転生したら丸藤翔になってたから頑張って生きる (ねこののこと)
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1話 

割と手違いがあるかもしれないです。たぶん続く


“死”というものは往々にして突然訪れる。

その日、俺は完全に酔っぱらっていた。アルバイト先の先輩の家に誘われ

なあなあで酒を飲む。中盤からはもはや自分が何を飲んでいるかなんてわからなく

なり、最後には日本語すら怪しかった。

 そこまでは良かった。いや、決してよくは無いしよい子は真似するべきでもない。

が、何を思ったのか俺は「夜風に当たりたいんで今日は歩いて帰ります」と先輩宅

から自宅までおよそ5㎞あるというのに夜中2時に先輩宅から離脱。意気揚々と静まった

住宅街へとくりだした。

 きっとそうなる運命だったのだろう。

 俺は、千鳥足で道路の真ん中を歩いていた。そして大型のトラックと激突。

搬送先の病院で息を引き取った。享年19歳である。

 

――――と、ここまでは俺の“前世”のモノローグだ。世界は不思議で満ち溢れている

らしく。俺の人生はそこで終わらなかった。いや、正確には再び始まったと言える。

 だが名前が「丸藤翔」というこれまた前世とは別人となっていた。俺自身、自分に

前世の記憶があることに気が付いたのは確か6歳の時だった。何故か知りえないことを

知っていることに驚いた。だが、兄の亮や両親は半信半疑で信じてはくれなかったので、俺もあまりそのことを外に出さないようにした。

 それから、俺はキャラを“作った”。なるべく当たり障りのないようなキャラを。

そしてこの世界の事を学び始めて、どうやらこの世界では「DM」というカードゲーム

がとても盛んだという事を知った。ヒトデのような青年が出てくる試合のビデオをみたり、兄の亮と遊んだりしてカードも学んだ。……てか、兄さん強すぎんだけど。

 

 そうこうして月日が流れ、俺は中学3年生になっていた。

進路選択の時期、俺は兄の亮が進んだプロ決闘者育成のための学園。

デュエル・アカデミアを志望し、そして受験の為に準備を始めた。

 

 特にデュエルが特別好きだという訳ではないが、俺はデュエル・アカデミア

が「全寮制」という部分に惹かれた。全思春期男児憧れの「全寮制」である。

これに惹かれずして男児といえようか、いやいえない。なら行くしかない。

 

 

そして季節は冬になった。この冬が明けると間もなく受験だ。

 

「翔、お前デュエル・アカデミアを受験するんだってな?」

「うん。自分でどこまでやれるか試したいんだ」

 

 冬季の休暇に帰って来た兄さんがおもむろに口を開く。

僕はそう答えて「兄さんは、反対?」と聞く。

 

「いや、お前もここ数年でだいぶデュエルの腕が上がった。

何処までやれるか試してみるのもいいだろう。

それに決闘者の道はいつでも自分次第だ。その覚悟があるなら好きにするといい」

 

 そう言って去る兄さんの背中は年相応のそれより大きく見えた。

きっとそれが彼の言う覚悟と俺との差なのだろうか。

 

 

 そんな冬のやり取りから時が経ち、いよいよ今日がデュエルアカデミアの実技試験

受験日である。アカデミアの試験は筆記、実技に分かれるが、俺は筆記の自信がなかった。まさかあそこまで専門的な知識を要求されるとは……

 なので必然、この実技を頑張らざるを得ない。

 

「受験番号は……100より下」

 

 話によると受験番号は筆記の成績順で決まるらしい。つまり1番の奴は筆記で一番

だし、受験番号が一番高い奴は筆記で一番点数が悪いという事だ。これはマズイッス。

 俺の受験番号は119。限りなくケツに近い。

 

『それでは、受験番号90~120番の生徒はそれぞれブースに入ってください』

 

 会場アナウンスが流れる。どうやら筆記の成績が悪い順から実技は行われる

ようだ。アカデミア側は美味しいものは最後に食べる派らしい。落ちこぼれは

先にさっさとやってしまい、成績優秀者のデュエルをゆっくり鑑賞しようという

考えらしい。

 とりあえず、呼ばれたので俺もブースへ移動する。

 

「受験番号、119。丸藤翔君で間違いないね?」

「アッハイ」

 

 緊張からか、返事が妙になってしまった。

 

「それではこれより試験を開始する。互いにLPは4000点。先攻は受験生からと

する。それではデュエル・ディスクを」

「はい」

 

 俺は腕にスタンディングデュエル専用の機械、デュエル・ディスクを装着。

これは中にソリッドヴィジョン。つまり立体映像とかホログラムといった類のアレ

を内蔵したハイテクな機械だ。詳しい原理は俺も知らない。ただ開発は世界のKC。

流石だぜKC!

 

「「デュエル!!」」

 

試験官 4000LP

丸藤翔 4000LP

 

「僕の先攻! ドロー!」

 

 さて、まずは相手がどう出てくるか分からない以上少しでも攻撃力の

高い奴を出しておくのがいいかな。なら――――

 

「《ドリルロイド》を召喚! カードを一枚伏せてターンエンド」

 

《ドリルロイド》

攻撃力1600/守備力1600

このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、

ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する。

 

「ほう、ドリルロイドか。攻撃力も申し分ない。かつ相手の守備モンスターへの

牽制も出来る。なかなかいい手だ。だが――――」

「……?」

「それでもまだまだ隙がある! 私は《ハンマーシュート》を発動。この効果

でフィールドの攻撃力が一番高いモンスターを破壊する! 必然的に対象は君の

《ドリルロイド》だ!」

 

 宙にハンマーが現れドリルロイドを叩き潰す。

登場して早々にスクラップになってしまったか……南無三。

 

「そして《ブラッドヴォルス》を召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」

「うわぁあああッ!!!」

 

 モンスターが斬りかかって来て、ソリッドヴィジョンが生み出す衝撃波で俺の小柄な体が仰け反る。痛くは無いけど衝撃は激しい。

 

丸藤翔 2100LP

 

 けど、俺もタダでやられたわけじゃあない!

 

「罠発動! 《ダメージ・コンデンサー》! 手札を一枚捨て、僕が受けた

戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚する!

《サブマリンロイド》を捨て、《スチームロイド》を特殊召喚!」

「なるほど……相手の攻撃を利用するとは。そのカードはさっきの君のターンで

伏せたカード。この展開を読んでいたというのか……なら、《ドリルロイド》を

私が破壊するところまで読んでッ! ――――なんて読みの深さだ」

 

 彼の中で俺の評価が何故か高まっている件。そんなに考えて無いんだけど……

 

「そうッス! まぁ決闘者なら当然のプレイッス!」

 

 まぁここは相手に乗っておくか。ポイント稼ぎ、ポイント稼ぎ……

 

「流石、あの丸藤亮の弟というところか。私はターンエンドだ!」

「僕のターン! ドロー!」

 

 さて、まだ攻めるにはパーツが足りない。まだ待つべきか。

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド!」

「……攻めて来ない。《スチームロイド》は攻撃する時攻撃力を500アップできる。

それなら《ブラッドヴォルス》の戦闘破壊は可能なはず……」

 

 なんでこの人は考えていることを声に出すんだろう……

 

「ならば私のターン! 私は《ブラッドヴォルス》に《デーモンの斧》を装備!

これにより、攻撃力が1000アップ! 2900となる! 《ブラッド・ヴォルス》、

《スチームロイド》に攻撃!」

「その時を待ってたッス! 罠発動、《スーパーチャージ》! 僕の場にロイドモンスターのみがいる時、相手モンスターの攻撃宣言時にデッキから2枚ドロー!」

 

(来てくれ――――!)

 

「来たッ!」

「良いカードを引いたようだが、戦闘は続行だ!」

 

 斧が《スチームロイド》にクリーンヒット。破壊する。

 

「ッ!!」

 

丸藤翔 500LP

 

「《スチームロイド》は自らが攻撃する時には攻撃力を500アップする何とも

頼もしいモンスターだ。だが、反面攻撃される時には500ポイント攻撃が下がる。

その効果が裏目に出たようだな」

「確かに今のは効いたッス! けど、防ぎ切った――――このデュエルは僕の勝ちだ!」

「なん……だと……」

「僕のターン! ドロー! 《エクスプレスロイド》を召喚! 効果で墓地の

《スチームロイド》、《サブマリンロイド》を手札に加える!

更に永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《ドリルロイド》を

特殊召喚する! そして、《ビークロイドコネクションゾーン》を発動!

場の《ドリルロイド》、手札の《スチームロイド》《サブマリンロイド》を

融合し《スーパービークロイド‐ジャンボドリル》を融合召喚ッ!」

 

《スーパービークロイド‐ジャンボドリル》

攻撃力3000/守備力2000

 

「攻撃力、3000ッ!」

「バトルだ! ジャンボドリルで《ブラッドヴォルス》を攻撃!」

 

 ドリルが《ブラッドヴォルス》を貫く。

 

試験官 3900LP

 

「だが、ダメージは100! そして君のLPは既に500! 

残念だが次のターンに攻撃力400の《エクスプレスロイド》を戦闘破壊して終わりだ!」

 

 ねぇ知ってる? 人はそれを死亡フラグと呼ぶんだよ。

 

「まだ、僕のバトルフェイズは終了してないッスよ……」

 

 俺は眼鏡の鼻かけを若干かっこよく持ち上げる。

 

「何ッ……!」

「速攻魔法、《融合解除》を発動! フィールドの融合モンスターを融合デッキに

戻し、墓地に融合に使用した素材一組が揃っていれば特殊召喚する! 甦れ!

《スチームロイド》、《サブマリンロイド》、《ドリルロイド》ッ!!」

「何だとッ!! モンスターが一気に3体ッ!」

「いっけぇッ!! ロイド達よッ! ダイレクトアタック!!」

 

 乗り物たちが一斉に試験官へ総攻撃を仕掛ける。

――――見たか、これぞ働く乗り物ヨンレンダァ!

 

1800+1600+400+800=4600

 

試験官 -700LP

 

「くッ!!! 見事だッ……」

「ありがとうございました!」

 

 俺の試験はこうしてひと段落ついた。



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