仮面ライダーフォーゼ~IS学園キターッ!~ (龍騎鯖威武)
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登場人物紹介

設定としては…。
・ISとフォーゼシステムは同時期に開発された。
・メテオはフォーゼシステムの試作品(タチバナなどに当たる人物はいない)。
・コズミックエナジーが好都合すぎる(汗)。
・ホロスコープスはヴァルゴが首領、他には、アリエス、スコーピオン、リブラ、レオといったように、メンバーは既に5体覚醒(サジタリウスは未覚醒)。
・レオが他のホロスコープスだけでなく、専用機ISも使いこなせる。
・世界はISの普及とコズミックエナジーの普及。この2つに派閥が分かれている。
・都市伝説ライダーは「フォーゼ」「メテオ」以外に、名称不明ではあるが「オーズ」「龍騎」「ディケイド」「1号」が確認されている。
・プレゼンター云々は無し。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

この物語の主人公。『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

白騎士事件以降、消息不明の両親が開発していた「宇宙への可能性」の結晶である「フォーゼシステム」を使い「仮面ライダーフォーゼ」へと変身し、ゾディアーツと戦う。

自分の寮部屋のクローゼットに「ゲートスイッチ」を仕込み「ラビットハッチ」を用意し、そこでスイッチ調整を行なう。現時点でアストロスイッチは、ステイツチェンジ用の「エレキ」「ファイヤー」「NSマグネット」「コズミック」以外、全て調整完了している。

コズミックエナジーやアストロスイッチの研究に関しては専門的な知識にまで及ぶが、ISに関する知識は皆無で、操作なども感覚で掴もうとする。

快活で明るいが、相手の気持ちを察することに慣れておらず、辺りから誤解される事もしばしば。

適性があると判明したため、星空高校からIS学園に交換転入生として入学した、2人目の男IS使いだが、それは本人の適性ではなく、フォーゼに変身する肉体に留まった「コズミックエナジー」を消費することでISを起動させるに至っている。そのためにコズミックエナジーが切れるとISも使えなくなるうえ、駆動時間も2分弱とかなり短いという欠点があるが、適性は初回で「S」と異例の高さをみせる(アストロスイッチの多用による、コズミックエナジーの肉体貯蓄が理由)。

ちなみにアナグラムは「城茂(ストロンガー)+宇宙+月→城茂+宇+月→城茂宇月」

 

 

 

織斑一夏

『ISの主人公』

物心つく前に両親に捨てられ、その後はずっと姉の千冬と二人で暮らしてきた。そのためか両親のことは顔も覚えておらず、幼少期の記憶そのものもあまりない。高校受験の際、千冬に養ってもらっていることを引け目に感じ、学費が安く就職率の高い私立藍越(あいえつ)学園を受験するはずが、間違ってIS(あいえす)学園の試験会場に入ってしまい、偶然、受験者用のISを男性でありながら起動させてしまったため、IS学園へ入学させられた。IS適性は「B」。

飄々とした性格ながらも自分の信念は貫く熱い一面を持つ。ISの存在により女尊男卑の進んだ社会に納得できないものを感じており、女性に媚びることを嫌う。幼い頃から千冬に守られてきたことから「誰かを守ること」に強い憧れを持つ。

 

 

 

篠ノ之箒

『ISの世界』の住人。

本作のメインヒロイン。IS学園の1年1組に所属。一夏曰く「ファースト幼馴染み」。

姉はISの開発者だが、それが理由で一家離散の状態が続いている。小学4年生の時から政府の重要人物保護プログラムにより日本各地を転々とさせられていた。後に束が失踪してからは執拗な監視と聴取を繰り返されており、心身共に負担を受け続けてきた。そうした過酷な生活の影響からか、カッとなって暴力的行動に出易かったり、力に溺れて自分や周りを見失うといった精神的脆さを見せることがある。

一夏と6年ぶりに再会し、彼と相部屋になるが前途多難のようだ。

 

 

 

白石紫苑

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

大我学園の交換編入生として来た3人目の男IS使い。適性は「C」の最低(数値化すると記録上でも一番低いらしい)。

かなりの臆病者だが、どんな相手にも優しい対応をとり、常に自分を戒めながら、必死に改善点を探したりする努力家。だが結果に結びつかないうえに、他の男子メンバーと比べても長けた部分がなく欠点だらけのため、自分を「クズの塊」と評している。

上記の理由からか時折、窓を眺めながら溜息をついている。

昔の友人などはおらず、過去のことを何故か語りたがらない。

 

 

 

裾迫理雄

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

貴望高校の交換編入生として来た4人目の男IS使い。IS適性はAに近い「B」。

様々な才能に長けているが、かなりの乱暴者で、転入してすぐに紫苑をイジメはじめる。

問題を起こすことも多々あり、物語中で唯一、千冬に真っ向から反抗する存在。

座右の銘は「オレが全て」。ここに来た目的は、本人曰く「良い女を捕まえるため」であり、ISについては然程気にしておらず、授業もかなりサボる(実践ではほぼ完璧にこなす)。

 

 

 

織斑千冬

一夏の姉で、彼のクラスの担任でもある。茶道部顧問でありまた1年生の寮長。一夏からは「千冬姉(ちふゆねえ)」と呼ばれているが、学校ではその呼び方を許さず「学園内では織斑先生と呼べ」と厳しく命じている。自らも学園では一夏のことを「織斑」と呼んでいるが、ごくまれに「一夏」と名前で呼ぶこともある。

鬼と呼ばれるくらい非常に厳しい性格で、教師としても姉としても厳格な人物。規則・校則を破った生徒には容赦なく鉄拳や出席簿で制裁を与える。一夏からは「真面目な狼」と評されているものの、それは心配の裏返し。

白騎士事件に深く関わっており、宇月の両親とも関わりがあったらしい。

一夏と共に両親に捨てられ、自身の力のみで一夏を守ってきた苦労人。

 

 

 

山田真耶

眼鏡が似合う優しい先生。やや天然で、ドジな所がある。実は元日本代表候補で、ISの操縦技術は千冬が認めるほどの高さを誇る。千冬に強い憧れを抱いているらしく、時おり熱い視線を送っている。

ちなみに一夏の入学試験の際の対戦相手でもあり、壁に突っ込んで自滅している。

 

 

 

???=スコーピオン・ゾディアーツ

ゾディアーツの幹部「ホロスコープス」の1人。ゾディアーツスイッチを生徒に配ったり、フォーゼ達の妨害を行なう。

専用機ISを相手に互角に戦う実力者で、コズミックエナジーの利用か本人の適性かは不明だがISも利用できる(予想では「A」レベル)。

口調は落ち着いているが、激昂した時はかなり荒れた言葉遣いになる。自分の力に慢心しており、学園の生徒や教師なども見下したり、バカにするような発言が見受けられる。

レオは同格であるが、実力差故に頭が上がらないようで、彼が現れるなり、怯えだしたりする様子がある。

ヴァルゴに対しては陶酔している節があり、彼女のパートナーになることを目標としている。

 

 

 

???=リブラ・ゾディアーツ

「ホロスコープス」の1人。

スコーピオンやレオよりも位は上のようだが、レオに対しては実力が劣っているために、あまり指図が出来ない。

新参者のホロスコープスやゾディアーツの指導を主に行い、ゾディアーツスイッチの配布やフォーゼ達の妨害も行なう。自分や他者の姿を変えたりして、騙まし討ちをするなど、卑劣な戦法が好み。

穏やか且つ優雅な雰囲気だが、余裕から生まれたような言葉が多い。

 

 

 

???=レオ・ゾディアーツ

「ホロスコープス」の1人で、そのなかでも2番目に強い。

スコーピオンと上下関係は同じだが実力は遥かに高く、フォーゼやメテオ、専用機ISが複数で相手をしても、圧倒できるほど、戦闘力が高い。

ISもほぼ無制限、しかも他人の専用機すら使いこなせる(予想では「S」レベル)。

戦いを拒絶する宇月の前で学園を攻撃して戦いを強制したり、一夏が戦闘不能に陥ったとき、クラスメイトが大切な存在かを聞きながらそのクラスメイトを攻撃するなど、かなり残虐で凶悪な性格。口癖は「~を噛み砕く!」

 

 

 

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ

「ホロスコープス」の女首領。レオに命令を聞かせられる、唯一の存在。

空間を自在に操り、失敗した部下を「ダークネビュラ」に送ったり、自分や対象とした人物を別の場所まで、距離関係なく瞬間移動できる。

目的は不明だが、ホロスコープス全てを覚醒、とくに「サジタリウス」の発見を急いでいることは判明している。

 

 

 



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フォーゼ・始動!
第1話「皆・女・学・園」


第1話「皆・女・学・園」

 

 

 

数年前…。

「お父さん!お母さん!」

「安心しなさい、戻ってくるから」「パパより強くなるんだろう?」

<3>

「やだよ!いやだ!」

<2>

「ごめんな…宇月」

一人の少年を置いて、2人の戦士が戦った。

<1>

「それじゃあ…いきましょう。あなた」「あぁ…」

 

「変身!」

 

母は雄々しい武器や装備を纏い、父は白いスーツを身に纏い…。

 

 

 

<LIMIT―BREAKE>

 

 

 

「ライダァァァァァァ…キィィィィィック!!」

 

これが…白騎士事件のもう一つの話である。

 

 

 

そして現在。

一人の学生が、ある大きな学園に向かって悠々と歩いていた。

右手には金色のスイッチを握り、左手のカバンには父の形見を…。

「でっけぇ…!」

 

 

驚いているのは、城茂宇月。

 

 

この物語の主人公である。

つい数週間前、星空高校への入学前に「IS」と呼ばれる女性にしか扱えないはずの兵器を起動させたとして、ここに交換編入する事になった。

なんでも、男でISを扱えるものが現れたのは初の出来事で、なんと同時期に彼を含めて4人も起動させたのだ。

その一人である彼が驚いているのは、学園の広大な広さだ。

 

そう、ここは「IS学園」。

 

アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。

ここではISに関する様々な専攻科目があり、ここからISに関連した人材が生まれる。

ISは女性にしか起動できなかったため「女尊男卑」の世の中が生まれた。

だが、宇月の両親が開発した「コズミックエナジー」はその世界を変えるかも知れないと謳われている。

なぜならば、コズミックエナジーを資源に出来れば、ISにも劣らない兵器の開発も出来、更には肉体に循環させるシステムも実用化すれば男性がISを利用する事も可能だからだ。宇月がISに乗れるのは、そこにある。彼の肉体はある事情で「コズミックエナジー」に満ちている。

 

意気揚々と教室に入り、席に座る。あたりでは色んな生徒が最初のコミュニケーションを図っている。

中には、自分のことを奇異の目で見ているような輩もいる。

それもそのはず…。

「マジで女しかいないのか…」

見渡す限り、女子ばかり。ISは女性しか扱えないものであるために当然ではある。

ここでは男子生徒は珍しいのだ。

 

…いや居た。

教室の真ん中で青黒い髪の毛の少年がいる。おそらく、別の男IS使いだろう。

更に端っこのほうで、おどおどしながら辺りを見回している黒髪の少年と、その近くで鼻歌を歌いながら机に足を乗せている不良気質の金髪の少年。

どうやら、ここに男子生徒が集められているらしい。

「まずは、あいつらと友達にならないとな!」

そう言う宇月。

するとチャイムが鳴り、メガネをかけた女性が教室に入ってきた。どことなく幼げだ。

「お、おはようございます。はじめまして。私は副担任の「山田真耶」です。み、みなさん、この学園で…」

う~ん、長くなりそうだ…。

そう思いながら、窓を見つめた。

 

ここに来た目的は、ISの入学もあるが…まだある。

この区域は「ザ・ホール」と呼ばれる場所であるからだ。それに関してはまた別の機会に話そう。

 

「…くん。…織斑一夏くん」

「は、はい」

気が付くと五十音順で自己紹介をしていた。呼ばれていたのは先ほどの青黒い髪の毛の少年だ。たぶん、注意力散漫で2度呼ばれてから気付いたらしい。

この山田先生も、なぜこんなにびくびくしてるのだろう?

「えっと…あぁ、ごめんね、そのあ行からの自己紹介で今「お」なんだよね。自己紹介してもらって良いかな?」

「あ、はい。織斑一夏です。…以上です!」

ガタタタッ!

…ドリフか。全員の期待の眼差しに答えない「織斑一夏」。アドリブが利かなかったらしい。次に来る男子は…あの怯えてる少年。

宇月は不安だった。

そして、順番が回ってくる。

「次は…し、白石君」

「ひゃいっ!?」

…最初から予感は的中。さっそく噛んでいる。

「えっと…白石紫苑です。しゅしゅ…趣味は…ないです。とく、特技は…ないです。えっと…以上です!」

…負の連鎖である。これは紫苑、根暗っ子確定だ。

次は…

「えと…城茂君」

「はい!」

宇月だった。ここで負の連鎖を断ち切ってみせる!…と意気込んだ。

「城茂宇月です。「コズミックエナジー」の開発をしてたけど、ISが使えたから、ここにきました。できれば、気軽に話しかけて欲しいです。よろしく願いしましゅ!」

ガタッ!

最後の最後で詰めが甘かった。結局、ドリフになってしまった。

次は…

「あ、裾迫君」

彼は鼻歌を歌いながら聞いていない。いや、無視している。

「あの、裾迫君!」

「アァ?」

「ひっ…!」

勇気を振り絞った山田先生に対して、ガンを飛ばす裾迫。

これは長丁場になりそうだ。

 

すると…。

 

スパァンッ!

「いてッ!?」

「教師に向かって、その態度はなんだ?」

「ンだと!?やんのかテメェ!」

厳しそうな先生が現れ、裾迫の頭を出席簿で殴った。おそらく担任だろう。

「きゃーっ!千冬様ー!」「本物よー!」

あたりから不思議なほど黄色い声援が聞こえる。

相手は、この厳しそうな先生に対してだ。

周りが先生のほうに味方する雰囲気だと理解したのか、裾迫は黙り込んだ。これ以上の反抗は面倒だと思ったのだろう。

「お前は自己紹介も満足に出来ないのか?」

「チッ、うぜェな。すりゃあいいんだろ?」

ダルそうに立ち上がって、ぶつぶつといい始めた。

「裾迫理雄。よろしく」

それだけ言うと、ドカッと座った。

そして、全員の自己紹介が終わった後…。

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。私は若弱冠15歳を16歳まで鍛え抜き、使い物にするのが仕事だ。私の言うことには全てイエスで答えろ」

(ん…織斑…親戚?)

聞いた苗字…と考え始めた瞬間。

 

「「「「「「きゃーっ!!!」」」」」」

 

「うおっ!?」

沢山の女生徒が黄色い声援を再び向ける。あまりの音に宇月は耳を塞いだ。

その声が落ち着くと、咳払いをしてもう一度喋り始める千冬。

「この一年でISの基礎を叩き込んでもらう。嫌でもついてきてもらうぞ。反抗的な態度だろうと私の言葉には返事をしろ。いいな!」

「「「「はい!」」」」

ほぼ全員、気合の入った返事だ。千冬も納得がいったらしい。

「…毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ、それとも私のクラスだけに馬鹿者を集中させているのか?」

この点は気に食わなかったようだが…。

 

そしてHR。

「…ッたくよォ!あの女教師、メンドくせぇよな!?」

「え…えっと…」

急に話を振られた紫苑はびくびくおどおど。

「ンだよ、ハッキリしろよ!」

「え…そ、そうかもしれないけど…織斑先生も、裾迫君のことを思ってやってるんだよ」

紫苑の言葉で、理雄はキレたらしい。

「アァ!?テメェもあの女に味方すんのかよ!?」

「ち、違うよ!僕は君の事を…」

「うるせェ!」

ドカッ!

有無を言わさず、理雄は紫苑を突き飛ばした。

「うあっ!」

紫苑は地面に倒れてうずくまる。

「テメェもムカつくんだよな。自己紹介もビビッてやがるし、おどおどしやがってよ」

「やめろ」

そこに入ってきたのは、髪の長い女の子だ。

「ん?オマエもこのビビリの味方か?」

「このクラスで面倒事を起こすな」

「ハァ?」

宇月も見ていられず、出てきた。一夏も一緒に。

「そうだ。千冬姉の迷惑になるし、そいつは悪気があった訳じゃないだろう?」

「おまえの気分で、そいつが苦しい目に遭うってことがわかんねぇのかよ!」

一度に3人も邪魔をされ、やはりこれ以上の抵抗が面倒になったのか…。

「チッ…」

理雄は舌打ちをして、教室を出て行った。

「大丈夫か?」

一夏が手を差し出すと、困ったように笑いながら紫苑もその手をとる。

「うん…ありがと。えっと…織斑先生の弟さんの織斑君に、篠ノ之さん、それに城茂君だよね?」

「おう!よし、おれと友達になるか?この際だから、そこの2人も!」

宇月は紫苑の肩に手を置いて、一夏と「篠ノ之箒」を指差す。

2人は笑いあう。どうやらOKのようだ。

「えっと…ありがとね」

「あぁ、よろしくな」「よろしく」

一夏は宇月と、箒は紫苑と握手をした。スタートは幸先の良い感じになりそうだ。

「さっそく、友達が出来たぜ!」

 

その日の夕方。

誰もいない学校の屋上に3体の異形が現れる。

 

ゾディアーツ。

 

星の力と「負のコズミックエナジー」を利用した、超進化生命体。

「…星の運命を持つ者は見つかったのかい?」

そう聞くのは、天秤座の使徒「リブラ・ゾディアーツ」だ。

「えぇ、目星はあります。明日はスイッチを渡し、学園で暴れてもらい、ここの生徒や教師にゾディアーツを認識させる予定です。全ては、我らが主「ヴァルゴ様」のため」

リブラに答えたのは、蠍座の使徒「スコーピオン・ゾディアーツ」である。

「良い心がけだね。その調子で頼むよ」

2人の会話を聞き終えると、さっさと立ち去る獅子座の使徒「レオ・ゾディアーツ」。

「レオ、君は役割を決めているのかい?」

「黙れ。オレに指図するな」

リブラが呼んで引き止めるも、そう言い捨ててレオは歩き去った。

「機嫌が良くないらしいね…困ったものだ。レオは実力がありすぎて、言う事を聞いてくれないから。アリエスも裏切ってからは行方知れず。そういったところでは、スコーピオンの方が可愛げがあるよ」

その会話の後、スコーピオンとリブラもそれぞれに散っていった。

 

そして夜。

宇月は一人部屋。これからのことを考えると、非常に好都合だ。寮部屋の荷物の整理が終わり…。

「あとは…これだな」

金色のアストロスイッチ「ゲートスイッチ」を空っぽのクローゼットの中に入れ、扉を開閉すると…。

「よし、成功!」

クローゼットの中は光り輝く道ができていた。そこに入り歩いていくと…。

機械的な扉に通じており、中は様々な機械で埋め尽くされていた。

コズミックエナジーの研究室。通称「ラビットハッチ」である。

ここは月面に建設されている。コズミックエナジーの力を利用して、空間を捻じ曲げて通じさせているのだ。

そこの自動調整室のプラグに、カバンに入れていた父の形見「フォーゼドライバー」を繋げて調整を行ないながら、ある調べ物をしようとしたそのとき。

ォォォン…!

「…なんだ?」

ラビットハッチからも聞こえるような、凄まじい轟音だった。

距離的には、寮部屋の隣くらい…。

「まさか!?」

フォーゼドライバーを手に取り、カバンに収めて走っていった。

 

同じ頃の一夏。

自分の寮部屋に入り、荷物の整理を始めようとしていた。

そのとき…。

「誰だ?」「…!?」

女の声…。

「あぁ、ルームメイトか。こんな格好ですまないが、これから仲良くし…」

振り向くと、タオル一枚を身体に巻いていただけの箒がいる。その顔は一気に真っ赤になった。

「一夏!?」「箒か!?」

とっさの出来事なのか、照れ隠しなのか、箒は竹刀を持って一夏に襲い掛かった。

「み、見るな!」「うわっ、やめろ!」

ドォォォン!

先にあった音の正体はこれだ。実はこの2人と宇月は部屋が隣なのだ。

扉が開かれ、宇月が現れた。

「なんだ、ゾディアーツか!?」

しかし、目の前にあるのは…。

タオル一枚で竹刀を握る箒と、その竹刀を必死に防いでいる一夏。

「あれ…違う」

「お、おまえは宇月!」「おい、助けろ!」

 

そして、色々説明やら後処理があって…。

 

「なんだよ、2人とも昔なじみなのか!」

宇月は、納得がいったように頷いている。

「よ、箒。こうやって話すのは久しぶりかな」

「あぁ…げ、元気にしてたか?」

この2人、実は幼馴染で数年ぶりの再会になったというわけである。

「まぁな。そういえば、剣道の大会で優勝したんだっけか?ちゃんと言えなかったけど、おめでとう」

「な…知ってたのか?」

「もちろんさ。そりゃあ嬉しかったよ」

2人の会話を楽しそうに見る宇月。彼の視線が気になったらしく…。

「な、なんだ?」

箒が尋ねる。

「いや、お似合いだと思ってな。いっそ付き合えば?」

「…ッ!?」「はぁ!?」

ベシン!

「あだっ!?」

箒は照れ隠しに宇月の顔面を竹刀で強打。

「くああぁぁぁ…いってえええぇ…!」

顔を抑えて、身体を丸める宇月。

そういえば彼は…。

「そうだ…。宇月、ゾディアーツってなんだよ?」「私も聞いたことが無いが…」

先ほどの発言で気になっていた単語「ゾディアーツ」。ISの専門用語でもないらしい。

「…ひ・み・つ?」

復活した宇月は、人差し指を可愛らしく振りながら、ごまかそうとする。

…が。

 

ドガアアアアアアアァン!!!

 

「なんだ!?」「秘密にも出来ないか…!」「さっきから、なにを…?」

宇月はこの場の誰よりも早く、部屋を飛び出した。

 

「きゃあああぁ!」「怪物よ!?」

たどり着いたそこには、身体に宝石のようなものを散りばめた怪人が暴れている。

「…山猫座…リンクスか!」

そう、そこにいたのは「リンクス・ゾディアーツ」。

「リンクス…?」「さっきのゾディアーツってのは、あの怪物だ!」

そういいながら、彼はフォーゼドライバーをベルトに装着させる。

「お、おい、宇月…!?」

一夏の言葉を無視して、4つのスイッチを押し、左手を握りしめて構える。

<3><2><1>

 

「変身っ!」

 

ベルトのレバーを押し、右手を空に伸ばすと、辺りから煙と機械のようなオーラが現れ、宇月を包み込む。

「はあっ!」

それを振り払うと、そこに居たのは白いスーツを纏った存在…。

「それって…」

 

「これは宇宙への可能性…「フォーゼ」だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

次回!

 

                          武器が転送された!?

 

ちょっと違う

 

                          城茂って、あの…

 

平気さ。僕はクズだから…

 

                          リンクスって、アイツかよ!?

 

仮面ライダー…!

 

 

 

第2話「変・身・公・開」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒

白石紫苑
裾迫理雄

山田真耶

織斑千冬

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

宇月の母
宇月の父=仮面ライダーフォーゼ(初代)



あとがき
いかがでしたか?
見切り発車レベルは半端じゃないですが、初めて見ました。これから頑張りますので、応援よろしくお願いします!
よろしかったら、感想のほうも下さると嬉しいです。
それでは…。





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第2話「変・身・公・開」

 

学校の敷地を少し出たところ。

宇月だった白いスーツ「フォーゼ」は、ファイティングポーズを取って構える。

この姿は「ベースステイツ」。フォーゼの基本となる形態だ。

「これは…ISなのか?」

箒の質問に、フォーゼBSは首を振る。もちろん、リンクスから目は外さない。

「違う。これは「コズミックエナジーの結晶」。さぁ来い、リンクス!」

「アンタもアタシの邪魔をするのね!?」

リンクスは右手のツメをこすりながら、女性らしい声で、フォーゼBSに襲い掛かる。

「ふん!とあぁっ!」

ドガアァ!

そのツメを避けたフォーゼBSは、思い切り殴り飛ばす。

「うっし!これで…」

<ROCKET-ON>

右端の橙色のスイッチを押し、右手にロケットモジュールが装備される。

「武装が転送された!?」

「それもちょっと違う。コズミックエナジーで生成してるんだよ」

そう言うとロケットモジュールは勢い良く噴射し、フォーゼBSの身体ごとリンクスに突進していった。

「ロケットパァァァァァンチ!」

ドガアアアアアアアアアアアァ!

「キャアアアアアァ!」

その威力は強大で、リンクスの身体を近くの壁にめり込ませるほどだった。

「次は…」

そう言いながらロケットスイッチをオフにして、新しいスイッチを使おうとした瞬間…。

「ムン!」

ドガァ!

「うおぁ!?」

何者かに蹴られ、地面を転がるフォーゼ。その方向を見ると…。

「あれも…ゾディアーツなのか?」

一夏が呟きながら、目の前の新たな怪人を見つめている。

それは金色の刺繍のあるクロークを身に包み、不敵に立ち尽くす怪人。頭は蠍を髣髴させるような形になっていた。

そのゾディアーツを見たフォーゼは、一気に声色が変わる。

「蠍座の使徒…ホロスコープス…!バカな、覚醒していたのか!?」

そう「スコーピオン・ゾディアーツ」だ。

「…早く行け。ここは私に任せろ」

「あ…ありがとうございます、スコーピオン様!」

スコーピオンはリンクスを逃がし、クロークを脱ぐ。

身体から黒い霧のようなオーラと蠍座の光が現れる。どことなく威嚇しているような雰囲気だ。

「なんか…やばそうだな」「さっきのゾディアーツとは、全てにおいて違う気がするぞ…」

フォーゼBSを見守る一夏と箒は、心配になる。

「おまえ…正体は誰だ!?」

「知りたければ、私に勝つが良い」

スコーピオンも簡単には口を割らない。彼もファイティングポーズをとって、フォーゼBSに対抗しようとする。

「やるしかないか…!」

<RAUNCHER-ON><RADER-ON>

次は青いスイッチと黒いスイッチをオンにさせ、右足にランチャーモジュールを、左手にレーダーモジュールを装備する。

レーダーの役割は標的のロックオン。ランチャーにホーミング機能を付加するのだ。

「ロックオン!いけぇ!」

ズドドドドドドドォ!

5つほどのミサイルが発射され、スコーピオンに向かっていく…。

「ヌンッ!ゼェアァ!」

「…!?」

しかし、なんと彼はホーミングつきのミサイルを一つ残らず避け、逆にフォーゼBSの懐に入り込む。

「オオオオオオオオオオォ!」

ドガアアアァ!

「ぐあああぁ!?」

至近距離から強力な蹴りをお見舞いされ、かなりの距離を吹き飛ばされる。

さらに、ランチャーの流れ弾が一夏たちに向かう。

「やべっ!箒、こっち来い!」「うっ!?」

一夏はとっさに箒を抱きかかえて、ミサイルを避ける。

ドゴオオオオオオオオォ!

「一夏、箒っ!」

間一髪で、大事には至らなかったようだ。

しかし、フォーゼBSを身ながらスコーピオンは嘲笑するように言う。

「君の作戦で仲間が傷ついたようだな。それでもフォーゼか?」

「おまえっ!」

<CHAINSAW―ON><SPIKE―ON>

フォーゼBSは右足にチェーンソーモジュール、左足にスパイクモジュールを装備し、蹴り主体の戦法を取る。

「うおおおりゃああぁ!」

「蹴りで私に挑むとは…愚かな。セェアアアァ!」

ドガッ!ガギィ!

「ぐっ!?うわあああぁ!」

全く歯が立たない。それどころか、更に劣勢を強いられた。

「くそ…せめて「10番」か「20番」が使えたら…!」

「さて…君達に色々、知ってもらおうと思う。我々は「ゾディアーツ」。人間を超えた存在。そしてこのIS学園を潰すために活動しているというわけだ。学校の関係者にも是非、報告してくれたまえ。では、また逢おう」

そう言って、スコーピオンは黒い霧を呼び出して消滅した。おそらく逃げたのだろう。

「この学園初戦からホロスコープス相手とは…先が思いやられる」

そう言いながら、フォーゼBSは変身を解除する。

その姿は宇月に戻っていた。

「宇月、詳しく知りたい」

箒が詰め寄る。もう、言い逃れは出来ないだろう。

「…分かったよ」

 

宇月は2人をラビットハッチに案内した。

「まさか…月面に通じてるとは…」

「フォーゼのことは説明するけど、他言無用で頼むな」

そう言って、広い部屋の椅子に座る。

「ここはラビットハッチ、おれの両親がコズミックエナジーの開発を行なっていた月面研究室。ゲートスイッチって物を使って、クローゼットから時空を捻じ曲げてここに繋いでる。システム自体は機能しているものの、今は殆ど廃墟」

「コズミックエナジー…それに城茂って苗字…。まさか君は「城茂吾朗」と「城茂三咲」の一人息子…?」

「そう。篠ノ之って苗字からして、箒は「篠ノ之束」の妹さんってわけか」

「…認めたくないけどな」

2人は納得の言ったような様子だが、一夏はついて来れていない。

「あのさ、一般人にも分かるように説明してくれよ」

「おれの父さんである吾朗は、人間が宇宙へ旅立つための可能性として、コズミックエナジーの研究をしていて、さっきの「フォーゼ」に最初に変身した人物。母の三咲は元IS使い。多分、一夏のお姉さんの千冬先生や、箒のお姉さんの束さんとも、馴染み深いはず」

つまり、彼はIS使いとコズミックエナジーの権威、両方のエキスパートの息子であるのだ。

「じゃあ、宇月がISに乗れるのは…やっぱお母さんの血…?」

一夏の質問に対して首を振り、フォーゼドライバーからロケットスイッチを取り出して説明する。

「違う。おれはフォーゼに変身して、コズミックエナジーを多く使うアストロスイッチをつかうから、身体にエナジーが溜まってる。その力で肉体を無理矢理、ISに適性化させてるんだよ。つまりフォーゼに変身しなかったらISにも乗れないわけ」

一夏にもなんとなく分かった。

「じゃあ、フォーゼって言うのは…」

「本来は肉体にコズミックエナジーを循環させるための実験スーツ。ゾディアーツの発生が確認されてから、研究室に残ってたコズミックエナジー兵器の試作品、アストロスイッチを同調させられるように改造して、戦闘用スーツにした」

次に気になるのは、先ほどの怪人「ゾディアーツ」。

「ゾディアーツってのはなんだ?」

「ゾディアーツは人間が「ゾディアーツスイッチ」を使って「負」のコズミックエナジーで超進化した生命体。当然、誰か使っているはず。あのホロスコープスもね」

そういえば、ホロスコープスという単語も気になる。

「…あぁ。ホロスコープスって言うのは、ゾディアーツの進化系。誕生月の星座の運命にある人間が覚醒する、選ばれた存在。父さんの記録によると首領は乙女座の「ヴァルゴ」。その他に獅子座の「レオ」、天秤座の「リブラ」が覚醒していて、おれの目で見たのはさっきの「スコーピオン」と、今は彼等を裏切っている牡羊座の「アリエス」。全部で5体覚醒している」

一通りの説明が終わると、宇月は溜息をついて一夏と箒を見る。

「さ、説明も終わったし、知ったからには協力してもらう」

「はぁ!?」「私達が?」

宇月の突然の申し出に困惑する2人。

「当たり前だろう。何事もギブ&テイク、秘密を教えるには見返りが必要だろ。まさか秘密を知ったのに、知らんふりするつもりだったのかよ?」

「い、いや…それは…」「でも、わたし達になにが…」

確かに宇月の言葉は筋が通っている。だが2人はコズミックエナジーのことなど、名前くらいしか知らないようなものだ。原理などは無知。

「スイッチ調整やフォーゼに変身しろなんて言わないけど、スイッチャー探しをして欲しい。さっきのリンクスの正体を探って欲しいのさ。あわよくばホロスコープスのスイッチャーも見つけて欲しいけど、彼等はそう簡単に正体がわかんないだろうなぁ…。やってくれるよな?」

少しの間、沈黙があったが…。

「乗りかかった船だ。付き合うぜ、宇月」「…わたしもやろう」

「マジか!?よっしゃ、助かる!さっそく作戦会議だ!」

「「いきなり!?」」

 

そのころ、紫苑は自室で夜空を見つめている。彼も1人部屋なのだ。

「…はぁ」

力の無い溜息。どうやら憂鬱らしい。

突如、ドアからノックが聞こえる。

「織斑だ、入る」「どうぞ」

現れたのは、千冬だ。

「白石。どうやら初日早々、裾迫に殴られたようだな」

「…は、はい」

彼女の雰囲気的になぐさめに来たようではないらしい。目つきは鋭いまま淡々と言う。

「たしかに内容からして裾迫が一方的に悪い。それに私のことに関して、君がとばっちりを受けたと聞いた。そのことは謝る。問題は…それを自分の力で何とかしなかったところだ。織斑、篠ノ之、城茂に頼ったらしいな。この学園ではISを乗りこなせるようにすることが目的だが、同時に精神面やコミュニケーション力を培うことも学園の目的でもある。ある程度なら問題を起こしても構わん。だが、自分に降りかかった災難くらい自分で解決しろ」

「あの…一ついいですか?」

なんだと尋ねる千冬に対して、星空を見つめながら答える紫苑。人が少ないからか、日中のような緊張は見られない。

「僕は頼ってないです…。だって、織斑君達から僕を助けてくれたんです。それに僕、仮に3人が助けてくれなくても良かったんです」

「どういう意味だ?」

さらに聞く千冬。振り返った紫苑の表情は悲しい笑顔だった。

 

「僕は…「クズの塊」ですから。何されても仕方が無いんです」

 

「本気で思ってるのか?」

「織斑先生位の素晴らしい先生なら、担任している生徒の記録くらい目を通してるでしょう?…特に男のIS使いである僕なんかは…」

その言葉を聞いて、千冬は言い返せなくなった。

「…でも正直に言うと、織斑君の行動は嬉しかったです。だから、頑張ってみようと思ってます。どこまで出来るかは…分かりませんけど」

「…そうか」

千冬はそれだけ言って、部屋を出ていった。再び夜空を見つめる紫苑。

「…僕もこの夜空みたいに、綺麗な存在になりたいよ…」

 

次の日。

「あぁあ、またあの鉄仮面女の説教染みた授業受けるのかよ、めんどくせぇ…」

そう言いながら、席でふんぞり返っている理雄。相変わらず、紫苑は彼に怯えながらも予習を始めていた。

「がんばらないと…」

そんなクラスの中で、一人の女子生徒に箒が声をかけた。

昨日、千冬の登場でかなりの声援を送っていた者だ。

「ちょっといいか?」「何?」

 

呼び出した屋上には、宇月と一夏が居た。

「あ…織斑君!」

一夏は千冬の弟。彼女の考えから彼と仲良くなれば、千冬とも親睦が深められるはず。

しかし、口を開いた一夏の言葉は…。

「おまえ…リンクスだな?」「え…?」

そう、彼女をリンクスのスイッチャーとして予測した。

「昨日言っていた「邪魔」っていうのは、強さを見せ付けるため。その理由は千冬姉だろ。千冬姉に強さを見せ付ければ、気を引くことが出来ると思って…」

「そ、そんなの理由に…」

そう言いながら、右手のツメをこする。それを宇月は見逃さなかった。

「それ、リンクスもやってたぞ。動機があって癖も一緒。もう言い逃れは出来ないな」

「…やっぱり邪魔するのね」

そう言いながら、取り出したのはゾディアーツスイッチ。

 

<LAST ONE>

 

その音声が鳴り、形状が変化する。

「なんだ…?」「ラストワン…!やめろ、押すな!」

女生徒は構わず、スイッチを押した。

その瞬間、リンクスと女生徒の2つに身体が分離した。

「あたしは強くなるの…もっと!」

「止められなかったか…。一夏、箒。その娘の肉体を守ってくれ!」

「わかった!」「一夏、こっちに!」

フォーゼドライバーを装着した宇月は、スイッチを押して構える。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを押すと、オーラが宇月を纏い、フォーゼBSに変える。

「はあっ!…行くぞリンクス!」

「邪魔しないでって言ってるでしょ!?」

2人は同時に駆け出すが、その姿を見ている女性が居た。山田である。

彼女は授業を抜けている4人が気になって探していた途中だった。

 

「あれって…まさか!」

 

「どらああぁ!」

ドガアアアアアアァ!

「ウアアァ!」

戦況はフォーゼBSが優勢。もともと、通常のゾディアーツ程度なら何度も戦ってきたので、問題なく戦える。

「お次はこれだ!」

<HOPPING-ON><MAGICHAND-ON>

右手にマジックハンドモジュール、左足にホッピングモジュールを装備して、バッタのように跳ねながら、マジックハンドで叩きつける。

バゴオオオォ!

「クウウウゥ!」

動きが変則的なので、攻撃に集中できずダメージを受ける一方だ。

「よっしゃ、これで…!」

<ROCKET-ON><DRILL-ON>

右手にロケットモジュール、左足にドリルモジュールを装備し、空を飛ぶ。

更にレバーを押して…。

<ROCKET DRILL LIMIT-BREAKE>

「トドメだ!ロケットドリルキィィィィィック!!」

ドガアアアアアアアアアアアァ!

フォーゼの必殺技「リミットブレイク」。アストロスイッチのコズミックエナジーを極限にまで引き出した大技である。

リンクスは溜まらず爆発し、その中からゾディアーツスイッチが現れた。

それをキャッチし、スイッチをオフにする。

スイッチは途端に霧状になって消えた。ゾディアーツの生態活動が終わったのだ。

「一件落着…!」

 

倒れていた女生徒はうっすらと目を開ける。スイッチがオフになったことが理由だ。

「一夏、目を覚ましたぞ!」「大丈夫か?」

「あぁ…あたし、負けちゃったんだね」

残念そうに言うが、どこか晴れ晴れしてるようにも見えた。

そこにフォーゼBSが歩いてくる。

「なら、これから勝てるようにすればいい。人間の力でな。人は誰でも可能性がある。その可能性を可能にできるかどうかは、自分次第だ」

女生徒の肩に手を置いて、マスクの奥で笑うフォーゼBS。

「ありがとう…白いロケットさん」「フォーゼです…」

その一部始終を見ていた山田は…。

 

「か…仮面ライダー…!?」

 

「仮面ライダー?」「って言うか山田先生、いつから!?」

「えっと…城茂君が能美さんと戦い始めたところから…」

「殆ど見てたのかよ…」

教師は生徒を守る事が使命なのに…。

「あ…ごめんなさい…」

「まぁ、仕方ないけど。それより、仮面ライダーって…」

一夏の質問に対して、山田は手にあるファイルをゴソゴソと漁る。

「こ、これ!」

山田が取り出したのは、数枚の資料。

 

「正体不明の「仮面ライダー」について」

 

そう書いており、写真には「緑の仮面に赤いマフラーをした戦士」「頭が赤い鳥、腕が黄色い虎、足が緑のバッタを模した戦士」「マゼンタの戦士」「龍の紋章が額にある赤い戦士」のぼやけた写真がある。とっさに撮影したもののようだ。

「この学園でも会議の内容に上がってるの。この世界の悪に人知れず立ち向かう正体不明の人物達…それが「仮面ライダー」って…。まさか、この学園にも…」

「仮面…ライダー…」

 

そして…。

「これからも、みんなで力を合わせてゾディアーツ事件を解決しよう!」

宇月はラビットハッチで張り切る…のだが…。

「で…これは?」

ラビットハッチの壁にフォーゼの頭をデフォルメした絵柄と「仮面ライダー部」と書かれたタペストリーが張られていた。

「部活だよ部活。なんでもやり方が重要だって」「ノリが軽すぎるような…」

一夏が発端らしい。箒はさすがに首を捻っているが。

「わ、私は顧問ですね」

山田も顧問として参加。これで名実共に「部活動」となったのだ。

「…まぁ、活動内容は変わらないからいいけど…」

「じゃあ、行くか仮面ライダー部!」

 

今ここに「仮面ライダー部」が設立されたのだった。

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

次回!

 

                       ちょっとよろしくて?

 

うおぉ、美人…!

 

                       イギリス人なのに、日本語ペラペラ…

 

本格的なISの特訓だね…

 

                       また男子が来る!?

 

まだ先の話だがな

 

                       スイッチ調整が進まない!

 

 

 

第3話「決・闘・申・込」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒

白石紫苑
裾迫理雄

女生徒=リンクス・ゾディアーツ

山田真耶
織斑千冬

???=スコーピオン・ゾディアーツ



あとがき
いかがでしたか?
こちらは2話完結式にしたいと思ってます!スコーピオンが強く表現できるように努力しました!
次回のゾディアーツは誰にするかなと考え中です。ISの話も進めないとです…(汗)
ご感想おまちしております!
ではまた…。


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メンバー召集!
第3話「決・闘・申・込」


 

 

仮面ライダー部が設立された次の日。

今は授業中で千冬の講義を聴いているのだが…。

「ぐぅー…」「宇月…」

宇月は居眠り中。フォーゼとして変身し、ゾディアーツ対策なども行なっているために、睡眠時間が非常に少ないのだ。

彼に気付き、ツカツカと歩み寄る千冬。

「おい」

スパァン!

「んごぉ!?」

突然の頭の衝撃に、宇月は飛び上がった。

「授業中、眠るとは良い度胸だ。眠気覚ましでもしてやろうか?」

「い、いえ…結構です…」

中間管理職の辛さは、これと共通しているのだろうかと一夏は考えていた。

 

昼休み。

「ちょっとよろしくて?」「…?」

突如、宇月に話しかけた女子生徒。日本人ではないようだ。ただ、宇月が一番最初に受けた印象は…。

「うぉ、美人…!」

どこか高貴な立ち振る舞いと整った顔立ち。もともと、このクラスは美人が多いのだが、宇月には彼女がより魅力的に見えたらしい。

「あら、イギリス代表性候補のセシリア・オルコットが話しかけて差し上げてますのに、その態度はなんですか?まるでナンパ師のような…」

「せるじあ・おりがみ?…てかイギリス人なのに日本語ペラペラ…」

「はぁ?…まったく、耳もおかしいですのね。代表候補生たるもの、日本語の理解くらい当然の事ですわ」

呆れたような様子で返す「セシリア・オルコット」に、紫苑が怯えながらも会話に介入した。

「えっと…オルコットさん。城茂君はあまり眠れてなくて、きっと集中力が…」

「外野は黙っていてくださる?…あなたのような方、特に嫌いですわ」

「ご、ごめんなさい…」

なんとか宇月を助けようとしたが、紫苑は性格ゆえに何も出来なかった。

だが、その行動が宇月に火をつけた。

「おい、紫苑に謝れ」「なんですって?」

さっきまで美人と謳っていた相手に向かって、間違いなく敵意をむき出しにしている。

「おれのことは何とでも言えばいい。でも紫苑は、おまえに何も悪いことをしてないだろう?」

「い、良いよ城茂君。僕は何言われても良いから」

「黙ってろ!」

紫苑を怒鳴りつけ、セシリアを睨む宇月。

「あら、男同士の友情ですの?…汗臭いですわね」「好きに言ってろ。だが紫苑に謝ってもらう」

セシリアの挑発には全く乗らず、紫苑に対する謝罪のみを要求する。

「はっ、冗談じゃないですわ。誰が男なんかに…」

最悪の雰囲気になってきた。箒も黙ってみているだけにしようとしていたが、我慢できずに席を立った。

ところが…。

「うるせェよ、目障りだ。教室に入って早々、胸糞悪い」「な…!?」

鬱陶しく感じたのか、珍しく無関係な事に首を突っ込んできた理雄。どうやら、今教室に戻ってきたようだ。頭を掻きながら、セシリアにガンを飛ばす。

宇月や紫苑とは迫力が違いすぎる。さすがにセシリアも怖気づきかけた。

「代表候補だかなんだか知らねぇが、あんまりつけあがるなよ?すぐに蹴落としてやる」

「あ、あなたねぇ!」

そのときチャイムが鳴り、山田が現れた。

「じゅ、授業です~」

「…逃げないことね。よろしくって?」

 

これは上の出来事の少し前の時間に起こった出来事である。

教室から少し離れた人気の無い廊下で、スコーピオンがとある生徒に出くわしていた。

「君の誇りを取り戻したいのだろう?…あのセシリア・オルコットに一泡吹かせたいというわけなのだね」

「あ…あの…」

「君なら出来る。上手くいけば候補生どころか、この学園でもっとも優秀な存在になり、最高の誇りを維持できるのだよ」

スコーピオンの手には、ゾディアーツスイッチが握られていた。

「さぁ…星に願いを…」

 

HR前。

「裾迫」「アァ?」

箒は理雄の前に立ち、少し笑みを浮かべた。

「見直したぞ、ああ言った事には無関心だと思っていたが、しっかりと向き合う姿勢があるとは…」

だが、理雄の返事はその言葉を大いに裏切るものだった。

「ハァ?笑わせんな。オレはな、あの女をモノにしたくなったから動いただけだ。理由も無く、あんな慈善事業みたいなことできるかよ」

「おまえ…!?」

「面白いだろうなぁ…あの高飛車な女が屈服したら」

にんまりと笑う理雄。そこに千冬が入ってきた。

「席に着け、ホームルームをはじめる」

そしてHRが始まった。

「連絡事項は2つだ。1つ目、1週間後、このクラスに転校生が来る事になった。男2人だそうだ」

クラスは騒ぎ始める。また新たに2人も男IS使いが現れたようだ。

「また男が来る!?」

「まだ先の話だがな。そして2つ。クラス代表を決めたいと思う。自薦他薦は問わんが、候補はいるか?」

「わたし、織斑君が良いと思います!」「あ、あたしも!」「同感で~す!」

「お、おれかよ!?」

圧倒的に一夏が多数。

「根拠は?」

千冬が理由を聞くと、突如としてクラスは静まった。

「えっと…それは…」「男の子のIS使いが代表だと良いと思ったからです」

「それだけか?」

そこで、一人の女子生徒が手を挙げた。

「はい、あたしは城茂君を推薦します!」

その女子生徒は先日、リンクス・ゾディアーツに変身していた者だった。

「おれ…?」

「城茂君は、このクラスの中でも一番元気で、困難にも一生懸命立ち向かっていく姿勢があるからです」

その言葉に、千冬は納得した。

「なるほど…確かに。では他に無ければ、織斑か城茂のどちらかになるが…」

 

「納得いきません!」

 

そこに大きく否定したのはセシリアだ。

「男がクラス代表なんて、いい恥さらしですわ!クラス代表は、このイギリス代表候補のわたくしに…」

「それも納得いかない」

そう言って立ち上がったのは宇月。

「どこにご不満がありますの?」

「紫苑に謝ったりしないような奴が、代表なんて認めない」

「し、城茂君…僕のことは良いんだよ!」

彼女の実力など、どうでも良い。ただ、紫苑が傷ついたのに自分の非を認めない彼女を代表にする事は、彼の心が許さなかった。

「あのですね、わたくしだけですわよ。入学試験で試験官を倒したのは…」

「あ、おれも倒したよ。女子だけの話なんだろ」

そう言ったのは一夏だ。そう、彼は試験官を倒した生徒の一人なのだ。さらに、もう一人いるのだが…。

「オレも倒したんだよ、余裕だったぜ。分かるか?一番はテメェじゃないってことだ」

つまり、一夏とセシリア、そして理雄の3人が試験官を倒しているのだ。

「あ、あのケンカは…」

「うるせェな!?」

「ひっ…!」

山田は必死に止めるが、まったく状況は治まらない。

「だいたい、イギリスがなんだって言うんだ?」

衝撃の事実に追加で、理雄の最後の言葉が、セシリアの堪忍袋の緒を切ることとなった。

「わたくしの祖国の侮辱まで…。もう…我慢の限界です…!」

 

「決闘ですわ!」

「決闘…?」

「おもしれェ…!力の差を分からせてやる!」

 

こうして、一週間後に学園の管理下での決闘が決まった。

対戦カードはセシリアVS一夏。そしてセシリアVS理雄。

 

放課後…。

「大丈夫かよ、一夏?挑発したのは、おれと理雄なのに…」

「何とかして見せる。それに紫苑にあんな言い方をして許せないのは、おれも同じだ」

「さすが一夏!おれの分まで頼む!」

ラビットハッチで作戦会議中の4人。

「ところで、城茂君は参戦しなかったんですね。他薦あったのに…」

「だっておれ、試験官…千冬さんにボロ負けでしたから」

その発言で、宇月を残した3人は、そりゃそうだと頷く。一夏の姉である千冬は、IS使いの元日本代表。「ブリュンヒルデ」という異名もある。入学前の生徒が勝てる相手ではない。

「ところで、相手は代表候補だ。専用機もあるだろうし、まず勝ち目は無いぞ」

「そこをおれ達がフォローするんだよ、箒。たしかに相手は強いと思う。そこでだ」

宇月が取り出したのは…

「…ハンバーガー?腹ごしらえでもするのか?」

「よく見てろって」

そう言って、カメラスイッチをそのハンバーガーにセットすると…。

突如、形が変わり、生きているように動き出した。

「うお、変わった!?」

「これはバガミール。アストロスイッチの力で動くメカ「フードロイド」の一つさ」

「ちょっと…かわいいかも」

箒はバガミールをなでている。なにやら腕を頭にやって、照れているようにするバガミール。感情らしいものも多少、あるようだ。

「こいつで、いろいろと探るわけ。あのセシリアって娘の強さの秘訣とか…専用機のこととか!それで作戦を立てる。一週間あれば、なにか掴めるだろ。…そろそろ返せよ」

「あぁ…バガミール…」

宇月にバガミールを取り上げられ、しゅんとする箒。

「さ、よろしくな!」

バガミールは目を光らせ、偵察に向かった。

「バガミールの情報は、このモニターに転送されるから、今日はこれでお開き」

そのとき…。

 

「きゃあああああああぁ!」

 

「…!?」

セシリアの声だ。

「バガミールに驚いたんじゃないのか!?」

「あんなにかわいい子に対して、あんなリアクションあるか!行くぞ!」

一夏の言葉は、箒に否定された。すぐにラビットハッチから出る3人。

 

人気の無い廊下。

「アンタの天下もここまでよ…」

「どこにいらっしゃるの!?」

セシリアは目に見えない「何か」に怯えている。先ほど、いきなり衝撃に襲われて地面に叩きつけられたのだ。

「おい、セシリア!」「あなた達は…!」

そこに宇月達が現れる。

「どうしたって言うんだ!?」

「ふ、ふん!下々の者に言う事ではありませんわ!」

彼女のプライドがそうさせているのか、口を割ろうとしない。

「ええい!ごちゃごちゃ言わずに、早く答えろ!」「ちょ、ちょっと!やめてください!」

宇月はそれを待つほど我慢がきかない。セシリアの肩を持って強く揺する。

「これで終わらせてあげる!」

ギシイィ!

「あうっ!」

そのセシリアの身体は、唐突に宙に浮く。…なにかにぶら下げられているようだ。

「くぅうっ…うあぁ…!」

強い力で締め上げられている。このままでは危険だ。

「…箒、透明になるISとかあるのか?」「多分…ない」

箒の知っている知識では、迷彩機能など無いはずだ。だとすると、答えは一つ…。

「なら、ゾディアーツか!」

フォーゼドライバーを装着し、変身準備に入る。

<3><2><1>

「変身っ!」

宇月は、レバーを引き、フォーゼBSに変身した。

「はあっ!」「なんなのよ、アンタ!」

透明な「何か」の質問に、フォーゼBSは胸を張って答える。

「おれはフォーゼ…いや」

 

「仮面ライダーフォーゼだ!」

 

戦略は立てている。カメラスイッチならば、透明な敵でも瞬時に見つけられることが出来る。さらに見つけ方や攻略法まで分かる優れモノだ。

「透明ならカメラで…あ!?」「どうした!?」

だが、ここでフォーゼBSは重大な出来事に気付いた。

「カメラスイッチが無い!」

そう、バガミールの起動スイッチはカメラ。今現在、フォーゼの手元にはカメラが無いのだ。

「レーダーで…いけるか?」

<RADER-ON>

レーダーを装備するが、これは敵の居場所が分かるだけ。廊下ではランチャーが使えない。つまり、レーダーのモニターを確認しながら攻撃するという二度手間を喰う羽目になった。

「えっと…ここにいるから…ここか!」

ドガッ!

「ウアッ!」

なんとか攻撃に成功し、セシリアも開放された。

「ちょっと…なんなのよ全く!」

文句を言いながら現れたのは…。

「カメレオンか…!」

そう、カメレオン・ゾディアーツ。スコーピオンからスイッチを貰った者だ。

「アタシはね、セシリア・オルコットをどん底に叩き落とすのよ!」

「恨みを買ってるのは、おれ達だけじゃないらしいな…!」

対峙するフォーゼBSとカメレオン。

それを遠くで見ている者…スコーピオンだ。

 

「ククク…精々、苦しんでくれたまえ。セシリア・オルコットとフォーゼ…」

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                         白式…

 

一夏専用のISかぁ…!

 

                         踊りなさい、私とブルーティアーズの奏でるワルツに…!

 

来週は…礼がくるのか!

 

                         理雄って…強すぎだろ…!

 

この際、言っておく「オレが全て」だ…!

 

                        代表なら、代表らしい誇りを見せろ!

 

 

 

第4話「誇・示・困・難」

 

 






青春スイッチ・オン!



キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット

白石紫苑
裾迫理雄

リンクスだった女子生徒
???=カメレオン・ゾディアーツ

山田真耶

織斑千冬

???=スコーピオン・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
…ISの話題が少ない(大汗)。次回こそ、ISの戦闘シーンがありますので…。
暫くの間、ゲスト怪人は名も無きモブキャラになります。予告である礼というのは…まだ秘密です!
ご感想お待ちしてます!
それでは…。



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第4話「誇・示・困・難」

 

「何のために、セシリアを狙う!?」

カメレオンはフォーゼBSを睨みながら、実際のカメレオンのように首を動かしている。

箒やセシリアは、その奇怪な動きに少しの恐怖を見せていた。

「アタシはソイツのせいで、自分が築き上げていたモノをぶち壊しにされたの!」

「だからってゾディアーツの力に頼んな!それで勝っても、おまえの力で勝った事にはなんないぞ!?」

カメレオンの言い分を、真っ向から否定するフォーゼBS。彼の言ったとおり、これは彼女自身の力ではない。ゾディアーツという魔力に身を任せているだけだ。

「構わない…。ソイツを叩き潰せるなら、それでも!」

「人間に戻れなくなってもか!?」

未だに意地を張るカメレオンに対して、フォーゼBSは叫びかけた。

「人間に…戻れない?」

どうやら知らされていないようだ。カメレオンは明らかに動じた。

「知らないみたいだな。ゾディアーツに変身し続けたら人間と分離し、自分の意志では元に戻れなくなる…。ずっとその姿でいるんだぞ!そんな怪物みたいな姿で!」

「嘘…!?」

カメレオンは自分の手を見ながら震え始める。それを見たセシリアは恐怖心を拭うためか、勝ち誇ったように言う。

「い、良いザマですわ!貴方みたいな野蛮な方、その姿の方がお似合いでしてよ?」

「オルコット…!」

「おまえっ!」

彼女の散々な言い分に、さすがに一夏や箒も怒り爆発だ。

 

「…だから、目障りなんだよ」

 

「理雄!?」「裾迫…!」

そこに現れたのは、以外にも理雄だった。セシリアやカメレオンを睨みながら淡々と呟く。

フォーゼBSやゾディアーツに対して、全く驚いたりしていない。

「そこのカエル女が何考えてるか知らねェが、その女はオレの獲物だ。手を出すな」

「な…カエル女!?」「あなた…人を馬鹿にするのもいい加減に…」

セシリアが反論しようとした所を、睨みで制して続ける。

「テメェも、男を馬鹿にし過ぎなんじゃね?…そろそろ、オマエの考えも古くなるからな」

「なんですって…!」

理雄は完全にセシリアを挑発している。それに乗っているのが楽しいのか、理雄はニッと笑って踵を返す。

「言い返してェなら、来週の決闘で会おうぜ。オマエの思想が時代遅れだってことを思い知らせてやる。織斑もカエル女も、それまで手を出すな。決闘が終わったら好きにしろ」

最後にもう一度振り返り…。

 

「この際、言っておく。…「オレが全て」だ」

 

そう言って、去っていった。

「…ま、アタシはセシリア・オルコットがどん底に落ちれば、それでいいわよ」

カメレオンも戦意を無くし、身体を透明にして消えた。

「あ、待て!」

フォーゼがとっさにレーダーで探すが、反応は無い。逃げたようだ。

 

再び、ラビットハッチに戻った。

「カメレオンのスイッチャーは…」

「大方、オルコットの恨みを持ってる人だろうな。口調からして女…」

箒は一応の予測を言う。ここにいる全員は同じ意見だ。

「でも…一体、誰がスイッチを配ったんでしょう…?」

「多分、ホロスコープスです。昨日のことを考えるに、スコーピオンだと思います」

山田の問いに、宇月は顎に手を置いて答える。

「この学園にいるホロスコープスは、スコーピオンだけだと信じたいけど…」

そう言っていると、モニターに受信音が鳴り響く。

 

「バガミールから、何かが届いたみたいだ」

 

最大画像で表示すると…。分析したセシリアの専用機の詳細が乗っていた。

「ブルー・ティアーズ…青い雫か。主には…」

「ちょっと待て」

分析を新たに開始しようとした宇月に箒が呼び止める。

「コズミックエナジーの発明であるバガミールに、どうしてISの分析が出来るんだ?ISの事前情報なんかあるのか?」

質問されて、初めて気づいた。ゾディアーツもコズミックエナジーを利用しているために分析が出来たが、ISは違う。なのに何故、詳細な分析が届いたのだろう。

「…そういえば確かに。母さんはISをコズミックエナジーの研究内容に取り入れてなかったし、結果的に起動できたとは言え、肉体のエナジー循環もISを利用することなんか想定してはいなかったはず…」

コズミックエナジーの研究は、吾朗と三咲が行方不明になって以降、全く進展が見られていない。いろんな科学者が研究に挑んでいるが、全く成果が得られていない。

無論、宇月も研究こそしていたが、結果は同様だ。

「…まぁ、調べられてるから良いじゃん。主な武器は「スターライトmkⅢ」。ビームライフルで、サブの武器として同名の「ブルーティアーズ」、ビーム起動も操れるのか…反則だな。一夏、勝てるか?」

相手の武装を調べて不安になった宇月は、戦う本人に自信の程を聞く。

「おれの専用機が来ない事には…。先生、おれの専用機はいつ届きます?」

「あ、えっと…明日には届くはずですよ?」

彼は初の男IS使い。千冬の弟であり、篠ノ之束の古い馴染みという事もあって専用機が用意された。だが、届くのは明日。

新しい作戦は、それからになりそうだ。

 

その日の夜。

理雄は、届いていた専用機を見ていた。何故、彼に専用機があるのか。

理由は簡単。彼が男IS使いの中で、もっとも試験結果が優秀だったからだ。

「ほう…これが「霧裂」か」

彼の専用機「霧裂」。主に捕縛をして、相手の動きを制限した後、直接的な打撃をして戦うというものだ。

「フン。興味ないが、あの女のハナをあかすには、ちょうど良い」

待機形態は赤黒いネックレス。理雄は首にかけて鏡を見ながら笑った。

 

次の日。

「織斑君、届きましたよ!」

山田からの一報を受けて、ISのある場所に向かった。

そこには機械的な腕輪がある。

「白式…」「これが、一夏の専用機ISかぁ…!」

宇月は専用機を持ち合わせていない。故に量産機を使用するのだが、やはり専用機には羨ましいようだ。

「ただ…武装が剣だけになります」

喜んでいる3人に水を注すのが悪いと思ったのか、山田は申し訳なさそうに言う。

「遠距離で戦うブルー・ティアーズとは、相性が悪いわけか…」

箒はどうすれば良いか必死に考えている。ピンと閃いたようで目を輝かせながら宇月に問う。

「あ…またバガミールに戦法を考えてもらうとか!」

「フードロイドに戦略が構想できるわけないだろ。できるのは分析だけ。フォーゼを介したカメラモジュールを使えば、出来ない事もないけど…。ゾディアーツもいないのに、フォーゼを使うのはちょっとなぁ…」

確かにISの分析のために利用するのは、フォーゼの存在を必要以上に認知されてしまう可能性もある。山田には宇月が黙っているように説得しているので、詳細を知られてはいない。

「さて…どうしたものか」

一夏と箒は対抗策を練っているが、宇月はラビットハッチに戻ろうとしていた。

「おい、宇月」

「今回は決闘で忙しいから、スイッチャー探しは休んで良い。ちょっと、気になることがあってな」

 

その頃…。

屋上でスコーピオンは、空を眺めている。

「おい」

スコーピオンに話しかけてきたのはレオ。彼を見た途端、スコーピオンは明らかに動揺した。

「レオ…!?な、なにか用か…?」

「貴様…遊びすぎているようだな。カメレオンの件もそうだが、自分も楽しみすぎじゃないか?」

そう、先日の戦いでスコーピオンは遠くで2人を見物していただけだ。

「…ヴァルゴ様は、速やかな結果を望んでいる。あまり行動が遅いと…ダークネヴュラに送られるぞ」

その言葉を聞いて、更にスコーピオンは震える。

「し、心配には及ばん。カメレオンの目的は、セシリア・オルコットを陥れること。彼女の面子を叩き潰せる決闘の日まで、目立った行動は取らないのだ。その目的を果たしたときこそ、カメレオンは新たな使徒に覚醒するはず」

スコーピオンの説明に対して、レオは鼻で笑ったように返す。

「そんなことより、君は新たな使徒を見つけられそうか?」

「オレにオマエの仕事を押し付けるな!」

レオは突如として怒声を発し、スコーピオンに襲い掛かった。

その動きは早く、肉眼ではまともに視認出来ないほどだ。見えるのは黒い霧と小さな光の残像。

ドゴオオオオオオオォ!

「グオオアアアアアアァ!?」

強烈な一撃を受けて、スコーピオンは吹き飛ばされた。

「…良いか、使徒を探すのはオマエの役目だ。オレはオレで動く。自分の仕事くらい、自分でこなせ!」

そう吐き捨てて、レオは歩き去った。

「お…おのれェ…!」

 

そして1週間が経ち、クラス代表決定戦の時が来た。

アリーナで見物する生徒たちの注目を一心に集めているのは…。

「あら、逃げずに来ただけでも、褒めて差し上げますわ」

「オマエも良く来たな」

理雄とセシリアである。どちらもISを起動させている。

「さて…オレは勝つ必要はないんでな」

「あら、負けを認めますの?」

 

「…勘違いするな、時間稼ぎだ」

 

そういった理雄の表情は、いつもの不良気質ではない。

よくは分からないが、セシリアにはそう感じた。

「それでは、始め!」

試合開始の合図が流れると、セシリアは一気に武装を展開した。

そこから放たれるビームの嵐。

「さぁ踊りなさい…私とブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

「下品な曲だな…!」

理雄は左手の武装からムチのようなエネルギーを放出し、そのビームの嵐を避ける。

「チッ、相手の手数が多すぎだ…。まぁ、時間稼ぎができればそれで良い…!」

 

その頃。

一夏は待機室で座り、緊張をほぐそうとしていた。

「よう、一夏」

そこに現れたのは宇月。少しだけ笑いながら、一夏の肩に手を置く。

「安心しろ、カメレオンのスイッチャーは見つかった。後は試合に臨むだけだ!」

「あ、あぁ…」

「…不安、みたいだな」

宇月が言うのも無理はない。作戦自体は立てたが、実践で通用するとは限らない。

さらに、彼を押しつぶしそうなのは…。

「箒やおまえが助けてくれたのは分かってるけど…それだけプレッシャーも強いんだよ」

「別に「勝て」だなんて、言ってないだろ?」

意外な一言を漏らした宇月。

「おれ達は、出来る全てのことをやった。それをセシリアに思いっきりぶつければ良い。それが例え敗北でも、なにか掴めるモノはあるだろ?」

そういった後、あっと思い出したように言う。

「…でも彼女に勝てなきゃ、紫苑が浮かばれないな」

「あの…別に死んでないよ?」

いつの間にか、開いているドアの前に立っていた紫苑。

「うお、いつの間に!?」

「ご、ごめんね!盗み聞きするつもりはなかったんだけど…「掴めるモノはある」ってところから…」

紫苑は頭を下げて謝った後、一夏の所へ行き、彼の手を握る。

「僕も勝ってなんて言わない。でも、君の全力をぶつけて。…応援してるから」

「…あぁ!」

 

アリーナでの試合は両者一歩も引かずといったところだ。

「…あなたが初めてですわ。わたくしと戦って、ここまで長持ちしたのは…」

セシリアの表情に少しだけ焦りがあった。彼は攻撃を一度も受けていないのだ。

「…掛かったな」

「え…?」

 

「武器は…もう尽きただろ?」

 

その瞬間、左手のムチをセシリアに放つ。

「くっ…!」

一瞬故に、セシリアは避けられずに捕縛された。

「消耗戦だという事すら分からなかったのか。こっちはただ避けただけ。オマエは武器を乱射。普通に考えれば分かるだろ?」

勝ち誇ったように言う理雄は、一気に距離を縮める。

「終わりだ…丁度5分!」

 

「…分かってましてよ?」

 

セシリアは腰部分からもビームライフルを出した。

「このわたくしが、何も考えずに乱射すると思って?」

ここから一撃を放てば、相手には大きなダメージを追わせられる。

なのに、理雄は全く同様していない

「…だろうな。良く見ろ」

「…!?」

見ると、捕縛していたムチは銃口に入り込み、損傷を起こしていた。

これでは発射できない。

「改めて…終わりだ!」

右手にある刀が、セシリアに向かっていく…。

 

だが…

 

「…え?」

攻撃が当たらない。

「もう良い。時間稼ぎは終了だ」

そう言いながら、理雄は離れて霧裂を解除する。

そして、アリーナに向かって呼びかけた。

「飽きた。オレの負けで良い」

この戦い、間違いなく理雄が勝っていたが、彼は勝利のチャンスを逃した。

「勝者、セシリア・オルコット!」

 

箒はモニターで2人の戦いを見ていた。

「裾迫…強いな。あれは事実上、勝ちだ」

次はセシリアと一夏。彼女のISの修理が終わり次第、すぐに開始される。

「頑張れ…一夏」

一夏の勝利を願う箒。

 

そこへ…。

 

「そろそろ準備が整ったわ」「な…カメレオン!?」

そこに現れたのはカメレオン。

「スコーピオン様も応援してくださっている。セシリア・オルコットは…アタシが潰す!」

宣戦布告なのだろうか…。試合会場へ向かうカメレオン。

「そこまでだ!」

振り返ると、フォーゼドライバーを装着した宇月がいた。

<3>

「この戦いは、おれ達の全てを込めた戦い。邪魔はさせない!」

<2>

「アタシの邪魔はいいってことなの?」

<1>

「邪魔じゃない…止めるんだ。変身っ!」

そう言って、宇月はフォーゼBSに変身した。

「おまえ…セシリアと同じイギリス人の子だろ。一夏を推薦していた子」

「…!?」

突如、正体を見破られた。

「1週間、探って分かった。セシリアにぶち壊しにされたって言うのは…おまえが代表候補生から蹴落とされたんじゃないのかって思ってな。すぐに見つかったよ」

「そうよ。アタシは死物狂いで頑張ったのに…アイツが全部奪ったの!」

「多分…セシリアも同じだ」

フォーゼBSは、以外にもセシリアを擁護した。

「宇月…?」

「紫苑から聞いたけど、候補生ってのは、並の努力じゃなれないらしい。セシリアだってそうだろ。だからって、紫苑を傷つけたのは許さないけどな」

カメレオンを指差すフォーゼBS。その指先は彼女の心の奥さえも指しているようだ。

「でもおまえは、スイッチに頼った。そういう意味では、自力のセシリアの方がまだ頑張ってる」

指差した手を開いて差出す。スイッチを渡すように言っているのと同意義だ。

「スイッチに頼っても、何も得られない。だから人間の力で勝負しろ。人間には誰でも可能性がある」

説得が通じたのかカメレオンはスイッチを切り、イギリス人の女子生徒に戻った。

「…変わり者ね、白いロケットさん」

「フォーゼです…」

そう言って、スイッチを渡そうとする。

 

「私達の邪魔も勘弁願いたい」

 

「おまえ…!」「スコーピオン!?」

そう言って現れたのはスコーピオン。

「カメレオン、最後のチャンスだ。セシリア・オルコットを不幸のどん底に陥れられるのは、今しかないのだよ?」

「す、スコーピオン様…。あたし…やっぱりスイッチなんか使いません!」

女子生徒は叫びながら、スコーピオンにスイッチを投げつける。

それをキャッチしたスコーピオンは、一気に雰囲気が変わった。

「使えないゴミが…!」

<LAST ONE>

スイッチの形が変形し、それを確認したスコーピオンは女子生徒を背中の尾で捕まえる。

「きゃあっ!」

「おい!その娘を放せ!」

フォーゼBSが彼女を解放させようと近付くも…。

「退けエエエェ!」

ドガアアアアアァ!

「ぐああっ!?」「宇月!しっかりしろ!」

足蹴りで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「いやっ!離して!」

「貴様の意志など関係ない。星に願いを込めた代償を…!」

スコーピオンは、女子生徒に無理矢理スイッチを握らせ、押させた。

「いやああああああああああああぁ!」

その途端、女子生徒とカメレオンは2体に分離した。

「自分の意志以外でラストワンを押した場合、スイッチの中にある魔力が人格を形成する。さぁ…試合を台無しにするのだ」

「クルルルルル…!」

人の声を失ったカメレオンは、スコーピオンの意志に従い、アリーナに向かった。

「スコーピオン、てめぇ!」

「君の相手は私だ。今日はもっと相手が出来そうだ」

スコーピオンはそう言って、クロークを脱ぎ捨てた。

「…箒!一夏に教えろ!カメレオンが向かってる!」

「わかった!」

 

アリーナでは、戦闘開始の合図が鳴り響いた。

「さぁ…覚悟なさって!」

「行くか…!」

セシリアはブルー・ティアーズを、一夏は白式を展開。

「あなたも、このワルツで踊りなさい!」

先ほどと同じ戦闘を行なう。ビームの嵐が一夏目掛けて襲ってきた。

「分析どおりだな!」

しかし、それを全く苦にもせず避ける。

「そんな…こんな正確に避けるなんて…!?」

「おれ達の力をなめるなよ!」

確かにビームの軌道を操れる力は厄介だ。だが、その武器を使っている間、他の武器は使えない。

白式は武装が少ない分、機動性に長けている。その速度を利用すれば、相手の懐に入り込むことも容易い。

このことを1週間かけて、宇月、箒、一夏、山田の3人で分析し、戦法を編み出したのだ。

「使わせてもらうぜ、千冬姉!」

誇らしげに叫び、主な武装である「雪片弐型」を装備する。これは、姉の千冬が使っていた「雪片」の後継にあたる。

「…千冬姉、もう守ってもらわなくていいからな!」

雪片弐型を振りかざし、セシリアの懐に向かう一夏。

 

離れた場所のモニターで、山田と一緒にその試合を見ている千冬。

「…守らなければならん。まだまだ未熟だ」

「織斑先生…」

厳しそうな目つきだが、誰にも聞こえない声で言う。

「ふ…『おれ達』か」

 

セシリアの全ての戦法は、ほぼ意味がなかった。理雄のような感覚やその場の対応ではない。練りに練って、じっくりと攻略法を熟知した戦い方だ。

「はああああああああああああああぁ!」

ここで攻撃が当たれば、間違いなく勝てる。

だが…。

 

ドガアアァ!

 

「きゃああああああぁ!?」「オルコット!?」

何かの衝撃を受け、セシリアのブルー・ティアーズは急降下する。

不安定な態勢ゆえに、このままでは地面に激突する。

「くっ…間に合え!」

速度を最大にして、セシリアを救助に向かう。それに気づかない彼女は、とっさに目を閉じるが…。

「間に合ってよかった…!」「織斑さん…!」

なんとか一夏はセシリアの救助に成功した。

丁度そのとき、箒が現れて一夏に呼びかけた。

「一夏ぁ!ラストワンのカメレオンがここに来ている!気をつけろ!」

「宇月はどうした!?」

やはりカメレオンが邪魔をしたようだ。だがゾディアーツ相手ならば、宇月のフォーゼが有利なはず。彼の居場所を聞くが…。

「今、スコーピオンと戦っている!当分、こちらには来れない!」

「そうか…持ちこたえなきゃな!セシリア、行けるか?」

この状況では、セシリアの協力が必要だ。しかし彼女は…。

「なんでわたくしが、そんなことを…。誰かの前座なんて御免ですわ!」

「いい加減にしろ!」

一夏に怒鳴られて、びくりと驚いたセシリア。

「おまえ、代表候補生だろ!そんな意地を張ってどうする!?…クラス代表なら、代表らしい誇りを見せてみろ!」

「織斑さん…」

セシリアは驚いていた。自分の中にある「男」の印象を覆している、この少年達。

とくに一夏のこの目を見ていると…。

なにか動かされるような気がする。

一夏は、相手の居場所を探ろうとしたとき…。

 

「ぐああああああああああああぁ!」

 

アリーナの壁を破壊して、フォーゼBSが吹き飛ばされてきた。

開いた穴から、スコーピオンも現れる。

「やぁ。ご機嫌如何かな、IS学園の諸君」

「きゃああああぁ!」「怪物よ!」「助けてえええええええぇ!」

突如現れた怪物に、試合観戦していた生徒は取り乱しながら逃げ惑う。

「フフフ…。この程度で逃げ出すとは…IS乗りという者も、その程度らしい」

スコーピオンは、生徒達の姿を楽しそうに見物しながら笑う。

「何者ですの、あなた?」

セシリアの問いに、スコーピオンは更に可笑しそうに言う。

「聞いていないのか?ゾディアーツ…その選ばれた12使徒、ホロスコープスだよ。さて、専用機の力とやら、見せてもらおうか?」

スコーピオンは両手を広げて、攻撃を待っているような素振りを見せる。

彼の挑発に乗ってはいけない。フォーゼでも全く歯が立たない相手だ。

「セシリア、やつは…!」

「代表らしく…戦わなきゃいけないんでしょう?」

セシリアは穏やかな笑みを一夏に向け、スコーピオンに狙いを定める。

「うけてたちます!はあっ!」

再び来るビームの嵐。

「ムン!ヌオォ!」

それを紙一重で避けながら、セシリアの懐まで入り込んだ。一夏よりも遥かに早く。

「ゼエエェアァ!」

ドガアアアアアァ!

「ああああっ!」

強烈な蹴りを受け、セシリアのISは解除され、それを一夏が抱きとめる。

「セシリア、大丈夫か!?」「え、えぇ…平気ですわ」

何故だか分からないが、セシリアは一夏から顔を背ける。

「この程度か。やはりIS如きでは宇宙へ旅立てん。…カメレオンは使い物にならない。後片付けを頼めるかな?」

「まてっ、スコーピオン!」

一夏が追おうをするが、それは敵わなかった。

ドガアアァ!

「ぐうっ!?」

さらに透明になったカメレオンからの追い討ち。セシリアを闘争本能だけで狙っているため、彼女を抱きかかえている一夏を狙うのだ。

「何か手は…そうだ!」

フォーゼBSはビートスイッチを取り出してオンにする。

<BEAT ON>

「みんな、耳を塞げ!」「あ、あぁ!」

フォーゼBSの警告の後、右足に現れたビートモジュールから強烈な音波が流れ、カメレオンを苦しめる。

「クルルルァァ!!」

集中が途切れたのか、カメレオンは姿を現し、頭を抱えているために隙だらけ。

「今なら…」

<ROCKET-ON><DRILL-ON>

右手にロケットモジュール、左足にドリルモジュールを装備し、空を飛ぶ。

更にレバーを押して…。

<ROCKET DRILL LIMIT-BREAKE>

「行くぞ!ライダァァァ…ロケットドリルキィィック!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

フォーゼBSのリミットブレイクがカメレオンに激突。残されたスイッチをオフにして、消滅させた。

 

倒れていた女子生徒が目を覚ます。

視界には、宇月、一夏、箒、セシリアがいた。

「あ…助かったの?」

「おう!気分はどうだ?」

「う、うん、大丈夫…」

罪悪感に苛まれているせいか、俯いている女子生徒にセシリアが近付いた。

「今のあなたでは、わたしには勝てなくってよ」

「オルコット、おまえ!」

こんなときでも、酷い言い方をするセシリアに、箒も反論しようとするが…。

「でも、あなたが必死に努力していた事は認めますわ。わたくしに勝ちたかったら、もっと努力して出直してきなさい。いつでも相手になりますわよ」

そう言ってセシリアは、その女子生徒を抱きしめた。

「…待ってなさいよ…!」

女子生徒は、涙を流しながら答えた。

 

次の日。

手紙を見ている宇月。送り主はかつての友人。

「マジか!来週、転入する男2人の内の1人は礼か!」

「れい…?」

聞きなれない名前だ。

「礼は、おれの中学時代の友達。星空高校だったけど…ISが使えるようになったみたいだ!」

「そうか、古い友達がいるのは良い事だな」

「だろ!?」

ラビットハッチの道を一緒に歩く宇月と箒。

箒の腕には、今回がんばっていたバガミールが大切そうに抱きかかえられている。

「宇月、バガミールの他にフードロイドはあるのか?」

「あぁ…。シザースとフラッシュのフードロイドを調整中だから、あと3日もすれば、ロールアウトする予定」

現時点で、アストロスイッチは10、20、30、31、40以外は全て調整完了している。フードロイドも充実させたいと、現在は調整中なのだ。

とりあえず、間もなく2体のフードロイドが完成する。

「ホントか?ホントなんだな!?」

「こんなことで、嘘つくかよ」

どうやら、箒はフードロイドの虜になったようだ。

「あの…宇月、お願いだ。わたしに、この子達の世話係をやらせてくれ!」

彼女はスイッチャー探しも任せてもらっている。偵察用のフードロイドを担当させるのは、好都合かもしれない。

「まぁ、良いけど。じゃあ今日、ある程度の操作方法を…」

「やった…!これからよろしく、バガちゃん!」

「聞いちゃいない…」

すでにバガミールにニックネームまでつけている。まぁ、こんなに大切にしてくれるなら大丈夫だろう。

見えてきたラビットハッチの扉を開けると…。

 

「…なんだこれは?」

 

ラビットハッチに様々な装飾が飾られている。犯人は…。

「あら。宇月さんに箒さん、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう」「セシリア…?」

セシリアだ。彼女好みの概観に改装されてしまっている。

「わたくし、一夏さんにクラス代表をお譲りしましたの。今度、改めて紫苑さんにも謝りますわ」

「本当か!さすがイギリス代表候補生!」

彼女の行動を知って、喜ぶ宇月。掴めたモノはあったのだから。

 

「その代わり、仮面ライダー部に入部しますわ!」

 

「マジかよ!…え?」

喜んでいる途中で、不思議な感覚になって聞きなおす。

「だから、わたくしも仮面ライダー部に入部しますわ!」

「…誰が喋った?」

既に入部しているメンバーを見渡すと…。

箒はバガミールを撫でている。

山田は困ったように笑いながら、残りの一人を見ている。

そして一夏は目を背けている。

「一夏、おまえかぁ!?」「すまん!セシリアに後を付けられたんだよ!」

怒りが爆発した宇月は、一夏を追い掛け回す。

「こんのやろおおおおおおおおおおぉ!他言無用だろうがああああああぁ!」

「すまないいいいいいいいいいいいぃ!」

舞台にしては狭いラビットハッチで、鬼ごっこが開始された。

「ふふ…賑やかでよろしいですわ」

こうして、仮面ライダー部にあらたな部員が入部した。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                     その情報、古いわよ!

 

鈴!? 

 

まぁた、幼馴染かよ!?

 

2組のクラス代表、変わったって

 

 

                         恨まれるやつ、多すぎだろう?

 

少し…動いてもよろしいでしょうか?

 

                         この近くに隕石が落下…?

 

礼がいないと、スイッチ調整が出来ないからな…

 

 

 

 

第5話「第・二・幼・馴」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット

白石紫苑
裾迫理雄

イギリス人の女子生徒=カメレオン・ゾディアーツ

山田真耶
織斑千冬

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ




あとがき
如何でしたか?
ちょっと、作戦立てていた割には実践シーンが少ないような気がしますし、セシリアの心変わりもちょっと急すぎたかもしれませんが…まいっか(爆)!
スコーピオンとレオの関係性もちょっとだけ。
次回は原作どおりセカンド幼馴染が来ます!いろんな伏線もはりますよ!
おたのしみに!


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第5話「第・二・幼・馴」

 

「紫苑さん、あのときは本当にごめんなさい」

「や、やめてオルコットさん!顔を上げてよ!?」

セシリアは日を改めて、紫苑に謝った。

彼女の持っている男に対する考え方が、一夏たちによって大きく変えられたからだ。彼女の父親は婿入りの身で、母親家族にいつも頭を低くして、ビクビクしていた。父のような存在は絶対に認めたくなかったのだ。

そして、一夏や宇月はそれを覆す存在だった。決して卑屈にならず、常に強い意志を持っている存在。

特に、自分のことを守ってくれた一夏には恋愛的な感情さえ湧き上がっている。

そして、セシリアが仮面ライダー部に入部して数日後の放課後。

宇月達のいるクラスは、ある話題で持ちきりである。

「今週末、クラス対抗戦だよね!」

そう、ISのクラス対抗戦。クラス代表は一夏なので、彼が頑張りを見せる機会である。

「一夏さん、仮面ライダー部のメンツにかけても、負けられませんわよ!」

「あぁ、任せとけ」

一夏は、セシリアの激励に対し非常に爽やかに返した。

それに対して、セシリアの腕をツンツンと指差し、コソコソと言う宇月。

「あのさ、メンツにかけるのはいいけど、仮面ライダー部のことをあんまり口外するな」

「あ…ごめんなさい。気をつけます」

フォーゼが表沙汰になるのは、出来れば避けたいようである。その方が活動も面倒ごとが起きないため、より円滑にゾディアーツ対策が行える。

だが…。

 

「知ってる?あの仮面ライダーが、この学園にもいるんだって!」

 

もう遅いようだ。すでに仮面ライダーの存在が認知されている。

実際、クラス代表決定戦でフォーゼやスコーピオンが視認されてしまっている以上、避けようのないことだ。

「手遅れ…のようですね」

「…正体知られない限りは、まだ大丈夫…きっと」

宇月は自分に言い聞かせた。

気づくと周りの話は再び、クラス対抗戦の話に戻っていた。

「まぁ、専用機持ちのクラス代表は、この1組以外、4組だけだから楽勝ね!」

1人の女子生徒が自信満々に言っていた。

 

「その情報、もう古いわよ!」

 

唐突に、クラスの入り口から別の女子生徒が口を挟んできた。

随分と気が強そうな印象がある。箒と並んでいる気がした。

「あ…鈴か!?」

呼びかけ方が、古い馴染みの友人との形によく似ている。いや、そのものだ。

と、言う事は…。

「まぁた、幼馴染かよ!」

宇月の大きな声がクラスに響いた。そして聞こえるヒソヒソとした話し声。

「あの子って、たしか…」「中国の代表候補生よね…」

どうやら、鈴と呼ばれた彼女も代表候補生であるようだ。

「そろそろ自己紹介しろよ。宇月達がなんて呼べば良いか、わかんないだろ」

彼女が一夏と話を再会しようとしていたので、そのまえに宇月が鈴に自己紹介を求める。

「それもそうね。あたしは鳳鈴音、中国の代表候補生」

「あ、中国人なのか。てっきり日本人かと…」

宇月が言うのも理解できる。中国人は日系なので、日本人と見た雰囲気に大差がないのだ。さらにセシリアに続き、日本語が流暢。判断するのは名前くらいだろう。

「そうだ、おれは城茂宇月。よろしくな」

手を差し出した宇月だが、鈴音は無視して一夏の手を引っ張って、教室から外に出た。

「なんだよ、感じわる。なぁ箒…」

共感を求めようと、箒の方を見ると…。

「…」「む~」

彼女も不機嫌そうだ。隣にいるセシリアも口を膨らませている。

「…なんで?」

 

それから少し時間が経ち…。

2組の誰もいない教室で、一人の女子生徒が拳を強く握っていた。

「…過去の栄光が忘れられないようだね?」

「なによ、アンタ!?」

そこに現れたのは、スコーピオン。右手にはゾディアーツスイッチが握られている。

「君も素晴らしい力の持ち主だ。彼女達はそれを理解できなかったようだが、私は違う。もっと強くなれると信じているよ。ただ…今の状態では、彼女達に認めさせることは難しい。ならば、それ以上の力を持てば良い」

甘い誘惑の言葉を並べながら、スイッチを女子生徒の目の前にそっと差し出す。

「これは…?」

差し出されたスイッチを恐る恐る手に取る女子生徒。

「君を栄光の座に返り咲かせる道標だよ。さぁ…星に願いを…」

 

鈴音によって、屋上につれてこられた一夏。

「おい、どうしたんだよ急に?」

「久しぶり、一夏。会いたかったわ!」

2人きりになった途端、ニッコリとして一夏と再会を喜ぶ鈴音。

「お、おぉ。久しぶりだな。でも、どうして急に?」

「あんたがこの学園に入学したって聞いたから、転校してきたの。もともと、中国の代表候補生として声が掛かってたから、すぐにOKが出たのよね」

得意げに言う鈴音。かなりの自信家のようだ。

「そっか。おれも会えてよかったよ。元気そうだしな」

一夏も純粋に彼女との再会を喜んだ。

「そ…それでさ。あの約束…覚えてる?」

「約束…もしかして、酢豚を食べさせてくれるってヤツか?」

「そう!」

実は鈴音、幼い頃から一夏に積極的なアプローチをとっていた。

だが、残念な事に…。

「あれって、酢豚を奢ってくれるって事か?」

この一夏、かなりの鈍感であり、これを恋愛的な意味合いでとっていなかったのだ。

悪意がないのだから、さらにタチが悪い。

「…もぉ知らない!」

もちろん、鈴音はご立腹。プイっと顔をそっぽに向けた。

「おい、一夏と鈴音!急にどっかいくなよなぁ!」

その声と共に、宇月と箒にセシリアが現れた。

「一夏、その娘が幼馴染って言うのは…」

箒が尋ねると、一夏は思い出したように言い始めた。

「そういえば、箒とは入れ替わりだったな。箒が転校してすぐに、おれの小学校に転校してきたんだよ鈴は。まぁ言うなれば、鈴は「セカンド幼馴染」で、箒は「ファースト幼馴染」ってところだ」

「ファースト…か。そうか…」

どうやら、その発言は箒の気分を良くしたものだったようだ。逆に鈴音は不満そうな面持ち。

「エヴァン…」「宇月さん!その発言はダメですわ!」

これはいろいろとマズい。主にメタ的な意味で。

「そうだ、一夏さん!食堂で、一夏さんのクラス代表就任パーティーをやるみたいですわ。早く行きましょう」

「強制参加だってよ。主役がこんなところで油売ってるんじゃねぇ!」

セシリアと宇月がこの場の状況を切り抜けるため、本来の目的を述べて一夏を引っ張っていった。

「うおぉ!?」

「あ、一夏!」「こら、まちなさぁい!」

 

一方、紫苑は自室で相変わらず溜息をついていた。

「白石君…いますか?」「は、はい」

ノックが聞こえて、山田が現れた。

「今日、クラス代表が織斑君に決まったお祝いをするそうですよ。いかないんですか?」

「僕は…いいです。織斑君には迷惑をかけましたから…」

空を見ながら言う紫苑。

「オルコットさんも君に謝りましたし、織斑君達も気にしてないですよ」

「行けないんです。だって僕は…クズですから」

山田は、彼が自分をクズ扱いする理由をしらない。彼女は副担任なので、生徒の過去の記録を見られないのだ。

「あの…なんで自分をクズって言うんですか?」

「教えたくないです。どうしても…」

理由を問うが、後をむいたまま首を横に振る。

「相談しないと…何も解決できませんよ。わたしは教師ですから、なんでも…」

「山田先生は優しい先生だと思います。でも…こればかりは…」

どうしても理由を明かそうとはしない。山田は心から彼を救いたいと思い、もう少しだけ粘ってみようとした。

「言ってみてください。わたし、なんでも受け入れてみせますから…」

「嫌です。言いたくないです」

相変わらず、顔を見ようともしない。紫苑の所へ行き、彼の肩に手を置く。

「お願いですから…」

その瞬間…。

 

「黙れぇっ!!!!」

 

ドカッ!

「きゃあっ!?」

「中途半端に関わるなぁっ!!」

今までの紫苑とは思えないほどの声で拒絶し、山田を突き飛ばした。

突然の事で山田は何が起こったのかが理解できなかった。

「…あっ!?ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

我に返ったのか、顔を歪ませて謝りながら山田を抱き起こす紫苑。

「へ、平気です。わたしこそ、ごめんなさい…。イヤなのに無理矢理、聞いたりして…」

「違います…。山田先生は悪くないです。僕の事を心配してくれてるのに…」

ずれたメガネを掛け直し、困ったように笑う山田。

「…ありがとうございます。お邪魔しました。また明日、教室で逢いましょうね」

「はい…」

肩を落としながら、山田は紫苑の部屋から出て行く。

「あの…!」

「はい?」

紫苑は最後に山田に声をかけた。

「僕…織斑君達のところに行ってみます。山田先生の行動を無駄にしたくないですし…やっぱり、独りぼっちは寂しいですから…」

「…はい!」

 

それから…。

「「「「織斑一夏君。クラス代表就任、おめでとう!」」」」

少し遅れて紫苑が到着し、ささやかなお祝いが行なわれた。

「それにしても、一夏がクラス代表だなんて。自己紹介の時はボキャブラリーのないヤツだと思ってたのにさ!」

「おい、そりゃないだろ!?」

「あはは…誰だって緊張するよ。僕もダメダメだったし」

宇月の豪快な笑い声と共に、一夏の情けない声、紫苑の優しくフォローする声が食堂に響く。

「いやぁ、めでたい!食欲も増すな!」

「た、食べ過ぎだよ…」

宇月は、料理を手当たり次第に食べ、底なしといえるほどだった。主役の一夏など、全くお構いなく。

一方、女子組の一部…というより、箒、セシリア、鈴音の3人は…。

「うわぁ…」

他の女子生徒が引き下がるほど、火花を散らしている。

「おいおい、そんな眉間に皺寄せすんなよ。今日はお祝いだぜ?」

「黙ってろ!」「黙っててくださる!?」「うっさい!」

「はい…」

宇月が軽いノリで3人の険悪な雰囲気を解決しようとしたが、返り討ちに遭った。

 

「こんばんは!インフィニット・ストライプスの者です!」

 

そこへ現れたのは、記者のような挨拶で登場した女子生徒。

「クラス代表になった、初の男IS使い「織斑一夏」の特集を組みたいんです!」

「あ、あぁ、良いけど…」

戸惑いつつも、快く引き受ける一夏。だが、いろいろなインタビューが待っていた。

一通り終わると…。

「あ…君は2人目の男IS使いにして、初回起動で史上初の「適性度S」を叩き出した城茂宇月君!?」

「は、はぁ」

次の獲物は宇月らしい。

だが…。

 

 

『初回でS!?』

 

 

その場にいる一同が驚愕した。

「なんだよ、そんなに珍しいのか?」

訳が分からず、ポカンとしたまま答える宇月。

「城茂君!適性度Sって、織斑先生みたいな「ヴァルキリー」や「ブリュンヒルデ」並の人じゃないと、なれないんだよ!?…世界でも10人に満たないくらい!」

「マジか!?」

紫苑が慌てて説明すると、宇月もその凄まじさに驚く。

「セシリアや鈴音は、代表候補生だからSSくらい行くものかと…」

「あたしだってAよ!?」「わたくしも同じですわよ!」

早速、女子生徒たちから興味の的にされた。女とはイロモノや強いモノに惹かれるようだ。

「城茂君、クラス代表にならなかったのは理由があるの?」

「適性度Sだって黙ってた理由は?」

「あ、えーと…その」

一夏と共に宇月も、もみくちゃにされてしまった。一方、弱いものは相手にされない。

その証拠に、強さの欠片もない紫苑は完全に蚊帳の外。

「なんだろう…複雑」

そのとき…。

 

ドガアアアァ!

窓が突き破られ、一体の怪人が現れた。その身体は犬を模しているようだ。

「鈴音!アンタをその地位から引き摺り下ろしてやるわ!」

「きゃああああぁ!?」「う、うわあああああああああああああああぁ!」

集まっていた紫苑や女子生徒は一目散に逃げる。

一方、箒とセシリアは事態がある程度把握できるため、逃げ出す事もなく、鈴音は持ち前の気の強さで持ちこたえている。

「なんなの、この怪物!?」「猟犬座…ハウンドだな!」

宇月の分析どおり、この怪人は「ハウンド・ゾディアーツ」。

彼女の言葉からして、鈴音に恨みを持った者がスイッチャーである可能性が高い。

「…恨まれてるやつ、多すぎじゃね?」

似たパターンが2度も続いたので、少々呆れながらも、フォーゼドライバーを装着する。

4つのスイッチを押して拳を構える。

<3>

「箒、バガミールで分析を頼む!」

<2>

「あぁ!バガちゃん、行くぞ!」

<1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変身した。

「はぁっ!」

「うわ、仮面ライダーだ!」

すっかり、鈴音がいることを忘れて変身してしまった。また一人、正体を明かしてしまう羽目になった。

「あっ!?しまったぁ!」

「隙ありッ!」

ドガアアアアアァ!

「どああっ!」

自分の行いに後悔し、頭を抱えていたフォーゼBSを思い切り切り裂くハウンド。

よろけた拍子に、食堂の机を破壊してしまう。さらにその机の上にあった食べ物は地面に散乱。

大喰らいのフォーゼBSは、そのことで頭に血が昇った。

「あぁ、ご飯が!このぉ、食い物の恨みぃ!」

<SCISSOUS-ON>

鋏のような形をしたシザースモジュールを装備し、ハウンドに襲い掛かる。

「うおりゃああああああああぁ!」

ズババババババババ!

「クッ!ウアッ!」

戦い方がメチャクチャだが、一応優勢ではある。

「あたしも見てらんない!」「お、おい鈴!?」

鈴音は、口より先に手が出てしまう性格。この戦いも黙ってみている訳には行かないようだ。

なんと、この場でISを展開する。と言っても、右手だけの部分展開だが。

「ロケット頭!あたしも加勢するわよ!」「ロケット頭だと!?」

食って掛かるフォーゼBSだが、鈴音はお構い無しにハウンドに攻撃を仕掛ける。

「はあああああああああああぁ!」

ドゴオオオオオオォ!

「キャアアアアアアアアアァ!」

その威力は凄まじく、ハウンドは全く無抵抗のまま、吹き飛ばされてしまう。

「鈴音、強いな!さすが中国代表候補生!」「でしょ?」

なんとなく、意気投合してきたようだ。

「あぁもう、頭来た!」

そう言い放った瞬間、ハウンドの動きが俊敏になった。

ズガァ!ドゴォ!

「ぐあっ!」「きゃあっ!」

肉眼で追いつける動きではなく、攻撃を受けてしまった。

「くそ…早い相手には…これだ!」

<WINCH-ON>

クレーン式のウインチモジュールを装備し、近くの柱に低く括りつける。

ガッ!

「ヒャアッ!?」

それに足を引っ掛けたハウンドは、床に倒れこむ。

「良いですわ!その調子!」「よし、リミットブレイクだ!」

セシリアや箒の言葉に呼応し、ロケットとドリルをオンにしようとするが…。

「ハアッ!」

ドガアアアァッ!

「ぐっ!?」

何者かに阻害され、フォーゼBSは床を転がる。

「また怪物!?」

「はじめまして、中国代表候補生よ」

そこに現れたのはスコーピオン。挑発気味な口調で両手を広げる。

「鈴、逃げろ!そいつはハウンドと格が違う!」

「面白いじゃない。勝負よ!」

一夏の静止も聞かず、スコーピオンに攻撃を仕掛けるが…。

「愚かな…。ヌンッ!セアアァ!」

ガッ!ドゴオオオオオオオオオオオォ!

「ああああああああああああああぁっ!」

攻撃を足で防ぎ、軽々と蹴り吹き飛ばす。全く歯が立たない。

「ハウンド、一旦ここは退こう。もっと君の力を伸ばしてから挑戦するのだ」

「はい、スコーピオン様…!」

そう言って、フォーゼBS達を残し、スコーピオン達は姿を消した。

 

ラビットハッチに戻り、作戦の構想中。

だが、いつもと違うのは…。

「なんで鈴音がいるんだよ」

「あんたには任せられないわ。あたしがやる」

そう、鈴音も強引にラビットハッチについてきたのだ。

「…まぁ、良いや。なんかどうでも良くなってきた気がしたよ」

山田はバガミールのデータをコンピュータに送る作業をしている。データの転送などは普通のパソコンと動作は変わらないので、彼女にも出来るのだ。

「城茂君、終了しましたよ!」「お疲れ様、バガちゃん」

分析結果を、宇月に渡す山田。バガミールは役割を終え、箒とじゃれあっている。

「ありがとうございます、先生。え~と、ハウンドの特性は…あの速さか。しかもパワーも兼ね備えてる…厄介な敵だな。礼がいないと、スイッチ調整も進まないし…」

コンソールを指で叩きながら、分析している。

「なぁ。さっきはISでゾディアーツと戦えたけど、おれやセシリアが戦えば、ハウンドくらいなら倒せるんじゃないのか?」

ふと気になった一夏の質問。たしかにゾディアーツにISの攻撃は有効だった。わざわざフォーゼに変身せずとも、専用機持ちならば2~3人で倒せるのではないのだろうか?

「まぁ、物理攻撃は有効だろうけど、結局のところ、目には目、歯には歯を。負のコズミックエナジーを浄化できるのは、本来のコズミックエナジーを使うフォーゼだけ。倒したとしても、スイッチはオフに出来ないだろうな。ISのことなんか、さっぱりわかんないけど」

言われた事はなんとなく理解できた。とにかく、トドメはフォーゼのリミットブレイク以外に方法はない。

「わたしの知ってる限りでは、ISにコズミックエナジーに対する有効な攻撃手段は持ちえないはずですわ。コズミックエナジーの研究さえ、まだ進んでないのですから」

セシリアもISについての知識を持って、個人の分析を行なった。

「やっぱりな。でも確か…」

そう言いながら、別のコンソールを打つと…。

近くのハッチが開かれて、巨大な機械と白いバイクが現れた。

「これは…?」

 

「スクラップになった母さんのISを改造したモノ。名前は「パワーダイザー」。バイクはコズミックエナジーを原動力に動く「マシンマッシグラー」って言うんだ」

 

「さっきの戦いで思ったんだけど…」

宇月は鈴音を見る。

「な、なによ…?」

「パワーダイザーの操縦、やってみないか?操作方法はある程度、ISと同じだから」

「はぁ!?」

いきなりの申し出に、鈴音は呆れたような声で返す。

「イヤよ!なんで、あんなゴリラみたいなものを!」

明らかに拒絶するような様子を見せながら首を左右に振る鈴音に対し、宇月は悲しそうな表情で言う。

「改造上、仕方なかったんだ。本来はもっとスマートな形だったけどな…」

パワーダイザーを大切そうにさすりながら、それを見つめる宇月。

「鈴。人の母親の形見に向かって、そんな言い方はないだろ」

「あ…」

一夏の言葉で、自分の言葉の無責任さに気付いた。

「ごめん、宇月。あたし言い過ぎた」

悲しそうな表情でパワーダイザーを見つめる宇月に、素直に頭を下げる鈴音。

「…コズミックエナジー版のISみたいなものだから、ゾディアーツとちゃんと対抗できる。フォーゼと力を合わせれば、スコーピオンにだって勝てるかもしれない」

あえて彼女の謝罪には触れず、宇月は続きを言う。

「…まぁ、無理にとは言わない。ちょっと…これを動かす姿が見たいって言う、おれの願望もあったからな」

そう言って、ラビットハッチを出て行った。

 

次の日…。

理雄は珍しく、人混みの中に居た。理由は掲載新聞。

学校の掲示板に掲載されていた新聞には…。

「見てみて、また怪人と仮面ライダーが出たって!」

そう、ハウンドとフォーゼが映っていた。

さらに、隣の見出しには…

「この近くで隕石が落下だってさ…」

隕石が落下した事によるクレーターが写真として掲載されている。

その写真に…理雄以外で気付いたものはいなかったが…。

 

隅に赤い龍のシンボルが額にある仮面ライダーが映りこんでいた。

 

理雄はそれをじっと眺めながら…。

「…興味深いな」

そう言って、そこから離れた。

遠くから、その記事を見ていた千冬と山田。

「山田君。もしかしたら、あの怪人以上の脅威がやってくるかもしれない。我々も気を抜けないぞ」

「はい」

そう言って、教師としての業務に戻った。

 

別の場所では…。

レオがリブラと顔を合わせている。

「リブラ、あの隕石は…」

「分かっているよ。SOLUだね?」

彼等も隕石の事は理解しているようだ。

 

「私としても、あれは手に入れたい」

 

唐突に響く女性の声。

上から降りてきたのは…。

「…ヴァルゴ様!」

そう、乙女座の使徒にしてホロスコープスの首領「ヴァルゴ・ゾディアーツ」

彼女の出現に際し、リブラは膝を着き、頭を下げる。一方のレオは軽く会釈をした。

「ヴァルゴ様。少し、動いてもよろしいでしょうか…?」

「そのつもりだったよ。リブラ、SOLUの回収に向かって欲しい。フォーゼ達はスコーピオンが相手をするからね」

「はっ、任務をご依頼くださり、光栄でございます」

ヴァルゴ直々の依頼は、ホロスコープスの役割の中でも重要な役目。それと同時に彼等にとって最大の誇り高き仕事なのだ。

一方のレオは…。

「レオ。君は全く動いていないようだが、大丈夫かな?まぁ、君の事だから考えがあると思うが…」

「オレよりもスコーピオンの心配をしたほうが良いのでは?オレに仕事を押し付けようとしてるほど、出来損ないですからね」

今までよりも穏やかな口調で返したレオは、再び軽く会釈をして姿を消した。

その後、リブラはヴァルゴに聞く。

「ヴァルゴ様、そろそろレオの正体を教えては頂けないでしょうか?私よりも位は下であるはずなのに、彼は私の正体を知っています」

リブラはヴァルゴを除けば、ホロスコープス最古参。それなのに、彼より後に入ってきたレオの正体を知らない。逆にレオは、ヴァルゴからリブラの正体を知らされている。

「スコーピオンに関しては、レオどころか、君の正体も知らないだろう?」

「スコーピオンは、アリエスを除けば新参者です。当然でしょう」

「…だから言わないのだよ。レオは私以外に誰も素性を教えないと言う条件で、我等の傘下にいるのだから」

そう言い残して、ヴァルゴは消えた。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                             すっかり忘れてた!

 

決着をつける!

 

                             絶対に妨害するはず!

 

ポテチョキンにフラシェキーだ!

 

                             さぁて、暴れるわよ!

 

 

 

 

 

第6話「中・国・実・力」

 

 

 

青春スイッチ・オン!





キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

白石紫苑
裾迫理雄

女子生徒=ハウンド・ゾディアーツ

織斑千冬
山田真耶

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
箒の出番が少ないですし、鈴音って難しいですね(汗)。ここら辺から、ISの把握ぶりがもっと少なくなっていきます。
パワーダイザーは次回でちゃんと登場しますが、マッシグラーの出番が不安です…(汗)。
紫苑の過去…どこまで引っ張ろうかなと。一応、シャルルが登場するまでは引っ張るつもりですが…。
あと、SOLUやホロスコープスの関係も少しだけ。リブラの不憫さはこちらでも健在です(笑)。
次回は、対抗戦です。ちょっとセシリアとパターンが似るかもしれません…。
それでは…。





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第6話「中・国・実・力」

ハウンドが現れた次の日。

今日はクラス対抗戦前日。一夏は千冬から指導を受けていた。

「すっかり忘れてた!」

「全く、クラス代表としての自覚が足らんぞ」

とりあえず、一夏はクラス対抗戦の練習をやりながら、スイッチャー探しは箒とセシリアが行なっていた。

「一夏。おまえ、何に首を突っ込んでいる?」

「え…」

どうやら、感づかれているようだ。姉弟の関係は侮れない。

一応、山田にも仮面ライダー部の事は口外しないように言っているので、おそらく知られてはいない筈だが。

「具体的に何をしているかまでは聞かん。だが…無茶はするな。助けが欲しければ、私に頼め。出来る限りの事はする」

「ありがとう、千冬姉」

お互い、唯一の肉親。絆も深い。全てを教えることは出来ないが、頼もしさは感じた。

「…さて、始めるか」

 

スコーピオンは学園から少し離れた場所に、ハウンドの女子生徒を連れてきていた。

「スコーピオン様。あなたは一体…誰なんですか?」

「まだ教えることは出来ない。君が我々と同格になれば、自ずと分かるだろう。そのためにも、鳳鈴音を引き摺り下ろすのだ。そうすれば君は人の躯を捨てて、十二使徒となれる」

正体を知りたがっている女子生徒に、スコーピオンはやんわりと断り、更に優しく諭す。

その言葉の裏に狂気を秘めつつ。

「大丈夫だ、君は素晴らしい力の持ち主。私は全力でサポートしよう」

「はい!」

 

宇月は自分の部屋で写真を見つめている。

父の吾朗と母の三咲、そして幼い日の自分自身が映っている、唯一の家族写真だ。

ラビットハッチから出てきた箒。

「それは…両親か?」

「あ、箒か…。そう、父さんと母さんが映っている唯一の写真」

古びているが、そこには昔とずっと変わらない微笑みを湛えている。

気になる事を、箒はおずおずと聞く。

「宇月のお母さんは…元IS使いって言ってたな」

「あぁ、確か世界で3番目のIS使いだった。でも…千冬さんも関わっていた、白騎士事件を最後に行方不明。フォーゼに変身していた父さんも一緒に…。残されたのが、ラビットハッチにフォーゼシステムと、壊れた母さんのISだった」

少しだけ溜息をついて続ける。

「父さんの遺してくれた物は沢山あるけど、母さんが遺したのはISだけ。だからずっと倉庫で埃を被ってるのがイヤだった。ISを理解しなかったから、なんだか母さんから目を背けてる気がして…。鈴音なら、任せられると思ったけど…。ゴリラだってさ、笑っちゃうよな」

宇月の掠れた笑い声が響き渡る。

クローゼットの扉、ラビットハッチへの入り口へ続く扉の向こうで、鈴音はずっと眺めていた。

「…傷つけちゃったな」

 

クラス対抗戦の前夜…。

<LAST ONE>

「遂に到達したようだね。さぁ、勇気を振り絞りたまえ」

女子生徒は、スコーピオンに促されるままにスイッチを押した。

その肉体は、女子生徒とハウンドに分離する。

「これが…ラストワン…!」

「今なら上手くいく。君の願いを果たすときだ」

ハウンドの肩に手を置くスコーピオン。ハウンドは自分の両手を握り締めながら見つめ、自身の力を感じる。

その様子を、箒が見ていた。

「あいつがスイッチャー…。宇月に知らせないと!」

 

そして、クラス対抗戦当日。

初戦は一夏と鈴音。

「鈴。初っ端から、おまえと当たるなんてな!」

「うん…」

一夏は気合十分。大きな声で鈴音に呼びかけるが、当の鈴音はいつになく気分が沈んでいる。

「どうした?いつもの明るさがないぞ」

さすがに心配になったのか、そっと尋ねる一夏。

「あ、あのさ、一夏…」

「うん?」

鈴音は顔を上げて強く言った。

 

「あたしが勝ったら、仮面ライダー部に入れて!」

 

「り、鈴…?」

突然の申し出に困惑する一夏。

「昨日、宇月はあたしを信用して、お母さんの形見をあずけてくれたのに…あたしはそれを知らずに棒に振った。それどころか、あんな酷い事を…。もう一度チャンスが欲しい。タダでもう一度なんて思ってない。だから、一夏に勝ったら…!」

彼女の思いが理解できた一夏は、フッと笑いながら返事をする。

「あぁ!宇月にはおれから言っとく。でも、手加減はしないぞ?」

「上等、決着をつけるわよ!」

両者とも、ISを装備する。一夏は白式を、鈴音は「甲龍」を。

 

一方、観戦中の宇月とセシリア。

「さて、どっちが勝つかな…」

「一夏さんもわたくしに肉薄できたましたが、彼女も代表候補生。予想するのは難しいですわね」

2人が予測しているところへ、理雄が現れた。

「ま、あの中国女も織斑も、そこそこしか、楽しませてくれねェだろうな」

「なんですの、理雄さん?」

セシリアは明らかに敵意を見せながら、理雄に詰め寄る。

「言っておくがオレは事実上、オマエに勝った。あそこに居るのはオレでも不思議じゃないんだぜ?」

楽しそうに笑いながら、挑発気味に言う。

「何が言いたい?」

「勝者の余裕って所だ。今に分かる」

意味深な言葉を残して理雄は去っていった。

そこへ、箒がやってきた。

「宇月、スイッチャーが分かったぞ!」

「ホントか!?」

突如、大声を上げて立ち上がる宇月。観客の目線は一度、宇月達に集まる。

「あ…ごめんなさい、なんでもないです」

そう言って再び座り、改めて箒に尋ねる。

「で…誰だった?」

「2組の元クラス代表。昨日の夜で既にラストワンに到達している」

「やばいな…早くオフにしないと…!」

宇月が焦るが、その詳しい理由を聞くセシリア。

「どうして、やばいですの?」

「ラストワンに到達して、元の肉体を放置しすぎると、ゾディアーツの肉体に精神が定着し過ぎて、本当に戻れなくなる。もしそうなったら…ラストワンのスイッチをオフにした時点で精神ごと消滅して、その人間は二度と目覚めない」

 

「つまり…死ぬんだ」

 

「そんな…!?」

箒とセシリアも驚愕する。そうなれば、宇月は人殺しになってしまう。

「いま、ハウンドがどこにいるか分かるか?」

「バガちゃんに探させて、山田先生にも教師に声かけして探してもらってる。でも…」

見つかっていないようだ。宇月は頭を抱える。

「もし間に合わなかったら…見逃してホロスコープスに覚醒させるしかない。ホロスコープス化すれば、肉体が戻るから」

それは避けたい。敵の脅威が増える事を放っておくことになるのだ。スコーピオンに続く強敵が増えてしまえば、かなりの不利に繋がる。

「なんとか、ハウンドを見つけないと…!」

そう言って、宇月は席を立ってハウンドを探し始めた。

「わたしも行くぞ!」「わたくしもですわ!」

 

そして場面はクラス対抗戦に戻る。

「はあああああああああああぁっ!」

鈴音は大型の青龍刀型の武器「双天牙月」を握り締め、一夏に向かっていく。

「やばっ!」

一夏はそれを避けて距離を置き、雪片弐型を装備する。

「なかなか速いわね。でも、こっちだって!」

再び、一気に距離を縮める鈴音。

今度は武器があるため、真正面からその攻撃を防ぐ。

ガキィィン!

「くっ…!」

重い一撃だ。なんとか打開の技を考えなければいけないが…。

「隙あり…」

鈴音はそう言って、肩にある衝撃砲「龍砲」を起動させ、衝撃波を放つ。

ドガアアアアアアアアアアアアァ!

「うああああああああああああああぁ!」

防ぐものもなく、まともに受けて吹き飛ばされる一夏。

「今のはジャブだからね。次は…!」

今回は両肩の龍砲が光を纏いはじめる。

「くそっ!」

反射的に動き、その衝撃波を避け続けた。

「避けた…見えないのに…!」

「すばしっこさだけは、自信ありだからな」

再び、両者とも互いを見据える。

その時…。

 

ドガアアアアアアアアアァ!

 

突如、大きな轟音と共に黒い物体が現れた。

「なんだ、あれは…!?」

「試合中止よ、一夏!」

鈴音が言い放ち、一夏の少し上空に向かう。

「試合中止だって…?」

一夏が困惑していると、山田が通信で呼びかける。

「織斑君、正体不明のISが現れました!今、教師達が事態の収拾に向かっています!」

「逃げろってことですか!?」

一夏は山田に強く拒絶の意志を見せ、鈴音と共に並び立つ。

「ばか、逃げなさいよ!」「女を置いて逃げられるかっ!」

口喧嘩を続けていると…

バシュッ!

「危ない!」「きゃあっ!?」

鈴音に向かってビームが放たれる。それを一夏が抱きかかえて避けることで、大事は免れた。

「気をつけろ…来るぞ!」

一夏がそう言って、構えた瞬間…。

ズガアアアアアアァ!

「ぐああああぁっ!」

突如、奇襲を受け、一夏はよろける。犯人は…。

「邪魔。鈴音を潰すのはアタシよ」

ハウンドであった。既にラストワンに到達しているため、能力も格段に上がってしまっている。

「この前のオオカミ怪人!」

鈴音がハウンドに向かって叫び、双天牙月を構えて攻撃を仕掛ける。

しかし…。

バシュッ!ドガアアアアアアアァ!

「きゃあああああああああああああああああぁ!?」

黒いISの攻撃を受け、地面に激突した。

そこに現れたのは…。

「ほう…確か「ゴーレム」だったかな?」

スコーピオンだ。ゴーレムと呼ばれたISに対してなんら驚く様子も見せない。

「利用させてもらう」

バシュッ!バシュッ!

「ムンッ!」

バキィ!

突如、ゴーレムと呼ばれたISの放つビームを避けつつ近付き、機体の中心を破壊し、無理矢理に搭乗する。

「あのIS…無人機だったの!?」「スコーピオンが…ISに!?」

同時に起こった信じがたい2つの事実。事態は最悪な方向へと向かいつつある。

「さぁ、ハウンドよ。君は鳳鈴音を潰したまえ。私は…」

「試合会場に来たか!」

そこに、轟音を聞いて駆けつけた宇月、箒、セシリア。

「ブリュンヒルデの弟を潰そう。相手になってくれるかな?」

ゴーレムを再起動させ、一夏に近付く。

「させませんわ!宇月さん、わたくしもお手伝いいたします!」

「あぁ、一刻を争う!」

<3><2><1>

「変身っ!」

宇月はフォーゼBSに変身する。

「はぁっ!…一夏、セシリア!おれはハウンドを止める!頼む、5分持ちこたえてくれ!」

「スコーピオン相手にか!?」「無茶、言いますわね…!」

2人とも驚いたが、拒絶ではないようだ。

「出来るだけ早くな!」「あまり、長持ちはしませんことよ?」

「すまない!」

そう言って、フォーゼBSはハウンドに攻撃を仕掛けに向かう。

 

「う…動かない…!」

鈴音は焦燥にかられている。甲龍が損傷しているために動かないのだ。

ハウンドがゆっくりと近付いてくる。

「アンタはお終いよ…!」

「させるかああああああぁ!」

<ROCKET-ON>

あと一歩の所で、フォーゼBSが鈴音を抱きかかえ、ロケットモジュールで距離を置いた。

「大丈夫か、鈴音!」「う、うん…」

フォーゼBSは鈴音の安否を確認し、再び戦いの場へ赴こうとする。

「待って!」

だが彼の腕を持って、引き止める。

「待てねぇ!時間が無いんだよ!」

「時間が無いから、聞いて!」

無理矢理、振り払おうとするが、どうしても聞いて欲しいらしく放してくれない。

「本当は、一夏に勝ってからお願いするつもりだったけど…」

「何を…?あ、まさか…!」

 

「パワーダイザー、あたしに預けてくれない?」

 

一方、一夏とセシリア対スコーピオン。

「オオオオオオオオオオオオオォ!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

「うわあああああああああぁ!」「きゃあああああああああぁ!」

もともと、専用機と互角以上の力を持ち、さらにISに乗ったスコーピオン。力の差は歴然としている。

まるで相手にならない。傷一つつけることも出来ない。

「ISと言うのは、乗り手が強さを決めるようだね。君たちはまるで…」

 

「クズだ」

 

そう言って、トドメを刺すべく強力な一撃の準備に入る。

「まだ…3分しか…!」「これまでですの…!?」

もうだめだと感じたその時…。

「はああああああああああああああああぁ!」

ドゴオオオオオオオオオォ!

「ムゥッ…!?」

巨大な黄色い物体が、スコーピオンに襲い掛かる。

いきなりの事に、スコーピオンも少ないながらもダメージを受けた。

「一夏、セシリア、応援に来たわよ!」

 

その正体は…パワーダイザーだ。

 

聞こえる声は、鈴音のものだ。

「鈴か…!?」「鈴さん!」

「こら、サソリ怪人!あたし達に勝てるかしら?」

パワーダイザーは、大きく腕を振り上げながらスコーピオンを挑発する。

完全に怒り心頭になったスコーピオン。簡単に挑発に乗った。

「舐めやがって…。一人残らず、ブチ殺すッ!」

今までの口調が打って変わって、荒い言葉にかわる。

「さぁて、暴れるわよ!」

 

そのころ、フォーゼBSはハウンドと交戦中。

「まったく…なんで邪魔ばっか!」

ドガアアァ!

「ぐああああああぁ!…やっぱ速い!ここには柱もないし…」

「宇月ぃ!」

フォーゼBSが毒づいていると、箒が何かを持ってきた。

「この子達を使おう!」

「…ポテチョキンにフラシェキー…その手があったか!」

箒が持っていたのは、つい最近にロールアウトしたフードロイド達。

「頑張ってこい!」

ポテチョキンにシザーススイッチを、フラシェキーにフラッシュスイッチを挿入して放り投げると、ロイドモードに変化し、フラシェキーが光を放つ。

「キャアッ!?」

それは小さいが閃光であり、一時的にハウンドの動きを止めた。そのときにポテチョキンがハウンドの頭にしがみつき、鋏状の腕で攻撃する。

「イ、イタタタタ…!やめてってば!」

「よし、もういいぞ!」

<ROCKET-ON><DRILL-ON>

フォーゼBSが叫ぶと同時に、ポテチョキン達はハウンドから離れ、箒の元に戻ってきた。

その隙にロケットとドリルをオンにして、レバーを引く。

<ROCKET DRILL LIMIT-BREAKE>

「これで終わりだ!ライダアアァァロケットドリルキィィィィィック!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

爆発の中から出てきたスイッチ。キャッチしたフォーゼBSはそれを良く見る。

「良かった…間に合ってる…!」

安堵してオフにした後、一夏たちの場所に向かった。

 

「くらえええええええええぇ!」「はああああああああぁっ!」

一夏の雪片弐型とセシリアのスターライトmkⅢから放たれる攻撃が、スコーピオンに向かう。

「無駄だアアアアアアアアアアァ!」

ドゴオオオオォ!

それを難なく弾き、次の攻撃に備える。

「あたしを忘れんな!」

「ゼアアアアァ!」

ガキイイイイイィ!

パワーダイザーの攻撃も何とか防ぎ、距離を置く。

「互角って所か…!」

このままでは勝負がつかない。

そこへ…。

「なら、もうちょい戦力を増すか!」

<FLUSH-ON>

「みんな、目を閉じろ!」

「ヌウッ!?」

一夏達は介入してきたフォーゼBSの言葉に反応し、目を力いっぱい閉じる。

反応が遅れたスコーピオンはフラッシュモジュールの閃光で目が眩む。

「クソオオオォ!邪魔しやがってエエエエエェ!」

目を押さえつつ、大きな絶叫を上げるスコーピオン。

「今なら行ける!スコーピオンを倒すぞ!」

「おう!」「了解ですわ!」「任せて!」

フォーゼBS、一夏、セシリア、パワーダイザーが並び立ち、スコーピオンに攻撃を仕掛ける。

「「「「はあああああああああああああああぁっ!」」」」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「グアアアアアアアアアアアアァ!」

フォーゼBSのキック、雪片弐型の斬撃、スターライトmkⅢのビーム、パワーダイザーの拳が、同時にスコーピオンに当たる。

遂にスコーピオンに強力な一撃を与える事ができた。

「よしっ!」「宇月!」

ガッツポーズを決めるフォーゼBSに向かって、パワーダイザーが拳を前に持ってくる。

「おう!」

意味を理解し、拳をぶつけた。

ゴーレムは崩壊し、スコーピオンのみが現れる。

「チィッ…!今回はここまでか…!」

そう吐き捨てて、スコーピオンは姿を消した。

「あっ!お待ちなさい!」「逃げんな、卑怯者!」

セシリアとパワーダイザーは後を追おうとしたが、無駄だった。

フォーゼBSは無理に追うことはせず、パワーダイザーを見つめた。

「母さん…おれ、少しは母さんと向き合えたかな…?」

 

そして、箒はハウンドだった女子生徒を抱き起こしていた。

「なぁんだ…ダメだったの?」「あぁ」

そこへ、フォーゼBSがやってきた。

「クラス代表にはなれなかったけど、別のことで1番を目指せよ。人間は誰にでも可能性がある。応援してるぜ!」

フォーゼBSの激励に女子生徒はおかしそうに笑う。

「面白いわね…白いロケットさん」「フォーゼです…」

 

そして紫苑は…。

「いたた…ちょっと無理したかな…?」

そういいながら、足を引きずっている。

「もう少しの辛抱だね…。もう少し…」

 

その日の夕暮れ。

ラビットハッチで、改めて鈴音は仮面ライダー部に入部する事になった。

「よろしく、宇月!」「おう、頼むぜ!」

2人は強く握手をした。

「あの子も入ってくると…」「またライバルが…」

箒とセシリアは、半分歓迎半分拒絶。一夏をめぐるライバルが増えるからだ。

「ところでさ」「ん?」

宇月は、鈴音をまっすぐ見据えながら両肩を持つ。

「な、何よ…?」

 

「酢豚、おれにも作ってくれよ!」

 

「は…?」

「一夏から聞いたけど、飯作るのうまいんだよな?いや、おれ腹減っちゃってさ!」

肩をポンポンと叩きながら宇月は目をキラキラさせながら聞く。

忘れてるかもしれないが、彼は大喰らい。彼女が料理がうまいと聞いて、かなり楽しみにしているのだ。

「あんた達ねぇ…」

「鈴音?」

鈴音は拳を握り締めて震えている。

「乙女心がわかってなあぁぁぁぁい!」

「うおっ!?」「なんでだよ!?」

またしても、追いかけっこが始まった。

箒とセシリアは火花を散らしながら、鈴音を睨んでいる。

山田は困ったように笑いながらも、楽しそうにそれを見つめていた。

 

その日の夜…。

IS学園に一人の少年がやってきた。

「宇月…。もってきたぞ、アストロスイッチの素体」

その手には、いくつかの黒いアストロスイッチが握られていた。

もう片方の手には、別のスイッチが握られている。

それは…。

 

同時刻…。

リブラはSOLUの回収中、ある人物達と対峙していた。

「あれがゾディアーツ…!」「確か…リブラ!」

「龍騎…久しぶりだね。それに…月宮あゆだったかな?」

そう、仮面ライダー龍騎。ある世界で、様々なモノを仲間と共に守り抜いた存在。

そして月宮あゆ。ここにいる龍騎に愛され、彼と何よりも強い絆で結ばれている女性。

「その声…もしかして!?」「ご名答、月宮あゆ。やはり分かったようだね」

どうやら、あゆはリブラの正体が分かったようだ。龍騎も同様である。

「あなたは…どうしても、あの人の邪魔がしたいんですか!?」

「そうだ。私はヤツを消さねばならん。それが私の役目だ!」

「あの人の邪魔はさせない!」

龍騎は強く言い放ち、リブラに攻撃を仕掛ける。

「待ちたまえ。私は君と戦うつもりはない。今の狙いはSOLUだけだからね」

リブラは手で龍騎を制しディケを奮って、姿を消した。

「あゆ…。危険かもしれないけど、着いてくる?」

「もちろんだよ!ボク達はいつまでも一緒だから!」

龍騎の問いにあゆは大きく頷く。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                       言ってた男子だ!

 

おれは辻永礼

 

                       シャルル・デュノアです

 

僕と同室なの!?

 

                       気安く話しかけるな

 

このスイッチ…エレキだ!

 

                       強力すぎて、エナジーが逆流している!

 

 

第7話「礼・仏・参・戦」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 




キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

スイッチを持つ少年

白石紫苑
裾迫理雄

女子生徒=ハウンド・ゾディアーツ

織斑千冬
山田真耶

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ

???=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ




あとがき
如何でしたか?
ISの本編をちゃんと見れてないから、劇中の再現が飛び飛びです(汗)。
ここで、やっと全戦力投入でスコーピオンに勝てる状態です。メテオ登場以降も踏ん張りますが…ちょっと正体を明かすタイミングを見極めかねてます。
更にちょっとですが、私の前作の主人公とメインヒロイン、龍騎とあゆが登場です!本格的に絡んでくるのは、もう少し先ですが…。この2人、リブラの正体を知ってます。つまり…。
次回は、スイッチ担当とシャルルの登場です!メインストーリーに紫苑も絡んできます。ステイツチェンジも、少しずつ…。
次回をお楽しみに!


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第7話「礼・仏・参・戦」

 

 

クラス対抗戦から2週間近くが経った。

あれから試合は中止になり、ゾディアーツや謎のISの捜査が続いている。

ゴーレムはスコーピオンの使用なども重なって崩壊したが、コアは秘密裏に回収されている。

 

そして、1組では…。

「あぁ~ったく!ハッキリしなさいよ!」

「ご…ごめんなさい…」

「鈴さん、あまり無茶には…」

大声を上げているのは鈴音。その言葉に対しておどおどしながら謝っているのは紫苑。

理由は簡単。鈴音が紫苑に何気なく、IS学園に入学できた経緯を聞いたのだが、本人は口ごもってしまい、このような始末になったのだ。

「そんなんだから、あの不良男に虐められるの!わかる!?」

強く指差しながら罵倒するが、紫苑は相変わらず首を力なく振り続ける。

「仕方ないよ…僕はそうなっても、文句は言えないんだ…」

「どうして仕方ないわけ!?」

理由を聞こうとしたが…。

「うるせェぞ、中国女。人の迷惑くらい考えられる頭があるなら、さっさと2組に戻れ」

「なんですって!?」

教室に理雄が入ってきて、彼女に文句を言う。それが鈴音の闘争心に、更に火をつけることとなる。

「テメェも代表なんやらで、調子に乗ってんだろ。そこのイギリスお嬢様みたいにな。位でしか強さを表現できねェのは、ダサいぜ?」

「アンタねぇっ…!」「くっ…!」

「いい加減にしろ!」

言いたい放題の理雄に向かって、一夏が胸倉を掴んで立たせる。

状況が危険だと感じたのか、紫苑は怯えながらも止めに入る。

「お、落ち着こう!ね…?」

「うるせェな、クソ野郎!」

ゴッ!

「うっ…!」

だが結局、理雄に殴られるという形で無駄に終わった。

「やるか?鉄仮面女の弟さんよォ!」

「このっ!」

ガッ!グイッ!

激情した一夏は理雄に殴りかかったが、簡単に右手で防がれ、逆にねじ伏せられた。

「うあっ…!」

「威勢がいいのは最初だけかよ。流石、姉貴の七光りで此処に来ただけのことはあるな」

「おまえっ!」

一夏への罵倒に対して箒も怒り心頭で、竹刀を振りかざして理雄に斬りかかるが…。

ブンッ!

「な…!?」

あっさりと避けた理雄は、彼女の目の前に拳を突きつけた。あと5ミリでも近ければ、思い切り殴られていただろう。

「オマエも調子に乗るなよ。開発者の妹だからって、いい気になってると、あとで痛い目に遭うぜ?」

一夏を捻じ伏せたまま、ニヤリと笑う理雄。クラスの女子達もかなり怯えている。

「そこまでだ。ホームルームを始める。席に着け。鳳は2組に戻れ」

そこに千冬が現れ、クラスに呼びかける。だが、理雄は簡単には治まらない。

「おぉ、来たな鉄仮面女。弟がやられてるのに、随分と冷てェな」

「もう一度言う、席に着け。そして織斑先生と呼べ」

理雄はニヤニヤと笑いながら挑発するが、千冬はそれに全く乗らず淡々と告げる。

「なんだよ、そんなに先生呼ばわりされてェのか?」

彼女の反応が面白く感じなかったのか、一夏を放して近付き、睨みつける理雄。

だが、千冬も全く動じない。

「席に着け」

「それしか言えねェのかよ!?」

苛立った理雄は千冬に殴りかかる。

ガッ!

「…っ!?」

しかし、今度は理雄が意図も簡単に拳を防がれたのだ。

「最後だ、席に着け」

「…チィッ!」

これ以上の反抗が無駄だと感じたのか、理雄は舌打ちをして席に戻った。

事態が収まったことを確認して、鈴音も2組へと戻った。

そこへ入れ替わるように…。

「うおりゃああああああああああああああぁ!セーフ!」

宇月が扉を勢いよく開けて、教室に転がり込んできた。

それと同時にチャイムがなる。

「…城茂、遅刻ギリギリは関心せんな」

「…すいません」

千冬が睨みを効かせながら注意すると、宇月は縮こまって謝る。

「まあいい、次からは気をつけろ。早く席に着け」

「は、はい」

そそくさと席に着く宇月。辺りの雰囲気が悪い事に気づいた彼は、近くの席に居る紫苑に聞く。

「どうしたんだ?」「あ、後で話すよ…」

首をかしげながらも、前を見ると、山田が教卓の前で話を始めようとしていた。

「今日は、みなさんに転校生を紹介します!どうぞ~」

彼女の声と共に現れたのは…。

一人は、金髪で華奢な少年。穏やかな表情でふんわりした感じを受ける。どうやら外国人のようだ

一人は無愛想な雰囲気の黒髪の少年。制服はかなり着崩しており、あたりを警戒するように見回している。

「じゃあ、自己紹介をどうぞ」

山田が促しに、金髪の少年は笑顔で返答し正面を向く。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました、よろしくお願いします」

 

女子が一気にざわつき始めた。

「わぁ…かわいい系の美少年…」「守ってあげたくなる感じ…!」

「静かに!」

千冬が注意をして静まった事を確認した山田は、もう一人の少年に声をかける。

「じゃあ、君も…」

 

「…辻永礼」

 

聞こえるか聞こえないかの声で、ぼそっと呟く礼。

「あっちはクールなイケメン…」「デュノア君とは対照的…」

「えっと…終わりかな?」

「はい。おれは、あの席ですね?」

山田の目も見ずに返し、あらかじめ言われていた席に座る。

「あ…え~…」「わぁ…」

困ったようにおどおどしている山田とシャルルを見かねてか、千冬が代わりに説明を始めた

「辻永は城茂と、デュノアは白石と、それぞれ同室になる。2人は彼等の面倒を見てやれ」

「はい!」「ぼ、僕と同室ですか!?」

快活に返事をした宇月に対し、紫苑は驚いて立ち上がる。

「座れ、視界に入るな」「あ、ごめんね…」

彼の2つ後ろの席に座っていた理雄が苛立ちながら、紫苑に文句を言うと、紫苑は頭を下げて座った。

 

ホームルーム後…。

今日は、ISの実習訓練。着替えなければならないのだが…。

「あぁ、最悪の朝だぜ!あの鉄仮面女ァ!」

ドガァ!

「がっ…!」

「やめろ裾迫!」

苛立ちが募っている理雄はそれどころではない。さらに、怒りの矛先を紫苑に向ける。

「テメェが悪いんだ!あのとき、上手く止めれば良いじゃねぇか!?」

「ごめん…」「理雄、それは言いがかりってモノだぞ!」

「うるせぇ!」

宇月が止めようとするも全く聞かず、彼と紫苑に殴りかかった。

…だが。

パシッ!

「なんだ、根暗転校生?」

礼が理雄の拳を受け止めたのだ。なんとか離そうとするが、全く外れない。

「…目障りなんだよ。他でやれ」

「ンだと!?」

「そうだよ、君は乱暴すぎる。彼は何も悪くないよ」

シャルルも紫苑の前に立って、理雄に言い放つ。

「…チッ!肩寄せ合って楽しそうだな。あぁダッサ!」

負け惜しみなのか、呆れたような口調でさっさと教室から出て行き、更衣室に向かった。

彼が去った後、シャルルは紫苑を立ち上がらせて埃を払う。

「大丈夫?」

「あ、ありがと、デュノア君。それに辻永君も」

紫苑はシャルルと礼に感謝しようとするが…。

「気安く話しかけるな」

礼はそう言い放ち、理雄に続いて教室から出て行こうとする。

「宇月、一緒に行こうか。話したいことが山ほどある」

「お、おう!」

以外にも、宇月には愛想よく笑いかけ、彼を誘って一緒に教室から出て行った。

箒は不思議そうに見つめていた。

「宇月の言っていた礼って…あんなに変わった性格だったのか…」

 

更衣室に向かう途中、宇月と礼は話で盛り上がっていた。

「礼!手紙来たときから待ってたぜ!」

「あぁ。そっちも元気そうだな」

先ほどとは想像もつかないほどの笑みを浮かべ、宇月と会話をしている礼。

「そうだ、アストロスイッチの素体が5つ見つかったぞ。M-BUSに残っていた。調整は出来そうか?」

「見つかったか!時間掛かるだろうけど…10番なら、近いうちに調整できそうだ!かなり強力なはずだから、ホロスコープスにも対抗できるかもな!」

アストロスイッチにはそれぞれ番号があり、彼の言っている10番など、キリの良い番号のスイッチはかなり強力なコズミックエナジーを使うスイッチだと判明している。

「そういえば…やっぱり、あのスイッチは捨てないのか?」

宇月の表情が変わり、厳しい眼差しで聞く。

「捨てると、尚更マズイ事は、おまえも承知だろう」

そう言って取り出した別のスイッチ…。

 

ホロスコープススイッチ。

 

星座の絵柄は牡羊座。

そう。辻永礼こそ、ホロスコープスを裏切った12使徒の1人であり、牡羊座の使徒「アリエス・ゾディアーツ」なのだ。

今はホロスコープススイッチを使う事はせず、宇月と心を通わせフォーゼのスイッチ開発に協力している。

「まぁ…それ捨てて、ゾディアーツが拾ったら確かにマズイけど…」

 

一足先に着替え終わった宇月達の後に、更衣室へ来た一夏、紫苑、シャルル。

「ボクと同室だから、これからもよろしくね」

「う、うん。僕は白石紫苑。こっちは織斑一夏君。クラス代表だよ」

「よろしくな。一夏でいいぜ」

「うん、ボクのこともシャルルで良いよ」

3人は軽い挨拶を済ませた後、着替えを始める。

…のだが。

「あの…ちょっと後ろ向いててくれる?」

紫苑が下を向いて言う。

「そうだね、ボクも少し恥ずかしいし…。一夏、良いかな?」

シャルルも紫苑に賛同し、一夏に頼み始めた。

「なんだよ、2人とも変だな。良いけど」

一夏は不思議に思いながらも、後ろを向いて着替え始めた。

「あ、早くしろよ。うちの担任、めちゃくちゃ…」

そういいながら振り返ると、2人は着替え終わっていた。

「…なにかな?」「厳しいよね…」

「早いな…」

一夏が驚いていると、シャルルと紫苑の服装が普通のものと違う事に気づく。

紫苑に関しては、男子は腹部が露出しているのに、それすらもなかった。

「それ、着やすそうだな」

「デュノア社製の特注品だよ」

シャルルが一夏に説明していると、紫苑が驚いて聞きなおした。

「デュノア社って…まさか君、あの世界第3位のISシェアを誇る、デュノア社の息子なの!?」

「うん…まぁ…」

何故か堂々としていない。なにか後ろめたい雰囲気だった。

「…そういえば、紫苑は?」

「僕は、ちょっと訳ありで…手と顔以外は、肌を日光にさらせないんだ。理由は言えないけど」

困ったように笑って説明した。

「…あ、織斑君、デュノア君、早くしないと!」

「うわ、やっべ!」「わぁ、大変!」

時間が迫っていた事に気づいた3人は急いで出て行った。

 

それを見つめていた女子生徒。隣にはスコーピオンもいる。

「シャルル・デュノア…!」

「邪魔者を排除するのだ。君の願うままにね…」

「はい、スコーピオン様…!」

女子生徒の手には…ゾディアーツスイッチが握られていた。

 

グラウンドでは1組と2組の生徒が集まっている。そこに千冬がジャージ姿で現れて、大きく宣言を始めた。

「本日は初のIS実践訓練だ!2組合同で行なう。飛行や歩行など、基本的なことを学んでもらおう。まず、手本として模擬戦から始めようか。オルコット、鳳、出番だ」

千冬は代表候補かつ、専用機持ちの2人を指名するが、当の本人達はやる気がない。

「なんだか、見世物にされてる気がして…」「やる気がおきませんわ…」

そう言いながら、のろのろと前に出てくる途中、千冬がボソリと呟く。

「アイツに良い所を見せる機会だぞ」

その瞬間…。

「ま、このわたくしを置いて、他に手本はありませんものね!」「格の違いを見せてあげる!」

いきなり、やる気全開に変化した。

「織斑先生、何言ったんだろう…?」「おれに聞くなよ」

シャルルは一夏に聞くが、彼も首を振る。

「さて、お前たちの相手は…」

 

「きゃああああああああああぁ!避けてくださああああああああああい!」

 

上を見ると、ISに搭乗した山田が地面向かって真っ逆さま。

「きゃああああああああぁ!」「うおおおおおおおおおおおおおおぉ!?」

生徒達が逃げる中、一人だけ逃げない者が居た。

理雄である。

「ハッ…!」

霧裂を展開し、彼女をムチで捕縛してキャッチする。

「た、助かりましたぁ…裾迫君、ありがとうございます…」

「教師すら、こんなものかよ。そんなんで指導だなんて、笑わせるな」

「うぅ…」

感謝の言葉に対し、理雄は山田を罵倒しながら歩き去る。

千冬は不敵に笑いながら、理雄に語りかける。

「模擬戦を見たら、その考えは変わるぞ」

「ほう…。じゃあ、見せてみろ。そこのウスノロメガネが見返すサマをよ」

鼻で笑いながら、クラスの輪に戻る。

「2人掛かりって…」「流石に無理じゃありませんこと?」

セシリアと鈴音は代表候補生。教師相手とは言え、2体1では勝負が見えている。

「安心しろ、お前等じゃ絶対に勝てない」

 

「では…始め!」

 

千冬の合図と共に、山田はISを使い空に舞い上がった。

セシリアと鈴音もISを起動させて後を追う。

「顧問の先生相手といえども、容赦しませんわ!」

「…っ!」

早速、ブルーティアーズのビームが山田を襲うが、彼女はそれをあっさりと避ける。

「なっ…!?」「あぁもう!あたしがやるわよ!」

山田の後ろを取った鈴音は、龍砲を使い、衝撃波を放つ。

ドガアアアアアアアアアアアアアァ!

「っ!」

「あ…!」「えっ…きゃああああああああああぁ!?」

しかしそれすらも上手く避け、その衝撃波はセシリアに襲い掛かる。

地上から見ていた一夏や宇月は感心しながら実況している。

「早っ!?嘘だろ!」「しかも動きに無駄が殆どない…!」

2人の様子に千冬はフッと笑いながら、シャルルを見る。

「デュノア、山田君の使用しているISの説明をしてみろ」

「はい、先生が使っているのはデュノア社製の第2世代IS「ラファール・リヴァイヴ」。量産型では最後期の機体で、そのスペックは第3世代型初期に劣りません」

シャルルが一通り説明すると、紫苑は口をポカンと開けている。

「へぇ~…すごいね…」

説明が終わった後に、上を見直すと模擬戦が終わろうとしていた。

山田は2人を翻弄し、うまく1箇所に集めさせて、トドメの一撃を放った。

「…っ!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!

「「きゃああああああああああああああああああああぁ!」」

 

墜落した場所にクラスメイト達が駆けつけると…。

「もう…セシリアがビームをバカスカ撃つから!」「鈴さんだって、見事に手玉に取られてましたわよ!」

「ふ、2人とも、ケンカはやめようよ…」

紫苑がまぁまぁと言いながら止めるが、雰囲気は宜しくない。

空中から降りてきた山田を睨みながら、理雄は苛立った表情でいる。そこに千冬が近付いて呼びかけた。

「裾迫、これで分かったか?お前でも勝てなかったことは理解できるだろう。それに彼女は元日本代表候補生。これからは敬意を持った態度で接するように」

「…チッ、あぁそうですか…!」

彼も勝ち目がないことを理解したのか、不本意ながらも従う意志を見せた。

宇月は目をキラキラと輝かせながら、山田を褒め称える。

「すっげぇですね、山田先生!しかも代表候補だったなんて!」

「あ、あはは…昔の話ですよ…。それに代表候補止まりでしたから」

恥ずかしがりながら、それに答える山田。

千冬は生徒達に改めて指示をする。

「さて、これから基本的な歩行の訓練を行なう。6つの班を作れ。専用機持ちが指導しろ」

どうやら、5グループに分かれて行なうようだが…

「織斑先生」

「なんだ?」

ある疑問点があって、礼が彼女に質問する。

「専用機持ちは、織斑、裾迫。さらに代表候補生のオルコット、鳳、デュノアの5人。指導には1人足りませんが?」

「残り1班の指導は初回で適性度「S」の城茂がやれ」

「お、おれですか!?起動は一度だけですし、まだ実際に乗ってないですよ!?」

いきなり指名された宇月は、驚きながら拒絶の意志を見せるが…。

「やれ。今日のホームルーム、遅刻扱いでも良いぞ?」

「は、はい…」

理不尽な脅迫を受け、しぶしぶ納得する宇月。

 

さて、誰がどのグループにいくのかは個人が自由に決めるのだが…。

「織斑君、一緒の班にして!」「あたしもあたしも!」

「お、おぉ…」

やはり女子からの人気はナンバー1の一夏。かなり多くの女子から頼まれていた。その中にはこっそりと箒も混じっている。彼女は不満そうな面持ちだが…。

「デュノア君、あたしに色々教えて!」「説明上手そうだし!」

「うん、任せて。あ、紫苑もおいでよ!」

「僕も良いの…?」

次点…というか、ほぼ同等の人気を誇るシャルル。紫苑はどこに行こうかと戸惑っていたところをシャルル自身に呼ばれ、このグループになった。

そして…。

「ねぇ裾迫君。指導、お願いできる?」「セシリアに勝てるくらいだもんね」

「良いぜ、オマエら良い人選だな。気に入った」

女性は、危険な雰囲気の男を好む者も居る。

注目される事は、理雄も嫌いではないようで、彼も多くの女子から指名があった。

代表候補生のセシリアにはカメレオンだった女子生徒をはじめとし、鈴音にもハウンドだった女子生徒等も集まった。

一番の不人気は…。

 

「…ま、そうなるよな」

 

宇月だった。

班になったのは礼だけ。一応、リンクスだった女子生徒からは頼まれたが、他のクラスメートから無理矢理引きずられて、シャルルの班に向かったのだ。

「あんな女共の相手をするのは面倒だ。かえって良かっただろ?」

鼻で笑いながら、量産機の打鉄を起動させようとした礼。

だが…。

「うっちー、いいかなぁ?」

1人の女子がやって来て、宇月に申し込んだ。とろんとした瞳が特徴的で、黄色のネズミのような髪飾りをつけている。

「う、うっちー?」

「宇月君だからうっちー。辻永君はつっちー」

「…気安く話しかけるな、勝手に呼び名を作るな。そして、まず名乗れ」

彼女が来た途端、急に不機嫌そうになった礼は彼女に名前を聞く。

「布仏本音だよ~。みんなからは「のほほんさん」って呼ばれてるんだ~」

礼の様子など全く気にせず、かなり遅めの口調で自己紹介した。

「おう、じゃあ一緒に頑張ろうか、本音!」「名前で呼ぶんだぁ…。うん、がんばろぉ!」

すっかり意気投合した宇月と本音は、2人でエイエイオーと叫んでいる。

「足手纏いになるなよ、ノロマ」

一方、全くそりが合わない礼と本音。

「うぅ…せめてのほほんって呼んでよ~」

「黙れ、抱きつくな、気持ち悪い」

この班は全員で3人。

今回は、彼等に焦点を当ててみることとする。

「よし、礼。まず歩行からやってみようか」

「あぁ」

礼は宇月の指示通り打鉄に乗り込んで、歩行を開始した。

「あれ…すぐ出来るじゃん」

「舐めるなよ」

自信に満ちた笑みを浮かべてすぐに降りる。

「指導甲斐がねぇよ…。んじゃ本音、いってみよう」

「はぁい!」

次は本音の番だ。打鉄に乗り込み、歩行を開始しようとするが…。

「あ…あわわ!」

「おっと、あぶね!」

礼のように上手くいかず、バランスを崩して倒れそうになる。いち早く気付いた宇月は彼女の背中を支えながら、体勢を元に戻す。

「おれもまだ乗ってないけどさ、こういうのは体重を中心に持ってくる感覚でいけば、大体うまくいく。さ、頑張ってみろよ!」

「うん、ありがとぉ~」

宇月は自分の感覚を頼りにして、自分なりの説明で指導をしている。

「…早速、足手纏いになりやがって」

「もぉ…つっちーは意地悪だねぇ」

「その呼び方はやめろ」

礼は彼女の存在を良く思っておらず、さっそく文句を言い始めた。

「悪いな、本音。こいつ口は悪いけど、本当は良いヤツなんだよ。わかってくれよな」

フォローを入れる宇月に対し、こっくりと頷く本音。

「大丈夫だよ~。つっちーは恥ずかしがり屋さんだもんね~」

「勝手に決めるな」

 

一方、一夏達のグループでは…。

「一夏、乗れないのだが…」

打鉄を起動させたまま、先の生徒が降りたため、箒が打鉄に乗れないのだ。

山田が優しくフォローする。

「あぁ、よくある最初のミスですね。織斑君、白式を展開して篠ノ之さんを抱きかかえて乗せてあげてください」

「は、はいぃ!?」

指導側になっていたため、それを引き受けて箒を抱きかかえる。

「しっかり捕まってろ、箒!」「ひゃっ…一夏…!?」

一夏に「お姫様抱っこ」をされ、顔を真っ赤にする箒。

「わぁ…箒、良いなぁ!」

クラスメートからは、羨望の眼差しを一手に受ける。

一方、箒は…。

「これがお姫様抱っこ…良いものだな…」

「なんか言ったか?」

「い、いや、なんでも!」

 

色々と、実習や机上学習が終わり…。

放課後になった。

「よし、ラビットハッチにいこうか。早速、スイッチ調整に取り掛かる」

「おう、10番と20番を調整しないとな!」

宇月と礼は自室に戻り、ラビットハッチに向かう。

 

だが…。

 

「な…!?」

「お、宇月、来たか!…辻永も!?」

「バガちゃんの偵察だが、ゾディアーツは見つからなかったぞ」「久々に穏やかな夜ですわ…」

「暇といえば、暇だけどね…」「鳳さん、それが望ましい状態なんですよ…?」

礼は驚愕する。ラビットハッチは宇月と自分しか知らないはず。

なのに、目の前には5人もの生徒や先生が居る。しかも憩いの場のようにしていた。

「おまえら…何をしている…?」

「礼、みんなは一緒にフォーゼとしてのおれの活動を支えてくれる「仮面ライダー部」のメンバーだ!一夏と箒はスイッチャー捜索、セシリアはISの知識や情報収集、鈴音はパワーダイザーの操縦、山田先生は顧問として、学校面での調査をしてくれてるって感じだ!」

それぞれの代わりに、宇月が説明するが…。

 

「全員、出て行け!!!!!」

 

礼は宇月以外に言い放つ。

「礼…?」

「ここは学校の部室じゃない!ここはな、本気でゾディアーツと戦う気持ちを持った戦士だけが集う場所だ。おまえらのような奴らは、此処に来る資格はない!さっさと出て行け!」

「な、なんだよ、いきなり!?」

一夏が困惑しているが、それをお構い無しに礼は宇月に詰め寄る。

「宇月!城茂博士の息子としての誇りを失ったのか!?こんな下らん連中を、お前の父親の形見であるラビットハッチに連れ込むほど、おまえの意志は腐ったのか!?」

 

「取り消せ、礼!!!!!」

 

礼に対して、大きく怒鳴り声を上げたのは宇月だった。

「みんなは全員、本気でゾディアーツと戦う意志を持っている。下らない連中なんかじゃない!」

「宇月…!?」

彼がここまで怒る姿を見たのは、一夏達も初めてだった。

「この前、スコーピオンと戦って、優勢に持ち込めたって話をしたよな。あれはみんなのおかげだ!みんなで力を合わせたから、ホロスコープスを退かせる事ができた!」

「あのスコーピオンに!?」

礼はアリエスであり、ホロスコープスの1人。スコーピオンの恐ろしさは十分理解しており、それに打ち勝てたことは大きな衝撃となった。

だが…。

「…認めない!それでも!」

礼はそう言って、ラビットハッチのスイッチ調整室に閉じこもる。

「礼…」

「…宇月。今日はわたし達、帰った方が良いよな?」

箒がおずおずと聞いてきたので、宇月は小さく頷いた。

「じゃあ、また明日。教室でお会いしましょう…」「おやすみ、宇月…」

「えっと…遅刻ギリギリはしないでくださいね…?」

そう言って、出て行こうとしたとき…。

 

「う、うわああああああああああああああああああああああああぁ!」

 

ラビットハッチの扉の向こうから悲鳴が聞こえた。

「シャルルの声じゃないのか!?」

全員、ラビットハッチを飛び出して、彼の元に向かった。

取り残された礼は…。

「くそ…おれと宇月じゃ、スコーピオンに太刀打ち出来なかったのに…なんであいつ等が!?」

ヤケになりながらも、スイッチの調整を進めていた。

 

廊下では…。

「や、やめて…!」

「シャルル・デュノア…。デュノア社への見せしめにアンタを殺す!」

シャルルは腰を抜かせて、地面にへたり込んでいる。

視線の先には…白い馬のようなゾディアーツが居る。

「う、うわああああぁ!」

シャルルと一緒に居た紫苑は、近くにあった棒を持ち勇気を振り絞って、ゾディアーツに殴りかかる。

だが…。

カァン!

「邪魔!」

ドゴォ!

「がっ…!?」「し、紫苑!?」

鳩尾を殴られ、あっさりと気絶する。シャルルは紫苑に近付き、必死に揺り起こす。

「紫苑、しっかり!しっかりして!」

「シャルル、紫苑!」

そこへ宇月達、仮面ライダー部が現れた。

「城茂君!紫苑が死んじゃう!」

「大丈夫だ、シャルル!一夏。紫苑とシャルルを安全な場所に!箒はバガミールで分析を!」

宇月は指示を送りながら、フォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを押す。

「わかった!シャルル、こっちだ!」

<3>

「任せろ!バガちゃん、頼む!」

<2>

「紫苑…」

<1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSへと変身する。

「はあっ!」

「邪魔者が多いわよ!」

そのゾディアーツの姿を見て、フォーゼBSは判断した。

「一角獣座…ユニコーン・ゾディアーツだな!」

「えぇ、そう。そしてアタシはデュノア社を潰して、ホロスコープスになるの!」

「いい考えとは思えないわね!」

ユニコーンの言葉を、真っ向から否定する鈴音。

「おまえを止める!」

<CHAINALLEY-ON>

強く宣言したフォーゼBSはチェーンアレイモジュールを装備し、振り回しながらユニコーンに攻撃を仕掛ける。

しかし…。

ドゴオオオォ!

「うわあぁ!?危ないわよ!?」「ぶつかったら、どうするおつもりですの!?」

「わ、悪い!」

チェーンアレイは壁に激突し、壁の瓦礫が危うくセシリアや鈴音にぶつかりそうになった。

謝っていると…。

ドガアアアアァ!

「ぐおおおぉ!?」

ユニコーン自慢のツノを持ってする頭突きを正面から受け、地面を転がる。

「やっべ…他にいいスイッチは…」

「宇月、使え!」

唐突に現れた礼。渡したのは…。

「このスイッチ…エレキだ!もう完成したのか!?」

「未完全だが、強力に間違いはない!」

10番のアストロスイッチ「エレキスイッチ」だ。多少不安要素はあるが、迷っている暇はない。

「よし、使ってみるか!」

<ELEKI-ON>

右手用のソケットを差し替え、エレキスイッチをオンにする。

その瞬間、フォーゼBSの右手は金色に輝き、電気を纏った杖上の武器「ビリーザロッド」を握り締めている。

「す、凄い…身体中が痺れるみたいだ!」

右手を強く握り、ビリーザロッドをユニコーンにぶつける。

ガッ!バリバリバリバリィ!

「キャアアアアアアアアアアアアアァ!?」

「うわあああああああああああああぁ!?」

だがフォーゼBSすら、その電撃を受けてしまっている。

「う、宇月!?」

「エナジーが強力すぎて逆流してる…!」

これでは、ユニコーンに対抗する術がない…。

「どうする…!?」

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回

 

                   あんたも中途半端なモノ作るな!

 

あの場でエレキがなかったら、宇月は負けていた!

 

                   ボクの秘密…教えるね

 

僕も教える…君の秘密も知っちゃったから…

 

                   いろんな人が力を合わせなきゃ…

 

ボクも…仮面ライダー部に入るよ!

 

 

 

 

第8話「距・離・難・解」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 

 






キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄

女子生徒=ユニコーン・ゾディアーツ

織斑千冬
山田真耶

???=スコーピオン・ゾディアーツ




あとがき
いかがでしたか?
新キャラの辻永礼。彼は元ホロスコープスのアリエスです。さらにスイッチ開発担当。そして、もう一つ役割があります…。名前でバレるかも知れませんが(汗)
今回、やっと登場させたモブで人気の、のほほんさん。メインストーリーに絡むかどうかは…未定です。
スコーピオンの出番、少なかったですね。まぁ次回、また暴れますが…。
IS訓練シーンの未完全ぶりと来たら…(大汗)。
次回は、シャルルの秘密(元を知ってる人はバレバレですが)と、紫苑の秘密を明かします!
そろそろSOLU編にも突入予定です。
お楽しみに!


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第8話「距・離・難・解」

 

ビリーザロッドの電撃が強力すぎて、フォーゼBS自身にもダメージを与えてしまっている。

「…アンタも、その力は上手く扱えないようね…」

ユニコーンは息を荒げながらも、フォーゼBSを罵る。

「くっそ!」

握っている右手から、すでに微かな電気を感じ、痺れをきたしている。

「…やはり、完成を急ぎすぎたか。コズミックエナジーが暴発している…」

「はぁ!?」

礼の言葉を聞いた鈴音は、激怒して彼に詰め寄る。

「危険だって分かって、あのスイッチを渡したの!?」

「黙れ」

礼は鈴音の言葉を一切聞かず、次はセシリアが彼に対して詰め寄った。

「聞き捨てなりませんわ!あなたは宇月さんの親友であり、最大のパートナーだとお聞きしました!なのに、不完全なものを託すなんて、どうかしてますわ!」

「黙れと言ってるだろ」

彼女達の言葉を全く聞こうとしない。完全に壁を作ってしまっている。

「落ち着けよ!まず、此処から非難だろ!?」

気絶した紫苑と、彼やフォーゼBSを心配そうに見つめるシャルルの前に立った一夏は、3人に告げる。

次に一夏は、戸惑いつつも分析を続けていた箒に呼びかける。

「箒、フラシェキーを宇月に!」

「あ、あぁ!フラ君、言って来い!」

箒は訳も分からず、一夏の指示通りフラシェキーをフォーゼBSに投げ渡す。

「フラシェキー…。なるほどな!」

それをキャッチしたフォーゼBSはエレキスイッチをオフにして、フラシェキーを起動させているフラッシュスイッチをソケットに挿入し、スモークスイッチも同時にオンした。

<FLUSH-ON><SMOKE-ON>

「目くらまし!」

「キャアッ!?」

「よし!みんな、今のうちに!」

フラッシュモジュールとスモークモジュールで視界を奪い、その隙を突いてラビットハッチに非難した。

煙が晴れると誰もおらず、ユニコーンのみが残された。

「…逃げたわね!臆病者ォ!」

 

ラビットハッチ。

紫苑は深刻な外傷が見られなかったため、シャルルも付き添いながら自室へと戻った。山田は教師として学校面の調査に向かっているため、今は居ない。

礼は宇月に頭を下げた。

「すまない、宇月。おれの気の焦りだ…」

「いや、礼は悪くない。とりあえず、エレキスイッチの再調整を頼む」

一方、宇月は彼を許したが、それを良しとしない者が居た。

「宇月、彼の気の焦りの理由くらい、分かるだろ?」

「箒…」

箒だった。バガミールで分析しつつも、礼やセシリアたちの言い争いをずっと聞いていた。

彼女の推測として、礼がエレキの完成を焦ったのは、自分たちに理由があると分かっている。

「辻永。どうしてわたし達が受け入れられないんだ?」

「おまえ達みたいな中途半端な覚悟でゾディアーツと戦う連中を、関わらせるつもりはない。スコーピオンに勝てたのは、まぐれだ」

箒のほうを見向きもせず、淡々と告げる礼。

その発言を聞いた鈴音が、我慢できずに言い返した。

「あんただって中途半端なモノを作って、宇月に渡したじゃない!」

「エレキがなければ、宇月は負けていた」

「そのエレキで宇月さんは、大怪我を負ったかもしれませんのよ!?」

セシリアも彼に反論する。確かにエレキの力で、宇月には多大なダメージが残った。

礼の感情論で、宇月が傷つけられて良い理由はない。

「あんた…あたし達に嫉妬してるんじゃないの?」

すこしだけ侮蔑のような意味を含んだ笑みを浮かべて、鈴音は言った。

次の瞬間…。

 

バシッ!

 

「え…!?」

鈴音は、強く叩かれた。

殴ったのは…一夏だ。

「…何も知ろうとせずに、こいつを否定するな!!」

その表情は、強い怒りと共に深い悲しみが込められていた。

「なんで…なんでよ!?」

鈴音は殴られた理由が分からない。涙を目に溜めながら聞く。

理由を問われた一夏は、礼を一度見てから答える。

「たぶん、辻永は…」

 

「おれ達を危険から遠ざけるためにやっていたんだ」

 

「織斑、おまえ…!?」

「…おれ達はゾディアーツとは基本的に戦えない。取り返しのつかない怪我を負う前に、おれ達を遠ざけようとしたんだろ。エレキの完成を急いだのは、おれ達が安心して仮面ライダー部を抜けられるようにするためだよな?」

推測であった一夏の言葉だが、礼の意中を捉えていた。

「でも鈴音達に向けた罵倒は許していない。力は中途半端かもしれないが、気持ちだけは本気だ。おれも箒達も、これだけは言える」

次に宇月を見る。

「おまえも知ってたんだろ、宇月?」

一夏は分かりきった返事を想像しつつ聞く。

 

「そっか、そういうことだったのか!」

 

「…は?」

想像もつかなかった答えが返ってきた。

実は宇月、礼が何を考えて仮面ライダー部のメンバーを離れさせようとしたのかを、全く理解できていなかった。

だからこそ、一夏達に対する罵倒に対して、あんなにも激怒したのだが。

「なるほど、さすがは礼!フォーゼから離れれば、ゾディアーツの危険からある程度は遠ざけられるもんな!」

全てに納得がいったのか、大きく笑いながら礼と一夏の肩を叩く宇月。

だが、一夏は…。

「う…宇月…」

「ん?どした?」

拳を握って、プルプルと震えている。

「おまえは、空気をよめえええええええええええええええぇ!」

「えっ!なんで怒った!?意味が分かんねえええええええええぇ!?」

2人の追いかけっこが始まる。

緊迫していた雰囲気を一気に和ませ、次第にこの場にいる人からも笑みがこぼれた。

「…ふっ。宇月、相変わらずだな。相手の都合や気持ちを考えないバカ野郎だ。だが、そこがおまえの取り柄かもな。事情など気にせず、自分の正義を貫く」

礼が微笑んで、宇月を見ている。

「…だが、おれの都合は少しだけ通させてもらうぞ」

そう言って、エレキスイッチを握り締めた。

 

それから暫くして…。自室で紫苑は目を覚ました。

身体を起こすと、辺りを見渡す。

「デュノア君が運んでくれたのかな…?」

先ほどの怪物の襲撃だったため、近くにいたシャルルがそうしたと理解した。

何故か、彼は居なかったが…。

身体中から、汗が噴き出している。信じられない力で殴られれば、当然のことではあるのだろう。

「…お風呂でも入ろっかな」

そう言ってシャワー室に入ろうと、そこに続く脱衣所へのドアを開けた。

 

「…え?」

 

そこには、既に使っている者が居た。

シャルルである。

だが、彼の体は…。

 

「あ…あぁ…うわあああああぁ!?」

「え…?え、えぇ?」

 

男とは思えない身体だった。

とっさに本人が手で隠したため、はっきりとは見えなかったが、隠している胸は男性の大きさではない。

考えられる事はただ一つ。シャルルは…女性である。

「ご、ごごごごご、ごめんなさあああああああああい!」

それが理解できた瞬間、紫苑は一気に顔を赤らめて脱衣所から出て行く

ベッドに座り、頭の中を整理する。

「ど、どうなってるの…!?デュノア君は…女の子になっちゃったの!?」

だが、上手くまとめられず、あたふたとしているうちに…。

 

「し、紫苑…」

 

着替え終わり、ジャージ姿になったシャルルが出てきた。

「デュ、デュノア君…じゃなくてデュノアさん?…えっと、本当にごめんなさい。覗くつもりはなかったんだけど…うぅ」

とりあえず、頭を下げて謝った。

「だ、大丈夫だよ。こっちこそごめんね、驚かせて…」

シャルルは、紫苑の肩を持って頭を上げさせる。

「あの…女の子になっちゃったの?」

「ううん、ボクは元から女の子。でも父からの命令で、男の子として此処に来たんだよ」

つまり、経歴詐称である。なぜ、そのようなことを行なったのか、紫苑には理解できなかった。

「どうして、そんなことを?」

「世界で数少ない男のIS使いなら、デュノア社の宣伝文句になるから。そして一夏の専用機「白式」のデータを盗むため」

たしかに、彼女の意見は一理ある。だが、経歴詐称をするほどの理由ではないと紫苑は感じた。

「え…でも、それは女の子として入学しても、問題ないはずだよ。織斑君とは後から仲良くなれば良いし、デュノア社の令嬢だってだけで十分、宣伝文句には…」

「…ボクの会社は今、経営難なんだ…。第3世代のISのシェアについて来れなくて、フランス代表のボクですら、第2世代…。だから男IS使いとして注目を浴びて、おなじ境遇の一夏と仲良くなる機会を作り、最新型の一夏の白式のデータを盗んで、会社の力に変えようと、ボクが送り込まれたんだよ」

紫苑は驚いたまま、その言葉を聞いている。

「大変だったね…。でも、君のお父さんやお母さんは心配してないの?」

ふとこぼした紫苑の質問に、シャルルは少し表情を暗くして言った。

「ボクは、父との本妻の子じゃないんだ…。幼い頃からお母さんと暮らしてきたけど、お母さんが死んでから、デュノアに引き取られてからIS適性があると分かったときに、1時間くらい会っただけかな」

「あ…ごめんなさい…知らなかった…」

マズイ事を聞いたと感じて、紫苑は頭を下げる。

「…これから、どうなるの?」

「女の子って知られた以上、本国に連れ戻されるかな…。連れ戻されてからのことは分からない。良くて…牢屋行きかな」

「そ、そんなのひどいよ!」

意味が分からなかった。シャルルは経歴詐称をしたとは言え、自分が望んで罪を犯したわけではない。なのに何故、牢屋などに閉じ込められなければいけないのだろうか?

理由があるとするならば…。

「…僕のせいだ!」

紫苑は頭を抱えて、苦痛に満ちた表情になる。

「違うよ!紫苑は悪くないから…」

「僕のせいだ…やっぱり僕は、クズだああああああああああああああああああぁ!」

必死にシャルルが否定するが、紫苑は狂ったように叫んで、部屋から走り去った。

「紫苑…」

彼の姿を、シャルルは追うことが出来なかった。

 

早朝。

礼は、寝ずにスイッチ調整を進めていた。

結果…。

「…完成だ!」

エレキスイッチが完全に調整完了した。

「あとは実践で慣れてもらえば、エレキスイッチは完全に使いこなせる!」

調整室から出てくると…。

「なんだ、これは?」

宇月、一夏、箒、セシリア、鈴音の全員が、テーブルに突っ伏して寝ている。

「まったく…自分の部屋くらい…ん?」

めんどくさそうに呟いている途中、鈴音の手元にあったのは…。

「朝飯か?」

そう、朝食が作られていた。横には手紙がある。

それを手にとって、目を通した。

 

~礼!あんたに認めてもらうまで、ここに居座るわよ!~

 

「ふっ…チビ女め」

軽く笑い、朝食を手にとってラビットハッチから出て行った。

 

一方、シャルルもいつの間にか眠っていたらしい。

「あ…朝か…」

昨晩のことを思い出し、複雑な表情になった。

そこへ…。

「デュノア君!…じゃなくてデュノアさん!」

「紫苑?」

紫苑が喜びに満ちた表情でやってきた。昨日の様子がまるで嘘のようだ。

「見つけたよ!」

そういいながら、紫苑は学生手帳を手に取り、シャルルに見せつけた。

「校則には「在学中の生徒は、いかなる政府や国家の干渉も受けない」ってあったんだ!だから君は在学中だけでも連れ戻されないよ!それに僕が黙っていれば良いんだ!」

嬉しそうに言う紫苑。よく見ると、彼の目にはクマが出来ている。

おそらく、紫苑は眠らずにシャルルを救う方法を模索し、この項目を見つけ出したのだろう。

彼の優しさを感じ、シャルルは微笑んで紫苑の手をとった。

「紫苑…優しいね。ありがとう、ボクを庇ってくれて」

その言葉に対して何故か紫苑の表情は暗くなり、彼女の手も離す。

「僕は優しくない。だってクズだから…。でも、デュノアさんには何の罪も無いから。どうしても助けたかった」

紫苑は自分を否定しすぎている。現に彼はシャルルを助けるために、此処まで頑張れるほどなのだ。紫苑の肩を持って、シャルルは優しく言い諭した。

「自信を持って。紫苑はクズなんかじゃない」

 

「…何も知らないからそう言えるんだ」

 

「え…?」

「僕も秘密を教えるよ…。君の秘密も知っちゃったから」

紫苑は暗い表情をしたまま、上着を脱ぎ始める。

「うわっ!ちょっと!?」

とっさにシャルルは俯く。だが…

「僕はね…」

 

「親殺しなんだ」

 

その言葉を聞いて、彼を見た瞬間…。

「紫苑…!?」

シャルルは絶句した。

紫苑の上半身には、至る所に縫い跡があった。右腕に関しては、不自然な肌の色をしている。

「僕の身体の半分はお母さんで出来ている。僕にIS適性があったのは、体の中にあるお母さんの身体が微かに適合したから。でも微かにだから、適性度も低かった」

彼の肉体は半分が死滅しており、それを母親の身体で補っている。特に右腕と左足は母親の手足そのものを使っている。だからこそ、肌の色が違うのだ。

「昔、事故で瀕死の重傷になって…お母さんは僕を生かすために、自分の身体を提供した。そして僕は助かったけど、お母さんは死んだ」

「紫苑…でも、殺す気があったわけじゃ…」

壮絶な過去だと感じたが、紫苑は自分の意志で母親を殺しているわけではない。

だが…。

「お母さんが死んで、僕は生きてるって分かったとき、こう思ったんだ…「良かった、僕は生きてるんだ」って…」

紫苑は顔を伏せ、涙を流し始めた…。

だが、次に無理に笑った表情で前を向く。

「デュノアさんと同室になって、一緒に勉強したり、こうやって昔のことを明かしあったりして、僕も独りぼっちじゃないかもって錯覚できた」

「独りぼっちじゃないよ。だって、城茂君や一夏達もいる。ボクだって…!」

「いや、独りだよ。君やみんなは自分の親を殺した?」

その言葉に対する反論を、シャルルは出来なかった。

「みんなみたいに優しい人達が出来るわけがない。僕は優しくないからお母さんを殺せたんだ。だから僕はクズなんだよ」

彼は自分を救ってくれたのに、自分は彼を救えない。いや、本人が救われることを望んでいないといったほうが適切だろう。

それでも…。

「じゃあ、ボクと一緒にがんばろ。もし紫苑がクズでも、ボクは君を受け入れるよ。ボクも、ボクとしての在り方を探すから…」

シャルルはもう一度、紫苑の手をとって言う。

「デュノアさん…ありがとね」「うん」

その時…。

 

ドゴオオオオオン!

 

「近い…!?」「行こう、紫苑!」

シャルルは紫苑の手を引き、部屋を出て行く。

 

数分前。

「シャルル・デュノア…今度こそ!」

2人が話を続けている部屋のに続く大きなバルコニーで、女子生徒がスイッチを握っている。

それは既にラストワンの状態だ。

「待て!」

そこに現れたのは、宇月だった。

「もうやめろ!スイッチを捨てて、自分の力でシャルルと戦え!」

「そんなことしても、うちの会社がデュノア社に勝てないことくらい、アタシにだってわかる!だから、この力で…!」

宇月の警告も無視した女子生徒はスイッチを押してしまう。その身体はユニコーンと人間に分離した。

そこにスコーピオンが悠然と歩いてくる。

「分かるかね、フォーゼ。スイッチを押す者は皆、自分の意志で押すのだ。君がどこまでも戦おうが、スイッチを望む者が居る限りゾディアーツは生まれ続ける。いずれ新たなホロスコープスもね。君に私達を喰い止める事など出来ないのだよ」

「くっ…」

フォーゼドライバーを装着した宇月は悔しがったが、スコーピオンの意見は正しい。どんなに足掻いても、人間の感情までコントロールする事などできない。ましてや、この学園全員など不可能だ。スイッチを望む者は限りなく現れるだろう。

彼が反論できない事が分かったのか、スコーピオンは楽しそうに笑う。

「ハハハハハハハ!…ならば、彼女達の邪魔はやめたまえ。君もその方が安全だ」

そう言い放って、スコーピオンは消え去った。

「やっぱ止められないのかよ…完全には…!」

「なら、阻止し続ければいい話だ!」

その言葉と共に現れたのは、箒だ。バガミールやポテチョキンも足元に居た。

「例え止められなかったとしても、放っておけばもっと被害が増え、傷つく者が増える!それを限界まで減らすことが、フォーゼとしての宇月の役目だろう!?」

「箒…!」

彼女の後にセシリアも続く。

「そして、そのフォーゼである宇月さんを支えるのが、わたくし達の役目ですわ!」

「あたし達にだって、やれる事は沢山あるしね!」

「セシリア…鈴音…!」

最後に一夏と礼が現れて、宇月の両方に立つ。

「そういうことだ。おまえこそ、おれ達を止める事は出来ないぜ?」

「バカね…アンタたち、スコーピオン様に敵うと思ってるの?」

ユニコーンは嘲笑しながら問う。

「上等だ。必ず、おまえらに勝つ。そして、この学園を守り抜いてみせる!」

最後に礼が強く宣言し、宇月にエレキスイッチを渡す。

「宇月、エレキスイッチだ。今度こそ、上手く使ってくれ!」

「あぁ!」

宇月はエレキスイッチを手に取り、赤いスイッチを起動する。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変身する。

丁度その時、紫苑とシャルルがそこにたどり着いた。

シャルルは2度目だが、紫苑は初めてフォーゼを目の当たりにした。

「あれって…噂の仮面ライダー!?」「昨日も、ボク達を助けてくれたんだよ」

ユニコーンは2人の姿を見た途端、様子が変わる。

「シャルル・デュノアァ…!」

彼女の感情に反応し、ユニコーンの頭部が変形し、大きなツノはサーベル状の武器となって右手に装着される。

「負のコズミックエナジーが活性化している…まさか!?」

その途端、ユニコーンの身体の一部が強く輝き始めた。

「最輝星…!?ますい、ホロスコープスに進化してしまうぞ!」

礼がフォーゼBSに呼びかける。

最輝星とは、ゾディアーツのモチーフとなった星座の運命に近い者を言い、それが近ければ近いほど、ホロスコープスへの覚醒も早い。

事実、礼はある星座の最輝星であり、そのためアリエスへと急速に覚醒を遂げたのだ。

フォーゼBSもアリエスが覚醒する姿を見たことがあるので、それは理解できる。

「もう時間が無い、エレキを使う!」

早速、エレキスイッチをソケットに挿してオンにする。

<ELEKI-ON>

昨日と同じく、右手が黄金色に輝きビリーザロッドが現れた。

「まだ、強力だな…!」

やはり、エナジーが強すぎてフォーゼBSにも軽く痺れが巡っている。

「やっぱり上手く扱えないのね…?」

ユニコーンは鼻で笑いながら、フォーゼBSに襲い掛かる。

とっさに防ごうとするが…。

ガキィ!

「がぁっ!」

身体に痺れをきたしていたために自由が利かず、攻撃を防ぐ事が出来なかった。

「何故だ…?何故、上手くコントロールできないんだ!?」

礼は何度もチェックをしたのだが、調整は完璧だった。フォーゼ自体の損傷はないはずであり、理由が見つからない。

「どうしよう…」

それを見ていた紫苑はあたふたと戸惑っている。だが、シャルルは違った。

「城茂君!その力を操ろうと思わないで!」

「シャルル…?」

フォーゼBSはシャルルの声に反応し、彼女のほうを見る。

「その力を…受け入れて!」

「受け入れる…」

感覚的なものだが、フォーゼBSにはなんとなく理解できた。

だが、礼は彼女の言葉の意味が分からず、即座に罵倒した。

「バカかデュノア!コズミックエナジーにそんな感情論が通るはずは…」

「いや通るぜ、礼!ユニコーンも感情に反応して形態を変化させた。フォーゼもコズミックエナジーを使うのなら…」

そう言って、フォーゼBSは仮面の下で目を閉じ、意識を集中させる。

 

「さぁ…おれは身体全部で…おまえを受け入れる!」

 

その途端、フォーゼの右手の電気が身体中を巡り、身体中が黄金色に輝いた。

「あれは…!?」

一夏は驚いている。フォーゼの白い身体はシルエットだけを残して大きく変化したのだ。

「そうか…エレキはステイツチェンジのスイッチだったのか!」

礼は全てが納得できたように言う。

フォーゼは新たな形態「仮面ライダーフォーゼ・エレキステイツ」へとステイツチェンジしたのだ。

「サンキュ、シャルル!これなら行けそうだ!身体中が痺れるぜ!」

「うん、頑張って!」

フォーゼESは、ビリーザロッドのプラグをソケットに挿して、振り回しながらユニコーンに向かって駆ける。

「はあああああああああああああああぁ!」

「セェアアアアアアアアァ!」

ガキィ!バリィ!

ユニコーンのサーベルにビリーザロッドがぶつかった瞬間、彼女の右手は強い電流が走り、強い痺れをきたした。

「キャアッ!?」

「今だ!」

そこで出来た隙を利用し、渾身の力を込めてビリーザロッドを振り抜いた。

バリイイイイィ!

「ウアアアアアアアアアァ!?」

身体中に電撃が流れ、地面に座り込んだ。

「よし、トドメ!」

エレキスイッチをビリーザロッドに挿入し、電撃を纏う。

<LIMIT-BREAKE>

「喰らえ!ライダァァァァ…100億ボルト・ブレェェェェイク!」

ズバッ!ドガアアアアアアアアアアアァ!

強力な電撃がユニコーンの身体を貫き、爆発を起こした。

中から現れたスイッチをキャッチしたフォーゼESは、オフにして消滅させた。

「一件落着…!」

 

暫くすると、ユニコーンだった女子生徒は目を覚ました。

「なんで…どうしてアタシが負けるのよ!?」

彼女は自分の敗北が納得できず、取り乱すがシャルルが優しく肩を抱く。

「事情は聞いたよ、君が苦しんでる理由…。でも、ボクは君に命を差し出したりはしない。これからボクは、ボクとしての在り方を探すから。君も他にあるはずだよ。君らしい在り方が」

シャルルの言葉に変身を解いた宇月も続く。

「シャルルの言うとおりだ。スイッチに頼らなくても、コイツに真っ向から勝負して、勝つことだって出来る。おまえにも、おまえらしい可能性があるんだ。人間には誰でもな!」

屈託のない笑顔で、女子生徒の肩に手を置く宇月。

「ほんとバカね…白いロケットさん」「フォーゼです…」

 

その日のホームルーム前。

シャルルと紫苑に対して、フォーゼやゾディアーツのことは話したので、彼等も秘密を共有する事になった。

そして…。

「城茂君…ううん、宇月。ボクも仮面ライダー部に入るよ!」

「シャルル…?」

突然のシャルルの宣言。宇月達からすれば、彼女が仮面ライダー部に入りたがる理由が見つからない。一夏と箒、セシリアや鈴音は明確な理由があったが、彼女には何もないように感じる。

「ボク、自分の在り方を探してみたいんだ。この部活に入ったら、何か見つけられそうな気がして…」

「…もう、隠してないもんな。どうするよ、礼?」

宇月は近くにいた礼に聞く。

「…個人的な理由でラビットハッチを利用されるのはお断りだ」

「う、うぅ…」

残念ながら礼はきっぱりと断る。

しかし…。

「だが仮面ライダー部はどうでも良い。入ろうが入るまいが、それは自分の意志と宇月の了承があれば、おれはとやかく言うつもりはない」

「じゃあ…!」

意気消沈していた表情が一気に明るくなるシャルル。

「入部決定だ!よろしくな、シャルル!」「うん、頑張るよ!」

宇月は手を差し出し、シャルルはその手を握る。

「そこの奴らも、仮面ライダー部は好きにしろ」

礼は軽く笑いながら、鈴音達にも呼びかけた。

「認めてくれたようね!」

「勘違いするな、チビ女。ラビットハッチは出入り禁止だ」

「なんですってえええええええええぇ!?」

鈴音はムキになって礼に突っかかるが、彼女の頭を持って阻止している。

「篠ノ之、フードロイドは返してもらう。必要なときだけ貸し出す」

「そ、そんな!?」

礼は否応なしにバガミール達を取り上げ、自分のカバンの中に入れた。

「紫苑も入るよね?」

シャルルは近くで聞いていた紫苑に呼びかける。

「…僕はいいよ」

「え…どうして?」

以外にも、彼は仮面ライダー部への入部を拒絶した。

「僕は僕なりに頑張ってみたいんだ。今の僕が自分を受け入れるためには、仮面ライダー部に入ることじゃないんだと思う」

「そっか…」

シャルルと紫苑はなかなか計りかねない距離を持っている。しかし、これからゆっくりと変わっていけば良い。

「まったく、礼も素直じゃないよな。認めたんだろ?」

「…まだ完全じゃない。本当に信頼できたら、ラビットハッチの出入りを許すつもりだ」

宇月の問いに対して、礼は他のメンバーには聞こえないように言った。

「つっち~!」「うおっ、来るなノロマ!」

一方、礼には本音が抱きついてこようとしたので、鈴音を押さえていた手を離し、本音を突き放す。

ゴツンッ!

「いたぁ!?」

その拍子に鈴音は机に頭をぶつけた。

「もぉ~のほほんだよ~」

「来るな!寄るな!あっちにいけ!」

クラス内で追いかけっこが始まった。

「おい、ホームルームを始めるぞ!」

千冬が教室に入ってきて、いつもの1日が始まった。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                       ラウラ・ボーデヴィッヒだ

 

始めまして、誇り高きドイツ代表候補生よ

 

                       君は…だれ?

 

わたしはゆりこ

 

                       か、かわいい…!

 

宇月に恋の季節…!?

 

                       フォーゼの女性用「なでしこ」だ。

 

認めない…おまえがあの人の弟だなんて…!

 

 

 

第9話「独・逸・対・立」

 

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 

 

 

 






キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑

女子生徒=ユニコーン・ゾディアーツ

織斑千冬

???=スコーピオン・ゾディアーツ



あとがき
いかがでしたか?
やっとステイツチェンジです!
今回は、シャルルと紫苑の心の距離をとにかく明確にしておく必要があったので、他の話が薄かった気がします(汗)
紫苑の秘密、どうでした?一応、ISの適性が低い理由も、これにあります。
登場キャラの中で一番、重い過去を目指したのですが…。本人のネガティブ思考のせいでもありますね。
次回はなでしこ編とラウラ編、同時進行で行きます!そろそろ、リブラを本格登場させるかもしれません。
ではまた…。


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第9話「独・逸・対・立」

IS学園から少し離れた場所。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!

大きな轟音と共に、複数の黒い怪人が吹き飛ばされた。

怪人たちの名はダスタード。ホロスコープスが呼び出す戦闘員のようなものである。

そして、そのダスタードを吹き飛ばしたのは…。

「はあああああああぁっ!」

以前、リブラと接触した仮面ライダー龍騎である。

「あゆ!SOLUは見つかった!?」

「だめ!隕石落下地点に行ったけど、なかったよ!」

近くに現れたあゆにSOLUの消息を聞いたが、まだ判明していないようだ。

「わかった!早めにこの戦いを切り上げる!」

<STRIKE VENT>

龍騎の右腕にドラグクローが装備され、辺りを彼の契約モンスターのドラグレッダーが舞う。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

「はああああああああぁ…だあぁっ!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォ!

ドラグレッダーと共に放つドラグクローファイヤーで、ダスタードを殲滅する。その力はかつての数年前の冬の頃と比べても全く衰えていない。

龍騎が変身を解くと、そこには20代程の男性が現れた。名は龍崎竜也。

彼にあゆが声をかける。

「竜也くん。SOLUは、ゾディアーツが沢山出てくる学校に向かってるんだよね?」

「聞いた話だと、コズミックエナジーが集中している場所に向かいやすいらしいから…。行こうか」

そう言って、竜也はカードデッキを翳してスクーターをドラゴンサイクルに変形させ、あゆを乗せて、共にその場を走り去った。

 

残された場所にいたのは…。

「龍騎も邪魔をするようだね…」

恨めしいように呟くリブラだけであった。

 

シャルルが仮面ライダー部に入部して、一週間後のことである。

「えっと…今日はまた皆さんに、新しいお友達を紹介します!」

連続の転校生。山田の報告で、流石にクラスがざわつき始める。

「また…?」「不自然よね…」

「では、どうぞ」

山田に促されて入ってきたのは…。

左目に眼帯をつけ、右目は冷たい視線を送る一人の少女だった。

彼女はスカートを穿いておらず、軍隊のようなズボンを着用している。

「自己紹介しろ」

「はい教官」

千冬の促しに、背筋を伸ばしはっきりと答える少女。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

静かだったが、力強い声で言い放つ。クラスも理雄を除いて、その迫力に押されている。

ふと、ラウラが一人の生徒を睨む。その相手は一夏。明らかに敵意がある。

ツカツカと軍靴を響かせながら、一夏に近付き…。

「な、なんだよ…?」

バシッ!

「っ!?」

いきなり叩かれる。理由が分からず、唖然としながらラウラを見ると、彼女は嫌悪感を隠さないような表情で言う。

「認めない…おまえがあの人の弟など…!」

 

放課後…。

「なんだろ、あの転校生…」

宇月はラウラが居なくなってから、腕を組んで唸っていた。

「一夏を千冬さんの弟と認めたくないと言っていたが…」

彼女の言葉を聞いていた箒も、不思議そうに呟く。

「参ったよ…いきなり殴られるなんてな…」

完全な被害者の一夏。痛くはないが殴られた頬をさすっている。

そこに紫苑がやってきた。

「なにか…心当たりはないの?」

彼は一夏とラウラに何か因縁のようなものがあるのかと思い、一夏に聞いてみた。

「あるかよ、そんなもの!」

「だ、だよね…ごめん…」

ただ、一夏には全く覚えがない。強く否定したところ、紫苑は縮こまって謝る。

「紫苑、そうやって、すぐに「ごめん」っていわない!」

シャルルが頬を膨らませて、紫苑を指差して注意する。

「あ…ごめん…」

「また!もぉ、悪循環だよ?」

「あぁっ…。…えっと…その…」

紫苑は頭をさすりながら戸惑っていると、シャルルはニッコリ笑って肩に手を置く。

「謝るときは、本当に悪い事をしたときだよ?じゃないと、紫苑の「ごめん」が安っぽくなっちゃうからね」

「う…うん…」

その様子を見ていたセシリアは、軽く笑う。

「な、なにかな?」

「いえ、シャルルさんが紫苑さんのお母様に見えて…。男の子ですのにね…」

「お母さん!?」

シャルルはセシリアの言葉で顔を真っ赤にして両手と首を振りながら否定する。

「ぼ、ボクは男の子だよ!?そ、そんなわけないじゃないか…!」

「ですね、ごめんなさい」

その後ろでは…。

「だから来るな、ノロマ!」「いいじゃ~ん」

本音と礼の追いかけっこが、未だに続いている。

「つっち~。今日の夕飯、一緒に食べよ~」「ふざけるな!誰がおまえなんかと!」

本音から距離を置いた礼は、宇月にこそこそと呟く。

「…20番の調整が終わりそうだ。あと…」

そういいながら、宇月にフォーゼドライバーと似たベルトを渡す。

だが…。

「つっち~」「その呼び方はやめろ、おれは辻永礼だ!」

十分な説明が出来ずに、再び追いかけっこが始まった。

「じゃあ、れっち~」「馬鹿にしてるのか!?」

 

今日はラビットハッチに礼が居ない。理由は本音だ。結局、あのあと夕食につき合わされている。

あのあと礼は、ある条件で箒のみをラビットハッチ内に入室する事を許した。

「箒!」

宇月が箒を呼ぶ。

「な、なんだ…?」

「実はな、おまえに頼みがあるんだ…」

そう言って先程、礼から渡されたフォーゼドライバーに似たベルトを箒に手渡す。

「これは…?」

「女性版フォーゼだ。ま、フォーゼの試作品だけどな。名前は「なでしこ」って言うんだ」

そう、ラビットハッチにあるコズミックエナジーを介したスーツはフォーゼだけではない。

フォーゼよりも先に女性用を見越したスーツがあったのだ。

「これを箒に使って欲しい」

「わ、私に!?」

箒は驚く。言ってしまえば、フォーゼとほぼ同等の力をもつことになる。

「何故…?」

「これはなでしこって名前どおり、日本人しか扱えない。仮面ライダー部の女子最古参はおまえだろ?一夏、セシリア、シャルルは全員、専用機持ち。鈴音は専用機とパワーダイザー。礼はスイッチ調整。適役はおまえしかいないってことだ」

改めて、なでしこドライバーを突き出す宇月。箒は戸惑いつつもそれを受け取った。

「やってみよう…」

「おう!」

 

丁度そのころ…。

ラウラはアリーナで一人、夜空を見ていた。

「澄みきった夜空の星座は、素晴らしく美しい…」

「誰だ?」

ラウラが呼びかけると、暗がりからスコーピオンが現れた。

「初めまして。誇り高きドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒよ」

その姿はラウラにとっては異形の怪物そのもの。未知の脅威に対する、攻撃心が生まれた。

「バケモノっ!」

「落ち着きたまえ。私は君に力を与えにきたのだよ」

スコーピオンは手で制するが、ラウラは聞く耳を持たず、自身の専用機IS「シュヴァルツェア・レーゲン」を展開する。

「気性が荒いようだな。さて、困ったものだ」

「くらえ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアァン!

ラウラはスコーピオンに対して、持てる全ての技を放つ。

だが…。

「IS如きでは、神聖なるホロスコープスを超える事は出来ぬ!」

そう聞こえた瞬間、爆風の中から凄まじい速度でスコーピオンが現れ、ラウラと間合いを詰める。

「うっ…!?」

とっさにシュヴァルツェア・レーゲンにある機能「AIC」を起動させようとするが、スコーピオンの動きが早すぎて追いつかない。

ズッ…!

だがラウラには攻撃せず、彼女のシュヴァルツェア・レーゲンに自身の尾を突き刺す。

「なにを…?」

「君のISにある障害物を取り除いたのだよ。ヴァルキリー・トレースシステム」

彼女もそれには聞き覚えがあった。あらゆる国家・企業で開発が禁止されたシステム。

スコーピオンはそれに気付き、そのシステムを彼の持つ、負のコズミックエナジーで機能停止させたのだ。

「こんなものに頼らなければ、君は強く在れないのかな?それとも、このシステムの搭載を知らなかったのかな?…どちらにしても、こんなものを搭載したISを使う君は弱い」

「貴様…っ!」

スコーピオンの言葉に激昂したラウラは右肩のレールカノンを発射する。

ズドオオオオオオオオオオオォ!

だが、それすらもスコーピオンには効果がなかった。彼は動きが早すぎて命中する事ができないのだ。

そして…。

「…良い加減、自分の弱さを自覚したらどうかな?」

スコーピオンの星座を模した水晶から凄まじい量の光弾がラウラを襲う。

AICを起動させて防御に徹したが…。

ダダダダダダダダダダ!

「うわあああああああああああああぁ!」

この弱点は一方向にしか防御が出来ない。つまり、多方向からの攻撃には弱いのだ。

ISにあるシールドエネルギーの残量は、フルの状態から一気に10をきった。

「…安心したまえ、君は強くなれる。ISなどに頼らずとも…織斑千冬さえも越えた最強の存在も夢ではない」

「教官を…?」

その言葉にラウラは揺り動かされた。

スコーピオンはゾディアーツスイッチを彼女に渡す。

「君の揺ぎ無い最強への扉を開く鍵だ。さぁ…星に願いを…」

 

ラビットハッチ内。

箒は調整室の隣にあるスイッチやフォーゼの試運転用ルームに居る。宇月はスイッチ調整室で、彼女をモニター越しに指示している。

「よし箒、ドライバーを腰に装着して。基本的にはフォーゼと変わりない変身行程だからな」

「あぁ」

言われるまま、なでしこドライバーを腰に装着する。

「次にこれだ。ロケットとレーダーのアストロスイッチ。一応、フォーゼのコピー品だけど、性能は変わらないはず。試作品だから、それ以外のスイッチは、今のところ起動できない。これだけで頼む」

ロケットとレーダーのスイッチを受け取り、ドライバーに挿入して、赤いスイッチを起動させ、宇月と同じ構えを取り…。

 

「変身!」

 

だが…。

「…あれ?」

なにも変化が起こらない。

「おかしいな…。起動できるはずなのに…反応なしか?」

そのまま、試運転ルームに入り、ドライバーをペタペタと触る。

「わたしじゃ…ダメなのだろうか…?」

少し、声のトーンを低くして箒が言う。

彼女は専用機を持っておらず、戦闘においてもバガミールでの分析のみ。それすら礼に取り上げられたのだから、これ以上、彼女は役割が思いつかなかった。

このままでは、箒は仮面ライダー部の足手纏いになると、自責の念に駆られていたのだ。

「多分、なでしこは試作品だから不安定なんだ。もう一回、調整してみよう」

そう言って、箒の腰からなでしこドライバーを外したとき…。

ラビットハッチに一夏が現れる。

「宇月、箒、早く来い!」

「ゾディアーツか!?」

「違う!とにかく早くしろ!」

一夏に促されるまま、ラビットハッチを飛び出した。

 

向かった先は保健室…。

「一夏、この娘は誰だ?」

箒が見る先には、一人の少女が居た。茶髪の髪型に黒い瞳。制服などは着ていないところから、IS学園の生徒ではないらしい。2人の姿を見て、首をかしげている。

「こいつ…空から落ちてきたんだ」

一夏の説明に、耳を疑う。

「空?」

「夜、鈴音と歩いているとな…急に落っこちてきたんだよ。なんとかキャッチしたんだけど…」

一夏が視線をやった先には…。鈴音が頬を膨らませてイジけている。

彼女の目の前で、好きな男が別の少女をお姫様抱っこしたのだ。

つまりは嫉妬。

「ぐぬぬ…」

「鈴、なんで怒るんだよ?」

「知らない!」

プイッとそっぽを向き、不機嫌さを惜しみなく表出している。

「とりあえず…君は誰だ?」

宇月は2人をスルーし、少女に名前を聞く。

「わた…し…?」

かなりたどたどしい口調だった。外国人のような発音が違うものではない、発語自体が上手くできていないようであった。

「わ…たしは…ゆ…りこ」

「ゆりこ?」

ゆりこと名乗った少女は、宇月の顔の目の前まで近付き、目を閉じる。

「な…なんだ?」「…おん…なじだ…!」

急に満面の笑顔になったと思うと、突如、宇月を抱きしめる。

「どぉっ!?」「…いっしょだ…よ!」

宇月には、こんな経験はない。年齢の近い女子から好感を持たれた上で抱きつかれた事など。

そんな経験をはじめて味わった宇月は…。

「か、かわいい…!」

あっさりと、恋に落ちてしまったのだ。

宇月にとって、ゆりこが誰よりも可愛く見えてしまった。

「宇月に…恋の季節…!?」

鈴音が彼の様子の変化にいち早く気付いた。

「そうか…宇月もついに…」

一夏は感慨深く、うんうんと頷いている。

「一夏って…ときどき、おじいさんっぽくなるわよね」

「そ、そんなことねぇよ!」

2人のケンカが始まっている一方…。

「あははは~、いっしょ~!」

ゆりこは、宇月の頬に自分の頬を摺り寄せてきた。

「ちょ…ちょっと、ゆりこ…!」

宇月の心臓は破裂しそうなほどドキドキしており、とにかくその状況を何とかするべく、ゆりこを引き離す。

「さみし…い…。いや…がらない…で…うぇぇ…」

そうすると、ゆりこは泣き出しそうな表情に急変する。

「わ、わかった!わかったから!」

「ほん…と…?」

宇月が慌てて彼女に言うと、涙を拭ったゆりこはまた笑顔を取り戻して、宇月に抱きつく。

その様子を見ていた箒は、埒が明かないと思い、ゆりこに質問をしてみた。

「…どこから来たんだ?」

「ど…こ…?…そら!」

ゆりこは天井を指差しながら答える。天井と言うよりはその先になる空を指しているのだろう。

「いや、住んでる場所なんだが…」

「すんで…る…?…う…ちゅう!」

箒の質問に、やはり天井を指差すゆりこ。

「宇宙から来たというのか…?」

意味が分からず聞き返す箒だが、ゆりこは満面の笑みを浮かべたまま頷く。どうやら嘘を言っているようではないらしい。

そのとき…。

ゆりこの表情が突如、険しいものに変わり、宇月を連れて走り去る。

「こっち…!」「どわっ!お、おいっ!」

一夏達もそれに数秒だけ遅れて、追いかけ始めた。

「宇月、ゆりこ!」「どこにいくんだ!」「まちなさいよ!」

その途中、近くの廊下をセシリアが歩いていた。

「あら皆さん、どちらへ…?」

「おまえも来い!」

箒が彼女の姿を見た途端、その腕を掴み、強引に引っ張った。

「きゃあっ!?ちょ、ちょっと!おやめください!」

 

シャルルと紫苑。

一緒に食事を取り、自室へ戻ろうとしていたとき。

「おい、根性なし」

「え…?」

そこへ、苛立った表情の理雄がやって来た。

理雄に呼ばれた紫苑は、明らかに怯えた様子を見せた。

「テメェ、なんか賑やかになったみたいで浮かれてるみたいだな?」

「そ、そんなこと…」

「ムカつくんだよ!」

ゴッ!

「ぐっ…!」

突如、紫苑は腹を蹴り上げられ、地面に突っ伏した。

「テメェはビビリなんだからよ、教室の端っこで大人しくしてろっての」

「理雄っ!」

理雄の身勝手な言い分に、シャルルは詰め寄った。

「紫苑が何をしようが、紫苑の勝手だよ!」

「おぉ、怖い怖い。さすが…」

 

「デュノア社の隠し子は気迫が違うな」

 

「え…!?」

理雄の言葉に、シャルルは動揺した。

「どうして…それを…?」

「さぁて、どうしてだろうな。例えば…そこのビビリが洩らしたとか?」

シャルルは紫苑を見る。

「そ、そんな…!?僕、言ってないよ!」

「そう…だよね…。紫苑はボクを守ってくれた!君になんか騙されない!」

紫苑を信じているシャルルの言葉に対して、理雄は鼻でフンと笑い…。

「さて、どっちが…どこまで騙してるんだろうなァ…?」

ニヤリと笑ったまま、帰っていった。

シャルルが紫苑を見つめていると、彼は震えながら弁解を始める。

「し、信じてよ…僕は…」

「大丈夫、信じてるよ」

だが、シャルルは紫苑を微塵も疑っていない。

その直後…。

「ゆ、ゆりこ~!」

宇月とゆりこが走り去っていくところを目撃する。

「あれ…宇月だよね?」「どうしたんだろう…?」

その後ろを、一夏、箒、セシリア、鈴音が追いかけていた。

「おい、シャルル!おまえも来い!」

「へ?わぁっ!?」

一夏の手を引かれ、シャルルは連れて行かれた。

取り残された紫苑…。

「仮面ライダー部も…大変そうだね」

そう言いながら、右肩を左手で握り締めていた。

まるで、痛みをこらえているように見える…。

 

「ここ!」

ゆりこが宇月を連れて行った先には…。

「ムゥゥ…」

「あれは…!ダスタード!?」

ダスタードが10体前後、蠢いていた。

「なんだ、あの忍者!」「ゾディアーツか!?」

一夏達はダスタードを見るのは初めてであり、ゾディアーツと勘違いをする。

「少し違うな」

そう言って、アストロスイッチカバンを持った礼が現れる。もう片方には本音まで引き連れて。

「あれはホロスコープスの作り出す、低コズミックエナジーの塊だ。操り人形であり、中に人間はいない」

「じゃあ…」

「おそらく、スコーピオンか他のホロスコープスが作り出している」

鈴音が予想を言う前に礼は答えを述べる。

「それはそうと、早く離れろ」「うわわ~忍者だ~」

本音はこんな状況でも、驚いている様子は見せず、むしろアトラクションを見ているかのような反応だ。

「もう良い。宇月、ファイヤーだ。今回はエレキのような暴発は起こらないはずだ」

「お、サンキュー!」

アストロスイッチカバンからファイヤースイッチを取り出し、宇月に渡した。

フォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを起動させる。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変身する。

「はぁっ!」

ダスタードはフォーゼBSを見た瞬間、持っている刀を構えて近付く。

「よし、早速…!」

フォーゼBSはソケットにファイヤースイッチを挿入し、オンにする。

<FIRE-ON>

その瞬間フォーゼBSの右腕は赤く燃え滾り、その手に消火器型の銃「ヒーハックガン」が握られる。

「…あれ?」

だが、フォーゼBSは違和感を感じた。

「コズミックエナジーをあまり感じない…。身体に循環する感じが全くない…」

右手には間違いなく変化が現れたのだが、スーツ内でのエネルギー変動をフォーゼBSは全く感じる事ができなかった。

「宇月、どうした?」

箒が聞く。

「なんか、力が感じられないんだ…」

フォーゼBSは首をかしげながら、ヒーハックガンを見つめていると…。

「うわわ!うっち~!」

「ん?」

「ヌゥン!」

ズバアァ!

「ぐわあぁ!?」

本音の声に反応したが間に合わず、ダスタードの攻撃を受けてしまった。

「こんのやろ!」

頭に血が昇ったフォーゼBSはヒーハックガンの引き金を引く。

だが…。

ボボォ…

「…へ?」

そこから噴出されたのは、ライターから出したような火だけだった。

「ムゥン!」

ドガアアアァ!

「どわぁ!」

ダスタードから再び、攻撃を許されるフォーゼBS

鈴音は怒り、礼に詰め寄った。

「礼っ!また中途半端なもの作ったの!?」

「馬鹿言うな!これは2日かけて調整したんだ。チェックも3回済ませている。間違いなく使えるはずだ!」

礼はエレキの時の失敗を考慮し、あらゆる点からチェックを済ませていた。エレキのような暴発もなければ、調整時に不備も見当たらなかった。見落としている事はまずないだろう。

「もう一回!その力を受け入れてよ!」

「い、いや!受け入れるほど、エナジーが強力じゃねぇし!」

シャルルのアイデアも今回は適応できない。

「くそ、別のスイッチで…」

礼が別のスイッチでの攻略法を考え始めた瞬間…。

「それ、おなじ!」「お、おい、ゆりこ!?」

ゆりこが箒から、なでしこドライバーを取り上げ、腰に装着した。

「な、何をするつもりですの!?」

「おなじ…!」

セシリアの言葉を無視して、スイッチを起動させる。

「へんしん!」

そして、右手を空に振り上げた瞬間…。

「な…!?」

彼女の周りにはフォーゼと同じような煙が包み…。

「よいしょ!」

それを振り払うと、銀色のスーツを纏った青い瞳のフォーゼが居た。

 

彼女の今の姿こそ、女性用のフォーゼ「仮面ライダーなでしこ」なのだ。

 

「あいつが…なでしこに!?」

「うつき~!」

なでしこはフォーゼである宇月の名を呼びながら、彼の元に走り寄る。

「うつき、いっしょにやろう!」

「な、なでしこ…!その声…ゆりこか!?」

「うん!」

先程よりも、微かに饒舌になっている。倒れていたフォーゼBSを抱き起こしたなでしこはフォーゼ同様、スイッチを押した。

<ROCKET-ON>

フォーゼと同じようにロケットモジュールが現れ、ダスタードに突進していった。

「なでしこ~ろけっとぱぁぁぁんち!」

ドガアアアアアアアアァ!

「ムオオオオォ!?」

ロケットに吹き飛ばされたダスタードは、黒い霧のようなものに変化する。倒したのだろう。

「よし、ゆりこに負けてられないな!」

<ROCKET-ON>

とりあえずファイヤースイッチをオフにして、ロケットを装備する。

「いくぜ、ライダァァァ…ロケットパァァァァンチ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「グオオオオォ!」

フォーゼBSもなでしこと同様、ロケットモジュールでダスタードを倒した。

「すごいな…」「仮面ライダーが2人もいると…ここまで違うのか…」

一夏も箒も、その力に圧巻されている。

2人はあっという間に、ダスタードを倒したのだ。

「うつき~やったよ~!」

「おし!…ん?」

なでしことフォーゼBSが喜んでいると、遠くから黒い影が歩いてきた。

「彼女を渡してもらいたいな」

「なに…?お、おまえは!?」

それはいつものようなゾディアーツではなかった。金の刺繍があるクロークに大きな触覚と、ディケと呼ばれる杓杖を持つ者。

礼は、その姿を見て息を呑んだ。

 

「天秤座…リブラ・ゾディアーツ!?」

 

「じゃあ、あの方もホロスコープスですの!?」

天秤座の使徒、リブラ・ゾディアーツ。スコーピオンよりも強いホロスコープスだ。

「どうだね?」

「うつき…こわい…」

リブラの姿を見て、なでしこはフォーゼBSの後に隠れる。

「大丈夫だ、ゆりこ。こいつは渡さない!絶対にな!」

「ならば…彼女と手合わせ願おうか?」

そう言って、リブラが手を振り上げると、暗がりから一人の少女が現れた。

それは…。

「あ、あいつ…今日来た転校生だ!」

ラウラ・ヴォーデヴィッヒだ。

「おまえ達を倒す。わたしの最強の座にかけて!」

そう言って、手にあったゾディアーツスイッチを押すと…。

その姿は兎座を模した「レプス・ゾディアーツ」に変化した。

「ラウラが…ゾディアーツに…!」

「さぁ来い!」

そう宣言すると共に、レプスはフォーゼBSとなでしこに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                   あの娘に、なでしこを託す気か!?

 

恋は熱く燃え滾るぜ!

 

                   うつき…

 

ファイヤーステイツ…!

 

                   嘘だろ…ラウラが…!?

 

都市伝説の仮面ライダーだ!

 

                   おれの名は…

 

仮面ライダーメテオ!

 

 

第10話「隕・石・恋・炎」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 

 








キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄

ラウラ・ヴォーデヴィッヒ=レプス・ゾディアーツ
ゆりこ=仮面ライダーなでしこ

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ


あとがき
如何でしたか?
タイトルのわりに、ラウラが活躍しませんでしたね…(汗)。
彼女が兎座なのは簡単、黒ウサギ隊の隊長だからです。…安直過ぎましたかね(笑)。
さて、今回はいろいろ盛りだくさんになりました。ラウラ登場、ファイヤースイッチ、なでしことリブラ参戦。次回も盛りだくさんです!
予告どおり、メテオとファイヤーステイツ登場、さらに竜也を絡ませます!ラウラにもとんでもない事が…。ちなみにロケットステイツはしばらく出しません。使い時を考えておりますので!
次回もお楽しみに!




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第10話「恋・炎・隕・石」

レプスは自慢の脚力で、空中高く飛びながら、フォーゼBSに襲い掛かる。

「フッ!」「やべっ!?」

<SHIELD-ON>

攻撃を予測し、とっさにシールドモジュールを呼び出すが…。

ドガアアアアアアアアァ!

「がはああぁっ!?」

威力が強すぎた。シールドごと、遠くへ吹き飛ばされてしまう。

「うつき!うつきぃ!」

なでしこが焦りながら、フォーゼBSへ走りよる。

「うつき、だいじょうぶ!?」

「あ、あぁ…なんとか、かんとか…。うわっ!?ゆりこ、前!」

「え…?」

フォーゼBSがなでしこに叫びかけ、彼女は振り返ったが…。

「ハアアアアアアアアァ!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

「きゃああああああああぁっ!」「ぐあああああああああぁっ!」

一瞬でレプスの蹴りが、なでしこの腹に食い込み、その勢いはフォーゼBSも芋づるになって受けてしまった。

地面に激突したのだが、とっさにフォーゼBSがなでしこを抱きかかえたおかげで、なでしこのダメージはレプスの蹴りのみとなった。

「う、うつき、ごめんね!」「へーきへーき!伊達にフォーゼ、続けてないからな!」

フォーゼに変身している宇月は、肉体も幾分か強靭なものになっている。今の攻撃は普通の人間ならば気絶しているだろうが、フォーゼBSにとっては、痛みが強かった程度に留まったのだ。

「もう良いレプス、この2人の始末は私がやろう。次は、君が狙う者を倒せ」

傍観していたリブラがそう言い放ち、クロークを脱ぎ捨てる。

レプスはその言葉に頷き、一夏を睨む。

「織斑一夏…!」

「来ると思ってたけど、やっぱりおれかよ!」

一夏は毒づきながら白式を展開する。

レプスもそれを見ながら、大腿部に触れ、シュヴァルツェア・レーゲンを展開する。

「専用機…!」

「一夏さん、わたくし達も戦いますわ!」「あたしも!」

セシリアと鈴音は、ブルーティアーズと甲龍を展開し、一夏と共に並ぶ。

「よし、ボクも…!」

シャルルもネックレスに手を当て、「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」を呼び出した。これは第2世代ISだが、様々な追加装備やカスタムが施されている。

「キサマらが4人がかりだろうと、わたしは負けない!」

レプスはワイヤーブレードを幾つも作り出し、一夏達を襲う。

「みんな、避けろ!」

一夏の宣言と共に、4人全員がその攻撃を避ける。

「はぁっ!」

ドドドドドドドドド!

一通りの攻撃が止んだ後、シャルルのISが持つ重機関銃でレプスを狙うが…。

「無駄だ!」

その攻撃はAICによって、完全に防がれた。

だが、これはシャルルの作戦。AICは一方向にしか展開できない防御壁。

「ならば、こちらはどうです!」「はああっ!」

「うっ!?」

レプスが声に反応して振り向くと、セシリアのスターライトmkⅢと鈴音の龍砲が、レプスに直接ダメージを与えるべく、放たれる。

だが…。

「ムゥン!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

レプスを守った者が居た。

「げっ、サソリ怪人!?」「ホロスコープスが2体…!」

その者はスコーピオン。持っていたクロークには少々の焦げがあるが、全く効果的ではなかった。

この状況下でホロスコープスが、スコーピオンとリブラの2体に増えた。最悪の展開である。

「兎座の少女よ、私がこの者達の相手をする。君の狙いはブリュンヒルデの弟の筈だ」

「…あぁ」

クロークを脱ぎ捨てたスコーピオンの言葉を聞いて、レプスは一夏に向かっていき、スコーピオンはセシリア、鈴音、シャルルの3人に走り寄る。

「織斑一夏ァ!」

「ラウラ、そんなモノに頼ってどうする!?」

「黙れ!」

一夏の言葉も虚しく、レプスは攻撃の手を止めない。

「代表候補生の諸君、少しは強くなったかな?」

「ボクは決めたんだ…。ボクの在り方を探す。ボクを守ってくれた紫苑のためにも…。だから邪魔しないで!」

シャルルが叫びながら連装型のショットガンを放ち、スコーピオンに攻撃するが…。

「探しても仕方ない。君の在り方など…存在しないのだよ!」

ドガアアアアアアアァ!

「うあああああああぁっ!」

スコーピオンはその攻撃を全て避け、シャルルに強烈な蹴りをお見舞いする。

その攻撃は凄まじく、シールドエネルギーを一気に半分以下にまで削る。

「シャルルさん!?」「こんのっ!」

鈴音が双天牙月を構え、スコーピオンに襲い掛かるが…。

「シッ…セアアアアアァ!」

ガギィ!

「きゃああああああぁっ!」

それすら避け、彼女にやはり強烈な蹴りを叩き込む。

「鈴さん!」

「戦いにおいて、余所見は禁物だ」

鈴音のことを案じて、彼女のほうを向いたセシリア。だが、スコーピオンの言葉にハッとして振り向くと、彼は既に目の前に居た。

ガシッ!

「かはっ…!」

ドガアァ!

そのまま首を強く握り、地面に叩きつける。

「わたしにも…変身できたら…専用機さえあれば…!」

目の前の状況に全く助力できない箒。自分の無力さを呪っている。

 

ドガアアアアァ!

「ぐああああぁっ!」

一方、フォーゼBSとなでしこ。リブラと戦っているが、相手は強すぎる。

スコーピオンすら超える速度で、ディケを2人に叩きつける。

「まずい…かなりまずいぞ!?」

「それはそうさ。そうなるために我々が立ち塞がったのだから」

ディケを地面に突き、不敵に言うリブラ。

「さて…彼女を渡してもらおう」

「う…つき…」

既にボロボロになって、地面に倒れ伏しているなでしこ。

彼女にリブラの手が向かっていく…。

「やめろっ!ゆりこに触るなぁっ!」

フォーゼBSが必死に手を伸ばすも、その手は届きそうにない。

「どうしよう、つっちー…!」「ちっ…やむを得ないか…!」

流石に状況がやばい事を理解したか、本音は心配そうに見つめる。

礼は最後の切り札である、「あるスイッチ」を取り出そうとした。

と、そのとき…。

 

「そこまでだ!」

 

<ADVENT>

「なにッ…!?」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

ドガアアアアァ!

「グガアアアアアアアァッ!?」

突如、聞きなれない音声が鳴り響き、空から現れた赤い龍がリブラに体当たりを決める。

その威力は凄まじく、彼ですら遠くへ吹き飛ばされた。

「はああぁっ!」

「くっ!?」

そして、ほぼ同じタイミングで一夏とレプスの戦いに割り込んできた赤い影。

「あれは…」「な…何者だ!?」

レプスも見たことも聞いたこともないその存在。赤いスーツに大きな赤い瞳。額には龍のシンボルが刻まれている。

彼女の問いに赤い影は、こう答えた。

 

「龍騎…仮面ライダー龍騎!」

 

そう、仮面ライダー龍騎。リブラと接触し、SOLUを捜索していた戦士だ。

箒はその姿に見覚えがあった。

「赤い…都市伝説の仮面ライダー!?」

そう、山田が見せた資料の写真にあった「赤い戦士」だったのだ。

「あれは…『ISの世界』の住民「ラウラ・ボーデヴィッヒ」…。剣崎さんの言うとおりだ」

龍騎は独り言のように呟き、レプスと対峙する。

「邪魔をするな!」

レプスがワイヤーブレードを放ち、龍騎を捕縛しようとするが…。

<SWORD VENT>

「はあっ!」

ザァン!

そのワイヤーを全て、ドラグセイバーで断ち切った。

そしてレプスへ距離を縮め、ドラグセイバーを一気に振りぬく。

「であああぁっ!」

ズバァ!

「ウアアアアァッ!」

レプスはその攻撃を受け、ISを解除して地面に叩きつけられる。

「龍騎は危険だ。それに今、兎座の最輝星を失うわけには行かない。スコーピオン、退こう」

「えぇ、分かりました」

リブラとスコーピオンは龍騎の出現を警戒し、レプスを連れて黒い霧の中に消える。

敵の撤退を確認して、フォーゼBSとなでしこは変身を解き、一夏、セシリア、鈴音、シャルルはISを解除する。

龍騎はまともな会話もせず、その場を去るために呼び出したドラゴンサイクルに跨る。

一夏が呼び止めるが…。

「お、おい…!」

「君達は『ISの世界』の住民達と『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住民達だね。その娘を…守ってくれ。絶対にゾディアーツに渡してはいけない」

ゆりこを見ながら、そういった言葉を残し、走り去ってしまった。

 

宇月と礼の部屋に、一堂は集められた。

本音は礼についていこうとするが、仮面ライダー部ではないので無理矢理、帰した。

「あの仮面ライダー…ゆりこを知っているみたいだったな」

一夏は、龍騎のことを思い出しながら言う。

行動を見るからに、味方ではあるようだが、一緒に行動してくれるわけではないらしい。

「それに『ISの世界』と『仮面ライダーフォーゼの異世界』という言葉ですわ…。全く意味が分かりません」

彼の残した言葉は、聞き覚えはあるものの、全く意味が理解できないものであった。

一夏達の討論を遮り、礼がデータを、自前のコンピュータに表示した。

「なるほどな。ホロスコープスが狙うわけだ」

「どうした、礼?」

横になっているゆりこの傍に居た宇月は、彼の名を呼ぶ。

礼は振り返り、印刷したデータを見せ付けた。

 

「その女…人間じゃない」

 

「は…?」

「おまえなら知っているだろう。「SOLU」だ。高エネルギーのコズミックエナジーが凝縮された、宇宙生命体。本来は知性がないはずだが…」

「ゆりこが…SOLU…!?」

なでしこドライバーの使用者の履歴データの照合と、ゆりこ本人の検査で判明したのだ。全てにおいて、人間にはありえないデータが記録されていた。

SOLUについては宇月も知っている。

宇宙開発の研究中、とあるSOLUが飛来した事が「コズミックエナジー」の存在を人類に知らしめ、フォーゼシステムやゾディアーツ誕生の原因となったのだ。

「でも…どうしてサソリ怪人達がその娘をねらうのよ?」

「SOLUはコズミックエナジーの塊。元来のコズミックエナジーにもいえるが、利用次第で負のコズミックエナジーにも強い力を与えられる」

つまり、ホロスコープスに彼女がさらわれると、かなり状況は悪くなる。

IS学園を潰すとスコーピオンが言っていたので、もしかしたら本気で潰しにかかってくるかもしれない。

「ゆりこ…」

「うつき…ごめんね…。おなじなのは、ふぉーぜのちからなの」

宇月の声で目を覚ましたゆりこは、俯きながら述べる。

「そっか…そうだよなぁ…」

ぶつぶつと念仏のように呟いている宇月は、部屋を出て行った。

「宇月…」「ふん、恋なんかするからだ」

心配そうに見送るシャルルに対し、彼の行動を馬鹿にしたような発言をする礼。

「礼っ!なんでそうやって、人をバカにしたような言い方するの!?」

鈴音がその態度に怒り、またしても詰め寄る。

「人を愛すると言うのは、確かに心の支えを作る。だが同時に、弱点を作るのと同じだ。いざと言うとき愛する者が居ないと、支えられていた心は崩壊する」

彼の言葉に、箒は近付きながら口調を強めて問う。

「じゃあ、おまえは支え無しでも強いと言うのか?」

「当然だ。おまえ等なんかよりも、ずっと強い。心も力もな。支えてもらう者など、必要無い」

そう言って、礼はポケットにあるアリエススイッチを握り締めながら、部屋を出て行った。

「今日は解散だ。全員、自分の部屋で寝ろ」

そう言い残して…。

 

箒は自室に戻る途中、あるモノに出くわした。

「あれは…」

遠くの窓から見える3つの影。ラウラ、スコーピオン、リブラだった。

気になって、まじまじと見つめる。

「どういうことだ!最強の存在になれるのではないのか!?」

ラウラはスコーピオンの胸倉を掴んで責める。

「落ち着きたまえ。君は最輝星と言えど、ゾディアーツになったばかり。そうすぐに結果は得られない」

彼女に対して、全くあせる様子も見せず、淡々と告げるスコーピオン。

「大丈夫だ。君には期待している。じっくりと成長し、我々と同格になれば、IS学園最強など、思いのままだよ」

「同格…?」

ラウラの疑問に、リブラが答える。

「ホロスコープスの事だよ。ヴァルゴ様に仕える、神聖な「十二使徒」の1人。君はその素質があるかもしれない」

 

「特にスコーピオンは、このIS学園の者だ。君も同じならば、可能性は十分にあるのだよ」

 

箒は、その言葉を聞いて唖然とした。

「蠍座の十二使徒が…IS学園の誰か!?」

リブラの言葉が正しければ、スコーピオンはこの学園に居る生徒か教師、または関係者のいずれかになる。

つまり、自分たちの近くにスコーピオンは潜んでいるのだ。

「大変だ…!すぐに、スイッチャーを探さないと!」

そう心に決めて、自室に戻る。

彼女が去ってすぐ…。

ラウラやリブラとも別れたスコーピオンは、セシリアの居た窓を見つめる。

「ネズミが一匹、聞いていたようだね…。篠ノ之箒…」

そう、スコーピオンは彼女が盗み聞きをしていたことを知っていたのだ。だが敢えて、それを甘んじて受け入れた。

自分の正体を知られるヒントを与えてしまったとしても…。

手に持っていたスコーピオンスイッチをオフにして、人間に戻る。

 

その姿は…。

 

その日の夜中。箒がスコーピオン達の姿を見て2時間後のことである。

「はぁ…」

紫苑は、窓を見つめながら溜息をつく。

「ただいま」「おかえり、デュノアさん」

シャルルが自室に戻ってきた。ただ、紫苑の一言が気になって…。

「ねぇ、紫苑。どうしてそんなに他人行儀なの?」

「…ダメだったかな?」

紫苑は、基本的に誰かを苗字で呼んでいる。心の壁を作っているのかもしれない。

それはシャルルにとって、どこかむず痒い感覚だった。

「ボクのこと…そろそろシャルルって呼んで欲しいな」

「え、でも…」

シャルルの頼みに、紫苑は戸惑った。

「だめ?」

割り切れない紫苑に、シャルルは上目遣いで聞く。

彼女の気持ちを無駄にしてはいけないと思った紫苑は、俯きがちになるが、小さく言う。

「…しゃ、シャルルさん…」「やっぱり、なんだか他人みたいだよ」

紫苑が考えた呼称は、シャルルにとってあまり良いものではないようだ。

「じゃあ、シャルルちゃん…」「子ども扱いされてるみたい…」

もう少しだけ親しみを込めた呼び方を考え、提案した紫苑だが、それもシャルルはお気に召さない。

「それじゃあ…シャルル…?」

人を呼び捨てにしなかった紫苑が、初めて呼んだ名前。

彼自身、凄く恥ずかしかったらしく、顔を赤らめて更に俯くが…。

「うん、それが良い!」

シャルルは気に入ったようだ。

それと同時に…。

くぅ~…。

腹の音が鳴る。紫苑は既に食事は済ませているので…。

「あはは…そういえば、何も食べてなかったっけ…」

シャルルだ。顔を少し赤くして、頭をさする。

「あ、そうだ。デュノアさ…シャルルがご飯を食べてないかなと思って…」

引き出しを開けると、少なめではあったが食事があった。

「わぁ…ありがとう!」

シャルルは紫苑の心遣いに感謝し、食べようと手を伸ばしたが…。

箸を見て、少しだけ汗を流す。

「あ…お箸か…」

手にとって一生懸命、上手く持とうとするが…。

「れ、練習してるんだけどね…」

不恰好な持ち方になってしまう。

紫苑は自分の至らなさを痛感し、落胆しながら言う。

「あぁ…やっぱりボクはクズだ。シャルルが箸を使えないかもって考えなかった…」

「もぉ!紫苑はクズじゃないんだよ!」

その紫苑を、シャルルは強く注意する。

「…そうだったね…」

「そうそう、考え方は大事だよ」

少しだけ…少しだけだが、紫苑は考えを改めた。塞ぎこまず、自分がクズだと言う事実を否定する言葉を受け入れているのだ。

「あ、フォーク持って…」

「紫苑…!」

フォークを持ってこようと立ち上がった紫苑を、シャルルが引き止める。

「紫苑が…食べさせて」

「っ!?」

箸を紫苑に渡すシャルル。少しの間迷ったが、紫苑はおずおずと箸を受け取る。

「じゃ、じゃあ…はい、口を開けて…」

「あーん…」

どちらも顔が真っ赤。紫苑に関しては、箸を持つ手がかなり震えている。

それでも、なんとか口に運んだ。

「うん、おいしいよ」

「そっか…よかった」

ちょっとずつ、2人は心の距離を縮めていく…。

 

同時刻。

アリーナの1席で座っていた宇月。うつらうつらと眠りかけている。

「起きろ」

その声と共に現れたのは…。

 

アリエス・ゾディアーツだ。

 

手に持っている杖「コッペリウス」から放たれるオーラで、宇月の生態活動を活性化させて目覚めさせる。

「ん…礼!?おまえ、アリエスに!?」

「寝ぼけ状態で聞かれるよりも、ずっとマシだ」

そういいながら、アリエスはスイッチをオフにして礼の姿に戻る。

「おまえ…あの女になでしこを託す気か?」

「…わかんねぇよ。でも、あいつ以外になでしこを扱えるやつはいない」

礼は宇月の言葉を黙って聞く。その答えに鼻で笑う。

「どうでも良いクセにな。本当は、あの女に現を抜かしているんだろ。そんなことでフォーゼが務まるか?」

「…だよな」

いつもなら食って掛かるのに全く反論せず、軽く笑っていた。

それが礼には気に喰わず、嘲笑しながら続けた。

「…面白みがないな、もっと喰らいつけよ。感情に流されるのが城茂宇月だろう?」

「感情に…?」

宇月は礼の顔を見ながら問う。アリエススイッチを見せつけて、強く言い放つ。

「おれが今、アリエスになった理由が分かるか?おまえがおれを改心させた時の、あの感情を失っているからだ。相手の都合を考えずにどこまでも、自分の意志を貫き通すのがおまえのはずだ。相手がSOLUだろうとなんだろうと、感情をぶつけなくてどうする!?」

次に礼は宇月の胸倉を掴み、更に叫ぶように言った。

「ゆりことケリを着けろ。そうでないと、おまえはフォーゼの役目を果たせない。もし往生するようなら…おれは再び、ホロスコープスに戻るぞ!」

礼は感情を高ぶらせたりする事は、基本的に少ない。ここまで爆発したのは、アリエスとフォーゼとして最後に対峙したとき以来だ。

宇月は礼の言葉を受け、少しだけ笑った。

「…礼がアリエスに戻るのを、放っておくわけにはいかねぇよな!それにおまえの言うとおり、ケリをつけようか。恋は熱く燃え滾るぜ!」

礼は彼の表情を見て安堵し、アリエススイッチをポケットに入れた。

「やっと、その気になったか。「アレ」もそろそろ動く。あのレプス女も、とっとと止めるぞ」

「おう!」

 

翌日。

あれから、ようやく自室に戻った宇月と礼。

だが…。

「あれ…ゆりこ?」

ゆりこが居ない。

彼女がいたであろうベッドには、小さな赤い点が描かれていた。

その配置は…。

「天秤座…リブラか!?」

そう、彼女を攫ったのはリブラ。SOLUであるゆりこを奪い、彼等の力に変換されようとしているのだ。

「まずいぞ宇月!」

「ゆりこを奴らに利用させたりしない!絶対に取り戻す!」

そう言って宇月は走り始めた。なぜか礼は走ろうとしない。

「…」

黙ったまま、あるモノを取り出す。

 

それは…。

 

同時刻、一夏と箒はラウラと対峙していた。

「また来たか、ラウラ!」

「今度こそ倒す!」

<LAST ONE>

ラウラのスイッチはラストワンに到達する。

自身の力が進化したことを感じ、ラウラは邪悪な笑みを浮かべる。

「ラストワン…!よせ、押すな!」

「黙れ、キサマの指図など受けん!」

箒が説得しても、理解を示してくれないラウラ。箒は宇月から聞いた言葉を言う。

「人間に戻れなくなるぞ!その肉体と分離して…自分の意志で元には…!」

「構うものか…わたしは元より、人間とはいえない存在だ!」

そしてスイッチを押し、レプスとラウラの肉体は分離した。

「…わたしは最強になる。もう、あの頃のようになってたまるか!」

「あの頃…?」

一夏の問いに反応せず、すぐさま襲い掛かるレプス。

「ハアアアァッ!」「うおっ!?」

速かったが、一夏はとっさに白式を展開して避けたため、攻撃を受ける事はなかった。もし直撃していたらと考えると、冷や汗が流れる。

「くそ…やるしかないか!」

「一夏、絶対に勝て…」

雪片弐型を展開し、構えながら距離を置く。箒は戦力にはなれない。祈りながら見守る事だけが彼女に許される事だ。

そこへ、宇月がやってきた。

「一夏に箒、ゆりこを見なか…って、レプス!?」

「たぶん、ゆりこにはこいつが絡んでる。手を貸してくれ、宇月!」

「わかった!」

箒に応え、フォーゼドライバーを装着し、スイッチを起動する宇月。

<3>

「ラウラ、ゆりこはどこだ!」

<2>

「フン、誰が言うものか!」

<1>

「簡単には口を割らないか…変身っ!」

少しの対話を行い、宇月はフォーゼBSへと変身した。

「はあっ!」

「彼女の邪魔はしないで貰おう」

一夏とレプスの戦いを妨害させまいと、クロークを脱いだスコーピオンも現れた。

「スコーピオンっ!ゆりこを返せ!」

「それは私の管轄外だ、リブラ様に聞きたまえ。もっとも…聞くことが出来ればの話だがな!」

そう言って、フォーゼBSに向かって駆けた。

一夏とレプスも同時に戦闘を開始する。

「こっちの利点は…!」

ラストワンのゾディアーツのため、レプスはISを装備していない。シュヴァルツェア・レーゲンは抜け殻のラウラにあるのだ。勝機を狙うならそこしかない。

「フンッ!」

レプスは地面を蹴り、空中高く飛ぶ。脚力で蹴りを放つつもりなのだろう。おそらく、真正面から受ければ、大ダメージは免れない。本能的に感じた一夏は、それをすぐさま避ける。

「…こっちは雪片弐型だけ…。近距離で勝ち目があるか…?」

考えている暇を、レプスは与えない。

「どこを見ているッ!」

ドガアアアアアアァ!

「うおああぁ!?」

「一夏!?」

一気に間合いを詰められ、強烈な蹴りが一夏を襲う。シールドエネルギーの残量は著しく、長丁場の戦いには出来ない。

「一夏さん!」「次はパワーダイザーでリベンジよ!」「ボクらもいっしょに戦うよ!」

その声と共に、ブルー・ティアーズを装備したセシリア、鈴音が搭乗したパワーダイザー、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装備したシャルルが現れた。

「こんな男にうつつを抜かす貴様らのような者たちに、わたしは負けない…!」

「一夏さんを侮辱するのは…わたくし達、絶対に許しませんわ!」

「何も知らないのに、否定してんじゃないわよ!」

「一夏は…君が思っている以上に、良い人だよ!」

スターライトmkⅢとパワーダイザーの拳が、レプス目掛けて放たれる。

「ハアァ!」

しかし、それすら避け、空中高く飛ぶ。

それが隙を作った。

「今だっ!」「いくよ、一夏!」

「なッ…!?」

一夏が雪片弐型を振りかざし、レプスに向かって振り下ろした。

ズバアアァ!

「グアアアアアァ!?」

間違いなく、ダメージを負わせることが出来た。

そこへシャルルが追い討ちをかけるため近接ブレードの「ブレッド・スライサー」を構え、大きく右に振りぬく。

「はあああぁっ!」

ズバアァ!

「グガアアアァ!?」

だが、フォーゼBSは一方的に負けている。

「ゼェアアァ!」

ドガアァ!ガゴオオォ!

「がはっ!ぐあああぁっ!」

吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまう。

「…ゆりこを取り戻すどころか…こんなところで…!」

「くそ…これじゃ、ラウラを元に戻せない…!」

一夏達が優勢とは言え、フォーゼがリミットブレイクを使わねば、ゾディアーツを止める事は出来ない。

と、そのとき…。

 

ドガアアアアアアアアァン!

 

「なんだ…!?」「隕石ですか!?」

突如、空から人の大きさほどの青く輝く発光体が地面に着地した。

その光が消えたとき、そこにいたのは…。

黒いボディに散りばめられた、星を思わせる無数の輝き。青い軌道を髣髴とさせるマスク。

「次から次へと…今度は何者だ!?」

レプスの問いに、その者は静かに言い放つ。

 

 

 

「おれの名は…仮面ライダーメテオ…!」

 

 

 

「メテオ…!?」「龍騎やなでしこに続いて…また新たな仮面ライダーが!?」

「星座の運命に惑わされた、愚かな者よ!貴様の星の運命…おれが消し去る!」

鼻を拭うような仕草をしながら言う「仮面ライダーメテオ」。

「調子に乗るな!」

レプスは吐き捨てて、メテオに襲い掛かる。

だが彼は、全く動じる様子を見せず、静かに構える

「オオオォォォ…アタアアァ!」

ドガアァッ!

「グゥッ…!?」

怪鳥音を叫びながら、レプスに拳を叩き込むメテオ。

決して、ISのような強大なエネルギーなどを使っているわけではないが、その拳は光の如き速度だった。

「速い…!」

「アタァ!アチャァ!ウゥゥアタアアアァ!」

ガッ!ドゴォ!バキィ!

「ガッ…!グッ!ガハッ!?」

全く攻撃が休まる事はなく、次々と拳や蹴りを叩き込んでいくメテオ。

レプスでさえ、その攻撃に対処は出来なかった。

「トドメだ…!」

<METEOR-ON READY?>

ベルトに挿されている青いアストロスイッチをオンにし、天球儀のような部分を回転させる。すると、とてつもない量のコズミックエナジーがメテオの右足を包む。

<METEOR LIMIT-BREAKE>

「ハアアァ…セァッ!」

その音声が響き渡ったとき、メテオは地面を蹴ってとび、左足を前に突き出す。

「貴様なんかにィ!」

恨みを込めたレプスの言葉。それを無視して、メテオは突っ込んでいく。

「ウォォォォォ…アアアチャアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「グアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

メテオの必殺技「メテオストライク」。それを受けたレプスは地面を転がり、身体中から火花を散らす。

「負けるか…!この程度で…!」

「しぶといな…」

 

一方、フォーゼBSとスコーピオン。

「此処で、君を倒しておくのは得策だな」

もはや、全く攻撃が当たらない。この状況を打破するには…。

「くそ…エレキで!」

「待つんだ、フォーゼ!ファイヤースイッチを使うんだ!」

そこに現れたのは龍騎だ。だが、彼の助言は意味がなく感じる。

「りゅ、龍騎…。でも、ファイヤーは…」

「おれが手を貸す!あとは君の気持ち次第だ!」

「…おし、やってやるか!」

何故だか確証はないが、龍騎の言葉は信じられた。

<FIRE-ON>

ファイヤースイッチを起動し、ヒーハックガンを構える。

<STRIKE-VENT>

そして龍騎はドラグクローを装備し、フォーゼFSに向けて構える。

「はあああああぁ…」

「お、おい、ちょっと!?」

「だあっ!」

そのまま、ドラグクローファイヤーをフォーゼBSに放つ。

ゴオオオオオオオオオオオォ!

「あっぶね!…て、あれ?」

だが、フォーゼBSは全く苦痛を感じない。それどころか、エネルギーが増大していくのを感じた。

「成功だ!」

「そうか、そういうことか!」

そう、ファイヤーはスイッチに炎に類する攻撃を受けることで使用可能となるのだ。龍騎の炎を受けて、フォーゼBSの身体は赤く輝いた。

「いくぜ!ファイヤーステイツ!」

フォーゼは新たな姿「仮面ライダーフォーゼファイヤーステイツ」にステイツチェンジした。

「ほう…炎か」

「喰らえ!」

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァ…爆熱シュウゥゥゥゥゥゥゥト!」

フォーゼはすぐさまこの状況を打破すべく、リミットブレイクを発動。

「フッ!」

だがスコーピオンは、脱ぎ捨てていたクロークを使い、別の場所へ弾く。

その場所は…。

「す、スコーピオン、キサマァ!?」

満身創痍で立ち尽くしていたレプス目掛けてだ。

ドガアアアアアアアアァ!

「ウアアアアアアアアァ!?」

2度もリミットブレイクを受けたレプスは、身体がボロボロと崩れていく。

 

 

「負けたくない…あの頃に戻るのは嫌だァ…!」

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!」

突如、レプスは絶叫を上げる。まるで、自身の中にある怒りを吐き出すかのように。

「計画通りだ…。遂に覚醒の時がきた…!」

そう、これはスコーピオンの作戦。レプスに強力な攻撃を与え極限状態にし、彼女の心から生まれる負の感情を増幅させたのだ。

ホロスコープス覚醒のために。

異変に気付き、抜け殻となったラウラの肉体を抱えてきたスコーピオンは、彼女をレプスに向かって放り投げる。

そして…。

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!」

レプスとラウラが一体化した瞬間、身体の皮膚は剥がれ落ち、新たな肉体を形作る。

「嘘だろ…ラウラが…!?」

痛みをこらえながら立ち上がったフォーゼFSの表情は、凍り付いていた。

白と黒の身体に、金色のマフラーを纏った小柄な姿。

それを見たスコーピオンは惜しみない拍手を送り、彼女の肩に手を置く。

「おめでとう…!今日から君は我々と同格である、十二使徒の1人…」

 

「双子座の使徒「ジェミニ・ゾディアーツ」だ…!」

 

「来たまえ…。新たな同胞よ!」

スコーピオンと「ジェミニ・ゾディアーツ」は共に姿を消した。

「逃げられたか…ゆりこの行方も分からなかった…!」

ふときづくと、龍騎は忽然と姿を消していた。

残された新たなライダーのメテオに、変身を解除した宇月は近付く。

「久しぶりだな」「おう、これから此処で戦うのか?」

まるで知り合いのように会話をする2人。

「別行動は取るがな。SOLUの件も辻永礼から聞いている。一応、捜索をしておこう」

そう言い残して、メテオは再び青い発光体となって消えた。

箒は、宇月に声をかける。

「…メテオと知り合いなのか?」

「あぁ。メテオはフォーゼの試作品。当然、おれが渡したんだからな」

「じゃあ…」

つまり、宇月はメテオの正体を知っているのだ。

「メテオって一体、誰なのよ?」

「それは言えない。あいつの意志を尊重してな」

鈴音が聞くものの、宇月でもメテオの正体は話すことができないのだ。

「まずはゆりこを取り戻す手段を考えないと…戻ろう!」

そう言って全員、宇月と礼の部屋に戻った。

 

それから暫くして…。

千冬と山田は、ある人物達と出くわしていた。

「君達は…」

「えっと…」

「この学園の危機を知ってるでしょう?ゾディアーツから守らなければなりません」

「ボク達も協力します!ゾディアーツを止めるのに手を貸してくれませんか!?」

竜也とあゆだ。2人とも強い眼差しで、千冬達を圧倒している。

山田は彼等が協力してくれる理由を聞く。

「あなた達は、なんのために…?」

「ある人達から託されたから…。守らなければいけないんです、この世界を…」

あゆが必死に説得する。

「あなたも知っている生徒、ラウラ・ボーデヴィッヒがゾディアーツの幹部として覚醒してしまいました。彼女を救いたい…」

「ボーデヴィッヒが…?」

少しだけだが、千冬の表情が変わる。

「…わかった。君たちにも教えてほしいことが幾つかある」

千冬と竜也は互いに頷き、山田とあゆと共に、学園のある場所に向かった。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                   今日から少しの間、此処で教師をします

 

龍崎先生と月宮先生って、結婚してるんだ…

 

                   ツーマンセルトーナメントでケリをつける!

 

ようこそジェミニ…

 

                   最悪のコンビだ…理雄とラウラ…

 

僕は…シャルルと出たい!

 

                   ゆりこを返せ!

 

 

 

 

 

 

第11話「双・子・覚・醒」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 





キャスト



城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑

ラウラ・ボーデヴィッヒ=レプス・ゾディアーツ/ジェミニ・ゾディアーツ
ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ




あとがき
如何でしたか?
ファイヤーステイツの登場方法、結構がんばったつもりです。どうでしたかね?
メテオが登場です!正体は引っ張ります、しばらく判明しません。
逆に、今回でスコーピオンの正体が少しだけ明らかになりました。発言どおり「IS学園にいる誰か」です。
ゆりこはもうちょっと持越しです。さて、どうしたものか…。
次回はトーナメントです!



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第11話「双・子・大・会」

 

ジェミニが覚醒した後、宇月達は彼の部屋に行った。

「最悪だ…ホロスコープスが増えた…」「ゆりこの行方も…」

宇月と礼の表情は、随分と重いものであった。

「ホロスコープスの目的って…一体なんだ?」

一夏の質問に、宇月が答える。

ホロスコープスはゾディアーツを生み出しながら、何を狙っているのだろうか。

「おれの知ってる限りでは、首領のヴァルゴは、残りの十二使徒を覚醒させるために動いている。特に十二使徒の中心である「サジタリウス・ゾディアーツ」の覚醒を急いでいるらしい。その先にある目的は…まだ分からない」

これ以上の目的は宇月も知らないのだが…。

「おそらく十三番目の使徒であり、蛇使い座の使徒「オフューカス・ゾディアーツ」を覚醒させる事が真の目的だろう。その十三番目が覚醒して、どうなるかまでは知らんがな」

礼は違う。その目的まで知っている。

なぜなら彼は…。

「どうして分かるのかな?」

シャルルの質問に、礼はアリエススイッチを見せ付けて答える。

その行動に宇月は焦る。

「れ、礼、おまえ!?」

「なぜならば…」

 

「おれはホロスコープス。牡羊座の運命を持つ「アリエス・ゾディアーツ」だからだ」

 

「「「「礼がホロスコープス!?」」」」

此処にいる、宇月以外の全員が驚愕した。

「半年前に世界を騒がせた「眠り事件」があっただろう。その犯人はおれだ」

「眠り事件」とは、アリエスである礼が、ヴァルゴの命令でIS開発者や政府要人を長期間の昏睡状態に陥らせ、世界を大混乱に導きかけた事件。

彼等の反応が想像していたのか、礼は馬鹿にしたように笑う。

「おまえ…フォーゼである宇月に近付いて…!」「騙してたのね!」

一夏と鈴音が敵意を見せ、白式と甲龍を展開しようとするが…。

「一夏、鈴音、待った!礼は「元」ホロスコープス!今は完全におれ達の味方だ!」

それを必死に止めた宇月。無駄な争いは起こすべきではない。誤解をすぐさま解く。

「でも…こいつは!」

「確かに昔は、アリエスとして「眠り事件」を引き起こしていた。でも、今はその人たちの眠りも覚ましたし、おれを支えるためにスイッチ調整やコズミックエナジーについて独学で学んだくらいだぞ!」

そういいながら、宇月が礼のクローゼットをあけると…。

様々なコズミックエナジーの資料が並べられていた。よく見ると、本の上には大量の付箋が貼り付けてあり、かなり年季が入っているように傷んでいる。

礼はその行動を見て、すぐさまクローゼットを閉じる。

「礼って実は…」

「ものすごい努力家ですの?」

「宇月、余計なことをしゃべるな!」

「おまえだって、自分がアリエスだって明かしたってことは、こいつらを認めたからじゃないのかよ?」

宇月はそう思った。礼は用心深い性格で、宇月にすらアリエスになる前の生活を明かさず、秘密も数多くあるくらいだ。

 

そう、まだ秘密が…。

 

そんな彼が自分から正体を明かすと言う事は、それ相応の信頼が必要なはず。

「…こいつらを遠ざけたかっただけだ。ゾディアーツ対策には邪魔だからな」

宇月を否定する言葉が見つからなかったのか、真実を述べ、パソコンに目を向ける。

その姿を見ていた箒は軽く笑いながら、腕を組む。

「素直じゃないな、礼」

「おれは常に素直だ。とにかく、宇月がゆりことケリをつけなければ、安心してフォーゼの役目を果たせん。関わる気があるならば、おまえ達も手を貸せ」

彼の申し出に、一夏達は頷きあう。

「最初からそのつもりだったさ」

「わたしにだって…何かできるかもしれない」

「パワーダイザーの操縦だって、あたしがいないとダメなんだからね!」

「もとより仮面ライダー部は、宇月さんに手を貸すことが目的ですわ」

「この状況で逃げるほうが、おかしいもんね」

5人の決意は固い。宇月は嬉しそうに笑った。

「みんな、マジで嬉しいぜ。おれに此処まで力を貸してくれるなんてな。…おっし、いくぜ仮面ライダー部!」

宇月が右手を高く突き上げる。まるでフォーゼに変身する過程で右手を掲げるように。

礼以外の全員も右手を突き上げた。

 

『おおぉっ!』

 

そのころ…。

ある場所で、ホロスコープスが集められていた。招集をかけたのはヴァルゴ。

集められたのは、ジェミニであるラウラ。それ以外にはスコーピオン、リブラ、レオ。

ホロスコープスが一堂に会するのことは非常に少ない。

あるとするならば、ヴァルゴ直々の任務を全員に依頼するか、今回のような新たなホロスコープスの覚醒を歓迎する時だけだ。

特にレオは、ヴァルゴが呼ばないと姿を見せることはない。

「おめでとう、歓迎するよ。ようこそ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。いや、ジェミニよ」

「…これで、わたしはIS学園最強の名を手にしたと言えるか?」

ヴァルゴの歓迎の言葉を無視して、ラウラは自分が一番気になっていることを聞く。

その途端…。

「貴様…我等が女王である方に何たる口の聞き方だ!」

スコーピオンが激怒し、ラウラに襲い掛かる。

「ちっ…!」

彼女はジェミニスイッチを押して、ジェミニに姿を変えて応戦しようとするが…。

ガッ!ドガァッ!

「ヌゥッ!?グアアアァ!?」

攻撃を全く防げず、蹴りを叩き込まれる。

「許さん…!貴様は絶対に許さない…!」

「グッ…!」

凄まじい剣幕で、ジェミニの胸倉を掴み、無理矢理立たせるスコーピオン。

だが、ヴァルゴがスコーピオンの手に優しく触れる。

「落ち着きなさい、スコーピオン。私を思う気持ちは有り難いが、此処は祝いの場。しかも主役に対して、その仕打ちは関心しない」

彼女の言葉を聞き、すぐさまジェミニを離すスコーピオン。

「…申し訳ありません、ヴァルゴ様。ですが、この者の態度…主である方に対するものではありません」

「煩いんだよ」

そこへ、レオが口を挟む。

「レオ…!」

「そういうことは、もっと結果を得てから言え。覚醒させたのは、ジェミニだけだろうが」

普段ならば彼に怯えるスコーピオンだが、今回ばかりは怒りを見せる。

「それを言うならば、君は新たな十二使徒を一人も覚醒させていないだろう?」

「アリエスはヴァルゴ様がスイッチを渡したとは言え、めぼしをつけたのはオレだ。貴様のように、何も分からずスイッチをホイホイ配ってるわけじゃないんだよ」

「何だと…!?」

一触即発状態のスコーピオンとレオ。それを止めたのは…。

「やめなさい!」

やはりヴァルゴだった。

「此処は祝いの場と言った筈。まずはジェミニの覚醒を祝うべきだ。安心したまえジェミニ。IS学園に潜り込んでいるスコーピオンを除けば、君は間違いなくIS学園最強だ」

そう言って、スイッチを再び押して元の姿に戻ったラウラに手を向けるヴァルゴ。

「…ふん」

肝心のラウラは、スコーピオンによる暴挙で気分を損ねているようだ。

スコーピオンも不本意ながらも、彼女に手を向ける。

「とりあえずは、歓迎しよう。我等は同士だからな」

これをずっと傍観しているリブラ。心の中でそっと呟く。

(ホロスコープスなど、どうでも良い。ヤツさえ消す事ができれば…!)

そして、その横では…。

拘束されているゆりこの姿もあった。

「…うつき…うつきぃ…」

彼女は涙を流し、彼の名を呼び続ける。

 

次の日。

朝のホームルームで山田と千冬から報告があった。

「今日は、臨時教師の方をご紹介します!」

山田の紹介とともに教室に入ってきたのは…。

20代前半の穏やかな表情の男性と、背が低く少女にも間違われそうな女性。

女性は赤いカチューシャが印象的だ。

「みなさん、こんにちは。今日から此処で少しの間、教師をする事になります。龍崎竜也と…」

「同じく、月宮あゆです。よろしくね」

クラスメイトの女子達は、2人を見ながら騒ぎ始める。

「なんか、優しそうだね…」「怒るイメージなし…」

「静かに!」

クラスのざわつきを千冬が粛清し、一つ説明を始めた。

「龍崎先生は、月宮先生と区別していただくために旧姓を使っておられる。故に本名は月宮竜也さんだ」

「と…いうことは…」

箒が聞くと、2人は少し顔を赤くして、左手を見せる。

その薬指には小さい宝石をあしらった結婚指輪があった。

「龍崎先生と月宮先生って、結婚してるんだ…」「お似合い~!」

「静かにしろ!」

再び千冬が騒ぎを治めて、説明を続けた。

「明後日は承知のとおり、ツーマンセルトーナメントだ。ペアの希望があれば、明日までに要望書とともに提出しろ。無ければ、ランダムで決める。以上だ」

 

放課後…。

ペアの件で、宇月達は教室に残った。

「とにかくさ、仮面ライダー部同士で固めたほうが良いだろ。最悪、おれ達の行動を知ってるメンツで」

そう言ったのは一夏。もちろんトーナメントでの、ゾディアーツやホロスコープスの襲撃に備えてだ。仮面ライダー部ならば連絡の取り合いも比較的簡単であり、知っている者同士ならば、ゾディアーツ対策の行動も不審がられたりしない。

すでに学校内の一部には知られているが、一応、仮面ライダー部もフォーゼも秘密にしているのだ。

「じゃあ、おれと組むやつ!」

宇月が手を上げ、候補を探すが…。

 

誰もいない。

 

「…なんで、こんなに不人気…?」

自分の人望のなさにへこむ宇月。しゃがんで、指で床に「の」をなぞる。

「仕方ない。じゃあ、おれが組もうか?」

「お、待ってたぜ一夏ぁ!」

そこへ一夏が申し出た。彼の言葉を聞いて…。

「わたしは…一夏がよかったのに…」

「まさか、宇月さんに取られるなんて…」

「もう!組む人、いなくなったじゃない!」

宇月にかわり、箒、セシリア、鈴音がしゃがみこんで落胆中。

その姿を見た宇月に罪悪感が募る。

「なんか、おれが悪いみたいじゃねぇかよ…」

3人を見ながら、嘲笑する礼。

「分かりやすい連中だな。さて、おれは…宇月が居ないから棄権す…」

「はいはいは~い!」

「ぬぉ!ノロマ!?」

背後から急に、本音が手を上げてきた。

「わたし、つっちーと組む!仮面ライダー部もフォーゼも知ってるもんね!」

「消えろ!おまえは関係ないだろうが!」

「あ、まって~」

恒例の礼と本音の追いかけっこが始まった。

「のほほんさんと礼って…仲が良いのか悪いのか」

一夏が2人を見ながら、ぼそっと呟く。

「さぁ…?」

数分後。

結局、礼は本音と組ませられる事になった。理由は簡単。

それが終わったら、フォーゼやゾディアーツに関わることはしないと言ったからだ。

「じゃあ、決まってない4人は…」

箒、セシリア、鈴音、シャルル。

だがシャルルは少し、勝手が違った。

「どわぁっ!?」

宇月達を押しのけて、クラスメイトの女子達がシャルルに近付く。

「デュノア君!わたしと組まない?」「わたしわたし!」

未だに紫苑と何故か女子だと知っていた理雄以外に男子と思われている彼女は、人気が尋常ではない。

止めにいきたいが、仮面ライダー部の事をクラスメイト達に持ち出すわけにはいかない。

そこに…。

「あ…えっと…ぼ、僕…シャルルと出たい!」

少し離れた場所から、紫苑が手を挙げた。

「白石君が…?」「珍しい…いつもは自分から行くような子じゃないのに…」

彼の意外な行動に、ざわつき始めるクラスメイト。

しかし、シャルルは…。

「うん。紫苑、一緒に出よう!優勝、目指そうね!」

「…うん!」

OKサインを出し、シャルルと紫苑のペアが決まった。

今回、男子のメンバーは、ここにいない理雄以外は全員決まったので、残りのクラスメイトも興味をなくしたように教室を出て行った。

残りは…。

「結局、こうなるわけね」「まぁ、仕方ないと言えば、仕方ないですわ」

鈴音とセシリアがペアを組んだ。どちらも専用機持ちであるので、真っ当な判断だ。

 

問題は…。

 

「…わたしのペアは…?」

宇月と一夏、礼と本音、シャルルと紫苑、セシリアと鈴音。以上の4組以外で余った仮面ライダー部のメンバーは…

箒だ。

「余りモノだ。大会参加も棄権したらどうだ?」

「なにをぉ!?」

礼が小バカにしたような感じで言ったところ、箒は怒って竹刀を礼に振りかざすが…。

パシッ!

「…!?」

片手で、完全に防がれた。

「そうやって、暴力で人を捻じ伏せたがる奴に、誰かペアを組んでくれると思うか?」

何気ない一言のつもりだった。だが、箒はその一言を聞いた途端に気迫を失い、竹刀を下ろす。

彼女の雰囲気を読み取った礼は、静かに告げる。

「素手で挑むなら相手を選べ。…おれは元ホロスコープスだ。忘れるなよ」

「あ、つっち~!」

そのまま席を立ち、本音も後に続いた。

「箒…」

取り残された箒が気になった一夏は、しばらく見つめていた。

「おい」

その視界を遮るように、ラウラが立ち塞がった。

「ラウラ…!」「ジェミニ…!」

「おまえ…ゆりこを返せ!」

彼女はジェミニであり、ホロスコープスの一員。レプスの時よりも強い存在である。

戦いに来たと思った宇月はフォーゼドライバーを取り出そうとするが、ラウラは手で制した。

「待て、戦いに来たわけではない。おまえ達とはトーナメントで決着をつける」

「どういうことだ…?」

疑問を言った一夏に対して、不敵な笑みを浮かべてラウラは宣言した。

「どうせなら、はっきりとIS学園最強の称号を得ようと思ってな。キサマらをトーナメントで叩きのめし、ゆるぎない最強を手にする!」

「なんのためだ?」

いつのまにか戻ってきた礼が詰め寄り、彼女の行動理由を聞く。

ラウラはヴァルゴ達から、礼がアリエスだと言う事は知らされており、彼を見た途端、鼻で笑う。

「ふん、おまえに教える義理はない。裏切り者のアリエスめ…」

「確認のために聞いただけだ」

実際、礼は観察力に優れており、理由を聞かなくても、その者の行動などである程度は目的が理解できる。

「…そうしないと、おまえの存在理由がなくなるからだろう?織斑一夏に拘るのは、姉の…」

「黙れ!」

核心を突かれたらしく、ラウラは激情してジェミニスイッチを押す。

だが、礼もアリエススイッチを押して、同時にジェミニとアリエスに変化する。

ガギィ!

アリエスのコッペリウスとジェミニの拳がぶつかり、鍔迫り合いのような状態になった。

「取り乱すと言う事は図星だな。…トーナメントでケリを着けるんだろ?」

ラウラの言葉をアリエスは呟き、ジェミニの行動を止めた。

「…覚えておけ。織斑一夏もフォーゼもおまえも…必ず倒す!」

そう言い残し、ラウラの姿に戻って去っていった。

 

別の場所ではあゆが、山田の見ている前でISの適性検査を受けていた。

「う~ん…」

「月宮先生、残念ですが…」

結果…起動しなかった。

実際、彼女はこの世界の住民ではないので、当たり前ではあるが。

「うぐぅ…やっぱりダメだったよ…」

「気にしないで、あゆ。ISが使えなくても、君にしか出来ない事がある」

付き添っていた竜也が元気付けるようにあゆの頭に手を置く。

「…そうだね…!ボクにだって!」

2人の姿を見ていた山田はくすりと笑う。

「本当に仲の良いご夫婦ですね」

山田の言葉に、竜也とあゆは少し微笑む。

「おれ達、たくさん困難を乗り越えてきましたから」

「うん!だから今、こうやって一緒に居られるんです」

2人の絆は揺ぎ無いものである。だが、そこまでたどり着くには、彼女が知る由もない凄まじい戦いや苦しみがあった。

山田は小さく呟く…。

「仮面ライダー部のみんなも…困難を乗り越えられるでしょうか…?」

 

寮部屋に戻る途中。

「あれ…千冬姉…」

一夏は千冬の姿を見た。隣にはラウラがいる。

「何故です、教官。貴方は何故、こんなところに居るのです?」

「逆に聞こう。ならば、私はどこに居るべきだというんだ?」

雰囲気はよろしくなく、ラウラが千冬に憤りをぶつけているようだ。

「ここでは、貴方の真価が発揮されないではありませんか!」

「私にどうしろと言えるようになったか…。随分とえらくなったな、ボーデヴィッヒ。いや…」

 

「ジェミニ・ゾディアーツ」

 

「教官…!?」

彼女には知られていないはず。どこかで見られていたのだろうか…?

「ある人から教えてもらった。自分や他者に対する不満を持った者が、ゾディアーツスイッチを押して変化する怪物…。どうやら、暫く見ないうちにお前も弱くなったようだな」

「違います!…わたしは…あのときより強くなりました!」

ラウラは千冬の言葉を確信を持って否定した。今の自分は弱くない。

「私が言っているのは…力と言う意味での強さではない。お前はその強さを持っているのか?」

「…ッ!」

彼女の問いに対して、ギリッと歯を噛み締めたラウラは、その場を走り去った。

「盗み聞きは関心せんな、織斑」

やはり気付いていた。

「ち、千冬姉…」

「織斑先生と呼べ」

普段であれば、2人きりの時は普通の呼び名で許されていたのだが、ここでもその呼び名を許さなかった。理由は分からないが…。

「は、はい…。ラウラとはどういった関係が…?」

「アイツは遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベビーだ。戦闘における様々な分野において、優秀な成績を残していた。だがISの普及により、軍で出来損ない扱いされていたところ、私から指導を受けた事で、再び優秀な存在になれたというところだ」

それを聞いて、一夏はラウラが自分を狙う理由が分かった。

数年前、一夏は誘拐された過去がある。それを救ったのは、2連続優勝を賭けた第2回IS世界大会の決勝を棄権してやってきた千冬。

ラウラは過去の事から千冬を尊敬し憧れているらしいが、一夏のために千冬の輝かしい経歴に「IS世界大会決勝の棄権」という汚点をつけられたために、一夏を憎んでいるのだろう。

「…ところで、どうしてラウラがジェミニだって…」

「龍崎先生と月宮先生から教えてもらった」

「龍崎先生たち…?」

ラウラがジェミニになった瞬間を見ていたどころか、彼等はゾディアーツに遭遇すらしていないはず。

なぜ、彼等はジェミニのことを知っていたのか…。

推測するならば…。

(あの2人のどちらか…いや両方が…ホロスコープス?)

今、思いつくのはそれしかない。

 

同時刻。

鈴音とセシリアはトーナメントに向けての特訓を行なおうとアリーナに向かったところ、先客がいた。

「理雄さん…?」「不良男、マジメに訓練するつもりかしら…?」

そこにいた理雄は一人、アリーナを見つめる。

2人はなにげなく物陰に身を潜め、彼の行動を見ることにした。

「チッ…あのドイツ女…自分が最強だと抜かしやがる…」

彼はラウラが最強を謳うことが気に入らず、苛立っている。

「ふざけんなよ。最強はこのオレだ…!」

霧裂を握り締め、自身の力を示す決意をする。

「もう…後戻りはできねぇしよ」

そう言って、服を捲し上げる。

「あれは…!?」「うそでしょ…!」

2人はそれを見て、驚愕した。

彼の腹は異常なほどやつれており、皮と骨しかないように思えるほど細かった。

まるで、栄養を満足に摂取できていない、餓死寸前状態のようだった。

「トーナメントが終わったら…そろそろマジで動く必要があるな」

意味深な発言の後、後を少し見て、眉間にしわを寄せる。

「いつまで盗み聞きしてんだよ、中国女、イギリスお嬢様」

どうやら気付いていたようだ。観念して姿を現すセシリアと鈴音。

「特訓をしますの?」「似合わないほどマジメね」

「特訓だと?…バカじゃねぇの?」

鼻で笑い、すぐにその場を後にした。

 

そして箒。

「…」

彼女は礼の言葉が引っかかっている。

姉である束がISを開発した事により、一家は離反状態。彼女が行方不明後に様々な事情聴取を受けたりされた事で、精神的なストレスを大きく抱えていた。

自分の行動は、そこにあるのだろうと薄々だが自覚していた。それを紛らわせるために、学んでいた剣道に没頭していた。

だがそれは…。

「ただの…暴力だった…」

極端に言えば、ただの発散だった。

 

「意味のある力が欲しいか…?」

 

「…スコーピオン!?」

突如、そこにスコーピオンが現れた。右手にはゾディアーツスイッチが握られている。

何がしたいかは一瞬で理解できた。

自分にスイッチを渡し、ゾディアーツにさせるつもりだ。

「無意味な力ではなく、理由をもち、かつ強い力…。君ならば手に入れられるかもしれない。IS開発者である篠ノ之束の妹である君ならば…」

だが、箒はそれを受け取るつもりは全くない。ゾディアーツになった者達がどうなるかは理解している。

なにより…ゾディアーツも、以前の自分がやっていた暴力と変わりない。

「わたしには、その力も無意味だと感じる」

「案ずる必要はない。ゾディアーツとは、人が進化するためのモノ。言うなればゾディアーツも、フォーゼやメテオと似た存在なのだよ。君も進化し、織斑一夏達と共に戦える。さぁ…星に願いを…」

断る箒に全く引き下がらず、スイッチを押し付けるスコーピオン。

「断る!」

「クズが…。受け取る気がないならば…!」

断固拒否する箒に痺れを切らしたスコーピオンは、左手にある蠍の針を模した爪を振りかざす。

そこへ…。

 

「彼女にスイッチを渡してはいけない」

 

白い翼を生やしたゾディアーツが現れた。

今までのゾディアーツどころか、ホロスコープスをも越える威圧感を放つ存在。

それと対照的に、姿は女性的なモノである。

それを見たスコーピオンは跪き、頭を下げた。

「ヴァルゴ様…!」

「まさか…首領の乙女座!?」

目の前に現れたのはヴァルゴ・ゾディアーツ。ホロスコープスのトップである。

フォーゼが居ない今、下手に抵抗すると危険だと感じた箒は、その場で警戒しながら動かなかった。

「スコーピオン。フォーゼを支援する誰かにスイッチを渡そうとする作戦は素晴らしい。フォーゼの支援者達もジェミニと同じ代表候補生が多いからね。だが、彼女にスイッチを渡すことだけは許さない。今回は私の報告不行き届きだから、咎めはしないが…」

「はい…。申し訳ありません」

「少し篠ノ之箒と話がしたい、席を外してくれ。後、SOLUの件は…任せても良いか?」

「仰せのままに…」

深々と頭を下げたスコーピオンは、ヴァルゴの言葉通りに姿を消した。

「箒…」

それを見送ったヴァルゴは、箒を見つめる。

「気安く名前を呼ぶな…!」

「悲しいね。そんな風に邪険に扱わなくても良いだろう…?」

ヴァルゴは懐かしむように箒に呼び掛けるが、当の箒は警戒心を隠さず、すぐにでも逃げられるように身構えている

「おまえが全ての元凶なんだな…!」

「…そうだよ。私は間違いなく、この学園にゾディアーツを生み出している張本人だ」

「なにが目的だ…何のために…!」

箒の問いに、ヴァルゴは空を見つめる。

「宇宙…。無限のコズミックエナジーを秘めた、神秘の世界。ISは、その神秘を汚しているんだよ。だからISの人材を生み出すこの学園を潰し、ISを無機能化させる。宇宙に向かうことが出来るのは、コズミックエナジーに選ばれた者だけ」

「そのISを無機能化し、宇宙に向かう選ばれた者が…蛇使い座と言うわけか!?」

礼が言っていた、13番目の使徒。箒がその名を口にすると…。

「良く勉強してるね。そう、蛇使い座のオフューカスが覚醒すれば、全世界にあるISのコアは完全に停止する。止められるものなら…止めてみなさい」

ある程度の情報を言い残し、ヴァルゴは消えた。

しかし、彼女の行動に一つ気になることがあった。

 

「わたしのことを…箒と呼んだ…」

 

まるで馴染み深い者のように、箒と呼んでいた。

それに、ゾディアーツスイッチを自分に渡すことを「許さない」と言っていた。

今は避けているが、信じたくはない。だが、彼女以外に…思いつく人物がいない。

随分と口調や声が変化しているが、おそらくヴァルゴは…。

 

「…姉さん…なのか?」

 

「ただいま」

自室に帰ったシャルル。

すでに紫苑が窓辺に立っていた。どうやら、彼女が帰ってきたことに気付いていないらしい。

「紫苑…?」

「あ、おかえり、シャルル」

振り向いた紫苑は優しく微笑んでシャルルを迎えた。

「ありがとう紫苑」

「え…何が?」

いきなり感謝された紫苑は意味が分からずに、理由を聞く。

「ボクとペアを組んでくれたの、他の人にボクが女の子だって知られないようにするためだったんだよね?」

「あ…う、うん…まぁ…」

確かにそのつもりだったが、あの場で言ったときは、本人も自分で何をしているか分からないくらい緊張していた。

「優しいね、紫苑は…」

「そう…なのかな…?」

シャルルは紫苑の手を取り、強く頷いた。

「うん、そうだよ!じゃ、今日は寝よう。明日から特訓だからね」

彼女が布団にもぐりこんだ後、紫苑は俯いて暗い声で呟く。

「…シャルル・デュノアに、心を許してしまっている…」

拳を強く握って、部屋を出て行った。

 

礼は本音を漸く振り切り、宇月、セシリア、鈴音と共に部屋に向かっていた。

「ゆりこ…見つからなかったね」「気を落とさないで下さい。また明日、いっしょにさがしますわ!」

この3人でゆりこの行方を捜していたが、さっぱり見つからなかった。

そこへ…。

「オオオオォ!」

ドガァ!

「うおあぁ!?」

突如、スコーピオンが襲い掛かってきた。

既にクロークは脱ぎ捨てており、戦闘形態だった。

「スコーピオン…!」「今度は、そちら側からですの…?」「もう…空気呼んでよ、サソリ怪人!」

宇月を起こした3人は、スコーピオンに毒づく。

「フォーゼ、SOLUを返して欲しいか…?」

スコーピオンは、ゆりこの行方を捜していた彼等を煽るように言う。

「ゆりこを返せ!あいつは…あいつは!」

「では、感動の再会だ」

そう言って右手を空に翳すと黒い霧が現れ、中から拘束されたゆりこが現れた。

その身体は、所々から銀色の液体が漏れている。SOLUとしての真の姿が現れているのだ。

どうやら擬態が解けかけている。おそらく、何かゾディアーツ側の干渉を受けていたのだろう。

「うぅ…。あっ、うつき!」

それでも意識を取り戻したゆりこは宇月を見ると、絶望に満ちた表情から少しだけ笑みがこぼれていた。

「ゆりこ!てめぇ、ゆりこに何をした!?」

「…SOLUをコズミックエナジーに変換する実験だ。だが、彼女には感情が芽生えており、君ともう一度会うために一生懸命耐えていたよ。健気だったね、苦しみながら君の名を呼ぶ様は」

スコーピオンは笑いながらゆりこに不可思議な機械を取り付ける。

「だが、これが最後の別れだ」

電源をオンにした瞬間、彼女の身体は淡く光り始めた。

「あっ…うっ…」

「ゆりこ!」

弱々しい声が漏れ、宇月に向かって必死に手を伸ばす。

彼も手を伸ばし、その手を強く握る。

「うつき…。わたし…ちゃんと、うつきのきもちがわかったの…」

「…好きだったよ。…おれ、ゆりこのこと…」

「うん…わたしも…。ふぉーぜとか、おなじとか、かんけいなくて…」

 

「宇月が好き」

 

儚げな微笑を遺して…ゆりこは消える。

そこには、銀色のスイッチと、大きなレンジ色のスイッチが残されていた。

「そんな…ひどい…!」「うそでしょ…!?」「駄目だったか…」

鈴音とセシリアは唖然とし、礼は後悔で拳を握り締めた。

スコーピオンはそのうちの銀色のスイッチを拾う。

「SOLUスイッチが完成したよ。そこのスイッチは残りカスのようだから、受け取ってくれたまえ。形見としては、ちょうど良いのではないかな?」

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」

宇月の激情に呼応するように、自動的にフォーゼが装着される。

「おまえええええええええええええええええええええええええぇ!!!!」

闇雲に突進し、拳をメチャクチャに振るう。

「一時の怒りで、私に勝つことは出来ぬ!」

ドガァッ!ズガアアァ!

「がはっ!うわあああああぁ!」

それらを全て避け、蹴りを叩き込んでいくスコーピオン。

「くそっ!くそおぉ!」

愛するものを奪った存在に、全く報いる事ができない。それが悔しかった。

礼は、セシリアと鈴音に問う。

「オルコット、鳳。おれは奴をフードロイドで分析しながら、メテオを呼んでくる。時間稼ぎを頼む」

「…よろしいですわ!」「今度こそ、あのサソリにひと泡吹かせてあげるわよ!」

そう言って、セシリアはブルーティアーズ、鈴音は甲龍を展開した。

礼は、バガミールなどをラビットハッチから持ってくるために、一度この場を離れた。

「サソリいいいいいいいいぃ!」「今のわたくし達…ものすごく気分が悪いですわ!」

突如の襲撃だったが、スコーピオンはヒラリとかわす。

「言ったはずだ。怒りで私は倒せないとな!」

大振りな攻撃だったため、後に大きな隙が出来た2人の背中を凄まじい勢いで蹴る。

ドゴオオオオオオオォ!

「「きゃああああああああぁっ!」」

地面に叩きつけられ、シールドのダメージもかなり減った。

「うおおおおおおおおおおおおおぉ!!!!」

フォーゼBSは2人の心配もせず、スコーピオンに向かって一心不乱に攻撃を向ける。

「あのバカ…!」「怒りで我を忘れてしまってますわ…」

いつもの様子はなく、ただ怒りに身を任せて拳を振るっている。

「落ち着いてください、宇月さん!」「それじゃ、サソリにも勝てないわよ!」

「うるさいっ!あいつを許す事はできない!」

セシリアと鈴音はフォーゼBSを必死に止めようとするが、それを振り払おうとメチャクチャに暴れまわっている。

<ELEKI-ON>

バリイイイィ!

「きゃっ!?」「うあっ!?」

2人を引き剥がすためにエレキを使い、変身時に現れる電撃で離れた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!」

「フフフ…ここで、フォーゼは終わりだ!」

2人は一気に距離を縮めていく。

そこへ…。

ドガアアアアアアアアァ!

「うわああああぁ!?」「ヌゥッ…!?」

フォーゼBSとスコーピオンを攻撃しながら、青い発光体が降り立つ。

「随分とお早い到着ですわね…」「礼、連絡が早くて助かったわ!」

光が消えると同時に、メテオが姿を現した。

「辻永礼の話どおりだな。まるで猛獣だ」

「どけええええええええええええぇ!」

フォーゼESはメテオにも我を忘れて攻撃する。

「目を覚ませ、フォーゼ!」

<SUTURN-READY>

メテオは右手にあるメテオギャラクシーのスイッチを押し、右手に土星のようなカッター状のエネルギーを作り出す。

<OK-SUTURN>

「アチャアアアアアアァ!」

ズバアアアアァ!

「ぐああああああぁ!」

メテオの攻撃の一つ「サターンソーサリー」で、フォーゼESの頭部を攻撃し、気絶させる。

「今だ、こいつを連れて逃げるんだ!」

「はい!」「わかったわ!」

セシリアと鈴音はメテオの言葉に従い、フォーゼESを抱えて退散した。

「用は済んだかな、メテオ?」

「あぁ。だが、おまえと戦うほど暇でもない」

そう言って、メテオはすぐさま去っていった。

取り残されたスコーピオンは去っていった方向を見つめる。

「仮面ライダーメテオ…一体、何者だ?」

 

翌々日。

宇月はあれから、ラビットハッチにこもって出てこない。

それを待たずして、遂にトーナメントの日がやってきた。

申請済みのペア以外はランダムで発表なのだが…。

対戦分けを見て、一夏は冷や汗が流れた。

「うわ…最悪だ…」

一回戦の対戦相手の一部を抜粋すると…。

 

篠ノ之箒&能美ミキVS辻永礼&布仏本音

セシリア・オルコット&鳳鈴音VS白石紫苑&シャルル・デュノア

織斑一夏&城茂宇月VSラウラ・ボーデヴィッヒ&裾迫理雄

 

「ラウラと理雄かよ…」

クラス内でも、特に厄介な2人が一回戦目の相手であった。

遠くを見ると…。

ラウラは一夏に対して不敵な笑みを浮かべ、理雄はラウラを敵意むき出しで睨んでいた。

教師の竜也とあゆは、彼等を見て心配そうな面持ちになる。

「大丈夫かな、竜也くん…」「信じよう。宇月君だって、この世界の仮面ライダーだ。ラウラちゃんも救ってくれるはずだ」

確信を持って呟く竜也だが、あゆの心配は収まらない。

「でも…万が一の時は…」「分かってる。助けるつもりだよ」

そう言いながら、龍騎のデッキをポケットの中で握り締めた。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                       宇月、起きろ!

 

塞ぎこんで、どうするつもりだ!?

 

                       ジェミニ、君は用済みだ

 

なぜ、おまえは強い…?

 

強くなれラウラ。そうすれば、何も奪われはしない…!

 

                       まさか、あいつがスコーピオン…!?

 

 

第12話「恋・心・爆・発」

 

 

青春スイッチ・オン!

 







キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄

ラウラ・ボーデヴィッヒ=ジェミニ・ゾディアーツ
ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

???=スコーピオン・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

篠ノ之束(?)=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
ジェミニがほぼ全く戦わなかったという…(汗)。まぁ、次回で何とか…!
礼の正体バレ、どのタイミングにするか悩みましたが、今回にしました!
後々にまわすと、厄介な事になるので。

ヴァルゴの正体に、少しだけ触れました。箒の予想は当たりか外れか…。
ちなみに彼女のペアの能美ミキは、元リンクスの娘です。原作の三浦ポジションかな…?

次回は、トーナメント!ラウラとゆりこの話に決着をつけます!
一応、メテオを大活躍させたいのですが…変身者が不明ですから四苦八苦(汗)。
遂にスコーピオンの正体にも触れる…かも?
お楽しみに!


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第12話「恋・心・爆・発」

 

 

箒とミキVS礼と本音の試合が始まろうとしていた。

双方のどちらも、専用機などは持っておらず打鉄を4機使っての試合となる。

「篠ノ之。あんた、なに憂鬱な顔してるのよ?」

「わたしが…?」

ミキは、親しみのある笑みを浮かべて聞く。

彼女は元リンクスとして敵対していたが、今は宇月の「人にある可能性」という言葉を信じ、彼女なりに努力を続けている。

仮面ライダー部の者達とも、ときどき会話をしたり、良好な関係が築けている。

「なぁに、リラックス、リラックス!城茂君も凹んでるらしいじゃない?なら、同じ仮面ライダー部のあんた達が、バシッと決めてやらなきゃ!」

「わたしは…仲間が窮地に陥っても、見ていることしか出来ない…。いずれ…みんなの足手まといに…。強くなりたい。そう思う自分が怖くもあるんだ」

箒は戦う事ができず、ずっと苦しんでいた。それは肉体的な痛みよりも、ずっと痛いものなのかもしれない。

スコーピオンにスイッチを渡されそうになったとき断固拒否したが、心の奥でこう思った。

 

コレを使えば、強くなれるかもしれないと。

 

「強さってさ、定義はいろいろあるんじゃない?」

「強さの…定義?」

ミキは空を見ながら、少し笑みを消しながら言う。

「リンクスになったとき間違いなく、あたしは強くなったと思ってた。その力はもうないけど、でも今のあたしの方がずっと強いと思う。だってさ、他に強いと思えるモノに出会えそうになったから。強さって、力だけじゃないと思う。まぁ、まだ出会えてないけどね!」

次に振り向いたとき、再びミキの表情は眩しいほどの笑顔であった。

彼女を変えさせたのは、紛れもなく宇月。

「これから探していけば良いと思うわよ。篠ノ之らしい強さを」

「わたしらしい…強さ…」

箒は自分の手を見つめた…。

 

一方、礼と本音。

「約束は守れよ。コレが終われば金輪際、フォーゼやゾディアーツには関わるな」

「おっけーだよ。わたしが関わったって、危ないもんね」

礼は疑い深い性格だ。本音の言葉もすぐには鵜呑みに出来ない。

だが、今は彼女を信用しておこうと思った。実際、そんなことよりも気がかりな事は幾つかあるからだ。

「言っておくが、足手纏いになるなよ。ノロマ」

「む~、せめて他に呼び名はないの~?」

「ない。準備しろ」

本音に掌でシッシッと追い払った後、遠くの寮部屋にあるラビットハッチの方向を見つめて呟いた。

「戻って来い…宇月」

 

ラビットハッチ内。

ドアはロックしており、今は宇月以外に入れる者はいない。

「おい、起きろよ宇月!」

その扉の向こうで必死に叩いているのは一夏だ。

なんとか宇月を奮い立たせようと、呼びにきたのだがこの有様。

反応がないのだ。

「一回戦の相手はラウラと裾迫だぞ!絶対にフォーゼがいないとマズイ!裾迫に危険も…」

「おれが居なくても大丈夫だろ」

扉のすぐ目の前に居るのだろう。すぐ近くから宇月の声が聞こえる。

「ジェミニならメテオや龍騎が何とかしてくれる。もしそれでもキツイなら、おまえ等が加勢すれば良いだろ」

宇月とは思えないような暗い声だった。それでも諦めず、一夏はドアを叩く。

「ゆりこが居なくなった事が辛いのはわかる!でも、このままじゃ…」

「なにが分かるって言うんだよ!」

一夏の説得を遮り、強い怒声を上げた宇月。その声は泣いているようにも聞こえた。

「父さんや母さんを失って、次は好きな人を失った。」

 

「頼むから…一人にさせてくれ…」

 

「…見損なったぞ、宇月!」

一夏はそう言い捨てて、会場へと向かった。

ラビットハッチで座り込んだ宇月は頭を抱えて呟いた。

「…どうしろって言うんだ」

 

「はああっ!」

箒は礼に打鉄の刀を振りかざす。

「おれを甘く見るなよ!」

ガキィン!

礼は最小限の動きで、刀を防ぐ。

「くっ…!」

「なんだ、焦ってるのか?」

礼は少し離れた場所で戦っている本音たちには聞こえないような声で箒に問う。

「おまえらしい強さだよな?探す以前に、そのことを誰かから教えてもらっているようじゃ、見つかりはしない」

礼は本音と会話しながら、箒とミキの会話を一言漏らさず聞いていたのだ。

「…ひとつ聞きたい」

すこし嘲笑の表情をみせる礼の挑発にも乗らず、少し距離を置いた箒。

「何故おまえは、そこまで自分が強いと言い切れるんだ?」

「簡単な話、強いからだ」

彼女の質問に、礼は再び嘲笑しながら答える。

「その強さの理由だ!」

「言っただろ?それを人に聞いてるようじゃ、駄目だってな!」

次は礼から攻撃を仕掛ける。

「…!?」

ガキィ!ズバァ!

「うわあああああああぁ!」

刀で振るうと見せかけ、空いていた左手で防ごうとした箒の刀を払い、隙が出来たところを改めて自身の刀で斬った。

その動きはすばやく、剣道をしていて動体視力も高いはずの箒がついて来れなかった。

「強さの理由が知りたいなら、自分で探せ。自分の強さも、他人の強さもな!」

箒に刀を突きつけて、強く言い放つ礼。彼女は少し俯くが、すぐさま立ち上がり、再び刀を構える。

「…見つけてやろうじゃないか!」

 

そして…。

 

「勝者、辻永礼・布仏本音ペア!」

歓声とともに、礼と本音は勝利を手にした。

あのあと結局、箒は礼に叩きのめされ、圧倒的な差を見せ付けられた。

本音とミキは両者一歩も引かずと言った感じだったが、箒を打ち負かした後の礼が入ってきたことで一気に決着をつけられたのだ。

「つっちー!勝ったよ~!」「うるさい、戻るぞ。約束は守れよ」

勝利を喜ぶ本音を引き剥がしながら、礼はアリーナから出て行く。

「篠ノ之、この試合で見つけられたか?」

最後にそう言い残して。

残された箒は、軽く笑ってそれを見送った。

「少しは…なにか掴めそうな気がする」

確証はないが、少しだけ手ごたえを感じた。

 

続いて…。

セシリアと鈴音VSシャルルと紫苑。

第3世代の専用機2機に対して、第2世代専用機と量産機。特に紫苑はこのメンツの中で唯一、代表候補生でも専用機持ちでもない。普通は後者が圧倒的に不利と言えよう。

当然、紫苑は不安と緊張でガチガチになっている。

「大丈夫かな…。オルコットさんに鳳さん相手じゃ…。シャルルはともかく…僕、今までの記録上で一番、適性度は低いし…」

「紫苑、考え方だよ。これからもっと、伸びしろがあるんだよ!」

そんな紫苑を優しく励ますシャルル。状況の不利さに対して、全く不安なそぶりも見せていない。

「ほら、肩の力は抜いていこうね」

「うん…」

 

そして、セシリアと鈴音は…。

「試合もそうだけど…心配よね」「宇月さん、ずっと出てきてませんわ…」

試合よりも、宇月のことが気になっている。

今は一夏に任せているが、この試合が終われば、すぐにでもラビットハッチに向かうつもりだ。

「メテオや龍騎も駆けつけてくれるとは限らないし、正体もわからない人に任せるわけにもいかないわ…」

「最悪、ジェミニであるラウラさんを、わたくし達が止めなければいけないかもしれませんわ。体力の温存には気をつけていきましょう」

2人であらかじめ、今後のことを考えて作戦を立てた。

 

ラビットハッチ内で塞ぎこんでいる宇月の前に、ある人物が現れた。

「なんだ…?」

それは銀色のオーロラを超えてやってきた。

「城茂宇月君…いや、仮面ライダーフォーゼ」「こんなところで塞ぎ込んじゃダメだよ!」

「龍崎先生に月宮先生…?」

そう、竜也とあゆだった。

宇月は竜也の言葉に違和感を覚えた。彼は宇月がフォーゼだと知っていた。

「なぜ…おれがフォーゼだって…」

「おれも同じだから」

そう言って、竜也はデッキを見せた。宇月は、それをみて何なのかがすぐに理解できた。

龍騎のベルトにある物体である。

「龍崎先生が…仮面ライダー龍騎!?」

「ボク達は、別の世界からやってきたの。「ある人達」に頼まれて、この世界のバランスを保ってほしいと言われて。この学園に来たのは、バランスを保ち、君を助けるため」

驚いている宇月に間髪居れずに、あゆが説明を加える。

「その…別の世界とか異世界って…」

「ここはフォーゼが中心核となっている『仮面ライダーフォーゼの異世界』そして『ISの世界』が融合した世界。おれ達は『仮面ライダー龍騎とKanonの世界』から来た」

抽象的であったが、なんとなくは理解できた。

つまり竜也とあゆは「ある人達」からの依頼で、はるばる別の世界から宇月を救うためにやってきたと言う事だ。

「今の君は…数年前のおれと真逆だ。憤りや悲しみに任せて闇雲に拳を振るっていたおれに対して、君は愛する人を失って塞ぎ込んでしまった。…どちらも良い姿じゃない」

「じゃあ辛い目に遭っても、自分の感情を押し殺して戦わなきゃいけないんですか!?」

宇月は竜也に対して強く怒り、詰め寄った。竜也はただ静かにそれを聴いている。

「押し殺す必要はないよ」

「じゃあ、どうしろって…!」

「自分の気持ちを隠さないの」

宇月が竜也に再び詰め寄ろうとしたところを、あゆが遮った。

「気持ちってね、押し殺すと忘れてしまうの。それって一番、悲しい事なんだよ。ゆりこちゃんを失ったことが悲しいってことは、それだけ愛しかったってことだよ」

「ゆりこが…」

宇月はゆりこを思い出す。

短かった。本当に短かったが、彼女は宇月に温かい気持ちを与えた。他者に対する愛情を強く想い、そして感じられた。

ふとみると、あゆの少女らしい顔が、年相応の女性らしい表情になった。

宇月の手を握り、優しく微笑む。

「ゆりこちゃんのことを胸に想って戦って。自分の温かい気持ちを大切にして。そうしたときの仮面ライダーって、ずっと強くなるから」

そして、竜也が宇月の肩に手を置く。

「大丈夫だ。君は優しい…。それに立派なこの世界の仮面ライダーだ。…大切なモノを、その優しさで守ってくれ」

竜也を見た後、ラビットハッチのテーブルに置かれているフォーゼドライバーを見つめる宇月。

「おれは…」

 

その頃、試合が開催されていた。

「やりますわね、シャルルさん!」

セシリアとシャルルの戦いは、両者とも全く引け目を取っていない。

ブルー・ティアーズから放たれる多方向ビームを避けたシャルルは、自身の持つ多くの武装で迎撃する。

それを見てすぐに攻撃の手を休めたセシリアは、防御と回避に集中する。

「く…紫苑を助けたいけど…」

シャルルが紫苑と鈴音の居る方向を向く。

そこでは…。

「うわああああああああああああああぁ!」

「はぁっ!」

ガキィ!

「わぁっ!?」

勇気を振り絞って刀を鈴音に振りかざした紫苑。だが、鈴音の持つ双天牙月で弾かれ、右っていた右手からは刀が離れ、消えてしまった。

「覚悟しなさい!」

「ひいいいいいいいいいいいぃ!」

武器が丸腰状態の紫苑は、完全に逃げ惑っている。

しかも適性度が低いためか、動きも鈍重でシールドエネルギーも僅かとなっている。

それに容赦せず、鈴音の龍砲が襲い掛かる。

「逃げんな!」

「無理だよ!勝てない!」

ドガアアアアアアアアアアアアァ!

「うあああああああぁ!」

トドメの一撃となった。

彼から攻撃する事は一度も出来ず、見る影もなくボコボコにやられてしまったのだ。

「やっぱり…ダメだった…」

地面に這い蹲る紫苑を他所に、鈴音はセシリアの応援に向かう。

「セシリア、すぐに決着をつけるわよ!」「了解ですわ!」

鈴音は龍砲を構え、見えない一撃を放つ。

「うぁっ…!?」

危険を感じたシャルルはすぐさま避けるが、その先ではセシリアのスターライトmkⅢが待ち構えていた。

「これで…!」

ビームが今放たれようとしている。シャルルには、避ける手段がない。

もう諦めたその時…。

「ううぅりゃああああああああああああああああぁ!!!!!」

シールドエネルギーや打鉄もギリギリの状態であるにも拘らず、死に物狂いで走ってきた紫苑が、シャルルの眼前で立ち塞がった。

つまり彼女を守るために、セシリアが放つ攻撃の盾となった。

「まさか…!?」「しお…!?」

ドガアアアアアアアアアアアアアアァ!

スターライトmkⅢのビームが紫苑を完全に捉えた。

爆風の後には、打鉄も壊れかけている状況にも関わらず、それでも震えている足に必死に力を加えて立つ紫苑の姿があった。

僅かなシールドエネルギーのおかげで肉体への損傷は少ないだろうが、あんな強力なビームを至近距離から受けたのだ。

ショックは凄まじいものであるはず。おそらく戦闘は続行できないだろう。

「シャルル…まだ戦えそう…?」

「し…紫苑!どうして、ボクを庇ったりなんか…!」

「これくらいしか…思いつかなかったし、出来なかった…」

紫苑の出来る最大限の行動はこれであった。シャルルを守り、彼女が戦える状況を作った。

あのままではどちらも倒れただろう。

だが…。

「白石紫苑の戦闘不能により、勝者、セシリア・オルコット・鳳鈴音ペア!」

結果的に敗北となった。

「あはは…やっぱりクズだな、僕。何もしてなかったほうが…」

「そんなことないよ…。ボクを守ってくれたじゃないか…」

2人の様子を見ていたセシリアと鈴音。こんなに罪悪感のある勝利は他にない。

特にセシリアだ。

「紫苑さん…わたくし…」

「オルコットさん。大丈夫、僕が勝手にやった事だから。それに身体も平気」

弱々しいが優しい笑みを浮かべた紫苑。実際に怪我はない。

だが、セシリアには強い後悔が残った。あのとき、宇月の様子が気になっていたために勝利を急ぎすぎたのが、このような状態にしてしまったように感じた。

「平気だよ…僕は平気」

 

遂に、一夏と宇月の番が来てしまった。

「結局…」

宇月は現れそうにもなかった。このままでは一夏達の不戦敗となるだろう。それだけならまだ良い。

問題は、それによりラウラが怒り狂う可能性があるのだ。一夏を直接倒せなかった苛立ちでジェミニとして暴れまわる危険もある。

…が。

「待たせたな」

そこに宇月が現れた。

「な…宇月!?」

「まぁ、まだひきずってるけど…それもひっくるめて、気合入れてくぜ!」

そう言って、宇月は打鉄を装備した。どうやら、踏ん切りはついているようである。

「ISに関しては、おまえが上だ。たのむぜ一夏!」

「あぁ!」

 

ラウラと理雄だが…。

2人の間に全く会話はない。

(…この男も邪魔だ。少しでも、でしゃばるようなら…織斑一夏を倒す前に潰しておくか)

ラウラは心の奥で考えていた。だが、理雄も似たことを考えている。

(コイツに良い顔はさせん。すぐに叩き潰してやる)

どちらも味方に対する考えだとは思えない。

 

アリーナで、両者が出揃った。

宇月がラウラに向かって叫ぶ。

「ラウラ、最後に聞いておく!スイッチは捨てないのか!?」

「言ったはずだ。わたしはこの力で、揺ぎ無い最強を掴むと!」

予測してはいたが、どうやら説得は通じないらしい。

次に一夏が聞く。

「じゃあ、賭けてくれ。おれ達が勝ったら、スイッチを捨ててくれ」

「ほう…いいだろう。ならば、きさま達が敗北すれば、此処から去ってもらう」

「約束だからな…!」

この案には乗ってくれたようだ。実際に勝てたとしてその行動に移すかどうかは不明だが。

理雄は黙って、この会話を見ていた。

「…」

試合開始の合図が響く。

「行くぞ!」「おりゃあぁっ!」

真っ先に動き出したのは理雄と宇月。

「量産機ごときが…!」

霧裂のムチが宇月に襲い掛かる。

だが…。

「うおおおおおおおぉ!」

ズバァ!

それに完全な対応が出来ていた。打鉄ではまずありえない動きだった。

「ばかな…!?」

「忘れたか?おれ、適性度Sなんだぜ!」

そう、宇月はISの適性度が過去に見られなかったほど高いため、能力が低い量産機でも専用機と同等の力を発揮できるのだ。

「でしゃばりが…。織斑一夏、貴様はわたしが倒す!」

「あぁ来い!」

シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードの嵐を、一夏は白式の駆動力で上手く避ける。

「ちょこまかと…!」

「負けるわけにはいかない!おまえを守るためにも…!」

「馬鹿にするな!」

そのまま、一気に距離を縮めて攻撃をあてようとするが…。

ガキィン!

「くっ…!やっぱり、効かないか…!」

「AICの前では、全てが無力だ」

ラウラはAICによって完全に守られていた。

「乱入!」

「!?」

その背後から、理雄の攻撃を振り切りながら宇月が刀を構えて走ってくる。

だが…。

バチィン!

「ぐあぁ!?」

一夏と宇月以外に、ラウラに攻撃を与えた者が居た。

この場で残っているのは…。

「おぉ悪い悪い。織斑を狙ってたのにな…。避けろよ?」

「理雄…!?」

理雄だ。彼の霧裂のムチがラウラにダメージを負わせたのだ。

彼の行動に怒りを覚えたラウラは、理雄に襲い掛かる。

「裾迫、貴様!」「まて、ラウラ!」

ラウラを静止しようとしたが、全く無意味であり、理雄は笑いながら待ち構えている。

「さて、コレはどうだ?」

理雄はムチを振るい、ラウラ…の背後に居る宇月と一夏を拘束する。

「うおぉ!?」「理雄、何を…!?」

「ウォラアアアァ!」

拘束した2人を一気に引き寄せ、ラウラの背後を狙った。

ドゴオオオオォ!

「ぐあああぁ!」「うああああぁ!」

「うわあああぁ!」

彼女はその行動の意味が理解できるのに時間が掛かったため、攻撃に対処できずに吹き飛ばされてしまった。

「どうした。AICは全てが無力になるんだろ?」

「く…キサマァ!」

ラウラは完全に怒り狂い、ジェミニスイッチを押してしまった。

その姿はジェミニとなり、それを観客全員に見られてしまった。

「あの転校生が…怪物!?」「生徒だったなんて…!」

生徒や関係者、教師達もその事態を目の当たりにして、混乱している。

「許さない…絶対に!」

「来いよォ、バケモンが!」

もう、試合はそっちのけでジェミニと理雄の戦いが始まった。

「喰らえェ!」

ジェミニのもつ赤いカード型の爆弾「リュンケウス」を手裏剣のように投げ、理雄を攻撃する。

「フン、そんなモノ…!」

ドガァ!ドゴォ!

ムチを振るい、全てを叩き落していく。

だが、彼は気付かなかった。霧裂の一部に青いカード「イーダス」が貼り付けられている事に…。

「掛かったな…」

パチン!ドゴオオオオオオォ!

「ガアアァッ!?」

ジェミニが指を弾いた瞬間、理雄は強い衝撃を感じ、地面に倒れこむ。

「チィッ…バケモンめ…!」

「そうだ、わたしはバケモノだァ!」

「やめろ、ラウラ!」

そこへ、一夏が割り込んで理雄を庇う。

「くそ…なんなんだよ、コイツ…!」

身体を少し庇いながら、理雄はアリーナから逃げ出した。

アリーナの観客席も緊急事態でもあり、シェルターがかけられたので、観客席に戻った礼や箒達は、見えなくなってしまった。

「一夏…宇月…」

心配そうにしている箒達を他所に、礼はスイッチカバンを開き、メールを送った。

送り宛は「METEOR」と記されている。送信ボタンを押し、席から立ち上がる。

セシリアは

「どこに行かれるんです…?」

「メテオに応援を頼んだ。こちらも彼が現れやすい状況を作るから、おまえ達はここで待ってろ」

そう指示して、礼は観客席から離れていった。

メテオの正体を知られないためには、観客席から人を動かさない事が必要だ。そうしないと、あの場にメテオが現れにくくなる。

「…あれ、紫苑?」

礼が去った後、シャルルは紫苑が座っていた隣を見ると、いつの間にか彼が居なくなっていた事に気づいた。

確かに怪我などは少ないが、動くのは危険なはずなのに。

シャルルは、ふと気付いた。

「礼がメールを送る前は…ちゃんと居たよね…」

もしそうならば…あまりにも辻褄が合いすぎる。

「もしかして、紫苑って…」

 

アリーナの観客席はシェルターが掛かったので、これならばフォーゼへの変身を見られることはない。

「逃げ出したか、あの男は…。ふん、みっともない」

「行けるか一夏?ジェミニを…止めるぞ!」「あぁ!」

一夏は雪片弐型を構え、宇月はフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチをオンにする。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変身した。

「いくぞ、ラウラ!」「来い…!」

<FIRE-ON>

フォーゼBSはファイヤーステイツにチェンジした。ファイヤーは初回のみ、スイッチに強力な炎のエネルギーが必要であったため、それ以降はなんの動作もなく使用できるのだ。

ヒーハックガンを構え、ジェミニに火炎弾を放射する。

ゴオオオオオオオオォ!

「そんなもの!」

ジェミニは未だにISを装備しており、AICでその攻撃を無力化する。

その背後に一夏が現れ、雪方弐型を振りかざす。

「はああああああああぁっ!」

「無駄だ」

パチン!ドガアアアァ!

「うあああぁ!?」

理雄への襲撃時、既に一夏の白式にもイーダスを貼り付けていたのだ。これならば、フォーゼFSの攻撃に集中しながら、一夏への迎撃も可能だったと言うわけだ。

「ジェミニとシュヴァルツェア・レーゲン…相性が良すぎだろ」

意識を一つの方向に集中させながら、別の敵にも対応できる能力を兼ね備えている。しかも新参者とはいえ、ホロスコープスだ。

二対一でも勝機は低いだろう。

そこへ…。

 

「ジェミニ」

 

入場口からスコーピオンが、不穏な空気を纏って現れる。

「スコーピオン、この者達はわたしが倒す。邪魔を…」

「ヴァルゴ様への無礼…あの方が許しても、私は許さん…。ジェミニ、貴様は用済みだ」

そう言い放ち、スコーピオンは尾をジェミニのシュヴァルツェア・レーゲンに突き刺した。

「な、何のマネだ、スコーピオン!?」

「貴様が今、ISを使えるのは、私のコズミックエナジーがヴァルキリー・トレース・システムを停止させているからだ。今、そのエナジーを逆にシステムを活性化させるモノへと変換させた」

ジェミニはその言葉を聞いて、凍りついた。

つまり、その脅威のシステムが作動…いや、暴走を始めるのだ。

「ま、まて…まって…!」

「恨むのならば、自分の態度を恨むのだな。さらばだ、ジェミニ。いや、星に見放されたクズが」

スコーピオンがそう言い放った途端…。

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」

突如ジェミニが苦しそうにもがき始め、シュヴァルツェア・レーゲンも変質を始めた。

黒い軟体となったシュヴァルツェア・レーゲンはジェミニを包み込み、巨大な女性の姿をした剣士へと変貌した。

さらに、その姿はジェミニに近いものへ変わり、持っていた刀も厳ついものへと変化する。システムの想定を超えた暴走だ。

「ほう、超新星に近い力を引き出したか。このシステム…使い道があるかも知れんな」

「スコーピオン、てめえ!」

分析を始めていたスコーピオンに対して、怒りの声を挙げたフォーゼFS。

「あぁ、すっかり忘れていた。恋人を失った悲しみの戦士とブリュンヒルデの弟よ」

スコーピオンはフォーゼFSと一夏を見ながら、おかしそうに嘲笑した。

「ジェミニの成れの果てを、片付けてくれたまえ」

 

「その仕事は、おれが引き受けよう」

 

不意に空から響き渡る声。

そこから青い発光体が飛来し、メテオの姿を現した。

「仮面ライダーメテオ…!」

「フォーゼ、織斑一夏。おまえ達はスコーピオンを倒せ。ラウラ・ボーデヴィッヒはおれが止める!」

「わかった!」

メテオは一夏とフォーゼFSに指示を出し、黒い塊に向かって駆ける。

「一夏、白式のエネルギーは?」

「ちょっと厳しいかもしれないが、まだ大丈夫だ!」

エネルギー量はそこまで少なくはなく、戦うには十分である。

「よし、いくぞ!」「あぁ!」

「フフ…」

 

メテオは黒い塊に呼び掛ける。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!おまえはそんなモノに頼るのか!?」

「…!」

しかし、それには答えず、刀を大きく振るう。

「話し合いは通じないか…!」

「…!」

間髪居れずに、刀を振るった。メテオは持ち前のすばやさで上手く避け、分析をも始める。

「…データに残されている織斑千冬の動きと似ているな。故にヴァルキリー・トレース…か」

「…!」

すぐに攻撃を続ける黒い塊。避けてはいるが、相手の動きも速い為、攻撃を仕掛けられない。

メテオはこれ以上避けても攻撃が出来ないと判断して…。

「攻撃を避けてもキリがないならば…!」

「…!」

ズガアアアアアアァ!

「グアアアアアアァッ!ヌゥッ…!」

その攻撃を脇腹で受け止め、そのまま刀を握る。

握っていた右腕に装着されているメテオギャラクシーに、ドライバーにあるメテオスイッチを挿入した。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE>

エネルギーが最大に増幅した瞬間、承認スイッチを押してそのエネルギーを開放する。

「星座の運命に惑わされた、愚かな者よ!貴様の運命…おれが消し去って見せる!」

<OK>

「オォォォォォ…アタタタタタタタタタタタタタアァッ!」

メテオはジェミニが居た場所に向かって、凄まじい速度で拳を打つ「スターライトシャワー」を放った。

黒い物体が少しずつ剥がれていき、ラウラの身体が見えてきた。

「今だ!」

メテオはラウラの身体を抱き寄せ、黒い塊から引き剥がした。

その瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンのコアやパーツ、ジェミニスイッチが元の形に戻り、地面に落ちる。

「しっかりしろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

メテオはラウラを揺するが、反応がない。スターライトシャワーは彼女に当たっては居ないから、ダメージはないはずだ。

「生きている…大丈夫だな」

そう判断し、フォーゼFSと一夏の援護に向かった。

 

一方、スコーピオンに圧倒されている2人。

「「うあああああああああああああぁ!」」

同時に蹴りを受け、地面を転がった。

「メテオ…止めたか」

スコーピオンは軽く笑い、向かってくるメテオに身構えた。

「フォーゼ、いくぞ!」「あぁ!」

二人の仮面ライダーは、スコーピオンに蹴りや拳を放ち続ける。

「アタァッ!アチャッ!ウゥアタアァッ!」「はっ!だぁっ!おりゃああぁっ!」

スコーピオンは避け続けるが、次第に疲労が見えてくる。

「クズが…!」

一瞬、隙が出来た瞬間、一夏が雪片弐型を振りかざして突進してきた。

「これでどうだああああああああああぁっ!」

ズバアアアァ!

「ヌゥッ…!?」

その攻撃に対処できず、左肩にダメージを追う事になった。

「今だ、メテオ!」「あぁ!」

<METEOR LIMIT-BREAKE><LIMIT-BREAKE>

「オオオォォ…アァチャアアアアアアアアアアアアアァッ!」

「ライダァァァァ…爆熱シュゥゥゥゥゥト!」

メテオとフォーゼFSのリミットブレイクが、スコーピオンに向かっていく。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「グガアアアアアアアアアアアアアァッ!」

急所は外したが、一夏がダメージを与えた右肩に攻撃をぶつけ、大ダメージを負わせる事ができた。

「チィッ…!」

形勢が不利と見たか、スコーピオンは舌打ちをして姿を消した。

「メテオ、ラウラは!?」

「大丈夫だ…」

先ほどの黒い塊から貰った一撃のため、脇腹を押さえているメテオ。

彼の見る方向には、ラウラが横たわっていた。

 

 

 

ラウラは暗い空間に居る。

メテオに二度も倒されてしまった。そこまで強い理由はなんなのだろうか…。

「何故だ…何故、おまえは強い…?」

 

「おまえが弱いだけだ」

 

不意に、すぐ近くからメテオの声が聞こえ、振り返ると、メテオが不敵に立っている姿があった。

「教官も言っていた…。わたしは…弱いのか?」

千冬も言っていた言葉を彼からも聞いた。

「そうだ、弱い。ゾディアーツに頼った時点で、おまえは弱くなった。弱いものは全てを奪われる。あのとき、スコーピオンに対して、こう思っただろう」

 

「助けてくれ…と」

 

「おまえが強ければ、助けを求める必要もなかったはずだ」

「どういう事なんだ…どうすれば…?」

ラウラの問いにメテオは溜息をつく。

「煮詰まっているようだから、教えてやる。おまえが強くなれないのは「友がいない」からだ」

「友…」

意外だった。いままで必要とも思わなかったモノが、強い理由になるのだと。

「真の友は支えてくれて、思わなくても助けてくれる。現に、友がいるおれを、おまえは強いと思っただろう」

驚いた表情のラウラの頭に、メテオが手を置く。

「強くなれ、ラウラ。そうすれば奪われる事はない。「自分自身」と「大切なモノ」はな」

「メテオ…」

ラウラは、メテオの言葉に温かい気持ちを抱いた。

「強くなるまでに時間がかかると言うならば…おれが「最初の友」になろう」

 

 

 

「ここは…」

気が付くと、そこは医務室のベッドの上だった。

「気が付いたか、ボーデヴィッヒ」

「教官…」

身体を起こすと、千冬の冷たい瞳と目が合う。

「お前の処分だが…どういうわけか、龍崎先生達に止められたよ。「彼女は悪い夢を見ていた」とな。お前のISについても今後、調査が入るだろう」

「わたしは…」

ラウラは自身の起こした過ちを後悔し、弁解を始めようとするが…。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前は誰だ?」

「わたしは…」

「分からぬならば…」

千冬が教え諭そうとしたとき…。

「いえ、わたしはラウラ・ボーデヴィッヒです。それ以上でも、それ以下でもありません」

「分かっているならば良い」

満足そうな笑みを残して、千冬は医務室を出て行った。

残されたラウラは、窓を見つめる。

 

その日の夜。

結果的に、トーナメントは無効となった。宇月は大きなものも失うことになったが…。

「宇月…」

「なぁに、湿気た顔すんなよ!ゆりこはおれのことが好きだった。コレだけで十分だ!」

気丈に振舞っているのではなく、本当にそう思えた。

彼女の残してくれた橙色のスイッチ、そして思い出。宇月にはそれで十分だった。

「元気になってよかったな」

「一夏以外にペア組んでくれなかったから、ショックはあったけどな~」

軽い冗談まで言えている。

「紫苑もちょっとは、カッコよかったわよ」「えぇ、見直しました」

「そ、そうかな…」

紫苑は身を挺してシャルルを守った事が、新聞記事でも少し取り上げられていた。

「こいつら、反省なし…!」

宇月のペアに立候補しなかった女子3人の謝罪を少し期待したが、駄目であった。

「やったな、紫苑!」

そう言って一夏が、紫苑の右肩をポンと叩くと…。

「ぐあっ…!?」

突如その部分を押さえ、うずくまった。

「紫苑、大丈夫!?」

「う!?…うん、平気…」

シャルルが右肩を優しくさする。紫苑はその瞬間、少しからだが硬直する。

「悪い、そんなに痛かったか…?」

「いや、僕が大げさなだけだよ…」

その様子を見ていた箒。

「右肩に怪我…」

スコーピオンはIS学園の誰かであり、今日はフォーゼとメテオから右肩に大きなダメージを負った。

このことから、導き出される推測は…。

「まさか…」

 

数日後…。

「アチャアアアアアァ!」

仮面ライダー部の目の前で、メテオがダスタードを一掃していた。

「…さてと…ん?」

「メテオ!」

ふと、メテオはラウラに声をかけられた。あのあと、彼女は仮面ライダー部に入ることになった。

役割は鈴音に続き、パワーダイザーの操縦。やる気は十分とのこと。

「ラウラ…?」

メテオは歩み寄ってくるラウラを見つめていた。

…そして。

 

「…!?」

 

「ラウラ!?」

なんと、マスク越しからメテオに口づけをした。

「お、おまえをわたしの嫁にする!決定事項だ、異論は認めん!」

「…なんだと!?」

メテオは驚いてラウラから離れる。

「とにかく、夫婦とは互いに包み隠さぬもの。変身を解き、素顔を見せろ!」

ラウラは言うなり、メテオドライバーを外そうと引っ張り始める。

「なに…?うおっ!?やめろ!メテオドライバーに触るな!」

「待て!」

メテオはそれを引き剥がして青い発光体で逃げ、ラウラもシュヴァルツェア・レーゲンで後を追い始めた。

「やめるんだ、落ち着け!それ以上こっちにくるな!おれがなってやるのは友だ!」

「逃がさんぞ!」

礼と本音に続き、こちらでも追いかけっこコンビが生まれた。

それを見守っていた宇月達。

「あぁあ、もったいないことしたな…」

「なに?」

シャルルが宇月の言葉に質問すると、こう答えた。

 

「あいつ…今日、仮面ライダー部のメンバーがちゃんと活動してたら、正体を明かすつもりだったんだぞ」

 

「「「「「ええええええええええええええええええええぇ!?」」」」」

つまり、今日だけでもラウラが大人しくしていたら、メテオの正体を見れていたのだ。

「あの調子じゃ、正体のお披露目は当分先だな」

宇月はやれやれと溜息をついた。

「まてええええええぇ!」

「アチャアアアアアアアアアアアアアアァ!」

空の向こうで、ラウラの叫び声とメテオの悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                   君の仕事はアリエスとジェミニのスイッチ回収だ

 

紫苑…正体を現せ!

 

                   違うよ、ボクは紫苑を信じる!

 

魚座の使徒の誕生は近い…

 

                   さぁ、星に願いを…

 

 

 

 

第13話「正・体・判・明」

 

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 






キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ=ジェミニ・ゾディアーツ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルル・デュノア
白石紫苑
裾迫理雄

織斑千冬

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

???=スコーピオン・ゾディアーツ






あとがき
如何でしたか?
とりあえず、ジェミニ&ラウラ・ゆりこ&なでしこの話は此処で一区切りです。
ゆりこが…後にフォーゼを救うかも…?
ラウラはメテオにデレてもらいました。その結果、正体判明は延期です(笑)
そして、次回から2話にわたり、スコーピオンとの最終決戦です!
タイトルどおり、遂に正体も判明します!


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激闘!仮面ライダー部VSスコーピオン!
第13話「正・体・判・明」


「スコーピオン。一体、どうしたというんだ?君らしくないね…」

ヴァルゴに呼び出され、スコーピオンはジェミニの件について問いただされている。

新たな同胞であるジェミニに襲撃を仕掛けたスコーピオン。本来、スコーピオンはヴァルゴの命や彼女が望んでいるであろうモノに背く事はありえない。ホロスコープスを減らすなど、もってのほかだ。

「私は、貴女の侮辱を絶対に許さないだけです。ご安心下さい、落とし前はつけます」

跪いているスコーピオンは動揺している姿も見せず、淡々と告げる。

ヴァルゴは少しの間、顎に手をやるが、それをやめてスコーピオンの肩に手を置く。

「確かに、君の働きぶりは目を見張るものがある。ならば依頼しよう、アリエスとジェミニのスイッチを回収して欲しい。おそらく…フォーゼやメテオの邪魔も入るだろうから…」

そう言いながらSOLUスイッチを取り出し、近くに備えられた機械に取り付ける。

オンにした途端、SOLUスイッチから青い光があふれ出し、さらに赤い光に変化してスコーピオンの身体に浸透していく。

「おぉ…これは…!」

「確実にスイッチを回収できるように、新たな力を与えよう。君への贈り物だ」

「有難き幸せ…!我等が救世主である、女王の御加護を受けた誇り…私は無駄に致しません」

深々と頭を下げて、スコーピオンは消える。

「…レオ」

「なんでしょうか?」

ヴァルゴが呼ぶと、背後からレオが現れる。

「有り得ないと思うが…。スコーピオンが敗れた場合のことを…頼めるかな?」

「はい」

 

宇月と礼の部屋に集められた仮面ライダー部のメンバーたち。

礼が気に食わないことが一つ…。

「なぜ、おまえが居る?」

「え~?約束は守ってるよ」

本音が居る事だ。数日前のトーナメントでペアになることを条件に、フォーゼやゾディアーツに関わらないと約束していたはずだった。

「仮面ライダー部に関わるなとは、言ってないもんね」

「そう来たか…」

「まぁまぁ礼さん。彼女は邪魔をされているわけではありませんわ…」

溜息をついた礼。おそらく、このまま関わり続けるだろう。

セシリアの擁護に文句を言う事すら面倒だと感じたため、本音については放っておく事にした。

話を戻す。

今回集められた理由は…箒とラウラだった。

「実は…少し前に蠍座、天秤座、ラウラの会話を聞いた」

「わたしも、少しは情報を提供できると思う」

特にラウラは元ホロスコープス。期間は短かったとは言え、つい最近である。

「で、サソリとゴキブリ達の会話って…?」

鈴音が尋ねると、箒は暗い顔をしていった。

「確証はないが、蠍座の正体が掴めた」

「「本当か!?」」

礼と宇月が身を乗り出して箒に近付いた。

「宇月、礼、とりあえず落ち着けって」

「あ、あぁ…」「悪い…」

一夏に宥められ、再び座った2人。

「で、スコーピオンの正体って…?」

「IS学園の誰か…らしい」

背筋に悪寒が走った。あの危険なスコーピオンが自分たちのすぐ近くに潜んでいるのだから。

「わたしもその会話の中にいた。証明できる」

もちろん、ラウラはその会話に参加しており、証人となった。

「声からして男…。しかも、奴はトーナメントの時にフォーゼとメテオのリミットブレイクを同時に受けて、右肩に大怪我を負ったはず」

その言葉を聞いて、全員の表情が凍りつく。心当たりがあるのだ。

「それって…」

「トーナメントの翌日…紫苑は右肩を痛がってた」

彼女の言葉からして…。

 

「つまり…蠍座の正体は…白石紫苑じゃないかと思う」

 

「絶対に違う!」

しかし、シャルルが強く否定した。

「紫苑がスコーピオンなわけない!だって…紫苑は…」

シャルルの記憶にある紫苑の行動。自分を守るため必死に奮闘したり、困ったり戸惑ったりしながらも、優しさを忘れない姿。

「でも、それが演技ってことも…」

「そんなわけない!紫苑はボクを守ってくれた!もしスコーピオンなら、ボクを庇ったりしないよ!」

紫苑がスコーピオンだとは思えないシャルルは、その場から走り去ってしまった。

 

少しの沈黙の後、一夏が口を開いた。

「…宇月、おれも紫苑がスコーピオンとは思えない…」

「でもな…箒の言葉は真実だし…今は、そう考えるしかない。逆に言うけど、紫苑以外でスコーピオンじゃないのかって候補はいるか?」

一夏がそれに意見を言った。

「龍崎先生と月宮先生が…怪しい。千冬姉が、その2人からラウラがジェミニだと聞いたらしい」

「それはないな。龍崎先生の正体は仮面ライダー龍騎だった」

「龍崎先生が龍騎!?」

宇月が意識せず呟いた言葉に、一同が驚く。

「喋らないほうがいいだろうけど、誤解招くよりマシ。とにかく、あの2人はゾディアーツとは無関係だ。他に候補は…」

さらに宇月の問いかけに手を挙げたのは、礼だった。

「篠ノ之の推理、一つだけ間違いがある。ホロスコープスは声や体型を変えることが出来る。つまり、スコーピオンは必ずしも男だとは限らない」

礼の予想では、スコーピオンは女ではないのかと考えている。

「じゃあ、誰だと言うんですの…?」

セシリアの質問に礼は重い口を開いた。

 

「おれは山田真耶を睨んでいる」

 

「仮面ライダー部の顧問をしているそうだが、おれが来て以降、まったく仮面ライダー部に姿を現さない。同じホロスコープスのおれに勘付かれまいと、距離を置いたんじゃないかと考えている。顧問を認めたのも、フォーゼの情報を流すため…」

確かに山田は礼が現れて以降、仮面ライダー部の集会に何かと理由をつけて、来ていない。

礼の推理は憶測が多いものの、説得力が大きかった。

「とりあえず今後は、ゾディアーツ発生時以外のとき、スコーピオンの正体を探そう。候補の山田先生と紫苑には…注意して接触してくれ。だれか、シャルルにも伝えてくれな」

宇月の指示に全員が頷く。

 

その日の夜。

IS学園にいる男子が山田によって集められた。

「みなさん、先日はトーナメントお疲れ様でした!」

山田から労いの言葉を言われ、戸惑う宇月達。

理雄は腕を組んで山田に近付き、ガンを飛ばす。相変わらず凄まじい威圧感であり、山田は縮こまって怯える。

「…で、なんだよ。アァ?」

「え、えっとですね…男子の大浴場が準備できましたので…報告をと思って…」

「チッ…ンなことで呼び出したのかよ」

内容を聞かされた理雄はバカバカしいと吐き捨てながらその場を去った。

取り残されたのは落ち込んだ山田に、宇月、一夏、礼、シャルル、紫苑。

沈黙を破ったのは紫苑だった。

半泣き状態の山田の背中をさすりながら、優しく言った。

「あ…山田先生、落ち込まないで下さい…。わざわざ教えてくれて、ありがとうございます」

「ぐす…はい…」

立場がまるで逆だった。ただ、宇月と礼は2人を懐疑心のある目で見つめている。

なにしろ、どちらもスコーピオンである可能性があるからだ。この行動が演技である可能性もある。

「みんな、先に行ってて。僕とシャルルは別々に入るだろうから…」

紫苑は困ったように笑って、その場を後にした。

残りの男子メンバーも一緒に入浴の準備を始めようとするが、山田は彼等を引きとめようとする。

「あ、あの…仮面ライダー部のことで…」

「気安くおれ達に話しかけないで下さい」

「え…つ、辻永君…」

礼はぴしゃりと言い放ち、さっさと歩き去った。またしてもショックを受ける山田に一夏が言う。

「その…あいつ、先生のことを信じてないらしくて…」

「そうですよね…いつも会議会議って、部活をほったらかしにすれば…そうなりますよね…」

しゃがみこんで、再びイジける山田。そんな彼女に宇月は、はっきりと明言した。

「先生。おれと礼は…あなたをホロスコープスではないかと疑っています。ですから、疑いが晴れるまで、今までのように接する事は出来ません」

宇月は礼ほど疑っているわけではないが、やはり完全な信用はしていなかった。

これはフォーゼやゾディアーツに関わってきた2人だからこそなのだ。

ゾディアーツは様々な手を使って、彼等を騙してきた。そのゾディアーツの可能性がある人物には、どうしても疑いの目を向けてしまうのだ。

戦う者は…そうして純粋な心を失ってゆくのかもしれない。

 

宇月達の入浴後、暫くして紫苑は1人で入っていた。

彼等と一緒ではなかった理由はもちろん、身体にある縫い跡や母親の右手や左足を見られないためだ。

「…はぁ」

ここでも溜息を漏らしている紫苑。

そこへ…。

「おじゃまします…」

「…え?」

背後から声が聞こえて振り返ると、シャルルがタオル一枚で立っていた。

「へ!?あ…あの…?えぇ!?」

「あ…あの…あまりジッと見られると…恥ずかしい…」

俯いて顔を真っ赤にしているシャルル。紫苑も自分の行動が恥ずかしくなり、後ろを向いた。

「はっ…ご、ごめんなさい!」

「紫苑、ごめんはダメ!」

いつもの癖でつい注意してしまう。だが、今回ばかりは紫苑も彼女の意見を否定しようとした。

「あ…でも…どうして?…君は女の子なのに…」

「ボクと一緒じゃ…イヤかな?」

「い、嫌って訳じゃないけど…その…なにもお風呂まで一緒だなんて…僕は男で、君は女だし…」

紫苑に対して、この行動は良くなかったようだ。シャルルは落胆して、浴室から出て行こうとする。

「…ごめん、ビックリさせて。やっぱり上がるね」

だが…。

「あ…まって!」

戸惑いながらも紫苑は、シャルルを引き止める。

「もし…良かったら…ここまで来た理由を…教えて」

背中を向けたまま、少し身体を縮めながら言う紫苑。その背中に幾つもの縫い跡がある。

「…ボクの在り方…決めたから。それを言いたくて…」

ここに来たのは、シャルル自身の決意を紫苑に伝えるため。

そして…。

「ボクは…仮面ライダー部のみんな…それに紫苑と一緒にいたい」

浴槽の中で二人は背中合わせに座る。シャルルの手が紫苑の手と重なる。

「…一緒に…?」

「うん。だから、紫苑に…ボクの本当の名前を教えるね…」

次にシャルルは紫苑の肩に手を置いて静かに続けた。

「ボクの名前は…シャルロット…シャルロット・デュノア。これが、お母さんからもらった名前。一番、最初は紫苑に教えたかった…」

「そっか…」

紫苑へ自分の真実をまた一つ伝えた。そしてシャルロットが来たもう一つの理由。

(良かった…紫苑の右肩に傷はない…)

それは、紫苑がスコーピオンではない確証を得るためだった。

あの攻撃を受けたならば、例えスコーピオンでも傷や跡らしきものが残っているはず。だが、紫苑の右肩には縫い跡以外には何も無かった。

 

つまり、紫苑はスコーピオンではない。

 

「ボクは…紫苑が居たから、ここに居場所が出来て、ボクらしく在ることが出来た。本当に…ありがとう」

背中から紫苑を抱きしめるシャルロット。

だが…。

「…ぐぅっ!?」

突如、紫苑は右肩を庇いながら苦しみ始める。

「紫苑…どうしたの!?」

シャルロットは紫苑から少し離れて、様子を窺う。

「この右手はお母さんの腕だから…うぅっ…!時々、拒否反応が起こる…!」

「大丈夫なの…?」

そっと手を伸ばそうとするが…。

 

「触るなああああああああああああああぁ!!!!!」

 

ドンッ!

「きゃあっ!?」

いつもの紫苑とは思えないような形相で、シャルロットを突き飛ばした。

「ダメだ…気を許しちゃ…!今更…僕なんか…!…ダメだ!」

何度も繰り返しながら右肩を庇う紫苑。そのまま浴室から出ていってしまった。

その異変にシャルロットは唖然と見送るしかなかった。

「どうして…気を許しちゃいけないの…?」

 

深夜。

本音から逃れた礼は、バガミールが撮影した過去の映像などをじっくりと見ていた。

「どこかにヒントがあるはずだ…」

そう、他愛ない会話の中や、ゾディアーツたち、スコーピオンの発言が、正体へ導く糸口になると信じて見直していたのだ。

「…ん?」

ふと、映像の一つに目が止まった。

それは、セシリアがカメレオン・ゾディアーツの襲撃を受けた現場で箒が撮影した動画だった。

それを見て、ある予感がする。

「…ヤツの周辺を洗ってみるか」

 

次の日…。

教室は騒然としている。

「シャルロット・デュノアです。改めてみなさん、よろしくおねがいします」

今まで男子と通してきたシャルルが突然、シャルロットと名乗り、女子用の制服に身を包んでいたのだから。

「…はああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!???」

「うるさい」

スパァン!

「あだっ!?」

宇月の大声は千冬の出席簿で遮られた。山田がそれに苦笑しながら説明した。

「デュノア君は、デュノアさんでした…ということです。これからも、彼女となかよく…」

 

ドガアアアアアアアアァ!

 

突如、大きな轟音が鳴り響き、IS学園にダスタードの襲撃が始まった。

「きゃあああああああぁ!」「怪物よ!」

逃げ惑う生徒達の流れを掻い潜って逆走する宇月達。その先には、10体前後のダスタードとスコーピオンが待ち構えていた。

「ごきげんよう、フォーゼと支援者諸君。そして、星に見放された愚か者よ」

「スコーピオン…!」

ラウラは静かに怒りの表情をあらわにする。現在は仮面ライダー部とは言え、彼女はスコーピオンにただならない因縁がある。だが、今のラウラは随分と落ち着いており、感情に任せた行動は取らない。

一夏が前に進み出てスコーピオンを指差す。

「正体を現せ、スコーピオン!」

「最初に言ったはずだ。知りたければ、私に勝てと」

ダスタード達がスコーピオンを守るように立ち塞がる。どうやら、簡単には通してくれないようだ。

「ダスタードくらい、ISなら難なく倒せるはず。一夏達、頼めるか?」

「あぁ!」「片付け次第、援護に向かいますわ!」

一夏とセシリアの返答と共に、鈴音、シャルロット、ラウラを含めた5人が、それぞれのISを展開する。

宇月はフォーゼドライバーを装着し、礼は箒と下がりながら、バガミールでの分析を始める。

<3><2><1>

「変身っ!」

やはり、この場でも箒は役目が無かった。

「今のわたしにできることは…」

彼女に出来る事は、この戦いの中で、なんとしてでもスコーピオンの正体を掴む事だ。

ふと、礼が立ち上がる。

「篠ノ之、少し頼めるか…?」

そう言って、早々に走り去る。

「礼…?」

遠くのほうで、NとSが描かれたケータイを取り出して連絡を取っている。

「…メテオ、力を貸せ。スコーピオンの雰囲気が違う」

そう言いながら、学園の中へと消えた。

 

「ヌウウウゥン!」

ダスタードが放つ手裏剣のようなエネルギー体。

「そんなもの、効かないわよ!」

鈴音の龍砲でそれらを相殺し、その後からシャルロットとセシリアが攻撃を放つ。

「いくよ!」「覚悟なさって!」

ズガアアアアアアアアアアアァ!

「ヌオオオオオオオォ!?」

 

一方スコーピオンには、フォーゼBS、一夏、ラウラが乗ったパワーダイザーが攻撃を仕掛ける。

「ラウラ、パワーダイザーは動かせそうか?」

「問題ない、上々だ」

ラウラは兵器の扱いにも長けているので、こういったモノの操作にはかなり強い。

「いくぞ!」「あぁ、一夏!」

一夏は雪片弐型を構え、パワーダイザーとともに突進する。

「そんな単調な攻撃…」

<LIMIT-BREAKE>

「なに!?」

2人の攻撃を避けた背後に、ランチャー、ガトリング、ヒーハックガンを構えたフォーゼFSが待ち構えていた。

「ライダー爆熱シュート!一斉掃射ああああああああああぁ!」

ドガアアアアアアアアァ!

「ヌゥッ…!」

とっさにクロークで防いだのでダメージは無かったが、視界を失う。

「チッ…小賢しい!」

視界が取り戻されたと思った瞬間…。

「おおおおおおおおおおおぉ!」「はああああああああぁ!」

再び、一夏とパワーダイザーが突進してきた。

ドゴオオオオオオォ!

「ヌガアアアァ!?」

フォーゼやメテオの攻撃無しに、初めてダメージを追わせられた。

「よし!」「良い調子だ!」

一夏とラウラは拳を軽くぶつける。

そのとき一瞬、この場の空気が重くなる。

「愚かな…。我が女王の御加護を受けた力を見るが良い」

ドォッ!

スコーピオンの身体から赤黒い霧が噴出し、背中の尾が巨大な針となる。

「あれは…!?」「…女王の力…!?」

一夏とラウラはあの現象を見ることが初めてで、戸惑っている。

だが、フォーゼBSには理解できた。

「いや、ゆりこの力を使ってる…!」

SOLUであるゆりこのコズミックエナジーを変換したものだ。

強い怒りがこみ上げてきた。

愛する者の存在した証を、こんなモノに悪用されているのだから。

「スコーピオン、おまえ…!」「どこまでも、堕ちた者だな…!」

一夏とラウラにもその怒りは伝わってきた。

それに対して、スコーピオンはおかしそうに笑う。

「フフフ…堕ちたとは見当違いだな。私はこの力で、更なる進化の道を辿る!」

そう言い放った途端、尾が凄まじい勢いで振りかざされ、フォーゼBS達を襲う。

「くっ…!」

とっさに全員が避けたのだが…。

避けた瞬間にスコーピオンから視線を外したため、パワーダイザーに一気に間合いを詰められた。

「うぅっ…!?」

「まずは裏切り者からだ…!」

パワーダイザーの装甲版を抉る勢いで、針を突き刺そうとするが…。

「ラウラっ!」

ドズッ!

「がっ…!?」

なんとフォーゼBSが庇い、毒を受けた。

変身が解除された宇月は顔面蒼白になり、身体中がガタガタと震えている。

「宇月っ!おい!」

一夏が駆け寄るが既に意識が無く、震え続けているだけだ。

 

ドガアアアアアアアアァ!

「ヌウウゥ!?」「ムオオオォ!?」

そこへ、青い発光体がダスタードを蹴散らしながら現れ、メテオの姿に変わった。

「来たか、嫁!」「違う!」

ラウラの呼び名をすぐに否定した後、振り向きながら全員に指示した。

「ラウラ。フォーゼを連れて逃げろ!早くしないと、こいつは死ぬ!」

「…だが、スコーピオンは…!」

ラウラが引き止めるのは理解できた。今のスコーピオンは只ならぬ殺気があり、凶悪な存在になっている。メテオだけを置いていくのは気が引けたのだ。

「早く行け!おまえの強さの意味を失う前に!」

その言葉で思い返した。ラウラが足りなかったのは友である。宇月を失うのは、新たな友を失い、強さを失ってしまうのだ。

「…わかった!一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット!退散だ!」

軍人らしい指示を全員に送り、パワーダイザーで宇月を抱えて走り始めた。

残されたメテオとスコーピオン。

「またしても、お仲間の危機に登場したようだね」

「彼等はゾディアーツと戦う心を持っている。その者達を今、失うわけにはいかない!」

メテオが強く言い放ち、構えを取る。

「セアアアアアアアアァッ!」

「オオオオオオォ…アタアアアアアアアアアァッ!」

一気に間合いを詰め、2人は同時に蹴りを放つ。

ドゴオオオォ!

「ヌゥ…!」「クッ…!」

威力は同等…いや、スコーピオンが僅かながら勝っている。

だが、スコーピオンは唐突に力を抜いて立ち尽くす。

「降参か…?」

「いや、一応の目的が半分達成できたのでね」

勝ち誇ったように言うスコーピオンの右手には、ジェミニスイッチを握っていた。

どうやら、フォーゼがパワーダイザーを庇っていた際にラウラから掠め取ったのだろう。

「それは…ラウラのスイッチ!?」

「アリエスは…次の機会にする。またお会いしよう。その時はぜひ、正体を明かしてくれたまえ」

そのまま、黒い霧の中にスコーピオンは消えた。

「フォーゼを救うためには…」

メテオはそう呟きながら、青い発光体となって去っていった。

 

それから少し時間が経って、礼が千冬に頼みごとをするために現れた。

「どういうことだ…あいつの過去の経歴が知りたいとは…?」

「理由を聞かずに答えてはもらえませんか…」

落胆する礼。他人の情報をすぐさま明かすなど、そう簡単に出来るものではない。

「おれ達からもお願いします」

そこに竜也とあゆが現れ、頭を下げる。

「礼君達は、絶対にこの学園を守ってくれます!信じてください!」

3人の様子に、少しだけ心が揺れた千冬は…。

「…分かった」

彼等の要望に答えることにした。

 

放課後…。

ふと、箒が木陰に目をやると…理雄が笑みを浮かべながら立ち尽くしていた。

「あと1つ…。すぐに回収してやるぜ…!」

そう言って、ポケットに入れていた右手を出す。

「あ…!?」

それを見て、息が止まったかと思った。右手に握られていたのは…

 

 

 

ホロスコープスイッチだった。

 

 

 

それを押した途端、理雄の身体は見る見る黒い霧に包まれ、その姿は…。

 

 

 

蠍座の使徒であるスコーピオン・ゾディアーツへと変わった。

 

 

 

「まさか…そんな!?」

あまりに衝撃的な出来事で、身体が動かなかった。

「さて、正体を知ってどうだね、篠ノ之箒?」

やはり、気付いていた。振り返ってゆっくりと箒に向かって歩いてくる。

「理雄…!おまえが…おまえがスコーピオンだったのか!?」

「そのとおり。この私、裾迫理雄こそ…偉大なる女王、ヴァルゴ・ゾディアーツ様の星団「ホロスコープス」の一員である蠍座の使徒、スコーピオン・ゾディアーツだ」

歩み寄っていた足を止め、クロークを脱ぎ捨てる。身の危険を感じた箒は、後ずさりを始めて、すぐにこの場から走り去ろうとしたが…。

「無力な者の敵前逃亡は、敗北が運命付けられている」

ドズッ…!

「あっ…!?」

スコーピオンは自身の尾を伸ばして、箒の背中に突き刺した。その途端、彼女は言い様のない苦痛に襲われて地面に倒れ、もがき始める。

「う…あぅっ…!な、なにを…!?」

「ヴァルゴ様から「篠ノ之箒は殺すな」と指示を頂いているのでな…。永遠に苦痛が持続する毒を贈ろう。受け取ってくれたまえ」

身体中から汗が噴出しているにも拘らず、背筋は強い寒気に襲われ、頭痛や腹痛、身体中の痛みが、箒の脳内を支配する。身体の先は強い痺れもきたしていた。

「あ…ぅ…く…!」

箒は口を開けて叫ぼうとしたが、声が全く出てこない。身体を抱えつつ必死に口を開ける彼女の姿を見て、スコーピオンは笑い始めた。

「ハハハハハハハハ、良い格好だ。…私の正体を喋られても困るのでね、痺れで言葉も話せないようにしておいたよ。精々、後悔と苦痛に悶えるが良い」

そう言い捨てて、箒を放置したまま姿を消した。

 

 

 

 

次回!

 

                  超・新・星!

 

メテオだけじゃ…スコーピオンには…!

 

                  まだだ…諦めるのは早い

 

もう言い逃れは出来ない!

 

                  オレはヴァルゴ様から…人として生きる素晴らしさを学んだ!

 

ヴァルゴ様が…オレを救ってくれた!

 

ゆりこ…力を貸してくれ!

 

零落白夜、発動!

 

 

 

第14話「蠍・座・決・戦」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 




キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ

織斑千冬
山田真耶

???=レオ・ゾディアーツ

篠ノ之束(?)=ヴァルゴ・ゾディアーツ



今回のSOLUスイッチは、超新星を発現させるモノです!
さて、遂にスコーピオンの正体が判明しましたが、どうでした?
山田先生や紫苑ではないかと思っていた皆さん、残念でした(わざとらしく)!
実は最大のヒントとして、名前でした。

すそさこ・りお→(並び替え)→さそり・すこ(ーぴ)お(ん)

原作でもある、アナグラムですね。
彼がスコーピオンになった理由は…次回で明かします!
次回、遂にスコーピオンとの最終決戦!さぁ、毒を喰らった宇月と箒はどうなるか…!?
お楽しみに!


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第14話「蠍・座・決・戦」

ヴァルゴの前に現れたスコーピオンは、ジェミニスイッチを手渡す。

「ジェミニのスイッチを回収しました」

受け取ったヴァルゴは、満足そうな雰囲気を醸し出す。

「ご苦労。それで、アリエスは…?」

「次の襲撃で奪取するつもりです。さらに朗報がございます」

自信に満ちた言葉を紡ぎながら、スコーピオンは続ける。

 

「魚座の使徒の覚醒が近いです」

 

「ほう、ピスケスが…?」

それはヴァルゴにとって吉報である。興味を示したように聞きなおした。

「えぇ。フォーゼ達も私に気をとられており、意識を向けていない様子です。次の成果をお待ち下さい…」

スコーピオンは深々と頭を下げ、姿を消そうとするが…。

「待ちたまえ、スコーピオン」

「はい…?」

ヴァルゴが呼び止める。振り向いたスコーピオンは疑問を持った様子で聞く。

「篠ノ之箒に…手を出したようだね?」

その質問に、そんなことかというような雰囲気でスコーピオンは答える。

「問題ありません。生かしておきます」

その答えに対して、ヴァルゴは違う言葉で返した。

「…分かっているだろうが君が今、こうしていられるのは私あってこそだ。それを忘れないようにね、スコーピオン…いや、理雄君」

ヴァルゴが人名で呼んだ場合は、スイッチをオフにして姿を見せる決まりとなっている。

スコーピオンは理雄の姿に戻った。

「もちろんです。貴女のおかげで、オレは生きる素晴らしさを実感しています」

いつも苛立っていたり、下劣な笑みのある表情をしている彼だが、今だけは穏やかな表情で、ヴァルゴに対して輝いている瞳を向けている。

彼の生きる理由はヴァルゴのみにある…。

 

緊急事態である。

「くっ…うぁ…」

宇月はガタガタと震えながら意識を失ったまま、ベッドで寝込んでいる。

隣のベッドには箒もいる。彼女は身体中の痛みのために意識があり、地獄の苦しみを味わっているのだ。

「どっちも…スコーピオンの仕業だ」

「あんのサソリ怪人…!」

鈴音は静かに怒りを燃やしている。大切な友達を窮地に追いやったのだから。

「2人は、どうなってますの…?」

セシリアの質問に、パソコンで分析を進めていた礼が焦った様子で答える。

「宇月の体は、肉体を腐食させる負のコズミックエナジーに蝕まれている。篠ノ之に関しては、脳神経が異常伝達を送っているだけで、肉体自体に問題はないが…痛みのショックに対する危険性も無いわけではない。宇月のほうが危険だが、どちらも放っておくわけにはいかない」

心配そうな面持ちで、山田が問う。

「治るんでしょうか…?」

「…」

彼女の質問に礼は、答えない。

さすがにその態度はいけないと思った一夏は、礼に文句を言う。

「礼、山田先生の話も聞いてやれよ」

「いや…聞くつもりだ。まず、謝らなければいけない」

礼は椅子から立ち上がって、山田に頭を下げた。

「あなたを疑っていました。本当にすみません」

「辻永君…。じゃあ、疑いは…?」

「はい。スコーピオンのスイッチャーはおそらく、あなたと白石以外で別にいます」

「紫苑の疑いも晴れたんだね!」

まだ余地はあるのかもしれない。礼は疑っていた事を悔い改めることができる。アリエスの頃ではありえなかったことなのだ。

「へ~。ちゃんと謝れるのね、礼」

「言ったはずだ、おれは常に素直だと。どこぞのチビと違ってな」

「なんですってええぇ!?」

礼の言葉に突っかかってきた鈴音を適当にあしらいながら、説明を始める。

「先生、宇月達の件ですが…元日本代表候補のIS使いだったあなたに頼みたい事があります」

「は、はい。それは…?」

山田が尋ねると、礼はゆりこが遺した橙色のスイッチとなでしこドライバーを取り出した。

「なでしこは例外中の例外を除けば、日本人女性にしか扱えません。篠ノ之は起動できなかったようですが、あなたなら大丈夫だと思います」

「でも…」

「戦えなんて言いません。ただ…こいつを使ってほしいんです」

さらに礼は、メディカルスイッチを取り出した。

「これはコズミックエナジーで肉体を浄化するスイッチ。ただ、メテオはこのスイッチに対応したソケットが無く、フォーゼがこの状態ならば、なでしこしかいないんです!」

有無を言わさず、山田の腰に取り付ける礼。

「え…あの…」

「急いでください!宇月と篠ノ之が死ぬ前に!」

焦りの表情が見える礼の剣幕に押され、赤いスイッチを宇月に習って起動させる。

そして、右手を構えて…。

「変身!」

空に翳したところ、ゆりこのような形ではなかったが、左手のみなでしこのスーツを纏った。

「少しだけですね…」

「十分です!このスイッチを早く!」

山田がメディカルスイッチをセットした事を確認すると、ドライバーのコードを伸ばして彼女の左手につなげる。

「肉体を介さず直接、コズミックエナジーを左手から宇月に送れば…」

<MEDICAL-ON>

 

その頃…。

スコーピオンは、ある女子生徒と一緒にいた。

ただし…その女子生徒はラストワンに到達したスイッチをもっている。

「アタシなら…できる!」

そう叫んでスイッチを押すと彼女の体は黒い霧に包まれ、背びれのあるイルカのような姿から、身体中に鱗のあるゾディアーツへと変化した。

「おめでとう尾坂夏樹君、これで君は立派な十二使徒、ピスケス・ゾディアーツだ」

拍手を送り、夏樹であったゾディアーツの肩に手を置く。

 

それは魚座の使徒「ピスケス・ゾディアーツ」だった。

 

「出来たでしょ、スコーピオン様!アタシなら当然!」

「ふむ、自信家なのは良い事だ。さぁ、十二使徒の偉大なる女王、ヴァルゴ様にお目通り願うのだ」

スコーピオンは満足そうな笑みを含めた言葉を残し、ピスケスがヴァルゴの元にいく姿を見送った。

姿が見えなくなった後…。

スイッチをオフにして理雄の姿に戻った。

「ヴァルゴ様…。オレは貴女の為ならば、命さえ差し出せます」

スコーピオンスイッチを見つめて呟いていた。

「スコーピオン」

不意に呼び止められた。後ろを振り返ると、レオが立ち尽くしていた。

「れ、レオ…!?何か用かよ…?」

自身の力とレオの力は圧倒的であり、レオに勝てる手立てはない。やはり恐怖を見せてしまう。

「オマエを評価している。なにせ、2人もの十二使徒を覚醒させたのだからな。だが同時に、ヴァルゴ様は篠ノ之箒を襲ったことに対して憤慨している」

「な、何が言いてェんだ…?」

理雄が恐る恐る聞くと、レオはいつもの威圧感ある口調ではなく、落ち着き払った声で言った。

「ヴァルゴ様は、もしスコーピオンが敗れた場合の後始末をオレに頼んだ。オマエの生い立ちは知っている。出来れば、オレはオマエを失いたくない。篠ノ之箒を襲った件を挽回するならば、フォーゼとメテオを潰すしかない。上手くやれ」

そう言い残してレオは去った。

理雄の脳裏に、過去の記憶が蘇る。

 

 

 

1年前。

「どうしてだよ…なんで、オレが…!」

ベッドの上で悲しみにくれていた。

理雄はこの日の半年前、交通事故にあって頚椎損傷による首以外の全身が不随になってしまい、彼は動くことが出来ずに寝たきりになってしまった。

彼の家は才能溢れる人物が集まっており、中にはISの研究者もいた。

そんな中、彼もまた将来を家族や親類に期待されていた。

その期待に応えるために、沢山の努力を惜しまなかった。

だが相手の一方的な事故のせいで、彼は将来を奪われた。それだけならば、まだ良かったのかもしれない。

動けなくなった自分を見て、両親は医師に言った。

 

「この子は、私達の息子ではありません」

 

両親は息子への愛情よりも、親族の家系の優秀さを優先するあまり、動けなくなった理雄を勘当し、親族にすら見捨てられた彼は、孤独になった。

この事実が理雄の心を、深い絶望に引きずり落とした。

「オレは…何も…やってないのに…あんなに頑張ったのに…どうして!?」

「苦しいだろう…」

慈悲深い言葉とともに現れたのは、紅色の女性。その背中は翼が生えており、彼には天使に見えた。

「あなたは…?」

「君にもう一度、生きる希望を与えたい」

そう言って渡されたのがゾディアーツスイッチだった。

彼女は動かない理雄の手を優しくスイッチと共に握り、彼に押させた。

「これは…!」

その姿は黒い霧に包まれ「オリオン・ゾディアーツ」になった。

「身体を起こして見なさい」

「いや…オレの身体は…もう…」

「大丈夫、君の力を信じて」

ヴァルゴの言うとおり、身体を起こそうと力を入れてみた。

「動く…身体が動きます!」

「…やはり、見込みどおりだ。君には素質がある」

彼は再び動ける肉体を手に入れた。

「ありがとうございます!あの…貴女の名前は…」

「十二使徒の一人であり乙女座の使徒、ヴァルゴ・ゾディアーツ。人類が宇宙へ向かうための進化を促す女王になる存在だ」

そう宣言するヴァルゴの姿は高貴で美しく、理雄は憧れの瞳でみつめる。

「良いかい、理雄君。我々は進化する。君もその一人。絶望の底から這い上がってくる力を持つと信じているよ。それこそが…生きる力なのだから」

「はい、ヴァルゴ様!」

オリオンとなった理雄は、ヴァルゴの言うままに行動し、たった1日で…。

 

<LAST-ONE>

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

オリオンからホロスコープスへと進化した。

「素晴らしい…僅か1日で…!おめでとう、理雄君…!いや、そんな君を捨てた親がつけた名前など、似合わないね。これから君は、こう呼ぼう。蠍座の使徒「スコーピオン・ゾディアーツ」と…」

闇に包まれていた理雄の未来に、確かにヴァルゴは光を導いてくれたのだ。

「このオレが…ヴァルゴ様と同じ十二使徒…スコーピオン・ゾディアーツ…!」

それ以来、理雄はヴァルゴに絶対の忠誠を誓い、彼女を侮辱する者は例え味方であろうと許さない決意を持った。

 

 

 

ヴァルゴの願いを叶えるのが、理雄の生きがいであり誇りである。

そのためには、どんな犠牲をも厭わない覚悟を持っている。

「…分かってるよ、レオ」

だからこそ、どんな手段を使っても、フォーゼ達を排除しなければいけない。

 

 

 

次の日。

スコーピオンの襲撃が再び起こった。

ダスタードの集団があちこちで暴れまわっている。

「皆さん、こちらへ!」「早く逃げなさい!」「急いで!」

セシリア、鈴音、シャルロットの3人が生徒達の避難を促しながら、スコーピオンを探し続ける。

「シャルロット!みんなの避難は僕達に任せて!」「つっちー達も早く!」

そこへ紫苑と本音が現われ、避難の誘導役を引き受けた。

「ありがとう、紫苑!」「…感謝する、布仏!」

シャルロットと礼は2人に感謝して、スコーピオンの捜索を始める。

「うん!みんな、こっちに逃げて!」「やっとノロマ免除だ~!みんな~こっちこっち~!」

2人は一生懸命、自分のやれる事をやっている。

ふと、セシリア達の目の前に理雄が現れた。

「なんだよ、このバケモン達!?」

「礼を探しているんだろ?」「彼は、メテオが応援に向かいやすい状況を作っている」

その言葉と共に、ラウラと一夏が現れた。

「もう正体を明かせ、理雄。いや…」

 

「スコーピオン!」

 

一夏の言葉で、理雄以外の一同は唖然とした。

「な…理雄さんが!?」「うそ…冗談でしょ?」

一方、理雄は両手を挙げて首を振る。

「ハァ…?スコーピオンだ?」

「証拠はある」

そう言ってバガミールを取り出し、録音した音声を再生し始めた。

『そこのカエル女が何考えてるか知らねェが、その女はオレの獲物だ。手を出すな』

「…なぜ、理雄はカメレオンが「女」だと分かった?カメレオンの見た目は男性で、この時点では声も聞いていないはずだ」

確かにカメレオンは本来、男性の姿をしたゾディアーツ。女性だと理解するためには、彼女がスイッチを押すところを目撃していないといけない。

仮面ライダー部以外で目撃が可能な者は…ホロスコープス位だ。

「そして、セシリアと鈴が、おまえの腹が異様に痩せこけていたところを見たらしい」

「だから?」

理雄の質問に、一夏はこう返した。

「昨日の浴室で見たが、礼もそうなってた。ホロスコープスのスイッチを押した直後の一部の人間に起こる副作用らしいな」

礼もアリエスであり、最近スイッチを押したために、理雄と同じ現象が起きていたのだ。

「そして、おまえは半年前に四肢不随で動けない身体だったはずだ…動かせるのは…コズミックエナジーの作用以外、考えられない!」

これは礼が千冬から教えてもらったものだ。

「もう、言い逃れは出来ないぞ!」

一夏が詰め寄ると、理雄は首をだらんと下げて、ポケットに手を入れる。

「…仮面ライダー部とやらを見くびっていたな。そうだよ、オレが…いや」

そして、スコーピオンスイッチを取り出してオンにする。

 

「この私が…スコーピオン・ゾディアーツだ」

 

「あんな奴が…スコーピオンだったとは…」

流石にラウラも驚きを隠せなかった。

「どうして、スコーピオンとしてスイッチを配り、学園を破壊しているんですの!?」

「我等が偉大な女王、ヴァルゴ様の意思だからだ」

セシリアの質問に、スコーピオンは悪びれもせずに答えた。

次に憤りを覚えた鈴音が突っかかる。

「そんな不確かな理由で…。ヴァルゴだって…きっと悪党なんでしょ!?」

 

「知ったような口を利くな!!!!!!」

 

その言葉に、スコーピオンは今まで聞いたことも無いような怒声で返した。

「ヴァルゴ様は素晴らしい方だ!オレが親からも見離され、人生に絶望したとき…ヴァルゴ様だけがオレを救ってくださり、生きて進化する事の大切さを教えてくださった!」

彼も譲る事ができないのだ。この戦いの勝利を…。

「ヴァルゴ様のことを侮辱するようならば…オレの総てを賭けて、貴様らを叩き潰す!それがオレの命を削るとしても!」

そして文字通り、彼は自分の命を削る行為を行った。

 

「超・新・星!」

 

突如、スコーピオンの胸から眩い光が現れ、それが彼の体に再び浸透した瞬間、下半身が巨大なサソリのような姿に変わった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

スコーピオンの進化形態「スコーピオン・ノヴァ」だ。

ドガアアアアアアアアアアアァン!

「みんな、無事か!?」

そのとき、メテオも到着した。

「メテオ、スコーピオンをとめるのに協力してくれ!」

「分かった!オオォォォォ…アチャアアアアアアアァッ!」

鈴音はパワーダイザーを、一夏たちはISを装備して、メテオと共にスコーピオンに向かった。

 

一方、宇月の部屋では…。

「ここ…は?」「苦しくない…」

「あ…気が付きましたか!?」

ようやく、宇月と箒が意識を取り戻した。

メディカルスイッチによる肉体の解毒が終わったのだ。

「山田…先生?」

「ごめんなさい、城茂君…。君に疑わせてしまうような事をして…」

彼女は、宇月から言われた言葉をずっと引き摺っていたのだ。

「…礼や一夏たちの会話…朦朧としてたけど、ちゃんと聞いてました。すいません…。ダメですね、おれ。ゾディアーツが絡んだら、仲間でも疑ってしまう…」

バシンッ!

「どぉっ!?」

突如、今まで黙っていた箒から、竹刀で頭を殴られた。

「…いってぇぇ~…!なにするんだ、箒!?」

「山田先生は優しいから、おまえを殴る事ができないだろうと思ってな」

箒が竹刀を振るったのは、宇月と山田の関係を修復するためだった。このままではどちらともギクシャクした関係が続いていただろう。箒が山田の代わりに宇月に制裁を加える事で、すっきりさせたかったのだ。

これは…無意味な暴力ではない。そう確信が持てた。

「次は、礼とわたしの番だな。紫苑と山田先生を疑った事ことは、わたしも同じだ」

「篠ノ之さん…」

ただ、疑いを持っていたのは、自分も同じ。彼女も誰かから制裁を受ける必要がある。

だが…。

「…よっし!それはとりあえず後!おれもさっぱりしたし、スコーピオンを止めにいくぞ!山田先生。メディカルのこと、ありがとうございました!」

そう言って橙色のスイッチを持って、箒と共に飛び出した。

暫くして、千冬が現れる。

「どうだ、真耶。あのガキ連中とは…」

「はい、上手くやれそうです!」

 

一方、一夏達は…。

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアァ!

「うわあああああああぁ!?」「きゃあああああああぁ!」

スコーピオンの爆発的なエネルギーの前に、成す術もなくなっていた。

「やはり…メテオだけでは…スコーピオンには…」

メテオ自身も限界を感じていた。

このままでは、間違いなく敗北する。

「消えてしまえェェェェェェェ!!!!!!」

トドメの一撃を放とうとスコーピオンが構えた瞬間…。

 

「おぉぉぉぉりゃああああああああああああああああぁ!」

 

マシンマッシグラーに乗った宇月と箒が現れた。

ドガァァァッ!

「ムゥ…?」

スコーピオンに体当たりするが、有効な一撃ではなかった。

「間に合ったか…?」

「まってたぞ、宇月!」「ようやくですわね…!」「遅いわよ!」

「そろそろ…限界だったよ…」「まぁ、嫁が持ちこたえてくれたがな」「違う!」

マッシグラーから降りた宇月はフォーゼドライバーを装着し、4つのスイッチを押す。

「今度こそ…決着をつけてやるぞ、スコーピオン…いや、理雄!」

「フォーゼェ…!!!!」

<3>

「フォーゼ、ダスタードは任せろ!」

<2>

「頼んだ!」

<1>

「行くぞ、変身っ!」

右手を高く掲げ、フォーゼBSに姿を変えた。

「はぁっ!」

そんなフォーゼBSの隣に、一夏が歩み出た。

「おれも戦う!」

「一夏…?」

フォーゼBSの振り向いた先には、強い決意を秘めた一夏の瞳があった。

「おれだって…守れる力があるなら、守りたい!おれの持てる力で…このIS学園を守る!」

「分かった!一緒にスコーピオンを止めるぞ!」

その途端、一夏のISが金色に光り輝いた。

「零落…白夜…?」

モニターには、そう表示されていた。

それと同時に、フォーゼBSが持っていた橙色のスイッチが光り輝く。

「ゆりこ…?」

新たな力が2人に宿った。

「この力で…学園を守って見せる!」

「ゆりこ…力を貸してくれ!」

<ROCKET-SUPER><ROCKET-ON>

雪片弐型に青白いエネルギーの刃が現れ、フォーゼBSの身体はオレンジ色の光が集まり、2つのロケットモジュールが装着された。

新たなステイツ「仮面ライダーフォーゼロケットステイツ」にステイツチェンジした。

「これが…おれとゆりこの力…ロケットステイツ!」

「ヌゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

スコーピオンはその言葉を無視し、エネルギー波を辺りに振り撒く。

「着いて来い、一夏!」

ドガアアアアアアアアァ!

「ゴオォォ!?」

エネルギー波を避けつつ、ロケットの噴射でスコーピオンに体当たりしたフォーゼRSは、そのまま空に舞い上がった。一夏もそれに続く。

箒はそれを見送る。

「絶対に勝って来い!」

 

宇宙空間にまで到達した3人。

一度距離を置き、フォーゼRSがレバーを引く。

<ROCKET LIMIT-BREAKE>

「零落白夜、発動!うおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

「ライダァァァァ錐もみクラッシャアアアアアアアアアアアアアァァァァ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!

零落白夜を発動した一夏と、凄まじい勢いで回転するフォーゼRSがスコーピオンに激突する。

「負けない…オレは負けるわけにはいかない!…ウオオオオオオオオォ!!!!!」

「うあああぁ!?」「ぐあああぁっ!」

だが、スコーピオンは満身創痍になりながらも弾き返した。

「これが超新星の力だ!くたばれ、仮面ライダアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

赤黒い光弾を無数に放つが、それを避けつつ…。

「一夏!もう一度やれるか!?」「なんとかな!」

フォーゼRSは一夏の状態を確認して、ドリルスイッチをオンにした。

「なら、もう一発!」

<DLILL-ON>

そして僅かなエネルギーを酷使し、もう一度、零落白夜を発動する。

<ROCKET DLILL LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァダブルロケットドリルキィィィィィィィック!」

「行けえええええええええええええええええええええええぇ!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

再び、スコーピオンに強大な2つの攻撃が放たれる。

「こんなモノでエエエエエエエエエエエエエエエエェ!!!!」

ビキィ…!!!

「なにィ!?」

遂に、スコーピオンの身体に限界が訪れた。身体に亀裂が入り始めた。

一夏が叫ぶ。

「おまえは負けられないって言ったな!でも、おれ達は…それ以上に負けることができないんだ!」

「知るかアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

バチバチィ!

突如、スコーピオンの身体に火花が散る。

そして…。

 

「宇月!」

 

ゆりこの声が聞こえた。

「ゆりこ…なのか?」

そう、スコーピオンの中にあるSOLUのエネルギーがゆりことして、ロケットスイッチスーパー1を通して話しかけてきたのだ。

「絶対に負けないで、宇月!わたしも手伝う!だから!」

「あぁ、ゆりこ!おまえの力…おれの信じたいモノのために使わせてもらう!」

その会話の後、スコーピオンの中にあるSOLUのエナジーが、フォーゼRSに吸収されていく。

「喰らええええええええええええええええええええええええええええええぇ!!!!!」

「…女王の御加護を受けたこのオレが…!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!!!

「何故だアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!??」

凄まじい絶叫を残してスコーピオンは爆発し、炎を纏いながら地球へと落下していった。

 

「受けて見なさい!はああぁっ!」「こんのおおおおおぉ!」

バシュッ!ドガアアアアアァ!

「ムゥゥゥゥ!?」

地上では、ダスタード相手に奮闘するセシリア達とメテオがいる。

「はああああああぁっ!」「ふんっ!嫁、今だ!」

「違う、いい加減にしろ!」

<MARS-READY?><OK-MARS>

「オオオォォォ…アタアアアアアアァ!」

ドゴオオオオオオオオオオオォ!

「ヌオオオオオオオオオオォ!」

凄まじい勢いでダスタードたちを倒していく。

一通り殲滅し、ふと空を見上げると…。

「あ、あれって…!」

ドガアアアアアアアアアアアアァ!!!

炎の塊が学園の近くに落下した。

<PARACHUTE-ON>

暫くしてパラシュートモジュールを使ったフォーゼBSと一夏が降りてきた。

「勝ったぞ!」「この学園を守りきった!」

彼等の言葉どおりスコーピオンを撃破したのだ。

『やったあああああああああああああああああああああああああぁ!』

遂に強敵を打ち倒したのだ。まだホロスコープスが居なくなったわけではないが、スコーピオンを倒したのは、彼等にとって大きな進歩となった。

彼等の勝利を確信して、メテオは静かに去っていった。

だが…。

 

落下地点へ急ぐ一堂。

避難を主に行なっていた礼も合流する。

「理雄…!」

クレーターの中心には、ズタボロになった理雄が仰向けに倒れていた。

「貴様等…やってくれたなァ…!」

首だけを動かしながら恨めしく呻く理雄。

彼の元に歩み寄り、手を差し出す。

「スイッチを捨ててくれ。おまえにだって可能性が…」

 

「ふざけるな…テメェは…オレの可能性を奪った!!!」

 

そう言った理雄の姿を見て、シャルルは気付いた。

「もしかして…また…」

「そうだ…オレの身体は、負のコズミックエナジーのおかげで動いていた…。フォーゼ共のせいで…オレは再び、動けない身体に戻った!」

彼はゾディアーツになったからこそ、自由に動ける身体になれたのだ。

だがフォーゼと一夏に倒されたことで負のコズミックエナジーが浄化され、身体は全身不随に逆戻りしたのだ。

「嘘だ…そんな…!」

「全部テメェの所為だ…絶対に許さねェ!」

そんな彼等に…。

「!?」

凄まじい殺気と威圧感を感じ、寒気が走る。

振り返ると…。

「スコーピオン…オマエは終わりだ」

新たなホロスコープスが現れた。

「れ、レオ…!?」

「まさか…あの獅子座の使徒…!?」

初見だが宇月と礼は、この獅子座の使徒「レオ・ゾディアーツ」をよく知っている。

このゾディアーツは純粋な戦闘だけで言えば、ヴァルゴを超えている。

つまり、ホロスコープス最強の座を冠しているのだ。

「ピスケスの覚醒は見事だった。だが残念だ…。オマエはフォーゼに敗れ、アリエススイッチの回収に失敗した。ヴァルゴ様の罰を執行する」

「ま…まて…やめてくれ…!」

 

「ホロスコープス追放だ」

 

「頼む…もう一度チャンスを!」

理雄の必死の願いも通じず、彼の手元に会ったスコーピオンスイッチを拾って、レオは去っていった。

去り行く前…。

「フォーゼ…そして支援者共よ。次に会ったときは…血祭りにあげてやる!」

凄まじい威圧…そして、どこか悲しみを込めて言い放った…。

取り残された宇月達。

倒れている理雄は…。

「そんなぁ…嫌だぁ…」

今までの姿からは想像もつかないほど、子供のように泣きじゃくっていた。

そして、泣き止んだかと思うと宇月と一夏を睨む。

今までのような脅迫などではなく、強い悲しみと怒り、憎悪がこもっていた表情だった。

 

「呪ってやる…死ぬまで呪ってやる…!ウオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!!!!!!!!」

 

夕焼けの空に理雄の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                     おれのやっている事は…正しいよな?

 

黙っていても、ゾディアーツは現れる

 

                     あらたなホロスコープス…!

 

ピスケス、よろしく!

 

                     フォーゼは暫く療養か…

 

お願いします!龍騎として力を貸してください!

 

 

 

 

第14話「魚・座・発・見」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 




キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ
尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ

織斑千冬
山田真耶

???=レオ・ゾディアーツ

篠ノ之束(?)=ヴァルゴ・ゾディアーツ



遂にスコーピオンと決着がつきました!
…が、多分、後味の悪い決着になったと思います。
原作でスコーピオンはあっさり退場したのが残念すぎたので、以降も影響が残る存在にしたかったのですが…。トラウマ路線しか無かったです…(汗)
理雄は…悲しいですが、ホロスコープスになったことで、間違いなく幸せになったんです。
それを奪ったのは、仮面ライダー…。
他者から幸せを奪った葛藤が暫く続きます。

理雄自体は…これからフェードアウトするか、病院内で幾度か登場のどちらかにしたいのですが…。
よろしければ意見下さい。

地味にピスケス覚醒(笑)。断空我さん(アットノベルスでは超人機さん)の案を採用させていただき、彼女は原作のキャンサーポジションです!



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蠍座を継ぐ星座!
第15話「魚・座・発・見」


 

数日後…。

鈴音とセシリアは、理雄の病室へ見舞いに訪れた。

スコーピオンの力を失ってから理雄は、全身不随のために自主退学し、病院内で塞ぎこんでしまった。

彼の本来、辿るべきだった未来だ。残酷ではあるが。

「不良男…」

「…嬉しいだろ?トラブルメーカーが居なくなったんだからな」

窓をみつめたまま、理雄は小さく呟く。

「理雄さん、貴方がやってきたことを…わたくし達は許しませんわ」

「…救いや慰めの言葉を並べても意味が無いから、説教ってところか?」

完全に心を読まれていた。理雄は嘲笑しながら返す。

「オレは絶対に貴様らを許さない。…再び掴み取った幸せを奪ったんだからな。これから歩むかもしれなかった未来も…可能性も…」

「アンタは…自分の幸せのために、他の人が苦しんでも良いって言うの?」

鈴音は彼の言葉に反論をしたが…。

「じゃあオレは、目の前の希望すら掴む資格がなかったというのかよ?」

「違いますわ。他に…」

「方法があるってか。なら、言えよ」

セシリアも鈴音も、理雄の言葉に対する答えは見つからなかった。

「それは…」

「もう帰れよ!!!!!」

理雄は最後まで、彼女達の方向を見ずに終わった。

 

宇月は、部屋の中でずっとフォーゼドライバーをみつめていた。

脳裏に蘇るのは、憎悪に満ちた理雄の表情。

「ゾディアーツになって…幸せになったやつもいる…」

今まで宇月は、ゾディアーツはスイッチャーをどこまでも蝕んでいく脅威の存在だと思っていた。だが間違いなく、スコーピオンになって理雄は幸福を噛みしめていた。

そして自分は…その幸福を叩き潰した。

ゆりことの最後の会話よりも、その事実が重く圧し掛かった。

一夏も手を貸したのは同じだが、最後のトドメは間違いなく宇月である。

あの戦いを通じ、彼には疑問が浮かんできた。

「おれのやっている事は…本当に正しいんだよな…?」

 

一夏は、自身の行いに間違いはなかったと確信しているが…。

「理雄のやつを…他に救う方法は…無かったのかよ…」

やはり、後悔はあった。もしかすれば、理雄をスコーピオンの力から引き離したうえで、あの状態に戻させない方法があったのかもしれない…。

同室の箒も不安そうな面持ちで一夏を見ている。

「一夏…。だが、おまえ達のおかげで、ゾディアーツになってしまうかもしれない人は救えたと思う…」

「それはそうだろうけど…」

 

「よこせ、礼!」「おい、ボーデヴィッヒ!?」

ラウラは礼から、スイッチカバンを毟り取り、メテオにメールの文章を打ち始めた。

「嫁…おまえなら、手を貸してくれるだろう…!」

その内容は…。

~嫁、ラウラだ。宇月が自責で、塞ぎ込んでしまっている。力を貸してほしい~

「これで…」「よせ!」

送信ボタンを押す直前で、礼はスイッチカバンを取り返した。

「なぜ邪魔をするんだ!?」

「考えろ!メテオは俺と宇月以外に、正体を知られてはいけない!このメールで万が一、正体が知られたら…奴は戦えなくなる。それこそ力を貸せなくなるぞ!」

戦えなくなる理由は分からないが、これだけ正体を隠しているのだから、礼の言葉は納得がいく。ラウラは自身の行いの浅はかさを感じた。

「しかし…どうすれば…」

だが宇月が戦えないようでは、この学園をホロスコープスの脅威から守る事はできない。

メテオだけでは限界がある。

「そんなこと知るか。おれは30番31番のスイッチの調整を続ける」

礼は冷たく言い放ち、ラビットハッチの扉に向かった。

不意に立ち止まり…。

「だが、宇月を支えるのが仮面ライダー部…なんだろ?」

こう言い残して、再びラビットハッチの扉を開いた。

 

その頃…。

ヴァルゴの前に、リブラ、レオ、夏樹が集められた。

理由は、スコーピオンの脱落だ。ホロスコープスの中でも、ジェミニやアリエスを含めれば古参者である彼が脱落した事は、大きなダメージとなった。

「スコーピオンスイッチを回収しました」

「…ご苦労。すまなかったね」

夏樹の目の前で、レオがヴァルゴにスコーピオンスイッチを渡していた。

「嘘…スコーピオン様が、フォーゼ達に負けたの…!?」

夏樹はスコーピオンを尊敬していた。ゾディアーツになるチャンスを与え、ホロスコープスに覚醒するまで、ずっと指導をしてくれていたのだから。

ヴァルゴは残念そうに首を振る。

「理雄君は素晴らしい力を持っていたし、彼ほど私に対する忠誠心の強い者は居なかった。だが…フォーゼ達に敗北した以上、手を差し伸べる事はできない」

「え…裾迫君がスコーピオン様だったんですか!?」

結局は見捨てることになったが、ヴァルゴはそのことを嘆いていた。あんなに尽くすホロスコープスは他にいなかった。

「ピスケス…私としても、スコーピオンの無念は晴らしたい。だが今、私がフォーゼの前に現れることは出来ないから…」

「はい。スコーピオン様…ううん、理雄君の仇…絶対に討ち取って見せます!」

夏樹はスイッチを押してピスケスになると同時に、強い決意を持った。

彼女が去った後、リブラに声をかけた。

「まだ彼等は現れそうにも無いかな?」

「えぇ。ですが、いずれ必ず現れます。そのときこそ…このリブラの力で…」

ある謎の確認をした後に、レオのほうを向く。

「レオよ。新たな使徒覚醒のめぼしはあるのかな?」

「…山羊座の覚醒ならば、近いうちに」

静かに答えて、すぐに去っていった。

「…彼は私よりも力がある上に、スイッチを配る回数が少ないながらも、ホロスコープスを確実に覚醒させている…」

実はヴァルゴにとって、一番邪魔な存在はレオなのだ。自分の地位を脅かす存在であるのだから。

ただし忠義心は薄いが、言った事は全て応えてくれるため、もっとも信頼できる複雑な存在なのだ。

「一刻も早く十二使徒の中心…サジタリウスを覚醒させねば…」

 

礼はあれから緊急措置として、箒にフードロイドを託した。

「篠ノ之。フードロイドを頼めるか?」

「い、良いのか、礼?」

「宇月も戦えないんじゃ、おれ達がメテオの支援をするしかない。あの日の会話から、すでに魚座のピスケスも覚醒済みだ。黙っていても、こちらの都合など関係なくゾディアーツは現れる」

説明をしながら、バガミール、ポテチョキン、フラシェキーをとりだし、さらにもう一体のフードロイドを取り出した。

「この子は…?」

「スコップスイッチのフードロイドだ。名前は「ホルワンコフ」。地底の捜索もできる優れモノ。こいつ等の担当をして欲しい」

「あぁ、任せてくれ!」

箒にとって、フードロイド達と触れ合えるのは喜ばしい事である。すぐに受け入れた。

「バガちゃん、ポテさん、フラ君、ワンコ。改めてよろしく」

そういうと、フードロイドは嬉しそうに小躍りするような仕草を見せた。

「まず偵察だ。バガちゃん、魚座を探してくれ」

箒の言葉に反応して、バガミールは学園の偵察に向かった。

「さて…30番31番のスイッチは…」

礼は未調整のスイッチをみつめている。

そこへ…。

「つっちー!」

「ぐあぁ!?」

本音が現れ、礼に飛びついた。

「わたしも手伝う~」

「どけ!おまえは仮面ライダー部ですらないだろうが!」

 

シャルロットは紫苑と共に、理雄のことを思い出していた。

「僕…なにも分かってあげられなかった…」

「紫苑が悪いわけじゃないよ。でも…理雄とは、もっと違う形で会いたかったね…」

紫苑は恐怖の対象としてみていた理雄だが、彼の心はそうではなかったのかもしれない。そのことに気づいていたら、あの末路は無かったのかもしれない。

「僕には…何かできることってある?」

「…まず、ボクらが落ち込まないで元気を出すことかな。そうすれば宇月も…」

言いかけたところで、シャルロットはあることを思い出す。

「あ…そうだ!」

「どうしたの?」

此処を守ってくれるのは、フォーゼとメテオだけではない。

「もう一人いたよ、助っ人の仮面ライダー!」

 

そう…仮面ライダー龍騎だ。

 

千冬と竜也は、教務室で向かい合わせに座っている。

「竜也君…。私は彼らを近くで見守る事ができない」

「やっぱり、心配ですよね。たった一人の家族や、その友達…」

彼女は時折、竜也に心の奥底を話していた。本当ならば、彼女が仮面ライダー部の顧問を担いたいほどだったが、それも出来なかった。

結局は山田に押し付けてしまっているのだ。

「頼む。私の弟や…仲間を見守ってやって欲しい」

「はい。おれも彼等の支えになりたい。おれも昔、そうやって乗り越えてきた戦いがありますから」

千冬は竜也が龍騎だと知っている。都市伝説の真相や、確認されている正体不明の仮面ライダーの詳細なども知らされ、一夏達の知らないところで、着実に仮面ライダーに近付いているのだ。

「龍崎先生!」

突如、そこへセシリア、鈴音、シャルロット、本音がやってきた。

「君達は…仮面ライダー部の仲間達だね」

「お願いします!龍騎として力を貸してください!」

全員が頭を下げる。今、メテオの正体も分からないなか、頼れる仮面ライダーは龍騎だけなのだ。

だが、竜也の目は少し厳しいものになった。

「…おれにどうして欲しい?」

「え…フォーゼが戦えないから、代わりにゾディアーツと…」

 

「じゃあ、駄目だ」

 

「な…どうしてよ!?」

鈴音は拒否された理由が分からず、竜也を問い詰める。

「人々を守ってくれるのが…仮面ライダーだとお聞きしましたわ!」

「確かに、おれはその分類だ。でも、君たちはフォーゼが戦えないから、おれに頼むのか?」

「それは…」

答えに詰まった全員の様子を見ながら、竜也は小さいがはっきりと言い放つ。

「仮面ライダーだって人間だ。悩みもするし傷つく。君たちの行動は…フォーゼが使えないから、他の仮面ライダーに頼っているように感じる」

「そ、そんな…そんなこと!」

それだけは違うと思っている。否定しようとした本音の背後にあゆが現れた。

「ボクも…昔は竜也くんに頼ってばかりだった。でもね、ボクにだって竜也くんを支える事ができた。今のキミたちがすることは…他の仮面ライダーに頼るんじゃなくて、フォーゼがまた立ち上がれるように、励ますことじゃないのかな?」

この一言で気付かされた。なぜ、宇月を奮い立たせようとしなかったのか。

今一番、彼が救いを求めているはずなのに。

「…失礼しましたわ」「それと…ありがと!」

セシリアと鈴音が頭を下げた後、全員で教務室から出て行った。

「…織斑先生。おれはこういった感じで彼等を支えていくつもりです。龍騎として関わるのは、極力さけていきます」

「…ありがとう。それで頼む」

千冬が静かに頭を下げたのに対し、あゆと竜也は明るい笑顔を見せた。

「いいですよ。ライダー同士、助け合いですから!」

 

そして…。

「出てきなさいよ、フォーゼ!」

夜の学園にゾディアーツが現れた。

バガミールからの報告があり、動けない宇月とスイッチ調整で立て込んでいる礼を除いた仮面ライダー部のメンバーがやってきた。

「あれは…」「不良男やゴキブリと同じマント…!」

「支援者ね。フォーゼは何処!?」

完全に敵対心をむき出しにして、怒り心頭状態のゾディアーツ。

身を包んでいたクロークを脱ぎ捨てた姿は、鱗のような鎧を纏っている。

「フォーゼは療養中だよ。だから、今はボク達が頑張る」

「笑えない冗談ね。アンタ達がホロスコープスに太刀打ちできると思ってんの?」

シャルロットが強く言い放つも、ピスケスはそれを鼻で笑う。

 

「だが、その意志は見上げたものがある」

 

不意に聞こえた声。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!

その場に、メテオもやってきた。

「待っていたぞ、嫁!」「…諦めろよ、いい加減」

呆れ口調でラウラにツッコミを入れたメテオは、そのゾディアーツをまじまじとみつめる。

「そのクローク…おまえが新たなホロスコープスか?」

「ピスケスよ。よろしく、メテオ」

どちらも睨み合い、攻撃の出方を窺っている。

そして…。

「ハアアアアァッ!」

「アチャアアアアアアァッ!」

先に動いたのはピスケスだった。その直後、メテオも動き出した。

持っていた槍をメテオに振るう。

「甘い!アタアアァッ!」

バシャッ…!

「な…!?」

「甘いのは、そっちよ!」

彼女の動きを読み、拳を繰り出したのだが、ピスケスは身体を液状化させて避けた。

そして槍の部分だけを元の状態に戻し、メテオに突き刺した。

ドガアアァッ!

「ヌアアアアアアァッ!」

全く動きの読めない攻撃だったため、メテオはまともに受けて地面を転がる。

「スコーピオン様の仇…まずアンタから討たせてもらうわよ!」

「おい、しっかりしろメテオ!」

一夏が抱き起こす。メテオはその中でも、戦略を巡らせる。

「すまない一夏…。相手が水ならば…おい、エレキスイッチは在るか!?」

「それなら、箒が…」

一夏の目線の先には、バガミールを抱えた箒。すぐ横にはスイッチカバンもあった。

「渡せ、箒!」

「わかった!」

箒はメテオにエレキスイッチを投げて渡した。

<ELEKI-ON READY?>

ソケットへ挿入してオンにし、身体中にエレキの電撃を纏う。

メテオはフォーゼのようにステイツチェンジが出来ないのだが、特殊なアストロスイッチの力は身体に反映させることができるのだ。

「ゲームの理論ならば、水には電撃だ…!ホワチャアアアァッ!」

液状化しているピスケスに電撃の拳を放つ。

バリイイイィィッ!

「キャアアアァッ!?」

作戦通りだ。電気はピスケスの身体にめぐり、強烈な一撃を与えられた。

ピスケスの身体は元の形に戻り、痺れている為に動く事もままならない。

「リミットブレイクだ!」

天球儀を回し、電撃とコズミックエナジーを更に強く纏う。

<ELEKI LIMIT-BREAKE>

「オオオオオォ…アチャアァァァァァッ!」

メテオストライクに電撃を込めた一撃をピスケスに放とうとするが…。

「フン!」

ドガアアアアアアアァ!

「ウアアアアアァッ!?」「め、メテオ!?」

突如、何者かに邪魔をされた。そこにいたのは…。

「ヴァルゴ様の命だ。手を貸そう」「リブラ様!」

リブラだった。クロークを脱いでディケを地面に叩きつける。

「ちっ…一気にホロスコープス2体か。しかも、片方はホロスコープス古参のリブラ…」

状況は一気に悪くなった。

「やっぱ、見てらんない!」「わたくし達も!」「助けるぞ、嫁!」

一夏、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラがISを展開して、メテオを庇うように立ち塞がる。

「バカか、離れろ!」「バカはそっちだ!一人で行っても負けるだけだぞ!?」

メテオが警告するも一夏が反論し、他の4人も逃げる様子を見せなかった。

「…一人じゃないわけか。手を貸してくれ、仮面ライダー部!」

「了解だよ!」「ほんと…礼もこのくらい協力的だったら良いのに…」

メテオと一夏が中心に、他の4人が攻撃を開始した。

「フフ…それで勝てるかな?」

リブラは瞬間的に高速移動を連続使用する事で、攻撃を避け続ける。

「ふん!」「はあああぁっ!」

ラウラのワイヤーブレードとシャルロットのショットガンがピスケスを狙うも、その攻撃は全く通用しない。

身体を液状化しているために、弾丸などは意味を成さないのだ。

「無駄弾よ。数撃っても、あたりはしない!」

「ならば、こちらはどうです!?」「喰らいなさぁい!」

次にセシリアのスターライトmkⅢと鈴音の龍砲が襲う。

この攻撃はエネルギー波であり、液状化していてもダメージは在る。

ドゴオオオオォ!

「クッ…。そうこなくちゃね。スコーピオン様を倒した奴らが弱かったら、すごく悔しいし!」

だが、ピスケスは返って好戦的な様子を隠さない。

そこへ…。

<3>

「こ、この音声…!」

<2>

「まさか…!」

<1>

「宇月!?」

 

「変身っ!」

 

全員が振り返ると、フォーゼBSがこちらへ走ってきていた。

「はあああああああああぁっ!」

「待ってたわよ、フォーゼ!」

ピスケスは彼を見るなり、標的を変更して襲い掛かってくる。

<FREEZE-ON>

「どぉりゃああっ!」

フリーズモジュールを起動し、右足から強い冷気を放つ。

ピキィ…!

「え…嘘!?」

ピスケスは液状化して攻撃するように準備をしていたため、身体が凍り付いて動けなくなってしまった。

「喰らええええええええぇっ!」

「こ、このォ…!」

握り締めた拳をピスケスに向けるが…。

 

~死ぬまで呪ってやる~

 

「う…く…くそ…やっぱり…」

あのときの後悔から抜けられなくなってしまい、拳をぶつけることが出来なくなった。

「怯んじゃって…とんだ臆病者ね!」

ズバアアァ!

「がはあああああぁっ!?」

隙だらけになったフォーゼBSを槍で切り裂いたピスケス。

気をそがれていた彼は吹き飛ばされてしまう。

彼の様子を見ていたリブラは不敵に笑う。

「迷いが見えた戦士は弱くなる。ピスケス、一旦退却だ」

「な…どうしてですリブラ様!?今なら…」

「良いから。とても面白い案が思い浮かんだ…」

リブラの言葉にしぶしぶ頷き、ピスケスは彼と共に姿を消した。

残された者達のなかで、メテオはラウラに歩み寄る。

「ラウラ。フォーゼは見たとおり、まともに戦えない。支えるのはおまえ達の役目だ。頼む、これはおれに出来る事ではない」

それだけ言うと、青い発光体になって去っていった。

「分かっている」

 

一旦、宇月と礼の部屋に戻ってきた一同。

礼は、難しそうな表情でパソコンをみつめている。

「駄目だ…。30・31番のスイッチがまともに起動しない」

「そんなに難しいの…?」

シャルロットが聞くと、礼は赤と青のアストロスイッチを投げて渡す。

素体のスイッチからちゃんと変化している。

「なんだ…調整は終了しているんじゃ…」

「いや、それで起動させても、エナジーが一極化されて全身に行き渡らせることができない。これは2つセットで発動する、ステイツチェンジのスイッチだからな」

そう、このスイッチはマグネットスイッチ。

だがエレキ以上にエナジーが強力すぎて、現時点ではオンにしても良い効果は得られないだろう。

「う~ん…難しいことはわかんないけど、そのエネルギーを制御できれば良いんだよね~?」

「簡単に言うなノロマ」

「あ~!またノロマに戻った~」

確かに、本音の案は礼も考えたが、それを制御する物質が存在しない。それどころかアストロスイッチを改造するなど、言語道断であるのだ。

その間に、一夏と箒がやってきてバガミールから印刷した映像を置く。

それには、スイッチを持つ女子生徒が映っていた。長いストレートの髪に凛々しい瞳が印象的である。

「ピスケスのスイッチャーはこの娘だ。「尾坂夏樹」。3組の生徒でクラス代表…」

ピスケスの夏樹は3組の生徒であり、クラス代表である。専用機は持っていないが、ISの操縦の実力は代表候補生にも劣らないという噂だ。

「ホロスコープスになる奴は、少なからずISにも実力がある奴ばかりだな。専用機持ちのボーデヴィッヒや裾迫、そしてクラス代表のこいつ…」

ふと、礼はこのメンバーを見渡す。

「そういえば、宇月とおれと篠ノ之以外は全員、専用機持ちか。織斑はクラス代表で残りは代表候補生…」

「な、なんだよ」

一夏は礼の視線が気に入らず、文句を言うと…。

「スイッチを押し付けられそうになるかもしれないから、気をつけておけ」

「だ、だれが…!」

 

「わたしは…理雄に渡されそうになった」

 

以外にも、箒が手を挙げた。

礼が一気に目つきを悪くする。

「だが…断固拒否した。それよりも、気になることが…」

「気になること…?」

 

「そのやり取りの中で…ヴァルゴに逢った。ISを機能停止させることが目的らしい…」

 

「な、なんだと!?」

礼はその言葉に驚愕した。

「どうしたんだ…?」

「ヴァルゴは、ホロスコープス以外には姿すら見せなかった。事実、宇月でさえ見てなかったほどだぞ!」

ヴァルゴは自身の姿をホロスコープス以外に見せるのは極力避けている。見せるのは、ホロスコープスへの覚醒によっぽど素質があるものくらいだ。

礼も一度しか顔を見たことがない。スイッチャーなどそれこそ見られるはずがないのだ。

「それで…やつはなんて…」

「理雄に、わたしにスイッチを渡すなと指示していた。それにわたしのことを箒と親しみを込めて呼んでいた」

「じゃあ…」

「行方不明になっているわたしの姉…篠ノ之束が…ヴァルゴかもしれない…」

礼は彼女の推理に少し首を捻る。

「どうした?」

「ならば何故、篠ノ之博士はISを作っている?作っている者が停止させるなど、子を殺すようなものだぞ」

盲点だった。たしかに束とヴァルゴは、行動原理が矛盾している。

つまり、この2人が同一人物で在る可能性は低い。

「とにかく、今はピスケスだな。ヴァルゴなんて相手をしていれば、瞬く間に殺されるだろう」

 

山田は宇月達の元へ急いでいた。

「今日こそ、ちゃんと部活に出ないと…!」

いつも会議や職務で部活の顧問として顔出しが出来ない現状、なんとしても打破したい。

そこへ…。

「あ、山田先生!」

あゆが現れる。

「月宮先生?えっと…今日は部活の顧問として…」

「協力して欲しい事が…仮面ライダーの事です!」

 

同時刻。

IS学園の近くでストリートミュージシャンのような姿をした男性がアコースティックギターをかき鳴らしている。

随分とヘタクソだ。お世辞にも上手いとはいえない。

「ふぅ~!真夜中の一曲は情熱的でイイネ!」

「時は来たか?」

そこへ、レオがやってくる。その威圧感は男も感じ取り、一気に縮こまる。

「お、おう!もうカンペキさ!」

怯えつつも取り出したのは…ホロスコープススイッチ。

それを押すと…。

「誕生したな」

 

そこには、山羊座の使徒「カプリコーン・ゾディアーツ」が現れた。

 

「じゃあ、飛ばしてくぜ!IS学園に殴り込みだァ!」

そう叫びながらエレキギター型の武器「多弦琴ウルク」をかき鳴らし続けた…。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                        もう山羊座まで…!?

 

オレの情熱的な一曲、迷惑だと思うなら聞いてからにしな!

 

                        アンタも一緒に、スコーピオン様の仇を…!

 

あの音は…催眠効果がある!

 

                         マグフォンだ!

 

これでも…!

 

 

 

 

 

第16話「山・羊・入・魂」

 

 

 





青春スイッチ・オン!



キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
???=カプリコーン・ゾディアーツ
裾迫理雄
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
夏樹=ピスケスの行動原理は…スコーピオンの敵討ちですね。ちなみに理雄に恋をしていた裏設定ありです。
意外かもしれませんが、あのホロスコープスで、リブラ以外はスコーピオンの脱落を悲しんでます。まぁ、再び迎え入れる事はできませんが…。
宇月はなんとか立ち直ろうと努力しますが、後悔や理雄の言葉でまだ完全に吹っ切れません…。次々回で吹っ切れると良いなぁ…という予定です。
もう駆け足で出します、ホロスコープス!次は山羊座です!

スイッチャーの名前は、ジャマール首領ガオームさんの案を採用させていただいてます!
ちなみに、ジャマールさんには水瓶座も考案していただいており、蟹座は超人機(断空我)さんに考案いただきました!

この場を借りまして、本当にご協力、ありがとうございました!

次回もお楽しみに!


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幕間
登場人物紹介(追加分)


 

織斑一夏

『ISの主人公』IS専用機は「白式」

フォーゼを目撃し仮面ライダーの存在を知った後、仮面ライダー部を設立。部員第1号兼スイッチャー探しを担うようになった。

ゾディアーツやホロスコープスにも全く怯えたりひるむ様子はなく、スコーピオンとの最終決戦にも自主的に参加したりなど、勇敢な一面があるが、恋愛関係には鈍感である。

 

 

 

篠ノ之箒

『ISの世界』の住人。

一夏と共に仮面ライダー部に入部。スイッチャー探しとフードロイド管理を担うが、礼登場後はフードロイド全てを彼に管理されるようになり、役割を失くしかけて、焦燥にかられている。

何故かヴァルゴに一目置かれており、スイッチを渡す唯一の対象外としている。

 

 

 

セシリア・オルコット

『ISの世界』の住人。IS専用機は「ブルー・ティアーズ」

イギリスの名門貴族のお嬢様で、過去に両親を列車の事故で亡くし、勉強を重ねて周囲の大人達から両親の遺産を守ってきた努力家でもある。男尊女卑の時代であったころから実家発展に尽力した母親のことは尊敬していたが、婿養子という立場の弱さから母親に対し卑屈になる父親に対しては憤りを覚えていた。お嬢様らしい口調や仕草だが、時折、無理な背伸びをしたり、意地を張ったりもする。

クラス対抗戦で一夏と対決中、彼に心を奪われ、以後は考えを改めて仮面ライダー部にも入部した。ISの情報提供を主な役割とする。

 

 

 

鳳鈴音

『ISの世界』の住人。IS専用機は「甲龍」

一夏とは小学生からの幼馴染。箒と入れ違いとの事から「セカンド幼馴染」とのこと。

サバサバした性格で考えるよりも行動というタイプ。中学3年からISの勉強を始め、猛勉強の末に1年で専用機持ちの代表候補生になったという努力家の一面もある。

都市伝説として仮面ライダーも知っており、フォーゼを見たときは驚きつつも取り乱す事はなかった。

ISで勇敢にゾディアーツに立ち向かった事から、宇月にパワーダイザー操縦を頼まれるが、一度は拒否。その後、パワーダイザーに対する宇月の想いを知り、クラス対抗戦で一夏に賭けをして入部を希望する。結局、決着はつかなかったが、仮面ライダー部にパワーダイザー操縦役として入部した。ちなみにご飯係も兼任とのこと。

 

 

 

シャルロット・デュノア

『ISの世界』の住人。IS専用機は「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」

「シャルル・デュノア」を名乗ってIS学園に転入してきた。デュノア社の社長の実子だが、愛人との間に生まれた子供であったため、2年前に母親が死亡しデュノア家に引き取られたものの事実上居場所がなかった。その後、自分の意志と関係なくIS開発のための道具として扱われてきた。

紫苑に女だとバレるが、彼が庇った事により学園にのこることができ、自身の在り方を探すために仮面ライダー部に入る。一応の役割としてスイッチャー探しや彼等のアフターケアを主とする。

同室である紫苑に対して意識するようになり、時に母親のように、時に友達のように、時に恋人のように接する。

 

 

 

白石紫苑

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

数年前にIS関係の事故に巻き込まれ、身体の大半を損傷してしまうが、母親が肉体のほぼ全てを提供した事で生きながらえた。ただ、そのために母親を犠牲にしたことと、そんな犠牲を払ったにも拘らず、生きていた事に喜んでしまった事に強いトラウマを感じている。そのためか時折、異常なほどの激情をみせることがある。

母親の右腕と左足はそのまま使っているので、接合部が拒否反応を起こすらしく、時折、凄まじい痛みを伴う。

なお、父親とは連絡すら取れていない(連絡先が不明)。

シャルロットに心を開きつつあるが、何故か本人は良く思っていない。

 

 

 

???=仮面ライダーメテオ

出身世界不明。

フォーゼドライバーの試作品であるメテオドライバーを使用した仮面ライダーであり、宇月と礼は彼の正体を知っている。戦う際には、拳法を使う者のような怪鳥音(アチャァ!アタァ!等)を発するが、拳法を学んでいるのかは不明。

基本的には冷静沈着だが仲間思いであり、人とのつながりを大切にしている姿が見受けられる。一夏達も仲間だと好意的に捉え、戦いの際は彼等の安全を確かめたり、協力して戦う事を申し出られたときも快く引き受けたりする。

ラウラをホロスコープスから切り離したときに友の大切さを伝えたのだが、そのために恋心を抱かれてしまい、困っている(友達になるとは言っている)。

なお、彼も使おうと思えばISが使える(コズミックエナジーの活用)。

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ=レプス・ゾディアーツ/ジェミニ・ゾディアーツ

『ISの世界』の住人。

戦うための道具としてありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略等を体得し、優秀な成績を収めてきた。しかしISとの適合性向上のために行われたヴォーダン・オージェの不適合により、能力を制御しきれず全て基準以下の成績となってしまう。この事から存在意義を見失っていたが、千冬の特訓により部隊最強の座に再度上り詰めた。この経緯から、ラウラは彼女を尊敬し「教官」と呼んでいる。

IS学園に転校後、スコーピオンの誘いに乗ってゾディアーツスイッチを手にしてレプスになり、フォーゼ、龍騎、メテオなどに倒されながらも、怒りを司る双子座の十二使徒「ジェミニ・ゾディアーツ」へと進化するが、彼女のヴァルゴに対する傲慢な態度がスコーピオンから反感を買い、自身のISを暴走させられる。

メテオに救われて以降は彼に恋心を抱き、嫁と呼ぶようになった。正体が未だに分からないのが不満らしい。

なお、仮面ライダー部にも所属し、鈴音と交代でパワーダイザー操縦役を担う。

 

 

 

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

宇月の中学時代の友人で、眠りを司る牡羊座の十二使徒である。

以前はホロスコープスとして悪事を行っていたが、宇月に心を動かされ、以後はゾディアーツに対抗するために宇月の両親が開発したアストロスイッチのスイッチ調整を担う。彼もまた、負のコズミックエナジーを使ってISを起動させられる。宇月とは逆に、適性は「B」だが、駆動時間が普通の生徒達よりかなり長いという対照的な相違点がある(コズミックエナジーで駆動エネルギーを長続きさせている)。

宇月とは固い友情で結ばれているが他の人は生徒や教師問わず信頼していない。だが彼等の命が危険に晒されたりしたときは。焦りの表情が見えたり、協力を申し出る一夏を不本意ながらも受け入れるなど、完全な拒絶はしていない。

実は、まだ秘密があるのだが…。

 

 

 

布仏本音

『ISの世界』の住人。

1組の女子生徒の一人。通称は名前や雰囲気から「のほほんさん」と呼ばれている。

袖丈が異常に長い制服や私服、着ぐるみを主に着用。常に眠たそうで行動もゆったりとしている。一夏はおりむー、宇月はうっちー、礼はつっちーと呼び、会う度に腕などにくっついている。間延びした口調でズレた発言が多いが、時折核心を突いた発言や正論を唱えることもある。

本人曰く、生徒会にいると仕事が増えるからほとんど仕事をしていない。

礼や宇月に興味を持ち、事あるごとに礼に話しかけてくるが、「ノロマ」と貶されて鬱陶しがられている。恋愛感情かどうかは不明。

仮面ライダー部に所属はしていないが、時々協力したりはする。

 

 

 

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。

宇宙から飛来した高エネルギーのコズミックエナジーの宇宙生命体「SOLU」であり、人の姿に擬態している(写真や見たものから擬態)。

宇月のフォーゼに同じ力を感じて、彼に懐く。その後、強引にフォーゼの女性型試作品である「仮面ライダーなでしこ」へ変身すると徐々に知識や感情を獲得していく。

リブラによって攫われてホロスコープスに利用されながらも感情を獲得し、宇月へ恋愛感情まで持つようになるが、スコーピオンによってSOLUスイッチとロケットスイッチスーパー1へ変換される。

フォーゼ対スコーピオン戦では、フォーゼに両方のスイッチのエナジーを送り、助力した。

今はロケットスイッチスーパー1に意思が宿っている(宇月は気付いてない)。

 

 

 

龍崎(月宮)竜也=仮面ライダー龍騎

『仮面ライダー龍騎~EPISODE Kanon~』の主人公であり『仮面ライダー龍騎とKanonの世界』の住人。

あゆと結婚して月宮姓を名乗るようになったが、IS学園に臨時教師としてきた事で区別しやすいように旧姓の龍崎を名乗っている。

ある人達(剣崎一真や紅渡)に頼まれて、この世界を守るために訪れた。

さらに、この世界に別のモノが入り込んでいるため、それを見つけ出すべく行動している。

なお、都市伝説として語り継がれている「額に龍の紋章がある赤い戦士」は彼のことである。

 

 

 

月宮あゆ

『仮面ライダー龍騎とKanonの世界』の住人。

竜也と結婚し、今は少女っぽさを残しつつも立派な女性となっている。

本来は危険と言う事で、竜也から待っておくように言われたのだが、いつまでも一緒だという願いを持っており、強引についてきた。

なお、2人息子として長男の真司、次男の竜樹がいる(友人のところに預けている)。

 

 

 

裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ

『仮面ライダーフォーゼの異世界』の住人。IS専用機は「霧裂」

正体は毒を司る蠍座の十二使徒。ISが適性したのも負のコズミックエナジーによるものである。

ホロスコープスとして覚醒する前は、交通事故によって頚椎損傷の全身不随になっており、スイッチの力で動けるようになった。故にスコーピオンスイッチを捨てると、また全身不随になるという、逃げ場のない位置に居る。

自身を支えてくれたヴァルゴを崇拝し、彼女のために生きていたが、フォーゼと一夏に敗れた事で再び全身不随に戻ったことで彼等に強い憎しみを抱いている。現在は学園を自主退学し入院中。霧裂は持ち主がいなくなったので、現在、使用者を決めているらしい。

 

 

 

???=リブラ・ゾディアーツ

竜也とあゆは正体に気づいている。

目的は正確には不明だが、とある人物を敵視しており、その者が現れたときに排除したいらしい。

 

 

 

???=レオ・ゾディアーツ

スコーピオンにはよく突っかかっていたが、彼の過去を知っているため、心の奥底では心配しており、仲間意識もあったらしい。

だが、彼の敗北時には悲しみを持ちつつも、容赦なく切り捨て、スイッチを没収した。

同時にフォーゼ達に強い敵対心も芽生えたようだ。

 

 

 

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ

行動目的に対して聡明な人物であり、同胞のホロスコープスに対する慈愛も深い(レオは除く)。

本当の目的はホロスコープスである十二使徒を全て覚醒させることで生まれる13番目の使徒「オフューカス・ゾディアーツ」を覚醒させ、その能力で全世界のISを機能停止させることである。

ISを良く思っておらず、神秘の宇宙を汚す存在と見ている。

なぜか箒に親しい話しかけ方をしていたため、篠ノ之束ではないかと疑われたが、目的がISを全て機能停止させることであるところから、同一人物の可能性は低い。

 

 

 

 

 



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黄道十二星座!
第16話「山・羊・入・魂」


 

 

クラスのホームルームで千冬が説明をしている。

「近頃、この学園の近くで迷惑行為をしている者がいるらしい。なんでもストリートミュージシャンを名乗り、騒音を起こしているそうだ。見つけ次第、教師にまで連絡するように。必要以上に関わろうとはするな」

それを聞いていた宇月は、ふと思い出した。

「騒音か…」

実はピスケスと戦った次の日、その男と会っていたのだ。

 

その日は自分の情けなさに失望し、IS学園を抜け出して、トボトボと徘徊していた。

フォーゼとして戦う事もまともに出来ない。かなり落ち込んでいたのだ。

「よぉ坊主!なぁにショボくれた顔してんだよ!?」

「あ…はぁ…」

そこに話しかけたのが、その男だった。20代後半だろうか。

「おいおい!そういう時は「いや元気です」って、嘘でも言うもんだろ?」

「ま、まぁ…そうっすね」

それでも気丈に振舞う事すら出来なかった。

「なんだよ、面白くねェな!なら、元気の出る情熱的な一曲、送るぜ?」

持っていたアコースティックギターをかき鳴らして、歌い始めるが…。

 

…酷かった。

 

一通り歌い終わった男は、ドヤ顔で宇月を見る。

「どうよ?これで…オレは世界を目指す!」

「ぷっ…」

自然と笑いがこみ上げてきた。

「なんだよ…?」

「い、いや…冗談でしょ?ぶっ…はは…!」

あまりにもヘタクソな演奏であるのに此処まで自信家だと、面白いにも程がある。

「コンニャロ!人が元気付けようと思ってたのによ!?」

「うあっ、いてて!」

頭を抱え込まれ、強く締め付けられた。

容赦ない痛さだったが、久しぶりに自然と笑えた。

「オレの名は八木鳴介!いずれ世界に、情熱的な音楽を届ける男だ!」

「城茂宇月。IS学園の生徒っす」

お互い自己紹介をして、別れた。

 

「まぁ、騒音って言えば、そうだよな…」

あのときのことを思い出しながら、軽く笑う。

「宇月、なんか元気良くなった?」

「お、そうか?」

鈴音が尋ねると、キョトンとした顔で答える宇月。

あんなに落ち込んでいたはずなのに、自然と落ち着いてきた。まだ、完全に吹っ切れてはいないが。

「そうだね。なんか、楽しい事があったみたい…元気になれたなら、僕も嬉しいよ」

その様子に紫苑も便乗して言う。

セシリアが辺りを見回して、ふと思い出す。

「そういえば今日、礼さんはお休みなのですわね」

そう、礼がいない。今まで休みや遅刻は一度もなかったのに…。

「つっち~がいないよ~!」

本音が悲しんでいたのは、言うまでもなかった。

 

その頃、礼はラビットハッチで寝ずに調整をしていた。

だが、一向に完成しない。

「制御できる物体か…」

自分の携帯を見つめる。そして、何かが閃いた。

「…この携帯は、ラビットハッチで発見されたものだったはず…」

何かの構想が浮かんだ礼は、再び調整を始めた。

 

昼休みの時間。

夏樹はリブラと顔を合わせていた。

「リブラ様、どうしてフォーゼを見逃すなんて…」

上手くいけばフォーゼを倒し、スコーピオンである理雄の無念を晴らせたかもしれないのに…。

「あのとき、フォーゼは君へ攻撃する事に戸惑っていた」

確かに、彼女の目にもそれは読み取れた。なにか罪悪感や後悔のために割り切れないように感じ取れた。

「フォーゼの心には、スコーピオンがいるのだろう。彼の未来を奪ったのはフォーゼだからね」

「それって、どういう…」

「確かめてみると良い」

そう言って、リブラはディケを振るい、病院の在る場所を映し出した。

 

銀色のオーロラで…。

 

「あの…辻永君。一体、学校を休んでまで何を…」

「これです」

心配になった山田は、礼の部屋まで訪れていたのだが、彼はいたって健康。休んだ理由を聞いたところ、彼が使っている携帯を見せ付けられた。

NとSの文字が描かれ、先端にそれぞれアストロスイッチが装着されている。

「これ…アストロスイッチと携帯を組み合わせたんですか?」

「そう、名前はNSマグフォン。この30・31番のスイッチから生み出されるコズミックエナジーを、マグフォン部でせき止め、必要分だけを身体中へ自由に行き渡らせるモノです。どちらもラビットハッチから見つけ出されたから、もしかしたらと思いましたが、想像通り、互換性があったんです」

礼は、一夜でこれに気付き、完成までに至らせたのだ。彼のコズミックエナジーに関する知識は凄まじいものがある。

「すごいですね…一日でこれを…」

「スコーピオンが倒れてあせりを感じたのか、ホロスコープスの覚醒が格段に早くなっています。おそらく近いうちに新たなホロスコープスも…。一刻も早く、こちらも対抗する手立てを考える必要があります」

そう言っている礼の表情にも、僅かながら焦りが見える。

彼のカバンには…山田には見えなかったが、青と黄色の風車のような形のスイッチもあった。

(…メテオも早く、ステイツチェンジが可能にならなければいけないな)

 

病院内に来た夏樹は、病院の職員に案内され、理雄の病室に来た。

「…ピスケスか」

窓をみつめたまま、理雄は小さく言う。

「理雄君…あなたがスコーピオン様だったなんて…」

「失望したか?こんな輩で」

窓から映りこんだ理雄の顔は、自虐的な笑みを浮かべていた。

「ううん…嬉しい」

そう言って、理雄の顔を自身の顔に向けさせる。

「ピスケス…?」

「夏樹って呼んで、理雄君。わたしね…あなたのことが好きだったの。それにスコーピオン様としてのあなたも…」

理雄の身体を優しく抱きしめる夏樹。

「あなたの仇のフォーゼは…わたしが倒す。もし、出来たなら…恋人に…なってほしいな…なんて…」

途中から恥ずかしくなったのか、俯きがちに言った。

「…オレがどういう状態か知らないのか?」

「なんとなく分かる。でも構わない。今だけは…ホロスコープスとヴァルゴ様を忘れて」

複雑ではあるが、これも人の愛のカタチなのかもしれない…。

 

シャルロットと紫苑は、なにげなく学園内を散歩していた。

「僕さ…時々、シャルルって呼びそうになっちゃうんだよね」

「あ…確かに、そっちの名前のほうが長いからね…」

紫苑はよく人の名前を呼ぶときに詰まってしまう。特にシャルロット相手だとそうだ。

デュノアさんからシャルル、そしてシャルロットと、呼び名が著しく変わっているからだ。

「それでね、呼びやすいように呼んでも良いかな?」

「どんな呼び方?」

「シャルルとシャルロットで同じ部分の「シャル」って呼びたいんだけど…」

彼が積極的になることは非常に稀で、基本は受動的である。そんな彼が自分からこういった行動を起こせているのがシャルロットには嬉しかった。

なにより、これは彼だけの呼び名になるのだ。

「うん、良いよ。すごく良い!」

「良かった。断られたらどうしようかって…」

「断ったりなんかしないよ~」

安堵したような笑みを浮かべる紫苑。

そこへ…。

「よぉ、お二人さん!仲が良さそうで何よりだ!」

快活な印象の男性がやってきた。服装や雰囲気から、学園の関係者ではないらしい。

その肩に下げているギターを見て、シャルロットははっと思い出した。

「もしかして…ストリートミュージシャンっぽい人って…」

「おぉ、IS学園にも名が知れ渡ってるのか!女の子にモテモテになるのも、遠い話じゃないかも知れねぇな!」

よっぽど自分の名が知られているのが嬉しいのか、豪快な笑い声を上げる男。

この男は、宇月が会った八木鳴介だ。

紫苑はオドオドしながらシャルロットに言う。

「シャル、すぐに先生に報告に行こうよ。必要以上に関わるなって…」

「ん?坊主、オレの名前は良い意味で通ってねぇのか?」

八木の言葉に、紫苑は怯えながら申し訳なさそうに言う。

「織斑先生が迷惑行為だって…」

「おいおい!オレの情熱的な一曲、迷惑だと思うなら聞いてからにしな!」

そう言って、有無を言わさずギターをかき鳴らして演奏するが…。

やはりヘタクソだ。

「どうよ?」

「えっと…どうよっていわれても…」「こ、個性的…かな…?」

2人は、困ったように反応する。その様子に、八木は目つきが変わった。

「じゃあ…こっちを聞いてみろ」

そう言って、カプリコーンスイッチを取り出した。

「え…ホロスコープススイッチ!?」

それを押して、カプリコーンに変化した。

「これが情熱的な音楽の真髄だ…!」

ウルクを構え、先ほどと同じようにかき鳴らす。

だが…それは先ほどとは違い、異常なほど上手な演奏であった。

「あれ…すごい…」

シャルロットは聞き入っている。激しい曲調なのに、なぜか心地良い。

「…!?シャル、聞いちゃダメだ!」「うわ!?」

不意に、何かに気が付いた紫苑が彼女の耳を塞ぎ、その場から走り去る。

取り残されたカプリコーンは、訝しげに呟いた。

「アイツ…なんでこの曲の効果に気付いた…?」

 

「し、紫苑…!?」「良いから、早く!」

紫苑は、急いで鈴音とセシリアの下へと急いだ。

「あら紫苑さん、どうしましたの?」

「や…山羊座が…!」

「うそ、もう増えたの!?」

最悪だ。ホロスコープスがどんどん増えている。

これで8人目。すでに半分を超え、残りは4体となった。

「辻永君に…つたえて…城茂君じゃ…戦えるか分からないから…」

息を荒げて言う紫苑に対して、2人は強く頷いた。

「え、えぇ!」「わかったわ!」

そして再び、シャルロットと2人だけになると…。

「どうして、耳を塞ぐなんか…」

「あの音…たぶん、催眠効果がある」

あのまま聞いていれば、シャルロットは操られてしまったかもしれない。

「そうだったんだ…助けてくれてありがとう。でも…どうして気付いたの?」

「え…?あ、あぁ…それは、ゾディアーツで音を使うなら、それが相場かなって…」

つまり、勘だったというわけだ。まぁ、聞かないに越した事はないが、不明瞭な理由だ。

 

セシリアと鈴音の言葉を聞いて、宇月、一夏、箒、ラウラを引き連れてカプリコーンの場所にまでやってきた。

「よぉ、宇月!」

「八木さん!?まさか、カプリコーンって…」

そこにいた八木を見て、宇月は焦る。彼の手にはカプリコーンスイッチがあったのだから。

「おう!このオレ様が音を司る十二使徒、カプリコーン・ゾディアーツだぜ」

そのまま押して、カプリコーンの姿に変わり、ウルクをかき鳴らす。

「イェエエエエエエエエエエエイ!」

「あなたから…元気をもらったのに…!」

悔やみきれない想いを胸に、フォーゼドライバーを装着する。

「大丈夫か宇月?まだ吹っ切れて…」

一夏が心配になって聞くと、彼は真剣な目つきで前を向いたまま答える。

「おれがやらないと、フォーゼは誰にも出来ない…やるしかないだろ」

聞き様によっては、仕方なしになっているようにも感じられるが、それは違う。

これは父の形見であり、両親の遺した想いが詰まっているからだ。

赤いスイッチをおして、右手を構える。

<3><2><1>

「変身っ!」

現れた煙状のエネルギーを振り払い、フォーゼBSに変身する。

「はぁっ!よし…これだ!」

<ELEKI-ON>

エレキスイッチを使ってフォーゼESへとステイツチェンジし、ビリーザロッドでカプリコーンに攻撃を仕掛ける。

「オメェ…フォーゼだったのか!?」

驚きながらも、カプリコーンは避ける。

「あんたが十二使徒として攻撃するなら…おれは止める!」

<BEET-ON>

「耳を塞げ!」

ビートモジュールを装備し、開音波を響かせた。ウルクの催眠音波を妨害し、音で攻撃させないためだ。

「くそ…こんなスイッチまであるのかよ…!?」

「どんな状況にも対応できるのが、フォーゼだ!」

上手くカプリコーンの攻撃特性を破った今、状況は良い方向に向かっている。

「いいぞ!」「このまま、リミットブレイクですわ!」

一夏とセシリアの言葉を聞いて、レバーを引こうとしたその時…。

 

「カプリコーン!手を貸すわ!」

 

ドガアアアアァ!

「ぐああぁっ!」

突如、槍を持ったピスケスとリブラが現れた。

「ピスケスにリブラかよ…こんなときに!」

一夏はISを展開してフォーゼESの隣に立つ。

「アンタもスコーピオン様の仇を…」

「あぁ…オレの前にいた蠍座の先輩だよな。ま、良いぜ?」

「まだまだ…こんなものじゃないよ」

リブラがディケを振るい、大勢のダスタードを呼び出す。

「わたくし達も行きますわ!」「来なさいパワーダイザー!」「ダスタード位なら蹴散らせる!」

ISはダスタードを倒す事は出来るため、専用機持ちの3人は戦いに助力した。

鈴音はパワーダイザーに登場する。

ドガアアアアアアアアアアアアァンッ!

「この状況はフェアじゃないだろう?」

そこへ、メテオも駆けつけた。ラウラは彼の元に近付く。

「嫁!」

「だから違うって!…それよりラウラ、セシリア、鈴音!ダスタード達は任せる!一夏はおれとフォーゼと共に、ホロスコープスを相手して欲しい。…頼めるか?」

「あぁ、まかせろ!」

一夏は雪片弐式を構え、カプリコーンに攻撃を仕掛ける。

フォーゼESはリブラを狙う。

「リブラぁ!」

「フフ…」

リブラがディケを地面に叩きつけた瞬間…。

「…!?」

フォーゼESの攻撃は止まった。

「やはり恨まれた相手への攻撃は、気が引けるようだな?」

リブラは、ディケを握った理雄の姿に変わっていた。

「り、理雄…!?」

「隙だらけだよ…フン!」

ドガアアアアアアァ!

「ぐああああああぁ!?」

ディケでフォーゼESを殴り、エレキスイッチを弾き飛ばした。スイッチの効果が切れ、フォーゼBSへと戻る。

「宇月さんっ!」「不良男の姿に…声まで同じ…!」

リブラの攻撃方法に、ピスケスを相手していたメテオは怒った。

「きさま…卑怯なマネを…!アチャアアアアァッ!」

「卑怯だろうと何だろうと…」

メテオの攻撃が当たる直前に、理雄は再びディケを振るう。

「ヌッ…!?」

「勝てば良いのだよ。そうだろう?」

次はラウラの姿に変わる。一瞬、攻撃の手が緩む。

「ダメだね。戦士としては失格だ!」

ドゴオオオオオオォ!

「ウアアアアアアアアァ!」

彼等の心の隙間に入り込み、精神的に追い詰めた上での攻撃だ。卑劣ではあるが、かなり高等な戦闘方法である。

「リブラめ…わたしの姿や声まで…!嫁、しっかりしろ!」

「あ、あぁ、すまない…。おれも甘いな…」

ラウラに抱き起こされながら、メテオは自身の不甲斐なさを悔やむ。

それに一夏が異議を唱える。

「違うだろメテオ!おまえ、おれ達を仲間だと思ってたから、攻撃の手を緩めたんだろ。甘いなんてことはないぞ!」

「だが…」

「その気持ちがあるから、ゾディアーツと戦えて、人を守れてるんだろ!すげぇことじゃないか!」

一夏はメテオやフォーゼに内心憧れている。仮面ライダーとして人を救うことのできる存在である彼等は、一夏の夢見ている「誰かを守る」存在なのだから。

「おいおい男IS使い、よそ見してんなァ!」

ギャィイィィィ!

「うぅっ!?」「うあぁっ…!」

隙を見たカプリコーンはウルクの音波で一夏やラウラを攻撃する。その音波は衝撃波となり、白式に損傷を与えた。

「一夏、ラウラ!…この野郎ォ!」

メテオは攻撃の的をカプリコーンに変え、メテオギャラクシーのスイッチを押す。

<JUPITER-READY?><OK-JUPITER>

「オオオオオオオオォ…アチャアアアアアアアァッ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「ウオオオオオォ!?」

メテオの木星を模した拳をカプリコーンに放ち、相手の意識を削がせた。音波は消えて一夏達も危機を免れた。

「ほ、ほらな…十分、強いだろ…」

「目が覚めた。感謝する、一夏!」

メテオは一夏と立ち上がり、共にリブラとカプリコーンに攻撃を仕掛けていった。

一方、フォーゼBSはピスケスに標的を変えて戦っていたが…。

「弱い弱いィ!」

ズバシャアアアアアアアァ!

「どわああああああああぁっ!?」

水圧を利用した攻撃や槍の攻撃などを駆使され、完全に翻弄されている。

「エレキなら行けるけど…」

<ELEKI-ON>

フォーゼBSは、エレキスイッチを使ってしまったので、今は使えない。

おそらく炎を使うファイヤースイッチは相性が悪く、ロケットスイッチスーパー1はよっぽどの時でない限り使いたくはない。

「普通のスイッチで応戦できるか…!?」

スイッチを駆使した戦い方に切り替えることにした。

「相手が水なら…」

<BORD-ON>

ボードモジュールを装備し、液状化したピスケスの身体を波乗りの要領で凌ぐ。

「な…乗らないでよ!」

「そんなこと知るか!」

<STEALTH-ON><CROW-ON><HUMMER―ON>

さらにステルス、クロー、ハンマーのモジュールを起動し、姿を迷彩で隠す。

「き、消えた…!?」

「こっちだ!」

油断したピスケスの背後でクローとハンマーを同時にぶつける。

ガギィ!

「くっ…!」

しかし、なんとか槍でその攻撃を防ぎ、再び液状化して距離を置く。

フォーゼBSはここで一気に畳み掛けようと考えた。

新たなステイツチェンジだ。

「使わせてもらうぞ、礼…このマグフォン!」

あらかじめ、礼から受け取っていたマグフォンを取り出して、2つに割ろうとするが…

「分割っ!…あれ?」

全く割れない。外すためのボタンや割り方は礼から聞いているので、問題なく割れるはずだが…。

「お、おい!割れねぇ!?」

「なに、おもちゃで遊んでるのよ!?」

ドガアアアアァ!

「ぐああああああぁっ!?」

吹き飛ばされた拍子にマグフォンが手から離れ、遠くへ吹き飛んでしまった。

「うあぁ!マグフォンが!?」

その様子を見た鈴音はまたしても不具合のあるステイツチェンジのスイッチを渡したのかと怒り始めた。

「あんのバカ礼…また中途半端に…!」

「鈴さん、よそ見しないで下さいまし!」

セシリアはその間もダスタードの相手に必死だ。今、ラウラがメテオのために少し離れてしまい、猫の手も借りたいくらいだ。

「あぁ、ごめん。よぉし覚悟しなさい、忍者!」

ドゴオオオオォ!

「ムウウウウウゥゥゥ!?」

一夏、メテオ、ラウラはカプリコーンとリブラと交戦しているが…。

「オラアアァ!この音はシビレるだろォ!」

ギュイイイイイイイイィ!

「ぐうっ…!」

怪音波での攻撃で3人の動きは鈍らされ…。

「フンッ!」

ズガアアアァ!

「うおぉっ!?」

そこにリブラの攻撃が加えられ、殆ど手出しが出来ない状態だ。

バチィ…!

「くっ…ドライバーに限界が…。これ以上は戦えない!」

遂にメテオドライバーにも火花が飛び始め、変身を維持する事が困難となった。

「おまえら…ここから逃げろ!全員、生きてな!」

メテオはそう言い残し、青い発光体になって離れていった。

「め、メテオも戦えなくなった…」「だが…どう逃げるって…」

 

<ADVENT>

 

「ガアアアアアアアアァ!」

その音声と咆哮と共に、ドラグレッダーが現れ、こちらに向かってくる。

「な、龍!?」「何よあれ!?」

ドゴオオオオオォ!

「ウオオオオオオオォッ!?」「キャアアアアアアァッ!」

間一髪でリブラは避けたが、ダスタードたちも蹴散らされた。

「みんな、今のうちに!」「あ、おい!?」

そこにドラゴンサイクルに乗った龍騎が現れ、箒とフォーゼBSをドラグレッダーの背中に乗るように指示した。

残りはISやパワーダイザーなどで移動できるため、すぐさまそこから離れていった。

「龍騎…またしても邪魔を…」「今度は逃がさない…」「あの程度じゃ、すぐに仕留められるぜ!」

忌々しげにリブラ達は呟き、姿を消す。

 

そして、宇月と礼の部屋に戻ってきた。今回は竜也とあゆも一緒である。

「助かりましたわ…」「ありがと、先生!」

セシリアと鈴音は竜也に頭を下げる。

「いや、逆にごめんね。もう少し早かったら…」

「でも、間に合ってよかったよ、竜也くん」

彼等に大事がなくて安心した2人。

「ごめんなさい…何も知らなくて…」

そして、宇月達にあやまっているのはシャルロットだ。あの状況下、仮面ライダー部でいなかったのは彼女だけである。

「気付けなかったんだから、仕方ない。それよりもマグフォンがな…」

そう、宇月が気がかりなのはNSマグフォンだ。あの戦いの最中、紛失してしまったのだから。

「篠ノ之、バガミールを渡してくれ」「あ、あぁ」

礼の言うとおり、箒は手に持っていたバガミールを移し、NSマグフォンの飛んでいった方向などを確認する。

「距離と高さからして…」「待ちなさいよ」

鈴音が礼を呼び止める。

「なんだ?」

「あんたね…謝るとかないの?いつも戦いには参加しないくせに、スイッチも中途半端なものしか作らない。それでその態度って、おかしいでしょ!?」

実は礼も戦いにまともに助力していない。スイッチ開発を担当しているから文句を言うのはほどほどにしていたが、我慢の限界だった。

「鳳、おれは宇月を信頼している。だからこそ、自分のもてる最大の状態で作り上げたスイッチを渡そうとしている」

「でも、完成してないじゃない!」

「やめましょう、鈴さん。言い争っても、どうしようもないのですから…」

セシリアが止めるも、険悪な雰囲気は治まらない。

「なんだか…絆は深いのに、なにかで壁を作ってるように感じる」

ふと竜也がこぼした。

「どういう意味ですか?」

箒が聞くと、次はあゆが答える。

「みんなは、それぞれを本当に大切に思っているのに、隠し事や建前、いろんなことで、その思いを曝け出してないように、ボク達は思うの。時間は掛かるかもしれないけど、心を曝け出して。そうやって言い争うことで、壁を少しずつ取り払っていってるのかもしれないから」

竜也とあゆの言葉で、一同は少し穏やかな雰囲気に変わった。

じっとみていた山田が手を挙げる。

「は、はい!わたし、そのマグフォンを探します!」

「わたしも行きます。礼、バガちゃん達を借りても良いか?」

「あぁ。好きにしろ」

「ボクも行く」

結果、山田、箒、シャルロットの3人がNSマグフォン捜索を担うことになった。

宇月が立ち上がって言う。

「おれもまだ完全に立ち直れてないけど、みんなの協力は絶対無駄にしないぜ。だからよ、みんなも全力でサポートを頼むな!」

その言葉に全員が頷く。竜也やあゆでさえ。

「よぉし、行くぜ仮面ライダー部!」

 

『おぉっ!』

 

 

 

 

 

続く…

 

 

 

 

次回!

 

                         夢は独りじゃかなわねぇ…

 

ここ掘れワンコ!

 

                         割れなかった理由は…

 

スイッチに精神論が通ると言った…

 

                         分割・セット!

 

マグネットステイツだ!

 

 

 

 

 

 

第17話「超・電・磁・爆」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 







キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
八木鳴介=カプリコーン・ゾディアーツ
裾迫理雄
???=リブラ・ゾディアーツ





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第17話「超・電・磁・爆」

カプリコーンと対決した次の日。

クラス内ではある噂が持ちきりになっている。

「ねぇ聞いた?ストリートミュージシャンが、物凄くうまいんだって!」

「あたし、近くで歌ってるの聞いた!姿は見えなかったけど…」

どうやら八木の話題であるようだ。

聞いていたラウラは宇月に耳打ちする。

「もしかして…昨日のカプリコーンの事だろうか…?」

「たぶんな。シャルロットに聞いたけど、人間の時にはヘタクソだった演奏がゾディアーツになった途端、心地よく聞こえたらしい」

宇月の予想するに、カプリコーンのウルクから発せられる音にはある種の催眠効果があると思われる。ただ…。

「それで…何がしたいんだ…?」

彼の行動理由がイマイチ理解できないでいる。

その行動が、ホロスコープスに何の利益があるのだろうか…。

くぅ~…

「…腹減って、上手く脳が働かねェ…!」

ここ最近は落ち込み続きで、まともな食事を取っていない。大喰らいの宇月には結構、深刻な問題であるのだ。

そこへ、ちょんちょんと肩を指で叩かれる。

振り返ると、セシリアがニッコリと笑ってバスケットを差し出す。

「サンドイッチ、作ってきましたわ。良かったらどうぞ」

「うおぉ!サンキュー、セシリア!良い嫁になるぞ!」

ひったくるようにバスケットを受け取り、中にあるサンドイッチを頬張る。

だが…。

「…!?」

一瞬、何が起きたか理解出来なかった。

「お嫁さんですか…。わたくしも、いつか一夏さんの…」

口の中には、様々な味が交差している。お世辞にも美味しいとはいえない。

「どうです?」「…ぎゅはにゃに?(具は何?)」

舌が回らずとも、なんとか喋る。

「えっと…タバスコとマスタードと…」「ひゃぁ、しょう…(あぁ、そう…)」

宇月は決意した。

セシリアに料理をさせてはいけないと…。

「あたしも酢豚作ってきたわよ!食べたかったんでしょ?」

ふと、鈴音も弁当箱に入れてきた酢豚を宇月に渡す。

「おう…助かる…」「助かる…?」

凄まじい味だったサンドイッチの後に食べる鈴音の酢豚は、この世で一番美味しい食べ物だと思った。

 

IS学園の近くで座り込んでいる八木。ギターを抱えて空を見上げている。

同時に左手にあるカプリコーンスイッチも空に掲げた。

「こんなことでもしなきゃ、夢は叶えられねェもんなァ…」

彼自身、自分の演奏のヘタクソぶりはちゃんと理解できている。それでも、夢を諦めたくなかった。

いつか、世界に情熱を送ることができるような一曲を届けたい。

それだけを願って頑張ってきたが、その世界も現実も残酷だった。どんなに想いを込めても、必死に作った歌でも、認めてはくれなかった。

そんなときだった。レオが目の前に現れ、スイッチを渡されたのは。

数日の間、琴座のゾディアーツで活動していき、今のカプリコーンにまで進化したのだ。

「無力なヤツ独りじゃ、夢は叶わねェ…」

だからこそ、この力を使っているのだ。だが、そのやり方は正しいとは思っていない。八木もそれくらいの判断はできていた。

「止めれるモンなら、止めてみろよ…宇月!」

彼は心のどこかで、宇月に倒される事を望んでいるのかもしれない。

 

放課後…。

ある土地に大きな穴が開いていた。

「こんなに掘って見つかるの?」「うへぇ…もう疲れちゃったよ、僕」「他にも探しましょう!」

NSマグフォン捜索チームだ。今、地面を掘っているのはシャルロット、紫苑、山田の3人。

「方角的には、ここで間違いないんだが…」

箒は礼から託されたスイッチカバンを開きながらあたりを見渡している。

「篠ノ之さぁん…手伝ってよぉ…」

ヘロヘロ状態の紫苑が穴の中から箒に呼びかける。

「あ、あぁ、すまない…。ん、そうだ」

ふと、ホルワンコフを取り出して、スコップスイッチをセットする。

「この子なら…。ここ掘れワンコ!」

そう言って、ホルワンコフを穴に放り投げると…。

「あれ…ホルワンコフ…」

ドドドドドドドドドドドド!

『わあああああああああああああああああああぁ!?』

突如、凄まじい勢いで穴を掘り進めて行き、その勢いでシャルロット達は穴の外に放り出された。

「いたた…」「こ、殺されるかと思った…」「すごいね、コズミックエナジーって…」

一通り掘り終わったホルワンコフは、箒の元へと戻ってきた。

「ありがとう、ワンコ。それで見つかった?」

その言葉にホルワンコフはションボリと頭を下げる。どうやら見つからなかったらしい。

「気にする事はない、また探せば良いんだ!さぁ次、行こう!」

一人で意気揚々と別の候補地へと向かう箒。

「箒って…元気だね」「いや…篠ノ野さん、何もしてない…」

3人は疲れきっていながらも、彼女についていった。

 

一夏はカプリコーンである八木を探していた。

学園の近くにいることは分かっているので、大きな学園周辺を探し回る事2時間…。

「やっと…見つけた…」「ん…?オマエ、フォーゼの仲間の…」

木に寄りかかってギターを抱えつつ座り込んでいる八木の姿を見つけた。

「スイッチ…捨てる気にはならないのか…?」

「残念。自分からは捨てないぜ」

カプリコーンスイッチを見せ付けて揺らす八木。挑発をしているようにも見える。

「あんた、なんでスイッチに手を出したりなんか…」

「夢を叶えるためだ。オレ一人の力じゃ、叶えられない夢…この力なら、叶えられるんだよ」

ただ、その表情は心のそこから思っているようには見えなかった。

「でも、それで夢をかなえても自分の力じゃない!」

「確かにな。だけどよ、それが正しくなくても、叶いそうにもない夢を掴めるチャンスがあるなら、縋るのが人間だろう?」

彼の言う事は理解できた。だからこそ、今までゾディアーツが生まれ続けたのだから。

それでも、一夏は否定したかった。

「だけど…それでも…!」

「まぁ、言いたいことは分かるぜ。だから…賭けをする。オマエが勝てばスイッチを捨ててやる」

そう宣言してカプリコーンスイッチを押して姿を変えた。

「さぁ!オレのライブが始まるぜ!この情熱的な曲、聞いて腰抜かすなよォ!?」

ギュイイイイイイイイイイィ!

「うぅっ…!?」

その音を聞いた瞬間、一夏の脳は麻痺したように思考が上手く働かなくなってきた。

膝を着いて耳を塞ぎつつも息が荒くなる。

「はぁっ…はぁっ…」

「賭けの内容はこうだぜ!オマエはオレの洗脳を受ける!フォーゼ達はオマエを上手く洗脳から目覚めさせられたらオマエの勝ちだ!」

徐々に意識が遠のいていく…。そして一夏は無表情で立ち上がった。

「おっしゃぁ!本格的に殴り込みだァ!」

 

その後、学園外から聞こえてくる音に宇月達が近付くと、カプリコーンがウルクをかき鳴らしている。

「イェェェィ!来たか、フォーゼ!」

「八木さん、あんた…ん、一夏?」

隣には一夏が無表情で立ち尽くしている。不意に右手首に手を当て、白式を展開して襲い掛かった。

「お、おい!?」「まさか…紫苑の言っていた催眠!?」

つまり一夏と戦わなければならない。仲間と戦うと言う最悪の展開になってしまった。

とにかく、フォーゼに変身しない事には何の解決も出来ない。早速、フォーゼドライバーを装着して赤いスイッチを起動させる。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引いて、フォーゼBSに変身した。

「はぁっ!一夏を元に戻すためには…」

洗脳主であるカプリコーンを倒すほかに思いつかない。だが、相手はホロスコープス。一筋縄でいくわけがない。慎重に戦っていくしかないだろう。

「セシリア、鈴音、ラウラ!一夏を頼む!」

<ELEKI-ON>

「分かりましたわ!」「一夏のバカ、元に戻りなさい!」「来いっ!」

3人に指示しながら、フォーゼESにステイツチェンジして、カプリコーンに攻撃を仕掛けていった。

 

「えぇい、離れろ!」「だって、昨日休んでたから~」

礼は押しかけてきた本音を引き剥がしながら、NSマグフォンの問題を解決に努めていた。

「マグフォンが割れなかった理由…全く分からん!」

頭を抱えて机に突っ伏した。

「う~ん…どっちも離れたくなかったからじゃないの?」

「あのな…そんな感情…感情?」

言いかけたところで、はっと思い出した。

以前、エレキスイッチの発動に宇月が使うときの気持ちの変化で、スイッチが上手く利用できた事に…。

「以前、スイッチに精神論が通ると言った。同じ事がマグフォンにも言えるとするならば…」

ある可能性を信じて、コンソールを指で叩く作業を再開する。

「もしかして、わたしの一言、役に立った?」

「あぁ。何気ない一言のようだったが、意外な落とし穴に気付かされた。感謝する」

礼は本音に向かって軽く笑い、再び画面に目を向けた。

「やった!」

 

マグフォン捜索チーム。

「ワンコ~!見つからないか~?」

箒が大声で、穴を掘っているホルワンコフに呼びかけ、残りのシャルロット、紫苑、山田の3人は体操座りで見守っている。

ホルワンコフの穴掘り作業の速さは凄まじく、3人はお役御免状態だ。

「最初からいらなかったよ、僕達」「そう…だね…」「またお役に立てなかった…」

居心地の悪さを感じつつも、箒とホルワンコフの姿を見続けている。

「まだ見つかりそうにもないね…」

紫苑が仰向けに寝転がると…。

ゴツッ…!

「いたっ!?」「どうしたの?」

どうやら、何かに頭をぶつけたらしい。

「なんか、石があったみた…」

頭をさすりながら、その方向を見ると…。

「ああああああああああああああああああああああああああああぁ!?」

「どうしたの、白石君!?」

紫苑の絶叫に驚いた山田が理由を聞くと、彼は立ち上がって、頭にぶつけた物体を見せ付ける。

「あったよ、マグフォン!」

「うそぉ!?」

これが本当の「怪我の功名」と言ったところか。紫苑の頭のタンコブの代わりにNSマグフォンを見つけることが出来た。

これで礼の再調整が済めば、フォーゼにも起死回生のチャンスがあるかもしれない。

「さっそく行きましょう、先生!」「紫苑、早く!」「僕、もうヘトヘトだって…」「重労働ですね…」

箒は山田を、シャルロットは紫苑の手を引っ張ってIS学園まで急いだ。

 

千冬、竜也、あゆは、ある件で学園の外に出ていた。

「何の用件だ?」

「実はホロスコープスの首領であり乙女座の使徒、ヴァルゴ・ゾディアーツのことです」

呼び出したのは竜也だ。理由はヴァルゴの件。

「まさか、私がそのヴァルゴだとでも…?」

「違います。正体についてヒントが欲しくて…」

あゆが申し訳なさそうに話し始めた。

「宇月くん達の話では、ヴァルゴは世界中に存在するISの機能停止が目的だと言っていたんです。ISを作ったのは、あなたの古い知り合いである篠ノ之束さん。だから…」

「つまり私の知る限りで、束に恨みを持っていた人物はいないかという事か?」

頷く2人を見て、千冬は大きく溜息をつく。

「ISを作り出した時点で、恨んでる人間なんか山ほどいる。誰か一人断定するなんて事は難しい」

「そうですか…」

どうやら手掛かりは掴めそうにもない。

「だが…恨んでいる人間は比較的、男性が多いのは見当がつく。ISによって男卑の世の中になったからな。男の政府要人などは特に…」

「ということは…」

ありえない話ではない。ヴァルゴは男の可能性もある。事実、竜也達の知る「フォーゼの世界」では、ヴァルゴは男性であったのだ。

「だが、乙女座が男なんて事は…」

「可能性はあります。おれ達はその線で調べてみますね」

そう言って、竜也とあゆは離れていった。

「ヴァルゴ…。ゾディアーツの首領…」

千冬自身も心配であった。そんな強大な存在が学園を脅かしているのだから。一刻も早く対策を練りたいところだが、学園の運営では遅々として進まない。

「私個人で動く他ないか…」

そう決意したとき…

 

「私の噂話か…千冬?」

 

空から声が聞こえ、紅い光と共にヴァルゴが現れた。

「貴様がヴァルゴ…!?」

「いかにも。私こそ、この世界の救世主たる女王だ…」

ロディアを地面に叩きつけ、威厳たる姿で立ち尽くすヴァルゴ。さすがの千冬も少し後ずさりをした。

「一体、何者だ…?」

「知っているはずだよ、千冬。私は間違いなく、君の知っている人間だ…」

無表情なヴァルゴの顔だったが、声は微かに笑っているように感じた。

知っている人間だというが、皆目、見当がつかない。ミスリードを狙っているのだろうか…。

「さて…私がここに現れた理由が分かるか?」

ホロスコープスの行動は主にスイッチを配って、生徒をゾディアーツに進化させることだ。事実、生徒のラウラ、夏樹、理雄がホロスコープスに覚醒したのだから。

ヴァルゴの手には、ゾディアーツスイッチが握られている。

「君に微かだが、星座の運命を感じる。君ほどの存在ならば、ホロスコープス…その中心であるサジタリウスに進化する可能性があるかもしれない…」

そう言いながら、スイッチを手渡そうと近付くが…。

バシッ…!

その手を払い除け、スイッチを弾き飛ばした。

「私は断じて、そんなモノに手を出すつもりはない。いや、お前も止めてやる」

「…残念だね。星の力の素晴らしさが理解できないとは…」

この状況に対しても、ヴァルゴは敵意を見せるような様子は無い。

「だが断言しておこう。君に私を止める事は出来ない。必ず十二使徒は覚醒し、私の目的は果たされる」

そう宣言して、ロディアを振るって姿を消した。

取り残された千冬は、顎に手を当てて考えている…。

「…私も奴の正体を探ってみよう」

 

「ロックンロォォォォル!」

ギイイイィンッ!

「うわあああああああぁっ!」

怪音波攻撃で、フォーゼESは吹き飛ばされた。さすがにホロスコープスであることもあり強い。

そしてセシリア達も、一夏は仲間であり友達。セシリアと鈴音は彼に好意を抱いているために、余計に攻撃が出来ない。

ザンッ!

「きゃあっ!」「うぅ…このぉ…!」

絶体絶命の危機。

「賭けはオレの勝ちだな…。勝った暁には、コイツらをオレのバックダンサーにするかぁ?」

そこへ…。

 

「マグフォン、見つかったぞ!」

 

泥だらけになったシャルロット、紫苑、山田を引き連れて、箒がNSマグフォンを掲げた。

「み、見つかったか!」

「だが…まだ礼に調整してもらわないことには…」

そう、礼でなければスイッチ調整は出来ない、宇月も出来るには出来るのだが、礼はステイツチェンジのスイッチの調整が唯一成功した人物であるからだ。

 

「心配はいらん」

 

ドガアアアアアアアアアアアアァン!

その声とともに、メテオが姿を現した。

「うおっ…メテオ!?コンニャロ、良いところで!」

「待っていたぞ、嫁!」

「もう良いって。フォーゼ!辻永礼から聞いた。マグフォンが割れなかった理由は、おまえの心に迷いがあるからだ!」

メテオが大きく呼びかける。

「迷い…?」

「スイッチは使用者の心を感じ取るモノが存在するようだ。特にステイツチェンジ系のスイッチはな。そのマグネットスイッチは、おまえの心の迷い…割り切れない感情があるために、分割が出来ないんだ。おまえがゾディアーツを倒す決意を持てるなら…使える!」

メテオはそう言って、箒を見る。意図を理解した彼女は、NSマグフォンを投げてフォーゼESに渡す。

「使え、宇月!」「おっと!」

それをキャッチしたフォーゼESはエレキスイッチをオフにして、NSマグフォンを構える。

「…おれは…」

脳裏には、未だ憎しみのこもった理雄の表情が浮かぶ。果たして、振り切れるか…。

「宇月…」

ふと、持っていたロケットスイッチスーパー1からゆりこの声が聞こえる。

「大丈夫だよ…。宇月は何も間違ってない。誰かが否定しても、わたしが信じる。だから迷わないで…」

「…サンキュー、ゆりこ。いつも助けてくれてるな、おまえ」

マスクの奥で軽く笑い、もう一度、NSマグフォンを握る両手に力を加える。

 

「分割っ!」

 

その瞬間、意図も簡単にマグフォンはNマグネットとSマグネットに分割できた。

「成功だ!」「やったぁ!」

仲間の声援を背に、2つのスイッチをソケットにセットする。

「セット!」

<N・MAGNET><S・MAGNET>

<N・S MAGNET-ON>

スイッチをオンにすると、辺りに磁石のようなオーラが現れ、フォーゼBSを包み込んだ。

それが消えたとき、フォーゼBSの身体は銀色に変化し、肩には大きなキャノン砲が装備されていた。

「いくぞ、マグネットステイツ!」

これが「仮面ライダーフォーゼマグネットステイツ」の誕生だ。

「銀色になったところで、なんだっていうんだよォ!?」

ギュイイイイイィ!!

再び、怪音波で攻撃を仕掛けるカプリコーン。だが…。

「おりゃあああああああああぁっ!」

ドドドドドドドドド!

マグネットキャノンから放たれる電磁力を利用したエネルギー弾がそれを凌いで、カプリコーンに攻撃する。

「グオオオオオオオオオオオォ!?」

意表をついた一撃に、カプリコーンは吹き飛ばされた。

「暫く大人しくしてろよ、一夏!」

バシュッ!ガキィ!

フォーゼMSは、磁力を纏ったエネルギーを一夏に送り、近くの金属片に貼り付けさせた。その磁力は凄まじく、一夏は必死にもがくが、身動きは取れない。

「コンニャロ…!来い、ダスタード!」

「ムゥゥゥウゥ!」

苛立ったカプリコーンの声と共に、ダスタードが複数現れた。

「ここは任せろ!ホォォォォ…アチャアアアアァッ!」

「よし、わたしも加勢するぞ!」「ボクも!」

メテオ、ラウラ、シャルロットがダスタード達の前に立ち塞がり、迎え撃った。

「チィッ!クソォ!」

ギャイイィ!ギュイイイイイイィ!

半ばヤケクソで怪音波を放ち続けるが、マグネットキャノンの前には、全てが無意味だった。

「トドメだ…八木さん、あんたを止める!」

レバーを引いて、マグネットキャノンを自立飛行式に切り替えて、Nマグネットスイッチのボタンを押す。

<LIMIT-BREAKE>

「喰らえ!ライダアァァァァァ…超電磁ボンバアァァァァァァァッ!」

ズドオオオオオオオォッ!

赤と青の光弾がカプリコーンに向かっていく。怪音波で防ごうとするも、全く効き目はなかった。

「ヘッ…オレの負けかよ…」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

「グアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!」

最後に負けを認めて、カプリコーンは爆発に巻き込まれた。

<LIMIT-BREAKE><OK>

「オオオオオオオオォ…アタタタタタタタタタタタァッ!」

ドガガガガガガガガガァッ!

メテオ達もダスタードを一掃した。

「あとはおまえ達に任せる。じゃあな」

そのままメテオは、その場を去っていった。

「うぅ…な、なにが…?」

「一夏さん!ひどいですわ!」「そうよ、あんなにボコボコにしてくれて!」

意識を取り戻した一夏は、セシリアと鈴音に非難の嵐を浴びせられた。

「まぁまぁ…一夏は操られていたんだから」「それに、元に戻れたから良かったよ」

シャルロットと紫苑がそれを何とかなだめようとしている。

「八木さん」

フォーゼMSは、人間の姿に戻った八木に近付いた。今度は後悔など持たない表情で…。

「やるじゃねぇか、宇月。それがオマエの本当の顔なんだな?」

「…あぁ!」

ボロボロになっても、八木はニッと笑っている。

「音楽じゃなかったけどよ…オマエ達に情熱的な「何か」は届けられたか?」

「…届いたっす!」

仮面ライダー部全員を見ながら答えた。誰もが喜びに満ちた表情をしている。

「完敗だな…カプリコーンスイッチも持ってけ。オレは情熱を届けられたから、それで良い。病院は自分で行くからな」

ブチッ…!

ギターの弦を自分で引きちぎり、カプリコーンスイッチをフォーゼMSに渡した。

「…アンタのおかげで、おれは元のフォーゼに戻れた。ありがとう!」

全員で手を振りながら、その場を離れた。

 

それから暫くして…。

「…ヴァルゴさんか」「フォーゼに負けたようだね」

ヴァルゴが八木の前に現れた。目的は一つ…失敗した部下の排除。

「敗北者が何処へ行くかは…理解できているね?」「おう、好きにしろ。オレの夢は叶った」

自身の末路を自覚しながらも、八木は悔いのない笑みを浮かべていた。

「さらばだ…カプリコーン」

少しだけ悲しそうな声でロディアを振るい、闇の時空を作り上げた。

ゴオォォォォォォ…!

 

「ダークネヴュラ」

 

ゾディアーツの生み出す負のコズミックエナジーを吸収して成長する、永遠の牢獄だ。

ゆっくりと八木の体が浮いていく…。

「宇月…オマエは良い奴だった。オマエじゃなきゃ、ここに行くはイヤだっただろうな」

目の前が少しずつ、暗くなっていった。

「夢…叶えさせてくれて、ありがとうな」

最後にそう言い残して…

 

 

 

八木はダークネヴュラに消えた。

 

 

 

同時刻…。

<LAST-ONE>

「アンタ…女の子なのに恐ろしいねェ…」

「フン…アンタもでしょ」

夏樹はある男と会っていた。着物に身を包み、帯には扇子が差されている。どうやら落語家のようだ。

芸名を「九番亭二式」と言う。

その手には、夏樹から渡されたゾディアーツスイッチが握られている。既にラストワンだ。

「んじゃ…許しを請うと掛けまして、アタシが進化するゾディアーツと解く」

「…なによ?」

笑いながら、二式はスイッチを押した。

「どちらも「堪忍(カニ)して」ってね」

その身体はみるみる黒い霧に包まれ…。

 

蟹座の使徒「キャンサー・ゾディアーツ」へと進化した…。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回!

                       落語…?

 

アタシはしがない落語家さ

 

                       蟹座の使徒だ…!

 

あいや~みなさん、可愛らしい!

 

                       口達者なやつめ…

 

 

 

 

 

 

「蟹・座・落・語」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 






キャスト


城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
八木鳴介=カプリコーン・ゾディアーツ
九番亭二式=キャンサー・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
カプリコーンは今回で出番終了です。少しは良い印象を与えられたでしょうか…?
ヴァルゴの正体にも少しずつ触れられます。正体判明は後半になるでしょうが(汗)。
そして次回のホロスコープスはキャンサーです!今は芸名だけですが、本名は超人機さんに考えていただきました。ちなみに九番亭というのは、私の作品内での登場したホロスコープスで9番目だからです。
次回もお楽しみに!




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第18話「蟹・座・落・語」

 

あの日以降、ストリートミュージシャンの噂はパッタリと止んだ。八木がダークネヴュラに送られたので当然である。ただ、その事実はIS学園内では夏樹しか知らない。

「八木さん…何処行ったんだろうな…」

「また、新しい夢を探してるんだろ」

心配している宇月に、一夏が安心させる一言を掛けた。

今日は千冬がいないので、山田がホームルームを担当している。

「皆さん、明日はこのクラス全員と、1年のクラス代表全員で落語を見に行くそうです!」

「落語…?」

彼女の報告にクラス全員、口が開いている。

「え、え~と…経緯はわたしも知らないんですが、日本の文化を学ぶ一環として…だそうです。昼からの授業を利用しますので、覚えておいてくださいね!」

 

放課後…。

「あ~授業がさっぱり分からん!」「コズミックエナジー分野は、専門的ですのにね…」

実は宇月、テストはまだだが、かなり危険な学力なのだ。コズミックエナジーの勉学に励みすぎた中学時代だったので、他の科目はさっぱりなのだ。ちなみに礼は要領が良いらしく、クラス内でも上の下程度だ。

「そういえば、クラス代表も明日は一緒なんだな…」

「たしか4組の代表は、日本の代表候補生だって…」

そう、1年で代表候補生はその少女が最後の一人だ。話では聞いたが、宇月達は全員、会ったことがない。

だが…。

「簪ちゃんのことかな~?」

本音がふと、声を漏らした。どうやら、彼女はその娘のことを知っているらしい。

「簪…?」

「更織簪ちゃん。わたしの幼馴染で、わたしはその娘の専属メイドだよ~」

「おまえ、ノロマの癖にメイドなんてやってたのか!?」

このメンバーの中で、礼が一番驚いていた。

「ノロマじゃないよぉ…」

 

それから、彼女の説明を聞いた限りをまとめてみると、こういうことになる。

布仏家は昔から、更織家に使えてきた家系であり、本音の姉と簪の姉も、似たような関係を築いているらしい。

しかも簪を除けば、本音を含めて全員、生徒会に所属しているとのことだ。

「結構すごい家柄なんだな、本音って。それに秀才揃い…?」

「えへへ…それほどでもないよぉ」

興味を持った仮面ライダー部一同。紫苑と本音も含めて、簪に会いに行く事にした。

 

その頃…。

ホロスコープス達は新たな使徒…キャンサーを歓迎していた。

「おめでとう、キャンサー。これで君も崇高なる十二使徒の一人だ」

「あいや~うれしいですねェ!アタシなんかが、こんな組織に入れるとは!」

明らかに場違いな雰囲気を醸し出すキャンサーだが、レオとヴァルゴは感じ取っていた。

この者の心には、深い闇を抱えている。

「アンタねぇ…ヴァルゴ様への礼儀はわきまえて…」

ピスケスの注意にも、おどけた様子で返すキャンサー。

「いやいや、申し訳ない!アタシの態度が分かる顔と掛けまして、童話の音楽隊とときます」

「…その心は?」

ヴァルゴが静かに問うと、キャンサーは何処からか取り出した扇子を開いてヴァルゴに向ける。

「どちらも…無礼面(ブレーメン)!お後が宜しいようで…」

「全く…。レオ様、どうしてこんな奴を選んだんですか…?」

「オレはただ、星の運命を感じた者にスイッチを渡しただけだ。性格など知らん」

レオの返事にピスケスは溜息をつくが、ヴァルゴはなんら気にしてはいない様子だ。

「構わないよ、キャンサー。居心地の良い姿でいるが良い。それよりも、君に頼みたい事がある」

「へぇ?なになに…?」

 

4組の教室の近くで、簪は見つかった。

「あ、簪ちゃん!」「本音ちゃん?」

手を振る本音に気付いて、簪は歩いてくる。一瞬、一夏を見て表情が曇ったが、すぐに柔らかな笑みに戻る。

「お友達を紹介したくて!」

そういいながら、宇月達をみる。

「あ…城茂宇月だ!よろしくな!」「織斑一夏、よろしく」「篠ノ之箒だ」

「セシリア・オルコット。イギリス代表候補生ですわ」「鳳鈴音。中国の代表候補よ」

「シャルロット・デュノアだよ。よろしくね」「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「…辻永礼」「えっと…白石紫苑です…」

一通り紹介が終わると、宇月を見た簪の目が輝いた。

「あ…城茂君って…あの仮面ライダーですよね!?」「え…あ、あぁ…一応…」

戸惑いながら答えると、簪は先ほどとは想像もつかないほど興奮した様子で宇月の手を握って、喋り始める。

「わたし、仮面ライダーのファンなんです!」

「そ…そうか…?」

「はい!メテオや龍騎もですが、フォーゼが一番好きです!」

なんと彼女、何処から仕入れたのかは不明だが、フォーゼ、メテオ、龍騎の名前まで知っているのだ。

「どうも照れるな…こんなにはっきり言われると…」

宇月は気分が少し良くなって、頭をさすり始めた。

「あら、結構楽しそうじゃない?」「あまり大騒ぎするのは、良くないと思いますが…」

そこに、3年と思わしき女子生徒が2人やってきた。

「お、お姉ちゃん…」「虚お姉ちゃん~!」

どうやら、この2人が本音と簪の姉らしい。

「あなた達が、仮面ライダー部ね?」

「知ってるんですか?」

彼女は仮面ライダー部のことも把握しているらしい。さすが生徒会といったところか。

「生徒会長なら当然よ。わたしは簪の姉の更織楯無。よろしく」

「わたしは本音の姉の布仏虚です」

さらっと自己紹介を終えた後、楯無は思い出したように言う。

「そうそう、わたしも明日は行くから。生徒会長の権限で」

「無茶苦茶…」

「そういうことだから。じゃあね」

そう言って、さっさと歩き去っていった。

 

その日の夜。

宇月と礼の部屋で、2人は話をしていた。

「礼…そろそろ、あいつらにメテオの正体を伝えても良いんじゃないのか?」

「…ダメだ」

宇月の提案に、礼は首を振る。

「あいつらが本気で、おれ達をサポートしてくれてるのは分かってるだろ。隠す理由なんて、今はないし…。なんでダメなんだよ?」

宇月はもう、仮面ライダー部のメンバーを信頼している。礼も以前よりは、物事を頼む事が多くなってきた。それにも関わらず彼が良しとしない理由を理解できないのだ。

「今、正体を教えたら…間違いなく、あいつらは失望する…。出来れば、これからも隠し続けていくつもりだ」

「…ラウラか?」

必死に思考や記憶をめぐらせ、ラウラとメテオの関係性の心配事を思い出した。あれが理由なのだろうか…。

「あいつもそうだ。ボーデヴィッヒは、メテオに恋心を抱いている。正体を知れば、ショックを受ける…」

「受けるか…?大丈夫だろ?」

兎に角、メテオの素顔を明かせるときは、まだ先の話のようだ…。

 

理雄の病室…。

「理雄君、お見舞いにきたよ」

「…懲りないな、ピスケス」

優しい笑みを浮かべて現れた夏樹に対して、少し微笑みながら迎える理雄。

夏樹は毎日、理雄の病室に足を運んでいる。

「もぉ、夏樹って呼んで!アタシといるときは、ホロスコープスは忘れて!じゃないと、スコーピオン様って呼ばないといけないもん!」

「…慣れるのに時間が掛かる。許してくれ」

頬を膨らませて文句を言う夏樹に、理雄は少し困ったように呟く。

「ふふ、少しずつで良いよ。いきなり変わってなんて言わない。じゃあ、今日は何のお話する?」

そのとき…。

「…理雄」

箒とシャルロットが見舞いに来た。実は仮面ライダー部の女子メンバーは毎日、代わる代わる理雄の見舞いに来ているのだ。

2人の姿を見た途端、理雄の表情は強い怒りを込めた表情に変わった。

夏樹も警戒する。

「貴様ら…」「何しに来たの?」

「えっと…お見舞い…かな?」

シャルロットが冷や汗を流しながらも笑うが、理雄はそっぽを向く。

「帰れ」

「だ…だが…」

箒が反論をしようとしたところ、夏樹が立ち上がって詰め寄る。

「帰ってよ!理雄君はもう、何もしない!」

「そんな…ちがうよ…」

2人が必死に弁解しようとした途端…。

 

「嘘を吐くな!!!!!」

 

理雄が強く叫ぶ。

「貴様らは偽善的な台詞を抜かしながら、オレの未来を奪った!それだけでも十分辛いのに、今度は夏樹まで奪う気か!?」

「だから、違う…!」

「オレは…何か得たらいけないのか…?ずっと…この病室で横になって、景色を眺める事しか許されないのか!?」

完全に気迫に負けた。箒とシャルロットはトボトボと病室を離れていった。

「…理雄君」

「すまない。あまり、こんな姿は見られたく…」

言いかけたところで…

 

夏樹が理雄の唇を自身の唇で塞いだ。

 

「嬉しい…。いつの間にか、アタシは貴方の大切なモノになったんだね…」

「…オレにはもう、オマエくらいしか残されてないんだ…」

お互い、顔を紅くしながら俯く。

暫くの沈黙の後、夏樹は顔を上げて微笑む。

「安心して!アタシは奪われたりしない!今度は、フォーゼ達の大切なモノを…アタシが奪ってみせる!」

 

次の日…。

とある劇場で落語の席が開かれた。

席は自由に座っていいとの事なので、仮面ライダー部のメンバーは固まって座る。

ここでは、やはり一夏は人気者。

「わたしがここに座るんだ!」「いいえ、ここはわたくしが!」「あたしに譲りなさいよ!」

凄まじい席の取り合いが始まっている。

「なんで、こんなに取り合うんだ?」

「人気なんだよ、一夏。それに引き換え、おれは…」

宇月は礼が隣にいるのだが、もう片方の隣席は空いている。なぜ、ここまで人気がないのか…。

シャルロットと紫苑も隣同士で座っている。

「落語を見るのって、初めてなんだぁ」「日本語を上手く使った芸だから、面白いと思うよ」

ラウラは本音の隣に座っている。

「日本の文化か…。そういえば、メテオは日本人なのか?」

結果的に…。

紫苑、シャルロット、鈴音、セシリア、一夏、箒、ラウラ、本音、礼、宇月という席順になった。

そして、紫苑の隣には…

「あら、隣なのね。仮面ライダー部のみんな」

楯無がいた。横には簪と虚もいる。

「し、城茂君のとなりが良いのに…」

実は簪、宇月の隣の席に座りたかったのだが、楯無がいる手前、そういうわけには行かなかったのだ。

 

まもなく、幕が開くと…

「皆さん始めまして!アタシは、しがない落語家の「九番亭弐式」と申します」

正座をした着物の男が頭をゆっくりと下げる。

そして、落語が始まった…。

 

30分ほどで幕は下りて、お開きとなった。

劇場から出て、今は外にいる。

意外と、仮面ライダー部のメンバーは笑っている。

「あはは…面白かったぁ…」「日本では、こんなにもユーモアある文化があったんですね」

逆に紫苑と礼にはウケが良くなかったらしい。

「う~ん…」「ふん、つまらん」

そして…。

「だっははははははははは!」

下品な笑い方をしているのは、宇月。ゲラゲラと笑い転げている。

「よっぽど、面白かったのね…」

その笑い方は、鈴音が引くほどだ。

そこへ…。

「皆さん、来てくれて嬉しいよ!」

先ほどと同じ格好で、弐式がやってきた。

「あ、九番亭さん!」「落語、面白かったですわ!」

「ホントに?いやぁ、可愛らしい女の子に褒められると、アタシも男の端くれ、照れちゃうねぇ!」

扇子を頭にぽんと置いて、へらへらと笑う。

「可愛らしい皆さんにはアタシの本名、教えちゃおう。居可弐式ってんだ。変わってるでしょ?そうそう。アタシもね、皆さんに用があってね…」

「なんだ…?」

ラウラが首を傾げて聞くと…弐式は薄気味悪い薄ら笑いを浮かべて…懐に手を入れた。

「乙女座の姐さんからの依頼で…ISの代表候補生や専用機持ち達を捕獲して欲しいって。そこの黒髪の女の子…篠ノ之ちゃんと、元ジェミニのボーデヴィッヒさん、そのお2人さんを除いてね」

懐から出て右手にあったのは…ホロスコープススイッチだ。

 

それを押して、キャンサーに変身する。

 

「な…蟹座の使徒!?」

「ご明察!しがない落語家は仮の姿。魂を司る蟹座の使徒「キャンサー・ゾディアーツ」が真の姿ってね!」

キャンサーが右手を挙げると、ダスタードが現れて一夏、セシリア、鈴音、シャルロット、本音、簪を捕まえた。

「なんだと!?くそっ!」「は…放しなさい!」「ちょっと!何処触ってんの!?」

「やめてよ!なんのつもり!?」「うわぁ…捕まったぁ~」「た…助けて…!」

ISを起動させられないように、手を強く握り締めているため、脱出は不可能だ。

「シャル、みんな!?」

「いやいや、申し訳ない…。ヴァルゴ姐さんの話だとね、ISに優れた子はホロスコープスに覚醒する可能性、高いんだってさ!…知ってる限りの例外はアタシと、アリエスの礼君と、カプリコーンの八木君くらいなもんだ。ナハハハハハハハハ!」

手を振りながらおかしそうに言うキャンサーに対して、残された宇月、箒、礼、ラウラは怒り心頭だ。

いつもは戦闘に参加しない箒と礼も前に歩み出る。それぞれ、竹刀とアリエススイッチをもって。

「あんた…何がおかしいんだ!?」「今回ばかりは、わたしも戦う!」

「口達者め…その舌、引きちぎってやる!」「許さん…すぐに叩き潰す!」

宇月はフォーゼドライバーを装備して赤いスイッチを起動させ、ラウラは自身のISであるシュヴァルツェア・レーゲンを展開する。

<3><2><1>

「変身っ!」

宇月はフォーゼBSに変身し、礼はアリエスへと変化した。

「はぁっ!そいつらを放せ、キャンサー!」

「おぉ…おっそろしい!こりゃぁ、用心しないとねぇ…ピスケスちゃん!」

その言葉と共に、ピスケススイッチを持った夏樹が現れ、すぐさまピスケスへと姿を変えた。

「ふざけてないで行くわよ。コイツ等…一人残らず叩きのめすから!」

「こ、こっちも恐ろしい…いやぁ、女の争いはヤダね。んじゃ、男同士で戦いますか!」

キャンサーの狙いはフォーゼBSとアリエスのようだが…。

「まって!アタシの目的はフォーゼとメテオの破壊よ。逆にしなさい」

「はいはい…」

その役はピスケスのようだ。改めて、キャンサーは箒とラウラを狙う。

<ELEKI-ON>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」

フォーゼESにステイツチェンジし、ピスケスにビリーザロッドで斬りかかるが…。

「対策は練ってるっての!」

ガキィ!

それを避けて槍でビリーザロッドを絡めとり、手から離して投げる。

「あっ…!?このぉっ!」

「ここはおれに任せろ。ふんっ!」

アリエスがコッペリウスで生態活動を鈍らせる「眠りのオーラ」をピスケスに浴びせるが…。

「そんな攻撃、効くもんですか!」

液状化して距離を置く事でオーラを避けて、液状化し伸ばした槍でアリエスを突き刺す。

ドガアアァ!

「ぬぅっ…!」

アリエスはもともと、戦闘には向いていないホロスコープス。ピスケスは苦手な相手なのだ。

一方、箒とラウラ対キャンサー。

「喰らえ!」

シャヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードでキャンサーを拘束しようとするが…。

「ハサミ相手にヒモじゃ、相性は悪いよ。ヒモだけに、締め(シメ)には向かない」

それらを全て、右手のハサミで切り裂く。

「これでは…!」

「はああああああぁっ!」

続いて箒が竹刀で斬りかかるが、キャンサーは避けるどころか怯えるようなしぐさをして…。

「アンタが持ってる武器と掛けまして、怯えて許しを請うと掛けます。その心は…竹刀でぇ~(しないで)」

バキィ!

竹刀は全く効き目がなく、逆に折れてしまう。

「くそ…やはり、戦力にはならないか…!?」

「アタシ達、ホロスコープスをナメてもらっちゃあ困るよ。このキャンサーの特徴は、凄まじい切断力と防御力。つまりだ、お嬢さん達には不向きな相手なの。おわかり?」

くるくると回りながら、おかしそうに言うキャンサー。まるで馬鹿にされている。

「おおおおおおおおおおおぉっ!」「ラウラ!?」

完全に頭にきたラウラは無理矢理突っ込んだ。

「あらあら…それでも、元ジェミニ?とんだ御笑い種だよ。ヒョイ、ヒョイと」

彼女の攻撃を踊りながら避け、見下すような態度で言う。

「その減らず口、いつまで叩ける!?」

「いつまでも叩くよ。アタシも落語家。減らず口じゃないと、飯は喰えないからね。あ…でも、キャンサーには口がない。ボーデヴィッヒのボーちゃん、面白いねェ!」

「きさまああああああああぁ!」

頭に血が昇り、攻撃に乱れが見えてきた。それをキャンサーは見逃さない。

「見えた」

「なに!?」

ズバァ!

「ぐあああああああああああぁっ!?」

シュヴァルツェア・レーゲンの部分を強く切り裂かれ、吹き飛ばされたラウラ。

地面に叩きつけられて、意識を失った。

フザケた態度を取っていたのは、相手の心を乱すためだったのだ。その作戦に上手くハマッたラウラが心を乱した瞬間、一気に攻撃をしたのだ。

「武士の情けだ、身体は斬らないであげたよ。でも…罰ゲームは必要だね!」

そう言って、キャンサーは左手をくるりと回す。すると、ラウラの胸から光の輪のようなモノが出てきてキャンサーの左手に収まった。丁寧に「らうら」と書かれた札が貼り付けてある。

「な…なんだ今のは!?」

「ボーさんはアタシに負けたよ、ピスケスのピーちゃん。退こうか」

「その呼び方はやめて!」

ドガアアァ!

「ぐあああぁっ!」「うおあああぁっ!?」

フォーゼESとアリエスを手玉にとっていたピスケスは、キャンサーの戦いが終わるのを見た瞬間、2人を吹き飛ばして距離を置き、手元から取り落としていたカプリコーンスイッチを回収して、去ろうとする…。

そこへ…。

 

「随分、派手にやってるわね」

 

楯無と虚が現れる。楯無の様子は穏やかではない。

「更織楯無…!」「お…誰?」

ピスケスは彼女を知っているが、キャンサーは知らない。気になって聞くと…。

「裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の17代目当主。生徒会長でIS学園最強の女よ。生徒では唯一のIS現役代表…。アタシ達位のホロスコープス相手なら互角かもね」

「何…!?」

ふと、キャンサーの様子が変わった。先ほどのおどけた様子から、急に静かな雰囲気に変わる。

「先に行け、ピスケスちゃん。アタシはこの娘と一戦、交えたい」

「…どうなっても知らないわよ」

ピスケスは一夏達を連れて、姿を消した。

「さぁて…IS学園最強の力。見せてくれるよね?」

「さっき言ったとおり、後悔するわよ。弐式さん」

楯無も自身の専用IS「ミステリアス・レイディ」を展開し、戦闘形態に移る。

「よっしゃ!生徒会長さん、おれも…」

「黙って見てなさい、仮面ライダー」

フォーゼESが共闘を申し出るも、静かに言い放って断る。

静かににらみ合い…。

「はっ!」「オラアァッ!」

同時に動き出した。

「お、お嬢様!」

虚があせったように叫ぶ。

キャンサーがハサミで切り裂こうとするも…。

バシャアァ!

彼女の周りを水のような防御壁が守っており、攻撃は当たらない。

「どうしたの?落語家なら、ふざけた事でも言うと思ったんだけど?」

「…生憎、ネタ切れでね!」

再び、攻撃するが、全く当たらない。

「今度はこっちの番!」

ズバシャアアァ!

楯無は蛇腹剣「ラスティー・ネイル」でキャンサーに高圧水流で攻撃した。

吹き飛ばされるも、キャンサーは平気な様子である。

「アタシも防御には自身があってね。そんな水じゃ、アタシを流す事はできないよ」

ピスケスの言うとおりだ。2人は完全に互角である。どちらも一歩も譲っていない。

「強ぇ…」「本当にホロスコープス並の実力なのか…」

フォーゼBSや箒はその強さに驚愕している。

「…次に会ったときは、どんなカタチで会うか楽しみだ」

キャンサーは捨て台詞のような言葉を吐いて去っていた。

去り行く直前に…

「あの女…まさか…」

こう呟いて…。

 

千冬は、自分の知っている範囲でヴァルゴの正体を探っていた。

「何かあるはずだ…なにか…」

だが…全く手がかりがつかめない…。

「何がヒントになってるんだ…?」

そのとき、携帯から着信音が鳴り響く。

「はい…」

電話越しには、明るい声が響いた。

「ちーちゃん、お困りかなぁ?」

「お、お前は…!?」

 

辺りが落ち着いて…。

宇月、箒、礼、ラウラ、紫苑、楯無、虚の7人は、一堂に集まって、一連の事を話し合っている。

「どうしよう…シャルやみんなが…」

一人でオロオロしているのは紫苑。あの状況下で何もしていないのは紫苑と虚だけだ。

もっとも、虚は現れたときに自体が収束し始めている上に戦闘要員ではないが…。

「恐れていた事態だな。あの中で誰かがホロスコープスへ強制的に覚醒させられるかもしれない…」

礼は眉間に指を当てて俯いていた。

「あいつ等が集まっている場所さえ分かれば…」

箒はホロスコープス達が集う場所を探す事ができれば、一夏達を救いにいけるかもしれないと思ったが、それは礼ですら知らない限り、困難だろう。

「こんなときに限って、嫁はなにをしているんだ…!」

ラウラは腕を組んで立腹している。この状況で、実はメテオが現れなかったのだ。

「実は、メテオ…」「やめろ宇月!」

見かねた宇月がメテオの真実を言おうとするが、礼に止められる。

「ヤツは戦えなかった。この前、メテオドライバーが限界寸前になるまで戦っただろう」

そう、メテオドライバーを酷使した所為で、まともに戦えないのだ。

「どうしましょう…このままでは…」

「次の襲撃ね。またあの弐式さんが来るはず」

虚が困り果てているとき、楯無がサラリと答えを言う。

確証が得られているようだが、何故だろうか。気になった宇月が聞く。

「分かるんすか?」

「弐式さんはわたし達、更織家に恨みを抱いてるの。裏工作の関係で、妻や子供に見捨てられてるから…またわたしを狙ってくるはず」

「じゃあ…」

囮になるということだ。正確にはキャンサーをおびき寄せる餌を演じる予定らしい。

だが…理由はどうであれ…。

「危険っすよ!ホロスコープスでもキャンサー以上の者がまだいる!レオやリブラ、それにヴァルゴ…。こいつらが一緒に襲撃したら…!」

「でもね、このままだと一夏君達が怪人になるわよ。いいの?」

「そ…それは…!」

確かに、仲間がゾディアーツ化するのはなんとしてでも防ぎたい。

「大丈夫。弐式さんと互角くらいなら、何とかなるって。生徒会長を信じなさい!」

「…すんません、よろしくお願いします!」

宇月は、楯無に頭を下げる。

「さぁ、仮面ライダー部の巻き返しを見せるわよ!」

 

そして数時間後…。

レオの目の前に、一夏達が拘束されている。

「ヴァルゴ様は、貴様等へ直々に顔を見せることすら問題があってな。オレが代わりを務める」

一夏はレオに向かって、恐れずに噛み付くように言う。

「おれ達をホロスコープスにするなんて無理だ!おれ達は絶対にスイッチを押さない!」

彼をじっと見たレオはゆっくりと近付き…。

ガッ!

「ぐぅっ…!」

首を締め上げて持ち上げる。

「一夏さんっ!?」「このライオン!一夏を放せぇ!」「やめて!一夏が死んじゃう!」

セシリア、鈴音、シャルロットが必死に呼びかけるも、身体を拘束されているために抵抗は敵わない。

「安心しろ、殺しはしない。そして織斑一夏…。貴様の意思は関係ない。強制的にスイッチを押してもらうだけだ」

「がはっ…!お、押さないぜ…絶対に!」

意識は朦朧としているはずだが、その瞳の意思はさらに強さを増している。

「オレも…以前は、そんな目をしていた」

「な…なに…?」

ゆっくりと一夏を下ろして、彼等を見下ろしながら話す。

「ホロスコープスに覚醒するのは…心に巨大な闇を抱えている者だ。辻永礼は世界への疑問、ラウラ・ボーデヴィッヒは脆くなっていた存在の追及、裾迫理雄は自身の喪失への怒りや悲しみ、尾坂夏樹は他者から向けられる愛情の渇望、八木鳴介は叶わない夢への強い欲望、居可弐式は失ったものの奪還…。オレやリブラ、ヴァルゴ様もそうだ。全員が大きな闇を抱えている」

そう言いながら、ゾディアーツスイッチを取り出す。

「オマエ達は…どんな闇を抱えている?」

彼の目はセシリアを捉え、ゆっくりと近づく…。

「あ…あぁ…」

レオからにじみ出る凄まじい威圧感と恐怖が、セシリアの表情を歪ませる。

だが…。

ガシャッ…

「え…?」

スイッチを目の前で落とした。

「…オマエはダメだな。スイッチやオレに対して、恐怖心を持っている。闇も大きくない」

次に選んだのは…鈴音。

「やめて!あっちいってよ!」

「コイツも候補ではないか…。ゾディアーツに嫌悪感を示している」

さらに、シャルロットを見るが…。

「闇そのものを感じないな。…抱えるに足る過去を持っているのに」

「それって…まさか理雄がボクの秘密を知ってたのは…!」

「ホロスコープスの情報網は世界に及ぶ」

どうやら、彼女もホロスコープスへの可能性を持っていないらしい。そして以前、理雄がシャルロットの秘密を知っていたのは、ホロスコープスの情報から得たものだったらしい。

次は本音。

「うわあぁ…大きな口のライオンさんだ…」

驚いているのか怯えているのか分からないが、彼女からも闇を感じなかったらしい。

無言で次の候補に目を向けた。

「ひっ…!?」

「更織簪…姉への憤りを感じている…。自身が代表候補であるにも関わらず、織斑一夏のほうが先に専用機を作られたことへの不満…」

「簪…?」

一夏が驚いた様子で、簪をみる。

「そうです…。わたしは…悔しかったんです…」

「それなら、みんなで作ればいいじゃないか!おれも手伝う!」

一夏が叫ぶ。

「一夏…?」

「いや…おれだけじゃ頼りないかもしれないけどさ…。セシリアはISに物凄く詳しいし、礼やシャルロットも器用だ!宇月も教えるのは上手いぞ!」

彼女はいつの間にか、支えてくれる人々に囲まれている。なぜだか、心の中にあった氷が解けていくような感覚を感じた。

「だから…」

ドガァッ!

「がっ…!?」

「一夏!?」

言い終わる前に、レオが一夏の頭を抱えて地面に叩きつけた。

「そこまでだ。せっかく見つけた闇を拭おうとするな。貴様も外れだな、闇どころか光を感じる」

「あんた、許さないわよ!絶対に!」

鈴音が顔を真っ赤にして怒鳴るが…。

「グウゥゥ…!!!」

唸るような声を出しながら、レオは彼女を睨みつける。

その瞬間…。

「え…あぁ…?」

自分でも理解できないほどの強い悪寒に襲われる。身体中の震えが止まらなくなり、沢山の涙を流し始めた。

「あぁ…うぅ…」

「その程度の精神で、オレに歯向かえると思っていたのか?」

レオは鈴音の肩に軽く手を置いて、力を入れずに押す。彼女の身体は意図も簡単に倒れた。

「さぁ…星に願いを…」

簪の目の前に、スイッチを突きつけられる…。

 

そして…。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                         アンタ達…捨てられるってわかる?

 

おれだって、捨てられた…でも頑張れた!

 

                          アタシは頑張れなかったよ

 

仮面ライダー部!意地を見せなさいよ!

 

                          なんで、違うのかよおおおおおおおぉ!?

 

おれ達だって…学園を守る事ができるんだ!

 

 

 

 

第19話「立・場・相・違」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
布仏虚
更織楯無

織斑千冬
山田真耶
???

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
居可弐式=キャンサー・ゾディアーツ
裾迫理雄
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
キャンサーが意外と目立たなかった…(汗)。
今回、登場させましたIS小説内のみのキャラクター。実は読んだことないので、こんな口調であってるか不安です…。
レオの扱いが良く分からなくなってきました。こんな静かな雰囲気じゃなかったんですが…ドラゴンボールのブロリーをモチーフにしたので…。まぁ戦闘時には…。
次回はキャンサーと決戦です!意外な結末を辿りますよ、お楽しみに!


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第19話「立・場・相・違」

宇月と礼の部屋で、残された仮面ライダー部のメンバーである、箒、ラウラ、山田が集められる。

さらに楯無と虚もそこにやってきていた。

山田は教師側からの情報を宇月達に伝える。

「今、生徒の誘拐事件として取り扱ってるんだけど…やっぱり詳細はつかめそうにないですね…」

なにせ、相手はホロスコープスだ。正体もなにも分からない。

「ラウラと礼は、ヴァルゴに会った事があるんだろう?何処で…」

箒がふと思い出したことを聞いてみる。この2人はアリエスと元ジェミニであり、ヴァルゴとも会った過去がある。その場所を知れば…。

「いや…ヴァルゴはわたし達を空間転移で送っていた。明確な場所は分からない…」

「おれもそうだ。奴は何処までも自分に通じる情報を断ち切っていた。仲間のなかで知っているのは…おそらくレオやリブラ、そして…」

だがラウラと礼も、それを知るには至っていなかった。

しかし、一つだけ…手がかりがあった。

「あ…理雄だ!理雄なら知っているかもしれないぞ!」

「理雄君って…最近、自主退学した裾迫理雄君?」

「実は…彼もホロスコープスで、しかも古参の1人なんです」

そう、理雄はスコーピオンとしてヴァルゴから幾分か信頼を寄せられており、ラウラと礼よりも詳細な情報を知っているかもしれない。

問題は…。

「ただ…あいつはおれを恨んでるんです。おれの所為で、退学したんです…」

宇月は、楯無と虚に理雄の真実を話した。ゾディアーツになることで身体が動いていたこと、そしてその力を失ったために動けなくなってしまった事を…。

「そうだんたんですか…城茂君も裾迫君も…辛い思いをしたんですね」

「おれは良いです。でも理雄は希望を失ってるんです…」

吹っ切れてはいるが、理雄に対する後悔が拭えたわけではない。現にまだ、彼は宇月達を憎んでいるのだから。

「じゃあ、今から和解しに行きましょう」

「は?」

楯無はそれに対して、なんの問題もないように言う。

「い、いや…彼はわたし達の話を聞こうとは…」

「だからって、放っておいても和解は出来ないでしょ?だから、今から行くの」

さも当たり前のような様子の楯無。一同は唖然としている。

だが、彼女の言う事は正しい。どちらかが一歩踏み出さなければ、何も変わらないのだ。

「なにしろ、簪や本音ちゃんのこともあるから。わたしも協力させてもらうわ」

「ありがとうございます!」

一夏達の捜索の前に、理雄との和解から始める事になった。

 

同時刻…。

レオにスイッチを突きつけられた簪。

「星に願いを…」

簪は俯いて悩んでいる。

このスイッチを手にすれば、自分のもつ柵や苦悩から解き放たれるかもしれない。

だが…。

「やめて!」

シャルロットがそこで、大きく叫ぶ。

「これ以上、ボク達の友達をゾディアーツにしないで!どうして、そっとさせてくれないの!?」

その言葉を聞いたレオは彼女のほうを向き、少しずつ近付く。

シャルロットはレオに攻撃されると思い、少し目を閉じて怯えるように顔を背ける。

「…どっちが狂ってると思う?」

「え…?」

だが、彼が投げかけてきたのは質問だった。

「ISは兵器だ。それを高校生にスポーツのように学ばせている。それに対して、我々ホロスコープスは、人間の更なる進化のために活動している。どちらが合理的で、どちらがおかしいのか、考えろ」

「それは…。でも、ゾディアーツだって人を傷つけてるじゃないか!」

「生物は進化のために他の生き物を犠牲にしてきた。今回もそうだ」

なんとか反論したが、レオの言葉を覆すには至らない。

「もう良いか?コイツの闇を目覚めさせる」

そう言ってシャルロットから目を逸らし、再び簪に近づく。

しかし…。

「押さない…」

「なに…?」

簪は俯きながらもはっきりと言った。

「押さない!わたしはスイッチを押さない!」

「貴様達の意思は関係ないと言った筈だ」

「抗う!わたしにだって、支えてくれる人がいるって分かったから!」

簪はレオにも怯まずに言い放つ。

先ほどまでならば、押していたかもしれない。だが、一夏達が救ってくれた。一人ではないと教えてくれた。短い間だったが、彼等を信じてみたいと思った。

「…この短時間で、闇を消すとは…」

彼女の様子に、レオも少しながら驚いていた。

「…チッ、貴様等にホロスコープスの可能性を見出そうとしたのは失敗だったな」

そう言うと、物陰からリブラが現れた。

「君等に価値はない。もう行きなさい」

「お、おまちなさい!」

そしてリブラはディケを振るって、一夏達を元の場所まで転移させた。

全員が消えた後、レオとリブラが向かい合う。

「どうやら、フォーゼの支援者の中にホロスコープスの可能性がある者は、見出せなかったようだね」

「確定ではないがな。ラプラスの瞳があるホロスコープスが覚醒すれば、見分けられるが…おそらく、ISの適性の高さとは関連性はないようだ」

レオやヴァルゴも星座の運命を少しだけ感じるだけであり、ハッキリと区別できるわけではなく、現段階で星座の運命を見分ける「ラプラスの瞳」を持つホロスコープスはいない。

おそらくは超新星であると考えられるが、覚醒するものが誰かは分からない。

「まぁ、時間が限られているわけではない。焦らずに見つけよう」

残りの未覚醒ホロスコープスは3人。

アクエリアス、タウラス…そしてサジタリウス。

近いうちに見つかるかもしれない…。

 

理雄の病室…。

「夏樹は来ないか…」

寂しそうに窓の外を見つめていた理雄。何も出来ない彼にとって、彼女と話をする事が何よりも楽しく、自分の現状を忘れさせてくれる。

コンコン…。

ノックがする。

「どうぞ…」

理雄は夏樹が来る事を期待し、少し微笑みながら扉を見つめる。

だが、そこに現れたのは…。

「…貴様等か」

宇月、箒、ラウラ、楯無、虚の7人だった。礼はここに来る事を拒絶し、紫苑はシャルロットを探すと言う置手紙を残して姿を消していた。

宇月が強い意志をこめた瞳で言う。

「理雄。今日はおまえと和解するために来た!」

「帰れ」

「帰らないぞ!ちゃんと話し合って、分かり合うまではな!」

いつもなら、理雄が一度でも怒鳴り声を上げれば帰っていたが、今回は絶対に帰るつもりはない。

山田が尋ねた。

「裾迫君…。どうしてホロスコープスになったりなんか…」

「そうすることで、二度と動かなかったこの身体が、動けるようになった。その奇跡を与えてくれたヴァルゴ様に尽くしたかっただけだ」

次に虚が理雄の顔を見ながら言う。

「裾迫君。ホロスコープスに入った経緯は分かった。でも、悪事を働く言い訳にはならないわ」

「悪事だろうが何だろうが関係ない。そこにヴァルゴ様の意思があったからこそ、オレはそれに従っただけだ」

今は従う事すら出来ないがな…と理雄は付け加えた。

「でも、そこに理雄の意志はあったのか?」

「オレの意志はヴァルゴ様の意志と同じだ」

箒の問いにも、理雄は何の疑問も持たずに答える。

その様子を見て、楯無が新たに聞く。

「それならヴァルゴを抜きにして、あなたはどうありたかったの?」

「…そんなことを、貴様等に喋ると思ってるのか?」

窓を見つめなおして、理雄は嘲笑する。

「そう。あなたが喋られない在り方ということは…やっぱり、ちゃんとした生活がしたかったんじゃないの?」

楯無の言葉は理雄の意中を捕らえていた。振り向かずに無言になった。

「図星ね。あなたはヴァルゴに心酔していながら、心の何処かで罪悪感を感じていた。でも立場上、逃げる事はできなかったってところかしら」

「…どうすれば良かったんだよ」

理雄は小さい声で呟く。そして振り返った顔には大粒の涙がボロボロと流れていた。

「オレは取り戻しちゃいけなかったのかよ!?オレが取り戻した生活と身体のために、どんな悪事にも手を染めた!それが許されないなら…オレは横たわる事しか許されないのかよ!?」

 

「甘ったれてんじゃねぇよ!」

 

宇月は理雄の胸倉を掴んで叫ぶ。

「たしかに、理雄の苦しみは計り知れないかもしれない。でもテメェだけが、悲劇の主人公じゃない!」

一同が唖然としている。少しして手を離して、宇月は落ち着いた様子で言う。

「怒鳴ったりして悪かった。楯無先輩や織斑先生から、おまえの昔のことを聞いた。本当に辛かったと思う。でも、今は誰か傍にいるだろ?」

そう言って、理雄の脳裏に浮かんだのは…。

「夏樹…夏樹がいる…」

自分のことを大切に思ってくれる唯一の人。彼女に救われた。

だが…彼女でさえもホロスコープスの一人であり、ピスケスなのだ。

だからこそ…。

「頼む…理雄。おれ達は夏樹も救いたい。ホロスコープスの闇から救って、おまえのようなことにならない為に…。だから、力を貸してくれ」

少しの間があったが…。

「…信じていいんだな?オレから、何も奪わないよな?」

「奪わない。いや、色んなものを与えたい。信じてくれ」

宇月が微笑んで、理雄の動かない手を取って握る。

少しの間があって…。

「ヴァルゴ様は織斑達に顔を見せてはいない筈だ。おそらく、レオかリブラ様が彼等を選別しているはず。…彼等が集まる場所は…IS学園近辺である箇所だ」

そう言って、棚に目をやる。ラウラがそれを開くと、数箇所の印がある地図があった。

「オレが分かるのはこれくらいだ…」

「ありがとう理雄。約束は守るからな!」

 

一夏達は急いで宇月達の元へ走っていた。大事ではないが一夏は顔に怪我を負っている。

「とにかく、取り返しがつかないところまで行かなくてよかった!」

セシリアと鈴音が一夏の両手を担いで向かうが…。

「ところがどっこい、取り返しのつかないことになるんだね~」

目の前に弐式が現れた。

「貴方は、蟹座の弐式さん!?」

「また会ったね、お嬢さん方とモテモテな男の子!いやぁ、両手に花…と言うか花束?羨ましいねぇ!」

今ならISが使える。セシリア、鈴音、シャルロットはそれぞれのISを展開する。

「一夏は傷つけませんわ!」「せめて、守るくらいはやってやるわよ!」

一夏は簪と本音に担がれて離れる。

彼女の動きを見ながら、弐式はスイッチを押してキャンサーに変化する。

「ナハハハハハハハ!専用機の複数とは言え、IS如きが何か出来ると思ってんの?」

そう言って、ラウラから抜き取った輪を取り出す。

「これ魂なの。アタシのハサミでちょん切ると…お陀仏だ。戻すには、アタシを心の底から笑わせないといけない」

「そんな…やめて!」

「デュノア社のご令嬢さんの頼みかぁ~…どうしよっかなぁ~…」

ハサミで今にも切断しそうな勢いだが、寸前で止めている。

ふと、何かを思いついたように、キャンサーは魂の輪を仕舞う。

「じゃあ、特別サービス。アタシを5分以内に地面へ跪かせたら…ボーさんの魂、返してあげてもいいよ?…出来るモンならね」

「やってあげますわ!」「後悔しないでよ、蟹怪人!」「絶対に取り返して見せるよ!」

先に動いたのは鈴音だ。龍砲でキャンサーを狙うが…。

ドガアアアアアアアァ!

「うっひょぉ~危ない…こりゃ、一撃でも喰らえばマズイね。…喰らえばの話だけれども」

「動きが読まれてる…!?」

彼は踊るように衝撃波を避ける。

次にシャルロットとセシリアが攻撃を放った。

「はああああぁっ!」「やああああぁっ!」

ドゴオオオオオオオォ!ダダダダダダダダダダダダダダ!

「おっととととととと!危ない危ない!ちょ~っとハンデが優しすぎたかな?」

「全て避けてる…」

凄まじい攻撃の嵐だったが、どの攻撃も遊んでいるかのような動きで避けられている。

このままでは、埒が明かない。

「3人同時攻撃で行きますわよ!」「オッケー!」「うん!」

3人は、自身の持つ最大の攻撃をキャンサーに向ける。

そのとき…。

「見えた」

キャンサーがボソリと呟く。その声が聞こえなかったセシリア達は、一斉攻撃を放った。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

爆炎で見えなくなるが…。

「ウオオオオオオオオオオオオォッ!」

その中からキャンサーが現れ、一気に間合いを詰める。

「くっ…!?」「はやっ!?」「距離が…!」

ズバアアアアアァッ!

「「「きゃああああぁっ!」」」

凄まじい勢いで斬りつけられて、地面を転がる3人。

「悪い悪い。今回も身体は無傷な分、許してね。落語に必要なのは、ネバリと根性、そして観察力なのよ~!」

そう、彼は避けながらセシリア達の動きを観察して弱点や攻略法などを探していた。

それが分かった途端、攻撃に移るのだ。

「あ~ぁ。ぜぇんぜん、ダメだったね~!んじゃ、罰ゲーム!」

キャンサーが左手を動かして、彼女達の身体から魂の輪を抜く。

「まずいですわ…!」

「ボーさんに続いて…セシリア・オルコットのセッちゃん、鳳鈴音のスズちゃん、シャルロット・デュノアのシャルっつぁんの魂をいただきだ」

「その呼び方、どうにかならないのかな…?」「ふざけないでよ…!」

相変わらずヘラヘラと笑うキャンサーにシャルロットは呆れ、鈴音は怒るが…。

「ふざけますよ。アタシはね…ふざけるのが自然体なの!でも、内に秘める腹黒さは…天下一品だ。ついでに!」

そして、簪と本音の魂まで引き抜く。

「わわ…投げ輪が取れた…」「くっ…!」

右手のハサミで全員の魂を切断しようとしたそのとき…。

バシャアアアアアァッ!

「来たな…!」

高圧水流が何処からか放たれ、キャンサーはそれを避ける。

そこには…。

「みんな、無事か!?」「また会ったわね、弐式さん」

宇月達が居た。水流は楯無のミステリアス・レイディによるものだった。

「楯無だか台無しだか知らないけど、アタシは容赦しないよぉ~?」

「ムウウゥゥ…」

そう言いながら、ダスタードを呼び出した。

言葉はおチャラけているが、雰囲気はまるでさっきと違う。

「あら…ふざける余裕は出来たようね」

ドガアアアアアアアアアアァン!

そこへ、メテオも応援に駆けつける。

「キャンサー…」

「アンタが噂の「一人プラネタリウム」の…メテオかい!」

「聞いたとおりの口達者らしいな」

お互い睨み合う。

「嫁!メテオドライバーは大丈夫なのか!?」

「メンテナンスは終了した、もう問題は無い。…あと、嫁はやめろ!」

ラウラはメテオに向かって心配そうに尋ねるが、どうやら大丈夫らしい。

だが…。

「…とは言え、ホロスコープスとの戦いはキツイ。フォーゼ、頼む!」

「分かった!」

宇月がフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを押す。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSに変わった。

「はあっ!」

フォーゼBSとセシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、楯無が並び立つ。

しかし、キャンサーは焦る様子も無く、叫ぶ。

「おっと、そうは行かないよ。ピーちゃん、お願い!」

「ハアアアアアアァッ!」

バシャアアッ!

「うおあああああぁっ!?」「ぐああああああぁっ!」

突如、フォーゼBSとメテオが吹き飛ばされる。

背後からピスケスの奇襲を仕掛けられたためだ。

「今度こそ…破壊する!」

その頃、一夏は頭を抱えながら目を覚ましていた。

「脱出できたのか…?」

「うん…それより、おりむー!」

本音が指差す先では、フォーゼBSとメテオがピスケスと戦い、ISを使う者たちがキャンサーと戦っていた。

「おれも…!」

「だめ、まだ治ってない!」

一夏が立ち上がろうとするが、簪に止められる。

「でも、黙ってみてるわけには行かない!おれは…あいつらを守りたいから…おまえも!」

「一夏…」

痛みは残っているが、それでも身体に無理を言わせて立ち上がり、一夏は白式を装備した。

「キャンサああああああああぁっ!」

「ブリュンヒルデの弟…!」

キャンサーは一夏の放つ雪片弐型を避けて、面白そうに言う。

「なぜか、ヴァルゴ姐さんはアンタにあまり興味を示してないな。その理由、知ってみたい!」

 

「分割・セット!」

<N・S MAGNET-ON>

フォーゼBSは早急に決着をつけるべく、現時点で最強のステイツであるフォーゼMSにステイツチェンジして、マグネットキャノンを放つ。

「おりゃあああああああああああああぁっ!」

「磁力ね…そんなもので!」

ピスケスは身体を液状化させて、上手く避ける。

だが…。

「これなら、どうだ!」

次はエネルギー弾ではなく磁力の嵐を巻き起こし、ピスケスを巻き込む。

「くっ…!?」

痛みやダメージは無い。

「喰らえっ!」

再び、エネルギー弾を放つ。

「何度やっても同じ…」

筈だったが、磁力の嵐に巻き込まれた影響で、避けても避けてもエネルギー弾が襲い掛かってくる。

ドガアアアアアアアァッ!

「グゥッ!」

吹き飛ばされて、隙が出来たところをメテオが攻撃を仕掛ける。

「アチャァッ!アタァッ!ウゥアチャァッ!」

ドガッ!ガスッ!ドゴォ!

「キャァッ…!…ふん、やるわね」

 

一夏とセシリアが、近距離と遠距離に別れて攻撃を続けている。

「はぁっ!ふんっ!」

「これでどうかしら!?」

ドガアアアアアアァ!

「チッ…危ないね…」

毒づきながらも、正確に避けるキャンサー。

「ラウラ!」「任せろ!」

シャルロットとラウラが次に攻撃を仕掛ける。ワイヤーブレードでキャンサーを拘束しようとするが、それをハサミで切り裂かれる。

「だから…効かないんだって…」

「でも、これはどうかな!」

ワイヤーブレードに気を削がれているときに、背後からシャルロットがショットガンで攻撃を仕掛けた。

ドガアアアアアァッ!

「ウオオオォッ!?…いやいや、防御に自信があって良かったよ」

命中したがキャンサーの防御力が高すぎて、有効な一撃にはなっていない。

ふいに、鈴音が問う。

「ねぇ…あんたもスイッチに手を出したのは、闇を抱えてるからなの?」

「闇…ねぇ。まぁ、アンタ達と比べてどうかは興味ないけど、一応、キツイ経験はしてきたつもりだよ?」

身の上話をする事を決めたらしく、胡坐をかいて座るキャンサー。

「そこにいる楯無ちゃん一族のおかげで、アタシは家族に見捨てられちゃったの。裏工作関係で、アタシが罪人扱いされてさ。酷い話だよね?」

楯無に向かって、そう問いかけた。

「そうね。あなたには謝っても許してもらえないような仕打ちをしたわ。でも、あなたはスイッチに逃げた。自分で立ち上がる事もせず、受け入れてはいけなかった闇を受け入れたのよね?」

楯無の反論に、キャンサーは俯いて言う。

「アンタ達…捨てられるって分かる?なーんにもしてないのにだよ。辛いよねぇ」

「弐式さんの気持ち、おれだって分かるつもりだ」

そこへ、一夏が言い返した。

「物心つく前から両親はいなかったし、千冬姉と2人だけで生きてきた。でも、頑張れたんだ!」

「そりゃあ頑張れるだろうさ。お姉さんがいたんだろ?アタシは独りぼっち。しかも、物心ついてるときである大人の時に妻と子供に捨てられたんだから、余計にタチが悪い」

その言葉に一夏は拳を握り締めた。

「…おれの知ってるやつで…そいつは、不良で乱暴者で弱いものイジメが大好きな最低なやつがいた」

「へぇ~。そいつもタチが悪いね」

一夏の言葉にキャンサーが茶々をいれるが、無視して続ける。

「そいつは確かにスイッチに手を出して宇月に倒されたけど、まだ強い意志を持って生きている。その意志は憎しみだけど…それでも一生懸命生きてるんだ。そいつだけじゃない。スイッチを手にした事のあるやつはみんな、スイッチ無しでも一生懸命生きてる。あんただって…」

そういいかけたところで、キャンサーは左手で制する。

「終わり。残念だけど、アンタ…オマエの言ってる事の通りには行かないんだよ。オレは支えてくれるやつが居ない」

「おれ達が支える。簪だってそうだ。最初は一人で何でも抱え込んでしまってたが、今はおれ達に隠してた想いを打ち明けてる。そうすれば、おれ達は支える事ができるんだ」

一夏が手を差し伸べる。

それに対してキャンサーは…。

「…なんで、こんなに違うんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

雄叫びを上げて、一夏に襲い掛かった。

ズバアアァッ!

「うああああああぁっ!」

「一夏っ!?」「一夏さん!」

シールドエネルギーが一気に半分を切った。

「オマエも似た境遇だったのに…なぜ、周りに人がいるんだ!」

「あなたが、だれも受け入れようとしなかったからよ」

楯無が言い放つ。

「誰もが嫌な思い出を背負ってる。多かれ少なかれね。でも、それに負けず、立ち向かわなきゃいけない。一人で出来なければ、誰かに力を貸してもらわなきゃいけない。力を貸してもらうためには、力を貸してほしい人を受け入れなければいけない。あなたは自分や他人に嘘を吐いたから、誰もいないの!」

「ウルセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェッ!!!!!」

キャンサーは獣のような叫び声を上げ、身体中から赤黒い霧を放つ。

「まさか…自力で超新星に…!?やめなよキャンサー!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ピスケスの言葉にも耳を貸さず、自分の感情のままに暴走しようとしている。

「このままじゃ…弐式さんの肉体が超新星に耐え切れずに崩壊する!」

救援に向かいたかったが、フォーゼMS達はピスケスの相手で手が空いていない。

格なる上は…。

「一夏、みんな!おまえらがキャンサーを止めろ!」

「そ、そんな無茶な!?コズミックエナジー以外で、ゾディアーツは…」

箒が驚いてフォーゼMSに詰め寄ろうとしたが…。

 

「あぁ、任せろ」

 

一夏が静かに返事をした。

「一夏、相手はホロスコープスだぞ!並のゾディアーツなんかじゃない!分かってるのか!?」

「分かってる。でも…それでも、キャンサーを止めたい。おれ達だって…学園を守る事ができるんだ!」

一夏の雪片弐型が光り輝く。

零落白夜を発動するのだ。だが、シールドエネルギーの残量から言って、最後の一度だろう。

「セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、力を貸してくれ!」

一夏の言葉に、呼ばれた4人は大きく頷く。

先にも言ったが、最後のチャンスだ。

「仮面ライダー部!意地を見せなさいよ!」

楯無もラスティー・ネイルを構える。

6人が自身の持てる最大の攻撃をキャンサーに集中させた。

彼を止めて、彼の絶望に光を与えるために…。

 

『はあああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!』

 

ズドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

「うおあぁっ!?」「くぅっ…!」「ここまでね…」

その爆発の威力は高く、フォーゼMSとメテオは少しからだが後ろに吹き飛ばされかけ、ピスケスは危険と判断して爆風が来る前に退散した。

 

爆風の後。

クレーターの中心に弐式が倒れていた。

「…オレがやられると掛けて、真っ黒な犬と解く…その心は…どちらも、面白くない(尾も白くない)…お後がよろしいようで…」

そういい残して、扇子とキャンサースイッチを取り落とした。

「…最後まで自分を隠してるんだな、弐式さん」

結局、彼が自分の本当の心を曝け出す事はなかった。それが彼の選択だった。

そこへ…。

「キャンサー」

 

 

 

ヴァルゴが現れた。

 

 

 

「な…乙女座の…ヴァルゴ!?」

箒、礼、ラウラは彼女を目撃した事があるが、実際に顔を見るのは初めての者も多い。

驚いている宇月達には興味も示さず、意識の無い弐式に向かって話しかける。

「君はフォーゼ達に敗北した。処刑する」

少しだけ悲しそうに言ってロディアを振るった。

その瞬間、上空に赤黒い暗雲であるダークネヴュラが現れた。

それに弐式は吸い込まれていき、キャンサースイッチだけがヴァルゴの手元に残った。

そして宇月達のほうを見る。

「君たちに顔を合わせるのが初めてである者も居るようだね。改めて自己紹介しよう、私は乙女座の首領でありホロスコープスの首領、そして人類の進化を促す女王たる存在、ヴァルゴ・ゾディアーツだ」

その威圧感ゆえに、誰もが声すら出せなかった。

「今見た通り、我々は例外を除いて、敗北者をあのダークネヴュラに送っている。あれは永遠の牢獄。これ以上は使いたくないのだ」

そう言って踵を返し、歩き去る。

「これ以上、我々の邪魔をしないで欲しい」

最後に一言、言い残して…。

 

千冬はある女性と会っていた。

「ちーちゃん、久しぶり!」

「束。何故、連絡を…?」

千冬の疑問に、束と呼ばれた女性は頭に人差し指を置いて唸る。

「う~ん…。あのゾディアーツってやつについてね!」

「おれ達も話を聞かせてください」

そこへ竜也とあゆも現れた。

「あなたが篠ノ之束博士ですね?」

「そうだよ」

その返事を聞いて、あゆが困ったような表情で説明を始める。

「あなたの妹の箒ちゃんを初め、彼女の仲間達がゾディアーツに狙われているんです!」

「仲間は大変だけど、箒ちゃんはないなぁ~」

以外にも、肉親である箒の心配をしていない篠ノ之束。

「だって…ヴァルゴ・ゾディアーツは…あの人だからね~!」

束は面白そうに笑いながら説明する。

「ヴァルゴの正体を知ってるんですか!?」

「でもおしえませ~ん」

そう言って、姿を消した。

 

数日後…。

「よかったよ、シャル…!」

「心配性だなぁ紫苑は。もう大丈夫だよ」

紫苑はシャルロットが戻ってきたとき、ボロボロと泣いていた。それほどにまで心配していたのだ。

「簪や弐式さんのこと…ありがとう。わたしだけじゃ解決できなかったわ」

楯無は全員に頭を下げた。弐式は結果的に救えなかったが、簪は姉とも打ち解ける事ができて、今は虚や一夏達と一緒に、専用機を自作する事に励んでいる。

「いや、いいんす。今回は一夏達の功労賞ですよ!」

宇月は笑顔で一夏達に手を向けた。

「あ、あぁ…」

一夏は苦笑いをする。それもそのはず…。

宇月は理雄と和解することさえ出来たのに、一夏達だけでは弐式と和解することが出来なかった。

仮面ライダーでなければ、結局は出来ない事があるのか…。

ふと、礼が話しかける。

「織斑。仮面ライダーだからと言って、何か出来るわけじゃない。あれは、宇月だから出来た事なんだ」

「そう…だよな…」

それを聞いていた本音が礼に抱きついて、こう言う。

「ホントに素直じゃないね、つっちーは。おりむーでも、うっちーみたいに出来るんだって言いたいんでしょ~?」

「あぁ~うるさい、あっちにいけ」

シッシッと払いながら、礼はその場から離れた。

「宇月だからこそ…か…」

ならば、自分だからこそ出来る事があるはずだ。

今一度、強く意志を持った一夏であった。

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回!

 

                       再び、ジェミニを闇に引き戻そう

 

ボーデヴィッヒ、アンタはヴァルゴ様のモノなの

 

                       どうしたんだよメテオ!?

 

おれは…非情にならなければいけない…

 

                       なぜ、おれ達に素顔を見せないんだ!?

 

 

 

 

第20話「人・々・障・壁」

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
更織楯無
布仏虚

織斑千冬
篠ノ之束
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
居可弐式=キャンサー・ゾディアーツ
裾迫理雄
???=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ


如何でしたか?
なんとキャンサー、ISのみで撃破です。1人くらいはこうするつもりでした。
一応、理雄とも和解です。
今回もいろいろと伏線を張りました…。ヴァルゴと束博士の関係とか…。
次回は、ラウラとメテオをメインにします!そしてピスケスとの決着編も!
お楽しみに!


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メテオストーム爆誕!
第20話「人・々・障・壁」


ヴァルゴは夏樹を呼び出している。

「ヴァルゴ様、ご用件とは…?」

「君に頼みたい事がある。我々ホロスコープスから逃れた者を、もう一度、闇に引き戻せるかどうかを、試して欲しい」

ヴァルゴは現時点でのホロスコープスの急速な覚醒は喜ばしいと考えているが、逆に減るスピードも速い。既にアリエス、ジェミニ、スコーピオン、カプリコーン、キャンサーと5体ものホロスコープスが居なくなっている。

一方の夏樹は目を輝かせる。

「じゃあ、理雄君は…」

もう一度、理雄はスコーピオンとして戦えるかもしれない。

「検討はしている。彼は星の運命を感じる力は有していないにも関わらず、2人もの十二使徒を覚醒させたのだからね。だが、まずは…」

 

「ジェミニだ。彼女を闇に引き戻す」

 

それを少し離れた場所で見つめているのはレオだ。

「…」

無言でそこから歩き去った。

 

礼は一夏達から聞いたことを思い出していた。

「レオ・ゾディアーツ…。獅子座の使徒で最強のホロスコープスか…」

レオは純粋な格闘での戦闘で言えばヴァルゴさえも上回る存在。

彼の強さは他のホロスコープスと格が違うだろう。

考えていたところにセシリアがやってきた。

「礼さん。その、レオがどうしたんですの?」

「…奴は織斑に危害を加えたんだよな?」

「えぇ…今でも許せませんわ。簪さんの心を救おうとしている一夏さんを…」

その点だった。

「…殺せたはずだ」

「え…?」

そう、それほどの力を持っていたのにも拘らず…

 

一夏を殺さなかった。

 

殺す事は難なく出来るはずだ。特に凶暴性も激しいらしいのだから、ありえるはずなのに…。

結果は、今でも一夏の顔に軽く傷が残った程度だ。

「奴は織斑を殺さなかった…。他の人間もあっさりと解放した」

「たしかに…シャルロットさんにも攻撃するような様子を見せながら、なにもしませんでしたわ…」

彼の行動の意味はなんなのだろうか。もしかしたら無いのかもしれないが、何かが引っ掛かる。

スイッチャーを探したいところだが、レオの正体を探す事は非常に困難だと考えられる。

それもそのはず、ヴァルゴとレオはお互いにしか素顔を明かしていないとリブラから聞いている。

彼等は一体、何者なのだろうか…。

「つっち~!」

「うおっ!?離せ!」

だが、まずは本音を引き剥がす事から始めなければならないようだ。

 

その夜…。

薄暗くなったラビットハッチに人が訪れた。

暫くの間、宇月と礼しか使っていない場所に訪れた者…実はメテオの装着者なのだ。

「甘い…」

その者は自分の心の甘さを悔やんでいた。

以前リブラがラウラに化けた際、仲間意識を持っていたために拳を叩き込む事をためらってしまった。その所為で窮地に追いやられた。

「彼等とは関係を絶つべきか…」

「おぉ、来てたのか」

背後から宇月が声を掛けてきた。

「どうしたんだよ?」

「一夏やラウラ達のことは仲間だと思っている。…友が居る事は強くなれると思っていたが…同時に心に隙を作る」

「それだけおまえが優しくなったって事だろ?」

確かに、以前のメテオは単独行動の多い人間だった。それが今は、一夏達とも少しだが打ち解け、仲間としての絆も深めつつある。

「だが…万が一の時に彼等を守れなかったら意味が無い。そのためにも…非情にならなければならない」

右手にあるメテオスイッチを見つめる。

「…ほら」「…ん?」

宇月がその者にあるスイッチを投げ渡した。

「…調整したのか?」

「おう。おれのほうが調整技術は高いんだからな」

そのスイッチには金色の風車が取り付けてあった。

メテオを進化させることを想定して作られた「メテオストームスイッチ」だ。

「とりあえず、もってけ。後はおまえのやりたいようにやれよ」

「すまない。…ありがとう」

その者はメテオドライバーを腰に装着する。

<METEOR-READY?>

「変身っ!」

青い発光体になって、ラビットハッチから抜けていった。

残された宇月は小さく呟く。

「でも…おまえなら最後にはみんなと分かり合える」

 

次の日の朝。

紫苑は机に肘を立てている。

「紫苑、元気ないよ?」

シャルロットが彼の様子に不安を感じ、心配そうに尋ねるが返事をしない。

「ねぇ…聞こえる?」

「…ごめん」

謝る事だけをした紫苑は、その場からすぐに離れた。

「どうしたのかな…?」

「大丈夫だろ紫苑は。シャルロットに随分、懐いてるじゃないか!」

宇月の言葉にシャルロットは、まるで紫苑が小動物かなにかと勘違いされてるよう泣きがしたがこの際放っておく。

紫苑の言葉が引っ掛かるのだ。

「実は少し前、紫苑に「シャルに心を許したらだめだ」って言われたの。…嫌われてるのかな、ボク」

「そんなこと言ってたのか…」

深刻だと思った宇月は少しくらい口調で話す。

そこへ…。

「聞かせてもらったよ、シャルロットちゃん」

あゆが現れた。

「あ、月宮先生」

「キミは…紫苑くんのことをどう思ってるの?」

「紫苑を…?えっと…優しくて一生懸命な…良い友達…かな?」

シャルロットは戸惑いつつも、紫苑の印象や自分の考えを述べる。

あゆは真剣な表情で彼女を見つめる。

「紫苑くんもそう思ってるかな?」

「え…?」

「優しさってね…中途半端だと残酷なんだよ。本当に紫苑君を救いたいなら…心から彼を思わないと」

あゆはそれだけ言うと優しく微笑んで、シャルロットの手を握る。

「大丈夫だよ、君は本当に優しいから」

 

放課後…。

夏樹は理雄の病室に訪れた。

「夏樹か?」「正解!」

彼女が現れると、理雄は優しく微笑む。

彼も宇月と和解してからは、穏やかになり、明るさも取り戻しつつあった。

「今日はね、ビッグビュースを持ってきたよ!」

「ニュース?」

夏樹がいたずらっぽい笑みを浮かべながら、高らかに宣言した。

「理雄君、また歩けるかもしれないんだよ!」

「おれが…歩ける?」

その朗報を聞いて、理雄は天井を見つめる。

理雄には夢があった。

「そうか…。もし歩けたら…夏樹と散歩がしたい。公園で競争もしてみたい…。一緒にご飯を食べに行くのもいいな…」

「ぷっ…なにそれ。理雄君って乙女チック?」

「放っとけ」

お互いくすりと笑い合う。

そんななか、ふと理雄が疑問に思ったことがあった。

「夏樹。どうして、オレは歩けるんだ?」

「それはね~」

 

「ヴァルゴ様がホロスコープスを引き戻すんだって!」

 

「何…?」

「最初はジェミニのボーデヴィッヒだけど、理雄君にもすぐに回ってくるよ!またスコーピオン様に戻れるんだよ!そうだね…一緒にコンビ組んで、フォーゼとメテオを倒そう!」

笑顔で語る夏樹だが、理雄は暗い顔をしている。

「あれ…嬉しくないの?」

以前の理雄ならば泣いて喜ぶだろう。確かに嬉しいが、それ以上に、心に引っ掛かるものがある。

「夏樹…。オレはスコーピオンに戻る事が怖いんだ…。いや…それよりもオマエがゾディアーツのことを楽しく話している姿が怖い」

「どう…して…?」

夏樹はいつもの理雄の反応ではないと感じ、動揺している。

「できれば、オマエには普通の女の子で居て欲しい。ピスケススイッチを捨てろとは言わないが…ゾディアーツのことを楽しく話すのはやめてくれ」

理雄は精一杯、自分の気持ちを伝える。

だが…。

「どうして…?どうしてよ!?いつもなら喜んでくれるのにッ!いつもなら優しく笑ってくれるのにィッ!」

夏樹は頭を抱え、発狂したように叫ぶ。

暫くして両手を下げて、椅子に座る。

「そっか…フォーゼ達の口車にのせられたんだね…」

「確かに城茂…宇月達とは和解した。あいつ等はオマエも救いたいといっている。できれば…信じてやってくれ」

懇願するように言う理雄。スコーピオンになって以降、他者のために焦るのはヴァルゴ以外では彼女が初めてであろう。

「帰るね…」

夏樹は暗い表情のまま、病室を後にした。

「頼む夏樹…分かってくれ」

 

数時間後…。

ラウラは部屋に戻ろうと廊下を歩いていると…。

「待ってたわ、ジェミニ」

T字の廊下の向こうから、夏樹が歩いてきた。

「その名で呼ぶな。わたしはラウラ・ボーデヴィッヒだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「知った事じゃないわ。それよりも、アンタに朗報よ」

夏樹はラウラにジェミニスイッチを差し出した。

「それは…!?」

「ヴァルゴ様がアンタを呼び戻したいんだって。悪い話じゃないと思うけど?お咎めも無いようだから」

そう言いながらスイッチ突き出してくる夏樹の目には狂気を感じる。

だがラウラはそれに負けず、その手を押しのけて言い放った。

「断る。わたしにはもう、そんなモノは必要ない。スイッチに頼らなくても、わたしを支えてくれる人たちがいるんだ」

「あっそ。断らなきゃ、手荒なマネはせずに済んだのに」

ジェミニスイッチを仕舞い、ピスケススイッチを取り出してオンにする。

「残念だけどジェミニ、アンタはヴァルゴ様のモノなの。そして…アタシの願いを果たすための道具よ!」

「くっ!?」

襲い掛かってくるピスケスに対応するため、シュヴァルツェア・レーゲンを展開して、学園の外へと離れる。

「逃がさない!」

ピスケスも後を追う。

 

同時刻。

理雄の病室に一夏、箒、セシリア、鈴音が集められた。

「珍しいな。おまえから、おれ達を呼ぶなんて」「なにかあったのか?」

一夏と箒の言葉に理雄は天井を見つめながら答えた。

「夏樹を…救ってくれるとオマエ達は約束してくれた」

「当然だろ」「そうですわ。わたし達、約束を違えることはしません」

彼等のことをもう一度信じなおして…。

「教える。夏樹がスイッチを手にした理由を…」

 

 

 

尾坂夏樹。

彼女は1年3組のクラス代表であり成績も上位に食い込み、生活態度も模範的と、教師からは信頼が厚かった。

その彼女がIS学園には言った理由は…。

自身のトラウマからだった。

夏樹の両親は他者から見ても異常なほど仲が良く、娘が成長するに従って邪魔者として扱うようになってしまった。

誕生日や行事も独りぼっち。

少しでも両親から愛情を向けられたいがために、猛勉強をしてIS学園に入学した。

だが、両親の言葉は冷たかった。

 

「学費が高いから、自分で何とかしてね」

 

それだけだった。それ以外に何も言ってくれなかった。

「わたし…いらないのかな…」

「君は愛に飢えている」

そんなときだった。目の前に裾迫理雄こと、スコーピオン・ゾディアーツが現れたのは。

「か…怪人!?」

「落ち着きたまえ。私は君に力を与えたいのだよ」

「ちから…?」

いつもどおり、スコーピオンの口車に乗った。

「君は両親から愛情を向けられたい…。今の君が愛されないならば…もっと愛されるほどの力を持つものに成れば良い」

そう言って、ゾディアーツスイッチを渡した。

「さぁ…星に願いを…」

 

それから彼女をホロスコープスに覚醒すべく、指導をした。

遅々としていたが、ゾディアーツとして進化していくうちに彼女は両親への興味をなくした。

代わりに…。

「ねぇ、スコーピオン様!アタシね…恋してるんだ~」

「…誰にだね?」

「2人いてね…本命は…貴方です!きゃ~言っちゃった~!」

夏樹はスコーピオンに恋をしたのだ。自分へ熱心に指導してくれて、大切に育ててくれる彼に惹かれたのだ。

もう一人とは裾迫理雄。自分とは対照的な存在に興味を持った。

つまり、夏樹は2人を同一人物とは知らずに恋をした。

「でも…一般ゾディアーツのアタシなんかじゃ…興味ないですよね…」

彼女はゾディアーツになった人間の中では、前例が無いほど明るかった。

彼女の暗い表情を見たくないと思った。

だから…。

「ホロスコープスに覚醒したまえ。私と同格になれば、君の申し出を受け入れよう。私の目から見ても…君は魅力的だ」

「ほんと…?アタシ…魅力的…?」

「私は役割柄、君のような明るい少女と接する事は少なくてね」

彼女は涙を流しながら喜んだ。

「嬉しい…。アタシ…頑張ります…!絶対に、ホロスコープスになってみせます!」

「期待しているよ」

その次の日に夏樹はピスケスに覚醒したのだ。

 

 

 

「ライオンの言うとおりなんだ…」

「彼女は愛情の渇望を力にピスケスへと覚醒した。今も求め続けている…」

ふと小灯台を見ると、理雄と夏樹が笑っている写真がある。

「アイツを…助けてくれ。今なら間に合うかもしれない」

 

一方、ピスケスとラウラは…。

「そんなものなの、ジェミニ!」

「くっ…うぅ…」

ピスケスが液状化することでラウラを捕縛していた。

ワイヤーブレードで切り裂こうとするも、液体なので全く効き目が無い。

そこへ…。

ドガアアアアアアアアアンッ!

「なっ…!?」

青い発光体が現れ、ピスケスに体当たりをぶつける。

コズミックエナジーの塊がぶつかってきたようなものだ。ピスケスは体制を崩してラウラを離す。

地面に降り立った発光体は、メテオを形作った。

「来てくれたのか、嫁!」

嬉しそうにラウラが言うが、メテオは全く反応しない。

「星の運命に惑わされた愚かな者よ。その運命…おれが消し去る」

「アタシがアンタを消し去ってあげるわ!」

ピスケスは槍を、メテオは自慢の拳で戦闘を始めた。

「ハァッ!セアァッ!」

「アチャァッ!ウアタアアアアアアアァッ!」

ザッ!ガキィ!ドゴオォ!

格闘能力は同等のようだ。だが…。

「埒が明かないわね…。なら…」

ピスケスは呟きながら、赤黒い霧を立ち込めさせた。

「その霧…まさか!?」

「そう。アタシもヴァルゴ様から超新星を頂いたの。早すぎるって言われたけど、構わない。理雄君のために…!」

そして、胸部から白い光が現れ…。

 

「超・新・星!」

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

ピスケスは足の生えた巨大な魚に変化した。魚の額部分からピスケスの上半身が出てきている。

ピスケスの進化形態「ピスケス・ノヴァ」だ。

「このままでは…」

メテオは以前、IS複数と共にスコーピオン・ノヴァに惨敗した過去がある。覚醒して間もないとは言え、超新星に単身で挑んだとしても勝ち目は無いだろう。

だが…。

「コレを使えば…」

そう言って取り出したのはメテオストームスイッチ。

メテオの進化を促すスイッチだ。

「それはなんだ、嫁!?」

ラウラの言葉を無視して、メテオドライバーのソケットに挿入しようとするが…。

バチバチィッ!

「くそ…ダメか!?」

ある程度は想定していたが、メテオストームスイッチはソケットの寸前で凄まじい火花を散らして挿入を拒否する。このまま無理矢理セットすれば、メテオドライバーが支障をきたし、変身が解けるであろう。

「おい嫁!」「…?」

ラウラが指を挿している事に気づき、後ろを向くと…。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

ドガアアアアアアアアァッ!

「うわああああああああぁっ!?」

ピスケスの尾がメテオに激突して、近くの壁にめり込ませた。

「嫁っ!しっかりしろ!」

ラウラが心配そうな表情で助けに来るが…。

「どけ…」

それを押しのけて、ピスケスに向かってゆっくりと歩くメテオ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「本当に愚かだな。…覚醒が早すぎたんだ」

ピスケスは超新星の力に耐え切れず、理性を失ってしまっている。

次の攻撃に掛かろうとするが…。

ズキッ…!

「くっ…!」

腹部に強い痛みが走る。先ほどの攻撃で怪我を負ったらしい。

「メテオおおおおおおおおおおおおおぉっ!」

そこへ、マシンマッシグラーでフォーゼBSが駆けつけてきた。後ろには箒を乗せており、一夏達はISでこちらに向かってくる。

「大丈夫か、ラウラ、メテオ!?」「大丈夫だ…」

一夏の言葉にラウラは返事をするが…。

「来るな…」

メテオは静かに言い放ち、メテオギャラクシーにスイッチをセットする。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE>

「これで…一矢報いる!」

<OK>

「オオオオオオオオオオオオオオォ…アチャアアアアアアアアアアァッ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

スターライトシャワーの攻撃を一発に集中させ、強い一撃を放った。

だが…。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「まさか、ここまでとは…」

全く効き目が無い。

箒がアストロスイッチカバンでピスケスの分析をみると、異常なコズミックエナジーの増幅現象が起こっていた。

「宇月…これは」

「…まずい!ピスケスの超新星は吸収だ!攻撃を与えれば与えるほど、エネルギーが膨張するんだ!」

フォーゼBSがメテオに呼びかける。

鈴音、セシリア、シャルロットはそれを聞いて対策を思いつく。

「よぉし!それなら、破裂させるまでよ!」

「限界が来るまで攻撃を与え続けますわ!」

「そうすればチャンスが…!」

フォーゼBSは3人の言葉を否定する。

「バカ言うな!破裂なんてさせてみろ!この街3つ分は一瞬で消し飛ぶぞ!」

「ば、バカってなによぉ!」

鈴印は怒鳴るが、ピスケスの件は事実である。

コズミックエナジーが身体に溜まりすぎた今の状態では、倒す事すら危険だろう。

現にスコーピオンの時も宇宙空間に連れて行かなければ、街が壊滅レベルの爆発が起きたのだから。

そのとき…。

 

「気を静めろ、ピスケス」

 

「れ、レオ…!?」

唸るような声と共に、レオが現れた。

ピスケスの姿にもなんら驚く様子はなく、ゆっくりと歩いていく。

「ウオオオォッ!!!!!」

シュアアアアアァッ!

レオが咆えた瞬間、ピスケスの超新星の光が現れ弾けるように消えた。

それによりピスケスの超新星は解除され、元の状態に戻った。

「ハァッ…!ハァッ…!あ、ありがとうございます、レオ様…」

「超新星は早すぎたようだな。ジェミニを回収して引き上げるぞ」

「はい…!」

ピスケスは自分の左手を液状にして伸ばし、ラウラを絡め取った。

「うっ…!?」

「このやろう!ラウラを離せ!」「やめろぉっ!」

メテオと箒を除く全員が、2人に向かって攻撃を仕掛けようとするが…。

「グワオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

「うわああああああああああああああぁっ!?」「きゃああああああああぁっ!」

レオの咆哮がエネルギー波となって全員を包み込む。

それに巻き込まれた瞬間、フォーゼBSは変身を解除され、ISも強制解除にまで追い込まれた。

たった一撃の攻撃で、全員が戦闘不能にまで陥ったのだ。

「行くぞ」

なんの抵抗も出来ず、ラウラは連れて行かれてしまった。

「おい、メテオ!一体どうしたんだ!?」

先ほどから様子がおかしいメテオに、箒が突っかかる。

「うるさい…」

箒にも何も語らず、青い発光体となって去っていった。

 

一旦、宇月と礼の部屋に戻ってきた。

「みんな、大事にならなくて良かったです…」

「ありがとうございます」

山田は応急処置を施しながら安心したような口調で言う。

「ラウラ…」「このままじゃジェミニに…!」

理雄の言っていた場所も捜索したが見つからない。おそらく場所を変えたのだろう。

礼はパソコンを見ながら、唸る。

「メテオストームスイッチも、ステイツチェンジスイッチレベルのコズミックエナジーを備えている。しかもマグフォンより高いエナジーだ…。やはり、通常では使用できないか…」

メテオがメテオストームスイッチを使用できなかったものについての理由を探っている。

「エレキスイッチもマグネットスイッチも、感情によって使用可能となったスイッチ…。メテオストームスイッチにも同じことが言えるか…?」

「なに呟いてるの?」

本音が礼の両肩に手を置いてたずねるが…。

 

「うるさいっ!!!!!」

 

いつものような雰囲気ではなかった。本音を心から拒絶しているようだった。

彼が怒鳴った途端、本音は少し涙を目に溜めて謝る。

「つ、つっちー…ごめんね…」

「礼!何もそこまで…」

鈴音はさすがに礼の行動が変だと気づき、咎めようとするが…。

「きさま等…よくも、こんな状況で呑気に居られるな!ピスケスが超新星となった今、おれ達の勝機は下がった!それだけじゃない…見ただろ、あのレオの戦闘力を!今のおれ達ではまるで相手にならない!」

礼は自身の怒りを鈴音にすらぶつけようとする。

「あんた…あたし達に責任を押し付けるってわけ!?」

「やめろよ、礼、鈴!」

一触即発状態の2人を何とか一夏が落ち着かせる。

「たしかに夏樹もレオも強すぎるけど…おれ達が諦めてどうするんだよ!ラウラだって助けなきゃいけないのに」

全員が黙って一夏の言葉を聞いていた。

「もう良い」

礼は暫くして、そこから離れて部屋を出て行った。

「あぁ~もう!なんであんなに偉そうなのよ、あいつ!」

鈴音は悔しそうに礼が出て行った部屋を見つめる。

「そういえば…メテオはどうして急に冷たくなったのでしょう…?」

セシリアが先ほどのメテオの挙動を思い出して考える。

「確かにそうだね…今まではボクらを仲間だって認めてくれていたのに…」

彼女達の会話を聞いて宇月は下を向いた。その様子に気付いた箒は、彼に問いかけた。

「やっぱり…何か知ってるんだな、宇月?」

「でも…」

本当は伝えたかった。でも、それがメテオの意志ならば伝えるわけには行かない…。

「教えてくださりますか?どうして、メテオは正体を明かせないのか…」

セシリアが唯一尋ねられそうな疑問を思いついて、尋ねてみた。

「あいつ…本当はおまえらに正体明かすつもりだったんだけど…ラウラのことがあっただろ?あれ以来、頑なに嫌がってるんだ…」

「ラウラの…?」

メテオはラウラに心を寄せられている事を気に病んでいたのだ。もし正体を知られて幻滅すれば、彼女を傷つけるかもしれない。

他にも一夏達と絆を深めすぎたら、いざという時に油断を作って隙を生んでしまうと恐れていたのだ。

「でも…それだけ、あいつは優しいんだろう?」

「そうだよ。メテオはここに来たときから、みんなの事を信じていた。最初は共に戦う同志が増えたって喜んでた…」

宇月が呟きながら話していたのを聞いた一同は…。

「なら、おれ達がしっかりすればいいんだな?」

「そうだな。メテオやおまえだけにゾディアーツの戦いを任せがちになっていたが…わたし達も頑張れば…!」

「そうですわ!ISでも十分、援護は出来ます!」「パワーダイザーだってあるし!」

「それに…絆が深まれば、同時にもっと強くなれる。隙なんて吹き飛ばせるくらいに!」

メテオを支援する事をさらに強く決意した。

 

同時刻…。

理雄は宇月達の勝利を信じて病室に横たわっていたところ…。

「久しぶりだね。理雄君」

懐かしい声と共に、目の前にヴァルゴが現れた。

「ヴァ…ヴァルゴ様!」

「そのままで良い。君の状態は知っているからね」

そう言いながら、彼女は理雄にスコーピオンスイッチを渡した。

「君には再び、スコーピオン・ゾディアーツとして働いて欲しい」

「…出来ません。一度、フォーゼに敗北したオレはもう、貴女に従う資格すら…」

「ピスケスが超新星を獲得した」

遠慮がちに呟いた理雄にヴァルゴが淡々と告げる。ピスケスの近況。

その言葉で、理雄は目を大きく見開いた。

「…私も早計過ぎると思ったが、彼女の頼みを断りきれなかったんだ」

悔やむような口調で言った後、スコーピオンスイッチを理雄の枕元に置く。

そのまま姿を消した。

理雄はスコーピオンスイッチを見つめる。

そして…。

 

千冬は再び束と会い、話を聞いていた。

「束、ヴァルゴの正体を知っているんだな」

「そうだよ?」

やはり、彼女はゾディアーツの何か核心に気付いている。

「誰なんだ?」

「ちーちゃんだって、会ってたじゃないか~」

「誰だと聞いている!」

千冬は打鉄の刀を束に向けて、脅迫するように聞く。

「わぁ~怖いよ~!落ち着いてよ~!」

「ふざけるな!学園が危機に晒されているんだ!」

どうやら、脅しは通じないらしい。

 

ラウラはピスケスに拘束されて、レオの元に連れてこられた。

「レオ…!」

「久しぶりだなジェミニ。さぁ、スイッチを押して、再び仲間に戻るのだ」

「こ、断る!」

軍人として鍛えられたラウラであっても、レオの発する凄まじい殺気と威圧感には恐怖するが、それでも負けずに反論する。

「ゾディアーツが自分の意志以外でスイッチを押すとどうなるか、覚えているか?」

「…まさか!?や、やめろ!」

レオはジェミニスイッチを取り出して、ラウラの手に握らせて強制的に押させた。

「うわあああああああああああああああああああああぁ!?」

その瞬間、ラウラの身体からもう一人のラウラが現れる。だが、その顔は不気味な白い仮面が貼り付けられていた。

「なんだ…おまえは!?」

「アハハ…ワタシハ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。イヤ…ソレヲ超越スルジェミニ・ゾディアーツ!」

改めてスイッチを押した闇ラウラは、ジェミニへと変化した。

「これはオマエの深層に潜むもう一人の自分と、ジェミニスイッチに宿る闇が混ざり合って具現化したものだ。少しずつ…おまえを吸収していくだろう」

レオが淡々と説明している間に、ジェミニはラウラの身体に触れようと手を伸ばす。

「やめろ…さわるなっ!」

「アハハ…」

身体に触れた瞬間、ラウラから少しずつ「何か」がジェミニに吸い取られていく。

自分の存在意義どころか自分自身が消えていく、凄まじい恐怖に襲われる。

薄れゆく意識の中、ラウラはある者の名を呼んだ。

「バイバイ…モウ一人ノワタシ!」

「た…助けて…メテオ…」

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                        ラウラハワタシダヨ!

 

違う…そんなの違う!

 

                        おれだって…仲間と笑いたい…!

 

夏樹いいいいいいいいいいぃっ!!!!!

 

                        来たんだな…!

 

闇に蠢く星座の運命…

 

                        この「嵐」で打ち砕く!!!!!

 

 

 

第21話「再・誕・星・嵐」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

???=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
ラウラ・ボーデヴィッヒ(闇)=ジェミニ・ゾディアーツ

辻永礼=アリエス・ゾディアーツ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
篠ノ之束
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ(回想シーンのみ変身)
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
急に決めた事ですが、単発でジェミニ再登場です!闇ラウラは、原作の闇ユウキと酷似したキャラで行きます!
さらに次回、バレてるでしょうが再登場がもう一人…。
次回は遂にメテオストームの登場と変身前の人物公開です!
ついでに、リブラの正体もさらっと明かします(笑)
お楽しみに!
それでは…。


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第21話「再・誕・星・嵐」

 

宇月と礼の部屋で話が終わった後…。

少し時間が経って、シャルロットは紫苑のいる自室へ戻ってきた。

「ただいま」

近付くと、小さいが何か口ずさんでいる紫苑が居た。

聞いた事がない歌だ。少なくともシャルロットは初めて聞いた。

ただ…なぜか優しい気持ちになれるような歌だった。

良く聞くと、声が震えている。窓の外を見つめており、後ろ向きなので見えないが、おそらく泣いているのだろう。

ずっと、シャルルは紫苑の背後でその歌を聞き続けた。

歌が終わったらしく、顔をうずめて嗚咽を漏らしだした。

「う…ぐっ…」

「紫苑…」

しばらくして彼の肩にそっと手を置くシャルロット。

それでようやく彼女が帰ってきたことに気付いたらしく、涙を拭って顔を上げた。

目は真っ赤になっていたが。

「あ、シャル…。帰ってたんだ…おかえり」

「良い歌だね…」

「聞いてたの?」

紫苑がそう聞いてきたことで、シャルロットは彼に悪い事をしたような罪悪感が芽生えた。

「う、うん…。ごめん、聞き入ってて…」

「別にいいよ。この歌、お母さんが教えてくれたんだ。もし落ち込んだり、もう駄目だって思ったときは、これを歌うと良いって」

そういう紫苑の表情は、懐かしさを感じているようだった。

「そうだったんだ…」

「いつか…この歌と同じような言葉を贈れる人に出逢えたら良いねって…」

紫苑は夜空を見つめながら、そう呟いた。

「ボクには…紫苑が何を考えてるか、はっきり分からない。でも…ボクの思ってることを伝える事はできるよ。…君がボクを守ってくれて嬉しかった。ボクは一人じゃないって思えたんだ」

シャルロットは精一杯の思いを伝えて、紫苑の右手に手を置いた。

「良いのかな…僕なんかが誰かと仲良くなって…」

「良いんだよ。ダメな理由なんてない。だから…ボクやみんなを信じて」

 

次の日の朝…。

唐突にラウラは帰ってきた。

「びっくりしたなぁ…まさかすぐに帰ってくるなんて…」

「ごめん、心配させて。でも大丈夫だ」

一堂の前でラウラは微笑んで返した。

「でも…レオや夏樹は何も言わずに返したのですか…?」

「なんだか、いらないんだって。ジェミニスイッチを一度捨てたからか…?」

疑問にもさらりと何の問題もなく答える。

それをじっと見ていた礼。安心などの表情ではなく、険しい表情だった。

「どうしたのよ、礼?」

気になった鈴音が尋ねるが、それにも答えずラウラをじっと見ていた。

宇月が立ち上がる。

「よし、とにかくラウラは戻ってきた!もう一度、態勢を立て直してピスケス達と戦うぞ!」

『おぉっ!』

それに殆どの仮面ライダー部が一緒に拳を高く突き上げる。

一緒にしなかったのは、いつもやらない礼と…一夏だった。

「ん?一夏、どうした?」

「…いや、なんでもない」

 

とりあえず、仮面ライダー部は解散し、それぞれが教室に戻ろうとしているとき…。

廊下を一人で歩いているラウラは、無垢ながらも邪悪な笑みを浮かべる。

「みんな、騙されてる。…ヴァルゴ様とレオ様の言うとおりだ…」

そう、このラウラこそ、ジェミニとして分離した闇ラウラである。

本物のラウラの存在の力を抜き取り、立場が逆転したのだ。

「ピスケスと協力して、こっちは内側からフォーゼ達を潰す…!」

 

「やっぱり、ラウラじゃなかったのか」

 

その声に振り向くと、一夏が立っていた。

「確かにレオの行動から言って、ラウラを開放してもおかしくないと思ってたけど、良く考えれば、あいつは元ホロスコープス。簡単に開放するはずがない!」

一夏はまっすぐ闇ラウラを指差す。

俯いていた闇ラウラはニヤっと笑い…。

「違ウヨ…ワタシガ、ラウラダヨ!」

普段とは少しだけ違う声で闇ラウラは話し始めた。

「デモ、バレチャウノハ計算内ダカラ。…バレチャッタトキハ、殺スコトニナッテルンダヨ?」

ジェミニスイッチを取り出し、ジェミニに姿を変えた。

「本物のラウラは何処だ!?」

「サァネ。イマゴロ、影ガ薄~クナッテ、消エテルカモ?」

おどけた様子で両手を挙げて分からないと言う仕草をするジェミニ。

一夏はその行動で怒りに思考が支配された。

「許さない…ラウラを返せっ!」

「ウッ!?」

ガシャァン!

白式を展開してジェミニに突進しつつ、窓ガラスを突き破って校舎の外へと連れ出した。

 

窓ガラスが割れた音に気付いて、そこへと急いでいる宇月達。

そこへ…。

「通さないわよ。アンタの相手はアタシ」

夏樹が現れた。その手にはピスケススイッチが握られている。

「夏樹…。理雄はおまえがスイッチを押す事は望んでない。おれ達だって…。だから捨ててくれよ!」

「ふざけないで。理雄君、本当は優しいからアタシを気遣ってそう言ってるだけなの。アタシが何もしなかったら…理雄君は一生あのままなの!理雄君の絶望する顔は見たくないの!」

宇月の説得にも応じず、夏樹はピスケスへと姿を変えた。

「勝てるだろうか…」

箒達は不安だった。

相手は超新星に到達したホロスコープス。今、ここにいるセシリア、鈴音、シャルロットが力を合わせても、勝てるかどうかは怪しい。

だが…。

「可能性が低くても、おれは戦う!理雄と約束したし、おれだってこの学園を守りたいんだ!」

強い決意と共にフォーゼドライバーを装着し、赤いスイッチを起動させる。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSへと変身する。

「スイッチ無双、いくぞ!」

<MAGICHAND-ON><HOPPING-ON>

「おりゃあぁっ!」

バシィッ!

マジックハンドモジュールとホッピングモジュールで変幻自在な動きをしながら、攻撃を与えるが…。

「効かないわね」

全くと言っていいほど、効果がない。

「なら、これだ!」

<WATER-ON><FREEZE-ON>

ジャバアアアアアアアァッ!ビュオオオオオオオオォ…!

「ウワァッ!?やめて、混ざる!」

意外にも、ピスケスはコズミックエナジーの水分が苦手らしい。避けようとしているところをフリーズで凍らされる。

「今度は、こいつだ!」

<HUMMER-ON><CROW-ON>

ドガアアアアァッ!ズバアアアアアアアァッ!

「クッ…!」

氷付けにされた部分をハンマーとクローで破壊され、少ないながらもダメージを受ける。

「まだまだいくぞ!」

フォーゼBSの猛攻は続く…。

 

「アハハハハハハハハハハハ!」

ドガアアアァッ!ズガアアアアアァッ!

「くそ…近づけない…!」

一夏はジェミニのリュンケウスの嵐の前に、下手に近付く事ができなくなっていた。

「ドウシタノ一夏?ソレジャ、ラウラハ助ケラレナイヨ!」

悔しいが、一夏一人ではホロスコープスに太刀打ちできない。

「ハイ、隙アリ!」

パチン!ドガアアアアアアアァッ!

「うわああああああああぁっ!?」

一瞬の隙を疲れ、イーダスを貼り付けられていたようだ。

「どうしても…どうしてもダメなのか!?」

自身の力のなさに悔やんでいた。

そのとき…。

「織斑、手を貸す」

その声のする方向を向くと…。

 

理雄が「歩いて」きた。

 

「理雄…!?」

その右手にはスコーピオンスイッチを手にしている。

手の動きから察するに相当な迷いが見られたが、意を決してスイッチを押し、スコーピオン・ゾディアーツへと変化した。

「ス、スコーピオン!ウソ、ナンデ!?」

どうやら、ジェミニはヴァルゴの行動を聞かされていなかったようだ。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

「ワァッ!?」

スコーピオンはジェミニに掴みかかり、投げ飛ばした。

ブランクがあるとは言え、ジェミニとスコーピオンは、後者が実力は上なのだ。

「理雄、どうしてスイッチを!?」

「夏樹のためだ!アイツを止めたい!」

ジェミニと交戦しながら、スコーピオンは一夏の質問に答える。

「行くぞ織斑!悠長な事は言っていられない筈だ!」

「あ、あぁ!」

雪片弐型を構え、スコーピオンに加勢する一夏。

 

礼は授業を休み、メテオストームスイッチの再調整を進めていた。

「頼む…間に合ってくれ…!」

焦るも、状況は全く良い方向に向かない。

「くそぉっ!!!!!」

バンッ!

悔しさから、机を叩く。

「今、コレが使えなきゃ勝機がないんだ!!!!!」

どうしてもこのスイッチは思い通りに動かない。

彼もまた自身の無力さを呪った。

そこへ…。

「もう、気付いているんじゃないのか?」

竜也がやってきた。

「なんのようです?」

「スイッチは使っている人の気持ちに応える。昔、おれの知っている「別のフォーゼ」から聞いたことなんだ。このメテオストームスイッチの特性は…?」

「推測ですが…エネルギーの吸収と反射…」

礼は竜也の質問に答える。それで全てを理解した竜也は微笑んで頷く。

「マグネットは宇月君の割り切れない想いのために使えなかった。このスイッチが吸収なら…メテオが何かを得ようとする必要があるはずだ」

「そうか…!」

用途が分かった礼は、メテオストームスイッチを掴み、部屋を出て行こうとする。

「待って!」

不意に竜也が引き止める。

「その何かは…分かるのか?」

「…多分ですが」

そういう礼の表情は、不安な感情がなかった。そのまま出て行く。

 

その頃のフォーゼBSとピスケス。

<PEN-ON>

「喰らえ!」

ビシャッ!

ペンから現れる、文字を実体化させる力でピスケスの身体を覆う。これで液状化を少しだけだが防げた。

「ウザイ…!」

ガキィ!

槍でフォーゼBSに襲い掛かる。それをなんとか両手で防ぐが、反撃が出来ない。

「こんなときは…第3の手!」

<HAND-ON>

右足から現れたハンドがピスケスの槍を握り、フォーゼBSの手を空けることに成功する。

「次は、超移動!」

<WHEEL-ON>

ホイールを呼び出し、ピスケスを連れて凄まじい速さで縦横無尽に動き回る。

「こ、この…!」

<ROCKET-ON><DLILL-ON>

次にロケットで空中まで突き上げる。

「行くぞ!」

<ROCKET DLILL LIMIT-BREAKE>

「ライダアアアアアアアァ…ロケットドリルキィィィィィック!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアァッ!

フォーゼBSのリミットブレイクがピスケスを止めるべく唸るが…。

「そろそろ…本気で行こうかしら?」

「何!?」

 

「超・新・星!」

 

「そんなモノ、効かないのよオオオオオオオオォ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオォッ!

「うわあああああああああああああぁっ!?」

ピスケスは超新星の形態へと進化し、フォーゼBSを地面に向けて叩き落とした。

 

一夏とスコーピオン対ジェミニ。

スコーピオンの参戦で、優勢に導きかけていたが…。

「ワタシモ…使ッチャオウカナ?」

「キサマ…まさか既に!?」

 

「超・新・星!」

 

そう、すでにジェミニも超新星を獲得したのだ。

彼女の身体は2つに分離し、一夏とスコーピオンに襲い掛かる。

「アハハハハハハハハハ!!!!!」

「くそっ!?」「何かあるぞ…!」

スコーピオンの推測どおり、ジェミニは分身体に高エネルギーが詰まっている。このまま行けば、どちらかが巻き添えになるだろう…。

<ADVENT>

「ガアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

ドガアアアアアアァッ!

「キャアァ!?」「マタ邪魔?」

そこへドラグレッダーと共に、龍騎が姿を現す。

「龍騎…龍崎先生!」「あの臨時教師が龍騎だったのか!?」

「一夏君、理雄君!ここはおれに任せて、早く!」

彼の実力ならば、ジェミニは任せておける。一夏とスコーピオンはピスケスのもとへと急いだ。

「ジャア、アナタヲ爆発サセヨ!」

「残念だけど、君の思い通りにはさせない。何しろ、待っている人が居るからな」

龍騎は迷いのない強い表情を、仮面の奥で作る。

「コレデ決マリダアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

ジェミニが両者とも襲い掛かってくる。

それに対して、龍騎は全く驚く様子もなくアドベントカードを引く。

<STRIKE VENT>

「はああああああああああぁ…だぁっ!」

ドラグレッダーと共に放つドラグクローファイヤーで、ジェミニに応戦した。

ドガアアアアアアアアアァッ!

「ウワアアアアアアアアアアァッ!?」

結果、ジェミニの分身は炎の熱に耐え切れず爆発してしまい、実態のジェミニがダメージを追う事になった。

<FINAL VENT>

「はああああああああああああああああああああああああああぁっ!」

龍騎はドラグレッダーと共に、空中高くまで飛び上がる。

その姿は、あの冬の日と何も変わっていなかった。

「だあああああああああああああああああああああぁっ!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオォッ!

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

その威力の強さに、ジェミニは溜まらず爆発した。

後に残っていたのはジェミニスイッチのみ。どうやら、撃破に成功したようだ。

「だが、ラウラちゃんは…」

「ウオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

不意に、凄まじいエネルギー波が迫ってきた。とっさに避ける龍騎だが…。

「おまえは…!?」

「ジェミニスイッチは返してもらう」

現れたレオにジェミニスイッチを回収されてしまった。

 

ドゴオオオオオオオォッ!

「ぐああああああぁっ!?」

地面に叩きつけられたフォーゼBS。

地上では、ピスケスが呼び出したダスタードをセシリア達が応戦している。

「う、宇月さん!?」「ピスケスにやられたの!?」

その言葉に答えるかのように、ピスケスが降り立ってくる。

「残念、フォーゼはアタシには勝てないのよ」

勝ち誇ったように言うピスケス。

ここで、シャルロットがあることに気付いた。

「…理性を保ってる」

そう、先日は暴走して我を忘れていたのだが、今回はハッキリと明確な意思を持っている。

「進化しているのは、アタシもなのよ」

さらに彼女達にも襲い掛かろうとするが…。

 

「夏樹イイイイイイイイイイイイイィッ!!!!!」

 

その声と共に、白式を纏った一夏とスコーピオンが現れた。

「スコーピオン様…理雄君!?」

「よせ、夏樹!超新星は危険すぎる!」

スコーピオンはピスケスの身体を掴んで、必死に止めようとする。

「でも…理雄君は…!」

「歩けなくても構わない!!!!!」

戸惑っているピスケスに、スコーピオンは強く言い放つ。

「オマエが隣で一緒に笑ってくれていたとき、オレは自分の身体の惨状を忘れる事ができた。オマエ自身がオレに希望を与えてくれたんだ!!!!!」

それは、理雄が夏樹と時間を共に過ごすようになって感じた、本当の想いなのだ。

「オレも、オマエに希望を与えたい!だから…スイッチを捨ててくれ!」

ピスケスはその言葉に戸惑いよりも…絶望を感じた。

「嘘…理雄君まで、アタシの今を否定するの…?」

「違う!」

それを箒が否定する。

「理雄は本気でオマエを守りたいと思ってるんだ!」

「イヤ…イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

スコーピオンである理雄の想いが、ピスケスの感情を崩壊させるまでに至ってしまう。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

「グオアアアアアアアアアアァ!?」

身体中から噴出す負のコズミックエナジーで、スコーピオンは吹き飛ばされる。

「夏樹…!」

もう、彼女を止める事は出来ないのだろうか…。

 

「こんな顔じゃ…帰れない…」

ラウラは開放された。だが、それはジェミニがラウラのもつ「存在する力」の殆どを抜き取ったためである。

存在の力が逆転したために、現在はラウラが不気味な白い仮面を被っている。

「もう…わたしには…支えてくれる人も…存在意義も…存在すらない…」

恐怖や絶望、悲しみなどが混じり、とめどなく涙が溢れ出した。

「心配する事はない」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァンッ!

そこへ、メテオが現れた。ラウラは顔を見られまいと両手で隠して俯く。

「み…見ないでくれ…」

「顔くらいで、自信をなくすか?」

メテオはラウラの両手を優しく握り、ゆっくりと顔から離す。

その顔は白い仮面。

「あ…だ、だめ…」

「大丈夫だ、おれには分かる。あんなにくっついてきた奴のことが、判らない訳がない」

しかし、メテオは構わずにその顔を優しく撫でる。

「嫁…」

「嫁っていうのはやめろ」

メテオは不服そうな口調で呟く。

「おれは…自分の中にある、仲間を想う感情を「甘さ」と決め付けて、おまえ達と関わる事を拒絶していた。…それはおれが怖がっていただけだった。でも思った。ラウラやみんなを信じたい。そしておまえ達が信じてくれるなら、おれはこの仮面を脱ぐ事ができる」

メテオは優しく、そして強く言葉を紡いだ。

消えかけているラウラに届くように。自身の言葉で、彼女を繋ぎとめられるように。

「ラウラ…。おまえはおれを信じるか?」

そして、メテオは問う。彼女にその心があるかどうかを。

ラウラは伝っていた涙を拭い、心の中で微笑んでメテオを見つめる。

 

「信じたい…仮面ライダーメテオ…」

 

その瞬間、ラウラの顔に張り付いた仮面は剥がれ、元の顔に戻った。

だが、今の2人にそんなことは関係なかった。

「誰であろうとか…?」

「うん…」

もう、互いに迷う事は何もなかった。

メテオも少しだけ頷いて、はっきりと言う。

「ならば教える。おれの正体を…」

「本当…!?」

ラウラは遂にメテオの素顔を見ることが出来るんだと、明るい笑顔で彼を見つめた。

一方、メテオは自身のメテオドライバーを見つめて握り締める。

「ラウラ…。おれは「嫁」ではない。仮面ライダーメテオは…このおれだ」

メテオドライバーを外して変身を解除した姿。その姿は…。

 

 

 

「礼…!?」

 

 

 

そう、辻永礼。彼こそが「仮面ライダーメテオの装着者」だったのだ。

「こんな形で明かすとは思ってなかった」

俯きながら、申し訳なさそうに言う礼。

「すまない…やっぱり、ショックだったよな…」

ラウラは礼の言葉など気にせずに、彼を抱きしめた。

「ありがとう、素顔を見せてくれて…やっと…本当に触れられた…」

「そうか…」

礼は感じた。自分が正体を隠す理由など、何処にも無かったのだと。あれほど仮面ライダー部を邪険に扱っていた自分とメテオが同一人物でも、何も憎まれることもなかったのだ。

「ラウラ。おれはもう迷う事はない。仮面ライダー部の1人として、仮面ライダーメテオとして…そして、辻永礼として戦う!」

そう宣言して、メテオドライバーを腰に装着し、レバーを引く。

<METEOR-READY?>

「変身っ!」

操作を行うと、彼の体は青い光に包まれてラウラを飲み込み、遠くへと向かっていった。

 

ピスケスの暴走は止まらない。

ここにいる者全てが、人間の姿に戻ったりISを解除され、地面に這い蹲っている。

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!」

「もう…あいつを、止められないのか!?」

諦めかけたそのとき…。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァンッ!

ラウラを抱きかかえたメテオが現れた。

「みんな、間に合ったか…?」

「遅くは…なかった!」

彼等はダメージがあるものの命に別状はないらしく、メテオは安心した。

「メテオォ…今更、何も変わらないわよオオオオオオオオォ!!!!!」

「違うな。今のおれは、昔のおれじゃない!本当の友と仲間…そして大切なモノを手に入れた。だから、おれは…もっと強くなる!!!!!」

そう宣言すると共に、メテオストームスイッチをメテオドライバーにセットした。

<METEOR-STORM>

今回は何の不具合もなく、すんなりとスイッチを受け入れた。

<METEOR-ON READY?>

スイッチ頭頂部のボタンを押し、風車を回すと…。

彼を凄まじい嵐が包み込み…。

「メテオが姿を変えた…!」

アーマーやマスクが左右対称のものに近くなり、右手には棒状の武器「メテオストームシャフト」が握られている。

 

 

 

「仮面ライダーメテオストーム!闇に蠢く星の運命…。この嵐で打ち砕く!!!!!」

 

 

 

「オオオオオオオオオオォ…アチャアアアアアアアアアアアアァッ!」

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」

両者とも一気に距離を縮める。

ピスケスがエネルギー弾を放つが…。

「アタアアアアアアアァッ!」

バシュッ!ズシャアァッ!

それをメテオストームシャフトで振るい、ベルトのスイッチに吸収させる。

「このオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!」

ピスケスの身体からダスタードが生まれるものの、メテオSは全く意に返さない。

そう、意味が無いからだ。

「前座じゃ相手にならない!」

ドガァッ!ズガアァッ!

シャフトを振るうごとに、凄まじい数のダスタードが消滅していく。

「何で…!!!??」

「救ってやる。この学園も仲間も…おまえも!」

メテオドライバーに挿入されているメテオストームスイッチを外し、メテオストームシャフトに装着する。

<LIMIT-BREAKE>

「ま、まて…」

宇月が必死に立ち上がりながら、メテオSに忠告する。

「夏樹はコズミックエナジーを吸収しすぎてるんだ…!」

「分かってる。心配するな!」

そしてベーゴマを使う要領で、風車を切り離す。

「これで終わりだ!メテオストームパニッシャァァァァァッ!!!!!」

掌サイズの小さな風車がピスケスに向かってくるが、それを笑う。

「なんなのそれ?そんなちっぽけなモノで、アタシを倒せるとおもって…」

ズバッ!ドガアアアアアアアアアアアァッ!

「う、ウソ!?キャアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!?」

しかし、その威力は凄まじかった。ピスケスの身体を一瞬で切断するまでに至ったのだ。

「どうして…姿が変化したくらいで!?」

彼女の疑問に対し、メテオSはラウラや仲間達を見つめた後に強く告げた。

「違うな…」

 

 

 

「変化ではなく、進化していく!!!!!」

 

 

 

ピスケスは完全に敗北を認めた。最後は、膝をついて息が荒くなっている理雄に向かって涙を流しながら呟いた。

「あぁ…ごめんなさい、理雄君…。アタシ…勝てなかった…」

「もう…良いんだ」

ゾディアーツの瞳で見る最後の視界には、穏やかな理雄の微笑みが焼きついた。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァン!!!!!

ピスケスのコズミックエナジーはメテオストームスイッチの風車に吸収されたため、爆発は通常のゾディアーツ程度で済んだ。

戻ってきて風車は元の場所に戻る。仮面ライダー部のメンバー達に振り向いたメテオSは鼻を拭うような仕草をする。

「…勝ったぞ!」

『メテオおおおおおおおおおおぉっ!!!!!』

全員がメテオの傍に駆け寄り、勝利を分かち合った。

 

夏樹は地面に倒れていたが、理雄に抱きかかえられていた。

「夢に…見てた…。いつか、理雄君に…抱きしめてもらうこと」

そう、今の理雄はスコーピオンになったことで再び動ける身体を手にしているから、実現したのだ。

「結局…あたしは自分中心…だったんだよね。理雄君のためとか言って…自分の願いばかり…」

「何も言わなくて良い。オマエは優しいよ」

理雄は多くを語らず、夏樹をさらに強く抱きしめた。

仮面ライダー部一同もそこに歩み寄ってきた。

「夏樹…」

「…あたしの負けよ。さすが、理雄君を倒した人達だね」

傷だらけではあったが、憑き物の取れた清清しい表情だった。

だが…。

 

「敗北したのだね、ピスケス」

 

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「うあああああああああぁ!?」

突如メテオSは吹き飛ばされ、懐からアリエススイッチを取り落としてしまう。

それを拾ったのは…。

「ヴァルゴ!?」「ヴァルゴ様…」

ヴァルゴが現れた。敗北した部下の排除のために…。

「残念だよ、君を失うのは…。第2のスコーピオンになれると期待していたのに…」

空中にロディアを翳していく。

「や、やめ…ぐぅっ!」「よせぇっ!」

阻止したかったが、宇月も礼も一夏達も戦う余力は残されてなかった。

そのとき…。

 

「ヴァルゴ様…オレも送ってください」

 

理雄が歩み出た。

「スコーピオン…」「理雄君っ!?」

夏樹は必死に引き止める。

「絶対ダメだよ!これはあたしの失態だから!」

「構わない。おまえの暴走は、元を正せばオレの責任だ」

理雄はヴァルゴをまっすぐと見据える。

「後悔しないかい?」「はい」

その問いにも、全く迷い無く答える。

「やめろ、理雄っ!」「やめてええええええぇっ!」

ヴァルゴは暫く俯き、決意したかのようにロディアを振るった。

「さらばだ」

ダークネヴュラが現れ、夏樹と理雄を飲み込んでいく…。

「夏樹…ずっと一緒だ」「ごめんなさい、理雄君…。でも…ありがとう」

2人は抱き合いながら、闇の彼方に消えていった。

「仮面ライダー…最後まで、本当にありがとう」

理雄は夏樹を抱きしめながら、そう宇月達に伝えた。

 

宇月と礼の部屋。

あれから、全員に礼がメテオであることが知らされた。

それで真っ先に動いたのは…。

「礼…本当にごめん」

鈴音だった。散々、戦ってないと文句をつけていたが、実際は一番戦っていたのだから。

だが、礼は…。

「知らなかったから仕方ないだろう。だが、もう偉そうな口は利くなよ?」

「…うん」

彼とは思えない、穏やかな笑みを浮かべて鈴音を許した。

ふと立ち上がって、礼はラビットハッチに続く扉に向かい、その中に入ろうとする。

宇月も続くが、残りのメンバーは見守っているだけ。

 

「…どうした?入って来いよ」

 

礼は軽く笑い、クローゼットの中へと消えた。

「礼が…」「ラビットハッチに出入りを認めた…」

宇月以外の全員は、かなり唖然としている。

「よっしゃああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

「わぁっ!?」

宇月が嬉しそうに叫んだ。

「仮面ライダー部、正式に結成だぁっ!」

彼の言葉で、みんなは気付かされた。礼も仮面ライダー部を認めたのだ。

「改めていくぞ、仮面ライダー部!」

 

『おおおおおおおぉっ!!!!!』

 

彼等の絆は、さらに揺るぎないモノとなった。

 

 

 

同時刻…。

「ふ…まさか油断していたとはね」

ヴァルゴの手にあるのはアリエススイッチとジェミニスイッチ。今回の戦いで回収したものだ。

背後からリブラがやってくる。

「これで覚醒済みのスイッチは揃いましたね」

「あぁ、残りは3つだ…」

ヴァルゴは不敵な笑みを仮面の奥で浮かべる。

ふと…。

「それはそうとヴァルゴ様。私の狙う者がまもなく現れます」

「ほう…遂に来るのか」

 

 

 

「世界の破壊者、仮面ライダ-ディケイド…」

 

 

 

「君との約束も守ろう。彼の排除に協力するよ」

ヴァルゴがそう言うと、リブラはスイッチを切り、壮年の男…

 

 

 

鳴滝の姿へと戻った。

 

 

 

「感謝いたします。…さぁ、ディケイド…ここが貴様の旅の終点だ!」

鳴滝は狂気を含んだ笑みを浮かべて天秤座の輝く夜空を見上げた…。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                      士さん、久しぶりです!

 

ここがフォーゼの異世界か…

 

                      おのれディケイド…!

 

ホロスコープススイッチ…ぜひ手に入れたい。

 

                      ラビットハッチが!?

 

 

 

 

第22話「十・年・旅・人」

 

 

青春スイッチ・オン!




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
篠ノ之束
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

尾坂夏樹=ピスケス・ゾディアーツ
裾迫理雄=スコーピオン・ゾディアーツ
鳴滝=リブラ・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



あとがき
如何でしたか?
メテオは礼でした!アナグラムとして…
辻永礼→つじながれい→(いを除いて文字を足す)→(ひ)つじ・ながれ(ぼし)
だったのです。ちょっと無理矢理ですが。
メテオストームの登場時には、是非「Evolvin’Storm」を聞きながら見て欲しいです!
さらにリブラも判明です。次回からはディケイド編ですよ!
お楽しみに!


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旅人・ディケイド!
第22話「十・年・旅・人」


 

「新たな世界…『フォーゼの異世界』か…」

周りを見渡す数人の男女。

それぞれ、門矢士、小野寺ユウスケ、光夏海と言う。

彼等は今でも、様々な仮面ライダーの居る平行世界を旅しているのだ。

拠点である光写真館は、IS学園のとある場所に設置された。そこは、2人の学生が使っている部屋。

実は宇月と礼の部屋なのだが…。

「きゃっ…!?」

夏海はそのベッドで寝ている礼を見て、女性らしい悲鳴を上げる。

「どうしたナツミカン。死体でも転がってたか?」

「縁起でもないこと言うなよ!」

ユウスケが士の言葉を否定している最中に、夏海が指差した先には…。

 

礼と裸のラウラが一緒に布団に包まっている。

 

「不純異性交遊です!」

「ちっぽけな事を…。ナツミカン、お前いくつだ?」

「21歳ですよ!」

頬を膨らませて言う夏海。

3人の若者の騒ぎ声を聞いて礼が目を覚ます。

「うるさいな…。一体、なにが…ん!?」

布団の中を見て、残っていた眠気が一気に吹っ飛んだ。

「ラウラあああああああああああああああああぁっ!?」

その叫び声を聞いて、宇月とラウラも目を覚ました。

「なんだ…もう朝か…」「は~ら減ったぁ…」

呑気に寝ぼけ眼で呟く2人。

「ラウラ、いつの間に!?…それより服を着ろ、服を!」

どうやら礼、女性関係にはまだウブらしく、顔を真っ赤にしてラウラから目を逸らす。

一方のラウラは何も恥ずかしがる様子を見せない。

「わたし達に隠し事はいらないんじゃ…?」

「隠すものの意味を履き違えるな!大体、おれは男なのに、何で嫁なんだよ!」

礼は必死にあたふたとラウラが着ることのできそうな服を探す。

「日本では、そういう習慣があると聞いたが…」

「一部の人間だけだ!それより服を…」

ラウラを指差した瞬間…。

グイッ!

「うおおぉっ!?」

「おまえは寝技の訓練をすべきだ」

「星心小輪拳には寝技なんかない!」

どうやら、生身での総合的な格闘においてはラウラが僅かながら勝っており、礼は寝技で固められた。

「やめろ、離せ!」

悲鳴を上げながらもがく礼。

「ラウラって…こんなに大胆だったのかよ…」

宇月は目が覚めたようで、2人の姿を赤面しながら見た後、後ろにいる3人の男女を見て…。

 

「で…誰?」

 

その後、仮面ライダー部のメンバーが集められ、ラビットハッチに入ったのだが…。

「お、いらっしゃい。今回もお客さんが多いね」

「ラビットハッチが…!?」

何故か写真館になっていた。士たちが世界を移動するたびに起こる現象なのだ。

宇月達を見た栄次郎はコーヒーやお菓子の準備を始めた。

「細かい事は気にするな。さて、自己紹介もすんだし、この世界のことを教えてもらおうか?」

悪びれもせず言う士に憤慨した夏海は…。

「笑いのツボ!」

グキッ!

「ぐっ!?あははははははははははははは!」

無理矢理、士を笑わせる。

「ごめんなさい、みんな。こんなことになるなんて…」

「多分、ラビットハッチ自体は壊れたり消えたりしてないはずだよ」

「そっか…あぁ~ビックリした」

取り敢えずは安心する。だが、これでは残りのスイッチ「40番目のスイッチ」を調整できない。

メテオストームやマグネットステイツがある今、深刻な戦力不足というわけではないので、まだ後回しに出来る問題だが。

ここは一夏が説明を始めた。

「ここはIS学園と言って、本来は女性にしか動かせないISの操縦や整備を勉強する場所。なぜかおれと同じクラスの紫苑ってやつも動かせるんです。そしてフォーゼについては…」

「あぁ、フォーゼは大体分かってる。ISっていうのは恐ろしいな。特にこのナツミカンが動かしたら…」

「士君!」

「おぉ…怖い」

次に箒が士たちに質問をした。

「あなた達も…もしかして」

「あぁ、3人揃って仮面ライダーだ…と、言いたいところなんだが…」

士が困ったような表情で俯く。

仮面ライダーである事に何かトラウマでもあるのかと思い、深入りはしないようにしたが…。

「こいつさ、悪友に変身道具を盗まれちゃってるんだよ!」

「うるさいな…。いつまで笑ってるんだよ」

おかしそうにユウスケが言う。実際、戦いの末に盗まれたというわけでもなく、ただ油断していたというわけらしく、仲間内では笑いの種となってしまっていた。

「というわけで、一番頼りになる俺が戦えず、今助力できるのはそこのユウスケとナツミカンだ」

「自分で言いますか」

夏海の突っ込みはスルーされたものの、士は相当悔しいらしい。

 

一方、その変身道具を盗んだ張本人は…。

「そろそろ、返してくれって泣きつかれるかな?」

海東大樹だった。彼もまたこの世界に紛れ込んでいるのだ。

どこかの屋上のビルで士から盗んだカードをひらひらと弄っている。

「さてと…この世界のお宝は…フォーゼドライバーかホロスコープススイッチなんだけど…」

彼の求めるお宝を探すため、歩き始めようとしたところ…。

「大樹さん?」

呼び止められて振り返った先には竜也とあゆがいた。

時間のズレがあるために、大樹にとっては2人が異常な急成長をしているように感じ、すこし驚いた様子で挨拶をする。

「やぁ、君たちか。…急に大きくなったね」

「わぁ~お久しぶりです!」「この世界で会えるなんて思ってませんでした!」

嬉しそうに言う2人。

この2人は以前、自分たちの世界の戦いの中で士達や大樹と出会い、共に戦った経験があるのだ。

「またお宝探しですか?」

「もちろんさ。僕の興味はお宝だけだからね」

銃を撃つような仕草をして、すぐさま歩き去っていく大樹。

「…ということは」「そうだ、士さん達もこの世界に来てるかも!」

彼等もまた懐かしい者達である。すぐに探し始めた。

 

それから…。

士のこの世界での役割が与えられた。

「なるほど…この学園の教育実習生か」

彼に与えられる役割はいつもランダムで任意に選べるものではない。

「そういえば…龍崎先生と月宮先生、もうすぐここから居なくなりますわ…」

思い出したようにセシリアが呟く。

あの2人は少しの間、臨時教師という形で学園に転任していたので、もうすぐ去らなければならない。

つまり、頼りになる先輩仮面ライダーを一人失うというわけだ。

「ほう、竜也達も来ているのか?」

そういうと同時に…。

勢い良く扉が開かれ、竜也とあゆが現れた。

「やっぱりここだった!」「ボク達の世界では百花屋だったから…今回はラビットハッチなんだね」

「噂をすればなんとやら、だな」

ぶっきらぼうに返す士だが、心の奥では再会を喜んでいる。

「士さん、ユウスケさん、夏海さん、栄次郎さん、お久しぶりです!」

「うわ…竜也君もあゆちゃんも大きくなったね」

宇月達はその様子を見て不自然さを感じる。

見た目の雰囲気では、士達より竜也とあゆのほうが年上に見える。

ここで説明しておくが、彼等は様々な平行世界を旅しているが故に、未来や過去に行ったり来たりしているため、時間にズレが生じている。

士達は竜也の居た世界の最終決戦後、間もない頃の時間であり、竜也とあゆは最終決戦の数年後なのだ。

このことを竜也に説明され、宇月達も納得した。

「で…竜也とあゆは何故、この世界に?」

「この世界に別の存在が入り込んでるって、渡さんや剣崎さんに聞かされて来たんです。まだ確証は得られませんが…たぶん、敵のリブラがそうだと思います」

その言葉で、宇月と礼は飛び上がる。

「先生、リブラの正体に気付いてたんですか!?」「どうして、もっと早く…!」

「2人とも落ち着けって!」

一夏になだめられ、なんとか椅子に座りなおした。

「たぶん…鳴滝さんが、この世界に入り込んだ別の存在かつ、リブラの正体…」

「つまり、あいつを倒すのが今回の俺の役目ってところか。大体分かった」

粗方の事を納得した士は立ち上がり、宇月達の方を向く。

「フォーゼとメテオは誰だ?」

「あ、おれがフォーゼです。城茂宇月って言います」

「メテオはおれ、辻永礼です」

宇月はともかく、礼はもう正体を隠しているわけではないので、あっさりと自分がメテオだと言う。

「わぁ…つっちー、仮面ライダーだったんだぁ…」

「そういえば、本音には伝えてなかったな」

実は本音は仮面ライダーメテオの正体を今聞かされた。故にかなり驚いている。少なくとも本人にとっては。

ちなみに、メテオの正体を明かした後、礼は本音のことをノロマと呼ぶことはなくなった。元から、そう思ってはいなかったらしい。つまり、正体を悟られないための演技だ。

とりあえず、彼等は大樹とリブラの捜索を始める事にした。

「じゃあ、俺は他のみんなと情報収集かな」「私も行きます」

ユウスケは一夏達と一緒に情報を集めることに。

「おれとあゆは…」「山田先生、ボクらと一緒に行動してくれますか?」

「は、はい。このまえ頼まれた事についてもお話したいですし」

竜也、あゆ、夏海は、山田と行動を共にする。

ここで一旦、各自解散となった。

 

ユウスケと一夏達が学園の外で行動を開始しようとすると…。

「あれ、紫苑?」

紫苑が首をかしげながら、歩いてきた。

シャルロットが不思議そうに歩み寄り尋ねてみる。

「紫苑、どうしたの?」

「あ、シャル。それが…先生がこれを使えって…」

そう言って見せたのは…。

 

理雄が使っていたISの霧裂だった。

 

「これって、理雄の…?」

「なんだか、僕の専用機になったらしいんだ…不安だけど」

確かに、男のIS使いでは一夏だけが専用機。宇月や礼に話は通らなかったが、紫苑に来ても不思議な事ではない。

「でも、その…僕なんかで良かったら…みんなの力になりたい」

「紫苑、おまえ…」

彼がここまで誰かのために奮闘しようとする姿勢は、本当に成長したと感じられる。一夏はそれに感動すら覚えた。

「やっぱり、おまえも仮面ライダー部に入れよ。シャルロットだって、いつか入って欲しいって言ってたぞ?」

「え…でも…」

否定をしようとした紫苑だが、ふとシャルロットの言葉を思い出した。

彼女は仲良くなるのに理由は必要ないと言いきった。

「じゃ、じゃあ…仮入部ってことで…」

「最初は、そこから始めていくと良いですわ」「本格的に入部するの、待ってるわよ!」

セシリアと鈴音も笑顔で彼を迎えた。

「うん…高校生っていいな~」

「ユウスケさん何歳ですか…」

このメンバーで唯一年上のユウスケは自分の学生時代と重ね、感慨深く頷いていた。

 

宇月達は大樹を探していた。

「どんな人なんすか、大樹さんって?」

「コソ泥だ。以上」

あまりにも適当な説明である。

「だが、ユウスケさんは悪友と言っていましたが…」

「まぁ、長い付き合いではあるがな」

どうやら、あまり和気藹々とした仲間ではないようだ。

そこへ…。

「遂に来たな。…おのれ、ディケイド…!」

リブラが現れた。

「リブラ…!?」「おまえがそうか。じゃあ、鳴滝か?」

士の問いに、リブラはスイッチを切る形で答えた。

「その通り。この私、鳴滝こそがリブラ・ゾディアーツだ」

姿はメガネをかけた壮年の男。宇月と礼は初めて人間の姿を見た。

「こいつがリブラのスイッチャー…!」

「たく…ゾル大佐にドクトルGの次はホロスコープスのリブラか。相変わらず、ディケイドが嫌いなんだな」

「当然だ。ディケイドに物語は必要ない!」

再びリブラに姿を変え、士たちに襲い掛かろうとする。

「悪いな。今回は相手が出来そうにもない」

そう言ったと同時に宇月と礼が立ち塞がり、ドライバーをセットする。

「士さんは大樹さんを!」「おれ達はリブラを倒す!」

<METEOR-READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

2人はそれぞれ青と白の光に包まれ、フォーゼBSとメテオに変身した。

「じゃあ、頼んだぞ」

士は一刻も早く、彼等に助力するために大樹の捜索を再開した。

「退くんだ。君達には本来、危害を加えるつもりはない」

「卑怯な業を使って、おれはずいぶん凹まされたぞ」

メテオは構えを取り、リブラに突っ込んでいった。

「止むを得ないね」

戦う事を避けられないと感じたリブラはクロークを脱いで戦闘態勢に入る。

 

同時刻、山田達の前にもダスタードが現れていた。

「ムウウウウゥ…!」

「ダスタード…!?」「あれ、フォーゼの世界の戦闘員ですね!」

竜也と夏海が並び立ち、あゆと山田を後ろにやる。

「あゆ、山田先生の安全はお願い」「まかせてよ!」

「キバーラ!」「はぁ~い。お久しぶりね~竜也君にあゆちゃ~ん!」

竜也はデッキを、夏海は現れたキバット族のキバーラを手に掴む。

「「変身っ!」」

それぞれ、龍騎とキバーラに変身した。

「あの人も仮面ライダーなんですか…?」

「うん、仮面ライダーキバーラです。とても頼りになるんですよ!」

キバーラを始めてみた山田にあゆが説明する。

「夏海さん、たぶん宇月君達にもダスタードかホロスコープスが現れてるはずです」

「はい、すぐに倒しましょう!」

<SWORD VENT>

龍騎はドラグセイバーを構え、キバーラはキバーラサーベルを握り締めてダスタードに向かっていった。

 

その頃、大樹もある人物と遭遇していた。

「へぇ…親玉直々に来るとは光栄だね」

「ディエンドか」

そう、ヴァルゴだった。鳴滝に協力するという名目のもと、ディケイドに近しい人物の一人である大樹に近付いたのだ。

「さ、ヴァルゴ君の持っているホロスコープスイッチ。幾つ持っているんだい?」

「私の持つヴァルゴ。そしてリブラ、レオ。スイッチャーを失ったスコーピオン、アリエス、ジェミニ、ピスケス、カプリコーン、キャンサーの9つだね」

大樹は意外そうな表情を作る。

「言わないと思ったよ」

「隠しても、フォーゼ達は知っているからね。君はそのスイッチが欲しいのか?」

「鋭いね、そのとおりさ。ホロスコープススイッチ…特に上位のヴァルゴ、レオ、サジタリウスが興味あるかな?」

簡単には渡さないだろうと理解しているのか、ディエンドライバーを構えて脅迫するように言う。だが、当のヴァルゴはなんら驚く様子もない。

「残念だが、残りのスイッチも含めて全て渡すわけには行かないね」

「なら、力ずくで頂くよ」

<KAMEN RIDE>

「変身!」

<DIEND>

ディエンドライバーにカードをセットし、銃口を引くとその姿は「仮面ライダーディエンド」に変化した。

「さて、女ライダーなんてどうかな?」

<KAMEN RIDE FEMME LARC>

ディエンドがさらにカードを入れて引き金を引くと、仮面ライダーファムと仮面ライダーラルクが現れた。

「なるほど…人形を呼び出す力か」

「ハッ!」「ヤァッ!」

ヴァルゴが推察している間に、2人のライダーは襲い掛かるが…。

「申し訳ないが、その程度では意味がない」

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

ロディアを地面に叩きつけた瞬間、紅い光がファムとラルクを覆い、大爆発を引き起こす。

一瞬で消滅してしまった。

「さすが。ま、様子見は済んだし、今日はこの辺かな」

<ATTACK RIDE INVISIBLE>

もとから本格的に戦うつもりはなかったらしく、すぐさま姿を消したディエンド。

ヴァルゴはそれを見送り、すぐに消えた。

 

「邪魔をしないで貰おうか!」

リブラがディケを振り回し、フォーゼBSとメテオを翻弄している。

ドガアァッ!

「ぐうっ…!?」「うわあぁっ!」

さすがにホロスコープスの古参であるためか、強い。

「フォーゼ、本気でいくか!」「ストームとマグネットだな!」

<N-MAGNET><S-MAGNET><METEOR-STORM>

2人はこのままでは勝ち目がないと感じたため、それぞれの持つ最高戦力で戦う事にした。

<NS MAGNET-ON><METEOR-ON READY?>

フォーゼMSとメテオSは、それぞれ遠距離からの援護と近距離攻撃に別れ、リブラに応戦した。

「おりゃあああああああああぁっ!」「アタアアアアァッ!」

ズドオオオオオオオォッ!

「ヌッ…!?」

火力に特化したマグネットキャノンと、近接戦闘に特化したメテオストームシャフトの連携攻撃に、リブラも攻撃を許される。

「血の気が多い若者は、本当に困る…!」

リブラは反撃に移るべく、幻術を使ってラウラに化けるが…。

「ホワチャアアアアァッ!」

ドガアアアアアアアァッ!

「ウワアアアアァッ!?」

なんとメテオSは、全く躊躇せず攻撃の手を休めなかった。

「馬鹿な…仲間の顔を見て…!」

「おまえはラウラじゃない。本当のラウラはちゃんといる!」

メテオSには心の迷いがない。確信が持てる絆があるために幻などには惑わされないのだ。

「このままでは、ディケイドと交戦もできないまま…!」

リブラは身の危険を感じ、無理には戦わずして姿を消した。

「逃がしたか…!」「くそっ!」

2人は変身を解き、宇月と礼の姿に戻る。

「とりあえず士さんを探そう!」「あぁ、リブラはそちらに向かったかもしれないからな」

 

龍騎とキバーラの戦いが続く中…。

「いつもより多いな…やっぱり鳴滝さんが士さんを…」

「絶対に止めて見せます!わたし達の旅は、まだ終わらせません!」

ダスタードの多さに苦戦する龍騎とキバーラ。

そこへ、一夏、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、紫苑がそれぞれの専用機を持って現れた。

同時にトライチェイサーへ箒を乗せたクウガMFも現れる。彼はユウスケだ。

「龍崎先生、夏海さん!」

フォーゼとメテオ以外の全戦力が投入され、形勢は一気に変わった。

クウガMF、龍騎が同時に攻撃を開始する。

「竜也君、武器を!」「はい!」

龍騎は持っていたドラグセイバーをクウガMFに渡す。

「超変身!」

それを受け取ったクウガMFは、クウガTFへとフォームチェンジした。

「だぁりゃああああぁっ!」

ドラグセイバーを分子レベルで変化させたタイタンソードを振り回し、ダスタードを蹴散らす。

「鈴音ちゃん、セシリアちゃん!」「わかりました!」「オッケー!」

龍騎とクウガTFは近距離のライダー。遠距離で戦えるセシリアと鈴音に援護を頼む。

「一気に蹴散らしますわ!」「くらえっ!」

ドガアアアアアアアアアアァッ!

「ムウゥゥ!?」

さらにキバーラは一夏と戦っている。

「一夏君、手を貸してください!」「はい、今いきます!」

ザンッ!ズバァッ

キバーラと初めて会ったとは思えないコンビネーションでダスタードを倒していく。

そして、シャルロット、紫苑、ラウラだが…。

「ムン!」「うわああああぁ!?」「おい、紫苑!何をしているんだ!?」

やはりISの適性度が低いためかまともに戦えず、ダスタードに追い詰められている。

その現状を見たラウラが援護に入った後に、喝を入れた。

「ボーデヴィッヒさん、ありがと…」「しっかりしろ!そんなことでは正式入部は遠いぞ!」

すぐさま、ダスタードの殲滅を再会したラウラ。彼女の言葉を受け、紫苑は落ち込んだ。

「やっぱりクズだね、僕…。専用機を持ったからって調子に乗って…」

「危ない、紫苑!はあああぁっ!」

ドガアアアアアアァッ!

自己嫌悪に陥っていた紫苑をシャルロットが守る。

「調子に乗ってるわけじゃないよ!紫苑は自分に出来る事を精一杯やろうとしてるじゃないか!」

「そう…なのかな…」

紫苑はシャルロットに言い諭されると、彼女の言葉を信じようとする姿が良く見受けられるようになった。

そのシャルロットの背後にダスタードが迫る…。

「あ、シャルっ!」

ズバアアアアアァッ!

持っていた右手の刀で、そのダスタードを切り裂いた。

今度は彼がシャルロットを守ったのだ。

「で…出来た…」「ありがとう紫苑。さぁ、いくよ!」

彼女が微笑んで促すと、紫苑は強く頷いて共に戦い始めた。

そして、残るダスタードも減ってくると…。

「さぁ、決めるぞ!」「しゃあっ!」

<FINAL VENT>

「ガアアアアアアアアアアアアァッ!」

龍騎、クウガTF、キバーラがトドメを刺すために準備を始めた。

「「「はああああああああああああああぁっ!」」」

ドガアアアアアアアアアアアアアアァッ!

ドラゴンライダーキック、カラミティタイタン、ソニックスタッブの連携技で残ったダスタードを全て殲滅する事に成功した。

「やっぱり、仮面ライダーってすごいな…」

バガミールを持ちながら見守っていた箒はその力の強さに改めて驚愕する。

そんな彼等のもとへ…。

「ISか…ライダーのお宝じゃないけど、興味はあるかな」

大樹が現れる。

「大樹さん…」「この人が、士さんの悪友…」

一夏が近付いてきたとき…。

大樹は彼に銃口を向けた。

 

「お宝は集めないと。そのIS、是非手に入れたい」

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                        これを渡すことは出来ない!

 

なんなら、僕が…

 

                        さぁ…ここで君達の旅は終わりだ!

 

絆ってな、そう簡単に壊れるものじゃないんだぜ?

 

                        君は…一体?

 

通りすがりの仮面ライダーだ。おぼえておけ!

 

 

 

第23話「通・過・戦・士」

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ…!

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

門矢士

小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
光夏海=仮面ライダーキバーラ
キバーラ

海東大樹=仮面ライダーディエンド
仮面ライダーラルク
仮面ライダーファム

光栄次郎
鳴滝=リブラ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



いかがでした?
なんだか、スランプなのでしょうか、戦闘描写がしょぼくなっている気が…。
今回の士はスーパーヒーロー大戦直後という設定ですので、ディケイドに変身できません。
さらに竜也達と士達は違う時間です。士達は未来の異世界に来ているといえば、ご理解いただけるでしょうか…?
次回で早くもディケイド編は終了予定です。なにぶん、コズミック回など、尺がないので(40話完結に向けて)。
おたのしみに!


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第23話「通・過・戦・士」

 

大樹は一夏にディエンドライバーの銃口を向け、脅迫するように言う。

だが、一夏はそれに屈する事はない。

「これを渡すわけにはいかない!」

「君はそれに価値を見出してるのかい?」

大樹の質問に一夏は頷く。

「この力で、みんなを守れるんだ」

「くだらないね。そんなもののために使うなら…」

引き金を引こうとした瞬間…。

「海東」

士が現れ、ディエンドライバーを手で押さえる。

「やぁ士。僕の気配を感じてきたのかい?」

「おまえはコソ泥の癖にやる事がデカイから、すぐ見つかる」

呆れ口調で言う士に対しても、大樹は不思議なほど爽やかな笑顔を見せる。

「ディケイドのカードを返せ。あれがないと、この世界での役目を果たせない」

「じゃあ、お宝と交換だ。フォーゼドライバー、ホロスコープススイッチ、IS。どれでも好きなものを渡したまえ」

ディエンドライバーで打つような仕草をみせ、オーロラの中に消えて言った。

「あ、おい待て!」

後を追おうとするも、既に手遅れだった。

 

宇月と礼と合流したのち、写真館で集まった。

「士さんがいるから、これからリブラの集中攻撃が待っているだろうな」

礼は眉間にしわを寄せて呟く。

リブラである鳴滝は、士ことディケイドを異様なほど憎んでおり、今回も積極的に前線に現れた。次回もおそらく今回のように…いや、それ以上の力で攻めてくるかもしれない。

今はフォーゼ、メテオ、龍騎、クウガ、キバーラがいるため、何とかなっているが、相手もそれを考慮しているはず。十分な戦力とは言え、確実な安心はできない。

そもそも、相手にはまだ本格的な戦闘に直面した事はないが、ホロスコープス最強の2人、レオ・ゾディアーツとヴァルゴ・ゾディアーツもいる。どちらかでも戦いに参加されようものならば、勝率はかなり減るだろう。

「どうしよう…勝てるだろうか…」

箒は不安そうな表情で辺りを見渡している。

「まだ、深刻な状況ではないですけれど…」

「いずれはそうなるよね…」

「レオやヴァルゴまで攻めてきたら…」

セシリアと鈴音もあまり自信のある表情ではない。

だが、そのなかで唯一、自信に満ちた表情の者がいた。

「大丈夫っすよ!まだみんな戦えますし、仮面ライダー部にも紫苑と本音が仮入部しましたし!」

「うん、うっちーやおりむーのサポートは、たくさんするよ~」

「い、いや、布仏さんはともかく、僕が入ったところで、何も変わらないと思うけど…」

紫苑は遠慮がちに否定するが、宇月は仲間を信じている。

たしかに幾度も困難にぶつかった。だが、いつも切り抜けてこられた。

「…士さん。おれ、彼等に任せてみたいです。この世界と大樹さんの事」

竜也がふと呟いた。

彼もまた、宇月の言葉や彼の信じる仲間を信じてみたかったのだ。

だが、それは仮面ライダーという大きな戦力を削る事。

「でも、それでは…!」

山田は焦った。

だが、一夏は敢えてそれを受け入れた。

「確かに、いずれはおれ達だけで戦うことになる。龍崎先生も士さん達もずっとここにいられるわけじゃない。それにおれ達の世界のことは…最後はおれ達で決着をつけなきゃいけない」

彼等の姿を見て、士は軽く笑う。

「少年少女の自立か。まぁ、いい心がけなんじゃないのか?」

「士君、そんな言い方しないでください!」

夏海の突込みをスルーして、彼等のもとに歩み寄る。

「たしかに、お前達の世界はお前達で決着をつける必要がある。俺達は見守る側になろう…と言いたいところだが、俺もこの世界で取り戻したいものがあるからな」

「ディケイドですか?」

シャルロットが尋ねると、士は首を振る。

「それもだが、もう一つある。旅の中で手に入れた「大事なモノ」だ」

 

それから暫くして、ヴァルゴはリブラとレオを召集した。

だが、リブラの様子は穏やかではない

「ディケイドめ…変身できないとは…」

「都合が良いのではないのかな?」

確かに邪魔な存在であるディケイドが変身できないとなれば、彼は無理にディケイドと戦う必要はないように、ヴァルゴは感じた。

「それではいけないのです。ディケイドは滅ぼさなければ…」

「破壊者には破壊を持って滅ぼす…という訳か」

ヴァルゴはリブラの執念に呆れながら、呼び出していたレオに声をかける。

「新たな使徒は…?」

「水瓶座の覚醒は近いうちに。ですが…少々厄介な事が」

「どういう意味だね?」

喜ばしいはずなのに、レオの言葉で疑問を抱く。

「覚醒の可能性があるスイッチャーは、覚醒した暁にはIS学園のとある生徒を仲間として迎え入れて欲しいという条件を要求しています」

「そうか…それは困ったね。その者の星座の運命は…?」

だが、その仲間に迎えたい生徒に星の運命があれば、願ったり叶ったりなのだが…。

「確証はありませんが、感じられません。おそらく残された牡牛座と射手座に覚醒する可能性はゼロと見て良いかと」

ヴァルゴは暫く顎に手を当てて考える。そして決意したように再び、レオを見た。

「止むを得ない、私の顔を見ない事を条件に入れた上で、もう一度交渉してみては貰えないだろうか?」

「わかりました」

相変わらずレオは、無感情な言葉の後、会釈をして姿を消した。

「リブラ。君は引き続きディケイドとフォーゼ達の妨害および排除を。ダスタードも少々多めに用意できるようにしておく」

「はい。ディケイド…今度こそ!」

 

次の日。

「ムウウウゥゥゥ…!」

IS学園内に再びダスタードの群れが現れた。

仮面ライダー部達と士はそこへ急ぐ。

「多いな。やはりリブラか…」

士は今戦えない。ならば今出来る事は…。

「本音、箒、2人は士さんと一緒に大樹さんを!ダスタードはおれ達がやる!」

ラウラ以外の専用機持ちはISを展開し、宇月はフォーゼドライバー、礼はメテオドライバーを装着する。

「わかったよ!」「いこう、士さん!」「頼む!」

宇月の言葉で3人は大樹の捜索を始める。

彼等の姿がなくなったと同時に、ドライバーを起動させる。

<METEOR-ON READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

2人はフォーゼBSとメテオに変身した。

「ラウラ、力を貸してくれ!」「任せろ!」

パワーダイザーに乗り込んだラウラは、メテオの隣に立つ。

「一夏、おれとペアで戦ってくれ!セシリア、シャルロットは遠距離からの援護、鈴音と紫苑は別行動でダスタードを殲滅だ!」

全員は頷き、それぞれの役割の戦いに向かう。

 

学園の外に出て暫くして、大樹は現れた。

「海東…」

「やぁ、お宝を渡す気になったかな?」

「大樹さん、士さんにカードを返してください!」

箒は彼に詰め寄るが、全く表情を変えずに銃を向けるような仕草で指を指す。

「じゃあ、お宝だ。それを渡すことが交換条件だったはずだよ」

「なんで…そんなにお宝にこだわるの…?」

本音が尋ねると、大樹は笑みを浮かべて説明を始める。

「手に入れたいのさ。世界には色んなお宝がある。僕はそれを手に入れたいだけだ」

その先にあるモノは、どうやら教えてはくれないようだ。

だが、士は彼に歩み寄り、こう言った。

「じゃあ、そのお宝をくれてやる」

「へぇ…手に入ったのかい?」

そして大樹へ手を差し伸べた。

「…何だいそれは?」

「お宝だよ」

大樹の質問にも、そう言い放って手を突き出す。

箒も本音も、士の行動が理解できなかった。

「昔、言ったよな。仲間と言うのは、何よりも勝る最高のお宝だと。ビッグマシン計画のとき、お前はそれを失ってしまった。だから取り戻せよ、お前が最高と言ったお宝を」

士は少しだけ笑みを浮かべて、彼の反応を待つ。

だが…。

 

パシッ!

 

大樹はその手を払い除けた。

「大樹さんっ!」「そんな…ひどいよ…」

その行動を見た箒達は、大樹を罵倒するが、それとは対照的に大樹は…。

「受け取りたまえ」

カードを士に手渡した。

「僕にとっては、ただのガラクタになってしまった」

そのことで箒達は漸く気付いた。

大樹はディケイドを超える宝物を手にする事は出来たのだ。

少しだけムスッとした表情を作り、その場から離れていく大樹。

不意に士が呼び止める。

「次の世界であったときは…」

「やめたまえ。前にも言ったが、君の事なんて考えたくはない」

そう言って振り返った大樹の顔は笑顔だった。

「でも…忘れない」

そしてオーロラに消えていった。

「なんだったんだろ、大樹さんって…」

「コソ泥だ。お宝の価値は随分とバリエーション豊かだがな」

本音の疑問に、士はカードを見つめながら微笑んで答える。

「さぁ行くぞ。この世界の最後の仕事だ。鳴滝を倒す!」

 

一方、ダスタードと交戦中のフォーゼBS達。

<AERO-ON>

「こっち来い!」

ゴオオオオオオオオォ…!

エアロの強力な吸引力で、ダスタードの動きを止めて集中させた。

そこを狙って、一夏は雪片弐型を振りかざす。

「うおおおおおおおおぉっ!」

ズバアアアアァッ!

「今だ、セシリア、シャルロット!」

「了解ですわ!」「はあああああぁっ!」

一夏が作ったその隙に、セシリアとシャルロットのスターライトmkⅢとガルムがダスタードを狙う。

ドガアアアアアアアアアァッ!

「どわあああああぁっ!?」

しかし、威力が強すぎてエアロでダスタードの近くにいたフォーゼBSもダメージを負った。

「う、宇月ごめん!」「大丈夫ですか!?」

「あたた…気をつけろよ!フォーゼと言えど、ISの攻撃を喰らったら、命が幾つあっても…」

愚痴を言っているフォーゼBSの背後にダスタードが迫る。

「城茂君、あぶない!」

そこへ、丁度近くにいた紫苑が立ち塞がる。

ズバアアアァッ!

「うああああああぁっ!」

まともな戦闘が上手くできない紫苑は、せめてものとしてフォーゼBSの盾となったのだ。当然、フォーゼBSが受けるはずだったダメージは紫苑に与えられる。

「紫苑、大丈夫!?」「痛い…けど、城茂君を守れたから…」

痛々しい笑みを浮かべる紫苑。シャルロットは心配そうな表情で彼を抱き起こした。

「紫苑っ!このやろう!」

自身の不甲斐なさと、仲間を傷つけられた怒りを胸にさらにフォーゼBSは戦い続ける。

 

メテオとラウラは…。

「ラウラ!ダスタードを手当たり次第に捕まえて固定しろ!」

「あ、あぁ!」

彼の意図は分からないが、ラウラは素直に指示に従い、パワーダイザーの豪腕でダスタードを捕まえていく。

<JUPITUR-READY?><OK-JUPITUR>

「オオオオオオオオオオオオォ…アチャアアアァッ!」

ズドオオオオオオオ!

「ムウウウウゥ…!?」

身動きの取れないダスタードをジュピターハンマーで殴り、その爆風で吹き飛んだ残りのダスタードへ追い討ちをかける。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE><OK>

「オオオオオオオォ…アタタタタタタタタタタタタタタタタァッ!」

ドガガガガガガガガガァッ!

スターライトシャワーを放ち、ダスタードを確実に減らしていく。

「礼!」「ナイスアシストだラウラ!この調子でいくぞ!」

 

<GIANTFUT-ON>

「踏んづけてやるっ!」

ドガアアアアアァッ!

フォーゼBSはジャイアントフットの力で、紫苑の周りにいるダスタードを踏み潰す。

<WINCH-ON>

さらにウインチで周りのダスタードを一纏めに縛り上げる。

「いくぞ鈴音!」「まかせなさい!」

<FIRE-ON><LIMIT BLEAKE>

「ライダァァァァァァ爆熱シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥト!」

ドガアアアアアアァッ!

拘束したダスタードを倒すべくフォーゼFSにステイツチェンジし、すぐさまリミットブレイクを発動する。鈴音の龍砲と同時に放ち、一気に数を減らすことに成功した。

「一夏、手は空いてるか!?」「今なら大丈夫だ!」

次に一夏と戦う。

「分割っ!セット!」

<N-MAGNET><S-MAGNET>

<N・S MAGNET-ON>

フォーゼMSにステイツチェンジして、後方支援を行なう。

「おりゃああああああああぁっ!」

ダダダダダダダダダダダダダ!

マグネットキャノンの威力で吹き飛んだダスタードが向かう先には一夏がいる。

「はあああああああぁっ!」

ズバアアアアァッ!

それらを全て切り裂いていく。

「よし!みんな、良い調子だ!」

そこへ…。

 

「フンッ!」

 

ドガアアアアアアアアァッ!

「うわああああああああああぁっ!?」

突如、凄まじい爆発が起こり、フォーゼMSは吹き飛ばされた。その拍子にNSマグフォンもベルトから離れ、もとの宇月へと戻ってしまう。

攻撃の主は…。

「ディケイドは何処だ?早く出せ…!」

リブラだった。その雰囲気からは狂気すら感じる。

ダスタード戦で消耗してしまった一同は、彼との戦いに一抹の不安を感じるが…。

「俺を呼んだか、鳴滝?」

士がそこへやってきた。後ろには箒と本音も引き連れている。

「さぁ、私と戦うのだ。ここで、お前の旅は終わらせる!」

「そうはさせるか!」

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

メテオは、リブラから士達を守ろうと、メテオSにステイツチェンジして立ち塞がる。

「ディケイドさえ倒せるならば、君達に興味はない。退くんだ」

ディケを地面に突き立ててそう言い放つ。

士はそれを聞いて鼻で笑う。

「それじゃ、お前は勝てないな」

「どういう意味だ?」

リブラの質問に、続けて答える士。

「この世界は俺達の世界じゃない。この世界も物語も、こいつらのモノだ。こいつらの絆はな、そう簡単に壊れないみたいだぜ?それに興味すら湧かないお前は、こいつらと心を通わせた俺には絶対に勝てない!」

「下らん戯言を…一体、何なんだ、お前は!」

リブラの言葉に、士は自信のある表情高らかに宣言した。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

「いくぞ、宇月!」「はい!」

士はディケイドライバーを、宇月はフォーゼドライバーを装着し、それぞれカードを構え、赤いスイッチを起動させる。

<3><2><1>

「変身っ!」

<KAMEN RIDE-DECADE>

宇月はフォーゼBSに、そして士は異世界を旅する戦士、仮面ライダーディケイドへと変身した。

「ディケイド…ここで破壊する!」

リブラに向かって、2人は駆けていった。

「おれ達も戦うぞ!それがおれ達の物語だ!」

一夏の言葉で、残りの専用機持ちも再び、ダスタードとの戦いに向かっていった。

 

<ELEKI-ON><KAMEN RIDE-BLADE>

どちらも電気を使えるフォーゼESとDブレイドに変身した。

「喰らええええええぇっ!」「はああああああぁっ!」

ビリーザロッドとライドブッカーに電撃を纏い、リブラに攻撃を仕掛けるが…。

「遅い」

彼は瞬間的な高速移動を連続して使う事ができる。

ドガァッ!バキィ!

「うあぁっ!」「ぐっ…!」

その攻撃の嵐に、2人は翻弄される。

だが、Dブレイドの表情にはまだ余裕があった。

「なら、もっと早く…!」

<ATTACK RIDE-MACH>

「はぁっ!」

マッハジャガーの力でリブラ以上の速さを獲得したDブレイド。

ドガァッ!

「グゥッ…!」

想定はしていたが、リブラにはこの攻撃を防ぐあるいは避ける手段を持ち合わせてはいなかった。

<NET-ON><STUMPER-ON>

「これでっ!」

隙の出来たリブラを、ネットで拘束した上でスタンパーの左足を蹴り込むフォーゼES。

だが痛みはない。

「ムンッ!」

ドガアアァッ!

「うわああぁっ!」

光の網を振り払った勢いでフォーゼESは吹き飛ばされる。

「そんなもので私を…!」

そこから反撃に出ようとしたところだが…。

ドクンッ!

「な、何っ!?」

突如、リブラの体内で衝撃が走って膝をついた。これがスタンパーの真価である。攻撃後の数秒後に衝撃を与えると言う時間差攻撃が可能なのだ。

<LIMIT-BLEAKE>

「ライダァァァァァァァァ100億ボルト・ブレェェェェェェェェイク!」

バリィッ!

「ヌアアアアァッ!」

動きに鈍りが見えたリブラに、リミットブレイクを使う。しかし、決定打にはならないようだ。

そこに元に戻ったディケイドが肩を叩いてきた。

「宇月、ちょっとくすぐったいぞ」

<FINAL FORM RIDE-FOFOFO FOURZE>

新たなカードを読み込ませた瞬間、フォーゼESは強制的にフォーゼBSへと戻される。

「な、何が…?」「良いからあっち向け」

言われるがままに、ディケイドに前を向かされる。

「ふんっ!」

トンッ!

「うお!?お、おおぉぉぉ!?」

背中を叩かれる。すると、フォーゼBSの身体は、人体的には有り得ない方向へ変形していく。そしてロケットモジュールそっくりの形になり、ディケイドの右手に収まった。

 

フォーゼのファイナルフォームライド「フォーゼモジュール」だ。

 

「これ…ロケットモジュール!?」「俺とお前の力だ」

2人の会話の後、フォーゼモジュールはジェット噴射でディケイドと共に、リブラへ突進していく。

ドガアアアァッ!

「ムゥッ…!」

なんとか防ぎながら耐え凌いでいるリブラだが、ディケイドは再びカードを読み込ませた。

<FINAL ATTACK RIDE-FOFOFO FOURZE>

「ライダーディケイド・ロケットパンチ!はああああああぁっ!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!

ジェット噴射は更に威力を増し、リブラの身体に亀裂を入れていく。

「おのれ…おのれディケイドオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドガアアアアアアアァッ!

遂にリブラにも限界が来た。その力に吹き飛ばされ、地面を転がる。

「この世界でも…ディケイドの排除は…」

そう言いかけた時、彼の瞳が妖しく輝く。そして2人とダスタードに立ち向かう仮面ライダー部達を見て…。

「そうか…そういうことか!」

何かに気付いたらしい。

「ディケイド…やはりお前は破滅を呼ぶ。この世界にもお前のせいで破壊が始まりかけている」

不気味な笑みを残してリブラは爆発し、鳴滝の姿に戻った。だが彼には、そんなこともお構いなく、話を続ける。

「お前は必ず、この旅を後悔する事になる。次の世界で…待っているぞ」

そのまま、リブラスイッチを残してオーロラに消えた。

 

<LIMIT-BLEAKE>

「メテオストームパニ…なに!?」

メテオSがリミットブレイクを使おうとした瞬間、残されたダスタード達は唐突に姿を消した。リブラの消失によるコズミックエナジーの途切れが原因のようだ。そこから導き出されるモノは…。

「か、勝ったぁ…」「やったね、紫苑!」

地面にへたり込み、霧裂を解除する紫苑。彼の肩に手を置いて優しく微笑むシャルロット。

ホロスコープスをまた一人、撃破することが出来たのだ。

 

それから暫くして…。

「リブラスイッチを回収しました」

「ご苦労」

レオはリブラが倒れた後、早急にリブラスイッチを回収し、ヴァルゴの元へと届けたのだ。

「どうだね、水瓶座は…」

「もう少しだけ覚醒には時間が掛かるようですが、要求はのみました。我々の傘下に入ることは確定です」

どうやら、レオはアクエリアスの可能性があるスイッチャーとの交渉に成立したようだ。

「さらに朗報です。このリブラスイッチに…超新星の「ラプラスの瞳」が記憶されています。おそらく、ディケイドとの交戦中に覚醒したもの」

「そうか…!ついに星の運命を確実に見ることの出来る力を…!」

これで残る十二使徒を見つける事は比較的、容易くなった。

「さぁ…残るタウラスとサジタリウス…この2つの星座を早急にこの地上に引きずり出すのだ」

ヴァルゴは残された戦力が減った事も気にせず、高らかに宣言した。

 

その日の夜…。

IS学園の外で、士や竜也達と仮面ライダー部は向き合っている。別れの時が来たのだ。

「行ってしまうのですね…」

セシリアは寂しそうに言う。

やはり名残惜しい。短い間でも心を通わせた仲間なのだから。

「いつかまた会えるよ。俺達はこれからも旅を続けているから」

ユウスケは微笑んでサムズアップをした。

夏海とキバーラも優しく微笑んで、宇月達を見つめる。

「この世界での物語…きっと紡いでください」「キバーラお姉さんとのお約束よ~」

「そうね。わたし達が紡ぐから…」

鈴音は笑顔で頷く。

「またおいで。コーヒーやお菓子、沢山ご馳走するから」

「わぁい、お菓子~!うん、きっとまた来るね!」「お菓子が重要なのか」

栄次郎の言葉に喜ぶ本音に、鋭く突っ込む礼。ラウラも隣で微笑んでいる。

「いつまでも、絶対に大切な事は忘れないでね。そうすればきっと…」

「はい。月宮先生」「絶対に忘れません。みんなも、先生達のことも」

あゆと手を握り合うシャルロット。紫苑も彼女達の別れを持って、新たに決意した。

「君達なら絶対に大丈夫。どんなときでも力を合わせて。無力なんてことはないから」

「はい。龍崎先生のおかげで、自分にも少し自信が持てました」「みんなで、この学園を守って見せます」

竜也にも自らの決意を伝える一夏と箒。より強い絆が生まれていくのだろう。

「なんか、いろいろとありがとうございます、士さん」

「気にするな。俺もいろんなモノを取り戻せたんだ」

宇月と士は互いに感謝しあっている。2人はお互いに何かを手に入れ、何かを取り戻したのだ。

オーロラの彼方へ竜也とあゆは消えていった。

「…じゃあな」

宇月達を写真に収め、手を振りながら、士達もそのオーロラに向かっていった。

 

写真館内。

「みんな、良い笑顔ですね」

夏海は士の写した写真を見ている。

それは、宇月をはじめ、そこにはいなかった千冬や山田など、彼等と関わりが深い者がそれぞれ笑みをたたえている写真だった。

だが…。

「まだ…脅威は残っているみたいだがな」

その写真には、黒い霧が立ち込めている所があった。

「それじゃあ…」

「いや、ここからはあいつらの物語だ。俺達も旅を続けて、物語を繋ぐ」

士は「IS学園の上空に、ダークネヴュラと幾つものアストロスイッチがある背景ロール」を見つめた後、鎖に手をかけた。

 

 

 

世界の破壊者、ディケイド。無数の世界を巡り、その瞳は何を見る…?

 

 

 

ちなみに…。

「おかしい…連絡もない」

千冬はずっと首をかしげている。

「教育実習生はどうなったんだ…?」

これも士がこの世界に残した、ここにいた証拠…なのだろうか?

事実を知っている山田は…。

「あ、あははは…」

真実を語り辛く、引きつった笑みを浮かべ続けていた。

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                      一夏の中学時代の友達か!

 

仮面ライダー捜索会…?

 

                      弾と蘭も入ってるのかよ?

 

来ちゃった…

 

                      唐突過ぎるよ…!

 

偶然の鉢合わせってあるんだ…

 

                      40番目のスイッチ…「コズミックスイッチ」だ

 

 

 

第24話「休・日・来・訪」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

門矢士=仮面ライダーディケイド

小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
光夏海=仮面ライダーキバーラ
キバーラ
海東大樹=仮面ライダーディエンド

光栄次郎
鳴滝=リブラ・ゾディアーツ

???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
効果音や電子音のとき行を空けたほうが良いとアドバイスを頂いたのですが、実際に書いてみるとなんだかバランスが合わなかったように感じたため、今までのスタイルでいくことにしました。意見を下さった方、申し訳ありません(汗)
この話で少しだけ伏線も張ってみました。気付いた方はいますかね…?
次回は休日編です。ゾディアーツもフォーゼもメテオも出さない(予定)です。
おたのしみに!


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仮面ライダー部は休憩中…
第24話「休・日・来・訪」


 

今日は土曜日。

IS学園の生徒は週末に自宅へ帰るものも少なくなく、宇月達も例外ではなかった。

今回は、彼等の休日にスポットを当ててみよう。

 

まずは宇月。

「さぁて!学園の学食や鈴音の酢豚の量じゃ、美味くても腹は膨れねぇ。美味い食い物をたらふく喰って、ゾディアーツとの戦いに備えるぞ!」

彼の自宅に戻った理由は一つ。食欲を満たすためだ。

実際、フォーゼとして戦っているがために肉体の消耗は激しく、彼の身体は栄養を強く求めているのだ。その飢えは学園では完全には満たされないらしい。

「何作るかな…?」

宇月はそこそこに料理の腕はあり、自身が美味しいと感じるものを大量に作る程度ならば出来るらしい。

そのとき、家にノックをする者がいた。

「礼か?」

彼の家にやってくる者は多くはなく、ここ最近では礼がほとんどである。

扉を開けた先には…。

「あの…こんにちは、城茂君」「こんにちは、うっちー!」

本音と簪だった。随分と珍しい来客だ。

「おぉ、簪に本音!よくここが分かったな!?」

「本音に場所を教えてもらったの」「わたしはつっちーから。簪ちゃんがどうしても来たいって」

本音の何気ない発言に、簪は顔を真っ赤にする。

「そ、それは言わないって…!」「あ、ごめん、忘れてた」

「まぁ入れよ。来客なんて、礼を除いたら随分久しぶりだなぁ!」

しかし、宇月にはそんなことはどうでも良かった。とにかく、友達が家にわざわざ来てくれることが嬉しかったのだ。

彼はすぐに2人を家にいれた。

 

続いて一夏。

「仮面ライダー捜索会?」

彼は友人の家にいる。名前を五反田弾という。

「そう。蘭と一緒に入ってな、都市伝説の仮面ライダーを探そうっていう会なんだ」

これは少し厄介かもしれない。仮面ライダーは身近にいる宇月なのだ。

「おにぃ!捜索会の…」

突如ドアが開かれ、彼の妹の蘭が入ってきた。随分と乱れた部屋着である。

「あ、あれ…一夏さん…!?」

しかし、一夏を見て様子が変わる。

「な、なんで…」

何かを呟きながら、急いで部屋を出て行った。

「なんだったんだ、蘭…」

「おまえ、まだ分からないのかよ」

「は…何が?」

蘭は一夏に好意を寄せているらしいが、当の本人は全く気付いていない。鈍感にも程があると弾は呆れているが、口には出せない。

恋をする妹を持つ兄は、苦労人である。

「まぁ、いいや。仮面ライダーって、IS学園でかなり出てくるって聞いたからさ、なにか知ってる事あったら教えてくれよな?」

「わ、分かったらな…」

冷や汗をかきながら、そっぽを向く一夏。秘密は隠し通せるかどうか…。

 

その頃、一夏の家では…。

「どうして…」「誰も…」「いないのよ!?」

一夏に会うためにやってきた、箒、セシリア、鈴音の姿があった。

結論を述べると、弾の家に向かったため、留守になっていたのだ。

彼女達の足元では、バガミール、ポテチョキン、フラシェキーが落胆しているような仕草を見せていた。

 

同時刻、ラウラは電話をしていた。

「クラリッサ、わたしだ。辻永礼の家は見つかったか?」

「はい。隊長の送信されたプログラムデータを、衛星で探索した結果、隊長のいる位置から直進で、南南西1kmの距離にあります」

なんと彼女は自分の国にある黒ウサギ隊の副隊長クラリッサに、礼の家を探知させたのだ。ちなみにプログラムデータとは、メテオドライバーのことだ。と言っても、礼の目を盗んでデータを入手しなければならないこともあって、彼女ではメテオの深いデータまでは入手できなかったため、ドライバーの表面上のデータのみではあるが。

「了解した、感謝する」

「とんでもありません。我々は常に、隊長と共にあります」

優秀な部下の働きに感謝しつつ、ラウラは礼の自宅を目指す。

 

そんなことも知らない礼は…。

「39番までのスイッチを全てロールアウト完了。こいつ達も起動だな」

目をやると、そこにはホルワンコフ以外に、2体のフードロイドがいた。

ソフトクリームの形をしたソフトーニャと、チキンナゲットとその箱の形をしたナゲジャロイカだ。

「箒の後方支援、少しでも充実させたほうが良い。その方があいつも自分が非力だと感じないだろうし…」

礼は彼なりに、箒を気遣ってフードロイドのロールアウトを早めたのだ。

そして、残るアストロスイッチで規格されているモノの中で最後に登録されている、40番目のスイッチ。

間もなく、そのスイッチの調整も終わるようだ。

そのとき…。

「礼っ!」

大きな声と共に、ラウラが入り口のドアを突き破って入ってきた。

「うお!何やってんだ、おまえ!?」

「嘘を吐いたな!今週の週末は…ふ、2人だけで…」

ラウラは礼と週末に出かける約束をしていた。彼が学園からいなくなったために、約束を破られたと思い込んでいたのだ。

「今、何時だ?」

「昼の11時だ」

「約束は3時だろ!それまでの時間くらい、自由にさせろ!」

実際、彼女が家に来てくれることについて悪い気はしないのだが、このまま放っておくとラウラの行動はエスカレートしそうだと感じ、叱り上げる。

「大体なんで、おれの家の場所を知ってるんだ!」

「ふっ…愛の力だ」

「マジメに答えろ!」

彼女の扱いは難しい。礼はメテオを隠していた時よりもさらに困り果ててしまった。

「とにかく日本では、善は急げというらしい。すぐに出かけるぞ!」

「ま、まて!気が早い!まだ40番目のスイッチが…!」

ラウラに引っ張られ、礼は40番目のスイッチ調整を残して家を後にしてしまった。

 

残った紫苑だが…。

「…前よりも鈍痛が増してる…」

右腕をさすりながら、小さく呟く。彼の肉体の中の、母親の肉体部が今まで以上の拒絶反応を示しているらしい。

「専用機を使ったからかな…?」

彼に考えられる可能性は、それが大きかった。理雄の使っていた霧裂を使い始めた途端に症状が悪化し始めたのだから。

「痛み止め、増やしてもらったほうが良いかも…」

今後の事も考え、医師との相談をしようと決めたとき…。

彼の家にもノックをする者がいた。

彼に関しては、家に来る者は皆無だ。来るとすれば何かの勧誘程度だ。今回もその類かと思い、ドアを少し開けたとき…。

「来ちゃった。紫苑、こんにちは」

「シャル!?」

シャルロットが立っていた。想像もしていなかった出来事で、紫苑は気が動転する。

「唐突すぎるよ…!」

「どうかしたの?」

「あ~その~、い、家は片付いてないし、殺風景だし、空は青いし、風は気持ち良いし…あれ、何言ってるんだ僕?あああああああぁ!」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫、大丈夫!怪我ならないよ!」

さっきから会話が、微妙に噛み合っていない。

シャルが本題を切り出した。

「あの…紫苑、今日は忙しい?」

「え?」

「もうすぐ、臨海学校でしょ?もし暇だったら、一緒にいろいろと買い物に行きたいなぁって」

少し照れながら言い切ったシャルロット。

紫苑はそれを聞いた途端、動転していた様子からいつもの雰囲気になった。

「…どうして僕を?他に人はいるんじゃ…」

「紫苑と一緒が良いって思ったから。紫苑をもっと知りたいから」

本心だ。シャルロットは紫苑のことをもっと知りたい。もっと関わりたいと思っているのだ。ただ、彼は引っ込み思案であり、動くなら自分からとシャルロットは考えたのだ。

「…僕もシャルと、もっと仲良くなりたいと…思ってるのかな…?自分でも、ちゃんと分からないけど…」

「じゃあ、行こう!」

紫苑の服装も出掛けるに丁度良い格好だったので、シャルロットは彼の手を引いて買い物に出掛けた。

 

千冬と山田は休日ということで、顔を合わせていた。

「すまないな、真耶。休みの日に付き合ってもらって」

「良いですよ。でも…ちょっと言いたいことが…」

バツが悪そうに山田は答える。

「どうした?」

「その…ホロスコープスのことです」

千冬は彼女の雰囲気から、ある程度は予測していた。

「織斑先生って、独自にヴァルゴ・ゾディアーツを探してますよね?」

「あぁ。正体を知っている奴は見つけたが、どうにも口を割ってくれなくてな」

どうやら、山田には感づかれていたようだ。確かに彼女は仮面ライダー部の顧問であり、それを知る可能性は十分にあった。

「それとは別の十二使徒、レオ・ゾディアーツは知ってますよね…?」

「あぁ…龍崎君達の話では、ホロスコープスで事実上のナンバー2らしいな。実力はヴァルゴにも劣らないとか」

「はい。そのレオが城茂君達に襲い掛かってきたことがあるんです。一度でしたが」

それはラウラが再びジェミニに仕立て上げられようとして、無理矢理連れて行かれたときだ。山田は直接いたわけではないが、バガミールの映像を見たことで知っている。

レオは一瞬で、宇月達全員を戦闘不能に陥らせたのだ。

「正直…歯が立ちませんでした。多分、今の城茂君や織斑君達がどんなに力を合わせても、きっと太刀打ちできる相手ではありません」

「つまり、何が言いたい?」

「そのレオとほぼ同等か、それ以上の強さを持つヴァルゴですよ!?一人では関わらないほうが良いと思います!もし織斑先生が探している事がヴァルゴ達に知られたら、例え貴女でも…」

 

「おそらく、知られている」

 

「えっ…!?」

彼女から聞いた返事は意外なものだった。千冬は既にヴァルゴに自分の行動を読まれていると感じているのだ。

「奴の方から、正体を探させるような誘導をされた。確証はないが本人曰く、ヴァルゴは私の知っている者の誰からしい。…もしかしたらIS学園の人間でもおかしくはない」

山田は絶句した。スコーピオンに続き、首領のヴァルゴまでもが、千冬もしくは自分たちの身近に潜んでいるかもしれないのだ。

「それなら余計に…!」

「真耶。私はIS学園の教師であり、世界初のIS使いであるが…それ以前に、一夏の「姉」なんだ。弟の危険を黙って見ているほど、冷酷ではないつもりだ」

どうやら説得は無理らしい。

「やっぱり…織斑先生は、お姉さんなんですね。わかりました。でも…織斑君に心配させるような事は…」

「しないようにするつもりさ。今の一夏には、私を気遣う余裕はないはずだからな」

 

そのころ…。

「冷蔵庫に食べ物が無いなんて、考えてなかった!」

「それくらい考えて」「まぁ、うっちーらしいねぇ~」

あの後、宇月は二人にも食事を振舞おうと思ったが、冷蔵庫の食料がなかったので、買出しに出掛ける事になった。

「ところで宇月って、どうやってお金を…?」

「あぁ、コズミックエナジーの研究でちょいとばかり。父さんと母さんの貯蓄もあるけど、出来れば使いたくなくてな」

宇月はこの年齢ですでにコズミックエナジーの専門的な研究を進めている。その成果も幾つか挙げており、それによる収入で今は生活している。

「と言うわけで、心配するな!今日は、おれのおごりだ!」

「わぁい!うっちー太っ腹~!」

正直言って、あまり財布が潤っているわけではないが、彼女達にそれくらいのもてなしは必要だろう。

「あ、簪のほうはどうなんだ?一夏達とIS作ってるんだろ?」

「うん、順調。近いうちに完成するかも」

比較的、明るい表情で頷く簪。現在、一夏達が時間を見つけては、彼女の専用機の製作を手伝っている。宇月も本来は手を貸したかったのだが…。

「そうか!おれ、ISの知識はダメダメだからなぁ…。手伝えなくて悪い」

「宇月はしょうがない。みんなのヒーロー、仮面ライダーフォーゼだから…!」

簪はそう言ったとき、顔を赤くする。目の前には憧れのヒーローがいるのだから。彼らが学園を守ってくれる。だから何も言う事はなかった。

「完成のときは、見せてくれよな!」

「うん…!」

賑やかな会話の途中…。

 

「あ」

 

宇月達は箒達とバッタリ遭遇した。

「よぉ!箒、セシリア、鈴音!3人でお出かけか?」

「い、いや…そういう訳では…」「ぐ、偶然ですわ…」

理由が理由であり、結果もあまり格好がつかないため、なんとなく言いづらかった。

「あんた達こそ、どうしたの?」

「うっちーがね、ご飯作ってくれるんだって~!」「それで買い物をしてる」

その言葉で箒達は驚く。

「宇月、料理が出来るのか…」

「おまえ、おれを何だと思ってるんだよ!自分の腹くらい満たす腕はあるぜ?」

袖を捲り上げ、自信たっぷりに宣言する宇月。

その後ろから…。

「あ、一夏さーん!」

一夏、弾、蘭がやってきた。それに気付いたセシリアは小走りで近付く。

「あれ、セシリア。それに箒達も…」

少し驚いた表情で彼女達をみつめる一夏。

その横では…。

「あ、鈴さん…!」「蘭!」

また別の古い知り合いの再会があった。

「なんだよ、知り合い?て言うか一夏、その2人は誰?」

「あぁ、中学時代の友達だ。五反田弾と、その妹の蘭。休みの日には、たまに会ってるんだ」

「一夏の知り合いって所から…おまえらIS学園の生徒だよな」

ここは双方と知り合いである一夏がそれぞれの紹介を行なった。

「…それで、弾と蘭は仮面ライダー捜索会ってやつに入ってるんだ」

「仮面ライダー捜索会?」

宇月はその言葉に少し表情を変えた。

「都市伝説の仮面ライダーを探すって言う会だ。何かあったら、連絡くれよな」

「都市伝説も何も、仮面ライダーは…」

「だああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

本音が真実を言おうとしていたところ、宇月が絶叫で止めた。

「本音、ちょっと来いいいいいいいいいいぃっ!」

「え、え、なに!?」

首根っこを捕まえ無理矢理、物陰に連れ込む宇月。

「どうしたの?」

「IS学園内以上にフォーゼを知られるのは、さすがにヤバイ気が…。外部にゾディアーツのことまで知られたら…警察の捜査とかも…」

宇月の説明で、ようやく本音は事の重大さに気付いたようだ。

「そ、そうだね…ごめん」

「気をつけてくれるなら良い。まぁ、うっかり滑りそうになったら、上手くはぐらかしてくれ」

その後、弾と蘭には上手く説明し、仮面ライダーフォーゼは知られずに済んだ。

 

同時刻。

「何処に出かけるんだ?」

礼が尋ねる。彼は40番目のスイッチに集中しすぎて、何も考えてなかったのだ。

「特にない」

「はぁ?おまえが言いだしたんだろ!?」

ラウラの言動に、礼は苛立ってきだした。

だが…。

「わたしの話だ!」

「…どういうことだ?」

言葉の意味が分からず、礼は首を傾げる。

「礼…メテオやスイッチ調整が忙しいから、自分の生活のことまで気が回らないんじゃないのかと思ってな。シャルロットに聞いたら、手伝うと良いって…」

理由に納得して、礼はラウラの頭に手を置く。

「そうだったのか…。すまなかった、邪険に扱って。やはり、仮面ライダー部の人間は例外なく良い奴だ」

礼は少しだけ顔を赤くして、ラウラの手を握る。

「礼…?」

「その…なんだ…手を貸してもらってばかりじゃ申し訳ない。おまえも何か行きたいところがあったら、付き合う。おれで…よければな」

「…あぁ、良いぞ!行こう!」

そう言って二人、意気揚々と出かけていた途中…。

 

「あ」

 

紫苑とシャルロットに遭遇した。

「ラウラ、上手くやってるんだね!」

「まぁな。そっちもか?」

「う、う~ん…まだまだ難しいけど…」

双方、互いにアドバイスを出し合って、礼と紫苑に関わっている。

二人が盛り上がる中…。

「なんだろう…これ?」「さぁ…」

残された礼と紫苑は複雑な表情をしている。

結局…。

「こうなるんだね…」

4人で買い物に行くことになった。

その先で…

 

「あ」

 

宇月達と遭遇する事になった。

「偶然の鉢合わせって、存在するんだね…」

結局それぞれ別行動のはずが、全員集まった事になった。

「まぁ、大勢いたほうが盛り上がるってもんよ!」

宇月はこれまた豪快に笑い、両隣の一夏と礼の肩を抱き寄せる。

「それもそうだな!」「大勢過ぎるのはどうかとおもうが…」

礼だけは少し気が進まないらしいが、彼以外は殆どが賛成意見。

「そうだそうだ!みんなさ用事が済んだら、おれの家に来いよ!メシを振舞ってやる!」

買い物カゴにある大量の食材を見せて、一夏達を誘う。

「それも良いですわね!」「でもこんなに来て、家は大丈夫なの?」

「平気だ!むしろ一人じゃ広すぎるくらいだぜ!」

後々の事が決まり、一旦各自で用事を済ませることになった。

 

まず一夏、箒、セシリア、鈴音、蘭。

彼等は何の脈絡もなかったので、宇月での食材を追加で買うことにした。

「この赤いもの…どう違うのです?」「それ、ケチャップとタバスコです…」

相変わらず、庶民的な調味料の区別もつかないセシリア。蘭がそっと指摘する。

「ねぇねぇ、一夏!二人で何作るか決めてよ!」「おい、何故、二人限定なんだ!?」

隣で言い争いをしている箒と鈴音。その横で食材を品定めしている一夏。

「何作るかな…?」

 

さらに、宇月、本音、簪、弾。

「う~ん、季節モノとしては冷やし中華を、だが一方で濃厚な味を好む高校男児としては、あっつあつのハンバーグが食べたいところだ。だが、コレは女性の反感を買う可能性がある。ならいっそ冷やし中華に、いやいや待て待て…」

「独り言…長いなコイツ」

品物を見ながらぶつぶつと一人で呟く宇月をみつつ、弾は一歩引いた目で見ていた。

「食べ物の執着は、結構すごい」「うん、うっちーは凄いんだよ~。みんなの5人分はぺロリだから!」

仕方ないとは言え、どうして食欲が旺盛なのかを知らない二人は、それを彼の執着と解釈していた。

 

そのころ、シャルロットと紫苑は、臨海学校の準備品を選びに行っていた。

「こうしてると…お母さんと買い物してたころの事を思い出すな…」

彼女の懐かしむ表情。亡き母との思い出と今を重ねている。

紫苑はその様子を見て、微笑みながら問う。

「シャルは本当にお母さんが好きだったんだね」

「うん。子供の頃、いろんな思い出をくれたんだ」

優しく褒めてくれたとき、悪い事をして叱られたとき、いろんなときに母は傍にいて、支えてくれた。それが今では懐かしい。

「紫苑はお母さんのこと、好きだった?」

共感を求めるためか、シャルが問うと、紫苑は急に表情を暗くした。

 

「…嫌いだよ」

 

「え…?」

落ち込んでいたり、自棄になっている雰囲気ではない。

明らかに、憎悪や怒りが込められていた。

「お母さんは大嫌いだ。僕を生かしたかもしれないけど、その所為で、僕の周りは崩壊した…」

そう言いながら、左拳を握り締める。

シャルロットはそれを見てギョッとした。

握った左拳に爪が食い込み、おびただしい血が溢れていたのだ。

「僕に与えた代わりに、いろんなものを奪った…」

 

「全部、お母さんの所為だっ!!!!!!!!」

 

「し、紫苑!?」

シャルロットが必死に方を持って揺すっていたところ、はっと我に返ったような表情になり、困った様子を見せる。

「…あっ!?ご、ごめんね、大きい声だして…」

「大丈夫だよ。それより、手当てしないと…」

近くのベンチに座らせ、薬局で買ってきた包帯を左手に巻く。

「ごめん、いきなり無駄になっちゃった…」

「怪我したときのためだから、無駄じゃないよ」

二人は顔を見合わせて、照れ笑いをした。

 

それをみているラウラ。

「礼っ!わたし達もいい雰囲気を作るぞ!」

「それって、言って作るものじゃないだろ?」

礼の突っ込みも見事にスルーされ、ラウラは彼の手を引っ張っていった。

「そうだ!礼、ご飯は作れるのか?」

「基本的にはインスタントで済ませている」

礼は料理の技術はあまりなく、すぐに作れるようなもので済ませていた。

「そんなことではダメだ!…と、シャルロットに聞いた」

「おまえの意見、ないな…」

何を隠そう、ラウラも軍で生きてきた身であり、常識的な生活とは少しズレている。それをシャルロット等に教えてもらって、自分で矯正しているのだ。

「わたしも軍で食事係を任されたことがあり、料理の腕には多少の自身がある。今日は宇月の家で、腕を振るって、礼にご飯を作る!」

「なんか…悪いな。そんなところまで面倒を見てもらって」

「心配するな。おまえはわたしの「最初の友達」なんだからな!」

振り返ったラウラの表情はとても明るかった。

それを見ていた礼は…。

「おかしい…最初はなんにも感じなかったのに…」

自分の感情に変化を感じ、胸に手を当ててつぶやく。

「何か言ったか?」

その呟やきをかすかに聞かれるが、そっぽを向いて適当にはぐらかす。

「いや、何も言ってない。早く決めよう。宇月達も待っているはずだ」

そう言って早々に買い物を済ませ、宇月達のもとへ急いだ。

 

 

 

 

 

続く…。

 

                 

 

 

 

 

次回!

 

                         ここに…ゆりこや理雄がいたらな…

 

あれって…フォーゼ!?

 

                          やべっ、バレた!?

 

仮面ライダーが戦う意味って…!

 

                          まぁ、止まれないもんな

 

あの男は…

 

                          私の名は勇士だ。

 

 

 

 

第24話「過・去・回・想」

 

 

青春スイッチ・オン!

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
クラリッサ・ハルフォーフ
五反田弾
五反田蘭

織斑千冬
山田真耶



如何でしたか?
今回は戦闘描写を抜きにしました。ただ…単調ですね…。
五反田兄妹は、次回に活躍する…かも…?
そして、次回登場する「勇士」という男。彼は物語でも結構重要なキャラです。一応、名前では登場しませんでしたが、あるキャラに関わりがあります。
名前で気付く人もいらっしゃるかもしれませんが(汗)。
次回は過去の登場キャラを少しだけ振り返ったり、弾達にフォーゼがバレたり…お楽しみに!
それでは…。




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第25話「過・去・回・想」

 

 

宇月の自宅に到着した一同。

本音、簪、礼以外はその大きさに驚く。

「宇月、結構金持ちなんだな…」

一夏がまじまじと見つめてこぼす。

「父さんや母さんと暮らしてた家。世界初のコズミックエナジー研究室「プロト・ラビットハッチ」も完備してるし、住み心地は結構良いんだ!」

彼もまた、思い出に浸りながら家を見つめる。

心の中で思い描いた、友達を家に連れて、楽しく過ごすという理想も叶った。

 

全員集まったところで、食事の準備を始めようとしたのだが…。

「キッチンが狭いぞ!?」

そう、コズミックエナジー研究室は完備しているが、それ以外の部屋は他の家より少々大きいだけであり、この人数はさすがに多すぎる。

「あぁもう!料理しない人は出て行ってよ!」

鈴音が、セシリアや紫苑を押し出そうとしたが…。

「どうしてですの!?わたくしも…」

「いや、おまえはやめとけ」

「宇月さん!?」

宇月に反論しようとしたセシリアを、必死に紫苑が引っ張っていく。

「い、行こう、オルコットさん。料理が確実に上手な人に…」

「このわたくしが料理が下手と言いますの!?」

「あ、そんなつもりじゃ…ごめんね…」

「おい、行くぞセシリア!次の機会にしろ!」

「はいはい、落ち着いて落ち着いて…」

大声を上げるセシリアは、紫苑を引き剥がそうとするが、途中で料理をしない礼や弾にも押さえ込まれ、なんとか、その場は治まった。

簪と本音も待っていることになった。

 

残された者達はそれぞれテキパキと料理を作っていく。

「意外です、宇月さんや一夏さんも料理が上手いなんて」

蘭は最初の勝気な性格は何処へやら、穏やかな雰囲気で宇月や一夏の腕を褒める。

「いやぁ、それほどでも!」「まぁ、千冬姉がいないときは、おれが料理してたからな」

2人は少し照れながら、料理を作っていく。

 

そして…。

それぞれ一品ずつ、料理を作った。

一夏はチャーハン、宇月は大量の牛焼肉、箒は魚の煮つけ、鈴音は酢豚、シャルロットは唐揚げ、ラウラはおでん(?)、蘭は煮物。

全員分と考えても、結構な量だ。

しかし、宇月は…。

「だめだ、足りねぇ!」

まだ満足しておらず、一人で調理を再開した。

そうこうして…。

「よぉっしゃ、出来たぞぉぉぉぉ!!!」

見上げるほどの量の、生姜焼きまで作った。

「本当にこれ、全部食べるの?」

「モチのロン!食えなかったら言えよ?」

簪はそのサイズと、それをさらりと平らげると言いのけた宇月に恐怖すら感じた。

「おい、これはなんだ?」

「おでんだ」

「いや、どう見ても…」

「おでんだ」

「あのな、人の話を…」

「おでんだ」

「はい…」

礼はラウラの作ったおでん(?)を見て、ツッコミを入れたかったのだが、頑なに言い張るラウラの姿を見て、何も言い返せなかった。どうやら食べる事を拒否することもできないらしい。

ざわついていたところを一夏がまとめる。

「よし、みんな。今日はみんなで楽しもうぜ!まずは腹いっぱい食べよう!」

 

昼食が始まって少したった頃…。

一夏は少し窓の外を見つめていた。

「一夏、どうした?」

心配になった箒が尋ねてみると…。

「…もしかしたら、理雄と夏樹も居たかもしれないんだよな…」

今はもう、ここにいない者達。

理雄は確かに、学園内でも騒ぎを頻繁に起こし、ホロスコープスとして脅威をもたらした存在であったが、それは環境に振り回されていただけに過ぎない。もしそんな環境下に置かれていなければ、良き友として笑いあっていただろう。現に彼を想ってくれた夏樹を、同じくらい愛したのだから。

夏樹もそうだ。彼女も置かれた状況のために心を歪めさせられただけであり、本来は明るく活発で一途な少女であった。

「理雄と夏樹…今頃、何してるんだろうな…」

その空の向こうにあるであろうダークネヴュラを見つめながら、一夏は呟く。

二人はダークネヴュラに送られてしまい、生きているのかすら分からない。

「いつまでも一緒だといっていたんだ。今でも、ずっと一緒だと信じている」

箒は何故か確信が持てた。二人は死んでなどいない。いつか必ず戻ってくる事ができるはずだと。

そのときこそ、また友として手を取り合いたいと願う。

 

弾はふとケータイの写真を見つめる。

そこには数人の少年達に囲まれて、中心に弾と…

 

八木鳴介が肩を組んで笑っている写真の画像が映し出されていた。

 

「おにぃ。八木さんのこと、まだ気になってる?」

「夢は叶いかけてるって言ったっきり、音沙汰無しだからな…」

彼は元ホロスコープスの八木と顔馴染みなのだ。弾は八木がカプリコーンだとは知らないが。

幾人かのモテない男子達が集まった「私設・楽器を弾けるようになりたい同好会」の仲間として、楽器の使い方のイロハを教えられ、夢を語り合った仲なのだ。

しかし八木もまた、ダークネヴュラに送られ、今は消息不明扱いとなっている。

「でもさ、八木さんって、どこまでも夢に一生懸命だったよね。いつか、情熱的な一曲を世界に届けるって聞かなかったし」

「そうなんだよ、センスがないのにさ。ホントにバカだけど…みんなの兄貴だったよ…」

八木は急に何も言わずに姿を消すような人物ではない。弾達のことは人一倍、気にかけていたし、弾の祖父が切り盛りする五反田食堂で一番の常連であった。

「いつかまた、ひょっこり顔を出すよ」

確信は持てないが、そんな気がした。

それだけ、彼は信頼されていたのだ。

 

紫苑はシャルロットの作った唐揚げを、頬張っている。

「おいしい…!人の作った手料理を食べるなんて、本当に久しぶりだなぁ…」

「喜んでもらえて嬉しいよ!いっぱい食べてね、紫苑は細すぎるから」

シャルロットの言うとおり、紫苑は異常なほど身体が痩せている。本人曰く、もともと食が細かったらしいのだが、自分の身体がこうなってしまった時期に、極度の拒食症になってしまったことが、大きな原因だと言う。

今は何とか回復しているらしいが、まだその肉体は元通りになっていない。

「シャルって、なんでも出来るんだね。本当にすごい」

「そんなこと…。ボクだって、日本に来て分からない事もいっぱいあったし、お箸もちゃんと持てないんだから」

苦笑するシャルロット。今はフォークで食事を取っている。

「だからさ、ボクの分からない事は紫苑が教えて?ボクも紫苑に何か教えたい」

「うん…僕なんかで良ければ…」

紫苑はシャルロットの顔をちらちらと見ながら、顔を赤くして俯く。

 

そして…。

「もう食べられませんわ…」「ありえないわよ…」

セシリアと鈴音は、宇月に付き合わされていたが、遂に限界が訪れてしまったのだ。

一方の宇月は。

「おいおい!全部、喰っちまうぞ?」

「あんたが全部、食べなさいよ!」

「お、良いのか?んじゃ、遠慮なく!」

再び、目の前の食べ物の山を削っていく宇月。

「ほんっと、食い意地が張っているというか…」「フードファイターと言いますか…」

どうしたら、この量が胃袋に収まっているのかが理解できない。物理的法則を完全に無視している。

そこへ簪がやって来て、二人にこそこそと呟く。

「宇月…この前、ゆりこさんを失って悲しかったって聞いた。それを、これで紛らわせてるんじゃ…」

「あ…」

それで気付いた。

宇月は今まで、こんなに食べている事はなかった。一夏のクラス代表決定のお祝いでは確かに沢山食べていたが、これほどではなかった。心を寄せた者を失った悲しみを、食欲として、はけ口にしているのではないのだろうか…。

「いや、それはない」

ふと、礼が入り込んできた。

「宇月は凄まじいエネルギーを消費している。フォーゼの場合は、コズミックエナジーを肉体に循環させるサイクルが早すぎて肉体の消耗が激しいんだ。アレだけ食べても腹が膨れ上がる事もないのは、本来の人体的には有り得ない速度で消化しているからだ」

そう、これはいわゆる、フォーゼを扱う代償なのだ。しかし、食事さえ大量に摂取すれば命に関わる事はないので、不幸中の幸いとも言える。

「それって…もしかして、礼もメテオだから…」

「おれが使っているメテオはコズミックエナジーを使うが、サイクルがそこまで早くない。専用アストロスイッチの数が少ないからな。戦法が少ない分、代償がない」

フォーゼが規格では40個あるのに対し、メテオはメテオスイッチとメテオストームスイッチの2つだけなのだ。これが2つのシステムの大きな違いといえるだろう。

「ただ…宇月のあの悲しみが何処へ向けられているのか、気にはなるな」

礼もそれは図り知ることが出来ない。人の感情を他者が理解する事は非常に難しいのだ・。

そこへ…。

「礼っ!まだおでんを食べてないぞ!」「つっちー、ラウラちゃんの料理、ちゃんと食べないと~!」

「なにっ!?よせっ、そんなゲテモノ…やめろおおおおおおおぉ!!!」

彼は抵抗むなしく、ラウラの料理の犠牲となった。

ただ…。

「ん?意外と美味しい…」

その料理は見た目以外、結構良好であったとか…。

 

礼達のほとぼりも冷めたころ…。

簪は手に持っていた扇子を見つめる。姉の楯無はよく扇子を手にしているが、コレは姉のものでもなければ、簪のものでもない。

居可弐式のモノだ。

更織家の所為で犠牲となり、ホロスコープスになることで狂気に囚われてしまった男。

彼は唯一、宇月達と和解していない。最後まで差し伸べた手を払い除け続けた。

楯無は気にする事はないと言っていたが、簪もそのことに責任を感じていた。

「わたしだけじゃ…何も出来なかった」

その扇子を握り締め、自分に出来る事は何かを考える。

 

片付けも済み、みんながそれぞれ自由にしていた頃。

宇月は窓の近くで寄りかかっている。その手にはロケットスイッチスーパー1がある。

「…美味かったけどさ…」

彼の食欲は満たせた。だが、心の中にある大きな穴はまだ完全に癒えていない。

「…一度も、ゆりことご飯を食べた事がなかったな…」

ゆりこといた時間は本当に短かった。互いに心を通わせたのは事実だが、恋人らしい事は何一つ出来ていなかった。

彼女が好きでいてくれただけで喜べたが、本当のところを言うと、もっと一緒に何かをしたかった。

「でも…止まれないもんな」

ただ、今はその感傷に浸って戦いをおろそかにするわけには行かない。

そのとき…。

 

「宇月!バガちゃんがダスタードを見つけた!」

箒がやってきて、バガミールの動画を見せる。

そこには近い場所で数体のダスタードが暴れている姿が映し出された。

「…行くか!」

彼は礼と箒を引きつれ、外に出て行った。

それを弾と蘭も見逃さなかった。気付いていないフリはしたが。

 

「ムゥゥゥゥ…!」

近所という事もあり、数分もせずにダスタードは見つかった。

「礼、行くぞ!」「ダスタードということは、ホロスコープスがいるかもしれない。気を抜くな!」

<METEOR-READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

眩い光と煙のオーラに包まれ、2人はフォーゼBSとメテオに変身した。

「邪悪な星の運命の従僕共よ!きさま達は…存在ごと消し去ってみせる!」

鼻を拭うしぐさをした後、2人同時でダスタードに向かって走っていった。

それを物陰で見ているのは…。

「あれが都市伝説の仮面ライダー…。フォーゼとメテオ!?」「宇月さんと礼さんだったんだ…!」

弾と蘭だ。こっそり、後を付けてきたのだ。

「来い、メテオスターっ!」

メテオが叫ぶと、何処からか青い発光体が現れ、メテオの愛車「マシンメテオスター」に変化した。

それに跨り、エンジンを唸らせるメテオ。

「行くぞ!うおおおおおおおおおぉっ!」

ドガガガガガガガガガガァッ!

「ヌオオオオオオオォッ!?」

発進したと同時に正面のライト部分から光弾が発射され、ダスタード達を翻弄する。

<WINCH-ON><BOARD-ON><CROW-ON>

「コレ使うか!おりゃぁっ!」

ガキンッ!

フォーゼBSは、ウインチでメテオスターの後ろを引っ掛け、地面を滑り始めた。

「傷つけるなよ!?」「今までつけたこと無いだろ!コレは父さんと母さんの形見だからな!」

メテオの攻撃を逃れたダスタード達はフォーゼBSが相手をする。

「どぉらあああああああああああぁっ!」

ガギィ!ドガァッ!

遠心力を応用しながら、フォーゼBSはダスタードを一網打尽にしていく。

「箒、ファイヤーを!」「あぁ、受け取れ!」

メテオは箒からファイヤースイッチを受け取り、メテオドライバーに挿入する。

<FIRE-ON READY?>

「アチャアアアアアアアアアァッ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!

その姿は、大気圏内に入ったことで起こる摩擦で炎を吹き上げる隕石のようだった。

ダスタードは多くなく、特にリミットブレイクも使わずに殲滅する事ができた。

「…ホロスコープスが現れない」「妙だな…」

フォーゼBSとメテオは、その不自然すぎる勝利に疑問を抱きながらも変身を解除する。

帰ろうとした矢先…。

「おまえら…仮面ライダーだったのかよ」「まさか二人が…」

弾と蘭が現れた。

「やべっ!正体、バレた!?」「厄介な事になったな…」

変身を解除するところは見られたであろう。言い逃れは出来ない。

しかも、相手は仮面ライダー捜索会とやらに所属している。もしIS学園以外の公の場に仮面ライダーが知られるものならば、たちまち彼等は戦いづらい状況下に置かれるであろう。

「どうして戦ってるんだよ」「そうです。仮面ライダーの戦う意味って…」

弾が尋ねる。

「…父さんと母さんの意志を継いでるつもり」「おれは宇月の友として手を貸している」

宇月の心では、父と母の笑顔が思い出される。

白騎士事件の日、二人は行方不明となった。一部では死亡したという噂もある。

だが、それを否定したい。二人が帰ってきたときのために、宇月は両親の意志を継いでいるのだ。

「おまえ、そんなことあったのかよ…」

一見では想像できない過去を、宇月は背負っているのだ。

「頼む。だから、仮面ライダーの事は学園以外に知られたくないんだ」

事情を知った弾達は…。

「あぁ、捜索会にも、何も言わない」「これは、わたし達だけの秘密です」

心情を理解してくれて、本当にありがたかった。

これで仮面ライダーのことは知られずに済むだろう。

「良かった…ありが…」

 

「っ!?」

 

感謝の言葉を述べようとした途端、そこにいる一同が凄まじい悪寒に襲われた。

蘭にいたっては、膝がガクガクと震えて倒れそうになっている。弾が支えるがその腕も震えが止まらない。

「なんだよ…なんなんだよ!?」

「とにかく、この場から離れるぞ!」

箒がそう言い放ち、全員ですぐにそこから走り去った。

 

それを影で見ているのは…。

「チッ、騒ぎには発展しなかったか」

レオだった。先ほどの凄まじい悪寒は彼の殺気によるものだ。

宇月達の立場を悪いものにするために、ダスタードを生み出しフォーゼとメテオを、弾達、一般人に知らしめたのだ。

「IS学園でまだ邪魔をするようなら、本当に一戦交える必要がありそうだな」

どうやら、レオはフォーゼ達と直接対決することを望んでいないらしい。

だが、それが本人の恐れや怠惰ではない事は見て明らかである。

「あの…レオ様…」

背後から、ビクビクしながら現れた少女。どうやら、レオと知り合いであるらしい。

「なんだ?」

「ひっ!?」

何の気も無しに話しかけても、極度に怯え、後ずさる。

「早く言え。用件はなんだ?」

「あ、あの…こ、このスイッチ…」

そうやって取り出したのは…。

 

ホロスコープススイッチだった。

 

「ほう、遂に覚醒したか。随分と時間が掛かったな」

ここにいる少女は、新たな十二使徒へと覚醒したらしい。

だが、レオはようやくかと言った感じだ。何を隠そう、彼女はラプラスの瞳で見た結果、確実に水瓶座の運命を持っていたが、覚醒への時間は今までのホロスコープスの中でも最も遅かった。

「ご、ごめんなさい…。その…それで…瑞希ちゃんは…」

「安心しろ、約束は守る。陽野瑞希は我々の同志として迎え入れる。歓迎しよう清水満子…いや」

 

「水瓶座の使徒「アクエリアス・ゾディアーツ」よ」

 

夕方。

それぞれが帰ることになった。

「本当に楽しかった!こんなににぎやかな家は久しぶりだったんだ!」

心の底から嬉しそうに微笑む宇月。

「また行くぞ。そのときも、楽しんでいこうな!」「あぁ、わたしもまた来たい」

一夏と箒も笑う。

そして、全員を見送った後…。

「…片付け、考えてなかった」

家は色んなものでごった返していた。一人で掃除するのは骨が折れるだろう。

「ま、楽しかった代わりなら、安いモンだよな!」

掃除器具を取り出し、片づけを始めようとしたとき…。

「宇月、わたしも手伝う」

「どわぁっ!簪!?」

さも当たり前のように簪が片づけを手伝おうとしていた。

「一人じゃ大変。手伝いたい」

「お、おぉ、助かる」

戸惑いながらも、宇月は片付けを再開する。

半分ほど終わったとき…。

「宇月は…ゆりこさんのこと、忘れられない?」

ふと、簪が聞いてきた。

「…まぁな。言ってしまえば、おれの初恋だったし。まぁ、初恋は実らないって言うけど…これじゃな…はは」

苦笑いをしながら、掃除を続けている。

「今も…悲しい?」

「…悲しいというより、寂しいな。あいつは死んだわけじゃないし、おれの傍にいるのは知ってるんだ」

そう言って、ロケットスイッチスーパー1を取り出す。コレにはゆりこの意思がこもっている。本体は未だ、ヴァルゴの持つSOLUスイッチの中だ。

「でもさ…やっぱり姿を現して、傍に寄り添って欲しいさ」

ゆりことの思い出を振り返りながら、ひたすら掃除を続ける。

そのとき…。

簪は宇月を抱きしめた。

「か、簪…?」

「わたし、きっと宇月にとってのゆりこさんにはなれない。わたしも…宇月のことが好きと違う。でも…あなたの寂しさを…ほんの少しだけでも和らげるくらいなら出来ると思う。…ダメ?」

彼女は理解している。宇月のゆりこへの想いは強すぎるのだ。それが分かっているからこそ、コレだけしかできない。彼の心のたった一部を満たすだけだ。

「…気にかけてくれてありがとうな。でも簪、おまえにはおまえの可能性がある。満たされないおれの心のために、おまえの可能性を潰したくない」

宇月が信じているのは「可能性」だ。誰の身にも宿る可能性。それは目の前にいる簪も例外ではない。それを無駄にして欲しくない。

おそらく、自分のために簪が寄り添えば、彼女のもつ可能性はきっと潰える。しかも彼女が得られるものはない。

「だけどよ、おれってあんまりメンタル強くなくてな。だから、困ったときとか、悩んでるときは、話くらい聞いてくれよ。今は…それだけで良い」

「…分かった」

簪は複雑な想いを残し、彼の身体に巻いていた腕を放した。

 

その日の夜。

千冬と山田は、町の外れにある少しお洒落なバーで酒を飲んでいた。

「これからは、わたしも一緒に探します!」

そう宣言したのは山田だ。

「真耶…」

「織斑先生だけに危険な目にあって欲しくはありません。それに…わたしも仮面ライダー部の一員なんです。今まで、何一つ城茂君達に顧問らしい事できてないんです。こんなのダメだって思うんです!」

山田は仮面ライダー部でまともに役に立てていないことに悔しさと申し訳なさを感じていた。

「あの子達は…わたしを信じて仮面ライダー部の顧問を任せてくれたんです。だから…!」

「危険だぞ?」

千冬にとっては、山田を危険な目にあわせたくない。ヴァルゴは彼女の知っている人物であり、山田とはなにも関係がないのだから。

「分かってます、だから行くんです!協力させてください!」

席から立ち、頭を下げる真耶。

暫くじっと見ていたが、千冬は優しく微笑む。

「お前に仮面ライダー部を任せてよかった。力を貸してくれ」

「はいっ!」

千冬が手を差し出し、山田がそれを両手で握る。

二人は改めて、力を合わせることを決意した。

そこへ…。

 

「あまり、干渉し過ぎないほうが良い」

 

少し離れた席で酒を煽っている男がいた。長い髪を後ろで結んでおり、独特なスーツを身に纏っている。

身なりから言って、社会的に高い地位である事は明らかだった。

「貴方は…?」

山田が尋ねると、その男は酒を飲み干して二人を睨むように見つめる。

「私は勇士…」

 

「白石勇士だ」

 

その苗字は、はっきりと覚えている。自分たちの担当しているクラスの数少ない男子生徒。母親は死んだと聞いていたが、父親は行方不明と言っていた。

良く見ると、どこか紫苑と面影が似ている。雰囲気は正反対であるが。

「まさか白石紫苑の父ですか…?」

千冬が訝しげに尋ねると、勇士はグラスを握っていた手に力を込める。

どうやら、確認の方法が気に喰わないらしい。

「…君達に警告する。ホロスコープスを追うのはよせ」

「どういうことなんですか?貴方は、どうしてホロスコープスのことを!?」

バキィ!

山田が詰め寄ると、勇士が握っているグラスが粉々に砕け散った。

破片に驚き、山田は飛び跳ねて避ける。

「本来、酒は一人で静かに飲む。それが私のルールだ。必要以上にそれを乱す者は…容赦しない。IS学園の者であろうと、例外はないぞ」

勘定をテーブルに置き、勇士はすぐさま姿を消した。

「あの人…もしかして…」

「おそらくホロスコープスに関係している。それに人間であの力…。既にゾディアーツかホロスコープスに覚醒済みだろう」

勇士のいなくなった場所を見つめながら、ふと思いつく。

「白石紫苑…彼は何か知っているかも知れんな。話を聞いてみよう」

「でも、白石君はとてもデリケートで傷つきやすいんです。こんな事を話したら、どれだけ落ち込むか…」

山田は紫苑に問いただす事を反対した。

だが…。

「今は、それ位しか出来る事がない。やるしかないんだ」

それこそが、ヴァルゴを知る手がかりになるかもしれないのだ…。

 

次の日。

仮面ライダー捜索会は毎週日曜日に行なっている。

仮面ライダーの騒動は、弾達の所属した仮面ライダー捜索会にも知れ渡ってしまった。

「なぁ、フォーゼとメテオって、どんな奴だった!?」

一同は目撃からフォーゼ達と面識のあると聞いた弾と蘭を取り囲んで、話を聞こうとするが…。

「知らない。何も分からなかった」「教えようもないわよ」

頑なに語ろうとはしない。宇月達との約束だからだ。

ただ、二人は胸に想いを込めた。

隠す代わりに、絶対に負けないと約束してくれと…。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                              臨海学校だ!

 

遂に完成したが…

 

                              あ、アクエリアスです!

 

ちょっと、満子の邪魔はしないで!

 

                             お父さんを見たんですか!?

 

まずオマエ達から血祭りに挙げてやる!

 

 

 

 

第26話「水・瓶・臨・海」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
五反田弾
五反田蘭

織斑千冬
山田真耶
白石勇士

清水満子=アクエリアス・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ


如何でしたか?
今回、過去に登場したキャラ達を振り返りながら、彼等の心情に触れてみました。
八木は弾と関わりがあったんです。実は初期案では、弾をカプリコーンにさせるかなとも考えてたので、その名残ですね。
そういえば、弾たちがあまり活躍できなかった(汗)
今回、ちょっと触れましたがスイッチを手にしてから覚醒するまでの時間の短さは…
レオ、スコーピオン、ヴァルゴ、リブラ、ジェミニ、ピスケス、アリエス、キャンサー、カプリコーン、アクエリアスという順番です。
私の物語では、スイッチを押して、覚醒するまでの時間が短ければ短いほど強いという設定です。
基準として、レオはスイッチを押した瞬間に覚醒、スコーピオンはスイッチを押して一日、アクエリアスは、第一話の時点ですでにスイッチを手にして、今回で漸く覚醒です。
次回は臨海学校編です。遂にレオ・ゾディアーツと本格的に戦います!
お楽しみに!


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絆=コズミックステイツ!
第26話「水・瓶・臨・海」


 

あの休日から1週間が経ち、臨海学校へ出向く事となった。

「臨海学校だ!泳ぎまくるぞぉ!」「城茂君…まだ早いよ…」

気合十分の宇月は、頭にシュノーケルを装着済みである。よっぽど楽しみらしい。

数時間後、クラス一同は砂浜へと来ていた。

千冬が指示をする。

「各自、これからは自由行動だが、危険な行為は行わないように。もちろん、禁止区域などに入ることも認めない。見つけた場合、厳しい処罰が待っているからそのつもり…」

「はいはいはい、分かりましたから、早く…」

スパァン!

「あいてっ!?」

泳ぎたい一心で千冬を急かした宇月は頭に出席簿を喰らう羽目になった。

「話しは最後まで聞け。心配しなくても時間はある」

「はい…」

それを見ていた一夏は…。

「なんで出席簿を持ってるんだ…?」

砂浜にまで出席簿を持ってきている理由が分からず、首を捻っていた。

「白石、少し話がある。来い」

「は、はい…」

千冬に呼び出され、手首足首まである競泳水着姿の紫苑は、すごすごと彼女についていった。

「紫苑、行っちゃった…。せっかく、一緒に…。水着だって選んだのに…」

シャルロットは紫苑がいなくなったことに不満を感じていた。

 

千冬は山田も引き連れ、紫苑に話を聞く。

「白石、単刀直入に聞く。おまえの父親はゾディアーツに関わっているのか?」

その言葉を聞いた瞬間、紫苑の様子が激変する。

「お父さんを…!?お父さんを見たんですか!?何処で会いました!?何をしていましたか!?」

「白石君、落ち着いて!」

「あ…すみません…」

山田に揺すられ、我に返る。

「私達も、つい一週間前に見たんだ。気になるのは、そのときの会話だ」

「会話…?」

 

「白石勇士は、ゾディアーツに関わる私達に警告をしていた」

 

「もしやとは思うが…ゾディアーツか、新たなホロスコープスかもしれない」

「そんなの…有り得ません」

やはり否定したいのだろう。紫苑は首を横に振る。

「だから、お前の知っていることを教えて欲しいんだ」

「…今は、僕もお父さんとは連絡を取ってなくて…」

どうやら、紫苑でも分からないらしい。

「そうか。嫌な事を思い出させてすまなかった。もう良いから行け」

「はい」

紫苑は頷いて、すぐさまそこから離れた。

「白石君…お父さんとも離れ離れなんですね…」

「本当のことを言ったのなら、白石はゾディアーツとは無関係か…。なら、あの男は何故…?」

 

そのころ…。

礼は海など見向きもせず、スイッチカバンを開いて、40番目のスイッチを調整していた。

そのスイッチは大きな青いスイッチになっていた。

「完成はしたが…おそらく何かが足りない。その何かが分かれば…」

「あ、ここにいたんだ、礼」

シャルロットの声を聞いて、振り返ると…。

 

目の前に、布でぐるぐる巻きの少女が立っていた。

 

「ぎょああああああああああああああああああああぁっ!?」

「礼、大丈夫だよ!」

悲鳴を上げる礼にシャルロットが落ち着かせる。

「ビックリした…。シャルロット、こいつは何だ!?」

良く見ると、その少女はもじもじしている。

「ほら、ラウラ。いつまでもそんな格好じゃダメだよ」

「う…うぅ…」

「こいつ、ラウラか!?」

確かに体型などはラウラそのものだが、こんな姿では判別は不可能だ。

「それじゃ、礼はのほほんさん達と遊んじゃうよ?」

「そ、それはダメだ!…うぅ…もう、どうにでもなれ!」

意を決し、ラウラは巻いていた布を取り払った。

「…笑いたければ、笑え」

そこにはかなり大胆な水着を身につけたラウラがいた。

「…」

その姿を見た礼は、自分の中だけで時間が止まっていた。

「礼、なにか感想言ってあげてよ?」

「あ、あぁ…つい見とれてな…。まぁ…その…なんだ…。か、かわいい…。似合ってると思う」

シャルロットに促され、顔を少し紅くしながらも感想を言う礼。その言葉を聞いて、ラウラは彼以上に顔を紅くした。

「か、かわいい…?わたしが…?」

「ぬああああぁっ!何言ってんだ!?」

礼は恥ずかしさから、走り去ってしまった。

「ホワチャアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「礼って…本当に女の子にはウブなんだね…」

 

そして…。

「一方その頃、一夏はイギリスと中国の美少女に取り囲まれてました」

「なに、語り部してるんだ?」

宇月の独り言に一夏がツッコんでいる。

その状況は、一夏の上に鈴音が肩車をしている。

羨ましがるセシリアは、鈴音を引き摺り下ろそうとしている。

「移動式展望台~。良く見えるわね~」

「あのな、降りろって!」

「ズルイですわ、鈴さん!わたくしも!」

言ってしまえば、一夏の取り合いだ。

そこへ…。

 

「盛り上がってるわね、相変わらず」

 

聞き覚えのある声。

振り返ると…

「あっ!楯無さん!それに簪も!」

生徒会長の更織楯無である。後ろには簪と虚もいた。

以前、キャンサーの戦いで協力してくれた存在だ。

「この前は、妹の簪がお世話になったわね」

「あ、まぁ…」

おそらく、休日のことだろう。だが、感謝をしているような雰囲気ではない。

「城茂君、ちょっと来て」

「へ?あ、あの…あらら?」

そのまま、宇月は楯無に連れて行かれてしまった。簪も後からついてきている。

「どうしたのでしょう?」「簪に何かしたんじゃないの?」

 

連れて行かれたのは、岩で少し隠れた場所。

「あの…一体…」

「貴方の気持ちは理解できるけど…それでも許せない」

そう言って、ミステリアス・レイディを展開する。

「そんな、ちょっと!?」

「よくも簪をおおおおおおおおおおおおぉっ!」

凄まじい威圧で、ラスティー・ネイルを振りかざしてくる。

「うわあああああぁ!?」

ドガアアアアアァッ!

その切っ先は…岩肌に当たっていた。そこは粉々に砕け散っている。

「へ…はへ?」

「ふっふっふ…」

開いていた左手には扇子があり、そこに「ドッキリ大成功」と書かれていた。

「ビックリした?」

「こ、殺されるかと…」

緊張が一気にほぐれ、地面に座り込む宇月。

「宇月、大丈夫?ごめん、お姉ちゃんが驚かせたいって聞かなくて…」

どうやら、簪があの日の事を伝えたとき、楯無が悪ふざけを思いついたらしい。

「か、勘弁してくださいよ…!」

「ごめんごめん。いや、君の怯えた顔が見てみたかったのと…」

 

「ありがとうって言い易くする為」

 

「え…?」

「君のおかげで、簪も自分から動き出そうとしている。それに、弐式さんのことも、ちょっとだけど吹っ切れた。ありがとう」

「ど、どうも…」

簪も楯無も宇月には本当に感謝していたようだ。

 

その背後で…。

「あの少年が…フォーゼ!」

勇士が恨めしそうに宇月を睨んでいた。

その背後には…。

「君も動いたらどうだね?」

ヴァルゴ・ゾディアーツもいた。

 

その頃、宇月を放って遊んでいる一夏達。

「一夏~!」

「降りろって、お、おおぉっと!?」

鈴音を下ろそうとしてよろけてしまい…。

ゴッ…!

「ぐっ!?」

近くの岩に頭をぶつけてしまった。

「い、一夏、ごめん!あぁ…どうしよう…」「大変ですわ!すぐに手当てを!」

鈴音は半泣きになりながら、一夏に謝る。セシリアは応急処置が出来るものを探すが見つからない。

このままでは一夏は危険な状態になるかもしれない。

そのとき…。

「大丈夫ですか!?」

一夏の身を案じて呼びかけてくる声。

振り返ると…。

 

「ぞ、ゾディアーツ!?」

 

そう、ゾディアーツだった。

青い体に、金色の瓶を両肩に背負った姿が印象的だ。

その姿を見た一般女子生徒達は逃げ惑う。

「わたしに任せて下さい!…はぁぁっ…!」

そのゾディアーツは両肩から青い液体のようなオーラを吐き出し、一夏に振り掛けようとする。おそらく、負のコズミックエナジーだろう。

「やめて!一夏に何を!?」

一夏の身を案じ、やめさせようと近付くが…。

「ふんっ!」

グイッ!

「きゃぁっ!?」

突如、何者かにその手をつかまれ、鈴音は関節技をキメられた。

「ちょっと!満子の邪魔をしないで!」

現れたのは気の強そうな少女。面識はないが、おそらく1年だろう。

「は、離してよ!?」「そうですわ!あなた、ゾディアーツを庇って…!」

「安心してください、危害は加えません!」

ゾディアーツは、鈴音とセシリアを安心させるように言い放ち、オーラをさらに一夏に振り掛ける。

すると…。

「ん…何が…?」

まるで眠りから覚めたような様子で一夏が立ち上がった。その体には全く傷がない。

終わったと知り、少女も鈴音を開放する。

「良かった…。大丈夫ですか?」

「うわっ!ゾディアーツ!?」

一夏も驚き、白式を展開させようとするが…。

「ま、待ってください!わたしは、あなた達と戦いたくありません!」

ゾディアーツは首を振りながらスイッチをオフにする。

そこから現れたのは、ショートカットヘアで前髪が目を隠すまでに下がっている少女だった。鈴印に関節技を決めていた少女とは正反対に気が弱そうである。

その手にあるのは…。

「それは…ホロスコープススイッチ!」

「わたしは清水満子って言います。つい1週間前にアクエリアス・ゾディアーツに覚醒しました」

「また新たなホロスコープスが…」

一夏達は驚愕した。

これで10体目。残りは2体までとなってしまった。

「でも…わたし、戦いたくないんです」

「ホロスコープスに入ったのは良いんだけど、ヴァルゴやレオのヤバさに気づいてね。逃げてきたってこと」

少女も説明を始める。

「それで、あなたは何者ですの?」

「彼女は陽野瑞希ちゃんって言います。わたしの親友なんです」

どうやら、瑞希はホロスコープスに関わりのある人物らしい。

「ということは、あんたもゾディアーツに?」

「本当はね、わたしがスイッチを押す予定だったんだけど、満子がどうしてもって聞かなくてね。わたしの代わりに、スイッチを押してホロスコープスに覚醒したの」

つまり、満子は瑞希の代わりにアクエリアスとなったのだ。星の運命は満子にあったとは言え。

そこへ…。

 

「裏切りは良くないな」

 

そう言って現れたのは、ヴァルゴだった。

「ヴァルゴ様!?」

「アクエリアス。君は確かに優しくて有能な逸材だ。だが、優しさゆえに我々が理解できないのだね?」

「残念だけど、あんたの言う事はもう聞かないわよ!」

瑞希が満子を庇うようにして、ヴァルゴの前に立つ。

「…では、聞かざるを得ないようにしよう」

ヴァルゴは意味深な言葉を言って、ロディアを地面に叩きつける。

 

その瞬間、その場にいた一夏達、満子達、その場にいなかった宇月、簪、楯無、礼もまとめてIS学園に送られた。

服装も元に戻っている。

だが、肝心のヴァルゴがいなくなった。

代わりに学校に残っていた虚が彼等の出現を怪しんで近付いてくる。

「あ、お嬢様…?」

「虚…一体何が…?」

状況を把握しようとした瞬間…。

 

ゴオオオオオオオオオオォッ!!!

 

「うっ!?」

凄まじい殺気と風に体がよろける。

その場所に目を向けると…。

「ウゥゥゥゥゥゥ…!!!」

 

身体中から負のコズミックエナジーを噴出しているレオ・ゾディアーツがいた。

 

今までのゾディアーツやホロスコープスとは、まるで違う。

見ただけで、何も分からないはずの虚や簪すら、強烈な何かを感じる。

レオはゆっくりと満子を指差した。

「アクエリアス…。まずオマエから血祭りにあげてやる!」

「レオ…ゾディアーツ…!?」

「グワオオオオオオオオォッ!!!!!」

突如、大きな雄叫びをあげた瞬間、エネルギー波のようなモノが満子を襲う。

しかし、範囲が広すぎて結果的に宇月達にも被害が及ぼうとしている。

「やべっ!?」

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「うわあああああああああぁっ!?」「きゃあああああぁっ!」

避けようと動いたが、避ける術はなかった。その咆哮の攻撃の餌食となり、全員吹き飛ばされた。

「ウオオオオオオオオオオォッ!!!」

一声咆えた後、ゆっくりと宇月達に迫ってくるレオ。身の危険を感じ…。

「に、逃げるぞ…!」

一夏が白式を展開して、満子や残りの者達に逃げるように誘導する。

だが、レオはそれを良しとしない。

「戦わない気か…?…グワオオオオオオオオォ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオォ!

「きゃああああああぁ!」「いやああああぁ!」

戦意を感じないと思うや、レオはIS学園を攻撃した。その拍子に、戦いを見ていた生徒達が瓦礫の下敷きになろうとしている。

「危ないっ!」

ドガアアァッ!

真っ先に一夏が動き出し、その瓦礫を破壊して生徒達の安全を確保する。

「ハハハハハハハハハ!オマエ達が戦う意志を見せなければ、オレはこの学園を破壊し尽くすだけだ!」

どうやら、逃げる選択肢はないようだ

ヴァルゴの言っていた、聞かざるを得ないようにするというのは、レオの強制的な戦闘にあったらしい。

「くそ…」「ごめんなさい…こんなことに巻き込んで…」

止むを得ず、宇月はフォーゼドライバーを、礼はメテオドライバーを取り出し、満子はアクエリアススイッチを握り締めた。

<METEOR-READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

フォーゼBS、メテオ、アクエリアスに変身し、セシリア達もISを装備した。

今回は楯無と、先日に専用機が完成した簪も戦闘に混じる。

だが…。

「やめて!勝てるわけがない!相手は最強のホロスコープスなのよ!?」

瑞希が必死に止める。レオの強さは、このメンバーでも勝てる可能性は皆無だと知っているからだ。

「ウオオオオオオオオォ!!!」

レオの両腕にはツメを模した武器が装備される。

楯無は防御力には、いささか自身がある。無傷とは行かずとも、ダメージを抑えることは可能だろう。

「暴れん坊も、いい加減に…」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!

「なっ…!?ああああああああああぁっ!」

たった一撃、腕の一振りで、ミステリアス・レイディはシールドエネルギーが一桁になった。ここまで強い攻撃は受けたことがない。

「そんな…こんなに強いの!?」

「お姉ちゃんっ!」

簪が姉を守るべく、立ち塞がる。

「グルルゥッ…!!!」

「ひぃっ…!?」

今度は軽く唸るレオ。何も攻撃を受けていないはずなのに、簪はまったく動けなくなってしまった。

「その程度の精神力では、このオレに歯向かう事は出来んぞ」

簪を見ながら、嘲笑するようにレオは述べた。

「おやめなさいっ!」「今度はわたし達が相手よ!」

「これ以上、みんなを苦しめないで!」「絶対に倒す!」

続いて、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラが攻撃を仕掛ける。

ドガアアアアアアアアァッ!

一斉の同時攻撃が直撃したにも拘らず…。

「ISはこの程度か?」

「うそ…うそですわ!」

レオは無傷だった。なにも外傷はないし、ダメージを受けた様子も皆無だ。

「なら、増やす!」「行くぞ、レオ!」

<N-MAGNET><S-MAGNET><N・S MAGNET-ON>

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

フォーゼMSとメテオSへステイツチェンジし、レオに向かって走る。

「フン、雑魚がいくら集まったところで、無駄だ!」

レオの言葉は威嚇などではなく、本人にとって事実を述べているだけに過ぎない。

「一夏、簪、楯無さん、おれ達も力を合わせるぞ!」

「わかった!」「う、うん…!」「ちょっと、厳しいけど、黙っちゃいられないわね」

一夏と楯無は頷き、簪も恐怖心を必死に振り払って立ち上がる。

「おりゃあああああああぁっ!」「アチャアアアアアアァッ!」

マグネットキャノン、メテオストームシャフトでレオに攻撃を仕掛けるが。

ドガアアアアアアアアアアアアァッ!

「…もっと力を込めろ」

ズガアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「うわああああああぁ!?」「ぐあああああぁっ!」

攻撃に全く効き目がなく、逆に吹き飛ばされた。

「宇月っ!」

一夏がフォーゼMS達を救うべく、近づくが…。

「また一匹、虫ケラが死にに来たか。ガアアアアアアァッ!!!!!」

ドガアアアアアァッ!!!!!

「うわあああああああぁっ!」

レオの咆哮で、それは叶わなかった。

「一夏っ!?」

「ククク…織斑一夏!あの女たちが可愛いか!?」

地面に這い蹲る一夏に対して、楽しそうな声で言うレオ。

その視線の先には、セシリア達がいる。

「…まさか!?」

「グギイイイイイイイイィッ!!!!!」

更なる攻撃に移ろうと、身体中のコズミックエナジーを集中させていくレオ。

だが、それを許す事はしない。

<LIMIT-BREAKE><LIMIT-BREAKE OK>

「ん…?」

音声に反応したレオが振り返ると、ランチャーとガトリングを装備したフォーゼMSと、メテオSがリミットブレイクを発動していた。

その一瞬の隙を突き、セシリア達も攻撃を放ち、一夏は零落白夜を発動した。

「ライダー超電磁ボンバー!一斉掃射あああああああああああああぁっ!」

「メテオストームパニッシャァァァァッ!」

『はああああああああああああああああああああああぁっ!』

ズガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

先ほど以上の凄まじい攻撃。現時点で思いつく、最大の攻撃だ。

しかし…。

「…」

煙が晴れた場所にいたレオには、傷一つなかった。

「な…ばかな!?」「効いてない…!」

ガッ!

「ぐっ…!?」「うおぁ…!?」

目の前にいたフォーゼMSとメテオSの頭をつかみ、高く持ち上げる。

「…何なんだ、今のは?」

レオにとっては、彼等の渾身の攻撃すらその程度にしか感じないのだ。

ドガアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ぐああああぁ…!」「がはっ…!?」

強い力で近くの壁に叩きつけられる。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

次に上を向いて大きく咆え、そのエネルギー波をセシリア達や楯無達に浴びせる。

「きゃああああああああああぁっ!」

それを防ぐ事は出来なかった。エネルギー波が消えたとき、ISを解除して地面に倒れ伏した少女達がいた。

「やめてください、レオ様!この人達は関係ないはずです!」

アクエリアスは彼等に癒しの水を振り掛けて癒しながら、レオを説得する。

「無関係だと思っているのか?フォーゼやメテオ。そして、その者達に関わった時点で、無関係ではない」

レオの次の標的はアクエリアスだ。

「ウオオオオオォッ!!!!!」

大きく咆えた瞬間、彼の姿が消えた。

「あっ…!?」

アクエリアスがそれに気付いて、振り返ったときは既に目の前にレオのツメが迫っていた。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

「あああああああああああぁっ!?」

そのツメはアクエリアスの両肩に深く突き刺さっていた。癒しの水の源である瓶を破壊されたのでは、癒しも出来ない。

信じられない痛みが彼女を襲う。

「もう終わりか?」

「うっ…く…!」

ズッ…!

爪を引き抜くとアクエリアスは地面に倒れ、スイッチを取り落として満子の姿に戻った。

「終わったな。所詮、クズはクズなのだ」

レオは吐き捨てると、アクエリアススイッチを拾い上げる。

「今の貴様らでは、蚊に刺されたほうが痛く感じるな」

彼にとっては、フォーゼ達の全てを込めた攻撃は、全く意に返していなかった。

「次に会うときは、もっと楽しませろ」

歩き去るレオに、必死に手を伸ばすが何も出来ない。

「清水満子。この学園が愛しいならば、一人でこのスイッチを取り戻しに来い。この言葉の意味が分かるよな?」

最後に痛みで這い蹲っている満子に言い放ち、姿を消した。

「くそおおおおおおおおぉ!」「まるで…歯が立たなかった…!」

 

これが…彼等とレオの力の差なのだ。

 

今の彼等では…勝つ術はない。

 

その頃、箒は海岸である者をじっと待っていた。

「箒ちゃん、待った?」

現れたのは束だ。彼女と秘密裏に待ち合わせをしていた。

「…あの話は本当ですか?」

箒は束の言葉を無視して、本題に入る。

「うんうん、本当だよ?いっ君やみんなの力になりたいモンね?」

そう言って手を挙げると、赤いISが振ってきた。

「これが、わたしの…?」

「箒ちゃんのために作った「紅椿」だよ。ホロスコープスもへっちゃら!」

説明をしながら、調整を進めていく束。

本来は、このISを受け取るのは気が引けていた。姉とは和解しておらず、その彼女から恩恵を受けたくはなかったが、戦いも激化していく。悠長な事は言っていられなかった。

「あ、そうそう。いっ君達、ヴァルゴにIS学園へ連れて行かれたよ。レオ君からボッコボコにやられたみたいだね」

「みんなが!?」

何故か、彼女はヴァルゴとレオの動向を知っているが、そんなことはどうでも良い。

「これで戻りなよ。頑張って!」

「…はい!」

箒は紅椿をさっそく装備して、IS学園へと戻った。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                              このままじゃ、学園はおしまいだ…!

 

もう一度、立ち上がらなければ…

 

                              スイッチはあげます!だから…!

 

                              最後に扉を開くのは…

 

人間同士の絆…!

 

                              みんなの絆で…

 

宇宙を掴むッ!!!!!

 

 

 

第27話「銀・河・之・絆」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

更織簪
更織楯無
布仏虚
陽野瑞希

織斑千冬
山田真耶
白石勇士
篠ノ之束

清水満子=アクエリアス・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
臨海学校前編・アクエリアス編・コズミック編です!…多すぎ(汗)
結構ヤバイと思います、レオの強さ。やりすぎかもしれません(大汗)
現時点では何をどうしようが、レオには勝てません。ちなみに、紅椿投入でも変化無しです。それくらい強いです。
ちなみに今回、彼の正体に関する重要なヒントがあります。それは秘密ですが…。

しかし次回、遂にTVシリーズ・フォーゼ最終形態の「コズミックステイツ」が登場します!

これで、どう巻き返せるか!?
お楽しみに!


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第27話「銀・河・之・絆」

 

ラビットハッチで、山田が宇月達の応急処置を行なっている。

「痛って!」

「が、我慢してください…手当てですから…」

あの後、箒も駆けつけたが、そこには既にレオの姿はなく、倒れ伏した彼等がいるのみであった。

「やっぱり、あのレオ・ゾディアーツ…強すぎます…」

「こんな事になっているなんて…」

「あぁ…。残念だが、今の時点ではこれが現実だ」

拳を握り締める包帯姿の礼。

「このままじゃ…IS学園はおしまいだ…」

ラウラは珍しく、諦めかけていた。

彼女の心に影を落としたのは、レオとの戦いでまったく手足も出なかったこともそうだが、何も守れなかった事が大きかった。

横では、満子が両肩を抱えて、痛みで苦しんでいる。

「わたし…スイッチを取り戻しにいきます。わたしの所為ですから…」

「違うわ!そんなこと間違ってる!」

自分を責める満子に鈴音が異議を唱える。

「あんた、ホロスコープスなのに、自分で過ちに気づいて逃げられたじゃない!それだけでも、他のホロスコープスより優しいでしょ?それなのに、また戻るって言うことは、自分の正しさを否定してしまうことになるのよ!?」

「…そうですけど、でもこのままじゃ!」

「今は、城茂君達に協力することが、良い方法じゃないの?」

楯無は静かに告げる。

「そうだけど、満子の言うとおりこのままじゃ、レオからコテンパンにやられるのがオチよ」

瑞希は溜息をつきながら言った。結果的に、レオに対抗する手段は持ち合わせていない。

だが…。

「まだ、終わってないだろ!コイツがまだある!」

一夏が見せたのは、調整が終わったばかりの最終最後、40番目のスイッチだ。

宇月がそれを手にとって、説明を始めた。

「これは…フォーゼが、より宇宙に近づくためのスイッチ…「コズミックスイッチ」だ。コレを使えば、確かにフォーゼも格段に強くなれるはずだ。でも…」

彼が俯くのは納得できた。今までステイツチェンジ用のスイッチは、使用者の感情で使えるか使えないかが左右されたものが殆ど。今回も同様だろう。

問題は、何の感情に反応するのかだ。

「たしか…エレキは何かを受け入れる気持ち、ファイヤーは全てを吸収、マグネットはゾディアーツを割り切る気持ち、メテオストームは感情を曝け出すでしたわ。コズミックなら…」

セシリアが必死に頭を捻る。

「それらを全部…と言うのはどうです?」

「つまり…?」

「それは…わかりませんけれど…」

確かにコズミックスイッチは、40のスイッチ全てのデータが入っている。そう考えれば、今までの感情を全て持てば良いということなのかもしれないが、それは結論に至っていない。

彼等は、頭を抱え続けていた。

 

一方、レオはアクエリアススイッチを見つめている。

そこへ、ヴァルゴが現れた。

「どうやら、回収したようだね」

「はい。ですが、ただ回収するだけでは芸がないと思いまして…」

彼はヴァルゴに、先ほどの戦いとアクエリアスを泳がせたことを伝えた。

「おそらく、フォーゼ達も現れるでしょう。そこを叩きます」

「ほう…」

彼の作戦を聞いたヴァルゴは、少し仮面の中で笑みを浮かべて、3つのスイッチを渡す。

「これは…」

「スコーピオン、カプリコーン、キャンサーのスイッチだ。君は肉体の状態から特異体質。このスイッチも使えることは理解しているだろう」

手渡した後、さらに3つのスイッチを取り出す。

それは、アリエス、ジェミニ、リブラのスイッチだった。

「SOLUの力は興味深くてね。スイッチャー無しでゾディアーツを実体化させることも出来る。無論、ホロスコープスも」

そう言って3つのスイッチを投げ、手に持っていたSOLUスイッチを押すと、青白い光が3つのスイッチを包み…。

 

アリエス、ジェミニ、リブラが実体化した。

 

「せっかくならば、徹底的に叩きのめす方が良いだろう。スイッチャーがいる時ほどの強さではないが、それでも一般ゾディアーツよりは遥かに強い。きっと力になるだろう」

「使わせていただきます」

レオはヴァルゴに軽く会釈をして、3体のコピーホロスコープスを連れて歩き去った。

残されたヴァルゴは、一人呟く。

「白石勇士…まさか、彼にあの運命が…?」

 

宇月は学園の校庭で膝を抱えて座っていた。

「ここにいたのか」

「あぁ、一夏か?」

声に振り向くと、一夏が歩いてきた。

「コズミックスイッチ、どうしたものかな…」

「そんなこと、おれに言われても分からねぇよ」

相談をするように尋ねてみたが、一夏も首を横に振った。

「おまえってさ、初めてフォーゼに変身したとき、どんな感じだった?」

ふと、唐突に気になったことを一夏が聞く。

「初めて変身したときか…」

 

 

 

あれは2年前。

父である城茂吾朗、母の城茂美咲の二人が書類上で「死亡」扱いをされて間もない頃だった。

宇月は一人暮らしをしながら、コズミックエナジーを独学で学び、研究していた。

そうすることで、両親に近づけるような気がしたのだ。

ある日…。

「なんだ、これ?」

彼の家に、2通の手紙と金色のゲートスイッチが入っている箱が届けられた。

その手紙にはそれぞれ、こう記されてあった。

 

『この力を持って世界を守るも良し。また滅ぼすも良し。総ては、この全宇宙に広がる神秘の導きである』

 

『君の親から預かったモノだ。時が来たら、君に託すように言われていた。この「扉」を開いた瞬間、君は宇宙に近づく。キーワードは…「FOURZE」』

 

キーワードには心当たりがあった。

「フォーゼ…。父さんが使っていたコズミックエナジー用の強化スーツ…」

行方不明になった日、宇月が初めて見た、父のもう一つの姿。

あれも白騎士事件以降は、母の使っていたISと一緒に行方不明になっていた。

しかし、それらは…ラビットハッチの中にあったのだ。

父と母の残した、彼への希望として。

 

そして1年後…。

ラビットハッチに残されていたデータ通り、ゾディアーツが出現した。

「これが…人が到達した星座の怪人…」

「退け…死にたくなければな」

このとき初めて対峙したのが、礼の変身するアリエス・ゾディアーツだった。

だが、準備は整っていた。

改造に改造を加え、アストロスイッチに対応させたフォーゼドライバーを装着する。

「父さん、力を貸してくれよ!」

<3><2><1>

 

「変身っ!」

 

「はぁっ!」

煙のオーラに包まれて生み出された新たな戦士…。

それがフォーゼだった。

 

その日から、彼の「フォーゼ」としての戦いの日々が始まったのだ。

 

 

 

「何度も礼と戦って、あいつとは分かり合った。仲間になった礼はメテオに変身して、おれと一緒に戦うようになったって事だ。それ以来、ずっとゾディアーツと戦い続けている」

「そうやって、フォーゼに…」

彼のフォーゼへの生い立ちをじっと聞いていた一夏。

「結局、ゲートスイッチの送り主は誰だったんだ?」

「分からない。多分、父さんか母さんの古い知り合いとは思うけど…」

その始まりにもまだ多くの謎が残っているようだ。

宇月が受け取った手紙…。

その言葉から、一夏は何かに気付いた。

「扉…。その扉って何なんだ?」

「扉か…。あっ!!!!!」

どうやら、宇月には心当たりがあるようだ。

立ち上がって、ラビットハッチへと急いだ。

 

ラビットハッチにある女子更衣室。

「これを着るのか…?」

箒は着替えながら、先ほど宇月に渡された「OSTO」と描かれた宇宙服を見つめる。

「どうしたのです、急に!?」「分からないわよ!とにかく宇月が大慌てで…」

「何が起こるんだろう…?」「まぁ、コズミックスイッチに関わる事は決定的だな」

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラも話しながら急いで着替えている。

「コレを着るって事は…」「もしかして~?」

「あぁ~全部言わなくても分かるわよ」「ちょっと不安ですが…」

ついでと言われ、簪、本音、楯無、虚の4人も着替えている。

そして…。

ここに居ない紫苑と礼を除いて…

 

ラビットハッチの外…つまり「月面」に飛び出したのだ。

 

宇月のみ、フォーゼBSに変身している。この2つのスーツは宇宙服の役割も兼ねているのだ。

「宇宙だ~!」「あぁっ、本音、危ない!」

ピョンピョンと跳ね回っている本音を、姉の虚が必死に止めている。

「で、何がしたいの?」

「みんなで、コレを見たくてな…」

彼が持っていた手紙。

あの封筒の裏にも、こう記されていた。

 

『もし君が仲間を見つけ、それでも乗り越えられない困難が立ちはだかり、扉が開けないとき…始まりの扉を見つめると良い。きっと「答え」が、そこにある』

 

その言葉に従い、ラビットハッチの外側の扉を全員で見に来たのだ。

砂埃で何も見えなかったが、それを手で払うと…。

「…父さんの書いた文字だ」

城茂吾朗のメッセージが刻まれていた。

 

 

 

~宇月へ~

 

これを読んでいるということは、お前に大きな困難が立ちはだかっているのだろう。

だが恐れる必要はない。お前は既に「仲間」を手にしているはず。それが「答え」だ。

ここに、最後の扉を開く鍵を残しておく。

最後の扉を開くのは…

 

「絆」

 

この言葉の意味が分かるなら、お前に乗り越えられない困難はない。

 

宇月の友人達。

私の息子を支えてくれて、本当に感謝する。

もし、君達が宇月を信じるならば、彼の「扉を開く鍵」になって欲しい。

 

その手で…宇宙を掴め!

 

~吾朗より~

 

 

 

読み終わったフォーゼBSは地面に膝をつく。

「宇月、大丈夫か!?」

一夏がなんとか抱き起こす。

「は…ははは…」

乾いた笑い声が、一夏達の宇宙服の音声伝達装置に響く。

「どうしたんだ?」

さらに箒が尋ねる。

フォーゼBSは彼等のほうを向いて、こう言った。

 

「なんだよ…。もう…持ってるじゃねぇか…」

 

そう、コズミックスイッチの起動に必要だったのは「絆」。

彼はもう手にしていた。悩む必要などなかったのだ。

「ほんと…悩んでたのがバカバカしいわよ」

鈴音が軽く笑う。

「こんなこと確認しなくても…」「もう、何一つ隔たりのない仲間ですわ!」

フォーゼBSの肩にシャルロットとセシリアが手を置く。

「もう良いな。覚悟を決めるぞ!」「わたしも弱気になんてなっていられない!」

箒とラウラが拳を握って宣言する。

頷いたフォーゼBSは立ち上がって拳を上に掲げる。

 

「行くぞ…仮面ライダー部!!!!!」

 

『おおおおおおおおおおおぉっ!!!!!』

 

同時刻…。

遂に戦いの時が来た。

IS学園に、再びレオが襲ってきたのだ。

「清水満子を出せ。さもなくば、この学園を破壊する!」

ツメを研ぎながら、学園の返答を待つ。

すると…。

 

「私達が相手になろう」

 

ラファール・リヴァイヴを装備した千冬が現れた。隣には同じ機種を装備した山田もいる。

ドガアアアアアァンッ!

さらに黄色と青の発光体が飛来し、メテオSを形作った。

「闇に蠢く星の運命…この嵐で打ち砕くっ!!!」「生徒には手を出させません!」

「フン。いくら力を合わせようが、このオレには勝てんぞ!」

言うが早いか、レオは高速移動を始めた。

狙いは千冬。

「ウオオオオオオオオォッ!!!!!」

ガキィンッ!!!!!

「…くっ!」

背後に現れたレオに反応し、防いだ。しかし、その腕には早くも亀裂が走っている。

「さすがは世界最強のIS乗り。この攻撃に反応できたのは、オマエが最初だ。…だがッ!!!」

確かにレオは速い。だが、それ以上に力も強い。

「させるかっ!オオオオォォォォ…アタアアアアアァッ!」

メテオSは、メテオストームシャフトを振りかざし、千冬の救出に向かう

だが…。

 

レオはスイッチを使い、スコーピオンに変化した。

 

「他のホロスコープスに変化した!?」

「乗っているISが量産では、本調子ではあるまい!!!」

ドガアアアアアアアァッ!!!!!

「ぐううぅぅっ…!」「うああああぁぁっ!?」

Lスコーピオンはまわし蹴りを放って千冬を吹き飛ばし、駆け寄っていたメテオは彼女の体がぶつかって地面を転がる。

さすがに千冬といえど、本気を出せる状態ではないうえに、ホロスコープス最強のレオ相手には分が悪すぎた。

「織斑先生っ!メテオ君っ!」

山田が二人に駆け寄ろうとするが、その道をレオが塞ぐ。

「次はオマエだ、山田真耶…!」

「…来なさいっ!」

ドガガガガガガガガガガガァッ!

勇気を振り絞り、山田はLスコーピオンに攻撃を仕掛けた。

だが…。

「…面白くない」

無傷だった。

 

そして、その姿はカプリコーンへと変化している。

 

「次はカプリコーン…!?」

「オオオオオオオォッ!!!」

ドガアアアアァッ!!!!!

「きゃああああぁっ!?」

Lカプリコーンのウルクによる音波で、山田はあっさりと吹き飛ばされた。

「くそっ!ウオァタアアアアアアアァッ!」

メテオSはメテオストームシャフトを握り締め、Lカプリコーンに襲い掛かる。

しかし、Lカプリコーンはそれにも動じず、スイッチを押す。

次はキャンサーへと変化した。

ガキィンッ!

メテオSの攻撃はLキャンサーの甲羅に阻まれ、ダメージは皆無となった。

「メテオストームでも砕けないだと…!?」

「オレの肉体は特殊でな。獅子座の運命に他の星座の運命を重ねる事ができる。つまり、レオの状態から他のホロスコープスに変化できるのだ。そして…その力は元のスイッチャーよりも増している!!!!」

ズバアアアアアアァッ!!!

「ぐあああああああああぁっ!?」

元に戻ったレオはゆっくりとIS学園へ歩みを進める。

それでも彼女達は負けずに立ち上がり、戦おうとしている。

「させません…!」「まだ、私は倒れていない!」

「…邪魔だ」

ガッ!!!

苛立ちながら、レオは二人を足で蹴り飛ばし、学園のほうへ向かっていく…。

ガシッ…!

「それくらいでは、倒した事にならん…!」

それでも、千冬と山田はレオにしがみつく。

「…出来る事なら人は殺したくない。退いてくれ」

ふと、レオは静かに告げた。先ほどの殺気が一瞬で消えた。

何か…悲しみを込めているようにも見える。

だが、それでも彼の思い通りにさせるわけにはいかない。

「あなたが…IS学園の生徒に手を出さないなら、離れますっ!」

山田が強く叫び、千冬も頷く。

レオは俯き、少し考えて…。

「オマエ達の生徒を想う気持ちは理解した。おそらくオレがどれだけ痛めつけようとも、清水満子を出す気は無いだろう。望みどおり、生徒を守るために殺してやる」

トドメを刺すつもりになったようだ。ゆっくりと近付いてくる。

「役割を果たせた喜びを味わいながら、八つ裂きにされるが良い…!」

「ふっ…だからガキは嫌いだ…!」

皮肉を言いながら、彼の攻撃に備える。

おそらく、無駄なものになるようだが…。

 

そこへ…。

 

「そこまでだっ!」

大きな声と共に、仮面ライダー部の正式メンバーと布仏姉妹と更織姉妹が現れた。

使える者は全員がISを装備している。

「レオ!次こそは勝つ!」

「本来の実力が出し切れないとは言え、織斑千冬と山田真耶をこの有様にした、このオレを?」

レオは彼等の言葉に嘲笑する。

「勘違いするなよ。織斑先生も山田先生も…おまえより100万倍は強い!」

「根拠は?」

「絆だ!確かに一人や二人じゃ勝てないかもしれない。でもな…おれ達全員で力を一つにすれば、おまえになんか、絶対に負けないっ!!!!!」

宇月は自信を持って、そう宣言する。

「…青臭いガキだな。やはり…あの二人の息子だ」

千冬は肩を庇いながら立ち上がり、彼等の姿を見つめながら呟いた。

宇月はフォーゼドライバーを装着する。

<3><2><1>

「変身っ!」

レバーを引き、フォーゼBSへと変身した。

その右手には…コズミックスイッチが握られている。

「みんな、力を貸してくれよ!」

フォーゼBSがそう言い放つと、その場にいるレオ以外の全員…。

 

一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、メテオS、本音、簪、楯無、虚、満子、瑞希、山田、千冬。

そして…青白いコズミックエナジーがゆりこを形作る。

 

この者達がそれぞれ手を、フォーゼBSの背中に当てる。

「最後に扉を開くのは…人間同士の絆だ!!!!!」

<COSMIC>

ドライバーのソケットにコズミックスイッチを挿入する。

レバーを引いて安全装置を取り外し…。

 

<COSMIC-ON>

 

遂に最後のスイッチを押した。

その瞬間、39個のアストロスイッチが転送され、フォーゼの体を纏い、光り輝いた。

「…到達したか」

レオはそれを見て、考えているように言った。

その輝きが収まった場所には…。

 

 

 

フォーゼの最終形態「仮面ライダーフォーゼコズミックステイツ」がいた。

 

 

 

「みんなの絆で…宇宙を掴むっ!!!!!」

右手に握られた「バリズンソード」のレバーを握り、少しずつ引いていくと、ロケットを模した部分が割れ、青い刃が飛び出した。

「コズミックステイツ…その力、見せてもらう。ウオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

レオは咆え、フォーゼCSに走っていく。

<ROCKET><ROCKET-ON>

一方、フォーゼCSは胸のスイッチボタンを押し、具現化したロケットスイッチをバリズンソードに挿入し、突発力を高めた。

「行っくぜええええええええええええええええええええぇっ!!!!!」

ドガアアアアアアアァッ!!!!!

「ヌゥッ…!」

想定外のことがレオに起こった。僅かながら、彼に初めて痛みを与えた者が現れたのだ。

<ELEKI><ELEKI-ON>

更にエレキスイッチを具現化し、その力を纏う。

「うおりゃああああああああぁっ!!!!!」

バリイィッ!!!!!

「ウオオォ…!?」

通さないはずの電撃すら、レオの体にシビレとして巡った。

信じられないといった表情だが、彼の心にはまだ余裕がある。

「フンッ…そう来なくちゃ、面白くない!」

レオも反撃に移ろうとするが…。

 

「レオ、退くんだ」

 

突如ヴァルゴが現れ、彼の右腕を掴んだ。

「何故です…!?」

「我々の目的の一つが果たされた。そして、タウラスも覚醒が近い」

その言葉を聞き、レオは様子を変えた。

「タウラスが…!?」

どうやら、タウラスはレオにとって特別な存在であるらしい。

「…分かりました。コピーを残しておきます」

そう言うと、レオの呼び出した闇からリブラ、アリエス、ジェミニが現れた。

「まてっ!」

追おうとフォーゼCSは走るが、それよりも先にヴァルゴは空間転移でレオを自分諸共、送った。

そして、リブラ達が立ち塞がる。

「ラウラと礼のゾディアーツ…。2人の因縁もここで断ち切る!」

<GYRO-ON><SCISSOUS-ON>

ジャイロにシザースの切断力を混ぜ合わせ、ジェミニとアリエスを攻撃した。

ズバババババババァッ!!!

「グアアアアアアァッ!」「ウアアアアァッ!」

その威力はコズミックステイツの力も上乗せしているため、更に強力だ。

リブラが向かってくるが…。

<SPIKE-ON><HOPPING-ON>

スパイクにホッピングの力を混ぜ、左足で思い切り蹴る。

「くらえっ!!!」

ドガァッ!!!

「ウオオオオオオオォッ!?」

それにぶつかった途端、ホッピングのバネの力で吹き飛ばされた。

「トドメだ!」

バリズンソードを閉じ、コズミックスイッチを挿入する。

<LIMIT-BREAKE>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!」

ドガアアアアァッ!!!

「「「ウワアアアアアアアァッ!?」」」

3人のゾディアーツの背後に光が現れ、そこにフォーゼCSが突進していく。

その先は、宇宙空間だ。

再度バリズンソードを開き、コズミックスイッチを引き抜く。

「離脱・セット!!!」

<LIMIT-BREAKE>

バリズンソードとフォーゼCSが青白く輝いた。

彼の最強最後の一撃を放つのだ。

 

「ライダァァァァァァァァァッ…超銀河・フィニィィィィィィィィッシュ!!!!!」

 

「「「グワアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」」」

巨大な光の刃が3体のゾディアーツをまとめて切り裂き、大爆発を引き起こした。

こうして、フォーゼ達は一応の勝利を収めたのだった。

 

IS学園の近くで勇士がそれを見届けていた。

「いずれ私の力で…。紫苑…おまえも…」

そう呟き、凄まじい力で拳を握っていた。

 

それから数時間後。

彼等は再び臨海学校へ戻ってきた。

迎えたのは紫苑だった。

「みんな、大丈夫だった!?」

「あぁ!あのレオ・ゾディアーツも退けられた!」

胸を張って報告する宇月。

だが、それは彼だけの力ではない…。

「みんなのおかげだ!おれだけじゃ、レオに負けてたんだからな…」

そこでは、仮面ライダー部を始めとした、彼の仲間達が微笑んでいた。

満子と瑞希が歩いてくる。

「宇月君、本当にありがとうございました」

「あんたやみんなのおかげで、ホロスコープスから足を洗えたわ」

この二人も大丈夫のようだ。もうゾディアーツに関わる必要はないだろう。

それよりも…。

「そうだ!まだ臨海学校は終わってない!よぉっしゃ、泳ぎに行くぞおおおおおおっ!!!」

どこからかシュノーケルを取り出して頭に付け、走り出した宇月。

「あ、おい!今は夜だぞ!?」「全く、懲りない奴だな…」

一夏と箒は2人で彼の後を追う。

そして、礼も立ち上がった。

「たまにはハメを外すか。どうする?」

彼の問いに一番早く動き出したのはラウラだった。

「礼に賛成だ。よし、行こう!」

続いて、シャルロットが紫苑の手を引いていく。

「紫苑、ほら!お昼は全然、楽しめなかったから!」

「うわぁ!?ま、まって!転ぶぅ!」

次にセシリアと鈴音。

「箒さんだけに抜け駆けはさせませんわ!」「待て、一夏ぁ!」

狙いは一夏のようだ。競争するように走っていく。

さらに本音、簪、楯無、虚も歩いて着いていく。

「わぁい!夜の海ー!ばきゅん!」「いいよね、こんなときも」

「ま、付き合ってあげましょうか!」「ふふ…楽しそうですね…」

残された山田。

「本当はいけないんですけど…。わたしも行きます~!」

結局、雰囲気に流されてしまった。

 

新たな絆の形を手に入れた、仮面ライダーフォーゼとその仲間達。

 

彼等は、果たして宇宙への扉は開けるのだろうか…?

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

次回!

 

                           暴走!?

 

銀色の福音…

 

                           やっぱり、ホロスコープスが絡んでるか?

 

紅椿の初陣だ!

 

                           仮面ライダーもお助けだ!

 

 

 

第28話「福・音・暴・走」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ/アリエス・ゾディアーツ(回想シーンのみ)
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

ゆりこ/SOLU

更織簪
更織楯無
布仏虚
陽野瑞希

織斑千冬
山田真耶
白石勇士

リブラ・ゾディアーツ
アリエス・ゾディアーツ
ジェミニ・ゾディアーツ

清水満子=アクエリアス・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
遂にコズミックステイツが解禁です!
最初の相手に関して募集させていただいたのですが、断空我さんとジャマールさんの意見を混ぜた形にさせていただきました!
今回の話のイメージとしては…
「絆」と、フォーゼの過去・現在・未来を繋ぐ話にしようとしてみました!
次回はISのアニメにあった福音の話です!
多分、一夏と箒がメインになると思います
お楽しみに!


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ISの底力!
第28話「福・音・暴・走」






 

 

臨海学校の2日目、早朝である。

箒は、ふと海岸に出ていた。理由は姉に呼び出されているため。

「箒ちゃ~ん!」

「この前は感謝します」

嬉しそうに飛びつく束を押さえ、固い口調で答える箒。

ふと、束が辺りを見渡すと、宇月達も少しはなれた場所にいた。千冬も混じっている。

「…お!いっくん、ちーちゃん!」

「お、お久しぶりです…」「人に飛びつく前に、自己紹介でもしろ」

「めんどくさいなぁ…。はい、私が篠ノ之束です、おわり!」

その言葉を聞いて、面識のある一夏、箒、千冬以外の一同は驚く。

「あの…篠ノ之束!?」

「この人が箒のお姉さんか…」

自身ありげに胸を張っていた束が、ふと宇月を見た途端…。

「あれ…君って、みさ姐の子供の…宇月君?」

「みさ姐…?」

首をかしげている宇月に、千冬が説明をする。

「お前の母、城茂美咲のことだ。彼女には、私も束も世話になったからな」

城茂美咲は行方不明になる以前、束と一緒にISの研究を進めていた。更に千冬と、今は亡きある女性に続いて、世界で3番目のIS使いとなったのだ。

白騎士事件の時も、千冬や夫の城茂吾朗と共に戦った者である。

「それなら…そうっすけど…」

その言葉を聞いた途端、嬉しそうに宇月に飛びついた。

「うお!?」

「わぁ、そうなんだぁ!よぉく見ると、少し似てる~!」

バシィン!

「わたしの友達に気安く触らないで下さい。殴りますよ」

「うぅ…箒ちゃん、殴ってから言わないで…」

箒の竹刀の一撃によって、宇月は解放された。

「それより箒ちゃん、みんなに見せてあげなよ!」

「…はい」

束が促し、箒はISの紅椿を装着した。

「これ…!?」

「第4世代のIS「紅椿」。わたしが箒ちゃんのために作ったお手製だよ」

彼女のさらりとした発言にセシリアは驚く。

「第4世代!?…第3世代のISさえ、やっと世界に浸透し始めた頃といいますのに…!」

「まぁ、わたし天才だから!」

随分と簡単な言葉で返す束。そして、思い出したように伝える。

「そうそう。これ、対ゾディアーツも想定してるから、ISの中で唯一、負のコズミックエナジーを浄化できるよ。ホロスコープスだってね」

「何だと!?」「マジすか!?」

宇月と礼は驚いて飛びつく。そうなれば、彼女はフォーゼとメテオに続いて、仮面ライダー部の主要戦力になる。

「いっ君との連携次第では、フォーゼのコズミックステイツにも劣らないよ」

「コズミックステイツと同等…!?」

つい先日、ようやくコズミックステイツに到達したというのに、彼女はそれを簡単に追いつけるモノを作り上げたのだ。

箒もそのことに関しては想像をはるかに超えていたらしく、自身の紅椿をまとった手を見つめて驚く。

いつの間にか、横でケータイを耳に当て、誰かと通話をしていた千冬が彼等に告げ始めた。

「旅館に戻れ。起動試験中の無人ISが暴走を始めた。おまえ達には作戦の実行者になってもらう」

「ISが暴走!?」

一同は詳細を千冬から聞き、束を残してすぐさま旅館へと戻った。

残された束は…。

「見てたんだね」

後ろを振り返って、小さく呟く。

 

「やはり気付いていたか」

 

その声と共に、ヴァルゴが現れた。

「茶番だな束。「銀色の福音」の暴走を企て、箒に華々しい初陣を用意したというわけか」

「…さぁ、何のことかな?」

全てを見透かしたように言い放ったヴァルゴに、束は両手を挙げて白々しく応える。

「妹を愛する気持ちは理解できるが、そのために彼等を巻き込むのは…」

「貴方だって、自分の目的のためにIS学園を攻撃してるじゃん」

「…IS学園の上空にしか「ザ・ホール」が存在しないんだ。止むを得ない」

双方がそれぞれの不平を言い合う。

「本当、何考えてるのか分からないよ。ISをダメにしたいなんて…」

 

「貴方は女性でしょ?」

 

ヴァルゴは空を見上げ、呟く。

「女尊男卑など興味がない。私はただ、この宇宙に広がる無限のコズミックエナジーで、人類を宇宙へと向かわせる。そのためにはISが邪魔なのだ」

そう言った後、ロディアを束に向ける。

「今ここで、君を消したほうが良いか?君はなかなか姿を見せない。ここで消せば新たなISのコアは作られず、今回のような自分勝手なISの暴走もさせない」

「わぁお、怖い…。首領のヴァルゴに目をつけられたんじゃ、外も満足に出歩けないよ。ま…大丈夫だよね?」

束はヴァルゴの脅迫ですら、おどけたように返す。どうやら、脅しは効かないようだ。そう分かってか、ヴァルゴはロディアを下ろす。

「覚えておいて欲しい。私は君の姿を見かけさえすれば、いつでも消せる。何だったらレオに頼む事もできる」

「それは無理でしょ?レオ君は人殺しが出来ないもの」

束は薄く笑い、姿を消した。

「まさか彼女、レオのスイッチャーにも気付いたか…?」

少しだけ不安な表情を浮かべ、ヴァルゴも姿を消した。

 

旅館では、千冬が指令役となり、今回のIS学園の生徒が担う任務についての説明を仮面ライダー部のメンバーに伝えている。

「暴走しているISを、以降は「銀の福音」と呼ぶことにする。作戦の主な実行を担うのは織斑と篠ノ之の二人に行なってもらう。ゾディアーツの襲撃も可能性として考慮されることから、オルコット、鳳、デュノア、ボーデヴィッヒ、白石には、織斑達のサポートに徹して欲しい」

「僕も行くんですか…」

千冬の指示に、紫苑は不安そうな表情をみせる。学園での実践訓練もまともに出来ないのに、今回のような本当の任務を負かされることに、大きな不安を感じているのだ。

「大丈夫だよ紫苑。ダスタードの襲撃でも、頑張ってたでしょ?」

「そう…だね。…やってみるよ」

シャルロットに励まされ、ようやく勇気が出たようだ。

ただ、この作戦内容に異議を唱えるものがいた。

「ちょっと待ってください、おれ達の出番は?」

「メテオもフォーゼも、この任務で幾分かの役割は担えると思いますが…?」

宇月と礼である。

二人は、仮面ライダーとして学園を何度も守ってきた。その戦いぶりは千冬も理解している。

しかし、山田が代わって説明を始める。

「今回はIS学園が任された任務で、正式に学園に属していない「仮面ライダー」を任務のメンバーにする事は出来ないんです。二人は布仏さんと一緒に待機してもらいます」

「そういう事だ」

確かに、仮面ライダーは千冬や山田に詳細を知られているとは言え、基本的にはIS学園の目を掻い潜って活動をしている。そんな存在が一緒に学園の任務を遂行するものなら、フォーゼとメテオの存在が戦いにくい状態に追い込まれるであろう。

「…止むを得ないか」「みんな、ごめん!今回はお預けだ…。おれ達の分まで頼むぜ!」

納得した宇月と礼は、しぶしぶ戦いへの不参加の意思を示した。

これも、ゾディアーツの対策のためである。

「大丈夫だよ、3人で見守ろ~」「あのな…くっつくな、本音」

本音が腕に抱きついたため、礼は少し困ったような表情で引き剥がそうとする。

その理由は…。

「むぅ…」

ラウラだ。先ほどから彼女が嫉妬を向けた眼差しで見ているからだ。

その眼差しは心地よくないため、それから逃れようとしているのである。

千冬は腕を組んだまま、宣言した。

「作戦実行の時間は正午、それまでは待機だ。各自、準備を整え、万全の状態で望めるようにしておけ。以上だ!」

 

旅館の個室で…。

箒は自身のIS「紅椿」を見ている。

「本当に、受け取って良かったのだろうか…?」

関係に大きな溝のある自身の姉。彼女は自ら与えてくれたとは言え、今の家族を離れ離れにした元凶である束の力を借りるのは、やはり気が引ける。

「ただ…これを使えば、宇月や礼と共に戦うことも出来る。コズミックステイツとほぼ同等の力を持つのならば、その力で今回の任務も完遂できるし、あのレオやヴァルゴにも肉薄できるかもしれない」

そう、この紅椿はとんでもない力を有している。あれだけ苦戦を強いられたレオに、コズミックステイツでダメージを与える事が出来たという事は、そのレオにも対抗できる力を秘めているのだ。

ただ、レオが全ての力を出し切ったわけではないので、確証はないのだが…。

不意に、扉をノックする音が聞こえる。

「箒、いるか?」

「い、一夏…!?」

声の主は一夏だった。少し焦るが、いつもの調子を何とか取り戻し…。

「大丈夫だ、入れ」

落ち着いた声で返事をした。

扉が開かれ、一夏が入ってくる。いつもより凛々しいような表情を浮かべる彼に少し心拍数を早める。

「箒。初めての実践がこんな任務だけど、大丈夫か?」

「も、問題はない。至って平気だ」

平静を装って取り繕うが、一夏にはすぐに見抜かれた。

「声、震えてるぜ?落ち着いていこう、みんなもいるから。頼りないかもしれないけど、おれだっている。箒の事は絶対に守るから」

「あ、あぁ…そうだな」

緊張しているが、穏やかな笑みを浮かべて返す。今の箒に出来る精一杯のことだった。

「…なぁ箒」

「なんだ?」

「やっぱり、束さんとはちゃんと話し合わないのか…?」

やはり、このことも気にかけられていた。先ほどの会話では、たしかに姉妹らしきものを感じられなかった。自分でも自覚していたし、敢えてそうしていたのだが、どうしても一夏を心配させてしまう結果となった。

だが…。

「まだ…あの人と話し合う勇気はない。でもいつか…いつかは、ちゃんと話し合いたいと思ってる」

「そっか…。誰にでも言えるようなことだけど、おれに出来る事があれば、なんでも言ってくれよな」

「ありがとう一夏。わたしも出来る限り、頑張って見せる」

一つの戦いの前に、二人は改めて心の安定を高めた。

 

11時55分。

作戦実行の時間がせまりつつある。

通信機の無効では、画面いっぱいの宇月が見える。

『おい、みんな!絶対に勝てよ!仮面ライダー部の意地…!』

スパァン!

『ぶっ!?』

小気味良い音が響き、宇月の顔がカメラに押し付けられたかと思うと、それを引き剥がされ、千冬が顔を見せた。

『しつこいだろうが、今回の任務は訓練などではない。下手な戦い方をすれば、身の安全も保障は出来ないかもしれない。そのことをしっかりと覚えておいて欲しい』

その言葉に、全員が強く頷いた。

「いくぞ、みんな」

一夏の一言で、一斉に動き始めた。

 

動き始めて暫くしないうちに、銀色の福音が見えてきた。

「目標、発見。これより作戦を実行す…」

ラウラが言いかけたとき、銀色の福音を見て口が自然と止まった。

「おいラウラ、どうしたん…!?」

その姿が気になって尋ねた一夏も、銀の福音をみて絶句した。

銀の福音は無人機ではなかった。

 

搭乗者として、ヴァルゴ・ゾディアーツがいたのだ。

 

正確に言えば、暴走している銀の福音をヴァルゴが無理矢理中心部を占拠して、乗り込んだのだ。

以前、スコーピオンがゴーレムにしたことと似たような事例である。

「ヴァルゴ・ゾディアーツ…!?」

「追いついたようだね。予定よりは遅かったか…」

独り言のように呟き、ヴァルゴはロディアを一同に向ける。

「このISはまだ利用価値があるのでね。君達に破壊させるわけには行かない」

ドォッ!!!!!

ロディアから赤いエネルギー波が発射され、一夏に向かっていく。

「みんな、避けろっ!」

言うが早いか、一気に蜘蛛の巣を散らすように全員が離れた。

「…君は邪魔だ」

ドオッ!!!!!

「ひぃっ!?」

ヴァルゴの最初の標的は紫苑のようだ。必死に霧裂で避けるが紙一重だ。

「無理だっ!あんなの倒せるわけがないっ!」

自身の力でどうしようもない事を悟り攻撃には移らず、ひたすら逃げ続ける。

「助けてええええええええええぇっ!」

「紫苑っ!」「世話の焼けるやつだ…!」

シャルロットとラウラが彼を助けに行こうとする。

そのとき…。

 

「絆を大切にする君達なら、そうすると思ったよ」

 

突如、ヴァルゴは紫苑から狙いを外し、助けに来た二人を標的にした。

「え…うそ!?」「まさか、最初からこれを!?」

そう、紫苑はこのメンバーでも最低の能力である。

そんな者よりも、より強い力を持っている代表候補生を先に狙ったのだ。

つまりこれはヴァルゴの考えた、彼等の絆を利用した囮作戦だったのだ。

ドオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

今度は福音で攻撃を仕掛けるようだ。

だが、今度は…。

「シャルっ!ボーデヴィッヒさんっ!」

逆に紫苑が彼女達を突き飛ばして、自らを犠牲にした。

「しお…っ!」

ドガアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

福音の放つ爆発に巻き込まれ、姿が見えなくなった紫苑。

煙が晴れたとき、シャルロットの目には、彼が意識を失って海へ落下していく姿が映し出された。

「紫苑っ!しおおおおおおおんっ!」

「よせ!今、彼を追えばヴァルゴの餌食だぞ!ISが装備されているから、紫苑は平気だ!」

シャルロットは紫苑を助けに向かおうとするが、箒に止められる。

「このやろおおおおおおおおおぉっ!」

一夏は紫苑を傷つけたヴァルゴに怒りを感じ、雪片弐型を構えて一気に距離を詰める。

「…これが初のISの改造品か」

ガキィッ!

一気に振り下ろすも、ヴァルゴはロディアで簡単に防ぎきる。

ドッ!!!!!

「うああぁっ!?」

突如、なにか壁に押されるような感覚を感じ、一夏はヴァルゴから強制的に距離を置かされた。

これがヴァルゴの能力、空間を自在に操る力なのだ。

ロディアを一振りすれば、空間内に存在する物質を一気に圧縮したりして、何者も通さない鉄壁の防御が作り出せるのだ。

「そろそろ頃合いだな。…来い、レオ!」

 

「ウオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

 

ヴァルゴの声と共に闇が出現し、その中からレオが現れて鈴音に飛びついた。

「なっ…やめてよ!?」

振りほどこうとしたが、レオの力は強い。全く意味を成さなかった。

「鈴さんから離れなさいっ!」「やめろぉっ!」

セシリアと箒が、鈴音を救うべく攻撃を放つが…。

「グオオオオオオォッ!!!!!」

ドガアアアアアァッ!!!!!

「きゃあああああああぁっ!」「くぅっ…!?」

セシリアは簡単に吹き飛ばされてしまい、箒もセシリアほどではないが大きくダメージを受けた。

「このIS…貰う!」

そういうと、レオは鈴音の持つ甲龍のコアが存在していると思われる部位に手を当て…。

 

ISを解除させた。

 

「鈴っ!」

「な…なんで…!?」

滞空する手段を失ったが、かろうじて一夏が彼女を抱きかかえたため、落下は防げた。

一方の鈴音はレオの行動が理解できずにいた。それはヴァルゴ以外の全員に言えたことなのだが。

「オレは特異体質。他のホロスコープスに変身することが出来る…」

 

「さらに他者の専用機ISを同調させる事も可能だ!!!!!」

 

そう言って待機状態のISを展開し、鈴音とは違うような姿の甲龍を装備した。

「ライオン怪人が…あたしのISを…!?」

「ウオオオオオオォッ!!!!!」

ドガアアアアアァッ!!!

龍砲を放ち、一夏達を攻撃する。

一瞬の出来事と、驚いていた状態が重なり、攻撃を避けることが出来なかった。

「うああああああああぁっ!?」

鈴音も巻き込み、一夏も龍砲の餌食となった。

 

「きさまああああああああああああぁっ!」

激情したラウラがレオに攻撃を仕掛ける。

だが…。

「ジェミニの残りカス如きで…!!!!!」

甲龍を捨てることで攻撃を避け、ラウラにツメで反撃をする。

だが、彼女のISにはAICがあり、防御に関してはかなりのモノがある。

にも関わらず…。

ビギィッ!!!!

「そんな…AICが!?」

なんと、AICの防御壁が一瞬で砕かれてしまった。

「無駄だァッ!!!!」

ガッ!!!!

「うぐっ…!」

首を握られ、呼吸が出来なくなった。必死にもがくラウラ。

「ヌゥゥ…!!!」

レオはラウラの意識が飛ぶまで、手に込める力を緩めない。

「かはっ…」

酸欠によって意識を失いかけた瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンを強制解除し、彼女を投げ捨てた。

「ラウラ!」

ラウラはシャルロットによって抱きかかえられる。

「けほっ…!すまないシャルロット…!」

「意識は戻ったんだね…よかった…!」

どうやら、死ぬほどのものではなかったようだ。

「少しは、女の子相手に手加減したらどうですの!?」

セシリアが怒鳴るが、レオはそれを鼻で笑う。

「勘違いするな。今、手加減してるんだよ。オレが本気になれば、オマエ達など一瞬で消せる」

 

待機しろといわれ、通信でこの状況を見ていた宇月と礼は…。

「やっぱ見てられねぇ!」「このままでは…!」

「うっちー、つっちー!?」

立ち上がり、彼等の元へと向かおうとしたが…。

スパァンッ!

「いでっ!?」「ぬあっ!?」

「待機と言ったはずだ」

やはり千冬に防がれてしまった。

だが、二人もそんなことでは引き下がれない。

「状況は理解できるでしょう!」「相手はホロスコープス最強の、レオとヴァルゴですよ!?」

「おい、待たんか!」

千冬の制止も聞かずに、二人はフォーゼドライバーとメテオドライバーを装着する。

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

「本音、待機役は任せた!」

<3>

「…わかった、行ってきて!」

<2>

「待てと言って…!」「織斑先生っ!」

<1>

「「変身っ!」」

礼は青と黄色の発光体となり、宇月はフォーゼBSになって…。

<COSMIC-ON><LIMIT-BREAKE>

コズミックステイツのワープドライブで彼等の元へ急いだ。

 

レオはシュヴァルツェア・レーゲンを装着し、一夏達に迫る。

背後ではヴァルゴがそれを見つめている。

絶体絶命のピンチだ。

そこに青白い空間が現れ…。

 

「させるかあああああああああああぁっ!!!!!」

「アチャアアアアアアアァッ!!!!!」

 

メテオSとフォーゼCSが飛び出してきた。彼等の背中には空中推進用の装置が備えられてあり、空中での戦いにも対応しているのだ。

どちらもこのステイツにのみ備えられた能力である。

バリズンソードを開き、レオに斬りかかるが…。

キィンッ!!!!

「これって…ラウラのAIC!?」

シュヴァルツェア・レーゲンの作り出すAICに阻まれる。

「オレが使用したISは、元の使い手よりも強力なものに変化しているんだよ!!!!!」

ドォッ!!!

「うわっ!?」

至近距離からの攻撃だったが、フォーゼCSはとっさにコズミックエナジーで生成した結界を張り、攻撃を防ぎきった。

「ならば、これはどうだ?」

ワイヤーブレードが現れ、フォーゼCSを拘束する。

「こんなもので…!」

<ELEKI-ON>

「おりゃぁっ!!!!!」

バリイィッ!!!

エレキの力を体にめぐらせ、ワイヤーブレードを通して電撃をレオに送ろうとする。

「フンッ!」

しかし、シュヴァルツェア・レーゲンを解除することで逃れる。

ISを装備しなくなったことで空中に滞空できる手段を失ったレオだが、常時的にヴァルゴがレオの足元の空気を圧縮する事により、空中での戦いを実現させている。

それぞれ、甲龍とシュヴァルツェア・レーゲンが戻ってきたため、鈴印とラウラは再び装備して戦線にたとうとするが…。

「わたしがやる!」

「箒!?」

箒がフォーゼCS達を押しのけ、レオに攻撃を仕掛けた。

続いて、彼女の身を案じた一夏も向かう。

「レオ、ヴァルゴ!これ以上、おまえ達の好き勝手にはさせない!」

「ISを貰った分際で良い気になるなよ!?」

レオは箒の攻撃を防ごうと、ツメを前に構えるが…。

「はあああああああああああああぁっ!!」

ガッ…!!!

「ヌゥ…!?」

紅椿の刀状の武器、雨月と空裂の2つを防いだ瞬間、痛みはなかったが何か不思議な感覚を感じた。

「どうした、レオ?」

「このIS…常時、武器に負のコズミックエナジーを消滅させる力があります…」

レオの体からは無尽蔵に負のコズミックエナジーが作り出されるため、脅威ではないが…。

「このIS…早々に破壊する。ウオオオオオオオオォッ!!!!!」

「くっ…!?」

ゴオオオオオオオオオォッ!

至近距離からの咆哮を受けるが、箒はすぐさま距離を置いた。

その速度は今までのISの中で比類なき速さだった。

「速い…!」

そのまま、展開装甲を発動する。離れたそれはエネルギーソードやスラスターとなり、レオだけでなく、ヴァルゴまでも攻撃する。

ドガアアアアアアアァッ!

それぞれ、さほどのダメージにはならなかったが、確実に彼等を驚愕させる能力だった。

「小賢しいマネを…!」

「篠ノ之束め…これほどのISを創り上げるとは…!」

「今ならいける!一夏、宇月、礼!トドメだ!」

箒の言葉で3人は頷き、空中に高く飛ぶ。

メテオSはメテオストームスイッチを一旦外し、メテオスイッチをセットする。

<METEOR-ON READY?>

「零落白夜、発動!」

一夏は零落白夜を発動し、同時攻撃に備える。

「離脱・セット!」

<LIMIT-BREAKE>

フォーゼCSはバリズンソードにコズミックスイッチを抜き差しして、身体中を青白く光らせる。

箒も彼等と共に、大きな一撃を放とうとする。

「オオオオオオオォ…!!!!!」

「ライダァァァァァァァァ…」

「これで…!」

 

「まてっ!」

 

突如、一夏が制止を指示した。

「何やってるんだよ!?」「そうだ、今なら…!」

「アレを見ろよ!」

フォーゼCSや箒の批難を押しのけ、彼が指差す先には…。

 

避難指示が出ているにも関わらず船が一隻、波に揺られていた。

 

「避難勧告は出ている…これは密漁船!?」

箒と一夏のISにはそう表示された。

「この非常時に…!」

メテオSが躊躇するのもそのはず、もしこの攻撃がヴァルゴとレオに直撃しなければ、その攻撃は間違いなく船に当たり、船員は一人残らず、生きて帰れないだろう。

だが…。

「…やるぞ、みんな」

箒は攻撃をとめようとはしなかった。

「箒!?」

「このチャンスを逃せば、レオとヴァルゴは倒せないかもしれない!それに、あの船の人は犯罪者だ。構うものか」

「箒、何言って!?」

一夏が反論しようとするが、箒は睨むことで怯ませた。

「奴らを野放しにすれば、またゾディアーツやホロスコープスが生まれる!ここで倒せば、犠牲となる者達もいないんだぞ。あんな犯罪者のために…」

「箒っ!!!!!」

今まで聞いた事のないような努声で一夏は箒を戒めた。

しかし、顔を上げたときの表情は悲しそうだった。

「…そんな悲しいこと言うなよ。そんな…悲しいこと…」

「い、一夏…?」

その表情に、箒も一瞬の迷いが生じた。

 

「話は終わりか?」

 

ふと気が付くと、レオが箒の至近距離にいた。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

咆哮を放ち、箒を窮地に追いやろうとするが…。

「箒、危ないっ!」「一夏!?」

ドガアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

一夏が庇い、彼がその咆哮の餌食となった。

「うわああああああああぁっ!?」「ぐあああああああああぁっ!」「くううぅっ…!」

凄まじい爆発が起こり、フォーゼCS、メテオS、箒の3人はかなりと置くまで吹き飛ばされてしまう。

煙が晴れたとき、一夏は意識を失い、ISも解除されてしまった。

「一夏っ!一夏っ!」

とっさに箒が彼を抱きとめるが、ゆすっても意識は回復しない。

メテオSはそれを見て、完全に怒りに支配された。

「きさまらあああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

発動しかけていたリミットブレイクを再発動し、単身でレオに襲い掛かった。

ストームで強化した、メテオストームストライクである。

だが…。

「ムンッ!!!」

ガギィッ!

「グワアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「うああああああああああああああああああああああぁっ!!!!」

それを防がれ、逆に咆哮を浴びせられたメテオS。

意識を失うまでは行かなかったが、大ダメージを負って今にも倒れそうであった。

「もう良い。行くぞ、レオ」

「はい」

ヴァルゴの指示を受け、自身とレオは銀の福音もろとも、姿を消した。

 

数時間後…。

ISのシールドエネルギーでかろうじて助かった紫苑が海上で発見された。

意識はあるものの、怪我は重体である。

一夏は更に酷かった。何しろ、至近距離でレオの咆哮を受けたのだ。零落白夜で消耗したシールドエネルギーは0になり、生身でその攻撃を受けたのだ。

彼は救出されてからずっと、意識がない。

「あ…あぁ…」

その惨状をみた箒は、座り込んで肩を震わせていた。

 

何処かの場所。

ヴァルゴとレオは、銀の福音を見つめていた。

今はヴァルゴのコズミックエナジーで強制的に停止させている。

「このISに何が?」

「おそらく篠ノ之束が暴走させている。彼女が使うくらいのISだ、相当強力だったよ」

銀の福音を撫でながらヴァルゴは呟いている。

「それで、これからは?」

「彼等の傷が癒え次第、もう一度、戦わせる。今度は自動操縦でな」

レオは彼女の言葉の真の意味を理解した。

「…ISを進化させるつもりですか?」

「もちろん、今の状態ではダメだ。今以上の力をISが手にしなければ…」

ヴァルゴはスイッチを押し、人間の姿に戻った。

 

後姿は腰までの長い髪をした細身の女性。

 

ヴァルゴであった女性は、踵を返して歩き去った。

残されたレオは、ふと今の時間を思い出した。

「…戻らなければな」

そう言って、スイッチを押しながら闇の中に消えた。

 

その夜。

旅館の一室に宇月達は集められた。

全員が怪我を負っていたため、身体中に絆創膏や包帯がある。

目の前には、意識不明の一夏と、包帯だらけの紫苑がいた。

「紫苑…!」

シャルロットは紫苑を抱きしめた。

「しゃ…シャル…痛い…!」

「ごめんね…ボクを庇った所為で…。守ってくれたのに、無事に帰って来れなかった…」

結果的に、ヴァルゴとレオに惨敗したのだ。

「し、仕方ないよ…。相手がヴァルゴ・ゾディアーツとレオ・ゾディアーツじゃ…。それより、織斑君が…」

紫苑の目線には、一夏がいる。

まるで眠っているように…。

「…っ!!!」

「あ、おい箒!?」

宇月が呼び止めるも、箒はそれを無視して部屋を出て行った。

「しかたないな…」

鈴音が溜息をついて、後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

やっぱり、受け取るべきではなかった

 

                         自分勝手ね…!

 

またかよ!?

 

                         力を欲しますか?

 

あれが…白式の新しい形態!?

 

                         IS側は準備完了だ

 

 

 

 

 

第29話「不・屈・之・魂」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶
篠ノ之束

???=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ


今回、少しだけヴァルゴの正体に近付きました。スイッチャーは女性です。まだ、コレだけですが…。
さらに銀の福音にも、オリジナル要素を入れました。
ヴァルゴはスコーピオンのように無理矢理破壊してというわけではなく、無傷で乗っ取ったということです。これ、結構重要です。
ただ、紅椿にはオリジナル要素が加わっています。現時点ではISで唯一、ホロスコープスに単体で対抗できます。
さて、強さ関係も分かったかもしれませんが、現時点では全力の仮面ライダー部とそこそこの力を見せた、レオとヴァルゴが互角です。つまりレオ達が本気を出せば、今の状態でも勝てないんです。
次回は銀の福音との決戦と、タウラスが少~しばかり登場します!
タウラス編では、紫苑が隠してたことや、他にもいろんな謎が結構解けると思います!
お楽しみに!


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第29話「不・屈・之・魂」

海岸で、立ち尽くしている箒。

彼女は自身の至らなさで一夏を傷つけてしまった事を悔やんでいるのだ。

「…やっぱり、受け取るべきではなかった」

そう言って、左手首にある待機状態の紅椿を見つめる。

こんなモノの力があったから慢心してしまい、仲間を危機に陥れてしまったのだ。

「随分、自分勝手ね」

ふと鈴音が現れ、歩いてきた。

彼女の表情は険しく、少し凄みもあった。

「…どうせ、自分の所為で…なんて考えてるんでしょ?」

「分かるのか?」

「丸分かりよ」

箒の表情をみて、呆れたように軽く笑う鈴音。

「…その通りよ。あんたの所為で一夏が傷ついた。強いISが手に入ったからって、いい気になってたって事よ」

「だから…もうISは使えない」

待機状態の紅椿を外そうと箒が手をかけた途端…。

ガシッ…!

その手を鈴音が掴んだ。顔を真っ赤にしている。

「あんた…本気で言ってんの?」

「本気でなければ、こんな事は言わない」

箒の行動に、遂に堪忍袋の緒が切れた鈴音は…。

ドガッ!

「っ!?」

箒の右頬を殴った。

「あんた…最低よ!!!」

「鈴音…」

「宇月や礼を見てよ!あんたと同じような目に何度も遭ってきた。戦うことを迷ったりした。だけど、絶対に逃げなかったじゃない!他のみんなだってそう!自分のことをクズクズ言っている紫苑だって、弱いなりに自分に出来る事を精一杯やってるでしょう!?」

ふと、二人のことを思い返した。

宇月は仮面ライダーフォーゼとしてゾディアーツと戦い、一度はスコーピオンである理雄への罪悪感から、戦いに迷いを見せたりした。だが最後には立ち上がり、今はコズミックステイツにまで到達している。

礼も仮面ライダーメテオとして正体を隠し、心優しさから生まれる油断を作るまいと自身の本当の心すら隠していたが、他の仲間の信じる心を彼もまた信じ、全ての自分を曝け出して、戦い続けている。一度たりとも、戦いから逃げようとはしなかった。

「だが…わたしはみんなのように強くない!」

「まだ愚図るの!?逃げようとはしなかったけど、みんな逃げたかったのよ!正直、あたしだってヴァルゴに勝てるなんて思ってなかった。だから逃げたほうが安全だって思ってた。だけど、逃げるわけには行かないのよ!?」

箒の胸倉を掴み、鈴音は思いを叫び続ける。

「もうよせ、そのへんにしろ」

ふと、遠くをみると礼が声をかけてきていた。

「箒、おまえの気持ちは良く分かる。おれもメテオに初めて変身したとき…逃げたんだ」

「え…?」

 

 

 

その日は、ダスタード相手に戦っていた。

「おりゃああああぁっ!」「アタアアアアァッ!」

フォーゼBSとメテオは順調に戦い続けている。勝利は間違いないだろう。

だが…。

「ラァッ!」

ドガアアアァッ!

「ぐあああああぁっ!?」

突如現れたドラゴン・ゾディアーツによって、メテオは傷を負わされた。

「おい、礼!?」

「宇月…隙を突かれた…」

フォーゼBSが彼のみを案じて駆け寄る。

「なんだ…コズミックエナジーのスーツなんてモノも…大したこと無い!」

ドラゴンは猛攻を開始した。

ドガァッ!ズガァッ!ガギィッ!

「ぐっ!…うわぁっ!」「がはっ!?」

その時点では、ドラゴンが今まで戦ってきたゾディアーツの中で一番強かった。

成す術なく、2人は地面に叩き伏せられた。

「こいつには…勝てない…!」

メテオはそう判断した。今の状態では対抗策が見当たらない。

「逃げるぞ!」

「待て!こいつを今倒さねぇと、被害が…!」

逃げたほうが賢明と判断したメテオは、逃げる事をフォーゼBSに促すが、彼は逃げなかった。

「いつまで無駄話をしているんだよ!」

ドガアアァッ!

「ぐあああぁっ!?」

会話の途中で、ドラゴンがフォーゼBSを攻撃した。

「逃げろフォーゼ!勝てない!」

「だから…逃げないって!」

フォーゼBSの頑なな意思を見て、メテオは…。

「勝手にしろ!」

そう言って、一人で逃げ出してしまったのだ。

 

その後、宇月は重症になり、結局ドラゴンは逃がしてしまった。

 

 

 

 

「そんなことがあったのか…」

箒と鈴音は唖然とした。あの礼がそんな行動を取るなどと想像していなかった。

「あのとき…おれが逃げなければ、必要以上に誰かを傷つけることもなかったかもしれない。結局、今でもドラゴン・ゾディアーツは逃がしたままだ。あれを克服するのは、かなり時間が掛かった」

礼は困ったように笑って、箒の肩に手を置く。

「だが最終的には克服したんだ。おれに出来て、おまえに出来ないなんてことはない。おれもおまえも同じ、仮面ライダー部だからな」

それだけ言うと、礼は手を振って歩き去った。

少しの沈黙の後…。

「どうするのよ箒?」

鈴音が尋ねる。

箒の答えは…。

「…決まってる。もう一度、立ち上がってみる!」

そう決まった途端…。

 

「じゃあ、みなさん同意見ですわね」

 

セシリア、シャルロット、ラウラが現れた。

「ボク達も立ち上がるよ。レオやヴァルゴに勝てなくたって、負けを認めることはしない!」

「そういうことだ。今回はわたし達だけでやるぞ」

ラウラの発言は一見、無謀とも思えるが、それでも彼女達は一人残らず賛同した。それだけ、5人の意志は固いという事なのだ。

箒は右手を前に差し出す。

残りの4人もその意味を把握して、箒の右手にそれぞれの右手を重ねる。

「よし…いくぞ、仮面ライダー部!」

 

『おおおおぉっ!!!』

 

その頃…。

ヴァルゴは銀の福音に近付きながら、一人呟く。

「…そろそろ良いだろう。このISを起動させる」

そう言ってロディアを地面に叩きつけた瞬間、福音がゆらりと動き出し、空高く飛んでいった。

「この戦いでISが進化せねば…目的は果たされない」

 

一方、山田と千冬はISのサーチャー反応を見て驚愕した。

「織斑先生、ISの反応を5つ確認!これは…紅椿、ブルー・ティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲンです!」

「あの馬鹿共め…何を考えているんだ…」

彼女達は無断で銀の福音を撃墜しに向かったのだ。しかし、彼女5人でどうにかなる問題ではない。

「やっばいね~、このままじゃ」

いつの間にか、背後に束がいる。

「でも、前回ほどヤバくはないかな。あのIS、今回は間違いなく無人だし」

「何故分かる?」

「だって…ヴァルゴの今回の目的はISの進化。また彼女が向かって、ISを返り討ちにしたら意味がないもん」

彼女の意見が正しければ、この戦いは完全にヴァルゴの手の上で踊らされているに過ぎない。

ふと、山田が尋ねる。

「ヴァルゴは…ISが邪魔だったのではないですか?」

「それがねぇ…ヴァルゴって生真面目な性格で、ISを出来るだけ強くして、それからISを停止させたいんだって。まぁ、この世界への見せしめかな?」

束は両手の人差し指を頭に置いて、困ったような表情をする。

「見せしめ…か」

千冬は、その言葉に何か引っかかるものがあった。

「ヴァルゴは…ISが使用できるのに、なぜISを停止する必要がある?見せしめといっても…何の目的があって…?」

そこから導き出される答えは…。

 

上空では、箒達が銀の福音と接触した。

「見つけたぞ!」「今度こそ、倒すわよヴァル…って、いない?」

今回の福音は無人機であり、ヴァルゴやレオがいる気配はない。

「箒、スイッチカバンはあるか?」

「ゾディアーツの反応ならば、紅椿が察知できる。だが、ヴァルゴたちどころか、ダスタードの反応すらない」

状況の不審さに首を傾げていた5人だが、福音はそれを待たずして攻撃に移った。

凄まじい量の光弾が発射され、箒達を襲う。

「みんな、避けろ!」「言われずとも、避けますわ!」

ドガアアアアアアアアァッ!!!

空中で小規模の爆発が何度も起きるが、彼女達はそれぞれ機敏に動き、全てを避ける。

だが…。

避けたシャルロットの目の前に、福音が近付いた。

「うっ…!?」

反応が遅れ、逃げられないと思った瞬間…。

 

「うわあああああああああああああああぁっ!!!」

 

ガギィッ!!!

「ううううぅっ…!」

「紫苑!?」

突如あらわれた紫苑が、とっさに彼女を庇い、福音の打撃を防いだ。

「ダメだよ、まだ怪我が!」

「シャル達だって、怪我はしてる!僕だけがじっとしてるなんて出来ない!」

押し返そうとしたが、相手の攻撃力は高く、逆に力負けしてしまっている。

「うぅぐ…!」

「はああぁっ!」

ドガアアァッ!

次はシャルロットが紫苑の背後から福音に攻撃を当て、距離を置かせた。

「平気?」

「いたた…ごめん、助けるつもりが…」

「ううん、こっちこそ助けてもらった。本当にありがとう」

シャルロットが微笑んで答えると、紫苑は顔を赤くして俯く。

「い、いや…僕はそんな…」

「ちょっと紫苑!ムードも良いけど、戦いに来たなら、ちゃんと援護してよ!」

その言葉に振り向くと、今度は福音が鈴音を狙って攻撃しており、彼女はそれに応戦している。

「あぁっ!大変だ、助けないと!」

紫苑は大慌てで、他の4人と一緒に援護に向かう。

 

一夏は、不思議な空間にいた。

青空と海が広がる世界。そこに白い服を着た少女が立っている。帽子の所為で顔は見えない。

「…呼んでる」

「え…?」

次の瞬間、世界が変わった。

夕焼けの世界で、目の前にはISを装着した女性がいる。

「…ここは…それに、君は一体?」

尋ねるが、その女性は答えようとはせず…。

「力を欲しますか?」

そう尋ねた。

一夏の脳裏に浮かんだのは…。

 

ゾディアーツと戦った仮面ライダー達。

仮面ライダーメテオ、仮面ライダーなでしこ、仮面ライダー龍騎、仮面ライダークウガ、仮面ライダーキバーラ、仮面ライダーディケイド…。

そして仮面ライダーフォーゼ。

 

彼等は何度も学園を脅かす脅威に立ち向かって来た。

だが…。

「もう持ってるのかもしれないな」

彼の答えは、その一言だった。

「おれだって、本当は今以上に強くなって学園や仲間を守れるようになりたい。でも、そのための力は…ただ身体が強いだけじゃないんだ」

一夏の知っている仮面ライダーは皆、優しさを持っていた。

ただの力を持つ存在ならば、仮面ライダーは悪に成り下がっていただろう。だが、彼等は優しさを兼ね備え、何かを守るために戦っている。

「その優しさなら…おれにだって持てる。だから…力は持ってるのかもしれない」

再び、世界は戻る。

「それじゃあ…行かなきゃね」

 

ふと、気が付くと目の前には宇月と礼がいた。

「一夏、目が覚めたか!?」「平気か…?」

「あぁ、大丈夫だよ」

心配そうに尋ねる二人に対して微笑んで、体を起こす。

「…箒達は?」

「それがよ、みんな急に居なくなっちまってな」

宇月は彼女達の所在に首を捻っているが、礼はなんとなく気付いている。

「おそらく、他のメンツで銀の福音に再戦を仕掛けたはず。だが…あいつらだけでは…」

不安だった。相手は全員で向かっても勝てなかった相手だ。

「おれも…」

「バカ、無茶だ!」

宇月が止めようとするが、一夏はそれを押さえつける。

「今、行かなきゃいけないんだ!宇月達だって、行くんだろう!」

一夏の言葉に、2人は口ごもった。確かに、今からでも戦いたい。

しかし、万全の状態で臨まなければ、間違いなく再び敗北を喫するだろう。

それでも…。

「…ま、答えは決まってる」「そうとう無茶することになるぞ、いいのか?」

「無茶する事なんて、毎回だろ!」

礼の差し出した右手を握り、一夏は立ち上がった。

そして、一夏は宣言する。

「行くぞ…仮面ライダ-部!」

 

『おおおおおおぉっ!!!』

 

一方の箒達は…。

福音単体とは言え、相手は強い。苦戦を強いられている。

「くそ…どうやって倒せば…!」

長い戦いで一瞬、勝てる術が見つからず、戦意を喪失しかけた箒。

その隙を福音は見逃さない。

一気に距離を詰められ、攻撃を赦された。

ガアアアアアアァッ!!!

「うああああぁっ!」

近くの海岸に叩きつけられ、福音の再攻撃を仕掛けられる。

「一夏…!」

そこへ…。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!

 

<LIMIT-BREAKE>

 

「待たせたな!」

青白い空間が現れ、白式を装備した一夏、フォーゼCS、メテオSが現れた。

とっさに一夏が箒を抱きかかえて避けたため、福音の攻撃は無駄に終わった。

「一夏!?おまえ、怪我は…?」

「女の子が戦ってるのに、男が黙ってるわけにはいかないだろ?大丈夫だ、戦える」

優しく微笑む一夏。

彼の到着を見計らってか、ヴァルゴが現れる。

「待っていたよ、一夏。さぁ、君の力であのISを破壊しなさい。フォーゼ達よ、君達は邪魔をしないように相手を用意した」

その言葉と共に、闇の中から凄まじい数のダスタードが現れた。

中には赤と白の鬣のあるダスタードもいる。どうやら上位のダスタードのようだ。

「礼、おれ達はこいつらだ!」

「分かった!星の運命の従僕たちよ、この嵐で打ち砕く!」

フォーゼCSとメテオSは、福音の戦いを一夏たちに任せ、ダスタードの戦いに未を投じた。

 

箒は思う。

「わたしも…戦う。一夏の背中を守る…!今度は逃げない!」

その瞬間、紅椿のシールドエネルギーがフルに回復され。黄金色に輝く。

「これは…絢爛舞踏…?」

箒の感情に反応し、新たに備えられた紅椿の能力なのだ。

その能力を理解した箒は…。

「一夏、この力を受け取ってくれ!」

一夏の手を取り、その力を分け与えた。

「エネルギーが完全に回復した…。これは…!」

さらに白式も大きく姿を変えた。

「遂に到達したか」

ヴァルゴはそれを見て、満足そうに呟く。

 

「第2形態…雪羅…!」

 

彼女は目的を果たしたらしく、踵を返して姿を消した。

一夏が参戦したとは言え、戦況は未だ覆らず、福音が優勢だった。

福音の懐に箒が入り込む。

「一夏、いまだ!」

「おおおおおおおおおおおおおおぉっ!」

雪片弐型を振りかざして距離を詰めるも…。

ドガアァッ!

「うああああああぁっ!」

福音は箒を突き飛ばして離れていった。

「ラウラ、頼む!」

「任せろ!」

一夏に呼ばれ、ラウラは遠方から福音に向かって攻撃を放つ。

防御に徹した福音はダメージを負わなかったが、隙を作らされた。

ズドオオオォッ!

「わたしがおりましてよ!」

セシリアが上空からブルー・ティアーズで攻撃を図る。

福音はその攻撃に一度は驚くが、すぐさま彼女に近付き、翼で包み込み攻撃を与えた。

「くっ…!」

「はああぁっ!」

ドガアアアァッ!

そこに、鈴音の龍砲が襲い掛かる。

だが、それすら予測した福音は、鈴音にすさまじい量の光弾を放つ。

「鈴!」

シャルロットがとっさに彼女を庇い、シールドで防御する。

「うわあああああぁっ!」

攻撃を与えていた福音を、紫苑が空裂のムチで拘束する。

しかし、大人しくしているわけでもなく、福音は暴れ続ける。

「織斑君、早く!」

紫苑はギリギリまで福音を押さえ続けるが、限界は近い。

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!」

一気に間合いを詰めようとするが、どうしてもトドメの攻撃を与えられない。

「くそ…どうすれば…!」

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァァ…超銀河フィニィィィィィィィィィッシュ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!

「ムウウウウゥッ!?」

そのとき、丁度フォーゼCSがダスタードを倒し終え、一夏の元に現れた。

「ここをくぐれ!離脱・セット!」

<LIMIT-BREAKE>

フォーゼCSが作り出したワープドライブの空間。

これならゼロ距離で福音に攻撃が出来る。

「一夏、行けええええええええええええええっ!!!」

全員の想いを胸に、一夏は最後の一撃に望んだ。

「今度は逃がさねええええええええええええええええぇっ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアァッ!

遂に福音に大きな一撃を与える事に成功した。

近くの砂浜にまで叩きつけ、なおも攻撃を続ける。

「おおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」

ギ…ギギィ…!

最後の抵抗か、福音は一夏の首を掴み締め上げる。それでも一夏は攻撃を止めなかった。

そして…。

ガシャッ…

遂に福音のエネルギーは0になり、完全に停止した。

「終わったな…」

「…あぁ」

 

あの後…。

束は海岸の隅で足を下ろし、海を見つめながら呟く。

「あぁ~あ、白式には驚かされたな。装着者の生態エネルギーまで回復させるなんて…まるで…」

「世界初のIS…白騎士のようだな」

背後に千冬が現れた。

「やぁ、ちーちゃん」

古い友人の二人…。

そこに、水を差すものも現れた。

「IS側の準備は完了した」

ヴァルゴだった。

「ヴァルゴか…」

「貴方の目的に使われちゃったね」

ヴァルゴの今回の目的は、雪羅を発動させる事なのだ。

「だが、君の目的も果たされた。箒は初白星を飾れたというわけだ」

「まぁね」

「全く…君には困らされる。ISを開発した所為で世界の情勢を激変させ、私の目的の邪魔を間接的に行なう。白騎士事件でもそうだ。あの所為で…」

 

「城茂吾朗は死んだ」

 

「…出来れば、その話は引っ張り出して欲しくはなかったなぁ」

束の表情に若干の曇りが見えた。

「吾朗さんが…」

千冬は驚く。彼女は吾朗とも面識があり、彼がどんなに強い心と力を持った人物かは知っている。その彼は行方不明と言われ、後に死亡扱いされていたが、まさか本当に死んでいるとは思って居なかった。

「千冬、君のおかげで、あの事件の犠牲者は「彼のみ」となった…」

ヴァルゴの口から告げられた言葉から、千冬はあの女性を思い出した

「という事は…美咲さんは…」

「あぁ、生きている。今は何処にいるか知らないがな」

まだ希望は見出せた。城茂美咲はまだ生きている。

「奇跡と思えるが…結局、IS絡みの事件は全て君の筋書き通り。この私もあの事件で踊らされたからな」

「まぁまぁ、そう言わないで。あの事件で、貴方は初のホロスコープス、ヴァルゴ・ゾディアーツになれたんでしょ。ゾディアーツ関連は、本当に予想外だったけど」

「そう。その意味では感謝しなければいけない」

ヴァルゴの素顔は複雑な表情をしているのだろうと千冬は思った。

「…ねぇ、ちーちゃん、ヴァルゴ。今の世界は…好き?」

不意に束が尋ねた。

「そこそこにな」

「私は嫌いだ。だからこそ今、ゾディアーツとして活動しているのだからな」

二人の答えは全く相反するものだった。

「…そっか」

それだけ言うと、束は姿を消した。

「束…」

「また会おう、千冬」

そして、ヴァルゴもロディアを地面に叩きつけて姿を消した。

 

その日の朝。

千冬によって一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、紫苑が集められた。

「作戦終了。だが命令違反などを始め、おまえ達は様々な違反を犯した。戻ってから、反省文の提出、罰のトレーニングを用意しているからそのつもりでいろ」

千冬の少し離れた後ろを宇月と礼がソロ~リと歩き去ろうとしているが…。

ガッ!!

「どっ!?」「うっ!?」

手裏剣のように投げられた出席簿で、2人の後頭部を直撃した。

「後ろの二人、お前達もだ」

「は、はぁい…」

宇月は観念して頷く。

一方の礼は…。

「…織斑先生」

「なんだ?」

「おれは何もしていません。あの場に駆けつけたのは、学園では一応、正体不明の「仮面ライダー」が2人です」

盲点を突いて、軽く笑う。

千冬は眉間に手を当てて答えた。

「…確かにそうだな。悔しいが辻永は、待機命令を破っただけの罰に留めよう」

そうなると…

「じゃ、じゃあおれも…!」

「お前は認めただろう」

「そんな、ひどい!?」

罰を逃れられると思っていた宇月は、その希望が潰された事に落胆した。

そんなやり取りを見ていた山田は…。

「あの…織斑先生。もうこのくらいにしましょう…。みんな、疲れているんですから」

見ていられず、助け舟を出した。

「…まぁ、良く無事で戻ってきた」

少しだけ、千冬は微笑んで彼等の帰還を喜んだ。

 

その日の夜。

明日の昼で、臨海学校は終わる。

一夏は箒を呼び出した。

「一夏、話とは何だ?」

「あのさ…昨日はいろいろあって渡せなかったけど…」

 

「誕生日、おめでとう」

 

その言葉と共に渡されたのは、綺麗にラッピングされた紙袋。

「ほら、7月7日は箒の誕生日だからさ」

「覚えててくれたのか…」

その事実に喜びながら、袋を見つめる。

「あけても良いか?」

「あぁ」

一夏の返事を聞いて、ゆっくりと丁寧に袋を開けた。

そこには、白い髪留め用のリボンがあった。

「もしかしたら、丁度よかったかもな。今回の戦いで前の髪留め用のリボン、燃えただろ?」

その言葉で、箒は自分のリボンがなくなっていたことに気付いた。

「…ありがとう一夏」

箒は早速、リボンを髪に結んでいつものヘアスタイルにした。

「似合ってるか…?」

「あぁ、良く似合ってる」

お互い、夜の海岸で笑いあっていた。

 

その頃…。

レオがある人物の前に来ていた。

…ドラゴン・ゾディアーツだ。

「遂に覚醒したか」

「はい…」

レオへの返事のあと、その姿は黒い霧に包まれ…。

 

牡牛座の使徒「タウラス・ゾディアーツ」に変化した。

 

「お前は、レオ、リブラ、スコーピオンに続く、ヴァルゴ様が直々に選んだ使徒だ。IS学園での本格的な襲撃も近い。今後の作戦を伝える」

そして、レオがタウラスにあることを伝えた。

それは…。

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

次回!

 

                           レオ・ゾディアーツの襲撃です!

 

あの人が…レオのスイッチャー!?

 

                            牡牛座…タウラスか!

 

お父さん…どうして?

 

                            私は、お前を許さない!

 

 

 

 

第30話「牡・牛・暗・躍」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶
篠ノ之束

???=タウラス・ゾディアーツ/ドラゴン・ゾディアーツ
???=レオ・ゾディアーツ

白い少女
ISを装備した女性

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
やっぱIS側の話って、作るのが大変でした…(汗)。
あまり良い話にもなってない気がします…
今回は、ヴァルゴが物語に結構絡んできました。
次回からホロスコープスが、IS学園へ本格的な襲撃を始めますので、激動してくると思います!
そして11番目の使徒のタウラスも覚醒です!彼も物語で大きく絡んでくる人物になります!
次回と次々回は、タウラスとレオと紫苑の親子が物語の中心になります!そろそろ、レオのスイッチャーも明かすかも…(バレてるかも知れませんが…)
お楽しみに!



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親子の悲哀…
第30話「牡・牛・暗・躍」


 

福音の事件から数週間後。

あれ以降、ゾディアーツの事件は一度も起きていない。

「平和だねぇ~」

昼休み、和やかな声を漏らすのは本音。夏場なのだが、今でも手を隠すほどの長袖の制服を着て、春の日向ぼっこのように、日当たりのよい席で体を丸めている。

一方の宇月…。

「ぬおおおおおおおおおおぉ!提出期限が迫るうううううぅ!」

必死に反省文に取り組んでいた。時間は今日の放課後まで。

一応、彼以外は全員、反省文の提出は終わっている。

「大変だねぇ、うっち~」

「なら、手伝えええええええええぇ!おまえは、罰なしだっただろ!?」

「だって、命令違反してないもんね」

「こんのやろおおおおおおおおおおぉ!」

本音の言葉は、悔しいが事実である。怒りの矛先を反省文に向け、次々と行を埋めていく。

 

その頃…。

IS学園に一人の男が堂々と入ってきた。

外部のものであるが、なんの許可も取ろうとせずにさっさと進んでいく。

ふと、近くを通った山田が男に気付いた。

「あの…貴方は…」

山田はその男に見覚えがあった。

紫苑の父、白石勇士である。

「白石君に会いに来たんですか?」

「そうだ」

「それじゃあ…窓口でお名前の記入を…」

「必要ない」

きっぱりと断り、動きを止めずに歩いていった。

「あ、あの…!」

引きとめようとすると…。

「ヌゥゥゥゥ…!」

3体のダスタードが現れた。

まるで、山田の行く手を阻むように。

「ダスタード…!やっぱり貴方は、ホロスコープス!?」

「確かにそうだ」

そう言って、歩いていきながら見せたのは…。

 

ホロスコープススイッチだった。

 

「まちなさい!」

山田が追いかけようとするも、ダスタードがそれを防ぐ。

「山田先生!」

ふと、スイッチカバンを抱えた箒が現れた。足元にはソフトーニャとナゲジャロイカもいる。

ナゲジャロイカの内の一つ、ナゲロパは勇士を追跡していた。

「ここはわたしが!」

紅椿はゾディアーツ戦を想定しており、ダスタードなど難なく倒せるのだ。

 

そのことを知らない一夏、礼の二人。懲罰訓練の後だ。

アリーナで一夏は倒れている。

「懲罰訓練、随分堪えたな…」

「その程度では、雪羅もまだ使いこなせないんじゃないのか?」

一夏がくたびれた様子で言うのを見て、嘲笑しながら礼はサラリと答えた。

そこへ…。

「漸く顔を合わせられたな、仮面ライダー部の諸君」

勇士がやってきた。何故か、彼は仮面ライダー部を知っている。

「なんだ、あんた?教師じゃないな…」

「白石紫苑の父だ。紫苑を出してもらおうか」

「何の用件です?」

一夏が尋ねると、勇士は眉間にしわを寄せて呟く。

「私は…あいつを許すわけにはいかない」

そう言って、彼はホロスコープススイッチを取り出してオンにする。

「な…なに!?」

その姿は…。

 

 

 

彼等を幾度か窮地に追い込んだ強敵「レオ・ゾディアーツ」に変化していた。

 

 

 

「あの人が…レオのスイッチャー!?」

「ウオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

レオは雄叫びを上げ、一夏と礼に突進してきた。

「うお!?」

突如のことだったが、二人はなんとか避けることに成功した。

「さぁ…紫苑を出せ」

「断る!紫苑はおれ達の仲間だ!」

礼はそれを拒否し、メテオドライバーを装着する。

<METEOR-READY?>

「変身っ!」

礼はメテオへ変身し、一夏は白式を装備した。

「仲間か…。アイツは人殺しだ。オマエ達はその人殺しを守るのか?」

「人殺しだと…?」

その言葉に二人は動揺した。あの大人しい紫苑が人を殺すなど、想像もつかない。

2人の様子を見て、レオは嘲笑するように鼻で笑う。

「フン。仲間と言えど、真実は知らないようだな。教えてやろう…奴は…」

 

「やめなさい」

 

ふと、その言葉とともにヴァルゴが現れた。

「ヴァルゴ様!何故、邪魔を!?」

「レオ、今は白石紫苑君に関わる必要はない」

彼女に止められ、レオは悔しそうにしながらもスイッチを押して勇士の姿に戻った。

「メテオ、一夏。今回の我々の目的は…IS学園への襲撃だ。近いうちにまた会うことになる」

「覚えておくが良い。次に我々が来たとき、この学園は終わりだ…!」

ヴァルゴは勇士と共に、姿を消した。

「一体何が…ん?」

メテオは変身を解こうとしたとき、ふと視線の先に「あるもの」を見た。

それはすぐに去っていたが…。

「あれは…何故?」

 

そして箒の前にいるダスタードも…。

「はあああああああぁっ!」

シュウウゥ…

「なに…?」

何もせずとも、姿を消していった。

 

ヴァルゴは勇士を別の場所まで送った。

「勇士君。君は親なのだろう?なぜ、子を憎む?」

「理由は一つです。妻を奪った張本人だからだ!」

勇士がホロスコープスになった理由は一つ。息子である紫苑を殺すためなのだ。

彼が事故にあったことで、母…つまり勇士の妻は息子に体を提供し、命を落とした。

それ以前の勇士は、紫苑も妻も同じように愛していた。

だが、その日から紫苑への愛情は怒りと憎しみへ変化し、その感情でホロスコープスまで上り詰めたのだ。

勇士の様子を見ながら、ヴァルゴは俯きがちに答えた。

「私も子がいる。君の感情を全て理解できるわけではないが、親はどんな事があっても、子を愛するものだ。それこそが子にとって居場所であり、帰る場所なのだから」

「…何を言われようと、私は紫苑を殺します。それだけは変わりません!」

踵を返し、勇士は歩き去った。

「…紫苑君」

ヴァルゴは紫苑の名を呼び、空を見つめた。

 

ラビットハッチ内。

一同が集められ、紫苑に先ほどのことが伝えられた。

「お父さんが…そんな…」

絶望に顔が歪んでいた。シャルロットは彼の手を握り、必死に励ます。

「きっと、何かの間違いだよ!紫苑はお父さんに恨まれるようなことは何もやってないでしょ?」

その一言で紫苑は更に俯く。

「…多分、僕の身体なんだ」

「え…?」

シャルロット以外は、紫苑のことを知らない。彼は意を決して、宇月や一夏達に自分の体のことを伝える事にした。

上半身の制服を脱ぎ、縫い跡だらけの体を曝した。

「紫苑…!」「白石君…!?」

箒と山田は彼の名を呼ぶだけで、精一杯だった。

「僕は、身体の半分がお母さんの体で補われてるんだ。ISの事故に巻き込まれて身体の半分が損傷して…。この右手と左足はお母さんのモノ。内臓もいくつかはそうなんだ」

「紫苑さんの身体が…!」「ウソでしょ…!?」

セシリアと鈴音は驚愕して手を口に当てている。

「いつも自分がクズって言ってたのは…それが原因か?」

「そう…だね。親を殺しちゃったから…しかも、生きてるって分かったとき…良かったって思っちゃったんだ…」

宇月の質問に答えた後、頭を抱えて体を丸めた。

ラウラが紫苑に歩み寄って、肩に手を置く。

「死に瀕していた後、生きてる喜びを感じるのは、当然の事だろう。わたしは親がいないから分からないが…それでも、不思議な事ではないと思う」

その言葉に少し顔を上げる紫苑…。

「本当…?僕は…何も悪い事をしてないの?」

不安げに尋ねる彼にシャルロットが手を握って答える。

「紫苑のお母さんは、自分の命を賭けられるほど、紫苑が大切だったんだよ。それだけ、君の事を愛していたと思うよ」

「お母さんが…僕を愛してる…の?」

今まで考えた事もないことだった。母親は死んでしまい、その気持ちを知る事はできない。だが、シャルロットの言う通りなのかもしれない。そうでなければ、彼女は自分を犠牲には出来ない。

一夏が続けて言う。

「あぁ。だから、紫苑の父さんを説得しよう。今はレオとして憎しみに囚われてるけど…きっと分かり合えるだろ。親子だから」

「みんな…本当に…本当にありがとう」

彼は心の底から友に恵まれた喜びに満ち、涙を流して微笑んだ。

そのとき…

ナゲジャロイカから警報が鳴る。これには、負のコズミックエナジーを感知すると警報がなる仕組みになっており、感知はナゲロパ、ナゲメデ、ナゲイオ、ナゲスト、この4つのツナゲットが担っている。

「ナゲジャロイカの警報…ゾディアーツ!?」

戻ってきたナゲストの情報を箒がバガミールに移し、映像にする。

そこには…。

 

「牡牛座…タウラス!?」

 

IS学園を歩き回るタウラス・ゾディアーツが映っていた。礼は深刻さを感じた。

「レオ襲撃の直後に現れるとは…。どうやら、ホロスコープス側は本気でIS学園を潰しに来ているようだな」

確かに、レオと未確認のタウラスの同時襲撃は、以前のホロスコープスの襲撃よりも危機感を募らせている。

「これで未覚醒の使徒は1体だね…。どうしよう…」

本音はいつもより声を暗くして呟く。これまで覚醒を阻止できず、11体まで増えてしまった。残りはヴァルゴが追い求めている射手座の使徒「サジタリウス・ゾディアーツ」だけになってしまった。

「とりあえず行くぞ!タウラスを放っておけない!」

宇月の言葉で、全員が頷きラビットハッチを後にした。

 

学園の校庭では、タウラスが練り歩いている。

「さて…どれを利用するか…」

「タウラス!」

「ん…?」

ふと名前を呼ばれて振り向くと、宇月達が走ってきた。

「また会ったな」

「また…?」

彼と顔を合わせるのは初めてのはずだ。いや…。

「まさか…ドラゴン・ゾディアーツ!?」

「…まぁ、確かにそうだ。ドラゴンからタウラスへと進化した」

会話の中に、タウラスは違和感を感じているような答え方だ。

だが、それを気にしている暇はない。

セシリアが歩み出てタウラスに叫びかける。

「この学園には、手を出させませんわ!」

「煩い女だ。黙っていろ」

タウラスはクロークを脱ぎ、右手に握っていた杖「グアンナ」でセシリアに向けて振りかざす。

すると金色のオーラが現れ、セシリアの頭部を包み込む。

「な…!?きゃああああぁっ!」

突然の事に悲鳴を上げるが、時既に遅し。金色のオーラが消えたときセシリアの目は虚ろなものになっていた。

「おい、セシリア!どうした!?」

隣にいた礼が彼女の両肩をつかんで呼びかけるも、反応はなく…。

「やれ、セシリア・オルコット」

タウラスの言葉に頷いてISを展開し、礼に攻撃を仕掛けた。

ドガアアアァァッ!

「がはぁっ!?」

いくらメテオの装着者で体を鍛えていたとしても、生身でISの突進を受ければひとたまりもない。そのまま地面を転がる礼。

「礼!礼っ!」

「うぅ…ぐ…」

ラウラは彼に駆け寄って抱き起こす。礼はかろうじて意識を保っており、うめきながら目を開けている。

「2人とも、あぶない!」

その間にも、セシリアが再度攻撃をしかけてきた。

宇月が2人を抱えて避ける。

「くっそぉ!」「た、タウラス…きさまぁ!」

<METEOR-READY?>

宇月と礼はドライバーを取り出して装着し、起動させる。

<3><2><1>

「変身っ!」

フォーゼBSとメテオに変身し、タウラスに攻撃を仕掛ける。

「ムンッ!」

ドガアアァッ!

「うああああああぁっ!」「ぐううぅっ…!」

至近距離まで近付いた瞬間、グアンナを大きく振り、フォーゼBSとメテオを殴る。

「…仲間には攻撃できないだろう。…セシリア・オルコット!」

セシリアは再び、タウラスの声に頷き、2人に襲い掛かる。

「させるか!」

ドガアアアァッ!

とっさに一夏と箒がISを装備して、セシリアの攻撃を防いだ。

「済まない、みんな…」「大丈夫だ。それより、セシリアを元に戻すほうが先だ!」

一夏は、謝るフォーゼBSを後ろに庇い、箒はセシリアにつかみかかった。

「おい、セシリア!聞こえるか!?」

「無駄だよ。彼女の感情を抑えているわけではなく、感情と魂を分離して、このグアンナに封じている。いくら呼びかけてもそれは「抜け殻」だ!」

タウラスは説明をして、グアンナでの光弾を一夏に浴びせる。

ゴオオオオォッ!!!

「くううぅっ!」

それを紫苑が庇った。

「紫苑っ!」

とっさにシャルロットが駆け寄るが…。

「大丈夫…このくらい…みんなといれば!」

その瞳は今まででも見たこともないほど、強いモノだった。

「シャル!鈴音さん!ラウラさん!力を貸して!」

「うん!」「あれ…下の名前で呼ぶのね?」「あぁ、任せろ!」

紫苑は霧裂の刀を構え、相手の出方を窺う。他の3人も同じように攻撃の準備に入った。

「…フン。精々、殺しあうが良い」

タウラスはそう呟いて、姿を消した。

「紫苑!多分、セシリアは何をしても元に戻らない!タウラスを倒すまで押さえつけるだけにしよう!」

箒のアドバイスを聞いて頷いた紫苑は、セシリアの攻撃を見計らって動き出した。

ドガアアアアァッ!

「らああああああぁっ!」

紫苑はセシリアの攻撃を刀でいなしながら、ムチを使って拘束する。

だが、セシリアはそれを振り払おうとしている。

「くっ…みんな!」

彼がセシリアの動きを狭めている間に、シャルロット達がダメージをいくらか与えて、さらに動きを鈍らせるのだ。

だが…。

グアアアアァッ!

「うわああぁ!?」

セシリアが大きく紫苑を振り回し、拘束を解いた。

だが、それとほぼ同じタイミングでシャルロット達3人が、セシリアに攻撃を与えた。

「はああああああぁっ!」「セシリア、やめて!」「うおおおおおぉっ!」

ズドオオオオオオォッ!!!

3人がかりのISの攻撃にセシリアは怯む。

「宇月君!お願い!」

フォーゼBSは紫苑の言葉に頷き、コズミックスイッチを挿入し、オンにした。

<COSMIC-ON>

近くにいたフードロイドもスイッチが外れ、残りの全てのスイッチと共にフォーゼの身体を纏い、フォーゼCSへとステイツチェンジした。

<SMOKE-ON>

「これで!」

フォーゼCSになることで、それぞれのモジュールは機能が追加されている。

例を挙げると、このスモークモジュールはただの目くらましのガスではなく、様々な効果が増えたのだ。今回は催眠効果のあるガスをセシリアに吹きかけた。

すると彼女はすぐに眠り、ブルー・ティアーズも解除された。

 

ラビットハッチ。

セシリアはタウラスの命令が届く範囲から離れたのか虚ろな瞳のまま、座り込んでいる。

「セシリアは暫くラビットハッチ内に居てもらおう。ここならタウラスの命令が効かないからな」

彼女を元に戻すためにはタウラスのグアンナを破壊するくらいしか方法はないだろう。

今後の作戦で、なんとかなるかどうか…。

「紫苑、今日はカッコよかったよ!」

「そ、そうかな…みんなのおかげだよ」

シャルロットは、疲れきっていた紫苑の両肩を持って嬉しそうに言う。

「ここではね、どんな隠し事を明かしても、みんな受け入れてくれるんだよ。だって、紫苑も仲間だから!」

「仲間…」

シャルロットの言葉に対し、急に表情が暗くなる紫苑。

「…ダメだよ、僕はまだ隠し事がある。これは絶対に、みんなから受け入れてもらえない」

「そんなことないよ!」

紫苑はシャルロットが首を振っても聞かず、ラビットハッチから出て行ってしまった。

「まって!」

「よせ、シャルロット!」

礼が止め、箒がバガミールを出す。

「気は進まないが、彼が一人の時に何を考えているのかを調べてみよう。紫苑の父を説得する何かがつかめるかもしれない」

 

バガミールは紫苑の後をつけていく。モニターに映る映像を全員でじっと見つめている。

その先には…。

海が見える草原に並ぶ、幾つもの十字架。どうやら墓地のようだ。

紫苑はその一つの墓に近付き、しゃがむ。おそらく、母親の墓なのだろう。

「お母さん、今日はシャルから「カッコよかった」って言われた。言われ慣れない言葉だけど…嬉しかった」

どうやら、定期的に近況報告をしているようだ。

「僕の友達は…みんな優しくて…あったかいよ」

後姿で見えないが、おそらく笑っていると思う。

だが…。

「辛いよ…もっと早く、みんなに逢いたかった…!」

墓の前で泣きじゃくる紫苑。

「お母さん…僕、どうしたら良いの?」

そして、十字架に掴み掛かり…。

「教えてよ!ねぇ!?教えてええええええええええええええええええええぇっ!!!!!」

泣きながら叫び続けた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

 

突如、本音がその映像を切った。

「お、おい!?」

宇月はとっさに再起動させようとするが…。

「もうやめようよ!見たでしょ!?」

そういう鈴音は、ボロボロと涙をこぼしていた。

「あんなに泣いてる紫苑を…!」

確かに見ている間は全員、良心の呵責で苦しんでいた。

だが、コレを見なければレオを説得するヒントが見つからないかもしれない。

ラウラが静かに言い放つ。

「紫苑の心の奥を覗かなければ…あいつの苦しみを開放できないぞ」

「そうだけど…!」

礼が手で制し、あることを言い始めた。

「…さっきの映像で…「もっと早く、みんなに逢いたかった」と言っていた。彼にとって、何か手遅れな事態があるのかもしれない。それが分かれば…」

そういう礼の脳裏に嫌な予感が掠める。

(まさか…)

 

紫苑が去って暫くしたあと…勇士も現れた。

「茉奈…今、どんな顔をしているんだ?」

花束を供えながら、物憂げに呟く。

そこへ…。

「やはり、白石茉奈さんは…貴方の妻か」

千冬が現れた。

「…何の用だ?」

「真耶から聞いた。貴方がホロスコープス最強の一角、レオ・ゾディアーツだったと」

どうやら、知られているらしい。

「そのスイッチを手にしたのは…茉那さんのためか?」

「そういえば、君は茉那と関わりがあったな。彼女は世界で2番目のIS乗りで、君は最初。3番目の美咲という女は行方不明…」

そう、世界で2番目にISを使ったのは、紫苑の父であり勇士の妻、白石茉那なのだ。

つまり、千冬、茉那、美咲の順に、ISに搭乗したということだ。

「貴方に伝えておく事がある。事故について…」

 

「知っているかもしれないが、白石紫苑が瀕死になった事故は、茉那さんが原因だ」

 

「なんだと…!?」

「茉那さんはISの起動実験中、暴走に巻き込まれ、実験場の近くで預かっていた白石紫苑に誤射。それで彼は瀕死の重傷を負った…」

千冬が知る、紫苑と茉那の関係。それは勇士すら知らない事だった。

彼はISのことについてはあまり興味を示しておらず、紫苑の事故もIS関連だったため、さほど気にしてはいなかった。

問題なのは、妻が息子に体を提供し、それで死にいたったということだけだった。

憎しみに囚われ、そのことに気付けなかったのだ。

「茉那さんはその償いとして、白石紫苑に身体の半分を提供した。しかし、それは死を意味する。当然、私や束、美咲さんも反対したが…彼女はそれを振り切った。それだけ、息子が大切で愛しかった…」

「茉那が…紫苑を…!」

その事実を知り、動揺するが…。

「だが…紫苑のために茉那が死んだのは事実だ。それだけは変わらない!」

憎しみは消えず、ホロスコープススイッチを押し、レオに変化する。

「ウオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドガアアアアアアアァッ!!!!

「くっ…うああああああぁっ!?」

咆哮の攻撃に巻き込まれ、千冬は気絶する。どうやら大怪我に至るほどではないらしい。

ふと、レオが横を向く。

「フン…」

そこには…。

 

 

 

スイッチャーが居ないはずの「リブラ・ゾディアーツ」がいた。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

次回!

 

                       何…どういうこと!?

 

こんな気持ちを持っちゃいけなかったのに…

 

僕…シャルが好きになっちゃったんだ…

 

紫苑…!?

 

                       まさか…タウラスのスイッチャーが…!?

 

あたしには…どうしても信じられないのよ!

 

                        …勘違いするな

 

遂に見つけた…サジタリウス!

 

 

 

 

第31話「感・情・崩・壊」

 

 

 




青春スイッチ・オン!


キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

織斑千冬
山田真耶

???=タウラス・ゾディアーツ
???=リブラ・ゾディアーツ
白石勇士=レオ・ゾディアーツ

???=ヴァルゴ・ゾディアーツ


如何でしたか?
今回で、レオのスイッチャーは明かされました!タウラスのスイッチャーは次回で明かします。
そして、紫苑の心を開こうとする話も中心となってますが…彼は中々、本当に心を開きません。…これは伏線です。
次回、紫苑が本当に心を開かない理由が明らかにされ、サジタリウスも登場の片鱗を見せます…。もしかしたら、ヴァルゴのスイッチャーも明かすかも…。
お楽しみに!



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第31話「感・情・崩・壊」

 

ヴァルゴの前にレオが現れた。

「何だい、レオ?」

「…報告があります」

 

「最後の十二使徒…射手座の運命を持つ者を見つけました」

 

「なに…!?」

その言葉に、さすがのヴァルゴも表情が変わっただろう。

「一体誰だ…?」

「そのことで交換条件があります」

ふと、レオがはじめてヴァルゴに自身の意見を述べた。

「交換条件…?」

「オレはある迷いをもっています。その答えを見つけたとき、その感情に従いたい。もし貴女が…オレの答え次第で、ホロスコープスを抜けても咎めないと約束するならば…お教えします」

レオはホロスコープススイッチを握り締めて言い放つ。

ヴァルゴは顎に手を当てて悩む。

実際、レオは不信感を抱いてはいたが自分の配下の中で最強の戦力である。フォーゼがコズミックに到達したこの状況で、レオを失うのは痛手かもしれない。

だが…それは絶対というわけではない。仮にそうなったとしても、彼の戦力と引き換えにサジタリウスが手に入るなら…。

「レオスイッチは置いていってもらう。それだけを守るならば構わない」

「…ありがとうございます」

 

千冬が怪我を負った状態で学園に帰ってきた。

報告を聞き、医務室で一夏をはじめ、仮面ライダー部の面々がやってきた

「千冬姉!なにがあったんだよ!?」

「織斑先生と呼べ…。レオにやられた…。彼の説得を試みたが…ダメだった」

つまり、勇士に説得したというわけだ。

「そんな…織斑先生まで…」

紫苑は自責の念に駆られ、頭を抱えてしゃがみこんだ。

「紫苑…おまえは悪くない」

宇月がそう言うが…。

「僕のせいだよ…。僕が助からなかったら、お父さんもゾディアーツになったりしなかったんだ…」

塞ぎ込む紫苑を見て…。

「…多分、おまえが助からなくても、変わらなかったと思う」

一夏がふと、こぼした。

「一夏君…?」

「昔は紫苑も愛されてたんだろ?仮に紫苑が助からず、お母さんが助かっても…おまえのお父さんはお母さんを憎んだ筈だ。それだけ…愛情が深かったんだ」

ふと、もしもの場合…所謂「IF」を考えてみた。

もし、茉那が自分を犠牲にしなければ…紫苑が死んでしまっていたら…。

おそらく、紫苑と茉那の立場が入れ替わっただけに過ぎず、同様に勇士はゾディアーツになったのだろう。

「…あの男には、まだ心が残っているようにも感じる」

礼が小さく呟く。

「心…?」

「憎しみに囚われているが…今まで、何度もおれ達に襲い掛かり、その度におれ達は危機に晒された。だが、奴は絶対に誰も殺さなかった。邪魔者であるおれ達を…。それどころか、致命傷も負わせていない。まだ…最後の良心が残っている」

確証はないが…それでもその言葉を信じたい。

誰もがそう思った。

 

次の日。

紫苑は墓地へ訪れていた。その後をシャルロットがこっそり着いてきている。

「紫苑…」

彼は小さい花を供える。

「ごめんね、お母さん。花束も買うお金がなくて…」

その背後に…。

「漸く逢えたな、紫苑」

勇士がゆっくりと歩み寄ってきていた。

「お父さん…!」

「茉那を殺した罪…ここで償うが良い!」

そう言って、スイッチを押した。

「紫苑っ!」

シャルロットがとっさに飛び出す。

「シャル…どうしてここに!?」

紫苑が驚く間も、勇士の体はみるみる黒い霧に包まれ…。

 

 

 

タウラス・ゾディアーツになった。

 

 

 

「…え?」

「チッ…シャルロット・デュノアか!」

毒づくタウラス。シャルロットは頭が混乱していた。

「どういうこと…!?あなたは…レオ・ゾディアーツじゃ…!」

「まさか、ここで気付かれるとはな…。昨日と今日、学園を襲撃したレオ・ゾディアーツは、私が幻で姿を変えていた」

つまり彼はレオではなく、本物のレオのスイッチャーは別に居る。

「じゃあ…本物のレオは一体…!」

「それは私も知らない。そして、君は永遠に知ることはない」

グアンナを振りかざし、金色のオーラを発した。

「シャルっ!」「きゃっ!」

とっさに紫苑が抱えて避けたため、魂を抜かれる事はなかった。

「セシリアを元に戻して!」「そうだよ、お父さん!セシリアさんは関係ない!」

「関係ないとは限らん。フォーゼやメテオの支援者である時点で、邪魔者に変わりはない。いずれ、君達全員の魂を抜いてやる!」

彼の暗い感情は留まるところを知らない。止められないのかもしれない。

それを感じてか、紫苑はシャルロットを庇うように立つ。

「…シャル、逃げて。僕が決着をつける」

「でも…相手はホロスコープスなんだよ!?」

 

「良いから逃げろぉっ!!!!!」

 

「っ!」

どうやら、本気らしい。表情が激情しているときと似ている。

「…親子だけで、終わらせたいんだ。これ以上…みんなに迷惑をかけたくない」

「紫苑…」

「お願い…シャル…」

迷った末、シャルロットは紫苑を抱きしめてこう言った。

「…無茶はしないでね」

「うん。出来るだけ」

それだけ言葉を交わしたのち、シャルロットは走り去った。

「…親殺しのくせに、恋心を抱いたのか?」

「それだけ、僕も変わったんだ。お父さんには…僕の大切な友達を傷つけさせない」

そう言って、紫苑は誰にも見せたことのないような表情を見せた。

それは怒りとも悲しみとも、ましてや笑顔でもない。

 

無表情だ。

 

それをみたタウラスは、心の底から言われようのない…「恐怖」を感じた。

「な、なんだ…!?」

そしてISではなく、ポケットからあるモノを取り出した。

 

それは…。

 

数分後。

「グアアアアァッ!?」

タウラスは地面に叩きつけられていた。傍らには破壊されたグアンナもある。

「まさか…どういうことだ!?」

「…」

目の前には無傷で立ち尽くしている紫苑がいる。無表情のまま、じっとタウラスを見ている。

…どこか、哀れんでいるようにも感じられた。

「多分、終わらないんだろうね。どっちか死ぬまで」

「なんだと…!?」

「終わろうか。ここで、お母さんも見てると思うから」

ゆっくりと歩いてくる紫苑。

今まで、目の前の息子は殺したいほど憎い相手だった。そう考えていたはずのタウラスは…。

「ウゥ…!?」

その息子に恐怖を抱いていた。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」

屈辱も何も感じなかった。ただ、目の前の恐怖から逃げ出したかった。

その一心でタウラスは走り去る。

「…お父さん」

紫苑は特に追おうとはせず、その姿を見送った。

 

数時間後、ラビットハッチ内。

そこで、タウラスについてシャルロットが説明をしていた。

あれからセシリアはグアンナを破壊した事で正気に戻っている。

「まさか…紫苑さんのお父様がタウラスだったとは…」

「うん。だから、レオのスイッチャーは別に居るみたいなんだよ」

「そういうことか…あのとき、リブラをみたのは…」

シャルロットの説明を聞いて、礼は納得した。

先日、レオが学園に襲撃に来たとき、その横で見た「あるもの」とはリブラのことだ。

おそらく、そのリブラこそレオがリブラスイッチを使って変身したもの。

「なんで、紫苑を置いてきたんだよ!?」

「ボク、紫苑を信じたかったの!」

「そりゃあ、おれ達も信じたいけどよ…!」

宇月は頭を抱える。

彼を信じたいのは確かだが、相手はホロスコープス。危険にも程がある。

それでも、信じたいとシャルロットは願った。

「でも…なんでいまさら、そんなミスリードを…?」

鈴音の疑問に、一夏が予測を言う。

「それは分からない…。考えられるなら、カモフラージュ。つまり、おれ達の近くにレオは潜んでいるのかもしれない…」

わざわざ、スイッチャーをミスリードさせる理由は、それくらいなものだろう。

「この学園に…いるのか…」

不安そうにラウラが呟く。なにしろ、スコーピオンのときも危機感が募っていたが、今回はその比ではない。相手はコズミックステイツでもほぼ同等のレオだ。

以前は宇月と礼はスイッチャーの可能性がある人物を仲間であっても疑っていたが…。

今回は違う。

「みんな、レオには気をつけろ。タウラスもだ。特に紫苑は狙われやすいから、もどってきた時は、みんなで固まるようにしておこう!」

宇月も礼も完全に仮面ライダー部の全員を信じている。

 

その日の夜。

シャルロットは部屋で紫苑の帰りを待っていた。

そして、扉が開く音がする。

「シャル…」

現れたのは、顔を赤くしている紫苑だ。見たところ、外傷はない。

「紫苑…!大丈夫だった!?」

「うん、平気。お父さんと決着は着けられなかったけど…」

安堵したシャルロットは、紫苑と一緒に椅子に座る。

向かい合って、少しの沈黙が流れた。

「し、紫苑…?」

いつもと様子が違う。顔が赤く、すっと落ち着きなくモジモジしている。

「…これで…決めよう」

独り言なのか、ボソリと呟いた後、紫苑はシャルロットをじっと見つめ、口を開いた。

「ごめんね…。僕なんかが、こんな感情を持っちゃいけないって思ってたのに…」

 

「君の事…好きになっちゃったんだ…」

 

彼女も薄々感じてはいたが、紫苑はシャルロットに好意を寄せるようになったのだ。

しかし、ここで告白を受けるなど、思っても見なかった。

「それだけじゃない。君とずっと一緒に居たいって思うようになったんだ…。この気持ちを…抑えられない…」

「紫苑が…ボクのことを…」

正直な気持ちで言うと、とても嬉しかった。彼が本当に心を開いてくれたのかもしれない。

「本当に嬉しいよ、ボクを好きになってくれて…」

だが…その気持ちには応えることは出来ない。少なくとも「今」は。

「でも…今はその気持ちに応えられないよ…」

紫苑は俯いた。

彼の周りを取り巻く苦しみを完全に取り払いたい。それが終わってから、その言葉についての返事をしたかった。

 

その判断が…悲劇の始まりになるとも知らずに。

 

「だけど…!」

「わかった、ありがとう。決心がついたよ」

シャルロットが続きを言う前に、紫苑は自身の言葉で遮った。

俯いていた顔を上げた紫苑は、優しい微笑みを浮かべたまま泣いていた。

そして、次に紡がれる言葉は…。

 

 

 

「…この学園を潰す」

 

 

 

「え…?」

「本当に、ありがとう、今まで。次に会った時は…完全に「敵」だね」

そう言い終った後に立ち上がり、部屋から出て走り去ろうとした。

「な、何を言ってるの、紫苑!?」

とっさに追いかけ、右手をつかむ。

だが…。

「…離して」

「ダメだよ!今の紫苑は、お父さんに…!」

 

「離せッ!!!!!」

 

「きゃあっ!?」

シャルロットは突き飛ばされ、紫苑を見失ってしまった。

「ま、待ってよ!」

後を追うも、彼の姿は見つけられなかった。

 

数分後。

ラビットハッチに全員が集められた。集まったのはシャルロットの言葉でだ。

「紫苑が帰ってきた!?」

「うん!でも、どこかに行って…追いかけたけど、見失ったの!」

「大変だよぉ…白石君、危ないかもしれない!」

本音もさすがに事の重大さを理解しているのか、あたふたと慌てている。

「とにかく、全員で探すぞ!一夏、箒、セシリア、本音は学園の中!おれと礼、鈴音、ラウラは外!シャルロットは山田先生と一緒に紫苑の行き場所に心当たりのあるところを探してくれ!」

各自、それぞれの場所の捜索を始める。

 

学園内を捜索している一夏。

「紫苑!何処だぁっ!」

3階や男子しかいけない場所などを重点的に探すが、見つからない。

「出て来い!」

箒は2階や、見つかりにくいような場所を中心に捜索を続けている。

「一人での行動は危ないですわよ!」

セシリアは1階や特別教室などを探す。

「出てきてよぉ!」

校庭を探すのは本音。

4人の捜索結果、彼は何処にもいない。

 

シャルロットと山田は、茉那の墓のある墓地に来ていた。

「紫苑が来るところは…ここくらいしか、思いつかないんです…」

だが、紫苑の姿は無い。代わりに現れたのは…。

「また来たか…」

勇士だった。

「勇士さん、どうしても紫苑と分かり合ってくれないのですか!?」

シャルロットが切実に訴える。勇士は拳を握り、静かに告げた。

「…仮に私が歩み寄っても、紫苑が歩み寄る事はない」

「どういう意味ですか…?」

その言葉の意味を山田が問う。

「君達は…本当に分からないのか?本当に、紫苑の正体を気付けなかったのか?」

勇士の質問での返事は、何か焦りがあるように見えた。

「白石君の…正体?」

「ここまで気付かなかったということは…あいつは、全てに心を閉ざしてしまっているのか…」

独り言のように呟く勇士。

「どうやら私の家族は、何もかも終わってしまったようだな」

「そんなことない!」

彼の諦めきった発言に、シャルロットが叫んだ。

「紫苑は泣いているんだよ。何もかも終わって諦めていたなら、泣いたりしない!」

「…そう思っているのなら、君は紫苑の本当の心を知らない」

そう言って、タウラススイッチを押して姿を消した。

「一体、どういう…」

「とにかく、白石君を探しましょう!」

2人は再び、紫苑の捜索を開始した。

 

宇月と礼、鈴音、ラウラの三手に別れ、学園外を探し続ける。

そこへ…。

「フンッ!!!」

ドガアアアァッ!!!

「うおぉ!?」

タウラスが奇襲を仕掛けてきた。

「フォーゼにメテオ…貴様達は余計な事をしないで貰おうか!?」

「余計はそっちだ!そこを退け!」

宇月と礼はドライバーを装着する。

<METEOR-READY?>

スイッチを起動させる2人にタウラスが呟く。

<3>

「倒せるか?私を…」

<2>

「倒せる!絆の力をナメるな!」

<1>

「行くぞ、宇月!」

「「変身!」」

フォーゼBSとメテオに変身し、タウラスに立ち向かっていった。

<COSMIC-ON><METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

基本形態ではラチがあかない。フォーゼCSとメテオSにステイツチェンジし、戦況の変化を求める。

<ROCKET-ON><FIRE-ON>

バリズンソードにロケットの突発力とファイヤーの炎を纏い、突撃した。

ドガアアアアアアアァッ!!!!!

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオォッ!?」

さすがにコズミックの力は強大で、タウラスといえどその攻撃を防ぐ事は出来なかった。

「オオオオォ…アタアアアアアアアアァッ!!!」

メテオストームシャフトを振り回し、追い討ちをかけるメテオS。

ドガアァッ!!ズガアアアアァッ!!

「ガッ!?グアアアアアァッ!」

怯んでいたところを狙われたため、成す術なく吹き飛ばされるタウラス。

そこへ…。

「礼、宇月、ダメだ!見つからない!」

ラウラがやってきた。ISを纏っている事から様々な場所を探しつくしたのだろう。

「バカ、来るな!」

メテオSが叫ぶ。その意味は…。

「…盾になってもらおうか?」

タウラスの能力にあった。グアンナを振りかざし、ラウラに金色のオーラを浴びせる。

「なっ…しまった!?」

気付いても、もう遅い。ラウラは魂を抜かれタウラスの従僕となってしまった。

「やれ」

ドガアアアアアアアァッ!

「くっそ!」

<GYRO-ON><SHIELD-ON>

ジャイロモジュールに、シールドの防御を加え、ラウラの攻撃全てを防御する。

難なく防ぐ事は出来るが、ラウラを盾にされているため、反撃に移れない。

「どうすれば…!」

ラウラを傷つけず、かつ戦況を覆す何か良い方法を必死に考える。

だが、彼等では全く思いつかなかった。

そのとき…。

ガッ!!!

「…な!?」

突如、タウラスは地面に膝をつく。その手にはグアンナがない。

盗んだのは…レオだった。

「…オマエは用済みだ。フォーゼとメテオに潰されるが良い」

バキィッ!

グアンナを破壊し、そのまま去っていくレオ。

「う…うぅ…意識が…」

ラウラは正気に戻った。

「ま、まて!何故、私を…!?」

必死に呼びかけるが、全く反応しない。

「答えろ、レオ!いや、し…」

 

ドスッ!!!

 

最後の言葉を紡ぐ前に、レオのツメがタウラスの腹を抉っていた。

高速移動を使い、タウラスの懐まで入り込んだのだ。

「ウ…ガァ…!?」

「黙れ」

そういうと、姿を消した。

地面に倒れるタウラス。フォーゼCS、メテオS、ラウラはじっとそれを見つめた。

「ヌゥッ…!まだだァ…!まだ死ねんッ!!!!」

最後の力を振り絞り、タウラスは身体中から赤黒い霧を噴出した。

「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

「…超新星に覚醒しかけている…!?」

自身の窮地から、その力を手にしたのだろう。

「このままじゃ、星の意志に飲まれるけど…あの状態でリミットブレイクしても…」

レオに致命傷を負わせられたタウラスに強力な衝撃を与えてしまえば、スイッチャーの勇士の命に関わるかもしれない。

ふと、メテオSが歩み出る。

「おまえ達には背負わせない。おれがやる」

「礼、おまえ!?」「待て、礼!」

<LIMIT-BREAKE>

「ウウウゥ…!!!!!」

タウラスは我を忘れて、メテオSに突進する。

メテオSは彼が走り寄ってくる間、ずっと悩み続けた。下手をすれば彼を殺してしまう事になる。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

しかし、タウラスは確実に迫ってくる。

「礼、お願いだから、やめてくれ!」

ラウラは必死につかみかかり、止めようとする。フォーゼCSは拳を握り、俯いたままだ。

だが…。

「ラウラ、退け!」

ドンッ!

「うっ!?」

<OK>

 

「メテオストームパニッシャァァァッァァァァァァァァッ!!!!!」

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」

ストームトッパーはタウラスに命中。ギリギリと彼の体に食い込んでいく…。

ドゴオオオオオオオオオォッ!!!!!

大爆発を引き起こした。

煙が晴れた場所には、地面に倒れた勇士がいた。その手の横にはタウラススイッチもある。

駆け寄って、メテオSは勇士の安否を確認する。

「成功だ…!」「え…?」

メテオSの言葉にラウラはきょとんとした。

彼の能力の特徴は「エネルギーの吸収」。その力でタウラスの負のコズミックエナジーを吸収しつくしたのだ。

確かに大爆発は引き起こされたが、スイッチャーへのダメージは最小限にとどめられたはず。つまり勇士の命には別状がない。

これはフォーゼCSですらこなせない業なのだ。

「よかった…」

ラウラは安堵した。彼が人を殺めてしまうかもしれないと不安だったのだ。

そこへ…。

「さて…遂に残る使徒も一人になった」

ヴァルゴが現れ、スイッチを回収する。

「ヴァルゴ…!」

「そして…その残る最後の使徒…サジタリウスも間もなく見つかる。君達に私達を止める事は出来ない。ましてや今のレオでさえね」

小さく呟き、早々に姿を消した。

「レオでさえ…?」

確かに、レオは強い。だが今更、それを強調する必要はないはず。ヴァルゴの言葉の裏にある真意とは一体、なんなのだろうか…。

「とりあえず、勇士さんを病院に運ぼう!」

まずは彼の安全を確保してからだ。

 

彼等とは場所を探していた鈴音。

ふと…。

 

「…ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

 

「今のは…ライオン怪人!?」

嫌な予感がして、咆哮のした場所へ向かう。

そこには…。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

空に浮かぶ獅子座に向かって、ありったけの雄叫びをあげるレオ。

どこか、悲しみを込めているように感じた。

いつものような、狂気や威圧は感じられない…悲嘆のようなものだ。

姿が見えないように、鈴音は物陰に隠れてその様子を窺う。

「答えは決まったかい、レオ?」

程なくしてヴァルゴが現れ、彼の元へ近付いていく。気付いたようでレオは雄叫びをあげるのをやめた。

レオの肩に手を置き、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「いや…紫苑君」

 

 

 

 

 

その言葉と共に、レオはスイッチを切り…

 

 

 

 

 

白石紫苑の姿に変わった。

 

 

 

 

 

「う、うそ…!?」

鈴音はそれを見て、動揺する。

紫苑はヴァルゴの方を向き、涙を拭って言った。

「はい、僕はここで戦います。あそこにあると思っていた僕の居場所は…ありませんでした。此処だけが…僕の居場所ですから…」

 

 

 

 

 

 

「城茂美咲様」

 

 

 

 

 

 

「宇月のお母さんが…!?」

遂にヴァルゴも正体を明かした。スイッチを切ったその姿は髪の長い細身の女性。

 

ヴァルゴこそ宇月の母、城茂美咲なのだ。

 

「…紫苑君」

「分かっています」

美咲の言葉に頷き、視線を変える。

その視線は、鈴音の瞳を捉えた。

「あっ…!?」

見つかった。

紫苑はゆっくりと近付いてくる。

生存本能が、鈴音の脳に「逃げろ」「逃げなければ殺される」と信号を送る。

それは自然なものであった。

鈴音はその本能に従い、必死に逃げた。

彼を探しているとか、そういうことも頭から捨て去って。

 

「鈴音さん。何をしてるの?」

 

だが、逃げる方向の先に紫苑は現れた。

おそらく、レオの高速移動か、ヴァルゴの空間転移によるものだろう。

「あ…あぁ…」

「とうとう見たんだね」

そう呟く紫苑の表情は、感情がないように見える。能面のような表情に、鈴音は凄まじい恐怖を感じる。

だが…同時に別の感情も抱いていた。

「あたしは…どうしても信じられない。紫苑が悪いやつには見えないの…。きっと…なにか理由があるんでしょ!?」

彼が完全な敵とは思えなかった。スイッチを切った直後、彼は涙を流していた。そのことが鈴音の心に引っかかっていたのだ。

紫苑もその言葉を聞いて、俯いた。

「僕が悪い奴に見えないか…嬉しいよ…。でも…」

そして顔を上げるが…。

 

「勘違いするな」

 

上げた顔の表情は先程と変わらない、感情がないような無表情だった。

レオスイッチを押し、レオに変化する。

「どうして…どうしてよぉっ!?」

鈴音は必死に呼びかけるが、それも虚しく…。

「ウオオオオオオォッ!!!!!」

 

次の瞬間、彼女は意識を失い、血だらけで倒れていた。

 

「鳳鈴音…」

彼女の始末を終え、再び紫苑の姿に戻った。

その惨状に、ヴァルゴも少しながら驚いている。

「どうやら、本気のようだね。今まで、ここまで惨い事をしなかった君が…」

「…はい」

倒れ伏した彼女を見下ろし、次にヴァルゴを見つめる。

「約束です、射手座の運命を持つ者を教えします」

「遂に…最後の使徒が…」

ヴァルゴの心待ちにしていた最後の使徒。

「射手座は…」

 

その運命を持つ者は…。

 

 

 

続く。

 

 

 

 

 

次回!

 

                          あの者がサジタリウスか…!

 

レオは特殊だ。

 

                          星の意思に飲まれながらも、自我を保っている。

 

                          母さん…!?

 

逢いたかったよ、宇月

 

                          憎いだろう…ISが

 

第32話「射・手・覚・醒」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア

織斑千冬
山田真耶

白石勇士=タウラス・ゾディアーツ
白石紫苑=レオ・ゾディアーツ

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
勇士がレオだと騙されましたでしょうか…?そうであれば、大成功ですが…。
実はアナグラムでお気づきの方もいらっしゃるでしょうが…

白石勇士→しらいしゆ「うし」→うし→タウラス
白石紫苑→しらいししおん→苗字の一文字を除いて並び替え→(し)らいおん・しし→レオ

という事でした。ちなみにヴァルゴにアナグラムはありません。
今回で、ヴァルゴとレオの本当のスイッチャーも遂に判明…宇月の母と紫苑です。
2人は仮面ライダーに近しい人物達で、実は仮面ライダー部の行動は全て目に見えていたのです。

次回こそは、サジタリウスが覚醒します!
意外な人物かも。…一応、サジタリウスもアナグラム(?)ありです。
お楽しみに!



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哀戦…仮面ライダー部VSレオ…
第32話「射・手・覚・醒」


深夜。

勇士と鈴音が集中治療室に運ばれたと言う事を知り、仮面ライダー部はそこに集まる。

医師が告げたのは…。

「白石さんは今後の治療で回復が見込めますが…。鳳さんはっきり言って、深刻な状況です。ただ…ここまでの怪我を負いつつも、この状態で済んでいるのが奇跡としか…」

どうやら、本来ならば即死だったらしい。なのに、なんとか一命を取り留めている。

再び、治療に戻る医師。

「…多分、レオの仕業だよな。鈴音はスイッチャーを見たのかもしれない」

一夏の言うとおり、鈴音はこの中でいち早く、ヴァルゴとレオのスイッチャーにたどり着いたのだ。

だが、それを知る彼女は意識不明。スイッチャーの紫苑もあれから姿を見せていない。

「紫苑…大丈夫かな…」

シャルロットは不安そうに呟く。

彼女は紫苑がレオと知らない。紫苑はレオやヴァルゴに襲われているかもしれないと考えているのだ。

ただ、あの言葉が引っかかっている。

 

~次に逢うときは…完全に「敵」だね~

 

笑顔で述べた言葉だが、紫苑は深い絶望を感じていた。

「ボクが…ちゃんと返事をしていれば…」

「どういうことだ?」

礼がその小さな呟きを聞いていた。

言い逃れは出来そうもないので、そのことを全員に洗いざらい白状した。

「紫苑さんがシャルロットさんを…」

「確かに、あいつはシャルロットと何かと一緒にいることが多かったし、そのことで様子がおかしくなる事もあったな」

セシリアと箒は、彼の行動を思い出す。

そのとき、鈴音の担当医と一緒にいた看護婦が彼等のもとに現れて…。

「あの…鳳さん、こんなモノを持っていたのですが…」

そう言って手に見せたモノは…。

「これは…ナゲスト?」

ナゲジャロイカの端末、ツナゲットだった。

これはバガミールと連動して、映像を録画できる機能がある。

もしかすると、コレに何かが映っているかもしれない。

 

暫くして、ナゲストをラビットハッチのコンピューターにセットし、バガミールを介して映像化した。

そこに映っていたのは…。

 

 

 

激しく揺れる映像。どうやら鈴音は走っていたようだ。

声の上擦りや動きから、逃げているように感じられる。

そして…。

 

「鈴音さん。何をしてるの?」

 

目の前に紫苑が現れた。

「あ…あぁ…」

「とうとう見たんだね」

そういった紫苑は、今まで誰も見たことがないような無表情だった。

「あたしは…どうしても信じられない。紫苑が悪いやつには見えないの…。きっと…なにか理由があるんでしょ!?」

鈴音の叫びに顔を俯かせる紫苑。

「僕が悪い奴に見えないか…嬉しいよ…。でも…」

そして顔を上げるが…。

 

「勘違いするな」

 

やはり無表情だった。

彼はスイッチを押してレオに変化し、迫り来る。

「どうして…どうしてよぉっ!?」

画面一杯に振りかざされたツメ。

「ウオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

 

そこで映像は途切れた。

 

 

 

映像が途切れた瞬間、シャルロットは崩れ落ちた。

「嘘…紫苑が…レオ・ゾディアーツ…?」

誰も疑いもしていなかった。彼は人間の時とゾディアーツの時とまるで性格が違う。

理雄のような演技ではないように感じられる。

今でもセシリアや本音は、この映像が何かの改ざんではないのかと考えているくらいだ。

「そうか…あいつが…レオか…」

宇月は悲しそうに呟く。

彼の過去を知って、どうしても幸せになって欲しいと願っていた。

だが、その紫苑は倒さなければならない相手であり…そうでありながらも、未だ倒す事のできないほどの強敵であった。

礼は俯きながら、はっきりと言い切る。

「答えは一つ。あいつはホロスコープス最強のレオ。ならば、おれ達が力を合わせて倒すだけだ」

「…っ!」

確かに、彼を止めるにはそれくらいしかないだろう。

「幸い、今は宇月がコズミックステイツに到達している。箒の紅椿も一夏の白式との連携次第でコズミックとほぼ同等の力を出せると言う事は、上手くいけばコズミックが2体だ。他のIS全てとメテオストームで一斉に掛かれば、なんとか倒せるかもしれない」

今の彼に迷いはなかった。

だがそれは、仲間を守るためである。そのことに迷いがないだけの話だ。紫苑も仲間と思っていた。

しかし、彼はそう思っていなかった。ならば、敵として倒すしかない。

シャルロットが聞く。

「もし、紫苑を倒したら…紫苑は元通りになる?」

その質問に苦虫を潰すような表情で宇月が答える。

「…あいつは、ホロスコープスとして在り続けた時間が長すぎて、星の力に完全に飲まれてると思う。多分、倒しても…精神汚染の所為で、廃人になる」

その言葉で全員の表情が凍りついた。

つまりレオを倒しても、紫苑は元には戻らない。確証はないが、戻らない可能性が高い。

「…どうしようもないの?」

懇願するようなシャルロットの問いに…。

「…諦めてくれ」

宇月は先ほどと似た様子で頷いた。

「いやだよ…絶対にいやだ…!」

その言葉にシャルロットはどうしても拒絶する。

「みんなだって、知ってるでしょ!?紫苑は優しかった!身を挺してみんなを何度も守ってくれた!」

「それは分かってるけど…!」

「もしかしたら、ヴァルゴに操られてるのかもしれない!カプリコーンの力を、ヴァルゴが使う事だって有り得るよ!」

可能な限り思いつく可能性を、必死に述べるが…。

「いい加減にしろ!」

一夏が肩を掴んでやめさせた。

「一夏…!?」

「みんな、あいつを倒したくない!それにな…どう足掻いても、最後にトドメを刺すのはおまえじゃない…宇月なんだ!つらいのは、あいつなんだ!」

そう言って宇月を見た。彼もまた悲しそうに顔を俯いている。

確かに、レオの負のコズミックエナジーを浄化するのは彼にしかできない。箒の紅椿もコズミックと同等と言われているが、レオとの戦いで本領を発揮できるかどうかは分からない。確実にトドメをさせるのは、彼しかいないのだ。

「でも…!」

「あいつをレオのままにして良いのか?破壊活動を続ける怪物のまま、放っておいて良いのか!?」

その言葉でレオの行動を思い出す。

IS学園を襲撃し、コズミックに到達していなかったフォーゼや自分達をまるで赤ん坊を相手するかのように叩きのめした。そのとき、彼は笑っていた。

その笑っていたレオ・ゾディアーツは、間違いなく紫苑である。

「本当に、あいつを想うなら…止めるしかないんだ!どうなっても!」

一夏の言葉は正論なのだろう。

それでも…。

「…っ!」

シャルロットは彼を振り払い、走り去った。

 

彼女は一人で紫苑を探し続ける。どこかにいるはずだ。逢ったら、ちゃんと話したい。

きっと、分かり合える。自分でスイッチを捨ててくれるはず。あのときの彼が本物ならば…。

そう信じて…。

程なくして。紫苑は見つかった。

予想通り、母親の墓の前で立ち尽くしていた。

「紫苑!」「…シャル?」

振り返った紫苑の表情は、いつもと同じだった。

「ずっと…探していたの?」

「鈴が大怪我で一度、病院に戻ったけど…それ以外はずっと…」

鈴音が怪我をしたと言う言葉に、紫苑は全く表情を変えなかった。

「と言うことは、みんなにも知られたんだね。彼女、ツナゲットを隠し持ってたから…」

「気付いてたの?」

「うん。遅かれ早かれ、どうせ知られると思ってたし。理雄君と違って、ここまで隠せたのが幸運かな」

空を見上げ、そよ風を感じて、目を閉じる紫苑。

「ねぇ…紫苑。星の力に飲まれてなんか…ないよね?」

彼女の問いに…。

 

「…コレを見れば分かるよ」

 

紫苑はスイッチを押して、レオに変化した。

「グルゥゥゥゥ…!!!!!」

「紫苑…!?」

唸り声を上げ、彼女にゆっくりと近付いてくる。

「良く見ておけ。これがレオ・ゾディアーツだ。星の力は黄道十二星座の中でも高い部類だ」

声が変化している。先ほどの紫苑は年齢より少し幼げな少年らしい声に対して、レオは低い男の声だ。スコーピオンやリブラもそうだった。

これが、星の力に飲まれているということなのだろうか…。

「裾迫理雄や鳴滝は、星の力がまだ強くなかった。故にリミットブレイクを受けても、意識を保てていたが、オレは違う。万が一、オレがエナジーを浄化されようものならば…確実に元には戻れん。星の力に飲まれている」

レオの言葉で確定した。彼を倒しても元には戻らない。

彼が救われる道は…ない。

「スイッチを捨てても…だめなの?」

「捨てる気はない。これだけが、今のオレの存在意義だ」

踵を返し、レオは歩き去っていった。

「紫苑…」

 

「彼は特殊だ」

 

ふと、ヴァルゴが現れた。

「ヴァ…ヴァルゴ…!?」

「2人だけで話すのは、初めてだね。さて話に戻るが、レオは特殊な存在だ」

「特殊…?」

シャルロットは、ヴァルゴの言葉に疑問を抱く。

たしかにレオは今までのホロスコープスの中でも、最も強いと言っても良いだろう。

だが、彼女の特殊と言う言葉の意味は、どこか違うように感じる。

「彼の中には二つの人格が共生している。白石紫苑君としての人格と、獅子座の星の意思。今までのスイッチャーは、星の意思に飲まれるか、星の意思が存在しないか、星の意思に打ち勝ったかの3種類だ」

ヴァルゴの言う、星の意思に飲まれたのは、ジェミニのラウラ、ピスケスの夏樹、タウラスの勇士。

星の意思が存在しないのは、アリエスの礼、カプリコーンの八木、キャンサーの弐式、アクエリアスの満子。

星の意思に打ち勝ったのは、リブラの鳴滝、スコーピオンの理雄、ヴァルゴの美咲。

そして唯一の例外である、レオこと紫苑。

「彼は、星の力と意思に飲まれながらも、自分の人格を確立できている。…星と共存しているとも言えるな」

「星と…共存…?」

「ある意味…あそこまで星の意志が強い獅子座と共存している辺り、彼は最も意思が強いのかもしれない」

ロディアを地面に叩きつけ、シャルロットを見据える。

「この言葉の意味が…分かるか?」

そういい残して、ヴァルゴは姿を消した。

 

後に、レオとヴァルゴは合流した。

「ヴァルゴ様…射手座の運命を持つ者は、貴方も知っての通り…」

「あぁ、闇を全く持っていない。彼が闇を抱えなければ、サジタリウスに覚醒する事はないだろう」

2人の知る、射手座の運命を持つ者は、ゾディアーツになるのに最も相応しくない人間らしい。

「オレ自身では彼を力で追い詰める以外、どうにもなりません。残された手段は…」

「…私が動くしかないと言う事か」

ヴァルゴはスイッチを切り、美咲の姿へと戻った。

 

ラビットハッチでシャルロット以外のメンバーが集まった。

「本当に…白石君と戦わなければいけないんですね…」

山田もまた、彼と戦うことに迷いがあった。仮にも紫苑はIS学園の生徒であり、仮面ライダー部の仮入部員であった。

そして何より、それを果たす者は同じIS学園の生徒だ。

教師として、当然の迷いである。

そこに、千冬もやってきた。今回はいつもとは違い、やけに焦っている様子で。

「城茂!いるか!?」

「は、はい」

戸惑いつつも、彼女の言葉に返事をした宇月。

そこから発せられた言葉は…。

 

「城茂美咲さん…お前の母が見つかったぞ!」

 

「母さん…!?」

千冬から知らされたことに飛び上がり、ラビットハッチをいち早く抜けて駆け出した。

母が見つかった。

生きていたのだ。

母に会いたい一心で、学園の外まで駆け抜けていく宇月。

校門のすぐ外に…。

 

「逢いたかったよ、宇月」

 

母はいた。少しずつ彼女に近付いていく宇月。

彼の背後から、一夏達も後を追って現れた。

「母さん…!」

「お父さんの使ってたフォーゼを改造して、戦っていると聞いてる。見ないうちに、立派になったね」

美咲は宇月の頬を優しく撫でる。母のぬくもりを久しぶりに感じた。

「でも、母さん…。おれが戦えているのは、みんなのおかげでもあるんだ。ここにいる、仮面ライダー部のみんなが、おれを支えてくれた」

宇月の振り返った先にいる一夏達を見て、優しく微笑みながら会釈する。

「そう…息子が、本当にお世話になって…」

「しかし…貴女は何故、今まで姿をくらましていたのですか?」

千冬の疑問に美咲は俯く。

「…城茂吾朗の妻として、ゾディアーツに狙われていた。だから、行方をくらますしか無かった」

確かにフォーゼ等、コズミックエナジーを研究し、ゾディアーツの対抗策を造っていた者の妻なら、狙われかねない。

彼女がゾディアーツでない限り。

 

再び、ラビットハッチに美咲を連れて戻ってきた。丁度、そのときにシャルロットも帰ってきたため、全員で話をする事になる。

「これから、母さんはどうするんだよ?」

「私は、あなたを支える。ISを使いたいところだけど、パワーダイザーに改造するしかなかったからね…。今は戦力にはなれない」

そう言いながら、パソコンのコンソールを指で叩き続ける。

映像にある「地球儀を模した形のスイッチ」を見て、本音が尋ねた。

「うっちーのお母さん、何をしてるの?」

「これはね…ISとコズミックエナジーを同調できるアストロスイッチを作ってるの。まだ、始めたばかりで素体しか出来上がっていないけれどね」

彼女はコズミックエナジーと同時に、ISも想定した開発をしていたのだ。以前、バガミールがセシリアのブルー・ティアーズを解析できたのはそれが理由である。

「これはステイツチェンジのスイッチ。おそらく宇月の感情が、最後の鍵になる」

さらに別のシステムを作っている。様々な機械が取り付けられ、その中心にスイッチをセットする窪みのようなものがある。

「そしてこれが、ゾディアーツになった者を癒すモノ。負のコズミックエナジーを、本来のコズミックエナジーに変換させる」

「それって…!」

彼女の言葉に喰い付いて来たのは、シャルロットだった。

「レオも…紫苑も助けられるんですか!?」

「完成すればの話だがね…。さらにレオは星の力が強い。この装置で癒せるかどうか…」

美咲であっても、不安要素が残る装置らしい。

「ヴァルゴはレオほど、星の力が強くない。彼女は癒せるだろうが…レオとなると…」

「まるで、ゾディアーツを助けようとしているように見えますね」

不意に千冬が話しかけた。

「織斑先生…?」

「不思議です。ゾディアーツ…ましてやホロスコープスが発生しているのに、姿を急に見せた。さらに今、ゾディアーツのデメリットを克服するモノを開発している」

「千冬…」

 

「貴方がヴァルゴだったんですね」

 

「な…!?」

一同は驚愕の目で美咲を見つめる。

当の本人は、パソコンから目を逸らさずに作業を続けている。

「レオとヴァルゴの星の力を見定めることなど、どんなにコズミックエナジーに精通していても出来ないはず。もし、ホロスコープスならば別ですが」

「私が動くしかないとはいえ、少々、早計過ぎたね」

そう言って立ち上がり、宇月達を見据える。

「母さん…?」

「ごめんなさい、宇月。貴方を支えると言うのは…ウソなの」

そう言って、取り出したのは…。

「な…!?」

 

ホロスコープススイッチ。

 

スイッチを押した途端、彼等は採石場のような場所へと移動させられていた。

「母さん!どこだ!?」

「私はここだ」

その声に振り返ると…。

 

ヴァルゴ・ゾディアーツが立ち尽くしていた。

 

「ヴァルゴ…!?」

「これで分かったか?ゾディアーツスイッチを渡していた元凶は…貴方の母である私」

宇月は膝をついた。

「宇月っ!」

一夏達が走り寄ってくるが…彼の表情は絶望で歪んでいた。

「そんな…母さんがヴァルゴ…!?」

「現実を受け止めろ」

そこへレオも現れた。

「オマエは周りでホロスコープスが生まれている。それを止める事は出来なかった。そして…最後の射手座の誕生も止める事は出来ない」

「貴様等…宇月の心を傷つけやがって…許さんっ!!!!」

礼は遂に我慢の限界に達した。

<METEOR-STORM><METEOR-READY?>

「変身!」

直接メテオSに変身し、メテオストームシャフトで襲い掛かる。

「まて、礼!」「一人で向かっても…!」

一夏と箒が止めるが、メテオSは収まらない。

「アタアアアアアアァッ!!!」

ガキィンッ!

攻撃はあっさりとレオに防がれる。

「ウオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ドゴオオオオォッ!!!!!

「ぐああああああああああぁっ!」

咆哮で吹き飛ばされ、一夏達の下へ転がった。

「こんなモノなんだよ。オマエ達に万が一にも、勝ち目はない!!!」

ドガッ!!!!!

「がっ…!?」

高速移動でメテオSに近付き、腹部を強く蹴飛ばされる。呼吸が止まり、意識が危うく飛びそうになった。

危機的状況にも拘らず、宇月はショックで呆然としている。

だが、一夏達は違う。礼の危機にISを纏って戦いの加勢をした。

しかしそれは…。

「無駄な事を…。今、楽にしてやる!!!」

彼の言うとおりだった。

「行くぞ、箒!」「はああああああああぁっ!」

一夏と箒が同時にレオに襲い掛かるが…。

「フォーゼやメテオ、ISが進化するように、ゾディアーツも進化する。オマエ達がオレに追いつくことは出来ぬ!!!」

そう叫び、2人を捕らえる。目にも止まらぬ速さだ。

ガッ!!!!

「うっ…!?」「あっ…!」

首をつかまれ、強い力で締め上げられる。

「一夏さん、箒さん!」「二人を放せ、紫苑!」

一夏達を救うべく、セシリアとラウラが追撃を仕掛けるも…。

「フンッ!!!」

ヴァルゴの放つ空間の圧縮によって、防がれる。

「グワアアアアァッ!!!!!」

ドガアアアアアアアアァッ!!!!!

「「うああああああああああぁっ!!!」」

レオが手の力を緩めて2人を開放した途端、ゼロ距離から咆哮を放ち、一夏と箒はISを解除され地面に倒れた。

「紫苑っ…!」

箒が彼の名を呼ぶ。だが…。

「オレが紫苑…?違う、オレは悪魔だ!ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

彼はもう、人間の名を捨てたのかもしれない。自身を悪魔と自称し、嗤った。

ずっと立ち尽くしていたシャルロットが、彼に歩み寄った。

「デュっちー?」「デュノア君…?」

本音と山田が声をかけるが、彼女は反応しない。

代わりにレオに声をかけた。

「もう、元の紫苑には戻れないんだね。もう…紫苑じゃ…なくなったんだね」

「元など存在しない。これこそが、本当のオレなのだ」

彼女は涙を流して俯く。

そして…。

 

「ボクが…ボクが君を…レオ・ゾディアーツを倒す!!!」

 

ISを纏って、強く宣言した。

「笑わせるな…!IS一機如きで、このオレに敵うとでも思っているのか!?」

嘲笑し、レオは動き始めた。

速い。

シャルロットはその動きに全く反応できずに攻撃を受け入れてしまう。

ドガアアァッ!!!!!

「うああああぁっ!!!」

その衝撃に吹き飛ばされる。

「…っく!」

しかし、身体中の苦痛にも耐えて立ち上がる。

「よせ、シャルロット…!死ぬぞ…!」

倒れ伏したメテオSが必死に手を伸ばすが、それは届かない。

「…ぅああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの全ての力を引き出して、レオに攻撃を仕掛ける。

だが、全く効いていない。

「ウオオオオオオオォッ!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

逆に咆哮で全てを弾き返され、再び吹き飛ばされてしまう。

「う…うぅ…」

「…何故そこまで抵抗する?無駄だと心の中では分かっているはずだろう…?」

レオが唐突にシャルロットに問う。

必死に立ち上がり、彼女は答えた。

「あ、諦めたくないから…」

その姿を見て、動きを止めたレオ。何かを思いとどまっているように感じた。

「レオ、もう良い。退こう」

「…はい」

ヴァルゴに声をかけられてレオは小さく頷き、共に姿を消した。

 

数日後。

鈴音は体に包帯を巻いている状態ながらも、なんとか退院することが出来た。

「とりあえず、致命傷にならなくてよかったな、鈴」

「うん、心配かけたわね」

申し訳なさそうに笑いながら一夏と会話をする。

そして…。

「結局…みんな、知っちゃったんだよね。レオとヴァルゴの正体…」

「シャルロットはなんとか頑張れてるが…宇月がな…」

宇月は実の母がホロスコープス…しかもその首領であったのだ。精神的ショックが大きすぎて、未だ立ち直れていない。

「計り知れるものではないな…親が黒幕という衝撃は…」

傍にいた箒も呟く。

「わたくし達が、立ち上がらなければいけませんわね」

セシリアが決意したように立ち上がって言った。

「だって…わたくし達だって、宇月さんや他の人に助けられてきました。だから、今回はわたくし達が立ち上がる番ですわ!」

「みんな、考えは同じって奴だよな」

一夏は彼女の言葉に頷く。箒もそうだった。

 

ラビットハッチ内で宇月は頭を抱えていた。

「おれが、やってきたことは…母さんと父さんが戻ってきたときのためだったのに…」

無駄に終わってしまったのかもしれない。

結局、ホロスコープスも11体覚醒しており、残りは一体だ。

本当に、このままではヴァルゴの…美咲の思惑通りになってしまう。

「宇月」

シャルロットが彼の隣の椅子に座る。

「これから、どうするの?」

「どうするって…それは…」

言葉に詰まってしまった。今までは、戦うと答えたはずなのに。

「やっぱり、迷っちゃうよね…仕方ないよ。相手は、宇月のお母さんだもん」

「そっちも随分、迷っただろ?紫苑が相手じゃあな…しかも2人はレオとヴァルゴ…」

「はぁ…バレちゃったか」

「隠してたのかよ?」

この2人が大切にしたいと思う人々が、ホロスコープスだったのだ。

「でもなぁ…すげぇよ、シャルロットは」

「どうして?」

宇月の言う凄いという意味が理解できずに聞いてみた。

「…レオ相手に「倒す」って宣言したんだぞ?フォーゼでもメテオでもないのに…」

「あれか…。でも内心、勝てる気はしなかったよ」

「勝ち目ないのに、あの言い切りは尊敬しちまうよ」

宇月は対照的な、あのときの自分を思い出し、溜息をつきながら感想を述べた。

暫く沈黙があり、シャルロットは立ち上がった。

「結局、どうするの?答えを聞いてないけど…」

「…おれは」

シャルロットの問いに、宇月はコズミックスイッチとフォーゼドライバーを見つめる。

その答えは…。

 

礼は一人、マシンメテオスターに跨ってエンジンを起動させようとした。

「まて、礼」

ラウラに声をかけられて振り返った。

「何処へ行くんだ?」

「おれが、レオとヴァルゴを倒す。勝ち目がないかもしれないが…このままじっとしているつもりもない」

ヘルメットを被り、強い意思を持ちながら言った。

レオとヴァルゴの居場所は、ナゲジャロイカのレーダーで判明済みだ。

ラウラは表情を硬くしながら、再び質問した。

「一人だけで行くと言うのか?」

「着いて行きたいとでも言うんだろう?…もう良い、止めたところで聞きそうにもないしな」

礼は呆れつつも、後ろのシートを手で叩く。

「乗れよ。ツーリングと言うやつだ」

「あぁ!」

ラウラは礼の言葉に喜んで頷いて後ろのシートに跨って、礼の体に手を回した。

そこへ…。

 

「結局、全員かよ」

 

他の仮面ライダー部の者達も現れた。宇月はマシンマッシグラーを押している。

「みんな、自分達がやらなきゃって考えてたらしいぞ」

一夏が優しい笑みを浮かべつつ、礼の肩に手を置く。

「母さんとのケリは、おれがつける。紫苑も止める。おれはゾディアーツを止めるために、何度も戦ってきたんだ。それは変えられない!」

フォーゼドライバーを装着し、マッシグラーに跨る。

「みんな~!」

そこへ、大きな足音と共にパワーダイザーも現れた。

「パワーダイザー…まさか、本音か!?」

そう、ここには本来の搭乗員である鈴音とラウラが両方いる。となると、彼女くらいしかいない。

「わたしも頑張るよ!」

「みんな本気だな。よし、頼むぜ!」

全員の準備が整ったとき…山田と千冬が歩いてくる。

「この戦いを最後の戦いにしましょう。わたしは何も出来ませんでしたけど…ここで待ってます」

彼等の勝利を祈る山田。しかし、自分の至らなさを痛感している。本来ならば一緒に戦いたい。

「何も出来てないわけないっすよ、山田先生。だって、学園で頑張ってくれたじゃないっすか。織斑先生から、先生が一緒にヴァルゴのスイッチャーを探したりしてたって」

「城茂君…」

「絶対、無事に帰ってきます!紫苑と母さんも連れ戻して、みんなで思いっきり文句言ってやりましょう!」

「…はい!」

山田は笑顔で頷いた。

続いて千冬は一夏と向かい合う。

「本当はこんな戦いをして欲しくはなかった。姉として…残された家族は、お前だけなのだから…」

「千冬姉…」

彼女の本心は、やはり心配なのだ。それは家族として、姉としての本当の気持ちである。

「だが…「獅子は千尋の谷に子を落とす」と言う。そうして大人になっていく。だから、見送ろう。姉としてな」

「心配してくれてありがとう、千冬姉。千冬姉はおれの自慢の姉だし、家族として本当に大好きだ。帰ってきたときは…笑って出迎えてくれ」

「あぁ」

これで、本当に準備は整った。

一夏は白式、箒は紅椿、セシリアはブルー・ティアーズ、鈴音は甲龍、シャルロットはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンをそれぞれ装備する。

そして宇月と礼は、ドライバーのスイッチを起動させた。

<METEOR-READY?>

構える。

<3>

バイクのライトが強く輝く。

<2>

ハンドルを強く握り…

<1>

エンジンをふかした。

 

「変身っ!」

 

掛け声と共に、バイクは走り始め、2人をフォーゼBSとメテオに変身させた。

 

「行くぞ、仮面ライダー部!!!!!」

 

 

 

『おおおおおおぉっ!!!!!』

 

 

 

紫苑とヴァルゴは採石場で、空を見上げていた。

「来るよ、紫苑君」

「…」

ヴァルゴの言葉で、レオが振り返ると…。

「うおぉりゃあああああああぁっ!!!!!」

それぞれのバイクに乗ったフォーゼBSとメテオ、ISを纏った一夏達やパワーダイザーが向かってきていた。

それを見て、紫苑はスイッチを押してレオに変化した。

「クズ共が…性懲りもなく!!!!!」

怒りのままにクロークを脱ぎ捨てる。ヴァルゴは敢えて戦わず、戦いの傍観をするようだ。

レオの周りに凄まじい数のダスタードが生まれる。その中には、鬣のあるレオ・ダスタードもいた。

「ムゥゥゥゥゥッ…!」

「露払いは、わたくし達にお任せ下さい!」

セシリアの言葉で、箒、鈴音、ラウラ、パワーダイザーは、その群れに突撃していった。

「頼んだ!礼、一夏、シャルロット!レオを倒すぞ!」

<ROCKET-ON>

フォーゼBSはバイクから離れ、ロケットで突進していき、メテオも青い発光体となり、レオに向かって推進していく。

「ぬおりゃああああああああああああああああぁっ!!!」

「オオオオォ…アタアアアアアアアアアァッ!!」

「グルゥアアアアアアアアァッ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

しかし、それをレオは難なく防ぎ、吹き飛ばした。

<DLILL-ON><METEOR-ON READY?>

<ROCKET-DLILL LIMIT BREAKE><METEOR-LIMIT BREAKE>

「ライダァァァァァァ…ロケットドリルキィィィィィィィィィック!!!!!」

「オオオオオオオオォ…ホワチャアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

フォーゼBSとメテオのリミットブレイクが同時にレオに激突した。

「ウオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ゴオオオオオオオオォッ!!!!!

だが、それもレオには通じない。咆哮で逆襲する。

「くっそ!こいつで!」

<CHAINSAW-ON><HANMER-ON>

ロケットで推進しながら、ハンマートチェーンソーで畳み掛ける。

「うらあああああああぁっ!!」

ガギィッ!!ドガアアァッ!!!

「…効くと思っているのか!?」

ドガアアアァッ!!!!!

「どわあああああああぁっ!?」

それも全く効き目がなく、逆にレオのツメがフォーゼBSの胸に抉りこまれた。

「だったら!」

<ELEKI-ON><WINCH-ON><WHEEL-ON><STEALTH-ON>

「エレキステイツ!いくぞ、一夏、シャルロット!」

「おう!」「うん!」

ホイールでレオと距離を置いた上で、ウインチを使い拘束する。

ギリィッ!

「2人とも、今だ!」

「「はあああああああぁっ!!!」」

一夏は雪片弐型でレオの懐に入り込み、シャルロットはガルムを構える。

ドガアアアアァンッ!ズバアアアアァッ!

彼の最輝星目掛けて、攻撃を連打するが…。

「面白くない」

やはり、無傷だった。

だが…。

「こっちに気付けなかったな!?」

「何!?」

2人に集中しすぎて、ステルスで迷彩化したフォーゼESに気付かなかった。

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァ…100億ボルト・ブレェェェェェェェェェイク!!!」

バリイイイイイイィッ!!!

至近距離で、リミットブレイクを発動。だが、それでもレオに効果的な一撃を与える事はできない。

「グルアアアアアアァッ!!!!!」

ズガガガガガガァッ!!!!!

「がはぁっ!?」「ぐうっ!!」「きゃあぁっ!!」

高速移動で、3人を退ける。それでも、彼等は諦めない。

「おれ達は…まだ終わらない!」

<FIRE-ON><SMOKE-ON><HOPPING-ON><RADER-ON>

「ファイヤーステイツ!礼っ!」「分かった!」

フォーゼFSの言葉に頷いたメテオはギャラクシーを起動させる。

<JUPITUR-READY?><OK-JUPITUR>

「アタアアアアァッ!!」

ドガアアアアァッ!!!

「ムゥンッ!」

ジュピターハンマーを難なく防ぐ。だが、戦法は尽きていない。

<MARS-READY?><OK-MARS>

「ホワチャアアアアアァッ!!!」

ゴオオオオォッ!!!

マーズブレイカーで、レオの腹部を強く殴る。

「フン…!」

やはり効き目はなく、その右手を掴んで高く持ち上げた。

<SATURN-READY?><OK-SATURN>

「喰らえっ!アチャアアアアァッ!!!」

ズバアアァッ!!!

それにメテオは屈することなく、遠隔操作のサターンソーサリーでレオの顔面を切り裂いた。

「…効くものかァッ!!!!!」

レオは、握っていたメテオの右手を思い切り振り回し、壁に叩きつける。

ドガアアアアァッ!!!!!

「ぐはぁっ!…がはっ!」

咳き込みながら、メテオは立ち上がろうとする。

「潰してやるぞ…!」

シュウウウゥ…

「…ムゥッ!?」

メテオに襲い掛かろうとしたとき、あたり一帯を煙幕が覆う。フォーゼFSのスモークによるものだった。

「これなら、どうだああああああああぁっ!!!」

ドガアァッ!

「ッ!?」

ふと、上部から強い衝撃を受ける。フォーゼFSのホッピングだ。

レオにとって、その威力は微々たるモノであったが、煙に包まれて攻撃の方向が予測できない。

一方のフォーゼFSは、レーダーによりレオの居場所を正確に把握できる。攻撃は確実に命中するのだ。

<LIMIT-BLEAKE>

「ライダァァァァァァァァァ…爆熱・シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥト!!!」

ゴアアアアアアアアアアアァッ!!!

煙には引火性の物質も含まれている。レオの周りは大爆発を引き起こした。

だが…。

「その程度の火力で、オレを倒せると思っていたのか!?」

ガシィッ!!!

爆風の中からレオが現れ、フォーゼFSに掴みかかった。

ミシミシィッ…!!

「ぐ…あっ!」

凄まじい腕力で体を締め付けられている。このままでは意識を失うだろう。

だが…。

「させるかっ!」「宇月を放してっ!」

それを一夏とシャルロットが許さない。レオに体当たりをする。

ドガアアァッ!!!

「そんなモノで…」

「零落白夜っ!!!」

「な…!?」

ぶつかった状態で、ゼロ距離からの零落白夜を発動する。危険ではあるが一夏にとって賭ける価値はあったのだ。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

ズバシャアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「チィッ…!!!」

さすがにこれは堪えたのか、レオはフォーゼFSを離してしまう。

「がはっ…!た、助かったよ一夏、シャルロット!」

「油断しないで、来るよ!」

シャルロットが叫んだそのとき、メテオが彼等の横を走り去った。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!

「ぬううぅっ!!!」

「ウウウウゥゥッ…!!!」

「礼っ!?」

彼等に攻撃が当たる前に、メテオが防ぎきったのだ。だが、そのことで彼の体には大ダメージが残る。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE><OK>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

ドガガガガガガガガアアアアアアアアアアアァッ!!!!

満身創痍の体に渾身の力を込めて、スターライトシャワーをレオに叩き込んだ。

「ウオオオオォ…!!!!」

「くそ…これも効かないか!?」

 

「こっちは片付いた!」

 

その声に振り向くと、ダスタードを一掃した箒達がフォーゼFS達の援護に現れた。

「ムシケラがァッ…!ウオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

レオの咆哮が彼女達を襲う。

「ここはわたしが!」

そこに、ラウラはAICで防御の体制をとった。

だが、攻撃は強すぎる。全てを防ぐことは出来なかった。

バキィッ!!!!!

「ぐあああああああぁっ!!」

AICは破壊され、ラウラは吹き飛ばされる。

だが、隙はつくることができた。

「はっ!うぅぅ…やああああああああああああああああぁっ!!」

パワーダイザーは上空高くジャンプし、レオを押しつぶそうと落下してくる。

「フンッ!!!!」

ドガアァッ!!!!!

しかし、レオにとってパワーダイザーを受け止めることなど造作もないことなのだ。

「グワアアアアァッ!!!!」

「うわわああああぁっ!?」

ドガアアアアァッ!!!!

逆に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「いたたぁ…!」

「笑わせるな!そんな戦い方でこのオレを…!」

ギュルル!

「ウゥッ!?」

そのとき、レオの身体をワイヤーブレードが拘束する。

「箒、セシリア、鈴音!」

「あぁ!」「了解ですわ!」「いっくわよぉっ!」

身動きの取れないレオに向かい、箒は雨月と空裂を振りかざし、セシリアはインターセプター、鈴音は双天牙月をそれぞれ、いっせいに振り下ろした。

「「「はあああああああああああああああぁっ!!!!!」」」

ズバアアアアアアアアアァッ!!!!!

彼女達にとって、全てを込めた一撃だったが…。

「…その程度かアアアアアアアアアアァッ!!!!」

ゴオオオオオオオオオオォッ!!!!!

「ううぅっ…!」「きゃあああぁっ!」「あああぁっ!」

彼の耐久力と防御力は凄まじいのだ。

反撃され、岩肌に叩きつけられる。

「分割・セット!」

<N・S MAGNET-ON><RAUNCHER-ON><GATLING-ON>

彼女達がレオと交戦している間に、フォーゼはマグネットステイツへとステイツチェンジした。

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

さらにメテオもステイツチェンジを行なう。

「マグネットステイツ!」「闇に蠢く星の運命…この嵐で打ち砕く!!!」

<LIMIT-BREAKE><LIMIT-BREAKE><OK>

「ライダー超電磁ボンバー!一斉掃射あああああああああああああぁっ!!!!!」

「メテオストームパニッシャアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

エネルギー波とストームトッパーがレオの体に食い込んでいくが…。

「無駄だアアアァッ!!!!!」

それを弾く。しかし、それだけではフォーゼMS達も終わらない。

メテオSはストームトッパーをキャッチして…。

<LIMIT-BREAKE><OK>

「倍にして返す!!!!!」

「ライダァァァァァァァ…超電磁・タァァァァァァァックル!!!!!」

再びメテオストームパニッシャーとリミットブレイクを発動し、レオに攻撃をした。

ドゴオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

「ヌウウウゥッ!?」

レオが退いた。数歩下がり、胸を押さえる。

僅かながら、勝機を感じた。

「一気に畳み掛ける!力を貸してくれ、ゆりこ!!!」

<ROCKET-SUPER><ROCKET-ON>

「ロケットステイツ!」

スコーピオン戦以来、一度も使わなかったロケットスイッチ・スーパー1を使った。ゆりこもまた、仮面ライダー部の一人として…。

<ROCKT LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァァァァァァ…錐もみシュゥゥゥゥゥゥゥゥト!!!!!」

ガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!

「ウウウウウウウウウゥッ!!!!!」

超回転するフォーゼRS。レオはそれを必死にツメで防ぐ。

「雪羅っ!!!!」

その間に、一夏の白式は第二形態へと移行する。エネルギーの減りは箒の絢爛舞踏によって補われている。

「元に戻れ、紫苑!!!!!」

ズバアアアアアアァッ!!!!!

「グガアアアアァッ!!!??」

度重なるリミットブレイクや攻撃の嵐で、レオは遂に地面に膝をつく。

「これで最後だ!」

<COSMIC-ON>

コズミックステイツにステイツチェンジし、バリズンソードを開く。

<ELEKI-ON><FIRE-ON><N・MAGNET-ON><ROCKET-ON>

胸のボタンを押し、全てのステイツチェンジスイッチのパワーをバリズンソードに込め、コズミックスイッチをバリズンソードに挿す。

あまりの無茶な行動に、バリズンソードは火花を散らした。

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァァァァァ超銀河!!!!オールステイツ・フィニィィィィィィッシュ!!!!!」

虹色に輝くバリズンソード。そこから発せられたありったけのエネルギーを、レオにきりつけることで浴びせた。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

フォーゼCSの最大の攻撃の前に、レオは身体中から黒い霧が溢れ出す。負のコズミックエナジーが漏れ始めたのだ。

「馬鹿なァッ…このオレが…!!!?」

「紫苑っ!!!!」

地面に倒れ伏し、必死に立ち上がろうとするレオに向かって、シャルロットが叫びかけた。

「ボクらは絶対に負けない!君がどんなに強くても、どんなに傷つけられても、絶対に立ち上がる!!!!」

彼女の言葉を背に、フォーゼCSはレバーを引き、メテオSはドライバーにメテオスイッチをセットする。

<METEOR-ON READY?><LIMIT-BREAKE><METEOR LIMIT-BREAKE>

それにあわせ、パワーダイザーやISを装備した者全員が、攻撃の準備に入り、全ての仮面ライダー部の者達が大きく言い放った。

 

『それが…仮面ライダー部だっ!!!!!!!!!!』

 

「「ライダァァァァァァァァァァァァキィィィィィィィィィィィック!!!!!」」

『はあああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!』

彼等の持てる、最大最後の攻撃。

紫苑を止めるために、学園を守るために、負けられない戦いのために…。

全てを賭けて放った。

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

「…超・新・星ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「な…!?」「うそ!?」

レオの前に赤黒い光が集まる。彼の残していた、最後の力だ。

それがレオの体に入り込んだ途端、辺り一体を破壊する、凄まじい衝撃が起こった。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!!!!!!!」

見た目には変化が見られない。だが、彼の体に凄まじいコズミックエナジーが貯蓄された。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!!!!!

『うわあああああああああああああああああああああああぁっ!!!??』

フォーゼCS達の全てを賭けた攻撃を、完全に弾き飛ばしてしまった。

全員が変身やISを解除される。

レオは満身創痍であったが、地面をしっかりと踏み、地に立っている。

 

仮面ライダー部は完全に敗北した。

 

「ハァッ…ハァッ…超新星を…使ったのは…オマエ達が初めてだ…!!」

スイッチを切り、紫苑の姿に戻る。彼もまた、身体中が傷だらけであった。

仮面ライダー部も健闘したが、レオである彼が上回っていたのだ。

「ヴァ…ヴァルゴ様…」

「本当にご苦労だった。これで始められる」

その死闘を見て、ヴァルゴも紫苑に労いの言葉をかけ、宇月に近付いた。

 

彼女の目的を果たすため。

 

精神も体力も完全に擦り切れてしまった宇月。

ヴァルゴは彼の耳元に近付いて、こう囁いた。

「宇月、良く聞いて。あなたの父、城茂吾朗は…死んだ」

「父さんが…!?」

父の死を伝えられ…宇月の心に悲しみと絶望が深く刻み付けられた。

「殺したのは…ISを作った篠ノ之束。彼女がISを世界に知らしめようとする、身勝手な計画で…あの人は死んだ」

同時に…彼が持ちえてはいけなかった感情を抱いた。

 

それは憎しみ。

 

宇月は頭を抱えて、呻く。

「あぁ…あ…」

「憎いだろう…ISが」

ヴァルゴは何処からか、ゾディアーツスイッチを取り出す。

「まさか…!?」

そこで一夏達は気付いた。

「そう…私の息子、城茂宇月が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の使徒、サジタリウス・ゾディアーツなのだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「構わないよ、宇月。憎むのは自然な事だ。父親を殺されて…」

「やめろ宇月!!!!憎むな!!!!」

礼が必死に彼を引きとめようとするが、宇月の心には届かない。

「私も夫を殺したISが憎い。そして、ISを認めた世界が…」

「ISが…ISが…!」

「まて、宇月!!」「落ち着いてください!!!」「ヴァルゴに騙されんな!!!」

箒、セシリア、鈴音も必死に呼びかける。

「私も願う。だから、貴方も願いなさい」

 

「星に…願いを…」

 

宇月の瞳から光が消えた。

ヴァルゴの手にある、ゾディアーツスイッチを握り締める。

「やめて!!宇月、やめて!!!」「やめさせろ、ヴァルゴ!!!!」「うっちいぃぃぃ!!!」

シャルロット、ラウラ、本音は必死に手を伸ばす。

そして…。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

 

宇月はスイッチを押してしまった。

 

その体はみるみる黒い影に包まれ…。

 

 

 

 

 

 

射手座の使徒…最後のホロスコープス「サジタリウス・ゾディアーツ」となった。

 

 

 

 

 

 

「遂に…遂に揃った!!!!十二使徒が揃った!!!!」

 

 

 

 

 

絶望的な状況の中、ヴァルゴの歓喜の声だけが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。

 

 

 

 

次回!

 

                         さぁ…迎えよう!!!

 

ヴァルゴ様…何故!?

 

                         もっと早く気付くべきだったね…

 

僕は全部、失った…

 

                         スイッチを捨てろ!捨ててくれ!!!

 

 

 

 

 

第33話「星・座・勢・揃」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ/サジタリウス・ゾディアーツ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア

織斑千冬
山田真耶

白石紫苑=レオ・ゾディアーツ

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ



いかがでしたか?
さぁ、遂に最後の使徒、サジタリウスが覚醒です。
その運命は宇月にありました。
ちなみにアナグラム(?)として

城茂宇月→うつき→うつ

です。弓を打つって言うから…ちょっと無理矢理ですが。
次回、フォーゼは出てきません。
絶望的な状況の中、一体どうするか…お楽しみに!



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第33話「星・座・勢・揃」

 

 

サジタリウスが覚醒した。

「オオオォォ…!!」

どうやら、宇月の意思は消えているらしい。声は紫苑がレオに変化したときと同様、低い男の声になっていた。

「星の力に飲まれたか…!?」

サジタリウスは左手を翳し、弓状の武器「ギルガメッシュ」を展開しながら一夏達に構える。

「ハァァァァァァ…!!!」

弦を引くような動作を行なった途端、ギルガメッシュの周りに凄まじい量のコズミックエナジーが集まっていく。

「ゼイッ!!!」

バシュッ!!!!

弦を離し、数えきれないほどの矢を放った。

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「うわああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!?」

その威力は絶大で、レオに並んでいる…いや、超えているかもしれない。

全員、直撃はしなかったのだが、近くに矢が刺さっただけで凄まじいダメージを受けたのだから。

「これが…サジタリウスの力…」

紫苑は疲労困憊で肩を庇いながら、ヴァルゴと共に、サジタリウスの戦いを見つめる。

「君の力と並ぶほどだね、紫苑君。流石は射手座の使徒…そして」

 

「流石は私の息子だ」

 

彼女にも母としての心が残っているのだ。

ある意味、最後の使徒が息子であって良かったと思っている。

これで心置きなく、最後の役目も果たせるだろう。

「紫苑君、サジタリウス、行こう。オフューカスを迎えるために!」

ヴァルゴはロディアを叩きつけ、レオとサジタリウスのみを別の場所まで転移させた。

「宇月を返せ!」

一夏は身体中の痛みに耐えながら立ち上がり、必死に叫ぶ。

それに対し、ヴァルゴは涼しい様子で答える。

「返す?…宇月は私の息子だ。君達に譲った覚えはない」

確かにヴァルゴは宇月の母である美咲だ。親子とは本来、共にあるべきもの。

それでも…。

「違う…今のあんたは、宇月を息子として見ていないっ!!」

「いいえ、あの子は私の息子。今も愛情は変わらない」

スイッチを切り、美咲の姿へと戻る。

ふと、シャルロットを見つめ、思い出したかのように言う。

「愛情と言えば…シャルロット・デュノア、君は愛情に気付けなかったのだね」

「え…?」

 

 

 

「紫苑君はね…君達と敵対しながらも、君達を何度も守ろうとしていた」

 

 

 

「紫苑が…?」

「やっぱりか…」

シャルロットは意味が理解できないのに対し、礼は察しがついたように呟く。

「レオは、とてつもない力を持っていながら、おれ達を何度も逃がした。おそらく…彼におれ達を消すつもりがなかったんだな」

「そう。私は何度もフォーゼとメテオを破壊しようと企てていたのだがね」

美咲の口から、紫苑が行ってきた事が語られる。

 

 

 

あれは、シャルロットと礼がIS学園に転校してきて間もない頃。

紫苑はシャルロットに心を開きつつあり、それでいて好意を寄せ始めていた。

だが…彼はホロスコープス最強のレオ。

そしてシャルロットは仮面ライダー部。

対照的な位置に属していたがために、想いは伝えられないと覚悟していた。

しかし…それでも彼女を…彼女がいる居場所を守りたいと思っていた。

 

「レオ、状況は由々しき事態だ。君に動いてもらいたい」

「まさか…」

「仮面ライダー部を…潰して欲しいのだ」

ヴァルゴは無感情を装って伝えた。本当は息子を傷つけたくはなかったが、目的のためには止むを得ない。

レオも肯定すると思っていた。

が…。

「お待ち下さい。彼等はホロスコープス覚醒へのカンフル剤となるはずです。もう暫く、様子を見るべきです」

落ち着いたように喋っていたが、その心に焦りがあったことをヴァルゴは見抜いていた。

そのときから、レオへの信頼はなくしたのだ。

「…然るべき時は、動いてもらうよ」

 

 

 

「実際に戦ったときも、何度も潰せと命じたのに、君達を潰さなかった」

言われて見れば、彼は凄まじい力で圧倒しながらも、仲間を取り返しのつかないところまで追い詰める事はしなかった。

「…ボクらを守ってくれていた…?」

「今頃気付いても手遅れだ。今の紫苑君は、完全にレオ・ゾディアーツとして戦うことを決意している。君達を本気で倒そうとしている」

美咲は勝ち誇ったように言い切り、再びヴァルゴに変化した。

「君達には、もう私を止める事は出来ない。この世界が大きく変化する様を見届けると良い」

彼女も紫苑達の後を追うように、ロディアを地面に叩きつけて姿を消した。

 

その後、一夏達はラビットハッチに戻ってきていた。

全員が傷だらけであり、山田と千冬が必死に応急処置を施している。

その間に戦いの結果や宇月がどうなったかも知らされた。

「城茂君がサジタリウスだったんですか…」「あの馬鹿者…スイッチの魔力に見せられたか…!」

この学園を何度も守ってきていた仮面ライダーの一人、しかもこの仮面ライダー部の一番の希望となっていた彼が、自分達の最大の敵になってしまったのだ。

「元に戻る方法は…ないんでしょうか…?」

「星の力に宇月が勝って、あいつが意識を取り戻すか、サジタリウスの意識をおれ達が破壊するかのどちらか。いずれにせよ、今の状況でどうにかなることじゃありません」

こちらの戦力は著しく減ってしまった。

 

仮面ライダーフォーゼがいないのだ。

 

専用機のISが6機とメテオストームでは、敵のヴァルゴ、レオ、サジタリウスの誰か一人にでも敵うことはできない。

「どうすればいいのよ…!」

鈴音が頭を抱える。

もう手立てがない。ヴァルゴの目的が果たされるのを、黙ってみているしかないのだろうか…。

しかし一人だけ、あきらめていない者がいた。

「まだ…終わってないよ」

シャルロットだった。

「紫苑は…まだ優しい心が残ってる。それが分かったから」

「そんなこと言っても、紫苑は完全にホロスコープス側に着いてしまったんだぞ…?」

箒の言葉にシャルロット以外の全員が俯いた。

紫苑は、宇月達を彼の出来る限りのやり方で守っていた。それに気付かず敵として戦い、彼は完全にレオ・ゾディアーツとして戦うことを決めてしまったのだ。

「大丈夫。ボクが…証明してみせる!」

シャルロットは強く宣言し、痛む身体に無理を言わせながら、ラビットハッチを飛び出した。

「まて、シャルロッ…くうっ!」

礼は立ち上がろうとしたが、今のメンバーの中で一番ダメージが大きく、身体が言う事を聞かない。

「礼は休んでいてくれ。おれが行く」「わたくしも!」

一夏とセシリアがシャルロットの後を追うことにした。

 

サジタリウスは、ヴァルゴの前でじっと立ち尽くしている。

まるで、電池が切れた人形のようだ。

「宇月…貴方の意思で私と共に戦ってくれないのが、残念だよ」

彼に向かって言うのだが、反応はない。戦うとき以外は全く動こうとしないのだ。

なぜ、彼がヴァルゴに付き従ったのか。

それは簡単な理由だ。

 

息子だからである。

 

彼の中にある母親への想いが、サジタリウスの意思に反映され、ヴァルゴに従っているのだ。

ただ、それは明確な意思があるのではなく、サジタリウス自身の意思に宇月の心が侵食している…というべきか。

「レオ、君は再び仮面ライダー部と交戦しなさい。フォーゼがいない今の状況ならば、簡単だろう」

「はい」

今まで、何かと断る理由を言っていたレオだったが、今回は迷いなく頷く。

本気で仮面ライダー部…そしてシャルロットと決別したのだ。

踵を返し、レオは姿を消した。

配置されている3人を除いた9つのホロスコープススイッチを見つめるヴァルゴ。

「まもなく準備は整う。この世界を…変化させる」

 

シャルロットが紫苑を探し回っていたとき…。

「オレを探しているのか?」

唐突に背後から聞こえる声。振り返るとレオが歩いてきていた。

「紫苑…」

「その名で呼ぶな。オレはレオ・ゾディアーツだ」

ツメを振りかざし、ゆっくりと迫ってくる。

だが、シャルロットは戦おうとも逃げようともしなかった。

ただ、彼を抱きしめた。

「ごめんね…気付いてあげられなかった。…紫苑がどんな想いでボクらと戦っていたのか…ボクらを守ってくれていたのか…」

「…だからどうした。今更気付いても手遅れだ。そのこともヴァルゴ様から聞かなければ、知る由もなかっただろう」

彼女の言葉を鼻で笑い、レオは再び右腕に力を込める。

「そうだよ。ボク達が悪いの…。それなのに…ボクは君を倒すなんて言って…本当にひどいよね…」

「懺悔のつもりか?そんなモノに付き合う気は…」

レオが痺れを切らし、ツメを振り下ろそうとするが…。

 

シャルロットは彼に口づけをした。

 

レオの時は口にあたる部分が分からない。だが、彼女は紫苑のときに口にあたる部分であったところに口づけをした。

「…何のマネだ!?」

「あの時、ちゃんと返事をしていれば良かったよね。ボク、紫苑のことが好きだよ」

その言葉に、レオは動揺した。首を左右に振りながらシャルロットから数歩離れる。

「何故だ…どうして、今頃…!?」

いつものレオの様子が変わる。

「あのとき、紫苑のお父さんのことを解決してから返事をしたかった。だから待ってて欲しかった。でも、紫苑は時間が残されてなかったんだね」

「煩い…オレは…ホロスコープスなんだ。これが、本当のオレなんだ!!!」

頭を抱え、膝をつくレオ。

後悔しているのだろう。彼女の気持ちがそう考えていたとは思っていなかった。

「君がどんな姿をしていても良い。でも…コレだけは変わらない。君は人間だよ。…優しい人間だよ」

優しく微笑んでレオを見つめるシャルロット。

一方のレオは頭を振り続け、否定する。

「違う…」

「違わないよ」

自分の鈍く光る銀色の腕を見つめ、レオは叫び続ける。

「オレはもう人間じゃないんだよォッ!!!!!」

「人間だよ」

シャルロットはその手を握り、自身の胸に当てて目を閉じた。

「やめろ…やめろやめろやめろ!!!!!」

必死に振り払おうとするが、その力はシャルロットでさえ押さえる事のできる、弱々しいものであった。

「大丈夫…紫苑はボクの居場所になってくれたから…。今度はボクが紫苑の居場所になる」

だから、その大きな手を強く抱きしめる。

「頼むからやめてくれ…オレを…これ以上惑わせるな…。オレはオマエ達の最大の障壁。最強のホロスコープス、レオ・ゾディアーツだ!!!!!」

「違うよ。君は…紫苑なんだよ」

シャルロットの愛情全てを、紫苑であるレオに伝える。

それを感じてか、レオは少しの間、大人しくなった。体の震えを残しつつ。

だが…。

「うるさいッ…今頃になってェ!!!!!」

「うわぁっ!」

錯乱しつつ、レオはシャルロットを突き飛ばし、咆える。

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

 

「…ここまで毒されては、ホロスコープスに君を置くのは危険だね」

 

その声と共に、ヴァルゴがロディアをもって現れた。

「ヴァルゴ…宇月のお母さん…」「ヴァルゴ様ッ…!?」

「君は答えを決めたつもりだったろうが、完全ではなかったようだね」

ヴァルゴの言葉にレオは必死に否定する。それはかなりの焦りを伴う様子だった。

「違います…オレは!!!!」

 

「ならば、今ここでシャルロット・デュノアを始末しなさい」

 

「な…!?」

それは、ヴァルゴにとってはレオが敵か味方かを見極める判別。

そして、レオにとっては、想い人を取るか、自分の居場所を取るかの究極の選択だ。

その決断は彼にのみ下される。だから、ヴァルゴもシャルロットもただ見つめるだけでしかない。

「オレは…」

両手に作り出したツメを見つめ…。

「オレはッ!!!!!」

シャルロットを睨んだ。

「紫苑…」

どうやら、レオは自分の居場所を選んだらしい。

再び、ゆっくりと近付いてくるレオ。もう、説得は通じないだろう。

せめて最後に…。

「ごめんね、紫苑。ボクの所為だ…」

彼に対する、謝罪を述べて目を閉じた。

そこへ…。

 

<LIMIT-BREAKE>

 

「メテオストームパニッシャァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「…!?」

何処からか、コズミックエナジーを蓄えたストームトッパーがレオを目掛けて発射された。

ドガアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

だが、レオには通じない。簡単に弾かれてしまった。

そこにメテオスターに跨ったメテオSと白式を纏った一夏がやってきた。

「おれ達の仲間を…シャルロットを傷つけさせない。同じ仲間だった紫苑、おまえにはっ!!」

「キサマ等ァッ…!!!!!」

邪魔をされたレオは怒り心頭で、一夏とメテオSに襲い掛かった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!」

「紫苑、やめてっ!!」

シャルロットの呼びかけも通じず、レオは攻撃を止める事はない。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ぐあああああああああああぁっ!?」「うわああああああぁっ!!」

レオは高速移動で2人に攻撃を仕掛けた。避けることは出来ない。

もうこの2人では、勝つどころか、食い止める事もできないのだ。

「レオ、君は彼等に構うな。彼等は、私の息子が相手をする。来い、サジタリウス!」

ヴァルゴが呼ぶと闇が現れ、その中からサジタリウスがゆっくりと歩いてきた。

「…宇月!」

「オオォォォォォォ…!!!」

サジタリウスは何にも反応せず、ただ歩き続けている。ヴァルゴの…母の言葉に従うのみだ。

「宇月、正気にもどれよ!みんな、おまえを待ってるんだぞ!?」

「オオォォォォ…!!」

一夏がサジタリウスの肩を掴んで必死に説得するも、全く反応がない。

ただ、呼吸から生まれる声を発しているだけだ。

ギルガメッシュを展開し、一夏を殴り飛ばす。

ガッ!!!

「ぐっ!?」

メテオSのところまで追いやられ、サジタリウスを再び凝視したときには…。

コズミックエナジーの矢が放たれようとしていた。

「ハアアァッ!!!」

一直線の矢は、阻むものなく、向かっている。

それを…。

「一夏っ!」

メテオSが身を挺して一夏を守った。

ドシュッ!!!!!

「ぐあっ!?」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

矢はメテオSの体を貫通し、地面に突き刺さった瞬間、大爆発を引き起こした。

メテオSの大ダメージと引き換えに、一夏を守る事はできた。

「礼っ!」

変身が解け、地面に倒れる礼、その胸からはおびただしい量の出血がみられる。

おそらく致命傷だろう。

このままでは、礼の命が危ない。

「一夏…。宇月を…呼び戻してくれ。あいつを呼び戻せるのは…おまえらだけだ…」

「バカ言うな!おまえが一番、付き合いが長いんだろう!?」

「今のおれじゃ…だめだ…頼む…」

小さな声を必死に絞り出した後、礼の体が動かなくなった。

「礼…?おい、礼っ!」

どうやら、気絶したらしい。だが、長い間このままにしておけば、本当に死んでしまう。

残された方法は…。

「礼…借りるぜ」

礼の腰からメテオドライバーを剥ぎ取る。

「一夏、まさか!?」

シャルロットもその行動に想像がついた。

立ち上がった一夏は、腰にメテオドライバーを装着する。

<METEOR-READY?>

「変身っ!」

いつも礼が行なっているように、操作を行い、身体中を青いコズミックエナジーが纏う。

 

 

 

その姿は仮面ライダーメテオだ。

 

 

 

「ほう…メテオは変身者を選別する事はないのか。フォーゼと同じだな」

ヴァルゴもその状況に意外そうな様子で呟いた。

「はああああああああああぁっ!!」

メテオは、サジタリウスとレオに立ち向かっていく。

だが…。

ドガァッ!

「キサマがメテオになったところで、状況は変わらんッ!!!」

ドゴオオオオォッ!!!!!

「うわあああああああああぁっ!!!」

全く、効き目がなかった。レオにあっさりと弾き飛ばされ、次にサジタリウスが矢を放とうとする。

「オオォォォォォォ…!!!」

「宇月っ!!!もうやめてよ!!!!」

シャルロットがメテオを庇うように立ち塞がり、両手を広げるも、サジタリウスはやめようとはしない。

「セアァッ!!!!」

バシュッ!!!

再び、脅威の矢が放たれる。

目を力いっぱい閉じる。

「シャルッ!!!」

懐かしい声が聞こえ…。

ドッ!!!!

矢が何かを突き刺す音がした。だがシャルロットもメテオも痛みを感じない。

その矢が射たのは…。

 

「紫苑…?」

 

そう、紫苑であるレオだった。

その腹部には矢が突き刺さり、背中から少し顔を見せている。

「グオアァ…何故だァ…!!!??」

本人にも、その行動が理解できなかった。ただ、突発的に彼女を庇ったのだ。

そのために力を失ったのか、レオは紫苑の姿に戻り膝をつく。

「うぅぐ…あがぁ…!」

腹を押さえ、必死に痛みに耐えている。押さえている手の間からは出血が見られる。

「紫苑!」

シャルロットもとっさに紫苑に近付く。

「ひどい怪我…早く医務室に行こう!」

「や、やめて…」

「やめないよ!紫苑はボクらを庇ってくれたでしょう!?」

紫苑に肩を貸し、礼を抱え上げた一夏と共に医務室へ急ごうとする。

それを赦すまいと、サジタリウスがギルガメッシュを構えるが…。

「サジタリウス、もう良い。フンッ!!!」

ヴァルゴがロディアを叩きつけると…。

「紫苑っ!?」

彼女とサジタリウス、そしてシャルロットに肩を借りていた紫苑も姿を消した。

「くそ…とりあえず、礼を運ぼう!」

一夏に促され、礼を病院まで連れて行った。

 

その後…。

「ムンッ!」

レオはLアクエリアスに変化し、癒しの水で自身の傷を癒し、元のレオに戻った。

「…」

だが、この後のことを考えると気が重い。

とっさに体が動いたとは言え、シャルロットを…敵を庇ったのだ。

ヴァルゴからはどんな仕打ちが待っているか分からない。

そう考えているうちに、背後からヴァルゴが近付いてきた。

「レオ。何故、彼女を庇った…?」

想定できた言葉をかけられた。

「それは…グゥッ!?」

なんとか返事を言おうとした瞬間、体が痛み始めた。

それは今までの比ではない。まるで体がバラバラに砕かれるような痛みだ。

地面に這い蹲り、もがき苦しむレオ。

「遂に来たね」

それが理解できていたかのように冷たく呟くヴァルゴ。

「ウガァッ!?ゴォァアアアァ!?な、何が…!?」

今まで、レオに変化しているときに体がここまで傷みに苛まれる事はなかった。

だが、ヴァルゴの口から告げられたのは…。

「レオ、君は確かにホロスコープス最強の「獅子座の使徒」だ。だが、それは君だけの話」

「グゥッ…!…まさか!?」

 

「君の母親の身体が「獅子座の運命」を拒絶しているのだよ」

 

レオである紫苑は、身体の半分が母親の肉体である。その体は獅子座の運命を持っていたわけではない。

運命を持たない身体にホロスコープスの度重なる変身をした際に起こるのは…。

「…いや、レオ・ゾディアーツの持つ、強力過ぎる負のコズミックエナジーが、君の母親の肉体を破壊しようとしていると言ったほうが的確かな?」

拒絶反応。母親の身体がレオ・ゾディアーツの力によって破壊されようとしているのだ。

「な、何故だ…!?」

ヴァルゴはそれを知っていた。何故、黙っていたのか…。

「サジタリウスが手に入った今、君は用なしだ。レオスイッチを置いて去れ」

その言葉で、レオは絶望した。

 

遂に、ホロスコープスとしても居場所を失ったのだ。

 

それを受け入れられないレオは、頭を抱え…。

「嘘だ…嘘だアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

拒絶の意志を見せてヴァルゴに襲い掛かった。

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ウッ!?」

しかし、その一撃をサジタリウスが防御した。

「オオオオオオォッ!!!!」

ドゴオオオオォッ!

「ガハアァッ!?」

逆に反撃され、体の痛みやサジタリウスから受けたダメージで苦しむ。

「何故だ…馬鹿な…!?」

頭の中で自問自答を繰り返しながら、レオは走り去った。

彼を追おうとサジタリウスは歩くが…。

「待て、私が行こう」

ヴァルゴはそう言って、レオを追おうとするが、あることに気付く。

 

「レオ…SOLUを奪ったか!?」

 

病院で礼は手術を受けている。

矢が貫通した事で臓器に穴が開いてしまい、かなり危険な状態であるとの事だ。

仮面ライダー部のメンバーも連絡を受けて待合室に集まった。

「礼…」

ラウラは扉の前でずっと立ち尽くしている。彼の惨状を聞き、心配しているのだ。

箒がラウラの肩に手を置く

「あいつだって仮面ライダーだ。きっと大丈夫。ラウラが信じなくて、誰が信じるんだ?」

「すまない、箒…」

彼女の言葉で、ラウラは少しだけ表情が柔らかくなる。

「じゃあ…やっぱり、紫苑さんは…」

「ボクと一夏を庇ってくれた。だから、まだ紫苑は優しいままなんだよ!」

セシリアを始め、他のメンバーにレオ…紫苑がやった事を伝える。

彼はまだ紫苑である。そう信じたい。

「あいつらがもう一度、おれ達と戦ってくれたら…」

一夏はメテオドライバーとフォーゼドライバーを見つめる。

今は、暫定的に一夏がメテオとして戦うことになった。だが、コズミックエナジーとの相性が悪いのか、メテオストームスイッチは使えない。通常形態のみでの戦いだ。

本来の装着者の2人はまともに戦えない。彼等がいたからこそ、ここまで戦えた。

「一夏、もう一度…紫苑を探そう。きっと…分かり合えるから」

「…あぁ」

宇月が愛用していたマッシグラーに乗り、エンジンをとどろかせる。

 

程なくして、紫苑は見つかった。

彼は身体中に近くで見つけたような、古びた大きい布で体をくるんでいる。

「うあぁ…痛いぃ…!あぐぁ…!」

身体中の痛みに苦しみ、地面に倒れてもがいていた。

「紫苑!大丈夫!?」

メテオスターから飛び降りたシャルロットは、紫苑を抱き上げる。

「ぐぅ…!あ、あれ…シャル…?」

朦朧とした意識の中で、心を開きかけていた少女の顔が映る。

その顔を見た瞬間、紫苑の目から涙が溢れ出した。

「ごめんね…。ボクが…ちゃんと気付いてあげられてたら…」

「シャルぅ…あぁ…」

シャルロットに優しく抱きしめられ、紫苑は泣きじゃくりながら彼女の体に触れる。

「大丈夫だよ。今度こそ、ボクが守ってあげる」

彼女に触れた紫苑の手を見て、一夏は絶句した。

 

人間の手とは思えないほど、肥大化し、脈打っている。

 

どう見ても危険な状況だ。

<METEOR-READY?>

「離れろ、シャルロット」

一夏はメテオに変身しつつ、シャルロットに促す。

その姿を戦う意思と見て、彼女は必死にメテオを止める。

「一夏、やめて!紫苑は苦しんでるんだよ!?」

「分かってる!おれも紫苑を助けたいんだ!」

そう言って、シャルロットを引き剥がす。

「あ…あぁ…!」

大切なモノを奪われた子供のような仕草で、シャルロットに手を伸ばす紫苑。

「紫苑、スイッチを捨てろ。今ならまだ間に合うかもしれない!」

必死に説得する。

 

「…プッ…。ウアハハハハハハハハハハハ!!!」

 

その途端、紫苑は嗤う。彼にとって、一夏の言葉は滑稽だったのだろうか。

「紫苑…!?」

「絶対に嫌だよ!スイッチを捨てて、また存在価値のない人間に逆戻りしろって言うの!?いや、人間以下の…誰からも非難されて拒絶される、本当のクズになれって言うのかよオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオォ!

「うわあああああああぁっ!」

絶叫すると、彼の体から凄まじいコズミックエナジーが放たれ、メテオを吹き飛ばしてしまった。

シャルロットを見つめる。その頬に涙を伝わせながら。

「僕は沢山なくした…。家族も、自分の体も、ホロスコープスとしての居場所も…!僕に残されたのは…シャルだけだ…」

「紫苑…」

焦点の合わない目で、左手を伸ばす。

「シャル…シャルゥ…」

何度も想い人の名前を呼びながら一歩一歩、近付く。その間にも、布の中で紫苑の肉体が肥大化していく。

その異様な光景に…。

「い、いや…!」

シャルロットは後ずさりした。

そして、紫苑の体がレオに変化していく。

「くっ…」

このままでは、彼女の身に危険が及ぶ。

やむを得ず、メテオはベルトのスイッチを操作した。

<METEOR-ON READY?><METEOR LIMIT-BREAKE>

メテオストライクを発動し、レオに攻撃を放った。

「はあああああああぁっ…たああああああああああああああぁっ!」

ドガアアアアアアアアアアアアァッ!!!

「グワアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

今のレオはここまで弱っているのだ。通常形態のメテオの攻撃にすら悲鳴を上げて地面を転がり、紫苑の姿に戻る。

「し、紫苑!」

「うっ…ぐっ…」

紫苑は意識を手放したわけではなく、苦悶の表情を浮かべながら必死に起き上がろうとしている。シャルロットは彼に近付こうとするが…。

「しお…!?」

バリッ…!

右腕を覆っていた布が質量に耐え切れず、引き裂かれる。

 

 

 

その腕は皮膚が裂け、血に塗れたレオの右腕。そして様々な神経、筋繊維が肥大化していた。

 

 

 

そのグロテスクな形に、2人は息を呑んだ。

紫苑は最早、人間の状態ですら星の力に浸食されている。

「グギギィ…!!グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

人とは思えない雄叫びをあげた瞬間、右腕を中心に紫苑の身体が膨れ上がっていく。

巨大な肉塊となり、辺り一帯に人間の体の内部にあるはずの異臭がシャルロットの鼻を突く。メテオはマスク越しのため、その臭いを感じる事はなかった。

「紫苑っ!!」

「アグギガガアアアアアアアァァァァッ!!!!!ゲガアアアアアアアアアアアァァッ!!!!!」

完全に星の力に飲み込まれてしまった。

「ジャルゥ…!!ダズゲデエェェ…!!!」

最後に残った紫苑の意思なのだろうか、シャルロットに助けを求めている。

「紫苑が助けを呼んでる!」

シャルロットはその声を聞き、ISを展開した。

「よせ、シャルロット!死ぬぞ!」

「紫苑は助けて欲しいんだよ!放っておけない!」

メテオの制止も聞かず、シャルロットは「紫苑であったモノ」に向かう。

「…くそぉっ!」

その行動を見て、メテオも半ばヤケクソで彼女の後に続く。

「紫苑!聞こえる!?」

「ダズゲデェェ…!!グルジィィ…!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

どうやら、シャルロットの声は届かないらしい。

苦痛で何も聞こえないのだ。

…いや、すでに聴覚は失っているのかもしれない。

そこに、箒、セシリア、鈴音、ラウラもやってくる。紅椿のコズミックエナジーの探索機能で探し出したのだ。

「なんだ、これは!?」「…紫苑さんですの!?」「こんなことに…!」「信じられない…!」

その異様な光景に4人全員が、驚愕した。

「紫苑を助けて!お願い!」

「グギガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

紫苑であったモノは、巨大な腕を振り回している。

攻撃の意思はない。ただ、苦痛から逃れたいだけなのだ。

しかし、その攻撃が…。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!

「うわああああぁっ!」

シャルロットにぶつかる。

さらに…。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

体の中にあるコズミックエナジーを放出するために、エネルギー波を放ち続ける。

ドガアアアアァッ!!!ゴオオオオオオオォッ!!!

「くううぅっ!?」「きゃああああああぁっ!」

その流れ弾が箒や鈴音を襲った。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE><OK>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!

メテオはなんとか、その暴動を止めるべくスターライトシャワーを放つ。

だが、全く効き目がない。

いや正確に言えば、スターライトシャワー以上の苦痛が彼の脳を支配しており、その攻撃を気にする暇などないのだ。

「どうする…!?」

必死に策をめぐらせていたとき…。

 

 

 

「消えろォッ!!!!!」

 

 

 

女性の声が聞こえる。ヴァルゴのものだ。

そして、上空に巨大なダークネヴュラが生まれ、紫苑であったモノを吸い込んでいた。

だが…。

バリバリィッ!!!!!

「何だと!?」

紫苑であったモノのコズミックエナジーが巨大すぎて、ダークネヴュラが歪んでいる。

簡単に言えば、容量不足だ。

そして…。

 

 

 

裾迫理雄、尾坂夏樹、八木鳴介、居可弐式の4人がダークネヴュラから弾き出された。

 

 

 

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

それと交換に紫苑であったモノは、ダークネヴュラに飲み込まれてしまった。

「あいつら!?」

とっさに箒達が彼等を受け止める。

意識は無いが、死んでいるわけではないようだ。

「レオ…まさか、ここまでエナジーが高まっていたとは…!」

ダークネヴュラを消し、ヴァルゴは呟いていた。

シャルロットは手に何かを感じ、それを見つめると…。

「これ…!」

 

レオスイッチとSOLUスイッチが収まっていた。

 

「それを渡せ…!」

鬼気迫る勢いで、ヴァルゴはシャルロットに近付いてくる。

「…逃げるぞ!」

メテオは青い発光体となり、シャルロットを連れ去っていった。

ほかの仮面ライダー部のメンバーも後に続く。

「逃がさん…!」

ロディアを叩きつけ、先回りをしようとするが…。

シュゥゥゥ…!

「…エナジー切れか!?」

巨大なダークネヴュラを呼び出したため、ヴァルゴには負のコズミックエナジーが残されていなかった。

結果的に、彼等を逃してしまう事になった。

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回…。

 

                           そうか…白石がレオだったのか…

 

お願い!元に戻す方法を教えて!

 

                            ゆりこ!

 

宇月…心の中でサジタリウスと戦ってるよ

 

                             紫苑!君の居場所は、ここにある!

 

戻ってきてえええぇっ!!!!!

 

 

 

第34話「獅・子・優・心」

 

 

 





キャスト

織斑一夏=仮面ライダーメテオ

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音
シャルロット・デュノア

織斑千冬
山田真耶

八木鳴介
許可弐式
裾迫理雄
尾坂夏樹

白石紫苑=レオ・ゾディアーツ

城茂宇月=サジタリウス・ゾディアーツ

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ



如何でしたか?
紫苑には、物語でいろいろ引っ張ってた微妙な伏線を回収してもらいました。
ネヴュられた4人をどうするかや、SOLUのことなど…。
さらにさらに、今回で急に決めた事ですが、一夏がメテオに変身です!
初期設定の使いまわし(?)と言いますか…。
一応、次回まで仮面ライダーとしての宇月と礼には見せ場なしなので、次回までは一夏がメテオです。状況によってはフォーゼになるかも…?
次回で、レオの話には決着がつきます!そのあとは遂にヴァルゴとの戦いです!
お楽しみに!


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第34話「獅・子・優・心」

 

 

ダークネヴュラから弾き出された4人は病院に搬送され、一夏と箒は、理雄と夏樹の面会に来た。

理雄は再びコズミックエナジーの大半を失い、動けない身体となっている。

ただ、以前ほど動かないわけではなく、両手は何とか動かせる状態だ。

「久しぶりだな、仮面ライダー部」「元気にしてた?」

2人は、一夏達を温かく出迎えた。以前のような敵意は全く見られない。

スコーピオンやピスケスとして敵対していた頃がウソのようだった。

「理雄、夏樹…。いろいろ、話したいことがある」

2人がダークネヴュラに送られて以降のこと…ディケイドの来訪や、リブラ、レオ、ヴァルゴの正体、そして十二使徒が揃ったとこと、紫苑がダークネヴュラに送られてしまったこと。

「そうか…白石がレオで…宇月の母親がヴァルゴ様だったとは…」

彼等には想像もつかないことだった。

「近くにいたんだね…2人とも…」

夏樹もレオとヴァルゴを思い浮かべる。

「理雄、夏樹。コズミックエナジーの暴走を止める事って出来るか?」

「…出来ない事はないけど…」

「頼む、紫苑が暴走してしまったんだ。元に戻す方法を教えてくれ!」

その方法を知っている夏樹は理雄と顔を見合わせる。表情から言って、容易な事ではないらしい。

「SOLUは、ヴァルゴ様が…?」

「いや、今はシャルロットが持っている。とっさに紫苑が奪って、レオスイッチと一緒に託してる」

それが紫苑の意思でシャルロットの手に渡されたのかは、本当のところ、分からない。

あのときの紫苑は自我が崩壊していたからだ。

だが、一夏と箒の言葉を聞いて…。

「ならば、まだ勝機はある!」

理雄は笑みを浮かべる。

 

そのころラビットハッチでは、SOLUスイッチとロケットスイッチスーパー1を調整室の合成機械に取り付けていた。

礼も宇月もいない今、千冬が美咲から学んでいた僅かな知識を元に行なっている。

目的は一つ、ゆりこの復活が宇月の心を呼び起こすチャンスが生まれるかもしれない。

この機械は、一度美咲がここに来たときに残していったものだ。

美咲は、ここに3つのモノを残した。

 

一つ、SOLUを還元する装置。

二つ、ゾディアーツの持つ、負のコズミックエナジーを変換する装置。

そして、ISとコズミックエナジーの同調を想定したアストロスイッチ。

 

最後のアストロスイッチは完成に至っていないが、他のモノは試験的ながらも使用することは可能となっている。

「彼女は…なぜ、この装置とアストロスイッチを…」

謎だった。

ゾディアーツの負のコズミックエナジーを変換する装置はまだしも、残りの二つを残した理由が分からない。

正体を隠すための演技…だったのだろうか。

とにかく、装置を作動した。

程なくして…。

SOLUスイッチは消滅し、代わりに…。

 

「あれ…わたし…身体が…」

 

ゆりこが元に戻ったのだ。

それをじっと見ていたセシリア、鈴音は懐かしそうに歩み寄ってきた。

「ゆりこさん!」「元に戻れたのね!」

「あ…セシリア、鈴音…!」

彼女達を見つめて嬉しそうに微笑むゆりこ。その雰囲気はあの時と寸分も違わない。

「この子が、ゆりこちゃんなんだぁ…」

実は、本音とゆりこは初対面。本音に関してはゆりこのことを宇月達から聞かされていたが、ゆりこはスイッチ越しから感じ取れるものに限界があるため、本音のことを知らないのだ。

「あなたは誰…?」

「布仏本音。のほほんさんって呼ばれてるんだ~」

「わたし、ゆりこ。よろしくね」

彼女達は雰囲気が何処と無く似ており、良好な関係を築けそうである。

「君がゆりこか…」

千冬はゆりこを見て思った。

写真で見たことのある、学生時代の美咲に良く似ている。

「君を愛した少年…城茂宇月が、サジタリウスになってしまった。力を貸してほしい」

「宇月…」

その名を聞いて、ゆりこの顔に翳りが見える。ロケットスイッチスーパー1を通して、あのときのことは知っている。

大好きな人が最後のホロスコープスとなってしまったのだ。

でも…。

「宇月、心の中でサジタリウスと戦ってるよ」

「心の中…?」

スイッチを通して、宇月の心が見えた。

彼はスイッチを押した後、それに後悔し、なんどもサジタリウスの暴挙を止めようと戦っていた。だが、サジタリウスの力が強すぎたのだ。

結局、無駄に終わっている。

一人では太刀打ちできないのだ。

「だから、みんなで元に戻そう!」

ゆりこはこの状況の中でも、希望に満ちた笑顔を見せる。

 

シャルロットは部屋にいた。手には、レオスイッチが握られている。

最後の紫苑は、ずっと助けを求めていた。

「…紫苑」

助けられなかった。

結局、苦しみ続けたまま、彼は闇の彼方に消えてしまった。

いつか聞いた、紫苑の母親が教えた歌を思い出す。

いつも紫苑がやっていたように、窓の外を見つめながら歌う。

 

紫苑が傍にいるような気がした。

 

となりで、一緒に歌っているような気がした。

 

微笑んでいるような気がした。

 

何も知らなかった頃…ただ、2人で心を通わせようとしていた頃のように…。

 

いつの間にか、泣いていた。

「うっ…」

嗚咽を漏らし、歌が途切れる。

心の中で映し出されていた紫苑が離れていく。

「ごめんなさい…ごめんなさい…!」

何に対して謝っているのかも、はっきりと分からない。だが、心から謝らなければならない気持ちが湧き上がってきていた。

そこへ、ラウラがやってきた。

「シャルロット」

「あ、ラウラ…」

泣いている姿を見られまいと涙を拭って、夜空を見つめる。紫苑もこんな風にしていたのだろうか。

「レオのコズミックエナジーを浄化できるようになったぞ」

千冬や山田、入院中である礼のアドバイスなどで、負のコズミックエナジーを浄化できる装置は完成した。これでレオスイッチの浄化も出来るはずだ。

そうすれば、紫苑は元に戻れる。

「ねぇ、ラウラは礼のこと、好きなの?」

「もちろんだ。あいつはわたしの嫁…と言いたい所だが、生憎、本人がそう呼ぶことを嫌がってるからな…」

軽く笑って、シャルロットの隣に立つ。

「おまえは、紫苑のこと…」

「うん、好きだよ。本当に…返事のタイミングを間違えたって言うか…」

頭をさすりながら、笑うシャルロット。

「…礼は、大丈夫なの?」

「ゆりこが戻ってきて、彼女のなでしこドライバーを介したメディカルスイッチで、ある程度の治療は出来た。近いうちに動けるはずだ」

少しだけ驚いた。あのゆりこが戻ってきていた事に。

SOLUスイッチから還元する事は不可能とばかり思っていた。

「意識が戻った理雄の話だと、紫苑を元に戻せる方法があるかもしれないらしい。…それは、おまえにやって欲しいのだが…」

「やるよ」

即答だった。その返事の早さにラウラは目を少し見開く。

「早いな。少し間を置くと思っていたが…」

「返事が遅くなって後悔するのは、もうイヤだから」

強い意志のこもった瞳で呟く。その間も、夜空の…いや、ダークネヴュラがあるであろう彼方を見据えていた。

そこにいる紫苑を見据えて…。

「チャンスは、ヴァルゴがダークネヴュラを開くときだ。レオスイッチがこちらにある今、確実にヴァルゴは焦っている」

確かに、機会があるとしたらそこしかない。

 

美咲は、顎に手を当ててうなっていた。

「レオスイッチさえ揃えば、全て上手く行くのだが…」

実は、ラビットハッチにはコズミックエナジーの結界が張り巡らされており、ヴァルゴが瞬間移動で出向く事ができないのだ。

「ならば、あちらが出向くようにするか…」

スイッチを押して、ヴァルゴに変化する。

「来なさい、宇月。もうすぐ、私の計画も全て完了する。終わったなら…親子として、もう一度…」

サジタリウスの頬を撫でるヴァルゴ。当の本人は全く反応しなかったが、それはヴァルゴである美咲にとっての。愛情表現なのだ。

そのなかにある宇月がどんな気持ちなのか、どんな表情なのか…それは誰にも分からない。

 

レオスイッチは、コズミックエナジー変換装置に取り付けられている。

変換に必要なエネルギーは、SOLUであるゆりこが担う。

「もう少し…!」

これは、やはり彼女にとって体力を使うモノであるらしく、息が荒くなってきている。

しばらくして、レオスイッチが青白く輝き、色が赤から青へと変化した。

「これで…もう大丈夫…ふぅ…」

ゆりこは椅子に座る。かなり体力が減ったようだ。

「ゆりこさん、おつかれさまです」

セシリアが彼女に毛布をかけた。

そのとき、ナゲジャロイカが警報を鳴らす。

「これは…!」

音を聞きつけたセシリアがスイッチカバンを開いて、確認を行なうと、近くに強力な負のコズミックエナジー反応が2つあった。

おそらく、ヴァルゴとサジタリウス。

おびき寄せるつもりなのだろう。

一夏がメテオドライバーを持って立ち上がる。

「行くか…宇月と紫苑を取り戻す」

全員で右手を重ねる。

「…仮面ライダ-部!!!」

 

『おおおおおおおおおおぉっ!!!!!』

 

そのころ、病院では…。

「だめですよ!安静にしてないと!」

山田に止められているのは、重症だった礼。

だが、彼女を押しのけてベッドから這い出る。

「もう平気です。おれより、あいつらの心配を…!」

「まだ怪我は治ってないんですよ!?」

何とか押さえつけようとするが…。

「離してくださいっ!!!」

「きゃっ!?」

強く言い放った礼は、山田を突き飛ばした。

「あいつらは…あいつらは、無条件でおれのことを仲間だって言ってくれた奴らなんです!!!宇月だって…おれの最初の親友です!!!…失いたくないんです!!!」

その目からは、涙が浮かべていた。

「辻永君…」

それをみた山田には、もう彼を止める事は出来ない。

壁に寄りかかりながら病室を出て行く姿を見送るしかなかった。

暫くして、千冬がやってきた。

「…わたし、教師失格ですね…。大切な生徒が怪我をしているのに…止められませんでした…」

「…安心しろ、真耶。おまえほど出来た教師は、見たことがない」

2人はただ、彼等の無事を祈るのみだ…。

 

マッシグラーに乗った一夏とゆりこ。背後からはISを装備した箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ。さらにパワーダイザーに乗った本音。

一同で、負のコズミックエナジーの発信源へ向かった。

「…待っていたよ」

そこには、ヴァルゴ・ゾディアーツが待ち構えていた。すぐ横にはサジタリウス・ゾディアーツも控えている。

「レオスイッチを渡してもらおう。SOLUや紅椿がそちらにあろうとも、勝ち目はないことは分かりきっているだろう?」

「どうかな?やってみなければ、わからない!」

箒がヴァルゴの言葉を否定して雨月と空裂を構え、戦闘隊形へと移る。他の者達も同じだ。

<METEOR-READY?>

「「変身っ!」」

一夏とゆりこはそれぞれ、メテオとなでしこへと変身し、バイクのエンジンを轟かせる。

「…やれ、サジタリウス」

「オオォォォォォ!!!」

ヴァルゴの指示と共に、サジタリウスはクロークを脱ぎ捨てて走り始めた。

「シャルロットは、これを持ってて!」

「…うん!」

ゆりこから、青くなったレオスイッチを手渡される。

そして、サジタリウスに全員で迎え撃った。

「はあああああああぁっ!」

セシリアのスターライトmkⅢが、サジタリウスに向けた放たれる。

「ムンッ!!」

ドガアアアアァッ!!

しかし、片腕一つで簡単に弾かれる。効き目はない。

<ROCKET-ON><JUPITUR-READY?><OK-JUPITUR>

「なでしこ・ロケットパァァァァァァァンチ!!」

「たああああぁっ!!」

ドガアアアアアアアァッ!!!

メテオのジュピターハンマーと、なでしこのロケットが続けざまにサジタリウスを殴りつける。

「アアァァァァァァァ…!!!」

やはり、効かない。二人の腕をつかみ、高く持ち上げる。

「う、宇月…!」「ゆりこだよ…わからないの…!?」

彼等の言葉も届かない。

「オオォッ!!!」

「うわああぁっ!」「きゃああああぁっ!」

力いっぱい投げ飛ばされ、地面を転がる2人のライダー。

同時に、シャルロット、鈴音、ラウラが攻撃を仕掛ける。

「いい加減、目を覚ましなさいっ!」「はああああああぁっ!」「宇月っ!」

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!

だがISが3機では、どうにもならない。サジタリウスは無反応だった。

「ならば、これはどうだ!?」

次に箒が紅椿で、サジタリウスを翻弄する。

「ムウゥッ…!?」

これにはコズミックエナジーの浄化作用がある。そのことに気付いたサジタリウスは、流石に翻弄するスラスターに警戒心を見せる。

「今だっ!!!」

一瞬の隙を見計らい、雨月と空裂でサジタリウスの懐に切りかかった。

ズバアアアアアァッ!!!

直撃だ。

「…残念だが、サジタリウスはホロスコープスの中心。紅椿では浄化できない」

それを見ていたヴァルゴが小さく呟く。

言葉の通り、サジタリウスには全くと言っていいほど効き目がなかった。

「オオォォォォォ…!!!」

ギルガメッシュを構え、光の矢を創りだす。その狙いは箒だった。

「ムンッ!!!」

「箒っ!」

バシュッ!!

「ああぁっ!」

ドガアアアアアアアアアアアアアァッ!

とっさにシャルロットが彼女を庇い、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの一部分を大きく欠損した。

この矢には、ISのシールドエネルギーを一瞬で貫く力がある。つまり、ここでは絶対防御は存在しないのだ。

倒れたシャルロットの手からレオスイッチが取り落とされる。

「返してもらおう」

ゆっくりとした動作で、そのスイッチを拾い上げる。

「さぁ…儀式の開始だ!」

大きく宣言すると共に、巨大なダークネヴュラを開く。至るところから稲光が起こり、危機感を募らせている。

「…?」

しかし、ヴァルゴは異変に気付く。

その瞬間、レオスイッチは液状化した。

「これは…!?」

「引っかかったね…!」

その液体は、なでしこの手に吸収された。

 

そう、シャルロットが持っていたレオスイッチは、SOLUであるゆりこの一部。

 

囮作戦だったのだ。

「ならば、本物のレオスイッチは…!?」

ふと見ると、シャルロットが居ない事に気づいた。

そう、本物のレオスイッチも彼女が持っていた。そして向かう先は…ダークネヴュラ。

「サジタリウス、止めさせろ!!!!!」

焦りを感じたヴァルゴは、サジタリウスに指示を送り、自身もエネルギー波を放つ。

ドシュッ!!!ドォッ!!!

しかし、シャルロットはそれらを必死に避け続ける。

青いレオスイッチを握り締め…。

「紫苑!!!」

ダークネヴュラに呼びかけた。

ゴオオオオオオオォ…!

「君の居場所は…ここにある!!!!ボクだけじゃない!みんなが君の居場所になってくれる!!!!」

「ヌオオオオオオオオォ!」

サジタリウスはその間もギルガメッシュを展開している。

「今…ボク達は君が必要なの!!!だからお願い…!」

 

「戻ってきてええええええええええええぇっ!!!!!」

 

願いを込め、ダークネヴュラにレオスイッチを投げた。

それは青白く輝きながら吸い込まれていく…。

そのとき…。

「オオオオオォッ!!!!」

バシュッ!!!ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!

「きゃあああああああああぁっ!!!」

サジタリウスの矢がシャルロットの肩を貫いた。

激痛による集中力の低下で、ISの操縦が乱れ、地面に叩きつけられる。

「シャルロット!?」

それを見た全員が、彼女の元へと急ごうとするが…。

「そうは行かんぞ!!!」

ヴァルゴによって、阻止される。

「くそぉっ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」

必死に彼女に抵抗するも、空間を操るヴァルゴを退ける事などできない。

「う…うぅ…」

その間にも、肩を庇いつつ苦しんでいるシャルロットに向かって、サジタリウスがギルガメッシュを構える。

トドメを刺すつもりだ。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

そして…。

バシュッ!!!

放たれた。

 

 

 

ガシッ…!

 

 

 

しかし、その矢はシャルロットを射抜くことはなかった。

「う…ん…」

目をゆっくり開けたとき…そこに居たのは…。

 

 

 

「シャル」

 

 

 

青白く輝くレオ・ゾディアーツが居た。

 

 

 

その声は以前のような低い男の声ではなく、紫苑の声そのものだ。

彼がシャルロットを抱え、サジタリウスの攻撃から守ったのだ。

「レオ…!」「紫苑だ…!」「やったあああぁ!」

作戦の成功と仲間の帰還に、全員が歓喜する。

「馬鹿な…こんな事があるはずは!?」

唯一、ヴァルゴはその情景に驚きを隠せないでいた。

「あぁ…紫苑!」

大切な人が戻ってきてくれた事で、感極まったシャルロットは痛みも忘れ、ただ涙を流した。

「…ウオオオオオオオオオォッ!!!!」

レオはシャルロットを地面に下ろし、咆哮でサジタリウスに応戦する。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ヌアアアアアアアァッ!?」

流石に強力な攻撃であったため、サジタリウスは地面を転がる。

強力な攻撃力を有しているサジタリウスだが、耐久力に関しては一貫してレオがトップクラスだ。さらに自分と同等レベルの攻撃には耐えられないことがサジタリウスの弱点である。

彼に単体で対抗できるのはレオだけなのだ。

「箒さん、セシリアさん、鈴音さん、ラウラさん、本音さん!」

仲間と認めた者達の名を呼び、戦いの協力を頼む。

もちろん、全員が頷いた。

そこに、メテオスターに乗った礼も現れた。

「おれも戦うぞ!!!」

バイクから飛び降り、膝をついていたメテオのドライバーを引き剥がす。

その途端、メテオは一夏の姿に戻った。

「おい、礼!?」

「おまえは…あいつの代わりに、コレを使ってくれ」

そう言って礼から渡されたのは、フォーゼドライバーだった。

「宇月の代わりが務まるとしたら…おまえ位だ」

「…あぁ、分かった!」

頷いて、フォーゼドライバーを装着する一夏。礼もそれに続いた。

<METEOR-READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

礼はいつものようにメテオへと変身し…

 

 

 

一夏は仮面ライダーフォーゼBSへと変身した。

 

 

 

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

同時にメテオSへとステイツチェンジし、走り始める。

「オオオォォォ…アタアアアアアアアアァッ!!」「うおおおおおおぉっ!!」

そして、レオの隣にシャルロットが立つ。

「シャル、みんな!いくよ!」

「うん!」

全員でサジタリウスに向かって走る。

「オオオォォォォォォ!!!!」

ドオオオオオオオオオオオォッ!!!!

怒り狂ったように咆えながら、サジタリウスは数多の矢を放っていく

しかし、それを避け、一気に距離を縮めた。

「ヌゥッ!?」

<ROCKET-ON>

フォーゼBSとなでしこは、ロケットで同時攻撃を図る。

「「ダブルロケットパァァァァァァンチ!!!!!」」

ドガアアアアアアアアァッ!!

「ウオォ!?」

数歩後ずさりするサジタリウス。そこにメテオSとラウラが畳み掛ける。

<LIMIT-BREAKE LIMIT-BREAKE><OK>

「アタタタタタタタタタタタタタタァッ!!!!!」

ガガガガガガガガガガガガァッ!!!

黄色い光と青い光を纏ったメテオSの拳が何度もサジタリウスの体を打ち付ける。

「ウアァッ!!」

怯んだところをラウラのレールカノンで攻撃を仕掛けた。

「喰らえっ!」

ドオオオオオオォッ!

「ヌゥアァ!?…イィアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」

そのまま攻撃を受け続けてサジタリウスも黙っているわけではない。上空に矢を放ち、万に値するほどの矢を彼等に向ける。

「させませんわ!!」「やあああああああああぁっ!!」「ウオオオオオオオオオォッ!!!!!」

そこへセシリアとパワーダイザーが前に立ち、ブルーティアーズやミサイルで矢をいなして行く。彼女達の手で足りない矢は、レオとシャルロットが破壊した。

鈴音とゆりこが、双天牙月とロケットを構え、彼女達が創り上げた道を通り、サジタリウスを攻撃する。

「「はあああああああああああああああぁっ!!!」」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

「グゥッ!?」

確実にダメージを負い続け、サジタリウスの動きも鈍ってきた。

「何故だ!?何故、君達は…!?」

ヴァルゴが声を荒げる。

「簡単なことだ!!!!!」

<DLILL-ON>

フォーゼBSが答えながら、ドリルモジュールを装備する。

メテオSはメテオストームスイッチをシャフトに装填し、エネルギーを蓄える。

<LIMIT-BREAKE>

「宇月は仲間で友達…そして、その仲間の手で、学園や他の仲間を傷つける事なんか、絶対にさせない!!!!」

「僕も…そう思った!!!!!」

フォーゼBSの言葉にレオも続ける。

<ROCKET DLILL LIMIT-BREAKE><OK>

「メテオストームパニッシャァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「ハアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「ライダーロケットドリルキック!!!たあああああああああああああああぁっ!!!!!」

ストームトッパーが唸りをあげ、レオが作った咆哮のエネルギーを吸収しながらサジタリウスに向かう。

その中でフォーゼBSがリミットブレイクを発動しながら向かう。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!!

「ウオオオオオオォ!?」

必死に耐え抜こうと抵抗するサジタリウス。

フォーゼBSは一旦離れ、スーツの上から白式を装備し、メテオSはコズミックスイッチを装填する。

「零落白夜!!」

<COSMIC-ON READY?>

天球技を回すとフォーゼBSと隣にいたレオ、シャルロットに青白い光が降り注ぐ。

「戻って来い、宇月ぃっ!!!!!」

コズミックスイッチにあるエネルギーを一気に開放し、そこにメテオS、フォーゼBS、レオ、シャルロットと一夏のISのエネルギーを上乗せした攻撃だ。

『はあああああああああああああああぁっ!!!!!!!!』

全員でサジタリウスに追加攻撃を放つ。

ドガアアアアアアアァッ!!!!!

「ヌウウウゥゥゥゥゥ!!!!!」

なおもサジタリウスは耐えようとするが…体に亀裂が走る…。

そして…。

ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!??」

その攻撃がサジタリウスの体を貫いた。

サジタリウススイッチが現れ、地面に落ちる。

 

 

 

その瞬間、サジタリウスの体は宇月に戻り、意識を失って地面に倒れた。

 

 

 

「「ヴァルゴ、貴女の野望は…絶対に果たさせないっ!!!!!」」

誰よりも大きな声で、レオとシャルロットがそう宣言した。

そして力の限界が訪れたのか、レオは紫苑の姿に戻り、レオスイッチを取り落とした。

「まさか…絆の力が…ここまでとは…!?」

恐れおののいているヴァルゴ。彼等のつながりの強さが、ここまで計画に支障を来たすのは想定外だった。

だが…。

「しかし…十二使徒のスイッチは揃った。その事実は変わらない」

サジタリウススイッチとレオスイッチを手にし、姿を消した。

目的はまだ終わったわけではないのだ。

 

ゆりこに抱き上げられた宇月。

「いっつ…」

眉を歪めながら、目を覚ました。

「宇月っ!!」

彼の意識が戻った事を確認すると、ゆりこは宇月の名前を呼ぶ。

「あ…あれ…ゆりこ…?」

「おかえり…。あと、ただいま…!」

涙を流して微笑んでみせる。

背後に元に戻った紫苑や、変身を解除した一夏と礼など、いつもの仲間達が揃っていた。

「そっか…間に合ったのか…」

「もう…!」

自分の中でのサジタリウスに抵抗する戦いが勝ったと思い、ニッと笑う宇月。

もう一度笑顔を見せたゆりこは、彼の体を強く抱きしめた。

その様子を微笑ましく見つめていた一同。その彼等からも、少しだけ離れて立っている紫苑。

安心したように笑い、踵を返して歩いていく。

シャルロットがそれに気付いた。

「紫苑!」

呼び止められ、紫苑は立ち止まった。

「どこに行くの…?」

「僕は、もう一人じゃないって分かったんだ。だから、もう大丈夫」

彼の後ろにはダークネヴュラが広がっていた。

その力により、紫苑の体は少しずつ飲み込まれようとしている。

「嫌だ!まって!」

シャルロットが彼の手を握る。

「今のボクらには、君が必要って、言ったよね?」

「ありがとう、そういう風に言ってくれて。でも、僕は…」

そう言って見せた右腕。

 

母親のものではなくなっていた。

 

代わりに青白い腕になっている。

「お母さんの体が破壊されて、残りの僕の身体の半分は、コズミックエナジーで複製されたんだ。だから、みんなと一緒に居る事はできない」

彼の身体は一度、暴走によって破壊された。それを再生したのがコズミックエナジー。

つまり、彼の体に定期的にコズミックエナジーを供給しなければならない。

レオスイッチが手元にない今、それが出来るのはダークネヴュラの中のみということなのだ。

「そんな…元に戻れたのに…!」

紫苑を抱きしめて、その事実に嘆くシャルロット。

だが、紫苑は違った。

「もう良いんだ。もう…大丈夫だから」

いつものように、喜びながらもどこか陰のある笑みではなかった。

母を失って以降、一度もつくることの無かった「心からの満面の笑み」だった。

 

「ありがとう」

 

ドンッ!

「紫苑っ!?」

そう言って、紫苑はシャルロットを突き飛ばし、ダークネヴュラの中に飲み込まれていった。

彼を飲み込んだ途端、ダークネヴュラは一瞬で消える。

膝をついて座り込んだシャルロット。

 

 

 

戦いの末に荒れ果てた大地で、彼女の泣きじゃくる声だけがいつまでも響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

続く。

 

 

 

 

 

次回!

 

                      残りは乙女座のヴァルゴだけか…。

 

母さんとの決着は…おれが着けないといけない。

 

                      もう整っているのだ。

 

人々よ、今こそ目を見開き、考えてもらいたい。

 

                      我々の真の敵が…一体、何であるのかを!

 

 

 

 

第35話「乙・女・宣・言」

 

 

青春スイッチ・オン!




キャスト

織斑一夏=仮面ライダーフォーゼ/仮面ライダーメテオ

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑=レオ・ゾディアーツ

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

裾迫理雄
尾坂夏樹

織斑千冬
山田真耶

城茂宇月=サジタリウス・ゾディアーツ

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ


如何でしたか?
ようやく、レオの決着がつきました…。
紫苑の末路をどうするか、最後の最後まで悩みましたが…結局、仲間に戻ると言う道は絶ちました。彼はゾディアーツとして長過ぎました。
そして一夏、今回のみフォーゼにも変身です!メイン装着者ではないのに、フォーゼとメテオの両方を使った事のある、唯一のキャラです。
ゆりこ=なでしこも帰還です。これから、主戦力の一人になります!
次回はヴァルゴとの決戦です。ただ、敵はヴァルゴだけではありません。
お楽しみに!


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母そして人…仮面ライダー部VSヴァルゴ
第35話「乙・女・宣・言」


紫苑がダークネヴュラの彼方に消えて数日が過ぎた。

アレからシャルロットは暫く落ち込んでいたが、紫苑の最後を思い出し、何とか立ち直る事ができた。

そして…。

ラビットハッチで会議が行われた。

「とうとう、残るホロスコープスは乙女座のヴァルゴだけになったな…」

最後の強敵は、宇月の母である城茂美咲…乙女座の使徒、ヴァルゴ・ゾディアーツ。

宇月にとっては、本当に強敵だ。

何しろ、実の母であり、唯一の肉親。本当ならば争いたくはない。そして美咲もそう思っている。

争うべきではないのに、争わなければならない。

「でも母さんとの決着は…おれが着けないといけないんだよな」

フォーゼドライバーとコズミックスイッチを見つめながら呟く宇月。

結局のところ、ゾディアーツは自分の家族が放ったものであり、家族の自分がケリをつけなければならないのは当然のことなのだろう。

そのとき…

「みなさん!ナゲジャロイカが!」

セシリアの声に振り向くと、ナゲジャロイカが負のコズミックエナジーを感じ取ったために警報を鳴らしている。

「来たか…」

噂をすればだ。遂にヴァルゴが動き出す。逆を言えばこの数日の間、全く大きな動きを見せなかったのが意外だ。

「よし…みんなで」

「ちょっとまった」

一夏が立ち上がり、出発の準備を始めようとすると宇月が止める。

「…おれだけで行きたい」

「気持ちは分かるが、相手はヴァルゴ・ゾディアーツだ。コズミックステイツがあるとは言え、フォーゼ一人では不安だろう?」

箒が宇月の要求に対して異議を唱える。

「…なんか、話し合いで決着が着けられる気がするんだ」

宇月の言葉に近くで聞いていた礼や千冬も、なんとなく納得が行くような気がした。

彼女は一時期でも、フォーゼに有利なものを作った。

ヴァルゴだと正体を明かしたなら、早々にそれを破壊すればよかったのに、それを行なわなかった。

もし、その理由が母親としての心によるものだとしたら…。

「…宇月、ナゲストを近くにつけさせてもらう。これだけは譲れん」

ガシャッ…!

「礼…」

彼の要求をのめる限界を言い、礼はメテオドライバーを床に落とす。

戦いに参加する意志を見せないという意味なのだろう。

残りの者達も不安そうではあるが、まっすぐ宇月を見つめている。

彼を信じているのだ。

「…ありがとう!」

頭を下げて礼を言い、ラビットハッチを出て行った。

 

学園から少し離れた場所に、美咲はいた。

振り返った表情は、やつれている事も手伝って、少し疲れているようにも見えた。

「来たね。…監視つきで一人か」

「母さん…話がしたい」

「それは私も同じ事だ」

美咲は白衣のポケットから手を出して、ゆっくりと宇月に近付く。

その手には何もない。…ヴァルゴスイッチさえも。

正直なところを言うと、少し警戒していた。

だが、それを見て大丈夫だと判断した。

「母さん。本当にホロスコープスの首領として、目的を果たさなきゃならないのかよ?」

「…そうだね」

「今なら、やめることは出来る」

「残念だが、やめるつもりはない」

諦める事はないようだ。話し合いでの決着は無理だ。

「なら、戦うしかないのか…?」

「宇月が私を止めると言うのならば、そういうことになるね」

独り言のような返事をした美咲の表情は曇っていた。

「母さん…なんで、自分の目的のために動いているのに悲しそうなんだよ?」

「私が…悲しそう…?」

自身でも自覚がなかったようだ。宇月の言葉に驚くような様子を見せる。

「母さんの目的って…本当に母さんの望んでる事なのかよ!?」

訴えかけた。彼女の良心がまだ残っていると信じて…。

「…一番の望みはそれだ。だが、枷が多い」

しかし、美咲の返事は冷たいものだった。

「ゾディアーツを生む事によって、様々な人間の人生を狂わせた。…特に紫苑君には懺悔するだけでは足りないだろう。だが犠牲を払ってでも、目的を果たしたい。そのための犠牲に対する良心の呵責が…私にとっての大きな「枷」だ」

彼女には確かに良心がある。だが、それこそが、美咲にとって邪魔なモノなのだ。

「母さんの目的って…なんだよ?」

 

 

 

 

 

「世界に知らしめるのだ。ゾディアーツを」

 

 

 

 

 

目的を聞いて、宇月は唖然とした。

「いろんな人の犠牲を払って…悩んで…それ以上に望むモノが、そんな事なのかよ…?」

「仕方ないさ。ゾディアーツは私が開発した、人間を超進化させるための力。科学者を両親に持つ宇月なら分かるだろう…」

たしかに、科学者にはこういった感情がある。

 

自分の研究成果を、世間に認めさせたい。

 

殆どの科学者に、そういった願望はあるのだろう。

「夫はコズミックエナジーの第一人者。常に私を上回った研究成果を上げていた。残念ながら人間は、自分の力を認めさせるためには、とことん貪欲になるモノなのだよ」

幻滅した。あれだけ慕ってきた母は、そんな身勝手な理由で動いていたのだ。

「これだけ悲しそうにしていた母さんだったから…もしかしたら、仕方ない理由で動いていたと思ってた。だから、話し合いで分かり合えると信じていた」

拳を握って俯く宇月。

「でも、母さんは違った!!!!もう…あんたを母さんとは思わない!!!」

フォーゼドライバーを取り出して装着し、コズミックスイッチを装填する。

<COSMIC><3><2><1>

「変身っ!」

<COSMIC-ON>

宇月の体を青白い光が纏い、フォーゼCSへと変身させた。

それをみた美咲はポケットからヴァルゴスイッチを取り出して押し、彼女の体を赤黒い闇がまとう。

その身体はみるみる、ヴァルゴへと変化していった。

「残念だよ…こういうことになるのは…」

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!」

ヴァルゴの呟きを無視して、バリズンソードを振りかざして走るフォーゼCS。

「…フンッ!!!」

ドオォッ!!!

ロディアを地面に叩きつけると、凄まじい数の光弾が生み出され、フォーゼCSに向かっていく。

「…おおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」

ガギィッ!!!ドガアアアァッ!!!

バリズンソードや自身に張り巡らされたコズミックエナジーの結界で、なんとか攻撃をやり過ごしながらヴァルゴに近付く。

「うおあああああああああああぁっ!!!」

ブンッ!!

一心不乱にバリズンソードを振り回すが、それらは全て避けられる。

「フッ…!!」

ドガアアアアアアァッ!!!

「ぐああああああぁっ!?」

突如、至近距離でロディアを翳され、エネルギー波を浴びた。

やはり、ヴァルゴは強い。フォーゼCSのみでは勝ち目がない。

「もう君達では、私を止める事は出来ない。その目で、しかと見届けるのだ」

ヴァルゴはそう言い捨て、ロディアを地面に叩きつけて姿を消す。

「ヴァルゴ…!!」

宇月は、もはや美咲を母の名で呼ぼうとはしない。彼の中での美咲は…ヴァルゴ・ゾディアーツと認識されたのだ。

 

ヴァルゴは自分のアジトへと戻ってきた。

目の前には11個のホロスコープススイッチが配置されている。

「…もう少し待つか」

小さな声で呟き、美咲の姿に戻った。

 

再び、ラビットハッチに宇月は戻ってくる。

ナゲストの映像を見たので、全員は何が起こったのかを把握している。

「…宇月の母さんは…」

「あんなの、もう母さんでも何でもない…。ただのゾディアーツだ…!!!」

一夏の言葉を否定する宇月の表情は、怒り心頭だった。

拳を強く握り、顔を真っ赤にさせている。

「悲しいよ…親子なのに…」

シャルロットは俯いて呟く。

彼女は紫苑と勇士の争いを見てきた。

親子であるのに、和解することは出来ず、互いに憎んでいた親子。結局、彼等は直接和解しているとは言えない。紫苑は勇士を赦しているだろうが、勇士自身は面会を拒絶しているため、未だ心境が窺えない。

「だから言っただろシャルロット、あんなのは親じゃない」

再び、彼女の言葉を否定する宇月。

「でも…それでも、宇月さんがなんと仰ろうとも、宇月さんのお母様だったことを変えることは出来ませんわ」

「…」

セシリアの言葉には、宇月は何も言い返せなかった。

今の母を否定したとしても、彼女が宇月を生み、そして育てた事実は変わらないのだ。今になっては、それが悔しい。

だから、先ほどから作っている表情を変えることはしない。

実際、宇月に異論を唱える者達も、家族だからと言う理由で彼の意見を否定しているのだが、それを否定させたところで、何の解決策も思いついていないのが現状だ。

「結局、本当にヴァルゴの言うとおり、黙ってみているだけしか出来ないのかもな」

呆れたような言葉で礼が言う。

「そんなことはっ!」

宇月がそれは違うと立ち上がろうとするが、続けざまに礼が呟く。

「だったらなんで、ぐずぐずしてるんだ?もう、敵はヴァルゴだけだというんだ。それがおまえの母親だった者であっただけなんだろ。なら、すぐに全員でケリを着けに行くんだ」

本当のところを言うと、礼も踏ん切りがついたわけではない。

だが、誰かがこうでも言わなければ、ずっとくすぶり続けてしまうと思っていた。

「宇月、辛いかもしれないけど…受け入れて戦おうよ。宇月のお母さんだったって事実は…変えられない」

ゆりこが宇月の手を握って言う。

ふと、竜也とあゆの言っていた言葉を思い出した。

 

一番辛いのは、忘れてしまう事。だから、嫌な事でも、受け入れて前に進むべき。

 

「…仲間がいるもんな。独りぼっちじゃない」

宇月は、家族を失った。だが、それ以上のものをこの戦いや学園生活の中で手にした。

だから、受け入れられないことなどない。

「ヴァルゴを止める。この学園も、宇宙も地球も…守る!!!」

改めて宣言したそのとき…。

 

「おい!全員、来るんだ!!」

 

「織斑先生に山田先生…?」

焦っている千冬と山田がいる。

彼女たちに連れられるまま、宇月達はラビットハッチから出て行った。

 

連れられた先には、ISのアリーナを中継したりする際に使われる大きなモニター

だった。

その画面いっぱいに、ヴァルゴ・ゾディアーツが写っている。

「ヴァルゴ…!?なんで、急に…?」

「分からん。ずっと沈黙を保ったままだ」

彼女のたくらみは分からず、ただ映像を見つめる。

ふと、ヴァルゴが喋り始めた。

 

『親愛なる、地球の人間達よ。私は、人類に宇宙へ向かうための進化を促す存在「ヴァルゴ・ゾディアーツ」だ』

 

その言葉に不安を感じ、千冬は山田に指示をした。

「真耶、テレビの映像を映せるか?」

「はい、やってみます」

コンソールを指で叩くも、変化はない。

「ダメです…。繋がりません…」

「いや、違う」

千冬は確信した。

テレビのチャンネル全てが、ヴァルゴにジャックされている。

それは、全世界に広がっていた。

『一概に進化といっても、理解できない者も多いだろう。私の言う進化とは、人間が人間の域を超越した存在になること』

上に手を挙げ、拳を握りながら力説するヴァルゴ。

『革新や進化には…常に痛みを伴う。今回も例外ではない。進化を促され…犠牲になる人間もいる。私もこの進化の過程で…家族を失った』

様々な場所で映し出されるヴァルゴの演説。

世界中の誰しもが、驚いたり恐れたり…中には熱心に見つめる者もいる。

『しかし私は抗うことなく、あくまでも流れに身を任せるつもりでいる』

日本で、その映像を見つめる人々の中に…。

 

少し風変わりなスーツを着た青年がいた。

 

腕を組んで、少し冷や汗を流す。

「やべぇな…」

そう呟き、人込みの中に消えていった。

 

『人間よ…今こそ目を見開き、考えてもらいたい』

ふと、ヴァルゴの様子が変わる。淡々とだが力説している様子から一転、力強く言葉を紡ぐようになる。

『我々の真の敵は…一体、何であるのかを!!』

強く言い放ち、ロディアを叩きつける。

そうすると、映像は複数のISが映し出されている映像だ。

それは、ゾディアーツと交戦する一夏達。傍らにはフォーゼやメテオもいる。

『進化を促すものを阻害するIS。しかも、このISによって世界のバランスは乱れている。今までの私の言葉を聞いて、私は狂人だとのたまう者もいるだろう。だが、それは本当に正しいのか、もう一度、心に問いかけてみては貰えないだろうか!?』

その映像を見ていた一夏達がうろたえる。

「まさか…IS学園の襲撃が目的…!?」

この言葉から、ヴァルゴは全世界にISへの疑問を投げかけている。

それに乗じた者達はおそらく少なくないだろう。特に男性はそうだ。

そうなれば、考えられる事は一つ。

 

 

 

ゾディアーツを肯定し、且つISに不満を持つ者の過激派が、IS学園に襲撃を始める。

 

 

 

「回りくどい手ね…!」

いやみったらしそうに呟く鈴音。

その間も、ヴァルゴの演説は続く。

『ISに犠牲になった者達も少なくはないだろう。死んでいった者達の心の中に、燻っている者たちの心の中に、もう一度、本当の理想を描こう!!!』

 

 

 

『その理想が達成されてこそ、真の意味で人類は進化するのだ!!!!!』

 

 

 

「…まずいことになったな」

千冬は額に汗を一筋流す。

「このままじゃ…IS学園は、全世界のIS否定の過激派と戦争になる」

全員が絶句した。

それは、人間と戦うことになる。

「どうしよう…!?」

本音は慌て始める。彼女もこの危機を感じ、怯えに近い感情を抱き始めたのかもしれない。

「生徒の安全は、絶対に守らねばならん。だが…」

千冬や山田も人間と本気で戦うのは気が進まない。

バンッ!!!

不意に、テーブルを強く叩く音がして全員が振り返ると、凄まじい形相の宇月がいた。

「ヴァルゴ…どうして…!!!」

先ほど、仲間に説得されたばかりだと言うのに、心から溢れ出る怒りを抑えることができない。

仲間を傷つけるのが母親なのだ。

そんな者の息子だと思うと、悔しさと怒りが募る。

「落ち着くんだ、宇月。気持ちは分かるが…」

箒に諭され、少しだけ我にかえる宇月。

「悪い…。もう少し、頭を冷やさねぇとな…」

とは言え、母に対する怒りが収まったわけではない。どうにかして、ヴァルゴを止めない事には不毛な戦いが繰り広げられてしまう。

「…大変です!早速、襲撃が始まりました!!」

山田が慌ててモニターを表示すると、様々な戦闘機や兵器を積んだ車が、IS学園に向かってきている。

「お出ましか…。止むを得ん、学園内のISの操縦が出来る教師、代表候補生達で、なんとか迎え撃つ」

「人間と争うつもりですか!!!?」

礼が声を荒げる。

彼は人間の争いを絶対に許したくない。避けられないのかもしれないが、それでも千冬の判断を真っ向から否定する。

「間違ってます…絶対に!!!」

「辻永、おまえの気持ちは良く分かるが…このままでは、学園の生徒を危険に晒してしまうんだ」

もちろん、千冬も苦渋の決断を下した。

礼は俯き…。

 

「ならば、おれがその役を引き受ける…!!」

 

<METEOR-READY?>

「礼!!」

ラウラが驚いて彼の名前を呼ぶが、礼は動きを止めない。

「変身っ!」

メテオに変身し、青い発光体となって学園から出て行った。

「おれ達も追うぞ!!」

一夏の言葉で、仮面ライダー部のメンバーはいっせいに飛び出す。

 

ドガアアアアアアアアアァンッ!!!

メテオは戦車が向かっている目の前に現れた。

「速やかに離れよ!!」

戦車から避難命令が聞こえるが…。

「IS学園に…手は出させない!!!」

いつもの構えを取り、命令には従わない。

「…撃て!!!」

「オオオォォォォ…アタアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

今のメテオが一番望んでいなかったモノは…大切な者たちが人間同士と争う事。

だからこそ、彼がその役を引き受けたのだ。

例え心が引き裂かれそうになったとしても、望まない争いだったとしても…。

 

 

 

そして…。

 

 

 

メテオの善戦により、過激派の大半は撤退を余儀なくされた。

残りの過激派は、千冬や山田等の教師、さらに楯無が戦うことによって強制的に撤退させた。

ここまでをやってのけたのに、人間を誰一人として殺さなかった。

代わりに…。

「…」

メテオは自分の心を殺しかけた。

人間と何度も戦い、傷つけ、傷つけられた。

彼は戦いの中で、心をズタボロにされた。

変身を解除せず、スーツは傷だらけの状態で壁に背中を預けて座り込んでいる。

「礼っ!!」

ラウラが走り寄り、メテオドライバーを引き剥がして変身を解除させた。

「礼、しっかりしろ!!」

「…生きてるよ…」

スーツが消えて見えてきた表情は、礼とは思えないほど淀んだものになっていた。

「何故、あんな無茶を…!!」

「…何故だったかな…」

虚ろな表情で、前を見ている。

すぐ横にはラウラがいるのだが、彼女に興味がないように目を合わせようとしない。

濁りきった意識の中で聞こえる声に、なんとか反応しているような状態だ。

後ろから宇月達も走ってくる。

礼の惨状を見て、誰もが閉口した。

それは、彼の傷の問題ではない。実際、スーツ越しであったために傷は多くない。

彼等が閉口した理由は、礼の様子だ。

「…あぁ…」

礼は自分の手を見て呻く。

 

スーツから染み渡ってきたのは、僅かだったが…他者の人間の血だ。

 

今まで、人間が進化したゾディアーツと戦ってきたときは何も苦しむ事はなかったのに、ゾディアーツではない人と戦うと、ここまで悲しくなるものなのか。

「…おれは…人を傷つけたか…」

「違う…違う!!!」

ラウラは、礼を強く抱きしめる。

「おまえは人を傷つけてなどいない。…守ったんだ。今までの仮面ライダーメテオとして、学園やわたし達を守ってきたように…!!」

その言葉を聞いて、少しだけ我に返り始めた。

「本当か…?おれは…アリエスの頃のような罪は…犯してないのか…?」

「大丈夫だ。わたしが保証する」

少しはなれて礼を見つめる。

その礼も、今度は間違いなくラウラを瞳の中に捉えていた。

「…よかった…おれは…間違ってなかった…。ありがとう…ラウラ…」

礼は、今まで抑えていた気持ちを遂に隠せなくなり、ラウラの頭をそっと寄せ、自分の唇に彼女の唇を触れさせた。

そのときの2人は、間違いなく幸せだったのだろう。

 

その日の夜。

礼は明日まで療養することになり、ラウラも付き添う事になった。

メテオという大きな戦力を失ったが、彼等はそれを止める事はしなかった。

「つっちー…よかったね」

嬉しそうに呟く本音。礼が初めて転校してきたときは、彼女が何かと礼に構っていた。

「のほほんさんは、行かなくていいの?」

ゆりこが聞くが、本音は首をゆっくりと左右に振る。

「ラウラちゃんがいるから大丈夫だよ、きっと…」

彼女が礼に抱いていた感情は何だったのか…何故、邪険にしていた礼にあれほど構っていたのか…それは彼女のみが知っているのだろう。

これからもずっと…。

 

「…IS学園を狙う人が増えてしまいましたね…」

学園側で、セキュリティや警護を強化したため、暫くは大丈夫だとは考えられるが、それもいつまで持つかは分からない。

「やっぱり、ヴァルゴを倒すしかないな…」

一夏はこの惨状を打開する唯一の手段を述べる。

「…もう迷ってる暇も燻ってる暇もない。すぐに行こう」

宇月はフォーゼドライバーを握り締め、立ち上がり、全員がそれに続く。

全員で気合を入れるようなことはしない。

いつもより、暗い雰囲気の中で戦地に向かった。

 

ヴァルゴは彼等を待ち構えていたように立っていた。

その横には11個のホロスコープススイッチが備えられてある。残った一つの空洞にはヴァルゴスイッチが装填されるのだろう。

「…また来たね」

「今度こそ…あんたを止める!!」

宇月とゆりこはドライバーをセットする。一夏達も待機状態のISに手を触れた。

<3><2><1>

「変身っ!」

フォーゼBSとなでしこに変身し、同時にそれぞれのISも展開された。

「決着をつけるぞ…ヴァルゴ!!!!!」

「来るが良い」

全員が、ヴァルゴに向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 

次回…

 

                              IS学園は敵が多い

 

どうした、宇月。君の怒りはその程度か!?

 

                              これで終わりだ…母さん

 

これも、ホロスコープスの運命か…

 

                              そこにあるモノは…。

 

 

 

 

第36話「最・終・決・戦」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

布仏本音
シャルロット・デュノア

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

織斑千冬
山田真耶

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ

風変わりなスーツの青年


如何だったでしょうか?
今回、またしてもメテオが離脱(汗)。次回で復帰しますが、これは平成ライダー特有の2号ライダーヘタレ化の兆しが…。
ヴァルゴの行動理念も明かされましたが、まぁ…科学者らしいというか…。
今回と次回は、少なめで行きます。その次が本番ですので。
お楽しみに!


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第36話「最・終・決・戦」

 

 

<ROCKET-ON><ROCKET-ON>

「うおおおりゃあああああああああああああぁっ!!!」

「なでしこ・ロケットパァァァァァァァァンチ!!!」

先陣を切ったのは2人の仮面ライダーだ。ヴァルゴに向かって、ロケットで突進する。

「フンッ!!!」

ドォッ!!!

しかし、ヴァルゴも並みのホロスコープスではない。彼等の攻撃など、容易に防ぎきる事が出来るのだ。

「くっ…!!」「うああぁ!!」

空間を圧縮されて、押し返されたフォーゼBSとなでしこ。その背後から、一夏と箒が向かってくる。

「これなら…!!」「たああああああああぁっ!!」

紅椿のコズミックエナジー浄化作用によって空間圧縮を切り裂き、その突破口を一夏が通ってヴァルゴに攻撃を仕掛けるが…。

「ハァッ!!!」

ガギィッ!

ロディアで防がれ、次はエネルギー波をぶつけられる。

ドガアアアアァッ!!

「うぅっ…!!」「くあああぁっ!!」

流石にこれを対処する事はできず、2人とも吹き飛ばされた。

「まだ諦めてはいないだろうね?」

挑発とも取れるヴァルゴの言葉。

セシリア、鈴音、シャルロットは唇を強く噛み、攻撃に移る。

「まだまだですわっ!!」「やああああああああああぁっ!!」「ぅああああああああぁっ!!」

スターライトmkⅢと龍砲とガルム、3人の遠距離攻撃がヴァルゴを狙うが…。

「セェアァッ!!」

ロディアを振るって小規模のブラックホールを作り出す。

「フンッ!!!」

そしてロディアを叩きつけ、先の攻撃を彼女達に返した。

ドガアアアアアアアァッ!

「「「きゃあああああああぁっ!!」」」

ヴァルゴにはあまり通じないとは言え、強力な攻撃に変わりはない。

彼女たちはそれに直撃してしまい、著しいダメージを負う。

「このぉっ!!」

<COSMIC-ON>

フォーゼCSにステイツチェンジし、バリズンソードを持って走り寄る。

「箒!もう一発、突破口を開いてくれ!!」「わかった!」

彼の言葉に応え、箒は再びヴァルゴに向かって突進する。

「…邪魔だ!!」

空間を圧縮するが、箒の紅椿はそれを切り裂く事ができる。

「はあぁっ!!!」

ザンッ!!!

その瞬間、フォーゼCSがバリズンソードにコズミックスイッチを装填しながら駆け抜ける。

「くっ…!!」

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァァァァァァ…超銀河・フィニィィィィィィィィィィィッシュ!!!!!」

今の彼等の中でもトップレベルに強力な攻撃だ。

ズバアアアアァッ!!!ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!

ヴァルゴはそれを正面からまともに受け、大爆発に飲み込まれる。

その余波は、フォーゼCS達にも向かうが…。

「みんな、固まれ!!」

フォーゼCSは全員を一箇所に集め、体から放出されるコズミックエナジーを結界化させて余波をやり過ごした。

しばらく様子を見ていたが、煙の所為でどうなったかが分からない。

しかし、程なくして…。

「そんなモノなのか…?」

ヴァルゴが煙の中からヌッと現れる。

ある程度はダメージを負っているものの、決定打には至らなかったようだ。

「宇月ィ…!私に対する怒りは…その程度のモノなのか!?」

ロディアをフォーゼCSに突きつけて問う。

ガシャッ…!

バリズンソードを地面に落とし、ゆっくりとヴァルゴに歩み寄るフォーゼCS。

そして、右手の拳を強く握り締め…。

「…ああああああぁっ!!!」

ドガアアアァッ!!!

「ウゥッ…!」

ヴァルゴの頬を思い切り殴る。

「らあああっ!!!だあああっ!!りゃああああぁっ!!」

ドガアアァッ!!バギイイィッ!!ドゴオオォッ!!

何度も何度もヴァルゴの顔を殴り続ける。

一夏達は何か狂気めいたものを感じ、止めに入ろうとするのだが…。

「…んでだよ…なんでだぁっ!!!」

その言葉を聞いた瞬間、彼の行動に狂気は秘められていないと感じた。

 

それは悲しみと感じ取れる。

 

「あんたの所為で、礼の心が傷つけられた!!!!あんたの所為で、人間と人間が戦った!!!!あんたの所為で、色んな人の人生が狂った!!!!」

胸倉をつかみ、訴えかけるように叫び続けるフォーゼCS。

「それに葛藤してんのに、目的が自分の研究成果のためかよ!?訳が分からねぇんだよっ!!!!」

息子であり、母は尊敬できた人間だったからだろう。

ヴァルゴである母の行動を全く理解できない。それを否定したい気持ちの表れなのかもしれない。

それを感じ、一夏達は黙ってそれを見ているしか出来なくなった。

ヴァルゴは無言で、それを受け続ける。

だが…。

「それで良い」

ポツリと呟く。

「なに…!?」

「それで良いんだ。ただ、私に怒りや悲しみを向ければ良い。それだけで良いんだ」

感情を込めずに、ただ言葉を紡ぐのみ。

今のヴァルゴの言葉は、そんな風に感じ取れる。そしてロディアを地面に叩きつけて、姿を消した。

 

戦う対象がいなくなり、ラビットハッチに戻ってきた一同。

待っていたのは本音、ラウラ、礼だった。

「大丈夫だった!?」

彼等の帰りに気付くや否や、本音は真っ先に近寄って安否を確認する。

「あ、あぁ…大丈夫」

傷は負っているが、深刻なものはない。彼等はいつものように椅子に座った。

礼は未だ、ラウラに介抱されている。

「すまないな、みんな。明日には絶対に戻る」

体を少し起こし、礼は疲れきった表情ながらも微笑んで見せた。

「…良かった」

「…無理はいけませんわ。でも…ありがたいです」

本音やセシリアはその言葉に少し安堵を見せた

「あのヴァルゴの言葉は一体…?」

あのとき、唐突に宇月に言い放った言葉。自分に怒りや悲しみをぶつけろと言った。

何を意図しての言葉なのかは全く分からない。

「…理雄と夏樹に聞いてみるか」

 

山田と千冬は、モニターで現在の過激派の動きを見ていた。

「IS学園には、敵が多すぎるな…」

「…そうですね。ゾディアーツやホロスコープスに、過激派の人達まで…」

今まで何とか切り抜けてきたが、二つもの勢力に追い詰められ、正直に言えば限界は近い。

この状況が続いてしまえば、学園は崩壊してしまうだろう。

「どうすれば良い…何も方法が見つからない…!」

無理に武力行使をして、人間を追い詰める事もできない。だが、このままでは過激派の攻撃は止む事はないし、ヴァルゴもどんな動きを見せるかがわからない。

完全に窮地に立たされている。

 

一夏と宇月は、理雄と夏樹のいる病室にやってきた。

「…ヴァルゴ様と交戦したようだな」「大丈夫なの…?」

2人は頷く事で安心させ、本題に入る。

「理雄、夏樹。ヴァルゴの目的って…ゾディアーツを知らしめることなのか?」

「ヴァルゴ様は、もっと偉大なことをなされていたはず。ゾディアーツで人間を進化させ、宇宙へ向かわせる事が目的だと…」

辻褄が合わない。時にはゾディアーツを世に知らしめると言ったり、人間を進化させると言ったり…。

もしかしたら、同時に進行させていることなのかもしれないが、状況によって言っている事が変わっている。

「…どういうことだ?それに、宇月は憎めって…」

再び、サジタリウスに迎え入れるのかもしれないと予測したが、もう12のスイッチは揃っている。わざわざ、フォーゼである彼を仲間にするとは思わないし、本人も出来ないと理解しているだろう。

その言葉の真意とは…。

そもそも、ヴァルゴは何を考えているのか…。

 

12個のホロスコープススイッチを見つめる美咲。

「まだ足りない…。全てはもう整っているというのに…」

彼女の願いには、何かが足りないようだ。

「もうすぐだというのに…そのために、今まで全てを投げ打ってきたというのに…」

急ぐ思いは苛立ちへと変わる。

数年間、彼女は人生の全てを犠牲にして、ある目的のためだけに戦い続けてきた。

その願いが果たされる日を、今か今かと待ち続けているのだ。

「早く…フォーゼのコズミックエナジーを…!!」

最後の鍵は…。

 

仮面ライダーフォーゼにある。

 

病院から出てきた一夏と宇月。

礼、ラウラ、シャルロットが外で待っていた。

「…結局、なにも分からなかった」

宇月は溜息をついて、結果を報告した。

「そうか…」

「どういうことなんだろうね…」

ラウラとシャルロットが沈んだ様子で呟いた。

 

「悩む必要はない。宇月は私を憎んでいれば良いのだ」

 

ふと聞こえる声。

振り返ると、美咲が立っていた。

「ヴァルゴ…!」

「宇月がサジタリウスであり続けたのならば、私を憎む必要はなかったのだがね。今となっては、このほうが良いんだ」

「なぜ、子を憎ませる…?」

ラウラが問うと、美咲はヴァルゴスイッチを押しながら答える。

「勇士君と紫苑君もそうだった…。子はいずれ、親を乗り越えなければならない。だから、憎んでくれたほうが手っ取り早いのだ」

「そんなのおかしいよ…」

ヴァルゴの言葉にシャルロットが異議を唱える。

「手っ取り早いって何なの!?家族なのに…憎むことが、何かの近道だというの!?」

「そうだ。君達には理解できないのだろう。だが、それが私にとっての…」

「あんたにとっての…近道ってか」

礼がメテオドライバーを装着しながら問う。

「残念だが、そういうことになるね」

ロディアを構え、ゆっくりと歩き始める。

「…もう話し合いは通じないな。宇月、いけるか?」

「そっちこそ」

<METEOR-READY?><3><2><1>

「「変身っ!」」

フォーゼBSとメテオに変身すると、構えを取ってヴァルゴに向かって走った。

「アタアアアアアアアアアァッ!!!」「うおおおおおおおおぉっ!!!」

無感情にそれを見つめていたヴァルゴ。

そして…。

「フンッ!!!」

自分もろとも、2人を別の場所まで空間転移で移動させた。

 

残されたシャルロットとラウラは、仮面ライダー部全員にこのことを伝え、ヴァルゴをスイッチカバンや紅椿で捜索し始めた。

ヴァルゴの持つ負のコズミックエナジーは強力であり、程なくしてすぐに反応をキャッチした。

「見つかった!」

紅椿がヴァルゴと二人の仮面ライダーの反応をキャッチした。

「宇月っ!」

<ROCKET-ON>

いち早く、ゆりこがなでしこに変身し、ロケットモジュールで先を急いだ。

 

一方のフォーゼBS達は…。

「「うわあああああああああああぁっ!!」」

攻撃を受け、地面を転がる。

やはりヴァルゴは強力であり、通常形態ではまるで歯が立たない。

「フン…」

「ならば、ストームを…!」「こっちはコズミックだ!!」

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?><COSMIC-ON>

二人は光を纏い、それぞれの最終形態へとステイツチェンジする。

「闇に蠢く星の運命…この嵐で打ち砕く!!!」「コズミックステイツ!!!」

バリズンソードとメテオストームシャフト。

ヴァルゴを倒すための二つの武器が唸りをあげる。

しかし、ヴァルゴにはそれも決定打とはいえない攻撃だ。

そもそも、自らの身体に触れることすら出来ないのだ。

「ハァッ!!」

ドオォッ!!!

「くぅっ…!!」

彼等の攻撃が迫るたび、空間を圧縮し弾き返す。そんな事を何度も行っていくうちに、フォーゼCSとメテオSには疲労が見え始める。

「息切れか?」

ドガアアアアアアアアァッ!!!

「うあああああぁっ!!」「がはあああぁっ!?」

その一瞬の隙を突き、ヴァルゴは紅い衝撃波を放って応戦する。

そこに…。

「させないよ!!!」

なでしこをはじめ、ISを装備した仮面ライダー部一同が現れる。

「またゾロゾロと…」

呆れたようにに呟くヴァルゴ。防いでいたフォーゼCSのバリズンソードを振り払って、紅い衝撃波を放つ。

「フッ!!!」

迫り来る攻撃の嵐。だが、彼女達はそれを避け、一斉に反撃に移った。

最初に先陣を切ったのは箒。

「はああああああああああぁっ!!!」

紅椿はヴァルゴの空間圧縮によって作られる壁を破壊できる能力がある。

最初に攻撃に移るならば、彼女が最適なのだ。

ザンッ!!!

予想通り、紅椿の空裂が壁を切り裂く。

「本当に、厄介なモノを作ったよ、束は…!」

ガギィッ!!

毒づきながら、空裂の一撃をロディアの柄で防ぎ、受け流す。

振り向いた先に…。

「なでしこ・ロケットパァァァァァァァァァンチ!!!!」

なでしこが目の前に迫ってきていた。

ドガアアアアァッ!!!

「グゥッ…!!」

やはり決定打にはならないが、ダメージはある。

<METEOR-ON>

次に攻撃を開始したのは、フォーゼCS。メテオから受け取った通常携帯で取り扱うメテオスイッチをバリズンソードに装填した、青白い流れ星のような光を纏い、ヴァルゴに突進していく。

「アァチャアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」

「ッ…!」

咄嗟に翼を羽ばたかせて、その攻撃を避ける。

だが、その頭上に…。

「上がお留守でしてよ!!!」「覚悟しなさい!!」「これでっ!!!」

「何っ…!?」

セシリア、鈴音、シャルロットが待ち構えていた。

3人の持つ攻撃、ブルーティアーズ、龍砲、ガルムが、ヴァルゴ目掛けて放たれた。

ドゴオオオオオオオオォッ!!

「ウッ…!」

なんとか空間圧縮で防ぐが、驚きとその判断時の攻撃に大きな隙が生まれた。

<LIMIT-BREAKE>

「メテオストームパニッシャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「はあああああああぁっ!!!」

ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンから放たれるレールカノンのビームを、ストームトッパーが吸収しつつ放つ合体技だ。

ドガアアアアアアアアアアアアァッ!!!!

「ウウウゥッ…!!!」

確実なダメージだ。少しずつダメージがヴァルゴに蓄積され、彼女の体力を奪っていく。

ここでフォーゼCSと一夏が並び立つ。一夏の白式は既に雪羅へと進化を遂げている。

「零落白夜!!!」

<LIMIT-BREAKE>

共に最大の攻撃を放つのだ。

2人は頷きあい、攻撃に移った。

 

これで全てを終わらせる。

 

そう、心に決めて。

「今度こそ…これで終わりだあああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

「ライダァァァァァァァァァァァァァァァ!!!超銀河・フィニィィィィィィィィィィィィィィィィィィッシュ!!!!!」

もはや、ヴァルゴには壁を作る体力も残されてはいなかった。

「自分の息子に倒されるとは…。これも母でありつつ、ホロスコープスになった者の運命と言うのか…」

半ば自嘲気味に呟き、両手を広げた。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

大きな爆発と共に、あたりの視界が煙によって遮られる。

「…これで全部…終わったのか…?」

一夏は息を荒げながら問う。

一方のフォーゼCSは、黙ったまま煙の中心と思われる場所を見つめていた。

「…まだだ」

そう呟いたのと同時に、煙の中からヴァルゴが現れた。その姿は片翼を失い、至る所から出血が見られ、ロディアも先端が折れてなくなっている。

まるで堕天使を連想させる有様だった。

だが、ゾディアーツの姿でなくなっていない限り、彼女にまだ力は残されている。

「ハァッ…!ハァッ…!」

ロディアで身体を支えながら、ゆっくりとフォーゼCSに近づく。

「…これでは…終わらんぞ…!」

地獄の底から這ってくるような声だった。だが、フォーゼCSは対照的である。

「これで終わりだ。母さん」

変身を解除し、宇月の姿に戻った。そしてヴァルゴの手にあったスイッチを押して、元の美咲の姿へ戻らせる。

 

彼は美咲を「母さん」と呼んだ。

 

仮面ライダー部のメンバーはそれに気づいて、驚いたような表情をしたが、当の本人である美咲は、悲しいことに全く反応しない。

「なんだ…何の真似だ!?」

「憎いけど…それでも、あんたはおれの母さんなんだ。だから…トドメは刺さない」

彼の拳はいつの間にか、開かれて力が抜けた様に、だらんと下がっている。

「情けの…つもりか…?」

「…何なんだろうな…。そんな気もするし、違う気もする」

宇月自身も複雑な表情をしている。

怒りや哀しみ…憐れみのような感情も、その顔から読み取れるような気がする。

「でも今のおれは、母さんにトドメを刺すことは出来ない。これだけはハッキリしてる」

それを聞いた美咲は、少しだけ静かに俯く。

だが…。

 

 

 

 

 

 

「今、トドメを刺しておけば、君達の勝利で終わったものを…」

 

 

 

 

 

「な…!?」

「見るが良い」

美咲の視線の先には…。

小さいダークネビュラが作り出され、そこに青白い光が見える。

これは、先ほどのフォーゼCSのリミットブレイクのエネルギーだ。

「この計画は…12個のスイッチだけでは成しえない。最後の鍵は、フォーゼの巨大な本来の形をしたコズミックエナジーだ。宇月がサジタリウスならば、フォーゼドライバーを奪い次第、すぐにでも始められたのだが、元に戻ってしまったから、厄介だったのでね」

スイッチを押し、再びヴァルゴに変化する。

「これで、全ての材料が揃った」

ボロボロになったロディアを叩きつけ、ダークネヴュラの前に11個のホロスコープススイッチが配置される。

「よせ…!!!」

宇月が止めようとするも、それに反応せず、ヴァルゴスイッチを残りの一つの空洞に嵌め込む。

「さぁ…歓迎しようではないか。人類の進化を促す「宇宙の意思」の来訪に!!!!」

ヴァルゴは懇親の力でロディアを叩きつける。

ダークネヴュラが一層巨大になり、稲妻が轟く。

バリィッ!!!

「くっ…!?」「きゃぁっ!?」

その稲妻は、状況を見つめていた箒やセシリア達にも、牙を剥こうとする。

そして、ヴァルゴは右手をゆっくりと回して…こう唱えた。

 

 

 

「超・新・星!!!!!」

 

 

 

ヴァルゴの目の前に赤黒い光が集まり、12個のスイッチの中心に、光は配置される。

途端にロディアは粉々に砕け散り、ヴァルゴは美咲の姿に戻った。

どうやら、彼女はこれで限界を迎えたようだ。

だが、同時に目的も果たされてしまった。

光を中心に、ホロスコープススイッチはダークネヴュラに吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

そこから現れたモノは…。

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

次回…。

 

                       あれが、母さんの目的だったのか!?

 

…私が望んだのは…!

 

                        これが宇宙の意思だ。

 

こうなったら、IS学園の全代表生や候補生と仮面ライダー全員で迎え撃つ!!!

 

                        全て無駄だ。

 

 

 

 

第37話「蛇・神・降・臨」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 




キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

布仏本音
シャルロット・デュノア

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

裾迫理雄
尾坂夏樹

織斑千冬
山田真耶

城茂美咲=ヴァルゴ・ゾディアーツ


あとがき
いかがでしたか?
ヴァルゴとの戦いとしての決着はつきました。
結果的に、仮面ライダー部が敗北。…親子の愛情を信じたせいで…です。
次回、遂にこの物語の最後の敵が現れます。…序盤から幾度か名前は出ていますが…。
お楽しみに!


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第37話「蛇・神・降・臨」

 

ダークネヴュラはどんどん、大きくなっていき、稲妻も勢いを増し、宇月達に危機感を募らせていく。

遂に闇の中から、動きが見えた。

そこから、黒い腕が伸びてくる。まるで蛇の皮膚のような見た目だ。

さらに体が見えてくる。

その姿はまるで、怪物に蛇が絡みついたような見た目をしている。

「おぉ…これだ。…まっていた!!!」

美咲は身体を押さえながらも歓喜する。

「これこそが…宇宙の意思が具現化したもの」

 

 

 

 

 

「十三番目の使徒…オフューカス・ゾディアーツだ!!!!」

 

 

 

 

 

オフューカスはじっと美咲を見ている。

「さぁ…わたしの願いを…!!」

手を差し伸べ、オフューカスに願いを言う美咲。

「…我の声に従い、我を具現化したことを感謝する、ヴァルゴ・ゾディアーツ」

彼は美咲にそう言って、右手をかざした。

その途端…。

ドッ…!!!!

「…?」

何が起きたか理解できなかった。

美咲は何かに体を押されたような感覚に陥り、自身の腹を見た。

 

そこは、血で染まっていた。

 

「あ…あ…」

途端に体から力が抜け、美咲は地面に倒れようと膝を着く。

「母さんっ!!!」

だがそれよりも早く、宇月が彼女を抱きとめる。

美咲はオフューカスを見つめ、絶望に染まった表情をみせる。

「何故だ…オフューカス…!?」

「オマエはゾディアーツの中で、最も明晰な頭脳と力を持ち合わせている。つまり、今後の我の障害になる可能性があるのだ。身に降りかかる火の粉は、完全に払うことが必要だからな」

オフューカスから告げられた言葉は非情だった。

「な…馬鹿な…」

「これが…」

宇月が俯く。

彼の腕の中にいる美咲には、その表情が見えた。

 

宇月は泣いている。

 

「これが、母さんが望んでいたモノだって言うのかよ…!?」

朦朧とする意識の中、美咲は遂に真実を述べた。

「違う…!私が望んだのは、人類の進化でも…ISを潰すことでもない…!」

「だったら…!」

 

 

 

「あの人に…もう一度逢いたかった…」

 

 

 

「父さんに…?」

美咲はコズミックエナジーの研究に没頭しつつ、いつも自分以上の研究成果を上げる吾朗には、嫉妬を抱きつつも、憧れや愛情も抱いていた。

そんな彼に追いつきたい。その一心でゾディアーツを開発し、自身を最初のホロスコープスへと進化させた。

人生の全てを投げ打ったのは、夫との再会のためだけだった。

「オフューカスの声を聞いてから…私は夫と再会するために…!」

彼女は夫の愛に飢えていた。

それこそが、彼女をヴァルゴへと覚醒させた負の感情だったのだ。

「そうだったのかよ…なんで…」

宇月はその真実を伝えてくれなかった母への憤りと、気づけなかった自分の情けなさでいっぱいになる。

「…吾朗さん…また…会えたら…」

まもなく、美咲はゆっくりと目を閉じた。

戦いの元凶となった城茂美咲。宇月の母であり、ヴァルゴ・ゾディアーツ。

 

 

 

彼女の命は、あまりにもあっけなく終わってしまった。

 

 

 

「邪魔者は消えたな」

無感動なオフューカスの声が響き渡る。

その瞬間、周りの空気が一変した。

理由はオフューカス以外の仮面ライダー部全員にある。

人の死を前にして、こんな冷酷な言葉を言えるオフューカスを許すことはできない。

宇月は美咲をゆっくりと地面に降ろし、フォーゼドライバーを装着する。

「「「変身」」」

<COSMIC-ON><METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

フォーゼCS、メテオS、なでしこ。3人の仮面ライダーに加え、一夏や箒達もISを装備する。

中には涙を流しつつ、顔を真っ赤にして怒りの表情を隠さない者もいる。

オフューカスはその光景にすら鼻で笑って両手を広げる。

「…さぁ、来るが良い」

「…っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!!!!!!」

先陣を切ったのは、フォーゼCS。バリズンソードを開きながら怒りと悲しみの感情を入り混じらせて、オフューカスに襲い掛かる。

ガギイイイイィッ!!!!!

「…!?」

その刃は蛇を象った腕によって防がれている。硬くてまるで斬れない。

「アタアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!」「やああああああああああああぁっ!!!!」

そこに間髪いれずに、メテオSとなでしこが向かってくる。

「これで遊んでいろ」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

オフューカスの体から無数の大蛇が現れ、それらが2人に襲い掛かる。

ゴオオオオオオオォッ!!!

「くっ…!!!」「きゃあっ!!」

その口から放たれた火焔弾により、2人は大きく吹き飛ばされる。

「おまえええええええええええええええええぇっ!!!!!」

次は一夏達が攻撃を仕掛けるが…。

 

「お座りだ」

 

そう言うと、オフューカスの体から現れた大蛇のオーラが、彼らのISに纏わりつく。

「な、なんだ!?」「やだっ!」

必死に振り払おうとするも、オーラであるために実体がない。つまり振り払えないのだ。

そして次の瞬間。

「…え?」

 

 

 

白式、紅椿、ブルー・ティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲンの6機が、跡形もなく消え去ってしまった。

 

 

 

待機状態に戻っているが、何をしても反応しない。

「どういうこと!?」「わたし達のISが…!?」

戸惑っているシャルロットやラウラに、オフューカスが説明を始めた。

「ヴァルゴ・ゾディアーツの言葉は真実…」

 

 

 

「我はISの機能を停止させられる力を持つのだ」

 

 

 

つまり、彼にはISが通用しない。

正確に言うと、オフューカスはコズミックエナジー以外の兵器を無力化できるのだ。

「人間が宇宙に向かうなど、おこがましい。宇宙に迎えられる価値のある生命体は、コズミックエナジーに選ばれた者だけだ」

そう言ってフォーゼCS達、3人の仮面ライダーを指差す。

「そういう意味では、お前達は相応しい」

「だったら、ヴァルゴを…母さんを、なんで殺した!?」

フォーゼCSの背後には動かなくなった美咲がいる。

オフューカスは美咲の亡骸を一度見て、嘲笑しながら答えた。

「先にも言ったが、邪魔だった。理由などそれだけで十分だ」

あまりにも理由が自分勝手すぎる。

フォーゼCS達の怒りは頂点に達した。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!!!!!!!」

<LIMIT-BREAKE>

コズミックスイッチをバリズンソードに装填し、光を纏いながらオフューカスに向かって走る。

「オフューカス!!!!!テメェだけは許せねええええええええええええええええええええええええええええええぇっ!!!!!!!」

懇親の力をこめてバリズンソードを振り下ろすも…。

「面倒ごとは、綺麗に解してやる」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

オフューカスの持つ大蛇に阻まれ、逆に反撃を許された。

「ぐああああああああああああぁっ!!」

一瞬で変身を解除され、地面に這い蹲る宇月。

「ぐ…あぁ…!!!」

「宇月っ!!」

一夏が駆け寄り、抱き起こす。

その姿をオフューカスは見下しながら言い放つ。

「我は、人間がおごり高ぶらず、つつましく地球で生きることを望む。コズミックエナジーに選ばれた者で、我に賛同するものはついて来い。宇宙へ招待しよう」

それだけ言うと、彼は闇の中に消えていった。

 

「こうなったら、IS学園の全代表生や候補生と仮面ライダー全員で迎え撃つ!!!」

 

手を借りるために、IS学園へ戻ってきた一同は、その状態を見て唖然とした。

IS学園は、少しだったが傷や亀裂が目立つようになっていた。

見ないうちに、過激派にやられたのだろう。

急いでラビットハッチに急ぐ。そこには、傷を負った山田とそれを手当てする千冬の姿があった。

「先生、どうしたんですか!?」

「この状況で聞かずとも、理由はわかるだろう」

宇月達がヴァルゴと戦っていた間、彼女たちがIS学園を守っていたのだ。

「安心しろ、概観が損なった程度だ。授業にも支障はない」

「千冬姉はどうなんだよ…?」

一夏の言葉に少し眉にしわを寄せて答える。

「ここでは、織斑先生と…」

「ごまかすなよ。千冬姉は平気なのかよ」

彼女は山田の手当てをしているが、傷を負っているような姿は見受けられない。

「無理、してないよな?」

「馬鹿者、私はお前ほど幼稚ではない。自分の体のことくらい、気を使うほどの余裕はある」

しかし、彼女も戦っているはず。かなりの実力者とはいえ、万全な状態ではないことからまったくの無傷ということはありえないだろう。

「…良いか、お前達はゾディアーツを止めることに集中しろ。学園くらい、教師が守らなくてどうする?」

その言葉には、絶対の信頼を感じられた。特に一夏にとっては。

それは姉である千冬の強さと、強靭な意思をよく理解しているからなのだろうか…。

「たのんだぜ、千冬姉。ゾディアーツは、おれ達がなんとかしてみせる」

「おまえに何が出来る?」

彼の決意に異論を唱えたのは、礼だった。

「奴はISを無力化する能力の持ち主だ。言い換えるなら、ホロスコープスを上回った存在に生身の人間が勝負を挑む。立ち向かえると思っているのか?」

その言葉で、一夏だけでなく、のこりのIS使いも全員が俯いた。

戦力は仮面ライダーだけになったも同然だ。

パワーダイザーがあるが、これに搭乗できるのは一人のみ。現在の主な搭乗者は、鈴音、ラウラ、本音。この3人である。

オフューカスの能力やパワーから考えると、この戦力状態では絶望的だ。

「一体どうすれば良いんだ…」

箒がスイッチカバンを見つめると、ふと思い出した。

「…そうだ、あのスイッチ!!!」

データ上に記録されている、美咲が遺した新たなアストロスイッチ。

「これに賭けるしかない!!」

 

それから一日を掛けて、新たなアストロスイッチの調整を行う。

だが、まったく変化が見られない。

「…だめだ。動かない」

礼も宇月もお手上げだった。

彼らの知っているすべての技術を持って調整を行ったが、まったく変化が見られない。

なにかにロックがかかっているような気がする。

「オフューカスが何か動きを見せる前に、なんとしてでもこれを完成させなければ…!」

礼は再び、調整を再開した。

「宇月、おまえは少し外にでも出てろ」

「なんでだよ…?」

「客人だ」

礼の目線の先には…。

 

更識姉妹がいた。

 

セシリアと鈴音は、理雄と夏樹の病室に訪れ、ヴァルゴである美咲の死が告げられた。

「…そうか、ヴァルゴ様が…」「あのお方が…」

宇月達と和解はしたが、ヴァルゴに対する尊敬や忠誠が消えたわけではない。特に理雄はそうだ。

そんな尊敬できる良き長を失ったことは、二人の心に深い悲しみを刻み付けた。

「ごめん…あたし達、何も出来なかった…」「結局…理雄さんから奪ってしまいましたわ…」

本当に申し訳ないことをしたと、頭を下げる二人。

それに対して、理雄と夏樹は…。

「ヴァルゴ様が逝ってしまわれたのは、あんた達のせいじゃないわよ」

「あぁ。気を落とすな。おまえ達の心にヴァルゴ様を残してくれることが、おれは嬉しい」

理雄はそれがヴァルゴの選んだ道だと信じ、仮面ライダー部を微塵も恨まなかった。

「だが、オフューカス・ゾディアーツを許すつもりはない。おまえ達に仇討ちを頼みたい」

彼女たちの手を握り、理雄は懇願した。

彼はもう満足に動けない。仮面ライダー部である彼女たちに任せるしか、残された方法はないのだ。

「えぇ!やってみせますわ!」「任せときなさい!」

 

宇月は簪と二人で学園の外を歩いている。

つい数時間前までは美しかった校庭も、過激派の攻撃でさまざまな金属が拉げ、傷だらけとなっていた。

「宇月…ヴァルゴ・ゾディアーツのこと、全部聞いた」

「あぁ…聞いたか」

どうやら、どんどん情報は入ってくるらしい。

「やっぱりわたし、悔しい…!」

「簪…?」

涙を流しながら、こぶしを強く握り締める簪。その手には包帯が巻かれてある。

彼女もまた、IS学園を守るために打鉄弐式で、過激派との戦いに挑んだのだ。

「わたし、宇月の力になりたいって言ったのに…本当に苦しんでたときには、何も出来なかった…。ただ、戦うことだけしか…!!」

「それで充分だ。他には何も求めないよ」

少しだけ穏やかな様子で宇月は答えた。

「だって…あなたの母親が…!」

「それが運命だったんだよ。母さんはそれを選んで、結局は願いを果たされずに死んだ。それこそが母さんの選んだ道だったんだ」

怒りは落ち着いてきてるのか、まるでゆっくりとやさしく子供に本を朗読するように言う。

「正直に言って、まだ母さんが憎い。全ての元凶は母さんなんだから。でもオフューカスも許せないし、ゾディアーツと最後まで戦い抜くって決めたのは、他の誰でもない、おれなんだ」

フォーゼドライバーを見つめながら、今度は独り言をつぶやくように言う。

「だからさ、もう抗わずにその戦いに飛び込んでいく。その間は学園が守れないだろうから、そのときは簪や楯無さんが戦ってくれると助かる。それだけで良いんだ」

再び、簪のほうを向いて静かに告げる。当の簪は下唇を強く噛んで、宇月に問う。

「本当に…本当にそれだけで良いの?」

「あぁ。少なくとも、今はな」

憑き物が取れたような表情で、宇月は澱んだ空を見上げて言う。

ふと、背後から誰かが近づく。

振り返ると、虚と「み~ちゃった」という文字のある扇子を手に持った楯無が立っている。

「あら?ゆりこちゃんがいるのに、わたしの簪ちゃんに手を出して良いのかな~?」

「い、いや、出してないっすよ!」

からかうように言う楯無の言葉を、必死に手を振りながら否定する宇月。

それを見ていた簪と虚も、クスリと笑う。

「大きな戦いの最中なのに、随分と穏やかですね。さすが仮面ライダーフォーゼ」

「それ、あんまり関係ないと思うんですけど…」

「じゃあ、いつもそんな調子なんだ?」

「いや…それも違う気が…」

虚と簪に言葉で責められ、どんどんと縮こまっていく宇月。

楯無を含めた彼女達に、会話では敵わないだろう。宇月は確信した。

「ま、とにかく学園はわたし達に任せなさい。そのかわり、ゾディアーツは絶対に倒すのよ。これ、生徒会長からの命令ね」

「もちろんっす!そのつもりでした!」

楯無が拳を突き出すと、宇月もその拳に自身の拳を打ち付けて返事をした。

それぞれが、それぞれの戦いに身を投じる決意である。

 

数日の間、オフューカスは動きを見せず、IS学園と過激派との戦いに仮面ライダー部も身を投じた。

その戦いはIS学園側が優勢であり、なんども過激派は撤退を余儀なくした。

だが、その戦いでIS学園の者たちは、体力や精神力をどんどん減らされていく。

人間同士の戦いは、ここまで過酷で残酷なのだ。

 

今日も戦いで、宇月達は疲弊して戻ってくる。それを本音が看病する。

それが何度も繰り返された。

「いつまで続くんだろうな…この戦い。もしかしたら…」

「マイナス思考な事を言うな、箒。今は戦うしかないだろう」

箒の気を奮い立たせるために、礼が強くつぶやく。

彼も本当のことを言うと、生身の人間同士の戦いはうんざりだ。

だが、こちらが何度も撤退させようとも、別の国や地方の過激派がやってくる。

数十カ国が同時に攻めてきたこともあり、やむなくコズミックステイツやメテオストーム、雪羅を使用したこともある。

それでも、戦いは終わらなかった。むしろ、逆に激化しつつある。

「でも、わたくし達とて、ずっと戦えるわけではありませんわ。いずれ限界が来ます。宇月さんや礼さんも、例外ではありません」

セシリアに変えられない事実を突きつけられ、一同は黙り込んだ。

シャルロットは、立ち上がって元気よく言い述べた。

「みんな、元気を出そう!きっと、戦いは終わるから!」

「あぁ。くよくよしても仕方がないからな」

「うん!わたしも出来るだけ手伝うから!」

彼女の言葉に、ラウラと本音も便乗する。

山田も少しズレた眼鏡を治して、微笑む。

「そうですね。なにごともあきらめたり、落ち込んだらダメです!」

千冬は、いまだに平気そうな表情で壁に背中を預けて寄りかかっている。

「さぁ、もっと気合を引き締めろ!全員、今程度の気迫では負けるぞ!」

敢えて厳しい言葉で仮面ライダー部を奮い立たせる。

 

その姿を見て、宇月はじっと黙ったまま何もしようとはしなかった。

 

次の日。

「宇月…?」

宇月の姿が見当たらない。礼は先にラビットハッチに向かったと思い、そこに向かうが、それでも彼の姿は見つからなかった。

変わりに、書置きがある。

 

 

 

『オフューカスと決着をつけてくる。母さんの仇討ちのつもり』

 

 

 

少し、乱雑だった。おそらく、急いで書いたものなのだろう。

「あのバカが…!!!」

その書き置きをクシャクシャに丸めて床に叩きつけ、彼を探し始めた。

 

すぐに仮面ライダー部のメンバーにも伝え、総出で捜索を始める。

幸運にも、今日は過激派の襲撃が見られなかった。

箒の紅椿はオフューカスの能力により使えず、スイッチカバンや機械には、宇月にしか解除できないようなロックが掛けられており、コズミックエナジーでの捜索は不可能。

「どこにいるんだよ…!?」

いくら探しても、まったく見つかる気配はない。

オフューカスも、そう簡単に姿を現すのだろうか…。

ドガアアアアアアアアアアアアアァンッ!

青い発光体として各地を探していたメテオが彼らの元に戻ってくる。

「どうだった!?」

「だめだ、見つからない…」

メテオは肩を落として首を振る。

彼はいったい、どこにいるのだろうか…。

「一人で戦うって言っても、オフューカスの場所なんて分かるわけが…」

ラウラが呟き掛けたところで気づいた。

「…まさか!!」

 

そう。フォーゼには、空間を自由移動できる力があった。

 

話は少し前の時間に戻る。

皆が寝静まった頃、フォーゼBSはラビットハッチから月面に出た。

「…よし」

<COSMIC-ON>

コズミックスイッチを装填し、40のスイッチが体を纏い、フォーゼCSへと変えさせる。

あの過激派との戦いを終わらせるためには、オフューカス・ゾディアーツの脅威を世界に知らしめて、それをIS学園や世の中で、まことしやかに噂される仮面ライダーが倒し、正体を明かせば、その存在に過激派も怯え、攻撃をやめるであろう。

だから、この戦いでは仮面ライダーだけで戦わなければならない。

礼やゆりこも仮面ライダーだが、礼はラウラという愛する存在がいるために、この戦いには参加させたくなかった。そしてゆりこは宇月自身が愛する存在。命を賭けるつもりである戦いに連れて来るつもりは毛頭なかった。

バリズンソードを構え、コズミックスイッチを装填する。

<LIMIT-BREAKE>

フォーゼCSのワープドライブは、別に本人の知らない場所でも、望む場所に絶対に向かえる。

彼の望んだ場所は…。

 

オフューカス・ゾディアーツのいる場所。

 

青白いワープゲートが開き、その中にフォーゼCSは突進していく。

そして…

「ほう、ワープドライブか」

目の前にはオフューカス・ゾディアーツがいた。

「来てもらう。決戦の場は地球だ!!!」

そう言って、彼の突進していくフォーゼCS。

「この我が地球にわざわざ出向くなど、そんなことをすると思うか?」

フォーゼCSを避け、大蛇を放つオフューカス。

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

ゴオオオオオオオオオォッ!!!

その火焔弾の嵐に…。

「炎なら、水と氷だ!!!」

<FREEZE-ON><WATER-ON>

バシャアアアアアアアアァッ!!!!ビュオオオオオオオオオオォッ!!!!

両足にフリーズとウォーターを装備して、炎に応戦を始める。

その威力は決して、オフューカスの火焔弾に及ぶほどではなかったが、フォーゼCSが避けるためには十分な威力を発揮してくれた。

そして、新たなスイッチを使う。

<N・MAGNET-ON><S・MAGNET-ON>

バリズンソードにNマグネットスイッチ、そして胸のSマグネットのシンボルを押して、マグネットの力を引き出すフォーゼ。

「ライダァァァァァァァァァァァァ…!!超電磁・フィニィィィィィィィィィィィィッシュ!!!!!」

赤と青のエネルギー波がオフューカスを襲う。

「…無駄なことを」

こうして、礼たちが探している間、フォーゼCSは宇宙空間のどこかで戦い続けているのだ。

 

そんなことも分からず、宇月を探し続けていた仮面ライダー部のメンバー達。

「盲点だった…コズミックのワープドライブか…!!」

「礼…探すあてはあるの…?」

シャルロットが不安そうに聞くと…。

「宇宙にはパワーダイザーのパワーモードとメテオスターで、向かうことが出来る。だが2人を探すなど、至難の業だ。一体どうする…!!」

自問自答していたところに…。

 

<LIMIT-BREAKE>

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

電子音声とともに青白いワープゲートが開き、フォーゼCSとオフューカスが現れた。

「貴様…!」

先ほど、彼の攻撃を避けた際に出来た隙を見計られ、ここまでつれてこられたのだ。

「退けぇッ!!!」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!

「うあああああああああああぁっ!!!」

大蛇に吹き飛ばされて、フォーゼCSは変身を解除された。

「宇月!!?」

彼に駆け寄る。

数時間の戦いで、宇月は疲弊しきっていた。

「はぁ…はぁ…こんのやろぉっ…!!!」

「愚かな人間め。大人しく我に賛同しておれば、地獄を見ずに済んだものを…!!!」

オフューカスの声からして、かなりの怒りを感じられる。

「まだ、人間同士の無益で愚かな戦いを見物したかったが…もう良い」

そう言って、オフューカスは両手を空に掲げる。

するとダークネヴュラが現れ、そこから無数の大蛇のオーラが現れる。

「なんだ、あの数は…!?」

そのオーラは、宇月達には襲い掛からず、世界の全てに向かっていった。

「なにを…?」

「忘れたか?我はISを停止できる力を持つと言うことをな」

その言葉で、全員が凍りついた。

ふと、オーラの先を見る。

 

比較的複数のオーラが、IS学園に向かっている。

 

「まさか…全世界のISを…!?」

世界中に存在するISが機能を停止するのだ。

「そう、もう人間同士の茶番を見るのは止めだ。滅ぶが良い。無抵抗なまま…!!!」

オフューカスは笑みをたたえたような言い方で述べる。

宇月が肩を庇いながら立ち上がる…。

 

もしISが使えない状況で、過激派の襲撃が始まったのならば…。

IS学園は無抵抗な状態で過激派に一気に攻め落とされるだろう。

そうなれば…。

 

 

 

「…簪や楯無さんが…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回…。

 

                           もうだめだ…おしまいだ…

 

学園は、破壊されてしまった…

 

                           オフューカスも…

 

もう、勝ち目がない…。

 

                           でも、戦うんだ…!!!

 

仮面ライダー部だからな…!!!

 

 

 

最終Ⅲ部作・第Ⅰ章

第38話「学・園・崩・壊」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

布仏本音
シャルロット・デュノア

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

更識簪
更識楯無
布仏虚

裾迫理雄
尾坂夏樹

織斑千冬
山田真耶

城茂美咲

オフューカス・ゾディアーツ



如何でしたか?
ちょっと、あっけなさ過ぎましたかね…ヴァルゴ…。
結果的に前座キャラだったので、なんか小物感もあるような…。
さておき、今回、初登場となるオフューカス・ゾディアーツ。
知ってる方もいると思いますが、このモチーフの蛇遣座は黄道十二星座と同等に並ぶ、例外的な星座の黄道十三星座です。
原作も、こいつがラスボスじゃないかと思っていたので、今回、こうすることにしてみました。
オフューカスは、コズミックエナジー以外で宇宙に向かうことを拒絶しており、コズミックエナジー以外の力を無力化できます。
つまり、最後の希望はフォーゼ、メテオ、なでしこの3人に絞られました。
次回からは、遂に来ました…

「最終三部作」です!

お楽しみに!


でも、研修のため一週間休みます…(汗)


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最終Ⅲ部作
第38話「学・園・崩・壊」


仮面ライダー部の一同は、已む無くオフューカスを放置して学園に戻ってくる。

「宇月、大変!」

「分かってる、ISが使えないんだろ!」

フォーゼCS、メテオS、なでしこ、それぞれの仮面ライダーに変身し、過激派の攻撃に備える。

たどり着いた時点で、過激派の攻撃が始まっていなかったのは幸運であった。

ISが全く使えないのであれば、この学園は対抗手段を全く持っていないのだ。

あるのは、正式には所属していないが、なんども学園を守った仮面ライダー達。

ほどなくして…。

 

さまざまな武器を備えた過激派が押し入ってくる。

 

その数は、今までの比ではない。

「礼、ゆりこ、行けるか?」

フォーゼCSは戦える2人の仲間に問う。

「あぁ、こんなところでくたばるつもりも、学園を攻め落とさせるつもりもない」

「わたしも大丈夫!宇月とは、いつまでも一緒だよ!」

互いに頷きあい、敵を見つめる。一見、果てしない数だが、この3人ならば大丈夫。

きっと、そう信じあえた。

「いっくぜえええええええええええええええええぇっ!!!!!」

フォーゼCSの叫び声を合図に、3人の仮面ライダーは、立ち向かっていった。

 

 

 

だが…。

 

 

 

いくら信じ合えても、彼らも傷つき、苦しむ。

あっという間に限界は訪れた。

結果的に…数の勝利だった。

仮面ライダー達も過激派の攻撃の嵐に敗れ、地面に倒れ伏した。

そして、仮面ライダーが敗れたということは、IS学園は無抵抗状態になったといえる。

 

 

 

守る者のいないIS学園は、瞬く間に廃墟と化していった。

 

 

 

そして…。

緊急措置的に宇月達はラビットハッチに避難した。

幸い、ここはまだ過激派には気づかれておらず、隠し基地にするには最適である。

箒は体中に傷を負って寝込んでいる宇月の手を握る。

「…本当に、よく頑張ったな」

彼らの戦いは、凄まじかった。

人を殺めるまでには至らなかったが、むしろそれが戦いを困難にしていた。

手加減をしつつ、過激派の攻撃から学園を守るというのは並大抵の力では無理だ。

それで、あそこまで健闘したのは素晴らしかった。

ラウラは礼に付き添い続けている。

「礼…」

彼は最後、学園を庇うために自らを盾にした。

しかも、ラウラの目の前で。

変身が解除され、傷だらけの礼が倒れる瞬間の悲惨さは、今でも目に焼きついて離れない。

ゆりこもまた、ダメージが大きかった。

鈴音が看病しているが、相手は人間ではなくSOLU。どうすればいいのかが分からなかった。

「ゆりこ…わたし…」

「いいよ、鈴音…。心配してくれるだけで、嬉しい…」

彼女の笑みを見て、鈴音は心が痛む。

「ラウラさん、そろそろ休まないと…」

「…あぁ」

セシリアに促され、ラウラは心配そうに礼を見つめながらもラビットハッチの仮眠室に向かう。

彼らの看病は交代で行っている。

付き添い続けたラウラ以外は、一夏、シャルロットが見ていたのだ。

 

千冬と山田。

生徒達の安全を出来るだけ確保し、今後の対策を考えている。

「このまま、城茂達に任せきりというわけにはいかん。なんとかしなければいけないが…」

「でもIS無しでは、私たちは何も…」

ほとんど武器も何もない。手立てに困りきっていた。

そこへ…。

 

「やっほー、ちーちゃん!眉間にしわがよってるよ~?」

 

束が現れた。どういうわけか、気配も何も感じなかった。

「束か…!?」

「やだな~、つい最近あったばかりだから、確認しなくても大丈夫でしょ~」

この状況にも拘らず、束はニコニコと笑いながら千冬の顔を覗き込んでいる。

「おまえ、ISの事は…」

「知ってるよ。あのヘビのせいで、全世界のISがダメになったんだよね」

どうやら、オフューカスの事も知っているらしい。おそらく、どこかからフォーゼ達の戦いを見ていたのだろう。

つまり、美咲の死も知っているはずだ。

「分かっているなら…!」

「抵抗したんだよ?ハッキングやロック、いろいろ試したけど、手も足も出なかったから」

どうやら彼女でさえ、オフューカスに太刀打ちする事も出来なかったようだ。

手の打ちようがないというのに、彼女の顔には余裕が見える。

いや、余裕そのものであるといえよう。

「で、考えたけどさ…。あのヘビはコズミックエナジー以外を無力化したんだよね?」

「城茂君達の話だと、そう言ってました」

山田の答えを聞き、束はまたしても満面の笑みを浮かべた。

「なら、まだいけるかもね!」

「どういうことだ…?」

「簡単だよ~。ISがコズミックエナジーを使えるようにすれば良いだけ!」

まるで子供に明るく教えるように、束は人差し指を立てて答える。

コズミックエナジーを使ったISならば、確かにオフューカスの無力化の対象には入らない。

つまり対抗手段も増え、過激派との戦いも出来るというわけだ。

「というわけで、ラビットハッチへ案内してよ、ちーちゃん!」

 

オフューカスは、ダークネヴュラ越しに人間同士の争いを見ていた。

ISを失った学園は瞬く間に過激派に占領され、破壊され、廃墟と化していった。

「ふむ…案外、あっけなかったな」

彼自身、ISやそれを使う者達を多少なりとも評価しており、こんなにもあっさりと負けるとは少々想定外だった。

もっと何か抵抗すると思っていた。

「余興にもならなかったな…」

その事実に笑い、改めて見つめる。

そこへ…。

 

<LIMIT-BREAKE>

 

「うおぉりゃああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

青白いワープゲートを潜り抜け、フォーゼが現れた。

「フォーゼか…?」

しかし、その姿は今までのフォーゼではない。

 

 

 

青い瞳、紫色のスーツ、メテオストームのアーマー、両手には銀色のロケット、両足には銀色のボードを備えている。

 

 

 

「新たなステイツ…」

「おらああああぁっ!!!」

銀色のロケットを構え、オフューカスに向ける。

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!

「…ムッ!?」

オフューカスはその攻撃に驚いた。

痛みを感じる。いや、それどころではない。

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!??」

彼の攻撃は、オフューカスに凄まじいダメージを残した。

「貴様…本当にフォーゼ…城茂宇月なのか…!?」

驚愕するオフューカス。だが、フォーゼは何も答えない。

ただ、この攻撃が有効である事を知り、バリズンソードを握って満足そうに頷く。

<LIMIT-BREAKE>

そして再び、ワープドライブで姿を消した。

「どういうことだ…?」

彼の謎は解けなかった。

 

同時刻。

宇月は未だ「ベッドで横たわっている」。

そこにラビットハッチの扉が開かれる。

「織斑先生、山田先生…」

その二人の後ろから現れたのは…。

「箒ちゃん、いっ君、宇月君!」

束だった。

「束さん!?」「姉さん…!」

一夏と箒は彼女の来訪に目を大きく見開く。

銀色の福音の暴走事件以来、長らく顔を見せなかった彼女が、再び彼らの前に現れたのだ。

「や~っぱり、仮面ライダーに頼りっぱなしになっちゃったか~。でも、大丈夫!ここからは、ISのターンだよ!」

「でも、ISは…」

一夏は俯き、呟くように言う。ISは今は使い物にはならない。

「まぁまぁ、何も言わずに…。お~い、宇月く~ん!」

宇月の顔をペチペチと叩いて、無理やり起こす。

「う、うぅ…!」

それは彼に無理を言わせるようなものだ。箒がとめようと束にしがみつく。

「やめてください、姉さんっ!」

「はい、下がって下がって。宇月君、起きた?」

箒を簡単に押しやり、宇月の意識を確認する。

「た、たば…ね…さん…?」

うっすらと目を開け、束の存在を認知した。

「早速だけど、パワーダイザーある?」

「それなら…あっちに…」

彼が指差す先に、調整室越しに見えるパワーダイザーがあった。

だが、これも既にキズだらけである。

鈴音やラウラ、本音が必死に戦った結果である。

「うん、ありがと!」

調整室に入り、パワーダイザーの目の前でパソコンのグラフィックを開く。

「これこれ~!」

彼女を見つめて、千冬はハッと気がついた。

「そうか…!パワーダイザーは元来、美咲さんが使っていたISのスクラップを改造したモノ…。つまりコズミックエナジーで動く、最初のISだ…!」

「正解~!これを元に、コズミックエナジーをISのコアに転用できれば、動かせるんだよ!」

パワーダイザーのデータは、3分とかからずに束のコンピュータメモリに記録された。

「よぉし、まずはいっ君とちーちゃんのISから!コズミックエナジーは…これから貰うね」

束はフォーゼドライバーにアクセスし、コズミックエナジーを吸収して、一夏と箒の待機状態のISに送る。

「これで…よし!部分展開してみて!」

束の言葉に2人は頷き、祈りをこめてISに手を当てる。

「来い、白式!」「紅椿っ!」

その言葉に呼応するように、2人の腕にはそれぞれのISが装備された。

「展開できた…!」「これなら…!」

「今は、この2つだけだね。残りは時間がかかりそうだし…」

そうは言っても、これだけでも大きな戦力になる。

なにしろ、この2機は合わせてコズミックステイツと同等なのだ。

「ありがとう…姉さん…!」

「どーいたしまして!箒ちゃんのためなら、何だって出来るよ!」

束は胸を張って自信に満ちた表情で述べた。

その姿を見ていた箒は、何かを決めたような顔をして、彼女に近づいた。

「あの…姉さん…」

「何?」

「二人だけで…話をさせてください」

「…いいよ!」

その言葉を聞いた千冬は、再び眠りについた宇月以外をつれてラビットハッチの別室へ移った。

 

その後、2人は久方ぶりにいろんなことを話した。それがどんな内容だったのかは、彼女たちだけしか知らない。

しかし、長年の関係の溝が埋まり始めた事だけを伝えておく。

 

シャルロットと本音は、楯無、簪、虚のいる場所に向かった。

彼女たちもまた、隠れ家のような場所に息を潜めており、過激派の攻撃は届いていない。

「簪…」

「今度は…ISで戦う事すら出来なくなっちゃった…」

拳を握り締めて、悔しそうに呟く簪。

一方の楯無は、まだいつもの調子を崩さずにいる。

「簪ちゃん、なんとかなるわよ。お姉さんを信じなさい」

「でも…」

「あら、信頼無いかしら?残念ね…妹に信頼されないなんて…」

「そ、そんなつもりじゃ…!」

「じゃあ、信じるわよね?」

相変わらず、上手く言葉で相手を丸め込む事に長けている。

「あ、ごめんなさいね、本音ちゃんとデュノアさん。ところで、一体どうしたの?」

「安全確認です~」「ISが使えない現状ですから、身の安全が大丈夫かどうかを…」

「大丈夫。生徒会長を見くびらないでね」

扇子には「問題なし」と描かれている。その調子なら大丈夫だろう。

「よかった…安心しました」

「でも…城茂君達が心配ですね」

虚は学園を守るために戦い、敗れた仮面ライダー達を思い浮かべる。

今の彼らは戦う事が困難だ。

同時刻にISが2機だけ復活したが、現在の彼女たちは知らない。

「ISがないと…ボクら、何も出来なかった…」

今まで、仮面ライダー部でさまざまな戦いを繰り広げてきた。だが、それは全てISに頼っていたのかもしれない。

事実ISが無いと、ここまで無力なのだ。

 

「戦うだけが、力になるって訳でもないわよ」

 

楯無がふとこぼす。

「そんなこと…」

本音は首を振る。今まで、彼女もパワーダイザーに搭乗するまでは全く戦わなかった。

それがどんなに苦しかったか…。危機が迫っているのに、仲間の中でも唯一戦えず、いつも後ろで応援する事だけで、何も出来なかった。

「最後の最後の戦いまで一緒に居てくれる。それだけで、一人じゃないって思えるから力になるんじゃないの?」

本音や簪の肩に手を置いたりしながら、楯無は熱っぽく語る。

「一緒に居るだけで…」

「そう。だから城茂君は仮面ライダー部を認めたし、辻永君も貴方達を信じたんじゃないの?」

ドガアアアアアアアアアアアァッ!!

耳を劈くような爆音が聞こえる。外を見ると、IS学園で爆撃が行われていた。

「行きなさい。きっと、フォーゼ、メテオ、なでしこだって立ち上がる。あの子達は仮面ライダーだから」

楯無に促され、シャルロットと本音は隠れ家から飛び出した。

簪、楯無、虚は2人を見送っていく。

 

IS学園では、過激派の攻撃が始まっていた。

その危機に現れたのは、ISをまとった一夏と箒。今、戦えるのは2人だけなのだから。

「準備は良いか、箒?」「あぁ、万端だ。いつでも行ける!」

過激派は2人を見つけると、武器を構える。

「…行くぞっ!!!」

<METEOR-READY?>

「ホアチャアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」

2人が動き出そうとしたとき、上空からメテオが青い発光体でやってきた。

しかし、地面に足をついた途端からフラ付いている。

「礼!こんな状態じゃ…!」

「今無理をしないで、いつするというんだ…!?」

彼の身を案じた一夏を押しのける。

「この学園の絆を壊す愚かな者共…。その破壊衝動は、おれが受け止める!!!」

そう言い放ち、過激派に向かって走り始めた。

「…わたし達も行こう!礼が頑張っているんだ!」

「わかった。手を貸すぞ、礼!」

 

オフューカスは焦っている。

「フォーゼがあれ程の力を備えていたとは想定外だ…。見物している余裕は無いな」

重い腰を上げ、ダークネヴュラから脱け出していった。

 

コズミックと同等の力を備えた2機のISとメテオの善戦で、過激派も少しずつ撤退の色を浮かべ始めた。

「いけるぞ!一気に押し返すんだ!」

「アタアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!」

やはり人は殺さず、彼らの戦力だけを削っていくのは至難の業だ。だが、この調子ならばきっと勝機は見える。

だが…。

 

「そろそろ、余興はお開きだな」

学園上空にダークネヴュラが開き、オフューカスが下りてきた。

過激派たちはそれを焦りの目で見つめているが…。

「邪魔だ」

ドッ!!!!!

オフューカスが怠惰そうに手を翳すと、大蛇の火焔弾が過激派達を包み込み、あっさりと消し去ってしまった。

「なんてことを…!?」

「学園の危機は救えたのだ。ありがたく思うのだな」

悪びれもせずに言い放つオフューカスに対し、メテオは怒りに燃える。

「この惨劇を創り上げただけに飽き足らず…人を簡単に殺して、その言い分か…!?」

「オマエ達がテレビを見るのと同じだ。面白くも無い映像を見ても、何の感慨も湧かんだろう?」

本当に身勝手すぎる。

「きさまは…おれが命に代えて倒す!!!!」

<METEOR-STORM><METEOR-ON READY?>

体にかなりのダメージが残る状態でメテオストームスイッチを使用する事は、かなりの危険を伴う。だが、それすら今のメテオSにはかまう事はない。

ただ、目の前の敵を倒したい。それだけで動くのだ。

「戯言を…。オマエの命全て程度で、我を倒すなど…。己の限界を弁えろ」

<MAX-POWER><LIMIT-BREAKE>

「メテオストームパニッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

メテオSのエネルギー全てを使い、オフューカスに放つリミットブレイク。

「フンッ!!!」

だが非情にも、その攻撃は片手で意図も簡単に防がれる。

それでもメテオSはかまわずに拳を振るう。

「アタアアアアアァッ!!!ワチャアアアアアアァッ!!!!オオオオォアタアアアアアアアァッ!!!!」

「このおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」「はあああああああああああぁっ!!!!」

一夏と箒も加勢し、オフューカスに挑む。光り輝く雪片弐式。零落白夜だ。

それも…。

「目的はフォーゼだ。奴を出せ」

まるで普通に会話をしているように、要件を述べながら攻撃を防いでいく。

「きさまに宇月は渡さんっ!!!!ホワチャアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!」

その意思をはっきりと否定しながら、メテオSは拳を振るい続ける。一夏と箒も同様だ。

「ならば…退け」

「ヅアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

痺れを切らしたオフューカスは、メテオSに向けて大蛇を放った。それは放たれた瞬間から大きくなり、その全長は10メートルを越していただろう。

ガギイイイィッ!!!!!

「ぐうううううううううぅっ!!!!?」

「礼っ!!」

大蛇は巨大な口でメテオSの腹部に噛み付き、上空へメテオSを持ち上げる。

遠心力で、腹部に突き立てられた牙が抉られていく。

「ぬああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!」

それは凄まじい痛みだった。メテオSは堪らず悲鳴を上げる。痛々しい悲鳴だった。

「よせええぇっ!!!」「やめろおおおおおおおおおおおおぉっ!!!」

一夏と箒は、メテオSを救出するべく大蛇に向かって距離をつめていくが…。

「遊び相手はまだいるぞ」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!」

またしても大蛇に行く手を阻まれる。

ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!!

火焔弾の嵐の前に、二人は成す術も無かった。

程なくして、メテオSは大蛇の牙から解放され、地面に叩きつけられた。

その衝撃と今までの無理が祟り、メテオドライバーは破損し、変身が強制解除されてしまった。

「「礼っ!!!」」

一夏と箒も大蛇からの攻撃がやっと止んだことで、礼の元へ行くことが出来た。

「あ…が…」

彼の腹部から、出血が見られる。噴出しているといえるような勢いだった。

「すぐにラビットハッチに!!オフューカスはおれが食い止める!!」

「…わかった!」

箒は一夏の言葉にうなづいて、重傷を負った礼を運んで廃墟と化した学園の中へと消えていく。

「メテオの療養場所という事は…そこにフォーゼが居るのだな?」

「行かせないさ…!」

雪羅を発動し、オフューカスに立ちふさがる一夏。

「…鬱陶しい者ばかりだな…」

ふと、一夏の背後から人影が見える。

「来たか」

「…宇月!?」

それは、仮面ライダーフォーゼBSだった。

「一夏、一緒に戦ってくれ。もう、後が無い!」

「元からそのつもりだ!」

フォーゼBSと一夏は並び立ち、オフューカスを見据える。

「やはり、あの時のフォーゼではない…」

一方のオフューカスは、フォーゼBSを見ながら唸り、首をひねっている。

「どういうことだ…フォーゼが2人…?」

彼は自分の頭の仲だけで自問自答しているようだ。

「オフューカス!!!今度こそ、倒す!!」

そう宣言するフォーゼBSだが、彼も体が限界に近いはず。

後が無いとは、そういうことなのだ。

ここで負けてしまえば、もうフォーゼは戦う事が出来ないだろう。

最悪、死が待っているかもしれない。だからこそ、絶対に勝たなければならないのだ。

この学園、仲間、友達、大切な人、絆を守るために。

「ムゥゥゥゥ…!」

あたりからはダスタードが現れる。これらも相手をしなければならない。

だが、新たな協力者が現れる。

 

「ふんっ!!!」

 

ドガアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ヌオオオオオオオオオォッ!?」

ダスタードを薙ぎ払うように現れたのは、キズついたパワーダイザーだ。そのキズの多さから、どこか歴戦の勇者のような風格を漂わせる。

「一夏、城茂」

その声は、二人も良く知っている者の声であった。

 

 

 

「…千冬姉!?」

 

 

そう、織斑千冬である。彼らの担任の教師であり、一夏の姉である者だ。

「織斑先生!?マジかよ…!」

今まで、彼女と肩を並べて戦う事は全く無かった。いつも見守る側にいるか、彼らが戦えないときに学園を守る側として敵の前に立ちふさがる事ばかりだった。

「そんなに驚いている暇は無いぞ!!!」

パワーダイザーは腰を低く落とし、戦闘態勢に入る。

「あぁ!行こう、千冬姉、宇月!!」

「よっしゃあぁっ!!!」

3人は並び立ち、オフューカスに向かって雄雄しく立つ。

「どいつもこいつも…自分の身の程を弁えきれない愚か者どもばかりだな…!!」

オフューカスは自身の望んでいた結果が得られなかった事と、自分にたてつくもののあまりの多さに、苛立ちを少しずつ増していく。

 

「フォーゼ!!!今度こそ、倒す!!」

 

向かう場所は違うのに、皮肉にも同じ言葉を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回…

 

                         勝つには絆が必要だ。それも40もの

 

呼びかけるんだ…全員で!!!

 

                         おれ達の運命は…

 

フォーゼ…ここで終わりだ!!!

 

                         いや…まだ終わらない!!!

 

なぜなら、おれは…っ!!!

 

 

 

 

最終Ⅲ部作・第Ⅱ章

第39話「君・之・名・覇」

 

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ

布仏本音
シャルロット・デュノア

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

更識簪
更識楯無
布仏虚

織斑千冬
山田真耶
篠ノ之束

オフューカス・ゾディアーツ




いかがでしたか?
さぁ、遂に最終三部作に突入です!
実は、今回で仮面ライダーなでしこの出番は終了です。文章にありましたが、SOLUのダメージは人間の科学では癒せるものではありません。自己回復にも時間がかかるので、この戦いではもう参戦できない状態です。ゆりこは最終話まで出ます。
そして仮面ライダーメテオは…次回まで登場します。礼は、次回までボロボロになってもらう予定です。
次回は最終話前!
さまざまなゲストキャラの再登場を予定してます!

そして既に今回、最後のゲストキャラが新登場してます。

お楽しみに!


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第39話「君・之・名・覇」

 

ドゴオオオオオオオオオォッ!!!!

「うああああああああああああああああぁっ!!!!」

オフューカスは圧倒的な強さを秘めていた。

フォーゼCS、一夏、千冬が3人でかかってもまるで勝てない。

「どうやら、もう限界のようだな」

傷だらけの3人に対して、オフューカスはまるで無傷だ。先までも零落白夜やリミットブレイクを何度も浴びせたと言うのに。

勝てる術が見つからない。

「くそおぉ…!!」

このまま戦っても、結果は見えている。だが、逃げるわけにも行かない。

ならば…。

「…オフューカス、おまえの狙いはおれなんだな…?」

「何?」

先にも、オフューカスはフォーゼの撃破を宣言していた。残りはまるで興味を失っている。

フォーゼCSは悩んだ末に、あることを考えた。

「なら、一対一で戦う!」

「城茂…まさか!?」

千冬は彼のやろうとしている事に気づき、必死に止めようとする。

「よせ!一人ではあいつには!!」

「やめろ宇月!!!」

一夏も彼女の様子にただならぬ危機を感じ、フォーゼCSを止めようとするが、当の本人はそれも構わず、バリズンソードを閉じてコズミックスイッチを装填する。

<LIMIT-BREAKE>

「みんなに…よろしく伝えてくれよな」

拳を、一夏と千冬の前に突き出すフォーゼCS。

マスクの奥は、笑っているのかもしれない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

「貴様…!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

青白い光とともに、オフューカスをワープゲートの中へと押しやっていった。

 

ワープゲートの先は宇宙。

オフューカスの居たダークネヴュラは、オフューカス自身が居ないと負のコズミックエナジーを感知できず、コズミックステイツでもたどり着く事は出来ないのだ。

「さぁ…これで一対一だ!」

「わざわざ、状況を悪くするとは…人間の考える事は分からん」

オフューカスは体中から大蛇を作り出し、フォーゼCSを威嚇するように見せ付ける。

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「貴様一人では、到底かなわん相手だ。死ぬ時間が早まるだけだと言うのに」

「でも、学園は守れる。危険から遠ざけられる」

バリズンソードを再び構えて、オフューカスを睨むフォーゼCS。

宣言とともに、フォーゼCSはオフューカスに向かって一心不乱に走っていった。

学園と仲間を守るために。

 

 

 

 

 

「仮面ライダーフォーゼ!!!!!タイマン張らせてもらうぜ!!!!!」

 

 

 

 

 

あれから、一夏と千冬はラビットハッチに戻った。

過激派がオフューカスに一掃されてしまった所為か、学園は異様な静けさに包まれている。

そのなかでも未だ活動を続けているのが仮面ライダー部だ。

「宇月は見つかったか!?」

「紅椿やスイッチカバンにも反応は無い…。かなり遠い宇宙にいるんだよ…」

先に連絡を受けた箒やシャルロットが、ラビットハッチ内のセンサーなどを駆使して宇月を探している。

だが、オフューカスも含めて遠い宇宙空間に居るのか、まったく反応がつかめない。

「このままじゃ…宇月が…」

一人で戦うには無謀すぎる。あのオフューカスは今までのゾディアーツを優に上回っている。たとえコズミックステイツで戦ったとしても結果は目に見えている。

だが、どうしようもない。

バチイイィッ!!!

ふと、凄まじい火花が散ったと思うと、40個のアストロスイッチがスイッチラックに転送され、黒く変色した。

「これ…」

スイッチが転送され、使用不能になったという事は…。

 

 

 

「宇月が…負けた…?」

 

 

 

今の宇月はアストロスイッチを何一つ持っていない。つまりフォーゼの変身が解除されたという事だろう。

宇宙空間での変身解除から導き出される答えは唯一つ。

 

死だ。

 

「そんな…宇月さんが…」

セシリアは信じられないといった表情で椅子に座り込んだ。

横たわっていたゆりこが、その状況を目の当たりにして、目から涙を流す。

「宇月…なんで一人で無茶を…!?」

学園を救ってきた仲間の死の所為で、ラビットハッチ内は悲しみで包まれる。

「なにも…できなかったのかよ…!?」

一夏は机を叩いて悔しそうに呟く。

 

 

 

 

だが、宇月は死んではいなかった。

 

 

 

 

「見上げたしぶとさだな」

「はぁっ…はぁっ…」

宇月はスイッチを一つも使わずにフォーゼBSに変身していた。

実際のところはオフューカスの猛攻撃の結果、変身解除にまで追い詰められたのだが、彼はスイッチなしの状態で変身をなんとか保ったのだ。

「父さんは昔、スイッチを使わずにフォーゼに変身して戦っていた。息子であるおれなら…出来ないわけがない!!!」

とはいえ、もう疲労困憊なうえにダメージも限界を迎えかけている。

それでも戦おうとオフューカスに向かって、走り出した。

 

その間も、宇月の不幸を信じ込み、彼を悼んでいる一同。

そこに電子音が響き、ラビットハッチのコンピュータにメールが届いた。

「これは…」

送り主は、ローマ字で「VIRGO」と書かれている。

「ヴァルゴ…宇月の母さん…!?」

一夏があわててそのメールを開くと…。

特に文章はかかれてはおらず、何かの設計図が描かれている。

その形は、アストロスイッチの上に地球があるような形をしている。

下に書かれていた名前は…。

 

「フュージョンスイッチ…」

 

ここで以前、美咲が製作していたアストロスイッチはこれだったのだ。

だが。

「起動には…コズミックスイッチ以上の絆とコズミックエナジーが必要か…」

設計図の要点事項にそう書かれていた。つまり、今の状態ではこれを完成させるには至らないのだ。

ふと、包帯姿の礼が立ち上がる。

「礼、まだ体が…!!」

ラウラがそれを引きとめようとする。

「アストロスイッチをドライバーに装填せずとも、押すと僅かながらコズミックエナジーが発生するのは知っていたか…?」

その言葉を聞いて、鈴音がスイッチラックにあるレーダースイッチを取り出してオンにしてみる。

すると、僅かながら青白い光が漏れる。

「これが…?」

「さっきのメール…ヴァルゴである宇月の母親が、おそらく宇月の危機に瀕したときに受信するようにされていたんだろう…」

いずれフォーゼのアストロスイッチが一斉に使用不能になったとき、送信されるように仕掛けをしていた。

 

つまり、彼女は息子に最後の希望を託していたのだ。

 

「アストロスイッチとコズミックエナジーは人間の感情に大きく影響する…。40個のスイッチを一斉にオンにすれば…絆をもった大きなコズミックエナジーが生み出され、フュージョンスイッチに値するエナジーを生成できるだろう…」

礼の言葉から考えられる事は…。

「宇月のことを強く想う40人の人々…」

彼との強い繋がりがある40人をこの状況で探すのは至難の業かもしれない。

それに…。

「でも…宇月はもう…」

 

「信じようぜ」

 

一夏が強く宣言する。

「信じるしかない。今は…あいつを…!」

その言葉に全員が頷いた。仲間が信じなければ、誰か彼を信じるというのだろうか。

「呼びかけよう…今まで宇月と関わってきた人たちに!!」

今は、これに賭けるしかない。

 

そのあいだも、オフューカスとの無謀ともいえる戦いに挑み続けるフォーゼBS。

ドガアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「ぐあああああああああぁっ!!!」

吹き飛ばされる。だが、それでも屈する事はない。

「このおぉっ!!」

背中にある空中推進用の装置でオフューカスに突進する。

「うおりゃあああああああああああああああああぁっ!!!」

「無駄だ」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!」

大蛇にまたしても体を強く打ち付けられる。

ドゴオオオオオオオォッ!!!

「がはあああああぁっ!?うあああぁ…!!」

それでも体に無理を言わせて、持ち直す。

「うおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

今の彼には、もとの地球に戻る術は無い。もう死ぬ覚悟なのだ。

彼は命の全てを賭けて、オフューカスと戦い続ける。

 

箒は、楯無達の居る隠れ家へと向かう。

「お願いです!宇月のために、このスイッチを押してください!!」

手渡したのは、楯無にはジャイアントフットスイッチ、簪にはネットスイッチ、虚にはエアロスイッチだ。

「オッケー、任せて!」「宇月のためなんだね…わかった!」「わたしたちに出来る事なら!」

彼女たちは、快く引き受けてくれた。

しかし、簪はそれだけには収まらない。

「わたしもスイッチを配る!」

箒の手の中にあるスイッチのうち、幾つかを受け取り、スイッチを押す人を探しに出かけた。

 

一夏は、学園の生徒たちが避難している場所に行き、4人の少女を探し出した。

「頼む!宇月のために、スイッチを押してくれ!」

それは能美ミキをはじめとした、以前はフォーゼの敵として立ちふさがった少女たちだ。

ミキにはスクリュースイッチ、カメレオンだった少女はステルススイッチ、ハウンドの少女はスモークスイッチ、ユニコーンの少女はスパイクスイッチをそれぞれ渡す。

「城茂君のためね。いいよ!」「いいわ、押してあげる…!」

「少しくらい、手助けしてやろうじゃない!」「これも、学園を守るためなら!」

彼女たちもまた宇月のことを信じて、スイッチを引き受けた。

 

セシリアは、病室に向かう。そこには理雄と彼の世話をしている夏樹がいた。

「セシリア…どうしたの?」「随分と急いでいるようだな…」

「聞いてください!宇月さんが、オフューカスとの戦いで…!」

走ってきたために、息切れ状態の彼女の様子を見て唯ならない雰囲気を感じ取った。

「お願いします…!このスイッチを…押してください!」

そういって差し出したのは、理雄にはチェーンアレイスイッチ、夏樹にはウォータースイッチだ。

「お安い御用よ。まかせなさい!」

夏樹は受け取るが…。

「おれも出来れば協力したいが…。」

理雄はそうは行かない。彼の体は動かないのだ。一応、腕は何とか動くが、指の細かい動きはまだ出来ず、タイミングよくスイッチを押せないのだ。

「ごめんなさい…わたくし…」

「自分を責めるな。だが、他を…」

理雄が言いかけたところで、夏樹がそのスイッチを受け取る。

「大丈夫だよ理雄君、一緒に押そう。わたしが手伝うから!」

理雄の手に握らせ、自身の手でやさしく包み込む。

「…わかった。おれも協力する」

「ありがとうございます!」

 

続いて、鈴音が向かったのは…。

「弾!蘭!」

五反田兄妹のところである。

「鈴音、どうしたんだよ?」

「お願い!宇月が…仮面ライダーフォーゼが!!」

「宇月さんが…どうかしたの!?」

彼女がここまで焦っている姿を見るのは、二人としてはとても珍しい。しかも仮面ライダーの事となると、かなり危険な事である事は予想できる。

「あいつを助けるために…スイッチを押して!」

そういって、蘭にホイールスイッチ、弾にボードスイッチを渡した。

「これだけでも…あいつを助けられんのか?」「いいよ。わかった」

二人がスイッチを受け取ったとき…。

 

「おれも押そうか?」

 

そう言いながら現れたのは、弾と蘭にとっては会いたい人物の一人だった。

「八木さん!」

そう、八木鳴介。以前はカプリコーン・ゾディアーツとして立ちふさがった強敵だった。

そして、弾達にとっては懐かしい恩師でもある。

「宇月のためなんだろ?あいつにおれの情熱、もう一発だけ届けてやるぜ!」

そう言って、鈴音の持つビートスイッチを奪うようにひったくる。

「…頼んだわよ!」

 

シャルロットは一夏とは別に、学園の生徒達から宇月を良く知る者たちを探していた。

そして…。

「聞いたわよ、大変そうね?」「わたし達にも、何かお手伝いできますか?」

現れたのは陽野瑞樹と清水満子の2人だ。満子はアクエリアス・ゾディアーツとしてホロスコープスを離反するなど、ひと波乱を起こした人物でもある。

「満子、瑞樹!お願い、スイッチを押して!宇月のために!」

そうやって渡されたのは、満子はメディカルスイッチ、瑞樹にはパラシュートスイッチが渡される。

「分かったわよ。これを押せばいいのね?」「城茂さんに、絶対に負けないでくださいって伝えてください!」

二人は強く頷いて、スイッチを受け取る。

 

ラウラは、ある人物に声をかけた。

「宇月の力になって欲しいんだ!!」

その者は以前、宇月や一夏を学校新聞で取り上げるために取材をした新聞部の二人、黛薫子、黛渚子である。

「えぇ!仮面ライダーに協力できるなら!」「力を貸します!」

渡されたのはペンスイッチとチェーンソースイッチ。それらを受け取った事を確認すると、ラウラは強く頷いて、他にスイッチを押せる人物を探す。

 

礼は体の傷が痛むにも関わらず、スイッチを押せる人物を探していた。

だが、彼はもとより仮面ライダー部としか関わりが無い。宇月の人間関係にまでとやかく口出しはしなかったので、探すあてに困っていた。

「くそ…!こんなことで、足手まといになるなんてな…!」

自分の意外な盲点に悔しさの色をにじませる。

そんなとき、彼の肩を優しくたたく者が現れた。

振り返ったそこには…。

 

「助けが必要かい?」

 

龍崎竜也と月宮あゆがいた。彼らは以前、仮面ライダー龍騎とその妻として、宇月達を時に影ながら、時に本格的に協力した、いわゆる先輩ライダーである。

「あなた達は…!」

「おれ達に何か出来る事があったら、言って」「なんでも力を貸すよ!」

「このスイッチを…!」

渡したのはNSマグフォン。竜也とあゆはそれを二つに分解し、強く握る。

「わかった」「がんばって!みんななら、絶対に出来るから!」

礼は体の限界も感じ、調整室で準備を始めるべく、ラビットハッチへ戻った。

 

簪は正直なことをいうと、ダメもとである人物を尋ねていた。

「…おや、アンタは…?」

自身の病室で扇子をいじっていた男は、簪の姿を見て意外そうな表情をする。

 

彼は居可弐式。キャンサー・ゾディアーツだった者だ。

 

彼は未だに、フォーゼや宇月達と和解できていない。

面会も誰一人として迎え入れようとはしなかった。

「あのね、面会はお断りなんだけど…」

「お願いします!力を貸してくれませんか!?」

そう言って、簪はシザーススイッチを渡す。

「これ…フォーゼのスイッチだね…」

「宇月が苦しんでる…。一生懸命戦ってる!それを助けるために40人の絆が必要なんです!」

今、宇月を助けるために必要な事を弐式に伝えた。その間も彼は、扇子をクルクルと回しながら、適当に聞いているようにしている。

「…んで、アタシに頼んで大丈夫なの?相手は元ホロスコープスのキャンサーだよ?」

「信じます。あなただって…人だから!」

彼女はまっすぐ弐式を見つめている。

程なくして…。

「…知らないよ、どうなっても」

シザーススイッチを受け取った。協力の意思を見せたのだ。

「お願いします!」

 

さらに、ラウラはある人物に要請をかけていた。

「ようやく来たか!」

彼女の優秀な部下、クラリッサだ。

「隊長、お話は伺っております!さぁ、スイッチを!」

ラウラはクラリッサにシールドスイッチを渡す。

「頼んだぞ!」

そう言って、再び人々を探そうとする…。

 

一夏が探していたところに…。

「人手が足りないんだろ?」

声とともにオーロラが現れ、見覚えのある青年や女性の姿が見えてきた。

その者たちは…。

「あなた達は…!?」

 

門矢士、小野寺ユウスケ、光夏海だ。

 

「あら、私も出てきちゃったな…」

さらに光栄次郎も現れる。彼がオーロラを超える事は非常に稀であり、その事実に少しだけ驚いたような表情を見せる。

「士さん、実は…!」

「状況は大体、分かってる。そのスイッチを押すんだろう?」

そう言って、士はエレキスイッチをひったくる。

「ちょっと士君!…一夏君、わたし達にも力を貸させてください!」

「おれ達も君達も、同じ仲間だから!」

二人の言葉にラウラは頷き、ユウスケにホッピングスイッチ、夏海にフラッシュスイッチ、栄次郎にカメラスイッチを渡す

「上手くやれよ」

士の言葉を背に受け、ラウラは再び、走り出した。

 

本音も学園やいろんな場所をくまなく探していたが、まだ見つかっていない。

「どうしよう…どうしよう…!」

涙目になりながら、改めて探し始める。

そこへ…。

 

「君達のお宝…ちょっと興味がある」

 

海東大樹が現れた。彼も士たちとは別ながらも、この世界の危機を聞きつけてやってきたのだ。

「大樹さん!お願いです、このスイッチを…!」

手にあったマジックハンドスイッチを差し出す。

「へぇ…面白い、僕も協力しようじゃないか」

さわやかな笑みを浮かべ、そのスイッチを受け取る。

「君達のお宝、しっかりと見せてもらうよ?」

「うん、ありがとう!」

 

シャルロットは病室に向かい、ある人にスイッチを頼もうとしていた。

それは…。

「君は…仮面ライダー部の…」

白石勇士である。以前のタウラス・ゾディアーツだ。

「勇士さん、スイッチを押してくれませんか…?」

そう言って、ハンマースイッチを渡す。

「…今の私が押したところで、君達の役には立てんよ」

俯きがちになり、小さく呟く。

今の勇士は自身の行いを恥じ、後悔している。息子を憎んでいたが、その息子は自分を悔い、そして救いをずっと求めていた。なのに、その事も頭の片隅に追いやり、自分の感情に従ってばかりだった。

「紫苑は…最後にはボク達を信じて一緒に戦ってくれました。そのときの紫苑を少しでも信じてくれるなら…」

彼女の言葉を聞いて、しばらくの沈黙があったが…。

「…やってみよう。私も息子のように…変われるのならば…」

「変われます、絶対に」

ハンマースイッチをそっとてにとる勇士。シャルロットはその姿を確認して、病室を出た。

病院から出て、走り始めたところで…。

 

「シャル…こっち…」

 

懐かしい声が聞こえた。

「紫苑!?」

声の方向を振り返るが、誰も居ない。そのかわりに小さなダークネヴュラがあった。

おそらく、ここからシャルロットに呼びかけたのだろう。

「そっか…君も仮面ライダー部の一人だもんね」

そう言って、クローススイッチをダークネヴュラに投げる。

「力を貸して!」

返事は無い。だが、彼の心は確かに感じ取れた。

 

千冬と束は自身に渡された、ジャイロスイッチとスコップスイッチを見つめながら、学園を歩いている。

探し回る役は担わず、ただ宇月の勝利を信じて待っている。

そこに…。

「千冬、束…」

振り返ると、彼女達にとって懐かしい人物がいた。

 

 

 

 

 

「吾朗さん…!?」

 

 

 

 

 

そう、城茂吾朗である。

「息子は今も戦っている。私も力になりたいのだ。妻の贖罪と、息子の勝利を祈るため…」

ふと手を見ると、一夏達が探しているときに持っていたはずのスタンパースイッチが握られていた。

「あなたは一体…!?」「どういうことなの?」

吾朗は死んでいる。その彼がなぜここに居るのか。だが吾朗は何も答えず、ただスイッチを握り締めるだけ。

おそらく、想いなのだろう。

彼女達への答えはそれだけで十分だった。

 

そして…。

一夏はロケットスイッチ、箒はドリルスイッチ、セシリアはランチャースイッチ、鈴音はレーダースイッチ、シャルロットはガトリングスイッチ、ラウラはウインチスイッチ、本音はハンドスイッチ、山田はフリーズスイッチ、ゆりこはファイヤースイッチを手にした。

だが…。

 

最後の40番目のスイッチ、コズミックスイッチを押すものが居ない。

 

「まだ残ってます…でも時間がありません…!」

このまま、探すのに時間もかかれば、宇月はどんどん危険な状況に陥り、命を落とすかも知れない。

焦りの色を見せる仮面ライダー部の一同。

そこに…。

 

「よぉ!そのスイッチ、おれに任せてくれねぇか?」

 

その声とともに現れたのは、風変わりなスーツの青年だった。

だが、仮面ライダー部の誰もが彼とは初対面だった。

「あなたは…?」

一夏の問いに、青年は明るい笑顔を見せて胸を叩きながら彼らに指差す。

「おれは…」

 

 

 

 

 

「如月弦太朗!!!全ての仮面ライダーと友達になる男だ!!!」

 

 

 

 

 

「つまり仮面ライダーフォーゼの城茂宇月はダチだ!ダチのピンチは見逃せないからな!」

彼にならコズミックスイッチを任せられる。

確かなものは無かったが、そう思えた。

「お願いします!」

そう言って、コズミックスイッチを手渡す。

これで全てのスイッチを押す者がそろった。

 

 

 

 

 

調整室でエナジー集中の準備をしている礼。

彼もメテオスイッチとメテオストームスイッチを握り、それからエネルギーをひとまとめにする役割を担っている。

「オフューカスなんかに、宇月は殺させない…」

 

「おれ達の運命は…おれ達が決める!!!!!」

 

放送室にきた一夏はマイクを持ち、呼びかける。

「みんな、宇月を…この学園を守ってきた仮面ライダーフォーゼを信じてくれ!!!」

その言葉に、彼らは宇月を…仮面ライダーフォーゼを思い浮かべる。

 

 

 

「宇月…」「城茂…」「宇月さん…」「城茂君…」

「城茂宇月…」「フォーゼ…」

 

 

 

「カウント開始だ!」

その放送の合図と共に、全員がカウントを始める。

 

 

 

 

「スリー!!」

 

彼らの想いと…。

 

「ツー!!」

 

彼らの願い…。

 

「ワン!!」

 

そして友の勝利を信じて…。

 

 

 

 

 

 

『青春スイッチ・オン!!!!!』

 

 

 

 

 

その合図と共に、礼も含んだ41人全員がスイッチを押した。

とたんに、凄まじい量のコズミックエナジーがメテオストームスイッチを介して、調整前のスイッチに集まり、宇宙へとまっすぐに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

スーツは拉げ、傷つき、ボロボロとなった。

フォーゼBSは意識も朦朧としている。

「良く頑張ったが…とうとう、終わりのときが来たようだな」

オフューカスは戦いの終わりを感じ、大蛇を呼び出す。最後のトドメの為だ。

「オマエには驚かされた。よって、我の最大の力で叩き潰してやる。有難く思え」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

大蛇が迫り来る。だが、フォーゼBSはそれにも気づいていない。

絶体絶命。

まさにそのとき…。

 

 

 

カッ!!!

 

 

 

宇宙空間の無限の闇を思わせる真っ暗な世界に、一筋の強い光が差す。

その光はフォーゼBSの手に収まり、形となった。

「これは…」

地球の形をしたアストロスイッチをしている。

それを握り締めたとたん、このスイッチを創り上げるために協力した41人の顔が浮かぶ。

「みんなの…スイッチだ…」

 

これこそ、最後のスイッチ「フュージョンスイッチ」だ。

 

フォーゼドライバーのソケットにフュージョンスイッチを装填し、オンにする。

<FUSION-ON>

その途端、フォーゼの体に光が集まっていく。

「感じる…みんなの力を…!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「オフューカス!!!まだ…おれは終わらない!!!!なぜならおれは…」

 

 

 

 

「仮面ライダーフォーゼだからだ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そして…。

 

 

 

 

 

 

 

続く…。

 

 

 

 

 

 

次回。

 

 

 

 

宇宙ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!

 

 

 

 

 

最終Ⅲ部作・第Ⅲ章

最終話「宇・宙・招・来」

 

 

青春スイッチ・オン!

 

 

 





キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

五反田弾
五反田欄
黛薫子
黛渚子
クラリッサ・ハルフォーフ

裾迫理雄
尾坂夏樹
八木鳴介
居可弐式
清水満子
陽野瑞希

能美ミキ
元ハウンドの女子生徒
元ユニコーンの女子生徒
元カメレオンの女子生徒

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ

門矢士=仮面ライダーディケイド

光夏海=仮面ライダーキバーラ
小野寺ユウスケ=仮面ライダークウガ
海東大樹=仮面ライダーディエンド

光栄次郎

織斑千冬
山田真耶
篠ノ之束
白石勇士

城茂吾朗

オフューカス・ゾディアーツ

如月弦太朗=仮面ライダーフォーゼ


あとがき
いかがでしたか?
最後のゲストキャラは、フォーゼの主人公の弦太朗でした!…気づいた方もいらっしゃいました(汗)
再登場のゲストキャラはこのためだけに呼びました。竜也や士達も最終話は戦いません。

次回は遂に最終話を迎えます!

一応、全ての話に決着がつけられると思います…。
お楽しみに!



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最終話「宇・宙・招・来」

 

 

光が消えると、フォーゼは全く新しい姿になっていた。

紫色のスーツ、コズミックステイツを思わせるアーマー、両手足にはISが装備されている。

これが、コズミックエナジーとISの融合…。

 

 

 

 

 

「仮面ライダーフォーゼISフュージョンステイツ」だ。

 

 

 

 

 

体中から溢れ出る力に体を縮める。

「宇宙ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」

そして、その力を解放するように、一気に広げた。

「キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」

彼の体の中に、宇宙と41人全員が居るように感じた。

「その姿は…あのときのフォーゼではない…!?」

オフューカスはうろたえる。たしかに、この力はあの「謎のフォーゼ」に酷似している。

だが、見た目が違う上に、エネルギーの方向性も全く違う。

謎のフォーゼはコズミックエナジーが特化していた事に対し、こちらのフォーゼはコズミックエナジーを高めつつも、ISのエネルギーも混ぜ合わさっている。

「最初の言葉…訂正させてもらう」

「何?」

不意にフォーゼISFSが告げる言葉にオフューカスは首をかしげた。

「タイマンじゃなかった。おれには41人の仲間達が居た。つまり42対1だ!」

拳を前に向け、オフューカスに突き出す。

「何が言いたい?」

「おまえは確かにめちゃくちゃ強い。正直に言えば、おれだけじゃ勝ち目は無い。でも、おれ一人だけの話だ。たくさんの仲間が居るおれが…たった一人のおまえに負けるわけが無いんだ!!!!!」

そう言って、フォーゼISFSは走り始めた。

「いくぞ、セシリア!」「わかりましたわ!いきましょう宇月さん!」

そう言うと、フォーゼISFSの隣からセシリアの声がする。厳密には彼女の精神だけがコズミックエナジーに乗って、ここに転送されたのだ。

フォーゼISFSの右手にスターライトmkⅢが装備される。

「それはISの武装!?何故、起動できる!?」

「喰らえぇっ!!!!」

巨大なビームがオフューカスに向かう。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「フンッ!!」

それを大蛇で防ぐ。だが、その大蛇は焼け焦げて消滅する。

「何…!?」

「言っただろ、おれ一人じゃないってな!なぁ鈴音!」「もちろん!さぁ、いっくわよ!」

次は鈴音の声と共に、フォーゼISFSの左肩に龍砲が装備される。

「おりゃあああああぁっ!!」

衝撃波が放たれる。もともとの甲龍のもつパワーにフォーゼの力も追加されており、これも今まで以上に強力なものである。

ドゴオオオオオオオオオオオォッ!!!

「オオォッ!!!」

しかし、オフューカスにはまだ余裕がある。その攻撃をたやすく弾いた。

「ブルーティアーズ、双天牙月、借りるぞ!」

宣言した途端、フォーゼISFSの周りに後方支援用のブルーティアーズが現れ、右手には双天牙月が握られる。

「はあああああああああああああああぁっ!!!!!」

ブルーティアーズのビームの嵐。

「チィッ!!!」

それらを避けたり防いだりするオフューカス。フォーゼISFSは嵐の中をかいくぐって、オフューカスの懐にやってきた。

「ムッ…!?」

ガギイイイイイイイイイィッ!!!!!

間一髪のところで、その攻撃を防ぐ。オフューカスもフォーゼISFSも一歩も引かない戦いだ。

「次!シャルロット!」「うん、任せて!」

双天牙月とブルーティアーズが消え、シャルロットのガルムがフォーゼISFSの右手に現れる。

「だぁりゃあああああああああああああああぁっ!!!!!」

ガガガガガガガガガガガガッ!!!!

凄まじい弾幕で、オフューカスに攻撃を仕掛ける。

「その量とて、実弾では…!!!」

大蛇に攻撃全てを防がせ、反撃を始める。

「ズアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

火焔弾の嵐をお返しに見舞う。だが、フォーゼISFSは全く焦りを見せない。

「ラウラ、頼む!」「了解だ!!」

ガギイイイイイイイイイイイイイィッ!!!!

両手を広げると、右肩にレールカノンが現れ、虹色のバリアが火焔弾からフォーゼISFSを守りきった。

どちらもラウラのISによるものだ。

「おのれ…!!!」

オフューカスは戦いに劣勢に追いやられてはいないものの、敵が全く疲労や苦痛を感じていない事に焦りを感じている。

「先ほどまで、満身創痍だったはずの貴様が…なぜ平気でいられる!?」

「平気でいるわけじゃない」

その質問から帰ってきた返答は、オフューカスにとっては意外なものであった。

「さっきも言ったけど、おまえはめちゃくちゃ強い。そのときにアストロスイッチなしで戦ったんだ。本当は死に掛かってるよ」

今はステイツチェンジによって、スーツの表面の傷は完全に消えているが、装着者自身である宇月の傷が癒えたわけではない。

ベースステイツの状態で死んでもおかしくないほどの攻撃を受けたのだ。そこから新たなステイツにチェンジしたとなると、そこから導き出されるのは、負担だ。

今の宇月は、当の昔に限界を超えているはずなのだ。

「ならば、何故!?」

「ここで倒れたら、力を貸してくれた41人に会わせる顔がない。それに、ゾディアーツを倒して地球や学園を守るって決めたのは、おれ自身なんだ。だから倒れるわけにはいかないし、おまえに勝ちを譲るつもりも無い!!!!!」

強く言い放ち、拳を握り締める。

「必ず勝つ!!!そして地球に帰る!!!みんなに…「ありがとう」って言わなきゃいけないんだ!!!」

次に構えたのは開いたバリズンソードだ。両手で強く握り、オフューカスに向かって走る。

<LIMIT-BREAKE>

「ライダァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!超銀河・フィニィィィィィィィィィッシュ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

虹色に輝くバリズンソードのエネルギーの刃が、オフューカスの体にえぐりこまれる。

「ヌゥッ…!!ウオオオオオオオォッ!!!!」

しかし、それもオフューカスはなんとか防ぎきった。

「貴様も所詮は星の力に魅せられたことがある人間!!!言うなれば、我の従僕だ!!その貴様が、我に勝てると思うか!?」

苦し紛れの発言だった。案の定、フォーゼISFSはリミットブレイクの力が残ったバリズンソードを闇雲にも見えるような具合で振り回しながら答える。

「おれも…みんなも…何度も挫けそうになったし、時には挫けた!!!何度だって失敗したり、悩んだりした。でもな…そんなときには、何時だって一人ぼっちじゃなかった!!!誰かが負けそうになれば、誰かが支える。おれも支えたし、支えられた!!!」

ガギイイイイイイイイィッ!!!!

大蛇で防いだり避けたりしていたが、遂に隙を突かれて肩にバリズンソードが突き立てられた。

「グオオォッ…!?」

「そうやって…人間は生きていく!!!!!」

 

 

 

 

 

「これが、人間の創り出す宇宙だ!!!!!」

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

「グワアアアアアアアアアアァッ!!!?」

コズミックエナジーの爆発が起こり、オフューカスは吹き飛ばされた。

「恐怖や絶望や…おまえを生み出したのも人間だ。でも、人間は他のモノも創れる。夢や希望…宇宙へ向かおうと前に進み続ける気持ち!!!それがコズミックエナジーやISなんだ!!!」

フォーゼISFSの手に雨月と空裂が握られる。箒のものだ。

「行くぞ、宇月!そして帰ってくるんだ!!」「あぁ!!絶対にな!!」

箒と似た構えをしながら、オフューカスに向かっていく。

「おおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!」

ガアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!

2つの剣の猛攻に、オフューカスは驚きながらも防御し続ける。

「速い…!!!」

「これが、おまえがバカにしてたISの力だ!!!この力は…ときには人の脅威になるかもしれないけど…同時に希望にもなる!!!」

双方の刃で、オフューカスを切り裂く。

ザンッ!!!

「グウウゥッ!?人間が…!!ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

ドガアアアアアアアアアァッ!!!!!

されるがままに攻撃されていたオフューカスは怒り狂い、火焔弾を放つ。

「うおおおぉっ!?」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

突如、ほとんどゼロ距離から攻撃された事もあって、正面からその攻撃のダメージを受けた。

「くっ…!!!」

だが、フォーゼISFSは負けずに立ち上がる。

「こんな程度で…おれ達は倒れないぞ!!」

強がりではなく、彼の決意なのだ。

「ならば、倒れるまで続けるだけだ!!!」

「ズアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!」

オフューカスは自分の出せる全ての大蛇を呼び出し、フォーゼISFSを迎え撃つ。

「倒れるわけにはいかないって言っただろうが!!!!」

大蛇の攻撃を全て防ぎながら、オフューカスの懐に入り込む。

「ヌッ…!?」

「一夏!!」「あぁ!力を貸すぜ!!」

フォーゼISFSの体が黄金色に輝く。零落白夜と似た状態だ。

左手には雪片弐型が現れる。右手のバリズンソードと合わせて、二刀で戦うのだ。

<LIMIT-BREAKE>

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!

「ヌアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!??」

リミットブレイクと零落白夜。二つの技を組み合わせて、凄まじい威力の攻撃を生み出した。

オフューカスはたまらず吹き飛ばされる。

「これで最後だ!!!絆の力は…どんな強大な闇も打ち砕く!!!!!」

<LIMIT-BREAKE>

両手足にあったIS型の装備が分離し、一つの機械の塊を創り出す。それはフォーゼISFSの攻撃と共に向かう支援武装へと変化したのだ。

 

 

 

 

 

「ライダァァァァァァァァァァァァァァキィィィィィィィィィィィィィィィック!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

懇親の力を込めた、仮面ライダーフォーゼ最後の大技。

それはフラフラになったオフューカスの胸に強く突きたてられる。

「グウウウゥッ!!!」

しかし、それでも耐えようと体中に全ての力を注ぎ、迎え撃とうとする。

フォーゼISFSも度重なるリミットブレイクの使用により、無理が祟ってフォーゼドライバーに火花が散る。

限界は近い。

 

『負けるかあああああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!』

 

その途端、フォーゼISFSの背後にISを纏った一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラが現れる。

彼の仲間も最後の最後まで、力を貸しているのだ。

そして…。

「我が負けるとは…!!!!人間が…宇宙にかなうとは…!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!

フォーゼISFSの右足は、オフューカスの体を貫いた。

その事実に驚愕しながら、オフューカス・ゾディアーツは爆風に飲み込まれ、消滅していく。

 

 

 

 

 

仮面ライダーフォーゼは、仲間との絆を糧に、辛くも勝利を収めたのだ。

 

 

 

 

 

静まり返ったIS学園。

そこにいる者達は、一人の生徒の帰りを待っている。

一人で最後の戦いに赴き、そして勝利を収めたヒーローの帰りを。

程なくして…。

<LIMIT-BREAKE>

青白いワープゲートが現れ、フォーゼISFSが降り立った。

地面に着地すると同時に、フォーゼドライバーは強制的に彼の腰から離れ、変身を解除させた。

人間の姿に戻った宇月は意識を失い、地面に倒れていく。

だが、それを支える事で止めた者がいた。

礼である。

「無茶な奴だな…」

実は、フォーゼが戦っている間、オフューカスは苦し紛れに学園に無数のダスタードを放った。

それらを一夏や箒、そしてメテオが一掃していたのだ。彼らは一足早く一掃し、宇月の帰りを待っていたのだ。

一部を除いたのスイッチを押した人々も、彼に歩み寄っていく。

宇月は意識を失っていたが、寝言のように呟いた。

「ありがとう…みんな…」

その宇月に、一人の青年が歩み寄った。

如月弦太朗である。

「よくがんばったな。これでおまえも、おれのダチだ!」

弦太朗は、礼に抱えられているために、だらんと垂れた宇月の右手を握り、拳を打ちつける。

 

彼の「友達の印」だ。

 

 

 

 

 

 

ゾディアーツとの戦いが終わり、一週間が過ぎた。

 

 

 

「どういうことですか!?」

 

 

 

復興が続くIS学園内で、仮面ライダー部全員が声を荒げる。

叫びの原因は…

 

 

 

宇月と礼の強制転校だ。

 

 

 

「すまない、私の力が及ばなかったんだ」

千冬は少しばかり頭を下げた。

「織斑先生も知ってるでしょう!?二人は仮面ライダーとして、命懸けでこの学園を守り抜いてくれたんですよ!?」

「…分かってあげてください」

そう言って箒を止めたのは山田である。

「城茂君と辻永君は仮面ライダーだからこそ、ここに居る事が出来ないんです。二人はコズミックエナジーでISを起動させていました。それは、本当のことを言えば不正なんです」

つまり、ここに宇月と礼がいることは、学園をバックアップしているさまざまな政府や国家に憤りを募らせてしまう。

二人の立場が危機にさらされるのだ。

今まで、仮面ライダーやコズミックエナジーのことで宇月と礼が学園に入学した事は、ひた隠しにされていたが、今回のオフューカスの襲撃によって遂に隠し通せなくなってしまったのだ。

「だから、二人には藍越学園に転校してもらうんです。それが二人にとって一番安全な対処です…」

「私も、学園に転校の取り消しと二人の学園内での保護を申し出たのだが…受け入れてもらえなかった」

2人の教師は自分の力の及ばなさに、歯軋りする思いであった。

それを見ていた仮面ライダー部の一同は、何も言う事が出来なかった。

 

 

 

そして、さらに一週間…。

 

 

 

宇月と礼が転校する日がやってきた。

IS学園との別れの日である。

転校の前日、本人の意思によって、クラスの全員に宇月が仮面ライダーフォーゼであり、礼が仮面ライダーメテオであることも告げられた。

理雄と紫苑については、理雄本人とシャルロットの意思で正体が明かされた。ただ、悪事を行ってきたと同時に、改心した事や仮面ライダーに少しでも協力し、共に戦った事も強調された上でだ。

「今日を持って、このクラスから2人の友達がお別れをします」

山田の言葉に、包帯状態の宇月と、まだ傷の癒えていない礼が教壇の前に歩いてきた。

「…そういうことだ。短い時間だったが…楽しかった。ありがとう」

礼は少しだけ下を俯き、短く述べた。

続いて宇月。

「正直言って、この学園には思い入れがある。いろんなことがあったし、思い出がたくさんある」

そして、宇月は精一杯の笑顔を向けて述べた。

 

「だから、いつかこの学園に戻ってきたい!!生徒じゃなくても、どんな形でも!!!」

 

胸を二回拳で叩いて、クラスの全員を指差す。

「それまで、暫しのお別れだ!!待っててくれよ!!」

そう言って、バッグを抱えて教室から宇月と礼は出て行った。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

同時刻。

理雄は車椅子で外出をしていた。夏樹に介助をされながらの外出である。

「理雄君、気分は?」

「もちろん、最高だ。これで走れたらもっと良いが、贅沢は言わないよ」

あれから、夏樹は学園を退学した。

理雄を支えるために、介護の知識を深めることに決めたらしく、福祉系統の高等学校に転入したのだ。

両親との関係も少しずつ上手くいっているとのこと。

「おまえなら、優秀な介護士になれる」

「当然、理雄君専属だよ?」

「それなら、この身体でも不自由は無いな。よろしく頼む」

一度は悪に染まりかけた二人。

だが、宇月達のおかげで本来の形に戻り、幸せを掴みかけている。

 

 

 

ゆりこはIS学園に残る事になった。

ただ生徒としてではなく、ここに残されたラビットハッチの管理役を任されているのだ。

今、ここは宇月と礼は使っていない。

そして時折、一夏達が集まって話し合ったり、考査前の勉強に使われている。

これを提案したのは礼だ。

今日もゆりこはラビットハッチの整理や掃除をしている。

「ふんふふ~ん♪」

楽しそうに鼻歌を歌いながら、役割をこなしていく。

ふと、窓から見える地球をみつめる。

「…ここで、良いよね?わたしの居場所」

彼女はしばらく宇月とは会えない。

だが、宇月は必ずIS学園に戻る事を約束した。

だからこそ、ここで待つ事にしたのだ。

「まってるよ、宇月!」

 

 

 

宇月達が転校する前日の夜。

シャルロットは、紫苑といた部屋の荷物を見つめる。

紫苑が残していったものだ。

「きっと…絶対に…」

 

「シャル」

 

ふと、紫苑の声が聞こえた。

声のする背後を振り返ると、紫苑が立っていた。

「紫苑!戻ってきたんだね!!」

彼の帰還を喜び、抱きしめる。

だが…。

「ううん、違う」

悲しそうに首を横に振る。

「オフューカスが消えた事で、ザ・ホールも消えかかっている。たぶん、今の状態では、これが最後になると思うんだ。だから…」

つまりダークネヴュラも地球から離れる。紫苑は遠い宇宙へ飛んでいくのだ。

「これで…最後なの…?もう、会えないの…?」

不安そうにシャルロットは聞く。

「…もしかしたら、そうかもしれない」

「じゃあ、ボクも連れて行って!一緒に居たい!」

 

「それはダメだ!!!」

 

紫苑はシャルロットの願いを叱るように断った。

「君の居場所はここなんだ。そして…もし、いつか僕が帰ってきたときの道しるべになっていて欲しいんだ」

「紫苑…」

紫苑はシャルロットの手を強く握って微笑む。

「頑張って帰ってくるから、待ってて。いつか…きっと…」

少しずつ紫苑の体は薄れていく。

「待ってるから…絶対に待ってるからね!!!」

未来への約束。

それを交わした後に、紫苑は消えていった。

「…約束するよ…!」

涙をぬぐい、再会を信じて…。

 

 

 

一夏は、宇月達の見送りをする前に、ふとこぼした。

「実はさ…おれ、決めたんだ」

ちょうど居合わせたのは、箒、セシリア、鈴音。

「何を?」

 

「おれの好きな人」

 

「「「本当!?」」」

3人は一夏の眼前に近づく。

「みんな…近いって…!」

それをなんとか押しかえす。

一夏も、3人のアピールを幾度とも無く受け、遂に心に決めた人ができたのだ。

「それで…!?」「いったい誰を…!?」「好きになったの!?」

焦る気持ちを抑え…抑えていない気もするが、とにかく、一夏の答えを聞く。

 

「その…おれが好きな人は…」

 

 

 

「…だ!!」

 

 

 

この答えは、この4人だけしか知らない。

 

 

 

 

 

宇月と礼が廊下を歩いていく中、4人の生徒が前に立つ。

「待ってください」

更識姉妹と布仏姉妹だ。

「ん?見送りなら、校門で…」

「…」

楯無が無言でツカツカと2人の元に歩み寄る。

なにか凄まじい威圧を感じた。

「な、なんすか…?」

 

「ごめんなさい。あたしも、二人の転校を止めたかったけど…」

 

実は楯無も学園側に抗議を申し立てていたのだ。

だが、千冬でさえ通らなかった抗議だ。彼女でも通る事はなかった。

「やってくれただけで十分っすよ!なぁに、死ぬわけじゃないすから!」

「そんなことだったの…?」

ふと、簪が呟く。

「え?」

「二人にとって、この学園での生活って、そんな程度だったの!?」

「簪ちゃん…!」

とっさに本音が羽交い絞めにして引き止める。

本音は、宇月と礼の別れの挨拶を聞いているため、二人の心境は分かっているが簪はクラスが違うために、それを知らない。

「この学園から、ヒーローが居なくなって…じゃあ、誰が守るの!?」

さらに彼女のヒーローへの憧れや、寂しさの入り混じった感情がこの言葉を生み出した。

「おまえだ」

それに対する宇月の返事は、少しぶっきらぼうにも聞こえた。

「え…?」

「おまえがこの学園を守るヒーローになれよ。おれなんかが出来たんだ、おまえにも出来るさ」

簪の肩を叩いて、軽く微笑んで歩き去る。

「あ、それと学園での生活って「そんな程度」じゃないんだぞ!だから、泣いてお別れは嫌なんだ!分かったか!?」

少し離れた距離でそう言った。

 

 

 

束はあの決戦の日を思い出す。

「結局…あの吾朗おじさんは…何だったんだろうね、ちーちゃん」

「さぁな」

束の質問に、千冬は肩をすくめる。

スイッチを押した直後、吾朗はその場に居なかったように消え失せた。

「きっと、あいつの親父さんの想いが形を作ったんだ」

そこに現れたのは如月弦太朗だった。

「へぇ…非科学的だね」

「でも現実に起こったんだから、信じるしかないだろ」

明るく笑い、束を指差す。

「教えてくれ。君は一体、何者なんだ?」

千冬は彼の素性を知らない。最後のスイッチを押した謎の人物、如月弦太朗。

彼は一体、何者なのか…。

 

「おれは如月弦太朗!すべての仮面ライダーと友達になる男だ」

 

そう言って取り出したのは…。

「フォーゼドライバー!?」

フォーゼドライバーだった。ただ、宇月が使っているものよりも使い込んでいるようなキズや変色がある。

おそらく別物だろう。

「じゃあな!」

<3><2><1>

「変身!」

<FUSION-ON>

そういうと、彼の姿は「仮面ライダーフォーゼメテオなでしこフュージョンステイツ」へと変身し、ワープドライブを創り出して消えた。

「…もう一人のフォーゼ…」

千冬の脳裏に、以前の竜也が言った「異世界」というワードが浮かぶ。

「この世界以上に、もっと大きなモノがあるのかもしれないな」

「…その世界以上の大きなモノは、楽しいと思う?」

束はさらに問う。

「それは、行ってみないと分からないな」

 

「だが、今の世界もそこそこに楽しい。お前はどうだ?」

 

 

 

見送りだ。

礼はラウラと名残惜しそうに別れを告げている。

「まぁ…二度と会えない訳じゃない。夏休みは連絡するし会いに行く。だから返事をくれ」

「…絶対にだぞ!!」

二人も暫しの別れだ。だが、すぐに再会できるだろう。

宇月は学園を振り返る。

「よぉし…最後に言っとくか!!!」

最終決戦後、修復したてのフォーゼドライバーを腰に装着する。

「みんな、カウント頼む!!」

そう言って、赤いスイッチを起動させる。

仮面ライダー部のメンバーをはじめ、学園の人々がそれを受け入れた。

 

<「スリー!!」>

 

<「ツー!!」>

 

<「ワン!!」>

 

 

 

 

「変身っ!!!」

 

 

 

煙のオーラを纏い、仮面ライダーフォーゼベースステイツに変身した。

 

 

 

<METEOR-READY?>

「変身っ!!!」

 

 

 

そして、礼も仮面ライダーメテオへと変身する。

 

 

 

「仮面ライダーフォーゼと仮面ライダーメテオは、この学園から居なくなる!!でも、いつか必ず戻ってくる!!」

「おまえ達の運命は…おまえ達が決めろ!!!」

手を振るフォーゼBS。万感の思いを込めた別れだ。

「じゃあ、またな!!」

マシンマッシグラー、マシンメテオスター、パワーダイザーが現れる。それに二人は跨る。

<TOWER-MODE><READY?>

 

<3-2-1><BLAST-OFF>

 

フォーゼBSはマッシグラーと共に空へと飛び立ち、メテオはメテオスターと共に青い発光体となる。

 

 

 

かけがえの無い仲間と再会を信じ、前に進み続ける。

 

 

 

 

 

 

「宇宙ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…キタァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

~FIN~

 

 

 






キャスト

城茂宇月=仮面ライダーフォーゼ

織斑一夏

篠ノ之箒
セシリア・オルコット
鳳鈴音

辻永礼=仮面ライダーメテオ
ラウラ・ボーデヴィッヒ
布仏本音

シャルロット・デュノア
白石紫苑

ゆりこ/SOLU=仮面ライダーなでしこ

更識簪
更識楯無
布仏虚

裾迫理雄
尾坂夏樹

織斑千冬
山田真耶
篠ノ之束

オフューカス・ゾディアーツ

如月弦太朗=仮面ライダーフォーゼ



終わりました…。
ちょっとあっさりかなとは思いますが…とりあえず、今までのなぞは全部回収できたかなと思います。
まだ「これはどうなったんだ!?」という点があれば、ご意見ください!お答えします!



さて、次回からの新作ですが…。


ブレイドとアギトを題材にした二次創作を考えてます。
ご意見が欲しいのですが、未だに協力していただける方がいらっしゃらないので、もし良ければ、どなたかお力添えをしてください!

ではまた!


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