけている。久瀬は顔を赤くしてうつむいているが、後ろに写った別の久瀬は、勇敢な表情をしている。おそらくゾルダとして戦っているときの表情だろう。

 

サトルがWATASHIジャーナルで一生懸命働いている姿。その背後で、写したときには居なかったはずの名雪が、かわいらしく両手を握って、サトルを応援しているような仕草をしている。

 

ミツルが真琴と一緒に遊んでいるときの姿。家の中だったが、なぜか後ろは草原が広がっている。そして2人の頭には、以前、真琴が作っていた花の冠が被せてあった。

 

祐一と舞が、並び立っており、背景は普通の道であったはずなのに、なぜか黄金色の麦畑になっていた。その奥にウサギの耳がついた髪飾りを被った、小さな少女が写っている。

残念ながら、顔が良く見えない。

 

そして、お互いを見つめ合って笑いあう竜也とあゆ。そして、その後ろに士達とは面識のない青年の振り返り際の様な姿が写っている。長髪の茶髪に隠れて口元しか見えないが、スカイブルーのジャケットが印象的だ。

 

「みんな良い顔をしていますね」

写真を後ろから覗き込んでいた夏海が、にっこり笑っている。

「あぁ、こいつらの本当の姿だろうな」

隣にいたユウスケが、竜也とあゆの写真に写っている、スカイブルーのジャケットの青年を指差して尋ねる。

「でもさ、この人って誰だろう?」

「さぁな」

今の士達には分からないだろう。

 

この青年こそが「竜也が誰よりも尊敬する人物」であることを…。

 

「全部良い写真じゃないか。額に入れて飾って置こう」

栄次郎は、先ほど紹介した物を、別に現像した写真をもって行く。

「さて、次の世界にいくか」

士が、そう言って背景ロールの隣の鎖を引く。

そこには、別の背景ロールが降りてくる。

 

緑の仮面と赤いマフラーが特徴の2人の仮面ライダーが、白と赤を基調としたバイクに乗っている。それを中心に、アギトやブレイド、電王などの、世界の中核となる仮面ライダーたち、そして他にも様々な仮面ライダーが映っている。

 

「この世界は…」

 

そして、竜也達の居る世界へと話は戻る。

どこかの研究所で、一人の科学者が、四角いものを手に取り、歓喜する。

「完成だ!オルタナティブシステム!」

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                   政府から、お金がこない!

 

我々は、世界の脅威に対しての極秘操作、解決を行う組織だ

 

                   おれ達が危険分子だと!?

 

見るが良い。この世界を救う新たな戦士の力を!

 

                   この世界でも、造られたか…

 

 

 

第28話「政府組織 NoMen」

 





キャスト


龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

門矢士=仮面ライダーディケイド

火野映司=仮面ライダーオーズ
左翔太郎&フィリップ=仮面ライダーW

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
キバーラ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
仮面ライダーデルタ
仮面ライダーギャレン
仮面ライダー威吹鬼
仮面ライダーイクサ

仮面ライダーバース(伊達明)
仮面ライダースカル(鳴海荘吉)

アンク/泉信吾
後藤慎太郎=仮面ライダーバース
照井竜=仮面ライダーアクセル

ボスドラグーン=仮面ライダーリベレ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

鳴滝
白衣の男
光栄次郎

仮面ライダーオーディン


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幕間
登場人物紹介(ゲストキャラside)


門矢士=仮面ライダーディケイド

出身世界不明。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の門矢士と同一人物。

「MOVIE大戦2010」後、仲間達と共に、様々なライダーの世界を旅している青年。

今回は「Kanonの世界」と「仮面ライダー龍騎の異世界」が融合したこの世界に訪れる。

そして竜也達と出会い、この世界の滅びの現象を止めるために戦う。

写真家を自称し、二眼レフのトイカメラを常に身につけている。自信家で誰に対しても尊大な態度で接するが、いざというときは世界や他者の為に身を挺する。

難しい話は「大体分かった」という口癖で済ませ、写真撮影以外のあらゆる物事をそつなくこなすが、彼が撮った写真はなぜか被写体が歪んで写ってしまう。これに対して本人は「世界が自分に撮られたがっていないため」と解釈している。

鳴滝や訪れた世界のライダーから「破壊者」、「悪魔」などと忌み嫌われ、時折自身を皮肉ってそう呼ぶこともある。また全ての世界を救おうという意思はあるのだが、意図しなくとも訪れた世界が自分の存在で崩壊することを知り、苦悩することもあったが、仲間に支えられ、様々な苦難を乗り越えてきた。

ちなみに、この世界での役割は、「WATASHIジャーナル」の新人記者。

 

 

小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ

「仮面ライダークウガの異世界」出身。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の小野寺ユウスケと同一人物。

士と共に世界を旅して回っている仲間。自分の世界でディケイドとの共闘でグロンギを壊滅させた後、キバーラにより「キバの世界」に連れて来られ、士達と合流して異世界を巡る旅に同行する。士とは、最初は尊大な態度をとる士に喰ってかかったが、共闘を経て友情を築き、強い信頼を寄せている。

旅先の世界では、主に情報収集やその世界のライダーへの激励などで士をサポートするが、今回は戦闘に加わることが多い。

 

 

光夏海=仮面ライダーキバーラ

「夏海の世界(仮称)」出身。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の光夏海と同一人物。

光写真館で受付係をしている。誰に対しても敬語で話し、他人の首筋にある「笑いのツボ」を押すことで、相手を否応なしに大笑いさせる光家秘伝の特技を持つ。

士からは「ナツミカン」、大樹からは「ナツメロン」とも呼ばれる。

以前は大勢の仮面ライダーがディケイドに倒される夢をよく見ており、そのことで度々ディケイドの危険性を、鳴滝から訴えられていたが、夏海自身は士の優しさを信じており、あらゆる世界から迫害を受ける士の「帰る場所」になりたいと願う。

「MOVIE大戦2010」で、キバーラに仮面ライダーの力を与えられ、士たちの戦力として戦うことも増えた。

 

 

海東大樹=仮面ライダーディエンド

「仮面ライダーディエンドの世界(仮称)」出身。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の海東大樹と同一人物。

様々な世界を単独で往来し、「僕の旅の行き先は、僕が決める」という信念のもとで価値のある"お宝"と判断したものを収集している。

士らよりも先に異世界を渡り歩いていた様子で、異世界の事象にも詳しい。本人曰く、士とは古い知り合い。

爽やかかつキザな態度をとりながらも、感傷に浸ることなく「お宝」にのみ価値を見出すドライな性格。士は彼の「お宝」への執着について、かつて自分が信じていたものに裏切られたことで自分自身をも信じられなくなり、「お宝」を集めることでその気持ちを誤魔化しているのだと推測している。

士達との馴れ合いも好まず別行動を取り、目的の相違から彼らを妨害する事もあったが、今では士たちを仲間という「最高のお宝」と認め、共に世界を旅している。

なお、この世界で彼が呼び出す仮面ライダーは、対象となった原作のキャラクターの口調と同一。

 

 

光栄次郎

「夏海の世界(仮称)」出身。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の光栄次郎と同一人物。

光写真館を営む夏海の祖父。夏海の両親に代わり、子供の頃から彼女の面倒をみてきた好々爺。怪人やキバーラが存在すること等に対し、特に驚きも見せずマイペースに順応する。コーヒーや料理の腕前は達者で、写真館を訪れる異世界の客にふるまう。

基本的に写真館から外出する描写がなく、物語の事件と関わることは少ない。しかし、夏海だけでなくメンバー全員を家族同様大切に思っており、言うなれば彼らの帰る場所で待ち続ける心の支えとなる存在である。

 

 

左翔太郎=仮面ライダーW

「仮面ライダーW」の主人公の一人。

TVシリーズ「仮面ライダーW」の左翔太郎と同一人物。

フィリップと共に自分の愛する街「風都」を守り続けている私立探偵。

立ち振る舞いなども常にハードボイルドを心がけているが、中身はよくも悪くもお人好しの三枚目である。その為些細なことで冷静さを失ってしまいなかなかハードボイルドになりきれず、「ハーフボイルド」と未熟者呼ばわりされることも少なくない。

幼少からの風都育ち。風都を大切に思う気持ちは人一倍強く、「街を泣かせる奴」を決して許さない正義感を持つ。ちなみに戦闘中、よく左手をスナップする癖がある。

変身の際は、フィリップの意識をソウルメモリに宿して、自らの持つボディメモリを使い、変身する。

決め台詞は、フィリップと共に荘吉から受け継いだ言葉「さぁ、お前の罪を数えろ」。

中盤で士に協力を依頼され、一時的にこの世界に渡り、竜也たちに力を貸す。

 

 

フィリップ=仮面ライダーW

「仮面ライダーW」の主人公の一人。

TVシリーズ「仮面ライダーW」のフィリップと同一人物。

左翔太郎と共に自分の愛する街「風都」を守り続け、家族から新しい命を受け取り、家族の想いを背負って戦い続けている。

「地球の本棚」に検索をかけることで、あらゆる知識、技術、体術などの取得・実践を可能とする特殊能力の持ち主。翔太郎とは対照的にマイペースかつクールな性格だが、風都を愛する気持ちは変わらない。

全ての記憶を消された上で、ある組織に幽閉されながらガイアメモリの開発に携わっていたが、2年半前のビギンズナイトにて翔太郎と鳴海荘吉に救出された。「フィリップ」の名前は荘吉がフィリップ・マーロウに因んで付けたもので、本名は「園咲来人」。

変身の際は、自分の意識をソウルメモリに宿すため、彼自身が戦うことは無いが、真逆の形態もある。

中盤で士に協力を依頼され、一時的にこの世界に渡り、竜也たちに力を貸す。

 

 

照井竜=仮面ライダーアクセル

「仮面ライダーWの世界」出身。

TVシリーズ「仮面ライダーW」の照井竜と同一人物。

風都警察署の刑事。単独行動を好み常に革ジャンのライダースファッションを好むなど刑事らしからぬ風貌だが、非常に優秀であり若くして警視に就任、ドーパント関連事件の捜査を担当する「超常犯罪捜査課」を設立し、その課長となる。一警察官として優秀なだけでなく、格闘技やバイクの操縦技術にも精通している。質問されれば、ほとんどの場合「俺に質問するな」と一蹴する。口癖は「さぁ、振り切るぜ」「絶望がお前のゴールだ」等。ちなみにバリエーションあり。

以前は、自分の家族の復讐に燃えていたが、今では復讐ではなく、仲間や風都を守る仮面ライダーである。

中盤で士に協力を依頼され、一時的にこの世界に渡り、竜也たちに力を貸す。

 

 

火野映司=仮面ライダーオーズ

「仮面ライダーオーズ」の主人公。

「MOVIE大戦CORE」の火野映司と同一人物。

後悔しないために守れるものを守り抜こうと、手を伸ばし続けている。

偶然、アンクのコアメダルを拾った際、彼がメダル集めに利用できると判断し、ドライバーを与えられ、「仮面ライダーオーズ」として、自分に出来る精一杯のことを果たそうとしている。

戦地で心を通わせた少女を目の前で失う。この事件以来、自分に対する欲がほぼ皆無となり、母方の姓である火野を名乗るようになった。

なお欲望を失ってしまっているが、かつて抱いた夢は今も残っている。

中盤で士に協力を依頼され、一時的にこの世界に渡り、竜也たちに力を貸す。

 

 

アンク

「仮面ライダーオーズの世界」出身。

「MOVIE大戦CORE」のアンクと同一人物。

映司に協力する鳥系グリード。右前腕部しか実体化できていない。そのため、瀕死の重傷を負った、警視庁捜査一課の刑事「泉信吾」の身体を乗っ取る。

偶然、自分のコアメダルを拾った映司に、メダル集めに利用できると判断してドライバーを与えた。「ヤミー」の生成といった本来の能力をほとんど失っていたため、メダル集めと戦闘の殆どをオーズに依存している。

ケチでがめつく計算高い性格で、常に相手に嫌味を言う毒舌家。メダル収集にはセル1枚単位で執着するがそれ以外には無関心。自身の弱味を見せることを嫌い多くを語ることはない。基本的に人間のことは「欲望の塊」と蔑んでおり、映司のこともメダル収集のための駒としか認識していない。

しかし、オーズなしでは無力なこともあって、映司との関係はあくまで「ヤミーを倒す」という一点でのみ繋がった均衡状態にある。

中盤で士に協力を依頼され、不本意ながら、一時的にこの世界に渡る。

 

 

後藤慎太郎=仮面ライダーバース

「仮面ライダーオーズの世界」出身。

「MOVIE大戦CORE」の後藤慎太郎と同一人物。

映司やアンクに接触しツールを提供すると同時に、彼らを監視する任務を負う。かつては警察のエリートであり「世界の平和を守る」という理念に賛同して、ある組織に入った。任務に私情を挟むことはないが、グリードであるアンクには敵意を隠さない。

当時のバース変身者だった「伊達明」を師のように仰いで積極的に接しており、その結果以前には見られなかった柔軟な態度や考え方を見せるようにもなった。

そして伊達の辞任に伴い、11月の下旬で彼から「仮面ライダーバース」とその信念を引き継ぐ。

一人称は普段は「俺」だが、年上や目上の人間に対しては「私」や「自分」と名乗ることもある。

中盤で士に協力を依頼され、一時的にこの世界に渡り、竜也たちに力を貸す。

 

 

鳴滝

出身世界不明。

TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の鳴滝と同一人物。

「預言者」を自称する壮年の男で、眼鏡とコート、フェルト帽が特徴。

ディケイドを敵視し、ことあるごとに激しい憎悪を口にするが、その真意や理由は不明。

自らオーロラで様々な世界を往来でき、士たちの行く先々の世界でディケイドが「世界の破壊者」「悪魔」であると他のライダーたちに吹き込んだり、別世界から召喚したライダーや怪人を刺客として差し向けたりなどの妨害を行う。また、夏海に接触しディケイドを止めるように警告する。

今回は、竜也達が居る世界とは別の「仮面ライダー龍騎の異世界」に存在する「仮面ライダーリベレ」を刺客として差し向けた。

 

 

ボスドラグーン=仮面ライダーリベレ

竜也達が居る世界とは別の「仮面ライダー龍騎の異世界」出身。

鳴滝に呼び出された、この世界には存在しない、異常進化したモンスター。彼の指示に従って、オーディンと手を組み、ディケイドの抹殺を目的として活動する。

多数系モンスター「シアゴースト」「レイドラグーン」「ハイドラグーン」と契約しており、数で相手を圧倒する。

変身するときの掛け声以外は、ほぼ唸り声や咆哮などしか発さないが、人語を話す、理解する知能はあり、人間的な性格も持ち合わせている。ただ、その性格は残忍。

どのようにして仮面ライダーになったか、なぜ異常進化したかは不明。

 



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第六章 NoMen
第28話 「政府組織 NoMen」


士達がこの世界を去って、3日が過ぎた。

12月も下旬に入る直前であり、クリスマスも近くなっている。

そこで、竜也が提案した「クリスマスパーティー」。

最近は戦い詰めであったため、気分転換は必要との事。参加者はもちろん、祐一達をはじめとした、竜也と苦楽を共にした人々だ。

今日は、そのクリスマスパーティーの準備品を、竜也、あゆ、ミツル、真琴の4人で買い出しに行くことになった。

「楽しみだねぇ~。でも準備するお金、あるの?」

出発する直前、竜也に尋ねるあゆ。彼は身寄りが居ないため、収入はかなり厳しいものであった筈。最近はミツルがWATASHIジャーナルでの初収入を生活費にまわしてくれるが、あまり贅沢が出来ないことに変わりはない。

しかし、自身のあるように笑う竜也。

「それが今日は、政府の人からお金が送られることになってるんだ。ここ最近は、モンスターの撃破数も増えてるから、お金も結構増えてるはずだよ。でも、祐一達も凄く頑張ってるから、7人分、ちゃんと分けるけどね」

そう、祐一や舞達の戦果もあり、モンスターは随分と倒してきた。政府との約束は「モンスター1体撃破ごとに、それ相応の生活費を支給」ということになっていたので、今月(月給制らしい)はかなりの金額が送られることになっている筈なのだ。

家のポストを確認しようとする竜也。ちなみに、ここに7年ぶりに訪れたときは、ポストの中に大量の広告があった。

・・・なぜか、手紙や小包の類は全く無かったが。

「金をそんな、ほぼ無防備なところに投函するのか?」

ミツルの疑問にも答える。

「それはないよ。ここに来るのは「今日の何時に何処に行けば渡します」ってことを書いた手紙が来るんだ」

そう言って、改めてポストを確認する。

だが・・・

「あれ・・・ない」

竜也に、毎月送られていた手紙が無い。変わりに、違う雰囲気の封筒が入っていた。

 

「NoMen」

 

差出人の欄には、その単語のみが記されていた。

「のーめん?」

あゆは首を傾げながら、そのまま読む。

「ちがうよ、NoMen(ノーマン)。おれが言ってた政府組織の名前だよ。それにしても、なんだろう…?」

竜也が封を開けると、中には2枚の書類があり、それに目を通す。

「うそぉ…」

「どうしたの?」

あゆ、ミツル、真琴の3人は、書類を覗き込む。

「政府からお金がこない!」

竜也はそう言って、1枚目の書類を渡し、あゆたちがその書類を読む。そこには短く、こう記されていた。

 

「この度、我が組織に新たな戦力が投入されることとなり、貴殿の力は不要と判断いたしました。よって、これまで支給されていた生活費は、その戦力への維持費にまわすことになり、以降の支給額は無しということになりました。何卒、ご理解のほど、よろしくお願いします」

 

「つまり、おまえは収入の無い無職になった訳だな」

「うっ…ひどいなミツル…」

ミツルがキツイ言葉を述べる。

「あう…」

真琴は竜也が持っているもう1枚の書類を指差す。

竜也もそれを読んでいないので、4人で読む。

 

「なお、新たな戦力を御披露したいと考えております。以下に地図を掲載いたしましたので、指定された場所に本日11時よりお越しください。               NoMen」

 

その文の下に記述どおり、地図がある。あらかじめ分かりやすく、作り変えられている。

「どうする竜也?」

「行ってみよう。祐一達も、とりあえず呼ぼう」

 

辿り着いた先は、竜也達の居る雪の街から、少し離れた場所にある荒野だ。

「あの人たち?」

舞が指差す先に居るのは2人の男。そのうちの一人は以前、ディエンドが呼び出したオルタナティブとオルタナティブ・ゼロを目撃した白衣の男である。

「お待ちしておりました、龍崎竜也様。そして、同じく仮面ライダーである、相沢祐一様、川澄舞様、北川潤様、久瀬シュウイチ様、虎水サトル様、斉藤ミツル様。他の方々は、以上の方々と親交の深い、月宮あゆ様、沢渡真琴様ですね?」

もう一人の男は、淡々と仕事をこなすように述べる。

「あんた達は、誰だ?」

祐一は、彼らが名乗らないことに少しだけムッとして、返す。

「申し遅れました。我々は、未知の脅威に対する極秘調査、解決を行う組織「NoMen」。私はそのエージェントである仲村ソウイチ。そしてこの方こそ、我が新たな戦力の開発者である香川ヒロユキ博士でございます。自己紹介を行わなかった無礼をお許しください」

「お、おう・・・」

「仲村ソウイチ」のかなり硬い挨拶に、潤は少しだけ縮こまる。

「新しい力って・・・一体?」

とりあえず、本題に入る竜也。

「これですよ」

今まで黙っていた「香川ヒロユキ」が、突然、懐からあるものを取り出す。

「カードデッキだと!?」

ミツルは目を見開いてそれを凝視する。確かにカードデッキにそっくりだが、どこか違う。アドベントカードを引く部分が逆だったり、いたるところに、人工物と思わせるようなネジが締められている。

「人工ですがね。実のところ、1年ほど前から、仮面ライダーに匹敵する力、そのために必要な人工モンスター「サイコローグ」を開発する事は出来たものの、その力を制御するプロテクトスーツの開発が滞っていたのです。しかし数日前、私が目撃した2体の黒い戦士。その姿は完全に私の理想に近かった。それからほぼ時間を掛けずに、完成に至りました。これはまだ試作品ですが、まもなくさらに安定し、ある程度鍛えた者ならば、誰もが装着可能となる実践用が完成します」

香川の言葉は、相手が分かりやすいように考えられたような感じだった。

「その力を見せるために、僕らをここに呼んだのですか?」

久瀬が聞くと、香川はフッと笑い、

「それもそうなのですが、もう一つ」

「なに?」

サトルが急かすことを、楽しむかのようにゆっくり答える香川。

「危険分子「仮面ライダー」の排除ですよ」

「仮面ライダーって・・・おれたちが危険分子だと!?」

祐一の言葉を無視してデッキを翳すと、腰の部分に龍騎たちとは、全く違うベルトが現れる。

「見るが良い。この世界を救う新たな戦士の力を!変身!」

竜也達と同じように叫び、デッキを装填すると、香川の身体は龍騎たちと似通ったプロセスで、アーマーが装着されていく。

その姿は・・・。

「あの泥棒ライダーの呼び出した・・・」「オルタナティブ・ゼロ!?」

久瀬と潤は見覚えがあった。その姿はまさに、以前ディエンドが召還した「オルタナティブ・ゼロ」だったのだ。竜也たちもそのことを聞いていた。

「お詳しいですね。と言う事は、あの黒い2人の戦士も同じコードネームなのですね。では・・・お手並み拝見ッ!」

オルタナティブ・ゼロは竜也達に向かって襲い掛かった。

「わたし達が危険だって証拠はある・・・?」

舞は走り寄ってくるオルタナティブ・ゼロに向かって聞く。

「充分と言えるほどありますよ!ハアッ!」

答えながらも、オルタナティブ・ゼロは行動を止めない。一度地面を蹴って空に飛び上がり、拳をぶつけようとする。

「危ないっ!」

竜也たち仮面ライダーは、あゆたちを庇いつつ避ける。

「貴方達以外にも、現時点で5人の仮面ライダーの目撃情報があります。オレンジの戦士、銀色の戦士、黄緑色の戦士、水色の戦士、そして紫の戦士。彼らは全てモンスターと共に、街や人間に凄まじい危害を加えています。以上の内、4人はここ最近の目撃情報はありませんが、紫の戦士は、現在も破壊活動を続けています。彼らの姿の特徴からして仮面ライダーであることは明白。同じような仮面ライダーが、例え味方だとしても、信用できると思いますか?」

「てめぇ!?」

述べた戦士たちは、シザース、ガイ、ベルデ、アビス、王蛇の事だろう。オルタナティブ・ゼロの言葉からして、未だにオーディンの目撃情報は皆無らしい。

潤は頭に血が昇り、オルタナティブ・ゼロに掴みかかるが・・・

「そういったように、簡単に怒る攻撃的な点も問題ですね」

ガッ!

「ぐあっ!」

潤は、払い除けられる。

「ちがうよ・・・。ちがう!」

あゆは、オルタナティブ・ゼロに向かって力いっぱい叫ぶ。

「竜也くんたちと、あんな人たちを一緒にしないで!あの人たちは、悪いことをしているかもしれない・・・。でも、竜也くんたちは、ボクたちを守るために必死に戦ってるんだよ!」

彼女の心には、一時期、恐れていた事態が現実になろうとしているという焦燥が支配していた。

 

悪の仮面ライダーがいるのでは、万が一、仮面ライダーの存在が明るみになった場合、竜也たちの立場も悪いものとなるかもしれない・・・。

 

命を掛けて戦っている竜也たちを、そんな風に思って欲しくなかった。

「貴方は、初めてモンスターと遭遇したとき、どう感じましたか?」

「え・・・?」

あゆに疑問を投げかける、オルタナティブ・ゼロ。

・・・竜也と7年ぶりに再会したときのことだ。

あゆは、竜也たちとかけがえのないひと時を過ごしていた。

そのときに出会った、異形の怪物。

 

怖い・・・。

 

「・・・と感じたでしょう?」

まるで、心を読むかのように口を挟むオルタナティブ・ゼロ。

「仮に、初めてであったそれが破壊活動を行う仮面ライダーであって、貴方を守ろうとしている龍崎君も仮面ライダーだと知った場合、簡単に彼を信用していましたか?」

あゆは迷わず答える。

「信じてたよ!だって、竜也くんは・・・7年前からずっと変わってなかった!みんなのことをすごく大切にしてくれる!優しいところも・・・笑顔も…」

「違うよ」

竜也があゆの言葉を遮る。

「この街に戻って来る前、真司さんから龍騎を受け継いですぐの頃、おれの心は、ものすごく弱かった。今だって強くなんて無いけど・・・あのときのおれは、下手をすれば悪の仮面ライダーにだって成り得たかもしれない」

竜也の心の奥に、1年前より少し後の頃の記憶がよみがえる。

 

「グウウウウゥ!」

「きゃあっ!離してっ、助けてええええぇ!」

「はあっ!」

「グギァ!?」

「大丈夫ですか!?」

「いやっ!こ、来ないでバケモノ!」

「ち、違います!僕は、あなたを守るために・・・」

「いや・・・いやあああああああああああぁ!」

「どうして・・・?僕は、守りたいだけなのに・・・。こんなことなら・・・いっそ・・・」

 

「それに、人間は自分で理解し辛いモノは、怖がったり、拒否することが、多かれ少なかれある。仮面ライダーがそういう風に見られることは仕方がないことなんだよ・・・」

「そんなのいやだよ・・・ひどいよ・・・ぐすっ・・・」

大粒の涙を流しながら、竜也の胸に顔をうずめて泣きじゃくるあゆ。

竜也は、顔を伏せる・・・。

が、次の瞬間、オルタナティブ・ゼロに顔を向ける。

「でも、あなたに一つだけ言いたい!あなたたちや世界中の人々がなんと言おうと、絶対に、人々を守る!」

そう言って、あゆをそっと離し、デッキを構える。

「変身っ!」

現れたのは、人を守るという強い覚悟を持った一人の仮面ライダー。

「おれにやらせて。あの言葉を覆すつもりは無いけど、祐一達だって仮面ライダーとして、必死に戦っている。そのことを少しでも分かって欲しいから・・・」

龍騎は拳を構えて、オルタナティブ・ゼロとにらみ合う。

「デェアアァ!」「だあっ!」

ガッ!

2人はクロスカウンターの要領で、それぞれの拳がそれぞれの頬に抉りこまれる。

「うあっ・・・!」「ヌッ・・・」

龍騎は口元を拭うような動作を行い、叫ぶ。

「おれの尊敬する人が言っていました。人を守る思いや願いが何よりも強くて、その気持ちに見合った力を得た「人間」・・・。それが、本当の仮面ライダーなんだ!」

 

「この世界でも造られたのか・・・」

オーロラの壁を通して、龍騎とオルタナティブ・ゼロを見つめるオーディン。

「どの世界においても、神崎士郎及び、仮面ライダーオーディンの障壁となった。仮面ライダーではない戦士。・・・排除の手立てを考えねばな」

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

                やはり危険ですね・・・。

 

報われないことだって、あるんだよ・・・

 

                くそっ!あの分からずやっ!

 

そんな・・・こんなことって・・・

 

               完成品、オルタナティブ・・・!?

 

 

 

 

 

 

第29話 「擬似戦士」

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

一般女性

仲村ソウイチ
香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ

仮面ライダーオーディン


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第29話 「擬似戦士」

 

<SWORD VENT><SWORD VENT>

「はっ!」「トウッ!」

ガキィン!

龍騎のドラグセイバーと、オルタナティブ・ゼロのスラッシュダガーが火花を散らす。

「あなたは、人を守るために戦うつもりなんでしょう!?なら、おれ達と一緒に戦えばいいじゃないですか!おれ達と争う必要は無いはずです!」

「先程、申し上げたとおり。仮面ライダーは信じられない・・・。疑わしき存在は、徹底的に排除するべきなのです!」

それぞれの意見は全く平行線のまま、交わろうとしない。

 

と、そのとき・・・。

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

「モンスター!?」

「クエエエエエェ!」

祐一がふと反応した瞬間、物陰からモンスターが奇襲を仕掛けてきた。

「おい、しゃがめ!」

とっさに避けることで、祐一達に被害は及ばなかった。

そのモンスターに、龍騎は見覚えがあった。

「まさか、ガルドストーム!?」

そう、鳳凰型モンスター「ガルドストーム」である。

ガルドストームは凄まじいスピードで、オルタナティブ・ゼロに襲い掛かる。

ズガァ!

「クッ!?」「香川さん!」

攻撃によろめくオルタナティブ・ゼロを庇うように、龍騎は立ちふさがる。

「手を貸して!ガルドストームはオーディン直属のモンスターだ・・・。今までのモンスターとは、比べモノにならないくらい強い!」

「マジかよ!?」「あぁ!」

舞は、足の爛れた痕のことがあるにも拘らず、長く戦っていたので、祐一や竜也にしばらく休むことを強制された。

のこりの祐一達は、デッキを構える。

「変身!」

ナイト、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラーはガルドストームに攻撃を仕掛けようとするが、

「クワァ!」

「グウウウウウウゥ!」

ガルドストームが腕を振り上げると、辺りから、レイドラグーンが多数出現する。

「気をつけろ、ピンク!」「だから、おれはライ・・・」

ガキキキキィ!

「どあっ!?」

インペラーに文句を言おうとするライアに、その隙を見計らって頭部に備えた羽飾りを手裏剣のように使い、攻撃するガルドストーム。

「言わんこっちゃない・・・せぇあっ!」

インペラーは俊敏さに自身があったが、ガルドストームはインペラーの蹴りを容易く避ける。インペラー以上のスピードだ。

「くそっ!モンスターを操るのか!?」「確かに強敵だね・・・てぇい!」

ダダダダダダダダダダ!ガキィン!

「カードも、やむを得ないかっ・・・!」

<TRICK VENT>

ナイトがシャドーイリュージョンを駆使するも、敵が多すぎて戦況の好転は望めそうもない。

他のライダーがレイドラグーンに阻まれたことを確認したガルドストームは、再びオルタナティブ・ゼロに襲い掛かる。

「私を狙っているのか!?」「多分あなたは、オーディンに目を付けられたと思います。だぁっ!」

「キィエッ!」

ドラグセイバーを必死に振るうが、ガルドストームは素早く、全く当たらない。

「どうせ、貴方の罠でしょう?」「違います!」

「キィィ!」

ガキィ!

「ぐあっ!」

「竜也くん!」

ガルドストームは、手にある斧をブーメランのように投げ、龍騎を攻撃する。その勢いで、オルタナティブ・ゼロの居る位置から、吹き飛ばされてしまった。

龍騎に駆け寄るあゆ。

オルタナティブ・ゼロはその様子を少しだけ見つめていたが、すぐさま、ガルドストームが襲い掛かってきた。

「おのれッ!」

<ACCEL VENT>

「セイッ!」

しかしオルタナティブ・ゼロには、対抗策がある。超高速移動で、ガルドストームを翻弄する。

ガッ!ドガッ!

「ギギッ!?グエェ!」

さすがに人知を超えたスピードには対応できないのか、ガルドストームはまともに攻撃を受けた。

自分が不利と判断したのか、ガルドストームはすぐさま、どこかへ去っていった。

今までのモンスターより強力であるどころか、知能も高いらしい。

「斉藤、いくぞ!」「おれに指図するなっ!」

<FINAL VENT><FINAL VENT>

「とあっ!」「はあああああぁ・・・せいっ!」

「キキイィ!」「ギギィ!」「ギィィ!」

ガッ!ガキィ!ガスッ!

ナイトはシャドーイリュージョンを発動したまま、インペラーと共にファイナルベントをベントインする。複数体で一気に叩くつもりだ。

「はあああああああっ!」「ああああああぁっ!てぇあぁ!」

ドガガガガガアアアアアァ!ズガアアアアアアァ!

飛翔斬の嵐に、多数系統のドライブディバイダー。

さすがに大勢を一掃するにはもってこいな技のコンビで、レイドラグーンは1体も残らず、爆散をとげた。

 

「やはり危険ですね・・・モンスターも貴方がたも・・・」

「ふざけるな!」

変身を解いた香川に対して反論したのは、同じく変身を解いたミツルだ。

「仮面ライダーがそこまで信用できないか!?おれ達の、今までの行動をよく見たんだろう?おまえの言う破壊活動をするライダーを相手に戦って、4人に勝った!」

「そうだよ!」

便乗してくるサトル。

「それでも、僕らの方が不利なんだよ。あなたは知らないだろうけど、モンスターを操っているのは、仮面ライダーオーディンっていう、この世界を自分の思い通りの世界につくり変えようとしているやつなんだ。こいつだけでも、僕ら7人がかりじゃ勝てない」

「やはり、黒幕は仮面ライダー・・・。君たちが彼らと敵対している証拠はあるのですか?」

何があっても、信用しない香川。さらに久瀬が弁解する。

「さっき、モンスターは僕らに攻撃した。これだけでも十分じゃないですか!」

「仮面ライダーはモンスターを意のままに操れるのでしょう?ならば、そう指示することも可能です」

「くそっ、この分からず屋・・・!どこまで、おれ達を疑ってるんだよ!?」

潤は、全うな意見が思いつかず、ただ憤慨するしか出来なかった。

「貴方がた7人を、同時に倒すことなど不可能でしょう。だから、社会的に排除します。研究所で、完成品の開発も急がなくては・・・」

「では・・・」

香川と仲村は、高級感のある車に乗って、どこかへ走り去ってしまった。

 

それからすぐに、オーディンの元にガルドストームが返ってきた。

「・・・あの状況で闇雲に戦わず、すぐに退散したことは良い判断だ。ガルドミラージュとガルドサンダーも呼び、同時にオルタナティブ・システムを叩け。言っておくが、龍騎達には構うな」

ガルドストームは少し頷くような動作を行い、オーディンが用意したオーロラに向かっていった。

「・・・何故、オレに頼まん?こっちは、ディケイドが消えてイラついてるんだよ!?」

オーディンに苛立って尋ねるのは浅倉。モンスターばかりに頼り、自分の欲求が満たされないことに腹を立てているようだ。

「オマエはライアを狙え。殺さずに契約のカードを奪うのだ」

「チッ・・・詰まらん。今度は、もっと刺激的な仕事を頼むぜ?」

浅倉は、舌打ちをして、オーロラの中に消える。

それと同時にオーロラは消え去り、以前の洋館の姿を現した

「フン、刺激的か・・・。いずれ頼むことになるであろう・・・」

仮面の奥で不敵に笑い、腕を振り上げる。

すると洋館の外にある、鏡で作られたオブジェの中にあった、蜘蛛のような絵がはらりと舞い落ちる。

オブジェを構成している鏡は、絵の虚像だけを残し、その絵から巨大な蜘蛛のモンスターが現れた。

「念には念を入れておくか・・・」

そう言って、オーディンは2枚のサバイブを見つめていた。

 

その日の夕方・・・。

「ごめんね、みんな。言い出したのはおれなのに、何にも用意できなくて・・・」

水瀬家で全員が集まったところで、頭を下げる竜也。

彼が言っていることは、クリスマスパーティーの準備についてのことだ。本来、多目の生活費がNoMenから支給されるつもりだったので、全て自分に任せろと胸を張っていたのだ。

「心配しないでください。わたし達が竜也さんに頼ってばかりで、自分たちで何もしなかったことが、いけないんですよ」

栞は、竜也の手をとって言う。

香里もその様子を見て、ウェーブがかった髪を少しだけ、かきあげて言った。

「そうね。栞の言うとおり、みんなで準備してみたらどう?」

「そうそう、ノーメンだかソーメンだか知らないけど、そいつらのことも忘れて、楽しく準備しようぜ?」

潤は竜也の肩を抱き寄せて、ニッと笑う。

「佐祐理、良いアイデアがあるんです」

佐祐理は舞と顔を見合わせて、にっこり笑う。舞は無表情だが、頷いている辺り、何かアイデアがあることは知っているらしい。

「わたしは~・・・く~」

「あらら、なゆちゃん・・・。そういえば、昔から寝ぼすけさんだったよね・・・」

名雪も、何か良いアイデアを考えようとしていたようだが、考える途中で寝てしまった。

昔のことを思い出しながら、サトルは名雪を寝室まで運ぶ。

「ま、上手くやれるさ、元気出せよ」

祐一が竜也に優しく声を掛ける。

「みんな、ありがとう・・・。おれもできる限り協力させて」

「ボクもボクも!」

こうして、クリスマスパーティーに向けての準備を、全員で始めることになった。

 

NoMen研究室。

「完成ですか?」

仲村が研究室に入り、香川に尋ねる。

彼の手には、オルタナティブ・ゼロと全く同じデッキがある。

どうやらこれが完成品のようだ。

「えぇ。装着者第1号の件なのですが・・・。上層部の許しが出れば・・・まぁ、出るでしょうが、君にと考えています」

「私ですか?」

「君は信用できる上に、格闘能力も高い。我が組織の中では最高の人選だと思うのですが、如何ですか?」

そう言って、香川は完成品のデッキを、仲村に差し出す。

「承知いたしました」

そのデッキを、仲村は迷わず受け取った。

 

「すごいですね・・・。やっぱ上級生の作るものは、凝ってるなぁ・・・」

「こんなのはどう、舞?」「嫌いじゃない・・・」

「僕も賛成です。しかし、これを足してみても良いと思いますよ?」

「あはは~。久瀬さん、ナイスアイデアです!」「ど、どうも・・・」

 

「なゆちゃんも香里さんも栞ちゃんも、ケーキ作るの上手だね」

「えへへ、おかあさんから、教えてもらったんだよ」「わたしはお姉ちゃんからです!」

「香里は誰から教えてもらったんだ?」「独学」

「すげぇ・・・。おれにも教えてくれ!」「北川君には無理よ。繊細な行動が出来ないもの」

「ひでぇ・・・」

「わたしの特性ジャムの作り方は如何ですか?」

「遠慮します・・・」

 

「真琴、そっちの飾りを取ってくれ」

「あう・・・」「ありがとな」

「ニャァ~」

「ピロの相手をしてやれ。遊んで欲しいみたいだぞ」「あ…ぅ…」

「わたしなんかが、御呼ばれさせていただけるなんて、なんとお礼を言ったらいいのでしょう・・・」

「楽しくやればいいんだよ。おまえにも借りがあるしな。それより天野、久しぶりの登場なのに悪いが、言葉がおばさんくさいぞ・・・。おれより一つ年下の癖に」

「物腰が上品といってください」

「う~ん・・・。うぐぅ、竜也く~ん。壁に飾り付けしたいけど、届かないよ~・・・」

「あらら・・・。おれにまかせて」

「いやっ、ボクもやるの!肩車して~!」「うわ、あぶなっ!?」

ズルッ

「どわあああああぁ!」

「わわっ!ごめん竜也くん、だいじょうぶ!?」「だ、大丈夫・・・!と思ったけど、腰が・・・」

 

それから2日ほどして、なんだかんだやっているうちに・・・。

「「「「「「「できたぁ!!」」」」」」」

会場の飾りつけ、ケーキの準備、佐祐理たちによる何かのサプライズ。

全ての準備が完了した。

ふと、潤が余計なことを口にする。

「出来たのはいいけどさ、クリスマスもイブも、あと2日は待たなきゃいけないぞ。どうするよ?」

「このピンク、黙っていればいいものを・・・」

「だ~か~ら~!おれはライ・・・」

「ライ?」

「・・・じゃなくて、北川潤だ!」

秋子がいるので、容易に仮面ライダーのことは言えず、すぐに自分の名前に言い換える。

・・・危ないところだった。

実は、言った後、ミツルも少し焦っていたのは、ここだけの話。

「クリスマスかイブまで、このままにしておくのも良いと思うな・・・」

「そうだね、なんか得した気分になれるかも!」

竜也がふとこぼした言葉に、あゆは飛び跳ねて便乗する。

 

先ほどの件は治まり、みんなでテレビを見ようということになった。

秋子は、夕飯の買出しに行っており、この場にはいない。

名雪がテレビをつけると・・・。

「え・・・?」

ニュースが流れていた。

だが、ただのニュースではない。

 

「・・・正体不明の騎士は「仮面ライダー」と名乗り、住宅、公共施設、さらに一般人にも襲い掛かり、危険な存在であることが分かってきました。今の段階で活発に行動している仮面ライダーは・・・」

その画面に映し出されたのは・・・。

 

龍騎、ナイト、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラー。

つまり竜也達だ。

 

「以上の仮面ライダーは、破壊活動を直接的には行っていないものの、危険であることに変わりは無いとのことです。実際に、仮面ライダーや怪物に襲われ、家族を失った遺族の方々から話を伺いました」

 

「何も分からない内に・・・あんな残酷に・・・」

「絶対に許せません・・・!どうしてあの子を・・・」

 

祐一が突如、立ち上がって叫ぶ。

「あんな、誤解するような情報流しやがって!」

潤も怒り心頭だ。

「しかも、王蛇たちのことは全く流してないぞ!?」

「ひどい・・・」「そんな・・・こんなことって・・・」

あゆたちは絶望のまなざしで、ニュースを見ていた。

これでは、竜也達が悪人ではないか・・・。

「報われないことだってあるんだよ・・・」

ふと、竜也がこぼす。

「仮面ライダーになるときに、みんなはこうやって、悪者扱いされることも覚悟した?」

祐一達は黙ってしまった。

 

・・・そんなことを覚悟してはいなかった。

 

竜也はそれが理解できたようだ。

「説明しなかったおれがいけないんだ、ごめん・・・。でもおれも、みんながこんな風に扱われるなんて・・・」

「竜也君のせいじゃないよ!僕ら、あんなデタラメ気にしないよ?」

サトルは竜也を気遣うように言う。

「それに、おれとサトルは、おまえからデッキを受け取ったわけじゃないしな」

「・・・こんな風に扱われることがどれだけ辛いか分かるの?」

竜也は、俯いたまま言う。

「おれは分かる。悲劇の主人公気取りみたいに思われるかもしれないけど、この街に戻ってくる前、おれは何人かの助けた人から「バケモノ」って言われてたんだ。みんなには、そう言われたときの苦しさや辛さを味わって欲しくない・・・。たとえデタラメでも」

「もうやめてよ!」

あゆが、泣きながら叫ぶ。

「他の人がどう言ったって、ボクたちは竜也くんのことバケモノなんて思ってない!」

「・・・本当に嬉しいよ、そう思ってくれて。でも・・・」

 

キィィン・・・キィィン・・・

 

モンスターが接近している。

「おれが行くよ。これ以上みんなが戦ったら、不必要に傷つく。それだけは嫌だから」

「た、竜也くん!まって!」

竜也はいつものように意気込んではいなかった。少しだけ笑ってみせていたが、悲しいという感情が、これでもかというほど表情に現れていた。

それでも彼は走っていった。

あゆはとっさに引き留めようとしたが、それは叶わなかった。

「ったく・・・。あいつ、ポーカーフェイスがヘタクソ過ぎるだろ」

祐一は呆れつつも竜也の後を追った。

潤たちも続く。

舞は、大人しくしているように言われていたため、動くことは無かったが、悔しさで唇を血が出るかと思うほど強く噛む。

(この痣の秘密を暴かないと・・・)

口にはしなかったが、そう誓った。

 

「クアアアァ!」「キィアアァ!」

ドガアアアァ!ガガアアアァ!

ガルドストームは、同じ鳳凰型モンスター「ガルドミラージュ」「ガルドサンダー」と共に、街で暴れまわっている。しかし、決して人を襲うことは無く、ただ建物を壊しているのだ。

おそらく、オーディンの指示だろう。

モンスターたちが暴れている現場に、一足早く辿り着いたのは香川と仲村。

「さてと、初戦です。覚悟はよろしいですか?」

「了解」

2人はデッキを翳す。

「変身!」

香川はオルタナティブ・ゼロに、仲村はさらに安定したシステム「オルタナティブ」に変身を遂げた。

オルタナティブは、オルタナティブ・ゼロと比べても能力に差は無いが、さらに安定しており、装着者と同調する面において長けている。外見的な差異は、オルタナティブ・ゼロの腕やボディ側面にあった、シルバーのライン、そこに刻まれた「TRIAL PROTOTYPE-00」の文字、そして額に刻まれたシルバーのVラインなどが無くなり、無個性なものとなっている。

「ハァッ!」「フッ!」

「キイィ!」「クエェ!」「カアァ!」

オルタナティブ・ゼロとオルタナティブは、ガルドストームたちに向かって攻撃を仕掛ける。

今までの仮面ライダーたちの目撃情報やデータを参考に開発しているため、さすがに強力ではあるのだが、ガルドストームたちもモンスターの中ではトップクラスの強さであり、両者は譲らない。

 

「変身っ!」

その場に、変身直後の龍騎が乱入した。

「だあぁっ!」

ガキィ!

「グエッ!?」

奇襲だったので、ガルドミラージュには対応することは出来ず、そのまま殴り飛ばされた。

「香川さん、協力してください!」

「貴方の差し金でしょう?」「だから、違います!」

相変わらず、全く耳を貸さないオルタナティブ・ゼロ。

「香川博士。ここは共闘することが優先なのでは?彼らの排除は、その後でも可能なはずです」

オルタナティブ・ゼロと比べて、龍騎に協力的なオルタナティブ。

「・・・確かにそれは賢明な判断ですね」「ありがとうございます!」

不本意ながらも、オルタナティブ・ゼロはオルタナティブの言葉を受け入れた。

<SWORD VENT><STRIKE VENT><ACCEL VENT>

龍騎はドラグクローを、オルタナティブ・ゼロはスラッシュダガーを呼び出す。

「ハッ!」

ガキキィ!

オルタナティブは超高速で、ガルドサンダー、ガルドストーム、ガルドミラージュを翻弄する。

一瞬の隙を突いたとき・・・。

「はあああああああぁ・・・だあぁっ!」「ヌウアアァ!」

ゴオオオオオオォ!ゴアアアァ!

ドラグクローファイヤーと、スラッシュダガーから放たれる青白い炎のような光線を放つ。

「キイイイィッ!」

しかし、それでも体制を整えたガルドストームたちは、何とか避ける。

「くそっ!?」「早いですね・・・」

 

「竜也!」

 

その場に現れたのは、祐一、潤、久瀬、サトル、ミツルの5人。

龍騎はすぐさま叫ぶ

「みんな、どうして来たの!?」

「毒を喰らわば皿までだ!」「出来る筈のことをせずに、じっとしてるなんて出来るかよ!」

「これは僕の決断だ!僕自身で君と共に最後まで戦うと決めた!」

「君だけに辛い思いはさせないよ!」「借りは、まだ返しきれてない!」

彼らは龍騎に向かって叫び返す。

「・・・ありがとう」

そして、同時に・・・。

 

「オォラァ!」

 

「うおあっ!?」

とっさに避ける潤。奇襲した正体は王蛇だった。

「オマエは楽しませてくれるのか?」

「くっ、変身っ!」

潤はすぐさまライアに変身し、相手の出方を伺う。

「おれは良い!ガルドサンダーたちも強いけど、王蛇のほうが強い!潤を助けて!」

祐一達は頷いてデッキを翳す。

「変身っ!」

ナイトたちはライアを救うべく、王蛇に向かっていくが・・・。

「グウウウウウウウゥ!」

「何!?」

レイドラグーンの群れに阻まれる。

 

「まさか・・・潤を!?香川さん、すいませんっ!」「・・・!?」

龍騎はこの戦いをとりあえず切り捨て、ライアのもとへと向かおうとするが・・・。

「キシャアアアアアァ!」

ガキィ!

「うああぁ!」

突如、何かに攻撃を受ける。

振り返ると、そこには巨大な蜘蛛のモンスター「ディスパイダー」がいた。

「ディスパイダー!?」

ディスパイダーは、驚く龍騎に向かって、鋼鉄の糸を吐き出した・・・。

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                  うそだろ・・・!?

 

これで良い・・・。一人減ったようなものだ。

 

                  ボクのお話、聞いて・・・。

 

強力なモンスターが多い・・・。どうなってるんだ?

 

                  彼らの・・・正義・・・。

 

 

 

第30話「形のない想い」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

仲村ソウイチ=オルタナティブ
香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン


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第30話 「形のない想い」

ディスパイダーの鋼鉄の糸が龍騎を縛り上げた。

「ぐうっ・・・!あいつは確か・・・モンスターの中でもかなり強力なタイプ・・・」

ディスパイダーは、身動きの取れない龍騎に少しずつ近づいてゆく。

「ガルドストームたちと言い、強力なモンスターが多い・・・。どうなってるんだ?」

そのとき・・・、

<ADVENT>

「グオオオオオォ!」

ズドォン!

「キシャアアァ!?」

龍騎を庇うようにマグナギガが現れ、腕に備え付けられた大砲でディスパイダーを撃つ。強力な一撃であり、ディスパイダーは怯んだものの倒すには至らなかった。

「龍崎君、しっかりしろ!」「すいません!」

<SWORD VENT>

遠くで、龍騎の危険にいち早く気付いたゾルダが、マグナギガを呼び出したのだ。

何とか動かせる腕を使い、龍騎はドラグバイザーにベントインする。

ドラグセイバーが龍騎の手元に来るのだが、そのとき同時に糸を切り落とした。

動けるようになったので立ち上がり、ライアの元へと向かう。

だが、ディスパイダーを野放しにすることも出来ないので・・・。

<ADVENT>

「ガアアアアアアアアアァ!」

「ドラグレッダー!ディスパイダーと戦ってくれ!」

ドラグレッダーを呼び出し、マグナギガと共にディスパイダーと応戦してもらうことにした。

 

「ぐあああぁ!」

ライアは、王蛇にされるがままに痛めつけられていた。

「オマエの遊びは、あんまり面白くないなァ・・・」

ガッ!

そういいながら、倒れたライアの胸を踏みつける。

「がはっ・・・!」

「さぁ、来いよ。遊び方を教えてやる!」

王蛇の足がある鎧の部分から火花が飛び、亀裂が入ってゆく・・・。

「やめろおおぉ!」

ドガアァ!

龍騎が、王蛇に向かってとび蹴りをお見舞いした。同時に、ライアからも離れ、彼は苦痛から解放された。

「潤、大丈夫!?」

「やべぇ・・・かも」

「ハハァ!オマエの方が楽しめるッ!」

王蛇はライアに興味がなくなったように、龍騎に襲い掛かる。

「たぁっ!」「ウオオォ!」

ガキィン!

ドラグセイバーとべノサーベルがぶつかり合う。

 

「紫のライダーと戦っている・・・。演技にしては酷いな」

オルタナティブ・ゼロは先ほどのライアの状態を見つつ、呟く。彼の目には、王蛇と龍騎たちがどう見ても仲間同士とは考えられなかった。

それとも仮面ライダーとは、人を騙す為にあんなに残酷な芝居が出来るのか・・・。

「香川博士。余所見をしないで頂きたいのですが・・・セッ!」

ガキィン!

スラッシュダガーで応戦するオルタナティブ。ガルドストームたちの攻撃にかなり手を焼いているようだ。

「まずはこの場で、確実に1体は仕留めましょう」

<FINAL VENT>

オルタナティブ・ゼロがベントインすると、何処からか体中が機械で作られたようなコオロギ型モンスター「サイコローグ」が現れた。このモンスターこそ、オルタナティブ・ゼロの契約モンスター及び、NoMenの造りあげた人工モンスターである。

サイコローグは体中のパーツが変形し、まるでオートバイのような形態に変化する。

「ハッ!」

オルタナティブ・ゼロがその上に飛び乗り、さらにアドベントカードをベントインする。

<ACCEL VENT>

高速移動との併用で、オルタナティブ・ゼロは、高速スピンを行いつつ、目にもとまらぬ速さでガルドミラージュに突っ込んだ。

ドゴオオオオオオオオォ!

オルタナティブ・ゼロの必殺技「デッドエンド」である。

いくら強力なモンスターと言えども、ガルドミラージュはその攻撃に耐えうる能力を持ち合わせていなかった。

残ったガルドストームとガルドサンダーは形勢不利とみなしたか、どこかへ飛び去った。

「上出来です。彼らの三文芝居は放っておきましょう」

オルタナティブ・ゼロ達は、そのまま去っていった。

 

レイドラグーンたちに行動を狭められているナイトたち。

「僕がやる!祐一君、ミツル君、久瀬さん、援護して!」

<FINAL VENT>

「はあああああああああぁ・・・!」

「はっ!たあっ!」「ふっ!」「いぇあぁ!てぇあぁ!」

ザンッ!ダダダダダダ!ドガッ!ガスッ!

タイガは拳に冷気を溜め、その間に、ナイト、ゾルダ、インペラーが敵の時間稼ぎを行う。

「今だよ!」

「ガルルルルル!」

タイガの声と共に、ナイトたちはモンスターたちと距離を置く。それと同時に、デストワイルダーがレイドラグーンたちを縦横無尽に切り裂いてゆく。

「でええあああああああああぁ!」

ドガアアアアアアアアアァ!

隙だらけになったレイドラグーンたちを、クリスタルブレイクで攻撃する。

本来、1体用の技なのだが、冷気を拡散させることにより、敵を氷漬けにし、パンチの衝撃でそれらを破壊するといった応用で、全滅に追い込むことが出来た。

彼らは、龍騎とライアの援護に向かおうとした。

 

だが・・・。

 

「無駄だ」

ドガアアアアアアァ!

「ぐあああああああぁ!」

3人の前に現れたのはオーロラ。そして衝撃波を放ったオーディン。

「ヌゥンッ!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

「うわああああああああぁ!」

オーディンの放った衝撃波は、正確に龍騎のみに当たった。

「ぐっ・・・!オーディン・・・!」

龍騎たちは必死に立ち上がろうとするが、全身の苦痛がそれを許さない。

「もう良い。下がれ」

オーディンの指示で、ディスパイダーはオーロラの中に消えていった。

敵がいなくなったドラグレッダーとマグナギガは、その場から去る。

「北川潤、契約のカードを渡して貰おうか」

「なんだと・・・!?」

ライアは反射的に立ち上がろうとするが、ダメージが大きくてとても動けない。

しかし、そんなことではライアは諦めない。

<SWING VENT>

「そんなこと、できるかよっ!」

エビルウイップを呼び出し、オーディンに向かって叩きつけようとするが、彼には通じない。もはや、瞬間移動をせず、受け止めたのだ。

「拒否しようとも、結果は同じだ」

ガッ!

「ぐあっ!?」

「やめろおおおおおおぉ!」

ライアの首を掴み、宙高く持ち上げる。その力は凄まじく、確実にライアの体力を奪ってゆく。

龍騎は身体を引きずりながら、ライアの元へと急ごうとする。

だが・・・、

ズガアアアアァ!

「があああああああああああああああああああああぁ!!!!」

オーディンはライアにゼロ距離で、衝撃波を放った。

ライアの鎧は、もはや鎧の役割を担っていない。ただの重い枷だ。しかし、こんな状態でも、ライアのデッキは無傷を保っている。

そのデッキからエビルダイバーのカードを抜き取るオーディン。デッキからは、エイを模したレリーフが消える。

「潤っ!潤っ!」

「ああぁ・・・ああ・・・」

ようやく、オーディンはライアを離す。だがその姿は、もはや鎧が全て砕け、ボロボロになった潤だ。変身解除ではない。鎧が完全に砕け散った。

口からはおびただしい量の血が流れ、体中は痣や切り傷があり、無傷である部分を探すほうが難しい。

龍騎は、ようやく潤の下へ辿り着き、抱き起こす。

「うそだろ・・・!?」

「案ずるな、命を奪う程の攻撃ではない。病院にでも運べば助かるだろう。・・・もっとも、それ以外の保証はしないがな」

「きさまああああああああぁ!」

怒りが頂点に達したインペラーは、体中が痛むことを省みず、オーディンに向かって攻撃する。

だが、オーディンは興味がないようにオーロラを呼び出す。

それは、インペラーの蹴りを破るほど脆くはなかった。

ガァン!

「ぐうっ!・・・おのれぇ・・・!」

「これで良い。一人消えたようなものだ」

そのまま、オーディンは王蛇と共に消え去った。

 

その後、病院の集中治療室に運ばれた潤。

そのことを聞きつけたあゆたちが、急いで病院に訪れた。

「北川君・・・どうして・・・!?」

一番、ショックを受けているのは香里だ。

「オーディンにやられた・・・」

そこに、潤を担当している主治医が現れた。

「身体の自己治癒力が、普通の人間とは思えないほど強いため、命に別状はないでしょう。ただ・・・治療後も日常動作に影響が出る可能性があります。全力は尽くしますが、それは覚悟なさってください」

「・・・はい」

竜也が静かに返す。その返答を聞いた医師は集中治療室に戻り、潤の治療を再開した。

「北川さん・・・」

栞が心配そうに見つめる。

「心配するな、あのピンクは意外と根性がある。そのうちケロッとして戻ってくるだろ」

ミツルが他の心配そうな面持ちの人に対して、あえてぶっきらぼうに返す。彼なりの優しさなのだ。

ふらりと、竜也が病院から出て行く。

 

「まって!」

あゆが、病院の庭にいる竜也の手を握って引き止める。

「・・・おれが、あんな目に遭わせた」

「ちがうよ!竜也くんは悪くない!悪いのは、あの金色の仮面ライダーだよ!」

「本当にオーディンだけ!?」

竜也は、あゆに向かって叫ぶ。

怒りなどではない、悲痛な叫びだった。驚いたあゆは、とっさに離れた。

「そうじゃない・・・。あのとき、デッキを渡したおれにだって責任がある」

「ボクの話、聞いて?」

突然、あゆが竜也の前に立ち、いつものような不安がった顔や笑顔ではない、真剣な表情で言う。

「じゃあ、竜也くんが潤くんを救ってくれるの?」

「救えないよ・・・。だから、苦しいんだよ」

この戦いに巻き込んだのは自分なのに、どうしようもない。それが竜也の心を強く苦しめていた。

「キミは神様なの!?仮面ライダーは何だって救えるって言うの!?」

「それは・・・」

あゆは、泣きながら訴える。しかし、はっとして竜也に近づく。

彼をこれ以上、責めてどうする?彼は今までずっと苦しんでいたのに。

「ごめんなさい・・・竜也くんを責めたって仕方がないのに・・・」

「・・・ううん、ありがとう。真司さんから教わったことを、今思い出せたよ」

「なに?」

あゆが尋ねる。

「全てを守ることは不可能だけど、だからこそ精一杯、守れるものを守る。この前も思い出したのにね・・・。あゆのおかげだよ。でもせめて、おれが出来ることを・・・」

「どうするつもり?」

「エビルダイバーのカードを取り戻す。潤が戻ってきたとき、彼がちゃんと戦えるように・・・。潤は、何も出来ないことが一番嫌いだって言ってたしね」

竜也はそう言って、龍騎のデッキと、今はブランクとなったライアのデッキを握り締める。

 

次の日。

秋子は、WATASHIジャーナルで仮面ライダーについての記事を扱っていた。

「わたしが出来ることはこれだけです・・・」

そう言ってパソコンを見つめる。

そこには、大きな字で書かれている記事と写真がある・・・。

 

「正義の仮面ライダー!幾度も人を救った!」

 

そこには龍騎やナイト達が、モンスターと戦ったり、一般人を守ったりしているような写真を掲載していた。もちろん、彼女が実際に写したものである。ただ、正体までは知らない。

「あとは、あなたたちに任せます。きっと、上手くいく筈です」

誰に言うわけでもなく、秋子は天井を見上げて呟く。

 

栞は潤の看病を行っている。

もちろん、病院で手厚い治療は受けているのだが、彼女も何かしたいという気持ちの現れである。

「ありがとな、わざわざ・・・」

「いえいえ、わたしに出来ることはこれくらいですから。本当はおねえちゃんも呼びたかったんですけど、恥ずかしがっちゃって。それにしても、すごいですね、たった1日で集中治療室から出られるなんて・・・」

「ま、気力って感じ?」

潤は、まだ満足に動けないものの、1日で通常の病室にいけることになった。仮面ライダーを続けた人間の治癒力の凄まじさは、並みのものではないということか。

「早く復帰して、竜也達に遅れをとらないようにしないとな・・・」

「なら、安静にしてなさいよ?」

そう言って、現れたのは香里。

「おねえちゃん、来たの?」

「お、来てくれたのか。おれのマイスイートハ・・・」

「病院生活、長引かせたいのかしら?」

「ごめんなさい」

香里がキッと睨みつけて言うもので、潤は縮こまって謝った。

「とりあえず・・・」

そう言いながら、香里はあらかじめ買ってきたリンゴと持参した果物ナイフを取り出し、慣れた手つきで皮を剥く。

「ベターだなぁ・・・」

「これくらいしか、思いつかなかったのよ・・・」

潤が苦笑いして言うと、香里は少し顔を赤くして俯く。

「でも良いよな、こういうの。それに来てくれることが一番、嬉しいしな」

「もう・・・」

2人の雰囲気は良い。そして、それを喜ぶ女の子が1人。

「えへへ・・・。わたし、おじゃまですね」

「ちょっと、栞っ・・・」

栞は嬉しそうに言うと、病室から香里の返事を待たずに出て行った。

 

「サトちゃん、はい!」

名雪が渡したのは、目覚まし時計だ。アニメのようにデフォルメされたカエルが、カラフルな石の上に乗っかっているようなデザインである。

「これを僕に?」

「うん。サトちゃんにはね、わたしの声で起きてほしいの」

サトルは、目覚まし時計の設定を決め、早速試しに鳴らしてみる。

「あ~さ~、あさだよ~。あさごはん食べて、学校、行くよ~」

目覚まし時計には、名雪の録音した音声が入っていた。

「はは・・・。こんなにおっとりした声じゃ、すぐに起きられないよ」

サトルは困ったように笑う。

「う~・・・。やっぱりダメかな・・・。わたし、喋り方もちょっと、のろのろしてるから・・・。でも、ちょっとでもサトちゃんの応援になれたらって・・・。わたし、他に何も出来ないから・・・」

「ううん、嬉しいな。大好きな、なゆちゃんの声が入った目覚まし。大切にするよ」

そういって、サトルは目覚まし時計を抱きしめる。

 

真琴は竜也の家で、ミツルとともに言葉を覚える練習をしていた。美汐も今回は協力してくれている。

「真琴、「さしすせそ」だ。やってみろ」

「あ・・・あう・・・い・・・」

「まだ、上手くいきそうにもありませんね・・・」

美汐は心配そうな面持ちで見つめる。真琴は目を力いっぱい閉じ、必死に声を絞り出すが、それでもちゃんとした声は出せない。

「上手くいく。なんたって、真琴だからな。おれのことを思い出してくれるほどのやつだ。もっと出来るはずだろ」

「ふふ・・・」

「・・・何がおかしい?」

美汐が微笑んだ理由を聞くミツル。彼は、彼女の意図が分からないようで、少し不機嫌であった。

「やっぱり真琴が好きなんですね。そんなに期待して・・・。プレッシャーでこの娘を、押し潰さないでくださいね?」

「こいつにはたくさんの思い出を貰ったし、大切なことに気付かせてくれた。悪いが、おれは自分の気持ちを押し殺すことが意外と苦手なんだ。真琴、おまえはおれのことが嫌いか?」

「あ、あうう・・・!」

真琴は必死に首を左右に振る。まるで、見放されるとでも思い込んでいるのかのように、ミツルにしがみつく。ミツルがフッと笑い、真琴の頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細める。

「相思相愛だ。問題ないだろ?それに期待とは少し違うな。借りを返しているような感じだ。大切なことに気付かせてくれた真琴に、言葉を思い出させてやりたい。プレッシャーは掛けさせないつもりだ。真琴には嫌な思いをしてほしくはないからな」

「・・・やっぱり、わたしが思ったとおり。ミツルさんは、優しいんですね」

美汐は改めて、ミツルの心の優しさを感じた。

「ニャァ~」

ピロがやって来て、ミツルの大腿部の上に乗っかる。

「おまえは、真琴の友達になってくれるよな?」

 

舞は、学校に来ていた。

今は冬休みなのだが、来た理由はもちろん、痣の謎を解くためだ。

彼女は、痣は魔物に関係があると推測している。しかし、魔物が出没するのは夜。今は正午前なので、恐らく、何処にもいないだろう。だが、何かしら手がかりがあるはずと感じていた。

「舞だけで行くのか?」

「祐一・・・」

声を掛けたのは祐一。

「水臭いな。おれ達に頼れよ舞」

舞は、答えることなく校舎へと進む。

祐一には分かった。彼女は基本、しっかりとした受け答えをあまりしない。それは、彼女の不器用さであるからだ。

祐一は舞に続く。

 

久瀬は、一人で百花屋でコーヒーを飲んでいた。

彼の頭ではいろんなことが駆け巡っている。

「久瀬さん?」

ふと、声を掛けてきたのは佐祐理。

「やっぱり~!相席、良いですか?」

「構いませんよ」

佐祐理は、久瀬の顔を見て嬉しそうに近づき、彼の座っている席のテーブルを挟んだ席に座る。

「どうしてたんですか?」

「・・・実はいろいろ考えてました。これからの戦いの不安や、自分にとってすべきことは何なのか・・・。龍崎君たちは自分で、すぐに決断して行動しているのに、僕は昔から決断することに躊躇したりすることが多い。年上の癖に、情けなく思いまして・・・」

「・・・今、流れている音楽の名前、知ってます?」

佐祐理は店を見渡しながら、久瀬に尋ねる。彼女が言っているのは、この百花屋で流れている音楽だ。クラシックであり、テレビなどでも、よく使用されているときがある

「よく聞くことのある曲ですね。たしか・・・ヨハン・パッヘルベルの「カノン」ですよね?」

「はい。同じ曲調に、違うメロディが追いかけながら演奏されます。・・・変わりない日常に違う出来事が起こって、同じように見えて、少しずつ変わっていくように・・・」

説明をしながら、彼女は自分の手首をさする。そこには可愛らしいリストバンドをはめていたが、その中には、自傷の跡がある。

 

佐祐理には弟がいた。厳しい家の生まれのため、彼女も弟に厳しく接した。それが彼女なりの愛情だった。

しかし弟は病弱で、そう長い命ではなかった。

ある日、佐祐理は弟と一緒に最初で最後の子供らしい遊びをした。その日の思い出は、今でも佐祐理の脳裏に焼きついている。

間もなく、彼女の弟は息を引き取った。

その頃からだった。自分の呼称が「佐祐理」になったのは。

幾度となく、弟に対して「もっと遊んでいればよかった」という自責に耐えられず、自殺を試みたことでさえあった。

だが舞や祐一と出会って変わった。2人と出会うことで、彼女は明るさを取り戻せた。

もっとも、弟に対する自責や、後悔などは消えていないが。

 

「少しずつでいいと思います。久瀬さんだって、きっと変われるはずです。佐祐理も、久瀬さんとこうやって話すことで、少しずつ変わっていけるような気がします」

「・・・あなたには最近、助けられてばかりですね」

2人は笑いあった。こうやって、彼らは変わってゆくのかもしれない。

 

「・・・これが彼らなのか?」

香川はモニターを見ながら、驚愕していた。

実は昨日の戦闘中、彼らに小型カメラを取り付けておいた。本来は、彼らの言葉の裏を掻くための証拠映像を手に入れるためだったが、彼らは予想外の行動をしていた。

「人を襲う者が、こんな生活をするはずがない。カメラに気付いているのか?いや、そんなはずはない。あのカメラは、黄緑色の仮面ライダーが使っていた「クリアーベント」を参考に、保護色になるように開発したはず・・・」

様々な予測をする香川。そして、その中から考えた結論は・・・。

「彼らの正義・・・。本当に心から、人を守りたいと考えているのだろうか・・・?」

 

 

 

続く・・・。

 

 

 

 

 

次回!

 

                   人を救うことが最優先の筈です!

 

いいえ、任務の執行が先かと

 

                   ハッハハハハハハ!もっと楽しめるぜ!

 

死ぬ前に残す言葉は・・・?

 

                   ありませんよ

 

 

 

 

 

第31話「守るということ」

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

仲村ソウイチ=オルタナティブ
香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン


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第31話 「守るということ」

次の日。

「…如何ですか?」

香川は仲村に、竜也たちに取り付けたカメラがとらえた映像を見せている。

「如何と言われましても…。これが何だというのですか?」

「彼らは、本当に人を守りたいと、考えているのではないのでしょうか?」

香川の言葉に少しだけ驚く仲村。しかし、香川から見れば表情の変化には気付けなかった。

「意外ですね、貴方が彼らを信用するような意見を述べるとは…。私としては、彼らは今のところ、我々や一般人には危害を加えず、モンスターの殲滅のみを行っています。敵の仮面ライダーと戦闘しているところから、やはり味方として見ることは出来るかと」

仲村が香川の質問に対して、自分なりの意見を言う。あくまで個人的主観ではなく、統合的な意見のような印象を受ける。

その質問に対し、香川は首を振る。

「いえ、味方やどうかではありません」

「…はい?」

「彼らが、人を守りたいと考えているかどうか。敵か味方は二の次です」

仲村は、その言葉に少し不満を感じる。

「情に流されるとは、博士らしくないですね。我々の任務はモンスター及び、仮面ライダーの排除。彼らの感情がどうかなどは、どうでも良いはずです」

「その任務を遂行する理由は、人を守るからです。その想いは、例え仮面ライダーにでさえも在るとするならば、その思いを汲み取って共に戦うべきではないのでしょうか?」

香川の回答は、仲村とは最終的な意見は同じであるものの、それに至るまでの想いは全く違う。

しかし…、

「結局のところ、考えていることは同じでしょう?ならば彼らと接触して、共闘を申し出ましょう」

仲村はさっさと研究室から出て行き、香川も続く。

 

同時刻、此処はオーロラの中。

エビルダイバーのアドベントカードを手にとって、まじまじと見つめている浅倉が、オーディンに聞く。

「ライアのカードなんか奪ってどうするつもりだ?」

オーディンは自らのデッキから、磁石同士が引き合っているような絵柄のアドベントカードを引き、浅倉に渡す。

「何だよこれは?」

「複数のモンスターを融合させる特殊アドベントカードの一つ「ユナイトベント」だ。これを使うことにより、ベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーを融合させた最凶のキメラモンスター「ジェノサイダー」を使えるようになるのだ。このモンスターとのファイナルベントは、今までの攻撃をはるかに上回るほどのパワーを秘めている」

ちなみにこのカード、アビスも所持しており、アビスラッシャーとアビスハンマーをアビソドンに融合させていたカードと全く同じものである。

「ほう…。そのために、ガイやライアの契約のカードをオレに持たせたのか」

オーディンは仮面の奥で笑い、浅倉に指示する。

「これならば、オルタナティブ・システムを叩き潰すなど容易かろう?」

「フン、なるほどな。今までの詰まらん戦いは、これからの最高に楽しい祭りの為の余興だったって訳か!?」

浅倉は体中に溢れる、戦うことへの喜びを久しぶりに感じていた。

それはまさに「狂気」。

 

そのころ、祐一と舞は校舎を散策している。

幸い、今は部活動もやっていないので、あたりを動き回るのは比較的簡単である。

「舞、やっぱりその痣、魔物と関係があるんだろ?」

ふと、痣の秘密を聞く祐一。

舞は俯いて答える。

「でも原因は…分からない」

「そうだよな。だから此処に来て、謎を解き明かそうって訳だからな」

舞は、ふと立ち止まって、祐一に話しかけた。

「祐一。昔のこと覚えてる…?」

「昔?」

彼女の言う「昔のこと」というものに、全く心当たりがない祐一。舞はその様子を見て、すぐに前を向いた。

「…なんでもない。やっぱり今日はやめる」

「お、おい!?」

祐一を待たず、さっさと校舎から出て行った。

彼女の胸中には一体、何があったのだろうか…。

 

「どこにあるんだろうなぁ…」

「う~ん…」

竜也とあゆは、オーディンが潜んでいる場所を探していた。

彼に遭遇すれば、必ずエビルダイバーのカードを持っているはず。上手くやれば、取り戻せるかもしれない。ただ、非常に困難ではあることを自覚してはいる。

 

キィィン…キィィン…

 

「あぶないっ!」

「え…うぐっ!?」

「クアアアアアァ!」「キエエエエエエエェ!」

モンスターの反応を感じ、あゆを突き飛ばす竜也。その直後にガルドサンダーが、あゆのいた場所に向かって火焔弾を吐き出した。一瞬でも遅ければ、あゆにはとんでもないことになっていただろう。

ガルドサンダーの後ろにガルドストームもいる。

「嗅ぎつけられたのか…!?あゆ、隠れてて!変身っ!」

あゆの安全を確保した竜也は、すぐさま龍騎へと変身し、ガルドストームたちの出方を伺う。

「協力しましょう」

<SWORD VENT>

ガキィン!

突如、黒い影が現れ、龍騎よりも早くガルドストームに攻撃を仕掛けた。

残念ながら上手く防がれたため、効果的な一撃にはならなかった。

そして、その影の正体は…。

「香川さん!?」

そう、オルタナティブ・ゼロとオルタナティブだった。

つまり、香川と仲村である。

「貴方達の一日を、失礼ながら監視させていただきました。結果、私は貴方達を信用してみようと考えています」

「総合的に見ても、貴方がたを敵とは区別せず、協力し合うことのほうが賢明と私も考えます」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「じゃあ、あやまって!」

突然、隠れていたあゆが、オルタナティブ・ゼロ達に訴える。

「竜也くん達を悪い仮面ライダーたちと一緒にしたことを、竜也くん達の気持ちを信じてくれなかったことを、あやまってよ!お願いだから…」

「あゆ…」

彼女にとって、竜也達が悪い扱いを受けることは許せなかった。

そして、それ以上に悲しかった…。

「…申し訳ありませんでした。我々の早合点が、貴方達を不必要に苦しめたことを、心からお詫びします」

オルタナティブ・ゼロは頭を下げ、真摯な気持ちで謝った。

だが…。

「残念ですが、応じません。私は貴方がたの感情などについての動向に、謝罪の意志はございません。敵か味方かだけです」

オルタナティブはそう言い捨て、ガルドストームたちに攻撃を仕掛けた。

「ねぇ!どうして!?」

「あゆ、もう良いんだ!一緒に戦ってくれるんだから!」

龍騎はオルタナティブに対して憤りを覚えたあゆを必死になだめ、ガルドストームたちとの戦いに身を投じていった。

 

そのころ、別の場所でディスパイダーが暴れていた。

そこに駆けつけたのは、

「以前、逃がしたやつだな」「ふん、デカブツ蜘蛛め」

「ミツル君、油断しちゃダメだよ。真琴ちゃんを悲しませちゃうからね」

「変身っ!」

ゾルダ、タイガ、インペラーに変身した3人は、ディスパイダーに向かって攻撃を仕掛けていく。

「素手の戦闘はキツイな…」

<SPIN VENT>

「ふっ!」「たああぁっ!」「いぇああぁ!」

ダァン!ダァン!ズバァ!ガキィ!

唯一、常時装備型武器の無いインペラーは、ガゼルスタッブを呼び出し、残りの2人はマグナバイザーとデストバイザーで応戦する。

「キシャアアアアァ!」

ドゴオオオォ!

「ぐあぁっ!」「うわああぁ!」「ぐっ…!」

しかし、ディスパイダーも黙ってはいない。大きな前足を使い、3人を吹き飛ばした。

「うぅ…強い…!」「3人がかりでも此処まで強いのか…」「ただのデカブツじゃないらしい…!」

 

「ガルドストームは強いですけど、オルタナティブ・システムが使うアクセルベントには対応できていません。それを駆使すれば…!動けなくなったところに、おれがトドメを!」

「了解」「なるほど…。よく観察してますね」

<ACCEL VENT><FINAL VENT>

「ハァッ!」

ガキィン!ドガァッ!

オルタナティブは、超高速でガルドストームとガルドサンダーを攻撃する。

やはり対応できない2体は、地面に倒れた。

「ふんっ!はあああああああああああああああぁ!」

その隙に、龍騎がドラグレッダーを呼び出し、ポーズを取って構える。

そして宙高くジャンプし、身体を捻り、キックの体勢に入る。

「だああああああああああああああああぁ!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

龍騎のドラゴンライダーキックが炸裂した。辺りには爆炎に包まれ、標的に当たった手ごたえを感じた。

しかし、その爆炎の晴れた先には…、

「キィィ…クエェ…」

「ガルドサンダーが…!?」

ガルドストームのみ倒すことには成功した。しかし、ガルドサンダーは満身創痍であるものの、生き長らえている。

「クアアァッ!」

そのまま、ガルドサンダーは飛び去る。

「待てっ!」

龍騎はとっさに追いかけたが、見失ってしまった。

そして…

 

キィィン…キィィン…

 

「別のモンスターがいる!」

龍騎はそのまま、反応のするほうへと向かった。

「どうやら、モンスターがいるようですね」

オルタナティブ・システムには、モンスターの感知機能は搭載されていない。

NoMenの基地内には在るのだが、システムの容量の関係上、その感知機能を搭載するには至らなかったのだ。

「我々も行きましょう」

「あ、待ってよ!」

オルタナティブ・ゼロ達が後を追いかけ、あゆも続く。

 

「キシイイイイィ…」

そこまで大きなダメージは負っていないが、ディスパイダーの攻撃に手を焼くゾルダたち。

と、そこに…。

「さぁ、祭りを始めようか!?」

「浅倉!?」「くそっ…こんなときに来るな!」

狂ったように笑いながら現れたのは浅倉。すぐさま、デッキを構え…、

「変身!」

王蛇に変身する。さらに、3枚のアドベントカードをデッキから引く。

そのカードは、ベノスネーカーとメタルゲラスとの契約を意味する、アドベントカードが2枚。

そして…

「あれって…」「北川のアドベントカードか…?」

<ADVENT><ADVENT><ADVENT>

それに答えるように王蛇は、ベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーを呼び出した。さらに、もう1枚アドベントカードを引く。

「ハッハハハハハハ!もっと楽しめるぜ!?」

<UNITE VENT>

その音声と共に、3体のモンスターは1つに集まり光に包まれる。

すると…。

「合体したのか!?」

そこにいたのは、3体のモンスターが融合したキメラ型モンスター「ジェノサイダー」。

「グギャアアアアアアアアアアァ!!」

狂ったような雄叫びを上げるジェノサイダーは、ゾルダたち3人に溶解液を吐き掛けた。

しかしそれは、もはや溶解液ではない。

ドガアアアアアアアアァ!

「うあああああああぁ!」「わあああああああぁ!」「ぐおおおおあああああぁ!」

地面に触れた途端、凄まじい爆発を起こし、3人を巻き込んだ。

「最高だァ!もっともっと、楽しもうぜェ!?もっとだ!もっとオオオオオオォ!!!」

ガキィン!ガァン!

いつの間にか手に持っていたべノサーベルを地面に叩きつけながら、叫ぶ王蛇。

「王蛇っ!」

「アァ?」

突如、何処からか叫び声が聞こえ、王蛇が振り向くと、龍騎がそこにいた。

「ほう…骨がある奴が来たな!祭りは…これからだアアアアアアアアァ!!」

「ハァッ!」

ガキィン!

「ウオォ!?」

「我々も忘れないで頂きたい」

新たに現れ、王蛇の攻撃から龍騎を庇ったのは、オルタナティブ・ゼロ。

「そういえば、オーディンから指示されたのはオマエ等だったな。オマエ等は此処で死ぬ。死ぬ前に残す言葉はあるか?」

「ありませんよ。死にませんからね」

オルタナティブとあゆも現れた。

「NoMenの科学者…!」

「香川さんたちは、おれ達と協力してくれるって!」

「カチカチの頭も、少しは柔らかくなったらしいな」

龍騎の言葉で、内心安堵しつつも皮肉るインペラー。

「おいおい…。オレを放っておいて、楽しむなよォ!」

べノサーベルを振り下ろす、王蛇。

ドガァ!

とっさに、龍騎たちは避けるが、そのとき地面のコンクリートの大きな残骸が、あゆに向かってゆく。

「きゃああっ!」

「あゆっ!」

その危機を見た龍騎は、すぐさま助けに向かうが…。

「モンスターたちを優先するべきです」

オルタナティブが立ちふさがった。

しかし…。

「どいてくださいっ!」

ドンッ!

「グウッ!?」

それを突き飛ばし、あゆを抱きかかえて瓦礫を避けた。

あゆがいた場所には、大きなクレーターが出来ていた。

「あゆ、大丈夫!?」

「うん、平気…。ありがと…」

その様子を確認したゾルダ、タイガ、インペラーは王蛇と交戦する。

「はあぁ!」「でぇあぁ!」「せいっ!」

「ハァッ!エェアァ!ゼイッ!」

その隣で、オルタナティブ・ゼロが怒っている。

「仲村君っ!何故、彼女を救う龍崎君を止めたのです!?人を救うことが最優先の筈です!」

「いいえ、任務の執行が先かと」

「…君には、オルタナティブを任せられません。この戦いが終わり次第、返却していただきます」

「了解」

オルタナティブは無感情な返事をした後、再びディスパイダーと戦い始めた。

ガキィン!

「がはあっ!」

王蛇の攻撃の前に、ゾルダたちは押されている。

「ちっ…狂ってるな…」

「どうしたァ!もっと楽しませろよォ!?」

<FINAL VENT>

王蛇は、ジェノサイダーのファイナルベントを発動する。

ジェノサイダーは、自分の腹を食い破り、ブラックホールを造りだした。

「デェエエヤアアアアアアアアアアァ!」

その攻撃は、3人に激突する…

 

筈だった。

 

ガァン!

「何ッ!?」

突如、現れたのはオーロラ。

「何だよオーディン、もう終わりか?」

王蛇がオーロラに向かって、毒づいた瞬間、

ズガアアアアアアアアアァ!

「グガアアアアアアアアアアァ!?」

突如、黄金の光が王蛇にぶつかり、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

さらに、別のオーロラが現れる。

「どうなってる!?」

「引き上げだ…。想定外の事が起きた…!」

そのオーロラからオーディンの声が聞こえ、王蛇とジェノサイダーをさらっていった。

残ったオーロラも消え去る。

「なに、今の…?」

タイガは、その様子を呆然と見つめていた。

「同時攻撃なら、倒せるかもしれません!」「えぇ!」

<STRIKE VENT><FINAL VENT>

龍騎はドラグクローとドラグレッダーを呼び出し、ドラグクローファイヤーの構えに入り、オルタナティブ・ゼロは、サイコローグを呼び出し、変形させた上に飛び乗る。

「はあああああああぁ…だあぁっ!」

ゴオオオオオオオオォ!ズガアアアアアアァ!

ディスパイダーは、成す術もなく倒される。

何とか、この状況での戦いは終わった。

 

「貴方達のことを疑っていました、申し訳ありません」

「もう気にするな」「そうだよ。僕らも一緒に戦うから」「これからは、仲間ですね」

ミツル達は、香川を責めることなく、温かい言葉をかける。

「私もぜひ、共に戦いたいのですが…。実は…」

そう言って彼が小型モニターを取り出し、竜也達に見せる。

 

そこには、様々な場所でのモンスターの破壊活動の爪跡が残されている。

 

「やっぱり…ここに集中して出現しているけど、他の場所でも…」

竜也は、モンスターが頻繁に出没しているからこの街で戦っているのだが、この街以外にもモンスターは出没している。どうしてもこれに関しては、解決できなかった。

「我々は、各地に現れているモンスターを討伐を主に活動します。もうじき、オルタナティブのパワーを下げた量産機「オルタナティブ・トルーパー」が完成します。それを全国に配備し、私が指揮を執るので…。残念ですが、貴方と共には…」

申し訳なさそうに言う香川に対して、竜也が頭を下げる。

彼の行動が理解できない香川。

「オーディンたちはこの街の近くに潜んでいます。だからここから離れて、おれは戦えないんです。それに勝手かもしれませんけど…おれ、この街で大切な人がたくさんいるんです。それを守りたいと思ってます」

「ふふ…了解しました。この街での戦いは貴方達に任せます。」

納得がいった様に頷き、車に乗り込む香川。運転席には相変わらず無表情の仲村。

「仲村さん、一緒に戦ってくれてありがとうございました。他の場所を…香川さんと一緒に…」

「了解」

仲村は、オルタナティブの装着者の資格を香川から剥奪されるはずだったが、竜也達の説得に免じ、もう少しだけチャンスを与えられた。

「共に戦いましょう。離れていても…」

香川はそういい残し、去っていった。

あゆはその姿を、少しだけ頬を膨らませて見ている。

「うぐぅ…結局、仲村さん、あやまってくれなかったよ…」

「あゆ。同じ目的でも、違う思想の人はたくさんいる。それに仲村さんだって、NoMenにいるのは、たぶん仲村さんなりの思いがあるからだよ。だから大丈夫、きっと…」

 

その日の夜。

「香里、ア~ンしてくれよ、ア~ン!」「絶対いや!」

「おねえちゃん、相変わらず素直じゃないね」「うるさいわよ!」

潤は一時的に退院し、クリスマスパーティーには全員が出席できた。

彼は香里とのクリスマスを楽しんでいるが、当の香里はそっぽを向いたまま。

ただ、それが本心じゃないのは、栞をはじめとして、ほぼ全員にバレバレだ。

彼と共に過ごせることが嬉しい。

「真琴。フォークは、こうやって持つんだぞ?」「あうぅ…」「ニャァ~」

熱心に指導するミツルに、一生懸命練習している真琴。それをとなりで見ている美汐はくすりと笑う。

そのすぐ傍では、ピロがクリスマス用にアレンジされた秋子特性のキャットフードを美味しそうにありついている。

「今日くらい、甘えさせてあげれば良いじゃないですか。いつも頑張ってるのに、こんな楽しい場面でお勉強を無理強いなんて、人として不出来でしょう?」

「…確かにな、わかったよ。真琴、口を開けろ」「ん…?」

真琴が不思議そうに口を開けると、ゆっくりとケーキを口の中にほうり込むミツル。

「あう…!」「ちゃんと噛めよ?」「もう、ミツルさんったら…」

「意外と難しいな…教えないってことも」

真琴はちょっと驚くが、嬉しそうに味わう。すぐさま、心配してしまうミツルを、また笑ってしまう美汐。

「なゆちゃん。とっても美味しいよ、このケーキ!」

「わたしだけで作ったものじゃないけど…。でも、喜んでもらえてよかったよ」

相変わらず、サトルは名雪に対して、いつもニコニコしている。

「あらあら、お似合いのカップルが此処にも…」

その様子をほほえましく見つめる秋子。

祐一、舞、久瀬、佐祐理の姿が見当たらない。

「何処いったんだろ…」「大丈夫と思うよ?」

竜也は4人を心配しているが、あゆは4人のことは大丈夫だと言っている。

すると…。

「メリークリスマース!」

その声と共に、部屋の中に現れたのは…。

「わぁ、サンタさんだ!」

2人のサンタと2匹のトナカイ…に扮した、先ほどからいない4人。

何故か衣装は、かなりリアリティがあり、パッと見るだけでは正体はわからないだろう。

「あれ…もしかしてサンタさん、ま…」「わたしはサンタ」

竜也は、ヒゲ(の形をした飾り)の無い顔の部分から、2人の正体に感づくが、サンタ(に扮している舞)は自分のことをサンタだと言い張る。

「そ、そうですか…」

「あはは~今日はプレゼントを持ってきたんですよ~」

「ひひ~ん」「ぶるるるる~」

口癖でバレバレなサンタ(に扮している佐祐理)。

彼女の言葉に、2匹のトナカイ(多分、祐一と久瀬)は鳴き声を発し、いそいそと袋を取り出し、サンタ2人に渡す。

ところでトナカイ2匹、鳴き声はそれでいいのか。

「やったぁ、たい焼き!」「竜也さん、アイスですよ!」「たい焼きは良いけど、何故アイス?」

それぞれにプレゼントを渡していく。

ちなみに、冬なのにアイスに喜んでいるのは栞。彼女は、真冬でもアイスに目がないのだ。特にバニラ。

「それではみなさん、よいクリスマスを!」「メリークリスマス」

随分と明るいサンタとほとんど喋らないサンタは、トナカイを引き連れ、帰って行った。

それから数分後…。

「ごめんなさ~い、遅くなりましたぁ~」「…遅刻した」

「いやぁ、面目ない。外の雪が酷くてね」「全くだよ…」

「やっと来た!ほら、みんなも入って!」

いなかった4人も、ちゃんと(?)出席し、楽しい一夜が流れていった。

 

そのころ…。

「世界の崩壊が、さらに進んでいます…」

「結局、俺とお前に賛同したのは?」

「2人です。残りの人は、別の方法でやる…と」

「ということは、あの人は…」

「お察しのとおりです。しかし僕らは、僕らのやり方で…」

「あぁ…」

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                       おまえは誰だ!?

 

あの夢の中にいた…

 

                       夢を見ている…。

 

あいつは、おれの記憶を知ってるのか…?

 

                       思い出せ…全てを…!

 

 

 

 

 

第32話「夢」

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

仲村ソウイチ=オルタナティブ
香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

???
???

仮面ライダーオーディン



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幕間
登場人物紹介(追加分)


仮面ライダーオーディン

「仮面ライダー龍騎」の世界の住人。人間の姿は持たない。

「劇場版仮面ライダー龍騎 ~EPISODE FINAL~」後、神崎士郎から解き放たれ、カードデッキ自体が肉体と自由意志を持ち、この世界に移り住んだ。

自分のカードデッキデッキのデータを基に、龍騎、ナイト、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラー、シザース、ガイ、ベルデ、アビス、王蛇、計12枚のカーデッキを作り上げる。

そのうちの5つは城戸真司によって奪われ、残りのカードデッキを利用し、不思議な現象が起こりやすい「雪の街」を拠点に、この世界を自分の理想の世界にしようと企て、操れるモンスターで一部の人間を抹殺する。

仮面ライダーの中でも最強の力を持ち、複数のライダーを同時に圧倒するほど。

強い意志と明確なビジョンを持ち、平和な世界を望んでいるが、人間は管理されるべきと考えている。

 

 

香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

竜也や城戸真司が関わっていた(主に生活費等)政府組織「NoMen」の天才科学者。

1年程前から、仮面ライダーに頼らずとも、人類が自分達の力でモンスターの脅威から身を守るための力の開発を続けており、その力等は完成したものの、その力を制御するスーツの開発に頭を痛めていた。しかし、ディエンドの召還した「オルタナティブ」と「オルタナティブ・ゼロ」を目撃することによって、自分の理想とする試作スーツ「オルタナティブ・ゼロ」を完成させ、自らを装着者第1号にした。

シザースたち、悪の仮面ライダーの行動から、竜也たちを信用しておらず、仮面ライダーは排除すべきと考えている。ただ、人を守ろうとする想いは強い。

 

 

仲村ソウイチ=オルタナティブ

「仮面ライダー龍騎」の異世界の住人。

竜也や城戸真司が関わっていた(主に生活費等)政府組織「NoMen」のエージェント。

香川と行動することが多く、それゆえに彼からの信頼は厚く、完成スーツ「オルタナティブ」の装着者第1号に任命されるほど。

善悪に対する興味はそれほど無く、ただ淡々と仕事をこなしていると言った雰囲気である。

そのため、香川より竜也たちを敵視していないが、逆に人を守ろうとする想いは希薄。

 

 



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第七章 夢の記憶
第32話 「夢」


楽しかったクリスマスパーティーが終わり、竜也たちは自分たちの家へと帰り着いていた。

 

竜也は部屋の椅子に座って、ベッドを見つめていた。

ベッドでは、静かに寝息を立てているあゆ。

実は寝る前…。

 

「ね、ねぇ、竜也くん…」

「なに?」

「その…今日はボクが寝るまで、一緒にいてくれないかな?」

「えっ!?ど、どどど、どおして…!?だって…えぇっ!?」

あゆが顔をまっかにして言った言葉に、竜也はかなりうろたえる。

もちろん、年頃の男女が同じ部屋で寝るとなると、いろいろと問題がある。竜也にだって、それは分かっていた。

「だって、夜に一人で寝るの怖いもん…」

あゆは俯きつつ、ちらちらと竜也を見て言う。

変なことを考えていた竜也は、自分が恥ずかしく感じた。

「あ、そういうことか…。でも、今までは平気だったのに、どうして?」

「ううん、平気なんかじゃなかったよ…。今まで何度も何度も、このことを言おうかって考えてたんだよ。うぐぅ…でも…その…恥ずかしくって…。それに、竜也くんが嫌がったりしたら…。やっぱり、だめ?」

「良いんじゃないのか?」

ミツルが突如、会話に入る。

「おまえらは、2人でいればいい。おれは真琴と寝る。いつも4人バラバラなのは、距離がある。野郎同士で寝るのは御免だが…」

「あうっ…!」

隣で聞いていた真琴は、嬉しそうにミツルに飛びつく。

「こいつもそのほうが良いらしい。おまえらも、たまには良いだろ」

ちなみに、竜也の家は小さいが、4人ずつ部屋がある。今までバラバラだったのは、竜也が男女共に寝るのはあまり良いことではないし、それぞれのプライバシーを尊重した考えゆえである。

「そう…だね。あゆ、夜が怖かったら、そう言ってくれれば良いのに。おれは嫌がったりしない。おれなんかでよければ、一緒にいるよ?」

「うん、ありがと…」

 

というわけだ。

「…竜也…くん…」

「あゆ…?」

あゆが不意に呼ぶので、そちらを向くが未だに寝たままである。どうやら寝言らしい。

「…う…ん…」

寝返りを打ち、あらためて気持ちよさそうな表情で寝ているあゆを、竜也はこれ以上無いほど愛おしく感じた。

(いつか、戦いが終わって…。こんな時間が、ずっと過ごせるようになったら…)

城戸真司から託されたものとは言え、仮面ライダー龍騎として戦う日々は、モンスターを完全に倒し、オーディンの野望を食い止め、いつか完全に終止符を打ちたいと考えている。そして、ここにいるあゆと、ずっと静かに暮らしていきたい。

それは竜也が願う、他人のためではない、たった一つの自分に対する願望なのかもしれない。

ふと、あゆの頭をそっと撫でる。

柔らかくて細長い髪の感触をほんの少しだけ感じた。

(もしあゆが認めてくれるなら…大好きな君と一緒に…)

 

 

ィィン…

 

「!?」

一瞬だが、今モンスターの接近音がした。しかし、それらしきものは見当たらない。

気のせいかと思い、ふと床に目をやると…。

 

…自分の影がない。

 

ほんの少ししか明かりをつけていないため、確かに部屋は薄暗いが、隣のあゆには確かに影がある。

だが、自分には全くない。

「どこに…!?」

妙な焦りを感じ、辺りを見回す。

すると、見つけた。扉に張り付くように自分の影があった。

ゆっくりと近づき、手を伸ばす。

すると・・・。

 

ガシッ!

 

「うわぁっ!?」

影の中から真っ黒な腕が現れ、竜也を自らの影の中に引きずり込んだ。

 

「ん…くっ…。ここは…?」

竜也が目を覚ますと、そこは辺り一面、雪に覆われた真夜中の土地。開けた雪化粧をした平地の真ん中に大きな切り株がある。

なぜか懐かしい…。竜也はそう感じた。

「どうなってる・・・?」

状況を把握しようと立ち上がるとき、違和感を感じた。

手を見ると、身体は真紅に染まっていた。

いつも変身している、龍騎のスーツだ。

さらに、目の前には…。

 

「龍…騎…?」

 

そう、龍騎が立っていた。

だがその色は、本来の姿である龍騎の炎のような真紅ではなく、まるで闇を髣髴とさせるような漆黒。

「…ッ!!」

黒い龍騎は、龍騎に向かって襲い掛かる。

ガッ!

「ぐあっ!」

突然の攻撃に対応できずに、龍騎は吹き飛ばされる。

「まて、おまえは誰だ!?」

「…」

黒い龍騎は答えない。ただ黙って、龍騎に襲い掛かる。

ドガッ!

「うあっ!く、くそっ!」

龍騎は拳を振るうが、黒い龍騎には当たらない。紙一重で避けている。明らかに戦いを熟知した戦闘スタイルだ。

「答えろ、おまえは誰なんだ!?」

「…」

<ADVENT>

やはり黒い龍騎は答えず、アドベントカードを黒いドラグバイザーにベントインする。その音声は、龍騎たちのものとは異なり、地獄から這ってくるような、くぐもった低い声。

「グオオオオオオオオオォ!」

現れたのは、黒く染まったドラグレッダー。龍騎に向かって、今にも襲い掛かろうとしている。

「それならこっちも!」

<ADVENT>

「ガアアアアアアアアアァ!」

真紅のドラグレッダーと漆黒のドラグレッダーがぶつかり合う。

ゴオオオオオオオォ!ドゴォ!ズバッ!ガブッ!

炎を吐き、尾で叩き、爪で切り裂き、噛み付く。

だが、その攻撃の全てを黒いドラグレッダーが上回っていた。

その間も戦い続ける、龍騎たち。

「はあっ!だあっ!でぇっ!」「…」

龍騎の攻撃は全て避けられた。

まるで、自分のことのように次の手が読まれている。

ドガアアアアァ!

「ガアアアァ・・・!」

「ドラグレッダー!?」

ドラグレッダーは体力の限界が来たのか、力なく地面に倒れる。

それを好機と見たか、黒いドラグレッダーは龍騎に向かって急接近する。

「グオオオオオオオォ!」

ドガアアァ!

「ぐああああああああああぁ!」

龍騎は強烈な体当たりを受け、切り株に叩きつけられた。

「がはっ・・・うぁ・・・」

意識が朦朧としている・・・。

薄れゆく意識の中で、黒い龍騎は龍騎に近づき、拳を握り締めながら、くぐもった低い声でこう言った。

 

「思い出せ・・・。全てを・・・!」

 

そして意識が途切れる瞬間、黒い龍騎の握り締めた拳が、龍騎の視界一杯に広がった・・・。

 

 

 

 

 

「っ!?はぁっ・・・!はぁっ・・・!」

目を覚ますと、そこは先ほどの部屋。隣には、先ほどから変わらないように静かに寝息を立てているあゆがいる。

「夢…だったのか」

今まで、竜也は悪夢を見たことが無かった。

というのも、ここに戻ってくる前から、ずっと同じ夢を見続けているからだ。

 

幼いころの自分が、あゆと出会った日の夢。

 

この街に戻ってきた理由の一つでもあった。

だが、先ほどの夢は今まで見ていたものではなかった。

そして、あの黒い龍騎が言っていた…。

 

「思い出せ…。全てを…!」

 

まるで、自分の失くした全てを知っているかのような言葉。

そこから導き出される結論。

「あの夢の中にいた…あいつは、おれの記憶を知ってるのか…?」

そして、やってくる睡魔。

先ほどの悪夢の戦いは、現実と感じるほどリアルだった。

疲労も苦痛も。

残った疲労感と睡魔に任せて、竜也は目を閉じた。

 

 

 

夢…。

 

夢の中にいる…。

 

いつもと同じ…

 

ずっとずっと同じ風景の繰り返し…。

 

ゆっくりとまどろみに揺られながら…

 

ただひとつのことだけを願う…。

 

目を閉じて…

 

次に目を開けたとき…

 

別の風景が…

 

見えますようにと…。

 

 

その夢は、今まで見ていた夢の続きだった。

「あゆ~!」

「…」

このころのあゆは、今とは想像も出来ないほど暗かった。

たった一人の肉親である母親が、この世から居なくなってしまった。そのことが、あゆの心を冷たい氷の中に閉ざしていた。

「ごめんね、ちょっと遅刻しちゃった。でもよかったよ。僕との約束を守って、またここにきてくれて」

「…」

「そういえば、下の名前しか聞いていなかったね。苗字は?」

初めて出会ったあゆは泣きじゃくっており、名前を聞いても「あゆ」としか答えなかった。

だが…

「…月宮あゆ」

「月宮あゆだね。あらためて言うよ、僕は龍崎竜也」

竜也は7年前、自分の一人称は「僕」だった。16歳の半ばまで続いていたが、ある事をきっかけに「おれ」となった。

それはまた別の機会に話すとしよう。

手を差し出すが、あゆは手を後ろに隠したまま全く動こうとしない。

すると…。

 

くぅ~…

 

「う、うぐぅ…」

音が聞こえ、あゆが顔を真っ赤にしておなかを押さえる。

つまり…。

「おなかが減ったんだ。じゃあ、今日も行ってみる?たい焼き屋さん」

竜也が笑って聞くと、少しだけ頷く。

「いこう!」

それに味を占めた竜也は、あゆの手をとってたい焼き屋まで走った。

 

2人でベンチに座って、たい焼きをほおばる。

もちろん、このたい焼きは竜也の自腹だ。

「おいしい?」

「…きのうと味が違う…」

あゆは驚いて、たい焼きを見つめる。

「それは、きのうのあゆが泣いていたからだよ。涙はしょっぱいから。泣かないで食べたほうが、甘くておいしいでしょ?」

「…うん」

すこしだけ、真一文字だった口が、少しだけ上がる。

「あ、わらった!初めてわらってくれた!やったぁ!」

竜也は、あゆがほんの少しだけ笑ってくれたことに、これ以上ないほど喜んだ。

「…やさしいね、竜也くん」

「え…?」

「ずっと、泣いてばかりだったボクを、ずっとなぐさめてくれたもん」

心を少しずつ開いてゆく。一生懸命自分のことを気にかけている少年が、少女の心の氷を少しずつ溶かしていった。

「泣いてる子をほっとくなんて、僕にはできないな。あゆ、わらったほうが良いよ。そのほうが、ずっとかわいいから!」

「そ、そうかな…」

「そうだよ!わらったあゆ、僕は大好き!」

 

それから、どれくらいの時間遊んでいただろうか…。

そろそろ夕方になり、夜も近くなってくる。

「それじゃあね。あゆ!」

「あ、まって…!」

あゆは、走り去っていこうとした竜也を引き止める。

「どうしたの?」

「またあした、あそんでくれる?」

不安そうな面持ちであゆは尋ねる。

しかし、竜也は対照的に太陽のような笑顔で笑って、小指を差し出す。

「ゆびきり。約束したら、僕は守るよ?」

「…うん!」

あゆは、自分の小指を竜也の小指に絡める

「「指きった!」」

「じゃあ、またあした!」

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

「竜也君、あゆちゃん!」「おい、いつまで寝ている!?」

朝、目が覚めると、ミツルとサトルが竜也に大急ぎで報告した。

「ど、どうしたの?」

「これをみろ」

ミツルが新聞を見せる。

 

「仮面ライダーは正義の味方!?」

 

記事には、今までの龍騎たちの活動を主に、モンスターと戦い、人々を救い続けていることなどが詳細に記されていた。

もっとも、その正体などについては皆無だったが。

「香川さんたちが何とかしてくれたんだ…」

「よかったよ…ほんとによかった…」

もちろん、人の反応はすぐに変わるものではないが、これなら竜也らが悪人扱いされることは、少しずつ減ってゆくだろう。

 

潤の怪我は、ほぼ完治しており、今日中には退院できるようだ。仮面ライダーであるが故の自己治癒力の高さと、彼の気力がここまで早めたのだろう。

「早く…復活しないと…」

ポケットには、竜也から再び返されたブランクになったライアのカードデッキ。

彼曰く、この状態では本来の仮面ライダーライアの能力の3分の1も発揮できないらしい。

「…?」

ふと、デッキの中のアドベントカードを1枚引く。

そこには「CONTRACT」と記されていた。

「たしか…モンスターと契約するためのカードだっけか?」

このカードをモンスターに翳すことで、そのモンスターと契約することが出来る。それを行って、初めて仮面ライダーの本当の力を発揮することが出来るのだ。

ただ、契約した場合、そのモンスターに他のモンスターの魂を喰らわせなければならないのだが。

本来、契約のカードは一人のライダーにつき1枚だけなのだが、このカードは以前、竜也が城戸真司から万が一のことに備えて渡されたものであった。

なお、出所は不明である。

ライアのデッキがブランクとなったとき、持っていた竜也がこのデッキに入れたらしい。

「エビルダイバーが居ない今、新しいモンスターと契約するほうが、復帰は早いよな」

思い立ったら、即行動。

潤は退院を待たず、病院を飛び出した。

 

キィィン…キィィン…

 

飛び出して間もなく、潤の前にモンスターが現れた。

「ちょうどいいタイミングだな、ガルドサンダー!」

そこにいたのは、オーディン直属のモンスター最後の生き残りであるガルドサンダー。

「おまえの力が必要だ。契約してくれ!」

そう言って、コントラクトのカードを翳す。

「クワアアアァ!」

ガルドサンダーは契約のカードに飛び掛ってくる。

その瞬間、辺りは光に包まれる。

 

そして何も無い空間に切り替わり、自然と潤の姿は仮面ライダーであった。

しかし、ライアであった鮮やかな紅色ではなく、くすんだ灰色を基調とした「ブランク態」である。

その身体はオレンジとレッドを混合した鮮やかな色に変わり、所々の形状も変化していく。

左手に在った召還機「ライドバイザー」も形状変化し、ガルドサンダーの翼を模した「ガルドバイザー」に変化する。

最後にオーディンほど雄々しくないが、鳳凰のレリーフが刻まれる。

「ここからが…本番だ!」

今ここに、仮面ライダーライアは復活した。

いや、生まれ変わったのだ。

 

「仮面ライダーブライ」へと…。

 

祐一と舞と久瀬は話をしている。

「竜也が言ってたよな。サバイブ」

無言で頷く舞。

久瀬が、新たに話し始める。

「オーディンの話だと6枚。その内、3枚はオーディン、2枚は城戸真司さんが、最後の1枚は行方不明…」

「…見つかるの?」

舞が悩むのも当然だ。

サバイブのカードをオーディンから奪うことはまず不可能。最後の1枚も探す手段はオーディンの方がいくらでもあるはず。可能性は0%ではないのだが、こちらで見つけるのは、難しいだろう。

とすると…。

「龍崎君が言っていた真司さん。その人を探すのが、一番安全且つ確実な手段だろう?」

「…でも城戸真司さんは、どこにいるかわからない」

「だから探すんだろ?真司さんが、オーディンに渡すことは多分ありえないしな。見つかって、サバイブカードを渡してもらえたら、勝機は上がる」

 

城戸真司…。

 

彼を探すことが、今出来る祐一達のサバイブの入手方法では、一番不可能に近い手段であることを、彼らはまだ知らない。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                       真司さんを知っているんですか!?

 

だが、おまえ達は会えない

 

                       こんなやり方は間違ってます!

 

そんな…まさか…

 

                       お教えしましょう、この世界の真実を…

 

 

 

 

 

 

第33話「世界を守る者達」

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア/仮面ライダーブライ
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

???=黒い仮面ライダー龍騎


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第八章 世界崩壊の危機
第33話 「世界を守る者達」


夢…。

 

これが夢であることに気づいたのはいつだったろう…?

 

ずっとずっと昔…?

 

それとも数分前…?

 

その答えさえも、夢の中に忘れて…

 

流れてるのさえわからない時間の中で…

 

いつか目覚める日を夢見ながら…。

 

 

 

 

「遅いよ竜也く~ん…」

待ち合わせ場所である、駅前のベンチに座っていたあゆ。

舌を軽く出して、頭をさすりながら困ったように笑う竜也。

「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」

「ちょっとじゃないよ、たくさんだよ…」

頬を膨らませて、拗ねているあゆを何とかなだめようと、竜也はこんなことを言った。

「それじゃ、ちょっと来て!」

「わぁっ!?」

あゆの手を引いて走る竜也。

 

着いた先はゲームセンター。目の前にはクレーンゲームがある。

「何か欲しいのがあったら言って。僕が頑張って取るからさ!」

「じゃあ…これ」

そう言って、あゆが指差したものは…。

 

小さな天使の人形だった。

 

「よーし!頑張ってとるぞ!」

しかし、20分が過ぎても…。

「わわっ!あぁ~またダメだったよ…」

「い、いいんだよ?」

がっくりうなだれる竜也に、優しく声をかけるあゆ。

「また今度!絶対とって見せるよ!」

あゆの喜んだ顔がみたい。

その気持ちを強くし、奮起する竜也。

 

これが…後の物語を大きく左右することも知らずに…。

 

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

 

「NoMenから生活費が来た!」

そう言って喜んでいる竜也。

彼に手元には、その生活費が入っているであろう封筒がある。

同封されている手紙には、こう書いてあった。

 

「龍崎君、これは貴方への感謝と謝罪の意です。貴方の大切な人と共に過ごせるように役立ててくだされば、これ以上の幸せはありません。                  香川ヒロユキ」

 

「ほんとに!?これで生活が少しは楽になるね!」

一緒に飛び跳ねるあゆ。

「しゃっ!早速、買い物に行こう!」

竜也は家を飛び出していった。

あゆも続こうとするが…。

 

「月宮あゆちゃん…。彼を…龍崎竜也君を救ってくれ」

 

「え…?」

声のした方を向くが、そこには誰もいない。

「あゆ~!行くよー!」

「あ、は~い!」

 

その頃の祐一と舞は、城戸真司の手がかりとなるものを探していたが…。

「真司さんって…本当にいるの?」「消息不明の元仮面ライダー龍騎…か」

まったくと言っていいほど見つからなかった。

もともと、正式な職業には就いていなかったようだし、彼に関する情報を様々な機関や公共施設に聞いても、存在していた証拠のようなものさえ、全く無かった。

ただ一つ…。NoMenと生活費を条件に契約していたということだけが判明したが、NoMenの本部でさえ、彼の過去の経歴や消息は掴めていない。

「でも、探さないとな…」

2人はめげずに、城戸真司の情報を探すことを改めて決意する。

すると…。

「っ!?」「…?」

つい今まで、朝だったと言うのに、辺り一帯が、突然夜に変わる。

まるで別の世界に迷い込んだかのようだった。

辺りに在った物も変わっている。少し離れた場所には大きなビルが建っており、すぐ近くには大きな噴水がある。

そして、その噴水の上に居たのは…。

 

「初めまして、相沢祐一さん、川澄舞さん」

 

1人の茶髪の青年だった。

大人しそうな雰囲気であるが、その瞳には凄まじく強い意志と力を感じる。

白いマフラーと服にジーンズを着ているが、12月末の北国であるこの地域にしては薄着で、真冬の格好としては相応しくない。彼の概念に、季節感というものが存在しないかのようだ。

「あなたは…だれ?」

青年は答えずに、夜空を指差す。

「お教えしましょう。この世界の真実を…」

その言葉とともに、夜空は銀色のオーロラに包まれる。

「このオーロラ…。門矢の知り合いか?それともオーディンの…」

「どちらかと言えば、ディケイドの知り合いの方が近いでしょう」

青年が説明している間に、オーロラの中に3つの地球が映し出される。1つは、破滅と言う言葉が似合うほど、崩れ去っている。残りの2つの地球を指差す青年。

「…この世界は本来、2つの世界でした。本人に自覚は無いでしょうが、オーディンによって生み出された、中核たる人物が存在しない『龍騎の異世界』と、貴方達が本来住んでいた『Kanonの世界』」

言っていることは、なんとなくだが分かる。

映し出されている3つの地球のうち、2つはその世界を示しているのだろう。

もう1つの崩壊した地球を指差して尋ねる舞。

「じゃあ、この地球は…?」

「これは、オーディンと城戸さん…城戸真司さんの生まれた世界…『龍騎の世界』です。彼等は、貴方達の世界の住人ではありません」

「真司さんが!?」

驚く祐一達をよそに、あらためて2つの地球を指差す青年。

その地球はゆっくりと近づき、ぶつかり合う。その途端、ぶつかった部分から粉々に崩れ去ってゆく。まるで、城戸真司とオーディンが住んでいた世界と同じように。

「『龍騎の異世界』には中核たる人物が存在しない世界だった故に、埋め合わせとして生まれたのが龍崎竜也さん。そして彼が『Kanonの世界』の住人、月宮あゆさんと接触してしまったが為に、世界の融合がゆっくりと始まりました。その影響でこの世界は、消滅の危機に瀕しています。」

「どういうこと…?」

舞の質問に律儀に答える青年。

「貴方達に、世界の崩壊を止めて欲しいのです」

「どうすればいいんだよ?」

「申し上げにくいのですが…埋め合わせの存在であることに加え、『龍騎の異世界』が融合を開始した時点で曖昧な形だったが為に、どちらの世界の住人でもなくなった龍崎竜也さんを貴方達の世界から消すしか、今のところ方法はありません」

「なんだと!?」「…っ!?」

言葉は丁寧だが、その中に感情は一切こもっていないように感じた。

「あいつが世界を滅ぼすって言うのか!?」

「本人にその自覚は無いでしょう。ですが彼の存在そのものが、世界を崩壊に導いているのです」

「竜也は悪くない…!」

舞が強く否定する。

その様子を見た青年は残念そうに首を振る。

「貴方達に手を下していただくことが、彼に対する慈悲でしたが…仕方ありません」

 

次の瞬間、辺りは元通りになっていた。

「なんだったんだ…?」

「彼の名は紅渡。俺達の仲間の1人だ」

祐一の疑問に答えるように現れたのは、薄地の黒いスーツにサングラスと全身黒ずくめの、またしても季節感の無い青年だった。年齢は先程の青年「紅渡」より年上だろうか。

「あなた達は一体誰?」

「俺達は様々な世界の崩壊を防ぐため、「世界の総て」に辿り着いた「オリジナルの仮面ライダー」。俺の名は剣崎一真」

「剣崎一真」はサングラスを外す。その鋭い瞳が2人を捉える。

「俺の仲間達がいずれ、おまえ達の仲間に接触する。渡の言葉を受け入れるか、よく考えて置け。本当に世界を救いたければな」

そう言い残して、剣崎一真はオーロラの中に消えた。

 

同時刻、潤と香里と栞もある人物に出会っていた。

話された内容はまったく同じ。

「…他にも、本来の『Kanonの世界』の物語が破錠している。『Kanonの世界』では、相沢祐一が主軸となり、月宮あゆ、水瀬名雪、美坂栞、沢渡真琴、川澄舞の5人の内、誰か1人しか救えない筈だった。だが、龍崎竜也の介入によって、『龍騎の異世界』と融合し、5人全員が救われようとしている。それは物語を否定し、破壊することになる。龍崎竜也を排除し、相沢祐一が選んだ川澄舞のみを残して、本来の形に戻すべきだ」

「そんな事、認めろって言うのかよ!?」「わたしも、納得できません!」「栞に同感します」

3人に語りかけていたのは、少し癖のある髪型の青年。白いカーボウイハットに、袖の無いジャケット。彼もまた季節感がない服装だ。

空を…いや天を指差して青年は語る。

「おばあちゃんが言っていた。本当にその者を想うのなら、その者のために、どんな残酷な手段も成せる。そうでないのなら…それはただの偽善だってな」

「てめえっ!」

パシッ!

「なに!?」

グイッ!

「うおぁっ!?」「北川君っ!」「北川さんっ!」

潤は青年に殴りかかるが、それを受け止め、意図も簡単に捻じ伏せられた。

倒れた潤に香里と栞が駆け寄る。

「この俺に挑むとはな…面白い奴だ。特別に名乗ってやろう、俺は天の道を往き、総てを司る男…天道総司」

もう一度、天を指差す青年「天道総司」。

「っ!?」

一瞬だけ、指差した太陽が眩く光ったように感じ、3人は目を強く閉じる。

次に目を開けると、天道総司の姿は消えていた。

 

その頃、ミツル、サトル、真琴、名雪は、別の人物に出会っていた。

やはり、話された内容は先ほどの3人と同じような内容。

話した青年は、紅渡より長い茶髪で、少しぶっきらぼうな表情。

「…君は、オーディンの刺客?」

「城戸って聞いただろ?俺はその人の仲間の一人、乾巧だ。」

「おまえが、城戸真司の仲間…」

「俺達が直接干渉するのは、最後の手段だ。あいつのトドメを俺達に刺されたくなければ、お前達が手を下せ。」

名雪は、そのことをどうしても受け入れられない。

乾巧に懇願するように聞く。

「ねぇ、乾さん。他に方法は無いの!?」

「…方法はある。だが、不可能だ。他に手段があるとすれば、この2つの世界が1つの世界にする為の確固たる存在…『龍騎の異世界』と『Kanonの世界』の象徴たるモノが織り交ぜられた存在が必要だ。今のこの世界で、そんなものは存在しない」

「あうぅ~…!」

真琴が乾巧の腕を掴んで、首を振りながら絞り出すように声を出す。

何が言いたいのかは、乾巧にもなんとなく分かった。

「駄々をこねるな。お前達が応じないなら、俺達が手を下すまでだ」

そう言って、真琴を突き飛ばした。

「あっ…!」「真琴っ!」

ミツル達が真琴に駆け寄り、もう一度、乾巧のいた方向を見るが…。

すでに乾巧はいなかった。

 

久瀬と佐祐理の前にも、2人の人物が現れた。

「あなたたちは…?」

2人のうち、久瀬たちと、年も離れてないように見える青年が話しかける。どこかおどおどしている雰囲気が少しだけ残っているが、瞳に見える意志の強さは、紅渡とほぼ同等といえよう。

「よく聞いて、久瀬シュウイチ君に倉田佐祐理ちゃん。僕は野上良太郎。真司さんの仲間の一人で「仮面ライダー電王」。この人は「ヒビキ」さん。僕らは君達を助けたいんだ」

「えっ、城戸真司さんの仲間!?」

久瀬の言葉に「野上良太郎」は強く頷き、もう一人の青年「ヒビキ」が新たに話しかける。

彼は、野上良太郎よりも遥かに年上。おそらく30代後半から40代前半だろう。

以下の内容は、紅渡たちが説明したものに付け加えたものだ。

「…でも俺と野上は、剣崎や紅たちの意見には反対なんだ。仲間も何人かは、俺たちに賛成している」

「じゃあ、助けてくれるんですか?」

佐祐理の質問に答える野上良太郎。

「うん。でも、渡さんや一真さん達はすごく強い。もし実力行使に出たら、僕らだって、止める事は難しいかもしれない。今、龍崎竜也君のところに翔一さんが向かってるんだけど…」

 

そう、丁度そのときに、竜也とあゆの元に…。

「え…?」「あなたは…?」

オーロラが現れ、そこから人の良さそうな青年が現れる。しかし、その表情は焦燥に駆られていた。この青年こそ野上良太郎の言っていた「津上翔一」なのだ。

「俺は津上翔一。でも話は後だよ、竜也君にあゆちゃん。もうすぐ、俺達の仲間の4人が竜也君に襲い掛かる。なんとしても君の居場所を守りたい。城戸さんから、頼まれてるんだ!」

「真司さんを知ってるんですか!?」

 

「だが、お前は会えない」

 

その言葉と共に現れたのは、紅渡と剣崎一真、さらに天道総司と乾巧もいる。

「龍崎竜也。お前はこの世界を無意識に破壊する存在」

「そんな…竜也くんが…?」

「剣崎君!こんなやり方は間違ってる!きっと他に方法がある筈だ!」

「津上さん、その方法では時間が無いのです。だから排除します…。キバット!」

紅渡の掛け声で、現れたオーロラの中から「キバットバットⅢ世」と「魔皇竜タツロット」、さらに「カブトゼクター」と「ハイパーゼクター」が飛び出した。これらは全て、紅渡と天道総司の自律意思のある変身アイテムだ。

「キバっていこうか?」「テンション、フォルティッシモ…!」

そう言って、キバットは紅渡の手に収まる。

「ガブッ!」

キバットが紅渡の腕に噛み付いたのを合図に、天道総司はカブトゼクターとハイパーゼクターを掴む。すでに、腰には「ライダーベルト」が巻かれていた。剣崎一真は「ブレイバックル」に、ヘラクレスオオカブトとスペードのAが刻まれた「ラウズカード」を挿入し腰に当てると、ブレイバックルからトランプのような形をしたベルトが現れる。乾巧は「ファイズドライバー」を腰に巻き、トランク型の強化武装「ファイズブラスター」にコード「555」を入力する。

<STANDING BY>

「変身」

<HEN-SHIN><CHANGE HYPER BEETLE>

<TURN UP><EVOLUTION KING>

<AWAKENING>

4人は同時にそう言うと、彼らの姿は以前、ディケイドが変身したものと似た姿に変わった。

だが、その姿はディケイドのものとは大きく違い、色彩や形状がさらに雄々しくなった者ばかりだった。

紅渡は腰に現れたキバットベルトにキバットを装着する。すると、彼の身体は黄金色に輝き、タツロットが右腕に装着されたのと同時に吸血鬼と皇帝を織り交ぜた、黄金のキバ「仮面ライダーキバエンペラーフォーム」へと姿を変えた(以下キバEF)。

天道総司はベルトのバックルにカブトゼクターとハイパーゼクターを装着。体中を無数の六角形の光が包み込み、雄々しきカブトムシの角が特徴的な、光を支配せし太陽の神「仮面ライダーカブトハイパーフォーム」になった(以下カブトHF)。

剣崎一真がブレイバックルのレバーを引くと、バックルはスペードのマークが刻まれた部分が見えるように回転し、そこから黄金の光の映像「オリハルコンエレメント」が現れ、剣崎一真の身体を通り抜ける。すると、その姿は黄金の甲冑のような姿をした、永遠の切り札「仮面ライダーブレイドキングフォーム」となる(以下ブレイドKF)。

乾巧は左手にあった携帯型のツール「ファイズフォン」をファイズブラスターにセットする。すると体中に紅い光が駆け巡り、眩い光で包み込む。それが消えたとき、その姿は闇を切り裂く紅い閃光「仮面ライダーファイズブラスターフォーム」に姿を変わっていた(以下ファイズBF)

 

「翔一さん!」

そこに、野上良太郎とヒビキが現れた。

「良太郎君、ヒビキさん!とりあえず、竜也君たちをここから引き離そう!」

津上翔一はそう言って、構えを取る。すると腰に「賢者の石」が埋め込まれた「オルタリング」が現れる。

同時に野上良太郎は「ライダーパス」と「ケータロス」が装着された「デンオウベルト」を取り出し、腰に巻きつける。

ヒビキは「音角」と「アームドセイバー」を持ち、音角をアームドセイバーで弾く。

「変身!」

<LINER FORM>

津上翔一がオルタリングの両サイドバックルを叩くと眩い光に包まれ、悟りの戦士「仮面ライダーアギトシャイニングフォーム」へと姿を変えた(以下アギトSF)

ヒビキが額に音角を翳すと、鬼のような紋章が彼の額に現れ、炎でヒビキを包む。

「セイヤアァッ!」

掛け声と共に炎を振り払うと、ヒビキの身体は武士の鎧を身に纏った鬼のような姿「仮面ライダーアームド響鬼」になる(以下A響鬼)。

野上良太郎は、デンオウベルトにライダーパスをセタッチする。すると、光の破片のようなものが彼を包み、その姿は電車をモチーフとした、時の守護者「仮面ライダー電王ライナーフォーム」に変身した(以下電王LF)。

「竜也くん!はやく逃げて!」

「でも、あなた達を放ってなんて…」

「逃げるんだ少年!あいつらは、お前じゃ歯が立たない!」

電王LFとA響鬼が竜也に逃げるよう促す。

が、次の瞬間…。

「ハアアァッ!」「フッ!」「イェアァ!」

キバEFが電王LFに襲い掛かる。A響鬼にはカブトHFが、アギトSFにはファイズBFが攻撃を開始した。

そして、残ったブレイドKFは完全に竜也に狙いを定めていた。

「答えろ。お前はどうしたいか…」

「おれは…」

「まって!竜也くんを連れて行かないで!」

あゆがブレイドKFに懇願する。

「邪魔だ」

ドンッ!

「うぐっ!」

しかし、ブレイドKFは聞く耳を持たず、あゆを突き飛ばした。

「あゆっ!くっ…変身!」

竜也はやむをえず龍騎に変身し、あゆを庇う様に立つ。

「仕方ない、俺たちに対抗すると見よう…。ハァッ!」

ブレイドKFは「キングラウザー」を構えて、龍騎に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                 お前の記憶は、失ったもの以外にも偽りの記憶がある。

 

嘘だ…どうして…?

 

                 真司さんは、君にどうして欲しいって言った?

 

心だけは強く鍛えないとな、少年。

 

                 例え竜也くんがどんな存在だって、ボクにはどうだっていいよ!

 

だって…竜也くんだもん…

 

 

 

 

 

第34話「部外者」

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイド キングフォーム

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
ヒビキ(日高仁志)=仮面ライダーアームド響鬼
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

???


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第34話 「部外者」

ブレイドKFのキングラウザーから繰り出す強力な一撃。

防ぐことは困難と見て、龍騎は避ける。

だが…。

「遅い」

「っ!?」

その言葉に反応して体勢を整えたときには、ブレイドKFの言うとおり遅かった。

ズガアァ!!

「ぐああぁ!」

「竜也くんっ!」

成す術なく吹き飛ばされる龍騎。ただ強力なだけではなく速い。自分やナイトたちの繰り出す攻撃より、全てにおいて格が違う。

カブトHFと交戦中のA響鬼が、その姿を見て彼に気をとられる。

「少年っ!」「邪魔をするなヒビキ。これ以上邪魔をするのなら…」

<HYPER CLOCK UP>

カブトHFは腰にあるハイパーゼクターのスイッチを叩く。

すると身体の「カブテクター」が展開し、以前DカブトRFのクロックアップよりも10倍速い高速の世界に飛び込む「ハイパークロックアップ」を発動した。

ズガガガァッ!

「クッ…!」

<HYPER CLOCK OVER>

A響鬼の強靭な鎧のおかげで致命傷を負う事はなかったが、それでも強力な攻撃に変わりはない。

「ハアァッ!」

「テェアッ!」

ガキィン!

電王LFは「デンカメンソード」で、キバEFの「ザンバットソード」から繰り出される攻撃を、何とか防いでいく。

「渡さん、こんなの僕は認めたくありません!」

「では貴方は、いずれ何もかも消えるまで、彼らにひとときの幸せを感じさせることが最善の手段というのですか!?」

「違う!みんなが助かる方法を探すべきです!」

ファイズブラスターをブレイドモードに変形させたファイズBF。近接戦闘は危険と判断し、距離をとったアギトSF。

「乾君!どうして妥協するんだ!?」

「津上。紅が言っただろ?今、アンタ達のやり方でこの世界を救うなら、もう時間が無い。だから今、強行手段に出たんだ。オリジナルのライダー全員でなァ!」

ガキィン!

もはや説得は無理と判断し、オルタリングから2つの剣「シャイニングカリバー」を呼び出し、ファイズブラスターの刃と自身の武器を交える。

 

「ゼェアァッ!」

ドガアアアァ!

「がはあああああぁっ!」

ブレイドKFの猛攻は止まらない。凄まじい攻撃の前に龍騎はどうすることも出来なかった。

膝を着き、息も絶え絶えになった龍騎に、ブレイドKFがキングラウザーを彼に向け、ゆっくりと近づく。

「もう一度、聞く。お前はどうしたい…?俺達にトドメを刺されるか、『Kanonの世界』の住民達である相沢祐一たちにトドメを刺されるか…」

その様子を見ていたあゆが叫ぶ。

「竜也くん、絶対に認めちゃダメだよ!竜也くんは殺さないし、殺させない!」

「月宮あゆ、お前には聞いていない。少し黙ってもらおうか」

あゆが干渉することに苛立ちを覚えたのか、ブレイドKFは拳を握り締めてあゆに近づく。どうやら気絶させるつもりらしい。

完全に怯えきって、その場から動けなくなったあゆ。

「あ…あぁ…」

なんとか、あゆを救うべく、自由の効かない身体を酷使して手を伸ばし、ブレイドKFを止めようとする龍騎。

「ま、待って!あゆに危害を…ぐぅっ!?」

突如、頭を突き刺すような頭痛を感じた。

「ぐぁっ…!うあああああぁっ…!」

視界が少し霞むほどに強い。

そして、頭の中にこんな声が響いた。

 

オレニ変ワレ…!

 

ブレイドKFの拳があゆ目掛けて突き出される。

…だが。

ガッ!

「…ッ!?」

なんと龍騎が一瞬であゆの前に立ち塞がり、ブレイドKFの一撃を受け止めた。

「た、竜也くん…?」

「何故だ…?」

ブレイドKFもさすがに戸惑った。あの状況下で自分の攻撃を受け止める力は、目の前の龍騎には無い。…無い筈だ。

龍騎がブレイドKFを睨みつける。その威圧感は、ブレイドKFにも僅かだが伝わった。

先ほどの龍騎から、こんな威圧感は感じられなかった。明らかに違うモノが入り込んでいる。

「お前は…何者だ?」

 

「…ガアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」

 

ドガガガガガガガガガガガ!

突如、狂った獣のように雄叫びをあげる龍騎。その声は今までの竜也の声からは聞くことの出来なかった、怒りと憎しみ…そして深い悲しみが込められているように感じられた。

ブレイドKFの手を払い除け、凄まじい勢いで拳の連打を繰り返す。

しかし、それさえもブレイドKFには通じなかった。全ての攻撃を受け止めるか避けられていた。

「グウゥアアアアアアアアアアァ!!」

「竜也くん、なんだか…怖い」

その姿を見たあゆは、目の前に居る龍騎、いや竜也に対して初めて恐怖の感情を抱いた。

「違う。今のこいつは龍崎竜也ではない…。まさか!?」

 

「竜也ああああぁ!」

「グウウウッ…!…あっ、祐一、それにみんなも!?」

遠くから声が聞こえ、ダークウイングを背中に装備したナイトが龍騎を救うべく、颯爽と現れた。

地上からは舞、ブライ、ゾルダ、タイガ、インペラーも駆けつけた。

祐一の言葉を聞いて正気に戻ったのか、龍騎は唸り声や雄叫びを発していた声から、今までの普通の声色に戻った。

その様子を見た電王LFは6人に向かって叫ぶ。

「みんな!僕らがなんとか、渡さん達をくい止めるから、早く!」

<MOMO SWORD>

「鬼神覚声ッ…!」

「ハアアアアアアァ…!」

電王LFはデンカメンソードのレバーを操作し、A響鬼はアームドセイバーの柄のボタンを掌で押し、アギトSFは構えを取る。

「分かった!」

電王LFの言葉に反応し、龍騎達はその場から去る。

「逃がさん…!」

「電車切りッ!」「ツェアアアアァァ!」「タアアアァッ!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアァ!

「…ッ!?」

電王LF、A響鬼、アギトSFの必殺技「デンカメンスラッシュ」「鬼神覚声」「シャイニングライダーキック」が、キバEF達の近くの地面に当て、凄まじい粉塵を起こした。

そのため、龍騎達の行方が分からなくなってしまった。

 

ただ、近くに居たブレイドKFだけは別だが。

 

変身を解いた7人。

沈黙の時間を最初に破ったのは天道総司だ。

「なぜ、彼を助ける?」

「だから、こんなの間違ってるって言ってるだろう!?」

「貴方達の行動が正解だとも言い切れません」

未だ強く反論するヒビキをさらに反論し返す紅渡。

「みんな、落ち着くんだ!まず、何が最善の手段なのか、もう一度、話し合うべきだ」

津上翔一は3人をなだめようとするが、それを聞いていた乾巧に対して、火に油を注ぐ結果となってしまった。

「そんな話は、もう何回もやっただろう!?」

「何百回、何千回だって話し合うべきです!人の命が掛かったことなんですよ!?「ライダー大戦」のときも、僕らがなんとか復活方法を見つけられたから良かったものの、ディケイドの命どころか、存在そのものを奪うことになったかもしれないんですよ!また同じ間違いを犯すつもりですか!?」

野上良太郎も負けずに反論する。

言い争いを見ていた剣崎一真が呆れたようにため息をつき、脱力したような声でこう言った。

「もう良い。龍崎竜也が自分から合点がいったようにする」

言葉の意味が理解できない野上良太郎達をよそに、オーロラを使ってその場から去る剣崎一真。

「…まさか!?」

その言葉の意味を理解したヒビキは、すぐに追いかける。

 

同時刻。

オーディンはオーロラを使い、先ほどの龍騎とブレイドKFの戦いを見ていた。

そのオーディンを見ていた浅倉は、先ほど述べられた言葉に憤りを覚えて話す。

「想定外ってなんだ? しかもしばらく、じっとしてろだと…?」

浅倉は怒り爆発寸前。

それを全く意に介さず、淡々とオーディンが話す。

「奴らが…オリジナルの仮面ライダーが、この世界に訪れた。幸い、一番厄介かつ、危険な「五代雄介」と、2枚のサバイブを所持した城戸真司は、この世界には来ていない。しかも、紅渡、剣崎一真、天道総司、乾巧を放っておけば、龍騎達を消すように進めるかもしれん。津上翔一、野上良太郎、日高仁志が不安要素ではあるが、今は大人しくしていた方が賢明だ。どうしても戦いたいならば、津上翔一達を狙え」

「…随分と臆病になったな、オマエも」

浅倉はオーディンを鼻で笑い、オーロラの中へ消えていった。

残されたオーディンは、先ほどの龍騎の変わり様を見て、心当たりがあるような様子を見せる。

「まさか…私は造っていない筈だ…。だが、それ以外の可能性はない…」

 

キバEFたちから逃げたあと、竜也たちはとりあえず状況の把握をしようとした。

逃げた先には、あらかじめ待っていた美坂姉妹、名雪、真琴、佐祐理もいた。

「なんだったんだ、今の人たちは…」

「乾巧さんは、オリジナルの仮面ライダーだって言ってた。この世界の崩壊を止めるために、竜也君を消すって…」

「でも、野上良太郎さんとヒビキさんはその意見に反対らしい。でもあの7人全員が仲間って言ってた。しかも、城戸真司さんの仲間たちとも…」

「と言うことは、考えられることは一つ。紅渡達は意見が対立しているようだな。」

久瀬とサトルが竜也の疑問の解決に努め、ミツルは自分なりの意見を述べる。

「そういえば、翔一さんは真司さんから頼まれてるって…」

思い出したように言うあゆ。

「真司さんが…」

つまり城戸真司は彼らの仲間として、今も戦い続けている。

竜也は、今まで行方不明だった誰よりも尊敬する人の消息が少しだけ掴めたことが、何より嬉しいことだった。

今の自分の状況を忘れるほどに…。

「でも、どうして竜也くんがこんな目に…?」

理解できなかった。これまで幾多の困難に死に物狂いで立ち向かってきた竜也が、こんな理由で消されていいはずがない。

 

「証拠を教えてやろう」

 

不意に聞こえた声の主は剣崎一真だった。

とっさに身構える竜也達。

「戦うつもりは無い、落ち着いて話を聞け。龍崎竜也、お前の記憶に真実が隠されている」

「おれの記憶…?」

心当たりが竜也にはあった。失っている自分の記憶の一部。それに何か関係があるのだろうか。

しかし、剣崎一真が口にした言葉は意外なものであった。

「龍崎竜也。お前はこの世界で、埋め合わせとして生まれた。そう、不都合の無いようにな」

「どういうこと…?」

舞が警戒心を持ちつつ聞く。

「お前の記憶には、失ったもの以外に偽りの記憶がある」

「偽りの記憶?」

「そうだ。例えば…お前の両親は本当にいたのか?」

質問の意味が、一瞬、理解できなかった。

剣崎一真の言葉で、竜也はどこか苦しい気持ちになり、何とも言えない強い不安と恐怖に襲われる。

うろたえている竜也を庇うように潤が立ち塞がり、噛み付くように叫ぶ。

「わけが分からねぇよ!こいつに親が居なかったら、生まれてないだろうが!」

「言っただろう?『龍騎の異世界』が生み出されたとき、中核たる存在が居なかった為に生み出された埋め合わせだと。埋め合わせである存在には生み出される前より、普通の人間として、それまで生きていたと言う「記憶」、その世界で不自然な部分が無いような状態の生活、そして「命」が与えられている。だが、命はその存在にのみ。つまり、親に当たる存在はいない」

「いましたよ。一緒に暮らしてたことは、ちゃんと覚えている!」

竜也は、その言葉をなんとしてでも否定したかった。

しかし、皮肉なことに…。

「それが不都合の無いように作られた、家族と過ごしたという、偽りの記憶だ。では、両親の顔を思い出せるか?」

剣崎一真の言った両親の顔。

必死に記憶を探るが…。

 

思い出せない。

 

一緒に暮らしていた。いろんなところへ遊びに行った。時には叱られたりもした。

そんな両親の顔が思い出せない。まるでのっぺらぼうのように。

「そんな…そんなはず無いっ!」

その場から離れ、全力で駆けて行く竜也。

「竜也くんっ!」「竜也!」

「通すわけにはいかない。もし強引にでも通ろうとするならば…」

追いかけようとするあゆたちに立ち塞がる剣崎一真がブレイバックルを見せ付け、脅す。

先ほどの戦いをほんの少しだけ見た祐一たちにも、剣崎一真たちがどれほど強大な存在かは分かっている。故に少し後ずさりしてしまう。

だが、あゆだけは違った。

「通して!」

剣崎一真を突き飛ばし、竜也を追いかけた。

「…彼女だけは見逃してやるか。龍崎竜也の大切な存在のようだからな」

 

自分の家に帰りつく竜也。

家に入った途端、何処かに置いてあるだろうアルバムを探す。

「…あった!」

一冊だけ置いてある古びたアルバム。もう長い間これを見ていない。

だが、家族とのかけがえのない思い出を残した写真が、この中にたくさん詰まっていることは、しっかりと覚えている。

自分の記憶を信じてアルバムを開く。

だが…。

「嘘だ…。どうして…?」

 

アルバムには、1枚も写真が無かった。

 

誰かが外したのではなく、元から無かったようだ。

「くそっ、遅かったか…!」

そう言って現れたのはヒビキ。

「少年…」

彼を気遣うように声をかけ、手を肩に置くヒビキ。

「おれは…最初から居なかった存在なんですね。…真司さんも知ってたんですか?」

言葉自体は冷静な感じだが、その声は怯えきっている。

「…いや、少年と一緒だった頃は、世界の崩壊を止める要を探していた。あのときはオーディンだと思っていたんだが…。結局はどちらの世界の住民でもないお前だってことが、城戸がこの世界から離れたときに分かった。でも、城戸はお前を消そうなんて考えてない。だから俺たちに託したんだよ」

ヒビキは怯えている竜也を混乱させないように、言葉を慎重に選んで伝える。

「じゃあ、どうしてここに来てくれないんですか…?」

「お前を消さずに、世界を守れる方法をずっと探している。俺たちの仲間の中心「五代雄介」と一緒にな」

 

「竜也くん!」

 

あゆも何とか、ここについたようだ。

「あゆ、7年前ここに連れてきたとき、おれの父さんと母さんを見た?」

彼女なら、7年前から一緒に遊んでいた過去がある。彼女が覚えているから間違いない。

ここに連れてきたとき、両親の顔も見たことがあるはずだ。

すがる様に、あゆに聞く。

しかし、あゆは下を向いて力なく首を左右に振った。

「ごめんなさい…」

全てに納得がいく。

「あゆ、おれさ…この世界を壊す原因なんだって。守るどころか、破壊者だんて…」

少し嘲笑気味に言い、その場に座り込む竜也。

その姿を見たあゆの頬には、一筋の涙が流れた。しかし、それを全く気にせず、竜也を抱き締めた。

「例え竜也くんがどんな存在だって、ボクにはどうだっていいよ!」

そう言ってもう一度、強く抱き締める。

「だって、竜也くんだもん…」

しかし彼女の言葉さえも、今の竜也の心を癒すには至らなかった。

あゆをそっと離し、ヒビキのほうを見る。

「ヒビキさん。おれを剣崎さんや渡さんのところへ連れて行って下さい」

「竜也くん!?」「少年…」

「おれは最初からいなかった。だから、あるべき形に戻せば世界の崩壊は止まるんでしょう?…だったら」

「それはダメだ!」

その言葉と共に、野上良太郎と津上翔一も現れた。

「たしかに君が消えたら、この世界は救われる。でも『Kanonの世界』と『龍騎の異世界』は2つに分離するんだ。そうなったら、君を覚えてる人は誰もいなくなるんだよ。それに、相沢祐一君たちも、ある程度の関係は保たれるけど、今の関係は無かったことになる。君が今まで築いてきた絆は、なにもかも消えるんだよ…」

「そんな…」

説明したのは野上良太郎。彼は、時間の歪みを正した場合に起こった記憶の変動、または消去を自分の世界で数多く見てきた。

故にそれによる絆の消滅の辛さは十分理解している。

「竜也君、城戸さんは君にどうして欲しいって言った?」

津上翔一は竜也の前にしゃがみこみ、目線をあわせて聞く。

「真司さんは…」

 

別れるあのとき、城戸真司はこう言った。

「正しい心を持った仮面ライダーを潰えさせては駄目だ。お前なら正しい心を持って戦えると信じている。仮面ライダー龍騎になって戦え!そして、お前が本当に信頼できる仲間に他のデッキを託して、共に人々を救え!」

 

「正しい心を持って戦うんだろ?なら心だけは強く鍛えないとな、少年」

ヒビキが、諭すように優しく言う。

「どうして、そこまで何をするべきなのか、他人のことまで分かるんですか…?」

竜也がこう言ったのは皮肉ではない。人を想える彼らの精神、心の強さの理由を純粋に知りたかったからである。

それを聞いたヒビキは少年のような笑みを浮かべ、人差し指と中指を立てた右手をクルリと回す。

「鍛えてますから」

野上良太郎は津上翔一と同じようにしゃがみこみ、にっこり笑って答える。

「それに、他人なんかじゃない。たった少しでも忘れたくない時間はあるんだよ。今日は、君たちと出会えたことが、忘れたくない時間だな。きっと、ここにいるあゆちゃんも、祐一君たちも同じだと思うよ」

 

そう、彼の言うとおり、今は竜也の仲間が剣崎一真と対立していた。

その場にいなかった、名雪達をはじめとした、仮面ライダーではない者たちさえも駆けつけて。

「あなたたちに竜也さんは渡しません!」「龍崎君の幸せを奪うのはやめてください」

「佐祐理が変わるきっかけを作ってくれたんです」「サトちゃんやみんなの大事な友達なの!」

「うあぁ…」「真琴もあなた達の言葉を認めたくないそうです。もちろん、わたしもです」

彼女達が言い終わると同時に、潤やミツルたちもデッキを構えて言う。

「あいつが、おれをこの戦いに関わらせてくれて!」「彼の決断が、僕をここまで強くした!」

「わたしの戦いもこれまで支えてくれた…!」「本当に大切なことを教えてくれた!」

「まだまだ、借りも返しきれない!」

最後に祐一が彼らの一番前に立ち、剣崎一真にあらためて強く言う。

「そういうことだ。竜也がどんな存在だろうと、おれ達はあいつを守る!」

剣崎一真はサングラスをかけ、彼らの言葉など興味が無いように返す。

「次に出会ったときは、その考えは変わるだろうな」

「何…!?」

 

「この世界を消さないために、物語を本来の形に矯正する」

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                    真琴、起きろ!

 

わたし、もう笑えないよ…

 

                    あの娘は、何のために生まれたの!?

 

これでも、迷うか…?

 

                    

 

 

第35話「残酷な本来の形」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイドキングフォーム

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
ヒビキ(日高仁志)=仮面ライダーアームド響鬼
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

仮面ライダーオーディン

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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第35話 「残酷な本来の形」

 

 

「みんな…そう想ってるんでしょうか…?」

「うん、きっと。だからここであきらめないで、もっと立ち向かってみようよ。大丈夫だから」

竜也は自然と野上良太郎達に心を開き、彼らの導きを期待していた。

そう、昔の城戸真司に対してのように…。

 

キィィン…キィィン…

 

モンスターの接近音が響き渡る。

本来『龍騎の世界』または『龍騎の異世界』の仮面ライダーにしか感じ取れないのだが、ここにいる津上翔一、野上良太郎、ヒビキも感じ取ることが出来る。

紅渡や剣崎一真、天道総司に乾巧も同様。

つまり、オリジナルの仮面ライダー全員が可能というわけだ。

「行こう。俺達も手伝うから」

津上翔一は立ち上がり、竜也に手を差し伸べる。

それを掴み立ち上がった竜也。

「じゃあ、少年の彼女かな。着いて来るか?」

先ほどと同じように、右手首をくるりと回し、いたずらっぽく笑うヒビキ。

「か、彼女…!?」

あゆは、その言葉で顔が真っ赤。竜也も同様だ。

「ヒビキさん。あまり、からかわないでください。あゆちゃん、どうする?」

野上良太郎はヒビキに弱々しく注意し、あゆに聞く。

「行くよ!竜也くんに今まで守ってもらったもん。だから次は、ボクが守る番!」

あゆの決意に満ちた返答に、野上良太郎は優しく笑い、ライダーパスを翳して竜也の家の玄関を開く。

ちょうど、その瞬間の時刻は「午前11時11分11秒」。

「な、なんだ!?」「わぁ…!」

 

そこは、いつもの景色ではなく、虹色の空と何処までも続く砂漠、そして数多の扉だった。

 

プアアアアアァン…

遠くから警笛のような音が鳴り響き、新幹線のようなものが凄まじい速さでやってきた。

「ここは時間の狭間。そしてこれは時を越える列車「デンライナー」。今回は時を越えないけど、移動には最適なはずだよ。さぁ乗って」

野上良太郎に促され、竜也とあゆは「デンライナー」に乗り込んだ。

津上翔一とヒビキもそれに続く。

 

車両内は食堂車のようであり、中には、気の強そうな印象のある女性、奇抜な服装の女性、身なりの良い壮年の男性、そしてそれぞれ赤、青、金、紫の4体の怪人がいた。

とっさに竜也は身構えたが…。

「よう坊主。お前が真司の連れか?」

「え…?は、はい…」

赤い鬼のような怪人はなんとも気さくに話しかけた。どうやらモンスターではないらしい。

あまりの敵意の無さに、竜也は緊張が一気にほぐれた。

「やぁ、僕がエスコートしようか?」

「あ、えっと…」

続いて、青い亀をモチーフにしたような怪人があゆに向かって、手を差し伸べる。

当のあゆは、戸惑ってあたふたしていた。

「ウラ、困ってるでしょ!」

ボコ!

「いたっ!」

青い怪人は気の強そうな女性から拳骨をくらう。…物凄く痛そうだ。

奇抜な服装の女性が近づいてきて、妙に明るい感じで竜也とあゆに話しかけた。

「いらっしゃいませ~。デンライナーへようこそ!あと良太郎ちゃん、翔一君、ヒビキさん、おかえりなさい!」

「ただいま、ナオミさん」「いつもありがと真魚ちゃん…じゃなかった、ナオミちゃん」「よ、ただいま」

家に帰りついたように言う野上良太郎達。ちなみに津上翔一が名前を言い間違えたのは、この女性が『アギトの世界』にいる「風谷真魚」に酷似しているからだ。

「おかえり良太郎。…その子達が?」

「うん、龍崎竜也君に月宮あゆちゃん。2人とも紹介するね。僕の『電王の世界』にいる仲間たち。ハナさんにナオミさん。さっき竜也君に話しかけたのがモモタロス。あゆちゃんに話しかけたのがウラタロス、あそこで腕を組んで座ってるのがキンタロス、絵を描いているのはリュウタロス。そして、あの端っこに座っている人がこのデンライナーのオーナー」

「よろしくね」「ぐおぉ…」「あはは、よろしく~!君、僕よりちっちゃ~い!」

「ウラタロス」「キンタロス」「リュウタロス」はそれぞれ挨拶をする。キンタロスが寝ているのは置いておこう。

ただ、リュウタロスの一言にあゆがムッとする。

「うぐぅ~!気にしてるのにぃ…」

「こらリュウタ、あゆちゃんをイジメないの!」

リュウタロスは「ハナ」に叱り付けられ、縮こまってしまう。

「ごめんね、あゆちゃん。それと竜也君だよね、良太郎から聞いてるよ。安心して。わたし達は味方」

「うん、ありがと…」

ハナは竜也たちに優しく話す。リュウタロスやウラタロスに高圧的だったので、特にあゆは怯えていたのだが、少し安心したようだ。

「本来、デンライナーはチケットやパスを持っていなければ搭乗できないのですが、良太郎君に免じて、今回の件が治まるまでは、フリーということにしましょう」

「あ、ありがとうございます、オーナーさん」

「オーナー」は、静かに淡々と話す。その言葉の内容から竜也達に協力的なのは理解できた。

「…たいへんだったでしょう?」

「…はい」

ハナの言葉で、先ほどのことを思い出す。

 

そう、竜也はこの世界の元となった2つの世界…いや、どの世界の住民でもないのだ。

つまり、竜也のいるべきところは存在しない。

 

下を向いた竜也に「モモタロス」が話しかけた。

「なんだよ、落ち込みやがって。あのサングラスと白マフラー達が言ってた事、気にしてんのか?」

ここで言う「サングラス」は剣崎一真、「白マフラー」は紅渡のことである。

「天道たちの言うことなんか、気にせんでええで。あいつら、かなり強引やからな」

「そうそう、女の子を平気で泣かせるなんて、どうかしてるよ」

いつの間にか起きていたキンタロスやウラタロスも竜也を気遣う。

「みんな、紅達の悪口はやめろよ」

意外にも、今まで黙っていたヒビキは紅渡達を擁護した。

続いて、津上翔一が話す。

「竜也君、あゆちゃん。紅君達は決して悪い人じゃないんだよ。確かに、4人とも竜也君を苦しめてるかもしれないけど、それは君のいる世界を想ってやってることだし、その方法が正しいとも考えてない。でも今は世界を救う方法がそれしかないし、本当はみんな辛いはずなんだ。それを隠して竜也君を消そうとしているんだ。押し潰されそうな罪悪感に必死に耐えながら…」

あゆは、今まで剣崎一真や紅渡たちは心を持たない冷酷な存在と見てしまっていた。

だがそれは違うのかもしれない。今のヒビキと津上翔一の言葉でそう思えてきた。

ずっとヒビキたちが話し始めて、ずっとデンライナーの窓を見ていた野上良太郎は、突然、振り向く。

「…さ、モンスターのいるところに着いた。行こう」

「ちょっと待て、良太郎」

突如、モモタロスが良太郎に声をかけた。

「今のそいつじゃ、まともに戦えねぇ!」

そう言うと、モモタロスの身体は半透明になり、竜也の体にとりついた。

いわゆる憑依というやつだ。

その瞬間、竜也の髪は総毛立ち、赤いメッシュが入り、瞳の色も赤くなった。

「俺、参上!(ど、どうなってるんだ!?)」

「た、竜也くん!?」

モモタロスの声で叫ぶ竜也(以下、M竜也)。竜也も叫んだのだが、身体が言うことを聞かず、その声はモモタロスにしか届かない。

今、竜也の身体はモモタロスが支配しているのだ。

さすがにあゆも、開いた口が塞がらない。

「ちょっとだけ手伝ってやるよ!」

「あ、まってよ!」

そう言って、M竜也はデンライナーを飛び出した。

あゆ、野上良太郎、ヒビキ、津上翔一も続く。

 

冷酷に告げた剣崎一真。

その優しい心を仮面ライダーと言う名の仮面で隠して…。

「どういうことだよ?」

祐一が聞く。

「龍崎竜也を消さないならば、少なくとも消滅までの時間を延ばす方法はある。それが物語の矯正だ。お前たちを本来辿った物語に近づける」

剣崎一真は理解し難い言葉を残し、オーロラの中へ消えた。

「とりあえず、竜也君をさがそうよ!」

サトルの言葉で、全員が竜也を探し始める。

 

それが命取りになることも知らずに…。

 

その頃、買い物に出かけていた秋子が横断歩道を歩いていると…。

「水瀬秋子だな?」

ふと、声をかけられる。

振り返ると、乾巧が立っていた。

「貴方は…?」

「…悪いが、アンタには本来の物語に沿った運命を辿ってもらう」

「あの、どういう…」

 

パアアアアアアアアアァ!

 

クラクションがけたたましく鳴り響くが、秋子が気づいたときは遅かった。

おそらく、乾巧に呼び止められなければこのような事態にはならなかっただろう。

辺りには人だかりができ、救急車が呼ばれようとしている。

「こうするしかないんだ…。こうするしか…」

残された乾巧は、自分に言い聞かせるように呟き続けた。

 

竜也を探し始めたミツルと真琴と美汐。

目の前には天道総司が現れた。

「天道総司…!」「あうぅ…」「邪魔をするのですか…!?」

怯えきって、ミツルの後ろに隠れる真琴。

「沢渡真琴、お前は運命に逆らうことは出来ない。あるべき形に戻れ。この世界ではなかった「妖狐」としての記憶を取り戻し、運命に身を任せろ」

天道総司が真琴に向かって手を翳す。

すると…。

「あ、あぅ…」

「「真琴っ!?」」

突如、真琴が倒れた。

ミツルが真琴の額に手を置くと、凄まじい熱を感じた。

「まさか…あのときみたいに…!?」

真琴と別れた数日前、彼女は高熱を出し、記憶を失い、自分の前から姿を消した。

昔のような恐怖に苛まれるミツル。

「真琴、おきろっ!真琴おおおおぉ!」

「はぁ…はぁ…ミ…ツ…ル…」

必死に揺するが、すでに真琴の意識はない。苦しそうに顔をしかめ、荒い呼吸を繰り返している。

それでも弱々しく、ミツルの名前を呼ぶ。助けを求めるように…。

「間もなく、本来の物語の中で彼女が失っていた記憶を全て取り戻す。この世界では存在しない「妖狐」の記憶を取り戻し、自分が人間であった記憶を忘れ…」

「天道総司いいいいいいいいいいいいいいいいいぃ!」

怒り狂ったミツル。

デッキを構えてVバックルに装填し、インペラーへと変わった。

「ミツルさん、落ち着いて下さい!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」

美汐の忠告を一切耳に入れず、咆哮を上げながら天道総司へと襲い掛かる。

しかし、天道総司は一切取り乱さず、カブトゼクターとハイパーゼクターを呼び出す。

「変身」

<HEN-SHIN><CHANGE HYPER BEETLE>

ガキィ!!

インペラーの怒りに満ちた攻撃も、カブトHFには全く効き目がなかった。

「ハッ!」

ガコォ!

「ぐがあああぁ!」

逆に反撃を許され、無様に地面を転がるインペラー。

「おのれぇ…!」「ミツルさん!」

自分の力のなさを思い知る。大切な存在を傷つけた者に一矢報いることすら出来ない。

美汐が必死に抱き起こす。

その様子を見ていたカブトHFは変身を解く。

「考えは変わったか?龍崎竜也を消せ。そうすれば彼女は俺達が救う」

「竜也を…消す…」

心が揺らいだことを確認した天道総司は、歩き去った。

しかし、その後ろにあった表情は、決して冷酷な表情ではなかった。

例えるならば、罪を犯した者が悔いる表情…とでも言うべきか。

 

潤と香里と栞の前には、紅渡が現れる。

「出やがったな…相手になってやる!変身!」

デッキを構えてVバックルに装填し、ブライへと変身する。

「香里、栞ちゃん、行け!」

「でも…」「北川君…」

「早く!こいつ等に先を越される前に!」

ブライの説得に応じ、竜也の捜索を再開しようとするが…。

「僕は貴女に用があるのです、美坂栞さん」

紅渡はそういうと手を振り上げ、辺りをオーロラで包み込んだ。

「きゃっ!」「な、なによ!?」

目の前を覆うオーロラに驚いて飛び退く2人。逃げ場はない。

「くそ!」

<SWORD VENT>

ブライはガルドサンダーの羽を模した「ガルドセイバー」を構え、攻撃を開始する。

「うおりゃあああぁ!」

「貴方には用がないのですが…やむを得ません。変身」

紅渡の言葉で、覆っていたオーロラからキバットとタツロットが現れ、ベルトと腕に自ら装着され、キバEFへと姿を変えさせた。

「ザンバット…!」

キバEFが呟き、タツロットの口に手をやると、そこからザンバットソードが現れた。

ガキィン!

ブライの渾身の一撃だったが、キバEFには苦にもならなかった。

「ハアッ!」

「おわあぁ!」

ドガアァ!

「ぐあっ!」

吹き飛ばされ、オーロラに叩きつけられたブライ。

「北川君!」「北川さん!」

ブライの身を案じた2人が駆け寄る。

「まだだ!」

<ADVENT>

「クワアアアアァ!」

ガルドサンダーが現れ、キバEFに襲い掛かるが…。

「バッシャーフィーバー…!」

キバEFはタツロットのレバーを引き、腕に「バッシャーマグナム」を装備し、タツロットと合体させる。

「ハアアァ…ハッ!」

ズダアアアアァ!

バッシャーマグナムはタツロットを経由し、炎と水を纏った光の弾丸を放った。

キバEFの必殺技の一つ「エンペラーアクアトルネード」である。

「ケアアアアアァ!」

ここで爆発を起こし、中にいる者が巻き込まれることを懸念したためか、どうやら威力は抑えたらしい。

ガルドサンダーの致命傷には至らなかったが、それでも一時的に行動不能へと陥ってしまった。

「くそっ!」

「では、本来の物語へ…」

変身を解いた紅渡はオーロラの中に手を突っ込み、なんとも美しいバイオリンを取り出した。

その名は「ブラッディ・ローズ」。

紅渡は目を閉じて、ゆっくりと演奏を始める。

その曲は、悲壮感の漂う曲調で、自然と栞の目から涙がこぼれた。

「えぅ…身体が…?」

栞が突如、地面に座り込む。

「栞っ!」「栞ちゃん!」

ブライと香里が駆け寄るも、近づいたときには意識がなかった。

「本来の物語では完治できなかった病が、この世界では完治しました。だから、本来の物語に沿って、病を再発させたのです。世界の崩壊までの時間を長引かせるために…」

「なんですって!?」「おまえっ!」

「龍崎竜也さんを排除することに協力していただければ、美坂栞さんの病は、僕が責任を持って治しましょう」

ブライと香里の非難を無視し、オーロラの中へと消える紅渡。

「また一つ…美しい音楽が消えるのかな…。父さん、これで良いんだよね…?」

苦痛に満ちた表情を誰にも見せずに…。後悔の言葉は誰にも聞こえないように…。

 

M竜也達の向かった先は、王蛇が破壊活動をしていた。

反応の原因は、ベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーにあった。

「足りないんだよこれじゃあ!もっと戦わせろおおおぉ!」

「おう、蛇野郎!」

「あぁ?」

「俺のカッコイイ変身、特別に見せてやる!」

そう言って取り出したのは、カードデッキ。

「変身!」

普段とは少し違うポーズでVバックルに装填する。

いつもの龍騎だが、様子は激変していた(以下、M龍騎)。

「ヘヘッ。俺、再び参上!」

決めポーズを取ると、デッキからアドベントカードを引き、ドラグバイザーにベントインした。

どうやら、使い方は理解しているらしい。

<SWORD VENT>

ドラグセイバーを構えるM龍騎。ブンブンと振り回しながら王蛇に攻撃を仕掛ける。

「いくぜ、いくぜ、いくぜええええええぇ!」

「ハハハハハハ!いいぜ、オマエェ!」

「モモタロスと竜也君を援護ましょう!」

野上良太郎の言葉で、津上翔一とヒビキはベルトと音角を取り出す。

「「変身!」」

3人はそれぞれ電王LF、A響鬼、アギトSFに変身した。

「あゆちゃん、隠れて!」「うん…!」

電王LFから促され、近くの物陰に潜むあゆ。

「シャアアアアアアアアァ!」「グオオオオオオォ!」「シュウウウウウゥ!」

しかし、彼らがM龍騎の応援に向かうことは出来ない。ベノスネーカーたちが立ち塞がっているからだ。

「ウラタロス、力を貸して!」

<URA ROD>

「テェアァ!」

デンカメンソードのレバーを引き、エビルダイバーに向かって振りかざすと、デンリールが現れ、エビルダイバーを縛りつけ、押さえ込もうとする。

「よろしくな!」

A響鬼は腰に携帯していた「ディスクアニマル」をアームドセイバーで読み込み、「ハガネタカ」「カブトオオザル」「ヨロイガニ」へと変形させ、メタルゲラスに援護を指示した。

ガキィ!ズガァ!ガゴォ!

「グゴオオオオオォ!」

かなり強力な支援メカなのか、メタルゲラスは怯むどころか吹き飛ばされ、動きが鈍くなっていた。

「シャアアアアアァ!」

溶解液を吐き出すベノスネーカー。その動きを瞬時に見極め、すばやく避けるアギトSF。

両者一歩も譲らずといったところか。しかし、総合的な実力はアギトSFが圧倒的に勝っていた。

「ハァッ…!」

シャイニングカリバーを呼び出し、ベノスネーカーに応戦する。

 

ガキィン!

その間もべノサーベルとドラグセイバーがぶつかり合っている。

「オマエ、何時もより面白いなァ!」

「当然だ!俺は最初から最後まで、徹底的にクライマックスなんだからよ!」

この2人は、もしかしたら似た者同士なのかもしれない。

戦うことを望み、その2人が今ここで出会った。唯一の違いは、その戦う意志がどこに向かっているかだろう。

M龍騎の中にいるモモタロスは、自分の大切なものを守るため、戦いを望んでいる。

一方の王蛇は、自分の中に沸き起こる闘争本能に身を任せていた。

 

サトルはモンスターの反応を聞きつけ、竜也を探しつつモンスターのところへ向かっている。名雪も後に続いているが…。

「そんな悠長にしていて良いのか?」

そこに剣崎一真が立ち塞がった。

「モンスターが暴れてるんだよ!どいて!」

「水瀬秋子が事故に遭い、瀕死の状態でもか?」

「おかあさんが…?」

名雪が明らかに動揺した。剣崎一真はオーロラを呼び出し、それを指差す。

まるでテレビの映像のようにオーロラに映ったのは、惨劇となった道路とひしゃげた車、そして、血塗れになった女性の手…。

 

秋子だった。

 

「いや…いやああああああああああああああああぁ!」

「なゆちゃん!」

名雪は悲鳴を上げて走り去り、サトルもそれを追いかけた。

 

戦闘を続けているM龍騎と王蛇。

「デェア!」「ウラァ!」

ガキィン!

両者一歩も引かない。

しかし…

「…私の言った事が聞こえなかったか?」

「オマエ!?邪魔するなァ!」

オーロラが現れ、王蛇とベノスネーカーたちを連れ去った。

「ヘヘッ…尻尾巻いて逃げやがったぜ!」

勝ち誇ったように笑うM龍騎。

そこに意外な人物が現れた。

「あ、なんだテメェ?(ミツル…?)」

真琴を抱きかかえたミツルと、彼を必死に抑えようとする美汐。

「ミツルさん、やめてください!」「天野、邪魔しないでくれ…」

ミツルの声は震えていた。今までのような強い意志はどこにもない。

「竜也、許せ。こうしないと…真琴が…真琴が…」

呪文のように真琴の名前を呟き、ゆっくりと地面に降ろす。

「変身…」

デッキをVバックルに装填し、インペラーに姿を変え、ゆっくりと歩いていく。

M龍騎に向かって…。

「はああああああああああああああああぁ!」

ドガァ!

「ドワァ!何だよ!?(み、ミツル!?)」「ミツルさん、どうしたの!?」

突如、大きく叫びながら駆け出し、蹴りをぶつけた。

あゆもM龍騎も事態が把握できない。

「もう真琴を二度と失いたくない!だから頼む竜也、消えてくれ!」

その様子を見た電王LFは

「もしかして、物語の矯正を…!?」

何かに気づき、オーロラを使ってアギトSFを残して、どこかへ向かった。

 

あの後、秋子は病院に搬送され、名雪たちもそこへたどり着いた。

容態は悪いらしい。

待合室で、ずっと両腕で顔を覆って俯いている名雪。

「なゆちゃん…」

ゆっくりと肩に手を置こうとしたサトルだったが、名雪は身体を揺することで拒絶した。

「今までずっと一緒だったお母さんが、死んじゃうかもしれない…。もしそうなったら…わたし…もう笑えないよ…」

「そんな事ない!秋子さんは絶対に大丈夫だよ!」

「さぁ、どうだろうな…?」

そこに現れたのは乾巧。

「本来の物語もいくつかあり、彼女が死んだ物語も存在する。俺たちが物語を矯正したから、死ぬことも有り得る」

「君達が秋子さんを…!?」

サトルが立ち上がり、乾巧の胸倉を掴んだ。

ちょうどそこへ、患者が搬送された。

 

それは栞だった。

 

「栞!栞っ!」「栞ちゃん、しっかりしろ!」

一緒に潤と香里が着いてきたが、治療室の前で止められ、待合室で待たされるよう言われた。

「紅がやったらしいな…」

乾巧が呟く。

香里は待合室のソファーに座り、潤に話し始めた。

「栞、紅渡さんが言ったように、昔は重い病気にかかっていたの。やっと治って、これから学園生活を楽しもうって喜んでたのに…。女の子らしい恋もしたいって言ってたのに…。どうして…?」

「香里…」

「龍崎竜也のせいだ。…とは言っても、彼が居なくなったところで、彼女が死ぬ物語も存在していたがな」

2人の会話の中に入ってきた乾巧。

香里はいきなり立ち上がって、乾巧に詰め寄った。

「ねぇ、あの娘は何のために生まれたの!?せっかく取り戻せた喜びを失うためだけに生まれたって言うの!?」

「…彼女達を救いたいか?」

救いの手を差し伸べるように言う乾巧。

「そんな方法、あるの?」

サトルは警戒心を持って聞く。

「本来の物語を、世界を崩壊させずに直接、大きな干渉が出来るのは、オリジナルの仮面ライダーである俺達だけだ。龍崎竜也を消せば、それが可能となる。つまり、何が言いたいか分かるな?…これでも、迷うか?」

それだけ言い残して、乾巧はオーロラの中へ消えた。

 

久瀬、佐祐理、祐一、舞は同じ場所に集まった。

「見つかった…?」

「ダメだよ、どこにも居ない。途中でモンスターの反応があったけど、すぐに途切れて見失った」

「くそ、どこに居るんだよ…!」「北川さん達は、どうだったんでしょう…?」

どうやら、4人は街中を探したが見つけられなかったようだ。

「みんな!」

そこに野上良太郎とヒビキが現れた。

「僕らが竜也君のところまで連れて行く。渡さん達が、僕達の考えてた最悪の行動に出たんだ!」

「急ぐんだ!早くしないと少年が!」

有無を言わさず、野上良太郎たちはオーロラで4人を連れ去った。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

             おれのせいで…みんなの幸せが壊れていく…

 

なゆちゃんが二度と笑えなくなるなんていやだ!

 

             どっちを選べばいいんだよ!?

 

なんで、竜也くんが全部悪いの…!?

 

             これは…!?

 

今日の空…澱んでるなぁ…

 

 

 

第36話「絆」

 







キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

モモタロス
ウラタロス
キンタロス
リュウタロス

ハナ
ナオミ

オーナー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイドキングフォーム

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
ヒビキ(日高仁志)=仮面ライダーアームド響鬼
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

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第36話 「絆」

ガッ!

M龍騎を攻撃するインペラーを、アギトSFが何とか押さえ込む。

その力は強力で、インペラーは必死に振りほどこうとするも、全く離れることはなかった。

「落ち着くんだミツル君!俺たちが必ず真琴ちゃんと竜也君を救う方法を見つける!だから…」

「それじゃ時間が無いんだろう!?真琴は絶対に守る!もう、あいつに苦しんで欲しくないんだ!もう、独りぼっちになることも嫌なんだよぉ!」

インペラーの声が上擦っているあたり、恐らく泣いているのだろう。ミツルが涙を流すことなど、M龍騎の中にいる竜也は孤児院で見たとき以来だった。

アギトSFはどうしようもない気持ちになり、一瞬だけ力が緩んでしまう。

その瞬間、インペラーはアギトSFの腕から抜け出し、M龍騎に再度、襲い掛かる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

ドガァ!ガッ!

「ウアァ!お前っ…グアァ!落ち着けよ!(ミツル…)」

M龍騎は必死にインペラーの攻撃を防ごうとするが、かなり威力が高く、防御の体制で吹き飛ばされてしまう。

そのとき…

「(ぐあぁっ!頭が…!)お、おい坊主、どうした!?」

M龍騎の中にいる竜也の意識が頭痛を感じた。しかし、モモタロスは全く感じない。

そして竜也の意識の中に、あの声が語りかけてきた。

 

消エルノハ…アイツダ…!

 

「ウオオオオ!?」

さらに、モモタロスは竜也の体から弾き飛ばされた。憑依が解ける条件は、憑依した人間の肉体に強烈な衝撃を受けるか、憑依したイマジンが自発的に体から抜けるか、憑依した人間の意識が無理やりイマジンを追い出すことのみ。

しかし、最後の点は憑依される人間が時間の干渉を受けない「特異点」と言われる存在である場合のみ。竜也はそれに該当しない。

モモタロスの憑依が解けた理由も、上記のどれにも該当しない。

「はあっ!」

ガッ!

「…なに!?」

攻撃を防いだ龍騎は、インペラーを睨みつける。

「…っ!?」

それだけで、インペラーに強烈な悪寒が走った。

「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

以前のように、龍騎は獣のような雄叫びをあげる。

ドガガガガッガガッガガ!!

「ぐあああああああぁ!?」

戦闘スタイルも滅茶苦茶になり、インペラーをボコボコに殴りつける。

タコ殴りとは、このことを言うのだろうか。

「やめて竜也くんっ!ミツルさんが死んじゃうよ!」「よせ、やめるんだ!」

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

あゆとアギトSFが龍騎を押さえつけるが、それでも暴れようと抵抗する龍騎。

「竜也っ!?」

そこにオーロラが現れ、中から祐一、舞、久瀬、佐祐理の4人がヒビキと野上良太郎と共に飛び出してきた。

目の前の状況を上手く飲み込めなかった。

そこには、ぐったりとしたインペラーと、雄叫びをあげながら暴れる龍騎、そしてそれを必死に止めるアギトSFとあゆ。

「あれって…」

野上良太郎は暴れる龍騎を見つめて、何かを考える。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」

「きゃあっ!」「あゆちゃん!?」

龍騎はあゆを振り払い、その拍子にあゆは地面に倒れる。

アギトSFが押さえつけているものの、下手をすれば龍騎は彼の手を抜けて、周りの人間に危害を加えるかもしれない。

「もうやめて!お願いだよっ!」

「ガアアアアァ…!?」

倒れても起き上がったあゆは、次に龍騎を強く抱きしめた。

突如、龍騎は急に大人しくなる。

「…あ、あゆ?何で、おれにくっついてるの?」

次に発した声は普段と変わらない、いつもの竜也が不思議そうに、そして優しそうに尋ねる声だった。

「戻ったの…?」「戻ったって、何が?」

龍騎は先程の記憶が全くないらしい。

「一体どうしたんだよ、おまえ?」「あんな龍崎君、見たことない…」

「え?…え?」

久瀬や祐一が信じられないといった表情で龍騎を見つめている。

状況が掴めず、混乱している龍騎。

「ぐぅ…」

頭を抱えながら、ゆっくりと起き上がるインペラー。その間に変身は解け、ミツルの姿へと戻った。

アギトSFと龍騎も、津上翔一と竜也の姿に戻る。

 

それを少し離れた場所で見ている青年。穏やかな表情が印象的だった。

ただ、今の表情は悲しさを強く物語っている。

竜也達から視線を外し、灰色の雪雲に染まった空を見上げて、こう呟く。

「今日の空…澱んでるなぁ…」

 

それから数時間後、名雪とサトルは水瀬家へと帰り着き、竜也を探すことも忘れ、名雪は部屋に閉じこもり、サトルはその部屋の前でじっとしていた。

「なゆちゃん…。僕、君の悲しみを受け止められないのかな…」

ドアの前で呟くサトル。返事はない。

部屋の中では、隅で座り込み、以前のサトルの様に、瞳から光が消え去った名雪がいる。

「…僕ね、君のことが大好きだよ、何よりも…。だから、なゆちゃんが二度と笑えなくなるなんて…嫌だ!だから僕は…竜也君を…消す」

サトルもそんなことが正しいとは微塵も思っていない。だが、それしか方法はないのだ。

ずっと、自分を想い、支えてくれた名雪。どうしても彼女が笑顔であり続けられるようにしたい。この世界を守りたい。

その想いが竜也を守ると言う想いより強かっただけの話だ。

水瀬家を飛び出したサトル。

 

「そんな…」

竜也は、祐一達から、自分自身がどんな暴挙に出たか、野上良太郎達から、剣崎一真達が物語の矯正を始め、それを止めて欲しいなら、自分を消すようミツル達に言い寄ってきたことを知らされた。

「おまえっ!竜也を消すことに賛成するのかよ!?」

祐一がミツルの胸倉を掴んで叫ぶ。

それを払い除けて、ミツルが言い返した。

「おまえに何が分かる!?やっと心から愛せる人に再会できたのに、それをもう一度失うかも知れない恐怖が、おまえに分かるのか!?」

「祐一っ!ミツルっ!」「やめてください!」

だが、竜也や佐祐理がそれを引き剥がす。

「ミツル。まず、おれはミツルにとんでもない事をしてしまった。ごめん…」

「…やめろ」

頭を下げる竜也。

彼が悪いわけじゃない。むしろ自分が悪い。ミツルにも、それくらいは分かっていた。

だが、真琴を守るためには…。

美汐が傍に寄り添っているが、息を荒げ、意識が無い真琴を見つめるミツル。

「ミツルさん、真琴ちゃんが大好きなのは分かるよ。でも、竜也くんを連れて行かないで…。お願いだから…」

あゆが、今にも泣きそうな顔で懇願する。

「じゃあ…真琴を見殺しにしろと言うのか!?」

「あなたは、竜也が消えても良いの?」

「良いわけない!でも、真琴を失うことも、おれには耐えられない…」

ミツルにも何が正解で、何が間違っているのかさえ分からない。舞の質問に対する返答も矛盾してしまう。

「おれのせいで…みんなの幸せが壊れていく…」

地面を見つめ、強く拳を握り締める。

「竜也くん…」

「最悪だね、おれ。人を守る存在になりたかったのに、どんどん離れていくよ…」

悲しくて仕方ない。

それなのに…。

 

涙が流せなかった。

 

「竜也っ!」

潤が走ってきた。

竜也は自然と悪い方向へと考えてしまうようになった。

「潤も、おれを…?」

「違う。おれには、さっぱりわかんねぇ!」

しかし、潤は必ずしもそうではなかった。彼もまた苦悩していた。

「香里や栞ちゃんの苦しんでる姿は見たくない!でもよ、おまえを消したら、あの2人は結局、責任を感じて苦しむし、おれ自身もおまえを消したくはない。どっちを選べばいいか、わからねぇ!」

「僕は選んだよ」

潤の言葉に答えるようにサトルが現れた。

「なゆちゃんが、笑えなくなるなんて、嫌なんだ。だから君を消すよ、竜也君」

淡々と話していたが、その表情は苦痛に歪んでいた。

「なんで全部、竜也君が悪いの!?」

あゆが強く言い放ち、周囲は静まり返った。

「どうして、みんな悩めるの…?…ボクは…ボクはっ!」

「仲間だからだよ」

津上翔一が彼女の肩に手を置いて言う。

「みんな、竜也君のことを心から大切な仲間と思うから、世界や自分の愛するものと天秤にかけられる位、大切なんだよ」

 

「…やはり、そのようだな」

深いため息と共に聞こえた声。主は剣崎一真だった。

竜也たちは身構えるが、今の剣崎一真に敵意は感じられなかった。

「時間をやる。明日までにもう一度、どうするか考えろ。尤も、俺達の要求を聞き入れない場合は、武力行使だがな」

そう言い捨てて、オーロラを呼び出す。

「だが俺は…いや俺達は、お前達が運命を自ら切り開くことを、どこかで期待しているかもしれない」

この言葉は、竜也達には聞こえないような小さい声だった。

 

「この話し合いに、僕らは参加できない」

「俺達は一旦離れる。お前達のことは、お前達自身で決めろよな」

そう言って、ヒビキ、津上翔一、野上良太郎は別のオーロラの中に消えた。

残ったのは、竜也、祐一、舞、潤、久瀬、サトル、ミツルの仮面ライダー達。

そして、あゆ、佐祐理、美汐、意識の無い真琴の4人。

「どうして、こうなったんだろう…」

ポツリと呟く竜也。

「安心しろ、他の奴がなんと言おうと、おれはおまえの味方だ」

「わたしも…」「佐祐理もです!」

祐一と舞、そして佐祐理は、竜也のことを心から守ろうと考えている。

「だが、あの剣崎一真さん達から、仮に守りきれたとしても結局、世界は崩壊するんじゃないのか…?」

久瀬はどちらに着けばいいのか分からず、右往左往しているようだ。

「だからってよ、竜也を消すことに賛成しろって言うのか?こいつが言ってたろ、おれ達を人殺しにしたくないって!こいつを消すどころか、こいつの思いも無駄にするつもりかよ!?」

気持ちをストレートにしかぶつけられない潤は、とりあえず自分の考えていることを口にする。だが、それは彼なりに、必死に考えた言葉であることは間違いない。

「でもこのままじゃ、世界は崩壊するし、秋子さんやなゆちゃん、真琴ちゃん、栞ちゃんが、取り返しのつかないことになる!君だって、香里ちゃんや栞ちゃんとの事で、迷ってるはずだよね!?」

「それに、おれもサトルも、竜也がおれ達をどれだけ大切にしているかくらい分かっている。…だがおれは、自分のエゴを通したい。真琴を…救いたい!」

一方のミツルとサトルは、どうしても、自分の大切な人を守ろうとしている。

もともと、彼らが今のようになれたのは、真琴や名雪の存在が大きかった。それゆえに、彼女達を守りたい気持ちが強いのだろう。

美汐やあゆは、彼らの辛さを知っているため、何も口に出来ず、ただ唇を強く噛むことしか出来なかった。

「…おれのことだから、おれ自身で決めたい。みんなは家に帰って。…もしかしたら、明日は敵になってるかもしれない。だから、ちゃんと仲間でいられるのは、今日が最後かもしれない」

竜也が言う。いつものような意志のはっきりした、それに強い口調ではなかった。

「ありがとう。今まで一緒に戦ってくれて」

歩き去った竜也。しかし、彼は家に戻ることは無いだろう。そこには、あゆ、ミツル、真琴が新たな居場所としているからだ。

 

駅前の公園。

「なゆちゃん。僕、また分からないよ。…昔と何も変わってないね。全然、前に進めていないよ…」

サトルは一人で呟いていた。

「…サトちゃん。雪、積もってるよ」

聞こえるはずの無い声と思ったが、そこには確かに名雪がいた。

「わたしね…」

 

竜也の家。

「肝心なところで、あんなに荒れるなんて…。格好がつかないな」

ベッドで横になっている真琴に語りかけるミツル。

「おまえの声、また聞きたいよ…。そうすれば…」

その言葉に呼応するかのように、うっすら目を明けた真琴。

「真琴っ…!?」

「あうぅ…」

真琴は儚げに微笑みながら、ミツルの頬をそっと撫でる。

そして小さかったが、はっきりと聞こえた。

「ミツルぅ…。あたし、ミツルを支えられる?」

 

栞の病室。

今は体調が幾分、安定しているため、一般病棟へ移されたらしい。

「香里…」

そこへやってきた潤。栞のベッドの横で、香里がずっと彼女の顔を見ている。

「…昔ね、栞が病気になったときに、もうすぐ死ぬかもって言われたの。この子を失う辛さから逃げるために、妹なんていないって振舞ってた。病気が治って、わたしはきっと嫌な姉になったと思ってた。でも栞は、そんなことお構いなしにわたしと接してくれた。…なのに…こんなときに限って…何もしてあげられない…」

香里は肩を震わせて、泣いていた。潤は、自分で決めてきた言葉を口にした。

「…おれ、香里にも栞ちゃんにも、何もしてやれなかった。でも、2人を大切にしてるつもりだ。だから、おまえの願いなら叶える。…どうする?」

 

祐一と舞。

「必死に悩んでるんだよな、あいつらも」

「優しいから…。だから、みんな悩んでる」

2人は、紅渡達が物語の矯正を行なったとき、影響の無かった者たちだ。

だからこそ、苦悩らしい苦悩はしていない。

それこそが苦悩なのだろう。

「祐一は…?」

 

久瀬と佐祐理

「やっぱり、悩んでしまうのですね?」

「はい…」

佐祐理の言葉には、悲しさがあった。といっても、久瀬を責めていた訳ではなく、仲間同士で争う虚しさを痛感していたからだ。

「佐祐理もです。みんなのまえでは竜也さんを守りたいって言ってましたけど、実際はどうすればいいか、分からないんです。…世界が崩壊すると言う話も、信じたくないのですけれど、もしそうなったらって…怖くて…」

そして、自分にやれることが見つからないことも、悲しさを強くさせていた。

久瀬は佐祐理に向かって、強く言った。

「…こんなときだからこそ、しっかりしないといけませんね。あなたが不安にならないように」

 

竜也は1人で、城戸真司が乗っていた橙色のスクーターを走らせていた。

このバイクが城戸真司のように、何をするべきか導いてくれるかもしれないと思っていた。

実際は、そのようなことは有り得ないのだが。

(このバイクに乗るのは、この街に来たとき以来だったな…)

何気なくそう考えていた。

自分の故郷である「雪の街」が良く見える高台にスクーターをとめ、そのすぐ近くに座った。

「…苦しいよね」

ふと声をかけられた。そこには、30代ほどの青年がいた。

先ほど、竜也達のことを遠くから見ていた者なのだが、それを竜也は知らない。

「あなたは…?」

 

「俺は2001の特技を持つ男、五代雄介。よろしく」

 

そう言って、自分の名刺を渡した「五代雄介」は、竜也の隣に座り込む。

名詞には、先ほどの「2001の特技を持つ男」という言葉と、五代雄介自身をイメージしたのか、キャラクターが「サムズアップ」をしたイラストも載せてある。

彼の名前に聞き覚えがあった。

ヒビキが言っていた「オリジナルの仮面ライダー」のリーダー。

「五代雄介さんって、…もしかして渡さんや、良太郎さんの仲間の?」

「そう。真司と一緒に、君を消さずに世界を救う方法をずっと探していたんだ。…まだ、見つかってないけどね」

申し訳なさそうに笑う五代雄介。なぜか竜也は、彼を見ていると心が落ち着く。

一方、五代雄介は急に表情が曇る。

「…話は戻るけどさ。竜也君達の事、全部じゃないけど見せてもらった」

「この世界は崩壊しつつある理由が、おれだなんて…。人を守るどころか、破壊者だなんて…。それに」

五代雄介の方を向いて、怯えるように言う竜也。

「かけがえのない友達を攻撃してしまったんです。そのことを全く覚えてなくて…。もしかしたら、おれには破壊者に相応しい本性があるのかって思うと…」

「それは君じゃない」

竜也の言葉を遮るように、五代雄介は断言した。

「俺達は物語に大きな干渉はできるけど、この世界の状態じゃ、そのことについての真実を話すことは出来ない。干渉とみなされ、その影響で世界が壊れるかもしれないからね。でも、その君の知らない君は、君の意志じゃない」

その言葉から察するに、竜也にはまだ彼らの話せない大きな謎があるようだ。

「…結局、君はどうありたいの?世界とか関係なく、君自身は」

優しく問いかける五代雄介によって、竜也は気がついた。

いままで、自分のことではなくて、周りの人や世界のことばかり考え、自分の意見は抑え付けてしまっていた。

「もっと、我侭になってもいいと思うな。だって、君はこんなにも人を思いやれるんだから。…ね!」

その言葉の後に、親指を立てて竜也の前に差し出した。「サムズアップ」だ。

この仕草には「許す」という意味がある。

五代雄介は、もっと自分中心に考えても良いよと、許しを出したのだろう。

そうでないと、竜也は他の人のことばかり、考えてしまうはずだから。

「…五代さん、おれは」

 

次の日の朝。

竜也は城戸真司のスクーターに乗って、昨日と同じ場所に訪れた。

「真司さん。もし見ているなら、おれに勇気を下さい」

スクーターから降りるとき、城戸真司に話しかけるように呟いた。

「決まりましたか…?」

紅渡がいつの間にか現れ、竜也に問いかけた。後ろには、剣崎一真、天道総司、乾巧がいる。

「おれ達も決めたぜ!」

「みんな…!?」「来ると思ったが、意外と早かったな…」

遠くから声が聞こえ、祐一、舞、潤、香里、久瀬、佐祐理、サトル、名雪、ミツル、真琴、美汐がやってきた。

そして、最後にあゆが現れ、竜也の隣に立つ。

「結構、悩んだが、おれたちは竜也と世界を守ることにした」「わたしは…彼にいろんなきっかけを貰った」

「おれと香里の願いも一致したぜ!時間掛かったけどな!」「栞もきっと、そう思ってる…」

「僕の決断も同じだ。違うのはその過程だけ」「佐祐理も佐祐理なりに決めました!」

「なゆちゃんを守る方法は、別にあった!」「わたしも、みんなの笑顔をずっと見たい!」

「おれは両方救う。今はこれが、おれのエゴだ!」「あたしも、ミツル達を支えるの!」

「わたし達をねじ伏せるなんて、そんな酷な事はないでしょう?」

全てが吹っ切れたようだ。彼らは、世界と愛する者と竜也、全てを救う道を選んだ。

今は何も分からない。どうすれば救えるかも…。

だが、これが彼らの全力の答えであることは間違いない。

「貴方はどうするのですか?」

紅渡は、竜也に質問をした。

「おれは…」

しっかりと紅渡達を見据えてこう宣言した。

 

「おれも自分の気持ちに正直になります!…みんなと一緒にいたい!こんなに大切に想える友達や仲間、そして…誰よりも大切な人と!」

 

最後の言葉のとき、彼は間違いなくあゆを見つめていた。

あゆの手を強く握る竜也。

自分の大切なモノを離さないように、強く、強く。

「これが、ボクたちの答えだよ!」

「そうですか…。言っておきますが、これは彼らの意志です。手を貸すのは、無粋ではありませんか?野上さん達」

祐一達の言葉を聞いている途中から現れた、野上良太郎、ヒビキ、津上翔一は、紅渡の言葉に対して、そんなこと分かりきってるとでも言わんばかりに、動こうとはしなかった。

変身ツールを取り出す剣崎一真たち。

「ならば、運命に抗え。そして…勝ってくれ!」

「お前達の友を救う代わりに、世界崩壊を手助けすると言う「罪」。俺達が背負う!」

「おばあちゃんが言っていた…。例えどんな意志でも、そこには少なからず正義が存在する。お前達の意志と正義を、全力で俺達にぶつけろ」

「僕も貴方達を信じたい。世界の崩壊なんか関係なく、貴方達の心に流れる音楽を」

争う相手とは思えない言葉だった。

「変身」

目の前には、オーディンに並ぶといっても過言ではないほど、強大な仮面ライダーが4人。

『変身っ!』

それでも、雄々しく立つ7人の仮面ライダー。

 

この戦いに、正義はない。

そこにあるのは…、

純粋な願いだけである。

 

「しゃあっ!」

<SWORD VENT>

龍騎はブレイドKFに立ち向かった。

ガキィ!

しかし、彼らの勝利を望んでいるとは言え、ブレイドKFは一切、手加減はしない。

それは、龍騎達の願いに対する冒涜になるからだ。

「もっと全てをぶつけろ!戦えないお前の大切な者達の代わりに、お前が戦うんだろう!?」

ドラグセイバーを弾き、隙が出来た龍騎の脇腹を、キングラウザーで思い切り斬りつけるブレイドKF。

ズガアアアァ!

「ぐああああああぁ!」

 

「はあああああああぁ!」「くぅっ…!ぅああああああああああぁ!」

足の自由が利かないファムもそんなことを全く気にせず、ナイトと共に、キバEFに斬りかかる。

「そうです、戦ってください。貴方達の、心の音楽を聞かせてください!」

ザンバットソードが唸りをあげて、ナイト達に襲い掛かる。

ナイトは避けることが出来るものの、ファムには難しかった。

ザンッ!

「くあああっ!」「舞っ!」

思いきり切り裂かれてしまい、ファムの装甲には大きなヒビが入る。

「こんな所で倒れないで!もっと僕等に立ち向かうんだ!」

敬語ではなく、彼の心からの叫びがナイト達に響く。

 

「打ち勝ってみろ、神の速度を。ハイパークロックアップ!」

<HYPER CLOCK UP>

ズガガガガガガガガガガ!

「うおわあああああああぁ!」「うわあああああああああぁ!」

ハイパークロックアップの前には、ブライとゾルダも成す術がない。されるがままに、攻撃を受ける。

だが、それでも…。

「神は超えられねぇかもしれないけどな、超えるよりもやりたいことはある!」

「それこそが、この世界と龍崎君を救うと言うことだ!」

<HYPER CLOCK OVER>

ハイパークロックアップがきれたカブトHFは、合体最終剣「パーフェクトゼクター」を構えて、2人を見据える。

「…絆か」

 

<BLADE MODE>

ファイズBFはファイズブラスターの刃を展開し、タイガとインペラーに襲い掛かる。

「イィヤアアアアアアァ!」

「くうっ…!」「ちっ…!」

寸での所で避けるが、ファイズBFの攻撃はそれで終わりではなかった。

「ハアッ!」

ファイズブラスターの刃から高圧縮された「フォトンブラッド」のエネルギー波が、タイガとインペラーに襲い掛かった。

ドガアアアアアアアアァ!

「ぐおああああああああぁ!」「わあああああああああああぁ!」

あまりに強い威力。避けようとはしたが、広範囲の攻撃なため、避けることは許されなかった。

「そんなんで見つかるのか!?お前らの答えを!」

「…見つけるさ!」「て言うか…見つかったかも」

ボロボロの状態になっているが、それでも身体の苦痛に耐えながら立ち上がる2人。

 

龍騎達は絶望的といえるほど劣勢だった。

しかし、あゆ達は全く諦めていない。それどころか祈るように目を閉じ、彼らの勝利を願っている。

「ボク、信じてるからね…」

 

<STRIKE VENT>

「ガアアアアアアアアアアアァ!」

「はああああああああぁっ…だああああああああああああああぁ!」

呼び出したドラグクローで、ドラグレッダーと共に龍騎は「ドラグクローファイヤー」を放つ。

<SPADE 2 3 4 5 6><STRAIGHT FLUSH>

ブレイドKFも負けてはいない。

自身の鎧から現れた「ギルドラウズカード」をキングラウザーに読み込ませ、ブレイド通常形態の基本武装「ブレイラウザー」と同時に構えて、稲妻と光のエネルギーを同時にぶつける技「ストレートフラッシュ」でドラグクローファイヤーを相殺するようだ。

「オオオオオオオオォ…ウェェェェェイ!」

ズガアアアアアアァ!

結果は、ブレイドKFの想像通り。

しかし…。

「たあああああああああああっ!」「何ッ…!?」

ドガァッ!

「グウッ…!」

爆発が起きたため巻き起こった煙の中から、龍騎が奇襲をかける。

一瞬のこと故に、さすがのブレイドKFも遅れをとってしまい、攻撃を受けた。

 

<TRICK VENT>

「うおおおおおおおおおぉ!」

シャドーイリュージョンでキバEFも翻弄しようとするが、それを打破する方法はキバEFに有り余るほどあった。

ザンバットソードにある「ウエイクアップフエッスル」を、キバットに吹かせる。

「ウエイクアップ…!」

キバットがそう言うと、キバEFはザンバットソードの柄についている「ザンバットバット」を、その刃を研ぐようにスライドする。

「ハアアアアアアアアアァ…ハアアアッ!」

ズバアアアアアアアアァ!

分身のナイト全てを一網打尽にする「ファイナルザンバット斬」。

しかし、発動後に気が付いた。

「いない…?」

本体がいないのだ。倒したのは、全て分身。

<GUARD VENT>

「…まさか!?」

「てぇああああぁ!」

白い羽を散らしながら、ファムが高台から飛び降りつつ攻撃する。

「ハアッ!」

ザンバットソードでいなそうとするが、その姿は消えてしまう。幻影のようだ。

辺りを探し、ファムを見つける。今の彼女に大きく移動する力は残っていない筈。

その油断が、キバEFの大きな失敗だった。

「祐一、いま!」「おう!」

<NASTY VENT>

「キイイイイイイィ!」

「ヌアァッ…!?」

ダークウイングのソニックブレイカーを発動し、キバEFに怪音波で対抗する。いくら装甲が硬く、攻撃に優れ、速さも圧倒するのならば、どんなに鍛えても完全に消せない感覚を攻撃したのだ。

キバEFが怯んだ隙に、2人は精一杯の力をバイザーに込めて、彼を切り裂く。

「はあああっ!」「やあああぁっ!」

ザンッ!ズバァ!

「グアアアアァッ!」

いくら強固な鎧でも、2人のライダーの渾身の斬撃に耐えることは出来ない。大きくはないが、確実にダメージを負ったキバEF。

 

<SWORD VENT>

「おおぉりゃああああああああぁ!」

ブライのガルドセイバーには刃に炎を纏う力がある。

炎の刃でカブトHFに攻撃を仕掛けるが、

ガキィン!

あっさりと防がれた。

その間に、カブトHFはパーフェクトゼクターの柄にある赤いボタンを押す。

<KABUTO POWER><HYPER BLADE>

「タァッ!」

ズバァッ!

カブトHFの必殺技の1つ「ハイパーブレイド」がブライの身体に直撃した。

しかし…。

ガッ!

「お前…!」

「アンタのばあちゃん、言わなかったか?肉を斬らせて骨を絶つってよ!」

ブライは、なんとパーフェクトゼクターが鎧に抉り込んでいるにも拘らず、その刃を握り、カブトHFの動きも封じ込めた。これでは、ハイパークロックアップを発動しても意味がない。

<SHOOT VENT>

その間を見計らい、ギガランチャーを装備したゾルダ。

「くらえええええええええぇ!」

ズダアアアアアアアァン!

「ウアアアッ!」

彼らの身を削った攻撃に、遂にカブトHFも攻撃を許してしまった。

 

「こうなったら、ゴリ押しだ!サトル、いいな?」「わかったよ!」

<ADVENT><ADVENT>

「ガルルルルルルルル!」「ギギィ!」「キイイイィ!」

ガゼール軍団とデストワイルダーが、ファイズBFに攻撃を仕掛ける。

「そんなことで、お前ら突破できんのか!?」

ズダァン!

しかし、ファイズBFにそれは全く苦にならない。

「一か八か、掛けることも重要だよ!」

<FREEZE VENT>

「…お前ッ!?」

なんと、ファイズブラスターが機能停止した。と言っても、一時的なであるようだが。

「いぇあぁああああぁ!」「はああああああぁ!」

ドガァ!ガスッ!

「ウオアァ!」

ファイズBFの見せた一瞬の隙を2人は逃さなかった。

「別世界の仮面ライダーにも通用するんだね」「状況は、未だ劣勢だがな」

共に構えを取り、ファイズBFに対抗心を燃やす。

 

龍騎達は、状況を打破できたわけではないが、ブレイドKF達に一矢報いることが出来ていた。

これが、竜也が城戸真司から学んだ『意志』の力なのだろうか…。

「おれは、みんなと一緒にいたい!世界を破壊する存在がおれなら、おれが世界を救ってみせます!どんなに苦しくても、辛くても、これが今の、おれの戦える意味だから!」

龍騎はブレイドKF達に改めて叫ぶ。

微かにだが、ブレイドKFがキングラウザーに込めていた力が、ほんの少しだけ抜けた。

しかし、彼らはいまさら引き下がれない。

「ならば、受け止めろ!」「そして守りきれ!」「その意味で!」「僕等の力を押し返すんだ!」

<ROYAL STRAIGHT FLUSH><EXEED CHARGE>

<MAXIMUM RIDER POWER><1・2・3 RIDER KICK>

「ウエイクアップ・フィーバー!」

『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!』

 

「…もう、分かったんじゃないのか?」

 

ドガアアアアアアアアアアアァ!

突如、そのことを察知したように、オーロラから一人の戦士が現れ、彼らの最大の攻撃を防ぎきった。

深い闇を思わせる漆黒の鎧。体中を走る稲妻のような金色のライン。

そして、慈愛に満ちた赤い赤い瞳。

その戦士の名前は…。

 

凄まじき戦士「仮面ライダークウガアルティメットフォーム」だ(以下、クウガUF)。

 

「雄介さん…!」

野上良太郎が驚いたような表情をみせる。そう、このクウガUFは五代雄介。

彼は、城戸真司とともに世界を救う術を探しており、この世界には訪れなかった筈だった。

「良太郎、翔一、仁志さん。ありがとう、俺や真司の代わりに竜也君達を救ってくれて」

心からの感謝の言葉を述べ、変身を解いた五代雄介。

竜也達と剣崎一真達も変身を解いた。

「邪魔をするつもりですか…?」

「総司、もういい。君のおばあちゃんが言っただろ、絆とは、決して断ち切れぬ、強い繋がりだって」

その言葉を聞いて、天道総司は後ずさった。

「巧。彼らには、こんなにも強く「罪」を背負っている。戦う「罪」を。それに、優しい「夢」も持っている。そんな彼らをねじ伏せるなんて、君自身の夢を壊してるんじゃないのか?」

「…アンタには、かなわねぇな」

乾巧も彼に言われて反論することが出来なかった。

「…俺は!」

「一真。本当は君が一番、この方法に否定的だったこと、俺は知ってたよ。でも、君は昔から自己犠牲になりがちだからね…」

剣崎一真の心を見透かしたかのように、言う五代雄介。

「渡。君が本当は押し潰されそうになってて、それをいつも隠すために、ああやって自分を見せなかった。でも、君のその想い、竜也君に届いてるよ」

「そう…ですか…」

 

「彼らに託してみようよ。この世界に来た士も言っただろう。「ここからが、彼らの物語」だって」

 

少しの間、沈黙が続いたが…。

「僕等は、みなさんがどうするか、もう少しだけ見守らせていただきます」

「もう一度言う。運命と戦え。そして、勝ってみせろ…」

「人が行くのは、人の道。お前達の道、もう少しだけ見せてもらう。天の道がそれを切り開くのは、もう少し後らしい」

「守ってみろ、お前達自身の「夢」を」

4人は、オーロラの中へ消えた。

あのときのような、冷酷な表情ではなく、どこか晴れ晴れとした表情だった。

「良太郎達も先に戻って。俺だけで言いたいことが少しあるからね」

「わかりました。…竜也君、モモタロスが言ってたよ。「お前の今を守れ」って。僕は、君達がこの世界の未来を守れるって信じてる」

「鍛えたりなきゃ、いつでも鍛えろよ。身体も心もな。シュッ!」

「君達の居場所、しっかり守りぬくんだよ」

3人も激励の言葉を残し、オーロラの中へと消えた。

 

あゆが思い出したかのように五代雄介に近づく。

「その声、もしかして…」

「そう。君に、竜也君を救ってくれるように頼んだのは、俺だよ」

「そうだったんだ…」

全てに納得がいったような表情のあゆ。

「君たちにこの世界の命運を託した。だから、俺達はよっぽどのことがない限り、この世界に干渉できない。だから、ここからは君達自身で戦うしかない。良いかい?」

「はい。みんなで一緒に戦えば、大きな困難も、必ず突破口が開けると思いますから。今回みたいに」

はっきりと答える竜也

何処かしら五代雄介には、決意の固まったような顔つきになったように見えた。

「安心したよ。…だから、この力を託そう。龍騎と似た戦士が居る『ドラゴンナイトの異世界』で、中核に当たる存在「仮面ライダードラゴンナイト」である、吉井明久君と苦楽を共にし、その人生を全うした相棒だ」

そう言って、城戸真司のスクーターに手を翳す。

すると、形は大きく変わり、赤い大型バイク「ドラゴンサイクル」に変形し、元の形に戻った。

「おおぉ…!」

予想できなかったことに、潤は目を見開いている。

「この力には、明久君やその世界の人達の想いがたくさん詰まっていた。あの世界では、その想いを受け継いだモノが生まれたけれど、このドラゴンサイクルには、まだやるべきことがある。君の力になることだ」

城戸真司のスクーターに込められた力を、竜也は触れることにより、感じたような気がした。

そして聞こえないだろうが、その吉井明久に向けて言葉を贈った。

「明久…。顔も知らないけど、君の相棒、受け取ったよ。いつか、お礼を言わせて欲しいな…」

「きっと逢えるよ!ボクは、そう思うな」

 

 

吉井明久…。

またの名を「仮面ライダードラゴンナイト」。

 

いつか、出会うときがあるのだろうか…?

 

「祐一君、これを。真司から預かっているモノだ」

五代雄介はそう言って、ポケットから1枚のアドベントカードを取り出し、祐一に渡した。

彼は、このカードを城戸真司から渡されたときの場面を思い出していた。

 

「五代さん、これを。竜也が信じた、今のナイトに渡して欲しいんです。あの世界に、最も近い俺は行けませんから」

「え…、でもこれは、オーディンも狙っているモノじゃ…」

「彼らなら絶対に大丈夫です。信じてください」

「…わかった。まかせて」

 

「これは…?」

「サバイブだ…!」

竜也には、はっきりと分かった。青い宝玉がある黄金の翼に、風を思わせる青い背景。

 

「SURVIVE~疾風~」だった。

 

「君達の力になれば良いと思う。…後は君達次第だ。おこしてくれ、「奇跡」を!」

屈託のない笑顔でサムズアップを贈り、五代雄介はオーロラの中に消えた。

「…良かったのか?城戸真司に逢わせてもらわなくて」

ミツルが竜也に聞く。

「うん。真司さんも戦ってる。だから、おれも戦わなくちゃ。大好きなみんながいる、この世界で!」

今の彼らなら、強く戦える。

なぜならば、彼らは城戸真司から受け継がれた「願い」を背負う戦士。

仮面ライダーなのだから。

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

               魔物って…何処から来たんだ?

 

不味いな…。奴にサバイブが…

 

               浅倉とは、絶対に決着をつける!

 

浅倉を倒すことも、それほど大きな意味がある。

 

               あれが、仮面ライダーナイトサバイブ…!?

 

 

第37話「疾風の剣」

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

モモタロス

五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム
紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイド キングフォーム

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
ヒビキ(日高仁志)=仮面ライダーアームド響鬼
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)



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幕間
登場人物紹介(オリジナルライダーside)


 

五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム

「仮面ライダークウガ」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダークウガ」の五代雄介と同一人物。城戸真司の仲間の一人で、その中のリーダー的存在。

自分の居た世界で人々の笑顔を守り、冒険へと旅立った青空を愛する青年。

なお、新たに増えた2001番目の特技は「平行世界を渡れること」。

紅渡と剣崎一真が竜也にとどめをさす直前に現れ、渡たちを説得した。

城戸真司と共に竜也をこの世界から切り離さずとも世界の崩壊を防ぐ方法を懸命に探している。

 

 

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム

「仮面ライダーキバ」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダーキバ」および、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」に登場した、紅渡と同一人物。城戸真司の仲間の一人。

自分の世界で、人の中に流れる音楽を守り、同時に異種族の共存と大切な兄を守った青年。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

しかし、そのために竜也をこの世界から切り離すまたは抹殺する方法を選択したため、竜也たちとは敵対する。

 

 

剣崎一真=仮面ライダーブレイド キングフォーム

「仮面ライダーブレイド」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダーブレイド」のおよび、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」に登場した、剣崎一真と同一人物(MOVIE大戦2010でディケイド抹殺に加担したブレイドとは別人)。城戸真司の仲間の一人。

友と自分の居た世界を守るため「ジョーカーアンデット」と化している。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

しかし、そのために竜也をこの世界から切り離すまたは抹殺する方法を選択したため、竜也たちとは敵対する。

 

 

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム

「仮面ライダーアギト」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダーアギト」の津上翔一および、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の「ライダー大戦の世界」に登場した、正体不明の仮面ライダーアギトと同一人物。劇場版「仮面ライダーディケイド ~オールライダー対大ショッカー~」の津上翔一と同一人物かは不明。城戸真司の仲間の一人。

一見、のんびり屋だが、自分のいた世界の人の運命と自分の居場所を守った勇敢な青年。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

紅渡たちには賛同しておらず、城戸真司のことを竜也に伝えるなど協力的な姿勢を見せ、紅渡たちを説得した。

 

 

乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム

「仮面ライダーファイズ」の主人公。

劇場版「仮面ライダーファイズ ~パラダイス・ロスト~」の乾巧および、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の「ライダー大戦の世界」に登場した、正体不明の仮面ライダーファイズと同一人物。城戸真司の仲間の一人。

自分の居た世界の人間と「オルフェノク」の共存を願った青年の夢を受け継いだ。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

しかし、そのために竜也をこの世界から切り離すまたは抹殺する方法を選択したため、竜也たちとは敵対する。

 

 

ヒビキ=仮面ライダーアームド響鬼

「仮面ライダー響鬼」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダー響鬼」のヒビキおよび、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の「ライダー大戦の世界」に登場した、正体不明の仮面ライダー響鬼と同一人物。城戸真司の仲間の一人。

自分の世界で、2人の少年の師となり、一人に鬼としての生き様を、もう一人に人生を説いた。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

紅渡たちには賛同しておらず、城戸真司のことを竜也に伝えるなど協力的な姿勢を見せ、紅渡たちを説得し、竜也に猶予を与えた。

 

 

天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム

「仮面ライダーカブト」の主人公。

劇場版「仮面ライダーカブト ~GOD SPEED LOVE~」の天道総司および、「仮面ライダーディケイド」の「ライダー大戦の世界」に登場した正体不明の仮面ライダーカブトと同一人物(MOVIE大戦2010でディケイド抹殺に加担したカブトとは別人)。城戸真司の仲間の一人。

自分の居た世界で地獄のような未来を変え、消滅したかに見えたが、何らかの方法で生き延びていたようだ。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

しかし、そのために竜也をこの世界から切り離すまたは抹殺する方法を選択したため、竜也たちとは敵対する。

 

 

野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

「仮面ライダー電王」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダー電王」の野上良太郎および、TVシリーズ「仮面ライダーディケイド」の「ライダー大戦の世界」に登場した正体不明の仮面ライダー電王と同一人物(ただしそのときは、モモタロスの力を借りていた)。城戸真司の仲間の一人。

気弱でかなり不運に遭っていたのだが、戦い続けるうちに全く感じられないほど成長した。

上記のとおりの人生だったため、人の幸せや不幸には敏感。

この世界が不安定に融合したため、世界消滅の危機を救うべく、この世界に降り立つ。

紅渡たちには賛同しておらず、城戸真司のことを竜也に伝えるなど協力的な姿勢を見せ、紅渡たちを説得し、竜也に猶予を与えた。

 

 



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登場人物紹介(デンライナーside)

モモタロス=仮面ライダー電王ソードフォーム

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

野上良太郎に頼まれ、明久や弦太朗、ウラタロス達と共に、一時的にこの世界に訪れる。

電王の主人公である野上良太郎と一番初めに契約したイマジン。ソードフォームを発動する場合に野上良太郎に憑依する事で手を貸し、それ以外に自分で直接変身する事も可能(他のイマジンにも当てはまる)。野上良太郎が持つ、「桃太郎の赤鬼」のイメージが具現化されたもので、名付け親も野上良太郎。決め台詞は「俺、参上!」「最初から最後までクライマックスだぜ!」等。

短気かつ好戦的だが、涙もろく良識もある程度持っているなど、単純で憎めない性格。

 

 

ウラタロス=仮面ライダー電王ロッドフォーム

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

リュウタロスと殆ど同じタイミングで野上良太郎に憑依した青色のイマジン。野上良太郎が持つ「浦島太郎の亀」のイメージが具現化された姿。名付け親はモモタロス。決め台詞は「僕に釣られてみる?」、「千の偽り万の嘘」、「言葉の裏には針千本」等。

冷静沈着で頭の回転も早いが、かなりの自信家な上にキザで女好き。更に嘘をついて人を騙すことを好み、口八丁で周囲の人間を手玉に取る詐欺師のような性格だが、義理堅い面や、面倒見の良い所もある。

 

 

キンタロス=仮面ライダー電王アックスフォーム

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

ウラタロスに続いて野上良太郎に憑依した金色のイマジン。「金太郎の熊」のイメージが具現化されたものであるが、野上良太郎のイメージではないため、他の3体とは外見上の違いがある。名付け親はナオミ。決め台詞は「俺の強さは泣けるで!」や「俺の強さにお前が泣いた!」等。その時に懐紙を渡す、または撒き散らすことが特徴。

人情に脆い世話好きな性格。色々と問題を引き起こすこともあるが責任感は強く、自分が招いたトラブルは、たとえ自己犠牲でもケジメをつけようとする。

 

 

リュウタロス=仮面ライダー電王ガンフォーム

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

ウラタロスと殆ど同じタイミングで野上良太郎に憑依した紫色のイマジン。野上良太郎が持つ「ドラゴン(龍の子太郎のものだと推測される)」のイメージが具現化された姿。名前は自ら名乗った。決め台詞は「~するけど良いよね?」に対して「答えは聞いてない!」等。

我が侭で気分屋、甘えん坊である等、非常に子供っぽい。行動も強引且つ一方的だが、動物等をこよなく愛したり、野上良太郎達(よっぽどの時以外のモモタロス除く)を心配するなど優しい面もある。

 

 

ナオミ

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

デンライナーでアルバイトをしている客室乗務員。主に食堂車勤務だが、車内アナウンスなども務める。

奇抜な格好をしており、両腕と両足首には大量の腕時計を装い、髪は1束だけ濃いピンク色のメッシュが施されている。天真爛漫かつ能天気な性格で、デンライナー内でのイマジン達の騒動をむしろ楽しみ、煽ることもある。ぶりっ子口調が特徴。

なお、オリジナルライダーの中では野上良太郎に続き、津上翔一と仲が良い。

 

 

オーナー

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

ハナがイマジン討伐のために契約している、素性や目的などは一切不明の壮年の男性。

常に無表情ながら飄々としており、野上良太郎たちにもおどけた態度で接するが、時の運行を乱す者やデンライナーのルールに反する者に対しては一転して厳しい表情を見せ、「乗車拒否」などの強力な権限を行使する。しかし、時間に影響を与えなければ粋な計らいを見せることもある。

 

 



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第九章 闇夜の決戦
第37話 「疾風の剣」


第37話 「疾風の剣」

 

 

オリジナルライダーたちが去って、2日が過ぎた。

「はあっ!」

ザァン!

「ミィィィ!」

ソノラブーマと戦っているのは、ナイト。

「よし…今こそ…!」

そう言ってデッキから、あのカード…「SURVIVE~疾風~」を引こうとするが…。

 

ブオオオオオオオオオオオォン!

 

「祐一、待って!」

<SWORD VENT>

「だあぁっ!」

ズバァ!

「ギギイイイィ!?」

けたたましいエンジン音を鳴り響かせるドラゴンサイクルに乗りながら乱入した龍騎が、それを引き止めた。

「サバイブをモンスター相手に使うのは、あまり良い事とは思えない。どうしてもその力が必要になったとき以外は、機会を見計らうべきだ」

「でも、早く…!」

「力を必要以上、誇示するのはダメだ!」

ナイトは、この場での戦闘を出来るだけ早く終わらせる事を最重要視していたが、龍騎はそれを否定する。

龍騎の強い語調に押され、デッキにかけた手を、ゆっくり下ろすナイト。

<STRIKE VENT>

「ガアアアアアアアアアァ!」

「はああああああああああぁ…だあっ!」

ゴオオオオオオオオォ!

「ガギャアアアアァ!」

ドラグクローファイヤーでソノラブーマは燃え尽きてしまう。

変身を解く2人。ドラゴンサイクルは、スクーターへと戻った。

「祐一。サバイブはアドベントカードの中でも、最も強い能力を秘めてる。必要以上の使用は祐一の疲労に影響が及ぼされるかもしれない…」

「…そうか。もっと考えないとな」

 

オーディンは、オーロラ越しに高校を見ていた。

最近、まともに戦えず、苛立っている浅倉も一緒だ。

「浅倉タカシ。この校舎内に「魔物」と呼ばれる存在が居る…。ファムである川澄舞と深く関わりがあるようだ。調べてもらいたい」

「チッ…くだらん」

浅倉は、戦いのない命令など聞きえれようとはしないらしい。

「黙って、私の言うとおりに動け。ファムとよく行動しているナイトと対峙すれば、楽しめるはずだ。…彼は今、最強のアドベントカードの一つ、オリジナルの疾風のサバイブを所持している。不味い状況ではあるのだがな」

その言葉で、浅倉の表情が変わる。

「ほう…。なら、龍騎以上に楽しめる相手がいるって訳か!」

ゲラゲラと狂気の笑い声を上げながら、オーロラの中へと消える。

取り残されたオーディンは呟いていた。

「龍崎竜也の別人格…奴は、近づいている。そして、不自然な存在の月宮あゆ…。まさか彼女に…」

 

竜也の家では、台所に家主の竜也が立っていた。もちろん自分を含めた、あゆ、真琴、ミツルの食事を作るためだ。栞がお邪魔している事も忘れてはいない。

栞は紅渡たちが去った後、異常な速さで回復し、今日で退院した。そのお祝いも兼ねている。

ちなみに今日はカレーである。

「…ちょっと、とろみが足りないかなぁ…」

「竜也く~ん!」

あゆが嬉しそうに、竜也に話しかけてきた。

「ん、あゆ、どうしたの?」

「えへへ…何でもないよぉ~」

ニコニコ笑いながら、真琴の部屋までトコトコと走っていった。竜也は首をかしげている。

大きな困難を乗り越えた事が、嬉しくて仕方がないのだろう。

それともう一つ。

 

「一緒にいたい!…誰よりも大切な人と!」

 

あのとき、紅渡たちに宣言した、竜也の言葉。

これも、あゆにとっては嬉しい理由の一つだ。彼女には、これは一種の愛の告白に思えたのだろう。その言葉の時点で、彼女を見つめて手を握ってくれた事は、その気持ちを助長させている。

「あゆさん。おねえちゃんから聞きました。でもわたし、負けませんよ!」

「えぇ!?」

あゆに宣戦布告(?)した栞は、頭にピロを乗っけてマンガを読んでいる真琴に話しかけた。

「真琴さん、マンガ見せてくれません?」「あうーっ!いま、あたしが読んでるのにぃ!」

「ウニャァ~」

「あ、ボクも!」「やめてよぉ!竜也にでも、遊んでもらえばいいじゃない!」

2人が真琴に話しかけ始めると、ピロは真琴の頭を離れ、ミツルの膝の上に飛び乗る。

ミツルは眉間に皺を寄せながら、ペンを走らせている。苛立っている理由はピロではなく…。

「うぐぅ…だって竜也くん、ごはん作ってるもん!」「そうです、わたし達と遊びましょう!」

「…おい、うるさいぞ!最近、仕事が山積みなんだから、静かにしろ!」

最近、インペラーとしての戦いが続き、WATASHIジャーナルの仕事がかなり残っているので、それを片付けているミツル。そこであゆと真琴、栞が大声で喧嘩を始めるので、3人を怒鳴った。

「す、すみません…」「うぐぅ…ごめんなさい」「あぅ~…だって、あゆと栞がぁ…」

「くっ…いちいち泣くな。これが終わったら、遊んでやるから。おれで良いならな」

「「「やったー!」」」

真琴は、あの事件をきっかけに言葉を取り戻した。

本人曰く「自分とミツルの愛のパワー」との事。

ミツルは「天道総司が、干渉を消すついでに、その症状も取り除いたんだろう」と邪険に扱ってはいるが、彼女の言葉について満更でもない。何しろ、聞きたかった人の声が聞けるし、ちゃんとしたコミュニケーションもとれる。つまり、もっと楽しい時間が増えると言う事だ。

「ミツル。とりあえず、ごはん食べよ。みんなも食べて!栞ちゃんと真琴ちゃんの全快祝い!」

「あぁ」「「「はぁーい!」」」

ちょうど夕食が完成したので、4人を呼ぶ竜也。

 

その後、辛いものが苦手だった栞はこう言った。

「カレー作る竜也さんなんて、嫌いです…」「うそぉ!?」

竜也は必死に謝って許してもらった。バニラアイスのご馳走、3回を条件に。

これが、栞が竜也と2人でお話しするための計算だったのは、ここだけの話。

 

 

 

夢…。

 

夢には終わりがある…。

 

どんなに楽しい夢も…

 

どんなに怖い夢も…

 

暖かい布団の中でお母さんに揺り起こされて…

 

夢は途切れる…。

 

ずっとずっと、変わらない朝の風景…。

 

でも今は…

 

夢に終わりがなくなったのはいつだったろう?

 

 

 

 

「遅いよ、竜也く~ん!」

頬を膨らまして、プンスカと怒っているあゆ。

「ごめんごめん。今日は、おつかいを先に終わらせたから!」

「あ、そうなんだ」

「そんな事より、はいこれ!」

竜也がそう言って、あゆに渡したモノ。

 

それは昨日、取り損ねた天使の人形だった。

 

「あ、これ…」

「何とか取ったよ!実は遅れた理由は、それも…」

困ったような笑みを浮かべ、頭を掻く。

あゆは、全ての事情を知って、竜也を怒ったことに強い罪悪感を感じた。

「ご、ごめんね!そんな事知らなくて…」

「いいんだよ。遅れたのは僕!そうそう、この人形にはね、すごい力があるんだよ!」

「ちから?」

竜也が待ってましたといわんばかりに、自慢げに言う。

 

「この人形はね、3つだけ、願い事を叶えてくれるんだよ!」

 

首を傾げるあゆ。

「どうやって、叶えるの?」

「僕!僕が叶えるよ!だから…僕のできる事だけに限っちゃうけど…」

どうやら、こんなマイナス要因は考えていなかったのだろう。うつむいて呟くように言う竜也。

「じゃあ、1つ目いい?」

「あ、ちなみに僕は貧乏だからね」

「ううん、平気。お金の事じゃないから」

人形を抱きしめて、目を閉じる。まるで祈りを込めるように。

 

「1つ目のお願い。…竜也くん。ボクのこと、ずっと忘れないで下さい」

 

「…こんなのは、ダメ?」

「僕にできることなら、なんでも出来る!だから良いよ!」

胸を張って、強く返す竜也。

「じゃあ、約束ね!はい!」

小指を差し出すあゆ。

「…なるほど!」

意味を理解し、その指に自分の小指を絡めた。

 

「指きった!」

 

 

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

その日の夜。

「舞、行くのか?」

「…あと、少しだから」

祐一の制止を聞かず、夜の校舎へと足を踏み入れた舞。

本人曰く、魔物はもう2体にまで減ったらしい。

 

ケリをつけたい。

 

舞はそう願っていた。

「魔物だけじゃない。…浅倉とも、絶対に決着をつける!」

「浅倉を倒す事は、ただ、おまえのお袋の仇を取るって事じゃないぞ」

祐一は舞に言う。

「おれは、おまえや竜也達ほど、デカイものは背負ってない。浅倉を倒すって事は、また一つ、デカイものを背負うってことだ。それほど大きな意味がある」

正面を向き合って、聞く。

「それでも、やるか?」

「…うん」

いままで、祐一が提案した受け答えの、はちみつくまさんやぽんぽこたぬきさん等ではない。それだけ彼女の決意が強いということだ。

「佐祐理も…なにか手伝いたいです」「僕も力を貸したい」

そこに現れたのは、久瀬と佐祐理。

「いよっしゃぁ!このライ…あ、ちがった。ブライ様も一肌脱ぐぜ!」

「はぁ…このおバカは…まぁ、わたしたちも手伝うわ」「お薬もってきました!」

「僕だって、なにか頑張れると思うから!」「みんなでがんばろ。ふぁいと、だよ!」

「わたし達を頼ってください」「あたしとミツルのラブラブカップルに、まっかせなさい!」

「言ってて恥ずかしくないか、真琴?…川澄、せめて足止めくらいは出来る。サポートは任せろ」

「そうだよ。みんなで一つずつやれば、絶対に勝てる!」「ボクも、いっぱい頑張る!」

本当に、この者たちの絆は深まった。なにか困難があれば支えあい、助け合い、乗り越えていく。これからも。

「舞、おまえは一人じゃない。みんなで行くぞ!」

少しだけ。

舞は、少しだけ笑顔になったように思えた。

あくまで、思えただけだが。

 

魔物は、基本的に舞と祐一が担当。

ここにはモンスターも頻繁に現れる。それを倒すのは竜也、潤、久瀬、サトル、ミツルだ。

あゆたちは、あたりの観察や怪我をした場合の応急処置、逃げ道の確保などを行なっている。

 

「…来た!」

舞がある方向に眼を向ける。おそらく、そこに魔物がいるのだろう。

しかし…。

「よう、遊んでくれよ」

最悪の相手が現れた。

「浅倉…!」

「オマエなんざ興味はない。オレは龍騎とナイトを指名したい」

浅倉は舞の事など眼中に無いように、竜也と祐一を指差した。

「祐一、わたしがやる…!」

「オマエじゃないんだがな…。まぁ良い」

両者、デッキを構える。

「「変身!」」

王蛇とファムに姿を変え、戦闘が始まった。

「はああぁ!」「オオオオォラァ!」

 

「「「「「「変身っ!」」」」」」

竜也達も変身し、それを追うが…。

ガキィ!

「ぐあぁ!?」「おい、竜也!?」

見えない攻撃を受ける。

「もしかして…」「マジかよ、こいつが魔物って言うのか!?」

「僕も実際に見るのは初めてだ…!」「とりあえず、防御に徹するぞ!川澄が戻るまで持ち堪える!」

 

別の廊下で、ファムと王蛇の激闘が繰り広げられていた。

だが、状況は未だファムが劣勢。

「ウオオオオォ!」

ズガアアァ!

「ああああああぁ!」

ベノサーベルで切り付けられ、地面に座り込むファム。

「どうしたァ、その程度か…?オレに復讐したいんだろ、オマエ」

王蛇は、ファムを挑発するように覗き込む。

「うああああああああああああああああああああぁ!」

渾身の力を込めて、拳を突き出す。

 

ズガァ!ガキィ!

未だ防御に徹しているので、ダメージはさほどでもないが、いつまで持ち堪えられるか不安だ。

「くそ…どうすれば…!」「やべぇぞ!ガルドバイザーがヒビ入ってる!」

「くっ…!」

ナイトのダークウォールに魔物が攻撃を仕掛けたとき。

 

…イ…シテ…

 

ガキィ!

「…!?」

一瞬、声が聞こえた。

 

オモイダシテ…!

 

今度はハッキリと。

「何を思い出せって言うんだ!?」「祐一…!?」

 

ワスレチャッタノ…?「アノヒ」ノコト…

 

一瞬、あるビジョンがナイトの脳裏を掠める。

その中にいたのは…。

「舞っ!」

突如、龍騎達のもとから離れ、先ほどファムと王蛇が向かった場所へ走るナイト。

「竜也、行け!」「え…でも…」

「おまえほど頼りになる奴はいねぇから!相沢と川澄先輩を助けてやれ!」

「…わかった!」

ブライとインペラーに押され、ナイトの後を追う龍騎。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアァ!」

ドガアアアアアアアァ!

「きゃあああああぁ!」

先ほどの拳は、ジェノサイダーによって当たらなかった。

地面に叩きつけられ、変身が解けた舞。

「消えろ、そろそろ…」

王蛇は人間の舞にも容赦はなく、ファイナルベントのアドベントカードを見せ付ける。

そこには王蛇、ガイ、ライアのシンボルがある。

恐らく、この時点で王蛇最強の技。まともに受ければ、舞の命はない。

「舞っ!」

そこにナイトが駆けつけた。

「祐一…?」「舞、もうやめろ!おれが代わるからな…」

ナイトは、傷ついた舞を優しく抱きしめ、ゆっくりと寝かせた。

「ナイトか!ハハハハ、お楽しみがやってきたなァ!」

「祐一!舞さんは…!?」

龍騎がそこに辿り着いたとき、既に始まろうとしていた。

「王蛇…おまえを倒す!あいつの代わりに、おれがそれを背負う!」

ナイトがアドベントカードを引き、それを翳した。

「アァ…!?」「祐一、まさか…!」

 

その瞬間、辺りに強い突風が吹き荒れる。

 

ダークバイザーを構えるとその形は変化し、翼召剣「ダークバイザーツバイ」になる。

そう、引いたカードは「SURVIVE~疾風~」。

ナイトの、いや、竜也達の所持しているアドベントカードの中で、もっとも強い力を秘めている。まさに「切り札」。

サバイブをゆっくりと、ダークバイザーツバイにベントインする。

 

<<SURVIVE>>

 

その音声は、オーディンと同じエコーの掛かった認識音だった。

ダークバイザーツバイから、「ダークブレード」を引き抜き、その刃を王蛇に向ける。

辺りの風は激しさを増し、ナイトを包み込む。

そこにいたナイトは、以前のナイトとは大きく姿を変えていた。

鮮やかな蒼い鎧、漆黒に染まる2つのマント。

これこそ、ナイトの最終形態。

 

「あれが…仮面ライダーナイトサバイブ…」

 

「オォ…それがサバイブの力か!?」

べノサーベルを振り回して歓喜の叫びを上げながら、ナイトSに襲い掛かる。

しかし、

「はあっ!」

ガキィン!

「ヌオォ!?」

ダークブレードで一閃するナイトS。王蛇のベノサーベルは、弾き飛ばされる。

一瞬、焦りを感じた王蛇が再びナイトSの方へ顔を向ける。

「せあぁ!」

ズバアァ!

「アガアアァ!?」

その瞬間、既にダークブレードは王蛇の身体を切り裂いていた。

地面を転がる王蛇。

「チィ…!」

<STRIKE VENT>

メタルゲラスのメタルホーンを呼び出し、攻守ともに優れた戦法を取るつもりだ。

 

だったのだが…。

 

バキャァ!

「何だと!?」

王蛇の手に収まる前に、ナイトSがダークブレードでメタルホーンを切り裂く。

すると、メタルホーンはガラスが砕けるように消え去った。

「くらえぇ!」

ザァン!

「グオアアアアァ!」

今まで、歯が立たなかった事が信じられなかった。そう思えるほど、王蛇とナイトSとの差は大きかった。これがサバイブの力…。

「クククク…」「…!?」

王蛇の喉を鳴らす笑いに、一瞬たじろぐナイトS。

「ハッハハハハハハ!最高だ!最高に楽しい!もっと遊ぼうぜ!もっとオオオオオオォ!」

彼にとっては、痛みさえ悦楽なのだ。

「遊びは、これで終わりだ…!」

ナイトSは意を決し、ダークブレードを振りかざし、王蛇の頭部目掛けて振り下ろす。

だが…。

 

「確かに終わりだ」

ズガアアアアアアアアアアアアアァ!!

「ぐあああぁ!?」「舞さんっ!うあああああああぁ!」「祐一!竜也!」

とてつもない衝撃波を受け、ナイトSは吹き飛ばされた。変身していない舞を庇うため、龍騎は舞の目の前に、立ち塞がった。

当然、そのダメージは全て龍騎に蓄積される。

現れたのはオーロラと…

「オーディン…!」

「ナイトサバイブ…」

オーディンはナイトSを忌々しげに睨む。喉から手が出るほど欲しいものを、所持しているナイトS。

「はあああああああああぁ!」

ナイトSはオーディンに向かって駆け出す。

 

サバイブなら勝てるかもしれない。

 

しかし、現実は非情なモノであった。

「フン!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「がはあああああああああああぁ!?」

戦況はまるで好転していない。サバイブの力を持ってしても、オーディンには敵わないのだ。

「…行くぞ」

オーディンによって、王蛇はオーロラで去った。

「浅倉ぁ!」「落ち着け、舞!」

肩を庇いながら、王蛇を追おうとするが、ナイトSに止められる。

「…舞さん、魔物が居るんだ!手を貸して!」

彼女のダメージはわかっているが、舞しか魔物に対抗できない。

3人はブライたちの元へと走っていった。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                まただ…!また…!

 

わたしのせいで…!それなのに、わたしだけ!

 

                自分を傷つけて何になる!?

 

良いぜェ…!

 

                そんな…!あいつが…!

 

 

第38話「もう一つの疾風」

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン



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第38話 「もう一つの疾風」

辿り着いた先では、先程と同じように魔物からの攻撃を防ぐため、あゆたちを中心にして固まっているブライたちが居た。

「やっときたな!」「すまない龍崎君達!もう限界だ!」

「舞さん!魔物がどこか分かる!?」

「…ここ!でぇぇい!」

ザァン!

舞は持っていた剣を振りかざし、切り裂く。確かな手応えはあったのだが…。

「…逃がした」

倒すには至らなかったようだ。

その瞬間、とっさに舞が感じた気配。

「ミツル…!」「川澄…?」

ガキィン!

「ぐおぁ!?」「ミツルぅ!」

突如、衝撃を感じ、地面に倒れ伏したインペラー。真琴が必死に抱き起こす。

「ちっくしょぉ…!」

<SHOOT VENT>

「来い!」

ブライはガルドサンダーの翼を模した銃「ガルドショット」を装備し、魔物に反撃する機会を窺っている。

「避けてっ!魔物は…」

ズガァ!

「どああああぁ!?」「北川君!」「北川さん!」

舞がブライに警告するが、ガルドショットを叩き落し、懐に攻撃を与える魔物。当然、目視できないブライに避けることも防ぐことも出来なかった。

「みんなを…!」

王蛇との戦いのせいで身体が思うように動かない。何とか魔物と戦おうとするが、魔物のほうが動きは速い。

ガガガガガガガガガガァ!

「ぐわああああぁ!」「うわあああああぁ!」

「久瀬さん!大丈夫ですか!?」「サトちゃんっ!」

ゾルダやタイガも攻撃を受ける。

見えない魔物に対し、龍騎が思い切り叫ぶ。

「やめろぉ!みんなを傷つけ…ぐああぁっ!?」

そのとき、強烈な頭痛が襲う。

 

オレガ魔物ヲ…消ス!

 

「竜也くん…?」

「うああああぁっ!…みんな逃げて!まただ…また…おれが、おかしくなる…!」

龍騎が朦朧とする意識の中で、全員に警告するが…。

「おい竜也!おい!」

肩を掴みブライが揺する。

直後、龍騎の目を見て、ブライに強い悪寒が走る。

「ウゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

ドガアアアアァ!

「うおぉああああぁ!?」

龍騎は獣のように雄叫びをあげてブライを突き飛ばし、魔物が居るであろう場所へと走る。

「やめて竜也くん!」

あゆが必死に呼びかけるも、その声は届かない。

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」

ドガガガガガガガガガガ!

凄まじい勢いで、何もない空中を殴り続ける。しかし、間違いなく何かがぶつかっている音がしている。

舞はそれを見て、驚いた。

今まで自分の持つ剣以外、通用する攻撃など存在しなかったのに…

 

「効いてる…」

 

間違いなく、魔物が苦しんでいるのが分かった。

「ゴオオオォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」

最後に大きく腕を振り上げ、地面に叩きつける。

「倒した…」

魔物の命を消し去った。しかし、龍騎の破壊衝動は止まらない。

「グウウウゥ!ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」

ナイト達の方を向き、凄まじい勢いで襲ってきた。

「おいよせ、竜也!」

ドガアァ!

「ぐあああぁ!」

インペラーが止めようとするも、全く止まらない。

「落ち着くんだ龍崎君!」「目を覚まして!」

「ウガアアァ!」

ゾルダやタイガが押さえつける。しかし、暴走した龍騎の力はいつも以上に高まっている。2人を信じられない力で振り払い、壁に叩きつける。

「くそ…!香里、みんな、逃げるぞ!相沢、時間を稼いでくれ!」

龍騎の攻撃で周りの被害を危惧したブライは、佐祐理や香里達を安全な場所へと逃がした。

「止めるにはこいつか…!」

ナイトがデッキに手にかけたとき、竜也の言葉がよぎった。

 

むやみに力を誇示するのはダメだ!

 

「…っく!」

ズガアアアァ!

右手をデッキからダークバイザーへと持ち替え、龍騎の攻撃を防ぐ。その目を見ていると強い寒気に襲われる。

近くで見た龍騎の姿を見て、あることに気付いた。

「…黒ずんでる」

所々、龍騎の鎧やスーツに血管の様な黒い模様が浮き出している。

それはデッキから走っているようだった。

「グゥオオオオオオオオォ…オグアァ!?…ぐぅあぁ…!」

龍騎の異常に戸惑っていると、龍騎は頭を抱えて苦しみだす。

その瞬間、黒い模様は一瞬で消え去った。

「がはっ…!祐一っ、みんなは!?」

意識を取り戻した龍騎はすぐさま変身を解き、ナイトに聞く。

「…なんともない」

そう言ったものの、近くには疲労困憊となったインペラー、タイガ、ゾルダが居る。

「また…攻撃したのか…」

「違う魔物だ!そうだよな!?」

インペラー達も相槌を打ち、反応する。

「あぁ…見えないから苦戦した」「うん…それに気配もないし…」「なんとか対策を…」

「おい、みんなは安全だ!竜也は…」

ブライが戻ってきたとき、竜也は状況を理解した。

「もういい!おれが攻撃した事くらい、この場の状況で分かるよ!」

竜也は、そのまま走り去った。

「とりあえず、今日は解散だ。態勢を整えて、また来るぞ」

変身を解いた祐一は、とりあえず帰る道を選び、他の者たちも、それに応じた。

 

竜也の家。

「竜也くん、開けてよ!」「あうー!引きこもりなんてダメよぅ!」「お願いです!出てきてください!」

あゆと真琴、心配になって来た栞がドアに向かって叫ぶが、返事はない。

そこにミツルがやって来て、3人の前に立った。

「3人とも、もうよせ…竜也は一人で考えている。そっとしておいてやれ」

「でも…!」

反論しようとするあゆに、ミツルは明日のことを伝える形で遮る。

「あゆ、真琴。明日はおれ達で食事を作る。準備のためにも早めに寝てくれ。美坂の妹にも手を貸して欲しいから、早めに準備を頼む」

「…わかりました。じゃあ、また明日来ますね」「じゃあ、ボクも…。真琴ちゃん…」「うん…」

3人はミツルの言葉に素直に従った。

「…竜也。気負いしすぎると、あゆ達も心配する。みんながおまえの事を考えてくれているんだ」

それだけ言って、ドアから離れていった。

 

「みんな…ありがとう…でもこれ以上、龍騎に変身したら…」

竜也は、部屋の机で龍騎のデッキを見つめていた。

自分が自分ではなくなり、大切な仲間を傷つけてしまう。意志を継ぐためのモノだと思っていたが、今は仲間を傷つける忌まわしい存在に思えた。

この状況を何とかする方法はただ一つ。

 

仮面ライダー龍騎の放棄。

 

「…真司さん、ごめんなさい」

そう言って、今まで肌身離さず持っていた龍騎のデッキを机の中に入れ、布団に潜った。

「祐一達に…託すしかない」

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

誰かを待っている夢…。

 

遠くに聞こえる雑踏の中で…

 

小さなベンチに座って…

 

たった一人で…

 

来るはずのない人を…

 

何時間も…

 

何日も…

 

そして…

 

何年も…。

 

 

 

また、あゆと待ち合わせの場所に来た。あゆと初めて出会ってからは毎日だった。

「あゆ…って、あれ?」

今日は周りに2人の男の子がいた。自分やあゆと同い年だろう。

「あゆの友達かな?」

そう思って、声をかけようとすると…。

 

「おまえ、気持ち悪いんだよ!」「女のくせに、ボクなんて言っちゃってさ!」

 

「もう、やめて…お願い…」

あゆは今にも泣き出しそうな表情で、懇願するように少年達に言う。

「なら、ボクって言うのやめろよ!」「この男女!」

次々に浴びせられる罵倒に、あゆは一筋涙を流した。

「はははは!こいつ泣いたよ!」

「おまえがそんなんだから、おまえのおかあさんも、死んだんだ!」

もしかしたら、あゆは自分で解決するかもしれないと思って見ていたが、さすがに我慢の限界だった。

自分の母親を失った悲しみをバカにするあの少年達が許せなかった。

それが、竜也を突き動かした。

「うわあああああああああああぁ!」

ドカッ!

「うわぁ!?」「なんだ、おまえ!?」

少年の1人を蹴飛ばし、あゆを守るように立ち塞がる竜也。

「いくらなんでも酷い!あゆがボクって言うなら、それで良いだろ!それに、お母さんがいなくなって悲しくて仕方ないのに…それもバカにするなんて、僕は許さない!」

「なんだ、おまえもボクか!」「出しゃばるなよ!」

2人は、竜也に襲いかかった。

 

「くそぉ…なんだよこいつ!」「もう行こうぜ!…うぅ…あゆのせいで、メチャクチャだ!」

少年達は、半べそをかきながら、走り去っていった。

一方の竜也は…。

「竜也くん!大丈夫!?」

地面にうずくまっていた。

いくら気持ちが強くても、もともとケンカはあまり強くない竜也。2対1では追い払うのがやっとだった。

実際、竜也のほうが多く傷つけられた。我慢勝ちと言ったところだろう。

「くぅっ…!うぅぁ…!」

「痛いの!?どこ!?」

少しだけ、立ち上がった竜也の目には…。

「…ごめん…ね…」

 

大粒の涙が流れていた。

 

「あいつ…ら…やっつけ…られなかっ…た…」

しゃくりあげ、涙を拭いながら言う。

「ううん、ありがと…ボクを守ってくれて…」

あゆは、竜也を抱きしめた。自分を守ってくれた事が嬉しかった表れだが、それは竜也にとって慰めにしか聞こえなかった。

「勝てなきゃ…ダメだ!じゃない…と…あいつら、また来る…!」

「ボク…あの子達にも負けないから…!だから…」

そう言っていたあゆの手に、あの2人から必死に守りぬいた「竜也くんへ」と書いたプレゼントがあった事に気づいたのは、そのときだった。

「それを…守ろうとして…?」

「うん…。ボクの作ったクッキー…壊したくなくて…」

「…ありがとう、あゆ」

あゆがそっと渡したプレゼントを受け取り、そこからクッキーを一枚取り出し、かじってみる。

「おいしい?」「…」

…正直、苦くてキツかったが、それ以上に自分に贈り物をくれたという事が勝っていた。

「…うんっ…おいしいよ!」

 

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

オーロラの中、浅倉は怒りが頂点に達していた。

今まで、楽しみを提供してくれていたオーディンに対しても掴みかかった。

「オーディン!オマエ、いつまでオレの遊びの邪魔をするんだよ!?」

しかし、怒りが頂点に達していたのは浅倉だけではない。

「黙れ!」

ドガァ!

「グオオオォ!」

浅倉を殴り飛ばし、胸倉をつかんで持ち上げる。

「良く聞け!私は貴様を消すことなど造作もないのだ!」

それだけ言うと手を離し、1枚のアドベントカードを渡した。

それは…。

「何だ?」

「複製した疾風のサバイブだ。貴様に最後のチャンスをやる。ナイトからオリジナルの疾風のサバイブを奪い、7人全員を抹殺するのだ。それが出来なければ…貴様を消す!」

「面白い…!やってやるぜ!」

 

朝の9時ごろ、潤は香里と栞と共に、竜也の家に来た。

しかし出迎えたのは、あゆと真琴。

「よっ!」「2人も連れて来ちゃいました」「あゆちゃん、龍崎君居る?」

「あ、潤くんに香里さん、栞ちゃん!…それが竜也くん、あれから全然部屋から出てこなくて…」

「ごはんも食べてないの…。あたしもミツルも心配よぅ…」

 

「ごめん、みんな。心配かけたね」

 

「え…?」

突然の声に後ろを振り返ると、竜也が立っていた。

「さ、朝飯作るよ。みんなも、どう?」

そう言って、さっさと台所へ向かっていった。

 

全員で食事を作って、広くない食卓に7人が寄り添い合い、朝食を取っていた。

「竜也さん、本当にもう平気なんですか?」

「うん、これからは暴走しないよ」

少しだけ微笑んで、栞に返した。

「どうしてそう言い切れるのかしら?なにか打開策でも見つかったの?」

香里の質問に、おかずを飲み込んで、自分の見つけた答えを言った。

 

「仮面ライダー龍騎にならなければ良いんだよ」

 

その言葉で辺りの空気が、一瞬、止まった

「モンスターの事はミツルや潤達も居るから大丈夫だと思うし」

潤は突然、立ち上がり、竜也に怒鳴る。

「本気で言ってるのかよ!真司さんから受け継がれた意志を、簡単に捨てるのかよ!?」

「ちょっと、北川君…」

香里が潤をなだめようとするが、それを遮るように竜也が言う。

「本気。あのまま戦い続けて、みんなを傷つけたら元も子もないし、真司さんは本当に信用できる人にデッキを託せって言ってた。おれは、今の自分自身を信用できないから。でも、みんなのサポートくらいは…」

「見損なった」

竜也の言葉を聞いたミツルは、呆れるように溜息をついた。

「もっと芯の強い奴かと思ったが、現実逃避か。おれが信じた龍崎竜也は、そんな弱い奴だったとはな。食欲も失せた。仕事に行く」

「ミツルぅ…」

そう吐き捨て、自分の皿を片付けた後、カバンを持って外に出て行った。

心なしか、真琴にはピロが心配そうに見つめていたように見えた。

「…竜也さん…」

「ミツルに悪いことしたな…あとで謝らないと」

これまで竜也は、ずっと無表情だった。

 

その日の夜。

校舎に一人で姿を現したものがいた。

「佐祐理にも…なにか…」

冷たい廊下で、辺りを見回す。ここでしか魔物は現れていない。

親友として、舞の役に立ちたい。

その気持ちに従い、なにか手がかりを掴もうとして此処に来た。

「…倉田佐祐理だな?」

突如、声をかけられたかと思うと、そこから光があふれ出す。

光の向こうには、幾度と無く竜也達の前に立ち塞がった、最強の仮面ライダーが居る。

「貴方は…オーディン…!?」

「魔物の真実を知りたいのだろう?…だが、それは不可能だ」

その言葉の後に、魔物が佐祐理に襲い掛かった。

 

「舞っ!魔物の気配がするって本当か!?」「かなり強い気配…!」

そう言って、祐一と舞が学校に走ってきた。

必死に校舎内を駆け巡る2人…。

「…っ!?」

「遅かったな、川澄舞、相沢祐一」

待ち構えていたかのように、オーディンがオーロラを使って現れた。

2人掛かりでは、全く歯が立たない相手。ここは上手く回避する道を探るつもりだったのだが…。

「早く向かったらどうだ?…オマエ達の大切な友の命が消えかかっているぞ」

「な…!?」

意外にもオーディンは道を開けた。2人は進む事に躊躇していたが…。

「行くぞ、舞!」「…うん」

2人はオーディンの横を走り去っていった。

「魔物。言うなれば川澄舞の…。真実に気付き、今の現状を見返し、絶望するが良い。その状況ならば、サバイブを奪う事も出来るはず…」

2人を見送ったオーディンは、校舎の窓から月を見上げる。

「…龍崎竜也が力を放棄した。彼の負の感情は高まりつつある。オマエも動き出すはず…」

オーディンは、この数日で様々な調査、確認を行ない、全てを理解した。魔物の事も、竜也が暴走する意味も、あゆの真実も…。

 

「そうだろう?」

 

廊下を走る祐一達は、途中であるものを見つけた。

「あれ…」

それは、曲がり角に軽く付着していた血。

舞は、おそるおそるその先を見る…。

「っ!?」

その光景を見た舞は床に倒れ、身体を震わせている。

「舞…?」

祐一も、その光景を見るために近づいた。

「そんな…!」

そこにいたのは…。

 

おびただしい出血を続ける、意識を失った佐祐理だった。

 

祐一は一瞬、何を見ているか理解できなかった。しかし、気を取り直し、舞に呼びかける。

「…舞!何してるんだ!運ぶぞ!」

「オォ…来て見ればなんだ、仲間割れか?」

近くにオーロラが現れ、浅倉が笑みを浮かべて近づいてきた。

「…ということは、魔物なんだね」「後を付けてみれば、こんな事になってるとはな!」

唐突に、タイガとインペラーも現れる。舞と祐一をつけてきたようだ。

「斉藤、虎水。相手できるか…?」

「…わかった。サトル行くぞ!」「僕達は、負けないよ!」

2人が構えを取る。

「オマエ等が相手か…」

祐一は佐祐理を抱きかかえ、病院まで運んでいった。その後ろを、まるで生気が抜けたような舞が着いていった。

「まぁ、手慣らしには楽しめそうな相手だ」

「手慣らしだと…?」「あんまり、僕達を舐めないほうが良い!」

意味深な発言をした浅倉はデッキを構える。

「変身!」

王蛇に姿を変え、いつものように首を捻る。

「アァ…。フン…」

鼻で笑い、1枚のアドベントカードを引く。

「そんな…あいつが…!?」「バカな…!オーディンから…!?」

そこに吹き荒れる風。

 

「SURVIVE~疾風~」だった。

 

「ハハハ!良いぜェ!」

べノバイザーが形状変化し、牙召機甲「べノバイザーツバイ」になり、そこにサバイブをベントインする。

 

<<SURVIVE>>

 

ナイトSのように辺りの風が王蛇を包み、その姿はさらに凶悪さを増した姿になった。

ベノスネーカーの身体をさらに近づけたような鎧、べノバイザーツバイから生える舌を模したムチ。サバイブを使った、王蛇最強の形態。

 

「仮面ライダー王蛇サバイブ」

 

病院に辿り着いた祐一達。佐祐理は治療室に運ばれている。

そこに久瀬が走ってきた。

「…君のせいなんだろ!?」「おい、久瀬先輩っ!」

久瀬は舞の肩を掴み、凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。彼は佐祐理が重傷を負ったという事実のせいで、冷静に考えられなくなった。

「君がモンスターやライダー以上に訳の分からない怪物と戦っていたから、こんな事になったんだろう!?いままで、君は間違ってない、必死になってると思って、我慢してきたが、もう限界だっ!」

「わたしの…せい…!」「おい、舞っ!」

久瀬を振り払い、舞は病院から出て行った。それを追う祐一。

「くそっ…彼女を責めて何になる…!?」

2人が去った後、少し落ち着いた久瀬は、自分の行いを後悔した。

 

その後、祐一は舞に追いつき、舞をなんとか励まそうとしていた。

「舞…。久瀬先輩の事は気にするな。佐祐理さんもそんな事、思ってない」

「くっ…!」「舞っ!?」

舞は自分の持っていた剣を振りかざし、周りのものを破壊して回った。

凄まじい力だった。怒りで力を増すこともあるといった竜也の言葉が、なんとなく理解できた。

ザァン!ドガァ!

「はああぁ!やああぁ!うあああああああぁ!」

「やめろ、舞!」

祐一は舞の暴挙を止めるべく、羽交い絞めにした。

「わたしのせいで…また佐祐理は傷ついたっ!」

「違う、おれのせいだ!他の奴に本当のことをもっと早く伝えればよかった!」

「また…またわたしだけ、こうして、のうのうと傷つかずにいる…周りの人を傷つけて…それなのに、わたしだけぇ!!」

「落ち着け、舞!」

舞の剣の先には…

 

舞自身の首があった。

 

それを見た瞬間、祐一はゾッとした。

バシッ!

「バカやろォ!!」

すぐさま、剣を弾き飛ばし、舞の顔を上げさせ、目を合わせる。

彼女は顔を真っ赤にして泣いていた。

「自分自身を傷つけて、それで何になる!全てを失うだけだぞ!?…失いたいのか?おれや佐祐理さん、みんなとつくって来た思い出を!?」

再び、彼女の顔を持ち直して聞く。

「答えろ、舞!」

しゃくりあげながら、舞はかすれた声で答えた。

「失いたく…ない…」

「学校に戻るぞ。今夜中にケリをつけるんだ!自分を責めるのは、それからだ!」

手を離すと、舞は再びうつむいた。

「いいな、舞!?」

彼女の肩を持って、強く揺さぶる。

「…祐一の…言うとおりに…する…」

舞がそう答えると、祐一は彼女を強く抱きしめた…。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

               オモイダシテ…

 

これで…おわり…

 

               竜也くんが戦えないなら、ボクが戦う!

 

さぁ…死ぬまで楽しもうぜ…!祭りの始まりだ!

 

               影か…

 

 

 

 

第39話「少女の檻」

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

あゆをいじめた少年達
医師

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン


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第39話 「少女の檻」

「いぇああああああああぁ!」「はああああああああああああぁ!」

ガッ!ドゴッ!

インペラーの鋭い蹴りと、タイガの重い拳は間違いなく「仮面ライダー王蛇サバイブ(以下王蛇S)」に当たる。

しかし…。

「…終わりか?」

「何っ!?」「そんな!?」

王蛇Sには、全くと言って良いほど効き目はない。彼にとって蚊に刺された程度なのだ。

いや、それ以下なのかもしれない。

「オォアアアァ!」

ズガアアアアァ!ドゴオオオォ!

「ぐあああああああぁ!」「うわああああぁっ!」

王蛇Sは両拳を、タイガとインペラーの腹部に突き立てる。

その瞬間、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、校舎の外に飛び出す。

「強すぎるよ…!」「これが、サバイブの力なのか…!?」

そこへ祐一と舞が辿り着いた。

「虎水、斉藤!」

「すまない相沢、これ以上は持たない…!」「粘ったんだけどね…」

変身が解けた2人は、非常に痛々しい姿だった。

「…王蛇はおれがやる!舞、おまえは魔物を!」「祐一…」

舞は頷き、校舎へと向かっていった。

「よぉ、ナイト。どうだ?中々良いもんだぜ?」

その姿を見送った王蛇Sは両手を広げ、自分の体を見せ付けるような仕草をする。その姿は、いつもの王蛇とは異なっている事から、祐一が導き出した答えは明らかだった。

「おまえも、サバイブを…!?」

「なぁ、これならもっと遊べるだろう?さぁ…死ぬまで楽しもうぜ…!祭りの始まりだ!」

<<SWORD VENT>>

王蛇Sがベントインすると、ベノバイザーツバイの牙が2つの剣「ベノファング」となる。

「変身!」

祐一はナイトに変身し、サバイブを引く。

<<SURVIVE>>

風を纏ってナイトSに強化変身し、ダークブレードを引き抜く。

「行くぞ!」「ハハァ!」

 

竜也の家。

潤も香里も栞も帰り、真琴はピロと共にミツルを探しに行ったため、ここには竜也とあゆだけだ。

竜也の部屋にあゆが入り、ベッドに座っている竜也の横に座る。

「竜也くん…。本当に仮面ライダーやめちゃうの?」「うん。おれが暴走しないためにも」

あゆが改めて竜也に聞くも、答えは変わらなかった。

「じゃあ、祐一くんたちが負けそうになっても?」「うん」

「ボクたちが危険になっても?」「…うん」

何度聞いても、竜也の気持ちは変わらない。

それは彼が、大切な人達を傷つけないためだ。

以前の竜也は仮面ライダー龍騎として、人を守り、城戸真司の願いを継ぐ事に燃えていたのに…。

「…竜也くんは優し過ぎるから…」

「違う、おれは恐ろしい存在だ。無意識にみんなを傷つける破壊者だよ…」

頭を抱えて、ずっと顔を見ずに答える竜也。塞ぎ込んでしまった彼に、あゆはこう言い放った。

「でもボクは、竜也くんみたいに優しくない」

「…え?」

 

「竜也くんが戦えないなら、ボクが戦う!」

 

そう言って、竜也の机からカードデッキを取り出した。

「あゆ、何やってるんだ!?」「ボクが戦う!仮面ライダー龍騎になって!」

あゆからデッキを取り返そうとするも、彼女は竜也を突き放す。

「簡単な覚悟で仮面ライダーになっちゃ駄目だ!」

「いやっ!簡単じゃないよ!竜也くんが真司さんの代わりに戦ったなら、ボクは竜也くんの代わりに戦うの!何が違うの!?」

竜也を振り払って、家を飛び出したあゆ。

「くそっ…!どうしてっ!」

それを追いかける竜也。

 

「佐祐理…今日で決着をつけるから…」

夜の校舎で舞は剣を構え、魔物を探す。

「僕もやろう」「生徒会長さん…?」

そこに、久瀬が現れた。

「川澄君、すまない。僕は君にしか当たる事ができなかった…。でも、僕にとって倉田さんは、それほどにまで大切な存在なんだ…。許してくれとは言わないし、憎んでもらっても構わない。ただ…」

久瀬はここに来る途中、自分でどういえば舞に許してもらえるか考えていた。しかし、そうではなく、自分の気持ちを彼女に伝えるという事が大切だと考えた。

「安心して。わたしは、あなたを憎んだりしない。あなたが佐祐理を大切にしてることくらい、わかる。今は、一緒に…」

以前の久瀬は、父親から言いつけられていたとは言え、舞を陥れようとしていた。それが、こんなにまで思いやり合える仲間になった。

皮肉だが…仮面ライダーに関わらなければ、この関係はなかっただろう。

 

夜の学校に向かっているのはあゆ。

「ボクが代わりに戦うんだ…!」

自分に言い聞かせるように、何度も言い続ける。

「あゆちゃん!」「あゆぅ!」

彼女を呼び止めたのは名雪と真琴だった。

「名雪さん、真琴ちゃん!」

「サトちゃんとミツルさん見た?」「見つからないのよぅ!」

「ボク、学校に行く!みんなもいるかもしれないよ?」

3人で合流し、ミツルたちの捜索が始まった。

 

「たあぁっ!」「オォラァ!」

ガギィィ!

互いの基本能力差は王蛇が勝っている。しかし、ナイトSはオリジナルを、王蛇Sは複製のサバイブを使っているという事により、力の差は埋まり、両者はほぼ互角だった。

ベノファングもダークブレードも凄まじい火花を散らし、轟音を響かせている。

「こんなにも凄まじく、恐ろしい存在なのか…」

肩を庇いながら、それを見ていたミツルはそう呟く。

サバイブの力は、オーディン達に対抗するための最後の切り札であるが、同時に自分たちに対する最大の脅威。頼りになるが、恐怖の対象でもあるようにミツルには思えた。

その場に辿り着いた3人の少女。

「祐一くんっ!ミツルさん、サトル君!」

「バカ、危ないぞ!」「なゆちゃん、近づかないで!」「どうして来たんだ!?」

王蛇Sと交戦中のナイトSとサトルが、彼女たちに気付くが、あゆは…。

「ボクだって…!」

そう言って取り出したのは…。

「えっ、あゆちゃん!?」「あゆ、本気!?」「なんだと…!?」「うそ…!」

名雪と真琴も衝撃を受けた。

それは、ミツル達も例外ではない。

あゆの手にあったのは紛れもない、竜也が使い続けた「仮面ライダー龍騎のカードデッキ」

なのだから。

その瞬間、あゆの腰にVバックルが出現する。

「へ、変身っ!」

少し怯えていたが、思い切りデッキを装填した。

虚像が幾つも現れ、強い光があゆを包む。

そこに居たのは小柄で細身だったが、間違いない。

 

仮面ライダー龍騎だった。

 

「竜也くんやみんなを、守って見せるよ!」

「守れるのか?」

彼女の決意を揺るがせるように現れたオーロラ。

現れたのは…。

「金色の仮面ライダー…!」

「不確かな存在なのに…か?」

オーディンは、龍騎に不可思議な言葉を投げかける。

「不確かな存在…?」

「やはり記憶から消えているようだな、月宮あゆ。全てを話してやりたいところだが、生憎、そうもいかない。…近づきつつある闇のためにも」

そう言って、オーディンは夜空…正確には月を見上げる。

そして、仮面の奥から伝わるほどの凄まじい眼力で、王蛇Sを睨む。

「王蛇サバイブよ、ナイトサバイブを消せ。全ての修正のために…!」

その後、オーディンはオーロラで姿を消した。

「うぐっ、待って!」

「グウウウウウウゥ!」

龍騎が追いかけるも、追跡は叶わず、残されたオーロラからは、レイドラグーンが5体ほど現れた。

「よぉし…!」

その一部始終を見ていたミツルは、オーディンの言葉で気になる点があった。

「全ての修正…?」

それが仮面ライダーオーディンの、真の目的なのだろうか…。

「アァ…やってやる!」

ナイトSと鍔迫り合いを続けていた王蛇Sは、首を捻った後、アドベントカードをベントインした。

<<ADVENT>>

そこに現れたのはベノスネーカー。しかし次の瞬間、ベノスネーカーも形状を変え「ベノヴァイパー」に進化した。

「ヅアアアアアアアアアアアアアァ!!」

更なる熾烈な戦いの幕開けを合図するかのように、大蛇の咆哮が響き渡った。

 

そのとき、少し遠くの場所で栞が、ある者に出会った。

「あ、竜也さん!」

ゆっくりと歩いている彼の姿を見て近づく。

「竜也さん、わたしも心配なんです。あゆさんのことですから、きっと代わりに戦うなんて…」

栞もあゆを止めたいと考えていた。きっと無茶をするあゆが、取り返しの付かない事になる前に。

しかし竜也は、栞を睨みつける。

「え…?」

その目を見た栞は、身体中から震えが止まらなくなった。竜也の目には、総てを飲み込んでしまうほどの、強大な闇が秘められているように思えた。あの心優しい慈愛に満ちた、竜也の目ではない。

闇という黒いものを秘めていると感じるのに、目の色は血のように赤かった。

 

「退け。邪魔だ」

 

ドン!

「きゃっ!」

竜也は栞の言葉を切り捨てて、彼女を突き飛ばし、そのまま歩き去っていった。

「竜也さん…?」

彼の挙動が明らかに変わっている。まるで別人だった。栞は、その姿を見送る事しかできなかった…。

「栞!」「栞ちゃん!」

竜也が居なくなったのと同時に、潤と香里が現れた。

「あゆちゃん達が、校舎に向かったところを見たの!」

「おれ達はそっちに向かうけど、一緒に来るか…?」

2人の言葉は耳に入ってはいるが、それ以上に先ほどの竜也が信じられず、唖然としていた。

「栞ちゃん…?」「どうしたのよ?」

「あ、ごめんなさい…。わたしも行きます!」

2人が声を再びかけると、栞はハッとなって返事をし、2人と共に学校へ向かった。

 

栞の前から歩き去り、彼女の姿が見えなくなると、竜也は、彼とは思えない邪悪な笑みを浮かべ、ポケットからあるものを取り出す。

 

それは…。

 

「影か…」

その様子を、オーディンが見ていたことに気付いた者はいない。

 

夜に歩みを進めているモノ。それは、ゆっくりと近づきつつある。

全てを闇に引きずり込むために…。

 

「生徒会長さん、魔物が近づいてる…」

舞と久瀬は、辺りを用心深く見渡す。

「来た…!生徒会長さんは、わたしの指示に従って動いて…」「まかせろ!」

2人はデッキを構える。

「「変身っ!」」

ファムとゾルダはさらに意識を集中させる。そのなかでファムは、ある一点を見つめる。

「あそこにいる…押さえて…!」「とおぁっ!」

ゾルダはパワーに優れている。その力で魔物を押さえつけた。

「はあぁっ!」

ファムが剣を振りかざし、思い切り振り下ろすが…。

「…いない」「なんだって…?たしかに、触れていた感覚がない…」

辺りの気配を探る…。

「…祐一の所に…!」「バカな、今ここに居たのに…!?」

魔物の行方を2人は追う。

 

「やぁっ!えいっ!」

龍騎は闇雲に攻撃を繰り返すが、レイドラグーン達はそれを上手く避けている。

「うぐぅ…当たらないよぉ…」

息が荒くなり、隙の出来た龍騎にレイドラグーンが襲い掛かる。

「グウウウウゥ!」

ガンッ!

「うわぁっ!」

レイドラグーンの槍が龍騎の肩に勢いよくぶつかり、火花が散る。たった一撃なのに、凄まじい痛みを感じた。

「い、痛い…!」

こんな痛みを、竜也達はずっと受けてきたのか…?

あゆには、竜也の言っていた事が初めて分かった気がした。だが、それで戦いを放棄するつもりはない。苦痛で涙が出そうになるが、それでも戦わなければならない。

竜也を守るために。

「やあああああああああああぁ!」

ドガッ!

「グウウウェ!?」

力強く前に突き出した拳は、レイドラグーンの1体に当たる。

あゆ本人は非常に非力なのだが、仮面ライダーの力により、モンスターを圧倒できる強さを手に入れていた。

「おい竜也、手を貸すぜ?変身っ!」

そこに、変身直後のブライが現れた。後ろには栞と香里もいる。

「潤くん?」

龍騎の声と小柄な身体に違和感を感じる。

「あれ、ちっこい…?それにその声…まさかあゆちゃん!?」

「あゆさんが仮面ライダーに!?」「うそ…龍崎君は!?」

「竜也くんは今、戦えないから…。ボクが戦うの!」

 

<<BLAST VENT>>

「キキイイイイイイイイイィ!」

ナイトSも王蛇Sに対抗すべく、ダークウイングを呼び出す。やはりダークウイングも風に包まれ、形状を変え「ダークレイダー」となった。

翼に備え付けられたホイールが回転し、突風を巻き起こす。

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!

「グゥッ!?チッ…やれ!」

「ヅアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

王蛇Sは少し後退したが、ベノヴァイパーはそうも行かない。突風をもろともせず、ダークレイダーに噛み付いた。

「はああああああぁ!」「デェアアアアアアアアアアァ!」

ズガァ!ガキィ!

その間も、ナイトSと王蛇Sの攻防は続く。

ダァン!

「アァ…?」

突如、王蛇Sに銃弾が叩き込まれた。ダメージは皆無だったが。

「相沢君!」「久瀬先輩…?」

銃弾の正体はゾルダのマグナバイザーだった。

「川澄君が、君のところに魔物が近づいていると言っていた!早く…」

ズガアァ!

「くっ…!言ってる傍からか!?」

ナイトSはダークバイザーツバイの左手にある「ダークシールド」で防ぎきった。

魔物の攻撃は今まで、仮面ライダーにとっても驚異的なものだったが、ナイトSに対してダメージはあるものの、ダークシールドも手伝い、通常形態よりも痛みを軽減できている。

 

オモイダシテ…

 

「…またか!一体、何が言いたい!?」

ナイトSに聞こえる、謎の声。声を投げかけるものの、返事はない。

魔物は、そのまま王蛇Sに向かって走り出した。

王蛇Sには、魔物も察知できなければ、盾もない。

ドゴオオオオオォ!

「グオオオオオオオオォ!?」

いきなり謎の奇襲を仕掛けられた様なものだ。王蛇Sは堪らず吹き飛び、校庭の外へと弾き飛ばされた。

 

<FINAL VENT>

 

ザッ!

不意に、校舎の屋上から2つの白い影が現れた。それは宙高く飛び、魔物に向かって剣を向けているファムとブランウイングだった。

「…!?」

「クエエエエエエエエエェ!」

「でええええええええええええいっ!」

ズバアアアアアァ!

高さとブランウイングの突風を利用した最大の一撃、ミスティースラッシュ。今回はウイングスラッシャーではなく、自身の剣を使った技の発展型である。

その一撃の前に、魔物は消えた。

この2日で、魔物は2体残っていた。

1体は暴走した龍騎が倒し、もう1体はたった今、ファムが倒した。

 

つまり、魔物は全て倒し終えたのだ。

 

一方、ガルドセイバーを駆使して戦うブライと、ドラグセイバーを使う龍騎。

「うぐっ!」「あゆちゃん、あぶねぇ!」

ズバァン!

「グウウウゥ!」

今まで、龍騎が彼を庇ったり、助ける事が多かったが、今回は真逆となっていた。

「潤くん、ごめんね…」「いいって!早く行くぞ!」

しかし、龍騎の鎧が粒子状に消滅しはじめた。

「あ、あれ…変身が解けちゃう!」「早くないか…!?…なら、これで決めるぞ!」

<FINAL VENT><STRIKE VENT>

「クアアアアアアァ!」「ガアアアアアアアアアアアアアァ!」

ガルドサンダーとドラグレッダーが現れ、龍騎の腕にはドラグクローが装着される。

ブライはガルドゼイバーを構える。

「おおおおおおぉりゃああああああぁ!」「はああああぁ…ええええいっ!」

ドガアアアアアアアアアアァ!

ドラグクローファイヤーの威力は、あゆの龍騎でも強く、レイドラグーンの2体を倒す事に成功した。

一方のブライはガルドセイバーの炎とガルドサンダー自身が炎の塊となって、同時攻撃を放つ「フェニックスインフェルノ」で、レイドラグーンの殲滅した。

変身を解く潤とあゆ。栞と香里も近づいてきた。

「うぐぅ…疲れた…」「ビックリしたよ…まさかあゆちゃんが…」

「あゆさん、無茶苦茶ですよ!」「ほんと、寿命が縮んだかしら…」

「えへへ…」

 

ナイトSが変身を解き、ファムに近づく。

「よ、舞」「よ、祐一…」

ファムが、彼を安心させるためかマネをして返したが、変身が解除され、地面に倒れた。

「舞っ!おまえ、無茶しすぎだ…!」

舞を抱き起こす祐一。しかし、怪我もないところを見ると、安堵した表情を浮かべた。

「魔物の戦い…終わったのか?」「これで、おわり…」

その言葉の後、少し疲れたような様子の舞は、祐一に頼みごとをした。

「祐一…牛丼食べたい」「ったく…あぁ、わかったよ」

「みんなも…」

あゆが初変身のため疲労困憊であり潤、香里、栞が家まで送り届ける事になり、ミツルとサトルもダメージが大きく、真琴と名雪が一緒に帰る事になった。

久瀬と祐一は舞の願いを聞き入れ、牛丼を買いに向かった。

「舞はライダーだけど、これからは魔物と戦う必要はなくなったんだ…」

 

その後、牛丼を買い終え、学校に戻ってきた2人。

「舞…?」「川澄君が…」

辺りを見渡すが、舞の姿がない。

「まさか、まだ残ってたのか!?」

舞は全員を逃がすために、戦いが終わったように見せかけていたのだ。

そして、さらに不味い状況であることも分かった。

 

「…浅倉、まだ居るんじゃないのか!?」

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

               あの日の…

 

舞、魔物は…

 

               剣を捨てたわたしは、弱いから…

 

祐一…本当に…本当にありがとう…

 

               舞、起きろ…夜が明けるぞ…

 

 

 

 

第40話「夜明け」

 

 






キャスト

龍崎竜也

月宮あゆ=仮面ライダー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーブライ
美坂香里
美坂栞
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

仮面ライダーオーディン


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第40話 「夜明け」

廊下を走り続けて、ようやく舞のいる場所に辿り着いた祐一と久瀬。

「舞っ!」「川澄君!」

「来ないで!」

舞は、剣を構えて前を見据えている。その先にいたのは…。

「オマエ一人じゃなかったのか」

浅倉だった。

「これ以上、ファムとの戦いを長引かせてもらっても詰まらん。コイツとケリを着けるまで、ナイトとゾルダは、これで遊んでもらおうか?」

その言葉と共に、レイドラグーン達が現れた。しかし、その身体がひび割れ、中から大きなトンボのようなモンスターが現れた。「ハイドラグーン」である。

「ブウウウウウウウゥ!」

 

「はああぁ!」

 

ドガァッ!

ハイドラグーンの1体を、突如、何者かが蹴る。

「ここにもいないのか…あゆ!」

竜也だった。しかし彼自身、デッキを持っていないので対抗手段はない。

だが…。

「おまえ、戦わないんじゃ…」

「龍騎に変身しないだけ。変身しなくても戦う事は出来る!真司さんの意志を簡単に捨てたりなんかしない!」

そう言って、ハイドラグーンたちを睨む竜也。

「祐一。舞さんを助けてあげて!ここは、おれと久瀬さんがやる!」

「帰らなくて正解だったな!」

その声と共に、あゆ、潤、ミツル、サトルも現れた。

「あゆ、デッキを返して!」「あっ!」

そう言って竜也が、あゆから龍騎のデッキを取り上げた瞬間…。

「ぐあああぁ!?」

突き刺すような頭の痛みを感じ、あの声が聞こえる。

 

待ッテイタ…オマエヲ…!

 

「くそっ、やっぱりダメだ!」

竜也はデッキを投げ捨てる。その途端、頭痛は嘘のように消え去る。

投げ捨てたデッキをあゆが拾い、竜也の正面に立って言う。

「やっぱり、ボクが戦う!竜也くんは十分、苦しんだよ!だから今度は、ボクの番!」

あゆの目には迷いはない。竜也にはそう見えた。

「わかったよ、あゆ…。君を信じる!でも、おれだって戦う!」「うん!」

「なるほどな。竜也、見直した。そんなやり方があったか…」

「おうおう、コブラ野郎!今日こそエビルダイバーのカード、返してもらうからな!」

「舞ちゃんと祐一君は、浅倉を倒して!」

これで、戦いの構図は決まった。

 

モンスター達は、竜也、あゆ、久瀬、ミツル、サトル。

浅倉は、祐一、舞、潤。潤が浅倉と戦う理由は、エビルダイバーのアドベントカードの奪還を目的としているからだ。

「「「「「「「「変身っ!」」」」」」」」

竜也以外は、それぞれの仮面ライダーに変身し、敵と対峙する。

「久瀬さんは、遠距離からみんなの援護を!」「了解した!」

「ミツル、サトル、あゆは接近戦で確実に一体ずつ倒すよ!校舎で倒すのは危険だから、外に誘導して!」

「うん!」「わかったよ!」「あぁ!」

モンスター戦は、主に竜也が指示しながら戦う。もちろん、彼自身も生身で戦闘に参加する。

「しゃあっ!」

 

「メインディッシュは後にしたかったが、まぁいい。楽しませろよ…!」

<SWORD VENT><SWORD VENT>

王蛇はベノサーベルを装備し、ナイトに襲い掛かる。

一方のナイトもウィングランサーを呼び出し、それを防ぐ。

ガキィン!

「祐一!」「相沢ぁ!」

ブライとファムが、ナイトの援護に向かうが…。

<UNITE VENT>

「何っ!?」

「グギャアアアアアアアアアアアアアァ!」

王蛇は器用にベントインし、ジェノサイダーを呼び出した。

「コイツで遊んでろ!」

「川澄先輩、避けるぞ!」「うん…!」

ドガアアアアアァ!

ジェノサイダーの口から吐き出される、起爆性のある液体を必死に避けるファムとブライ。

「くそ、浅倉っ!」

一旦距離をとるナイトと王蛇。その時に、ナイトはアドベントカードを引き、ベントインの準備に入る。

「舞、北川、耳をふさげ!」「お、おう!」「はちみつくまさん」

<NASTY VENT>

「キキイイイイイイイィ!」

「ハハァ…」

対して王蛇も、ベノサーベルを捨ててアドベントカードを引き、ベノバイザーにベントインする。

<CONFINE VENT>

「なっ…それはガイの!?」

ソニックブレイカーのために呼び出されたダークウイングも、その効力で消え去る。

「オレが、ガイのアドベントカードを持ってる事を忘れたのか?…ちなみに、こんな事も出来るぜ」

<COPY VENT>

新たにベントインをし、ウイングランサーを複製した王蛇。これはライアの特殊アドベントカードだ。

「マジかよ…!」「おいおい、怖気づいたか?祭りは始まったばかりだ!」

ウイングランサーを振り回しながら、王蛇はナイトに向かっていく。

と、そこに…。

ザァン!

「オォ!?」

「相沢を殺させるわけにはいかねぇ!」

ブライがガルドセイバーで、王蛇に奇襲を仕掛けた。

「イラつかせる…。戦いは楽しいが、奇襲は嫌いなんだよ!」

ズガアアアァ!

「うおっ!?」「北川っ!」

苛立った王蛇は、ブライに切りかかる。防いだものの、威力が強すぎて、ガルドセイバーを破壊してしまった。

「ちっくしょぉ…!」

<ADVENT>

ダメージを受けたブライは、ガルドサンダーを苦し紛れに呼び出す。しかし、能力の差が大きすぎる。

「クエエエエエエエェ!」「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

まるで歯が立たなかった。

「北川っ!」「潤…!」

「グギャアアアアアアアアアァ!」

ズガアアアァ!

「ぐあああああぁ!」「ああああっ!」

ファムとナイトが援護に入ろうとするも、ジェノサイダーが巨大な尾で2人を振り払う。

その拍子に、2人は校庭まで吹き飛ばされた。

ここにいるのは、王蛇とブライ、そして彼らの契約モンスターだけだ。

「もう…消えろ!」

<FINAL VENT>

「グギャアアアアアアアアァ!」

その音声と共に、ジェノサイダーが自身の腹を食い破り、ブラックホールを生成する。

「ウオオオオオオォ!」

雄叫びをあげながら、ブライに近づく王蛇。床を蹴り、ドロップキックを浴びせようとする。

しかし…。

「…待ってたぜ!」「…ッ!?」

その瞬間、ブライは王蛇の懐に入り込み、すぐさま避ける。しかし、ガルドサンダーは避けられなかった。

ドガアアァ!

「ケアアアアアアアアァ!」

ガルドサンダーは、ジェノサイダーのブラックホールに飲み込まれた。

ジェノサイダーとの最強の技「ドゥームズディ」。この技を受けたものは、もうこの世界に戻る事は不可能だ。

「ガルドサンダーっ!?」

つまり、ガルドサンダーとブライの契約は無効。ブライは再び、ブランク体になる。

…はずだったのだが。

「その姿…オマエまさか!?」

ブライのオレンジレッドではなく、ブランク体のくすんだ灰色でもなく、鮮やかな紅色に染まっていた。

 

「へへっ…仮面ライダーライア、復活!」

 

その姿はまさに、以前の仮面ライダーライアだった。その右手にはエビルダイバーのアドベントカードが握られている。

「グギャアアアアアアァ!」「ジェノサイダー!?」

契約が異動した影響なのか、ジェノサイダーは悶え苦しみ、ベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーに分離した。

「よう、エビルダイバー!久しぶりだな!おまえの代打は、よく頑張ってくれたぜ?」

ライアという、本来の契約の主との再会。しかし、モンスターには喜ぶなどといった人間らしい感情はない。

契約に縛られ、ライダーから人間もしくは、モンスターの魂を喰らわせてもらうと言った関係だけなのだ。

それでも、ライアはエビルダイバーと再び戦える事を喜んでいた。

「チッ…本当にイラつかせるな、オマエは!?」

そう言って、王蛇が引いたアドベントカードは…サバイブだ。

「うわ…マジで?」

 

一方、ハイドラグーン達を外に誘導し終えた竜也達。

「これで全部だ!」「ありがとう、ミツル君!」

インペラーとタイガは、ガゼルスタッブとデストバイザーを装備している。デストバイザーをブーメランのように使い、ハイドラグーンを攻撃しつつ誘導したのだ。脚力の高いインペラーはジャンプ力を活かし、タイガと共に誘導を行なった。

「打ち落としは、任せてもらおう!」

ダァン!ダァン!ダァン!

ゾルダがマグナバイザーを構え、銃弾を撃ち込んでゆく。

ダメージを受けたハイドラグーンたちは、バランスを崩し、地面に叩きつけられた。

「次はボク達!」「いくよ、あゆ!」

龍騎と竜也は、同時にとび蹴りをかます。

「やあっ!」「だああっ!」

ドガアアアァ!ドカッ!

しかし、生身と仮面ライダーでは差が大きい。竜也の攻撃に関しては、致命的なものではなかった。

「やっぱりダメか…!?」

「それを、ボク達が支えるの!」

<FINAL VENT>

「ガアアアアアアアアアアアァ!」

「はあああああああぁ…」

龍騎は不器用ながらも、竜也がやっていたように動きを真似る。そして天高く飛び、ドラグレッダーと共に、ハイドラグーンの群れに突撃する。

「やああああああああああああああああっ!」

ドガアアアアアアアアァ!

威力は若干劣っているものの、ファイナルベントが強力なのは間違いない。

ただ彼女には、その反動は大きかった。

「わあああぁ!」「あゆ!」

竜也が吹き飛ばされた龍騎を抱きとめる。鎧を装備しているため、若干重いが、あゆ自身が異様なほど軽いので、竜也一人で受け止めることは出来た。

「あゆ、平気!?」「うん、大丈夫…」

龍騎は竜也の腕の中で、こくりと頷く。その途端、龍騎の鎧が粒子化をはじめた。

「え…もう!?」「そんな…変身時間が短すぎる…!」

2人が驚いている事をあざ笑うかのように、龍騎は、あゆの姿に戻った。

「どういうこと…?」「デッキがあゆに同調できないのか…?」

変身時間が短い理由は竜也にも分からない。

竜也が城戸真司から聞いた話では、カードデッキは、変身者を特定せず、誰でも変身が可能であるはずだ。だから、城戸真司が使っていたデッキを竜也が使えるのだから。

だが、何故あゆは変身できるとは言え、その時間が短いのだろう?

しかし、回答を待つほど時間は長くなかった。

校舎から、2つの影が地面に叩きつけられた。

竜也たちが近づいてみると、よく知っている2人だった。それはナイトとファム。

「祐一、舞さん!」

2人を抱き起こしていると、再び校舎から轟音が鳴り響き、2人の影が現れた。

「ぐああああああぁ!」

1人は吹き飛ばされ、もう1人はそれを追う形で現れた。

「オマエの遊びはよォ…本当につまらないんだよ!」

そこにいたのは、王蛇Sとライアだ。彼がブライでなくなった理由は、もう簡単だ。

「あれ…ライア?…契約のカードを取り戻したのか!?」「いてて…どうにかな」

「ピンクに戻ったな。やっと呼べる」「もう良いって、そのギャグは!」

王蛇から契約のカードを取り返すなど、かなり困難なはず。それをたった一人でこなしたライア。もしかすると、彼は類稀なる格闘センスを持ち合わせているのかもしれない。真価を発揮し切れていないだけで。

インペラーも小馬鹿にしているが、彼を見直していた。

「さて、そろそろ遊び頃だろう?」

王蛇Sはナイトを指差す。

「…!」「舞!?」

突如、何かを感じ取ったファムは変身を解き、校舎へと走っていった。

「相沢君、行くんだ!」「ここは、僕らが持ちこたえるよ」

タイガとゾルダがナイトの肩を押す。

 

「そうは行かない」

 

突如オーロラが現れ、行く手を阻んだ。そして、ナイトと王蛇Sを囲み、1対1の状況を作った。

「いわゆるオーロラデスマッチってわけか…」

毒づいた後、デッキからカードを引く。

<<SURVIVE>>

ナイトSと王蛇S。現時点での最大の力で勝負する。何も出来ない竜也達は、ナイトSの勝利を信じて見守るしかない。

<<SWORD VENT>>

「はあああぁ!」「オオオオオォ!」

ガキィン!

ダークブレードとベノファングが火花を散らす。

「くっ!たあああああぁ!」「ハハァ!これだ!こういうのを待ってたんだ!」

<<ADVENT>>

「ヅアアアアアアアアアァ!」

オーロラの中から、ベノヴァイパーが現れ、威嚇する。

<<ADVENT>>

「キキイイイイィ!」

ナイトSも、ダークレイダーを呼び出した。どうやら、オーロラを超えて呼び出す事は可能なようだ。

巨大なモンスター2体と、サバイブを使ったライダーが2人、オーロラ内で所狭しと戦っている。

ダークブレードを避け、ベノファングで襲い掛かる。それをダークシールドで防ぎ、新たに攻撃を繰り出す。

両者、一歩も引かず、ほぼ互角である。

<<SHOOT VENT>>

ダークバイザーツバイを組み直し、アローモードに変形させる。

「はあっ!」

バシュッ!バシュッ!

強力な1発を、何度も王蛇Sに放つが、王蛇Sは楽しそうに笑いながら避け続ける。

「ハハハハハハハハハハハハハ!」

避けながら近づき、べノファングを振り上げようとした時…。

「浅倉…一つだけ聞かせてくれ」「アァ?」

突如、ナイトSが攻撃をやめる。王蛇Sも訝しげに振り上げていたベノファングを下ろす。

「おまえ…どうしてここまで、戦う事を望む?」

王蛇Sはその質問に、一瞬首を傾げたが、直後に仮面の中で口を大きく開け笑う。

「ハハハハハハハハハハハハ!そんな事も知らないのか!?」

可笑しそうに言ったが、次の声は低く唸るような声だった。

「人間が息を吸ったり、眠りについたり、飯を喰うのと同じだ。なければ生きられない。…欠かせば、オマエ達で言う「死」だ」

今まで、浅倉は戦いしか考えていないと思っていた。しかし、戦いに対して論理的な思考もあったのだ。

「昔からオレは、常に暴力の世界で生きてきた。傷つけられれば傷つけ返す。殺されそうになれば殺す。そんな世界だ。その世界で生き残るためには、その過程を悦楽とするしかない」

少しだけ、王蛇Sの声が悲しそうに聞こえたような気がした。足掻きつくし、もう元に戻る手立てが残されていないことを訴えている。竜也達は、そんな気がした。

「…ペンキを塗れば、二度と剥がせない。オマエ達とは、どんなことがあろうと相容れられないだろう。オレとオマエ達の間にあるもの…。オマエ達は知らんが、オレはただ一つしかない…」

 

「戦う悦びだけだ!」

 

<<FINAL VENT>><<FINAL VENT>>

「もう、終わりにしよう…おまえの戦いも」

ダークレイダーが突風を起こし、ベノヴァイパーは溶解液の竜巻を作る。

ナイトSと王蛇Sは地面を蹴り、龍騎のようにとび蹴りの構えを取る。

「はあああああああああああぁ!」「ディェエエエエアアアアアアアアアアアァ!」

2人の最大の必殺技「ウインドライダーシュート」「ベノムライダークラッシュ」。

ズガアアアアアアアアアアアァ!

その威力は凄まじく、なんとオーロラを破壊した。

煙の中で1人だけ立っている者がいた。それは…

 

「祐一!」

 

あちこちの鎧が砕けたナイトだった。サバイブが解けている辺り、どうやらさっきで、サバイブの力を使い果たしたらしい。

「ハァ…ハァ…」「そんな…まだ立てるのか!?」

しかし、生き残ったのはナイトだけではない。サバイブは解け、満身創痍でもあるが、王蛇も立ち上がった。

「まだだ…もっと遊んでいけよ…!」

倒れそうになっても尚、戦いを求める王蛇。

ズドオオォ!

突如、強い衝撃を受け、王蛇が地面に叩きつけられる。王蛇は声も上げず、倒れ伏した。

「王蛇サバイブですら、敵わなかったか…」

味方であるはずのオーディンが、攻撃したものであった。

「…今回は我らの敗北を認めよう。だが次は、そうは行かない。…14人目の仮面ライダーがオマエ達の前に立ち塞がるときこそ、オマエ達の最後だ」

オーディンは王蛇のデッキからサバイブのカードを引き抜き、オーロラに消えた。

一気に緊張がほぐれ、竜也とあゆ以外の全員が変身を解く。

「ここからは、おれと舞でケリを着けたい…たのむ」

そういい残して、傷だらけであるはずの祐一は、舞を探しに校舎へと向かった。

「みんな…。祐一を信じよう…」

竜也の言葉で、全員は追うことはせず、後を全て祐一に任せた。

 

廊下の中を走っているとき、程なくして、何かが近づいてきたのが分かった。

「…最後の魔物か!」

しかし祐一は変身せず、声を投げかけた。

「何が言いたい?言いたい事があるなら、分かるように言ってみろ!」

その声に反応したかのように現れたのは…。

 

「…舞?」

 

確かに「川澄舞」ではある。ただその姿は幼く、10年前の舞だった(以下、まい)。

祐一は、その「まい」に見覚えがあった。

幼い「まい」が手を翳すと、祐一の頭の中に様々な映像や記憶が入り込んできた…。

 

 

 

「おかあさん…!」

舞と、舞の母親が病室にいるのが分かる。血色からして、舞の母親はもう長くないだろう。それでも、舞は母の手を握る。

「舞…」

しばらくすると、舞の母親の顔色がどんどん良くなっていく…。

祐一は、それが何かが分かった。おそらく「まい」が、彼に伝えたからだ。

 

はっきりしたものは分からないが「超能力」と呼ばれるものであろう…。

 

そう、彼女は不可思議な「力」を持つ少女だったのだ。その「力」は、マスコミなどでも大きく報道された。

だが、人とは疑いの眼差しを持つ者も数多くいる。

彼女と彼女の母親は、何度も言われようのない貶しや嫌がらせを受けた。

「舞…どこかへ逃げましょうか…?」「うん…!」

そして辿り着いた先が、この「雪の街」だった。

 

そこでも周りの者に馴染めず、舞はずっと一人ぼっちだった。いつしか、自分の中にある「力」に話しかけるようになった。

そうすることで、自分は一人ぼっちではないと思い込めたからだろう。

「ねぇ。いつか、わたしのことを受け入れてくれる、本当の友達ってできるかな?」

(いつか現れるよ…あなたも、わたしも受け入れてくれる人)

その「力」も、答えてくれた。

 

ある日。

黄金色の麦畑で、ずっと空を見上げていた舞。

「おぉ、女の子だ」「…だれ?」

そこで出会った少年。

 

幼い日の自分自身…相沢祐一だった。

 

彼女が心から望んでいた一番最初の「本当の友達」は、相沢祐一だったのだ。

「おい舞、まてよぉ!」「早く捕まえてみてよ!」

2人は毎日、日が暮れるまで遊んでいた。

「ハンデつけてくれよ!」

そう言って、祐一が舞の頭に被せたのは「ウサギの耳が付いた髪飾り」だった。

「なにこれ?」「舞、ちっちゃいだろ?麦で見えないんだよ。だから、これがハンデ!」

舞の頭の上でゆれている髪飾り。

「あはは、良いよ!どう、可愛い?」「おう、似合ってるぞ」

彼とずっと遊んでいられる。そう思っていた。

だが…。

 

10年前の彼は、両親の都合により、長期休暇の間だけ水瀬家に預けられていた身。

すぐに別れの時が来た。

電話越しに祐一は、謝る。

「ごめんな舞。また今度の冬休み、遊んでやるから…」

「助けて欲しいの!」

 

「魔物が…魔物が来るの!」

 

彼女は、彼が帰らないための苦し紛れの「嘘」を言った。

「いつもの遊び場に来るの!2人で守ろうよ!」

「また来るから…待っててくれよな」

「待ってるから!ずっと待ってるから!」

 

いつしか舞は「嘘」を信じ込み、偽りの存在を無意識に「力」で実体化した。

彼女が魔物を倒すたびに、謎の痣ができている理由は、ここにあった。

舞が倒していたのは自分自身の「力」。

 

 

 

祐一は「まい」を連れて、ある教室で舞を見つけた。魔物が少なくなっているからか、体のいたるところに痣ができ、息も荒かった。

「祐一…魔物がいる…」

「舞、目を覚ませ。「魔物」なんて最初からいない。全部分かったよ。おまえは昔、友達だった男の子と別れないために言った、自分の「嘘」を信じ込んでた。その男の子は、おれなんだ!おれ達は10年も前に、すでに出会ってんだよ!」

舞は首を振る。

「何を言ってるのか…分からない…」

「おまえが「嘘」を受け入れれば、魔物との戦いは終わる。剣を捨てるんだ、舞!」

祐一の言葉で、舞は自分自身の手にある剣を見つめる…。

「だめ…出来ない。剣を捨てたわたしは、弱いから…。祐一やみんなに、迷惑を掛けるから…」

「掛けていいんだよ!おまえは一人じゃないんだ!今まで、ずっと支えあってきて、ここまで来たんだろ!?」

舞の頭に、「まい」がつけていた髪飾りを被せる。

 

「おれは…おまえが好きだ」

 

「普段、何考えてるか分からないし、無口だし、無愛想だけど、それでもおまえが好きだ。だから、頼ってくれよ…おれを…おれ達を!」

祐一は舞に近づき、強く抱きしめる。

「祐一…」

舞は祐一の胸の中で目を閉じ、彼の愛情を強く感じた。

「さぁ、戻ろう…」

そう言って、祐一が少し離れる。

「祐一…わたしもあなたが好き…」

顔を上げた舞は一筋の涙を流していたが、間違いなく微笑んでいた。

「本当に…本当にありがとう…」

それが心からの感謝の言葉だった。

直後、剣を構え…。

 

「くうっ…!」

 

自分自身の腹を貫いた。

「舞!?」

地面に倒れる舞を抱き起こす祐一。

「バカやろォ!なんで…!?」

魔物は、佐祐理を傷つけた。それは彼女自身が佐祐理を傷つけた事と同意。それが許せなかった…。その贖罪だったのだろう。

「祐一…」

それを見ていた「まい」。舞の身体に触れる。

「傷が…消えていく…」

「舞は「本当」と向き合うことを決めたから。剣を捨ててたから、捨てた剣で舞を傷つけられないの」

そう言うと、「まい」の身体はどんどん消えていく。

「君は…魔物じゃないんだろ?…なんて呼べばいいか教えてくれよ」

「ふふ、そうだね…。いろいろあるけど、こう呼んでほしいな…」

 

「希望って…」

 

「舞。起きろよ…。夢から覚める時間だぞ…」

「ゆう…いち…」

夜明けは、もうすぐだろう…。

2人の仲間もそこへ向かっている…。

 

竜也達が、舞と祐一の居る場所に向かった後…。

「終わりなのか、これで…!?」

意識を取り戻した王蛇は、絶望に打ちひしがれていた。

「こんなにも最高に楽しい遊びが…本当にこんな終わり方なのか…!?」

 

「終わりだ」

 

突然の声と共に、響く足音。

その声の方向を見る王蛇。

そこに居たのは影。全てを闇に飲み込む様に暗い、漆黒の影だった。

ただ、そのシルエットはまるで…。

「オマエ…!?そうか、そう言う事か…!」

全てを悟った王蛇は、大きく口を開けて笑う。

近づいてきた影は、アドベントカードを左腕のバイザーにベントインする。

 

<FINAL VENT>

 

他のライダーとは違う、重々しい音が鳴り渡った…。

 

夜明けは、新しい夜の始まりでもある…。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                    これで、残るライダーはオーディンだけ…

 

えっ…龍騎!?

 

                    オレが望む龍騎は、オマエではない…

 

おれの夢に…

 

                    14人目の仮面ライダー…!?

 

 

 

第41話「闇と夢想」

 

 






キャスト

龍崎竜也

月宮あゆ=仮面ライダー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

まい
舞の母親

北川潤=仮面ライダーライア/仮面ライダーブライ
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

浅倉タカシ=仮面ライダー王蛇

???=最後の仮面ライダー

仮面ライダーオーディン


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第十章 夢の跡
第41話 「闇と夢想」


 

夢…。

 

夢の始まった日…。

 

木漏れ日の光がまぶしかった…。

 

雪の感触が冷たかった…。

 

そして…

 

小さな子供が泣いていた…。

 

その泣き顔が…

 

今も思い出せない…。

 

 

「竜也く~ん…どこまで行くの~?」「いいから、いいから!」

森の中で竜也はあゆの手を引いて、ずっと歩き続けていた。

「もう歩き疲れちゃったよぉ…」「あと、ちょっと!」

そして、そこは開けた場所…。

 

大きな大木が一本、生えていた。

 

「うわぁ~!おっきな木!」「僕が見つけた取って置きの場所!」

あゆは嬉しそうに大木に近づいて、竜也のほうを振り返った。

「竜也くん、ボクが良いって言うまで振り返らないでね?」「へ?」

全く意味が分からない。なにか隠し事でもあるんだろうか。疑問を持ちつつも、竜也は後ろを向いた。

しばらくして…。

「もういいよ~!」

かなり遠く…というより、上から声が聞こえた。

「…うおっ!?」

あゆは、大木の大きな枝の一つに腰掛けていた。

「いい眺めだよ~!」「危ないって!降りてきなよ!」

その声を無視して、あゆはそこから見える街を嬉しそうに見下ろしていた。

「風が気持ちいいよ~!」

季節は冬で、辺りにも雪がたくさん積もっているというのに、風を心地よく感じるあゆ。

彼女の嬉しそうな姿を見た竜也は、もう注意する気にはなれず、微笑ましくあゆを見つめていた。

「そうだ、竜也くん。2つ目のお願い、良い?」

あゆは天使の人形を取り出して、竜也に見せる。

「いいよぉ!僕に出来ることならだけどぉ~!」

 

「ボク、竜也くんと同じ学校に行きたい…」

 

「こんなのダメ?」

「う~ん…。よし!今日からここは、あゆと僕の学校!」

竜也は大きく宣言した。

「好きな時間に来てもいいし、宿題もない!給食は…」

「たい焼き!」

あゆが竜也の言葉を遮って、大きく返事をした。

「うん、決まり!…最後のお願いはどうするの?」

「とっておこうかなって。何かあったときに…」

 

帰り道。

「そういえばあゆ。木登りするときに、どうして後ろ見なきゃいけなかったの?」

「そ、それは…うぐぅ…」

竜也は、あゆが顔を真っ赤にしたことは分かったが、理由が分からなかった。

あゆは自分のミニスカートを、手できゅっと握り締めた。

 

 

 

そして、夜は明けていく…。

 

 

 

 

その日。もう年末で、2011年も間近だ。

「編集長、具合は如何ですか?」「あぅ~…秋子さん、大丈夫?」

「おかあさん!」「もう起きれるんですね」

その日、秋子の病室には真琴、名雪、美汐、サトル、ミツルの5人が見舞いに来た。

「あらあら、みなさん。わたしは、もう平気ですよ。あと3日ほどで退院ですって」

「よかったよぉ…おかあさん…」

秋子は病床で上半身だけ起こし、頬に手を当てて微笑む。名雪は母親の回復が嬉しくて、少し涙を流していた。

「仕事ですが、編集員の皆さんや、私達が何とかこなしていますので、ご安心ください…」

「ふふ…ミツルさん、そんなにマジメにしなくても結構ですよ。ここは職場ではありませんから…」

その言葉を聞いたミツルは、鼻を少し掻いて、少しいつもの雰囲気に戻る。

「…ありがとうございます、水瀬の母さん」

真琴は悪戯っぽく笑う。

「あは、ミツルのマジメなところって、なんか笑える!」

「…今日のマンガと肉まん、なし!」

真琴の言葉でミツルは怒り、約束していた大好物の肉まんとマンガを買ってあげることを取り消しにする。

「あ、あうぅ~!ごめんなさい!許して~!」「真琴、自業自得ですよ?」

「美汐までぇ~!」

 

同じ時間に、祐一と久瀬は、舞と佐祐理の見舞いに行った。

「よ、舞、佐祐理さん」「お見舞いに来ました」

「…祐一、生徒会長さん…」「あはは~っ。2人ともよく来てくれましたね~」

ベッドで横たわり、至る所に包帯を巻いた痛々しい姿だったが、それでも2人の表情は穏やかだった。

久瀬は突然、頭を下げる。

「倉田さん…貴方が怪我を負ったのは、僕が貴方をちゃんと守ってあげられなかったし、貴方の親友である川澄君に八つ当たりした最低の男です。やっぱり…」

「久瀬さん…いいえ、シュウイチさん。舞から聞きました。舞のこと、一生懸命助けてくれたって。それに、あなたが怒った理由も」

佐祐理は優しく微笑み、久瀬の手をとった。

「嬉しかったです。佐祐理は…わたしは初めて誰かから、友達以上に大切な存在だって言われました。…だから」

「僕は貴方を守りたい。誰よりも貴方を…佐祐理さん」

舞がその様子を見て、くすりと笑った。

「またカップルが出来た…」「川澄君っ!?…2人が居る事をすっかり忘れてたよ」

2人はこうして少しずつ、変わっていく。ゆっくりと、時間を掛けながら…。

一方、祐一は少し暗い表情でこう言った。

「いい雰囲気の時にすまないけど、こんな報道があったんだ。見てくれ」

新聞を出し、3人に見せる。

 

‘’浅倉脱獄囚、重体で発見!?’’

~某市内の高校で、数週間前から脱走していた浅倉タカシ脱獄囚が重体で発見された。目撃情報によると、昨夜、そこで大きな轟音や、正体不明の黒い騎士(市内で噂される「仮面ライダー」の可能性が高い)の目撃が報告されている。浅倉は警察の管理化の下、集中治療を受けている。なお黒い騎士については、以前より目撃情報のあった「仮面ライダー」の中でも、一番初めに目撃されていた赤い騎士と非常に酷似しているとのこと。[執筆者・大久保大介]~

 

記載された写真には、浅倉の入院している病院と、目撃された「黒い騎士」があった。

「浅倉は…」

「確かにおれが倒した。トドメはオーディンだったが…。それよりも、この黒い騎士って部分に、引っかかる点があるんだ」

祐一が指差す写真。その姿は、かなりぼやけているが、よく知っているシルエットだった。

「えっ…龍騎!?」

「竜也はデッキを持っていないから、普通に考えれば、あゆってことになる。でも、あゆはあのとき、間違いなくおれ達と一緒に行動していた。竜也もそうだ。それにおれ達以外で、残るライダーはオーディンだけ…」

「じゃあ…」

 

「これは…誰だ?」

 

紅渡達や士達のように、別世界のライダーとも考えられるが、五代雄介が「自分たちはこの世界に干渉できない」という発言がある辺り、それはありえないだろう。鳴滝もこの世界に留まってはいないはず。翔太郎達や映司達も、単独で世界を渡ることはできない。

つまり、この黒い仮面ライダーは、この世界の仮面ライダーであることは間違いない。

「おれも、そのことで一つ気になっていることがある」

そこにミツル、真琴、美汐が入ってきた。

「編集長の見舞いにきて、ついでに寄った。オーディンが言っていた言葉に…「14番目の仮面ライダー」ってものがあった」

「わたし達の予想では、この黒い仮面ライダー龍騎が、おそらく14番目の仮面ライダー…」

真琴はミツルの後ろに隠れながら、その写真を指差す。

「あたし…この写真が怖い」

「安心しろ真琴。おれはおまえを全力で守る。それに竜也達もいる。怖い思いなんて、させない」

怯えきった真琴の頭を、ミツルは優しく撫でる。

「とりあえず、おれと久瀬先輩と斉藤で、この事を追おうと思っている」

「祐一、みんな…気をつけて」「わたしも、皆さんの無事を祈ってます」

「おう!舞、退院したら牛丼食べるぞ」「佐祐理さん、ありがとうございます」

舞は戦えない。痣は消えたが、王蛇との戦いのダメージは消えておらず、しばらく療養が必要だ。佐祐理も外に出る事はできない。彼女達は彼らの無事を祈るしかなかった。

 

それを病院の外で見ている竜也。その瞳の色は、血のように赤かった。

まるで先程の事を全て聞いていたかのように、彼らが話を終えると邪悪な笑みを浮かべ、その場を立ち去った。

昨日のようにあるものを取り出す…。

「ようやく、動き出すか?」

その声と共に、竜也はオーロラに飲み込まれていく。ただ、そのときの表情は全くうろたえていなかった。

 

約2時間後

栞と香里は、竜也の家に向かった。昨日の事を問いただす為だ。

異常なほど豹変した竜也。彼を変えさせたのは、一体何なのか…?

「竜也さん!」

「はい…。あ、栞ちゃんに香里さん」

家の扉から出てきた竜也は、龍騎を放棄した罪悪感からか、今までより元気がなかったが、優しい笑みを浮かべ、あのときのような恐ろしさは全くなかった。

「あ、あの…昨日の事で、聞きたいことが…」「…龍騎を捨てたこと?」

少し表情を暗くして、竜也が言う。しかし、栞が聞きたいのはそれではない。

「あ、いえ…夜にわたしと会ったときです」「夜…?」

栞の言葉に、竜也は首を傾げる。

「わたしがあゆさんのことを心配してるって言ったとき…「どけ、邪魔だ」って…」

「あなたがやる事とは思えないけど…あゆちゃんのことで、そんなに気が立ってたのかしら?」

「そ、そんな!?おれ、そんなことしてない!」

そう訴える竜也の表情に、嘘はない。栞にはそう思えた。

「そうですよね…ごめんなさい…」「栞、もういいの…?」

肩を落として、ゆっくりと帰路に着く栞。その姿を香里も追おうとする。

そのとき…。

「竜也くん、モンスターがいる!」「わかった!あゆ、ドラゴンサイクルを!」

家の中からあゆがデッキを握り締めて現れ、竜也の指示に従い、城戸真司のスクーターに乗る。

「変身っ!」

あゆが龍騎になると、スクーターはドラゴンサイクルに変形する。どうやらこれは、龍騎が変身する事により反応して、変形するものらしい。

「いくよっ!」

ドラゴンサイクルはエンジン音を轟かせ、出発した。

「後からおれも、追いかける!」「わたしも…!」「ちょっと、2人とも!」

竜也、栞、香里もそれを追った。

「…そういえば、あゆは免許もってるのか!?」

 

「ブブブブブブブブブブブブ!」

雷を発し、街を破壊していたのはクラゲ型モンスターの「ブロバジェル」。大きな頭が特徴だ。

「うわぁ!止まんないよぉ~!」

ドガアアアァ!

「ブベブバ!?」

そこにドラゴンサイクルに乗った龍騎が現れ、ブロバジェルを吹き飛ばした。その衝撃で、ようやくドラゴンサイクルは止まった。

「うぐぅ…バイクの運転、難しいよ…。ボク、免許もってないし…」

なんと彼女、無免許運転なのだ。龍騎になれば乗りこなせるとでも思っていたらしい。

「「あゆちゃん!」」

「あ、潤くんにサトルくん!」

反応を聞きつけてやってきたのは、潤とサトル。

「たしかクラゲのモンスターの…ブロバジェル!」「頭でっかちめ!おれ達が相手だ!」

2人はデッキを構える。

「「変身っ!」」

タイガとライアが出てきた途端…。

「グオオオオオオオオオオォ!」

ドゴオオオオオォ!

「どわああああぁ!?」「うああああああぁ!」

咆哮と共に、黒い大きな影が2人を攻撃した。

それは…。

「どうして…呼んでないのに…」

 

黒く染まったドラグレッダーだった。

 

「ドラグレッダー!?」「でも、黒い…」

ライアとタイガも、黒いドラグレッダーの存在を疑問に持つ。龍騎が自分達を攻撃するなどありえない。

そう考えているうちに…。

<STRIKE VENT>

他のライダーのバイザーよりも、くぐもった低い音声が流れ、青黒い炎が、黒いドラグレッダーのドラグブレスと共に、ブロバジェルに当たった。

ズガアアアアアアアァ!

「ブババババババババ!」

強い。おそらく、龍騎のドラグクローファイヤーを上回った威力だ。ブロバジェルは一瞬にして燃え尽きた。

「な、何が起こってるの…?」

今までの状況について来れず、戸惑っている龍騎達。

そこに、コツコツと静かだったが、煩いほど響く足音が聞こえた。

振り向いた先には…。

黒く染まった身体、妖しく赤く光る釣り上がった瞳、全身から伝わる強い殺気。

様々な点が異なっていたが、シルエットは間違いなく…

 

「龍騎…!?」

 

仮面ライダー龍騎そのものだった。右腕に黒いドラグクローが装着されているところから、先ほどのドラグクローファイヤーは彼のようだ。

その目を見ていると、彼らは覚えのある感覚に襲われる。

…暴走した龍騎に睨まれたときのような、強い悪寒だ。

「…ッ!」

黒い龍騎は一言も発さず一呼吸置くと、ドラグクローを捨て、ライアとタイガに襲い掛かった。

「お、おい!なんだ!?」「くっ!」

とっさに防御の体制に入るが…

ドガアアァ!ズガアアァ!

「ぐああああぁ!」「わああああぁっ!」

2人の防御の薄い場所をピンポイントに狙い、強い蹴りを放った。

決して、オーディンのような別格の威力ではなかったが、2人には十分すぎるほどのダメージがあった。

「…」

黒い龍騎は沈黙しつつ、2人に近づく。

「やめて!」「あゆちゃん…!」

そこへ龍騎が両手を広げ、立ち塞がった。その姿を見て、黒い龍騎は立ち止まる。

「キミは誰!?どうして、こんなことするの!?」「…」

黒い龍騎は黙ったまま、答えようとしない。その代わりにアドベントカードを引き、ドラグバイザーにベントインした。

<SWORD VENT>

やはり他のライダーとは違う、くぐもった低い音声の後、黒い龍騎の右手にドラグセイバーが収められた。やはり、龍騎と比べて黒い。

それを構え、龍騎に襲い掛かる。

「…ッ!」「うぐっ!?」

<SWORD VENT>

ガキィン!

とっさにドラグセイバーを呼び出し、防ぐ龍騎。少し遅かったらと考え、冷や汗が流れる。

押し返したいが、黒い龍騎の力が強く、それは敵わない。少しずつ防いでいる腕がしびれてきた。限界を感じ、なんとか打開策を考えていた龍騎に向かって、黒い龍騎が初めて口を開く。

「確かにオレは、オマエを望んでいる。…だが」

 

「オレが望む龍騎は…オマエではない」

 

「その声…もしかして、キミ…」

龍騎は、その声に聞き覚えがあった。若干、唸るように低く、声色が違っていたが間違いない。

「…ッ!」「きゃあっ!?」

確信を持たれたと思った黒い龍騎は、龍騎を振り払う。その衝撃と、変身時間が限界に達した事から、あゆの姿に戻った。

しかし、そんなことはお構い無しに再び立ち上がったあゆは、黒い龍騎の肩を持ち、訴えかける。

 

「ねぇっ!竜也くんだよね!?」

 

その言葉を聞いたライアとタイガも衝撃を受ける。

「な…」「あれが…!?」

しかし、黒い龍騎は答えようとしない。先ほどのように、口を硬く閉ざしたまま、沈黙を保つ。

「そこまでだ!」「現れたな、14番目のライダー!」

<<SURVIVE>>

「はあぁっ!」

突如、突風が吹き荒れ、その中からナイトSとゾルダとインペラーが現れた。

ダークブレードを、黒い龍騎に振りかざすが、とっさに避ける黒い龍騎。

<<TRICK VENT>>

ナイトSは、シャドーイリュージョンで3人に分身し、黒い龍騎を取り囲む。

「せぇあぁ!」「たあっ!」「はあっ!」

3人がそれぞれの攻撃を放つ。黒い龍騎はそれらを避けるが…。

ガキィン!

「グゥッ…!?」

サバイブの力は強力。全てをいなせる事はできなかった。一撃でも受ければ、そのダメージは身体に強く残る。黒い龍騎は地面に膝をつく。

「まって祐一くん、この人を攻撃しないで!」

それをみていた龍騎は、黒い龍騎を庇うように立ち塞がる。

「あゆ、どういうつもりだ!?」

インペラーの問いに、答える。

「この黒い龍騎は、竜也くんなの!」

龍騎の言葉で、たった今来た3人は硬直する。

「でも彼はもう、デッキを…」

ナイトSの言葉に答えるように、変身を解く黒い龍騎。

黒い破片の中から現れた、その姿は…。

 

邪悪に笑う赤い瞳の、龍崎竜也だった。

 

「オレを攻撃できないだろう?…今まで、ずっと戦ってきた仲間だからな」

両手を広げ、彼とは思えないような重く響く声で、笑みを浮かべたまま言う。

周りの人は、絶望的な表情で竜也を見ていた。

 

その様子を遠くで見ていたオーディン。

「もう1人の部外者…仮面ライダーリュウガ…」

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                     オレは誰とも手を組まない…

 

最初から…騙してたの!?

 

                     違う…あれは、竜也くんじゃない!

 

もう一度…戦う!

 

                     待っていた…!

 

竜也くん…。大切な人、失った事ある…?

 

 

 

 

第42話「ふれあいの練習曲」

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダーリュウガ

月宮あゆ=仮面ライダー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

仮面ライダーオーディン


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第42話 「ふれあいの練習曲」

その場にいる、全員が絶望している。

目の前にいるのは、苦悩しながらも自分達を支え、今までずっと戦ってきた仲間、龍崎竜也だったのだから。

それが、自分達を狙う14番目の仮面ライダーだった。

「最初から…騙していたのか!?」

声を荒げるインペラー。彼は、竜也の奔走もあったおかげで、過去と決別できた。

だが、それも全て芝居だった。つまり、自分は友と思っていた竜也の手ひらで転がされていただけだった。

それが許せなかった。

嘲笑い、演説するように言う竜也。

「…考えれば分かるだろう?」

「きさまっ!?」「ふざけんなぁっ!」

ゾルダとライアの頭に血が昇り、竜也に掴みかかろうとする。

それを予測していたかのように、デッキを構える竜也。そのデッキは龍騎のモノとは違い、龍のシンボルが禍々しくなり、黄金色のシンボルも黒く染まっていた。

現れたVバックルも、他のライダーのものより、黒ずんだ銀色。デッキをゆっくりと下ろし、目を閉じる。

そして、真っ赤な目を見開く。

「変身…!」

デッキをVバックルに装填すると、辺りには眩い光と黒い虚像が現れ、竜也を包み込む。

その姿は先ほどと同じ、黒い龍騎だった。

近づいてきたライアの拳を受け止め、お返しと言わんばかりに、凄まじい力で殴る。

「…ッ!」

ドガアアアアァ!

「ぐああああっ!」

ガッ!

無様に地面に叩きつけられたライア。それを足で踏みつける。

「北川君!」

ゾルダが彼の名を呼んだ次の瞬間…

ドゴオォ!

「がはああっ!?」

「北川っ!」「久瀬さん!?」

目の前に黒い龍騎が現れ、腹にキックが抉り込まれた。

速い。

今のは彼の動き。龍崎竜也…黒い龍騎の真の力。

「オレは仮面ライダー龍騎ではない。オレの名は…仮面ライダーリュウガ!」

そう宣言するとともに、「仮面ライダーリュウガ」の辺りにピリピリと総毛立つ様な殺気が支配する。

戦う気力がかなり削られたのが分かった。

「デッキを渡したのも、オマエ達を泳がせたんだよ。オレの真の目的のために…!」

「真の目的…?」

タイガが訝しげに聞く。

「本当の「オレ」自身になる事だ。そして…」

リュウガは、あゆを指差す。

「月宮あゆ、オマエを手に入れる」

「ボクを…?」

「オマエも、オレを信じていただろう?」

あゆは警戒している。今まで、竜也には心を許していた。大切な人だった。

だが、彼の本当の心は闇に染まっていた。

7年前の優しかった龍崎竜也はもういない…。

いや…。

「違う…キミは…竜也くんじゃない!」

それでもあゆは、竜也を信じた。今のリュウガは、竜也ではない何者か…。

その言葉に、リュウガの動きが止まる。

「…オレの姿を見ても、そう思うか?」

そのとき…。

 

「やめろおおおおおおおおおぉ!」

 

突如、ある人物が現れ、リュウガに攻撃を仕掛ける。

「待っていた…!」

それを避ける黒い龍騎。しかし、言葉の中には喜びが満ち溢れていた。

「え…!?」「どうなってるんだ!?」

現れたのは…。

「みんな、大丈夫!?」

 

龍崎竜也だった。

 

そして、栞と香里も駆けつけた。

「竜也が…2人!?」

ナイトSは、今の状況が上手く飲み込めない。

「あの黒い龍騎は…だれ?」「あゆさんも竜也さんもいるのに…」

目の前にいるのは、間違いなく竜也。だが、リュウガに変身していた者も竜也であった。

この世界に、同じ人物が2人存在している。

「おま…え?」

竜也はリュウガを睨む…が、彼の姿を見た途端、自分の身体が小刻みに震えていた。

悪寒などではない。

 

恐怖。

 

「どうして…どうして夢の中にいた、おまえがいるんだ!?」

問いただす竜也。

そう。以前、紅渡たちがこの世界に訪れる前に見た悪夢「雪が積もった大きな切り株」の場所にいた「黒い仮面ライダー龍騎」と、全く同じ姿をしていた。

彼が他者に対して、恐怖に苛まれるところなど、この場にいる全員が初めて見た。…リュウガを除くが。

「フン…」

リュウガは笑い、手を翳す。

「ぐああああああああああああああああああああああぁ!?」

「竜也!?」「おい、しっかりしろぉ!」

その途端、今までとは比べ物にならない頭痛が竜也を襲う。他の者が呼びかけるも、その声は届かない。

「さぁ、思い出せ…全ての記憶を!」「あぐァッ…!ぐゥアアあぁ…!」

少しずつ、意識が削り取られていく…。また…大切な仲間を傷つけてしまう…。

必死に抵抗するが、何も出来ない…。

竜也は諦めかけ、意識を手放そうとした。

しかし竜也を信じている少女は、まだ諦めない。

「竜也くんっ!」

あゆは、竜也を抱きしめる。

「お願い、目を覚まして!竜也くん…ボクは、キミのこと…!」

「ガァッ…あ…ゆ…」

 

そうだ…みんなを…あゆを守るんだ!

 

「ぐぅ…ぅぅああああああああああああああああああぁ!」

「…!」

リュウガは、ほんの少しだけ驚いたような仕草を見せた。

竜也が、暴走を振り切ったのだ。

あゆからデッキを取り上げる。

「竜也くん!?」「もう…大丈夫だよ」

優しく微笑み、強い意志のこもった瞳でリュウガを見る。

デッキを翳すと、今までのようにVバックルが現れる。

「変身っ!」

眩い光と虚像が包み込む。それが消えたときには…。

 

この場にいる全員が待ちわびた存在、仮面ライダー龍騎が立っていた。

 

「本当の龍騎…」

リュウガはそれを心待ちにしていたかのように呟く。

しかし何故か、戦おうとはしない。

それどころか戦闘を放棄し、さっさと歩き去っていった。

「ま、まてっ…うっ!?」

龍騎はそれを追いかけようとするが、先ほどの頭痛がダメージになっているのか、身体中の力が一気に抜けた。

その拍子に変身が解除され、地面に倒れ伏し、気絶した。

「竜也くんっ!?」

 

それを見ていたオーディンは、先ほどリュウガである竜也と対峙したときのことを思い出す。

 

彼をオーロラに招いたとき、自分に王蛇とガイのデッキを投げつけた。まるで、手下の死をその形で伝えるように。

「オマエの右腕はもう戦えないぞ、オーディン…?」

「よく知っているな、14番目のライダー。名乗った覚えはないが…」

「オマエもオレの正体を知っているはずだ。ならば、何故オレがオマエのことを知っているか、分かるだろう」

「龍崎竜也の記憶の共有…。自分自身の記憶は共有させないのか?」

「少しずつ、共有させている。オレは「おれ」の精神や記憶、夢に干渉する事ができる」

「やはり、龍崎竜也の暴走の発端はオマエだったようだな」

「…言いたいことは分かっている。「手を組め」だろう?…オレは誰とも手を組まない」

 

リュウガと共に戦う事はできないようだ…。

しかし希望を見出したように、複製されたもう一つのサバイブ「SURVIVE~烈火~」を見つめる。

「彼ならば、あるいは…」

 

 

 

竜也が次に目を覚ましたとき、目の前ではナイトがモンスターと戦っていた。

何故か既に立ち上がっており、龍騎のスーツを纏っていた。

「はあっ!」

(助けないと…!)

すぐにでも、彼は動き出そうとするが…。

(な…!?)

身体が、動かない。

いや、動かないのではない…。

(身体が誰かに操られている!?)

自分の意志とは別に、身体が動いていた。

龍騎は地面を蹴り、あろうことかナイトに攻撃を仕掛けた。

ガッ!

「ぐあっ!」

(祐一っ!)

「竜也、何のマネだ!?また暴走しているのか!?」

(ちがう、おれじゃない!早く逃げて!)

そう言いたかったが、声が出ない。思考以外の全てが操られていた。

「暴走?…笑わせるな」

それどころか、勝手に口が言葉を話す。

竜也自身は拒絶しているが、身体はそれに反し、ナイトに攻撃を加える。

ガッ!ドガッ!

「竜…也…がはっ!」

(やめろ!どうしてだ!?)

全く言う事が聞かない。次に龍騎はこの状態ではありえない言葉を口に出した。

「変身…!」

次の瞬間、デッキから黒い血管のような模様が現れ、全身を走る。それが龍騎の身体全てを包み込む…。

「ハアアァ…!」

(そんな…!?)

 

その姿は、先ほど見た黒い龍騎「仮面ライダーリュウガ」に変化していた。

 

「ゼェアァ!」

ズガアアアァ!

「うおあああああああぁ!」

自分の力とは思えないほどの強力な蹴りで、ナイトを吹き飛ばし、アドベントカードを引く。

(っ!?)

そのカードを見て、血の気が引いた。

黒い龍の紋章…。

(やめろ!やめるんだああああぁ!)

しかし抵抗できず、されるがままにベントインする。

<FINAL VENT>

「グオオオオオオオオオオオオオォ!」

「ハアアアアアアアァ…」

ドラグブラッカーが、リュウガの辺りを舞う。

自分の構えよりも、落ち着いて、かつ体に凄まじい力を入れた構え。

そして宙に浮き…左足を前に突き出す。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

黒い炎と共にナイトへ突撃する黒い「ドラゴンライダーキック」。

人々を救うための切り札となるはずのものが、友を傷つける…いや命を奪う最悪の切り札になった瞬間だった。

(やめてくれええええええええええええええええええええええええええええぇ!)

ズガアアアアアァ!

「ぐあああああああああああああああああああああぁ!」

ナイトがそれに触れた瞬間、彼の命が消えていくのが分かった…。

 

 

 

あれから半日。

竜也の家の中。

未だ気を失い、うなされている竜也を、あゆが見守っている。。

「竜也くん…?」

突如、目をカッと見開く竜也。

「やめろぉ…!やめろぉ!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

目覚めたと思うと、錯乱したかのように暴れまわる。

「竜也くん!どうしたの!?」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

あゆが必死に止めようとするが、彼にそんなことを気に出来なかった。

それどころか、あゆにむかって拳を振り上げる…。

それほどに、友を傷つけるということが許せなかった。

「うぐっ…!」

彼女が身を守ろうと、両手で顔を防いだ姿を見た途端、一気に落ち着きを取り戻し、あの「リュウガとなってナイトである祐一の命を奪った出来事」が夢である事が分かった。

「あゆ…」

自分の体は、もう自分でコントロールできない。いずれ、あの黒い龍騎に変化し、大切な人を傷つけてしまう。

龍騎あることから逃れられないとするなら…。

 

(あゆに嫌われるんだ…そうしないと…!)

 

「あゆっ!」「きゃっ!」

意を決した竜也は、あゆの手を強引に掴み、ベッドの上に押し倒した。

「竜也…くん?」

少し怯えながら、自分の名前を呼ぶあゆ。

自らの中に渦巻く強い罪悪感。

「…っ!…くぅっ!」

それを振り払い…。

 

衣服を剥がす。

 

あゆは信じられないといった表情だった。瞳からも大粒の涙が流れる。

さらに大きな罪悪感が竜也を襲うが、それさえも振り切り、彼女の身体に触れようとする。

…それ以上の行動を、竜也がすることは出来なかった。

しかし、あゆは優しく微笑む。

「…いいよ?」「…!?」

あゆは、かなり硬く緊張していた身体の力をゆっくりと抜く。

「ちょっと怖いし、恥ずかしいけど…うん、平気…。だから…いいよ」

両手を広げて、竜也を待つ。

「…どうして…」「え…?」

竜也は顔を伏せ、聞こえるか聞こえないか分からないほどの声を絞り出す。

「どうして嫌がらないんだよ!?拒絶すればいいじゃないか!」

どう整理すればいいのか分からない。自分が初めたことなのに。

「もしかして…ボクから嫌われようとして…?」

「そうだよ!君に危害を及ぼすか分からないからっ…!なのに…!」

 

「言っちゃったら、意味がないよ」

 

あゆは、今までのような子供っぽい仕草ではなかった。それは、どこか全てを悟った大人のような優しさがあった。

「それに、言わなかったとしても、ボクは竜也くんのこと嫌いになれないよ」

そう言って、竜也を抱きしめる。

「よかった…。あのとき、もう一人の竜也くんが来て、竜也くんは昔と変わっちゃったとおもって…。でもあれは竜也くんじゃなくて…。本当の竜也くんは…やっぱり、あたたかくて…。だから大丈夫だよ」

「あゆ…」

 

竜也は龍騎である事から逃げられない理由が、ようやく分かった気がした。

 

一時間ほどした後…。

2人は窓を開け、並んで夜空を見上げていた。

「もう大丈夫?」「…多分。さっきはごめん…」

竜也は、先ほどのあゆに対する行ないを悔やみ、反省していた。

結局、その場で事は治まったが、彼女に対する罪は消えない。

「平気。それにボク、竜也くんなら、いいよ?」

竜也のほうを向いてニッコリと微笑むが、その頬は少し赤い。竜也も同様だ。

「…この街に戻ってきて、たくさんの出来事があったね…」

再び夜空に視線を戻し、この街での出来事を回想する。

「うん…本当に…」

今となりにいる、あゆと再会した事。

魔物と戦う舞と祐一、一緒に戦ってくれた潤や久瀬、彼らの周りにいた香里、栞、佐祐理、秋子と出会い。

一時は復讐に囚われていたミツルとサトル。それを変えようと奔走した名雪、真琴、美汐。

様々な世界を旅する、士、夏海、ユウスケ、大樹、栄次郎、鳴滝。

『Wの世界』からやってきた、翔太郎、フィリップ、照井。

『オーズの世界』からやってきた、映司、アンク、後藤。

「オリジナルの仮面ライダー」である、紅渡、剣崎一真、野上良太郎、天道総司、ヒビキこと日高仁志、乾巧、津上翔一、そして中心的存在の五代雄介。彼らを支えるモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ハナ、ナオミ、オーナー。

この街に再来して、様々な出会いがあった。

そして同時に、辛い出来事もあった。

ミツルやサトルとの望まない争い。

敵として、須藤、芝浦、高見沢、鎌田、浅倉、オーディンとの辛い戦い。

NoMenの香川、仲村からの敵視。

かつて敵として、争う事になった紅渡達から告げられた「竜也はこの世界の崩壊の元凶」だということ。

仲間を傷つけてしまった事。

そして、自分の目の前に現れた、もう一人の自分。

ただ、希望も見出せた。

ミツルとサトル、NoMen、オリジナルの仮面ライダー達との和解。

城戸真司が自分のことを想い、見えない場所で戦っている事。

この日々を通じて生まれた、仲間との強い絆。

 

これまでの戦いや自分の行動は、決して無駄ではなかった。

 

あゆに全てを打ち明けた。

記憶が中途半端に抜け落ちていた事、悪夢の事、リュウガと呼ばれるもう一人の自分は、おそらく失った記憶を全て知っている事。

「…竜也くん。このカチューシャのこと、覚えてる?」

不意に、あゆが竜也に自分の頭につけてある「赤いカチューシャ」を外して、問いかけてきた。

「これ?」「キミから、もらったモノだよ」

竜也は、自分は女の子にカチューシャを贈る趣向があったんだと考えながら、そのカチューシャを見つめるが…。

「思い出せないよ…」

やはり、記憶から抜け落ちていたものだった。

「あはは、実はボクも良く覚えてないんだ…」

困ったように笑い、その場の雰囲気を和ませるあゆ。

「そっか…。でもいつか、思い出して見せるよ。約束だからね」

「うんっ!じゃあ、指きり!」

2人の約束は、また1つ増えた。

 

次の日。

舞と佐祐理の病室に、ミツル、真琴、美汐、祐一、久瀬が来て、昨日の事を伝える。

「14番目の仮面ライダーの名前は「リュウガ」。信じられないかもしれないけど、正体は…竜也だった」

「竜也が…!?」「そんな…あの竜也さんが…」

少なくとも彼女達にとっては、竜也が「最初の仮面ライダー」であった。だが、彼は同時に「最後の仮面ライダー」でもあった。

「あぅーっ!祐一!なんか、舞と佐祐理が勘違いしてるわよぅ!」

「たしかに語弊があるぞ、相沢。川澄、倉田、確かにリュウガは竜也だった。だが、おれ達の知っている竜也ではない。竜也は…この世界に2人存在している」

「じゃあ、わたし達の知っている竜也さんは…?」

「今までどおり、わたし達の大切な仲間です。昨日、仮面ライダー龍騎として復活しました」

彼女達は。美汐の言葉で取り敢えずの安堵をした。…一時的なものであるが。

なにしろ今、王蛇という大きな脅威が一つ去ったというのに、さらに大きな脅威が待っていたのだから。

 

名雪とサトルは以前、竜也から聞いていたNoMenへの連絡先(香川が教えたもの)に調査を依頼し、香川自身から返事が来た。

 

‘’虎水君、水瀬君。私共の方でも報道があってから調査を行ないました。しかし、めぼしい情報は一切入手しておりません。今のところ、一番大きな情報は貴方達の言う「仮面ライダーリュウガ」の変身者が「もう一人の龍崎竜也」という事でした。引き続き、NoMen本部にも情報を提供し調査を行ないます。

P.S.「オルタナティブ・トルーパー」の1~10号機が完成いたしました。部隊を編成すると共に、彼等にも調査をするように命じます。             香川ヒロユキ’’

 

落胆したのは名雪。

彼女は仮面ライダーのことについて、あまり協力ができないことを悔しがっている。最近、母である秋子の看病ばかりで、その気持ちをさらに助長させていた。そんなときに思いついたのが、香川たちに連絡を取り、調査を依頼する事だった。

「う~…やっぱりそうだよね…。わたし達の方が竜也君に近いもん」

「でも、香川さんたちも手伝ってくれるから。なゆちゃんは何も心配しなくて良いんだよ?」

「ごめんねサトちゃん、何も出来なくて…」

困ったような表情で謝る名雪に、サトルは優しく微笑んで頭を撫でる。

「なゆちゃん、元気ないよ?落ち込んでたら、秋子さんも心配するから。ふぁいと、でしょ?」

「…うん!」

 

その日の夕方。

竜也とあゆは外を歩き、探し物をしていた。

「結局、見つからなかった…」「うん…」

今まで、幾度となく探してきたが、手がかりすらつかめない。

「きっと、いつか見つかるよ。おれも手伝うから」

竜也が励ますように言う。

「うん、ありがと。…あ、ここ、覚えてる?」

あゆが指差す先には、駅前の公園があった。

この場所は、この町に再来したときから良く通ったし、なにより7年前、あゆと待ち合わせをしていたときに、よく使っていた場所だ。夢の中の出来事だと思うが、それは過去の事だと確信している。

「ここは覚えてる。7年前、よく待ち合わせしたね」「そうそう!」

あゆはそこにあるベンチに手を置き、雪を払う。

「毎日、先に来るのはボクで、いつも竜也くんを待ってたんだよ」

そう言って雪を払ったベンチに座り、昔のように怒って見せた。

「…遅いよ、竜也くん!」

「はは、ごめん。ちょっと遅れちゃった…」

「ちょっとじゃないよ、たくさんだよ!」

昔のように、申し訳なさそうに言い訳をして見せた。

それに対しても、彼女は頬を膨らませる。

「…えへへ」

一通り昔の再現をした後に、あゆが微笑む。その姿を見て、竜也の鼓動が早くなる。

完全に自覚した。

 

そっか…。おれ、あゆが好きなんだ…。

 

「どうしたの?」「あ、いや、なんでもないよ…」

あゆの問いかけに対して、上手く誤魔化し、彼女の隣に座る。

少しの間があって、あゆが口を開いた。

「こうしてると、昔の事を思い出すね…」「うん…」

じっと下斜め前を見つめているあゆ。

「7年前、お母さんがいなくなって、一人ぼっちで泣いていたボクを、竜也くんが声をかけてくれたんだよ」

「うん、そのことも覚えてる」

さらに少し間があって、あゆが少し声のトーンを落として話し始めた。

 

「竜也くん…。目の前で大切な人、失った事ある…?」

 

「え…?」

「ボクは、あるよ。なにもすることが出来なかった…。ボクに出来た事は、大切な人の…おかあさんの名前を、ただ何度も声が枯れるまで呼び続ける事だけだった…」

声が震えている。彼女の目を見ると、今にも零れ落ちそうなほどの涙を溜めていた。

「もう…あんな思いはしたくないよ…」

その言葉は、強く竜也の心に突き刺さった。

自分も下手をすれば、命を落としかねない。そんな戦いをずっと続けている。

あゆは支えてくれていただけじゃなかった。自分のことでこんなにも苦しんでいた。

「竜也くん、そんな経験ある?」

「おれは…」

父さんと母さんを、目の前でモンスターに殺された…。

そう言おうとしたところで、口は止まった。

 

その記憶は偽り。本当にあった出来事ではない。

 

それどころか、失う対象である両親は最初から存在していない。

城戸真司も生きて戦っている。

辛い戦いを続けていたつもりだったが、竜也自身、大切な人を失っていなかった。

「…ないよ。おれは何も失ってなかった。父さんも母さんも、最初からいなかった」

悲しくても涙が流せないのは、本当に悲しい出来事がなかったからなのだろうか…。

彼女の悲しみを共有する事はできない。竜也は立ち上がり、ベンチから離れた。

「竜也くん、まって!」

それをあゆが引き止める。

竜也の手を、暖かいミトンの手袋が包む。あゆの手だ。

振り向くと涙を一筋流したあゆが、自分のことを見つめていた。

「あるんだね、失ったモノ」

「え…?」

「思い出。ボクなんかより、ずっと辛いよね…。最初からいなかったなんて…。ぬくもりを…知らなかったなんて…」

そう言った後、あゆは何かを決意したような表情に変わる。

「竜也くん…。ボクの顔、見ないで…。きっと、涙でボロボロだと思うから…だから、目を閉じて…」

「うん…」

その言葉を聞いて、ゆっくりと目を閉じる。

「ボクも…目を閉じるから…」

あゆも目を閉じる。

竜也は少しだけ体を低くし、あゆは少しだけ背伸びをする。

ゆっくりと…2人の唇は近づく…。

 

雪化粧をした日溜まりの街で、2つの影が1つに重なった…。

 

 

 

それを、もう一人の竜也がじっと見ていたことを、2人は知らない。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回

 

                    あゆは…幸せなんだろうか…?

 

竜也くんが、ボクを好きでいてくれるなら…

 

                    見てみたいな、あゆの学校

 

ボクも、ずっと竜也くんのことを好きでいられると思う!

 

                    急ごう。また降りそうだよ、雪

 

もう、会えないと思うんだ…

 

                    あゆうううううううううううううううぅ!

 

 

 

 

第43話「別れの夜想曲」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

龍崎竜也(?)=仮面ライダーリュウガ

仮面ライダーオーディン


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第43話 「別れの夜想曲」

この時間が、1秒だったのか、1時間だったのか、よく分からない。あゆも竜也も…。

ただ、ある程度の時間があって、2人は離れた。

ボーっとする2人。

「あっ…!」

そして、あゆが意識を現実に戻したように、顔を真っ赤に染め、困ったような表情をして、一歩下がった。

「そ、その…ボク…ごめんなさいっ!」

「ど、どうして謝る必要があるんだよ!?」

竜也もハッとして、あゆから少し下がる。

くちづけなど2人にとっては初めてのことであり、お互いどう対処すればいいのかが分からない。

「だってボク、竜也くんの気持ち、無視してこんなこと…」

「おれは…」

 

「あゆが好きだ!」

 

「えっ…!」

「7年ぶりに、おれと再会して…おれが龍騎になって、危険な事に巻き込まれることになっても、暴走してバケモノみたいになっても、あゆはおれのこと、拒絶しなかった。それどころか、おれのことを支えてくれた。「仮面ライダー」とか「バケモノ」としてじゃなくて、おれ自身を見てくれた。それが嬉しかった!だから、君の事が好きだ!あゆは…おれのこと、好き…?」

自分の想いを全てぶつけた後、彼女の気持ちを聞き返す。

「ボクも…ボクも竜也くんのこと、ずっとずっと好きだったよ!」

一呼吸置いて、目を強く閉じて半ば叫びかけるように告白する。

「竜也くんがボクのこと、好きでいてくれるのなら…ボクも、ずっと竜也くんのことを好きでいられると思う!」

あゆはそれだけ言うと、顔を両手で隠す。

彼女もまた、竜也のことを想う人だった。

「よく分からないけど、きっとそういうものだって、ボクは思うよ…」

2人の心は、今ここに真の意味で通った。

「えっと…あはは、何言ってるんだろ、ボク。似合わないセリフは、言うものじゃないね…」

「ううん、そんなことない。おれも同じ気持ちだから」

あゆの手を優しく握り、微笑む。

「7年ぶりに再会できたんだ。これから7年分、思い出を作らないとね」

「竜也くん…。うん!」

あゆが竜也の胸に飛び込み、それを抱きしめ返す。

 

その姿を、嫉妬に燃えるような赤い瞳の竜也が見つめていた…いや、睨んでいた。

踵を返し、彼は離れていく。

「偽りで塗り固めた分際で…」

 

「ただいま」「ただいま、みんな!」

その後、竜也とあゆは家に帰りつく。いつもどおり、ミツルと真琴が出迎えてくれた。

「竜也、あゆ、おかえり!」「遅かったな。探し物か?」

「うん、そんなところ。見つからなかったけどね…」

そう言って、2人は顔を見合わせる。

だが、双方が互いの顔を見ると、先ほどのことを思い出し、顔が紅潮してしまう。とっさに目を逸らす。

竜也の目線の先には、ミツルと真琴がいる。2人はエプロンを着ていた。

「あれ…ミツル、真琴ちゃん、もしかして…」

「そうよ、あたしとミツルで料理!2人は待ってなさい!」「…既に皿を2枚割った奴が言うな」

「あうーっ!なによ!」「事実だろうが…」

早速、ケンカを始める2人。ただ、こんな日が続く事がミツルや真琴にとっては喜ぶべき事なのかもしれない。

「まぁまぁ…じゃあ、今日は2人に任せるよ。楽しみにしてるね」

竜也はそう言って、自分の部屋に向かった。

 

「ニャ~」

「真司さん…。おれ、誰よりも大切な人が出来ました」

自分の部屋で、ピロを撫でながら、天井を見上げる。

以前、城戸真司が言った言葉。

 

「人は、ただ一人では、どんなに強くても、何も変えられない。支えてくれたり、信じてくれる人がいれば、どんなに弱くても、何かが変えられる。その人が誰より大切な人なら、なおさらだ」

 

彼の言葉を、今なら強く信じられる。

「もっと…強く、いられる気がします」

ピロの撫でていた手を止め、ふと考える。

「でも…あゆは、幸せなんだろうか…?」

いま、自分は間違いなく幸せだと思う。だが、あゆはどうだろう?

あゆは、竜也を好きでいるとは言ったが、それは彼女にとって枷にはならないのだろうか。心配な気持ちで押しつぶされそうにもなるだろうし、命の危険に晒されることもある。

例え彼女が幸せだと言い張っても、それは本当の幸せなのか?

そんなとき、五代雄介の言葉も思い出した。

 

「もっと、我侭になっても良いと思うな」

 

「…もうちょっとだけ、自分の我侭、通してもいいですよね、五代さん」

暫くぶりの肩の荷が下りた笑顔を、誰に見せることなく、つくる。

そんなとき、ベランダのほうからノックをする音が聞こえる。

不思議に思いながらも、カーテンを開けると…。

「はわわ…」「あゆ!?」

そう、雪まみれになったあゆが体を震わせていた。

すぐに戸を開けて彼女を中に入れ、毛布をかける。

「うぐぅ…寒かったよぉ…」「上着も着ないで、どうしてだよ…!」

「…竜也くんとお話したくて…」「だからって、外を通る事ないだろ!?」

風邪でもこじらせたら大変だ。さすがに竜也は、あゆを叱り付ける。

「だって…ミツルさんと真琴ちゃん、すごく楽しそうだったから…」

邪魔をしたくなかったようだ。確かにここに来るためには、台所を通る必要がある。

「…バカだね」「うぐぅ…竜也くんにバカにされるなんて…」

あゆは優しい。それでいて、ちょっと自己犠牲的。でも怖がりで、臆病で、泣き虫で。

そんな彼女が愛おしく思えた。あゆの頭に手を置く。

「でも、そんなところを好きになったんだから、おれもバカなのかも…いや、バカだな」

「本当に?」「うん、本当」

彼女の額に、そっと口付けをするため、顔を近づけようとするが…。

「竜也、ご飯よ!ほら、バカあゆも!」

「うぐぅ!真琴ちゃんまで!」「はいはい、今いくね!」

真琴が呼んだため、直後に起こったあゆとのケンカを止めることも踏まえ、食卓へ向かう。

 

「…」

そのころ別の竜也は、一枚のアドベントカードを見つめている。

それは…

 

「SURVIVE~烈火~」だった。

 

次の日…。

「結局…手がかり無しだな…」「もう一人の竜也なんてなぁ…」

「彼は、恐らく用心深い。そう簡単に尻尾は見せないだろうね…」

祐一、潤、久瀬が百花屋で話をしている。

リュウガの手がかりを追っていた。だが、まるで掴めない。もともと存在していないかのように。

「栞ちゃん、竜也のこと心配してる」「だろうな…あいつ、竜也のこと気に入ってるからな…」

「でも、龍崎君は月宮君のことを…。彼女のことを思うと、胸が痛い」

潤がふと思い出したように言う。

あれから栞は、祐一達とは行動を別にしてリュウガを追っている。竜也の苦しみの大きな要素だからだろう。

 

「見つからないね…」

今日も、あゆと一緒に探し物をしたが、全く見つからない。

ベンチに座る。あゆは竜也の手の上に、自分の手を置く。

「きっと、今は見つからなくてもいいのかも…。今はすごく幸せだから…幸せな間は、見つからなくていいのかもしれない…」

そう言って、竜也に微笑んで見せた。一方竜也は、ふと思い出したことがあった。

「…そっか。じゃあ、おれの探し物、良い?」

「え…どんな?」

あゆの言葉に、すこし企み笑いをして答える。

「見てみたいな、あゆの学校。それがおれの探し物。報酬として、たいやきどう?」

「やった、いいよ!」

これが2人を引き裂く事になるとは、知る由もなかった…。

 

「きっと、見つけます…!」

栞は、様々な場所を探している。ただ、全くと言っていいほど、手がかりはない。祐一達と同様だ。

「おねえちゃん、どう…?」「ダメよ。全く持って」

姉である香里も協力してくれているが、結果は変わらない。

だが…それは、突然やってくる事もある。

「…龍崎君?」

目の前に現れたのは、竜也。下を向いて、ゆっくりと近づいてくる。

「ううん…おねえちゃん、違う!」

栞は香里の言葉を否定し、竜也に近づいた。彼女は、確信がある。

竜也は、あんなに影を落とした雰囲気ではない。

「あなたは…竜也さんじゃありませんね…?」

その言葉に、顔を上げる竜也。目を閉じていたが、ゆっくりと開く。

 

赤かった。

 

「…正しくもあり、間違いでもある」

本当の竜也が見せるとは思えないほど、邪悪な笑みを浮かべる。

ガッ!

「あっ…!?」

突如、栞の首を掴み、強い力で押さえつける。

「オレは「おれ」であり「おれ」ではない」

「えぅ…けほっ…!」「やめなさい!」

栞を救うべく、香里は無謀とわかっていても立ち向かう。

「邪魔だ」

ガッ!

「きゃぁっ!」

開いていた手で、香里の頬を強く叩く。

「言うなれば、オレは「おれ」の欠片が成長したモノ…」

「かけ…ら…?」

「奴が何故、長い間、孤独に戦い続けていても、あの性格を保っていると思う?」

意味不明とも取れるが、なにか意味深でもあるような言葉を並べる竜也。

「奴は欠けているんだよ」

 

「よせ!」「やめるんだ!」

 

「来たな…」

竜也が呟くと、現れたミツルとサトルが彼に襲い掛かった。だが、まるで先を読んでいるかのように栞を離し、すばやく避ける。

その隙に、香里が栞を抱きかかえ、その場から少し離れる。

「栞、しっかりしなさい!」「おねえちゃん…」

「あうぅ、大丈夫…?」「栞ちゃん…!」

後から名雪と真琴も来て、栞を抱き起こす。

同時に、ミツルとサトルが赤い目の竜也を睨む。

「おまえ…リュウガ!」

「斉藤ミツル…。「おれ」の古い友。まず、オマエから潰す…!」

そう言って彼が取り出したのは、黒いデッキ。

「変身…!」

バックルに装填すると、黒い虚像が竜也を包み、その姿をリュウガへと変えさせた。

「あいつはおれの苦しみを解放した。今度は竜也の代わりに、おれ達がおまえを倒す!」

「ミツル君、行こう!」

「「変身っ!」」

タイガとインペラーが構えを取り、リュウガと対峙する。

しかし、リュウガは全くうろたえず、むしろ喉を鳴らしながら笑う。

「…オマエ達、王蛇サバイブの餌食になるところだったようだな」

そう言って、デッキからアドベントカードを引く。

「今回は間違いなく、サバイブの餌食になるだろう」

そのカードは初めて見る絵柄だったが、炎を背景に黄金の翼。確信が持てる。

辺りには、業火が覆いつくし、雪を溶かし、街を焼き尽くそうとしている。

カードを翳しただけで、この余波が現れるほどのエネルギーを有したアドベントカードは一つだけ。

「烈火の…」「サバイブ!?」

リュウガは左腕を突き出す。すると炎に包まれ、ブラックドラグバイザーは、龍召機甲「ブラックドラグバイザーツバイ」に変化した。

「美坂達、早くここから離れろ!」

<<SURVIVE>>

インペラーが忠告しているうちに、リュウガは「SURVIVE~烈火~」をブラックドラグバイザーツバイにベントインする。

彼は見る見る炎に包まれ、それが消えたときには、雄々しくも禍々しい姿に変わった。

「仮面ライダーリュウガサバイブ」。

 

病室で、舞が外を見つめる。

「舞、どうしたの…?」

佐祐理が彼女を不思議に思い、話しかける。

「闇が…大きくなった」

彼女の「能力」の欠片が、何かを伝えている。

「ミツルが…危ない!」「舞っ!?」

舞は体に無理を言わせ、病室を出て行く。

 

あゆの学校を目指して、歩き続ける。2人の手には、出来立てのたいやきが握られている。

「竜也くん…ボク、怖いんだ…」

「怖い?」

唐突に、あゆが不安げな表情で呟く。

「今ボクは、本当に幸せ。でもそれが全部夢で、いつか消えちゃうんじゃないかって…」

以前、自分が龍騎であるがために、彼女を安心させる言葉は言えなかっただろう。

だが、今は言える。今の竜也は、大切な人がいるおかげで、自分自身を強く思えるから。

「…安心して。おれはこの雪が溶けて、春になっても、夏や秋が来て、また冬になっても、ずっと、あゆと一緒にいる。約束する」

横を向くと、あゆは涙を流していた。

「うぐ…ぐすっ…」「ほら、泣かないで。せっかくのたいやきが、しょっぱくなるよ?」

涙を拭きつつ、強がりな言葉を言う。

「うぐぅ…いいもん、懐かしい味だから」

「…急ごう。また降ってきそうだよ、雪」

竜也は、あゆの手を引いて歩いた。

 

ドガアアアアアァ!

「ぐおおおおあああああああああぁ!?」「うわあああああああぁ!」

「サトちゃん!」「ミツルぅ!」

サバイブの力は圧倒的過ぎた。2人は全く歯が立たず、ただされるがままに攻撃を受ける。

リュウガSは、倒れ伏した2人に確実な止めを与えるため、ゆっくりと近づく。

このまま立ち向かい続けても、恐らく全滅。

ならば…。

「…ここまでか。サトル、真琴達を連れて逃げろ。おれがあいつを止める!」

インペラーは苦肉の策を言う。ただ、それは自分を犠牲にする事を意味する。

「ミツル君!?」「斉藤君、何言ってるの!?」

「死ぬつもりですか!?」「どうして、あなただけが!?」

タイガを押して、真琴達の元に向かわせる。

「いいから行け!あいつは恐らく、おれ達全員が逃げたところで、追ってくる。そもそもあいつの今回の目的は、おれと言っていた。ここはおれが適役だ!」

「ミツル、だめよぅ!」

真琴だけは、インペラーに近づいて離れようとしない。

「行け!死にたいのか!?」「それじゃあ、ミツルが死んじゃうわよぅ!」

このまま説得していれば、いずれリュウガSの魔の手によって、仲間が死んでしまう。

時間はもう無い。

「くそ…止むを得ん!」

<ADVENT>

「キキイィ!」「ギイイィ!」

「ガゼール達、サトル達を連れて行け!早く!」

契約モンスターは、主のライダーに絶対服従する。ギガゼールやメガゼール達は、タイガや真琴達を抱えて、走り去った。

「ミツルぅ!ミツルうううううう!」

「ミツル君!くそ、離せ!」「やめてっ!まってよ!」

「斉藤君、やめなさいよ!」「あなたが死んだら、真琴さんは!」

5人の姿が見えなくなると、インペラーは嘲笑にも見える笑みを仮面の中で浮かべて言う。

「勘違いするな、おれは死なない。真琴と結婚すると約束したからな…!」

「別れは済んだか?」

振り返ったときには、リュウガSが目の前にいた。

ドゴオオォ!

「ごがあああああぁ!」

強い勢いで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

「あぁ…済んだ。…ただ、おまえとの別れだがな…!」

「…妥協した復讐鬼が」

再び、リュウガSの豪腕がインペラーに襲い掛かる。

 

あゆが案内するとおりに道を進んでいく。

だが、街からはどんどん離れ、雑木林がある獣道になっていく。

「あゆ…本当に…」

「あるよ…」

竜也があゆに問いかけるが、あゆ自身もどこか不安げな表情だ。

雑木林もなくなるどころか、どんどん険しくなり、やがて森の中に入っていった。

「こんなところに…学校が…」

「絶対にあるもん…!」

自分に言い聞かせているようにも見える。ただ、竜也はあゆを信じるしかなかった。

「あ、あそこ…!あそこが…ボクの…!」

森の中を通り抜けて、見えてきた開けた土地。

そこには…。

 

百花屋にいる祐一達の前に、舞が現れる。

「舞、おまえ!?」

「祐一…ミツルが…死んじゃう…!」

 

ズガアアアァ!ドガアアァ!

「ぐがあぁ!がはあっ!」

リュウガSの凄まじい速さと威力を備えた拳が、何度もインペラーの体に打ち付けられる。

普通ならば意識を失い、下手をすれば絶命してもおかしくない攻撃を、何度も受けても、立ち上がる。

「…どうした…本物の竜也は…もっと良い一撃だったぞ…?」

苦し紛れの挑発にも見えるが、インペラーの言葉は正しい。

以前のミツルが受けた竜也の拳は、心を感じた。自分のことを本当に想ってくれる、真心のこもった拳だった。

ただ、リュウガSの拳は違う。

インペラーであるミツルの命を奪うために振るう、無感情な拳だ。

「うおおおおおおおおぉ!」

自分も、最大の力を持って蹴りを放つ。

だが残酷な事に、リュウガSは防ぐ事も避ける事もしない。

…この攻撃自体が無意味なのだ。

ガッ!

「ぐっ…!?」

お返しとばかりに、インペラーの首を掴んで高く持ち上げる。

「強がりか…相変わらずだな」

「おまえ如きに…相変わらずなど…言われたくない!」

ドゴオオオオオオォ!

「がっ…!?」

リュウガSの拳が、再びインペラーの胸にぶつかる。

一瞬だけ呼吸が止まり、直後に気を失いそうなほどの苦痛が全身を走り、地面を転がる。

もう一度リュウガSを見つめると、彼は一枚のアドベントカードを握っていた。

「終わりだ…!」

<<FINAL VENT>>

「グオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

音声と共にドラグブラッカーが現れ、その姿が「ブラックドラグランザー」に変わり、リュウガSの辺りを舞う。

避けるために、身体中にムチを撃ち、インペラーは立ち上がる。

だが、それは遅すぎた。次に前を向いたときには、黒い炎を纏ったリュウガSが視界を覆うほどに近づいていた。

「…真琴、やっぱり結婚はダメだ…。他を当たってくれ…」

 

<<ADVENT>>

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

凄まじい爆発が起こったが、リュウガSは手応えを感じなかった。

「…逃がしたか」

そう、インペラーは取り逃がした。

サバイブを使うライダーを出し抜けるライダーは…。

「相沢…!?何をしている!リュウガが追いかけてくるぞ!?」

「ったく…カッコよく死ぬつもりだったのか!?」

同じサバイブを使うライダー、ナイトSだけだ。

ダークレイダーのバイク形態で、すばやくインペラーを拾ったのだ。

舞によって、ミツルの危機を知らされ、助けに来たらしく、なんとか救うことが出来た。

ダークレイダーを止めた先には、真琴達もいた。

「もう…!ミツルのバカ、バカ、バカ、バカ、バカぁ!」

「ミツル君、もう絶対にあんなことしないでよ!僕とは相棒だろ!?」

「本当に、北川君と言い、斉藤君と言い…」「死んだら、誰かが悲しむんですよ!?」

「でも良かったよ…。斉藤君、平気だったから…」

変身を解いたミツルは、自分の行動がどれだけ軽はずみな行動をしたのかを思い知った。

「お願い、ミツル…一人にしないでよぅ…」

「すまない、真琴…」

それだけ言って、ミツルは意識を失う。

 

竜也とあゆが辿り着いた先には…。

学校はなく、ただ大きな切り株のある開けた土地だった。

「ここって…」

竜也は見た事がある…いや、夢の中で見ただけの話なのだが。

夢の中で、リュウガと対峙した場所と全く同じだ。

そして…7年前のあゆと過ごしていた夢で、自分があゆに教えた「とっておきの場所」。

「どうして…ボク…ここ知ってる…学校…?」

あゆが、ゆっくりと切り株に近づいていく。

「だってボク、ここにいるよ…?それなのに、どうして…!?」

雪に足が埋もれる事も気にせずに膝をつき、泣き叫んだ。

「ボク、ここにいたらいけないの!?」

「あゆ…!?」

「嘘だよっ…そんなの嘘だよ!」

あゆはいつも背負っている、羽の付いたリュックを下ろし、ふたを開ける。

彼女の記憶では、ここには教科書が入っているはず。

「だって、この前も行ったよ!みんなと、お勉強して…それで…!」

だが、リュックの中身は…

 

何もなかった。

 

「あぁっ…!?」

「あゆ、どうしたんだ!?」

竜也があゆの背中を支えて、落ち着かせようとする。

しかし、あゆはゆっくり立ち上がり、リュックを放って歩き去った。

「…ボク、探さないと…」

「ま、まってよ!」

彼女の軽いリュックを抱え、追いかける。

 

かなり長い時間探し続けていたが、あゆは見つからない。

辺りはすっかり夜になり、このままでは見つけられないかもしれない。

なにか強い焦燥が竜也を支配している。

ふと、目を凝らした先に、あゆを見つけた。

「あゆっ!」

彼女は地面に座り込み、土を掘っている。

「何やってるんだ…!?」

手は赤く、血が滲んでいる。それでも無心に、ただ掘り続けている。

「何やってるんだよ!?」

「探し物だよ…」

彼女がこんなに暗い様子を見たのは、7年ぶりだと思った。だが、そんなことは気にしていられない。このままだと、あゆは凍傷になる。

「探し物って…ここに埋まってるの?…なら明日、出直そうよ!?」

「ダメだよ…だって…」

酷く悲しい笑みを湛えて、涙を溜めながら、あゆは竜也のほうを向く。

 

「夜は…明けないかもしれないよ…?」

 

そう言って、再び土を掘り始める。

「あゆ…」

竜也は自分のコートを脱ぎ、あゆにかける。

「竜也くん…?」

「どうしても、探さなきゃならないんだろう?」

そして、竜也も地面を掘り始める。

「…だったら2人で見つけて、早く帰ろう。ミツル達も待ってるから」

「…うん」

どれくらい続けていたか分からない。ただ、2人の体に沢山の雪が積もるほど、没頭していた。

「結局、見つからなかった…」

あちこちに2人の努力の証がある。竜也はあゆの頭の雪を払う。

「また来ようよ。何度だって、手伝うから。えっと、あゆのリュックは…あった」

そう言って、近くに置いていた、あゆのリュックを取りに行く。

「ごめんね、竜也くん」

「良いよ、これくらい」

 

「もう、会えないと思うんだ」

 

「え…!?」

身体中から、血の気が引くのが分かった。

「…せっかく、7年ぶりに会えたのに…ボクのこと、好きでいてくれたのに…」

「あゆ…?」

「ごめんね…竜也くん」

その声が、遠くから聞こえたような気がした。

「な、何言って…!?」

振り向いたとき…

「あゆ!?」

 

あゆはいなかった。

 

頭の中に、あゆの声がリフレインする。

「せっかく、7年ぶりに会えたのに…ボクのこと、好きでいてくれたのに…」

「ごめんね…」

自分の心が、無限の闇に引きずり込まれたように感じた。

 

「あゆうううううううううううううううううううううぅ!」

 

キィィン…キィィン…

 

「うおおオオオオおおおおオオおオオあああアアアアアあアァ!!!!!」

 

モンスターの反応を聞きつけ、潤と久瀬がその場所に駆けつける。

「なんだ…!?」「あれは…」

そこには、大量のモンスターの残骸と…

残骸の山の頂上で獣のように佇み、赤い目を悲しく光らせている龍騎だった。

手には、あゆのリュックが握られていた。

 

 

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

次回!

 

                    おれのせいだ…

 

竜也さん…

 

                    彼女さえ…守れなかった…

 

これは、罰なんだ!

 

                    知ってますか…?

 

 

 

 

第44話「日溜まりの街」

 







キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

龍崎竜也(?)=仮面ライダーリュウガ

五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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第44話 「日溜まりの街」

オーディンから渡されたサバイブ…。リュウガはそれをずっと見つめていた。

記憶に残る、あの言葉…。

 

「使え。複製だが、サバイブには変わりない」

「そんなものは必要ない。オレはオレ自身の力で「おれ」になる」

 

「欠片如きが、本体に敵うと思っているのか?」

 

「…」

「貴様にも分かりきっている筈だ。いくら増大したとは言え、欠片は所詮、欠片だ。パズルのピースはどんなに大きくても、その1ピースだけでは意味を成さない」

ガシャァン!

リュウガは沈黙したまま、近くにあった鏡を破壊する。

「オレはもはや、欠片と言う枠組みには治まらない。それを超越した存在…。オレ自身が本体だ!」

そう言って、サバイブのカードを毟り取るように掴む。

「だが、オマエの言うとおりだ。だからそれを否定する。このカードで…!」

 

そう宣言して手にした、最強のアドベントカードの一つ。

「いつか変わる…いや、もう変わっている。変わり始めている…」

そういったリュウガである竜也の表情は、笑っていた。酷く楽しそうに…。それでいて邪悪に…。

 

あゆが行方知れずになってから数日が経った。

2011年1月3日。

ミツルが戦線離脱したのと入れ替わるように舞が戦線復帰。

リュウガやオーディンは、未だ目立つ行動をしていない。

ガキィ!ドガァ!

「はあっ!だあっ!うおおおおあああああああああああああぁ!」

あれから龍騎は、まるで自分の命を削るかのようにモンスターと戦い続けている。

「よせ竜也!」「やめて…!」

これ以上、龍騎を放っておけば、彼が狂ってしまいそうだった。

ナイトとファムが彼を羽交い絞めにして、止めようとするが…。

「離してくれっ!あゆが居なくなったのは、おれのせいだ!だからっ…!」

2人を突き飛ばし、既にデッキから引いたアドベントカードを強く握り締める。

「これは、罰なんだ!」

<FINAL VENT>

「はあああああああああああああああああああああああああぁ!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「たあっ!だああああああああああああああああああああああぁ!」

ズガアアアアアアアアアアアアアァ!

魂を吐き出すような雄叫びと共に、ドラゴンライダーキックを浴びせる。

今までよりも威力が高くなっているような気がする。

辺り一面を炎で覆いつくし、モンスターの命を奪った。その命はドラグレッダーに吸収され、糧とされる。

「ガアアアアアアアアアアアァ!」

「はぁ…はぁ…」

変身を解き、地面に膝をつく竜也。

体を酷使しすぎている。いくら戦闘慣れしていたとしても、彼にも限界はある。

「ごめん…あゆ…」

それでも、戦わなければならなかった…いや、戦いたかった。

戦う事で悲しさを紛らわせていたかった。

 

「やっぱり、あいつは…」

先程の事を、祐一と潤から聞いたミツル。

彼は佐祐理の隣の病室に入院し、復帰もかなりの時間を有すらしい。

…サバイブの力の恐ろしさを、身を持って感じた。

佐祐理は退院できていないものの、病院内を動けるほどには回復しており、ミツルの病室で話を聞いていた。

「あゆがいなくなって、相当ショックみたいだ。まるでモンスターみたいに戦っている」

「おかしいと思っていた」

ミツルが竜也のことを信じていたとは思えない言葉が出てくる。

舞も不自然に思い、理由を聞く。

「竜也が…おかしい?」

「竜也は孤児院にいたとき、決して強いヤツじゃなかった。明るくはあったが、もともとケンカは弱かったし、明るい性格もどこか不自然だった。どんなにケンカで負けても、悲しい事があっても、次の日はそれを忘れたみたいに明るかった。今考えると、不気味な程に」

「どういうことだよ?」

祐一がミツルの言葉の真意を尋ねる。少し溜息をついて答える。

「ようやくわかった。その不自然さは、あいつの演技だった訳だ。ついにその限界が来たんだろう…」

「竜也さんが…ずっとお芝居を…」

あの優しい笑顔と穏やかな表情、そして誰にも負けないような強い意志を持った彼は、本当の彼ではなかった。

佐祐理だけじゃなく、この場にいる全員がおどろく。

ミツルが話し終えたと同時に、真琴がドアを開けて入ってきた。

「ミツルぅ!」

ガバッ!

「がはっ!?」

入ってくるなり、ミツルに抱きつく。彼は傷が癒えておらず、軽いとは言え真琴の体重はかなりのダメージとなった。

「今日もいっぱい、いーっぱい、お話しするわよ!」「は…はな…れ…」

ミツルが真っ青になっている事に気づき、慌てて離れる真琴。

「あ、あうぅ…ごめんなさい…」

「おれ達は、もう一度リュウガを探す。香里と栞が彼自身から聞いた話だと、リュウガは竜也の何かを知っているらしいからな」

ミツルは戦えない。傷が癒えるまでの間は、ただ彼らが奔走するのを見守るしか出来ない。

真琴の頭を撫でた後、祐一たちに懇願した。

「頼んだ。あいつの苦しみを…開放してやってくれ」

「はちみつくまさん」

 

 

 

夢…

 

夢に終わりがなくなった日…。

 

いつものように…

 

いつもの場所で…

 

ずっとずっと…

 

ただ待つことしかできなくて…

 

それしかなくて…

 

だから…

 

今も待ち続けている…。

 

 

 

竜也はとある店で、じっと何かを見つめている。

「むぅ…」

目の先には、いろんな髪飾りがあった。

実は、明後日に当たる1月7日は、あゆの誕生日なのだ。だから、そのプレゼントを決めるため、こうやって品定めをしている。

「女の子の趣味って、分かんない…」

ただ、竜也に妹や姉はいない。この時点では気付いていないが、母親さえも…。

なので、女の子にどんなものを贈ればいいのかが全くわからないのだ。

「ヘアピン…いや、ちょっとつまんないかな…。だったら、このリボン…でもあゆって、いつもリボンつけてるし…」

 

「あ、竜也くん!」

 

「おわっ!?」

後ろから突然、声をかけられ、その声の主があゆだったために、竜也は心臓が飛び出そうになるほど驚く。

「うぐぅ…そんなに驚かなくても…」

「ご、ごめんごめん!いやぁ…もっと肝が座んないとね!あは、あははははははは…」

必死に取り繕ってみるが、不自然なのがバレバレだ。

「えっと…何見てたの?」

「い、いやぁ…その…あれは…そう!お母さんが髪留め買ってこいって言われて!」

そう言って、すぐ目に付いた、安い髪留めを手に取った。

「これで、おつかい終了!」

…これをあゆに渡すわけにも行かず、315円が無駄になった。

「ねえ、もし良かったら、これから手伝って欲しい事があるんだけど…」

竜也の服の袖を掴んで、あゆが頼む。

「ん、いいけど…」

 

そう言って、辿り着いた先は…。

「ここに埋めるの…?」「うん、未来の自分か、誰かのために」

そう言って、以前渡した「天使の人形」をビンに詰めて、土の中に埋めた。

「目印も何もないから、見つかるかな…」

「見つかるよ。誰かが必要とするなら、きっとね!」

そう言って埋めた、この場所…。

 

ここは、後のあゆが必死に土を掘り起こしていた場所だった。

 

そして、夜は明けていく…。

 

 

 

2011年1月4日。

ベッドの上でゆっくりと目を覚ました竜也。

「もしかして、あゆの探し物って…あの人形…?」

気が付くと、体が動いていた。あゆの探し物を見つけるために…。

 

数日前のあの場所に向かう最中…。

 

「遅いですよ、竜也さん」

 

聞きなれた声だった。

「あゆっ!?」

振り向くが、そこにいたのは…。

「こんにちは」

栞だった。

「そうだよな、あの娘は「さん」なんてつけないもんな…」

いつも、ストールを羽織って動きにくそうな格好だが、今日はいつもより厚着で、動く事に事欠かないような格好であった。

「あゆさんの探し物ですよね…?」

悟ったような表情で、栞は質問をする。

「よく分かったね」「えへへ、観察力はあるんですよ?」

ニッコリ微笑んで返す栞。そして、真剣な顔つきになって一歩、前に出る。

「わたしにも、お手伝いさせてください」

彼女の気持ちはすごくありがたい。だが…

「…うれしいけど、これはおれとあゆの約束なんだ。おれだけで見つけたい」

そう言って通り過ぎようとするが、彼女に腕をつかまれ、引き止められる。

「あゆさんばかり、見ないで下さい…」

かすれたような声だったが、はっきり聞こえた。

「せめて…あなたは一人じゃないって、気付いてください…。そうじゃないと…あなたを信じた人の気持ちは、どこに行けばいいんですか…?」

彼女は泣いていた。自分のために涙を流してくれる人がいる。

大切な人が、近くに居過ぎたために、感覚が麻痺しているのだろうと竜也は思った。

「…そうだよね…おれはもう一人じゃないのに…。あゆがいなくなって、まるで独りぼっちになったみたいに、殻の中に閉じこもって…」

竜也は、あまり明るくないが少し微笑んで見せ、栞の手を両手で握った。

「ありがとう栞ちゃん。一緒に手を貸してくれないかな?」

「…はい!」

 

サトルは血相を変えて、リュウガを探し回っていた。

「ミツル君を、あんなに傷つけて…竜也君も苦しめる…。絶対に許せない!」

同行していた久瀬は、ふと思いとどまる。

「彼を止めないと、これから大変な事になるのは分かっているが…」

リュウガを止めなければならない。

だが、相手はサバイブを所持している。言い換えれば、ナイトSとほぼ同等か、それ以上。

この2人はおろか、こちらがサバイブを使わなければ7人がかりでも勝てるか怪しい。

さらに現在、竜也に続いた実力者のミツルが戦線離脱中。竜也は今、無理に戦わせるわけにも行かないので、実質5人だ。

勝率は高くはない。

「それでも止めなきゃ!絶対に!」「…あぁ!」

サトルと久瀬は改めて決意を固め、リュウガの捜索を再開する。

 

暫くして、竜也は栞と2人で、あゆと分かれた場所に辿り着いた。

「ここに…埋まってるんですか?」「うん…」

「よぉ!探しものなら、おれ達も手伝うぜ!」「2人だけじゃ、大変でしょ?」

後ろから声をかけられ振り返ったら、潤と香里が立っていた。その手には大きなシャベルが握られている。

「もしかして…後を付けてきて?」

「おう、気配を消すのは、お得意だからな!」「2人が気付かなかっただけよ。さ、早いとこ見つけましょ?」

「お姉ちゃん…北川さん…」

こうして、4人で探し物を見つけるために奮闘を開始した。

 

久しぶりに家に帰ってきた秋子は、名雪と一緒に夕飯を作っていた。

「今日は、おいしいもの沢山作りましょう」「うん、わたしもそれ位しか出来ないから…」

名雪は、せめてサトル達が戦いの疲れを癒せることを必死にやっている。

 

「おい、青髪女…トラ坊主達が危ねぇぞ…!」

 

ふと声がした。それは聞きなれない声だ…少なくとも名雪にとってだが。

「…?」「どうしたの、名雪?」

振り返るが、声の主らしき姿はない。それどころか、名雪と秋子以外に、この家に誰かいる気配はない。

しかし、声だけは届く。

 

「急いで…!」「このままやと、マズいでぇ…!」「早く!」

 

「おかあさん、少し出かけてくる!」

そう言って、名雪は走り出した。

取り残された秋子は、名雪が残した調理中の食材を見つめて、呟く。

「…あの子達は、ずっと戦っているのですね…。きっと…そうですね…?」

そして天井を見上げ、ここにはいない、ある青年の名を呼ぶ。

 

「城戸さん…」

 

一方、サトルと久瀬は、リュウガに遭遇していた。

「探したよ…リュウガ!」「君を…止める!」

目の前には赤い瞳の竜也が、後を向きながら笑みを湛えて立ち尽くしていた。

「次は…オマエ達だ…!」

そう言うと同時に、デッキをVバックルに装填しながら振り向く。

「変身…!」

掛け声と同時に、リュウガへと姿が変わった。少し顔を上げた瞬間、仮面の奥の目が妖しく光る。

「「変身っ!」」

2人もタイガとゾルダに姿を変えて、臨戦態勢に入る。

「はああっ!」「せぇあぁ!」

 

一つの場所に絞って、ずっとシャベルを掘り進める4人。

ガッ…!

「あ…!」

そのうち、栞がシャベルの手ごたえに不自然さを感じ、手で掘り進めると、程なくして小さなビンが出てきた。

「竜也さん…これじゃあ…!」

別の場所を探していた竜也が、その声に反応し、その方向を見る。

「…あった」

栞から手渡され、土を払う。

それはボロボロだったが間違いない。7年前、あゆに贈った「天使の人形」だった。

「うおぉ!?栞ちゃんに手柄、盗られたぁ!」「黙ってなさい!」

ゴスッ!

「ぐはっ!?」

潤は香里によって黙らされ、地面に這い蹲る。

「でも…もうボロボロだ…」

悲しそうに呟く竜也。

その人形はあちこちに土埃がつき、羽は片方がもげ、天使のわっかは取れていた。

彼の手にある人形を持って、栞はポケットの中から簡単な裁縫道具を取り出した。

「本当に何でもあるんだな…栞ちゃんのポケット。まるで、ドラえ…」「ふんっ!」

ガスッ!

「ぐへっ!?」

潤、2度目の撃沈。

「簡単になら、修繕できます。わたしに任せてください」

 

ガキィン!

デストバイザーとギガホーンの攻撃は、意図も簡単に防がれた。

「壊せ…!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

ドガアアアアアアァ!

「ぐああぁ!?」「うわああああぁ!」

リュウガの言葉に反応するかのように、ドラグブラッカーが何処からか現れ、タイガとゾルダを弾き飛ばす。

地面を転がり立ち上がると、辺りは炎に包まれていた。

<<SURVIVE>>

その音声に振り向くと、目の前にいた者はリュウガSに変わっていた。

「…久瀬さん、勝てると思います?」「難しいだろうね」

「だが、無駄に足掻くだろうな」

続きの言葉を予想していたかのように、リュウガSが呟く。

ハッとして前を見ると、目の前にブラックドラグバイザーツバイを突きつけたリュウガS

が居た。

ズダアアアアアアアアアァ!

「があああああああああああああああぁ!」「うわあああああああああああああぁ!」

至近距離から凄まじい威力の攻撃を受け、壁に叩きつけられ、地面を転がる。

「次の一撃で…終わる」

トドメを刺すべく、引き金に指をかけるリュウガS。

そのとき…

<<SURVIVE>>

別の音声が聞こえ、辺りに風が巻き起こる。

正体はナイトSだ。少し離れた建物の屋上に佇み、ファムも一緒にいる。

「リュウガ!」「あなたを…これ以上、野放しにはさせない!」

同時に飛び降り、地面に着地すると、リュウガSに2人で斬りかかる。

「フンッ!」

ガキィ!

その攻撃はリュウガSにとっては避けがたく、防ぐと言う形に治まった。

「今だ!」

<SHOOT VENT><FINAL VENT>

「ガルルルルルルル!」

ナイトSの言葉で、ゾルダはギガランチャーを構え、タイガは冷気を拳に纏う。

「ウオオオオォ!」

ズガアアアアアアアアァ!

「ぐうっ…!」「ああああっ!」

デストワイルダーがリュウガSに襲い掛かるが、彼はそれを、ナイトSとファムを振り払う事で避ける。

ナイトSにとっては、強いとは言え大ダメージではなかったが、ファムは違う。

それでも、リュウガSに一瞬の隙を作った。

「いけええええええええぇ!」「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

ズダアアアアアアアアアァン!ドガアアアアアアアアアアアアアァ!

ギガランチャーの弾丸はリュウガSに向かって発射され、タイガのクリスタルブレイクが同時にぶつかる。

間違いなく直撃だ。

だが…

 

簡単とは言ったが、見事に天使の人形は修繕された。

「栞ちゃん、ありがとう。本当に」

「良いですよ。竜也さんのお役に立てて、嬉しいです」

竜也に微笑みかけ、人形を手渡す。

「じゃあ、わたし達は帰るわね」「ちょ、香里~!香里さぁん!」

香里は、2人の様子を見て少し微笑んだ後、歩き去っていき、潤はその後を追いかける。

少しの沈黙の後…。

「竜也さん…あゆさんのこと…」「え…?」

小さな声だったので、聞き返すと…。

「あゆさんのこと…まだ好きですか?」

少し不安げに尋ねる栞。

「…うん」

俯きながら答える竜也。これは間違いない本心だ。

「わたしって…卑怯ですよね」「卑怯…?」

彼女は自嘲気味に笑い、後ろを向く。

 

「わたし…竜也さんが好きです」

 

「栞ちゃん…」

「わたしがどうして、竜也さんのお手伝いしたと思います?」

その声はなんとなくだが上擦っているように聞こえる。

「あゆさんがいなくなった今、もしかしたら、わたしに振り向いてくれるかもしれないって思ったからです…」

人形を見つけた喜びで、沈んでいた気分が少し元に戻ったからか、彼女の言葉が強く、そして重く圧し掛かった。

「自分でも、悪いって思います。それでも竜也さんに、わたしのこと見ていて欲しいです…」

そう言って、栞は振り返る。その瞳からは大粒の涙が流れていた。

「あゆさんを好きなままでいいです。竜也さんにとって、わたしは、あゆさんの代わりでいいです。だから…わたしを見てください。わたしを、竜也さんの支えにして欲しいです」

一歩ずつ近づく栞。彼女は自分の思いの全てをぶつけた。

しかし…

 

「君は「月宮あゆ」じゃない」

 

竜也はきっぱりと言い放った。

「竜也さん…?」

「君の気持ち、正直に言えばすごく嬉しい。久しぶりに胸があったかくなった。でも、君はあゆの代わりにはなれない。君は「美坂栞」だから。言われたとおり、おれはあゆが好きだ。この想いは多分、捨てられないし、この想いを残して、君と一緒にはいられない…。そうしてしまうと、最後には君を傷つけてしまうから…」

悲しい返事だった。

だが、その言葉の中には、本当に彼女を想う、真心が篭っているように栞は感じた。

そして、久しぶりに強い意志のこもった瞳の竜也を見た。

「おれは2人の女の子を幸せにできるほど、強くないよ…」

ただ、最後の言葉は悲しげな声だった。

「…優しいですね、竜也さん」

「優しくない、弱いだけだよ」

栞の言葉を強く否定する。

「竜也さんが…弱い?」

「…今から、あゆにも言わなかった、本当のことを話すよ」

一呼吸置いて、真実を話し始めた。

「おれは祐一や潤達より弱い。おれの判断が間違ってなければ、みんなはおれを強いと思い込んでるんだよね?」

栞には、意味が分からなかった。

龍騎である彼が…1年もの間、一人で戦い続けた彼が、弱い筈がない。

「これは全て演技。みんなに不安を与えないため、みんなが怖がらないように…強いフリをしているだけなんだ」

淡々とだが、すこし熱っぽく話し続ける。

「そして、いつの間にか、本当のおれが分からなくなった。偽った自分以外の自分が、分からなくなった。そして結局…彼女さえ守れなかった」

竜也は遠くを見つめる。その先には恐らく、もう一人の自分がいると感じて。

「多分…あの「仮面ライダーリュウガ」は、おれが分からなくなった「本当のおれ」なんだと思う」

 

キィィン…キィィン…

 

「栞ちゃん。君は偽ったり、見失ったりしないで。「本当の美坂栞」を」

そう言い残して、ポケットに人形を仕舞い、反応のするほうへ向かっていった。

取り残された栞は、下を向いて少しだけ悔しそうに、そして悲しそうに呟いた。

「そう言えるあなたを…わたし達が弱いと思えますか…?」

 

<<GUARD VENT>>

「終わりか…?」

リュウガSはとっさに、ブラックドラグランザーによる防御壁「ファイヤーウォール」を発動したため、無傷だった。

これほどにまで策をめぐらせても、リュウガSには傷一つさえつけられなかった。

タイガとゾルダにいたっては、ダメージが積み重なった事があり、遂に変身がとけ、気絶してしまった。

「マジかよ…!?」「そんな…!」

残されたナイトSとファムは絶望に打ちひしがれた。

しかし、それをリュウガSは待ってくれない。

<<SHOOT VENT>>

「ゼェアアアアァ!」

ズガアアアアアァ!

「ぐあああああああぁ」「きゃああああぁ!」

3人、しかもナイトSも同時に、ブラックドラグバイザーツバイから放たれる「メテオバレット」で吹き飛ばす。パワーの限界か、ナイトSは通常のナイトに戻る。

気絶したままの2人も壁に叩きつけられ、痛々しい出血が見られる。

少しずつリュウガSが近づいてくる。ナイトSでさえ敵わない脅威が、彼らの命を奪うために…。

「ダメなのか…!」

「やめて!もうやめてよ!」

言葉と共に現れたのは、名雪。

4人を庇うように立ち塞がり、両手を広げる。

その言葉に意識を取り戻したサトル。

「なゆ…ちゃん…!」

手を伸ばし、名雪を離れさせようと思ったが、身体中にダメージがあるため適わない。

「退け」

リュウガSは静かに、そして強く言い放つ。だが、名雪はそれに屈することなく一歩前に出た。

「退かない…!」

「ならば…潰す!」

名雪の拒否に対して、持っていたブラックドラグバイザーツバイから黒い炎を宿した刃「ドラグブレード」を呼び出し、ゆっくりと振り上げ、そして下ろす。

 

「はああああああぁっ!」

 

突如、2つの影がリュウガSに攻撃を仕掛ける。とっさに避けるリュウガS。

その姿は…。

「みんな!」「苦戦中か?」

竜也と、途中で合流した潤だ。すぐにデッキを構え、臨戦態勢に入る。

「「変身っ!」」

龍騎とライアは、リュウガSに向かって拳を握る。

が、当のリュウガSは戦う意志を見せない。変身をとき、赤い瞳の竜也に戻る。

「…」

じっと龍騎を見つめ、すぐに去っていった。

「…明日に見る夢で、オマエは全てを思い出す…」

少し後ろを向いて、そう言い残して…。

「おい、逃げるのか!?」「潤、とりあえず、みんなを!」

リュウガSには目もくれず、ナイトS達を抱き起こす龍騎。

「ようやく復活したって感じだな…」

変身が解除された祐一は軽く笑う。

「…いや、また演技することになっただけだよ…」

そう言った龍騎の仮面の奥の表情は、誰にも分からない…。

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                    そんな…

 

あれって…!?

 

                    うそだ…

 

さぁ…総てを受け入れろ…!

 

                    あゆが…

 

そんなの…信じない!

 

 

 

 

第45話「真実」

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

龍崎竜也(?)=仮面ライダーリュウガ

仮面ライダーオーディン



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第45話 「真実」

2011年1月5日。

サトルと久瀬が病院に搬送され、ミツルの病室と同じ部屋で安静と言う事になった。

結果的に怪我は深刻であるが大事には至らず、退院もミツルと同じ時期くらいになるようである。

だが、それは戦力がかなり減った事と同意義。

現時点で、龍騎、ナイト、ファム、ライアの4人のみしか戦えない状況だ。

この日の早朝に佐祐理は退院し、この病院には居ない。

病室に名雪がやって来る。

「サトちゃん、久瀬さん、ミツルさん…」

「水瀬か」「あ、なゆちゃん。よく来てくれたね」「こんにちは、水瀬さん」

少し前に、真琴は竜也につれて帰られたので今はおらず、祐一、舞、潤は、明日また来ると言って、サトルと久瀬を連れてきて早いうちに帰った。

「ごめんね…わたし、何にも出来なくて…」

名雪は病室内の3人に謝る。

理由は一つ。こんな状況でも、彼女にとって何一つ力になれないことが悔しく、申し訳なかった。

だが、謝られたサトル達は違う。

「そんなことないよ、すごく嬉しかった。君は、あのリュウガサバイブを目の前にして逃げなかった。僕らのこと、大事に想ってくれてるって…」

「あぁ、サトルから聞いた。おまえにも根性があったようだな。ただの寝ぼすけかと思っていたが、違うらしい」

「正直、君が居なかったら、僕等は死んでいた。本当に感謝している」

そう、彼女は立派に2人を守ったのだ。

あのとき目の前に居たリュウガSは、今まで見たライダーの中でも、オーディンに匹敵しても不思議ではないほどの強さを秘めている。現にナイトSを含めた仮面ライダー4人がかりで歯が立たなかったのだ。

そんな脅威的な存在に対しても、全く退くことなく立ち塞がった彼女は、まさに勇者と言えるだろう。

「自信を持って。君は強いんだよ、竜也君に負けないくらいに」

「そうなんだ…」

名雪は、竜也に負けないと言う言葉で、自分は強いのだと自覚する事ができた。

彼らにとって、それだけ竜也は強い存在だという認識があるのだ。

本人を除いて…。

 

水瀬家に竜也は訪れていた。

「久しぶりですね、竜也さん」

「えぇ、ご無沙汰してます」

秋子が呼んだのだ。本人曰く「久しぶりに竜也の顔が見たい」との事。

彼女は、竜也の顔を覗き込んで微笑む。

「ちょっと…大人っぽくなりましたね」

「大人?」

「…残念ですが、悪い意味です。何かを失った…悲しい顔をしてます」

どこか見透かされたような事をいわれる。勘が鋭いのか、それとも…。

「…知ってますか?北国の木の年輪は、はっきりしているそうです。冬の寒さに、じっと耐えて…。そうして年輪は増えてゆく。そうして育った木は、強く、たくましく成長します」

窓の外の景色を見つめて、少し息を吐く。

「秋子さん…」

「人も同じです。悩んだり苦しんだりするから、強く…そして優しくなれると、私は思います。もし…誰かと約束をしたのなら、ちゃんと守ってあげてください」

頬に手を当てて、今までと変わらない優しい笑みを浮かべ。る

「あなたは…この街の誰よりも強く、誰よりも優しいと思いますよ、竜也さん」

 

「またの名を、仮面ライダー龍騎」

 

本来なら飛び跳ねるほど驚いたはずなのだろうが、今回は少し驚いた程度に治まった。

「知ってたんですか…?」

「城戸さんも知ってますよ。貴方がこの街に来るずっと前に、出会ってました。たぶん、祐一さん達も仮面ライダーなのでしょう?」

ここまで知っているならば、もう隠す必要はないだろう。

「…はい」

「やっぱり…でも、わたしは見守る事だけにします。きっと…あなた達が何かを変えてくれることを信じて…」

 

それから半日。

竜也は家に帰り、部屋で人形を見つめていた。

「…そういえば明後日、誕生日だったね」

そう、1月7日は月宮あゆの誕生日。

ぜひ祝いたかった。だが、祝う人はいない。

「探し物を見つけられたのに…」

「竜也!」

バタンと大きな音と共に、扉が開かれ、真琴がズカズカと入り込んだ。

「あたしは、明日が誕生日なのよ!?」

「え…真琴ちゃんが…?君は名前以外、昔の事を覚えてないんじゃ…」

確かに真琴は、ミツルと出会う前は「ものみの丘」に住んでおり、名前以外の何も覚えていなかったはず。無論、誕生日も知らないはずだ。

それに本人は知らないが、真琴はもともと妖狐である。

「全部思い出したのよ。唐突に!」

彼女は自分の過去の真実を語り始めた。

「あたしはものみの丘の中にいる、ちょっとだけ頭の良い狐…。この姿はミツルの本当の初恋の人の姿なの。忘れてたのは、そのことを思い出したくなかったから…。竜也も同じじゃない?」

「おれも?」

「そうよ。あなたも嫌な事を忘れたくて、自分から忘れたんじゃないの?」「…おれが、嫌で忘れた?…あゆとの思い出を…?」

どこか引っかかる。7年前、あゆと最後に出会った日のことをまるで覚えていない。

それが何かと関係しているかもしれない。

 

昨日、リュウガが言っていた言葉。

 

「明日に見る夢で、オマエは全て思い出す」

 

「次に眠ったら、おれはそのことを思いだすのか…?」

「思い出すのは、あなたがその記憶を、嫌な思い出と思わなくなったときじゃないの?」

真琴はキョトンとしながら竜也に聞き返す。彼女は夢のことを知らない。だから、彼が記憶を取り戻すきっかけは、気持ちの部分が重要ではないかと思っていたからだ。

「嫌な…思い出…」

そう呟きながら、竜也は布団を被った。

「竜也?」

「おれは、あゆとの思い出を嫌だなんて思わない。だから眠る。夢の中で…思い出してみせる」

目を閉じて、眠りに着こうとする。それは夢の中で幾度となく見てきた「7年前の過去」を見るため。

ただ、それは少し怯えて、確かめたいと思うからであった。

(あゆとおれに…何があったんだ?)

ふと思い出して、起き上がる竜也。

「真琴ちゃん、誕生日プレゼントは何が良い?」

「う~ん…竜也はいい。ミツルから欲しいの!」

嬉し恥ずかしそうに、モジモジしながら呟く真琴。

「そっか。じゃあ明日、ミツルに会いに行こうか」

そう言って、再び眠りに着いた。

 

栞は家でじっとしていた。その様子を見た香里は、彼女の両肩に優しく両手を置く。

「えへへ…フラれちゃった…」

「栞…」

「分かってた。竜也さんがあゆさんのことを好きなことも、こんな事をしているわたしが間違ってる事も…」

机に突っ伏して、肩を震わせる栞。

「でも…やっぱり悲しい…」

「いいのよ、泣いても。こんなときくらい、姉の胸を借りなさい」

香里はそれだけ言うと、栞の頭を包み込んだ。

「お姉ちゃん…」「…大丈夫、あなたは強いわ。きっと乗り越えられるはずよ」

 

オーロラの中から、竜也達の居る世界を見つめているオーディン。

オーディンが居るこの世界は、既に崩壊した『龍騎の世界』。以前、城戸真司とオーディンがいた世界だ。

もう、ここに居るオーディン以外、この世界で生きている命はない。

彼はここを拠点として活動している。

かつて、13人の仮面ライダーが「願い」を叶えるために殺し合った。

オーディンは、自ら脱落を宣言した。

 

故に勝ち残った最後の一人…城戸真司、仮面ライダー龍騎。

 

彼が何を願ったのかは分からない。願ったかどうかさえ分からない…。

 

その願いは、総てを叶える力があると思っていたが、違った。

正体は、大量の人間の命の塊。そして、叶えられるのは人間1人分の命を延命、または復活させるのみだった。

それだけでは足りない。

オーディンの野望には、まだそんなものでは足りないのだ。

 

「…動くか」

そう言って振り向くと、鏡のオブジェ「コアミラー」から5枚の絵が落ちる。このコアミラーこそ、『龍騎の世界』の仮面ライダーの要になっている物体だ。

本来担う役割のうち1つは、もう担っていないのだが…。

そこから5体のハチ型モンスター「バズスティンガー・ビー(以下、Bビー)」「バズスティンガー・ブルーム(Bブルーム)」「バズスティンガー・ワスプ(Bワスプ)」「バズスティンガー・ホーネット(Bホーネット)」「バズスティンガー・フロスト(Bフロスト)」が現れる。

オーロラを飛び越え、竜也達の居る世界に向かった。

「このモンスターは私には操れん。上手く足止めになると良いが…」

 

 

 

夢…

 

夢の中にいる…。

 

喧騒が聞こえる…。

 

遠くから…

 

近くから…

 

さざ波のように絶え間なく響く…。

 

忙しそうに歩く大人たち…。

 

ベンチに座る小さな姿に…

 

気づくことなく…。

 

 

 

1月7日。

今日はあゆの誕生日。

ラッピングしたあゆの誕生日プレゼントを買って、あゆのいる「2人だけの学校」へと向かった。

「おそいよ、竜也く~ん!」

手を振りながら、大木の太い枝に腰掛けているあゆ。

相変わらず、高い場所なので、こっちの目が眩みそうだ。

「あゆ~!今日、誕生日だったよね!?」

「あ…!」

あゆは心待ちにしていたように、驚きと喜びが混じった表情で口を手で塞ぐ。

 

この時点で、あゆの両手は枝から離れた。

 

強い風が吹き、少し目を開けられず、下を向く竜也。

「だからね、誕生日プレゼ…」

そう言って、プレゼントを取り出し、あゆのいた場所を見ると…。

 

あゆがいない。

 

「え…?」

次の瞬間、鈍い音ともに、何かが下に落ちた気がした。

認めたくはない。見たくもなかった。

だが、そこを見ると、現実が残酷に竜也に襲い掛かった。

 

落ちたのは、あゆ。

 

「あゆっ!?」

プレゼントを投げ捨てて、あゆの元へと急ぐ竜也。

「た…つや…くん」

「しっかりして!いま、病院に連れて行ってあげるからね!」

混乱して、何をどうしたらいいのかが分からない。

「いたい…よ…すごく…」

「喋っちゃダメだ!」

目に涙を溜めたあゆが、彼を安心させようと、必死に言葉を紡ぐ。

「落ち…ちゃった…。木登り…とく…い…だったのに…」

「得意でも失敗する事はあるから…だから、平気だよ!」

そして、あゆの瞳が虚ろになり、涙が流れる。

「あれ…?…いたく…なく…なった…。ボク…どう…なるの…?」

「大丈夫だから!絶対に僕が助けるから!」

そう言う竜也も、涙をボロボロと流している。

あゆは、その涙を拭おうと手を動かそうとした。

「あ…からだも…うごか…ないよ…」

「僕が連れて行ってあげる!だから、動かなくても大丈夫だよ!」

「でも…う…ごけない…よ…。もう…あそべ…ないね…」

彼女には、恐怖が渦巻いているのだろうか…。それとも、悲しいのだろうか…。

「竜…也くん…また…ボクと…遊んで…くれる…?」

「何度だって遊ぶよ!あゆに誕生日プレゼントだって…用意したんだよ!?」

そう言って、プレゼントを投げたと思う場所を見るが、投げ捨てた場所を思い出せず、見つけられない。

それでもあゆは、嬉しそうに微笑んだ。虚ろな瞳のまま…。

「うれ…しい…。約…束…ゆび…きり…」

しかし…。

「あは…手…も…うごかな…い…。これじゃ…ゆびき…り…できない…」

竜也はあゆの手をとり、彼女の小指に自分の指を絡ませる。

「ほら、これで指きりだよ!約束!」

「うん…約…束…だよ…」

目を閉じて、涙を流しながらも、精一杯の笑顔を見せるあゆ。

 

「ほら…一緒にきらないと…指きりにならないよ…?」

 

そう促すが、彼女は動かない。微笑んだまま…。

あゆは…。

全てが分かった竜也は、さらに涙を流し、あゆの胸に顔をうずめる。

そして、空を仰いで…。

 

「あゆううううううううううううううううううううううううううううううぅ!!!」

 

悲しい雄叫びをあげた…。

 

 

 

夜は…明けなかった…。

 

 

 

2011年1月6日。時刻は、日付が変わってすぐだった。

「…っ!」

布団から跳ね起きるように、上半身を上げた竜也。

「そんな…これが…本当の記憶…!?」

この夢が間違いでないのならば…

 

月宮あゆは死んでいる。

 

「でも…それじゃ…!?」

今まで見ていた、あの「月宮あゆ」は一体…。

「嘘だ…あゆが…そんなの、信じないっ!」

あゆが置いていった、羽が着いた空っぽのリュックがある。

彼女が存在した、確たる証拠。天使の人形もつけてある。

それを手に、外へと飛び出した。

あの切り株のある開けた場所…。夢の中でリュウガと対峙した場所…。

「2人だけの学校」に向かって。

玄関を開けると、美汐と佐祐理がたっていた。

「竜也さん…」

「美汐ちゃん、佐祐理さん、真琴ちゃんをお願いします。おれには、やらなきゃならない事がありますから!」

「え…あの!」

2人の返答を待たずして、竜也は走り去る。

「倉田先輩…」「あはは~、大丈夫ですよ。竜也さんですから」

彼女の言葉は、美汐にとっても何故か信頼できるものだった。

「分かりました。じゃあ、真琴を…」

 

 

彼の目的とする「2人だけの学校」には、もう一人の竜也が居た。

自分の持つ、リュウガのカードデッキを握り締めて。

「さぁ…総てを受け入れろ…!」

 

キィィン…キィィン…

 

反応を聞きつけ、祐一と舞と潤が駆けつけると、そこにはシアゴーストとレイドラグーンが大量にうごめいていた。

「シアゴーストということは…オーディンが差し向けてる」

「じゃあ…」

「時間稼ぎって事かよ!?」

毒づきながらデッキを構える3人。放っておく事はできないからだ。

「「「変身!」」」

ナイト、ファム、ライアは、シアゴーストとレイドラグーンの大群に向かっていった。

 

「ごめん…今は竜也を助けに行かないと…」

 

物陰で彼らを見つめていた1人の少年が、手にあるものを握り締めて、去っていった。

握り締めたものは、龍騎のカードデッキと非常に酷似していた。

いや、そのものといっても過言ではないだろう。

 

ナイトは早期に決着をつけるために早速、疾風のサバイブをデッキから引く。

辺りから突風が巻き起こり、しんしんと降っていた雪は吹雪と化した。

<<SURVIVE>><<SHOOT VENT>>

「はっ!」

バシュッ!ドガアアアァ!

ナイトSに強化変身し、レイドラグーン達をダークアローで撃ち落としていく。

威力は強く、一撃でレイドラグーンは撃破できる。

「おっし、その力を…」

<COPY VENT>

ライアは、サバイブの力を擬似的に使って、モンスターの一掃を早めるつもりだったが…。

「あれ…コピーできない?」

サバイブの力はコピーできないのだ。結果、カードを無駄に消費すると言う末路になった。

「ちっくしょぉ!こうなったら肉弾戦だ!」

がむしゃらにシアゴーストに突進していくライア。

<SWORD VENT>

「せええぇい!」

ザシュッ!ズバァ!

ファムはウイングスラッシャーとブランバイザーを両手で持ち、すばやく振り回す。

彼女の戦闘スタイルは華麗で、魔物と戦っていたときのような泥臭さは全く見受けられない。

「久しぶりの…」

<FINAL VENT><FINAL VENT>

「ハイドベノンだ!とおっ!」

「シュウウウウウゥ!」

ライアはエビルダイバーに飛び乗り、シアゴーストたちに突進していく。

「おゃおりゃおりゃああああああああぁ!」

ドガガガガガガガガアアアアアアアアアアァ!

複数攻撃には適しているようで、まるで埃を布で拭くように、シアゴーストたちは爆発していった。

それでも3分の2が残っている。

「クエエエエエエエエエエェ!」

「やああああああぁ!」

ザシュッ!ズバッ!ドガアアアアアアァ!

ファムがその半分をミスティースラッシュで倒す。

<<FINAL VENT>>

「これでおしまいだ!」

「キキイイイィ!」

ダークレイダーが変形したバイクに乗り、自身のマントで包み込み、ドリル上になって突撃する「疾風断」を発動した。

「はああああああああああぁ!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

これで一応、モンスターの一掃は済んだ。

「くそ、こいつら片付けたは良いけど、どこに行けばいいんだよ!?」

そう言っていた彼らの前に、空から電車が現れた。

「うおぉ!?」「あれって…!」「野上さん達が使ってた…」

そう、その電車はデンライナーだった。

そこから現れたのは、3人にとっては見覚えのない怪人が5人。

「よぉ!竜也の仲間だな?」「あれ、女の子もライダーなんだ?」「ぬぉ!?寒いでぇ!」

「やっほぉ!」「ふむ、先ほどは混沌としていたようだな…」

竜也とあゆは知っている。

モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスだ。

もう一人、白鳥を模した白いイマジンがいる。

 

夜の猛吹雪の中、森の中であの場所に向かう竜也。

「うそだ…うそだ…!」

呪文のように呟き続け、ただ必死に歩いていく。

 

「目を背けるな」

 

ふと聞こえた声。

振り向くと、もう一人の自分が立っていた。即ち、仮面ライダーリュウガ。

「おまえは…!」

「月宮あゆは死んだ。何故それを覚えていなかったのか、もうお前にも分かるだろう?」

総てを知っている彼は、邪悪な笑みを浮かべる。

「ここで…総てを受け入れろ!」

デッキを翳し、目を閉じる。

「変身…!」

Vバックルに装填し、リュウガへと変わる。

そして右腕を突き上げる。

「グオオオオオオオオオオオオオオォ!」

「っ!?」

突如、ドラグブラッカーが現れ、体当たりを受けた。

ドガアアァ!

「ぐあああああああああぁ!?」

地面に叩きつけられる竜也。

変身前は普通の人間と大差ない。早くも意識を失った。

リュウガは彼にゆっくりと近づく…。

 

<STRIKE VENT><ROCKET ON>

 

「…!?」

不意に、聞きなれない音声が流れ、赤い龍と白い戦士が現れた。

赤い龍はドラグレッダーそのものだが、鳴き声が違う。

白い戦士は右腕に橙色のロケットのようなものを装備して、リュウガに突撃しようとする。

「ギャオオオオオオオオオォ!」

「『龍騎の世界』キターーーーーーーーーーーー!」

とっさにその攻撃を、リュウガは避けるが、そのために一度視線を外した。

その隙を突いて、赤い戦士が竜也を抱きかかえた。

「しっかり!」

竜也がその声を聞いて、うっすらと目を明けたときに映ったその姿は、見覚えのある戦士だった。

 

「しん…じ…さん…?」

 

その姿は、仮面ライダー龍騎そのものだった。

しかし、それが城戸真司かを確かめることは敵わず、すぐにもう一度、気を失った。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                  君も誰かを待ってるんだね…

 

ケンカは青春の潤滑油だ!

 

                  総て…オマエの所為だ…!

 

最後のお願いです!

 

                  オレは存在する!

 

竜也くん…

 

                  ボクの事…

 

 

 

第46話「茜色の終曲」

 

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

モモタロス
ウラタロス
キンタロス
リュウタロス
白いイマジン

???=仮面ライダー龍騎(?)
???=ロケットを持つ白い戦士

龍崎竜也(?)=仮面ライダーリュウガ

仮面ライダーオーディン


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第46話 「茜色の終曲」

 

 

2011年1月7日。

目を覚ますと、そこは一度見たことのある場所だった。

「ここは…デンライナーの…?」

そう、デンライナーの食堂車。体を横たえているため天井を見上げており、そこから4人の怪人が覗き込む。

「気が付いたみてぇだな!雪山で、まっ黒野郎にやられてたところを、リーゼント野郎達が助けたんだ!」

「…あ!」

彼らには見覚えがあった。怪人でありながら、敵意を全く感じず、自分たちの味方といってくれた4人のイマジン。

「よぉ、久しぶりだな、坊主!」「元気?」「お前の過去、泣けたでぇ!」「あっはは~、ドラゴンつながり~!」

「モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス!」

ふと視線を奥にやると、見慣れない白い怪人が優雅に座っている。雰囲気からしてモモタロス達の仲間らしい。

辺りから白い羽がハラハラと落ちている。

「お前が我が友の友人か、苦しゅうない。我が名はジーク」

「おい、手羽!テメェはいつまで、ここに踏ん反り返るつもりだ!?」

「やめてよ、鳥さんイジメないでぇ!」

早速、モモタロス、リュウタロス、ジークのケンカが始まり、それを1人の少年が止める。

「ちょっと、やめなよ!またハナさんに怒られるよ?」

「いいじゃねぇか、明久。ケンカは青春の潤滑油だ!ぶつかり合うほど仲良くなれるんだからな!」

ケンカに賛成した1人は短い学ランにリーゼント、「友情」と書かれた学生カバンを持っている、いかにも不良っぽい雰囲気。ただ、明るい印象がアンバランスにも取れる。

もう1人は、彼とは対照的に優しい表情。しかし、どこか幼げな印象もあり、強い意志を秘めているようにも見えた。

「よぉ、自己紹介がまだだったな。おれは如月弦太朗。天之川学園高校の全員、そして全ての仮面ライダーと友達になる男だ!」

胸を二度叩いて、人差し指を立てた右手を竜也に向ける「如月弦太朗」。

なぜか、太鼓の音が聞こえたような気がする。

「話は仮面ライダーの先輩達から聞いてるぜ。おまえ、随分と苦労してるんだよな」

「うん…。誰よりも大好きだった人が…本当はもう…」

弦太朗はリーゼントをキュッと撫でて、竜也の肩に手を置く。

「よし決めた!おれとダチになれ!」「ダチ?」

竜也にとって、ダチとは聞きなれない言葉だ。

「知らねぇのか?ダチは青春の特効薬、何でも治しちまうんだ!おまえにも、おれという薬を飲ませてやるからな!」

「弦太朗…」

彼のような明るい笑顔を、竜也は久しぶりに見た。屈託のない、誰でも受け入れるような笑顔。その表情のまま手を差し出す。

「…ありがとう」

そう答えて、手を握る。弦太朗はその手を握り返し、拳骨を正面、上下、それぞれ一度ずつぶつける「友情のしるし」をした。

それをもう一人の少年が微笑ましく見つめていた。

「君も…誰かを待ってるんだね」

「えっと…君は?」

質問に対して、その少年はあるものを取り出すと言う形で答えた。

それは…

「龍騎のデッキ!?」

 

「吉井明久、仮面ライダードラゴンナイトだよ」

 

「これはドラゴンナイトのデッキ」

この名前は聞き覚えがある。以前、五代雄介から聞いた、龍騎と似た戦士の居る『ドラゴンナイトの異世界』の中核に当たる存在「吉井明久」。

「じゃあ、あのドラゴンサイクルの持ち主の明久って…!」

「僕だよ。僕と同じように苦しんでる仮面ライダーがいるって聞いて、城戸さん達に頼んで、この世界に飛んできたんだ。本当は、弦太朗と僕は2012年に居るんだけど、デンライナーに乗って、この時間に来た」

彼の口から衝撃の言葉が出てきた。彼は城戸真司と面識があるらしい。

「城戸さんって…真司さんを知ってるの!?」

「僕の世界に一度だけ訪れて、僕らを助けてくれたことがあるんだ」

「今、何処で何をしてるか分かる!?」

竜也は自然と「吉井明久」の肩を掴み、つよく揺する。

「い、いや…僕が知ってるのは、五代さんや野上さん達と一緒に行動していて、城戸さんの存在は、この世界に近すぎて干渉できないってこと」

「そっか…」

残念ながら、この2つは既に竜也が知っている事だ。

そこにモモタロス達が割って入ってくる。

「俺達は、良太郎や白マフラー達に頼まれてな」「オリジナルの仮面ライダーじゃなきゃ、世界の干渉とは見られないんだって」「せやから、ついでにこいつらも…ちゅーこっちゃな!」「ついでついで~!」

「おい、なんだよ、ついでって!」

リュウタロスの言葉に弦太朗が食って掛かり、ケンカが始まる。一応、彼が「ケンカは青春の潤滑油」と言った事を強調しておこう。

明久が竜也に語りかけてきた。

「僕はね、ずっと一緒に戦ってきた「相棒」がいたんだ。でもある事件に巻き込まれて、行方不明。でも、待つだけじゃダメだって思った。自分から動かなきゃ…ってね」

彼の手にはドラゴンナイトのデッキが握られている。彼の胸中に浮かぶのは、彼の大切な相棒…。

「だからいつか、また逢えるって信じて、他の仲間と戦い続けている。ちょっとボロボロになりかけてるけど…また立ち上がる。何度でも」

彼の瞳に見える意志の強さは偽りではないと、改めて思った。

まさに不屈の意志と言える。

「君も諦めないで。また戦いの中で苦しんだりするかもしれないけど、何度でも立ち上がって」

 

「それが…仮面ライダーだ」

 

「明久…」

彼の名を呼んだとき、デンライナーが止まった。

「おっしゃあ、出番だな!俺が主役だ!」「ちょっと先輩、待ってよ!」

「いよっしゃ、行くでぇ!」「それぇ!」

4人のイマジンは、我先と外に飛び出していった。

一方、じっとしていたジークだが…。

「おい、キッグナスみたいなヤツ!さぼんじゃねぇぞ!」「これ、何をする!?頭が高ぁい!」

弦太朗に引っ張られて、外へ連れ出された。

「ここは、僕らがやる。君は立ち上がって動いて。君と君の大切な人の約束を守るために」

そう言って、明久はドラゴンナイトのデッキを再度握り締め、デンライナーを飛び出した。

「おれとあゆの…約束…」

ポケットにある龍騎のデッキを握り締めて、明久に続いた。

ただし彼が向かった先は「2人だけの学校」だ。

 

キィィン…キィィン…

 

あれから祐一達は、モモタロス達から事情を聞き、竜也を探していた。

しかし、それを邪魔するように現れたモンスター、バズスティンガー達だ。

「蜂のモンスター…」「シアゴーストより手ごわそうだな…」

「待て待て待てええええええ!」

その声とともに、モモタロス達が走ってきた。潤はモモタロスを指差す。

「あ、赤鬼!」

「誰が赤鬼だ!?俺のカッコイイ変身、見せてやるからよく見とけ!」「それじゃ、行きますか」

モモタロスとウラタロスの合図で、4人は「デンオウベルト」を取り出し腰に巻きつける。さらにライダーパスを右手に、それぞれの対応した色のボタンを押す。

「「「「変身!」」」」

ベルトのターミナルバックルにライダーパスを翳すと、以前の野上良太郎と少し異なりながらも、似たプロセスでアーマーが装着されていく。

そのうち、モモタロスとウラタロスが変身した姿は、ディケイドが変身したD電王SFとD電王RFとベルト以外全く同じ「仮面ライダー電王ソードフォーム」と「仮面ライダー電王ロッドフォーム」だった。

キンタロスの姿は、頭部に斧と「金」と言う文字が合わさった仮面を装備した「仮面ライダー電王アックスフォーム」に変身し、リュウタロスは紫色のドラゴンが仮面になった「仮面ライダー電王ガンフォーム」に変身した。

「俺、参上!」「お前達、僕に釣られてみる?」

「俺の強さに、オマエが泣いた!」「お前達、倒すけどいいよね?答えは聞かないけど!」

彼らはそれぞれのキメ台詞を言いながら、ベルトにある「デンガッシャー」を組み立てる。

その途中で弦太朗、ジーク、明久も到着する。

「君達は、竜也を!きっと、あの黒い龍騎と戦いに行ったはずだから!」

「ここはダチのおれ達に任せて、早く行け!」

祐一達にとって、彼らが何者かは分からないが、手を貸してくれることは、なによりもありがたい。

「すまない、頼む!」「頼むぜ、リーゼント達!」「ありがとう…」

そう言って、祐一、潤、舞の3人は竜也を追い始めた。

弦太朗と明久は、バズスティンガー達を引き受けることにしたが、ジークは何故かやる気を起こさない。

「全く…この私が何故…」

「ジーク。この戦いで頑張ったらハナさんが喜ぶよ、きっと」

明久の言葉で、ジークの挙動が変わった。

「何、姫が!?良かろう。家臣たちよ、私と共に、存分に働くが良い!」

「うぉい、調子変えやがって、このキッグナスもどき!」

「弦太朗、いいから!準備して!」

ジークも黒いデンオウベルトとライダーパスを取り出し、腰に装着する。

それに続き、明久はドラゴンナイトのデッキを翳すと、デッキから電流が走り、それが腰にまで到達してVバックルと似たベルトが形成される。

弦太朗は「フォーゼドライバー」を取り出し、腰につける。そこにある4つの赤いスイッチを順番に押し、拳を握って構える。

<3><2><1>

「変身!」「変身」「KAMEN RIDER!」

<WING FORM>

ジークはモモタロス達と似たプロセスでアーマーが装着され「仮面ライダー電王ウイングフォーム」に変身した。辺りには白鳥の羽が舞う。

弦太朗が右手を高く上げると、辺りには大きな煙と機械のようなオーラが包み、それを

振り払うと同時に「仮面ライダーフォーゼベースステイツ」へと姿を変える。

明久の周りにドーム状の光が現れ、クロスしていく。それが一周すると、仮面ライダー龍騎によく似た「仮面ライダードラゴンナイト」に変わる。

「光臨、満を持して…」「宇宙、キターーーーーーーーーーーー!」

電王WFは手を上げて、ゆっくりと下ろす。

フォーゼBSは体を縮め、一気に広げて叫ぶ。その叫びは、宇宙の遥か彼方まで届くような叫びだ。

 

「みんな、行くよ!」

 

ドラゴンナイトの言葉で、全員がバズスティンガー達に走り出した

 

晴れた雪の林の中をただ歩き続ける竜也。

「はぁ…はぁ…」

ただ、彼女ともう一度会うために…。真実を確かめるために…。

「あゆ…」

彼の脳裏には、あゆとの思い出が蘇る…。

あゆの元気いっぱいの笑顔。この笑顔に何度救われただろう…。

自分が龍騎だと知っても、何一つ拒絶したりせず、ただ傍にいてくれた。

悩んだときも共に悩み、苦しいときは支えてくれた。

世界の崩壊の原因と知ったときも、ただ自分を守ろうとしてくれた。

彼女への想いは募って、それをうちあけたとき、総てを受け入れてくれた。

初めて、誰かを愛することを知った。

 

自分の命の全てを捨てても守りたいと思えた。

 

思えばこの街に戻ってこなければ、あゆと再会できなかった。

龍騎になって、一番長く留まっている場所は、自然とこの街になった。

もしかすると、戦い続けた自分に神が計らい、褒美をくれたのかもしれない。

ただ戦うだけだった自分に、安らぎを与え、そして愛すること教えてくれる彼女に再会させてくれたのかもしれない。

 

あゆといる時間が…かけがえのない「奇跡」だった。

 

そして、竜也は辿り着いた。「2人だけの学校」に…。

大きな切り株に腰掛ける。

思えば、これは夢の中では大木だった。

あゆが転落した事で、切り倒されたのだろう…。

瞳を閉じる。

閉じる事で…あゆを近くに感じる事が出来ると思った…。

「指きり…したよね…?」

 

Bビーと単身、戦っているのはドラゴンナイト。

「はあっ!」

ザァン!

「ビィィィ!」

ドラグセイバーを呼び出し、優勢に持ち込んでいる。

少し高く飛び、回転しながら、その遠心力を利用してBビーを再度切り裂く。

「よし…!」

「ハチ野郎!タイマン張らせてもらうぜ!」

<CROW ON>

クローモジュールを装備したフォーゼBSは、Bワスプと戦っている。

「いくぜいくぜいくぜェ!」

ギィン!

隣で、デンガッシャーSMを振り回している電王SFはBホーネットと対峙している。

一撃を与えると身体を縮めて、一気に伸ばす。

「俺、最高!」

電王RFと電王AFはBブルームと戦っている。

「虫を釣るのは、あまりやりたくないんだけど…」「待ったはナシやで!」

ガシッ!ドガアァ!

デンリールで引き寄せたBブルームを、電王AFがデンガッシャーAMで切り裂く。

重厚な一撃ゆえに、Bブルームにはたまらないダメージを負った。

「鳥さん、一緒に踊ろう!」「私には似つかわしくない戦いだが…姫のため!」

ダダダダダダダダダダダ!ビシュッ!ズバァ!

電王GFはアクロバティックにダンスを踊りながら、デンガッシャーGMを乱射する。しかし、それは正確にBフロストに命中している。

彼の動きに合わせるように電王WFのデンガッシャーBMとデンガッシャーHAMが舞う。

「みんな、ここは僕が!」

<FINAL VENT>

「ギャオオオオオオオオオオオオオオォ!」

「はあああああああああああああああああぁ…たあっ!」

龍騎達やリュウガとは違う、ドラゴンナイトのバイザー音声のあと「アドベントビースト」のドラグレッダーが現れ、龍騎と似た構えを取り、地面を蹴って高く飛ぶ。

「はぁあああああああああああああああ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

その動きはまさにドラゴンライダーキックだ。

その威力は龍騎と同様、凄まじく、バズスティンガー達のうち、ビー、ワスプ、ホーネットの3体を撃破した。

残るブルームとフロストはフォーゼBSと電王SFが相手するようだ。

電王SFはライダーパスを取り出してベルトにセタッチさせ、フォーゼBSはクロースイッチを切って、ロケットスイッチに差し替えた上で、そのスイッチとドリルスイッチを作動させる。

「必殺!」「おれも行くぜ!」

<FULL CHARGE><ROCKET ON><DRILL ON>

「俺の必殺技、パート2!」「うおおおおおおおおおおぉ!」

デンガッシャーSMから電流が走り、オーラソードが分離する。フォーゼBSは右手にロケットモジュール、左足にドリルモジュールを装備し、ロケットモジュールの推進力で、空高く飛ぶ。

<ROCKET DRILL LIMIT-BREAKE>

「ウォリャアアアァ!」「ライダーロケットドリルキイィック!」

ザァン!ドガアアアアアアアアアアアァ!ドゴオオオオオオオオオオォ!

電王SFの「エクストリームスラッシュ」と、フォーゼBSの「ライダーロケットドリルキック」。

残るバズスティンガー達もそれに耐えうる力は持っていなかった。

爆発四散し、後には何も残っていなかった。

「決まったぜ!」「いよっしゃ!」

「うむ、ご苦労であった。家臣たちよ」

「あぁ!?テメェは何もしてないだろうが!」「モモタロス、鳥さんイジメるなっていってるでしょ!」

電王WFの言葉で再び、ケンカが勃発する。

彼らを見た後、遠くを見つめるドラゴンナイト。

そう、彼らに出来る手助けはここまで。これ以上は、世界がさらに融合すると見られてしまうからだ。

だから、竜也とリュウガの戦いを助ける事はできないし、見届ける事もできない。

ただ、勝利を信じているだけだ。

それでも、彼らは確信している。

「僕に出来るのはここまでだ。後は、君が道を切り開くしかない…」

 

 

 

竜也は再び目を開ける。

そこは自分の家だった。部屋から出てきて、リビングへと向かう。

 

「竜也くんっ!」

 

入り口の前では、あゆが待っていてくれた。

「あゆ…どうして、君が?」

「竜也くん、可笑しなこと言ってるよ?ボクだって、この家の「家族」なんだから!」

「…そうだったね」

2人で一緒に、リビングに入る。

そこでは、ミツルと真琴が迎えてくれた。美汐も真琴と一緒に遊んでいる。

「珍しく寝坊か。客人が居ると言うのに」「あうぅ…もうお腹ペコペコよぅ…」

「じゃあ、今から作るね」「ボクも手伝う!」

「おはようございます、竜也さん。みんなで勝手に上がらせていただきました…」

「いいよ美汐ちゃん。お客さんはいつだって、大歓迎だよ」

さらに祐一、舞、潤、久瀬、サトルもいる。

「お、飯当番が一人増えたな。あと、キッチンの破壊者」「うぐぅ、破壊者じゃないもん!」

「祐一…」

ぺしっ!

「あたっ!」「川澄先輩のチョップが相沢に決まったぁ!」

「北川君、実況してる暇があれば、手伝ったらどうだい?」「いや、香里の手料理を食うんだ!」

「僕もなゆちゃんの料理、食べたくて…」

彼らも、食事を楽しみに待っている。

「なら、みんなの分も早速準備しなくちゃね」

キッチンに向かうと、香里、栞、佐祐理、名雪、秋子が準備をしていた。

「竜也さん。台所、お借りしてますね」「龍崎君にも手伝ってもらおうかしら」

「竜也さん、食材も買ってきましたよ!」「あはは~お料理は得意ですから」

「竜也君、なに作るか決めてる?」

名雪の質問に、少し首を捻って考え込む。

「そうだね…」「たい焼き!」

間髪入れずに、あゆが即答。

「それは、おやつにでもしようよ」

 

「なら、餃子を作ってみないか?」

 

振り向くと、そこには買い物袋を持った城戸真司が微笑んでいた。

「あ…真司さん!」

「お前、俺の餃子が好きだっただろう?…久しぶりにな」

そう言いながら、バットや小麦粉、水などを準備し始める城戸真司。

「わたしは城戸さんに賛成」「餃子の作り方、城戸さんに教わりたいです~」

香里と佐祐理も賛成し、城戸真司を手伝い始めた。

一通りの準備を終えると、あゆが手をポンと叩いて嬉しそうに言う。

「そうそう!今日はね、秋子さんと真司さんからクッキーの作り方、教えてもらうんだよ!」

「そういえば昔、作ってくれたっけ」

彼女は7年前、自分のやり方で作ったクッキーを彼に贈った事がある。しかし正直、あまりおいしくはなかったが、秋子や城戸真司から学ぶのならば、味は保障できるだろう。

「うん!昔よりもパワーアップしてるから、楽しみにしててね!」

あゆの屈託のない笑顔。久しぶりに見た気がする。

「期待してるよ」

 

 

 

 

 

…夢を見ていたらしい。

「おれはまだ…此処にいるのか…」

目の前に広がるのは、真っ白な雪景色と、ちらほらと立っている木々。

下を見ると、自分の体に少し雪が積もっていた。

「…この街に来たときも、同じような事があったっけ。もっとも、誰かを待ってたわけじゃないけど」

ふと空を見上げたときに、あゆの言葉が蘇る。

 

「例え竜也くんがどんな存在だって、ボクにはどうだっていいよ!…だって、竜也くんだもん…」

「竜也くんがボクのこと、好きでいてくれるのなら…ボクも、ずっと竜也くんのことを好きでいられると思う!」

 

「おれは、今でも君の事が好きだよ…」

届かない言葉。伝えたかった言葉。

それを空に向けて言う。

 

「ボクもだよ、竜也くん」

 

聞き間違いかと思ったが、間違いない。

「…だったら、どうして、もう会えないんだよ…?」

「もう…時間がないから。…今日は、お別れを言いに来たんだ」

優しく、穏やかに答える声。

「おれは、君に誕生日プレゼントを持ってきた」

「覚えてて…くれたんだ…」

その声は嬉しそうだった。だが、悲しそうにも聞こえる。

「贈るものじゃないけど…。探し物、見つけてきたんだ」

リュックと天使の人形を持って、切り株の向こうに行く。

そこには…

 

あゆがいた。

 

「ありがとう、竜也くん」

彼女に近づいて、リュックと天使の人形を渡す。

「遅刻だね、あゆ」

「ボク達の学校は、来たい時に来て良いんだよ?」

「そうだっけ」

少しの沈黙があって…。

「また逢えたね」

「うん…」

ゆっくりとあゆは頷く。

「…ずっと、ここには居られないの?」

「うん…」

「本当にもう…時間はないの?」

「うん…」

頷いてばかりだが、彼女にとってはそれが、今、答えられる一番の返事だった。

竜也にもそれは伝わった。

「そうか…」

しかし、ただ彼女が救われないまま終わって欲しくない。

だから…。

「だったら、せめて「3つ目のお願い」を叶えさせて。…約束したから」

「そう…だね」

竜也の言葉に、あゆは人形とリュックを強く抱く。

そして、彼女に出来る精一杯の笑顔を見せて…。

「お待たせしました。それでは、ボクの最後のお願いです!」

楽しそうに…。

「竜也くん…」

でも…儚げな笑顔だった。

「ボクのこと…」

 

 

 

「ボクのこと、忘れてください」

 

 

 

竜也は自分の表情が歪んだ事が分かった。

「ボクなんて…最初から、いなかったんだって…そう、思ってください」

そう言っているあゆの頬には、涙が流れ始めた。

「ボクのこと…うぐ…忘れて…」

その言葉は竜也には、真実とは思えなかった。

だから聞きなおす。

「本当に…本当にあゆの願いは「おれに忘れてもらうこと」なのか?」

俯いて、嗚咽を漏らしているあゆ。もう一度笑顔を作って、竜也を見る。

「だってボク…もう…お願い事なんて、ないもん…。本当は…もう食べられなかったはずのたいやき、いっぱい食べられたもん。本当は…もう会えなかったはずの竜也くんと、たくさん一緒にいられたんだもん」

途中からは、笑顔ではなく、泣き顔だった。

本当は別れたくなかった。ずっと一緒にいたかった。

だが、それは叶わない。

「だから…」

 

「だからボクのこと、忘れてください!」

 

「っ!」

竜也はあゆを抱きしめた。

「竜也くん…ボク、もう子供じゃないよ…」

「子供だよ」

初めて、あゆを罵った。

「自分の考えるままに突っ走ったり、できない事を無茶してやるし…。そのくせ、自分の事は一人で抱え込んで…。その、小さい体で全部…。君は…一人ぼっちじゃないんだ」

「うぐぅ…」

抱きしめている腕に力を込めた。

大切なものを離さないように、強く。

「その願いはダメだ、聞いてあげられない」

「竜也くん…」

「おれに、あゆを忘れられるわけがない!…それに、忘れたくない…」

もう、何もかも忘れたくない。

その先に非情な運命が待っていたとしても。

竜也の胸の中で、あゆが呟く

「お願い、決めたよ」

そして、竜也の顔を見る。

「ボクの最後のお願いは…」

 

「―――――――――――…」

 

風にまぎれて、よく聞こえなかった。

「あゆ、なんて言ったの?」

言葉が聞こえなかったはずなのに、あゆは満足そうに微笑んでいた。

もう一度だけ抱きしめた。

「竜也くん。ボクのからだ、まだ、あったかい?」

その腕や胸から、あゆのぬくもりを感じられる。

「あったかいよ。あゆは生きて、ここにいる」

最後の表情は、あの日と同じ笑顔だった。

「よかった…」

その言葉の後、竜也の腕からぬくもりが消える

 

そして、あゆは消えた。

 

膝を着く。

「あゆ…ごめん…。全部、おれのせいだ…おれがあゆを覚えていたら…。おれがもっと強ければ…」

残されたのは後悔の念だけ。

 

「そう…。総て…オマエの所為だ…!」

 

不意に聞こえる邪悪な声。

振り返ると、赤い瞳の竜也が近づいてきていた。

「おまえ…」

「もう分かっただろう。オレはオマエ自身だ。7年前、月宮あゆを失った悲しみ、何も出来なかった自分への怒り、憎しみといった、負の感情もろとも、記憶とともに分離した、もう一人の自分自身だ」

これで謎は解けた。7年前の事を中途半端に忘れていた事も、怒りの感情が少なかった事も、涙が流せなかった事も、全てこの「龍崎竜也の欠片」が理由だった。

「オマエが負の感情が強くなればなるほど、オレは強くなる。だからお前の仲間を攻撃したり、オマエを暴走させた。そして…準備は整った」

赤い瞳の竜也は竜也に一歩近づく。

「オレを受け入れろ。オレとオマエが一つになれば、それが本来の形になり、オーディンをも超える最強のライダーとなれる。その力で…」

 

「月宮あゆを救うことも出来る」

 

その言葉に反応した。

「あゆを…救える…?」

「オーディンの野望を奪い、オレ達が果たせば、人間1人の命を生み出すなど容易い」

しかし…

「でも…」

「目を背けるな。月宮あゆを見殺しにしたことを忘れるな」

「…っ!」

竜也の胸に強く突き刺さった言葉。

そう。7年前のあの日、竜也はあゆに何もしてあげられなかった。

見殺しにしたことと同意だ。

「さぁ…本来の形を受け入れろ。それとも、月宮あゆを見殺しにした罪を背負い、ずっと自分の感情から目を背けるつもりか…?」

「おれは…オレは…」

 

 

 

「竜也!」

祐一、舞、潤がそこにたどり着いたとき…。

総てが手遅れだった。

「一足遅かったな。「おれ」はオレを受け入れた」

2人の竜也が同化を始めていた。

赤い瞳の竜也が、竜也の中に手を突っ込み、ゆっくりと重なっているという異様な光景だ。

そして、2人の竜也は1人になる。

目を開くと右目は赤く、左目は黒い。

「…クハハハハハハハハハ!遂に為しえたぞ!オレはもう「記憶と感情だけの幻」ではない!オレは存在する…」

そう言って、デッキを翳す。それはリュウガのデッキ。

黒い光が瞬き、竜也にVバックルが装着される。

 

「最強のライダーとして!」

 

「変身…!」

そう呟き、ベルトに装填する。

そこに現れたのは、釣りあがった目を持つ黒い異形。

名を仮面ライダーリュウガ。

 

約束を交わした地で、黒い竜が降り立った…。

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                   竜也…

 

これが真の「おれ」だ

 

                   どうして…

 

苦しみを理解できるはずがないだろう

 

                   ボクの…願いは…

 

あゆは…ここにいる

 

 

 

 

第47話「奇跡」

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

如月弦太朗=仮面ライダーフォーゼ

モモタロス=仮面ライダー電王 ソードフォーム
ウラタロス=仮面ライダー電王 ロッドフォーム
キンタロス=仮面ライダー電王 アックスフォーム
リュウタロス=仮面ライダー電王 ガンフォーム
ジーク=仮面ライダー電王 ウイングフォーム

吉井明久=仮面ライダードラゴンナイト(断空我さんの作品より特別出演)

龍崎竜也の記憶と感情=仮面ライダーリュウガ

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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第47話 「奇跡」

 

目の前にいるリュウガは今までと同様…いや、それ以上の殺気を放っている。

近づいただけでも、殺されてしまうようなほどだ。

「竜也…」

彼の中にいる、祐一達の知る竜也に呼びかけてみた。

だが…。

「これが真の「おれ」だ。オマエ達も現実を見つめろ」

やはり、リュウガが意識を支配している。

それでも、絶対に諦めるつもりはない。

「まってろ竜也!おまえを助ける!」

「月宮あゆを救うために「おれ」自身が同化を望んだのに、どうやってだ?」

嘲笑するリュウガに対して、潤も軽く笑う。

「さぁな。でもな、おれ達の知ってる竜也なら、方法が分からなくても、ただ戦うだろう?それと同じだ!」

3人はデッキを翳し、そのまま祐一が宣言する。

「竜也はどれだけ困難があっても、最後には立ち上がった。おれ達は、その竜也を信じて…そして取り戻す!」

「「「変身っ!」」」

ナイト、ファム、ライアが、リュウガと対峙する。

「…これが「おれ」だという事が、分からないようだな」

そう呟き、リュウガの目が赤く光る。

 

病室内で、窓を見つめている久瀬。病室内に佐祐理も来ている。

見舞いに来ていた名雪が尋ねる。

「竜也君が心配ですか…?」

「なんとなく、胸騒ぎがして…」

なぜか、久瀬達には言いようのない不安が包んでいる。

「あいつを信じてはいるが…」「相手が、サバイブを持っていると考えると…」

ミツルやサトルにも、同じような気持ちだった。

「あぅ…でも、どうしよ…」「わたし達に…何か出来ることはあるんでしょうか…?」

真琴や佐祐理の言うとおり、彼らには何も出来ない。少なくとも戦う事はできない。

 

「言葉を伝える事は出来るはずだよ」

 

その声とともに、病室に入ってきたのは明久だ。

「あの…あなたは?」

「吉井明久、仮面ライダードラゴンナイト。城戸さんに頼まれて、この世界に来たんだ」

「城戸真司に…!?」

ミツルだけじゃなく、明久の「城戸さん」という言葉に、この場にいる全員が反応した。

明久自身、城戸真司がどこまでの存在かは分かっていなかったが、彼らの反応で、どれだけの人物か分かったような気がした。

「やっぱり、城戸さんは凄い人だったんだ…。あの人は、竜也を救って欲しいって言ってた。彼には君達のような仲間がいる。その絆が竜也を救えるかもしれないんだ」

実際、具体的に救う術は分からない。しかし、その言葉に嘘は無いつもりだった。

「今、竜也は大切な人との「約束の場所」にいる。戦わなくたって良い。でも、せめて彼に…言葉を伝えて欲しいんだ。これは君たちにしか出来ないから…」

そう言っていると、明久の後ろにオーロラが現れた。

「ここまでか。みんな、竜也を…」

言い終わらずに、彼はオーロラの中に消えた。

一瞬だけ沈黙があったが…。

「行くぞ!」

ミツルの言葉で全員が走り出した。

怪我があろうと、病院の誰かが止めようと構わず、ただ走った。

竜也を救うために…。

 

編集長室で、ゆっくりと窓を見つめている秋子。

「貴方は…何かが変わると信じてますか?」

その問いかけは、届かないはずの城戸真司に対してだ。

「わたしは信じています。きっとあの子達は、奇跡を起こします」

 

<TRICK VENT>

シャドーイリュージョンで3体に分身したナイトが、リュウガを囲う。

「フン…」

それを鼻で笑い、リュウガは一枚のアドベントカードを引く。

その絵柄には、赤と黒のドラグセイバーが描かれている。

<SWORD VENT>

龍騎達のバイザー音声と、リュウガの低いバイザー音声が混じった音声の後、リュウガの両手に2本のドラグセイバーが握られる。

やはり龍騎の力さえも取り込んでいるようだ。カードにさえ反映している。

恐らく、今までの中でも最強と見ていいだろう。

それでもナイトは臆せず立ち向かう。

「はああっ!」「たあっ!」「せああぁ!」

ナイトは同時に斬り込むが、リュウガはそれをしゃがみつつドラグセイバーで防ぐ。

このままでは、反撃される。

そう思ったファムとライアは、エビルウイップとウィングスラッシャーを構えて、さらにリュウガに一撃を加えようとする。

だが。

「グオオオオオオオオオオオオォ!」「ガアアアアアアアアアアアァ!」

ドガアアアァ!

「くああぁっ!」「どわあああぁ!?」

ドラグブラッカーとドラグレッダーに妨害される。そう、ドラグレッダーさえも、今は敵なのだ。

「ゼェアアアアァ!」

「うわああああぁっ!?」

リュウガは凄まじい力でナイトを全員弾き飛ばす。

分身は全て消え、ナイトは1体のみとなった。

だが、倒れ伏す3人に対しても、リュウガは容赦ない。

「ハアアァ!」

駆け寄り、ドラグセイバーで斬りつける。

ガキィン!

「くっ…!」

ナイトとファムが餌食になりかけたが、ダークバイザーとウイングスラッシャーで何とか防ぐ事に成功した。

しかし、長くは持たない。

「こんのおおおおおぉ!」

それが分かったライアは、エビルウイップでリュウガに攻撃を仕掛ける。

だが、それすらリュウガには避ける事が容易だった。

ガッ!

「うっ!?」「舞っ!」

すぐさまファムを蹴りつつ、遠くへと距離を置く。

バチィン!

「ぐああぁ!?」「相沢!」

そのため、エビルウイップはナイトに当たる事となった。

「オマエ達の知る「おれ」の力で…消えろ!」

<FINAL VENT>

リュウガがベントインしたのは、龍騎のファイナルベント。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「ハアアアアアアアァ…フンッ!」

辺りをドラグレッダーが舞い、地面を蹴って空に飛び上がる。

体を捻ったりするなど、動きはまさに龍騎をトレースしていた。

そこから繰り出されるのは…。

「マズい!」「くっ…!」「やべっ!?」

<GUARD VENT><GUARD VENT><COPY VENT>

恐らく避けられない。

ナイトはダークウォール、ライアはその複製、ファムはウイングシールドを装備して、防御に徹する。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

赤い炎を纏ったリュウガが放つドラゴンライダーキック。その威力は龍騎を上回っている。

ドガアアアアアアアアアアアアァ!

「うおおあああああああぁ!」「きゃあああああああああああっ!」「ぐあああああああああああぁ!」

爆風で、リュウガに3人の悲鳴が届いたか分からない。

辺りが静まり返ると、リュウガが着地する。

「…」

辺りを見渡すリュウガ。その仮面の表情は邪悪な笑みを浮かべていた。

その視線の先には、祐一、舞、潤が倒れていた。おそらく…。

「終わりだ」

そう吐き捨てたリュウガは、踵を返し歩き去ろうとした。

しかし…。

「…?」

何か違和感を感じ、振り返る。

完全に倒したと思い込んでいたが、彼らはまだ死んでおらず、立ち上がろうとしていた。

「死に損ないめ…」

「どうして…だと思う?」

満身創痍となっている祐一が、毒づくリュウガに問う。

少しだけ首を傾げるリュウガに、潤が答える

「今のファイナルベント…急所が外れていた。普通はありえないのにな…」

「多分…あなたの中にいる…わたし達が助けようとしてる竜也が、そうさせた…」

続いて答えた舞の言葉を聞いて、リュウガは笑う。

「まだ分からないのか?これが…このオレこそが、真の「おれ」なん…ウッ!?」

そう言い掛けたところで、リュウガは突如、胸を押さえて苦しみ始めた。

「グァ…な…何故…!?」

今まで唸るような声だったが、次の声は勇敢だが穏やかだった竜也の声が少し混じっていた。

「み…みん…な…早く…!ガッ…オマエ…!?」

「竜也っ!?」

その中に竜也の意識があることを確認した3人は、リュウガに…彼の中に押さえ込まれている竜也に呼びかける。

「おい、竜也!」「目を覚まして…!」「あゆちゃんが望んでると思ってるのか!?」

「黙れ!」

次の声はリュウガの意識の声だ。

「オマエ達に「おれ」の苦しみが理解できる筈が無いだろう!?」

今まで、静かに淡々と話していたリュウガが、これほどまで怒声をあげるのは始めてみた。

「どんなに似た苦しみを味わった者でも、他者の苦しみを完全には理解できない!」

 

「多分、あなたの言うとおりです」

 

「…!?」

その声とともに現れたのは…。

栞、香里、久瀬、佐祐理、名雪、真琴、美汐、サトル、ミツル。

竜也の仲間達だ。

香里が栞の言葉に続く。

「あなたや、今の栞が言ったように、わたし達はあなたの苦しみを、完全には理解できないわ」

いつもの調子を崩さず、きっぱりと言う。

さらに久瀬と佐祐理が一歩、前に出る。

「でも、一緒に考える事は出来る!」

「現に竜也さんは、わたし達の苦しみを一緒に共有して、そして一緒に考えてくれました!」

名雪とサトルも同様に、リュウガに語りかける。

「僕が昔の幸せを取り戻せたのも、竜也君の働きかけがあったからだよ!」

「うん…!どんなときも、わたし達を全力で支えてくれた!」

次にミツル、真琴、美汐が、前に出る。

「おれがどんなに憎んでも、救おうとした。それはおまえの、真の優しさだと確信している!」

「竜也のおかげで、またミツルと一緒にいられたの!」

「苦しむなら…わたし達が助けます!」

「だから戻って来い、竜也!変身っ!」

その言葉の後に、祐一がデッキを翳して、ナイトに変身する。

さらに、疾風のサバイブを引き、ダークバイザーツバイにベントインする。

<<SURVIVE>>

ダークブレードを引き抜いてナイトSに強化変身し、リュウガに切りかかる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

しかし、それでも…。

ガキィン!

リュウガと龍騎、2体分の仮面ライダーのパワーを備えてるリュウガは、もはや通常形態でもナイトSと渡りあえる。

…筈だったのだが。

「…邪魔を…するのか!?」

リュウガは防いでいた左腕に抵抗を感じた。自分ではない竜也が邪魔をしているのだ。

「はああっ!」

ガキィン!

「ヌアァ!」

遂にリュウガに有効な一撃を与えられた。

地面に膝を着く。

「キサマらアアアアアアアアアァ!!」

憎しみがこれでもかというほど込められた声だった。

デッキに手を掛け、彼の最強のアドベントカードのサバイブを引こうとする。

その手を、暖かい光が包み込んだ。

「…!?」

 

「竜也くん…」

 

「…あゆっ!?」

ナイトSだけじゃない、この場にいる全員が驚愕した。

事情は明久や弦太朗から聞き、あゆはもういないことを知っている。

だが、この声は間違いなくあゆの声だ。

「ボクの最後のお願いはね…」

 

「竜也くんが、もう振り返らないで済みますように」

 

「だから悲しむのは、これを最後にして」

「やめろォ!おのれ、月宮あゆ!オマエはオレが救ってやるんだぞ!何故、邪魔をする!?」

ゆっくりと語りかけるあゆの声に対して、リュウガはほぼ錯乱状態。辺りの光を振り払おうと暴れまわっている。

「大丈夫だよ。もうボクは竜也くんに、十分救われたから。7年前にボクをかまってくれて、それからずっと、ボクは一人ぼっちじゃないって分かったから」

「ダマレエエエエエエエエエエエエエエエエェ!!!!」

光はあゆを形作り、リュウガを抱きしめた。一方、雄叫びはもはや獣のようになっているリュウガ。

「竜也くん…大好きだよ。ずっと!」

 

「あゆ!」

 

あゆがゆっくりと離れたと同時に、リュウガは地面に倒れ、変身が溶けたと同時に、もがき苦しむ。

「ガアァ!?グッ…キサマァ…グオォ!?オレから…オレから離れようと言うのか!?」

竜也の身体から、もう一人竜也が現れた。まるで映像がブレるように。

そして…。

「グアアアアァ!」「うああああっ!」

竜也と赤い瞳の竜也は分離した。2人の表情は、夕焼けでよく見えない。

あゆが愛した竜也は立ち上がり、淡く光っているあゆを見つめる。

「わかったよ、あゆ…。おれ…わかったから…」

2人は幼かったときのように微笑む。

地面に這い蹲っている赤い瞳の竜也は、焦りを込めたように立っている竜也に呼びかける。

「何を馬鹿なことを言っている…!もう一度、オレと同化しろ!まだ…月宮あゆを救えるんだぞ!?」

赤い瞳の竜也の問いかけに、竜也は彼を見ずに答える。

「あゆはこんな事、望んでない。誰かの犠牲で成り立つ命なんて、欲しがってない」

「自分の記憶や感情を、否定し続けるつもりか!?」

その言葉に、竜也は振り返る。

それを見つめていた祐一達は驚いた。

「竜也…」「あの…竜也君が…」

 

 

 

「泣いてる…」

 

 

 

そう、竜也の瞳には、とめどなく涙が溢れ出していた。

7年間、流さなかった涙。もう枯れ果てたと思っていた涙。

しかし、彼は泣いていた。

「違う…おれはすべて受け入れる。自分の中にある怒りや悲しみ、憎しみも…。あゆとの楽しかった記憶も、悲しかった記憶も…全部」

竜也は自分の記憶と感情を取り戻した。

だから…。

「だからこそ、おまえとは決別する!おれの心が生み出したモンスターであり闇…「リュウガ」。おまえとは…おれが決着をつける!」

そう言い放った。

「ハァ…」

赤い瞳の竜也は、全て諦めたかのように溜息をつく。

だが、次の瞬間。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

酷く楽しそうに嗤う。

そして、竜也を指差す。

「違う、モンスターはオマエだ!オレもオマエと共に在る道を選ぶのはやめだ!」

立ち上がり、2人はデッキを翳す。

「オマエを消し、オレが「おれ」になってやる!」「来い、リュウガ!」

 

「「変身っ!」」

 

2人の仮面ライダーが向かい合う。似ていても、全く異なる存在。

少しだけ間があって…。

「はああああああああああああああああぁ!」「オオオオオオオオオオオオオオオォ!」

同時に駆け出した。

ドガアアアアァ!

2人の拳は、互いの胸に抉りこまれる。

「ぐあっ!」「グゥッ…!」

両者とも、一歩ずつ引き、胸を押さえ込む。

そして、次は片足を挙げて、蹴りの体勢に入った。

ただし龍騎のみだが。

「はああっ!」「ヌェアアァ!」

ズガアアァ!

「くっ…!?」「ウオオオオオオォ!」

そのキックをリュウガは受け止めて掴み、思い切り投げる。

「…!」

態勢を整え、上手く着地する。

前を見た瞬間…。

ガゴオッ!

「がはああぁっ!?」

顔面にリュウガの拳が叩き込まれ、地面を転がる龍騎。

 

「くそ、見てられねぇ…!」

業を煮やした潤が、ライアのデッキを取り出すが…。

「よせ」

ミツルがそれを止める。

「おい、斉藤!?」

「これは、あいつ自身の戦いだ。手出しは必要ない」

本当のことを言えば、ミツルも今すぐ戦いたかった。身体の怪我など関係なく。

だが、これは竜也が自分の全てを受け入れるための戦い。

「だったら、どうするんだよ!?」

「見守ってあげて…」

一番近くで見ていたあゆが、潤に告げる。

その後、誰も動けなくなったかのように、龍騎とリュウガの戦いを見つめていた。

 

<STRIKE VENT>

「ガアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「だああああああぁっ!」

龍騎がドラグクローファイヤーで、リュウガに攻撃する。

<GUARD VENT>

「ヌンッ!」

ガキィ!

その一撃は、ドラグシールドによって防がれた。

「まだだ!」

<SWORD VENT><GUARD VENT>

龍騎は全ての武装を装備し、リュウガにさらに強力な一撃をお見舞いする。

「はあああああああっ!」

ガキィ!ズガアアァ!

「グゥアァ!?」

ドラグシールドによる防御をドラグセイバーでやり過ごし、ドラグクローに炎を纏わせてリュウガの腹部を殴った。

地面を転がり、這い蹲るリュウガ。

「…」

<ADVENT>

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

そのままベントインし、ドラグブラッカーを呼び出す。

「ドラグレッダーっ!」

その場にいたドラグレッダーに、龍騎が指示を送る。

「ガアアアアアアアアアアアアアァ!」「グオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

2体の龍が、絡み合いながら戦う。

「はあっ!だあっ!であぁ!」「フンッ!ハアァ!ゼェアァ!」

ガッ!ドゴッ!ズガッ!

まさに一進一退の攻防。両者はほぼ互角だといえよう。

しかし…その決着の時は近づきつつある。

「ヌアアアアァ…フンッ!」

ゴッ!

「がはっ!?」

リュウガの拳が龍騎の腹を抉る。

「デェアァ!」

ガッ!

「ぐうっ!」

次は横面。

「ウオオオオオオオオオォ!」

ドガアアアアアアアァ!

「ぐあああああああああああああああああ!」

最後に胸部にキックを受け、慣性の法則に従い地面を引きずられながら、遠くまで転がる。

「竜也っ!」

その後ろには祐一達がいる。全員が心配そうに見つめる。

だが、あゆだけはずっと目を閉じ、祈るようにしていた。

咳き込みながらも、立ち上がる龍騎。

「がはっ…くっ…!」

デッキから引いたアドベントカード。

それは、竜也がモンスター相手にしか使わなかった最強の一枚。

<FINAL VENT>

「…」

リュウガもそれに呼応するように、アドベントカードを引き、ベントインする。

<FINAL VENT>

音声の後、龍騎はあゆを少しだけ見つめる。

そして…。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」

彼の全てを賭けたかのように叫び、構える。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」

一方のリュウガは、ゆっくりと静かに構える。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

「ハアアアアアアアァ…!!」

そして、両者同時に地面を強く蹴り、高く飛ぶ。

「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!

赤い炎と黒い炎を纏った2人の龍の騎士が、激突する。

ドラゴンライダーキックとドラゴンライダーキック。

それは、今まで見てきた爆発の大きさの中でも最大だった。

「うわっ!」「くっ…!」「きゃあっ!」

祐一や舞たちは、その威力で少し後ろに下がる。

 

煙が晴れたとき、そこにいたのは…。

「龍騎…。竜也っ!」

鎧のあちこちにヒビが入った龍騎。

だが…。

「まだだァ…!」

遠くでリュウガも立ち上がっていた。

「オレは…他者の力を借りてでも…どんな卑劣なマネをしてでも…自分を手に入れる!」

そう言って翳したカード。

オーディンから受け取った「SURVIVE~烈火~」。

<<SURVIVE>>

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!」

リュウガSとなって、龍騎に襲い掛かる。

龍騎にはもう、アドベントカードを使い果たし、避ける力さえ残っていなかった。

ドガアアアアァ!

「ぐあああぁ…!」

苦痛の声もどこか掠れている。それでも立ち上がる。

「消えろォ…消えろォ!!!」

ズガアアアァ!ドゴオオオオォ!

何度も何度も、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされる。

それでも…。

「何故だ…!?何故、立ち上がる!?」

絶対に倒れたままになる事は無かった。

満身創痍の状態でリュウガSの攻撃を何度受けても、立ち上がっている。

限界は当の昔に迎えているはずだ。

「やく…そく…だから…」

そう、これ以上悲しまないために…。悲しい思いを誰かにさせないために、立ち上がる。

龍騎のその背中に、あゆが手を置く。

「竜也くん…ボクも戦わせて…」

「あ…ゆ…」

「竜也くんが、もう悲しい事を振り返らないように…」

龍騎も、あゆの手を握る。

「ありがとう…あゆ。…さっきの言葉、嬉しかった…。おれも大好きだよ…」

 

 

 

<<<SURVIVE>>>

 

 

 

バイザー音声の直後、強い光が辺りを包み、赤みを帯びた白い羽が舞う。

リュウガSもそれに驚愕した。

「まさか…ここにあったのか…最後のサバイブ!?」

そう、あゆ自身が、オーディンが捜し求めていた「最後のサバイブ」だった。

呼ぶとするならば「SURVIVE~奇跡~」とでも呼ぶべきだろうか。

「「変身っ!」」

掛け声とともに、光が消える。

その姿は竜也のよく知る「仮面ライダー龍騎サバイブ」とよく似ていた。

白い翼が生え、白銀の鎧を纏っている。

「Kanonの物語」と「龍騎の物語」が創り出した新たな存在。

 

「仮面ライダー龍騎カノンサバイブ」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアァ!!」

リュウガSが、その龍騎KSに向かって殴りかかる。

「だあっ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアァ!

「グオアアアアアアアアアアアアァ!?」

しかし、リュウガSの拳は龍騎KSには届かなかった。

逆に攻撃を許された。

「はあっ!」

ドゴオオオオオオオオオォ!

「ウオオオアアァ!」

次に蹴りがリュウガSの胸部に当たり、凄まじい勢いで吹き飛ぶ。

<<SWORD VENT>>

リュウガSはブラックドラグバイザーツバイからドラグブレードを展開させる。

それに対し、龍騎KSはデッキからアドベントカードを引き、空に翳す。

<<<SWORD VENT>>>

その音と共にカードは消え、一本の剣「ドラグカリバー」を呼び出した。

「ゼェアアアアアアアァ!!」

ドラグブレードがドラグカリバーを破壊すべく唸りをあげる。

しかし、それも無意味だった。

バキィ!

「…!?」

ドラグブレードは折れた。ドラグカリバーを破壊する事などできないのだ。

「せあああぁ!」

ズバアアァ!

「グアアアアアァ!」

たった一撃で、リュウガSの鎧はヒビが入る。

「クソォ…クソオオオオオオオオオオォ!!!」

<<FINAL VENT>>

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアァ…!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

ブラックドラグランザーを従え、宙を舞う。

対する龍騎KSもデッキからアドベントカードを引き、もう一度、空に翳す。

<<<FINAL VENT>>>

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

その音声とともにドラグレッダーが現れ、「ドラグカノン」に姿を変える。

そして龍騎KSの手を、誰かが握った。

確認する必要はない。

 

「大丈夫…。あゆは…ここにいる」

 

「ふんっ!はああああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

確信が持てる。竜也は独りじゃないと信じている。

翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。

高く、高く…。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!」

「だあああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!」

龍騎KSの「カノンドラゴンライダーキック」と「ダークドラゴンライダーキック」がぶつかる。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!

威力は、ドラゴンライダーキックをはるかに上回っていた。

そして…リュウガSが消滅していく…。

「馬鹿な…何故…オレが…!?」

最後までその理由を知ることなく、仮面ライダーリュウガはこの世界から姿を消した。

 

 

 

長かった爆風の後…。

祐一達が目を凝らすと、そこには倒れた竜也がいる。

近くには龍騎のデッキと、砕けたリュウガのデッキ、そして白い羽が一枚落ちていた。

彼のすぐ横にいる光は、ゆっくりと離れていった。

「ありがとう…竜也くん」

あゆの声で、そう言って…。

 

 

 

夢…。

 

夢が終わる日…。

 

雪が…

 

春の日溜りで、溶けてなくなるように…

 

面影が…

 

人の成長と共に、影を潜めるように…。

 

思い出が…

 

永遠の刻の中で、霞んで消えていくように…。

 

今…

 

長かった夢が、終わりを告げる…。

 

最後に一つだけ…

 

願いを叶えて…。

 

たった一つの願い…。

 

 

 

ボクの…願いは…

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回…。

 

                    例えば、竜也さん…

 

自分が誰かの夢の中にいるって考えた事あります?

 

                    夢を見ている誰かは…

 

夢の中で、一つだけ願いを叶えられるんです

 

                    迎えにいってやれ…

 

夢の…中…

 

 

 

 

第48話「夢の果ての追複曲」

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

吉井明久=仮面ライダードラゴンナイト(断空我さんの作品より特別出演)

龍崎竜也の記憶と感情=仮面ライダーリュウガ


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第48話 「夢の果ての追複曲」

2011年3月。

「あの日」から2ヶ月近くが経った。

何度もそうしてきた。

竜也は目を覚まし、台所に行く。

「さて、朝飯は…」

ぶつぶつ呟きながら、朝食の用意をする。

「あうぅ…ふあぁ~…」

準備をしていると、真琴が目をこすり欠伸をしながら入ってくる。

「おはよう、真琴ちゃん」

「おふぁよぉ…」

返事も呂律が回っていない真琴に対して、後ろからやってきたミツルがふっと笑う。

「…どこまでも、だらけた奴だな」

「あうーっ!だらけてないわよぅ!」「起きてるじゃないか」

早速、2人は口喧嘩を始める。

「ほらほら2人とも、朝飯出来たから、一緒に食べようよ」

「は~い!」「いつも悪いな、竜也」

いつものように、他愛無い話や最近の出来事を話しながら食事をする。

「そうそう、今日は舞さん達の卒業式だから、準備をしないとね!」

「川澄達も、いよいよ卒業か…」「なんだかワクワクする!」

そう、今日は舞達3年生が卒業するのだ。式を見た後、みんなで卒業祝いとして2次会をする予定もある。

朝食をとった後、3人は着替えて、外に出かけた。

 

卒業式の後…。

一度解散し、百花屋で集合という事になった。

「ふぅ…スピーチは緊張したよ」「シュウイチさん、お疲れ様でした」

久瀬は生徒会長なので、高校に対する3年間の想いを込めたスピーチをした後。

苦笑いをしている彼に、労をねぎらう佐祐理。

「よぉ、お2人さん」

そこに現れたのは、祐一達だ。

「卒業おめでとう!」「おめでとうございます!」

そう言って、潤と香里から花束が渡された。

「あはは~。ありがとうございます」「ありがとう…。ちょっと…感慨深いね…」

久瀬は目頭に指を置いて、上を向く。

「おいおい、生徒会長、泣いてるのかよ!」「空気を読みなさい!」

ゴスッ!

「がはっ!?」

相変わらずの、良い肘撃ちだ。潤は撃沈。

彼らの後ろ…得に祐一をジト目で見ている何者かが気になった栞は、おずおずと話し始めようとした。

「ところで…」

ペシッ!

「あいたっ!」

その前に何者かが、祐一にチョップを決める。

「なんだ舞、いたのか?」「…意地悪」

祐一は分かって無視をしていた。他の全員は、いつ彼女に触れればいいのかが分からなかった。

気分を落とした舞は、寂しそうにそっぽを向く。

「冗談だよ、ほら」「ぁ…!」

そう言って、祐一は花束を渡した。頬を染めて、静かに微笑む舞。

「川澄先輩、笑うようになったね」「祐一君のおかげだよ、きっと」

嬉しそうにいう名雪。慣れない正装を着て、名雪と一緒に笑っているサトル。

舞達は全員、この街の隣にある志望大学に合格し、4月からそこに通う事になっている。

「みんな、ごめん!」

その声とともに、竜也、真琴、美汐、ミツルが走ってきた。

「なぜ、トイレくらい済ませなかった!」「あうぅ…だってぇ…」

どうやら、真琴が原因らしい。

「舞さん、卒業おめでとうございます!」「おめでとう、倉田」「おめでと!」

竜也が明るい笑顔で、花束を舞に渡す。更にミツルは佐祐理に、真琴は久瀬に渡した。

「ありがとう…」「可愛らしい花束ですね~」「うれしいよ、みんな」

祐一達のような、大きなものではなかったが、どこか愛らしさを感じる花束。

「美汐ちゃんが選んでくれたんだ!」「みなさんに、喜んでもらえるよう、精一杯選びました」

美汐はちょっとだけ笑って、首を横に傾ける。

その様子を見ていた2人の男が近づいてきた。

 

「良いねぇ…俺にも高校時代あったなぁ…」

 

「あなたは…!」

久瀬には、彼に見覚えがあった。以前出会った、スーパー弁護士を名乗る男。

隣には同じく、ゴロちゃんと呼ばれた男もいる。

「お宅、自分の欲をちゃんと叶えたんだね。どう?楽しいでしょ?」

どこか嬉しそうにしていた。

「弁護士さんですか~?」

「そう、このスーパー弁護士の本名知りたいでしょ?倉田家のお嬢さん」

指をぱちんと鳴らして、佐祐理を指差す。

 

「俺の名は北岡秀一」

 

「そして、こっちは…」「由良…吾郎っす…」

以前の舞に負けないくらいの無愛想な表情でお辞儀をする由良吾郎。

「北岡秀一さん…」「久瀬先輩と名前が同じだね!」

久瀬が呟き、名雪は共感する事があるようにうれしそうに言う。

「困った事があったら、ぜひウチの事務所に相談しなよ。もちろん、ギャラは頂くけどね」

企み笑い…だが、嫌な感じはない、憎めない笑みを浮かべた後、歩き去っていった。

「あ、令子さ~ん!」

北岡秀一は窓の外にいる女性を見つけて、歩きは走りに変わる。由良吾郎もついていく。

「あれって…OREジャーナルの…!」「知り合いか…?」

竜也はその女性に見覚えがあった。

「北岡さん…あなたもしつこい人ね」「そう言わずに。今日辺り、一緒にお食事でも如何ですか?」

桃井令子だ。は北岡秀一の誘いが面倒で、呆れ口調で言う。

「懲りないわね。これで私を誘うの、38回目じゃない」「42回目ですよ」

かなりの回数を誘っていたようだ。

「令子さん、お久しぶりです!」「あら…たしか、龍崎竜也君…だったわね。元気そうで良かった」

久しぶりの再会が嬉しくて、竜也は声をかけた。

「あの久瀬君の友達と知り合いなんですか?なら俺も知り合いですので行きましょう」

「訳が分からないわよ」

相変わらず、北岡の言葉には耳を貸さない。

「令子さん、せっかくだから行ってみたらどうですか?北岡さんも、きっと楽しい人ですよ」

竜也は令子にそう問いかけてみた。

「あなたまで…」「じゃあ、待ってますよ。6時に「ル・クロック」で…」

北岡秀一は、最後にそう言って、歩き去った。彼女から承諾も得ていないのに、何故、急に去るのかは分からない。

「…そうね。ま、気が向いたらね」

令子はちょっとだけ微笑んで、別の取材の仕事に向かう。

「竜也君、なんかありがとうね。またいつか」「はい!」

 

「へぇ~…結構盛り上がってるんだ?」

 

竜也が戻ってくると、意外な人物がいた。

「貴様…ガイ!?」「よ、正義の仮面ライダーと愉快な仲間達さん」

不適に笑う少年、芝浦シュンだった。所々、服の袖から包帯が見え隠れしている。

彼は以前、仮面ライダーガイとして、竜也達の前に立ちはだかった強敵。

しかし…。

「あなた、王蛇のファイナルベントで…!?」「勝手に殺さないでよ」

舞は確かに、王蛇のベノクラッシュでトドメを刺されたところを見た。

だが、彼は間違いなくこの場にいる。

「龍騎に助けられたんだよね。面倒だけど、礼を言おうと思って」

「…おれ?」

竜也はあの場にいたが、助けた覚えは無い。

自分じゃない龍騎…。

「…もしかして…!」

心当たりがあった。

城戸真司かもしれない。彼は見えないところで戦っていたが、それは近い場所だったのかもしれない。

「ん?お宅じゃないんだ?なら良いや」

そう言って、手を振って帰ろうとする。

彼が礼を言おうとしていた。知らないうちに彼にも変化があったのだろうか…。

「待ってください!」

引き止めたのは香里。

「何?」「あなたも卒業ですよね?」

そう、芝浦も3年生。怪我のため、出席は出来なかったが、卒業する事はできた。

「だから?」

「あの…おめでとうございます!」「ゲームばかり、すんなよ!」

「元気で…」「もう、悪いことしないでね!」

竜也達も笑顔で祝いのことばを芝浦の背中に贈った。

「あのときさ…ゲームみたいに戦ってたけど、死にかけて、リハビリして初めて分かった。ゲームみたいにリセットできない人生は、ゲームよりも面倒だけど、ずっと楽しいってさ」

振り向いた芝浦の表情は、笑顔だった。

「ありがとう。また会えたときは、お宅ら、もっと面白い人になってよ?」

そういい残して、歩き去っていった。

 

帰り道。

潤、香里、栞は談笑しながら帰路についていた。

そこに…。

 

「俺の占いは…外れたらしいな」

 

「あ…占い師さん!」

以前、栞の前に現れた若い占い師だ。香里と潤のデートの日に栞の不安を取り除いた、オレンジのジャケットが印象的な青年。

「北川潤。俺は以前、お前を占わせてもらった」「おれを…?」

コインを見つめている占い師。

「その占いは…「苦痛しか待っていない」と出ていた。だが、お前は幸せを手に入れているらしい」

「なんなんだよ?そもそも、あんたは誰だ?」

潤は訝しげに占い師に問う。

 

「俺は、しがない占い師、手塚海之だ」

 

占いはよく当たるがな、と付け加えて微笑む手塚海之。

「だが運命は変えられる。それをお前は教えてくれた」

そう言った後、占い道具を片付け始める。

「今日は店仕舞いだ。決まりきった運命など…ない。それが今日一番の収入だ」

「あの…!」

栞が手塚海之に呼びかける。

「なんだ?占いは今なら受け付けても良いが…」

「いえ…竜也さんのことを占って欲しいんです…」

手塚海之は彼と面識がある。占いは何とかできないものだろうか…。

「…彼の幸せは、この街にまだ残っている。これ以上は言えない」

「当たりますか?」

問うが、彼の返答は栞には想像できた。

「俺の占いは…当たる」

 

一方、こちらは竜也、真琴、ミツル。

「あう~!やっぱり肉まんは最高!」「二次会で、あれだけ喰っておいて…何故太らないんだ?」

帰り道に肉まんを買って、食べながら帰路についていると…。

 

「お久しぶりだね!いやぁ~微笑ましいなぁ!」

 

相変わらずの笑顔で歩み寄ってきたのは…。

「あ、ピロをくれた警備員さん!」

以前、捨て猫のピロを竜也達に押し付けた自称イケメン警備員。

「相変わらずのウザさだな」「そっちも相変わらずの毒舌だね~!」

そうそうと言いながら、名詞を取り出す。

「この前、渡せなかったから」

名詞には、以前は何かを記していたような不自然な空白があり、その下には…

 

「佐野満」と記されていた。

 

「わぁ、ミツルと同じ名前!」

真琴は同じ名前に驚いていたが、ミツルは別のことに驚いていた。

「真琴、漢字が読めるのか?」「あうーっ、読めるわよぅ!」「ほらほら、ケンカしないで…」

相変わらずの2人の言い争いを、竜也が止める。

「やっぱいいね~!でも」

朗らかだった佐野満の表情が急に真剣になる。

「願いをかなえてる今、それを失わないように、気をつけてね」

名詞を3人の手に渡し、手を振りながら歩き去った。

 

秋子は編集室である人物と会っていた。

「いやぁ、そちらの記者は本当にいい記事書きますね!うちのバカ新人に見習わせたい…」

秋子の前にいる男性は…大久保大介だ。後ろには浅野めぐみと島田奈々子もいる。

「あたし、バカ新人じゃありません!」「パソコン壊したりするくせに…」

どうやら、この2人は仲が悪いようだ。

「ふふ、皆さん一生懸命ですね。そちらの記事も拝見してますが、本当に興味深い事が多くて…」

「それで…今日ここに来た件ですが…入ってください」

大久保に言われて入ってきたのは…。

「お久しぶりです、水瀬編集長」

 

鎌田マサトだ。

 

「あら…鎌田さん」

彼は仮面ライダーアビスとしてタイガに敗北し、逮捕されたのだが、未遂だった事もあり、反省の様子が窺えたため、執行猶予で出所することができたのだ。

そのことも、秋子は把握している。

「経験が長いにも拘らず、貴方の下にいることが我慢できずに、あんなマネをしました。しかし貴方のジャーナリストとしての実力は素晴らしい事を、大久保編集長から教えられました。私は実力で貴方を超えて見せましょう。OREジャーナルの一編集員として、もう一度やり直します」

鎌田は頭を下げ、そう言った。秋子にとっては、少し残念な事であったが…。

「そうですか…。実は貴方が戻ってきたときのために、副編集長の席は空けておいたのですが…」

「未来有望な編集者たちにでも、任せたらどうですか?」

大久保がニカっと笑って、秋子に提案した。

「そうですね。ここを任せられる…誰かに…」

 

その日の夜。

竜也は、家にあった手紙を頼りに、近くの百花屋ではない喫茶店までやってきた。

「あの…お久しぶりです」「あら、見ないうちに、ちょっと男前になったじゃないの!」

「ユイさん、沙奈子さん!」

店内には、以前あったことのある神埼ユイと神崎沙奈子が、手を振って彼を呼んでいた。

大怪我をしていたはずだが、今は嘘のように完治している。

「実は、今日来てもらったのは、あなたに謝りたくて…」「謝る…?」

ユイは頭を下げる。沙奈子は説明をする。

「聞いたよ。噂の赤い騎士だったんだってね。なんとなく、そんな気がしてたのよ。んで、ユイはアンタのことを悪く言ってしまった事を謝りたいんだとさ」

「ユイさん…」

頭を上げたユイは泣いていた。

「わたし、あなたのことを「バケモノ」って言ったときのこと、未だに忘れられないんです…。せめて…わたしの言葉をあなたに伝えたくて…。ごめんなさい」

「新聞、見ました。おれの事で、泣いてくれる人は沢山いたんだって。だから…ありがとうございます」

竜也はユイの手をとり、微笑んだ。

「今度、また花鶏に来ます。そのときは、また友達として、いてくれますか?」

「はい!」

 

次の日。

舞、サトル、名雪は、舞の母親の墓参りをしていた。

「お母さん。わたしは今、まわりに沢山の人がいる」

手を合わせ、目を閉じながら、舞は母親に向かって伝える。

「おねえちゃん…」「先生、英雄にならなくても良い方法…見つかりません」

ふと横を見ると、隣の墓に花を供える女性と、別の墓に花を供える青年がいた。

その墓にはそれぞれ「霧島家之墓」「香川家之墓」と記されている。

「あの人…」

サトルは、その青年に見覚えがある。かつて、自分に英雄とは何かと問いかけた青年。

2人も、彼らに気付いたようだ。

「あなたは…カフカの「変身」を呼んでた…」「サトちゃん、知ってるの?」

「やぁ…虎水サトル君。名前を教えてなかったっけ」

会話をしている青年には、以前のサトルと何か似た雰囲気があると、名雪には思えた。

女性は、舞に向かって悲しそうな表情を向ける。

「あなた達も…誰かを悼んでるの?」「わたしは、悼んでなんかいない。安心して良いって、伝えただけ」

舞はきっぱりと言い放つ。すこし微笑んで、女性は立ち上がる。

「面白い子ね」

 

「あたしは霧島美穂」「僕は東條悟」

 

「また逢える日にはお姉ちゃんのこと、吹っ切らなくちゃね」

そう言って、霧島美穂は歩き去った。

「僕も、英雄にならなくても良い方法、見つけないといけないのかな…」

「きっと見つかるよ。僕にだって見つけられたから」

サトルの言葉に、東條悟はどこか満足げな表情で去った。

 

そのころ、祐一はある病院にいた。

警察の管轄内の病棟。重傷を負った囚人などが収容されている。

 

そこには、包帯を巻いた浅倉タカシの痛々しい姿があった。

 

「オマエ…」

祐一を見た途端、驚いたような表情になる。

「浅倉。具合は…?」「ほう…オレを案じるとは、珍しいバカがいたな」

嘲笑する浅倉に、祐一は一歩近づいてこう言った。

「おまえは以前、おれ達との間にあるのは、戦う悦びだけしかないって言ってたけど、それは違う。こうやって、どちらかが手を差し出せば、分かり合える日だって、いつかは来る」

「そんなことを言うために、姿を見せたわけか」

一生懸命、気持ちを伝えたが、浅倉には何も響かないようだ。

「そんなことでも…これが、おれ達にとって、おまえとの間にあるものだ」

「もういい、消えろ。イライラさせるな」

しかし、彼にとって「イライラさせるな」という言葉を言うことは、かなりの進歩なのだ。

イライラしていないのだから。

浅倉の変化を感じ取った祐一は、少しだけ頬を緩ませて病室を後にした。

病室から出ると、またしても意外な人物に出くわした。

「須藤…!」「君は…相沢祐一君ですね」

 

須藤マサキ。仮面ライダーシザースだった者だ。

 

彼も、刑務所内で模範囚として、出所を目指している。

「未だに戦っているのですか?」「まぁな。なかなか終わらないが…」

祐一の言葉を聞いた須藤は、少し顔を伏せる。

「私は自分の自己保身や、力だけに固執しすぎていました。それが自分の身を滅ぼしてしまった事も、今なら分かります」

 

「悔しいが、オレもな」

 

仮面ライダーベルデであった高見沢イツキも現れた。

 

最近テレビで、企業の規模縮小を発表して以来、姿を見なかった。

しかし、今の姿を見る限り、大丈夫のようだ。

「オレもな、身を滅ぼさない程度の欲望を持つ事にした。欲を満たす前に身を滅ぼされたら、満たす事が出来るはずの欲も満たされないからな」

不適に笑う高見沢。

「みんな…変われるんだな」

去っていく2人や浅倉のことを思い出し、例え悪だった仮面ライダーも、何かのきっかけで、変わることが出来ると信じられた。

 

その日の夕暮れ。

竜也は百花屋に入り、栞と待ち合わせをしていた。

「ごめんなさい、遅くなりました」「大丈夫、そんなに待ってないよ」

栞は竜也のいるテーブルに向かい合うように座った。

「竜也さん。7年前の事は全部、思い出したんですか?」「あのリュウガと戦ったときに全部ね」

少し遠くを見ながら、呟く竜也。

「7年前、女の子が木から落ちた。おれはその事実を受け入れたくなくて、自分から記憶と感情を捨てた。それがリュウガになったんだ」

テーブルの下の足の上に置いていた手を強く握る。

「女の子の名前は、月宮あゆ。…あゆはもう…この世には…」

 

「竜也さん。あゆさんは…」

 

その言葉は、竜也にとって衝撃的だった。

対照的に、栞は涙を溜めている。

「竜也さん…こんなときは…泣いてもいいですか?」

「悲しいときは泣いて。おれのように、ならないように…」

ゆっくりと頷く竜也。

「竜也さんっ!」

栞は竜也の胸に飛び込み、嗚咽を漏らしながら泣く。

「悔しいです…!本当は…あゆさんに竜也さんを渡したくないですっ…」

「辛いよね…ごめん。でも…ありがとう」

竜也は、せめて彼女の心を、自分の出来る限り癒そうと、栞の頭を優しく撫でる。

「はい…はいっ…!」

竜也の胸の中で、何度も栞は頷いていた。

 

彼女の言葉を頼りに、病院の廊下を走る。

ある病室に入ると…。

ベッドに横たわり静かに寝息を立てている、一人の女の子を見つけた。

髪が長く、少し痩せこけていた。7年間、眠り続けていたからだろう。

でも、見間違う事は無い。

 

月宮あゆだった。

 

その手には「天使の人形」が握られている。

「あ…ゆ…」

失ったと思っていた大切な人は、生きていた。

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

大好きな人が傍にいる夢…。

 

その人はボクに話しかける…。

 

いろんなことを、話してくれる…。

 

ちょっと意地悪だけど、本当はすごく優しい男の子。

夜の学校で、お化けと戦う女の子。

黙って見ていることだけは、絶対にしたくない男の子。

好きな人に対して、素直になれない女の子。

自分の気持ちを、どんな状況でも正直に伝える女の子。

決められた事ではなくて、自分の決断で動く男の子。

少しずつ変わろうとしている女の子。

お寝坊さんだけど、いつも笑顔の女の子。

記憶や言葉を、大好きな人のために取り戻した女の子。

その女の子を、ずっと支え続けた女の子。

大好きな人のために、英雄を捨てた男の子。

憎しみを振り払って、友達を信じた男の子。

ほほえみをたたえて、みんなを見守っている人。

 

今はいないけど、何処かで、ずっと戦い続けている人。

 

そして…。

 

夕暮れの街で再会した、7年前の幼馴染。

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

大好きな人が傍にいる夢…。

 

繰り返される、当たり前の毎日…。

 

そんな「夢の欠片」が、何度も何度も訪れて…

 

心を少しずつ、満たしてゆく…。

 

空から降る雪の欠片が…

 

街を白く染め変えてゆくように…。

 

 

 

「例えば、竜也さん、自分が誰かの夢の中にいるって考えた事あります?」

ふと、あゆの身の回りの世話をしていたとき、手伝っていた栞が竜也に問う。

「夢の中…?」

「夢を見ている誰かは…夢の中で、一つだけ願いを叶えられるんです。夢の中で暮らし始めた頃は、ただ泣いている事しかできなかった。でも、ずっとずっと、夢の中で待つことをやめなかった…。そして、小さなきっかけがあった」

彼女の胸中には、何があったのだろうか…。

「願い事は…長い長い時間を待ち続けた娘に与えられた、プレゼントみたいなものなんです」

 

「だから、どんな願い事もかなえることが出来たんだと思います」

 

竜也は、あゆが最後に願った言葉を思い出す。

「あゆの願いは…」

自分が振り返らなくてすむように…悲しい思いをしなくてすむように…。

その願いが絶対に叶うとするならば…。

 

 

 

2012年3月。

眠り続けているあゆを見つけて、1年が過ぎた。

目を覚まさない彼女に、竜也はずっと語りかけている。

「祐一は、舞さん達の大学になんとか合格してる。香里さんは志望校に合格して、4月からは近くの医学大学に通うって。潤もがんばって、香里さんに着いて来たみたい。名雪さんと真琴ちゃんは、WATASHIジャーナルの新人編集員として就職が決まって、美汐ちゃんと栞ちゃんが、絵画のコンクールで賞を取ったよ」

あゆのベッドに近づいて、顔を伏せる。

「前に進んでないのは…おれ達だけだね…」

 

「竜也君」

 

「あなたは…!?」「榊原耕一だよ」

そこにいたのは以前、モンスターと生身で戦っていた勇敢な青年。

「きっと、この娘は、今でも待ち続けている」

榊原耕一は淡々と続ける…。

「迎えに行ってやれ…。君にしかできない」

 

「約束を守れるのは、約束をした人だけだ」

 

そう言い終わったとき、竜也はあゆを見て、もう一度、彼のいた方向をみる。

だが、誰もいなかった。

「約束を…」

竜也は病室を飛び出し、あの場所に向かった。

 

 

 

流れる風景が好きだった。

 

冬…雪の舞う街…。

 

新しい足跡を残しながら、商店街を駆け抜けることが好きだった…。

 

春…雪解けの街…。

 

木々の幹に残る小さな雪のかたまりを、手ですくいとることが好きだった…。

 

夏…雪の冷たさを忘れた街…。

 

かたむけた傘の隙間から、霞む街並みを眺めることが好きだった…。

 

秋…雪の到来を告げる街…。

 

見上げた雲から舞い降りる小さな白い結晶を、手で受け止めることが好きだった…。

 

そして、季節は冬…雪の季節…。

 

街が白一色に染まる季節…。

 

流れる風景が好きだった…。

 

だけど、雪に凍りつく水たまりのように…ボクの時間は止まっていた…。

 

四角い部屋の中で…季節の無い時間の中で…

 

ボクは…ずっと一人ぼっちだった…。

 

繰り返し、繰り返し…

 

夢の中で…同じ風景を眺めながら…。

 

明けない夜に…身を委ねながら…。

 

だけど…

 

ゆっくりと…夜がしらみ始めていた…。

 

 

 

辿り着いた先は「約束の場所」。7年前、悲しい出来事が起こり、自分の闇が生まれた場所。

それでも…ここは優しい思い出の場所。

雪は溶けていた。

まるで、呪いがとかれたかのように…

ふと、古びた包みを見つける。7年前、あゆに渡そうとした誕生日プレゼントだ。

手に取り、包みを開ける。

「うぅ…っ!」

慟哭した。

 

包みの中には、再会したあゆが着けていたはずのカチューシャがあった。

 

「渡してなかった…」

そう、1年前のあゆは確かに、眠っているあゆの意識が、奇跡のサバイブによって実体化したもの。だが同時に、竜也の創り出した幻でもあった。

竜也は現実よりも幻を選んだ。自分の心が崩壊しないように、辛い記憶と感情を捨てて、安らいでいる事の出来る「幻」を受け入れた。

思い出を…傷つけず、美しいままにするために…。

もう、許されないかもしれない。憎まれるかもしれない。

それでも…。

「迎えに…いか…ないと…」

そう言って、山を降りた…。

 

次に向かったのは竜也とあゆが、初めて出会った場所。

ベンチの前。

 

「遅いよ、竜也くん」

 

そこには、7年前のあゆがいた。

時が止まっても、7年間待ち続けた少女。

「ごめん…本当に遅くなったね…」

「ううん、許してあげる。約束したもん」

そう言って、ベンチから立ち上がり、竜也に近づいてくる。

「あゆ…誕生日おめでとう」

竜也は、包みを渡す。

「あ…開けても良い?」「うん」

うれしそうに、あゆが包みを開ける。

「わぁ…赤いカチューシャだぁ…!」

「あゆ」

喜んでいるあゆに竜也が声をかけ、手を差し伸べる。

 

「さぁ…行こう」

 

「うん!」

 

季節が流れていた…。

 

雪解けの水のように、

 

ゆっくりと、

 

ゆっくりと…。

 

凍った思い出が、溶けるように…。

 

新しい季節が、動き出すように…。

 

 

 

「おはよう…あゆ」

 

 

 

2012年4月。

「ふぅ…遅いなぁ…」

「あゆぅ!」

待っていた少女の前に、1人の少年が現れた。

「遅いよぉ…!」「ごめん、退院祝いを買っててさ…」

そう言って、竜也が差し出したものは、たい焼き。

「これで機嫌、直してくれる?」「うん!許してあげる!」

今、あゆは車椅子での生活。8年間のブランクは厳しく、体力低下が著しいのだ。

それでも…。

「さ、行こう。みんなが主役を待ってるよ!」

「それじゃ、急がなきゃね!」

 

止まっていた思い出が、ゆっくりと動き出した…。

 

たった一つの…

 

小さな奇跡の欠片を抱きしめながら…。

 

「竜也くん。ボク、また元気に走れるようになるかな?」

「走れるよ。土の上も、草の上も…雪の上だって、また走れるよ!」

「うん…そうだね」

 

どれだけ時間が掛かるかは分からない…。

 

でも…。

 

今は、時間が沢山あるのだから!

 

 

 

これは小さな奇跡の物語。

 

そして…

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                     遂に見つけたぞ…!

 

これが…最後の戦いになる…

 

                     最後のサバイブを弾き出す方法…!

 

何故だ…!?

 

                     おれ…いままで…

 

 

 

 

第49話「風の辿り着く場所」

 

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

須藤マサキ
芝浦シュン
高見沢イツキ
鎌田マサト

浅倉タカシ

神崎ユイ
神崎沙奈子

桃井令子
島田奈々子
浅野めぐみ

水瀬秋子
大久保大介

霧島美穂
手塚海之

北岡秀一
由良吾郎

東條悟
佐野満

榊原耕一



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幕間
登場人物紹介(追加分)


ジーク=仮面ライダー電王ウイングフォーム

「仮面ライダー電王の世界」の住人。

たまに野上良太郎達に助太刀する白色のイマジン。「白鳥の湖」から白鳥のイメージが具現化された(野上良太郎のイメージではない)。

自身を「プリンス」と称して高飛車な立ち居ふるまいを好むなど、自己中心的な上、空気をまったく読めないハタ迷惑な性格。

ハナに諌められて以降は「主の使命」に目覚め、お供に対する労いと思いやりを心がけるようになる。特にハナに対しては諌められてから「姫」と呼ぶようになり、好意まで抱くようになった。

 

 

如月弦太朗=仮面ライダーフォーゼ

「仮面ライダーフォーゼ」の主人公。

TVシリーズ「仮面ライダーフォーゼ」の如月弦太朗と同一人物。自分の学園を「仮面ライダー部」の仲間と共に守り続けている。

五代雄介に頼まれ、明久やモモタロス達と共に、一時的にこの世界に訪れる。

リーゼント、短ラン、Tシャツ、ボンタンという昭和の不良のような格好にアイデンティティを持つ。その見た目に反して正義感が強く、情に脆いまっすぐな性格の持ち主で努力家な一面もある。他者に遠慮なく接するが、相手の心に控えた本質を見抜く洞察力も持つ。

友情を求める方向性は悪事を働く者も含めて周囲に分け隔てなく向けられており、気にいらなかったり、厄介なやつほど友達になりたい、という考えを持つ。

 

 

吉井明久=仮面ライダードラゴンナイト

「バカとテストと召喚獣」の主人公。

異世界で、龍騎と酷似した戦士「仮面ライダードラゴンナイト」として、戦い続けている。

城戸真司に頼まれ、弦太朗やモモタロス達と共に、一時的にこの世界に訪れる。

『Wの世界』の住人達と面識があり、特に翔太郎やフィリップを師匠のように見ている。

(詳しくは、断空我さんの小説「新訳・仮面ライダードラゴンナイト」を参照)

 

 

龍崎竜也の記憶と感情=仮面ライダーリュウガ

『仮面ライダー龍騎の異世界』の住人だと思われるが詳細は不明。

竜也が、7年前にあゆを目の前で失った記憶(竜也は死んだと思い込んだ)と自身の怒りや悲しみなどの負の感情を捨て、それが何らかの理由で実体化したもの。性格は竜也の真逆といって言い。

夢の中から干渉を始め、王蛇が倒れると共に表舞台での活動を始める。

竜也を追い込み一体化を図るも、あゆの願いによって失敗。怒りのままに龍騎へ戦いを挑むも、最後のサバイブの力を手にした龍騎に敗北して消滅した。

 

 



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最終三部作
第49話 「風の辿り着く場所」


1年前。

「遂に見つけた…!」

龍騎とリュウガの最終決戦を見届けたオーディンは、嬉々として呟く。

リュウガは理想としていた働きかけは見せなかったが、結果的に最終目標とする「最後のサバイブ」を発見させてくれたのだから。

「確かに不自然な存在だったが、まさか、月宮あゆが最後のサバイブだったとは…」

7年間眠り続けていた彼女が何故、肉体を離れて存在していたのかも、これではっきりした。

しかし、あゆの意識体が最後のサバイブである以上、サバイブの力を奪い取ることは出来ない。

更に、意識体のあゆが消滅してしまったため、サバイブの力は極端に弱くなっているはず。

それでも…。

「彼女からサバイブの力を弾き出すためには…」

オーディンは、最後のサバイブを諦めることはしない。

いずれ、月宮あゆは目を覚ます。

その時こそ…。

 

「全てに決着がつく」

 

話は今の時間に戻る。

「うんしょ…もう…ちょっと…」「がんばって!」

家の中で手すりにつかまり、立ち上がったり、歩いたりとリハビリに励んでいるのは、月宮あゆ。

つい数日前、意識を取り戻し、竜也と本当の再会を果たした。

眠り続けていたために長かった髪の毛は、香里や名雪に頼んで1年前のような髪型にしてもらい、あの思い出のカチューシャもつけてある。

時間の許す限り、竜也はあゆのリハビリを手伝っている。

ミツルや真琴もそうなのだが、2人は仕事もあるので、頻度は竜也よりは少ない。

「お、やってるな。開いてたから、入らせてもらったぞ」「応援…」

その声に振り向くと、玄関に祐一、舞、久瀬、佐祐理がいた。

あゆは意識体だったときの記憶も持っており、彼らをはじめとした、今までの仲間や友達の事も、ちゃんと誰だか分かっている。

「あ、こんにち…うわわ!?」

歩けるつもりで4人に近づこうとして、バランスを崩して倒れそうになる。

「おっと…!」「あ…竜也くん!」

それを支えたのは竜也。この調子で、倒れそうになるあゆは、いつも竜也が支えている。

「あんまり、根詰めるのも良くないね。このくらいで、今日はおしまいにしよ。お客さんもきたし」

「そうだね」

竜也の言葉で、あゆはリハビリを一旦やめて、祐一達を家に上げて、リビングで話を始めた。

 

「あぁ~…入学したはいいけど、勉強が難しすぎるって…」「頑張りなさい。男の子でしょ、潤」

潤と香里は大学の帰り道。

ちょうど、同じ時間の帰りだった栞や美汐と出くわし、一緒に帰る。

「お姉ちゃんと潤さん。相変わらず、お似合いですね」「本当…微笑ましいです」

この1年の間に、香里と栞は、潤を下の名前で呼ぶようになった。

理由は栞曰く、いずれ兄になる人を苗字で呼ぶのは気が引け、香里は、潤に頼まれてしかたなく…とのこと。

「あったりまえ!おれと香里の最強カップルがいれば、どんな敵も楽勝だぜ!」

「まったく…言ってる意味がよく分からないわ」

あきれ果てて、やれやれと首を振る香里。しかし、彼女は表情を隠す事が上手くなり、それが本当の気持ちではないことは、潤もよく分かっている。

「最強カップルは、ここよ!」「だから、恥ずかしくないのか、真琴?」

潤の宣言を否定する声の主は真琴。一緒に居るミツルの腕に抱きついている。

「ふふ、まだ戦いが終わってない事が嘘みたいだね」「うん、みんな幸せそうだもん」

名雪とサトルも、彼らの姿を嬉しそうに見つめている。

この4人は、WATASHIジャーナルの仕事を終えて、帰りの途中であった。

彼らは間違いなく、幸せだった。

例え、戦いの中での僅かな安らぎの時でも。

 

「どこまで回復した…?」「まだ走れないけど、ちょっと歩くくらいなら出来るよ」

8年も眠っていたのに、数日でここまで回復した。

まさに奇跡としか言いようが無い。

「もうじき走れたら、また食い逃げを始めるのか?」「うぐぅっ!どうして知ってるの!?」

あゆが、7年ぶりに竜也と再会したとき、諸事情があったとは言え、食い逃げをしてしまった。

この事実を知っているのは、自分を除けば…。

竜也に視線を向けると、彼は冷や汗を垂らして、そっぽを向く。

しかし、逃げ切れない事を悟ったのか、両手を合わせて頭を下げる。

「…ごめんっ!3ヶ月くらい前に、あゆとの馴れ初めを話して…」「しゃべったの!?」

涙目になって机に突っ伏するあゆ。

「龍崎君…。月宮君に嫌われたね…」「あはは~、御愁傷様です~」「そ、そんなぁ~!?」

久瀬と佐祐理の追い打ちを受け、あゆに続いて、机に突っ伏する竜也。

「竜也くん、ほら!ボク、竜也くんを嫌ったりしないから!」

顔を上げたあゆは、竜也の体を、よいしょ、よいしょ、と言いながら起こす。

その姿を見ていた祐一は、竜也を見て少し笑いながら呟く。

「おまえ…随分と明るくなったな」「おれが?」

祐一の言葉に、竜也は首を傾げる。

「今思えば、1年前のおまえは笑顔も作ってたからな。今は間違いない、自然な笑顔だ」

そう、どんなに優しい笑みを浮かべていても、以前の竜也は本当に笑ってはいなかった。仮面ライダーという重荷を、いつもどこかで感じていた。

だが、今はそれを時には忘れ、本当の心からの笑顔を作ることが出来ている。

「多分、みんなや…あゆのおかげだよ」

 

そして…。

「機は熟した。…最後の戦いだ」

オーディンは、コアミラーに触れる。

「グウウウウウウウウウゥ!」「キシャアアアアアアァ!」「ブブブブブブブブ!」

その途端、その中から凄まじい数のモンスターが生まれ、オーロラを飛び越えて、竜也達のいる世界へと向かった。

「これが最後だ…これが…」

 

キィィン…!キィィン…!

 

「う…っ!?」

頭が痛くなるほどの強い反応を、竜也達が聞きつける。

これほどまでに強い反応は初めてだ。

「もしかして…」

あゆは何か分かる。

「あゆ…ここにいて。多分、これが…最後の戦いだと思う。祐一、舞さん!」

あゆを残して、竜也、祐一、舞は、戦いの場に赴く。

 

秋子は編集室の窓から、外を見つめている。

商店街のある場所には、爆発や、時折現れる青い影…レイドラグーンの編隊が見える。

「城戸さん…貴方の愛弟子さんは多分、最後の戦いに向かいましたよ」

少しだけ、下唇を噛む。

「…助ける事はできないんですか…?」

 

「なんて数だよ…」「これ…どうやって戦うんだ!?」

潤、久瀬、サトル、ミツルが、先にこの場に駆けつけていた。

そこには恐らく、万を超える数のモンスターが蠢いている。

商店街は既に崩壊しつくされていた。

「みんな!」「竜也、相沢、川澄!」

竜也達も駆けつけると、オーロラが現れる。

 

「来たな…」

 

そこからオーディンが現れる。彼と対面するのは、1年ぶりだ。

「1年ぶりか…オーディン」

モンスターを押しのけたオーディンは、竜也に問いかける。

「早速で悪いが「最後のサバイブ」の在り処、もう分かっているだろう?」

「…あぁ」

彼の捜し求めていた「最後のサバイブ」は、あゆに宿っていた。

意識体の記憶も持ち合わせているあゆには、おそらくまだその力が残っているはず。

「渡してもらおうか?」

つまり、あゆを渡せという事。

「断る!あゆを、おまえなんかに渡すもんかっ!絶対に!」

即座に却下する。

やっと大切な人とともに生きる事が出来るというのに、今ここで失うわけにはいかない。

「力ずく…か。あまり好みのやり方ではないが…止むをえん」

<<SWORD VENT>>

オーディンはゴルトセイバーを2本呼び出し、7人を睨む。

「いくよ、みんな。これを最後の戦いにしよう!」

竜也の宣言とともに、全員がデッキを構える。

 

「「「変身っ!」」」

 

龍騎、ナイト、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラー。

ずっと戦い続けてきた仲間たち。

例え勝利の可能性が低くても、絶対に諦める事はしない。

<<SURVIVE>>

ナイトは疾風のサバイブを使って強化変身し、ダークブレードを引き抜く。

「はあああああああああああぁ!」

いっせいにオーディンに向かって駆け出す。

「ムンッ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

オーディンは、地面にゴルドセイバーを叩きつけ、衝撃波で龍騎たちを攻撃する。

「来るぞ!」

<<BLAST VENT>><GUARD VENT><COPY VENT>

「キキイイイイイィ!」

しかし、龍騎たちも以前のように、黙って攻撃を受けるだけではない。

ナイトSは、ダークレイダーの放つダークトルネードで威力を下げ、龍騎、ファム、ライア、ゾルダがそれぞれ防具を装備して、攻撃を完全に防ぎきる。

「…ほう。1年の間に、戦闘技術、チームワークともに高まったというわけか」

もともと戦闘経験の長かった龍騎はともかく、ナイトS達も1年もの間、戦い続けてきた。

つまり、1年前の龍騎と全員が戦闘技術は同等、タイガやインペラーに至っては、それ以上になっているのだ。

「ならば…」

「グウウウウウウウウウウウゥ!」

オーディンが両手を振り上げると、シアゴーストやレイドラグーン達が龍騎達に襲い掛

かる。

「なるほど…数を増やして、此方の手を減らすわけか!いぇあぁ!」

インペラーが毒づきながらも、モンスターの軍勢を相手にする。

背後から、ハイドラグーンが近づいている。

気づいたのだが、正面からくるモンスターの数で、相手ができない。

「斎藤君っ!」

ダダダダダダダダダ!

数の多さによって、出来た隙はゾルダが助ける。

「久瀬、助かった!」「構わないさ。それよりも!」

<SHOOT VENT><SPIN VENT>

ゾルダはギガランチャー、インペラーはガズルスタッブを装備して、モンスターに立ち向かい続ける。

「斎藤君!上手く避けてくれ!」「任せろ!」

ズダァン!

接近戦で戦うインペラーに構わず、ギガランチャーを発射するゾルダ。

しかし、それは仲間を顧みないからではない。仲間であるインペラーが避けられると信用して放っている。

確実に1体ずつ倒しているインペラーの脇や首の横を通り越して、モンスターに叩き込まれるギガランチャーの一撃。

<SWING VENT>

「うぉらああああぁ!」

バチィィ!

ライアはエビルウイップを振り回し、モンスターを弾き飛ばす。

威力が弱まった時は、上手く手首を動かして1体のレイドラグーンを捕まえる。

「プレゼント、受け取れよぉ!」

ドガアアアァ!

捕えたレイドラグーンを思い切り投げ飛ばし、他のモンスターにぶつける。

<STRIKE VENT><SWORD VENT>

「やああああああぁ!」「でぇああああああああああぁ!」

ズバアアアァ!ドガアァ!

タイガはデストクローを、ファムはウイングスラッシャーを装備して、モンスターを一掃している。

「舞ちゃん!空から攻撃を!」「わかった…!」

ファムはタイガの肩を借りて、空中に飛び上がり、飛んでいるハイドラグーンやレイドラグーンを薙ぎ払いつつ、重力と回転の威力を加えて、一気に地面に飛び込む。

「はあああああああああああああぁ!」

ドゴオオオオオオオオオォ!

その威力は強く、辺り一帯のモンスターは一気に爆発した。

「サトル…流石」「僕も良いコンビネーションでしょ?」

 

そして、龍騎とナイトSはオーディンに立ち向かっている。

<<SHOOT VENT>><STRIKE VENT>

「ガアアアアアアアアアアアアァ!」

「はあっ!」「だああああああぁ!」

ダークアローとドラグクローファイヤーがオーディンに向かって飛んで行く。

<<GUARD VENT>>

ドゴオオオオオオオォ!

「ハッ…!」

それをゴルトシールドで防ぎきる。

しかし威力が高い技だったため、爆発で視界を奪われた。

<SWORD VENT><<SWORD VENT>>

「はああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

煙の中から龍騎とナイトSがオーディンに突進する。

「無駄だ」

しかし、ドラグセイバーとダークブレードの一撃を、瞬間移動で避けるオーディン。

「祐一、おれの後ろに!死角を作らないで!」「あぁ!」

龍騎の言葉で、ナイトSは彼の背中合わせになるように立ち、死角を消す。

「ならば、真正面からの攻撃は耐えられるか?」

その声が聞こえた途端、ナイトSの目の前にオーディンが現れ、ゴルトセイバーが振り下ろされる。

それをダークブレードとダークシールドで防ごうとするが、威力が強すぎる。

ズガアアアアアァ!

「ぐああああぁ!」「祐一っ!?」

防ぐことは出来なかった。

ナイトSの実を案じた龍騎も、隙ができてしまう。

「ハアァ!」

ドゴオオオオオオオォ!

「うわああああああぁ!」

ゴルトセイバーで胸部を切り裂かれ、その威力で地面を転がる龍騎。

 

「竜也…くんっ…!」

 

近くの壁や瓦礫に寄りかかりながら、あゆが近づいてきた。

彼の危機を感じて、ここまで来たのだ。

「あゆ…!?来ちゃだめだ!逃げて!」

「いや…だよ…」

「うるさい!逃げろおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!」

あゆの言葉を聞かず、頭ごなしに拒否する龍騎など、初めてだった。

「月宮あゆ…!」

オーディンは彼女を見て仮面の奥で笑い、ゆっくりと近づいてくる。

「う、うぐ…」

龍騎の先ほどの剣幕や、オーディンへの恐怖から逃げようとするが、まだリハビリ中の彼女は走ることができず、ゆっくりと、しかも歩き始めの赤ん坊の様にしか歩けない。

「あゆちゃん!くそ、退けぇ!」「お願い、退いて!」

ライアやファム達もモンスターに阻まれて、近づくことができない。

オーディンはすぐに距離を縮めた。

「さぁ…最後のサバイブを渡せ」

「いや…!」

怯えながらも強く否定するあゆを見て、オーディンは組んでいた右腕をゆっくりと挙げる。

「頼んでいるわけではない、命令だ。渡す気がないのならば、なぜ此処へ来た?」

「竜也くん達が辛い目に遭ってるのに…ボクだけじっとするなんて嫌だから…!」

あゆが弱々しくも、はっきりと言い放つ。

「せめて、見守りたいの!」

「ならば、見届けろ」

オーディンは揚げていた右手を龍騎達の方向へ向ける。

 

「貴様の所為で、大切な者が死ぬ姿を!」

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「うわああああああぁ!」「ぐああああああぁ!」

龍騎達は、辺りのモンスターと共に吹き飛ばされる。自分の所為で大切な人が傷つけられていく。

このままでは、命さえ…。

「やめて!お願い!」

オーディンの肩をつかんで、強く揺する。

「望んだのは貴様だ。それとも…」

仮面越しに睨み付けるオーディン。凄まじい威圧感を感じる。

「最後のサバイブを渡すか?」

「あゆ…渡しちゃ…だめ…だ!」

龍騎は、あゆに強く呼びかける。

「うん…わかってる…!」

あゆは龍騎を見ながら頷く。

「渡さないよ!例え竜也くん達が傷ついてるとしても、ここでボクがあきらめたら…みんなが傷ついてる意味が無駄になっちゃう!それにボクは…竜也くん達が絶対に負けないって信じてる!」

少し下を向き、俯くオーディン。

「渡さぬならば…まだ手はある。人間の肉体に憑り着いたサバイブの力は、同じサバイブの力を備えた仮面ライダーのファイナルベントにより、弾き出すことが出来る」

ゴルトバイザーを呼び出し、アドベントカードを引く。

そのカードは…。

 

<<FINAL VENT>>

 

「…!?」

オーディンの…いや、全仮面ライダーの中で最強の力を秘めた技を発動するためのカードだ。

「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィ!」

金色の不死鳥型モンスター「ゴルトフェニックス」がオーディンの背後に現れる。

その姿は神々しく、光り輝いていた。

だが、あゆから見れば、それは災厄の象徴に見えた。

「…これで終わりだ…!」

光の塊となったオーディンが、あゆに突進していく。

最強の一撃「エターナルカオス」。

逃げたくても、足が動いてくれない。

ダメージが大きいナイトS達も動けず、助けに行きたくても、体が自由に動かない。

彼女はもう助からないと、誰もが諦めてしまった。

 

 

 

…ただ一人を除いて。

 

 

 

ドンッ!

「きゃっ…!?」

動けなかったあゆを、何者かが突き飛ばした。

それは…。

「竜也くん!?」

龍騎だった。彼があゆを突き飛ばし、そして救った。

だが、それは自身を犠牲にしたことと同意。

凄まじい轟音と、目を開けられないほどの光が辺り一帯を包みこみ、周りの者の視界と音を奪う。

 

「何故だ…!?」

オーディン自身も驚愕していた。

まさか、他者をかばう人間がいるとは…。オーディンにとって、人間とは己の欲望で世界を崩壊させるほどの存在だと認識していた。

さらに、彼には動ける力は残されていないはず。

彼にとって、あり得ないことが重なった。

その象徴たる龍騎は今…。

 

鎧がボロボロに砕け、ヒビからは大量の出血をして、仰向けに倒れていた。

「竜也くんっ!」

あゆは必死に、倒れた血まみれの龍騎に近づいて抱き起こし、デッキを引き抜く。

「あ…ゆ…」

変身が解けると、もはや身体中が壊れかけた竜也がいる。

口からはおびただしい量の血が流れ、体の至るところは皮膚が裂けて血肉が見えている。

「竜也っ!」

祐一たちも変身を解き、竜也に近づこうとする。

あゆは、自分のダッフルコートが血まみれになる事も気にせずに、竜也を抱きしめる。

「どうして!?どうしてボクを庇ったの!?」

その言葉に、かすれた声で返事をした。

「…おれ…いままで…自分を…犠牲にしてきた…かもしれない…」

「え…?」

「でもね…自分の…命を投げ出すことはしなかった…おれが死んだら…戦う人がいなくなるからって…この世界の人を守れなく…なるからって…」

「訳が分からないよ!?」

やっている事と言っている事が矛盾している。あゆに竜也の思考は理解できなかった。

この時点では。

「だけど…一人のために…初めて自分の命を投げ出した…この世界の全ての人より…君を守りたかったから…。それで…守れた」

竜也にとって自分の命は、人を守るために存在すると考えてきた。だが、あゆの命は世界中の人よりも大切に思えた。

だからこそ、オーディンのエターナルカオスの餌食になるとしても、あゆを庇えた。

 

大切な…愛する者だから。

 

「そんな…!ボクなんかのために…!」

涙を流して、竜也を見つめるあゆ。

一方、竜也は虚ろな表情になりつつも、微笑む。

「いいんだ…。初めて…命を…投げ出す事に…戸惑わなかった…」

「やめて…そんなこと…言わないで!」

再びあゆが抱きしめると、竜也の口から嗚咽が漏れるような声が聞こえる。

少し離すと、竜也は泣いていた。

「あぁ…でも…やっぱり死にたくない…あゆと、もっと一緒に生きていたい…ずっと一緒に居たい…」

どうしても、未知の「死」という恐怖が竜也を襲う。そして、なにより独りぼっちに戻ることが怖い。

「竜也くん…!」

「ごめんね…。こんなときだけでも…カッコつけたかったけど…やっぱり死ぬのは嫌だよ…。傍にいて…お願い…」

竜也は子供のように、血だらけの手をあゆの腕にしがみつかせ、泣きじゃくる。

「じゃあ、死なないで!傍にいるから…!ずっとずっと!」

「…がはっ!?」

口から血の塊が吐き出される。

「おい…死ぬなよ…!」「まだ…終わってない!」

「こんなとこで、くたばる奴があるか…!?」「僕等はどうすれば良い!?」

「あゆちゃんを…置いていくの!?」「まだ借りは返しきってない!」

地面を這いながら、祐一たちがそう叫ぶ。

こんなに自分を想ってくれる仲間に恵まれた。

戦ってばかりだから、苦しいとは思っていたが、どこか幸せも噛みしめられた。

遠のく意識の中でも、喜びを感じられた。

「嬉しい…みんな…が…おれに…そう…言ってくれ…て…」

「竜也くんっ!竜也くんっ!」

あゆが泣いている。竜也はそれを見たくなくて、彼女の涙を拭う。

やがて、その手が力なく地面に垂れ下がる。

「竜也くん…?」

ゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと最後の呼吸をし、そして停止する。

 

部外者として生まれ、城戸真司から仮面ライダー龍騎を継ぎ、残酷なほど過酷な運命に翻弄されつつも、大切なモノのために戦い続け、最後はその身を投げ出した龍崎竜也。

 

彼の命は…

 

 

 

完全に消えた。

 

 

 

「…寝たの?もう…起きてよ…。今はお昼だよ…?どうして…ねぇっ!どうして!?」

揺するが、彼はまったく反応しない。

生命には必ず在る筈の「死」という無情さが、あゆを襲う。

「いや…いやあああああああああああああああああああああぁ!!!!」

あゆは亡骸となった竜也を抱きしめて泣き叫ぶ。

もう…彼には温もりを感じられない。

 

「別れは済んだか?」「うぐ…!」

それを暫く見届けたオーディンは、あゆの手をつかんで立ち上がらせる。

「オマエ達も準備が出来次第、来い。全てを教えよう」

手を翳すとオーロラが現れ、2人を飲み込んでいった。

 

残った6人は、竜也の亡骸に近づく。

その場に香里、栞、佐祐理、名雪、真琴、美汐がやってきた。

彼女達は、倒れていた祐一達を支えて、竜也の場所まで連れて行った。

「おまえ…こんなところで死ぬのかよ…!」

ゴッ…!

祐一は竜也の胸を殴る。反応はない。

「竜也…さん?」

栞は、ゆっくりと竜也の前で膝を着く。

「嘘ですよね?…あゆさんを残して死んだんですか!?」

「龍崎君が…まさか…」「こんなことって…」

「信じられないよ…こんなの!」「やだやだ!竜也が死ぬなんて!」

「こんな形で…お別れするつもりだったんですか…?」

彼女達も、竜也の死が受け入れられなかった。それだけ、竜也はこの人々に影響があった。

 

「ですが、立ち止まるわけにはいかないでしょう?」

 

ふと、聞き覚えのある声がした。

「あんた…」「香川博士!?」

そう、香川ヒロユキ。背後には仲村ソウイチとNoMenの構成員と思われる青年達が立っている。

ざっと30人ほどだろうか。

仲村は下を俯いて言う。

「本当に残念です。彼のような平和を愛する勇敢な戦士を失った事は、我々にとっても戦力及び、精神面においても、大きなダメージを負うことになりました」

彼にも何らかの変化があったのだろうか…。以前は自分にとっての利害のみでしか見なかったのに。

さらに香川が言う。

「しかし、ここでじっとしていれば、いずれ世界はオーディンの思い通りの世界になってしまう。それだけは避けましょう。彼も…それを望んでいるはずです」

その後、顔を上げて後ろの構成員に宣言する。

「良いですか!これは、この世界の存亡を賭けた最後の戦いです!絶対にこの世界を守るのです!」

『了解!』

構成員達は一斉に返事をして、全員がオルタナティブと同じデッキを構える。

『変身!』

デッキを装填すると、オルタティブに似通い、それよりも、さらに金ラインやマークが省かれて、没個性的になった「オルタナティブ・トルーパー」に変わる。

「オーディンとの戦いは貴方たちに任せます。この世界は、我々NoMenが守り抜きます!」

「「変身!」」

香川と仲村もオルタナティブ・ゼロとオルタナティブに変わり、モンスターの群れに、トルーパー達と共に立ち向かっていった。

 

その後、少しの間があって…。

祐一が立ち上がり、残されていたオーロラに歩いていく。

「例え強大な相手でも、竜也は諦めない。最後まで立ち向かう。戦ってるのは…おれ達だけじゃない!」

振り向かずに、歩き続ける。

「これから、着いてくる奴は?」

無論、全員だった。

「竜也の願いを…継ぐ」「弔い合戦だ!」「次こそ、決着をつける!」

「僕も…最後まで戦うよ」「これで…あいつに借りを返しきろう」

香里や佐祐理たちも、着いてきた。

「あたし、見届けるから」「わたしも…最後まで!」「せめて、応援くらいは…」

「ふぁいと、だよ!」「ミツルの活躍、期待してるわよ!」

「ここでじっとしてるなんて、人として不出来でしょう?」

彼らは竜也の想いを背負って…。戦い、見守る。

 

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回…。

 

                    願うだけでは、満足に共存すらできない

 

違う、証明してみせる!

 

                    人在らざるモノ…「仮面ライダー」

 

私には、もうオマエ達しか仲間がいない

 

                    オマエ達は既に、人間ではないのだ

 

 

 

 

第50話「Last Regrets」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
仲村ソウイチ=オルタナティブ
NoMenの構成員=オルタナティブ・トルーパー軍

水瀬秋子

仮面ライダーオーディン





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第50話 「Last Regrets」

 

 

あゆはオーディンによって、洋館の一室に閉じ込められた。しかし抵抗する気力さえ湧かず、じっと座り込んでいた。

扉の外から、オーディンが話しかける。

「仮面ライダー龍騎カノンサバイブが生まれたことで、オマエ達のいる世界は、破滅の危機から逃れられた」

紅渡達の言っていた「2つの世界が織り交ぜられた象徴」は、仮面ライダー龍騎カノンサバイブそのもの。

『Kanonの世界』の住民である月宮あゆと、『龍騎の異世界』のサバイブ、さらに中核である龍騎と融合した存在が生まれたことにより、融合による世界崩壊は免れたのだ。

「だが…その途端、彼に訪れたのが「死」とは…皮肉だな」

 

オーディンはデッキを引き抜いて変身を解く。

 

部屋の前に複製の2枚のサバイブを置く。王蛇SとリュウガSが使用していたものだ。

「これで4枚。…理想には2枚足りんが、最後のサバイブと「無限のサバイブ」が手中にある今、もう実行に移しても良いだろう。コアミラーさえあれば、彼女からサバイブを弾き出さずとも、エネルギーを使える」

声が若干、若返る。すくなくとも、オーディンだったときのような威厳のある低い声ではなく、寂しげな青年らしい声だった。

 

あゆは部屋の中でつぶやき続けている。

「ごめんね…。ボクを助けてくれたのに…ボクは竜也くんを助けられなかったよ…」

涙が一筋、頬を伝う。

彼女の心にあるのは、竜也が死んだという絶望。そして何より、自分を庇ったことにより死んでしまったという後悔。

「ボク…もうこの世界が…きれいに見えないよ…」

 

秋子がテレビをつけると、臨時ニュースが流れていた。

「世界各地に出没した怪物ですが、ただいま、正体不明の鎧を着た武装集団達と交戦中です!しかし依然、怪物たちがとどまる気配はありません!皆様もはやく…」

「きっと…あの子達なら勝てます」

キャスターに向けていっているのだろうか、優しく諭すような声で呟く。

だが、つぎに頬に手を当てる。

「いいえ…勝つのではなく、守り抜く…でしたね」

そう言って、編集室のパソコンに文章を打ち始めた。

そのタイトルは…。

 

オーロラを超えた祐一達。

「なんだ、ここは…!?」

衝撃を覚えるのも無理はない。目の前には、洋館と鏡のオブジェ以外には何も無い、荒れ果てた世界が広がっていたのだから。

「ここは『龍騎の世界』。そしてオマエ達に続く戦いが始まった場所だ」

その声とともに、誰かが歩いてくる。

黒いコートに身を包み、短髪の冷たい目が特徴の長身の青年。

「だれ…?」

舞が警戒しながら聞く。

その答えは、ポケットからあるものを取り出すという形で返事をした。

「オーディンのデッキ…!」

「これが、私の素顔だ。いや…借り物である以上、素顔ではないな。人間としての姿…と言ったところだろう」

そう、彼は仮面ライダーオーディンだ。

しかし声と口調がアンバランス。そもそも、変身前と変身後で声が変化しているので、どうしても違和感を感じてしまう。

オーディンだった者の言葉に疑問を感じた栞が聞く。

「借り物って…どういうことですか…?」

 

「この青年の名は「秋山蓮」。仮面ライダーナイトとして、城戸真司と最後に戦った相手だ」

 

「今は魂が死して、私が実体を保つために、肉体を使っている。私の意思は此方にある」

そう言って、デッキを少し揺らす。

どうやら、今まで戦ってきたオーディンは、カードデッキに宿っていた意思らしく、人間としての姿は持たないようだ。

「まさか黒幕が、生き物ではなかったとは…といった表情だな」

秋山蓮は、少しだけ悲しそうな声でつぶやく。

「オマエ達のその先入観こそが、私が動く理由となった」

デッキを構えると、辺りに金色の羽が舞い、Vバックルを形成する。

「変身」

バックルに装填すると、金色の羽が秋山蓮を包み込み、仮面ライダーオーディンへと姿を変える。

「総てを教える約束だったな。見るが良い」

そう言って、オーロラを創り出す。

 

そこにはナイトやゾルダ、王蛇にファムなどと言った『龍騎の世界』の仮面ライダー達がいる。

 

「この世界で生まれた仮面ライダーは、13人が願いを叶えるために、最後の一人になるまで殺し合った。その中には城戸真司や秋山蓮、13番目として私もいた。尤も、城戸真司は戦いを止めるために奔走したのだがな」

オーディンの言葉に呼応するかのように、一人、また一人と仮面ライダーが死んでゆく映像が映し出される。

 

「私は…絶対、生き延びて…!」

「俺が…ゲームを面白くしてやったのに…!」

「俺の占いが…やっと…外れる…」

「なッ…!?グガアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「何でこうなるんだよ…。俺は…幸せになりたかっただけなのに…」

「こんなことが…こんなことがある筈がない!認めないぞォオオオオオ!」

「香川先生…次は僕…誰…を…」

「ハハハハハハハハハハハ…!ハハハハハハハハハ!」

「俺…なんかライダー同士の戦いが…虚しくなっちゃった」

「真司…しんじぃ…靴の紐くらい…ちゃんと結べよな…」

 

 

「あうぅ…」「うぅっ…」「いやっ…」

名雪や真琴、佐祐理は、その残酷さが辛くなり、つい目をそらした。

「最後には…」

 

 

 

「死ぬなよ…蓮」「お前もな…!」

 

 

 

龍騎とナイトがモンスターの大群に立ち向かい、そして蓮と呼ばれたナイトが絶命していく姿が映し出され、映像は消えた。

「私は戦いから降り、戦うことを拒絶し続けた城戸真司が生き残り、願いを叶える力を手に入れた。だが…」

そう言って、荒れ果てた世界を見やる。

「モンスターによって破壊し尽くされた世界は死んだ。城戸真司は世界の真実に辿り着き「オリジナルの仮面ライダー」となって、全ての世界を守る宿命を背負った。私はオマエ達のいる『Kanonの世界』に辿り着いた」

 

「私の介入により『龍騎の異世界』が生まれて融合した。言うなれば、両親のいない龍崎竜也は私の息子だ」

そして、コアミラーに触れる。

「『Kanonの世界』を、私のいた『龍騎の世界』の様に破滅するようなことがない、理想の世界に…。そのために「総てを修正する」。そして…楽園を築く。これが私の目的、そして全て知っている事だ」

 

「さぁ…始めよう」

その瞬間、神崎邸から3つの光がコアミラーに向かっていき、オーディンの振れている手に伝わっていく。

「…総てを!」

コアミラーが吸収され、オーディンの背の鎧は、蛹の脱皮の様に剥がれ落ち、4つの翼が生える。

オーディンの最終形態。

 

「仮面ライダーオーディンコアサバイブ」

 

「マジかよ…」「オーディンが…サバイブに」

既に絶望的な状況だったのに、さらに絶望に陥れる最強のライダーが現れた…現れてしまった。

勝率は…ほぼ0%だ。

「さて…今度こそ最後の戦いにしようか」

しかし、祐一たちは全く引かなかった。それどころか、今まで以上に闘志を燃やしている。

香里は潤の手を握る。

「潤。負けないでね」

「おう!これが終わったら…」

「デートでしょ?じゃあ、しっかり頑張ってきなさい!」

「潤さんがお兄ちゃんになるの、楽しみにしてます」

佐祐理は手首の傷を隠していたリストバンドを外して、久瀬に渡す。

「わたしの隠し事は、あなたに預けます。だから、絶対に戻ってきてください」

「責任重大ですが…えぇ、任せてください」

名雪はサトルの背中に手を回して、懇願するように呟く。

「サトちゃん。わたし、やっぱり弱いから…サトちゃんが居ないと、強くいれない」

「うん。これからも支え続けるから…待ってて!」

真琴と美汐はミツルと向かい合う。

「ミツル…もう一人は嫌だよ」「真琴も…わたしも信じてます」

「安心しろ、証人付きの婚約があるからな。くたばれないさ。でも…まずは借りを返しきってからだ」

それぞれが大切な人と、戦う前に約束を交わした。

約束は守るために在る。…負けるわけにはいかない。

『変身っ!』

この言葉を、最後の掛け声にするために…。

 

あゆや祐一達のいた『Kanonの世界』に一人の青年が現れる。

オリジナルの仮面ライダーのリーダーである五代雄介だ。

「やっと青空が見えかけてきたのに…」

悲しい顔だった。

「こんな結末は…」

そう呟いて、後ろを振り向く。

 

そこには…。

 

オーディンCSは、ナイト達を見据える。

「ここまで争うことに、私は意味を感じない」

意外な言葉に、ナイト達は立ち止った。

「私の本来の目的は、全ての共存。争いの無い…誰もが共存できる世界。私が約束した世界」

「そんなこと言いながら、おまえはモンスターを使って、人を殺してるだろう!?」

ゾルダがオーディンCSに反論する。

彼は黙ったまま、右手を翳す。

ゴオオオオオオオオオオオォ

「「うおああああああぁ!?」」「あぁっ…!?」

その瞬間、今までよりも強い衝撃波が7人を襲う。

「ただ願うだけでは、満足に共存すらできないのが人間の世界だ。…違うか?」

 

キィィン…!キィィン…!

 

辺りから強い反応が感じられる。それは香里や栞、佐祐理など、仮面ライダーでない者達さえも感じ取る。

反応の主は…オーディンCSだ。

まるで、彼の怒りの様に…。

「これまで、ただ共に在ろうと願った者達が、誰かと違うという理由だけで…どれだけ傷つき命を奪われたのだ?」

「ぐっ…!」「くぅ…」

彼の攻撃から逃れようと、立ち上がろうとするが、ダメージが大きくて適わない。

「ただ共に在りたいと願っていたのに…皆と違うという理由だけで…一体、どれだけの人間が醜い争いを起こしたのだ!?」

「がっ…!ぐあああぁ…!」「祐…一…!」

すぐ目の前にいたナイトの首をつかみ、高く持ち上げる。体のダメージとオーディンCSの力が強すぎるために、離すことができない。

「自分たちと違う他人を蹴落とし、己が持つ欲望を叶えるために生きることが前提にある世界。それが今の人間の世界だ…」

「かはっ…がぁ…」

ナイトの力が抜け、意識が遠のいていく。オーディンCSは少し腕をおろし、顔の近くに持ってくる。

そして、暗示をかけるかのように強く、そして静かに言う。

「私はそれを総て破壊し、生きるためだけの世界を創る…」

 

「楽園だ…!」

 

「ヌゥアアァ!」

そして、ナイトを力一杯投げる。

「うああああぁ!」「祐一っ…!」

地面を転がったナイトを、ファムが必死に近づいて抱き起す。

オーディンCSの言葉に憤りを感じたライアが反論する。

「その為に…何の罪もない人を殺し続けるのか!?」

「その中の誰か一人でも、私の言葉に耳を傾けた者があるのか…?」

一定の距離を取って歩く。インペラーとタイガが構えを取って、攻撃に対応する準備をしている。

「私が動き出すまでの間…一体、誰が私に手を差し伸べた?」

強い語気だったが、どこか悲しみや苦しみも込められている。悲痛に訴えかけるような声。オーディンCSの

「ただ「共に在ろうとする願い」を…誰が聞き入れたのだ!?」

 

「誰一人いなかった…誰一人として…」

 

「それは、おまえが…」「違う!」

インペラーの言葉をオーディンCSは遮る。

「…人は人在らざる者とは、真に分かり合えない。私と人間達がそうだったように!」

「そんなの…おれ達が違うと証明する!」

全員が身体中の痛みに耐えて立ち上がり、オーディンCSに立ち向かっていった。

<SPIN VENT>

タイガとインペラーが同時にデストバイザーとガゼルスタッブで突き刺そうとする。

「オマエ達は一体、何のために戦うのだ?」

ゴオオオオオオオォ!

「たあっ!」「くそっ!」

<SHOOT VENT><GUARD VENT>

衝撃波を避けた2人の後ろから、ギガテクターを装備したゾルダが、ギガキャノンを発砲する。

「ふんっ!」

ズダアアアアアアァ!

「私を倒せば、それでオマエ達の願いは叶うのか?」

ズガアアアアアアアアアアァ!

「ぐぅああああああああああぁ!」

ギガキャノンの弾丸を弾き返し、それ以上の威力の衝撃波がゾルダを襲う。

ギガテクターで防ぐが、その威力は防ぎきれるものではなかった。

<SWING VENT><SWORD VENT>

そしてオーディンCSの死角から、ファムとライアが攻撃を仕掛ける。

「せえええええええええぇい!」「おぉりゃああああああああああああぁ!」

「そこには、全ての人が争わない平穏な暮らしが約束されているのか?」

オーディンが右手を翳した。

「くっ…!」「やべっ!?」

とっさにアドベントカードを引いて、防御の体制をつくる。

<GUARD VENT><COPY VENT>

ゴオオオオオオオオオオオォ!

「くっ…あああああああああああああああぁ!」「うおおおおああああああああああああぁ!?」

防御が意味を成さない。

だが彼に対する一撃を防がなければ、死が待っている。

…竜也のように。

<FINAL VENT>

「キイイイイイイイイィ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

ナイトは飛翔斬でオーディンCSに突進する。

だが。

ガガガガガガガガガガ!

「なんだと…!?」

オーディンCSは、片手で一撃を防ぎきった。

「仮に叶ったとして、オマエ達はそこで生きていけると思っているのか?」

ドガアアァ!

「がはっ!」

そのまま振り払われ、壁に叩きつけられる。

 

 

 

「人在らざるもの…「仮面ライダー」になったオマエ達に!」

 

 

 

「甘い!…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「がはあああああっ…!」「くっ…うわあああああああああぁ!」

オーディンCSが身体中からエネルギー波を出して、ナイト達を攻撃する。

全く歯が立たない。

香里達にも、その絶望は伝わってきた。

「そんな…!」「ここまで戦っても…勝てないのですか!?」

「負けては…負けてはいけません!」「お願い…神様…!」

「あうぅっ…!絶対に勝ってよぉ!」「こんな…こんな酷なこと…!」

倒れ伏した6人のライダー。その姿は既に人間の姿に戻っている。

「ちくしょおっ…!」「負け…ない…!」「なにも…何も出来ないのかよぉ!?」

「ここまで来て…!」「みんなが待ってるのに…!」「こんなところで…!」

もう立ち上がることは出来ない。身体中の傷や疲労、痛みがそれを許さない。

彼らが抵抗できないと分かったオーディンCSはゆっくりと歩き、彼らを諭すように淡々と話す。

ただ、その語気は未だに強い。

「人が人であり続ける限り、人にとって、真に共存できる世界は生まれない。それを人間自身が明らかにしているではないか…!」

遠くを一度見て、再び祐一達を見つめる。

睨むのではなく。

「オマエ達にとって、自らが「善」なのか?私が「悪」なのか!?」

オーディンCSの言葉は、現実として説得力を持って、祐一達の胸に突き刺さる。

対照的に、オーディンCSは手を差し出す。

 

「私と共に戦え…私と共に、この世界を創り直すのだ!」

 

その次の言葉は、どこか寂しそうな声だった。

「…私にはもう、オマエ達しか仲間がいない」

それでも、彼の言葉に賛同は出来ない。

「無理だ…!おまえの考えは…ただの独り善がりだ!」

祐一の言葉を無視したかのように、オーディンCSは続ける。

「忘れるな…どう足掻こうとも、デッキを手にした時点で…」

 

 

 

「オマエ達は既に人間ではないのだ」

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終話「仮面ライダー龍騎」

 

 

 

 

戦わなければ、生き残れない…!

 








キャスト

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム

秋山蓮≠仮面ライダーオーディン






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最終話 「仮面ライダー龍騎」

最終話 「仮面ライダー龍騎」

 

 

 

オーディンCSは、祐一達に近づいてくる。

「出来れば、オマエ達とは分かり合いたかった。だが…やはり不可能のようだ」

そう言って、右手を翳す。

「私は相容れぬ存在だったのだろう。だが…オマエ達と人間もそうだ。結局、偏見や差別の果てに、世界を滅ぼすほどの争いを起こす。…それが運命だ」

もう抵抗する手立てがない。

せめて、この攻撃を見続けることを拒絶したかったのか、その場にいる全員が、強く目を閉じる。

 

そのとき…。

 

 

 

「負けちゃだめだよ!」

 

 

 

「あゆ…!」「あゆちゃん…!」「月宮君…!」

洋館の中から、あゆが飛び出してきた。閉じ込められていたが、脱出に成功したらしい。

しかし、足が自由に動くわけではない。どうしても動きが遅い。

それでも、瞳の中には確かな光が宿っている。

「ボク…もう、この世界がきれいに見えないって思ってた。でも…それでも、竜也くんならあきらめない…最後まで!だから…ボクもあきらめない!」

彼女の決意さえ、オーディンCSには鼻で笑われる。

「その意志は素晴らしい。だが諦めなかったとしても、願いが成就するとは限らない」

 

 

 

「その言葉、覆させてもらうぜ?」

 

 

 

「これは…!?」

その言葉と共に、今まで見たこともないほどの巨大なオーロラが現れる。

中から現れたのは…。

「また通りすがるぞ?」

「みんな、大丈夫!?」「助けに来ました!」「フフフ、助太刀よ?」「お宝は無事かい?」

門矢士、小野寺ユウスケ、光夏海、キバーラ、海東大樹。

 

「まだ拭いきれてなかったらしいな。この街の涙」

「君にとって、仮面ライダーとはなんだ!?」「俺は不死身だ。お前達もそうだろう?」

左翔太郎、フィリップ、照井竜。

 

「今なら、どんな場所にも、どんな世界にも手は届く!みんなと手を取り合えば!」

「俺達もいる!俺達の手をつかめ!」

火野映司、後藤慎太郎。

 

「よ!おまえらとも、ダチになりに来たぜ!」

「俺、参上!」「今度は…釣り逃さないよ?」「お前らの絆に俺は泣けたで!」

「暴れてもいいよね?答えは聞かないけど!」「家臣達よ、苦しゅうない」

如月弦太朗、モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジーク。

 

「彼らの音楽を…消させません!」「待ってても、ヒーローは来ない。だから、お前達がヒーローになれ!」

「おばあちゃんが言っていた。人が諦めないときは、何よりも守りたいものがあるときだってな」

「俺は夢を見つけた。だからお前達もこんな所で、夢を潰すな!」「よ、鍛えたか?」

「みんなの新しい時間…きっと切り開けるよ」「君たちが勝ち取るんだ、運命を!」

「大丈夫!もうすぐ空は晴れるから!」

紅渡、剣崎一真、天道総司、乾巧、ヒビキ、野上良太郎、津上翔一、五代雄介。

 

様々な世界から彼らを救うために、駆けつけた仮面ライダー達。

 

そして、けたたましいエンジン音と共に、ドラゴンサイクルに乗って現れたのは…。

 

 

 

 

 

「みんな!」

 

 

 

 

 

龍崎竜也だ。

 

あゆが目に涙を溜めて、竜也に近づく。

「竜也くん…!」

「ごめんね、心配かけ…」

竜也が言い終わらないうちに、あゆが竜也を強く抱きしめ、顔を埋める。

「うぅ…ぅあああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」

まるで心のダムが決壊したかのように、とめどなく涙を流しながら泣き叫ぶ。

それだけではなく、彼の胸を何度も叩く。

「ばか、ばか、ばか、ばかあああああああああああああああぁ!!!」

あゆが泣く姿は何度も見てきたが、ここまで泣くところは初めてだった。

必死に意思を強く持っていたが、彼女の心の奥は、もうボロボロだったのだろう。そうさせたのは、紛れもなく自分自身。

竜也はあゆを抱きしめ返した。

「本当にごめん…。謝ってばかりだね、おれ。でも…ありがとう」

「うあああああああああああああああああああああああぁ!!!」

 

少しの時間があって…。

「大丈夫?」「うん…もう平気」

あゆが落ち着き、涙を拭いて笑顔で言った。

 

「おかえり、竜也くん!」

「ただいま、あゆ」

 

潤は意味が分からず、竜也に疑問を投げかける。

「おまえ…どうして…?」

「おれにも分からないんだ…」

竜也は生きていた。

しかし、その理由が本人にも分からない。

それを解決するべく、最後の青年が現れる。

 

 

 

 

 

 

「竜也」

 

 

 

 

 

 

スカイブルーのジャケットに、赤い服とジーンズ、長い茶髪。

 

どこか悲しげで、どこか強い意志を秘めていて、どこか優しそうな表情。

 

竜也が誰よりも尊敬し、憧れ、目標とした青年。

 

「今まで、よく頑張ったな…」

 

「あ…あぁ…」「あんたは…?」

 

 

 

その名は仮面ライダー龍騎。

 

 

人としての名は、こう言う。

 

 

 

 

 

城戸真司。

 

 

 

 

 

1年前に龍騎を竜也に託して、尚も「オリジナルの仮面ライダー」として戦い続けてきた青年。

遂に再会したのだ。

「真司さん…!」

「じゃあ…」「この人が…あの城戸真司さん…!?」

あゆや祐一達は、彼とは初対面。

竜也の言っていた、誰よりも尊敬できる人物が今、目の前にいる。

 

「馬鹿な…何故…!?」

オーディンは今までとは信じられないほど動揺していた。

なにせ、死んだ人間が生き返ったのだから。

トドメを刺し損ねたわけではない。だが死んだ直後の傷は嘘のようにない。

死んだ人間が生き返る方法は『ファイズの世界』の住民が死後に「オルフェノク」という怪人に覚醒したり、『Wの世界』の不死兵士「NEVER」への人体改造などがある。

しかし、彼は『龍騎とKanonの世界』の住民。

蘇生する方法などない筈だ。

「そうか…!」

だがオーディンには、竜也が蘇ったことに心当たりがある。死んだ人間を唯一、変わらない状態で蘇生できる方法。

「最後の願い…!」

 

そう、城戸真司が掴み取ったはずの、13人の仮面ライダーの殺し合いの果てに手に入れた「新しい命」。

 

竜也に適応されれば、可能である。

城戸真司達「オリジナルの仮面ライダー」も、融合による破滅の危機がない世界に干渉できる。

盲点だった。

 

城戸真司はオーディンに宣言する。

「ここにいる人は、誰もが優しく強い。苦しみ、困難にぶつかっても、大切な「何か」のために、最後まで諦めずに戦う!それが…」

 

「仮面ライダーだ!」

 

そう言った後、竜也のほうを振り向く。

勇敢で、どこか優しげな表情だった。

「これが最後の戦いだ。…戦えるか?」

「はい!」

もう迷う必要はない。竜也は後ろを向く。

 

そこには、自分が育んできた「絆」を証明してくれる人達がいるのだから。

 

しかしオーディンCSは嘲笑する。

「フン…所詮バケモノ同士の殺し合いだ…」

「ちがうな」

だが、その言葉をきっぱりと否定したのは…士だ。

「俺達はバケモノじゃない。ここに集まった奴らは例外なく全員、人だ。人は、他者と会話し、傷つけあい、そして理解し合う。この絆を育むことの出来る生き物は人だけだ!」

「貴様、唯の破壊者ではないな…。一体、何者なのだ!?」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」

 

士がそういった途端、ケータッチのカードの龍騎の部分が光り輝き、ライドブッカーにあった、用途不明の青い空白のカードに絵柄が現れる。

 

そこには士に見覚えのない、新たな仮面ライダー龍騎の最終形態の顔が描かれていた。

 

今度こそ正真正銘、最後の戦いだ。

竜也がデッキを取り出して翳す事を歯切りに、祐一達も翳してVバックルを形成する。

士はディケイドライバーを取り出し、ディエンドライバーとライダーベルトを取り出した大樹と共に、強化変身ツール「ケータッチ」を取り付ける。

夏海はキバーラを掴み、前に翳す。

<CYCLONE><JOKER><ACCEL―UPGRADE>

翔太郎とフィリップがガイアウィスパーを鳴らすと、オーロラからエクストリームメモリが現れ、照井はアクセルメモリにガイアメモリ強化アダプタをセットする。

「未来のコアメダルを…!」

映司は、今はいないアンクが管理していた「オーメダルホルダー」から、長い間、空白だったところに備えられた「未来のコアメダル」を取り出して、オーズドライバーに装填し、後藤はバースドライバーにセルメダルを一気に6枚挿入する。

「いよっしゃあ!最高にキバって行くぜ!」「テンション・フォルティシシモ!」

五代雄介と小野寺ユウスケは、腰に手を当てて霊石が埋め込まれたベルト「アークル」を呼び出し、紅渡と天道総司は、オーロラの中から変身デバイス兼ツールのカブトゼクター、キバットバットⅢ世、タツロットを掴む。

ヒビキは音角をアームドセイバーに当て鳴らし、剣崎一真はラウズカードをブレイバックルに挿入してベルトを形成させる。

「みんな…いくよ!」

乾巧がファイズブラスターにコード「555」を入力して、野上良太郎はケータロスが取り付けられたデンオウベルトを巻き、イマジン5人組は大きく頷く。津上翔一がオルタリングを腰に形成させる。

「!」

弦太朗はフォーゼドライバーを装着して、ロケットスイッチを「コズミックスイッチ」に差し替え、明久はアドベントデッキを翳してVバックルを形成する。

<STANDING BY><3><2><1>

 

そして、城戸真司が赤い龍騎のカードデッキを翳す。

 

 

 

『変身!』

 

 

 

<スーパー!スーパー!スーパー!スーパータカ!スーパートラ!スーパーバッタ!>

<COSMIC―ON><BOOSTER><EXTREME>

<CRAN EARM, SHOVEL ARM, DRILL ARM, CATERPILLAR LEG, CUTTER WING, BREAST CANNON>

<スーパー・タトバ タ・ト・バ!スーパー!>

<HEN-SHIN><CHANGE HYPER BEETLE>

<TURN UP><EVOLUTION KING><AWAKENING><CLIMAX FORM>

<FINAL KAMEN RIDE DECADE><FINAL KAMEN RIDE DIEND>

<<SURVIVE>>

 

<<SURVIVE>>

 

『仮面ライダーディケイド』の仮面ライダーである、

仮面ライダーディケイド究極コンプリートフォーム、仮面ライダーディエンドコンプリートフォーム、

仮面ライダークウガライジングアルティメットフォーム、仮面ライダーキバーラ。

 

『Wの世界』の仮面ライダーである、

仮面ライダーWサイクロンジョーカーゴールドエクストリーム、仮面ライダーアクセルブースター。

 

『オーズの世界』の仮面ライダーである、

仮面ライダーオーズスーパータトバコンボ、仮面ライダーバース・デイ。

 

『フォーゼの世界』の仮面ライダーである、仮面ライダーフォーゼコズミックステイツ。

 

『ドラゴンナイトの異世界』の仮面ライダーである、仮面ライダードラゴンナイト。

 

「オリジナルの仮面ライダー」である、

仮面ライダークウガアルティメットフォーム、仮面ライダーアギトシャイニングフォーム、仮面ライダーファイズブラスターフォーム、仮面ライダーブレイドキングフォーム、

仮面ライダーアームド響鬼、仮面ライダーカブトハイパーフォーム、

仮面ライダー電王超クライマックスフォーム、仮面ライダーキバエンペラーフォーム。

 

そして『仮面ライダー龍騎』の仮面ライダーである、

仮面ライダーナイトサバイブ、仮面ライダーファム、

仮面ライダーライア、仮面ライダーゾルダ、

仮面ライダータイガ、仮面ライダーインペラー。

 

仮面ライダー龍騎、仮面ライダー龍騎サバイブ。

 

最後にディケイドUCFが、ケータッチの龍騎のボタンを押す。

<RYUKI><KAMEN RIDE KANON SURVIVE>

 

「あゆ、行こう!」「うん!」

 

音声の後、ディケイドUCFの胸にある「ヒストリーオーナメント」が変わる。

竜也の変身する龍騎が、あゆと手を繋ぎ、光に包まれる。

すると2人は1つとなり、あの最終形態に変わった。

本来は変身できなかったのだが、ディケイドUCFの助力によって実現した、彼らの世界の象徴である存在。

 

仮面ライダー龍騎カノンサバイブ。

 

 

 

「「さぁ、お前の罪を…数えろ!」」「さぁ…振り切るぜ!」

「「「「「俺達、参上!」」」」」「宇宙キターーーーーーーーーー!」

 

 

 

「どこまでも邪魔を…!!」

忌々しげに呟くオーディンCS。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

絶叫を上げると、彼の体から凄まじい数のモンスターが現れる。

その数は百を超えているだろう。

 

「あれは…!」

「オーディンは、モンスターを生み出すコアミラーを取り込んでいる。つまり彼自身が、モンスターを生み出せる」

ファムの疑問を龍騎Sが解決し、インペラーがその事実に困惑する。

「…どうやって相手すれば!?」

「相沢祐一、川澄舞、北川潤、久瀬シュウイチ、虎水サトル、斉藤ミツル。君達はコアミラーの中心核…「要」を破壊してくれ。あの洋館にあるはずだ」

城戸真司はあくまでも的確な指示を送るが、要など一体どういったものなのか分かるわけがない。

タイガが反論する。

「そんなもの、どこにあるか分からないよ!?」

「モンスターが守っているはずだ。行けば分かる。オーディンは俺と竜也で食い止める!」

ナイトS達は顔を見合わせて、頷きあう。

「行ってくるぜ、真司さん!」「頼む!」

その言葉で、ナイトS、ファム、ライア、ゾルダ、タイガ、インペラーは神崎邸に向かう。

「あたし達も行くわ!」「最後まで見届けます!」

「みんな一緒です!」「うん、ふぁいと、だよ!」

「あぅ~!ミツル、大活躍しなさいよぅ!」「みなさんが…勝つことを祈ります!」

そう言って、香里、栞、佐祐理、名雪、真琴、美汐の6人も、彼らについていった。

 

「させん!」

オーディンCSがモンスターを差し向けようとするが…。

ズガアアアアアアアアアアアアアアァ!

クウガUFとクウガRUFがエネルギー波で吹き飛ばす。

「小野寺君、力を貸してくれ!」「はい!ここから先は、俺達が守りましょう!」

「主役は俺達だ!」

龍騎KS、龍騎Sと共に、オーディンCSの足止めを行なう。ディケイドUCFと目立ちたがり屋のモモタロスが先導に立って電王SCFも頭数に入った、

 

キバEFとブレイドKFがオーロラを呼び出す。

「俺達は『龍騎とKanonの世界』に現れたモンスターを倒す!」

「行きましょう。彼らへの償いとして」

2人の後を、キバーラ、バース・デイ、アクセルB、カブトHF、ファイズBF、アギトSF、A響鬼が続く。

 

残るディエンドCF、OSタトバC、WCJGX、フォーゼRS、ドラゴンナイトは、この辺り一帯のモンスターの殲滅を任された。

「さて…お宝を見るためには、こっちのお宝の出し惜しみはいけないね」

そう言って、ディエンドCFはケータッチにあるリュウガのマークを押す。

<RYUGA><KAMEN RIDE SURVIVE>

すると、ディエンドCFのヒストリーオーナメントはリュウガSに変化し、

 

隣に仮面ライダーリュウガサバイブが現れる。

 

その姿を見た龍騎KSは息を呑む。

「リュウガ…!?」「もう一人の竜也くん…!」

竜也の意識とあゆの意識の両方が声を自由に出せるようだ。

リュウガSはドラグブレードを構えて、龍騎KSを見つめる。

「オマエ達がオレに勝った理由、教えてもらおう」

あの「もう一人の龍崎竜也」の声でそう言い放って、モンスターの群れに走っていった。

 

「行くぞ!」

 

龍騎Sの掛け声と共に、一斉にそれぞれの戦いに向かっていった。

 

『龍騎とKanonの世界』。

世界各国でオルタナティブ軍が苦戦している。

「落ち着いて相手の隙を伺い、確実に一撃を!」

オルタナティブ・ゼロが、装備されている通信機越しに、必死に指示をするが、敵の数が多すぎる。

そこへ…。

<CELL BURST><ENGINE MAXIMUM DRIVE>

「シュウウウウウウト!」「はあああああああああああああぁ!」

オーロラから現れたバース・デイとアクセルBが、空に居るモンスターを吹き飛ばす。

各地のモニターに写る仮面ライダー達がモンスターを倒していく。

「ブラッディ・ローズ…。僕に力を!」「ハイパークロックアップ!」

<HYPER CLOCK UP>

<BLASTERMODE><FAIZ BLASTER TAKE-OFF>

「イアアアアアアアアアァ!」

キバEFは飛翔態へと姿を変え、カブトHF、ファイズBFも同様に、滞空しているモンスターに向かっていった。

 

「今ならいけます!」

オルタナティブ・ゼロは突然の助っ人に歓喜した。

キバーラは、キバーラサーベルでモンスターを薙ぎ払いながら、オルタナティブに向かって声をかける。

「わたし達も戦います!」「えぇ…力を貸してください。異世界の仮面ライダー!」

彼等と共に、地上に蠢くモンスターたちを、アギトSF、A響鬼が倒していく。

「ハアアアアァ…ハアアァ!」「鬼神覚声!ツェリャアアアアアアアアァ!」

 

「はっ!せいやああぁ!」

ズバァ!

オーディンCSが直接生み出したモンスターたちを、OSタトバCは時間を止める能力を使った応用技である瞬間移動で翻弄しつつ、トラクローソリッドで攻撃し続ける。

背中にある翼を羽ばたかせ、WCJGXはプリズムビッカーを構える。

「「ビッカーゴールドファイナリュージョン!」」

ゴオオオオオオオオオォ!

空中にいるモンスター達を、プリズムビッカーから放たれる広範囲のビームで攻撃し続け、残ったモンスターは…。

「はあああぁっ!」

ドガアアアアアアアアァ!

凄まじい馬力のドラゴンサイクロンに乗ったドラゴンナイトが、ドラグセイバーで払うように薙ぎ倒す。

<ATTACK RIDE BLAST>

「はあああぁ!」

バババババババァ!

ディエンドCFは、ディエンドブラストにより威力を増したディエンドライバーで、モンスター達を撃ち抜いていく。

「みんなの絆で、宇宙を掴む!うおおおおりゃあああああああああああぁ!」

ドゴオオオオオオオオオォ!

フォーゼCSは高く飛んだ後、凄まじい勢いで回転しながら、右手に装備された「バリズンソード」をモンスター達にぶつける。

 

「ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

ゴオオオオオオオオオオオオォ!

「おぉりゃあぁ!」「だぁりゃあ!」

オーディンCSは衝撃波の嵐を放つが、クウガUFとクウガRUFがそれを防ぐ。

「くっ…!」「はあぁっ…!」

両方とも、歴代仮面ライダーで最強クラスであることもあり、少し引きずられながらも、相殺に成功する。

「行くぜ、行くぜ、行くぜえええ!」「先輩、一人で突っ走らないでよ!」「これ、頭が高い!」

爆風が消えた直後、一人で会話する電王SCFが、オーディンCSに切り込む。

しかし、そう簡単にいかない。

「オオオオオオォ!!」

ズガアアアアアアアァ!

「「「うわああああああああああぁ!?」」」

身体中から衝撃波を放ち、電王SCFの接近を阻む。

「もう、モモタロスのせいだよ!バ~カ!」「まったくや…!」「あんだと、小僧、熊!?」

どうやら、彼らは絆が深まりすぎて、常にケンカしてしまうようだ。

「みんな!とりあえず落ち着いて!心を一つにしないと、超てんこ盛りは本当の強さを発揮できないよ!?」

「しょうがねぇなぁ。ペースを落としてやるか!」「じゃ、先輩と肩を並べますか!」「いよっしゃあ!」

「いえ~い!」「私が皆に合わせよう。ありがたく思え」

しかし、彼らの意識を野上良太郎の意識が上手くまとめ、心を一つにする。

「行くぞ」

ディケイドUCFと共に並び立ち、デンガッシャーとライドブッカーを構える。

その電王SCFの前に、ドラグカリバーとドラグブレードを構えた龍騎KSと龍騎Sが立ち、オーディンCSを睨む。

「竜也、月宮あゆ。今はあいつを倒そうとは考えるな。彼らが要を破壊するまで持ちこたえる事だけを考えろ!」

「わかりました!」「はい!」

2人同時に返事をして、オーディンCSに向かって駆け出す。

 

キィィン…!キィィン…!

 

家具や壁が破壊され、ほぼ平坦になっていた神崎邸内には、強い反応がある。

「あれだ!」

ゾルダが指差す先には、一枚の絵が浮いていた。

 

それには兄妹らしい少年と少女が、手を繋いでいる姿が描かれている。

 

「グルルルルルルルゥ…!」

しかし、その前に1体のモンスターが立ち塞がった。

「あのモンスターは…!?」「リベレに変身していた…!」

以前、鳴滝の命で仮面ライダーリベレに変身し、竜也達を苦しめた強敵、ボスドラグーンがいた。どうやら別個体らしい。

「グオオオオオオオオオオオォ!!」

6人は、吼える相手の攻撃を窺うが、辺りにも数体のモンスターがいる。

ナイトS、ファム、ゾルダ、タイガは、このモンスター達を相手にする。

「竜也達を待たせている。早めにケリをつけるぞ!いぇああああぁ!」「いくぜ、斉藤!」

インペラーとライアが同時に地面を蹴り、ボスドラグーンに攻撃を仕掛ける。

向かってくる2人を、ボスドラグーンは持っていた槍で薙ぎ払おうとする。

「グワアアアアアアアアアアァ!」

ガキィン!

「くっ…!」「あぶねっ!?」

インペラーはとっさに避けて、ライアはエビルバイザーで防ぐが、威力が高く、少し後方へと追いやられた。

「何やってるの、潤!しっかりしなさい!」「ミツル!ガツンと決めちゃってよぅ!」

後からやってきた香里と真琴が2人を激励する。

誰かが支えてくれている仮面ライダーはもっと強くなる。

「おう、見てろよ!」「言われなくとも、決めてやる!」

態勢を整え、アドベントカードをベントインする。

<SPIN VENT><COPY VENT>

「うぉらああああああぁ!」「でぇああああああぁ!」

ガゼルスタッブを同時に床に突き刺して回転しながら手を離し、高速スピンでボスドラグーンに突っ込む。

ドガアアァ!

「グゥオオオォ!?」

威力とスピードを上手く高めた応用技であるがため、ボスドラグーンに防ぐ術はなかった。

「次は僕とやろうか、川澄君!」「はちみつくまさん」

ブランバイザーとマグナバイザーを構えているファムとゾルダ。

その合間に、ボスドラグーンは立ち上がって態勢を整える。

「せぇあああぁ!」「ふんっ!」

ファムが近づいてブランバイザーを一突きするが、上手く避けられ、マグナバイザーの弾丸も槍で防がれた。

「川澄先輩、久瀬先輩、もうひと踏ん張りです」「シュウイチさん、舞!応援してます!」

美汐と佐祐理が、2人を応援する。

「佐祐理…美汐…ありがとう」「これは…負けられないね!」

ファムとゾルダは頷きあって、再度、ファムがボスドラグーンへ近づく。

当然、ボスドラグーンは避けようとするが、何故かファムはボスドラグーンから、ブランバイザーやウイングスラッシャーの届かない距離を置く。

「生徒会長さん、今!」「「元」生徒会長だ!」

ダダダダダダダダ!

「グゲアアアァ!?」

そして、ゾルダはファムに向かってマグナバイザーを発砲する。…いや、正確にはファムのブランバイザーめがけて。

その弾丸はブランバイザーから弾かれ、ボスドラグーンへと向かっていく。

想定外の出来事に対応できず、そのままダメージを受けた。

「トドメは僕らだ、祐一君!」「すぐにケリをつけよう!」

ダークブレードとデストバイザーを振りかざして、ボスドラグーンに向かっていく。

「祐一さん、負けたら嫌いになりますよ!」「サトちゃん!行けええええぇ!」

栞と名雪の声援に2人は少しだけ頷いて、攻撃に集中する。

ナイトSは既に強力なライダー。タイガと共に力を合わせれば、ボスドラグーンを倒す事は容易だ。

ボスドラグーンは攻撃を防ごうとするが、ダークブレードの威力が高すぎてそれは敵わない。

「たあああぁ!」

ズバアアァ!!

「ゴアアアアアアァ!」

隙だらけになったところを、タイガが一気にデストバイザーを振り下ろす。

「でぇりゃあああああぁ!」

ドガアアアアアアァ!

「グワアアアアアアァ!」

<<FINAL VENT>>

「キイイイイイイイイィ!」「くらええええええええええ!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオォ!

ナイトSはダークレイダーの突風を受けて、ウインドライダーシュートをボスドラグーンにぶつけ、殲滅に成功する。

「今だ!」

ナイトSはダークブレードを栞達に渡す。

「…はい!」

 

今まで戦いたかったのに、戦えなかった彼女達への計らいだ。

 

6人でダークブレードを握り締め…。

『やああああああああああああああああああああああぁ!!!!』

ズバアアァ!

宙に浮いていた絵を切り裂いた。

その途端、神崎邸に満ちていた反応音は消え去った。

 

その頃、オーディンCSと対峙していた龍騎KS達。

「グアァ…!?やってしまったか…!?」

突如、オーディンCSが苦しみ始めたと同時に、背中の翼が消え去り、元のオーディンに戻った。

コアミラーが分離し破壊され、体から2枚の複製サバイブと最後のサバイブであろう「光」も分離した。

複製したサバイブは消滅したが、「光」はあるべきあゆの…龍騎KSの身体に、再び宿った。

「成功だ…!」

龍騎Sがそう呟いた途端、彼はオーディンに掴みかかった。

「オーディン。お前は、もう許されない…。野望のためだけに、様々な人をこの戦いに巻き込み、そして殺した!だが、それは俺も同じだ。蓮を殺し、竜也達を結果的に巻き込んだ。俺もお前も、許されない罪を背負った。終わらせよう…。一つの戦いを終わらせ、一つの戦いを始めた「EPISODE FINAL( あのとき)」のように…」

 

「2人だけで!」

 

そう言って、オーディンを羽交い絞めにして、ドラグバイザーツバイにアドベントカードをベントインする。

「貴様っ…!?」

<<ADVENT>>

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

その音声と共に、ドラグレッダーが進化した烈火龍「ドラグランザー」」が現れる。

龍騎Sはオーディンをドラグランザーのほうに向けて固定した。

「ドラグランザー、やれ!」

「真司さん!?」「真司!?」

 

…道連れだ。自分もろとも、ドラグランザーが吐くドラグブレスの餌食にするつもりだ。

 

契約モンスターは、契約主であるライダーの言葉には絶対服従。ドラグブレスを吐こうとしている。

そして、放たれた灼熱の火炎が龍騎Sとオーディンに向かっていく。

ゴオオオオオオオオオオオォ!

しかし…。

そのドラグブレスを、龍騎KSが翼とドラグカリバーを駆使して防いだ。結果的にオーディンへのトドメは刺し損ねたが、龍騎Sを守る事に成功したのだ。

「あゆ、平気…!?」「うん、大丈夫…」

いくら最終形態と言えど、ドラグランザーのドラグブレスが強力である事に変わりはない。竜也の意識はあゆの安否を確認するが、上手く防御したらしい。

オーディンは驚いている隙に、龍騎Sの腕から離れる。

龍騎KSの竜也が、龍騎Sに問い詰める。

「真司さん!どうして自分を犠牲にするんですか!?」

「俺は罪を償う!そのためには、オーディンと刺し違えて決着を…!」

 

「簡単に言わないで!」

 

あゆの意識が龍騎Sに叫んだ。

「それが正しいと思うなんて…悲しいよ!ボクや竜也くんは、真司さんが死んだら…悲しくてたまらないよ!?」

彼女は一度、竜也を失いかけた。その恐怖を既に体感している。

もうそんな思いはしたくない。

次は竜也の意識が龍騎Sに言う。

「自分を犠牲にしたら…誰かが悲しむんです。実際におれは一度死んで、あゆを悲しませました。あなたは、それが罪にならないと思うんですか!?」

2人の心からの叫びを聞いた龍騎Sは下を俯く。

「お前から学ぶ日が来るとは…。竜也、強くなったな。俺が敵わないくらいに。たぶん…月宮あゆ。君や、君の世界にいる仲間達のおかげだ」

その声は申し分けなさそうだったが、どこか嬉しそうでもあった。

人の感情とは…複雑だ。

「行くぞ。俺達で…決着をつける!」

 

「「「しゃあっ!」」」

 

再び、龍騎KSと龍騎Sが並び立つ。

「おのれェ…!」

憎しみを込めて、オーディンが呟く。

目立ちたがりの電王SCFにいるモモタロスの意識が反論する。

「おいおい!主役は俺達…」「モモタロス。彼らに任せるんだ」

それをクウガUFが制する。クウガRUFも頷いて、動きを止めた。

ちょうど、ナイトS達も洋館から飛び出してきた。

「みんな、準備はいいか?」「これが最後の戦い…!」「おう!最後まで首、突っ込むぜ?」

「最後の決断の時だ!」「大好きなみんなを…守り抜く!」「これで、貸し借り無しだ!」

彼らの姿を見て、オーディンは1枚のアドベントカードを引く。

「愚かな…!」

それはつい先ほど、竜也を葬ったカード。

<<FINAL VENT>>

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ…!」

「キキイイイイイイイィ!」

ゴルトフェニックスと共に、オーディンは光の塊となる。

「竜也、あゆ、真司さん!おれ達がオーディンを食い止める!トドメの準備を!」

ナイトSが、龍騎KSと龍騎Sにそう言ってアドベントカードを引いた。

しかし、ファイナルベント以外で一番強力なカードを引いたつもりだったが、使い果たしたはずの…。

「ファイナルベント…?」

先ほどボスドラグーンを倒すために使ったはずなのに、何故かまだある。

「安心しろ。オリジナルのライダーが出来る、ちょっとした干渉だ」

龍騎Sの言葉で疑問は晴れた。

6人全員がベントインする。

<<FINAL VENT>><FINAL VENT><FINAL VENT>

<FINAL VENT><FINAL VENT><FINAL VENT>

「はああああああぁ…せいっ!」「おおおああああああああああぁ…!」

構えを取ったインペラーと冷気を拳に込めたタイガが、ガゼールやデストワイルダーと共に、オーディンに向かっていく。

「ああああああああぁ…てぇあああぁ!」「うああああああああああああああああああぁ!」

ドライブディバイダーとクリスタルブレイクを発動する。

「無駄だァ!」

ドガアアアアアアアアアアァ!

「ぐおああああああああああああぁ!」「うわあああああああああああぁ!」

しかし、エターナルカオスには到底かなわず、逆に吹き飛ばされる。

それどころか、オーディンはまだ止まらず、龍騎KS達に向かっていく。

「くらええええええええええぇ!」「はああぁ!」

ズダダダダダダダダダ!

次はエビルダイバーに乗ったライアのハイドベノンと、マグナギガとゾルダのエンドオブワールドが攻撃する。

「この程度で、私を止められると思うのか!?」

ドゴオオオオオオオオオォ!

「ぐああああああぁ!」「くそっ…!」

だが2人の攻撃も、全く効かなかった。

「せぇああああああああああああああああぁ!」「うおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

次はバイク形態となったダークレイダーとナイトSの疾風断と、ブランウイングの風圧を利用してウイングスラッシャーを構えながら切り込むファムのミスティースラッシュ。

「無駄だと言っている!」

ズガアアアアアアアアアアアアアァ!

「くっ…うおおおおおああああああああああああぁ!」「きゃあああああああああぁ!」

それすらも、オーディンには無意味である…

 

筈だった。

 

「ヌゥッ…!?」

エターナルカオスの威力が下がっている。

「まさか…!?」

そう、6人の狙いはこれだった。

いくら龍騎KSと龍騎Sのファイナルベントでも、エターナルカオスには勝てない。どんなに良くても相殺がやっとのことだ。

だが、6人のファイナルベントを立て続けに与えれば、確実に威力は下がる。

そのときを狙い、捨て身といえるこの戦法を取った。

「今だ!竜也、あゆ、真司さん!」「行けえええええええええええええぇ!」

<<FINAL VENT>><<<FINAL VENT>>>

「ふんっ!はあああああああああああああああああああああああぁ!!!!」

「ふっ!はああああああああああああああああああぁっ…!!!」

龍騎KSと龍騎Sは同じ構えを取り、ドラグカノンとドラグランザーと共に、地面を蹴る。

「フレイムドラゴンライダーキック」とカノンドラゴンライダーキックが、最後の決着をつけるべく、エターナルカオスとぶつかる。

 

「消えろオオオオオオオオオオオォ!!!!」

 

「「「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」」」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!!!!!!!

 

「くっ…うわああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」

凄まじい威力の爆発。その場にいるナイトS達はとっさに栞たちを庇うが、モンスターと戦っていたディケイドUCF達を含めて全員、吹き飛ばされる。

「みんなの安全を…!」

とっさにクウガUFが呼び出したオーロラで、元の世界に戻った。

 

「みんな、しっかり!」「おい、起きろよ!」

五代雄介と士の声が聞こえ、祐一達は目を覚ました。

そこは商店街。破壊しつくされていたが、モンスター達は消え去っている。

「竜也達は…?」

その言葉に、五代雄介は顔を伏せる。

「マジかよ…!?」

 

 

 

 

「なんとか、だけど…」

 

 

 

 

その声と共に、オーロラが現れ、龍騎KSと龍騎Sが出てきた。

「竜也くん、あゆちゃん、真司さん!」

彼らは満身創痍の状態であったが、なんとか生還した。

しかし…。

 

 

 

 

「何故だァ…!?」

 

 

 

 

そのオーロラから出てきたのは、オーディン。彼も生きていた。

ただ、体が徐々に粒子化している辺り、もう長くはない。

「私には何も見えない…絆も…愛情も…理解しあうことも…何も…見えないぞォ…!?」

砕け散ったオーディンの鎧から現れたのは…秋山蓮。

「そうか…」

その姿を龍騎Sはよく知っていた。

相違点があるとするならば、右目が赤く左目が青い「オッドアイ」であること。

秋山蓮に近づく龍騎KS。

後一歩と言うところで、変身が解除され、竜也とあゆの姿に戻った。

さらにあゆが一歩前に出て、彼を抱きしめる。

「…本当はこんな事…したくないんだよね?」

あゆが優しく聞く。それを聞いた「彼」は涙を流し始めた。

「…争いを…終わらせたい…。憎しみを…忘れたいのに…次こそは全てを忘れ…やり直したかったのに…」

全てを話した。もう消えてしまうことを自覚しているからだろうか…。

彼の望みは「全ての共存」。竜也達とも分かり合いたかった。だが、自分の願いゆえに叶わず、戦う運命を背負っていた。

彼も以前の竜也と同じく、独りぼっちだった。

それを感じ取ったあゆは、涙を流しながら微笑む。

「忘れないで、全部」

 

「悲しい事も、憎しみも、忘れたら…もっと辛いから」

 

「…こんなことが…」

「彼」はポツリと呟く。

その体の粒子化が強くなった。

「私を…理解してくれる者が…人間だったとは…」

信じられないと言った口調だったが、その表情は満足げだった。

「もっと…私も早く…見えていれば…よかった…」

最後に少しだけ後悔の言葉を残して…

 

 

 

 

 

…仮面ライダーオーディンは消えた。

 

 

 

 

 

今ここに、長かった「仮面ライダー龍騎」の物語に漸く終止符がつけられた。

 

 

 

士達、旅の仲間たちは光写真館に戻った。

「士君達、おかえり」

栄次郎が優しく出迎える。

「この世界での役割は、完全に終わった。あとはあいつらの物語だ」

「きっと…みんな幸せになります」「僕にとっても、良いお宝だった」

「俺達も、旅を続けよう」「そうそう~あたし達の物語よ!」

士が取り出した写真。

そこには「竜也とあゆを中心に、たくさんの仲間達が笑っていた」。

中には士達も含まれている。

その後、士が引いた背景ロールに現れた、新しい絵。

それは「仮面ライダー達と様々な色の戦士達が争っている」絵だった。

写真館の外では、鳴滝が忌々しげに呟く。

「また仮面ライダーのいない世界に、破壊者が干渉したために、世界の崩壊が…!おのれ、ディケイドオオオオオオオオオオオォ!」

士は、その背景ロールを見ながら呟いた。

「スーパーヒーロー大戦の世界…」

 

翔太郎は鳴海探偵事務所内で、タイプライターを打って報告書を作成している。

「彼らのいた世界の戦いは終わった。きっと、信じ続けた彼らが望む平和が、あの世界に訪れる事を、俺こと左翔太郎、フィリップ、照井、亜樹子も願っている…。いつか俺達の街にも、そんな平和が来る日が…」

作成を終え、コーヒーを飲もうとしたそのとき…。

「翔太郎!興味深いものを見つけた!」

「ブフゥ!?」

フィリップから話しかけられ、勢いよく、コーヒーを吹いてしまった。

「左、ドーパント絡みの事件だ」

照井に呼び出され、調査を開始した。

彼らも、風都を平和にする日を夢見て、戦い続ける。

仮面ライダーとして。

 

映司と後藤は自分たちの世界に戻り、それぞれの生活に戻る。

「じゃあな、火野」「ありがとうございます、後藤さん。それじゃあ」

映司は「鴻上ファウンデーション」の調査を手伝いながら、メダルを破壊されて「死んだ」アンクを復活させる方法を探す旅。後藤は刑事として、様々な事件に立ち向かっていく。

「いつか、もう一度…」

また逢える。アンクとも竜也達とも。

アンクの意志がこもっていた「2つに割れたタカメダル」を握り締める映司。

 

弦太朗は、天之川学園高校にある「仮面ライダー部」のある「ラビットハッチ」に通じるロッカーの前に立つ。

「さて、賢吾やユウキに土産話をしてやるか!土産話は青春の共有だ!」

そう言って、ロッカーを開けた。そこには光に包まれている道がある。

友達は作るが、怪物は倒す。

その2つの道を、いつか1つになるように、彼は仲間と共に戦い続けるのだ。

 

明久も自分の世界に戻った。

「連司…僕、これからも頑張るから。だから、いつか戻ってきなよ」

再び、自分の世界の戦いに身を投じる。

映司と同じく、かけがえのない「友」との再会を信じて…。

 

デンライナーでは、モモタロス達にナオミがコーヒーを振舞っていた。

「は~い!コーヒーで~す!」

いつもは喜ぶのだが、モモタロスは苛立っている。

「チクショ~!俺達、ぜんぜん活躍できなかったじゃねぇか!?」

「先輩のせいだと思いますよ?」「せやで、バカみたいに突っ込みおってからに」

「モモタロスのバ~カ!」「全く、下衆の者は…」

「あんだと、テメェら!?」

早速、5人のイマジンのケンカが始まった。

のだが…。

「こら、バカモモ!」

ゴスッ!

「ぐおおおおおぉ!?」

結局、ハナによって粛清させられた。

「姫~!」「ハナさん、怖いよ~!」

彼らを尻目にチャーハンを食べているオーナーは呟く。

「彼らの記憶と想いが、新しい世界の時間を作った。記憶、そして想いこそが…時間、なのですね~」

上を向いて感慨深く呟いた後に、下を向くと…。

旗が倒れていた。

 

オルタナティブ軍は引き上げ、本部に戻る最中。

車内で、仲村が香川に報告している。

「結果的に、世界各国に向かったオルタナティブ・トルーパーは、全1000万人中、ユーラシア大陸部で753人、アフリカ大陸で913人、北アメリカ大陸で315人、南アメリカ大陸で634人、オーストラリア大陸で431人、その他島国等で193人。計2605人の死傷者が出ました」

「そうですか…」

戦いの中で、命を散らせていった者達。彼らの犠牲は心が痛いものだが、彼らもそれを覚悟の上で戦いに臨んだはず。

だからこそ、香川は自分に出来る最善の処置を指示した。

「怪我をした人は最高の治療とケアを、亡くなった人は、尊厳を持った弔いを行ないましょう。かなりの時間を要しますが、彼らに対する敬意です」

「了解」

車は、NoMenの本部に向かっていった。

 

そして、竜也達。

城戸真司は、少し先にいる紅渡達が呼び出したオーロラに向かって歩いていく。

「真司さん!」

竜也達に呼び止められて、振り向いた。

ミツルと真琴が彼に聞く。

「城戸真司、ここには残れないのか?」「そうよぅ、ここにいればいいじゃない!」

「別の世界の…ましてやオリジナルの仮面ライダーである俺は、この世界には留まれない」

しかし、彼のいた『龍騎の世界』は、先ほどの戦いで完全に消滅した。

次はサトルと名雪が聞く。

「あなたの世界は…もうない。でも!」「わたし達は、城戸さんの居場所を残してます!」

「…ここは俺のいた『龍騎の世界』ではない。君たちの世界『龍騎とKanonの世界』だ」

あくまでも城戸真司は、この世界には残るつもりはない。

栞と美汐は、彼の動向を聞く。

「じゃあ、城戸さんはこれから…」「帰る世界がないのに、ずっと…」

「それが、世界の全てに辿り着いた「オリジナルの仮面ライダー」の運命だ。例え帰る世界を失っても、まだ居場所があっても、そこに留まらず、全ての世界を見守り続ける」

残酷だ。誰よりも残酷な運命を背負っている。

ずっと…。

だが、城戸真司の顔は悲しそうではない。

「気にするな。なにも独りぼっちじゃない。五代さん、津上さん、巧、剣崎、ヒビキさん、天道、良太郎やモモタロス達、渡もいる。これからも、ずっと」

久瀬と佐祐理は、少し微笑んで彼を見つめる。

「でも、ずっと留まれなくても…」「そうですよ。たまには、この世界に来てください」

「それは約束できない。俺達も自由に世界を行き来できる訳ではない」

そう、たとえオリジナルのライダーでも、世界を渡るにはそれ相応の意味が必要だ。

無意味に好き放題に世界を移動できるわけではない。

「じゃあ、これで最後なのかよ!?」「そうです!これでお別れなんて…!」

「もしかしたら、これで最後かもな。でも、俺がいなくても、君達は十分過ぎるほどの友達や大切な人がいる。平気なはずだ」

たしかに彼がいなくても、竜也をはじめとして、みんな戦い続けられた。

「じゃあ、せめて…竜也に」「そうだよ真司さん。竜也に別れの言葉くらい、言ってやれよ!」

最後に舞と祐一が、城戸真司に訴えかける。

「そうだな…」

頷いて、竜也とあゆの元へと歩いていく。

 

「俺達は、行こう。この世界の空は…もう晴れ渡ってるから」

五代雄介がそう言ってサムズアップをしながら、残った紅渡たちと共にオーロラに消えていった。

「いつか…未来で」「別々の道を共に歩んでいけるのが…真の友だ」

「この世界の美しい音楽を…奏で続けてください」「お前達は、自分たちの世界で生き続けろ」

「自分なりに生きてみろよな。シュッ!」「俺はこれからも守り続ける…全ての世界の夢を」

「生きるってことは…「おいしい」ってこと。君たちなら分かってくれる」

 

「真司さん…」

「すまない竜也。お前に重荷を背負わせてしまった」

少し頭を下げる城戸真司に対して、微笑む竜也。

「…ありがとうございます」

意外な返事が返ってきて、目を丸くする。

「真司さんが龍騎を託してくれなかったら、みんなに会えませんでした。今ここにある絆は、真司さんのおかげです」

そう言って、龍騎のデッキを出して、胸の中に強く抱く。

「ときには忌まわしいものとも思いましたけど、これは全てのきっかけをくれた「宝物」です。今なら胸を張って、そう思えます」

その様子を見た城戸真司は、誇らしい表情の竜也を見ながら言う。

「なら竜也、その絆を絶対にはなすなよ。俺のようにならないように…」

そう言った城戸真司の言葉にある「俺のように」の意味は分からない。だが、はなすつもりはない。

次にあゆを見る。

「君は優しい娘だ。竜也がここまで戦って来れたのは、間違いなく君のおかげだ、月宮あゆ。もちろん、そこにいる仲間達のおかげでもある」

頭に手を置かれ、すこし恥ずかしそうにするが、どこか嬉しそうにもするあゆ。

「あ、あの…真司さん、また逢えるよね?」

ふと、あゆが聞く。

約束できないといっていたのだが、それでも聞きたかった。

「さっきも言ったように、約束は出来ない」

やはり、想像できた答えが返ってきた。

しかし、後ろを向いて空に向かって叫ぶようにその続きを言った。

「でも、絶対に逢えないという訳ではない。少なくとも俺は、また逢いたいと思う」

そう言い残して、オーロラに向かって歩いていった。

最後に竜也が城戸真司に向かって、大きく手を振った。

 

「ありがとうございます!…さよなら!また逢いましょう!」

 

オーロラに消えていく、うしろ姿。

城戸真司は少しだけ呟くような声で、こう言った。

 

 

 

 

 

「ありがとう…仮面ライダー龍騎」

 

 

 

 

 

以上が…

 

原因不明の失踪事件…

 

そしてこの街で起きた、小さくも大きな奇跡の真相であり…

 

雪の街と仮面ライダーの物語の真実である…。

 

この物語…いや、どの物語にも正義も悪も存在しない。

 

総じて言えること…

 

そこにあるのは…

 

 

 

 

 

 

 

純粋な願いだけ…。

 

 

 

 

 

 

 

「出来ました」

そう言って、パソコンのキーボードを走らせていた指を止めた秋子。

「彼らの物語を…この形で残しましょう」

そのファイルを「不掲載」のフォルダに入れた。

ファイルのタイトル名は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~』

 

 

 

 

 

 

 

 

~Fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
仲村ソウイチ=オルタナティブ

仮面ライダーリュウガサバイブ



門矢士=仮面ライダーディケイド 究極コンプリートフォーム

火野映司=仮面ライダーオーズ スーパータトバコンボ
左翔太郎&フィリップ=仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム
如月弦太朗=仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ

小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ ライジングアルティメットフォーム
光夏海=仮面ライダーキバーラ
キバーラ
海東大樹=仮面ライダーディエンド コンプリートフォーム

照井竜=仮面ライダーアクセルブースター
後藤慎太郎=仮面ライダーバース・デイ

鳴滝
光栄次郎



モモタロス=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
ウラタロス=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
キンタロス=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
リュウタロス=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
ジーク=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
ハナ
ナオミ
オーナー


五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイド キングフォーム

野上良太郎=仮面ライダー電王 超クライマックスフォーム
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
ヒビキ=仮面ライダーアームド響鬼
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム



秋山蓮≠仮面ライダーオーディン



城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ






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短編集
「影の辿り着く場所」


これは、48話の間に起こった出来事であり、最終話から数ヵ月後の話です。


龍崎竜也。

仮面ライダー龍騎と仮面ライダーリュウガの2人の戦いに決着がついた。

 

その戦いを見届けた1人の少女、月宮あゆ。

彼女は自分の存在の真実を知り、それでも最後の願いを竜也に託し、再び夢の世界に囚われた。

 

そして…。

 

「…」

駅前のベンチでずっと座り続けるあゆ。彼女は確信している。

 

自分はもう生きてはいない。

 

7年前のあの日、大木から転落し、そのまま命を失った。

それでも、竜也に逢いたかった。

その想いが魂をこの世に留め、仮面ライダーオーディンが血眼になって探していた「最後のサバイブ」と融合し、虚ろの実体を手に入れたのだ。

そしてそれも失われた。

それでも彼女は待ち続けている。何を待っているのか…。それは竜也なのだろうが、彼がここに現れることはないのだろう。おそらくこの世界は「あの世」もしくはそれに近しい世界である筈。

そんな彼女の前に現れたのは…。

「あぁ…」

「迎えに来た」

龍崎竜也だ。

来ないはずだった少年が来たのだ。

「竜也くんっ…!」

あゆは嬉しくなって立ち上がり、彼に近づく。

だが…違和感を感じた。

「うぐ…!」

その瞬間、あゆの手を乱暴に掴み、持ち上げる竜也。瞳がみるみる血のように赤くなっていく。

違和感は確信に変わった。

あゆが愛している竜也は、こんな冷たい表情をしたことはない。

 

「キミは…リュウガ…!」

 

この竜也は、龍騎である竜也に敗れて消滅した、竜也の記憶と感情が具現化した存在。

仮面ライダーリュウガだった者だ。

「どうした。オマエは誰も居ないこの世界で、オレが来るのを待っていたんだろう?」

冷たい表情に少しずつ邪悪な笑みを含みだした竜也。

ここではリュウガと呼ぼう。

愛している人と同じ顔をしているのに、あゆは恐怖を感じる。

「ボクが待っているのは…キミじゃないっ…!」

掴まれている手を振り払おうとするが、その力は強い。ビクともしなかった。

「いいや、オレだ。何故ならオレは『おれ』だからだ。オマエが愛している龍崎竜也の欠片。その事実は変わらない」

「いやっ…離して…!」

無駄な抵抗なのだろう。それでもあゆは抵抗をやめなかった。

きっと彼に連れて行かれたならば、その先にあるのは無限の闇。

確証はないが、確信はあった。

「オマエは死んでいる。そしてオレも同じだ。ヤツに拒絶され、行き場を失って消えた、哀れな記憶の影だ。安心しろ、オレはオマエを忘れない」

そう言ったリュウガの表情は…

 

邪悪な笑みの中に寂しさを感じた。

 

あゆは抵抗を止める。

「ねぇ…キミは、何を願っているの?」

その言葉を聞いた途端、リュウガの表情から笑みは消え、あゆの手を離した。

「以前、伝えた筈だ」

かつて、あゆが竜也の重荷を代わりに背負いたいと願い、一時的に仮面ライダー龍騎になったことがある。

そんな時だった。リュウガと邂逅したのは。

その日、彼は自分の目的を語った。

 

本当の自分自身になり、月宮あゆを手に入れる。

 

あれは本心だったのだろうか。

「本当の自分自身になりたいって…どういうことだったの?」

「オレは欠片。竜崎達也が、オマエを失った悲しみ、何もできなかった自分への憎しみや怒りの感情が記憶とともに分離した欠片だ」

その言葉であゆは、目の前にいるリュウガの心がわかった。

 

「…戻りたかったんだね」

 

リュウガは竜也と一体になることで、本当の自分になりたかったのだ。

拒絶された記憶と感情。そのまま7年もの間、彷徨い続けた影。

拒絶されたモノは還ろうとしていたのだ。在るべき所に。

「ごめんね…キミはちゃんと竜也くんだったんだ。それにキミが竜也くんから追い出されたのは…ボクのせいだったんだね」

「そうだ。オレは龍崎竜也。オマエの所為で…オレは7年もの間、ヤツが捨て去ったモノしか持てず、苛まれ続けた…!」

リュウガの表情は、憎しみに歪んだ。

彼が苦しんだ発端は、あゆにある。彼女が大木から落ちたりしなければ、竜也から追い出されることはなかった。

それを再確認した瞬間、リュウガの心は怒りと憎しみに支配された。

「なら…どうしてボクを手に入れたかったの?」

「何…?」

憎かったはずの自分を手に入れることに固執している理由が分からない。

あの時の言葉は嘘なのかもしれない。だがそうだとしたら、リュウガは何故ここに現れたのだろうか。

「オレは自分自身になり、オマエを手に入れる。それだけだ」

彼はそれ以外の総てを、必要としていない。

自分自身とあゆ。

リュウガが願うのはそれだけなのだ。

憎い筈の自分とあゆしか、願うことができなかったのだ。

「キミは…それ以外の願いを…持つことが出来なかったんだね」

気が付けば、あゆの頬には涙が伝っていた。

「何故だ…」

「え…?」

「何故、オマエはオレではなく、ヤツを選んだ?ヤツは、オマエを7年もの間、忘れていた。だがオレは産み落とされて7年、オマエを忘れたことは片時もなかった。なのに、何故…!?」

リュウガの表情は悲しみに包まれていた。

彼は孤独だった。

生まれた瞬間から、自分自身へ還り、あゆと共に在りたかった。

なのに、唐突に再開したもう1人の自分が、それを瞬く間に奪っていった。

例え憎くても、その存在に対して相対的にあった感情。

それはリュウガが自覚していなかった、唯一の温かい感情。

「そっか…」

 

「キミもボクの事…好きでいてくれたんだね」

 

リュウガはあゆを憎みながら愛していた。

追い出した竜也が愛していたのだから、当然だ。

「憎しみながら好きでいるなんて…辛かったよね…」

「オレは…オレは…!」

決壊した心のダム。

それを表現するかのように、リュウガは涙を流していた。

「でも…それでも、ボクが好きなのは…あの竜也くんなの」

あゆはそれでもリュウガを選ぶことは出来ない。

例えもう二度と逢えなくても、竜也を愛することを決めたのだから。

例えリュウガも竜也なのだとしても、あゆの愛する竜也ではないのだから。

「ボクの好きな竜也くんは…ボク達2人だけのこと以外も考えているの。仮面ライダーとしての使命、真司さんの願い、それにみんなの事。たくさんの事を考えて、みんなを好きでいられる竜也くんが…ボクは好きなんだ」

優しく微笑みながら、あゆはリュウガに告げた。

それはリュウガにとって終焉を意味した。

「オレはその総てを持つことが出来なかった…」

「でも…!」

諦めたように呟くリュウガの言葉を、あゆは遮った。

「竜也くんは失った記憶と感情も受け入れた。だから、キミのことも受け入れてくれるよ」

「オレを受け入れる…?」

「ボクはもう、ここにしか居られない。でも、竜也くんは生きてる。だからキミも生きて。そして竜也くんを受け入れて。きっと…前に進めるから。そうしたら、キミは他のことも持てるよ。きっと…」

あゆはいつしか、リュウガを抱きしめていた。

「出来るのかな…この『おれ』に…」

「出来るよ。竜也くんもキミ…『竜也くん』も強くて優しいから」

不安そうに尋ねるリュウガ。あゆはその不安を拭うために、優しく声を紡いだ。

暫くの時間があって、あゆとリュウガは離れた。

2人の別れの時だ。

「また逢えるなら…ここに来ても良いか?」

「うん。キミが竜也くんを受け入れてたら、きっと」

初めて優しい微笑みを浮かべた。

嘗ての彼の中にあるのは、怒り、憎しみ、悲しみだけだった。

愛情を知ったリュウガ。いつか竜也と一緒に居られるはず。

そうすれば、竜也は本当の意味で過去を受け入れ、自分自身に至るのだ。

「またな…あゆ」

「ばいばい、竜也くん」

リュウガの体は霧散していった。

 

 

 

それから…。

 

 

 

「あゆ」

「ん?」

歩行器を利用してリハビリに励んでいたあゆ。そんな彼女に声をかけたのは、竜也だ。

オーディンとの戦いを終え、あゆは勉強をしながら、社会復帰を目指している。

「何か考え事してたの?」

「眠ってた時の夢のこと、考えてた」

生きていた。

そんな有り得ないと思っていた奇跡が起き、竜也とあゆはこうして2人で生きている。

同居していたミツルと真琴は、戦いが終わったことを機会に近くのアパートへと引越し、もうこの家にはいない。

「え…夢って、どんな?」

「う~ん…秘密っ」

イタズラっぽい笑みを浮かべて、あゆは慣れないウインクをしながら舌を出して見せた。

「えぇ…教えてくれてもいいじゃないかぁ」

「絶対に教えてあげないよ~」

そう言いながら歩行器に力を加え、あゆはさらに訓練に励もうとする。

そんなイタズラ心に天罰が下ったのか…

「うぐっ…うわぁっ!」

バランスを崩して転倒しそうになる。

「あゆっ!」

それを受け止めるのは、竜也だった。

「ご、ごめんね、竜也くん…」

「ううん、怪我がなくて安心したよ。ちょっと休憩する?」

「そうだね」

訓練に一段落ついたあゆを座らせた竜也は、あらかじめ買っておいたたい焼きとお茶を用意した。

「もうすぐ夏だけど…売ってくれて嬉しいなぁ」

「あのおじさんに感謝しないとね」

ふたりはたい焼きをほおばり、お茶を啜る。

「あゆ」

「なに?」

 

「おれは…受け入れたからな。コイツも…他の総てもな…」

 

「あっ…」

「ん、どうかした?」

何時もの竜也との違いがなさすぎて、一瞬聞き逃してしまいそうだった。

だが、間違いない。

「…ううん、なんでもない。たいやき、やっぱり美味しいね!」

嬉しそうに笑って、再びたい焼きをほおばった。

 

 

 

 

 

仮面ライダーリュウガ。

 

 

 

それは龍崎竜也の記憶と感情。

 

 

 

7年もの間、怒りと憎しみと悲しみに苛まれた彼は…。

 

 

 

憎くも愛しい人によって…。

 

 

 

前に進むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャスト

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

龍崎竜也の記憶と感情=仮面ライダーリュウガ



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完結編 風花
前編 「鏡の涙」


おひさしぶりです。仮面ライダージオウに城戸真司が出演すると知り、失われていた創作欲が再び再燃しました!
私の処女作の蛇足な完結編を描きます!


かつて雑木林の中で大きな大木が切り倒された。

そんな場所に二人の男女がいた。

「どうしたの?急に此処に来ようだなんて」

一人は栗色のセミロングの髪をした女性。

月宮あゆ。

彼女はかつて14年前に大木から落ち、夢の世界に囚われていた。その彼女との約束を果たし、彼女を夢の世界から解き放ち未来に進めるようにしたのは…。

「此処は、おれ達の色んな始まりがあった場所だから」

龍崎竜也。

彼はかつて、仮面ライダー龍騎として人々を襲う怪人に仲間と共に立ち向かい続け、勝利した青年。

彼は一つの誓いを立てていた。

あゆが夢の世界に囚われていたのは、自分の責任。

転落したその時、彼はその現実から目を背け、記憶と感情を埋めた。それが7年の時を経て脅威となっとこともある。

そしてあゆの時が動き出したのはそれから8年もの歳月が過ぎたあとだった。

彼女は夢で囚われていたが故に、世界から置いていかれていた。

その時間を取り戻すのが、彼女への償い。

知識や教養を身に付け、職を身に付けて行けるように沢山のサポートを行っていた。

本当の学校に通い、人々と触れ合い、社会で生きていけるように…。

「あゆも就職ができて、立派な社会人だね」

「竜也くんのお陰だよ!学校の学費も全部賄ってくれたし、それ以外のいろんなお勉強をさせてくれたもん」

彼女は去年の4月から和菓子職人の弟子として、とある小さな和菓子屋で働くことになった。

「これで、おれの果たさなきゃいけない責任は果たした。あとはあゆの自由にできるはずだから」

「え…?」

彼女が社会でも逞しく生きていけるようになった以上、竜也はあゆを真の意味で救えたと言えるだろう。彼の中での償いは終わったのだ。

あゆがもし望まないのであれば、ここに縛り付けておく必要はないのだ。

「あゆは、これからもっとやりたいこと、見たいモノや知りたいことが沢山あるはず。だからずっとこの街に留まっているおれと無理に一緒に居る必要はないんだ」

「なに…言ってるの?ボク、竜也くんがいない人生なんて、絶対にイヤだよ…」

そういったあゆは、大きな瞳に大粒の涙を溜めていた。きっと別れを告げられると思ったのだろう。

相変わらず、こういうところは幼かったあの頃と全然変わらない。寂しさや悲しいことに遇うと自分の感情を隠すことは絶対にしない。

竜也はそう思うと同時に、あゆが自分の事をかけがえのない存在と認めてくれることが嬉しかった。

 

もしそういった返事をくれた場合、彼はあることをあゆに申し込むつもりであった。

 

「そう言ってくれて、嬉しいよ。おれもあゆのいない人生は…有り得ないと思ってたから」

「竜也くん…もしかして、すごく恥ずかしいこと言ってる?」

泣きながら笑う彼女の笑顔に、竜也は照れ笑いをした。

「あはは、そうだね。でもこれからもっと恥ずかしいことを言わなきゃ」

そう言って、ポケットから小さな黒い箱を取り出す。

高級感のある箱。あゆは一瞬で何が入っているか分かった。

「あ…!」

両手で口を覆うあゆ。お互いに顔の紅潮が最大まで高まった。

「おれがあんなことを聞いたのは、あゆが本当にやりたいことがあるのか聞きたかったから。おれのせいで、それが出来ないようにはしたくなかったから」

そう言いながら箱を開けると、そこには小さな宝石をあしらった指輪があった。

「あゆが、おれのいる人生を認めてくれるなら…ずっと一緒にいてほしい。だから…」

 

 

 

「結婚してください」

 

 

 

「はい…。ボクで良ければ…」

 

 

 

約束の場所でまた新たな約束が交わされた。

あゆは涙を流し、竜也を思い切り抱きしめ、竜也もそれに応える。

二人を祝福するかのように、切り株からは小さな芽が息吹いていた。

 

 

 

その世界での竜也とあゆは心から通じ合い、幸せを掴みとることに成功した。

だが…彼らが手に入れた物語…。

『仮面ライダー龍騎の異世界』と『Kanonの世界』が確実な形で融合したが故に…。

 

 

 

『仮面ライダー龍騎とKanonの世界』にもパラレルワールドが生まれた。

 

 

 

そして…。

 

 

 

 

夢…

 

夢から覚めた…。

 

きっと、ボクが今見ているのは夢じゃない…。

 

現実…。

 

でも…。

 

こんな現実なら…

 

夢を見続けていたほうが良かったのかな…

 

 

 

ここは別の世界。

『仮面ライダー龍騎とKanonの異世界』。

この世界では13人の仮面ライダーが、一つの願いのために殺し合っていた。

そしてその戦いに決着がついたのだった。

 

 

 

病室でゆっくりと目を覚ました少女。

「ボク…生きてるの…?」

月宮あゆは7年の眠りから目を覚ました。

それは、冬の街であった小さな奇跡の力…ではない。

 

この世界にそのような奇跡は存在しないのだ。

 

1年ものリハビリを経て、彼女は退院することができた。

しかし、彼女の心は晴れやかではなかった。

目を覚ましたあとも、誰も彼女の見舞いに来ることはなかった。

「竜也くん…みんな…」

あの冬の日、意識だけが彷徨っていた頃…。約束を信じて待ち続けていたために、たくさんの人々と出会った。

 

相沢祐一、川澄舞、倉田佐祐理、北川潤、美坂香里、美坂栞、久瀬、沢渡真琴、天野美汐、水瀬名雪、水瀬秋子、サトル、ミツル。

 

そして龍崎竜也。

 

意識として彷徨っている間、その出会った人々の中には仮面ライダーがいた。

竜也は仮面ライダー龍騎、祐一は仮面ライダーナイト、舞は仮面ライダーファム、潤は仮面ライダーライア、久瀬は仮面ライダーゾルダ、サトルは仮面ライダータイガ、ミツルは仮面ライダーインペラー

彼らは13人の仮面ライダーとして戦いあう運命を背負っていた。

そして、彼女が自分の存在の真実を知り、消え行くまでの間に…身を切られるような別れがあった。

 

久瀬…彼はゾルダとして信じる正義を貫けない世の中を変えたいと願った。だが、仮面ライダーベルデによってその信念を打ち砕かれ鏡の中の世界で消えていった…。

 

潤…彼は栞が不治の病であることを知り、その病から栞を救いたいと願った。だが、仮面ライダー王蛇の前に敗れ、愛する人とその大切な人を救えなかったことを悔やみながらこの世を去った…。

 

そして、それゆえに不治の病に抗う術を失った栞も、潤を道連れにしたことを後悔しながら、息を引き取った。

 

それまでも、それからも、たくさんの仮面ライダーが現れ消えていった。

自分が目を覚ますまでの間…一体どうなったのか。

あゆは確かめたかった。

「みんな…きっと今でも…」

人を守るために鏡の中の怪物と戦っている。あの頃と同じように時には戦いのことを忘れ、楽しい時間を過ごしているはず。そう信じたかった。

気づいてもらえるように、1年前の服装と同じモノに身を包み、歩く。

その足で向かった先は、竜也の家。

意識が彷徨っている間、彼女はここで竜也と、その彼と和解した両親と住んでいた。

 

この世界の竜也には両親が存在している。

竜也は仮面ライダーやモンスターに両親を巻き込まないために、あえて粗暴な態度をとり両親の前から姿を消した。

そしてたどり着いたのが、かつて竜也の遠い親戚が住んでいたこの家。8年前の年末年始も一度だけここに遊びに来たことがあった。そのとき竜也とあゆは出会ったのだ。その親戚は今この世を去っており、空家同然となっていた。

竜也がそこで再び暮らし始めたとき、あゆと再会し、彼は少しずつ記憶を取り戻していった。

そんなとき、竜也の両親…竜郎と彩花がこの家に来た時に、すれ違っていた親子の絆をあゆが引き合わせた。

 

 

「竜郎さん、彩花さん…!竜也くんは2人の事を思って、わざと離れたの!」

「あゆちゃん…」

「本当の竜也くんは、寂しがり屋で…ひとりぼっちは大嫌いなの!」

「あの竜也が…俺達の親不孝息子が…」

「失う怖さは…ひとりぼっちの悲しさは…ボクにも痛いほどわかるから…!」

 

 

あゆの心からの叫びを聞き入れた2人は、竜也とお互いに心を曝け出し合い、和解するに至った。

この家にはチャイムがない。ノックで応答を待った。

しかし、その家からは誰も出てくることはなかった。鍵は掛かっていたが、誰もいる気配はなかった。

「竜也くん…!お父さん…!お母さん…!」

竜也と彼の両親は、天涯孤独の身であったあゆを受け入れてくれた。

 

「あゆちゃん、ここに住むと良いわよ。そうしてくれると、私達も嬉しいわ」

「息子の未来のお嫁さんが住んでくれるなんて、父親としてこれ以上の幸せはないさ」

「ちょっと、父さんも母さんも冷やかさないで…!あゆがそう思ってるかなんて…」

「何言ってるんだ竜也!お前の挙動見て、あゆちゃんに彼女になって欲しいことくらい、父親にはお見通しだぞ?」

「良いの…?ボク、また家族と一緒にいられるの…?」

「えぇ、私達がそう言うんだもの。あなたも家族よ」

「もう竜郎さん、彩花さんだなんて他人行儀やめて、お父さん、お母さんでいこう!」

「まったく二人とも…!ま、まぁ、あゆが家に居てくれるなら、おれたちが嬉しいのは事実。もしあゆが良ければ、此処で暮らさない?」

「うぐっ…ぐすっ…はい…!ふつつか者ですが、よろしくお願いします…!」

 

生まれた頃から父は居らず、唯一の肉親だった母親を失い、心から家族のぬくもりを求めていたあゆにとって、そこは本当の母親と同じくらいの温かい家族だった。

その象徴である龍崎家には、竜也はおろか、その両親もいない。

「みんな…どこに行ったの…!?」

不安と恐怖が入り乱れる。彼女は真実を確かめるべく、さらに別の場所へと向かった。

 

水瀬家。ここにはいろんな人が集まっていた。

そして争い合う運命を背負っていながらも時にはそれを忘れ、楽しい時間を過ごした記憶もある。

夕暮れにたどり着いた水瀬家。意を決してチャイムを押すが、反応はない。

ドアに手をかけると鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。

暗い居間で…

 

ひどく痩せた水瀬名雪がいた。

 

「名雪さん…」「あゆちゃん…?」

振り返った名雪の表情は、魂が抜けていると思えるような様子だった。

「そっか…目が覚めたんだね…」

「うん、1年前に目が覚めて…みんなは元気にしてる?」

あゆは不安に押しつぶされそうになりながらも、聞く。

「…あゆちゃんは知らないんだよね」

 

「お母さんやサトちゃんも死んだこと」

 

「え…?」

耳を疑った。その後、彼女に案内された先には…

小さな仏壇と秋子とサトルの遺影があった。

 

 

「ミツル君…僕は英雄になるよ。誰しもが思う英雄じゃない。なゆちゃんだけの英雄に…!」

「そうか…。いつか…こんな日が来ることくらい、分かってたのにな…」

 

 

その仏壇に両手を合わせる名雪。あゆは衝撃ゆえに、その場に立ち尽くしていた。

「お母さん、あのあと交通事故で死んじゃったの。サトちゃんは、お母さんが死ぬ前に救おうと…戦ったの。ミツル君を倒してまで」

「ミツルさんを!?じゃあ、ミツルさんは…?」

 

 

「死んだよ」

 

 

「サトちゃん!なんで…なんでこんなことを…!?」

「英雄になるためだよ…。きっと僕が一番倒したくない相手は…ミツル君だから…」

鏡の世界から2人は帰還した。しかし、ミツルの背中には夥しい出血があった。タイガのクリスタルブレイクによるものだった。

「真琴…もう一度だけ…おれを呼んでくれ…」

「あうぅ…!うぅっ…!」

「そうか…無理だよな…。そのために、おれはライダーになったんだ…。勝てなかったおれには…真琴の声を聞く資格なんか…」

ミツルは真琴の記憶と言葉を取り戻したかった。その為にライダーになった。その願いはサトルによって踏みにじられたのだった。

「うぐっ…ぐすっ…」

「ゴメンな…真琴…」

 

 

サトルは秋子と名雪と再び笑顔にしたかった。そのために嘗て共に笑いあった友であったミツルの命を仮面ライダーとして奪ったのだ。

「ミツル君を殺したサトちゃんを許せなかった真琴ちゃんは、ミツル君の遺したデッキでインペラーになって、サトちゃんを…殺したの」

そういった名雪の頬には、一筋の涙が流れていた。

 

 

「うああああああああぁっ!!あああああぁっ!!」

「…僕は…なゆちゃんを…秋子さんを…!」

名雪がその場にたどり着いた時には、2人の戦いには決着がついていた。

インペラー=真琴は、サトルの持つタイガのデッキを破壊し、契約破棄という形を持って、デストワイルダーに捕食されていた時だった。

ボリッ…バリッ…

肉を裂き、骨を砕く音が辺りに響く。

「サトちゃん!」

「ごめんね、なゆちゃん…僕は英雄にはなれなかったよ…」

その言葉を最後に、体の3割を喰らわれていたサトルは、デストワイルダーによって鏡の世界に引きずり込まれていった。

 

 

ミツルを愛した真琴は、言葉もまともに喋ることが出来ないというのにインペラーとなり、サトルを倒し復讐を果たした。自分の愛するミツルを踏みにじったサトルの持つ願いと愛を踏みにじることによって。

そのことにより、秋子は助からず命を落とした。

「真琴ちゃんは…」

「知らないよ…それ以降は…わたし、仮面ライダー達に関わってないもん…」

名雪は顔を伏せた。それ以降あゆの言葉に答えようとはしなかった。

「ごめんなさい、名雪さん…」

なぜ謝ったのかは分からない。

あゆは名雪に頭を下げ、水瀬家を飛び出した。

涙が止まらなかった。

「そんな…秋子さんもサトルくんもミツルさんも…」

どんな時でも笑顔を絶やさなかった秋子。彼女はもうこの世にはいない。

そして彼女の死が、二人のライダーを狂わせた。

…いや、むしろ止まっていた歯車を動かしたのかもしれない。

ライダー同士は戦う運命。ミツルもサトルもそれを受け入れてライダーになっていた。

仲間…そう呼べるのかは疑問だが、あゆはそう呼びたかった人達と出会い心を通わせること自体が間違っていたのかもしれない。

 

次にあゆが向かったのは、百花屋。

喫茶店であり、よく集まって食事を楽しんだりした。誰かいるかもしれない。

 

 

そこには、天野美汐と美坂香里がいた。

 

2人は名雪のように痩せ衰え、生気の無い訳ではなかったが…それでも表情は暗かった。

「香里さん、美汐ちゃん…」

「あゆちゃん、どうして…?」「あゆさん…眠り続けていたのでは?」

香里と美汐は、明らかに苛立ちのある表情に変わった。今のあゆは彼女たちにとって、思い出したくない記憶の象徴なのかもしれない。

「1年前に目を覚まして…やっと今日退院できたの」

「そう、良かったわね」「それでは」

簡単に感想を言うと、二人はレジで支払いを済ませ出て行こうとする。まるで彼女から逃げるように。

「まって!真琴ちゃんのこと…ボクが眠っている間になにが…」

バシッ!!

言い終わる前に、美汐があゆを平手打ちした。

「え…?」

突然のことにあゆは困惑する。対照的に美汐は怒りと悲しみが込められた表情だった。その証拠に顔は赤く眉は吊り上り、その瞳からは涙が浮かんでいる。

「二度と…わたしの前で真琴の名前を出さないでください」

そう言い捨て、彼女は歩き去って行った。かつて、彼女とも心を通わせたと思っていたのに…もうその心は離れきっていたように感じた。

その場にいた香里は、あゆの横について外に出た。

「知りたいの?あなたが姿を消してから目覚めるまでの間…何があったのか」

「うん…」

心に陰を落としながらあゆは頷く。だがそれは紛れもない本心だ。

「その真実が、あなたを苦しめるかもしれないわよ」

「それでも…ボクは知りたい。知らなきゃいけないと思う…」

意を決してあゆは香里の顔を見た。それを見た香里はため息をつきながら問いについての答えを述べた

 

「真琴ちゃんは…あの後死んだわ」

 

「真琴ちゃんまで…!」

「までってことは…サトル君やミツル君、秋子さんが死んだことも知ってるのね…」

「…名雪さんから」

名雪という言葉を聞いた香里は、隠していた苛立ちの表情がさらに浮き彫りになった。

彼女は香里の親友。母親と大切だった人を失って苦しんでいる現状をそっとしておいてほしかったのだ。それを掘り起こすあゆを良い気持ちで受け入れることはできない。

さらに深いため息をつき、香里は続きを述べた

 

「真琴ちゃんはサトル君を倒して、そのまま浅田…王蛇に立ち向かっていった。龍崎君や相沢君が止めようとしたけど聞く耳は持たず。結果的に王蛇に殺されて、鏡の中で消えていったそうよ…」

 

 

「手応えが無さ過ぎる。以前のインペラーの方がよっぽど強かったぞ」

「あうぅ…!」

真琴はインペラーとして浅田=王蛇に戦いを挑んだ。彼女は王蛇を恐れていた。

その中にある温かい感情は皆無。闘争心と苛立ちだけが王蛇を突き動かすモノであった。

言葉に出さなかった…いや、出せなかったが、真琴は戦いに勝ち残るには、一番恐れているものを乗りこる必要があると感じていた。

だが…彼女にも奇跡など起きない。

<FINAL VENT>

「もう良い…消えろ」

王蛇のベノクラッシュ。溶解液の波に乗った蹴りは容赦なくインペラーを破壊した。

 

 

「うそ…なんで…あんなにみんなで笑いあえたのに…」

「あなたがそう思えていても、あの人達…仮面ライダー達はそうじゃなかった。サトル君もミツル君も真琴ちゃんも…最後はあなたの知っている穏やかな姿ではなかった…」

いつしか香里は頭を抱え、しゃがみこんでいた。

「結局何も変わらなかったのなら…仮面ライダーなんかに関わらなければ良かったのよ…!」

きっと何もしなくても、彼女の最愛の妹である栞は命を落としていた。しかし、仮面ライダーの叶えられる願いという掴める可能性の低い僅かな希望に出会ったために、香里のももうひとりの大切な人である北川潤を失う末路になった。

「まだ真実を求めるの…?結局あなたに待つのは、悲しい現実しかないのかもしれないわよ」

「そうだとはまだ決まってない…!まだ…ボクの大切な人達が…生きていてくれるはずだから…」

「奇跡でも起こってたのならね。でも…」

 

「起こらないから奇跡と言うらしいわよ」

 

かつて、栞が発した言葉だった。

彼女は諦めつつも、心の何処かで奇跡に縋った。その奇跡が起こらなかったからこそ、潤は栞の回復を願い、止めようとしたライダー同士の戦いに参加したのだ。そして敗北し、栞も潤もこの世から居なくなった。

起こらなかった奇跡の犠牲者を間近で見守っていた香里の言葉は、重くあゆに伸し掛った。

その重みに耐えきれなかったのか、あゆは座り込んだ。

「…もう、わたしが話してあげられる事は無いわ」

そう言って、香里もその場を立ち去った。

大切な人達の死。それが容赦なくあゆに襲いかかってきた。

だが、だからこそあゆは全てを知らなければならなかった。大切な人達がどうなったのか…。

あゆ自身がいまだ知らないライダー達の消息。

 

 

 

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト

川澄舞=仮面ライダーファム

浅田=仮面ライダー王蛇

ライダー同士の戦いを始めた影の男の傀儡であり、13人目=仮面ライダーオーディン

 

そして、彼女がまだ見たことすらない、12人目の仮面ライダー。

 

 

 

雪の街をひたすらに歩き、真実を求めた。

その6人とその者達を取り巻く人々がどうなったのか…。もしかしたら、竜也達は戦いを止めることに成功していて、また昔のように手を取り合うことができるかも知れない。

そんな小さな希望にすがりながら、彼女は彷徨い続けた。

「あゆさん?」

 

その言葉に顔を上げると、そこには倉田佐祐理が立っていた。

 

「佐祐理さん!みんなは…みんなは…!?」

彼女の肩を掴み揺すり、聞く。その様子に佐祐理は悲しい笑顔をたたえ、口を開いた。

「安心してください。もう終わったんです」

「終わったって…なにが?」

 

「舞は…母親の仇を討てたんです」

 

舞の仇とは、彼女の母親を理由もなく奪った浅田=王蛇。

つまり、王蛇は舞に倒されたのだ。

「じゃあ…王蛇は死んじゃったの…?」

「はい。舞は命懸けで王蛇を倒しました。でも…その時の傷は深くて…」

 

 

ミラーワールドから帰還した舞は、体中が血塗れだった。きっと王蛇に傷つけられたのだろう。3体もモンスターを使役する彼に勝てたのが奇跡に等しかった。

それ以上の奇跡を起こす力を…彼女は持ち合わせていなかった。

「佐祐…理…」

「舞っ!…お願い…!死なないで…もうこれ以上、失いたくない…!」

佐祐理は弟を失い、彼女は心を閉ざしかけていた。そんな時、舞に出会うことで再び世界と向き合う勇気を持てた。佐祐理にとって舞は、かけがえのない親友だった。

そんな舞を失えば、佐祐理は今度こそ世界と向き合うことはできなくなる。

それを舞も察したのか、消え行く意識の中で佐祐理を奮い立たせた。

「佐祐理…強く…生きて…」

「舞…!」

「この世界、素晴らしいと思えたから…。もうわたしは…」

続きの言葉を言う前に、舞は事切れた。

醜い戦いがあり、それに翻弄された舞。だが、彼女はそれでも佐祐理や祐一達のいる世界を素晴らしいと思えた。だからこそ佐祐理には生きていて欲しかったのだ。

その素晴らしいと思える世界を、佐祐理に見ていて欲しかった。

 

 

佐祐理は自ら命を絶とうという考えが何度も頭をよぎった。それでも舞の言葉が、佐祐理をこの世界に留めていた。

この先、彼女には幸せが待っているのだろうか。弟も親友も失った少女に…。

それでも…。

「佐祐理さん…ずっと生きていてください…!」

「はい…佐祐理は強く生きるって、舞と約束しましたから…」

あゆも佐祐理に生きていて欲しかった。その願いを佐祐理本人に伝え、あゆは再び歩き出した。

 

あゆは夕暮れの中、約束の場所に向かって歩いていた。

幼い日、竜也と共に過ごした思い出の場所。

夕闇に染まりかけてた時間に、そこにたどり着いた。

雑木林の中に巨大な大木の切り株があったはず。

そこには何もなかった。

切り株は切り倒された跡だけでなく、黒ずみ枯れ果てていた。

きっと、ここで戦いがあったのだろう。

切り株にそっと手を触れるあゆ。切り株にウロがあることに初めて気づく。

その中にカギがあった。

 

 

 

ボロボロのプレートに「あゆへ」と書かれていた。

 

 

 

「これって…竜也くんが…!?」

その鍵を握り締め、彼女は竜也の家へと向かった。

 

再び戻った龍崎家。

鍵を回すと、その扉は開いた。

意を決して入るあゆ。

家には沢山の新聞紙や雑誌が貼られていた。鏡を恐れているように…。

キッチンには後ろを向く竜也の父と母がいた。

「お父さん、お母さん!」

あゆを家族と受け入れてくれた人々。いないと思っていたが、ちゃんとそこにいたのだ。

だが…二人共返事をしようとしない。

「お父さん、お母さん、あゆだよ!?…目が覚めたの!」

そう言って近づく。しかし、それは…。

 

 

 

亡骸であった。

 

 

 

「あぁ…!あ…!」

2人は鏡の中のモンスターに襲われ、引きずり込まれることはなかったものの、それ以来、姿が映り込むものを恐れ、家の中に閉じこもっていた。

外に出ることもなく、2人は緩やかな死を迎えたのだ。

母親の手には手紙があった。

それを手に取り、開く。

 

 

 

『あゆちゃんへ

きっと、貴方は目を覚ますでしょう。竜也の未来のお嫁さんですものね。でもごめんなさい、あの子は貴方を待つことが出来なかったみたい。ミラーワールドと仮面ライダーの事は、あゆちゃんが行方をくらましてすぐに聞きました。私達の息子がなぜ、私達から離れていったのか、それで全てが納得できたわ。竜也の為に沢山悩んで苦しんで、そして支えてくれてありがとう。

竜也は祐一君とオーディンだけになっても戦いを止めることをやめなかった。でも祐一君はオーディンに敗れて亡くなりました。結局戦いを止められなかった竜也は、そのあとも苦しみ続けた。そして私達に言いました。「あゆに未来を与えたい」と。きっとその答えを出すのにもっと苦しんだはずです。戦いを受け入れるってことだから。もし、あゆちゃんがこの手紙を読んで絶望しちゃうかも知れない。でも前を向いて生きて。貴方のその命は…きっと竜也が悩んで苦しんで手に入れた答えなのだから。貴方と竜也をずっと愛しています。

                           あゆちゃんと竜也の母より』

 

 

 

「お母さんっ…お父さんっ…」

涙が止まらなかった。

あゆが目を覚ましたのは、奇跡でも何でもない。

 

 

 

彼女を心から愛した竜也が与えた「新しい命」だったのだ。

 

 

 

父親も何も残してはいなかったが、母親に寄り添うようにして事切れているところから、気持ちはきっと同じなのだろう。

悲しさで渦巻きながらも…一つの疑問が浮かび上がった。

きっと最後に生き残ったのは、龍崎竜也=仮面ライダー龍騎。

 

 

 

ならば彼は何処にいるのか。

 

 

 

最後に生き残っている竜也は、おそらくだがオーディンを倒している。

誰も寄せ付けない最強のライダーだった仮面ライダーオーディン。仮面ライダーとその戦いを仕組んだ影の男が操る傀儡。

竜也も決して弱いわけではなかったが、彼は一度もオーディンに勝利したことはなかった。いや、誰もオーディンに勝てたものはいない。それでもあゆが目を覚まして生きていることは、竜也が最後の仮面ライダーとして生き残った、何よりの証拠だ。

「竜也くん…何処にいるの…?」

零れおちそうな涙を瞳に溜め、あゆは彷徨い歩く。

その足は、雪の街の病院で止まった。

その理由はただ一つ。

 

 

 

透明なガラスの自動ドアの先に、ストレッチャーで運ばれる竜也を見たからだ。

 

 

 

その姿を見たあゆは病院に駆け込み、そのストレッチャーに走り寄った。

「竜也くんっ!!!」

「なんですか貴方は!?…って、月宮さん!?」

看護師があゆを引き離す。その腕を振り払い、再びあゆは竜也に寄り添った。

「竜也くんっ!竜也くんっ!」

「君は、龍崎竜也君の家族かい?」

「先生…!」

再びあゆを引き離した医師が問う。なんの偶然か、彼は眠り続けるあゆの担当医だったのだ。

 

 

 

「そうか…目覚める3ヶ月くらい前から月宮さんに面会に来ていた人がいるのは知っていたが、それが龍崎君だったとはね」

竜也の病室で、向い合わせに椅子に座って話すあゆと医師。

「竜也くん…一体何があったんですか?」

「ちょうど君が目を覚ます前日だよ。彼はこの町の駅前のベンチで発見された。体中に酷い傷を負っていただけではなく、脳に強い衝撃を受けたせいで…」

あゆは言葉を失った。

 

竜也はオーディンとの戦いに勝利し願いを叶えた代償として、今度は自分自身が眠り続ける運命となったのだ。

 

「ボクみたいに…回復することはあるんですよね…?」

自分も目を覚ました。竜也もその可能性はゼロではないはず。僅かな希望を胸に聞くも、医師は硬い表情で伝えた。

「君の場合は植物状態。脳の機能が全て失われたわけではなかった。それに目覚めて健康な状態に戻れたのは例の少ない奇跡とも言えるモノだ」

 

 

 

「龍崎君の場合は脳死。脳の機能が全て失われてしまっている。もはや目覚めることはないだろう」

 

 

 

それ以降の言葉は、あゆの耳には入ってこなかった。

 

 

 

あたりは暗くなり、寒さで体が凍えそうだった。

退院したての体で歩き続けたあゆは疲れ果て、いつしか8年前によく竜也と約束をしたベンチに座り込んでいた。

「えぐっ…ぐすっ…」

凍りつきそうなのは身体だけではなかった。

 

 

 

みんな変わり果て、いなくなってしまった。

 

 

 

「うぐ…うああああああああああぁ!!!!!!!」

悲しみを吐き出す。

あの日の楽しかった日々。暖かかった第2の家族。鮮やかな思い出。

もうそれは二度とやって来ない、悲しい思い出になってしまった。

しんしんと降り積もる雪だけが、彼女の周りで舞い落ちる。

 

 

 

ふと、その雪が停止した。

 

 

 

時が止まったように。

「ここに…深い絶望を抱えた仮面ライダーがいる」

唸るような声とともに現れたのはひとりの青年。

あゆは涙を拭って前を見る。

「だれ…?」

 

「タイムジャッカー…ティードだ」

 

ティードは、澱んだ瞳であゆを見据える。あゆは涙で視界が歪んでいたため、その澱んだ瞳も…その奥に宿る闇にも気付けなかった。

「月宮あゆ、俺と契約しろ。そうすれば…失った総てを取り戻せるぞ」

深い絶望の中にいたあゆに向けられた甘い誘惑。その誘惑に抗う術は、今の彼女にはない。いや、あったとしても彼女は拒まなかっただろう。

「ホントに…?竜也くんも、祐一君も、舞さんも、潤くんも、栞ちゃんも、久瀬さんも、サトルくんも、秋子さんも、ミツルさんも、真琴ちゃんも…みんなみんな、取り戻せる?」

「今からオマエが手に入れる力は…そういう力だ」

ニヤリと笑うティードが取り出した黒い時計。それは光輝き、銀色の仮面を着けた異形の顔を映し出す。

 

 

 

<RYUKI>

 

 

 

「うぐっ…!?」

その時計をあゆの体の中に押し込んだ。その姿はみるみる変わっていった。

赤い皮膚に銀の鎧をまとった異形。左手には龍の頭、右手には巨大な青竜刀を持っていた。

歪であり、醜かったが…その姿は、あゆが愛した少年の勇姿によく似ていた。

「オマエは今日から…仮面ライダー龍騎だ」

「ボクが…龍騎…」

 

 

 

 

 

続く…

 

 

 

 

次回

 

                           羨ましいな…

 

あれは…龍騎…!?

 

                           キミはボクが失ったすべてを持ってる…!

 

彼女はオマエ達が物語を手に入れた為に生み出された

 

                           なんでキミばかりが…!?

 

中編「オリジナルの罪と平行世界の闇」

 

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

月宮あゆ=アナザー龍騎

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
龍崎竜郎
龍崎彩花

水瀬名雪
美坂香里

倉田佐祐理
天野美汐

サトル=仮面ライダータイガ
ミツル=仮面ライダーインペラー
沢渡真琴=仮面ライダーインペラー

浅田=仮面ライダー王蛇

ティード




あとがき
今回の話は以前、とある方に送っていた最後の龍騎を大幅にアレンジしたモノです!
未完ですが今でも掲載している作品「仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon Another~」は大方、こんな結末をたどる予定でした。コンセプトとしては…
以前私が書いていた「仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~」は「Kanonの物語」が「龍騎の物語」を救うというイメージでしたが、仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon Another~」は鏡写しとして「龍騎の物語」が「Kanonの物語」を苦しめる。といった話になります。
そして取り残されたあゆがアナザー龍騎として、本編の竜也とあゆの前に立ちふさがります。私が書いていた作品の中でも飛び切りダークな作風になるかもです。
感想、お待ちしています!


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中編 「オリジナルの罪と平行世界の闇」

夢から覚めた世界…

 

夢は都合の良いまどろみに揺られる…

 

心地よかった…

 

でも夢に身を委ね続けることはできない…

 

現実…

 

それは悲しくて…

 

それは冷たくて…

 

でも…

 

それならもう一度…

 

夢を見ることはできるかな…

 

 

 

2019年。

雪の街の隣町にある小さな個人病院。「美坂クリニック」

これを営んでいるのは美坂香里だ。看護師として、香里の彼氏である北川潤や妹の美坂栞も勤めている。

香里は医療の知識を極め、自分の過去の悲しみを、後悔を繰り返さないために、病に立ち向かい続けている。

潤と栞は、そんな彼女を心から尊敬し、彼女のもとで働きたいと願い、必死に着いてきたのだ。

「美坂さん、患者のカルテは書きあがりましたか?」

「出来たよ、お姉ちゃん」

他者には無理強いしていないが、香里は公私を分けており、仕事の時は栞を「美坂さん」、潤を「北川さん」と呼んでいる。彼女のポリシーなのだろう。

「なぁ香里。高野さんの容態、結構安定してるし、退院の時期も早めたらどうだよ?」

「そうですね、検討してみましょう。本人との十分な相談も必要ですし」

時刻が12時を過ぎ、病院の休憩時間になると…。

「休憩だ!香里、栞ちゃん、飯食いに行こうぜ!」

「潤がご馳走してくれるならね」「潤さん、ありがとうございます!」

香里もいつもの調子に戻り、栞と一緒に外に出て行く。

「お、おい!そりゃ無いって!」

それについていく、情けない男が1人。

「あ、いけない。ひとつ済ませておかなきゃいけないことがあったわ。栞、潤、先に言ってて」

休憩に入る前に、香里はどうしても済ませたい用事を思い出し、栞と潤を送り出した。

 

 

 

「潤くん、栞ちゃん…。すごく…会いたかったよ…」

 

 

 

そんな2人を見つめる少女がいた。

 

 

 

雪の街に出来た、初の小さな法律相談所。

パソコンに向かって首を捻っているのは久瀬シュウイチ。

「シュウイチさん、お茶を入れましたよ。休憩しましょう」

「ありがとう、佐祐理さん。じゃあ、お言葉に甘えて」

彼は駆け出しの弁護士だ。秘書兼恋人は倉田佐祐理。久瀬を一生懸命、支え続けている。

2人はどちらも裕福で由緒ある家系の生まれだったが、その家から離れたのだ。

決して駆け落ちというわけではなく、お互いが双方の両親等を必死に説得した結果なのだ。最初は猛反対をされた。家を継がずにやりたいことだけをやることが身勝手で大変なことだということを、お互いの両親が知っていたからだ。だが同時に、その夢を果たせなかった事を引きずっていた。故にその夢を子供に託す形で許したのだった。

「そうだ、シュウイチさん。明日は営業が無いんですよね?」

「休日だし、ここ最近は働き詰めで、佐祐理さんも辛いかなと思って…」

相変わらず久瀬はお堅い性格のためウブで、佐祐理に対しての親切をしたとき、顔を背けてしまうくらいだ。

それは佐祐理も理解しており、時には彼女のほうから大胆なアクションを見せたりする。

未だにデートをするときは佐祐理から申し出る。

「あはは~、わたしのことを考えてですか!うれしいです」

「そ、そうか。それは、良かった…」

満面の笑みを浮かべて、久瀬を見つめる佐祐理。当の久瀬は顔を赤らめて下を向いた。

 

 

 

「ここの佐祐理さんと久瀬さん…恋人なんだね…」

 

 

 

2人の姿を見つめる少女がいた。

 

 

 

WATASHIジャーナル。

今は休憩時間で、人が少なくなった編集室で斎藤ミツルが台本に目を通している。

そこにやってきたのは沢渡真琴、水瀬名雪、虎水サトル。

「ミツルぅ~お腹すいたよぅ~」

「斉藤君、ご飯食べようよ」

「今日は僕の知ってる、おいしいラーメン屋さんを紹介するから!」

「3人で行け。おれはこれで忙しい」

ミツルは竜也達の結婚式の司会進行を任されているのだ。竜也の新たなスタートを自分の持てる最大の力でサポートしたいと思い、自ら申し出たのだ。

なので、昼食を食べる暇も惜しみ、司会用の台本を覚えているのだ。

「あう~!お腹すいた~~~~~~~!」

「うるさいっ!」

真琴は、とりあえず目先の空腹を満たしたいので、ミツルにせがむ。

「あらあらミツルさん。腹が減っては、戦はできませんよ」

「編集長、お疲れ様です」

そこに現れたのは編集長の水瀬秋子。ミツルは上下関係をしっかりと持ち、秋子の姿を見た途端、椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして挨拶をする。

「休憩中ですよ。いつもの調子でどうぞ、ミツルさん」

「…ありがとうございます秋子さん。しかし、竜也とあゆの結婚式をなんとしてでも成功させたいんです。昼食など呑気に食べている暇すら、おれには惜しいです」

彼は憎しみに囚われ、友と愛する者の思いに気付けなかった。そんな自分を救ってくれた竜也に心から感謝し、同時に大きな借りができたと思っていた。

借りは返した。

7年前の戦いを最後にミツルは竜也に告げたが、それでも感謝の気持ちは忘れていない。だからこそ、竜也が幸せを掴み取るための協力は惜しみたくなかった。

そんなミツルに対して、ほんの少しだけ厳しい口調で秋子は言う。

「それで無茶をして倒れたら、悲しむのは竜也さんですよ」

「あう~…真琴だって…」

真琴も涙目になってミツルに抱きつく。すこし気を落としたミツルを見て、秋子はいつもの優しい微笑みに変わる。

「だからこそ、しっかりと栄養を取って、しっかりと休んでください。昔から平気なフリをして無茶をしすぎるのは、ミツルさんの悪い癖ですよ」

ミツルは若い年齢で、様々な仕事への熱意やリーダーシップなどを秋子に買われ、副編集長となった。まだ日は浅いが、さらに仕事への熱意と責任を持ち、時に秋子のサポート、時に部下であり同僚の名雪、サトル、真琴のフォローなどにも精を出していた。

だが、故に誰にも気づかれないように疲弊し、2ヶ月ほど前に一度、倒れている。その時も、秋子から強く注意をされていたのだ。

「…そうですね。以後、気をつけます」

「うん。ご飯食べてから、ふぁいと、だよ!」「さ、行こう!」

癖はまだ抜けていない。そんな自分に青さを感じながらも、気に掛けてくれる人々に囲まれた幸せを噛み締めた。そのきっかけをくれた一人である竜也に恥じない友でありたいと改めて強く願った。

 

 

 

「みんな幸せなんだね…」

 

 

 

そんな5人を見つめる少女がいた…。

 

 

 

雪の街から少し離れた町にある小さな動物園。

大きくない故に客足は少ないが、そこでは動物たちに飼育員たちが精一杯の愛情を注いでおり、ちょっとしたデートスポットにもなっている。竜也とあゆもデートに利用したことが何度かあった。

そんな動物園で働いているのは、相沢祐一と川澄舞。

周りからは結構有名な「美男美女カップル」の扱いを受けている。舞は獣医であり祐一は飼育員。動物の心身の健康を特に配慮した業務をこなす舞に、祐一はなんとなく頭が上がっていない。

「祐一、ケージの掃除…」

「やったって言って…」

「だめ。汚れが残ってる」

そう言いながらデッキブラシを手に取り、白衣を脱いで祐一よりも先に掃除に取り組み始めた。

衛生面に関しても舞は特段気を使っており、祐一だろうとそうでなかろうと、常に厳しい言葉を浴びせる。だが、指図だけにとどまらず、必ず自分も掃除や動物たちの食事などに積極的に参加しており、彼女を悪く言う者は誰一人としていなかった。

そしてなにより、彼女はこの動物園で最も動物たちに懐かれている。愛情が動物たちにも伝わっているのだろう。

「おう、お疲れさん。じゃあ、おれはこの辺で…」「祐一」

「…冗談だよ。気づかなくて悪かったな。おれにもやらせてくれ」

苦笑いしながら祐一は残るデッキブラシを手に取り、改めて気づいた汚れを落とし始めた。

それが全て終わり、2人は帰路に着こうとしながら、竜也とあゆの結婚式の話を始めた。

「そういえば、竜也達の式にいく服、決めてなかったな」

「佐祐理に借りようと思ってる」

舞踏会の時の衣装だ。もともと、祐一も舞も、当時から身体的に成長しきっていた事もあり、両者ともあのときの衣装を着ることはできる。

「いや、それはダメだろ。いくら佐祐理さんが良くても、すこしは自分で買わないと。明日、休みだろ?一緒に買いに行くぞ」

「わかった」

舞は以前よりも朗らかになり、笑顔もよく見られる。これが本来の彼女なのだ。

どこに買いに行こうかと買い物の予定に話を膨らませていた2人に…。

 

 

 

「こんにちは、祐一くん、舞さん」

 

 

 

幼い少女の声が聞こえた。

「ん…?おぉ、あゆ」「こんにちは、あゆ」

振り返ると、そこにはあゆが立っていた。普段と変わらない挨拶をする祐一達。

働いている場所は雪の街から離れてはいるものの、祐一と舞は雪の街に小さなアパートの一室を借りており、あゆと会うこともしばしばある。

それゆえに…

「あゆ…おまえ、なんか急に縮んでないか?」

違和感を感じた。

目を覚ましてから7年。その間にあゆは幾分かの身体的成長を果たしていた。止まっていた時が動き出したかのようにゆっくりと、彼女の体は女性的なモノへと変わっていった。変化は激しくないために、祐一から時折からかわれたりもしていたが。

ちなみに度が過ぎたとき、竜也が本気で怒ったことが一度だけあり、それ以降、祐一はあゆの身体的特徴についてからかう事を控えていた。

その変化しつつあるあゆが、再び7年前の目覚めて間もない頃のような体型に戻っていた。

進んだ時が再び戻ったかのように。

成長したあゆは服装の好みが大きく変わったわけではないが、以前と比べても様々な服装に身を包むことが多くなった。名雪や栞にコーディネートしてもらったのもあるが。

今着ているダッフルコートは、7年前からのお気に入りであり、時期もあって未だに使い続け、赤いカチューシャは彼女の思い出のモノであるため、どんな時も身に付けているが、それ以外の服装は…ミトンの手袋やブーツに羽の生えたリュックと、本当に7年前のそれである。

「うぐぅ…縮んでないよぉ…これから成長するもん」

困ったように拗ねてみせるが…直後に彼女は涙を流した。

「ぐすっ…うぅ…」

「す、すまん、あゆ。そんなつもりは…」

祐一は彼女の泣く姿を見て焦る。

何を隠そう、竜也が本気で怒ったとき、凄まじく怖かったのだ。普段優しい人間を怒らせたら怖いとよく言うが、竜也は典型的なそれだった。

しかし、今回はあゆをからかうつもりではなく、確かに違和感を感じたからだ。

「ううん…祐一くんの言葉で泣いたんじゃないの。2人に会えたから…」

ミトンの手袋で涙を拭って、あゆは儚く笑った。

その直後、ずっと黙っていた舞は、祐一よりも一歩前に進み、あゆに問いかけた。

「あゆ…あなたは…誰?」

あゆは舞の力で自分の正体が見破られたことを察すると、とても嬉しそうに…だが、悲しそうに笑った。

「ふふ…さすが舞さん。すぐに気付いたね」

 

「やっぱり、祐一くんと舞さんが最後のひとつ前で正解だった。最後は竜也くんだから…」

 

 

 

 

 

 

数日後。

「やっぱり消えたの?」

名雪、香里、佐祐理、美汐は百花屋に集まっていた。開口一番は香里。

理由は一つ。彼女たちの周りにいる人々がことごとく消えたからだ。

祐一、舞、潤、栞、久瀬、真琴、ミツル、サトル、秋子。

それぞれに全て共通することが有り、それらを改めて確かめるために集まった。

「うん…あの龍騎に似た怪物…」

 

一つ目は、全員が仮面ライダー龍騎に似た怪物に襲われたのだ。

 

戦いが終わって7年、この雪の街はおろか世界のどこにも、怪物が現れたという話はなかった。NoMenの香川達とも定期的に連絡を取っており、そんな情報があればすぐに耳に入るだろう。政府組織すら掴めていない怪物の横行。本当に急な出現なのだろう。

さらに気になったのは…。

「それに、ミツル君やサトちゃんが全く歯が立たなかったなんておかしいよ」

「やっぱりそうですか…。シュウイチさんも同じみたいでした…」

「潤も…まるで攻撃が通じてなかったみたいだった」

 

二つ目の共通点は、龍騎に似た怪人にはどんな攻撃も通用しなかったこと。

 

彼らは仮面ライダーとして、怪物に対抗しうる手段を持ち合わせている。たしかに7年というブランクがあり、戦闘技術の衰えは多かれ少なかれあるかもしれない。だが、そんな様子ではなく、まるで攻撃が全く当たっていないかのように、ダメージを与えられていなかった。つまりほぼ無抵抗の状態で龍騎に似た怪人に蹂躙されたと言えよう。

祐一と舞は連絡が付かず、目撃者がいないだけだが、それでもここまで共通していればおそらく同じ結果だったのだろう。

そして最後の共通点は…。

「7年前のあゆさん…いましたね」

 

彼らが襲われる直前、7年前と同じ姿をしたあゆが、それぞれの前に現れていたのだ。

 

「あのあゆちゃんが…龍騎みたいな怪物の正体なのかな…」

名雪は複雑な表情で俯く。

あゆの生い立ちは、彼女たちもよく知っている。とても辛い人生を送ってきたのだ。思春期を眠りの中で過ごし、竜也の助けがあったとは言え、社会に馴染めるように猛勉強に励んだ。彼女はそんな逆境に負けず、社会で生きていくことができ、ようやく竜也と結婚するという幸せをつかもうとしている。

だが、それでも怪物として暴れまわっているなら止めなければならない。

「竜也さんに…相談しなければなりませんね…」

結婚式の準備で大忙しの2人…。竜也とあゆには再び大きな困難が降りかかろうとしていたのだ。

 

2019年1月3日。

竜也とあゆの結婚式1ヶ月前。

式場の準備などは秋子が手回しすると言っていたが、あえて全てを竜也とあゆの2人だけで準備した。もちろん大変だったが、これだけは譲れなかった。

これから2人で歩む道のスタートラインを、自分たちで作りたかった。

そんな準備が年末になんとか終わった次の日である今日、2人は名雪達に呼び出されていた。

「祐一くん達がいなくなった!?」

百花屋のテーブル席をバンと叩くあゆ。横に居る竜也もその事実に狼狽えている。

「やっぱりあゆちゃんじゃないよね…。あのあゆちゃんは7年前の姿だったし…」

あゆは嘘をつくことが下手である。全く嘘を言わない性格ではないが、咄嗟に吐いた嘘は誰相手でもすぐにバレる。ゆえに本人は意識せずとも表裏のない性格であった。そんなあゆの様子を見た4人は落胆する。

この様子だと、あゆはあの龍騎に似た怪人とは無関係なのだろう。

「実は…龍騎そっくりな怪物が出てきて、潤や栞、久瀬さん達を攫っていった。仮面ライダーの攻撃も全く通じなかった…」

「そんな…あのオーディンと同等の強さってことなのか…!?」

竜也達にとって全く歯が立たなかった強大な敵として最初に思い出すのは、仮面ライダーオーディンだ。凄まじい強さを秘め、強い意志と明確なビジョンを持つライダー。竜也達と城戸真司達を始めとした多くの仮面ライダーが協力し、やっと止めることの出来た存在。

彼は最後にあゆによって救われ、共存できなかった少しだけの後悔を残してこの世から消えた。ただ倒すだけではなく、心を救うことができたのは他でもないあゆだけが出来たことだった。

そんな強大な存在と同等の脅威が再びこの世界に現れた。

なんとしても止めねばならない。

「でも…祐一達は仮面ライダーだからなのかもしれないけど、どうして栞ちゃんや真琴ちゃんまで…?」

攫っていく人々の共通点がわからない。

栞、真琴、秋子も仮面ライダーの周りにいる人々ではあるが、それなら名雪、香里、佐祐理、美汐、この4人を見逃す理由に矛盾が生じる。

「とにかく…あの7年前の姿をしたあゆさんが、龍騎のような怪人なのは間違いないです」

腕を組んで推測する美汐。佐祐理は懇願するように竜也に言った。

「今、攫われていない仮面ライダーは竜也さんだけです。結婚式が近くて大変なのは承知していますが…どうか力を貸してくれませんか?」

断る理由はない。

竜也にとって攫われた人達は大切な存在である。仮面ライダーとして戦ってばかりだった竜也が一人の人間としての生活に戻れたのは、その人々のおかげでもあるのだ。

そんな人々が攫われたとあっては、黙っているわけには行かない。

「もちろんだよ、必ずみんなを連れ戻す。それに…みんな結婚式にも参加して欲しいから」

そう言って、竜也とあゆは顔を見合わせて微笑んだ。

杞憂だった。

きっと2人なら事件を解決し、自分の幸せも掴み取れる。4人はそう確信した。それは理由のない根拠などではない。2人は最後まで笑っていられる強さをしっかりと持っているのだから。

既に大きな困難にいくつも打ち勝ってきた過去を持つのだから。

 

 

 

 

 

ここは別世界『龍騎とKanonの異世界』。

煤けた切り株のある約束の場所で、あゆはティードと会っていた。彼の横には2体の異形「アナザーダブル」と「アナザー電王」が付き従うようにいた。しかし、2体とも会話らしい会話をしようとはしない。まるでそこにあるオブジェのように立ち尽くしていた。

「どうだ、アナザーライダーの力は?」

「力の強さは重要じゃないよ。…でも、キミのお陰で、みんな幸せになってる。ありがと」

あゆは素直にティードへ感謝の言葉を述べる。

 

 

 

少し前。

「落ち着け、あゆ!」「目を覚まして!」「あゆちゃん…なんでこんなことを…!?」

「ボクの世界のみんなの為だよ」

アナザーライダーの力で仮面ライダー達を捩じ伏せ…。

「オマエ達には、この世界で生きてもらう」

ティードの持つ、洗脳の力。

あゆによって連れ去られた人々は、この世界の自分の記憶を埋め込まれ、この世界の住民へと変えた。

その儀式が済み、あゆはティードと別れ、悲しみに暮れる人々の元に向かう。

 

水瀬家

「名雪さん!サトル君と秋子さん…帰ってきたよ!」

「…!」

顔を上げ、もう二度と会えないと思っていた大切な人の顔を見た瞬間…。

「サトちゃん…!お母さん…!うぅ…!うああああぁん!!!」

彼女の心の氷は溶け、光が差し込んだ。

「なゆちゃん…ただいま!」

「名雪、心配かけたわね。もう大丈夫よ。こんなに痩せて…さぁ、今日は名雪の大好きなもの作りましょう」

 

「美汐ちゃん!」

「あゆさん、わたしはもう貴方とは…」

美汐は嫌悪感を剥き出しにして振り返る。だが次に見た光景で、その表情は消え去った。

「あうぅ…美汐…」「天野、すまなかったな…」

「真琴…ミツルさん…!」

戻ってきた大切な人々。美汐は涙を流しながら、2人を抱きしめた。

 

「香里さん!悲しまないで…!」

総てを拒絶していた香里。だが彼女もまた、愛していた人々との再会によって鮮やかな世界が取り戻された。

「お姉ちゃん!」

「よぉ香里!おれと栞ちゃん復活記念だ!デート行こうぜ、デート!」

「…!!も、もう!大学の勉強で忙しいの!デートはまた今度!行くわよ、栞…!」

あの頃のような他愛ないやりとり。それこそが奇跡であり愛おしい日々だったことを知った。

 

「佐祐理さん!…奇跡が起こったよ!」

苦しみながらも強く生きようとしていた佐祐理の前に、祐一、舞、久瀬を連れたあゆが現れる。

「舞…!祐一さんに久瀬さんも…!」

「ただいま、佐祐理」

「佐祐理さん。また一緒に弁当、食べよう」

「僕も…混ぜてはくれませんか?」

命を絶とうと考えていた自分を強く恥じると同時に、その間違いを侵さなかったことに安堵した。そこには確かな安らぎがあったのだ。

「ぐす…!はい!佐祐理が腕によりをかけて、美味しいお弁当、作りますよ!」

 

 

 

あの頃の幸せな日常。

それが少しずつ取り戻されていく。その事実が悲しみを埋もれさせ、心を満たしていった。

「龍崎竜也の父親と母親はオリジナル世界においては存在しない。残るのは龍崎竜也…仮面ライダー龍騎のみだ」

ティードは相変わらず澱んだ瞳で、あゆを見据えながら伝える。

「だが…ここからが一番厄介だ。アナザーライダーは対象となったライダー以外の攻撃は無効化されるが…その対象となったライダーの攻撃は通じる。真の龍騎との戦いにおいて、オマエは無敵ではない」

その言葉にあゆは顔を伏せた。

それはいずれ来る真の龍騎である竜也との戦いへの不安ではない。いや、勝てなかった場合の末路に不安は感じてはいるが、重要なのはそこではない。

きっとこのままでは、あゆ自身の心は満たされない。竜也の両親は取り戻すことはできないが、それ以外のすべての人々を取り戻すことで、幸せになれる。その為に、きっと竜也が一番嫌悪する「悪」とも言えるであろう、アナザーライダーの力を手にしたのだから。

だが、自分の世界の竜也は死んだわけではない。目覚めないだけだ。

死ぬまで目覚めないという呪いに囚われ、今でも病床にいる。そんな彼を見捨てて、別世界の竜也を連れ去ったとしても、それは真の幸福と言えるのだろうか。

竜也を…命を賭けて自分を目覚めさせた愛する人を、裏切ってはいないのだろうか。

「うぐっ…!?」

そんなあゆの心の迷いを見透かしたのか、ティードは彼女に近づき、前髪を掴んで前を向かせた。引き抜かれそうな髪の痛みにあゆは涙目になる。

「何を迷っている?」

「ぼ、ボクは迷ってなんかない…!痛いから離してよ!」

ティードの力を借りていることには、後ろめたさがあった。眠り続けている竜也は、人の幸せを何より願っていた。もちろん、あゆがアナザー龍騎の力を行使しているのは、ライダー同士の戦いから取り残された人々を幸せにしたかったからだ。それは嘘偽りのない本心。

だが、別の世界の名雪、佐祐理、香里、美汐…そして別世界のあゆ自身は、この計画を果たすと同時にかつての自分達と同じように悲しみに暮れることになる。

誰かの幸せを奪った幸福は…果たして真の幸福なのだろうか。

そんなあゆの葛藤など気にせず、ティードは前髪を掴んだまま伝えた。

「良い事を教えてやる。オリジナルの龍崎竜也を連れ去ったら、奴の命をオマエの世界の龍崎竜也に移してやろう。オマエが愛する龍崎竜也を見捨てるという迷いが、これで無くなったな」

それだけ言うと、ティードはあゆの前髪から手を離した。乱れた髪を少し気にしながらあゆは彼を見つめる。

契約した時は涙でよく見えなかったが、今は分かる。

ティードの瞳には、この上ない闇が潜んでいる。

きっと自分にアナザーライダーの力を与えたのも、あゆの願いを果たす以外に別の大きな理由があるはず。きっと多くの人々を悲しませる企みなのだろう。

それに加担していることも理解できていた。

しかし今のティードの言葉で、再びあゆは善良な判断が出来なくなっていた。

「じゃあ…竜也くんはまた目覚めるんだね…?」

「最初に言った筈だ。オマエが手にするのはそういう力だと」

きっと間違っている。

この計画を進めていく間にも、何度もその思いが脳裏をよぎった。

もし有り得ない奇跡が起こって竜也が目を覚ましたとき、きっと彼は自分を非難するだろう。こんなことは間違っていると。

それでも…正しくない行いでも…偽りであっても…

 

あゆは皆と幸せになりたかった。

 

「わかったよ、ボクは負けない。オリジナルの世界の竜也くんに必ず勝ってみせる」

改めて決意したあゆは、ティードの用意した銀色のオーロラを使い、『龍騎とKanonの世界』へと向かった。

「ボクって…こんなに醜い心を持ってたんだね…」

<RYUKI>

その言葉に呼応するかのように、彼女の姿は醜悪な怪物へと変貌する。

自分の手を見つめると、その体は人のモノではなくなっていることが分かった。

鏡で見た自分の姿は、その名の通り確かに竜也の変身する龍騎によく似ていた。それでも醜く、真の龍騎のような人々を救っていた誇り高き紅い騎士の姿とは言えなかった。

 

あぁ…そうか…。

 

ボクの心が醜いから…こんな姿になったんだね…。

 

 

 

「ティード、良いのか?あの月宮あゆとかいう小娘…」

あゆが離れたあと、アナザーダブルが立ち尽くしていたティードに尋ねる。

彼女の心に葛藤や迷いがあることは、アナザーダブルにもよく分かった。故に心が揺らぐ彼女を味方のままにして良いのかどうか…。

「良いんだよ。シンゴも手に入れたうえに、不安要素の一つだった久永アタルも此方の手にある。オレ達の勝利は揺るがない」

そう言いながら、アナザー電王を見つめる。その仮面が外れると、そこには光を失った目をした少年がいた。

「月宮あゆは、あくまでも戦力の増強だ。仮面ライダーは奇跡を起こす厄介な連中。用心に越したことはないが…万が一不要ならそこで捨て駒だ。だが…」

 

 

 

「罪に苛まれ、悩み苦しみ、それを乗り越えた仮面ライダーは…確実に強い」

 

 

 

「だからオマエをオレの手元に置いてるんだよ、ダブル」

「ヘッ…」

アナザー電王は既に再び仮面を被り、沈黙を貫いている。

残る二人の人影は互いに笑い合う。

「月宮あゆの変身するアナザーライダーは特殊だ。アナザーライダーやライドウォッチを生み出せば元来の仮面ライダーの歴史が消滅するというのに、彼女の世界の龍騎の物語は消滅しない。この前例は、世界の破壊者であるディケイドと特異点の電王のみだ。その理由も…何か意味があるはず」

 

「仮面ライダークウガから始まった、平成ライダーの歴史のオワリは…もうすぐだ」

 

 

 

その内の一つが…醜悪な巨蟲に変わった気がした。

 

 

 

 

『龍騎とKanonの世界』。

4人と別れ、竜也とあゆは街を散策する。

「この街に潜んでるのは間違いないと思う。皆この街で攫われてるから…」

「でも、7年前のボクって…どういうことなんだろう…?」

過去の自分なのかもしれないとふと考えたが、そんな記憶はない。

2人の抜け落ちていた記憶は全て7年前に取り戻した。

だとしたら、残る可能性は…

「別の世界の…あゆってことなのか?」

かつてこの世界には、門矢士をはじめ様々な別世界の仮面ライダーや人々が集まった。その経験からすれば、その結論に行き着くのも自然なことだった。

 

 

 

「そっか…別世界の人が前に来たのなら、すぐに気付かれるよね」

 

 

 

あゆと竜也がその声に振り向くと、そこにはあゆがいた

「うぐぅ…!ぼ、ボク!?」「やはり話の通りなんだ…!」

おそらく彼女は龍騎に似た怪人。竜也は咄嗟に身構える。

しかし、目の前にいるあゆ(以後Aあゆ)は、戦う素振りを見せず、竜也とあゆをジッと見つめる。

「ふぅん…7年後のボクって、こんな感じなんだ。祐一くんやミツルさんからよく子供体型とか、小学生の男の子みたいとか言われてたけど…ちゃんと成長できるんだね」

昔を懐かしむような表情でAあゆは呟く。

そして、祐一達と邂逅した時のように、涙を流し始めた。

「会いたかったよ…!竜也くん…!」

「君は…」

その涙は決して嘘偽りのない涙だった。目を覚まし動いている竜也を見るのは、Aあゆにとって実に約一年ぶり。成長し少し大人っぽい見た目になっているが、それでもAあゆのあたたかい思い出の中の竜也が現れたことに感極まった。

それを見ている2人も戸惑いながら、彼女の悲しみを感じていた。辛かった戦いと記憶にまつわる経験。その中であゆは幾度も泣き、竜也は枯れ果てた涙を取り戻した。悲しみにはとても敏感だったのだ。

「ぐすっ…いけない…しっかりしなきゃ…!」

ミトンの手袋で涙を拭って、竜也とあゆを見据える。

その時の表情は…悲しみに暮れた表情ではない。怒りと嫉妬に染まった表情だった。

「羨ましいな…」

「え?」

「聞いたよ、ティードさんに。キミはこの世界で戦いを見届けて、その戦いに終止符を打った竜也くんと幸せそうに暮らしてるって」

笑顔だったが、そこに喜びなどの感情はこもっていない。

自分と同じ顔をしているのに…あゆは恐怖を感じた。

「ボクは見届けることもできなかった…。それだけの違いでキミは、ボクの欲しかった総てを持ってる…!」

拭き取った涙が再び流れ出す。溢れる感情は…もう止まらない。

「どうしてキミだけが…幸せになれるの!?オリジナルって、そんなに偉いの!?」

 

「だから決めたんだ。幸せなボクがいる世界から…全て盗っちゃおうってね」

 

「どうせ竜也くんを頂戴って言っても、渡してくれないでしょ?話し合いは無駄だね」

Aあゆは右手を左斜めに突き出す。それはかつて、竜也や城戸真司が龍騎に変身する際にとっていた動作と寸分の狂いもなかった。違うのはカードデッキを左手に持っていないかどうか。

「変身」

<RYUKI>

低い電子音声がなったかと思うと、Aあゆの姿は変異した。

それは赤い皮膚に銀色の鎧を纏った異形。右手には巨大な青竜刀を握り、左手には龍の頭を携えていた。歪で醜いが…名雪達の話通り、龍騎の面影をどことなく感じた。

「あゆが怪人に…!」

「うぐぅ…酷いよ竜也くん。…まぁ、こんな見た目じゃ、仕方ないか」

 

 

 

「これでも立派な仮面ライダー龍騎なんだよ」

 

 

 

「アナザー龍騎って言うのが、本当の呼び方なんだけどね」

「アナザー…龍騎…!?」

そう言いながら、アナザー龍騎は二人に襲いかかった。

「ヤアアァッ!!」

「あゆ、あぶないっ!」「うぐぅっ!?」

竜也はあゆを抱え、アナザー龍騎の攻撃をかわした。

青竜刀から繰り出される攻撃は凄まじく、地面には大きな亀裂が走っていた。

竜也があゆを守った。その事実はアナザー龍騎にさらに嫉妬の炎を燃え上がらせた。

「本当に羨ましいよ…。キミが竜也くんをくれないと、ボクはそうやって竜也くんに守ってもらうことも出来ないんだよ!?」

「仕方ない…!」

7年ぶりだ。

その相手がまさか別世界とは言え、あゆだとは思わなかった。

それでも戦わなければならない。きっと彼女が祐一達を攫った張本人。取り戻すためにも…竜也はカードデッキを構えた。

あの日と変わりなく、Vバックルは現れ腰に装着される。

「変身っ!」

そう言ってデッキを装填する。

 

仮面ライダー龍騎の復活だった。

 

アナザー龍騎はその力を手に入れて間もないのか、動きには拙さを感じる。

大振りでとにかく相手にダメージを与えることだけを考えた攻撃。技術をあまり感じない。故にブランクがあっても竜也にとって避けることも躱す事も容易だった。

「…はあぁっ!」

「うぐっ!」

その拳がアナザー龍騎に炸裂する。やはり未熟だ。本当に戦いにおいては初心者なのだろう。

ならば何故、祐一達はアナザー龍騎に敗れたのだろうか?

「うぐぅ…痛いよぉ…!ホントに無敵じゃないんだね…」

そう言いながら、アナザー龍騎は拳を受けた脇腹をさする。

「く…!」

たとえ別世界でも、あゆを傷つけることは竜也の戦意を大きく喪失させていた。

その心の優しさと隙を、アナザー龍騎は見過ごさなかった。

「やっぱり優しいね…!」

「ぐぅっ…!」

龍の頭から放たれる灼熱の炎が、龍騎の体を焼く。

そんな戦い方をするアナザー龍騎に、あゆは抗議する。

「酷いよ…!竜也くんの優しさを利用するなんて!」

「キミみたいな温もりの中だけで生きてきた人は黙っててよ。どんなに卑怯でも…酷くても…ボクは勝たなきゃいけないの…!」

青竜刀を構え、龍騎にさらなる攻撃を畳み掛けようと近づくアナザー龍騎。

きっと躱す事も防ぐことも龍騎には出来た。

だがアナザー龍騎の…別世界のあゆから滲み出る悲しみと苦しみから、動くことが出来なかった。

「だめっ!!竜也くんっ!」

そう言って、あゆは龍騎を庇おうとアナザー龍騎の前に立ち塞がった。

「邪魔。退いてよ」

「退かないっ!キミもこんなこと間違ってるって…分かるはずだよ!?」

必死にアナザー龍騎を説得する。

だが、彼女の心は既に決まっている。

青竜刀を振り上げ、あゆの頭上めがけて振り下ろそうと…

「よせっ!!!あゆっ、やめろぉっ!!!」

 

 

 

<<SWORD VENT>>

 

 

 

その凶刃は、防がれた。

目を閉じていたあゆが再び目を開くと…。

 

 

 

「龍騎…サバイブ…!」

 

 

 

紅い炎のような鎧を身に纏った龍騎、仮面ライダー龍騎サバイブがいた。

竜也とあゆが知る龍騎Sに変身する者は、ただ一人。

尊敬し憧れ、目標にしたあの青年。

「真司さんっ!」

 

そう、城戸真司だ。

 

「あなたまで…ボクの邪魔をするの?…ボクらが死ぬほど苦しんでた時には、助けてくれなかったくせに!!!」

「…っ!!」

アナザー龍騎の怒りの罵倒を振り払うように、龍騎Sはドラグブレードを使って青竜刀を弾き飛ばした。

「竜也、月宮あゆ、話は後だ。一旦、退くぞ!」

そう言って、龍騎Sはオーロラを呼び出し、2人をその中に誘っていった。

 

 

 

 

 

 

続く…

 

 

 

 

 

 

次回

 

                         一体、何が起こってるんですか!?

 

彼女は…総てを龍騎の物語の中で奪われたんだ

 

                         じゃあ、アナザー龍騎を倒したら…!?

 

だが彼女を倒さなければ、2人の世界の人々は…

 

                        おれは…どうすれば…!?

 

ボクの…願いは…

 

 

 

 

 

 

後編「風が吹き続けるなら」

 

 

 

 




キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

月宮あゆ=アナザー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

水瀬秋子

水瀬名雪
倉田佐祐理
美坂香里
天野美汐

???=アナザー電王
アナザーダブル

ティード=???

城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ



あとがき
如何でしたか?
今回、さらに周りの人々のその後にもスポットライトを当てつつ、平成ジェネレーションズFOREVERの裏話も創作してみました!
ティードは本編中、アナザー電王を擁立して2018年に向かっていましたが、その途中でこの物語があったという設定にしてます。
そしてなにより、ジオウ本編でアナザーリュウガが登場し、アナザー龍騎が登場しないということになりましたので、これを利用しない手はない!と思い、アナザー龍騎を主軸にしています!
感想や質問、お待ちしています!
次回もお楽しみに…


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後編 「風が吹き続けるなら」

これで、本編の時間軸は最後です。
私がこれ以上先の話を描くことはないと思います。


 

 

龍騎Sに連れられて、オーロラを越えた龍騎とあゆ。

そこはAあゆが生きている『龍騎とKanonの異世界』だ。

流石にアナザー龍騎も単独で世界を越える力は持っていないらしく、追ってくることはなかった。

「教えてください真司さん!一体、何が起こってるんですか!?」

変身を解除した竜也は、龍騎Sに問いかける。

目の前に別世界のあゆが現れ、アナザー龍騎を名乗る怪人に変異し、自分達の友を攫い、そして襲いかかっているのだ。

既に自分自身…捨てた記憶と感情が具現化したもう1人の自分、仮面ライダーリュウガと対峙したり、門矢士などの別の世界のライダーと邂逅した経験のある竜也達は、その経験故になんとか理解が追いついているが、その真相は未だ謎のまま。

だが目の前にいる龍騎Sこと城戸真司は、様々な世界の事象や行く末などを見てきた、オリジナルの仮面ライダー。竜也とあゆの危機に駆けつけたのも、この一連の事件の真相を知ったからに違いない。

竜也の問いに答えるため、龍騎Sは変身を解除する。その姿は最後に会った7年前と全く変化が見られなかった。スカイブルーのダウンジャケットに赤いニット服、青いジーンズ、それに長い茶髪。

まるでAあゆと同じように7年前のままのようだった。

「彼女は…総てを龍騎の物語の中で奪われたんだ」

「奪われたって…どういうこと?」

次はあゆが尋ねる。

答えようとする城戸真司の表情は悲痛なモノであり、語ることを拒んでいるようにさえも見えた。

それでも彼は答える。

「本来の仮面ライダー龍騎の物語は、2人の居るようなライダー同士でも手の取り合える世界じゃなかった。最後の1人になるまで仮面ライダーが殺し合い…勝ち残った最後の一人が願いを叶える」

この事実は、かつて祐一達がオーディンによって知らされており、最終決戦の後に竜也とあゆも知ることになった。自分の知る城戸真司は、凄まじい戦いの中で多くの悲しみを経験した仮面ライダーだったのだ。それは最後の最後まで本人の口から聞くことは無かった。

それについて触れようとした竜也だが、それよりも先に城戸真司が真実を述べる。

 

「アナザー龍騎に変身する月宮あゆは、自分の世界のライダー同士の戦いの中で、大切な人々の死や変貌を経験しているんだ」

 

「そんな…!?」

驚愕する2人。別世界とはいえ、自分達の大切な人々が死んでいる事実は、心を動揺させるに十分であった。

「じゃあ、仮面ライダー以外の人…栞ちゃんや真琴ちゃん、秋子さんを攫ったのも…」

「あぁ、その世界で死んでいるからだ。美坂栞は2人の世界では完治していた病で息を引き取り、沢渡真琴はミツルを生き返らせるためにインペラーを受け継いだために戦いの中で脱落し、水瀬秋子は俺の仲間がやった物語の矯正の時と同じ交通事故に遭い、そのまま…」

次々と非情なAあゆの末路を知らされる。

きっと、名雪、香里、佐祐理、美汐が攫われなかったのも、Aあゆのいる世界では生きているからだ。そうだとすれば全ての行動に辻褄が合う。

「そしてあの世界の竜也…お前が生き残った。戦いを止めようと奔走していたが、最後には月宮あゆに未来を与えることを望み、オーディンに打ち勝った。だが…それゆえに…」

それ以上の言葉を紡ぐことが辛くなったのか、城戸真司はオーロラを呼び出しその中にある映像を2人に見せた。

 

 

 

戦いが決した時。

オーディンのファイナルベントを受け、それでも立ち上がった龍崎竜也…仮面ライダー龍騎サバイブ。

この世界での竜也は烈火のサバイブのカードを影の男から受け取り、龍騎Sに到達していた。その力で殺し合うライダー達を止め続けていたが、それでも総てを止められるわけではなかった。彼が戦っている最中や知らない所で別のライダー達が戦い決着をつけていった。いつでも竜也は、その後悔に苛まれていた。

もっと早く気づけたなら…。彼らの戦いの決着までに間に合っていたなら…。

そうやって苦しんでいた時、いつでもその心を救ってくれていたのはあゆだった。

そんな彼女は7年前に大木から落ちたが故に、時を止められていた。

だからこそなのかもしれない。

 

否定し続けた戦いを受け入れ、彼女に未来を与えたいと願ったのは。

 

「ミラーワールドにおける全ての命は…全てのライダーの力は…私に帰結する。無駄な抗いだ」

もはやその言葉に返事をすることもできない。

それでも…

「ぅああああああああああぁっ!!!!!」

渾身の力を込め、ドラグブレードを振りかざし戦うことを止めない。

どれだけ長い間、戦っていただろうか…。

 

 

 

気が付けば、オーディンは消えていた。

 

 

 

なぜ消えたのか、それは分からない。

無意識のうちに勝利したのか、オーディンが脱落を選択したのか。

それでも目の前には何も残っていなかった。

ふと。

 

目の前に眩い輝きを放つ光があった。

 

先ほどのオーディンの言葉。

全ての命と力は帰結する。その言葉の意味がわかった。

モンスターは鏡の中から人を喰らう。そしてその力を契約によって手に入れた仮面ライダー達は命を奪い合う。そして奪った命は再びモンスターに喰らわれる。そして最後にオーディンに蓄えられていく。それは凄まじく膨大なエネルギー。

それが願いを叶える力…。

 

 

 

「新しい命」なのだ。

 

 

 

それを手に取る龍騎。

彼は傷ついた体に鞭を打ち、鏡を通過する形で眠り続けていたあゆの前にやってきた。

「あ…ゆ…ぃ…き…て…」

もはや声すらも掠れるようなものでしか出せない。それでも必死に言葉を紡いだ。

 

きっと彼女が目覚める瞬間を、見守ることはできないのだから。

 

どんなに正当化しようと、止めようとした戦いを肯定したことは事実。きっと自分は、目覚めた少女に寄り添う資格を持ってはいない。

誰もいない真夜中、ミラーワールドを通ることで人目を避け、傷ついた体を誰にも晒さずに済んだ竜也は、幼かった日にあゆと何度も待ち合わせをしたベンチに座り込む。

静かに降り積もる雪。その冷たさが、徐々に彼の意識を奪っていく。

ゆっくりとした動作で、竜也はベンチで横になった。

すべての感覚が失われ、目の前が暗くなっていく。

もうすぐ自分は死ぬ。いや…仮面ライダーは体の自己治癒力が高まっているから、それは避けられるかもしれない。

だが、それでもあゆに触れることも言葉を交わすことも許されないだろう。

出来ることなら…。こんな戦いがあったことを…。自分自身のことを…。

 

 

 

月宮あゆが忘れる事を願って…。

 

 

 

そこで映像は途絶えた。

「戦いの果てに脳死した龍崎竜也の願いによって、月宮あゆは目を覚ました。だが自分の周りにいるすべての人が変わり果て、居なくなった事実に絶望した。彼女は死を選ぶことも許されない。死後の世界が仮にあったとして、その世界には龍崎竜也はいない。それに受け取った命を捨てることは…彼女自身が許せないだろう。その心の闇に漬け込んだ男…タイムジャッカーのティードによって、アナザー龍騎の力を手に入れた。その力で2人の世界の人々を攫い、ティードの持つ洗脳の力で、この世界の記憶を植えつけられている」

先程まで自分が対峙したAあゆは、自分たちとは比べ物にならない悲しみと絶望を味わっていた。

タイムジャッカー、ティードという聞きなれない言葉があったが、今の2人にはそれを気にする余裕はない。

「別の世界のボクは…失った総てを取り戻したかったから、あの力を手に入れたんだね…」

呟くあゆの瞳からは涙が浮かんでいた。

かつて戦いの中で、竜也は一度死んだ。その現実を突きつけられたとき、あゆは悲しさで心が埋め尽くされたと思っていた。城戸真司によって新しい命を与えられ、竜也は息を吹き返した為、その悲しみには終止符が打たれた。

だがAあゆはそうではない。今でも悲しみの中にいる。

自分達の世界のように、城戸真司が救ってくれるわけでも、奇跡が起こるわけでもない。

残された現実を突きつけられ続けているのだ。

「あの世界が生まれて、俺は時折、彼らに少し干渉してしまった。最悪の道に進まないように…。だが言葉だけでは、最悪の道を回避することはできなかった…」

城戸真司が後悔するように説明している理由はそれだった。

彼は2つ以上の世界が関わるような出来事でないと、過ぎた干渉は許されない。今回、竜也とあゆの前に現れることができたのは、Aあゆが別世界の人間ゆえに、彼女の行動が2つの世界に干渉する出来事であったからだ。

アナザー龍騎が恨みを込めた発言をしたのも、自分達を救ってくれなかったのに、別の世界の自分たちを救おうとする彼の行動が許せなかったからだろう。

「俺は…立場上、アナザー龍騎である月宮あゆを食い止めなければならない。アナザーライダーは対象となったライダーの攻撃によって倒せる。同じ龍騎である以上、俺ならば止めることは可能だ。俺が彼女を食い止めたなら…辛いかもしれないが、彼女の世界の人々から2人の世界の人々を取り戻してくれ。2人のどちらかが攫われた人々に触れられたら…彼らは記憶を取り戻す筈だ」

城戸真司は頭を軽く下げ、竜也とあゆに協力を願う。

その言葉には素直に頷けなかった。

「じゃあ、アナザー龍騎を倒したら…あの世界のあゆは、また一人ぼっちに戻るんですか…!?」

彼女の行動原理は、孤独になった自分や取り残された人々を救いたい一心。その想いだけでアナザー龍騎となった。彼女の実力ならば、城戸真司の変身する龍騎Sの実力には及ばない。先程彼の言ったアナザーライダーの特性を考えれば、城戸真司の勝利は確実だ。

だがそれは彼女の切実なる願いが潰え、総てが過ぎ去った悲しい現実の世界で生き続けることになる。敵対していると言え、そんな末路をAあゆに辿らせるのは迷いを生じさせた。

「だが彼女を倒さなければ、2人の世界の人々は…」

城戸真司の否定の言葉に、竜也とあゆは顔を伏せる。

相沢祐一、川澄舞、北川潤、美坂栞、久瀬シュウイチ、沢渡真琴、斉藤ミツル、虎水サトル、水瀬秋子。

連れ去られた人々は、2人にとっても大事な人々。そのままという選択肢はあり得なかった。

「おれは…どうすれば…!?」

竜也は頭を抱えて苦悩した。出来ることならAあゆを救いたい。このまま無理矢理に決着をつけても、彼女の心は救われないまま文字通り生き地獄を味わうことになる。

 

 

 

「彼女の邪魔はしないでもらおうか?貴重な戦力だからな」

 

 

 

不意に聞こえた乾いた声。

振り返ると、そこにはレザー生地の服に身を包んだ男が立っている。その目は闇を映し出しているかのように澱んでいた。

「ティード…!」

「あの人が…別の世界のボクにアナザー龍騎の力を渡した人なんだね…!」

竜也もあゆもその闇を感じ取った。今回の事件の発端はこの男。Aあゆを利用して、何か企んでいるのだろう。

「止むを得ない。竜也、月宮あゆ、ここは俺が引き受ける。2人はアナザー龍騎から逃げつつ、相沢祐一達を取り戻すんだ」

迷ってはいたが、このままでも埓が開かない。2人は彼らから背を向け、走り去った。

2人の姿が見えなくなると、ティードはねっとりとした口調で喋り始めた。

「城戸真司ィ…お前も虚構の分際で、出しゃばるなよォ…」

その言葉はティードにとって、城戸真司の心を動揺させるためのもの。それと同時に、紛れもない事実であった。

 

 

 

仮面ライダーとは、とある漫画家が描いた物語。

それらが様々な形で発展し、クウガから始まる「平成ライダー」の物語が生まれたのだ。

ティードも城戸真司も…その物語の登場人物でしかない。

 

 

 

今までの人生…いやそれ以外の全てさえも否定するその言葉を耳にしても、城戸真司は動揺の顔ひとつ見せなかった。

「それはお前も同じだろう…。既に知っているさ、仮面ライダーの物語は全てテレビの中の絵空事。だが…それでもそこには間違いなく意思がある」

「だから、それさえも虚構なんだよ」

嘲笑するティード。この言葉すら、誰かが紡いだ言葉なのだろう。

全ては絵空事なのだから。

「あの世界の龍崎竜也と月宮あゆにも、この事実を知ってもらうか?きっと奇跡を起こす気を無くすかもな」

「やれるものなら、やってみろ。竜也と月宮あゆは…いや、2人の友さえも強い。その程度の事実を突きつけたところで、思い描く願いと未来は変わらない」

そう言いながら、城戸真司は赤いカードデッキを構える。

「無駄なことを。オマエは龍騎で、俺はクウガだ。例えオリジナルだろうと対象のライダーでなければ、アナザーライダーは撃破不可能だぞ」

「だが足止めはできる。2人が奇跡を起こすまでの間くらいはな」

白銀のベルトが城戸真司の腰に装着される。右手を左斜めにつき出し、叫んだ。

「変身!」

<<SURVIVE>>

赤い虚像が彼を包み込み、龍騎Sへと変身を遂げさせた。ドラグバイザーツバイを構え、ティードの対応に備える。

普通の相手では、その佇む姿だけで戦意を喪失させていたであろう。だが、ティードはその普通の相手には収まらない。

彼は思い通りにならない目の前の存在である龍騎Sに怒りすら抱いていた。

「…何故そこまで歯向かう?オマエたち仮面ライダーは、虚構の存在なのにィッ!!!!」

<KUUGA>

低い電子音声の後、ティードの姿は醜悪な巨蟲へと変異した。

平成ライダーの始まりである仮面ライダークウガのアナザーライダー…「アナザークウガ」だ。

 

 

 

竜也とあゆは改めて雪の街を駆ける。

だが、それを許さない者がいる。

「キミ達の方からこの世界に来てくれるなんて、好都合だよ」

Aあゆだ。単独で世界を渡る術は持っていないが、おそらくあの後ティードと合流し、こちらの世界に帰還したのだろう。

「…どうしても、戦わなければいけないのか?おれ達の世界から祐一たちを奪う以外に、なにか方法はないのか?」

「あるなら教えてよ。きっとその方法なら、みんなが幸せになれるんだよね?」

彼女の言葉に対する答えを、竜也は出すことができなかった。

可能であれば、話し合いで和解したかった。彼女の想いを知っている故に、それを無理矢理に止めることは気が進まなかった。

 

 

「戦わなければ生き残れない」

 

 

Aあゆがポツリと呟く。

「ボクの世界の仮面ライダー達、何人かの口癖だった。仮面ライダーは争う運命だって。竜也くんや潤くんは、止めようとしていたけど…。結局、戦う道を選んだよ」

彼女の脳裏には、意識体として彷徨っていた頃の記憶が蘇る。Aあゆの世界の仮面ライダーは全員、戦う運命を最終的には受け入れてしまった。

「正義も悪もない…。そこにあるのは、純粋な願いだけ。だからボクも願いの為に戦う。それが仮面ライダーの運命なら…!」

そんな運命、竜也は受け入れたくなかった。確かに争うことでしか決着をつけられなかった仮面ライダーもいる。だが、それ以外の道を見出せた仮面ライダーだっていたのだ。

「違う…おれ達の世界の仮面ライダーは…手を取り合うことができた。いろんな世界の人々とも…。だから君とも…!」

「それはキミの世界の話でしょう!?そんな奇跡…ボクの世界では起こらなかったんだよ」

悲痛な叫びでAあゆが訴える。幸せを手に入れた竜也の説得は、悲惨な末路を辿ったAあゆにとって火に油を注ぐ行為でしかない。

「どうせ城戸真司さんって人から、ボクの事を聞いたんでしょ?それでボクを説得したら…「うん分かった。竜也くん達のことは諦めて、この世界で寂しく生きるよ」と言ってくれると思ったの?…そんなのボクは絶対に認めたくない。バカにしないでっ!!!」

黙って聞いていたあゆだが、竜也の葛藤を無視したAあゆの発言に怒りがこみ上げた。

「竜也くんはそんなこと思ってないよっ!キミの事、救いたいって本気で思ってる!」

「じゃあ、竜也くんの命をボクに頂戴。その命で今も眠っているボクの世界の…ボクの大好きな竜也くんを目覚めさせるから」

「それでも…ボク達の世界の人たちをキミに渡すわけには行かないんだよ…!」

最早、説得は通じないのだろう。

和解の道を模索したとて、どちらかが悲しい末路を辿らねばならないのは明白だ。

ならばせめて…。

「あのあゆは、おれが止める。あゆ、祐一達を連れ戻して。オーディンを救えた君になら…きっと出来る筈から」

「でも…!」

「おれにできるのは…今は一つしか思い浮かばない」

記憶と感情を取り戻して以来、竜也は涙を流すことが時折あった。

新しく勤めた仕事で上手くいかないとき、極稀にあるあゆとの喧嘩、祐一があゆをからかった時も本気で怒ったが、そのあとも友と争ってしまった後悔の念から人知れず涙を流していた。

そして、今この時。

Aあゆとの対峙が避けられないと確信したこの瞬間、竜也は一筋の涙を流していた。

「…わかった。行ってくるね」

あゆは竜也の想いを信じ、踵を返して駆けた。

残された竜也とAあゆ。

2人の龍騎。

「…どうするの?」

「おれに思いつく最善の方法。それは君と戦うことだ。君の想いを受け止めるには…今はそれしか思いつかない」

Aあゆは純粋な願いを込めて戦っている。そこには悪意など無い。もっとも、罪悪感におし潰されそうになってはいるが。

そんな彼女の願いに応えるには、戦うしかないのだろう。

自分の世界の人々と彼女の願いを賭けた戦い。

「そっか。…別の世界でも竜也くんは竜也くんなんだね。見つからない答えを探して…人の想いに応えるために、自分の身を犠牲にして…」

「君のことを救いたかった。でも、それがおれ達の世界の不幸でしかないのなら…。君の世界の死んでいった人達の事を忘れることなら…。戦わなきゃいけない」

お互いに愛している人だった。そんな人と戦わねばならない。

どちらも一筋の涙を流し、竜也はカードデッキを構えVバックルを装着し、Aあゆはそのタイミングに合わせ、右手を左斜めに突き出す。

「…変身っ!」「変身」

<RYUKI>

片や様々な人々と心を通わせ、世界を救った赤い騎士。

片や何も救うことができず、力を手にした赤い騎士。

なんの皮肉か、互いに同じ龍騎の名を冠していた。

 

 

 

あゆは、自分たちの住む世界と同じ場所を尋ねる。

きっとその場所に自分たちの世界の人々がいるはずだ。

まずは水瀬家だ。

遠慮がちにチャイムを鳴らす。そこから7年前の名雪が現れた。

「あゆちゃん、いらっしゃい!」

心から幸せそうな表情をしている。いや、それだけではなかった。

「まぁ、あゆちゃん、いらっしゃい。よかったら、ここで晩御飯食べていかないかしら?」

「あゆちゃん!あれ…ちょっと大人っぽくなったね」

サトルと秋子。2人はあゆの世界の人なのだ。

「名雪さん…ボクね、この世界の人間じゃないの。サトル君と秋子さんを…ボク達の

世界に連れ戻しに来たの」

「え…あゆちゃん?」

そう言って、あゆは秋子とサトルの手に触れた。

すると、二人は立ち眩みを起こしたかのようにふらつき、壁に手を置いて倒れないようにした。

「ここは…」

「僕達は確か、あの龍騎みたいな怪人に…」

「秋子さん!サトルくん!」

あゆは2人の手をさらに強く握った。

「あゆちゃん…どうして…?」

名雪は再び取り戻せた幸せを奪われると感じ、絶望に顔を歪ませた。その表情は、あゆが見た名雪のどんな表情よりも悲痛なものだった。

「2人はボクの世界の人たち。名雪さんの世界のボクが…名雪さんを幸せにしたくて攫ってきたの」

「…そうなんだ」

先ほどの太陽のような明るい表情の名雪は、もうすでにいなかった。

秋子はそんな彼女に近づき、力いっぱい抱きしめた。

「やめてよ…離してよ…!結局、あなたはわたしのお母さんじゃなかった!仮初の幸せなんて…!」

「貴方が悲しむ理由…きっと、貴方がこの世界のわたし達を愛していたからね」

その言葉で、名雪は捩っていた体を落ち着かせた。

「きっと…この世界の私もサトル君も、幸せだった筈よ。たった一人の愛する人に…愛されてたから」

「なゆちゃん…なゆちゃんは僕達じゃなくて、なゆちゃんの世界の僕達を…そしてなゆちゃん自身を愛して。たとえ死んでいたとしても…この世界の僕達はこんな形で忘れて欲しくないはずだから…」

そう言いながら、2人は名雪からゆっくりと離れていく。それは今度こそ永久の別れになる。先程まで拒絶していても、それは受け入れたくない事実であった。

「いや…まって…!」

「名雪…未来を見つめて。そして自分を愛して」

「さよなら…なゆちゃん…」

仮初のぬくもりに包まれていた水瀬家。だが再び、そこはぬくもりを失った家へと戻ってしまった。

「おかあさん…サトちゃん…」

 

 

 

荒野では、アナザークウガと龍騎Sが戦いを続けていた。

人の姿ではなくなった巨蟲の腕が、龍騎Sを砕こうと振り落とされる。

「…くっ!」

地面を抉り、岩を砕くことのできるその腕は龍騎Sのドラグブレードによって防がれた。

防御ならばなんとかなる。だが、攻撃に転じてもアナザークウガには有効な一撃を与えられないのだ。

いずれは消耗しきった龍騎Sは、アナザークウガに屠られるだろう。

だが…。

 

<KAMEN RIDE KUUGA>

 

「…また奇跡か。くどいッ!!」

アナザークウガは飛び跳ねるように、その攻撃を避けた。

「苦戦しているようだな、城戸真司」

体勢を整えた龍騎Sの目には、仮面ライダークウガがいた。

だが、ベルトは本来のクウガの変身に使用しているアークルではない。マゼンタカラーのバックル「ネオディケイドライバー」を装備し、左腰にはライドブッカーを携えている。

その声の主は…。

 

「門矢士…!」

 

そう、仮面ライダーディケイドである門矢士だ。

彼は様々な仮面ライダーに変身する力を有している。今目の前にいるクウガは、ディケイドの固有能力「カメンライド」によって変身したDクウガなのだ。

「クウガの力、必要なんだろ?なぜ五代雄介が居ないか知らんが、手を貸す」

ライドブッカーを構え、Dクウガはアナザークウガを見据えた。

ディケイドは全ての仮面ライダーに変身することが可能。アナザーライダー達の誰に対しても有効な戦法を持つ、いわばアナザーライダーの天敵といえよう。

そんな彼が協力してくれるとなると、とても心強い。

だが…。

「すまない。俺達は嘗て、お前を破壊者に仕立て上げようとしていたというのに…」

龍騎Sには士に対する罪悪感もあった。

2009年に勃発したライダー大戦。世界の融合による消滅を防ぐために、オリジナルライダー達はディケイドを依り代にして世界の消滅を防いだ。

それゆえに彼は、物語を持たない仮面ライダーとなったのだ。

「いちいち10年も前の事を掘り返すな。それに旅そのものが俺の物語だ。結構、楽しませて貰ってるしな」

「下らない無駄話をするなァ!!」

2人の会話を遮断するかのように、アナザークウガが襲いかかってきた。だが、2人ともそれを予期して回避することは容易だった。

「さて、10年来の和解も済ませたところで…このデカブツを退治するか!」

「…あぁ!」

 

 

 

次にあゆが向かったのは、美汐のところだ。

ものみの丘はミツルと真琴の思い出の場所。きっとそこに3人はいる。

想像通り、美汐達はそこで並んで座っていた。

「あゆさん…?」

足音に気づいたミツルが振り返り、さらにそれに気づいて振り返った美汐が、あゆに声をかける。

「美汐ちゃん…ごめんね…。ミツルさんと真琴ちゃんは、美汐ちゃんの世界の人じゃないの…」

「…やはりそうでしたか」

2人は美汐の記憶よりも成長した姿をしている。きっと死んでしまった本人ではないと感づいてはいた。

それでも大切な人達の思い出にもう一度、浸れるのなら…。現実から目を背け、仮初の幸福に身を委ねていたかった。

だが、それももう終わりらしい。

あゆはミツルと真琴の手を握る。彼女の体に触れることで、2人は自分の世界の記憶を取り戻すのだ。

「あゆ…?」

「あうぅ…あゆ、目を覚ましてくれたの?」

「あのアナザー龍騎…龍騎みたいな怪人は別の世界のボク。ボクはミツルさんと真琴ちゃんの世界のあゆだよ」

「目を覚ましたのはおれ達という訳か…。だが…」

2人は自分の世界の記憶を取り戻した。それは美汐にとっては仮初の幸福の終焉を意味していた。

そしてミツルと真琴には、美汐と過ごした数日感の記憶も残っている。

「いいんです、行ってください」

「天野…」

少しだけ涙を目に溜めていたが、美汐は精一杯の笑顔を見せた。

「この世界のミツルさんと真琴はもういないんです。それに、あなた達は幸せに生きている。そんな世界があったって知ることが出来ただけでも…充分です」

「美汐も…一緒にいけないの?」

「そうすれば、真琴の世界のわたしが困ってしまいます」

美汐はミツルと真琴の背中を力いっぱい押した。

「さよなら…少しの間だけでしたけど、幸せでした」

これ以上、彼女は笑顔を見せられないのだろう。振り返ってものみの丘を後にした。

「…真琴、あゆ、行くぞ」

ミツルは苦しそうな表情ではあったが、美汐とは逆の方向に歩いて行った。

「ミツルさん…」

「おまえは、おれ達を連れ戻しに来てくれたんだろう?それに此処は、おれ達の生きるべき世界じゃない」

振り返ることなく、ミツルは歩きながら言い放った。

そして…

「この世界の天野!!死んでもなお、おまえに想われていたこの世界のおれ達は…きっと幸せ者だったはずだ!!」

上を向いて、大きく叫んだ。

意図を理解した真琴は、美汐が歩き去った方向を見つめ…。

「美汐っ!きっと、わたし達は幸せになるから!だから、美汐も前を向いて、幸せになってねぇっ!」

それだけ言うと踵を返し、ミツルの後を追いかけた。

 

 

 

雪が未だに積もる商店街は廃れていた。

鏡の中から現れるモンスターに恐れた人々は、すっかり不必要な外出は避けるようになってしまった。

故に夕闇に染まりかけた商店街には、二つの影以外は誰一人としていなかった。

その二つの影こそ、龍騎とアナザー龍騎だ。

ドラグセイバーと青竜刀が火花を散らし、ぶつかり合う。

「はあぁっ!!」

「ヤアァッ!!」

お互いの攻撃力は同等。だがやはり、経験値が物を言う。龍騎はアナザー龍騎のとっさの隙を決して見逃さず、防御の手が緩んだ場所を的確に狙った。

「だあぁっ!」

「うぐぅっ!!」

弾かれた青竜刀に気を削がれたアナザー龍騎は、ドラグセイバーの一閃を真正面から受ける。そこで態勢が崩れた機会を見逃さず、龍騎はさらに攻撃を叩き込んだ。

「でぇっ!!たぁっ!!」

「きゃぁっ!うわあぁっ!!」

戦うことに気が進まないのは今も同じだ。だがそれ以上に、彼女の想いに応えるには全力で戦うことが必要だった。

地面を転がるアナザー龍騎。痛みに耐えながら立ち上がり、体に付着した雪や汚れを払う。

「いたた…やっぱり痛いなぁ…」

「譲れない…この戦いの勝ちだけは」

彼女の世界の不幸に抗うことよりも、自分達の世界の幸せを優先する。なんと自分勝手な願いだろう。龍騎は内心、自己嫌悪に陥っていた。

それでも…どんなに自分勝手だと言われようと、勝利を譲るわけにはいかない。

「かかってこい!!君はおれ達の世界の幸せが欲しいんだろう!?」

「うぐ…!そうだよ…ボクはみんなと幸せになりたいの…!キミ達だけが幸せになれるなんて…認めたくないっ!!!」

 

 

 

あゆは次に香里達の前に現れていた。

彼女は大学の下校途中。栞と荷物を持たされている潤もその横にいた。

「香里さん…!」

「あら…あゆちゃん」

「あゆさん!」

不思議そうに振り返る香里。以前のような嫌悪感のある表情はない。だが、その表情をこのあゆは知らないだけだ。

「ごめんなさい、香里さん…。潤くん、栞ちゃん…ボク達の世界に帰ろ…?」

彼女の幸せを奪う罪悪感に苛まれながらも、あゆは潤と栞の手を取る。

潤はその瞬間、手に持っていた香里の荷物を全て地面に落とし、栞も頭を抱えてしゃがみこんだ。

「あゆちゃんじゃねぇか!あの力、もう捨ててくれよ!」

「えっと…あの怪人はボクとは別人なの」

「やっぱり、7年前のままでしたものね…。でも、わたし達は…?」

「怪人…アナザー龍騎とティードって人に操られて、この別世界で生きていくように仕向けられてたの…他の人たちも…だから連れ戻しに来たんだよ」

潤と栞は記憶を取り戻す。

香里は何も言葉を発さず、ただその情景を見守っていた。

「おねえちゃん…」「香里…」

「…あなた達が生き返った。そんな都合の良い奇跡が起こるわけないって、何処かでは分かってた。それが…真実なのね」

表情を崩さぬよう、涙を必死に堪えながら、香里はつぶやく。

「わたし達の世界のあゆちゃんが、名雪や天野さん、倉田さんの悲しみを癒そうとして…」

「…うん。でも、ボク達の世界の人達を放っておけなかったの。だって…ボク達もみんなが大好きだから…」

ただ、あゆの純粋な…そしてただ真っ直ぐな想いを伝えた。本当は香里達も救われない結末は望んでいない。だが、それでも奪われた人々は取り戻したいと願う大切な人々であった。

「分かったわ。きっとこのままでも、この世界の北川君や栞は忘れ去られてしまう。そんなの…きっと間違ってるものね」

「ごめん…ごめんね…」

あゆは潤と栞を連れて、その場から離れようとする。

その前に2人は、もう一度だけ振り返る。

「香里っ!!やっぱ別世界でも、本当に良い女だったぜ!!」

「おねえちゃん。きっとこの世界のわたしも…おねえちゃんの妹で幸せだったと信じてる!!」

潤と栞はそれだけ言って、香里の前から姿を消した。

最後に取り残された香里は、その後ろ姿を見送ったあと…。

「う…ぅ…」

声を押し殺し、たった1人で泣き崩れていた。

 

 

 

龍騎SとDクウガ対アナザークウガの戦いは、苛烈を極めた。

戦っている場所が荒野でなかったなら、その場所はまたたく間に廃墟と化していたであろう。

龍騎Sのドラグバイザーツバイから放たれる光線、アナザークウガが口から放つ火炎や雷、Dクウガのライドブッカーから放たれる光弾。

たった3人だけで、嘗てのライダー大戦を再現するような戦場を生み出していた。

「…死ねェッ!!」

アナザークウガは手薄となったDクウガを屠るため、雷を纏った巨腕を振り下ろす。

「くっ…!」

「門矢士っ!!」

その一撃を龍騎Sが防ぐ。それによって、反撃の準備のチャンスが生まれたのだ。

<KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTODEN-O KIVA>

<FINAL KAMEN RIDE DECADE>

Dクウガの姿は、新たにディケイドCFへと変化を遂げた。

この姿になれば、中核の仮面ライダーたちの最も強い力を行使することができる。それによるクウガの一撃ならば、アナザークウガにとって必ずや有効な一撃となるだろう。

<KUUGA><KAMEN RIDE ULTIMATE>

胸のにある、中核の仮面ライダーの顔を写したヒストリーオーナメントが、クウガへと変化する。

それと同時にディケイドCFの隣には、嘗て五代雄介が変身していたものと同じクウガUFが出現した。

このクウガUFには変身者が存在しない。海東大樹=仮面ライダーディエンドが召喚していた仮面ライダーと似たものだ。違いは、こちらはディケイドCFの動きをある程度、トレースしたものになる。自分の意思を持たないことは弱点にも思えるが、逆を返せば完全に息の合う一撃を放てるのだ。

<FINAL ATTACK RIDE KUKUKU KUUGA>

「はああああぁっ…!でぇああああぁっ!!」

ディケイドCFとクウガUFの右腕が赤く燃え上がり、最高潮に達したそれを前に翳す。

すると、アナザークウガの身体は独りでに炎に包まれた。

「ヌゥッ…!」

アナザーライダーには対象となるライダーの力が有効。クウガの力を宿した一撃は、アナザークウガにとって確実なダメージを負わせることになった。

オリジナルライダーである龍騎S、そして総て中核を担う仮面ライダーの力を行使できるディケイドCF。

さすがのアナザークウガでも不利な状況である。

「チッ、アナザー龍騎を棄てるのは惜しいが…引かねば、計画が丸潰れか…!」

撤退を余儀なくしたアナザークウガは、異空間から巨大なマシン「アナザーデンライナー」を呼び出し、自らの巨体をアナザーデンライナーにしがみつかせ、異空間へと去っていった。

残った龍騎SとディケイドCF。

「城戸真司、後始末は俺に任せろ。お前は竜也とあゆを助けに行け」

「…いいのか?」

「毎度、確認しなきゃ分からないのか。あいつらは俺にとっても旅の中で出会った仲間だ。あいつらが必要としてる助けは…俺ではなくお前の筈だ」

 

「それに俺の計画も…進めなきゃならんしな」

 

手を振り、変身を解除した士はオーロラの中へと消えていった。

その姿を見送った城戸真司。彼にはまだ残された使命がある。

<<ADVENT>>

ドラグランザーを呼び出してバイクモードへと変形させ、アナザー龍騎の下へと急いだ。

 

 

 

雪の街にある大学。

そこで佐祐理、祐一、舞、久瀬は弁当を食べていた。そこにあゆは現れた。

「佐祐理さん…!」

「まぁ、あゆさん、こんにちは!今日はお昼が別々での講義でしたから、夕御飯をみなさんで食べようと思ってたんです。よろしければ、ご一緒にどうですか?」

「お、あゆ。…どうした、急に成長したなぁ…」

「あゆも一緒に…」

「月宮君、ここに座ると良い。丁度、余っている割り箸もある」

屈託のない笑顔で言う佐祐理達。今から佐祐理の幸せを奪わなければならないと考えると、あゆの心はズキンと痛んだ。

「ごめんなさい…ごめんなさい、佐祐理さん…!」

座るフリをして、あゆは佐祐理以外の3人の手に触れた。

「…あ、あゆ!?」

「あなたは…わたし達の世界のあゆね」

「やはり別世界の存在だったのか…」

3人は記憶を取り戻す。舞は自身が持っていた力によって、あゆがAあゆとは別の存在だと気付いた。

「…舞…祐一さん…久瀬さん…」

佐祐理にとって、3人は自分が強く生きることが出来たきっかけ。失ったことに絶望し、それでもこの世で生き抜こうと気丈に振舞っていたが、半端に取り戻した故に、さらなる悲しみが彼女を襲った。

「佐祐理…。あなたは、この世界のわたしと強く生きると約束してくれた」

「舞…無理だよ、佐祐理には…もう、この世界を素晴らしいとは思えないんだよ…」

舞にはこの世界の舞の記憶が未だにある。今際の際の自分は、佐祐理に生きていくことを望んでいた。

しかし、佐祐理にとってそれは舞たちが生きていたから。それを失った今、その言葉通りに生きることができるとは思えない。

「佐祐理さん。僕は、貴方の心の強さを知っている。誰かの為に自分の心を隠してしまうことは、弱さではない。でも…そんな強さは悲しい」

「久瀬さんっ…。佐祐理は…佐祐理は強くありません…!」

久瀬は自分の世界とこの世界の佐祐理を重ねた。どちらも同じように強さを持っていた。

自分の心の傷を誰に言うこともなく隠し、そして沢山の人に笑顔を振りまくことができる。彼女には、それをやってのける強さを持っていた。

だが久瀬の言うとおり、その強さはこの世界で最も悲しい強さなのだ。

「弱くても…おれ達は前に進めたんだ。多分、佐祐理さんの世界と同じような結末になっていても、おれ達は前に進めた。…記憶があるから。奇跡がおれ達の中にあるから」

「ゆう…いちさん…っ!」

最早、言葉を紡ぐことはできなくなっていた。佐祐理の心は悲しみに埋もれ、その重みが言葉を押しつぶしていたのだ。

「佐祐理さん。あなたにも奇跡を起こせる力はあるんだ。万能じゃないかもしれないけど…それでも、ここで佐祐理さんが生き続けるなら」

そう言って、祐一達は佐祐理に背を向けて、歩き去っていった。

「置いていかないで…独りにしないで…!」

「佐祐理。あなたの知らない、この世界の新しい素晴らしさを探して」

舞は去りゆく際、最後に一言残して、それ以降は、この世界の佐祐理と言葉を交わさなくなった。

 

 

 

もうすぐ夜が来る。

龍騎とアナザー龍騎の戦いは、未だに龍騎の優勢が続いている。

「あゆ、もうやめてくれ…これ以上は戦っても…」

「負けられない…!負けたくないよぉ…!」

嗚咽を漏らしながらも、アナザー龍騎は何度も立ち上がる。

彼女を完全に倒しきる切り札。それを龍騎は使えないでいた。

ファイナルベント。

その名の通り、仮面ライダーの最後の切り札。

龍騎がそのカードを使ったのは、モンスターを除けばリュウガとオーディン相手のみ。

全てに決着のつくカードなのだ。

だがそれを使えば、完全に彼女の未来の希望を絶つことになる。

果たしてそれは、正解なのか。

その答えを、やはり出せないでいた。

そこへ…。

「竜也っ!」

ドラグランザーに乗って、龍騎Sが現れた。

「真司さん…」

「お前に、これ以上の重荷は背負わせたくない。ここは俺に任せてくれ」

そう言いながらドラグランザーから降り、ドラグブレードを構えた。

きっと彼には勝てない。

アナザー龍騎もそれが分かっていた。それは彼女にとって理不尽極まりない運命であった。

「なんで…なんでボク達は、幸せになろうとしちゃいけないの…!?」

「その幸せが、他の世界の幸せを奪う行為だからだ」

龍騎Sはあくまでも冷静に…それであって冷酷に事実を突きつける。

「あなたがボクと同じ運命なら…きっと同じことをしたくせにっ!!」

「そんな運命…。とっくの昔に味わっているさ」

その言葉に、アナザー龍騎は仮面の奥で目を見開く。龍騎はその事実を知っていた。

城戸真司は、自分の世界で仮面ライダー同士の熾烈な戦いに巻き込まれていた。戦いを止めるために奔走していたのに、その戦いの原因は自分であり、そして最終的には世界の破滅を防ぐことは出来なかった。既に城戸真司の故郷と呼べる世界は、どこにも存在してはいないのだ。

「それでも俺は前に進んだ。…進む以外の選択肢はなかったがな。月宮あゆ、君も運命を受け入れて…前に進んでくれ!!」

「うぐぅっ!!」

龍騎Sの心の篭った…それでいて残酷な一撃がアナザー龍騎を襲う。

再び、地面を転がる。もはや立ち上がる力も残されていない。

アドベントカードを一枚手にし、ドラグバイザーツバイにベントインしようとする。

シュートベント、ドラグバレットのカードだ。この一撃は並みの仮面ライダーのファイナルベントとほぼ同等。受ければ確実にアナザー龍騎の負けは決まるだろう。

「いや…いやぁっ…」

後ろを向き、もがくように身を捩って逃げようとするアナザー龍騎。

龍騎Sの手が少し止まった。

彼女の悲しみを強く理解できる龍騎Sは、どんなに決意しようとも迷いが生じた。

それでも…オリジナルの仮面ライダーの使命は、異世界同士の干渉を防ぐこと。

使命のためにアナザー龍騎を…この世界の月宮あゆを倒さねばならない。

 

 

 

「…待ってください!!!」

 

 

 

「っ!?」

不意に龍騎がそのアドベントカードをひったくる。

「竜也、何を…!?お前の世界の人々を…お前自身を犠牲にしたくはない!」

「分かっています…。でも…これじゃあ、あんまりです…」

2人の目線の先には、震えながら、もがきながら後退するアナザー龍騎…Aあゆがいた。

「お前の優しさは理解している。だが、それでもあの子は…倒さなければならないんだ」

「…それなら、おれにやらせて下さい」

龍騎は龍騎Sに頭を下げる。

「あの子の悲しみを受け止めてあげられるのは…きっとおれだけですから」

「これ以上、お前が重荷を背負うことは…」

「おれにしか出来ないことなんです!!真司さんが背負う重荷じゃない…!」

半ば掴みかかるように、龍騎は訴えた。

彼は自分の世界のあゆを、心から愛した。Aあゆも自分の世界の竜也を、心から愛した。

それが発端となった戦いの結末を決めるのは…2人だけなのかもしれない。

「…分かった」

それ以上の反論をせず、龍騎Sは下がった。

龍騎はアナザー龍騎に声をかけた。

「あゆ…行くよ」

<FINAL VENT>

意を決してベントインした、龍騎最後の一枚。

「いやだ…もう悲しい思いはしたくないよぉ…!!」

「…うああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!」

嘗て、リュウガと対峙した時のように魂を吐き出す叫び。

その叫びに呼応するかのように、ドラグレッダーが飛来した。

「ガアアアアアアアアアアアァッ!!!」

「はああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!」

構えを取り、地面を蹴る。空中で体を捻り、右足を前に突き出す。

その瞬間、龍騎の身体はドラグレッダーの火炎であるドラグブレスに包まれた。

「だああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

ドラゴンライダーキック。

その一撃は、迷うことなくアナザー龍騎の体を貫いた。

 

 

 

Aあゆが目を開けると、自分の体の中にあった黒い時計が砕けた残骸、心配そうな表情で見つめる城戸真司と別世界の自分が視界に映る。

その視線を空に向けると…。

「竜也くん…」

涙を流す竜也の顔が、視界一杯に広がった。

「あゆ…」

彼女は竜也に抱き上げられていた。

「えへへ…やっぱり強いね、竜也くん。全然、勝てなかったよ…」

気丈に笑ってみせるAあゆ。

「ボクね…この世界の竜也くんの未来のお嫁さんになることが、夢だったんだ。ボクにとって…竜也くんとその家族…お父さんとお母さんが一緒にいる家が…総てだったの」

何も言わず、彼女の言葉を聞く竜也。その涙がAあゆの頬に落ちた。

「…あったかい。久しぶりに竜也くんに抱いてもらったなぁ…」

頭を竜也の胸に預け、ゆっくりと目を閉じるあゆ。

「キミの世界のボクは…いつでもこうしてもらえるんだね。…やっぱり羨ましいなぁ…幸せに…なりたかったなぁ…」

自分の悲しみを抑えられない。Aあゆは涙をボロボロと零しはじめた。

「自分の感情を…隠さないでくれ。そうなった悲しみを…おれは知ってるつもりだから」

そう言って、竜也はAあゆを強く抱きしめた。

「うぅ…!!!うああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」

Aあゆは竜也にしがみつき、声を枯らすまで泣き叫んだ。

 

 

 

それから、どれくらい時間が経っただろう。

「あゆ、行こう」

「えっ…」

竜也は泣き止んだAあゆの手を引き、歩いていく。

城戸真司はその姿を見送ったあと…。

「月宮あゆ。竜也の役目が終わったら、俺が君の世界に連れて帰る。だから…」

「うん。竜也くんと真司さん…信じてるから。元の世界で待ってるね」

あゆは深くは聞かず、城戸真司の言葉に従って彼の作り出したオーロラの向こうにある、自分たちの世界『龍騎とKanonの世界』へと帰還していった。

 

 

 

商店街の中で、竜也はたい焼き屋の屋台を探していた。

竜也達の世界の商店街は未だに活気に満ちている。一度は、オーディンの襲撃で瓦礫と化したが、それでも2年ほどで復興し、かつての賑わいと変わらないものとなった。

「おれ達の世界では、いつもここでやってるんだけどな…」

自分の世界では、7年経った今でも冬には商売を続けている。仕事が終わった帰りなどに、あゆにお土産として買ってあげるのが、竜也の日課だった。

だがこの世界には、その屋台はなかった。

「もしかして、たいやき屋さん探してるの?」

「…うん」

「無理だよ。この世界は、ボクが眠ってる間にモンスターが溢れかえって以来、この商店街は廃れてるの…。たいやき屋さんどころか、開いてるお店も殆どないよ」

彼女の言うとおり、Aあゆの世界では1年前まで毎日と言えるほどモンスターがこの商店街に現れ、人々を襲っていた。この場所を手放し、別の場所で店の経営を始めたものは少なくない。

百花屋などはかろうじてまだあるが、それでも嘗ての賑わいは全くなかった、

「それなら…」

竜也は開いている数少ない店から、小さな和菓子屋を見つけ、そこから2つのたい焼きを購入してきた。

「はい。食べなよ」

「…ありがと」

初めて逢った時のように、そして戦いながら日常を感じていたとき、そんな時の再現だ。

竜也はAあゆにたい焼きを渡し、2人でそれを頬張った。

「…やっぱり、ちょっとしょっぱいかな」

「涙の味だね」

2人は自分の涙がたい焼きに落ちたため、たい焼きにしょっぱさを感じた。

出会って間もない頃、あゆは泣いてばかりだった。そんな思い出の味。

「…竜也くんとキミの世界のボクは、何をやってるの?」

有り得たかもしれない未来。自分の世界の竜也がライダー同士の戦いを止め、幸せを築いていたかもしれない未来。

そんな未来を、別世界の竜也に訪ねた。

「7年前に戦いが終わって…おれは孤児院の職員をしながら、Nomenって言う政府組織で仮面ライダーやモンスターのメカニズムを解明する研究を手伝ってる。ドラグレッダー達の食事問題も、それでなんとか解決した。おれの世界のあゆは定時制の学校に入学した。あの子、たい焼きが大好きだから…それを作れる仕事をしたいって夢があったから」

「そうなんだ…お仕事2つもやるなんて、大変だね…」

「そうじゃないと、生活しながらあゆの学費を賄えなかったからね。高卒認定を取得して、あゆは小さな和菓子屋で弟子として働いてる」

社会で必死に生きている2人。とても大変だろうが、それすらもAあゆにとっては羨ましかった。

「ボクにも…できるかな…」

「できるよ。君もおれの世界のあゆも、必死になって頑張れるんだから。そんな強さを持った君なら…絶対にできる。おれが保証するよ」

その目は慈しみに満ちている。そんな目を、Aあゆは信じてみたくなった。

 

 

 

廃れかけた商店街の一角にあるゲームセンター。

そこにある小さなクレーンゲーム。

「あった」

「何してるの…?」

不思議そうにAあゆは尋ねる。

「欲しいものを言って。なんでも取ってみせるから」

「あ…!」

あの頃の再現だ。竜也にとっては14年前、Aあゆにとっては8年前の再現になる。

どちらの世界でも、ここで竜也は天使の人形を手に入れたのだ。

その人形はAあゆに3つの願いを叶える権利を与え、彼女は願った。

 

1つ目は、竜也が自分をずっと忘れないこと。

2つ目は、2人だけの学校に通いたいこと。

そして…最後の願いは竜也に託していた。

 

もはや目を覚ますことはない自分の世界の竜也が何を願ったのか、それは分からない。

 

あの頃からこの世界では8年も経過している。流石に同じ天使の人形はなかった。

代わりに…

「じゃあ…これ」

赤い龍のマスコット人形があった。どことなくドラグレッダーに似ている。

「わかった」

竜也はそこに100円玉を入れる。

そして…。

「す、すごいね…一回で取るなんて」

「ただのまぐれだよ…でも、失敗しなくてよかった」

嘗ての竜也は何度も失敗していた。だが、今回はたった一度でAあゆが選んだ龍の人形を取ることに成功した。

「はい」

「ありがとう」

それをAあゆに渡した。

竜也は優しく微笑み、Aあゆに伝えた。

「この人形には…たった一つだけ、願いを叶えられる力があるんだ」

「…キミに出来る限りの力?」

「お見通しか…。そうなるね」

この言葉も当時と同じものだ。結果的に答えが分かっていたAあゆに、竜也は苦笑する。

「分かった…」

「っと、その前に…!」

再び竜也は、Aあゆの手を引いて歩いていく。

 

 

 

その先は、約束の場所。

煤けた切り株のある雑木林の中だった。

「辿ってきた道は…本当にそっくりな道だったんだね」

「おれの世界では、ここであゆを失ったと思い込んで…大切な友達を傷つける闇「リュウガ」を生みだしてしまった」

仮面ライダーリュウガ。

嘗て竜也があゆを失ったと思い込み、悲しみに耐えられずに記憶と感情を捨てた。

それが具現化したモノだ。

彼は純粋にあゆを目覚めさせることを望んでいた。逆を返せば、それ以外は何も望んではおらず、総てを滅ぼしたとしても構わない。そんな悲しい野望しか持てなかった。

Aあゆの世界における仮面ライダーリュウガは、龍崎竜也の記憶と感情ではなかった。

彼の正体は、眠り続けるAあゆの世界の竜也のみが知る。

最早、その正体を知ることは誰にも出来ないのだろう。

「それでも…おれと、おれの世界のあゆにとっても、ここは大切な…優しい思い出の場所。この世界でもそうなら…ここで願いを叶えさせて」

自分達の世界でのあゆとの別れを思い出す。

彼女は竜也が悲しまないように、自分の存在を忘れることを願った。

だが、それを竜也は拒絶した。

忘れることの残酷さと悲しさを…それまでの人生と戦いの中で痛感していたから。

そして何より…愛する人を忘れたくなかった。

代わりにあゆは、竜也が悲しまないように…振り返らないで済むようにと願った。

その願いが叶ったから…きっとあゆは目覚めたのだろう。

きっとそんな風に願いが叶うなら…Aあゆにとって少しでも救いになるはずだから。

「…分かりました。キミへの最初で最後の、ボクのお願いです…」

彼の精一杯の優しさを感じ、あゆはとめどなく涙を流しながら微笑み、言葉を紡ぐ。

「竜也くん」

酷く楽しそうに…

「世界を…」

でも、悲しい笑顔だった。

 

 

 

「キミ達とボク達の世界を…愛してください」

 

 

 

全てを失った。

仮面ライダーという、Aあゆにとっては忌むべき存在でしかないモノ。

だが、それらがなければAあゆは竜也に会うことも…いや、世界が生み出されることもなかっただろう。

総てが過ぎ去った今…縋る力を失った今…

Aあゆに出来るのは、残された総てを愛すること。

生き残った人々を…死んでいった人々を…忌むべき存在と過去を…

そして眠り続ける最愛の人を。

「キミ達が…ボク達が生まれた世界を…ずっとずっと…愛してください」

だが、それは彼女一人では決して成し得ることのできない事だ。

だからせめて、一緒に愛してくれる人が欲しかった。

例え、別の世界であっても。

「うぐ…ずっと…」

もう言葉を紡ぐことはできない。

竜也はAあゆに近づき…ゆっくりと抱き締めた。

「…約束するよ。おれは自分の世界を…この世界を…永久に愛し続ける」

「うっ…ぐす…約束…だよ…」

そして…。

 

「もう…良いな?」

 

2人に城戸真司がゆっくりと近づいてきた。

「…時間をくれて、ありがとうございます」

「いや…礼を言うのは俺だ。お前じゃなければ…彼女の心は完全に崩壊していた。ありがとう」

城戸真司は使命故に、Aあゆにとって愛せる存在ではない故に…。

倒してしまうことしかできなかった。

だが、竜也はそれ以上の…彼女の心を救うことをやれた。

「…行くぞ」

それだけ言って、オーロラを呼び出す。

竜也と城戸真司はそれに飲み込まれ、揺らいでいった。

「さよなら…あゆ」

約束の場所に残されたのは、Aあゆだけ。

果たして彼女に…与えられた未来に、希望はあるのか…。

「さよなら…竜也くん」

 

 

 

平行世界での事件が終結して1ヶ月後。

2019年2月3日。

今日は、竜也とあゆの結婚式だ。

ウエディングドレスに身を包んだあゆ。

「本当に…良いのかな…」

姿見に映る自分を見つめながら、あゆは自問した。

平行世界では、悲しい末路をたどった自分もいる。

そんな人を蔑ろにして、自分達だけ幸せを手に入れることは…正しいのかと…。

ふと、ノックの音が聞こえる。

「どうぞ」

そこにやってきたのは…。

 

城戸真司だ。

 

彼はこの世界に留まることはできない。だが2人の門出だけは見届けたいと、この世界にやってきたのだ。

「真司さん、来てくれたんだね」

「なんとかな。…俺が言うのも何だが、とても綺麗だ」

彼女の姿を、城戸真司は柔らかく褒めた。

あゆの姿はさながら、絵本から出てきたお姫様のようだった。

「えへへ…小学生の男の子みたいってからかわれた事もあるけど…そう言ってもらえて嬉しいな。ありがとう」

少し照れながら、あゆは微笑んだ。だがその後、少しだけ表情は暗くなる。

城戸真司は彼女の心の陰りを感じ取った。

「…胸を張れ。俺の最高の弟分の生涯の伴侶は…君にしか務まらない。あいつもそう信じているさ」

「でも…ボク達の世界だけで幸せになっていいのかな…」

これから先の幸せを、あゆは確信している。

それゆえに罪悪感を感じていたのだ。

「ならば、平行世界の君達が不幸なら、総ての平行世界の人々が不幸にならなければならないのか?」

「う、うぐぅ…そんなこと…」

総ての世界の不幸など、これっぽっちも願っていない。総ての世界の幸せを願っているのは間違いないが。

困った表情になったあゆに、城戸真司は優しく笑う。

「俺達の仕事は、可能性を残すことだ。世界が壊れたら、その世界の総ての可能性が奪われる。そうならないように、俺達オリジナルライダーが存在するんだ。その可能性は幸せと不幸、どちらにも成り得る。君の世界は幸せの可能性を掴み取れた。だからそれを謳歌しろ。不幸になった世界に流されるな」

今、少しだけ。

城戸真司の自分の使命に対する、大きな誇りを感じ取れた。

「…うん。ありがとう、真司さん。ちょっとだけ、胸の閊えが取れたよ」

「良かった。この世界は、俺の第二の故郷のようなものだ。そこで生きていく君達の幸せを…何処かの世界で願っている」

それだけ言って、城戸真司は部屋を出ようとした。

だが、あゆはそれを引き止めた。

「そうだ真司さん、お願いなんだけど…」

 

 

 

ここは逆に新郎の控え室。

竜也は鏡を見つめ、様々なことを考えていた。

今までの人生、これからの人生、抱えてきた悲しみや苦しみ、それらを乗り越えられた強さ。

きっともうすぐ目の前に現れる新婦としてのあゆは、自分が知る誰よりも美しく思えるだろう。

それでも…ひとつ心残りがあった。

Aあゆとの約束。

「総てを愛する…か」

自分の世界とAあゆの世界、その総てを愛すること。

果たして自分にそれを成し遂げられるのか…。

そこにノックをしてやってきたのは…。

「よう」

相沢祐一。

仮面ライダーナイトとして共に戦った仲間であり、かけがえのない友だ。

「おれ達の中で一番乗りは…なんとなくおまえとあゆだと思ってた」

「婚約は、ミツルと真琴ちゃんが一番乗りだったけどね」

「そういえばそうだったな。全く斉藤も20代で副編集長って結構な出世頭なのに、8年も真琴を待たせるとは、何考えてるんだか…」

「でもミツルは、きっと約束を果たすよ。あいつはそういう人間だから」

「確かにやつは、鋼鉄並の義理堅さと、底なしの執念深さだからな」

「はは、間違いないね」

冗談を交えながら笑う2人。

「…なんか思いつめてること、あるのか?」

冗談を言い合う間にも、竜也の表情は何処か暗いものを感じた。

祐一の目は誤魔化せなかったのだ。

「8年来の友達には隠せないね…。実は、アナザー龍騎に変身してたあゆと決着をつけた時に約束したんだ。この世界と彼女の世界…その全てを愛するって」

「2つの世界を全て愛するって…大した約束だな」

「あの子は…もうそれ以外に愛せるものが無いから。それ以外の全てを失ったから…」

事件以来、あの世界には行っていない。

あの世界で生きるAあゆ、名雪、香里、美汐、佐祐理の5人がどう生きているのか、それも分からない。

「でも7年前のおれは、あゆの為に自分の命を一度は犠牲にした。それは、世界の総てより、あゆを愛していたから。…そんな風に天秤にかけたおれに、世界を愛することが出来るのか…不安でね」

「悩みのスケールが、一般社会人のレベルじゃないぞ」

「そうだなぁ…。普通の人が聞いたら、ドン引きだね。だから、あの戦いを知ってる人以外には、一生言えないよ」

鋭く突っ込みを入れる祐一。これも冗談だったのだが、今の竜也にはウケが悪いらしい。

「…天秤にかけるのは、悪いことなのかよ?」

「え?」

近くのソファーにふんぞり返って、祐一はこぼした。

「どっちが大切なのか悩めるから、天秤にかけたんだろ?やったことは後悔したって変わらない。それはおまえが一番、良く分かってるんじゃないのか」

「それは…そうだけど…」

14年前の悲劇。戦いが終わって、あゆと一緒に生きていた日々の中でも、何度か後悔することはあった。あのとき、どれかが違っていたら、あゆは8年もの眠りにつくことはなかったかもしれない。祐一達は仮面ライダーやモンスターの戦いに巻き込まれることはなかったかもしれない。

祐一、舞、潤、久瀬がカードデッキを渡した時も、信じてはいたが力を手に入れることを強く拒絶しなかった。それは竜也の心底に、共に苦しみを共有してくれる仲間が欲しいと想う、竜也自身の考えでは身勝手な願いがあったからなのだ。

そういう意味では、あゆの3つ目の願いは未だに果たせていない。

だが今更、後悔したところでそれは変えようのない事実。

「悩んだり、苦しんだりするのって…弱いイメージだけど、おれはそれも悪くないって思う。今まで悩み抜いて苦しみ抜いたおまえ見てたら、余計にな」

「祐一…」

「強い人間って、そういうのも引っ括められるやつなんだと思うぞ。だから、これから先も…悩み続けろよ。世界で一番大好きなお姫様と…世界そのもの。そんな風に天秤にかけてもらえるあゆは、絶対に幸せ者だ」

竜也の整えられたタキシードの肩に手を置いて、祐一は笑う。

 

 

 

『龍騎とKanonの異世界』。

あゆがアナザー龍騎の力を失って、1ヶ月が過ぎた。

あれから彼女は、前に進むことを始めた。

アルバイトをしながら、大学入学資格認定の勉強を始めている。長時間の労働と勉強。

とても辛く苦しいが、あの世界の竜也の言葉と慈しみの目を信じていたかった。

「こんにちは、竜也くん」

少ない時間の合間を縫って、彼女は眠り続ける自分の世界の竜也の見舞いに訪れた。

あゆは医者の道を志した。いつかの未来、竜也を目覚めさせる医療技術が確立されるかもしれない。そんな日が来たら、自分の手で竜也を目覚めさせたい。

こんな未来を思い描くのなら、きっとこの竜也も受け入れてくれる。

「今日の試験、満点だったよ。お勉強って大変だけど、それでも自分の頑張りが結果になるって、嬉しいね。そうだ、アルバイトも順調だよ。最初はお掃除しかできなかったけど、今は調理もやらせてもらってる。これ、そのお土産」

そう言って、少しだけ冷めたたい焼きを取り出す。

湯気が微かに出ており、それを竜也の鼻に近づけた。

竜也の反応はない。

「いい匂いでしょ?竜也くんと一緒に食べてたときのこと、思い出すね…」

ひとしきり竜也に鼻に近づけたあと、たい焼きを頬張る。

竜也の反応はない。

「あはは…ちょっと焦げてるかも。でも、中は甘くて美味しいよ」

味の感想を、困ったように笑いながら伝える。

竜也の反応は…ない。

「竜也くん…ボクの声…聞こえる…?」

その瞳に涙を浮かべながら問う。

やはり、竜也の反応はなかった。

「う…ぅっ…」

見舞いに訪れては、ずっと声をかけ続けているが…それでも…。

 

「あゆちゃん」

 

その声に振り返る。

そこには、名雪、香里、美汐、佐祐理の4人が立っていた。

「みんな…」

「ずっと行けなかった…。目を背けてた。でも…やっと来ることができたよ」

名雪はあゆの隣に立つ。

眠り続けている竜也の手を握る。

「あゆちゃん、わたし達やあなたの為に、仮面ライダー龍騎になったんだよ。今はその力はないけど…立ち止まることをしなかった。誰よりも強い子」

次に香里が近づいてきた。

「やり方は間違えてたのかもね。でも…過ちに気づけた。大切な思い出を…もう一度だけ輝かせてくれた」

次に美汐。あゆの手を取り、跪いた。

「あゆさん…ごめんなさい。あなたのことを拒絶しようとしてました。でも…偽りの幸せだったとしても、あなたがわたしにくれた記憶と想いは…嬉しかったです」

佐祐理は涙を流しながら…。

「佐祐理達は待ってます。いつでも竜也さんが帰ってきてくれる日を。いろいろ失くした佐祐理達ですけれど…だからこそ、残されたものを愛していきたいです」

5人の少女達は、仮面ライダーの戦いの中での犠牲者だ。

友を、家族を、恋人を、他にも沢山のモノを奪われた。

「竜也くん。奇跡が起こらなきゃ、きっとキミは目覚めない。でも…奇跡が起こらないなんて…そんなの信じたくない」

起こらないから奇跡と呼ぶ。

だが、起こるからこそ奇跡という言葉は存在するのだ。

「ボク達が信じたいのは…起こるかもしれない奇跡。その時の為に…諦めない」

諦めなければ、きっと奇跡は起こる。

その為に、今を…現実を…戦い抜く。

 

嘗て、龍の影を纏う紅き血潮を宿し、終わりのない戦いを決して恐れなかった少年のように…。

 

 

 

それから竜也は目を覚ました。

 

 

 

それが、翌日なのか、1週間後なのか、1ヶ月後なのか、1年後なのか、それとも気の遠くなるような未来なのか…。

 

 

 

それは重要なことではない。

 

 

 

大切なのは、奇跡が起こらない世界で奇跡を信じ…

 

 

 

奇跡を起こした者達がいたと言う事。

 

 

 

 

 

「おはよう、竜也くん」

 

 

 

 

 

 

『龍騎とKanonの世界』

ハラハラと雪が舞う昼下がり。

バージンロードの先の祭壇には竜也が立っている。

その道を挟んで、川澄舞、北川潤、美坂香里、美坂栞、久瀬シュウイチ、倉田佐祐理、水瀬名雪、虎水サトル、沢渡真琴、天野美汐、水瀬秋子が座っていた。

他にも竜也とあゆの仕事の同僚や上司、Nomenの香川や仲村なども座っている。

「あれ…祐一、あゆちゃんとバージンロード歩くんじゃ…?」

「気にするな」

名雪の質問に祐一は企み笑いをして答えず、祭壇を見つめ続けていた。

「ふふ…こんな事には無縁と思っていましたがね」

「心から、彼等を祝福致しましょう」

香川と仲村も、優しく微笑み、祭壇を見つめた。

「たっちゃん、スミに置けねぇよな…」

「付き合い悪いと思ってたけど、あんなに可愛いお嫁さん居たんじゃ、そりゃあね」

竜也の職場である孤児院の上司や同僚。

彼らは、よく竜也を飲み会や旅行に誘っていたが竜也はそれをことごとく断っていた。竜也の人当たりの良さから、それによって人間関係が悪化したことはないが、その理由をこの結婚式に招待されるまで知らなかったのだ。

「アンタ、あゆちゃんの結婚式、ちゃんと来たんですね」

「まぁな。ウチの昔からのお客さんであり愛弟子の晴れ姿くらい、老い先短い老人の目に焼き付けておかないと」

あゆが働く和菓子屋の店主とその妻。

店主は、実はあゆが7年前からよく通っていたたい焼き屋の屋台の店主でもあるのだ。

屋台と本店の経営で忙しかったが、なんとかこの日の都合を合わせていた。

 

 

 

司会を務めるミツル。

彼は優しい微笑みを浮かべ、今日一番の大仕事をした。

「…新郎と新婦には両親がいません。本日、新婦と共にバージンロードを歩くのは、ふたりの長年の友…でしたが、別の方にお願いしております。それでは…新婦とその方に入場して頂きましょう。盛大なる拍手でお迎えください」

その言葉と共に、バージンロードをはさみ、祭壇の対極の位置にある扉が開かれる。

そこに居たのは…

「ぁ…!」

 

月宮あゆと城戸真司だ。

 

2人は一歩一歩、確実に竜也に向かって歩みを進めている。

とても長く、とても短く感じられた。距離も時間も。

そして2人は祭壇にたどり着いた。

城戸真司は去り際、竜也に告げた。

「おめでとう。2人は揺るぎないモノを沢山手に入れた。幸せにしろ。…この子も、自分自身もな」

そう告げた後、彼は秋子の隣に座った。

 

 

 

「新郎、月宮竜也。汝、健やかなる時も病める時も、永久に月宮あゆを愛し、支え合うことを誓いますか?」

「誓います」

 

「新婦、月宮あゆ。汝、健やかなる時も病める時も、永久に月宮竜也を愛し、支え合うことを誓いますか?」

「誓います」

 

 

 

「竜也くん。ボクのこと、好きでいてくれてありがとう」

 

「あぁ。あゆこそ、おれを好きでいてくれて。やっと…3つ目の願いを果たせそうだ」

 

「3つ目のお願い?」

 

「振り返らなくて済むように…悲しい思いをしなくて済むように…」

 

「そっか…ボク達、ずっと振り返ってたもんね」

 

「これから先は…未来を見つめていける。今日はその一歩なんだ」

 

「…そうだね」

 

「あゆ」

 

「なぁに?」

 

「さぁ、行こう」

 

「…うん!」

 

 

 

長きに渡る、仮面ライダー龍騎とそれを取り巻く者達の物語。

 

 

 

彼らの物語は、ここまで。

 

 

 

その先に待つものが何か、それは分からない。

 

 

 

言葉だけでは描き切ることのできない…

 

 

 

沢山の物語と未来が待っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

 

 

『何処かの世界』。

「…あの世界の物語は紡がれなくなったんだね」

そう言うひとりの少女。その姿は月宮あゆそのものであった。だが、そこに実際に存在するわけではない。そして月宮あゆではない。

「…いつまで客観的に話しているの?」

…彼女は、言うなれば…

「ボクはキミに話しかけてるんだよ」

…どうして私に接した?

「ボクが話せる相手は…今はキミだけだから」

そうか。

「もう良いの?キミが紡いでいた物語…」

そうだね。私が描ける物語は此処まで。これから先の未来は私ではなく、彼らに託したい。

「寂しくなるなぁ…」

私も一抹の寂しさは感じている。この物語には思い入れがあったからね。

「そっか…でも、また夢は見られるよ。何度だって」

いつか醒める夢だけどね。

「あまりイジワル言わないでよ。…ふふ」

…あの物語を描かせてくれて、ありがとう。

でも、この物語の先じゃなくてもこれまでのことなら、まだ描ける気はするよ。

「嬉しいよ。でもそれまではサヨナラ…だね」

あぁ。

「…またね」

あぁ…

 

 

 

またいつか、会える日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 






キャスト

月宮竜也=仮面ライダー龍騎

月宮あゆ

月宮あゆ=アナザー龍騎

相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞

久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理

水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

香川ヒロユキ=オルタナティブ・ゼロ
仲村ソウイチ=オルタナティブ

水瀬秋子

水瀬名雪
倉田佐祐理
美坂香里
天野美汐

神父
竜也の職場の上司や同僚
あゆが働く和菓子屋の店主と妻

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
影の男の傀儡=仮面ライダーオーディン

門矢士=仮面ライダーディケイド

ティード=アナザークウガ

城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ



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